アクセル・ワールド~地平線を超えて (真ん丸太った骸骨男)
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第一話

初めまして。
真ん丸骸骨です。アクセルワールド好きなんで書き始めちゃいました。
でも、アニメと小説の六巻まで読んだだけ何で色々と時系列だとか、設定などまたはアバターの能力が突飛だったりするかもしれません。
ご了承ください。


子供の頃に思ったんだ――――――

あの地面から這い出る日の光の向こうに何があるのか――――――

もしかしたら、無くしてしまった物があるんじゃないかとも思った―――――

だから僕は走り始めた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(間に合え!)

 

僕は全力で走り抜けた。

上から落下する巨大な看板に向かって。

そして、未だ看板に気が付かず、歩き続ける女性の為に……

 

(間に合えッ!!)

 

目の前を歩く年上のお姉さん。

名前は知らない、歳も知らない、今この瞬間まで合った事すらなかった。いや、顔すら背中越しの為知らないのだ。

だけど僕はその人を助けたかった。

子供特有の正義感と、今まで大会を総なめにしてきた自身の足への自信から、僕は全力で歩道を駆ける。

 

(クソッ、気が付いた!?)

 

上からの不思議な音に気が付いた女性は、恐怖からかその足を止め、動けずにいた。数瞬後に逃げる為に走り出そうとしていたが、既に何もかもが遅すぎた。

そのまま気が付かづに歩いて行ってくれれば、距離を稼げたが、気が付いてしまった物はしょうがない。

ここで僕はさらに覚悟を固める。

彼女と僕の体格差は大きい。未だ成長期が訪れていない僕は小学生の低学年で平均よりも若干小さい、そして彼女は、多分小学校高学年で平均より背が高い、体格差はおよそ十センチ。

これほど体格差が出来ていれば、体当たりでも安全圏に二人ともいけるとは限らない。むしろ二人とも一緒に下敷きになる可能性の方が高いかもしれない。

 

(でも僕ならッ!!)

 

さらに加速を駆ける。

その足は、全力で走れば高学年の生徒を抜き去っている。

小さな怪我をさせてしまうかもしれないが、全力で当たれば安全な場所まで弾き飛ばせるかもしれない。

小さいけがは、この際我慢してもらうしかない。

 

(もっとだ!もっと加速しろ!!)

 

頭上は既に視ていない。

そんな暇があれば足を動かせ!見てしまいそうな心をそう言ってごまかし、心に焦燥感が溜まっていく。

だが、その不安と恐怖、さらには心に植え付けられていたトラウマから心臓がいつも以上に跳ね回り、コンマ数秒だが僕の世界を縮めさせる。

 

(よし!とどい―――――)

 

体全体で当たった感触の後、どうしようもない痛みと共に視点が地面と水平となり、意識が一瞬で断たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残念ですが、彼の足は、もう……』

 

それは僕にとって死刑宣告にも等しかった。

もう走れない。そう告げられた。

義足を着けれないかと母は先生に詰め寄ったが、僕の場合、脊髄を損傷したらしく、義足へと送る脳の命令が足まで届かないのだそうだ。

泣き崩れる母、それを支えながら一緒に泣いている父。

 

それから数日、僕は塞ぎ込み続けた。

走る事は僕にとって全てと言っても良かった。走る事が大好きで今までがむしゃらに走って、大会でも優勝や、新記録などを出し続けてきた。

心配して見舞いに来た監督や同じ学校の選手も僕が走れないと知ると最初は悲しんでくれたが、何日かするとぱったりと来なくなった。

見捨てられた訳ではないと分かっていても、もしかして失望されたかと考えると怖かった、評価が変わるのが怖かった。まだ、一部の人間にしか話していない事実であるのがせめてもの救いだが、多くの人間に知られれば心が潰れてしまいそうだった。

そんな時、僕の病室に小さなノック音が届いた。

 

「あの……入っても良いですか?」

 

次いで聞こえて来たのは女性の、それも知らない人の声だった。

不思議に思いながらも僕は入る様に促し、その女性が花束を持って入ってきた。

その女性は白いワンピースと鍔広の同色の帽子を被り、柔らかな目元が見ただけで優しげな雰囲気が伝わってきた。

しかし、やはりと言うべきか、彼女の事は記憶になかった。

 

「失礼ですけど、病室を間違えてませんか?僕、お姉さんみたいな綺麗な人知り合いに居ないんだけど」

「いえ、ここであってますよ。桐嶋駆(きりしまかける)君?」

「え?」

「別の病院に運ばれてしまったので、探し出すのに苦労しました」

「あ……」

 

そこでようやく合点がいった。

彼女は僕が体当たりをかました女性だ。

 

「良かった……。話には聞いていたけど、助けられて」

「ええ、あの時体当たりされた時に頭を打ってしまったので病院に運ばれましたが」

「うっ!?」

 

そうだ、あの時必死過ぎて気が付かなかったが、押された拍子に頭を打って深刻な事態になる事も十分にあったのだ。

 

「冗談です。……今日はお礼を言いに来ました。あの時は本当にありがとうございました」

 

彼女の微笑みに、僕は笑って返していた。

本当に久しぶりに、心からの笑みを浮かべる事が出来た。

何故だろう?不思議でしょうがなかった。

走れなくなったのに、夢が潰えてしまったのに、彼女はこちらの事情を知らずに、お礼を述べて微笑んでいるだけなのに。

 

そこではた、と気が付いた。

僕はただ走る事が好きなだけだった。

褒めて貰ったから走っていたわけでも、認められていたから走っていたわけでもない。夢と言うのも周りに流されて自然と大会などと言うようになっただけだ。

 

(彼女が笑って生きていてくれている、それだけで足を失った甲斐があるって物じゃないか)

 

何を腐っているんだ桐嶋駆!僕の走りが人一人を救っているじゃないか!そのように自分に気合を入れ、それを切欠に、駆は気持ちを持ち直して行った。

 

(そうだよ、僕はただ、駆け抜けたかっただけなんだから……)

 

それからしばらく、あの時の事、それ以外の事を含めて彼女を長らく話していた。

しかし、楽しい時間も長くは続かない。

彼女は話が一区切りつくと、立ち上がりベットに横たわる僕に迫るよう体勢になると一つの願いを口にした。

 

「言葉だけではなく、何かお礼をさせてください」

 

その体勢にドギマギしながらも、気にする必要はないと笑いながら返す。

だが、彼女は納得する事は無く、なおも言葉を重ね続け、その結果としてさらにベッドに迫ってき、駆を大いに混乱させた。

 

「だ、だったら、僕が退院するまで暇な時にお見舞いに来てよ。来てくれる人が少なくって退屈なんだ」

「はいっ、そんな事で宜しければ、私、毎日でも来ちゃいますね?」

 

倉崎楓子と名乗った彼女との関係は、僕が退院した後も、父の仕事の都合によって引越しをするまで続いた。

車椅子生活を一生強いられると知った時の彼女は、またこの時と同じように迫った来たのだが、その時も何かしらの条件を付け、納得をしてもらていた。健全な男として、女の子に迫られると混乱してしまうので、自分でも何を言ったのかは思い出せないが、その話の後から、いつも以上に笑ってくれていたのだから、おかしなことは言っていないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、引っ越してから数か月後……

 

「何故だ!?なぜ攻撃が当たらないんだ!」

「無駄さ。誰も僕を捕まえられない、捉えられない!僕は最速で駆け抜けるだけさ!」

「くっ!」

 

逃げ出そうとする人型のシルエット。

だが、その速度では逃げ切れない。

 

「僕より速く動くつもりかい?この『ホリゾン・ソニック』よりも!」

 

僕は、加速世界で再び足を手に入れた。

 




師匠が出てきたのは完全に僕の趣味です。
師匠可愛いよ師匠w
でもヒロインは決まっていないどうしよう、チユも大好きなんでチユも絡める予定です。黒×ハルが好きなんで、もういっそ先輩以外は取っちゃおうかな?ww

真面目な話。
この作品て、トラウマとアバターの関係性をうまく書かないとぶっちゃけ面白くないのですよね。
心理描写が苦手な私としましてはちょっと不安です。
いや、得意なのなんかないんですけどね?
長くなりましたが、これにてお開きとさせていただきます。応援よろしくお願いします。

追記:
最初の分は少し悪ふざけが過ぎました。
今後の展開次第ではありますが、ハーレム要素は含まれません。
勿論話を作って行く上で、幾人かとは仲良くなりますが、=フラグ、ではありませんでご安心ください。


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第二話

こんにちわ、真ん丸骸骨です。
二話目投稿です。楽しんでいただければ幸いです。



ブレインバースト、それは人から人へとダウンロードをする事でのみ手に入れる事が出来る一種のゲームアプリケーションである。その時コピー元の人物を親、コピーを貰った方が子と言うように呼ばれるのが一般的だ。

格闘対戦ゲームの形を取っているこのゲームであるが、自由度が非常に高く一昔前に流行したVRMMORPGと酷似していると聞く。

レベルと言う物まで設定されているのだから、その感覚は正しいと僕も思う。

ただ、このアプリケーションには二つの絶対条件が定められていた。一つは幼少期からニューロリンカーを装着している事。僕は共働きだった親が育児の省力化と言う事で幼いころからニューロリンカーを装着していたので条件をクリアしている。

そして二つ目、それは脳の反応速度がある一定値以上の人間であること。この二つ目の条件が超える事が難しく、また目に見えて達成しているかが解らない事とコピーできるのが一回きりである等がこのゲームのハードルを必要以上に高めている。

その結果ある程度コピーする人物の下見をする事が必要になってくるので、このゲームの人口はおそらくこのままある一定数を上回る事は無いだろう。

 

そして僕がそのブレインバーストを手に入れてからはや半年。

その頃になると僕にも可笑しな二つ名らしき物が付けられていた。

『暴走特急』『蒼い流星』『猟犬』ただ走る事のみを追い求め、逃げる敵をも執拗に追っていった結果として速度を象徴とする名前だ。

中には面白おかしく『メロス』等と言う名で呼ぶ者もいた。

しかし、僕はそのメロスと言う呼び方が一番好きだ。それは友情を守る者の名、裏切らない象徴、不屈の男の名前だから。

 

「おい、いつまでそうしてんだ?早く行こうぜ相棒?」

 

そう言って僕に声をかけて来るのは僕の≪親≫『アガット・フィスト』

赤茶色の装甲と全体的に丸みを帯びた細身の体躯だが、その右腕には特徴的な大きな拳が付いていた。

人の数倍は有ろうかと言うその手は彼の名の象徴フィストから来ている初期から装着されている強化外装。彼はポイント殆どをこの拳に費やしていた。

本来遠距離の赤系統でありながら近接を得意とする彼のその拳から放たれる必殺技は文字通り必殺の領域にある。2レベル差までならば、緑系統の装甲が無ければ九割は削ってくるだろう。

そこから転じて二つ名は『巨拳のアガット』と呼ばれる。

その反動か、移動速度は鈍亀レベルで少し動きの速い相手に当たると、文字通りサンドバックとなってしまう。

 

「解ってるよフィスト。でも今日はタッグで戦わない筈だろ?」

 

対する僕はホリゾンと呼ばれる青系統の近接型。

全体的に流線形なデザインを取っており空気抵抗が少なくなるようになっており、足先や後方に流れる頭頂部などは逆に鋭角的に尖っている。

背面にはスラスターがついており、それを利用した連続加速による突撃が必殺技となっている。

 

「俺が付いて行かないとお前は永遠とこのフィールドで走り回ってるか、旧東京タワーのてっぺんで寝そべってるだけだろうが」

「それの何がいけない!」

「キレんなよ!?怒りポイントが解らんわ!」

 

僕らはいつも二人だけ、レギオンには加入していない。

気ままに対戦をして、気ままにフィールドを歩きながら敵を見つけたら戦闘を挑む。

レベルはフィストが6で僕が7。

半年で7までレベルが上がった僕は、フィストとタッグで戦う事が多く、よく『最速ウサギと鈍足カメ』と呼ばれそれなりに有名だったりする。

 

「確か今日は黒のレギオンの幹部さんとやりあうんだろ?『鉄腕』スカイ・レイカー。ヤバい二つ名ばかりついてる奴だぜ?」

「まぁ、何とかなるだろ?この間は青のレギオンに殴り込み言って幹部クラスを何人かやったんだから」

「俺は遠くから観戦させてもらうわ。流石にこれ以上の上級者相手はきついしよ」

 

僕らのタッグの勝率は高い。

僕が敵の攪乱、または敵を捕らえ、フィストの一撃で確実に一人ずつ落としていった。最近はレベルが上がった事によってか、持ち運べる重量が上がったため、フィストを抱き高速で敵にぶち当たると言うのが必勝型だ。

だが、フィスト個人の戦績は負け続けと言う物で、彼自身6以上の敵は難しいと笑って語っていた。

その中で、僕個人の成績はこのところ負けなしで、まともに対戦相手を探す事の方が難しくなっていた。

喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか微妙な所である。

 

とりあえず、今のところ旧東京タワーのてっぺんで世界を見渡すのが趣味である。

変遷を経てステージが変わる瞬間が特に好きで、誰にも邪魔されず、遠くを見渡せるその場所には一回入れば必ず一回は訪れている。

丁度良く脱出用ポータルまで設置されているのでついつい長居をしてしまいがちである。

 

「フィストもアレ覚えればまだまだレベル上げられるって。……なんだっけ?黒の王とかが使ってた……」

「あぁ、柔法な。無理無理、俺にあんな器用な事できねぇもん」

 

確かに、と僕は頷かずにはいられなかった。

現実でもこちらでも、やること全てが荒く、せっかちな彼には、自分で言っておいてなんだが、繊細な動きは無理だろう。

 

「あぁ~、何か失礼なこと考えてそうだが……。まぁ良い、そろそろ目的地だ」

「そうみたいだね。……ねぇスカイ・レイカーって黒系統だっけ?」

「んな訳ないだろ?青の近接型で、お前と同じ足技をメインで使ってるはずだぜ」

 

そう、僕が聞き、知っている特徴もそれと同じものだ。

しかし、約束の場所に立つ一つのシルエットは黒い、そしてそれ以外には人影が見られない。

 

「おいおい……、マジかよ」

「生黒の王だ。あれ?レイカーさんは?」

 

目の前のアバターは混じりっけ無しの黒、目立つ四肢全てが剣と言う出で立ちの有名人。

純色の七王の一角、≪黒き死の睡蓮≫ブラックロータス。

僕が戦ってみたかった人間の一人だ。

 

「ん、来たか。すまない、レイカーは現実の方で電話がかかって来てしまったらしく今日は無理らしい」

「うぇ、マジかぁ。確かに対戦申し入れたのは何日か前だからこうなる可能性はあったけど……」

 

たかが数秒の時間消費だが、一時間もこちらに居れば向こう側では約三秒、電話をしていれば三秒も無言になっていることになるし、その話は聞こえていないのだから相手に失礼だろう。

 

「どうしようか?適当にエネミー狩って十ポイント分稼いで落ちようか」

「そだな。王と戦うのは周りがうるせぇから、またつぎのきかいに――――」

 

「いや、もしその気があるのなら、私がレイカーの代わりに対戦を受けよう」

 

「「え?」」

「いや、正直な話、私自身君に興味がある。出来れば君たちには私のレギオンに入ってほしいくらいだ」

「ん~悪いけど俺たちソロ、っていうかタッグでこれからも行くつもりだし……」

「ああ、勧誘を色々受けて全部蹴っているのは知ってるから、まぁ言って見ただけだ。……それでどうするかね?」

 

王自らからの勧誘に若干驚きながらも、僕らは二人で楽しむのだと決めていた。

それは彼女も解っていたのか、断った事に対してさほど気にせず、その剣の腕をこちらに突き付け、この後の事を聞いてきた。

そんなこと決まっている。

 

「んじゃ俺あっちいるから頑張ってくれ。開始は俺が必殺技を発動した時からな」

 

フィストはそう言うと遠く離れたビルに登って行った。

そして僕は屈伸で体を解し、そっと体をしゃがませ、所謂クラッチングスタートの態勢に入った。

ロータスは直立のままだが、片腕を胸の前に持っていく。

 

「それが君の構えか。聞いていた通り陸上選手みたいだな」

「僕の出来るのは速く走る事だけだからね」

 

静かに二人の間に緊張感が高まっていく。

そしてがフィストが登ったビルから赤い発光現象が見えた。あれは彼の必殺技の発動予備動作に入った証だ。

極限まで強まった光の後、大きな音と共に僕らは動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇ……、あれとはもうやりたくないな」

「おう、ナイスファイト!両腕飛んだ時はどうなるかと思ったわ」

 

戦闘終了後、三人で脱出ポータルまで移動し、そこで別れ現実に戻って来た。

目の前には人懐っこい顔でにこやかにほほ笑みかけてくる少年がいた。

赤い服を着た短髪のこの少年は僕の親、佐橋隆弘。

転校して最初に話しかけてきた友達で、親友と言えるまで仲が良くなるのにはそう時間はかからなかった。

 

「ありがと。でも楽しかったよ、心臓に悪い攻撃ばっかだったけど、思いっきり走れたしね」

 

先程の戦闘で斬り飛ばされた腕の幻痛がいまだ残っている。それを擦りながら、空が茜色に染まる中を、二人で歩いて帰路についていた。

ゆっくりと車輪を回しながら、隣を歩くフィストこと隆弘と先程の戦闘に話す。

 

「流石は王って所か。お前が翻弄できないのは久しぶりに見たわ」

「んな訳ないだろ?この間戦った赤ネコさんも、きっちり俺について来てたじゃん」

「ありゃ違うって。シェイプチェンジした走るの専門の動物体が、何とか喰らい付いてるって状況が既に可笑しいんだよ。その証拠に必殺使ったら追う事すら出来なかったじゃねぇかよ。翻弄とは違うかもだけど、キッチリ圧勝しとった癖に」

 

隆弘の言葉に、その時の対戦も思い出す。

あれはあれで、ロータスとは違った楽しみがあった。まさか加速世界の中で競走する事になるとは思わなかった。

人間が動物に勝てると言う貴重な体験をさせてもらった。

 

「大体、今日の戦いだって―――――」

 

そこで急に言葉を詰まらせる隆弘。それを不審に思い、彼の顔を見てその表情が非常に硬い事を確認した。何があるのかと、彼の視線の先を見ると、そこには自分達よりも一つ年上の男子生徒がいた。

名前は知らないが、確か同じ小学校のサッカーチームでキーパーとして活躍していた人の筈。

 

「わりぃ、俺急ぎの用事があったんだ、ここで先に帰るわ」

「ん、大丈夫だよ。あの人と何かあるの?」

「あぁ、俺の兄ちゃんだ。家の用事があったのすっかり忘れてたんだわ。あ、そうだ」

「え、何か――――」

「バーストリンク!」

 

話の途中で隆弘がいきなり加速した。

そして、気が付くと、僕との対戦が組まれており、僕は何か言い忘れた事でもあったのだろうかと首を傾げて彼の行動を待った。

少しして、両者のアバターが完全に作り上げられると、頭上にファイトと表示されタイマーが動き出した。

 

「わりぃわりぃ、帰る前にどうしても渡したいもんと言っておきたい事があったんだわ」

「だと思った。で?渡したい物って何?」

「あぁ、俺の強化外装『マキシマム・フィスト』をいったん譲渡しておこうと思ってな」

「はぁ~?」

 

まるで意味が解らない。

僕の戦い方と、彼の戦い方は正反対だ。

僕が攻撃を積み重ねていく事に対し、彼は一撃に全てを託すタイプだ。

 

「前々から思ってたんだ。お前の速さに俺の攻撃力が加わったらどうなるかって。今日だってお前、最後の方火力不足で困ってただろう?」

 

確かに僕の攻撃はどれも攻撃力が無く、こちらが数十発当てても、あちらが一発入れれば五分になってしまうと言う悲惨な状態である。それでも攻撃が当たらない為、今までの異常な速度でのレベル上げが可能だったのだがここに来て、王だけに限らず攻撃が度々当たる様になってきた。

その為、最近は短期決戦で圧倒してきたのだが、長期戦でちまちまライフを削る戦い方を強いられていた。それでも負け無しを貫いている僕に、隆弘は若干呆れているのだが。

 

「確かにそうだけど、それじゃ隆弘が戦えない」

「いやいや、何もずっとって訳じゃない。合わなきゃ直ぐに帰して貰っても良いしな。レベルも抜かれた俺が言うのもなんだが、それでも、お前にはもっと強くなって貰いたいんだ。お前の弱点である火力を俺が補えるんだったらこれほど嬉しい事は無い!」

 

僕は彼のその勢いに断わる事が出来なかった。

先程の固まった声色では無く、本当にそう思ってくれていると感じたからだ。

彼の代名詞であるその拳を受け取った僕は未だ納得のいかない面持ちで、それが顔に出ていたと思うのだが、隆弘は全てを遣り切った様に安堵のため息を付いていた。

 

「お。おい!僕、すぐに。一戦やったら直ぐに返すからな!!」

「あぁ、当たり前だ!それにな、これはゲームだ。楽しめなくなるのはダメだ、だから、怒って戦うとかなしな?」

「話がかみ合ってないぞ?ただのゲームで何で怒んだよ」

「アハハッ!そりゃそうだ!……でも、約束だぜ?」

「当たり前だろ。このゲームを始める時も、力を知った時も言っただろ?僕たちは何処まで行ってもこのゲームを楽しむんだ」

 

話が一段落ついた時、丁度対戦時間が終了。

そのまま現実時間に引き戻された。

その場で直結を行い、直ぐに譲渡を終えた。

 

「……」

「俺、思ったよ……」

 

現実時間に戻った僕らだが、隆弘は一歩前に出て、何故か悲しそうな表情を浮かべて、僕に別れの言葉を口にした。

 

「お前が王と互角以上に打ち合ってるのを見て。……このゲームをやってて良かったって。ただ悲しいだけじゃないんだって思えたから」

 

それは遊んで別れる友達同士の言葉では無かった。

それはまるで、今生の別れのような響きを持っていた。

 

「お、おい!?」

「お前は俺の誇りだ!その拳を、俺を頂点まで連れてってくれッ!!」

 

おかしい。そう感じながら、僕は彼にその真意を聞けなかった。

また明日がある、家族が待っている。そう自分に言い聞かせ、僕は呼び止める事をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、彼の決死の覚悟だったことに等気が付かず…… 




読んでいただきありがとうございます。
一応過去話を書いて暫くしてから原作にぶっこもうと考えてます。

だが、書いていた自分でも思うがこれは酷いww
しかし、自分にはこれ以上の内容が出てこないので、これからも妄想爆発させていこうと思います。


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第三話

どうも真ん丸骸骨です。
今大変驚いています。まさかこんなに評価とお気に入りに入れてくださる人がいるとは……
心意気ばかりで稚拙な文ばかりお見せすると思われますが、これからもがんばっていきます!


事件はその日の翌日に起こった。

いや、事件が起こったんじゃないのか。無くなったんだ。

僕と相棒の、今まで培っていた戦いの記憶も、二人でバカ騒ぎを向こうの世界でやった記憶も、ブレインバーストを通じて得た物すべてが、隆弘の記憶からきれいさっぱり消えていた……

 

「な、何を言ってるんだ?もう飽きたって……」

「ん?俺そんな可笑しな事言ったか?お前と一緒にやってたゲームに飽きちまっただけだ。次は違うゲームをお前とやろうって言ってるだけだぞ?」

 

どんなゲームか忘れちまったけどな!と笑う彼に僕は一つの都市伝説を思い出していた。

『ポイントを全損したプレイヤーはブレインバーストに関する記憶を失う』と言う、眉唾物の三流ホラーのような現象。たかがゲームが、人の記憶を消す筈が無いと言う思いが今までその話を信じずにいた。

だが、いくらブレインバーストの話をしてもなんだっけ?と首を傾げる隆弘を見ていると、それが現実なんだと思い知らされる。

だが、

 

(何でだ!?昨日まで全損するような程ポイントは減っていなかったはずなのに!!)

 

そう、彼はレベル6に相応しく膨大なポイントを保有していた。

それが一晩経ったらきれいさっぱりゼロとなるなどと言う事が本当にあるのだろうか?

そこまで考えて、昨日の彼の異常に思い至った。

自分の兄だと言うのにその顔を硬くさせ、別れ際に強化外装を渡し、極め付けにはあの表情だ。

 

そして気が付いた。

あの男だ。隆弘の兄だと言うあの上級生。

あれが隆弘の親で、そしてポイントを全部持っていった敵だ!

確証は無い、だがそうとしか考えられないのもまた事実だ。

 

「ちょっといいかな?」

「ん~兄貴?どうしたんだ?学年違うのに」

 

と、そこまで考えていた時、教室の外で男が隆弘を呼んだ。

それは隆弘の兄、その彼は隆弘に二三言葉を交わすと僕の方に近寄ってくる。

隆弘と話している時の表情とは違う、こちらを完全に見下したかのような表情。その表情は一瞬で潜められたが、僕はその表情に怒りが沸々と滾って来た。

 

「やぁ、初めましてかな?駆君。いや、ホリゾン・ソニック?」

「あなたが隆弘の親だったんですね。そして、隆弘のポイントを……」

 

お互いに小声で会話をする。

だが、これ以上は周りが聞いていると言って場所を変える事になった。

 

「さて早速だが……」

 

誰にも見られない場所に行くと、彼は先程も見せた完全に見下した表情を浮かべて、偉そうにこちらに命令を下した。

 

「貴様のポイントを全部寄越せ」

「僕がそれをするいわれは無いけど?」

 

あちらが本性を出したと同時に、僕も苛立ちを隠す事無く語気を強くして言葉を放つ。

その言葉を聞いてもなお態度を変えず、解っているとばかりに小さく鼻で笑う。

 

「お前のリアルの情報を流す」

「バカかアンタ?そんな事をすれば僕もやるって事解ってる?」

「お前はしないさ。いや、出来ないが正しいのか?」

「なに?」

 

そう言って彼は、空中に手を翳し、何やら動かし始めた。どうやらニューロリンカーで何かを準備しているようだ。

次いで僕に一つの映像ファイルが送られてきた。

これが如何したのかと彼を見ると、軽く首を動かした。見ろと言う事だろう。

 

「なっ!?」

「如何だ?綺麗に取れてんだろ」

 

 

その映像ファイルに入っていたのは、相棒であり親であるフィストが、ただ棒立ちになり複数のアバターに一方的に嬲られている動画だった。

その映像に作成日時は昨日の深夜。

つまりこれは、フィストがポイントを全損した時の映像と言う事になる。

 

「あんた……自分の弟だろうがッ!!」

「だから?別に死んでしまった訳じゃないだろ。お前も今日も楽しく話をしていた。あいつは加速の力が要らないと言った、だから俺が貰った。それだけだ」

 

僕が歯ぎしりしながら睨みつけていると、さも面白いものを見たかのように歪んだ表情がさらに歪んだ。

 

「いやいや、意外と簡単に諦めてくれたよ。あいつには手を出すなってさ。ハハハッ!」

 

僕はその言葉で息を詰まらせる。

こいつはもっと早く僕のリアルを割っていたのだ。自分の弟と長時間一緒に居れば、いやでもあちらでもつるんでいる僕と重なると言う物か。先程の言葉からするに、彼はそんな僕にリアルアタックをしようとしていたのかもしれない。

そしてその事を気が付いた隆弘は自分のポイントと引き換えに手を引かせようとした。

親として、そして親友として僕を何としてでも守りたかったのだろう。隆弘のその気持ちに、胸が締め付けられる気分だった。

 

「簡単に言うと、この映像通りの事が現実でも起こるかもって事だよ。さぁ、答えを聞かせて貰えるかな?」

 

それは脅迫。穴だらけの計画だが、小学生に向けるには十分以上の威力を持っているだろう。

だが、彼は解っていない。

いや、信じて疑わないのだろう。自分が圧倒的に有利にいると言う事を。

 

「……解った。今日の午後五時、場所は学校の無制限フィールドで僕を無限PKすればいい」

 

脅しをかけ諦めたと考えたんだろう。

彼は高笑いを浮かべながらその場を後にしていった。

人数で上回っているから、人質を取っているからと安心して今日フィールドに全ての仲間を連れて来るだろう。

 

だから解らせてやろう。

 

「どちらが獲物か……」

 

その時の僕はどんな顔をしていただろう。

ただこの時、僕は加速世界で対戦をするのは最後になるだろうと勝手に決めた。

友達を守れず、約束を破り、怒りのままにその場に来た人間すべてを全損に追い込むつもりだからだ。

 

「だから、許さないでくれ……」

 

誰にともなく、僕は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。それじゃ、お前はそこで立ってろ。一人ずつお前のポイントを削っていく」

 

 

目の前にいるリンカーは十数名、色取り取りでどうも目がチカチカする。

言われた通りに、その場に棒立ちとなる。

勿論やられてやる訳は無く反撃の気を待っているだけだ。人数が多い敵をやるならば一気に殲滅するのが効率的なのだが、僕には広範囲の殲滅攻撃は無い。

なので奇襲で混乱を誘い、そこを糸口に一気に数を減らす。

真正面からやっても負けはしないと思うが、流石に被害を受けてしまう。それに逃げられてしまえばリアルの自分もそうだが、自分を思ってポイントを無くした彼にも被害が飛ぶ、それだけはどうしても避けなければならない。

 

「んじゃ、俺からいっただきまっすよっ!!」

 

手に持つ棍棒を振り上げる青系統のアバター。

純色からは遠いが、その巨躯から落とされる威力は計り知れない。

僕はその攻撃が振り下ろされると同時に懐に飛び込んだ。

 

「はっ?」

「シッ!」

 

大振りで振り下ろされる棍棒を持つ手には大きく輪の様な隙間がある、僕はその隙間に足を思い切り打ち上げ顎を打ち抜いた。

頭の攻撃は他の部位に比べて高い攻撃判定がある。レベル差もあったのか、その一撃でそのアバターのHPバーの三割削り、そこから間髪入れずに踵落としを繰り出した。

 

「がッ!?」

「来いッ!『マキシマム・フィスト』ッ!!」

 

よろめき堪らず後退したアバターに、隆弘から譲り受けた強化外装『マキシマム・フィスト』を大振りで殴りつけた。

その攻撃で残っていた五割のHPは一気にゼロまで持って行かれ、そのアバターはその場に一瞬にして霧散させた。これであと一時間は彼の出現は無い。

 

「な、な!?お前、リアルの自分がどうなっても良いのかよ!!隆弘がどうなっても良いのかよッ!?」

「やっぱあんたバカだ。ここでアンタら全員をポイント全損にすれば、リアルの僕も無事だし、ましてやポイントの無い隆弘は狙われる事さえない」

 

現実の方に仲間が待機していれば話は別だが、そうであってもポイントが無い隆弘を態々狙う必要はない。

 

「クッ!怯むことはねぇ!相手は一人だ、囲んじまえばどうにでもなるっ!!」

「それは大抵やられ役の台詞だよ」

 

首謀者である緑系統のアバター、隆弘の兄に向かって、一瞬で距離を詰めると、フィストの腕で彼の頭を掴み、全力で駆け擦り廻った。

 

「あ、がっ!?ごおっ!!」

 

赤系統の遠距離攻撃は僕が彼を掴んでいる為に撃てず、近接型はそもそも速度に着いて来れず、ただ彼のHPが減るのを見ている事しかできなかった。

やがて、手に持っていた彼が体力が尽きて霧散すると、僕はそれまでに溜まっていた必殺技ゲージを使い、さらなる高速移動を始めた。

こうなってしまえば永久機関だ。

走った時の衝撃波にまで当たり判定があり、ゲージは絶えず溜まっていき、減る速度と堪る速度が拮抗した。

フィストからはゲームバランスのぶち壊しと言われていたが、今この時においては感謝すらしている。

 

「さぁ、狩りを始めよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……クッ!」

「ひッ!?も、もう止め――――」

 

どれぐらいの時間、戦い続けていただろうか、既に意識は朦朧としている。

だが、一緒にいたPK仲間らしき人間は逃がす事無く一人、また一人とその数を減らして行き、ついには目の前の男一人となった。

残ったのは緑系統の装甲を持ったアバターで、運命か、または天罰か、どちらにせよ隆弘の兄が残された。

皆一応に復活した端から消して行っているので彼が一番ポイントを持っていた事になる。

こいつが隆弘からポイントを一番吸っていたのかと思うとタダで消すには勿体無くも感じてしまう。

だが、こいつの最後の消し方は決まっている。

 

「消えろ。これでお前も一般人に戻る」

「や、止めろッ!?俺はまだ大会が!この力が――――」

「ヒー……ト」

 

頭を掴み持ち上げる。

彼の両腕両足は既に破壊している。彼は何も成す術もなくこの技を受ける事となる。

光と共に感じる熱量の増大、これがフィスト最大の必殺技。

 

「やっ――――――!?」

「エクステンドォォォォッ……!!」

 

溜まっていた必殺技ゲージをすべて吐き出し、圧倒的な爆発力が彼らを中心に発生した。

それは赤系統に相応しい程の火力で、中心地から十メートルの範囲を根こそぎ吹き飛ばした。

 




後何話かで過去話は終了になります。たぶん……
こうなったらいいなぁ、と言う骨組みにもならない物は頭にあるんですが、それを文章に出来ていない現状。
とてもお恥ずかしい(-_-;)
それでは以上で終了となります。
お付き合いいただきありがとうございます!


