艦これ-Grand Order- (炭酸飲料)
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観測台より(1)

艦これもFGOもライトプレイヤーですが気力が持つ限り続けていきます。


かつて、人類は救われた。

 

人類史に残る7つの分岐点に介入され失われるはずだった"ヒトの歴史"。

すなわち人理は、ある若者の冒険と無数の奇跡によって回避され2016年以降もより強く紡がれている。

 

人理修復による影響も今では収まり人類が改めて地球で最も栄えた種として君臨、

 

 

・・・・・・

する筈だったーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、こんな時間にすまないね』

 

『そう、君を呼び出したのは少し前にお願いした件と関係がある』

 

『ようやっと国連と教会も重い腰を上げたみたいだ』

 

『奴らの呼称も決められたようでね。【深海棲艦】、それが新たな脅威の名前だ』

 

『そして、もう1つだけ決まったことがある』

 

『今回、私たちは君に手を貸すことは出来ない』

 

 

『ふふ、そんな顔をするんじゃない。もちろんバックアップはするとも、天才に不可能はないからね』

 

『ただ、奴らには魔力を用いた攻撃も通常兵器もほぼ効果が無いことが判明したからね』

 

『だから、国連と協会、そしてカルデアの総力を結集して新たな戦力を生み出すことにしたのさ』

 

『君にはそこでマスターとして、いや、違うな。司令官として、活躍して貰いたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう、英霊とは異なる奇跡。

ーーーーーー艦娘達の指揮官としてね』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目の前に、ダンボール箱がある。

『みかん』と印刷されている、古ぼけたそれが自分の新たな職場に放置されていた。

 

思わず廊下へ飛び出し重厚な扉の上部に掛けられた名前を確認するも、確かに執務室と書かれている。

あらかじめ渡された案内図にも間違いはない。

 

ふと、手紙の裏側を覗いてみると。

 

『とりあえず仕事ができる程度の準備はしておくから君はすぐに向かうといい。荷物もこちらで手配しておくよ。

追伸、マイルームはシンプルにしておくから頑張って模様替えしてね

 

 

天才より』

 

「やりやがったなダ・ヴィンチちゃん!」

 

さっきまでこんな文字はなかった筈なのにいきなり現れた文字にニヤニヤと微笑みを忘れない犯人の顔が容易に想像出来る。

(すまない。いたずらを止めることが出来なくて本当にすまない)

 

 

 

 

「あんた、何者? ここは一般人立ち入り禁止よ」

「え?」

 

彼が共犯者が誰か考えていると、不意に声が掛けられた。

声の主は少女であった。

頭部に謎のユニットを浮かべた銀髪の彼女は、手に持った独特な形状の槍をこちらに向けたままこちらに鋭い視線を飛ばしている。

 

「待ってくれ! 怪しいものじゃない!」

「怪しい奴はみんなそう言うわよ」

「本当だって、ほらこれ! 提督が着けるバッジがここに」

 

少女は男の胸につけられた勲章を確認するとポカンと口を開いた。

 

「ほ、本当に提督なの? あんたが?」

「そうですよ」

 

男の頭からつま先までじっくり3回ねめ回した少女は頷いた。

 

「なんか頼りないわね」




設定でおかしなところがあったらご指摘下さい。
あと、このぐだ夫は結構喋ります。
ご注意下さい。


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執務室とみかん箱(2)

主人公:藤丸 立香(ぐだ男)
ゲームの設定よりも少しだけ年を重ねたカルデアのマスター。
新たな提督として鎮守府に着任する。


「はじめまして、藤丸立香です。今日から提督として着任する事になりました」

 

よろしくお願いします、と頭を下げるとまばらな拍手が返ってくる。

先程、藤丸に槍を向けた少女の他に3名がその発生源だ。

 

「大淀と申します、主に事務処理を行っています」

「間宮です、みなさんの食事や健康を管理させていただいてます」

「明石でーっす。艤装のメンテから開発まで聞いてくれればお答えしますよー」

 

最後に、4人分の視線が銀髪の少女に集まる。

彼女の頭部やや上に浮かぶ機械が居心地悪そうにピコピコと動いたあと、諦めたように語り出した。

 

「駆逐艦、叢雲よ。一応、初期艦として今の鎮守府をまとめさせてもらっているわ」

「駆逐艦?」

「あんた、そんな事も知らないで提督やろうと思ってたの?」

「いやぁ、お恥ずかしい」

 

聞けば、駆逐艦と言うのは艦娘と呼ばれる彼女たちの中でも戦艦などに比べて小回りが効き燃費も良い艦種の事を言うらしい。

(実際は異なるらしいが、とりあえずその認識で良いと叢雲に言われた)

 

「それじゃ、初期艦って言うのは?」

「提督の着任と一緒に大本営から派遣される駆逐艦の事よ」

「あれ? でも、俺が来るよりも早く叢雲さんが着任してたって言いましたような、ヒィッ!?」

 

にっこりと、最高の笑顔をした叢雲に思わず短く息を呑む。

経験上、こう言う笑顔をした女性はプッチンと切れていてしかも怒らせてはいけない人ほどこの傾向がある事を理解していたから。

 

「あんたの着任が3ヶ月も遅れたせいでしょうがぁぁぁーーーーー!!」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさーーーーい!!」

 

胸ぐらを掴まんとばかりの叢雲を眼鏡を掛けた長髪の艦娘、大淀が嗜める。

 

「落ち着いて下さい、叢雲さん。提督をあまり責めないであげて下さい」

「いえ、別に責めるつもりなんかないですけど」

「なら良かったです。叢雲さんが泣きながら提督が来るまではなんとかするんだって、頑張ってくれてましたから」

「ちょっと!? あたしはべそなんかかいてなわよ!!」

 

大淀はクスクスと一通り笑ったあと脇に抱えていた書類の束を差し出した。

 

「ここに鎮守府の運営に必要な書類と敷地内の地図があります。目を通しておいていただけますか?」

「はい、ありがとうございます」

「困った事がありましたらここにいる艦娘に聞いて下さい、大体の事でしたら答えられますから」

「あの、では。俺の机がみかん箱なのは何故でしょうか?」

 

そう聞くと大淀は困ったように微笑み答えた。

 

「なんでも、新米提督は全てその机から始められるそうです」

 

 

 

 

海軍のやることってよくわかんない、藤丸の海軍に対する評価に『謎』という項目が追加された瞬間だった。




鎮守府データ
執務室:みかん箱
在籍艦娘
叢雲、大淀、明石、間宮


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廊下では(3)

艦これを始めるまで入渠が読めませんでした。

指摘されるまではずっと「にゅうりょう」と発音してました。


「じゃ、あたしらはこの辺で失礼しまぁーす」

「叢雲さん、ほどほどにしてあげて下さいね?」

「私たちは元の業務がありますので」

 

腰を低めにして退室する3人、現在の執務室は「この漢字どう読むの?」と尋ねた提督に怒りが爆発して大荒れとなっている。

 

「でも、もっと怖い人が来るのかと思ってました。優しそうな方で良かったです」

「優しそうというか、ちょっと頼りない感じじゃないですか?」

 

間宮の呟きに叢雲に詰め寄られて眉を下げていた自分たちの司令官を思い出す。

見た目が幼い駆逐艦に叱られている姿は確かに、威厳あるとは言い難い。

大淀が眼鏡をクイッとあげた。

 

「どうやら提督は軍部の出身ではないようですし、まだお若いので覇気が無いように見えてしまうのでしょう」

「へぇ、ああ見えても優秀だったりするのかな」

「でも、おかしく無いですか? 以前、大淀さんが言っていた提督の条件って・・・・・・」

 

提督、この場においては『鎮守府において艦娘の指揮を執る人物』となるには複数の条件がある。

 

まず、『妖精』が見えること。

艦娘、及び艤装に宿る妖精は深海棲艦の登場から間も無く認識されるようになった存在だ。

妖精に干渉し妖精と艦娘を結び付ける能力がなければ提督とはなりえない。

 

もう1つは軍人、もしくは自衛官である上で能力・人格共に問題が無いと判断されることである。

この条件においては特に『軍人(自衛官)であること』が重要とされる。

無知な一般人より多少問題があっても統率と規律が不可欠だと判断されたからだ。

 

 

 

 

 

そして、この鎮守府の提督。

藤丸立香は『軍人でも自衛官でも無い』。

 

「少なくとも、私が預かった資料ではそうなっています。

確か、前の仕事は『フィニス・カルデア』という環境保全団体だそうです」

「聞いたことがない組織ですね」

「でも環境保全団体ってあれですよね、たまにデモ起こしたりあたしら艦娘ことにいちゃもんつけて来るイヤーな奴ら」

 

ウヘェ、と舌を出して頭の後ろで手を組む明石。

事あるごとに、というか向こうが勝手に騒ぎ立てているだけだが毎度毎度艦娘の活動に抗議して来る連中を思い出したのだろう。

 

「どうやらそういう思想家や政治団体とは関係無いそうです。主な活動も災害支援や救難といった『人助け』の延長の様なものがほとんどです」

「あら? 『環境保全』なのに人助けをするんですか?」

「フィニス・カルデアの定める環境とは自然だけでなくヒトがより長くより健康にいられる様にする為に必要な事を指すそうです」

「そんなの聞いた事ないけど、とやかく言われないなら明石さんはオッケーですよーっと」

 

 

機嫌を直した明石とは逆に間宮は首をかしげる。

 

「でも、それって藤丸提督がここに来た理由にはなりませんよね?」

「そうなんです、何よりおかしいのは彼を推薦したのが国連の一派である事です」

「それって何がおかしいんですか?」

「そもそも、『一般人は提督にしない』と決めたのが国連なのです。

各国で活躍する提督達も国連から審査を受けていますが、その国連が軍人ではない彼を推薦するなんて変でしょう?」

「うお、そうなると一体ナニモンでしょーねあの提督」

「それはなんとも言えません。ただ、『入渠』が読めない一般人だったと言うのは間違えありませんが」

 

あたしは『ドッグ派』だなー、と明石が言ったところで3人は道を別れた。

工廠に向かう途中、見えた窓からまだ怒鳴られている提督の姿が見えた。




『能力があるけど人格がイマイチ』な提督には監督役が付きます。
艦娘に対しても人道に反しない対応が提督には求められます。

また、提督としての条件は『原則』です。
どこかの鎮守府には妖精(さんを付けろデコ助野郎)が見えないグラサンの提督や仮面付けっぱなしの提督や強面パパン提督だったり意識高いドMな提督がいるかもしれません。


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ぐだに叢雲(4)

艦娘の軍艦時代とか覚えきれる気がしないです。


バサリと資料の束をみかん箱に置かれる。

大淀が纏めてくれたものに加えて叢雲が今まで目を通していたものだ。

 

「あの、叢雲さん? これは・・・・・・?」

「見ての通り資料よ、ここの施設と在籍してる艦娘の情報。あとは経費と物資の収支もわかるわ」

 

(やばい、どれから手を出せばいいかわかんないぞ)

 

とりあえず艦娘の情報が載っているものに目を通す。

それぞれに艦名と写真、その艦種や身長体重まで記入されていた。

スリーサイズは載っていなかった。

 

「まずは艦娘個々人の顔と名前よりどの艦種がどれくらいいて燃費と火力がどう違うのかだけ分かれば問題ないわ」

「なんか物足りないというか、健康診断みたいな情報だね」

「何よ、他に必要なものなんてあるの?」

「だってほら、これじゃあみんなの趣味とか好き嫌いとかがわからないじゃないか」

「あのねぇ」

 

額に手を当てため息をつく叢雲。

彼女の背に、そして手元に無骨な金属の塊が出現する。

 

どこか船を連想させる背部ユニットと備えつけられた連装砲。

それこそが妖精の作り出す『対深海棲艦』兵器、艤装だ。

 

「私達は艦娘、かつての軍艦の魂を持つ戦う為の存在なのよ。

趣味だ好みだの言う為に造られたわけじゃない」

「生まれた時はそうかもしれない。けど、生きてるならやってみたい事だってあるんじゃないか? 戦う為に生まれたからってなにも楽しみまで禁止されてるわけじゃないんだろう? やってみたい事とか・・・・ッ⁉︎」

「あまり、知った様な口をきかないでちょうだい」

 

叢雲の白い手が藤丸の襟を掴み引き寄せる、至近距離となった少女は怒りの様なそれでいて無機質な瞳をしていた。

 

「私達の中には船だった頃の魂と一緒に記憶を引き継いでる奴らもいるのよ。

人間の姿になって船の記憶を待たされてそれでも折り合いつけてんの、もしくだらない気遣いや気まぐれであいつらのトラウマつつく様なら私はいつだってあんたを殺してやるわ」

「・・・・・・わかった、気をつける。それでも、やりたい事があるならいつでも言ってくれ」

「ふん、今日はもういいわ。

奥の扉があんたの私室になってるから、届いた荷物を確認しときなさい」

「ああ、わかった。ありがとう叢雲さん」

 

叢雲は怒ったまま、それでも一礼は忘れずに退室した。

能力が無い藤丸にも立場上は上官として接してくれるらしい。

 

(あいつらのトラウマ、か)

 

「私の」とは言わないあたり、叢雲がどの様な艦娘なのかわかる様な気がする。

 

カルデアでも英霊達のタブーに触れない様に勉強したのだ、ここでもやる事は変わらない。

 

(差し当たっては名前と艦種を覚えるところから始めるかなぁ)

 

手探りで調べるしか無い上に頼れる後輩もここには居ない。

1人で過ごす鎮守府の夜は、少々長くなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上官の胸ぐら掴んでメンチ切るとか、何やってんのよ私いいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」




頼れる後輩もそうですが英霊達も直接でてくる事はあんまし無いです。
*鎮守府に居ないとは行ってない。


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戦場跡(???)

