【凍結】剣製の魔法少女戦記 外伝・ツルギのVividな物語 (炎の剣製)
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001話『僕の名前は八神ツルギ』
朝の木漏れ日がカーテンから差し込んできてとある子供を照らす。
するとベットで寝ていた子は目を擦りながら目を覚ます。
「うーん……朝、か。よし!」
子供は目を覚ますとすぐにベッドから起き上がって支度を始める。
少年……八神ツルギの朝はこうして始まった……。
僕の名前は八神ツルギ!
ミッドチルダ在住の魔法学院初等科4年生だよ。
親は公務員の八神士郎パパに同じく家庭と両立して働いている八神リインフォース・アインス……通称アインスママを親に持つ普通とは少し違うけど子供なんだ。
僕の朝の日課はまずは髪の手入れから始まるんだ。
それで女の子っぽいと周りから言われるけどそれも仕方ないと諦めているけど……。
四年前のとある出来事で伸びてしまったウェーブのかかった髪なんだけど、みんなから似合うから切らないでと言われてずっと伸ばし続けている。
……まぁ僕も個人的には切りたくなかったからもうずっと伸ばしているんだけどね。
何故かはわからないけど切ってはいけないという思いがあって散髪する時は少し切る程度なんだよね。
そしてブラシで髪を梳かしながら時間が過ぎて行っていると二階にある僕の部屋に一階にいるのだろう士郎パパの声が聞こえてきた。
「ツルギ、もう起きているか?」
「あ、うん。起きてるよ士郎パパ!」
僕は大きく返事をして言葉を返す。
「だったらもう起きてきなさい。もう朝ご飯は出来ているのだからな」
「はーい!」
それなのでちょうど程よく髪も梳かし終えたので一階へと制服に着替えて降りていく。
するとそこでは今でも仲良しな士郎パパとアインスママが一緒に料理を作っていた。
そして外で掃除をしていたのか士郎パパの使い魔であるタマモさんが僕に気づいたのだろう。
「あ、ツルギ君。おはようございます」
「うん。タマモさんもおはよう!」
タマモさんは普段はおちゃらけた性格をしているんだけど、事戦闘事に関しては得意の呪術を使い相手を翻弄するスペシャリストなんだ。
そしてとっても綺麗な人なんだ。狐の尻尾と狐耳がとてもキュートだよね。
「ツルギ、おはよう」
「おはようツルギ。よく眠れたかね?」
「うん。おはよう! 士郎パパにアインスママ」
パパ達とも挨拶を交わしてこうして僕の一日はまた始まった。
「ツルギ。今日は学院は始業式だけだな?」
「うん、そうだよ。アインスママ」
「それならよかった。今日は士郎とは行き違いになってしまうが私は家にいるので早めに帰ってくるんだぞ」
「わかった」
「うん。それならばいいんだ」
そしたらアインスママは笑顔を浮かべていた。
アインスママは一見少し表情が硬いけど笑うととても綺麗なんだよね。
それで僕は士郎パパの作った料理を口に入れると、
「うん! うまいね! やっぱり士郎パパの料理は美味しいよ。お店の料理の味以上のものだからね」
「そうか。それならばよかった」
士郎パパはそれでわずかに笑みを口に刻む。
そう。士郎パパは務めている魔術事件対策課では料理長も兼任していてほとんどの隊員の舌を掌握しているという。
たまに料理人に転職しないかという話題を振られるそうだけどやんわりと断っているそうらしい。
士郎パパ曰く「私はやはり人助けが性分なのでな。料理一筋というわけにはいかないんだ」らしい。
うん。とっても士郎パパらしい。
僕の中で士郎パパは正義の味方だと思っているんだ。
昔から何度も僕の事を助けてくれて、いざという時には一緒に男の子同士の会話もする仲なんだ。
士郎パパもよく昔からの男仲間の人達と遊ぶ事があり話題には事欠かさないらしい。
それからしっかりと料理を味わっている時だった。
家の呼び鈴が鳴って外から、
『おーい、ツルギ。学院に行こうぜー!』
という声が聞こえてきた。
だから僕は急いで支度を済ませて出て行こうとするんだけど、その前に士郎パパが先に玄関へと向かっていく。
そしてドアを開けるとそこには僕の幼馴染の男の子である『キリヤ・スピアーノ』君が立っていた。
「キリヤ君、おはよう。ちょっと待っててね。支度するから」
「わかった!」
「おはよう、キリヤ少年。毎日元気だな」
「うっす! おはようございます、シロウさん!」
「うむ。……ところで……」
「はい、分かっていますからそう怖い顔をしないでくださいよー……」
なにやら士郎パパとキリヤ君は内緒の話をしているようだけどいつもの事だから僕も気にしていない。
聞いてもなぜか教えてくれないしね。
キリヤ君は僕の家の隣の子で僕と同い年でよくもう一人の友達と一緒になって遊ぶ仲なんだ。
性格はとっても元気で熱血漢。これだと決めたら真っ直ぐ走っていく感じの少しトゲトゲした黒い髪の男の子だ。
女友達の高町ヴィヴィオちゃんとも幼馴染で三人で昔はよく遊んでいたんだよね。
それなんだけどなぜかたまに僕と真っ直ぐ視線が合うと顔を赤くして目を逸らされてしまうんだけどどうしてだろうと日頃思っている。
それはともかく支度が済んだので、
「それじゃ士郎パパ、アインスママ、行ってくるね!」
「ああ。行ってきなさい」
「気を付けてな」
「うん。それじゃ行こうか、キリヤ君」
「おう!」
そしてキリヤ君と一緒に学院へと向かっていった。
その道中で近くで暮らしているヴィヴィオちゃんとも出会ったので、
「ヴィヴィオちゃん、おはよう!」
「おはよう、ヴィヴィオ!」
「あ、ツルギ君にキリヤ君。おはよう」
僕達に気づいたのかヴィヴィオちゃんは笑みを返してくる。
うん。やっぱりヴィヴィオちゃんは可愛いよね。
ヴィヴィオちゃんとは四年前に機動六課という場所で出会ったんだけど当時のヴィヴィオちゃんは少し控えめの性格でよく泣いちゃう子だったから僕がよく慰めていたんだ。
お母さんの高町なのはさんが誘拐された時はそれはもう気が動転していたけど事件も解決してなのはさんも戻ってきてヴィヴィオちゃんもなんとか落ち着いた感じだった。
「あ、ヴィヴィオちゃん。優君は元気……?」
「うん! 毎日元気になのはママとユーノパパと遊んでいるよ。わたしが嫉妬しちゃうくらいには……」
「そうなんだー」
「優君は毎日元気だもんなー」
キリヤ君も自分の弟のように優君を可愛がっているのをよく見るんだよね。
それでキリヤ君は笑みを浮かべているし。
ちなみに優君とは本名『高町優』。
なのはさんとユーノさんの一人息子で今年になって三歳になる男の子だ。
ヴィヴィオちゃんとは義理の姉弟になるんだけどそこらへんはヴィヴィオちゃんは気にしていないらしい。うん、姉弟仲良しが一番だよね!
そんな感じで僕達三人は一緒に学院へと向かっていくのであった。
これからまたみんなで同じクラスになれたらいいな……。
二年間の静寂を得て、私は新たに剣製の魔法少女戦記シリーズの再開に目途が立ちましたのでこうして投稿させていただきます。
内容はこれから考えていきますけどオリジナルの話も織り交ぜながらもVividの世界を描いていきますのでよろしくお願いします。
掴みはこんな感じでいいでしょうか……?
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002話『クラス分けと写真』
ヒャッハー! ストックなんてそんなものはないさー!
毎日艦これ話を一話を更新しているメンタルを舐めんな!
キリヤ君とヴィヴィオちゃんと三人で魔法学院まで到着して早速僕たちは掲示板に張り出されているクラス名簿を見に行った。
下手したらみんながバラバラになってしまいかねない一年で緊張する瞬間だから僕も少しドキドキしている。
そしていざ僕はクラス名簿を垣間見た。
そこには僕たちの名前は……、
「やった! ツルギ君。また一緒のクラスだね!」
「うん。キリヤ君も一緒だね」
「はぁー……緊張したぜ」
「他にもリオちゃんとコロナちゃんとシン君の名前もあったから……この一年楽しく過ごせそうだよー」
それで僕は少し幸せそうに表情を緩める、んだけど……いきなり周りが騒がしくなってしまった。どうしたんだろう……?
「やっべ! ヴィヴィオ!」
「うん!」
キリヤ君とヴィヴィオちゃんが二人して僕を強引にどこかへと引きずっていく。なになに? どういうことー?
しばらく三人でどこかに避難していたんだけど、
「はぁー……やばかったぜ。あのままだと上級生にツルギをさらわれるところだったからな」
「うん、そうだね。ツルギ君って無意識であんな顔をしちゃうから耐性がないとすぐにコロリと言っちゃう人が多くて困っちゃうね」
二人してなんか僕の事をなにかの餌なのかと言わんばかりの物言いだ。
それで少しムッとしてしまう。
「キリヤ君、ヴィヴィオちゃん。どういう事……? 僕は珍獣じゃないんだよ?」
「あ、あはは……」
「あぁ、怒ったツルギの表情も中々……」
ヴィヴィオちゃんはただただ苦笑いを浮かべているし、キリヤ君に至ってはどこかに旅立ってるし……もうなんでさ?
「怒らないでね……? ほら、ツルギ君って男の娘でしょ?」
「ん……? なにか違う響きで聞こえたんだけど気のせい? 僕は男の娘じゃなくって男の子!だよ?」
「そ、そうだよねー……でも、わたしも昔は女の子だって勘違いしていたもんだから……」
「ひどいよ!」
なんて事だ。
まだヴィヴィオちゃんは僕の事を女の子かもしれないって認識でいたなんて……。
「ヴィヴィオの気持ちはわかるなー。俺も最初はそうだったからなー」
キリヤ君まで!?
もう……何を信じたらいいか分からない……。
そんな感じで少し気落ちもしていたけど、気を入れ替えて僕たちは魔法学院の敷地内を歩いていると少し離れたところから僕達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ヴィヴィオー! ツルギ君ー! ついでにアホキリヤー!」
「あ、リオちゃん!」
「リオ!」
「おいリオ! アホは余計だぞ! ついで扱いもすんなよー!」
僕とヴィヴィオちゃんでリオちゃんの声の方に振り向くと一緒にコロナちゃんとシン君の姿もあった。
「ごきげんよう、ヴィヴィオ。それにツルギ君にキリヤ君」
「うん。おはようコロナ」
「おはよう、コロナちゃん」
「コロナはいい方だな……。俺の事を馬鹿にしないから……」
「あはは。頑張れ、キリヤ……」
「シン……お前もいい奴だよなー」
リオちゃんは本名は『リオ・ウェズリー』。とても活発な女の子である。去年の学期末の頃に僕たちと知り合ってすぐにキリヤ君とは犬猿の仲になったくらいには僕たちの仲に溶け込んでいる。
そしてコロナちゃんは本名は『コロナ・ティミル』。少し大人し目の女の子だけど意外によく動く。ゴーレムも作る才能を持っている為にここにはいないけどシホお姉ちゃんに少し師事を受けているとの事。
最後にシン君、本名は『シン・クラーク』。少し糸目な感じで僕たちのグループの仲では一番冷静な心の持ち主かな?大体周りに気を使ってよく助けてくれるし……。ただ生まれつき腕力がないらしく主に脚での走り込みをしているとか……。なんかノーヴェさんに弟子入りしているとかなんとか……。
僕を入れてこの六人のグループでよく行動を共にしているんだ。
いつもこの六人が集まればなんだって出来ると信じて疑わないくらいには僕達は仲が良いと自負している。
そんな中、ヴィヴィオちゃん達三人が一緒のクラスになれたことでハイタッチをしているので僕たちもそれに習おうかと思ったんだけど、
「さすがに、恥ずかしいよな……」
「うん。すでにヴィヴィオちゃん達は周りの上級生の人達に笑われているしね……」
キリヤ君とシン君はどうやらあまり乗り気じゃないらしい。残念……。
だけどそれから六人で講堂へと向かっていって校長先生のありがたい言葉をもらっている最中、
「(ふぁ~……)」
どうやらキリヤ君には聞いていて眠たくなるらしいので代わりに眠気覚ましに顔を近づけて耳元で小声で「キリヤ君、起きて……」って囁いたらすごい叫びそうな顔で耳を抑えて周りをキョロキョロとしていて女子からはくすくす笑われていて男子からは「この野郎……」と怨嗟のこもった視線を浴びせられていた。なにゆえ……?
