紅髪夜兎の長男 (嘉斗)
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仕事→地球

ばーっと書いてます。注意。
ご指摘により、加筆させていただきました。


 

 

 

まだ夜にもなりきれない夕暮れ。この時間帯は何故だか物寂しいが、僕は心が安らいで行くのを感じる。

 

誰そ彼の時間。光と闇、生と死、あるいは今世と前世か?

まあ一つ言うならこの空自体は僕にとってなんの根拠もない安心感を与える、ということだ。

その空は赤いが言葉にして綺麗と表せる。それなのに自分の今の姿は同じ赤というのになんと汚いことか。

仄かに芳しくも感じる腐臭を帯びた鉄の匂い。

一般論で言えばその匂いは嫌悪感を覚える匂いだろうが、僕にとってはその感覚が錆びてしまったようだ。

 

匂いの元は分かっている。

 

僕の下にある散々に広がる天人の山である。息をしているものはもはや居ないだろう。

感慨もなく横目でそれらを見て、ふう、とため息をつく。

ついでに頬に広がるまだ温い体液を手の甲で拭いとり、なんとなしに舐めてみる。

 

 

不味い。

 

 

全く、平和ボケしていた頃の『俺』だったなら嘔吐ものの行動だが、この世界に生まれてからというもの戦闘――むしろ虐殺に近いかもしれない――という所詮、『()()()()』が日常に近い。

 

 

そう、僕には前世の記憶がある。

 

 

僕の前世――日本という楽園で18年間過ごした『俺』は、その生涯を突然の心臓発作で幕を下ろした。

父母は高校卒業と同時に1度の誤りで『俺』を世に落とした。2人は育児のいの字も知らなかったそうだ。どちらも遊び人で『俺』のことは厄介な荷物に違いなかっただろう。結果、『俺』がグレてしまうのは自然な流れであって、そんな人間に友人と呼べるものは同じような境遇の人間になるのは自明の理だ。

16になってそんなお友達にも退屈になり、真面目に生きようとバイト生活の日々。しかし実際余裕をもつ時間が無いなら現実に目を向けることもないため、現実逃避のためといってもいいかもしれない。バイト代が両親の遊び金になるのも目を瞑っていた。かつてのお友達から食費を強請られることにも耳を塞いでいた。

そんな生活2年と少し過ごした頃死んだ。初めは苦しかったが穏やかな最後であったな、と僕個人では思う。

まとめて言えば、別に縋り付くほどの人生ではなかったということだ。よって死を早く迎えたからといって今更寂しく思うこともない。

 

 

さて、そんな『俺』はこの世界で目を覚ました訳だが、その世界は何とも荒廃していた。日陰者が集まる洛陽という星……、それが第2の人生の出発地だった。

この人生での母さんは身体が弱かったが芯の通った女性で、父さんは頑固そうで仕事バカだったが実は武器用な人であった。

 

『俺』は『神薙(かんな)』という名前を与えられ、僕になった。僕は幼いながらも達観していたが、不気味がらずに2人は愛を注いでくれた。

愛情……それを得たのは間違いなくこの2人のおかげだろう。

その上弟と妹が生まれ、親愛と共にシスコンブラコンなるものも学んでしまった気がする。

 

 

が、日本のようなほのぼのとした生活も呆気なく終わってしまったのだが……。

 

 

何となく沈んだ気持ちになり、死屍累々となった者達、ついでに言うならカエルの天人達を眺める。軽く100の数はいたはずだったが手こずることも無く殲滅した。

確か『ミドリガエル』なんていったへんてこな名前の宇宙海賊だった。

 

 

 

 

「そういえば……父さんの番傘、緑っぽいやつだったよなぁ。」

 

 

 

 

僕の今世の父、父さんはもうハゲに近く……いや、ハゲているがまだまだ仕事に励んでいる。

衰えを知らない身体は大きく、逞しい。僕は何故か成長しても身体が小柄なままで、何故父さんの遺伝子が働いていないのかと疑問を持つこともある。

それに母さんと顔立ちが瓜二つと言える程に似ているためか、それなりの格好をすれば女としても生きていけるのではないだろうか。

少し……いや、かなり不服である。

 

まあ僕の話は置いておこう。

 

そんな父さんとつい最近たまたま宇宙船で出くわしたのだ。

色々積もる話もあったし、久々の家族の会話に何気なくほんわかとした気持ちになっていた所に父さんは朗報とばかりにある話をした。

 

『実は神楽が地球という星に出稼ぎに出ていてな。俺は神楽を連れ戻そうとしてその星に行ったんだ。……まあ何やかんやあって連れ戻すことは出来なかったがな。しめェには大事な娘を見殺しする所だった……。だがある銀色の侍に助けられてなぁ……。』

 

 

僕としては何とも信じられない話であった。この頑固の塊の男を諦めさせてしまうとはその侍というのは一体何者なんだろう。

父さんの話によれば神楽は銀色の彼の所で奉公するそうで、しばらくは洛陽の家には帰らないとのこと。

 

