吸血鬼が教育する〜帝都教育係と正義の少女〜 (カナタナ)
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帝都教育係

 千年栄えたとされる帝都。

 そんな場所でさえ今じゃ腐敗して生き地獄。

 人の皮をかぶったような人間がうじゃうじゃと蔓延るこの場所で、俺は転生した。

 

 

■ ■

 

 

「その程度で将軍になれると思ったか! レベル一からやり直せ!!」

 

 将軍を目指しているという男を完膚なきまでに叩きのめし、道場を後にする。

 

「師匠! 待ってください!!」

 

 疲れているため即刻帰りたかったが、弟子が相手となれば話は別だ。

 

 セリュー・ユビキタス。

 

 人一倍正義感の強い少女で帝具ヘカトンケイルの使い手。

 そして、俺が最初に教育した一人でもある。

 

「セリューか。また愚痴を言いに来たんじゃないだろうな?」

 

 教育終了後に配属されたオーガという男がかなりの屑野郎だったらしく、稽古ついででいつも愚痴を聞かされる。

 

「私をいつも愚痴いうだけの女と思わないでください!」

 

 頬を膨らませてムクーとしているが、そういうところがまだまだ女の子だなと思わせる。

 

「今日は愚痴じゃないのか?」

「違います! とにかく、急いで!!」

 

 何を急かしているのか知らないが、とにかく後を付いていくことにした――。

 

 

 

 ……帝都で暮らし始めてから数年も経った。

 不慮の事故で死んでしまった俺は、気が付くと知らない土地にぽつんと立っていた。

 体も自分のものではなく、けれど俺のよく知る人物の肉体でこの世界に転生してしまったのだ。

 

 当初はここがどういう世界かも分からなかったため、一年ほど食事、睡眠、戦闘を繰り返して自分磨きを始めた。

 その結果、気付けばブドーとエスデスとかいう将軍と同レベルにまでなった。

 ………らしい。

 

 ある日、もっと自分磨きをしようと相変わらず危険種とかいうのを倒しに向かった時、一つの転機が訪れた。

 

「そなたか、帝都付近の危険種狩りをしている男というのは」

「……まあ、そうですね」

 

 兵士みたいな格好の男に呼び出されたかと思えば皇帝の玉座に呼び出され、俺を将軍職に就かせる話になっていたのだ。

 

 しかし、

 

「いえ、俺は将軍よりも望むものがあります」

 

 いい職について前世とは違った生活を楽しむ……そんな考えは毛頭なかった。

 一年も経てばこの世界がどういう所か理解し、将軍になることよりもやるべき事をこの体が教えてくれた――。

 

 

 

「お、やっと来てくれましたか!」

「騒がしいな、何があった?」

 

 セリューが連れてきたのは大雑把にいえばギルドのような施設だ。

 どうやら役員と男女二人が揉めているみたいだ。

 

 そして、やっと俺が連れてこられた意味を理解する。

 

「……貴様ら、軍に入隊希望なのか?」

「そうだ! 俺の腕なら隊長のクラス辺りなら余裕だぜ!!」

 

 自信満々に豪語する少年にもうここから出たそうな少女。

 確かにそれなりの実力はあると見えた。

 

「……いいだろう。俺を倒せたなら隊長クラスでもなんでも仕官させてやろう」

「……ホントか!?」

 

 二人の視線はこちらに向く。

 少女の方も一瞬にしてやる気の目になっている。

 

「し、しかしそれでは……」

「ただし、俺に負ければ所詮はその程度だと諦めて出直してこい」

 

 場が引き締まるのを感じる。

 なにせ勝てばいきなり上の地位からのスタートになるんだ。

 これを逃さない手はないだろう。

 

「よ、よろしいのでしょうか? そんなことを……」

「構わない」

 

 負けるつもりなんて微塵もない。

 そして、負けるはずもない。

 

「約束しよう! 帝都教育係ヴァルバトーゼを倒すことが出来たなら、俺の権限を使って二人を仕官させてやろう!!」

 

 ――今の俺は、ヴァルバトーゼなのだから。



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皇帝を教育する

 帝都を腐らせている元凶に関して。

 

 これは全帝都民の共通認識だが、元凶は皇帝ではなくオネスト大臣という男だ。

 

「なるほど、確かにその腕ならばもう少し鍛えれば隊長クラスも夢ではないな」

 

 だがオネストは様々な噂が流れており、誰も彼に逆らおうとはしない。

 

「しかし! 約束は約束だ。大人しく諦めてもらう」

 

 そんなオネスト大臣たちに立ち向かうための革命軍が存在する。

 中でも気になるのは帝都を震え上がらせている殺し屋集団、

 

 ――ナイトレイドだ。

 

「くそ……、教育係でもこんなに強えのかよ」

「相手が悪かったですね。師匠はこう見えて将軍候補の凄い人なのよ?」

「しょ、将軍候補!?」

 

 今まで相手した中でもそこそこ強かった二人だが、まだまだ甘い。

 イエヤスとサヨと言っていたか……?

 

「私たちじゃ勝てないわけだわ……」

「お前たちの実力も確かに相当なものだった、確かに力だけなら一兵卒以上のクラスにはなれるだろう。……そこで、正規で入隊するよりも近道な方法を教えてやろう」

 

 二人をここで捨てておくには勿体無い。

 後々オネスト大臣を再教育するためにも優秀な人材は集めておいて損はない。

 

「ここで俺の教育プログラムを受けろ! ここでの成績次第では隊長になることも大臣から認められている!」

 

 それに、ここで正式な教育を受ければ少なくとも腐った人間になることだけは避けることが出来るはずだ。

 聞いた話だとこの場所はブドー将軍の支援も受けているらしいし、大臣も下手に手を出すこともないだろう。

 

「そこにいるセリューも教育プログラムを終えた当時は隊長クラスになれる器だったが、自らオーガという男の部隊に所属する道を選んだ」

「…………えぇ、彼からも学べることとかありますのでー」

 

 大して好きでもない企業を褒めなければならない下っ端社員のように棒読みで答える。

 それじゃあ二人からの印象が悪く……

 

「すげぇ! セリューさんって向上心が高いんだな!!」

 

 ……はなっていなかった。

 イエヤスと呼ばれていた方は意外と扱い易いかもしれない。

 

「……多少時間は掛かっても、ここが近道な方法なんですよね?」

 

 反対にサヨと呼ばれていた方はセリューには突っ込まず、こちらの話に食いついてきた。

 ……どうやら、早く出世しなければいけない理由があるようだ。

 

「約束は守ろう。見事俺の教育プログラムを終えた暁には二人に相応しい職を用意してやる」

「……なら、私はその教育プログラムを受けます!」

 

『サヨとイエヤスが仲間になった』

 

「……あれ、俺も?」

「嫌なの?」

「あ、いや、俺も受けるけど……。俺も答えたかったて言うか……」

 

 二人が楽しく話している間に、俺はこの場を後にする。

 途中セリューが付いてきたそうにしていたが、二人の面倒を見てほしいと頼むと渋々承諾してくれた。

 

 さて、俺はこうして帝都で教育係ばかりをしているわけではない。

 オネストの摂政政治が行われているのは、皇帝の大臣依存が原因だ。

 このままこの関係が続けばオネストが死ぬまで横暴がまかり通る国になってしまう。

 

 

「皇帝、今日も来てやったぞ」

「おお、ヴァルバトーゼか! 前回の宿題は全て完璧に終わらせたぞ!」

 

 そこで、俺はオネスト不在で自室に篭っている皇帝に学問を教えることにした。

 これでも小学校の教職免許に高校の歴史の教職免許を取っていたため、基本的なことなら教えることが出来る。

 帝都の歴史や地理は知られていない帝具関連のことも多いためしっかり教えることが出来ないが、ほぼ完璧に覚えている。

 

「国語と数学ならヴァルバトーゼがいなくても大臣と勉強しているから完璧だ!」

「……だが、歴史は目に見えて間違いが多いな」

 

 歴史に関しては帝国史よりも日本史や世界史を学ばしている。

 もちろん俺の手作り教科書だ。

 どれを見ても帝国史はいい事ばかり書いているため、どういう政治をすれば国が滅びるかが書かれていない。

 つまり、皇帝はこのままでも何ら問題は無いと考えているのだ。

 

「……帝国のことなら分かるが、何故異国のことまで学ばなくてはいけないのだ?」

「異国では国が滅んでは生まれているというのを繰り返している。学んでいればこういう政治が国を滅ぼすのかということが分かるだろ?」

 

 いつも歴史だけは帝国史だけでいいと駄々をこねるが、その度にこうやって国が滅びる、栄えるといった話をすればなんだかんだで真剣に聞いてくれる。

 やはり、子供でも皇帝として国のことを大切に思っているのだろう。

 

 ――そんな皇帝を私利私欲のために利用するオネストは、やはり何としてでも再教育しなければならない。

 

 

「……ところで、この世界遺産というのは?」

「……俺のオススメ観光地だ。特に気にすることはない」

 

 ……つい書いてしまったが、別に知らなくてもいい知識だったな。

 今更書き直すのは面倒だが、次新しいのを作る場合は別にいらなさそうなのは省くか。

 

 その後、雑談を交えた俺と皇帝との勉強会は一時間ほど続いた。



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外道貴族を教育する(1)

 帝都教育係ヴァルバトーゼの朝は早い。

 朝五時に起床し、軽く危険種を倒して能力を上げる。

 ヴァルバトーゼの魔ビリティーであるアブソープションによって強化されるのは一日が限界ということを知って以来、こうして朝にレベル上げも兼ねたステータス強化をおこなっている。

 それに、危険種狩りは帝都周辺で困っている人を助けることにも繋がっているため、無駄に倒しているわけではない。

 

 そうして朝の運動が済めば次は朝食だ。

 

 

「遅いぜヴァルっち!」

「イエヤス! 師匠に向かってヴァルっちはないでしょう!」

「わ、悪かったからそのトンファーを片付けろ!!」

「まったく……」

 

 道場の食堂コーナーに向かえば使用人が俺とイエヤス、サヨに何故かセリューの分まで用意して待っている。

 

 今日の献立は唐揚げ定食に新鮮なイワシだ。

 だが、俺以外は新鮮なイワシではなくイワシの塩焼きだ。

 

「……あの、ヴァルバトーゼさん。いつも生のイワシを?」

「あぁ、イワシは俺の力の源だからな」

 

 ヴァルバトーゼの体だと分かった当初、吸血鬼だから血を吸いたいと思うようになるかと思えばそうならなかった。

 その代わり体はイワシを覚えていて、今では大好物はイワシになった。

 

