俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?  完 (ケツアゴ)
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俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?

踏台転生者が出る二次を読んでいて思いつきました


少し追記です


 諸君らは『事実は小説より奇なり』という言葉を聞いたことは有るだろうか? 俺もその言葉を聞いたことは有っても、小説でのみ起こるような摩訶不思議な体験や悲惨な光景を目の当たりにすることは依然としてなかった。

 

 時代が進むと共に今まで創作物でしか見聞きしなかったような悲惨な事件や事故、災害をニュースで知ることもあったが、画面の向こう、何処か別の世界での出来事のように愚かにも感じていた。実際に血や涙を流している人が存在するにも関わらずだ。

 

 閑話休題(其れは兎も角)、俺の幼馴染について語らせて貰おう。今回の話に大きく関わる存在だからだ。まぁ、なんだ。根は悪い奴じゃないんだ……多分。

 

 部屋中に美少女のフィギュアを飾り、百合と言うのか? 女子同士の恋愛や情交を描いた漫画や小説を多く収集していても、其れは個人の嗜好の範囲内、俺は差別するつもりは毛頭ない。俺に何度も勧めてきさえしなければな!

 

 奴とは家が隣で親どころか祖父母の頃からの友人関係。当然俺達も親と共に互いの家を行き来して遊んだものだ。うん。あの頃は奴も部屋から出ていた。そう、あの頃は、ということは今は出ていない。引き籠りなんだ。

 

 言っておくが甘えているだけだと決して言う気はない。引き籠るには引き籠るだけの理由が有るだろうし、其れからどうするかが問題だからだ。奴の場合、クラスメイトに告白して玉砕したのが理由だ。見た目が悪いのかと落ち込んでいたが、まぁ贔屓目に見なくても悪い見た目ではない、とだけは言っておいてやった。実際、美少……悪寒がしたのでこれ以上は口にさせないでほしい。

 

 

「ならば、何故振られたか? 相手の趣味嗜好性癖がお前とは違ったのだろうが……流石に女性専用車両で告白するのはどうかと思うぞ?」

 

「いや、読んだ漫画ではあの方法で……それにほかの車両に呼び出すにしても、男は嫌いだし近付きたくもないんだ。あっ、君は別だよ? 父さんとお爺ちゃんも」

 

「誰が電車内で告白自体は問題ないと言った? お前の頭に詰まっているのはカニミソか?」

 

 この会話を聞いた時点で分かるだろうが大馬鹿者だ。昔から世話を焼かされ、此奴の世話係だと周囲から認識されたのは業腹ものだな。流石にこの理由から高校は別だったのは幸いだが。小学生の頃からクラス委員長を任されて来ているのに、高校でまで馬鹿の相手などさせられてたまるものか。

 

 同じ高校に誘われたが、馬鹿か、とだけ言っておいた。何故通えると思うのだ。

 

 さて、そんな理由で引き籠った幼馴染……名前を(はるか)と言うのだが、夏休みのある日、不意に俺に頼み事をしてきた。ライブに行きたいから同行してほしい、とのことだ。馬鹿だが妙なところで頭が働く遥は株で儲けているらしく、ネットオークションで既に二枚のチケットを手に入れたからとな。

 

 ……ああ、お人よしと笑わば笑え。仕方ないから興味もないバンドのライブに同行してやったさ。外に出た時点で震えて手を伸ばして来たので仕方なく握ってやったが、世話の焼ける奴だ。その道中、乗っていたバスに隕石が衝突して俺達は死んだ……のだったが。

 

 

 

 

「やあ! 今日も天気だね、子猫ちゃん達!」

 

 神様転生、というジャンルが有るらしい。俺は読んだことはないが話には聞いたので知識は有る。もっとも、俺達が会った神と名乗る存在は次元の違う存在で、一方的に娯楽で転生させると言って来たがな。まぁ神話を紐解けば神などそういった存在だろう。

 

 向かった世界は遥の奴に勧められたが合わなかった少年漫画の世界。在り来たりな現代退魔物だ。実は悪魔だか妖怪だかみたいな問題が実在し、ある日巻き込まれて異能力に目覚めた高校生が多くのヒロインに囲まれながら急成長を遂げて行くという凡庸な内容だ。尚、ヒロインの百合百合しいシーンが好きだが主人公は居ないほうが良い、など本末転倒な話をされたが、主人公が居なければ話が成立しないだろうに……。

 

 なお、特典は勝手に頭の中を読んで決められた。

 

 朝、クラス委員長(またしてもさせられた。しかも俺を除く全員の投票でだ)の仕事で向かった職員室からクラスに戻った俺の目の前で馬鹿がまたしてもクラスメイトの中でも人気が高い三人(ヒロインらしい)を口説いていた。

 

 おい、呆れ顔なのに気付け。人が良いから本音を口にできないだけで嫌がっているんだぞ。

 

 

「おい、いい加減にしろよ。毎朝毎朝」

 

「なんだい? これは私と彼女達のスキンシップだ。関係ない男が入って来るのはやめてくれたまえ」

 

 いや、彼女達と主人公(と聞いた)が話をしているのに割り込んだのはお前だからな? 頭痛を感じながらも俺は遥の後ろに気配を殺して歩み寄り、襟首を掴んで引き離した。

 

「むぅ、君も毎朝邪魔をするな。……嫉妬かい? モブ達と君は違うと思ったのだが」

 

「気色の悪いことを言うな。……馬鹿が邪魔したな」

 

「何時も大変ね、委員長」

 

「ありがとー、いいんちょー」

 

「ご苦労様です、委員長」

 

「苦労するな、委員長」

 

 こうして不満そうな馬鹿を力付くで連れて行っても誰も気にも留めない、いや、毎日ご苦労だとか有り難うだとか言われる始末。ヒロイン三人(平凡・小柄・文系)と主人公も最後に俺が止めるのが日常と認識していた。……この世界でも俺は遥の幼馴染……として認識されている。俺達がこの世界に来た時、すでに高校入学前だった。前世とこの世界での記憶を持った状態でな。

 

 ああ、見た目は二人とも同じだ。まったく別の容姿になるのは気持ち悪くて嫌だったらしい。遥が望んだ特典の一つだ。家族も変更点は有れど前世のまま。其れだけでなく病気で死んだ祖父母を病気でなく元気な状態にしているところからすると前世になんの未練もないわけでもないのだろう。それは良い。俺も其処は有難いのだが……。

 

 

 一つ聞かせてくれ。俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?

 

 

 二次小説とやらで踏台転生者の存在を知っているのなら、自分の行動もそれと何故分からない? もしや思考を操作されているのかとさえ思ったが、指摘しても自分と奴らとでは決定的な違いがあると笑うばかり。いや、確かに決定的と言えば決定的だが……。

 

 振られた理由、その決定的な部分だと思うぞ? 引き籠った理由だから口にはしないが……。

 

 

 

 

 そうそう、この世界がどういった世界かは言ったな。そう、化け物や異能力が存在する世界。遥は知り得る限りの最強の特典を能力として貰った。使いこなす才能や外出や戦いに耐えられる精神力と共にな。

 

 俺は戦いたくはなかったが、戦わなければならないと言われ、無事に全うできる生涯と共に『平均的な能力』を貰った。無事に生き残れるならば、目立つ力は前線に出されるのがこういった世界の常だろうからな。

 

 

 

 

「酷いな、君も。何のために男が居る高校に入ったと思っているんだい? 彼女達と触れ合うためさ!」

 

「態々ポーズを付けて叫ぶな、馬鹿者。……それより今夜だが任務だ」

 

 此奴が願った家族の変更点。それは主人公も所属する、化け物と戦うための組織が有るんだが、其処の関係者なんだ。家族に怖がられるのが嫌だったのだろう。臆病なんだ。其れが分かって居るから戦いに耐えられる精神や、前世の家族をコピーして、など願ったのだろうな。連れてきて、じゃないところには感心してやる。

 

 

 

 

 

「只今帰りました、父さん」

 

「うむ。では早速今日の特訓といこう。お前は誰よりも特訓が必要だ。どのような場面でも活躍できるが故にな」

 

 さて、この世界の異能力について解説しよう。ほぼ全員が何らかの能力を秘めて居るが目覚めさせずに終わるのが普通だ。才能有る者が生存本能によって固有の能力を目覚めさせる。『空間凍結』や『炎放出』、遥の奴は神話や伝承に存在する武具防具を呼び出し十全に扱う能力を貰っていたな。

 

 尚、能力にはレベルがあり、元々のレベルの差で同じような能力でも差があるし、目覚めた才有る者の中でも特に才能有る者が死に物狂いの特訓をして上がるかどうか、らしい。十段階で実戦部隊の平均はⅢ。主人公は『炎神』、同じレベルの炎系能力よりも強力な炎を操る上に最初から実戦部隊レベルのⅢらしい。なお、全五巻の中、短期間でレベルⅩにまで上がるらしい。遥は生まれ付きレベルⅩだ。

 

 

 

 

 ……俺か? 俺は平均的と言っただろう? レベルⅢだよ。……『万能』、のな。あの神、誰が全ての能力を平均的に使えるようにと願った!? 全部の能力が使えるから格上とも相性の良い能力で戦えるし、おかげで支部の教官になっていた父から期待されるだの、新人である主人公や馬鹿のお守りをするに十分と組織から思われるだの沢山だ!

 

 

 

 全五巻と書いたが、俺達の冒険はこれからだ、とか、行方不明の主人公の父親がラスボスで今から対決!、だのといったエンドでも、俺はまだ生き残ってるぜ主人公、と悪役が復活フラグを立てるという終わり方でもない。打ち切りだがフラグは全て回収した大団円エンドだ。

 

 なんやかんやあって悪に落ちた能力持ちが色々過去を持つ部下を集め自然発生する化け物を支配して様々な方法で世界を滅亡させようとしたが、幹部を主人公が倒したり、ヒロインになったり、実は幹部の一人が主人公の兄で主人公を庇って死んだり、味方が相打ちになったり、とかで解決した。最後は唐突に表れた大いなる存在が主人公に力を貸し、ビックリな力で実は悪霊だったラスボスの魂を浄化したが凄かったな。

 

 

 ああ、辛かった。遥が主人公の足を引っ張って追い落とそうとしてしたり、ヒロインとフラグを立てようとして知っているはずの無いことをなぜ知っていると怪しまれたり、自分がオリ主なんだってキレたり。

 

 全部鎮圧して問題は最小に抑えたがなっ! 

 

 そして巨悪は倒したがまだ雑魚は存在するので組織は残るのだが、遥の奴は組織を辞めた。能力は高いが性格に難があるし、其処まで強力な力だから問題児なところには目を瞑るしかない程に必要な敵は居ないからと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 この日、大勢に囲まれて遥は幸せそうに笑っている。色々とトラブルを起こした主人公やヒロイン達に祝福されながらな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、綺麗かな?」

 

「ああ、相も変わらずな」

 

 結婚式当日、俺は()()姿()()()に笑い掛ける。どうやら同性愛者で男嫌いの遥だが、俺に対しては本当に別だったようだ。これからも苦労しそうだが、今までの延長線だと思えばどうにかなる。何せ前世からの付き合いだからな。

 

 振られたからと自棄酒に付き合わされ、酒の勢いでねじ伏せられた、とか、急にベタベタ甘えてくるようになって不気味がったら怒りのままに押し倒された、とかは記憶にない。まぁ、嫌いではないし、ズルズルと関係を重ねるよりはと俺から結婚を申し込んだわけだ。

 

「あっ、どうぞどうぞ」

 

 結婚の挨拶をしにいった時の反応が軽かった......。うん、予想はしていたが軽かった......。

 

 

 

「式が終わったらホテルに直行しよう。......今夜は寝かせないよ? 君の要望と私の要望、交互に楽しもうじゃないか」

 

 

 一つ聞かせてくれ。踏台転生者だった幼馴染が嫁になったら愛しすぎて辛いのだがどうすべきだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ……爆発しろ? いや、自爆系の能力は存在しないらしく使えないんだ。しかし、何故爆発なんだ?




恐ろしい思いをした このサイトを使っているのは秘密なのだが、お気に入りから消してしまったので履歴から選ぼうとしたら最近見ていないはずのページが表示された つまりログイン状態のサイトを家族が見たという事だ



 なお、今日表示したページ ではなくて ページごとに表示を選んでいた あんしん


主人公 真面目でお人好し 小学校の時からクラス委員長を任されるくらいに周囲から頼りにされている

幼なじみ 本名 遥  家族と主人公以外の男が嫌いな同性愛者 失恋から引きこもりになったオタク 転生後、踏み台っぽい言動が多かったが主人公のフォローで大事にはならなかったようだ。主人公の事は凄く頼りにしている。なお、美少女


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幼馴染が残念過ぎるのだがどうすべきだろうか?

思い付き第二弾 次はないかも モチベーションと思いつき次第

成りあがりの方で書けない無自覚系ラブコメを思いついたらこっちが更新です


 ホームルーム前の教室で先程から感じる視線のした方を振り向くと、眼鏡の少女がサッと参考書に視線を戻す。だが、チラチラと俺の手元の作品に向けられていた。

 

「……」

 

 俺の手の中に有るのは虎のヌイグルミ。デフォルメされた虎が骨付き肉を両手……両前足? で抱えている、自分で言うのも何だがそれなりの出来栄えだ。

 

「こういうのが好きなのか? 意外だったな、轟」

 

「いえ、別に。私に必要なのは戦いと学問だけです」

 

 轟 刹那(とどろき せつな)、俺や遥と同様に組織に所属する少女。文系を思わせるショートヘアーで図書室にいそうなイメージを感じさせる。

 

 『疾風迅雷』という、まるで時間の流れが違うかのように超高速で動く強力な能力のレベルⅣだ。俺の能力は世界の何処かで能力が目覚める度にどういうのが使えるというのが分かり使えるのだが、レベルⅢだから彼女より遅い。其れこそ下位互換の『脚力強化』や『超加速』に『超感覚』等を重ね掛けすれば話は別なのだが……。

 

 うん? 俺は複数の能力を重ね掛けできるぞ? 同系統だけに限るが、重ねればレベルが上昇した場合と同じ効果を得られる。負担も大きいがな。……轟は両親を化け物に殺され幼いころから組織に所属しているという過去を持つ戦うヒロイン(メインヒロインと聞いている)だが、それを知った時に『ずるい』と睨まれた、まぁ、そうだろうな。所詮は貰い物の能力だ。ズルもいい所だろう

 

 ……まぁ、其れを言うなら彼女達も格が違う能力と補正的な幸運を作者という神に与えられた存在と言えるが。

 

「そういうの好きなんですか?」

 

「ああ、裁縫の類は趣味だ。ヌイグルミを作るのは好きだが、ヌイグルミ自体に興味はない」

 

「!」

 

 途端に何か期待するような光が轟の目に宿る。欲しいのだろうが……期待させるような事を言ってしまったな。

 

「あ、あの、其れでは……」

 

 このヌイグルミを貰えないか頼もうとした瞬間、轟の背後から陽気な声がしたそれを遮った。

 

「やあ! 今日も可愛いね、刹那。私と放課後にデートでもしないかい?」

 

「……しません」

 

 途端に苦々しい表情になる轟。何度も断っているのに朝っぱらからレズのKYにデートに誘われればそうなるか。だが、その程度で諦める馬鹿ではない。

 

 

「照れなくても良いんだよ? ああ、でも君はそんな奥ゆかしい所も魅力的だな」

 

 今日は(ほむら)(主人公)も治癒崎(ちゆざき)(回復担当のロリ系ヒロイン)も昨日の戦いの疲労で休んでいて、田中(こっちの世界を知っているだけの一般人。一応幼馴染系ヒロイン)は心配だからと休んでいるし、助けは入らない。

 

「おい、遥。ちょっと早いがハッピーバースデーだ」

 

 必然的に俺が何時もの様に止めるしかなく、ヌイグルミを押し付けると轟の顔があからさまに落ち込み、遥は逆にパァッと明るくなってヌイグルミを抱きしめた。

 

「やった! 今年は完成が早いんだね。リクエストした日は同じなのにさ」

 

「去年より俺の腕が上達しているだけだ。ほれ、授業の時は邪魔になるからロッカーにでも入れてこい」

 

「そうだね。行こうか、シャルル」

 

 手を動かしてさっさと行けと促せば愛おしそうにヌイグルミを抱きしめ、既に決めたらしい名前で呼びながら離れて行く遥。まったく、ああしている時だけは美少女なのだがな。何時もの言動が残念過ぎてマイナスが限界突破しているぞ。

 

「……あの人、意外な一面が有るんですね」

 

「うん? ああ、あの馬鹿者は可愛いもの好きだぞ。だから毎年毎年誕生日プレゼントに作品をリクエストされる。まぁ、俺も奴の頼みでなければ態々ヌイグルミなど作りはしない。他に趣味もあるしな」

 

 大体、彼奴は俺を何だと思っている。朝弱いから弁当が作れないからと俺に自分の分まで作らせるのだからな。いや、彼奴の両親は朝が忙しいし、昔は俺も両親が忙しい時は彼奴の家で平日の夕食や休日の昼夕両方を食べさせて貰っていたから別に良いのだが。

 

 

 

 

「それにだ。あの馬鹿者。俺は卵焼きは出汁巻きか塩胡椒が好きなのに、砂糖が良いと言って来るのだ。おかげで高校に入学してから昼食の弁当で甘い卵焼きしか食べていない。……どう思う?」

 

「……いえ、私からすればどうして貴方達二人が付き合っていないのか不思議です。むしろ付き合って下さればこちらに被害が出ないのにと抗議申し立てます。今直ぐ口説いてきて下さい」

 

 ……今、悍ましい事を言われたな。悪寒が走ったぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「……むぅ。君と私がデキていると思われているから靡かなかったのか」

 

 いや、彼女達にそっちの趣味がなかっただけだろう、とは面倒なので口にしない。俺の内心など気付かない遥は今日のお弁当のツナサンドを片手に考え込んでいるが、どうすべきだろうか。

 

「私としては君が直ぐ近くに居るのは当たり前の事だし、君が居ないとか考えられないが……」

 

「光栄な事だな、まったく」

 

「ああ、そうだろう? 何せ私は絶世の美少女だからな。妖艶な容姿端麗頭脳明晰才色兼備。まさに完璧な美少女だ。クレオパトラや楊貴妃さえ私に嫉妬するだろう」

 

 俺は嫌味で言ったのだが、此奴の自信は何処から来るんだ? やはり神から貰った特典が悪い方向に作用しているのか。此処は一応言っておかないとな。

 

「貴様の何処が頭脳明晰才色兼備だ、馬鹿者。この前、オバさんは孫の顔は一生見られそうにないとか言っていたぞ」

 

 前世からある意味頭が良いのは認めるし、容姿に関する所も文句は言わん。隣に居るのが当然と言う所も否定はしないでおく。だが、言うべき所は言っておかないと此奴の為にならん。

 

「母さんがそんな事を……」

 

 珍しく顎に手を置いて考え込む遥。こうやって普通にしていればまともなのに、どうして此奴はこうも残念なのか。

 

 

「ああ。そうだ。可愛い子達とキャッキャウフフしながらも母さんに孫の顔を見せる方法を思いついた。君との間に子供を作れば良いんだ。万が一、いや、億が一、美少女ハーレムを築けなかった場合、最悪、君と結婚すれば独り身ではないと思っていたしな」

 

「まさに最悪最低な手段だな。唯でさえ後始末で苦労しているんだ。今の関係だけで十分だぞ、俺は」

 

 この馬鹿はこういう事を平気で口にするし、恥じらいを知らん。風呂が壊れたからとウチに風呂を借りに来た時、父さん達は居ないし別に気にしなくて良いかとバスタオル一枚で出て来て、ソファーでテレビを観ていた俺の隣で寛ぎ出したりと自由過ぎる。家でそうしているからと人様の家でまでそうするな。

 

 

 

「お前がそんなのだからオジさんから『ノシ付けてあげるからウチの馬鹿娘引き取ってくれないか?』とか言われるんだぞ」

 

「君に嫁ぐの自体は抵抗は無いが、馬鹿娘は酷いな。父さんに文句言わないと。あっ、そうそう。一応手付けを払っておこうか。今の所上手くフラグが立たなくて焦っているからね。……残りのヒロインは敵将軍とラスボスの娘か」

 

 何を思ったか遥は俺の手を掴み自分の胸に押し当てる。一瞬何があったか分からなかった俺だったが、我に帰るなり手を離し、即座に手刀を脳天に叩き込んでやった。

 

 

 

「こういうのをセクハラと言うんだ、馬鹿が」

 

「おいおい、スタイル抜群な上に美少女な幼馴染の胸を触っておいてその反応かい? ホモでないのは知っているが、流石に淡白すぎるよ? ちゃんと女の子の好みとかある?」

 

「貴様相手に正直に口に出すものか。調子に乗るのが目に見えている」

 

 悪くなかった、など決して口にはしない。俺は心に深くそう誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 この数年後、この馬鹿に酒の勢いで押し倒されて関係を持ったり、その後、残念な言動が少なくなって態度が恋する乙女になった馬鹿に何度も関係を持たされた際に攻守が逆転するのが何度も起きた結果、結婚を申し込むなど予想もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 俺の好み? 何処かの付き合いの長い馬鹿から残念な言動を減らした様なのが好みだな。散々苦労掛ける阿呆も、俺と二人の時は比較的残念な言動が減るし、二人で遊びに行った時に見せる姿が何時もの姿なら俺も嬉しいのだが……。  

 

 ああ、残念な言動に苦労させられるが、此奴の個性だから完全に嫌いではない。何とかならないかとは思うがな。




感想待っています


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幼馴染に苦労させられて辛いのだがどうすべきだろうか?

また更新 次回未定


 周囲からの視線が突き刺さる感じがする。興味本位と……嫉妬か。貰い物の力だけに居心地が悪いな。

 

「あーやだやだ。可愛い子ちゃんなら兎も角、君や家族以外の男の視線とか紫外線レベルに肌に悪そうだよ」

 

「お前は頭と口と性格が悪いがな。机に肘を付くな、資料はちゃんと読め、姿勢を正せ」

 

 この世界に転生してから早数か月。高校に進学したばかりの俺達は化け物を退治する為の組織『八咫烏』の研修会に泊まり掛けで参加していた。何故俺達の様な若造が来ているか? まぁ常識外れのレベルⅩの馬鹿と全能力が使える俺だから仕方がない。むしろ俺達を行かせろと本部からせっつかれたそうだ。

 

「轟ちゃんが来ないのは残念だ。泊まり掛けで二人のハートが大接近なラブラブハート大作戦とか計画してたのに徒労に終わったよ」

 

「彼女は少し独断行動が続いているからな。お前も俺のフォローがなかったらどうなっているか。それと何方にせよ徒労だ」

 

「分かっているさ。君には昔からお世話になっているからね。それより此処ではシャワーが個室ごとなんだ。せっかく各支部の美少女や美女の裸を拝めると思ったのにさ」

 

 頬杖を突きながら不満げに漏らす遥の荷物に視線を向ける。水中カメラとか小型カメラとか、精々姿を盗撮するのかと思い現場で止めればいいかと思っていたが……。

 

 ……むっ? 今、新しい能力者が目覚めた。能力名『炎神の加護』か。確か主人公の焔の能力だったな。能力は唯一無二のだから間違い無いだろう。俺以外に本人しか使えん。

 

「まあ、こういう組織だから古傷やら何やら有るだろうからな。集団での入浴を忌避する者は居るだろう。妥当な措置だ」

 

「それもそうだね。私は気にしないが、彼女達の悲しむ顔は見たくない。美しい花の笑顔を守るのは私の義務さ」

 

「いや、まずは社会的常識を遵守する義務を守れ」

 

 

 

 

 

 

「な、何なんだ。あの化け物は? お前は一体!?」

 

「同情するわ、焔 伊吹(ほむら いぶき)。貴方の日常は今日をもって終わりを迎えた」

 

 その頃。幼馴染の田中と出掛けた帰りに化け物に襲われた焔は囮になって引き付けて逃げ込んだ廃工場で能力に目覚めていた。巨大な化け物を炎で倒したのだが、もう一体居た化け物に襲い掛かられた時、突如現れた轟によって助けられる。

 

 月明かりが差し込む中、腰を抜かした彼は刀を抜いた轟から運命の始まりを告げられていた。

 

 

 

 

「失敗失敗。いつ頃かは分かっていても正確な日時までは描かれていなかったからね。……ヒロイン達とのフラグを纏めて戴くはずだったのにさ」

 

「いや、彼が目覚めなくてもお前には無理だっただろう。下心が丸見えだ」

 

 この日、俺と遥は近所の神社で行われた春市に出掛けていた。祭りには浴衣だよと少し肌寒いだろうにわざわざ浴衣を着て髪型までうなじが見える様に変えている。普段は肩甲骨の辺りまで伸ばした艶のある黒髪を束ねている姿は中々のものだ。

 

「相変わらず色々な格好をするのが好きだな」

 

「形から入るのは悪い事じゃないよ」

 

 遥の趣味は前世同様に漫画やゲームだが、コスプレの類も好きだ。ただし既存キャラのコスプレではなく制服などを着るのが好きなんだ。ただ、自分だけで楽しむのも寂しいからと毎回毎回写メに撮って送ってくる。この前などはバニースーツ(後ろシームで片耳が折れている)を着てセクシーポーズまでしていた。

 

「じゃあ、行こうか。……ダーリン」

 

「……寒気がした。幾ら必要な演技とはいえ勘弁してくれ」

 

 言っておくがデートではない、これも仕事だ。カップルばかり狙う化け物が居るらしいので任務だ。サーチ系の能力を複数同時使用しているが殺気を送っているのは同年代の男のみ。ああ、今俺の腕に抱き着くという悍ましい行為をしているのは見た目だけなら美少女だったな。

 

「あっ、私、下着付けていないんだ。浴衣だし当然だろう? 感触はどうかな?」

 

「ならくっ付くな」

 

「流石に寒いんだよ。だから温めてくれ」

 

 そんな恰好をしてくるからだ、と言いたいが仕方ないので上着を貸してやる。流石に此奴の周囲だけ温度を調節したら近付いた者が違和感を感じるし、能力の同時使用の負担を増やしたくない。

 

 この馬鹿は派手な戦いが好きだからと周辺被害を顧みないから『時間逆行』や『時間速度変化』などで俺が修復している。疲れるんだ、時間操作系の能力は。

 

 

「うん。君は優しいな。私には特にね」

 

「幼馴染だ。俺だとて贔屓はする。むしろ幼馴染でなければお前のような変人の世話など焼くものか。……おや、あそこに居るのは……」

 

 視線の先には田中と屋台を眺めている焔の姿。途端に遥が目を輝かせてすっ飛んで行こうとしたので首根っこを掴んで止める。

 

「ぐえっ!」

 

 蛙を潰した様な声が聞こえたが気にしないでおこう。此奴が美少女を台無しにするのは何時もの事だ。

 

「おいおい。地味系美少女を見付けたらデートに誘うのは義務だろう」

 

「それより前に果たすべき義務があるだろう、馬鹿者が」

 

 この後、告白しようと雑木林に焔を連れて行った田中が襲われ焔が立ち向かうも能力は上手く使えない。当然だ。彼奴は日常を失う事を恐れて勧誘を断ったが、能力はそう簡単に使いこなせるものではない。

 

 

 

「大丈夫かい? 私が来たからにはもう大丈夫だ」

 

 田中にウインクして化け物を瞬殺する遥。だがなぁ。派手にやり過ぎて雑木林が吹き飛んでいるが、誰が直すと思っているんだ? 後始末や偽装工作は俺の仕事なんだぞ?

 

 

「さて、このまま私と屋台を見て回ろう。その後、私の部屋に来ないかい?」

 

「え? いや、あの……」

 

「恥ずかしがらなくて良いさ。こうして出会ったのも何かの縁だからね。そう! 私と君は運命の糸で結ばれているのさ!」

 

 相手の困惑に気付かず誘い続ける馬鹿の頭に拳骨を落として鎮圧したのは言うまでもない。これを機に焔は八咫烏に入隊して化け物退治の為に力をつけていく事になる。因みに遥曰く、原作の二話と三話を使うエピソードらしい。

 

 

 ああ、本来助けるはずの轟(単独で高い所から様子を伺う作戦を取るはずだったらしい)だが、俺達が引き受けるからと休ませた。人混みが嫌いだからと祭りには行かなかったがリンゴ飴を頼まれたので買って来てやったら目を輝かせていたよ。

 

 

 

 

 

「……まだ体が怠い」

 

 再勧誘を受けた焔を支部に案内し説明を行い、事件の後処理に報告書の作成と心身共に疲労が溜まった俺は昼休み、屋上で寝転がる。流石に床に直に頭を置くのは嫌だと思っていると遥が自分の膝を指さした。

 

 

「貸してあげよう、感謝したまえ」

 

「有難く借りるが感謝はしない。そもそも疲れはお前のせいだ」

 

「おいおい、美少女の膝枕だよ? 君以外の男にしてあげた事などないんだから有難く思いたまえ。まぁ、これから私が心を射止める子猫ちゃん達が使うだろうがね」

 

 ああ、つまり俺以外に膝枕する機会はないだろうという事か。さて、俺の指揮下に入る事になった焔への指導もあるし、これからも疲れそうだ。……主に此奴のせいでな。

 

 皮肉な事に疲労の原因となった遥の膝枕は心地よく、俺は静かに目を閉じ眠る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に苦労を掛けすぎたか。……よし! 今晩にでも水着で背中流してあげよう。いや、人様の家のお風呂に水着で入るのも失礼だろうし、バスタオル巻いておけば良いか。うんうん。私は幼馴染想いだよ、まったく」

 

 誰か何とか言ってくれ……。




感想お待ちしています


こんな感じでありがちな展開を交えつつ二人のラブコメを描いていきます あまりラブコメ読まないからネタ切れはちかいかも












































買った車の消臭剤が臭い 屁をこいたらそれが混ざってさらに臭かった


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私のクラスメイトに腹が立ちすぎて辛いのですがどうしましょう?

感想で思いつきました 感想っていいですね モチベーション上がるし話を思いつくヒントにもなるから





「ふふふ、恥ずかしがらなくても良いじゃないか。君の好意には気付いているよ?」

 

「絶賛勘違い中ですのでお引き取りください」

 

 何故か会う度に私の頭に手を伸ばし笑顔を見せる同僚に辟易します。この人、同性の私が綺麗と思う程に綺麗ですが、どうやら同性愛者らしく毎日毎日毎日毎日こうやって口説いてくる上に、嫌がっても照れているとか鬱陶しい限りです。

 

 肩甲骨まで伸びた艶のある黒髪に、怪しさすら感じさせる整った顔、そして腹の立つ性格。ああ、大きな胸も……凄く腹が立ちます。分けろ! ……はっ!? 今、私は何を?

 

「……まだイベントをこなさないとフラグが立たないのか?」

 

 こんな風に訳の分からないことを口に出しますし、頭わいているのではないでしょうか?

 

 ……十年前のあの日、私の幸せは呆気なく終わりを告げた。家族を、日常を奪われた私は能力に目覚め組織に保護され、こうして今に至る。この世に蔓延る化け物を全滅させるのが私の使命。それを誰にも邪魔させる気はない。

 

 だから、家族が居て凄い力を持つのにヘラヘラ笑って好みの子に声をかけてばかりの彼女は嫌いです。戦いに人生を捧げる気が無いのならその力を私に寄越せとさえ思う。

 

「あの、神野さん。映画のチケットが有るんだけど……」

 

「ふーん。でっ? そもそも君誰? モブには興味無いんだ」

 

 彼女。神野 遥(かみの はるか)は意外な事に人気がある。本当に意外だと思うけど、一部の女子が彼女のことをお姉様って呼んで慕ったり(デート一回したら『何か違うんだよね』ってデートしなくなる)、あの態度が堪らないってファンになっている男の人が居たりして、偶にこうしてデートに誘っては撃沈だけど……モブって何でしょう?

 

 クラスメイトでも男の顔は覚えていないらしく向ける視線は絶対零度。教師には建前だけは礼儀を払うんですが……但し、一人だけ例外が居ます。

 

 

 

「クラスメイトの顔くらい覚えろ。モブと呼ぶなと何度言わせる」

 

「ぐばっ!?」

 

 神野さんの脳天に振り下ろされるハードカバーの分厚い本。神野さんは頭を押さえて蹲る。こういう時、胸がすく、と言うのでしたっけ?

 

「おいおい、酷いな。顔に傷が出来るような事があれば責任取ってもらうよ?」

 

「ああ、その場合は責任取ってやるさ」

 

 さっきのクラスメイトとは違って委員長への態度は親しい相手に向けるもの。頭を叩かれたのに怒った様子もないし、二人とも無自覚でイチャイチャしている。

 

 謎ですが一部に人気の高い彼女と仲良くしている委員長を嫌う人が居そうですが私が知る限り居ません。

 

 

「っと、おい、轟。頼まれていた本だ。返すのは何時でも良い」

 

「……有難う御座います」

 

 本は好きだ。人と関わるのが嫌いな私でも広い世界を知る事が出来る。委員長は私のお礼を聞くなり直ぐに離れていく、距離の取り方が心地よい人だと思います。

 

 

「いいんちょー! 前に習った編みぐるみ、上手くいかないの。また教えてー!」

 

「委員長。来週までの課題教えてくれ!」

 

「委員長。彼に手作りクッキーあげたいんだけど、味見してアドバイスして」

 

「分かった分かった。課題を教えてほしい奴は他には? よし! 明日の昼休み、自習室で全員纏めて教えてやる」

 

 これが委員長を嫌う人が思い当たらない理由。何かと頼りにされるし、ちゃんと力になってあげている。神野さんを見捨てないで近くに居続ける程にお人好し。だけど完全に甘やかすだけじゃなくて真摯に対応するから慕われている。

 

 クラス委員長選挙での投票で本人以外の全員が彼に投票し、バレンタインデーではクラスの女子と他のクラスの女子の何割かから()()()()()を貰った、と言えばどれだけ慕われているかが分かると思います。……誕生日は量が多いと持ち帰るのも大変だからと皆でお金を出し合っていました。

 

 なお、お返しを律義にするので財布がピンチらしいです。大変ですね。……私ですか? ええ、当然義理チョコを贈りました。お返しのクッキーは大変美味でしたよ。

 

 

 神野さん? ええ、朝一で渡したそうですよ。義理チョコを。ええ、義理チョコを!

 

 

 

 

「お弁当忘れました……」

 

 不覚としか言い様が有りません。今朝、確かに作った弁当ですが鞄の中を見ても存在しない。入れ忘れたのでしょう。財布も忘れましたし、誰かにお金を借りるのは嫌いなので今日は昼を抜こうと思った時、私の机の上にお弁当が置かれました。

 

「轟、すまない。今日は昼から急用が出来て今から早退するから、良ければ代わりに食べてくれ。弁当箱は遥にでも渡してくれると助かる」

 

 委員長はそう言うなり慌てた様子で教室から去って行き、私は返事をするタイミングを失いました。……折角ですし頂きましょう。

 

 蓋を開けると美味しそうなオカズが目に入ります。今日は肉じゃがを中心とした和のメニューで、白米には鮭とワカメを混ぜ込んでいます。卵焼きを箸で切り、口に運ぶと甘めの味が口の中に広がりました。

 

「美味しい……」

 

 実に私好みの味付けです。……そう言えばこのお箸、委員長の物ですから……。

 

 

「洗ってるからセーフです……よね?」

 

 ええ、だから気にする必要はありませんと、自分に言い訳するように心の中で呟いた。

 

 

 

 

「ご飯を食べずに行くのかい? ほら、私のを一口あげよう。はい、あーん」

 

「立ったまま食べるのは行儀が悪いが……仕方ないか」

 

 ……ちっ!

 

 

 

 

 自分に言い訳するように呟く。この後、やはり間接キスなのかと悩んで少し顔が赤いとクラスメイトに心配されました……。

 

 

 

「おや、風邪かい? 私が保健室に運んであげよう。当然お姫様抱っこでね」

 

「結構です」

 

 折角の余韻が台無しにされた気がして腹が立ちました。

 

 

 

 

 

「はい、毎度どうもー! これ福引券ね」

 

「……一等は温泉旅行」

 

 お風呂は好きですが、温泉はもっと好きです。色々と体を張る仕事に就いて居ますし、温泉でのんびりしたいと思いながら商店街を歩く。財布の中を見れば丁度二回分。当たるとも思いませんし、列に並ぶのも面倒臭いので引かないつもりでしたが、ふと会場の前を通ると丁度最後の一人が引いた所。そして買い物袋を見ればポケットティッシュを買い忘れていた事に気付きました。

 

「売っている店は通り過ぎましたし……」

 

 家に有るのを全部使ったので今日買って帰る予定でしたが、買いに戻るのも面倒臭い。そして残念賞がちょうどポケットティッシュ。これも何かの巡り会わせかと無言で受け付けの方に福引券を差し出す。

 

「一回目は……残念! ポケットティシュだ。じゃあ、もう一回ね」

 

 目的の物は手に入れましたし、早く帰ろうかと思いながらももう一度引くと出て来たのは先ほどと違う色。お菓子だと良いのですが……。

 

「三等賞! 映画のペアチケットだ!」

 

 映画は……あまり好きではありません。知らない人の多い場所に行くのは嫌いだから。誰かにあげようかと思いつつチケットに書かれたタイトルに目を向ける。

 

『パンダウォーズ ~逆襲のメロリンクィーン~』

 

 これ、委員長が観に行きたいと言っていた映画……。本もお借りしましたしお礼に差し上げようと思いましたが、その場合、一緒に行くのが神野さんになると思うと躊躇いが生じる。何か嫌でした……。

 

 

 

「……私の物ですし、私が行かないと気を使わせますよね?」

 

 あくまでこれはお礼ですからデートのお誘いではありません。そう、今日のお弁当のお礼です。……そう言えば遥さんにお弁当箱を渡す為に話しかけるのが嫌で渡していませんし、今から渡しに行きましょう。今日の任務の帰りでも良い気がしましたが、よく考えると疲れている時に荷物が増えるのはよくありません。ええ、それだけです。あえて言うなら学校や任務の前後では余計な邪魔が入って腹立たしいからです。

 

 二人で一緒に行く必要? 知り合いと一緒なら少しは気がマシだからです。ええ、それだけです。

 

 

 善は急げとばかりに私は少し離れた場所にある委員長の家に向かって行きました。

 

 

 

 

 

「有難い。もう一度観に行きたいと思っていた所だ。この前、遥に誘われて行ったのだがポップコーンやら飲み物を奢らされてな。ああ、チケットを出して貰うのだから同じように出そう」

 

「……キャラメル味でお願いします」

 

 やはり神野さんは腹が立つ人です……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 もし第二回人気投票があったら

 

 

 一位(前回2位) 轟 刹那

 

 「私が一位……有難う御座います」

 

 

 三位(前回七位) 神野 遥

 

「はっはっはっはっ! 大! 躍! 進! 人気者は辛いね、うん。有難う、全国の子猫ちゃん達!」

 

 

 10位(前回10位) 委員長

 

 「また十位か。安定していて何よりだ。投票感謝いたします」

 

 




こんな感じで時々おまけが入ります 次回の分のおまけも思いついています

内容は・・・・感想がヒントになればすぐかけそう 別の方が先だけど



感想お待ちしています 

それとラブコメ以外は繋ぎの為のオマケなので描写はこれからも薄いです ペラッペラです


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幼馴染のノリが軽過ぎて辛いのだがどうすべきだろうか?