そして長かった校長先生の演説もやっと終わったので僕たちは解放された感でこの後どうしようかと話し合っていた。
「しっかし……おい、ツルギ。耳元で囁くのはやめてくれよ。あれは結構心に来るから……」
「なんで……?」
「あー? アホキリヤったら変に意識しちゃったんだー?」
「うっせーぞリオ! その含みのある笑みはやめろよ!」
それでリオちゃんが圧倒的有利な取っ組み合いが始まりそうだった。
それを見てシン君は「やれやれ……」とため息を吐いていたけど、そんなにまずい事をしたかな……?
「ツルギ君も自覚しようよー……? わたし達だってキリヤ君みたいな事されたら少しドキッとしちゃうと思うから」
「そうだね。ツルギ君の囁きは一種の麻薬みたいなものだもんねー」
「ヴィヴィオちゃんもコロナちゃんもひどい……」
どうしてもみんなは僕の事を男の娘認定したいらしい。
だから僕は抗うよ! 男の娘じゃなくって男の子だって事を周囲に認めさせてやるんだ!」
そんな想いとは裏腹に、
「……まぁ、思うのだけは自由だよね。ね、コロナ?」
「うん。そうだねヴィヴィオ……」
どうやら口に出ていたらしい……。恥ずかしいな……。
それから予定はどうしようかという話題になったんだけどヴィヴィオちゃんはとある事を言いだした。
「あ。ねーみんな、六人で写真でも撮らない……?」
『え?』
それで僕たちは首を傾げる。
「どうして……?」
「うん。お世話になっている皆に写真を送りたいんだ。わたし達は皆さんのおかげでここまで成長できましたって感じの……」
「うん。いいと思うよ」
「リオも賛成!」
「ま、いいんじゃないか?」
「賛成だよ」
「僕もいいと思うな」
みんなが賛成したので僕も賛成してヴィヴィオちゃんの端末で六人で映っている写真を撮ってお世話になった皆さんに送ったみたい。
「ヴィヴィオちゃん。僕の端末にも送ってくれない? 僕も送りたいから」
「いいよー」
ヴィヴィオちゃんにデータを僕の端末に送ってもらって僕も送信した。
みんな、元気にしているかな……?
シン君に関してはおじき(フェルグス)リリィを連想していただければと……。
キリヤ君とリオはいい感じに犬猿の仲という事に収まりました。
ツルギの設定を見たことがある人は分かると思いますけど中の人の声で囁かれたら色々とすごいですよね……。
毎日更新している艦これもこれから書かないといけないので本日の更新は終了です。
二足の草鞋はつらいですよね……。そのための土日更新ですけどね。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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003話『ヴィヴィオの思い』
知り合いのみんなに写真を送った後に僕たちは図書館に寄っていた。
「でもよ。なんでヴィヴィオってまだデバイス持ってねーの?」
「あ、あははー……それはね」
キリヤ君がそんな事を聞いていた。
それに対してヴィヴィオちゃんは少し苦笑いを浮かべながらも、
「まだまだ未熟者のわたしにはデバイスなんてまだ早いと思うんだ……」
「ヴィヴィオちゃん……」
少し悲しそうな、そんな表情を浮かべるヴィヴィオちゃんに僕はどう言葉をかけようかと悩んでいた。
ヴィヴィオちゃんは自分の過去を思い出しているんだろうね。
オリヴィエさんのクローンとして作られた自身の事を……。
この件に関してはあまり世間には認知されていないのが常である。
今でこそヴィヴィオちゃんはなのはさんの義理の子供として生きているけど、当時は聖王教会で別の引き取り先を探さないかと言われていたらしい。
大人の都合に振り回されそうになったヴィヴィオちゃんだけどなのはさんとユーノさん、オリヴィエさんが引き取ると言って意見を譲らなかったらしい。
だから今でもヴィヴィオちゃんは平穏に暮らせている。
なぜかその件ではシホお姉ちゃんも一枚噛んでいるらしく圧力をかけたとかかけていないとか……。
まぁ、ミッドチルダの英雄であるシホお姉ちゃんには逆らったら色々と怖い破目に合うとか言われていたから大人達もおとなしく引き下がっていったという。
「わたしは、なのはママやユーノパパ、優君を守るために強くならないといけないんだ。だからまだ未熟なうちはデバイスなんていらない……」
普段の温厚さからは少しかけ離れたそんなヴィヴィオちゃんの様子にみんなも同じく触れてはいけない内容だと思ったのかそれ以上は追及はしなかった。
キリヤ君もヴィヴィオちゃんのタブーに触れたという感じで申し訳なく落ち込んでいるし……。
「ヴィヴィオちゃん、そんなに暗くならないで。少しずつでいいから強くなっていけばいいじゃない?」
「そ、そうだね。ごめんね、みんな。変な空気にしちゃって……」
「いいよー。なんかヴィヴィオの触れちゃいけないところみたいだったから今回はアホキリヤが悪い!」
「リオちゃんの言い分はともかくとしてそんなに思いつめないでねヴィヴィオ……」
「うん。ありがと。リオにコロナ」
その後にそろそろ解散しようっていう話になって僕はヴィヴィオちゃんと一緒に帰ることにした。
キリヤ君達は少し寄る所があるっていうんで途中で別れたけど。
それからヴィヴィオちゃんと少し公園に寄って
「……ツルギ君。少しいいかな?」
「うん。何でも聞いて。ヴィヴィオちゃんの内情を知っている僕だからこそ聞けると思うんだ」
キリヤ君達とは違ってヴィヴィオちゃんの件に関しては大体僕は関わっていると思うから話に付き合えるんだよね。
でもその場合大体は暗い話にもなっちゃうんだけどね……。
「わたしね……あのスカリエッティと面会した事があるんだ」
「スカリエッティと……」
それで僕は少し拳を握る。
四年前のあの事件を想起させて僕も当時悔しい思いをしたからね。
「スカリエッティは言ったんだ。本当はあの時、わたしを誘拐するつもりだったって……聖王オリヴィエのクローンとしてゆりかごを動かす装置に組み込む予定だったとも」
「そうなんだ……」
「でも、結局わたしは誘拐されずに代わりにママたちがその役目を押し付けられちゃった。それでママも苦しい思いをしていたのを知っているの……。
思い出すんだ……なのはママとシホさんが戦っている光景を……。とても胸が苦しかったのを覚えている」
「…………」
僕はただヴィヴィオちゃんの胸のうちを吐き出してくれるまでじっと黙って聞いてあげていた。
ヴィヴィオちゃんはこうして話す相手がいなかったらずっと溜め込んじゃうと思うから。
「だから思ったんだ。わたしが誘拐されていればって……」
「ヴィヴィオちゃん、その考えだけはいけない……そしたらきっとなのはさん達は余計に悲しんだと思う」
「うん……だからこの話はママ達には言っていないんだ。ツルギ君だから話せるんだよ?」
「うん……」
ヴィヴィオちゃんはなのはさん達にも相談できずに僕だけに話してくれる。
それだけ信用されているという気持ちにもなるけど、それだけまだなのはさん達とは少しだけ壁があるんだなとも思う。
「四年前の事件から結局わたしはなのはママたちの所に引き取られて、今は幸せな暮らしをおくれている。だけどまたふとした事でなのはママに危険な事が起きるとも限らない……優君っていう弟も生まれてより一層そう思うようになったんだ」
「そっか……」
「だからね。わたしは強くならないといけないんだ……!」
そう言ってヴィヴィオちゃんは拳を強く握る。
「もうなのはママの足かせになりたくない……ママ達にも危険な目に合ってほしくない。子供のわがままだって言われようとその考えだけはわたしの思いなんだ。
だから強くなりたいって心から思っているんだ」
「だからなんだね……士郎パパによく特訓を受けているのは」
「うん。士郎さんにもなのはママ達には内緒って事で通しているんだ。魔法に関してもアインスさんに教わっているし」
そう、ヴィヴィオちゃんはよくうちで士郎パパとアインスママに特訓を受けている。
最近では体術をよく学んでいて、少し力が弱いヴィヴィオちゃんは縮地法とか浸透剄をマスターしている。
特訓中のヴィヴィオちゃんはそれはそれは鬼気迫る感じでやっている。
きっと焦っているんだなぁ……。
追いつけない高みになのはさんがいようともいつか追いついて横に並び立ちたいっていう思いがヴィヴィオちゃんの心の内には存在している。
同時にそれが焦りを生んでいるから僕はヴィヴィオちゃんがいつか体を壊さないかという心配になっている。
まぁ、そこら辺は事情を知っているシホお姉ちゃんも協力的で昔になのはさんに教え込んだ教えをまたヴィヴィオちゃんに教えているという。
だからきっと大丈夫……。
それにもしヴィヴィオちゃんが無茶をしそうになったら僕が無理やりにでもして止めて上げられればいいんだ。
ヴィヴィオちゃんの気持ちが痛いほど分かる僕にはそれしかできないから……。
「もちろんノーヴェにも師事している事は変わらないからストライクアーツも学んでいるんだけどね。最近はストライクアーツと士郎さん、シホさんに教わっている武術を合わせた動きもしているんだよ?」
「うん。それは一緒に士郎パパ達に教わっている僕は知っているよ」
先程までの真剣な表情からはもう変化していたのかヴィヴィオちゃんはいつもの明るい表情に戻っていた。
よかった……僕個人としてもいつまでもあんな表情を浮かべているヴィヴィオちゃんはあまり好きじゃない。
ヴィヴィオちゃんは笑顔を浮かべている方がよっぽどお似合いなんだ。
「よし! もう暗い話はなし! それじゃツルギ君、今日もうちに帰る前にツルギ君の家に寄らせてもらうね」
「うん、わかったよ」
それで僕とヴィヴィオちゃんは昔からの二人のやりとりで手を繋ぎながら一緒に帰っていくのであった。
今日も特訓を頑張らないとね!
ヴィヴィオの方向性を原作で言う昔のなのはみたいにしてみました。
ただ心の内を言える人がいるだけでスッキリだけはできますけどね。
それにしてもvivid原作一話がまだ終わらないってどういう事……?