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第四話

こんにちわ、真ん丸骸骨です。
物凄い勢いで登録してくださる方が増えております!
少し目を離した隙に気が付けば三ケタ……いったい何が……



学校の授業が全て終わった夕暮れの教室から、グラウンドを眺めて少しの寂しさを感じていた。

その窓から見えるグラウンドでは数名の少年がゴールネットに向かってボールを蹴っている。

その中には、隆弘とその兄が混じっていて、二人は楽しそうに笑っていた。

元々あれほどまでに仲の良かった兄弟をブレインバーストが歪めてしまっていたのだろう。

 

(これが一番良かったんだよね……)

 

記憶が無くなっても、隆弘とは友達のままだ。

だが、親友と言えるかは微妙な溝が出来てしまった。彼との友情はその殆どを向こう側での事だ。

彼は変わらずに話してくれるが、どこか会話にもズレが生じるし、彼自身兄と同じでサッカーをひたすらにやるようになった。

大切な友達だが、もう、あれほど仲が良くなる事は無いと思う。

それは純粋に趣味の違いもあるし、僕には後ろめたい気持ちがあるのだと思う。

 

(助けられなかった。彼との約束を破ってしまった……)

 

怒りのままに相手を倒し、ポイント全損に追い込んだ。

それは誰にも知られていない事であるが、ずっと僕の心にシコリを作っていた。

精神的な一助として、全力で走れるブレインバーストを捨てる事は出来ないが、誰かと戦うと言う事は出来ない。

最低限ポイントを補充するためにエネミーを倒して回る以外はもう、この力は行使しないだろう。

 

「さってと、明日の為に今日は帰って寝ようかな」

 

そんな中、僕は現実世界でも未だ走り続けている。

足が使えないなら手を使えばいい。まるで子供の「ご飯が無ければお菓子を」な理屈だが、僕は子供だから問題なし。

と言うか、現に車椅子を使った競技はしっかりと存在するのだ。

僕は今からそれに向けて競技用の車いすまで手に入れて練習をしている。

そして明日は、ちょっとした刺激を得る為に、僕と同い年くらいの少年少女たちの陸上大会を見に行くのだ。

元々走るだけでなく走っている姿を見る事も好きだった。

近くで陸上競技が行われれば欠かさずに見に行くほどの熱中ぶりである。

 

「じゃぁな。相棒」

 

それは一人だけが知る決別。

遠くに見える同い年の少年を見て、僕は告げる。

そして、今日から僕はカラカラと車輪を回し一人で帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がんばれええええーーーー!!」

「一番取れよおお!」

 

そこには熱気が満ちていた。

陸上の大会で、既に下でスタンバイをしている数名の少年達。

もっとも、一番熱くなっているのは選手では無く、観客席の父兄たちなのは、この手の大会の習わしのような物だ。

 

「さて、『ダイレクト・リンク』」

 

昼の休憩時間。

昼ご飯を食べた後、周りは友達、親などと会話をしているが、僕は一人で来たためこの時間はあまり居心地はよくない。なので、この試合会場のローカルネットにフルダイブを行い、時間を潰す事にした。

ダイブした先はメルヘンチックな森の中。市や、国が公開しているようなローカルネットは大体が同じ様なエディタである。

僕はその中を白いウサギで、瞳の色だけを薄い青に変更したコミカルな姿で歩く。

 

「試合の時は見てるのは楽しいんだけど、この時間は如何もなぁ……」

 

そこは見回しても、人は疎らで人口密度は現実の会場と9:1位だろう。

それでもこの空間に人がいると言うのは、流石はネットワーク世代と言うべきだ。

 

「……ん?なんだろ?」

 

その密度が低い中で、視線の端で何かが横切るのを捉えた。

光に反射して白く煌めく毛をしている何かの動物のようだったが、大きさは実物大の人のようでもあった。

丁度現実の僕と同じくらいの身長であるので、出場選手なのかもしれない。

何故だか解らないがその後ろ姿が気になった。

それはこの空間で急いでいたからなのか、そのアバターが他と少しいじり方に念を入れていたからなのか、もしかしたら微かに見えたその切羽詰った横顔が気になっただけなのかもしれない。

 

「行って見るかな……」

 

表に出ていないだけで隆弘の事を引きずっているんだろう。

そのせいか、どうも人恋しくなっているのかもしれない。

ウサギらしくテチテチと小さな歩幅で人影が消えて行った区画に入る。

 

「確か、こっちだと……」

 

しばらく進むと、森がだんだんと暗くなっていく。おそらくこのローカル・ネットの端が近いのだと思われる。

この明るい森の中で、好んで暗い場所を目指す人間は少ないだろう。お蔭で探していた人物はすぐに見つける事が出来た。

体育座りをして小さくなっている後姿を見つけて近づいて行く。

近づいてみて初めて分かった事だが、その毛は白ではなく銀色のアバターで頭の上に綺麗な三角の耳が付いており、その手足には愛らしい肉球グローブが装着されていて、その背中からはゆらゆらと尻尾が揺れていた。

 

ここまで来た以上、何もしないで帰ると言うのは論外である。

とにかく僕は話しかけてみる事にした。

 

「こんにちわ、猫さん。こんな所で何をしてるの?」

「ふぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は私のやっていた陸上の大会の日だ。

その日にはもちろん仲良しの幼馴染も応援に来てくれる!ママなんて張り切っちゃって、お昼ご飯に重箱を用意するからって言っていた。

私はそれに呆れながら、期待されていると気を引き締めて行かなくちゃと心に強く言い聞かす。

みんな口々に言ってくれる。

 

「チユなら絶対一番だ!」「チーちゃんなら大丈夫だよ!」「親戚のみんなに自慢しちゃうから!」

 

嬉しかった。

応援してくれているのはママや幼馴染だけじゃない、学校の先生は大会での監督だし、選手に成れなかった生徒も何人もいる。

そんなみんなも言ってくれる。

 

「出れない私たちの代わりに勝ってね!」「いつも通りやればお前なら勝てる。頑張れよ!」

 

だから私は勝たなくちゃいけない。

応援してくれた人たち全員に、いつも通りの満面の笑みで返して、私は午前の部で走った。

結果はあまり芳しくなかったが、何とか決勝にコマを進める事が出来た。

 

だけど、だんだん不安が募り始めてきた。

勝たなくちゃ。期待されてるんだ。

ハルが聞けばチユのくせにって驚くだろうけど、私だっていろいろ考えるんだ。

そんな気持ちで迎えたお昼御飯も、なんだか喉を通らなくて、あまりおいしく感じなかった。

自分がこんなに緊張するなんて思わなかった。

 

「どうしたのチユリ?あんまり食べてないじゃない」

 

ママが心配そうに私に話しかけてくる。

 

「ううん。大丈夫だよママ。わ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

ママたちに何でもないように笑いながらその場から離れてる。

心臓がドキドキいってる。気持ち悪くもなってきた。

こんなんじゃまともに走れないや。

 

私は少しでも気持ちを落ち着かせようと一人になろうとしたが、周りからの声が大きくて、なかなか落ち着いて過ごすことが出来なかった。

だから私は、この会場のローカルネットに接続して、人が居ない所に行くことにした。

でも、そこにもやはり人はいて、必然的に私は誰もいないであろう隅の方へと向かう事になる。

 

「なにやってんだろ、私……」

 

体育座りになりながら、小さな声でつぶやいた。

何故か瞳に涙が堪った気がした。鼻の奥がツーンとした嫌な感覚もして、現実の私は涙を流しているのだろうと他人事のように思ってしまった。

 

その時私は出会った……

 

「こんにちわ、猫さん。こんな所で何をしてるの?」

「ふぇ?」

 

真っ白な毛をしたウサギさん。

優し気な雰囲気を伝えてくるような薄い青い瞳が私に微笑みを浮かべていた。

 

「う、ううん、何でもないです。た、ただこっちに何があるのかなぁ~って」

 

私は何時ものように、陽気な笑みを浮かべて何事も無いように笑った。

 

「うそでしょ?」

「え……?」

 

男の子なのか女の子なのか解らない声色で、しかし表情は先程から変わらない笑みで私の言葉を否定した。

 

「猫さんの顔を見て思い出したけど、猫さん、さっき走ってた子だよね?とっても頑張ってた」

「う、うん」

「その時も、今もだけど、君とっても辛そうだよ?」

「そんなこと――――」

 

無いと言おうとした。

でも、私はそこで言葉を詰まらせた。

なんで?辛くない、だってみんなが応援してくれて―――――

 

「応援とか……」

「ッ!?」

「応援とか期待ってさ、力になる事の方が多いけど場合によっては重すぎるって事があるんだよね。一人になりたかったのかな?」

 

言われて初めて自分が感じているこの気持ち悪さを理解した。

でも、それが解っているのならなぜ話しかけて来たんだろう?理解したら余計に一人になりたくなってきた。

幸いまだ出番まで時間はあるのだから、そっとしておいてほしい。

 

「でもさ、一人になっても解決しないんだよね。そういう緊張とか、圧迫とかって」

 

何が言いたいのか解らない。

だから私は押し黙った。次に言われる言葉に備えて。

 

「まぁ、そう言ったストレスって友達とか、知り合いには話し辛いけど、僕じゃ助けになれないかな?」

 

初めて会った人に悩みを打ち明けるなんて出来る筈が無い。

そう思っていた筈なのに、いつの間にか私はぽつぽつと話し始めていた。

その愛らしい姿から、家にあるぬいぐるみに話しかけるような感覚だったのかもしれないが、一番の理由はたぶんこの人の口振りが私と同じ体験をしたかのように聞こえたからだと思う。

 

彼(?)と並んで座り、しばらくして話し終えると、彼は私に向かって変わらない笑みで話しかけた。

 

「良い家族、それに友達じゃないか」

「うん、私の大切な人たちだよ」

 

そう、別に私はみんなの事を嫌いな訳じゃない。むしろ大好きだ。

だからなおさら――――

 

「なおさら、楽しまなくちゃね?」

「え?」

「走る事、好きなんでしょ?」

「うん……」

 

顔を伏せながら私は答えた。

 

「みんなが応援するのはさ。きっと、君の楽しく走る所を見たいからなんだよ」

「そうかな……」

「もちろん!それに……」

「なに?」

 

今まで話していて初めて言葉を躊躇っているふうに感じた。

 

「僕も、君が楽しそうに走ってるのが見てみたいんだ」

 

照れているのか、小さな手でその可愛らしい頬を掻いていた。こんな人形があったらお持ち帰りしたい。

その愛らしい動きと今まで相談に乗ってくれていた大人びた印象とのギャップで私はつい笑いを吹き出してしまった。

彼はそれを咎める事無く、不思議そうに首を傾げるだけだった。

それがまた私のツボに入ってしまって、しばらく笑い続けた。

 

「あはははっ!あ~、面白かった~」

「ん?良かったね?」

「うん!そうだよね、私は楽しかったから走ってるんだもん。それにプレッシャーで落ち込むなんて私らしくもない!」

 

やる気出てきた!こうなったら全力で楽しんでやるんだから!

そうと決まったらここで暗くなっていてもしょうがないよね。

 

「それじゃウサさん。相談のってくれてありがとう!お礼は試合で見せてあげるんだから!」

「うん、頑張ってね、猫さん。猫さんも行くみたいだし、それじゃ僕も落ちるね?」

「あ!ちょっと待って!」

「ん?何?」

「ここで名前を聞くのはマナー違反だから聞かないけど……。試合が終わったら、また会ってくれないですか?」

「そう、だね……。うん、いいよ。それじゃ、終わったらまたここで良いかな?」

「うん!ありがと!走りでお礼するって言ったけど、ちゃんとしたお礼もその時に言うからね!ちゃんと来てよ?」

「もちろんだよ。それじゃ、がんばって」

 

私はその場からすぐにリンクアウトした。

そして徐に立ち上がり、ママたちが待っている場所まで走っていく。

さぁ!頑張るぞッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、頑張ってね猫さん」

 

現実に戻り、本日最後のレースを観戦する。

そしてレーンの三列目には猫さん、選手の紹介によれば倉嶋千百合と呼ばれる少女の姿があった。

だが、僕は変わらず猫さんと呼ぶことにした。

やはり一方的に知っていると言うのは両方にとってあまりよろしくない。試合が終わった後、もう一度会う約束もしている。名前はその時にでも言っておこう。

 

「ヨーーーイッ!」

 

パンっ!と言う軽い音と共に、五人の少女たちは一斉に走り出した。

心配していた少女の顔には真剣でありながら笑みもあり、見ていて安心できる試合だった。

そしてその顔は、走りきるまで曇る事は無かった。

 

「ナイスランッ!」

 

一着にはなれなかったみたいだが、それでも入賞まで届いたのだ。

それだけでも十分な頑張りだ。僕は小さくその頑張りに声援を送った。

僕の声など聞こえてい無い筈だが、猫さんは観客席の方に向き直り大きく息を吸った。

 

「ウサさ―ーーーーんっ!!私ッ!楽しかったぁーーーーーッ!」

 

その奇行に周りの人たちは首を傾げている等をしていたが、僕は一人天を見上げて苦笑いを浮かべた。

そして授賞式になり、猫さんは一番小さな段に上り、賞状などを貰った。

そこまで見終わった僕はそそくさとその場を後にし、先程と同じ場所でまたネットに入る。

 

 




チユちゃんは陸上部だから小学生でも大会ぐらいあるだろうと書いてみた。
原作突入はもう少し。
それではお疲れ様でした!


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第五話

どうも真ん丸骸骨です。
今回は会話回です。それとも説明回でしょうかね?
中々戦闘や華々しい展開にならないです。


「こんにちわ!また連絡してみました!」

「やぁ、チユリちゃん。どうしたんだい?」

 

あれから僕のリンカーには、度々彼女から連絡が届くようになった。

簡単な愚痴やちょっとした相談、果ては解らない勉強の事まで聞いてくることがある。

勉強については頭のいい友達がいるのでそれ程でもないが、その友達が剣道をやっているらしく、大会などの前後では必ず僕の所に連絡が来る。

今はメールではなく、ダイブコールと言う仮想空間でアバターを用いて会話をしている。

 

「そうそう聞いてよウサさん!タッ君とハルがね――――」

 

このタッ君と言うのが彼女の言う頭の言い剣道初年の事である。彼女の話では彼と付き合っているらしい。

小学生である僕としては、付き合うと言う事がどのような事なのかまるで分らないのだが……。

まぁ、それは彼女も同感らしく、未だ仲の良い友達の延長線としてしか考えていないらしい。

それはそれでそのタッ君が可哀想に思えてしまう。

ハルと言うのも彼女の親友で、どうも彼の言葉で付き合う事を決めたのだとか。

 

「ちょっと?聞いてるウサさん?」

「うん、大丈夫。タッ君から言われた事にカチンときたチユリちゃんがどのように報復してやろうかと言う話だったよね」

「違うよ!?まったく、一個も合ってないよ!?」

 

ちなみに彼女は僕の名前を知っているが、実名で呼ばないし、顔も知らない。

最初に会ったのがこの状態であったから、と言う理由から連絡方法がメールかダイブコールかのどちらかと暗黙の内に決まったのだ。彼女曰く、その方がシックリ来るのだとか。

 

「まぁ正直な話、僕にもどうするべきか、なんて答えは出せないよ」

「そんな……。私、また三人で遊びたいだけなのに……」

 

今日の悩みと言うか、相談事は大変答え辛い内容だった。

いつも遊んでいた三人が最近疎遠になって悲しい、とだいぶ苦しそうな苦笑いを浮かべていた。

タッ君の告白から始まり、ハル君がそれを受ければいつも通りだと言った。

しかし、結果はハル君が自分から距離を取り始め、タッ君はそれに気がついても無理に近づこうとしないらしい。

 

今までは同年代であっても精神年齢的に彼女らよりも上であると言う自覚が有った為、割と的確に悩みを聞いていたつもりだが、事恋愛やその他友人関係の複雑化などは経験が無ければ、知識としてそう言った問題は本人たちでしか解決できないと知っている。

何と言えばいいのか、まるで見えてこないのである。

 

「ただ僕が言えるのはチユリちゃんが本当に大切に思ってる友達なら、いつかちゃんとまた一緒に居られるよ。……一緒に過ごした時間をちゃんと三人で共有してるんだから」

 

だから、今の僕にはこんな気休めの言葉しか掛けられない。

だが、その中で僕も信じている。同じ時間を過ごした記憶があるならば、いつかはちゃんと笑いあえると。

二度と共有できない思い出は取り返しがつかないが、彼女たちはまだ繋がっているのだから。

 

「……うん、私、頑張ってみるよ。タッ君にもハルにも、もっとガッツリ食いついてやるんだから!待ってなさいよぉぉ!!」

 

僕の言葉をどう受け取ったか解らないが、彼女は立ち上がり、おもむろにガッツポーズを取って吠えだした。

結果はどうなろうと、やはりこの銀色の猫さんには、挑戦的な笑顔をが良く似合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?珍しいな。こんな所に先客がいるなんて」

「あなたは……。まぁ、メロスさんですね」

「……嫌いじゃなかったけど、今はその名前で呼ばないでほしいな」

 

(そうだよ。僕はメロスになれなかったんだから……)

 

久しぶりに旧東京タワーの頂上に僕は足を踏み入れた。

その平らに整地されている場所に今日は僕以外の客がいた。

しかもそのアバターカラーはスカイブルー、スカイ・レイカーだ。

色が重複する事は無くは無いので、彼女が僕が知る人物と同一であると言う保証は無かったが、このタワーの頂上に居ると言う事実から、疑似飛行が可能な彼女で間違いないと言う結論に辿り着いた。

しかし、その姿は、物騒な二つ名付きで噂される古参の高レベルリンカーの姿は何処にも無くて、大切な何かを失ってしまったかのようなそんな姿。

 

「そうか、確かネガ・ネビュランスは……」

「はい……、解散してしまいました」

 

それは加速世界に居る人間ならば誰もが知っている話だ。

事の始まりは7人いるレギオンを率いる王と呼称される人たちのその全てが同時期にレベル9に到達した事に端を発する。

レベル10に到達する為にはレベル9同士が戦い、5人討ち取らねばならない。

そしてこの場合一番重要な問題はレベル9同士の戦いは問答無用でデスマッチとなる事だ。

たった一回の戦いで全てが失われる。

それを是としない王たちが話し合いの場を持ち、休戦協定を結ぼうとしたのだ。

だが、その休戦協定は結ばれる事はなかった。

 

「まったく無茶な事をしたものだね」

「私はそうは思いません。確かにロータスのした事は褒められる事ではなかったかもしれませんが……」

 

その会談の場で黒の王ブラック・ロータスが赤の王レッド・ライダーを不意を突き討ち取ったのだ。

バトルロイヤルモード状態であった為、ライダーはあっさりと加速世界から退場し、しかしそれ以上は残りの王たちに阻まれ、ロータスは王を討ち取る事が出来なかった。

 

「いや、僕が言う無茶は、会談の場での事じゃないんだけど。むしろ僕の様に無所属組は割と肯定派も多いんだよ?」

「……理由を聞いても良いですか?」

「簡単だよ。僕たちはゲームの停滞なんか望んでないんですよ」

 

自分で言った事だが、何と心に響かない文句だろう。

自分は戦う事を放棄しているくせに、どの口でそんな事を言うのだろうか。

だが、僕が言ったのも、肯定派の事実でもある。彼らはレギオンと言う庇護を受けない代わりに、レギオン所属の者たちよりも自由だ。

彼らの多くは、何よりも楽しんでこの世界に降り立っている。

 

「僕が言う無茶っていうのは、君たちレギオンが帝城に挑んだ事ですよ」

 

ネガ・ネビュランス解体の原因。

帝城攻略戦である。

帝城の奥に行けばゲームクリアが出来る、多くの人間が噂をするその情報は、大衆心理故に真実味を帯び、後が無くなった黒のレギオンを動かすに至った。

 

「無茶、ですか。私達には勝算があったからこその行動だったんですけどね」

「無茶ですよ、どう考えても。仮に神獣級四体だったとしてもギリギリでしょう。それ以上の個体を相手にどうにかできる筈が無い」

 

巨獣級と神獣級に十倍ほどの強さの幅があるのなら、同じ様に神獣級から超級にもそれと同等か、それ以上のステータス幅が用意されてしかるべきだと僕は思う。

そうしなければならないほど追いつめられた状態だったのだろうが、参謀がいるならば、確実にそこまで考えて行動をするべきだった様にも感じてしまう。

むしろ、そうなるように仕向けた人間が居るのではと勘ぐってしまうほどに。

 

「……すみません。少し言い過ぎたかもしれません。時には感情で動く事だって大切な時もある。当事者ではないので詳しい事情は知りませんが、今回がそれだったのでしょう」

 

合理的に動けば全てが上手く行くと言う訳ではない。感情を優先させるか、効率を優先させるか、その配分を上手く出来る者が上に立つ人間だと僕は思う。

今回の事件は、その配分が奇跡的に最悪の結果を招いたに過ぎないのだろう。

一度しか話をした事は無いが、僕の知るロータスは短い会話の中でも知性を見せ、ただの考え無しの人物ではないと強く感じさせたのだから。

 

「気になさらないでください。……もう、終わってしまった事ですから」

「そうですか……。あれ?そう言えば、その車椅子はなんですか?」

 

自分で話を振っておいてなんだが、暗くなりすぎた為、少し気まずくなり、僕は話を強引に変える事にした。

強引と言っても、ずっと気になっていた事なので、それほど違和感は与えないと思う。

 

「これですか?これはこれからの私の足ですよ。ほら、ご覧の通り……」

「足が……ない?」

「空を飛ぶために、私は歩く事を放棄し、重量を減らす事でもっと高く飛ぶことを試みました。しかし、ここまで飛ぶのが私の限界みたいです。……でも、ここからの景色はとても素晴らしいので、ここにしばらく住もうかな、って考えてたんですよ」

 

おどけながら彼女は言うが、それは自身の夢が破れた事を忘れようとするような、痛々しいモノを覗かせているようだった。

彼女の疑似飛行する強化外装ゲイルスラスターは彼女の初期装備の筈だ。

と、言う事はあれは彼女のトラウマと密接に関係する夢の欠片に違いは無く、それを持ってして限界高度僅か、333メートルで止まってしまった。

それでも飛ぶことのできない者たちにとっては十分すぎるほどの脅威だが、彼女にとっていかほどの絶望だったのか想像もできない。

 

「そう言うあなたこそ、どうやってここに?」

「あ、えと、僕は壁面走行のアビリティがあるから。下から駆けあがって来たんですよ」

「……あなたも大概規格外な人ですね?」

「いや、普通に走れば三十秒程度ですし、そこまで言うほど来ること自体難しくないと思うんですけどね?」

 

壁面走行はそれほど珍しい物ではない。

乗り物を主体にする者や、忍者みたいなトリッキーな戦法を好む者たちに現れる事が多い。

そう言えば、ブラッド・レパードと言ったか、確か彼女も壁面走行を持っていた。何が言いたいかと言うと、走り関係のアビリティはメジャーの部類に入ると言う事だ。

扱う者が単純に多いとは言わないが、二次元的な戦いではなく三次元的な戦いになる事が多いため、ギャラリーを大いに湧かす事が特徴と言えるかもしれない。

 

「そう言えば、先ほど珍しい客と言ってましたが、ここは貴方の拠点だったんですか?」

「ううん、違うよ。ただここからの景色が好きでね?たまに息抜きに眺めに来るんだよ」

 

以前此処に来たのは現実時間で一月前だったと思う。

その間も無制限フィールドに潜った時もあるので、主観時間で二月近い間来ていないと思う。

 

「そうですか、良かった。人の拠点を奪ってしまったのかと心配してしまいました」

「まぁ、僕の拠点だったとしても……。家を既に建ててるみたいなんで返せなんて言えないですよ」

「あ、あはは……」

 

彼女の少し後ろに、質素な作りの一軒家が鎮座していた。

元々何もない場所だったので、その存在感は凄まじく、居座るつもりがひしひしと伝わってきた。

この家も、彼女が乗る車椅子もショップで買う事が出来るアイテムだ。

持ち運びには苦は無いだろうが、家具一つ一つをアイテム化していくと、やはり結構な手間だろう。

 

「ただ、僕もたまにここに来させてもらうけど構わないかな?」

「ええ、それは私から是非お願いします。ここに一人でいるのは良いのですが、たまには誰かとゆっくりとお話をできれば良いな、と思ってましたから」

 

そう言って彼女は微笑んだ。

それから僕たちは無言のまま、そこから見える景色を眺め、時折何かに気が付いたように話題を出して過ごして、そして別れた。

僕が下に飛び降りる時、彼女は小さく「また」と言って手を小さく振った。

 

レイカーと別れ、全身に風を感じながら下まで高速で落下していく。

流石にこのまま行くと落下ダメージで一度死んでしまうので、地面に激突する前に、タワーの壁面を力の限り蹴り自分の体勢を空中で整えた。

蹴った事により、落下スピードは一時的に低下し、地面に足を着いた時には、僕のライフにダメージは1ドット程度で済んだ。

このタイミングが意外とシビアで、早すぎてもその後の高さ次第では死ぬ事もあるし大ダメージにもなる。

逆に遅すぎると可笑しな体勢で地面に激突し、そのまま死ぬ。

 

「来る度に練習したもんなぁ。何回死んだか数えてないけど……」

 

昔を思って独り言。

この練習も、戦いをする上で大切な特訓と言う事でもあるのだ。

壁面走行中に、赤系統の強引な火力に曝され、足場を無くし地面に叩き付けられて大きなダメージを受けた事がある。その時はまだレベルが2か3辺りだった為、経験も少なくそのまま押し切られ負けてしまったのは苦い思い出である。

その時から高い所から落下した時のリカバリー法を習得に執心していた。今でも建物の高さは違うがタイミングを忘れない為に、潜ったら必ずやっている習慣だ。

 

「さてと。離脱ポイントまでタイムを測るかな。前に来た時は確か10分もかかったから……。ん?あっちは確か……」

 

屈伸をしながら走るための準備をしていると、遠くの方で激しい土煙が上がっていた。

しかし、その場所は余程の命知らずでもなければ近寄らない危険地帯である。なぜならそこにいるのは、神獣級と呼ばれるエネミーの縄張りであるからだ。

 

「戦ってる?まさか王の誰かか?」

 

一人で神獣級を倒したと言う王の話を聞いた事がある。

幸い縄張りに入らなければエネミーには狙われない。僕は王の戦いが見れるかもしれないと言う、軽い気持ちでそちらに足を向ける事にした。

 




お疲れ様です。
今回は主人公のアビリティ関係の話とかを少しだけ書けるように多少強引だったかと思いますがレイカーさんに登場願いました。

なんだか思うように物語が書けていない気がします。
早く原作時間に行きたいのですが、なぜだか話が広がっていく……
ダイジェストにしてあっさり行くつもりだったはずが、何故か次回神獣級と邂逅しそうな流れになってます。


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第六話

こんにちわ、真ん丸骸骨です。

気が付けば早い物で最終更新から二週間以上経過していました。
大変お待たせしたかと思いますが、お楽しみいただければ幸いです。


そこを遠目に確認できた時、複数の人影を見つけた。

ただ、そのアバター達はしっかりと境界線の外側から観察するに留まっているようで座り込んだり、談笑したりしながら遠目に暴れているエネミーを見ていた。

 

(……待て、じゃぁ、誰があそこで戦ってるんだ?)