友情出演
1.レディ・マハトマ
2.直流ライオン
3.交流電気の階段で高笑いしながら降りてくる人


『くっそ、せっかくの海でなんだってこんな防護服を着なくちゃならねーんだ』

『おいおい、間違っても脱ぐんじゃねーぞ? ここは油断して無くても運が悪けりゃ死ねるとこだぞ』

 

白い防護服を着た2人が海外沿いを行く。

周囲には同じ格好の集団がおり、それぞれが端末やよくわからない機械を操作している。

 

『わかってるけどよ、資料で見たのより何倍もヒデェなこりゃ』

『全くだ、海と陸だけじゃなくて空気まで汚染されてるんだと』

 

かつて岩場として広がっていたであろう海岸線は無数の爆撃された様なクレーターが穿たれ、場所によっては鋭い刃物で切断された様な切れ込みが人の背丈を遥かに超える深さで刻まれていた。

 

『いったいどんな兵器がありゃこんなコトになるんだよ』

『それがわかんねーから俺らが駆り出されてんだろう』

 

この海岸は初めて深海棲艦が地上へと進行し、撃退された場所である。

 

『そもそもよ、その深海棲艦とやらは太平洋上でしこたま攻撃されてもケロっとしてたんだろ?』

『なんでも、ABC兵器を除くすべての火力をぶちまけても効果が見られなかったらしいな』

『そんな奴らが陸に上がる直前のここで引き返すなんて何があったんだろーな』

『もう一度言うがな、それを今調べてお偉いさんがわかる様に纏めようとしてんだ。

口もいいが手を動かせ』

 

公海で発見された初の深海棲艦は近くを通った船舶を無差別に攻撃、緊急出動した航空戦力すら落としたことで各国に認識された。

そして、異形の怪物達は海に落下した人間の全員を殺害しながら陸に向かう。

 

まるで海の底から湧くように現れる深海棲艦、その人間を追い掛けて殺す性質を利用し囮や誘導を用いて多大な被害を出しながらもこの海岸まで誘き出されて壊滅した。

 

『しかもなぜか衛星ではその時間帯だけ計器の異常で映像が届かなくなっていたらしい』

『それで痕跡を調べさせられてんのか俺らは』

『遠くから見てた奴らが言うにはレーザーやビームが飛び交い終いにゃ劇団が生えたりピラミッドが降ってきたらしいぞ』

『はぁ? ピラミッドぉ?』

 

「おおぉーーーい、諸君!! 一度集まって来て貰えるか、」

「集めた情報を整理しよう、」

 

「「配ったタブレットをこの直流(交流)スーパーコンピュータにかざしてくれたまえ!」」

 

「は?」

「おん?」

 

「みんな〜、どっちでもいいからパパッとやっちゃってちょうだい。

そしたらひと休みしましょう」

 

『『『はーーーい』』』

 

環境保全団体とやらから派遣されて来た3人の元へゾロゾロと集まっていく。

 

『ま、なんにせよこれから深海棲艦と戦うのは艦娘とか言う奴らなんだ』

『目には目を、怪物には怪物って事か』

 

 

 

 




サーヴァントが出ないと言ったな。あれは嘘だ。

この世界では艦娘はあまり良い印象がもたれていません。
「艦娘撮ったったwww」動画とかでは武装してる映像や深海棲艦を沈めているシーンが目立ちます。


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青葉の映える(5)

ちょっと実験を兼ねて投稿です。


マルロクマルマル、目覚ましが鳴る。

予備のものも含めて2つ、アラームを止めて起き上がる。

 

(眠るっていうのにも随分慣れたわねぇ)

 

鉄の身体では味わえない、全身に血が巡る感覚を覚える。

顔を洗って身嗜みを整え間宮に向かう、朝の早い時間帯から開いている間宮は艦隊の台所として訓練や出撃よりも優先して展開される小料理屋だ。

 

それは何も間宮に艦娘としての自覚がない訳ではない。

ただ、艤装が準備出来ていないのだ。

艦娘が居ても艤装を用意するのは妖精だ、そして彼らは常に気まぐれでこちらの欲しい装備をくれるとは限らない。

 

(早く用意しなくちゃね)

「おはよう叢雲さん」

 

その為には昨日来たばかりの新米提督をなんとか使えるようにして艦隊を運営しなければならない。

ただ、思わず怒鳴りつけてしまうのは不味かった。

 

「あの、叢雲さーん?」

 

別に、嫌われる事を恐れたのではない。

彼の気を損ねる事で仕事の手を抜かれるのだけは避けなければ。

あの掴み所のない男の好みをいち早く掴む、その為には

 

(最悪色仕掛けでも使って)

「叢雲さん、難しい顔してるけど考え事?」

「うっさいわね、あんたのこと考え事てんのよ」

 

(そう、この間抜けそうな奴を・・・をん?)

 

声の方を向くと藤丸立香がそこに居た。

 

「あ、ついでに青葉さんも居ますんで忘れないでくださいね〜」

「げぇ、青葉」

「おっと、ずいぶんなご挨拶ですね提督代行さん。けれど、今日の私は気分がとてもいいので水に流してあげちゃいます」

 

そう聞いた叢雲が露骨に顔をしかめる、長くはない付き合いだが青葉の気分がいい時は鬱陶しくなることを知っていた。

 

「それよりも叢雲さん、今の『提督の事しか考えられない』ってどういう事ですかスクープですか!?」

「そんな言い方してないでしょう!?」

「青葉さん、捏造とかは記事にしたらだめだよ?」

「それはもう気をつけますとも!!」

「ちょっと、記事って何よ」

 

「実は青葉、提督にお願いして新聞部を作ることになったのですよ!」

 

青葉が言うには、昨日提督が着任した事を知り今朝方突撃取材を敢行。

取材の後、やりたい事が無いか尋ねられ「記者になりたい」と答えたそうだ。

 

「それで鎮守府のなかで起きたこととかを鎮守府新聞部にして貰おうと思って」

「初回は提督についてスクープですよ! 朝食がてら取材しようと思いまして」

「悪いけどそれは今度にしてちょうだい」

「え、独り占めですか?」

 

サッとメモ帳を取り出す青葉に首を振る。

 

「違うわ、この提督には早く仕事を覚えて貰わないといけないの、今日から私と一緒に行動して貰うわ」

「やっぱり独り占めですね!!」

 

メモにペンを走らせる青葉にげんなりとするが今更止めても無駄だろう。

 

「ね、叢雲さん。朝食の間だけですから取材させて下さいよ〜」

「俺も、仕事はちゃんと覚えるからお願い出来ないかな?」

「好きにしなさい、その代わり仕事でも手ェ抜かないわよ」

 

 

 

 

 

「という訳で、第1回青葉新聞部の取材ですよー! あ、間宮さーん朝食Aセット下さ〜い」

「いえーい。 俺はトーストとベーコンエッグお願いします」

 

叢雲は目の前で繰り広げられるやりとりを見ながら卵焼きを口に運ぶ。

青葉は提督にいくつか質問をして提督は頷いたり、たまに訂正を入れて返している。

 

 

年齢に身長、体重から前職のことや会話のなかから気になったことなど話題が広がっていく。

 

(青葉ってこんな楽しそうに喋る奴だったかしら)

 

いつも冗談こそ言うものの何処か言葉が硬いと言うか、今の青葉はまるで言葉が弾んでいると言うべきだろうか。

そういえば、この食事処を始めた頃の間宮にも似たような感覚を覚えたものだ。

 

「じゃあ提督ってたくさん海外に行ったことがあるんですねぇ」

「まあね、どこも面白いところだったよ大変なことも……たくさんあったし」

 

だから、なぜか知らないけれど。

楽しそうに笑う2人の姿がとても眩しくて。

 

「いいなぁ、青葉も行ってみたいです」

「そうだねぇ、いつか行って見ようか」

 

ダンッ!!!

 

いつの間にかテーブルを殴りつけていた。

 

「叢雲さんどうしたの? 怖い顔してるよ?」

「なんでも無い。もう取材は十分でしょう? いくわよ提督」

「え、うわっちょ待って! 間宮さんごちそうさまでしあたたたたたた! もっと優しく引っ張って!!」

 

 

『やりたい事があったらいつでも言ってくれ』

 

その言葉が喉の奥に張り付いたように重ったるいものに感じられた。




今回は後半を一人称視点にして見ました。
気軽に心情を表現出来るのでこれからは一人称が増えるかもしれません。


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Nega(tive)い(6)

静謐ちゃんって可愛いよね少し奥手なところもいいし布団に潜り込んで来るアグレッシブなところもまたグッド。あ、きよひーとらいこー? 2人はまぁ、うん、また今度語るとしよう今は静謐ちゃんですよ小柄で可愛いし戦闘でも頼れるとか最強じゃん。そしてなによりエロすぎる!!
街中でふとすれ違って振り返りながら晩鐘鳴らされたい。




藤丸は自らの前に積まれた書類の山を見下ろした。

 

「昨日よりも多い気がするんですが」

「当然ね、昨日の残りと今日の分があるもの」

 

どこからか持ち込まれたちゃぶ台に座り資料に目を通す叢雲、なぜか彼女がちゃぶ台で自分がみかん箱に腰掛けると言う点に微妙な格差を感じる。

 

「量が多くても難しい案件は少ないの、あんたから見て右の山は訓練している艦娘からの報告ね。

それぞれの練度や体調なんかもわかるわ、トレーニングに必要そうな器具の申請も此処から届くわ」

「この人の『ライブ会場が欲しい』って言うのは?」

「無視しなさい、全部目を通したらファイルに挟んで資料室に保管するの。

次に真ん中の山ね、1番量が少ないけど重要よ。

大本営からの指令書だから此処が多いほど期待されてる鎮守府と言えるわ、こなしておけば物資が貰えるものもあるからちゃんと読みなさい」

 

見てみると『艤装をOO個建造』『どの敵を倒せ』などと細かい指示がある。

それが日間、週間、月間として指示されていた。

 

「最後に、この分厚いのが物資の使用に関するものよ。

誰がいつどこで何をどれだけ使ったか報告して、精算した後に実際の帳簿と照らし合わせて差異が無いか確認する。

経費なんかも報告されるからとにかく慣れて速度を上げるのがいいわ。

って、何よその生暖かい眼差しは」

「いや、なんか親切に思ってたより説明して貰えるなぁっと」

「・・・・・・紙束押し付けて帰ってやっても良いのよ?」

 

ジトッとした眼差しを向けられてしまったのであわてて否定する。

 

「昨日は怒らせちゃったみたいだったから、もっと冷たくされるのかなぁと思ってたんだ」

「私だって公私の区別くらい着けるわよ、艦隊の運営に問題がないのならグチグチ言うつもりはないわ」

 

昨日の叢雲にはお硬い風紀委員長のようなイメージを持っていたが、意外と臨機応変な性格をしているのかも知れない。

そう考えていると、突然サイレンの音が鳴り響いた。

 

「え、何? 何事!?」

「遠征部隊が帰還したのよ、ちょうどいいからこのまま帰還報告を受けてしまいなさい」

「そんないきなりな!!」

 

自分の抗議を黙殺した叢雲はヘッドユニットの1つを耳に当てると誰かと通信を始めた。

そんな使い方あったんだ、それ。

 

「これから第2艦隊がこの部屋に来るわ、報告書を受け取って戦果を聞けば終わりだから気負うほどの事でもないでしょう?」

 

聞けば、この第2艦隊と言うのは自分が着任する日の午前中に出現した部隊だと言う。

つまり、自分と初対面の相手ということだ。

 

(叢雲さんがニヤニヤしてる、絶対嫌がらせだ!)

 

手元の資料を分類しているとドアがノックされた。

叢雲に目を向けると頷いて返された、『お前が返事をしろ』と言うことか。

 

「どうぞ、お入り下さい」

 

「邪魔するぜ」

「失礼しまぁす」

 

入室したのは黒い改造セーラー服を纏った2人、それぞれ武器を携えており似通った顔立ちから姉妹であろう事を窺わせる。

叢雲の様に頭の上で浮遊するユニットが特徴的だ、確か名前は……

 

「天龍、龍田。

私は第2艦隊全員で来る様に言ったはずだけど、どう言う事かしら?」

「そう怖い顔すんなよ、チビどもが腹減ったっつぅんで先に飯に行かせたんだ」

「また勝手な事を」

 

呆れた様に言うあたりいつもの事なのだろう。

 

「叢雲さん、あまり怒らないで本当に疲れててこれ無かったかもしれないでしょ?

それと天龍さん、同じ隊の子が来れないなら先に連絡してくれないと困る」

「へぇ、言うじゃねーかテートク。座ってハンコ押すだけが仕事じゃねーのか?」

「まぁ司令官だからね、お飾りでもやる事はやらなきゃ」

「フフフ、そうかよ」

 

天龍は獰猛に笑うと腰に履いていた刀を抜き放ち切っ先を剥けてきた。

昨日の叢雲が警戒して構えたのとは違う、明確に闘志を込められたそれが一寸先で煌めく。

 

(静謐、まだ出て来るな)

 

自分の『影』に念を飛ばしておく、自分が歓迎されないことは十分に予想出来た。

その為も覚悟もして来たつもりだった、まあそれでもめっちゃ怖いのだが。

 

「なんだ、怖くねぇのか」

「そんなこともないけど、本当にやる気なら脅したりしないだろう?」

 

やると思ったら迷わずやる、よくも悪くも真っ直ぐなタイプに見える。

本当に怖いのはその後ろで微笑みを絶やさない龍田だ、仕草はたおやかだが薙刀をしっかと握りしめている。

 

「なんだ、見た目より度胸あるみてぇだな。

刀向けたりして悪かったよ」

「もうやらないでくれよ?」

「フフフ、怖いか?」

「怖かった怖かった、降参だ」

 

そう返すと天龍は満足そうに刀を納めた、だから奥の龍田にも武器をしまって欲しい。

 

「あ、そうだ。天龍さんと龍田さんって何かやりたい事あったりする?」

「あん? そういや青葉の奴が言ってたな、『テートクはなんでも願いを叶えてくれる』とかなんとか」

「なんでもは大袈裟だし、俺がするのは夢が叶うような手伝いだけだよ」

「そうか、ならオレの願いは1つだ。『死ぬまで戦わせろ』、それだけだ簡単だろ?」

「なるほど、わかりやすさで言えば確かに簡単だ」

「ちょっと! そんなまさかあんたそれも手伝うっての!?」

 

隣に居た叢雲が悲鳴を上げる。

 

「まぁ、手伝うって言っちゃったし。是非もないよネ」

「なぁーんだ話わかるじゃねぇか! これからよろしくな、えーっと?」

「藤丸立香だ」

「よろしくな立香! おい龍田、お前もなんか言っとけよ」

「うーん、わたしはもうちょっと考えてからにしようかしらぁ」

「なら帰るか、メシ食って寝るぞ」

「ちゃんとお風呂も入らなきゃダメよ? それじゃ失礼しまぁす」

 

2人を見送り書類に目を落とすと、影が差す。

見上げると叢雲が腕を組んでこちらを睨んでいた、睨むというか見下していた。

 

「あんた、本気なの?」

「俺はこの鎮守府に来てからずっと本気のつもりだけど、どのこと?」

「天龍の事よ! 死ぬまで戦わせるなんてどういうつもりかしら」

「どうもこうもないよ、どんな形であっても俺は誰かの願いを尊重したいだけだ」

「あんたの事がわからないわ、さっぱりちっともこれっぽちも。

『死にたい』奴を死なせるなんてそれじゃ悪魔と何も変わらないじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

「え? いや、天龍は死なせないけど」

 

「は?」

 

叢雲が呆けた顔は、意外と幼く見える事に気がついた。




なんかぐだ男のキャラがおかしくなって来た気がするけどオリ主!
タグはオリ主だから!


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幕間:大淀

【新登場の用語】
・待機艦娘
ホムンクルスとして鋳造されたものの艤装が準備されていない艦娘。
水上歩行もできない為陸上での射撃訓練・体力作りを主に行う。
まれに間宮のように自分で役割を見つける者もいる。

その鋳型のは魔術界でも最高のものが利用されており、通常のホムンクルスより長い耐用年数を誇る。


大淀は招かれた部屋の中を見回した、この部屋の主人がとったであろう写真が飾られている。

備え付けの机には書きかけの新聞がインクの匂いを醸し出している。

 

「いやぁ、大淀さんがいらっしゃるなんてビックリしました」

「急に押しかけてしまってごめなさい、お邪魔でしたか?」

「そんなことないですよ、ちょっと息抜きしようとしてたトコですから」

 

目の前に出された紅茶は確か、金剛が嗜んでいたものだったように覚えている。

待機艦娘として、十分な給金を得ているとは言えない彼女がそれでも拘っているのがこの紅茶だという。

 

(こういう拘りがある人ってどれくらい居るのかしら)

 

提督が不在の間、仕事に追われて来たせいかこう言った「遊び」のある生活と言うものを考えた事が無かった。

兵器として鋳造された身として当然だし、今まで疑問を持たなかったが。

 

(戦争に勝つ、その目的さえ忘れなければこう言う時間も悪くないかしら)

 

ならば、休みを楽しむ為にも自分の仕事を全うしよう。

 

「青葉さんが面白そうな事をしていると聞いたから、見せてもらえないかと思ったの」

「も、もしかして大淀さんは青葉新聞に反対派、だったりします?」

「いいえ、そんなつもりはないけど。

どんなふうに作るのか気になったから見学させて貰いたいと思ったの」

 

ホッと、安心した様子の青葉がどれだけこの新聞部に入れ込んでいるかがうかがえる。

 

「それで、新聞はどの様に発行されるのかしら?」

「とりあえずは月一で発行して、毎回誰かにインタビューしたコーナーを載せようと思ってます。他には季節の話題や戦績優秀な人の武勲コーナーを作ろうかと」

「その話も提督と相談を?」

「そうなのですよ、『事実を捻じ曲げない』『誰かが傷付く記事にしない』『部外秘は載せない』なら自由にしてもいいって言われました」

 

完成した新聞は鎮守府本館のロビーに張り出す事にしたらしい。

 

「ねぇ、提督へのインタビューについて聞いてもいいかしら」

「ええー、ちゃんと記事にするまで待って貰えませんか?」

「どうしても気になってるの、だからお願い」

「おお! もしかして大淀さんも『そっち派』ですか!?」

 