次回は士郎達とのやりとりを予定していますし。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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004話『強くなるために……』
僕はいつも通り家に帰ってきた。
ヴィヴィオちゃんも一緒にいるのもいつも通りだ。
今日も士郎パパに特訓してもらうために寄るとの事。
「ただいまー!」
「お邪魔しまーす!」
僕は家に帰ってくるとそこにアインスママがいるのを確認した。
アインスママは僕の事に気づくと笑顔を浮かべて、
「お帰りツルギ。ヴィヴィオもよく来たな」
「はい。今日もよろしくお願いします!」
ヴィヴィオちゃんは元気よく挨拶をしているんだけど少しアインスママは苦笑いを浮かべながらヴィヴィオちゃんの頭に手を置いて、
「あまりなのはの事を心配させてやるなよ。最近帰るのが遅いってよく愚痴られているんだからな」
「はい、ごめんなさい……」
「わかっているならいいんだ。あ、今日はもう少ししたらシュバインオーグが来ることになっているからツルギは夕食後に魔術の特訓もあるから心しておくんだな」
「わかった!」
そっか。今日は久しぶりにシホお姉ちゃんが来るんだ。
それなら僕がどれくらい上達したか見てもらわないとだね。
それで僕とヴィヴィオちゃんは少しだけ椅子に座って待っていた。
ちなみにパパはまだ仕事らしいから家にはいないので今日はシホお姉ちゃんが呼ばれたらしい。
それでしばらくすると、玄関が開いて、
「アインス、こんばんわ」
「来たかシュバインオーグ」
「ええ」
シホお姉ちゃんは朱色の銀髪を揺らしながら家に入ってきた。
でも、
「シホお姉ちゃん。今日は士織ちゃんとクオンちゃんはいないんだね」
「ええ、ツルギ君。まだあの二人には年も年だから魔術の訓練はあんまりさせていないのよ。今は基礎知識を学習中だから」
「そうなんだー」
ちなみに士織ちゃんというのはシホお姉ちゃんとすずかお姉ちゃんの子供で、クオンちゃんというのはこれまたシホお姉ちゃんとフィアお姉ちゃんの子供で二人とも今年で四歳になる女の子である。
二人とも大人しい性格で四歳にしてはかなりの力を秘めているんだよね。
また後で遊んであげないとね。
僕たちの友達の中では従妹という事もあって一番二人とも僕になついてくれているしね。
「それじゃツルギ君にヴィヴィオ。特訓するから少し体をほぐそうか」
「うん!」
「はい!」
シホお姉ちゃんがそう言ったので僕たちは多少の訓練なら可能な広い庭に出てシホお姉ちゃんと一緒に体操をする。
まずはストレッチは基本中の基本だよね。
体をほぐさないとやれることも少なくなってくるから。
シホお姉ちゃん曰く、「万全な状態で挑めるのは幸せな事」らしい。
シホお姉ちゃんは僕たちには過去を話してくれないけどかなり前には最低状態の環境下でしぶとく生き抜いてきたという実績があるからかなり学べることは多いんだよね。
それは士郎パパも同じだけどシホお姉ちゃんは女性な分を入れると士郎パパ以上に困難したそうだし。
するとシホお姉ちゃんはなにかを思い出したかのような表情をして、
「……そう言えば、ヴィヴィオ」
「はい。なんですかシホさん?」
「最近なんだけど戦技教導隊の方でなのはに最近ヴィヴィオが夜遅くに帰ってきて心配っていう話を聞いたんだけど、なのはとユーノに話していないの……?」
「うっ……それは、その……」
それでしどろもどろになるヴィヴィオちゃん。
まぁそれはそうだよね。
ヴィヴィオちゃんは内緒にしているつもりだけどなのはさん達には結構行動は把握されているから。ここらへんはやっぱり親だから当然の事だけどね。
「……ごめんなさい。でも、まだなのはママとユーノパパには内緒にしておきたいの。だからまだ内緒にしておいてもらってもいいですか、この特訓の事」
ヴィヴィオちゃんは少し懇願するようにシホお姉ちゃんに頭を下げていた。
シホお姉ちゃんはそれで少し小さいため息を吐きながらも、
「わかったわ。でも、近々なのはもヴィヴィオのために本格的に魔法の訓練を行うとか言っていたからその時になったら告白するのよ」
「なのはママが……わかりました」
「うん。それならよし。それじゃそろそろ体も解れた頃だし始めるとしましょうか」
「うん!」
「はい!」
それから始まるシホお姉ちゃんのストライクアーツとは少し違った訓練法。
シホお姉ちゃんが教える戦技教導隊のメンバーには必ずと言っていいほど教えるという中国武術。
これは第97“元”管理外世界……地球発祥のものだ。
地球はもう管理外世界という枠からは魔術師の出現によって逸脱したために今現在ミッドチルダは秘密裏に魔術師の団体の長を務めているギルガメッシュさんとコンタクトを取っているという話をシホお姉ちゃんに以前に聞いた。
僕も初めて会った時は僕と同じくらいの少年が務めている事に関して驚いたのは記憶に新しい。
でも、その実中身は苛烈なもので怒らせたらシホお姉ちゃんでも負けるかもしれないという話で少し戦慄したというのもある。
だって、J・S事件で一気にその名を轟かせたミッドチルダの英雄であるシホさんが勝つ確率は低いというんだから相当のものだ。
慢心しないからなおの事勝てないかも……と、士郎パパも珍しく弱音を言っていたしね。
―――
「ふっ!」
僕が瞬動術という歩法で一気にシホお姉ちゃんに詰め寄るんだけど、
「まだ動きが荒いわよ」
ペシッ!と拳を振るった僕の横に移動したシホお姉ちゃんがやんわりとチョップをして僕はわけも分からずに沈められる。
やっぱり強い……ただの一回の手刀だけで僕は沈められてしまっていた。
「やぁっ!」
ヴィヴィオちゃんも僕が倒れたのを合図にシホお姉ちゃんに突撃していったんだけど、
「まずヴィヴィオは戦うものの身体をしていないから結構隙が多いのよね」
ヴィヴィオちゃんの拳を何度も手のひらで受け止めながらもシホお姉ちゃんはそこから一歩も移動をしていないのを見て、
「(まだまだ僕たちじゃたどり着けない高みにいるんだな……)」
と、思い知る。
それはそうだと感じながらも、
「だからヴィヴィオは力技だけじゃなくて攻撃が軽くても確実に通るような戦法を見出した方がいいわね。例えば―――……」
そう言ってシホお姉ちゃんはやっぱりというべきかヴィヴィオちゃんに浸透剄の方法を教えていた。
「うん……最初よりはうまく浸透剄を使いこなしてきたわね。でも、まだまだなのはには負けるから要特訓ね。ヴィヴィオはもう休憩しておこうか? 体力はあるとはいえまだまだ地力が弱いんだから」
「ッ!……ハァハァ……はい!」
ヴィヴィオちゃんはそれで一回休憩のために椅子に座っていた。
そこにタマモさんが現れて、
「はい、ヴィヴィオちゃんジュースですよ。休憩していてくださいましね」
「あ、ありがとう、タマモさん」
「はい♪ それよりツルギ君、いつまで寝そべっているのですか? このままだとシホに勝てませんよ?」
「はっ!」
それで僕は今まで観察の為か意識を集中していたために横になっていたのを忘れていたのを思い出して、恥ずかしい思いをしながらも立ち上がって、
「そ、それじゃシホお姉ちゃん。少し本気を出すけどいいよね……?」
「ええ。相手になるわ」
「うん!」
そして僕は己の中に入っていくように気を研ぎすまして、そして唱える。
「……ブレード・オン!」
これが僕の魔術回路のスイッチの言葉。
そして僕の一番得意な魔術である概念抽出魔法を脳内で選択して、
「概念抽出……ヴァジュラ! 是、雷速歩法!」
僕は身体に雷を纏い瞬間的に何倍にも加速できるように体を強化した。
「ふっ!」
そして一気にシホ姉ちゃんへと接近する。
今の僕なら出来る!
そう言う気持ちで吶喊したんだけど……、
「……まだ一直線過ぎるわよ? これならまだ銃弾の方が脅威だわ」
あっさりと僕の雷速歩法は躱されてしまった。
やっぱりすごい!
それならと僕はシホお姉ちゃんの周りを何度も瞬間的に移動しながらも、やっとの事でシホお姉ちゃんの背後を取ることに成功したために、
「これで決めるよ! 概念解放! ヴァジュラ!!」
僕の手のひらに今宿っている雷をすべて集束して一気に雷撃として放つ。
これならさすがのシホさんも!
だけど、
「まだまだ最後の詰めが甘いわよ。やるなら至近距離で放たないと……」
シホお姉ちゃんはなにかの刀を投影して僕の雷を切り裂いていた。
そうか! 千鳥!
僕がそれに思い至ったのを最後に意識が暗転する……。
しばらくして僕は目を覚ます。
「あ。ツルギ君が起きたよー!」
ヴィヴィオちゃんの顔が最初に映った。
どうやら僕は起きるまでヴィヴィオちゃんに膝枕をされていたらしい……。
「えっと、僕は……?」
「そのね。シホさんがツルギ君の雷を切り裂いた後に一瞬で背後に移動して意識を刈り取ったんだよ」
「そっか……まだまだだね」
「いえ、いい線は行っていたわよ。これなら同年代の友達間ではツルギ君には勝てる子は少ないんじゃないかしら?」
シホお姉ちゃんにそんな風に褒められて、
「でも……やっぱりシホお姉ちゃんが僕の目指す高みの一つですからまだまだ精進します」
「その心意気はよしね。慢心してはダメよ? いざって時に慢心したらすぐに負けてしまうんだから。ヴィヴィオもそこら辺は徹底しておいてね?」
「うん!」
「わかりました!」
「さて、それじゃそろそろいい時間だからヴィヴィオは家に帰りなさい。なのは達が心配しているわよ?」
「はーい!」
ヴィヴィオちゃんはそれで帰る支度をしていたので、
「それじゃヴィヴィオちゃん、また明日ね」
「うん。またね!」
そう言ってヴィヴィオちゃんは帰っていった。
そんな後姿を見ながらシホさんはある事を呟く。
「でも、今のヴィヴィオはまだデバイスは受け取らなそうね……」
「デバイスですか?」
「そう。マリーさんやなのは、フェイトがヴィヴィオのために専用デバイスを渡すとかいう話を聞いたんだけど、ヴィヴィオはまだ自身の事を未熟だと感じているからきっとまだ受け取らないと思うのよ」
「そうなんだ……」
ヴィヴィオちゃんもこれから大変そうだね。
「ま、それはそれとしてツルギ君はあとでヴィヴィオのフォローに周る事。いいわね?」
「うん!」
「それじゃそろそろ士郎も帰ってくるだろうからツルギ君はお風呂に入って来なさい。そして食事後に魔術の特訓よ」
「わかった」
それで今日のシホお姉ちゃんによる特訓は終了した。
ヴィヴィオちゃんの事が少し心配だけど、今は見守る事にしておこう。
シホの登場回でした。
っていうかやっと次回ヴィヴィオSideに入るかもしれないです。
一話はまだ終わらず……。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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005話『ヴィヴィオの家族達』
ヴィヴィオ、家へと帰ってきました。
今日はなにかと忙しかったからまた少し遅く帰って来ちゃったけどなのはママに怒られないように努力しないとね。
それでそーっと家の扉を開けてみたんだけど、なにやら中が少し騒がしい事になっているような……?
なにがあったんだろうという思いで中に入っていくと、
「お? やっと帰ってきたか!」
「あれ? ランサーさん?」
そこにはフェイトさんの使い魔であり同時に結婚もして家族になっているランサーさんの姿があった。
玄関で寛いでいるところを見るとなんでいるんだろうって思いにもなるけど、
「ランサーさんはどうして今日はここにいるの?」
「んあ?……まぁそうだな。フェイトの随伴ってところが大きいか」
「フェイトさんもいるの?」
「ああ。今はなのはの嬢ちゃんと一緒に料理でも作っているぜ」
そう言ってランサーさんはニヤッと笑う。
フェイトの料理はうまいからなー、と惚気ているしね。
「クランちゃんはいるの?」
「ああ、いるぜ。今は優と一緒に遊んでいるぜ。着いてきな」
「わかりました」
わたしはそれで家の中へと入っていく。
ちなみにクランっていうのはフェイトさんとランサーさんの子供で少し野性味溢れる感じの女の子なんだ。まだ三歳なのにもう少しだけ頭角を現しているところがランサーさんの血故なんだろうな。
名前の『クラン』ってなんかランサーさんに関係している言葉から来たらしいけど地球の歴史はあんまり得意じゃないから調べ直さないとだけど。
そしてランサーさんの方の血を色濃く引き継いだのかフェイトさんとは違って金色ではなく青色の髪色なんだよね。少しだけ金色が混じっている感じっていえばわかるかな?
