アーラシュに憑依したオリ主がネギま!の修学旅行中にステラする話 (偽馬鹿)
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アーラシュに憑依したオリ主がネギま!の修学旅行中にステラする話

タイトルそのまま


「マジかよ」

 

主人公、最初の台詞である。

死んだと思ったら以下略。

そして制限時間まで設けられた。

 

曰く「修学旅行中にステラ確定」

曰く「能力は基本再現」

曰く「頑張って生き残ってね」

 

自称神の発言である。

悲しいことに、彼に自由意志はなかったのであった。

まさに神の玩具。

 

 

 

「しかも、どこだここ」

 

ひとまず落ち着いた主人公は周囲を見渡す。

辺りは暗く、よく見えない。

いや、彼の眼には頭がおかしくなるくらいの情報が叩き込まれていた。

 

ガラス片百円玉落書きペットボトルレンガ階段以下略。

どこを見渡してもなんでも見える。

鮮明過ぎて逆に気持ちが悪いくらいであった。

千里眼恐ろしす。

 

 

 

それはともかく。

主人公、周囲を見渡して即座に気付く。

でっかい木発見、麻帆良だここ。

 

一瞬で場所を把握してしばらくその場に佇む。

自身の状態がよく分からないのである。

自己分析大事。

 

 

 

そもそも能力が再現されてるというのはどういうことなのか。

アーラシュの身体に憑依しているのか、それとも身体が直接変化しているのか。

彼はどっちなのか分からないのが何かと不安だったのである。

 

気にするなー

まじかーそうかー

自己解決である。

ツッコミ不在。

 

 

 

「アーラシュでいい」

 

 

 

翌日、主人公――アーラシュ(仮)は学園長と対面していた。

そもそもボディアーマーを着ている不審者である。

即座に捕捉され、アーラシュ(仮)も抵抗することなく捕まった。

 

監視は眼鏡をかけた中年の男だった。

タカミチかなーとか軽く考えていた辺り余裕がある様子。

逆に監視役の方が不審そうに見ていたレベルであった。

 

 

 

対面した結果、アーラシュ(仮)は悠久の風に入ることになった。

どうなったらそうなるのか当人にもわからないレベルだったが、とんとん拍子に進んでしまった。

 

とにかく、アーラシュ(仮)は悠久の風に入り、仕事をすることになった。

どんな力があるかわからないというのに仲間にするなんてなんて凄い組織だ。

よく分からない感想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年が経った。

その間に色々とわかったことがある。

 

その1が、ネギがまだ学校に来ていないこと。

その2が、アーラシュ(仮)の身体能力、特殊能力のこと。

 

魔力や気を使うことができるかと考えたが、1年で取得は難しかった。

何となく雰囲気はつかめている気がするとは当人の談。

なおそんなものがなくてもぶん回せる火力を放てるのだが、彼本人は少し気にしていた。

 

「何度も言うがその機関銃みたいな弓矢の腕は頭おかしい」

「そうかぁ? 魔法の矢って奴で似たようなことはできるし」

「魔力も気も使わずにそれができることがおかしいと言ってるんだ!」

 

たまの帰宅でエヴァンジェリンに張り倒される日々。

拾った子供の世話をしたりと割と忙しく過ごしている。

 

「……変な人」

 

辛辣な台詞ばかり言われてるが、この世界に来てからできた大切な家族。

少なくともアーラシュ(仮)はそう考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に1年が経った。

今年はネギ=スプリングフィールドが教師として出てくる年らしい。

らしいというのは何となく直感がそんな感じだと働いたからである。

多分千里眼のおかげ。

 

気付けば弓道部とアーチェリーの顧問としても働くことになっていたが、彼にとっては些細な問題であった。

なまじどちらもうまくできてしまう分質悪い。

ファンクラブ的なものも出来ているらしいがアーラシュ(仮)当人は我関せずの模様。

 

「……どんかん」

 

最近中学校に通うようになった拾われっ子が呟くが、これもスルー。

気付いているのかいないのか。

彼自身にもわからないのかもしれない。

 

 

 

ちなみにエヴァンジェリンの登校地獄は解決済(?)である。

千里眼で見た結果、ねじ曲がった魔法概念を見ることができた。

その絡まった術式を丁寧にほどいた結果、無事修学旅行にも行けるようになった。

千里眼便利過ぎワロタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く。

ついに決戦当日である。

ステラ記念日とでも言うべきか。

 

何の因果か引率の教師としてついていくことになり、『着々と準備が進められてる感ある』とは当人の談。

ふらふら観光に勤しんだり、拾われっ子に振り回されたりしながら最期の時を待つ。

 

なおエヴァンジェリンはのんきに観光中。

手を貸すつもりは欠片もなさそうだ。

 

 

 

 

そして夜。

運命の時が近づいてきた。

 

「やめて、やめてっ!」

 

拾われっ子が必死で止める。

分かっている。

使えばどうなるか、その子には伝えたからだ。

 

それでも。

 

それでもだ。

 

「やっぱり誰かが傷付くのは嫌なんだ」

 

それは英雄の言葉だった。

偽物でも借りものでも、その身は既に英雄のそれ。

 

蔓延る妖怪は射抜き、蹴散らした。

既に残るはリョウメンスクナノカミただ1柱。

放たれる矢は大地を割る。

ただしその身は八つ裂きになっているだろう。

 

 

 

 

「―――――流星一条!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の話。

何故か生き残ったアーラシュ(仮)は、拾われっ子に張り倒された。

曰く、「無断で死ぬのは許さない」。

何が何だか分からないが、分からないままでもいいかと考えを放棄した。

 

いつの間にか仮契約してたりそのアーティファクトが怪しい物体だったりと色々あったが割愛する。

何故ならこれは『アーラシュに憑依したオリ主がネギま!の修学旅行中にステラする話』だからである。

それ以外は蛇足ということだ。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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拾われっ子編
拾われっ子世にはばかる


続きというか外伝です。
拾われっ子視点
ちょっと重いです


夜の話。

 

目が覚めると拾われていた。

 

「……」

「お、目が覚めたか」

 

目の前には男の姿。

見知らぬ顔、そして部屋。

そして身体にはなんの機器もついていない。

つまり自由である。

 

「あ、おい」

 

泣いた。

彼女は恥も外聞も関係なく泣いた。

男に見られていることなどもはやどうでもよかった。

 

もう体を切り刻まれることもない。

もう心を引き裂かれることもない。

もう頭をこねくり回されることもない。

 

嗚呼、誰にも自身を傷つけられることはない……!

 

 

 

 

「―――――あの、その」

「まあなんだ、無事なようだな」

 

しばらく後、泣き止んだところで自分が何をしていたのか思い出した彼女は布団に包まっていた。

今更ながら恥ずかしい気持ちが込み上げてきたのである。

隠れてやり過ごしたい気持ちでいっぱい。

いっそのこと消えてしまいたいくらいである。

 

 

 

 

「スピカ」

「……なに?」

 

彼女――スピカが男に拾われてから数日が経った。

男の名前がアーラシュであることも分かった。

 

スピカはそのアーラシュに連れられ、麻帆良学園と呼ばれる場所に住むことになった。

不思議な街並みだったけれど、綺麗な場所。

初めてみた、まともな街。

 

 

 

「……スピカ、です」

 

 

 

気付けば学校に入学させられて。

気付けば学校生活させられて。

 

それはちょっと楽しくて。

それが少し虚しくて。

 

もし最初からこんな生活ができたらと考えたら周りのみんなが憎らしくて。

もしあの痛みを感じることなく過ごすことができたらと考えたら周りのみんなが憎らしくて。

 

 

 

「ふん……」

「……くくっ」

 

小さな子に笑われる。

エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルというらしい。

1度喧嘩を売ったら軽くあしらわれた。

 

なので本気を出した。

いいところまで行ったのにアーラシュに止められた。

曰く「それ以上は殺し合いだ。止めるぞ」とのこと。

 

失礼な、殺し合いになんてならない。

私は死なないのだから、殺すのはこっちだけだ。

そう言ったところで、彼女は怒られた。

 

「どうあっても誰かが死ぬのは駄目だ」

 

割と強めのげんこつだったと彼女は記憶している。

仕方がないのでやめた。

決して怒られたのが悲しくて泣きだしそうだったからではない。

最早幼女。

 

 

 

「なんですか」

「いやなに、眩しそうな顔をしてる奴を見つけてな」

 

また小さく笑って、エヴァンジェリンは去っていく。

最近アーラシュのおかげで登校地獄の効果が緩んだことで機嫌がいいのだ。

スキップしてる姿を茶々丸が目撃したとか何とか。

 

 

 

ともかく。

スピカは八つ当たりをすることにした。

自分より小さい子供に笑われて怒ってるのである。

年齢的には同じなのだが。

 

八つ当たり相手は勿論アーラシュである。

最近帰ってきたことをタカミチに教えてもらったからだ。

 

「アーラシュ!」

「なんだスピカか。久し振りだな」

 

出合い頭に跳び蹴り。

がっちり受け止められるがそれはそれ。

本命は魔法の矢23本である。

 

それを顔面に叩き込む。

遠慮がないというよりも容赦がない。

というか仮にも保護者相手にこれはどうなんだろうか。

 

 

 

「ははっ、元気がいいな」

 

しかし、アーラシュはそんな一撃を喰らっても平然としていた。

それどころか笑って許してしまう。

まさに頑健。

 

「……むう」

 

ぶらーんとぶら下がりながら不満の声を上げるスピカ。

スカートの中身が丸見えだが、短パンだから恥ずかしくない。

 

 

 

 

 

 

 

「くくっ、また返り討ちか」

「ふん……」

 

後日、スピカはエヴァンジェリンの家にいた。

魔法を教わる為である。

出所が怪しく面倒臭そうな少女を相手してくれる人間なんて限られるだろうと考えたからだ。

 

実際のところ、そんな相手であろうと親切丁寧に教えてくれるのが麻帆良学園の魔法先生なのだが。

それを知らないスピカは身近にいる魔法使いっぽいエヴァンジェリンに目を付けたのだった。

 

「しかし才能がない。できることは魔法の矢と低級の治癒魔法だけだろうな」

「ぐっ……」

 

しかし、エヴァンジェリンの言う通り。

スピカには魔法の才能が欠片しかなかった。

欠片だけある分質が悪いというかなんというか。

 

「気の訓練でもするか? まだ芽がある方だと思うぞ」

 

魅力的な台詞を蠱惑的な顔で誘ってくるエヴァンジェリン。

しかし、スピカの決意は固い。

意地でも魔法を習得してやろうという思いがあるのである。

 

 

 

……実際のところ、魔法の矢という響きに憧れがあるだけなのだが。

アーラシュの弓矢の腕を見て、自分も似たようなことができればと考えているとか。

なんとも可愛らしい理由である。

 

「まだ頑張る……」

「くくく……」

 

くじけることなく頑張るスピカに、面白いものを見るかのようなエヴァンジェリン。

なんだかんだ言って仲がいい様子。

スピカに言ったところで否定されるだろうが。

 

 

 

「とにかく、打倒アーラシュ」

「何年かかることか」

 

 

 



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拾われっ子の日常生活

英霊剣豪七番勝負してたら遅れました。


二年生になって。

スピカは自分の容姿が気になりだした。

全く気にしてなかったわけではないが、それでも周りと違うところが多いとなると少し気になるのであった。

 

とあるストレスで白髪化した腰ほどまである髪。

自分でも気に入っているルビーのような瞳。

眼はツリ目、鼻はすらっと、輪郭はちょっと細すぎるくらい。

胸は控えめお腹にはくびれ、おしりはきゅっとしまってる。

 

控えめに言って美少女である。

ただし身長が低いのが災いし、どうしても幼女にしか見えない。

アーラシュからもそう見られていることは確定。

CVはきっと門脇舞以。

 

 

 

ノイズが混じったがスピカは周囲を見渡す。

周りには2-Aのクラスメイトたちがいる。

 

みんな可愛いわけだ。

みんな違ってみんないい、という言葉がよくあう光景である。

先程までの回想はどこに行ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に理由はない。

特に理由はないのだけれど。

スピカは最近弓道部に入部した。

特に理由はないのだけれど。

 

―――――ダンッ

 

的を貫く音が響く。

 

―――――ダダダンッ

 

的を貫く音が響く。

 

ズダダダダダダダ

 

的を貫く音が響く。

 

「何度も言うがその機関銃みたいな弓矢の腕は頭おかしい」

「そうかぁ? 魔法の矢って奴で似たようなことはできるし」

 

そう言いながら連打。

最早機関銃。

 

「魔力も気も使わずにそれができることがおかしいと言ってるんだ!」

 

見学に来ていたエヴァンジェリンがアーラシュを蹴り倒す。

確かに、と思いながらスピカはアーラシュの姿に見入っていた。

 

「……変な人」

 

スピカは小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピカちゃんに聞きたいことがあります!」

「……はい?」

 

ある日の朝倉。

スピカが昼食を食べているとハイテンションで聞いてきた。

 

「ズバリ! アーラシュ先生との関係はいかに!?」

「……?」

「いやなにその困惑顔?!」

 

「だって聞いたよ? アーラシュ先生追いかけて弓道部に入ったんでしょ?」

「誰から聞いたの?」

「くーふぇ」

「後で〆るわ」

 

おのれくーふぇ。

肉まんが美味しいから贔屓にしてやってたものを。

ほぼ八つ当たりである。

 

ちなみに勝ち目は0である。

魔法の矢解禁しても勝ち目があるかどうか。

それだけ肉体能力に差があるのだ。

 

「で、実際どうなのよ?」

「違うわ」

「本当にぃ?」

「違います」

「ノータイム目潰しはやめて!」

 

心外である。

ただ単にこのおしゃべりの口を封じようとしただけなのに。

口を封じるはずなのに目を潰そうとしてる辺り焦ってるのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーチェリーの顧問としてもアーラシュが働くことになったが、流石に2足の草鞋を履くほどスピカは器用ではなかった。

どちらも評判がいいのはご愛敬。

ファンクラブが出来ているのだがアーラシュ当人は我関せず。

 

「……どんかん」

 

小さくつぶやく。

ちなみに彼女のファンクラブナンバーは1桁である。

別に関係ないけれど、こういうものは内側から管理しないと危ないから。

誰に対して言い訳しているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

スピカは特に気にしたことがなかったが、担任の教師が変わるらしい。

タカミチの出張回数が多過ぎてクビになったともっぱらの噂である。

明日奈は残念そうにしていたが、エヴァンジェリンは楽しそうだった。

ついに来るか、とか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

脱がされた。

殺す。

端的かつ物騒な台詞である。

 

「そんなに気にするな。まだこんなぼーやじゃないか」

「殺す」

「聞け」

 

エヴァンジェリンの制止も無視である。

おのれ乙女の柔肌を見るとか万死に値する。

誰に見せるわけでもないというのに物騒である。

 

「それに……いや、なんでもない」

「……?」

 

エヴァンジェリンが言い淀んだことで一瞬スピカが不思議そうに首をかしげる。

しかし、そのことで声をかけようとする前にネギ先生の魔法シュートが炸裂した。

 

声をかけるタイミングを失ってしまったが、気になることは気になる。

しかし、彼女はそれどころではなくなってしまうのだった。

 

 

 

そう……期末試験である。

 

 

 

「ぬあああああ」

 

スピカ自身、勉強そのものが嫌いなわけではない。

しかし、彼女には12年という勉強のブランクがあるのである。

簡単に言えば小学生分の知識が抜け落ちているのだ。

 

よって、まず彼女は小学生の勉強から始めなければならないのであった。

それでもギリギリ赤点は避けることはできていたのだが、今回は何やら赤点を取ると大変なことが起こるとのこと。

その大変なことを避ける為に、彼女は今猛勉強しているのであった。

 

「……かといって、別荘に籠るほどか?」

「バカレンジャーと呼ばれるのだけは避けたいわ」

 

エヴァンジェリンはのんきに緑茶を飲みながら猛勉強してるスピカを見ている。

スピカとエヴァンジェリンには勉強をしている時間に差があるのだ。

勝ち目はない。

 

「ほら、そこ間違ってるぞ」

「うぐっ……」

 

指摘されて思わず呻く。

こんな姿、アーラシュに見せるわけにはいかない。

何となくそういう風に思っているわけだが、どういうわけなのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 



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拾われっ子の友達事情

Q.どうしてこれが本編じゃないの?
A.だってステラまで時間かかるし



3年生になった。

特に問題なく期末試験を終わらせることができた。

それもこれもいいんちょの合同勉強合宿のおかげである。

自力の勉強だけではまったく役立たずだっただろう。

 

「おい、私はどうした」

 

スルーである。

結局間違いを指摘するくらいだったじゃないか。

あまり口を挟まなかったようである。

 

ともかく。

スピカは3年生になり、ネギ先生は無事先生として勤務を継続することができた。

嬉しいとは言い切れないところがスピカの悪いところだろうか。

はやく(魔法制御)改めないと死んじゃうよネギ先生、である。

 

 

 

ところで。

最近桜通りに吸血鬼が現れるというもっぱらの噂。

スピカがすーっとエヴァンジェリンを見るとふいっと目を背けた。

何か知ってるっぽい。

そして教えてくれないっぽい。

 

スピカはエヴァンジェリンへの追及を諦め、その従者の茶々丸へと狙いを定めた。

ねえ何か言って?

いいえ何も言えません。

どうやらこちらも門前払い。

ふくれっ面でスピカは座席に座り込んだ。

 

 

 

となったのもつかの間。

その夜にエヴァンジェリンとネギ先生が戦ってるじゃないかと。

びっくり仰天である。

 

特に理由もなくそんなことするとは思えない。

スピカはそう確信し、その戦闘を追いかける。

 

すると隣に並走する影が1つ。

どうやら神楽坂明日菜その人である模様。

そそくさと隠れようとしたものの、その前に気付かれた。

 

「ちょっとあんたスピカでしょ! 何?! アレどうなってるのよ!?」

「知らないわ。だから私も追いかけてるところ」

 

わたわたと叫びながら全力疾走の明日菜。

ちょっと魔力で下駄履いてるはずなのに並走されてることに少し凹むスピカ。

 

 

 

暫く走ってようやくエヴァンジェリンとネギ先生に追いついた2人。

するとちょうど、エヴァンジェリンがネギ先生の首筋に歯を突き立ててるところだった。

 

「ちょっとあんたたちー! うちの居候に何してんのよー!」

 

建物の屋根まで跳躍し、そのままエヴァンジェリンと茶々丸にハイキックをかます明日菜。

どうあがいても勝てないわあれ。

スピカは明日菜に体力面で勝つことを諦めた。

 

というかお得意の魔法障壁はどうしたのよ。

直撃喰らうなんてエヴァンジェリンらしくない。

何だかんだ信頼している模様。

 

 

 

ふらふらと撤退していくエヴァンジェリンを見つつ、ネギ先生の動向をうかがう。

すると子供のように、いや実際子供なのだが、泣き出してしまった。

こりゃ話は聞けそうにない、とスピカも撤退することにした。

明日エヴァンジェリンに直接聞いてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「内緒だ」

 

聞いてみた結果がこれである。

いじわるそうな笑みを浮かべながらの一言。

これは拷問の時間ですね間違いない。

 

「だから目潰しはやめろ! なんでいつもいつも目潰しなんだ!?」

「?」

「心底不思議そうな顔はやめろ!」

 

心外である。

例え痛みに慣れていてもダメージが入るというからやっているだけだというのに。

机の角に小指をぶつけるのと同レベル扱い。

頭のネジがどこか外れているのではあるまいか。

なおアーラシュ相手には目潰ししない模様。

 

「教える、教えるからその手をしまえ! 効かなくても怖いものは怖いわ!」

「最初からそう言えばいいのよ」

 

ガツガツ障壁にぶつける手を止め、スピカは話を聞く態勢になった。

ちょっと指が痛い。

貸してみろすぐ治す。

ん、ありがと。

仲良しか。

 

 

 

ともかく。

スピカはエヴァンジェリンの思惑を知ることとなった。

なるほど腕試しか。

それも実践的なそれ。

 

「ところで学園長に許可とか取ってるの?」

「は?」

「え?」

 

ふと思いついたことをスピカが聞くと予想外な返事。

というか許可なしで大立ち回りとか何やってるんだろうこの吸血鬼。

 

「まあ事後承諾という奴だな。多分大丈夫だろう」

「本当かなぁ?」

 

軽い感じのエヴァンジェリンに不安げなスピカ。

どうなることかと考えながら、スピカはエヴァンジェリンへの対応を待つことにした。

 

 

 

駄目だったらしい。

しっかり怒られた模様。

 

とはいえネギ先生に実戦経験を積ませるチャンス。

いい感じに手加減することを条件にOKとなった。

 

「本当は登校地獄を解けるくらい血を吸う予定だったんだがなー」

「それってネギ先生死なない?」

「……多分?」

「どっちよ」

 

死なない程度にー。

本当かしらー。

云々言いながら別荘へ。

今日も今日とて特訓である。

 

 

 

「……なあ本当に気の方に手を出した方がいいと思うぞ? 才能のなさが悲しい」

「どういう意味よ」

「そういう意味だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで。

スピカには友達と言えるような間柄の人間がいない。

古菲は多少喋る機会がある程度。

明日菜とはこの間の事件の時にほとんど初めて喋ったほどだ。

 

とはいえ決して馴染んでいないわけではなく。

話しかけられれば応えるし、一緒に遊びに出たりする。

その機会はほぼないが。

 

やはりエヴァンジェリンとの関係が問題なのだろうか、とスピカ。

あまり友達が欲しいわけではないのだが、喋る相手がいないのは体裁が悪いのではないかと考えたのである。

一応茶々丸とも喋る、喋るのだがほとんど事務的な会話しかしない。

茶々丸関係で葉加瀬とも喋るが、これまた関係性は薄い。

 

 

 

どうするべきかと考えていると、タカミチから連絡が入る。

数日中にアーラシュが帰ってくるという連絡だった。

 

さっきまでの思考を追いやり、今回の襲撃作戦を練る。

今度こそアーラシュの膝をつかせるのである。

 

 

 

……友達を作るのはもっと先になりそうだ。

 

 

 

 

 




最近どうにか執筆の勘が取り戻せてきたような気がします


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拾われっ子の友達事情2

ちょっとダークなところもありますが、話の本筋とは関係ないので短くカットしてあります


 

 

「あれは負けたわけじゃないからな」

「はいはい」

 

満月の夜、エヴァンジェリンとネギ先生の対決はネギ先生の方に軍配が挙がった。

決め手がネギ先生の魔力暴発だったところは締まらないけれど勝利は勝利。

しばらくはスピカにイジられることになるだろう。

 

 

 

ところで、少し経つと修学旅行だとか。

スピカはあまりにも楽しみで修行に身が入らない体たらく。

だって私麻帆良以外に街を知らないもの。

エヴァンジェリンの目が少し優しくなった気がしたスピカであった。

 

「一応聞くが、どういう意味だ?」

「アーラシュに拾われるまで、外に出たことがなかったもの」

 

いつもいつも暗い部屋。

誰もが私を実験動物として扱う部屋。

肉を割かれ骨を砕かれ脳を弄り回される。

 

助けて――――

 

「ストップ」

「あ……?」

 

スピカが気付いた時にはエヴァンジェリンが馬乗りになってきていた。

何、そういう趣味?

