玄壁の愚僧旅物語 (貧弱戦士)
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プロローグ

年代20XX年 某日にある大事件が起きた。人は騒ぎ、世界は蠢いた

それは、ある『国』がまるごと一個『世界』から消えた事件

 

そこは裕福で、なによりちゃんと国としての機能を保っていた。何れは先進国となるだろうと皆思っていた

 

だが…………消えた。地図上から、観測上から

 

政府はその問題を深く考え、推測する。隕石 天変地異 神の天罰という人たちもいた

 

そんな中に、ある人物がこう言いだした

 

 

 

『愚僧の仕業だ』

 

 

『愚僧』

 

愚かな僧侶のことをさす。だが、そんなあだ名を付けられるのは世界にただ一人しか存在しなかった

 

『愚僧』、『悪僧』とまで言われた『武蔵野 玄』。彗星の如くその名は響き渡り、僧侶の格好をしているくせに坊主ではなく髪を伸ばし金髪で、顔の右側にはタトゥーを入れている

 

だが、そんなことでこんな酷い言われようではない。こんな伝説が残っているのだから―――

 

 

 

『愚僧一たび現れば、辺り一面黒き大地に変貌。空は割れ、風は死を運び、大地は黒く。愚僧歩き出せば、地上は悲鳴をあげ、宇宙は恐怖を刻む』

 

 

 

もし、消えた『国』に愚僧が現れたから消えたのではないか? そう推測され、即刻指名手配犯とまで上り詰めた『愚僧』

 

近年増加する疫病や震災も、そこに『愚僧』が来たからと言われている

 

警察・政府・裏社会はこの時だけお互い両手を取、この『愚僧』を追い求めた

 

だが、『愚僧』見つからず

 

数年の時がたち、政府たちは思い悩ませられた。なぜなら、『世界』が崩壊しかけているからだ

 

大地は割れ、海は災害をおこし、人は反乱を覚える

 

そんな暗い空気の中、一つの朗報がきた

 

 

 

『『愚僧』が見つかりました!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きびきび歩け!!!」

 

「この疫病神が!」

 

 

 

暗い、臭い、つかなんか嫌だ

 

辺りは朝日がささない、暗い監獄。両手両足を硬い枷がはめられており、無理に動けば締め付けられるほど

 

だが、後ろの人間二人が背中を棒で突きながら命令している。

 

誰に?

 

俺だったな

 

 

 

「おいおい、これから死ぬこの俺のために『可哀そう』とか慈悲とかないのかぁ? つか、ちゃんと埋葬してくれるんだろうな?」

 

 

 

金髪をなびかしながら、そう告げる

看守たちは『死ね』とか嫌味しか言わない。どうやら、俺の言葉は信用ならないっつーか、興味ないらしい

 

あぁ~あ、世間では俺の事『愚僧』と呼んでいるんだが、証拠とかあるのかよ? 全く、言った奴等殺したくなるよ

 

俺はただ『避難』した場所がここだっただけで、他はなんもしてねぇんだよ

 

と、ただ心の中でぶつぶつ文句言いながら気が付かなかったが、いつの間にか処刑場についた

 

 

 

「座りたまえ。哀れな子羊よ」

 

「チッ。死ぬときぐらい、女みせろや。こんなムサイオッサンとか、チョーしんどいんですけど」

 

「いいから座れ!!」

 

「はいはい……」

 

 

 

看守に怒られ、しぶしぶ床に座る。いや、縛られるの方が正しな。俺の後ろに長い棒が立っており、そこに俺の枷が結ばれる

 

すぐさま看守は離れ、目の前で神父が本を開き眼鏡をクイッと上げる

 

 

 

「そなたは罪人。だが、神が産み落とした哀れな子羊である。神はあなたが生まれた時からずっと見守っており、あなたが罪を作り出したのも見守っているのです」

 

「へぇ~」

 

「ですから、今ここでアナタは神の元に返すのです。怖くありません、ただ祈りを捧げるのです。神は答えてくれましょう」

 

