学戦都市アスタリスク~転生した少年~ (沢田空)
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プロローグ

 

とある雨の日、俺松原海斗は交通事故で死んだ。即死だったらしい。こんなこと言うのは、産んでくれた人に失礼だが俺は死ねてよかった。このくだらない人生に終りが来てよかったと思っていた。なのに、俺の目の前にいかにも神様ですよみたいなかっこをしたイケメンががいるんだ。

 

「おい、起きろ」

 

そう言われて起きあがり、黒髪の青年に訪ねた。

 

「ここはどこだ?それにあんたは誰だ?」

 

「俺の名はまぁレンとでも名乗っておこう。俺はお前らのいう世界の神様だ。で、ここは転生の間だ」

 

俺はこれが夢であると確信した。神様なんかがいるわけないし。

 

「おい目の前にいるだろ。それに夢なんかじゃない。お前は転生者に選ばれた」

 

はい?こいつ何言ってんの?転生なんかあるわけないじゃん笑笑

 

「おい、なんで俺が転生者に選ばれたんだ?」

 

「たまたまだ。」

 

「適当すぎるだろ!!クソ野郎!」

 

「誰がクソ野郎だ」

 

「お前だよ!」

 

「いちいちうるせ―な。なら転生者の特典もなしにしてやるからな」

 

今何て言った?そんなことされたら絶対にまた死ぬ!どうする、謝るか?

 

「俺が悪かったからそれだけは勘弁してくれ」

 

しょうがなく謝った。しょうがなくだからな!

 

「わかればいい。それじゃ特典について、俺が三つまで願いをかなえてやる」

 

「それじゃあ一つ目は家庭教師ヒットマンリボーンの大空の死ぬ気の炎を使えるようにしてくれ」

 

何で死ぬ気の炎を選んだかって?それは単純にリボーンが好きで使ってみたいと思ったから!

 

「二つ目は剣術の才能をくれ。ついでに業物の日本刀を一本くれ」

 

「わかった。ちなみに転生する世界は学戦都市アスタリスクだから」

 

アスタリスクだと・・・主人公が無意識にハーレム作ってうらやま…じゃなくて学生同士が闘う世界に行くだと・・・

 

「おい、アホずらがもっとアホになっているぞ」

 

「なんてこと言うんだ!お前は!!」

 

「いいから、三つ目の願いを言え」

 

このクソ野郎は後で絶対にぶっ飛ばす。

 

「三つ目はAランクオーバーのリングと刀用のボックスとアニマルボックスを出来れば頼む」 

 

「わがままな奴だな。三つ以上あるじゃねーか。まぁ俺は寛大だから大目に見てやるよ」

 

ドヤってこっちを見てくる駄神に、いいだろ別にと不満のある顔で見ていると、クソ野郎は

 

「願いも決まったし、頑張れよ」

 

と急に言い出し、不思議に思っていると俺のいた場所の地面が急になくなり俺はそのまま落ちて行った。その時に見えたグレンの顔はとてもいい笑顔で腹が立った。

こうして、松原海斗は二度目の人生が始まった。

 



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姫焔邂逅
一話~もう一人の特待転入生~


俺が転生して16年の月日が経った。そして今俺は星導館学園に入学するのだ。

星導館の敷地内を歩いている俺は待ち合わせの場所に向かっていた。街合わせ場所には、黒髪でショートカットの女の子がいた。彼女こそ海斗が待たせていた人である。

 

「遅いよ海斗」

 

「ごめんごめん。それじゃ案内頼むよ雫」

 

「わかった、いこう]

 

彼女の名前は葦原雫。俺の幼馴染であり、俺の初恋の相手だ。なぜ彼女がいるのかというと彼女は星導館の生徒であり中等部のころからいるからである。

少し歩くと広場に出て校舎が近くに見えていた。そこでは赤い髪をした女の子と戦っている黒髪の男子がいた。

「あ、あれユリスだ」

 

「知り合いか?」

 

「うん。男の子の方は知らないけど」

 

「もしかしたら俺と同じ特待転入生かもな」

 

そう言うと、雫は男子の制服も見てそうかもと納得していた。

俺達はギャラリー達を避けながら、最前列へと出る。そこは丁度二人の中間地点。

赤髪が大技を放ったのだが、黒髪がその焔を十字に切り裂いた。

 

その時、俺は違和感を感じ、そちらを見ると、ユリスと言われた少女に向かって矢を放とうと構えていた。それに気付いた俺は指に嵌めているリングに炎を灯し、ボックスを出し、それにリングを嵌めた。リングを嵌めたボックスから一本の日本刀が出てきた。雫はそれを見て、どうしたの?と聞いてきた。雫に不審者のことを言うと俺が何をするのか分かったらしく何も言わなかった。

 

俺が雫に説明し終わると同時に矢が放たれた。俺は急いで足に大空の死ぬ気の炎を纏わせて少女に近づき、矢を弾いた。弾いた衝撃で矢は粒子になり消えた。周りからは、俺が急に表れたことを対する反応があった。

後ろにいる少女の方を見ると、戦っていた男子が彼女に覆い被さる形で倒れていて胸を鷲掴みしていた。

 

「なんてうらやまs・・・」

 

いつの間にか後ろにいた雫が笑っていない笑顔を俺に向けていた。

 

「海斗。今うらやましいとか聞こえたけど気のせいだよね?」

 

「し、雫今のは無意識に男としてしょーがないというか...」

 

「海斗の変態!」

 

と言い後ろを向いてしまった。雫は昔からこうなのである。こういうことが起きたりするとすぐ怒るのだ。まあ謝れば許してくれるのだが。

 

「ごめん雫。俺が悪かった。」

 

「別にいいよ。だって海斗だって男の子だし、それに・・・」

 

「最後なんか言った?」

 

「何でもない!」

 

と俺たちがそんなやり取りをしていると、少年がユリスに焼かれかけていた。

 

「はいはい、そこまでにしてくださいね」

 

深く落ち着いた声と共にパンパンと手を打つ乾いた音が響いた。

 

「あ、クローディア」

 

と雫が言ったので、あれが星導館の生徒会長かと思っていると、

「私行くね。遅刻するの嫌だし、海斗に用があるの多分クローディアだから」

 

「わかった。ここまで案内ありがとな、雫。今度お礼するから」

 

「うん!お礼楽しみにしてる!」

 

とものすごく可愛いらしい笑顔で返事をし、走って去って行った。俺は雫の笑顔を見て可愛すぎると!一人心の中で思っていた。その時、クローディアに声を掛けられた。

 

「あなたがもう一人の得待転入生の松原海斗さんですね。あなたも最後の転入手続きがあるので一緒に来てください。」

 

俺はわかったと返事をして、クローディアについて行った。

 

 



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二話~アスタリスク~

クローディアに連れられ、生徒会室に向かう廊下で海斗は先程の騒動の大本である綾斗と話していた。

何だかんだ転生する前の記憶は彼は持ち合わせてはいない。死ぬ気の炎の特徴など必要なことしか持っていない。

そのため彼は主人公(天霧綾斗)とは初対面である

 

 

「俺の名前は天霧綾斗。よろしくね」

 

「俺は松原海斗。よろしくなえっとー」

 

「綾斗でいいよ。俺も海斗って呼ぶから」

 

「わかった、綾斗」

 

すると、前を歩いていたクローディアが振り向き、笑顔で言った。

 

「私もあなた方と同じ学年ですから、名前でお呼びください」

 

「ええと、じゃあクローディアさんで」

 

「俺もそう呼ぶことにするよ」

 

流石に初対面の女性に名前呼びはきつい二人。

 

「クローディアで結構ですよ?」

 

「いやそれだと…」

 

「流石に…」

 

それどころか前提に呼び捨てで呼ぶような度胸を二人は持ち合わせていなかった。

 

「クローディア、です!」

 

「ええと、だから呼び捨ては…」

 

「ク・ロ・オ・ディ・ア!」

 

「「わかったよ、クローディア…」」

 

根負けした二人は渋々と呼ぶことにした。

 

「ついでにその敬語もやめてくれるといんだが…」

 

「いえ、こちらは習慣のようなものなのでお気になさらず」

 

「習慣?」

 

「はい。私こう見えても腹黒いのでせめて外面や人当たりは良くしておかないといけないのです。それが染み付いてしまいまして」

 

「…腹黒いのか」

 

「ええ、それは暗黒物質(ダークマタ―)煮立てて焦げ付かせたものをブラックホールにぶち込んで黒蜜をかけたくらいにはまっ黒ですから」

 

……ここまで堂々言われるともはや清々しい。

 

「なんでしたらご覧になりますか?」

 

「は?…って何で海斗は俺の後ろに隠れるのさ?」

 

 

クローディアは言うが早いか上着の裾をめくり上げた。

 

 

「うわぁぁ!?ちょ!?いきなりなにを……!」

 

綾斗はクローディアが腹部を露わにすると咄嗟に視線をそらす。

もちろん見て、腹黒いかなんてわかるわけないのだが。

 

「ふふッ可愛い反応をしますね。ですが…」

 

綾斗の後ろに隠れている海斗に、何故分かったんだと言わんばかりの視線を送る。

 

「……腹黒いって言ったから。まさかとは思ったが本当にやるとは思わなかったけど」

 

そうですかと少し笑いながらも先を歩き始めた。

 

 

なんだかんだあったが目的地である生徒会室についた。

クローディアが校章のによる認証システムをパスして扉をあけると、そこにはとても生徒会室とは思えない空間が広がっていた。

床にはダークブラウンの絨毯や革張りのソファーがあり終いには空を切り取ったかのような巨大な窓。

何所の社長だよこれ。

ここでクローディアがが口を開いた。

 

「では、あらためまして・・・星導館へようこそ、綾斗、海斗。歓迎いたします。そしてようこそ、アスタリスクへ」

 

「我が星導館学園が特待転入生であるあなた方に求めるのは唯一つ勝つことです。五つの学園を倒す。すなわち星武祭を制することです。そうすればあなた方の願いも叶えて差し上げましょう。現実に成せるものならば」

 

要は星武祭(フェスタ)で勝ち抜けってことか

 

「んー申し訳ないけど、そういうのはあんまり興味ないんだ」

 

先に口を開いたのは綾斗だった。

 

「ではどうしてこの学園に?」

 

クローディアが綾斗に尋ねる。

 

その質問に、綾斗は先ほどとは違い、真剣な表情に変わった。そして綾斗は答えた。いや、クローディアに尋ねた。

そしてそれは全てに欲がないと答えた理由だった。

 

「クローディア、聞きたいことがあるんだ」

 

綾斗は真剣な表情で聞いてきた。

 

「姉さんが・・・天霧遥がここにいたっていうのは本当かい?」

 

生徒会室がわずかな静寂に包まれた。その静寂を破ったのはクローディアだった。

 

「こちらをご覧ください」

 

すると、手元のウィンドウを開いて操作すると綾斗の目の前に一つのウィンドウが現れた。

そのウィンドウを見た綾斗は目を見開いた。

 

「これは・・・」

 

それは何とも不気味なものだった。

まるでバグで何かがかき消されたか、文字も画像もほとんど読み取れないデータに化していた。

それを脇目から見つつ、俺は嫌な直感がした。

 

「5年前、この学園に在籍していたとある女学生のデータです。入学は5年前。

その半年後に本人都合により退学。それ以外のデータは抹消されていました。」

 

データが消された・・・。妙だな・・・。退学になっても何等かの形でデータは残るはず・・・なのに消されている・・・明らかに可笑しい。何者かがやった意外にこうはならないはずだ。

俺が考えていると、綾斗が口を開いた。

 

「間違いない・・・姉さんだ」

 

ほんの僅かな面影が残る画像からそれが姉であると確信したのか綾斗が口を開く。其れに続いてクローディアが話した。

 

「彼女は星武祭に出場したことも、在籍いたことさえも怪しいです。当時のクラスメイトや担任の先生までもが彼女のことを覚えていなかったんです」

 

「クローディアはどうやってこのデータを?」「すみませんが、それを申し上げることはできません。それでは信用なりませんか?」

 

「ああ、いやそんなことはないよ」

 

綾斗はあわてて答えた。まあ生徒会長にでもなれば、いろいろな情報源があるのだろうと俺は思った。

 

クローディア「ただ、あなたがここに来た理由が彼女であればもう・・・」

 

言いずらそうに言葉を濁したが、綾斗はいつもののんびりとした顔で答えた。

 

「ありがとう。別に姉さんのことを探しに来たわけではないからね

 

「ではどうしてこの学園に?」

 

「うーん・・・」

 

綾斗は腕組をしてしばらく考えると、小さく笑って答えた。

 

「強いて言えば、自分が成すべきことを探す為かな」

 

「綾斗はなかなか喰えない奴だな」

 

俺は笑いながら言った。

 

「そういう海斗はなんで星導館にきたの?」

 

綾斗が聞いてきたので俺はこう答えた。

 

「大切な人を守るために。二度と大切な人が傷つかないようにするためだよ」

 

「それは素晴らしいことですね」

 

とクローディアは微笑んで言ってきた。それに対して綾斗は

 

「大切な人ってさっき一緒にいたひと?]

 

「そういうことですか」

 

疑問に思っている綾斗と答えがわかったのか、微笑んでいるクローディアに

 

「なんでそうなる?!それに何で知ってる?!」

 

「たまたま見えちゃってさ。それに海斗がものすごく幸せそうな顔で話をしてたから、そうなのかなぁって思っただけだよ」

 

「確かに雫は大事な奴だけど、そういう感情は一切ない!」

 

俺の今の精一杯の抵抗である。これ以上聞かれれば絶対にボロが出てしまう気がする。

 

「んーそっか」

 

案外引くのが早くて、驚いた。それに対してクローディアがずっとニヤニヤしてこっちを見ているのが腹立つがほっとこう。我慢だぞと自分に言い聞かせながら。

 

「それとあなた方二人には特待生の特権として学有純星煌式武装の優先使用権が与えられますが、海斗は……」

 

「わかってるよ。俺は星脈世代じゃないからな使えないしな」

 

「申し訳ありませんが、そういうことになります」

 

「ええ?!そうなの?!」

 

「ああ。俺は星脈世代じゃないんだ」

 

「じゃあの今朝のあの動きは?」

 

へぇ―。あの動きが見えたのか…。本当に喰えない奴だな。

 

「まぁ後で教えてやるよ。じゃあ先に出てるぞ」

 

綾斗がなんでという顔で見てきたので、こう答えた

 

「綾斗には、最後の転入手続きがあるだろ?」

 

「それは海斗もじゃ・・・?」

 

「俺はとっくに終わらせたぞ」

 

というと、綾斗はいつの間にと驚いていた。しかし、俺が言ったのは嘘である。なんで嘘を言ってまで、逃げようとするかというと……

 

「そういうことですので、海斗は外で待っててください」

 

生徒会長がものすごく笑っていない笑顔を向けてきていたからである。

 

「はいよ。じゃあとでな、綾斗」

 

「うん・・・」

 

綾斗はまだ俺の嘘を信じていた。堪忍や、綾斗…。

クローディアにも言われたので、俺は生徒会室を後にした。

 

 

 

 



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三話~転校初日~

「というわけでこいつらが特待転入生の天霧と松原だ。テキトーに仲良くしろよ」

 

生徒会室を後にした俺たちは(まぁあの後綾人に色々と言われたが)担任に連れられ、今現在転校生あるあるの自己紹介です。はい。

そして担任の紹介がこれである。テキトーだ!!と誰もが思ったが口に出す者はいなかった。担任の谷津崎匡子は目つき口調も悪い。しかも何で黒く変色してる釘バットを持ってるんだ?

 

「早くしろ」

 

催促されたので綾斗から自己紹介をした。

 

「えっとー天霧綾斗です。よろしく」

 

「松原海斗だ。よろしく」

 

綾斗も俺もそっけない挨拶だったが、俺らを見るクラスの連中の視線は様々だった。興味津々なもの、無関心なもの、探るようなもの、警戒しているもの、

もーれつに俺に向かって、手を振っているもの等々。最後のは言わなくても分かるだろう。

 

「先生!海斗は私の隣にしてください」

 

俺の馬鹿な幼馴染だ。

 

「うるさいぞ、葦原。じゃあ松原は葦原の隣な。天霧はちょうどいい、火遊び相手の隣な」

 

「誰が火遊び相手ですか!」

 

先生の言葉に反応した少女ーユリスが顔を真っ赤にして立ち上がった。

 

「お前以外に誰がいる、リースフェルト。朝っぱらから派手にやらかしやがって売られたならまだしも、この時期に冒頭の十二人が気軽にケンカ吹っかけてんじゃねーよ!うちはレヴォルフじゃねーんだぞ」

 

「ぐっ・・・」

 

しぶしぶと腰を下ろしたユリスの席は最後列から一つ前。ちなみに俺は綾斗の後ろでその隣は雫である。

 

「よろしくな、雫」

 

「よろしく海斗!」

 

 

 

そして放課後になった。

するとユリスが綾斗に…

 

「お前には借りが出来た。要請があれば一度だけ力を貸そう。それ以外で慣れ合うつもりはない」

 

そう言い、ユリスは教室を出て行った。

 

「ははっ、振られたな。まぁ…あのお姫様じゃ仕方がないさ……。

何しろ、人を寄せ付けないからな」

 

「君は確か……」

 

「俺は夜吹英士郎。よろしく」

 

「よろしくな。夜吹」

 

「ああ、後俺綾斗のルームメイトだ」

 

「あれ海斗は?」

 

「一人部屋が残ってるからそれを使わせるそうだ」

 

「なるほど」

 

教室を後にし、俺たちは三人で下校していた。

 

「夜吹。あのユリスって子、お姫様って言われてるけどあだ名?」

 

「いや、正真正銘のお姫様だ。フルネームは。ユリス=アレクシアマリー・フロレンツィア・レナーテ・フォン・リースフェルト。ヨーロッパの王室名鑑にも載ってるぜ」

 

「おまけに数%しかいないストレガだ」

 

「随分と詳しんだな夜吹は」

 

「まぁこれでも新聞部なのさ。」

 

「なるほどな。どおりで詳しいわけだ」

 

「納得のいく答えでよかったよ」

 

「そりゃあどういう事だよ海斗?」

 

「夜吹がリースフェルトの追っかけじゃないってわかったからな」

 

げんなりにした顔で「冗談はよしてくれよ…」と言われたがなかなかにいじると面白いもんだな。

と二人で話していると、綾斗が

 