いきなりテンションを上げて乗り出す青葉、何やら目がキラキラと(獲物を見つけたかの様に)輝いている。

 

「青葉さんちょっと近いです! それに、そっち派と言うのは?」

「『提督の事が気になっちゃう派』の事です。 新人でしかも若い男性なら話題も盛り上がろうと言うものですから、既にそわそわしてる子も居ますよ」

 

どうやら他には『提督なんか居なくても戦えるんだからね! 派』や『使えるならそれでいいけど興味もない派』があるらしい。

青葉には名付けのセンスが壊滅している事がよくわかる。

 

「そうね、気になっているのは確かですよ」

「そうですかそうですか! いやー叢雲さんにはイキナリのライバル登場ですか面白そうですね!」

 

(勘違いさせてしまったようだけど、提督の情報を集めるにはちょうどいいかしら)

 

「だから、お願い。少しでも良いからお話聞かせてもらえるかしら?」

「もうしょうがないですね〜。

青葉さんはジャーナリストだけど、恋する乙女の味方でもありますから!!」




大淀は大本営から送り込まれたスパイです。
国連のカルデアに対立する派閥から派遣されました。


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7

ああああああああああああああ、グレープ君ああああああああああああああああああああ。
どうか安らかに。
願わくばフルルと一緒に入られます様に。


「とりあえずはあんたのことを信じさせてもらうわ」

「うん、信頼ではなく信用をしていてほしい。この鎮守府では誰も失わせないし蔑ろにもしない、そうなるように努力する」

 

ペンを走らせる藤丸は気負う様子もなく当然のようにそう言った。

叢雲はその書類に不備がないかを確認して纏める。

 

「あんたは私たちがどう言う存在か分かってる?」

「一通りは勉強したよ、居眠りして追い出されたくないしね」

「なんの話をしてるのよ」

「昔の話。

なんにせよ君達がどんな存在でも、たとえクローン技術と降霊術による科学と魔術の合いの子だとしても。

後輩の後輩なら守ってやりたいと、俺は思うよ」

「あんたの後輩になんてなったつもりはないわよ」

 

この男は時折よくわからない事を言う。

態度も掴み所が無いしかつて自らに乗り舵を取った者の様に頼れる気配もない。

それでも、ただ真っ直ぐに向けられる眼差しは何故か懐かしく思えた。

 

「1つだけ聞かせて、あんた、提督はとても戦場で活躍できる様なヤツには見えないわ。

正直今の時代の一般的な日本人なんて平和ボケの象徴みたいなものなのに」

「…………」

「艦娘を誰も失わせないと言ったけれど、それでも死ぬのが戦争よ。

そしてなによりあんた自身にも命の危険が発生するのに、『もしもの』覚悟があんたにあるの?」

 

自分の問い掛けに、藤丸は目を丸くしすぐにいつもの顔に戻った。

そしてアルカイックスマイル、困った顔で微笑むといった器用な顔をする。

 

「俺には、覚悟なんて大層なものはないよ。

ヒトの命を背負うなんて大きすぎる責任だ。

でも、それが誰かがやらないといけないことなら俺がやる。

誰かに任せて文句を言ったり、『俺の方が上手くやる』なんて言うつもりはないよ」

 

そして、ひと息つくと。

 

「叢雲さんはさ、実は無茶苦茶優しい人だよね」

「はぁ!? なんでいきなりそんな評価になるのよ」

「状況は違うけど、前に同じ質問をしてくれた人がいて。その人のことを思い出して」

「なら、よっぽど素晴らしい人だったんでしょうね?」

「いや、ヘタレで悲観主義なネットアイドルオタクだったよ」

「良いとこ何1つないじゃ無い!!」

 

抗議しようとした所で正午を告げる鐘の音がなる。

つい最近、近くに建立(こんりゅう)されたばかりの寺が打つそれはとても正確だ。

以前挨拶に来た尼が『これからわたくしが鐘を鳴らします、安珍様のために毎日。ええ毎日毎日』と言っていた通り、艦娘にとっては昼の合図となっている。

 

「どうしたの? 顔が真っ青よ」

「いや、なんでも無い。まさか、まさかな」

「昼にするわよ、間宮さんにあんたの分のお弁当も貰ってるからここで食べたら気分転換に散歩でもして来なさい」




【安珍寺】
住職:脛が弱い方の武蔵
尼:愛情深すぎる火精
剣客:八艘ぽんぽこ



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鉄と油の娘(8)

文字数が少ないのをなんとかしたいがうまくいかない。
どなたか、可愛くてエッチぃくて甘やかしてくれてCVが小倉唯さんのリャナンシーを紹介して下さい。


工廠に甲高い音が鳴り響く。

明石が、私が鎚を振るう音だ。

 

私と間宮、そして大淀は所謂「御付き艦」だ。

初期艦と同じ(・・・・・・)安定した鋳型から生まれるが、彼女達とは異なり艤装の開発率が著しく低い。

つまり戦場に出る確率が低い艦娘だ。

 

御付き艦は鎮守府に派遣される前に特別な講習を受ける。

それは大淀の様な事務能力であったり、私の様な工作の知識と技術であったりする。

特に大淀の鋳型を持つ派閥は古くて頑固な事で有名だ。

 

(まーあ? わたしんとこも似た様なもんだけど)

 

明石(わたし)の前世は工作艦だ。

資材を積んで海に出て、洋上で傷付いた味方を修理する事だ。

何度も、何度も直して、直して直して直して直して治して直す。

ついには自分が撃たれて動けなくなり、人の手により最期を迎えた。

 

(べっつに前世に不満があるわけじゃ無いんですけどねー)

 

炎と煙に巻かれた同僚には今でも夢に魘される者も居るらしい。

彼女たちに比べれば自分の記憶(トラウマ)など些細な問題だろう。

 

(それでも、船だった頃と同じ事をしてると気が滅入りますよう)

 

動かしていた手を止めて仕上がりを確認する。

これは先ほど届いたばかりの天龍が使っていた連装砲だ、艦娘の艤装は基本的に自分で整備する様に頼んで居るのだが天龍は少々武器を雑に扱う癖が目に付く。

 

(まぁこれを適当にやって轟沈されたら夢見が悪いし、龍田さんに100回殺されますしねぇ)

 

「明石さーん、居ますかー?」

 

仕上げとして油をさしていると入り口から男性の声が聞こえた。

 

「いますよぉ〜、勝手に入っちゃってどぞー」

「はーいってうおっ、すっげぇ秘密基地みたいだ」

「明石の工房にいらっしゃいませ、すぐに終わらせちゃいますから」

「なら、見させて貰っていい?」

 

意外な事を言う上官に椅子を勧める。

ジロジロと無遠慮に覗き込んでくる藤丸の視線が妙に擽ったい。

 

「随分慣れた手つきだけど、いつもやってるの?」

「そうですねー、天龍さんや摩耶さんなんかは乱暴に扱うのでわたしがメンテします。

ほんとは座学で整備について学んで自分でやって貰うんですけど、流石に装甲ひしゃげたりすると妖精さんにも直せないらしいので」

「それって細かい傷とかなら直せるってコト?」

「そりゃもうピッカピカになりますよ」

 

手を動かしながら幾らか言葉を交わすと彼はコロコロと表情を変える、これが演技でないならば大した人誑しだ。

 

「はい、これで完了です。妖精さんいつもの所に運んで置いて貰えますか?」

《任されよ》

「妖精さんの声渋ッ」

「提督、妖精さんの声がわかるんですか?」

「いや、え。だってめっちゃええ声でんがな」

 

(なるほど、レベル3。なら一般人でも採用される事もあるのかな)

 

明かりを切り替えて工具を片付ける、凝った体を解せばいい音がした。

 

「さっ、お待たせしました提督! お話をお伺いしますよ」

「うん、ちょっと作って欲しいものがあって来たんだ」

「おや、何でしょう? 建造でも開発でも資材さえ頂ければ造ってみせますよ。

あ、でも改造だけは艤装がないとできないので待ってくださいね」

「今欲しいのはそういう武器じゃなくて机と椅子なんだ、頼めるかな?」

「机と椅子、ですか? それは執務室で使う為のものという事で?」

「みかん箱だと揺れるし、座布団だとお尻痛くなるから使いやすいやつが欲しいんだ」

 

自分が、机と椅子を。

腕を組んで考える。

 

「あの? 明石さん? もしかして俺失礼な事頼んじゃってました?」

「いえ、そうではなくて。

あまり作ったことが無いものなので少し考えてましたが、できると思います」

「そっか! よかった、大きさとかも注文して良いですか!?」

「ならすぐに図面に書いちゃうので紙と鉛筆持って来ます、少し待っててください」

 

(兵器以外の物も作って良いのか、なんで思いつかなかったんだろ)

 

この後、明石は代金を貰う代わりに工廠の隅を工作部の拠点として使う許可を求めた。




家具妖精《どういう事だ、俺の出番では無いのか?》



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龍の夢(9)

フェスじゃあああぁぁぁ!!
私は瞬発力に行きました。
持久力の皆様是非覚悟遊ばせ!!


藤丸は夕食のカップ麺を啜りながら艦娘のデータに目を通していた。

カルデアでは腕のいい者がそれぞれ当番を決めて料理を振る舞い、鎮守府に来ても間宮の料理を貰っていたため些か寂しい夕食だ。

あの後輩には小言を言われてしまいそうだ。

 

(インスタント食うのって新宿以来だったけな)

 

時計の音が子守唄に変わり始めた頃に、『影』から警告の念を受ける。

チリチリとうなじのあたりに痺れが走る、殺気だ。

 

「お客さん、用事があるなら入っていいよ」

「あらー、気づかれてましたぁ?」

「うん、龍田さんか。

お茶でも飲みに来た、訳じゃあ無さそうだね」

 

にっこりと、昼間と同じ微笑みで立つ彼女は艤装を全て展開し(・・・・・・・)自分に照準を合わせている。

 

「あら? もっと驚いたり怒ったりすると思ったんですけど」

「いや、驚いてるよ。そのドアって艤装出したまま通れるんだなって」

「西部劇のスイングドアみたいにガバァって開きますからねぇ、これ」

「あと寒いから閉めて貰っていい?」

「はぁい」

 

龍田はゆっくりと音を立てない様にドアを閉めると鍵を掛けた。

 

「逃げようとしなくて良いんですか?」

「だって龍田さん、俺のこと逃す気ないでしょ?」

「もちろん、でももし私のお願いを聞いてくれたら見逃してあげる」

「聞かせて貰えるかな?」

「天龍ちゃんのお願いを取り消して、死ぬまで戦うなんて馬鹿げた願いを叶えないで。

そうすれば私は引くわ」

 

(叢雲さんが部屋に帰る前に『気を付けろ』って言ってたのはこういう事かぁ)

 

警告するくらいなら護衛もして欲しかったのだが、まさかその日の夜に闇討ちに来るとは予想できなかったのだろう。

俺も出来なかった。

 

「悪いけど、天龍さん本人が言い出さない限りは俺も意見を変える気は無いよ」

「どうして? なら提督は『殺してくれ』って言われたら殺すの? 『死んでくれ』って言われたら死ぬの? そんな事はないでしょう?」

「そりゃあね、どんな願いでもってわけでは無いし。

俺に出来ないことを安請け合いするわけじゃ無いさ」

「そう。

やっぱり、私達みたいな変えが効く存在は死んでも良いって事かしら」

「変えが効く? そんな事はないだろう、みんな掛け替えのない命だ」

「いいえ、効くわよ」

 

龍田は断言する。

 

「艦娘という戦力がどういう時に失われるか、提督は分かるかしら」

「艤装を解体して資材にする時か、その、海上で轟沈したままロストした時だと聞いている」

「そう、でも少し違うわぁ。

艦娘は『艤装を無くした時に』戦えなくなる、言いかえるなら艤装さえあれば艦娘が変わっても問題ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)の」

「そうだったのか? でもそれだけで艦娘達の命の価値が変わるわけじゃないだろ」

「あらぁ? 提督、本当にご存知ないのかしらぁ」

 

なにを、と問う前に龍田が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「提督は意思にそぐわない艦娘を確実の判断で殺して同じ鋳型の艦娘を用意する権利があるってこと」

 

「は?」

 

思考が、停止した。

一瞬、自分が日本語を理解出来なくなったのでは無いかと思うほどに耳を疑った。

 

確実の判断で殺していい?

何を?

 

「その顔、まさか本当に知らなかったの?」

「あた、当たり前だ! そんな事が許される訳無いだろう! 命をなんだと思ってるんだ!」

「艦娘は兵器よ、人のカタチをしていても使う目的は戦争に勝ちたいから。

『動作不良』を起こす兵器なんて使えるはずがないのだからおかしくはないわぁ」

「それでも生きてるだろ? なんでそんな事が出来るんだ」

「人道的だって言われてますよぉ? 私たちみたいな戸籍も人権もない人は使い勝手が良いですから、例えば」

「やめろ、それ以上は言わないでくれ」

 

酷い頭痛がする。

怒りと混乱、そして嫌悪感で頭がおかしくなりそうだった。

 

「龍田さんは、こんな事をして自分が処理されるかもしれないとは思わなかったのか?」

「思ったわよぉ、でももし天龍ちゃんを酷い扱いするのなら私は誰が相手でも許さない。

きっとそれは、どの龍田でも変わらないはずだから」

「龍田さんは、天龍さんが本当に大切なんだね」

「そうよ、だからお願い。天龍ちゃんが沈むまで戦うなんて事はさせないで」

 

(やっぱり、艦娘にとって死ぬとか沈むとかは禁忌なのか)

 

自らの死の記憶を背負う事がどんな感覚なのかは英霊でも、ましてや艦娘でもない自分には理解出来ない事だろう。

きっと彼女達と触れ合う中です知っておかないといけない事は多いのだろう。

 

(叢雲さんにも、あんたモグリ? って言われたしなぁ)

 

勉強して覚える、結局それしかないのだろう。

楽な方法や便利な手段などそうそう無いし、頼ってもロクなことにならないのは経験している。

 

「昼間は誤解させてしまったみたいで、叢雲さんに怒られちゃってね。

俺は、天龍さんを轟沈なんてさせないよ」

「でも天龍ちゃんはきっと止まらないわ、それこそ死ぬまで戦場に向かうかもしれない」

「うん、きっと口で言っただけじゃ考えを変えたりはしない。

なら、彼女が満足に戦える、『戦い続ける事が出来る』戦場を用意してやる。

死ぬまで戦うなら、戦える限り死ぬ気がないって事だろ?」

 

それに

 

「もしかしたら、戦うのに満足したり飽きたりする日が来るかもしれない。

その時には、またやりたい事が無いか聞いてみたいと思ってる」

「じゃあ、本当に? 本当に天龍ちゃんを死なせるつもりはないのね?」

「もちろん、と言ってもまだまだへっぽこ司令官だから頼りないんだけど」

 

艤装が霧散し床にヘタリ込む龍田。

その瞳からは安堵か緊張が途切れたせいか涙が溢れていた。

 

「提督、貴方のこと信じるわぁ。

もし裏切ったら酷いんだからね?」

「ああ、きっと守ってみせる。

そう言えば、まだ龍田さんの願いを聞いてなかったな」

「そう、私のお願い。

天龍ちゃんが無事なら文句は無いのだけれど、そうね1つだけ叶えたい事があるの」

「聞かせてくれ」

「私達天龍型の2人はね、生前天龍ちゃんの最期の時に離れた所にいて死に目に会えなかったの。

だから、今度はちゃんとお別れが言えるようにしたい」

 

例えそれが戦場でも、今度こそ1人で果てる事が無いように。

 

「それが私の夢、いつかはきっとくる終わりをそうやって迎えたい。

私が終わる時は天龍ちゃんが、天龍ちゃんが終わる時には私が側に居られる様にして」

「わかったよ、龍田さんの夢がきっと叶うように努力する」

 

 