瞳の色に関してはフェイトさんもランサーさんも赤色だからクランちゃんも赤色だけどね。
フェイトさんの小さい頃を想像してもらえれば分かるかなってぐらい……。
「なのはママ、ただいま!」
「おかえりなさいヴィヴィオ」
「おかえり、ヴィヴィオ」
「ようやく帰ってきましたか。お帰りなさいヴィヴィオ」
上からなのはママ、ユーノパパ、オリヴィエさん。
そして、
「ヴィヴィオお姉ちゃん、お帰りなさい!」
「ヴィヴィオー、お帰りーガウッ!」
優くんにクランちゃんもわたしに駆け寄ってくる。
最後に、
「もう……ヴィヴィオ、また遅く帰ってきたんだね」
フェイトさんが少し呆れ顔になっているのでわたしは素直に謝る事にした。
「ごめんなさい、フェイトさん……」
「まぁ怒っていないからいいよ。またツルギくんのところに寄ってきたんだよね?」
「うん」
「なにか私達の知らない事を士郎さんやシホに教わっていないよね? 最近隠し事が多いってなのはに聞いたから少し心配になっちゃうよ……」
「にゃはは。フェイトちゃんは心配性だなー」
「そう言うなのはだって……」
それでまたなのはママとフェイトさんの夫婦漫才みたいなやり取りが始まった。
うーん……やっぱりフェイトさんは少し心配性だよね。機動六課時代から知っているから分かるけど。
「大丈夫だよ。無茶な事はしていないから。わたしはみんなを守るために頑張っているから安心して!」
「ヴィヴィオ……だけどあまり隠し事はしないでくれないか? 僕はあまりそっち関係は力になれないから何とも言えないけどケガだけはしてほしくないから……」
ユーノパパはそう言って眼鏡をクイッと直しながら言ってきた。
その表情からは心配という言葉が滲んでくるようだった。
だけどそんなユーノパパの肩をランサーさんが叩いていた。
「あっははは! おいユーノ、お前は昔から心配性だな。いいじゃねーか。子供はわんぱくが過ぎる程度がちょうどいいんだよ。クランなんかいつもアルフとかと駆けまわっているぜ? なー、クラン?」
「うん! にゅふー!」
「そ、それはそうですけどうちにも教育方針とかそんなものがありましてね……イタッ! 痛いですって!?」
クランちゃんの頭を撫でてやりながらなおユーノパパは叩かれていた。少し不憫に感じたけどこれも昔からの付き合いだから気兼ねがないんだろうなと思う。
まぁ、ランサーさんは普段からフランクな性格だから誰とでも友情を結べちゃうのが少し羨ましいけど。クランちゃんもそれで保育園の人気者らしいから。
「まぁ一つ言える事は……ヴィヴィオ。そのうちきっちりと話してね? なのははいつまでも待っているから」
「うん。いつか必ず話すよなのはママ」
「うん。それならよし! それじゃオリヴィエさん、料理の支度も整っているから少し手伝ってもらっていいかな?」
「ふふ、わかりました」
オリヴィエさんも笑顔を浮かべながらなのはママの手伝いをしに向かっていった。
これからみんなでお夕飯か。楽しみだね。
それからみんなで楽しく食事をした後に、
「それじゃなのはママ。少しだけ魔法の訓練をしてくるね」
「あ、ちょっと待ってヴィヴィオ?」
「ん……? どうしたのなのはママ……?」
「うん」
突然なのはママに引き留められてどうしたのかと聞いてみるとなのはママはなにやら一つの箱を取り出してきた。
「なのはママ、これって……?」
「うん。ヴィヴィオももう四年生だからそろそろデバイスが必要なんじゃないかなって思ってね」
デバイス……。
それを聞いて私はある事を思った。
それは……、
「……なのはママ、少しいいかな?」
「どうしたのヴィヴィオ。少し表情が暗いよ……?」
「うん。その件なんだけど……まだデバイスは未熟なうちは持ちたくないって思うのは、ダメかな……?」
「え? で、でも……」
「うん。なのはママたちの気持ちは本当に嬉しいよ! だけど、だけどね……それとは別にわたしの気持ちの問題なんだけどまだデバイスを持つのにはわたしじゃ未熟って思うの。だから……もう少し待ってもらってもいいかな……? いつか絶対に素直に受け取れるようにしたいから!」
わたしはそう言い切った。
なのはママのせっかくのプレゼントかもしれないのにわたしは無下にしようとしている。
だけどこの気持ちだけは変えられない。
まだまだデバイスを持つのには覚悟が必要だ。
だからそれが十分に養えるまで待っていてほしいと思うの。
わたしの言い分で少し家の中は静かになっていたんだけどしばらくして、
「がははは! ヴィヴィオもしっかりと考えているんだな。そうだよな、過ぎた力はなんたらって言う言葉もあるくらいだからな」
最初にわたしの思いに共感してくれたのはやっぱりランサーさんだった。
それから、
「でしたらヴィヴィオ。もう少し魔法学を身に着けるようにしましょうか。私もお力になりますよ」
「ランサーさんにオリヴィエさん、ありがとう……」
わたしはそう言って感謝の言葉を言う。
「むー……それじゃ仕方がないか。なのは、今日はヴィヴィオの思いに免じてこれはまた今度にしておこうか」
「そうだねフェイトちゃん。でもヴィヴィオ、後で必ず受け取ってね?」
「うん!」
なのはママとそう約束して今日はもう遅いので優くんやクランちゃん達と一緒にベッドで眠りについた。
眠りにつく前に先に寝てしまっている優くん達の顔を見て、わたしは新たに誓う。
きっといつか立派にみんなの笑顔を守れるような、そんな人間になるんだって……。
『そっか……やっぱりヴィヴィオはデバイスを受け取らなかったのね』
「うん、シホちゃん。それでどうしようか……?」
いま私はシホちゃんの家に電話をかけている。
シホちゃんは私達のお師匠さんだからなにかしらヒントを貰えるかもしれないって思ったから。
『そうね……ヴィヴィオの思うままにさせたらいいんじゃないかしら? 大丈夫よ。ヴィヴィオだっていつかは素直になってくれるから。ただ、今はまだ己の未熟さを痛感しているから素直になれないだけであって……』
「そうなんだよね。ヴィヴィオのためにマリーさんと前から制作していたギミックもあるから試してもらいたかったんだけど……」
『それって……あの悪夢の影響ゲェムの時からヒントを得た大人modeって奴……?』
「うん。魔法と体術を使う身体なら大人modeの方がより安定的に使えるからって感じで作ってもらったんだ」
あの悪夢は忘れられないけどそれのおかげでこの発想も思いつけたからね。
マジカルアンバーさんには感謝しないと。
『まぁそのうちヴィヴィオも受け取ってくれるわよ。だからそれまで無理にこの件は触れない事。いいわね?』
「うん……」
そうだよね。いつか受け取ってくれるよね。
それから少しだけ世間話をしてシホちゃんとは電話を切った。
でもやっぱりヴィヴィオってシホちゃん達に修行をつけてもらっているのかな?
最近のヴィヴィオの動きのキレがいいからなにかしら学んでいると思うし……。
思い出すのは子供時代のシホちゃんのスパルタ教育だよねー。
今でもたまに私でも怯えちゃうから……。
ま、そうだよね。
いつか、そういつかね……。
……でも、ヴィヴィオがデバイスを受け取るのは結構早い事になるのは今の私はまだ知る由もなかった事でした。
ヴィヴィオはまだデバイスは受け取りません。
フェイトとランサーの子供の名前はまんまクランの猛犬からとりました。
次はアインハルトをどうやって出すかですね。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
それと今日にFate見に行ってきました。よかったですねー。あれこそHFだという感じで。
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006話『覇王を名乗る女性の話』
今日はヴィヴィオちゃんとともにイクスちゃんのお見舞いをしに聖王教会へと来ていた。
ちょっと前に起きた騒動がきっかけで知り合いになったんだけどそれからすぐに眠りについちゃって今では聖王教会の一室で眠りについているんだ。
それで今日はノーヴェさん達ナカジマ姉妹の人達やシホお姉ちゃんも一緒に来ていた。
シホお姉ちゃんはイクスちゃんの定期検診をしているとかで今日も着いてきている。
なんでもシホお姉ちゃんの腕にかかれば眠りについているイクスちゃんを起こすことも不可能ではないという話なんだけど、訳あって自然回復して意識が覚醒するまで待ってからとある薬を飲まそうという話らしい。
シホお姉ちゃんが行くならランさんやレンさんとかも来たそうだったらしいんだけどまたの機会という話らしい。
その話を聞いたトレディさんが、
「……………そう、レンさんはいないんですね」
「ええ。ごめんねトレディ」
と、落ち込んでいたりしているのでシホさんに慰められていた。
トレディさんはレンさんの事が好きらしいから残念なんだろうね。
まぁそれでも気を取り直して僕たちはイクスちゃんのお見舞いへと向かっていった。
途中でシホお姉ちゃんやチンクさんとは別れたんだけど、何の話をするんだろう……?
「―――シホ、お久しぶりですね」
「ええ。カリムも元気そうでよかったわ」
「はい。でも、もう四年も経過するのにシホは相変わらず姿も変わらないのですね……。不死になってしまって辛くないですか?」
「そこらへんは、まぁ大丈夫よ。幸い周りがよく気遣ってくれるし変に見られないようにしてくれているしね」
私は今チンクとともにカリムのもとへとやってきていた。
カリムは相変わらず最初には私の心配をしてくれる。
もう四年も経過するのにこれだけは変わらない習慣だなとも思う。
「シホさんの件に関しましてはこちらも関係していますので深く言えませんが……」
チンクがそう言って顔を俯かせるんだけどもう気にしていないからそんなに気に病まないでほしい。
「大丈夫よ。私はこれでも心は折れない剣だから気にはしていないわ」
「そう言ってくださると嬉しいですが……」
「ええ。だから気を楽にしていいわ」
「はい」
チンクはそれでようやく楽な姿勢になった。
さて、よれじゃいつもの前トークは終わったので本題といきましょうか。
「それで、カリム。もう用件は知っていると思うけど……」
「はい。例の傷害事件のことよね?」
「ええ。チンク、お願い」
「わかりました」
チンクにお願いしてスクリーンを出してもらう。
そこには例の『イングヴァルド』を名乗る襲撃者の映像が映し出される。
「件の襲撃者は自称『覇王・イングヴァルド』と名乗っていまして数々の格闘戦技の実力者達に勝負を挑んでいると言います」
「しかし……ここでクラウスの名を名乗ってくるなんてやっぱり血を引き継いでいる子孫なのかしら……?」
「そういえば、聖杯大戦での事は表沙汰されていませんがクラウス様も出現したのでしたね……」
「はい。オリヴィエ様に最後に倒されましたがその後にどういう訳かギルガメッシュのところでクラスカードとなって今も生きていると思いますけど……」
あれは驚いたわね。
聖杯大戦で倒したはずのサーヴァント達があの『ブリューナク・クーデター事件』ではギルガメッシュの手でどういうわけか復活していたんだから。
その後にギルガメッシュに会いに行ったらどういう訳か地球で魔術師による団体の長を大師父と一緒に務めているではないか。
「もし、この犯人の女性が本当にクラウス様の直系の方なのでしたらクラウス様と会わせてあげたいわね……」
「そうね……」
それはクラウスのオリヴィエ様との戦いでの散り際に残した言葉……。
『もし僕の子孫に会うことがあったならよろしく伝えてください……』という願い。
もしかしたら会えるかもしれないという気持ちで私は少し会えるのを楽しみにしていた。
「……それでヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性は……?」
「それはなくはないかと……ですが少なくともヴィヴィオ陛下に関しましては当面は大丈夫かと……なぜかってヴィヴィオ陛下の存在は一般には情報は開示されていませんので目の色が同じくらいでは気づくものはあまりいないと思いますから……。
むしろ……」
そこで言葉を切ったチンクは私の方へと視線を向けてくる。
……そうね。
「多分オリヴィエ陛下を狙う可能性の方を考えておいた方がいいと思うわね。四年前のJ・S事件では実際にゆりかごを起動させたのはオリヴィエ陛下ですからもう情報は一般にも開示されているからね。むしろ今まで普通に暮らせてこれたのも不思議に思うしね……」
「そうなのよね。ヴィヴィオはともかくオリヴィエ陛下はサーヴァントという存在だとはいえ普通になのはさん達と暮らしていますから。それを言うとシホ、あなたも普通に暮らしているのも不思議に思うくらいなのよ……?」
「私はほら……。私だけの功績じゃないから」
「そうだけど、実際にゆりかごを破壊せしめたのはシホ個人の力あっての事だから。ね? ミッドチルダを救った英雄様?」
「茶化すのはよしなさい、カリム」
「はいはい♪」
カルムのおかげで場の空気はなんとかほぐれたんだけど、
「ですが、用心に越したことはありません。イクスの方に関しては……」
「はい。イクスの方はセインに護衛についてもらいましょう」
「それなら安心ですね。あれでやる子ですから」
「はい。それは分かっています。それとヴィヴィオの方に関しましては……」
「そちらは私達の方でどうにかするわ。だから安心しておいてカリム」
「わかりました。それではお願いしますね」
「了解よ」
それで私達の話し合いは終わった。
それからチンクとともに廊下を歩きながら、
「……でも、もし本当にクラウスの直系の子ならギルガメッシュのところに向かうのも検討に入れておいた方がいいわね」
「なぜですか……?」
「うん、この彼女がどういう理由で襲撃しているのか分からないけど、もし過去から引き継いでいる何かに縛られているんだとしたら解放できるのはクラウス本人しかいないと思うから」
「なるほど……それなら納得ですね」
そう、たまたま運がよかったのかこうしてクラウスとその彼女が会えるきっかけは出来た事になるからギルガメッシュには感謝しておかないと。
すると前方の廊下からツルギ君やヴィヴィオ、ノーヴェの姿が見えたので、
「それじゃ小難しい話はこの辺にして置きましょうか。わざわざヴィヴィオの耳に入れる事でもないしね」
「そうですね」
それでこの件の話は一旦終わりになった。
カリムお姉さん達と何を話してきたんだろうね、シホお姉ちゃんは?
少し眉間のところが寄っていたから僕じゃ分からない話をしていたんだろうな。
ディードさんやオットーさん達とも別れて聖王教会を後にする僕たち。
「さて、それじゃツルギ君達はこの後はどうするの?」
シホお姉ちゃんがそう聞いてきたので、
「うん。この後はストライクアーツ練習場でみんなと集合して色々と練習するつもりだよ!」
「へー……面白そうね」
「なんならシホさんも着いてきますか?」
「ノーヴェ、いいの?」
「ええ。むしろシホさんにはあたしの成長した姿やチビたちの面倒も見てもらいたいですから」
「そう。それなら着いていってみようかしら……」
どうやらノーヴェさんのおかげでシホお姉ちゃんも一緒に着いてきてくれるみたいだ。
あれ? でも、そんなシホさんが一般の人達の練習場にいったらどうなっちゃうんだろうと少し心配もしてしまう。
そして初対面のリオちゃんとか本当にどうなってしまうのか本気で心配だ。
「……ね、ねぇヴィヴィオちゃん……」
「うん。ツルギ君の心配はわかるよ……。リオってどういう反応をするだろうね?」
考える事は皆同じって事かな?