違う、そうじゃない。

知ってる、私のせいよね。

気付いてるくせに変なことを聞く。

 

「ごめんなさい、変なこと思い出したわ」

「いや、謝るのはこっちだ。そこまで重い事情だったとは」

 

沈痛な面持ちで謝るエヴァンジェリン。

どうやら記憶の一部が溢れたようだ。

それを感じ取ったエヴァンジェリンが謝ったのである。

 

そのことに関して。スピカは別に気にしていなかった。

もう終わったことで、アーラシュによって終わりをもたらされたものである。

というか盗み見ですか恥ずかしい。

仕方ないだろう見えてしまったんだから。

仲良しか。

 

 

 

「とにかく、昔の話はなし! 未来の話をしましょ」

「そうだな。京都観光について話そう」

 

スピカに異論はなかった。

 

「そういえば、班は決まっているの?」

「一応な。桜咲刹那が班長で、ザジが班員だ」

「ふーん」

「勿論茶々丸も一緒だ」

 

あまり交流がない相手である。

若干不安だが、何とかなるだろうとスピカは楽観視。

きっとエヴァンジェリンが一緒だからだろう。

 

 

 

とはいえ、全く交流のないまま班行動を共にするのは少し厳しいかもしれない。

と無駄に真面目に考えたスピカはまずは桜咲刹那と接触することにした。

もはやクラスメイトに接する態度ではないのだが、そのことを気にできるほど余裕がなかったりする。

 

「というわけで、スピカだ。仲良くするように」

「え、いやその。エヴァンジェリンさん?」

「よろしくお願いします」

「待ってください、話が飲み込めないんですが……」

 

スピカはエヴァンジェリンに仲介にして桜咲刹那と接触した。

ザジ関しては後でどうにでもなるというのがエヴァンジェリンの談。

その前に頭の固い桜咲刹那をどうにかしようというのもエヴァンジェリンの談。

言いたい放題である。

 

「そ、その……なんですかこの状況」

「面談ですわ桜咲さん」

「そうだぞ面談だぞ桜咲刹那」

「面談って……」

 

訳が分からないとでも言いたげな桜咲刹那。

しかしそんな彼女を放置して2人はどんどん話を進める。

 

「ご趣味は?」

「え、剣の修行ですかね……?」

「2人とも固いぞ」

「エヴァンジェリンさんは何目線なんですか!?」

 

もはやお見合い目線である。

 

ニヤニヤと笑いながら2人の会話を聞いているエヴァンジェリン。

楽しそうだなーと思いつつも真面目に会話を続けようとするスピカ。

そもそもどういう状況か把握できていない桜咲刹那。

どうしてこうなったのか。

 

 

 

「とにかく! 説明してください!」

「仕方ないな」

「なんで若干嫌そうなんですか……」

 

桜咲刹那がしびれを切らしたのを見計らって、エヴァンジェリンが説明を始める。

これは修学旅行前の交流会なのである。

だから仲良くするように。

簡潔に略すとこうなる。

なおその間もスピカの質問は続いた模様。

 

「つまり。友達になりましょう的なサムシングよ」

「そのさむしんぐ? というのはわかりませんが……」

「まあ思ったより相性良さそうだし、大丈夫だな」

「エヴァンジェリンさんはさっきから何目線なんですか!?」

 

今は多分親目線。

しばらくこのコントめいたやり取りが続いた。

 

アーラシュがスピカを迎えに来たところで会談は終了。

満足そうな顔のスピカとエヴァンジェリンに対して桜咲刹那は疲れた表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザジとの会談は翌日だった。

スピカが緊張した面持ちで呼び出された広場に向かうと、そこでジャグリングをしているザジを見つけた。

ちなみにエヴァンジェリンは急用ができたとかで席を外している。

 

「……」

 

ひょいひょいとボールが宙を舞い、円を描く。

片手で、両手で、足を使ったり首の裏に乗せたり。

色んな手法でジャグリングを見せてくる。

 

「はぁ……!」

 

スピカは初めて見た大道芸に興奮気味である。

アーラシュの弓矢連射も中々に大道芸だが、そのことは頭から抜けていた。

 

 

 

「わぁ……!」

 

ひょいと一礼するザジ。

それに合わせて拍手をするスピカ。

会話などなくても仲良くなった模様。

 

「ふむ、これで大丈夫だろう」

 

一緒にジャグリングをしようと奮闘しているスピカを見ながら、エヴァンジェリンはその場を離れる。

急用ができたというのは嘘であった。

ザジならばきっと大丈夫だろうと踏んでの作戦だったが、どうやら上手く行ったようである。

 

 

 

「さて、修学旅行の準備でもするか。茶々丸」

「はい、ここに」

 

エヴァンジェリンは笑顔を浮かべながら、茶々丸を伴い麻帆良学園の外れへと消えていった。

 

 




あしたのイベントが楽しみです


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拾われっ子の旅行事情

イベントにかまけて投稿をおろそかにしていました


 

朝。

いつもより早く起きたスピカは荷物の確認をする。

確認の回数は既に3回。

楽しみにし過ぎである。

 

それに聞いた話ではアーラシュが同行するというのだ。

より一層気合が入るというものだ。

何に気合いが入るのか、当人は把握していないのだが。

 

とにかく、スピカは荷物を持って部屋を出た。

まだ薄暗い早朝。

たっぷりと余裕をもって、スピカは駅へと向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新幹線車内。

スピカが高速で動く景色に興奮していると、突如周囲で悲鳴が上がった。

何やら大量の蛙が現れて、みんなが怯えてるらしい。

 

「蛙……」

「これだけ多いと壮観だな」

 

エヴァンジェリンもいくらか辟易しているようだ。

しかしスピカはあまり気にしていない様子。

そもそも見かけたこと自体がないので、忌避感がないのである。

 

「食べたら美味しいのかしら……?」

「やめとけ」

 

スピカが蛙を掴み上げたところで、エヴァンジェリンがその手を叩き落とす。

食用じゃないからやめとけ。

食用とかあるんだ。

問題はそこではないのだが。

 

 

 

しばらく経つと、ふわっと蛙が消えてしまった。

残ったのは紙くずのみ。

スピカはくしゃりと握りつぶしてどかっと座席に座りなおした。

 

「だから言っただろ」

「そもそも蛙じゃなかったじゃない」

 

一理ある。

一理しかないが。

 

不貞腐れたスピカがふと目線をずらすと、桜咲刹那が歩いてきた。

どうやらいつの間にか移動していたようである。

注意力散漫にもほどがある。

 

「トイレ?」

「そういうことは聞かないでください!」

 

今日も桜咲刹那の突っ込みが冴え渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日はスピカの苦手な団体行動である。

エヴァンジェリンも苦手と言えば苦手なのだが、合わせるだけならどうとでもなる。

 

近衛木乃香をチラ見する桜咲刹那を横に、スピカはネギ先生の様子を見る。

アーラシュは別のクラスを巡回中だ。

ようするに暇なのである。

 

「あの……なんで見てるんですか……?」

「逆に聞くけど、どうしてだと思う?」

「暇なんだ。察してやれ」

 

失敬な。

私はただ単に面白そうなことをしている桜咲刹那の様子を見ているだけなのである。

つまりスピカは暇なのだ。

 

 

 

「落とし穴ですか……」

 

恋占いの石の間に掘られた穴。

そこにハマった人たちを助けているネギ先生を少し不安そうな目で見ている桜咲刹那。

 

「また蛙……」

「懲りないというかなんというか」

 

スピカは落とし穴の中にいる蛙に目を囚われている。

どうやら蛙が気に入った模様。

エヴァンジェリンはあきれ顔だ。

 

「次行くぞ次」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酒臭いな」

「お酒……」

 

音羽の滝に着いた直後からエヴァンジェリンが呟く。

何やら縁結びの滝にお酒が混ぜられている模様。

 

「飲みたいわ」

「やめとけ。まだ早い」

「そういう問題では……」

 

興味を持ったスピカと、それをたしなめるエヴァンジェリン。

そしてその状況にツッコミを入れざるを得ない桜咲刹那。

なまじ真面目なためか割を食っている感ある。

 

「ん、中々いい酒を使ってるな。ガキにはもったいない」

「ずるい!」

「ははは、年長者の特権という奴だ」

 

みんなが酔いつぶれている間に、エヴァンジェリンが酒入りの滝を飲みだした。

まさかのガチ飲みである。

その様子をスピカが恨めしそうな顔で見ている。

 

そして桜咲刹那はがっくりと項垂れた様子。

ツッコミを諦めたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法の厄介事ねぇー」

「はい……」

 

廊下で話し込んでいる神楽坂明日菜とネギ先生。

そこにスピカとエヴァンジェリンが通りかかる。

 

「あ、エヴァンジェリンだったらどうにかなるんじゃないの?!」

「あん?」

 

神楽坂明日菜がズビシッ! っとエヴァンジェリンを指さす。

スピカが一瞬ムカッとした表情を浮かべるが、当人は気付かない。

エヴァンジェリンは少し考える様子を見せ、すぐに返事をする。

 

「無理だな」

「ええ?! どうして?!」

「登校地獄の影響でな。未だに魔力を大量に使った魔法は使えん」

 

自衛ならともかくな、と言いながらエヴァンジェリンは廊下を歩いて行く。

スピカは置いて行かれないように小走りで進む。

 

 

 

「ところで、本当に魔法が使えないの?」

 

スピカは疑問に思い、エヴァンジェリンに聞く。

抜け道があるんじゃないかと疑っているのである。

しかしエヴァンジェリンは意地悪そうな顔でスピカに応える。

 

「使えるが、闇の吹雪一発が精々だ。小手先の技ならいくらか……っといったところか」

「ふぅん……」

 

そのいくらかの手段が気になるのだが、あえて口には出さないスピカ。

言わないということは言いたくないということなのだろうと思ったからだ。

なおふくれっ面までは隠せない模様。

 

「ふふっ。後で色々教えてやるから待ってろ」

「むぅ」

 

何やらあしらわれている気がする。

スピカは色々と考えるが、すぐに考えは霧散した。

別に考える必要がないとおもったからだ。

 

 

 

その日は真夜中まで一緒に話すことになった。

エヴァンジェリンの小手先の技や、スピカの軽い昔話。

テンションが上がっていたせいか、スピカは起こっていた問題に気づくことはなかった。

 

 

 

 



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拾われっ子の旅行事情2

大変お待たせしました。
スランプというかイベントが立て込んでいたというか。


 

 

 

「ふむ、桜咲刹那。5班と合流してこい」

 

朝の話。

桜咲刹那から昨夜の話を聞いたエヴァンジェリンがそう切り出した。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

納得いかないのが桜咲刹那。

ネギ先生がいれば少し頼りないとはいえ護衛としては十分。

更に神楽坂明日菜がいれば安心度は上がる。

一緒に行動する必要があるとは思えなかったのである。

 

「だが不安だろう?」

「うっ」

「だんだん不安になってきただろう?」

「こ……このちゃん……」

 

エヴァンジェリンがとった手段は催眠術だった。

ふらふらとしたまま部屋を出て行った桜咲刹那。

なんやかんやで一緒に行動することになるだろう。

 

「いいの?」

「いいんだ。少しは苦労した方がいいだろう」

 

ふーん、と興味なさそうに寝っ転がるスピカ。

あんまり関係ないと思っている様子。

 

エヴァンジェリンはそんなスピカを微笑みながら叩き起こす。

二度寝は許さないらしい。

 

 

 

特に問題もなく朝食は過ぎていく。

彼女たちにとって、桜咲刹那が近衛木乃香に追いかけられているのもイベントの1つのようだ。

 

5班に桜咲刹那がついていくことは、既にエヴァンジェリンがネギ先生に伝えてある。

護衛として必要だとか何とか。

こちらは催眠術の出番すらなかった。

どうやら近衛木乃香が押し切った模様。

 

そしてネギ先生争奪戦を5班が制したところで朝食タイム終了。

スピカはあまり食欲がなかったが、エヴァンジェリンに励まされて頑張った。

苦手なピーマンも残さず食べた。

 

 

 

「お」

「あ……」

 

スピカが少しぶらつくと暇そうなアーラシュが空を見上げていた。

想定外の遭遇に、スピカは襲い掛かることも忘れて呆然としてしまった。

 

「お、アーラシュか。ちょうどいい、一緒に回るぞ」

「いいぞ」

「え、え?」

 

スピカが突っ込む暇もなく、エヴァンジェリンがアーラシュを誘う。

そして突っ込む暇なくアーラシュが了承し、同行が決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、結局どういうことなの?」

「昨日の話か?」

「そう」

 

道中、スピカたちは昨日起こった出来事について話し合っていた。

 

近衛木乃香が攫われたこと。

それをネギ先生達が追いかけていったこと。

その先で戦い、最終的にアーラシュが矢で追い払ったこと。

 

「え、本当なの?」

「一応な。手助けはいらなかったかもしれないが」

 

弓矢一発放ったはいいが、役に立てたかどうかわからないとのこと。

スピカもそれだけで役に立ったと言われても困る感じがすると思った。

 

 

 

「ところで友達はできたのか?」

「は?」

 

しばらく観光していると、アーラシュがスピカに話しかけてきた。

どうやら学校での様子が気になるらしい。

 

スピカはエヴァンジェリンを見て、ザジを見て、アーラシュを見た。

それだけでアーラシュは察したらしい。

いい笑顔でスピカの頭を撫でた。

スピカはなんとなく不機嫌そうな、それでいて満足そうな顔をしてそれを甘んじて受けている。

 

 

 

 

 

夜。

しっかりと観光を楽しんだスピカは満足げな表情を浮かべながら布団に飛び込む。

足をバタバタさせながら寝転がる。

エヴァンジェリンはその様子をため息つきながらも笑って見ていた。

 

 

 

ちなみにイベントはスルー。

というよりエヴァンジェリンが参加させなかったという方が正しい。

お姉ちゃんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜の話。

ふと目を覚ましたスピカはエヴァンジェリンがいないことに気付く。

ふらふらと起き上がり、のろのろと外へと向かう。

探しに行くつもりらしい。

 

「……ん?」

 

小さな声。

聞こえた方向へと向かうとどうやらアーラシュとエヴァンジェリンが喋っている模様。

なにそれ仲間外れ?

頬を膨らませながらスピカは声の聞こえる方向へと小走りになる。

 

 

 

 

「俺は多分もうすぐ死ぬ」

 

 

 

 

そして、その言葉で足が止まった。

 

 

 



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拾われっ子の旅行事情3

イベント中ですが、休みを手に入れたので書けました。
この調子で終わりまで進めたいところです。


「俺は多分もうすぐ死ぬ」

「え……?」

 

スピカにとってそれは理解不能、意味不明の一言だった。

困惑が先行し、駆け足は自然と止まった。

 

「どういう意味だ?」

「視えたからな」

「お得意の千里眼か」

 

ふるふると体が震えるのがわかった。

どうして震えているのか、全く分からなかった。

 

アーラシュを失うことを恐れているのか。

その事実をあっさりと話すアーラシュを恐れているのか。

 

「……」

 

わからない。

スピカはわからなくなってしまった。

 

ズキンと胸のあたりが痛む。

これはどうしたことか。

別にアーラシュがどうなろうと、自分には関係ないことなのに。

 

「所謂自爆技って奴だ。それを使うことになる」

「使わないという選択肢はないのか」

「ない」

 

断言である。

どうしてそこまで頑ななのか。

スピカは途端に苛立ち始めた。

 

死ぬことが分かっていて何もしないなんて。

死にたくないなんて当たり前のはずなのに。

どうしてそんなに軽いのだろうか。

 

ズキンと胸のあたりが痛む。

これ以上この場にいたくないくらい痛い。

 

そんな痛みに耐えきれなくなり、スピカはその場から駆け出した。

 

 

 

駆け出した先にはザジ。

スピカは戸惑うことなくザジに抱き着いた。

ザジはそんなスピカをしっかりと受け止め、トントンと背中を叩いてあげた。

 

その横では開いた両手を所在なさげにひらひらしている茶々丸がいた。

どうやら抱き着いてくるのだと思ったらしい。

仕方なく腕を降ろした茶々丸はどことなく寂しそうだった。

 

 

 

 

 

朝の話。

スピカはエヴァンジェリンに起こされ、もっさりと起きた。

実際のところ、ほとんど眠れなかったのだが。

そのことを悟られないように、スピカはゆっくりと着替えを始めた。

 

 

 

(やはり昨日の話を聞いたんだな)

 

当然、エヴァンジェリンにはお見通しだった。

無気力なスピカの着替えを手伝いながら、エヴァンジェリンは思案する。

どうやって話を誤魔化すかではなく、どう焚きつけるかである。

 

別にアーラシュがどうなろうが知ったことではないが、スピカがどうにかなるのは駄目だと思ったからだ。

誰かとの距離感を測りかねている少女一人残していなくなるとはけしからん。

かつての自分を重ねていることを自覚しながらも、エヴァンジェリンは考える。

 

「黙って見ているつもりか?」

「え……?」

「あの馬鹿が勝手に死んでいなくなるのを黙って待つのか?」

 

考えた結果直球だった。

何故自分がこんなに悩まなければならないのか。

そんな思いも混じった台詞である。

 

「……ゃだ」

 

くしゃりと顔を歪め、スピカは呟いた。

その小さな声に頷き、エヴァンジェリンは背中をトントン叩く。

 

こんな子を泣かすとは男の風上にも置けぬ。

エヴァンジェリンは激怒した。

かの邪智暴虐の馬鹿を殴らねばならぬと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

朝食後の話。

のんきに歩いているアーラシュを見つけたスピカは、物陰からこっそりと見ていた。

エヴァンジェリンは呆れ果てた。

 

「呆れた。放って置けん」

 

仕方なく、エヴァンジェリンはスピカを引っ張りアーラシュと合流した。

慌てた様子のスピカといつもの調子のザジ、茶々丸を引き連れて。

 

「お、暇か」

「暇だ。どこでもいいから連れてけ」

「わかったわかった」

 

アーラシュはふんわりとした笑顔を浮かべて6班を引き連れていく。

移動費その他諸々はアーラシュの財布から出る模様。

 

 

 

「美味しい……」

「中々だな。流石に本場は違う」

 

生八ッ橋に舌鼓をうちつつ観光を続ける6班。

中々に観光を楽しんでいる様子。

スピカに至ってはさっきまでの不安感すら忘れて楽しんでいる模様。

 

 

 

しかし、ふとスピカは思い出す。

アーラシュが死ぬと言ったことを。

急に不安に襲われるが、エヴァンジェリンが近くにいたから少し不安が和らいだ。

 

唐突に思い出したが、何故いきなりそんなことを思ったのか。

スピカが不審に思ったところで、アーラシュの雰囲気が変わった。

いつものアホみたいな雰囲気から、初めて出会った時の張り詰めた感じに。

 

「誰だ」

 

気付けばアーラシュの手には弓矢が握られていた。

狙いは近くの草むら。

ギリギリと弓を引き絞り、既に発射できる体勢だった。

 

 

 

「弓のアーラシュ……ここで死んでもらう」

 

 

 

不意に声。

それが聞こえたと同時にアーラシュは矢を放った。

 

風切り音と共に何かが砕ける音が響き、同時に草むらから人影が飛び出す。

アーラシュは人影が飛び込んでくるのと同時に駆け出し、更に距離を詰める。

その行動に不意を打たれたのか、人影が戸惑ったように動きを止める。

 

その瞬間矢が放たれる。

一息で放たれたそれは眉間心臓股間を狙ったもの。

それを人影は回避しつつアーラシュの首を刎ねるべく魔法の刃を展開した。

 

「甘いわっ!」

「っ!」

 

そこでエヴァンジェリンが動く。

糸を使い人影の間接を締め上げ動きを封じる。

そして動けなくなったところをアーラシュが射抜いた。

 

「ふ、ん。仕留めきれないか」

 

人影は眉間を貫かれながらも喋り、パシャリと音を立てて消えた。

エヴァンジェリンから聞いた水の分身術だろうか。

スピカは自分がザジと一緒に茶々丸に抱えられてるのに今更気付いた。

 

「逃げられたか」

「中々の腕だったが、心当たりは?」

「腐るほど」

 

エヴァンジェリンの問いに答えながら、アーラシュは弓矢を消す。

いつもどうやってるのか分からないが、誰も教えてくれないのでスルーする。

魔法でどうにかできるのだろうと当たりをつけているスピカであるが、微妙ハズレである。

 

 

 

安全を確認できたのか、アーラシュの雰囲気がいつものアホみたいな感じに戻った。

エヴァンジェリンの様子もピリピリした雰囲気が消えた。

いつものみんなだ。

スピカは安堵した。

 

 

 

「さて」

 

スピカはアーラシュの声を聞き、茶々丸に抱えられたまま振り向く。

いつまで抱えられているのか。

どうやら目的地が決まったらしい。

 

 

 

「関西呪術協会の総本山とやらに駆け込むぞ」

 

 

その顔はどこか力強く安心するような感じだった。

しかしその声に、スピカは言いようのない不安を感じていた。

 



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拾われっ子死線をくぐる

夕映ちゃんにトラウマ埋め込もうか考えてる間に遅れました


「……驚いたわ」

 

スピカは自身の歓迎具合と木乃香の家の立派さに驚愕していた。

特に交遊もない自分に対して割と甘めな対応に面を喰らっているのである。

 

「気にするな。クラスメイトが来たんだ。歓迎くらいする」

「そうなの?」

「そうなんだ」

 

エヴァンジェリンが日本酒を飲みながらスピカに説明する。

アーラシュは笑顔を浮かべたまま無言。

茶々丸もザジもあまり喋るタイプではないため、スピカの周りは少し静かだった。

 

 

 

「……?」

 

ふと気づくとアーラシュがいない。

スピカはキョロキョロと辺りを見渡し、木乃香の父親とネギ先生と一緒にいるのを見つけた。

 

そろりと近づき、何を話しているのか盗み聞きする。

決してネギ先生と喋りたくないとか知らない人と会話できないとかではない。

ないったらないのである。

 

「アーラシュ先生って凄い人なんですね!」

「そうでもないぞ。視えればどこにいても矢が当たるだけで」

「アーラシュ先生ってヤバい人なんですね!」

 

ネギ先生の台詞がアーラシュのヤバさを物語る。

というか若干引いてる。

スピカも結構引いてた。

 

「千里眼というものなんですね」

「ああ、おかげで便利に過ごしてる」

「ははは、きっと他の人が聞いたら卒倒しますね」

 

笑いながらも汗をかく木乃香の父親。

スピカも内心、ヤバいなこいつ……と思い始めたところである。

アーラシュメンタル化物ですねこれは。

 

 

 

というよりもだ。

スピカはもっと気になることがあるのだ。

そう、自爆技という奴のことである。

 

何やら大事になっているし、何か起きそうな予感。

そこで何らかの情報をポロっと漏らしてくれるんじゃないかと期待していたのである。

結果はこのありさまだが。

 

「むう」

 

待ったものの、結局自爆技の詳細は聞けずじまい。

お風呂へ向かうというので撤退。

流石に覗きは趣味じゃないのである。

 

「収穫なしか?」

 

エヴァンジェリンが意地悪そうな顔で酒を一口。

なんだかむかついたのでエヴァンジェリンに飛びつこうとする。

しかしするりと回避される。

べたりと潰れたところをザジに撫でられた。

 

「むぅ……」

 

納得できない。

スピカはふくれっ面を晒しながら撫でられ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

夜の話。

うつらうつらし始めたスピカをエヴァンジェリンが起こす。

 

「ん……何?」

「逃げるぞ」

「え?」

 

既に茶々丸に抱えられてるザジとスピカ。

最近こればっかりじゃない?

内心呟きながらスピカは障子を突き破って外へと飛び出した。

 

「何が起きたのよ」

「侵入者だとさ」

 

ドカンバコンと轟音を鳴らす総本山から逃げ出す4人。

あ、あの矢はアーラシュの矢ね。

閃光のように突き抜けていく矢を見ながらスピカが呟く。

どうやらアーラシュが無事で安心したようである。

 

 

 

バーニア吹かせて空を飛ぶ茶々丸。

その両腕にはスピカとザジ、背中にエヴァンジェリン。

 

「落ちます」

 

当然のように重量オーバー。

近くの茂みへと飛び込んだ。

 

 

 

「……痛い」

 

頭を強く打ったスピカは額をさすりながら立ち上がる。

気付けばエヴァンジェリン達とははぐれてしまっていた。

 

 

 

「あっ……」

「あれ?」

 

すると草むらから少女が飛び出してきた。

むむむ、中々の美少女……と考えたところで、その少女に見覚えがあることに気付いた。

確か夕映。

名字は覚えてないスピカであった。

 

ともかく、スピカは夕映を見て、即座に後ろから追いかけてくる何かに気付いた。

それは人間ではなく、スピカの見たことのない何かだった。

つの、赤い肌、眼。

一般的に鬼と言われる何かだった。

 

 

 

スピカはそれが敵だと思い、即座に行動に移した。

夕映を自分の後ろに追いやり、手をかざす。

エヴァンジェリンからもらった魔法発動媒体の指輪が光る。

 

「喰らえ……!」

 

魔法の矢を放つ。

数は101。

エヴァンジェリンにも隠している全力である。

 

「うおっ!?」

 

放たれた閃光は鬼の身体へと殺到する。

威力は十分。

閃光は鬼の身体を貫き、その体を霧散させた。

 

「すごい……!」

 

夕映の目が輝く。

満更でもないスピカ。

褒められ慣れていないので新鮮な気持ちである。

 

 

 

鬼の追撃はなし。

スピカは夕映の手を握って走り出した。

 

「ど、どこに行く気ですか!?」

「山を下りるわ」

 

とにかく人目のある場所へ。

魔法使いは人目を嫌う。

エヴァンジェリンが得意気に語っていたのを思い出す。

 

坂を下ってとにかく街へ。

急いで戦域外へと出なければ……と考えたところでスピカは夕映を突き飛ばした。

 

 

 

「やばっ」

「えっ……」

 

ぐしゃりとスピカの左手が拉げる。

振り降ろされた棍棒がスピカの腕を打ち砕いたのだ。

 

 

 

失策だった。

スピカは周囲の警戒を疎かにしたことを後悔した。

姿を見せたのは鼻の長い仮面を被った翼を持つ人型。

俗に言う天狗だが、スピカにその知識はなかった。

 

突然の襲撃で魔力は纏まっていない。

既に天狗は棍棒を振りかぶっている。

夕映は突き飛ばされた状態で動けない。

 

万事休す……!

