病弱な提督と過保護な艦娘達 (ゆ~だい)
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プロローグ

はじめまして 宴大好き という者です!
この小説は作者が思いつきではじめたものですので、暇潰し程度に見てくれるといいかなって思っています。
ちなみに、作者自身は艦これについてはキャラ以外の事は何も知らないミーハー野郎ですので、艦これ好きな方には申し訳ない作品になるかもしれませんがよろしくお願いします!

でわ、どうぞ♪



俺は生まれつき病弱で体が良くなかった。

 

大人になった今では、前と比べると少しはマシになった方だが、それでもたまに体調を崩す時がある。

 

そんな俺がひょんな事から提督を勤める事になり、今も俺が居る佐伯湾泊地の執務室で仕事中である。

 

ー………ー

 

現在、執務室の中では提督が書類にペンを走らせる音と、判子を押す音だけが聞こえていた。

 

ー(そろそろ皆帰ってくる頃かな…)ー

 

俺は作業の手を一旦止め、ふとそんな事を思う。そろそろ他の鎮守府へ演習しに行った俺の艦隊が帰ってくる筈なのだが…

 

ー………はぁー

 

俺はため息をつきながら机に項垂れる。何故こんな様子なのか、それにはちょっとした訳があるのだ。

 

ーまた、いつもと同じ目に合うんだろうなぁ…ー

 

そんな事を一人でぼやいていると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。「どうぞ」と言うと中に入ってきたのは演習から帰ってきたであろう武蔵だった。

 

武蔵「提督よ、今戻ったぞ」

 

ーあぁ、お疲れ。どうだった?演習の方はー

 

武蔵「勿論完全勝利だったよ。当然だろう?この武蔵がいるのだからな」

 

ーハハ、やっぱり武蔵がいると頼もしいなー

 

そんな会話しながら今回の演習の報告書を受けとる。他の皆はさきに入渠しているようで、武蔵も後から行くそうだ。

 

武蔵「そういえば提督は仕事の方は終わっているのか?」

 

ーいやまだなんだ、後少しで終わるけどー

 

武蔵「なら休憩がてら今から一緒に食堂に行かないか?この武蔵、風呂よりも先に腹ごしらえをしたい」

 

ーえ…まぁ、時間はそろそろ夕食時だけど…ー

 

武蔵「ならいいだろう?適度な休憩も大切だ…特に、お前はな」

 

ーけど…ー

 

武蔵「いいから行くぞ、仕事なら風呂も入り終わったら私も手伝うから」

 

ー!お、おぃ、ちょっと…!ー

 

武蔵が近づいてきたと思ったら、急に抱き抱えられる俺。そのまま執務室を出て、食堂へ向かう羽目になる。……実はこれが俺がさっきため息をついていた理由でもある。

 

ーむ、武蔵!さすがに下ろしてくれないか!?歩くのは大丈夫だから!ー

 

武蔵「気にするな、元々お前は病弱な身なのだから、急なことがあるかもしれんだろ?」

 

ここの艦娘達は何故か他の所と比べると、提督の俺へのスキンシップが過剰なまでに激し過ぎるのだ。俺自身が病弱なせいもあって、それを心配してやっている事ではあるだろうが、少々度か過ぎている気がする。

 

ーいやでも、大人の男が抱き抱えられるのは違うだろ!それに恥ずかしいって…!ー

 

武蔵「ふむ…言われてみればそうかもしれんな…」

 

ーだろ?なら早くおろsー

 

武蔵「お前は男だからお姫様抱っこではなく、王子様抱っこだな」

 

ーそういう事じゃねーっての!!いいから下ろしてくれよぉ!ー

 

武蔵「それは出来ん、お前が心配だからな」

 

俺の願いは全部却下されそのまま食堂に到着してしまう。その後は他の艦娘達から質問攻めにあったのは言うまでもない。

 

 

 

これは、そんな病弱な提督と少し変わった艦娘達がいるちょっとした物語的なものである。




小説書くのってここまで大変とは…
他の作者さん方はよくあんな小説を書けるなぁと、書いていて痛感しました。
思いつきで書き始めた物ですが続けていけるよう頑張りたいと思います!
もし読んでくれた方ありがとうございます♪


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加古と過去話

どうも皆さん 宴大好き です!
朝起きたらUA300越えててビックリしました!
お気に入り登録も12件あって嬉しいよりもビックリしている現状です!
まだプロローグだけなのに感謝感激です♪

ありがとうございます!


ー……ぅん…朝かー

 

カーテンの隙間から入り込む日差しが丁度顔に当たり、その眩しさで目を覚ます。体を起こそうとするが、そこで違和感に気付く。

 

ーん…?ー

 

体が何かに取りつかれてる感じがして、布団をめくってみる。そこには…

 

ー…また、かー

 

加古「Zzz」

 

加古が俺の体に抱きつきながら、気持ち良さそうに寝息をたてて眠っていた。

 

彼女は古鷹型重巡洋艦2番艦の加古。我が艦隊のエース艦の内の一人でもある。容姿は身体中に黒色の帯を巻き付け、その上から少し変わったセーラー服を着ている。ちなみに1番艦に姉の古鷹がいる。

 

加古「Zzz…ぅ~ん…」

 

ー加古、加古…?ー

 

俺は体を揺すって加古を起こそうとする。

 

加古「ん~…ていとく…?」

 

ー起きた?また勝手に入ってきて…ー

 

加古「………」

 

ーそろそろ起きてkー

 

加古「…」ギュッ

 

起きてくれ、と言おうとしたら加古が抱きしめる力を更に強めた。俺はそのまま加古の首元に顔を埋める形になる。

 

ー!…か、加古?ー

 

加古「ていとく…今何時?」

 

ーえ、まだ…5時になったばかりだけど…ー

 

加古「じゃ、まだ全然大丈夫じゃん…ホラ、まだ寝るよ…」ギュー

 

ーぉ、ぉぃ…ー

 

俺の言う事は気にせずそのままの体勢で二度寝し始める加古。俺はされるがままの状態で動けない。

 

加古「すぅ~…ん~…ていとく~」

 

ーぅう…また眠くなって…き…た…ー

 

そのまま加古に抱かれながら、俺は睡魔におそわれて二度寝をする事になった。

 

その後、勿論二度寝したせいで仕事が遅れたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

~寝坊してから数時間後~

 

 

ーはぁ~、今日はいつもより遅く終わりそうだなぁー

 

加古「あはは…ごめんごめん、その分今日はいつもより頑張るからさ…」

 

加古との二度寝のせいもあり、今日の仕事はいつもより遅れていた。ちなみに加古が一緒にいるのは今日の秘書艦でもあるからだ。

 

ーまぁ、そこまで気にしてはいないけどさ…けど、朝みたいに勝手に布団に潜り込んでくるのは、控えてくれないか?ー

 

加古「え~それ位いいじゃん、提督と寝るといつもより寝心地よくて夢見もいいんだからさ~」

 

お互いに手は動かしたままそんな会話をする。

 

加古「それに提督って体弱いんだから、急に何かあるかもしれないだろぉ?常に近くに誰かいないとさぁ~、だからあの添い寝は必要なことなんだよー」

 

ーどんな理由だよ、それ…ー

 

加古の理由によく分からないといった表情をする俺。そろそろ時間がいいので休憩をしようと仕事を中断し、椅子から立ち上がろうとする。

 

ー加古、そろそろ休憩し…よ………っとー

 

立ち上がりながら加古に休憩を催促しようとすると、急に立ち眩みがおそってきてふらつく。

 

ー(う、またかよ…)ー

 

視界がどんどん真っ暗に染まっていき、体もうまく動かせない。おまけに頭痛もし始める。このままだと倒れるのは確実だった。

 

加古「っ!提督!」バッ

 

ー…ぁ、悪い、また…ー

 

寸前で加古に支えてもらい、床との激突は免れる。

 

加古「ホラ、言わんこっちゃない…アタシの言ったとおりじゃん……大丈夫…?」

 

ー…なん…とか…ー

 

抱えられたまま心配される。俺はまだボーッとする意識の中そう返事をする。

 

加古「とりあえず一旦横になろ?」

 

俺は加古に抱えられそのまま近くのソファに寝かせられる。そして何故か加古が膝枕をしてくれた。

 

ー加古、普通に休憩してていいよ…寝てる分なら大丈夫だから…ー

 

加古「いいって、アタシがしたくてやってる事なんだから」ナデナデ

 

そのまま執務室が静寂に包まれる。加古は俺の頭をずっと撫で続けていた。何だかだんだん落ち着いてくる。撫で続けている間、俺はジッと加古の顔を見つめていた。

 

ー……………ー

 

その顔は普段だらけている時の顔と違って、とても慈愛に満ち溢れていた顔だった。目を細め、若干口元を緩めているその表情は、姉の古鷹を思わせるものがあって、少し見とれていた。

 

加古「♪~…ん、どしたの?」

 

ー……いや、何でもないよー

 

加古がこっちに気づくが、何でもないと返す。

 

加古「…提督は…さ、もっと自分の事大切にした方がいいと思うんだ…」

 

ーえ?ー

 

加古が急にそんな事を言い出す。それはさっきの表情と違って、暗く落ち込んでいるような感じだった。

 

加古「アタシがこんな事言うの、変かもしれないけど…提督ってちょっと頑張り過ぎてるところがあると思うんだ。それもアタシ達艦隊、皆の為ってのも分かってるけどさ…」

 

ー…加古ー

 

加古「前に提督が急に倒れた時があったでしょ?あの時はただの過労で寝れば大丈夫だったけどさ、その時の皆の慌てようっていったら凄かったんだよ?普段はしないような必死な顔して、泣きそうになる人もいてさ…」

 

ー………ー

 

加古「皆どうしたらいいかで大騒ぎでさ…まぁ、結果そこまで大したことじゃなかったけど…でも、あの時ほど焦った事はないよ?こんな風に言ってるアタシ自身も例外じゃないし」

 

ー………ー

 

加古「提督が寝てる間さ、実は全然眠れなかったんだあたし…おかしいでしょ?普段寝てばっかの奴がそんな時だけ眠れないなんて」

 

加古は頭を撫で続けながら、語ってくれる。

 

加古「でも、それだけ心配したんだよ…?アタシも…」スッ

 

ー…加古…ー

 

頭を撫でている手とは逆の手が、俺の頬に添えられる。

 

加古「だからさ、もっとアタシ達のことも頼ってほしいんだ。任務とか演習とかじゃなくて、もっと他のことを…」

 

ー………ー

 

加古「提督が皆を大切してるように、皆も提督のことを大切に思っているんだよ?こんな仕事なんかで体調崩して、前みたいな事になってほしくないからさ…」

 

ー…うんー

 

加古「アタシ達の提督は、他の提督じゃ替えが利かないんだからさ…お願いだから無理はしないで…」

 

正直俺は驚いていた。あの加古からこんな事を言われるなんて思ってもいなかったからだ。普段のイメージからは想像もできない事に俺は呆気にとられるだけだった。

だが、それだけ俺の事を思っていてくれた、という事実が嬉しかった。

 

ー(…もしかすると朝の添い寝も、あれは加古なりの気遣いだったのかもな)ー

 

加古「そろそろ大丈夫そう?」

 

ーうん、おかげで良くなったよー

 

頭と頬を撫でていた手を止めると、俺は上体を起こし顔を加古の方へ向けた。そして…

 

ーありがとうな…ー

 

と、はにかみながらお礼を言った。

 

加古「……ん」スッ

 

加古は少し顔を赤くしながら、俺を自分の体に寄せた。

 

加古「アタシもだよ…提督」ギュッ

 

そのまま俺を抱きしめてくれる。今日だけで何回抱かれただろうか?

 

加古「…やっぱり、提督の抱き心地は最高だなぁ♪…何か、また眠くなってき…た…」

 

ーお、おぃまだ仕事が…ー

 

加古「Zzz」

 

そのまま加古は夢の中へとダイブしてしまい、俺は朝と同じ現状に陥ってしまった。

 

ー(…まぁ、今日ぐらいは…サボってもいいか…な…)ー

 

そんな事を思い始めたら次第に俺も眠くなっていき、意識が薄れ始めてきた。

 

ーふあぁ…もう、寝る…ー

 

完全に眠り始めた俺と加古。お互いその表情はとても気持ち良さそうだった。

 

加古「Zzz…てぃ…と…く」

 

さっきまでの表情はどこへやら、加古はいつも通りの表情へ戻り眠っていた。

 

だが、その手はしっかりと俺を掴んでいた。

 





書いててヤンデレ要素がない事に気づきました…
タイトル詐欺と言われないように、これからどうにかしないといけませんね…。

次回も頑張ります!


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古鷹の本音

皆さん 宴大好き です。

気づいたらお気に入り登録数が30件を越え、感想も書かれている今の現状に心臓がバクバクしています。

毎度ですが、見てくれてありがとうございます!

では、今回は古鷹編です。どうぞ♪


 

ー………ー

 

古鷹「………」

 

現在の時刻はヒトヨンサンマル、俺と古鷹は建物の屋上にある長椅子に腰掛けていた。

海から吹いてくる風が心地いい。若干塩の臭いも混じり潮風となって吹いてくる。

 

古鷹「ん~!、天気も良くて気持ちいいですね~」

 

ーあぁ、そうだねー

 

気持ち良さそうに伸びをしながら古鷹が俺に言ってくる。

 

なぜ俺と古鷹がここにいるのかというと、それは数時間前の午前中まで(さかのぼ)る。

 

 

 

 

 

~午前中~

 

 

俺は今日の秘書艦の古鷹と一緒にいつも通り、書類等の仕事をしていた。

ちなみに彼女は古鷹型重巡洋艦の1番艦であり、加古の姉にあたる艦娘である。

妹の加古とは違い真面目で面倒見が良く、皆からも頼りにされる優しい()だ。

 

ーごめんな古鷹、俺の勝手で迷惑かけて…ー

 

古鷹「いえ、気にしないで下さい、私は大丈夫ですから…それに、元はと言えば加古に問題があるんですから」

 

どういう事かというと、先日の加古との執務作業の件だ。

あの後、俺と加古は寝過ごして起きた時にはもう夕日が沈んでいた頃だった。

徹夜すれば何とか終わる量だったのだが、その日は倒れそうになった俺の身を案じて見送りになった。

結局仕事は終わらず、その分は他の日に分けてやる事になり現在に至る。

 

ー………ーカキカキ

 

古鷹「………」カリカリ

 

さすがに俺もいつもより真面目に作業に取り組む。

古鷹の方は特に変わった様子はなく、いつもと同じで真面目に取り組んでくれていた。

そのせいもあってか、いつもより作業量が多く、時間がかかるであろう思っていた仕事がまさかの午前中に終わらせる事が出来た。

 

ーす、凄いな古鷹…あんなにあった書類が半日で無くなるなんて…ー

 

古鷹「ぁはは…それほどでもないですよ」

 

作業の手際の良さに改めて驚かされる俺。古鷹は微笑みながら返事をする。

 

古鷹「…でも提督、さすがにほぼ丸一日仕事を放り投げるのは感心できませんよ?」

 

ーう、すまん、反省する…ー

 

古鷹に注意されるが、これは仕方ないので素直に反省する。

 