食後の軽い昼寝のつもりが起きたら夕方 びっくりしたよ


 朝起きたら下着姿の幼馴染が隣で寝ていた。さて、どうするべきだろうか……。

 

「ふふふ、恥ずかしがらなくても良いんだぜ、子猫ちゃん。全部私に任しておけば……むにゃむにゃ」

 

 艶のある絹のような手触りの黒髪。妖しさを感じさせる整った顔。黒の下着を纏ったシミ一つない白い肌に恵まれたスタイル。間違いなく美少女、それも絶世の、が付くレベルのだ。だが、馬鹿である。性癖は仕方ないにしても、あまりにも馬鹿だ。

 

 ……俺はどうして此奴の世話を焼いているんだろうか? 昔から苦労させられるが見捨てる気にはならないからだとは思うが。

 

「幸せそうなのが腹が立つし……起こすか」

 

 伸ばした右手は遥の顔面を掴み、『握力強化』『肉体超硬化』等の能力を複数同時に発動させる。常人の頭なら熟れた果実のように容易く潰せるが、能力に目覚めた者は肉体のレベルも上がるから問題ない。

 

 

「痛い痛い痛いっ! ちょっと揶揄っただけじゃないかっ!」

 

「下着姿でベッドに潜り込むのがちょっととは、お前の常識はどうなっているんだ、馬鹿者が」

 

 だからと言って平気な訳はないがな。まぁレベルの高い此奴は肉体の強度も大幅に上がっているし、この程度なら問題ない。凄く痛いだけだ。具体的に言うと小指を箪笥の角にぶつけたり、ささくれを思いっきり引っ張ったり、脛を強打した程度だな。

 

「放してやるからさっさと服を着ろ。だいたい、どうして俺の部屋に入り込んでベッドで寝ているんだ」

 

「少し待ってくれ、最初は裸で潜り込もうと思ったんだが、流石に怒るかなと思ってね。私にだって倫理観がある。其処は褒めてくれたって良いんじゃないかい? 揶揄おうと潜り込んだんだけど、君の隣って安心するからついウトウトとしちゃってさ」

 

「よし。今年の誕生日プレゼントは辞書だな。倫理観の意味を調べなおせ」

 

 この馬鹿は反省の色を全く見せない。俺に襲われるとは……まぁ思わないのだろう。俺も此奴を傷付ける様な真似はする気が起きないしな。隣が安心できる、と言うのも同感だから眠ってしまったというのは納得したが……いや、少し待て。そもそも潜り込むこと自体が問題だ。

 

「そんなっ!? 君の手作りのヌイグルミは誕生日とクリスマスの楽しみなんだ。それだけは勘弁してくれ」

 

 着替えの途中なのかワイシャツを羽織っただけの状態で少し涙目になりながら縋り付いてくる遥。可愛い物好きでゲームやラノベや漫画以外にヌイグルミの収集が好きな此奴は俺のプレゼントを楽しみにしているらしく、嬉しそうな顔を見れば次も作ってやろうという気になる。……其処まで言われては仕方がない。今年も作ってやるか。

 

「ところでそのワイシャツは俺の物のはずだが?」

 

「あっ、うん。服を脱ぎ捨てたら丁度コップに当たって倒しちゃってさ。借りるけど良いだろう? ちゃんと洗濯はするよ」

 

 横に目を向ければ確かに此奴の好む可愛らしい柄のTシャツが飲み残したコーヒーで濡れてしまっている。尚、入っていたマグカップは割れていた。少々怒気を込めて馬鹿に視線を向ける。

 

 

 

 

「……めんごっ!」

 

「辞世の句はそれで良いか? 俺なら直せるが……罪には罰だ」

 

「ぐべっ!?」

 

 脳天にチョップをお見舞いする。性格同様に見た目が台無しな悲鳴を上げて遥は床に沈んだ。

 

 

 

 

「朝から余計な体力を使った。今日は忙しいというのにな……おい」

 

「はいはい、ちゃんと計量して篩に掛けてるよ。じゃあ……」

 

「フルーツは先程カットして冷蔵庫で冷やしている。生クリームは少し待て」

 

 俺達が所属する『八咫烏』は人間を化け物から守るための組織だ。鬼に悪霊、悪魔に魔獣、多種多様な敵に対応するためにチームで動くのが基本であり、他の支部で何度も独断行動を起こした挙句にチームを半壊に追い込んだとして、こっちに移動になった轟、そして最近目覚めたばかりだが能力は同レベルの炎系より段違いの焔、この二人が俺達のチームだ。

 

 実質、俺に問題児と素人のお守りを任した形だな。おのれ支部長(父さん)

 

 もう二人のヒロイン? 治癒崎は戦闘向けではないから交通の足や後方援護、後始末を担当する裏方の所属だ。あそこは特定のチームと組むわけでもなく、原作と違って俺が居るからな。本来より焔達との関わりが薄くなる。

 

 遥の奴はそれでブーブー文句を言ってくると思ったが、邪魔者無しに口説けるから逆にチャンスだそうだ。『ロリ巨乳とか最高だよね。小さいのは小さいので悪くないけど』、と言っていたな。頭が痛いんだが……。

 

 まあ、そんな訳で親睦会を兼ねたホームパーティを開く事にしたから遥に朝から手伝わせているところだ。細かい指示を出さなくてもテキパキ動けるから作業が進む。フライパンから取り出して包んでいたアルミホイルを除けてみればローストビーフもいい具合に出来上がった。

 

「おい、味見。……指まで舐めるな」

 

「うん、いい出来だ。じゃあ、こっちも」

 

 切れ端を摘まんで遥の口元に持っていく。すると遥も自家製の生ハムとクリームチーズを乗せたクラッカーを俺の口元に差し出した。食べさせ合うのに抵抗がないのかと? いや、別に?

 

 

「そう言えば君への誕生日プレゼント、今年は何にしようか? って言うか折角可愛い幼馴染があげたものを一度も使ったことが無いよね」

 

「一日メイド服を着てお仕えする券、とか使えると思うか? その矮小な脳みそでよく考えろ」

 

 一昨年は水着で混浴券、とか馬鹿な物を贈られたし、互いの両親は仲が良いな、としか言わない。祖父母、両親共に幼馴染というベッタリの関係だからだろうが、互いの家に行くたびに外堀が埋められていく気がしてならないのだが……。

 

「水着もメイドも駄目だとなると……体操服? もしくはナース?」

 

「すまない。その脳みそに真面目な思考を望んだ俺が間違っていた」

 

 今年も遥からのプレゼントは禄でもないものだと確信する中チャイムが鳴る。インターホンの声が轟だと聞くやいなや遥は素早い動きで玄関まで向かっていった。

 

「エプロン姿で家庭的な一面をアピール。完璧だね!」

 

 ああ、そうだな。後は着ているのがお前でなければ究極だ。開ける直前には余裕を見せるためか減速し落ち着いた足取りで向かう遥だが、開けた相手を見るなりあからさまに態度を変えた。

 

「やあ、神野さん。今日は誘ってくれて……」

 

「君を誘いたくはなかったんだけどね、焔君。ああ、可愛い方のお客様は大歓迎だ。ささっ、入って入って」

 

「お邪魔します、委員長。今日はお世話になります」

 

 遥をスルーした轟は俺に一礼し、直ぐにテーブルの上の料理に目を奪われる。普段の世界に対して何も興味がなさそうな瞳が輝いていた。

 

 

 

「美味い! 神野さんって料理上手なんだな」

 

「其れは私の料理じゃないよ。ったく、これだから男は。適当に褒めるの辞めてくれるかな? あっ、これは私が作ったんだ。食べてくれ」

 

「気にするな、焔。此奴は昔からこんな感じだ。真面目に付き合うだけ損だぞ。おい、轟。慌てて食べるな」

 

 リスやハムスターの様に頬を膨らませて料理を頬張る轟と、その世話を焼こうとしてスルーされる遥。そして全員の世話を焼かざるをえない俺。焔も二人の扱いに慣れていないから居心地が悪そうだ。

 

「委員長はお料理が得意なのですね。……ついでに神野さんも」

 

「子猫ちゃん。私のことは名前で良いと言ったじゃないか。フフフ。照れている君も可愛らしい。どうだい? 今から二階の寝室で……痛い痛い(いひゃいいひゃい)

 

「此処は俺の家だし、二階の寝室は俺の部屋だ」

 

 馴れ馴れしく肩に回した手を払い除けられているのに諦めず、轟を誘う馬鹿の頬を後ろから引っ張り引き離す。暫く羽交い絞めにしておくか。味見やら何やらで腹も膨れたしな。

 

「委員長のお部屋ですか……少しだけ気になります」

 

「なら私が案内しよう。だから放してくれ。これも今回の目的である親睦を深めるため……あばばばばっ!?」

 

 『放電』などの能力を使い馬鹿を黙らせる。この程度なら怪我もしないくらいには丈夫だし大丈夫だろう。

 

「電撃とか容赦無いですね、委員長」

 

「本当に大丈夫なのか……?」

 

 心配しているようだがこの程度で驚いていては胃が持たないぞ、焔。

 

「この発言の九割が脳を通さずに口から出ている馬鹿と組むなら覚えておけ。心配するだけ無駄だとな」

 

「私としては君と可愛い女の子が居れば十分なんだけどね。じゃあ、三人で何かして遊ぼう。王様ゲームとか、ツイスターゲームとか」

 

「この通りだ。気にしたら負けだぞ。轟も本気にしなくて良い。テレビゲームで良いか?」

 

 最近ツイスターゲームを押し入れの中で発見したから相手をしてくれと付き合わされたが今日のためだったのか。妙に真新しいと思っていたが……。

 

 

「罰ゲーム! ビリは罰ゲームと行こうじゃないか! 罰ゲーム書いた紙を入れたクジを引くんだ」

 

「良いだろう。ただし俺達三人で組んでお前を潰す」

 

 俺の言葉に歯噛みする遥に対し、轟は顎に手を置いて考えこむと俺の袖を引っ張ってきた。

 

「あの、委員長。流石にそれは……」

 

「おお! ツン期が終わってデレ期が来たか! 待っていたよ」

 

「ですので私と委員長、焔さんと神野さんのチーム戦で行きましょう」

 

「ぎゃふんっ! ま、まだツン期だったか。だが、それも良い。簡単にデレを見せるのも良いけど、そっちも攻略のし甲斐があって最高だね。……罰ゲームの内容次第では……ぐふふ」

 

 うん。此奴もう終わりだ。どうしようもないな、本当に……。

 

 

 

 

 そしてゲームをしたのだが……。

 

 

「ふふふ、これはこれで悪くはない」

 

 俺達に負けた遥は『勝った側の膝に座る』という紙を引き当て俺の膝に座り、焔はパーティが終わるまで鼻眼鏡を着用する事になっていた。

 

 しかし、ご満悦という表情なのが少し癪だな。

 

「お前、少し太ったか?」

 

 たまに歩くの怠いと言って俺の背中に飛び乗ってくるが、少し重くなった気がする。運動はしているが、甘いもの大好きだからか?

 

「脂肪が増えたという意味ならそうだね。腹囲は変わらないが胸囲は少し増えた。ほらほら、上から見た感想はどうだい?」

 

 俺を見上げながら自分の胸をユサユサと手で揺らす遥。なんか轟が睨んでいるぞ。

 

「……ちっ! (脂肪袋膨らませてドヤ顔とか……)

 

「あれ? 轟さん、今舌打ち……」

 

「気のせいです、鼻眼鏡の負け犬」

 

「負け犬っ!?」

 

 まさか轟があそこまで強かったとはな。一回目、二回目は初めてということで駄目駄目だったが、三回目あたりから劇的に強くなり俺が居なくても勝てるレベルになった。

 

 因みに罰ゲームだが、一回目の俺のは『逆立ち腕立て伏せ三十回』、轟は『猫耳カチューシャ装着』。

 

 二回目は俺は『勝者何方かの腰を揉む』。轟は『勝者何方かの肩を揉む』だったのだが、遥の肩を揉むのが嫌だったのか速攻で焔の後ろに回り込んだ。結果、俺は現在膝の上で上機嫌の馬鹿の腰を揉まされたというわけだ。

 

 

 

 

 

 

「今回も完全に陥落は出来なかったが……手応えはあったよ」

 

「今回も完全に勘違いだ。喋ってないで手を動かせ」

 

 パーティ終了後、二人が帰った後で俺達は後片付けをしていた。料理が綺麗に食べつくされた皿(五割は轟の腹の中)を洗い、飾りを外す。終わった頃には夕食時になっていた。

 

 

 

「今日はどっちも家族が居ないことだし、夕食食べて行くのだろう? カレーの残りがあるがオムレツ食べるか?」

 

「ああ、要るとも。マッシュルームと玉ねぎが残っていたからそれを具にして……」

 

「焼き加減は半熟だな。お前の好みは把握している。カレーを温めている間にサラダを作るか。皿を用意してくれ」

 

 パーティの準備と同様に二人で夕食の準備を進める。ふむ、やはり此奴とだと作業が楽に進む。細かく指示しなくても大体察してくれるからな。

 

 

 

 

 

「誕生日プレゼントだけど私との一日デートで良いかい? 費用は私が出そう。他のプランはお気に召さないようだしさ」

 

「ああ、もうそれで構わん。変なのよりマシだ」

 

 此奴への誕生日プレゼントのヌイグルミは素材を厳選しているから制作費が掛かる。誕生日プレゼントと言うのなら節約に役立たせて貰わないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、偶には私がお弁当を作ろう。君の好み把握しているからね。作るところ見るかい? 特別サービスで水着エプロンでも……いや、思い切って裸エプロン?」

 

「いや、遠慮させてくれ。それなら安い焼肉バイキングでも行くとしよう」

 

「つれないなぁ。ノリが悪いよ、ノリが」

 

 お前のノリが軽過ぎるのが問題なのだが、もう手遅れだな。矯正不可能な馬鹿に悩まされつつ俺はカレーを温める。俺は辛口のチキンカレーが好きなのだが、遥が食べに来ることを想定して作ったこの甘口シーフードも悪くはない。……辛みを増すアレを入れるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

 

「轟刹那と」

 

「......委員長の」

 

「「能力解説講座ー!」」

 

 

「って、どうかしましたか、委員長? 名前がないのは作者が先延ばしにし続けた結果、このままで良いかと思い始めたからですよ」

 

「メタ発言は止めろ。あと、君は本編と性格が違っていないか?」

 

「オマケコーナーとはそう言うものです。では、記念すべき第一回は委員長の『万能』。クソずるいチート能力です。はい、終了」

 

「いや、終わらせないでくれ。『万能』はこの世に存在する能力全てを使うという能力だ。世界の何処かで誰かが目覚めれば直ぐに能力名と内容が分かる・・・・・おや、今まさに・・・・・複数の能力を同時発動も出来るぞ。性質が違いすぎるのは無理だがな」

 

「覚醒するかは別として能力自体は誰でも持っています。・・・・・ところで今さっき手に入れた能力は何ですか?」

 

「そ、其れでは今回はこれまで!」

 

「いや、能力は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(誰かは知らないが命の危機で目覚めたのが『超絶倫』とか哀れでならん。いや、死の間際だからある意味生物らしいのだが・・・・・ハズレも多いからな、本当に。楽器の音を出せる屁とかのときもあったし・・・・・)

 

 

 

 

 

 




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仲間(片方は一応)の仲の良さが何故か腹立ちますがどうしてでしょう?

お気に入り増えて感謝です! 今回は糖分少な目?


今回も感想を少し参考にしました


現在判明している原作ヒロイン

轟 刹那 大食い 文系 戦うメインヒロイン 不幸系 無表情 刀

治癒崎 回復 ロリ 巨乳 間延びした口調 後方部隊

田中 一般人 地味 主人公に昔から好意を寄せる幼馴染(フラグ)

今まで未登場 女将軍とラスボスの妹 


 昨日は夜遅くまで起きていたからか、多少の疲労感が残る体を無理に起こしてベッドから出る。洗面所で顔を洗って鏡を見れば映るのは無表情な私の顔。昔から無表情だからと家族に色々言われてきた。

 

『刹那はもう少し笑ったほうが良いぞ』

 

『可愛いんだからもっと笑いなさい』

 

 お父さんとお母さんに何度も言われた言葉だけど、二人が死んでから私は更に笑わなくなった。戸棚に飾った写真を見れば二人と一緒に撮った写真の中の私は少しだけ笑っている。確かこの頃住んでいた町の夏祭りに行われたホットドックの大食い大会で準優勝した時の写真だ。

 

『流石に現役の全米チャンピオンは手強かったな』

 

『前回のチャンピオンには勝てたから良いじゃない』

 

 優勝できなくて少し悔しくて泣きそうだった私を慰めて、焼きソバと焼きトウモロコシとたこ焼とポテトフライとイカ焼きを買ってくれた後、メダルを掲げながら撮った写真。家族と一緒に撮った最後の写真だ。本当は旅行中に撮った使い捨てカメラが有ったけど、家族を失った時に共に失った。

 

 家族で行った旅館の近くでした川釣り。此処に来る時に通った道路には事故多発地点が多くって、バイカーが川に転落して死ぬから川魚がよく太っているって笑いながら言ったお父さんがお母さんに川に投げ飛ばされたけど、あの時は意味が分からなかった。

 

 そしてお父さんが笑いながら川から上がろうとして……上半身を巨大な魚に食い千切られた。あれが私の日常が終わった日。そして化け物共の存在を知らされた私は、自分達が住む世界から此方側の世界にやって来る化け物共を皆殺しにしようと誓った。

 

 人としての幸せなんて要らない。馴れ合いも不要。私はただ一本の剣であれば良い……。

 

 

 朝食にアルミホイル容器の天婦羅饂飩と狐饂飩と肉饂飩を作り、麺を食べ終わったら卵とご飯を入れて雑炊を作る。天かすが良い仕事をしていると思いながら野菜不足に気付き、半額シールが張られたカット野菜を皿に盛る。料理は得意です。

 

 肉入りの野菜炒めとかゆで野菜とか、目玉焼きも最近では炒り卵にしなくて良くなりました。……それで得意って言うのかですか? 別に得意と主張するのに誰かの許可や一定の基準が有る訳でもありませんし別に良いのでは?

 

 味付けは塩胡椒オンリーです。だって醤油とか砂糖とか入れすぎたら取り返しがつきませんし、塩胡椒なら上からかけたなら払い除ければ良いだけですから。

 

 

 

 

 

 

 

「シャァアアアアアッ!!」

 

「……五月蠅い」

 

 夜の廃工場、幽霊の噂を聞いてやってきたのか学生位の男女の死体が散乱する中、私はかぎ爪を振り上げて襲い掛かってきた人狼を両断する。人の知性と狼の敏捷性を併せ持つ化け物ですが……私に比べればあまりに遅い。

 

『疾風迅雷』、それが私の能力。肉体、思考、感覚、その全ての速度を劇的に上昇させる速度系能力の中でも最上級クラスの力を誇り、能力開花と共に上昇する身体能力と合わさってこの程度の相手なら楽に倒せる。

 

 

 

「20、21、22! 如何やら私の勝ちの様だね」

 

「遊びでやるな、勝負すると言った覚えはない。……24だ」

 

 ですが、あの二人は更に速い。眉唾物の記録にのみ残っている、理論上存在しうるだけのレベルⅩの身体能力を持つ神野さんに、あらゆる能力を扱い重ね掛けをする委員長。アレはズルいと思います……。

 

 

「はあ!」

 

 そして最近目覚めたばかりの焔さん。『炎神の加護』という炎系最強クラスの能力に目覚めた人で、今は炎の剣を作り出して三体同時に相手をしています。元々剣道の有段者なので動きは悪くないですが、やはりスポーツとしてのルールに縛られた動きに慣れているせいか少しぎこちない。ですが、このままいけば強くなれるでしょう。

 

 

「なんだ、まだ終わってないのかい?」

 

 経験を順調に積めれば、の話ですが。見下すような声と共に床から出現した槍が三体の人狼を串刺しにして絶命させる。血飛沫が焔さんの体を赤に染める中、全滅を確認した神野さんが私に近寄ってきました。

 

 

「ふふふ、どうだい? 私の力は素晴らしいと思わないかい? 君の夢である人外殲滅に役立つと思うよ」

 

「……」

 

 この人はあまり好きじゃないです。妙に馴れ馴れしいし、何故か私が誰にも語った事がない夢の事まで知っています。委員長が能力で探ったのではないかと? 絶対に有り得ません。私がこの人にデレる位あり得ない話です。

 

『神秘招来』、神話や伝説に存在した武具防具を自由に呼び出す規格外の能力と、それを扱うだけの才能だけは認めますが、それ以外は駄目な人です。腹が立ちます。特に胸が……捥げろ。

 

「この馬鹿者っ!」

 

「あ痛っ!?」

 

 委員長は焔さんを能力で出した水で洗いながら辞書を神野さんの頭に振り下ろす。男の人には非常に厳しく冷たい神野さんにそんなことが出来るのは彼だけです。少し尊敬します。

 

 

「俺は言ったはずだよな? 経験を積むのに丁度良い相手だからギリギリまで手を出すなと。お前がいくら強くても、頼れる仲間が居るに越したことは無いだろう?」

 

「……別に君が居れば彼奴なんか居なくて良いじゃないか。分かった分かったよ。今度から気を付ける」

 

 あまり反省していない様子の神野さんを見て委員長は溜息を吐く。この二人、幼馴染として昔からこんな関係だとか……。

 

 

「……言ったはずと言えば、部屋はちゃんと掃除しているのか? オバさんがまた散らかして困ると言っていたぞ」

 

「どうも忙しくてね。悪いけど手伝ってくれないかい? お礼はするよ」

 

「まったくお前は……。服やら下着やらを床にほったらかしにするのだから大変なんだぞ? この前も洗濯機に入れて良いのと手洗いすべき物に分けるのに手間取ったからな……」

 

 ……え? 下着とか見られた上に片付けまで手伝って貰って居るのですか? 委員長も当たり前のように言っていますし。

 

 こうして改めてみると二人の関係が非常に近いのが分かる。何故かイラっとした時、頭の上に何か落ちてきた。

 

「……」

 

 あれ? 神野さん、何故固まっているのでしょうか? いえ、静かなのは良いですし、このままずっと黙っていてくれれば最高です。委員長の話し相手は私がしますから。

 

「ああ、蜘蛛ですか」

 

 

 頭の上でカサカサ動くから何かと思えば脚が少し長めの蜘蛛。確か毒がある種類でもありませんし、素手でつかむと必死に逃れようと脚を動かす。ふと神野さんを見てみれば顔が青くなっています。何か妙だと思って蜘蛛を持っている手を突き出した瞬間、私は耳を疑いました。

 

「きゃあっ!?」

 

 傲慢で図々しいエロ馬鹿レズ女の神野さんの口から出たのはまるで年頃の女の子のような声で、瞬時に隣の委員長に抱き着いた。

 

「……蜘蛛如きで何を怖がっているんですか」

 

 馬鹿馬鹿しいとばかりに手を離すとカサカサと音を立てながら蜘蛛は逃げていく。偶然ですが神野さん達の方向に……。

 

 

「おい、離れろ。もう行ったぞ」

 

「無理無理無理! 蜘蛛だけは無理だって知っているだろ!?」

 

「むがっ!? おい、息がしにくい。本当に少し離れろ」

 

 もう抱き着くってレベルじゃありません。神野さんは涙目になりながら両腕と足を委員長に巻き付かせて少しでも蜘蛛から距離を取ろうとする始末。上へ上へと逃げて行き、最後には委員長の頭を胸元に抱き寄せて震えています。

 

「……ん?」

 

 その時でした。何かの拍子に上で巣を張っていたらしい別の蜘蛛が糸を垂らしながら降りてきたのは。神野さんの顔のすぐ横で止まってカサカサと脚を動かして……。

 

 

「ひきゃぁあああああああっ!?」

 

 あっ、凄い声が出た。

 

 

「ほら、もう居ないから」

 

「本当? 蜘蛛、本当にもう居ない?」

 

 帰り道、不安だからと委員長の手をしっかりと握りしめ、周囲をキョロキョロ見回しながら歩く神野さんの姿がありました。何か物音がするたびにビクッと竦み上がって委員長に抱き着いています。

 

 彼女の弱点を知れたのは良いのですが……何故か腹が立ちます。委員長も甘過ぎませんか?

 

 

「蜘蛛、本当に苦手なんですね。……ゴキブリは平気で潰していましたのに」

 

 私は蜘蛛は平気ですがあれは本当に苦手です。本当に気持ちが悪い。神野さんが男だったら同じくらいに感じていたでしょう。

 

「あの長い手足が苦手なんだよっ!? 幼い頃、お昼寝している時に顔の上を這っていてさ……お、思い出したら寒気がして来た。ねぇ、今日は君の部屋で寝て良いかい? 確か客用のお布団があったから隣で手を繋いでさ」

 

「却下だ。どれだけ両方の親に外堀を埋められていると思っている。俺から受け入れたらトドメになるぞ」

 

「私は別に気にしないけどね。じゃ、じゃあせめて帰るまで背負ってくれ。君をギュッってしてたら多分落ち着くからさ。・・・・・・駄目?」

 

 委員長は頭が痛そうにした後、神野さんが乗りやすいようにしゃがみ込む。嬉々として背中に乗った彼女は腕を前に回して体を密着させています。本当に蜘蛛が怖かったようですね。

 

「うんうん、君の背中は本当に落ち着くよ。お礼に着衣で良いならベッドで私の上に乗って良いぜ?」

 

「落として良いか? って言うか落とすぞ」

 

「じょ、冗談だよ!?」

 

 彼女の弱点を知れたのは良いのですが……何故か凄く腹が立ちます。……あれ? 入り口の方に誰か居ますね。

 

 

 

 

 

「ほぅ。貴様が噂に聞く……」

 

 月明かりの下で私達に興味深そうな視線を向けているのは赤い散切り頭の女の人。大体二十歳くらいの気が強そうな人で八重歯が鋭いです。胸は治癒崎さんや神野さんがバンッ! ならババンッ! って所です。私についてはノーコメントで。凶暴そうですがワイルド系の美人ですね。コスプレなのか髪同様に赤い軍服を着ていて、額からは上に向かって伸びる二本の角が……。

 

「遥っ!」

 

「了解!」

 

 女の人の周囲の地面から逃げ場を塞ぐ様に剣が突き出し、素早く背中から飛び退いた遥さんが操る盾が女の人へ向かって走る委員長の周囲を浮かんでいます。カンッ! という乾いた音が響いて盾に何かが弾かれました。宙をクルクル舞ってから地面に突き刺さったのはナイフ。

 

「敵っ!?」

 

「お前は焔を守れ。『能力察知』で測った結果……強敵だっ!」

 

 真っ直ぐに女の人へと向かっていく委員長。単純な戦闘能力だけなら神野さんが上ですが、サポートしながら戦う場合は委員長がメインになったほうが強い。相手の動きを見ず、特に指示も出さずに絶妙のコンビネーションを誇ります。

 

 両手に構えたナイフを振るい、強力な氷の能力を使う女ですが、『炎神の加護』に加えて炎系能力を複数、そして『疾風迅雷』を含む接近戦向け能力を使う委員長が優勢です。神野さんのサポートも絶妙で勝つのは時間の問題でしょう。

 

 

 ……ですが、あれだけの猛攻を凌いで居るあの女、一体何者でしょうか……。

 

 

「ふは、ふははははは! 良い、良いぞ! ……合格だ!」

 

 ナイフを全て叩き落とされ右腕を深く切られたにも関わらず、愉快そうに笑う女は前進し委員長に迫る。そして迫る剣を氷で防ぎ委員長に抱き付いた。まさか絞め殺す気でしょうか!? ですが甘い。防御系の能力も沢山持って……あれ? 何か様子がおかしいような……。

 

 

 

「うげっ! まさか彼女、奴じゃなくって……」

 

 妙なことを口走る神野さんですが何時ものことなので気にならない。ただ、表情が何時になく不快と不安が入り交じったもので……。

 

 

 

 

 

 

「貴様、私のものになれ! この体を自由にし、我が一族の次期当主の父になる名誉をくれてやる」

 

「断固断る、ノーサンキューだ」

 

 女の言葉に驚き、即答に何故かホッと胸を撫で下ろす。……色気に負けて裏切らなかったからですよね?

 

 

 

 

 

「うんうん、君はそういう奴だよね。ご褒美にまたキスしてやるぜ!」

 

「要らん! それに俺はキスしたことなど無い……」

 

 委員長の言葉は途中で途切れる。唇に唇を重ねられたことによって……。

 

 

 

「ファーストキスは貰ったぞ。では、今日はこれで満足して帰ろう。我が名はアリーゼ、覚えておくが……ぐっ!?」

 

 委員長から飛び退き、去ろうとしたアリーゼは振り下ろされた刀を寸前で白刃取りで受け止める。相手が美人にも関わらず神野さんが容赦なく斬ろうとするなんて……。

 

「ぐっ! 何だ、貴様。其奴の女か?」

 

「「幼馴染みだ!!」」

 

 二人の蹴りが同時にアリーゼに突き刺さる。だけど苦悶の表情を浮かべながらも彼女は宙を舞い、電柱の上に降り立った。

 

 

「では、さらばだ。我が未来の夫よ!」

 

「ふざけるなっ! いきなりキスとか君には恥じらいが無いんだな!」

 

 ……いや、貴女が言いますか? グッジョブでしたが。

 

 

 

 

 

「おい、遥。少し歩きにくいんだが」

 

「また出た時に近くのほうが対応しやすいだろう? あっ! 狙われているし私が護衛するから客用の布団の用意を……いや、空き部屋に私の家具を持ってこよう」

 

「先に父さん達に相談……嬉々として受け入れる未来しか浮かばん」

 

 この帰り、神野さんはずっと委員長にベッタリとくっついていました。

 

 

 

 

 

「あの二人、仲が良いな。まるで夫婦みた……」

 

「……あ”っ?」

 

 焔さん、何か言いました? いえ、黙っていますから気のせいですね。

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

「刹那と」

 

「委員長の」

 

「「能力解説講座ー!」」

 

 

「……もうあれだ。委員長で良い気がして来た」

 

「あっ、そうですか。なら話を進めましょう」

 

「幾らオマケだからと言って性格変わり過ぎではないのか?」

 

 

「今回は私の『疾風迅雷』。本編でも語った通り、自身のあらゆる速度を急上昇させる能力です」

 

「これ自体は体への負荷も少なく便利な力だ。俺が重ね掛けしている『脚力上昇』などは負担が出るからな」

 

「おかげでチャレンジメニューや特売の時に役立ちます。私、育ち盛りだからか人より僅かに多く食べますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

(三種類のチャレンジメニューを能力無しなのに一種類分の時間内で食べきっておいて『僅か』だと……!? ジャンボステーキにジャンボハンバーグ、そしてジャンボ漫画肉、どういう胃袋をしているんだろうか)

 

「……何か?」

 

「……バランスを考えて食べるように。俺達は体が資本だからな。……では、本日はこれまで!」

 

 

 

 

 

(今晩はバイキングに行きましょう。さて、この前の店は食べ尽くして略奪者(バイキング)扱いで入店拒否されていますから、確か新しい店が……)




感想待っています 感想で思いついた

出るはずのなかった横取りしようとするキャラ 本来は焔君を手に入れようとしましたが?







さて、感想であったけど嫁として人気出そうらしい委員長のスペック

家事全般得意

真面目

委員長をずっと続ける人望 誕生日やバレンタインにはたくさんの贈り物や『義理』チョコを貰える。

忍耐強さ

世話焼き

所属組織において能力や親の地位共に将来有望





贈られた物のお返しで財布がピンチ

はたから見ればカップル(当人達無自覚)な超絶問題児(エロ馬鹿レズ)の幼馴染がずっと傍に居る。……アカン


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馬鹿が増えて辛いのだがどうすべきだろうか?

週間九位 ありがとうございます


 あのアリーゼとかいう奴だが、原作キャラにも関わらず遥でさえ情報を余り持っていない。人気低迷によるテコ入れのために投入されたと思われる色気担当だったが、全五巻完結ということから結果はお察しだ。結局、フラグの回収のために掘り下げも殆どなかった。まあ、世の中には第一話の扉絵やプロットでのみで出番が無いまま連載が終わったヒロインが居る作品も存在するのでマシなのだろうが。・・・・・・最終話付近で意味有りげに登場する敵っぽい奴らもな。

 

「その女だが『鬼姫族(ききぞく)』の者と見て間違いないだろうな」

 

 だが、この世界は紙の上のインクではなく、存在する者には本人の人生が有る。当然漫画では語られなかったことも知ることが出来るのだ。流石は長年化け物相手に戦ってきただけあって、支部長である父さんが本部に問い合わせると数日で情報が入った。

 

 どうもアマゾネスの様に女だけの戦闘種族であり、他種族との間に父親の特性を受け継ぐ女児を作るらしい。能力持ちの人間なら父親と同系統の能力を受け継ぐとかな。あの氷の力は恐らくは焔と同じ神の加護系の能力だと思われるが・・・・・・。

 

「厄介なのに目を付けられたな、お前。まあ本部は自分で何とかなるだろうから任せろだの、出来るだけ情報を引き出せだの言ってきたぞ、頑張れ」

 

「つまり投げっぱなしか。信頼されていて何よりだ、馬鹿野郎」

 

笑いながらの対応に頭が痛くなるのを感じる。これも俺への信頼の証なのではあるが、それでも上司である父の顔面に拳を叩き込みたい衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅん。情報を引き出すってことは彼女と話をする事になるよね。ラスボスの組織の事は感付いているのかな?」

 

「何となく組織みたいな物があるのは察しているようだが。俺達が知っている理由を説明出来ないからな。……転生させた神も厄介なルールを課してくれたものだ」

 

 結局、俺の護衛として家に上がり込んだ遥はエプロン姿で中華鍋を振るっている。鼻を刺激する香辛料の香りが漂う中、俺は料理中の背中をジッと見つめていた。

 

 暫く仕事で互いの両親が家を空けるからと炊事は交代になったのだが、一人で此奴の相手をするのは気が滅入るな。……いや、外堀を埋めようとするから居たほうが面倒か。両家の家の間のスペースに俺と此奴の新居を建てようかとか相談していたが、傍から見ていてどうしてそのような関係だと思うのやら……。

 

 

「まあ、良いや。話を聞き出すの手伝うよ。多少手荒な手段を使っても良いよね?」

 

 どうも妙だ。年中発情期の節操無しの此奴がアリーゼを口説こうともせずに切り掛かったんだからな。どうも強い相手を好む傾向があるからと、自分の方が強いとかアピールしそうなものだが。少なくとも奴も手に入れたいと語っていたはずだ……。

 

「さあ、食べようか。超絶美少女遥ちゃん特製麻婆豆腐丼だ」

 

 相変わらずの軽薄な笑顔を浮かべているが、長い付き合いだから違和感に気付く。食事中にそれとなく聞いてみるか。

 

 

 

「米に絡む丁度良いトロミ具合に食欲を刺激する絶妙な旨味と辛み。ははは、やはり私は天才だね」

 

「ああ、確かに美味い。毎日とは言わないが、毎週食べたい味だな。……おい、正直に言え。何を思い悩んでいる? 誤魔化せると思うなよ」

 

 途中から回りくどい言い方は無駄だと察した俺はストレートに訊ねる。一瞬表情を固まらせた遥は深い溜息を吐いた。

 

「やっぱり分かっちゃうか。君と私の仲だからね。……あの女に君が何処かに連れて行かれるような気がしたんだ」

 

 軽薄な笑みが消え、長い間見せていない暗い表情を見せる。この顔を見たのは転生当初、俺を巻き込んだと思い悩んでいた頃以来だ。

 

 不安で震える今の遥からは普段の飄々とした姿は想像がつかないが、これも此奴の一面。臆病で寂しがりや、それが幼い頃から変わらない本質だ。大切に思っている相手が自分の周囲から居なくなるのを怖がり、居なくなるのではないかと不安に駆られると一気に脆くなる。

 

 まったく、何を泣きそうな顔をしているんだ。

 

 

 

「私は君が居ないことなんて考えられない。君の望みなら何でもするから、私の傍から居なくならないでくれ」

 

 泣きそうな顔と縋りつくような声で懇願する馬鹿の姿に溜息を吐く。相変わらず躊躇なくそういうことを口にするのだから呆れるな。

 

「何を今更。俺がお前の傍に居なかったら誰が後始末をするんだ。……嫌だと言われても横に居てやる」

 

 この程度の事、一々口にするまでもないことだろうに。相変わらず世話の焼ける奴だ……。

 

 

 

 

 

「今日の晩御飯は何だい? ……女体盛りとかしてあげるから刺身にして欲しいな」

 

「餃子だ。刺身は明日にしろ。それと提案はノーサンキューだ」

 

 翌日の帰り道、不安の反動か遥がベタベタと抱き着いてくるがために多少歩き辛さを感じながら帰路に付いていた。この双方共に心を許した相手に甘えるのは何とかしてもらわなければな。もう手遅れな気もするが……。

 

 

「さて、何にするか。ハマっている海外ドラマの新シーズンは未だだし……」

 

 夕飯の材料を買う前に何か映画を借りたいと遥が言い出したので先にレンタルショップに向かったのだが、入ろうとした時に大量の荷物を抱えて店から出ようとしている三人組に出くわした。正確には大荷物を持った二人を引き連れて歩く若い女……最近会ったばかりの顔だ。

 

 向こうも俺達に気付くと機嫌良さそうに近付いてくる。後ろの二人は此方に会釈すると彼女の背後でピタリと止まった。

 

「奇遇だな。此処で会ったのも何かの縁だ。ホテルで一発ヤッて行かないか?」

 

「お茶でも飲みにいかないか、くらいの気軽さで何を言っている」

 

「痴女だね、痴女。はしたないったらありゃしないよ」

 

 遥に鏡を差し出したくなりながらも俺は目の前の女、アリーゼから視線を外さない。何か一族固有の術でも使っているのか頭の角は消えていた。恐らく後ろの二人の女性は同族の従者だろうな。

 

 

「此処では他の客の邪魔になる。……向こうへ行こう」

 

「うん? ホテルじゃなくて物影が良いのか? そんな趣味もあるのか……」

 

「違うっ!」

 

 駄目だ、此奴。間違いなく遥の同類だな……。

 

 

 

 

 

「……それで態々何しに来た」

 

「何しにって、DVDを借りにだ。ちゃんと金は払ったぞ? 私達は誇り高き部族だからな」

 

 いざ戦闘になれば周囲に被害が及ぶと判断した俺は店から少し離れた路地裏にアリーゼ達を連れて来た。此方が警戒しているのに向こうが平然としているせいで毒気を抜かれそうになるが、金を払ったということに警戒心を募らせる。つまり社会に溶け込んでいるという事だ。

 

 

「お嬢様、どうなさいますか? お望みでしたら婿殿を屋敷にご招待しますが」

 

「いや、今日は教材を借りに来ただけだからな。……見てみろ。貴様と交わる時の為に人間の嗜好を勉強しようと思ってこれを借りたんだ」

 

 そう言いながら差し出されたレシートに書かれていた商品は……AVだ。それもジャンルは多岐に渡っている。

 

「に、人間というのはよく理解できん。どうして此処まで性交に幅を持たせたがるのだ……。だ、だが、私はこれを全て観て貴様が望む方法を受け入れよう。感謝するが良い」

 

 あっ、違った。この女には僅かだが恥じらいがある。後ろの二人も顔を僅かに赤らめているし、遥と同じと思ったのは失礼だったか。

 

「はんっ! その程度で照れる初心なネンネが初対面の男に求婚できたものだね。どうだい、私の物になる気はないかい?」

 

 この馬鹿、俺がずっと隣に居てやると言った途端にこれだ。三人ともポカンとしているぞ。

 

 

 

 

「むぅ。貴様、実は男だったのか? 女装という奴か……」

 

「いや、私は君と同じ女さ、だが、愛さえあれば性別なんて関係無い。私のゴッドフィンガーでメロメロになりたくはないかい? ……実戦経験はないけど自分の体で練習はしてるよ」

 

「女なのか。なら用はない。というより、何故此奴は同性の私を口説くのだ?」

 

 俺に訊くなと言うことさえ億劫だ。少しの間、放置しておいた方が俺の精神衛生上良かったのではないかと本気で思った。

 

 

 

 

 

「今日は全部観なければならんから帰らせてもらうが……貴様は私が手に入れる。楽しみにしておけ」

 

「ふふふ、私が君を手に入れるほうが先さ。楽しみにしておきたまえ」

 

 ふと、後ろの従者二人と目が合う。それだけで何を言いたいか互いに分かった。

 

 

 

『苦労しますね』

 

 其方もな……。

 

 

 

 

 

 

 

「今回も逃したか。何が悪かったんだろうか……?」

 

「全部だ、全部」

 

 帰り道、口説き損ねたことを残念がる馬鹿に頭痛を覚える。本当に此奴はどうしようもない奴だ……。

 

 

 

「しかし去り際に妙なことを言っていたな。君と私の子供なら次の世代の子の相手に相応しい。二号として認めてやらない事はない、とか。馬鹿馬鹿しい」

 

「ああ、悍ましい話だ」

 

「私が君の本妻で、彼女が私の妾に決まっているじゃないか!」

 

  無言で辞書を取り出し、ドヤ顔を見せる馬鹿の脳天に叩き込んだ。いや、百歩譲って結婚は良いとしよう。だが、浮気とか許さないからな?