 

近くまで寄った事で、疑問が頭の中で湧いて出た。

エネミーは暴れているが、それに反撃するようなアバターは見られない。王や、あれ級に戦いを挑むのなら、ここまで近づけばある程度戦闘の動きが見えるものだが、あれではまるでエネミーが一方的に蹂躙しているようにしか見えない。

 

「見えた……!だが、これはやっぱり!!」

 

あまり考えたくは無かった事だが、これはEKだ。

比較的浅い場所でのEKの為、何とか抜け出そうと試みる取り残されたアバターだが、タゲられないギリギリから吹き飛ばし効果を持つ奴が必殺技でまた中に押し込んだ。

そして吹き飛ばされた先で待っていたのは神獣。

その後は呆気無くその口の中に納まり、呑まれた所に死亡を現すポイントが現れた。

 

「おいっお前らッ!何やってるんだ!」

「あ?何だよ、面白い所なのに……」

 

僕の言葉に反応して、三人のアバターが振り返る。

色は様々だが、どう見ても彼らのカラーに合わない様なハンマーに大砲、果ては爆弾を装備して完全にこの為だけの装備だと思われる物を用意していた。

突発的な仲間割れなどではなく、計画されたEKである事に言いようのない怒りが込み上げてくる。

 

「何でEKなんて!」

「うるさいなぁ。俺たちの問題だろ?首を突っ込むなよ」

「そうですね。私たちレギオンの問題ですから、あなたが入ってくるのは場違いと言う物でしょう」

「レギオン?それじゃあ、今やられた彼も仲間なんじゃないのか!?」

「ふん、レギオンを脱退したいって言うから、チャンスをやっただけだ。あれから逃げられたら辞めさせてやるってな」

「断罪の一撃だと味気ないですもんな~。もう、初期メンバーの癖に生意気な事を言うからだよ」

 

あり得ない。

まるで娯楽を観賞するノリで、彼らはEKを行っていた。

逃げられたらと条件を出しておきながら、決して逃がさないように装備まで整えてだ。

レギオンに詳しくない僕でも、レギオンを作る際に受けるクエストには四人必ず必要と言う事位知っている。

一人が言った、初期メンバーと言う事が本当であるならば、そのクエストを一緒にクリアしたと言う事だ。

レギオンを作るくらいの繋がりがあった筈の彼らは、どう言う心境の変化が生じて、こんな事を行っているのだろう。

 

「……白けた。帰るぞ?」

 

リーダーと思しきアバターが口にすると残り二人もそれに返事を返してその場から離れようとする。

だが、最後に思い出したかのように振り返ると。

 

「アイツ、後一、二回で全損だから、助けようなんて考えない方が身のためだぜ?これ始める前にポイントの総数聞いたから間違いないし」

 

言い終わると、後ろ手にヒラヒラと軽くを振りながら、今もあの場で恐怖に震えているだろう彼の事など忘れたかのように軽い足取りで去っていく。

許せない。意図的にポイントを全損させるような卑劣な手段を行う彼らに怒りを感じ、僕の中で黒い考えが浮かび上がってくる。

 

(こいつら全員。あの神獣級の前に引き摺ってやれば……)

 

歩いて行く彼らの背後に迫り、その肩に手を乗せ――――

 

『約束だぜ?』

 

「ッ!?」

 

手が空中に固まったまま、僕は動きを止めてしまった。

幻聴だ。彼の言葉など聞こえる筈が無い。

それに一度僕はその約束を破っている。今更守った所で、彼が戻る訳ないのだ。

しかし――――

 

「……お前か?」

 

視線を下げた僕の目には、譲り受け装備したままであった拳があった。

僕は意志の力がこの世界で常識を超越した力を発現する事を知っている。

だから、装備にその人物の思いが宿ってるんじゃないかと思ってしまった。まして、彼の最後は、自身の全損を知りながらの決死の行動だったのだ。

あり得ないと知りながら、いや、そうあって欲しいと考えてしまったらもう、僕はその手を動かす事が出来なかった。

 

そんな苦悩を終えると、既に移動していた三人のアバターは遠くに居り、走れば間に合うだろうが、その意味もすでに薄れている。

今すべきことは、あの場に取り残されている彼の救出。

無謀だと言われようが、僕はこんな理不尽のまま退場する人間を放置などできない。

 

「相手は神獣。出し惜しみをしている場合じゃないな」

 

僕は決意を固め、自身のステータスウィンドウを開いた。

現在のレベルは7、しかし、直ぐにでもレベルを上げるだけのポイントは溜まっている。

あの日、隆弘からポイントを奪った彼らを全損に追い込んだポイントでそこに到達したのだから、まさしく皮肉だろう。しかし、そこまでのポイントが有ったとしても、通常は安全圏まで再度ポイントが溜まるまでレベルを上げるような事はしない。

僕もここでレベルを上げてしまうと、一度の敗退で全てが終わってしまう。

 

「目的は倒す事じゃない……。逃げ切れば僕の勝ちだ」

 

自分を言い聞かせるよう呟いて、レベルアップのボタンを押す。

次に現れたのは自身に与えられる新しい能力。

今まで六回この画面を見てきたが、今までに見た事の無い表記が現れた。

 

「強化、外装……オーバードライブ?」

 

画面が消失すると、青白い発光と共に、僕の足にそれは現れた。

僕と同色の膝まで覆う鋭角的なブーツ、特徴的なのは踝から脹脛に掛けて、まるでバイクなどに見られる銀色のマフラーが覗いていた。

まだ彼が蘇生するまで僅かな時間がある。その時間を利用し、新しい力を試す事にした。

 

「おかしいな……」

 

走っても速度がほんの数秒上がっただけ。これはレベルアップした事による身体能力などの向上だと考えると重量が増えただけのように感じられる。

強化外装独自の必殺技が設定されている訳でもないし、オブジェクトを蹴り砕いてみたが攻撃力も上がっているようでもない。

元ある必殺技の威力などを上げるものかもしれないと考え、僕はその場で技を発動させる。

 

「ダメだ。何も変わってない……」

 

何かしらポテンシャルを秘めているはずなのだが、それが一向に見えてこない。

悩んだ末、僕はいつも通りのスタイルで挑む事を決め、強化外装を外そうとステータスに手を伸ばそうとした。しかし、ふと目の端に自分のゲージがおかしい事に気が付いた。

 

「必殺技ゲージが大して減ってない?」

 

加速技を使って感覚的に50%のゲージを使ったつもりだったが、ゲージを見てみると減っているのは僅かに30%程。

その後、自分の持つ必殺技ゲージを使う全てのアビリティを使って確認した。

やはりと言うべきか、同様に全てが使うゲージが少なくなっている。装備を外して確認もしたので間違いない。この強化外装は必要ゲージの軽減をする事が出来る。

 

「感覚的に、10%から20%くらいの減少か。これは当りだったな」

 

通常対戦ならば、長期戦になればなるほど有利になるような装備だ。派手な見た目の割に少し地味な能力に感じるが、じわじわと効いてくるタイプの強力な装備である。

 

準備が万全に整った時、蘇生の時間まであと数分と言う所まで来た。

だから僕は大きな声で叫んで、未だ姿は見えないが、そこに居て聞いているだろう彼に向かって声をかけた。

時間稼ぎをするから逃げろ、と。

相手の返事は無い、だが僕は構わず何時もの姿勢、クラッチングスタートの体勢を取った。

 

「稼がなくちゃいけない時間は最低10分。……相手も見た目狼だし、たぶんスピードタイプか。ああ言うのってフェンリルって言うんだっけ?」

 

最初の一撃を入れた後、出来る限りこの場から遠くに誘導し、彼が完全に安全圏までたどり着くまで気を逸らし続けなければならない。

プレイヤーを超越する神獣級のスピードタイプ。助けると言う目的を忘れてはいないが、自身の挑戦として、胸に熱いものが込み上げてくる。

懐かしいワクワクすると言う感情を今、再びこの胸に灯していた。

 

「3、2、1……ッ!」

 

自分の口でカウントを取り、そのまま走り出す。

自身に出来る最速で駆け抜け、狼の顔のある所に向かって大きく飛び上がった。ただの蹴りではダメージも期待出来ないと判断し、空で体を横にして回転を加え、遠心力によって蹴りの威力を上げる。

その蹴りを鼻先に受けた狼は、大きな声を上げて苦しんでいたが、無事にターゲットを僕に絞ったようだ。

 

「それじゃ、こっから追っ駆けっこだ。フッ!」

 

蒼い流星と呼ばれる所以、必殺技によって全身を自身のカラーの光を纏う。

この技はゲージが続く限り大幅な速度上昇の力を与える代わりに、ゲージが無くなった後、強制的に排熱動作が入り数秒の行動規制がかかる。大体がオブジェクト破壊でゲージが減る事を感じさせないが、他のアビリティと併用する事が多いので総体的に長時間の戦闘に不向きと言える。

それも新たに得た強化外装の効果によって幾分か緩和され、弱点と呼べる物がその装甲の薄さ以外見受けられないところまできた。

だが、それも人を超越した神の前にはわずかに足りない物だった。

 

(クッ、引き離せない?それどころか距離が縮んでる!)

 

すぐ後ろに迫る咢、振り下ろされる爪、それを自分の持てる全ての技能を用いて回避して、同じ場所をぐるぐると廻るように走り続ける。

距離が縮むにつれ、避け辛い攻撃が頻発し始める。まだ走り始めて数分だ、ここでやられる訳には行かない。

 

「……仕方ない、やるか。『アクセル・ギア』ッ!!」

 

足に煌々と光が灯る。

移動能力の拡張。それを行う事によって、僕はさらに数倍の速度を実現する。心意、意志の力がまた僕を速さの地平へと誘う。

この速度で追いつかれた事は未だかつてない。

攻撃の瞬間にカウンターで軽い攻撃を貰った事等はあるが、これは誰も到達できない僕だけの世界だ。

 

追いつかれている筈が無い、そう言う絶対の自信を持っていた僕は、その瞬間ほんの少しだけ後ろを振り返った。ただ、それが不味かった……

 

「え――――!?」

 

目の前に迫る大きな牙、一飲みで収まってしまうほど大きなその口が目の前に迫っていた。

咄嗟に回避行動をとり避けようとしたのだが、完全に油断をしていた僕は片腕を食いちぎられ、その後首を振る様にその鼻先で僕を吹き飛ばした。

 

「あ、がッ!?」

 

同じ部位欠損ダメージでも綺麗に切断するロータスの方が、まだ痛みは少なかった。片腕を抑え、ふら付きながら立ち上がる僕の前にまた神獣の牙が迫る。

 

(遅いのか、僕が?)

 

その部分においては何者にも負けない自信、それを覆す現実が目の前に迫っている。

まるで全てがスローモーションのように遅く感じた。

この攻撃を受ければ、僕は最速ではなくなる。プレイヤーの中では確かに最速かもしれないが、僕よりも速い奴が確かに存在すると言う現実が生まれる。

 

「じょ……冗談じゃないッ!!」

 

 

僕は強欲に求める。この世界で最速である事を。

認めない、自身よりも速いモノを。

だから……。

 

「まだ終われないっ!」

 

迫る咢を体を捻って回避。避け切れずに残っていた片腕までも失った。

だが、今そんなものは必要ない。必要なのはこの足だけ。

ただ前に、ただ速く。

 

短い息継ぎの後、僕は駆けた。全力で。

あと残り二分。その間だけ逃げ切ればいい。だが、やはり両腕を失った所で僅かばかりの重量の軽減しか出来ず、それどころかバランスがとり辛く足が縺れそうだ。

 

(僕は負けない。対戦で負けても構わない。でもッ!事、速さと言う舞台の上では負けられないッ!!)

 

現実の顔があるのなら、まるで強迫観念にでも囚われたのかの如く、鬼気迫る表情をしていただろう。

恐怖や色々な感情の中に、一心に速さを求める心が混じり合い、何とも言えない感情が心を占める。

先程と変わらずに走っているのだから、後ろに迫る神獣は既に僕を射程に捕えているだろう。

だから僕はさらに念じる。

 

「ギアを上げろッ!まだ、僕は走れるぞッ!!」

 

頭の中で歯車がかみ合うような奇妙な感覚の後、背中に激しい幻痛、体を苛む虚脱感と共にオーバーレイがいっそう光を強め、僕の姿はさながら本物の流星のように加速した。

 

「ヅッ!?ああぁぁーーーーっ!」

 

心意の発現とは、自分のトラウマと向き合う事。精神面よりも肉体面に大きなトラウマを持っていた僕は、幻痛を感じたと言う事だろうか。

その後、一撃も損害を受けることなく、時間いっぱい逃げ切る事に成功しテリトリーの外側で僕は倒れた。

倒れた僕に一撃を入れようとする狼だが、テリトリーの境界線を越えようとすると、体中に鎖が絡まり身動きを完全に封じ込められた。

 

「凝り過ぎでしょ……」

 

詳しい内容は知らないが、北欧神話のフェンリルと言えば鎖、くらい有名である。

やがて諦めたのか、狼のシルエットは自分のテリトリーの奥底へと戻って行く。

それを見送ってガッツポーズをしようとしたが、両腕が無かったので足に力を込めた。体力は既に一割を切っている。

攻撃されたのもそうだが、あの速度は、防御力のない自分では文字通り諸刃の刃のようだ。

音の壁を叩き突き進みかのような感覚は幻覚ではなく確実に僕の体力を削っていたのだ。数ドットしかない体力を見た後、僕は盛大に笑い飛ばした。

緊張が一気に解れ、安心してしまったら、残ったのは勝ったと言う満たされた感情だけ。

その余韻に浸りながら、先程の出来事を考え始めた。

 

レギオンの抗争や、内部の事象に首を突っ込むような事は避けたいが、理不尽な暴力で退場するなど有ってはいけない。

それも悪戯に痛めつける様なやり方なんて、認めて良いはずがない。

それならば、僕はそれと戦う。EKやPKと言った脅威を出来るだけ排除できるように。

それがたとえ、またプレイヤーを全損に追い込むことになろうとも。




お疲れ様でした。

これで一応は過去編終了して原作の時間に絡めていこうと思います。
今回は新装備と心意技の展開でした。
何処まで行っても速度しか追わないスピードジャンキーですが、それがこのキャラのコンセプト何で過剰かもしれないですがこのまま行きます。
ただ矛盾などがあれば指摘していただき、改善していきたいので、何かあればお願いします。

ただ、主人公の信念とか色々ブレまくりな気がしてしょうがない。
要勉強していきます。


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第七話

こんにちわ、真ん丸骸骨です

勢いで書けました。
今回は対戦では無くレースになってしまっています。
アクセルっぽくないと書き終わって気が付いたので、もはや修正のしようがないですね。


あれから現実時間で二年。主観時間でどれほど経ったか。

それだけの時間を過ごす内に、僕には新しい二つ名らしきもので呼ばれるようになった。

『EKハンター』、それが僕の現在の行動を比喩しての名だ。

そもそもEKなどと言う事をやらかす人間は少ない。EKはテリトリーを持つ神獣級でしかできない。そんなリスキーな事をやる人間は相当性格の曲がった人物だろう。

が、皆無と言う事も無い。

だから僕は、すべてのテリトリーを把握し、定期的にその場所を訪れては警戒していた。

だがこの活動の過程でいくつかの副産物ともいえる物が生まれた。数名の王と面識を持つようになったのだ。

なにせ、EKをされる者の多くはレギオンを抜けようとする者や、レギオン未加入の人間。

その避難先に、彼らは各王たちのレギオンを選んでいくのだから。そんな事がたび重なり、王が興味を持って接触を望んでくる。彼らとの会話は実りのあるものとなった。

彼らの公認を得る事が出来た事で、僕も気兼ねなく避難先を紹介できる。レギオンにとっても人数が増える事は、支配範囲を広げる一助ともなるのだから当然ともいえるのだが。

 

現実では中学校に進学。

学校を決める事が一番苦労した記憶がある。ほかにバーストリンカーがいないかを見なければならないからだ。

幸いな事に一人もいない学校を発見する事が出来た。だが、それを見つけるまでにいくつポイントを消費した事か、EKをする不届き者を倒す以外対人戦をしない僕にとってかなり痛い失費と言える。

それでも現実の僕はリアル割れした時、抗いようのないハンデがあるので、それも仕方ないと解っているが理解は出来ても納得はし辛い。

 

現在住んでいる場所は世田谷区、グレート・ウォールが半ばまで進出してきているが、ほぼ無所属の領土である。

そう言う事もあってか、激戦区である都心などと比べれば、対戦を申し込まれる事も少なくて済んでいるので助かっている。いつかは昔のように通常対戦も楽しくやって行きたい所だが、まだ心の折り合いが付かない。

通常対戦を断っている僕だが、当然すべてを断れると言う事はない。

中には対戦時間をすべて逃げる僕を面白がって的として対戦を吹っ掛けてくる奴までいる。生活で不便な事が多い僕はニューロリンカーを外す訳にはいかないし、全く持って手に負えない。

 

「今日は誰も対戦を吹っ掛けてきませんよう――――」

 

帰宅するため学校を出た瞬間、強制的に加速世界へと誘われる。

祈った直後の為、堪らずため息を零してガイドカーソルを確認する。相手の位置が解るのでこのカーソルの真逆に走り続ければそれで終わりだが、こうも何度も対戦を掛けられ続ければ流石の僕も多少イラつくと言うもの。

ギャラリーも含め、この場にいる人間に、改めて対戦をしない僕のスタンスを訴えてやろうと考えた。

 

「……エンジン音?」

「ヒャーハッハッハッハッ!!用事ついでにバトル相手探してたらお目当て見つけちまったぜ!メガラッキイィィ―――ッ!!」

 

現れたのはどぎつい髑髏仮面のライダー。相手の名前を確認するとアッシュ・ローラーと言うらしい。

大きなバイクに跨り、ハイテンションにエンジンを吹かしていた。ステージが世紀末ならば、その姿は何処までもらしいだろう。

だが残念な事に今回のステージは煉獄、そもそもこの気味の悪いステージにお似合いのアバターとは正直戦いたくはない。

 

浅く広くそれなりの数のリンカーは知っているつもりだが、今日初めて見る顔である。新人≪ニュービー≫だろうか。

いや、それだと尚更おかしいか。向こうから対戦を申し込んだと言う事は此方のレベルを知っていると言う事だ。新人であれば、いきなり高レベルと戦う旨味はそれほどないだろう。

経験と言う意味では貴重かもしれないが、下手をすれば無為にポイントを失う行為と言える。

色々と考えたが、相手のレベルが幾つだろうと、僕のやる事は一つだ。

 

「テンション上げてる所悪いけど、僕は戦うつもりないからね?」

「おうよ、あんたの噂は聞いてっからよ。今日は対戦とは少し違うぜ!」

「対戦じゃない?」

 

レギオンか何かの勧誘だろうか。それともエネミー討伐の助成だろうか。

レギオンなどの勧誘はもちろんお断りだが、エネミーならば今までも手伝いを頼まれたことがある。

 

「今日はあんたと勝負しに来たッ!」

「いやいや、僕戦わないってば。言ってる事滅茶苦茶だって事自覚ある?」

「ん?おぉ、ソー・スマナッシングだぜ。勝負ッつーか、あんたと走ってみてぇと思ってよ。加速世界でなお最速の走り屋。ギガ・クゥ――ルだぜ!」

 

詰まる所競争がしたいと言う事だろう。

走る事だけを望んで対戦と言うのは珍しい。走る事は好きなので、この申し出は素直に嬉しかったりする。

アッシュの声に、対戦もしない僕なんかに予約観戦を入れているアバターが騒ぎ出した。

 

「お!?なんだなんだ?今日はレースか?」

「お~~い、誰かゴールとモニタ用意しろ!俺たち置いてけぼり喰らうぞ?」

「任せろ任せろ。ホリゾンのファンになってからこんな時が来るんじゃないかとずっと用意してたぜ!……誰か動かし方教えてくんね?」

「中継器の設置に行くぞ?よし、散れッ!」

 

当人たちそっちのけで、外野が何やら用意し始めた。

ガヤガヤと、本当に楽しそうに準備に奔走する彼ら、やがて準備が終わると何やらマイクを持った奴がこちらを見下ろして発言を始めた。

本当に準備の良い事だ。

 

『お待たせしました!準備にちょっと時間かけちまったから十分しかないけどコース説明だ!』

 

「ヘイヘイヘイ!俺様のVツインエンジンは準備オーケーだぜッ!?ヒャッハハハ!」

「盛り上がってきたな、まぁいいけどね。っしょ」

 

軽く屈伸運動などで体を解かしながら彼らが考えたルートを見る。

直線とコーナーが程よい感じにあるコースで、折り返しでビルを回ってまたこの場所に戻ってくると言う単純なものだが、十分と言う短い時間では最初から最後までトップスピードで駆け抜けなければならないだろう。

必殺技を使えばその半分以下で余裕だろうが、準備時間に話を聞いたところ、彼はまだレベル1との事なので、今回はそれらは無しと言う事で決まった。

アビリティ無しでは少し厳しいが、今回は久しぶりに楽しむとしよう。

 

『ではカウント3でスタートッ!3,2,1』

 

レースが始まった。

まずは直線、初速はどちらも同じ出だしとなった。通常バイクなどは徐々にスピードが上がり、最初は遅れる筈だが、彼はロケットスタートを熟しピッタリと横に並走して見せた。

ブレイン・バーストと言うゲームの特徴を考えると彼も僕と同世代の筈だが、そのバイク捌きは手馴れており、決して免許取立てと言う風には見えない。

どこぞのレーサーと言われた方がシックリくるくらいだ。

子供にもそう言ったエンジンを搭載した乗り物のレースがあると聞いた事があるが、彼はそれの選手か何かなのだろうか。

 

「凄いね!僕に最初から着いて来れた人は久しぶりだよ!」

「ヒャハハハ!伊達にモンスターマッシーンに乗ってねぇって事だ!」

 

やはりあちらは馬力がある。必殺技無しではジリジリと距離が開いてくる。同じレベル1だったとしてもレースの総合力は負けるつもりはないが、直線スピードは負けるかもしれない。

しばらく走り、次は直角コーナーに差し掛かる。

アッシュはコーナーに合わせ、ドラフトをして綺麗に曲がりに掛かるが、僕は構わずその速度で突っ込んだ。

 

「おいおい!?突っ込んでジッエンドしちまうぜ!?」

「良いんだよっと!」

 

速度はそのままに、僕は飛び上がり壁にうまく取りつきジャンプしてコースに復帰。

速度を維持したまま走り続ける。

 

「はぁ~~!?壁蹴って三角飛びだと!そりゃねぇだろがよ!!」

「研究と練磨の成果だ!アビリティじゃないもんね!」

 

どこからか歓声が起こる。今の一連の流れを見ていたのだろう。

これがアビリティ有ならば、壁に取りついたまま走ってコーナー無視して爆走なのだが、たまには技術を凝らした走りも楽しいものだ。

 

お互い一歩も引かないとはこの事だろう。

直線距離はアッシュに分があり、コーナーやカーブと言った部分では減速を余儀無くされるアッシュに比べ僕に分がある。

そして最後、戻ってくる道においてコーナーなどが多発し、アッシュとの距離が少しだが広がっていく。しかし、あと僅かと言う所で残す所直線のみとなった。

 

「俺様が貰ったァァァ――――!!」

「抜かせないッ!」

 

『来た来た来たッ!どちらも譲りません!全くの互角!どちらが先にチェッカーフラッグを切るのか!!』

 

ギャラリーも実況している者も興奮状態で、それほど人数がいる訳でもないのにその声で耳がおかしくなりそうだ。

 

『そして今……ッ!ゴ――――……ルっ!!これは驚きです!同着!同着でのゴール!結果は判定待ちとなります』

 

実況者と後ろにいる測定を担当していた者が話し始めた。

今走った距離のタイムを出しているのだろう。待っている時間も勿体ないので、楽しい走りをさせてくれたアッシュを自分の観戦予約に入れておいた。

 

『おい、タイムタイム……、あとスロー再生してどっちが速かったか……てか時間ねぇ!?』

 

(マイクくらい切れよ……。さて、それはそれとして勝てたかな?)

 

色々とハンデを背負った競争だったが、持てる全てを出したつもりだし、負けているとも思っていない。

しかし、加速世界でスロー再生とは何とも言えない現象だ。

 

『出ました!判定ですが、なんと!!なんと僅か頭一つ分!頭一つ分の差ではありますがホリゾン・ソニックの勝利です!』

 

「ソ――――・バッァァァァァド!?あとちょっとだったじゃねぇかよ!?俺様アン・ラッキィ~……」

「ハハハハッ!勝った勝った!よぉし!」

「負けちまったがよ、流石だぜ。いい走りじゃねぇか、ギガ・クゥールだったぜ……」

「うん、アッシュもいいテクだ。またやろう」

 

二人で健闘を讃え合い、固く握手をする。少し臭いかもしれないが、これはこれでたまには良いかもしれない。

 

「もう時間みてぇだな?ンじゃ、俺様がレベル上がったらまた対戦吹っ掛けてやるからよ!待ってろや兄貴ッ!」

「ああ、またって……。おい、兄貴ってなん――――」

 

今まで上で減り続けていた時間がゼロとなり強制的に加速世界から弾かれた。

結果は両者体力がフルの状態のままだったのでドロー、引き分けとなった。

 

「兄貴って……なんだよ……」

 

その僕の独り言に、誰も答えてくれなかった。




何と言いますか、最初の所が今一つな気がして仕方ないですね。
二年間の事や、現在の状況を説明的に書いたのですが、それぞれ個別になってしまって読み辛く感じる自分がいます。
もっとうまく書けるように色々読んできます。

原作開始、として最初に出てきたのがアッシュと言うのは在り来たりでしたでしょうか。
一応主人公のタイプが決まって最初に考えていた話だったので今は書けた事にホッとしております。


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第八話

どうも、真ん丸骸骨です。
連休だったので上手い事続きが書けました。
良かったです。

今回は少し長いです。七千ちょいと言った程度ですが。



『私……どうすれば良いのか、もう……解んなくて』

 

目の前の猫型アバターは涙を流していた。

親友の一人が虐めを受けているのを黙ってみている事しかできない事をとても悔やんで泣いている。

最初は彼女がそこに乗り込んでしまいかねない勢いだったが、それを僕が止めた。彼女は女の子だ。中学生にもなれば男と女の差は大きく出始める。

それも不良と呼ばれる中に入ってどうにかなる訳がない。もしかしたら取り返しのつかない事態だって考えられる。

ならばタッ君に相談すればどうかと言ってみたが、それはハル君がするなと口を酸っぱくして言っているのだとか。

元より他校である為、それほど期待できないが、僕よりも身近なために良い案を出してくれるのではと期待したが、それを彼女は言えばハル君との間に戻せない傷が出来るのではと心の底で恐怖しているのだ。

今まで彼らの仲を戻すと言う相談を受けて来たので彼女の苦労はよく知っている。それ故にこの案は却下せざる負えなかった。

それに、まだ彼らの間には溝がある。幾ら良好な関係を築こうと奔走しても、当の本人たちにそれをする気持ちがないからだ。

 

『難しいね。今まで気付かれていないって事は、映像からの証拠がないって事だから先生に言ってもどれ程の効果があるか……、下手に言ってもハル君に対しての当りが強くなるだけになったら目も当てられない』

 

残った手段としては、証拠がなければ証拠を作ればいいのだが、それにはハル君かチユリちゃんのどちらかが怪我をするリスクを負わなければならないだろう。

大勢の前で暴行を受ける。それも第三者を巻き込み、今までの虐め事件を先生に告げる事が出来れば確実に退学処分に持っていけるだろう。

だが、こんな手段を彼女に実行させるわけにはいかないし、ハル君への連絡手段なんてそもそも持ち合わせていない。

 

(そもそも、この状況を改善しようとする意志がハル君からは感じられないのが一番の問題かな?)

 

おそらくは諦めてしまっているのだろう。彼女の話と写真をたまに見せてもらうのだが、それを見て何となくだが、自分に劣等感を持っているように感じる。

チユリちゃんからは『俺にはゲームしかできないし』や『タクがいるじゃないか』などと言っていたと愚痴を聞いているし、言っては何だが、少し彼はふくよか過ぎるきらいがあり、いつも一緒にいる幼馴染が二人そろって美形とくれば、劣等感も持つのも不思議じゃない。

これらはあくまで憶測であるが、見せてもらった写真の彼は年を重ねるごとに笑顔が抜けていた。確率としては高いと思う。

話の又聞きではあるが、彼はそれを補うだけの良い所があると僕は感じている。本人でなければどれ程の苦悩なのか解らないが、少なくとも現実で会えば僕は友達になれるだろう。

 

(僕が乗り込むという訳にもいかないしな……)

 

他校の生徒がいきなりやって来て、口論の末に殴られるとなれば、校内だけの問題ではなく学校間のトラブルとなりかねないし、学校側から見れば他校まで乗り込んだ僕も悪者だ。

やる価値は無くはないが、あまりいい手とは言えない。最悪停学止まりで、ハル君への当りが強くなるだけかもしれない。

現状では手詰まり、と言うほかない。ここに何かしら一石を投じてくれる者がいれば大きく変わるのだが。

 

『直ぐ……は無理だけど、近いうちに一度学校を見に行くよ。現物の学校を見ればいい案が出るかもしれない』

 

チユリから最後にありがとうと言う言葉の後、通信を切った。

 

「ふぅ……」

 

既に時間は遅い。

学校に入るためにも色々と手順を踏まないと問題があるので、明日梅郷中に見学の申請を出して受理されたらすぐに見に行こう。

理由は、こちらに引っ越すかもしれないから下見に、と言うことにしよう。

 

「兄弟が居たらこんな感じなのかな……」

 

心配し奔走する。友達でもある事だが、まさかここまで首を突っ込むとは思わなかった。

だが、これもRKやEKと同じような理不尽な暴力、それを見過ごす事が出来ないのは長いこと続けてきた僕の信念と言い換えてもいいかもしれない。

 

「自己満足だけど、それで誰かが笑えるならね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梅郷中にやってきた。

が、何処か校内が騒がしい。学校を終えた後、放課後にやってきた僕だが、周りは一人の噂で持切りだ。

『有田と黒雪姫はどう言う関係だ』『黒雪姫が怪我をした、荒谷は退学だ』

断片的に拾っただけだとこれ位か。

話題の中心は黒雪姫と言う愛称だと思うが、その人物に纏わる物ばかりだった。その人物が不良に怪我を負わされたと言う部分が、何とも言えない違和感を僕に抱かせた。

 

(まさか、ね?)