 使用人が様々な知恵を使ってイワシ料理を提供してくれるが、フェンリッヒがいないため、中に人間の血を入れているということはない。

 

「お前たちもイワシを食え! そうすれば俺のような強さを手に入れられるぞ!!」

「「本当か(ですか)!?」」

「そこは師匠がただのイワシバカなだけだから気にしなくてもいいよ」

 

 む、失礼な。

 俺は真剣にイワシの凄さを教えようとしているのに。

 

 ……いや、俺も元々はこれほどイワシ信者というわけではなかった。

 やはりこれもヴァルバトーゼの部分が色濃く出ているのだろうか。

 

「……それより師匠、気になる話があります」

 

 そう言うと俺に一枚の紙を渡した。

 内容は以前から調べていたナイトレイドに関しての資料だ。

 読み通り、彼らが殺しているのは俺の教育プログラムリストに入っていた者ばかりだ。

 中には隊長もいるため、かなりの手練れ又は帝具使いと思われる。

 

「……その中にアカメもいるとなると、彼等を止められる者なんて限られるでしょう」

 

 冷静に状況を報告してくる。

 ここに来たばかりのセリューと比べると本当に頼りになる人物に育った。

 ……あとはイワシパワーに目覚めてくれれば完璧なのだが。

 

「アカメって?」

「帝具村雨の使い手で、その実力は帝都でもトップクラスだった人よ」

 

 それに加えて帝具村雨はかすりでもすれば即死というまさに一斬必殺の刀というわけだ。

 いくら俺でも即死は対処のしようがない。

 

「……そもそも、帝具って何ですか?」

 

 サヨが申し訳なさそうに質問をした。

 だが、地方から来たなら帝具の存在すら知らないことだってあるから気にはしない。

 

「例えば私のコロも帝具なんだよ」

「キュー!」

 

 コロと名付けられた帝具ヘカトンケイルは美味しそうにイワシを食べている。

 ヘカトンケイルは食事時と俺とセリューの任務時以外は殆ど見ないため、俺の中での印象は薄い。

 

 二人がその外見に驚かないのを見るに、昨日ヘカトンケイルの紹介もしたのだろう。

 

「さっき言ったアカメの帝具はかすりでもすれば即死という厄介なものだ」

「てことはヴァル……バトーゼ、さんも帝具使いなのか?」

「言い難いならヴァルっちでも構わん。俺には帝具なんぞなくてもイワシパワーがある」

「イワシパワーすげー!?」

 

 イエヤスがイワシに目覚めたかのようにイワシを食す。

 

「……そのアカメなんですが、近々彼らが狙いそうな標的が現れました」

 

 またセリューはイワシの話を……と言いたいが、ナイトレイドの情報となれば話は別だ。

 

「いよいよオーガが標的に入ったか」

「いえ、次の標的も富裕層の人という噂があります」

「……となると、まだ奴に暗殺依頼は来ていないということか」

 

 ナイトレイドが依頼を受けてしか殺しをしないことは判明している。

 やはり、隊長クラスの殺しとなれば失敗した時の報復が恐ろしいのだろうか。

 

「それで、奴等が狙いそうなところは分かっているのか?」

「候補は三件。その中でも特に気を付けるべきは先日師匠の道場を見学に来ていたアリアという少女のいた家でしょう」

 

 アリアという名を聞いて思い出す。

 道場に来ていた時はただの子供だなと思っていたが、後から両親も含めて地方の人間を玩具かなんかと思っているような連中だと判明した奴等だ。

 確かにいつ殺されてもおかしくはないと思っていたが、あそこが特に狙いに来そうな場所か。

 

「……なんか、物騒な話だな」

「安心しろ、今回は俺一人で行く」

「師匠!」

「……今回は戦いでもなければ教育でもない」

 

 俺は初めからナイトレイドと敵対する気はない。

 少し過剰ではあるが、お互いに目的は同じなのだから――。

 

 

 

 それから、俺は毎晩人が寝静まった後にアリア一族の家を監視するようにした。

 流石にすぐに来るとは思っていなかったが、二日、三日経っても奴等は来なかった。

 少しだけ変化があったとすれば、昨日また新たな人間を入れ込んだくらいだ。

 何もなければ彼も殺されてしまう。

 今日も来なければ、ナイトレイドは関係なく彼を助けよう。

 

 ――そう考えていた時だった。

 

「……む」

 

 穏やかだった雰囲気が一変し、ピリピリとしたものに変わる。

 見ると、長い髪の女が大きなハサミを持って中に入っていく。

 

 ……間違いない、彼女は指名手配中のシェーレで手に持っていたのは帝具エクスタス。

 

「……ふっ、今日は長い夜になりそうだな」

 

 転生時から持っていた愛剣でもある魔剣良綱を装備し、俺は動き始めた。




次回予告

セ「悪虐非道の限りを尽くすアリア一家に現れた正義のヒーローヴァルバトーゼ!」

ヴァ?「正義の名のもとに、俺参上!」

セ「愛と勇気と正義の力で圧倒するヴァルバトーゼだが、そんな彼の前に新たな敵が……!」

アカ?「示して見せろ、汝の正義とやらを! グェッヘッヘ!」

セ「アカメの闇の力に次第に追い詰められるヴァルバトーゼ」

ヴァ?「ぐえーー!」


セ「しっかーし!! そんなピンチに現れたのは帝都を光で照らす絶対正義のヒーローだった!」

セ「次回、絶対正義計画最終話!「その少女は、絶対正義だった」」


セ「さよならヴァルバトーゼ、貴方の正義はこのセリュー・ユビキタスが継ぎます!」



ヴァル「……おい、勝手に殺すな」
アカ「私もそんなキャラではないぞ」

セ「正義に犠牲とキャラ崩壊は付き物なんですよ。多分」


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外道貴族を教育する(2)

 突然だが、俺はナイトレイド全員の顔を知っているわけではない。

 中には手配書に載っていない人物もいるだろう。

 そんな時は、そいつの殺気や覇気から実力を見極める力が必要になる。

 

「ふふ、久しいなラバック。やはりお前も革命軍に寝返ったか」

「……おいおい、帝都教育係がなんでこんな所にいるんだよ」

 

 糸の帝具の上に乗っているラバックとピンク髪の女にかなり警戒されているな。

 下ではアカメと帝具インクルシオを纏った野郎、そしてシェーレが次々と敵を圧倒していた。

 ……よく見ると金髪の女もいるな。

 

「こいつが、将軍クラスの教育係?」

「……ヴァルバトーゼ、まだ帝具は持ってないのか?」

「言ったはずだ、俺には帝具など必要ないと」

 

 ラバックとはナジェンダが将軍時代の頃によく話をした仲だ。

 だからこそ、ナジェンダのいる革命軍に寝返ったのも理解できる。

 

「……とはいえ、お前もあいつも外から変えることを選んだか」

 

 魔剣良綱を構える。

 本物のヴァルバトーゼにはなれなくても、誇り高き悪魔にはなれる。

 

 なら、俺は誇り高き悪魔であるようにしよう。

 

 

「っ、確かに今まで見てきたのとは全く違うわね」

 

 ピンク髪が帝具パンプキンをこちらに向ける。

 ……こいつが、ナジェンダの帝具を使うか。

 

「……だが、まだ使い手が未熟だな」

 

 瞬時にピンク髪のもとまで近付き、良綱を首筋付近で止める。

 ラバックが足を糸で絡めているが、この程度なら簡単に千切れる。

 

「ナジェンダなら動いて俺の眉間にパンプキンを構えていたがな」

 

 まさに為す術もなくといった感じだ。

 完全に遠距離特価のパンプキン使いなのだろう。

 

 ……だとしても、噂のナイトレイドの一人がこの程度とは。

 これならセリューでも勝てるな。

 

「……な、なによ。トドメを刺さないつもり?」

「うむ、まだ約束を果たせていないからな」

 

 糸を斬り、下にいるインクルシオのもとに向かう。

 後を追ってくるかと思ったが、動く気配はない。

 

「……インクルシオ。俺の予想が正しければ……」

 

 アカメが標的を狙ったことで残党刈りをしているインクルシオに一文字スラッシュで攻撃を仕掛ける。

 

「……なっ、ヴァルバトーゼだと!?」

「やはり気付いていたか」

 

 インクルシオがカウンターを狙っていたため攻撃を途中で止め、普通に地面に着地する。

 

「インクルシオを使える人間は限られる。貴様、百人斬りのブラートか?」

「……裏の帝国最強に知られているなんて光栄だな」

 

 ブラートの構えには一切の油断もない。

 噂には聞いていたが、百人斬りの異名は伊達ではないようだ。

 

「……貴様は堕ちていなくて安心したぞ。上司は堕ちてしまったからな」

「なに!? リヴァ将軍が生きてるのか!!」

「いや、かつてのリヴァ将軍は死んだ。今はエスデスの忠実な下僕だ」

 

 鎧越しだが、悲しさのようなものが伝わってくる。

 生きていたというのに、敵側についているという事実はやはり悲しいものか。

 

「……まさか、それを言うためだけに来たわけじゃねえよな」

「インクルシオの正体に確信が持てなかったからな。その話はついでのようなものだ」

 

 ブラートが武器を構えて殺気を向けてくる。

 だが、ここで戦えば確実に殺してしまう。

 

「……アカメはどこだ。奴に話がある」

「教えると思ってるのか?」

 

 簡単に通す気はないか。

 なら、仕方ない。

 

「――殺しはしないが、本物の恐怖というものを教えてやろう」

 

 俺は、ブラートを闇の中に引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

「……朝の日課に危険種狩りを入れたのは正解だったな」

 

 ブラートを圧倒したとはいえ、アブソープションで強化されていなければもしかすると互角だったかもしれない。

 

「……来たか、ヴァルバトーゼ」

 

 そして、いいタイミングで俺の目当てが現れた。

 意識はあるが身動きの取れないブラートを持ち上げ、アカメの方に渡す。

 

「話を聞きそうになかったからな、適当に動けなくしてしまった」

「……ブラートと戦って無傷で勝つか。相変わらず化け物だな」

 

 少し怒っているように見えるが、それもそうだろう。

 これだけ仲間を傷つけられて怒らない奴なんていない。

 そんな感情を抑えて冷静に話し合おうとしているアカメの精神力は相当なものだ。

 

「来たということは、決心がついたんだな」

「あぁ、俺は革命軍側につくわけにはいかない」

 