スピカがそう思って目を瞑る。

 

 

 

しかし、いつまで経っても衝撃は来ない

目を開くと、目の前にはえーと……そう、楓がいた。

未だにクラスメイトの名前が曖昧なスピカ。

 

「大丈夫でござるかリーダー?」

「は……はいです」

 

これならもう平気そう。

スピカは再生しかかっている左手を隠しながら立ち上がった。

 

「そ、そうです! 今腕が!」

 

スピカはその台詞に再生した腕を晒して見せる。

ひらひらと大丈夫だと語り、そのまま歩き出す。

 

「あ……あれ……?」

 

夕映は混乱する。

今まさに腕が拉げ、ちぎれたように見えたのに。

スピカの腕は綺麗で、まるで何事もなかったかのようだった。

 

「私は行くわ」

 

指輪を確認し、空を見渡す。

山の上から平地へと降り注ぐ流星が見える。

アーラシュがいる。

 

 

 

スピカは向かう。

アーラシュがいるであろうその場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

そして、夕映は気付いた。

確かに腕に傷はなかった。

しかし、その服はズタボロではなかっただろうか。

 

つまりあの怪我は真実で、スピカはそれだけの怪我をしても平気な世界にいる。

そしてその世界は一体どこなのか。

夕映は恐ろしくなった。

 

 

 



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拾われっ子攻めに転ず

夕映のことがやたらと引っかかっていたのか一気に筆が進みました。
あとステラも近いので


スピカは今まで下っていた山を登り、アーラシュがいるであろう総本山へと辿り着いた。

未だに平原へと流星が降り注ぐ中、アーラシュは総本山の風呂場だったところに立っていた。

 

「ん……スピカか」

「アーラシュ……」

 

スピカのことを見もせずに矢を放ち続けるアーラシュ。

放たれる矢は無尽蔵に湧いてくる鬼やら何やらを穿ち続けている。

 

スピカは不満だった。

先程攻撃された時、千里眼であれば腕が拉げる前に助けられたはずである。

すぐ治るとか慣れてるとかいうのは関係ない。

後回しにするとか許すまじ。

 

「悪いな。手が回らなくて」

「痛かったわ」

「悪かったって」

 

困ったような笑顔を浮かべ、アーラシュはスピカの頭に手を伸ばす。

それを甘んじて受け止めるスピカ。

まあ許してやるかのポーズ。

ちょろいとか言わない。

 

 

 

「お」

「ん?」

 

暫く矢を放ち続けているとアーラシュがスピカを抱えて跳躍した。

スピカはまたかと思いつつ身を任せていると、今まで立っていた場所に石柱がいくつも直撃した。

 

着地すると、アーラシュはスピカを抱えたまま走り出す。

目標は恐らく先程まで矢を放っていた場所。

抱え方が米俵担ぎなのが若干不満。

 

 

 

ではなく。

今の攻撃はなんだったのかである。

スピカの知っている中で攻撃してきたと思われる相手は一人しかいない。

そう、観光中に襲ってきた人影だ。

 

どうしてそんなことをするのか。

決まっている、悪い奴らだからだ。

スピカの思考は割と極端である。

 

 

 

「ッスピカ!? どうしてここに!?」

「スピカさん!?」

 

開けた場所に出ると、そこで鬼と戦っている明日菜と刹那に声をかけられた。

それはむしろこちらの台詞なんだけど。

スピカがそう口にしようとしたところで森の向こう側から轟音。

 

振り向くと、その方向には巨大な光の柱が立っていた。

そして根元の方からは咆哮。

 

―――――何かが現れようとしていた。

 

 

 

「2人とも、行った方がいいな」

「痛っ」

 

アーラシュが言うとスピカをその場に落とす。

顔面から落ちたスピカはつい呻くが、それをスルーしてアーラシュは弓を構える。

 

即座に矢を連射。

辺りの鬼達を一掃する。

的確に急所を貫いたその攻撃に、見事と零す鬼もいた。

 

 

 

「ここは任せろ」

 

 

 

自信に満ち溢れた声。

それはまさに英雄のそれ。

有無を言わさぬ威圧感に、明日菜と刹那は気圧される。

 

「お、お願いします!」

「頼んだわっ!」

 

少し動けなくなったものの、気を取り直したかのように2人は走り出す。

2人を追う影はない。

アーラシュの矢に射抜かれたからだ。

 

「そこの子は動かないように」

「えーそんな殺生なー」

 

アーラシュが草むらに向けて矢を放つ。

するとそこから少女が顔を出した。

ゴシックロリータの衣装に眼鏡。

可愛らしいという言葉が似合うその姿とは裏腹に、2振りの小刀を持っていた。

 

 

 

「死ぬのは嫌だろ? 引いてくれないか?」

「んー……」

 

ギリギリと弓を引き絞るアーラシュからはいつもと違う雰囲気。

嫌な感じがするが、スピカは我慢してアーラシュの服の端を握った。

 

「ではー給料分働いたということでー」

 

軽く一礼。

少女はすぐにいなくなった。

未だにスピカが練習中の瞬動だろうか。

いつも顔面で滑るように着地するからあんまり好きではないのだが。

 

 

 

アーラシュの雰囲気が元に戻り、スピカは一安心して手を離す。

するとアーラシュは振り返り、手招きをした。

 

「アイヤー。出番なかたアルヨー」

「流石に、働かずに報酬をもらうわけにはいかないな」

 

なんと、背後からは古菲と龍宮が現れた。

全く気配を感じなかったスピカは戦慄した。

いや、スピカに気配察知能力とかないのだけれど。

 

 

 

「いや、まだ仕事をしてもらいたい」

「ん?」

「んぇ?」

 

アーラシュはスピカを持ち上げると、ふわっと龍宮に投げた。

見事にキャッチされたスピカはそのまま綺麗に抱きかかえられた。

しかし米俵担ぎ。

 

「スピカの護衛として、クラスメイトと合流して欲しい」

「ふむ……」

「あんみつ3つ」

「引き受けよう」

 

私の身柄があんみつ3つか。

スピカは戦慄した。

 

とか考えてる間にアーラシュはいなくなっていた。

どうやら瞬動をマスターしていたらしい。

ずるい。

 

 

 

「で、どうする? このまま帰るか?」

「嫌ヨ。暴れ足りないアル」

 

シュッシュッとシャドーボクシングをする古菲。

暴れられると思ってこれでは不完全燃焼だろう。

 

「スピカはどうだ?」

 

龍宮がスピカに聞いてくる。

というか降ろしてくれないのね。

身長が足りないから自力で降りれないスピカ。

 

「別に。クラスメイトと合流するわ」

「ほう」

 

 

スピカはぶっきらぼうにそう言う。

アーラシュめ、見てろ

スピカは燃えていた。

 

 

 

そう。

別に裏切るわけじゃない。

ちょっと勘違いするだけだ。

 

 

 

「明日菜や刹那に合流する」

 

 

 

龍宮がニヤリと笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ステラ記念日

2話一気に更新します(ネタバレ注意)
正直見抜かれないか戦々恐々でした


「まだ残党がいるみたいだな」

 

パンパンとエアガン(自称)を撃ちながら森の中を侵攻する龍宮。

既にスピカは降ろされていて、駆け足で龍宮を追いかけている。

身長差が恨めしい。

 

古菲は龍宮が撃ち漏らした人間大の大きさの鬼などを蹴散らしている。

なんで普通に殴り飛ばせてるんだろう?

スピカは息切れしながら思った。

 

 

 

ともかく。

スピカ達3人は光の柱を目指して前進していた。

 

途中で戦闘があった跡が見つかったが、氷結した地面を見てエヴァンジェリンだろうなと思ったスピカ。

そういえばあれから見てないな……と思ったところでスピカは楓を見つけた。

見たことのない少年を尻に敷いてニンニン言ってた。

 

「何、そういうプレイ?」

「違うでござるよ!」

 

思ったことをつぶやいたところで猛反発。

どうやら特殊性癖ではないらしく安堵。

いや、別に気にしてるわけではないのだけど。

 

「あの……スピカさん……」

「何?」

 

スピカが遊んでいると、木陰にいた夕映が声をかけてきた。

何やら怯えているような、怖がっているような印象。

スピカには心当たりが欠片もなかったが、怯えられてるようで少し傷付いた。

 

「腕は大丈夫なんですか……?」

「……あー」

 

恐る恐るといった様子で聞いてきた夕映に、スピカは漸く思い至った。

そりゃそうだ、いきなり腕がぐしゃってなったら怖いよね。

 

「別に平気よ。慣れてるし」

 

スピカがそう言うと、夕映は更に複雑な表情になる

なにがまずかったのか。

スピカには分からなかった。

 

 

 

直後、轟音。

スピカが柱の方を向くと、巨大な何かが立っていた。

 

「な……なんですかあれ?!」

「知らないけど……ヤバそうなのは分かるわ」

 

それとあそこにアーラシュがいるだろうことも。

ついでに明日菜と刹那もいるだろう。

あそこが目的地だ。

 

「行くわよ」

「ああ、仕事だからな」

 

急がなくちゃならない。

スピカは言いようのない不安に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――陽のいと聖なる主よ」

「あっ……」

 

 

 

広い湖に辿り着いた。

そして、その中にある桟橋に立っていたアーラシュが何かをしていた。

 

何をしているんだろう。

いや、わかる。

これは彼の究極の一撃だ。

 

 

 

「あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ」

 

 

 

 

エヴァンジェリンが倒れている。

明日菜が倒れている。

刹那が倒れている。

ネギ先生が倒れている。

 

誰かが何とかしなきゃいけない。

 

しかし駄目だ。

わかる。

駄目な奴だ。

 

 

 

「我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

 

 

死んじゃう。

アーラシュが死んじゃう。

どうしよう。

どうしよう。

 

 

 

「さあ、月と星を創りしものよ」

 

 

 

止めなくちゃ。

足を動かせ手を振り切れ。

 

 

 

「我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身を見よ」

「やめて……やめてぇっ!」

 

 

 

声が震える。

手が震える。

足が震える。

 

 

 

「この渾身の一射を放ちし後に」

 

 

ああ駄目だ。

止められない。

そんなの嫌だ。

どうして。

 

 

 

「我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!」

 

 

 

アーラシュが輝く。

手を伸ばす。

届かない。

届かない。

……届かない。

 

 

 

「────『流星一条』!!」

 

 

 

瞬間、流星が閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーラシュ!」

 

スピカが叫ぶ。

アーラシュが振り返るが、その身体は既に光となって消えかかっていた。

 

 

 

「あ……ああ……!」

 

 

 

言葉が出ない。

どうしてこんなことをしたのか。

どうしてこんなことになったのか。

聞きたいことがたくさんあるのに、全然言葉がまとまらない。

 

「まーここまで視えてたわけなんだが。どうだ、うまくやっただろ?」

 

 

 

軽く笑いながら、アーラシュは言う。

何がうまくやっただ。

最悪よ。

馬鹿。

 

 

 

確かにさっきまで視えていた光の柱は消えている。

それに敵だと思う相手もいない。

倒れていた人も立ち上がっている。

さっきの光の矢の影響だろうか。

 

 

 

「最初は俺がいなくなったら大変だと思ってたが、友達もできたみたいだし」

 

 

 

確かにできた。

できたけど平気じゃない。

……平気じゃない。

 

 

 

「達者で暮らせ。お金は気にするな。元気でな」

 

 

 

やだ。

やだやだやだ。

どうしてそんなこと言うの。

 

まだ何も返してない。

まだ何も伝えてない。

まだ何も……何もできていないのに。

 

 

 

スピカの思いはアーラシュには届くことなく。

アーラシュは光の塊を残して消滅した。

 

 

 

 




ちなみに装備してた礼装は絆礼装でした


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拾われっ子頑張る

スピカには頑張ってもらいました


「諦めるのはまだ早ぇぜ!」

 

思考に沈んでいたスピカの耳に、聞きなれない声が届く。

声の先には小動物。

何やら騒いでいるようだが、スピカには関係なかった。

 

 

 

「仮契約だ! 魔力の塊になったとはいえアーラシュには違いねぇ!」

「っ! 魔力を注ぎ込んで無理矢理形を取り戻させるというのか?!」

「それしかねえ!」

 

 

 

関係なくなかった。

小動物はすぐに動き出し、魔法陣を作り出す。

これが仮契約の為の魔法陣なのか。

 

 

 

「キスがキーだ! ブチューとやっちまってくれ!」

 

 

 

キス。

そう聞いて一瞬戸惑うが、今のアーラシュは光の塊だ。

迷う必要はなかった。

 

 

 

「仮契約―――――!」

 

 

 

唐突に違和感。

何かが体から離れていくような感覚。

離れていくそれは何となくアーラシュだった光の塊へと向かっているようだった。

 

あ、これは魔力か。

唐突に思い至ったが、すぐに気づくべきだったと思う。

いつも使っているものだから。

それだけ参っているということか。

 

 

 

しかし、足りない。

分かってしまう。

これでは流れていく魔力よりも、拡散する魔力の方が多い。

 

 

 

「……スピカ、瞬間的に魔力を引き上げる方法がある」

 

 

 

すると、エヴァンジェリンが口を開く。

嫌々というか、最終手段というか。

そんな感じの雰囲気を感じた。

 

 

 

「昔蟲使いの小僧に教わった術式だ。名を令呪と言う」

 

 

 

スピカに難しいことは分からなかった。

しかし、それがスピカの為に示された道だということだけは分かった。

スピカはわかったとだけいい、頷く。

 

 

 

「行くぞ……!」

「ぐっ……!?」

 

 

 

激痛が走る。

感じたことのない痛みが、全身に広がっていく。

やけどのような、骨折のような、よく分からない感覚。

なるほど、これは最終手段だ。

 

それと同時に、魔力がその痛みに沿って溜まっていく感覚。

これはエヴァンジェリンの魔力だろうか。

凍てつくような魔力が痛みを少しだけ和らげる。

 

 

 

「僕に手伝うことはありますか!?」

 

 

 

ネギ先生の声がする。

声がするが内容がわからない。

激痛が和らいだとはいえ、辛い。

思考がまとまらないのである。

 

 

 

「魔力の充填を頼む。魔力が足りん」

「はい!」

 

 

 

少しすると、溜まってくる魔力の質が変わるような感じがした。

暖かい、けれど少しピリピリした感覚。

 

暫くして、これがネギ先生の魔力だと分かった。

脱がしやがって畜生。

ノイズが混じった。

 

 

 

少し経つと痛みが引き、注がれた魔力が体に馴染むのが分かった。

これで準備完了ということだろうか。

スピカにはよく分からない。

 

ただ、背中に大きな文様ができたらしい。

ネギ先生が驚いている。

 

 

 

「これで完成だ。スピカ、アーラシュに命令するんだ」

「命令……?」

「そうだ。この令呪は使い魔に膨大な魔力を注ぐ為に使うんだ」

 

 

 

本来とは違う使い方だがな、とエヴァンジェリン。

しかし今は関係ない。

魔力を注ぎ込むということが重要なのかとスピカは納得する。

 

 

 

「死なないで」

 

 

 

令呪が輝く。

 

アーラシュに向かっていく魔力が一気に増える。

これなら何かが起こるかもしれない。

そう確信するだけの勢いだった。

 

 

 

「帰ってきて」

 

 

 

令呪が輝く。

 

体が熱い。

まるで魔力で体を焼かれているようだ。

 

それでも。

それでもスピカは魔力の流れを止めない。

 

 

 

「……傍にいて」

 

 

 

令呪が輝く。

 

瞬間、光の塊から強烈な閃光が起こった。

一瞬だけ目を瞑ってしまうが、目を見開くと目の前にはアーラシュが寝ていた。

令呪は成功したのだ。

 

 

 

なのに、魔力の拡散が止まらない。

体の端から光が漏れている。

 

どうすればいいのか。

スピカにはこれ以上の手段が思いつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、スピカのとなりにそっとザジが寄り添った。

口に人差し指をつけ、その指をスピカの唇へとつける。

 

 

 

「―――告げる」

 

 

 

そして小さく一言。

誰に向かっての言葉かわからない。

 

いや、分かった。

これは呪文だ。

きっと手助けしてくれてるんだ。

 

 

 

「告げる!」

 

 

 

復唱する。

それだけで体中の魔力が削られる。

 

 

 

「汝の身は我の下に」

「汝の身は我の下に!」

 

 

 

魔力を贈る回路が太く、太くなっていく。

今まで送り込まれていた量とは比べ物にならないほど魔力が送られていく。

 

 

 

「我が命運は汝の弓に」

「我が命運は汝の弓に!」

 

 

 

わかる。

これは呪いだ。

 

自分だけじゃない。

相手も縛る禁忌のそれだ。

 

 

 

「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら」

「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら!」

 

 

 

ギリギリと心臓が鳴る。

この心臓が聖杯なのだろうか。

スピカはかろうじて残る意識を手繰り寄せながら叫ぶ。

 

 

 

「「―――我に従え! ならばこの命運、汝が弓に預けよう……!」」

 

 

 

―――――魔力の拡散が止まり、収束していく。

 

 

 

 

スピカはアーラシュの手を握った。

暖かい。

アーラシュの手だった。

 

 

 

そう感じた瞬間、スピカは眠気に襲われた。

その眠気に負け、スピカは急速に眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 



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拾われっ子我侭になる

短めですが、これで一区切りです
これ以降の話は色々終わってからということで(イベント的な意味で)


目が覚めたら知らない天井だった。

 

スピカは飛び起きて辺りを見渡す。

アーラシュを探しているのだ。

最後の記憶ではきっと大丈夫なはず。

みんなの協力のおかげで何とかなった……気がする。

 

見渡せば、すぐ隣にアーラシュ。

傷もなにもなく、普通の状態。

いや、傷がある状態なんて見たことないのだが。

 

 

 

「無断で死ぬなんて許さない」

 

 

 

スピカは呟き、ぎゅっとアーラシュの手を握った。

魔力の流れを感じると同時に、アーラシュとの繋がりを感じられた。

 

「……ふふっ」

 

笑顔が零れる。

なんだか嬉しくなったのである。

 

今まではふらりといなくなってしまいそうな不安があったのに、今はそれがない。

魔法的な繋がりとはいえ、頑強な絆ができたことでそれまでの不安がなくなったのだ。

 

というか逃げたら責任取ってもらうから。

乙女の柔肌傷つけた罪は重いよアーラシュ?

 

 

 

少しすると建物の外から大きな声がする。

それも2つ。

 

声のする方へ向かってふらふらと歩いていくと、刹那とネギ先生が暴れていた。

 

「……何、コント?」

「本人達は真剣だろうがな」

 

スピカは暴れている刹那とネギ先生を見ながら一言。

エヴァンジェリンは軽く笑いながらお茶をすする。

別に関わらなくても大丈夫そうだ。

 

 

 

暫く経つとその2人に突っ込む明日菜と木乃香がいたが、その頃にはスピカはアーラシュの隣へと戻っていた。

 

 

 

「いや、あんたも一旦帰るからね!?」

「えー」

 

 

 

スピカは明日菜に引きずられるような形で、クラスメイト達の泊まるホテルへと連れ去られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の話

満足いかないというエヴァンジェリンに連れられて観光をしていた。

お土産も買い、満足したと言うまで振り回されたスピカであったが、不思議と楽しかった。

 

「……ん、なんだ?」

「なんでもないわ」

 

それもこれも、アーラシュと一緒だからだろうか。

昨日の出来事もあり、いくらか素直になったスピカである。

その証拠に、スピカはアーラシュと手を握って一緒に歩いていた。

 

「むむ、この感じ……かなりのラブ臭を感じるわ」

「何?」

「ぐおおおおおお目があああああ!?」

「ハルナー!?」

 

スピカの扱いに慣れていないハルナが目潰しを喰らう。

眼鏡をかけているのだが、ノリがいいのかダメージを受ける。

いや、かけていたとしても勢いよくぶつければ普通に痛いだろうが。

 

 

 

暫く難しい話が続くと、小さな建物が見えてきた。

長の話では、それはネギ先生の父親の持ち物だという。

 

スピカはあまり関心はなかったが、ネギ先生が目を輝かせているのを見て様子を見ることにした。

スピカは空気を読むことを覚えたのだった。

偉い? とでも言いたげな顔でアーラシュを見るが、軽くスルーされた。

 

「ふっ」

「ん?」

 

スピカは不機嫌そうにそっぽを向くがアーラシュは気付く素振りを見せない。

いや、気付きながらもスルーしている可能性がある。

とスピカは憤り、アーラシュの足を思いっ切りを踏みぬいた。

 

「痛っ」

「ふふん」

 

痛みに反応したアーラシュと、当然とでも言いたげなスピカ。

放置する方が悪いのだ。

スピカはちょっと我侭になった。

 

 

 

写真も撮り、やることもなくなったスピカ達は、新幹線に乗り込んだ。

そしてスピカは更に我侭を言い、アーラシュの隣を陣取った。

エヴァンジェリンが苦笑したような気がしたが、スピカはスルー。

いや、スルーしきれず少しむくれたが。

 

「もう離れちゃ嫌よ」

「わかったよ」

「絶対よ。約束なんだから」

「約束するよ」

 

スピカはアーラシュに約束してもらい、ご機嫌のまま眠りに落ちた。

やはり昨日までの疲れが残っていたのだ。

 

すると、アーラシュはスピカの頭を撫で小さく呟いた。

それは誰にも聞こえないほど小さい声。

しかし、それはスピカの耳にしっかりと残ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束するよ、マスター」

 



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聖杯戦争編
拾われっ子の魔法事情


ルビの練習をしつつ投稿です。
簡潔とか言ってた割にすぐ投稿する駄目作者。


「……ふむ、異常は見当たらないな」

「そう?」

「ああ。むしろ魔力が安定している」

 

スピカはアーラシュと契約した経過を見てもらう為にエヴァンジェリン宅を訪れていた。

経過は良好。

むしろ契約した結果スピカの魔力が安定して、色々な魔法が使えるようになるという話だった。

 

「良かったじゃないか」

「うん」

 

アーラシュの台詞にそっけなく答えたが、内心嬉しかったりするスピカである。

やはり魔法使いらしい魔法にも憧れがあったのだ。

実際使えるようになると言われると何やら不思議な気分だが。

 

 

 

「マスター、ネギ先生です」

「うん?」

 

何の用事だろうかと考えるが、スピカに心当たりはなかった。

エヴァンジェリンと顔を見合わせても同じ様子。

アーラシュだけが分かった風な顔をしているので蹴っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァちゃん……」

「どうした」

「エヴァちゃんって呼んでた……」

 

ネギ先生を弟子を取るという話をした後、スピカがむくれていた。

神楽坂明日奈がエヴァンジェリンのことをエヴァちゃんと呼んでいたのが不服らしい。

そのことに気付いたエヴァンジェリンがふふっと笑う。

 

「好きに呼べばいいじゃないか」

「……いいの?」

「ああ」

 

じゃあ、とスピカは一瞬だけ口ごもり、小さな声で呟いた。

 

「え……エヴァおねぇちゃん」

「ぶふぉっ!?」

 

噴き出すエヴァンジェリン。

笑い出すアーラシュ。

ついでにおろおろする茶々丸。

 

「エヴァでいい。というかエヴァって呼べ!」

「えー……」

「お姉ちゃんは駄目だ!」

「駄目なんだ……」

「……人前では駄目だ!」

 

じゃあここならいいのね! と前向きなスピカ。

女に二言はない、と男らしいエヴァンジェリン……もといエヴァ。

いい雰囲気なので気配を消すアーラシュと茶々丸。

 

 

 

今日も麻帆良学園は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある朝。

茶々丸がネギ先生を追いかけているのを見つけたスピカ。

何やら不穏な気配を感じたので尾行していると大きなドラゴン。

 

ドラゴンですよろしくおねがいします。

ではなく。

 

慌てて茶々丸が助けに入る。

ネギ先生の他に夕映とのどかがいたが、2人が少し離れていたので茶々丸が抱えることができなかった。

それは夕映の方。

 

「こっち!」

「ッスピカさん!?」

 

スピカは夕映に駆け寄り、思い切り引っ張る。

すると今までいた場所をドラゴンが大きな足で踏みつけた。

 

「ク・リトル・リトル・クリトリア」

 

始動キーを唱え、スピカは腕を突き出す。

 

来たれ氷精(ウェニアント・スピーリトゥス)闇の精(・グラキアーレス)闇を従え(・オブスクーランテース)吹雪け(・クム・オブスクランティオーニ)常夜の氷雪(・フレット・テンペスタース・ニウァーリス)!」

 

スピカは練習中の魔法を唱える。

可能性のあると言われた氷雪系の魔法の1つ。

お揃いの魔法なので頑張って覚えたものの1つである。

 

 

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!」

 

瞬間、炸裂。

氷と闇が混じり合ったような色の暴風がドラゴンを襲う。

 

やった、と内心で喜んでる暇もなく、あっさり無効化される闇の吹雪。

がっかりしてる間もなく襲い掛かってくるドラゴンの突進をかわして、夕映を茶々丸に向かって投げる。

 

「行って!」

 

茶々丸は一瞬躊躇したものの、すぐに飛んで戦線を離脱していく。

どうやらドラゴンは追いかけていくことはないようだ。

 

 

 

「ということは私か……」

 

意識を引き締め、ドラゴンと向かい合うスピカ。

 

「遊んでないで帰るぞスピカ」

 

勝てないまでも時間は稼げるだろうという覚悟をして、戦おうとしたところでアーラシュが現れる。

同時に矢が2本ドラゴンの目に刺さる。

いや、ぶつかっただけでダメージはなさそうだ。

 

「あ……」

 

アーラシュはスピカを抱えて即座に跳躍した。

瞬動術であった。

スピカはそれよりも抱え方が御姫様抱っこだったことに気を取られていたが。

 

 

 

図書館島の出口ではネギ先生達が倒れ込んでいた。

どうやら疲労困憊状態のようである。

立っているのは茶々丸だけ。

 

アーラシュはいつの間にか消えていた。

というより跳び過ぎて湖に突っ込んだようである。

スピカだけ綺麗に着地させた模様。

 

 

 

スピカは夕映達に言いたいことがあった。

それは前々から思っていたというか、言う必要があるかなって思っていたことだった。

 

「覚悟も実力もない人が()()()に関わらないで」

「な……っ!」

「どうしてですか!?」

「危ないからよ。あなたたちも、巻き込まれるネギ先生も」

 

そう、危ないのだ。

ネギ先生は実力はあるものの、まだ子供だ。

どうしてもフォローしきれないところが出てくるだろう。

自分も子供なことはスルー。

 

「それは……っ! でも、あなたも同じ年齢です!」

「関わってきた時間が違うのよ」

「それが関係あるですか!」

「あるわ」

 

夕映がやたらと絡んでくる。

スピカがそう思いながら流しているとネギ先生も駆け寄ってくる。

あ、面倒臭い予感。

スピカはそういうことに敏感である。

 

「僕が守りますから大丈夫です!」

「む……」

「大いなる力には大いなる責任が伴う。アーラシュ先生が教えてくれました!」

「むぐ……」

 

アーラシュめ、余計なことを。

スピカは内心で毒づきながらも顔に出さないように心掛けた。

ばっちり漏れていたが。

 

「わかったわ。そこまで言うなら私も言うことありません」

 

ふん、とスピカはその場を去る。

あとは茶々丸やネギ先生がフォローするでしょう。

結構適当である。

 

 

 

「いいのか?」

「別にっ……っていうか何ずぶ濡れになってるの?」

 

アーラシュが現れたが、何故かずぶ濡れ。

実は瞬動術が完璧ではなく、着地というか終わり際が上手くいかないのであった。

移動するだけなら余裕だが、緻密な移動はできないのだ。

 

「友達なんじゃないのか?」

「え?」

「なんだ、心配してるようだからそう思ったんだが」

「違うわよ」

 

ふん、とスピカはどんどん歩いて行ってしまう。

アーラシュは苦笑しながら後を追いかける。

 

 

今日も麻帆良学園は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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綾瀬夕映の聖杯戦争ラグナロク1

番外編の番外編扱いなので、読まなくても何とかなるようにしたいです(願望)


 

「はぁ……」

 

綾瀬夕映は憂鬱だった。

 

今朝はネギ先生が先走り、勝手に1人で出かけようとしたところを先回りして一緒に行動した。

その先でドラゴンに出会い襲われたのだが、その際にスピカに怒られたのだ。

 

「覚悟も実力もない人が()()()に関わらないで」

 

全くの正論であった。

しかし、綾瀬夕映はムキになって反論してしまったのだった。

今思えばどう考えても自分が悪かったと分かるのだが。

 

 

 

「はぁ……」

 

綾瀬夕映は憂鬱だった。

 

 

 

 

夜の話。

 

綾瀬夕映は走っていた。

 

「どうして……こんな……!」

 

走りながらも思考を巡らせる。

そう、どうしてこのようなことになったのか。

 

やはり悲鳴を聞いて裏路地へと向かってしまったからか。

それとも倒れていた被害者らしき人に声をかけてしまったからか。

それとも、それとも、それとも……。

 

 

 

「ああ」

 

 

 

こんなことなら、さっさとスピカに謝ればよかった。

 

 

 

「あっ」

 

足がもつれて倒れ込む。

痛い、擦りむいた。

 

辺りには人影はない。

後ろからは全く正体のわからない黒い何か。

 

 

 

「助けて……!」

 

 

 

 

 

 

 

「―――――僕にお任せ!」

 