 

ふむ、と口元を手で覆い思考に耽る。

夕暮れが過ぎ去り夜に差し掛かる空を見て、よし、と立ち上がる。

 

 

 

 

 

「……地球、行ってみるか。」

 

 

 

 

 

 

前世の自分が過ごした星。だとしてもその星とはまた異なる青い星。

 

妹に久々に会いに行くのも心が沸き立つが、かつての故郷に見えるのも嬉しい。

 

 

 

 

そうと決まれば話は早い。さっさと終わらせた仕事の報酬を貰い、その金で地球への船に乗ろう。

 

 

 

 

血で湿った服は重かったが、僕の足取りは軽やかだった。

 




お粗末さまでした( ◜ω◝ )


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ターミナル→デパート

誤字あったらすいません。後半沖田サイドです。
ちょっと文章変更しました。


 

かつての生まれ故郷、地球。

 

 

 

この世界に生まれてから初めて訪れたが、僕の胸はその球体を目にして浮き足立った。

その上その故郷である場所で、妹に再会できるというのは至上のことである。思わず頬も緩んでしまったのはご愛敬だ。

 

さてさて可愛い弟妹達は僕よりも大食いであることで有名だ。胃の中が4次元と言っていいほどには大食いとも有名だ。世間ではなく僕の中でだけど。

何か手土産にお菓子などでも買っていってやればきっと喜ぶに違いない。そして目一杯甘えてもらいたいし甘やかしたい。

 

案を募らせながらも現地球の大地へと降り立った。思わず目を見開く。

前世の日本とはまったく異なるが、どこか雰囲気は似た景色。ほとんどと言っていいほど目に映す機会のなかった青い空。賑やかで活気のある人の声。

ああ、麗しきかつての平凡に目が潤みそうになってしまった。

しかし、それはあくまで潤みそうなだけの仮定の話。

 

残念だ。現在僕の目からはハイライトが消えている。

 

何故か。

 

 

 

 

 

「おらおら、ちゃっちゃっとそこに座んなぁ!」

 

 

 

 

カエルのような天人のきぃんと耳を穿つ甲高い声。

 

怯えを滲ませ地に伏せる人々。辺りを張り詰める緊迫した空気。

 

ああ、麗しき平凡よ……お前はどこに行ったのか。

 

待て、状況を整理しよう。

僕は愛しい神楽のためお菓子、もといケーキでも買っていこうとターミナルから近かったデパートに足を踏み入れた。

デパートに付属されたケーキ屋を見つけ、キラキラと光るホールケーキに神楽の嬉しそうな顔を想像しながらもノーマル、チョコ、チーズの計3つをお買い上げ。

そこまでは良かった。

さあ、万事屋を探すかと上機嫌で出口に向かおうとした時、何故か銃を向けられていた。

 

 

『わりィなガキここは立ち入り禁止だ。引き返してもらおうか?』

 

 

明らかにモブのセリフ。しかも最弱の方の。

臭い、モブ臭が臭い。そう思ったが実際そいつは臭かった。

なぜならカエルだったから。

 

 

 

カエルだったから。

 

 

 

 

2回も言った。だって生臭い。

 

 

 

 

それにガキという言葉に眉が額に寄ってしまった。

僕はかつての日本でいえば成人手前の年齢で、ガキという表現は中々癪に障る。

 

 

そりゃあ君達からしたら僕なんてまだまだひよっこかもしれないけどさ。

 

 

前世の頃の人格であったなら戦闘待ったナシの事態だ。あの頃は子供扱いを嫌っている節があったのだから。

 

 

 

内心くっせぇという本音と、カエルの子供扱いへの怒りが渦巻いていたが、口からは漏れなかった。偉いと思う。僕は僕自身を褒めたたえた。……少し、虚しい。

 

そして素直にカエルの言うことを聞いてデパートの中へと戻った。戻った場所にまた別のカエルに縄で身体を縛られる。僕の荷物やら神楽のためのケーキは取られ、荷物がまとめてあった場所に持っていかれた。

 

 

 

 

「何もしなかったらちゃんと返してやるよ。」

 

 

 

 

何も盗らないのはいい事だが、ケーキに何かあったら天に召してやろうかと思った。

 

 

 

恐らく人質かなにかだろうか。

僕を含めて20弱の客と数名の店員らしき人々が中央ホールに集められ、他は逃がされたようだった。

おい、どうせ逃がすなら出口付近にいた僕を逃がせよ、と毒を口の中で押しとどめるに至った。

 

 

 

まあこうして「おらおら、ちゃっちゃっとそこに座んなぁ!」の時間軸まで戻るといったわけだ。

 

 

 

犯人のカエルはどうやら単独犯でなかったらしい。

ここにいるカエルは5人……いや、5匹と言うべきか?