 

 

「もう、ツンデレなんだから。素直になって良いんだぜ? 君の態度次第で私も色々サービスしようじゃないか。年頃の男が好きそうなね……」

 

「そういう事を言っている間は絶対にデレは見せないと思え馬鹿者」

 

 本当に此奴は変わらんな。もう慣れてしまい、こんな日常も悪くないと思ってしまう事があるのが本当に怖い。そんなくだらない事を考えながら俺は家へと向かっていった。




今回はおまけ休み 次回のための活動報告で企画します

感想お待ちしています


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閑話 私にとっての彼

お気に入りと感想増加で嬉しいです 評価もまぁ当初に比べれば下がったけど評価数の違いだし






 やあ! 全国の子猫ちゃん達元気かい? オリ主の神野遥だ。私は今、いずれハーレムの一員になる予定のアリーゼと戦っている最中だ。

 

「ええい! 邪魔だ、貴様!」

 

「恥ずかしがらなくて良いんだぜ? ほら、抱きしめてあげよう」

 

 今日は目障りな原作主人公も、クール可愛い刹那ちゃんも不在で、幼馴染みと二人だけで港付近で高難易度の任務だったんだけど、神に選ばれた私が居れば楽勝だったよ。私の能力『神秘招来』は文献などで存在を知った伝説の武具防具を召喚、操作できる。扱いきるだけの才能も持っているから正に完璧なのさ。

 

 そして今、またしてもやって来たアリーゼとの戦闘中だ。少しお馬鹿だから情報をペラペラ話すし可愛いなあ。

 

 強い相手が好きだから私はストライクのはずなのに、照れちゃって素直になれないアリーゼを私は追い詰めていく。周囲は雪国の真冬みたいな状態だけど、まあ伝説を紐解けば防寒効果の高い物なんて幾つか存在するし、彼女を落とすのも時間の問題さ。

 

「やはり貴様はあの御方に匹敵するようだ。だが、それ故に我等の勝利は揺るがない。貴様と我が夫となる男くらいしか脅威は居ないからな」

 

 まっ、私が成長フラグを潰しているし、その関係かイレギュラーが多いから原作主人公は役に立たないだろうね。メインヒロインの内、手に入れば良いかなって程度の地味系ヒロインしかフラグっぽいの立ててないし。

 

「おい! 深追いは止せ!」

 

 従者二人と戦闘中に海に墜ちた彼の声が聞こえて足を止める。まっ、アピールは充分したし、戦闘の熱が冷めたら私の魅力を理解してくれるだろうね。

 

「帰るぞ、お前達!」

 

 気絶して海に浮かぶ従者二人を回収したアリーゼは去っていく。しかし寒いな。風邪を引きそうだ。・・・・・・帰ったら彼に甘酒を作って貰おう。凄く美味しいんだよね。

 

 

 

 

 

「へっくし! ・・・・・・不覚だ」

 

 翌日、私は幼馴染みの体温を計測した体温計を見る。氷が浮くほどに冷え切った海に落ちたせいで風邪を引いたみたいだ。大丈夫かな・・・・・・?

 

「風邪を治す能力は無いのかい?」

 

「毒や病気、癌や呪いや生活習慣病を治すのはあるんだが、風邪は無いな。まあ、回復力向上は有るから今日一日休めば治るだろう。お前は学校に行け」

 

「何言っているのさ。今日は休日だぜ? 頭が働いていないみたいだし、大人しくしていたまえ」

 

 振替休日って事も忘れるなんて重傷だね。さて、オジさん達は相変わらず留守だし、今日はお世話してあげるか。……一年生の子とデートだったんだけど仕方ないか。メールで延期を告げておこう。

 

 

「所で看病時の姿だけど、ナースと女医のどちらが良い?」

 

「どうでも良い。……どんな格好をしてもお前はお前だ」

 

 此処は意表をついてメイド服にしておこうかな? 勿論長袖ロングスカの清楚なほうだ。侍らすならフレンチメイドだけどね。

 

 

 

「さて、何処に置いて……おや、これは」

 

 この家に荷物を運び込んだ時に紛れ込んでいたのか古いアルバムを発見してついつい眺めてしまう。少し埃を被ったその中には私達の赤ん坊の頃の写真や幼稚園の時の写真。こういうのはこっちの世界でも同じだから良かったよ。転生したら思い出まで変わっているなんて寂しいからね。

 

 この頃から私と彼は一緒のことが多く、写真の多くで手を繋いでいる。いや、正確には手を繋いでくれていた、かな? 彼と手を繋いでいると落ち着くんだよね。小さい頃は大きくなったらお嫁さんになってあげる、って言ったものだ。懐かしいなぁ……ん?

 

 アルバムに挟んでいたらしく、くっ付いたページを開いたら中から落ちたボロボロの紙を拾い上げる。このころから堅物さが伺える文字でこう書かれていた。

 

『しょうらい、はるかちゃんをおよめさんにします』

 

 ふふふ、懐かしいなぁ。私が泣きそうな顔で頼んだからって渋々書いてくれたっけ。彼にはあの頃からお世話になりっぱなしだよ。私に対して文句を言いながらも何かと世話を焼いてくれて、頼みも大体聞いてくれる。私はどうすれば彼に報いる事が出来るのかな……?

 

「取り合えず栄養のある物を食べてもらおうか」

 

 冷蔵庫の中を見ればリンゴがあったので此れを摩り下ろすとして、この家では風邪を引いたときはクタクタになるまで煮込んだ饂飩って決まっているし、既に味は教えてもらっているから私でも作れる。

 

「卵が無いのか……」

 

 時計を見ればまだご飯の時間まで時間があるし買い物にでも行こう。でも、その前にやることがある。

 

 

 

「ほら、取り合えず汗拭こうか。背中拭いてあげるから脱いだ脱いだ」

 

「悪いな、助かる」

 

 彼が自分で前面や腋を拭いている間、私は汗でびっしょりの背中を拭く。昔から甘えてオンブして貰った背中だけど、随分と大きくなったと思う。

 

「今日、一年生の子をデートに誘っていたんだろう? 俺のために悪いな」

 

「気にしなくて良いよ。私にとって子猫ちゃん達より君のほうが大切だし、デートは後からでも出来る。ほら、終わったよ」

 

 それにしても私のメイド服にノーコメントとか気が利かないなぁ。そんなのだからクラスの女子全員とほかのクラスの何割かからバレンタインのチョコを貰っても、一つも本命が無いなんてことになるんだよ。

 

 

「本当に君の将来が心配だよ。私が貰ってあげる事になるんじゃないのかい?」

 

「いや、何を上から目線で言っている? 俺が貰ってやることに成りかねないの間違いだろう」

 

 結局は私達が結婚する事には変わらないんだけど気付いているのかな? まあお互い最後の手段的なアレだし……。なんか昔の事を思い出したばかりだから少し照れるなぁ。

 

 

 

 

「おや、治癒崎さんと田中さんじゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね」

 

 饂飩に入れる卵と蒲鉾を買いに行く途中、ターゲットにしている二人と出会った。それだけなら歓喜する所なんだけど、焔までいるなんてね。ってか、どうして君が二人と居るんだい? 田中さんは良いとして、もう片方とはフラグが折れているはずじゃないか。

 

「二人とばったり出会ったのー。神野さんは委員長と一緒じゃないのー?」

 

「ああ、今はね。じゃあ、私は此処で」

 

 どうやら原作主人公の補正でフラグが立ったのかと思ったけど違うみたいだ。何時もなら口説きに掛かる所だけど今は後回しだ。今は彼のことが優先だからね。

 

 

 私にとって可愛い女の子達は甘いお菓子だ。デザートだよ、デザート。甘ければ甘い程に美味しいし、量も種類も沢山の方が良い。生活に心のゆとりを持たせる為の清涼剤だ。

 

 そして彼女達がお菓子なら、彼は差し詰め炊き立ての白米や焼き立てのパンかな? 主食だよ、主食。お菓子は無いなら無いで寂しいけど構わない。でも、三度の食事は必要不可欠だろう? 

 

 私にとって彼は隣に居て当然で、なくてはならない存在なんだよ。

 

 

 

「……美味い」

 

「そう。頑張って作った甲斐があったよ」

 

 風邪を引いても食欲はあったから少し大盛りにした饂飩を彼は全部食べ尽くす。うんうん、喜んでくれて私も嬉しいよ。

 

「今日の私は尽くすタイプの良い女だろう? お嫁さんにしたくなったかい?」

 

 饂飩鉢を回収しながらニヤニヤ笑い、何時もの様に冗談を言う。まぁ、何時もなら即座に否定されるのがパターンだ。その遣り取りさえ私にとっては掛け替えの無い楽しい時間なんだけどね。

 

 

 

「まあ、奇行さえなければお前に告白していただろうからな」

 

「……へ?」

 

 思わず妙な声が出る。思いもしなかった返答に思考が停止し、次に混乱がやって来た。えっと、マジで!?

 

 

 

 

 

「っとまぁ、お前は何時もこんな風に……」

 

「おいおい、冗談かよ。たちが悪いよ? ……少しお返しをしようじゃないか」

 

 ベッドに潜り込み有無を言わさず腕と足で抱き付く。暴れようとしているが元々私の方が強いんだ。風邪を引いた状態で勝てるわけが・・・・・・。

 

 

 

「……うん。やっぱり君に密着すると落ち着くよ。少しだけ寝かせて……」

 

 言葉の途中で睡魔に身を任せる。にしても思いもしない冗談が来るとはね。ビックリしたよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、因みに私が好きな言葉は『甘い物は別腹』。もし私達が恋人だったとしても、子猫ちゃん達によるハーレムの野望を捨てる気は無いのさ。

 

 

 

 

 

 尚、後日見事に私が風邪を引き、今度は彼に看病して貰う事になった。

 

 

「少し不安なんだ。手を握っていてくれないかい?」

 

「その程度なら構わん。落ち着くまで握っていろ」

 

 やっぱり君はずっと側に居て欲しい存在だよ……。

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

 

 

「教えて! 遥さん!! 今回からの新コーナー、読者からの質問に答えるよ」

 

「お前が司会とは世も末だな。助手の委員長だ」

 

「さて、記念すべき第1回の今回はこの世界の基本について教えよう。まず、能力についてだ。この世の全ての人の中に何かしらの能力は宿っている。それを引き出せるか否かは本人の資質次第だけどね」

 

「能力は千差万別。ハイハイの速度が大幅に上がったり、漉し餡を粒餡に変えるなど妙な力の者もいる。同じ系統でも上位互換の能力は存在するんだ。ああ、目覚めた者は身体能力も上昇するぞ」

 

「更にレベルが十段階。私達が人に隠れて戦う化け物は少しずれた世界『異界』から現れるんだけど、対抗する実戦部隊の平均はⅢ。私のⅩなんて理論上は有ると言うだけ。レベルアップには才能と過酷な訓練が必要だ。・・・・・・・所でエッチな能力は幾つ有るんだい? ほら、私達って結婚が決まっているし気になるじゃないか」

 

「メタ発言禁止! では、次回!」

 

「活動報告で質問受付中だよ」

 

 




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仲の良さを見せられて辛いのだがどうすべきだろうか?

「俺がリア充? いや、違うだろう」

 

 お前のほうこそ違うだろ! 俺こと焔 伊吹(ほむら いぶき)はそう叫びたいのをグッと堪える。委員長は俺が何故そんな意見に達したのか本気で分からないと言った表情だ。

 

「確かに俺は友人が多いが・・・・・・・この馬鹿の世話を焼かなければいけない時点で非リア充だ。最近は婚姻を強引に迫ってくる奴も居るしな」

 

「アレは流石に同情する。委員長も大変だよな」

 

 俺の日常は少し前に終わりを告げた。突如現れた化け物と、目覚めた奴らと戦うための力。その力で誰かを助けられるなら俺は普通なんて捨て去ろうってそう思ったんだ。

 

 そんなある日、ファミレスに食事に向かった俺は同じタイミングで入店した仲間二人と合流(片方は心底嫌そうだった)、一人で来ていたもう一人の仲間と同じテーブルを挟んで座っていた時、何となく今の会話になった。

 

「はっ! どうだか。本当はあんな美人に迫られて羨ましいんじゃないのかい?」

 

 俺が所属することになった組織の仲間の一人である神野さんは凄い美人だけど極度の男嫌いだ。蔑んだ目で見られたいと玉砕を理解してデートに誘うのも居るくらいにはな。俺にはちょっと理解できないな。って言うか俺に対しては特に厳しいような……。

 

「焔は俺を心配してくれているんだ。あまり辛く当たるな。ところで今日は俺の当番だが、メニューは何が良い?」

 

 そんな彼女を唯一制御出来るのが幼馴染みである委員長だ。本人以外の全員からの信任を得て就任し、何かとクラスメイトに頼られている。少し頑固だけどな。でも、そんな委員長だけど告白どころかラブレターさえ贈られない。クラスの女子全員と他のクラスの女子の何割からバレンタインのチョコを貰ったが全部義理チョコだったほどなんだから逆に凄いよな。

 

「何でも良いよ。私は君が作ってくれる料理なら全部好きだからね。しかしあの女は美人だし、君も年頃だから性欲に負けてしまうかもしれないな。・・・・・・私が解消してあげようか? 取り敢えずセクシーショットを転送するから使いたまえ」

 

 相も変わらず本性を知っていてもドキッとさせられる笑みを浮かべながら携帯をいじる神野さんだけど、僅かに声に怒りが混じっていた。話題に出ている女ことアリーゼだが、どうも化け物の組織に所属しているらしく、馬鹿みたいに情報を垂れ流すから上の人は半信半疑ながらもっと聞き出すように指示してくるんだ。

 

 ただ、問題は性的な意味で委員長を狙っているって事。婿呼ばわりしてくる従者二人を引き連れて現れてはAVやエロ漫画で学んだ色仕掛けをしてくる。育ちが良いせいか何か羞恥心でガッチガチに固まって残念だけど、あまりの頻度にこっちまで辟易する。神野さんはアリーゼを本気で口説きながらも追い払っているけど、明らかに嫉妬だよな。

 

「お前という馬鹿は全く……。嫁入り前の娘がすることではないぞ」

 

 送られてきた画像を見た委員長が吹き出し。頭を押さえている。余程過激な内容だったのか……。

 

「お前ら実は夫婦だろ……」

 

 つい漏れた言葉。いや、だって毎日毎日こんな感じなんだぜ?

 

「男女二人が仲良くしてたら夫婦、とか小学生が囃し立てているみたいで程度が知れるよ。君もそう思うだろ? まぁ私が嫁入りするとしたら君以外に有り得ないけどね。お互いの両親だって既にその気で準備を進めて居るしね。庭を潰して双方の家に繋がる建物を増築する気だってさ」

 

「俺も将来結婚はしたいと思うが、お前の世話を焼くことを考えたら相手に悪いからお前と結婚するのが気楽な気もするがな。だが、一度家は出たいと思う」

 

「ふぅん。まぁ、結婚するとしたら君に合わせるよ。何だかんだとお世話になりっぱなしだしね」

 

 ぶっちゃけ、これ見せられてアタックしようとするの居ないだろ、普通。しかも恋人とかが冗談で言い合うような感じじゃなくって、何気ない日常会話みたいな話し方でこんな感じなんだ。それと委員長、もう神野さんの世話をずっと焼き続けるのは決定なんだ……。

 

「……チッ」

 

 何か隣から恐ろしいオーラが放たれた上に舌打ちが聞こえた様な気がしたけれど、気のせいだな、うん。俺は何も聞いていない。だから彼女の手の中のスプーンが折れたのも偶然だ、絶対。

 

「店員さん、スプーンの替えを。それとロイヤルジャンボパフェのお代わりを」

 

 俺の隣に座っている小柄な少女、轟さんは何処にそれほど入るんだって量を食べている。四人以上で食べるような量のパフェが彼女一人の中に納まるんだからビックリだ。

 

「相変わらず凄い食欲だね。そんな君も素敵だよ」

 

「……食事中は静かにしてください」

 

 神野さんはオープンな同性愛者……だと思う。委員長との遣り取りからクラス内では両刀派と委員長の嫉妬心を刺激する為派(女相手なのは他の男にモーションを掛けるのは嫌)に分かれている。

 

「ああ、そうだ。君も甘い物は好きだろう? ほら、私のモンブランを分けてあげよう。甘い物は落ち着くからね」

 

「俺ばかり貰うのも悪い。ほら、この抹茶プリンを一口やろう」

 

 だから互いに食べさせ合っておいて只の幼馴染みとか誰が信用するんだよ!? 今までの話からして両親すら二人がそういう関係だって思ってるんだろ……。

 

「チッ」

 

 再び聞こえた舌打ち。うん、仕方ないよな。ってか、轟さん、委員長の事が好きなの?

 

「……何ですか、ジロジロ見ないで下さい。余計なこと言いまくる焔さん」

 

 あっ、はい。空気読めない男でごめんなさい。命の恩人だけに彼女には逆らえない俺は目の前で仲良くしている二人や、無表情のまま不機嫌になっていく轟さんに精神をゴリゴリ削られていた。

 

 だが、どのような状況でも救いの手は差し伸べられるのか委員長の携帯に着信があった。この音は仕事関係。場の空気が引き締まる中、画面を見た神野さんは少し青ざめていた。

 

 

 

 

 

「……無様ですね」

 

 日頃の鬱憤を晴らすとばかりに神野さんに毒を吐く轟さん。普段から口説かれているからな、恋敵に。因みに委員長が好きなのかってこっそり訊いた結果、首筋に無言で刃物を突きつけられた。もう訊かないでおこう、命が惜しい。

 

 さて、どうして神野さんが無様と言われているかというと、俺達の中で、いや、組織の中で最強らしい彼女が極度の蜘蛛嫌いだからだ。今俺達が居るのは町外れの古びた洋館。持ち主が使用人ごと謎の死を遂げたとか、買い取った人が次々に失踪するとか噂が絶えず幽霊屋敷って呼ばれて放置されている。・・・・・・そう、古いんだ。周囲を取り囲む雑木林にも蜘蛛の巣が多く点在し、割れた窓ガラスから覗くと中にも蜘蛛の巣が沢山ある。

 

 結果、委員長が彼女を背負って中に入ることになった。どうも虫除け効果の能力を得たらしく、それを知った神野さんはアリーゼが来ても困るからと渋々参加を決意。委員長に背負われ、蜘蛛が少しでも自分から離れるようにと腕を回してギュッと密着しているんだ。

 

「こ、これで完璧だね。ふ、ふふふふ」

 

 あっ、だいぶ余裕が無い。まあ俺もさっき蜘蛛の子を散らすような、ってのがどんな光景なのか実体験して少し理解出来たからな。・・・・・・うん、凄かった。轟さんも委員長の服の端を握りしめている辺り、グロいと感じたんだな。

 

 

「遥と俺の機動力が落ちているから使う能力は……」

 

 こんな時でも唯一冷静に作戦を考える委員長。流石頼りになると思っていた時、屋敷の陰に人影を発見する。目を凝らしてよく見ていると、幼馴染みの田中由愛(たなか ゆあ)だった。

 

「あっ、蓮君、それに委員長達も。やっぱり此処って危険なの?」

 

 此奴は能力に目覚めるほどの才能が無い一般人だけど、俺が戦うことを決意した一件で巻き込まれたから事情は知っている。能力なんて一般人からすれば恐怖の対象だろうし、中世の魔女狩りみたいになっても困るからって隠蔽を得意とする後方部隊の人によって他人に伝えることが出来ないようになっているけどな。

 

「此処は私有地として立ち入り禁止になっているはずだが、どうして居る?」

 

「実は……」

 

 話は簡単だ。何人かの友人との会話に話題に不意にあがり、幽霊屋敷探検に行こうってなったらしい。でも、化け物の存在を知っているから怖くて入れなく、止められなかったけど屋敷の周囲で心配で残っていたらしい。連絡してくれたら良かったが、パニックになって思いつかなかったそうだ。

 

「じゃあ、中に入った人の救出も……」

 

「……放っておけば良い。巻き込まれたなら守るけど、自分から望んで危険に飛び込む馬鹿の世話なんて焼いていられない」

 

 冷徹な声でそう言いきると轟さんは中に入っていく。少し酷い気もするけど、実戦部隊も後方部隊も殉職者が出ていることを知っているだけに非難はできない。

 

 

「……まあ、確かに自分から危険に飛び込む者の為に危険を冒すのは馬鹿げているとの意見には賛同しないでもないが……人は助けたいよな」

 

「まっ、仕方ないね。さっさと終わらせて帰るとしよう。由愛ちゃん、君は後方部隊に保護してもらって帰ったら良いよ」

 

 二人も轟さんの後を追うように屋敷に入っていく。よし! じゃあ犠牲が出る前に解決するか!

 

 

 

 

 この後、どうにかこうにか解決したが『ラブコメ主体』という謎の言葉が浮かんだので割愛させてくれ。だいたいこんな会話があった。

 

 

 

 

 

「神野遥ぁ! 何故貴様が私の婿の上着を着ている!?」

 

「彼のせいで服が使い物にならなくなってね。ふふふ、でもこれはこれで全身を包まれているような気がするよ」

 

「ままま、まさか無理やり脱がされるか、汚されたのか!? それで足腰が立たなくなって……。昨日読んだ凌辱物の小説と同じだな。……わ、私は鬼だから頑丈だし、もっと手荒く犯しても良いぞ? 何なら後ろの二人ごと……」

 

「うっかり水系の能力に巻き込んでしまっただけだ。あと、帰れ。今すぐ帰れ。即座に消えろ、頼むから……」

 

 

 

 

 

「おい、そろそろ降りろ」

 

「いや、それが蜘蛛の大群を見たせいで腰が抜けちゃってさ。このまま迎えの車まで行こう」

 

「……仕方のない奴だ」

 

「所で実は下着も濡れたから今の私ってノーブラなんだぜ。……感触はどうだい? 何なら背負ってくれたお礼に後で触っても良いんだけど」

 

「馬鹿な発言のせいで台無しだな。別に落として引き摺っていってもいいんだが?」

 

 

 

 いや、お前ら爆発しろ!! ……俺も彼女欲しいなあ。でも、モテないし無理か……。

 

 

 尚、命が惜しいので轟さんには触れないでおこう。思考からも追い出そう。うん、そうするのが一番だ。

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

 

 

 

「教えて! 遥さん!! 今日も読者の質問に答えるぜ!」

 

「今回の質問は『かそくしまーす』さんの俺達の強さだが・・・・・・難しいな。この小説、何故か俺とお前のラブコメが中心だと作者が世迷い言を言うレベルで戦闘描写が薄いから」

 

「君もメタ発言に慣れてきたね。じゃあ、私もそれに習って私の強さは『打ち切り漫画の最終話で前回との間で急成長を遂げた主人公』か『最後の数コマにフラグもなしに敵として登場する行方不明だった父親』だね」

 

「分かりにくいにも程があるな。俺は同じ風に言うなら『打ち切り漫画の最終話のライバルキャラ』だな。焔はまあありがちな能力バトルの『元一般人だけど急成長する主人公』、轟は一応他の支部なら単独で任務をこなせるほどのエースだし『中盤に登場する幹部クラスに食らいつくも適わない強キャラ』だな」

 

「じゃあ今日は此処まで」

 

「しかしどう見れば俺達がラブコメしてる風に見えるんだ?」

 

 

 

 




感想 評価 感謝です  モチベーション上昇中 活動報告のアンケートも沢山で嬉しいです


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幼馴染みの変わりように辛いのだがどうすべきだろうか?

書けちゃった


 又しても体調を崩した。・・・・・・不覚だ。

 

「常人なら三日は掛かるのに、一日もあれば全快する君も大概だよね」

 

 大変遺憾なことに遥に呆れ顔を向けられる屈辱を味わう。ああ、本当に不甲斐ない。まだ自己管理不足の結果で無いのが救いなのだがな。この体調不良の原因、それは『万能』の副作用だ。

 

 基本的に覚醒した能力は体に馴染むようになっている。頑丈になるのも超常的な力に体が耐えるようにする為だ。例えば焔の場合、熱に強くなったりな。俺の体は覚醒した能力全てを使えるという特性上、他人より馴染む力が強いのだが、やはり短期間の内に多くの、それも性質が違いすぎる能力や肉体に直接影響をもたらす系統のが増えれば負担は大きい。

 

「その状態じゃ戦えないし、今日一日は私が護衛も兼ねて看病役だ。添い寝しようか?」

 

 俺を狙っているアリーゼの実力上、護衛になるに相応しいのは此奴くらいだから仕方ない。俺も気心が知れた相手の方が気が楽だからな。

 

「助かる。本当にお前は頼りになるな。だが、添い寝は結構だ」

 

「おいおい、こんな美少女の添い寝だぜ? ああ、興奮して落ち着かないか」

 

 返事を待たずして入り込もうとしてくる馬鹿を押しのけ阻止する。レベル差で俺の方が力が弱いし更には弱ってるのに抵抗出来るのは本気では無いからだ。もし本気なら抵抗しても無駄だからな。

 

「ほら、あーん」

 

 だから有る程度は受け入れて過激にならない様にする。少し怠いけど自分で食べられるのだが、差し出されるスプーンを抵抗無く受け入れれば食べやすい量とタイミングで差し出される。此奴には適いそうにないな・・・・・・。

 

「うん、完食だ。私の料理はどうだった? 私の胃袋は既に君に掴まれているけど、君もそうじゃないのかい?」

 

「否定はしない。互いに相手の好みは知っているからな」

 

 口には出さないが(出したら調子に乗るので)、遥や自分の料理に慣れた舌は他の者の料理に物足りなさを感じるようになってしまっている。毎日食べたいのは誰の料理か、と問われれば遥のだと即答するだろう。

 

「うんうん、私の大好物も君の料理だからね。毎日食べるとすれば子猫ちゃんの手料理よりも君の料理さ。光栄だろう?」

 

 これで肯定すればどれだけ調子に乗るのか気になったが疲れそうなので止めておく。腹も膨れたで休もうと思った時、遥の指先が俺の口元に触れた。

 

「米粒付いてたぜ」

 

 摘まんだ米粒をそのまま自分の口に運び、遥は食器が乗ったトレイを手に部屋から出ていく。さて、少し眠るとするか。

 

 

 

 

『なんだ、また泣いてるのか。ほら、取り戻して来てやったぞ』

 

 少し昔の夢を見た。幼い頃、引っ込み思案で人見知りだった遥は俺にベッタリで、何時も後を付けて来た。母さん達はカルガモの親子の様だと笑っていたものだ。俺がどうしても傍に居ない時はヌイグルミを抱き締めて一人で座っている事が多かったのだが、ある日近所の犬にヌイグルミを持って行かれたんだ。

 

 放し飼いにされているが、別段凶暴な訳でもなく子供が悪戯しても怒らない奴だったが、一人で公園に来ていた遥がトイレに行く時に置きっぱなしにしたのを持って行ってしまった。後からやって来たらピーピー泣いているので取り戻して来てやった。

 

 まあ、普通に咥えているヌイグルミを掴んだら離してくれたんだが。

 

『……アンダルシアの耳が』

 

 だが、アンダルシアと名付けたウサギのヌイグルミの耳が少し解れていたので直るまで暫くぐずっていたのを覚えている。……同じ事があればすぐに直してやれるようにって思ったのが裁縫にはまった理由だったな。

 

 それからもっと懐かれて、将来お嫁さんにして、とか言われたり、了承したら契約書を書かされたりしたのも良い思い出だ。あの頃の彼奴は本当に純粋だった。

 

 なのに! どうして! ああなった!?

 

 

 

 どれだけ寝たのか分からないが、体調が良くなっているので結構な時間寝ていたのだろう。まだ寝ていたいという誘惑を跳ね除けて目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 息が掛かるほど間近に轟の顔があった。

 

「……違いますよ? ただ眺めていただけです。委員長の寝顔は初めて見ますから」

 

「そうか。しかし、見てて楽しいものか?」

 

 何故か挙動不審の轟はバッと飛び退くと何時もの抑揚の無い声で理由を告げる。流石にビックリしたので文句の一つも言いたいが、まだ気怠いので面倒臭いな。

 

 

 

「・・・・・・こざっぱりしていますね。男の人の部屋は何処もこの様な感じなのでしょうか」

 

 どうやら近くに来る用事が有ったので、ついでに貸していた本を返しに来たらしい轟はソワソワしながら俺の部屋を物珍しそうに見回す。ベッドに勉強机に本棚と裁縫道具などを入れた戸棚以外は特に何もない。他の友人の部屋に比べ些か寂しいとも思うな。

 

「これ、もしかして神野さん・・・・・・の訳無いですね」

 

 ふと轟の視界に入ったのは幼い俺と遥の写真。俺の服の裾を掴んでいる奴の顔は今からは想像も付かないほどに純粋だ。だから奴で間違いないと告げると絶句していた。

 

「何かの呪いですか? 委員長の能力で解けないなんて・・・・・・」

 

「残念ながら何かがあってああなった。昔は本当に大人しくて純粋だったんだ」

 

「・・・・・・委員長の子供時代ってどんなのでした?」

 

「俺の昔など聞きたいのか? まあ、良いだろう」

 

 轟とこうして話す機会も珍しい事だし、仲間なんだから別に隠すこともないだろうと俺は口を開いた。

 

 

 幼い頃のある日、遥が偶々家に泊まりに来た時に子供向けのホラーを観たのだが、夜中に俺のベッドに潜り込んできた。戻るように言ってもガタガタ震えながら涙目で嫌がるので仕方なく一緒に寝たが、翌日見事にオネショしていた。

 

 また別の日、遥がお使いを頼まれたけど財布とメモを落としたって涙目になって、怒られるから一緒に探すように頼まれたんだが、結局家に忘れていたんだ。

 

 それと遥は男嫌いだが、小さい頃に気弱だったから数名のグループに苛められて俺が助けていたんだが、アレが原因だろう。

 

「そうそう、遥と言えば、今でも俺のベッドに潜り込んで来たり色仕掛け系の悪戯や冗談を多用するくせに、此方が乗ったりしたら途端に狼狽える程に耐性がない。覚えておけば何かの役に・・・・・・どうかしたか?」

 

 話せと言われたから昔の話をしたのに、轟の反応が妙だ。少し拗ねているように見えるし、頬を膨らませていないか? いや、まさかな。あの轟だ、何かの間違いだろう。

 

「・・・・・・神野さんの事ばかりですね」

 

「言われてみれば確かに・・・・・・。昔から世話を焼くために側にいたからな。今では世話を焼いていないと落ち着かん。これでは彼女も出来そうにないな」

 

 もっとも、女子の友人は多くても、冗談で交際やらについて言ってくるのは遥しか居ないのが現状だ。これでは一生独り身かもしれないとさえ思うことがある。

 

 

「・・・・・・でも、あの人の世話を焼くことに耐えられる人なら委員長の恋人になれますよね? 私が知る限り、私くらいしか耐えられそうにないですけど」

 

「うん、ああそうだな。轟となら平気そうだ」

 

「あの、委員長。言っておきますが試しですよ? 私も色々と経験を積んでおきたくて、試しにですが・・・・・・」

 

 轟が何か言おうとした時、窓の外からグゥっと言う音が響いた。それが何か理解した俺は溜め息を吐き、窓から顔を出して屋根の上を見る。遥が胡座をかいていた。

 

「もう大丈夫だ、助かった。昼飯、何が良い?」

 

 この馬鹿、俺を心配してどうやら昼飯を抜いてまで見張りを続けていたのだ。時計は二時を指し示し、今の音は此奴の腹の音。もしやと思ったが、少し気を使わせ過ぎたな。

 

 俺が声を掛けると一瞬心配そうな顔を向け、元気になったと分かると直ぐに何時もの妖しい笑みを浮かべて窓から部屋に入り込む。

 

「君の手料理なら何でも好きだって言っているだろ? 私も手伝うから早く食べよう。・・・・・・でも、その前に」

 

 それは一瞬だった。飛び上がった遥は俺の肩に飛び乗って太股で顔を挟んで固定する。一般的に肩車と呼ばれるアレだ。

 

 

「私の恥ずかしい過去をペラペラ話した罰さ。今日一日はベッタリさせて貰うよ」

 

「冷や飯が有ったから昨日の残りの鮭で炒飯にして、冷凍庫の作り置きの餃子を揚げるか? 野菜も中華が良いと思うのだが・・・・・・」

 

「見事なスルー、流石です。・・・・・・付き合いの長さの賜物ですね」

 

 感心したように呟いているが、何故か轟は不機嫌なままだった。そう、料理が完成する時間まで・・・・・・腹が減ってたのか。

 

 

 

「しかしアレだね。私達も付き合いが長いし、関係を進めるかい? 私、きっと一途で尽くすタイプだぜ?」

 

「その台詞、お前が今まで言ったどの冗談よりも面白いな」

 

「まっ、今の関係が心地良いから別に構わないけどさ。でも、あの女の『(笑)』が付く色仕掛けに負けそうになったら本当に私に相談してくれよ? ・・・・・・君になら喜んで純潔を捧げるよ」

 

 ・・・・・・そういう理由でお前との関係を変えたくないんだがな。まったく、人の気も知らないで此奴は・・・・・・。




今回オマケお休み  追加するかも

感想お待ちしています


次回はアリーゼ・・・・・・の部下視点 残念上司の世話を焼く彼女の日常 糖分皆無かも


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私だけがマトモでつらいのですがどうすべきでしょうか?

今回糖分少な目

そして最初はこんなキャラじゃなかった 苦労人のはずだったのに・・・


またしても感想や活動報告からネタを思いつかせていただきました


 皆様ご機嫌よう。未だに主人公の名前さえ決めていない愚物(作者)のせいで名乗りが遅れました。私の名はエトナ、鬼姫族の長であるアリーゼ様にお仕えする従者の片割れで御座います。では、本日はそんな私の日常をご覧頂きます。

 

「起きなさい、クレア。朝ですよ」

 

「へいへい、分かった分かった。後五分・・・・・・」

 

 朝早く起床した私は先ず身だしなみを整え、次に朝が弱い同僚のクレアを起こす。何度も揺するも毎朝の事ながら効果が薄く、仕方がないので壁に立て掛けておいた金棒を脳天に振り下ろす。

 

「・・・・・・毎朝毎朝殺す気か」

 

「其方こそ毎朝毎朝懲りませんね」

 

 どうも彼女とは相性が悪い。共にアリーゼ様の御側付きとして幼い頃よりお仕えした仲ではありますが、言葉使いやら日頃の態度やら物申したくなることばかりです。ああ、本当に品のない御方って嫌ですこと。

 

「早く着替えなさい。アリーゼ様をお起こしに参りますよ」

 

 主をお起こしするのも我々の役目。クレアがメイド服に着替える間、私も モーニングティーの準備を進める。さて、行きましょうか。

 

「なあ、エトナ。最近服がキツくなったんだけど・・・・・・」

 

「不摂生が祟ったのでは? 我慢なさい」

 

 彼女のだらしない生活態度は目に余ります。間食に隙を見ての昼寝に毎食の暴飲暴食。アリーゼ様の品位に響くと何度口を酸っぱくして注意しても直らないのですから。

 

 その様なことだから胸に脂肪がブクブクと付いていくのです! 私はどうなのかと? スラッとした高身長に無駄な肉の少ないシャープな体つき。全く問題有りません。ええ、全く有りません!!