 

ふわりと、黒い何かと綾瀬夕映の間に誰かが降り立つ。

 

それは神秘だった。

艶やかな長髪をなびかせ、ふわりとスカートをはためかせる。

ズンと一歩踏み出し、黒い何かに立ち向かう。

 

手には剣。

その剣は七色に輝く炎のような剣だった。

 

 

 

「あっ……っ!」

 

ジリッ……と綾瀬夕映の右手に痛みが走る。

身体から何かが削られるような感覚がしてその場から動けなくなる。

右手を見ると、スピカの背中に描かれていた文様に酷似した何かが浮かんでいた。

 

「これは……?」

「それは令呪。僕達を縛る絶対命令権」

 

ふと口にしたそれに応える誰か。

その誰かは少女のようであり、それでいて少年のようでもあった。

服装は完全に女性のソレだが。

 

その誰かに襲い掛かろうとする黒い何か。

危ないと声をかける暇もなく。

誰かは黒い何かをまるで紙のように引き裂いた。

 

「え……?」

「低級霊レベルの存在の薄さ。分身でもしてるのかな?」

 

誰かは血を払うかのように剣を振り、一瞬で消し去る。

まるで魔法のような様子に、綾瀬夕映は目を丸くする。

 

「あなたは一体……?」

 

その台詞に、誰かはニヤリと笑う。

その台詞を待っていた、言いたくて仕方がなかったといった様子。

 

 

 

「―――――ロキ。僕はロキだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――さて、何から話そうか」

 

パラパラと本をめくりながら、ロキは綾瀬夕映と向かい合う。

題名は『北欧神話大全集』。

 

「一体、何がどうなってるです?」

「そうだね。まずは現状を教えようか」

 

パタリと本を閉じ、新しい本を取り出す。

題名は『聖杯探索』。

パラパラとめくってとあるページを綾瀬夕映に見せた。

 

「聖杯……?」

「そう、聖杯。君はそれを奪い合う争いに巻き込まれた」

 

聖杯戦争だ、とロキは言う。

 

「7騎のサーヴァントと7人のマスターが殺し合うバトルロイヤル。君はそのマスターの1人に選ばれたのさ」

 

おめでとう、とロキは言う。

 

「そんなの……!」

 

ごめんです、という言葉は飲み込んだ。

もはや取り返しのつかないところまできている、ということが分かったからだ。

 

右手の令呪から流れる何かが目の前のロキへとつながっている。

これが魔力というものか。

憧れていた魔法の世界に片足どころか全身どっぷりつかってしまい、戸惑っている。

 

「楽しんだ方が楽だと思うよ。真面目な子は嫌いじゃないけどね」

 

説明が途中だったね。

話を戻そう。

 

「サーヴァントっていうのは簡単に言っちゃうと英霊の劣化版。英霊っていうのは」

「……過去の英雄、ですか」

「うん、大体合ってるね」

 

何となくではあるが、綾瀬夕映はアーラシュを思い浮かべた。

過去の英雄、アーラシュ・カマンガー。

むしろこれだけの要素があって気付けないわけがなかった。

 

「うう……」

「? サーヴァントにはクラスっていうのがあってね」

 

ロキはどこからともなくカードを取り出し、7枚を並べ始めた。

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。

恐らくはサーヴァントの種類だろうと綾瀬夕映は当りを付けた。

 

「その中でも僕はセイバー。剣士として謳われる英雄が収まる最優と言われるクラスさ」

「ロキがセイバー……?」

 

ドヤ顔のロキに剣士としての逸話があっただろうか。

考えを巡らせると、ふと1つの逸話に辿り着く。

そう、冥界の門で作り上げたとされる1振りの剣。

 

 

 

「―――――レーヴァテイン」

「正解。その創造主として僕はセイバーとしての資格を得た」

 

一瞬で剣を取り出すロキ。

七色に輝く炎のようなそれは、不思議な魅力があるように感じられる。

まるで禁忌のそれ。

 

「……っ」

 

意識を保つ。

スピカの傷を思い出し、急速に思考が冷える。

綾瀬夕映はまだ破滅するわけにはいかないのだ。

 

「刺激が強かったね」

 

ぱっと手を開いて剣を消すロキ。

先程までの吸引力は消え、綾瀬夕映は一息吐く。

 

「まあ今のはレヴァンティンの即席品だからランクCくらいかな」

 

綾瀬夕映にはよく分からなかったが、本来のレヴァンティンには遠く及ばないということだけは分かった。

本来の実力を発揮されることのないことを祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、なんで女なんです?」

「こっちの方が親しみやすいかなって思って。君、男嫌いでしょ?」

「まあ確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤訳修正


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拾われっ子の戦争事情

他者視点が多めなので、少しずつ進めていく感じです


「聖杯……戦争?」

「ああ」

 

ある日の夜のこと。

具体的にはネギ先生の訓練初日。

アーラシュがスピカ達に対して言った。

 

「なんだそれは?」

「簡単に言うと俺みたいなのが7人で殺し合いする」

「なんだそれは???」

 

ただし致命的に説明不足。

余りに説明が適当なのでエヴァが「なんだこいつ……」みたいな目でアーラシュを見る。

 

「……で、貴様みたいな奴っていうのは何だ?」

「英霊……過去の英雄って奴だ」

「ふん……アーラシュ・カマンガーと名乗っていたのは伊達ではなかったということか」

 

合点がいった様子のエヴァと、目をキラキラさせるネギ先生。

どうやらネギ先生はアーラシュ・カマンガーを知っているらしい。

スピカは全く知らなかったので、あんまり知名度的に高くないだろうと思ったスピカだった。

別に一緒にいる分には有名だろうが無銘だろうが関係ないとも思っていたわけだが。

 

 

 

「実は聖杯戦争が始まるのが()()()

 

アーラシュが深刻そうに話すので、スピカも耳を傾ける。

そもそも()()()とはなんなのか。

スピカはアーラシュの千里眼のことを知らなかったりする。

 

「この麻帆良学園でか?」

 

エヴァはあり得ないとでも言いたげな表情。

それもそうだ。

こんな学園のど真ん中で戦争を始める馬鹿がどこにいるのか。

 

()()()()()()()()()()()()だな。聖杯も令呪もある。大量の魔力も存在する」

 

ここにな、とスピカの頭に手を載せるアーラシュ。

そういえばザジが聖杯云々言ってた気がする。

ついでに令呪はエヴァがつけてくれた奴だ。

あの状況下で無駄にいい記憶力を発揮するスピカだった。

 

「それで膨大な魔力の方は?」

「ん、あの樹だ」

 

アーラシュが指差したのは麻帆良学園のど真ん中にある世界樹。

その説明を聞いて、なるほどと納得するエヴァ。

 

「聖杯に令呪を直接刻んだ結果、麻帆良中に令呪がばら撒かれた感じだな」

 

細かい原因は分からないが、と一言。

そして、その内1つがネギ先生に現れるということも()()()という。

 

「ぼ、僕にですか!?」

「ああ」

 

間違いないと断言するアーラシュ。

そもそもどうやって知ったのか。

スピカにはにわかに信じがたいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――告げる」

 

神楽坂明日奈の全裸召喚事件でたんこぶを作ったが、ネギ先生はその日の内にサーヴァントの召喚をするつもりらしい。

早く謝った方がいいのに。

スピカはそう思ってるが、口には出さなかった。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

呪文と専用の魔法陣はアーラシュが知っていた。

呼び出された側なのに何故知っているのかと問い詰めたがスルーされた。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

魔力が奔る。

魔法が発動してる証拠だ。

どうやらアーラシュの言うことは真実らしい。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

魔力が収束していく。

呪文が完成に向かってる証拠だ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 

魔力の本流が止み、中からは1人の男が現れた。

跪き、首を垂れる騎士が1人佇んでいた。

 

 

 

「サーヴァントランサー、召喚に従い参上した」

「……っ」

 

 

 

その雰囲気に気圧される。

これが英霊。

これがサーヴァント。

 

 

 

 

「―――――問おう。お前が俺のマスターか」

 

 

 

声が響く。

太く、強い声だ。

 

「は、はい! 僕があなたを呼びました!」

 

ネギ先生はいち早く立ち直り、声の主に応える。

すると男――ランサーは顔を上げ、ネギ先生の顔を見た。

 

威圧感が消える。

具体的にはいつものアーラシュから感じる感じに。

 

カシャンと鎧を鳴らし、立ち上がる。

手には武骨な槍と赤い盾。

アーラシュ並みに大きい身長。

鍛え上げられた肉体。

 

「……まだ子供ではないか」

「む」

 

ネギ先生を改めて見たランサーが、見下しながら言う。

見た目からしてプライドが高そうだ。

ネギ先生は見下されてるのがわかったのか、ムカッとした表情。

 

「子供だからなんですか!」

「いや、いかなるマスターであっても勝つのがサーヴァントの務め。失言であった」

「むむむむ!」

 

何やら喧嘩腰。

アーラシュと顔を見合わせて、改めて様子を見る。

 

睨みあっているというか、額と額をぶつけあっているというか。

争いは同レベルの者同士でしか発生しないというか。

 

「似てるわ……」

「同族嫌悪か」

 

そうなのだ。

なんというかそっくりなのだ。

怒り方というかなんというか。

 

「どちらも秩序・善っぽいからな」

「秩序……何?」

「いや、忘れてくれ」

 

 

 

とにかく。

 

暫く喧嘩した後で、2人がこちらに気付いた。

険悪なムードだけど、スピカ的にはあんまり関係なかった。

 

「貴方達がマスターの協力者ですか」

 

ランサーが少し疑わしい目をスピカに向ける。

協力者と言ったつもりはないのだけど、とアーラシュを見るがアーラシュはそっぽを向いていた。

事後承諾って奴か、怒るわよ。

 

「ああ。俺はアーチャーだ」

「あーちゃー?」

 

どうして名前を隠すのか。

スピカは不思議だったが、アーラシュは説明してくれた。

 

「サーヴァントは真名……つまり本名を隠すものなんだ」

「どうして?」

「死因とか弱点を知られないように、だな」

「ふーん」

 

アーラシュの死因は自爆なのに。

図書館島で少し調べたのである。

 

まあ、そういうものだから合わせてくれとアーラシュ。

仕方ないか、とスピカ。

 

 

 

「というわけで、ランサーの真名は内緒な」

「えー」

 

スピカは不満であった。

折角サーヴァントのことも教えたのに。

なんだか扱いが雑な気がする。

 

すると頭にぽん、と掌が乗る。

アーラシュの手だった。

わしゃわしゃと頭を撫でられた。

 

 

 

……まあ、許してやるか。

スピカはそれで満足してやることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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綾瀬夕映の聖杯戦争ラグナロク2

データ調整してたらロキのステータスがクソ過ぎてやばい


「これが魔法……」

 

綾瀬夕映はネギ先生が放った矢を見ながら呟く。

実際は空を飛んだりスピカの魔法を見てるのだが、その時は起き抜けだったり危機だったりと忙しかったのである。

 

『僕が教えようか? ルーンだけど』

『……ちょ、ちょっと興味あるです』

 

霊体化したロキと話しながらも見学を続ける綾瀬夕映。

思考だけで会話する念話であり、当人たち以外には誰にも聞かれることのない会話である。

 

「なにしてるアル?」

「な、なんでもないです」

 

とはいえ無言になるので他の人に怪しまれることもある。

慣れてないからこうなるわけだが。

 

『彼……ええとネギ君だっけ。才能あるね』

『そうです。自慢の先生です』

『うん。トールを思い出すなー』

 

まるで背後霊のような状態だが、綾瀬夕映は気にしないことにした。

疲れて倒れてしまったネギ先生の介抱をしつつ、ちらりとスピカの方を見た。

 

……いつもと同じように見える。

どうやらこの間のことを気にしていない様子。

それはそれでむかつくというかなんというか。

 

 

 

そして、気になる人がもう1人。

 

「……?」

 

そう、アーラシュである。

 

 

 

『やっぱりアーラシュ先生はサーヴァントなんですか?』

『だろうね。スピカっていう子とパスが繋がってる』

 

魔力量も桁違いだしね、とロキ。

綾瀬夕映としては魔力量というのも気になるが、今は流す。

 

『アーラシュ・カマンガー。イラン神話における伝説の射手……』

『日本じゃマイナーだって聞くけど、よく知ってたね』

『いえ、調べただけです』

 

図書館島には様々な本があるのである。

それこそドマイナーな英雄に関して書かれているものも。

今後役に立つかは分からないけれど。

 

「ね、ドラゴンって何の話?」

「っと、ドラゴンですか。実はですね……」

 

明日菜さんがドラゴンについて聞いてくるので、この間のことについて話す綾瀬夕映。

すると明日菜さんの顔が徐々に不満気な顔に。

あ、地雷ふんじゃったですか。

 

 

 

「ところでですが」

「ん、なにー?」

 

帰り道、綾瀬夕映は霊体化を解いたロキに聞いてみた。

魔力量についてである。

 

実のところ自分にどれだけの魔力があるのか気になるのである。

ネギ先生や木乃香さんがとても多いと聞いて、それならば自分は、と思った次第。

 

「えーと……多く見積もっても10%以下?」

 

衝撃の真実である。

ネギ先生の中に綾瀬夕映は10人入るのであった。

 

思考がブレた。

綾瀬夕映は自分を大量に飲み込んでるネギ先生の絵面をかき消した。

 

「そのせいで僕の性能もがた落ちしてる。具体的には2ランクくらい」

「それってヤバいですか?」

「やばいやばい。下手するとキャスターに力負けするよ」

 

セイバーなのにさ、と手をひらひらさせながら言うロキ。

キャスターとは確か魔術師のクラスだと聞いたような気がする。

それに力負けするとは、セイバークラスで現れた理由はないのではないか。

 

 

 

「まあ、令呪でサポートしてくれれば少しの間本気出せるよ。干乾びて死ぬかもだけど」

「……誰がです?」

「君が」

 

巨人族として顕現すれば別だけど、今の僕は神霊寄りだからねーとロキ。

絶対本気出させてやらねーですと綾瀬夕映。

そうならないことを切に願う綾瀬夕映だった。

 

 

 

 

 

 

数日後、綾瀬夕映は南の島にいた。

ハルナからの情報で、ネギ先生を招待したいいんちょが2人になろうと画策しているとの情報があったため乱入。

急遽、南の島でバカンスとなったのであった。

 

 

 

『うーん』

『どうしたです?』

 

相変わらずロキは綾瀬夕映の背後に憑りつくかのようにくっついている。

既に慣れ始めていることに若干の不安を感じている綾瀬夕映。

別に何か起こるわけでもないのだが。

今現在起こっているということはスルーで。

 

それはともかく。

不思議そうな声を出しているロキにどうしたのかと問いただす。

 

『いや、サーヴァントの反応があるんだよね。アーラシュがいないのに』

「……え?」

 

それは大事ではないだろうか。

聖杯戦争の参加者である以上、無関係ではいられない。

 

「どしたのゆえゆえ?」

「な、なんでもないですよ!」

 

ついつい口から声が漏れてしまった。

それだけ驚いたということだ。

 

まさか、まさかサーヴァントを召喚した人がこの中にいるなんて。

もしかしたら殺し合いになるかもしれないだなんて。

綾瀬夕映はまたスピカの腕が拉げる様子を思い出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

「どうしたの、ゆえ?」

「いえ、なんでもないのです」

 

魔法使いになりたいとネギ先生に話したはいいものの、仮契約にはキスが必要。

そして綾瀬夕映はそんな仮契約をねだったわけである。

痴女ですかっ!

いや、仮契約そのものは魔法使いになることには関係ないのですが。

誰に対しての言い訳か分からないことを綾瀬夕映は呟く。

 

『面白いね仮契約。僕の生きてた頃はなかったなー』

『蒸し返さないでくださいですっ』

 

ニヤニヤと笑っていそうなロキをかき消すように腕を振り回す綾瀬夕映。

のどかが不思議そうな顔で見ているがスルー。

 

 

 

『ところでルーンを教えるっていう話は?』

『西洋魔法を覚えながらはきついと思うけど……やる?』

『やるです』

 

若いころの苦労は買ってでもしろ。

綾瀬夕映はそう言いながら弟子入りを志願した。

勉強嫌いの設定はどうした。

 

 

 

『強くなるのです。そして、ネギ先生の役に立ちたいのです!』

『……まあいいか。それじゃあ容赦しないけどいいよね』

 

 

 




データが更新されました


【CLASS】セイバー
【マスター】綾瀬夕映
【真名】ロキ
【性別】どちらでも
【身長・体重】149cm・41kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力D耐久C+俊敏D魔力B幸運B宝具EX
(筋力B耐久A+俊敏B魔力EX幸運B宝具EX)

陣地作成:B
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 ”工房”の形成が可能。

道具作成:EX
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 十分な時間と素材さえあれば宝具を作り上げることすら可能。

【クラス別スキル】

対魔力:EX
 よくあるラスボス耐性。
 魔法系列シャットアウトすることができる。

【固有スキル】

神性:E~EX
 変容によって変動する。
 巨人族でありながら神族として成り立ったロキの性質によるもの

変容:A
 肉体、性質の変化をもたらす。
 女性体になることもでき、自身に流れる神性の血すらも変化させる。

原初のルーンEX
 オーディンと共に手に入れた原初のルーン。
 その力はレーヴァティンを単独で作り上げることができる程。
 あらゆる魔法を使えることに近い。
 
反骨の相:EX
 敵味方問わず神々を最後まで翻弄し続けた生粋のトリックスター。
 己に対し行使される権力に関わるスキルを無効化する。
 令呪についても具体的な命令であれ決定的な強制力になりえない。


宝具

偽・滅神剣(レーヴァティン・オルタナティブ)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 ルーンによって作られた即席品。
 真名解放はできず、ビームも出ない。
 しかし対神性の効果を持ち、神性を持つ相手にはランクA相当のダメージを与えることができる。


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コスプレライダーちう1

注意:女装男子
R15の原因はほぼこの人です


長谷川千雨は頭痛に苛まれていた。

いやネギ先生の暴走でいつも感じてはいるが、それとは原因が違った。

 

「おい、俺様を待たせるとはどういう了見だ。沈めるぞ」

 

ふわりとしたスカートを靡かせ、ローブを纏い、胸元に大きなリボンをした少女風の男が長谷川千雨を足蹴にしている。

そう、男である。

男が女装しているのである。

 

ちなみに金髪ゆるふわウェーブ。

クッソ可愛い(長谷川千雨視点)。

 

「うるせー! ちょっと待ってくれって言っただろ!」

 

長谷川千雨はフライパンを振りながら応える。

そう、彼女は料理中である。

 

畜生、料理とか久し振りで辛いわっ。

慣れない手つきでフライパンを操る長谷川千雨。

1人部屋だったので惣菜で済ませていたのがまずかったのか、と反省する。

 

 

 

「中々美味かったな。まあ満足してやる」

「はぁ……」

 

疲れた。

長谷川千雨の感想はそれであった。

 

 

 

ライダーと名乗る男が現れたのはつい最近のことである。

具体的には修学旅行が終わった次の土曜日。

南の島に誘われたが断ったのを覚えている。

 

帰宅した長谷川千雨の前に、家の中にいたのがこのライダーだったわけだ。

最初は不法侵入者かと思ったが、何やら呼んだのは自分だという。

そして、話を聞く内に魔法が関わってきているということが分かったのである。

 

そう、魔法である。

オカルトそのもののそれを理解するのに時間がかかったが、自分の周りの環境を思い出すと納得するところもないでもなかった。

霊体化された時には信じるしかなくなったわけだが。

 

 

 

「おい、出かけるぞ。支度しろ」

「はぁ!? もう夜中だぞ!」

 

食事も終わって一息吐こうと考えていたところで、ライダーが立ち上がる。

ふわりといい匂いがする。

じゃなくて。

 

玄関から出ていこうとするライダーについていく長谷川千雨。

放置すると大変なことになる。

そういう人間だと感じたからだ。

いや、幽霊だろうか。

 

「どこ行くつもりだ!」

「ふふん。いいもの見せてやるよ」

 

ずんずんと歩いていくライダーに駆け寄る長谷川千雨。

自分より小さいくっそ可愛い男に先導されつつ、彼女は辺りを見渡しながら歩く。

こんなところを指導員に見られたらたまったものではないからだ。

 

かといってこのまま放っておくのも違うだろう。

基本的に長谷川千雨はお人好しであった。

 

 

 

「きゃあああああああ!?」

「っ!」

 

悲鳴が聞こえた。

長谷川千雨がその方向へと向かおうと駆け出すよりも前に、ライダーが駆け出す。

その速度は彼にまるで追いつけないほど。

方向は彼女が向かおうとした先と同じだった。

 

 

 

「……なんだ、これ」

 

長谷川千雨が現場に辿り着くと、目の前では黒い何かが人間に襲い掛かっていた。

まるで全身に覆いかぶさるように乗りかかっているように見えた。

 

止めないと。

しかし、長谷川千雨には力がなかった。

あんな()()()()()()()()()に立ち向かうだけの力が。

 

だが。

 

「おいおい忘れたのか()()()()。俺様はお前の力だぜ」

「っ」

「命令しろよ()()()()。あの黒いのを倒せってな」

 

それはまるで誘惑だった。

ニヤリと笑うライダーの顔が、まるで悪魔のそれのようで。

 

しかし、それに抗っている場合ではなかった。

このままでは黒い何かが誰かをどうにかしてしまう。

下手をすれば、死人が出るかも知れない。

そう思うだけの予感がしたのである。

 

「……っあの人を助けろライダー!」

「了解マスター」

 

瞬間、薔薇が舞う。

ライダーを覆うように大量の薔薇の花が舞い、そのままライダーが走り出す。

 

早い。

まるでジェットのように瞬間的に加速し、黒い何かに突撃した。

それによって黒い何かは吹き飛び、壁に直撃した。

 

「え……」

「早く逃げてください!」

「は、はい!」

 

誰かは長谷川千雨の必死な声に応えて駆け出す。

怪我がある様子はなかった。

そのことに安堵しながら、長谷川千雨は改めてライダーの方を見た。

 

 

 

圧倒的だった。

薔薇を纏いながら薔薇をあしらった剣を振るい、黒い何かを斬り裂いていくライダー。

その身体には傷一つなく、美しい舞いを踊っているかのようにも見えた。

 

「はは……はははは!」

 

綺麗、だと思った。

自分とは違う存在なのだとも思った。

それだけ今の状況が非日常であり、異常だったのだ。

 

「とどめだ!」

 

一閃。

ライダーは黒い何かの首のように見えた位置を薙ぎ払い、剣をしまった。

すると、黒い何かはまるで空気に溶けるように消えていった。

 

「き、消えた……?」

「ふん、大方分身か何かだ。地道に潰していくしかねぇ」

 

気付けばライダーが纏っていた薔薇の花も消えていた。

綺麗だったのに、と思ったがそれよりも気になったことがあった。

 

「分身……?」

「ああ。自分を分割できるようなサーヴァントがいるみたいだ。この聖杯戦争、かなりきな臭いぞ」

 

ニヤリと笑いながら、ライダーは綺麗な顔を長谷川千雨に向けた。

やべぇ、やっぱり可愛い。

その思考を端に追いやりながら、彼女はため息をついた。

 

「まだ、あんなのが出るっていうのか?」

「ああ。だが今日は出ないだろうさ」

 

俺の直感だがな、とライダー。

直感のスキル持ってないって言ってたじゃねーかと長谷川千雨。

 

「俺様は皇帝だぞ。それくらいできる」

「皇帝って関係あるのか?」

「ふふん、教えないよ♪」

 

きゃるーんとSEが出たかのような表情で誤魔化そうとするライダー。

くそ、やっぱり可愛いな畜生。

誤魔化されることにした長谷川千雨だった。

 

 






データが更新されました


【CLASS】ライダー
【マスター】長谷川千雨
【真名】???
【性別】男性
【身長・体重】158cm・47kg
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運A 宝具C++

【クラス別スキル】

騎乗:C
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

対魔力:D
 無詠唱による魔法行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。


【固有スキル】

皇帝特権:D
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
 傀儡として甘やかされていた為ランクが落ちている。





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拾われっ子の冒険事情

自分が死なないからと割と無茶してるスピカです
夕映のこと言えないですね


「……」

 

ふらふらになっているネギ先生を見て、スピカは自分がどれだけ甘やかされていたか何となくわかった。

本気で訓練するとああなるのか、と他人事のように見つめるスピカ。

 

「ねえスピカ……」

「何? 神楽坂明日菜」

「明日奈でいいわよ」

 

じゃあ明日菜、とスピカは言う。

ネギ先生が教室を出るまでひそひそ声だった明日菜が、出て行ってすぐに普通の声で話しかけてきた。

 

「ねえ、エヴァちゃんの特訓ってそんなに厳しいの?」

「ん?」

 

明日菜が心配そうな顔で聞いてくる。

スピカはいつもの自分の特訓の様子を思い浮かべるが、そんなに厳しくないと思った。

 

「そんなことないと思うけど……どうして?」

「どうしてって……ネギがあんなにふらふらになってるし……」

 

確かにそうだ。

エヴァのことだ、のめり込むと周りが見えなくなるようなところがある。

きっとそれが原因と思う。

 

「というわけで、暫くしたら落ち着くと思うけど」

「そうかなぁ……?」

 

それでも明日菜は納得しないようで、ネギ先生を追いかけることにしたらしい。

それに呼応されるように何人かのクラスメイトが一緒に向かう。

 

「心配性ね……」

 

スピカはぼーっとしながら、辺りを見渡した。

最近はエヴァもネギ先生の特訓で忙しいので一緒にいられないし、アーラシュは今日学園長に呼ばれている。

要するに暇なのである。

 

 

 

「……ん?」

 

ふと、視界の端でこそこそと動く影を見つけた。

スピカはそれが気になり、すーっと視線を向けた。

すると、その先にいたのは長谷川千雨だった。

 

暇なスピカはその後ろをつけていくことにした。

最近友人の枠を広げようと頑張っているスピカであった。

アーラシュに心配かけないようにという配慮でもある。

随分素直になったものである。

 

 

 

とことこ歩きながら物陰に隠れつつ尾行するスピカ。

ちょうど明日菜達も尾行してるころだろうかと思いながら、気配を消そうと頑張るスピカ。

周りからは丸わかりなのだが。

 