 諸悪の根源であるオネスト大臣を許すわけにはいかない。

 もし帝都教育係にならなければ、セリューと出会わなければ、皇帝に勉強を教えなければ、俺は革命軍に入っていただろう。

 

 だが、ヴァルバトーゼの名にかけて交わした約束を違えるわけにはいかない。

 

「ナジェンダやお前との約束を果たすために大臣を討つ決起の時は俺も手を貸すが、それ以外は中立として……敵にも味方にもなるだろう」

「……変わらないな、お前も。お前が来ているとラバックから聞いてから、約束通り標的は生かしておいている」

 

 念の為に確認してみると確かに父親と娘は縄に括りつけられていた。

 金髪の女がここに連れてこられていた男を拉致していたが、そこは無視してもいいだろう。

 

「……噂には聞いてたけど、そんなオーラ放ってて将軍じゃないのかよ」

「将軍の地位よりも教育係のほうがやりがいがある」

 

 金髪が珍しいものでも見るようにこちらを見回してくる。

 男が離せだのなんだのと騒がしいためあまり会話に集中できない。

 

「俺は! 殺し屋になんかなるつもりは……!!」

「ええいやかましい! イワシでも食べて落ち着け!!」

 

 イワシを口に突っ込む。

 人はものを食べると落ち着くから俺の飯だったイワシを仕方なく与えてやった。

 ほら見ろ、イワシのおかげで男は落ち着いて次第に話さなくなった。

 

「……お前、鬼か」

「いや、悪魔だ」

 

 種族的なことを聞かれたと思い、咄嗟に悪魔と答えてしまったが、状況を再確認して理解する。

 ……なるほど、男は落ち着いたのではなく気絶しているのか。

 まったく情けない。

 

「……さて、ナイトレイドが暴れたおかげで合法的に家の中を探り、裁くことが出来るな」

 

 話を逸らすように縛られた二人に注意を向ける。

 

「なら私たちはアジトに撤退する」

「仲間には出来なかったけど、将軍クラスと協力関係を結べただけいい成果だ!」

 

 アカメは男を、レオーネはブラートを背負ってこの場を去ろうとする。

 去る途中にアカメが「落ち着いたらとりあえず一発殴らせろ」と言っていた気がするが今は放っておこう。

 

 そして、この二人の処罰についてだ。

 まあやることなんて決まっているからとりあえず口を塞いでいた縄を解く。

 

「……ぷはっ、私たちをどうするつもりだ!!」

「縄を解きなさい! 教育係風情が……!」

 

 

「……貴様たちは再教育プログラムが適用される。覚悟しておくことだな」

 

 再教育プログラム

 罪人が教育係に連行された場合、その罪人は「プリニー」という畜生以下の身分として使役される。

 プリニーには専用のHLというお金が用意され、一億HLを返済しなければ一般人としての扱いを受けることはできない。

 ただし、奴隷とは違うので一応部屋の支給と性的暴力等からの保護はされている。

 

「さ、再教育プログラム!!?」

「お願いします! 何でもしますから再教育プログラムだけは……!!」

 

 かなり緩くしているとはいえ、こんな意地汚い者共を再教育するには丁度いい。

 

「連れて行け、プリニー共」

 

 どこからともなくプリニーにされている奴等が現れる。

 プリニーには特殊な紋章が刻まれているため、俺が来いと言えばこうして現われる。

 

「や、は、離して!!」

「む、娘に手を出すな!!!」

 

「大丈夫ッス、すぐになれるッスよ」

「同じ罪人同士仲良くするッス」

 

 

「「や、やめろーーー!!!!」」

 

 二人の抵抗虚しく闇の中へと消えていく。

 この屋敷も後日撤去されるだろうしこれで任務完了だ。

 

「さて、今日はイワシカレーにするか」

 

 腹が減ったところで、俺もこの場を去った。




次回予告

アリ「タイトルの割に出番のなかった私たちに新たな試練が!!」

ヴァル「名前がプリニーになっていないではないか!」

プリ「次々と私たちから金目のものを奪おうとする輩が……って、名前がプリニーになってるじゃないの!?」

ヴァル「だが再教育の甲斐あってか、次第に金目のものよりも大事なものを彼らは見つけていく!!」

プリ「か、金より必要なもの……?」

ヴァル「……イワシだ!! その栄養満点さと豊富な種類にいつしか心を奪われ、遂にプリニーイワシ漁船団を結成してしまう!!」

プリ「……あの、これ私の次回よこ」
ヴァル「イワシによって一致団結したプリニーたちが目指すはまだ見ぬ新たなイワシを探し始める!! あ、あのイワシはなんだ……!?」


ヴァル「次回、イワシバカ日記第十九話「それは、きっとカタクチイワシだった」」


ヴァル「俺は、イワシと解り合えた」

プリ「結局貴方の次回予告になってるじゃない! 覚えてないさいよ……」

ヴァル「貴様、「〜ッス」はどうした?」

プリ「………ッス!!!」


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プリニーを教育する

 当たり前のことだが、ここはディスガイアの世界ではないためプリニーは存在しない。

 投げれば爆発し、魔界病院で治療しても単価一HLのあの青いペンギンは存在しないのだ。

 だが、あのシステムは人間を教育させるにはいいものだと考えた俺は、一年ほど世界を周り、プリニーシステムを作るための技術を身につけようとした。

 錬金術や魔法、謎の技術なんかを全て結集させ、遂に俺は作り上げたのだ。

 

 

「今日から新たなプリニーが二人入った。先輩プリニーはここでの基礎を叩き込ませるように」

 

 プリニーとなった二人にも全員と同様に青い紋章が刻まれている。

 俺がプリニーを呼べば紋章が反応して俺のもとに瞬間移動してくることに加えて、なんと投げると爆発する!!

 しかも爆発して死んでしまってはいけないので、爆発すれば死ぬ前に自動的にオメガヒールがかかるように工夫してある。

 それによって一度の戦闘で何度でも投げることが出来ることでオリジナルプリニーよりも使いやすいものになった。

 

 ……まあ、そもそものHPが低すぎるため爆発したところで効果は薄いのだが。

 

「了解ッス!」

「……誰がお前たちなんかの話を……!」

 

 未だに不服の眼差しの娘プリニーを蹴り飛ばし、爆発させる。

 だが、やはり爆発したところで危険種一匹殺せなさそうな貧弱な爆発を見せた。

 

「プリニー心得その一、語尾には必ず「〜ッス」を付けることだッ!!」

 

 真面目に教育を受ける分には俺は乱暴なことはしない。

 しかし、再教育プログラムを受けているにも関わらず懲りない輩は永遠に爆発地獄を受けることになる。

 見方によっては多分エトナよりもやっていることは酷い。

 

 ……それはないか。

 うん、ないな。

 

「娘が申し訳ありません……ッス!」

「!? ……ご、ごめんなさい……ッス」

 

 頭を地に伏せて謝罪するが、別にそこまでしろとは言ってない……。

 ……まあ、こんな野郎でも娘は大事だよな。

 そんでもって父親のそれを娘は無駄にできないよな。

 

「罰として二人は別々のチームで働いてもらう。ただし、夕食時と就寝時は一緒になることがあれば二人でいても構わん」

「あ、ありがとうございます、ッス!!」

 

 父プリニーが安堵し、娘プリニーが俺に対してかなりの復讐心を向けているのを無視し、他のプリニーに給料の準備をする。

 

「さて、今月の給料を渡すが……む、今日で一億HLになるプリニーがいるな」

 

 右奥にいるそこそこイケメンプリニーに視線を向ける。

 いくら返済したかというのは似顔絵の描かれた給料袋に書かれているためしっかりと把握している。

 

「お、俺ッスか!?」

「プリナンデスよ、まさかお前が最初のプリニー卒業者とはな」

 

 ここに来た当初といえば醜く顔を歪ませた野郎だったと言うのに、今では綺麗なジャイアン並に透き通った瞳をしている。

 ……いや、変わりすぎじゃね?

 

「……まあ、なんだ、正直三年で返済額に到達するとは思わなかったぞ」

 

 そう、たった三年だ。

 基本時給百HLに加えて、荒稼ぎしていた頃の分が三年返済を可能にしたのだろう。

 

「プリナンデス、ここでの日々を忘れることなく、もう一度ここに来るようはこともないようにしっかりと励むことだ」

「ヴァルバトーゼさん、お世話になりましたッス!!」

 

 給料全額をそのまま俺に差し出した。

 これできっちり一億HLは返済された。

 

「もう「〜ッス」をつける必要はない、ウラヌスよ」

「ヴァルバトーゼさん、俺の名前を……!」

 

 ウラヌスは涙を拭い、ゆっくりと道場の扉を開く。

 あんなに綺麗な瞳になった男だ、もう悪さなんてしないだろう。

 

 ……たしか彼はここを出れば料理人にって自分の店を開くと言っていたな。

 その日が来れば教育係として彼の成長ぶりを見てやろう。

 

 

「さて、お前たちもしっかりと――」

「師匠!!!」

 

 プリニーに激励の言葉を送ろうとしたところをセリューに止められる。

 いつもなら叱ってやるところだが、なにやら様子がおかしい。

 それに、後ろには休暇のはずのサヨとイエヤスまでいる。

 

「……何があった」

「オーガが……奴が罪なき人間を殺しました。事実確認も出来ています」

「あれが、人のすることなのかよ!!?」

「……あんなことが、今の帝都では許されてしまうのですか?」

 

 それぞれがこの帝都での不満をぶちまける。

 ……あぁそうだ。今の帝都ではそれが許されてしまう。

 だから、俺は革命軍に入ろうと迷ったことがあったんだ。

 

「……ナイトレイドとの接触目的は既に達成された」

 

 もはや奴を生かしておく必要なんてない。

 ……皇帝との勉強会を終え次第、向かうとするか。

 

 いつまでも停滞しているわけにはいかない。

 そろそろ俺も、動くとするか。




次回予告

アカ「世界中のまだ見ぬ食材を求めて旅を続ける超高校級の美食トレーナーアカメ」

ラバ「なんかすっごい設定盛ってきた!?」

アカ「一斬必食村雨を手に、今日も幻の超高級種と言われるタイラントを探し続ける!」

ブラ「幻の超高級種だったのか!!」
マイ「そんなわけないでしょーが!?」

アカ「あ、あれは、まさか伝説の……!」

シェ「伝説の……?」

ヴァル「イワシだ、食え」

「「「お前かよーー!!?」」」

アカ「次回、アカメが食う九話「マイワシ捕獲計画」」


アカ「……これだけ設定が濃ければ、出番も多かったかもしれないな」

マイ「ま、まあここでは多いかも知れないし、それにヒノワなら……」

アカ「…………さあ、どうだかな」


ナジェ「……ははは、私はいつこの作品で出てくるんだろうな」

「「「………あ」」」


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オーガを斬る

「――どうした? 道場で何かあったのか?」

「……ん、急にどうした」

 

 勉強を教えている最中に皇帝に話しかけられた。

 よく見ると俺のことを心配そうに見ていた。

 

「いつもと違って厳しい目をしていたからな、何かあったなら余も何か手伝いたいのだが」

「……この程度、皇帝の手を煩わすまでもない。だが、その気遣いは感謝する」

 

 相変わらず国語と数学は満点で歴史は弱い。

 となると、ここからは歴史を中心的に学ばせるべきか。

 

「暫くは帝国史と世界史を中心として学ばせる」

「そうか。……意外と国語の言葉遊びというのは面白かったのだがな」

「……仕方ない、国語は続けようか」

 

 面白いと思ったことを止めさせる必要はない。

 そう思えたのなら最後まで、飽きるまで学ばせ続けよう。

 

「……で、余はヴァルバトーゼになにかあったのか聞いているのだが」

「……さっきも言ったがこの程度何でもない」

「だが、どんな些細なことでも余は知る必要がある。余は皇帝だからな」

 

 むう、今日はやけに食い気味だな。

 そんなに表情に出てしまっていたのか?