 

不良と虐め、このワードが僕の中でここに来た目的と合致し始めていた。

徒労に終わろうと、事件が無事に収束したのならいいが、一応見て回るだけでもしておこう。

もし別の人間の場合を考え、いつでも助けになれるように。

 

職員室で着た事を伝え、一人で回った。

一通り見て回り再び教師に帰る事を伝え帰宅する。短い時間しかなかったため、一般的にカメラが届きづらい所を探し案の定いくつかの死角を発見していくつかの対応策も思いついた。

それを伝えるかどうかは、今日連絡してみて今日あった事件についての確認を取ってからにすることにした。

あまり黒い話を彼女に聞かせるのも気が引ける。

 

 

 

 

 

 

「解決、した?」

「うん、ハルを虐めてた奴ら問題起こして退学だって。ごめんね、色々気を使わせちゃって」

 

詳しい話を聞くと、やはりあの噂になっていた事が該当するようだった。

しかし、今までのハル君からすると、ものすごく大胆な行動だった様だ。学校1有名な先輩と昼食を共にして、果ては直結を行ったと言う。

終始ハル君は戸惑っていたらしいので、黒雪姫と言うのが、押しが強い人なのだろう。

 

「今までもハル君と面識があったのかな?その黒雪姫って言うのは」

「先輩?ううん、いつも一緒じゃないから解らないけど、有名な人だからハルと一緒にいれば噂くらい出たと思うよ?」

 

虐めが無くなると言うのは良い事だ。だが、今僕はこの事が一番気掛かりだった。

直結を行うと言う事は、お互いにお互いの情報を閲覧、弄れると言う事を意味し、そこにプライバシーの制限はない。

ともすれば親子、または恋人関係でもない限り、友達であっても気安く繋いだりはしない。初めて会ったのなら尚更である。

だが、バースト・リンカーはその機密性の高さから直結で会話をする事が多く、一般と違い直結に対して抵抗がない。

 

(考え過ぎか?直結が必要なのはアプリケーションのコピーとかだけど、一目惚れと言う線も……)

 

割合長時間直結していたと言うのだから、単純に会話を楽しんでいただけかもしれない。

どうも、ブレイン・バースト関連だと過剰反応してしまいがちだ。プレイ人数が千人を超えないのだから偶々知り合いの友達が、と言う偶然の可能性は低いか。

さらに言えば、杉並の梅郷中あたりの戦区は、昔ちょうど黒のレギオンが拠点を置いていたところで、今もあまり人が寄り付かない傾向がある。

 

(まぁ、もし万が一リアルを割った所で必要のない情報か)

 

「それでね?――――」

 

難しい考えを止めて、彼女との話に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――っと、何だ朝っぱらから。対戦?アッシュか」

 

学校に登校しようとした所、突然の加速と場所が移動した。

僕が予約を入れておいたアッシュが対戦を行ったのだ。

 

(何もこんな朝っぱらからじゃなくたって……)

 

朝はとても弱い。頭がクリアにならないので、半ば呆けながら対戦を眺める。

対戦相手はシルバー・クロウ。初めて見る名前だ。やはりこのゲームの性質上、入れ替わりがそれなりに激しいのだろう。

クロウは何が起きているのか解らず、あちこちに視線をやっている。完全な新人だ。

 

「メタルカラーか。ニッケル以来だな、見るのは」

 

初めて見るカラータイプだから特性が解らないが、昔見たチャートの分布では銀は確か特殊性に優れ、物理打撃系に弱かった記憶がある。

 

「あ、轢かれた……」

 

逃げるクロウを追い回すだけと言う特筆する物のない戦いだった。

一日を過ごさなければアバターは作成されないので、おそらくクロウは昨日インストールを行ったのだろう。

少なくとも、戦い方を全く知らないアバターと言うのは親からまだレクチャーを受けていない出来立てという証明だ。

 

「メタルカラーは特殊なのが多いから次の対戦に期待だな」

 

観戦するのは悪くない。自分ならどう戦うか自然と考えてしまうので少し難があるが、周りと一緒に歓声をあげて応援をする事だってある。

今対戦した子も、これから面白くなるだろうと予想し、自分の予約リストに入れておく。

アッシュのように見てすぐに解る物ではない彼にどんなポテンシャルが詰まっているのか、少し楽しみになってきた。

 

予約リストに登録を終えると現実に引き戻された。

三十分もない時間だったが、意識を覚醒させるには十分で、その日は珍しく朝から普通のテンションで登校出来た。

 

「こんな日もあるか……」

 

通常授業を終えて、帰宅する途中また加速。

観戦予約を入れている人間は少ないので、今日は珍しく多いと思ったら、またしても同じカードだった。

アッシュ・ローラーとシルバー・クロウ。

初対戦の仕返しでもするつもりなのか、歩道橋の上で屈んでアッシュの出方を待っていた。

アッシュの弱点、敵に居場所を喧伝して回ってしまうと言うあのバイクの騒音で距離を測っているのだろう。

そして、初撃を奇襲攻撃で上空から蹴りを放った。

 

「へぇ……、結構戦いなれた親なのかな?」

 

手練れのバースト・リンカーは少ない情報から相手を倒す為に、小さな情報も見逃さない。

相当頭が回る人間でもなければ、対戦二回目で音に気が付くとは考えづらい。何せこれは格闘ゲーム、正面から戦いたがる者が多いのだ。

今朝一つも助言を飛ばしている人間がいなかった事を考えると、あの場には彼の親はいなかったのだろう。彼から聞いた情報のみで作戦を立て、彼に伝えたと言う事は少なくとも無制限フィールドに足を踏み入れた事があると思われる。

何せあそこは、エネミーが闊歩し、人すら狩りしようとする者がいる危険地帯だ。目視確認だけでなく、音、匂いまで鋭敏に感じ取らねば足元を掬われかねない。

 

初撃を入れアッシュが起き上がる前に、クロウはビルを登り始めた。

タイムアップ狙いの作戦だろう、面白味はないが実に堅実。追いかけるにはバイクを降りなければならないので、そうなってはアッシュでは勝ち目はないだろう。

 

だが、そこはハイテンションライダー。周りのギャラリーを引き込む術を既に持っていた。

壁面走行。

今朝の対戦でレベルを上げる安全圏までのポイントを得て、そのままレベルアップし、ボーナスとして壁面走行のアビリティを手に入れていた。

 

(あの時、僕のアビリティを熱心に聞いてたのは、レベルアップが近かったからか)

 

既に相当数の対戦をしている僕の情報はかなり公に知られている。

壁面走行は例に漏れず、水上走行などと言う忍者プレイする人間にとって垂涎の変わったアビリティまで所持している。知られてもあまり痛くない情報だったので教えたのが、まさか早々に習得してくるとは予想外だ。

動揺を隠せないクロウとは対照的に、ギャラリーは新技披露に大盛り上がりである。

狭いビルの屋上でエンジンを嘶かせ、クロウはそれを必死に避けていた。これ以上は今朝の焼き直しになると思われたが、さらに予想を超える芸当をクロウがして見せた。

一瞬の隙を付き後輪を持ち上げ、アッシュのバイクを封じて見せた。

その後はただの肉弾戦。

力の全てがバイクに向いているアッシュでは真面に打ち合う事が出来ず、クロウの勝利で終わりを迎えた。

 

「珍しいカラーであるだけじゃなく、結構機転も利くみたいだ。成長株かな?まだポテンシャルの全てを引き出してないのに」

 

今日のクロウの試合。良い戦いであったが、頑丈なのはカラー特有だし、近接格闘も専門に比べると威力などで見劣りする。

もっと彼特有の何かがある気がして仕方がない。

アバター毎、人毎に全てが違うこのゲーム、全て自分で発見しなければならない。

最悪自分の事が何も解らずに退場する、なんて言う事もあり得る。まずは彼が自分の唯一無二の力を得られることを期待しよう。

 

 

 

 

アッシュとクロウの対戦を見終えた僕は、いつも通り帰宅する。

両親は共働きのため不在であるので、自分で出来るだけの家事を済ませておく。

昨日の今日なのでチユリちゃんからの連絡もない。勉強も終え、久しぶりにのんびりと過ごす事にした。

最近は僕と言う抑止力が上手く働いているのか、EKを行う人間は目に見えて減り、頻繁に無制限フィールドにはいる事も少なくなった。毎回十ポイントも消費し、その都度エネミー狩りで大変だったのでこう言う知らせは有難い。

さすがにPKは場所を特定する事も出来ないので対処できないが、上々の成果と言える。

中には自警団的な組織、レギオンを作ってくれないかと言う人まで現れたが、生憎と僕は誰かの上に立つ事が出来るタイプじゃない。

誰かの生殺与奪件を持つなんてどうにも胃が痛くなる話だ。

僕はただ只管に速く、気に入らないモノがあれば正面からぶつかる、あまりにも利己的な人間だ。

二年前、あの神獣と相対した時にその事を痛感し、受け入れ、トラウマを再認識して一生付き合っていくと決めたのだ。

 

「……ん、もうこんな時間か……」

 

一人で思考に耽っていたら、時間は既に八時を回っている。

そろそろ二人が帰ってくる時間だ。作っておいた料理を温めなおし、風呂も沸かしておく。

寝る前に自分の車いすを整備して眠りにつく。

 

 

 

シルバー・クロウの初対戦から二日目の今日、僕は真の意味で彼を心に刻み込むことになる。

また早朝から観戦予約対戦が起動し、僕は見知らぬ場所に投げ出された。

ステージは煉獄、このステージは個人的に好きではないが、逆に目を瞬時に覚まさせてくれる。

対戦カードはシルバー・クロウとシアン・パイル。

シアン・パイルと言う名前には聞き覚えがある。レオニーズの期待の新人、幹部候補とまで目されていた人物だ。

対戦しているシアン・パイルはクロウのおよそ一回りほど大きく、一番目を引くのはその腕に装備された杭打機だろう。それは初見の時から付けられており、おそらく初期装備だと思われる。

その装備の特徴は、彼がシアンと言う濃い青の近接型にも拘らず、装備の必殺技が中距離であることがあげられる。さらに彼が持つもう一つの必殺技も、胸部からの射撃武器だと言うのだから彼は突起物に並々ならぬトラウマを抱えている事が窺える。

あまり詮索するような行為はマナー違反であるが、あそこまで露骨な現れ方をしているので、気になってしまうのもまた事実である。

 

最近は勝率が芳しくなく、だんだんとその評価を落としているが、一年でレベルを4に上げた彼の戦闘センスは悪くない。むしろ素晴らしいと称賛を送っても良いと僕は思う。純粋な近接武器を手にしたら化けるであろうと確信させるほどに。

自身のカラーとは半ば外れた装備で幹部候補まで一度は登ったのだから、その考えは僕だけが持っている物ではないと思う。

 

遠目では何を言っているのか解らないが、知り合いなのか激しい口論をしている。

速度重視のクロウと頑丈な体で耐え一撃を狙うパイル。相性はそれほど悪くないが、やはりレベル差は如何ともしがたい。

最初に目に見える位置にクロウが現れた時、既にその片腕は消失していた。戦闘は屋内から始まったのだろう。

その身軽な動きで翻弄していたかのように見えたクロウだが、その固いボディにダメージは薄く、逆にゲージを与える羽目になってしまった。

 

大きな音を立てて天井の一部が壊れる。

煉獄ステージはオブジェクト破壊などは極めて難しいのだが、彼の杭はそれを粉砕して見せた。

その杭の先端にいたクロウは、それに押し込まれながら建物の奥深くまで沈んで行った。既に体力ゲージは残り僅かだが、これで終わってしまうのか。

残り時間も五分前後しか残っておらず、今から駆け上がっても体力差を覆すのは難しいだろう。

 

(僕はまだ君に期待しているんだけどね……)

 

建物の上から飛び降りて、誰にも気が付かれる事なくクロウが沈んで行った建物の中に入っていく。

上からパイルの声が聞こえてくる。ポイントを使いすぎて焦っている事が、彼の声から拾う事が出来る。

ポイントを回復させるのにはクロウと戦っても旨味はない。焦っているならば尚の事同レベル以上を狙わねばおかしい。

 

「位置情報的にはここは病院、しかも戦闘の開始場所がこことくれば……」

 

この建物の中のどこかに、彼と同レベル、または各上の存在がいるはずだ。しかも怪我か病気か、とにかく病院に居なければならないほど体を病んでいるはずなのだ。

クロウが必死になっている所を見ると彼の親だろう。

手練れで、杉並に拠点を置いているバースト・リンカー、かつての黒の王が頭を過ぎる。

彼女には子がいたと言う話は聞かない。

 

「今は関係ないか」

 

そう、今は関係ない。僕が見たいのは彼の親ではなく、彼がこの後どうするかだ。

ゲームを初めて長いが、彼のように特徴のないタイプは初めてだ。それ故に期待してしまう、彼が開花した時に何を見せてくれるのかを。

 

最下層まで到達し、僕はシルバーの輝きを発見した。

それは心意の輝きに似ていた強烈な発光。彼の背中から漏れ出る光は止まらず、それに導かれるようにして鋭利な剣のようなものが生えてきた。

それは幾重にも重なり、今まで誰もが望んで掴む事のなかった偉業が誕生した。

 

「……翼。綺麗な銀翼だ」

 

体に駆け巡る感動、鳥肌が立つほどの光景、ワクワクする気持ちが抑えきれない。

 

「飛ぶのか?空を!」

 

生えた銀翼が振動を始める。

それが空間をも振動させるのを肌で感じ取り、それが一つの目的の為だけに生まれた事を理解した。

彼の気合の籠った掛け声と共に、急加速して空を翔る。

 

「は、はは、ハッハッハッハッ!!飛んだ!飛んだぞ!期待以上だ!」

 

柄にもなく燥いでしまった。だが、それもしょうがないと自分でも思う。

完全飛行型、疑似飛行が可能な物なら幾人かいるが、長時間飛べるものは存在しない。

この加速世界の歴史に新たに生まれた伝説の目撃者となった。これを見て興奮を覚えない人間はいないのではないだろうか。

 

「あぁ、本当にな。私の予想も超えて、シルバー・クロウはこの加速世界を震撼させた」

「君は……?」

 

そこに居たのは可愛らしいと言うよりも綺麗と言う形容詞がよく似合う女の子。

黒で統一されたドレスなどが、さらに彼女を引き立てている。それだけの美しさを持っていながら、作り物めいた違和感も感じられない。彼女のリアルの姿を模して造られているのかもしれない。

 

「ふむ、ソニックか、久しいな。偽装アバターを見られたが、まぁ、お前ならば構わんだろう」

「この声……、ロータス、なのか?」

「ああ、私は紛れもなくブラック・ロータス本人さ。ん、悪いなソニック、私はクロウを追いたい。機会があればまた話そう」

 

そう言って所作までもどこかお嬢様めいた美しさを感じさせ、エレベーターに乗り込んだ。

 

「ソニック、お前も聞いていろ。私と、私の子がこれからこの加速世界を変えていく。その第一歩、ネガ・ネビュラスの復活を」

 

不敵な笑みをたたえて階上へと登っていく。

顔など見た事ないはずだが、そのいかにも自信にあふれた笑みは、ロータス本人だと確信させるほど好戦的な物だった。

 

上空から聞こえる何処までも澄んだ声が、今復活の産声を上げた。

停滞していた世界が動き出す。少しずつだが前に進む。

そして、それは僕の時間も……




お疲れ様です。
かなり駆け足の展開となってます。
原作一巻はどうしてもシアン・パイルとの戦い、翼誕生と言う悪い言い方をすれば規模の小さな戦いですので絡ませ辛いです。
次回からもう少し原作組と絡んで展開を予想しております。


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第九話

どうも、真ん丸骸骨です。

もう三日前でしょうか?その日に投稿するつもりだったのですが、風邪でダウン、今まで寝込んでおりました。
今回でようやく原作に深く絡ませられそうです。


『あたしね、ハルやタッ君たちと一緒にゲームをやる事にしたんだ』

『ゲーム?得意じゃないんじゃないの?それに部活もあるでしょ』

 

部活の事を言えばタッ君もそうだろう。

頑張れば夜遅くまで続けられるだろうが、彼女の場合、真剣に取り組む理由でもない限りそこまでモチベーションを持たせられないだろう。

 

『うん、何か時間を気にしないで良いらしいの。まだ詳しい話聞いてないんだけど、二人して深刻ぶっちゃってるから、あたしが楽しませてやるんだ!』

 

彼女は明るい。

今までのように作った笑いではなく、初めて会った時のような純粋な笑顔を見せてくれた。

これも3人の中が元に戻ったおかげである。

数日前まで不機嫌だったチユリちゃんは原因などを教えてくれなかったが、ハル君とタッ君が元の仲に戻って一緒にチユリちゃんの下に来たそうだ。その時、チユリちゃんのご機嫌を損ねるような事を言ったらしいが、タッ君に至っては進学校から梅郷中に転入してくるほど罪の意識を感じているほど大きな出来事だったらしい。

 

『ゲームはゲーム!楽しむ物だってあたしが教えてやるの』

『そうか、三人一緒なのは久しぶりなんだから頑張ってね。どんなゲーム?面白そうだし、僕も探してみるよ』

 

時間を気にしないで出来ると言うと、短時間で出来るような物だろう。

だから、暇な時間にも出来るだろうとあまり気にしないで言葉にしていた。

 

『う~~ん、何かこのゲーム人から人にしか渡せないみたいなのよね。ゲームの名前も人に話すなって言うし……』

『えっ……』

 

頭の中で危険信号が点灯していた。

これ以上は聞いてはいけない単語を耳にしてしまうような錯覚、いや確信があった。

 

『わ、解った、諦めるから、それ以上は――――』

『何だっけ?ハルたちはネガ何たらに入ったって……』

 

(やってしまった……)

 

彼女はまだ詳しく話を聞いていないのだろう。

加速能力、リアル割れの危険、このゲームの現実を。

信頼関係を築けていた自信はある。友達よりも強く、先輩の様な、兄のようなそんな関係をうまく築けていたと思う。だから口を軽くしてしまった。責任の一端は僕にもあるのだろう。

だがそれはもう遅い、もう、色々と繋がってしまった。

ネガ・ネビュラス、黒雪姫と直結したハル君、その翌日に現れたシルバー・クロウ。

口論しながら戦い、そしてドローとなったシアン・パイル。ロータスのリアルを元にしたアバターと黒雪姫の聞いていた容姿と特徴が一致する。

 

(如何しようか…… これから……)

 

リアル割り、それも一方的な。

僕の今までの行動から、この情報を公開するなんて馬鹿な事するはずないし、ロータスの行動は尊敬できる。

クロウはこれからこの世界を引っ掻き回してくれる事を期待しているし、パイルも言わずもがなである。

 

『ちょっと!聞いてる?大丈夫?』

『あ、あぁ、大丈夫だよ。ごめん考え事してた……』

 

深刻であり、深刻でない微妙な問題が僕の中で思考を重くする。

その後も、僕は話を聞いていない事が多く、チユリちゃんにその度に怒られる事になってしまった。

 

(如何しよう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「散れッ!ゴキブリがあぁぁ――――!!」

「ゴキブリは酷いと思うんだけどっ!?」

「うるせぇっ、ちょろちょろ動き回りやがって!アタシから見たらゴキブリに見えんだよッ!」

 

ばら撒かれるミサイルの嵐、砲弾の雨。

地面を埋め尽くさんばかりの爆炎、爆風が直ぐ近くでその猛威を振るっていた。

それを全力で回避しながら、僕を攻撃する要塞を見上げる。

 

「あ、赤の王、僕は戦わないと言ってるじゃないですか!?」

「うるせぇ、タァコ!それに従う謂れはアタシにはねぇんだよっ!!」

 

いきなりの加速で通常対戦が開始したのだが、その相手が赤の王と言う事で思わず目を点にさせてしまった。

今僕に常識外れの火力放射を試みる赤いアバターは、赤の王スカーレッド・レイン。

彼女の通常の姿はおそらく全アバターから数えても下から数えた方が早い方の小型アバターである。だが、彼女はレベルアップボーナスで与えられる全てを火力武装に注ぎ込み、その姿を一つの要塞兵器へ姿を変える。

その大きさは先程とは逆に恐らくトップクラスの巨大さを誇る。その巨体に積み込まれた武装は敵を寄せ付けないほどの圧倒的な火力を実現し、その火力こそが、彼女が赤のレギオンの王に押し上げた。

その結果得た彼女の射程は対戦フィールド全域である。そんな超長距離火力の彼女から距離を開ける事は愚の骨頂。

せめて彼女の砲門が見える位置取りをし、回避に専念しなければならない。

 

「何で対戦を申し込んできたんです?あなたにはメリット無いでしょう」

「うちのレパードが昔随分世話になったみてぇじゃねぇかッ!キッチリ礼をさせてもらおうと思ってなッ!!」

「あぁ、なるほど……」

 

避ける事に集中しながらの会話は反応が少なくなってしまうが、気になってしまったのだからしょうがない。

だがそれにしても、昔と言うと二年ほど前になるだろう。

あの当時お互いまだレベルが低かったとは言え、ほぼ完封と言える試合運びをした事を聞いたのだろう。

それで興味を持たれてしまったらしい。

 

(まぁ、最初の口振りからしたら元から僕に用がある感じじゃなかったけども……)

 

おそらく他の用事ついでに僕を発見してしまい、勝負を吹っ掛けて来たと言う感じだと思われる。

場所が場所だけにその用事と言うのが気になる。

現在地は杉並第3戦区。赤い要塞が現れたのは梅郷中周辺付近である。

黒の王が住まう戦区に王が単身乗り込んで、加速を行う、宣戦布告と取られても可笑しくは無い。

しかもさらに拍車をかけて、梅郷中と言うのは黒の王が通う学校なのだ。

何もない、と言うのは有り得ない。

 

「ととッ!?」

「へっ!貰ったぜッ!空中なら避けらんねぇだろうが!!」

 

爆炎などによって行き場を失った僕はその逃げ場を空中に求めた。

流石は赤の王と言われるだけあり、それを計算でやってのけているのだから驚きだ。

飛び上がる僕に真っ赤な砲門が向けられる。

 

(久しぶりだな…… これ使うの)

 

真っ赤な砲門から爆発と同時に閃光が放たれる。要塞の主砲攻撃、防御能力の無い僕が受ければ軽くて八割、下手をすれば一撃で消滅しかねない威力を誇っていた。

だから避ける。

過去格闘ゲームと言う概念を念頭に置いて戦っていた頃、身に付けた格闘ゲームらしい能力で。

 

「なっ!?何だそりゃッ!!」

「空中ジャンプですよ。格ゲーなんですからこれくらいあるでしょ?」

「チッ!」

 

空を蹴る。

空を駆ける事は叶わなかったが、空を跳ぶ事が出来るようになった。

飛行型アバターも居なければ、同じアビリティを持っている人間も居なかったので使う機会が出来ず、今まで宝の持ち腐れ状態であったが、赤の王の火力の前に空を跳ぶ事を強いられた、これが初公開となる。

 

未だ空を跳んでいる僕に、赤の王は次弾を放つ。

それを今度は、上ではなく地面に向けて空を蹴り回避する。

 

「格ゲーって言っておきながら二段ジャンプじゃねぇじゃねぇかよッ!!」

「いやまぁ、それは正直済みません」

 

動きの激しい格闘ゲームの定番二段ジャンプと空中ダッシュ。

それを僕はゲージがある限り続ける事が出来る。これも一種の疑似飛行能力だが、そのゲージ消費が途轍もなく多い、空中には破壊可能オブジェクトなどは存在する訳も無く、連続使用すれば三十秒も持たないだろう。

 

三次元全てを駆使して、避ける事に集中する。

それはまるで神獣級の時と同じような緊張感を持って僕にプレッシャーをかけて来る。

ここまで必死に避けなくても自分よりも高レベルなのだから消費ポイントは少なくて済むのだが、それは負けた気がするのでしたくない。

対戦しないくせに、負けたくないとは自分の事ながらなんと強欲な事か。

 

「クソッ!時間いっぱい逃げ切られたぁぁ――――!もう一回だッ!」

「いや、もう……勘弁してください……」

 

逃げ切られた事に地団駄踏んでいる赤の王とは対照的に、僕はもう一歩も動きたくない。

 

「はぁ、こうも何度も逃げ切られると自信無くすぜ……。まぁいいや、おいソニックッ!」

「な、んですか……?」

「少し話がある。この後また直ぐに加速すっから、杉並から出んじゃねぇぞ?」

 

あまり良い予感がしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインとの対戦が終わった後、僕は彼女の目的を聞き、それに手を貸す事を約束し、赤の王こと上月由仁子のリンカーを通して、ネガ・ネビュラスの本拠地で助成してもらう予定の黒の王たちとの話を聞いていた。

それは加速世界最大の脅威とも呼べる『災禍の鎧』の復活である。

災禍の鎧とは、もとはただの強化外装であったそうだ。しかし、僕ら上級者と呼ばれるリンカーが使う心意、これと同じ現象がその装備にも起こった。

つまり、初代の装備者の意思が宿る、と言う事だ。それも最悪な形で。災禍、と呼ばれるだけあり、存在そのものが破壊をまき散らし決して看過できる存在ではない。故に多少脅しもあったが、僕は彼女に協力する事にした。

あっさりと僕にリアルを晒した彼女には驚かされたが、その話を聞いて納得をしてしまった。『災禍の鎧』は直ぐにでも破壊しなければならない。

 

そして、鎧を破壊するための必須条件が由仁子ちゃんがネガ・ネビュラスに助けを求める理由に繋がる。今回の鎧の装着者は空を自由に動けるらしい。その為、飛行スキルを持つ人物の助勢が必要であること。

その点で言えば、僕も彼女の目的のスキル、空を自由に動けるのだが、敵が敵だけに僕と彼女だけでは手が足りない恐れがある。だから当初の目的、シルバー・クロウとその所属勢力の助けを求める事になった。

その方法は強引極まりなかったが、そうするだけの価値はあるだろう。

 

「ッと、ここまで話したが、もう一人協力者を確保してんだ」

「協力者?おい、赤いの、この問題は私たち四人で解決するんじゃなかったのか?」

「初めはそのつもりだったんだが、保険みたいなもんだ。元々中立の奴だし、話したら簡単に協力してくれるってよ。まってな、今そいつと連絡とっから」

「待ってくださいッ!リアルの状態で話すつもりですか!?これ以上僕たちのリアルが割れるのは避けたい!」

 

まったく出鱈目である。

まず、僕は簡単にではなく半ば強要されたと言っておく。断れば毎回対戦を吹っ掛けてやる、と王自ら言われれば元から手助けするつもりであっても、嫌でも頷かずにはいられないだろう。

 

「気にすんな。って言うか、そいつアンタたちのリアルもう知ってるみたいだったぜ?」

「え、え?えっ!?ちょ、ちょちょちょっとユニコちゃん!?それどういう事っ!?」

「うるっせーなぁ。本人に聞けよ。あたしは知らない」

 

由仁子ちゃんから通話を全員に聞こえるようにしたと言う旨を言われ僕は口を開く。

 

『こんにちわ、ネガ・ネビュラスのみなさん』

「ぶっ!?」

「ど、如何したタク!」

「い、いやなんでも……」

 

何故か僕のウサギアバターが表示された途端にタッ君が噴出したが、気にせず話を進める。

 

『僕はホリゾン・ソニック。ロータスとは何度か会ってるね』

「ほう、君か。確かに君ならほぼ中立、今までの君の功績から考えて今回の事件は看過できないと言う事か」

『まぁ、関わったのはほぼ偶然ですが……』

「せ、先輩、お知り合いですか?」

「ん、そうか、君は知らないか。タクム君、君は知っていると思うが?」

 

黒雪姫に言われ、タッ君は驚いた拍子にずれたメガネを戻す仕草をした後、大きく息をしてから僕について知っている事を話し始めた。

 

「ええ、ホリゾン・ソニック。加速世界の中でも最速の称号を冠されるレベル8のバースト・リンカー。何故か通常対戦をタイムアップで逃げ切り、戦わない事でも有名ですが、もっとも有名なのは彼の無制限中立フィールドでの活動『EKハンター』としての側面です」

『改めて自分の事を説明されると何だか可笑しな気分になってきますね。それで正解です』

「なるほど、それほどの人が護衛についてくれれば、王二人もいるし全然楽勝ですね!」

「いや、コイツにも捕まえるのに参加してもらう。クロウとソニックの二人で動きを止める」

 

それを聞いてみんな首を傾げる。

それもそうだろう、今までの話では空を飛べなければ捕まえる事は困難と言う結論に達し、それ故にクロウの力を必要としていたのだから。

 

「あぁ~、なんつうか、コイツもとぶんだよ。それも気持ち悪い方法で」

『いやいや、ゴキブリの次は気持ち悪いって、赤の王、僕に恨みがあります?』

「全弾避けられりゃ、射撃型なら大体恨むわ、気にすんな」

『気にするなって……』

 

釈然としないが此処は納得しておくことにした。

話が前に進まない。

 