すると、長谷川千雨が誰かと合流した。

ふわりとしたスカートを靡かせ、ローブを纏い、胸元に大きなリボンをした少女。

しかも金髪ゆるふわウェーブ。

なんだあれ可愛い。

 

「俺様を待たせるとはどういう了見だ! 沈めるぞ!」

「そればっかりだなお前!」

 

なんと、俺様系女子。

キャラクターまで濃いとは恐ろしい子……!(最近読んだ)

自分も何かするべきだろうかと思うスピカだった。

 

「ん……?」

「どうした()()()()?」

「っ!」

 

長谷川千雨の台詞に、即座に身を隠すスピカ。

今、長谷川千雨は()()()()と口にした。

 

つまりあの少女はライダー。

そして、そのライダーと一緒にいる長谷川千雨はライダーのマスターだということになる。

 

となると、あの長谷川千雨は敵ということになる。

いや、敵になるかはわからないのだが、スピカは極端なのでそう思い込んでいるだけ。

基本的に人を信じてないスピカらしい判断である。

 

 

 

「……いや、何でもねぇ。気のせいだろ」

 

危機一髪。

スピカは一息吐きながらそっと2人の様子を見る。

 

スピカはどうするべきか考える。

このまま追いかけるか、アーラシュと合流するか。

 

 

 

 

「ふん、相変わらずクソ平和そうな町だな」

「騒動は絶えないけどな」

 

結局、スピカは2人を追跡することにした。

まあアーラシュなら見つけてくれるでしょ。

割と楽観的なのもスピカである。

 

それに、放置するわけにもいかないなと思ったのも理由の1つである。

なんだかライダーからはアーラシュとは違う雰囲気を感じたからだ。

いや、性別とかじゃなく。

 

 

 

しかし、スピカが見てる限り危険なことはしなかった。

見る限りはウィンドウショッピングしているだけ。

危ないことはしていなかった。

 

「おい、娼館はないのか娼館は。発散できねぇじゃねぇか」

「やめろ! そういう発言はやめろ!」

「俺様は皇帝だぞ!」

 

……危ない発言はしていたが。

 

とにかく。

スピカが尾行していると。2人は人気のないところへと歩いていく。

まさか……と思ったがどうやらそういう感じでもなさそう。

 

「今日はこの辺りに出るっていうのか?」

「ああ。俺様の()()がそう言ってる」

 

()()か。

スピカは何となくアーラシュのことを思い出しつつ2人の動向を見守る。

もし何かするようならアーラシュにどうにかしてもらう。

他力本願なスピカであった。

 

 

 

「ほら、出てきたぞ」

 

暫くすると、2人を挟んで向こう側から何かが湧いて出てきた。

黒く、人のように見えて人には見えないような何かを感じるそれ。

それが現れるとすぐに、まるで獣のような叫び声をあげながらライダーへと襲い掛かった。

 

「ふんっ!」

 

ライダーは薔薇の花を纏って剣を振り払った。

その軌跡はちょうど黒い何かを斬り裂くように放たれ、両断した。

 

「今日の黒いのは弱いな。存在が薄い」

「そういうの分かるのか?」

「俺様を誰だと思ってる?」

 

凄い、と素直にそう思ったスピカ。

なんというか派手。

アーラシュのように堅実で地味な感じではない何かを感じた。

 

 

 

「―――――で、そこにいるお前は誰だ?」

「っ!」

 

バレた。

 

スピカは振り返ることなく全力で来た道を疾走する。

その最中に魔法の矢を上空に飛ばす。

いわゆる狼煙である。

アーラシュが見てたら向かってくれるだろうという期待である。

 

「痛っ!?」

 

全力で駆け出して逃げようとするが、その前に足を撃ち抜かれる。

足を見るとそれは薔薇の花。

深く刺さっていて抜けそうにないし、走れない。

 

「っ! 氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

スピカは貰った魔法薬を投げ捨てるように放ち、魔法を撃つ。

これは護身用としてエヴァから渡されたもので、詠唱短縮できるから便利だと言われたのである。

 

「効かねぇなぁっ!」

 

しかし、ライダーには弾かれてしまった。

確かアーラシュも持っているとか言っていた対魔力だろうか。

なんかズルい。

 

 

 

キィン、と剣を突きつけられて動けなくなるスピカ。

薔薇のあしらわれたそれは綺麗で、人を殺すために存在していないかのようだった。

むしろ使われたことすらないのではないかと思えた。

 

「マスター。現場見られたぜ」

「何してるんだライダー!?」

 

どうやら絶体絶命のようだ。

現場とは今の黒い何かを倒したことだろうか。

どちらにせよ、生殺与奪権は相手にあるわけなのだが。

死なないが。

 

長谷川千雨は慌てているようだが、主従の意思疎通がとれていないのだろうか。

いや、自分もそういうのが取れているとは思えないが。

 

「どうする? 別に殺しても俺様はかまわねぇぜ」

 

ライダーの方は口封じに躊躇はないようだ。

しかし、長谷川千雨の方はどう見ても戸惑っている。

スピカ自身は死なないのでどっちでもよかったりする。

 

 

 

「……駄目だ。私が説得する」

「そうか。マスターがそういうなら仕方ないな」

 

剣が降ろされ、刺さっていた薔薇の花も消えた。

すぐに長谷川千雨が寄って来て物陰へと連れ込まれた。

 

「結局のところ何なの? あの黒いの?」

「知らねぇ。けど、誰にも言うな」

 

絶対だからな、と念押しする長谷川千雨。

そこまで言われたら仕方ない。

誰にも言わないわ、と返すスピカ。

 

実際のところ、誰かに言うメリットがスピカにはなかった。

ザジを巻き込むのは駄目だし、エヴァに話すのもなんか違う。

アーラシュなら何とかしてくれるかもしれないが、それはなんだか嫌だ。

 

というかアーラシュなら何か知ってるはず。

スピカは今日帰ったら問い詰めようと思った。

既に今の会話内容を忘れてる気がする。

 

 

 

「説得できたぞ。これで文句ないな!」

「……まあいいけどよ。後悔しても知らねーぞ」

 

どうやらこれで決着らしい。

スピカは既に傷の治った足を動かしながら歩いていく。

 

 

 

「またね」

「……おう、また明日」

 

 

 

スピカは長谷川千雨の新しい一面を見つけ、ちょっと満足した。

思ったより芯があるわね、と上から目線で思うスピカであった。

 

 

 

 

 

 




データが更新されました


【CLASS】ライダー
【マスター】長谷川千雨
【真名】???
【性別】男性
【身長・体重】158cm・47kg
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運A 宝具C++

【クラス別スキル】

騎乗:C
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

対魔力:D
 無詠唱による魔法行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。


【固有スキル】

皇帝特権:D
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
 傀儡として甘やかされていた為ランクが落ちている。

薔薇の皇帝:B
 薔薇を用いた処刑方法などで有名な為獲得したスキル。
 特定の判定に対してプラスの補正を与える。
 該当するスキルは芸術、カリスマ、軍略等。
 また、自身の宝具にも適応される。



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このちゃんキャスター漫遊記1

風邪引いてゲロって倒れてましたが、私は元気です(致命傷)。



『ほら、そこでこうですよ。くるりーんって』

「プラクテピギ・ナル火よ灯れ(アールデスカツト)!」

『ああ、違いますよ! くるりーんです。くるりーん』

 

うるさいなぁ。

近衛木乃香は()()()()()()()()サーヴァント、キャスターの小言を聞きながら魔法の練習をする。

 

そう、()()()()()()()()のである。

なんとなく覚えていた呪文を呟いたらあっさり成功。

無事、サーヴァントのマスターになってしまったわけである。

 

『んもーあんまり言わんといてー。集中できないやんかー』

『ですけど、やっぱり見ていられないんですよー』

『んもー』

 

口うるさいキャスターをスルーして魔法の練習を再開する近衛木乃香。

せっちゃんが既に同じことができると知り、やる気も倍増してるのである。

諦めるわけにはいかなかった。

 

 

 

『ああ、違いますって。もっとこう、ぎゅーって感じですよ!』

 

 

 

……それはそれとしてキャスターがうるさいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっうっ……ネギ先生って大変な苦労をしてきたんですねぇ……』

 

キャスターがうるさい。

 

確かに大変な苦労をしてきたネギ君に、近衛木乃香も涙を禁じ得ない。

あんな経験をすれば、頑張らなくちゃならないという使命感にとらわれるのも無理はないと思った。

 

しかし、ひとりで頑張るのはいただけない。

もっと自分たちを頼って欲しい。

せっちゃんともキスしてるんだから。

 

 

 

と、ここまで考えて思い出す。

そういえば()()()()()()()()()()と。

 

確かにキスすること自体はちょっと恥ずかしい。

けれど、ここまで来て仮契約していないっていうのはなんだか遅れてる気がする。

 

『そうですか? やはり大和撫子的にはお淑やかに貞淑に、というが()()()()だと思うのです』

 

キャスターがうるさい。

 

とにかく。

ネギ先生の力になる為にも何かしないといけない気がする。

具体的には仮契約。

そうでなくても魔法を覚えることで役に立てるはず。

エヴァちゃんも言ってた。

 

『でも鬼道なんかも乙ではないですか? 純日本製魔法ですよ?』

『む』

 

確かに気になる。

キャスターが得意だというそれは、とても便利だと聞く。

呪術にも通じるというため、もしかしたらこっちの方が似合うのではないかと密かに思っている

 

「せっちゃん」

「なんですかお嬢様?」

「きどーって難しいん?」

「き、鬼道ですか?」

 

うーん、と唸るせっちゃん。

どうやらマイナーな魔法のようである。

ちらりとキャスターを見るが、知らんぷりなキャスター。

あとで〆る。

 

 

 

 

 

「それじゃあねー!」

 

別荘を出て寮に帰って来てすぐ。

みんなと別れて廊下を歩く近衛木乃香。

その隣にふわりと寄り添うように現れるキャスター。

 

服装は、和服巫女服紅白服。

髪は黒くて腰までの長さ。

キャラ被りも甚だしい。

 

「別に鬼道がマイナーなわけではないんですよー?」

「でもせっちゃんが唸ってたやんか」

「えーと……なんででしょう?」

「もう!」

 

近衛木乃香が珍しく声を荒げる。

どうにも調子が狂うようだ。

 

 

 

すると、ぼちゃんと音がした。

何かが来たのだ。

 

「な、なんなん……?」

「下がって」

 

キャスターが珍しく真剣な顔をして近衛木乃香を下がらせる。

気配は不穏。

キャスターは渾身の力を振り絞り、鬼道を放つ。

 

 

 

「―――――太陽びーむ!!」

 

 

 

閃光が奔り、着弾と同時に爆発。

不穏な気配は廊下と共に完全に消し飛んだ。

 

「ちょっ!?」

 

ドヤ顔のキャスターよりも近衛木乃香は消し飛んだ廊下の方が気になった。

この状況、どうすればいいん……?

割と真剣に悩んでいる。

 

「大丈夫ですよー」

「え?」

 

おろおろしていると、キャスターが更にドヤ顔を披露する。

ええからはよ何とかして。

近衛木乃香は本気でキレそうだった。

 

「私がこの()()()()()()()()()()()()()()()、修繕はこのように……」

 

ちょん、とキャスターが地面に指を触れると、粉々になった廊下が瞬時に元に戻っていく。

まるで時間が巻き戻っていくかのよう。

 

修繕が完了すると、何かの影が残っていた。

まさか焼け跡かと思った近衛木乃香だが、よく耳を澄ませるとその何かから小さな音が聞こえた。

 

 

 

……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛ああああああ頭がいたいたいちあいあいあいあちあいいhしdgひsがいあいあいいいいいたちあいちあいちいいいたいちたいちあいちいいあいあいあいいたいいあちあいいあついいいいいいいいい!!!」

「ひっ!?」

 

 

 

狂気。

近衛木乃香が触れたのはそれであった。

 

奥歯ががちがちと鳴る。

背筋が凍るような錯覚。

心が折れそうになる。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

そして、気が付けば目前に剣が振り降ろされており。

 

 

 

「大丈夫ですよますたー」

 

 

 

その凶刃は、キャスターが持つ剣で止められていた。

 

 

 

「私がいる限り、ますたーに指一本触れさせませんから」

 

 

 

ニコリと笑うキャスター。

近衛木乃香は初めてキャスターが頼もしく感じた。

まるでかつて活躍した英雄のよう。

 

 

 

「さあさあお立合い! 我が身に宿りしは天照大御神! 太陽の神なるぞ!」

「異教徒は殺す殺す殺すころこrkろkろろろころろrkっころす!!」

 

 

 

神の名のもとに。

キャスターは漆黒の狂気と向かい合う。

 

 

 

 

 




データが更新されました


【CLASS】キャスター
【マスター】
【真名】???
【性別】女性
【身長・体重】142cm・35kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具A++

【クラス別スキル】

陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “神宮”を形成する事が可能。
   
道具作成:D
 魔術的な道具を作成する技能。

【固有スキル】

神性:B
 天照大神の直系にあたり、本人も信仰を集めている。
 
鬼道:A
 天照大神の御杖代として鬼道を取得している。
 周囲に存在する霊的存在に対し、依頼という形で働きかけることにより、様々な奇跡を行使できる。
 行使される奇跡の規模に関わらず、消費する魔力は霊的存在への干渉に要するもののみである。
 あくまで依頼であるため、霊的存在が働きかけに応じない場合もあるが、
 ???は天照大神の御杖代に選ばれているため、成功率は非常に高い。


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コスプレライダーちう2

アーラシュが絡むと筆が進まない問題
神霊が多い……?(毒されてる感)


「……はぁ」

 

スピカを見送った長谷川千雨は大きくため息をついた。

怪我をさせられたのも気にしていない様子だったのが幸いだったが、スピカがあっさり頷いてくれて助かった。

説得できなかったらライダーが何をするか分からなかったからだ。

 

とはいえ、ライダーもそれほど強硬手段に出ることはないだろうというのも長谷川千雨の予想である。

それは、黒い何かに向けられている感情を、スピカには向けていなかったからだ。

 

それはきっと敵意というもので。

そして殺意というものなんだろうと、長谷川千雨は思ったのだ。

 

 

 

「ところで、だ」

「なんだよマスター」

「ずっと疑問に思ってたんだが、()()は何だ?」

 

長谷川千雨の言う()()とは、今までライダーが斬り刻んできた黒い何かである。

言われるがまま連れられるがままだったが、今漸く状況が飲み込めるようになったのである。

 

「……()()()()()って奴さ」

「……」

「この目で見てきたからな。人間の悪意って奴を。それにそっくりだ」

 

嫌いなんだ、とライダー。

まるで自分のことを映し出されているようで。

 

「あんなもんがのさばる場所じゃねーだろ、ここはよ」

 

だから掃除してやってんだ。

ライダーは吐き捨てるようにそう言った。

 

なんだかんだ言って完全な悪人というわけではないらしい。

長谷川千雨はそう思いながらも、常日頃の傍若無人っぷりを見るに、完全な善人でもなさそうだとも思った。

自分の持つ領域を自分なりの法則で守っているような印象を受けた。

 

 

 

「ほら、帰るぞマスター。今日はもう出ねぇはずだ」

「ああ」

 

帰ろうとしたところで、唐突に爆発音。

音がした方向を見れば、どでかい穴の開いた女子寮が見えた。

 

「はぁ?!」

 

驚天動地とはこのことか。

それくらい驚いた長谷川千雨だったが、それ以上に驚くべきことを見てしまう。

 

「壁が……()()()()()()()()……!」

 

そう、壁がひとりでに直っていくのである。

まるで時間を巻き戻したかのように。

 

「こりゃあマズいな……」

「どういうことだ、ライダー?」

「あの女子寮が()殿()()()()()()()()()。あそこはもうキャスターの根城ってわけだ」

 

いつの間にやりやがったんだ、とライダー。

そもそも神殿化というのが分からない長谷川千雨は、その神殿化について聞こうとした。

しかし、口を開くその前に長谷川千雨はライダーに物陰へと引きずり込まれた。

 

「なにす……!?」

「黙れ。サーヴァントだ」

 

口を塞がれた長谷川千雨は、ライダーに促されるままに物陰から通りを見る。

すると、そこにはアーラシュがいた。

 

「おい、もしかして」

「ああ、あいつがサーヴァントだ」

 

まさかの真実というべきか。

スピカがいつも一緒にいたアーラシュがサーヴァントだったとは。

 

アーラシュは女子寮の方角を見て、世界樹の方へと向かった。

どうやら気付かれてはいないようだ。

 

「知り合いか?」

「私自身はあんまり知らねぇんだけど、さっき追い払った奴が知り合いなんだ」

 

まさかな、と小さくつぶやくライダー。

長谷川千雨が問いただそうとすると、ライダーはそれを遮る。

 

「追いかけるぞ」

「マジか」

 

放置すると何するかわからんとライダーの直感が言うらしい。

その直感に助けられたことはないが、それでもアーラシュを放置するのは危ないと感じた。

なので長谷川千雨は若干の不安を感じながらも追いかけることにした。

 

不安とはアーラシュのマスターがスピカだった場合だ。

そうなるとその真実を知ったアーラシュが報復にくるのではないかと考えているのである。

そうなる前に何とかしたい、というのが長谷川千雨の考えであった。

 

 

 

「ん、長谷川千雨君か。それと隣の子はサーヴァントだな」

 

即バレた。

しかも余裕なのか攻撃体勢もとっていない。

 

「ハッ。マスターもいないのに余裕面か!」

 

ライダーは宣戦布告だと受け取ったようだ。

今にも薔薇の剣を持って飛びかかりそう。

 

「まあ待て。お前達が黒い何かを倒して回ってるのは知っている」

「……それがどうしたってんだ」

 

ライダーの警戒度が上がる。

自分達の行動を把握されているわけだから当然と言えば当然だ。

 

「いや、むしろ続けて欲しい。魔法使い達も対応に追われているんだ」

「ふーん……」

 

ライダーが多少警戒を解く。

知っていて放置されていると聞いて、長谷川千雨もなんだかいい気分ではないが、それでも話を聞いてみることにした。

 

 

 

「多分分かっていると思うが、黒い何かはサーヴァントだ」

「……ああ」

 

初耳である。

人間達の悪意とは何だったのか。

問いただしたい気持ちはあるが、今は我慢。

 

「そのサーヴァントが厄介でな。()()()()()が召喚したんだが……」

 

知らない人である。

その人物があの黒い化け物を召喚したのか。

 

「そのサーヴァントに()()()()()()制御不能になった」

「乗っ取る……そんな化け物が……」

「ふん、だから言ったろ。あれは悪意だって」

 

だから滅ぼすしかねえ、とライダーは言う。

確かにそんな化け物なら倒すしかないと思う。

だけど、乗っ取られたという天ヶ崎千草という人は無事なんだろうか。

 

「ああ、生きてはいるはずだ。()()からな」

 

アーラシュが自信満々に言う。

それは一安心、とも言えないか。

 

「とにかく、黒い何かを倒し続けてくれると助かる。あとはなんとかできるはずだ」

 

まるで誰かがどうにかしてくれる、とでも言いたげな台詞である。

 

 

 

長谷川千雨はこれからどうするべきか考える。

確かにサーヴァントを倒すことは最終的に勝利へとつながる。

しかしこれは戦闘で消耗させるという手段ではないかとも考えられるのである。

 

「……いや、ねぇか」

 

お人好しそうだし。

長谷川千雨はそう断じた。

 

 

 

「ところでよぉ。ひとつ聞きたいんだが」

 

ライダーがいやらしい顔でアーラシュに声をかける。

嫌な予感しかしない。

 

「あんたのマスターはスピカか?」

「やっぱりかー!」

 

ダイレクトに聞いていく。

そんなことを聞いて答えてくれるとは思えなかった。

 

「? そうだぞ」

「答えたー!?」

 

衝撃であった。

聖杯戦争に参加しておきながらこの気軽さ。

いや、もしかして自分が身構え過ぎなのかと長谷川千雨は考える。

 

 

 

……いや、考え過ぎか。

アーラシュが考えなしなんだろうと思ったほどだ。

 

「まあ今は協力関係ってことでよろしくな」

「ああ。楽しくいこうぜ」

 

とにかくスピカと敵対する必要がなくなった。

それだけはいいことだと思った長谷川千雨だった。

 



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綾瀬夕映の聖杯戦争ラグナロク3

酷く遅れた上になんか短めで申し訳ない
次はもっと早くなるように頑張りたいと思います(願望)


綾瀬夕映の聖杯戦争ラグナロク3

 

 

「……っ」

 

集中する。

目の前にある小石がバチバチと紫電を走らせる。

 

その紫電が少しずつ文字を描いていく。

()()()()()だ。

それを綾瀬夕映自身の魔力で刻んでいるのである。

 

熱い。

苦しい。

身体がきしむ。

 

それでもやめない。

これは自分が始めたことだから。

 

 

 

「っ……で、きたです……!」

 

魔力が収束。

そして紫電がおさまった。

 

石に刻まれた火のルーン。

これでこの石は魔力を持ち、神秘を発する魔法具として機能する。

 

「できたですよ!」

「うんうん、おめでとう」

 

石を掲げてドヤ顔する綾瀬夕映と、ぱちぱちと拍手をするロキ。

数時間に及ぶ集中講座によって漸く形になったものが1つ。

 

初めて自分の力になった魔法。

それが嬉しくて、心が躍りそうになる。

 

しかし。

 

スピカの腕が拉げる光景が思い浮かぶ。

それだけで気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう。

 

 

 

「まだ気にしてるのかな?」

「……な、なにがです?!」

 

不意にロキに声をかけられ、弾けるように顔を上げる綾瀬夕映。

図星だからだ。

 

しかし内容までは把握されてないだろう。

そう思うことで何とか平静を保つ。

保っているつもりである。

 

「まあこのトラウマは消さない方がいいよねー」

「? なんです?」

「なんでもないよー」

 

ニコニコと笑いながら空中を漂うロキに、怪訝そうな視線を向ける綾瀬夕映。

今の状況もそうだ。

なんと今までの数時間がたったの5分だというのだ。

 

半透明なテントのようなそれは、ロキの手によって作られた特殊な結界だという。

エヴァンジェリンの別荘を見てから即席で作り上げたというが、そんな簡単に同じ効果の物が作れるのだろうか。

 

「神話時代の魔じゅ……魔法使いを舐めないで欲しいね。()()()()()()()これくらい余裕さ」

 

ピースサインをしながら言うロキ。

そもそも彼女はセイバーだったはずなのだが、どういうことなのか。

 

「変容っていうスキルのおかげだね。これで()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

「それって……」

 

反則ではないか。

と一瞬思ったが、そもそもルール自体が聖杯戦争に存在しているのかわからない。

綾瀬夕映はこの疑問を放り投げた。

 

 

 

「夕映ーお風呂行くよー」

「のどか……?」

 

そういえば。

エヴァンジェリンの別荘から帰って来てからお風呂に入っていない。

それに汗をかいたばかりだ。

 

「今行くですよー」

 

テントを専用の袋に入れると、即座に掌に乗るサイズになった。

便利過ぎる。

勉強机の中にしまい込むと、お風呂セットを手に部屋を出る。

 

「あーちょっと待ってね」

「なんです?」

 

綾瀬夕映が部屋の外に出ようとしたところで、ロキが机の上に置いてあるルーン石を手に取り、きゅっと握った。

するとルーン石を飾りにした見事なネックレスが出来上がった。

 

「……」

「僕からのプレゼントみたいなもんさ。折角弟子が作ったし、お守りに持てるようにってね」

 

弟子か、なんだかむずかゆい。

いやネギ先生の生徒なのであっちも弟子と言えば弟子なのですが。

なんだか誰に言い訳してるのか分からなくなってきた綾瀬夕映であった。

 

 

 

「……」

「……」

 

綾瀬夕映は宮崎のどかと共に女子寮の廊下を歩く。

2人は無言。

宮崎のどかはネギ先生の過去を知り、落ち込んでいるのである。

綾瀬夕映はそんな親友の様子に喋りかけることができずにいた。

 

「ネギ先生があんな大変な思いをしてただなんて思わなかった……」

「そう、ですね……」

 

ゆっくりと、宮崎のどかが切り出す。

綾瀬夕映もそれに同意した。

自分より年下の男の子が背負うには重過ぎる過去。

 

「引き返すなら、今だと思うですよ……?」

「夕映ー……?」

 

ふと、綾瀬夕映の口からそんな言葉が漏れる。

そう、今ならまだ間に合うかもしれない。

あんな酷く傷付く世界から、親友の宮崎のどかだけは解き放つことができるかもしれない。

 

自分はもう駄目だと綾瀬夕映は思う。

ロキの言動でわかる。

自分はどっぷりと魔法の世界に踏み入れてしまっている。

 

ぎゅっ、とルーン石を握る。

これは日常と非日常との境目。

このルーン石を使う時、きっと自分は―――――

 

 

 

―――――瞬間、世界が揺れる。

 

「っ!」

「な、なに?!」

 

何か良くないことが起こった。

そう思った瞬間、綾瀬夕映は宮崎のどかの手を取り駆け出した。

 

『ロキ……!』

『気付くのが早いね。どうやらサーヴァント同士の衝突みたいだ』

 

念話でロキに声をかけると、案の定大事だ。

すぐさま衝撃の伝わる方から逃げ出さなくてはならない。

 

幸い自分達のいる場所から衝突したという場所は遠い様子。

急いで避難しなければならない。

 

しかしどこに……?

