スーパーロボット大戦OG 人理の守護者 (MATTE!)
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原初の願い

 歴史は常に残酷だ。

 

 “反乱が起きました、反乱を鎮圧しました。”

 

 こんな短い言葉に一体どれだけの犠牲が含まれているのだろう。

 

 個人は歴史の波に飲み込まれ、消えていく、残ったのは数ある中の一人という事実だけ。

 

 そこに一人一人の意思など関係ない。

 

 どんな思いがあって反乱に参加したのか、どんな人生を送っていたのか。

 

 それを世界が気に留めることはない。

 

 

 

 だから私は心に誓う。他でもない自分自身に。

 

 

 

──例え、世界(人々)が彼らを忘れても

 

 

──私は、彼らを忘れない。

 

 

──人が歩んだ道筋を、無意味だったと言わせない。

 

 

──私は人の歩みを見守る者。

 

 

 

「“人”はとても弱くてちっぽけで、一人じゃ何もできないくせに、すぐに争いあう馬鹿な存在です……」

 

 

 次元の狭間で少女は呟いた。

 

 

「そんな愚かな存在だとしても私は人を見捨てない」

 

 

 人の愚かさは知っている(記録している)、でもそれ以上に人の優しさを知っている(記憶している)

 

 

「私は人を見捨てない。だって──」

 

 

 

──“       ”

 

 

 

 

「少女は言いました“私は──”あら?」

 

 

 女性はベッドの中で、子供に寝る前の読み聞かせをしていた。

 話を続けているうちに腕の中にいる女の子が眠そうにコクリコクリと船を漕いでいるのに気づく、女の子は目をこすりながらも夢の中に旅立つものかと堪えていた。

 

 

「むー……」

「眠いの?ならお話はまた今度にしましょうか」

 

 

 女性は絵本を閉じ、ズレた毛布を掛けなおして背中をポンポンと叩いて寝かしつける。

 

 

「おはなし……いつも途中」

「ふてくされないの、続きはいつか教えてあげるから」

「むー……」

 

 

 女の子は少々納得がいかない表情を見せるが、睡魔には勝てず女性にすり寄る。

 

 

「……ぎゅーってして?」

「うん、ちゃんとぎゅーってするよ」

 

 

女の子のおねだりに、女性は快く答え、抱きしめる。

 

 

「ぎゅー……おやすみにゃさい……スースー」

「ふふ……おやすみユウリ」

 

 

 暖かいぬくもりに包まれながら、女の子は夢の世界に旅立った。

 その様子を愛おしそうに見つめ、女性もまた眠りについた。

 

 

 

*************************

 

 

 

ゆうりのにっき

○ がつ △にち

 

 また、お話のとちゅうで寝ちゃいました。

 いつになったらお話全部聞けるのかなぁ。

 あと、きょうも同じゆめを見ました。

 またいつもの知らないお姉さんが色々なことを教えてくれました。

 だだ、……“ガンなんとか”とか、“ゲッター”とか、“アカシックレコード”とか、“ほかん”とか、“きかいてんし”とか。言ってる意味がよく分からなかったです。

 そんなむずかしいことばっか教えてくれるお姉さんだけど、お姉さんはいつも最後にこう言うんだ。

 

 

 

「あなたはあなたの道を歩んで」

 

 

 

 いつもはむずかしいことばっか言うくせに最後だけは当たり前のことを言ってくるの。

 当たり前なことを言ってくるお姉さんにちょっと……いやけっこうむーっとするんだけど。

 子ども扱いしないで!ってわたしがおこるとお姉さんは困ったようにわたしの頭をくしゃくしゃとなでてくる。

 それにまたむーっとするんだけど、でも悪い気はしなくて結局そのまま頭をなでられました。

 でも……

 

 

 

 

 

 夢の中のお姉さんは──とても悲しそうでした。

 

 

おわり

 

 

 

 

──私たちは人理の守護者(レコードキーパー)

 

 

──人々の行く末を見守る者

 

 

──人々の想いを記憶する者

 

 

──人々の全てを、我等は記録しよう(歌おう、綴ろう、奏でよう、描こう、語ろう)

 

 

 

 

 

 



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白銀の幻影

「………………」

 

 

 お姉ちゃんのドレッサーの前に座り、鏡を見ながら銀色の髪の一房を編む。お姉ちゃんと違って私は器用ではないから落ち着いて丁寧に髪を編む。

 右の一房の三つ編みが完了すると、最後に赤いベレー帽を頭に被った。そして鏡を見てニッコリと笑う。

 

 

「よし、バッチリ!ローちゃん、これでどう?」

「95%、問題ないかと思います」

 

 

 三つ編みが完成し、私は首に下げていた“ローちゃん”に感想を聞く。すると赤いペンダントから音声が発せられる。

 “彼女”は、ペンダントに付けられているカメラから私の姿を確認し、問いに答えてくれた。

 だけど答えが少しばかり気になった。続けて彼女に確認する。

 

 

「5パーセントの問題って何?」

「髪を結うのに時間をかけすぎた点です。現在の時刻は16:46、本日の予定はシオンと17:00に駅前に待ち合わせです。家から駅にはユウリの足では20分ほど時間がかかります。どうあがいても遅刻ですね」

 

 

 ローちゃんは5%の問題を私に説明する。その問題を頭に飲み込むのに私は数秒の時間を有した。

 理解した瞬間、私は一瞬で凍りついた。

 

 

「5パーセントどころの問題じゃないよそれ!?」

「分かりました。では、先ほどの発言を“0%、問題ないかと思います”と訂正します」

「100パーセント問題しかないね!」

 

 

 全くもってその通りだけど!!そう叫んで私は家から飛び出した。

 その勢いのまま、全力疾走で駅に向かった。

 

 

 

*************************

 

 

 

「ローちゃんのバカー!!なんでもっと取り返しがつく前に言ってくれなかったのー!!?」

「髪を結うのにかなり集中していたので、邪魔したら悪いかなと思って黙ってました。あ、でも。シオンにはユウリが遅れると連絡は入れましたよ、気を利かせて」

 

 

 私の慌てるさまを聞いて、ペンダントのAI──ロートは淡々と告げる。一応気を利かせて遅れる連絡はすでにしたと。

 

 

「そこに気を利かせられるなら、もうちょっと他の面で気を利かせて欲しかった!!もっと早く教えるとか!」

「次は気をつけます」

 

 

 全く、細やかな気遣いはできるくせに、変なところで融通がきかないんだから!!