「飛ぶ?そんな話し私は聞いた事無いぞ」

「説明するより見せた方が早ぇだろうな。おい、ちょっと対戦して見ろよ」

「ぼ、僕ですかッ!?」

『僕だって対戦はしませんよ。何を言ってるんですかこのお子様は』

「そんな口聞いても良いのかぁ?アタシがずっと対戦挑み続けッぞ」

『よしクロウ。お互い頑張ろうッ!』

「即答ッ!?」

 

当たり前である。

流石にあれをずっと避け続けられるほど僕の神経は図太く出来ていない。

 

「良いじゃないかハルユキ君。彼と戦えるのは今はとても難しい。多くのバースト・リンカーが羨む状況だぞ?経験も積めて一石二鳥と言う物だ」

「で、でも僕なんかじゃすぐ終わっちゃいますよ」

 

ハル君が何とも頼りなさ気に言葉を紡ぐのに対して、黒雪姫はそれに困ったように眉をひそめる。

 

『ハル君、僕は君が一番最初にプレイした対戦から見ている』

「え?」

『2回目のアッシュとの再戦、君は作戦が失敗に終わっても勝つ事を諦めずに思考停止しなかった。僕はそれをとても評価しているんだ』

「あ、あんなのたまたま……」

『このゲームはレベルが全てではないが、圧倒的なアドバンテージでもあるんだ。それを覆すのは並大抵の事ではない。それも偶然勝つなんて言う事等、先ず無いと言っても良い程に』

 

ハル君は困惑したような表情で僕の次の言葉を待つ。

 

『それに君がこれからやらねばならない事はレベル9にも匹敵するモノの動きを封じる事だ。同じセリフをその時口にするつもりかい?』

「僕は……」

 

少し言い方はきつかったかもしれないが、しっかりと認識したうえで事に当たらなくてはならない。

今回の事件は失敗は許されないのだから。

 

『自信を持っていい。空で君以上に強い奴はいない』

「……はい、解りました。僕と、戦って下さいッ!」

 

シルバー・クロウ対ホリゾン・ソニック。

最速を目指す空の雛鳥と、現最速の衝突が実現した。




お疲れ様です。

段々と主人公が可笑しくなり始めている気がします。
やり過ぎかと思いましたが、弱点も設定してますのでご了承ください。

最近0評価を頂きましたが、自分の作品が読む価値無しと言われるほど酷い出来ではないと言う自覚は持っているのでそれ程気にならないのですが、まだどこか拙いと言うのは理解できます。
設定的矛盾も今の所ないと思いますので、文章で何か不味い所があれば感想をいただきたいと思います。それを元に少しでも文章力を向上させていきたいです。


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第十話

どうも、真ん丸骸骨です。
投稿感覚を一週間で固定したいけれども、何とも進まない物ですね。
ですので投稿期間よりも内容をもっと考え煮詰めながらやって行こうと思います。それでもおかしな所があれば、突っ込みを入れて頂きたく思います。


いくら対戦と言っても、僕とハル君のレベル差は歴然。

経験は言うまでも無く、戦績も勝率の方が遥かに多い僕、さらに僕自身が対戦をそれ程乗り気では無い事があり、いくつかの指定を受けた。

ハル君が僕を捕まえられれば勝利と言う物だ。簡単に言うと鬼ごっことも言う。

 

「良いかハルユキ君。君は無理をする必要はない、彼を捕えて五秒と言う時間を稼げさえすればいいんだ」

「はいッ!それぐらいなら僕にだって何とか……」

 

ただ捕まえれば良いと言う訳ではない。

五秒と言う時間、僕を拘束する事がクリア条件となる。つまり僕は仮想敵。

長距離ジャンプを可能とし、空中でも動く事が出来る僕は格好の練習相手と言う訳だ。

 

ただ、僕も攻撃をするし、回避行動をするのでそう簡単な物ではない。

 

「それじゃ、やろうかクロウ。僕の速度に付いて来れるか?」

「付いて行きます!あなたと同じ世界を、僕は目指してるんですから」

 

周りにギャラリーはいない。

僕たちはマンションのローカルネットにのみ接続して対戦を行っているのだ。

これには僕もマンションに接続していなくてはならないので僕も彼らの住むマンションの入り口で接続している。

今現在五人が居るのはマンションの玄関前、仮想敵と言う役目上逃げ回ったり距離を開けすぎるのはいけないと言う事で試合開始場所も同じ場所からと言う事で決まった。

 

「では行こうか、観客を魅了するような試合をしよう」

「はいッ!」

 

まず僕から駆け出す。

それを追うようにしてクロウが追いかけてくる。

だが、あまり離れすぎても行けないので、幾らか距離を取るとクロウの動きを観察する。

クロウは即座に通常速度では勝てないと判断してオブジェクト破壊に向かいゲージを確保する動きを見せ始める。

一分ほどの時間を使ってゲージが四割にまで届くとクロウは準備が整ったとばかりに大声で僕に宣言する。

 

「行きますッ!」

 

直後彼の背中から銀色の美しい翼が顕現する。

それをはためかせ、空に飛ぶと、僕は観戦で見ていた以上の威圧感を肌で感じ取る。

 

「やっぱり制空権を取られると違うな。見ているのと対峙するのとでは感動も一塩と言ったところかな」

 

上空から急降下してくるクロウに僕は跳び上がり迎え撃つ。

まっすぐ伸ばされた拳を片腕でいなし、空いた腕で追撃を掛ける。それを受け止めたクロウは前転するように体を回転させ踵落としの要領で僕の頭を狙ってくる。

 

「正解だ、初めから捕まえに行っても大人しく捕まる相手はいない。が、まだこれじゃダメージは許せないねッ!」

「空で避けたッ!?これが空中ジャンプ!」

「残念だが、まだそのアビリティは使っていないんだよ」

 

クロウの振り下ろす足にそっと腕を添えてそこを支点に体をほんの少しだけ動かし攻撃をいなして、反撃に拳を彼の脇腹に叩き込む。

 

「がッ!?」

 

僕の一撃で飛んでいくクロウを空中ジャンプのアビリティを使い追いかける。

くの字で飛んでいき、姿勢制御に苦心するクロウの逆側に僕は高速で移動し新たな攻撃を加える。

 

「これは、エリアル――――ッ!?」

「これが空の戦い方だッ!」

 

そこから飛んで行った先に現れては拳を叩き付ける事十数回、僕はゲージを使い果たし地上に着地する。

クロウの体力ゲージを確認すると、ようやく半分を切った所だ。

攻撃の瞬間腕を交差させて上手く防がれたと言っても、レベル差があってこの数値しかダメージを与えられないと言うのは自分の攻撃力の無さを呪わずにはいられない。

だが今のでレベル差を強く感じさせられたはずだ。レベルが上がれば速さに慣れてこれくらいの芸当は熟してくる輩は大勢いる。

僕ら速度タイプは、そこからさらに戦いに変化を与え、勝利をもぎ取らなければならない。

 

「さぁ、如何するハル君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は下から見つめる薄青色をした対戦相手を見つめながら次の手を考えを巡らせていた。

今までの短い攻防で感じたのは、強い、と言うよりも巧い、と言う事だ。

タクや黒雪姫先輩から教えられていた特徴から、僕と同じように速度で攻めるタイプだと思っていたが、その完成度は桁違いだ。

薄い防御を考慮した回避技能、足りない攻撃力をラッシュで稼ぎ、防御されれば緩急を付け油断を誘う。

先程の空中の連続攻撃も、防御をしたつもりだったのに攻撃の挙動を見せたと思ったら通り抜け後ろから、と言う事もあったのだ。

 

(空は僕が強いって言っておきながらあれだもんなぁ、勝てる訳ないよ……)

 

先程の自信があった空中での一幕を思い出し、つい弱気な考えが頭を過ぎる。

そもそも空中での速度も地上時と大して変わらないのでは、捕える所か攻撃も危うい。

 

(あれ?)

 

と、そこまで考えて気になる事が頭に浮かびあがってくる。

攻撃を受けながら観察し、思い出した時に感じた違和感。

あの速度で攻撃されていた筈なのになぜ防御が間に合っていたのか。

 

(どうせ勝てないし、ミッションクリア条件は五秒間の捕縛だ、やって見る価値はあるっ!)

 

ミッション制のゲームは今まで何度もやって来た。

どんな無茶なクエストでも必ずどこかに弱点、クリアするための糸口がある。

それはこのブレイン・バーストでも言える事だ。完ぺきな存在なんてない、そんなのが居たら今頃このゲームはエンディングを迎えてるはずなんだ。

 

「今度こそ行きますッ!」

「来い!君の力を見せてくれッ!」

 

僕が思考している間にまたゲージを溜めていたのか、先ほどと同じように空中戦に応じてくる。

空中戦だからこその攻略法、他の誰であってもそれを隙だと感じない物だが、僕には唯一の手段となる。

 

「はああぁぁ――――!」

 

最初と同じように空中での格闘戦はまだ向こうに分があるのなら、それに応じなければ良い。

急降下と同時に蹴りを放つ。勿論こんなテレフォンパンチのような攻撃が先程の反応スピードからしたら避けられて当たり前だ。

だが、この攻撃は見せ技、本番は此処から。

 

背中を晒した僕に向かってソニックは空中ジャンプを用いて接近する。

すぐ後ろに感じる威圧感を受けて僕は羽をはためかす。

 

「うおっ!?」

「ここ、だあぁぁぁ――――ッ!!」

 

背中に接触する瞬間、肩翼だけを動かし体を無理やりに右に動かす。

そのタイミングで僕は飛びついた。

 

防御が間に合っていた理由、それは数秒の接近に必要なタイムラグだ。

彼の移動速度から攻撃が間に合わないと言うのは如何にも腑に落ちなかった。そこで十数回にも及ぶエリアルコンボと言える攻撃を思い起こす。

そこで気が付いたのは、数瞬の彼の不自然な落下だった。

 

「そう、あなたのアビリティの弱点はジャンプと言う特性上、連続使用が出来ない事だ。一秒か、または二秒、あなたはジャンプをする事が出来ないッ!」

 

連続して使用できるのなら、それはもう空中歩行の領域だ、決してジャンプではない。

ただの気の所為や、単なる手加減と言う線も捨てられなかったが、他に攻略法が思い浮かばなかったので実行に移す事になった。

 

「――――正解、まさかそんな数瞬の隙を突いてくるとはね」

 

彼の曝した背中に飛びついた格好の僕たちは、そのまま地表に向かって急速落下をしていた。

落ちるまでそれほど時間は無い。

だが、この高度からなら落下ダメージでかなり削れるはず。

 

「やはり空の上では君には勝てそうにない。今日はそれが解っただけでも収穫だ」

 

そう呟いたソニックは、首を稼働限界まで振りむかせ、

 

「良い戦いでした。君の勝利だ」

 

認められた、親である黒雪姫先輩や親友のタクにはいつも言われていたが、どこか不安が付きまとっていた。

それは今までの領土戦での失態、他二人に少なくない負担を掛けていた事から僕の心に深く突き刺さっていた。それが全て晴れたとは言えない、だが、まったくの第三者から言われるのは幾ばくかの救いに感じた。

 

「ありがとう、ございましたッ!」

 

自分の言葉と同時に激しい衝撃音。

五秒間の拘束は、地面にソニックを叩き付けると同時に達成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

(久しぶりだ、この感じ……)

 

体に感じる満ち足りた感覚。

義務的な対戦ではないのは何時振りだろう。自分の意思で空を駆け、地を駆け、相手に向けられる敵意に正面から向き合ったのは。

その感覚に僕は鳥肌が立つのを感じた。血が昂ると言えばいいのか、とにかく、僕は心の底ではやはり対戦を楽しみたいのだろう。

直に対戦して、それを強く感じた。

だが、その考えを頭を振ってすぐに忘れる。考えてはいけない事だ。

 

「あ、あの、ドロー申請をしないと」

「ん?あ、あぁ、良いよそのままで。良い戦いのご褒美、って言っちゃうと偉そうだけど、うん、この戦いはさっき言ったように君の勝ちだよ」

 

残ったのは僅かに一割弱、ここから巻き返すのは容易だが、この戦いの趣旨は僕のジャンプとクロウとの模擬戦。このままドロー―でも良いが、それでは対戦の旨みが無いと思うし、クロウはしっかりと目的を達したのだ、ポイントを得るだけの資格はある。

 

「ほら、結構離れちゃったし、早く戻ろう。あの二人を待たせると怖そうだよ」

「うっ、それは確かに。でも、ソニックさんのポイント大丈夫なんですか?通常対戦してないって聞きましたし、余裕がないんじゃ……」

「気にするほどじゃないよ。日常じゃまったくと言って良い程加速なんて使わないから、まだまだレベル4くらいと同じくらいだよ。全然余裕」

 

心配するクロウに僕は笑い飛ばしてやり、彼の持つ遠慮を無視する事にした。

粗削りながら彼の素質は高い。あの黒の王が惚れ込むのも頷けると言う物だ。だから僕も、少しばかりお節介を焼いてみたくなる。

 

「そんな事よりもクロウ。君に僕から一つアドバイスをあげるよ」

「アドバイスですか?」

「そう、君が苦手としている射撃型との戦い方」

 

クロウから息を飲む声が聞こえた気がした。体も僕の台詞を聞いたとき少し緊張で固くなった。僕の想像以上に、その事は彼にとって大きな問題だったようだ。

シルバー・クロウがこの世界で羽を得てから三か月、それだけあればあれだけ注目を集める能力だ、対応策などを練られるのも摂理である。

そしてその弱点と言うのが彼の≪飛行する≫と言うの能力その物だったのが、彼にとっては大きな痛手であっただろう。飛ぶと言う事は遮蔽物に隠れられないと言う欠点がある。つまり、射撃の格好の的となるのだ。

それが彼にとっての他の真髄を許さぬ強みであったのだから、スランプに陥っていてもしょうがない。

 

「領土戦、観戦させてもらったけど、あれだね、君は自分のスタイルを忘れてるよ」

「忘れてる?」

「そう、僕もね狙撃された経験はあるよ。それも執拗に。と言うか、今も対戦すると大抵狙撃されるし」

「ソニックさんは遮蔽物で隠れてるんでしょ?そうじゃなきゃ今まで逃げ切り続けられるなんておかしいですもんね。まぁ、僕も低空飛行すればいいかもしれませんけど……」

「いや、それだと君の本領が発揮できないじゃないか」

 

確かに僕はクロウの様に遮蔽物が全く無いと言う訳ではない。でも、全てを全てそれで防げるほど対戦は甘くない。ごく稀にだが、跳弾などと言う冗談のようなスキルを使う奴もいるのだ。隠れているだけでは捉えられるだろう。

 

「単純だよ。僕たちは速度重視のアバターだ。なら動けばいいんだよ、撃たれてもそこにいなければ当たらない」

「理屈ではそうでしょうけど、実際僕撃ち落されてますし……」

「だから君は忘れてるんだよ、君がいるのは地上じゃない、空だ。そこで君は避けてやる避けてやるって、動きが止まってたよ」

「えっ嘘ッ!?」

「遮蔽物が無くて止まってたら、そりゃ撃たれるよ。それに空なら、地上なんかよりも避けるのは難しくないと思うよ?」

「難しくないって他人事だと思って……」

 

口調が崩れてきたのは、関係を築く上で良い事だが、恨み言を言われて少し苦笑いを浮かべる。

 

「勘違いしてはいけない。何度も言うけど君がいるのはあの空だ。地上よりも自由に、それこそ無限に広がっているんだ。完璧に捉えられる奴なんていないよ」

 

未だ納得の言っていない様子なので、あまりやった事は無い少ないゲーム知識を引っ張り出して、彼に解りやすい例えを出す事にした。

 

「ほら、フライトシューティングだって、誘導弾は当てやすいけど機関銃とか当て辛いでしょ?」

「なるほど、僕はあまり苦に感じないですけど、馴染まない人は難しいらしいですよね」

 

玄人発言をされて返された。僕はその馴染まない人間なので、あの空中をふらふらと視点が定められないのと相まって数時間やって少し酔った挙句に墜落してゲームオーバーと言う事など毎回だった。関係の無い話だが、昔一緒に遊んだ楓子さんもそう言ったゲームが得意だった記憶がある。

 

しかもあれは相手も同じ条件でやっているから当てられるのであって、地上から砲台として狙うのはそれ以上に困難だと個人的に思う。

 

「ッと、話し込んじゃったかな。戻ろうか」

「あ、はいッ!」

 

そして僕らは再度五人集まると、先程の戦闘に対しての意見交換などで時間を潰し、加速時間を終えた。




お疲れ様でした。
今回は対戦と最後にアドバイスをする感じで終わりました。
説教ではないので大丈夫、主人公は先輩風を吹かせられれば良いと思ってます。


話は変わりますが、今回の話がうまく進まなかった時に、勢いで書いた短編の様な物を上げようと思います。そちらは三人称を練習しようと書いたものなのですが、見て頂ければ幸いです。
そちらもアクセルワールドで、主人公に出来なかった設定の垂れ流しになっているかもしれません。
五千時くらいの短い物ですがどうぞ。


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第十一話

どうも、真ん丸骸骨です。

大分期間が空いてしまいましたが、ようやく投稿できます。
今回の話は会話パートのみなので面白みに欠けますが、人物間の親密度的な問題で、入れないと彼との今後の絡みが入れ辛いので入れさせていただきました。
若干無理やり感がありますがよろしくお願いします。


加速世界から戻った僕たちは、黒雪姫が主導となり、最終確認を行う。

その際累計プレイ時間の話題が上り、自分はどうだったかを改めて考えてみた。最初期からいるブラック・ロータス以下だとは思うが、黒のレギオン解散事件の前後でまだ初心者同然であったと語っていた赤の王よりは長い気はする。

累計時間など考えても五十歩百歩なのだが、軽く考えても二けたに届く年数はいると考えて間違いないだろう。

精神年齢は既に成人しているのかと考えが至り、凄まじいと今更ながらに驚いた。

 

さらに話は進み、黒雪姫が≪プロミネンス≫と休戦協定を結ぶと言う出来事があった。これは赤のレギオンが黒のレギオンに協力要請をしている形なのだから妥当だと言える。その時舌打ちしていた由仁子だが、最初からこの展開を予想していたようで、スムーズに話が進んだ。

 

「それでソニック。君はどうする?出来ればここに集まった方がタイムラグなく済むのだが……」

 

そして最後、僕がいつ合流するかと言う問題で話が止まった。

これはどうするか、僕は非常に悩んでいる。ここで姿を見せて協力をするのも良いのだが、僕はまだ彼らを完全には信頼できていない。これは別に、彼らが信用置けない人物だと言っている訳ではない。

彼女らは切実に災禍の鎧の破壊を望んでいるのだろう。それは僕だって破壊したい。

だが、その後はどうだろうと考えた時、僕には踏ん切りがつかなかった。しつこい様だが僕には他の人間では珍しいであろう身体的不利がある。これを考えると、どうしても慎重にならざる負えない。

リアルが割れた時、誰よりも無防備を晒す事になるのだから。

 

『申し訳ないけど、当日も今日と同じように、別の場所からフィールドに入ってここに来させてもらうよ。あまりフェアとは言えないけど、勘弁してほしい』

「そうか。いや、気にする事は無い。今回のような事態は珍しいんだ、君の対応の方が本来は正しい」

『そう言ってもらえると助かるよ。……せめて連絡先だけは伝えておく』

 

そこから辿られると言う心配はもちろんあるが、辿られたら辿られたで顔を出す踏ん切りもつくだろうと、自分でも慎重なのか無防備なのか解らなくなってきた。

もっとも、これはただ無防備であるだけではなく、これから当たる事に向け信頼を築く目的も多分に含まれている。

 

「そうか、君の信頼に答えなければならないな」

 

リアルの連絡先を教えるだけでも相当なリスクだ。それを正しく理解している黒雪姫は、神妙な表情を浮かべてその連絡先を受け取り、お返しに連絡先を送ってきた。

何も言葉を発しないが、皆同じように連絡先を受け取ると、僕に連絡先を送信してくる。

 

「よし、それでは明日の放課後ここに集合、ソニックには決行の一分前にメールで連絡する。これで良いな?」

「ええ、それならソニックさんも時間を合わせやすいでしょう。連絡は僕の方からします」

『すまないね、パイル、ロータス。手間をかける』

 

全ての決め事を終えた僕は、先に通信を切らせてもらう事にした。

余り長い事マンションの玄関口で直結を続けているのも、外聞が悪い。同じタイミングでタッ君も席を立ったので、最後に別れの挨拶をしてから接続を切った。

 

「よし、帰るか」

 

繋いでいたケーブルを引っこ抜くと、それを鞄にしまい込み、背後にある車椅子の持ち手に掛ける。

そのままマンションの自動ドアを潜った所で、僕の首に付いているニューロ・リンカーにメール着信があった。

 

「これは……タッ君か?」

 

空中に手を伸ばし、自分にしか見えないウィンドウから、メールの着信画面を開いた。

その内容は丁寧な文面で、この後話しが出来ないかと尋ねる物だった。内容は解らないが、まだ連絡を切ってから数分と経っていないし、おそらくは内密な物だろう。

態々一度メールで連絡を入れてくる辺り、彼の生真面目さが滲み出ている。

僕は迷わず”了解”と返事を送り急いでその場から離れる。話しこんでしまったので時間は相当遅い。

帰りが遅くなる事は親に連絡は入れていたが、心配性の母は何度でも電話を鳴らしそうなのでそうなる前に着ければ良いと、出せるギリギリの速度で走らせる。

 

 

 

「それで話って言うのは何かな?」

 

あれから一時間後、丁度家に帰り着いたときにタッ君から連絡が入った。何故か彼の希望でアバターでの通信、僕が何時ものウサギの姿、そしてタッ君がブリキの人形で顔は彼そのままの姿だった。

彼は僕の姿を見ると、小さく唇を動かした。聞き取れなかったが、その表情はどこか辛そうに見える。

 

「あなたは……、あなたはチーちゃんをどうするつもりですか!」

「えと、話の内容が上手く解らないけど、僕の事、チユリちゃんから聞いたのかな?」

「っ、それは……」

「あぁ、いや聞いてるに決まってるか。ごめんよ、それでチユリちゃんの件だけど……」

 

突然の話題、だが僕のアバターに激しく反応していたので、チユリちゃんに僕の事を聞いていたのだと思う。あり得ない話ではない。彼女の彼氏だった彼ならば、彼女から僕のアバターの話を聞いていても不思議ではないだろう。別に聞かれて困るような会話はしていない。

いや、彼らの仲についての相談が主だったので、別の意味で聞かせられないような話ではあったか。

 

「たぶん僕自身の子にするか、って言う質問だと思うから、はっきり答えておくね。答えは『NO』だ」

「違うと言うんですか……?」

「うん、彼女と会ったのは本当にたまたまだし、僕はブレイン・バースト関連でリアルでは誰とも会うつもりがない」

 

そう、僕には子を作る気持ちが無い。

子を作ると言う事は、その人物と接して信頼を築き、上を目指して行く事だ。それが僕には途轍もなく恐ろしい。

僕は見ているから。親と子と言う関係が実の兄弟間であっても、ポイントの為ならば簡単に裏切り敵対する事があると言う事を。

 

「一応言っておくけど、彼女は僕がバースト・リンカーである事を知らない。でも、彼女は君たちと一緒にゲームがやりたいと言っていたよ。ゲームだから楽しまなくちゃおかしい、ってさ」

「チーちゃんが……。でも、このゲームは彼女が考えているほど簡単な物じゃないッ!止めてください、こんな危険なゲーム、チーちゃんには似合わない。それは、僕よりもあなたが一番よく理解しているはずです!」

 

危険、確かにこのゲームは危険だ。痛覚はあるし、無制限フィールドに潜れば痛覚は二倍。

ショック死などは聞いた事は無いが、対戦がトラウマになったと言うプレイヤーは確かに存在する。エネミーに腕を食いちぎられると言う経験をしている僕はその事が痛いほどわかる。

でも――――

 

「だからと言って、彼女の意思を無視できないと思う。それに彼女は変な所で頑固だからね」

「でも、あなたが言えばチーちゃんだってきっと!あんなに貴方の事を信頼して……ッ。僕は……」

「え、ちょっと?どうしたのタッ君?」

 

タッ君が話の途中いきなり両膝を折り涙む。突然の事で驚いてしまったが、少しずつ、彼は僕に聞かせてくれた。彼が何をしてしまったのかを。

 

バックドアプログラム、一種のウイルスプログラムだ。その効果は、通常パスワードなどが設けられた端末を無許可で所有者にも気が付かれずに、その端末の情報などを閲覧する事が出来る。

つまり、好きな時に常に直結状態と同じ状況を作る事が出来るのだ。

それをチユリちゃんに仕掛けたらしい。

 

「何で僕にその事を?」

「何で、でしょうね。最初はこんな話するつもりじゃなかったんですが……。でも、あなたはチーちゃんからとても信頼されている。そしてあなたが、僕なんかよりもずっとチーちゃんをしっかり見ている事を気付かされて……」

 

さらにタッ君は言葉を続ける。付き合い始めてから、いや、付き合い始める前から自分がチユリちゃんを真直ぐに見ていなかったと。ハル君に対しての暗い気持、そこから繋がるバックドアプログラムであり、あの日のシルバー・クロウとシアン・パイルの対戦へと進むわけだ。

 

どこか痛々しいまでに自虐を続ける彼を見て、僕は自分の姿に重なる物を感じてしまった。

 

「後悔してるの?」

「当たり前ですよ。チーちゃんとハルは優しいからこんな僕を許してくれましたけど、僕は僕自身が許せない」

 

当事者たちが許してくれたと言っても、彼が行った事は犯罪だ。さらには仕掛けた対象が彼女で、苛立ちを爆発させたのが親友では、自分を責めても仕方がないように思える。

だが、間違いだらけの事だが、一つだけ正しい事がある。

 

「君がやってしまった事全てが間違いとは僕には思えないよ。ウイルスプログラムなんかは確かに悪い事だと思う。でも、君がチユリちゃんを好きな事は正しい事だ」

 

した事の無い僕があれこれと言うのも可笑しいが、恋愛とはいい感情だけでは片付かない。

それこそ昼ドラのドロドロした事だって起きない訳ではないのだから。

 

「正しい筈が無いですよ。こんな、こんな事までやって、僕は自分の事ばかり……。だから僕はチーちゃんと距離を――――」

「バカか君は。好きなら誰だって考えるさ、自分だけ見て欲しいって。君の場合はそれがブレイン・バーストによって手に出来るだけの所にいたから暴走してしまっただけだ。自分の抱いた気持ちは否定しちゃいけない」

 

行った行動は間違いでも、それを思うに至った気持ちは間違いではないのだから。

 

「……何だか、チーちゃんが貴方を頼る意味が分かった気がします。羨ましい程に」

「僕は君よりも無駄に年数を過ごしてるだけだよ。僕こそ羨ましい。そこまで人を思える気持ちを持ち続けられるんだから」

 

どれほど前から人を純粋に思えなくなっただろうか。親友を一晩で失い、周りを警戒して過ごしてきた。

だからこそ、彼らのリアルで繋がる関係は好ましく、壊れて欲しくないと心から思っている。

 

「……長く話し込んでしまいましたね。そろそろ切ります」

「また何かあれば話位聞くからさ。連絡してね」

「えぇ、その時はお願いします」

 

少し時間をおき、落ち着いたタッ君は先程の取り乱した事を謝罪し今日の出来事に礼を述べて通話を切った。

きっとタッ君は今後もその事件の事を思い出し、苦しむ事だろう。トラウマとは、容易く拭えぬからトラウマ足り得るのだから。だから僕は、その時に少しでも力になれればと心の中で思う。

 

一人自宅サーバーで物思いに耽りながら、タッ君の周りの環境に僅かばかりの嫉妬の念を持ってしまった。

自分が彼よりも不幸などとは決して考えたりしないが、それでも、思いをぶつけられる親友がおり、全てを賭けても良いと思えるような女性もいる。そして、彼の努力次第で今後、もっと開けた未来が待っている。

 

「羨ましい、なぁ……」

 

口を付いて出たのは僕の本心。その独白は誰にも聞かれる事無く、電子の海に掻き消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日早朝。

さっそくタッ君からの連絡があった。通話で。

 

『助けてください。僕一人じゃヒートアップしたチーちゃんは止められないので……』

「いつでも連絡してって言ったけどさ、これはどうだろう?」

 

アバター通信で目の前に展開されているドタバタ劇を見やる。

 

『説明しなさいってばハルゥッ!!』

『倉嶋君、その辺でやめてくれないか?説明はさっきしただろう、私は昨日、彼の家に泊まっただけだ』

『ハルゥ――――ッ!!』

 

チユリちゃんがハル君に突っ掛り、黒雪姫がさらに油を注いでいる状況だった。

男としては羨ましい状況であるが、こちらに助けを求めるハル君の視線は僅かに痛い。

 

『如何止めたらいいと思いますか?』

「頭を使うのは君の分野だろう。僕に聞かれても……」

『僕もここまで抉れたのは如何した物かと……』

 

背の高い美男子と、画面に浮かぶウサギが二人して頭を捻っていると言う、かなりシュールな絵図等が出来上がった。僕に気づいたチユリちゃんが今度はタッ君に詰め寄り説明を要求していたが、若干嬉しそうなタッ君は苦笑いでブレイン・バースト関連である事を教えることになった。僕もその会話に参加したかったが、そろそろ出なければ学校に遅刻しそうだったので通話を切る。

 

「……後でチユリちゃんが怒りそうだな」

 

その間までに言い訳を考えておくようにする僕だった。




お疲れ様です。

タッ君の活躍を増やす為、主人公との信頼度を無理やり上げております。
アバターの中で、実は彼が一番好きな私としては、パイルバンカーが火を噴いてほしい所です。

この話とは関係は有りませんが、以前指摘していただきました色々な部分での説明不足を少し前に加筆させていただきました。詳しく書くと、ブレイン・バーストとは?シアンの姿は?レインの姿は?また、レインとロータスたちは何の話をしていたのか?と言う部分です。

また何か可笑しな所がありましたら、ご連絡していただきたいと思います。


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第十二話

その日の学校はずっとつまらないと感じていた。

友達がいない訳じゃない。それなりに会話をするし、一緒に休日を過ごす事だってある。親友とは言えないが、それでも仲がいいと自信を持って言える。

だが、彼らと話していてもどこか満たされないのだ。

 