 だとすれば反省しなければ。

 

「……今日入ったプリニーが中々の曲者でな、どう教育すべきか迷っているのだ」

「そうだったか!」

 

 まあこの辺の言い訳が妥当だな。

 少し賢くはなっても皇帝は基本単純だ。

 こう、うまく言ってしまえばそうかと納得してくれる。

 この辺の単純さは大臣に感謝だな。

 

 やったぞ大臣、お前への好感度がミジンコ以下からミジンコ以下+に変わったぞ。

 

「なら、今日はもう休んでおけ。毎日働き詰めでは体に良くないぞ」

「……甘えさせてもらうとするか。……宿題は怠らないように」

「分かっている。大臣の負担を少しでも減らせるように余自身が優秀な皇帝にならなければな」

 

 相変わらず大臣に依存はしているが、最近は自分で考えて処罰を下すことも増えてきた。

 その大半は大臣のでっち上げだが、それで死ぬ人間もかなり減っている。

 ざまーみろだ。

 

「……では行くとするか」

 

 向かうはオーガと約束をした場所、メインストリートの一角にあるバーへ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

「オーガはいるか?」

「オーガ様ならあちらです」

 

 手前のカウンター席に案内され、先に待っていたセリューとオーガの反対側に座る。

 

「久しぶりだな、オーガ」

「あのヴァルバトーゼ様から酒の誘いなんて光栄です」

「ふっ、そう畏まることもない」

 

 指示通り他には誰も……

 

「……」

 

 ……。

 

 誰かいた。

 

「オーガ、そこの人間は誰だ?」

「も、申し訳ありません! どうしても話があると言って聞き分けなくて……」

 

 フードの男を見る。

 不味いな、これじゃあ迂闊に手は出せないか。

 

「……セリューの調子を聞きに来ただけだから問題はないが、以後気をつけるようにしておけ」

「は、はい!!」

 

 しかし、オーガに話があるってことはまさかガマルの使者か?

 今回の殺しもガマルが関与してるって話だし。

 

 もしくは……。

 

 

「……青春謳歌」

「! ……焼肉定食」

 

 よし、こいつはそういうことだな。

 

「ヴァルバトーゼ様、一体何を?」

「昔の合言葉だ」

 

 男は剣を構え、女はトンファーを構え、店員は店を閉じて完全密室にした。

 オーガを葬りたい派がこの場に二人もいるなら止める気はない。

 

「貴様はこの国に必要ない。ナイトレイドに殺されるか俺たちに殺されるかの二択しか残されなかった己が罪を呪うがいい」

「ふ、ふざけるなぁ!! 教育係如きが何の権利があってこの俺様を――」

 

 オーガが言い終わる前にフードの男が背中を斬った。

 ……よく見るとアカメたちが拉致ったあの時の男か。

 

「なんだ、結局ナイトレイドに入ったのか?」

「イワシの人……じゃなくてヴァルバトーゼさん、俺も今の帝都の話を聞いて……」

 

 アカメたちから話は聞いたのか。

 なら俺から話すことは何もないか。

 

「新人とはいえ、暗殺者としてまだまだだな」

「……え」

 

 後ろからの攻撃を見切り、即座に回避する。

 オーガの一撃が床に直撃したことで木片が飛び散る。

 ……これ弁償するの誰だと思っているんだ。

 

「セリュー、そこの新人ナイトレイドに手本を見せてやれ」

「……同じ正義を志す者として、しっかり見てくださいね」

 

 声は至って普通だが、そのオーラはドス黒い怒りそのものだ。

 ……どれだけやればここまで怒らせれるんだ、頭をかち割って研究してみたいな。

 

「重罪人はここで処刑する。ろくでもなかったこんな私を、それでも正義の味方であり続けてもいいと言ってくれた人のために……!」

 

 トンファーでまず武器を破壊し、顔面二発、お腹に一発重たいものを喰らわす。

 だが、剣を破壊されたところでまだ体術が残っているオーガはすかさず投げの大勢に入る。

 

「――悪は!!」

 

 零距離で腹部を瞬時に蹴り上げる。

 セリュー曰くこれぐらい俺から学べば当然のように出来ると言うが、俺は人間を辞めるようなプログラムは一切導入してないはずだ。

 

「絶対に断罪する!!!」

 

 壁に叩きつけられるが、気を失う様子もなくこちらを睨みつける。

 ……まあ、相手が悪かったな。

 

「コロ、捕食!」

 

 壁の向こうから巨大な手が現れ、オーガを握りつぶす。

 

 

「な、なんだこいっ、や、やめ……」

 

 最初はきっと抵抗しようとしたのだろう。

 声が聞こえていたのに、今では多分骨のゴリゴリという音しか聞こえてこない。

 

「さて、俺も帰ると……」

「お待ちください、ヴァルバトーゼ様」

 

 かなり力強く俺の両肩を掴まれる。

 店員二人の笑顔がとても怖い。

 

「床、壁、テーブルに椅子、割れたジョッキ等……」

「ここを使っていいとは言いましたけど、いくらなんでも壊しすぎじゃないですか〜?」

 

 視線でセリューと男に助けを求めるが、セリューとヘカトンケイルは敬礼だけして帰り、男は「任務を終えたら報告しなくちゃ」と完全に俺を無視して帰ってしまった。

 ……嘘だろおい。

 

「……そうだ、ついでに今夜一杯行きましょう」

 

 もう、俺は覚悟を決めた。

 どうせ今回も愚痴を聞かされるのだろう。

 

 ……主に俺の。

 

「……分かった。だが、程々に飲め」

「「はい!」」

 

 俺たちは壊れた店に暫く休みますの看板を立て、近場の飲み屋に向かう。

 ……まあ、なんだかんだ言っても帝都は今のところ平和(?)だな。




次回予告

セリュ「私のペットである帝具ヘカトンケイルにはなんと知られざる秘密があった!」

イエ「秘密〜?」

コロ「キュー?」

セリュ「コロに搭載されたコアユニットが覚醒した時、ヘカトンケイルプスレクスへと進化する!!」

コロ「ギュゥ!?」

セリュ「コロの拳が真っ赤に燃える! 正義を貫けと轟き叫ぶゥ!!!」

コロ「キュ、キューー!!?」

サヨ「コロちゃんどうなっちゃうの!?」

セリュ「次回、機動新世紀ヘカトンケイル第十四話「コロ、戦地に立つ!」」


セリュ「私のコロは凶暴です」

コロ「キュー……」

セリュ「コロー、貴方も気に入ったのねー♪」


コロ(んなわけねーよ)


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過去を語る

 目を覚ました。

 

 ……ここは、どこだ?

 とてもとても暗い場所にいる気がする。

 

 何故、俺はこんな場所に?

 

 その答えは、俺の近くにあった。

 

 

「だ、大丈夫?」

「ぜ〜んぜん大丈夫ですよ〜だ……ゲプッ」

 

 ……バカな、俺が一時間程寝ている間もこいつらは飲んでいたのか?

 今日は流石に飲みすぎだ。体に良くない。

 

「……ほんと、私たちは何も変わってない。ボンクラ野郎の集団ですよ」

「……そう言うな。それなら俺もかつてはボンクラ野郎だ」

 

 思い出すのは俺がかつて隊長と呼ばれていた時のことだ――。

 

 

 

「強化組改めて魚強組の隊長になったヴァルバトーゼだ。お前たちを選抜組と肩を並べて戦えるほどの優秀な戦士として育ててやろう!」

 

 まだ帝国の闇を知らなかった俺は、お金稼ぎの意味でもゴズキという男に雇われていた。

 

「実践までかなりの期間が用意されている。それまでにまずこの甲羅を身につけて俺の腰にある鈴を取れるようになれ」

「甲羅ってどんなものですか?」

「これだ」

 

 軽々と甲羅を取り出し、全員分支給する。

 それを見たせいか余裕だと思った最初の可哀想な奴が現れる。

 

「それぐらい余裕でやって……重っ!!?」

 

 当たり前だ。

 なんせそれ大型種一匹くらいの重さだからな。

 

「クロメは大袈裟すぎ。こんなの私なら……重い……!!」

「……あの、これじゃあ動けないですよね?」

 

 全員が甲羅を装備するが、かなり重そうだ。

 暗部にしてはまだまだ動きが遅い。

 目標は俺の全力ダッシュに付いてこれるレベルだ。

 

「そうか、まだお前たちにはこのレベルは付いてこれないか」

 

 そう煽ると一人の少女のスイッチが入る。

 

「上等だ!! 私は絶対にトップに立つんだから!」

 

 闘志を燃やし、大きな野心を秘めたその少女。

 彼女の名は――。

 

 

 

 

「……隊長がいた頃は何もかもが輝いていました。もし、隊長がずっと強化組にいればと今でも考えてしまいます」

「だが、俺にはそれが出来なかった。それが全てだ」

「で、でも私たちは隊長との約束を……」

 

 二人の気持ちが沈みかけているため、それを元気付けさせるために一品用意する。

 

「おやっさん、イワシをくれ」

「はいよ」

 

 言わなくても分かっていたかのように即座にイワシの塩焼きが用意される。

 

「……そういえば、今日は誕生日だったね」

「だからですね、何故かいつもより昔の話が出てくるのは」

 