 ローちゃんと言い合いしながら、私は信号を待つ時間を惜しんで、歩道橋を二段飛ばしで駆け上がる。

 

 

「hey!ローちゃん今の時刻は!?」

「現在の時刻は16:58です。あと私を時計代わりにするのはやめてください」

 

 

 ローちゃんの時報を聞きながら、最後の三段を飛んで降りる。地面に勢いよく着地した際、足からジーンと痺れが身体に駆け巡ったが、気にせず再び駅に向けて走り出した。

 

 

「いいじゃない、時計よりはローちゃんはできる女だよ!」

「それ、遠回しに便利な女と言ってないですか?」

「ローちゃんはひねくれすぎだと思いまーす」

 

 

 この日は、いつも通りの日常だった。

 

 いつも通りに朝起きて、

 

 いつも通りご飯食べて、

 

 いつも通り遊んで、

 

 いつも通りお姉ちゃんと約束して、

 

 いつも通り遅刻して、

 

 いつも通りローちゃんと喧嘩する。

 

 そんな、いつも通り。当たり前な平凡の日常だった。

 

 

「異議ありです。誰がひねくれですか誰が」

「それはローちゃんです。異議を却下します……きゃあ!?」

「ユウリ!?」

 

 

 だけど、いつも通りの平凡は、この日を境に簡単に崩れた。

 

 

 

*************************

 

 

 

 地面が揺れた。

 

 耳をつんざく轟音。

 

 人の悲鳴。

 

 気がついたときは、そこは瓦礫の山だった。

 

 

「──ゥリ、ユウリ!!」

「っ、ロー……ちゃん?」

「ボーッとしないで!死にたいの!?」

 

 

 ローちゃんの呼びかけにハッとなって辺りを見渡す。見たことのない虫型のロボットが、街を襲っていた。それどころかその中の一体が私に襲いかかろうとしていた。間近に迫ったロボットの存在に身を強張らせる。

 

 

「っ!」

「へ?うわぁ!?」

 

 

 虫型のロボットが私たちを襲おうとしたそのとき、虫型のロボットの頭上からいきなり白銀の機械人形が現れて、ロボットを押しつぶした。ロボットが落下した衝撃で私はコロコロと地面を転がった。

 

 

「いった……今度は何!?」

「“ゲシュペンスト”!?何であれが……こんなところに!?」

「ゲシュ……ペンスト?」

 

 

 立て続けに起きる出来事に若干苛立ちを隠せず、やけくそとばかりに叫ぶ。痛い、頭打った。

 私には機械人形に心当たりはなかったけど、ローちゃんは現れた機械人形に心当たりがあったのかその名を叫ぶ。それが今ここにあることに驚いている様子だった。

 

 

「知ってるの?ローちゃん」

「……軍が開発したパーソナルトルーパーです。」

「そういえば、お姉ちゃんがそんなこと言ってたような……」

 

 

 ローちゃんの言葉に私はお姉ちゃんが軍が開発している“ぱーそなるとるーぱー”について話していたことを思い出す……実物を見たことはないけどそれがコレなの?

 

 

「でもお姉ちゃん、その機械人形のこと“幽霊さん”って呼んでたよ。ゲシュペンストなんて名前じゃなかったよ」

 

 

 ローちゃんが言った名前とお姉ちゃんが言ってた名前が違う。

 

 

「“ゲシュペンスト”はドイツ語で“幽霊”です。シオンが言ってた“幽霊さん”は“ゲシュペンスト“の事で100%間違いないと思います」

「お姉ちゃん……“幽霊さん”なんて愛称つけないでちゃんと正式名称言って欲しかった」

「言っておきますが、これは軍の機密事項のはずですからね?一般人に詳しく説明しないでしょう。詳しくなくても一般人(ユウリ)に軍事機密を話した軍人(シオン)には後で小一時間説教しなければなりませんが」

 

 

 ごめんねお姉ちゃん。ローちゃんを怒らせちゃった。でも口の軽い私に話しちゃったお姉ちゃんが悪いと思います。

 

 

「でも丁度いいです、早く機体の中に!」

「ええ!?入れるかわからないよ!?閉まってるし!」

「私が開ける!!早くゲシュペンストの近くに!」

「ええ!う、うん!」

 

 

 ローちゃんに急かされて、急いで私はゲシュペンストのそばまで駆け寄る。せっせとゲシュペンストをよじ登り、コックピット付近までたどり着くとペンダントが光って、コックピットが開かれた。

 

 

「うわ!」

「ハッキングした。早く中へ」

「う、うん」

 

 

 恐る恐るコックピットの中へ入る。落ち着かない様子で座席に座ると急にコックピットが閉まり、その音に肩を震え上がらせた。

 

 

「閉じ込められた!?」

「安心しなさい。私が締めました。ほとぼりが冷めるまでこの中にいましょう。スーパーロボットと比べてパーソナルトルーパーは脆いですが、生身でこの戦場をうろつくよりはマシですよ」

 

 

 閉めるなら、ちゃんと閉めますよって言ってから閉めて欲しかったな。ホウレンソウは大事なんだよ。

 思いっきりの良すぎるローちゃんにちょっとばかし不満を持ちながら、今抱えている不安を伝える。

 

 

「敵と間違われない?」

「この機体には高性能のElectronic Counter Measuresそして光化学迷彩が搭載されています。こちらから下手なことをしなければそう簡単に見つかりませんよ

「えっと……」

 

 言葉の羅列を必死に噛み砕いて理解しようとする。いきなり専門的な言葉を言われた為、私の頭上には様々な疑問符が浮かんでいた。

 

 

「外、危険。この中、安全」

「オーケーよーく理解したよ!ほとぼり冷めるまでここにいる!」

 

 

 私が言ったこと、1%も理解してないな。そう判断したロートは単純にこの中にいれば安全だと伝える。ロートの言葉は今度こそユウリに伝わった。

 彼女はこの機体の中で外、の戦闘をやり過ごすことを選択した。

 

 

 

 

*************************

 

 

 

「外、まだ大変だね」

 

 

 ゲシュペンストの中に閉じこもって数分が経過した。メインカメラが動いてないのか外の様子はハッキリとわからない。けど、外から聞こえる音は収まらず、激しさを増すばかりだった。

 不安になった私はキョロキョロと辺りを見渡す、薄暗いコックピットの中で唯一の光源は、目の前のモニターだけだった。

 なんの気もなしに私は目の前のモニターに手を触れた。それが呼び水となったのか、突然全てのモニターに電源がついた。

 

 

「ひやい!?なに!?」

 

 

 急に動き出したゲシュペンストに驚いて、私は慌てて辺りを見渡す。

 

 

「ユウリ、なにしたの!?コントロールを奪い返されました!」

「何もしてない!画面に触れただけ!」

「それは百歩譲っても“何もしてない”にはなりません!」

 

 

 突然動き出した機体にローちゃんが慌てた様子で私に問いかけた。そして、私がしたことを言ったら怒られた。

 

 

〔データスキャン開始します〕

「は、はい」

 

 

 コックピット内にアナウンスが鳴り響く、ゴウンゴウンと音を立て、赤い光線がユウリの身体を隅々まで調べていく。

 緊張と恐怖で指一本も動かせないまま、スキャンは続いた。

 

 

〔生体パターン照合、94.8%一致しました。認証をお願いします」

 

 

 

 スキャンと照合が終わると、最初のモニターに赤い認証マークがデカデカと映し出された。その画面を凝視する。

 

 

「そのままにしておいてユウリ、迂闊に下手なものを触って今より面倒な状況になったら目も当てられないです。もう一度制御を奪えないか試してみますから押しちゃダメですよ」

 

 

 ローちゃんは急に動き出したゲシュペンストに警戒して私に触らないよう忠告した。

 

 

「ポチッとな」

「人の話は聞きなさい!そういうのは相談をしてから行動!!」

「だって押しちゃダメって言われると押したくなるもん!」

 

 フリかなって思って押してしまった。

 思い立ったら吉日を座右の銘にしている私にはローちゃんの忠告は遅かった。

 認証マークを押すと、目の前の大きいモニターから外の光景が映し出される。

 

 

〔認証完了。搭乗者を“ユウリ・A”と認定します〕

「な、なんで私の名前……」

 

 