その理由も自分で何となくだが理解している。

不謹慎な事だが、僕は待ち遠しいのだ。『災禍の鎧』がではない、彼らと共に戦う事がだ。

何時もエネミーを狩り続け、マナーが最悪なプレイヤーと戦ってきたがほとんど一人でやっている。今回の様に、誰かと計画を立てた戦闘は今までにない。自然と頬が緩んでくる。

 

「僕、こんなに誰かと一緒にやりたかったんだな……」

 

それは彼らが特別なのか、それとも誰でも良かったのか、それは今の段階では解らない。

でも、彼らと一緒にいるのこの上なく楽しい。それだけは間違いない。

 

「っと、来たか?」

 

授業が終わり、出来るだけ早く彼らと合流できるように杉並エリアまで来ていた。そんな時、タッ君からのメールを受信、災禍の鎧、クロム・ディザスター討伐作戦が決行される。

僕は杉並エリアにある喫茶店に着いており、今すぐにでも入る事が出来る為、時計を見ながら一分間経つのを待ち構える。

 

「≪アンリミテッド・バースト≫」

 

時間の五秒前に加速コマンドを使用する。たった五秒だが、向こう側からしたら数時間だ。

少しのズレが膨大な時間を生み出してしまうので、待たれるよりは待った方が精神的に楽だろう。

 

ハル君の家は覚えているのでそこまで駆け上がり、その場から外が見える所に胡坐をかいて窓辺から広がっている世界を一望する。高さが圧倒的に低いが、見る視点と場所が変わると、また違った景色の面白さを実感する。走っている時と、こうして眺めている時間はまったく飽きが来ない。

 

「おわッ!?もういた!?」

 

暫くすると、背後からシルバー・クロウの驚きの声が届いた。時間を確認すると、丁度現実時間では連絡を貰った一分後、時間ピッタリだ。

 

「やぁ、ソニック。昨日ぶりだが、待たせてしまったか?」

「いや、僕が待ち切れなかっただけさ」

 

ロータスと軽い言葉を交わし、順にあいさつを交わしていく。

 

「そうだ、クロウはこの空間は初めてだったね」

「えぇ、無制限フィールドも昨日初めて聞きましたよ」

「見てみると良い、君なら僕よりも何かを感じられると思うよ」

 

この世界はあまりにも自由だ。地を走る僕ですらそう感じられるのだ、空を飛べる彼からしたらこの世界はどのように映るのだろう。とても興味深い。

僕以外のメンバーに、この世界について細かく聞いているクロウは何処となく興奮しているように見える。

 

「おら、そろそろ良いだろ。早めに場所変えちまおうぜ?」

「そうですね。所で……」

 

そこで幾つかの疑問点が出てきた。はたしてクロウは四人もの人間を担いで飛ぶことが出来るのか、と言う事だ。組み合わせを考えれば、二人までは楽に行けるだろう。

何せこの中で一番体格のあるシアン・パイルを一度空高くまで運んでいるのだから。

 

「さ、流石に四人は…… たぶん三人までならいけると思いますけど……」

「まぁ、そうだろうね。なら一人は僕が運んで行こう。クロウ程快適な旅にはならないだろうけど、エネミーに引っかからない様には走れるからさ」

 

空と違い、地上にはエネミーが闊歩している。それらと出会った場合、安全に逃げ切るには二人も居たら流石に足を取られかねない。まだ一人だけならば、速度も多少落ちるだけで十分逃げ切れる。

 

「解りました。それなら僕はソニックさんと一緒に行きます。マスターたちはハルと一緒に」

「そうだな。それならば合流場所を決めておこうか。おい赤いの、貴様の情報が頼りなんだ。正確な場所は解るか?」

「あぁ、今までの奴の行動からすると、ブクロのサンシャイン周辺だ。その近くのビルの屋上で良いだろう」

 

そこまで直ぐに決めると、ロータスとレインがどちらがクロウに抱かれて飛ぶかと実りの無い言い争いをしていた。肩車状態のレインを想像して、その小さな体から何やら親子のような絵が脳内で出来上がった。

そこにさらにロータスを両腕に抱き上げた状態を想像し、自分の中で微笑ましい家族像が映し出される。

 

「……アタシがガキだって?ぶっ殺すぞッ!スピードジャンキーッ!!」

「ぬおぉ――――ッ!?」

 

それを口に出して提案した所、その図と全く同じ物がレインの頭の中でも完成したようで、腰に付いていた彼女の初期装備と思しき小銃を僕に向かって乱射してくる。威力を絞っているだろうし、当たらないように狙っているだろうが、至近距離から狙われると、怖い物は怖いのだ。

 

「とっととッ!?それじゃ先行きますね!」

「え?ちょっ!?」

 

パイルの腕を掴み、マンションから飛び降りた。予めゲージを溜めて置いた僕はマンションの壁に足を着け、そのまま垂直に駆け下りていく。

 

「ま、前以って言って下さいよ!!僕は高所から落ちる時のリカバリなんて習得してないんですからッ!!」

「あ、ごめん。とりあえず逃げたかったから……」

 

大きな体を僕の腋に抱えられながら、あまりのショックに半分切れかけている。

それを何とか諌めつつ、目標地点まで目指す。後方を確認すると、二人を腕に抱きながらようやく飛び始めたクロウの姿が映った。二人してクロウの腕の中で飛ぶことに拘り、妥協したのだろう。

 

「クロウとロータスは現実で恋人同士なんだよね?」

「そうですね。マスターは大勢の生徒の前で公言してますし、ハルは釣り合わないって言って否定するでしょうけど、マスターを好きなのが傍から見て分かりますからね」

 

リアルでの彼らが如何言う関係なのかは、なんとなくはチユリちゃんに聞かされているが、まさか生徒が大勢いる中で言うほどアグレッシブだとは予想を上回っていた。ハル君が受け入れないのは未だ自分に劣等感を持っているからだろうが、それもこのゲームを通して少しずつ改善していくだろう。

 

それよりも問題なのはレインの方だ。あれは完全にからかっている。

初心な二人の反応が面白いのは解らなくはないが、そっとしておこうと言う考えが無いのだろう。やはり、精神年齢が高くなろうと、女性はそう言った話題には飢えていると言う話は本当のようだ。

 

「まぁ、今は合流場所に……――――ッ!隠れるよっ!」

「うわっ!?ど、如何したんですか?まさかエネミー!」

「いや違う、これは……」

 

少し進んだ所で僕は異変を感じてすぐに物陰に隠れる。途中遠目にエネミー狩りをしているチームを目撃したが、それ以外にこの近くにアバターが息を潜めている様だ。その証拠に違和感のある壊れ方をしたオブジェクトを発見する。爆撃を受けたかのような焦げ跡に、何かで切ったような切り傷、それ以外にも種類の違う破壊の痕跡が見て取れる。

無制限中立フィールドの属性は『混沌』。一定時間ごとに『変遷』と呼ばれるフィールドの属性が切り替わる特徴を持っている。機械的なフィールドから、森林に変わったりとするのだが、その際倒したエネミーがリポップ、つまり再度出現し、それ以外にも、壊れた建造物等も再度復元されて元に戻る。

 

「つい最近この辺りでゲージを溜めていた集団がいたと言う事か?どう思う?」

「そうですね。この辺りは都心に隣接していてもエネミー数は少ない、この数が集まるにしては些か不自然だ。もっと他に目的があるように思います」

 

パイルの考えを聞いて、僕は改めて彼らの目的を考える。

パイルの言うとおり、この辺りは狩りには不適切だ。それにこの近くには縄張りを持つエネミーはいない為、それも除外して良い。

大勢で徒党を組んで叩かなければならない対象と言って思い浮かぶのは、今僕らの目標の『クロム・ディザスター』だが、彼らに対象がいつ何処から入るか等と言う情報が得られるとは思わない。

 

「情報を得られないし、出現する場所もランダムだ、こんな所にいる訳が……」

「……いや、ありますよ…… 情報を得る方法が……」

 

何かに気が付いたパイルが、武装が付いていない方の腕を顎の下に当てて深刻そうに口を開いた。

 

「そうだ。僕たちが『災禍の鎧』の位置や情報を得られたのは赤の王が所有者のリアルを知っていたからだ。なら、それを渡した人間だって、彼のリアルを知っている可能性だって十分にあるっ!」

「そうか、アイテム譲渡の際に……」

「そうです。あんな強力な武装を何の見返りも求めずに渡すのはあまりにも不自然です。たぶんそこでリアル情報を対価としたんでしょう」

 

アイテム状態ならば通常対戦でも譲渡は可能だ。自分だけ一方的にリアルを知る事も出来る。傭兵と呼ばれるアバターと同じような手段を取ったのだろう。

 

「そうすると最初から目的は……」

 

渡した相手を態々犠牲を払って潰す意味は無い。それを利用して出来る事があると言う事だ。

そこまで手の凝ったやり方を選んだ理由は――――

 

「ええ、赤の王の首、です。そして、マスターも狙われている」

 

そう、レインがクロウと接触する前に杉並で対戦を行った事はすでに周知だ。敵の詳細を知っていたのなら、そこにレインが行った目的も想像できるだろう。つまり、王を二人相手取ったとしても、対処できるだけの手段を用意している可能性がある。

 

「急ごう。この破壊痕を辿れば辿り着けるだろうから」

「はいっ!」

 

そこから少し進んだ場所に大きなクレーターを発見した。だが、その上空には既にクロウが浮いており、対空砲火を浴びていた。

 

「ハル!……クッ!!」

「待ってっ!」

「何故ですか!?助ける為に来たのにっ!!」

「我慢してくれ、まだ敵が何人いるのか解らない。それに相手は王がいるんだ。やるのなら相手が油断している攻撃の瞬間が一番効果的だ」

 

今にも飛び出しそうなパイルを何とか止め、彼のすぐ後ろで何時でも出られるように体を低くし何時もの姿勢で待機する。

クロウが対空砲火を避けながら、誘導されるように地上のクレーター部分に着地する。そのクレーターを中心に三十にも及ぶアバターが取り囲んだ。

その中でも異彩を放つ純色のアバターが、クレーターを見下ろしながら話し始めた。

距離があるため会話の内容は聞き取れないが、彼のアバターの姿によって、如何にも胡散臭さが先行する。

 

「あれは、黄の王イエロー・レディオ…… やっぱり彼だったか」

「あれが……」

 

黄の王イエロー・レディオ。細長い手足に巻き角の様になっている頭のシルエットが特徴的で、顔に張り付いた笑う仮面と合わさり、ピエロその物のようだった。

 

全てのアバターが姿を現したところで、パイルがその杭打機をこちらに背を向ける人影に照準を合わせる。

彼の射程距離ギリギリまで接近しているため、初手の奇襲は彼が担う事になっている。

だが、黄の王がカードの様な物を取り出した時、それが不味い物だと第六感の様な物で感じた。このタイミングで取り出すのだ、直接的な効果は無くとも、精神的に多少の効果を発揮するような揺さ振るための道具だろう。

 

暫くして、空に浮かび上がる映像、リプレイファイルが再生される。そこに映し出されたのは、純色の七王と呼ばれていた時代の映像。つまり、赤の王と呼ばれていたのがスカーレット・レインではない時代である。

それも王たちが一堂に会していた事など数えるほどしかない。

 

「これは不味すぎるだろう……」

 

映像は進む。最悪な結末へ向かって。

 

「これって、マスターが賞金首になった時の……」

 

シルクハットを被った様な頭、腰に装備されている小銃とカウボーイのような容姿をしたアバター、初代赤の王レッド・ライダーが加速世界から強制退場した時の映像であり、これがネガ・ネビュラスの解散に繋がっていくロータスからしたら二度と見たくない忌むべき映像。

映像の中でロータスとライダーが会話の流れから友好の抱擁を交わした時、ロータスは零距離の必殺技を放ち、ライダーの首を刈り取る。

映像はそこで途切れた。

 

あんな物を見せられて、平静でいられるわけがない。僕が考えていたタイミングは、少なくとも、王が二人いれば数秒は耐えられるだろうと考えたからだ。だが、このゲームは精神がそのままアバターの動きに直結してくるような作りをしている。

今のロータスに戦闘能力を見込む事が出来るだろうか。

 

「ダメだ、少し早いけど行くしかない」

「そう言ってくれなかったら先に行く所でした。もう、僕も耐えられません!≪ライトニング・シアン・スパイク≫ッ!!」

 

パイルの杭打機から杭が放たれた瞬間、僕は弾ける様にその場から駆けだした。パイルの背中に体当たりの様にぶつかり、地面に固定されていたパイルを強引に引き抜いて高速で移動する。

 

「良いかい、パイル。慎重な君なら逃げる事を進めるだろうけど、逃げ切れる可能性は限りなく低い。それにレインは性格からしておそらく逃げないで戦うだろう。何とかレインを援護してくれ」

 

パイルは小さく首を縦に振るだけで答える。

例え逃げたとしても、僕は逃げ切れるとは考えていなかった。相手は王を冠する一人、見た目から解るように、彼のアバターは身軽で速さを備えている。走って逃げてもあの身軽さから逃げられるとは考えがたかった。僕が抱えて逃げても人数が増える度に速度は落ち、おそらく追いつかれる。

ならば、正面から叩き伏せるしかない。

 

パイルが放った杭が囲んでいた一人の頭に直撃し、その存在を消滅させる。その空いた隙間から直進し、クレーターの中心で固まる三人と合流した。

 

「お前等……ッ!」

「すまない、様子を見ていたが上手く割って入るタイミングがつかめなかった」

「ば、馬鹿野郎ッ!!何で出てきたっ!敵の人数が見えねぇのかッ!」

「仲間を見捨てる訳ないだろう……」

 

そうだ、前とは違う。助けるべき相手が目の前に居る、助けるだけの力もあると信じている。

 

「これはこれは……これから楽しいカーニバルが始まろうと言う時に、いきなり乱入と言うのは頂けませんね。ソニック?」

「君こそ、僕がいる前でまさかPK紛いな事はしないだろうね、レディオ」

「PKとは心外ですね。私はレギオン同士の条約に基づいた行動を取らせて頂いているだけですが?」

 

彼の言う条約とは王が治める六大レギオンの不可侵条約の事だ。

詳しい条約は一般プレイヤーの僕は知らないが、一番有名な物ならばよく聞く話だ。他のレギオン構成員を全損に追い込んだ場合、誰でも一人同じ目に合わせる事を許可すると言う物があった筈である。

今回、クロム・ディザスターの件でその条約が当て嵌められたと言う事だろう。

 

「僕はレギオンの構成員じゃないからね、関係ないよ。そちらが仕掛けて来るなら、僕もやらせてもらうよ」

 

レディオの表情はピエロの笑った顔のままだが、心なしか、苛立っているように感じる。

僕とレディオは睨み合ったまま動かず、周りのアバターも如何したら良いのか解らずに動けずにいた。

 

「……これだから単純な方は面倒なのですよ」

「姑息な手段ばかり考えるよりずっといいと思うけどね」

「見解の相違ですね。頭が足りない方には考えられない策と言う物ですよ」

「……頭の足りない方に何度か潰されてるけどね」

 

何度か対戦を行ったり、助けた人間たちの避難先のレギオンでもあるが、僕がやっている事と彼らがやっている事がぶつかる事がままある。明確な敵と言う訳ではないのだが、あまり関わりを持ちたい相手ではない。

 

「やはり貴方とは話が合わないようですね。……良いでしょう、ここで貴方が彼女の味方に付くと言うのなら、私がお相手して差し上げましょう」

「僕は初めから君狙いだから構わないよ。君さえ押さえられれば相当楽だろうからね」

 

レディオは手にバトンを出現させ、僕はクラッチングスタートの体勢を取る。緊張感が高まる中、僕とレディオは忌々しげに同じセリフを口にする。

 

「僕は――――」

「私は――――」

 

 

『貴方が嫌いだッ!!』

 

激突する。




お疲れ様です、真ん丸骸骨です。
忙しいのでこれからの更新は月一で固定になりそうです。筆も速い方ではないので、もっと遅くなる可能性もありますが、長い目で見て頂けると幸いです。

今回の話は、原作を見逃しているだけかも知れませんが、なぜ待ち伏せが出来たのかと言う事が無かったので独自解釈で進めてみました。可笑しな部分がありましたらご指摘お願いします。


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第十三話

一月半と言う時間が掛ってしまいました。
実際に執筆に使っていた時間は恐らく半月だけなので、大変申し訳ないです。もっと早く出来れば良かったのですが、なかなか時間が取れなかったもので。

今回はタクム君視点のみで書かせていただきました。主人公たちの活躍は次回に持ち越しです。


黄の王とソニックが戦闘を開始したのを合図に、周りのアバターが眼下に居る僕たちに狙いを定める。その殆どが動く事が出来ないマスターを狙っていた。

『零化現象≪ゼロフィル≫』と呼ばれる症状、僕も初めて目にするが、精神的な負担がその人物の許容範囲を超えた時動けなくなる。一般的には心の傷、トラウマに直面した時受け入れられず発症する事が多いそうだ。それだけ過去の出来事に対して並々ならぬ感情を心に秘めていたと言う事だ。それを平気で抉るような真似をした黄の王を睨む。

 

「ハルっ!絶対にマスターから離れないでッ!!」

「わ、解った!でも、それだと狙い撃ちに……」

「うるせぇよ、アタシもいんだ。ソニックの野郎がレディオを抑えてるお蔭で奴らまだ攻撃渋ってやがる。集まっただけの雑魚なんか、まとめてぶっ飛ばすッ!来いっ、『強化外装』ッ!!」

 

この状況で頼もしい一言を口にして、赤の王がその体に自分よりもはるかに大きい武装の数々に身を包んでいく。僕のやるべき事は、彼女の援護。圧倒的射程と火力を誇る彼女の弱点、近接を許してしまうとあまりにも脆弱と言う事である。本来はそこまで接近を許す事などないが、今回は始めからかなり距離が近い。

 

「僕の役目は近接型の相手か……」

 

口では簡単のようだが、それがどれだけ困難な事なのかが僕は理解している。この場に居るのは僕よりも高レベルで純粋な近接能力を持っているのが殆どであろう。それが一気に複数で押し寄せてくる、だから倒す事は始めから諦める。

 

「ウオオォォ――――ッ!!」

 

僕は吼える。自分に気合を入れる意味合いと、敵が僕に集中する様に視線を集める。一対一ならば、まだ倒れているマスターなどにも目を向けられるだろうが、人数が増えると流石にカバーが出来なくなる。それどころか、僕が保つかも解らない。

 

「それでも!ここは絶対に死守して見せるッ!」

 

ここを通せばハルとマスターにまで危険が及ぶ。彼らの目標は、こんな所で終わって良い様な物では決してない。僕はもともとハルのその目標の障害を少しでも取り除くためにレギオンに加わったんだ。ハルから受けた借りを返す為に。

 

「始まったばかりで…… ようやく動き出したこんな所でッ!終わらせて堪るかッ!!」

 

何人かのアバターは赤の王の主砲によって既に倒されているが、数が多いだけに赤の王の爆撃の合間を縫うようにして接近してくる敵が複数存在した。一番先頭を切ってやってくるのは大きな右腕の先に三本爪を付けたアバター。僕と同じように、見ただけでその能力のポテンシャルがある程度読める。その腕部に注意さえすればそれほど脅威ではないだろう。

 

それ以外にも十名近く接近しつつあるが、最も注意しなければならないのは道着のような姿のアバターである。武装などの特性上、超近距離のアバターにはどうしても押し切られる事が多く、密着されれば勝機は無い、しかも今回はさらに何人もの相手をしなければならない。

 

「やるなら纏めて、か」

 

考えがまとまった所で僕は真直ぐ駆けてくる三本爪のアバターに走り寄りながら杭で狙い、そのまま射出した。相手もそれが解っていたのか大きく横に飛び去りるが、射出した状態で両手を添えて大きく振り切る。

僅かに鈍い音を立てて、飛んでいく三本爪、ほんの僅かしかゲージを削れ無かっただろうが、この現状で削り切るまで長い時間相手をしてられない。

 

「次ッ!」

 

次に狙いを定めるのは、躊躇なく巨大要塞と化した赤の王に接近するアバター。そこまで全力で駆けより、引きずり降ろしてまた遠くに投げ飛ばす。

 

同じ様な事を何度か繰り返し、僕は何時まで経っても遠距離爆撃が減らない事に気が付いた。赤の王が本気を出せば、同じ遠距離のアバターに勝ち目所か、数分の時間すら稼ぐ事も難しい。しかし、爆発つの音は未だ激しく鳴り響いていた。

 

「赤の王ッ!早く遠距離アバターをッ!僕一人じゃ長く持たないッ!!」

「解ってる!チッ……ジャミングで狙いが定まらねぇッ!」

「ジャミングっ!?」

 

相手に障害を与えるのは黄色系統のアバターに良く見られる特殊技、赤の王を狙うとあって最初から相性の良い相手を連れて来ていたと言う事か。

 

「解りました。僕がそいつをやります」

 

戦いながら外延部に居るアバター達を見渡す。大きなクレータを一定の間隔で包囲している中、一カ所だけ人口の密度が濃い場所を発見した。

 

「あれかッ!!」

 

赤の王の対策の為に連れてきた作戦の要。護衛に付ける人数は誰よりも多い筈だ。

 

「ハルッ!後は任せたよッ!!」

「まてよタク!まさか、あそこに突っ込む気か!?」

「話している時間は無いよ。でも大丈夫だよ、ハル。君たちはやらせない。まだ僕は君に借りを返せてないんだから」

 

何かを言いたそうにしているハルを尻目に、僕は全力で駆ける。重鈍な体ではそれほどのスピードは出ないし、追いすがってくる敵を振り払いながらではなかなか距離は詰められない。

それでも一歩、一歩、傷を増やしながら地道に迫る。

 

「行かせるかってのっ!!≪マグネトロン・ウェエエェェブ≫ッ!!」

 

すぐ背後から響く必殺技の発声。次いで感じるのは体が重く前に進まない感覚。足を前に出している姿勢のまま、顔だけを後ろに向けると、そこにいたのは長いU字の腕を持つアバターだった。

腕の形と必殺技のマグネトロンと言う響き、最も引かれる力が強いのが腕の杭の部分だった事から、それが磁力で敵を吸い上げる効果を持つ物だと言うのは直ぐに理解できた。

 

「邪魔を……するなぁぁ――――ッ!!」

 

引かれる磁力に抗う事をせず、杭をその敵に向けて技を発声する。

 

「≪ライトニング・シアン・スパイク≫ッ!!」

 

引っ張る力と合わさる事で、そのスピードはいつも以上の速度で進み、敵のU字の腕を貫き、真ん中からへし折れた。あのU 字の腕が磁石の役割を果たしているなら、これであの束縛能力は発動できない筈だ。

 

「これで……ッ!?」

「せりゃッ!」

 

敵の武装の破壊を確認し、前に視線を戻すと目の前に迫っていた拳。僅かな時間拘束されていたのが、ここまで戻る時間を与えてしまった。

重い一撃、それによって顔面のスリットが一部砕け、視点がぐるぐると回転する。

 

「へっへっ!いらっしゃいッ!」

「ぐあっ!?」

 

吹き飛ばされた先で姿勢を整えようとした所で、背中に熱い痛み。

 

「さっきはよくもやってくれたな?こいつは礼だッ!!」

「グフッ!?」

 

先程吹き飛ばした三本爪のアバターがその腕の爪を僕の背中に突き立てていた。持ち上げた状態から、僕の背中に蹴りを何度も浴びせ、その後偶然ではあるが、向かっていた方角に向かって投げられた。

だが、既に体は痛みによって動く事を拒否しているかのように重く、腕の杭も酷く傷付き、あと一回必殺技を発動すればそこで砕け散ってしまいかねない程だ。

もう、僕はいらないんじゃないのか。これだけ時間を稼げれば、名の知れた彼らならば、打開策を講じられるのでは、そんなふうに頭の中で諦める為の免罪符が流れていく。

 

だが――――

 

「テメェの後はあの鴉野郎をやんだから、余計な手間増やすんじゃねぇよ」

 

――――今、目の前の奴はなんと言った?

 

頭の中が沸騰していくのが解る。

 

――――ハルだけはヤラセナイ。

 

痛む体を気持ちで強引に抑え込み立ち上がる。

 

――――まだ、僕は返せていない!!

 

先程の言葉を言った敵が何かを言っているのが見えるが、今はその言葉すら聞こえない。

 

――――僕は彼に報いなければならないッ!!だからッ!!

 

「まだ終われないんだぁぁ――――っ!!【スパイラル・グラビティ・ドライバー】アァァァ――――ッ!!」

「なッ!?ちょ!?」

 

必殺技の発声と共に、杭の先は平らな棒状に変化し、巨大な壁の如く敵を押し流していく。その進行は敵を捕えたまま止まらず、速度を上げて尚進んで行く。

 

「もう、一人ッ!!」

 

引きちぎれそうな腕を強引に動かして、さらにもう一人の敵を狙う。狙うのは、超近接タイプの先程の柔道着姿のアバター、僕を吹き飛ばした後は、僕にも目もくれず、赤の王に張り付こうといた彼を巻き込む。

僕の方への警戒を解いていた彼は、その攻撃への対応が間に合わず、二人纏めて打ち上げる。

 

「グアッ!?赤の、王ッ!」

 

敵を打ち上げた僕の強化外装は、耐久地が限界を迎えたように砕け散り、それに付いて行くように片腕が捥げてしまった。

だが、僕は足を走るために止める事は無く、そのまま赤の王に声をかける。

 

「はっ!ナイスシュートだ、シアン・パイルッ!!零距離なら流石に外すさねぇ!!」

 

僕が空に打ち上げた敵は、赤の王の主砲の目の前に曝されていた。ジャミングに有っていても、当たるように投げたが、流石に主砲の目の前に投げ飛ばせるとは思っていなかった。

まったくの偶然だが、運は僕に味方しているように感じる。今なら、何をやっても成功させられる、そんなふうに思えるほどに。

 

走る。爆風に曝されても、残っていた片腕までもが吹き飛ばされようと、体が、足が残っている限り、敵を蹴散らすと言う強い意志を持ちながら前に進んで行く。

 

そして辿り着く、目的地であるジャミング能力者の目の前に。

 

「この死にぞこないがッ!!」

 

そう言って後ろから片足を切り飛ばされる。

だが、ここまでくれば、片足なんてくれてやる!そう言葉を口にしようとしても、もう、声が出てこない。

代わりに後ろに倒れないように、最後の力を振り絞り、前倒れになって崩れて行く。

 

「うお!?ど、退きやがれ木偶の坊!!」

 

まるでダルマの様になりながら、ターゲットであるアバターの上に圧し掛かる。

そして、これが本当に最後の力――――

 

「【スプラッシュ・スティンガー】……」

「なっ!?道ず――――」

 

背後に背負っていた機械が壊れた事を確認し、意識が途切れるその刹那、圧倒的な熱量が体を覆う。

 

「最高だったぜ、シアン・パイル。アンタは頭だけじゃねぇ、黒の王が抱える立派な戦力だ」

 

聞こえるはずの無い距離。だが届いたその言葉。

 

ハカセ何かと比喩されながら、どこか人を下に見ていた彼女からのその言葉に、何とはなく笑みが零れる。

 

(ハル……、後は君に任せるよ……。頑張れ、親友ッ!)

 

「タクゥゥ――――……ッ!!」

 

ハルの絶叫を最後に、今度こそ、本当に僕の意識は消えて行った……。




お疲れ様です。

パイルの技を至る所で使いました。違和感なく読んで頂けたのであれば嬉しいです。

それでは、良い御年を御過ごし下さい。


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第十四話

どうも真ん丸骸骨です。
二か月も放置してしまい申し訳ありません。恐らく今後もこのくらいの期間が空いてしまうでしょうがお許しください。




タクムがその身を文字通りボロボロにしながら戦っている戦場とは別の所で、さらに激しい破壊痕を残しながら戦っている薄い青色と黄色の閃光があった。

たった二人ながら、それはさながら暴風の如く被害を広げていく。

 

「「ウオオォォォォ―――――ッ!!」」

 

冷静に見えながら、内に激情を抱えるソニックは良いだろうが、冷静沈着、策によって敵を討ち、搦め手で敵を苦しめる黄の王、イエローレディオまでもが、激しい雄叫びを上げながら攻撃を交えて行く。

 

「最初に出会った時から気に食わなかったのですよッ!馬鹿正直に正面から。華やかさの欠片もない!」

「対戦の華は、激しい打ち合いだ。アンタこそギャラリーの心を動かす戦い方には見えないなッ!」

 

攻撃の応酬、言葉の応酬。お互いそれに全力を注いで戦っていた。

その自分とは相反する戦い方は認められず、さながら子供の喧嘩の様に心の赴くまま戦場を拡大していく。

 

(皆は無事だろうか……?)