自分が死んだ記憶とか、トラウマ過ぎて抱えきれませんね。
話変わりますが、まほ嫁のアニメ観ました。
感想は

しゅき(語彙力消滅)



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10

「今日は鎮守府の施設を視察に行くわ、地図で見るよりも早く覚えるでしょう」

「あいあいマム」

「マム言うな、それよりも徹夜でもしたの? クマがひどいわね、体調管理は私の仕事じゃないからね」

 

叢雲は寝惚けた様子の上司と共に間宮で朝食を取りながら予定を確認していた。

 

「仕事と言えば、昨日みたいな書類の確認はしないでいいの?」

「ああ言うのは大淀が手伝ってくれるのよ、私が今までやってたのは艤装の開発に艦隊の運用がメインなの。

まああくまで『提督代理』だから資材の使える量にも制限があったんだけどね、自分で出撃したりした時は大淀にほとんど任せる事もあったわ」

「叢雲さん、もしかして座り仕事苦手だったりする?」

「・・・・・・現場主義と言ってちょうだい」

 

生暖かい眼差しを避けるように目線を逸らして食事を済ませる。

 

「さ、行くわ。

まずはドッグね、分かりやすく言えば集中治療室よ」

「集中治療室?」

 

ドッグは工廠と並んで港に隣接する施設だ。

帰投した艦娘はここで傷を癒し、穢れを落とす。

 

「なんか、銭湯みたいな作りしてるんだね」

「なんでも神社の役割も兼任しているらしいわ、奴らの近くに居ると良くないもの溜め込んでしまうらしくて」

「奴ら、というのは?」

「深海棲艦よ。

近くに居るだけじゃなくて攻撃をされたりすると、上手く言えないけど寒いのに引っ張られるような感覚があるのよ」

 

まるで前世の最後を想起させる、海の底が覗き込んでくるかのような感覚は体感しないとわからないだろう。

 

提督に先行して中に入る。

艦娘の中には時折とんでもない格好をする者がいるので油断が出来ない。

 

以前、摩耶が全裸でマッサージチェアーに座りおっさんみたいな声を上げていた時は本当に同じ生き物なのかと目を疑った。

浴室も覗いて誰もいない事を確認する。

 

「いいわ、誰もいないから今のうちに中を見て起きなさい」

「お邪魔しまぁす、うわーシャンプーの匂いがする」

「キモい事言ってないですぐ出てくわよ、ここは入渠以外にも入りにくる事があるから」

 

ちなみに鎮守府にある男湯は提督の私室となる部屋のものだけだ。

 

「ふぅ、良い汗が流せたわね山城・・・・・・あら?」

「姉様、すぐに水を持ってきま……す?」

「しまった、この2人が入ってたか」

 

鎮守府きっての不幸な姉妹、扶桑と山城。

たしかサウナに入るのが好きだった筈だ、見落としていた。

 

「俺は藤丸立香。どうか宜しくぶげらぁ!!」

「この! この!! よくも姉様の柔肌を!」

「ちょ、ちょっ待って。見えてる! 君も見えてるから!? うげっ」

 

(これはマズったかしら)

 

オロオロしている扶桑はまだしも、山城との出会い方としては最悪の

形となってしまった。

 

「山城、その辺にしておきなさい」

「あら、提督代理じゃないですか。

ならこの男、いえ変質者が噂の提督ですか」

「へ、変質者」

 

藤丸は何故か今日1番ダメージを受けている。

 

「ああ、不幸だわ。まさかこんな安っぽい創作物みたいな目に遭うのかしら」

「姉様早く服を着て下さい、あの変質者が我慢できずに襲いかかってくる前に」

「そんな事しませんよ!? と言うか叢雲さんももっと早く止めて欲しかったなぁ」

「駆逐艦が戦艦に太刀打ち出来るわけないでしょ、それが最低限の損害だと思いなさい」

「こ、コラテラルダメージ」

 

藤丸に手を貸して引き起こす、どうやら大した怪我はしていないようだ。

ちらっと足元を見たが転んだ時には挫いた様子もない。

 

「あら、マウント取られたのに平気なのね。

見直したわ」

「嬉しくないです」

「無事ならこのまま2人の紹介をするわ。

扶桑と山城は現在この鎮守府が誇る最高火力、戦艦の2人よ」

 

頭を下げて礼をする扶桑と姉を庇うように立つ山城、2人とも強力ではあるものの入渠にかかる時間も長くなる。

資材も少なくない量を必要とするので気楽に運用出来ない戦力だ。

 

 

「扶桑型1番艦、扶桑と申します」

「同じく2番艦の山城です、それ以上は近づかないでください」

 

結局、番犬スイッチの入った山城に追い出されてしまったのですぐに撤退する事にした。

 

「それにしても、龍田といい山城といい厄介なやつらに目を付けられるわね?」

「あんまりギスギスしたくないんだけどなぁ」

「そういう星の元に生まれたんでしょう。

たしか工廠にはもう行ったのよね、なら次の所に顔を出しましょうか」

 

 

 

 

 




静謐「あの女今度会ったらザバーニーヤです」


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鶴と百万石(11)

特にストーリーに関係しない設定
蒼銀のセイバー(プロトアーサー)の聖剣は深海棲艦に対して十三の拘束を解放出来ない。


(いてて、こりゃスパルタ式護身術習ってて正解だったな)

 

「いくら艤装無しとはいえ本当に頑丈なのね」

「これでもそこそこ鍛えてるから、それでも痛かったけど」

「あの2人の願い、聞きそびれちゃったわね」

「さすがにそこまで空気読めないアホじゃないよ? それに」

 

藤丸は山城に殴られた頰を撫ぜながら呟く。

 

「山城さん、きっと人間のこと嫌いでしょ?」

「どうしてそう思うのかしら? 」

「似たような目つきの人達を知ってる、彼らは大なり小なり人間っていうものに嫌気をさしていたから」

「人達って、随分変わった知り合いが多そうね。

たしかに山城は人間嫌いの艦娘だけど、他にも似たような奴はいるわ。

特に悲惨な死に(沈み)かたをした奴にはね」

「叢雲さんはどうだったの?」

「躊躇いなくトラウマ抉りにくるわねあんた。

ま、私の最後は船としてはそこそこ悪くなかったわ」

「そうなんだ」

 

勉強不足だなぁ、と頭を掻く。

仕事をして勉強も進めながら艦娘達と交流をする、想像以上に骨が折れそうだ。

 

「じゃあ、次は弓道場に行きましょう」

「弓道? なんでそんなのがあるのさ」

「んー、艦娘って妖精の力が宿った武器を使うでしょう? その中でも空母達は特にオカルトが強く出ている艦種なの」

 

叢雲が言うには正規空母を始めとする空母勢は自らが放った矢なり式神なりを戦闘機や爆撃機などに変化させるらしい。

どんな理屈があるのか尋ねたら「妖精に聞け」とのことだった。

 

「大丈夫? 今度は入った瞬間に半裸の人が居て眉間にズドンとかされない?」

「さすがに心配しすぎ、いきなり人に向けて打つような奴はそんなに居ないし半裸の奴も1人だけよ」

「いるんじゃないですかやだー!」

 

聞けば、空母というのも戦艦に負けず劣らず力が強いのだと言う。

叢雲に引きずられながら件の道場へ到着した。

 

「お邪魔するわ、誰か居るかしらー?」

「あ、叢雲さんちょうど良かった。

瑞鶴と加賀さんが喧嘩してしまってどうしようかと!」

「また? 赤城はどうしたのよ」

「それが、昨日ご自分で釣って捌いた魚が当たったらしくて」

「また?」

「またです」

 

盛大なため息を零す叢雲、どうやら厄介な現場に来てしまったらしい。

 

「あの、後ろにいらっしゃる方はもしかして提督でしょうか?」

「あ、どうも提督の藤丸です。

もう目を開けても平気ですか? 半裸の人とかいたりしません?」

「えっと、祥鳳さんなら今日は間宮さんのお手伝いに行ってるので訓練はお休みです」

 

目を開くと、白髪(はくはつ)の少女がいた。

和弓を携えた彼女は翔鶴と名乗った。

 

(良かった、服を着てる)

 

「えっと、今凄い納得し難い評価をされたような」

「気にしないで翔鶴さん、それより喧嘩というのは?」

「この翔鶴の妹の瑞鶴と同じく空母の加賀っていうのは犬猿の仲でね、飽きもせずしょっちゅう言い争ってるわ」

 

ひょこっと壁際から顔を出して覗くとサイドポニーの女性とツインテールの少女が言い争っていた。

正確にはツインテールが噛み付こうとしてしっぺ返しを受けているように見える。

 

「バストサイズは加賀さん? の勝ちだなぁ」

「あの、女性の第1印象がそれなのはどうかと」

「変質者」

「ぐはぁ!?」

 

叢雲の視線がエグめに刺さった。

 

「ちょっと一航戦! なんで私とおんなじタイミングで打つのよ」

「別に、わざわざ合わせているわけではないわ。

あなたがゆっくり狙いすぎなのではないかしら?」

「じゃあなんであたしが構えてから矢をつがえてるのよ!」

「お隣さんがのんびりしてるせいじゃないかしら」

「むかつくーーーーー!」

 

「ほんっといつもの同じようなやりとりしてるわね」

「すみませんすみません、妹がいつもご迷惑をかけけててすいません!」

「いっつもあんな感じなのか、なんかじゃれついてるだけに見えるんだけど」

 

「そこ! 聞こえてるわよ!」

「何故私が五航戦と戯れなければならないのですか」

 

似たような地獄耳でこちらの呟きを捉えた2人が同時にこちらを向く。

似た者同士とはこういう事を言うのだろう。

 

「もしかして、あなたが先日着任した提督かしら?」

「天龍さんが噂してた『なよっちいけど面白そうな奴』ってことね」

「ええ、藤丸立香って言います。

どうぞよろしく」

 

差し出した手は、握り返されることは無かった。

 

「第1航空戦隊の加賀よ、握手はしないわ。

私の願いはただ1つ、『今度こそ、勝利を』」

「うっへぇ、せっかく生まれ変わってまでそんな事を言ってるの?

あたしはそんなに事ないわ、そうねとりあえずはこの一航戦と同じ部隊にしないでくれればいいかな」

「あら、私に気を使ってくれるなんて。

少しは見直そうかしら」

「誰もあんたに気を使っちゃいないわよ!!」

 

「なんだ、やっぱり仲よさそうじゃん」

 

 

「「よくない!!」」

 

 

 




次回は特別企画
『静謐ちゃんの長い夜』です。


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余白:静謐ちゃんの長い夜

特に意味はない設定
・深海棲艦は静謐のハサンとメディア・リリィ、そしてナイチンゲールの宝具で苦しむ様子が見られた。


静謐のハサンの夜は長い。

 

カルデアから遠く離れ極東の国に勤める事になった主人の護衛をする為に影となり着いてきた。

こぞってついて来ようとした英霊たちだったが、様々な外圧によって叶わなかった。

 

冗談抜きに一騎当千の勇者がわんさかいるのだ、魔術に疎い国連も顔を青くしたという。

 

そんな中で、特に戦闘能力に秀でた訳でもない自分が選ばれたのには理由がある。

 

まず、隠密に長けておりいつでも守りにつける事。

流石に狂戦士に連中は護衛に出来ないし、かといってかの騎士王や征服王の様に目立つ存在も好ましくはない。

金ピカ1号? 論外。

 

もう1つの理由は自分の宝具(ザバーニーヤ)が深海棲艦に対して効果があったからだ。

と言っても少し動きを鈍くする程度のものだったが、いざという時に自分が海に浸かれば少しは足止めになるだろうから。

 

「マスター、お夕食を用意しました」

「静謐? 別に身の回りの事までしなくてもいいよ?」

「そうはいきません、昨日みたいなカップ麺ばかりでは体を壊してしまいます」

 

入浴を終えてタオルを肩のかけたマスターがちゃぶ台についた。

あとで飲みに行こう。

 

「おぉ、肉じゃがなんて作れたんだ」

「その、アーラシュさんに手伝って頂きまして」

「人が良いにも程があるだろあの大英雄」

 

手を合わせてから肉じゃがを口にするマスター。

・・・・・・いくら耐性があるからといって自分の体質を知った上で躊躇いなく食べて、しかも無事な者などどれだけいるだろうか。

 

「うん、美味いね。

ありがとう静謐」

「いえ、猛毒(愛情)込めましたから」

 

マスターが提督として身に付ける軍服をハンガーに掛けシワを伸ばす、毒を着けてしまわないように気をつけて仕上げた。

制服のマスターも良いが、やはりカルデアの制服が1番似合うと思う。

 

「そういえばマスター、今日はお勤めの後も明石さんの所で艤装? とやらの整備をしていましたが。

あのような作業までする必要があったのでしょうか?」

「うん。

やっぱりまだ艦娘の事ってよくわかんないから、明石さんに話聞きながら触ってみれば何かわかるかなぁって」

「そうですか、確かに武器に触れていれば何か得るものがあるかもしれません」

 

長く使う武器には使用者の癖が表れるものだ、武人ではないマスターでも感じ取れるものがあれば良いのだが。

 

食器を片付けてあくびをするマスターが横にならないよう寝室へと促す。

何を隠そうベッドメイクこそ今日1番の会心の出来を自負する仕事なのだ。

 

「さぁマスター! これが『ハイパーYESベッド』です! ずずいっと奥へ」

「俺はソファーで寝ます」

「そんなぁ!?」

 

 

 

静謐ちゃんの夜は長い。




静謐「マスターが寝た後は昼間の無礼者を撫で(ザバニり)に行きます」


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ピックアップガチャで聖晶石全部溶かした人みたいな顔した叢雲(12)

「今日は建造と開発をしましょう」

「建造と開発?」

 

藤丸は差し出された書類に目を落とした。

 

「流石に建造がどう言った物かは知ってるわよね?」

「確か鋼材と燃料、ボーキサイトに弾薬を妖精に渡して艤装や砲塔を造る事だよね?