 アナウンスに私は驚きの表情を浮かべる。自分の名前、そして苗字のイニシャルをこの機体は言い当てた。名前は何度かローちゃんが口にしたけど苗字については誰も口にしなかったのに。

 

 

〔お帰りなさい〕

「ひゃい!?」

「!!?」

 

 

 最初のメカメカしいアナウンスから一転して、女性の声がスピーラーから響いた。

 

 

〔この子が無事起動しているなら、きちんと貴女の元に届いたのね〕

 

 

 聞いたこともない声だった。けどその声に、どこか聞き覚えがあった。聞いたこともない声なのに何故か私はその声を知っていた。

 知らない声のはずなのに安心感を覚える。声が聞けたことが嬉しくもあった。だけどそれ以上に悲しかった。

 その証拠に、私の瞳からは涙が溢れてきた。

 

 

「な、なんで?」

 

 

 混乱しながら涙を拭う。けどアナウンスは混乱する私を待ってくれなかった。録音された音声をただ流し続ける。その内容に私の混乱は加速する。

 

 

〔この子の名前は“ミラージュ”、貴女に約束した私の最高傑作、私が“母親”として貴女に残せる最後のプレゼント〕

「え……待って!待ってよ!!」

 

 

 その内容は今までの状況全てが吹き飛ぶほどのものだった。私は“母”が残した音声に必死になってしがみつく。

 

 

「待って、貴女はお母さんなの!?」

「ユウリ……これは録音された音声です。こちらからどんなアクションを起こしても無駄です」

「そんな……」

〔行ってらっしゃい。向こうで……お姉ちゃんと仲良くね〕

 

 

 その言葉を最後に、音声は止んだ。コックピットの中は静寂に包まれる。

 

 

「……ミラージュ、それがこの子の名前」

 

 

 いきなり現れた虫型ロボット。その虫型ロボットを押しつぶした“ゲシュペンスト”。ゲシュペンストに残された“母”の音声。

 まだ、私の頭は混乱している。けど、一つだけハッキリしていることがある。

 

 

 

 

 ──この機体は私のものだ。

 

 

 

 それだけはハッキリした。

 なら、私がやることは決まってる。

 

 

「ローちゃん、どうすれば動かせる?」

「……バーニングPTは知ってますね?」

「うん、お姉ちゃんが新しい機体のプログラム作ってるのを見てたし。テストプレイもした」

「基本的な操作はそれと全く変わりません。しかし、実践とゲームを一緒にはしないでください。死にますよ」

「……っ分かってる!」

 

 

 汗ばんだ手で操縦桿を握りしめると、目の前の小さいモニターに赤い頭巾を被った女性が映った。

 

 

「細かい制御は私がします。貴女は貴女がしたいと思うことを。“いつも通り”、ですよ」

「……うん、よろしくローちゃん」

 

 

 モニターに映るロートにニッコリと笑った。そうだ、いつも通りだ。

 いつも通り、私はやりたいことをやればいい。いつも通り、きっとローちゃんがフォローしてくれる。

 

 

「えっと君の名前は……確か、ミラージュ……だね。行くよミラージュ!」

 

 

*************************

 

 

 

 街を破壊していた虫型ロボット──“メギロート”の一体が突然破壊された。それを皮切りにその近くにいた数体のメギロートが次々と破壊される。

 そして、何もなかった場所からゆらりと白銀の機体が姿を現した。

 

 

「これ以上勝手なことはさせない!」

 

 

 小さな少女は赤頭巾の力を借りて、“母”からの贈り物に火を灯す。

 白き幻影と共に少女は戦場でその力を振るう。



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口は災いの元

明日香結理の日記

△月○日

 

今日は色々と大変でした。

今日は久しぶりにお姉ちゃんと遊びに行く約束だったのに。

変な虫型ロボット──メギロート?てのがわんさか出てきて街を襲って、私も襲われそうになりました。

そんなとき、空からゲシュペンストが降ってきて私を襲ったメギロート踏み潰して、なんやかんやあってその中に乗り込んだら、“お母さん”からのメッセージがその中に入ってて、そのミラージュは私のだっていうから、訳がわからないまま戦って……

私が調子乗って回避しきれないときは大体ローちゃんが制御を私から奪って回避するんだけど、その時ものすごいGがかかってめっちゃ吐きそうになりました。ローちゃんには後で感謝と文句を言った方がいいと思いました。

 

そんなわけでなんとか全部倒したら今度は軍に拘束されました。

 

 

──ミラージュに入ってた“お母さん”からのメッセージ、お姉ちゃんならわかるのかな。

 

おわり

 

*************************

 

 

 

「……………」

 

 

 戦い終わると私たちは軍に拘束された。

 そのまま基地に連れられて、机と椅子だけの殺風景な部屋で待ってるように言われた。ペンダントのローちゃんはこちらから話しかけても何も言わなかったので、私は何もせず、座って待つことにした。しばらくすると誰かが慌ただしく部屋に入ってきた。

 その音に肩を震わせたが、中に入ってきた人物を認識すると思わず私は同じ白銀の髪を持つ女性に飛びついた。

 

 

「お姉ちゃん!」

「ユウリ!大丈夫だった!?」

 

 

 お姉ちゃんは飛びついた私を受け止め、抱きしめる。私の無事を確認すると、ホッと肩をなでおろした。

 

 

「大丈夫、ローちゃんとミラージュが私を守ってくれた」

「“ミラージュ?”」

 

 

 私は今日起こったことを全部お姉ちゃんに伝えた。急いで待ち合わせ場所に向かってたら虫型ロボットに襲われたこと、ミラージュが降ってきたこと、ミラージュが“お母さん”からの贈り物だってこと、ミラージュの中に入っていた“お母さん”からのメッセージも全部、お姉ちゃんに伝えた。

 お姉ちゃんは黙って話を聞いてくれた。話が終わるとお姉ちゃんは一つだけ聞いてきた。

 

 

「“ユウリ・A”……そう言ってたんだね、ミラージュは」

「うん、そうだよ。ねえ、お母さんって……!」

 

 

 ミラージュを送ってくれたお母さんのことを聞こうとしたら、お姉ちゃんはシッっと人差し指をたてる。それから数十秒後にお姉ちゃんが開けっ放しにしたドアから青い髪の男性が現れた。

 

 

「イングラム……妹との時間を邪魔しないでほしいのだけど」

「これでも便宜をはかった方だ。その証拠に君の方が先にこの部屋に来れただろう」

「知ってるし、感謝もしているよ。でも妹との時間を邪魔されたのも事実だもの。いいじゃないちょっとくらい憎まれ口を叩いたって」

 

 

 お姉ちゃんはニコニコと悪びれもせずに言い切った。男性はその様子にため息をつくとこっちに視線を向ける。私はその視線にビクッとなってお姉ちゃんにピットリへばりつく。

 

 

「ちょっと、ユウリをあまり虐めないでこの子は怖がりなんだから」

「虐めてない。この子があのゲシュペンストを操縦していた君の妹か」

「可愛いでしょう、自慢の妹なの」

「そうだな、君よりは素直そうだ」

 

 

 男性……イングラムさんの言葉で急激に隣の気温が下がった感覚がする。元々地味に張り詰めてた空気がさらにピリピリしだす。

 

 

「……そこは否定しないけど、次の模擬戦は気をつけなさい?素直じゃないどっかのパイロットが貴方を狙い撃ちする可能性があるかもだから」

「そうか、ありがとう。先に倒さねばならない敵を教えてくれて」

 