古鷹「勿論、提督だけが悪いだけじゃないですけど、今度は気を付けてくださいね?」

 

ー…うんー

 

古鷹「…けど、普段から提督は頑張っているので、今回は大目に見ます……その変わり…」

 

ーえっ?ー

 

 

 

 

 

古鷹「提督には、ちょっとした罰を受けてもらいます」ニコッ

 

これが午前中にあった出来事だった。

 

 

 

 

 

~そして現在~

 

古鷹の言った罰とはそこまで大したことではなかった。

仕事が午前中に終わり、午後からの時間がフリーになった。

その午後時間、古鷹と一緒に行動するというのが彼女が言った罰だった。

具体的にどうするかと聞いたら、「屋上に来てください」と言われ、現在も古鷹と一緒にいる。

 

古鷹「………」

 

古鷹の方を見ると、静かに海の景色を眺めているようだった。

時折吹いてくる風が彼女の髪を(なび)かせ、いつもと違う雰囲気を漂わせる。

 

古鷹「………」

 

海を見据えてるようなその眼差しは、いつもの穏やかな雰囲気と変わって凛々しく見え、クールな時の加古を思わせた。

 

ー…やっぱり姉妹なんだなぁ…ー ボソッ

 

古鷹「ふぇ?何か言いました提督?」

 

ーあぁいや、やっぱり古鷹と加古って姉妹なんだなって…ー

 

古鷹「フフッ、どうしたんですか急に?」

 

ーいや、何となく思ってさー

 

古鷹「そうですか」フフッ

 

そんな会話が今はとても気持ちよく感じる。

海の方から(かす)かに聞こえる波の音も心地いい。

 

古鷹「……」スッ

 

ー?……古鷹?ー

 

古鷹は急に立ち上がったと思うと俺の背後に周り、その両手を俺の両肩に乗せた。

 

古鷹「提督、体調の方は大丈夫ですか?」

 

そのままの体勢で聞いてくる古鷹。

 

ーうん、大丈夫だよ…と言っても、昨日倒れそうになったばかりだけどねー ハハッ

 

古鷹「もぅ、笑い事じゃないですよ…」

 

古鷹の表情は見えないが、多分呆れながら言っているのだろう。

 

ーごめんな…でも、加古のお陰で助かったよー

 

古鷹「聞きましたよ本人から、提督が倒れたそうになった~!って…私も心配しましたよ?」

 

ーごめんって、急に立ち眩みがきてさ、まぁ加古がいてくれて助かったけどー

 

古鷹「いなかったらどうするんですか!皆であれほど気を付けて下さいって言ってるのに…提督はご自身の事をもっと大事にしてもらわないと困ります!」

 

急に古鷹が少し大きな声でそう言い、ちょっと驚く。

 

ーあ、あぁ、すまん……それ、加古にも言われたな…ー

 

古鷹「…え?加古が?」

 

ーうん…あれ、聞いてないの?ー

 

古鷹「は、はい…提督が倒れそうになったってだけで…」

 

ーそうなの?…まぁ、言わないのも加古らしいけど…ー

 

古鷹「何を言われたんですか?」

 

俺は昨日あった事を古鷹に話し始めた。

 

ー今言った通り、自分を大切にしろって…ー

 

古鷹「……」

 

ー俺の気持ちも分かってはいるけど、あたし達の事ももっと頼ってくれ、俺が思っているようにあたし達も俺の事を大切に思っているんだよ…ー

 

古鷹「……」

 

ー俺の替えは、他の提督じゃ利かないんだから無理しないでって…ー

 

古鷹「……」ギュッ

 

古鷹は何も言わず聞いてくれていた。俺の肩に乗せている手が肩を掴む。

 

古鷹「…そうですか、加古がそんな事を…」

 

ー俺も正直驚いたよ…加古のあんな表情見たことなかったしー

 

古鷹「……」

 

ーけど、その時の加古は何か……カッコ良く見えたなぁ…ー

 

古鷹「……っ」

 

ーその日の朝なんてさ、気づいたら俺の布団にまた入り込んでてさー

 

古鷹「……ぇ?」

 

ー前から控えてくれって言ってるのn「…るぃです…」え?ー

 

古鷹「…加古は…ずるいです…」ギュ

 

古鷹は俺の肩を掴む手に力を入れる。

 

ー…古鷹…?ー

 

古鷹「加古ばっかり…提督とそんな事して…」

 

ー……ー

 

古鷹「私だって…提督と添い寝とか…したいのに…」

 

ー……ぇ?ー

 

古鷹「何で…私だけ…加古ばっかり…!」フルフル

 

古鷹の掴んでいる手が小刻みに震え始めるのが感触で分かった。

 

古鷹「…提督も、ずるいです…」

 

ーふ、古鷹?ー

 

古鷹「加古とだけ…そんな事…ずるぃ…」

 

ーふ、古鷹?ずるいとはまた違うんじゃー

 

 

 

 

 

 

 

古鷹「違わないです!!!!!」

 

 

ーっ!ー

 

古鷹が突然叫び俺は驚愕する。あの古鷹がこんな大声を出すなんて思ってもいなかったからだ。

 

古鷹「提督…私が加古から提督の話を聞くときの気持ち、分かりますか?」

 

ー…ぇ?ー

 

古鷹「毎回提督の事を話す時の加古って、本当に楽しそうに話してるんですよ…」

 

ー……ー

 

古鷹「その話を聞く度に思うんです…いいな、羨ましいな…って…」

 

ー……ー

 

古鷹「私じゃ、加古みたいな積極性がないから、提督と話すだけで精一杯で……でも加古は、それ以上の事をやって提督と楽しくいられて…」

 

ー…古鷹ー

 

古鷹「今も、提督の肩を掴んでいますけど…これでも、頑張って掴んで…」

 

ー……ー

 

古鷹「それなのに…そんな話聞いちゃったら、こんな事で頑張っている自分が…おかしく思えてきちゃうじゃないですかぁ…」

 

ー……っー

 

古鷹の声が若干震えている。

 

古鷹「本当だったら…私も、加古みたいに…提督といたいのに…」

 

ーふる…たか…?ー

 

古鷹「いろんな事…したいのに…」

 

ー……っー

 

古鷹「そんなの…あんまり、じゃ…なぃ…ですかぁ…!」ポロポロ

 

ー……っ!ー

 

古鷹が後ろにいるせいで本人の表情は分からない。

だが、俺はそれでも古鷹が今泣いているという事はすぐに理解できた。

 

古鷹「わ、私…だって…!…提督の…為に…頑張ってるのに…!」

 

ー………ー

 

古鷹「提督の事を…!大切に思っているのに…!」

 

ー………ー

 

古鷹「提督を…!信頼…!してる、のに…!」

 

ー………ー

 

古鷹「てい…とく、が…好き…!…なのに…」

 

ー…ぁー

 

古鷹が泣いている…俺はどうしていいか分からなかった。

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古鷹「ぅぅ……えっ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の体は自然と立ち上がり、古鷹の事を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古鷹「てぃ…と…く…?」

 

古鷹はよく理解できていない状況だった。

 

 

 

 

 

ー(あぁ…そうか、古鷹は今までずっと我慢してきたんだ…)ー

 

ー(でも、加古達みたいに勇気が無くて…いつも離れた所から、その光景を眺めているだけで…)ー

 

ー(本当は古鷹も、ただ甘えたかっただけなんだ…)ー

 

ー(けど、あと一歩が足りなくて…いつも寸前で立ち止まって…)ー

 

ー(それを今までずっと繰り返していたんだ、古鷹は…)ー

 

ー(…なら)ー ギュッ

 

俺は古鷹を抱きしめる力を、更に強めた。

 

古鷹「…て、提督…?」

 

ー古鷹…ごめんな、今まで我慢させちゃって…ー

 

古鷹「…っ~~!!!」

 

 

 

 

 

ー(俺が…その背中を押してやればいいんだ)ー

 

 

 

 

 

古鷹「ぁ…あぁ…」

 

ー今まで気づけなくてごめん…けど、もう我慢しなくていいから…俺が一緒にいるから…ー

 

古鷹「うぅ…ぁ…」

 

ーもう、いいんだよ?ー

 

古鷹「ぁ、あぁぁ…!うあぁぁ…!提督っ!提と、く!提督ぅぅぅぅ!!!」

 

古鷹は今まで我慢したぶんが一気に出たのか、声を上げながら俺の胸板で泣き叫んだ。

俺はそんな古鷹の頭を撫で続けながら、泣き止むまでしばらくそのままでいた。

 

 

 

 

 

古鷹「ぅっ…すみませんっ…提督っ…あんな姿、見せてしまって」

 

ーいや、大丈夫だよ。気にしないでー

 

あの後泣き止んだ古鷹は、急に恥ずかしさが込み上げてきたのか俺に謝ってくる。

時刻は夕方に迫ってきているようで夕日が眩しい。

 

古鷹「あ、あの…提督」

 

ー…何?ー

 

古鷹「今日あった事は…皆に、内緒でお願いしますね…?」

 

ーうん、大丈夫だよ内緒にしとくー

 

古鷹「それと…」

 

ーん?ー

 

古鷹「今度…また、今日みたいに一緒にいてくれますか?」

 

夕日を背に古鷹が俺に聞いてくる。俺は…

 

ーもちろん♪ー

 

と、一言。

 

その言葉を聞いた古鷹の顔は優しく微笑む。

夕日をバックにして見せるその微笑みは、とても眩しくて、見るものを魅了させる、とても良い表情だった。

 

 

古鷹「ありがとうございます♪提督♪」

 

 

 

 

あぁ…天使って、本当にいたんだ…。

 





…書き終わってから本当にコレで大丈夫かな?と思っています。

やっぱり小説書くのって難しいです…。

次回も頑張ります!観覧ありがとうございました♪


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木曾の叫び

どうも宴大好きです!

前回の感想からアドバイスをいただき、それを意識しながら今回は書きました!

今回、キャラの視点変更もやってみました。

どうぞ♪


ー提督sideー

 

 

「いい天気だなぁ」

 

 

 晴れ渡る空。暖かな日差し。さざ波の音。

 

 俺は今、泊地から少し離れた浜辺に来ていた。

 

 ちなみに、今日は休日である。

 

 浜辺にいるのには、朝目が覚め、せっかくの休日をどう過ごそうかと執務室で考えていたのだが、特にやることがないので、とりあえずここに来ようと思ったからである。

 

 来る途中に、他の艦娘達からいろんな誘いを受けていたのだが、また今度、という理由で断った。

 皆残念そうな顔をしていたが、そこは俺の身を案じてか、渋々分かってもらえた。

 

 けど、俺自身もせっかくの誘いを、体があまり良くないせいで断ってしまったことに、申し訳ないと思った。

 

「皆、今頃楽しんでるんだろうな…」

 

 思えば、生まれてから存分に体を動かせたことがなかった気がする。

 

 体に力を入れるだけで、目眩や立ち眩みにおそわれ、少しでも走ろうものなら、吐き気や発作で動けなくなり、昔からそんな状態が続いていた。

 

 大人になった今では、昔と比べれば多少マシにはなった方だが、それでも、充分と言えるほどではない。

 

「どういう感じなんだろうなぁ…」

 

 子供の頃、周りの皆はお互いにグループを作り、サッカーやバスケなどの遊びをしている時、俺はいつも脇でその様子を眺めているだけだった。

 授業中の時間も、いつも決まって隅の方で、その光景を眺めているだけだった。

 最初の方は、担当の先生も「その内良くなるから大丈夫」と言っていたが、時が経つにつれ「また掃除お願いね」などの雑用ばかりやらされている事が、当たり前のような感じになっていたのを覚えている。

 

 そんな昔の事を思い出しながら、今楽しく遊んだりしているであろう、彼女達のことを考えると、少しだけ羨ましいと感じた。

 

「…………」

 

 先ほどから聞こえてくるさざ波の音が、どこか切なく思える。

 

 そんな感情に一人で浸っていると…

 

 

 

 

 

「提督」

 

 

 

 

 

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

 振り返り見ると…

 

 

 

 

 

「木曾…」

 

 

 

 

 

 そこには木曾が立っていた。

 

 

 彼女は、球磨型5番艦の重雷装巡洋艦、木曾。

 

 水色のラインが入ったセーラー服を着用し、その上から、黒いマントを着けている。

 

 そして、何よりも右目にある眼帯が特徴の艦娘だ。

 

 ちなみに、俺のエース艦隊の切り込み隊長でもあり、頼りになる男勝りな艦娘だ。

 

「どうしてここに?」

 

 聞くとどうやら、先程の俺が皆からの誘いを受けているのを、偶々見かけていたようだ。

 その後、誘いを断って何処に行こうとしているのか気になり、ついて来たようだった。

 

「隣、邪魔するぞ?」

 

 そう言い、俺の隣までくる。

 

 すると、ここで一人で何をしていたのかを聞かれる。

 

 俺は、別に何もしてないよ?と言うと、木曾は…

 

「そのわりには、随分思い込んでいたように見えたがな」

 

 と、返し、俺は少し驚いた。

 

「…いつから居たの?」

 

 と、聞くと…

 

「お前が、いい天気だなぁ…って、言ってた時からだな」

 

 と、言って、俺はさらに驚いた。

 

 つまり、木曾は俺が浜辺に来たときから、ずっと一緒に居たという事になる。

 

 何故出てこなかった、と聞くと、本人いわく、声をかけようとしたところ、急に俺が思い込んだ様子をしたから、かけ損なったようだ。

 

「…言えない事なのか?」

 

 木曾が俺の顔を見ながら聞いてくる。

 

 その表情は、半分気にしてくれているけれど、半分言え、と言っているような表情だった。

 

 俺は、大した事じゃないよ…と、言いながら、先程まで思っていた事を木曾に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだったのか」

 

 俺が思っていた事を全部聞いた木曾は、海の方を静かに見つめながら、そう呟いた。

 

 つまらない昔話だったろ?と聞くと、そんな事はない、と木曾は首を少し横に振りながら言ってくれた。

 …正直、提督の俺が、こんな暗くなるような話をしてどうする、と内心思っていた。

 

 けど、そんな俺の話を最後までしっかり聞いてくれた木曾には、少しだけ感謝の気持ちもあった。

 

「…今はどうだ?」

 

 そう聞かれて、俺は少し考える。

 

 

 今…か、昔と比べれば良くなったんじゃないかな?提督を始めてから、それまで他の人と関係を持つという事が、ほとんど無かった身としては、木曾達のような部下を持てた事は、俺にとって、良い事だと思う。

 それに、皆からよく接してもらっているから、俺自身も嬉しいしな。

 

 …まぁ、少しだけあのスキンシップは控えてほしいが…。

 

「楽しいよ、それに、皆あんな感じだから、むしろ楽しくないってのが、おかしいくらいだよ」

 

 俺は、はっきりと木曾にそう言った。

 

「そうか…」フッ

 

 木曾は目を細め、微笑むように、そう言った。

 

 普段のキリッとした表情とは違い、また魅力的な表情に、俺は少しだけ、ドキッとした。

 

 

 その後、俺と木曾はちょっとした世間話を始めた。

 

 

「…そういえば、聞いたぞ、また倒れたんだってな」

 

 