 

彼らを信じ、敵の最大戦力である黄の王を釘づけにしていたソニックだったが、いくら赤の王が居ようと多勢に無勢、焦燥感がソニックの心を苛んでいく。

 

「戦いの最中に余所見とは、甞められたものですねッ!」

「しまっ!?」

 

ここに来て僅かな隙を見せてしまったソニックに、黄の王は容赦なく自身の技を発動する。ソニックの視界は陽気な音楽と共にぐるぐると廻り始め、彼から平衡感覚を奪う。

スピードを信条とする彼にとって、平衡感覚を奪われる事は最大の戦闘手段を奪われたに等しい。真直ぐに走れず、敵を捕えられない彼にはその場で攻撃に備える事しか出来なかった。

 

「ぐっ!?」

 

だが、防御能力が低い彼にとって、その備えもそれほど役に立つ筈が無く、体の彼方此方を滅多打ちにされていく。

 

「くくくっ、良い様ですね、ソニック。貴方はそうやって這いつくばっているのがお似合いですよ」

「言いたい放題ッ!……来いっ!強化外装ッ!!」

「いまさら何をやった所でッ!!」

 

攻撃手段を封じられたソニックが、新たに何か行動を起こそうとしたのを見たレディオはそれをさせまいと再度接近しそのバトンを振るう。

 

「あんたの場所が解らなくても、攻撃する瞬間位ッ。弾けろッ!!」

「なっ!?」

 

レディオの攻撃が当たる数瞬前に、ソニックは呼び出した巨大な腕部武装の必殺技を発動する。それは彼の親友だった者から譲り受けた品。逃げるしか無かった戦いでは使わなかった物であり、彼にとっての切り札。

この武装の情報を持っているのは今現在誰も居ない。

故に、レディオの反応を遅れ、その膨大な爆発の前に体を晒した。

 

大きな土煙を上げその場周辺を焦土と化した爆発の中から、二つの影が姿を現す。

 

「……クッ、やはり……貴方は美しくありませんね。まさか自爆するとは……」

「一方的に攻撃するのは好きだけど、されるのは嫌いなんだ……」

「しかし、その代償は高くついたようですね。……半身が消し炭じゃないですか、よくライフが削り切らない物です」

 

出てきた影は、どちらも元々あったシルエットを保っていなかった。

レディオは片腕が吹き飛び、頭の巻角状の飾りの片方が折れていた。だが、最も大きな被害を被ったのは爆心地の中心にいたソニックだ。

片腕どころか両腕が無くなり、顔も半分が吹き飛んでいた。辛うじて自身の自慢の両足が残っていたが、誰が見ても戦える状態では無かった。

 

「持ち主だしね、幾らか被害を抑えるように調整したよ」

 

ソニックは爆発の瞬間、体をうつ伏せにし、顔を腕から出来るだけ遠ざける事で被害を抑えた。彼にとって、それは一種の賭けだったが、ライフが残ったので、彼は賭けに勝ったことになる。

 

「そんな体でまだやりますか?痛みで気が狂いそうなんじゃありませんか?」

「当然。向こうの片が付くまで、あんたには最後まで僕と戦って貰うよ」

 

決着は近いとお互いに確信している。

それはこの場の決着では無く、今回の戦端全ての決着と言う意味でだ。

少し離れた戦場では火柱が上がり、赤の王が猛威を振るっているのを二人は見ている。レディオは自分の配下が消えていくのを頭の片隅で認識しながら舌打ちを漏らす。

 

(不味いですね。技の効力が切れた今、このまま戦い続ければ、確実に赤の王が……)

 

赤の王も衰弱しているだろうが、レディオと彼女の射程に違いがあり過ぎ、このまま赤の王が向こうを殲滅を終えれば、敗退するのは黄の王だ。それが解ってしまうだけに、この場での戦闘をどうにか切る抜ける為に頭を回転させ始める。

これは既に、赤の王討伐では無く、逃亡戦へと切り替わっているのだ。

 

「仕方がありません。ここは――――」

『GAAAAAAA――――――……ッ!!』

「「この声はッ!?」」

 

二人は同時に驚愕に声を上げる。

遠くからでも感じ取れるドス黒い咆哮。それは紛れもなく、今回の事件の引き金となったアバターだった。

 

「チっ!ソニック、この戦いは預けます!」

「レディオ、君はあそこに向かうのか?」

「当たり前です。私は黄の王イエローレディオ、これでも王を名乗っているのです。自分が連れてきた配下は逃がします」

 

普段は何事にも本心を現さない彼だが、それでも組織の上に立つ人物。策を練り、被害があっても作戦の為に被害を厭わない姿勢だが、策の外側の被害に関しては下の人間を守ろうとする。

だからこそ、衝突する事があっても、ソニックは彼を本格的に嫌う事が出来ないでいた。

もっとも、災禍の鎧を再度この世に出現させた大元と言う事はすでに周知であるため、結局のところ、嫌いである事は変わりは無いのだが。

 

「僕も行くから掴まれ。こんな姿でも、まだあんたよりは速い」

「……良いでしょう、利害は一致しています。一先ず休戦といきましょうか」

 

背中にレディオが乗るのを確認すると、ソニックは全力で走り始める。

全速のソニックの背で、レディオは残っていた片腕で懸命にしがみ付いていた。

 

「人を乗せると言うのに、乗り心地の悪いタクシーですね」

「両腕が無いんだ、バランスなんて取れないよっ!」

 

そんな軽口を叩きあいながら、離れていた距離は一瞬で縮まる。レディオはその速度に、忌々し気に鼻を鳴らしながら、どこかその部分だけは認めている風だった。

 

「レディオ、クロム・ディザスターに掴まってる奴は任せるぞ」

「言われるまでもありませんね。あなたの方こそ、少しくらい粘ってくださいよ?」

 

目の前には災禍の鎧によって変貌したアバターが、レディオが連れてきた一人のアバターを喰らおうとしていた。二人はこの速度なら間に合うと確信すると、短い言葉だけを交わし、戦闘へと意識を切り替える。

ソニックの肩に両足を乗せたレディオは、そのまま肩を射出台に見立てて飛び出した。

 

「GAっ!?」

 

捕まっていたアバターがその牙に貫かれる一瞬、レディオはバトンでその腕を下から掬い上げる様に渾身の一撃を見舞った。突然の事に反応しきれなかった災禍の鎧はその腕のアバターを取りこぼし、その僅かに生じた隙目掛けてソニックも飛び蹴りを放つ。

十分に加速を付けられた飛び蹴りは、災禍の鎧を大きく吹き飛ばし、近くの岩に叩き付けた。

 

「ソニックさんっ!!」

「やぁ、お互い無事だったようだね」

「無事には見えませんけど。それにタクは……」

 

さっと辺りを見回したソニックは、パイルが居ない事を確認し、赤の王が付けた物ではない激しい破壊痕を見て小さくうなづいた。

赤の王は負傷しているが致命的ではない、黒の王も≪ゼロフィル≫から復帰し健在、クロウも大きな損害を受けているようには見られない。これだけの情報があれば、パイルがどんな戦いを繰り広げたのか、自ずと導けた。

 

「彼は、格好良かったかい?」

「っ!?はい……、アイツは僕の親友ですから」

 

それにどんな思いが込められているのか。

友の為に、どんな痛みにも耐え、戦い抜いたその姿に自分を重ねているのかもしれない。ただ一つ違いがあるとすれば、彼が見事守り切り、ソニックが成し遂げられなかった事を成したと言う事だ。

 

「おやおや、ロータス。どうやらお目覚めになられたようですね?こんな短期間で目が覚めるとは、やはり貴女にとってあの事件はそれほどでしかなかったと言う事ですか?その血塗られた手で、私も彼同様此処で切ってみますか?」

「私が立ち直れたのは得難い大切な『子』がいる、ただそれだけさ。それにな、レディオ。私にとってお前とライダーの命では同じじゃないんだよ、私はお前が嫌いだからな」

 

短い舌戦。それ以降、二人はただ視線を交えるのみ。

 

「レディオ、時間が無い、アイツが立ち上がった」

「解っています。みなさんッ!撤退です!起き上がれない者は立てる者がフォローに回りなさいッ!!」

 

レディオの号令で、迅速に動き出す十名ほどにまで減った配下達。

 

「さてと、僕は時間を稼ぐかな」

「あなたの搾りかすの様なライフならドレインもそれほど脅威じゃありませんからね。精々死なない様に立ちまわりなさい」

「まったく、こんな時くらいもっとマシな言い回しは出来ないの?」

「……礼は言いませんよ」

「早く行きなよ……」

 

配下全てが去ったのを確認すると、レディオは技を発動させたのか、その姿をくらませた。

ソニックは軽い屈伸を行って、また前傾姿勢を取った。両腕が無いが、それはクラッチングスタートであり、彼の戦闘態勢。だが、その息は荒く、体も疲労の為か僅かに震えている。

 

「ま、待ってくださいっ!?そんなボロボロの状態でまだ戦うんですか!?」

「ロータスだけじゃ流石に厳しいだろうし、君とレインは彼を止める重要な役目がある。無理でもやるしかないんだ」

「そう言う事だ、クロウ。なに、その男は逃げ足だけなら加速世界一だ、簡単にやられたりしないさ」

「王って名の付く人たちはどこか棘がある言い方が好きだなぁ。まぁ、彼女が言ったとおり僕を捉えられる人間はそういない。信じてよ」

「でもっ!?」

 

クロウは隣に聳える赤い要塞を見上げる。レインは動かない。今の今まで言葉も発しない所を見ると、災禍の鎧の事でなにかしらショックを受けているのかもしれない。

 

「大丈夫だよ。仲間なんだろ?信じなきゃ、僕の事も、彼女の事も……」

「来るぞ、ソニックっ!構えろ」

 

ソニックとロータスは、雄叫びを上げて向ってくる災禍の鎧を迎え撃つ。

王たちが纏まりようやく討ち取ったと言うだけあり、傷の深いソニックでは荷が重い。ロータスが庇うように前面に出ていなければ既にソニックは倒れているだろう。

 

ソニックはその中でも自分のできる事を全うする。決してロータスだけに集中させないように攪乱をし、敵の動きを少しでも阻害しようとする。

だが、そこで思わぬ妨害が飛んできた。

 

「ッ!ロータスッ!!」

 

赤い閃光。それはロータスと、災禍の鎧を狙った一撃だった。

撃った方向を見れば、今まで行動を起こさずにいた、赤い要塞の砲身から熱が放たれていた。間違いなく、赤の王の主砲による攻撃だった。

 

「レイン、君は――――ッ!?」

 

抗議の言葉を放とうとしたソニックだが、体は自然と沈んでいく。当然だ、今まで動けていた方が可笑しいほど、彼は心身ともにボロボロなのだから。

 

ソニックのぼやける視界の奥では、災禍の鎧は逃げ出し、クロウとレインが口論している姿が映っていた。ここで気を緩めればそのまま意識が落ちていきそうなのを気合で踏みとどまるソニックをよそに、レインはその巨体を動かし始め、災禍の鎧の追走を始めた。

 

クロウは直ぐにロータスに駆け寄り、何かしら言葉を交わしていたようだが、それも直ぐに終え、彼もまた銀翼を広げ二人を追いかけ始めた。

 

「ロータス、クロウは?」

「手間のかかる子供をあやしに行ったさ。ところでソニック、君はまだ走れるのか?」

 

覚束無い足取りだが、ソニックはしっかりと両の足で立ち上がり、横たわるロータスに話しかけていた。

 

「走る事だけが、僕の存在理由だからね」

「とんだ化け物だな、君は。大したタフさだ。……どうやら私は動けそうにない、だから私の代わりにクロウを。ハルユキ君を助けてやってくれ。……頼む」

「勿論。僕は守るよ、今度こそ、仲間を」

「そうか……」

 

ソニックの言葉回しにロータスは疑問を抱かない。

彼、ソニックがEKなどを狩るようになった頃と、何時も共にいたアバターの姿が消えた頃と一致する故に、ロータスはその中に強い思いを感じ取っていた。

 

「行ってくるよ」

「ああ、頼んだ。私たちの仲間を救ってやってくれ」

 

ソニックは走りだす。その足に僅かに輝く心意の色を帯びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、あと少しなのにッ!!」

 

クロウは銀色の翼を懸命に動かしながら、黒い影を追っていた。

だが、ビル群を活用し、小刻みに揺れ動く敵になかなか距離が詰められずに、焦りのみがその胸中に積もっていく。

 

(皆の気持ちを無駄にする訳には行かないのにっ!!)

 

パイルの決死の特攻、レインの洩らした弱音、ロータスが沈んだ昔の記憶。今日の戦いは多くの思いが入り混じる忘れる事が出来ないモノになるだろう。だからこそ、クロウは失敗と言う暗い二文字を与える訳には行かなかった。

 

「クロウッ!!」

「っ!?ソニックさん!」

「僕の肩に掴まれ!絶対に捉えて見せるッ!」

 

クロウのすぐ下には、力尽きた筈のソニックが追いつき、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロな姿で、尚諦めずに走り抜けていた。

 

 

「でもッ」

「うるさいッ!救うんだろう!僕を信じろッ!」

「っ、解りました、お願いしますッ!」

 

一気に降下し、ソニックの肩に捕まったクロウは、傷だらけのソニックの体を見下ろした。

近くで見るとその傷の深さを実感する。体の半分は消し炭になり、負担が大きかったのか、その自慢の足も所々欠けてとても弱弱しく映った。

 

(こんなになってもまだ走り続けるだなんて。いったいこの人は……)

 

「行くよ、加速するッ。振り落とされないでよっ!?」

「まっ!?」

 

(足が光ってる?必殺技?いや、これはそれとは少し違うような……。いや、今はそれよりも)

 

距離が縮まる。

障害物が多い地上は、空を飛ぶ以上に距離が離されてもおかしくないのに、それでも距離が僅かづつ縮まっていく。

 

「もっと速くッ!」

 

さらに加速する。

 

「もっとッ!」

 

クロウは実感する。これが最速のアバターの世界だと。

 

「「もっと速くッ!!」」

 

だから願った。

 

(僕もこの人と同じ速さをッ!)

 

互いの距離は既に目と鼻の先、ここで二人は言葉を交わす事無く、次の行動を起こした。

クロウはその肩から手を離し、僅かにソニックの前に出て、ソニックはその場で跳び上がり、自らの蹴り足をクロウの足に向かって放った。

 

「行って来いッ!」

「はいっ!」

 

二人の速度が合わさり、銀色の残光を残してクロウは飛んだ。

距離が一からゼロへ。それは本当に一瞬で縮まった。

 

「終わった……」

 

緊張の糸が途切れたソニックは、最後に大きな何かに衝突する音を最後に、その意識を眠りの世界へと落として行った。




お疲れ様です。

今回の話で一応災禍の鎧編は終了です。
色々と書き足りない部分があるかもしれませんが、お許しください。

次は合間に一話から二話ほど書いてから三巻四巻の話なのですが、違う学校なので恐らく飛ばし、ヘルメスコードに移るかと思います。
そして主人公の今後は、ネガ・ネビュラスに加入させようかとも考えてます。
批判が出て来るかと思いますが、変更は無しで行くのでよろしくお願いします。


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第十五話

お久しぶりです。真ん丸骸骨です。
また二月の時間が過ぎましたが、ようやく投稿できます。
今回は話しのみで面白みに欠けるかもしれませんが、少しだけ三巻の内容に入ろうかと思います。


脱出用のポータルの前で、ネガ・ネビュラスメンバーとレイン、そして傷だらけの姿の僕がいた。

 

「本当に君は残るのか?」

「あぁ、正直体の痛みが抜けてないんだ。このまま現実に戻った時、フィードバックで両腕がしばらく使えなくなりそうだから、落ち着いてから帰るよ」

 

両腕が使えないと言う事は、僕にとって最大の問題だ。現実で治るのを待つよりも、ここでしばらく時間を置いて落ち着いてからの方が時間の有効活用できるだろう。

 

「……ソニック、今日は助かった。礼って訳じゃねぇが、内のもんにはお前にかかわらねぇ様に言っておく」

「助かるよ、レイン。君の所にいる射撃型達が一番厄介だったんだ。これで暫くのんびりできそうだよ」

 

レギオンごとにそれぞれ特色が存在する。青のレギオンには近接が強い者が多く、赤のレギオンには射撃が得意な者が多いと言うように、王に憧れて入団する為、少なからず偏りが出来て来るのだ。

その分指導する層が厚い為、能力がさらに偏る。レイン程でないにしろ、逃げる範囲が大きくなると、僕の精神的疲労が増大するので、この申し出は素直に有難かった。

 

「それじゃ、僕はもう行くね。行きたい所もあるし」

「あぁ、また会おう、ソニック」

 

それぞれと別れを済ませ、僕は目的地まで走り始めた。

無制限フィールドに入ったら必ず行く、東京タワーの天辺へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

息が切れる。

何時間も走り続けるなんて言う事が久しく、それに加え、残り少ない体力と疲労がどっと押し寄せて来ていた。

だが、目的の場所には着いたのでその場で腰を下ろし、眼下に広がる無限の世界を一望する。

 

「ここはいつ来ても気持ちがいいなぁ」

 

そんな風にのんびりと疲れを癒していると、背後から何時も聞きなれている車輪の音が聞こえて来た。

 

「あらあら、貴方には珍しくボロボロですね?ソニックさん」

「うん、ちょっと今日は正面から戦って来たからね。熱かったなぁ」

 

言葉を口にしながら、ゆっくりと立ち上がり後ろを振り返る。そこには予想通りの人物が車椅子に座った状態でいた。白いワンピースに、これまた白い鍔広の帽子を被った清楚な姿をしたアバター。

 

「ふふ、楽しかったようですね。貴方のそんな弾んだ声、本当に久しぶり。いえ、初めてかしら?」

「僕も意外だよ。こんなに昂るのはあいつと一緒にいた時以来だから」

 

この東京タワーに家を建ててしまったこの場の主とも言うべき人物、スカイ・レイカー。

彼女は多くの時間をこの場で過ごし、僕も同じようにこの場に良く訪れてはお互いに会話を交わしていた。示し合わせた訳でもないのに、僕が来ると彼女も必ずと言って良い程居るので、押す必要もないのに彼女の車椅子を押しながら、下の世界を散歩などもした事がある。

 

「怪我も酷いようですし、今日は家の中でのんびりしていきませんか?」

「そうだね。取って置きの土産話もあるし、それが良いかな」

「それでは行きましょうか。……お帰りなさい、ソニック」

「うん、ただいま、レイカー」

 

気恥ずかしい気持ちを抱きながら、彼女の言葉を受け入れる。

彼女はいつも「お帰り」と迎えてくれる。いつも暗い部屋に帰り着く僕にとって、この言葉は何よりも暖かく感じられた。

 

彼女が建てた家は、見た目は完全な木製の質素な物だ。そもそもこの世界で家まで建てて生活するのはリアルでいう所のタバコなどと同じ趣向品以外他ならない。

そして、家に入り定位置とも言うべき場所で椅子に座り暫く立つと、彼女は何時ものように料理を振る舞う。

料理と言うのも、この世界では全く必要が無い。しかし、彼女はそれを必ず準備して、僕はそれを平らげる。最初の頃は、ここで食事をする事に違和感を持っていたが、最近はこの世界に来たら彼女の料理を食べないと落ち着かない。

 

「いただきます」

「ダメです」

 

食べようとした僕の動きが止まった。固まったと言うべきか。

 

「まさかそのまま食べるつもりですか?」

「う、うん、腕が無いからこれしかないし……」

 

腕が無いので所謂ドッグイートをしようとした僕に、横から皿を取り上げ、何時もの声色の筈なのに、嫌な圧力を放つ彼女が歯止めをかける。

 

「腕なら有るじゃないですか、ここに。はい、どうぞ」

「い、いや、それは遠慮するよ」

 

彼女は何でもない風に、箸で掬った食事を僕の口元近くに持って来る。これを食べろと言う事だろうか。

 

「はい、どうぞ」

「や、だから……」

「どうぞ?」

「いや……」

「……」

「いただきます」

 

アバターの姿で良かったと心底思った。リアルでこんな事をされたら顔が真っ赤に紅潮している事だろう。

 

「どうですか?」

「うん、美味しいです」

「そうですか、良かったです!」

 

今日の彼女は上機嫌のようだ。何時もとは逆に、僕の事を世話できるのが嬉しいのだろうか。

そんな彼女の喜んでいる声色などを聞いていると、先ほどまで感じていた気恥しさなど薄れて行った。

こう言うのも偶には良いモノだ、素直にそう思った。

 

 

 

全てを食べ終え一息いれると、僕は改めて今日あった出来事を話し始めた。レインからの依頼、ネガ・ネビュラスとの共同戦線。黄の王との戦いから、その後に続く災禍の鎧の討伐の流れを。

 

「カラスさんにはいつかお礼をしなくてはなりませんね……」

「ロータスにとって、彼がそれだけ大きい存在だったと言う事かな?彼女が抱える仲間殺しのトラウマを乗り越えられる程に」

 

生半可の事では、≪ゼロフィル≫から立ち上がる事など出来ない。克服したとは言えないが、再び立ち上がり、戦意を取り戻した。それがどれだけの偉業なのか、きっとクロウは理解していないだろう。

 

「それじゃ、僕はそろそろ帰るか」

「もう帰られるんですか?」

 

一通りの話を終えた頃には、腕の痛みも現実に影響が出ないであろう程度には引いてきたので、僕は現実に戻る事にした。

 

「ああ、今度は怪我がない時に落ち着いて話をしよう」

「そうですね。貴方があまりにも自然なので、怪我をしていると言う事を忘れそうです」

 

彼女も用事があるとかで、一緒にゲートをくぐり、お互いの現実に戻った。

 

 

 

 

「ッ……。ふぅ」

 

現実に戻った僕に待っていたのは、鈍い腕の痛み。大分和らいでいたとは言え、片腕が消失していたのだ、多少の痛みはしょうがない。

手を数度開いて閉じてを繰り返し、感覚を取り戻す。そしてその腕で、僅かに温くなったコーヒーを飲んで家路に着く。

精神的疲労が想像以上で、その日は帰ってすぐに眠った。だが、その疲労はしんどいばかりでなく、達成感を大いに含んだ、とても心地良い物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?またか……」

 

あの災禍の鎧の事件から暫く経ったある日。僕に対して毎日執拗に対戦を吹っ掛けてくる人物、いや、人物たちが現れた。

戦う訳でもなく、移動する訳でもなく、ただお互いのカーソルを眺めているだけの敵だが、それが毎日となると、どうしても気になり始める。

彼らが仲間なのかは解らないが、この行為そのものは有限のポイントを、ただ無用に捨てているような物。ただ、その無駄な行為に、僕は日に日に嫌な予感を募らせていた。

 

「今日も何も無し、か……」

 

三十分し、現実に引き戻される。今日も相手からの出方は無かった。

僕はそのまま、腑に落ちない気持ちを抱えながら、学校に登校する。

 

「はぁ……」

 

最近どうもため息が多い。自分で自覚がある分重症だ。

原因は解っている、僕自身が対戦をしたがっているのだ。ギリギリの心昂る戦いを。

このような気持ちが表に出てき始めたのは、鎧の事件の時の、レディオとの一戦以降である。

重要な局面ではあったが、あの戦いは心の底から楽しかった。

 

「はぁ……」

 

もう一度、昔のように戦いたい。

思いっきりカッ飛ばしたい。

速さの限界に挑みたい。

でも――――

 

「はぁ……」

「如何したんだ?ため息ばっかりだな?」

「ん?あぁ、隆弘……」

 

昼休みの時間になり、一人ため息を付いていた僕の下に、かつて【親友】だった友達、佐橋隆弘がいた。

今日はいつも一緒にいる部活のメンバーは購買が急に休みになった事で校外に買い出しに出ているとかで、弁当組である彼は一人残り、暇を持て余していたらしい。

 

「悩みなら相談のるぞ?俺とお前の仲じゃんか」

 

心が揺れる。

彼のこう言った言葉に、僕は思い出したのかと疑ってしまう事がある。彼がお人好しで、誰にでも優しく話しかけると言う事を知っているので、それが間違いであると言う事等簡単に解るのだが、一瞬でも疑ってしまうほど、僕の心には、彼を失った出来事がトラウマとなって残っていた。

 

「そう、だね。じゃぁ、少し、良いかな……?」

 

だからだろうか、僕は彼に差しさわりの無い程度で、過去の出来事を話した。

 

友達とやっていたゲームがあった、その友達が自分を守るために他のプレイヤーから集団で襲われた、その友達は止むに止まれぬ事情でゲームを止めてしまい、何もできなかった自分は後悔している。

 

魔が差したのだろう。本人を目の前にこんな事を言っても、許しを得られる事なんてないのに、ただ僕は涙で声が震えるのも構わずに、只々話をし続けた。

 

「お前、頭良いくせにバカだよな?」

「は……?」

 

全て話し終わって聞こえて来たのは、そんな呆れたような声だった。

 

「そいつ良い奴じゃん。ソイツ最後になんか言ってなかったか?」

 

彼の言っている事が解らなかったが、僕は過去を振り返り目の前の人物が言った言葉を思い出す。

 

『俺を頂点まで連れてってくれッ!』

 

「そのゲームで、一番強くなれ、見たいなことは言ってたけど……」

「じゃぁ、なるしかないだろう?他なんかあんの?」

「え?え?」

 

困惑し狼狽えている僕に、隆弘は真面目な顔を作ると言葉を紡ぐ。

 

「そいつの願いはお前が強くなる事なんだよ。だから自分を犠牲にして守ったんだぜ?きっと。だからソイツが俺なら、今のお前を見たらきっと――――――許せんから殴ってるな」

 

次々と出て来る言葉に、僕は只々呆然と聞き入り、最後の言葉で大きな衝撃を受けた。

 

「……」

「親友だったんだろ?ならよ、最後の言葉位現実にしてやらねぇとさ。それに何よりもさ」

 

いったん言葉を切った隆弘は、次いで顔に笑みを浮かべる。

 

「ゲームは楽しむもんだぜ?」

「あ……」

 

聞きなれた言葉。

僕とフィストの口癖のように使っていた言葉だ。

ゲームは楽しむ物、だからこそ二人でやりたい事をやり、どこにも属さず、日々を満足して過ごしていた筈だった。

だが、今はどうだろうか?

 

「なぁ、僕は楽しそうか?」

「なわけねぇじゃん」

「……隆弘がソイツだったら、自分が二度とそのゲームが出来なくても、楽しんでいて欲しいか?」

「他の誰かは知らねぇけど。俺なら勿論だと言っておく。むしろ自慢話でもされんと許さんな!」

 

そこで僕はようやく悟った。

 

「ぷっ!あははははっ!自慢話をされないと許さないとか意味わからないよ!そこは嫌がれよ!アハハハハハッ」

「な、何だよ突然ッ!?いいじゃねぇか!俺はな――――」

 

 

あのころの記憶が無くても、隆弘は隆弘だ。僕の親友アガット・フィストだ。

なら、僕のやる事は、その親友に殴られないように全力で――――

 

「さぁ!楽しむぞッ!!」

 

ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹っ切れた僕は、意気揚々と街に繰り出した。

復帰戦として、一番好きな東京タワーの天辺から戦闘を挑もうと上っている時、メールが届いた。

 

「チユリちゃん?……これは」

 

メールの文面はたった一言。

 

『ハルを助けて』

 

その内容に驚き、急いで連絡を返そうとした所で予約観戦に引っかかり場所が切り替わった。

 

対戦者はクロウとアッシュで、最近では多くのギャラリーがこの二人の対戦を心待ちにしている。僕もその一人だ。一進一退の白熱した戦いは実に見ごたえがあり、アッシュなどは対クロウ用に外装を選んでしまうほど、執念を持って戦っているのだから熱くならない訳がない。

 

だが、今日はそんな白熱した戦いにはならなかった。

クロウが地上戦を挑み、あっさりと返り討ちに合い、立ち上がる気力も無くしたかのようにそのまま横たわっていた。体力が三分の一も減ってもいないのに諦めるだなんて、何時もの彼ならばあり得ない事だった。

ゲージは堪っている、勝負は空を飛んでからの筈だ。

それなのに動こうとしない。

 

「ハル君、君は……」

 

この短いやり取りを見て、僕はメールの内容と結び付けていた。

 

「飛べなくなったのか……?」

 

チユリちゃんからのSOS、クロウの戦闘とも呼べない惨めな姿。

考えられるのは簒奪系の能力で飛行能力が奪われたと言う事。トラウマが具現化するこのゲームでは、能力を奪う力は意外と少なくない。幼少期に何かを奪われる経験は誰にでもある。

だが、戦闘終了した後も効果を及ぼす力は相当希少で根深い恨みだ。そうだとしても、通常対戦ならば、ハル君が簡単にやられる筈がない。彼の希少能力と、彼自身の機転は、レベルが一つ二つ離れていようと勝機を見つけられるものだ。

しかし、それほど強い簒奪能力を持つ人間が、まともな方法で戦闘を行うとも考え難い。

 

そこでチユリちゃんのSOSと結ぶと答えは僅かだ。リアル割れである。

 

「あぁ、久しぶりだな。こんなに誰かに怒りを覚えたのは……」

 

クロウとアッシュは二人で話した後ドロー申請を行い、その後どこかに向かうようだ。

アッシュが連れていきそうな場所は見当が付く。戦う力が欲しいとクロウが望んでいるのなら、行くのはレイカーの下だろう。

 

「タッ君と話をしてみるか……」

 

ならば僕は、もう一人の当事者だろう人物と話を付ける事にした。




お疲れ様です。気が付けば千を超える方々が登録なさってくれていました。ありがとうございます。

何時までも主人公がうじうじと悩むのもあれかなと思い、今回で完全復帰していただきます。
次回は独自設定を少しだけ作り、ダスク・テイカー戦となりそうです。長くはなりませんが。

一応ヘルメス・コードまでで完結予定なので、次回作を考えています。書いてみたいのは幾つかありますが、それもおそらくは一年以上先の話かと思いますけども、少しずつ話の流れを今から作って行きたいですね。


また二か月ほど先になるかと思いますが、よろしくお願いします。


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第十六話

どうも、真ん丸骸骨です。
少しだけ早く書き上がったので投稿します。



「僕に心意システムを教えてください」

 

タクム君と連絡を取って事情を聞こうとした所、その台詞が一番最初に出てきた。

 

「……相手は心意の使い手なのかい?」

「はい。……僕はアイツだけは許せない」

 

そこから彼らの身に何が起こったのかを聞いた。一つ下の後輩が実はリンカーであり、卑怯な手でハル君とチユリちゃんを脅した事。ハル君のアビリティが奪われた事。

それに気が付いたタクム君が戦い、そして心意によって惨敗した事。

 

「ハルから聞きました。心意は心意でしか防げないと。だからお願いです!僕に心意を!」

「残念だけど、僕には君に教える事は出来ない」

「どうして!?」

「真意は機密性が高い事案だ。本当はこう言う通信でも控えたい。それに、気密性が高い故に、直結して指導するのが普通だ」

 

僕が彼に教えられないのは、偏に直接会わなければならないと言う問題があるからだ。

 

「……僕は、いや、僕達はまだ、貴方に信用されていないんですね」

「それは違うよ。僕は君たちを信用してるし、信頼もしてる。君たちが会おうと言えば、今なら僕は君たちにリアルを晒す事も気にしない」

 