 

 ニコニコ笑顔と信用できない笑みの応酬に私はビクビクしながら二人の戦いを見守る。誰か、誰か助けてください。このブリザードだらけの部屋に救世主求む。

 

 

「まあ、いいわ。ユウリの事情聴取に来たんでしょう?さっさと終わらせよう。私は保護者としてここにいるから」

 

 

 そう言って、お姉ちゃんは私の後ろに立つ。イングラムさんはそれを横目で見てため息をつきながら私を席に促した。そして事情聴取が始まった。

 

 

*************************

 

 

 ユウリの事情聴取が終わり、とりあえずユウリは監視付きで家に帰れることになった。

 本当はすぐに一緒に帰りたかったのだけれど、まだやることが残っていた私はユウリを基地の控え室で待たせて、やることをさっさと終わらせようとした。

 

 

「シオン、ミラージュの解析が終わりました」

「ありがとうロート」

 

 

 ミラージュのコックピットを開くと、首にかけていた赤いペンダントからロートの声がした。ナイスなタイミングで帰って来てくれた。

 

 

「貴女の予想通りです。“ユウリ”以外の人間がコックピットに入ると“ATA”が発動するようになっていました。今はそのプログラムは解除していますが……」

「ASH TO ASH……灰は灰にか、やっぱりあの人は抜け目ない。ユウリとロートが最初に乗ったことは不幸中の幸いだね」

 

 

 嫌な予感がしてロートに最初の解析を任せてよかった。解除してなかったら大惨事が起こってたところだった。《ゲシュペンスト・ミラージュ》この機体の解析を私は他の科学者と整備士からなんとかもぎ取ったのは間違ってなかった。

 「シオン博士ってシスコンですよね」とか言われたけど気にしない。私はシスコンじゃないけども、敢えて言うならファミコンだけれども。

 

 

「スペックは?」

「こちら側のゲシュペンストのスペックと変わりがないように調整しました。今後、誰がこの機体を解析してもこのスペックは揺るがないでしょう」

「ASRSと光化学迷彩は?」

「そちらも性能を落としたものになっています、ユウリもあまりわかってないようでしたから、ユウリから漏れることもないかと、私もわざと難しく言いましたし」

「了解、レポートはそんな風にまとめておく」

 

 

 ロートからの情報を頭に入れて、私は早速作業に取り掛かる。

 

 

「……待ちなさいシオン。貴女は何をするつもりですか」

「何って……これは折角の“お母さん”からの贈り物。これを使わない手はないでしょう……これがね」

 

 

 使えるものはなんでも使う。それが私の座右の銘です。これがね。

 

 

「そういえば……シオン、私は貴女に一つ聞かなければならないことがありました」

「聞かなきゃいけないこと?一体どうしたの?」

 

 

 スパナを持って整備士の真似事をしてたら、ロートが突然話を切り出した。

 

 

「実は、ユウリがゲシュペンスト……“幽霊さん”のことを知っていたんです。私の記憶が正しければゲシュペンストはまだあまり世に知られてません。それなのにユウリは存在だけは知ってたので疑問に思ったんですが……」

「あーそれ?じつは前に私が机に広げてたゲシュペンストの設計図をユウリが見つけてね、その時に教えたの。だからユウリはゲシュペンストのこと、幽霊さんで知ってたの」

 

 

 ロートの疑問にちゃっちゃと答えた。でも珍しい、ロートならちょっと考えれば私が教えたってわかるはずなのに。

 

 

「へーユウリ(一般人)に情報漏らしたんですね?軍人で科学者であるはずの貴女が。軍事機密を外に持ち出して」

「あ」

 

 

 は、嵌められた!?ロートの声がピリピリしだして私は漸く自分が嵌められたことに気がつく。なんとか言い逃れの手段を考えようとするが時すでに遅い、というか一から十まで言ってしまった。

 

 

「どうやら貴女は私が思っている以上に子供だったようですね、まさかこんな簡単なカマかけで全部バラしてくれるとは思ってもみませんでした」

「いや、あの日は疲れてそのままにしただけだよ!いつもはちゃんと片してるよ!?」

「言い訳しない!!ユウリに見せたのは事実でしょう、言った事とやった事には責任を持ちなさい!!」

 

 

 

 それから暫く私はロートに説教され続け、待ちぼうけを食らっていたユウリにはひたすら謝り続ける事になったのだった。

 

 

 

 



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日記は毎日こまめに書こう

明日香結里の日記

 

 

△月△日

今日は軍に行って、また検査を受けた。

なんか“ねんどうりょく”がどーたらこーたらと軍の人が話してるのが聞こえたけど私にはわけがわからないよ!

あと軍に私と同じくらいの女の子がいて友達になった。

ラトゥーニって名前なんだけど、私は口が回らなくてちゃんと名前を言えなかった。そしたらラトちゃん呼びを許してくれた!

 

 

△月□日

お姉ちゃんが機体の操縦を教えてくれた。

あの事件の時はぶっつけ本番だったから、ちゃんと教えて貰うのは今回が初めて。

……最初に操縦知ったときは無我夢中だったし、しまいには途中でローちゃんが操縦奪ったりされたから一応これでちゃんと操縦できたことになるのかな。

あと、またお姉ちゃんとイングラムさんが喧嘩してた。

 

 

△月▼日

私のは一応軍属になったらしい。

昨日のお姉ちゃんとイングラムさんはそのことを話していたらしい。

それで私の上司がお姉ちゃんになった。

難しいこと考えず私はお姉ちゃんの部下になった……て認識で大丈夫だってローちゃんは言ってた。

 

 

△月◎日

お姉ちゃんの新曲の発売日

通常版、初回限定版、もちろん両方買った。

あとロボットアニメの曲だからかリュウセイさんもお姉ちゃんのCD買ってたのにばったり遭遇した。

話を聞いたら、最近お姉ちゃんの曲にはまったらしい。もう遅いよ!お姉ちゃんの魅力に気づくの!

今度家にある私が買い集めたCDを貸す約束した。

 

 

△月☆日

模擬戦をやった。

お姉ちゃんやローちゃんが色々フォローしてくれたけど、すぐに落とされた。

私が落とされた後、お姉ちゃんはイングラムさんを執拗に狙ってた。

 

 

△月◇日──

 

 

 

 

「ローちゃん……」

「どうしました。ユウリ」

「日記もう書くことない(ネタがない)

「そうですか。頑張って続きを書いてください」

 

 

 おねえちゃんを待つ間、待合室で頑張って記憶を引っ張り出しながら日記を書く。でもそれも限界になってきた。タブレットに移ってるローちゃんにギブアップの宣言をしたけどローちゃんは無情にも続きを要求してきた。

 いや、毎日こまめに書いてなかった私も悪いと言えば悪いけど。そんなばっさり切り捨てる事はないと思う。

 

 

「日記は毎日寝る前に書いておきなさいとシオンにも言われていたでしょう」

「私、疲れたらすぐに寝ちゃうんだもん!日記なんて書いてる暇ないよ!この一週間私すごいハードスケジュール!!」

 

 

 ①ミラージュ(あの日降ってきたゲシュペンスト)が私しか使えない事が発覚。

   ↓

 ②敵のスパイじゃないかと疑いを掛けられる+しかも色々秘密知っちゃった私はものすごく扱いが難しい位置にいる。

   ↓

 ③軍属にして、監視をつけられる。

   ↓

 ④毎日毎日学校終わった後、軍に連行される。

   ↓

 ④検査、検査、訓練、検査、訓練とひたすら検査と訓練。

 

 

 

 こんな日々が続いたら身体が持たないです。

 

 

 

「自分の筆無精を棚に上げないでください。そんなだから夏休みの最後の一週間いつもいつも泣きを見るんですよ」

「それは今は関係ないよね!」

 

 

 夏休みの事を持ち出されるとは思わなかった!確かに最後の一週間はお姉ちゃんに泣き寝入りしてお姉ちゃんとローちゃんに助けて貰うけど!