 しばらく二人で話していると、木曾が急にそんな事を言ってきた。

 誰から聞いたのだろう?という、疑問とともに、話が広まるのが早いなと思いながら…

 

「正しくは、倒れそうになった…だけどな?」

 

 と言ったら、同じことだ…と、呆れながら返された。

 

 最近は、皆こういった感じで、接してくる事が多い気がする。

 原因は、勿論俺にあるのだが、さすがに似たような事を何度も繰り返していると、少々またか、と思ってしまう。

 

 …でも、やはり木曾も皆と同じで、俺のことを心配してくれているのだろう。

 

「すまん…分かってはいるんだけどな」

 

 俺は、微笑を浮かべながら、そう言った。

 

「分かってない」

 

 だが、それを聞いた木曾は、少し強めの口調でそう言った。

 

 その時の木曾は、何故か不機嫌そうな顔をしていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー木曾sideー

 

 

 俺は今、無性にイラついていた。

 

 原因は、勿論提督(コイツ )のせいだ。

 

 提督は、もともと病弱なせいで体が良くなかった。

 ここに所属している艦娘は、その事を知った上で生活し、常に提督のことを気にかけていた。

 だからこそ、前に過労で倒れた時は、泊地全体で大騒ぎだった。

 提督が倒れた事で、皆どうしていいか分からず、ただ慌てふためくだけで、あまりのショックで、泣き出す者までいた程だった。

 

 それほど、皆提督の事を心配していたのだ。

 

 …なのに提督(コイツ)

 

 今回の件もそうだ。

 

 執務室での作業中に目眩に襲われ、意識を失いそうになったところを、その日の秘書艦であった加古に介抱された。

 加古が居てくれたから良かったものの、もし提督一人だけだったら、今頃、またあの時の二の舞になっていたかもしれない。

 

 そう心配しているのに、そんな事を言う提督に、俺は苛立ちを覚えていた。

 

「それに、今日の付き添いはどうした?」

 

 前に提督が過労で倒れた後、今後の提督の事で会議を行った。

 会議の末、提督に付き人をつける、という結果になった。

 具体的にどういう事かというと、執務作業以外の秘書艦が居ない時は、一人付き添いをつけて、提督の様子を見る、というものだ。

 今日の担当は、初月だったはずだが、その姿が見えない。

 

 提督の様子を見るに、どうやら本人には何も言わず、黙ってこの浜辺に来たようだった。

 

 それだけで俺はさらに苛立ちを覚え、自分の拳を固く握りしめていた。

 

「お前はもっと自分のことを気にするべきだ」

 

 提督(コイツ)が優しい奴ということは分かる。

 病弱なくせに、いつも周りの奴の気遣いばかりして、自分のことはあまり気にしない。

 だからこそ、俺達を頼ってほしいと言っているのに、提督(コイツ)はいつも「大丈夫」の一言だけ…。

 

 なぜ、初月に黙って来たかを聞く。

 

「休日くらいは、ゆっくり過ごしてほしいからな…」

 

 

 俺はもう我慢の限界だった。

 

 

 気づくと俺は提督の胸ぐらを掴み、叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その気遣いが皆を心配させている事に何故気づかないんだ!!?!お前は!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 提督は驚愕しながら、俺のことを見つめていた。

 

「俺達はそんなにも頼りないのか!?信じられないのか!?いつもいつも!俺達よりも体が弱いくせに他人の気遣いばかりしやがって!!少しは自分の心配をしろよ!!」

 

 気にせず、俺は叫び続ける。

 

「どうして…!俺達がお前を頼るようにお前は俺達を頼ろうとしない!?自分が提督だからか?俺達を率いる(おさ)だからか!?それも気遣いだからか!?関係ねぇんだよ!!そんなモンはよぉ!!!」

 

 言い終わったときには、俺は肩で息をするくらいに叫んでいたようだ。

 

「ハァ、ハァ…!お前は…!俺達の誇りなんだ…っ!そんな奴が、こんな事で…!こんな、事で…っ!」

 

 俺は今まで溜め込んでいた鬱憤(うっぷん)を、全部ブチまけてやった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー提督sideー

 

 

 俺は今、正直かなり驚いていた。

 

 まさか、木曾があんなにも感情的になるなんて、思ってもいなかったからだ。

 

「…………」

 

 ……今まで、こんなにも俺の事を叱ってくれた人が居ただろうか?昔からいつもいつも、いろんな人に気にかけてもらっては「大丈夫」とだけ返し、それっきり…

 周りに迷惑をかけないよう、自分のことは、自分で済ませながら過ごしてきた。

 

「木曾…」

 

 けど、木曾は違った。

 

 いや、木曾だけじゃなかったんだ。

 

 この泊地に居る皆が、今の木曾と同じ気持ちだったんだ。

 その気持ちに、俺自身が気づいてやれなくて、今まで皆を心配させていたんだ。 

 

「……」

 

 木曾の表情は俯いていて分からない。

 

 だが、俺の手は自然と動き…

 

「……!」

 

 木曾の頭を撫でていた。

 

「ありがとうな、木曾…」ニコッ

 

 その言葉を聞いた木曾の顔は、少し赤く染まり、上目遣いで俺のことを見つめていた。

 

 …俺は、今まで勘違いをしていたようだ。

 それを、他の皆から散々言われ続けてきたのに気づかず、木曾のお陰で今日、ようやく気づく事ができた。

 

 

 俺の今のこの時間は…最高に幸せなものなんだな、と

 

 

「これからもよろしくな?」スッ

 

「当たり前だ、言ったろ?」スッ

 

 お互いに握った拳を突きだし、優しく触れる。

 

「お前に最高の勝利をくれてやるってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー後日、俺は初月にあんな事をやられるとは、今の俺は知るよしもなかったー

 




今回は前回と比べると、少しは手応えがあった感じがしました!

これも、見てくださっている方々のおかげと思うと、次も頑張らくちゃ!と思います。

次は、本編でもあったとおりのキャラがでますので!

観覧ありがとうございました!


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初月の躾


どうも 宴大好き です。

お気に入りが60件を越えてビックリしてます!

いろんな方々が見てると思うと次も頑張らなければ!と思います。

今回は前回の予告?でもあった初月編です!



ー提督sideー

 

 

 休日。俺は執務室でいつも通り書類整理をしていた。

 理由は、前の加古との仕事(ぶん)がまだ終わりきっていなかったからだ。

 

「と…粗方片付いたかな」

 

 といっても、他の日にも分けてやっていたので、そこまでの量はなかった。

 こういった作業中は、本当は秘書艦を就けているのだが、休日なので就けないでいた。

 実際、大した量ではなかった。

 

『提督、居るか?』トントン

 

 そこへ扉をノックする音が聞こえ、どうぞ、と返す。

 

「失礼する。少しいいか?」

 

 部屋に入ってきたのは初月だった。

 

 彼女は秋月型駆逐艦の4番艦、初月。

 ダークブラウンと白の半袖セーラー服を着て、その下に首から下は黒色の全身インナーをしているという、少し変わった服装をしている。

 ちなみに、姉にいる秋月と照月も同じようなセーラー服を着ているのだが、彼女の胸元のスカーフは黒色で、二人とは若干違うという特徴もある。

 

 彼女は俺に近づいてくると、何をしていたんだ?と聞いてきたので、俺は今やっていた事を言った。

 

「……そうか、それはお疲れさまだな」

 

 初月はそう言うと、今お茶を淹れてやる、と言って部屋の奥に向かって行った。

 

 そういえば初月はここに何の用事があったのだろう?

 いつもの付き添いだろうか?いや、初月は昨日が担当だった筈だからそれは違うか。

 

 そんな事を考えていると、初月がお茶を目の前に差し出してくれた。

 俺はありがとうと言いお茶を飲む。程よい熱さと濃さで丁度良い。

 

「それと…お前はまた一人でやっていたのか?」

 

 俺がお茶をおいしく頂いていると、そんなことを聞いてくる。

 初月を見ると、目がジト目になっていた。

 

「ご、ごめん!でも、本当にコレだけだったからさ!」

 

 俺は最近あった出来事をふと思いだし、雰囲気的にマズイと感じて、少し必死になって、いつもよりは少ない書類を見せながら初月に謝る。

 

「それより!初月はどうしたの?」

 

 俺は話題を変えるため、咄嗟に初月に聞いた。

 俺の急な言動に、初月は少し首を傾げているようだった。

 

「あぁ、そうだった。今日の付き添いの件だが、島風に()()()して僕に変わったからその報告にな」

 

 そういえば、島風が来ないなと思っていたのだが、それが理由だったのか。

 だが、何故今日の付き添いを変わってもらったのか?俺は初月に気になり聞いてみた。

 

「まぁ…ちょっとな…」

 

 その一言を聞いた瞬間、突然眠気がやってきた。

 

「(あ、あれ……?)」

 

 その眠気はだんだん大きくなっていき、視界がボヤけて、頭もボーッとしてくる。体もうまく動かせない。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 ふらふらな状態の俺を初月が支えてくれた。

 

 俺はそのまま眠ってしまう。暗くなっていく視界のなか、最後に見たのは、何故か笑っている初月の顔だった。

 

 

 

 

 

 …しばらく経って目が覚めると、俺は首輪を付けながら見知らぬ場所に居た。

 

「起きたか?」

 

 その隣には、初月が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー初月sideー

 

 

 提督が眠ったのは、僕がお茶に睡眠薬を仕込んだからだ。

 何処で手に入れたかは、夕張に最近なかなか寝つけなくて困っている。と、適当なことを言って貰った。

 

 まぁ、元から提督に使うつもりだったので、僕自身は使わないが。

 

「フフッ♪相変わらず寝顔もかわいいな♪」

 

 提督の髪を撫でながら、少しだけ独り占めしている今の時間が嬉しいと感じる。

 

 その後、眠っている提督を抱えて、今は使われなくなった空き部屋に連れてきた。

 ここに来る途中に、他の皆に出会わなかったのは運が良かった。

 

 部屋の真ん中には、僕が前もって準備していた布団が敷いてあり、そこに提督を寝かせる。

 

 そして、コレも用意していた首輪を提督の首に付ける。首輪はチェーンで繋がっており、その手綱は僕がしっかりと手で掴んでいる。

 

「似合っているぞ、提督♪」

 

 何故僕がこんな事をしているのか?

 

 事の発端は昨日にある。

 

 その日の休日の付き添いは、僕が担当だった。

 僕は、その日が提督と一緒に居られるという嬉しさから、胸を弾ませながら執務室へ向かった。

 

 だが、そこに提督の姿はなく、おかしいと感じた僕は提督を探し始めた。

 普段、提督が行きそうな場所を頭に浮かべながら向かって探したが見つからず、他の皆に聞いても、それでも見つからなかった。

 

「(提督…っ!どこだ…っ!)」

 

 僕は探してる内に、少しずつ焦りを感じてきた。

 

 また前のように何処かで倒れているのではないか?

 そんな事を思いながらいると、僕はその不安からか、無意識の内に走りながら泊地内を探し始めていた。

 

「ハァ、ハァ…!一体、何処へ…?」

 

 気づいた時には息も上がり、必死に探していたようだった。

 

 そんな時だった。向こう側で木曾と一緒にいる提督を見つけたのは。

 

「……提督…」

 

 その時は、見つけられた安心感もあったのだが、もうひとつ別な感情もあった。

 

「………」

 

 確かに特に何もなく、いつも通りでいたことに安心はしたのだが、人がこんなにも必死になって探していたというのに、笑いながら木曾と一緒に歩いている姿を見た瞬間、僕はモヤモヤした感情を抱いていた。

 

 なぜだろう?こんな感情を抱きながら提督のあんな顔を見ていると、次第にその思いが強くなってくる。

 

「……少し、許せないなぁ」

 

 僕は腕を少し震わせ、拳を握りしめていた。

 

 そして現在に至る。

 

 提督は目を覚ましたようで、まだはっきりとしない状態で体を起こし、そこで違和感に気づいたようだった。

 

「起きたか?」

 

 そう僕が聞くと、提督は少し驚きながらこちらを見る。まだ現状を理解できていないようだった。

 薬の効果がまだ完全に切れかかっていないからだろう。

 

 僕はゆっくりと立ち上がり、提督の背後に回り込むと、後ろからそっと覆い被さるように抱きしめ、提督の左側に顔を寄せる。

 

「さっきの話だが、今日付き添いを変わってもらったのはな……お前を躾るためなんだ」

 

 提督は、え…?とだけ言い、何を言われているか分かっていないようだった。

 

「提督は知っているか?」

 

 僕は構わず言い続ける。

 

「母犬が自分の子犬を躾るときのやり方を」

 

 

 

 

 

 ガリッ

 

 

 

 

 

 瞬間、僕は提督の首の付け根に噛み付いた。

 

「!?、うぅあぁ…っ!!」

 

 突然の首に走る鋭い痛みに、提督は悲鳴染みた声を上げる。

 

 口を離すと、そこには僕の歯形がしっかりと残り、少し血も出ていた。

 

「ぅぐぅ…!は、初月…?」

 

 提督は僕の急な行動に、戸惑いを隠せずにいた。

 

「お前が悪いんだからな…」ペロッ

 

 僕は出血している部分を舌で舐めとる。

 僕の唾液が傷に染みたのか、体をビクッとさせる提督。

 

「お前が…!人の気も知らないで…!」ガッ

 

「あぐっ!は、初月!?」

 

 僕は後ろからそのまま提督を押し倒し、布団に押さえつけた。

 

 手綱は一度手放し、無理やり提督の服を脱がし始める。

 

「初月…っ!何でっ、こんな…!」

 

「何で?言っただろ、お前を躾ると…」

 

 上半身だけ裸となった提督は、僕に押さえつけられているせいか、苦痛の表情になる。

 

「人の言うことを聞かないで、人を心配させる奴には厳しい躾が必要だろう…?」

 

 

 

 

 

 ガブッ

 

 

 

 

 

「あぁぐ…っ!」

 

 僕はそう言うと、再度噛みつき始める。

 

 ペロッ

 

「うぅぅ…っ!」

 

 噛んでは、舐め、噛んでは、舐めを続け、提督の身体中にそれを何度も繰り返す。

 

 気づいたときには、提督の身体中には僕が噛んで紅くなった痕がたくさん出来ていた。

 

 カプッ

 

「あうぅぅ…!」

 

 ペロッ

 

「ひぅ…っ!」

 

 何度も繰り返したせいか、提督の体の感覚は、優しく甘噛みしただけでも全身を震わせるほど敏感になっていた。

 

「……ふぅ」

 

 さすがに僕も少し疲れてきたので、一旦噛むのを止める。

 

 提督を見ると、肩で息をするほど疲れきっているようだった。

 その姿は、普段よりも一層弱々しく見えた。

 

「………」トクン

 

 なぜか、その姿を見続けていると胸が高なってくるのを感じる。

 

「……っ」バッ

 

 僕は、無意識でまた提督に飛びかかった。

 

「あぐぅ…!も、もうやめ…!」

 

 提督の静止も聞かず、僕は無我夢中で甘噛みを繰り返す。

 

 提督は何とか引き剥がそうと抵抗してくるが、体に力が入らないのか、その行為は無意味だった。

 