「ふぅ~ん」

 

 

 

神父は一度礼をし、半歩後ろに下がった

 

すると、先ほどの看守たちが俺の左右横に移動した。だが、今度は棒ではなく身の丈より大きな斧

 

斧は高く振り上げ、合図を待つ。神父はまた一歩前に出た

 

 

 

「なにか残すことは?」

 

 

 

残すことねぇ~~……いや、別に格言とかないし言い残したいことなんてないかな

 

とりあえず

 

 

 

「神にしがみつく神父マジ死ね」

 

 

 

これだけは言い残したいかな

 

一気に斧が振り落された―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あぁ~あ、目が覚めたら知らない天井ってよくあるんだな」

 

 

 

目が覚めたら、そこは空であった。いや、別に死んだって意味じゃないから。目線が空だけで、ちゃんと地面感じるから

 

頭悪くないから

 

 

 

「………………いや、待て!? なんで俺また違う『世界』にいるんだよぉぉーーーー!?!?!?!」

 

 

 

 

その無慈悲な悲鳴は、誰にも聞こえなかった




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壱の巻 

「あぁ~………なにこれ? なにこの暑さ?」

 

 

 

絶賛、太陽活動中なり。あれから数時間も歩いて歩いて、歩き続けているがとてもじゃないが限界に近いのである

 

もうすでに脚の感覚もなく、『錫杖』に全体重を乗せのしのし地面をつつきながら前進するが……

 

 

 

「くそ、死ねよマジ。太陽のくせになに熱くしてんだ……あ、太陽だからか。だけれど、可笑しいよな。太陽だって休日あってもいいんじゃないのか? なんでそんな毎日ピカッと光ってるの……あ、太陽だからか」

 

 

 

自分でもわかるが、すでに頭がやられているのはわかる

 

 

 

「心頭滅却すれば火もまた涼しというが……とんだ狂言だ。涼しいというか、汗のお蔭で涼しいんですけど。マジで無理、誰かオラに女と水を分けてくれだよ」

 

 

 

文句をいいながらも、愚僧が進みだす。この森の中でただただひたすら歩いている愚僧が、辺りを見渡しながら何かを探しているようだ

 

草木の向こう、青空の彼方を見ながら

 

呆然として愚僧に、密かに『音』が聞こえた。それは、草木からだ。視線をそこに向け、立ち尽くす

 

 

 

『ガサガサ』

 

「あぁん? なに、神マジで叶えてくれるの? マジで女と水くるの? 信じようか? 仕方ないから信じてやろうか? いや、でも俺の信条では「死ねぇぇえーーーーーー!!!!!!!」」

 

『ガァン!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起こったのかわからない。突然茂みから槍の刀身が、愚僧に迫ってきた。

咄嗟だったので、手に持っている『錫杖』で防ぎ、一歩後ろに下がる。掛け声も恐ろしかったが、力も恐ろしく強い

 

威嚇をするように『錫杖』を片手で回転し、構えだす。目つきをするどくし、姿勢を低く

 

 

 

「誰だい、この愚僧に武器を叩きつける阿呆は。この俺が殺気に気が付かなかったら、死んでたぞ。出てこいや、阿呆」

 

「……………ほぅ、見事だ」

 

 

 

茂みからガサガサ音をたてながら、その姿を現した。きっとかなりガタイが良いオヤジだろう……むさ苦しいさアップだな、こりゃ

 

しかし、その予想は覆された。それは上半身が現れてから

 

 

 

「よほどの強者と見ましたぞ」

 

『ボイン』

 

「いいパイオツだ『ガキン!!』おぉっと、アブネェやい」

 

「意味はわからんが、何故か悪い意味がよくわかる。貴様、ふざけているのか?」

 

 

 

一気に距離を詰められ、すぐさままた先手を取られてしまった。またも、咄嗟に防ぎ今度は力の押し合い

 

愚僧は驚いた。まさか……神が願いを叶えてくれるなんてと

 