目を瞑り気配を辿れば店内には残り10……12匹はいるだろうか。ホールにいるカエルは一匹一匹金属と砂鉄、火薬の匂いがすることから銃を武装しているだろう。

他の奴もきっと武装はしている。

 

 

 

 

 

「……テロか?」

 

 

 

 

 

全く心底めんどくさいものに巻き込まれたものだ。

 

もちろんこいつなど片手の小指で倒せる。が、無駄に暴れてケーキを無残な姿に晒すことは御免だ。神楽は悲しむだろうしそんな姿は見たくない。

何故こんな戦う必要もないほど弱いやつの相手をしなくればならないのか、という思いも少しはあった。どうせなら強いやつと戦って楽しみたい。

 

第一僕が1人でこいつらをのして目立つのも嫌だ。僕は目立つのが嫌いなのだ。

 

それに前世の警察は几帳面だった。いや、どの世界も警察が仕事を疎かにしてしまったら治安なんて地に落ちてしまう。

この星にいる几帳面な警察が、カエルぐらいだったらお縄にかけてくれるだろう。

 

がやがやとデパートの外では野次馬の声がする。

が、噂をすればなんとやらで、懐かしいパトカーのサイレンが近づいてきた。また、ぞろぞろと何人か出口前まで歩き、立ち止まる気配がする。

するとスピーカーのノイズ混じりの声がこちらに向かってかけられた。

 

 

 

「あーあー、テステス。犯人諸君、こんなことやってもアンタら最後は捕まる運命なので速やかにお縄につきやがれコノヤロー。」

 

 

 

「ちょっ、隊長!一応人質いるんでもっと穏便に……。」

 

 

 

「黙ってなァ。俺は今日は働かねぇって予定を何日も前からたてたってのに、またこんなヤツらのせいで水の泡だ。全く昨日も一昨日も働き詰めだってのに……こんなん土方のクソやろーに押し付ければいんだよ。」

 

 

 

「隊長、昨日もその前も縁側でゴロゴロしてませんでしたっけ?」

 

 

 

 

 

……几帳面、どこに行った?

 

 

外から聞こえるパトカ――警察側から聞こえた声に「は?」と声を出してしまてしまった。

 

 

あれ、警察とは事件解決はもちろんだが市民の平和を守る健全なお仕事なのではないのか?

僕が間違ってきたのか?

今どきの警察はちょっと縁側でゴロゴロしてかったるそうな顔を全面に出すのが流儀なのか?

 

あれ?

 

 

 

僕が呆気に取られているのとは逆にほかの人質は助かる可能性にそわそわとし、カエルも何か知らんがそわそわしている。

 

するとリーダー格なのか、一匹のカエルが人質の中から1人を連れたってデパートの外へと向かった。

 

「おい新撰組よおおおく聞け!俺たちミドリガエルの要求を呑まなければこの中にいる人質は皆殺しだ!」

 

カエルの言葉にまたしても「は?」と声が出た。

ミドリガエル……、それ、僕が先日ひと狩りいこうぜの勢いで討伐した海賊団ではないだろうか。

はぁ、とため息がでる。

 

残党がいたか……。

 

 

 

「いいか!俺たちの目的はここら一体の土地である!この間、俺たちの拠点である星が侵略者からの攻撃を受けた……そのせいで俺たちの仲間はここにいる同士のみとなってしまった!よってこの星の豊富な土地、水、植物……俺たちにわけ与えろ!この土地を田んぼへと改築するのだ!!ゆくゆくはこの星が俺たちの拠点となり、そして俺たちは……俺たちはアイツらのために仇をとる!!」

 

 

 

……ごめん、その()()()は僕です。

君の後ろに人質としている僕です。

 

参った、ミドリガエルは僕が始末したやつで全部、と考えていたのにまさか他の星に避難していた奴もいたとは。

 

それに僕に復讐するために拠点を求めて来たのは分かったが、何故に田んぼなのだろう。そういえば夏場になると田んぼにカエルが沢山居たのは覚えている。水場のあるところにカエルはいるが、田んぼ……好きなのだろうか。

僕の目からまたハイライトが消えた。

 

 

 

 

 

「おい!!そこのお前何をやってる!!」

 

 

 

 

 

もういっそ()()()僕だと名乗り出そうかと考えていたとき、すぐ近くにいたカエルが大声で怒鳴り出した。

人質たちが「ひぃっ」と怯えたように体を縮める。

 

カエルは僕の隣の人質に向けて言葉を放ったようだ。

 

つられて隣へと視線を向ければ、手に仕込んだいたのか手のひらサイズのカッターで縄を半分程切っていたところだった。

やるなぁと感心していれば憤慨した様にカエルがずんずんとやってくる。しかしカエルは殺気を出してないないことからきっと殺されることはない。隣の人が青を通り越して白くなった顔を見て罪悪感が生まれるが、手は貸さなくても平気だろう。

 

 

 

「ゲロっ!?」

 

 

 

 

するとどうだろう。足を猛々しく踏み出していたせいかカエルは自分の足にもつれてつまづいた。

なんて間抜けだ。

 

呆気なくびたんっとカエルは床に叩きつけられ――なかった。

 