「あぁぅ…!お、お願いだから…もぅ、止…めて…」

 

「………!」ゾクゾク

 

 その一言を聞いて、我慢の限界だった。

 

「あぁ…!提督!提督っ!」

 

 さらに勢いを増し僕は提督に(むさぼ)りつく。

 

 こんなにも弱々しい提督は今まで見た事がなかった。

 

「(あぁ、本当に可愛いなぁ…)」

 

 いつも自分の事よりも僕達の事を気遣ってくれる提督。そんな優しい提督をこんなにも独り占めしている。

 今はそれが純粋に嬉しかった。

 

「(でも、これは躾だからな…)」

 

 提督の体は、僕が噛み続けたせいで全身が紅く染まり、舐めたせいもあり所々ベタついていた。

 

 もう、息も絶え絶えのようだった。

 

 僕は倒れている提督を起こし抱き抱えると、耳元へ顔を近づける。

 

「提督、これで分かったろ?」ボソッ

 

「ひ、ぐ…っ!」

 

「人に心配ばかりかけているとこうなるって…」ボソッ

 

「ぅ、うぁ…はつ、づき…」

 

「……仕上げだな」スッ

 

 そう言って僕は首に口を近づける。

 

 そこは最初に噛み付いたところで、他の痕よりもしっかりと残っていた。

 そこへ自分の唇をそっと添える。

 

「あ、あぁぁ…」ビクッ

 

 僕は提督の首を思いっきり吸い上げた。

 

 

 

 

 

「っ~~~~~!!!」

 

 

 

 

 

 提督は先ほどよりも体を震わせると、声にならない悲鳴をあげ、そのまま気を失ってしまった。

 

「ん………んぁ」

 

 僕は提督の首から口を離し、気絶した提督をそっと布団の上へ寝かせる。

 付けていた首輪も外し、ベタついていた体も用意していたタオルで拭き取り綺麗にする。

 

「提督…」

 

 気を失って横になっている提督の顔を見ると、少し疲労を感じているような顔をして寝ていた。

 こうなった原因は勿論僕にあるのだが、罪悪感などは感じていなかった。

 

 だって、コレは躾なんだから…

 

「またこんな事をしたら、次はもっとヒドイ事になるからな…?」

 

 そう言いながら提督の頬を撫でる僕の顔は、多分、歪んだ笑みを浮かべていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 提督の首に付いた噛み痕は、まるでマーキングされたように、その後もずっと残り続けていた。

 





ようやく、タイトルに合ったものが出来たかなと思っています。

今までヤンデレをどう表現すればいいかで迷っていたせいもあり、手応えも感じています!

次回もよろしくお願いします!閲覧ありがとうございました♪


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大鳳と病室にて


 ………前回の投稿からかなり時間が経ちました。本当に申し訳ありません。謝罪する事しかできません。これから少しずつでも投稿していけたらなと思います。本当に申し訳ありませんでした。



「………」

 

 ある日の夕暮れ、鎮守府の病室に二つの人影があった。沈んでいく太陽がその二人を照らしている。

 

 二人の内の一人は、この鎮守府を指揮している提督。だが、その提督は今はベッドの上で静かに寝息を立てている。

 その隣では、提督の事を気にかけるように椅子に座っているもう一人がいた。

 

「提督…」

 

 彼女は正規空母の大鳳。黒髪のショートボブでもみあげが長く、頭には艦尾を意識したヘッドギアをつけている。体格だけならば、駆逐艦の子達ともあまり変わらない位だ。

 そんな彼女が何故、提督と一緒に病室に居るのか

 

 

 それは数時間前まで(さかのぼ)る。

 

 

 その日、大鳳はランニングをしていた。ちなみに彼女にとって毎日の走り込みと筋トレは欠かせないものになっている。

 

「ふぅ…」

 

 日課のランニングを終え、自室へ戻ろうとする。先程走っていた為、額には少し汗をかき、顔も僅かに紅潮している。その姿はまさにスポーツ女子を彷彿させるようだった。

 

「少し汗かいちゃったわね、シャワー浴びてこないと」

 

 汗を流すため、彼女は浴場へと歩を進める。彼女もれっきとした女性だ、汗をかいたままの体をそのままなどにはしない。

 

「今度は提督と一緒に走ったりしたいなぁ…けど、提督は体調が優れないし…」

 

 歩いている最中、そんな事を口ずさむ。だが、提督の体の事を考えるとそれは少し難しいだろう。

 

「あ、なら散歩なんてどうだろう!走る必要もないし、歩く位なら提督も大丈夫だろうし!一緒におしゃべりしながら散歩できたら楽しいだろうなぁ♪」

 

 提督と二人でゆったりと過ごしている状況を頭に思い浮かべながら、彼女は嬉しそうに微笑む。彼女だけが例外ではなく、ここにいる艦娘達もまた、彼といるだけで嬉しいと感じるのは皆一緒なのだろう。

 

「今度誘ってみようかしら『ドン』…え?」

 

 突然大きな物音がし、足を止めてその方向を向く大鳳。今彼女がいる場所は、浴場まではまだ離れている所であり、人通りも少ない場所である。そんな普段人気も無い所で、突然の物音に不自然さを感じはじめる大鳳。

 

「何か物が落ちた音、にしては大きいわね。この部屋から聞こえたみたいだけど…」ガチャ

 

 疑問を抱きながらも原因を探るため、音がしたであろう部屋の前までやってきた彼女は、恐る恐るドアノブに手をかけ、静かにドアを開けた。

 

「………えっ…?」

 

 呆気にとられた彼女の目の前に映し出されたもの、それは…

 

「提督…?初…月…?」

 

 力なく横たわっている提督と、それを抱き抱えている初月の姿だった。

 

「………大鳳?」

 

 大鳳の存在に気づいた初月はゆっくりと視線を向けた。だがその瞳は、光を失い、酷く淀んだ目をしており、いつもの初月ではないことを物語っていた。

 

「……こんな所に来て、どうしたんだ?」

 

「どうしたんだって……あなたこそ…ここで何をしているの?それに…提督はどうしたの…?」

 

 衝撃的な現状に頭がついていかず、声を震わせながら初月に質問をする。

 提督へ視線を向けると、服は(はだ)けており、その間から見える素肌には、所々(あざ)のようなものが出来ているのが見えた。

 

「……別に、どうもしてないよ」

 

「じゃあ、どうして提督はそんな乱れた格好で気を失っているの…!何も無いわけないじゃない…!」

 

「………」

 

 素っ気ない初月の返答に、大鳳は苛立ちを募らせ強めの口調になる。

 そんな彼女に対し、初月は何か反応を見せる様子もなく、視線を提督へ戻し、彼の頬に手を添えてこう言った。

 

「…これは躾だ」

 

「躾って…!ふざけないで!!貴女は何を言っているの!?提督はペットじゃないのよ!?」

 

 予想外な初月の発言に、大鳳は怒りを露にする。

 普段から落ち着いている彼女が、ここまで口調を荒らげるのは滅多に無いことだ。

 だが、それだけ彼女にとっては余程の事だったのだろう。

 

「身体中のその痣は何なの!提督が生まれつき体が良くないのは貴女だって知っているでしょう!?それを躾だなんて…一体何を考えているの!!」

 

 部屋中に響き渡る大鳳の叫びは、容赦なく初月を責め立てる。それでも初月は動じる事はなく、先程から同じ体勢でじっとしていた。

 

 しばらくして、騒動を知り駆けつけた者達によって、初月は別な場所に連れていかれ、提督は医務室へと運ばれた。

 提督はすぐに診察されたが、体に異常は無くそのままベッドへ寝かされた。

 

 

 そして今に至る。

 

 

「提督……」スッ

 

 提督の頬を優しく手で触れ、様子を伺う大鳳。

 

 やはり先程の事があったせいか、彼女からはいつもの明るい雰囲気がなかった。

 目の前で自分の信頼している人があんな状態になっていた事に、彼女は精神的にきているものがあった。

 

「…様子はどうだ?」ガチャ

 

「武蔵……」

 

 そんな所にドアを開けてやってきたのは武蔵だった。

 

「そっちの方は終わったの…?」

 

「ああ、粗方な。まだ提督は眠っているようだな」

 

「えぇ…目が覚めるまで、もう少しかかると思うけど」

 

 そうか…と言い、壁に背をもたれかける武蔵。彼女もまた、提督の身を案じていた。

 

 ちなみに、提督の付き添いに大鳳を指名したのも彼女であり、現状で一番の適任者だからという理由だった。

 

 そして、先程まで初月の尋問を担当していたのも彼女だった。

 何故、初月が提督にあのような行為をしたのか?初月(いわ)く、ああでもしないとアイツはまた無理をし続けて倒れてしまう…という理由からの行為だったそうだ。彼女なりのやり方だったのだろうが、少々度が過ぎたのも事実。今では初月自身も反省しているようだが、しばらくは自室待機という罰を命じられ、その場は締めくくりとなった。

 

「………」

 

「初月も、奴なりに心配しての行為だったんだ…少しやり過ぎたがな…」

 

「…そうだとしても……けど…!」

 

「お前の気持ちも分からんでもない…だが、奴の本心も私達と同じだ。今回はやり方を間違えただけなんだ。だから、あまり奴を責めないでやってくれないか?」

 

 頼む…と、武蔵からの頼みに納得しきれないといった表情をする大鳳。

 

 隣ではまだ提督は眠ったままだが、心なしか先程よりも安らかに眠っているように見える。

 そんな提督の表情を見て少し落ち着いたのか、分かったわ…と呟く大鳳。彼女の一言に、武蔵も表情を和らげた。

 

「…少し休んだらどうだ?私が変わるぞ?」

 

「いえ、大丈夫よ」

 

 武蔵の付き添いの交代をやんわりと断る大鳳。その声からは、いつものような明るさが戻ってきているようだった。

 

「先程から付きっきりなのだろう?それこそ、無理は禁物というものだろう?」

 

「それを言うならあなたもでしょう?初月の尋問が終わったら、そのまま真っ直ぐこっちに来たんでしょう?貴女こそ休むべきではないかしら」

 

「それには及ばんよ、あの位休む内にも入ら「それに…」…ん?」

 

「これの一番の適任は私なんでしょう?」ニコッ

 

「…むぅ」

 

 大鳳の一言に、先程自分が言った事を後悔しはじめた武蔵。本音を言えば武蔵もまた、提督の付き添いをやりたかったようだが、自分で墓穴を掘ってしまったようだ。

 

「大丈夫よ、ちゃんと見ておくから」

 

「…分かった、では後は頼んだぞ」ガチャ

 

 渋々納得しながら部屋を退出する武蔵。そんな彼女を見送りながらも、大鳳は彼女の心が読めていたようで、その事に思わず笑みをこぼしていた。

 

「…う、うぅん…」

 

「!…て、提督っ!」

 

「あ、アレ…?大、鳳…?ここって…」

 

 ようやく目を覚ました提督は、ここはどこか辺りを見回しているようで、大鳳から医務室だと告げられると、先程自分の身に起きた事を思いだしはじめた。

 

「…あぁ、そういえば、初月に…」

 

「覚えていますか?それよりも、具合の方はどうですか?」

 

「う、ん…大、丈夫…!」ググッ

 

「だ、駄目です!!無理に動いては!今は安静にしていて下さい!」

 

 体を起こそうとすると、大鳳がすかさず止めに入りまた寝かされる。正直、さっきまで眠ったままだったので、体にはまだだるさが残っていた。

 大鳳も提督がようやく目を覚ました事によって、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 そして提督は、大鳳から今までの事を説明されるとすべて理解し、皆に感謝しながら大鳳にありがとうと礼を言った。

 

「…初月は今どこに?」

 

「今は自室に居ると思われます。武蔵からは反省しているようだった…と」

 

「そうか……なぁ、大鳳」

 

「はい…?」

 

「今度初月に会ったら、あまり責めないでやってくれないか?悪気があった訳じゃないと思うんだ」

 

「はい、それも武蔵から言われているので大丈夫ですよ。それに私自身も、少し興奮していたものでしたから…」

 

「ごめんな…?いつも迷惑ばっかかけて…」

 

 そんな事ありません…と、顔を紅潮させながら言う大鳳はどことなく照れているようだった。

 

「…それに、普段から良くしてもらっているのは私達の方ですから。迷惑をかけているのは、むしろこっちで…」

 

「そんな事ないよ…俺が元々病弱じゃなければ、こんな事にだって「それこそ違います…!」…大鳳?」

 

 提督の言葉を遮って、震える声でそう言い放った大鳳。

 

 その顔を見ると、今にも泣きそうな悲しい表情をしていた。

 その表情を見た提督はハッとしていた。

 

「……提督が元々お体が良くないのは勿論知っています…!それをずっと気にしている事も…!でも、それは仕方ない事なんです…!生まれつきのものなんですから…」

 

「だ、だから、俺がこんな持病さえ無ければ…」

 

「ですが!私達はそのせいで迷惑していると思った事は一度もありません!」

 

「っ……」

 

 大鳳の言葉に胸を打たれる提督。

 気がつくと、提督の手が大鳳の手によってしっかりと握られていた。その手はとても温かく感じられる。

 

「私達がいつも頑張っていられるのは、貴方がいてこそなんです!貴方のその優しさのおかげなんです!」

 

「………」

 

「確かに、提督は体が良くありません…けど!だからこそ私達は貴方のお役に立ちたいんです…!いつも、笑っていてもらいたいんです…!」

 

「大鳳……」

 

「だって…!私達の…私の……大切な人なんだから…」ポロッ

 

 彼女の瞳から、一滴の涙が落ちる。

 

 その様子を見た提督は、またしてもやってしまったと後悔する。

 彼女達が自分の事を心から慕ってくれているのは前から知っていた筈なのに。なのにどうして、いつも同じ事を繰り返して彼女達を悲しい思いにさせてしまうのか。

 

(どうして、俺はいつもいつも…!)