 

 

「言っておきますが、今回は助けられませんからね。ここ一週間私はシオンと一緒にいてユウリの様子を把握できない時間がありましたから」

「ローちゃんの薄情者~!」

 

 

 私はこんなに苦しんでるのに……なんて薄情なローちゃんなんだろう。本当に融通が利かないんだから。

 

 

「なんとでもいいなさい」

「情けない声だして、どうしたんだユウリ?」

「!リュウセイさん、ライさん、アヤさん!ちょうどいいところに!助けてください!」

 

 

 リュウセイさんに声をかけられて顔をパアッと明るくして振り向く、そこにはリュウセイさんの他にライさんとアヤさんがいた。

 グットタイミング!ちょうどいいや。助けてもらおう。

 

 

「助けてって……どうしたんだ?」

「日記を書くのを手伝ってください!ローちゃん、なんとしても今日までの日記埋めろってうるさいんです!」

 

 

 そりゃ日記を書き忘れたのは悪いとは思っているけど……今日までのをすべて書くのは難しいと思う。

 

 

「別にいいじゃないか、ちょっとくらい日記書かなくても……」

「だめです。それを許したらユウリはずっと日記を書こうとしません」

「だから明日書くって言ってるよ!私嘘つかない!」

「それって絶対明日やらないパターンだろ」

「ちーがーいーまーすー!」

 

 

 ひどいですリュウセイさん。そんな風に思うなんて見損なった!本当に明日は書こうと思ってるもん。

 

 

「違いますリュウセイ。ユウリは本当に明日は書こうとは思っているでしょう。ユウリは嘘はつきません」

「ローちゃん……」

 

 

 私にひどいことを言ったリュウセイさんに対してローちゃんはそれは違うと言ってくれた。

 ごめんね、ローちゃん薄情者なんて言って、ローちゃんは薄情者なんかじゃないローちゃんは立派な──

 

 

「ただ、宣言したことを100%忘れる問題しかない鳥頭なだけです」

 

 

 ──薄情者じゃなくて悪魔だった。

 

 

 ひどくないかな、今の一言。返して、私のさっきの感動返して。

 

 

「そりゃ確かに色々と忘れることはあるけれど!!私そこまで鳥頭じゃ……ないと言い切れないけど!その言葉はないよローちゃん!」

「言い切れないのか……」

「私は嘘つかないんです!」

 

 

 三人の呆れた目線がつらい。ローちゃんに怒られ、三人には呆れられ、私はものすごいいじけた。

 私だって忘れたくて忘れる訳じゃないもん、いつの間にか忘れてるんだからしょうがないもん。そんなことローちゃんに言ったら怒られるから言わないけれど。

 

 

「ひどいです皆して……私はこんなに真剣なのに……」

「じゃあもう好きなとこ書けばいいんじゃないか?」

「……そうか、その手があった!」

 

 

 机に突っ伏していじけてた私にリュウセイさんが救いの言葉をくれた。

 リュウセイさんの言葉に天啓が走る。そうか、無理に書くことを考えるんじゃない。好きなことを書けばいいんだ!!

 

 

「それはもはや日記と呼べるのか?」

「まあ……それで今日までの日記が埋まるのであれば、75%は認めましょう」

「認めるんだ……」

 

 

 よーし!ローちゃんの許可も貰ったし、好きなこと書くよ!!やっぱ私の好きなものは一つしかない!私が書くものなんて決まってる。

 

 

△月◇日

今日は私のお姉ちゃんを紹介するよ!!

お姉ちゃんの名前は明日香 紫苑!

私が物心つく前にお父さんとお母さんがいなくなって、私はお姉ちゃんに女手一つで育てられた。

軍人さんだけど、科学者さんでもあって、今を輝くトップアイドルでもあるの!

最初二つの仕事は話に聞いてただけで、一緒に仕事をしている今でも何をやってるのか分からないんだけど。

トップアイドルのお姉ちゃんはすごいんだよ!CD一杯売れるし!ライブ満席だし!ファンじゃない人もいるけど、お姉ちゃんを全く知らない人はいないんだから。

欠点といえば少し時間にルーズなところがあるところかな!私ほどじゃないけどよく待ち合わせ時間に少し遅れたりするよ!

でもとっても自慢なお姉ちゃんなの!

 

 

 

「日記というよりただのシオン博士の自慢だな」

「そりゃそうだよ。お姉ちゃんは私の自慢のお姉ちゃんだもん!」

 

 

 お姉ちゃんの事ならこの本一冊あっても書き足りないね!

 

 

「リュウセイさんとライさんとアヤさんのことも書いてあげるね!今度また日記書くの忘れたら(ネタに困ったら)!」

「いや、ちゃんと毎日書けよ日記。何のための日記だよ」

 

 

 リュウセイさんにの言葉にわたしは面を食らった。いや確かに本来日記は一気に書くものじゃなくて毎日書くものだけど。私にとってものすごい意外な人物に言われた。

 リュウセイさんだってよくライさんやアヤさんやイングラムさんにレポートの提出を忘れて怒られてるのに……

 

 

「明日は槍でも降るのか」

「ライ、それはどう言う意味だよ」

 

 

 リュウセイさんの言葉にショボーンとしてたら、ライさんが私の気持ちを代弁してくれた。うんうん、やっぱりそう思うよね。

 

 

 

*************************

 

 

 

「ユウリ、待たせてごめんなさい。あら……皆、ユウリの相手をしてくれたのね」

「お姉ちゃーん!」

「遅いです、シオン」

 

 

 そんなこんなでリュウセイさん達に日記書くの手伝って貰っていたらようやく待ち人が来てくれた。

 遅いよお姉ちゃん。私いろんな辱めを受けたよ。(主に自分の筆無精が原因)

 

 

「三人とも準備で忙しいのにありがとう。聞いたわ、今度南極へ行くそうね」

「南極行くんですか!だったらシロクマの写真お願いします!」

 

 

 リュウセイさん達の南極行きを聞いて、私はリュウセイさんにシロクマを撮ってきてもらうようにお願いした。

 癒し、癒しが欲しい。シロクマ見て癒されたい。この際実物じゃなくてもいい。

 

 

「南極にシロクマ?」

「ユウリ。シロクマが生息しているのは北極です」

「南極に生息しているのはペンギンね」

「え……うそ……」

 

 

 しかし、ローちゃんとお姉ちゃんにシロクマは南極にはいないと訂正された。……かなしい、シロクマ見たかった。

 この忙しい日々の中で少しでも癒やしがほしかった。

 ガーンと打ちひしがれながら机に突っ伏した。

 

 

「シロクマ……」

「そんなに落ち込まなくても……」

 

 

 

 

明日香結理の日記

△月●日

今日はついにローちゃんに私が日記を毎日書いてないのがバレた。

ローちゃんめっちゃ怒って今までのを今すぐ埋めろって無理難題言ってきた。

ほとんど何があったか忘れてたから日記を埋めるのすごく苦労した。

リュウセイさんからの天の救いがなかったらきっと私は今日の日記を書けなかった。

いやーリュウセイさんに感謝感激だね!