大勢の前で転ぶという失態を避けるためか、たたらを踏もうとしたらしい。しかし上手くはいかず、斜め横に逸れるようにしてダイブした。

 

 

床ではなく、荷物が纏められていた場所に。

 

もっとピンポイントで言えば、白い箱に。

 

もっともっとピンポイントで言えば、その箱は僕が買ったケーキの一つで。

 

もっともっともっとピンポイントに言えば、それは神楽のためのケーキであるからして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潰す。」

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

said 新撰組

 

 

 

 

自分たちが到着してから10分も経たぬうちに人質がわらわらとデパートから出てきたため、隊士達は疑問符を浮かべた。まだここには一番隊の、それもほんの少しの人数しか到着していない。

しかし彼らが言った言葉にすぐに目の前のカエル型天人の1人を拘束する。もちろんその腕に捕らえられていた人質の安全も確保だ。

 

 

 

「犯人は残りそいつだけです!!」

 

 

 

実行犯はデパートの中にもある程度の数がいたのは確認済みだ。

しかも侵入できそうな地下、階段は全てにおいて敵の目が光っていることも山崎の調査で分かっていた。

だと言うのに人質になった市民達はこう言ったわけである。一般人の彼らが犯人たちの手を掻い潜るのは確率としては低い。

 

 

が、案外答えはすぐその市民である女性から出された。

 

 

 

 

「ま、まだ中に1人人質にされていた子がいるんです!私達の周りにいた犯人を殴ったあとに1人で他の犯人の相手をするって言って、デパートの奥に行ってしまって……。早く、早く助けてあげてください!」

 

 

 

 

 

なるほど、囮に自らなって他を助けるとは見上げた根性である。

沖田は早く自堕落に睡眠を貪るためデパートの奥へと足を進めた。事情聴取などはそこらの隊士に任せればいい。

 

 

 

「おー、んじゃ突入。囮になったやっこさん救出行くぞー。」

 

 

入口から少し歩いた所に占拠していたホールを見つけた。犯人たちが何人か伸びていて、しかも一発で気絶させたようだ。

どうやら囮になった市民は武術の使い手らしい。

 

他には人質にされていた市民の荷物もある。その中に潰れてしまった白い箱から生クリームが飛び出ているのものもある。

 

 

「これはもう食べられないですね……。」

 

 

 

隊士の1人が小さく呟く。確かこの隊士は万事屋の店主程ではないが甘党であったのを沖田は思い出した。

 

 

 

「隊長。上への階段、下への階段、両方に血痕が見られますがどうしますか?」

 

 

 

「ならお前らは上だ。俺は下に行く。」

 

 

 

 

沖田はそう言いつつ下への階段へ足を進めた。

 

少しホールから離れた場所に血の斑点が点々と続いているのに目がとまった。

中には銃痕も多数見かけられた。音が響かなかったため、サイレンサー付きの銃を天人は持っていたのだろう。

 

 

「おいおい、やっこさん死んでんじゃないんですかィ。」

 

 

 

仮にも人より力のある天人。武術を嗜んだ一般人だとしても、それら数匹を相手に生きてるとは言い難い。

 

もしそうなら提出書類が増える。

 

沖田は先ほどより足を速めることにした。別に死ぬべき運命だったのなら仕方のない事だが、生憎人を見殺しにするほど人は腐っていない……はずである。

 

断言出来ないのは、土方相手に即死する可能性もあるバズーカをぶち込んでいることがあるからだ。

沖田にとってはさっさとお陀仏になってその副長の座を自分に預けて欲しいという危ない計画もある。

 

 

「軽い感覚で人をころすんじゃねぇえ!」とどこかで怒鳴り声がしたかもしれない……。

 

 

 

 

パァン。パァン。

 

「!」

 

聞き間違えることもない、銃声の音がした。全ての銃がサイレンサー付きではないようだ。

音からして地下だ。

沖田は素早く階段を滑るようにして降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さほど階が離れていなかったためすぐに到着した。

 

 

 

 

そして感じた。

 

薄ら寒い威圧感、はたまた静かな怒りがこの階全体を包んでいる気がした。

 

 

 

沖田はここにいるのは只の犯罪者ではないと察した。

もしかしたら地上にいたリーダー格は真のリーダーではなかったのかもしれない。

 

刀に手を掛けながらも辺りを歩く。

救出にきた対象は本当に死んでしまっているかもしれない。

 

そう嫌な考えをもち、突き当りの角を右に曲がろうとした。

 

「っ!!」

 

ぞわっと肌が泡立つ。

振り返りざま刀を抜き前にかざす。

 

ぎぃぃ、と嫌な音がし、沖田は斬りかかってきた相手と相対した。

 

 

少し薄汚れた白いフードマント。その白に赤色が滲んでいる。またその間から見える腕はこれまた白く、また細い。

腕にかかる重圧からも感じられるが、感じていた威圧感は目の前の人物から出ていることは明白である。

 

 

 