目の前には絶世に美女ともいえるほどの美貌で、スタイルもよく、顔は妖艶で、綺麗な水色の髪色をしている

 

女……水色の髪…………

 

 

 

「おいおいおいおい、確かに女と水欲しいといったが……髪色の事じゃなかったんだが」

 

「女……? やはり、貴様がここ最近現れる『盗賊』か!! 娘たちは何処にやった!!!」

 

「『盗賊』ぅ? よくわからんが、そんな奴等と一緒にしないでほしいねぇ。俺は愚僧……すなわち、僧侶をやっている身。悪い事はしないのが、真骨頂也」

 

 

 

やはり男の愚僧の力が大きく、そのまま今度は逆に吹き飛ばす。女はそのまま地面を擦り、再度構える

 

身のこなしはよく、体のわりには力も強い

 

 

 

「僧侶? にしては貴様、僧侶という仏に仕える身が、なんだそのふしだらな身なり」

 

「仏なぞ興味ない。興味あるのは己の欲のみ。この髪形や顔のタトゥーは、俺が何処にも仕えないという意味だ。俺がそうしたいからそうるす。仏が坊主なら、俺はそうしないのだよ」

 

「たとぅー? その顔の刺青のことか。しかし、貴様………女好きだろ」

 

「はい、好きです」

 

「貴様が犯人か!!!」

 

 

 

正直者というのは、とてもめんどくさい。この愚僧は女好きで、前の世界ではよく女という女をナンパしていたりしていた

 

しかし、今によってそらにこの現状は悪化したのだ。女は槍を強く持ち、刀身の先を愚僧に指す

 

 

 

「いや、待とうか。たしかに俺は女好きだが、『盗賊』のような女の扱い方はしないほうだ。それだけは信じろ、俺だけを」

 

「ほぅ、なら証拠はあるのか?」

 

「証拠か……………証拠なら………――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                そこに居る奴らが、そうだ」

 

 

 

『錫杖』を強く地面に突き、目線を後ろの茂みに写す。そこに黒い影が数体もあるのだ

 

 

 

『ビュン!』

 

『ガキン』

 

「背中からの攻撃とは、とんだうつけ者だなコリャア。随分ヘタな弓捌きなわけで……」

 

 

 

弓矢が刹那の如く迫ってきたが、『錫杖』をズラシ弓矢を叩く。どうやらすでの囲まれていたらしい

 

 

 

「どうだ水色の女。これが証拠………」

 

「むぐぐ!!!」

 

「ぐへへへ!! また女が増えるぞ!!」

 

 

 

どうやら時すでに遅し……。あの女がすでに屈強な男に後ろから手を抑えられ、何も出来ない状態らしい

 

武器も地面に落して、こりゃあ万事休すってことかい

 

様子をみて、奴等もゾロゾロと茂みから姿を現す。そう、それは愚僧と同じ身なりが悪い『盗賊』が

 

 

 

「貴様!! 私に触れるな!!!」

 

「気の強い女だ~~。ますます好みだ。だが、目の前には俺の嫌いな男が一人いる……」

 

「おい、女。俺帰りたいんですけど。マジで帰って、お母ちゃんに今日の晩御飯伝えなきゃいけないんだけど」

 

「待て!? 私のこと見捨てつもりなのかっ……て!? 母上に助けを呼ぼうともしないのか貴様!?」

 

「だいじょうぶだ~、テメェなら何とか出来るで候。俺信じてるから」

 

「私は今すぐでも貴様が死ぬことを信じるよ」

 

 

 

またも恐ろしいことを言う女。………この場合、正義の味方なら助けにいくのだろうが

 

愚僧は愚僧。愚かな人物なので、正義の味方をしない。良い事をしようと努力もしない

 

ただの無気力の塊である

 

 

 

「なに見せつけているんだ! 俺の女と話すなぁぁああ!!!」

 

「良かったな、もう彼女になってるぞ」

 

「貴様の口切り刻んでやろうか……!!」

 

「親分!! すぐさま殺しちゃいやしょう!!! 俺たちゃ早くその女をメチャクチャにしてぇんでさぁ!!」

 