シロクマさんを見たかったけど、南極にはいなかったから。

代わりにペンギンさんを撮ってきてもらうようにお願いした。

 

 

最後に頼もしい友達を紹介するよ。

ローちゃん、お姉ちゃんからの誕生日プレゼント。私のお目付役。AI。

正式名称ロート・ケップヒェン。かわいくないし言いづらいから私はいつもローちゃんって呼んでる。

いつもは私かお姉ちゃんのペンダントや持ってるタブレットにいるんだけど。

お目付役の言葉の通り、私が忘れてることを代わりに覚えててくれたり、ミラージュ落下事件の時みたいに私が危なくなったら真っ先に助けてくれる。

ちょっとお姉ちゃんに甘いところがあるけど、私の大切な友達。

 

 

 

 




Y・A=Bの記録(レコード)
世界を違えても、人の意思(覚悟)は変わらない。
魔神は怒り、風が吹く。
幕は切られた。彼らはもう止まらない。
地球(故郷)を守るため、
立ち上がれ、鋼の戦士達。
立ち向かえ、鋼の勇者達。


我は人理の守護者(レコードキーパー)、人の願いを記憶する者。


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戦争の始まり

明日香結里の日記

△月μ日

大変なことになってしまった。

ビアン博士が地球連邦政府に対して宣戦布告をした。

お姉ちゃんが昔所属していたEOTI機関はディバイン・クルセイダーズとなって、私たちの敵になった。

正直まだ信じられない。

私にとってビアン博士は全く知らない人じゃない。

時代劇が好きなおじさんで、後で偉い人なんだよってお姉ちゃんやローちゃんに言われてもその……えー本当に?って思ったんだけど。

とても悪い人には思えなかった。

これからどうなるんだろう。

 

△月<日

お姉ちゃんが軍の上層部に連れてかれた。

なぜかヒュッケバインを勝ち取ってきた

 

 

 

 

 

 

いや何で。自分で書いてて意味不明なんだけど。

違う、違うんだよ。最初はものすごく深刻そうに連れてかれたんだよ、それは間違ってないんだよ。

 

 お姉ちゃんが連れてかれて、私はリュウセイさんと一緒に訓練になって。

 しばらくしたらお姉ちゃんがヒュッケバインと一緒に現れて「これは、しばらくの間DCパクられた私の機体の代わりになります。久しぶりにパーソナルトルーパーに乗るのでちょっと肩慣らしに手伝って」といきなり言ってきた。

 その後、私とリュウセイさんは良いようにやられてしまった。

 情報整理しても訳が分からないよお姉ちゃん!

 というかお姉ちゃん特機乗ってるときより当たらなかったんだけど!正直、前より強いんだけどお姉ちゃん!

 

 

△月!日

今日はカイ少佐に訓練をしてもらった。

第一印象はちょっと怖い人だったけど、話してみると案外ダンディで優しいおじさんだった。第一印象で物事を決めちゃ駄目だね。

お姉ちゃんが言うにはカイ少佐は特殊戦技教導隊?ってところでゲシュペンストの色々なモーションパターンを作成した人みたい。

色々なモーションパターンを教えてもらったけど、その中でも一つだけ私の心を貫いた技があった。

私の目標は決まったよ。叫ぶんだ。私も。

かっこよく叫んで、かっこよく決めるんだ。

だから今から技名を考えないと!

 

 

△月@日

DCは侵攻範囲を拡大していて、地球連邦政府はジリジリと押されていった。

観察対象だった私と私の機体……ゲシュペンスト・ミラージュも引っ張り出されることになった。

この機体が誰が何の目的で作られて、どうして私だけにしか使えないのかまだ分からないけど、今あるPTを腐らせておくのは惜しいって連邦は判断したらしい。ってローちゃんが言っていた。

私の初陣は佐世保基地だった。

佐世保基地ではラトちゃん達が頑張っていて、私も基地を守るために頑張ったんだけど、MAPWを使われて、佐世保基地を守ることができなかった。

 

 

△月%日

佐世保基地を守れなかった日から、リュウセイさんが落ち込んでる。

ちょっと私も落ち込んでいる。

お姉ちゃんに戦わなくて良いって言われたけど、ソレは全力で断った。戦うのは……本当は嫌だし、怖いけど。

でも、家族と友達が戦っているのに、私だけ安全な場所に逃げたくはない。

お姉ちゃんは中々認めてくれなかったけど、ローちゃんがお姉ちゃんの説得を手伝ってくれた。

渋ったけど……無茶はしないって約束でお姉ちゃんは私が戦うことを許してくれた。

だから……私が出来ることを精一杯やらなきゃ!まずシミュレーターで撃墜されないように頑張ろう!いつまでもローちゃんにおんぶにだっこじゃかっこ悪いもんね。

 

 

△月#日

なんかリュウセイさんの機体が新しくなるみたいだった。

けど、中々動かせないみたいで、リュウセイさんは大変そうだった。

お姉ちゃんも機体の調整に引っ張り出されてその間私はものすごく暇になった。

だから今日はローちゃんとラトに訓練を手伝って貰った。

 

 

見事にぼろ負けしました。

 

 

当たらない、当たらないよ。

実践の時はいくらか当たるのに……なんでシミュレーターになったとたんに当たらないの!?

ローちゃんにどうすれば良いのか聞いたら、もっと集中しなさいって言われた。

しゅ、集中はしてるもん……当たらないだけだもん。

 

 

△月●日

伊豆基地にDCが襲ってきた。

敵の指揮官がライさんのお兄さんだったり、ハガネにミサイルが撃ち込まれたりと大変だったけど。

リュウセイさんがミサイルを打ち抜いて無事ハガネを守り抜くことが出来た。

でも、リュウセイさんがミサイルを狙ってたときのあの感覚は何だったんだろう。

嫌な予感はしなかったけど、ピリピリというか、ビリビリというか……どう表現すれば良いのか分からないな。

お姉ちゃんに相談したら、他の皆にはその事は内緒にしておいてって言うし……

まあ、そんなこんなで今日付でハガネに配属になった。

目指すはDCの本拠地のアイドネウス島!!