そしてその武器を見て、僅かに驚く。

 

 

 

 

「なんでィ、あんたの武器……、どっかで見たことあらァ。」

 

 

 

 

 

ギシギシと圧を掛けてくるのは刀でも銃でもましてや魔剣などでもない。

沖田にとっては記憶にかなり刻みつけられた形。

 

 

 

 

「あんた、なんであのチャイナと同じ傘をもってるんでぃ。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

何を思ったのかふっと腕が軽くなった。相手は番傘を左右に振り、背中の飾り紐にそれ括った。

沖田は何故相手が攻撃の手を止めたのかが検討がつかず、訝しげに相手をみる。このまま自分が切り殺してもいいのか、とその目にありありと闘気が宿っている。

すると相手が苦笑するように言う。

 

 

「君、あの天人達の仲間ってわけじゃなさそうだね。ちょっと気が立ってて間違えちゃった、ほんとにごめん。」

 

あろうことか相手は両の手を顔の前に出して頭を下げてきた。

沖田の脳はますます疑問符が増える。話の感じからして実行犯のリーダーではないらしい。だとすると残りの可能性は一つしかない。

 

 

 

 

 

「いや、こっちも仕事でさァ。あんたが捕まってた中で囮になったってやつでええんですかィ?」

 

 

 

「あー、そうなるの……かな?あれは僕がただカッとなってぼこぼこにしちゃったからさ。あ、地下のカエルは2匹しかいなかったから向こうにまとめて置いといたよ。それ他の階にも何匹かいたから片付けよろしくね。」

 

 

 

中性的な心地よい声だが、沖田は警戒を解けきれていなかった。

フードで顔は見えないが穏やかに答えることに、本当に先程まで静かな敵意を纏っていた人物と同一なのかと疑ってしまう。

 

じと、とした目線を向ければ相手は「ああ!」と今気づいたようにフードをとった。

 

 

またしても沖田の記憶は刺激された。

 

沖田の脳内には最近自分と犬猿の仲と言っていいほど喧嘩して、何だかんだで気が合うところがある少女が再び浮かんだ。

 

あの少女の髪は夕日の様な紅、瞳は深い海の蒼。

そして目の前の相手もまた紅髪、蒼目。

 

 

顔はあの少女を並べても10人中8人は似ていると言うだろう。残り2人は少女は可愛らしい顔立ちだが、目の前の人物に対しては綺麗な顔立ちと言うだろう。

 

うっとおしそうに長く編んだ三つ編みを肩から背中へと流す。

その間沖田は目を見開くことしか出来ていなかった。

 

 

 

「僕は神薙(かんな)。ついさっきここ星に来たんだけれど、道が分からなくて困ってたんだ。君、この星の警察だろ?それに僕の妹……神楽のこと知ってるんじゃない?良かったら神楽のとこまで案内してよ。」

 

 

そう言って手を差し伸べてくる人物――神薙の手を見て沖田は思わず言った。

 

 

 

「アイツ……兄貴なんかいたんかィ。」

 

 

 

 

 

ぼそりと呟いた一言は神薙の耳にも届いたらしい。

目をぱちぱちと瞬いたあと、嬉しそうに笑う。

 

 

「アイツって神楽のこと?わあ、感動だなぁ、あの子に友達ができたなんて。」

 

 

 

()()この星のこと、好きになれそうだよ。

 

()()と言った神薙の言葉は沖田には理解出来なかったが、自分の住む星を褒めたことから自然と神薙に好感を抱いた。

沖田が差し出された手を握れば、神薙は更に嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 

 

 




お粗末さまでした( ◜ω◝ )


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妹→銀色

万事屋側の視点で始まり、後半はオリ主視点です。ちょっとトントン拍子……(´・・`)


 

 

said 万事屋

 

 

清々しい程の快晴の中、人々は各々に忙しなく動いている。

何にせよ生き物は動かねば心から死んでいくという言葉は言い過ぎだろうか。

 

 

「あーーーー、何にもすることないアル。」

 

「言うな神楽。俺だって好きで暇やってんじゃねぇんだよ。」

 

 

今既に心が退屈で死にゆく二人――神楽と銀時はお登勢のスナックぐったりと身体を投げ出していた。

顔を上げる気力もないのか揃ってカウンターの冷たい木の板に頭を突っ伏す。心が退屈なついでと言ってはなんだが腹が空いたことも精神的ダメージを与えていた。所詮仕事が無いための金欠である。

 

 

きゅるると神楽の腹の虫が物欲しそうに鳴いた。続いて聞こえる唸り声は切なそうだ。

逆に銀時はやっと顔を上げ、何気なく流していたテレビを気怠げに見つめた。

 

テレビで流れていたのは、ある天人犯罪組織の生き残りがデパートで立て篭り事件をおこした……とのことだった。

 

新撰組が駆け付けスピード解決を果たしたらしい。

 

 

「いいねえ、公務員は。給料安定、終始雇用ってか?こちとら毎日の食い扶持確保すんのがやっとだってのによ。」

 