「夜吹、そう言えばこれ返すよ」

 

と綾斗が渡したのはルークスだった。

 

「なぜおれだと・・・?」

 

「強いて言うなら、声、かな」

 

「凄いな綾人。あの中から夜吹の声を聞いて覚えてるなんて」

 

「まぁ姉さんから借りたものは貸すように言われてたからな」

 

「へへっ、お前さん、面白いな」

 

「答えろ、ユリス!」

 

話していると、男の怒鳴り声が聞こえてきた。声のした方に向かうと、ベンチに座っているユリスと二メートルはある身長に肩幅は広く、どれだけ鍛えたら、ああなるんだと思わせるくらいすごかった。

 

「なぜ新参者なんかと決闘した!」

 

「答える義務はないな」

 

「うひょー特ダネじゃねーか!」

 

咄嗟に草むらに隠れてた俺らだが夜吹だけ身を乗り出して言った。

 

「私は貴様を三度退けた。これ以上やっても無駄だ」

 

「きさまぁ!」

 

「あいつは?」

 

と綾斗が夜吹に尋ねると、ウィンドウを素早く操作し、俺たちに見せてきた。

 

「レスター・マクフェイル、うちの序列九位、冒頭の十二人だ」

 

「冒頭の十二人って?」

 

「アスタリスクの各学校にはランキング制度があってな、そのランキングを在名祭祀書て言うんだ。その中でも上位十二人のことを冒頭の十二人って言うんだ」

 

「じゃあ相当強いわけだ」

 

「いや、多分強いけどユリスには勝てない」

 

俺が口を開くと、綾斗が聞いてきた。

 

「なんで?」

 

「さっきユリスはマクフェイルを三回退けたってことはあいつ魔術師や魔女が苦手なんだろ」

 

「おぉ、さっきの会話でそこまで分かるなんて」

 

と夜吹が言ってきた次の瞬間、ズドォ―ン!と大きな音がした。そこには斧型の煌式武装を振り下ろしたレスターがいた。

 

「いいから俺と戦え!ユリス!」

 

「レ、レスター…」

 

「レスターさん落ち着いてください。流石にここじゃあ…」

 

取り巻きであろう二人がレスターを止めようとしていた。

 

「調子に乗るなよ。俺の実力はあんなもんじゃねえ!」

 

「ならば、それを証明するんだな。私以外の相手でな」

 

というとユリスは立ち上がり、背を向けてしまった。

 

「待て!まだ話は終わちゃいねえ!」

 

レスターが肩を掴もうとした所で、俺と綾斗は木陰から出て行って声をかけた。

 

「あれユリスじゃないか。奇遇だね」

 

「おい綾斗、お前誤魔化すの下手だな。嘘だってバレバレだぞ」

 

「なぜここに?」

 

「何だてめぇは?!」

 

「ああ!こいつ例の転校生だよ!」

 

「何だと!?」

 

「俺は天霧綾斗。よろしく」

 

レスターは綾斗に近づいて、見下ろす形で睨んでいた。綾斗が差し出した手を無視して。

 

「こ、こんな小僧と戦っておいて俺とは戦えねぇだと……!!」

 

「何回やっても変わんねーからやめとけ」

 

「何だと!お前!」

 

「俺はお前って名前じゃねぇ。松原海斗だ」

 

「どーでもいい!俺がまた負けるだと!?」

 

「ああ、無理だな」

 

俺は完全にレスターを否定した。

 

「それに女性にしつこいのは男としてどうかと思うぞ」

 

「てめえ、なめやっがて!」

 

「レスターこれ以上はま「なら闘うか?」

 

そう小太りの少年の言葉を遮り言った。

 

「もしおまえが勝てたなら俺らは何も文句は言わない。負けたら不要に絡むな。それとユリスさんも一度でいいから闘ってやれ」

 

「おい何故お前がそんなことを決める。私は闘わないと言っているのだ。何度言えば分かる」

 

明らかに不満そうにして言うユリス。

 

「それは俺が負ければの話だ。勝てばこれから不要に絡まれることもなくなる。良い条件だと思うが?」

 

すると少し考えてユリスは考えを出した。

 

「……負けたらお前をじっくりと中まで焼くことにしよう」

 

……なんか自分でこんなの吹っ掛けておいて何だが。…負けられなくなっちったなぁ。

 

と少し思いにふけっているとレスターを見ると子供が泣きだすくらいの怖い顔をしてこちらを睨んでいた。

 

「……お前如きが俺とやろってのか?それに負ければ、だと?二度とそんな口聞けねえように叩き潰してやる!!!!!」

 

「我レスター・マクフェイルは汝松原海斗に決闘を申し込む!」

 

「我松原海斗、決闘を受諾する」

 

それを聞いた綾斗たちは少し離れた。仮にも冒頭の十二人であるレスターが闘うのだ。近くにいれば危険なのは百も承知。

二人の校章が薄く輝きカウントダウンが始まった。

海斗はポケットからボックスを一つだし、リングに炎を灯し、開口した。

 

3

 

「…なんだそれは?!」

 

「別に答える必要は無いだろ?」

 

2

 

ボックスから出たのは一振りの刀。無駄な装飾がないそれは一目で分かるほどの業物。

 

1

 

刀を抜き中段に構え、相手を見据える。そこには先程の驕った様子など全くなく、冷静そのもの。

 

 

 

決闘開始(スタートオブデュエル)!!』

 

その合図の同時にレスターは一気に接近し、斧型の煌式武装を振り下ろした。

それは地面を抉るほどの一撃。レスターはこれで勝ったと確信した。口ほどにもない奴だと、嘲笑うかのように笑みを浮かべた。

 

「!?(何だこの悪感は…。まさか!?)」

 

「すげーな今の。あんなの受けたら一溜りもねぇーな」

 

その声を聞いたレスターは後ろを振り返った。そこには今己が倒したであろう敵の姿があった。

海斗は今の一撃を見切り、レスターの背後に回ったのだ。

 

「テメエ!!」

 

悪態を吐いたレスターは再び接近し、煌式武装を振るう。だがそれらを全て紙一重で躱していく。全てが力任せの大振り。そんなもの武の道にいる者なのならば、躱せない方がおかしい。

そして躱す要領でで一度距離を取った。二人の立ち位置は開始の時と真逆の位置にあった。

その行動に腹が立ったのか更にレスターは怒鳴り散らかした。

 

「ふざけんのもいい加減にしやがれ!!」

 

そして再び斧を振りかぶった。だが先程とは違い、斧自体が光を帯びている。

星辰力を武器に注ぎ放つ星脈時代が使える技、流星闘技《メテオアーツ》。それをレスターは放とうとしている。

 

それを見た海斗は刀を一度鞘に戻し、腰だめに構えた。それはまるで抜刀術のように。

 

 

 

──時雨蒼燕流 特式 抜刀術 (・・・・・・・・)

 

 

──叢雨(むらさめ)

 

 

 

それは一瞬のことだった。レスターが武器を振り下ろすと同時に海斗も刀を走らせた。2人が交差し、ビーッ!!と機械音が鳴り響いた。それと同時にレスターの武器が持ち手の部分から、そして校章も横一線に真っ二つになった。

 

決闘終了(エンドオブデュエル)!!WINNER松原海斗』

 

「約束はしっかりと守ってもらうぞ」

 

刀を鞘にしまい、レスターに言う。それを聞いたレスターは始めの時よりも顔を恐ばらせ、こちらを睨み思うが事を口した。

 

「俺が今日来たばっかの奴に負けるだと…!!もう一度だ!今度こそ今見てぇにはいかねぇ!!」

 

「断わる」

 

「逃げるのか!?」

 

「逃げるも何もないだろ?俺はお前の態度を見て気分が悪かったから挑んだまで。挑戦を買い、負けたのはお前のミスだ。それに今ここでユリスを狙うってことは朝に不意打ちを仕掛けた奴と同類ってことになるぞ」

 

「何?……ユリスが、襲われた?」

 

「レスターさん!今日はやめましょう。決闘の隙をうかがうような卑怯なマネ、レスターさんがするはずがありません!」

 

「そ、そうだよレスター!」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

「驚いたぞ、まさかこれほど強いなんてな」

 

「そりゃどうも。お世辞だとしても嬉しいよ」

 

「ほんとだよ。それにあの箱?から刀を出したのは驚いたけど」

 

「ああ、あれには私も驚いた。お前は魔術師なのか?」

 

「んん、いや俺は魔術師どころか星脈時代でもないぞ」

 

「そうかそうか、星脈時代じゃないのか……。なに!?」

 

ありえないって顔をしながら声を上げるユリス。

 

「そんなに驚くことなのか?」

 

「当たり前だ!!星脈時代でもないのにレスターに勝ったのだぞ!?だが待て。ならばあの炎は何なんだ、魔術師ならまだしも、ましてや星脈時代ですらないものが出来る芸当ではない。……お前は一体何者なんだ?」

 

ユリスが言うことはもっともである。ユリスのように魔女や魔術師ならば日が突然出せても説明がつく。だが海斗のような一般人は出来ない。出来るはずがないのだ。なぜならば星脈時代のように星辰力が無いのだから。

だが海斗は出せる、この時点でもうおかしいのだ。

 

死ぬ気の炎とは人の生体エネルギーを圧縮し視認させたもの。そしてそれをリングを通し発生させるもの。その炎にも属性があり海斗のは大空の炎。性質としては調和。他に六種類の属性があり、計七つの属性がある。

ちなみにこの世界で死ぬ気の炎を使えるのは知られている中で海斗を含め二人(・・)しかいない。そして一人目に関しては情報規制が敷かれ、統合企業財体のお偉いさんしか知らない。

 

 

 

「(…どうやって誤魔化そう。無理だよ、あの目。怖すぎんだろ何で睨んでんだよ。ちくしょ…)」

 

「えっとーだな、これはその、だな…。まぁ家に代々伝わるものとしか言えないなぁ」

 

この説明に納得がいかない様子のユリスだが一つため息をし、

 

「わかった。まああのレスターを倒したのだ。明日は大変だぞ?」

 

それだけ言い、ユリスは去って行ってしまった。それに対して全くもって分からなかったが、綾斗と共に(夜吹はいつの間にかいなかった)帰ろうとするが

 

「なあ綾斗、寮までの道ってわかるか?」

 

「いいや、ってまさか…」

 

「そのまさかだよ…」

 

二人顔を見合わせため息をつき考えた末に急いでユリスの後を追い、寮までの道を聞くのだった。

……当然のように笑われたのは当たり前だ。

 

 

 

 

 

 




叢雨って言うのは降り出してすぐ止む雨のことですね。こっちの村雨の方が分かりやすかったかもしれないけど、あえてこっちを使いました


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四話~こうなるのは分かってたけどめんどいな~

こっちはゆっくりと書いていくつもりなのでそのつもりでお願いします




レスターとの一件の次の日、いやその一時間後には学校や寮は俺の噂で持ち切りだった。

なんで?そんなの夜吹が決闘の動画を流したからだよ!

帰ってから気づいたから、すぐさま夜吹の部屋に特攻をかけたよ。

新聞部だから許せ?プライバシーの侵害って知ってるか?知らないなら調べてこい。いやマジで。

 

 

まぁそんなこんなで次の日、教室。俺が教室入ると雪崩のように人が集まる。

 

「昨日のあれ!凄いね!どうやって避けたの!?」

 

「転入早々序列九位とかお前やるな!」

 

等など他にも昨日の件で見直したとか、凄いとかもあれば

 

「どうせまぐれだろ?」

 

「アレで冒頭の十二人(ページワン)ならいつでも狙えるな」

 

とか好きなように言ってる奴らもちらほら。

まぁ別に冒頭の十二人(ページワン)とかに特に興味はないから勝手に言ってくれ。

でも言うのであれば、あれは力の一端で全力では無いとだけ。言いたい……けどめんどいよな後々。

それに俺の力は大切なものを守るためのものだ。見せびらかして強さを証明したい訳じゃない。

 

「……(ジッー)」

 

「……」

 

そんな事よりも今はこっちだ。何故か雫がめちゃくちゃ睨んでくる。

 

「…どうした雫?」

 

「何で昨日決闘したの?」

 

おっと、これは結構怒ってるやつだ。ハッ詰んだ。

 

「只ユリスに無駄に構うアイツが鬱陶しかった、それともしかしたら昨日のアレ(・・)に関係あるかなって思ったから」

 

昨日のユリスの暗殺紛いなやつに少しは関係してるかと思って入ったってのはほとんど後付けだ。本音は普通に見てて鬱陶しかった。

……自制すれば良かっと少しばかり後悔。

 

「そう、なんだ」

 

「ホントにどうした?」

 

「また海斗と会えたのに…色々と離れてるなって思った」

 

「ハァ…」

 

一つ溜息をする。そして雫の頭を優しく撫でる。

 

「離れてるもんか、だってこんなに近くにいるんだよ?」

 

「……そういう事じゃないよバカ」

 

ほんのりと頬を紅く染める雫。それを見てやっぱり可愛いと思う。

 

「あの二人出来てるの?!」

 

「俺たちの癒しが…!」

 

「あいつは異端者だ。異端者に死の鉄槌を!」

 

「「「死の鉄槌を!!!」」」

 

「行け!あいつは今からFFF団の、我らが敵だ!!」

 

「「「ウオオオオオオオオ!!!」」」

 

「みんなしてなんで黒装束何だよ!!ってうわぁぁぁ!!」

 

そう言ってクラスの男子全員(綾斗を除く)が俺に襲いかかってくる。

やばい。こいつらマジで殺りに来てやがる!俺が何したってんだよ!ちっくしょー!!!

教室からどうにかして抜け出し廊下へと逃げる。

 

「廊下に逃げたぞ!追え!あいつを生きて返すな!!」

 

「「「おお!!!」」」

 

そうして教室に残ったのは女子と何がなにかわかっていない綾斗のみ。

 

「はぁ男子ってホンット」

 

「「「バカばっか」」」

 

クラスの女子全員の意見が一致した瞬間であった。

 

「このクラスにはバカしかいないのか…」

 

「ははは……」

 

苦笑いを浮かべるしか出来ない綾斗であった。

 




ちなみに須川くんはいません

あれはモブです


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五話~襲撃~

お久です

久々にこっちの投稿です。あ、ちなみにFGOで今年入ってから呼符でなんとなく引いたら猫耳狩人さんと英雄王来ました。
……やったぜフィイイイイヽ(‘ ∇‘ )ノ


あのあと何とか逃げ(捕まかけた時は強行手段をとったが)その放課後に綾斗と話していた。

 

「ん、綾斗そろそろいいか?」

 

「え?ああ、じゃあよろしく」

 

わざとと分かる咳払いをして、視線を惹きつけてそのままスムーズに話すユリスにその言葉の意味を察しいつも通り喋る綾斗。

 

「何かあるのか?」

 

「ユリスに学園を案内してもらおう約束なんだよ。海斗も一緒に来る?」

 

「ユリスがいいなら行くよ」

 

ふとユリスを見ると少しばかり不機嫌な顔をしたけど溜息一つついて了承を得た。

 

「海斗帰ろ?」

 

そこで雫が話しかけて来たがクラスの男子がギョッとこちらを見てきた。

おい、なんだよお前ら。そんなに見るな、マジで怖いから。

 

「悪いな雫、俺このままユリスに学園案内してもらうから先に帰っ「私も行く」おい…」

 

説明の途中だと言うのに……。まぁいいか、綾斗達は先に廊下にいるしそん時説明すれば。

いざ廊下に出るとクローディアとユリスと青い髪の眠たそーな目の少女(なんでも綾斗の幼馴染らしい)がいがみ合ってるではありませんか。

 

「なんだこれ…」

 

「終わるまで待と?」

 

「はぁ…そうだな」

 

なんでもいがみ合ってる理由は誰が綾斗を案内するのに相応しいとか何とか。

いやいやクローディアは生徒会の仕事?があるんだから無理やないの?

 

──────

 

結局のところクローディア以外が行くこと(雫の時はあっさりと承諾)になったんだが……。

 

「ここはクラブ棟だ。うちのクラブは一部を除いてそこまで活発に活動はしてないが、報道系のクラブに文句を言うのならここに足を運ぶことになるだろうな」

 

「……なるほど」

 

「ここは委員会センター。福利厚生に関する要望、申請はここを通す必要がある」

 

「……そうだったのか」

 

「食堂は……一応、学園内にはカフェテリアを含めて七箇所の食事処がある。その日の気分で食べる場所を変えるのも一興だろう」

 

「……初めて知った」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……沙々宮。私はお前を案内していた訳ではないんだぞ?」

 

中庭のベンチで一休みしながら、ユリスはいちいち自分の説明に頷いていた沙々宮に向かって言った。対して、沙々宮は胸を張ってみせる。

 

「……私方向音痴だから」

 

「それで何故、自分が案内するなんて言えたんだ?」

 

「えへん」

 

「それ褒められてないぞ?」

 

「でも海斗も方向音痴だよね?」

 

「それは言わないでくれませんかね雫さん……」

 

ド直球で言う雫。首を傾げて言ってくる……まぁ可愛いよね。

おいそこ、チョロいとか言うな。死ぬ気の炎で焼くぞ?