 

 自分の不甲斐なさに腹が立ち、唇を噛み締める提督。

 

 大鳳は顔を俯かせたままなので、どんな顔をしているのかは分からないが、泣いているのはなんとなく察することができた。

 

 そして提督は、自分の手を握っている大鳳の手に、自分のもう片方の手を重ねた。それに気づいた大鳳はゆっくりと顔上げ提督を見つめた。

 

「ありがとう、大鳳。すごく嬉しいよ、そんなに俺を想ってくれていて…俺は本当に幸せだ…」

 

「提、督っ…」グスッ

 

「俺はもう大丈夫だから…この持病もしっかりと受け止めて、頑張るから…!だから…!これからも俺に協力してくれないか?」

 

「っ…!はいっ、勿論です提督!私も貴方の為にこれからも頑張ります!」

 

 お互いに重ねてる手を強く握り締める。

 その瞳には、新たな決意を決めた思いが宿っており、より一層二人の絆が強まった証拠でもあった。

 

「あっ、それと、もし良ければなんですけど…」

 

「うん、何?」

 

「今度、天気が良い日があったら、そのぅ…一緒に外で散歩なんてどうでしょうか…?」モジモジ

 

 思い出したように提督に散歩の誘いをする大鳳は、顔を赤くしながら、人差し指同士をツンツンとさせ、あどけない様子になっていた。

 そんな彼女を微笑みながら提督は、そうだな、今度一緒にな…?と言うと、満面の笑みを浮かべてとても嬉しそうにしていた。

 

「あぁ…でも、近々に別な艦隊と演習があったっけ?」

 

「あっ…!そういえばそうでしたね」

 

「散歩はその演習が終わってから、かな?」

 

「そうですね…うぅ、嬉しくて忘れかけてました///」

 

 更に顔を赤くする大鳳。それを笑顔で見つめる提督。微笑ましいその光景はいつもの日常が戻ったようだ。

 

「じゃあ、次の演習は頼むよ、大鳳」

 

「はい、任せて下さい!貴方とこの艦隊に勝利を!」スッ

 

 凛とした雰囲気になった大鳳は、夕陽をバックに敬礼をした。

 





 ご閲覧ありがとうございます。
 一年以上投稿できなかったのは、多忙という理由なのですが、言い訳もいいところなのは承知しております。
 お気に入りしてもらえてる方々には、迷惑や不満を与えてしまったかと思います。
 改めて申し訳ありませんでした。これからは少しずつでも投稿できるよう精進して参ります。


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家庭的な武蔵 前編


 …最新話、投稿です。



 

「ぅ…うぅん、朝か…」

 

 ある日の朝、顔に眩しさ感じて目が覚めた提督。どうやらカーテンの隙間から入り込んだ陽の光が、彼を照らしていたようだ。

 

「あと…もぅ…少し…」ゴロ

 

 この提督は朝には弱いのか、また寝ようとして反対側に寝返りを打つ。だがそこで違和感に気づく。

 

(うぅ…何か目の前に違和感が…息が苦しい)

 

 顔に何かが当たっていて息ができないようだ。ぼんやりとしたままソレが何なのか手で触って確認する。

 

(柔らかい…?枕…か?)

 

 ソレは何やら柔らかいモノらしく、瞼を徐々に開けていくと目の前には白と茶色?のような、二色が見えた。

 

「おはよう♪朝から大胆だな、相棒?」

 

「………」

 

 目の前には、いつの間にかベッドに入り込んでいたであろう武蔵がにこやかにそこにいた。

 

 

 

~数十分後~

 

 

 

「ほら、出来たぞ?冷めないうちに召し上がれ♪」

 

「……あぁ、ありがとう…」

 

 ベッドから起きた後、テーブル席に座らされた提督の目の前には朝食が用意された。ご飯、味噌汁、焼き魚の三品は、まさに朝食の定番といったメニューだった。

 

「…い、いただきます…」

 

 初めに味噌汁に手をかけ、ソレを口に含む提督。

 

「…美味しい…!」

 

「フフッ、それは良かった♪」

 

 思わず味の感想を口に出してしまい、それを聞いた武蔵は嬉しそうに微笑んだ。

 その後も、黙々と食べ続ける提督を武蔵はずっと見続けていた。

 

「………」モグモグ

 

「……♪」

 

 提督が朝食を食べ終わるまで、その状況はずっと続いていた。

 

「…ご馳走さまでした」

 

「お粗末さまでした♪どうだ?旨かったか?」

 

「うん、すごく美味しかったよ。これって武蔵が作ったんだよな…?」

 

「ああ、お前の為にな。口に合ってくれたようで良かったよ」フッ

 

「そ、そうか…ありがとう。(…武蔵って料理出来たんだ)」

 

 正直、今彼の中では、朝食を食べた満足感よりも、彼女がその朝食を作ったという事実に驚いていた。

 食べ終わったのを確認した武蔵は、食器を流し台まで持っていき皿洗いを始める。提督はそんな彼女の後ろ姿をぼうっと見ていた。

 

(…驚いたな、てっきり武蔵は武人ってイメージだったから家庭的な事とか無縁なものだと思ってたんだけど…)

 

「ホラ、食後の珈琲だぞ」スッ

 

 一人でそんな事を考えていると、食器洗いを終えた武蔵が目の前に珈琲を差し出してきた。珈琲のいい香りでハッと我に返る提督。

 

「…あ、ありがとう武蔵。悪いな朝から」

 

「なに、気にするな。私がしたいから勝手にしている事だ…それと、何か考え事でもしていたのか?ぼうっとしていた様に見えたが…」

 

「…いや…別にそんな事ないよ?寝起きだからそう見えただけだろ?」ズズッ

 

「そうか?私には、まるで私が料理出来るのが意外だった、と思っている様に見えたんだが?」

 

「!…ゴホッ!ゴホッ!」

 

 思っていた事をズバリ当てられ、思わずむせる提督。飲んでいた珈琲も淹れたてだったので、熱さで余計に喉がやられて苦しんでいるようだった。

 

「その反応、どうやら図星のようだな…」

 

「ち、違っ!決してそんな意味があったんじゃ…!ゴホッ!ゴホッ!」

 

「あぁ、大丈夫か?」サスサス

 

 提督の傍に寄り、その背中を優しく擦る武蔵。提督が落ち着いてくると、今度は冷たい水を持ってきてソレを飲ませた。

 

「ふぅ…それで、こんな朝はやくからどうしたの?今日は非番のはずだったと思うけど」

 

「ん?あぁ、特に理由はない。ただの気まぐれさ」

 

「気まぐれって…わざわざ人の部屋に入り込んでまで何を…」

 

「ふむ、まぁ強いて言うなら…お前の寝顔が見たくなってな」フフッ

 

「…からかうなっ」

 

「からかってなどいないさ、本当に可愛らしい寝顔だったよ。早起きした甲斐があったというものさ♪」

 

 武蔵は微笑みながらそう口にする。普段からこう笑ったりする事も中々ないので珍しくも思う。

 戦闘中のあの凛々しくも大胆な姿からは想像できないほどに、今の武蔵はこの状況を楽しんでいるようだ。

 

「そもそも人の部屋に!それも寝室に忍び込むヤツがいるか!」

 

「私だけではないだろう?それに何を今更言っている。今に始まった事でもないだろうに」

 

「それが当たり前みたいに思ってるところがお前達は少しばかりどうかしている!」

 

 そう、過去にも今回のような出来事が何回かあった。

 始まりは加古が寝ぼけて自身の部屋と間違えて入ってきてしまった事があり、そのままベッドに入り込んでしまい、俺を抱き枕状態にして朝を迎えるという出来事あった。正直、あの時目が覚めた時は驚きよりも、身体中の節々の痛みの方が辛く感じた。抱かれていたよりも、あれは締め付けられてた方に近い。

 

「加古はまぁ寝相が悪いのは知ってたから合点はいくけど、その後に初月と木曾、挙げ句に古鷹と大鳳までくるのは一体どういう訳なんだ!」

 

 加古一件を皮切りにしてか、後日から代わる代わる別な艦娘が忍び込むプチ事件が立て続けに起こった。

 初月は馬乗りで跨がり、木曾は俺の寝ているベッドに腰を掛けながら目覚めるまでそのままでいたり、大鳳はベッドの隣に椅子を持ってきて座り、まるで病人を見舞いにきたかのような様子でいたり

 …まぁ、病人には変わりないんだろうけど…。

 その中でも、古鷹の行動には少しばかり恐怖を感じた。だって起きた瞬間に目の前には朝食が用意されていたのだから。『あ、おはようございます提督♪朝御飯できてますよ♪』と、目の前には古鷹お得意の車海老カレーが出されており、少し辛い思いをしながら食べた事があった。

 あの時の古鷹の行動と笑顔は、今でもちょっとしたトラウマだ。

 

「それに…ましてやお前まで」

 

「気まぐれ、と言っただろう?私だってこういった事をする時もあるさ」フッ

 

「だとしても、少しは節度を持った行動というものを…」

 

「…まさかお前知っていないのか?」

 

「何を…?」

 

「他の艦娘達がこの部屋の合鍵を持っていることを、だ」

 

「………え?」

 

 今、武蔵からとんでもない事をカミングアウトされた。俺は予想外の言葉に思わず気の抜けた返事をしてしまう。

 

「………それって、どういう事なの?」

 

「む?いや少し前に、お前が急に倒れてしまった事があっただろう?その後に艦娘同士の話し合いが行われてな。その時に決まったことなのだが」

 

「…具体的にその話し合いの内容は?」

 

「もし、お前が一人だけで前のような状況になってしまった場合すぐ対応できるようにだ。と言っても、基本的にお前には秘書艦として常に誰かが着いている、問題はないはずなのだが、例外もある。それは…」

 

「…一日の仕事が終わった後のプライベートな時間?」

 

「そういう事だ」

 

「はぁ…話は理解できたけど、そんな大事なことはまず俺に伝えろよ…」

 

「ふむぅ、私も他の誰かが伝えてすでに知っているものだと思っていたからな。まぁ、許してくれ」

 

「怒ってるわけじゃないから別に…けど、逆に言えばそれは俺が本当に一人でいられる時間がないってことじゃ…」

 

「裏を返せばそう捉えられなくもないが、お前の為なんだ。理解してくれ。それに…お前に何かがあっては私も気が気じゃないからな」ギュッ

 

「む、武蔵…?」

 

 俺の背後に回ってきた武蔵はそう言いながら、そっと覆い被さるように腕を前に回してきた。俺よりも武蔵の方がずっと身長が高いせいもあってか、すっぽりと埋まってしまう。

 

「私だってお前のことを大事な仲間だと思っている…いや、それ以上に大切な存在なんだ。お前が居てくれたから今までやってこれたんだ、そしてこれからも、な…」

 

「…それは俺だってそうだよ。皆が、武蔵が居てくれたお陰で今も提督としてやってこれたんだ…本当に、毎日助けてくれてありがとう」

 

「フフッ、やはり相棒は優しいな♪」

 

 武蔵は、俺と二人だけの時は相棒と言ってくれる。それはつまり、俺を信頼してくれているからだろう。

 彼女はここの艦娘達の中ではもっとも付き合いが長く、お互いをよく理解している。だからこそ、俺も彼女に対しては絶対の信頼を置いている。

 

「でも…正直、武蔵は本当に頼りになるよな。俺よりよっぽど提督に向いてるよ」

 

「む?」

 

「普段の書類整理とかもそうだけど、戦闘の時だって俺の指揮がしっかりしていないせいで危うい状況になった時とか、率先して皆を率いて的確な指揮でその状況を打破してくれて…」

 

「………」

 

「目の前と周りの状況をよく見れている証拠だよ。俺なんかいなくても、充分やっていけるほどに…って、イテテテッ!」

 

 喋っている最中に急に両頬に痛みを感じる。どうやら武蔵が頬をつねったようだ。

 

「全く、長のお前がそんな事で卑屈になってどうする。いい加減呆れてくるぞ」

 

「む、武蔵?」

 

「お前との付き合いも長い、何を思っているかも大体は想像がつく。だがな…どんな理由があれ、私にはお前が必要だ」

 

「…っ」

 

「無論、そう思っているのは私だけではない。他の皆にしてもきっとそうだろう。それは、お前も重々承知のはずだろう?」

 

「…うん」

 

「提督という立場だからといって、全てのことを完璧こなさなければいけないわけではない、人というのは半端な位が丁度いいのさ…まぁ、艦娘の私が言うのも何だがな…」

 

「武蔵…」

 

「だからこそお前と巡り会えたのだからな…お前が悩んでくれたお陰で、繋がりを持てたのだから。もし、お前が何でも完璧にこなせる人であったのならば、私の手など借りることもなく、今の関係を築けなかっただろう…」

 

「…」

 

「だから半端者でいいんだよ。見栄を張らなくたっていい、出来ないことだってあっていいんだ。そのお陰で、お前とこうやって楽しく過ごせているんだからな。他人と自分を比べて落ち込む必要はない、過去の事を気にして卑屈になる必要はない、その事実があったから充実した今があるんだ、今までのお前の行動に間違いなんてなかったんだよ…」

 

「…ぅ、ん」

 

「というより、私がしたくてやったことだからな。お前が気にする必要は全くない…頑張っているよ、お前は」ナデナデ

 

「………」ウルッ

 

「む、どうした?」

 

「!な、何でもないっ」

 

 武蔵はそう言いながら俺の頭を撫でている。

 優しい、先程武蔵は俺にそう言ってくれた。けど、本当に優しいのはお前の方だろ?急にそんな言葉をかけられたら…

 

「…グスッ」

 

「泣いてるのか、相棒?」

 

「ち、違う!これは…あ、アレだ!下を向いていたから鼻水がだな!」

 

 どんな言い訳だよ、と思わず自分でも思ってしまう。それほど気が動転していたのだろう。

 俺は顔を見られないよう必死に抵抗していたが、相手が艦娘ではその抵抗も無意味。

 ましてや武蔵、それも戦艦級ならばパワーは半端ではない、何の抵抗もできないまま顔を無理矢理向かされてしまう。

 

「…ぅぅっ」

 

「っ…相棒」ドキッ

 

「み、見るなよぉ…」

 

 大の男が泣き顔をまじまじと見られている。その事実が俺の羞恥心を異常なまでに駆り立てる。

 やばい…色々と本当にやばい。

 

「………相棒」

 

「……ぅ」

 

「…お前の泣き顔…本っっっ当に可愛らしいなあ♪

 

「ひっ…!」

 

「もっとよく見せてくれ…!」グイッ

 

「あぅ…!」

 

 興奮した武蔵は俺更に引き寄せる、お互いの額が付いてしまうほどに。

 勢いよく引き寄せられたせいで息が苦しくなってきた。

 

「む、むさし…苦しい」

 

「…!す、すまない!私としたことが…」パッ

 

「ハァハァ…ううん、大丈夫…」

 

「ほ、本当にすまない、こんな事をするつもりでは…」

 

「大丈夫だって、本当に…」ハハッ

 

 先程の武蔵の眼は間違いなく獲物を見据えたハンターの眼だった。蛇に睨まれた蛙とはこの事か、全く動けなかった。

 戦闘時の武蔵でも、あのような眼を見たのは初めてだったから驚いている。

 

「むぅ…ん?相棒、その首はどうした傷か?」

 

「え?あぁ…これ、前に初月に…ね」ハハッ

 

「!…あの時か…。まだ痛むのか?」

 

「あぁいや…痛みはほとんどないんだけど、何か妙に痺れるっていうか、くすぐったいような感覚がまだね」

 

 服が乱れたせいで首もとが露になっていたようだ。丁度あの時にできてしまった噛み痕が武蔵の目に写ってしまっていた。

 

「治療はしているのか?」

 

「いや、特にしてないよ。傷口はもう治ったみたいだし、まぁ痕は残ってるけど」

 

「本当に大丈夫なのか?完治したのなら、そのような症状はしないと思うが…医療箱はどこだ?」

 

「えっ?いや、大丈夫だよ本当に痛みもないから」

 

「何かあってからでは遅いだろ…これか。よし、ベットにうつ伏せになれ」

 

「えぇ!い、いいよ、大丈夫だって!」

 

「いいからこっちにこい」グイッ

 

「うわっ!ちょっと武蔵!?」

 

 医療箱を持ってきた武蔵はそのまま俺を抱き上げた。前にもこんな事があった気がするが、今はそれどころではない。

 そのまま寝室のベットに寝かされてしまった。

 

「むぐっ、お、おい武蔵!?」

 