 

 

はぁぁぁ、と長いため息がでる。するときゅるると同意するかのように腹もなった。身体は正直である。

 

今更になるが、お登勢は先程どこかへと出掛けてしまった。

 

『そんなに暇してんなら店番の一つでもやってな。』

 

と、呆れたような視線を向けて去っていく背中に食べ物を請えばよかった。銀時はお登勢が帰って来るまで、この腹の虫と付き合わねばならない事にうんざりとした気分になる。神楽も同様だろう。

 

 

きゅるるるる。

 

 

2人の腹がちょうど重なった時だった。

 

 

 

「銀さん、神楽ちゃん、こんな所にいた!」

 

 

 

 

汗を少しかいたように見える新八が入口から顔を覗かせた。

陽の光を反射する眼鏡も心なしか疲れているように2人には見えた。

 

 

 

 

「あ、メガネが本体だからか……。」

 

 

 

「メガネも疲れる時代が遂にきたアル……。」

 

 

 

「ちょっとメガネネタやめてもらえます!?僕はそんな無機物じゃなくて人間に分類されるんですけど!?」

 

 

 

 

更に疲れた顔をしながらも新八は自分の背後へと声を掛けた。

 

 

「あ、すいません。あんなんでも万事屋の店主なんで、あの人に依頼はお願いします。」

 

 

ぴく、と銀時の耳が新八の声に反応する。

メガネはメガネでも客を連れてこれるメガネだったらしい。ただのメガネではないことは知っていたが、有能なメガネかつ人語も話せるメガネで二足歩行ができるメガネの中のメガネでメガネメガネ。

 

 

「もう最後メガネしか残ってねェじゃねえかァァァ!!?あんたらどんだけ僕のことメガネにしたいんだよ!!なんだよ二足歩行するメガネって高機能すぎか!!……じゃなくて、お客さんですよ!!」

 

 

新八は憤慨した身体を落ち着かせ、外にいた人物を中へと招いた。

 

入ってきたのは白いフードを被り、見るからに怪しいが小柄な体躯だ。ちょうど神楽の背丈指2本程度高い位で、そう変わらないかもしれない。

背中にはその神楽のもつものと似た藍色の番傘。

 

銀時はふとフードの中の瞳と目が合った。

深い凪いだ海の様な蒼。その奥に見える光は乱反射したような色で、不可思議な印象を与える。

 

 

 

何故だかかつての師の面影を見出し、息を呑む。

 

するとその視線は横に向かれていた。横、つまりは神楽である。

同様に神楽も目を大きく見開き、白フードの人物を見返している。

 

 

 

 

 

その刹那、銀時の視界の端は白で埋め尽くされた。

逆に神楽は視界の全てが暗くなり、強いが苦しくはない力で身体を包まれていた。

 

 

 

「……神楽だ。あぁ、久しぶり、本当に。こんなに大きくなって……。」

 

 

 

大切そうに神楽を抱きしめながら、噛み締めるように言った言葉が店に響く。

声の持ち主――客が瞬時に移動したためか、反動で顔を隠していたフードがふわりとその背に移動した。

客の突然の行動に呆ける暇もなく、銀時と新八は驚きに目を見張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅髪、蒼目、そしてその顔立ちが神楽と他人とは思えない程に似通っていたのだ。

 

 

「っ、神薙!すっごい久しぶりヨ!」

 

 

神楽のこれまでの脱力した流れが嘘ではなかったのだろうか。そう思う程勢い良く抱きしめ返す様子に、深い仲であることが伺えた。

 

 

2人の外見の特徴と、何もやましい思いのない純粋な好意を感じ、銀時はある考えに辿り着いた。頭の中で再生される会話が駆け巡る。

 

 

 

 

『上にもう2人いてな。年子だからかいっつも一緒にくっついてたなぁ。1番上が嫁にそっくりなもんでよ。それに小っせェくせしてしっかりしてやがる。そんでヤツは家族とその他での扱いが激しすぎて……まあ、なんだ、排他的ってやつか?身内に向ける思いがぶっ飛んだガキだ。2番目はな、こいつがとんでもねェ性悪でよう。いや……性悪というか夜兎の血を忠実に受け継いだというか。闘争本能の塊のようなガキでな――』

 

「銀ちゃん!新八!紹介するネ、この人私の1番目の兄ちゃんアル!」

 

 

 

かつて聞いた海坊主の言葉と、抱きしめられながら嬉しそうに言った神楽の声が重なる。

 

 

 

 

1番目の……、ならこいつが排他的な方のお兄様か……。

 

 

 

かの星海坊主の嫁とやらもきっとこのように端正な顔立ちであったのだろう。神楽よりも少し大人びた顔立ちで綺麗という表現が似合う。神楽とこの兄もやはり似ているが、神楽はまだやんちゃさが顔にでている。

また腰近くまで編まれた紅髪、その顔立ちと背が小さいため華奢な印象を得た。

 

 

神楽より年上、男のくせにチビだな。

 