 

「方向音痴まで昔のままとか本当に変わらないね紗夜は」

 

「……そんなことはない。ちゃんと私も成長している」

 

「そう?昔とあんまり変わんないと思うけど」

 

幼馴染というだけあり、とても仲が良さそうだ。二人の会話を見て嫉妬するなよユリス。

 

「何か言いたいことでもあるのか松原?」

 

「いえ何も……」

 

何でこう女子って生き物は感が鋭いのかな……。

 

「女の子は特別だから」

 

際ですか…。いやなんで雫も俺の考えてること分かるんだよ。

 

「飲み物買ってくるけど、ユリスは何がいい?」

 

「え、飲み物? そ、そうだな、では冷たい紅茶を頼む」

 

「俺も行くか。雫は何がいい?」

 

「じゃあ100%のオレンジジュース」

 

「はいよ」

 

「私は」

 

「りんごジュースでしょ?濃縮還元のしてないやつ」

 

 

流石、綾斗。分かってる、と沙々宮は自動販売機に向かって行く綾斗の後ろ姿に親指を立てた姿が見えた。綾斗と俺は近くにある噴水を回り込むようにして高等部校舎へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

said雫

 

海斗達が姿が見えなくなってから紗夜がユリスに聞いた。

 

「……リースフェルト、もう一度聞きたい」

 

「何をだ?」

 

「何故、リースフェルトが綾斗を案内するに到ったかその経緯について」

 

「私も知りたい」

 

正直私も気になっていた事だった。あのユリスが他人と仲良くするところなんて見たことがなかったから。

 

「お前も意外としつこいな……まぁ、減るものでもないし答えてやる。私はあいつに借りが出来た。それでその借りを返すために学園を案内することになった。それだけのことだ」

 

「借り?」

 

「もしかして決闘の?」

 

一瞬、驚いた表情をしてユリスは答えた。

 

「お前も見ていたのか…。そうだ決闘の時に助けられた」

 

「……決闘? 何で綾斗がリースフェルトと決闘を?」

 

流石にそれはプライバシーに関わるので答えなかったが、紗夜は暫くの間、綾斗が決闘? と首を傾げていたが、すぐに別の疑問を見つけた。

 

「……決闘の結果は?」

 

「途中で邪魔が入った故、不成立だ」

 

「……それはおかしい」

 

「おかしいって?」

 

「綾斗と戦って、リースフェルトが勝てるはずがない。ましてや引き分けは尚更」

 

予想もしなかった紗夜の言葉にユリスは目を白黒させた。冗談、という訳では無さそうだ。その証拠に紗夜の目は真剣そのものだった。

ユリスを見ると額にしわが寄っていて、イラつき始めたのが分かった。

 

「それはどういう事だ?」

 

「リースフェルトは強い。少なくとも、私と同じくらいには。でも、本気の綾斗に勝てないはず」

 

そんなことない、と思いつつ、ユリスは心当たりがあることに気付いた。決闘の最中、終始余裕がない中彼はユリスの炎を斬った。それは私も見た事実。それなら海斗が不思議そうに見えていたのも納得がいく。

 

(あいつはあれでも本気ではなかった……?何故だ?あの様子だとあれが限界のはずだ……)

 

ユリスの脳内で疑問がぐるぐると渦巻く。しかし、それについて深く考える時間は無かった。不意にユリスは目を鋭くさせた。私も反射的にベンチから離れていた。それとほぼ同時に乾いた音を立てて、数本の光の矢がベンチに突き刺さる。昨日の決闘で海斗が防いだものと同じものだ。

 

「ユリスあれ」

 

私に言われ、ユリスが矢の飛んできた方へ視線を向ける。すると、噴水の中から黒ずくめの格好をした襲撃者が顔を覗かせていた。その手には矢を放ったであろうクロスボウ型の煌式武装が握られている。

 

「また不意打ちか。芸のない」

 

嘲笑しながらユリスは星辰力プラーナを集中させ始めた。前回の同一犯と見て間違いないだろう。

 

「咲き誇れ、鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!!」

 

ユリスの声に呼応して現れた炎の槍は襲撃者へと刺し貫かんと飛び掛った。だがそれは間に飛び込んできた他の黒い影に防がれた。

 

「新手……それも私の炎を防ぐだと!?」

 

「なら…!」

 

私も腰にある二つある愛銃の一つを抜く。抜くと同時に死ぬ気の炎(・・・・・)で銃弾を形取り放つ。それを前にいる襲撃者は手に持っている大斧で弾こうとするが弾くと同時に大きく仰け反った。

 

「やっぱりこれなら効く」

 

そう言い、再び撃とうとした瞬間

 

「……どーん」

 

周囲一帯を震わす重低音が響いたかと思うと、大男が天を舞っていた。十数メートルも打ち上げられ、そのままきりもみ落下して頭から地面に突っ込む。ピクリとも動かなくなった。

 

「え?」

 

まさかと思い、後ろを振り返ると爆風が荒々しく吹き荒ぶ中、大男に銃撃を叩き込んだ紗夜へと視線を向ける。その手には紗夜よりも遥かに大きい銃が握られていた。

 

「……沙々宮。それは何だ?」

 

「三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」

 

「グレネードランチャー?!」

 

思わず声を上げてしまったが驚くのも無理はないと思う。あの小さな紗夜(私とあまり違わないけど)が身の丈に合わないものを放ったのだ。

頷きながら紗夜は再び噴水へと銃口を定めた。

 

「……バースト」

 

銃身が微かに輝き、マナダイトが光を増していく。急激に高まった星辰力が集中していく。

 

流星闘技(メテオアーツ)?!」

 

ユリスが声を上げ驚く。だが噴水の中の襲撃者は逃げようともせずにいた。

 

(あれを受けても大丈夫だと思ってるのかな?)

 

「……どどーん」

 

可愛らしくも覇気が全く無い掛け声と共に放たれた光弾は襲撃者に当たらず、新しく現れた黒い影とさっき吹き飛ばされた二人が斧を重ねて受け止めた。

 

「……うそ?」

 

紗夜のそんな声が聞こえると同時に噴水の中にいた襲撃者が再び矢を放とうとしていた。

 

「……いい加減鬱陶しいよ」

 

小さく呟いた言葉はユリスにも聞こえていたのかチラッと見られた。だがユリスは何か恐ろしいものを見たような顔をして一歩後ずさった。

 

「紗夜のがダメでもこれなら効くでしょ」

 

そう言いながら、愛銃に死ぬ気の炎をさっきよりも多く(・・)込めて放つ。

 

「吹き飛んで!!暴鮫の一撃(スクアーロ・ディフィアンマ)!!」

 

先程のものよりも大きく撃った炎は鮫の形を模している。効くとわかっているものに当たるつもりは無いのか避けようとするが襲撃者達に直撃する。

今の一撃で噴水ごと吹き飛ばした。……噴水ごとは流石にまずかったかな。

 

ぽっかりと開いた穴から覗いた基底部分が狂ったように水を噴射し、シャワーのように撒き散らしている。

 

「大した威力だな」

 

「……ほんと。そんな小さな拳銃でよくあの威力が出る。もしかしなくてもオーダーメイド?それでもあの威力出すにはマナダイトが少ないすぎると思う。どういう仕組み?」

 

素直に賞賛してくれるユリスはまだしも私の銃を、いや今の一撃を見てなのか武器オタクである紗夜がものすごく怖い…。

 

「あ、あの紗夜落ち着いて」

 

「……落ち着いてる。だから早くその銃について教えて」

 

「おーい!」

 

そこで海斗と天霧くんの声が聞こえた。二人が来たのならと少しばかり安心できる。

……今の紗夜はものすごく怖い。ほんとに怖い。大事だからもう一回言っとく。怖いよ。

 

side out

 

 

海斗と綾斗が自販機で飲み物を買って帰ろうとした時、中庭からものすごく大きな音が聞こえた。それに伴って青い死ぬ気の炎が見えた。

 

「!(今のは雫の暴鮫の一撃(スクアーロ・ディフィアンマ)!!何でこんな場所で!?)綾斗急いで戻るぞ!」

 

「うん!わかった!!」

 

綾斗も星辰力(プラーナ)を感じたのか慌てて戻る。

 

(海斗は星脈時代(ジェネレスタ)でも無いのに速いな…。それにあの足の炎はあの時の?)

 

そんな考えをしながらも中庭に着いた二人は言葉を失った。

見るとあったはずの噴水は全壊、更に周囲の木々も酷い有様。

 

「おい、一体全体何が起こった!? ばかでかい音がしたと思って来てみりゃ噴水が消し飛んでるし」

 

「色々あったんだ。な、沙々宮」

 

「……そう。色々あった。ね、雫」

 

「そう、色々だよ」

 

海斗が問うも三人は乾いた笑いを浮かべながらいなすだけだった。

 

「……それよりもこれ着ろ雫」

 

「え?」

 

そう言い自分の制服の上着を雫にかける海斗。綾斗は頬を紅くしながら後ろを向いていた。

 

「制服」

 

言われるままに制服を見ると納得した。周囲は雫が壊した噴水から放たれる水で水浸しになっている。当然、その水を三人は浴びてるわけで、生地の薄い夏服が透けて豪いことになっていた。

 

「み、見るな! 見たらただじゃ済まさんぞ!?」

 

「み、見てない!見てないから!!」

 

「……スケスケ。これはエロい」

 

「いいから早く隠せ!!」

 

「海斗?もしかしなくても二人の見たよね?」

 

笑顔(黒い)を浮かべながら海斗から受け取った制服で隠しながら近づく雫。それを見てまずい!?と思った海斗は全力で否定した。

 

「み、みみ見てません!!ホントに見てません!!だからその笑顔やめて!?」

 

「じゃあなんで今紗夜に隠せ、なんて言えたのかな?それは見たからだよね?」

 

早くも詰んだ海斗。そんなことをしてる内に人が集まり始めたのでその場から慌てて離れた五人であった。

 

 

ちなみに次の日、ボロボロで学校に来た海斗を見て雫は怒らせたらいけないと思ったのは三人だけの秘密である。



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六話~バカ野郎!!~

遅れてすいません



休日があけて学校に行く途中、綾斗と夜吹と会い、共に登校する。

 

 

「やあユリス、おはよう」

 

「……」

 

綾斗の声が聞こえていないのか、ユリスは何かを真剣な表情で見ている。

 

「ユリス?」

 

「うわっ!?」

 

綾斗が近くまで寄って声をかけるとユリスは短い悲鳴を上げて見ていたそれを慌てて机の中に突っ込む。

 

「い、いきなり声をかけるな!ビックリするではないか!」

 

「さっきから声をかけてたよ?でもユリス反応ないから……」

 

「ああ、そうだったのか。それはすまないことをした」

 

様子のおかしいユリスに疑問を持ちつつ、放課後。

 

どの生徒も帰宅あるいは部活動の行く準備を始めている中、ユリスは席を立った。

 

「あれ?ユリスどこか行くの?」

 

「今日は用事がある」

 

綾斗を一瞥せずにそう言ってユリスは教室を出て行った。

 

何か返し方が冷たい感じだ。

 

「何か当時に戻ったみたいだな。お前と松原らとつるむようになって雪解けしてきたと思ってたのに」

 

「うん、朝から何か様子が変だったし……もしかして何かあったりしてないよね?」

 

「すみません、天霧綾斗さんはいらっしゃいますか?」

 

ユリスの心配をしていると教室のドアから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

描かれた星導館の校章が特徴的なアタッシュケースを持ったクローディアだ。

 

「クローディア、俺に何か用?それにそのアタッシュケースは?」

 

「はい、黒炉の魔剣(セル=べレスタ)の調整が終わりましたのでお届けに参りました」

 

「黒炉の魔剣?綾斗、こいつの適性検査受けてたのか?」

 

「うん、ついこの間ね。ちょっと手間取ったけど何とか合格したんだ。俺の姉さんが使ってたかも

しれない剣だからね」

 

「ところでユリスはどうされたのですか?てっきり一緒にいると思っていたのですが……」

 

「お姫様から朝誰かからの手紙を読んで、さっき出て行っちまったよ」

 

夜吹がそう答えると穏やかだったクローディアの表情が真剣な表情に切り替わる。

 

「それは……少しマズいかもしれませんね」

 

「どういうこと?」

 

「ユリスは恐らく襲撃犯との決着を着けるつもりなのでしょう。誰にも頼らず、一人で」

 

クローディアの発言に綾斗は驚きを隠せない。

 

それはそうだ、俺達に何も言わずに出て行ってしまったのだから。

 

「でも、そんな……ユリスがそんな危険なこと……」

 

「いや、クローディアの言ってることは本当みたいだ。ほら、これを見てみろ」

 

俺はユリスの机から引っ張り出した手紙を綾斗に見せる。

 

 

 

「本日の17時、一人で再開発エリアの廃ビルに来い。来なければ友人の命は保障しない……。

これって…!」

 

「ああ、ユリスは俺達に危険を及ばないように一人で行ったんだ」

 

あのバカ姫……一人で何もかも背負いやがって……。

 

「けど、それでも言ってくれればよかったのに……俺達、まだ信用されてないのかな……?」

 

「いいえ、その逆だと思いますよ?」

 

「どういうこと?」

 

「ユリスは今、自分の手の中にあるものを守るのが精一杯なんです。それに貴方達も入ってしまった。

それだけのことです」

 

クローディアが悲しく笑いながら言う。

 

クローディアのその表情を見て

 

「じゃああのバカ姫にちょいとお叱りをしに行きますか。綾斗も行くだろ?」

 

「もちろんだよ。女の子が一人で危険なところに行ったなら

放っておけないじゃないか」

 

「お2人共、やるべきことは決まったみたいですね。ではこれを」

 

クローディアがアタッシュケースを開け、入っている黒炉の魔剣を綾斗に差し出す。

 

綾斗はそれをありがとう、と言って受け取る。

 

「姉さん、しばらく借りるね」

 

黒炉の魔剣にそう言ってから綾斗に顔を向ける。

 

「行こう、海斗」

 

「私も行く」

 

「うわぁっ!驚かせんな雫!」

 

俺の背後からヒョイっと現れた雫が言う。

だけも今回ばかりはダメだ。

 

「雫が強いのは知ってるけどダメだ」

 

「なんで」

 

「俺はお前を危険な目に合わせたくない。それだけだよ」

 

雫の目を見て言う。雫もしばらくは納得がいかなかったみたいだか、はぁと溜息をつき

 

「怪我だけはしないで」

 

この一言がどれだけ俺の為を思っているかなんて知れたこと。昔からそうだ。だからそれに笑って答えた。

 

「俺がするかよ」

 

「ユリスも準備ができ次第現場に合流します。2人共、どうかお気を付けて」

 

「分かってるよ」

 

そう言って俺達は教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

綾斗達には用事があると言って、ユリスは一人再開発エリアの廃ビルの前に来ていた。

 

周囲に人はおらず、とても静かだ。

 

「(まさに隠れていたぶるにはもってこいというわけか……)」

 

差出人の意図を察しつつ、ユリスは廃ビルの中へと入っていく。

 

「咲き誇れ!隔絶の赤傘花(レッドクラウン)!」

 

しばらく暗い道を進んでいくと頭上から廃材が落ちてきて、それを傘を模した炎の盾で防ぐ。

 

廃材は炎の盾に当たったことで燃え、灰となって消えた。

 

「今更この程度でユリスをどうにかできると思っていないだろう。出てこい、そこにいるのは分かっている」

 

誰もいない暗がりの中で言ってしばらくすると一人の青年が姿を現す。

 

そいつは綾斗や海斗と同じ制服を来ており、そこから星導館の生徒であることが分かる。

 

「サイラス・ノーマン……」

 

サイラス・ノーマン。いつもレスターといる腰巾着だ。

 

一度も決闘をしたことがないらしく物体を動かす能力を持っているとだけ聞いたことがある。

 

「ここにいるということは、貴様がこれまで鳳凰星武祭の優勝候補に奇襲をかけて怪我をさせ、出場辞退に追い込んだ犯人だな?」

 

「ええ、その通りですよ。ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト」

 

「やはり、私のことを知っているのか」

 

「ええ、貴女のことはよ~く知っていますよ。リーゼルタニアの第一王女にして星導館では序列五位。皆には華焔の魔女と恐れられ、万応素とリンクして世界の法則を捻じ曲げることが可能な特異体、魔女でしょう?」

 

それなりに調べているようだ。

 

「で、私に何の用だ。こう見えてユリスは忙しいのだ」

 

「まあまあ、そう急くこともないでしょう。僕はできれば貴女とは戦いたくないと思っているのですから」

 

「ならば早く用件を言え。一応話だけは聞いてやる」

 

「では言わせて頂きます。僕、サイラス・ノーマンが貴女に要求するのは鳳凰星武祭の出場辞退。加えて僕がこの事件とは無関係であることを証明していただくことです」

 

図々しいことをのたまうサイラス。

 

しかしそんな条件をユリスが呑むわけがない。

 

ユリスは孤児院に住んでいる子供達のためにも鳳凰星武祭で優勝をしなくてならないのだから。

 

「話にならんな。私がその条件を呑むと本気で思っているのか?」

 

「貴女に決定権はありませんよ。これは一方的な取り引きなのですから。手紙にも書いていたでしょう?貴女の友人の命は保障しないと。貴女はこの条件を呑むしかないのですよ」

 

「ふん、綾斗は私を凌ぐ実力者だ。松原も同様にな。貴様のようなもやしにやられるわけがない」

 

「だからここで私はお前を叩きのめせば済む。覚悟h―――」

 

「サイラスッ!!!」

 

ユリスの声を遮るように猛々しい怒号が響き渡る。

 

「レスター!貴様、どうしてここにいる!?」

 

「てめぇがサイラスとの決闘を受けたって聞いて来たんだよ!だが、さっきの話はどういうことだ!?」

 

「さっきの話?一体何のことですか?」

 

「とぼけるな!鳳凰星武祭の優勝候補に怪我させて出場辞退させ、あまつさえユリスを襲撃したのがお前なのかということだ!」

 

「ああ、そのことですか。そうですよ、僕が彼等を襲撃し、ユリスさんを襲った犯人ですよ。でも、それが何か?」

 

「何で、何でそんなことをした!?」

 

「何でと言われましても、依頼されたとしか僕からは言えません」

 

「ふざけるな!てめぇがやったことは学園の仲間を売ったに等しい行為だぞ!」

 

「ん?仲間?はっ、何を言っているのですか」

 

鼻で笑い、やれやれとジェスチャーをするサイラス。

 

「この都市に集まっている奴等は皆敵同士。いつも互いに決闘し、蹴落とし合っている。そんなのが仲間だと本気で思ってるんですか?」

 

「たしかにお前の言っていることにも一理ある」

 

「おいユリス、お前……!」

 

本気か?と言わんばかりにレスターから強い視線を浴びる。

 

だがユリスはそれを無視して言葉を続けた。

 

「お前の言っている通り、この都市の連中はそういうものが多い。実際卑怯な真似をして決闘に勝とうとする者も少なくないからな。だが……」

 

「だが、なんです?」

 

「綾斗と松原と出会って気付いたことがある。そうでない者もいると。共に切磋琢磨してくれる者もいると」

 

「ふぅ……貴女も僕と同類と思っていたのですが。失望しました、これ以上話しても無駄のようですね」

 

「……そのようだな」

 

互い見限って煌式武装ルークスを取り出す。

 

「サイラス、俺の一発で覚まさせてやるよ。その腐りきった頭をなぁ!」

 

「待てレスター!先走っては危険だ!!」

 

ユリスが制止するも、レスターはそれを無視してサイラスに向かっていく。

 