シン君、コロナちゃんも初めてシホお姉ちゃんと会った時にはそれはもう大変な驚きをしていたからね。
キリヤ君はご近所付き合いもあるからそれほどでもなかったけど憧れはしているみたいだし。
シホお姉ちゃんってご近所の目なんて気にしていないからミッドチルダの英雄が普通に歩いているとか昔はよく言われていた事だったし。
リオちゃんはどう思っているのかわからないけど、かなり驚くのは目に浮かぶようだ。
今のうちにご愁傷さまと祈っておかないとね。
「それじゃ案内よろしくね。ノーヴェにウェンディ」
「わかりました」
「了解っす!」
ノーヴェさんの案内のもと少しの不安を感じながらも僕達は練習場へと向かっていった。
というわけでイクスに関しては自然治療に任せました。
エリクシールは意識が戻った後に飲ませようと思います。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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007話『リオのシホとの初邂逅』
今日はあたしとコロナ、キリヤにシンと一緒にヴィヴィオとツルギ君が来るのを待っているんだ。
なにかわからないけど大切な人と会ってくるとか言う話だったかな……?
そこのところはあたしは詳しく知らないのでコロナとかに聞いてみる事にしよう。
「ねぇコロナ?」
「なに、リオ……?」
「ヴィヴィオとツルギ君が会いに行っている人ってどんな人か知ってるの?」
「あー……そこらへんはあんまり詳しくないんだー。でもヴィヴィオとツルギ君にとっては大切なお友達とか言う話だよ?」
「へー……」
あたしより友達歴が長いのに話していないなんて相当大切な友達なんだね。
それならそのうち紹介してくれるかもしれないね!と思って後の楽しみで取っておくことにしよっと。
「それよりよー、リオって強いんだろ? 少し運動した後に勝負しねーか?」
「あら~……アホキリヤに負けるほどあたしは弱くないわよ?」
「なんだと……? やってみねーとわかんねーだろ!?」
「そうは言うけどねー……あたしってば由緒正しい道場で育った身だから強いよー?」
「そ、そうなのか……?」
それで少し狼狽えるキリヤ。
いやー、この反応を見るとキリヤもまだまだ練習見習い程度の実力なのかなと勝手に測っているあたしがいるけど学園以外でのキリヤも知らないから一度はやりあってみるのもいいかもしれない。
「り、リオ……キリヤ君もそのへんにしておこうよ。そんな喧嘩腰だと後が持たないよ?」
「そうだよ。少し落ち着こうか」
コロナとシンがあたしとキリヤを宥めてきたのでここらが潮時かなと感じたので、
「そうだね! まぁあたしの事を聞いただけで狼狽えるくらいなんだからそんなに強くないんでしょ?」
「言ってろ。俺だって強い人に特訓してもらってんだからな?」
「へー……? それって誰の事なの……?」
「聞いて驚けよ。なんてったって俺が師事しているのはなー――――……」
キリヤがどこか自慢そうに語りそうになっているところで「リオー! コロナー!」というヴィヴィオの声が聞こえたのでキリヤがなにかを言っているようだけどそれを流してあたしは「おーい!」と叫んでいた。
なにやらキリヤはそれで少し残念そうにしているけどヴィヴィオ達の方を見てニヤリと笑みを浮かべた。
な、なによその笑みは……?
シンとコロナもなにやら「うんうん」としきりに頷いているし……。本当に何なの?
だけどヴィヴィオとツルギ君と一緒にいる人たちを見て次第にあたしも少し緊張してきたのがわかった……。
少し活発そうな女性二人は誰か分からないんだけど……その中に一人目立つ人がいた。
それは四年前にあのミッドチルダの事件で大活躍して時の人となった人物、『シホ・E・S・高町』さんが一緒にいたからだ。
手に汗が浮かぶのが分かる……。
あんな大物が普通に歩いているのも驚きだけどどうして一緒にいるんだろう?
「みんなー! おまたせ!」
「遅れてごめんね」
ヴィヴィオとツルギ君はどうやらあたしのこの反応は気づいていないようだけど、ど、どうしたらいいんだろう?
シンやコロナは普通に話しているし……。
「リオ? リオー? どうしたの?」
「はっ!?」
そこであたしが少し意識が持ってかれていたのに気づく。
キリヤが悪意ある笑みを浮かべながらも、
「おう、どうしたんだリオー? 緊張しちまったのか……?」
「な、なんでもないわよ! そ、それよりはじめまして! 去年の学期末よりヴィヴィオやツルギ君達とお友達になりましたリオ・ウェズリーです!」
「おう! お前が噂の格闘娘か。あたしはノーヴェ・ナカジマだ。でこっちが……」
「妹のウェンディっす! そして最後に登場しますは……」
「ウェンディ、その役者めいた流しは何か嫌よ? まぁともかく私はシホ・E・S・高町よ。よろしくね」
「は、はい!」
あたしはシホさんとがっちりと握手をさせてもらって少し舞い上がっていた。
だってあたしの目標の一つの人が目の前にいるんだから舞い上がらない方がおかしいってものだ。
「あの! あたし、シホさんの事を憧れていまして! いくつかシホさんの事を調べたんですけど我流の武術を使うとかなんとか……!」
あたしは何を言っていいのかわからないけど、だけど必死に言葉を紡んだ。
だけどシホさんは少し優しい笑みを浮かべて、
「少し落ち着いてリオちゃん。大丈夫よ、私は逃げないからゆっくり話しても」
「あ、はい……わかりました」
やっぱり落ち着きのある大人の女性だなぁとさらに憧れを抱いたのは言うまでもない事だった。
「あはは! やっぱり思った通りの反応だったな!」「まぁそれに関しては異論はないよ。僕も初めてシホさんと会った時には少しどころかかなり驚いたからね」
「そうだね。私も今ではシホさんに創成について教わっているしお師匠さんみたいなものだからね」
「聞いて驚け! 俺はシホさんに教わっているんだ!」
どうやらキリヤもシンもコロナもシホさんが来ることが分かったのかそれぞれ自分の時の感想を述べているようだった。
自慢げなキリヤがなんか小憎らしくて同時にいいなぁー……という感想も持ってしまう辺りあたしも相当みたいらしい。
「もしかしてヴィヴィオとツルギ君も……?」
「まぁうん。僕の方は魔術のお師匠様だからね」
「わたしもシホさんに独自のストライクアーツとは違った武術を教わっているかな……? もちろん、ノーヴェにもしっかりとストライクアーツも教わっているからわたしには二人のお師匠さんがいる感じだね」
「よせやい。あたしだってまだまだ見習いだからな」
「またまた。ノーヴェさんだってかなりの腕じゃないですか。僕も足技を教わっている身としては尊敬しているんですよ?」
「いよっ! お師匠様!」
「ウェンディ、てめぇ!」
「「「あはは!」」」
なにやらみんなで騒ぎ始めているし。
羨ましいなぁ……。早くあたしもあの輪に溶け込みたい。
でも……ああ、そう言えばツルギ君って14年前から増え始めた魔術師でもあるんだっけ?
シホさんって色んな事を出来るんだなぁと少し感心していた。
ノーヴェさんに関しては以前から伺っていたけどこうしてみるとみんなからシホさんの話題を聞かされるのはこれが初めてだなと少しだけ疎外感を感じていたり。
「ヴィヴィオ達ってば羨ましいなー……こんないい人が教えてくれるなんて」
「それならリオちゃんもたまにはうちに来る? ヴィヴィオの家の近くだから」
「いいんですか!?」
「ええ。公務員の仕事で家にいない時の方が多いけど休日や夜なら大体はいるから」
「それじゃその時はよろしくお願いします!」
「ええ」
シホさんからも快く返事を貰えたのであたしも早くみんなと同じ距離で走れるように頑張りたいと思った。
「そんじゃそろそろ着替えるか。シホさんの登場で少し周りも騒ぎ始めた頃だしな」
「そうですね」
確かに、見回してみれば少しだけ人だかりができていた。
目的はやっぱりシホさんみたいで女性のファンらしき人達がキャーキャー騒いでいる。
「それじゃみんな、また後でね!」
「うん」
それであたし達はツルギ君達と別れて着替えにいったんだけどそこであることに気づく。
「ねぇヴィヴィオ。ツルギ君ってあっちで着替えて大丈夫なの……?」
「あはは……そこはやっぱり思うよね。でも大体が常連さんだからもう慣れたらしいよ?」
「ふーん……?」
僕たちは更衣室に入っていったんだけど案の定の反応があちこちから聞こえてきた。
認めたくないけど見た目女の子の僕が男子の更衣室に入っていくのは少しおかしいみたいに感じられるみたいだ。
「まぁ、気にすんなってツルギ。俺とシンが見張っておいてやるからよ」
「そうだよツルギ。だから普通に着替えていいんだからね?」
「うん、二人ともありがとね」
僕は二人に感謝しながらもパパッと運動着に着替えて腰まである長い髪をゴムで縛って運動の邪魔にならないように整える。
これだけで普通の着替えなんだろうけど……、
「おいおい……なんで女の子が男子の更衣室で……?」
「ばっか! あの子はれっきとした男の子だよ!」
「男の娘……?」
「なんか違う聞こえ方に感じたんだけど……?」
「とにかく可愛いなぁ……」
外野からそんなひそひそ声が聞こえてきて僕は思わず身震いする。
キリヤ君とシン君も少し苦笑いを浮かべながらも、
「大丈夫だ……お前は俺が守るからな」
「おいキリヤ。お前もなんかどこか様子がおかしいが大丈夫か……?」
「大丈夫だ、問題ない」
どこかキリッとしたキリヤ君を見て本当かなぁ……?と少し疑ってしまう僕がいた、と。
ここではシン君だけかもしれないな、まともなのは。
「ま、いっか。僕はれっきとした男の子だからね!」
「ツルギ……どこかそのセリフに自己暗示に近いものが入ってないか……?」
「気のせいだよ、シン君」
「だけど……」
「気のせいだよ、シン君」
「わかった……」
よかった。やっと分かってもらえたよ。
「それじゃいこうか!」
「おう!」
「うん」
僕たちは練習場へと向かっていった。
前半はリオで後半はツルギを書きました。
そのうちバカテスみたいに性別:ツルギとかネタで出したいですね。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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008話『トレーニングと覇王』
僕たちがトレーニング施設に入っていくとすでにノーヴェさんとシホお姉ちゃんは着替えて待っていた。
「遅いぞお前ら!」
「そういうノーヴェさんの方が早いんですって! シホさんもかなりの早さですよね!?」
「これくらいならいつもの事だからね」
キリヤ君が早速キレのいいツッコミを連発している。
こういう時にキリヤ君っていう存在は少しありがたみを感じるのは僕だけじゃないと思う。
良くも悪くもキリヤ君は僕たちメンバーのムードメーカーだからね。
そう思っている間にヴィヴイオちゃん達も着替えたのかやってきた。
「ツルギ君、着替え……大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だったよ。キリヤ君にシン君がガードしていてくれたから」
「へー……キリヤってそういう気遣いは出来るんだー」
「うっせーなリオ。それだっていつも体育の授業ではやっている事だろ……?」
「ま、それもそうね」
なんかいつも守ってもらってる手前で言い難いんだけど、
「僕ってそんなに女の子の体しているかなー……顔はともかく最近はかなり筋肉もついてきたんだよ?」
そう言って力こぶを見せる。
だけどノーヴェさんがきつい一言を言ってきた。
「おいおい、そんなんじゃまだまだ女の子に見られても仕方がないと思うぞ。ヴィヴィオと同じくらいじゃないか」
「えー……ノーヴェさん厳しいよ」
「これくらいがちょうどいいんだよ。さて、それじゃシホさん、少しの間チビたちの訓練風景を見てもらっても構わないですか? 戦技教導官のシホさんならなにかアドバイスを貰えると思うんですけど……」
「いいわよ」
「こういう時に戦技教導官って肩書きが良い響きっスよね♪」
ウェンディさんがそう言って笑みを浮かべていた。
まぁ、シホお姉ちゃんはただのというくくりじゃないからなのはさんやヴィータお姉ちゃんと比べても異質な感じだってよく教わる生徒さん達が言っているそうなんだよね。
ま、そんなシホお姉ちゃんにいつも見てもらっているんだからいいところを見せないとね。
「そんじゃ手始めに準備体操から始めろ!」
「「「はーい!」」」
僕達六人は正直に返事をして各自準備体操を始める。
だけどこの段階でまだ一緒にやったことがないリオちゃん以外の四人がなにやら変な空気を纏い始める。リオちゃんだけはそれで少し困惑気味に僕にこの空気の理由を聞いてくる。
「……ねぇツルギ君? ヴィヴィオ達のこの変な空気はなに……?」
「あ、あはは……少し恥ずかしいんだけど最初の準備体操で誰が僕と揃って体操をするとかでいつも揉めてんだよね」
「そうなの? ヴィヴィオとキリヤはともかくシンやコロナまで……?」
「なんでもみんなが言うには僕とは波長が合うとか言うらしいんだよね」
「そうなんだー……それじゃ試しにあたしと準備体操しようよ。どうせ男女でそれぞれ一人は余るんだから」
「うん。それじゃ一緒にやろうか、リオちゃん」
「よし、決まりだね!」
僕とリオちゃんが意気投合するのを横目で見ていたシホお姉ちゃんが小さい声で「天然のリオちゃんがいい感じに1ポイント先取ね……」と呟いていた。
それはヴィヴィオちゃん達にも聞こえていたらしく四人とも少し残念そうに各自ヴィヴィオちゃんとコロナちゃん、キリヤ君とシン君で運動をしていた。そこまで残念がるところなのかな……?