「いいから大人しくしていろ」シュルッ

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 Tシャツまで無理矢理脱がされた俺は、上半身裸のままうつ伏せに押さえられ、されるがままの状態にされてしまった。

 

「いい子だから大人しくしていろ」スッ

 

「いや、だから!……うぅっ!?」ビクッ

 

 噛み痕の部分に消毒液がしみた布をあてがった瞬間、全身を電流が駆け巡った感覚に襲われ、思わず体が反応してしまう。

 

「はぁ…!む…さし…だ、大丈夫…だから!コレとって、あぅっ!」ビクッ

 

「…落ち着け、ゆっくりと深呼吸してみろ」

 

 そのまま俺は武蔵に治療をされ続けた。

 

 

 続く

 




 えと、続きます。はい。


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家庭的な武蔵 後編

どうも皆さん宴大好きです。
いきなりですが、名前の由来は特にありません、ただの思いつきです。
ですので、実際は飲み会とかのワイワイとした事は特別好きというわけでもないのです。
どちらかというと、孤◯のグルメ風の静かな自由きままに楽しむ感じが好きなのです。



「うっ…!ふぅ…!」

 

「そうだ、力を抜いてゆっくりな」

 

 武蔵にベットにうつ伏せに寝かされた後、以前初月に付けられた傷の手当を受けていた。

 といっても、今では痛みは一切なく完治しているといってもいい位なのだが。

 

「っ!……はぁ…!」

 

「ふむ、確かに傷は治ってはいるみたいだが、その痺れるような感覚は何なのだろうな…?」

 

「俺にも…よく、分からなくて…痛みはないんだけど、何故かそんな感覚が…!」

 

「…むぅ」

 

 そう、何故か完治したあとに、その部分だけが以前よりも敏感な反応をするようになり、触られたりすると、今のような痺れる感覚を全身に感じてしまうのだ。

 それはもう、息を軽く吹きかけられても反応してしまうほどに。

 とりあえず起き上がり腰掛ける。

 

「医者が言うには、噛み痕だけは残ってるけど、あとは大丈夫だって…」

 

「そうか…まぁ、医者が言うのならそうなのだろうが…」

 

「…武蔵?」

 

「……」ソワソワ

 

 そういえば先程から、何故か武蔵は落ち着かない様な感じでソワソワしているのだ。

 普段の落ち着いた感じはどこへやら、今の彼女は、ちらちらと俺を見ながら視線を反らすのを繰り返している。

 

「どうかしたの?」

 

「…いや…そのような反応をされ続けては、こちらとしても少々、な?」

 

「へ?」

 

「いやだから…!そう…喘がれてはな///」

 

「なっ!?」

 

 思ってもいない発言で驚愕してしまった。

 先程から彼女が落ち着かないのはそれが原因だったのか。

 いや、それにしても喘いでいるというのはどうなのだろう?

 

「ち、ちょっと待って!これはそんなつもりじゃなくて!」

 

「わ、分かってはいる…分かってはいるが、お前の反応があまりにも…///」

 

「な、何だよ…」

 

「…可愛い過ぎるから…///」

 

「な、な…!!」

 

 普段の武蔵は言わぬであろうその台詞に、俺はもの凄く恥ずかしくなってきた。

 大体、そういう台詞は男が女に言う台詞だろう!?

 まぁ…そもそも自分の部下に可愛いなどと言われてしまっている時点で俺も俺なのだが…。

 

「…と、とりあえず!俺はもう行く!」スッ

 

 俺はこのままではマズイと悟り、時間はまだ早いが執務室に向かう為立ち上がった。

 

「ま、待て!」グイッ

 

「おぅっ!」

 

 思わずどこかの駆逐艦のような声をあげながら瞬間、俺は武蔵に腕を掴まれて引き寄せられ、そのまま彼女の体にすっぽりはまるように埋まってしまった。

 

「…どこへ行くつもりだ?」

 

「どこって、執務室しかないだろ…」

 

「早い、まだ時間があるだろう…?」

 

「仕事は早めに取り掛かった方がいいだろっ」

 

「駄目だ」ギュッ

 

 先程と似たような体勢のまま、俺は武蔵に背後から抱き締められている。

 どうにか抜け出そうと抵抗してみるが、彼女の拘束からは抜け出すことが出来ない。それどころか、少しずつその拘束が強まっている気がする。

 

「全くお前は…さっきも言ったばかりなのにまるで分かっていないな…」

 

「この状況でなにを…」

 

「まさか聞こえなかったのか…?そうか、なら…」

 

「っ…?」

 

「はむっ♪」

 

「いっ~~~…!!」ビクゥ

 

 突然、右耳に柔らかい感触を感じた瞬間、全身を電流が伝うような感覚が襲ってきた。

 

「あむっ♪チュッ♪」

 

「ふぁう!!」ビクゥ

 

「フフフッ♪可愛いなぁ、本当に♪」クチュクチュ♪

 

 その原因は、武蔵が舌で俺の耳を舐め始めたからだった。

 

「ぐぅ…!む、さし…、な、なにを…!」

 

「んむぅ♪なに、聞こえの悪い耳を掃除しているだけだ、はむっ♪」

 

「ひぐっ…!」

 

「んちゅ♪クチュ♪…はぁ!…全く、人の言うことを聞いてくれない悪い耳には治療も兼ねてお仕置きをしないとな♪」ペロッ

 

「あうぅ!どういう…!意味、だよっ…!」ビクッ

 

「んむっ♪そのままの…意味だ…クチュ♪お前はいつもいつもそうやって…チュッ♪心配ばかりかけて…」

 

 執拗に右耳ばかりを責められ過ぎて、俺の感覚は凄まじいほど敏感になっていた。

 もはや右半身に至っては完全に麻痺をしたように、自分では立ち上がるのも困難なほど気力を奪われている。

 

「ぷはっ!…ハァハァ♪フフッ♪お前の耳、とてもおいしいぞっ♪」

 

「っ!…ハァハァ…くっ…ふぅっ…!」ビクッ

 

「今度はこっちも治療しないとな♪」

 

「ひっ!も、もうやめて…汚い、から…!」

 

「お前に汚い所などあるものか♪いいから大人しく治療されろ♪あむ♪」

 

「ひぐぅぅぅ!!!」ビクゥ

 

 武蔵にやめるよう懇願するも、結局は受け入れられずに今度は左耳を舐められる。

 もう俺は彼女にされるがままの状態になり、自分ではどうにも出来ない状態まで追い詰められていった。

 

「ぴちゃ♪ぴちゃ♪ジュルル♪んむぅ♪」

 

「はっ…はっ…!うぐ…ふうぅぅ…」

 

「お前も悪いんだからな?こんな可愛い表情で、可愛く喘ぐから♪」

 

 そう言いながら、武蔵は俺の耳を舐め続ける。

 そのせいで、俺の両耳は彼女の唾液まみれでベトベトだ。それでも彼女はお構い無しに舐め続ける。

 俺は肩で息をするほど呼吸が乱れ、全身も汗でびっしょりだ。

 

「ん、はぁ…♪それに…」

 

「はぁ…はぁ…ゴホッゴホッ…!」

 

「この白くて細い首も、とても美味しそうだ♪」カプッ

 

「ひゃああぁぁぁ!!!」

 

 次に武蔵は、俺の首を甘噛みしてきた。

 今のこの状態で、どこを責められても過剰なまでに反応してしまう俺には耐えられない刺激で、思わず叫ばずにはいられなかった。

 

「んっ♪んっ♪はぁ…相棒…!どうしてお前はそんなに…はむっ♪れろ♪はぁ…可愛いんだ…!チュッ♪女のような反応をして♪」

 

「ひぐぅ!やぁ…!!やめて!むさしぃ!!」ビクビク

 

「かぷっ♪れろれろ♪はむっ♪クチュクチュ♪むう…相、棒ぉ♪」

 

 今の武蔵は完全に自我を失っているようだった。

 本能のまま欲望を満たすことに固執している彼女には、提督の言葉は届かない。

 その中で、彼女の中に一つの思いが芽生えていた。

 

(…もし、あの噛み痕に…今、刺激を与えたら…)

 

 今の彼女には、もっと提督の表情を見たい、もっと提督の声を聞きたいといった思いしかなかった。

 

(………相棒)

 

 彼女と提督の付き合いは長い。だからこそ、お互いの事は誰よりも理解し合っている。

 昔から体が弱く病弱で、今でもそれを患っている。たまに体調を崩す時もあるなか、それでも提督は必死に彼女達の為に頑張ろうと努力している。

 そんな姿が、昔から彼女に儚くも美しく映っていた。

 

(………)

 

 だというのに、今自分がしているのは一体何だ?これでは恩を仇で返しているのと同じではないか?

 彼女達の為に、病弱ながらも必死に努力している提督に対し、これでは…

 

(…それでも私は…)スッ

 

「ぅぅ…ひっぐ…」ビクビク

 

 彼女は唇を首から提督の噛み痕へと移し…

 

「っ…!む、さし…!?」

 

「………すまん、相棒…」

 

「やっ、やめーーーー!!!」

 

 優しくかぶりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっっ~~~~!!!ああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、今までに感じたことがない衝撃が提督の全身を駆け巡った。

 

「うわあああ!!!やめ…ぎっ!!!ひぃやあああぁぁぁ!!!」

 

「ふぅ…!むぅ…!んん~~~~!!」

 

「や、やだぁ!!!んぐぅ!む、むさしっ!!!ひぐっ!やああぁぁぁぁ!!!!」

 

「れろ♪あむっ♪クチュ♪むぅ…!(あぁ、相棒!相棒!!もっと!もっと見せてくれ!!お前の泣いているその顔を!!)」

 

 提督の悶え苦しむその姿に、武蔵の心はより駆り立てられ、責めが徐々に勢いを増していく。

 提督は子供のように泣きじゃくりながら、必死にやめるよう訴えるが、もはやそれは逆効果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…あ、相棒…?」

 

「…えぐっ…うぅぅ…」ビク

 

 暫くその状態が続き、ようやく落ち着きを取り戻した武蔵は、ふと我に返った。

 そして、先程自分が犯した行為を悔やみ始めた。

 

(…私は、一体何をしている…)

 

 彼女の隣では、提督が力なくぐったりと横になっている。どうやら彼女の責めに堪えきれず、気を失ってしまっているようだ。

 苦しそうな表情で気を失っている提督の姿に、彼女は罪悪感を感じる。

 

(…これでは初月の時と同じではないか…!自分を抑えきれずにこのような…!恥を知れ…)ギリッ

 

 提督が病弱なことを理解している彼女からしてみれば、今回のこの仕打ちは愚行に他ならないものだった。

 歯を食い縛り己の行いを彼女は恥じた。

 

「………このままではいかんな…」

 

 彼女はそう言うと、ぐったりしている提督に寄り添い、唾液や汗で濡れてしまったところをタオルで拭き取り始めた。

 その間も、提督は目を覚ますことはなく気を失い続けていた。

 

 

 

 

 

「………うぅ」

 

 それから暫くして、ようやく提督は目を覚ました。

 そして、自分が気を失っていたことも理解したようだった。

 

「うぅん……っ!」

 

 体を起こそうとするが、先程の余韻がまだ残っているせいか、うまく力が入らない。

 何とか上半身だけ起こすことができた彼は、先程のことを思い出し複雑な思いを感じた。

 

(…あんな武蔵、初めてだったな…)

 

 彼女とは付き合いが長いが、初めて見る様子だったため、動揺しているようだった。

 噛み痕のところも、目覚めてから妙な感覚が続いているため、少し落ち着かない様子だ。

 すると、寝室の扉が開き、リビングから水を持ってきた武蔵が入ってきた。

 

「あ、相棒…。大丈夫…か?」

 

「うっ…うん、大丈夫だよ」ソワソワ

 

 彼女を見た瞬間、一瞬体を震わせた提督を見て、武蔵は申し訳なさそうな表情をし、本当にすまなかった…と謝罪をした。

 

「その、とりあえず水を持ってきたんだが…」スッ

 

「えっ…?あ、あぁ…ありがと、助かるよ」ゴクゴク

 

 武蔵から受け取った水を飲み干すと、提督は少し落ち着きを取り戻したようだった。

 その様子を見て、武蔵は先程の謝罪を続け始める。

 

「…先程は本当にすまない、お前が体が弱いと知っておきながらあのような行為を…」

 

「えと…武蔵…?」

 

「自分を制御出来ずにあんな愚行を、艦娘のリーダーとして失格もいいところだ…」

 

「あの…」

 

「無論処罰は受けるつもりだ。好きにしてくれ。いっそ解体してくれてもーーー」

 

「武蔵っ!」

 

「っ!相棒…?」

 

 提督の言葉に、武蔵は驚いた顔をする。

 

「…気にしてないから、俺」

 

「…それは」

 

「本当に気にしてないってば…確かに、さっきのことは驚いてはいるけど、悪気があった訳じゃないから…それに、ああなったのも、俺にも至らないところがあったわけだし…」

 

「っ!それは違う!あれは私が!」

 

「とにかくっ!俺が気にしてないんだから、許す許さないってのも無し!何も無しだから!」

 

「あ、相棒…」タジタジ

 

 提督の思いもしない言葉に、武蔵はどうしていいか分からず、困った様子をする。

 そんな姿も、今の彼からして見ると珍しく見えていることだろう。

 

「…正直、変なこと言うようだけど…大切にされてるなって思ったから…」

 

「え…?」

 

「いや、えと…普通だったらあそこまでされないでしょ?まあ、あれはやり過ぎたかもしれないけど…だけど!逆にあそこまでしてくれるのは、俺を思っていてくれたからやったことであって……ん~と、うまく説明できないけど…」アタフタ

 

「………」

 

「えと、とりあえず…武蔵が優しい…から」ニコッ

 

「っ!」

 

「だから、俺は気にしてないんだ。むしろ嬉しい…って言っちゃったら、それはそれで誤解を生みそうだな…うぅ、何て言ったら…」

 

「………///」

 

「う~ん……?武蔵…?」

 

「い、いや何でもない。とりあえず、こちらもすまなかった。以後気を付ける」

 

「?…あぁ、うん…」

 

 彼は、自分の説明がうまく伝わったのかどうか疑問に思いながらもとりあえずは、まぁいいかと済ませた。

 

(全くこいつときたら…人の気も知らないで///)

 

「武蔵?どうしたの?」

 

「…あぁ、何でもないよ」フッ

 

「そう?」

 

「あぁ、本当にな♪それよりも…そろそろ時間、まずいんじゃないか?」

 

「え?……って、本当だ!急いで準備しないと!」

 

 時計を見ると、そろそろ執務室に向かわないといけない時刻だった。

 提督は急いで着替えや準備を済ませようと、慌ただしく動き始める。

 

「…と!じゃあ、武蔵行ってくるから、今日はゆっくり休んで」

 

「ああ♪お前も気を付けてな?」

 

「うん、行ってくるよ…あ、相棒…///」

 

「!…あぁ♪」

 

 提督が部屋を出て行った後も、暫くその場に佇んでいた武蔵はこう思っていた。

 

(…あぁ、やはりこの武蔵…お前を愛しているようだ。相棒…)

 

 今日という日は、彼女にとって特別な日となったのだった。




ご閲覧ありがとうございます♪
前編、後編と続いたのはこれが初めてですね。
理由としましては、本来は1話にまとめて投稿する予定だったのですが、期間があまりにも空きすぎてしまったために少しでも早く上げなくてはと思い、このような投稿になりました。

…そもそも、一年以上も空きがあるのに、早く上げなくちゃと思う辺り、本末転倒とも思えますが(汗)

閲覧者の皆様にはご迷惑をおかけしました。
次回もよろしくお願いします!