 

 

 

 

 

「またですか……」

 

 ノックをしても返事がなく、テレビの音が聞こえるばかり。まさかと思ってドアを開けてみればアリーゼ様はソファーで眠りこけて……いえ、これは。

 

「気絶してんな」

 

「恐らく興奮のし過ぎですね」

 

 電源が付きっぱなしになっているテレビに映し出されているのは婿殿との子作りの参考にしようと取り寄せたAV、乱行物と呼ばれるジャンルですね。

 

 このお方はなんと言うか……純情なのです。この間も初対面の婿殿にキスして帰った後でベッドで悶えて転がっていました。プライドからか余裕のある態度を演じていますが内面は、という奴です。……ああ、情けない。誇り高き鬼姫族の長だという自覚を持って欲しいものです。

 

 

 さて、此処で我々の一族がどの様な存在なのかをご説明致しましょう。まず話すべき事は滅亡間近という事です。実は此処に居る三人を除き全滅しています。いえ、過去に先祖が追放でもされて何処かで生きている可能性もあるのですが。

 

 我々は高い戦闘能力を持ち、生まれてくるのは全て母親と同じ種族で性別も女ですが、父親の能力や性質を受け継ぎます。より強い子孫を作る為に強い男を求める性質があるのですが、ええ、もうお判りでしょう。理想が高くなり過ぎて子孫を残さずに数を減らしたのですよ。妥協? そんなの出来る筈が有りません。欲しいと思えない男を受け入れるなど有り得ませんし、とある性質上諦めもしません。

 

 

「別に無理してまで人間の嗜好を理解しなくても……」

 

「断る。私は奴に喜んで貰いたい。その為の努力を惜しむ気はない」

 

 アリーゼ様を起こし、その身を心配して進言しますが効果は有りません。これこそが我々の厄介な性質。欲しいと思えるほどの相手を諦めない為、一度欲しいと思った相手に……熱烈な恋心を抱くのです。その恋愛観は各々違いますが、アリーゼ様のそれは少々厄介な物のようです。

 

「もう攫って関係持てば? 一度抱かれたら大丈夫だって。後から好きな様に染め上げれば良いじゃん」

 

 クレアの様に相手に尽くさせる、自分好みに変える、というのでしたら良かったのですがね。え? 私達二人は相手が決まっているのかですか? 当然婿殿です。アリーゼ様に認められる程の強さであり、この前挑んで見事に負けましたので。

 

「まさか二人掛かりで負けるなんてな。彼奴を好みに教育するのが楽しみだぜ」

 

「……主君の夫になる方だという事をお忘れなく」

 

 なんでこう私の相方は自分の欲望に忠実なのでしょうか? あくまで私達はオマケ。尊き血筋を残すついでに、一人でも多くの同族を増やす為に体を捧げるのです。ええ、それだけですとも。私心など関係有りません。

 

 

 

 

『だ、駄目です旦那様! すぐ横でアリーゼ様がお眠りに……ひゃんっ!?』

 

『只今掃除中ですのでもう少しお待ちを。せめて寝室で……あぁっ!』

 

『お仕置きですね。ええ、潔くお受けいたします。では、どうぞお好きに辱め下さい』

 

『お任せ下さい。アリーゼ様がお留守の間、その分私がご奉仕を……』

 

 

 

 

 ええ、私は私事を切り捨てすべき事に励むだけで御座います。では、早速ですがやるべき事が御座いますので部屋に戻らなくては。

 

 

「下着を換えて参ります。少々お待ちを」

 

 何やら呆れ顔を向けられましたが失礼ですね。私は必死で滅私奉公をする忠臣ですのに。

 

 

 

 

 

「ただ今戻りました。・・・・・・どうかなされましたか?」

 

「奴からの指令だ。ああ、忌々しい」

 

 少々拙いことになった下着を交換して戻ればアリーゼ様達は不機嫌そうな顔になっており、私に封筒を差し出します。開いて中を読めば一方的に、婿殿と神野遥を見張れと言う命令が書いて有るのみ。ああ、非常に不愉快です。

 

「今に見ていろ。いずれ殺してやる」

 

 手紙の送り主はアリーゼ様が所属する組織『百鬼夜行』の首領にして・・・・・・一族の仇。私達以外の者は殺され、私とクレアを人質にしてアリーゼ様に隷属の呪いを施した相手。ええ、何時か必ず殺してやります。

 

 

「ところで思ったのだが、奴の好みはどのようなのか調べた方が良いな。お前達の相手もして貰う必要があるし、一人は怖いから最初は四人でと思っているが・・・・・・」

 

「お任せください。私が調べて参ります」

 

 忠義を誓ったアリーゼ様の為、励ませて頂きます。

 

「じゃあ、私はお茶菓子の味見でも・・・・・・」

 

「貴女は屋敷の掃除です、草むしりもお願いしますね」

 

「では、私は引き続いて勉強だな。しかし人間は貪欲だ。結婚イコール子作りなのが私達の一族だが、此処までバリエーションが有るとは。よし! 次は緊縛物を・・・・・・」

 

「ご自重下さい、お願いいたします」

 

 ああ、どうして私の主と同僚は・・・・・・私がしっかりしなくては!

 

 

 

 

 

 

 

「いいんちょー? 凄く優しいよー」

 

「ふむふむ。それで何か女性の好みに関する情報は?」

 

 夢の中、それは人がもっとも隙を見せる場所。夢魔の父を持つ私には他者の夢の中に入るなど朝飯前であり、こうして婿殿が所属する組織の後方部隊の少女に話を聞いています。

 

 しかし彼女が居る支部は随分と変わっているようですね。事前調査に後始末、傷の手当てに実行部隊の送迎等を行う後方部隊は実行部隊に随分と下に見られていると以前の調査で知ったのですが。

 

 ・・・・・・実際、夢を通して見た彼女の記憶では父親が誰かは不明だそうですし、他の支部でも後方部隊の扱いは悪いとか。ですが婿殿のお父様が支部長を務める支部は随分と違う模様。

 

「えっとね、やっぱり放っておけないタイプじゃないかなー? 神野さんとか、轟さんとか、お世話されてるもんねー」

 

「参考になりました。世話を焼かずには居られない保護欲を刺激するタイプですね」

 

 ならばアリーゼ様の素を見せれば解決です。あのグイグイとエロに突き進む女性を気取った純情で情けないお姿をお見せしましょう。ちょうど隠し撮りした映像が秘密のフォルダーに存在しますから。

 

 では、次は性癖を調べましょう。早速婿殿の夢の中に向かいますが、趣味嗜好は記憶を読みとってもあやふやな時が多い。ですが忠義を誓った主君の為、やるしか有りません。

 

 

 

 

 

「・・・・・・仕方がないので体を張りましょう。さあ! きつく縛って吊した私を犯しますか? それとも服を破り捨て組み伏せて無理矢理? 犬のような格好をさせ、尊厳を奪った上で自ら純潔を捧げさせますか? ああ、卑猥な言葉でねだらせるというのも有りです、興奮します。 さあ! 覚悟は出来ていますのでご命令を! 主君の為ならどんな屈辱にも耐えましょう!!」

 

 早速婿殿の夢に入った私は荒縄や破りやすい服、各種道具を取り揃えて覚悟を決めます。ああ、どんな目にあっても心は主君の物。決して欲望に屈したり致しません。堂々と、くっ殺せ、と言ってあしあげますとも。

 

 では、ハーリーハーリー! どんな目に遭うか妄想・・・・・・想像しただけで興奮・・・・・・恐ろしいですが仕方有りませんよね。

 

「今すぐ帰れ、もう来るな。・・・・・・貴女はマトモだと思ったんだがな。俺も見る目が無い」

 

「あれ? 夢の中なのにどうして意識がしっかりと? まさかその手の能力も・・・・・・」

 

「良いから帰れ!」

 

 視界が光に覆われ、やがて視力が回復すると私は夢から追い出されていました。

 

 

 

 

 

 

「これが放置プレイですか・・・・・・」

 

 婿殿はかなりのサドであったと報告せねばなりませんね。さて、その前に下着を新しいのに交換しないと……。

 

 

「ああ、まったく忙しいですが仕方有りません。主と同僚が変人ですし、唯一まともな私がしっかりしなくては……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・一体どうしたんだい? 随分と疲れた様子で膝枕をしてくれなんてさ」

 

「何も聞かないでくれ。こうしたら落ち着くんだ」

 

「はいはい、分かったよ。満足するまで私の膝を堪能したら良いさ。でも、私も君の寝顔を堪能させて貰うよ。……って、もう寝てるよ。……疲れたら何時でも言ってくれ。私に出来るのはこのくらいだからね」

 

 

 

~オマケ~

 

 

「教えて! 遥さん!! 今日は私達の評価表についてだ」

 

「基本の五教科と家庭科、先生のコメントを紹介しよう」

 

 

 

 委員長

 

『国5 数5 理5 社5 英5 家5』

 

「昔から勉強はできるよね、君って。私もお世話になってるし、テスト前には勉強会を開いているとかお人好しな事だよ。私と二人っきりで勉強したくないのかい?」

 

「いや、別に? 先生のコメントは『私達も頼りにしていますが、もう少し肩の力を抜きましょう』、だそうだ。恐縮の限りだな」

 

「いや、だから肩の力を抜こうよ。私みたいにさ」

 

「お前は抜き過ぎだ」

 

 神野 遥

 

 国3 数5 理5 社4 英語4 家5

 

「……どうも心理とか男の事とか理解出来なくてね」

 

「『もう少し節度を持った行動を』だそうだ、馬鹿者が」

 

「別に良いじゃないか、成績なんてさ。もしもの時は君に嫁げば良いんだし」

 

「俺を現実逃避の材料にするな。では残りの三人を一気に紹介だ」

 

 

 轟 刹那

 

 国5 数3 理3 社会3 英3 家2

 

『問題行動は有りませんが、もう少し団体行動を心掛けましょう』

 

 

 焔 蓮司

 

 国3 数4 理4 社3 英3 家3

 

『少し落ち着きが有りません。まず深呼吸してから行動を』

 

 田中 由愛

 

 国3 数3 理3 社3 英3 家3

 

『特に可もなく不可もなし。もう少し自己主張をしてみましょう』

 

 

 

 

「こんなもんか。……おや? もう一枚紛れ込んで……」

 

 

 治癒崎

 

 国5 数5 理科5 社5 英5 家1

 

『料理だけは二度と作らない様に』




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苦労人のはずが自称苦労人の変人だった件について・・・


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幼馴染と喧嘩をして辛いのだがどうすべきだろうか?

「よーし! 今日は球技大会に向けての練習だ。まずは二人一組で柔軟運動をしてくれ」

 

 もう直ぐ梅雨の季節だという頃、俺達の高校は球技大会を開催する。まあ当然体力差があるから男女別だし、部活対抗も有るから勝ち抜かない限りは暇なのだがな。早く終わった者は試合観戦そっちのけで友人と話し、友人の少ない者は親しくもない者の応援をして暇を潰すしかない。

 

 俺か? 去年は俺のクラスは男子女子ともに優勝したぞ。ああ、能力発現による身体能力の上昇には制限を掛けてだ。でないと不公平だからな。

 

「柔軟手伝ってくれるかい?」

 

 体育館の中、直ぐに組む者達とあぶれる者が出る中、背後から肩を叩かれて振り返れば返事を待たずして遥が此方に背中を向けている。毎度の事ながら親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らないのか、この馬鹿は。

 

「毎回俺に頼むが女子には頼まないのか?」

 

「馬鹿だな。柔軟をしてる時の私の華麗な姿を一人でも多くの子猫ちゃんに見せる為だよ」

 

 髪をかき上げて堂々と語る遥にキラキラとした視線を向ける女子が数人。それとは別に俺に同情の眼差しを送るのも居る。まあ、仕方ない。この同姓相手の全自動セクハラマシーンに女子の相手をさせられないな。

 

 背中を合わせて腕を組み、前に体を曲げることで遥の背中を大きく反らす。男子の視線が俺の背中の上に向けられたが、直ぐ様発せられた殺気で慌てて逃げ出した。

 

「お前なぁ。自分だって散々女子に絡んでいるだろう。……次は気をつけろ」

 

 まあ不躾に胸を凝視されれば怒っても仕方がないか。この馬鹿の男嫌いは知っているし、奴らも自重すべきだ。

 

 

「……ああ、そう言えば君と組んだら君は私の柔軟の姿が見れないのか」

 

「別に見たくもないがな。ほら、背中押すぞ」

 

 床に座って足を開いた遥の肩に手を置いて押してやる。何の抵抗もなく前方に曲がって胸が床にくっついた。これ以上は胸が邪魔で無理だな。

 

 ……今、轟が舌打ちをしたような。

 

「じゃあ、次は君の番だね」

 

「この前みたいに背中に座って体重をかけるなよ? 俺に尻に敷かれる趣味はない」

 

「亭主関白をお望みかい? まあ、別に良いけど?」

 

 別にそんな意味で言ったのではないのだが、面倒なので言わないでおく。遥と同じように床に座り足を広げ腕を前に伸ばすと上から力が掛けられる。柔らかい物が二つ背中に当たっていた。

 

「私はか弱い女の子だからね。こうして体重を掛けないと柔軟にならないだろう?」

 

「よし、今日から昼休みに勉強をしよう、まずは『か弱い』の意味を暗記しろ」

 

 前から思っていたのだが遥は俺に対して警戒が無さ過ぎるのではないか? 信頼されるのは嬉しいが、その様な事だから俺と恋人だと勘違いされるのだ。

 

……いや、俺もそうか。最も信頼を寄せる相手は誰かと問われれば迷いなく遥の名を挙げるだろう。まあ、昔から分かっていた事だがな。

 

 

 

「遥、お前は俺にとって大切な存在だったんだな。今、改めて思った」

 

「ふぅん、まぁ、私もそうだけどね。君は私にとって掛け替えのない存在さ。自分より優先しても良いと思う程にね」

 

「お前はお前を優先していろ。互いに相手を優先していたら逆に面倒だ。共通の優先順位はお前が上だ、良いな?」

 

 この程度の事態々言わなくても良いだろうにな。……む? 何故か怒っているような気がするが……。

 

 

 

 

「それはあり得ないよ。普段から他の人との事で君に負担を掛けている。なら二人だけの事については君を優先すべきだ」

 

「良いから俺の提案を受け入れろ。どうせ普段の延長線上だ」

 

 聞き分けの悪さに振り向けば遥は不機嫌そうな顔で俺を見下ろしている。ええい! 相変わらず妙な部分で頑固な奴だ!

 

 

「そうやって善意を優先するの良くないと思うよ? 少しは自分を大切にしなよ」

 

「余計なお世話だ。俺はしたくてしているのだからな」

 

 立ち上がり、互いに息の掛かる距離まで顔を近づけ睨み合う。何故か此処最近不機嫌だったが、どうもそれが爆発したようだな。何かあったなら俺が聞いてやるというのに。昔からそうして来ただろう。

 

 

「……そういえば君とは喧嘩をした事が無かったよ。何だかんだ言って私が怒らせても直ぐに許してくれたからね」

 

「お前も一線を越えず、俺もお前を怒りたくないからな。傍に居るんだから仲良くしている方が良い」

 

「うん、それは同感だ。君とはずっと仲良くしたい。でもさ、私にも譲れないものがあるんだ」

 

「奇遇だな。俺もどこぞの分からず屋にしっかりと言い聞かせたい事がある」

 

 火花を散らすような勢いで俺達二人は額をくっ付けながら相手を睨む。ああ、本当に此奴とこうなったのは初めてだ。何時も俺の後を付いて回り、傍に居るのが当然だった遥だが……。

 

 

 

 

「君が私より自分を優先させると言うまで絶交だ」

 

「それは此方の台詞だ。優先すべきはお前だと認めるまで許す気はない」

 

「「この頑固者がっ!」」

 

 フンっと鼻を鳴らすと互いに背を向けて離れる。ああ、本当に腹立たしい話だ!!

 

 

 

 

 

 

「っという訳で喧嘩中なのだが、あの馬鹿者を納得させる良い知恵はないか?」

 

「いやいやいや、何処からどう見ても喧嘩ですらないだろ!? ……阿呆らしい」

 

 

 

 

「という事なんだけど、彼を納得させたいんだけどどうすれば良いと思うかい?」

 

「もう末永くお幸せに爆発すればどうでしょうか?」

 

 

 

 放課後になってもあの馬鹿は納得せず、互いに焔と轟に相談するも相談に乗ってくれない始末。何か怒らせるような真似をしたのだろうか?

 

 

 

 

 

「久し振りだな、我が夫よ。今日こそ貴様を連れて行くぞ。不安になる事はない。最初が痛いのはお前ではなく私だからな」

 

「ええ、どの様な鬼畜な真似にも耐えて御覧に入れましょう」

 

「大人しくついて来なって」

 

 遥と喧嘩をしていても任務を私的な理由で放棄は出来ない。放課後、工事予定地の廃ビルに住み着いたダックスフンドの悪霊を退治した後、アリーゼ達が現れた。

 

 

「帰れ。今は遥の事で頭が一杯だ」

 

「悪いが今日は帰ってくれ。今は彼の事しか考えられないからね」

 

 この後、互いに無言のまま何時もの様に協力して撃退し、無言のまま家について食事の準備を進めた。

 

 

「……」

 

 今日の夕食は牛筋肉の煮物。遥がそれ程好きではない脂身の部分を入れないように器に注ぎ、無言で前に置けば向こうも無言でお茶を淹れて俺の前に置く。俺好みの温度のお茶だった。

 

 並んでテレビを観ている間も無言で過ごし、少し遥の視線が気になりながらも俺は言葉を交わそうとはしない。もう此方が折れても良い気がしてきたが、あの馬鹿がもしもの時に自分を優先すると約束するまでは折れる訳にはいかない。

 

 大人しく守られていろとは言わないが、もう少し自分を大切にしろ、馬鹿者が。どれだけ成長したようでも根本は変わっていないだろうに。

 

 

 

 モヤモヤを抱えたままでは熟睡できなかったのか夜中にふと意識が目覚める。目を開けると仰向けに寝た俺の上で遥が跨っていた。また何時もの馬鹿な悪戯をして有耶無耶にする気かと思ったのだが、目を見てその考えは消え去る。

 

「……嫌だ」

 

 目から大粒の涙をポロポロ流し、目で擦っても止まらない。ああ、これが此奴の根本的な面。神から貰った戦闘に耐えられるだけの強い精神をもってして泣き虫は変わらないんだ。不安で体を震わせ、俺の布団をギュッと握り締める。

 

「……君が口をきいてくれないなんて嫌だ。……君に無視されるなんて嫌だ。……君に嫌われるなんて絶対に嫌だ。私が…私が悪かったからっ! だから嫌わないで!!」

 

「……まったくお前は」

 

「なんでもするからっ! だから、だから……」

 

 ついに感情が決壊し大泣きを始めた遥に対し、俺は上半身を起こして抱き寄せ、頭を撫でてやる。少しは落ち着いたようだが嗚咽は止まる様子がない。それだけ俺に嫌われると思ったのだろうが……。

 

 

 

「俺がお前を嫌う筈がないだろう、馬鹿が。もう泣くな。俺が悪かったから泣かないでくれ……」

 

「……うん」

 

「どちらを優先とか忘れろ。いや、どちらも優先させる。臨機応変にだ。それで良いな?」

 

「……うん」

 

 ……結局これか。此奴が一度泣き出したら俺が折れるしかない。泣く子と地頭には勝てない、とは上手く言ったものだ。

 

 暫く抱きしめていたら遥も泣くのを止める。さて、スッキリしたら眠くなって来た。

 

「おい、そろそろ部屋に戻れ」

 

「……やだ。今日は此処で寝る。君と一緒じゃなきゃやだ」

 

 俺にしっかりとしがみ付いて離れる様子のない遥。結局、俺が折れるのが何時ものパターンだな。いい加減学習しろ、俺。

 

「拒否すればまた泣き出すのがオチか……今日だけだぞ」

 

 

 

 

「うん!」

 

 まったく、相変わらずこのような時の笑顔だけは本当に魅力的なのだがな……。

 

 

 




シリアス気味だからオマケは自重 考えてはいる

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胸の痛みが辛いのですがどうすれば良いのでしょうか?

 私は今、夢を見ている。幼い頃に憧れた花嫁姿の私はお父さんとバージンロードを歩いている。ああ、なんて素敵で甘い夢なのでしょう。このまま浸っていたいと思うほどに……自分に腹が立ちます。

 

 お父さんは死んだ、もう居ない。私はあの時から化け物どもを皆殺しにすると決めたのだから、もう人並みの幸せなんかに興味はない。何を未練たらしい夢を見ているのだと歯噛みする。

 

「……せめて披露宴から始まれば」

 

 御馳走を食べる夢なら歓迎だと思いながら向こうで待っている結婚相手に視線を送る。此処からでは顔がボヤケてよく見えないが、いったいどんな顔をしているのやら。自分の甘さを確認する為にも夢に出した結婚相手を確かめましょう。

 

「刹那、幸せにな」

 

 ああ、五月蠅い。お父さんは死んだ。夢の中の存在でしかないくせに、あの人が言えなかった言葉を私に投げかけるな。グッと拳を握り締め、自分の馬鹿さに呆れながら前を向く。花婿の顔がハッキリ見えていた。

 

 

「幸せになろう、刹那」

 

 結婚相手は委員長でした……ふぇ!?

 

「では、さっそく誓いのキスを……」

 

 私の肩に委員長の手が置かれ、顔が近付いて来る。やがて二人の唇は……。

 

 

 

「はうっ!?」

 

 驚きのあまり布団から跳ね起きる。ドキドキと五月蠅い程に高鳴る鼓動を感じながら少し熱く感じる顔を両手で挟み込む。

 

「……偶然です。他に関わりの深い男の人が居ないから、偶々委員長が役に当て嵌められた、それだけです」

 

 自分言い聞かすように呟いた後、時計に目を向ける。まだ少し早いが二度寝すれば寝坊しかねない中途半端な時間帯。

 

「目覚めるのがあと数秒遅ければ……」

 

 ですが、夢の続きを見たいので二度寝を決行します。いえ、どうしてあの様な夢を見たのか自分なりに分析する為ですよ? そもそも結婚相手にしたという夢を見たからと言ってその相手に惚れているというのは短絡的思考であり、創作物などの影響を受けすぎていると言わざるをえません。以上の理由から私が委員長に惚れているなど荒唐無稽な判断であり、そのようなことを口にする方がいましたら即座に訂正を求める所存です。ええ、そうです、間違い有りません。確かに委員長はベタベタするような鬱陶しい距離ではなく、つかず離れず微妙に離れた少しもどかしさを感じる距離から接してくれますし、何かとお世話になっています。ですがお世話になったとは言え、それで異性としての好意を抱くというのは早計であり、非現実的。以上の理由から完全無欠な正論によって私は彼に仲間としての好意のみ抱いていると言えるでしょう。いえ、そうとしか言えません。

 

 っと以上の委員長を好きなわけではなく自己分析による精神状態の解析という理由の為に二度寝をし、遅刻をして怒られました。

 

 夢? ええ、回転寿司を回らなくした夢を見ました。・・・・・・少しだけ、そう少しだけ残念です。

 

 

 

 

「もうすぐプール開きか。大人の階段を上りつつある年頃の女の子の体(未発達でもオッケー)を覆う薄い布。水に濡れて体に張り付けばラインを鮮明にし、その姿は正に一種の、いや、究極の芸術品。スク水、ハイレグ、ビキニ、競泳水着、水着にいっさい貴賤無し! ・・・・・・因みに薄いシャツを上から着て、濡れて張り付いたそれが透けているのとか最高だと思わないかい?」

 

「教室の真ん中で昼間から何を言っているんだ、ど阿呆が。取り敢えずお前が最低だとは分かった。いや、分かっていた」

 

 今日の午後からプール掃除だと聞かされ、神野さんは相変わらずの神野さんでした。私は本を読みながらチラリと二人の方に視線を向けると頭痛を堪えている委員長の唇が目に入る。気付けば指先が唇の先に触れていました。

 

「昼間からするからこそ意義があるんじゃないか。あっ、君は猥談は夜のみ派? よし! 今日の夜はとことん語り合おうじゃないかっ!」

 

 あっ、ようやく委員長が辞書を取り出しました。逃げられないように神野さんの肩を掴み、容赦なく分厚い装丁の辞書を振り下ろす。

 

「ひげっ!?」

 

「反省しろ」

 

 さて、どうせこの後は二人でお食事に行くのでしょうし、これで静かになるから私もお昼ご飯にしましょう。今日のメニューは炒り卵になった目玉焼きと少し醤油臭い豚挽き肉とクタクタになったほうれん草を乗せた三色丼。それと昨日の残りのカレーに半額シールが付いたコロッケ、水筒に入れた野菜スープです。

 

 

「ねぇ、彼氏にするなら誰が良い?」

 

「私は焔君かなー? 熱血漢って感じでさ」

 

「アンタってスポーツマンタイプ好きね。確かにイケメンだけど、アタシは暑苦しいの無理だわー」

 

 ふと、耳を澄ませば聞こえてきたのはクラスメートの恋愛談義。特に興味はないですが、すぐ近くで話されては聞こえてしまう。仕方なしに無視して食べ進める中、先輩の誰それが素敵、後輩のあの子が可愛い、などと話題は尽きません。ですが私には関係ない話です。

 

 

 

「委員長も素敵なんだけど、遥ちゃんがいるからねー」

 

「分かる分かる。優良物件だけど、あそこまで相思相愛の相手が居たら手を出す気が起きないよね」

 

 ・・・・・・はぁ。持ってきたお弁当を食べ終わっても何故かモヤモヤとした感情が胸の中に存在し、食べた気がしません。仕方ないので購買でパンでも買いましょう。それなりに食べたので軽めの物を・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・ラッキーでした」

 

 いつもは人気で売り切れる焼きそばパンにカツサンドにメロンパンを全て買えて鬱屈した気分も爽快です。まだ時間があるから気分転換にどこか違う場所で食べようと適当に歩いていた時、委員長の声が聞こえてきました。ええ、共に戦う仲間ですし、パンを食べながら話すのは悪くないでしょう。

 

 他意を持たない私は少し軽やかになった足取りで声のした方へと向かい、物陰で立ち止まる。委員長のすぐ側に彼女が居るのなんて分かりきった事でしたのに・・・・・・。

 

 

「日帰り旅行?」

 

「ほら、この雑誌に特集されているツアーだよ。ヌイグルミの工場でオリジナルの作成体験が出来るんだけど、二人で行けば二種類作れるだろう? 頼むよ。君の分は私が出すからさ」

 

 何の工場かはよく聞こえませんでしたが、神野さんは委員長を旅行に誘っていると知った途端、再び胸がざわめきました。この感情の名は不安。何故私は不安を感じているのでしょうか。だって、これではまるで私が彼の事を・・・・・・。

 

「いや、出さなくて構わない。自分の分くらい出すさ。お前となら楽しめそうだからな」

 

「あはっ! やっぱり君は私には不可欠な存在だよ。ふふふ、本格的に夏が来たら一緒に海に行こう。サンオイルを塗らせてあげよう」

 

「確かに塗っておかないと後で痛いからな。お前、小さい頃に日焼けで痛いってピーピー泣いていたし、少しは学習したか。それと暑苦しいから離れろ」

 

 喜んで委員長に抱き付いた神野さんですが、委員長は片手で押し退けています。少し眠そうですし、付き合うのが面倒なのでしょうね。

 

「なんだ、眠いのかい? ほら、貸してあげるよ」

 

「悪い。少ししたら起こしてくれ・・・・・・」

 

 神野さんは膝をポンポンと叩き、委員長は平然と頭を乗せる。ほんの僅かな時間で委員長は寝入っています。きっと彼女を信頼し、一緒にいると安心するからなのでしょうね。神野さんも委員長の寝顔をリラックスした表情で眺めていて、私はチクリ痛む胸に手を当てながらこの場を立ち去りました。

 

 

 

「どうも君と私は端から見て恋人に見えるらしいけど、今の関係が長すぎてよく分からないや。きっと恋人になるって決めても変わらないんじゃないのかな? でもさ、もし私が今の関係より先に進みたくなったら、その時は宜しくね。・・・・・・なーんて、寝ているから聞こえていないか」

 

 

 

 

 放課後、まだチクチク痛む胸に悩まされながら帰っていた私は誰かにぶつかってしまいました。相手の持つスーパーの袋から飛び出したリンゴをキャッチしようとし、それよりも先に伸びた手がリンゴを握り潰す。相手の顔を見た時、私は思わず固まってしまいました。

 

 

「うん? お前は確か・・・・・・」

 

「アリーゼの部下の・・・・・・」

 

 そう。ぶつかった相手は大量の食材を買い込んだ、アリーゼの部下のガサツそうな方でした。何故、この無駄に脂肪が胸に付いた人が・・・・・・? いえ、関係有りません。此奴は化け物で、化け物は私の敵ですから。

 

 

「止めとけ止めとけ。お前じゃ私には勝てねぇって。武器も持って無いしな・・・・・・それとも町を犠牲にしてでも私と戦うかい?」

 

「ぐっ!」

 

 悔しさから拳を握り締める。私なんて眼中にないと、暗に告げられていました。

 

「じゃあ、私は帰るから。お前の仲間の彼奴を振り向かせる為にアリーゼ様は料理の勉強してるんだ。急いで帰らないとエトナに怒られる」

 

「・・・・・・あれだけ邪険にされて諦めないのですか?」

 

 勝ち目のない恋敵が居るのに何の意味があるのでしょうか・・・・・・。

 

「はぁ? んなの関係有るか。好きになったら一直線が私達だ。惚れたなら何が何でも手に入れたいってのが恋だろ」

 

 

 

 

「好きになったら・・・・・・」

 

 別に私には好きな人などいませんが、それでも先ほどの言葉が頭から離れません。部屋に戻ってお菓子を食べていても気分が晴れずにいた時、チャイムの音が聞こえました。どうやら何時か忘れましたが懸賞に当選したらしく封筒にチケットが入っています。

 

 お食事券に印を付ける筈が間違って遊園地のペアチケットに印を付けていたのですね。確か恋人と行きたい人気スポットに選ばれた所だとか。・・・・・・くだらないです。そんなの今の私には何の意味も・・・・・・。

 

 

 携帯を手に取り、委員長にメールを送る。チケットが勿体ないので一緒に行きませんか、と。私は一体何をしているのでしょうか。これではまるで私が・・・・・・委員長を好きみたいではないですか。

 

 

 

 

『ああ、分かった。その日は予定がないから行こう』

 

 ・・・・・・何故かは知りませんが、そのメールを読んで嬉しいと感じました。次の日曜日が楽しみです・・・・・・。




最近オマケ休んですみません 次はたぶん

さて、デートうまく書けるかなぁ


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あの人を見ていて辛いのですがどうすべきでしょうか?

日間26位 やった!


 今日、私は数年ぶりに着る服を悩みながら決めていました。この色は変ではないか、あの色は時季外れじゃないか、まるで恋する相手とのデートを楽しみにする女の子のようで、少し自分が弱くなった気がしました。

 

「……あくまでチケットが余ったから普段のお礼としてです。同行するのは接待的なアレですので何も問題有りません」

 

 自分に言い聞かせる様に呟き、何時もより一時間早く起きて作った時間を使い、漸くどの()()()()にするか決めました。やはり一緒に居る女の子が野暮ったい服装では委員長も恥ずかしいでしょうし、女の子らしくピンクのジャージで決定です。

 

 ジャージで問題ないのか? 何を馬鹿なことを。ジャージは通気性運動性耐久性、その他諸々を兼ねそろえた究極の服。上下セットですからコーディネートに迷う必要もありませんし、これを着ずして何を着るというのですか? ジャージは誰しも一度は着る機会が有るであろう伝統と親しみ易さを併せ持ち、そもそもジャージの歴史を辿れば……さて、語れば五時間は余裕ですが、時間もありませんし早く朝食にしましょう。

 

 モキュモキュと頬一杯にベーコンや卵焼きやウインナーやクロワッサンを詰め込み、偶にはお洒落にと購入したペットボトルの紅茶で流し込む。

 

「……ゲップ」

 

 さて、次は何を食べましょう? まだ時間はありますし、もう七品程度なら・・・・・・。

 

「委員長は今何をしているのでしょうか……」

 

 まだ待ち合わせの時間まで余裕がありますが、着ていく服を迷っていると嬉しいと、何故か思いました。

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ。めんごめんご。からかおうとベッドに潜り込んだのは良いけど、寝ぼけてキスしちゃうとはビックリだぜ。うん。たかが唇の接触と思ってたけどくる物があるね」

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

「そうだね。私も子猫ちゃん相手に余裕を見せたいし、君相手に練習を重ねるのも良策かも。よし! キスの間、揉むなり掴むなり好きにして良いから付き合ってくれ。って、何を振り上げてるんだい!?」

 

「これか? これの名前は……広辞苑だっ!!」

 

「いや、それは流石にシャレにならな・・・ひきゃんっ!?」

 

「お前はもう少し慎みを持て。毎度俺がフォロー出来るとは限らないんだぞ」

 

「……君にしかしないから良いじゃないか。私にキスしていい男も、私が異性としての好意を向ける可能性があるのも君だけさ。……胸よりお尻の方が良かった? 冗談冗談! だから二撃目は勘弁してくれ! ぶへっ!?」

 

 

 

 あっ、何故かイラッとした後でスカッとしました。巨乳くたばれ、慈悲は無し……あれ? 急に妙な言葉が。

 

 

 

 

 

 待ち合わせは遊園地の近くの公園。そこまで電車で移動ですが、少々厄介なことになっていました。具体的に言うとナンパです。金髪に染めてアクセサリーをジャラジャラ付けて煙草の臭いを漂わせた軽薄そうな男の人。何とかの反対は無関心と言いますが、まさに興味が全くわかないタイプ。委員長とは真逆の人ですね。 

 

「ねぇねぇ、君一人?」

 

 二人に見えるなら眼科を受診の後、眼鏡屋に行くべきです。

 

「変わった格好で出歩くね。俺と服買いに行こうよ。上下とついでに下着までコーディネートしてあげるからさ」

 

 このファションセンスを理解できない貴方のコーディネートとか信用できません。

 

「無視してんじゃねぇぞ、こら」

 

 低い声で脅してきますが、周囲の人は目を背けるばかりで止めようとしないばかりか車掌を呼びにいく気配もない。……あぁ、馬鹿馬鹿しい。組織には一般人を守るのを目的にしている人が居ますが……私はそんな気にならない。自分自身のために戦うのが一番です。

 

「私は今から風雲パンダ城に行くので貴方と買い物には行きません」

 

「あっ、そう? じゃあ、良いや」

 

 ……あれ? これ以上しつこいのなら強硬手段にでる予定でしたのに、急に引き下がって……何故でしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、君。一人だったらお姉さん達と遊ばない?」

 

 待ち合わせ場所に三十分前に到着してみれば既に委員長の姿があったのですが、先程の私と同じようにナンパされています。大学生くらいの二人組で、胸もそこそこ……。

 

「あの、すみません……」

 

 二人と委員長の間に割って入り、威嚇するように不機嫌そうな顔を見せながら委員長の腕に抱きつく。鼓動がドクンと高鳴りました。

 

 

「この人、私の彼氏です。ですので貴女方とは遊べません」

 

 ええ、これは二人を追い払う為の嘘にすぎません。ですから何も問題ないはずです。現に二人は残念そうにして去って行っていますから。

 

 

 

「……すみません。緊急事態でしたから」

 

「ああ、だから気にする必要はない。行こうか。……その服装、何というか個性的だな」

 

 ナンパ避けにまだ腕を組んでいた方が良いかと思ったのですが、委員長はスルリと擦り抜けて歩き出します。ですが思い出したように此方を振り向き、素晴らしい言葉を投げかけてくれました。

 

「分かりますかっ! これは少し値段が張ったオーダーメイドで、既製品よりも通気性保温性が高く、服の王様と言うべきジャージの中でも……」

 

 委員長、流石ですね。このジャージの良さを一目で見破るなんて。それでこそ私が……いえ、何でもありません。

 

 

 

 

 

 風雲パンダ城、年間来場者数は齧歯類で有名な遊園地の三分の二程を誇る、和とパンダをテーマにした遊園地。滅多に姿を現さないメインキャラクター『暗之雲』の他にも侍の姿をしたハシビロコウや黒子、町娘の格好をさせられて落ち込んでいるクマ、様々な変なキャラクターが特色です。

 

 とても人気の……筈なのですが。

 

「……ガラガラですね」

 

「前日に事故でも……無かったと思うが」

 

 ニュースで様子を見た時は普段の私なら絶対に行かないほどに人が多い園内は人が疎らに存在するだけで、まるで地方の末期状態の遊園地。待ち時間も殆どなく乗れるようです。

 

 ええ、それは素晴らしい。昔から思っていたのですが、数分の楽しみのために一時間二時間並ぶ人の心理が分からなかったのです。ですから今日は少しは楽しめそうです。

 

「委員長。少し提案があります。この歳で放送での呼び出しは恥ずかしいですし、逸れない様に手をつなぎましょう。駄目……ですか?」

 

「まあ能力を使えば探知は可能だが、プライベートでまで頼るのはどうかだしな……」

 

 少し迷った様子で差し出された手を私は握る。胸がポカポカと温かい、そんな気がしました。

 

 

 

「まずは此処か……」

 

 委員長の手を引っ張って最初に選んだアトラクションは大迷路。最初に受け取った腕輪には入場時間が入力され、制限時間内にクリアすれば日替わりの賞品が貰えます。二メートルのパンダのヌイグルミや三ツ星レストランの食事券など、賞品の豪華さから大人気のアトラクションです。

 

 

 

「さて、どうやってクリアする? 確か左手を……」

 

「委員長、駄目です」

 

 左手の法則、迷路をクリアするのには役立ちますが……。私が止めるよりも早く委員長の左手は壁に触れ、次の瞬間、壁に仕込まれていた電光掲示板に文字が表示されます。

 

 

『最初から自力でクリアしないとか……ププゥ! ヘタレだね、君ぃ』

 

 

「……なんだ、これは?」

 

「……左手の法則を使おうとしたら馬鹿にされるんです。自力でクリアしましょう」

 

 ……その方が委員長と長く一緒に居れますし。

 

 

 

 

「……制限時間ギリギリか。おめでとう、少年少女よ。今日の賞品はナメタケ三ヶ月分だ」

 

「要りません」

 

 ハシビロコウのキグルミは愉快そうな声で大量のナメタケの瓶を差し出して来ます。邪魔ですね、正直言って。

 

「残念ながら受け取り拒否は出来ん。ああ、途中で捨てるなどマナー違反はしないことだな」

 

 ……此処を選んだのは失敗でしたね。気分直しにフードコートにでも行きましょう。

 

 

 

 

 

「あら、婿殿ではありませんか」

 

「よっす!」

 

「……なんで貴方達が居るんですか」

 

 自動販売機で売っている冷凍の焼きそばでも食べようかと思って来てみれば、バッタリ会ったのはアリーゼの部下二人。遊園地でしか使わないだろう耳付き帽子を二人で被り、限定のお菓子を食べています。

 

「アリーゼ様が婿殿をデートに誘いたいからと言い出しまして、私達で下見ですわ。それで婿殿。実は人が少なくなるように人払いの術を使って経営者に迷惑をかけてしまいました。……お仕置きをお願いします」

 

 ああ、ナンパの人が急に諦めたのはそういう訳ですか。バックから荒縄や乗馬用の鞭を平然と取り出している変態さんは凄いのですね。私は化け物は全滅させたいですが……この人とは本格的に関わりたくありません。

 

「止めとけよ、エトナ。ドン引きされてるぜ?」

 

「何を言いますか。罪には罰。ですから私を荒縄で縛り、罵倒しながら鞭を振るっていただこうとしているまでです。さあ! この愚かな雌豚を調教して下さいませ!」

 

 この人が何を言っているのでしょうか……。あっ、委員長が遠い目をしています。そういえば週一のペースでこの変態が夢の中に現れるとか。

 

「……ドンマイ」

 

 相方が変態の襟首を掴んで去っていく中、私は委員長の肩を軽く叩きます。さて、気分直しにメニューの全制覇でもしましょう。こういう所は値段の割に量が少ないので食べ足りませんが……。

 

 

 

 

 

「もうこれが終わったら帰る時間ですね……」

 

 楽しい時間はすぐに過ぎる。神野さんと話す一分がランチバイキングの九十分と同じ位の長さに感じるように。最後に選んだのは観覧車。この時間は園内をイルミネーションが彩り、普段ならば予約制の大人気の時間帯でしょうが今日だけは空いています。

 

「……綺麗」

 

 観覧車から眺めるイルミネーションは確かに美しく、この時だけは捨て去った普通の女の子に戻れた気がしました。楽しいことを好きな人と共有する、そんな普通の女の子に。

 

「……委員長?」

 

 ふと視線を向ければスヤスヤと寝息を立てている委員長の姿が。きっと何処かの変態や幼馴染のせいで疲れているのでしょうね。なのに私に付き合ってくれて……。

 

 

 私は誰も見ていないのを分かっていながら周囲を見回し、深呼吸をすると寝ている委員長の隣に移動します。肩と肩が触れるとそれだけで幸せで、私は聞こえていないと分かっていても呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

「委員長。私は貴方が好きなようです……」

 

 普通の子に戻るのは今日限り。でも、今この時間だけは別に良いですよね……?