どんなに重い艤装でも適応する艦娘なら軽々と扱ってしまうとか」

「ん、その通りね。

よかった、ここで『ボーキサイトって何?』なんて言われたらどうしてやろうかと思ったわ」

 

(実はよく知らないけど迂闊に聞かないで良かった)

 

叢雲によると、必要な資材を炉に焚べた後で何が出来るかはわからないらしい。

いくら大量の資材を注ぎ込んだとしても欲しい艤装や兵装が手に入るとは限らないと忠告された。

 

「私は提督代理として扱える資材に限度があったけれど、あんたにはそれがないわ。

まずは肩慣らしとでも思って駆逐艦が出やすいレシピで回しましょう」

「駆逐艦が出やすい? 艦種は選べないんじゃなかったのか?」

「傾向はあるのよ、史実の軍艦達のスケールを考えれば資材の量が影響するのはおかしくないでしょう?」

「なるほど」

 

建造用の炉は工廠にあるので叢雲と共に向かう。

 

「そうですか、ついに建造をしますか。

いやー、妖精さんが暇そうにしていたのでよかったです」

「叢雲さんはあまり建造しなかったの?」

「資材の制限があるって言ったでしょ、赤字にしない運営で精一杯だったのよ」

 

そういうものか、と思いながら建造の準備を進めて妖精にお願いする。

妖精が炉に入ると取り付けられたタイマーが回り出した。

 

「完了まで30分、意外と早いんだなって……2人ともどうしたんだ?」

「あんた嘘でしょ?」

「いやー、まさか初っ端からこれとは提督やりますねー」

 

話を聞くと、建造時間から建造される艤装を逆算する事が出来るからしい。

そして今建造されているのはかなり優秀な艦娘のものだそうだ。

 

「これは開発の方も期待出来ますね! さぁ提督、開発にはこの専用資材が必要になりますのでやってしまいましょう」

「明石待って、お願い待って。

これでまたホロでも出されたら私はどうすればいいの」

「さあさあ提督ここに材料を入れて下さい、こっちは建造と違ってすぐに結果が出ますから」

「やめてーーーーー!!」

 

明石が勢いよくレバーを下ろすと炉が動き出す。

明石のいう通り、すぐに振動が収まり炉が開いた。

 

「あちゃー、失敗ですか」

「これは、ぬいぐるみ?」

「開発が上手くいかないとこれが出来ちゃうんですよねー」

 

明石からペンギンと雲をモチーフにしたような人形を受け取りそのまま万歳している叢雲に投げつけた。

 

「なにすんのよ!?」

「よくわからんがむかついたから」

「私がさんざんお祈りしたりワンドロしたりしてるのにあんたがあっさり出すからでしょーが!!」

「り、理不尽だ! 俺のせいじゃないじゃん!」

 

「あんただって自分の描いた絵が『新種の深海棲艦』とか言われたら分かるわよ!」

「分かりたくねー!」

「ああもうあまり汚さないでくださいよ、片付けするのは妖精さん達なんですからねー」

 

【【【!!?!!!!?!?】】】

 

 

そのあとは叢雲の体力が尽きるまでぬいぐるみを投げ付けあった。

 




脱獄者「はははははははははははは! 共犯者よ絵を描いているのか、ふむこれはどこぞのスーパーキメラとやらか。なに、フォウくんだと? いやこれはどう見ても人間を生け贄に要求するタイプの化け物だろう」


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華に島風(13)

劇場版fate/見て来ました、面白かったです。
桜が可愛かったし作画も丁寧で桜が可愛かったし桜が可愛い。
みんなもいこう(ステマ)


パールヴァティー? 知らない子ですね。


藤丸は明石によって執務室に届けられた椅子に腰を下ろした。

急造品だと言っていたが、椅子も机もちゃんと作り込まれている。

 

椅子に使われてる革の様な素材は一体なにが使われいるのだろうか。

 

「ほんとはもっと時間掛けて作りたかったんですけど、使い心地は保証しますよ」

「うん、ありがとう明石さん」

 

大きな机と椅子があるだけでなんだか偉くなった気がするから不思議だ。

 

「子供みたいに椅子に座ってくるくる回るんじゃないわよ」

「はーい」

 

先ほどまで荒ぶっていた事などなかったのか事の様に振る舞う叢雲からカードを受け取る。

紙の様な、それでいてプラスチックで出来ている様な不思議なそのカードには一隻の船が描かれていた。

 

「これが、艦娘の艤装?」

「を解放する為の『鍵』よ。

私たちの魂に刻まれている軍艦だった頃の力を引き出す、呼び水の様なものね」

「学者さん達は夢幻召喚(インストール)なんて呼ぶそうですよ。

このカードは艦娘と一体化してしまうから使い回したり出来ないんですよ」

「それで、このカードを使える艦娘さんは?」

「もう呼んであるわ」

 

せっかちな奴だからすぐに来るだろうという。

 

(それにしてもこのカード、どう見てもサーヴァントを呼び出すときの奴と同じだよなぁ)

 

「来たわね、入りなさい」

「はーい、島風入りま〜す」

 

元気な声と共に現れたのは牛若丸みたいな(露出多すぎる気がする)格好の女の子だった。

 

「君が、このカードの艦娘?」

「駆逐艦の島風です、速さなら誰にも負けません!」

「よろしく、島風さん。

あとあまり跳ね回らないでね」

 

このカード、艤装鍵符は提督の許可が無くてはインストール出来ず、また提督の一存で「引き剥がす」事も出来るのだそうだ。

 

「提督早く艤装ちょうだい、そうすればわたしはもっと速くなれるから」

「島風さんは随分速さに拘るんだね」

「トーゼンでしょー? だって速くないと遅いじゃん!」

「うん? いやまあ、そうだなぁ」

 

急かされるまま島風にカードを渡すと、彼女の胸に吸い込まれる様に消えた。

光の粒子が島風から溢れ出し、艤装となって顕現する。

それは背中に着いた機関部と魚雷菅であり、

 

『キュイ?』

「ん?」

 

3体の小さなロボとして目の前に現れた。

 

ドラム缶の様な胴体に四角い頭から伸びた二門の砲塔、大きさが異なるが似た様なデザインのものがキョロキョロとしている。

可愛い。

 

「叢雲さん、このちっこいのは?」

「島風の艤装よ、自律して動く連装砲として使えるわ」

「もし連装砲ちゃんを酷い扱いかたしたら提督でも許さないから」

「わかった、約束するよ」

 

中サイズの連装砲を抱えた島風にジッと見つめられる。

 

「島風さん、俺は提督として頼りないかもしれないけど自分にできる事があるなら言ってくれ」

「あんた、それを会う奴みんなに聞くつもり? しまいにゃ身が持たなくなるわよ」

「そうかもしれないけど、もし俺でも力になれるならそうする。

今まではずっともらってばかりだったからね、少しはあげられる様になりたい」

 

平凡な自分でも誰かの助けになれるなら、自分が背中を眺め続けるだけでは無くて隣に立てるくらいにならないといけない。

そうでなければ、自分は『先輩』として胸を張る事が出来ないだろう。

 

「? 島風でいいです、さんとか付くと呼び終わるの遅くなるし」

「本当に速さが命なんだね」

「もし、出来るならあたしがもっと速くなれる様にしてください。

誰よりも、敵よりも、風よりも速く」

 

島風はそれだけ言うと「ちょっと走って来る」とだけ言って出て行った。

子供は風の子と言うが、まさに風の様な艦娘だ。

 

「艦娘の制服は、君たちの趣味なのか?」

「さすがに島風のはどうかと思うわよ? 私たちのだって」

「あはは、なんでも『艦娘界のダ・ヴィンチ』と呼ばれる人がデザインしたそうですよ」

「ああ、そうなの」

 

(それ絶対本人だよね)

 

喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込み、今も雪山の奥地でドヤ顔をしているだろう仲間の事を思い出した。




特に覚えておかなくていい設定
・艤装はシェアリング出来ない
例えば、叢雲Aと叢雲Bという素体があったとする。
この時、艤装が一つしかない場合は同時に2人の叢雲が艤装を扱う事は出来ない。
また、叢雲Aが出現し練度を上げた後に叢雲Bが同じ艤装をインストールしても練度は共有されない。
あくまでも練度とは艦娘本人が身につけた技量である。

そして、同じ鋳型の艦娘が2隻以上同時に出現しようとすると艤装が誤作動を起こす。
ラジコンが同じ波長の電波を受けて勝手に動く様に同じ艦娘の艤装同士はお互いに干渉するためだ。
これは艦娘の魂の波長によるものなので、ゆーちゃんとろーちゃんであっても影響する。


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山城と夕焼けと

「不幸だわ」

 

山城は本日、何度目かになるため息をついた。

 

思い返せば今日は短い人生の中でも特に不幸な日である。

未明には枕元の謎の幽霊に撫でられるし何故か全身が麻痺してるし目覚ましが壊れていて8分早く鳴ったし着替える時に帯が絡まって転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を鳩尾に頂くしタンスの角で両方の小指が逝くし下駄を履き損ねて転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を頂くしドアノブが壊れてたし味噌汁に咽せてあっつい汁が顔に掛かるし歩いていたら鼻緒(下駄の紐)が切れて転ぶしその後転んで来た姉様に肘鉄を頂いて気絶するし、しかも、

 

「ああ、山城さん気分はどう? なんか凄まじい有様だったみたいだけど、もう身体の痺れとかない? 」

「気分は最悪よ、誰かさんの顔のせいでね」

「そうか、元気そうなら良かった。

あ、幽霊? は叱っといたからもう大丈夫なはず」

「意味がわからない事を言うのね」

 

体を起こすと提督が水を差し出して来た。

少し迷ったが受け取ることにして深呼吸してから口に含む。

 

「そんな警戒しなくても細工なんてしてないよ?」

「ングッ……こうしないとむせるのよ」

「ああそう、筋金入りなんだね」

 

苦笑いを浮かべる提督、他の艦娘に言わせれば『人懐っこい』や『無害そう』と言う評価になる表情らしい。

 

(私にはもっと『油断ならないナニカ』の様に見えるのだけれど)

 

前世の自分が知るのは軍人と言う人物ばかりだったが、それでもこの提督の様な者は居なかったと思う。

ある意味では『ただの若者』だが、その裏でブラックホールの中を覗き込んだ事がある様な印象を持たせる一面を醸し出す男だ。

 

「姉様は何処に居るのかしら?」

「扶桑さんならさっきまで凹んでたけど、山城さんのおかゆを作ってもらう様に間宮さんのとこに行ったよ」

「そうなの」

 

もう少し早く目を覚ませばお顔を見れたのに、やはり運が悪い。

 

「山城さんはさ、自分が不幸だって言うのをどうにかしたいと思う?」

「なにそれ? まさか提督がよく聞いてるっていう艦娘の願いとやらですか?」

「うん、そのつもり」

「はっ、なにをいうかと思えばそんなことですか。

そんなくだらない事を聞かれるなんて」

「くだらない事、なのか?」

 

首を傾げる男に向けて言葉を吐き出す、生きているものにはわからないだろう思いを。

 

「ええ、くだらないわ。

確かに私の前世は納得いかない終わり方だったしそのせいで今も幸運とは言い難いけれどね、それでも私は生まれた事を悔やんだりしないわ」

 

人間とは違い、兵器であった自分たちは多くの人間の思いを受けて生まれて来た。

機材一つ、ネジの一本、そして砲弾のひとつまでが明確な意思を込められていた。

例え志しの半ばであっても望郷の念を持ちこそしても、未練も後悔もない。

 

「そして、今は肉体を持って姉様と再会出来た。

不幸に見舞われたとしても、こんな奇跡みたいな日々を送っているのに誰かに願いを託す必要なんてあるのかしら?」

「つまり、今は満足しているから特に願いはないと?」

「おせっかいな貴方には悪いけれどね。

そもそも、後でどんな代償を払わされるかわかったものじゃないもの」

「おせっかいだったのか……」

 

腕を組んで考え出す提督。

 

「提督がどうして他人の願いとやらを気にするのかは知らないけれど、私たちの中には非業の最期を迎えた子もいるわ。

そういう地雷だけは気をつけない」

「なんか、昨日俺をタコ殴りにした人とは同じに見えないんだけど」

「お望みなら完膚なきまでに叩きのめしてやってもいいのよ?」

 

ベッドから降りて下駄を履く。

どうやら鼻緒は妖精が直して置いてくれた様だ。

 

「まだ寝てたほうが良くない?」

「姉様を1人にしておけないもの、ほら着物を着付け直すからさっさと出ていきなさい覗き魔」

「その評価はやめて!」




俺は一体なにを書きたかったのだろうか?


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青葉と緑茶と

ふと、『姉な◯もの』と『甘えち◯ん』はどっちのが闇が深いか考えてしまった。
「闇」のジャンルが違う気もするけど僕はおねぇちゃんの方が好きです。


「はぁ、それで山城さんに諭されて凹んでるって訳ですか」

「そんなつもりはなかったんだけど、おせっかいでしかなかったのかなぁって思うとねぇ」

 

青葉はいきなり訪ねて来た提督にお茶を出すと自分も卓袱台へと腰を下ろした。

提督は机に突っ伏し、うんうん唸る。

 

「青葉さんにもおせっかいだったのかなぁ」

「青葉ですか? うーん、そうかもしれないですねー」

「まじかー」

「青葉はもともとインタビューとか好きでしたし、きっと提督の許可とかなくっても勝手に新聞部を作ってたかもしれないです」

 

机に額をつける提督を見ていると笑みが湧く。

 

「青葉たちは、もともと戦う事を目的として生まれてきましたから。

戦場に出て、沈むかもしれないのに趣味なんて持ってどうするんだって考えている子は結構居ます」

 

あるいは天龍の様に戦いそのものを娯楽として捉えている場合もある。

 

「だから、急に『やりたいこと』なんて言われても思い付かない人もいるんじゃないでしょうか」

「そういう事もあるのか」

「難しい事を難しいまま考えようとするからこんがらがるんですよ、仕事の事でもないならもっと気楽に構えてればいいんじゃないでしょーか」

「気楽にねぇ、難しくなくて出来る様なことっていうと何かある?」

「いやーそれは青葉に聞かれてもお力になれないですねぇ」

 

でも、と落ち込む提督の頭を撫で回す。

 

「提督が、青葉に新聞部を作らせてくれたのは本当に嬉しかったんですよ? 戦う事以外にも考えていいんだ、って思えたから今は凄く楽しいんです」

「えぇ〜、本当にござるかぁ〜? うぶっ」

「生意気ですねぇ戦後生まれのくせに、うりゃりゃりゃりゃーーー」

「うわわわわ。

そんなジャガーマンみたいな声をってやめろやめろ」

「にっししし、提督からすれば青葉達はみんなおばあちゃんみたいなものですから無理して気を使おうとしなくてもいいんですよ。

むしろ提督が青葉達を頼るくらいじゃないとこれからもっと大変になっちゃいますから」

「そーいうもんかなぁ」

「そーいうもんですよー」

 

まだ納得しきれていない様子の提督を見ながらお茶をすする。

何故かは分からないが、この提督は艦娘について少し心配しすぎなきらいがあるようだ。

 

(生まれたばっかの子供じゃないんだから少し過保護かもだけど、『人嫌い』の子達と上手くいけばいいなぁ)

 

まぁこの提督なら大丈夫だろう、と根拠は無いがそう思えるのはこの上司の持つ不思議な雰囲気のせいだろうか。

 

「そしたらさー青葉さん、早速お願いがあるんですけれど」

「はいさー、なんでしょう?」

 

『提督ぅあ!! ここに隠れてんのは分かってんのよ! あんたよくも午後の執務全部すっぽかしてくれやがったわね!?』

 

「むっちゃ切れてるうちのかわいい秘書艦を鎮めてもらえません?」

「あー、そりゃ無理なご相談ってやつですよ。

大人しく締め上げられてください」

 

ドゴメキャァと自分の部屋のドアが弾け飛ぶ様を眺めながら、修理のお願いは誰にすればいいのか考える青葉だった。




艦娘は、ホムンクルスとして上質な鋳型を使用しているためじゅみょうは30年ほどあります。
さらに高速修復材などで細胞レベルの傷や劣化まで修復出来るので実際の稼働時間はもっと伸びます。


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だいろくくちゅくたい

*サブタイトルは誤字ではありません。


「第六駆逐隊のネームシップ、暁よ! 子供扱いしないでよね!」

 

藤丸はちんまりとした少女が胸を張るのを見た。

黒い帽子を被ったその子が今回「出撃」する艦隊のリーダーを務めるのだという。

 

「子供だけで戦場にほっぽりだすとか叢雲さん鬼畜すぎない?」

「そろそろ殴るわよあんた」

 

隣に控えていた叢雲がにっこりしながら拳を握って見せた。

金星の女神がブチ切れた時も似たような顔をしてた気がする。

 

「ちょっと司令官! わたしは子供じゃないったら!」

「落ち着くんだ暁、レディはそんなに怒鳴るものじゃないよ」

「君は、暁ちゃ、さんの妹だったね? 名前は、響さんだったかな」

「ダー、暁型二番艦の響だよ。

不死鳥の異名を持つ船だったんだよ」

 

暁とは異なり落ち着いた雰囲気の娘が一歩踏み出し帽子を胸に当ててお辞儀をした。

 

「あー! 響のそれずるいわ、なんかレディっぽい!」

「ふふん、暁にはまだ早いんじゃないかい?」

「ムキー! 妹のくせにー!」

 

きゃいきゃいと食ってかかる暁と澄ました顔の響、まだ紹介をしていない子が苦笑いをしている。

「あたしは(いかずち)よ、カミナリって呼ばないでよね!」

「雷さん、お姉さん達は止めなくていいのかな?」

「放っておけば暁の方が疲れて終わるわよ。

でも! どーしても困ってるって言うなら、あたしがなんとかしてあげるわ! どうする? どうする!?」

「えっ、うんお願いしよう、かな?」

 