 イワシの塩焼きで誕生日を祝うというのはおかしいかもしれないが、このイワシの塩焼きだからこそ意味がある。

 ……これは、ギンの大好物だった。

 

「……ウーミンもレムスもしっかりと生き残っただけ約束を果たしている」

「ですが! 私たちがもっとギンと同じ考え方だったならギンすら死ななかった可能性だって……」

「言うな。どれだけ悔やんでいても、奴は生き返らん」

 

 ギンだけではない。

 他にもこの国の為にと戦って死んでしまった奴等は沢山いる。

 ……そうやって戦う皆を嘲笑い、私利私欲のために利用する大臣は絶対に許せない。

 

「ふっ、辛気臭くなってしまったな。何か話を変えるか」

「……あ、そういえばあの甲羅修行は道場で使っていますか?」

 

 魚強組がまだ選抜組の足元にも及ばないとされていた頃に使っていた甲羅。

 あれを作った目的は上から最強の暗部チームを育成しろと言われて作成したもののため、俺が抜けた後は方針も変わると考えて使用はしていない。

 

「今は俺の部屋に保管している。国が生まれ変わった時に、他国からこの国を守るための優秀な軍が必要だからな」

 

 数が少ないという問題点はあるが、それは時間をかけて量産していけばいいだろう。

 

「ふふ、革命が成功した暁にはヴァルバトーゼ隊長の最初の部下が経営しているバーとして売り出せますね」

「……すっかりお金に執着するようになったな」

「ウーミンだけですよ。私はむかしのまんまですよ〜」

 

 確かに酒癖の悪さは以前のままだ。

 まともな話になって酔いが覚めたかと思っていたがそうでもないか。

 

「……すまない、今夜はこの辺で」

「あいよ、また来てくれ」

 

 ウーミンは自力で立てるとゆっくりと立ち上がり、レムスも自力でと言っていたが足が既に限界そうだったので仕方なく背負った。

 

 その後、レムスが無理矢理立とうとして吐いたのはまた別の話……、

 

 ……にすると思ったかバカ野郎。

 どうすんだよこれ。




次回予告

タツ「俺の名はタツミ、しがない田舎者だ!」

イエ「そして俺はイエヤスだ!」

サヨ「私はサヨよ!!」

タツ「……帝都で出世するために旅を続ける俺を待っていたのは」
イエ「タツミの体を狙うリーゼントの男と」
サヨ「スーパー美少女アイドルサヨだった!!」

タツ「え、選ばなくて…」
サヨ「選べない……兄貴かサヨのどちらかなんて俺には選べないッ!!!」
イエ「そんなタツミを救ったのは新鮮なあいつだった!!」

ヴァル「全てだ。貴方の全てをマイワシに捧げるのです」


タツ「じ、じか――」
サヨ「次回、いい旅悪夢気分第六十三回「ここが秘湯だイワシ風呂」」
イエ「お風呂で癒されその場でイワシを食べられる。一石二鳥だな!」

タツ「俺がなにかしたか!? なんでこんなことを!!」
イエ・サヨ「「お前、主人公。私(俺)たち一話モブ、オーケー?」」

タツ「サヨは単行本とかに出てるだろうが!!?」


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弟子を教育する

 二人を家に連れて帰り、気が付けば睡眠時間はたった二時間程度になっていた。

 ここまでくると寝るより起きていたほうが楽だと思えるのはきっと俺だけではないはずだ。

 

「……早めに日課をこなしておくのも悪くないか」

 

 帝都近辺を散策に行く。

 最近じゃあ俺が狩りすぎたこともあって土竜も顔を見せなくなっている。

 

 こうも危険種がいないとなると少し狩りすぎたかなという心配はある。

 何も絶滅させるまで狩っていたわけではなく、アブソープションである程度能力を奪う程度にしか狩っていなかったが、それが毎日続くとこうなるわけか。

 

「……たまには普通に生活するか」

 

 土竜の群れがいつかきっと戻ってくることを信じて今日は大人しくしよう。

 

 

 

 

 

「……あ、師匠!!」

 

 道場に戻ってみるとセリューとヘカトンケイルと戯れているイエヤス、サヨの姿があった。

 

「どうした? まだ時間ではないはずだが」

「飲んで帰る日は大体この時間から起きているじゃないですか。待ち伏せしてみました!」

 

 こいつ、さては俺の行動パターンをストーキングしてたな?

 ……てか、まさか俺自身帰る時間帯がパターン化していたとは。

 

「……せめて、食は食わせろ」

 

 俺もアブソープション無しでどこまで出来るか丁度気になっていたところだ。

 負けはしないだろうが、セリュー相手となると組手が長引きそうだな。

 

 とはいえ腹が減ってはなんとやらだ、プリニー共を起こして飯を作らせるか。

 

「お前たち、飯は食べたのか? まだならイワシ料理を用意するが」

「……焼いてくれよ?」

 

 何故そんな目で見る?

 まるで俺が無理矢理生イワシを食わしているみたいじゃないか。

 

「うむ、プリニーにそう伝えてこよう」

「ヴァルバトーゼさん、今日も練習メニューの繰り返しですか?」

「早速その話か。今日はそれに加えて組手をする」

「師匠との組手ですか!?」

 

 二人を押しのけセリューが前に出る。

 ……お前はいつも勝手に組手するだろうがと言いたいのを抑える。

 思えば正式な稽古はここ最近したことがなかったか。

 

「ただし、セリューは時間制限を設ける。任務になれば限られた時間の中で行動する時もあるからな」

 

 戦闘が長引きすぎて敵の援軍が大量に押し寄せてきたというケースも少くはない。

 ……まあ、エスデスやブドーが相手だと話は別になってくるが。

 

「プリニー共! 飯の準備をしておけ!!」

「了解ッス!!」

 

 どこからともなく聞こえてくるプリニーの声が響き渡り、厨房が騒がしくなる。

 新人二人はどうしているのだろうか?

 

 

「今日は箒と雑巾掛け頼むッス」

「わ、分かった、ッス」

 

 うん、娘の方が真面目に働いているようだし良しとしよう。

 

 

 他のプリニーがサボらないか監視していると、大男のプリニーが朝食を運んでくる。

 今日はご飯に味噌汁、イワシの塩焼きといった実に和風仕立てだ。

 

「いただきます」

 

 お米の炊き方は俺がしっかりと指導しているため、かなりしっかりとした感じに仕上がっている。

 しっかり洗って人差し指で水の量を確認し、炊き上げる。

 学生時代に自炊しておいてよかっとこの時ほど思ったことはない。

 

 味噌汁は完璧に作り方で詰んでいたため困っていたが、東の国で味噌汁の文化があったのは俺にとって奇跡だった。

 東の国の人間を秘密裏に連れ込んできて、味噌汁の作り方と味噌を貰う代わりにこちらの骨董品を差し出した。

 それが大層気に入ったのか、今でもこの貿易が続いている。

 

「……今回の組手はイエヤスとサヨが自身の欠点を見つけ出すことと、セリューの動きを見て盗めるところは盗んでいくことを目的としている」

「技術を盗むなら私より師匠の方がいいのでは?」

「俺から盗むにはまだ早い。実際、セリューも真似ようとして体が追い付いていなかったではないか」

「……そういえばそうでしたね」

 

 失敗した時のことを思い出したのか、少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 ……まあ組手の理由は建前で、実際は俺がどれだけ相手できるかを試してみたいだけっていうのは内緒の話だ。

 

 今日もしっかりとイワシを噛み締め、稽古場に向かう。

 三人は稽古着に着替える中、俺は普段着で待ち構える。

 

「……順番は任せる。セリューが最後ならな」

「てことは、俺が先かサヨが先かのどっちかだな」

「なら最初はイエヤスに譲るわ。私は一度動きを見てから戦う」

 

 特にじゃんけんとかする様子もなくイエヤスが前に出る。

 

「そんじゃ、始めるぜ!」

「全力で来い」

 

 俺が構えたのを合図にイエヤスがこちらに向かってくる。

 ……やはり一人の敵を狙うことに関してはかなり隙がないように感じる。

 ――だが、

 

「目の前のことに集中しすぎだ。もっと周囲に気を配ることを覚えておけ」

「なっ……!」

 

 高速で背後に移動し、イエヤスの後ろを取る。

 にも関わらず、俺がどこに消えたのか分からずに左右ををキョロキョロとしていた。

 

「その大きな隙は自身を殺すぞ。実際、これが殺し合いなら貴様は死んでいた」

 

 俺の声で後ろを振り返ろうとするが、その動きを利用してイエヤスを地面に叩きつけた。

 ……まあ、まだこんなものか。

 

「さ、最初に戦った時より速い……」

「次はサヨだ」

 

 少し大人気なさすぎたか、足が震えている。

 ……が、イエヤスと違ってサヨは周りが見えているな。

 

「……ならこれはどうかな?」

 

 少し威圧を放って前に出る。

 それに気圧されてしまったのか足が止まっている。

 

「危ないと思って逃げるならそれも一つの戦い方だ。だが、足を止めてしまうようではイエヤス同様その大きな隙で死んでしまうぞ」

 

 ハッとして後ろに下がろうとするが、それを許すはずもなく足を引っ掛けて転す。

 追い打ちをかけるように木刀を目前まで近付けてサヨも終了だ。

 

「警備隊ならここまではしないが、軍に入るなら敵が将軍クラスの相手と戦うこともある。そんな時に死なないための訓練を今後付けてやるつもりだ」

 

 ……とはいえ、そもそも基礎から完全にやり直さなければいけない二人ではない。

 しっかりと力を身につけていけばいつか化けると思わせる素質を持っている。

 

「……最後にセリューだが、呼ぶ必要もなさそうだな」

「はい! いつでも戦う準備は出来ていますよ!!」

 

 体を動かしてまだかまだかといった目をしている。

 あれか、欲しかったおもちゃを手にして興奮している子供かこいつは。

 

「制限時間は五分程度だ。いくぞ」

 

 まずは威圧を放ち前に出る。

 瞬時に危ないと察知したか、今いる位置から放れて俺の攻撃をかわした。

 

「時間が限られている……なら!!」

 

 俺が攻撃を行った直後を見計らい、猛攻撃を仕掛ける。

 ……だが、一発一発防いでいる時間が勿体無い。

 

「俺も攻撃をさせてもらうか」

 

 右のパンチを受け止め、すかさず右脚で蹴りを入れる。

 

「それはこちらも読み通り!」

 

 セリューも左脚で蹴りをいれ、お互いに未だダメージが入っていない。

 ……なんて考えをしていた時だった。

 