「くたばりやがれぇえええええええええええええええぇ!!!」

 

両手に持った『ヴァルディッシュ=レオ』をサイラスめがけて振り下ろす。

 

しかし当たる直前で全身にローブを被った割って入り、レスターの一撃を斧型の煌式武装で受け止めた。

 

「なるほど……こいつ等がご自慢のお仲間って奴か……!」

 

「仲間?はっ、全然違いますよ。こいつ等は僕の操る可愛い可愛いお人形ですよ!」

 

サイラスが指をパチンッ!と鳴らすと大男2人が一斉にローブに手をかけて脱ぎ捨てる。

 

そこから現れたのは真っ黒な操り人形マリオネットだった。

 

「こいつ等は……」

 

「おっと、戦闘用の擬形体と思ったのならそれは間違いですよ。こいつ等に機械仕掛けは一切使っていませんから」

 

「なるほど、貴様はこれを使って私や他の者を襲撃していたというわけか。たしかに貴様が人形を操れる能力を持ってることを知らなければ襲撃しても疑う者はいないだろうな」

 

「けどそんなのてめぇをぶっ倒して警備隊に突き出せば収まることだ!」

 

「ふっ、行け!人形達!」

 

サイラスの指示で斧型煌式武装を持った2体の人形達が走ってくる。

 

「ブラストネメア!!」

 

『ヴァルディッシュ=レオ』を巨大化させ、それを勢いよく振り下ろす。

 

この一撃によって2体の大男型の人形は粉々に砕け散った。

 

「ふんっ、口ほどにもねぇな」

 

「ほぉ、やりますね。さすがは冒頭の十二人(ページ・ワン)と言ったところですか。あ、元でしたね、でも……」

 

「っ!」

 

何かの気配を感じ、ユリスは柱の影に視線を向ける。

 

そこにはマシンガン型の煌式武装を持った普通体型の人形がレスターに狙いを定めていた。

 

「頭のほうはまだまだのようですよね!」

 

「レスター避けろ!!!」

 

ユリスは大声を上げてレスターに言うが、その時には既に遅く、レスターは銃弾の雨をまともに喰らってしまった。

 

銃弾をまともに喰らったレスターはそのまま地面に倒れる。

 

「レスター!!」

 

レスターを助けようと飛び出すが、3体の人形が行く手を阻む。

 

「くっ、邪魔だ!」

 

『アスペラ・スピーナ』を振るって人形達を斬り裂く。

 

斬り裂かれた人形はどんどん倒れていくが、またすぐに新手が来るのでいつまでもレスターのところには行けない。

 

「はっはっは!いくら華焔の魔女と恐れられている貴女でもこれだけの人形が相手では多勢に無勢でしょう!意地を張るのはやめて降参したらどうですか?」

 

「誰が貴様のような卑怯者に降参などするものか!そうするくらいなら死んだほうがマシだ!」

 

「ふんっ、強情な女です。では望み通り死になさい!!」

 

「だが貴様に殺されるつもりはない!咲き誇れ!呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

後ろに下がって距離を取り、魔法陣から召喚した翼竜を模した巨大な炎を人形達めがけて飛ばす。

 

この炎によって数体の人形は焼け焦げるが、それと入れ替わるようにまた複数の人形達が現れて手に持った小銃や両手銃から銃弾を飛ばす。

 

「ぐっ……!」

 

ユリスは翼竜を模した炎を目の前に設置して盾とするが、それが悪手だった。完全に防ぐことができず、一部の銃弾が右足をかすめた。

 

それによってユリスの身体はよろめき、その隙をついて2体の人形達がユリスに迫まり摑みかかる。

 

足を負傷して抵抗もままならなかったユリスはあっさり捕まって柱に拘束される。

 

摑みかかられた勢いで右手に持っていた『アスペラ・スピーナ』が放してしまい、地面を滑っていった。

 

そうしてユリスが抵抗できない状態になるとサイラスが近付いてくる。

 

「さぁ、これで貴女は抵抗できなくなったわけですが、これでもまだ逆らい続けますか?」

 

「……言ったはずだ。貴様に降参するくらいなら死んだほうがマシだとな……」

 

「ほぉ……見上げた根性です、ねっ!」

 

「ぐあっ……!」

 

サイラスに銃弾をかすめた右足を蹴られる。

 

ユリスの身体に激しい痛覚が襲い掛かる。

 

「もうちょっといたぶって楽しんでやろうと思いましたが、予定変更です。貴女は今すぐここで殺してあげましょう」

 

ユリスから離れて指を鳴らし、もう1体の人形に剣を振りかぶらせる。

 

「おやすみなさい、華焔の魔女」

 

サイラスのその言葉を合図に剣が振り下ろされる。

 

ユリスは覚悟をして両目を瞑るが、その後すぐに轟音が聞こえてきた。

 

気になってユリスは目を開けて轟音が聞こえてきた方向に視線を向ける。

 

「何者ですか!?姿を見せなさい!」

 

サイラスが轟音が聞こえてきた方向に怒号を上げる。

 

それからしばらくして足音が聞こえてきて、2つの人影が現れる。

 

その影の正体は……。

 

「綾斗…松原…」

 

鮮やかな赤色のコアに純白の刀身が特徴的な片刃剣を方の後ろにに乗せた綾斗と無駄の装飾はないが一目で業物だと分かる刀を肩に置いた海斗だった。

 



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七話~そこをどけガラクタ~

連日投稿ぅぅ!筆か乗ったぜ!!

kirin・nirikさん感想ありがとうございます!!!


壁を破壊して目的地に辿り着くと、ユリスは二体の人形に拘束されていた。

 

「綾斗、松原……バカ者!何故こんな危険なところに来た!?何故私が何も言わずにここに来たと思っている!」

 

やっぱりユリスと俺達をを巻き込まないために何も言わなかったのか。

会長が言っていた通りだ。

 

「もしそうなら、悟られないよう手紙も持って行ったらどうだ?机の中に忘れてたぞ」

 

ブレザーの胸ポケットから折り畳まれた手紙を取り出し、広げてユリスに見せる。

 

その手紙を見てユリスは驚愕の表情を浮かべる。

 

「お前それ……まさか人の机の中を勝手に漁ったのか!?」

 

「ああ、お前が慌ててこれを机の中に突っ込んでたもんでな。悪いと思いながらも取り出させて

もらった」

 

言いながら手紙を死ぬ気の炎で燃やす。

そうしてユリスに近づく。

 

「何で……何でそんなことを……私は、お前達に危険が及ばないようn―――」

 

「そこが間違ってるって気づけバカ姫」

 

「なっ!?誰がバカ姫だ!?」

 

「お前だよ。…ったく、俺も綾斗もこんなの危険だなんて思ってもねぇから安心しろ。こんな怪我までしやがって。そうだろ綾斗?」

 

「うん、ねぇユリス。俺達は友人じゃなかった?俺達はそんなに頼りないかな?」

 

「違う!そうではない!私にとって友人はかけがえのないものだ!ならば、それを守るために戦うのは当然だろう!」

 

はぁ…と溜息をつく。

 

「その考えが間違いだって言ってんだ。いいか?本当の友達ってのはな自分の友達が背負ってる重みを一緒に背負ってやるもんだ。けどお前はそれをせずに一人で背負おうとしたんだ。それに俺はすこーしばかり頭にきてんだ」

 

「じゃあ何故助けに来た!?お前達が来なければ傷付くのは私だけで済んだんだぞ!?」

 

「それを分かっててシカトする友達がどこにいんだよ!?そんなことする奴は友達じゃねぇ!

お前だって本当は助けて欲しかったんだろ!?助けて欲しいから手紙を持って行かずに机の中に置いてったんだろ!?違うか!?」

 

「……それは」

 

ユリスの視線が俺から逸らされる。

図星だなぁ、こりゃあ。

 

「おい、何僕を無視してやがるんですか?『閃光』!!」

 

もやし野郎が刀の煌式武装ルークスを持った普通体型の人形2体を俺の背後から襲わせる。

 

だけどそんなの関係ねぇ。なぜなら俺には信頼出来る友がここにいるからな。

 

二体の人形は綾斗によって真っ二つにされた。

 

「さっすが綾斗。頼りになるぅー」

 

「バカな……!僕の人形がこんな簡単に……!」

 

「海斗だってその状況でもやれたくせに。それよりもこいつが鳳星武祭の優勝候補たちを襲った黒幕でいんだね」

 

「くっ……行け!人形達!!」

 

もやし野郎が親指と中指を鳴らして様々な煌式武装を持った人形が俺達に襲い掛かる。

 

それを綾斗が右手に持った黒炉の魔剣を起動させて人形の群れに突っ込む。

 

「天霧辰明流初伝―――貳蛟龍(ふたつみずち)!」

 

突っ込んだ先にいた3対の人形を十字に斬り裂く。

 

「それが天霧辰明流か……すげぇな……っと!」

 

二人で部屋を覆いつくすほどいた人形が壊し、徐々にその数を減らしていく。

 

「海斗、気づいたかい?」

 

「ああ、一度に動かせる人形はせいぜい六種類。つまり逆を言えばそれ以上の種類の人形を一度に操ることはできない。だろ?」

 

「ああ、傀儡師にも限界はあるみたいだね」

 

「ぐぅ……!」

 

自分の限界を知られて歯軋りをするサイラス。

 

「ふっ、僕の限界を知ったくらいで勝った気にならないで下さい。僕にはまだ、奥の手があるのですから!」

 

サイラスが再び親指と中指を鳴らすと地面を突き破って巨大な物体が俺達の前に現れる。

 

俺達が見上げられるほどあるその巨体の正体はゴリラのような姿をした人形だった。

 

「驚いたか!これが僕の切り札!女王(クイーン)だ!!」

 

高らかと宣言するサイラス。

見た目ゴリラなのに女王って……。

 

「お前達はこれからこの女王によって滅ぼされるのだ!最期の時をせいぜい楽しむことだな!ははははは!ふははははははは!!」

 

高笑いをした後、サイラスは近くの人形に飛び乗って去って行った。

 

このままサイラスを逃がせばせっかく見つけたのに振り出しに戻ってしまう。

 

それだけは何とかしないといけないのだが、このゴリラは簡単に主人のところに行かせてくれないだろうな……。

 

「綾斗、お前はユリスとサイラスを追え。このゴリラは俺が引き受ける」

 

「海斗一人で?でもあいつ他の人形よりも硬そうだよ?」

 

「こうしてる間にもサイラスは逃亡を続けている。もし今逃がせば再捜索は難しくなる。だから……」

 

「それなら私に任せろ」

 

綾斗に抱かれているユリスが声を上げる。

 

「私ならあいつに追いつく術がある」

 

「なら任せた。頼むぞ二人とも」

 

言い終わると女王が両腕と両足を使って前進してくる。

向かってきたそれを神速の一太刀で吹き飛ばす。

 

「行って奴に一発かましてやれ」

 

「分かった、そういうことなら任せるよ。行こう、ユリス」

 

「ああ、行こう綾斗。咲き誇れ!極楽鳥の燈翼(ストレリーティア) !」

 

頷くとユリスは綾斗の背中に炎の翼を展開させて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立ちなメスゴリラ、さっきのはほんの挨拶代わりだ」

 

翼が風を切る音が聞こえなくなり、2人がフェードアウトしたことを耳で確認する。

あとは俺が目の前にいるゴリラを叩き潰すだけだ。

 

挑発してやると女王は巨体をゆっくり持ち上げて立つ。

 

…今ので腕一本は持ってたと思ったけど案外硬いな。

 

「見かけ倒しじゃねぇってことか。なら少しばかり本気でやってやるよ」

 

右腕から振り下ろされた一撃を巧みに躱し、懐に入り女王の喉目掛けて繰り出す。

 

「時雨蒼燕流攻式一の型──車軸の雨」

 

車軸の雨。刀を両手で持ち突進し相手を突く技だが、今回ばかりは少し位置が高いため空へと身を渡した。

空中では踏ん張りが効かないため、本来なら通常の威力どころかまともに放つことすらできない。

だが、俺には大空がある。それを推進力の代わりに今回は使った。

 

しかし────

 

「おいおい…今ので貫けないってどんだけ硬てんだよ…!」

 

今の一撃を喰らったことにより、女王は後ろに仰け反るが、まともなダメージは与えられていない。

喉部分にヒビを入れたくらいだ。

 

ならば、と鞘に一度納め抜刀術の構えを取る。

 

「時雨蒼燕流特式抜刀術──叢雨!!」

 

放つはレスターとの決闘で繰り出した神速の一太刀。

対抗しようと右腕から繰り出される一撃。

だがそんなの関係ない。この技はまさに『閃光』なのだから。

 

「そんな動きでついてこれると思うなよガラクタが」

 

気づけば彼は女王の後ろを取り、刀も納めている。

歩を進めれば女王の胴体はギギっと音を立てながら真っ二つに崩れ落ちた。

その傷跡には焼けた痕が見える。

言わずもながら分かるだろう。彼は大空の炎を刀に付与させた。

 

元々なら不可能だろう。だが彼は、彼や雫にはそれを扱う師匠と呼べる存在があった。その修行のおかげでこうして強くなれたのだ。

 

「さて二人を追う───」

 

「うわぁああああああああぁぁ!それだけはやめろおぉおおおおぉぉぉお!!!」

 

どこからともなくサイラスの悲鳴が聞こえてきた。

 

「必要はなさそうだな。帰ったら夕飯作らねーとな」

 

こうして、鳳凰星武祭の優勝候補を襲った犯人は無事捕まり、この事件は解決した。

 

サイラスの末路は……わざわざ説明しなくても分かるな。

 



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銀綺覚醒
八話~人の気を知れずに~


さぁさぁ時間は掛かってしまったが投稿ぅ!




「俺と鳳凰星武祭に出てくれないか?」

 

サイラスの事件から数日。放課後のカフェテリアで海斗は黒髪ショートの女生徒─雫に聞いた。

 

「いいよ。でもエントリー間に合うの?」

 

うぐっと確信を突かれた海斗は顔を背けながらま、まぁと何とも微妙な感じで返した。

 

「会長に無理矢理でもねじ込んでもらうように頼むよ」

 

「それずるだよ」

 

はははっと笑いながら流す海斗。それにムッとした表情をしながら雫ははぁと溜息をついた。

 

「…海斗のそういうところ変わってないね。いい意味でも悪い意味でも」

 

「それ、どういう事ですかい?雫さんや」

 

「まず表情がコロコロ変わって見てて面白い」

 

「バカにしてのかお前は」

 

「……次に嘘ついてもすぐバレる」

 

「今の間はなんだ!?ほんとにバカにしてんな!?」

 

「…そんなこと、ないよ。それで──「もう言わなくていいよ…」

 

しょんぼりと机に突っ伏しながらボヤく。誰がどう見ても彼が落ち込んでいるようにしか見えないだろう。

 

「これが大事なんだけど?」

 

ハイハイと手を振りながらも催促する。もはやここまで来たら何を言われても褒められるようなことは無いと思っていた。

 

 

「はぁ…でもそういう所、私は好きだよ。昔も今もずっと」

 

「………へ?」

 

すぐには頭が働かなかった。急に何を言い始めてるんだこの子。それが真っ先に頭をよぎった。

そんなことよりも先に頬は紅く染まっていく。体温が上がっていくのを感じた。

どうにかして誤魔化さないと、それが今やるべき事だ。

 

「そ、それじゃあ俺はクローディアのところに行くから…。じゃあ!」

 

そういうは早くあっという間に席を立ち去っていってしまった。

 

「……人の気も知らないで。海のバカ」

 

残された少女は頬を染めながら一人小さく呟くだけだった。

 

 

 

 

 

 

───────────

 

「(先のは卑怯だろがぁ!!…まさか本当に?…いやそれは無いな。だって今の雫にそんな自由は──)」

 

「海斗どうされたんですか?」

 

ふと視線を上げればそこには綺麗な金髪の長髪。男性を惹き付けるようなプロポーションの少女──クローディアがいた。

 

「あ、いや単なる考え事だよ」

 

「そう、ですか。難しい顔をなさっていたので」

 

「なぁ会長、鳳凰星武祭に出たいんだけどまだ空きってあるか?」

 

「鳳凰星武祭に出られるのですか?それならまだ空いていると思いますよ」

 

「ホントか!?」

 

「はい。ですがパートナーは誰なんですか?綾斗とユリスはお二人でエントリーしましたし。夜吹君も出ないと思われますけど」

 

「パートナーは雫だよ。俺とあいつは幼馴染だしタッグ戦なら問題ないと思ったし。……別に他に組める友達がいなく訳じゃねぇからな」

 

彼がそう言うとクローディアはそうですか、と笑顔を浮かべながら答えるだけだった。

その笑顔を見てやっぱり腹黒い、と感じるのであった。

 

 

その後、クローディアと別れ鳳凰星武祭のエントリーも済み帰路に着こうとしていた。

そんな時、綾斗からメッセージが飛んできた。

 

『今から鳳凰星武祭の特訓に付き合ってくれない?二人でずっとやっていて、他の人からの目で見てもらいたいんだ』

 

それを見てすぐにメッセージを飛ばす。

 

『わかった。今中庭付近にいるからちょっと時間かかるよ』

 

中庭から中等部と大学部にそれぞれ向かう別れ道に差し掛かったところで人の気配を感じた。と同時に気配の正体が海斗へと突っ込んできた。

いや、相手も気付いていながらも止まるに止まれなかったのだろう。視線が交錯し、お互いに避けようと"体を同じ方向に動かしてしまった"。

どんっ、と体がぶつかり合い、相手の体が小柄なのもあってか弾かれる。

 

「っと、悪い大丈夫か?」

 

足を踏ん張って体勢を直し、倒れそうになっている相手の腕を掴み寄せ、抱き止める。

ぽす、とぶつかった衝撃の強さとは違い、軽さを感じさせるようにすっぽりと収まる。

 

「あ、え、ひゃわぁ!?すすすいません!」

 

胸元の小さな少女が自分の状況を把握したのか、バッと離れる。

腰辺りまで伸びる銀髪、小柄な体、そして中身は刀であろう細長い袋を肩に掛けている。

その立ち姿を見て、只者ではないと感じた。

剣士─それもかなりの強者であると考えていた。

 

「あ、あの、ぶつかってしまって申し訳ありませんでした!」

 

「いやこっちも急いでて不注意だった。ごめん」

 