叢雲が「あっ」と声をあげた気がしたがもう遅かった。

雷の目がキュピーンとかキラーンとか聞こえそうな光り方がしたと思うと姉達の言い争いに突貫した。

 

「あーあ、あぁなるとめんどくさくなるわよ」

「申し訳ないのです司令官、姉たちが失礼をしてしまって」

「そういう君は(いなづま)さんだね? 賑やかなのは好きだから気にしないでいいよ」

「うう、本当に申し訳ないのです」

「はーい、そろそろ本気で話進めるわよー」

 

秘書艦が手を鳴らすと言い争っていた艦娘たちはすぐに大人しくなった、この切り替えが出来るのは流石と言うべきか。

 

「作戦海域は『製油所地帯沿岸』よ。

これからはこの提督の元で本格的に海域の攻略を始めるわ」

「鎮守府正面海域? そんな近くに敵がいて大丈夫かな」

「司令官知らないの? 深海棲艦たちは何度か陸地に斥候を送ってからじゃないと上陸しようとしないのよ」

「ダー、海災の黎明期は積極的に狙っていたようだけどね」

「何度も返り討ちにあって諦めたんじゃないかって噂があるのよ」

「でも、戦いが少なくなるならそれはいいことなのです」

 

確かに手元の資料によれば、季節に数度ほどの小規模な襲撃を退けていればそれ以上の攻撃は無いようだった。

 

(本当にあいつらが様子見なんてのを覚えたなら良いんだけどな)

 

「提督? 問題ないなら進めるけれど?」

「ああ、構わない」

「これからの海域は今までよりも広くなるわ、その分だけ会敵する可能性もある。

艤装は昨日から提督に徹夜で造らせたものを使って作戦に当たって貰うわ」

「これがブラック鎮守府です本当にありがとうございます」

 

ピースサインを向けると第六駆逐隊の面々がドン引きした。

雷だけはなぜか嬉しそうだ。

 

「さぁ準備はこっちでやっといたから、最後の締めはあんたに任せるわ」

「うん、ありがとう叢雲さん」

 

椅子から立ち上がり、息を吸う。

 

「第1艦隊、しゅちゅげき!」

 

(噛んだわ)

(噛んだね)

(噛んだの)

(痛そうなのです)

(カッコつけようとしてた分だけダサさ割り増しね)




次回は引き続き第六駆逐隊が活躍します。


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それで資源が尽きかけてたのか、この鎮守府

仕事のストレスぶつけるためにこの作品を手掛けたのに、仕事が忙しくて進まない。
そしてストレスが加速的に溜まる。

とりあえず酒店童子が全力で抱きしめたい。


『戦闘が終了したわ! これから羅針盤を回して進路を決定するわ!』

『あ、暁! 私! 私が回したい!』

『い、電にもやらせて欲しいのです』

『よーそろ』

『『『あぁ!! 響ぃ!?』』』

 

藤丸は通信機から漏れる声を聞いて安堵した。

知らないうちに中腰になっていたようで椅子へと腰を下ろすと叢雲がクスクスと笑う。

 

「ずいぶん緊張してたみたいね?」

「当然だろ、できれば俺だって一緒に行きたいくらいなんだから」

「それも呆れるくらい聞いたわ、海上に立てもしない奴が付いてこれるわけないでしょう」

「それでもなぁ」

 

地図を万年筆で突きながらどうしたものか考える。

深海棲艦と艦娘の出現によって海戦のあり方は一変した、見た目はただの少女なのに恐るべき武力を有する存在。

 

「だから私たちは鎮守府から出られないし、移動する時にも監視が着くわ。

そんな奴らに混ざってなにが出来るって言うの?」

「いやー、そりゃ声出して応援とか」

「それでお荷物が増えちゃ意味ないでしょうよ」

 

やはりダメか、と落ち込む。

 

『提督ー、観測所のある島が見えたわ』

「暁ちゃんか? ありがとう、燃料を回収して一息ついてくれ。

30分休憩の後に再出撃するよ」

『しれーかん! 次は雷が活躍するから待っててね!』

『次のMVPも私が頂くよ』

「あんたたちはしゃぐのもいいけど、そこから先はなにがあってもおかしくない未知の海域よ。

警戒だけは怠らないようにね」

 

元気の良い返事を聞いて通信を落とした。

彼女たちが出撃してからずっと緊張していたらしく凝り固まった肩を解す。

 

「そんな調子だとこれから身がもたないわよ?」

「仕方ないだろ、座ってるだけなんて性に合わないんだから」

「なら今のうちに気を休めておきなさい」

「そうするよ」

 

ぬるくなったお茶で唇を潤す。

 

「なぁ叢雲さん、今回の編成ってどう決めてあるの? もし敵の数がわからないなら巡洋艦とか戦艦とかの人に来てもらった方が良くないか?」

「そうしたいのは山々なんだけどね、この海域の特徴としてうちの戦艦は出す事が出来ないのよ」

 

叢雲が言うには海に出ると風向きや潮の流れによって目に見えない『道』のようなものがあるそうだ。

その道筋を見つけるために羅針盤を回しているらしいのだが、羅針盤も万能ではないと言う。

 

「今出撃している海域は渦潮が多くってね、足の遅い船だと引き込まれてしまうの。

それを知らずに扶桑と山城を出撃させて進路が逸れちゃって、しかも2人とも大破」

「それで資源がほぼ尽き掛けてたのか、この鎮守府」

「戦力として十分とは言い難いけれど、あの子たちが今出せる戦力の中で最高のものである事は間違いないわ」

「それならもっと他の海域で慣らせるのも手としてはあったんじゃない?」

「もともと此処の攻略が遅かったせいで大本営から突かれてるのよ」

 

疲れたように言う叢雲、聞いてみるとかなりしつこく伝令を受けていたらしい。

主に大淀が。

 

(そんなに切羽詰まるほど日本って打撃受けてたかなぁ?)

 

『司令官、聞こえるかしら?』

「こちら藤丸、まだ休憩時間のはずだけどどうしたの」

『かんそくじょの人が最近おかしな反応するって言うの』

「どういうことかしら?」

『それがよく分からなくて、れーき反応? とか言うのがどうとか』

「霊基反応?」

「艦種を特定する為のものよ、どうおかしいかわかる?」

『ちょっと待ってください。えっと、これはどう使えばいいの?』

『しょーがないわね! 私に貸しなさい』

 

少し間を置くと叢雲の頭部ユニットからメロディーが流れた。

すぐに叢雲の前にホログラムのディスプレイが投射される。

 

「ん、来たわね。

これは戦艦の、ル級のパターンのように見えるけれど」

「ル級って、あのゴツい砲台のねーちゃんか」

「確かに、基本はル級のものね」

 

叢雲の手元を覗き込んでみるがグラフや細かい文字ばかりでよく分からない。

 

「叢雲さんどうなんだ? これは危険なのかそうでないのか」

「わ、からないわ。

通常のル級なら戦術次第では、って所かしら」

「俺は可能なら撤退させたい、未知の相手なら未知なりの準備をするべきだ」

 

けど、

 

「そうも言ってられないんだろ?」

「ええ、正直これ以上は大本営から本格的に干渉されかねないわ」

「暁ちゃん、響さん、雷ちゃん、電ちゃん聞こえてたかい?」

『待って司令官、なんで暁じゃなく次女の響だけさんなのかしら?』

『司令官、暁は無視して続けてくれ。

雷は暁を抑えておいて、それで司令官、私たちはどうすればいいか?』

「君たちはどうしたい」

『それは愚問というものだよ司令官(アドミラル)、私たちの本分は兵器だ。

ならば司令官の思うように私たちを使うべきじゃないかい?』

「だから聞いたんだ、君たちはどうしたいかを」

 

近くにいた叢雲が机に手を置いて自分に強い視線を送ってくる。

あまり艦娘に踏み込むなと言いたいのだろう。

 

『私は沈みたくないし、姉妹の誰も沈ませたくない。

けど、此処で成果を出しておかないと不味いんだろう?』

『電も聞いちゃったのです、このままだと鎮守府が解体されちゃうって。

そしたら電たちの姉妹もみんなも離れ離れになってしまうのです、それは寂しいです』

『なにがあってもこの雷がなんとかしてあげるわ!』

『んーーー! ンゴモゴー!!』

 

出撃する前と変わらない、元気な声が返ってくる。

艦娘とはいえその精神は人間と同じだ、戦場に立ってなお明るさを失わないのは船の記憶を持つが故かそれとも彼女たちの強さのおかげか。

 

「わかった、第六駆逐隊はこのまま進軍させる。

ただし条件を増やすし観測所で少し装備を調整してからだ、叢雲さん」

「やりたいようにしなさい。

少なくともあんたがやらかしても私が一緒に責任負うし、この子たちもあんたを恨むような事は無いわ」

 

頼れる秘書艦の言葉に自分も頷く。

手袋の下の、握りしめた右手の甲が不意に熱くなったように感じた。




あー、艦娘の誰かにマッサージして欲しい。
足の裏踏むくらいでいいからして欲しい。

誰か養って。


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一人前のレディでおねぇちゃんなの!

休日とは人生であると思う。
早朝(義務教育)は根拠のない自信で時間を浪費し、昼過ぎに精力的に行動する。
夕方は完了した予定と未完了の予定を振り返り、夜は死ぬ。


暁は海原を進みながら双眼鏡を構えた。

妹たちを率いて進む陣形は複縦陣、攻勢よりも回避を重視した隊列だ。

 

「どうだい暁? 何か見えるかな」

「ダメね、ただの黒い海しか映らない」

 

隣を進む次女の問いに答える。

空の色は青く、対する海は深夜のように暗い。

この海域が艦娘のものではなく深海棲艦(バケモノ)たちの領域である証拠だ。

 

「電の方はどうかしら? 何か確認出来る?」

「こっちにもなにも映らないのです」

 

自分の双眼鏡と同様に支給されたソナーを眺める電にも異常はないようだ。

 

「まったく、しれーかんは心配しすぎなのよ! わたしがいればなんとかしてあげるって言ってるのに」

「慎重になるのはいい事だよ雷、それにあの司令官は慎重と臆病の違いを理解しているようだ」

「「それってなにが違うの」です?」

 

自分と末妹の疑問に顎に指を当てて考える。

わかりやすいように説明するにはどうすれば良いのだろうか。

 

「臆病というのは、見えないものを見ないままに恐れる事だ。

そして慎重な者はどうすれば怖くなくなるか知ろうとする事、かな」

「「「???」」」

「そんな顔をしないでくれるかな」

 

この妹はごく稀に難しい言い回しをする事がある、もうちょっと自分のような純真さを見習って欲しいところだが。

 

「そうだな、目の前にすごい怖い犬がいたとしていきなり逃げ出すのは臆病者だ。

ここまではわかるかい? そして慎重な人は、その犬を見て考える。

鎖で繋がれているのか? こちらを狙っているのか? 逃げるならどっちに行けばいいのか?

これを考えて逃げようとする事を言う」

「結局逃げるの!?」

「逃げるのは悪い事じゃないさ、そうすれば友達に『怖い犬が居たけど鎖で繋いであるよ』と教えることが出来るだろう?」

 

なるほど、つまり

 

「どう言う事かしら?」

「くぅ」

 

よくわからないと言うのは事はよくわかった。

後ろで妹たちが納得したように頷いているが、わからないなら素直に認めればいいのに。

 

「とにかく、藤丸司令官は一般人としては優秀な指揮官であると言っていいだろう。

叢雲秘書艦より早く『とりあえず様子見しよう』という判断を下したのは悪くなかったとわたしは思うよ」

「ふーん、そうなのね」

 

初めて見たときは頼りない人に見えたし自分だけちゃん付けで呼ぶ奴だが、妹からの評価は意外と高いらしい。

 

「暁ちゃん! そろそろ観測ブイが消失した地点に到着するのです!」

「全艦警戒! 艤装を構えて」

「ッ、違う暁! 下よ!」

 

雷の声をかき消すように海面が破裂した。

水柱の中からツヤのない黒塗りの艤装と同じ色をした長髪を蓄えた蒼白の女性と目が合う。

 

いや、いくつもの目が(・・・・・・・)こちらを捉えていた。

 

『第一艦隊答えなさい! いきなり敵性反応が出たわよ!?』

「海中から奇襲を受けた! 隊列が乱れて、ガッ!?」

「響ちゃん!?」

『響さんはこちらで確認する! まずは敵を見るんだ!』

 

「しっかりしなさい暁! 電は録画の準備!」

「うえぇぇぇ、だって!」

『暁ちゃんと電さん、頼むここは踏ん張ってくれ! 雷さんは響さんを庇いながら回避専念! 出来るか!?』

「キッツイけど、まっかせなさーい!!」

「電の本気を見るのです!」

「あ、暁だってやるんだからぁ!」

 

「Aaーー、Aaaaaaaaーーーーーーーーー」

 

『おいこの声って、まさか』

 

暁は単装砲の引き金を引いて乱射、この至近距離で魚雷を使っては爆風で自爆してしまう為だ。

自らの砲撃では大した損害にはならないだろうが構わない、妹たちにはもうあの砲塔を向けさせる訳にはいかない。

 

「こっちを見なさい、ぎょろぎょろ女!」

「Aaaーーーーーー」

 

戦艦の額に、腕に胸元に、いくつも取り付いている『無機質な目玉』がこちらを捉える。

ぞわぞわと背筋になにかが這い上がって来るような不快感を覚えた。

 

「暁、響が目を覚ましたわ!」

『すぐに撤退しなさい、まともに戦うだけ損よ!』

「ごめんなさい、それは出来ないわ」

『暁ちゃん?』

 

深夜の廊下のように、底の見えない不気味さを持つ敵に向かい合う。

こいつはきっと自分たちを逃がさない、この隙に攻撃しないのはこちらがどうするか伺っているからだ。

戦場で撤退するには殿が必要だ。

 

『暁ちゃん、ついさっきの臆病と慎重の話は聞いていたかい』

「もちろん覚えてるわ、目の前にいる犬が鎖も無い腹ペコの奴だって事もわかる。

でもね司令官、暁は一人前のレディでおねぇちゃんなの」

 

艤装に触れると妖精さんが弾薬を装填してくれる。

 

「何より、妹をいじめた奴を許せる訳ないじゃ無い!」

『そうか、そうだね。

でも1番は4人で一緒に帰還する事だ、それはいいね?』

「もちろんよ」

 

待つのに飽きたのか、戦艦ル級が砲塔を蠢かせこちらを捉える。

不意打ちで妹を吹き飛ばしたものだ、掠めるだけでも自分には痛撃だ。

 

『なら暁ちゃん、今だけ君に魔法を掛けるよ』

「ま、魔法? ちちんぷいぷいの魔法?」

「Aaーーー、Aaaaaaaaーーーーーーーーー」

 

ル級が砲塔を放つ直前、なぜか全ての風景がゆったりと遅くなり視界の外にあるものまで見えるような錯覚を覚えた。

そして耳に届く司令官の一言。

 

 

『令呪をもって命ずるーーーーーー』




ー抹消された報告書ー
艦娘に対して令呪は有効である。


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めちゃくちゃ気持ちよく眠ってるだけだから。

母がハワイアンズに言って来ました。
お土産はありませんでした。

どうでもいいけどワイキキと脇イキって同じ音使ってるよね。
ほんとどうでもいいね。


✳︎今回はFGOのネタバレを含みます人理修復してない方はご注意を


響は医務室にあるベッドの上で身体を起こした。

戦艦の砲撃を受けた傷はすでに癒え、身体機能に問題はない。

ただ秘書艦から隣のベッドで眠ったままの暁を見ているように言われ、自身の精密検査の結果を待つ間に休むように言われている。

 

「おーい俺だ。

起きてるかな?」

「司令官かい? 入って貰って構わないよ」

 

許可を得て入室したのは司令官の男であった。

先程まで作業があったのか、少し疲れたような雰囲気をまとっている。

 

「響さん、調子はどうかな?」

「悪くないとも、簡易検査では私も暁も異常は無かったらしいよ。

それよりも、少々穏やかな様子ではないみたいだけど?」

「ああ、これはなんというか」

 