「そして、空中にいるからこそできる動きもありますよ!!」

 

 体を大きく仰け反り余っていたもう片方の脚がこちらを狙う。

 

「ふっ、それを喰らうほど俺も甘くは……!」

 

 そこで気付く。

 構えていたのが脚だけでないことに。

 いつもは空中に飛ばすと蹴りの攻撃が多くなるためそれに気を取られすぎていた。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

「――ぐっ!」

 

 急いで投げ飛ばそうとするが、それよりも速くセリューの左からの拳を受けてしまった。

 

「や、やった……」

「……まだまだ届かないと俺も甘く見ていたか。流石だ」

 

 そのままセリューを投げるついでに蹴りをいれて軽く飛ばす。

 ……にしても、まさか攻撃を喰らってしまうとは。

 土竜で能力上げとか言って怠けていたのは俺の方だったな。

 強くなったとはいえ、多分レベルで言うなら四千程度だと思っている。

 ディスガイアなら普通にサボっていると言われても仕方がないものだ。

 

「うむ、いい攻撃だ。それで次は……」

 

 セリューが動く気配がない。

 ……何事かと思ってよく見ると、目をグルグルさせて気絶していた。

 

 ……アブソープションで強化されていないから少し強めにしても問題ないと思っていたけど、そうでもなかったか。

 いつまでもここにいさせるわけにもいかなかったので、取り敢えず休憩所に運んでやった。

 

 暫くするとまた道場に来て、

 

「あの感覚をもう一度覚えておきたいのでもう一回お願いします!!」

 

 なんて言ってきた。

 ……強くなるのはいいことだけど、一応卒業した身ってこと忘れてないよな? こいつ。




次回予告

ラバ「ラバックと!」

エト「エトナの!」

エト・ラバ「「魔界テレフォンショッピング!!」」

ラバ「……ところで、誰?」

エト「さあさあ! 本日紹介するのはこの千変万化クローステールよ!」

ラバ「ちょ、俺の帝具!?」

エト「なんと! 武器でありながら装備すると飛行タイプになって加速装置と同様の効果までついてくる優れものよ!!」

ラバ「……まあ、その代わり持ち主次第で能力が変わってくるけどな」

エト「更に更に!! 奥の手であるかい――」
ラバ「ストップストーップエトナさん!! それは言っちゃダメだから!?」

エト「………ちっ。まあそれはそれとして、今なら修羅版クローステールまで付いちゃってお値段なんとたったの二十九万八千HL! 二十九万八千HLよ!!」

エト「さあ! 今すぐお電話ください!」
ラバ「だーかーらー! エトナさん!? 勝手に出てきたと思えば勝手にこのコーナーを――」

エト「あぁ? 元々このコーナー私のなんだけど? 文句あるの?」

ラバ「いや、だってこれアカ斬るとディスガイア4の……」

エト「でも次回予告なんだから私が出るのは当たり前でしょ? ちょっとあんた魔界来なさいよ。大丈夫だって、死んでも魔界病院で生き返るから」

ラバ「え、ちょ、まって……い、い……」

ラバ「いやだーーーー!!!!?」


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首斬りを斬る(1)

 あいも変わらずナイトレイドが動きを強めているのを見て俺も動きやすくなってきたなと思う今日この頃、帝都ではある事件が話題になっていた。

 

『連続殺人事件』

 

 噂程度だが、犯人は首斬りザンクなのではという声がちらほらとある。

 中々にすばしっこい奴で帝具持ちの危険性があるため、ここは一つナイトレイドと共闘した方がいいかと考える。

 三人が相手する前に倒されるかもしれないが、場合によってはこれが最初の帝具持ちとの戦闘になるかもしれない。

 

 今日も何事もなく普通に俺の部屋で食事をとる三人に一枚の紙を渡した。

 

「……やはり帝都を騒がしていたのは首斬りザンクでしたか」

「ヴァルバトーゼさん、これは?」

 

 サヨが頭にハテナを浮かべて質問してきた。

 ……ザンクの手配書見ても知らないってかなり田舎の方から来たんだな。

 

「……かつては帝国最大の監獄で働く首斬り役人だったのだ」

 

 ――俺自身も見たことはないが、大臣の命令で毎日毎日首を斬り続けているうちにクセになってしまったらしくてな。

 ついには辻斬りになってしまった哀れな男だ。

 

「その悪党は一時姿を消していたのだけれど、まさか帝都に出て来るなんて……」

「セリューよ、一刻も早く仕留めたい気持ちは分かるが相手は帝具使いだ」

 

 帝具使い同士が争い合えば必ずどちらかが死ぬ。

 いくらセリューが強いとはいえ、アカメの村雨のようなかすっただけで即死なものが他にないとは言い切れない。

 

「でも、私にだってコロがいます!」

「ヘカトンケイルは書物にも載っている帝具だ。対して奴のはもしかするとどこにも記載がない帝具の可能性だってある」

 

 ザンクは元監獄の首斬り役人。

 かなりの実力と知識を身に付けているはずだ。

 ヘカトンケイルが珍しい生物型の帝具とはいえ、対策法を知っていれば攻略されることもある。

 

「そこで、殺しのプロを呼ぼうと考えている」

「殺しのプロ……まさかナイトレイドを!?」

 

 驚く理由も分かるがご飯粒を飛ばすな、ご飯粒を。

 

「……以前見た時にはその大半が帝具使いだった。彼等と共闘することで改めて帝具使いの恐ろしさを身を以て体験することが出来るだろう」

「で、でもよ、いくらなんでも表じゃ悪党なんて言われてる組織を手を組むのはマズイんじゃねえのか?」

「イエヤスの言う通りです。もし大臣たちに見つかれば……」

 

 ……まあそんな反応をするのは大体分かっていた。

 正直こうは考えていたものの、後々のことを考えるとこの手を使うのは極力避けたいのも事実だ。

 

「……なら、俺とセリューがリーダーの二チームでそれぞれ捜索を行い、見つければセリューならヘカトンケイルの雄叫びを、俺なら上空にコウモリを羽ばたかせる」

 

 普通の敵ならこれでもオーバーキルだと思うのだが、帝具使いとなると能力不明の帝具に関しては慎重に動いておきたいというのが俺の考えだった。

 セリューはともかく、サヨやイエヤスまで反対そうな顔をするとは。

 

「……ヴァルバトーゼさんは少し心配しすぎです。それに、いつかは私たちもその帝具使いと何度も戦うことになるんですよね?」

 

 サヨが不満そうにこちらを見る。

 ……まあ、三人ともそれだけ意志が強いならこいつらの意見を尊重してやるか。

 

「……フッ、それもそうだな。ならばこれだけは言っておく」

 

 

 

「――必ず奴を討て!!」

 

 標的は教育係が戦う中では今までの誰よりも強敵になる。

 俺も、アブソープションの恩恵を受けていないためステータスは基本値しかない。

 

 ……久しぶりに技を使うかもしれないな。

 

 いつ来るかも分からない奴を倒すため、俺たちは昼の間にしっかりと体を温めた。

 

 

 そして、恐ろしい夜がやってくる。

 

 

「……サヨ、変な気配はないな?」

「今のところ問題はない……と思います」

 

 今夜は警備隊もしっかりと働いているため、万全の大勢で挑んでいる。

 ……それでも焼け石に水程度の戦力だ。

 ここの警備隊では首斬りザンクにはおそらく勝てない。

 

「……む」

 

 今、一瞬だが人の気配がした。

 こんな夜中にまだ出歩く人がいるのか?

 まさか……。

 

「どうかしましたか?」

「……なにかが近くにいる」

 

 気配のした方に近付こうとした時だった。

 

「……その声、サヨか?」

 

 やはり予想は的中しており、中からあの時の男が現れる。

 ……そういえば、今サヨと言ったか?

 

「た、タツミ!?」

「サヨ!! 無事だったんだな!」

 

 タツミと呼ばれたほうもサヨも涙を流して抱き合う。

 そういえばサヨとイエヤスはここに来る途中はぐれた仲間がいるとも話していたことがあったな。

 ……そうか、こいつだったのか。

 

「タツミ、そいつが探していた仲間か?」

「おう! ……てことは、イエヤスも?」

「そう、今はヴァルバトーゼさんのところで鍛え直してもらってる」

 

 ……にしても、ナイトレイドが動いてるとはな。

 やっぱ相手が帝具使いってこともあって早めに始末しに来たか。

 

「話はまた今度にしておけ。今は首斬りザンクが優先だ」

「ヴァルバトーゼの言う通りだ。今はザンクを葬ることを考えろ」

「そ、そうだったな」

 

 お互いに気を引き締め直し、また別行動に移った。

 ……サヨの表情が一層引き締まる。

 

「……気合十分だな」

「はい! タツミに強くなったところを見せます……!」

 

 そうして再び俺たちは街を探索した。

 

 

「――愉快愉快」

 

 ……そして、

 

「今日は誰を殺そうかな?」

 

 その戦いの時は刻一刻と迫っていた。

 

 




アカディス劇場

ラバ「ぜぇ、ぜぇ……。魔界ってこんな恐ろしい所だったのか」

フロ「大丈夫ですか?」

ラバ「あー、なんとか……」

フロ「魔界ってとても大変な場所ですけど、お互い頑張っていきましょうね」

ラバ「は、はい!(天使だ……ここに天使がいた……!!)」

フロ「あ、それでですね! 今からラハールさんやプリニーさんたちに愛について語ろうと思っているのですが、お手伝いお願いできますか?」

ラバ「お、おう! フロンちゃんのためなら俺、頑張れるぜ!!」

フロ「ありがとうございます!! たーのしーたーのしーみなさーんへーのー愛の宣伝師〜!!」


『その後のラバックを知るものは指で数える程だが、皆口を揃えて証言するのは「話す相手が悪かった」とのことである』


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首斬りを斬る(2)

 

ーセリュー視点ー

 

 私が正義の味方を目指すきっかけになったのは父の影響だった。

 悪は断罪されなければならない、正義は悪に屈してはならないという考えで昔は生きていた。

 

 そんな私に現実を突きつけたのが師匠、ヴァルバトーゼだった。

 

 何を基準に正義とするのか、何を根拠に悪と断定するのかという質問に対して私は国を守るものが正義で革命軍なんてものは全て悪だと胸を張って言ってみせた。

 ヴァルバトーゼはその答えを鼻で笑い、私に最初の任務を与えた。

 

 

 ――それは、私の知りたくなかった帝国の実態ばかりだった。

 

 私が信頼していた者が悪党で、私の仲間だった皆は罪を着せられて理不尽に殺さる。

 ……そんな極悪非道を許すようになった諸悪の根源はよりにもよって国のトップであり、国を守るべきはずの大臣であった。

 

「……ここか先は人気が少ないから慎重に動くよ」

「おす」

 

 帝国こそが正義だと洗脳教育を受けた人間は少なくはない。

 そんな人たちを正すこと、教育することこそが私にとっての正義だと今は信じている。

 

「コロ、敵は近くにいないよね?」

「キュウ!」

 

 ……その最初の一歩として、先ずはイエヤスとサヨを師匠と一緒に教育しないと。

 先輩としてカッコイイところも見せてあげるんだから。

 

「そういえば、帝具ってセリューの生物型とアカメってやつの刀以外にはどんなものがあるんだ?」

「……他にはナジェンダ元将軍が使っていた銃型の帝具に百人斬りのブラートが使っているらしい鎧の帝具とかかな?」

「へー、帝具って色んな種類があるんだな」

 

 中には私も知らない帝具だって存在する。

 首斬りザンクが所持している帝具も私は知らないものだ。遠距離型の帝具ってことはまず有り得ないだろうけど、油断は出来ない。

 

「イエヤスも縁があれば帝具を持つことも……!」

 

 殺気が放たれる。

 首斬りザンクか?