 

 

△月◎日

今日はリュウセイさんの幼なじみのクスハさんと知り合った。

ただ、バタバタしててまだちゃんとリュウセイさんと話せてないみたい。

ちょっと薄情すぎないリュウセイさん。

これは後で怒っとかないと駄目な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断した……まさか、アレを作れる人間がお姉ちゃん以外いるとは思わなかった。

あの衝撃で訓練の疲れは見事吹き飛んだけど、もう正直二度とあの衝撃は体験したくない。

 

 

 

*************************

 

 

 ヒュッケバインのコックピットの中で機体の最終チェックをする。OSに不具合はない。動力に関しても──問題はない。

 急に呼びつけられて、ヒュッケバインの調整をしてくれって言われたから驚いたけれども、少し肩すかしを食らった気分だ。

 この程度わざわざ私を呼ぶ必要はない、これくらい外で待機しているイルムでも出来る。

 

 

「シオン、ヒュッケバインの調子はどうだ?」

「チェックは全て完了したわ。後の細調整はイルムが使いやすいようにお願い」

「このパーソナルトルーパー……シオンのヒュッケバインに似てるな」

 

 

 ヒュッケバインのコックピットから外に出て、データをロブに渡す。

 ビルトラプターの調整の為、格納庫にいたリュウセイがヒュッケバインを見上げながらつぶやく。

 

 

「逆ですよリュウセイ。私のヒュッケバインがイルムのヒュッケバインに似ているんです。あの子の正式名称はヒュッケバインMkーⅡ型式番号RTXー010、このヒュッケバインの改良・量産試作機なんです。これがね」

 

 

 リュウセイの言葉に訂正をいれる。

 先にヒュッケバインMkーⅡを見てしまったからそう思うのは無理もないけれど。大本はこっちだ。

 

 

「これは俺がPTXチームにいた頃、乗っていた機体さ」

「PTXチーム……確か、SRXチームの前にあったPTの特殊部隊だっけ」

「ええ、今は解散しているけど、私もメンバーの一人でした」

 

 

 PTXチームは解散して、私は軍の広告塔と科学者の二足のわらじ状態に、隊長だったイングラムはSRXチームに、リンはマオ・インダストリーの社長に、イルムは軍を転々と……軍を転々とってかっこ悪いわね。

 広告塔を押しつけられている私が言えた義理ではないでしょうけども……もうちょっと世渡りうまくならないかしら、でも今まで五体満足って事はある意味世渡り上手なのだろうけど。

 

 

「で、わざわざ私に機体の調整を押しつけたのは一体どんな魂胆です?確かにPTXチームにいた頃はヒュッケバインのメンテナンスは私の仕事でしたが、これくらい自分でも出来るでしょう。返答によってはリンに後でイルムが自分の機体の整備を怠りましたってメールを送りますよ」

「うっ……」

 

 

 ロブはリュウセイのビルドラプターの調整で忙しい。ハガネにいる中でロブの次にヒュッケバインに詳しいのは私だと自負はしている。だから私にお鉢が回ってきたのも分かる。

 だけど、この程度のメンテナンス、イルムなら自分で一通り出来る。それをわざわざ私にやらせたのなら他に理由があるはず。

 

 

「ヒュッケバイン009について、お前の目線から評価を聞きたい」

「……パーソナルトルーパーとしては問題はないでしょう。ヒュッケバインとしては……ヒュッケバインMkーⅡを使っている私が言える立場ではありませんが、008Rと008Lを知っている身としては若干物足りなさを感じます」

 

 

 正直もっと他に聞き方があったんじゃないかと思うけど、割と素直に聞いてきたので、私も正直に自分の評価を口にした。

 調整はうまく出来ている。初期の頃よりも機体性能は良くはなっている。

 けれども、あのエンジンにはかなわない。

 

 

「ヒュッケバイン008?」

「……私が今乗っているヒュッケバインMkーⅡが改良機ってことはさっき話しましたね。最初のヒュッケバインは全部で三機作られていたんですよ」

「内、一機が目の前にある009。残りが008Lと008Rこの二機だけ、エンジンが違うんだ」

「ヒュッケバイン008Lと008Rは初のEOT搭載型パーソナルトルーパーでな……その二機にはブラックホール・エンジンが組み込まれていた」

「ブラックホール・エンジン?何か、名前を聞いただけでやばそうな感じが……」

 

 

 エンジンの名前を聞いて、リュウセイは正直に思ったことを口にした。

 あの事件を思い出した私達はそれぞれ顔をゆがめる。

 

 

「率直に言わせていただきますと、研究者としてブラックホール・エンジンはとても魅力的なエンジンでした。あの事故が起こるまでは」

「あの事故?」

「ヒュッケバイン008Rのブラックホール・エンジンは実験中に突如暴走して基地一つを壊しました」

「き、基地を!?」

「その時に居合わせた奴の中で生き残ったのはたった数人。俺とハミル博士……それにライだ」

「あいつが!?」

「ああ、奴はヒュッケバイン008Rのテストパイロットだったのさ。ブラックホール・エンジン暴走事故のせいでライは左手を失い……ヒュッケバインには“バニシング・トルーパー”っていう不名誉なあだ名が付けられた」

「………………」

 

 

 私達から告げられたライの過去に、リュウセイは言葉が出なかった。

 無理もない、どんなに訓練を受けても、どんなに才能があっても少し前までリュウセイ・ダテは一般市民だった。軍人である私たちよりは人の生き死にから少し離れた位置で暮らしてたことでしょう。

 それに、これまで何度も接してきた中で、とても優しい心を持っていることはわかってる。とってもお母さん想いだし。

 何度か言い合いしている場面に鉢合わせることはあるけど、仲が悪いわけでぱないもの。

 

 

「お前、あいつから何も聞いていなかったのか?」

「あ、ああ……」

「イルム、ライはそういうことを言うタイプではないわ」

 

 

 自分の問題は自分のもの。例え相手が上司だろうが、チームメイトだろうが素直に相談するとは思えない。

 天才も考えものね。ある程度のことはトントンとこなしちゃう能力を持っているから余計に一人で抱え込んじゃうし。

 

 

「……まあ、そうだな。あいつらしい」

「ライの事はこれ以上私たちが言うことではないです。どうしても聞きたいのであればリュウセイが直接ライに直接聞いてください。あなたたちはチームなんですから」

「…………………」

 

 

 知らないとは思わなかったから言ってしまったけど、ライが言っていなかったのならこれ以上私たちの口からは言えない。

 これ以上はリュウセイとライ……チームの問題。そしてその責任はイングラムにある。

 あいつがどんな風にあの三人を導くかは分からないけど、あいつなら、悪いようにはしないはず。

 ──私が知っているあいつなら。

 




明日香紫苑のレポート
機体名 ゲシュペンスト・ミラージュ
量産型ゲシュペンストMkーⅡ・タイプTTを改修して、作られたと思われる。
基本OSはTCーOS、補助MMIはTーLINKシステム。
超高性能の光化学迷彩の他、ディバインクルセイダーズが研究開発していたASRSが搭載されており、ひとたび姿を消せばこちらが攻撃しない限り、視覚、レーダー共に探知が不可能になる。
搭載されていた武器が全て殺傷能力が低く、遠距離系統の装備だったことを考えると、ミラージュは“偵察”と“奇襲”をコンセプトに改修した機体と考えられる。


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良薬は……

明日香結里の日記

△月◎日

深海で圧壊しそうになったり、ラトと一緒に着せ替え人形になったり、DCに襲われたりしたけれど私は元気です。

皆がラトの魅力にようやく気づいて口々にかわいいって言ってて、似たような格好をしていた私に何も言わなかったけれど、まあそこは別に良いです。

ラトは可愛いもん。だからいいんです。

ローちゃんに何拗ねてるのと言われたけど別に私は拗ねてないです。

お姉ちゃんがかわいいって言ってくれたから別に良いんです。

 

 

△月★日

……喋る猫を私は初めて見た。

正確には猫じゃないらしいけど、見た目は完全に猫だった。そんな猫たちを連れていたマサキさんが仲間になった。

そして仲間になって数分でマサキさんはものすごい方向音痴だということが発覚した。

リオさんに艦内を案内されてたのに、ものの数分ではぐれて迷子になったらしい。

捜索隊が結成される事態にもなったけど、なんとかマサキさんが見つかった。

見つかったというか、マサキさんが迷子の末、皆がいる格納庫にたどり着いたというか……カザハラ博士の危機に間に合ったんだからグットタイミングだったのかな?