綾瀬夕映は考え、即座に寮の出口へと向かう。

 

 

 

そう、ネギ先生のところだ。

 

 

 



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このちゃんキャスター漫遊記2

どちらを先にするか悩んでいたので、決まったところで即公開
次も早く投稿したいところ(願望)


「はぁあああぁぁああああぁあああああっっっ!」

「ひえええええええ!?」

 

大振りの横薙ぎを、キャスターはしゃがみ込むようにしてよける。

まるで素人。

というか戦闘経験ないですよねと近衛木乃香。

 

「あかんやんかー!?」

「私は筋力Eですよー!?」

 

やーんとでも言いたげな顔で逃げ出すキャスター。

近衛木乃香を抱えることは忘れずに。

 

「というかあれ、神性相手に特攻持ってるみたいです! やばいです! 弱点です!」

「もっとあかーん!」

 

全力で走るキャスターだが、徐々に相手のサーヴァントに距離を詰められてしまう。

剣を振り回すだけの筋力を持っているだけのことはある。

ちなみにキャスターは剣で相手の攻撃を受け止めるだけで精一杯だった。

 

「ぎぃいぃぃぃいいいいいい!」

 

ギギギギと剣で地面を削りながら片手で頭を抱えて走ってくる敵サーヴァント。

まるで頭痛をこらえながら走っているようだ。

それでもキャスターの走る速度を上回っているのだが。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

あと少しで相手サーヴァントの剣がキャスターを捉えるという瞬間。

薔薇をあしらった剣が閃く。

その斬撃は見事に敵サーヴァントの左腕を斬り裂いた。

 

「ちっ! 浅いか」

 

しかしその傷は一瞬でふさがる。

まるで時間が巻き戻るかのように。

 

「だ、誰ですか!?」

 

キャスターが斬撃を繰り出した相手に向かって声をかける。

その相手は、ふわりとしたスカートを靡かせ、ローブを纏い、胸元に大きなリボンをした少女。

金髪ゆるふわウェーブ。

あーん可愛いやんかー。

 

「ライダーだ。俺様に感謝するんだ……なっ!」

「ぐ、うううう!」

 

剣が閃く。

一撃、二撃と踏み込むように放たれた斬撃が、相手サーヴァントを遠ざける。

まるで訓練したようなその剣術は、力に任せた相手サーヴァントのそれとは大きく違うものだった。

 

「ははっ、どうしたどうした! ようやっと大物が出てきたと思ったらこの程度かよ!」

 

剣が閃く。

近衛木乃香が見ているそれは、まるで剣舞のようであった。

 

スカートがはためく。

マントが揺れる。

リボンが小さくふんわり揺れる。

 

 

 

「はぁ、はぁ……ライダー! いきなり走り出すんじゃねー!」

 

ライダーと名乗った少女が来た方から、誰かが走ってきた。

近衛木乃香はその人影に見覚えがあった。

そう、確か名前は……

 

「ちうちゃん!」

「その呼び方はやめろぉ!」

 

合ってるらしい。

いや、当人的には駄目らしいけれど。

 

「どういうことなん?!」

「そりゃこっちが聞きてぇ! どうしてあんたがサーヴァントなんか連れてるんだ!?」

「……えーと」

 

どう説明したものか。

何となく呪文を唱えたら突然光に包まれて、気付いたらキャスターが目の前にいたのである。

近衛木乃香本人もよくわかってない。

 

 

「よーわからん」

「はぁ!?」

 

だからこう言うしかないわけで。

当然納得してくれないわけである。

 

「でもでも、私もちょーっと現状が分かってないっていう感じで」

「サーヴァントの方も駄目かっ!」

 

するとキャスターの方から援護射撃。

主にちうちゃんを仕留める方向の奴。

 

 

 

「どーでもいいけどよ! こっちを! 手伝えよっ!」

 

ちうちゃんが頭を抱えていると、ライダーとサーヴァントの戦いが拮抗していた。

いや、ややライダーの方が押されている。

俊敏性が相手サーヴァントの方が高いのである。

 

「て、手伝えって言われても……」

「ど、どうするのー?」

 

正直近衛木乃香には何かできるような手札はない。

あるとすればキャスターの太陽びーむくらいだろうか。

 

「ああ、その太陽びーむとやらでいい。()()()()()()()()()()()()()

「ええっ正気ですか!?」

 

やけに自信満々で言うライダー。

どうやら本当に大丈夫だと確信しているようだ。

 

「ええい、どうなっても知りませんからねー!」

 

バババッと衣服を整え、力を込めてキャスターは両腕を突き出した。

 

 

 

「太陽びーむ!!」

 

 

 

閃光、そして爆発。

先程の爆発よりも大きい爆発だった。

 

「やったか!?」

「ちょっおまっ!」

 

ふわりと爆風を利用したかのように跳躍したライダーが、キャスター達の近くに着地する。

着地と同時にお約束の台詞。

ツッコミを入れるちうちゃんに近衛木乃香はなんだか安心してしまった。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「ぃぃぃぃぃぃ異教徒ぉおぉぉぉぉおぉぉおおおっ!!」

 

 

 

煙の中から現れたのは無傷のサーヴァントだった。

しかし、それまでの正体すらわからないような姿ではなかった。

 

血塗れのドレスを着込み、簡素な胸当てをした女性。

茶色い髪は腰までの長さがあり、それでいてボサボサになっている。

その眼は狂気に染まっており、何かを見ているようには見えなかった。

 

 

 

「くそっ面倒臭い奴だなぁッ!」

 

敵サーヴァントが振り降ろした剣を受け止め、苛立った様子で薙ぎ払う。

確かにあんなビームが直撃したのにほとんど無傷なのはひどい気がする。

 

「マスター! 宝具使うぞ!」

 

聞きなれない単語をライダーが発する。

振り返ってキャスターを見るとふるふると首を振る。

なんで知らないんだろうこの人。

 

 

 

「って、あれ……?」

 

ふと気付くと、辺りに花びらが舞っていた。

赤白ピンク、色とりどりの花びら。

それが敵のサーヴァントの身体を覆っていく。

 

気付けば敵サーヴァントの姿は花びらで見えない。

すると、まるで強大な力で圧し潰すように花びらがどんどんと集まっていく。

ギチギチとかなり離れているここからでも軋むような音が聞こえてくる。

 

そしてライダーが剣を上段に構える。

綺麗な構えだ。

前に見た剣道の試合を思い出す。

 

そして、疾走。

敵サーヴァントの横をすり抜けざまに切り裂いた。

 

 

 

薔薇の華よ我が敵を撃て(ウナ・ローザ・カダーヴェレ)!」

 

 

 

瞬間、花びらが散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

データが更新されました

 

 

【CLASS】ライダー

【マスター】長谷川千雨

【真名】マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス(ヘリオガバルス)

【性別】男性

【身長・体重】158cm・47kg

【属性】秩序・悪

【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運A 宝具C++

 

【クラス別スキル】

 

騎乗:C

 騎乗の才能。

 大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

 

対魔力:D

 無詠唱による魔法行使を無効化する。

 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

 

 

【固有スキル】

 

皇帝特権:D

 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。

 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。

 傀儡として甘やかされていた為ランクが落ちている。

 

薔薇の皇帝:B

 薔薇を用いた処刑方法などで有名な為獲得したスキル。

 特定の判定に対してプラスの補正を与える。

 該当するスキルは芸術、カリスマ、軍略等。

 また、自身の宝具にも適応される。

 

エル・ガバルの加護:A

 太陽神を信仰し、ヘリオガバルスの名で呼ばれたことによる加護。

 太陽の下にいる限りステータスにプラスの補正を受ける。

 また、自身の宝具にも適応される。

 

宝具

薔薇の華よ我が敵を撃て(ウナ・ローザ・カダーヴェレ)

ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:10人

 薔薇の花による圧殺、窒息死を行うという残虐な宝具。

 スキルによる強化が適応された場合、ランクAに迫る宝具となる。

 『ローマ皇帝群像』のなかにある「客人に薔薇の山を落として窒息死させるのを楽しんだ」とする逸話であり、このエピソードは有名なローレンス・アルマ=タデマの絵画「ヘリオガバルスの薔薇」のモチーフとされている。

 これは、ヘリオガバルスが宴会に招いた客の上に巨大な幕を張り、幕の上に大量の薔薇の花を載せたうえで宴会中に幕を切り、花を一斉に落として客を窒息死させたという風評にちなんでいるが、真偽のほどは明らかでない。

 



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拾われっ子の戦闘事情

グラブルのイベントが一段落したので更新です
古戦場までにもう少し行きたいところです


スピカがアーラシュを探していると、中央広間でアーラシュを発見した。

とてとてと寄っていくと、誰かと喋っていた。

 

咄嗟に隠れると、相手はさっき見た顔だった。

というか長谷川千雨とそのサーヴァントだった。

 

「なんだ、千雨か」

 

そんなつぶやきと共に、スピカは隠れるのをやめる。

知り合いなのだ、別に隠れてる必要はない。

知り合いじゃなかったら隠れて覗くつもりだったようだ。

 

 

 

「って、あれ?」

 

近付こうとすると、千雨のサーヴァントが駆け出した。

その行き先は女子寮の方向。

何か急ぐ理由でもあるのだろうか。

 

とはいえスピカには関係ない話。

気兼ねなくアーラシュに近づいていく。

 

「何やってるの?」

「ん? ……ああ、スピカか」

 

話しかけると生返事。

ムカッと来たので脛を蹴り上げた。

すると漸くしっかりとスピカの方を向いた。

 

「どうした?」

「……なんでもない!」

 

機嫌を損ねたスピカはふん、とそっぽを向いた。

その様子を見て、仕方がなさそうに頭をなでるアーラシュ。

ぽふぽふぽんぽんぐーりぐり。

満更でもないスピカだった。

 

 

 

「―――――ふむ」

「っ」

 

ズッ……と靴を鳴らす音が聞こえた。

スピカはその方向に振り向くと、黒い服を身にまとった紳士風の男が立っていた。

 

「誰……?」

「いやなに、ただの紳士さ」

 

ニコリと笑う自称紳士。

怪しい、凄く怪しい。

スピカは一歩下がった。

 

「ただの紳士は俺の矢を受け止められないだろう」

「はは、それもそうだな」

 

気付けば紳士の手にはアーラシュが放ったと思われる矢が握られていた。

いつの間に、とスピカがアーラシュの方を見ると既に矢を放った後の格好だった。

 

「えっ」

 

瞬間、拳が飛ぶ。

スピカはアーラシュに抱え上げられ、即座にその場を離脱。

間一髪で衝撃を避けたアーラシュだった。

 

「うげぇええええ」

「ちょっと我慢してくれ……よっ」

 

米俵のように担がれているスピカが苦悶の声を上げるが、アーラシュは無視。

そのまま右手を自称紳士に向けて魔法の矢を放つ。

その数37。

様々な直線、曲線を描きながら目標へと殺到する。

 

 

 

「ふむ、成熟した果実もいいが……今は時間が惜しい」

 

自称紳士が右手を掲げると、光が弾けた。

すると今まで存在していなかった人影が一瞬でその場に現れた。

 

血塗れのドレス、簡素な胸当てをした女性。

腰まである茶色い髪がボサボサになっている。

四肢があらぬ方向に曲がっていたが、それは徐々に普通の状態へと戻っていく。

そして、周囲にはそんな状況とは不釣り合いな色とりどりの花びらが舞っていた。

 

「頼むよ、()()()()

「う、うううううう!」

 

自称紳士が影に隠れるように消えると、女性――アサシンがスピカ達に向かって突進してきた。

先程放った魔法の矢はアサシンが持っていた剣で蹴散らされた。

 

「ぐえっ」

「すまん」

 

その直後にスピカ達は着地。

場所はちょうどショッピングモール辺りだろうか。

スピカは地面に転がされ、アーラシュは即座に弓矢を作り出した。

 

1、2、3射。

一瞬で放たれた矢はアサシンの眉間、喉、心臓を狙う。

 

上下逆のスピカはその様子を見ながら急いで立ち上がる。

あれがサーヴァント。

しかしネギ先生が召喚したランサーとは雰囲気が全然違った。

ランサーがコインの表だったなら、目の前のアサシンはコインの裏だ。

 

 

 

矢は振り回された剣によって弾かれたが、その勢いは殺せずに体勢を崩させた。

そこに即座に矢を連射。

立て直す暇を与えない。

 

放つ放つ放つ。

もはやスピカの目にはアーラシュの手の動きは見えない。

ガトリング銃を思い浮かべる連射速度だ。

 

それがアサシンの身体中を撃ち抜く。

矢の嵐だ。

それだけの数が当たっている以上、ただでは済まない。

 

 

 

済まないはず、なのだが。

 

 

 

「止まらない……!?」

 

それでもアサシンは止まらない。

身体が拉げても千切れても、即座に再生して歩き続ける。

スピカは自分の不死身具合を思い出すが、それとは何かが違うような気がした。

 

自分のそれは世界による修正(と、前に聞いた記憶がある)で、アサシンのアレはまるで……呪い。

それも自分自身に対しての強い執念。

それが彼女自身を支えているのだとスピカは思った。

 

 

 

「ぐ……うううううっ!」

「チッ」

 

ついにアサシンの剣がアーラシュの身体に届く寸前まで迫ってきた。

矢の連射は止まらず、アサシンの歩みも止まらない。

アサシンの執念がアーラシュの猛攻を超える寸前。

 

 

 

「……ならっ!」

 

スピカが動く。

腕を突き出し身体の魔力を巡らせる。

 

 

 

「ク・リトル・リトル・クリトリア! 来たれ氷精(ウェニアント・スピーリトゥス)闇の精(・グラキアーレス)闇を従え(・オブスクーランテース)吹雪け(・クム・オブスクランティオーニ)常夜の氷雪(・フレット・テンペスタース・ニウァーリス)!」

 

既に使えることが分かっている魔法だ。

大丈夫、きっと大丈夫。

自分に言い聞かせて、スピカはアサシンに向かって魔法を放つ。

 

 

 

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」

 

 

 

至近距離、それも真横からの一撃だった。

それがスピカの腕から放たれ、アサシンへと直撃した。

 

「ぎぃいいぃいいいい!?」

 

氷雪の暴風を受け、流石のアサシンも体勢を崩す。

身体も凍てつき、動きも鈍る。

霜が身体中を覆い、まるでガラスのように固まっていく。

 

そこへアーラシュの矢が突き刺さっていく。

その姿はまるでハリネズミのよう。

そのままアサシンはたたらを踏むように後退し、スピカ達との距離が広がった。

 

 

 

「う……うぅ……」

 

アサシンのうめき声が聞こえる。

これで終わりか、とスピカは気を抜いた。

 

「っ! 離れろ!」

 

すると、血相を変えたアーラシュがスピカを突き飛ばす。

まるで弾かれるように飛ばされたスピカは、街路樹に叩きつけられるように飛んだ。

 

 

 

瞬間、小さく小さくアサシンが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――溶血の弾圧者(ブラッディ・メアリー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、目の前が赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

データが更新されました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【元ネタ】史実 怪談

【CLASS】アサシン

【マスター】ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン

【真名】メアリー一世

【性別】女性

【身長・体重】162cm・52kg

【属性】混沌・狂

【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具B

【クラス別スキル】

気配遮断:D

  サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。

 

【固有スキル】

信仰の加護:A+++

 一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。

 加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。

 あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。

 ……高すぎると、人格に異変をきたす。

 

無辜の怪物:A

 ブラッディ・メアリー。

 生前の行いから生まれたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた怪物の名。

 能力・姿が変貌してしまう。

 

頭痛持ち:B+

 生前の出自と苦難の人生から受け継いだ呪い。

 慢性的な頭痛持ちのため、精神スキルの成功率を著しく低下させてしまう。

 また、時として幻覚に五感を支配され、正気とは思えない行動を取る。

 せっかくの芸術の才能も、このスキルがあるため十全には発揮されにくい。

 

 

【宝具】

溶血の弾圧(ブラッディ・メアリー)

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:2人

 自らの子を産むことが叶わずに死去したメアリー一世の悲劇と、

 エリザベート・バートリーと混同され、鏡から現れる亡霊とされた逸話のミックス宝具。

 鏡から別の鏡へと、異空間を渡って移動する。また、触れたものを自分ごと鏡の中に引きずり込む。

 鏡の中に広がる異空間は、彼女の“何も産み出せない”胎盤に擬されており、

 アサシン以外の存在を血液に変換し、体内に吸収することで魔力を補充する機能を持つ。

 今回は周囲のガラスを媒介に発動された。

 

 

 

 



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ネギせんせーの英雄の卵エクササイズ1

敵も味方も戦力が増えて大変なことに


『……ネギ』

 

ネギが自室に帰ろうとエヴァンジェリンの自宅から出た瞬間、ランサーが急に声をかけてきた。

その声は焦っているような戸惑っているようなものだった。

 

『どうしたのランサー?』

 

ネギも何やら不穏な気配を察する。

ピリピリとした空気を感じるのである。

 

『戦闘の気配だ』

 

ランサーの一言で、予感が的中してしまったことをネギは理解した。

すぐに自身の杖に乗り、加速する。

 

「どの辺りか分かる!?」

『恐らくはショッピングモールの辺りだ。魔力のぶつかり合いを感じる』

 

一通り町を案内したおかげか、ランサーの台詞で戦闘の位置を正確に把握できた。

即座にその方向へ杖を向け直し、加速する。

 

「兄貴! 何が起こったんでさぁ!?」

「カモ君! 向こうで戦いが起こったみたいなんだ!」

「なんだってぇ?!」

 

驚いた様子のカモ君を肩に乗せたままショッピングモールがある方向を指差す。

一体誰が戦っているのか。

一瞬生徒のみんなの顔が思い浮かんだが、即座に頭を振った。

まだそうと決まったわけじゃないからだ。

 

 

 

「っ! 見えたよ!」

 

すぐに目的の場所に辿り着いた。

周囲を見渡すと、今まさにガラスの中に取り込まれようとしているスピカがいた。

 

「スピカさんっ!」

 

咄嗟に手を伸ばす。

無我夢中で、スピカが危険な目に会うと思ったら動かずにはいられなかった。

 

しかし、その手を空を切る。

あと一歩というところで、とぷんという音と共にスピカはガラスへと消えていった。

 

 

 

「間に合わなかった……!」

「兄貴……」

 

ギリ、と歯を食いしばるネギ。

自分がもう少し早く辿り着いていれば。

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

辺りを見渡しても誰もいない。

スピカをあんな風にした人物は既にいなくなったということだろう。

 

考えろ、ネギは自分に言い聞かせた。

思考を止めることは負けを認めることだ。

アーラシュと一緒に行動した時に言われた言葉の1つだ。

 

 

 

「ネギ先生っ!」

「夕映さん、のどかさん!」

 

少しすると夕映とのどかが走ってくるのが見えた。

息も絶え絶えだ。

 

少し落ち着かせると、夕映がとんでもないことを口にした。

 

「女子寮でも何か大変なことが起きたです」

「なんですって!?」

 

聞けば女子寮で大きな揺れがあったとか。

今度こそ……ネギの脳裏に生徒達の顔がしっかりと浮かんだ。

僕が守らないといけない。

ぎゅっと手を握り締め、ネギは女子寮へと杖に乗って飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「どこですか……!」

 

女子寮に到着したネギは神経を研ぎ澄まし、周囲の様子をうかがう。

きっと急ぐだけじゃ意味がない。

ちゃんと考えて、正確に動かなくちゃならない。

 

「きゃああああああ!」

「っ!」

 

悲鳴だ。

ネギは即座に駆け出し、悲鳴の聞こえた方向へと急ぐ。

スピカのことを思い出し、今度こそはという思いも込めて。

 

 

 

「っ! 千鶴さん!」

 

悲鳴の聞こえた部屋へと駆け込むと、今にも攫われそうな那波千鶴の姿が見えた。

そして壁に叩きつけられた小太郎の姿も見える。

動くこともできずにしゃがみ込んでいる村上夏美の姿もあった。

 

動けない。

今動けば村上夏美も巻き込んでしまう。

 

 

 

結局、ネギは何もできないまま那波千鶴を攫われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするんやネギ。明らかに罠やで」

「……それでも向かわなくちゃ。みんなが危険な目にあってるんだから!」

 

小太郎の傷を治し、村上夏美を落ち着かせてからネギと小太郎は並走していた。

向かう先は指定されたステージ。

一分一秒でも時間が欲しい中、唐突にランサーが霊体化を解いて姿を現した。

 

「……分かった。()()()()の意志を尊重する」

「だ、誰やこのおっさん!?」

 

ネギは聖杯戦争のことを簡単に教え、その参加者であることも教えた。

そしてその参加者の助けになる存在がサーヴァントであることも。

 

「サーヴァント……つまり、味方ってことでいいんやな!」

「そうだ」

 

やけに素直だ。

ネギは初日のランサーの態度を思い出すが、今はその時ではないと思い直す。

今はあの紳士風の男を倒さなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

「……来たか、ネギ君」

「来ました……さあ、みんなを離してください!」

 

那波千鶴、刹那、古菲、和美、スピカ。

そして明日菜。

みんな囚われてしまっている。

 

ステージには数多くの鏡が立ててあったり寝かせてあったりしている。

あれには一体何の意味があるのか。

分からないが、今ネギにそれを考えている余裕はなかった。

 

「ランサー!小太郎クン! みんなを助けるよ!」

「了解した、マスター!」

「おうよ、ネギ!」

 

3人同時に飛び出す。

すると地面から水……否、人影が飛び出してきた。

見た目は小さな女の子だ。

 

「任せろ」

 

ランサーは一歩先を行き、槍を薙ぎ払う。

その槍先はまるで見えない。

その一撃が周囲の女の子を弾き飛ばした。

 

そしてそのまま疾走。

あまりに速く、2人を後方に置いて駆ける。

そして一気に紳士風の男へと肉薄した。

 

 

 

しかし、それを阻む者がいた。

ネギからすれば必殺にしか見えない突きを、誰かが止めたのである。

 

「……アサシン」

 

サーヴァント……!

ネギは新たな敵の登場に緊張を高めた。

 

「……畏まりました」

 

アサシンは小さく呟くと、手に持った剣で反撃した。

力任せに振り払われたそれに、ランサーは押し戻された。

 

 

 

「ランサー!」

「こちらは任せろ! 今は仲間を救えっ!」

「はい!」

 

ネギはランサーに言われた通り、紳士風の男に肉薄する。

即席ではあるが、なんとか小太郎とのコンビネーションも形になっている。

少なくとも不利な状況ではなかった。

 

 

 

サーヴァント同士のぶつかり合いは一見一方的だった。

ランサーの槍が振るわれたと思うと既にアサシンの姿はなく、気付けばランサーの背後に出現する。

そして剣がランサーに向かって振り降ろされる。

それを赤い盾で防いだランサーが、そのまま盾で地面へと叩きつけようとする。

 

それをアサシンはまた消えることで回避。

ランサーの反撃はすべて見切られているように見えた。

 

 

 

「……そうか、鏡だ! 兄貴! アサシンは鏡を媒介にして移動してるんだ!」

「!」

 

アサシンの様子をじっくりと観察していたカモが叫ぶ。

カモの台詞にネギも漸く合点がいった。

なるほど、鏡が所々に配置されているのはそれが理由なんだ。

 

 

 

ならばその鏡を砕く。

ネギは即座に魔法の矢を放つ準備をする。

 

「させると思うかね?」

 

ズ、とネギの前に紳士が立ちふさがる。

今にも攻撃を放つ直前だ。

 

「悪いなおっさん。今の相手は俺や!」

「む」

 

そこに小太郎が直撃する。

側面から勢いよくぶつかった。

 

「ラス・テル マ・スキル マギスキル! 光の精霊(セプントリーギンタ)37柱(スピーリトゥス・ルーキス)集い来りて(コエウンテース)敵を射て(サギテント・イニミクム)魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の37矢(ルーキス)!」

 

ネギの杖から魔法の矢が飛び出す。

狙いは舞台に設置されている無数の鏡だ。

 

「見事だマスター!」

「ちぃっ!」

 

鏡が砕けたことで、ランサーが即座に攻勢に乗り出す。

カモの言う通り鏡を媒介に移動していたようで、ランサーの攻撃を回避することができなくなっていた。

 

サーヴァント同士の戦闘は一気にランサーの優位に傾いた。

ランサーの攻撃が通るのに、アサシンの攻撃は通らない。

まるで何かの加護で守られているかのようだった。

 

 

 

その様子を見て、迷いなく紳士との戦闘に専念するネギ。

小太郎との連携が上手く行き、優位に立っているとネギは確信した。

このままいけば、必ず勝てると。

 

何せ小太郎から相手を封印する瓶を受け取っているのだ。

今、自分たちはその射程内で格闘戦をしている。

隙があれば即座に瓶を使って封印する……!

 

 

 

しかし。

 

 

 

「魔法が……!」

「かき消された……!?」

 

紳士風の男を封じると思われた瓶は、その効力を発することなく床に落ちた。

呪文は完璧だった。

魔力も充分。

 

それなのに何故。

ネギは困惑した。

 

 

 

「マジックキャンセル……魔法無効化能力という奴だよ」

「そんなっ」

 

 

 

紳士風の男が種明かしをする。

しかもそれは明日菜の能力だという。

 

魔法が通じない。

それはネギ達にプレッシャーとしてのしかかる。

攻撃手段の大半が通用しないということだからだ。

 

 

 

「どうしよう……!?」

 

 

 

ネギは声を上げるが、打開策は見えてこなかった。

 

 

 

 

 

 



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コスプレライダーちう3

ゆえゆえ動いて(切実)


「なんだ……どうなってる……!?」

 

千雨はライダーが斬り裂いたと思った敵サーヴァントが消えていることに気付いた。

敵サーヴァントに張り付いていた花びらがなくなっていたからだ。

 

「チッ……令呪か」

 

ライダーは舌打ちすると剣を消す。

令呪と聞いて、召喚された直後のライダーに聞かされたことを思い出す。

確か強力な魔力を使い、色々な現象を起こせるとか。

共闘したからだろうか、キャスターを警戒する様子はなかった。

 

「令呪って何ー?」

「さあ……?」

「もー何にも知らんやんかー!」

 

木乃香とそのサーヴァントの会話はふんわりしてる。

どうにも気が抜ける。

今はきっとそんな場合ではないというのに。

 

「そこのところ、どうなんだライダー?」

「ああ()()()。さっきのサーヴァントはまだ何かやらかすつもりだろうよ」

 

大立ち回りとした結果、辺りは激しく傷付いていた。

それに無数の花びらも落ちている。

これは片付けに手間取りそうだ。

 

 

 

「あ、そういえば。くるくるーっと」

 

辺りの惨状に気付いた木乃香のサーヴァントは、指先を上に向けくるくる回転させた。

すると、それだけで辺りの惨状が巻き戻されていく。

 

「お前、キャスターだったのか」

 

ライダーが呟く。

その声はあまり深刻そうではない。

何となく想像はついていたのだろうか。

 

「ええ、そうですよー。純和風でしょう?」

 

くるりと回り、キャスターは自身の格好をアピール。

確かに紅白巫女服で黒髪長髪。

実に大和撫子だ。

後でコスプレの参考にしよう。

 

「じゃなくて。どういう経緯であんなのに襲われる羽目になるんだ?」

 

千雨は巫女服を着る自分の姿を頭から追い出し、木乃香に事情を聞くことにした。

自分と似た境遇に置かれた木乃香に何となく親近感でも芽生えたのだろうか。

色々思いながら、木乃香に向かい合って話す。

 

「うーん。考えても思い浮かばんのよー」

「そうか……」

 

木乃香はそう思っているようだ。

襲い掛かって来た相手に何の心当たりもない。

そんなことがあり得るのだろうか。

 

 

 

「……いえ、心当たりはあります」

 

すると、キャスターがそう漏らす。

確信はないとのことだが、それでもあんな相手を野放しにしてはおけない。

どうにか手掛かりを掴みたい。

 

「ネギ先生です。きっとネギ先生に近い子達が狙われてるんです」

 

ネギ先生。

その名前を聞いて千雨は納得した。

 

彼女にとっての非日常の象徴のようなもの。

それが非日常と関わっていることはなんの不思議もない。

 

 

 

「どうするマスター? ネギ先生とやらを探すか?」

 

「いえ、私が探します。ちょっと待っててくださいね」

 

キャスターがその場で目を閉じ、両手を合わせる。

すると背後から強い光が放たれた。

後光かっ。

 

 

 

「……来ました。外の大舞台? にいるみたいですね」

 

その光が収まると、キャスターが不思議そうな顔で言った。

大舞台。

学祭で使うステージだろうか。

 

 

 

とにかく向かうしかない。

千雨はそう決心したところで、ふと違和感に気付いた。

 

 

 

そう、何故自分がここまで積極的に関わろうとしているのかである。

本来こんな風に誰かに関わろうとしないはずの自分が、どうしてか今回に限っては積極的になっている。

何か原因があるのかもしれない。

 

 

 

「……これか?」

 

思い至ったのは自分の右手の甲に刻まれた令呪。

これに何か細工がされているのではないだろうかと考えたのである。

 

しかし、これをどうにかすることは難しそうだ。

これをなくしてしまうライダーが何をするか分からない。

ただでさえ振り回されているのである。

これ以上制御不能になるのは困る。

 

 

 

「どうしたマスター? 行くんだろ?」

「うおっ!?」

 

ライダーが不思議そうな顔でこちらをのぞき込む。

いきなり顔近づけんな、驚くだろと言うつもりが詰まってしまった。

畜生、こいつが可愛いせいだ。

 

「……よし、行くぞ」

「わたしも行くでー! ネギ君を助けるんや」

 

ぐ、と力こぶを作るように木乃香も言う。

総勢4人のパーティか。

中々頼もしいのではなだろうか。

 

千雨も何だかんだと言ってネギが心配なのだ。

あんな小さな子供が1人で戦う必要はないのである。

少しは年上に頼れってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

データが更新されました

 

 

 

 

 

【CLASS】キャスター

【マスター】近衛木乃香

【真名】???