既視感を払い、慌てふためく目の前の少女を宥める。

わたわたと動く様は小動物的で非常に可愛いらしいのだが

こうも必死になって謝られるとなると流石に罪悪感が強くなる。

 

「それよりも急いでるんじゃないのか?」

 

あ、そうでした!」

 

「綺凛!何をしている!」

 

少女に訊ねると同時遠くから怒鳴り声にも似た大声が渡り廊下に響く。

それを聞いた少女はビクリと肩を跳ねさせると再度深く頭を下げてから小走りで去っていってしまった。

その後ろ姿を眺めていると少女の向かう先に一人の男性が立っているのが見えた。

少女が合流すると男性は苛立ちを隠そうともせず荒々しく歩き出し、廊下の角へと消えていった。

 

「ったく少し遅れたからってそこまで怒んなくてもいいだろ」

 

先の男性に対して思ったことをぶつぶつと呟きながらも訓練棟へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「咲き誇れ、赤円の灼斬花(リビングストンディジー)!」

 

 トレーニングルームに澄んだ声が響き渡る。同時に声の主であるユリスの周囲に紅蓮の炎が舞い踊った。空中で渦を描くそれは瞬く間に形を変えていった。焔の刃を回転させて燃え上がる戦輪チャクラム。その数、十数個。赤い焔の花を周囲に従え、佇むユリスに海斗は感心の声を上げる。

 

「よくその数を同時に制御できるな。流石は序列五位ってことか」

 

「その余裕、何時まで保っていられるだろうな? 行け!」

 

 主の命に従い、紅蓮の戦輪は火の粉を撒き散らしながら海斗へと殺到していった。それらを全て弾きながら突貫する。

だが左側から綾斗が黒炉の魔剣を構え斬りかかる。

それを右手に持った刀に死ぬ気の炎を付与させ受け止める(・・・)

 

黒炉の魔剣、四色の魔剣の内の一振であり「触れなば溶け、刺せば大地は坩堝と化さん」と言われるほど危険であり、強力な魔剣。

簡単に言ってしまえば全てのものを焼き斬ることが出来る。

 

それを海斗は受け止めた(・・・)。全てを焼き斬る黒炉の魔剣を。

その理由は刀に付与させた死ぬ気の炎にある。

前にも説明したが死ぬ気の炎には七つの属性があり、全てが天候やそれに準じたものに関与してくる。一つ一つが色も能力、意味合いも変わってくる。

大空の炎、色はオレンジで意味は『全てを抱擁する大空』。能力は調和。

この『調和』こそが刀が折れない理由である。また彼が黒炉の魔剣を受ける部分に多めに炎を付与しているのも理由の一つでもあるが。

 

『調和』とは全体が具合よくつりあい、整っていること。

この特性こそが大空の炎の強みであり特徴である。

 

「なっ!黒炉の魔剣を受け止めたのか!?」

 

ユリスが声を荒げる。綾斗も目の前の事態に目を丸くしている。

 

「そんなに受け止められた事自体がありえない…かっ!」

 

薄い笑みを浮かべながら黒炉の魔剣を弾き一度距離をとった。

綾斗も一度ユリスの近くまで下がり、溜息を吐く。

 

「ふぅ…まさか受け止めるなんて思いもしなかったよ」

 

「私達二人を相手にしてこれ程とはな」

 

そう言うユリスは再び赤円の灼斬花を周囲に展開していく。

 

「さっきと同じ手を使うか?それはたった今破られたばっかりだろぅ!!」

 

刀を握り直し再び突貫。まず後衛であるユリスを潰すのが定石。

だがそれを綾斗が阻む。白い刀身の魔剣とオレンジの炎を宿した日本刀がぶつかり合う。

お互いの技量はほぼ同格。ならばあとの差は────

 

「綾斗下がれっ!」

 

そう、パートナーがいるかいないかだ。

 

その声と共に綾斗が後退。それと同時に海斗の全方位から赤円の灼斬花が襲いかかる。

 

先程の単体での攻撃ではなく二人だからこそ取れるコンビネーション。

 

「よく考えたけど──!。(こういう場合は──!)」

 

刀を逆手に持ち繰り出す。

 

「時雨蒼燕流守式七の型──繁吹き雨っ!」

 

本来は刀で水を回転するように巻き上げ攻撃を防ぐ技だか今回水はない為、上手く炎を使い全ての攻撃を撃ち落とした。

 

「いやー今のは危なかった。二人ともいい感じじゃないか?」

 

海斗が素直に褒めるもユリスは顔を顰めながら答えた。

 

「今のを軽くあしらっておきながらよく言う。そう言うお前も鳳凰星武祭に出るんのだろう?パートナーと練習しなくていいのか?」

 

「俺の方は大丈夫だよ。パートナーは雫だし、幼馴染ってのもあるけど戦闘になったら意思疎通くらいは出来るからさ」

 

あっけからんと言うがそんなこと、と二人は同時に唾を飲んだ。

簡単に言うが例え幼馴染でもそんなことは出来ない。現に綾斗と沙夜を組ませたらまず不可能だろう。

それほど高度のものを海斗はやってのけると言った。

それは奢りや慢心ではなく事実出来ることだ。

同じ師匠達の元にいた二人からすれば出来ない方がおかしい、それくらいの次元に二人は立っていると綾斗もユリスも思わされた。

見てもいないのに関わらず。

 

「鳳凰星武祭で当たれば間違いなく苦戦する相手だね、ユリス」

 

「…あぁ。だからと言って諦めるつもりなど毛頭ないがな」

 

寧ろ二人の闘志に火をつけた。

二人にも叶えるべき希望がある。だからこそ負けられない。それに人という生き物は超えるべき壁が高ければ高いほどそれを越えようと進化する生き物である。

 

そして海斗もまたその一人である事に違いはない。

彼の希望は星武祭で優勝しても叶えられるか分からないものだ。

 

大切な人を救う、それだけが彼を動かせる。そしてその『覚悟』が炎をより大きく純粋に燃え上がらせるのだ。




大空の炎の意味は今回、リング争奪戦で出た守護者の意味を借りました。
でも事実、大空の炎を使う人たちって抱擁力ありすぎるよね?
ツナにしろユニにしろアリアにしろ白蘭にしろ。
え?ザンザス?バカヤロー!あれはまた違ったベクトルだろうがァ!


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九話~模擬戦~

やっと投稿出来た…。
そして進まない…。待たせた上にこれはかなりやばい…。


三人は特訓の休憩を取りつつ雑談を交わしていた。

 

「気になったんだけど海斗はどんな希望があるの?」

 

「あぁ、私も気になるな」

 

俺か?と頬をポリポリと掻きながら答えた。

 

「俺の希望(のぞみ)はお前らと同じようなもんだよ。大切な人が傷つかないようにする、それだけだ」

 

「それってやっぱり──」

 

「あぁ、あともうひとつあるよ」

 

二人が頭に?を浮かべながら海斗の顔を見る。そこには今まで見た事の無いほどの怒りを顔に浮かべていた。

二人も付き合いが短いがこんな表情、ましてやこれまでの怒りを海斗が持っていることすら知らなかった。

 

「統合企業財体をひとつ残さず潰す事だ」

 

そう言い放った瞬間、綾斗とユリスはありえないほどの殺気を感じ取った。

二人とも身動きが取れ無いほどのもの。それを自分が放ってると二人を見て気づきすぐに謝った。

 

「わ、悪い二人とも…」

 

「いや大丈夫だよ…」

 

「私もだ…」

 

なんとも言えない空気が流れる。そこで鈴を鳴らすような音が室内に響いた。少し遅れて空間ウィンドウが開く。

 

『来訪者です。取り次ぎますか?』

 

予想外の訪問者に三人は無言で顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ。これはまた珍妙な組み合わせだな」

 

トレーニングルームの入り口に現れた二人組みを見てユリスは面白そうに眉を持ち上げる。一人は二メートル近い身長の屈強な青年。もう一人は華奢で小柄な少女だった。何もかもが対照的な二人だが、共通している点が一つ。どっちもむすっとした表情をしているところだ。

 

「沙夜にレスター……?何しに来たの?」

 

綾斗の疑問に答える代わりに沙々宮紗夜はずいと一歩踏み出し、ユリスに人差し指を突きつけた。そして一言。

 

「ずるい」

 

「はぁ?」

 

唐突過ぎる紗夜の言葉にユリスはポカンとするしかなかった。言葉の無いユリスに構わず、紗夜は淡々とした調子で言葉を続ける。

 

「ここ最近、リースフェルトは綾斗を独占しすぎている。これは明らかに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反。即刻、改善を求める」

 

「綾斗。お前、ワシントン条約か何かで保護されてるのか?」

 

「そんな訳ないでしょ、絶滅危惧種じゃないんだから」

 

呆れるレスターに海斗は嘆息しながら肩を竦めて見せる。ユリスも額に手をやりやれやれと首を振り、綾斗も苦笑いしていた。そんなユリスの反応に構わず、紗夜は更に一歩踏み出してユリスとの距離を詰める。

 

「とぼけても無駄。既にネタは上がっている」

 

「ネタ? 一体何のことだ?」

 

「ここ暫く、リースフェルトは放課後、綾斗をトレーニングルームに引きずり込んでは人には言えないような行為に耽っていることは調べがついている」

 

な、と顔を真っ赤にさせるユリスと綾斗。一方で海斗はあぁ~、と妙に納得したような顔をしていた。

 

「確かに、手の内を晒しちゃいけないって意味じゃ人には言えんわな」

 

「松原、お前は黙っていろ!私達は鳳凰星武祭に向けて特訓しているだけだ!それに私は引きずり込んでなどいない、綾斗も合意の上だ!そもそも、誰から聞いたそんな与太話!?」

 

「それは言えない……情報通のE・Y氏の協力、とだけ言っておく」

 

「おのれ夜吹!」

 

何やってんだよ夜吹の奴、とこれには皆が呆れ顔を作る。

 

「大体、リースフェルトは最近綾斗に引っ付きすぎ。これに関しては生徒会長も文句を言っていた」

 

「……一つ確認させろ沙々宮。お前にここを教えたのは」

 

「生徒会長」

 

「クローディアぁぁぁ!!!」

 

ユリスは憎悪を込めた声で星導館学園生徒会長の名を叫ぶ。鷹揚とした笑顔で紗夜に情報を渡すクローディアの顔が容易に想像できた。

 

「この前だって昼食で偶然席が一緒になった体を装っていたけど、不自然極まりない」

 

「何が不自然か! あれは本当に偶然に」

 

「五回も続けば偶然じゃない。その言い訳は無理がある」

 

「誰が言い訳など……!」

 

額をぶつけ合わせるように口論を開始するユリスと紗夜。どうでもいいが、こんな状況でもやはり紗夜の表情は変わらなかった。

 

「……あいつの面は能面か何かで出来てんのか?」

 

「んーあれでもかなり怒ってる方だと思うよ?」

 

「……綾斗は表情が分かるのか?」

 

「え、うん」

 

それを聞いて、マジかこいつと二人して同じような顔をしていた。

 

「退院したんだね。おめでとうレスター」

 

「……はっ。別にあんな程度の傷、どうってことねぇよ」

 

居心地悪そうに眉を寄せながらレスターはぶっきらぼうに答える。サイラスの一件で怪我を負い、治療院に入院したとは聞いていた。こうも退院が早いのは予想外だが。怪我その物が大した事なかったのか、それともレスターの回復力が凄いのか。二人にはどっちなのか判断は出来なかった。

 

「それよか何で沙々宮と一緒に行動してたんだ?」

 

「こっちだって好きで一緒に来たわけじゃねぇよ。そのちんちくりんが道に迷ってたみたいで、行く場所が同じだったからついでだ」

 

「誰がちんちくりんか」

 

耳聡く三人の会話を聞きつけた紗夜がそちらに顔を向ける。

 

「でも、連れて来てくれたことは感謝している。ありがとう」

 

軽く頭を下げるが、すぐに紗夜はユリスとの言い争いへと戻った。本当にマイペースな少女だ。

 

「しっかし、どう頑張れば校舎からここまでの道を迷えるんだあのちんちくりん?」

 

レスターの疑問も尤もだ。そもそもこのトレーニングルームは公式序列戦が行なわれる総合アリーナにあり、校舎からはほぼ一本道だ。ほとんど迷う要素は無い。

 

「まぁ、そこは沙夜だからとしか言い様がないかなぁ。それでレスターは何の用で来たの?」

 

途端、不本意そうだったレスターの顔が更に曇った。

 

「まぁ、その、何だ。サイラスの一件だが、その事で一応世話になったからな。結果的にとはいえ、助けられたのも事実だし、礼というか、けじめっつぅか……」

 

非常に言い難そうに、顔を逸らしながらレスターは小さく頭を下げる。

 

「と、とにかく世話になった!そんだけだ!」

 

そう言い残し足早にトレーニングルームを後にした。

 

「なんだかんだであいつも律儀なやつだな」

 

「そうだね。でもそれがまたレスターのいい所なんじゃないかな?」

 

二人で話していると再び来客を告げるウィンドウが開き、誰だろう?と四人が思うとユリスが扉を開けた。

 

「…やっぱりここにいた」

 

「どうした雫?」

 

そこには雫がいた。しかし少しながら不機嫌にも見える。

 

「どうしたも何も何でここにいるの?」

 

「そりゃあユリスに頼まれたんだよ」

 

そう言うとまだ口論を続けてる二人を見て納得したのかそう、とだけ告げた。

それを見てか綾斗がそうだ、とある提案を思いついた。

 

「海斗と葦原さんと俺とユリスのペアで模擬戦しないかい?」

 

「そりゃあいいな。でもよ、沙々宮はどうするんだ?」

 

「…私は綾斗と組む」

 

「…お前話を聞いていたのか?綾斗は私のペアだ」

 

再び口論を始める二人。…頭が痛くなってくるのはこちらだけだろうか。

 

「じ、じゃあ!」

 

 

またもや綾斗がある提案を出した。

 

 

 

 

────────

 

綾斗が提案したのは海斗と雫は固定で綾斗、ユリス、沙夜が一戦事に変わる。まぁ確かにこれが今のところベストであると思われる。

 

そしてルールだが今回は全員が左手首に海斗がいつも使っているマーカーのような腕を付けている。

鳳凰星武力の時に狙うのは意識消失か校章破壊のどちらかである。これはそれを真似たものであり、こうした方がより実践に近い形になる。

 

まずは最初の提案どうり綾斗、ユリス対海斗、雫になった。

 

「二人には連戦になるけど大丈夫かい?」

 

「気にすんなよ。…多分これじゃないと沙々宮の奴、納得しないと思うしな」

 

「あはは…」

 

二人で沙々宮の方を見ながら苦笑いを浮かべる。

 

「では始めようか」

 

ユリスの声を聞いて四人が武器を構える。今回綾斗は黒炉の魔剣ではなく、通常の煌式武装を構えた。

綾斗の場合、黒炉の魔剣を使うには封印を一段階(・・・)解放する必要がある。それに制限時間がある為使えない、と言った方が正しい。

 

「…それじゃ不本意だけど私が審判を務める。…不本意だけど」

 

「分かったから早くしてくれ」

 

頷き試合が始まる。

 

先程と同じようにユリスは赤円の灼斬花を展開していく。

綾斗はこちらを警戒しているだけ。

雫は干将・莫耶(・・・・・)のうち干将だけを抜いている。

 

「雫、プランAでいこう」

 

「? プランAって?」

 

「綾斗からぶっ飛ばす、だからプランA」

 

それを聞いてため息をつく。

 

「…分かってたよ、海斗がバカなのは」

 

「あぁ!?どういう──っ!」

 

文句を言おうとした所で赤円の灼斬花が海斗に襲いかかる。それを海斗は躱そうとしない。

 

「(なぜ交わそうとしない…?何かあいつに策があるのか?)」

 

そんなユリスの考えも杞憂に終わる。いやそれ以上のことが目の前で起きた。

 

「油断大敵だよ、海斗」

 

雫が全ての赤円の灼斬花を撃ち落とした(・・・・・・)のだ。

ユリスの内心は穏やかではなかった。まさか二十は超える赤円の灼斬花を全て撃ち落とされるとは思ってもいなかった。

だが海斗の隣に立つ彼女はそれをやってのけた。自分よりも小柄で何方かと言えば守られるべき存在である彼女に。

 

「私も負けてはいられないな…!」

 

ユリスはある意味アスタリスクに来て良かったと心底思った。綾斗や海斗や雫のおかげでこれ以上無いくらいに負けたくないと思え、同時に彼らと入れる事が楽しいと感じられたから。

 

 

 

 

────────

 

「油断大敵だよ、海斗」

 

「ハイハイ、すいません…っね!」

 

ユリスの攻撃の間に雫の背後に周っていた綾斗の下段からの刃を受け止める。

 

「…気づいていたのかい?」

 

「まさか。海斗なら必ず守ってくれるって信じてるから」

 

鍔迫り合いの中、綾斗が雫へと聞く。それに雫は表情変えずに答える。

雫の言ったことを簡単に言い返してしまえば『自分への攻撃を海斗が通すわけないだろう』。そう言っているのと何ら変わらない。

 

「へっ…!そんじゃ反撃といこうか!」

 

綾斗の刃を弾き、畳み掛けようと仕掛けようとするも綾斗も一度距離を取り、スタートと同じ形になった。

だが、全てが同じというわけではなかった。二人の先手は防がれ、ましてや完膚無きとまではいかないが封殺された。

ここでお返しと言わんばかりに海斗達が仕掛ける。

 

「海斗は自由にやっていいよ。私が合わせるから」

 

「へっ…間違っても俺に当てんなよっ!」

 

二人が突貫する。海斗ははじめに言ったように綾人へ。雫はユリスへと。それに伴い綾斗達も動き出す。

 

「(まさかここまで速いとは思わなかった…!)」

 

海斗の剣戟をいなしながらその速さに驚く。速いのは分かっていたこと。だからといってそれを自分の身をもって体感するのは全くの別物だ。

 

「黒炉の魔剣が無いとこんなもんなのか?綾斗っ!!」

 

上段から振るわれた一撃を煌式武装を横にし、受け止める。

だが────

 

「(速い上に…重い!!)」

 

だからと言って負けるほど綾斗も弱くはない。身体中に星辰力を巡らせ鍔迫り合いが拮抗する。

 

──だからって負けるわけにはいかないっ!