そう、バツが悪そうに視線を送る先にいるのは2人の艦娘だ。

待機艦娘、戦艦の武蔵と同じく長門。

2人とも「ちょっと付いてきた」とは思えない気配だ。

 

「ほら、今回の作戦で暁ちゃんに無理させちゃっただろ? それで怒った人たちがいて、今は執行猶予中なんだ」

「何故そんな事になっているのか、聞いてもいいかい?」

「もともとそのつもりで来たからね、構わないとも」

 

手頃な椅子に腰をかけた司令官は右手の手袋を外すとその甲を見えるように差し出した。

細かな傷のあるそこには赤い刺青が彫られていた、3つのパーツから成る盾の様な図形が描かれている。

 

「司令官がタトゥーを入れていたとはね」

「ん、見た目はそうなんだけどこれはそういうものじゃないんだ。

令呪と言って、君たち艦娘に対する鎖の様なものだ」

 

令呪、という言葉には聞き覚えがある。

異常な戦艦ル級に暁が立ち向かう際に司令官が口にしたものだ。

その直後、暁の挙動が一変したのを朧げながら覚えている。

 

「鎖というのはどう言う意味だい」

「そのまんま、繋ぎ止めておく為のものさ。

俺は令呪を消費して君たちに対して『絶対的な命令権』を行使出来る」

「絶対的な、命令権」

 

ヒラヒラと手を振る彼の言葉は信じ難いが、後ろに控える戦艦(ゴリラ)たちの表情は至って真面目だ。

 

「いくつか質問したい事があるけど、構わないかな?」

「どうぞ?」

「今は3つの模様がある様だけれど、それはすでに1つ使ってある状態なのか?」

「いや、これは日付が変わって元に戻っている。

1日に1つ回復するから、同じ日に最大で3回使う事が出来る」

「使うために何か条件はあるのかな」

「口に出せばそれだけで使える、普段は1つだけど重ねて使うことで強制力を強く出来るよ。

止める方法も簡単、『言わせなければいい』だけだ」

 

成る程、それで武闘派の艦娘が張り付いているわけだ。

 

「命令の内容に制限は?」

「ないよ。

それが命に関わることであれ、信念に反する事であれ行使させる事が出来る。

文字通りになんでも、ね」

「暁にはどんな命令をしたんだ」

「『必ず4人で帰還しろ』だ、君たちの通信機やビデオにも残っているから後で確認するといい」

「そうさせてもらうよ」

 

後ろに控えている2人に目線を送るが特に変わった様子はない。

おそらく彼は先程も同じ質問をされているのだろう。

 

「最後に1つだけ」

「何故暁ちゃんが目を覚まさないかに付いてだね?」

「ダー、あとは雷と電についてもどうしてるか知りたい」

「うん、妹さんたちは中破と言うこともあったし落ち着いて貰う意味もあって高速修復材は使わずに入渠して貰っている。

青葉さんに頼んで今君にした説明と同じ事を話してある、流石に入浴中に声を掛けるのはね?」

「そうだね、人の性癖にとやかく言うつもりはないけどね」

「それと暁ちゃんについても心配はない、ちょっと夢の中を覗いて見たけどめちゃくちゃ気持ちよく眠ってるだけだから。

明日の朝にはスッキリ目が覚めるだろう」

「そうかい、それが本当なら問題ないさ」

 

身体を倒して毛布を引き上げる、姉妹が無事なら自分に文句はない。

 

「もし聞き入れてもらえるなら俺から君たちに謝らせてくれ、未熟な判断で君たちを悪戯に危険な場所に送ってしまった」

「それは、司令官の落ち度ではないだろう。

私たちの方こそ司令官の初陣を勝利で飾る事が出来なくて申し訳ない」

「君たちが全員帰って来てくれた、それだけで俺は十分さ。

おやすみ響さん、ゆっくり休んでまた頼りにさせてくれ」

 

そう言って退室する司令官と戦艦たち。

しかし、

 

「おい提督よ、今聞き捨てならん事を聞いたぞ」と武蔵。

続いて長門が

 

「夢を覗いた言ったな?」

「え、うん、知り合いにそう言う体質の奴がいて、テレパシー使って教えてくれた」

「そんな超能力者みたいな奴が居てたまるか」

「だって実際居るんだし」

 

 

 

 

司令官と武蔵の言い争う声が遠ざかって行くのを聞いているとゆっくりと瞼が重くなるのを感じた、思ったより疲れが残っていたのだろうか。

 

「ホムンクルスの少女よ、今はゆっくり眠るといい。

今日は特別に姉妹たちの夢を繋いであげるから」

 

最後になんか無茶苦茶ロクデナシなイメージの声が聞こえた。




マーリンシスベシフォーウ!!


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マスター、治療が必要ですか?

声だけ出演
・鋼の看護婦(メシア)


「うぐぐぐぐ、もう疲れたーーーー」

「はいはいお疲れ様、あとはこの書類の確認だけして貰えば上がっていいわよ」

 

叢雲は机に突っ伏す提督に茶封筒を差し出す。

謎の艦娘との戦闘、そして提督の持っていた令呪と呼ばれる刺青について昨晩はほとんど眠ることが出来なかったらしい。

謎の艦娘については大本営に報告しなければならないものであったが、令呪とやらについて自分を含めた数名の艦娘と相談をしている。

 

その結果、とりあえずは保留という事になった。

一応、事情を知っている一部の艦娘たちが監視をしておくと提督に伝えると

 

『もっと怒られたり脅されると思ってた、監視くらいなら全然オッケー。

慣れてるし』

 

との事だった。

監視に慣れてるって何事だ。

 

「この書類は?」

「今回の新型戦艦級の艤装を暁がひっぺがしたでしょ? その映像と急ぎの霊基配列分析の結果よ」

「そりゃ見とかないとね」

「あっコラ手で破かないの、ペーパーナイフ使いなさい」

 

同封されていたものは1枚のコピー紙のみだが、結果だけが書かれているならそんなものか。

 

「うん、はい、はーいおっけーでーす。

叢雲さんそれ処分しといて」

「そんな典型的なお役所仕事みたいな確認でいいの?」

「いやだって、『結局よく分かんないことが分かりました、気をつけてね』くらいの事しか書いてないんだもん。

見てみ?」

「えぇ、いいのかしら」

 

質の良い紙を受け取り目を通す、確かに提督の言う通りの内容だが『貴府の活躍を喜ばしく思う』と書かれているのは大本営からの評価と見ていいのだろうか?

 

「この最後にある、『海に獣の兆しなし、されど原初の母に留意せよ』ってどう言う意味かしら?」

「ん? んー、それは暗号というか説明しづらいんだよね。

とりあえず、深海棲艦はとんでもないけど手に負えない化け物じゃないって意味かなぁ」

「あれ以上の化け物がいたらたまったもんじゃないわ」

「あはははは、デッスヨネー」

 

ぎこちなく笑う提督をおかしく思いながら資料を片付ける。

 

「じゃ、私はこれを片付けたらもう休ませて貰うわ。

あんたも昨日は遅かったんだから早く休みなさい?」

「あれ、例の見張りはもういいの?」

「執行猶予よ、特に六駆の子たちが反対したの。

暁本人にも精神汚染の影響は確認されなかったから、それとも寝るときも美女美少女が側にいた方が良かったかしら?」

「いや、そう言う訳では、ない、ですよぉ? ヒィッ!?」

 

突如鐘の音が響く、時計を見てみれば現在は17:58。

いつも18時にぴったり鳴っていた事を考えれば僅かだがフライング気味だ、大した問題ではないのだが。

 

「なんで机の下に隠れてるのよ」

「キニシナイデクダサイ」

 

 

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

「そろそろ一度寺に行かないとまずいよなぁ、らいこーさんにも手紙書いておかないと暴れそうだし、あぁ胃が痛い」

【マスター、治療が必要ですか?】

【大丈夫ですよー、ちゃんと胃薬飲んどくよー】

 

藤丸は机の下で蹲ったまま考えた。

艦娘の力は確かに強力だ、それは艤装をつけた明石が一人で執務机を運んで来た時から分かっている。

 

(艦娘は訓練と実戦を経る事で強くなる、らしい)

 

だが、それで足りるのか?

今回はなんとかなった、だが令呪を使ってしまった上に被害も大きい。

この調子ではすぐに限界を迎えてしまう。

戦力の強化が必要だ、単純に艤装を開発するだけでは足りない。

強くなるためにはあらゆるものが不足し過ぎている。

 

(戦力にもなれず、戦場についていく事しか出来ない。

ドクターもこんな気持ちだったのかな)

 

ならば、自分もやらねばならない。

彼と同じ『只の人間』に出来る事などたかが知れている、それでも無力なわけではない。

考えろ、自分になにが出来るのか。

自分がどうやって戦って来たのかなを。

 

すでに陽は落ち寒さを感じる季節となっている、それでも立ち止まる訳には行かない。

死ぬ気で勝ち取ったこの時間には1秒でも一瞬でも無駄に出来るものなどないのだから。




表現したいシーンは数あれど、表現するための技量が足りず。
次回から鎮守府の戦力強化を行います!


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本当に窓から入って来やがった!

FGOではまたクリスマスイベントの季節ですね、イベント多過ぎてリアルの時間が焼却されそうですがなんとか乗り切りたいです。


川内(せんだい)は上機嫌に夜道を歩いていた。

この鎮守府の良いところは自主練を好きなだけしても怒られない所だ、艤装が無いせいで訓練止まりなのは不満だがこれから実戦が増えれば機会はやってくるだろう。

 

「ふんふふふーん、ふん。

ん? あの部屋、まだ電気付いてるや」

 

普段の生活リズムから考えると既に日付けは変わって時間が経っているはずだが、夜間哨戒以外で起きてる者は居ないはずだが。

 

(あそこって確か提督の部屋だったと思うけど、寒くなってきてるのに窓なんか開けてどうしたんだろ)

 

開け放たれた窓とその近くまで枝を伸ばしている木を見つけて閃いた。

 

 

 

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 

 

『マスター、誰かが接近して来ます』

「え、こんな時間に?」

 

藤丸は陰から伝えられた忠告を聞いた。

害意は無いようだが、何故か窓の外から侵入しようとしているらしい。

ふと、背後の窓を越えて陰が部屋へと舞い込んできた。

 

「とーう! 川内型一番艦、川内参上!」

「うわ、本当に窓から入って来やがった!」

 

オレンジ色の改造セーラー服を着た少女が窓から飛び込んで来た。

窓の外から数メートルを軽々と跳躍したのは、流石艦娘の身体能力か。

 

「君は、川内さんか。

こんな時間にどうしたんだ?」

「んー? あたしはいつもこの時間まで起きてるよー、ちゃんと休めば3時間寝るくらいでバッチリ動けるしね」

「なるほど、羨ましい体質だねぇ」

「それで? 寝ないといけないはずの提督はなにしてるのかな、自家発電?」

「あんまりそういう事を言うんじゃありません」

 

肩を回して背中を伸ばすと小気味の良い音がした。

机の上を片付けるように見せかけていくつかの錠剤を引き出しの中にしまう。

 

「まぁ、前回の第六駆逐隊の被害を見ちゃったらなんとかしなきゃなぁって思うよね」

「なにか思い付いたりした?」

「まずはこれかな。

これから出撃する時はいつも新型のドローンを同行させる、搭載したカメラとマイクで可能な限り現場の状況をリアルタイムで手に入れる」

「ドローンってあれよね、ちっさいヘリコプターみたいなの」

 

カルデアで使っていた通信技術を借りられれば時間差のない情報のやり取りが出来るはずだ。

いざとなったらチョロそうなオジ様を騙くらかしてでも作り上げる。

 

「あとは、鎮守府の戦力をもっと強化しなきゃいけないよね。

運用出来る戦力が少なすぎる。

これは叢雲さんのせいじゃないけど、これからは任務もこなして建造もしていかなきゃいけないし」

「あははー、戦艦の2人もいるけど重巡が居ないもんねぇ。

潜水艦とか空母系も欲しいかな」

「待機艦娘の子たちにして貰ってる訓練も、今はほぼ自主練になってるみたいだから効率の良いものを提案したい」

「今やってる射撃訓練とか体術とかで十分だと思うけど?」

「その自主練をしてた第六駆逐隊が今回損失を出しかけたんだ、幾らやっても十分なんて事はないと思っておいた方がきっといい」

 

勝手にお茶を淹れて飲み始めた川内に煎餅と焼き菓子を勧める。

藤丸は、菓子を齧る彼女に今日一番知りたかった事を訪ねる事にした。

 

「川内さん、君が今やって見たい事ってある?」

「あ! 出た出た、それ提督がなんでも言う事を聞いてくれるってやつでしょ!」

「かなり間違った情報になってるけど、みんながやりたい事を応援したいとは思ってるよ」

「あたしは断然、夜戦だね! 闇に紛れて敵と味方が接触するギリギリの所で行う砲撃戦こそ海戦の華ってヤツよ!」

「夜戦かぁ、こっちの被害も大きくなりやすいって聞いたからなるべく避けたいなぁ」

 

唇を尖らせて抗議する軽巡に、質問を重ねる。

 

「戦場に出ること以外でやりたい事とかない? この戦争が終わった後の事とかさ、考えた事ってあるかな」

「戦争の、後にやりたい事? そんなのあるに決まって……あれ、そういえばよく考えた事って無いような?」

 

あれれー? と首を傾げる彼女の様子を見て腕を組む。

自分は当初、艦娘という者は『英霊のようなもの』だと考えていた。

しかし、彼女たちと触れ合う間に垣間見える言動から常に戦う事を前提とした考えが根付いているように感じた。

まるで『軍艦が思考能力と感情を得て人の形をした』だけのように思える時がある。

 

そして、今の質問をして確信した。

艦娘は戦争に勝つ事を動機として戦争していない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

理由は不明だが、艦娘の思考や興味は戦争そのものに向かう傾向があるらしい。

 

(『戦う為に生み出された』せいか、ほかにも理由があるのか)

 

「わからないなら無理に答えなくてもいいよ、またゆっくり考えてみてよ。

それよりさ、夜戦ってそんなに面白いの?」

「なになに? 提督も夜戦に興味出てきた? いよぅっし、それならこの川内さまが夜戦の魅力について語っちゃうよ!」

 

 

悩んでいた顔とは打って変わり饒舌に語り出す川内、それから空が白むまで2人の会話は続けられた。




艦娘の自主訓練は自衛隊がやるような体力づくりや射撃訓練などもしています。
通常武器を扱う分には問題ありませんが、艦娘の真の戦力は艤装との結び付きを強くする事で発揮されます。
この世界では実戦以外で艤装とシンクロする訓練に関してはまだまだ模索中となっております。


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指一本も触れてませんでしたから。

前回の話で、川内が気配遮断してる静謐をなんとなく察知する展開も考えたのですが。
スキルも無いのに隠密を看破されたら初代様に首を切られちゃいそうなのでやめました。
エジプト王sと山の翁sはマジでブラック過ぎて笑えません。


「提督、もしかして寝不足ですか? クマが凄いですよ」

「いやー、ちょっと夜更かししちゃって」

 

藤丸はいつものように間宮で朝食を摂っていた。

間宮に指摘された目の下を揉みほぐす。

 

「体調管理も仕事のうちよ、もし執務中に寝たらぶっ叩くからね?」

「間宮さーん、秘書艦が怖いよー」

「あらあら、でしたらおかずを増やしておきますから元気出して下さい」

「あまり甘やかしちゃダメよ、こいつこう見えて結構図太い神経してるんだから」

「あははー、提督って絶対尻に敷かれるタイプだよねー」

 

カウンターになっている席の左側、叢雲の反対に座る川内がカラカラと笑う。

昨日の夜、と言うか今日の明朝まで川内の話を聞いていたせいで自分は寝不足なのにその本人(夜戦バカ)が何ともないのは納得がいかない。

 