と、思っていたところでシホお姉ちゃんが僕の肩に手を置いて一言、
「ツルギ君は自分のチャーム力を自覚した方がいいわよ……? 私が言えた義理じゃないけど……」
「えっ? 僕、魅了の魔術は使ってませんよ……?」
「教えた身からしたらむしろ使わないでほしいくらいよ。魅了の魔術は個人のランクが高いほど威力はマシマシになるから」
「そうなんだ……」
ここでも魔術の知識が学べるなんてこういう機会もいいものだよね。
「それじゃリオちゃん、腕伸ばしでもしようか」
「うん、わかったよ」
それからリオちゃんと色々と運動を交互にしていった後にノーヴェさんの前に全員で集合して、
「それじゃ体もほぐれただろうからそろそろ始めるぞー?あ、シンはあたしとな。いつも通り」
「わかりました」
シン君がノーヴェさんに呼ばれて少しだけ細目が開いたような気がした。
それもそうだよね。シン君は腕の力が生まれつき弱いから腕での鍛錬は護身術程度しか学んでいないけどその代りに足の威力は僕たちの仲で一番強い。
その証拠にノーヴェさんの足と交差した時に少しだけノーヴェさんの表情が険しくなる。
かなり重たい蹴りなんだろうな。
シン君って短距離走でもいつもクラスで一番を取るくらいだから相当力を込めている感じだね。
横目で見ながら僕はキリヤ君と交互に拳の打ち合いをしていた。
僕がキリヤ君の手のひらに拳をぶつけるとキリヤ君は少しきつい表情をした後に、
「ッ! 相変わらずツルギは見た目とは反して拳の威力は強いよな」
「そういうキリヤ君だって僕以上の威力を出すでしょう?」
「ま、そうだけどな」
そう、キリヤ君はストライクアーツではほぼ全身を使うんだけどどこを一番使っているかというとやっぱり拳の殴打が一番多い。
キリヤ君自身、ナックル型のデバイスを所持しているほどだからよほど拳のぶつけ合いには自信があるんだろうね。
「それじゃ一発重いの行くぞ……?」
「うん、来て!」
僕はキリヤ君の拳を受け止めるためにパンチングミットを装備して待機する。
そして次の瞬間、キリヤ君の拳に魔力が集束していく。
そして一気に僕目がけてその拳は放たれた。
ブオンッ!という風切り音とともに腰の回転も乗せられた純粋な魔力パンチは真っすぐに僕のミットに吸い込まれてきた。
バシンッ!という殴打の音が鳴り響いて僕は多少後ろに下がっていくもなんとか受け止められた。
「ま、こんなもんかー」
「やっぱり純粋なパンチ力は強いよね。少しだけ手のひらが赤くなっちゃったよ」
ミットを外して少し赤く腫れた手のひらを見せる。
キリヤ君はそれで少し動揺したようだけど次の瞬間にはなぜかゴメンと謝られた……。なぜだろうか……?
まぁいつもこんな感じだから気にはしていないけどね。
キリヤ君って運動するときだけは神経が研ぎ澄まされるのか少しだけ遠慮がなくなるんだけど僕にとってはありがたいしね。
女の子顔だから他の子だとどうしても遠慮がちにされちゃうんだけどキリヤ君はそこら辺は深く考えていないようだけどあまり気にしないで僕と接してくれるから。
昔からそれでヴィヴィオちゃんと取っ組み合いの喧嘩までにはならなかったけど笑顔でけん制し合う仲になってみるみたいだし。
そんな時にノーヴェさんがシホお姉ちゃんにある事を聞いていた。
「シホさん、ちょっとあたしと一回やってもらってもいいですか……? 救助隊の奴らじゃどうしても力不足な感じなんで相手がいないんですよ」
「いいわよ」
「あー、ずるい!」
ヴィヴィオちゃんがそれで少し残念がっていた。
いつもならヴィヴィオちゃんがノーヴェさんと最後に打ち合いをしているからね。
「でも、ノーヴェさんも鍛えたいんだから我慢しようよ、ヴィヴィオちゃん」
「そうだよヴィヴィオ」
「ううー……そうだね」
それでヴィヴィオちゃんはしぶしぶ納得してくれたのか素直に見学しているようだった。
するとシホさんの姿を見たい人が結構集まって見ていたのでやっぱりシホお姉ちゃんは人気者なんだなと思った。
そしてシホお姉ちゃんとノーヴェさんの打ち合いが始まった。
そのスパーリングは一見して互角のようなものに見えるんだけど、僕は分かる……。
シホお姉ちゃんは涼しい顔をしているのに対してノーヴェさんは汗を滲ませて必死に拳や蹴りをシホお姉ちゃんに打ち付けているんだけどまるで鏡でも見ているかのように同じ動作をしているような錯覚さえ起きるほどにノーヴェさんと同じ動きをするシホお姉ちゃん。
これがシホお姉ちゃんの得意技である過去から蓄積された戦闘技術と経験を活かした洞察力・心眼による先読み。
これによって大体の実力者はシホお姉ちゃんには敵わないんだよね。まぁ、それを上回る実力者である英霊のみんなにはさすがに分が悪いらしいけど。
とにかくそれで完全にノーヴェさんは一方的に打ち付けていたのにも関わらず最後には先にダウンして膝をついていた。
「はぁ、はぁ……さすがシホさん。体力も動きもあたしとは段違いですね」
「まぁこれはさすがに経験の差かしらね」
「いつか追いつきますからね」
「待っているわ」
そんな感じでお互いに納得の終わり方をしたのかそれでスパーリングは終了した。
見ていた観客やヴィヴィオちゃん達もそれで拍手をしていたようだし。
でも、僕にはそのシホお姉ちゃんの動きが恐ろしいものにも感じ取れたのは内情を知っているからだね。
シホお姉ちゃんはまだ“身体強化を使用していない”からである。
もしこれで使用したら純粋な戦いではノーヴェさんは敵わないだろうな。
僕も魔術ありだとしても敵わないだろうし……。シホお姉ちゃんがそれこそ本来の魔術を使う戦いをしたらそれこそ一方的な殺戮劇に様変わりしてしまう……。
本当にシホお姉ちゃんが犯罪者じゃなくてよかったと思うところだね。
そしてその後に僕たちはノーヴェさんとシホお姉ちゃんと別れて帰路に着くんだけどそこで何か起こったのを知ったのはあとの事である。
ノーヴェが少し救助隊に寄っていくっていうので私も興味が湧いたので着いていくことにしたんだけど、
「だけど、そんなに面白いものじゃないですよ?」
「いいのよ。私がただ見たいだけだったから。四年前から色々と経験をして成長をしたノーヴェは強くなったわよね」
「まだまだですよ。まだスバルの奴にも互角に勝てないんじゃ先に進めないですから……」
「そう。かなり負けたことをまだ根に持っているのね」
「まぁ、そうっすね」
そんな感じで昔話に花を咲かせようとしていた時だった。
「……ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんと、あのミッドチルダを救った英雄であるシホ・E・S・高町さんとお見受けします……」
その涼やかな声とともに上を見上げてみるとライトの上に一人のバイザーを付けた女性が立っていた。
その子は映像にも映っていた覇王を名乗る女性だった……。
「あなた方……特にシホ・E・S・高町さんに確かめさせていただきたい事があります……」
私にか……さて、なにを聞いてくるのやら。
最後にアインハルトの登場です。
次の話はアインハルトの内面を描きたいかなと考えています。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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009話『クラウスの子孫の郷愁』
……あれは、思い出すのは四年前にミッドチルダで起きた最悪の事件……。
あの……私が最後まで果たせなかったゆりかごが長年の眠りから覚めて再び動き出しミッドチルダを襲い始めたジェイル・スカリエッティ事件。
私は空に浮かぶ聖王のゆりかごを見て、その当時からすでに過去のクラウス・G・S・イングヴァルドの記憶を引き継いでいた身からして恐怖を抱きました。
あれは……戦争を終わらせるためのものなのに、今度は戦争を起こすものとして使われていることにショックを受けました。
そして、聖王のゆりかごが動いているという事は中には聖王の血筋の誰かがいるという事に結びつく。
それを連想して私は、でも当時力もなにもなかった私にはなにも出来ることが出来ずにただただ家族と逃げる事しかできないでいた。
でも、少し時間が経過して避難先でゆりかごの映像を見ていた時だった。
ゆりかごから一筋の光の線が生えてきてそれは何度もゆりかごを切り裂いていくという光景……。
最後には爆発とともに局員の皆さんの泣き叫ぶ声やその映像を見ていた私達市民も大いに喜んでいる中、私は見ました。
映像の中では何人かの人がゆりかごからまるで光のベールで守られているようにゆっくりと地上へと降りていくという光景……。
その中にありえない人の姿がありました。
そう……オリヴィエ殿下の姿がその中にあったのです。
私は幼心のままに『オリヴィエ殿下にいつか直接会えるかもしれない……そして私の気持ちを聞いてほしい』という思いを抱きました。
そしてオリヴィエ殿下とは別にもう一人気になる人の姿がありました。
のちにミッドチルダを救った英雄として持て囃されるようになる人物……シホ・E・S・高町さん。
その彼女を見てクラウスとしての記憶が訴えかけてきたのです。
あの人の事も知っていると……。
私はそれまでクラウスの辛い記憶をあまり見たくない思いから意識しないようにしていたのですが……シホさんが誰なのかを知りたい一心で記憶を自ら見るように心がけました。
そして同時にシホさんの経歴も調べていく事にしたのです。
そして少しだけだけど分かった事がありました。
それは……、もしかしたらシホさんはあのオリヴィエ殿下の近くでいつも控えていた錬金術師の末裔なのかもしれないと……。
それからはオリヴィエ殿下とも会える機会を探りながらもいつか勝負できるように鍛えてきました。覇王流が今の彼女に通用するのかという事も期待しながらも。
そしてとうとう私はシホさんと会える機会に巡り合いました。
「あなた方……特にシホ・E・S・高町さんに確かめさせていただきたい事があります……」
私はシホさんとノーヴェさんを見下ろしながらそう二人に語り掛けました。
シホさんは私を見て、少しだけ優しい笑みを浮かべました。もしかしてあちらも私の事を分かっているのでしょうか……?