【性別】女性

【身長・体重】142cm・35kg

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具A++

 

【クラス別スキル】

 

陣地作成:A

 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

 “神宮”を形成する事が可能。伊勢神宮を創建した。

   

道具作成:D

 魔術的な道具を作成する技能。

 

【固有スキル】

 

神性:B

 天照大神の直系にあたり、本人も信仰を集めている。

 

鬼道:A

 天照大神の御杖代として鬼道を取得している。

 周囲に存在する霊的存在に対し、依頼という形で働きかけることにより、様々な奇跡を行使できる。

 行使される奇跡の規模に関わらず、消費する魔力は霊的存在への干渉に要するもののみである。

 あくまで依頼であるため、霊的存在が働きかけに応じない場合もあるが、

 ???は天照大神の御杖代に選ばれているため、成功率は非常に高い。

 

神々の加護:A+

 天照大神を始めとした伊勢神宮に祀られる神々の加護。

 危機に瀕した際に神霊レベルの支援行使が行われる。

 

神託:A

 神の託宣により、その状況での適切な判断ができるようになる。

 Aランクならば常に天照大神の判断を得ることが出来る。

 

 

 

 

 

 

 



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拾われっ子の囚われ事情

これか次が連続更新的には最後になると思われます
風邪ひいて辛い


スピカが目を覚ますと、四肢を拘束された状態で立たされていた。

魔法で作られているのか、半透明な球体に封じ込められている。

 

指にはめられている魔法発動媒体の指輪はそのままだった。

ならばと身体に魔力を巡らせようとするが、違和感に気付いた。

 

「む」

 

そう、魔力が空だったのである。

なるほど、それなら脱出される心配はないということか。

スピカは納得して力を緩めるのだった。

 

 

 

それと同時に、更なる違和感にも気づく。

魔力が回復しないのである。

いや、回復すると同時に消費されていくというか。

 

この感覚はかつての記憶の中にあった。

魔力を強制的に吸い上げられている感覚と同じ。

別に痛くなかったのであんまり記憶に残ってないのだが。

 

 

 

「……! ……ピカさん!」

 

ぼーっとしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

おや知り合い。

ふと目を向けると、そこには綾瀬夕映がいたのだった。

 

「あら」

「あら、じゃないです! 逃げるですよ!」

 

ガンガン、とスピカを封じる球体を叩き割ろうとする綾瀬夕映。

しかしその程度ではビクともしない。

 

それは当然か。

恐らくこの球体はアサシンのサーヴァントが作ったものだからだ。

普通の人間の筋力ではどうしようもないだろう。

 

まあ、こういうことはアーラシュに教えてもらったわけなのだが。

 

 

 

それはともかく。

綾瀬夕映は胸元に手をやり、そこから何かを取り出した。

 

小石だろうか。

スピカにはよく分からなかったが、その小石には魔力が込められていた。

それも綾瀬夕映1人分。

 

それが勢いよく球体へと叩きつけられる。

そして爆発的に魔力が膨らむ。

この時点で漸くスピカも気付いたのだが、エヴァンジェリンに知られたら落第点を叩きつけられるだろう。

 

 

 

火のルーンよ(燃 え ろ) で す !」

 

 

 

瞬間、火炎が視界を覆いつくす。

魔力の量に対して、魔法の威力はけた違いだった。

まるで世界が魔法を強化しているのではないかと思うほど。

 

 

 

いつの間にこんな魔法を覚えたのか。

スピカは拘束が解かれたと同時に綾瀬夕映に駆け寄って今の魔法について問い質そうとした。

 

 

 

「カハッ……ゲホッ……!」

 

 

 

しかし、綾瀬夕映はそれどころではなかった。

喀血である。

スピカの診断では魔力の枯渇が原因としか思えなかった。

 

「ちょっと待って……」

 

喀血するほどの魔力消耗に至ったことはないスピカであるが、それでも大変なことは分かる。

即座に指の先を傷付け、綾瀬夕映の口に突っ込んだ。

 

「もがっ!?」

「えーっと、()()()

 

スピカは朧気な記憶の中から魔力を通すパスを作る魔法を引っ張り出し、即座に発動した。

スピカの魔力は既に回復を始めている。

この調子なら綾瀬夕映の魔力枯渇もすぐに解消されるだろう。

 

 

 

「は、あ……はぁ……」

 

綾瀬夕映の呼吸が落ち着いたので、スピカは漸く周囲の様子を見ることができた。

案外冷静である。

死なないから安全に無頓着なのかもしれないが。

 

上空を見ればネギ先生と見知らぬ少年が紳士風の男と殴りあっている。

周囲を見れば裸族の集団とその他のクラスメイトがいる。

 

 

 

そして眼前に振り降ろされるアサシンの剣。

 

 

 

「ッ!」

 

咄嗟に額を剣へと叩きつけた。

どうせ死なないのだ。

綾瀬夕映が死ぬ可能性を少しでも減らすべきだろう。

咄嗟にそう考える辺り、生死に無頓着過ぎると言わざるを得ない。

 

それに不意を打たれたのか、逆にアサシンの方が驚いているようだ。

そこへ飛び込んでくるライダーと、初見の誰かさん。

2人はスピカとアサシンの間に割って入るように立ちふさがった。

 

「螺旋・太陽鏡!」

 

紅白姿の誰かさんが古びた鏡を掲げると、一瞬で鏡から熱線が何本も放たれた。

威力は圧巻。

綺麗だったであろう舞台が瞬時に火の海へと変わっていく。

 

「ちょっ!?」

 

驚きの声を上げたのは近衛木乃香だろうか。

確かに、木製の舞台で炎は駄目だろう。

そういう問題ではないのだが。

 

 

 

しかしアサシンはそれを回避。

瞬間移動のように熱線の攻撃範囲から外れる。

 

「はぁっ!」

 

しかしそこへランサーの一撃が放たれる。

武骨な槍を体重乗せて叩きつけた。

 

威力は十全、完全に不意を突いた一撃。

それを更に回避しようとしたアサシンだが、その片足が茨で動けなくされていた。

 

()()()()()。そのままおっ死ね!」

「っ!」

 

そして粉砕。

剣を持っていた腕を残し、アサシンは消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後で聞いてみると、スピカはアサシンの魔力タンクとして使われていたらしい。

そのせいで魔力が十全になったアサシンが暴れていたとか。

スピカ的にはアーラシュが見当たらないことが不満だった。

 

「……ん? 何?」

「……………いえ、なんでも、ないです」

 

ふと視線を感じたスピカが振り返ると、そこには青い顔をした綾瀬夕映がいた。

やはり口に指を突っ込んだのは駄目だっただろうか。

 

「ゆえっ!」

 

そんなことを考えていると、いきなり綾瀬夕映が倒れた。

宮崎のどかが咄嗟に支えたが、ずるりと崩れる。

 

「夕映ちゃん!」

 

倒れると同時に近くにいたみんなが駆け寄ってくる。

暑苦しい。

いや、そうじゃなくて。

 

 

 

スピカは頭を振って綾瀬夕映をすぐに担ぎ上げた。

ここは場所が悪い。

先程まで炎が舞い上がっていた舞台の上である。

 

「エヴァンジェリンのところに行くわよ」

 

こういう時はエヴァンジェリンだ。

きっと何とかしてくれるだろう。

スピカの信頼は重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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このちゃんキャスター漫遊記3

ひとまずこれで区切りです
次の更新は26日辺りになると思われます


「……魔力の枯渇か。ギリギリになるまで使い切ることはあるとはいえ、これは……」

 

エヴァちゃんがベッドに寝かせた夕映の様子を見ている。

容体は安定しているというが、未だに不安である。

 

「夕映、胸に何かつけてたのよ。それが原因だと思うの」

「これか。……古代ルーン文字、か?」

 

スピカが夕映の胸元を指差す。

エヴァちゃんがそこをまさぐると、そこから小さな小石が出てきた。

 

ルーン文字?

木乃香は不思議そうな顔で宙に浮いているであろうキャスターを見るが、そちらも不思議そうな顔をしていた。

やっぱりなんにも知らんやんかー。

 

「古いな。しかも危険だ」

 

エヴァちゃんは深刻そうな顔で小石をつまむ。

そしてその古さと危険性を語る。

 

 

 

ルーン魔法は持ち主の魔力を消費する魔法であり、その比重が重いのだという。

しかも新しい魔法に存在しているような魔法のセーフティー機能も存在していないほど古い魔法なのだとか。

これがないせいで、夕映は魔力を限界まで使って倒れてしまったのである。

 

 

 

「正直生きてるのが奇跡のようなものだ。スピカに感謝するんだな」

 

ペチンと夕映の額を叩いて解説を終わらせるエヴァちゃん。

それでも夕映は目を覚ますことなく、小さな寝息を立てている。

 

「はうーよかったー。ゆえー」

 

のどかがぎゅっと夕映に抱き着く。

親友が命の危機と聞けばこうなるのもわかる。

木乃香自身もせっちゃんや明日菜が命の危機だったと言われれば抱き着くこともやむなし。

 

 

 

「ところで、だ」

「うん?」

 

ちゅーっと木乃香がジュースを飲んでいると、すっとこちらの方を向くエヴァちゃん。

何やら顔がひくひくしてる。

もしかして怒っているのだろうか?

 

「なにー?」

「お前らもサーヴァント付きかー! どうなってるんだうちのクラスはー!」

 

うがーとでも表現するべきか。

そんな擬音が似合う表情でエヴァちゃんが叫ぶ。

そんなん私のせいと違うやんかー。

 

「えーと……挨拶とか必要でしたー? キャスターですー」

「違うわっ!」

 

ふんわりとした表情と動きでキャスターが笑う。

それにしっかりツッコミを入れるエヴァちゃん。

優しいわー。

 

 

 

「しかし、マスター。こいつら色々と知ってそうだぜ」

 

キャスターとは違って、どっしりと構えているライダー。

舌なめずりという言葉が似合いそうな表情。

やーんえろえろやー。

 

「……確かに、私達は色々知らないからな」

 

大きくため息をするちうちゃん。

困ってそうでしたからねー、とキャスター。

そういうのちゃんと言おう?

 

 

 

「聞かせてくれよエヴァンジェリン。この騒動の発端って奴をさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまりはこのスピカが原因ってことじゃねーかっ!」

「痛い。痛いってばちうちゃん」

「ちうちゃんはやめろぉ!」

 

一通りの話を聞いたちうちゃんはベシベシとスピカの頭を叩く。

スピカは反撃だろうか、軽めのアッパーカットをちうちゃんにガシガシと繰り出す。

仲良し。

 

「まあ、これは私も想定外だったというか……」

 

エヴァちゃんが顎を掻いて若干気圧され気味。

 

確かに、聞いた限りではこんな状況になるとは思っていなかったようである。

それに気付いていた可能性のあるザジやアーラシュの姿も今はない。

ははーん雲隠れって奴やな?

 

 

 

「まあまあ。緊急性の高い話だったみたいですし? 今は置いておきましょう」

 

殴りあいに発展しそうだった2人を引き離して、キャスターが話を進める。

なお顔面を掴んで引き離しているため2人の呼吸は止まりそう。

筋力Eはどこに行ったん?

 

「一番関わっていそうな奴がいないからな。その辺りは当人に聞こうぜ」

 

ライダーがニヤリと悪人のような笑顔を浮かべながら言う。

可愛い顔と相まって凶悪そうに見えた。

 

「ええ、可愛いライダーちゃんの言う通りですね」

 

ふわふわとした笑顔を浮かべるキャスター。

その内心は何を考えているのかよく分からない。

いや、もしかしたら何も考えてないのかもしれない。

本来敵であるはずのライダーを可愛いとか言ってるし。

 

 

 

「ところでー……ネギ先生? でしたっけ?」

「は、はい!」

 

ふわふわとネギ君に寄って行くキャスターに、緊張気味のネギ君。

何か用でもあるのだろうか。

 

ぼーっと見ていると、キャスターの手がネギ君の頭を撫でた。

なでなで、なでなで。

 

「はー満足しました」

 

なんとそれだけだった。

唐突な上に意味不明である。

 

ツヤツヤしたキャスターをネギ君から引き剥がし、ペシペシと叩く。

結局なんだったんよー。

保養って奴ですよ保養。

木乃香にはよく分からないことのようだ。

 

 

 

「とにかく! ここには1日滞在してもらうからな!」

 

エヴァちゃんがパンパンと手を鳴らして話を終わらせる。

そういえば、1日経たないと別荘から外に出られないのだった。

 

どうしようかと悩んでいると、視界の端っこに真っ暗なオーラを纏ったせっちゃんがいた。

ぶつぶつと小さく何かを呟き、物理的に沈んでいきそうなせっちゃん。

 

きっと自分のことが役立たずだと思って落ち込んでいるんだろう。

そう当たりをつけて、木乃香はせっちゃんに抱き着くことにした。

 

「せーっちゃん!」

「わひゃあっ!?」

 

ぎゅーって後ろから抱き着くと、可愛い声を上げて驚くせっちゃん。

やーん可愛い。

ぐりぐりとせっちゃんに頭を押し付けると、困ったように身体をくねらせる。

やーんもっと可愛い!

 

「このちゃ……やめ……!」

「うりうりうりー!」

「あーん!」

 

ぐりぐりしていると、手を振り払って逃げ出してしまうせっちゃん。

もっと触っていたいー。

でも身体能力的にマジ逃げされるとどうしても勝てないのであった。

 

というか翼使って逃げてるし。

 

 

 

「……何がいけなかったんやろ?」

「全部ですかねー?」

 

 

 

 

 



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ネギせんせーの英雄の卵エクササイズ2

ちょっとメンテのおかげで時間が空いたので更新
かぜひいてあたまいたい


「……」

 

ネギは考えていた。

アサシンのマスターだった悪魔。

そして、その雇い主である謎の人物について。

 

ネギ自身、悪魔が悪い悪魔だとは思えなかった。

仕事上仕方なくという面もあっただろう。

それと同時に彼自身の楽しみもあったのだろうが。

 

 

 

アサシンについても考えてみようと思ったが、彼女はネギに対して何もアクションを起こさなかった。

それどころか、ネギから離れようという意志を感じたほどだ。

何か理由があったのだろうか。

 

考えてみたものの、まともにぶつかりあったこともない相手を理解できるほどネギは万能ではなかった。

 

 

 

「マスター」

 

思考に沈む直前、ランサーがネギに話しかけてきた。

彼はアサシンと相対していた。

もしかしたら何かわかるかもしれない。

 

「ランサー、あのね……」

 

 

 

「思い悩むな」

「えっ」

 

ランサーはネギの頭をポンと叩き、優しい声で言う。

 

「思い悩むな。マスターには少々早い話だ」

 

ランサーはぐりぐりとネギの頭を撫でた。

若干不満なネギだったが、甘んじてそれを受ける。

 

「私も、同僚から周りをよく見ろと言われたものだ」

「え……?」

 

眩しそうな顔をしたランサーが、昔を懐かしむように語る。

 

いや、実際昔の話なのだ。

ランサーは過去の英雄がクラスにあてはめられて存在している。

つまりランサーは故人であり、かつて過ごした日々があるのである。

 

 

 

「だからマスター、君も周りをよく見るといい。力を貸してくれる仲間がいるはずだ」

 

ランサーの言葉にはっとなる。

そうだ、僕には助けてくれる仲間がいる。

たとえ自分1人だけでは解決できないことも、力を合わせれば何とかなるかもしれない。

 

そして思う。

ランサーにもきっと仲間がいたのだろう。

その仲間たちがどんな人たちだったのか。

ネギはとても興味を抱いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、サーヴァント同士がこれだけ密集していて戦闘にならないとは不思議だな」

 

ランサーが呟く。

そういえばそうだ。

戦争というからには、もっと激しい戦いがあるものだと思っていた。

 

しかし、蓋を開けてみるとサーヴァントはほとんど生徒が召喚していて、戦いに発展しなかった。

いや、戦いになっては困るのだが。

 

「でも、まだ正体が分かっていないサーヴァントもいます」

 

アーラシュが言っていた、黒いサーヴァント。

ライダーも何度か接触したという。

そのサーヴァント正体が未だにつかめない。

 

「マスターが分かっている分、もどかしいな」

「何が目的なんでしょうか……?」

 

分からない。

分からないが、人を襲っている以上見過ごせない。

 

それに、まだ一切情報が手に入っていないサーヴァントもいる。

油断することはできない。

何が原因で何が起こるか分からないのだ。

 

 

 

決意を新たに、ネギは別荘を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ1日経ってないぞ」

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の話。

 

その日は休日だった。

ネギは他のサーヴァントたちと協力してパトロールをすることにした。

 

師匠は家に籠って何かをするらしい。

内容は誰にも教えてくれなかった。

ついでのようにスピカも残るという。

何か問題でもあったのだろうか。

 

 

 

「いいですよー。頑張りましょうねー」

「もー」

 

ふんす、と聞こえて来そうな表情で力こぶを作るキャスター。

どうやらやる気のようだ。

ネギは負けていられないと気合いを入れなおした。

 

 

 

「仲良しこよしは趣味じゃねぇが……まあ、あっちの方が気に入らねぇからな」

「結局どういう理屈なんだよそれ……」

 

ライダーはどことなく不満気だったが、最終的には協力してくれることになった。

ちうさんはお腹を押さえて腹痛に耐えているようだった。

心配したのだが、うるせーと張り倒されてしまった。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか夕映さん?」

「大丈夫です。一晩寝たらばっちりですよ」

 

ぐ、とガッツポーズを作って見せる夕映。

しかし、どことなく力がないように見える。

本当に大丈夫だろうか。

 

「私も見張ってますし、大丈夫ですよー」

「のどかさん……」

 

ふんわりとした笑顔を浮かべるのどか。

なんだか安心して任せられそうだ。

 

「まあ大丈夫でしょ。私達もついてるし」

 

明日菜が肘でちょいちょいとネギをつっつく。

どうやら任せろという合図らしい。

ネギは小さく笑いながら、わかりましたと返事をする。

 

「ワタシも戦うアルヨー!」

「後方支援なら任せて!」

 

古菲と朝倉も胸を張って返事をする。

その元気な様子に頼もしいと思ったネギ。

 

 

 

きっと上手く行く。

確証はなかったが、ネギはそう思った。

 

 

 

 



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綾瀬夕映の聖杯戦争ラグナロク4

古戦場のメンテ連打で怒りの更新2

綾瀬夕映をいじめてる感じですが、綾瀬夕映のことは大好きです
是非この困難を乗り越えて覚醒して欲しいです(外道感)


『やっぱりぶっつけ本番は危なかったねー』

 

綾瀬夕映は未だにズキズキする頭を抱えながら、サーヴァント探索に勤しんでいた。

体調は最悪、 気分も下降気味。

魔力だけはスピカのおかげで十全であった。

 

『これは……きついですね……っ』

『本来なら死んでたんだけどねー』

 

軽く言ってくれるですね。

綾瀬夕映はスピカに感謝しながらロキに悪態をつきつつ、神経を研ぎ澄ませる。

 

使うルーンは探索のそれ。

誰もが寝ている中、別荘の中でこっそりと作ったルーン石である。

 

探索のルーン(探すです) よ」

 

小さく呟く。

誰にも聞こえないくらい小さい声。

その言葉が、小石の文字に魔力を通した。

 

「っ……」

 

ズキリと頭に痛みが走る。

それと同時にスピカの額が割れる光景が浮かんだ。

 

痛みをこらえ、スピカが自分を庇う光景をかき消し、魔力を通し続ける。

どうしてここまでするのだろうか。

綾瀬夕映はふとそう思うが、痛みに思考が流されてしまう。

 

 

 

 

「っ……こっちから何か音がするです」

 

反応があった。

適当に理由をでっち上げ、みんなを誘導する綾瀬夕映。

 

場所は少し路地の奥に入った場所だ。

比較的危険と言われているが、既に何度も修羅場を潜り抜けている綾瀬夕映には軽いもの。

そう思っていた。

 

 

 

しかしそこには。

 

 

 

血塗れで倒れているたくさんの人。

 

 

 

「ヒッ!」

 

小さな悲鳴。

それは誰が上げたものだったのか。

 

そして()()()と、血塗れの人たちの向こう側から現れる黒い影。

それは不定形で、ぐちゃぐちゃになったモザイク。

崩れては膨らみ、また崩れては膨らむ。

 

そして手のような何かが、集団の先頭である綾瀬夕映へと向けられた。

ゆっくりと確実に進んだそれは、綾瀬夕映の頬を撫でた。

 

 

 

―――――ジリ……と頬が焼けた音がした。

 

 

 

「シッ!」

 

真っ先に動いたのはランサーだった。

武骨な槍を掲げながら、赤い盾で綾瀬夕映と黒い何かとの間に割って入る。

 

そして叩きつける。

勢いよく槍は黒い何かを潰し、そのまま両断した。

 

 

 

しかし黒い何かは動きを止めない。

分断されたまま黒いそれを触手のように伸ばし、ランサーを狙った。

 

狙いは全て急所。

一つでも捌くことができなければ戦闘は困難になるだろう。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

その一切をランサーは回避することなく()()()()()()

そして、分割された黒い何かを赤い盾で圧し潰すように仕留めたのである。

 

 

 

攻防は一瞬。

しかし緊張と恐怖によって、その時間が酷く長く感じた。

 

喋る者はいない。

誰もが一瞬の緊張と目前の恐怖に動けずにいた。

 

 

 

「……っみなさん! 怪我人を助けましょう!」

 

そんな中、声を発したのはネギ先生であった。

真っ先に怪我人に駆け寄り、回復魔法をかける。

すると、みんなが少しずつ動き出し、怪我人を運び始めた。

 

ネギ先生がいなければ、きっと誰も動くことができなかっただろう。

それほどまでに目の前の惨状は酷いものだったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫です、みんな生きています……」

 

応急処置を終え、ネギ先生が一息ついた。

みんなも何もしていないにも関わらず、疲れに襲われその場にへたり込む。

 

 

 

「さて、怪我人を運ぶとするか」

 

そんな中、1人平気な顔で怪我人を担いでいるランサー。

確かに怪我人には慣れっこなのだろう。

サーヴァントが自分達とはどこか違う存在なのだと、改めて思った。

 

 

 

『……ふーん』

『……なんですか?』

 

唐突に、今まで黙っていたロキが口を開く。

怪我人を運んでいる最中のことだったので、声が漏れそうになってしまった。

 

『ランサーが黙ってるならいいかなーと思ったんだけど』

『だから……なんですか?』

 

のんきな声で喋るロキに、若干苛立ち始める綾瀬夕映。

今忙しいのだ。

さっきの戦闘に参加しなかったロキに構ってる暇はないのである。

 

 

 

『そう? じゃあ言うけど』

 

ロキは邪険にされたことも気にせず、そのまま話を進める。

図太いというかなんというか。

そういうところは見習うべきなのだろうか。

 

 

 

『ランサー、さっき1人殺したよ』

 

 

 

「……………え?」

 

 

 

しかし、その直後の台詞に綾瀬夕映は凍り付く。

人が1人死んでいる。

それはつまり、()()()()()()()()()()()()ということだろうか。

 

『察しがいいね。そういうことだよ』

 

ニヤリと擬音が付きそうな雰囲気で、ロキが言う。

ああ、しかしそれは。

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

頬に黒い何かが触れた時、聞いたのだ。

助けて、という小さな声を。

 

それはあまりに小さい声で。

まるで最後の力を振り絞ったような声で。

 

 

 

それを、綾瀬夕映は無視したのだ。

自分達の安全の為に。

 

 

 

頭痛が酷くなる。

スピカの額が割れる光景がフラッシュバックする。

先程黒い何かが触れた頬がジリジリと痛む。

 

もしかしたら止められたかもしれない。

そう考えただけで吐き気がする。

 

 

 

「……ゆえ?」

「のど、か……」

 