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

「刹那と」

 

「委員長の」

 

「「能力講座ー!!」」

 

「……今回は神野さんの『神秘招来』ですか……いろいろ凄い武器防具が出せます。はい、終わり。これ以上は時間の無駄です」

 

「本当に此処では性格が変わるな……。彼奴の能力は神話伝承に出てくる武器防具を自在に呼び出すという能力で、ある程度操作する事ができるぞ。盾を周囲に浮かしたり、高速で飛ばしてぶつけたり程度だが」

 

「……使いこなすのは能力とは別ですけどね。あの人、見事に使いこなしていてムカつきます」

 

(まあ、そこは特典の一つなのだけどな)

 

「……っていうか私のメイン回で茶番を入れないで欲しかったです」

 

「うん。正直すまん。だが、作者が最近入れてなかったからな。では、次回!」

 

 

 

「……どうせ次回は神野さんとのアンケート回答とかでしょう? けっ!」

 

 




変態に出会って辛かったっ!

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互いに馬鹿の世話で辛いがどうするべきだろうか?

今回も感想からのネタがあります


「うーん。反応がイマイチ。これは似合ってないか」

 

 俺の前で水着姿になった遥は俺の反応を見て少し残念そうな顔になる。毎年のことだが水着を何着も買っては俺に意見を求めるのだ、この馬鹿は。今は黒のハイレグ水着を着ているが、身長に合わせたサイズのためか少しキツそうだ。何処が、とは言わないがな。

 

「……どれでも変わらんだろうに」

 

「へぇ、どっちの意味だい? ああ、どれも似合ってるって意味か。それならもっと反応してくれてもいいと思うけどね」

 

「お前の好きな方の解釈で良い。それと反応しろというが……無茶言うな」

 

 この馬鹿の見た目がいいのは俺も認めよう。だが、付き合いが長すぎて美少女とは認めても、異性としての好意を向ける気にはならんし、先ほどから水着を見せられても欲情する気にもならない。まあ、祖父母の頃からの付き合いだからな。父さん達も何か切っ掛けがあって相手を異性として見だしたと言っていたが、その切っ掛けは覚えていないらしい。

 

 まあ、俺達には関係のない事だ。俺が此奴を女として見るなど天地が引っ繰り返っても有り得ないからな。

 

「君は相変わらずノリが悪いな。此処は”遥ちゃんマジ美少女! 今すぐ好きにしたいZE!”とか言う所じゃないかい?」

 

「言う所じゃないな。いくら美少女でも言動でマイナスだ。もうそろそろ終わりにしよう、飽きてきた」

 

 正直言って怠い。着替えの度に部屋の外に出て、ソファーに座って色々とポーズを取るのを見せられているが、レンタルビデオ屋にでも行って海外ドラマでも借りた方がずっと有益だ。いや、そもそも休日の時間を使ってまで俺はいったい何を律義に付き合って……。

 

 

 

 

「飽きてきた、ねぇ。……なら、もっと過激なことするかい? た、と、え、ばぁ……」

 

 遥は熱病にでも浮かされたのかしなを作りながら俺の隣に座り、腕を絡みつかせて体を摺り寄せる。……ああ、成程。色仕掛けか。一瞬何をしたいのか分からなかった。

 

「偶には二人で保健体育の勉強と洒落込もうじゃないか。前にも言ったけど、君になら好きに触れられても構わないんだぜ? 男女関係なく個人としてそのくらいの好意を向けているんだ。 ……でも、君が望むなら君を異性として好きになろうじゃないか」

 

「……そういう事は本当に異性として好きになってからにしろ。おふざけでないのなら俺も真摯に対応しよう」

 

 しかし信頼あっての事なのだろうが、此奴のスキンシップは激し過ぎるな。いや、他の男は毛嫌いしてるから妙なことになる心配はないのだが。俺より強いしな。

 

「おいおい、恋の形は人によりけりだぜ? 勢いで関係を持ってから始まる恋だってあり得るんじゃないかい? ……まあ、君が嫌なら此処で止めておこう。嫌われたくはないしね」

 

「前も言ったが俺がお前を嫌いになることはない。嫌うほどのことは事前に止めるからな」

 

 それに何だかんだ言って最終的には俺の言葉に従って止めてくれる。だから慌てず冷静に対処できるんだ

 

 

 ……だが、俺にも分らんな。俺が此奴を異性として見ることはないと思ったが、此奴がそんな関係を求めてきたら、俺はどのような対応をするのだろうか。流石に今のままの関係では居られないだろうしな……。

 

 

「うん。それこそ君だ。好きだぜ。もちろん異性としてではないけれどもね」

 

「俺もお前は好きだ。ラブではなくライクでな」

 

 遥はクスクス笑いながら次の水着を手に取り、ドアを指差す。まだ続ける気らしいが、此処まで付き合ったのだから最後まで……おや、誰か来たようだ。

 

「客人だ。恥になるからお前は姿を見せるな」

 

 遥に釘を刺し、チャイムを鳴らした相手のもとへと急ぐ。さて、このような休日の昼間にやって来るのは一体誰だ?

 

 

 

「久しぶりだな、元気にしていたか?」

 

 ドアを開けると其処に立っていたのはアリーゼだった。どうやら住居はバレていたらしい。服装は何時もの軍服ではなくスーツだ。

 

「申し訳有りませんが何方でしょうか? 貴女様のご尊顔に私めは一切の記憶がございません。では、少々立て込んでいますので此処で失礼いたします」

 

 即座に門を閉めようとするが指が差し込まれる。ドアに指先が挟まり、それなりの力で占めているが流石は人外、鬼の肉体はドアで挟まれても然程痛痒を感じてはいないらしい。つまりあのドⅯはどれほどの強さで責められたいと思っているのやら、考えるのでさえ頭痛を覚える。

 

 これ以上馬鹿の相手などしていられるかっ! 遥だけで十分だっ!!

 

「ちょっと待てっ!? 何度も会っているだろう!?」

 

「人違いです人違いです人違いです人違いです人違いです」

 

「ええい! 今日は詫びに参った。ここ最近、夢に従者が侵入しては痴態を晒して無礼を働いていると知ってな。詰まらない物だが菓子折りを受け取ってくれ」

 

 片手で無理やりドアを開けられ、紙袋を差し出される。菓子折り……これはまさか、かの有名な……。

 

「山吹色のお菓子か?」

 

 饅頭の箱の中に大判小判がザックザク。俺はさしずめ悪代官か。さて、だとすると犬将軍に犬の毛皮を送ったらしい老人は誰が当て嵌まるのだろうか。……下らんことを考えてしまったな

 

「いや、いたって普通の白いクリーム大福だ。チョコかカスタードかで迷ったが、両方入っているのにしておいた。馬鹿が媚薬を仕込もうとしたから止めておいたぞ。調べるなら調べろ」

 

「……お前も苦労しているな」

 

 ……なんだ、違うのか。まあ、探知系の能力に反応はなかった事だし、今後の情報収集のためにも大人しく受け取っておくか。……上層部には引き込めないかと言って来るド阿呆が居るが、俺の胃を壊す気か? あの馬鹿の扱いを他の誰に任せるというんだ……。

 

 うん。此奴も馬鹿には変わりないが少しだけ共感してやれそうだ。とんでもない馬鹿の面倒を見なくてはならないという点においてだけだがな。

 

 

「……少し待っていろ」

 

「なんだ? 私とデートでもしてくれるのか?」

 

 ……この女、初対面から段々化けの皮が剥がれて来たな。当初の傲慢不遜な態度が一変して、焔を前にした時の田中の何かを期待する様子似た物が見え隠れしている。俺は玄関でアリーゼを待たせ、冷蔵庫の中で邪魔になっているナメタケの瓶を大福を入れていた紙袋に詰める。

 

 

 

「余っていてな、お裾分けだ」

 

 別名、不要な物を押し付ける。嫌いではないのだが、轟と半分に分けても量が凄まじくてな。微妙に賞味期限が近いし、残りの未開封の物を全て押し付けた。

 

 

「むっ。わ、悪いな。……なんだ。私は異性からの贈り物など、下の者からの貢ぎの品しか経験が無くてな。惚れた相手からの贈り物とは此処まで心が温かくなるものなのか……」

 

 ナメタケが入った紙袋をギュッと抱きしめるアリーゼの姿を見ていると心が少し痛む。まあ、敵だしな。なんでラスボスに従っているのか『原作』を流し読みでしか読んでなかったから忘れたが、何でだったか?

 

 

「私が組織に離反せずに属している理由? 呪いを掛けられているというのもあるが、私の敵は私の一族を滅ぼした奴だけだ。どの様な理由であれ、仲間と認めた相手を裏切る真似はしない」

 

「……それは俺も同じなのだがな」

 

「安心しろ。貴様は私が無理やり連れ帰る。故に裏切りではないぞ? では、さらばだ。次の語らいは寝所で行おう」

 

 自信に満ちた顔で断固お断りしたいことを言い切ると去って行く。……疲れた。本格的に精神的な疲労がやばいぞ。

 

 

 

 

「おや、終わったのかい? ……どうかした?」

 

「疲れた。……寝る」

 

 青のビキニを着ている遥の隣を通り、俺はベッドにうつ伏せに倒れこむ。すると背中に重みが加わった。

 

「マッサージしてあげよう。……普通のと性的なのと、どっちが良いかい?」

 

「普通ので頼む……もうツッコむ気力も無い」

 

「ふふふ、突っ込むとか大胆になったね。君からしなくても私がリードしてやるぜ? まあ、私も経験はないけど知識は君より豊富だし? ある程度の年齢を重ねたら痛みが増すらしいから君が望むならさ……って、寝てるよ」

 

 馬鹿な事を言いながらもマッサージはちゃんと行われており、俺は心地よい眠りにつく。遥は俺の寝顔をしばらく眺め、体が冷えないように上から布団だけ被せると部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

「しかし私がオリ主なのにヒロイン達との百合フラグがそれほど進展しないなぁ。まあ、無理な時は誰かに奪われる前に君と……なーんてね。全然そんな気はないよ。たとえ君とそんな仲にならなくても、君は私のそばにずっと居てくれるからね」

 

 ……ああ、余談だが俺が奴に感心していることが一つある。神話に存在する武器を呼び出せるということは、キューピットの矢も呼び出せるという事なんだが(実際、自分の飼い猫の恋に使った)、好みの女子を口説くのに一切使っていない。転生前はフラれた事で引き籠ったのにな。

 

 あの時は本当に大変だった。毎日様子を見に行って話をして、漸く出かけたら……だからな。

 

 

 

 

 

 

「見てくれ! 彼奴の家に行ったらこれをくれたんだ。ナ、ナメタケの花言葉は何だ? 取り敢えず一生の宝物にして、二人の子供に”お父さんから初めて貰った物だ”って見せなくては」

 

(キノコの花言葉は『疑い』でしたわね)

 

「取り敢えず食おうぜ、アリーゼ様」

 

「嫌だっ! 凍らせて一生保存する!」

 

 

 

~オマケ~

 

 

「教えて! 遥さん!! さてさて、久し振りなこのコーナー! 張り切って行こう」

 

「今回は俺達に対する一般生徒からの印象だ」

 

委員長

 

『少し頑固だけど頼りになるよな。頼れる委員長だ』

 

『実は結構人気有るんだけど、あそこまでラブラブなの見せられたらね。え? 付き合ってない? エイプリルフールはまだ先よ?』

 

神野

 

『蔑んだ目で見られたいって奴が多いよ。絶対零度のツンがたまらないってさ』

 

『委員長とすごいラブラブだよねー。女の子には優しいし、委員長に嫉妬して貰うためにレズの振りしてる所も可愛いわ』

 

 

『うーん。委員長達とは関わるけど、少し孤立してるからな』

 

『警戒心の強い小動物っぽくて可愛いわ。お菓子あげると喜ぶし』

 

 

『良い奴だよ。少し暑苦しいときあるけど』

 

『絶対鈍感よ。見ていて分かるわ。部活に青春を捧げるスポーツマンって感じね』

 

治癒崎

 

『ちっこいけど胸が大きいし人気あるぜ。天然系だしな』

 

『・・・・・・うん、良い子よ?』

 

田中

 

『うん。クラスメイトにいたな』

 

『焔君に惚れてるっぽいけど、どうなるかしら。濃いメンツの中に入るから印象が薄いのよね』




感想 活動報告のアンケート 宜しくお願いします

ナメタケの処理からアリーゼの話に 感想はネタになっています


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彼女を意識すると辛いのだがどうすべきだろうか?

前回一気に下がった  何が悪かったのやら  お気に入りは上がったけど


 組織に属する以上、色々としがらみも発生する。それは超問題児と認識されている馬鹿と、大変遺憾なことにその押さえ役として認識されてしまった俺も同じことで、この日は組織に関係する者達の船上パーティに支部長である父さんのお供で参加させられていた。

 

「ああ、不快だ不愉快だ。初対面の美少女に対し、財力をひけらかせば口説けると思って言い寄るなんてさ!」

 

 すこし潮風に当たりたいと言って会場を抜け出した遥は不愉快そうに言っているが、初対面の美少女に自分の力をひけらかして口説きにかかるのはお前であると言いたくなった。

 

「まあ、普段のように見下したような態度をとらなかったのは感心しよう。ほら、適当にお前好みの料理と飲み物を持ってきたぞ」

 

 普段は周囲の目を気にしないこの馬鹿も、弁えるべき場では見事に猫をかぶる。非常にストレスになるからと短時間しか保たないのだがな。

 

「だが、確かにひっきりなしに口説かれては辟易するだろうな。しかしこれで証明されて良かったじゃないか。お前が美少女だとな」

 

 今日の遥だが、文句の言いようの無いほどに綺麗に着飾っていた。黒いパーティドレスに結い上げた髪に付けた髪留め以外に装飾品は無く、薄化粧さえしていないが、それでも元々の器量の良さがそれを補って余りある。いや、寧ろ余計な装飾が無いことで本来の美しさを現していた。

 

 だからこそ悪評を知ってなお口説きにかかるのがいたのだが。

 

「へえ、君がそう言うなんて珍しい。私の魅力に気付いて惚れたかい? ははは、君にだったら口説かれても不快じゃないぜ?」

 

「ああ、初対面だったら声くらいは掛けたかもな。痘痕も靨ということで言動も気にならなく、は無理だな。寧ろ見た目が良いせいで言動の酷さが際立っている。千年の恋も、という奴だ」

 

 俺の発言にニヤニヤしていた遥だが、途中から拗ねたように膨れ面になる。それを見ているとついつい笑みが浮かんでしまった。

 

「ふむ。やはりお前はお前らしくしているのが一番だ。迷惑さえ掛けられないのなら、取り繕った時よりもずっと好きだな」

 

「そりゃ好きでもないのなら迷惑掛ける相手にずっと付き合いはしないだろ。あっ、そうだ。ちょうど抜け出したし、君から告白されて付き合うことにしたってのはどうだい?」

 

「迷惑を掛けている自覚があるなら何故自重しないんだ、お前は。・・・・・・そうだな。別に構わんが、告白したのはお前からだ」

 

 そこまで譲歩してやる気はない。只でさえ此奴と付き合うというおぞましい嘘を吐くのだから、せめて告白されたから受け入れてやった、ということにしたい。

 

 遥は指先を口元に当て、少し考えたがやれやれといった風にため息を吐いた。いや、俺がお前のために協力するんだぞ?

 

「じゃあ、小さい時から君が好きだ、付き合ってくれ、って感じのことを言ったってことで。じゃあ、そろそろダンスの時間だし戻る頃合いだけどさ・・・・・・此処で踊ろうか。偽物の恋人として踊る前に、私達本来の関係としてさ」

 

 何時もの飄々とした笑顔を浮かべながら差し出された手を取り、月明かりの下で習いたてのぎこちないダンスを踊る。さんざん苦労させられているが、此奴と一緒にいるときが一番楽しいな。

 

 

 

「・・・・・・むっ」

 

「おや? 新しい能力が開花したかい?」

 

 船内から漏れてくる音楽に合わせて踊っている最中、世界の何処かで誰かが能力に目覚めたようだ。『予知夢』という便利そうな能力ではあるが、確率の高い幾つかの未来の内、どれかの何時かの時間を無作為に夢で見るという微妙系だ。例え3%でも他が1%なら確率が高いということだし、一番目と二番目に大差があっても二番目の確率のを見る可能性もある。

 

「役に立たないね、それ」

 

「レベルが高ければ時期とかも分かりそうなのだがな。任意で使えない以上、基本無視の方向で、見た後で考えよう」

 

「もしかしたら君と私が結婚している未来を見るかもね」

 

 可能性は否定できない。家族に外堀を埋められているし、他に結婚しそうな相手も今は居ないので、互いに独身だし、ってな感じで結婚する恐ろしい未来予想図が浮かんでしまった。いや、結局誰と結婚しても遥の世話を焼くのなら、相手に気を使わない分良いのかもしれないが・・・・・・。

 

 

「うん。絶対にないな。一週間以内にそんな予知夢を見たらラーメンを奢ってやる」

 

「誕生日プレゼント、くれた人には贈っているから結構カツカツの癖に大丈夫かい? じゃあ、見なかったら普段のお礼に今度行く予定のピクニックのお弁当、全部私が作ろうじゃないか」

 

 笑いながらこんな賭をした日の夜、早速能力が発動した。どうやら明晰夢として見るらしく、頭もはっきりしていて周囲の状況も理解できる。

 

 

 

「・・・・・・マジか」

 

 ついつい口調が乱れてしまうが許して欲しい。俺はホテルの一室のベッドの中に居て、隣では俺の手を握った状態で寝ている少し成長した遥が居た。尚、互いに全裸である。それどころか汚れ具合や臭いからして何があったかは一目瞭然だ。

 

「いや、待て待て待て。酒の勢いでという可能性もあるし、まだ結婚したとは・・・・・・」

 

 空いた手で顔を覆いながら呟くと遥が身動ぎして起き上がる。心底幸せそうな表情を浮かべながらだ。

 

「・・・・・・幸せってこういう事をいうんだね。可愛い女の子と遊ぶより君と居る方が楽しいと分かっていても両方手に入れようとしたけど、ずっと君と居る方が幸せだよ」

 

 トロンとした目のまま腕が俺の首に回され、数年ほどで更に成長した肉体が押し付けられる。唇には当然唇が押し付けられ、舌の先が僅かに入ってきた。

 

「おはようのキスもしたし、昨日の続きと行こうか。最後は君に任せたし、私がリードしても良いだろう。ふふふ、これも夫婦の共同作業って奴か。二回目は君から頼むぜ? 激しいのも優しいのも君にお任せだ。宜しくね、ア、ナ、タ」

 

 飛びかかるように俺に飛び乗った遥は再びキスをして、そのまま・・・・・・。

 

 

 

「はっ!?」

 

 ギリギリのところで目が覚める。寝汗がビッショリで気持ちが悪い。いや、昨日潮風に当たったのに疲れたからと帰って直ぐに寝てしまったのもあるな。遥が調子に乗って腕に抱きついたり頬にキスをしたりとやりたい放題だったから精神的に疲れてしまった。

 

 

「風呂に入るか・・・・・・」

 

 母さんが水を張っていてくれたから能力で適温まで沸かし、入浴剤を入れてゆっくり浸かる。足を伸ばして天井を見上げていると疲れが溶け出すようだった。

 

「極楽極楽」

 

 夢のことは可能性の一つとして割り切ろう。遥に対して変な意識を持ちたくはないしな。・・・・・・ラーメンは適当な内容を言って奢ってやるか。ただ、家族に知られたら外堀が更に・・・・・・恐ろしい話だ。話すことが夢に繋がるかもしれんとは。

 

「・・・・・・だが、遥の奴、更に綺麗になっていたな・・・・・・」

 

 夢で見た姿を思い出すと恥ずかしくなる。だから注意散漫になってしまっていた。

 

「お風呂お風呂・・・・・・あっ」

 

 ドアが開き、遥が姿を見せる。此奴も汗を流そうとでもしたのだろう。当然全裸だ。隠そうともせずに入ってきたので全身を直視してしまった。

 

 

「っ! スマン!」

 

 俺が謝るべきかは別として、直ぐに後ろを向く。だが、夢での姿と先ほどの姿の両方が焼き付いて忘れられそうになかった。

 

「いやいや、私の不注意だ。でも、どうしようか。着てた服を洗濯機に入れて回しちゃったし・・・・・・」

 

「なら、俺は出る。・・・・・・少し後ろを向いていてくれ」

 

 返事を待ち、壁の方を向いたまま浴室を出ようと思ったのだが、浴槽を出る前に肩を押さえつけられた。

 

「前にも言ったけど、自分を犠牲にして私を優先するなよ。・・・・・・よし! 此処は折衷案で行こうか。ちょっと端によって」

 

 ついつい言われるがままに端によると湯が溢れる。何が浴槽に入ってきたか直ぐに理解した。なにせ背中に背中らしき感触が伝わって来たのだからな。

 

 

「うんうん。これで解決だ。小さい頃は一緒に入ったし、気にしなくて良いよ。あっ、直ぐに出ようとしたら悲鳴上げるから」

 

「お前は鬼かっ!」

 

 此処まで来たら仕方がない。俺は背後の存在をなるべく気にしないように心掛けた。

 

 

「そうそう。夢見たかい?」

 

「・・・・・・ラーメンは奢ってやる」

 

「そう。私達、結婚する可能性も有るんだ。ふぅん」

 

 遥の声からは特に何も感じない。・・・・・・うん。これは本当に気にしない方が良いな。意識するのは馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

 

「ところで今度のピクニックだけど治癒崎も来るらしいぞ」

 

「・・・・・・弁当は私達で作るって言い含めてくれよ?」

 

 当然、それは理解している。調理実習の時に起きた悲劇を誰が忘れるか。・・・・・・この世界には前の世界には存在するはずのない絶対的な法則が存在する。本当に恐ろしい法則が・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「皆とピクニック楽しみだなー。よーし! 私も何か作って持って行こー」




感想待っています

今回も募集から内容が浮かんだ。次回も感想を参考に浮かんでいます


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これから待つ地獄が辛いのだがどうすべきだろうか?

 この世には人の身では抗いようのない物理法則が存在する。たとえばニュートンの発見した万有引力。アインシュタインの相対性理論。能力はそれら法則を完全無視できるが、あくまでそれは超常的な力を使った際の話だ。まあ漫画の世界だから仕方がない。

 

 だが、彼女は違う。彼女は超常的な力を使わずに異常な結果を出すのだ。ああ、恐ろしい。俺と遥が彼女には極秘に名を付けたその法則の名は……メシマズの法則。

 

 

「今日はいい天気で良かったねー。あっ、皆の好物を沢山作ってきたよー」

 

 今日は晴天に恵まれて絶好の行楽日和。間延びしたその声は実に楽しそうで聞いている此方も明るい気分になる。彼女の手に手料理が詰められたバスケットが下げられていなければの話だが……。

 

 

 治癒崎 鹿目(ちゆざき かなめ)、『原作』における三大ヒロインの一人だ。小柄な体系に不釣り合いな大きさの胸を持つ天然系の回復ヒロイン。『治癒』という名前そのままの能力のレベルⅡ、のちに覚醒してⅣに段階飛ばしで成長するはずだった彼女は……料理が下手だ。

 

(さて、誰が食べるのか……俺しか居ないか)

 

 『感覚鈍化』『内臓強化』『表情秘匿』、これらの能力をフル発動させた俺が全部食べ、美味しかったからつい、と誤魔化すしかない。流石に本人に、お前の料理は死ぬほど不味い、とは言えないからな……。

 

 大袈裟と思う人もいるだろう。料理は材料と手順さえ守れば複雑な手順を必要としない限り成功する。失敗料理は調味料の量や火力、手順が本来と違うから出来上がるのだ。創作物でよくある一口食べただけで倒れるレベルなど現実には有り得ない。だが、彼女の料理は本当にその一歩手前で酷いのだ。

 

 調理実習の際、彼女が料理下手だという裏設定を遥から聞いていたが、手順も材料も問題無かったのに出来上がったのは見た目も匂いも普通なのに味がこの世の物とは思えないレベル。餓死か食べるかで悩む程の不味さ。実際、気絶者が出た。

 

「あれー? 急に寝ちゃったけどどうしたのー?」

 

 あの時、彼女は本当に分かっていないように見えた。不味さで気絶したとは微塵も思っていないのだろうな。

 

近くで見ていてどうしてああなったのか全く理解できず、作者という神によって定められた法則と納得するしかなかった。

 

 尚、本人は味音痴なので美味しそうに自分の料理を食べる。美味しそうに出来たから食べて、ではなく、美味しく出来たから食べて、と悪意が無いぶん質が悪かった。

 

「そうかい。でも、私は君を食べてしまいたい気分かな」

 

「もー! 擽ったいし歩きにくいよー」

 

 俺の決死の覚悟などお見通しの遥は親指を立てた手を此方に向けながら空いた手を治癒崎の腰に回して耳元で囁く。治癒崎は見事に気にしないが、あれは本当に気にしていないのか? 時たま、彼女の態度が演技に見える時があるのだが……。

 

「おい、治癒崎。着いたら早めに飯にしよう。昨日送ってきた、自分も作ってくるというメールを見て、遥は朝食を抜いて来たんだ。俺も腹が減っているしな」

 

「分かったー」

 

 唖然とする遥。まあ、たまにはお前も犠牲になれ。俺も半分食べてやる。能力のおかげでお前よりはダメージが軽いがなっ! 即死か瀕死の後に死に至るかの違いだろうけど。あれ? 能力を使わない方が良いのか?

 

「……仕方ないか。君と一緒なら果てるのも悪くない。でも体力を温存しておきたいから運んでくれ」

 

 急に足を止めてオンブをせがむ様な格好の遥だが生憎リュックを背負っているので背負えない。だが、このままだと無駄に体力を消耗した状態で治癒崎の弁当に挑む事になる。

 

「頂上までだぞ?」

 

 仕方がないので腰と膝裏に手を差し入れ、前に抱き上げて運ぶ。お姫様抱っこという奴だが、対象が遥なので恥ずかしさはないな。

 

「こりゃ楽ちん楽ちん。ふふふ、もしかして私を抱っこするのを期待していたかい?」

 

「放り出して良いか? 具体的に言うと蜘蛛の巣がある方向に」

 

「蜘蛛の巣っ!? ヤダヤダヤダっ!」

 

 少し脅せば真に受けた遥が必死でしがみ付いてくる。さて、これで暫くは御ふざけが無くなるだろう。

 

「ああ、腹は減った。もしかしたら全部俺と遥が食べるかもな」

 

 遠回しに二人に安全だと伝える。俺は一応リーダーだからな。仲間は俺が守らなくては。

 

 

 

「委員長、勇気あるな……」

 

「尊い犠牲に感謝です……」

 

 遥が普段の言動など無視して助けを求める目を向ければさっと視線を逸らされる。まあ仕方ないといえば仕方ない。諦めろ、俺も一緒に死んでやるからな……。

 

 

 

「皆の好物ごとに分けて来たよー。まずは刹那ちゃん、はい」

 

「どどどどど、どうもっ!?」

 

 バスケット中の料理は個人ごとに布で包まれて分けられ、すぐ隣に座った轟に最初に差し出される。これは俺と遥が犠牲になる作戦は無理だな。

 

 ブワッと顔中に汗を拭きだした轟は動揺を隠せず、普段とは打って変わって盛大に声が震えている始末。その更に横の焔など手を組んで神に祈りを捧げている。あっ、うん。炎神は炎の神だから激マズ料理はどうにも出来ないと思うぞ? 内心ホッとしながら能力を発動させる。この量なら何とか意識を保てそうだと安堵した時、俺達が座ったピクニックシート全体に影が掛かる。

 

「避けろっ!」

 

 俺が叫ぶと同時に焔は治癒崎を抱え、皆一斉に飛び退く。次の瞬間、巨大な金属の拳が先程まで居た場所を叩き潰した。当然、弁当もだ。

 

「よしっ! ……じゃなかった。どなた様……誰ですか?」

 

「鹿目ちゃんのお弁当をよくやって下さいまし…よくもやってくれたね! 感し……許さないよ」

 

 気持ちは分かるが本音は隠せ、お前達。治癒崎に聞かれていたらと思いながら焔の方を向く。

 

「わー。蓮司君のエッチー」

 

「わわわっ!? 誤解だっ!」

 

 咄嗟に抱きかかえた際、焔の手は治癒崎の胸を掴んでいた。流石は主人公、見事なラッキースケベだ。あっ、女子二人の視線が厳しい。

 

「はっ! こんな時にセクハラかい? これだから変態は」

 

「……裁きの時間は後です。今は敵に集中しましょう」

 

 普段から敵味方構わず同性相手にセクハラをかましている遥が親指を下に向け、轟は降ってきた拳を睨んでいるが後で何かする予定のようだ。

 

 そんな中、拳はゆっくりと宙に浮き、空から残りのパーツが下りてくる。鬼瓦をメカっぽくしたものの左右に浮かぶ手首から先だけの両手。鬼瓦ロボと呼ぶべきその上には一人の少女が乗っていた。

 

 

「なははははっ! 鬼瓦Zの不意打ちを避けるとは中々やるんだねっ! それでこそ。この天才発明家エリアーデの敵に相応しいんだよっ!!」

 

 茶色いくせ毛を無理に三つ編みにして瓶底眼鏡を掛けた白衣の少女はビシッと指を突き付けて来る。……エリアーデ? ああ、居たなこんなキャラ。

 

 確か幹部登場シーンで科学者だとは分かったがその後出番はなく、最終話の一話前で巨大ロボット軍団に乗って再登場するも、アリーゼと相打ちになって轟が重傷を負った事で覚醒した焔に一撃で負けたんだったな。

 

 この轟が相打ちになったという事が俺がアリーゼに心を許さない大きな理由の一つだ。敵であり、組織を裏切る気はなく、好意を感じさせても押し付けがましい奴という事もあり、既に友人と思っている轟に大怪我を負わせるかもしれない相手に心を許せるはずがないからな。

 

 そして何よりも何度も遥に武器を向けている。あの出会って直ぐにキスをしたり俺の事をよく知りもしないで肉体関係を持とうとするやり方は種族の差だと諦めよう。轟の件も俺達がどうにかすれば良いだろう。だが、邪魔だからと遥を始末しようと武器を向けた事は絶対に気に入らない。

 

 

「君達はアリーゼちゃんのターゲットらしいけどそんなの関係ないんだねっ! 皆纏めて私の実験材料になると良いよ。『百鬼会』最高頭脳の力を見せてあげようっ!」

 

「なんだ。お前らの組織はそんな名前なのか。あの情報をペラペラ喋るアリーゼさえ組織名は言わなかったのにな」

 

 明らかに此方を値踏みするというか見下しているというか嫌な視線を向けて来たエリアーデの表情が強張る。あの情報漏洩の常習犯に負けたからショックだったのか?

 

「ななっ!? 見事に喋らせるとは……そっちの頭脳も侮れないんだねっ!」

 

 あっ、此奴馬鹿だ、と、この場に居る皆が理解した。得意分野に特化してる分、他ではポンコツって部類の奴だ。

 

「ふ、ふんっ! こうなったら力比べだよ。メカに人が勝てるはずがないんだからねっ! 鬼瓦Z! Wロケットパンチだよっ!!」

 

『ガワラー!!!』

 

 手首の切断面に当る部分から青い炎が噴き出して俺達に向かって来る。だが、遥が指先を向ければ出現した二個の盾が宙に浮かんで拳を止めた。

 

「じゃあ、後は宜しく」

 

「ああ、任せろ」

 

 エリアーデが乗った本体に向かって跳躍し、『脚力増強』『肉体硬化』『衝撃増強』などを同時発動、眉間に蹴りを叩き込めば其処から蜘蛛の巣状に亀裂が広がり、俺が着地すると同時に中心から光が溢れ出す。

 

「し、しまったっ! 緊急脱出っ!!」

 

 スイッチを押して発動したのはまさかのバネ仕掛け。足場の下から出現した巨大バネによってエリアーデは天高く飛んで行き、それと同時に腕と共に頭部が爆発する。

 

 

「あっ、着地忘れてたんだよっ!? おーぼーえーてーおーくーんーだーねーっ!」

 

 忘れたくてもインパクトが強すぎて忘れられないな。しかしアリーゼといいエリアーデといい、こんなのをほぼ一人で相手した原作の焔、凄い奴だったんだな。

 

 

 

 

「さて、撃退したし俺と遥が持って来た弁当は無事だから食べるとしよう」

 

「あっ。バスケットに入りきれなかったお菓子はバッグに入っているから無事だよー。これも私の手作りなのー」

 

 すまない、父さん、母さん。俺、死ぬかもしれません……。

 

 

 

 

 

 そして数日後、委員長である俺は担任からある事を告げられた。

 

「転校生ですか?」

 

「ああ、外国から来た子でな。明日紹介するけれど大変だろうから面倒を見てやってくれ」

 

 少し嫌な予感がするな。父さんも新人が入るから今日紹介するといっていたが……。



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彼の姿を見ているのは辛いのだけど、どうすべきだい?