 

そこで海斗の刃を無理やり弾き、懐へと踏み込む。

 

「天霧辰明力初伝──貮蛟龍っ!!」

 

薙いだ一撃から腕を返し、さらに踏み込み下段からの斬り上げに繋がる。

 

だがそれは空を斬る。

 

「時雨蒼燕流守式六の型──片時雨」

 

守式六の型、片時雨。一定の場所に降ったり止んだりする雨であり、他の場所は晴れている。という意味合いである。

 

この技は相手の剣戟の先を読み、予測を立て防ぐ技。横薙ぎをバックステップで避け、斬り上げを身体を半身にすることで回避。

 

「っまさか今のを躱されるとは思わなかったよ」

 

「それよりもいいのかそんなにのんびり(・・・・)していて?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

────────

 

「ちっ!」

 

雫の攻撃を躱しながら悪態をつく。

先程からどんな攻撃をしようとも全てが青い炎によって撃ち落とされる。

 

鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)っ!」

 

後退すると同時に鋭槍の白炎花が雫を襲う。先程の赤円の灼斬花よりも速い。

雫はそれを紙一重で躱し、標準を定める。

狙うはユリスの右手首。だが再び赤円の灼斬花が雫へと襲い掛かる。

流石に雫もこれには悪態をついた。そしてある考えが頭をよぎる。

 

‴もう片方の莫耶を抜くか魔女(・・)としての能力を使うか‴

 

「…仕方ない、か。負けるのは海斗に申し訳ないし。それに私自身負けず嫌いだから」

 

そう言い、瞳に決意を燃やし干将を天へと向ける。それを見たユリスは不思議に思うが次の瞬間、その顔は驚愕に染まる。

 

千の雨による銃撃(サウザンド・レイン)

 

雫の千の雨による銃撃によって全ての赤円の灼斬花が消えた。

この技は千の雨、降りしきる雨のように天から降り注ぐ。

この時、死ぬ気の炎を外部に展開し、内部には魔女としての能力、『水』を弾けさせる。それにより外郭の雨の炎と内部の水が降り注ぐ。

それは止まない『千の雨』のように。

 

ユリスと雫の攻撃により水蒸気が舞い上がる。この中で攻撃されては適わないと考えたユリスは煙の行っていない綾斗側へと移動した。

それと同時に綾斗へ襲う青い弾丸を見て叫ぶ。

 

 

「綾斗っ!避けろ!」

 

ユリスの声に反応し、ユリスを見ようとした瞬間──

 

「なっ!」

 

「天霧君OUT」

 

水蒸気が晴れ移動したはずのユリスを見たまま、こちらに銃を向けている雫がいた。

 

「ナイス雫」

 

「誘導ありがとう海斗」

 

今のを聞いて二人は戦慄した。最初に言った通り綾斗を戦闘不能にする為に綾斗の行動の先の先を読み行動したのだ。

 

それを二人は視線一つ(・・・・)で行ったのだ。

それは先の対戦で海斗が言っていたことを実行したことと変わりない。

それに海斗は攻撃しながらそこへと来るようにわざと力任せの攻撃をしていたのだ。

雫はユリスの攻撃を敢えて囮に使うことにより自分の姿を晦ませ不意をついた。

 

「さぁこれで残りはユリスだけだ」

 

「ちっ…だが生憎と私も弱くはないのでな。少しばかりはお前らの相手は出来るだろう」

 

「ううん、その必要は無いよ」

 

「何…?なっ──」

 

雫の言葉に反応したユリスの右手首に衝撃が走る。

そこには壊れた腕輪があった。

 

「…試合しゅーりょうだね。…勝ったのは一目りょーぜん。松原君と雫ペア」

 

審判の沙夜が勝利を言い渡す。それでも少なからずその言葉には驚きが含まれていた。

 

 




六の型に関してはオリジナルです。
作中にも出ていませんでしたし、内容を見たら守式でしたし。
それとあんまり進められなくてすいません。
次回は腕輪を壊した手の種明かしをしてから原作へと戻る予定です。


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十話~アルルカント(変態集団)~

すっっっっいませんっっっっ!!!!とても遅れました!!
ちょっと会社とのゴタゴタで…。
そして皆さん!!注意してくださいね!入って一ヶ月の人の胸ぐらを持って来るような先輩がいたらやめたほうがいいですよ!!現に僕は辞めました!


「…試合しゅーりょうだね。…勝ったのは一目りょーぜん。松原君と雫ペア」

 

 

審判の沙夜が勝利を言い渡す。それでも少なからずその言葉には驚きが含まれていた。

 

 

「今のは…」

 

綾斗も驚いているがそんなことお構い無しに雫の元へと海斗は向かっていた。

 

「ナイス雫。それにしても能力の使い方上手くなったなホント」

 

雫の頭を撫でながらも感心する。昔はここまで上手くはなかったから。本当に単純なことしか出来なかったから。精々大きな水塊を作るのが精一杯だったのに。それが今ではここまで使いこなせるようになったのだ。

 

それを純粋に褒めたくなったのだ。頭を撫でるのには別に深い意味は無いけど。

 

「んっ…。私もこの数年ただ過ごしてただけじゃないから。私も海斗の横で歩いて行けるって証明したかったから強くなれたんだよ」

 

「雫…」

 

「んんっ!そろそろいいかなお二人さん?」

 

ユリスが咳払いをし二人へと視線を向ける。

綾斗もハハハと苦笑いを浮かべている。沙夜に関してはいつも通り表情を変えていない。

言われて二人はハッとして離れた。二人の顔が紅いの気のせいではないだろう。

 

「それよりも何故あの状態で私の腕輪を壊せた?能力も使う暇はなかったはずだ」

 

「それは簡単なことだよユリス。地面を見てみろよ」

 

海斗の言った通り地面を見る。そこには先程の攻撃で少しばかりではあるが水溜り(・・・)が出来ていた。

 

「水溜り?…まさか!?」

 

「そうそのまさか!雫は「なんで海斗が説明してるの?私がするから」…はい」

 

しょんぼりとしながら一歩後ろへと下がる海斗。まずこの数年会っていない海斗が雫の能力を全て把握しているわけもなく、彼はほとんど感と予測で説明しようとしていたのだ。

 

「さっき海斗も水溜りについて言ったけどその通りで私は水溜りの水(・・・・・)を操って腕輪を壊したの」

 

それを聞いたユリスは驚愕した。他の二人も驚いているが魔女何だからそれくらいにしか思っていないだろう。

だが同じ魔女であるユリスは別だった。

 

「お前それがどれだけ精密な星辰力のコントロールが必要か分かっているのか!?そんなこと私でも出来ないぞ!?」

 

「ユリスの場合は私みたいに空気中にあるものをって訳にもいかないなら創ってから攻撃、って工程だと思う。だけど私の場合は空気中の水分を使えば一工程飛ばして能力を使えるの。

…それにここまで使いこなせるようになったのは大切な人がいるからだと私は思うよ」

 

そう言いながら綾斗と話す海斗へと視線を向ける。それに気づいた海斗はニカッと笑う。

それに雫は満面の笑みで返す。

 

それを見たユリスは思った。

 

「(この二人は互いのことをよく理解し、尚信用…いや信頼しているのだろう。だがそれ以上に意識しあっているのだろう。だからこそ互いを大切にし合える。私もお前達のように…)」

 

「…それよりも今度は私と」

 

ユリスの葛藤とは別に沙夜が珍しくやる気ではないか。

 

「おう、いいぞ!やろうぜ早く!」

 

さっきの戦闘での興奮もあり海斗もやる気である。

それを聞いた雫とユリスは互いに溜息をついた。

 

「…大変だな葦原」

 

「これは昔っからだから…。でもそういう所も、ね」

 

茶目っ気たっぷりの笑顔をユリスに振りまく。

それを見たユリスも呆れながらあぁ、と返しながらもその顔には笑みが零れていた。

 

 

────────────────

 

「それでは始めるとしよう」

 

中央にいるユリスが高らかに言う。

 

「ルールは先程と同じでいいな?確認するが互いに傷をつける行為は禁止だ。勝利条件は手首の腕輪の破壊か相手が降参するかのどちらかだ。いいな、特に沙々宮」

 

「…そんなの、わかってる」

 

「はぁ…。では開始!」

 

ユリスの開始の声と同時に綾斗が海斗へと突貫する。

それを雫が射撃にて足を止めにかかる。だが綾斗は止まらない。

全身に星辰力を回し体に来る攻撃のみ斬り、他は全て避ける。側面に移動させられたも海斗へと下段からの斬り上げを繰り出す。

 

「先よりは速いな!」

 

鍔迫り合いの中、海斗が苦渋に満ちた顔でぼやく。

 

「俺も負けっぱなしってのは嫌い…だからね!!」

 

勢いと共に徐々に押し始める。

だがそれをただ見てるだけの雫では無い。追撃が行かないように間髪なく引き金を引く。

 

「くっ!」

 

さすがの綾斗も海斗を相手しながら雫の銃撃を撃ち落とすのは困難。

そう考えた彼は一度体制を立て直すべく距離をとった。

 

「まだ甘ぇっ!」

 

その隙を逃すものかと海斗が走り出す。

それを見た雫はある事に気づき声を荒らげる。

 

「海斗ダメっ!」

 

「…!」

 

その声も虚しく響き、綾斗の後ろで三十九式煌型光線砲『ウォルフドーラ』のチャージを終えた沙夜の姿が目に入った。

 

「…バーストっ」

 

覇気の感じぬ声とは裏腹にドドォーン!!と重い音を立て放たれた一撃。

今の海斗に避ける術も防ぐ術もない。

 

筈だった──

 

ウォルフドーラから放たれた一撃は容易くも壁を壊した。

仮にもこの部屋は冒頭の十二人の為に作られた部屋だ。簡単なことでは壊れるはずのないのだ。

だが沙夜の一撃は容易くそれをぶち壊した。

 

「海斗!!」

 

ならばその一撃をまともに正面から受けた海斗はどうなるのか。

星脈時代ですら大怪我、下手をしたら死ぬような一撃だ。

それを星脈時代ですらない海斗が受けたらどうなるかなど分かりきっている。

 

「沙々宮!!やりすぎだ」

 

ユリスの慌てる声が部屋に響く。当の本人の沙夜も少し焦った表情になり武装も解除し、駆けつけていた。

 

「…大丈夫そう、だね」

 

そんな声が聞こえたのは気のせいだろうか。未だに煙の晴れぬ中、一つの人影が立ち上がった。

 

「たくっ!俺じゃなかったら危ねぇぞ!」

 

文句を言いながら沙夜に向かっていくのは先程の攻撃を真正面から受けたはずの海斗だった。

 

「海斗!!」

 

途中、彼の名を呼びながら雫は、彼の体をペタペタと触り始めた。

 

「大丈夫!?どこも怪我してない!?なんで今のを正面から受けたのよ!」

 

「いやー…。あれ避けるの無理だと思ったから秘密兵器を使ったよ」

 

「?…それって?」

 

頬を掻きながら答えた海斗は手に持っている物を雫に見せた。

 

「そう、ツナ兄に預かってて貰ったボックス。こいつの力借りたんだよ」

 

雫はそれを見て、安心したようにはぁと長く息をついた。

そしてその間に他の三人も海斗の周りへと近ずいていた。

綾斗が海斗の手を見るなりいった。

 

「大丈夫かい海斗?それにそれって?」

 

「ああ、これは──見せた方が早いな」

 

言うなり海斗はリングに炎を灯し、ボックスへと炎を注ぐ。

開口されたボックスから出てきたのは──

 

「zzz…」

 

龍だった。それも出てくるや海斗の首に周り付き、寝ている始末。

 

「なっ!?」

 

「に!?」

 

「…それ」

 

三人が声を上げる。(沙夜に関しては普通だが)雫も声に出してはいないが驚いてはいた。

 

「こいつはハク。俺のパートナー、うんまぁ相棒みたいなやつだ」

 

そう言い、寝ている龍──ハクの頭を優しく撫でる。

 

「いやいや名前とかの前になんで動物、ましてや龍何かが出てくるのさ!?」

 

綾斗の疑問も理にかなっている。箱から出てきたのが道具とかならまだ何かしらの能力とでも思うだろう。だか海斗は魔術師ですらないのだ。

そしてそのボックスから出てきたのが動物、それも御伽話のような存在だったら驚くのも無理はないだろう。

 

「まぁ俺の家の技術というか。その辺は企業秘密だ。」

 

ユリスは顎に手を当て少し考えていた。小さい時、彼と同じように炎を灯し戦う人のことを。

 

自分のことを護ってくれた恩人のことを、

 

そしてその人がツナと呼ばれていたことを。

 

「…松原。お前は‴ボンゴレ‴の人間なのか?」

 

それを聞いた海斗と雫は唖然とした。何故ここでボンゴレの名が出てくるのか。ましてや何故それをユリスが知っているのか。

 

 

そしてボンゴレを知っているということは彼女は裏を知っているのかもしれないと。

 

「ボン、ゴレ…?何だそれ?パスタの名前か…?」

 

「その反応は知っているのか。その様子だと葦原も同じと考えていいな」

 

この時、ユリスは海斗と雫の一挙一動を見逃さなかった。彼女は仮にも皇女だ。人の目線や仕草、そういった事に関しては誰よりも敏感であり、なんとなくではあるが相手が何を思っているかも気づいてしまう。

 

「ねぇユリス?ボンゴレって何?俺達は全然分かんないだけど?」

 

「ボンゴレとはイタリアの、いや世界一のマフィアの名前だ」

 

「マフィアっ!?なんでまたここでマフィアの話なるの?」

 

「私が小さい時に助けられたからだ。ある時に集団に襲われ拉致監禁された事があった。その時に助けられた人が松原のようにオレンジ色の炎を額に灯していたのだ。助けられた後、兄の元に届けて貰ったあとに言われたのだ。『君にもしもの事があれば俺が、ボンゴレが必ず助けに来るから』とな」

 

「そんなことが…」

 

それを聞いた一同は改めて海斗と雫を見た。その視線に耐えられなくなったのか長い溜息をついて言った。

 

「まぁツナ兄らしいな。それとユリス、訂正しとくぞ。ボンゴレは確かにマフィアだった。それは昔のことで今は自警団として活動してんだ」

 

 

「自警団?」

 

「ああ。初代が創設した時の理由は市民を守る為だったらしい。二代目から思考が変わり、誰もが恐れるマフィアになっていったんだ。それを変えたのが沢田綱吉。今のボス、ボンゴレⅩ世だ。」

 

「そっか…。まさか海斗達がそんな凄い人と知り合いだったなんて思いもしなかったよ」

 

綾斗の言ったことに対して海斗はハハハと笑いながら、首にいたハクをボックスへと戻す。

 

「普通は思いもしないよこんなの。ただ俺もユリスと同じように助けられたんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「俺は捨て子だったんだよ」

 

海斗が軽く言った言葉に皆が今日何度目になるか分からない驚きをした。

 

「そりゃあ驚くよな普通。捨てられた経緯は知らないけどそこをちょうど日本に帰ってきてたツナ兄達に拾われた。そこから俺は育ててもらって、どんな些細な事でもいいから恩返しがしたかった。その為に力を望んだし、それを扱う術を貰った。だから他の奴らに赤の他人だと言われても俺にとっちゃ家族なんだ」

 

話をする時の海斗の顔はものすごく優しかった。それほどに彼は感謝をしているのだろう。拾ってくれた恩、育ててもらった恩、力を扱えるようにしてくれた恩。それは数えればきりがない程に。

そして今はボンゴレと共に大切な家族を取り戻す(・・・・)為に。それが海斗の本当の願い。

ただそれだけなのだ。その一つが彼を形成していると言っても過言では無いほどに。

 

その時カツカツとヒール特有の音が三つ、トレーニングルームの入口から聞こえてきた。

 

「大きすぎる音が聞こえたと思ったら…これはまた派手に壊してくれたものですね?」

 

トレーニングルームのドアが開き、現れたのは星導館学園生徒会長であるクローディアだった。

その後ろには星導館(ここ)の制服とはまた違った意匠の制服を着た女子が二人、風穴に目を向けていた。

 

「このトレーニングルームはあなた方《冒頭の十二人》に貸しているだけですので、あくまで学園の設備であるのをお忘れなく」

 

「……理解している。これは不慮の事故だ。好き好んで壊したわけではない」

 

「なら結構」

 

クローディアが鷹揚に頷く、その後ろから先程からうずうずしていた女子の一人が口を開く。

 

「いやー、びっくりしたよねぇ、カミラ。分厚い筈の壁がこんな穴空いちゃうなんてさー。変って意味じゃうちも相当なもんだと思ってたけど、他所は他所で変わってるよねー」

 

「頼むからあまりはしゃがないでくれ、エルネスタ。これ以上の面倒は御免被りたい」

 

小柄なその女子を諌めるように、カミラと呼ばれたもう一人が呼び掛けるも、エルネスタは体を揺らすだけで答えない。

その姿を見てユリスの目付きが鋭くなる。

 

「それで、何故アルルカント・アカデミー(変態集団)の人間がここにいるのだ?」

 

ユリスがクローディアへと問うと、ユリスの剣呑な雰囲気を意にも介せぬ様子でぽんと手を打つ。

 

「ああ、ご紹介しておかなければなりませんね。こちらはアルルカント・アカデミー(変態集団)のカミラ・パレートさんとエルネスタ・キューネさんです」

 

「ねえ今、変なルビ振られたような気がするけど気のせい?」

 

「気のせいだから静かにしてくれ」

 

最早頭痛が痛いと言えてしまえそうな顔でエルネスタの口を塞ぐと、カミラは一礼した。

 

「紹介に預かった、カミラ・パレートだ。宜しく」

 

「今度我が学園とアルルカントが共同で新型の煌式武装の開発をすることになりまして。こちらのパレートさんと正式な契約をするためいらしてくださったんです」

 

「……成程ねぇ。面白い落とし処に持っていったな、会長?」

 

褐色肌の女性を見ながら海斗は納得したかのようにクローディアを見た。

当のカミラは切れ長の目を少し細めただけで何も言うことは無かった。

 

「どういうこと?海斗」

 

「もやしの件だろうな。その見返りというやつだ。原因がアルルカントであることを告発しない代わりの技術提供しろっつう話だと俺は思う」

 

綾斗に対する海斗の回答に雫は絶句し、と夜は何がなんだかという表情を浮かべる。

 

「松原もそう考えたか」

 

「ユリスもか。こんなの鳳凰星武祭の前なのに普通ありえないからな、それぐらいしかないだろうな」

 