「親分!!」

 

 

 

どうやらここで親分コールらしいが、どうも下種過ぎている。女は抜け出そうと体をくねらせているが、屈強な体のお蔭で抜け出せないしまつ

 

愚僧の周りは囲まれて、逃げ出せないしまつ。さて、どうするか

 

 

 

「…………じゃあ、こうしようか『盗賊』のものよ」

 

 

 

突然愚僧が提案を出してくる

 

愚僧はそのまま座り込み、座禅を組みだす。そして、『錫杖』を隣に置きだす

 

 

 

「殴ったり斬ったり、気が済むまでしていいから、この場は見逃してくれ。俺も今日ここいらで休憩するからよ」

 

「なっ!? 何を言っているんだ!?」

 

「余興よ、余興。ちーと退屈していたし、少々遊んでやるっていってんのよ」

 

「しかし、これでは死を選ぶと一緒なのだぞ!? バカか貴様は!?」

 

「バカじゃない……愚僧だ」

 

 

 

そうニヤリと笑い出し、女は唖然とする。本当に頭がイッテいるのではないか……?

 

盗賊たちもニヤリと笑い、己の持つ武器を構えだす

 

 

 

「おいお前ら、遠慮はいらねぇ。存分にこの坊主と遊んでやれ!!!」

 

「いやっはーーー!!!!」

 

「久しぶりの血だぁあぁあああ!!!」

 

「死ねやぁあああ!!!!」

 

 

 

奇声とともに武器が放たれる。剣は振り下ろされ、弓が放たれ、鈍器が降ってき、愚僧に向かう

 

女は一瞬目を閉じ、盗賊たちは笑い、愚僧は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガキン!!!!!!』

 

 

 

ただ、ただ笑い続けた

 

 

 

「ぶ、武器が折れた……!?」

 

「な、なんだこりゃあ!!」

 

「嘘だろ……」

 

 

 

そう、盗賊たちの武器が全部壊された。いや、弾き返された? いや………何か硬いものに当たって砕けたのだ

 

愚僧はビビらず、ただ目線だけを盗賊の親分に向ける

 

 

 

「これでお前らの武器はなくなった。……けど、殴ったり蹴ったりしたらわかるだろ? 自分自身が砕かれるのを」

 

「ひぃっ!? く、くるな!!?」

 

「どうした? その目……まるで何かに怯えているようじゃないか。怪物? いや、悪霊でも見たのか? ならば、俺がお経を唱えてやろう」

 

「くるなくるなくるな!! テメェ等!!? 俺を助けろ!!!!」

 

「ひぃぃいいいい!?!!?」

 

「命だけはご勘弁を!!」

 

「ごめんなさぁい!!」

 

 

 

すでに戦意喪失。盗賊たちはすでに解散した………なぜなら、巨大で強大な力を目にしたから

 

唯一この場に残っているのは、女と愚僧と元親分だけである

 

 

 

「くっくっくっ。おい、女……後は任した。もうこいつには歯向かう意志もねぇさ」

 

「ど、どうやってあの武器を砕かせたのだ……?」

 

「おぉっと、それはまだ回答できねぇな。また次回会った時に教えてやるさぁ。さぁ、さっさとソイツ連れていきな」

 

 

 

『錫杖』を持ち、またも前に前進する愚僧。その背中はとても広く逞しいと思うのは、現実か? はたまた幻想か?

 

 

 

「次回って、それは何時なんだ!?」

 

「お前さんの相に、俺との繋がりが見えた次第。なぁに、すぐにまた会うさ……じゃあな」

 

 

 

声だけが女の耳に響き渡り、すでに姿は消えている。女はすぐさま盗賊の元親分に近寄り、両手を縄で縛りだす

 

 

 

「超雲どの!!! お怪我はありませんでしたか!?」

 

「まったく、慌ただしいですね~稟ちゃんは~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~道迷った。あんなカッコよく決めたのに、道迷ったよ。超恥ずかしい」




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