雑誌のオマケとかにあった見る角度で絵が変わるカード、あれってなんていう名前でしたっけ


「・・・・・・どうしてこうなった」

 

 私の横でうなだれる彼の肩に手を置くかどうするか少し迷う。やれやれ、常識を知らない奴は本当に困るよ。私の大切な彼にこんなストレスを掛けるなんてさ。

 

 

「へぇ、君は回復系の能力なんだね。実に興味深いんだよっ! 回復の効果はどの程度? 切断した四肢をくっつけられる? 抉れた部分に使ったらどうなるんだい? 間に異物があった場合は? さあさあ! 全部教えるんだねっ!」

 

「うーん。分かんないよー」

 

 矢継ぎ早の質問に鹿目も困っているし、あの女は少し無礼だよ。礼儀くらいちゃんとしないと駄目だよね。そろそろ止めようかな? 助けたお礼がしたいって言ったらお風呂で背中でも流して貰うとして、事故を装ってあの胸にワンタッチしても問題ないだろうしさ。

 

「なら、適当な敵を捕まえて実験スタートだ、ぬぇ!?」

 

「いい加減にしろ、馬鹿者」

 

 あっ、脳天に辞書がたたき落とされた。あれ痛いんだよねぇ。何時も食らっている私は見ているだけで頭がズキズキ痛む気がして思わず手でさする。受けた本人は悶絶して涙目だ。ふふふ、無様無様。見てて笑えるね。

 

「酷いんだよっ!? 私は天才だし、世界最高の頭脳に辞書を叩きつけるなんて何考えているんだねっ!?」

 

「何を考えているんだ、は俺の言葉だ! この大馬鹿者めっ!!」

 

 涙目で抗議する少女、エリアーデを彼は一喝する。そもそも彼女がどうして私達と行動しているのか。それは少し前に遡る・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「今日は転校生がやってくる。仲良くしてやってくれ。あと、余計なことするなよ、神野」

 

 さて、今日休みの担任の替わりにホームルームに来た体育教師(ジャージが似合う姉御系)が私を名指しにすると言うことは・・・・・・女子か! それも美少女だ。クラスメイトも察したのか男子が嬉しそうにしているし、早く顔が見たいね。ふふふ、右も左も分からずに困っている子猫ちゃんに優しく手を差し伸べれば・・・・・・。

 

 でも、問題は彼だ。委員長だし、皆に頼られているから世話を任されるだろうから、幼馴染みとして手伝うって口実で近寄っても彼には下心を読まれているからなぁ。

 

 だけど、転校生が入ってきた瞬間、私は思わず身構える。それは刹那や鹿目ちゃんも同じで、ついでに焔も驚いている。

 

 

「初めまして、諸君。私はエリアーデ・エトラーゼだよっ! 宜しく頼むんだねっ!」

 

 先日ピクニック中に襲い掛かり、鹿目ちゃんの手料理(劇物)を破壊してくれた命の恩人・・・・・・じゃなくて敵組織幹部の科学者だ。私達の視線はリーダーである彼に注がれ、何かを諦めた様な顔を見て察した。何かを知っているようだが、間違いなく苦労しているな、と。

 

 ・・・・・・許せないな。彼に苦労させるなんてさ。好みじゃないってのも有るけど、私のエリアーデへの印象は良くない物だった。

 

 

 

「組織を裏切った? またどうして・・・・・・」

 

 放課後、集まった私達は何故エリアーデが転校してきたのかの説明を彼から受けていた。私達と一戦交えてから三日後に投降を申し出てきたらしい。

 

「この前の襲撃は命令違反だったんだね。私人間だけど、元ボスは人間が嫌いだから始末されそうになって、面倒だから情報提供と引き換えに投降したらスカウトされたんだね。ってな訳で宜しく頼むんだよ」

 

 どうも彼女の科学力に目を付けた上層部が彼女の引込みを提案し、問題児ばかりのうちの支部に回されて来たとか。……信用できないなぁ。私、彼女は嫌いだ。私だけじゃなく、彼まで実験対象にするって言ったんだから。

 

「普段は他の人が見張るけど、学校では俺達が見張れとのことらしい。……はあ」

 

 心労からか深い溜息を吐く彼を見ると心が痛む。学校に通うのも私達の日常を観察する為らしいし、変な真似をしたら容赦はしないでおこう。

 

 何時も私の傍に居てくれる君。昔から私を守ってくれた君。私の大切な君。私が絶対に君を守るよ……。

 

 

 

 

「あの馬鹿、何を考えている……」

 

 エリアーデがクラスに入って来てから一週間、彼は気苦労しっぱなしだった。科学室での授業では怪しい薬品を調合し、お昼には妙なものが入った食べ物を勧めてくる。もう何度辞書が頭に落とされたか分らないほどだ。おかげで心労が溜まっている彼は忙しくて今までのように話す時間が減っているし……。

 

 今のようにソファーに隣り合って座るのも久しぶりだ。こういう彼との何気ない時間が私は好きだ。幼いころから一緒だったし、近くに居ないと妙な気分になるんだよね。正直、可愛い子猫ちゃん達と一緒にいる時より楽しい。

 

 まあ、それはそれ、これはこれ。私は彼の傍に居ながらハーレムを作る気だけどね。

 

「そもそも何故妙な奴らばかり集まるんだ……」

 

「そりゃ原作主人公が居るからじゃないかい? オリ主は私だけど、奴がトラブルを引き寄せているんだよ」

 

 あーあ、見てられないよ。彼がこんな風に愚痴るのは久しぶりで、本当に参っている証拠だ。仕方ないなあ……。

 

「ほら、私の膝枕で少し眠りなよ。少し休んだ方が良いって」

 

「……そうする」

 

 私が膝を叩くと彼は迷いなく頭を乗せる。右手で彼の髪を優しく撫でながら左手を伸ばすと彼も手を伸ばし、私達は手を握り合った。うん、落ち着くなぁ。昔から不安な時は手を握って貰っていたし、本当に落ち着くよ。

 

「私の膝はどうだい? ……あらら。余程疲れていたんだね」

 

 何時もなら、性格は最悪だけど頭の置き心地は悪くないな、位言うのに何も言わないと思ったら寝ているよ。安らかにすやすやと寝息を立てて、リラックスしている彼の姿を見ると少し安心した。

 

「子守歌でも歌ってあげようと思ったのにさ。私の歌が聞けないなんて残念だったね」

 

 私にとって彼は家族同様に大切な存在さ。昔から一緒に居て、何があっても傍に居てくれるって信じて疑わない存在。……そう言えば結婚する可能性もあるんだったね。

 

 彼の事は好きだけど、多分異性への好きではない。異性としてではなく、彼自身として好きなんだ。結婚は……しても良いと思っているし、結婚するなら彼以外にあり得ないけど、結婚したい訳じゃない。私達の関係が結婚するかしないか程度で変わるはずがないしね。

 

「私も少し眠ろうかなぁ……」

 

 彼の頭を膝に乗せ、彼の手を握っていると私の心も安らいで眠気がやって来た。そういえば昔はよく一緒にお昼寝したっけ。互いの家に泊まりに行って、布団を並べて夜遅くまでお喋りしてたら怒られたね。まあ、お喋りといっても私の話を君が一方的に聞いて返事をしてくれていたんだけどさ。

 

 

「本当に感謝しているよ。私の大切で大好きな君。これからもずっと一緒だぜ?」

 

 彼への思いを口にするのは何一つ恥ずかしくない。さて、本当に眠くて動きたくないな。このまま寝ちゃおうっと……。

 

 

 ああ、彼の気晴らしに何処か遊びに誘おう。どうせなら私も楽しめる場所が良いなぁ。ああ、あそこが良い。二人っきりで遊びに行って気晴らしをさせてあげよう。うん、そうしよう……。

 

 

 次の日曜日に彼を遊びに誘おうと決めた日の翌日、私達はエリアーデの家を探していた。監視に特化した後方部隊の人が見張っている代わりに提供した土地に住んでいるそうだけど……。

 

 

「……これかな?」

 

「住所は間違いないが……」

 

 渡されたメモを頼りに来てみれば、其処には巨大な大仏が鎮座していた。胡坐を組んだ足の裏に扉が有るけど、この前のロボといい、彼女は和風っぽい何かが好きなのかな? 

 

 

 これを断じて和風とは絶対に認めたくないけどねっ! 

 

 

 

「やあやあ。よく来てくれたんだよ。お茶でも飲んでいくんだね」

 

「その湯飲みの中の妙に泡立っている液体なら飲まん」

 

 出迎えたエリアーデが持って来たお盆の上には泡立ち続ける奇妙奇天烈な色の液体が入っている。こんなのに引っ掛かる訳がないだろ。

 

「じゃあレントゲン取るかい? 怪しい薬は飲まないかい?」

 

「取らないし飲まない。これ以上勧めるなら……」

 

「わ、分かったんだよっ! だから辞書は勘弁するんだねっ! あれをこれ以上食らったら私の天才的頭脳がパ~プリンなんだよっ!?」

 

 少ししつこいエリアーデも彼が懐から辞書を見せれば諦めた様子。あれ、本当に痛いんだよね。……おや? 

 

「これ何だい? ペアのブレスレット?」

 

 机の上に置いてあった装飾の少ないブレスレットが気になった私はそれを手に取る。金色と銀色のブレスレットは少し好みのデザインだった。

 

「なははははは! 聞いて驚くんだねっ! それは付けた二人をずっと傍に居させる力が有るんだよ」

 

「……ふーん」

 

 まあ、私と彼はずっと傍に居るけど? 最近、彼に言い寄るのが出て来たけど関係ないとはいえ、少し興味がわいた私は彼の右腕に片方を嵌め、もう片方を私の左腕に嵌めた。

 

「何も起こらないけど? あっ、トイレ借りるよ?」

 

「トイレならそこのドアを出て左の突き当りなんだね。それと効果だけど……」

 

 彼女の話に興味がない私はさっさとトイレに行こうとして、途中から先に進めなくなった。あれ?

 

「ふんっ! ……あれ?」

 

 どんなに力を入れて進もうとしても先に進めない。ところでブレスレットが怪しく光っている様な……。

 

 

 

「言った筈だね。二人をずっと傍に居させるって。まあ、試作品だから二十四時間で自動的に外れるんだよ」

 

「つまり一日経つまでは外れないのか。……鍵のような物は?」

 

「無いんだねっ!」

 

 私と彼の距離は約一メートル。明日が土曜で休みだったのは幸いか。

 

 

 

 

 

「じゃあトイレ行くからついて来て」

 

「少しは葛藤がないのかっ!?」

 

 君と私の間にそんな物がある訳ないじゃないか。馬鹿だなぁ……。




感想お待ちしています


本来繋がるのは轟の予定でしたが、書いているうちに彼女に持っていかれました


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この距離は精神的に辛いのだがどうすべきだろうか?

少し難産 書きたいシーンのために全体が難しく 今後の教訓ですね


 この時、俺は非常に気まずい気分になっていた。

 

「……早く出てこい」

 

 エリアーデの発明した腕輪によってドアに押し付けられながら俺は呟く。『感覚鈍化』などで聴覚を制約して遥の便所が終わるのを待つ間、俺は土壁をジッと見つめているしかなかった。

 

「ふぅ、すっきりした。この家のトイレ、広くて居心地が良いね」

 

 漸く出てきた遥に続くように俺も歩く。一m以上離れられないのは少し面倒だ。いや、普段から傍に居る事が多いからそれほど問題でもないか? 

 

「あまり変わらないな、うん」

 

 風呂とかトイレは少々不便かもしれないが、たった二十四時間だ。まあ、問題ないだろう。……馬鹿が自重すればの話だが。

 

 

「えっと……ごめんね。怒っているかい?」

 

 エリアーデの家からの帰り道、珍しくしょげた態度の遥が謝って来た。今回の事を気にしているらしく、俺の顔を伺ってくる。

 

「この程度で怒る様ならお前の傍には居ないさ。ほら、行くぞ」

 

 遥の手を握ると落ち込んでいた顔が明るくなる。ほら、何一つ問題ない。俺達の普段の距離は普段からこんなに近い。一m? 遠い位だ。

 

「……やっぱり君の隣は落ち着くな」

 

 遥は俺の腕に抱き着き頭をくっ付けて来る。ったく、この程度の事を気にするなら少しは自重してほしいんだが……無理か。此奴がそんな奴だって分かっていて俺はずっと傍に居るんだからな。

 

「……俺もだよ。お前の傍は落ち着く」

 

 傍に居るのが当たり前だいないと落ち着かない等と普段から思っているが、結局の所、此奴の傍に居るのが好きなんだな、俺は。苦労を掛けられはするが、その苦労すらどこか楽しいと思っているんだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、一緒に寝るかい? あっ、この超絶美少女が背中を流してあげようじゃないか。感謝するんだぜ?」

 

「調子に乗るなっ!」

 

「あでっ!」

 

 ……うん。まあ、このやり取りも楽しいといえば楽しい……のか?

 

 

 

それから家に戻った俺達は並んで座ってテレビを見たり、宿題を終わらせたりして過ごしたが、今日も親が居ないので炊事をしなければならなかったが、これが大変だった。

 

「おい」

 

「ん。丁度良いよ」

 

 小さい皿にカレーを注ぎ、ポテトサラダを作っている遥の口に運ぶ。あっ、隠し味を入れなくてはな。食器も出して……。

 

「少し不便だ」

 

「まあ、仕方ないさ」

 

 一旦カレーの火を止め、冷蔵庫と食器棚から目的の物を取り出す。腕輪の力がなかったら作業を分担数するんだが、こうして肩を並べて料理をしなくちゃ駄目なのは少し困ったな。

 

「しかしアレだね。こうして二人で料理をしているとまるで新婚夫婦みたいだと思わないかい?」

 

 皿に盛りつけながら遥が言ってくるが妙な事を言うものだと思う。

 

「思わないな」

 

「ちぇ。此処で、なら今から新婚初夜じゃー! って来るかと思ったのにさ」

 

 この馬鹿は俺を何だと思っているのか。いや、冗談で言っているとは分かっているんだが。だいたい、二人で料理をするのは昔からだし、新婚は要らないだろう。夫婦のようだ、と言われたら否定は出来んな。

 

「お前はそういう事ばかり言って、俺がもし本当にして来たらどうする気なんだ? いや、お前の方が強いから抵抗は容易いんだろうが……」

 

 俺も此奴相手に理性が崩壊するとか考えられないし、何時もの冗談のように襲うような事はないがあまりに考えなし過ぎるとも思う。信用されるのは嬉しいが、それが過剰なスキンシップに繋がっているんだろうしな。

 

 俺の問いに対し、遥は笑いながら迷いなく答えた。

 

 

 

「同じ様なやり取りを前にもしただろう? 私は君になら何をされても良い。いや、何でもしてあげたいんだ」

 

「……そうか」

 

 流石に今のは少し照れる。相手は遥なのにな……。

 

 

 

「……今のは少し効果あったかな? ふふふ、遥ちゃんの大勝利だね。じゃあ、ご飯を食べよう。可愛い私の愛妻料理だよ」

 

「愛妻ではないな、愛妻では。第一、二人で作っただろうに」

 

「じゃあ夫婦の共同作業の結晶だね」

 

「……もうそれで良い」

 

 遥が調子に乗った際にツッコミを入れても止まらない場合、流す方が心理的に楽だ。長い付き合いで理解している俺はツッコミを放棄した。

 

「あっ、よく見たら腕輪にメモリみたいな物がついてある」

 

「おい、馬鹿、止めろ」

 

 だが、それで止まるはずないのが馬鹿だ。遥の指先は腕輪に隠されていたスイッチに触れ……。

 

 

 

 

「……その結果がこの有様ですか」

 

「何時もと変わらないんじゃないか?」

 

 食後、急に入った任務の集合場所に俺と遥はやって来た。俺の背中に遥が乗るといった格好でだ。腕輪を弄った結果、俺達の距離は極度に近付いて数㎝にまでなる始末。なら体がぶつかって歩きにくくならないようにと今の格好に至ると、そういう訳だ。

 

 説明を受けた轟は呆れ眼だし、焔も苦笑しているがな。

 

「じゃあ早く戦って終わらせようか。見たい番組を録画していないんだ」

 

「おい、無性に背中から壁に激突したくなったんだが覚悟は良いか?」

 

 背中で何やらギャーギャー騒ぐ声が聞こえて来るが知ったことではない。よし! 『脚力強化』『速度上昇』『疾風迅雷』……重ね掛けだっ!!

 

 

 

 

 

「んなー!」

 

「おー、よしよし。お前だけが俺の癒しだよ。うちの子になるか?」

 

「なー?」

 

「え? もう俺と後ろの馬鹿は番だから俺の家の子だろうって? 違う違う」

 

 仕事後、拗ねながら俺の背中にくっついている遥を無視し、遥の飼い猫の猫座衛門を撫でまわす。『意思疎通』によってどの辺を撫でて欲しいかを理解している俺の腕の中で気持ち良さそうにしている猫座衛門を撫でていたが、どうも蚤が居るようだな。今日の朝に降った雨でできた泥濘で体が汚れているし洗ってやるか。

 

 

 

 ……あっ、風呂どうすれば。エリアーデに連絡しても距離を戻せないと言われたし。

 

「……あー、お風呂入りたいなぁ。誰かさんが汚れた上に雨漏りで湿った壁にぶつけたから服が汚いし少し染みてきた気がするよ」

 

「しかしだな……」

 

「昔は二人で入ったし、この前だって入っただろ? 一度も二度も同じさ。……目隠しして入れば良いだろ? ねぇ、汗もかいたしさ……」

 

 耳元で甘えるような声を出しながら息を吹きかけられると背中がゾクリとする。

 

 

「お風呂が駄目って言うなら此処で脱ぐよ? 今日は私だけだし外にも出ないからね」

 

「仕方ないか。……変な事するなよ?」

 

「私はしないさ。……君はしても良いんだぜ?」

 

 此奴に手を出したら負けな気がするから絶対に出さない。此奴などに出してたまるか。絶対に耐えてやると心に誓った俺は遥と共に風呂場に向かった。

 

 

 

「背中流してあげようか?」

 

「流さなくて良い」

 

 

 すぐ後ろで服を脱ぐ衣擦れの音や先日のように湯舟の中で感じる背中合わせの感触を気にしつつも俺は早めの入浴を終える。遥はまだ入っていたいと言っていたが、こんな状態で入っていられるか。

 

 流石に背中を洗うと言ったのに抵抗した際に胸を触ってしまったり、滑って転んだら腹の上に座られた時は心臓が跳ねたが……。

 

 

 

「もっと入っていたかったなあ。私、お風呂大好きだしさ」

 

 

 ……腕輪を嵌めたのは遥だが、俺の我儘もあるから埋め合わせに何かすると言っておいた。まあ、大した要求はされないだろう。

 

 

 さて、今晩は早く寝てしまおう。意識した方が気まずいからな……。

 

 

「こうやって一緒の寝床に入るのは何年ぶりだい?」

 

「いや、下着姿で俺のベッドに侵入していただろう」

 

「最初からって意味だよ。頭悪いなあ」

 

 この時、俺は本日最大のショックを受ける。遥如きに馬鹿だと言われたからだ。俺は背中を向けているが、長年の付き合いは僅かな態度でそれを知らせたのだろう。拗ねたような声と共に首に手が回され、より強く密着される。

 

 

「君、絶対に失礼なことを考えただろ! 私には分るんだぜ」

 

「失礼も何も、普段から無礼なお前が文句を言うな」

 

「あーはいはい。私は無礼ですよーだ。だから失礼な事をしても良いって?」

 

「悪かった悪かった。……どうしたら許す?」

 

 遥が拗ねたら厄介だ。自分の言動など無視して粘着質に言って来るからな。理不尽に思えてもこうして何か要求を呑んだ方が後々楽な場合があるんだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、腕枕。一度体験してみたい。どんな寝心地なのかをね。あと、プールに行こう、プール! 一人だったり女の子と一緒だとモブがナンパして来るんだ。ほら、私ってスタイル抜群の美少女だからさ」

 

「自分で言うな、自分で。それに寝心地抜群の高級低反発枕を使っているだろうに……」

 

 呆れながらも俺は仰向けになり、遥は俺の腕を枕にする。すぐさま寝息が聞こえ、横目で見れば安らかな寝顔が目に入る。……こうして本性が出ていなければ見た目は好みなんだがな。

 

 

 別に今の性格も嫌いではないが、多分此奴を女として意識するには余ほどの事がなければ無理だな。結婚する可能性も恐らく確率は低いな。アレはあくまで確率が上位な物の中からランダムで見せるというだけだから……。

 

 風邪を引かないようにと遥に布団を掛け直し、俺もそっと目を閉じる。今日は普段よりリラックスして眠る事が出来た……。 

 

 

 

 

 

 

「……おい」

 

「テヘペロ!」

 

 翌朝、俺の上で寝ていた馬鹿の脳天に辞書が落とされた。




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閑話 回復ヒロインだった少女の独白

最初は二人っきりの糖分で変更でマッドにショタにされた委員長が三人に弄くられる予定だったのに・・・・・・


 ほーんと、世の中は馬鹿ばっかしだよねー。今の幸せを幸せだって知らずに幸せになりたい幸せになりたいって口にするだけなんだから笑っちゃうよ、あははははー。

 

「・・・・・・しつこいナンパでしたね」

 

「私の胸ばっかり見てきたし、助かったよー」

 

 電車の中でチャラチャラした男の人達が下心だけの瞳を向けてお茶に誘ってきたけど、たぶんお茶だけじゃ済まなかったよねー。一緒に居た轟さんが追い払ってくれて助かったよー。

 

 でもでも、ほーんとああいう人達ってお馬鹿。今が良ければ其れで良いって、未来のことをなーんにも考えてない。今ですら幸せじゃないのに目を逸らして、適当に生きていれば幸せがやってくると思ってるのー? そんなんじゃ待っているのは不幸せなのにねー。

 

「・・・・・・今日は宜しくお願いします」

 

「私もプールに行きたかったし別に良いよー」

 

 今日は暇だけど一人で行くのも、と言って轟さんにレジャープールに誘われたのー。でも、本当の理由を私は知ってるよー? いいんちょーが神野さんと一緒に行くから気になってるんだってねー。

 

 ほーんと轟さんって馬鹿。一度幸せを手放したからって幸せなんて必要ないって自分から遠ざけるような真似をしてるけど、心の底では諦められずに指を咥えて幸せが来るのを待っているだもんねー。

 

 ぷぷぷー! 幸せってのは手を伸ばしても手に入らないものなのに、勝手に口の中に入ってきたりしないよー? 

 

 ・・・・・・恵まれているくせに自分から放棄しようとか本当に馬鹿だ。私や私のお母さんなんて幸せになろうと頑張っても無駄だったのに。

 

 

 

 

 

「おや、奇遇だね。ふふふ、君達と私は赤い糸で繋がっているようだ」

 

「・・・・・・誰ですか、貴女?」

 

 更衣室でタイミング良く神野さんと会ったけど、何時もの様に口説かれた。周囲に人が居るのに恥ずかしかったし、轟さんはウンザリした表情だけど多分伝わってない。ほら、照れてるんだね、とか言っているし・・・・・・。

 

 ほーんとこの人も馬鹿。幸せを既に持っていて、一歩前に踏み出せば凄い幸せが手に入るのに、あれもこれもって余所見をして全部手に入れようとしているんだからねー。何が一番だって自分でも分かっているのにさー

 

 この人は本当に恵まれている。理論上だけとされていたレベルⅩに生まれつき至り、私が欲しいモノをぜーんぶ持っている。

 

 

 ・・・・・・私もお母さんも欲しいモノは殆ど持っていなかった。恵まれた人達に奪われて奪われて、今は本当にマシになったけど、羨ましい妬ましいって気持ちは消えたりはしない。

 

 

 

 私達能力者はゴミみたいな能力でも身体能力は上がるし、だいたい目覚めたら保護やスカウトの対象になるのー。ほら、詳しく知らないと自分は選ばれた特別な存在だって思い込むし、実際にカルトの教祖とかに能力者が居たらしいよー。

 

 でも、戦い向けの能力はほんの一握りで、殆どが後方部隊に回されるけど、希少な能力を優遇しすぎて後方部隊は見下されてるんだー。命を懸けて無いからって気持ちは分かるけど、人間扱いされるのって今の支部を含む一部だけ。・・・・・・私は自分の父親を知らないし、お母さんも誰だか分からないって言ってた。

 

 今の支部に移るまで、私は回復アイテムとしか見られていなくて、遅いだの何だの罵声を浴びながら任務をこなしていたのー。

 

 

 

「二人とも来ていたのか。・・・・・・取り敢えずこの馬鹿が悪かった」

 

 私達の顔を見るなり、開口一番にいいんちょーは謝ってくる。きっと何があったか分かってるんだねー。いいんちょーって、ほーんと馬鹿なんだよー。

 

 簡単にもっと幸せになれるのに今で十分だって満足して、他の人の世話まで焼くんだもん。私、初対面で言われた言葉を今でも覚えてるんだー。本当に馬鹿みたいだったよー。

 

 

 

 

「ありがとう。君の能力のおかげで何人も助けられた」

 

 私より私の能力を使えるくせに、支部長の息子で将来が約束されているくせに、レベルⅡの私にお礼を言うなんて・・・・・・本当に馬鹿だよねー。

 

 本当に・・・・・・馬鹿。何時も後方部隊にまで気を使って、助けられた事も何度もある。レベルが下で居ても居なくても大して変わらないのにね。恵まれた者の優越感と思った事も有るけど・・・・・・馬鹿なだけだよねー。

 

 

「それにしても・・・・・・弾む双丘、滴る水滴、晒された地肌。やっぱりプールは最高だよ。後は君以外の男が居なければ良かったのに」

 

「言動がエロ親父だぞ、お前。少しは自重してくれ、俺が大変だ」

 

 嘗め回すような視線を周囲に向ける神野さんにいいんちょーは呆れてるけど、何時もこうなのに何故か見放さない。二人を知っている人は相思相愛だって言う人が多いけど、互いに自分の気持ちに無自覚なら・・・・・・利用できそうだよねー。

 

「後ろ盾になる便利な男をさっさと手に入れなさい。男の操り方は仕込んであげる」

 

 お母さんに教わった結果、この喋り方も癖になっちゃったよねー。あっ、目を離した隙に神野さんがいいんちょーの背中に乗ってる。

 

「プールまで乗せていってくれないかい? 日差しのせいで道が熱いんだ」

 

「乗る前に頼め、乗る前に。・・・・・・行きだけだぞ」

 

 黒ビキニの神野さんはいいんちょーの背中に体を預け、いいんちょーは渋々といった様子でプールまで歩いて行ってるけど、二人とも本気で相手を恋人って思っていないから不思議ー。・・・・・・でも、だから付け入る隙があるんだー。

 

「いいんちょー。流れるプールに行こうよー」

 

「治癒崎、くっつきすぎだ」

 

「えー? なんでー?」

 

 からかうように色仕掛けをする神野さんと違い、私はそういう気がないように体を押し付ける。私は少し小さい花柄の水着。このサイズじゃないと身長に合わないのー。胸は神野さんと同等だから少しキツいけど、強調されてるし、都合が良いんだー。

 

「あっ、二人で滑るウォータースライダーだー。ねぇねぇ、いいんちょー。皆と一回ずつ滑ろうよー」

 

「あれはカップルで滑る物だろう。流石にな・・・・・・」

 

 轟さん、貴女がいいんちょーが好きだって見てたら分かるけど、神野さんが居るのに自分には幸せは必要ないって格好付けてたら絶対に無理だよー? 

 

 見てて。私が横から掠め取って見せるからねー。・・・・・・でも、少しだけ嫌だな。いいんちょーは優しいし、きっと神野さんが好きだから。利用する気の私より、神野さんと一緒の方が幸せになれるもん・・・・・・。

 

 

 

 私は恵まれた人が嫌い。幸せを自分から手放す人が嫌い。だから轟さんや神野さんが嫌い。でも、一番嫌いなのは自分。いいんちょーの事は・・・・・・。




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彼が(ある意味)居ないのは辛いけどどうすべきかな?

「……あ~」

 

 早朝四時頃、目覚ましに起こされた私は二度寝しようとする気持ちを何とか押し止めベッドから起き上がる。低血圧の私は早起きは苦手なので毎朝彼に起こされているが、今日はある目的のために起きなければならなかった。ガシガシと頭をかき乱し、大欠伸をしていると足元で気配がした。

 

「んなー?」

 

 飼い猫の猫座衛門が物音に気付いて目を覚まし、何処か呆れた様な声で鳴く。・・・・・・なんでだろう? 何故か、また馬鹿なことをする気?って言われている気がするんだけどな。彼ならこの子の言葉が分かって非常に狡い。今度通訳して貰わないと。

 

「どれが良いかな? チャイナドレスにするかチアガールにするか……」

 

 私は彼同様に多趣味で収集癖がある。漫画にラノベにヌイグルミ、ゲームにフィギュアにコスプレ衣装。鏡の前で買ったばかりの衣装を体に当て、どれが()()()()考える。

 

「よしっ!」

 

 今回の衣装をバニースーツに決めた私は寝間着と下着を脱ぎ捨てると素早く着替える。片方の耳は折れていて後ろはシーム。少し胸がキツいけど、強調されている方が効果的だろうしね。

 

 抜き足差し足忍び足、足音を殺して彼の部屋に侵入する。途中罠があったが今回はギリギリ回避。先週は足の小指を強打したから慎重にもなる。この寝起きドッキリは毎回毎回ドキドキなんだよ。毎日繰り返してたら辞書を叩き落され過ぎてパーになってしまいそうだから週一にしているけどね。

 

 

「じゃあ、今日も失礼しまーす」

 

 声を殺して布団に潜り込み、寝息を立てている彼の寝顔を覗き込む。この安らかな寝顔が驚愕に染まる瞬間が堪らないんだよ。まあ、その内彼の理性がどうにかなって襲われるかもしれないけど? そうなったら責任取って貰うだけだし、彼を私の傍に縛り付けられるだろうからね。

 

 今日は少し大胆に彼の頭を抱きかかえて胸に押し当てる。どんな風に驚くか楽しみにしながら私は眠ろうとして喉の渇きを感じ、枕元に置かれたコップに目を向ける。喉が乾いた時用に持ってきて、そのまま寝てしまったのか少ししか減っている様子はない。

 

「うん、飲んじゃえ」

 

 躊躇せずにコップを手に取り喉を鳴らして飲む。やっぱり麦茶が最高だよ。……寝よ。

 

 

 

 

 

「……うーん」

 

 朝日が窓から差し込む頃、悪戯の為にお昼寝をした私は珍しく早く起きる事が出来た。……早起きは三文の徳っていうけど、彼の驚く声で起きれなかったのは少しそんな気分かなと思いつつ違和感に気付く。抱きかかえた彼の頭が少し小さくなっていたんだ。

 

 

「むにゃむにゃ」

 

 私の胸に顔を埋めて眠る彼はなんか小さくなっていた。具体的に言うと五歳くらい。寝間着はブカブカだ。私はショタは男だから興味ないけど、このショタは悪くないね。

 

「また変な能力を覚えて寝ぼけて使ったかな? ……寝よう」

 

 それならそれで彼には変わりないし、驚く声が楽しみだと思いながら二度寝を決行する。二度寝が出来るんだか早起きも悪くないね。起きた時にまだ寝ていられるって凄く幸せじゃないかい?

 

 

 

「おい、おきろ。おきろ、はるか」

 

 ペチペチと弱い力で頬を叩かれた私は目を覚ます。目覚ましを見ればまだ寝ていて良い時間。彼が鞄の中身を確かめたり後ろから髪をセットしてくれる等の準備を代わりにしている間に朝食を食べるようにしている何時もの起床時間まで三十分はある。

 

「まだ寝かせてくれよ。寝ている間、胸を触って良いからさ」

 

「バカいわないでよ! なぜかオレは小さくなってるんだ」

 

「……なーるほど」

 

 大体今の状況を把握する。私達は互いが嘘をついているかどうか位は分かる間柄だし、何らかの要因で肉体が五歳児まで若返ったんだろうね。口調からして記憶はあるけど精神年齢も若返っていると……。

 

「よし! 思い切り弄ろうかっ!」

 

 辞書を叩き落される心配無しに彼をからかう絶好のチャンスだ。まずは上半身だけ起き上がると彼を抱き寄せ、頭を撫でる。

 

「やめてよ。恥ずかしいよ」

 

「うりうり。気にしない気にしない。今日はお姉さんが遊んであげるからさ」

 

 学校だけどこんな状況だから休みだね。でも、どうしようか。彼が病欠とかクラスメイト全員がお見舞いに来るレベルだし‥‥…私が病欠にするか。母さん達が居ないから代わりに看病するって事で……。

 

 あっ、今日は好きな作家の電子書籍が大量に出る日だ。小さくても彼はしっかりしているし……うん、駄目だ。

 

 

 

「何して遊ぶ?」

 

 遊んであげるって聞いた途端に凄く嬉しそうな顔するんだから放置とか無理だ。仕方ないなぁ。今日は私がお世話して、どうせ何かしでかしてこの状況を作ったエリアーデは刹那達に確保して貰おうか。

 

「キャッチボール!」

 

「よーし。じゃあ家の中で遊べる柔らかいボールを使おうか、庭で遊んだら近所の人に見られるからね」

 

 まずは朝ごはんを食べよう。あっ、今日は私達だけだから彼が作ってくれるはずだったけど私が作らないといけないのか。

 

「朝ごはんの卵焼きは甘いのが良いかい?」

 

「えー。オレ、だしまきが食べたい」

 

 ……仕方ないなぁ。私は甘いのが好きなんだけど、彼に頼まれたら断れないや。後で本とかも読んであげよう。……うん、なんか良いな。こんな風に私が彼のお世話をするとか。もし結婚するなら尽くしてあげようか。

 

 

 

「めでたしめでたし。‥‥…ふぅ」

 

 キャッチボールを散々した後で昼食を終わらせ、今度は懐かしい絵本を読むこと七冊目、せがまれ続けて読んだけど懐かしいな。昔は私が彼に読んでいて貰ったのにさ。私の膝の上で目を輝かせていた彼はスヤスヤと寝始めている。

 

「はるか……」

 

「おや、私の夢を見ているんだね。‥‥…そういえばこの頃だったっけ。君が結婚の約束をしてくれたのはさ」

 

 あどけない顔で眠る小さな彼を抱きしめて頭に顎を乗せる。さて、起きたら何をしてあげようか。君が望むことなら何でもしてあげるよ。

 

 

 

「出来心だったんだねっ! 小さくしたら能力に何か影響が出るかと思っただけなんだよっ!」

 

 夕方、逃げようとしたエリアーデを縛り上げた刹那達が家までやって来た。如何やら昨日の内に飲み物に薬を仕込んだらしい。よし! 有罪確定!!

 

「悪気しかないじゃないか! 人の迷惑を考えて行動しろよ。……うん?」

 

 袖をクイクイと引っ張られたので下を見れば彼が手鏡を私に向けていた。別に顔に何もついていないし、何の用かな?

 

「……それでどうやって戻すんだい?」

 

「そりゃあもう、普通に成長するのを待つ……冗談なんだよっ!?」

 

 刃を呼び出して突き付ければ直し方を話し出す。普通に二十四時間で戻るらしい。じゃあ、明日の朝には戻っているのか。

 

 

「……では、神野さんでは心配なので私がお世話します」

 

「私がしてあげるよー」

 

 刹那と鹿目ちゃんが彼に手を伸ばすけど、彼は私の服を掴んで顔を横に振る。

 

「オレ、はるかがいい。しょーらい、オレのおよめさんにすんだから」

 

 二人の表情が固まる中、私はついつい彼を強く抱きしめて頬擦りする。小さい君は可愛いなあ。でも、何時もの彼と早く会いたいよ。君が居ないと私の精神が持ちそうにないからね。君が居ないと本当に寂しいなあ……。

 

 さて、じゃあ夕ご飯にしようか。

 

「何が食べたい?」

 

「グラタン!」

 

「よしよし。じゃあお姉さんが作ってあげよう。子猫ちゃん達も食べていくかい? ああ、そこのお前は縛られている馬鹿を持って行ってくれ。埋めるなり犯すなり好きにすれば良いさ」

 

「しないからなっ!?」

 

「私にも人権はあるんだよっ!?」

 

 さて、雑音は無視して作るか。マカロニや玉葱はあったけどホワイトソースは無かったな。まあ全部作ればいいか。

 

 

「私も手伝うねー」

 

「お姉ちゃんはオレと遊ぼう!」

 

「私も貴女と遊びたいです!」

 

 助かった。さてさて、恐怖の大王がキッチンに降臨する前に作ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、動かない動かない」

 

 夕食後、二人をお風呂に誘ったけど断られた。代わりに自分達が彼をお風呂に入れるって言ったけど流石に譲れないよ。今は髪の毛を洗ってあげたので次に背中を洗ってあげている。昔は一緒に入ってたのに、急に別に入る様になった時は寂しさで泣いたっけ。

 

「次はオレが背中をあらってあげるね」

 

「そうかい? じゃあお願いするよ」

 

 ぎこちない動きで私の背中を洗う彼。ふふふ、こんなタイミングで戻ったら面白そうなんだけどな。

 

 

「私の肌は綺麗だろう? 結婚したら触り放題だぜ」

 

「うん! ぜったいにはるかとけっこんするね」

 

 うん。流石の私も恥ずかしくなったぜ。本来の彼もこのくらい素直ならなあ。あっ、そうそう。この機会に聞いてみよう。

 

「君って好みの見た目はどんなのだい?」

 

「はるかだよ」

 

「オッケー。これは面白くなりそうだ」

 

 良いネタゲット。さて、そろそろ入ろうか。私は幼い彼を抱き締めてお風呂に入る。結婚したら立場が逆になるのかな?

 

 

 お風呂からあがり、寝ている間に元に戻るだろうとブカブカの寝間着を着せた彼を抱き締めてベッドに入る。何も言わずに私の手を握ったけど、多分これは私が彼の手を握るのが好きだからだ。まったく、彼には勝てないぜ。

 

 

 

 

 

 

「やあ、お早う。昨日は楽しかったね」

 

 翌朝、目を覚ませば彼は元に戻っていた。顔を背けているけど昨日の記憶はバッチリ残っているのか。面白いなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……世話になった」

 

「気にするなよ。君と私の仲じゃないか」

 

 照れちゃって可愛いぜ。やっぱり君と一緒にいる時間が一番好きだな。……ハーレムは絶対に諦めないけどね!

 

 

 

 

 




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明日休みます


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何時もの彼奴が居ないのは辛いのだがどうすべきだろうか?

「またか……」

 

 朝起きれば同じベッドの中で遥がスヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。昨日小さくなって世話をして貰ったばかりだから気が咎めるが……。

 

「おい、起きろ」

 

 だから今日だけは猶予を与える。何度か声を掛けてベッドから出ていかなければ辞書を頭に叩き付ける。体を揺すってもムニャムニャと言うだけで起きる様子は無かった。よし、罰の時間だ。

 

 前回は用意してあったのを遠くに移されたので、今回は枕元に隠してあった辞書を手に取り遥の頭に叩き付ける。

 

「みぎゃっ!?」

 

 相変わらず美少女台無しな悲鳴と共に起き上がった遥だが、どうも様子がおかしい。涙目で頭を押さえて体を震わしていた。まるで泣き虫だった頃の此奴が泣き出す時のように。……いや、まさか。

 

「……ふぇ」

 

 間違いないっ! 慌てて泣き止ませようとするが間に合わない。何時もの飄々とした態度が消え去り、幼子のように遥は泣き出した。

 

「ふぇえええええええええんっ!! いたいぃぃぃぃぃぃっ!! ぶったぁあああああああああああああっ!!」

 

「お、落ち着け。悪かった、謝るからっ! ほら、よーしよーし!」

 

 両手を目に当て泣き続ける遥を抱き寄せて頭を優しく撫でる。徐々に泣き声は小さくなり、グスグスと泣き続けているが少しは落ち着いたようだ。相変わらず世話が焼ける奴だな。

 

「大丈夫か?」

 

「……ぶたない?」

 

「ああ、俺はお前をぶたないよ。遥は良い子だからな。そうだ、朝ご飯にしよう。卵焼きを作ってやる」

 

「うん! はるか、あまいのがいい!」

 

 幼さを感じるが満面の笑みの遥を見ると此奴が美少女だったと嫌でも思い出させられる。そのままキッチンに向かおうとしたが袖を掴まれて振り向けば此方の様子を窺うように手をそっと差し出された。不安そうな顔だったが、何も言わずに手を取ると一転してパァッと明るい表情だ。

 

「遥。俺の手を握るのはそんなに好きか?」

 

「うん! だから、はるか、ぜったいにおよめさんになってあげるね!」

 

 ……流石にこの見た目で言われると恥ずかしいな。しかし、今日は土曜で良かった。あっ、午前中にミーティングで皆が集まるんだった……どうすべきだろうか。

 

 

 

「‥‥うぅ」

 

「ウィンナーを食べたんだからピーマンも食べろ。よし、いい子だ」

 

「うん!」

 

 叱れば落ち込み、褒めればすぐに明るくなる。幼さを取り戻した遥の扱いは昔の通りで助かったと思いつつ口元を拭ってやる。

 

 

「いやー。手慣れてるんだね」

 

「まあ、物心つく前からの付き合いだからな」

 

「……ところでそろそろ頭に血が集まり過ぎて拙いから降ろして欲しいんだよ」

 

「皆が来たらな。遥、見たら馬鹿が移るぞ」

 

 電話で呼び出し逆さ吊りにして天井からぶら下げたエリアーデを放置し、遥の世話を続ける。昔と違ってこう言った世話は焼かなくてよくなったのだがな。いや、精神的な疲労よりはマシか……。

 

 

「それにしても二人は本当に仲良しね。うちの子の事、本当によろしく頼むわ」

 

「出来れば結婚はご勘弁お願いした……冗談だ、泣くな遥」

 

「……ほんとう? およめさんにしてくれる?」

 

「ああ、絶対にしてやるから泣くな」

 

 流石に着替えの世話まで焼くのは抵抗がある(食事は俺と一緒がいいと言って聞かなかった)のでオバさんに来て貰ったが、明らかに娘を俺に押し付けようとしている。いや、そもそもウチの両親も遥の両親も俺達がそういう関係だという認識だったな。

 

 冗談交じりに断ろうとするが、またしても遥が泣き出しそうなので慌てて否定するが、確実に外堀を埋められて行っているな、俺。ガクリと肩を落とす俺を見て不思議そうに首を傾げる遥。

 

 この頃の此奴は素直で気弱で甘ったれで俺の背に隠れながら何処にでも付いて来た。今は飄々とした態度で色仕掛けを交えて俺を揶揄い、身内を除く男を毛嫌いして見た目のいい女子を口説き、俺の隣でヘラヘラ笑っている。

 

 さて、何かどうしてこうなった?