しかし、そんな気持ちはのどかを見て薄れていった。

そうだ、自分が勝手な行動をとれば他の誰かが傷付いたかもしれないのだ。

だからこれは仕方ないことなのだ。

 

綾瀬夕映はそう自衛する。

そうしなければ、今まで自分を支えてきた柱が折れてしまう。

それはきっと自分を壊してしまうだろうから。

 

 

 

「……大丈夫ですよ、のどか。私が守るです」

 

 

 

そして決意する。

のどかや他のみんなをこんな気持ちにさせない。

その為には、どんな困難だって乗り越えてみせる。

 

 

 

頭痛が酷くなるが無視。

スピカの惨状がフラッシュバックするが無視。

ジリジリとする頬の痛みも無視。

 

 

 

胸元の火のルーン石を握り締める。

結局没収はされなかった。

スピカの魔力があれば死ぬことはないだろうという判断からだろうか。

 

 

 

けれど。

みんなを守れる力がある。

それだけは確かである。

 

 

 

『……』

 

 

 

そして、悲痛な覚悟を決めている綾瀬夕映を、ロキは無言で見つめていた。



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コスプレライダーちう4

古戦場怒りの(ry
短めですが、よろしければどうぞ


「くそっ……今日は豪勢だなっ!」

 

ライダーは悪態をつきながら黒い何かと相対していた。

数は3。

ライダーを囲むように並ぶ黒い何かは、触手のようなものを伸ばしてライダーを攻撃してる。

 

ライダーは触手を剣で切り払い、薔薇で受け止め、擬似直感で回避する。

既に10分以上経過しているが、両者ともに致命傷には至っていない。

 

 

 

「大丈夫かよライダー……」

 

千雨は少し離れた路地の外から、路地の奥で繰り広げられている戦闘をのぞき込んでいた。

確かに致命傷は避けているが、服の所々は裂けていて素肌が見えている。

そしてそこからは黒く滲んだ怪我のようなものも見えていた。

 

「ライダーはここで見てろっていうけどな……」

 

やはり何もできないというのはもやもやする。

あんなところに突っ込んでも何もできないことはわかるが、それでもだ。

 

やはり魔法でも習うべきだろうか。

いやだけど、付け焼刃でどうにかなる問題じゃない。

 

 

 

千雨がぐるぐると思考していると、戦闘に動きがあった。

同時に放たれた触手をライダーが壁を蹴りながら跳び上がり回避。

そしてそのまま黒い何かの本体の内1つを叩き割ったのだ。

 

「ん? ……まあいい、このまま終わらせるっ!」

 

ライダーは残りの2体に向かって駆け出し、すり抜けざまに切り裂いた。

どうやら最初に斬った相手が一番厄介だったらしい。

残りの2体は抵抗する間もなくあっさりと消滅した。

 

 

 

「お、終わったのか……?」

「ああ、俺様の完勝だ」

「あーはいはい。凄いですねー」

 

ドヤ顔のライダーを軽くいなし、千雨は辺りを見渡した。

新しい黒い何かが出てくる様子はない。

ひとまずは安心である。

 

「お前、最近俺様の扱いが雑になってないか……?」

「そんなことねーよ」

 

俺様は皇帝だぞーという妄言(ではないのだが)をスルーし、千雨は考える。

唐突に増えた黒い何かについてである。

 

少なくとも何か理由があるからだろう。

例えば()()()()()()()()()()()()()()とか。

 

 

 

「……いや、そうあって欲しくはないな」

 

誰かが死んでいる、なんてことを考えるのは嫌だ。

こちとら元一般人だ。

もっとこう、安心安全な感じが一番いい。

 

まあ千雨の現状は、そんな環境からかけ離れているわけだが。

 

 

 

「マスターが何を考えてるか大体分かるが、今はそれどころじゃねぇかもしれないぜ」

「? どういうことだよライダー」

 

いつも不敵な笑みを浮かべているようなライダーが、ムカッとしたような顔をしている。

何か気に入らないことがあったのか。

 

辺りを見渡してみると、違和感があった。

先程ライダーが切り裂いた黒い何かはすぐ消滅した。

しかし、最初に斬った黒い何かは()()()()()()()

 

ブスブスと黒い何かは泡立っていて、少しずつ消えていく。

すると、そこには何かが残った。

 

 

 

それは()()()()()

 

 

 

「っ」

()()()()()()()()()()()()()()()。人間を襲う理由も分かったな」

 

平然とそう語るライダー。

千雨は唐突な真実に動けなくなっていた。

 

 

 

「な、んだよそれ……!」

 

けれど、再起動した千雨は駆け出した。

まだ間に合うかもしれないと、()()()()()()()に駆け寄ろうとしたのだ。

 

 

 

「なんとなく分かってたんだろ? これが()()()()()()()()()

 

しかし、ライダーはそれを制止する。

()()()()()()()()

そう言って離れろと身体を押した。

 

「っ……!」

 

千雨は歯噛みした。

 

そう、分かっていた。

自分の手が届かない戦い。

ライダー任せのそれは、本来ルールのない()()だったのだから。

 

それが何の因果かクラスメイトと共闘することになり。

悪魔とかいうファンタジーに出てくる敵役とも戦うことになった。

そんな風に、どこか現実離れした世界観の戦いが続くものだと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

 

 

 

「マスターが気に病むのは勝手だがな」

 

落ち込む千雨にライダーは声をかける。

千雨が振り返り、ライダーの顔を見た。

その顔は、苦虫を潰したような顔だった。

 

「そいつを殺したのは俺様だ。()()()()()()

 

心底嫌そうな声。

これはそう、別にお前の為じゃないんだからね、というアレだ。

 

「……なんだよ、もう」

 

少し気分が晴れた。

折角ライダーが気を使ってくれたのだ。

それに乗っかることにしよう。

 

 

 

「とりあえずこれは……どうすればいいんだ?」

 

 

 

さあ行こう、といったところで躓く千雨。

この状況を放置することもできず、どうにか絞り出した答えが交番であった。

 

前途多難である。

 

 



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このちゃんキャスター漫遊記4

古戦場の本番は今日までだと忘れてました
ちまちま書いてた分を公開します


「てい、てい、てーい」

 

ぺしぺしぺしと、キャスターが黒い何かにお札を張り付けると、黒い何かが消滅していく。

それも端っこの方につけるだけで本体まで消滅するため、とても効率がいい。

木乃香も何枚かお札を握らされているが、使う必要がないだろうくらいお手軽だ。

 

「やっと相性がいい相手が来ましたー」

 

キャスターの気分はいい様子。

ニコニコと笑いながら無双している様はまさにサーヴァント。

 

いつもの剣や鏡は使っていない。

鏡はともかく剣は本来の持ち主じゃないのでー、とはキャスターの談。

 

 

 

渡されたお札を見ると、雲から雨の降っている絵が墨で描かれている。

神託によって最適なお札を選んだとのことだが、どうして雨なのか。

 

 

 

「それはー簡易宝具って奴なんですよー」

 

黒い何かを全滅させたキャスターが、ふわふわしながら帰ってきた。

結構な数の黒い何かを蹴散らしたはずなのだが、無傷である。

 

「ええと、道具作成しながら鬼道を使ってですねー」

 

キャスターは無地のお札を1枚取り出し、どこからともなく取り出した筆でさらさらーっと書き込む。

出来たのは太陽の絵が描かれたお札1枚。

一瞬な上に魔力が使われた様子もない。

どれだけ燃費ええんや鬼道。

 

「完成でーす。これは太陽の特性を持ってますのでー」

 

ひょいっとキャスターがお札を投げると、風に逆らうように路地裏へと向かう。

すると見えないところで爆発し、その奥からいくつもの黒い何かが出て来た。

 

「隠れた何かを照らし出す能力を持っていますー」

 

ふんわりとした笑顔のまま、即座に雨のお札をぺしぺしと張り付けていく。

 

 

 

即座に消滅していく黒い何かを見ながら、木乃香は疑問に思う。

どうして雨のお札で黒い何かが消えていくのか。

 

「え? あれが()()()()()()()()()()()()ですよー?」

「えっ」

「えっ」

 

唐突に話題が飛ぶ。

というか分かってるなら最初に言うてや。

木乃香はキャスターをペシペシ叩いた。

 

 

 

痛い痛いと逃げ回りながら、キャスターは説明をする。

雨のお札は自身の宝具を簡略化したもので、敵の対軍宝具の効果を抑える機能を持っているのだという。

 

「対軍宝具っていうのは広範囲に機能する宝具ってことですねー」

 

私のと一緒ですー、とキャスター。

つまりキャスターは対軍宝具を持っているわけであり。

それをほぼ魔力消費なしで小型にして持ち運べるということだ。

木乃香はよくわからなかったが、エグい話である。

 

 

 

「というか、あの黒いのがバーサーカーの宝具ってことは」

「はい、私が大活躍ってことですねー」

「……うんいやまあ、そうなんやろうけど」

 

ふんす、とやる気満々のキャスターに着眼点はそこではないと思った木乃香。

というかこの情報、早く伝えなくてはいけないのではないだろうか。

 

 

 

そう思った瞬間、建物の上からべちゃりと黒い何かがいくつも降って来た。

バーサーカーはここから木乃香達を逃がさないつもりのようだ。

 

「……囲まれちゃいましたねー」

「あかん奴や……」

 

しゅばばばっとお札を用意したキャスターは黒い何か達へ投げつけた。

木乃香はすぐ勝負が決まると思った。

だって今までもそうだったからだ。

 

 

 

「ああっ()()()()!?」

 

しかし、その期待は裏切られた。

なんと今まで素通りしていたお札攻撃が、黒い何かが持っていた木刀で斬られてしまったのである。

 

わざわざ触れないように準備していたということは、今までの攻撃が知られていたということだ。

つまり、黒い何かはそれぞれが情報を共有しているということになる。

 

「……あれ、ピンチですかー?」

「あかん奴や……!」

 

即座に剣を取り出したキャスターであるが、距離を詰めたりはしない。

何とか隙を見つけてお札を張り付ける為である。

焦っているようで冷静な判断。

いや、ふわふわした雰囲気はそのままなのだが。

 

その様子に木乃香は若干安心する。

何というか、安心させるような雰囲気を醸し出しているのである。

木乃香にはよく分かっていないが、それはキャスターの持つ神性の影響だったりする。

 

 

 

()()()と、黒い何か達が動き出す。

キャスターは木乃香を背後に庇いながら剣を突き出して構える。

木乃香もいつでもお札を投げられるように構えている。

 

 

 

「このちゃん! ……百裂桜華斬!!」

「せっちゃん!」

 

そこにへ、せっちゃんが飛び込むように駆けつける。

放った斬撃は何重にも放たれ、周囲の黒い何かを斬り刻む。

 

しかし。

 

「何っ!?」

 

木刀を持っていた黒い何かだけは、その斬撃の嵐を凌いだ。

 

 

 

そして反撃。

黒い何かは全体をうねらせて勢いをつけ、木刀をせっちゃんに叩きつけた。

 

「ぐ、うっ」

「せっちゃんっ!」

 

強烈な一撃がせっちゃんを襲い、思い切り弾き飛ばされる。

そして、キャスター達の足元まで吹き飛ばされた。

 

木乃香はすぐに刹那へと駆け寄る。

せっちゃんは腹部を押さえている。

骨が折れたのかもしれない。

 

「ええと、ええと」

 

エヴァちゃんから教わった回復魔法があったはず。

そう考えて思い出そうとするが、焦ってしまい上手く思い出せない。

 

「大丈夫ですよマスター。私がついてます」

 

ふんわりとした声が上から聞こえてくる。

その声に勇気づけられた木乃香は、しっかりとした声で呪文を口にした。

 

「プラクテ・ピギ・ナル 汝が為に(トゥイ・グラーティアー) ユピテルの王の(ヨウイス・グラ―ティア) 恩寵あれ(シット) 治癒(クーラ)!」

「あっ……」

 

光がせっちゃんの身体を包み、収まる。

すると苦しそうだったせっちゃんの顔が和らいだ。

 

「よかった……」

 

何とか成功したようで、一安心。

キャスターに感謝しなくては。

そう思い、キャスターの方を見上げる。

 

 

 

ポタリと、木乃香の何かが顔に当たった。

何かと思いそれをぬぐうと、それは血液。

 

 

 

「キャス、ター……?」

 

 

 

さっきまで何でもなかったキャスターの胸に、木刀が突き刺さっていた。

 

 



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拾われっ子の甘え事情

古戦(ry
まあ本戦は終わってるので(忘れてた)普通に更新です
一応ですが、スピカはアーラシュが大好きですよ?


「スピカ、身体に異常はないな?」

「うん、大丈夫」

 

エヴァが心配そうな顔で話しかけてくるので、大丈夫だと口にするスピカ。

魔力が流れていく感覚はあるが、それは許容範囲内だ。

大方綾瀬夕映とアーラシュが無茶してるんだろう。

 

そういえば、アーラシュはどこにいるのか。

いい加減姿を現すべき。

スピカは若干不機嫌になった。

 

 

 

「エヴァお姉ちゃんー」

「う、む。なんだ?」

 

スピカはそんな思いを放り投げ、エヴァに甘えることにした。

エヴァは若干戸惑い気味だが、それでもちゃんと反応してくれた。

そのことに嬉しくなったスピカは、ぎゅーっとエヴァに抱き着いた。

 

「こ、こら! 動きづらいわっ」

「えー」

「えー、じゃない!」

 

エヴァが思い切り引き剥がそうとするので、仕方なく離れるスピカ。

魔法まで使われたらたまらない。

いや、エヴァはそんなことしないと分かっているのだが。

 

 

 

暫くの間甘えていると、エヴァが出かける準備をし始めた。

何やら深刻な様子。

スピカもついていくことにした。

 

「……いや、ついてこられても困るぞ」

「アーラシュ探すのもなんか違う」

「なんか違うってなんだ……?」

 

なんか違うのだ。

スピカは上手く説明できなかったが、エヴァは仕方なさそうについてくるようにと言ってくれた。

なんとなくガッツポーズしたスピカだったが、特に理由は思い至らなかった。

 

 

 

「とにかく、真面目な話だからついてくるならちゃんとするんだぞ」

「はーい」

 

 

 

本当に真面目な話でした。

スピカはついてきたことを若干後悔した。

 

 

 

どうやらサーヴァントが麻帆良学園内に潜伏しているとのこと。

そのサーヴァントは人間を乗っ取って動かすことができるのだという。

それも無茶な動きをさせる為に、その人間はほとんど死んでしまうとか。

しかも、乗っ取っている状態でなくても魔法生徒を撃退してしまうほどの戦闘力を持っているらしい。

 

そんなわけで、エヴァに出番が回ってきたということである。

ついでにタカミチがついてくる。

2人っきりだと思っていたから不満である。

 

「ははは、まあ念のためって奴さ」

「は、大方監視だろうさ」

「ふーん……」

 

気に入らない。

スピカはそう思ったが、タカミチには勝てそうにないので諦めた。

アーラシュ相手とはえらい違いである。

 

 

 

今歩いている場所はちょうど駅と学園の中間辺りだろうか。

路地裏が多く、人通りが割とある場所だ。

 

「さて、地道に探そうか」

 

タカミチがそう言った瞬間、路地裏から黒い何かが飛び出してきた。

それはスピカを狙っていたようで、触手のようなものを伸ばした。

 

しかし、それは叶うことはなかった。

エヴァによる氷結魔法によって半身が凍らされ。

タカミチによる居合い拳によってぶち抜かれた。

 

「……噂をすれば影って奴ね」

 

スピカは最近覚えたことわざを使ってみるが、2人は反応してくれなかった。

不満気に頬を膨らませてみるが、それでも2人は反応してくれない。

 

不思議に思って辺りを見渡してみると、ぞろぞろと黒い何かが溢れるように路地裏から出て来ていた。

まるでスライムである。

 

 

 

「これだけ大勢で来るとはね……」

 

予想外だよ、とでも言いたげなタカミチ。

その割にはいつでも準備万端といった様子である。

何となく戦闘中のアーラシュを思い出した。

 

「こいつは……悪趣味だな」

 

エヴァが不愉快そうな顔で言う。

確かに黒い何かの姿形は気持ち悪いと思ったスピカ。

パキパキと氷が弾ける音が聞こえてくるので、エヴァも既に臨戦態勢のようだ。

 

「えーっと……何か言った方がいい?」

 

スピカは何も思い浮かばず、両手を身体の前に突き出した。

自分なりの戦闘態勢である。

 

 

 

しかし、とスピカは思う。

これだけ黒い何かが出てきたのに、()()()()姿()()()()()()()()

気にはなったが、それを口に出す前に黒い何か達が襲い掛かってきた。

 

「ふっ!」

 

即座にタカミチが反応。

見えない拳が2発、3発と飛んで、黒い何かが吹き飛んでいく。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 氷の17矢(セリエス・グラキアリース)!」

 

エヴァは片手で糸を使って牽制し、もう片方の手で魔法の矢を放つ。

糸によって締め上げられた黒い何かは、ギリギリと音を立てて千切れ、消滅していった。

 

「えーっと……ク・リトル・リトル・クリトリア! 氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!」

 

スピカは練習中の魔法の中で詠唱が短いものを選び、大きな氷塊を作り出して叩きつけた。

大きな氷塊は、何体もの黒い何かを巻き込みながら爆散する。

 

「やった」

 

魔法の出来に満足したスピカはガッツポーズをした。

そして自慢しようとエヴァの方に向いた。

 

 

 

すると、目前には黒い何かの顎。

 

 

 

「スピカっ!」

 

 

 

あ、これ1回死んだ。

スピカはそう思って目を瞑って衝撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、いつまで経っても衝撃はやってこない。

そっと目を開けると、目の前にいたはずの黒い何かは消えていた。

 

「あれ……?」

 

それどころか、エヴァとタカミチの姿もなかった。

辺りをくまなく見渡しても影1つない。

まっさらな空間に出てしまったようだ。

 

「ええっと……」

 

手をふわふわ。

足をぶらぶら。

しかし辺りに変化はなし。

 

 

 

ふと、頭にある名前が浮かぶ。

しかし、こんな場所にいるはずがない。

 

だがその名前を呼ばずにはいられなかった。

何故ならそれはスピカにとって大切な人だったから。

さっきからずっと会いたいと思っていたからである。

 

 

 

「アーラシュ……」

 

 

 

すると、目の前に突然アーラシュが現れた。

いつものように間抜けな顔で、それっぽい鎧を着ていた。

 

 

 

しかし、何かがおかしい。

いつものような雰囲気ではない。

なんというかそう、いつも以上に洗練されているというか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アーラシュ?」

 

声が聞きたい。

しかし、応えてくれない。

 

 

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)

 

 

 

なので撃った。

どうせ本物でも偽物でもどっちでもいいや。

撃ってから考えようということである。

 

ぐしゃあ! と大きな音を立てて砕けるアーラシュに、やっぱり偽物かとスピカは安堵する。

本物だったとしても安堵するのだが、それは言わぬが花というべきか。

 

 

 

すると、空間全てが歪んでいく。

何か変な空間に囚われていたようだ。

 

 

 

なんだか気分がよくなってきて、スピカは眠るように意識を手放した。

 

 

 

 



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ネギせんせーの英雄の卵エクササイズ3

ストックがなくなったので更新がゆっくりになります


魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の3矢(セリエス・ルーキス) !」

 

ネギは押し寄せる黒い何かを魔法の矢で牽制し、みんなを引き連れて駆け抜ける。

向かう先は学園長室。

学園長なら何とかしてくれるかもしれないという思いからだ。

 

「ってぇい!」

「ホァチャッ!」

 

明日菜と古菲が側面から押し寄せてくる黒い何かを蹴散らす。

ハリセンで吹き飛ばし、馬蹄崩拳(マーティボンチュアン)で弾き飛ばす。

ランサーは殿を務め、追い立ててくる黒い何かを粉砕していく。

そして、残ったメンバーで怪我人を運んでいる。

 

「はぁ、はぁ……」

「急に増えてきたわね……」

 

増えてきたのは黒い何かである。

まるでネギ達が進むのを阻むように押し寄せてきているのだ。

 

しかし、学園長室までもう少し。

もうちょっと頑張れば辿り着ける……!

 

 

 

「マスター!」

「ッ!」

 

ランサーの呼び声で、ネギは漸く目前に黒い何かが陣取っていることに気付いた。

油断していた。

本来であれば先頭を走っている自分が真っ先に気付くべきだったというのに。

 

 

 

しかし、その黒い何かは今までの敵とは雰囲気が違った。

巨大な鉄塊のような武器を持っているからではない。

他の黒い何かよりも更に人型に近く見えるからでもない。

 

その黒い何かはまるで……アーラシュやランサーと同じく、サーヴァントのようだったからだ。

 

 

 

「……マスター」

「うん、ランサー」

 

ネギは杖を構え、ランサーは槍を構えた。

明日菜とアイコンタクトをし、先に行くようにと促す。

 

「気をつけてよ」

「うん」

 

一言交わす。

そしてネギ達は駆け出した。

 

「はああああっ!」

 

ネギは黒い何かへと直進し、ランサーは怪我人を運ぶみんなをフォロー。

明日菜率いる怪我人を運ぶチームはそのフォローを受けて学園長室へと向かう。

 

すると黒い何かは突撃してきたネギを無視してランサーの方へと向こうとした。

速度は緩慢だが、それが持つ鉄塊はあまりにも凶悪。

それが振り降ろされてしまえば、怪我人が出ることは必至。

 

「させません! 魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス) 光の9矢(ルーキス)!」

 

すかさずネギは魔法の矢を放つ。

狙いは鉄塊を持ち上げている腕と思わしき部位。

 

しかし、まるで泥の中に撃ち込んだように手応えがない。

撃ち抜かれているはずの腕らしき部位はくねくねと変形し、魔法の矢を回避しているようにも見えた。

 

「ならば……!」

 

ランサーが赤い盾を掲げる。

それと同時に黒い何かが振り降ろした鉄塊がランサーへと襲い掛かる。

 

 

 

瞬間、轟音。

 

 

 

地面に罅が走り、ランサーを中心に地面が歪む。

あまりの衝撃に周りの人はネギも含めて体勢を崩した。

 

「ぐ、む……!」

 

ランサーも衝撃を受け、わずかに後退している。

だが、それでも背後に抱えるネギの生徒達と怪我人に指一本触れさせていない。

 

 

 

しかし、ランサーを見てネギが驚愕した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まるで何かに守られていたようなランサーが、その守りの上から傷つけられたよう。

 

「フンッ!」

 

とはいえランサーはそれを意に介している様子はない。

何事もなかったかのように槍を振るい、黒い何かに叩きつけた。

威力は十全、しかし黒い何かはまたくねくねと変形して回避する。

 

「マスター! 広範囲への攻撃を!」

「はい!」

 

ネギは杖を使って飛翔し、上空で魔法の詠唱をする。

ランサーには通らない魔法の内から、広範囲へと放てる魔法を選択した。

 

闇夜切り裂く(ウーヌス・フルゴル) 一条の光(コンキデンス・ノクテム) 我が手に宿りて(イン・メア・マヌー・エンス) 敵を喰らえ(イニミークム・エダット) 白き雷(フルグラティオー・フルゴーリス) !」

 

白銀の雷がネギの手から放たれる。

不規則に放たれる雷が、黒い何かの身体を焼いていく。

 

「■■■■■■ー!?」

 

ここで初めて黒い何かが声を上げる。

いや、それは声というよりも爪で黒板を思い切り削ったような音だった。

 

「仕留める……!」

 

ランサーはネギの魔法によって動きを止めた黒い何かに肉薄し、槍を突き出す。

狙いは黒い何かの中央ど真ん中。

急所と思われる位置に向かって一直線に槍でぶち抜いた。

 

「や、やった!」

 

ランサーの一撃を黒い何かは避けることができずに直撃し、爆散した。

後に残ったのは干乾びた何かであった。

 

 

 

「ランサー! 大丈夫?」

 

ネギは上空からゆっくりと降り、ランサーへと近寄る。

先程の怪我が心配だったのだ。

 

「待て、マスター」

 

走って駆け寄ろうとしたところで、ランサーが制止する。

どうかしたのだろうかとネギが疑問に思ったところで、ランサーが言う。

 

「マスター。君には酷な事かもしれない」

「ランサー……?」

 

ネギは理解できなかった。

何故ランサーが謝るのか。

何故ランサーが悲しそうな顔をするのか。

 

 

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……あ」

 

 

 

分かった、分かってしまった。

何故ランサーが謝ったのか。

何故ランサーが悲しそうな顔をしたのか。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

駆け出す。

今ならまだと。

間に合うかもしれないと。

 

それをランサーが遮る。

ランサーは首を左右に振り、ネギに言う。

もう間に合わないと。

 

 

 

「そんな……」

 

ネギはがくりとその場に崩れ落ちた。

救えなかった。

助けられなかったのだ。

 

きっと助けを求めていたに違いない。

そう考えるだけで、ネギは胸を締め付けられるようだった。

 

 

 

「マスター、君のせいじゃない」

 

ランサーはネギの頭をポンと叩き、優しく諭す。

しかしネギはそれでも、という気持ちが捨てきれなかった。

 

 

 

「マスター。思い悩むな」

 

優しい声だった。

しかし、それでいて力強い声だった。

 

ネギがランサーの方を向くと、その表情は怒りに満ちていた。

そうか、ランサーも怒っているのか。

その矛先はネギではなく、他の何か。

恐らくは、黒い何かを操る誰か。

 

 

 

ネギは立ち上がった。

こんなところで立ち止まっている場合じゃない。

みんなも心配しているかもしれない。

やることはいっぱいだ。

 

「……マスター」

「大丈夫、僕は大丈夫」

 

でも、きっと大丈夫じゃない人が今も増えているんだ。

そんなこと許されるわけがない。

偉大な魔法使い(マギステル・マギ)を目指すなら、きっと避けては通れない道だ。

ネギはそう決意して駆け出した。

 

「皆さんが待ってます。僕達も行かなくちゃ」

「……そうだな」

 

ネギが駆け出してすぐ、ランサーも追いかける。

何か覚悟したような表情を浮かべるランサーに、ネギは気付いていない。

 

 

 

しかし、ネギは思っていた。

それでも、と。

それでも、みんなと一緒ならきっと。

 

ネギは縋るようにそう唱える。

それは仲間を信じているからか、それとも自分を信じていないのか。

彼自身、それは分からなかった。

 

 

 

 

 



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