 

そして微笑みこちらを見るその兄の目に、値踏みの意味が込められていることはすぐに分かった。

 

大方神楽の雇い主として相応しいかの判断のためだろう。

銀時としては生憎期待には応えられそうもない。今だってろくに金銭を与えていないのだから。

 

 

 

「神薙です。妹がお世話になってます。」

 

 

「ん、坂田銀時、万事屋やってまーす。」

 

 

「神薙さん、神楽ちゃんのお兄さんだったんですね!」

 

 

「あ、騙すみたいな感じになってすみません。」

 

 

「いえいえ、あれはそもそも沖田さんが――」

 

 

 

 

新八と神薙が話す間、銀時はじっと神薙を観察する。

社交的、親しみやすさ、値踏みの視線は妹のためを思えば仕方ないと思うため、あまり排他的なものは感じられない。

 

 

むしろこちらに好感を抱いているような気もする。

 

 

しかし歯になにか詰まったような、小さい事だが1度気づくと気になる何かがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして気になる何かのと共に浮かぶのは郷愁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀時の師……松陽と()()()()()()()()の神薙に、銀時はどうしても懐かしさを覚えずにはいられなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

デパートでの残業(おかたづけ)はものの数分で終わってしまった。

あまり血生臭い匂いのしないこの国を思って、天に召すことはやめたのは適切であっただろう。

 

あとから来た警察の沖田君に攻撃を仕掛けてしまったのは申し訳ないが……。

 

 

中々見られない闘志の気だったからなぁ。思わず傘を使っちゃったし。

 

 

 

そんな沖田君は神楽に負けず劣らずの毒舌家であったが、神楽と友達であるため好ましいと思った。

いや、語弊がある。

沖田君へ神楽とは犬猿の仲と言っていた。

しかしなるほど、確かに性質が似ていればそうもなるだろう。

喧嘩するほど仲がいいとは的確な表現ではないだろうか。

 

 

事件の始末がついたら万事屋までの道案内をしてくれると言う。生憎しばらくは始末がつきそうにないだろう。脱げたフードを頭に深く被り、走り回る隊士達を見守る。

 

待たされても沖田のその親切を有難く思うため、仕事が終わるのを待つためにパトカーの車体に寄りかかっていた所だった。

 

 

 

 

「神薙さん、俺もうちっと時間かかりそうなんで、こいつに万事屋案内して貰ってくだせェ。」

 

 

 

「沖田さん、突然バズーカぶちかまさないでくださいよ。ちゃんと呼び止めれば良かったじゃないですか。」

 

 

 

げんなりとした様子でいたのは純朴そうなメガネをかけた少年。志村新八です、と名前を先に名乗り、真面目な印象を受けた。

彼は万事屋で従業員として働いているらしい。どうやら僕を客と認識しているらしかったため、どうせこんな身なりなら客という方が扱いやすいだろうと敢えて訂正はしなかった。

諸々の事情は省き、神薙だよ、と僕も名乗り返しておいた。

 

 

沖田君はどうやらそんな真面目メガネの新八君に僕を案内させようとしているらしい。

沖田君とここで会えなくなるのはなんだが勿体無い気もしたが、早く神楽に会いたいということもあった。

ならば彼の提案にのるのが妥当だろう。

 

 

沖田君と別れ、新八君について万事屋へと案内してもらう合間、彼からこの星――新八君は国と呼んでいた――について沢山聞いた。

 

ハキハキと話す姿に和む。前世と同じく最近はこんなに生きた人と接する機会がなかったため、思わず目元も緩む。

 

 

 

そうして到着した万事屋。

『銀ちゃん』と書かれた文字に、達筆だなぁと思う。

 

先行していた新八君はその中へと入って行ったがすぐに出てきた。

 

 

 

「すいません神薙さん、銀さんどっかに出掛けてしまったみたいで居ないんです。」

 

 

 

申し訳ないと眉をはの字に歪ませた彼に、こちらもなんだが申し訳なくなる。

 

そこで改めて気になっていたことを新八君に言った。

 

 

 

「んーとね、なんだかこの下の階に人の気配が2人分あるんだけど……。」

 

 

 

「あー、下はお登勢さんって方がスナックを経営してるんです。2人ってことは、そのお登勢さんと従業員のキャサリンかな?」

 

 

 

ふーん、と気のない返事になってしまった。

 

逆に心臓は静かに早鐘を打っている。

 

 

よくよくそのふたつの気配を観察して、片方はよく知ったものに似ていたためだ。なおかつ匂いが少し変わっていたとしても、間違えることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神楽は、この下だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確信に近い予感。

 

「新八君、僕、下もちょっと見てみたいな。こっち来て何も食べてないし。」

 

「はい、案内しますよ!」

 

 

 

 

その言葉と期待に身体が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スナックでは新八君のお目当ての人もいたらしい。

 

 

スナックの入口で何やら言い合う新八君。

恐らく店主の銀色さんだろう。父さんの頑固を崩した侍、今はその気配に欠片もないが。

そんなことより僕は先程聞こえた声にぎゅっと手を握った。

 