 

 

 

 

 

「どうも此奴も俺が飲まされた薬を飲んだらしいのだが、俺に合わせて調合したから、一日遅れで精神だけ幼くなったらしい」

 

「……委員長、一つ聞かせてください」

 

 エリアーデから遥について聞きだした内容をミーティングで集まった皆に説明した時、轟が真剣そうな顔で訊ねてくる。その視線は俺に背中に隠れてビクビクと皆の様子を窺う遥に注がれていた。他の皆も奇異なものを見るような視線を注ぎ、注目されることによって遥は怯えていた。

 

「いや、俺もどうしてコレがアレになったかサッパリ分からない。突然変異だと思ってくれ」

 

「……成程」

 

 質問されなくても流石に何を聞かれるか分かったが、正解だったようだ。しかし馬鹿で傍若無人とはいえ遥はそれなりに頭も良いからミーティングに不可欠なんだが今の此奴では役に立たないな。

 

「おい、エリアーデ。時間経過以外に戻す方法は有るか?」

 

「ちゃんと解除薬を作っているんだね。でも、ちょっと問題があって……」

 

 差し出された七色に輝く液体が入った瓶を見た遥は、俺の背中に隠れると服を強く掴んで涙を目に溜めてフルフルと顔を横に振っている。これではとても飲ませることは出来ないな。仕方ないからミーティングを始めるか。

 

「遥、居るだけで良い。だから俺の後ろから出てこい。流石に気になる」

 

「……出てこなきゃしかる?」

 

「叱らないさ。俺がついているから安心して座れ」

 

「……うん」

 

 そっと手を伸ばすと怯えながらも遥は俺の後ろから出てきて……俺の膝の上に座り込んだ。と、轟の目が怖い。それに治癒崎の笑顔も何時もと何かが違う気がするんだが。やはり不真面目に見えるか……。

 

「遥、退いてくれ」

 

「やっ!」

 

 ……あっ、厄介なパターンだ。こうなった遥は頑として言うことを聞かない。俺にもたれ掛かりご満悦な様子に二人の機嫌が悪くなって行くし、焔は居心地が悪そうだし。

 

「……退かないなら嫌いになるぞ?」

 

 仕方がないので奥の手を使う。たちまちプルプルと震えだした遥の目尻に涙が溜まり、俺は素早く耳を閉じる。次の瞬間、遥が大声で泣き出した。

 

 

「ごめんなさぃいいいいいいいいっ!! きらわないでぇええええええええええええっ!」

 

 割れるような大声でワンワン泣き出す姿に三人は面食らっているが、これが幼いときに俺を怒らせた後に何度も見せた姿だ。結局、この後で俺が折れて慰めてきたのだがな。

 

「あーもー、嫌わない嫌わない。大好きな遥ちゃんを嫌いになったりするものか」

 

「……ほんとうに?」

 

「本当本当」

 

「じゃあ、けっこんしてくれる?」

 

「ああ、結婚しよう」

 

 漸く泣きやんだ遥は俺の隣に移動し、嬉しそうに手を握って来る。このままでも良いと思ってしまうが、やはりどんな結果であれ遥が歩んできた人生を否定したくないので元の遥に戻って欲しい。エリアーデから瓶を受け取ると蓋を開ける。ハッカの飴のような匂いがした。

 

「これを飲ませれば良いのか?」

 

「あっ、うん。でも、君の口移し限定なんだよ。元々君用に作った薬だし、それ以外は効果ゼロなんだねっ! げふぅっ!!」

 

 反省の色のないエリアーデの後頭部に鋭い蹴りが叩き込まれる。エリアーデの背後で轟は何時もに増して感情が読みとれなくなっていた。

 

「……時間経過を待ちましょう」

 

「さんせー」

 

「うん、それが良いと俺も思うよ……?」

 

 無表情の轟に何時も以上に笑顔が明るい治癒崎、そして怯えた様子の焔。三人の意見も一致したし俺も口移しは抵抗有るので待とうと思ったが横から瓶を奪われ中身を口に突っ込まれる。煮詰まった照り焼きソースみたいな味に思わず顔を背けた時、目の前には目を瞑ってキスを待つように唇を突き出す遥の顔があった。

 

 これは口移しをしろという事らしいが……。

 

「……むぅ」

 

 躊躇したのが気に食わなかったのか不満そうな声と共に頬を膨らませた遥が俺に抱きついて無理やりキスをする。少し口の隙間から漏れたが問題無く遥は薬を飲んだ。

 

 

「……ところでエリアーデさん。口移しに理由は有りますか? 流石に唾液が必要と言うのなら入れれば解決ですし」

 

「それは盲点だった……がふっ!?」

 

 左右の脇腹に治癒崎の拳が叩き込まれる。挟み込むように撃ち込まれた拳が効いたのかエリアーデは悶絶し、遥も薬が効いたのか普段の飄々とした表情に戻っていた。

 

 

「世話になったね。何かお礼をしようかな?」

 

「いや、構わない。昨日俺も世話になったし……なんだかんだ言って今のお前が好きだからな」

 

 素直な感想に遥は一瞬面食らい、続いて俺の首に手を回すと体を近付け、俺の頬に唇を当てた。

 

「私の気持ちさ。受け取っておいてくれ、未来の旦那様……なーんてね」

 

「……」

 

 何時もなら寒気がするなど文句を言うところなのだが、今日は言わないでおこう。何故か言う気が起きなかったからな。さて、ミーティングを……ひぃ!?

 

 

 顔を向けるとそこには修羅が居た……放置は拙かったか。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後のこと、俺は勉強を見て欲しいと頼まれて治癒崎の家まで向かっていた。

 

 

 

「いいんちょー、今日は宜しくねー。……色々と」

 

 




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俺の監督責任が重くて辛いのだがどうすべきだろうか?

明晰夢を見ました 寝不足になると知ったばかりなので早く寝ろ早くしっかり寝ろといいきかせました

天ぷらうどんとチーズケーキを食べたのをしっかり覚えています 味も感じたような感じてないような・・・


治癒崎さんがメイン回


「私が思うに君は物事を難しく考え過ぎなんじゃないのかい?」

 

 バ科学者エリアーデの薬による一件の次の日、流石に幼くなった時の記憶やキスされた事などが引っ掛かって遥の顔を正面から見れなくなった俺だが、食事中もそうだった為か不満や呆れが籠った顔を向けられてしまう。

 

「……お前はそう言うが、気にするレベルだと思うぞ? お前は気にならないのか?」

 

 前もあったが年頃の女が裸を見られて何故平然としているんだ。流石に少し心配になってきたが、俺の心情などどこ吹く風という風に遥は平然とした態度を崩さない

 

「いや、前から言っている通り私が結婚するとしたら君しかありえないからね。別にそこまで気にする事でもないさ。流石にヤッたら意識するだろうけど」

 

 何を平然と言っているのかと言いたくはなったが、言われてみればその通りだ。此奴との関係は薬によるトラブルでどうにかなるような物でもないな。

 

「礼を言うのも癪ではあるが、お前と話していると気にするのが馬鹿馬鹿しくなって助かった。礼を言おう」

 

 心底遺憾ではあるものの遥に礼を述べて水筒を傾ける。出て来たのは水滴だけだった。どうやら今朝お茶を入れるのを忘れていたようだ。態々取り寄せた茶葉を使ったので楽しみにしていたのだがな。

 

「売店に買いに行くか。……この時間は混んでいるだろうな」

 

「今から行ったら遅くなるし、これを飲みなよ。今朝からまともに顔を合わせてくれなかったし、折角顔を見せてくれるようになったのに待たされるのは寂しいんだ」

 

 投げ渡されたペットボトルを受け取ると蓋をちゃんと閉めていなかったので中身が零れそうになる。既に何口か飲んでいなかったら零れていただろう。

 

「悪いな。いただこう」

 

 流石に全部飲むのは気になるので軽く喉を湿らせると手渡しで返す。遥は気にするなと言いながら喉を鳴らして中身を流し込んだ。

 

「それにしても最近平和だね。エリアーデが情報流したおかげで百鬼会の拠点を次々に潰しているし、もう原作とか崩壊してるよ」

 

「俺とお前が存在する時点で今更だろう。……だが、注意は必要だ」

 

 アリーゼなどの上級幹部クラスの目撃はなく、討伐したのは精々が下級幹部程度。それも詳しい情報を得て対策を施しての結果だ。上級幹部相手には奇跡的な幸運に恵まれて勝った原作主人公である焔が原作のように倒すか、俺達が責任をもって倒すしかないだろう。

 

 その事については遥も同意見らしく頷いてくれている。

 

「まあ、主人公である私の為の世界だし、守り切って見せるさ」

 

 ……その理由が理由なので残念なんだがな。しかし幼い精神に戻ったのを世話して改めて思う。なんで! どうして! こうなったっ!?

 

「しかし、君の好みが私だなんてね。驚いたよ」

 

「見た目だけな。お前の中身に関しては好きではあるがライクであってラブにはならない。お前もそうだろう?」

 

「今の所はね。案外君のことを男として好きになるかもしれないぜ? っていうか結婚する未来あるんだし、ラブになる可能性も無きにしも非ずだろ?」

 

 思わぬ反論に少し言葉に詰まる。想像もつかないが、異性として好きではない相手と結婚するような無責任な真似を自分がするとは思えないしな……。

 

 

「まあ、可能性は可能性だし、君の気持ちを受け入れるよ。私がどんな風になっても受け入れて傍に居てくれているんだからね」

 

「……自分の現状が“どんな風”と付けるような状態と自覚があるのなら自重しろ」

 

「え? 嫌だけど? 私は私が好きな風に生きるって決めたからね」

 

 少しだけドキッとしたのは秘密だ。少しだけ笑顔が魅力的だと感じたから照れ隠しに苦言を呈すれば何時もの馬鹿な発言になったのだから尚更言ってたまるか。

 

 

 

 

「因みに私の初恋は君だぜ? 今は異性として見ていないけど」

 

「奇遇だな。俺も同じだ。……こう話していると思うのだが、結婚しても何も変わらない気がするぞ、俺達は」

 

「いやいや、案外私は君にデレデレかもしれないぜ? 可愛い子への浮気を許さない君と結婚するなら彼女達への愛情を全部君に注ぐんだからね。……え? 想像したら気持ち悪くなった? 失敬なっ!」

 

 普段から失敬だらけどころか敬うという気持ちを知らない此奴に謝るのは嫌なのだが謝った方が良いのだろうか? 絶対に謝りたくないのだが……。

 

 

 

「いいんちょー、いらっしゃーい」

 

 数日の間風邪で休んでいた治癒崎から、遅れた分の勉強を見て欲しいと頼まれた俺は彼女が母親と住む社宅を訪ねていた。組織は性質上秘匿とされており、構成員はダミー会社に就職していることになっている。この社宅もそんなダミー会社の一つの物となっていた。

 

「お母さんは事務の仕事の期限が迫ってるから遅くなるってさー」

 

「……流石に俺が一人で訪ねるのは風聞が悪いか。誰か呼んでも構わないだろうか?」

 

 同僚なので顔見知りとその家族しかいないとはいえ年頃の女子が一人で居る所に同年代の男が訪ねるのもどうかと思ったのだが、周囲の部屋の人も事務方で今日は遅いから大丈夫とのことだ。

 

 まあ、呼ぶとしたら遥だし嫌だったのか、と納得した俺は素直に部屋に上がらせてもらった。中には特に家具もなく質素な内装で、ジロジロ見るのも悪いからあえて視線を向けないがガランとした印象を受けた。

 

「えへへー。何もなくて驚いたー? 私もお母さんも物を置くのが嫌いなのー。あっ、飲み物持ってくるねー」

 

 視線に気付かれたのか治癒崎は笑いながら台所に向かい、俺は手持ち無沙汰なのでチームリーダーとしての仕事に取りかかる。簡単に言うとボーナス査定についてだ。

 

 轟が独断で動いたり、遥が必要以上に派手に戦ったり、力のコントロールが未熟な焔がボヤを起こしかけたり、俺の監督責任に関わる問題を羅列していく。任務一回につき結構な量になる上に能力はあるから任務の数も質も自然と上がり、書類も多くなる。

 

「きゃー!」

 

 何故か少しだけ態とらしく感じたが悲鳴が聞こえたので向かってみれば頭から濡れた治癒崎の姿があった。飲み物をこぼしたのかコップが散乱し、無地の白いシャツが濡れて透けた上に体に張り付いている。俺は慌てて治癒崎に駆け寄った。

 

「割れたコップの破片を踏まないように注意しろ。ああ、冷えて風邪がぶり返す前に着替えてこい。此処は俺が片付ける」

 

 ガラスの破片がないか床を注視し、近くの箒とちりとりで掃除を始める。おや? 治癒崎が動く様子がないな。怪我なら自分で治せる筈だが……。

 

「えっとねー。私、凄い格好になってるんだー」

 

「ああ、そうか。背中を向けて掃除をしよう。先程から微塵も見てはいないが配慮が足りなかった」

 

 濡れた服で異性の前を通るのは抵抗があるか。俺も気が利かないな。即座に背中を向けると治癒崎が通るのが分かる。どうやら正解だったようだ。

 

 

 

 

「……あの程度じゃ無理かー。透けるように水をかけたのになー」

 

 

 

 

 卓袱台の上に教科書を広げ、休んでいる間の補足をすること一時間、元々成績は悪くないので予測よりも早く終わりそうだ。だが、懸念事項が……空模様が怪しいのだ。天気予報を見忘れていたな。そんな風に考えている内に空が黒くなっていき、雨が降り出す。……遥が洗濯物を取り込んでくれていれば助かるのだがな。

 

 突如ドンッ! と音が響く。雷まで発生したのだ。

 

「ひゃんっ!?」

 

 雷鳴が再び轟いた瞬間、治癒崎が腕に抱きついてくる。体を密着させ少し震えていた。雷が苦手なのか……。

 

「……よし」

 

『音遮断』『景色変更』と停電対策に『光球生成』を発動する。これで雷鳴も雷光も気にならないだろう。治癒崎も呆気に取られてポカンとしているが、急に雷が消えたからだな。

 

「もう大丈夫だ。では、ついでだし何か教えて欲しい科目はあるか?」

 

「……保健体育かなー?」

 

「残念だが保健体育に関する教科書は持ってきていないんだ、済まんな! では、他にないか? 無いなら悩み相談でも良いぞ。俺は委員長だし、それ以前にお前は友人だからな」

 

「……友人かー。特にないよー」

 

「そうか。お前がそう言うなら深入りはしないが何かあったら言ってくれ。友人の力にはなりたいからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誘惑しても全然反応しないんだもん。困っちゃうよー。でも、あんな風に言われるなんて……ちょっと本気になっちゃうかもー」

 

 

 

 

 

 家に帰ると洗濯物は取り込んだ上に畳まれており、俺は礼を言おうと遥の部屋に入るも姿がない。まさかと思って自室に向かうと俺の漫画を読みかけでベッドの上で眠っていた。スカートがめくれてパンツが見えているので目のやり場に困りつつ布団を被せようとしたのだが、突如腕を捕まれる。

 

「……起こすのも可哀想だな」

 

 俺の手を握って嬉しそうに笑う寝顔を見ていると起こす気にもならずベッドの端に腰掛け、起きるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

「本当に世話が焼ける奴だ」

 

 だが、嫌な気はしない。この苦労の日々も愛しいと思えている自分が居た……。

 




・・・のはずが何故か遥ちゃんとの糖分に


堪忍堪忍堪忍々!

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助けが期待できなくて辛いのだがどうすべきだろうか?

ソシャゲのイベントで遅れました


 俺はまた面倒くさい状況に陥っている。ああ、何時もの事だ。

 

「今この時より、拙者は主殿の為に誠心誠意お仕え致します」

 

 呆然と立ち尽くす俺の目の前には膝を付いて頭を垂れる少女の姿。侍ポニーにやや丈の短い和服を着た、例えるなら忍者(忍ばない方)だろうか。いや、女だからくノ一か。

 

「いや、断る」

 

 これ以上の面倒は結構だと俺は手の平を前に突き出して拒絶の意思を表明する。そもそもどうしてこんな事になったのか。取り合えず今朝まで時間を巻き戻すとしよう……。

 

 

 

 この日、休日という事で何時もは昼前まで眠っている遥が珍しく、本っ当に珍しく早起きして朝食を作っていた。エプロンを身に着け味噌汁を火に掛けている隣でトントンとリズムよく包丁の音を奏でる。俺が奇異なものを見る目を向けながら朝食の準備を手伝う中、鼻歌交じりに朝食を作り上げた遥は皿を机の上に置きながら口を開いた。

 

 

 

「そういえば君って性欲処理はどうやってるんだい?」

 

「ごふっ!?」

 

 思わず噴いた、噴き出した。いや、この馬鹿は朝から何を訊いているんだ。ああ、馬鹿だから仕方がないな。こんな事を訊いてくる事こそが馬鹿たる所以なのだから。

 

 俺の呆れなど知ってか知らずか遥は顎に手を添え、本心から不可解に思っているという顔になっている。この馬鹿はセクハラとかではなく、本当に疑問に思ったから朝から卑猥な質問を投げ掛けて来たんだ。

 

「いやさ、私みたいなパーフェクト完全無欠美少女が同じ家に住んでいて、お色気イベントに頻繁に出くわしているんだぜ? 溜まるだろう、普通? いやー、怖いわー。大好きな幼馴染みに押し倒されるかもしれなくて凄く怖いわー。」

 

「お前は中身が穴だらけだ。むしろ全部穴だ。故に安心しろ。それだけは絶対にない」

 

 あれか? 人が入っている時にわざと入って来たり、下着姿でベッドに潜り込んだりして来るのをお色気イベントと見ろと? 随分と傍迷惑なことだ。

 

 本当に此奴は昔と全然違うな。いや、涙目で俺の後ろにピッタリ付いてきていた頃のままだと今より心配事が多いのか? 心配するか苦労するかなら今の方がマシか。どっちにしろずっと側に居てやらなくてはと俺が再認識する中、遥は髪を指ですくい上げながら胸を張っていた。

 

「だって私だぜ? 宛転蛾眉! 髪は烏の濡れ羽色! スタイル抜群! ふふふ、私が私じゃないなら惚れていたね」

 

「早く朝飯を食べろ。冷えるぞ? ……この味噌汁美味いな」

 

 私自分に酔っています、というポーズを取る遥にツッコミを入れるのを放棄した俺は味噌汁を飲む。出汁がいい味を出していて美味いな。何時もとは違う出汁にしたのか……。

 

 

「そんなに美味しいかい? 昨日届いた昆布を使った出汁なんだけどさ。通販で大人気だってさ」

 

「ああ、これなら毎日だって飲みたいくらいだ。材料もだが、お前の腕も上がったのだろうな」

 

「うん。本当だ。これに君の作ってくれる甘い卵焼きがあれば言うことないね。あれも毎日だって食べれるよ」

 

 先程までの会話など忘れたかのように俺達は食事を進める。まあ、あの程度はじゃれ合いの範囲内だ。この程度日常の範囲内だな。……何故か何処かから”リア充爆発しろ”と聞こえた気がしたが気のせいに違いない。楽しんでいるが苦労が多い毎日だからな。

 

 

「おや、あれは焔と田中か。彼女も随分と苦労するな」

 

 食後、水着は買ったが空気で膨らませる類のレジャーグッズを買い忘れたと遥が言い出したので出掛けた先で二人を見掛けた。次々に水着を体に当てて感想を聞く田中に対して焔は適当に答えている。

 

「何というかもどかしいな、あの二人。つきあってしまえば良い物を……」

 

「端から見れば原作知識が無くても彼女の好意が明らかなんだけどね。はっ! これだから奴は駄目なんだ。やっぱり子猫ちゃん達を幸せに出来るのは私だけってことさ」

 

 今晩の夕食、チキンソテーかチキン南蛮のどちらにするか迷いながら遥の話を聞き流す。おや、彼方の方に見慣れた後ろ姿が……。

 

 

 俺は何となく遠目に見える人物に視線を送り、気紛れで周囲の音を拾う。この時、こんな事をしなければ良かったと後悔する俺であった。

 

 

「うんうん。遂にアレが完成したし、実験が捗るんだねっ!」

 

 誰かと思ったらエリアーデ、しかも何やら発明したようだが報告は受けていない。先日の一件で研究に対して報告義務が課せられたにも関わらずの所業ならば見逃せないな。俺は遥に耳打ちすると尾行を開始した。

 

 

 

「さあっ! 今こそ始動の時なんだねっ! なははははははっ!!」

 

 予測通りエリアーデが向かったのは自宅の研究室。ドアの陰からでは詳しく見えないが手術台の様な物の前で大笑いしている。既に後方部隊の方々が周辺で待機し、侵入した俺達がタイミングを見て動くときだ。

 

「其処までだっ!」

 

 兎に角何もさせないのが一番だと俺達は飛び出す。エリアーデが反応する前に俺が取り押さえ、遥が手術台の前に立ちふさがった。

 

「一体何を……女の子? 君、まさか誘拐を……?」

 

「誤解なんだよっ!? 私がそんな事するように見えるのかねっ!?」

 

「いや、初対面で俺達を実験に使うと言っただろう、お前」

 

 台の上で瞼を閉じて寝ているのは十代後半の少女。おそらく東洋人で、凛々しさと幼さが入り混じった顔付きだ。服装は少し妙だがエリアーデが着せたのだろう。

 

「その子はロボットなんだよっ! だから問題はないんだねっ!」

 

「この子がロボット? 少し信じられないなぁ」

 

 エリアーデの異常な知能は理解しているが鵜呑みには出来ない。それは遥も同意見のようで、少女をジロジロと眺めるばかりだ。……いや、まさかな。この少女、先程から全く胸が上下していない。呼吸はしていないようだが死体特有の物も何ら見受けられない。

 

「おい、遥。彼女の胸だが……」

 

「了解したよ。……着痩せするタイプだね。なら、ノーブラは良くない。形が崩れるからね」

 

 俺が言いたいことを言い切る前に遥は少女の胸を鷲掴み数度揉むと満足そうに親指を立てる。……違う、そうじゃない。

 

「あと、心臓は動いていないよ。それと揉み心地は良かったけど少し違和感があったし、ロボットで間違いないと思うよ?」

 

「だから言ったんだねっ! 報告は完成後にする予定だったし、さっさと帰るんだよっ! あっ、違和感について詳しく教えて欲しいんだよ」

 

「……本当にロボットなのか」

 

 信じられないと思いながら少女の髪に触る。人工物とは思えないサラサラヘアーに手を沈めて左右に動かすこと数回。急に叫び声がした。

 

 

「あぁぁぁぁっ!! あ、頭を撫でたんだねっ!?」

 

「いや、手触りを確かめただけ……」

 

 エリアーデの狼狽した表情に嫌な予感がした俺は少女に目を向ける。上半身を起きあがらせた少女と目が合い、そして冒頭に続く。

 

 

 

「待て待て待てっ! そもそも意味が分からんっ!」

 

「その子は人工知能搭載式少女型ロボット『小鈴(こすず)』。最初に頭を撫でた相手に絶対の忠義を誓う忍者なんだよっ! 小鈴、私が母親なんだから私の言うことを聞くんだねっ!」

 

 風を切る音と共にエリアーデの背後の壁に手裏剣が突き刺さる。固まるエリアーデに子鈴はクナイを向けていた。

 

 

「拙者が従うのは主殿只お一人。それに貴殿が母親? 人間がロボットを出産出来るものかっ! 母などと認めんっ! ささっ、あの者は放ってご命令をどうぞ! 如何なる指示にも従う所存で御座います」

 

 気のせいか犬の尻尾のようにポニーテールが揺れている気がするんだが、色々面倒くさい状況で何を考えるべきか分からない。一縷の望みに掛けて遥に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロボっ娘な犬系忍者か。少し盛り過ぎだけど悪くないな」

 

 お前の頭は悪いがな! 子鈴は目を輝かせながら指示を待っているし、どうすべきだろうか。取り敢えず辛い……。 

 

 

 

 

 

「さあっ! 何でもご命令下さい!」

 

「取り敢えず少し黙れ」




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新顔とうまく出来そうになくて辛いのですが仲良くしたくないので構いません

 夜闇に覆われた森の中、キィキィと耳障りな鳴き声を上げながら化け者共が駆ける。枯れ枝を踏みつけ、突き出した枝枝に体を打ち付けても止まらないその矮躯は醜悪。

 

「……同情はします。でも、容赦はしません」

 

 極度の栄養失調を思わせるガリガリの肉体に突き出た腹、鉛色の皮膚を突き破るようにして生えた二本の角。地獄絵に登場する『餓鬼』です。只、地獄から舞い戻った訳ではなく存在が始まった瞬間から満たされることのない飢えと渇きに苦しむ定めの哀れな者達……らしいです。

 

 お腹が減るのは辛いことです。とっても辛いことです。とってもとっても辛いことです。……帰ったら何を食べましょうか? 確かカップ麺の類も冷凍食品の類も食べていて、朝ご飯の食パン一斤とウィンナー三袋とキャベツ二玉しか残ってないから登校中に昼ご飯としてコンビニ弁当を買い占める予定でした……。

 

「……滅する」

 

 ああ、化け物が憎い。私から全部奪ったお前達が憎い。急な任務の原因になって私を苦しめるお前達を絶対に許してなるものか。私はかつて無いほどの怒りに身を震わせながら刀の柄を握り締める。餓鬼共を見据え、一瞬で決めるために能力を発動する瞬間、真横を通り過ぎた影の主の放った手裏剣が一匹の後頭部に突き刺さった。

 

「次っ!」

 

 一匹がやられても動きを止めない。仲間意識など欠片も無い化け物らしい行動ですね。ですが、私ほどの体格の持ち主が餓鬼の間を通り過ぎ、その首が宙を舞うと同時に動きを止める。

 

「此処のターゲットは全て撃破……主殿に褒めて頂けるな」

 

 目を輝かせながらグッと拳を握り締める彼女、小鈴と名付けられたロボット(ロマンです.凄く興味深い)は誇らしげに笑みを浮かべ、ポニーテールが犬の尻尾の様に揺れていますが、犬そのものですね。

 

 そんな風に考えていた私に顔を向けた途端にキラキラと輝かせていた瞳が冷たい物に変わる。まるで委員長が女子生徒を口説く時の神野さんに向ける目のようです。

 

「何を立ち尽くしているのです、役に立たなかったチビ。主殿に連絡をなさい」

 

「……大して変わりませんよ? 視力に何か欠陥があるのでは? このポンコツ」

 

 ……この女、嫌いです。

 

 

 

 

 

「結構な数がそっちに逃げたのに早かったな」

 

 連絡を入れて向かった合流場所へと向かい、委員長の姿が見えた瞬間に私の隣を不機嫌そうな顔で歩いていた彼女の姿が消え、委員長の前に跪いています。今の動き、餓鬼を退治する時よりも速かったですね……。

 

「主殿。この小鈴、ご命令に従い全ての餓鬼を退治して参りましたっ! 忍びにとっての最上の喜びは主君の役に立つ事。此度の働きも喜んで頂けたのならば幸いでございます」

 

 非常に仰々しい言い方ですが、声は弾み髪は盛大にブンブン横に動いています。本当に犬のよう……いえ、確かエリアーデさんは犬の魂を元に思考回路を作ったと言っていましたね。

 

 上下関係が絶対の犬を元にした為か一度主と決めた相手への忠義は絶対で、彼女の行動原理は主の役に立ちたい、褒められたい、相手をされたい。飼い主に懐きまくりの構ってワンコとの事です。あの人、そんなロボットを態々同年代の少女の姿にしたって……まさか神野さんの同類でしょうか?

 

 ……鬼瓦ロボといい家といい、変な風に日本が好きなだけですよね? 取りあえず近付かないようにしましょう。

 

「……うん、よくやったな」

 

「ははっ!」

 

 委員長、褒めてはいるけど少し引いていますね。まあ、唯の機械じゃなくって魂を入れてあるという事や人間にしか見えないからでしょうが。プログラムで動くのなら兎も角、この時代にあんな時代劇のような真似を実際にされたら私でも引きます。

 

 ですが本人はそんな様子など欠片もなく感極まった表情。口元も緩んでしますし、周囲への警戒も疎かです。ええ、だから何も言わないでおきましょう。

 

 

 

「ふふふ。つーかまえたっ!」

 

「ひきゃんっ!?」

 

 背後から忍び寄った神野さんが小鈴の胸を鷲掴みにし揉む。少し布に余裕があるから分かりにくいですが、こうしてみると彼女はそれなりに胸があって……やはりあの人は嫌いです。凄く嫌いです。

 

 

「にゃ、にゃにをするかっ!!」

 

「恥ずかしがって可愛いなあ。ほら、私の胸に飛び込んで……」

 

 胸を庇う様に腕で押さえながら飛びのいた小鈴は顔を真っ赤に染めて声が上擦っていて、堂々とセクハラをした神野さんはそんな彼女を楽しそうに見ています。ええ、また言いますが私は何も言いません。

 

 

 

「何をやっているっ!!」

 

「どばっ!?」

 

 背後から委員長が辞書を脳天目がけて振り下ろせば神野さんは相変わらず美少女台無しの声を上げて倒れこみました。……ざまぁ。無駄に胸に肉があるからバランスが悪いんですよ。

 

 

 

「酷いなぁ。軽いスキンシップじゃないか」

 

「酷いのはお前の思考回路だ、馬鹿者」

 

 前から思っていたのですが、レベルの高さのお陰で体も頑丈なのにただの辞書でどうしてダメージを? 腕力を上げたり勢いを付けても紙製品には変わりないのに……。

 

 

「あ、主殿ぉ~」

 

 この数日間で神野さんがすっかり苦手になったのか、小鈴は涙目で委員長の背後に隠れています。臆病な犬が飼い主の背後に隠れながらほかの犬を見ているようで……少しだけ可愛いです。

 

「あー、よしよし、遥も性根が腐っているけど悪い奴ではないんだ」

 

「酷い言い方だねっ!? 君、私のことが嫌いになったのかい?」

 

「何を馬鹿な。俺がお前を嫌いになると本当に思うのか?」

 

 委員長は慰める為か小鈴の頭を数回撫でると彼女は気持ちよさそうな顔になる。ついつい私も手を伸ばしますが、その途端に手で払われました。

 

「馴れ馴れしい。貴様、何をするか」

 

 あっ、やっぱり犬です。飼い主にはデレデレでも他の人物には凶暴な犬って居ますよね。

 

「まったく無礼な奴だ。主殿、宜しければもう少し頭をですね……」

 

 上目遣いで続きを期待する小鈴ですが委員長はクルリと背中を向けました。まあ、同年代の少女にしか見ない相手の頭をなで続けるとか抵抗が有りますよね。神野さんとはイチャイチャ……いえ、少し過剰な幼馴染としての、ええ、幼馴染としてのスキンシップをしていますが。

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

「主殿ぉ!?」

 

 流石委員長委。問題児の世話に慣れているから見事なスルーです。私も見習いたいですし、もう少し委員長の近くに居る時間を増やしましょう。ええ、他意はありません。

 

 

 

 

 

「主殿。拙者がお茶を淹れて参りましたっ!」

 

「……あーうん。頂こう」

 

 昼休みになり私は委員長と(ついでに神野さんとエリアーデ)昼食を食べる事にしたのですが、お弁当を開いた途端に淹れ立てのお茶が差し出される。彼女、学校には来るなと言われていたのですが……。

 

「忍びたる者、何時如何なる時でもお傍にお仕えする物。隠形は得意ですので大丈夫ですっ!」

 

 との事です。まあ、私も先程まで存在に気付きませんでしたし、一般人に発見されないので大丈夫でしょうが……。

 

「おい、バ科学者。此奴のスペックは実際どんなのだ?」

 

「馬鹿とは酷いんだねっ!? 私が作った子だし、凄いんだよ? 肉体はほぼ人間と同じで妊娠は無理だけど性交は可能。くノ一なら色仕掛けは必須だろうからだねっ!」

 

 確かに凄いですが、エリアーデの頭は酷いです。当の本人は真っ赤になって固まっていますし、神野さんは再び隙を狙っていますが委員長が間に入って邪魔します。

 

 ……しかし神野さんは話を聞かないで口説いてくる鬱陶しさはありますが直接的なセクハラをする人ではないのですが……。ああ、アリーゼも口説きながらも敵として攻撃を仕掛けていますよね。

 

「ああ、本当なら私の護衛にする予定だったのに。主従認識の書き換えは無理なんだよ」

 

 肩を落とすエリアーデですが、ああ、この人って一応組織を裏切ってこっちに着いたのでしたね。

 

「おい、小鈴。頼みがあるんだが……」

 

「頼みなどと、主殿はただ命令すれば宜しいのですっ! 暗殺でもよ…夜伽でもご命令とあらば……」

 

 最後は声が小さくなっていますが覚悟を決めた様子。エリアーデなど”データを取りたいから撮影してくれたら嬉しいんだよっ!”、などと宣っています。

 

「お前は俺をどんな目で見ているんだ?」

 

 本当にどんな目で見られているんですね? 委員長は誠実で真面目で面倒見が良い好意的な人です。

 

「そうだぜ? 彼は命令で夜伽をさせたりはしない。命令されたら私に言ってくれたまえ。どうせなら三人で……」

 

 この人は本当にグイグイと来ますね。もしかして邪魔しています? いえ、意識して邪魔している様子はないのですが……。

 

「この馬鹿は極力スルーしろ。俺が頼みたいのはエリアーデの護衛だ。住み込みでな」

 

「……はっ。この小鈴、主殿のご命令ならば」

 

 苦汁を噛み締めた顔で頭を下げて跪きますが、その頭に委員長の手が優しく置かれます。

 

「悪いな。お前の事はこの短期間で信頼している。だからお前のメンテナンスや修理が可能なエリアーデを死なす訳にはいかないんだ」

 

「あ、主殿ぉ~!!」

 

 感涙しながら委員長に飛び掛かる小鈴。二人の間に神野さんが割り込んで正面から鷲掴みにした。

 

「ひきゃぁああああああっ!?」

 

「うーん。良い声。やっぱり君は……あっ」

 

 響き渡った悲鳴を満足そうに聞きながら手に残った感触を堪能する神野さん。その脳天に辞書が振り下ろされました。




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私に対して辛辣で辛いのだけどどうすべきなんだね?

私に絵心でもあれば絵を乗せるんでしょうね 小学生低学年レベルで絵描きソフトも持っていないし無理ですけど 習ったことさえないし中学で最後だった美術の授業では書きやすいものばかり選んで楽していましたし


「うんうん。何も問題ないんだねっ! 流石は私の作った存在なんだよっ!」

 

 専用のレーダーで小鈴の体を検査した私は何一つ問題がないという当然の結果に満足する。ロボとと言っても人工臓器に人工筋肉、犬の魂を改造した人造魂魄など、天才である私でなければ実現不可な絵空事の存在が確かに目の前に居る。

 

「終わったか。なら邪魔だから早く其処を退け。台から降りられぬではないか」

 

 ……なのに、なのにどうして主のインプットが委員長君なんだねっ!? もったいぶってないで早く私が起動させていれば私の忠実な部下が完成してあれやこれやと研究が捗った筈なんだよ。今も私に鬱陶しそうな視線を向けているし、本当に運命はままならないものだよね……。

 

「しかし意外なんだよ。まさか夜伽と聞いただけで動揺するんなんてさ」

 

「貴様はやはり阿呆だな。私は女としてではなく、忍びとして主殿の傍にお仕えしている。お望みなら兎も角、草の者が自ら身を捧げたいなどと口にするなど恥と知れっ!」

 

 うーん。委員長君を誘惑させて色々とサンプルを得る為に性交を可能にしたし、誘惑の成功率を上げる為に知識のインプットと肉体年齢の操作を与えたんだけど、性格設定を間違ったかな? 今は十六くらいの設定だけど、その気になれば±十歳の変化が可能だから成功率は高いはずなんだけどね。

 

「あっ、遥ちゃんだよ」

 

「ひっ!?」

 

 こんな場所に居る筈がないのに彼女の名前を聞いた途端に小鈴は胸を守るように抱き締めて飛び跳ねる。冷や汗をダラダラ流し小刻みに体が震えているけどどれだけトラウマなんだいっ!? 天井に足の指の力だけで張り付いて怯えながらキョロキョロしている姿は少し愉快だったよ。居ないと分かった瞬間に私の腕を捻り上げたけどね。

 

「凄く痛いんだよっ!?」

 

「当たり前だ、痛くしなければ無駄だと分からないのか、大馬鹿者が」

 

「その大馬鹿者に作られたのは君なんだよっ!? それに私が創造主なんだから神として崇めるべきでなんだよっ!?」

 

「はっ!」

 

 鼻で笑ったよ、このロボットっ!

 

「大馬鹿者でも奇跡的に私の様な存在を作り出せる。それに貴様が神? 人が神になれるものか。主殿を実験に使いたいなどと企む貴様に払う敬意など皆無に決まっておろう」

 

 随分と辛辣なんだねっ!? でも、君は知らないんだね。君の目で捉えた物と耳で捉えた音は送信されて私のパソコンに記録されていることをねっ! さて、後でこっそり観察なんだよ。

 

 

 

 

 

「ふふふふ。忍びたる者、こうして主君のお傍に陰ながら居続けるもの」

 

 画面を付けると天井に張り付いて委員長君の部屋を見下ろす映像が流れる。……ストーカーではないんだね、うん。きっと犬が飼い主の外出について行きたくて悲しそうな声で鳴いたり、忠義がおかしい方向に振り切れているとかそっちなんだよ。

 

「ふぅ。今日も疲れ……」

 

 風呂上がりの委員長君が寝るのか部屋に入ってきて、天井を見るなり固まる。頭痛を堪えるかのようにこめかみに指先を当て、何を思ったのかカーテンと窓を開けると小鈴の真下にやって来て両腕を伸ばす。これはハグっ!? まさか既にヤッてたのかねっ!?