「さて、何の事でしょう」

 

ユリスと海斗の怪訝な眼差しを受けて尚、クローディアは笑みを浮かべるだけだ。

それだけでも十分な回答と受け取り、海斗は肩を竦めた。

何にしても学園のトップは彼女なのだ。今更何をいったところで無駄と悟ったとも言える。

海斗が下がったところで今度はユリスが前に出て口を開いた。

 

「用件については理解した。だがなら何故ここに来る必要がある?契約をするだけならわざわざここに寄る意味などーー」

 

「はいはーい、それはあたしが見たいって言ったからでーす」

 

ユリスの言葉を遮って手を挙げたのはいつの間にかカミラの拘束から逃れていたエルネスタであった。

制服の上に袖余りの白衣を羽織った、茶髪の少女で、カミラと比べると少し小柄だ。

そんな彼女が次に放った言葉は……

 

「いやー、ぜひとも直接見てみたくってさー。……『あたしの人形ちゃんたち』を全部ぶった斬ってくれちゃった剣士くん二人をさ」

 

「え?」

 

「は?」

 

「あら?」

 

とんでもない爆弾発言だった。

 

 



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十一話~CHAOS~

今回は短いです


エルネスタの爆弾発言によって何とも言えない雰囲気が漂う中、海斗は怒りを募らせていた。この二人は自分の手を汚さずに他人にやらせる卑怯な手を使った。そして友達を傷つけた。

流石にこれだけでブチギレることは無かった。だが彼らはアルルカントと名乗った。であればだ、彼らはもしかしたら────に関与しているかもしれない、と。

 

「少し聞きたいことがあるがいいか?」

 

「いいよ、いいよ〜。今ならなんでも答えてあげるよ?」

 

「そうか、じゃあ聞くが──お前ら人体実験に関与しているのか?もししてないなら謝る。だがしていると答えた場合──その首繋がってると思うなよ?」

 

聞くやいなや腰にある刀を握った。そして最大級の殺気を放った。近くにいたみんなが一瞬にして距離をとり首をさすった。そして首が繋がっていることに安堵する。

 

そしてこの殺気を受けた者は言うだろう。

 

 

 

 

一瞬で首が落ちた、と。

 

 

それほどに凄まじい殺気を放たれたカミラとエルネスタは動けずにいた。カミラは顔は平静を保っているも内心焦っていた。

もし本当の事(・・・・)を言ってしまえば彼はこの場で私達を斬るだろう。ならば言わない、言えない。それがカミラの答えだった。

 

「さぁ答えろ、しているのかしていないのか」

 

更に殺気が濃くなる。

 

「…そんなことしているわけがないだろう」

 

その声は僅かに震えていた。彼女の苦し紛れにも言った言葉は嘘だ。カミラ自身は関与していなくても相方は関与している。その思惑が目の前の修羅に対して通じるとも思っていなかった。

 

「それがお前の答えだな、ならば──」

 

そこでただ一人でけ海斗の側を離れなかった雫が手を握った。

その顔は哀しみに溢れていた。

 

「この人達は関係ないから、だから落ち着いて…?」

 

雫は恐いのだ。海斗が自分のことを想ってくれるのは素直に嬉しい。だがここで彼女達を殺してしまったら、また離れ離れになってしまう。やっと会えたのに。

 

「…分かった。すまなかったお二人」

 

渋々といった形で承諾した後、彼は頭を下げた。

 

「…え?」

 

「さっきの非礼を許してくれ」

 

「あ、ああ。気にするな」

 

先程の殺気の重圧から解放されふと体が軽くなるのを感じながらもカミラが答えた。エルネスタに関しては完全にビビってしまいカミラの後ろに隠れてしまっている。

そして海斗の周りにいた綾斗たちが戻り、カミラが沙夜の武器に興味を持ち、一触即発の空気に。紗夜とカミラの交錯する視線の狭間には言い様のしれない圧が発生していた。

 

そしてクローディアがカミラを連れていき、エルネスタが鳳凰星武祭に参加すると言い残しカミラの後を追っていった。

 

 

 

 

 

────────

 

「ふぅーやっと終わった…」

 

ある部屋の一室。その部屋は星導館の生徒会室よりも遥かに豪華。そしてその部屋の奥の机には大量の書類が。

その書類を捌ききり、リラックスするように椅子にもたれかかり呟く。

 

「お疲れ様あなた」

 

入ってきたのは紅茶を持った女性だ。彼女は書類の溜まっている机ではなく応接用のテーブルへと紅茶を置いた。

彼も彼女が来ると椅子から立ち上がり、テーブルへと移動した。

 

「ありがとう。ほんとに助かるよ」

 

「ふふっどういたしまして。それであなた?今度はどのくらい寝てないのかな?」

 

笑いながらも言う彼女は美しい。誰が見てもそう言うだろうし、見ていて癒されるようなものだ。いつもなら。

 

「えっえーと五日?位かな…」

 

口元を引き攣りながら言う。そう、彼女は確かに笑っている。笑っているはずなのに目が笑っていない。原因としてはこの男、書類が溜まりに溜まり過ぎて五徹もしていたのだ。そんな彼の状態を見抜いた彼女は流石と言えるだろう。

結婚してから二十年。出会ってからも入れれば三十年以上の付き合いになるのだから。

 

「…そんな無理してまた倒れても知らないからね。ほどほどにしてっていつも言ってるのに」

 

「はははっ。ごめんなさい…」

 

そんな会話の中、部屋に黒スーツにハットを被った男性が入ってきた。ダンディという言葉の語源ではないかと思わせるような男性。そしてくるっとしているもみあげが何とも可愛らしい。

 

「お前ら、結婚してから二十年以上経つのにお熱い事だな。それよりも終わったのか?」

 

「そりゃあ終わるよ。五徹もしたんだから終わってくれないと」

 

この仕事をしてかなり経つというのに未だに捌ききるスピードはあまり早くない。

大体の人は流してか見ずにするだろう。だが彼はここに溜まっている全ての書類(・・・・・)を読んだのだから。

 

「それよりも海斗からだ」

 

座っている彼に懐から出した手紙を渡す。それを受け取り、封を開けて読む。彼女も覗き込むようにして見ている。

 

「…へぇ。本当に面白い事をするね」

 

「ふふっ。あの子らしいね」

 

「全くだ」

 

三人は微笑みながら遠くにいる義息子(むすこ)を思い出した。

そして彼の想い人の事も。

 

「本当に昔のあなたにそっくりね」

 

「あぁ、特に誰かを助ける為ならがむしゃらになる所と無鉄砲な所はな」

 

「何だよそれ。……そろそろか。それじゃ行くかリボーン(・・・・)

 

「そうだなツナ(・・)

 

立ち上がり女性の方へと向かい抱きしめる。

 

「いってらしゃいあなた」

 

「いってくるよ京子(・・)

 

笑顔で言う京子に笑顔で返すツナ。それを呆れながらも見ているリボーンは呟いた。

 

「CHAOSだな…」




はい、今回でやっとツナたち出せました。
リボーンに関しては呪いも解けて大人に成長してます。ツナと京子は既に結婚してます。
やっぱりツナ京が一番ですよね(文句は言わせない)



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十二話~銀綺の縛り~

遅れてすいません

とりあえずモチベを上げるためにと他作品書いて出来上がったので投稿です


アルルカンと二人が来てから数日。昼時、学生が食堂へ向かう中、海斗も例に違わず向かっていた。

その途中廊下の柱の影に見覚えのある二つの人影を見つけた。

 

「あれは…この前ぶつかった子だな」

 

この前ぶつかった銀髪の少女とそれを怒鳴っている中年男性の事を思い出しながら歩を進めた。

その時だった。二人のいる方から乾いた音が聞こえた。

もしやと思い、振り返れば案の定男性の方が少女に平手打ちをしたところだった。

 

「流石にやりすぎだろ」

 

海斗は食堂とは真反対にいる二人へと歩く向きを変え、近付いていく。

 

「それはお前が考える事ではないと言った筈だぞ、綺凛」

 

「で、ですが伯父様、わたしは」

 

「口答えを許した覚えもないぞ!」

 

「そこいらで止めておいたらどうだ」

 

中年男性が少女へと拳を振り上げた処で話しに割り込むと、中年男性からは怪訝な、少女からは驚いた目線を向けられる。

 

「なんだ、貴様」

 

「通りがかりの一生徒、って見てわからないか?」

 

中年男性からの問いに毒を吐いて返し、少女を背に相対するように二人の間に身体を入れる。

 

「貴様……今のはただの躾だ。身内の問題に部外者が口を出すな」

 

「衆人環視の中で平手打ち。口を出さないという方が無理な話だな」

 

「……学生風情が生意気な口を叩くものだ。貴様、名前は」

 

「松原海斗、序列九位」

 

「はっ、所詮九位の分際が何のようだ」

 

苛立たしさを隠しもせず、侮蔑混じりの視線を海斗に向ける。

 

「彼女への暴力をやめてもらおうか」

 

そう言い放った海斗を見て薄く笑い続けた。

 

「いいだろうーーただし、貴様が決闘に勝ったならばな」

 

「決闘だと?」

 

「ああ、そうだ。貴様ら星脈時代(バケモノ)はここではそういうルールなのだろう?ならばそれに従え」

 

確かにと納得出来る部分はある。六花にいる学生ならばそれで済むだろう。だが──

 

「てめぇが闘うのにここのルールに乗っ取るつもりか?」

 

それを聞いた男性は怒りを露わにして言い放った。

 

「私が闘うだと?ふざけるのも大概にしろ!私は貴様らのように星脈時代(バケモノ)ではないのだ!闘うのは貴様ら星脈時代(バケモノ)だ!」

 

「…いい加減そのバケモノ呼ばわりすんのやめろよ」

 

「ふんっ!星脈時代(バケモノ)をバケモノと言って何が悪いのだ!貴様らにはたた…「口を閉じろってんだよ」

 

男性の胸ぐらを掴み、殺気をぶつける。それを受けた男はヒッ、と小さく悲鳴をあげた。

 

「まぁいい。てめぇの考えに乗ってやるよ。あぁそれとな──」

 

手を離し、少女へと歩き初めたその時顔だけを向け言った。

 

「情報収集はしっかりとやった方がいいぜ?俺はてめぇと同じ非星脈時代だ刀藤鋼一郎(・・・・・)

 

それを聞いた銅一郎は急いでパーソナルデータを開いた。そこには確かに非星脈時代と載せられていた。

 

「それじゃやろっか」

 

「でも…」

 

「別に気にしなくていいよ。俺が勝手に口を挟んでこうなっちまったんだ。謝るなら俺の方だ」

 

「……ごめんなさいです」

 

そう小さく言った彼女の体は震えていた。それに罪悪感を覚えながらもボックスから刀を出す。

彼女も袋から刀を出した。

気付けば野次馬根性逞しい生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。

 

「……刀藤綺凛は、松原海斗先輩に決闘を申込みます」

 

小さく、しかしはっきりと聞こえる声によって二人の校章が光りを放つ。

視線が交錯する。

 

「我松原海斗、決闘を受諾する」

 

校章が一際輝き、決闘へのカウントダウンが始まる。

渡り廊下から中庭へと歩き出す海斗の背に、綺凛が呟く。

 

「……松原先輩は、優しいですねーーですが、私も負けるわけにはいかないんです」

 

振り返った海斗が見たのは、己の得物を構えた彼女の姿だった。

それは柄の部分などは現代的な意匠ではあるが間違いなく日本刀だ。

正しく刀人一体。いっそ冷たさを感じさせるかのような立ち振舞いに目を細める。

 

「では、先輩」

 

「ああ」

 

カウントダウンが、零になった。

 

「ーー参ります」

 

綺凛が開始の合図がなった瞬間、彼我の距離を詰め刀を振るう。

 

「流石は序列一位、やっば速いな」

 

「…それを知ってて行動したんですか?」

 

彼女の振るう刃を紙一重で避けながらも答える。

 

「情報収集は基本でしょ?」

 

今まで抜いていなかった己の獲物を抜き受け止め鍔迫り合いに発展する。

彼女の身のこなしは『疾風』。振るう刃は『雷』。二つ名に偽り無し、と認識を改める。

 

今度はこちらからと鍔迫り合いを強引に押し込み体制を崩しにかかるも上手く否されてしまい、前方へと倒れ掛けた為に隙が生まれてしまった。

 

「(もらった…!)」

 

「まだだぜ!」

 

前方へと倒れ掛けた体を強引に捻り校章への一撃を受け止める。だが衝撃だけは殺せず後方へと飛ばされるもその勢いを使い体制を立て直した。

 

「松原先輩、お強いですね。びっくりしました」

 

「それはこっちのセリフだよ。まさかここまで速いとは恐れ入った。じゃあ今度はこちらからいかせてもらうよっ!」

 

海斗が綺凛へと踏み込む。その速度は速いが綺凛はしっかりと捉えていた。

 

「時雨蒼燕流攻式五の型──」

 

校章目掛けて振るわれた一刀に綺凛は防御の構えをとった。だが来るはずの衝撃が来ない。ならばと攻撃に転じようとした時──

 

「五月雨」

 

いつの間にか右手ではなく左手にあった刀に気づき急ぎ防御へと刀を戻す。

ガキィンと甲高い音を立てると同時に綺凛の腕には小さく痺れる感覚が伝わってきた。

 

「(重い…!)」

 

 

同じ刀を扱う者として驚嘆する。技と力をここまで合わせるものかと。

今の一閃、海斗は右手にあった刀を通常の剣術で言うところの中斬りを放ちながら刀を一度手放し左手に持ち替えたのだ。

野次馬達からしたら今の一閃は何が起きたかは分からないだろう。それほど自然に滑らかに行われたのだ。

 

受け止めた刀を跳ね上げ胴に一閃を放つ。それをバク転の要領で交わし、距離を取る。

 

「ほんと末恐ろしいなうちの序列一位は」

 

「松原先輩こそ本当にお強いです。序列九位なのが驚きです」

 

「まぁ序列に興味はあんまりないからね」

 

軽口を言い合ってはいるが、お互い、一挙手一当足見逃さないように感覚を張り詰め、じりじりと円を描くように動く。

 

「でも、勝たせていただきます」

 

「そいつは、こっちの台詞だ」

 

言葉が先か、刃が先か。

二人が踏み込んだのは同時だった。

世界が加速する。

 

刃鳴りが響き、火花が幾つも咲いては散る。

 

野次馬はその美しさに感嘆の声を上げるがその声も、剣戟の音すら二人には聞こえていない。

ひたすらに一手一手を打ち込み、弾き合う。無呼吸で行われる連撃。

 

綺凛が小手狙いの一閃を狙えば海斗はそれを流し、海斗が小脇を狙えば綺凛は刀の腹でいなす。一進一退ここに極まり。

だが、このままでは埒が明かないと考えたのか、綺凛が刀を弾き、大きく下がる。

そして、もう一度。今度は更に速度を上げて踏み込む。

 

「まだ上があんのかっ!!」

 

予想を上回る加速度に内心舌を巻きながらも、死ぬ気の炎を足へと付与し対応する。

死ぬ気の炎を出した途端に銅一郎の目が変わった事に海斗は気づいた。

 

決闘の合間に見えた一瞬の変化、それを見逃さなかった。その目は雫を連れていった奴らと同じ目だった。

だからこその失態とも言えるだろう。

その隙を見逃すほど綺凛は甘くない。

 

「はぁあっ!」

 

「(まずっ!)」

 

剣戟の一瞬の遅れ。それは剣士にとって死を意味する。

であるならばこの勝負──

 

『「校章破壊(バッチブロークン)。勝者、刀藤綺凛」』

 

「っち…(あいつの表情に気をとられた…まだまだだな)」

 

「何で……」

 

「別になんでもない。こっちが未熟だっただけだ。さ、行け、敗者に口なしだ」

 

食い下がる綺凛に、鋼一郎が声を掛けると彼女はびくりと身体を震わせてから刀を鞘に納めて一礼する。

 

「その、ご、ごめんなさいですっ」

 

そう言い残して彼女は鋼一郎の後を追い去っていってしまった。

小さな背中が廊下の角に消えるのを見て、苦笑い気味に呟く。

 

「謝ることなんてねぇだろうが…」

 

「海斗っ」

 

野次馬の中から悲しげな表情の雫、それに綾斗とユリスが駆け寄ってくるのが見えた。

 

「海斗、何で…」

 

「後で話すからとりあえずはここから離れよう」

 

 

「そうだな、聞きたいことは山ほどあるが今は私のトレーニングルームに向かうぞ」

 

「悪ぃ、助かる」

 

「……礼はあとで良い。急ぐぞ」

 

少し照れた様子のユリスを先頭に、海斗は歩き出す。

 



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十三話~訳あり~

「大丈夫?海斗」

 

「大丈夫だ、特に外傷はない。精神的には疲れたけどな」

 

心配そうに見てくる綾斗にそう返して海斗は苦笑いを浮かべて高い天井を仰ぐ。

ここはユリス専用のトレーニングルーム。

彼女が気を効かせて連れ込んでくれたお陰で、パパラッチ紛いの生徒も流石についてくることもなく、静かに身体を休ませてもらっている。

とはいえ、かつて沙々宮が派手に開けた壁の大穴はそのままだが。

 

「それで、どうしてお前はあの序列一位とやりあっていたんだ?」

 

壁に寄りかかり、腕を組んだユリスがそう問うと、綾斗もやはり疑問に思っていたのか頷いていた。

 

「それはーー」

 

息を一つ吐いて、海斗は事の顛末について最初から最後まで話した。

 

「ーーとまあ、こんなところだな」

 

「成程な……」

 

「確かに、海斗じゃなくてもそれには文句を言うだろうね。俺もきっとそうしていただろうし」

 

全てを聞き終えて、ユリスは話の内容を噛み締めるように眉をひそめ、綾斗は納得顔でそう言った。

雫に至っては未だに顔を強ばらせている。

 

「そんな怖い顔すんな、あいつらにバレた(・・・)としても俺なら何とか出来る。あん時から俺だって成長してんだ」

 

「それはわかってる…。でも…。」

 

「でもクソもあるか。お前は俺が守る、昔に約束したろ?」

 

そう言い頭にポンと手を乗せ笑顔を見せる。雫も小さくうん、と答えた。

 

「あれで十三齢とか今後が怖いわ」

 

「じゅ、十三歳!?」

 