 

 

「メガネも疲れる時代が遂にきたアル……。」

 

 

 

その声音、以前の高く澄んだものよりも鈴の音のように繊細なもの。

 

 

 

別れたのは神楽がまだまだ幼い時だ。その時は神威も父さんも袂を分かちてしまった後で、母さんももういなかった。

そんななかで神楽を独りにするのは身を切られるように苦しいことだった。

しかし、当時の僕は()()()()()()()()()()()であったのだ。

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、神楽はその事を恨んでいるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

再開する直前で生まれた影は、途端に僕の脳内を暗く染めた。

 

 

 

 

 

 

つう、と背筋が冷える。

 

 

 

 

一悶着が終わり、新八君に中へと通される。

冷たくなった手を握りしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

まず視界に入ったのは銀色の男。

 

 

僕と正反対のその赤い目はのっぺりとした空気を醸し出していて、やる気がなさそうに見えた。が、その身体の奥の気配は強い芯があることは見受けられた。

 

 

 

 

 

重い頭を必死に支え、視線をずらせばその奥に僕と同じ紅髪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が見た時よりも成長し、大きくなった四肢。白い肌は変わらなく、顔立ちは母さんに似てきただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその蒼目が僕を捉え、大きく開かれたとき――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――僕は一気に神楽までの距離を縮め、抱きしめていた。

 

 

苦しくないように意識しても、力が入るのは止められない。

腕の中の妹が驚きで肩が跳ねたのに気づいていても、すぐに身体を離すことは不可能だ。

 

大きくなったが小柄なのは変わらない。

自分も男としては小さすぎるため、その点は共通している。

 

久方の家族の温度に先程の冷えた思考は溶かされていく。

 

 

 

「……神楽だ。あぁ、久しぶり、本当に。こんなに大きくなって……。」

 

 

 

絞り出した言葉は途切れ途切れで、か細い。

全く宇宙最強の戦闘民族野兎への印象が弱弱しいものになってしまうではないか。

 

 

 

「っ、神薙!すっごい久しぶりヨ!」

 

 

 

弾んだ声と共に小さかった手が僕の背へと回る。

 

あんなにちっちゃい女の子だったのに、僕の背に腕が回るくらいにも歳月が経ったのか。

 

少し寂しくも思うが、こうして昔と同じく神楽が暖かい反応を返してくれるのは嬉しい。

神楽のこの様子からして僕を恨むなんたらというのは取り越し苦労であるようだ。

 

 

ほんと良かった……、家族に嫌われるなんて前世だけで十分だ。

 

 

温もりを堪能している間に神楽が僕の事を紹介した。

腕は彼女に回したまま、銀色に自己紹介する。

 

 

 

「神薙です。妹がお世話になってます。」

 

 

「ん、坂田銀時、万事屋やってまーす。」

 

 

 

なんとも軽い。

 

 

はたして神楽の上司たり得るのかは疑問である。

本当にこの人は神楽を任せてもいいのだろうか。ずっと兄としての責任をほっぽっていた僕が言えたことではないけれども、やはり兄だからこそ妹は心配の対象なのである。

 

 

 

この男は父さんのあの話からするに信用には値する人間で、また心底優しい人柄であるのは分かっている。何しろ神楽が父さんと家へ帰るよりもここに残りたい、という気持ちを湧き上がらせたことにもこの銀色が大きな影響となったと聞いた。それは神楽の寂しさに濡れた心を拭ってくれたということである。

 

であるならば彼に好意と感謝こそ抱くにすれ、敵意や嫌悪を向けるなどさらさらない。

 

……それでもこの怠そうな様子に、どうにもどうしようもないダメ男臭がしてしまう。

 

 

 

 

少し懐疑的に銀色……銀時さんを見た。

 

 

すると力の入っていなかった筈の瞳が何やら揺らいでいた。目を細めているためか眩しそうにも、また感情を押し殺してる様にもとれる。

 

 

 

「神薙さん、神楽ちゃんのお兄さんだったんですね!」

 

 

「あ、騙すみたいな感じになってすみません。」

 

 

 

新八君の当たり障りのない話に微笑んで返答する。

 

 

そのまま神楽も交えて会話している中でも、銀時さんからの視線は感じていた。

 

 

 

その視線の揺らぎが何を意味しているのか。負のベクトルでないことは察せたが、僕は内心首を傾げることしかできなかったのである。




オリ主は人の気持ちを察するのは上手い方です。しかし銀時の懐かしいという心を解せなかったのは、オリ主が今の世界では『生きている』けど、前世では『生きていない』ため。昔を懐かしいと思うことがないためです。
今の世界での幼少期の記憶は懐かしいという過去として捉えていません。

そのためオリ主は銀時の気持ち、懐かしいと思うことはきっとこない。



次話は紅桜篇やろうかなーと思います。


お粗末さまでした( ◜ω◝ )


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