「それにしても珍しいですね? 提督さんが叢雲さん以外と一緒に来るなんて初めてですよね」

「そういえば、本舎の前で私が合流した時も一緒だったわね」

「そりゃそーっしょ、だってあたし提督の部屋に泊まったて一緒に来たんだもん」

「川内さん帰れっつっても言う事聞かなかったじゃん」

「提督だって(夜戦に)興味しんしんだったくせにー」

「だからって朝までずっと(夜戦の話)するなんて聞いてなかったぞ」

「途中からガツガツ(質問)するから時間かかったんじゃんか」

「だからってあんなにされたら体がもたないっての」

 

ガチャン、と何かが落ちる音がした。

振り向くと川内と同じ制服を着て青ざめている艦娘の足元で取り落とされた食器が転がっている。

 

「ね、姉さん? 昨日の夜、帰らないと思ったらまさかそんな、提督と大人の階段を上るような事をしてたんですか!?」

「は? 大人の階段?」

 

どう言う事かと間宮に聞こうとするが、顔を赤くして目を背けられてしまった。

叢雲の方を向くと、

 

「あんた、たった今の自分らの発言を振り返ってみなさい」

「自分の発言を?」

 

腕を組んで思い出す。

夜に男女が興味しんしんで朝までガツガツして寝不足になる。

 

「ヤベェ、大人の階段登ってそうに聞こえる」

「やっぱりそうなんですか提督!?」

「違うからね神通! 提督も納得してないで説明しようよ!」

 

周囲を見れば一部の艦娘は気まずそうにしながらも誰一人として退席せずに耳を傾けていた。

暁だけは響が耳を塞いでいでいたが。

 

「神通さん落ち着いて、やましい事も如何わしい事も何もしてないよ!」

「そうだよ! それに提督は別にタイプじゃないから大丈夫だって!」

「はああぁぁぁぁ? じゃあ何で『添い寝してあげよっか』とか言ったんですか? 男心を弄んだってことですか!?」

「えええええなんで提督が爆弾発言ぶち込んで来るのさ!?」

「姉さんどう言う事ですか!?」

 

神通の矛先をなんとか川内に集中させて湯呑みに手を伸ばす。

 

「あの提督? 本当に何もしてないんですか?」

「そんなに心配しなくても本当に何もありませんよ間宮さん。

俺はソファーで寝ましたし、指一本も触れませんでしたから」

「秘書艦としては同意さえあれば好きにしてくれて良いけどね、艦隊の志気が下がらないようにして欲しいわね」

「いやもうぶっちゃけ眠すぎてそういう気にはならなかったし、あいつ俺より早く起きてるしなんなのあの夜戦バカ」

 

間宮にお茶のお代わりを貰い眠気を覚ます為に飲み込む。

隣で説教を受ける川内が助けを求めるようにこちらを見て来るのでにこやかに手を振って返すと嬉しそうに絶望していた。

 

「川内さんっていつもこんな感じなの?」

「そうよ? ほら、そこで『ゴシップ厳禁!』の看板を抱えてるのが三女の那珂よ」

 

「川内ちゃん女の子なんだから夜更かしはダメだよ! お肌荒れちゃうよ!」

「そもそも男性の部屋に泊まるなんて破廉恥すぎます!」

「わかったからそんな責めないでよー!」

 

どうやら川内の深夜訓練は有名だったようで、騒がしくする度にああして怒られているらしい。

 

「仲いいんだねぇ」

「なにいい話に纏めようとしてんのよ、夜更かしの件であんたも説教するから」

「間宮さーん! 助けて!」

「提督はもっと発言に気を付けた方がいいと思います、しっかり絞られたら美味しいお昼をご用意しますね」

 

肩に添えられた叢雲の指が絶対に逃がさんとばかりに食い込んで来た。




提督はソファーを使って寝てる間に、川内は藤丸の布団を使って寝てました。
静謐はそれを見て膝から崩れ落ちただろうなぁ、などと思ってます。
若しくは、普段から(勝手に)潜り込んでいるから毒がないかハラハラしたり?


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帰ってきたら容赦なく起こすから。

あぁぁぁぁ、イケメンになりてぇぇぇ……。


「この企画書、あんたが考えたの?」

 

叢雲は執務室に着くなり渡された書類に目を通した後、赤ペンを使って添削を始めた。

 

「まずここ、字が間違ってるし句読点がおかしいわ。

ほら、ここはちゃんと跳ねないとダメじゃない。

こっちだって同じ意味の言葉を2回も使ってるから文章がおかしくなってるわ」

「ヤメロォ! そんな子供向け通信教育みたいな修正しないでぇ!」

「ならしっかり間違えないように書きなさい。

それでこの企画書だけど、一応鎮守府の運用に関する規定には目を通してあるみたいね?」

 

提督の机の上に広げられた辞書のような本を見つける。

 

「確かに鎮守府を運営する上での諸々の決まりは解決、と言うかすり抜けてあるわね。

これを一晩で考えたならあんたのこと少し見直したわ、根性は一丁前にあるみたい」

 

提督に渡された草案は3つ。

まずは通信機能を搭載したドローンを使った前線の監視を強化すること。

これは妖精の技術を用いている艤装の技術を使えば可能だろう。

 

問題は艦娘たちの訓練・教育形態の見直しとそれに伴う鎮守府の大改装計画の部分だ。

 

「確かに鎮守府の運営はほぼ治外法権の働く土地よ。

決まった項目をクリアして大本営から許可が降りさえすればこの案も通るでしょうけど。

問題は資材と人材ね」

 

大本営は申請さえ通しておけば運営に必要な資材は融通してくれる事がある。

ただそれは、『通常の運営に必要な』資材に関してだ。

 

今回のような運営とは関係ないものに支援してくれるような余裕はないだろう。

 

「維持費も人手を集める為の人件費もあんたが負担しなきゃならないのよ、それはどうするの?」

「それは最近任務をこなしてるおかげで少しずつ余裕が出てきてるからそれを使って、足りない分は俺の貯金から切り崩して建設する。

人件費については、任せろ。

むっちゃくちゃ優秀なのに驚くほど安くて済む人材に心当たりがある」

「そ、そうなの? なら問題無いと思うわ、もちろん問題を起こした時は全部あんたの責任になるけれど」

 

けへへへへ、と笑う上司に薄ら寒いものを感じながらも自分の覚えている範囲で提督の計画に問題がないか照らし合わせる。

 

「ん、これなら大本営も許可を出すでしょう。

ただし、人手だけは私もどうしようもないからなんとかしなさいよ?」

「よぉかったーー、もしダメだったらどうしようかと思ったから」

「はいはいお疲れ様。

それなら早速今日の分の執務をして貰おうかしら、と言いたいとこなんだけど流石に限界が来てるみたいね?」

「いやいや、全然大丈夫っすよ? まだまだイケるって」

「目を開けてるのも辛そうなクセになに言ってんのよ、私はこの企画書を送って来るからその間だけでも仮眠しちゃいなさい。

そのかわり、帰ってきたら容赦なく起こすから」

 

提督の頭を押さえつけて机に俯かせると、さほど抵抗せずに大人しくなった。

もぞもぞと、腕を枕にして蹲る背中を軽く叩いてやる。

 

「ねぇ、1つだけ聞かせてもらえるかしら?」

「んー? なんすか」

「私たちの戦力不足で教官になる人を呼ぶのはわかるわ。

けど、今回の企画書だと国語とか数学とか、『普通の科目』の教導までするのはなんでかしら?」

「なんでって、べんきょー出来た方が後で役立つかもしんないだろ?」

「後でって、なんの後よ」

「戦争の後に決まってるでしょ」

 

叢雲は、一瞬だけ思考が止まるのを自覚した。

この男は、深海棲艦との戦いが終わったその先を考えていたらしい。

それがいい事なのか、それとも集中力が足りないのか今の叢雲には判断しきれなかった。

 

「そうすれば、艦娘としてじゃなくても潰しがき、く……」

 

「人間じゃない私たちの未来なんか気にするんじゃないわよ、全く」

 

静かに寝息を立て始めた提督の髪をクシャッと撫でる。

建造さ(生ま)れた時から、自分たちの最後は轟沈か解体されるものだと思っていた。

それなのにこの提督(馬鹿)は、その先を見ようとしているのらしい。

 

(ま、当分はコイツの相手をする事になるでしょうけどね)

 

執務室の電気を消して執務室を後にする。

午前中ならほとんどの艦娘は訓練か自室で休んでいるだろうし、わざわざ執務室に近づく艦娘もいないだろう。

 

預かった企画書をデータとして転送する為に通信室へと向かう。

執務室から少し離れた所にあるので面倒だが、そうなっているのでしょうがない。

提督の改装計画の時に近くに移して貰えないだろうか。

 

「あら? 叢雲さん通信室に御用ですか」

「大淀、あんたまた通信機弄ってたの? よくもまぁ飽きないわね」

 

通信室に入ろうとすると中から眼鏡を掛けた艦娘、同僚の大淀が出てくる所だった。

なんでも古いラジオや通信機が好きだという大淀は普段から時間を見つけては通信機のあるこの部屋に籠っている。

 

「ええまあ、趣味のようなものですから。

それよりも、叢雲さんも通信機に興味が出ましたか?」

「ちーがーうーわーよー、提督が鎮守府を改造するつもりらしいからその内容を大本営に送るのよ」

「提督が、ですか?」

「必死に考えたみたいでね、素人にしてはちゃんと書式通りに書いてあるのよ」

「よろしければ私が送信しておきます、預かりましょうか?」

 

手を出してくる大淀、確か彼女は非番だった筈だ。

休みに仕事のことをさせるのも悪いだろう。

 

「折角だし、自分でやるわ。

メール打つ練習だとでも思うから、ゆっくりしときなさい」

「……そうですか、では私はこれで失礼します」

「ええ」

 

大淀を見送ってから、通信室のパソコンの前に着き電源を入れる。

自分の活動した時代には馴染みのないものだが、少しずつ覚えていけばいい。

 

「よっし、やるわよ!」

 

おかしな提督の元で働くのだ、ならば自分も少しくらい変わってやるのも悪くないだろう。



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悪いユメは私が食べてしまおう。

お久しぶりの投稿です。
今年のクリスマスは『仮面ライダー鉄血のアークフレンズ』にならずに済みましたね。

私のクリスマスプレゼントはヘラクレスとの絆礼装でした。


《これは夢だ》

 

視界が開き黒い海原を認めた瞬間に、暁は自覚した。

明晰夢というやつだろう、いつか響が言っていたことがある。

 

そして、夢の内容は

 

 

『Aaaaaaaaaーーーーーーーーーーーー』

 

奴の目の前に自分が取り残されている場面であった。

 

「ひっ、いや! 来ないで、こないでぇ!!」

 

恐怖が身を竦ませる、自分の身体のすぐそばに砲弾が落ち濡れ鼠となりながら相手を見る。

 

『Aaaaーーーーーーーー』

 

尻餅をついて逃げ出そうとする自分、しかしタールのような水が纏わりつき異形のル級に張り付いたひし形の瞳がこちらを見据える。

 

ル級の構える主砲がブラックホールのそこのように暗くて深い、深海のように思えた。

 

これは夢である、そう理解していているはずなのに明確な死の脅威をヒリヒリと押し付けてくる。

 

《まぁ、落ち着きたまえよ》

 

そのとき、まるで花びらのようにふわりとした男の声がした。

 

《ほら、よく見てごらん暁。

手も足も泥なんかなくて艤装が付いているはずだ、急げば避けられるんじゃないかな?》

 

謎の男の声に従うように水面を蹴りつけて横飛びに逃げ出せば敵主砲によって爆発した波にさらわれながらも受け身をとって起き上がる。

 

(逃げなきゃ)

 

こんな怪物を相手にしていられない、早く避難しなければ。

 

《残念ながらそれは無理だ。

君は自分の後ろに誰がいるのかを忘れてやしないかな?》

 

そうだ、自分の背後には姉妹達が居る。

見捨てるなんてありえない、「絶対に全員で鎮守府に帰還」するためには目の前の邪魔者を排除するしかない。

 

《もう一度言おう暁、これは夢だ。

君自身がすでに乗り越えている事件の残りカスに過ぎない、それでももし君が恐れるなら》

 

砲弾を装填し、機関部を唸らせる。

 

《そんな悪夢(ユメ)は私が食べてしまおう、だから安心するといい。

君たちは最高の指揮官と、ちょっとお節介な英雄達がいつでも見守っているのだから》

 

 

 

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

「うわぁ、まだやってたんですか?」

「うぅ、大井ぃ、北上ぃ助けてよぉ」

 

軽巡洋艦待機艦娘である大井は間宮の食堂の一角で行われている姉妹のケンカ(と言うよりも説教)が朝から続けられていたことを想像してげんなりとした。

 

時計は既に正午を回っており、その間ずっと叱り叱られもう1人はそれを眺めていたと言うわけだ。

 

台所の奥で困ったように微笑んでいる間宮もこの3人を叩き出せばいいのに、そうしないのは彼女の優しさ故か。

 

「しかしまー、よく説教のネタが尽きないもんだよねー」

「それが違うんだよ大井ちゃん! せっかく朝帰りの説教が終わろうとしてるタイミングで川内ちゃんが居眠り始めちゃって」

「それで新しい火山がドッカーンと?」

「もうちょっと我慢すればよかったのにねぇ」

 

「それはそもそもキチンと夜に部屋まで戻ればいいだけの話ではないんですか?」

 

そう言っておきながら、それで大人しくなるならそもそも「夜戦バカ」などと呼ばれるわけも無いのだからどうしようもない。

 

「あ、そうだ。

川内さーてーとくとなんか話とかしてたの? 一晩も話し込むなんて面白い事?」

「北上さん、この話題に混ざるんですか?」

「だって気になるじゃーん? 大井っちだって、いきなりやってきた経歴不明の提督の事知りたくない?」

「それは気になりますけど、北上さんが他人のこと気にされるなんて珍しい」

 

大井は自分も含めた姉妹達はどうにも他人に対して関心が薄いものが多い。

特に問題だと思ったことはないが、それだけにこの北上の発言には驚いた。

 

「うーん? こないだ青葉んをこちょぐりまわして完成前の新聞をのぞいて見たら面白い事書いてたからねぇ」

「そうなんですか姉さん? 一体どんなお話をされたんですか」

「えぇ、さんざ叱られた後にその話しなきゃいけないの?」

「いーじゃんかさーあ、どんな会話があったのか詳しく教えてよ」

 

川内の隣に座って肩を組む北上。

説教してた神通も興味深そうに姉へと目を向けていた。

 

「なんていうか提督は鎮守府を学校みたいにしたいらしいよ?」

「「「学校?」」」

「養成所!?」

 

1人だけアホみたいな事を言ってたが無視する。

 

「今の私たちって普通に人間の軍人とおんなじ訓練してんじゃん? でも提督的にはもっと人間らしい生活をした上で訓練させたいらしいんだよね」

「人間らしい生活? ってどういうことです?」

「んーっとね、美味しいご飯食べて勉強して遊んでそれが出来る上で艦娘になって貰いたいんだって」

 

なんともまあ欲張りな事だ、艦娘を兵器として運用しながらも人間として成長させようなどとは。

どんな計算があっての事なのか。

 

「那珂ちゃんさんせーい!! やっぱ戦うだけじゃなくてさ! もっとキラキラヒラヒラ踊ったりしたいもん!」

「私は反対です、美味しい食事と言うのは全体の士気向上として理解出来ますがそれ以外は無駄だと思います」

 

川内型の中で意見が割れて議論される姿を見て北上も何か考えているようだった。

 

「川内っちさー、提督がアタシらの教官になる人を外から呼ぶって言ってたじゃん?

それって本当にそれだけの実力がある人なの?」

「提督はそのつもりだったケド?」

「ふーんそっか、ならいいんだけど」

 

そう言った北上がちろりと唇を舐めるのを見た大井は内心で思い出した、そういえば北上は見た目以上に「肉食系」だったと言う事を。




そして、1年越しに登場してくれたエレちゃんのスキルを絶賛上げまくり中です。
無意味な暴力がエネミーを襲う!!


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