でも、それだけで分かってしまった。
シホさんの佇まいはなるほど、英雄と言われるだけあって今の私では敵わないのかもしれないものだと……。
それでもここまで来てしまったのですからもう後戻りはできません。
そんな時にノーヴェさんが私にこう言いました。
「質問するならバイザーを外して名前を名乗れよ」
なるほど……確かに礼儀がなっていませんでしたね。
シホさんの前だとこの少しの胸騒ぎも合わせて少しだけ冷静に欠けていたみたいです。
それなので私は言われた通りバイザーを外しました。
そして名乗ります。
「失礼しました。私はカイザーアーツ正統ハイディ・E・S・イングヴァルド……『覇王』と名乗らせていただいています」
「そう……やっぱり子孫なのね」
シホさんはそう小さく呟きましたが『やっぱり』ですか。
彼女も私について調べていたようですね。
「はい……そうです。少し伺わせていただいてもよろしいでしょうか……?」
「なんだ? シホさんになにか言いたい事があるのか?」
「いいのよノーヴェ。後は私に任せて……」
「わかりました」
ノーヴェさんより一歩シホさんは前に出てきて、
「私も……あなたとお話をして見たかったのよ。クラウスの子孫なのだとしたら私とも無関係じゃないから」
「それは……やはりあなたも過去からの記憶を受け継いでるのですか? そう……あの聖なる錬金術師の……」
「そこまで私の事を分かっているのね。さすがね……でも少しだけ勘違いかしら?」
「それはどういった……?」
「それより……あなたは格闘家に勝負を何度も挑んでいるのでしょう? 事情を聞かせてもらってもいいかしら? なぜそんな事をしているのかを……」
シホさんはそう言ってなお優しい笑みを絶やさないでいました。
それが私の心になにかしらの訴えをしてきているようで胸が少しだけやはり締め付けられます。
だけどその前に、
「あなたは……聖王殿下と冥府の炎王の知り合いだというのは本当ですか……?」
「ええ。もうメディアには顔は出てしまっているからオリヴィエ陛下とイクスヴェリアとも会った事があるわ」
「そうですか……私は、私には成すべき事があります。クラウスの想いを継いで列強の王たちをすべて倒してベルカの天地に覇を成す事……」
「それがあなたの目的なの……?」
「はい、そうです」
「お前は何を考えてんだ? もうベルカっていう国自体無くなってんだぞ!? かつての王たちの子孫達もそれぞれ生き残ってそれぞれに暮らしがあるんだ! そしてお前もそうなんだろう!?」
ノーヴェさんがそう叫んできます。
それは分かっています……それでも私にはクラウスの意思を継ぐ義務があるんです。
記憶を引き継いでしまった私にはそういう生き方しかできないのです。
「ふぅ……わかったわ。あなたも過去の記憶に捕らわれているのね。ノーヴェ、ちょっと荷物も持ってもらってもいいかしら……?」
「え? あ、はい。いいですけど……まさかシホさん?」
「ええ。ハイディさん……それなら私にも戦う義務があるわね。あなたのいう通り私は聖なる錬金術師……末裔というのは間違いだけどあなたの事を放っておけないから」
「ご配慮痛み入ります。あなたの事情も聞きたいところですが……今は」
「ええ。拳を交えるんでしょう? クラウスの子孫らしいわ」
そう言ってシホさんは少し体をほぐすように動かした後に構えをしました。
そこからにじみ出てくる強者の体現。
聖なる錬金術師のあの人は格闘はてんでダメだったとクラウスの記憶が言っているのですが……シホさんは強いのでしょうか?
「それでは……まいります!」
「ええ!」
私は魔力をバネにチャージをしかけました。
速攻からの突撃、いきなりなら不意打ちはできると踏んだ、と思ったのですが……チャージした次の瞬間にはシホさんの姿は掻き消えていました。
どこに!?という疑問を感じる前に私のわき腹から鈍痛が響いてきました。
「なっ……!?」
「はい。今のであなたは一回死んでいるわ」
「ッ!」
いったん後方へと下がっていき何をされたのかを思考しました。
それでも私が追い付けないほどの反応速度で移動してお腹に拳を一発入れたという単純なものなのに、それだけが脅威という一言で片づけられないものなのかと感じました。
「さすが……英雄と呼ばれるだけありますね。今の私では敵いそうにないみたいです。ですが!」
せめて一撃だけでもという思いで私は先程よりもさらに本気でシホさんに挑む覚悟を決めました。
それを感じてかシホさんも私に一撃を与えるためにまたしても高速で接近してきました。
そして、
「これを耐えられたら反撃を許すわ。せいぜい耐えてね?」
シホさんの拳に魔力が宿り、私に拳を放ってきました。
私はその拳をなんとかギリギリ掴む事に成功したためにカウンターバインドを仕掛けてシホさんの腕を封じました。
これなら……いける!
「いきます! 覇王……断空拳!!」
私の今の渾身の一撃がシホさんにヒットしました。
これで倒れないのなら私の力不足という事になりますね。
そして思った通り、
「……いい拳だったわ。バインドからのカウンターはなかなかのものね」
そこには私の覇王断空拳を受けたにもかかわらずに平然と立っていたシホさんの姿がありました。
強い……ッ!
これが数多の戦いを潜り抜けてきた人の私との実力の差か。
そう思った矢先に、
「あ、れ……?」
急に私の視界が揺らいできました。
もしかして、
「ああ……それとカウンター返しもしておいたからそろそろ意識も朦朧としていると思うわ」
「なるほ、ど……素直に完敗です……」
私はそこで意識を失いまして視界がブラックアウトしました……。
とりあえず、どうにか制圧できたわね。
「さすがですねシホさん」
「まぁ、なんとかなってよかったわ。それよりまずはこの子をどうするか考えましょうか。私も彼女とゆっくりとお話がしてみたいから」
「そうですね。それじゃスバルの家にでも行きますか?」
「そうね。寄らせてもらおうかしら……」
ノーヴェがそれでスバルの家へと連絡している間に気絶している彼女の身体が光ってそれが収まるとそこには先ほどまでの大人ではなく少女の姿があった。
「って、こいつがさっきまでのあいつだったのか? まだガキじゃねーか」
「大人になる魔法でも使っているのね。とにかくスバルの家まで運びましょうか」
「了解っす」
その後にこの子の手荷物とかも調べたロッカーから持ってきて彼女の目が覚めるのを待つことにした。
有意義な話ができるといいわね。
こんな感じでシホさんの圧勝でした。
これから強くなってもらいたいですね。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
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010話『覇王の記憶とシルビア』
―追記―
ティアナの名前の部分を『ティアナ・L(ランスター)・グランセニック』にしておきました。
さて、こうしてこの子を運んできたのはいいけど、
「それでノーヴェはどう思う……?」
「え? こいつの事ですか?」
「まぁそんな感じね」
「まぁそうですね……色々と複雑そうですからあたしには少し荷が重いって感じがしました。ただ……」
「ただ……?」
「はい。こいつはストライクアーツがおそらく好きなんだなってシホさんと戦っている時に思いました」
「そうね……きっとクラウスの記憶に引きずられてあまり人生を楽しめていないと思うから私も後で色々と手を回しておくわ。それに、私もこの子とは真面目に話したいから……過去の人として」
「えっ? シホさんが過去の人……? どういうことですか?」
「あぁ……そう言えばノーヴェは私の事情を知らなかったのよね」
「まぁ六課時代はただの敵でしたから……」
ノーヴェはそれで少しだけ申し訳ない感じの表情を浮かべている。
「大丈夫よ。この事を知っているのは六課とか知り合い関係だけだから。むしろノーヴェには知っておいてもらいたいのよね。この子と関わっていくならおのずと私の事も知る事だから」
「そうっすか……」
そんな話をしながら私とノーヴェはスバルの家まで到着した。
玄関の呼び鈴を鳴らすと、
『はーい!』
中からいつもの元気そうな声が響いてきた。
そして扉が開かれてそこにはラフな格好のスバルが出てきた。
「待ってましたよシホさん。ノーヴェもよく来たね」
「ええ。少し時間を貰うけど大丈夫? スバル」
「大丈夫ですよ。ティアももうすぐ来るって言ってましたから」
「ティアナも来るのね。……ヴァイスとの貴重な時間を割くのは少し申し訳ないわね……」
そう、ティアナは去年にヴァイスと結婚して、ティアナ・L・グランセニックとなって今は一緒に暮らしているんだけどまだ子供は出来ていないらしい感じであるのだ。
「あははー。まぁティアもヴァイス先輩と色々と楽しみたかったみたいだけどシホさんの頼みだと言うと喜んで引き受けてくれたんですよ」
「それならいいんだけどね」
「ところで、シホさんが抱えている子が例の子ですか……?」
私が背中に背負っているハイディさんに気づいたのだろうスバルが目を向けてくる。
「そう……ロッカーとかも調べさせてもらって荷物も回収してきたから分かった事なんだけど本名はアインハルト・ストラトス……本当のクラウス・G・S・イングヴァルドの末裔みたいなのよ」
「あの例の覇王の人のですかー……やっぱりシホさんってこういう王様たちとの巡り合わせがよくありますね」
「まぁそうね。私もよくよくそう感じているわ。そういうスバルだってイクスとかヴィヴィオとかとも知り合いじゃない……?」
「あははー。そうでしたね」
「なぁ……? 世間話もいいけどそろそろ中に入れさせてくんねー? あたし、お腹空いちまったよ」
「あー、はいはい! それじゃシホさんも中に入ってください」
「わかったわ」
それでスバルの家の中に入れさせてもらい、アインハルトをベッドに寝かせた後に、
「それじゃ私もすずかとフィア達に連絡してくるわ」
「わかりましたー」
少し席を外して自宅に通信をかける。
通信越しにすずかの映像が映りだした。
『あ、シホちゃん、どうしたの? もうこんなに暗いのに……』
「ごめんねすずか。ちょっとクラウス様の子孫の子と喧嘩っていうのも変だけど相手をしてきたから今日は面倒を見るのもあってスバルの家に泊まっていくわ」
『あのクラウスさんの……? シホちゃんって本当によく巻き込まれるよね』
「まぁそう言わないの。士織とクオンにはもう今日は寝かせておいてくれない?」
『うん、わかったよ』
「明日には帰れると思うから」
『了解だよ。それじゃお休みなさいシホちゃん』
「ええ。お休み、すずか」
『うん♪』
そんな感じですずかとの通信を終える。
すずかも私の事を信頼してくれているのかなにも疑う事もしないから愛されてるなぁ……としみじみ思う。
その後にスバルがなにかを作ろうとしているんだけど、
「それじゃ久しぶりに料理を恵んで上げようかしらね」
「わー! シホさんの手料理だー! 嬉しいですよ!」
「あたしも少し楽しみだな。シホさんの料理の腕の噂は聞いているから」
結局今日はアインハルトは起きなかったからティアナが来るまでみんなで食事を楽しんでいた。
「ん……あれ……? ここは……」
私はシホさんとの戦いで気を失った後にどうなったのだろうか……?
まさか警察に連れてかれたわけでもないのは周りを見回せば分かる。
誰かの家の中でしょうか……?
それで私は少しの間困惑していると誰かが部屋に入ってきた。
「お、やっと目を覚ましたか」
「ノーヴェさん……?」
「おう。こうして会うのは昨日ぶりだな。本当の姿でも会えるのはなんか微妙だけどな」
「はっ!?」
そう言えば変身魔法が解除されている……。
それをノーヴェさんも察してくれたのか、
「ま、色々と諦めろ。もうお前の荷物も回収してあるから身元も割れてるんだしな」
指を差された方を見ると私の手荷物が置かれていた。
そう……知られてしまったのですね。
そんな時にシホさん達もやってきた。
他のお二人は知らない方ですが、どなたでしょうか……?
「あら、起きたのねアインハルト」
「あなたは……」
「あたしはティアナ・L・グランセニック。そしてこっちが……」
「スバル・ナカジマだよ。ノーヴェのお姉さんです」
どこかスバルさんは嬉しそうに胸を張っている。お姉さんという事を自慢したい感じにも見えて少しおかしく感じますね。
「さて……それじゃアインハルト。少しお話でもしましょうか……」
シホさんのその一言で私は「はい……」と答える事にしました。
もう逃げる気もないですから気になっていたシホさんともお話が出来るのはむしろ好都合とも言えますからね。
「それでだけど、今更だけどアインハルトって呼ばせてもらっているけど大丈夫?」
「はい。問題ありません」
「そう……それじゃ聞きたいんだけど、あなたは昨日に言ったわね? 『やはりあなたも過去からの記憶を受け継いでるのですか?』って……これが察するにあなたはクラウスの記憶を引き継いでいるの……?」
「はい……私にはクラウス・G・S・イングヴァルドの記憶が少し残っています。この髪の色や虹彩異色の瞳、覇王の身体資質にカイザーアーツ……それらも一緒に」
「そうなの……どんな記憶を持っているの?」
「オリヴィエ殿下を守れなかった悲しい記憶です……」
私はシホさんの問いかけに正直に答えました。
どうしてかこの人の前では隠し事も出来ないという思いがありましたから。
それを聞いてシホさんは少し考えた後に、
「そうね……それじゃ私の事も話さないとフェアじゃないわね。確かに私はあなたが言ったように聖なる錬金術師の力を持っているわ」
「それでは……やはりあなたも末裔なのですか?」
「いえ、それは昨日も言ったけど違うわ」
「それはいったい……」
そこでスバルさんが笑みを浮かべながらも、
「ね、シホさんってその聖なる錬金術師本人だって言ったら信じる……?」
「え……? それはあり得ない事です。何百年前の話だと思っているのですか……?」
そう、そんな事はありえない……。
でも、オリヴィエ殿下もこの時代になぜか復活している事もあり一概に否定できないところが悔しいところです。
「ふぅ……そうね。それだったら今からあるものを見せてあげるわ。スバル達に見せるのも初めてなのよ?」
「え? まだなにかあるんですか……?」
「初耳なんですけど……」
スバルさんとティアナさんも知らない事らしく少しだけ思案の表情を浮かべていました。
シホさんはそれで笑みを浮かべながらも立ち上がって、
「モード・シルビア……」
そう、呪文を唱えた瞬間にベルカの魔法陣が地面に浮かび上がり見ればシホさんの髪の色がどんどんと銀色に変色していく。
その光景を見て私は信じられないという気持ちとまさか本当なの?という気持ちでごちゃまぜになっていました。
そしてシホさんはゆっくりと瞳を開くとそこには先ほどまでのシホさんの瞳ではなくルビー色のまさしくシルビアの姿となっていました。
「……こうしてクラウス様の子孫に出会えるのは嬉しい事です。アインハルト、あなたは今までずっと苦しんでいたのですね」
先程のシホさんの雰囲気は一切なく口調もまるっきり変化していて記憶の通りの彼女だった。
「それではあなたは本当に……?」
「はい。私はシルビア・アインツベルン……かつてオリヴィエ殿下の力によって異界へと飛ばされてしまった本人で間違いありません」
「「「…………」」」
見ればノーヴェさん達も口をあんぐりと開けていて驚いています。
本当に初めて見たのですね。
「アインハルト……こうして出会えたのもなにかの縁です。ですからあなたに会わせたい人がいますのでもうしばらく待ってもらえませんか……?」
「会わせたい人ですか……?」
「はい。条件付きですがクラウス様とも会えるかもしれませんから……」
「…………は?」
クラウス様と会える? そんな、あの方はもうとうの昔に鬼籍に入っている。だから私という子孫があるわけですから本人に会えるなんて事が……。
「困惑するのは分かります。ですが信じてください」
シルビアさんのその瞳を見て本当の事なんだという思いを抱きました。
でも、クラウス様と会える……?