 だとすると師匠に連絡しないと……

 

「……、そこか!!」

 

 警備用の銃を装備し、殺気に向かって二発ほど撃つ。

 コロにも殺気の場所へと向かわせて警戒態勢を強める。

 ……が、壁に当たる音ばかりでどれも外れたことが分かる。

 

「首斬りザンクか!」

 

 まだ、確証があるわけではない。

 もしただの悪党だった時に師匠を呼んでしまえば無駄な時間のロスになる。

 慎重に、でも確実に正体を暴かなければならない!

 

「ここから離れたらダメだよ、イエヤ……」

 

 とてつもない胸騒ぎがした。

 殺気に気を取られすぎて、一瞬警戒すべき場所を私もコロもそこばかりに目を向けていて……。

 

「……イエヤス?」

 

 気が付けば、私一人だった。

 

 思い出す、親を殺されて何も出来なかった小さい頃を。

 ……同じ悲劇を繰り返してはならない。

 

「……首斬りザンクゥ!!!」

 

 私は声が枯れるほど叫び、イエヤスを探した。

 

 どこ? どこにいるの?

 いるなら返事をして……返事をして……!!

 

 ――私に、正義を貫かせて!

 

 

「こんの野郎がぁ!!」

 

 ……声が聞こえた。

 そして、微かだが剣の音も聞こえてくる。

 

「……そこに、いるの?」

 

 まだ声も威勢がいいってことはダメージは負っていても瀕死ではない。

 なら、助けられる!!

 

「コロ! 咆哮!」

「キュウ……グオォォォォ!!!!」

 

 コロに戦闘態勢に入らせ、指示通り位置を教える。

 そして、即座にトンファーを構えてイエヤスのもとに向かう。

 

 

 

「……へっ、持久戦は俺の勝ちだ」

「運がいいねぇ、まさかもう見つかるとは」

 

「貴様を首斬りザンクと断定ッ!!」

 

 後ろに回り込み、そのままの勢いで攻撃を加える。

 

「っ、速い……!」

 

 だが、ザンクも私の動きに合わせて剣を振っていたため、一時イエヤスのもとに回避する。

 まだまだ元気はあるとはいえ、既に満足に動ける体ではないイエヤスを見て一緒に戦うことは不可能だと確定する。

 

「……っ、気をつけてくれ。そいつ、頭に付いてる帝具で動きを読んでくるぞ……」

「……そういう能力か」

 

 動きを読まれているとなると私単独で戦うのは不利。

 だが、相手が悪かったな悪党よ。

 

「コロ、敵を捕食しろ!!」

 

 巨体となったコロを突進させ、ザンクを上に飛ばす。

 剣のほうは帝具ではないためコロを相手にするのは厳しいはずだ。

 

「それを待っていた!!」

 

 トンファーは物理攻撃を行うためだけにあるのではない。

 

「悪は拘束させてもらう!」

 

 中に仕込んでいた鎖を使い、ザンクの動きを拘束しようとする。

 

「それも読めているんだよ、この未来視でなぁ!」

 

 仕込んでいた鎖をいとも簡単に回避するが、それでコロの手が休まることなんてない。

 

「コロ、奴にたたみかけろ!」

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 コロの猛連撃なら奴も捌ききれまい。

 あとは捕食さえ済めば……!

 

「こうなったら……! 幻視!」

 

 今度は何か仕掛けて来るつもりか。

 だが、そんなもの私には――。

 

「……お父、さん?」

 

 バカな、有り得ない。

 さっきまでそこにザンクがいたはずだ。

 なんで、お父さんが……。

 

「キュウ!」

 

「っ、止まって、コロ!」

 

 コロの動きを止める。

 ……分かっている、これはきっと罠だ。

 罠だと分かっているのに、体が動いてくれない。

 

 お父さんはあの時の優しい笑顔で、ゆっくり、ゆっくりとこっちに近付いて来る。

 ……こんなの、卑怯だ。

 お父さんの姿を斬るなんて私には出来ない。

 

「愉快愉快、最愛の人に斬られるのってどんな気分だ?」

 

 お父さんの攻撃に反撃出来ない私は、ただ守るだけで一方的に傷が付けられる。

 コロは私を助けようとするけど、私がその度に動かないでと目で懇願するため動けないでいる。

 

「目を覚ませよ!」

「無駄無駄、幻視は一人にしか効かぬが効果は絶大」

「このままじゃ……くそ、動けよ、俺の体……!!」

 

 ……ここで死ねばイエヤスが……!

 動いて、動いてよ私の体!!

 

 

「愉快愉快、お前にとってそれは余程大切な者なのだろうな。あの威勢はどこにいったのやら」

 

 お父さんの手には剣が、あって、それで、私を……。

 

 

 

 

「――約束を破るつもりか」

 

 闇が私を支配した。

 その闇は正義とは程遠いもののはずなのに心地良い。

 

「言ったはずだ、正義を貫くまでは死ぬことは出来ないと」

 

 暗い闇が消え、普通の夜が戻ってきた時にはお父さんの姿はなかった。

 代わりにあるのは見るも無残な姿となったザンクの姿に、

 

「……間に合ってよかった」

 

 いつもとは少し姿が変わった、怖いけどカッコイイ師匠の姿があった。

 

「……任務、成功、ですか?」

「あぁ、奴は俺の手で始末した」

「被害、は……」

「ない。今夜は誰も死なずに済んだのだ」

「……よか、た……」

 

 

 誰一人死ななかったことに安堵し、そのまま気を失った。




次回予告

ヴァル「帝具使いとの戦闘を終え、心身ともに疲労した俺たちを狙う新たな影!」

セリュ「え? 次の話って原作的に私の回だけど話的に無理なんじゃ……」

ヴァル「彼らの名はSIS「死んだイワシ戦線」! 彼らの目的は全世界のイワシを救済することだった!!」

セリュ「……って、イワシですか!?」

ヴァル「イワシは弱いから我々が管理しなければならないだと? いいだろう、貴様たちのやり方が正しいというのなら……」

ヴァル「まずはそのふざけた幻想をぶち壊す!!」

ヴァル「次回、とあるイワシと吸血鬼の神隠し第一話「イワシは漢字で書くと魚強と書く」」

ヴァル「さあ皆でイワシを食べよう! イワシは俺たちを、待っている!!」



セリュ「……今回、かなり強引にイワシ持ってきましたね」


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ナイトレイドを教育する

「……はぁ、やってしまった」

 

 条件が揃っていてセリューがピンチだったとはいえ、魔奥義を発動してしまうとは。

 発動してからのデメリットはないが、こういうことになるから面倒なんだよなー。

 

 

「見たか、辻斬りの死体?」

「見たけどよ……、あれって絶対人がやった後じゃねえよな」

「やっぱり帝都にいるのかな?」

「噂の吸血鬼?」

 

 どうもあの状態になると喉が渇くというか、血が欲しくなるというか……。

 人の殺し方にならなくなってああなっちゃうんだよなー。

 暴君は燃費が悪いとは聞いていたけど、想像以上だ。

 そのため使用したのはこれで二度目になる。

 

「……ヴァルバトーゼさんって本当に帝具を持っていないの?」

「見て分かっただろ、俺には帝具は必要ない」

 

 セリューとイエヤスは全然動けると言っていたが、緊急時でもないのに怪我人を連れて歩く必要は微塵もないということで休ませている。

 久しぶりの休日を満喫しようかと考えていたが、タツミに会いたいというサヨの希望もあって仕方なく外出することにした。

 

 アジトの場所は分からなくても特に問題は無い。

 地道にあるこうなんて思っていないからな。

 

「ところでサヨ、空を飛んだことはあるか?」

「まさか、飛べるわけないじゃないですか」

 

 となるとサヨは飛んだことがないのか。

 歩くこと数分、徐々に人影が減ってきたところで特殊な笛を使った。

 

「それは?」

「ある危険種を呼ぶための笛だ。きっと気に入るぞ」

 

 その音色に応えるかのように上空からエアマンタがこちらに向かってきた。

 

「これって、まさかエアマンタ?」

「俺が専用に飼い慣らしたものだ。しっかりと言うことは聞くぞ」

 

 まあ飼い慣らしたというよりは眷属にしたというのが正しいけど、言わなくてもいいよな。

 

「エアマンタよ、ナイトレイドのアジトは分かるな?」

 

 エアマンタは反応こそしないものの、飛び上がって方角を確認している。

 ……数人ほど俺を監視しているようだが、追いつけるはずはない。

 

 なんせこのエアマンタは俺専用となっただけあって超強化してあるからな。

 

「俺から離れるなよ」

 

 ……と、言う前からしっかりと掴まっているか。

 その後、エアマンタは猛スピードで空を飛行した。

 途中でサヨが気絶していたため少しスピードを落とそうか迷ったが、気絶してるならまあいっかという気持ちが勝ってしまったからそのまま飛ばした。

 風が気持ちいいのだが、やはり人を選ぶか。

 

 風をもう少し感じていたかったのだが、大きな建物が見えた時点でこの時間が終了したことを告げた。

 

「……サヨが気絶しているとなると、タツミとの再会はもう少し後か」

 

 ナイトレイドのアジトまで接近したところで何者かに警戒されていることに気付く。

 