自分でも驚く心境の変化だ。ブレイン・バーストを知る人間に会っても良いと思えると言うのは、今まで存在しなかった。

 

「だったらお願いです!僕に――――」

「だからこそ、僕は君たち以上に、その敵に対して警戒している」

 

何の躊躇いも無く、卑怯な手を使う相手がいる中で、僕は彼らに会う事が出来ない。万が一にも、その相手に知られた場合、僕は確実に無事では済まない。

その人物ではないにしても、そこから僕のリアルが割れた場合、PKを営むプレイヤーは僕を狩りに来る。

 

「僕は敵を作り過ぎた。だから君に教える事は出来ない」

「そんな!?それじゃ、アイツを、能美を……」

「そんなに悲観する事は無いよ。いるじゃないか、僕じゃなくても、指導者として適任が」

「え?」

「赤の王だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今、闇色のアバターと対峙していた。少し離れた場所には、かなり純度の高い緑系統のアバターがいる。『ダスク・テイカー』『ライム・ベル』と表記されている名前を見て、二対一と言う変則マッチがちゃんと機能しているのを確認した。

 

二対一の変則マッチはよほど腕に自身のある者でなければ手を出さない特別ルールだ。

戦いを挑む事が出来るのは一人側のみで、合計レベルが自分と同等か、それ以上の相手にしか対戦を仕掛けられない仕様となっている。

さらに仕掛けた側は、ステータスが一段階以上低下すると言うバッドステータスが付き、その対戦に勝てても、得られるポイントはスズメの涙程度、しかもこちらが負ければ失うポイントはそれぞれのアバター毎に計算される所為で、まったく釣り合いが取れていない。

その為か、縛りプレイや、マゾプレイなどと呼ばれ、このシステムを使う者は今の加速世界にはいない。

それも当たり前だ。勝てても僅かなポイントを、負ければ幾つも下のレベルの相手に負けた為に、多大なポイントを失うのだ。

 

(あれがチユリちゃんか……)

 

魔女の様な姿の彼女はただ黙っている。普段の彼女を知る人間からしてみれば、その沈黙が、ひどく寂しさを与える。それと同時に、その沈黙を与えた人物に対して言いようのない怒りを抱かせた。

 

「はははっ!高レベルの奴が釣れちゃったよ!少し派手にやり過ぎたかな?」

 

ダスク・テイカーが笑いながらそう口にする。自分よりも高レベルのリンカーを相手に全く気負った様子が見られない所を見ると、今の戦い方はどれだけのレベルアドバンテージが有ろうと覆せると信じているんだろう。

実際彼らの戦い方は理に適っている。

火炎放射器の様な遠距離火力を持つダスク・テイカーは、飛行アビリティを使い飛翔した所から何も考えずに撃ちつづければ良い。相手に遠距離で攻撃されても、チユリちゃんが覚醒した、希少技能である回復アビリティで即座に回復、ごり押しで危なげなく勝っている。

 

それだけならば、僕も対戦を仕掛けたりはしなかっただろう。タクム君たちからも止められていたから。

 

レインを指導者に押した後、僕からそれ以外の事ならば手を貸す旨をタクム君に言った時、彼とハル君に断られた。

 

『この件は僕たちの問題です。図々しいお願いをした後でこんな事を言うのも変ですが、僕たち自身で解決して見せます』

 

力を付ける為の助力ならば良いが、事件を解決する手助けは借りたくない。それは彼らの意地なのだろう。

ロータスが学校の行事で離れている期間に起きた事を、自分たちで解決できなければ、これから先の戦いには着いて行けない。

つまりはそう言う事だろう。

 

その約束を交わした僕だったが、今こうして戦いを挑んでいる。

初めは単なる好奇心だった。観戦予約を入れ、チユリちゃんの回復アビリティ、ダスク・テイカーの戦い、それを直接見て見たかったのだ。

だが、蓋を開けてみれば僕にとって許せない行動をダスク・テイカーは取り続けた。

 

それは味方であるチユリちゃんの意思を無視して、彼女を盾に、または囮として使った事だ。

チームプレイを長年続けていた僕には、その行為が許せなかった。痛みに声を上げるチユリちゃんの声が耐えられなかった。

 

「感覚的には二段階落ちか。空中ジャンプに、強化外装使用不可。まぁ、それほど大きな問題じゃないか」

 

何時もの癖で爪先で地面を叩く。

そしてゆっくりと姿勢を低くし、慣れ親しんだ戦闘態勢へと移行する。

 

「空を飛んでみろ。それまで待ってあげるよ」

「……気に入りませんね、その余裕。見た所ただの近接バカ。地を這いずる貴方が、空を飛ぶ僕を倒せると?」

「御託は良いよ。空を飛ぶ前に倒して言い訳されたくないからさ」

 

あからさまな挑発。だが、それでもダスク・テイカーは乗ってくる。

自分の優位性に絶対の自信があるからだ。

 

「良いでしょう!あの惨めな方から頂いた、この素晴らしい力を堪能させてあげますよっ!!」

 

あぁ、ダメだ。

 

 

――――――――手加減できそうにない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かッはッ!?」

 

全身をボロボロにしながら、ダスク・テイカーはうつ伏せに倒れる。

僕は腕を組み、その顎を爪先で持ち上げ、体を宙に浮かせた。

 

「……借り物の力じゃ、こんなものかい?」

 

ダメージソースである火炎放射器は蹴り砕き、肩翼を踏み千切った。残された片腕にある触手状の強化外装も、何本も残されていない状態である今、彼には僕を攻撃する術は無い。

 

「ほら、回復するまで待ってやるよ」

 

そう言って、彼を吊るしていた足を勢いよく振り、距離を開ける。

少し経つと、緑色の光に包まれ、彼の強化外装共々、体の破損は完治した。観戦していた時も思ったが、この緑色の光はなんと暖かなんだろう。その光を浴びるべきは、彼らの筈だと思うと、どうしようもない虚しさが湧きあがる。

 

「貴様……!貴様!貴様ッ!!」

 

元通りに戻ったダスク・テイカーは、忌々し気に声を上げ、僕を鋭く睨んでいる。

 

「何なら僕のアビリティも盗んでみるかい?今の僕は君よりも少しステータスが高いだけの凡庸なアバターだけどね」

 

奪われて困るようなアビリティは、今の僕にはない。彼を圧倒して見せた戦いで、僕がやった事なんて通常の攻撃、ただそれだけだ。

 

「化け物めッ!僕は力を手に入れたんだ。こんな事で、奪われて堪るか!奪わせるものか!!」

 

この一方的な状況が、彼のトラウマを刺激したのか、彼は怒りを顕わにして声を張り上げる。

火炎放射器を元の腕に戻し、両腕を胸の前で重ねるようにすると、彼は何かをブツブツと唱え始めた。

すると、徐々に、黒い腕を覆うように、さらに黒い輝きが集まりだす。それは心意の輝きだった。その輝きが、指向性を持って彼の両腕を包み、巨大な腕の形状を取る。

 

「それが君の心意か。暗いな、負の心が詰まってる」

 

心意を習得している者の多くは、彼と同じように暗く鈍い輝きを見せる。トラウマを元にするこのゲームの本質から考えれば、当たり前の事かもしれないが、皆暗い怒りと言った負の感情で力を付けて行く。

 

「だけど僕は、このゲームが、ただトラウマを刺激するだけの悲しい物だとは信じたくないんだ」

「うるさいんだよっ!!この羽虫がッ!!」

 

目の前に迫る黒く大きな腕。僕はそれを見つめながら、小さく息を吐くと両足に力と思いを込める。

 

「僕は、自分の体がどれだけ脆いのかを知っている」

 

装甲強度拡張は僕には使えない。たった一瞬で、自分と言うモノが壊れる事を知ってしまったから。

 

「だけど、僕は何があっても走る事を諦めなかった!【アクセル・ギア】ッ!!」

「なッ!?消え――――」

「そして、僕の足は、人一人を救うだけの力を秘めているッ!!」

 

トラウマと向き合い、それでも諦めず、新しい脚|(車椅子)でも走り続けた僕の信念、人を救う事で得た自信。

それが僕の心意の根幹をなす。

 

「【ソニック・エッジ】!」

 

高速で振るう僕の足は、全てを切断する刃と変わる。

それは圧倒的速度から繰り出されるカマイタチを纏う一撃。容易く彼の心意の腕を斬り飛ばし、風切音が心地よく響く。

 

「僕の心意がッ!?貴様も心意を使えるのか!?」

「当たり前だよ。レベルが上がる毎に、リンカーはさらに高次元の戦いを望むようになる。そして、心意のシステムはその意思をくみ取り、事象を上書きする。レベルが五を超えれば、自力で到達できるものは珍しくない」

 

自分の力を高めようと、力を注げば注ぐだけ、その強い思いが心意への扉を開く。

心意を習得した者と、していない者とでは実力差が同レベルであっても桁そのものが違ってくる。それ故に、各レギオンの心意拾得者は、対戦を監視し、発現の兆候を見せた者に説明と勧誘、応じない場合は脅しをかけ、自衛手段として使う意外に認めていない。

 

「君に心意を教えた人物は、本当に使い方以外教えなかったようだけどね」

 

今まで使う素振りを見せなかった所を見ると、使用を控えるように言われていたのだろうが、それでも使う際に躊躇いの一つも見せなかった。

 

「さぁ、続きだよ。大丈夫、回復手段を断ったりはしないから、気の済むまで足掻くと良い」

「貴、様あああぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

対戦と呼ぶのも烏滸がましい程の一方的な展開が再開される。

今度は心意を用いた事により、さらに激しく、より無残に。ギャラリーの観戦は最初から切って有る為、遠慮と言うモノは一切ない。

 

 

 

 

しばらく続いたその展開は、ダスク・テイカーが自ら回復を拒み、苦悶の声を上げて消えていった。

達成感など一切ない。これはただの八つ当たり、心に響く事など何一つ無いのだから。

ただ一言、彼女に伝えられればそれでいい。

 

静かに、彼女の前に降り立つ。僕が目の前にまで迫ると、先程の戦いを思い出したのか、彼女は体を硬くさせ、逃げるように一歩後ずさる。

その行動に、僕は心の中で苦笑いを浮かべる。怖がらせてしまった。僕が誰なのか解らないのだから仕方がないとは思いつつも、慕ってくれていた人から避けられるのは堪えるモノだ。

 

「よく我慢したね。猫さん?」

「え……?」

 

それは僕と彼女のみが解る言葉。

 

「ウサさん?」

「うん、そうだよ。色々言いたい事があるだろうけど、時間が無いから少しだけね」

 

既に対戦時間は終わりを迎えようとしている。

だから僕は、彼女を応援する様に言葉を選ぶ。

 

「君が何を考えているのか、僕は少しだけわかったよ。君は、回復技能者じゃないんだね?」

「……たぶん」

 

先程の戦いで少しだけわかった。彼女の技が、ただの回復ではないと言う事が。

 

「君のトラウマを知っているからこそだけど、君の力が如何言う物なのか、何となく解ったよ。時間の巻き戻しによる疑似回復能力。それが君の能力の正体なんだね」

 

ダスク・テイカーに技を発動させたとき、ライフだけでなく、必殺技のゲージまで増減していた。

さらに、壊したはずの強化外装まで元に戻ると言う異常現象。通常、強化外装が破壊されれば、その対戦では二度と使う事が出来ない。

それは、他の回復能力の検証結果を人伝に聞いて知っていた。だからこそ違和感を覚えたし、正体に辿り着く事が出来た。

 

「大丈夫、君の考えはおそらく正しい」

「え?あの……」

 

その能力を知って、彼女が何をしようとするのか。それもある程度予想できる。

時間逆行能力ならば、クロウの翼が奪われる前の状態に戻せるかもしれないのだ。

 

「だから、心に強く思い続けて。助けたいんだと。それが、君の力になるから」

 

だが、いくら規格外の能力と言えども、一度対戦が終わった後の事、必ず戻ると言う保証はない。だから、足りない分は、心意のシステムに委ねるしかないだろう。

強い思いは、その能力の限界地を引き上げる。

 

「ッと、もう終わりだね。良い知らせを待ってるよ。君たち三人が一緒なら、出来ない事はきっと無い。だから信じて、自分と、あの二人を」

「うん……ッ!」

 

先程までの暗い瞳ではない。これならば、もう大丈夫だろう。

一緒に行動するダスク・テイカーに知られる恐れが有るからか、彼女は二人にもこの事実を隠しているのだろう。一人で抱え込むには重いが、誰かが知っていると言うだけで心は幾分か軽くなる。

彼女の心を僅かでも助けられたのならば、この対戦にも、私怨以外の価値があった。

 

 

 

 

 

当事者が強い意志を持って事に当たるのを見届けた僕は、この事件からすっぱりと手を引いた。

僕は僕で、自分の問題を解決しなければならない。

だが、これには非常に手を焼いている。数か月前から徐々に始まった僕に対してのアクション。

 

「今解るだけで三人か……」

 

同じ時間、同じ場所、同じ人物から対戦を申し込まれている。対戦をしても仕掛けてくる様子は無く、ただ時間ばかり過ごしているかと思っていた。

だが、違った。

彼らは、日に日に、僕との戦闘開始距離を縮めていたのだ。

そこから導き出される答えは。

 

「……僕のリアルを、割りに来てるのか……」

 

知らず、僕の額から冷や汗が流れる……

 




お疲れ様です。

今回の独自設定、二対一と言う変則マッチルールです。サドンデスルールまであるのだからこれくらいあるだろうと勝手に作りました。かなり極端だったかもですが、ダスク・テイカーの心意の話とチユリちゃんを一緒に登場させたかったので、三人だけになる空間を作ろうとやってしまいました。

最近は文章が雑になった気がします。疲れだろうか、今書いている以上の物を書ける気がしません。それではダメだと思いながら、読み返して誤字などは無いように頑張ります


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第十七話

どうも、真ん丸骸骨です。
少し早めに書けたので投稿です。
前から書いていたと思いますが、今回でボッチ卒業します。賛否別れると思いますが、加入時期はずっと決めてたのでご容赦を。


「……そろそろ限界か」

 

対戦を終えた僕は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

限界、言葉の通り、具体的な解決策を講じなければならない状況に追い詰められていた。リアルを割ろうとしている者は把握しているだけで四名。

彼らを調べた結果、一つのレギオンネームが浮上した。

『スーパーノヴァ・レムナント』PKを主に活動する悪質なチームである。彼らが行おうとしたPKを何度か止めた記憶がある。

その報復か、邪魔な僕を排除しようとしているのだろう

 

彼らのリアルを割る手法は二通り。一つは、彼らの親、または子から派生した人脈を調べ上げる事で、リアルを割る方法。もう一つは今現在、僕が曝されている方法である。

複数人で同じ人物に対戦を仕掛け、対戦が始まった最初のカーソルの向きを記録しておく。バラバラに散って対戦を仕掛け、徐々にその範囲を狭めながら、その人物を特定していくのだ。

この方法は、確実性が無いように思われがちだが、年齢層が学生で固定であるブレイン・バーストの特徴故に、毎回同じ時間帯、学校の登下校時に仕掛ける事で、成功率は跳ね上がる。

 

この方法はポイントの消費が多く、複数人で行わなければならないが、高レベルのリンカーに絞れば、採算はプラスになる。

 

「一人じゃもう、どうしようもない……」

 

僕のリアル割もそろそろ佳境に差し掛かっている。対戦開始地点から、敵の姿が視認できる所まで来ていたのだ。対戦で敵を撃破しても、僕の方がレベルが高く、敵から奪えるポイントは少ない。人数もおり、このまま対戦してポイントを枯渇させるよりも早く、僕のリアルが割られる方が先だろう。もう、一刻の猶予も無いだろう。

 

現実空間に戻った僕は、下校の途中の道で、ある人物に通話をする。

 

『久しぶりだな、ソニック。君から連絡があるのは初めてだな』

「あぁ、久しぶりだね。今日はちょっと君に。いや、君のレギオンにお願いしたい事があってね」

『ほう、君からの依頼と言うのは珍しいな。しかもレギオンまで持ち出すとは。相当不味い事情があるのか?』

 

聞こえて来る声は、黒の王、ブラック・ロータス。僕が頼れるのは彼女らだけだ。

共に戦い、教え、大事な思いを思い出させてくれた。彼ら以上に信頼できるものは、加速世界では存在しない。

 

「そうだよ。交渉と言い換えても良い。……話を聞いてくれないか?」

『そう畏まらないでくれ。君には借りがある。出来る事ならば協力させてもらうさ。だが、事がレギオンにまで及ぶと、私だけでは決めかねる』

「解ってるよ。だからこの話は、レギオンのメンバー全員に聞いてもらいたい。……リアルで話そう」

『――――ッ!直ぐに準備をしよう。不都合な日はあるか?』

「いや、とにかく早い方が良いかな」

『解った。決まったらまた連絡する』

 

僕がリアルでの対話を求めたのが意外だったのだろう。一瞬言葉を詰まらせたが、直ぐに平静を取り戻し、日程を決める為に連絡を切った。

彼女の驚きも尤もだ。僕自身、リアルで誰かと会おうとは思わなかったのだから仕方がない。だが、今回は事情が事情だ。

それに、これも良い機会なのかもしれない。ゲームとして楽しむために、僕は彼らと一緒にいたい。強く、本当に強く思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……緊張してきた」

 

あれから数日、彼女らとの会談の場が設けられた。

場所はハル君の家。何時も彼らが拠点としている場所だ。僕はそのマンションの前で、強く鳴る心臓を抑えながら膝の上に置いてあるお菓子が入った紙袋を握りしめる。

 

「何度も話してるとは言っても、リアルで会うのは初めてだし、所謂オフ会と言う奴だよなぁ」

 

会う目的である話が楽しい物ではないが、少なからず期待感が胸にある。

つい最近、レギオンに復帰したレイカーさんも来るとの事なので、彼女とリアルで会えると言うのも楽しみだ。

 

「よしッ!それじゃ早速――――」

「あの……人違いだったらごめんなさい。駆君、ですか?」

 

勢い込んでマンションのロビーに入ろうとした所で背後から声がかかる。

 

「あ、貴女は……楓子、さん?」

「やっぱり!久しぶりですね」

 

そこにいたのは、白いワンピースに鍔広の帽子を被った美しい女性がいた。色々と成長していて最初は誰か解らなかったが、直ぐに昔の面影からその人物の名前を口にした。

僕が自分の知る人物とわかると、その戸惑いを含んでいた顔が花開く様に笑みに変わる。

懐かしい声、そして人を安心させるような柔らかな笑みはそのままであるが、僕が知る彼女とは幾分大人びて綺麗になっており、僕は思わず見惚れてしまった。

 

「えぇ、本当に久しぶりです。買い物か何かですか?」

「いいえ、今日はこれからお友達と会う約束があるの。駆君こそ今日はどうして?」

 

この近くには、最近出来たばかりのショッピングモールがある。そこに買い物に来たのかと思ったがどうやら違うようだ。

彼女の家は此処から大分遠い筈だが、高校生にもなると、行動範囲が広がるのだろう。友達がいても可笑しくは無い。

ふと、その相手が男か女なのかと、頭に過ったが、頭を振ってその考えを消し、僕がここに来た目的を差し障りの無いように答える。

 

「そうなんですか。実は僕もこれから友達と大切な話があるんです」

「あら、そうなの。因みにそれは女の子ですか?」

 

ギクリ、と一瞬身が固くなる。

 

「は、はい、女の子も、います」

「そうなんだ。友達グループなのね」

 

何だろうか、この居心地の悪さは。悪い事をしている訳でもないのに、彼女の言葉一つ一つに大きな反応を出してしまう。楓子さんは特に変わっている所は無いのだから、ただ単に僕の交友関係を冗談めかしく聞いているだけだ。それにこれほど大きな挙動を見せるなんて、これではまるで思春期の少年のようではないか。

いや、年齢的には真っ只中ではあるのだが、そのような経験が全くなかったので、自分でも大きく戸惑っている。

 

「駆君もこのマンションですよね?私もですから、途中まで送ってあげますね」

「いいですよ、そんな」

「気にしないでください。久しぶりに会って、押してあげたくなっちゃいましたから」

 

そう言うと、彼女は僕の背後に回り、車椅子を押し始めた。

彼女は楽しそうに、僕は戸惑いながらも、やはりどこか嬉しい気持ちで心が満たされる。マンションの中で別れる短い間だが、僕はそれでも十分なほど、幸せな時間だ。

 

エレベーターに乗ると、楓子さんは自分の目指す階のボタンを押し、僕を見下ろしながら僕の目指す階を聞いてきた。

 

「駆君は何階ですか?」

「あ、僕も同じ階みたいです」

 

楓子さんと同じ階だと分かると、もう少しだけ一緒にいられる時間が増えた事に心の中でガッツポーズを取る。それと同時に、ある疑問が僕の頭の中で浮上した。

こんな偶然があるのだろうか、と。

それなりに大きなマンションで、偶然に出会った知り合いが、自分と全く同じ階である事。

その考えに至ったのは僕だけではなかったようで、戸惑った表情を浮かべた楓子さんは、やがて真剣な顔をしてある言葉を投げかけてきた。

 

「駆君は……ブレイン・バーストと言うゲームを知ってますか?」

 

それは直接的な問いかけ。ある程度確信がを持って聞いて来ているのだろう。間違っていても、たかがゲームの話。知らなければ適当に話を濁せば良いだけだ。

 

僕のリアルでの姿と、アバター状態の僕の姿。走る事に執念を燃やす加速世界での僕と、現実の走る事が出来ない僕。アバターの作られた原因が見て直ぐに解るのだ。確信を以て今の問いかけが出て来ても可笑しくは無い。

 

そして僕も今の言葉で、これから会うネガ・ネビュラスのメンバーの中で、顔を知らない人物が目の前の彼女だと、容易に辿り着ける。

 

「偶然って怖いですね、スカイ・レイカーさん」

「そう……駆君が、ソニックさんなんですね」

 

答え合わせが終わると、お互いに顔を見合わせ、笑いあった。

 

「本当に。偶然って怖いですね」

「えぇ、まさかリアルと向こうでの立場が逆になっているなんて思いませんでしたよ」

 

立場と言うのはもちろん車椅子の事である。リアルでは僕が押され、加速世界では僕が押す。それはただの偶然だが、その偶然がお互いのツボに入り、エレベーターが目的の階層に届くまで、しばらく笑い続けた。

 

ずっとあった緊張感は、楓子さんとあった事で完全に解れた。現実で知っている人間が居ると言うのは、心に大分余裕をもたせてくれる。

ハル君の家の前に着くと、楓子さんは躊躇いなくインターフォンを押す。暫くすると、バタバタと言う音を出しながら、扉に走り寄ってくる足音が聞こえて来て、そのまま扉が開かれる。

 

「こんにちは、もう先輩たちは集まってますよ!……と、どなた、ですか?」

 

出て来たのはぽっちゃりとした体形の少年、ハル君だ。

何度も言葉を交わしていたが、こうして肉声を聞くと、また違った印象を受ける。

 

「こんにちは、鴉さん。それと、こちらは――――」

「一応、初めましてになるかな?僕の名前は駆。アバター名、ホリゾン・ソニックだよ。よろしく、クロウ」

「え……、えぇぇえ――――……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてだね、ネガ・ネビュラスのメンバーさん。僕は駆、ホリゾン・ソニックのリアルだよ」

「あぁ、知っているとは思うが、私はロータスだ。リアルでは、黒雪姫と呼んでくれ」

「えと、初めまして?なのかな。うさぎさん、何だよね?」

「そうだよ、チユリちゃん。数年来の付き合いになるけど、こうして直接会うのは初めてだね。よろしく」

「なるほど、その姿だから誰よりもリアルを避けていたんですね」

「車椅子……。確かにそれなら、リアルアタックは後ろから押せばいいだけだ。小学生にも簡単に出来ちゃいそうですね」

「その姿を見るとなるほど、何故アバターがあそこまで走りに特化したのかが良く解る」

 

お互いの自己紹介をはさみ、話は直ぐに本題へと移る。

 

「このまま世間話でも良いですが、本題から早く片付けてしまいましょう。リアルでの対話を求めて来たと言う事は、事はリアル面での問題と言う認識で良いですか?ソニックさん」

「あぁ、その考えで間違いないよ。それと、僕の事は駆で良いから。同い年だし、ここは加速世界じゃない」

「そうです……、いやそうだね。何より戦友に他人行儀と言うのも可笑しいかな」

 

タクム君は、そう言うと口調を改め、戦友と言う部分を強調するように口にした。

 

「脇道に逸れたけど、本題に入ろう。みんなは、僕が個人的にやってる事を知ってるよね?」

「PKハンターですか?」

 

皆が頷いている中、チユリちゃんだけが解らないと言った風に首を傾げる。それをハル君が補足するようにチユリちゃんに説明をしてくれた。

 

「すごい!ヒーローじゃん」

「実際はそんな華やかな物じゃないけどね。話を戻そう。僕は今、過去そのPKを邪魔したレギオンにリアルを狙われている」

「なに……?」

 

ここ数か月で行われているリアル割に方法を説明する。その話は、彼らからすれば気持ちの良い物ではなかったようで、皆顔を顰めて聞いていた。

 

「それじゃぁ、僕らはそのPK集団と戦えばいいんですか?」

「いやハル。それは現実的じゃないよ。直結をしなければ、同じ人間は、同じ相手に一日一回までしか対戦を請なえない。ポイントの総量が解らない相手に、それも複数名いる中で意味があまりないと思う。それに、相手は僕らよりも高レベルだ。何度かは勝を拾えるかもしれないけど、負ける可能性の方が大きい」

「その通りだ。それ以外で僕が助かる事が出来る方法は二つだけ。その内の一つを今日、ここにお願いしに来た。僕を……」

 

僅かに逡巡しながら、僕は言葉を紡ぐ。その一言を言うだけで、かなり体力が削られる思いだ。

 

「僕を君たちのレギオンに入れてくれ」

「そうか!レギオン領内での対戦拒否機能。確かにそれなら彼らの方法じゃ、手が出せない!」

「でも、駆君の活動エリアって……」

「グレート・ウォールが進出を始めたエリア、か……。君はまた、大きな天秤を持って来てくれたな」

 

幸い僕が住んで活動している場所は、まだ無所属の領土だが、隣の戦区は、既にグレート・ウォールが制圧しており、その隣の戦区を制圧しようものなら、宣戦布告と捉えられかねない。

それが黒の王だと言うのだから尚更だ。

 

「あぁ、だから決めて欲しい。僕と言う戦力を取って巨大なレギオンと戦う覚悟を決めてくれるのかを……。無茶なお願いだと言うのは承知しているし、幸いまだ助かる方法がある。気負わずに考えて欲しい」

 

助かる方法と言うのは確かにある。それはネットワークの接続を完全に遮断すると言う、ロータスが身を隠していた時の方法と同じ物。だが、これは正直使いたくはない方法だ。

ネットワークが使えないと言う事は、生活の殆どをネットワークに依存している僕にとって、かなり辛い生活が待っていると予想できる。

 

目を瞑り、考え込んでいる黒雪姫を、ただ静かに周りは見詰めていた。

 

「ふむ、もっと無理難題かと思ったが、案外と簡単な依頼だったな。良いだろう、ネガ・ネビュラスは君を歓迎する」

「マスター、良いんですか?」

「グレート・ウォールなら問題ないだろう。あそこは大規模な人数が所属するため領土を拡大させている節があるし、グリーン・グランデも放任主義で、積極的に領土支配に動く奴ではないからな。それに、リアルを晒してまで仲間になりたいと言う人間を突き放せるほど、私は冷酷ではないさ」

 

澄ましたような小さな笑みを浮かべながら、黒雪姫はかつての戦友の性格を読み取って問題ないと判断した。

 

「僕から言い出した事だけど、そんなに簡単に決めて良いのかい?」

「なに、私たちのレギオンには、今決定力が無い。ハルユキ君とタクム君は良くやってくれているが、まだまだ成長途上、君みたいな王と正面から戦える即戦力は喉から手が出るほど欲しいのさ。何より……」

 

ため息を漏らし、僕の隣にいる楓子さんに視線を向けた。僕はそれに倣うように、隣へと目を向ける。

そこにはいつもと変わらないような笑みを浮かべる楓子さんがいるだけ。彼女がどうかしたのだろうか。

 

「君の隣で百面相をしている楓子を見ていると、断るに断れない」

「私、そんなに顔に出てましたか?」

「出てた!姐さんがそんなにコロコロ表情を変えるところ初めて見た!そんなに心配だったんだぁ」

「知り合いが困っているからですよ。特に私は――――」

 

チユリちゃんがにんまりと笑いながら、からかうような口調で楓子さんに話しかけ、それに反論するかのように言葉を続ける楓子さんに、黒雪姫が追い打ちをかけるように会話が展開していく。

これは完全に女子会の流れである。

 

「あちらはあちらで盛り上がっちゃったみたいだし、僕らは僕らで話そうか」

「そうだな。正直オレとタクだけで女子率高かったから、ソニックさんが来てくれて助かりましたよ」

「駆で良いって。話し方も敬語はいらないよ。僕もハル君って呼ぶし、これから仲間なんだ」

「そうだよハル。もっと自然に。駆君とはもう何度も話してるだろ?」

「うぅ~ん。オレにとっては、ソニックさんはレイカー師匠と同じような感じだから、仲間って言うよりも、先輩って感じなんだよなぁ」

「うん、今はそれでいいよ。徐々に慣れていって欲しいけどね」

「ハル、まず駆君に言わなきゃいけない事があるだろう?」

「あぁ、そうだったな」

 

「「ようこそ、ネガ・ネビュラスへ!」」

 

取り残される形になった男三人で固まり、苦笑いを浮かべながら僕の参入を祝ってくれた。

 

初めて出来た親子以外でのリアルな絆。信頼できる仲間。

僕は、この絆を必ず守り通す。どんなに険しく困難な出来事が立ちはだかろうと、必ず僕は乗り越えて踏破して見せる。

誰よりも、走る事に魅了されたこの足に誓って……




後はヘルメスコードで完結です。
そろそろ次の作品を考えたいと思います。時間が進むほど書きたい作品が増えますね。


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