そんな奇跡でも起こらない限りは……私はそれで少しだけ考える事になりました。
そしてその後にシルビアさんはシホさんの姿に戻った後に、
「ま、そう言うわけだから少しの間、待っていてね。さ、それじゃ食事でもしましょうか。お腹、空いているでしょう?」
「あ、はい……」
「あと、オリヴィエ殿下にもだけどこの時代の聖王の子とも会わせたいから待っていてね」
「わかりました」
色々と知りすぎているシホさんの詳しい経緯を後で話してもらえることを祈りながらも私は皆さんと一緒に食事をした後に、警察署に行って色々と反省文を書かされました。
こんな感じで次話はやっと主人公たちともアインハルトが会えるでしょうね。
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011話『みんなとの集まり』
昨日はシホお姉ちゃんが帰ってこなかったらしいって話を士郎パパに聞いたんだけどどうしたんだろうってキリヤ君と話していた時だった。
「ツルギ君にキリヤ君。お弁当食べに行こう!」
「うん、わかったよヴィヴィオちゃん」
「おう! それじゃシンの奴も呼んでくるよ」
そう言ってキリヤ君はシン君を呼びに行った。
それからリオちゃんにコロナちゃんとも合流していつもの六人で屋上まで向かっている時に、
「あ、そういえばみんな。ちょっといいかな……?」
ヴィヴィオちゃんがなにかを思いだしたかのようにこちらに振り向いてきた。
何か相談事かな……?
「どうしたのヴィヴィオ……?」
「うん。ちょっと午後になったら図書室で調べ物でもしようかなって思って……」
「調べもの……? なにを調べるの?」
「そうだね。イングヴァルドに関する書籍かな?」
「イングヴァルドって……また古いものを探そうとしてんなー」
「……なんでいきなりイングヴァルドの本を探そうって思ったの?」
キリヤ君が少しだけ苦手そうな表情を浮かべている。キリヤ君は例に漏れず読書とかは苦手な方だからね。
ヴィヴィオちゃんはユーノさんの子供だから無限書庫の司書の資格を持っているからそういう調べものに関しては得意な方なんだよね。僕もたまに付き合った事があるし。
……そういえば、士郎パパに聞いた事があるんだけど昔は無限書庫は本当に異界だったらしくて士郎パパやシホお姉ちゃんといった戦闘員も含めて罠の解除に明け暮れていたとかでその甲斐あってか今は安全な無限書庫になったっていう話だけど本当なのかな……?
まぁそれはともかく、シン君もそれで不思議そうにしている。
それに対してヴィヴィオちゃんは、
「うん。ノーヴェからメールが来てこの辺の歴史について学びたいんだって」
「そーなんだー。ね、ヴィヴィオ? なんか楽しそうだから色んな本を探しちゃおうよ!」
「いいね、リオ。それじゃ前にルーちゃんに教えてもらったおすすめの本があるんだけどそれも見つけてくるね」
コロナちゃんがそう言って楽しそうに笑みを浮かべる。
ちなみに『ルーちゃん』とは誰のことかというと本名は『ルーテシア・アルピーノ』って言って昔に結構深い関係だったんだけど今ではお母さんの『メガーヌ・アルピーノ』さんと『ゼスト・グランガイツ』さんと召喚獣のガリュー達のみんなで無人の次元世界である『マウクラン』で暮らしている。
時々通信で話したり、みんなで泊りにも行っているので親しい中ではあるんだけど、ルーテシアお姉ちゃんからは何故かは分からないけど少しだけ苦手意識を持たれたりしているので若干僕もへこんでいたりする。僕、昔にルーテシアお姉ちゃんになにかしたのだろうか……?
―――
「わかったよ。それじゃみんなで調べようか」
「「「うん!」」」
みんなも頷いていたので今日の方針が決まったのである。
「あ、それともう一つ。放課後にノーヴェが新しく知り合った格闘家の子がいるんだけど一緒に練習しないかって話が来たんだー」
「へー? どんな子なの?」
「まだ詳しくは聞いていないんだけどかなりの腕だってノーヴェが言っていたよ?」
「そっかー。楽しみだね」
「なぁ? やっぱりそいつって女なのか……?」
「うん。女の子だって聞いたよ?」
「なんだよ。せっかく格闘仲間が増えるんなら男仲間も欲しいところなんだけどな……」
「まぁまぁ。キリヤ君、いいじゃない? そのうちまた誰かを誘えばいいよ」
「そうだよキリヤ。現状は僕たちだけでも十分じゃないか? 教えてくれる人もたくさんいるんだし」
「ま、そだなー」
僕とシン君の言い分でキリヤ君はなんとか納得したのかもうふて腐れないでいた。
でも、やっぱり三人だけだとどうしてもスパー相手が一人余っちゃうから誰かが見ているかヴィヴィオちゃん達の誰かとやらないといけないから誰かが欲しいところだよねー。
でも、クラスで僕達以外にやっている子はいないからどうしても集まんないって感じだ。
それから少し調べ物をした後に、みんなでノーヴェさん達が待っているという喫茶店に向かっていたんだけどその道中で、
「あれ? ヴィヴィオ達だ。どうしたの?」
「ラン姉さん、どうしたの……って、ああ。みんなか」
そこに今もシホさん達と一緒に暮らしている『ラン・ブルックランズ』さんと『レン・ブルックランズ』さんの二人と出会った。
二人はシホお姉ちゃんの配属先である『魔術事件対策課』で仕事をしていて僕たちを鍛えてくれる人たちでもあるんだよね。
「ランさんにレンさん、どうしたんですか?」
「うん。昨日にシホさんが帰ってこなかったから少し心配していたんだけど、一度帰ってきて急いで仕事に向かっていったから代わりに休暇中だからちょうどいいってことでスバルさん達に呼ばれたんだよ」
「そうなんすか」
「なるほど……」
レンさんがそう言って温和な笑みを浮かべながら説明をしてくれる。
うん、レンさんってランさんとそんな顔が変わらないから少し僕と同じで女の子に間違えられる事もある美形なんだけどそれとは打って変わって服の上からでも分かる筋肉の付き具合で鍛えられていることが分かるから17歳となった今では高身長も相まって女性からは人気なんだよね。僕の目指す人の一人に入っている。
なんでもスバルさんの姉のギンガさんとトレディさんの二人に恋をされていて、それもあってかレンさんもいまだにどっちつかずであるから昔からゲンヤさんに睨みを効かされているとかなんとか……。だから少し苦労人気質でもあるんだ。
「ヴィヴィオ達もこうしてみんなで外で会うのは久しぶりねー。鍛えてるかな?」
「はい!」
「それと一人、新入りがいるね? 後で詳しく自己紹介してね?」
「あ、はい。あたしはリオっていいます。よろしくお願いします!」
「うん、あたしはラン・ブルックランズっていうの。で、あっちがあたしの弟のレン・ブルックランズ。よろしくね、リオちゃん」
「リオで構いません」
「わかったわ、リオ」
一方でランさんも親しみやすい笑みを浮かべながらヴィヴィオちゃん達と話している。
そういえばまだリオちゃんの事を知らなかったんだよね。
気が合うのかさっそく親し気に話しているからいい事だね。
「それじゃ目的も一緒みたいだし向かおうとしようか」
「「「はーい」」」
レンさんの言葉で喫茶店へと向かっていく。
そして到着してみるとそこにはノーヴェさん、スバルさんとティアナさん以外にもナカジマ家族が勢ぞろいしていた。
当然トレディさんもいるので早速レンさんの背後に立って袖を掴みながら、
「…………レンさん、会いたかったです」
「うん。トレディも元気?」
「…………はい。……………ギンガ姉がいない今、チャンス、です……」
「え? いま小さい声で何を言ったの……?」
「…………なんにも。レンさんの、鈍感……」
「えー……いきなりひどいよトレディ……」
レンさんが先ほどまでの頼り気なところから一変して少し昔に戻ってしまったのか少し頼りない感じの子供っぽい表情になっている。
あれがお姉さん方の嗜虐心を煽っているとは知らないんだろうなぁ……。僕も気を付けないと。
そんな光景はもう見慣れているのかノーヴェさんは僕たちに向かってこう言ってくる。
「いいか男子ども! あ-いうひょろっちょい奴にはなるなよ? 男なら強気に成長しろよ! 特にツルギ! お前はレンやエリオと同じタイプだから反面教師にしとけよ?」
「わ、わかりましたー!」
「ったく……これじゃいつまでたってもギンガ姉とトレディ姉が浮かばれないじゃねーの?」
ノーヴェさんがそう言って愚痴を零す。
そこに、
「ノーヴェ姉さんも落ち着いてください。大丈夫ですよ、レンさんもきっとそのうち覚悟を決めると思いますから」
「セッテ………まぁそれは分かってんだけどよー」
セッテさんがノーヴェさんを嗜めていた。
セッテさんって昔は非常に機械的で固い性格だったらしいんだけど、とある事情で記憶を失ってしまった以降はとてもお淑やかな性格になってしまったという。
昔は敵同士だったから本来の性格を知らないから何とも言えないけど今の性格も僕としてはいいと思うなぁ……。
と、そこでヴィヴィオちゃんがノーヴェさんに話しかけていた。
「それで、ノーヴェが紹介したい子っていつくるの?」
「あぁ。もうすぐ来ると思うんだけどな」
「そっかー。流派は?」
「陛下、どうぞ」
「あ、ありがとう、オットー」
ヴィヴィオちゃんのために椅子を引くあたり相当オットーさんって尽くしているよね。
それを気にせずに流しているヴィヴィオちゃんも相当慣れてんだろうけど……。
「旧ベルカ式の古流武術だな。後はお前と同じ虹彩異色だ」
「本当!?」
「そうなんだー」
ヴィヴィオちゃん以外にも虹彩異色の子がいたんだ。やっぱり昔の王様絡みかな……?
それでみんなでわいわい騒いでいるとそこに澄んだ声で「失礼します」という言葉が聞こえてきた。
それを聞いてみんなが振り向くとそこには中等科の制服を着ていて、碧銀の髪に、右が紫で左が青の虹彩異色の瞳の少女が立っていた。
その子の姿を見て一瞬僕は目を奪われていた。
だけどその子はすぐに、
「アインハルト・ストラトス、参りました」
アインハルトと名乗ったその子はこれ以降かなり深い付き合いになっていくんだけどこの時の僕たちにはまだ分からなかった……。
レンとラン、トレディ、それにほぼオリキャラと化したセッテを出しました。
そして最後にアインハルトの登場です。
果たしてツルギが感じた思いはなんなのか……?
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
‐追記‐
……なぁ、覚えているかい?Vividには空白時間がいっぱいあるんだよ?一巻のアインハルトとの再戦ですら一週間という空白が存在するんだよ?使わない手はないんだよ。
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