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加古からの逃走 前編

皆様お疲れ様です。
最近は冬の到来を思わせるほどに寒くなってきましたね。
個人的に寒いだけならまだしも、雪が降られるともう参ってしまいます。せめて今年中には降らないでもらいたいですね。
さて、最新話の投稿です!

…サ◯エさんっぽくなりましたね…


「提督~?何処だよ~?」

 

「………」

 

「あたしからは逃げられないよ~」

 

(…くっ、やる気を出した加古から逃げるのは骨が折れるな…というか、どうしてこうなった…!)

 

 現在、彼は訳あって加古から逃走中である。

 部屋の隅のロッカーに身を潜めながら、息を殺し、何とかその場をやり過ごそうと必死になっていた。

 

「スンスン…ふふん♪分かるよ提督?この部屋にいるのは。提督の匂いがするもん♪」

 

「………!?(あいつの嗅覚は犬並みか!?)」

 

 どうやら加古には、提督の匂いが分かるらしく、この部屋の何処かに隠れているのは筒抜けらしい。彼はその事実に驚愕している。

 ちなみに、何故このような状況に陥っているかというと、数時間前まで遡る。

 

 

 

 

 

「ふわあぁぁぁぁ…今日も眠いねぇ…」ウトウト

 

「…いつものことだろ全く。よくそこまで眠くなれるもんだ」

 

「むぅ…不眠症ならぬ仮眠症ってやつ…?」

 

「仮眠の域を越えてるだろ、どう見たって」ハァ

 

「んふふ♪まぁ寝る子は育つって言うし?」

 

「お前の場合は寝過ぎだ、いいから執務に集中しろ」

 

「へいへい…提督ってば相変わらず冗談が通じないんだから…ふわあぁぁぁ…あ~眠い」

 

 今日の秘書は加古が担当だった。

 だが、彼女が無類の睡眠厨であることを知っている提督は、今日の執務作業を億劫に感じていた。

 

(ハァ…今回もまた徹夜かなぁ)

 

 その理由は、加古の仕事の効率の悪さにあった。

 毎度、彼女との組み合わせの日は、決まって日付が変わる時間まで執務が続いてしまうのだ。

 では何故、毎度徹夜になってしまうのか?原因はコレだ。

 

「全く、お前はいつもいつも…毎回徹夜させられてるこっちの身にもなってくれよ…………ん?」

 

「zzz♪」

 

「言ってる傍から早速寝るなぁぁぁ!!」

 

 このように、執務中にも関わらず仕事そっちのけで寝てしまうのだ。このせいで、作業ペースが落ちてしまい結果的に徹夜コースに直行という訳なのだ。

 前からこの状態が続いており、今となっては悩みの一つになっている。

 

「おい加古!起きろ!」ユサユサ

 

「う~ん…何すんのさ提督ぅ…」ウトウト

 

「それはこっちの台詞だ…!はぁ…ちょっと目を離すだけでこれだ…」

 

「…疲れてるの?じゃ一緒に寝る?」

 

「誰のせいだと思ってるんだ…!」

 

 呆れた提督は、彼女を放って一人で執務に戻る。が、生憎普段から二人で行っている作業は彼一人では限界があり、次第に焦りの表情が見え始めてきた。

 

(まずい…!このままじゃ終わらない…!しかも過去一番に進みが悪い!!……………加古だけに?…って何考えてるんだ俺はああぁぁぁぁ!!!)

 

 気持ちの焦りから思考までおかしくなり始めてきた提督。

 そんな彼をよそに、加古は特に気にする様子もなく、睡魔によって夢の世界へと誘われそうになっていた。コクリコクリと何度も頭を上下に振っているさまは、さながらヘッドバンドを決めている様にも見えていた。

 

「く…!加古、頼むから起きてくれ…!このままじゃ本当にまずい…!」ユサユサ

 

「むぅぅぅ…そんな事言ったってぇ…あたしも限界なんだよぉ…」ウトウト

 

「ぐぬぬ…!……………なら…」

 

「………うぇ…?」

 

「…今日この仕事を無事終えたら、明日明後日の二日間…好きに過ごす権利をやる…!」

 

「!……………まじ?」

 

「くっ!本当はこんな事は到底認められたものじゃないが…!俺の権限で特別に…本っ当に特別にな…!」プルプル

 

「…それって丸二日間、寝てていいってことだよね?」

 

「ああ…!好きに過ごしてくれて構わない!だから頼む!」

 

 そこまでして、今の提督は切羽詰まった状況なのだろう。もう徹夜での作業はごめんだ、という思いがひしひしと伝わってくる。

 

「俄然やる気出てきた」キリッ

 

 すると、その言葉を聞いた加古の様子が先程とは一変してまるで別人になった。閉じかかっていた目はパッチリと見開き、表情も呆けていた顔から、凛とした顔に変わっていた。

 

「…いけるか?」

 

「まぁ任しといてよ。あたし、やるときゃやるから♪…けど、それとは別に条件があるんだよねぇ」

 

「うえぇ!?この期に及んで何を!」

 

「大したことじゃないよ♪嫌なら別にいいけど?あたし寝るから」アクビ

 

「分かった!分かったよ!!可能な範囲でな!」ヤケクソ

 

「ヘヘッ♪決まりだね!」

 

 

 

 

ーーーー数時間後

 

 

 

 

「ふぃ~~~終わったねぇ♪」キラキラ

 

「…………」

 

「よっし!じゃあ提督!さっきの話しだけど……ってどしたの?」

 

(………終わっちゃった)

 

 あれから数時間後、机の上に山のように積んであった書類の束が綺麗さっぱり無くなっていた。

 提督は、予想外に短時間で終わらせられた事実に呆然としていた。いや、それよりも加古の仕事ぶりに驚かされていた。

 

(…というか、加古ってこんなに仕事できたっけ…?え?普段からあれだけ眠い眠いしか言わないで寝てばっかの加古が?)

 

 加古の仕事ぶりは手際がよく、報告書の整理や書類の押印など、ミスをする事なくこなしていた。しかも、仕上げた量は提督の量を凌駕する程、差をつけて終わらせてしまった。

 

「ちょっと提督、聞いてる?」ユサユサ

 

「…!、あぁ…ごめんごめん。で、何?」

 

「何じゃないよ!約束したでしょ、あたしのお願い、条件!」

 

「っ、そういえばそうだったな…でも、可能な範囲だぞ?」

 

「分かってるって♪でさ、最初に言った二日間休んでいいってヤツ、あれはいいや」

 

「え?本当に?」

 

「うん、代わりに…今夜一緒に寝てくれたらいいよ♪」

 

「………はい?」ポカーン

 

 加古が提示した条件、もといお願いに呆気にとられる提督。だがその願いは、逆に彼にとって困ったようでもあった。

 

「…何で俺と?」

 

「いやぁ、実は最近さぁ?提督の抱き枕がご無沙汰で、快眠という睡眠が取れてなくて困ってるんだよね~。寝れることは寝れるんだけど、目覚めがパッとしなくてさぁ?」

 

「そんな事で…他じゃ駄目?」

 

「えー!話しと違うよ!提督さっき約束してくれたじゃん!」

 

「いやいや!異性と一緒に夜を過ごすなんて流石にマズイだろ!?しかも上司と部下だぞ!」

 

「今更何言ってんだよぉ~!前にも似たようなのあったじゃん!…それに、先に手伝ってって言ったの提督でしょ?」

 

「そうだけど…!元はと言えば、お前もちゃんと仕事してくれたらーー」

 

「あー!あー!知りませんー!先に言ったもん負けなんですー!」

 

「おまっ…!子供か!?」

 

「うるさいうるさーい!!いいから約束通り一緒に寝ろおぉぉぉ!!!」ガバァ

 

「うおぉぉ!?」サッ

 

 痺れを切らした加古が飛びかかるのを、提督は寸前で避ける。彼は慌てて彼女から距離をとるが、彼女の様子は普段とは一変して、まるで獣のように鼻息を荒くしながら提督を見据えていた。

 

「フゥゥゥ…ていとくぅ~~?」ユラリ

 

(まずいまずい!!何故かまずい状況になった!!)

 

「大人しくしてよ~?」

 

「くっ!ここは逃げるしかないぃぃぃ!!」バッ

 

 にじり寄ってくる加古から、提督は逃走を決意し、執務室を後にした。

 彼が去った後、一人取り残された彼女はその場に佇んでいた。特に追いかけるような素振りも見せず、ただじっと、彼が去った後を見据えていた。

 だが、その表情は不敵に笑っていた。

 

「フフッ…あたしから逃げられるって本気で思ってるの?いいよ~鬼ごっこスタートだぁ♪」

 

 ゆらゆらと体を揺らしながら、彼女はゆっくりと歩きだす。提督との距離は大分離れてしまっているようだが、彼女は特に気にする様子はなかった。

 むしろ、提督が何処に行ったのかすでに検討がついているようでもあり、ただゆっくりと、彼の後をついて行くのだった。

 

 

 

ーーーそして今に至る。

 

 

 

 一目散に彼が逃げ込んだ先は、ほぼ物置と化している空き部屋だった。

 部屋の中は、本棚や機材などが置かれており、その中でも彼が隠れるのに選んだ場所は、部屋の隅に置かれていたロッカーだった。

 だが、生憎その中は成人の男性が入るのには少々狭いようで、中に入っている彼は窮屈な状態のまま、その場をやり過ごそうとしていた。

 

「ねぇ~提督ぅ、一緒に寝るだけなんだよ~?何で逃げんのさ~?」

 

「………」

 

「それに、こんな所にいたんじゃ、また体調悪くするよ~?早く出てきてよぉ…」

 

(く…、確かにこの状態のままじゃ、流石に辛い…!だからと言って、今出てしまったら加古に捕まってしまう…!何とか耐え切らないと…!)

 

「……そこのロッカーに隠れてるのは知ってるから、早く出てきて」

 

(!……バレてる、か)

 

 もはや隠れる意味がなくなったと知り、提督は恐る恐るロッカーの中から出てくる。

 それを見た彼女は、彼の前まで歩み寄ってきた。

 

「ねぇ?どうして一緒に寝るのがそんなに嫌なの?恥ずかしいだけならあたし別に気にしないよ?てか、それ見るのも楽しいし…」

 

「…勿論その気持ちもある。けど、やはり俺は提督だ。それ相応な立ち振舞いをしないとーー」

 

「もういいから…そういうの」

 

「…え?」

 

「もういいって言ってんの、そういう肩書きや立場を気にしてしっかりしようとするの…」

 

「…いや、だからsーー」

 

「頑張り過ぎなの提督は…。それでなくたって普段からしっかりしてるのに…自分が病弱だって事、本当に理解してるの?」

 

「っ………」

 

「……前にあたしが言った事、覚えてる?」

 

「………俺の替わりは他に居ないって事だろ…?」

 

「…うん、分かってるならいいや。そういう事だから、一緒に寝るの」ギュッ

 

「はぁ…話しが繋がってないだろ…」

 

「もぉ!いちいち細かい!いいから来て!」グイッ

 

「あぁ…分かったから引っ張るなよ」ハァ

 

 と、何やかんやで提督が最終的に根負けし、結局は加古に連れていかれる結果になった。

 さっきまで必死に逃げていた自分が馬鹿らしくなるほどに、彼の手を引いている彼女は心底喜んでいるようだった。

 

(……まぁ、実際加古のおかげで仕事が早く終わったわけだしな…仕方ないよな)

 

「それより提督?」

 

「…何?」

 

「大の大人がロッカーに隠れるなんて、笑い話だよねぇ♪」ニヤニヤ

 

「っ!言うなっ!自覚あるんだから…!///」

 

「ヘヘッ♪照れてる提督も可愛いよ?」

 

「お、おちょくるなあぁぁ!!!」カオマッカ

 

「アッハハハ♪」

 

 そんなやり取りをしながら、彼は彼女の部屋へ連れていかれるのだった。

 

to be continue




はい、何か二部構成になってきましたね。
某探偵作品みたいな感じですかね?

…正直申しますと、ネタがいい感じに思いつかず、一つにまとめるのがきつくなってきたというのが本音です。
お見苦しいと思われる方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。

ともかく、次回も続きますのでよろしくお願いします!


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加古からの逃走 後編

「はい、到着~!入って入って♪」グイグイ

 

「わ、分かったから押すな」

 

 あれから手を繋がれたまま、彼女の部屋の前まで連れてこられた彼は、背を押され、強制的に入室させられていた。

 

「…意外と中は広いんだな」キョロキョロ

 

「ん、そう?一応2DKの部屋だけど」

 

「古鷹とは同室なんだよな?まぁ、二人で過ごすには丁度いい広さか」

 

 部屋の中は白を基調とした内装で、落ち着いた感じがある。家具なども必要な物がある位で、綺麗に整理されており、シンプルで居心地が良い印象だった。

 

「はいはい、そんな事いいから、こっち来てよ~!」

 

「……全く、アイツは…」トコトコ

 

 部屋を気にかけていることもお構いなしに、彼女は別の部屋から彼を呼ぶ。

 

「こっちは寝室か」

 

「そだよ~、はよ座って座って!」ポンポン

 

 加古は先にベッドに腰掛け、その隣に座るよう促す。若干の抵抗を感じなからも、彼は渋々と言う通りした。

 

「お前、もう少し気を付けた方がいいんじゃないか?」

 

「何が?」

 

「いや…だから、今みたいに部屋に気安く異性を入れるとことかな…少し不用心だろ」

 

「だから~今さら何言ってんだよ~、もうそんな事気にする仲じゃないでしょって~!何回同じ事言わせるかねこの分からず屋!」ペシペシ

 

「ちょ、分かったから!叩くな!」

 

 呆れながら彼の頭を軽く叩く彼女だが、どことなく楽しんでいる様子も伺えた。

 

「ンフフ♪やっぱり提督をからかうの楽しいな~♪」

 

「だからからかうなよっ」

 

「それは無理だね、これもアタシにとっては数少ない楽しみの一つだからね!」キリッ

 

「ドヤ顔で言うなぁ!」

 

「だって好きな人とはイチャつきたいもんじゃんよー!アタシだって誰しも構わずこんな事しないって、提督だからすんだよ?」

 

「なっ!おまっ…!///」

 

 彼女の突然な言葉に思わず動揺する彼は、顔を真っ赤に染めて呆気にとられた。

 

「それとも、提督にとっては迷惑?嫌だった?」

 

「いやっ…だから、過度のスキンシップはだな…」

 

「じゃ、提督はアタシの事好き?嫌い?」

 

「っ!どうしてそういう質問になる!」

 

「いいから答えてよ~?」ニヤニヤ

 

 更に追い討ちの質問で、ますます彼女の手のひらで転がされる彼からは、焦りの表情が見えていた。

 

(くっ!いつもいつもこいつのペースに乗せられてしまう!しかも質問も質問なまでに、両方どっちを答えたとしても向こうが優位なのは変わらない!どうすれば…!)