「まずは軽く手合わせといこうか」

 

 エアマンタに止まれの合図を送り、急ブレーキをかけさせた直後にサヨを連れて一気に飛び移る。

 

「……飛んだ!?」

「遅い、接近されても対処できるように訓練することだな」

 

 例のピンク髪だったことが判明し、アジトに辿り着いた時についでにパンプキンを奪い取る。

 何か叫んでいるのを無視して走り続けると今度はシェーレが現れる。

 

「……そんな!? 貴方は――」

「動揺しすぎだ。戦場では味方が敵になることもありえる」

 

 動きが止まった所を見て所持していたエクスタスを奪って廊下を走る。

 

「敵か!?」

「油断するなよタツミ!」

 

 廊下からタツミと金髪が向かってくる。

 ……よく見るとあの金髪は帝具ライオネルを所持しているな。

 

「美味しくいただけ!」

 

 流石に帝具盗りは不可能と察し、代わりにイワシをそれぞれの口に突っ込んだ。

 

「……い、いわひ!?」

「っ、イワシってまさか……!!」

 

 そうして広間のような場所が見えたからそこに走っていくと……。

 

「――遊びがすぎるぞ」

「今度は三対一だ、さすがのヴァルバトーゼも三人の帝具使いを相手にするのは厳しいだろ?」

「ったく、ただ暴れてるように見えて御丁寧に糸を回避しやがって」

 

 アカメ、ブラート、ラバックの包囲によってさすがに足を止めてしまう。

 ……まあエアマンタの時点でバレてはいたか。

 

「ふっ、あのエアマンタの時点でアカメにはバレていたか」

「タツミがサヨやイエヤスと会いたいと言っていたからいつかは会うだろうと思っていたが、まさかここに来るとはな」

 

 俺は潔く盗った帝具を地面に置き、両手をあげた。

 

「安心しろ、油断するなとかいって攻撃はしない」

「約束だぞ?」

「……そうきたか」

 

 実はちょっとだけやってやろうと思っていたが、約束となるとそうはいかない。

 完全にナイトレイド侵攻は終了してしまった。

 

「……あー! やっぱりヴァルバトーゼね!」

「ほんっと、ヴァルバトーゼさんが将軍候補っていうのもよく分かるよ」

「……少し俺のことを視線で追いかけようと出来ていたのは褒めてやるぞタツミ」

 

 サヨとイエヤスもそうだが、タツミはあの二人よりも成長するだろうな。

 今はまだでもいつかはエスデスと肩を並べられるんじゃないだろうか。

 

「……素質十分。いい人材を手に入れたな、ナジェンダ」

 

 三人の包囲から解き放たれると、奥にはよく見知った顔がいた。

 眼帯で片腕が妙だが間違いない。

 

「最後に会ったのは私が将軍時代の時か」

「貴様がリーダーにしてはあまり教育が出来ていないのではないか?」

 

 相変わらずクールで大人びいているが、まだ若いんだよなこいつ。

 こんな時代でもなけりゃ口説いていたかもしれない。

 

「お前のおかげで皆ももっと訓練に励むだろうな。なにせそれぐらいの動きをエスデスもやってくるからな」

 

 エスデスか、たしかにあいつならこれぐらいやるだろうな。

 ……しかし、俺を皆の訓練催促のために利用するとはナジェンダらしいな。

 

「土産だ、東の国で獲れた新鮮なイワシだぞ」

 

 わざわざ手土産で新鮮なイワシを用意したのだ。

 これで喜ばないわけがない。

 俺なら凄く喜んで美味しく頂く。

 

「……生か?」

「生に決まっているだろ?」

 

 そこから俺とナジェンダの口喧嘩が始まった。

 結果は焼いて食べるとなったのだが、なぜか俺がおかしいという話に収拾がついた。

 

 ………何故だ?




次回予告

ナジェ「ナイトレイドのアジトがただの隠れ家だと思ったら大間違い! ここにはある機能が搭載されていた!」

アカ「そうだったのか!?」

ナジェ「敵を迎え撃て! 全包囲砲撃可能なパンプキンスプラッシュ!!」

ヴァル「ほう、迎撃手段はあったのか」

ナジェ「巨大ロボ発進だ!! 皆の力を一つに、悪鬼纏身インクルシオ!!」

レオ「ボスあれ買うどころか巨大ロボにしてるーー!?」

ナジェ「これだけの力が恐れるものなんてあんまりない!」

ナジェ「次回、超次元要塞ナイトレイド第八話「バイバイ・ラバック」」

ラバ「ナジェンダさん!?」

ナジェ「素晴らしいものだな! 出番があるというのは!」

ヴァル「ナジェンダ、ゴキブリ」


ナジェ「キャアアアア!!!」


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三獣士・奇奇怪怪篇
続・ナイトレイドを教育する


 ナジェンダ元将軍。

 俺を将軍候補として選んだ人物でもあり、帝具パンプキンの元所持者でもある。

 俺に帝国を抜けて革命軍に入ろうと言ってきた人間の一人であり、大切な仲間の一人だ。

 

 その実力はあのエスデスも一人の将として認めたほどだ。

 

「その様子を見るに派手にエスデスにやられたのだな」

「……お陰様でパンプキンも使えなくなったが、なにも失うばかりではなかった」

 

 ナジェンダが周りを見てそう言う。

 ……これだけ仲間が増えたなら、たしかに失ってばかりではないな。

 

「もっと鍛錬を積む必要はあるが、いい仲間を持ったな」

 

 そう言うと全員から少しはあった緊張感が消えていく。

 やっと警戒が解けてくれたか、嬉しいことだ。

 

「本当はイエヤスも連れて来たかったのだがザンクとの戦闘で派手にやられてな……、傷を癒すために安静にさせている」

「……そんな強い相手だったんだな、首斬りザンクって」

 

 その場にいなかったのを悔やむように拳を強く握りしめる。

 ようやく探し人が見つかったというのに、怪我人だったと言われればそうもなるか。

 

「教育係の道場に来ればいつでも会える。なんなら、俺が直々に稽古をつけてやってもいいぞ?」

「本当か!? それじゃあ、またその時は頼むよ!」

「約束しよう。……ブラートは顔バレしているから俺が暇な時に組手はしてやる」

「おう!!」

 

 ブラートが凄くやりたそうな目をしていたから暇な時は付き合ってやることにする。

 それに、ブラートとの組手となれば俺もかなり力を出せる。

 悪魔たるもの常に強く、最凶であり続けなければならないからな。

 

「……やはりヴァルバトーゼが味方だと考えると頼もしいな」

「それはお前たちが仲間として約束を守るならだ。約束を違えるなら……」

 

 この面子に限ってそれは有り得ないと思うが、念には念を押しておく。

 

「分かっている。疑い深い奴だなお前は」

「そんなつもりはなかったが……。すまない」

 

 いつもこうだ、俺の方が年上のはずなのに何故かナジェンダと話しているとたまに俺が年下のように感じる。

 

「それで? まさかタツミとサヨを合わせるために来ただけじゃないだろ?」

「……お前たちにとっての悲報だ。エスデスが帰ってくるぞ」

 

 そこからは俺がザンクを殺してから暴君化を抑えるまでに見た話をした。

 ザンクからかなりの血を吸った後、燃費の悪さもあって盗賊狩りついでで軽く近辺を飛び回っていると北でヌマ・セイカが戦っているものだと見てみればとっくに全滅していて拷問の最中だったこと。

 まだ帰っていないのはヌマ・セイカがギリギリ壊れていないから拷問をし続けているだけのこと。

 それも時間の問題で遅くても数日後には帝都に帰還すること。

 

「……化物かよ、あいつは」

「北の異民族は一年はかかると思ってたのに、早すぎんだろうが……」

 

 ラバックでも一年程度はかかると考えていたか。

 やはり、エスデスは他から見てもワンランク上の化物というわけだな。

 

「おそらく奴はこれからも成長し続ける。倒すには全員が最低でもブラートレベルになっていないと話にならん」

「……ヴァルバトーゼの言う通りではある。ここにいるのは皆頼もしい仲間だが、それでもエスデスには届かない」

 

 そう、これだけの帝具と人がいてもエスデスを倒せるかと言われるとまだ不可能なのだ。

 育てきっていないキャラだけでバールを倒してこいなんて不可能、今の状況はそれだ。

 

「最低でも全員がブラートやアカメ並の実力がないと今の貴様たちではエスデスに挑んだところで死ぬのがオチだ」

「……そうは言うけど、ヴァルバトーゼはエスデスを倒せるわけ〜?」

 

 ピンク髪が若干挑発するかのように尋ねてきた。

 マインだっけか? いつもなら断るのだが、少しだけ態度にムッときたから逆に挑発し返してやるか。

 

「やるか? 貴様を闇に葬るぐらいはどうということはない」

 

 軽く威圧を放ってやるとマインは潔く後ろに下がった。

 

「……やめておくわ」

「フッ、そんな怖がらなくても殺すつもりではやらん」

 

 相変わらず殺し屋というのは殺意のプレッシャーには冷静に対応してくるのに覇気になると驚いた表情が顔に出る傾向にあるな。

 

「……私たちのような暗殺者、エスデスのような強者としてではなく、覇者として相手を圧倒する。それがヴァルバトーゼだ」

 

 ……そこまでベタ褒めされると妙に恥ずかしい。

 いや、かなり恥ずかしいなこれ。

 

「……とにかくだ、エスデスが戻ってくるということは警備もこれまで以上に厳しいものになるだろう」

「大臣もエスデスを使って反撃に出ることも予想できる。……だが、それは逆に好機でもある」

 

 そういうと帝具について書かれた文献を取り出した。

 

「奴等はきっとここぞとばかりに帝具使いを戦力としてこちらに仕向けるはずだ。それはつまり、より多くの帝具を奪取するチャンスでもある」

「帝具を奪い、革命軍の戦力を増強するチャンスってことだな」

 

 俺が確認出来ている中でも帝具使いは七人いたはずだ。

 そして、その中には……。

 

「……帝具使い同士の戦いとなると、クロメと出会う確率も高くなる」

「………その時は、私がクロメを救済(ころ)してみせる」

 

 アカメの言葉には嘘偽りなどない。

 ……なら俺は、アカメより先にクロメを見つけなければならない。

 

 

 

 

■ ■

 

 帝都がザンクの死体で噂になる中、一人の男が帝都に辿り着いていた。

 その手にあるのは何者かの骸と鎌。

 

「――この場所に来るのも、久しぶりだな」

 

 骸を砕き、無表情のままその男は闇の中に消えていった。



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