ぽつりと呟いた言葉に綾斗が驚きの声を上げる。

中等部の制服から年下なのはわかっていたが、一年生だったのは流石に予想外だったのだろう。

海斗も対峙してみてその規格外さに肩を竦める。

剣技の冴えもさることながら、身のこなしや間合いの判断は最早達人レベルの域に達している。

そして何より、恐ろしいのはそのスピードだ。踏み込みの速度に至っては視認するのが困難な程に速い。

…まぁあの師匠たちには劣るが。

 

「ユリスから見てどうだった?」

 

「正面切って闘うのはごめん被りたいな。松原も大概だったが改めてみて、刀藤綺凛の速さはそれ以上だ」

 

そこまで言って、ユリスは先程から思っていた疑問を口にした。

 

「なぜお前は初めから炎を使わなかったのだ?あれを使っていれば負けずに済んだだろう?」

 

「…初めから使えなかった事情があるんだ。それに使ってたとしても結果は変わらない」

 

「それはどういう──」

 

そこで丁度、始業前を知らせるチャイムが鳴る。

 

「世話になったな、ユリス、綾斗。借りは返す」

 

「…構わん。襲撃事件の時に助けてもらった礼だ」

 

海斗の言葉に口々にそう返すと、二人は先に部屋を後にした。

その背中を見て、雫は

 

「いい友達が出来たね?」

 

「そうだな、そうだ雫。放課後買い物でも行くか」

 

「──うん!」

 

強く頷きその声はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫との買い物から帰り、思っていた時間よりも少しばかり早く寮についた海斗が見たのは入り口に出来た人だかりだった。

何事かと思い近付いていくと、集団の外側に居た数人の学生が海斗に気づく。

 

「おい、来たぞ……」

 

「松原め、地味だと思っていたのに……」

 

「雫ちゃんがいるのにあいつめ……」

 

「天霧といい、モテ男は爆発すればいいのに」

 

ざわざわと小さく飛び交う言葉の端々から悲しい男子学生の嘆きが聞こえてくるが、それを無視してさらに進むと集団が道を開けるように割れた。

まるでモーセの十戒のようだと呆れ半分に思いながら寮の入り口を見ると、見知った二人に両サイドをガードされた小柄な少女がオドオドとした様子で立っていた。

 

「あ、海斗」

 

「よう松原、お客さんが来てるぜ」

 

少女の両隣に立っていた二人……綾斗と英士郎が声を上げると、少女もまた海斗を見た。

腰ほどまで伸びた銀髪、肩に掛かった刀入りの袋。

 

「ど……どうも」

 

刀藤綺凛は掻き消えそうな細い声とともに一礼した。

 

 

「先程は大変失礼しました!」

 

男子寮内にある応接室に案内して開口一番。綺凛は海斗に対して頭を下げた。

 

「……刀藤が謝ることじゃ無いだろ。とりあえず座ってくれ」

 

突然の謝罪に驚いたが、直ぐに立て直してそう返すと、海斗はお茶を出して綺凛をソファに座らせた。

応接室は本当に簡素な造りで、それなりの広さの部屋の中に皮張りのソファとお茶出し用の湯呑みとポットが置いてあるだけのものだ。

 

「それに謝るのは俺の方だ。すまなかった」

 

「い、いえそんな……!」

 

反対に、海斗が頭を下げると綺凛は慌てた様子で首を振る。

 

「あの、怒ってないですか?」

 

「ん?……何で俺が刀藤に怒るんだ?」

 

頭に疑問符を浮かべて逆に聞くと、綺凛はすこし安心した表情になる。

 

「まぁあのクソジジイには思う事がかなりあるけどな」

 

綺凛から視線を反らし、少しの苛立ちを吐き出すように息を吐く。

決闘前のあのにやけた顔がどうにも頭から離れない。

 

「それは、その、本当に申し訳な……ふぇ?」

 

「もう謝んなよ、俺が良かれと勝手にやっただけだから」

 

再び謝ろうとした綺凛の頭を軽く撫でてふと笑う。

イタリアにいた時によく師匠たちにしごかれたあとにされた事を思い出しながらこんな気持ちだったのかと思い馳せる。

綺凛の銀髪はふわふわとしていて、彼女の小動物のような雰囲気をさらに助長させている。

 

「あ、あの……」

 

「ああ、悪い。いきなり頭を触るのは失礼だったな」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

恥ずかしげに見上げてくる視線に手を引くと、咳払いをして話題を変える。

 

「それで他に用事はあるのか?」

 

「?」

 

「……まさか謝罪するためだけに男子寮(ここ)に来たのか?」

 

「いえ、そうですけど?」

 

「……そうか」

 

天井を仰ぎ、溜め息一つ。

刀藤綺凛という少女はその実力とは裏腹に、律儀かつ少し天然ぎみな性格らしい。

知り合いで言えば沙々宮も大概天然だが、それとはまた別ベクトルの天然さだ。

 

「年頃の少女が、無用心すぎだ……」

 

「え、えぇと?」

 

「幾ら実力が有るからって、男しか居ないような空間に易々入るなって事だ。現にーー」

 

言葉を切ってソファから立ち上がり、音もなく扉に近づいてドアを一気に開くとーー

 

『どわぁ!?』

 

「こういうバカ共が沸く」

 

中の様子を伺わんとしていた男子達が雪崩のように転がり込んできた。

その先頭。雪崩の一番下に倒れているパパラッチに向かって声をかける。

 

「さっきぶりだな、夜吹」

 

「よ、よぉ、いい天気だな?」

 

ギギギと、軋んだ音が鳴るかのように首を上げた夜吹がひきつった笑顔でそう言うと、海斗もまた笑顔で答えた。

 

「盗み聞きとはいい度胸だな、流石は新聞部ってか?…いっぺん死んでこい」

 

「ちょ、ま、なんで俺だけええええええええ!?」

 

死刑宣告が放たれ、夜吹の断末魔じみた叫びが応接室に木霊した。

 

 

 

 

 

所変わって学園の敷地内にある遊歩道。

昼間ほどでは無いとはいえ暑さの残る夕暮れの道を海斗と綺凛は並んで歩いていた。

 

「……あ、あの方々はあのままで良かったんでしょうか?」

 

「気にすんな、どうせ直ぐに立ち直る。前よりしぶとくなってな」

 

苦笑いを浮かべる綺凛に諦めたような顔で返す。

 

「タフなんですね……」

 

「見習うなよ?あれは最早執念の領域だから」

 

「流石にそれはちょっと……」

 

白目を向きながらも身体を動かしていた様子を思い出して口端がひくつく。

 

「ところで刀藤」

 

「な、なんでしょう?」

 

目線を前に向けたまま海斗が口を開く。

 

「先から歩調がバラバラだけど……緊張しているのか?」

 

「あ、そのごめんなさいです。わたし、家族以外の男性の方とこうして歩くの初めてで……父が、厳しかったものですから」

 

照れたように笑う綺凛に、納得がいったように頷く。

さすが風に聞くは刀藤流宗家。家風も厳しいようだ。

 

「刀藤流は厳格な流派とは聞いてたけど、家庭内でもそうとは思わなかった」

 

「うちの流派をご存じなのですか?」

 

「少しはね。剣を握る者なら大抵は知ってるんじゃないか。俺の流派はあんまり知られてないから」

 

少し自嘲気味に言った一言に、綺凛の目の色が喜色に変わる。

 

「そういえば、松原先輩の流派は独特ですよね?特に動き、最後のあの動きには驚きました!」

 

「まぁな……あの打ち合いでそこまでわかったのか」

 

時間にしても五分あるかないかのあの決闘の最中、此方の動きを観察できる余裕があったことに海斗はこの少女の強さに舌を巻いた。

 

時雨蒼燕流は戦国の時代に生み出された殺しの剣技。継承者は自ら「最強」を謳い、それを狙う刺客から守り抜くことを宿命付けられた。ゆえに、才能のある継承者が途絶えたときは失われる危険性もあることから、「滅びの剣」と例えらている。

複数の弟子が継承することも可能であるが、師が弟子に型を教えるのは1度きりという掟が存在する。また、継承者が型を1つずつ開発することが最終試練であり、同じ「時雨蒼燕流」を名乗るものの型が異なる分派が複数存在するのだ。

 

「構えなどはあまり変わらないはずなのにそこから低姿勢からの急加速何かは普通じゃありませんし、それに歩法だって古流のものでもありませんでした」

 

「まぁな、俺の使う流派は『最強無敵』だからな」

 

「ふぇ?」

 

綺凛がすっとんきょうな声を上げるが、これは事実だ。

 

「『時雨蒼燕流』ってのは常に最強を謳って来たんだ、まぁ今じゃ俺と師匠だけが名乗れる小さな流派さ」

 

「時雨蒼燕流……あっ!聞いたことがあります!継承が一度だけで使うには才能が必ずしも必要な『滅びの剣』があるって…まさか」

 

「そのまさかだよ。刀堂は本当に剣術が好きなんだな」

 

「は、はいっ」

 

「それこそ謎だ。何でそれほどの強さがあってあいつのの言うことに従っているんだ?」

 

「それはーー」

 

手を離してそう訊ねると、うって変わって綺凛の顔は寂しげに陰る。

 

「私には、剣術以外才能が無いですから」

 

「………」

 

「わたしは頭も良くないですし、ドジで、臆病で……でも、わたしには叶えたい願いがあるんです」

 

震えた声であったがその最後の一言にははかりしれない決意の重さがあった。

だが同時に、焦りや不安といったものも海斗は感じていた。

 

「…だからあいつに従ってるのか」

 

「伯父様は……わたしと違ってとても有能ですから。わたしは運が良かったんです。伯父様はわたしの願いを叶える為の道を示し、その過程で相応の利益を得る……対等の取引をさせて貰えたんですから」

 

淡い笑みを浮かべてそう言い切った綺凛だが、その表情は今にも瓦解しそうなほどの危うさを同時に見せる。

彼女はあまりにも『純粋』だ。『純粋』すぎる

放っておけば何時しか独りでに壊れてしまいそうなその双肩に、海斗は眉間に皺を寄せる。

 

「刀藤それは──」

 

あまりにも、と声を出したが、その先を言わずに口をつむぐ。

これ以上は踏み込むべきではない。ましてや敗者である自分が言っていいものではない、と理性で抑え込む。

 

「先輩?」

 

「ああ、悪い。何を言おうとしたか忘れた。この年でボケるとは歳をとったな」

 

「せ、先輩はまだおじいちゃんじゃないと思います!」

 

無理矢理吐いた誤魔化しに対しての綺凛の的を外したフォローに、思わず吹き出してしまう。

 

「くくっ……刀藤、それはフォローになってない、ははっ」

 

「え、あ、今のは違くて……!」

 

わたわたと全身を使って慌てる綺凛に、先程までの陰りは無い。

彼女もこの力技じみた誤魔化しには気付いているだろうが、乗ってくれただけでもありがたい。

 

「せ、先輩!」

 

「ん、どうした?」

 

「普段どのような鍛錬をしてるんですか?」

 

「普段、か…。普段は基礎トレに素振り、型を一通りって感じだな」

 

じゃ、じゃあと綺凛はある提案を出した。

 

「一緒にやりませんか?」

 



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十四話~FFF団~

遅れてすんません

駄文を直してたらさらに駄文に……。

誰か文才をくれぇ!


 ピピピッ!と鳴り響く時計を少し強めに叩き止める。寝ぼけたまま時計を見れば早朝の五時。

 寝ぼけたまま洗面台へと向かい顔を洗い、トレーニングウェアと着替え集合場所へと向かう。

 

 向かえば既に集まっていた。紫色の髪に優しい顔つきの少年。そして銀髪の小動物を思わせる少女。

 

「すまん遅れた」

 

「いいえ大丈夫ですよ。私達も来たばかりですから」

 

「それじゃ始めようか」

 

 そう言って俺たちは走り出した。

 何故三人で訓練してるかというと──

 

 

『一緒にやりませんか?』

 

『えっ?』

 

『えっとその一人じゃ出来ることが限られますし…ダメですか?』

 

 と言った風に刀藤に上目遣いでお願いされたからである。尚、綾斗がいるのは俺が星脈時代では無いからと言った理由だけである。お願いしたら案外サラッと承諾してくれた。

 

「にしても速いなあいつら…」

 

 気づけば二人とは三十メートル程の差ができていた。基本的にアスタリスクの外周を走り組手をする流れなのだが星脈時代ではない俺からしたらこの外周がかなりきつい。

 非星脈時代と星脈時代の差は圧倒的であり普通は追いつけない。

 だからトレーニングの時、主に肉体を鍛える時には使わない死ぬ気の炎を使い、二人へと追いつく。

 

 追いつきそのまま三人で並行して走り終え、少し休憩し組手へと移行する。

 

「えっと、今日は俺と刀藤か」

 

「はい!よろしくお願いします」

 

 三人でトレーニングしてる為に組手の場合は一日ローテーションで相手を変えている。昨日に綾斗と刀藤だったので今日は俺なのだ。

 

 

「それじゃ行くぞっ」

 

 正眼に構え、思考をクリアにする。刀藤も同様で既に構えている。

 駆け出し、下段から斬りかかる。それを受け止められ追撃の一刀をバックステップで躱す。

それと同時に今度は刀藤が駆け出し横薙ぎを放ってくる。

それを守式六の型─片時雨で避け反撃する。

 

 そこからは以前の決闘のように連撃の応酬だった。横薙ぎを放てば、剣の腹で受け流される。そしてそこから下段からの切り上げ。それを紙一重で躱す。

どちらも本気ではないにしろ俺にしろ刀藤にしろ柵も何もなくただただ剣を振るう。

それはトレーニングを忘れさせる程に楽しいものだった。

 

 一度距離が開いたところで一息つく。

 

「フゥ…そろそろ終わりにするか」

 

「そうですね。ありがとうございます松原先輩」

 

 ニコッと笑う刀藤にドキッとするがそこは顔に出さないのが俺だ。

 

「守りたいこの笑顔!」

 

「ふぇぇ…!ど、どうしたんですか急に?」

 

「何でもないから気にしないで…」

 

まさか思っていたことが出ているとは…。

 

「…流石に中学生相手はダメじゃないかな…」

 

苦笑い浮かべながらこちらを見る綾斗。

違う、違うんだ!今のは俺が言ったんじゃない!(狂ってる)

 

「…綾斗。今の雫には言うなよ」

 

「…分かってるよ」

 

 何で目を逸らす。言わないのならば目を合わせよ綾斗よ。

 

「そ、それよりもそろそろ時間が…!」

 

「やっべ!急いで戻るぞ!」

 

「あっ!」

 

 綾斗の声を気にせずただひたすらに走る。別段何かから逃げる訳では無いが走らないといけない気がするので走る。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

「被告人──松原海斗。何故貴様がこのような状況になっているか分かるか?」

 

「分かるかアホ。教室入った瞬間に拉致られたのにどう理解すればいんだよ」

 

 少し状況を説明しようか。あの後寮に戻りシャワーと着替えを済ませて登校。教室の扉を開ければそこは教室ではなかった。…自分で言っててもよくわからん。

 実際、入った時に見えたのは刃物を研ぐ黒ずくめと裁判所のように並ぶ机類。

 

 そしてクラスの一人と目が合った瞬間──

 

「殺れ」

 

 

 無情すぎる一言が告げられました。めでたしめでたし……ってんなわけあるか!

 

「貴様、自分が犯した罪を理解していないと?仕方がない、おい被告人の罪状を読みあげろ」

 

「はい、えーまずひとつに我がクラスの癒しである葦原雫との常日頃のやり取り。二つ目に我が校の序列一位である刀藤綺凛と並んで帰宅。そして頭を撫でる等の…」

 

「率直に言え」

 

羨ましいんだよボケェェ!!」

 

「お前らの諸事情じゃねーか!!雫は幼馴染だって前に言ったし、刀藤に関してはトレーニングを一緒にしてるだけだ!なんならトレーニングには綾斗もいるからな!」

 

綾斗、の単語を聞いた途端に黒装束の中からロープでぐるぐる巻にされた綾斗が投げられてきた。

…手際良すぎだろこいつら。

 

「よぉ綾斗、元気そうだな」

 

「この状態でそんなこと言える海斗は頭がどうかしてるんじゃない?」

 

「馬鹿言え、概ね予想はついてんだ。お前が雫に朝の事を言ったのを聞かれてこうなってんだろう。なら、俺にとってこれは前菜でメインはこの後に残ってんだ」

 

自分で推測しながら言うも、ものすごく恐ろしい。今の現状ではなくこの後が。

教室がこんな状況でも登校し席につく強者もいる。主に女子なのだが。

 

ユリスもその一人で先程から溜息ばかり吐いている。

そんなことより、その後ろで笑顔な雫がものすごく恐い。

何がって笑顔なはずなのに目が笑ってないんだよ。

 

「──────」

 

雫を見ていると口が動いた。何なに…?あ、と、で、OHANSI。

 

……。

 

「お前ら今すぐこれを解け!?殺される!!」

 

「ふっ馬鹿め。解けと言われて解く奴がいるか、悔しければ自分で解くんだな」

 

こ、コイツら…!ニヤニヤと薄笑いを浮かべながら見やがって…!この後何が起こるか予想してやってやがるな!!

 

「…全員覚えとけよ、容赦しねぇからな」

 

「今の状況でよく言え……」

 

途端に黒装束共が教室を復元し始めた。俺と綾斗に関しては全くの無視で。

 

気づけば教室はいつもと何ら変わらぬ状態に。男子共も星導館の制服に着替えていた。

 

「お前ら席に……おい天霧松原、お前らふざけてんのか?」

 

そこには黒染みの釘バットを肩に担いだ谷津崎先生。

やめて!そんな目で見ないで!!

 

「はぁ…。お前らがそういう趣味があんのはわかった。だからって学校じゃすんじゃねぇ、わかったな?」

 

「先生!弁明を!弁明の余地をくだ──「わかったな?」はい…」

 

弁明の余地すらなかった俺たちは縛ったはずのクラスの男子(バカども)に解いてもらうのだった。

 

 

 

 

 

────────────

 

「それで聞いた話だと女子中学生を誑かしてるみたいだけど?それについて言うことはある?」

 

「誑かしてなんかないからな!?お前どんな風に聞いたんだよ!」

 

放課後ユリスのトレーニングルームで額に干将を突きつけられ必死に弁明する海斗の姿があったとかないとか。

 



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