イルムさんがヒュッケバインからカザハラ博士が持ってきたクルンガストに乗り換えることになった。

……短い出番だったね。ヒュッケバイン。

お姉ちゃんがイルムさんのクルンガストを見て「私の機体……」って呟いてたけど……やっぱりパクられちゃったのがショックだったのかな。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 一日の日課となっているシミュレータを終え、小休止をしようと食堂の扉を開けたとき、私は信じられない光景を目にした。

 

 

「クスハちゃんと私の合作です。おいしいですし元気がでますよ、これがね!」

「ええ、効き目は抜群です!」

 

 

 ソレはお姉ちゃんとクスハさんが自分たちで作った栄養ドリンクを皆に勧めている姿だった。

 そんな現実から目を背けたい状況だったけど、逃げちゃ駄目だと私は声を張り上げた。

 

 

「──それを飲んじゃ駄目!!」

「え!?」

 

 

 私の声に驚いたのか皆の意識が食堂の入り口にいた私に移る。

 惨劇は回避されたと思った。しかし、最初に勧められていた彼だけがソレを口にしてしまった。

 

 

「ぐがっ!?」

「マサキ!?」

「お、遅かった……」

 

 

 ドリンクを口にしてすぐにマサキさんがばったりと床に倒れた。皆は慌てふためきマサキさんに駆け寄る。

 そんな中、リュウセイさんがぎこちなく私を見て、お姉ちゃんを指さした。声が出ないのかリュウセイさんの口はパクパクと動くだけで音を発していない。

 でも……うん、分かるよ。リュウセイさんが言いたいこと。私にはよーく分かる。だから私は頷いた。

 あの日、クスハさんの栄養ドリンクを初めて飲んだとき、私は察した。ああ、リュウセイさんも私と一緒か、って。

 リュウセイさんの思うとおり、お姉ちゃんの特製ドリンクは──

 

 

 

 

 クスハさんと同じくらい激マズです。

 

 

 

「相当お疲れだったんですね……」

「そうね……せっかく疲れがとれるドリンクを作ってきたのに……」

 

 

 いやそのドリンクが原因だよ。皆の心が一つになる。

 自分たちのドリンクが原因でマサキが倒れたとも露とも思っていない二人に全員が心の中でツッコミを入れた。心で思うだけで直接口に出すことはしなかったけど。

 

 

「……“それ”一体何が入ってるの?」

 

 

 さっきまで健康体だった人間が一口飲むだけで気絶した代物(劇物)

 一体どんな物が入っているのかとアヤさんは尻込みしながらその中身を聞く。

 

 

「え?そんな特別なものは入れてないわよ?林檎、バナナ、蜜柑……」

 

 

 指を折りながらお姉ちゃんはドリンクの中身を言っていく、それは何の変哲も無い普通の食材で、皆はどうしてそれで人が気絶する飲み物ができあがったのかと困惑の表情を浮かべる、でもその後半の中身を聞いて彼らは理解した。

 何でかって?それはね……

 

 

「紫蘇、ネギ、人参、大豆、納豆、アジ、マグロ、レバー……」

 

 

 一杯のドリンクに果物、野菜、魚、肉……全部入れてるんだもん、不味いに決まってるよね。

 

 

「うん、ごくごく一般的なものしか入れてないわ」

「待て、色々と突っ込みたいところがあるが、とりあえずこれだけは言わせろ。何でもかんでも一つにまとめるな!!」

「えーでも、あれこれ色んなものを食べたり飲んだりするよりも一杯のドリンクで栄養が補給できるなら良いじゃない。入れたものだって健康に良いものだけで、身体に悪いものは一つも入れてないわ」

「シオン博士。健康に良いものを全部入れたからといって、それが本当に健康に良いものかは別です」

「そもそも常識を考えてください。魚と肉が一緒に入った飲み物なんて100%おかしいです」

 

 

 ドリンクの中身にイルムさんが、何でもかんでも入れれば良いってものじゃないと怒る。

 お姉ちゃんは変なもの入れてないって主張するけど、そもそもそれを全部一緒くたにしているのがおかしいとライさんとローちゃんにつっこまれた。

 お姉ちゃんはわかってないようだったけど。

 ……どうして普通の食材で人一人気絶するような代物(劇物)を二人は作れるんだろう。

 

 

 ……クスハさんは分からないけど、お姉ちゃんの名誉のために言っておくと、レシピ通りなら美味しいものを作れるんだ。こんな状況じゃ説得力は全くないけれど。本当に、レシピ通りなら美味しいんだよ。

 ローちゃんだって言っていたもん。お姉ちゃんはレシピ通りに作れば美味しいものを作れるって。

 だけど……

 

 

「最初に味見したか聞くべきだった……」

「失礼ね、人に飲ますものなんだから味見はしてるわよ。“美味しい”ことは確認しました」

「!?」

 

 

 誰も手をつけなくなったドリンクを飲むお姉ちゃんに周囲がどよめいた。

 科学者として(知力)軍人として(戦闘力)アイドルとして(魅力)、全てがバッチシなお姉ちゃんの唯一の欠点。

 それが味覚音痴(これ)だ。

 お姉ちゃんの味覚は一般人(私達)には早すぎる。

 ……味見さえ……味見さえしなければ美味しいものは作れるんだ……本当に、味見さえしなければ美味しいものは作れるんだ!(本当に重要な事だから何度も言いました)

 

 

「ま、マサキは大丈夫なの?」

「大丈夫……かどうかは分からないけど。起きたら元気いっぱいにはなると思うよ」

 

 

 心にトラウマを負うだろうけど、体は問題ない……それどころか飲む前よりもっと元気になるんじゃないかな。

 二人のドリンクをそれぞれ飲んだ私は断言する。

 お姉ちゃんのドリンクもクスハさんのドリンクも飲んだ後ものすごい元気が出るのは間違いない。

 だけど……わざわざアレを飲んでまで元気になるメリットは正直ない。

 良薬は口に苦しって言うけどアレは違うよ。不味いよ。

 

 

「こんなに美味しいのに……」

 

 

 たった一名(マサキ)の犠牲で「最凶健康ドリンク失神事件」の幕は閉じた。

 しかし、私達は忘れてはいけない。

 彼女達はまた、第二、第三のドリンクを作り出す。

 皆の疲れをとる。とても純粋な善意で彼女たちはまた第二、第三の地獄を作り出すだろう。

 

 

 

 

 地獄への道は善意で舗装されているものなのだから……

 

 

 

 

 

△月@日

お姉ちゃん+クスハさんの合作、最凶健康ドリンク失神事件の衝撃が収まらないうちにまたDCに見つかって襲われた。

ビアン博士が新機体に乗って現れたり、他にも色々あったんだけど……正直あまり記憶にない。

色々あったのになぁ……最凶ドリンク失神事件の衝撃が……というかそれしか印象に残った記憶がない。

恐るべしお姉ちゃんとクスハさん。ご愁傷様ですマサキさん。

 

 

 

ちなみにこの事態を深刻に見たダイテツ艦長からお姉ちゃんとクスハさんは調理場へと立ち入り禁止令が出た。

二人はものすごくガッカリしていた。

 

 



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