 

「ねぇ早く~?好きなの?嫌いなの?どっちなの~?」

 

(………もう、素直に言うしかない…か…)

 

 一旦深呼吸をし、多少は落ち着きを取り戻した彼は、彼女へ顔を向け震わせながらも声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………す…好きっ…だよっ…!」カァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか声を捻り出せた彼は、羞恥心に駆られながらもおどおどしながら彼女の様子を伺った。

 

(くぅ…!これはキツ過ぎる…!今すぐこの場から逃げ出したいぃぃ…!)

 

 すると、それを聞いた彼女は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシもだよ提督ゥ~~!!!♪♪」ガバァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉわ!?」

 

 大層喜びながら彼に飛び掛かり、そのままベッドに倒れ込んだ。

 

「ぐっ!か、加古!?」

 

「んへへぇ~♪嬉しいよ提督~♪」ギュー

 

「ぅぐ!?く…くるし…!お、おい加古…!」フガフガ

 

「あの提督が自分からハッキリと気持ちを伝えてくるなんて、成長したなぁ~!よしよしぃ♪」ナデナデ

 

 提督をしっかりとホールドした彼女は、彼の声は聞こえないほどにとても喜んでいるようだった。対して彼の方は、がっしりと頭部を胸に抱かれて息も出来ないほど苦しんでいるようだった。

 

「っ……!」ペシペシ!

 

「ん?…あぁごめんごめん、つい♪」パッ

 

「ぷはぁ!!…お、お前なぁ…少しは加減を…!」ハァハァ

 

「アハハ…ごめんって」

 

 彼女の腕を叩き、何とか拘束から抜け出せた彼は呼吸を整える事ができた。

 息を整えている間、ニヤニヤしながら彼女はじっと提督の顔を見続けていた。

 

「…はぁ…急にどうしたんだよ…?」

 

「いや~?意外にも提督から『好きだ。』なんて、はっきりと言われるとは予想外でさ~♪てっきり、あたふたするだけかと思ったのに~」ニヤニヤ

 

「っ…ま、まぁ、言っても好きにも種類があるからな…」

 

「へぇー?例えばどんな?」

 

「どんなって…そ、そりゃあ、好きと言ってもLoveとLikeの違いはあったり、信頼や尊敬しているとか、友達としてだったりだな」アセアセ

 

「ほうほう…ちなみにさっきの好きは、その中のどれにあてはまるのかなぁ~?」

 

「そ、それは勿論とm「まさかLove以外の意味じゃないよねぇ~~?♪」っんな…!?」

 

「ぅん?何その反応?まさか!友達としてなんて言うんじゃないよねぇ~!いやーそりゃないよねー!うんうん!だってアタシは勇気を出して愛の告白をしたんだからそんな軽い返事が返ってくるわけないない!ないよね提督ゥ~♪」ケラケラ

 

「ぐぅ!く、くそ、やっぱりこうなるのかよっ…!」

 

 彼の必死の弁明も虚しく、予想通りといったところか、彼女のペースにどんどん呑まれていく提督は、もはや為すすべなしといった具合だった。

 

(…はぁ…やっぱり、こうなるんだよなぁ…いつもいつもこいつのペースに乗せられて、いいようにもて遊ばれるのは)

 

「フフッ♪…ごめんね…提督、ちょっとやり過ぎたね…」ギュッ

 

「っ…今度はなんだよ…?」

 

 すると加古は、消沈してしまった提督を再度抱き締めてきた。今度は優しく包み込むように。

 

「…提督ってば、やっぱりからかい甲斐があるよね…本ッ当に一緒にいて楽しいよ…♪」

 

「………そーかよ…」

 

「うん♪反応がすごくいいし…何より、すごく可愛い…♪」

 

「………男からして、それは少し威厳に関わる評価だな…」ハァ

 

「もうっ…そんなんどーでもいいの…提督は可愛いの。だからこういう事したいの…するの…」ギュー

 

「むぅ…!だから苦しいって加古」モゴモゴ

 

「大丈夫、優しくしてるでしょ?…それより、その状態で喋るとアタシの方がくすぐったいよ提督…♪」ムズムズ

 

 先程と同じ体勢で抱き締められているためか、提督が声を出す度に、彼女の体が小刻みに動く。

 

「そ、それは……お、お前がっ…」

 

「アタシが何~?……それとも…アタシの胸に顔を(うず)めて興奮しちゃってるとか♪…?」

 

「っんな!!///」

 

「フフフ♪このへんたいヤローが…♪」

 

「ち!違っ!これh…むぐっ!?」ギュッ

 

 加古の一言に、一瞬我に返り、顔を上げようとした彼だだったが、それは彼女が腕に力を込めたために阻止された。

 

「そのままでいいよ提督。アタシもこのままがいいから…」

 

「だ、だが…!」

 

「こうしてると本当に落ち着くんだ、アタシ。提督と一つになれてるって感じがして、提督の匂いに包まれて…本当に好き…♪」

 

「…包まれてるのは、俺の方なんだがな…」ハァ

 

「提督も同じように感じてみてよ…?温かいでしょ?」

 

「……あぁ、温かいなっ…」

 

「うん…温かくて?」

 

「………か、加古のっ…い、いい匂いが…するっ///」

 

「うん…!嬉しいよ提督…♪」ギュー

 

「くうぅ…」カァ

 

 提督は彼女にされるがまま、彼女もまた彼を思う存分堪能している様子がしばらく続いた。

 

(うぅ…何だか俺もボーッとしてきた…。頭が回らない…加古の匂いしか感じられなぃ…)ボーッ

 

「ん~♪フフッ♪………あぁ、そうだ…提督?」

 

「…う、ん…」

 

「ちょっと体勢変えるね?」スッ

 

 そういうと彼女は一度起き上がり、提督の反対側に来て寝転がると、今度は後ろから抱きしめた。そしてその顔を彼の首元に埋める。

 

「…加古…?うっ!」ビクッ

 

「スゥ~……今度は、アタシが提督をいっぱい感じさせて…?」

 

「っ!…うぅ!」ビクッ

 

 そういうと彼女は、彼の了承を得る前に、彼の匂いを堪能し始めた。

 

「すぅ…ふぅ…!んぅ…ふぅぅぅ…ンフフ♪こりゃいいねぇ♪癖になるよぉ…♪猫吸いならぬ提督吸いだねぇ♪」クンクン

 

「な、何をぉ……!」ビクビク

 

「アッハハ♪…いいよぉ提督ゥ…ほんっとにかわいいよぉ♪」

 

「い、言うなっ…も、もういいだろっ…!」グッ

 

「おっ抵抗するんだぁ~♪けど駄目だよ~、まだまだ足りないもん♪」ギュウ

 

「うぐっ!く、くそぅ…!離せぇ…!」

 

「ンッフフ…♪どうしたのぉ~提督?ほらほら、早く抜け出してみなよぉ~?じゃないとぉ~、どんどんアタシに吸われちゃうよぉ~♪スウウゥゥゥゥ…」

 

「…い、ぎっ!!」ビクゥ

 

「アハッ♪情けないな~、男でしょ?女に押さえつけられて恥ずかしくないのぉ?ほぉら、早くしなってぇ~♪…んぁむ♪」カプッ

 

「ううぅぅぅぅっ!!!」

 

 彼女に押さえつけられ、身動きが取れない提督は、今度は首を甘噛みされ、その身体を大きく震わせてしまう。

 

「フフッ♪すっごいビクってしたねぇ?あむっ♪提督って首が弱いのかな?はむっ♪ねぇ聞いてる~?」

 

「…っ…ふっ…!ふっ…!」

 

「んむぅ?声出すの我慢してんの?…も~素直になりゃいいのに~!…っていうか、何か提督の首って甘い気がするんだよねぇ…気のせいかな?あむあむ♪」

 

「…変なっ…!ことを、言うなぁ…!」フルフル

 

「あ~♪ようやく返事してくれたぁ♪もう、心配したんだからねぇ~?何も言ってくれないんだもん♪」

 

「よくもっ…そんな事!言えたもんだなっ…!…あぅ!」ビクッ

 

「だって何度も聞いてるじゃん♪返事しなきゃダメでしょ?…それにしても、ホントに提督の首って甘いんだよねぇ…提督の身体って、飴か何かで出来てんのぉ?」ピチャピチャ

 

「…っ!ん、なわけ…ないだろぉ…!」

 

「ふーん…そっか。まぁ、別にどうでもいいけど…」アムアム

 

「ぎっ…!もう…充分だろ…!離してくれよ…!」フルフル

 

「だから~無理矢理離してみなって~♪…まぁ、普通の人間が艦娘に(かな)いっこないけどさ♪」

 

「それをっ…知ってるから…!どうにも出来ないんだろうがぁ…!」

 

「それに言ったでしょ?アタシはまだ満足してないって…♥️」ウットリ

 

「っ…!か、加古…?」ゾクッ

 

 加古と目が合った提督は、いつもの雰囲気とは違う彼女に驚いた。

 その目は光を失っているようだが、表情は微笑んでいるようで、不気味に思えているようだった。

 

(な、何だ、この威圧感にも似た変な感じは…!?ふ、震えが止まらん…!)ビクビク

 

「…最近の皆ってさ、ちょっと提督を独占し過ぎだと思うんだよね…」

 

「ど、独占…?」

 

「うん…以前の初月の件もそうだけどさ、最近も武蔵とよろしくやってたんでしょ?」

 

「へ、変な言いがかりはよせ!別にお前が思っているようなやましい事なんて何もない!」タジタジ

 

「そうだとしても、アタシからしたら何も変わらないよ…。二人っきりでさ……ちょっとズルいよ…」

 

「ズルいって…お前なぁ、子供じゃあるまいし…」

 

「………」ギュッ

 

 提督を背後から抱きしめ続けている加古は、そう口にする。普段見ない彼女の様子に、彼も少し困惑している。

 

「……加古…?」

 

「………アタシっていつもおちゃらけてばっかだからさ、提督にそう思われるのも仕方ないって分かってるんだ…。けど、好きって気持ちは本当なんだよ…?」

 

「ぅ……」

 

「初月に酷い目に合わされた時もさ、提督には悪いけど、正直…いいなって思っちゃったんだ…」

 

「……っ」

 

「ここにいる皆、提督の事を大事に思っているのは、勿論知ってる。けど、やっぱり好きな人とは二人っきりでいたいもんなんだよ…二人だけで、こうやっていたい…」

 

「加古……」

 

「それに初月の気持ちも…今、少し分かった気がするしね…」

 

「…えっ」

 

「だって…こんなに可愛い提督が見られるんだもん♥️」サワッ

 

「ひぅっ!」ゾワッ

 

 突然、提督の上着の下から手を潜り込ませた加古が、彼の腹部を触り始めた。いきなり事で、彼は驚いた。

 

「普段から可愛いのにさ♥️こんな事してもっと可愛い反応するんだもん♥️本当に好き♥️」サワサワ

 

「ハァ…!ハァ…!や、やめっ…!」ビクビク

 

「嫌だ…もっと、もっと見せて…♥️提督っ…もっと感じさせて…♥️」ギュウゥ

 

「ぁっ…!ぇうぅぅ…!んぅぅぅぅ…!!」ググッ

 

「っもう…我慢しないでよっ…いい加減声出してよ…!聞かせてよぉ…!」サワサワ

 

「ぐうぅぅぅぅ…!」

 

「なんでっ…!なんで喘いでくれないのっ…!聞かせてって言ってんじゃん…!声出してよ…!……はむっ!」パクッ

 

「っ~~~~~~!!??」

 

 痺れを切らした加古は、責めを強め、更に彼の首へと甘噛みをし始める。彼はただ、声を出すまいと必死に抵抗を続ける。

 

「ふぉら、もうあひやめひぇ…♥️りゃくにやっへよ~…♥️いっひょに、きもひよくやろ…♥️(ほら、もう諦めてぇ…♥️楽になってよ~…♥️一緒に、気持ちよくなろ…♥️)」

 

「ふっ…!ぎっ…!いぃぃ…!」ガクガク

 

「あむっ…はむっ…んぐっ………ぷわぁ、はぁ…はぁ…ほんっとに…!往生際悪いんだからぁ!!」グリッ

 

「っ!!ああぁぁぁぁ~~!!!」

 

「こうされないと分からないの!?痛い思いしないと駄目なの!?ねぇ!?」

 

「ぃ、痛ぃっ!!や、やめ…てぇ!!」ジタバタ

 

「…だからっ…!そういう事聞いてるじゃないのっ!こうしないと提督は分かってくれないのって聞いてんの!答えてよっ!」ギュウ

 

 あろうことか興奮した彼女は、提督の乳首を思いっきりつねり始めた。

 突然の衝撃に、提督は驚愕し悲鳴を上げてしまう。普段の姿とは豹変した彼女にも動揺を隠せない彼は、ますますパニックに陥ってしまう。

 

 しばらくの間、そのような行為が続き、彼女が落ち着きを取り戻し始めた頃には、彼は呼吸も荒く、汗もびっしょりとかき、満身創痍といった具合になっていた。

 対して彼女の方も、多少呼吸を乱す程度には疲労しているようだった。

 

「…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」グッタリ

 

「…あ、ぅ…て、ていとく…?(な、何してんの…アタシ?提督をこんなに…して…あ、アタシ…は…)」

 

「はぁ、はぁ………ひっ!」ビクッ

 

「っ!…ご、ごめん…なさぃ…。こんな事っ、するつもりはっ…!」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…んくっ…!」

 

「…本当にっ…ごめんなさぃ…!」フルフル

 

「ふぅ…ふぅ…すうぅは~…」

 

 何とか呼吸を整えた提督は、深呼吸をし、落ち着いて彼女の様子を見る。

 彼女は非常に申し訳なさそうにしており、目には涙を溜め、今にも泣きそうなようだった。先程の自分の行いを反省している様子は、目に見えて分かるほどに。

 

「………加古」

 

「ど、どんな処罰も受けますっ…。許されるとは思っていません…。どうか、好きなように…」フルフル

 

「…加古」スッ

 

「…えっ…?」

 

 震える彼女を、今度は提督がソッと抱きしめた。彼女の方は予想外の行為に呆気にとられている様子だった。

 

「て、てい…とく…?」

 

「………痛かったんだからな…き、急にあんなっ…」

 

「ぅっ…!ごめん…」フルフル

 

「……けど…加古の気持ちは、改めて伝わったよ…。ホントに痛いほどに…」ギュ

 

「…!……ぅ、ん…!」グスッ

 

「…こ、今度は…もっと優しくしてくれると…う、嬉しぃ…///」

 

「………ぅん」グスッ

 

「…俺も…ちゃんと、好きっ…だから///」

 

「っ…ぅん…!うん…!」ギュ

 

(本当にこいつは…手間がかかるな…。けど、皆と同じなんだな…。俺の事をそんなに…ありがとな加古)ナデナデ

 

 彼にとっては散々な一日と言っても過言でもないであろうこの日だが、それでも大事な事をまた知れた日でもあった。

 

(本っ当に最近、大変だなぁ…)ナデナデ



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