 

「ほら、来い」

 

「は、はいっ!」

 

 これは間違いないんだよっ! 小鈴は委員長君の胸目掛けて飛び付き、私は固唾を飲んで展開を見守る。・性癖なども研究の参考になるからねっ!

 

「はい、キャッチ」

 

 ……あれ? 脇に手を当てて小鈴を抱きとめた彼はそのまま体を回転させて……見てた私が酔いだした瞬間、委員長君は窓目掛けて小鈴を放り投げた。

 

「&リリースっ! 寝室に忍び込むなと何度言わせるっ!」

 

「主殿ぉ~っ!!」

 

 過ぎに空中で一回転し、屋根に飛び乗った小鈴は窓から入ろうとするが鍵を掛けられカーテンを閉められる。あっ、泣き出した。

 

「……グスっ」

 

 膝を抱えて涙ぐむ小鈴。その背後から窓が開く音がして委員長君が指先で肩を叩いて振り向かせると入れとジェスチャーで示す。やれやれ、随分と甘いんだよ。

 

「主殿っ!」

 

 咄嗟に抱き着こうとしたのを身を翻して躱した委員長君は背後から肩を掴んで動きを止め、そのまま押すようにして部屋から追い出した。

 

「出ていけ」

 

「お、お待ちくださいっ! 拙者は忍びとして主君のお傍に……ひぇっ!?」

 

 背後から聞こえてきた足音に気付いたのだろうね。小鈴が恐る恐る振り向くと風呂上りの遥ちゃんがパジャマ姿で立っていたんだよ。うん、同性の私から見ても凄い色気だよ。こんなのが近くにいるなら下手な色仕掛けは通用しないんだろうね。

 

「恥ずかしがらなくても良いさ。私に身を委ねなよ、小鈴。あっ、懐かしい物が出てきたんだけど遊ぼうぜ」

 

 遥ちゃんが差し出したのは旧型の携帯ゲーム機。しかも二台。同じ色だけど、片方はどうしたんだろうね?

 

「別に構わないが……泣くなよ? 壊れたと思って新しいのを買ったら電池の向きが逆だった時や負けた時にピーピー泣いてたからな、お前は」

 

「う、五月蠅いよ! 何時の話だよ、全くさ……」

 

 ふてくされた彼女の顔なんて珍しいんだね。家では気が抜けるということか……良い情報が手に入ったんだよ。そんな風に思いながらも私は小鈴の視線に注目する。ゲーム機と委員長君に向けているし、一緒に遊びたいけど忍びの誇りが許さないんだね。まあ、彼に恋する乙女でもないし、その辺は本人の問題なんだよ。

 

「じゃあ俺の部屋でやろう。おい、お前も遊ぶか? っというか参加しろ。俺と組んでこの馬鹿を倒すぞ」

 

「ふぇ? で、ですが忍びが主君と共に遊戯に興じるなど不敬では……」

 

 ……あー、少し駄目だよ、君。願望と責務を天秤に掛けて願望を選べない者は何も手に入らない。この世は好き勝手した者の勝ちなんだよ。実際、断るときの小鈴の声には元気が無いんだね。

 

「別に俺が良いと言っている。俺は自分のが有るから遥のを……触るのも嫌か。よし。俺のを使え」

 

「は、はい! 御意に御座います!」

 

 声が弾んでいるし、多分尻尾代わりのポニーテールは盛大に振られているんだね。今度、感情や思考を計測する風にしてみるんだね。先程追い出される時と同様に方に手を置かれて小鈴は室内に戻る。最後に遥ちゃんが入って当然のようにベッドに座っている委員長君の背後に寝転がった。体を斜めにしているし、アレじゃあ小鈴が彼の隣に座れないじゃないか。

 

「……拙者は床で」

 

 椅子があるのに敢えて床に座る小鈴。ただし場所は委員長君の足の隣に座りベッドに背を預けてだったよ。少しでも近くにいたいんだね。視線は膝の上に注がれてるけど。

 

 

「……そう言えば主殿。本体が三台有るのは分かりますが、ソフトが三つ有るのは何故でしょう?」

 

「遥が俺が持ってたのをやりたがっていたから誕生日にヌイグルミと一緒に中古の箱と説明書無しをやったんだが、俺と遊びたいって同じソフトを親に買って貰ってたんだ」

 

 実に残念だと思うよ。それなら親に別の物を買って貰えば良かったのにね。それが普通の想いだと思うんだよ。だけど遥ちゃんの想いは別だったんだね。

 

「アレは失敗だったよ。君に無駄な出費をさせて悪かったね。今更だけどお詫びに胸でも揉むかい?」

 

「揉まん」

 

 自分のではなく相手の損失を悔やむとか意味不明なんだね。天才の私じゃ常じ……変人の思考回路は理解不能だね。

 

 あっ、小鈴が自分の胸と遥ちゃんの胸を見比べて何やら呟いてる。ボリュームアップだね。音って意味で。あの体は私が計算した黄金比率だから弄らないんだよ。

 

「……普段から奴に揉まれているし、揉み心地が良いのなら是非主殿に堪能して頂くように提案を……いや、無理だ。命じられたならこの身をお捧げしますが……」

 

 真面目ってのも考え物だよ。世の中不真面目不道徳が一番なんだやっぱりねっ!

 

 

 

 

「あー! まーたー負ーけーたー!」

 

 遥ちゃんは手足をバタバタと動かし喚き立てる。まあ対戦ゲームで二人相手に攻められたら負けるんだね。私なら速攻で作ったチートプログラムを組み込むけど、戦闘力だけの彼女じゃね。

 

「っていうか能力使っているだろうっ!? 少なくても五個はっ!」

 

「いや、三個だ。『思考高速化』『高速動作』『器用上昇』」

 

「卑怯にも程があるっ! もう私は寝るっ! お休みっ!!」

 

 拗ねちゃった遥ちゃんは布団を頭から被る。此処は自分の部屋だからって委員長君が引き剥がそうとするけど、遉はレベルⅩ、凄い力だ。諦めたのか委員長君はベッドから降りて小鈴の横に座り込んだ。

 

「一緒に追い出すのですか?」

 

「いや? もう少し相手をしろ。その内機嫌が直るだろう」

 

「はっ!」

 

 追い出すって時に明らかに期待した声だったけど、窓をチラチラ見てるってことは窓から放り出す気だったんだね。怖い怖い。下手したら私も……。

 

 二人は肩を並べて携帯ゲームに興じる。時々小鈴の鼻歌が聞こえるし、流石は私の作品だね。感情が此処まで発展してるなんてね。

 

 

 

「……おい。俺の命令など聞かなくて良いぞ。いや、お前がそういう風に作られているというのは分かっているし、俺が起動させてしまったのだから放り出しはしないが……」

 

「ええ、確かにそれはありますが……この短期間で主殿の人柄が分かりました。やや厳しい方ですし、私の行き過ぎた行動には辛辣ですが、それでもお傍に居たいと思います」

 

「……そうか」

 

 委員長君はそのままゲームの操作を続け、そろそろ時間かと遥ちゃんの顔を覗き込むと熟睡してる。

 

「主殿、辞書をどうぞ」

 

「いや、流石にこの程度では……」

 

 小鈴が委員長君に恭しく辞書を差し出すけど委員長は手で制し、乱れた布団を掛け直そうとした手を遥ちゃんが掴んだ。あっ、寝ぼけてるし離さない。

 

「主殿、辞書を」

 

「……いや、別に良い。寝てるだけで殴るのもな」

 

 委員長君は溜息を吐くとベッド端に座り込む。どうやら起きるまで傍に居る気のようだね。小鈴は二人の顔を交互に見やり、最後に握られた手に視線を向ける。

 

「では拙者は待機させて戴きます。主殿、お休みなさいませ」

 

「ああ、お休み」

 

 小鈴は部屋から出ていき……光学迷彩で姿を消して窓の外から中の様子を窺っていた。

 

 

 

「まったくお前は何時も何時も……俺も寝るとしよう。もうお前が傍で寝ていようが気にしない事にした」

 

 委員長君は呆れたように呟くと遥ちゃんをベッドの隅に移動させて布団を被る。やがて寝息を立てだした頃に部屋に戻った小鈴は布団をきちんとかけ、部屋の明かりを消すと部屋から出て行った。

 

 

「……なんであの二人は付き合っていないのでしょうか? 拙者でも理解不能です」 

 

 本当にねっ!

 

 

「まあ、今回は結構なデータを取れたし、今後の改造計画も完璧なんだね。なはははははっ!!」

 

 今後の事を考えると楽しくなってくる。思わず高笑いをしていた私は背後から忍び寄る陰に気付かなかった。センサーとか仕掛けてあったんだけどね……。

 

 

 

 

 

 

「ほぅ。貴様、私を通して主殿を見張っていたのか……覚悟は出来ているな? 成敗っ!!」

 

 あっ、私終わったんだね。頭上高く振り上げられた辞書を見ながら私はそんな事を思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、エトナは何処に行った?」

 

「旦那の所に行くってさー。それよりその首から下げてるのって……いや、良い。何にも訊かないでおくよ」

 

「ん? 何も無いなら別に構わないが……本当か? このアクセサリーについて何かないのか?」

 

「あーあー! 聞ーこーえーなーいー!」

 

 

 




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睡眠中も辛いのだがどうするべきだろうか?

「ねぇ、私のことをどう思うかい?」

 

 また予知夢が発動したようで、俺は大人になった遥とバーで飲んでいた。少し飲みすぎたのか顔が赤らみ目が座っている遥に対し俺は何も言わない。何時もなら馬鹿にした様な呆れた様な顔になる彼奴がこの時は少し頬を膨らませて不満そうだった。

 

「答えてくれたって良いじゃないか。昨夜私のハジメテを奪っておいてさ」

 

「力で押さえつけられて襲われたのは俺の方だと記憶しているが、酒による記憶障害か?」

 

 ……あっ、察した。俺がどうして遥と結婚したかだが、関係を持った事による自責の念か。癪だが納得した。それ以外で有り得んからな。

 

 さすがに理不尽だと思うからしないが、起きたらあの馬鹿の脳天に辞書をお見舞いしてやりたいと思う中、夢はまだ続くようだ。正直むず痒いというか苦痛なのだがな。

 

「私はね。君となら結婚しても良いと何度も言ったけど改めるよ。……君と結婚したい。君じゃなきゃ駄目なんだ。私の愛は全部君に注がれてるんだ。だからさ……」

 

 何かを期待するように微笑みながら遥は鍵を取り出した。

 

「実は部屋を取ってあるんだ。今夜、私に抱かれる気はないかい?」

 

「無いな。それと正気に戻れ」

 

 傍から見れば理不尽に思えるだろうが、俺は仕方ないと未来の俺を弁護する。遥とは物心ついた頃どころか乳児の時からの付き合いだ。ずっと傍に居て、美少女を見れば口説こうとする馬鹿の後始末を何度もしてきた。隣に居るのが当たり前で、異性としてハッキリと意識した事などない。

 

 だが、この時の奴はそういった目で俺を見ている。轟達を口説く時の目をだ。話を聞く限りでは特に関係が進展したという事もなく無理に関係を結ばれた様だしな。声からも心配していることが伺える。

 

「私は正気さ。悪いけど昨日のような事は何度も起きると思ってくれたまえ。ふふふ、君こそ私の唯一無二の子猫ちゃんだぜ?」

 

「あら、この様な夢を見るとは実は押し倒される願望が……。いえ、これは予知夢ですわね」

 

 視界が暗転し、背後から聞き知った声が投げ掛けられる。最近はアリーゼが止めてくれたのか出没しなかったエトナが俺の背後に立っていた。周囲は一筋の光も差さない暗闇だが、俺と目の前の彼女の姿はハッキリと見えている。

 

 

「帰れ。お前が来ると翌日辛いのだ」

 

 此奴が夢に現れた際、俺の意識は覚醒時と変わらない明確な状態だ。脳が休まらず寝不足になるから本当に朝が辛いのだが、何を勘違いしたのか照れながら服の襟を両手で持って左右に広げるエトナ。いや、此奴がどういう方向に思考を持っていくかなど分かり切っていたか……。

 

「性欲を持て余すからでしょうか? なら、私を剥いてお好きにして下さっても……いえ、この話は一旦横に置いておきましょう」

 

「俺からすれば永久に置いていて貰って構わないが?」

 

「実はアリーゼ様ですが婿殿への想いが募るばかりで……」

 

 何とか思いに応えてやってくれ、とでも言いたいのだろうか? 悪いが俺からすれば遥が轟達を口説くのと何も変わらない気がしてならない。此方の事を思って勉強している等と言われた事があるが、関係を持つ事を前提としてだ。何度か戦い名前しか知らない明確な敵に気を使うほど俺は人間ができていないのでな。

 

「前にも言ったが俺と彼奴は敵だ。少なくても俺が裏切らないと言ったら、ならば攫うだけ、というような事を即答する相手とは価値観が違いすぎる」

 

 やはり種族の違いとは厄介だ。姿が似通い言葉も通じてある程度文明も似ている。だが、価値観があまりにも違いすぎる。気に入った相手は力尽くででも手に入れる。それが鬼姫族の特徴だからな。大体、俺の事を大して知らないのに結婚しろと言われてもな。ならば此方も相互理解をする気がおきん。

 

「ええ、そうでしょうね。私達からすれば人間のそういう所は理解不能です。人も我々も元は獣。なら種の繁栄に繋がる強い者と子を残すことだけ考えれば良いでしょうに。お嬢様のお勉強もそれに繋がる為の事に過ぎませんし。ほら、マンネリが倦怠期に繋がるそうじゃないですか」

 

 先程までの熱に浮かされた様な蕩け顔から一変して冷徹な表情になったエトナは呆れたような口ぶりで溜息を吐き、怪しく微笑んだ。

 

「今宵は忠告に参りました。我らが仇敵は貴方達に注目しています。此方に着き婿として優遇されるか、子を残すための種馬として過ごすか……最後の警告をする時までよく考える事です」

 

 視界が白くなり、俺の目が覚める。耳に最後の嘲笑うような声がまだ響いているようで気分が非常に悪かった……。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 君を婿にするか種馬にするかのどちらかだって? 私が三人纏めて虜にしてやるさ」

 

「あっ、そうか。頑張れ。超頑張れ」

 

 昼、夢の事を掻い摘んで話すと遥はゲス顔で気合を入れている。予知夢の事で意識? 可能性は可能性だしな。意識してこの馬鹿の傍に居辛いのは馬鹿馬鹿しい。

 

 しかし前から思っていたが、此奴の自信は何処から来ているのだ? 確かに数名の女生徒を口説いては一回だけデートをしてるなどしているが、行為に関しては未経験だろうに。だが、あの三人を受け持ってくれるなら俺も苦労が……苦労が四倍になる未来しか見えない。

 

「……良いよね、花嫁姿ってさ」

 

 この日だが、俺達は知り合いの結婚式に出席していた。後方部隊の一人の式で、遥は花嫁を眩しそうに見ている。いや、流石に人妻にまで手を出す気ではないだろうが……多分。

 

 俺の視線に気付いたのか遥は眉を顰めて不機嫌そうだ。どうやら通じたようだな。この程度、通じなくて何が幼馴染だが。

 

「確かに彼女は美女だし私も狙ってたけどそこまで節操なしじゃないさ。私が言ったのは服についてだよ。花嫁衣裳って憧れるんだ。私だって乙女なんだぜ?」

 

 ……意外だな。此奴にそんなまともな感性が残っていたとは。花嫁を口説くべきではないなどと理解していたか……。

 

「ジューンブライドで純白の花嫁姿の私。ああ、体にピッタリのタイプが良いかな? 父さんから君に渡されてさ……」

 

「相手は俺で確定という事か? 随分と光栄なことだ」

 

「だろ? 私が結婚するなら君しかいないし……君が私以外と結婚したら今より構ってくれる時間が減りそうだからね」

 

 不満そうな顔から少しだけ泣きそうな顔になるのを見て最近の事に納得する。小鈴やら轟やらアリーゼやら僅かな期間で遥以外に俺の傍に居る奴が増えたし、ベタベタもされている。居場所を奪われたような気がして不満だった訳か。

 

 

 

「まあ、君の隣は永遠に私の物だけどね。小鈴は怯える姿も可愛くってついつい。でも、いずれ恐怖が癖になって私の事をお姉様とか呼んだりしてさ……ふふふ」

 

 あっ、一瞬此奴の傍から離れたくなった。しかし分かっているのなら最近の過剰なスキンシップは勘弁して貰いたいものだな。俺は妄想にふける馬鹿の顔を見ながらそう思う。

 

 

 

 

 

 

「……ブーケ私が貰ってしまったよ。ふふふ。本当に君のお嫁さんになるのも悪くないかもね。私が幸せにしてあげるよ?」

 

「そうかそうか。それは僥倖だ」

 

 ブーケを手に入れて笑っているまでなら良かったのだが、もはや態とでは無いだろうかと思ってしまう。だからまぁ、此奴の花嫁姿を見てみたいと思ったのは黙っておこう。悪くは……なさそうだな。

 

 俺が自分の隣で照れている花嫁姿の遥の姿を想像した時、探知に反応があった。この反応は間違いなく……。

 

 

「この様な祝いの日に……」

 

「敵かい? しかもその表情からして……あの三人か」

 

 折角の日を最後の最後で台無しにさせる訳にはいかないと俺達は会場を抜け、反応があった場所へと向かう。そこには反応通りにアリーゼ達の姿があり、俺は言葉を失ってしまう。

 

 

「……は?」

 

 何時もの様に着物を着崩したエトナは金棒を構え、軽鎧を着たクリスは巨大な包丁を思わせる大剣を構えている。アリーゼはナイフに軍服だ。ああ、それは良い。此処までは問題ない。だが……。

 

 

 

 

 

「何故ナメタケの瓶を首飾りにしている?」

 

「お前からの贈り物だからだ。大切に身に纏うのは当然だろう?」

 

 ……価値観の違いって本当に凄いな。鬼姫族とは皆この様なのか?

 

 

 

 

 

 

「……なあ、エトナ。名誉を棄損されている気がするんだがどっちを訴えるべき?」

 

「当然アリーゼさ……何を訳の分からぬ事を言っているのです、クリス」




原点回帰 二人の糖分こそこの作品だ 感想お待ちしています


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言い掛かりを受けて辛いのですがどうすべきでしょうか?

下がった評価が戻った! 感謝の気持ちしかありません。


 学校帰りに小腹を満たそうと立ち寄ったレストランで背後の席からCMの音声が聞こえてきました。どうやら携帯でテレビを見ている様ですね。……マナーがなっていない方です。食欲が失せるじゃないですか。

 

「……DXジャンボパフェのお代わりと特盛りフライドポテト二皿追加で」

 

 給料日前ですけどお金に余裕があるので今夜は少し贅沢でも、と思っていると可愛らしい声のキャラが歌うCMソングが聞こえてきました。食欲無くなるから消してほしいですね。

 

『パンダのナメタケ、パンダのナメタケ、パンダのナメータケ!』

 

「ぶっ!」

 

 三杯目のパフェを啜っていた私は思わず吹き出してしまいました。黒子とハシビロコウと土佐犬のキグルミがラインダンスを踊りながら宣伝するナメタケは先日委員長と行った遊園地で貰った物。思い出の品(……気が緩んでいるので戒めとしてですが)としてベッドの端に飾っています。

 

 あの時のことを思い出すと顔が熱くなってきましたので先程のパフェの到着が待ち望まれます。……ナメタケで思い出しました。

 

「あっ、明日は披露宴に出席するのでした」

 

 着ていく服は用意していますがご祝儀を用意し忘れていました。……今夜は節約しなくては……。焼き肉食べたかった……。

 

 

 

 

 

「……ああいう時の食事って少な過ぎです」

 

 明日の物足りないであろう食事を思いながらタイマーセットのおかげで炊き立ての白米が香しい炊飯器に割引のレトルトカレーを投入。売り切れ間近で中辛と甘口が各四パックですしカツとオムレツとエビフライとチキンソテーとハンバーグが欲しいですが、今の財布の中身では贅沢は敵です。思い出で胸が一杯で助かりました。

 

 

 

 

「……」

 

 花嫁の姿を無言で眺めながら昔を懐かしむ。幼い頃は只綺麗と思ったから花嫁に憧れましたが、成長して他人の顔から感情を読みとる術を手に入れれば、成る程幸せそうだ、と思う。私には不要な幸せではありますが……。

 

 決心が揺らぎそうになる。心の中の黒い炎が消えそうになる。ああ、駄目だ。耳障りの良い言い訳が何度も響く。あの日、私は幸せなど捨てたのに……。

 

「おい、轟」

 

 委員長の声にハッとする。この人もまた幸せを望む切っ掛けになってしまった人。このような祝いの席で何を考えどの様な表情をしてたのか気付いてしまった。きっとひどい表情だったのでしょうね。

 

「……ごめんなさい」

 

「気にするな。お前のことは分かっている」

 

 ああ、貴方はどうしてここまで私の心をざわつかせるのでしょうか? いっそ遠く時に行ってしまいたいと思った私の前に肉の乗った皿が差し出されました。……頂けるのなら頂きますが、どうしてでしょう?

 

 

「腹が減っているのだろう? お前には足りないだろう」

 

 あっ、はい。確かにお腹は減っていますし足りません。ですがちょっと違います。まあ、頂きますが……。少しだけ委員長にお返しした方が良いですよね? 決して、決っっして! はい、あーん、がしたい訳ではなく、皿を共有するのもどうかですし、その結果で間接キスが発生しても致し方有りません。ええ、そうですとも。……先程何か考えた気がしますが、今はもっと重要なことがあります。どの様にすれば自然な形で委員長に食べさせることが……。

 

 

「それじゃあ君がお腹減るだろう? ほら、食べたまえ」

 

「むがっ。……急にねじ込むな。だが感謝する」

 

 敵ながら……敵? 何故神野さんを敵と思ったのかは不明ですが(胸囲は除く)、敵ながら見事な動きであったと言うしか有りません。予備動作も一切の躊躇もなく自然な動きで切り分けたお肉を突き刺したお肉が委員長の口に運ばれます。ソースも肉汁も一滴すらこぼさず、委員長の歯にフォークが当たることもない。

 

 委員長も少し驚いた様子ですがそれ以上は言及せず、紙ナプキンで神野さんの口元のソースを拭う。委員長がグラスを傾けて中身を飲み干せば直ぐに神野さんが注ぎ、彼女の手からフォークが落ちそうになれば数センチ落ちたところで委員長がキャッチして持ち手を向けて手渡す。この一連の動作だけでも凄いのに、互いに自分の事をしながらで、相手に注目していません。

 

「……随分と息が合ってますね」

 

「そうか? よく分からないな」

 

 これだから無自覚なバカップルは……いえ、お二人はカップルではありませんでしたね。普段から否定されていますし、距離が無駄に近い幼馴染みです、ええ。無駄は駄目ですよね。特に無駄な胸囲の脂肪ほどに不要な物はありません。

 

 所でウェディングケーキって皆で分けるのでしょうか? 結婚式の出席は初めてですしネットで調べ忘れましたが、バイキング形式だと最良です。そもそもバイキングがどれだけ素晴らしいかというと、時間内に何をどれだけ食べれば食べ損ないでの無念さや元を取れるかといった経済や消化吸収に関する化学、ペース配分や人気の料理を食べるための戦略性、他の客の動向を見張る観察眼、今思いつくだけでもメリットは多いです。

 

 さて、これらを事細かく論理的に要望書に書いて提出すれば食堂がバイキング形式になるでしょう。え? 食欲のままに食べたいだけだろうと? 実に非論理的指摘であり、撤回と謝罪を求めます。

 

 ……私に必要なのは人としての幸福ではなく、化け物を全滅させるための力。大量の食物を摂取するのは戦闘中にエネルギーが不足しないための常時戦場の構えです。

 

「……デザートはまだでしょうか?」

 

 戦闘中は頭をフルに働かせているので糖分は必須。給料に甘味手当(オヤツ代)が付けば良いのですが……。

 

 

 

 

 

「じゃあ行くわよー」

 

 花嫁さんが投げるブーケをキャッチしようとする人達を見ていると呆れてしまう。実際の何らかの特殊能力を持っていたり、その存在を知っている方が多いのにも関わらず迷信的なイベントに参加するためにシューズに履き替えたり準備運動をするなんて……。

 

 

「ふふふ。ブーケは私が貰う。悪く思わないでくれたまえ」

 

「随分と気合いが入っているが……お前が花嫁になれるかどうかは俺次第だろうに。醜態を晒せば効果はないぞ?」

 

「分かっているさ。見事キャッチして君の横で花嫁衣装を着て泣いてみせようじゃないか!」

 

「出来るものならやってみろ」

 

 ……何故かイラッとしたので馬鹿馬鹿しいブーケキャッチよりも近くに来ていた移動販売のクレープを握りつぶしてしまう。白いクリームが指先やほっぺに付いたので舐めて取り、眼鏡に残ったクリームの残りを洗うために水道へと向かう。

 

 

 

 

「……私の時はフリルの付いたのが良いですね」

 

 もしも、本当にもしもの場合ですが化け物達がこっちの世界に来られなくなって平和になれば幸せを得るのは合理的思考です。他に候補がいないので委員長を新郎の配役に当てはめて結婚式を思い浮かべる……悪くはないです。子供は一姫二太郎で、いえ、委員長が望むのなら何人でも産みますが……例えですよ? 別に私は彼と結婚して専業主婦になりたい訳ではありません。

 

 あらゆる状況を想定するのは合理的で必要なので新婚生活や恋人時代の様子を妄そ……シュミレーションしていたら思ったより時間が経過し、携帯に敵出現のメールが届いています。

 

「……急ぎましょう」

 

 ええ、良いところで邪魔された憂さを晴らすのではなく、一切の魑魅魍魎殲滅という大望の為です。私が『疾風迅雷』を発動し進むと敵らしき三人組が見えてきました。

 

 一人目は……和服の(私より)貧相な体の少女。敵かどうかは……あっ、確かエトナです。敵でした。

 

 二人目……素肌にサラシと半纏だけの巨乳……敵です。確かクリスでしたね。

 

 三人目。爆乳だから敵です、っというよりもアリーゼです。

 

 

 

 

 

 ……所で彼女は何故ナメタケの瓶を首飾りにしているのでしょうか? 無駄余分邪魔な脂肪と合わさって肩こりに悩めば良いのに……。




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私の幼馴染みが変態で辛いんだけどどうしようか?

 私にとって幼馴染である同僚と主は何よりの宝なんだ。いや、エトナは口煩い堅物だし、アリーゼ様は少し中二病入っている残念な所は有るよ? でもさ、完全無欠な奴しか友達にしないって無理だろ? あの二人と居ると楽しい、だから別に構わないんだ。

 

 でもなぁ、偶に引く事があるんだよ……。

 

「アリーゼ様! 婿殿の性癖が何か理解しました。あのお方はMです」

 

「何っ!? だ、だが、今まで高圧的に出ても動じなかったし……」

 

 私達の種族の特徴として一度気に入った雄を絶対に手に入れようとする。より強い子孫を残そうって本能なんだけど、アリーゼ様みたいに恋心に似た感情を抱くのも結構居る。私? あの旦那は気に入ってるけど、恋じゃない。手に入れて好きにしたいっていう欲望だ。

 

 まあ、まず子供を作る関係になるってのが前提な辺り、人間とは価値観が違う気がするけどな。でもさ、それって当然じゃね? 生き物って番いになるイコール子供を作るんじゃん。人間って訳分からねぇよ。遠距離恋愛? プラトニックラブ? 少しずつ近付く二人の距離? うん! 頭が痛くなりそうだ!

 

 私は適当に暴れてるのが一番性に合うぜ!

 

 夢魔の血を引くエトナは度々旦那の夢にお邪魔して誘惑を繰り返してるけど効果なし。ツルペタストンが嫌いかと思いきや胸がデケぇアリーゼ様にも特に反応がない。いや、流石に初対面でキスをしたときは反応あったけどさあ。

 

 

「分かっていませんね、アリーゼ様。所詮貴女様の高圧的態度は”高圧的な女将校っぽい私って素敵!”、という考えから来る張りぼて。真正のマゾには見破られてしまうのです。どれだけ美味しくてもカニを食べたい者がカニカマで満足しませんっ!」

 

 ……エトナもなぁ。真面目だし有能なのに性癖が異常なんだよなぁ。気に入った相手に徹底的に甚振られながら子を作りたいっていう欲望全開なんだよなぁ。旦那、変態に苦労させられてるから没交渉なんじゃねーの? 少なくても私の知識じゃ人間って初対面の相手にキスして結婚しろとか言わないから。

 

 ……なんか相手に合わせる気のない私が一番人間を理解しようとしてない?

 

 色々と考えさせられる事はあるけど、それでも大切な友人の為に私は行動を開始する事にした。取り合えず雑誌とかの恋愛特集を読むべきだよな。

 

 

 

「ちょいと出かけて来まーす」

 

「むっ。ならばコンビニでエロ漫画雑誌を買って来てくれ。勉強に使う」

 

 ……途中で真っ赤になって気絶する人が何言ってんだか。まずは少年誌レベルで悲鳴を上げないレベルになろうぜ?

 

 

 

 

「ふむふむ。贈り物は大切にすべし、か。まっ、当然だわな」

 

 適当に買った雑誌を読みつつ双眼鏡で旦那がいるクラスを覗き見る。親父が聴覚に優れた種族だったからか私の耳も優れていて此処からでも会話を聞こうと思えば聞けるんだ。不要な音を遮断するのに集中力が居るから長くは無理だし、不慣れな読唇術で補う必要もあるけどな。さてさて、始業前から何をしてるのかなっと……。

 

 

 

 

『宿題を忘れた? それはいかん。俺が教えるから今から取り掛かれ。任せろ、必ず間に合わせて見せよう。ああ、頼まれていた本の修繕は終わったぞ。むっ? 彼氏にあげたいからクッキーの味見とアドバイスを? 砂糖を十分の一程減らしてだな、粉っぽくなくサクサクとした食感の為に……』

 

 そっと双眼鏡を置く。うん、あれは凄い。朝っぱらから他のクラスの奴にまで頼まれ事をしているし、だからといって何から何でもやるんじゃなくって相手が自力で出来るようにって工夫してる。それが分かってるのか頼りにする奴は多いけど甘えようとしてる奴は居なかった。

 

 ……ただ一人を除いてだけどさ。

 

 

 

 

 

『昨日ネットをしてたら夜更かししすぎちゃってさ。少し膝を枕に寝かせてくれ』

 

『……何度言ったら分かるのだ、お前は。昨日の晩もあれだけ注意を……ほら、制服が汚れたらいけないから薄い毛布を持ってきた。それと弁当を先に食べろ。食ってすぐに寝ても大丈夫なようにメニューを工夫してきた』

 

『悪いね。あっ、今日の晩御飯の当番は私だけど一年生の子とデートが入ったんだ。……駄目かな?』

 

『お前だけなら兎も角、一緒に行く事を楽しみにしている者が居るなら仕方ないか。明日俺はハヤシライスを作る気だったし、二日分作れば良いだけだ。……だがな、今回も一回デートしたら終わりとかはどうかと思うぞ?』

 

『うーん。どうだろうね。どうも君と一緒にいるのが一番楽しくってさ。いや、子猫ちゃん達とのデートは心躍るんだけど、これじゃない感がどうしてもさ。そんな中途半端な気持ちなら逆に失礼だろう?』

 

『なら俺が何処ででも付き合ってやるからいい加減止めろ。毎回毎回自分に何か悪い所があったんじゃ、と相談を受ける俺の身にもなれ』

 

『あははは。悪い悪い。もういっそ付き合っちゃうかい?』

 

『それは真っ平ごめんだ。俺は今のままの関係が続くのを希望する』

 

『それも悪くないか。うん。君と私はずっとずっと一緒だ。それこそ死が二人を分かつまでってね。来世でも一緒かもだけどさ』

 

 

 

 ……えっと、あの二人ってただの幼馴染って言ってたよな? 会わない間に関係が進展したとかだよな? さすがにあんなやり取りとか私でもどんな関係か分かるしさ。もうゲームで例えるなら個別エンディング後の後日談、ファンディスクって所じゃねっ!?

 

 

「……こりゃアレだな。恥ずかしいから口にしないだけで両想いのラブラブカップルだよ。勝ち目ねぇぜ、アリーゼ様ぁ」

 

 でもまぁ、子が居るなら子を殺して雌を手に入れるってのは獣じゃよくある事だし、ここは無理にモノにしちまえば良いだけじゃん。ほら、子供さえいればって奴? 何も問題ねぇだろ。攫って薬でも盛って犯して孕めば良いだけだ、うん。

 

 

 でも、この事は黙っとこう。旦那のことを理解しようとしているようでしていないけどさ、アリーゼ様の抱いているのが恋心ってのは間違いないんだから……。

 

 

 

 

 

 

「って訳で恋愛特集買って来たけどさアリーゼ様。そうやってDVDとか雑誌で人の性癖を理解するんじゃなくってさ、旦那がどんな人かを知ることも大切じゃね?」

 

「何を言っている? その様な事は婿にしてから存分に知れば良いのではないか?」

 

 帰宅後、雑誌を渡しながらそれとなく進言してみるけど効果は薄いかぁ。でも雑誌を興味深そうに読んでるし少しは大丈夫かな?

 

 

 

 

 ……って思っていた時期が私にもあったんだ。うん。確かに押し付けられたんじゃって思うけど、ナメタケを大量に貰ったよ? どう考えても食べきれないのに大量に買うはずがないから貰い物とかなんだろうけど、贈り物には変わりないし、貰った時の事を嬉しそうに話す姿は恋する乙女だって思ったよ。

 

 

 

「……おい、エトナ。お前が言えよ」

 

「何時も面倒な事は私任せではないですか。クレア、貴女が言って下さいまし」

 

「このナメタケの瓶の首飾り、似合うって言ってくれるかなぁ……」

 

 鏡に映る姿を見ながらうっとりと呟くアリーゼ様。その首から下げた大量の空き瓶に私達は何を言うべきか本気で迷った。いっその事ぶっ壊すか? 思いっきり殴っても大怪我しないだろうし……。

 

「よし! 今から似合うかどうか聞きに行くぞ!」

 

 え? その姿で外に出るのかよ。マジで!? だが本気だと悟った私とエトナは遠回しに止めようとするも失敗。会話を盗み聞きして突き止めていた居場所に向かったんだけど、アリーゼ様は進もうとしなかった。

 

 

 

「此処から先は立ち入れん。結婚式など理解できんが……大切な儀式なのだろう?」

 

 ……なーんか変わってきたなぁ。少し前までその方が格好良いからって唯我独尊な感じだったのにさ。エトナはエトナで、”式を邪魔するなど攻め手側の所業。私にも誇りがあります”、って平常運転だしさ……。

 

 

 

 

 

 

 仕方がないので気配だけ出して離れた場所で待つこと数十分、あの眼鏡のちっこいのが居ないけど旦那と神野 遥がやって来た……んだけどアリーゼ様の首飾り見て驚いている。だよなー。

 

 

 

 

 

「何故ナメタケの瓶を首飾りにしている?」

 

「お前からの贈り物だからだ。大切に身に纏うのは当然だろう?」

 

 とても嬉しそうに顔を赤らめるアリーゼ様だけど旦那は私とエトナにも視線を送っている。あっ、同類だって思われてる。酷い風評被害だぜ。仕方ないのでここは口を挟ませて貰うとするか。

 

 

 

「あのさあ、旦那。確かに私達と旦那じゃ価値観が違うしアリーゼ様ってア……他人と思考回路がだいぶ違うんだ」

 

 危なっ! 今、アホって言うところだった。流石に主をアホ呼ばわりは拙い。アホだけど! すげーアホだけど!

 

「でもさ、旦那がくれたもんが本当に嬉しかったって事は分かってくれよ。今日はわざわざ見せ付けに来ただけでもう帰るからさ……」

 

「……理解する気がなかったのは俺もか」

 

 あっ、意外と好感触? まあ上から目線でグイグイ来られても相手に心は開かないわな。アリーゼ様も隷属の呪いを何とかしたら組織を裏切ればチャンスがあるだろうに、意地なのか信念なのか他の幹部は仲間だからって裏切る気無いしさ。

 

 頭をポリポリと掻く旦那を見て今回は成功に終わったと、私は思ったんだけど……。

 

 

 

 

「……悪いけど彼と私は付き合ってるんだ。もう他人の入る隙間はないよ」

 

 そう言うなり神野遥は旦那の顔を引き寄せてチューをした。しかも舌入れてるしっ!?

 

 

 

 

「……きゅう」

 

 隣で人が倒れる音がする。アリーゼ様がオーバーヒート起こして気絶してた……。あれ? こんな様子じゃ浚っても子供作るとか無理じゃね?

 

 




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俺の幼馴染みの様子が変で辛いのだがどうすべきだろうか?

評価文字制限ないし非ログインでもオッケーだからか気軽に評価や感想待っています


多少低評価食らっても高評価くれたので何とか8以上キープ ギリだがね

昨日日刊三位でした やった


 知り合いの結婚式に出席したらナメタケの瓶で作った首飾りをした敵が現れ、純粋な好意を伝えられたら幼馴染みに濃厚なキスをされた。脈絡のない怒濤の展開の中、ディープキスの刺激に耐えかねたアリーゼが顔を真っ赤にして倒れる。……あのような純情さでよく初対面の俺にキスが出来たものだ……。

 

「本日はアリーゼ様が気絶いたしましたので失礼いたします。あっ、これ一応婿殿のためにとお作りになられた鳥の唐揚げですのでお受け取りください」

 

「ギトギトのベタベタで食えたもんじゃないけど、一応頑張って作ったんだ。……味の感想は適当で良いから言ってくれよ、旦那」

 

 動揺からか俺がタッパーを受け取るとアリーゼを担架に乗せたエトナ達は去っていく。あの担架、予め用意していたのか……。本来なら此処で捕らえるべきなのだろうが行動が遅れてしまい逃げられる。……さて、問題は此処からだ。今までベッドに下着姿で潜り込んできたり、風呂場に乱入してきたり、キスされたりは有ったが今日の事ほど過激なスキンシップは無かった。

 

「……と、取りあえず戻るか」

 

 パクパクと脈打つ心臓の鼓動を感じながら緊張と気まずさを誤魔化すように話を振る。返事の代わりにムシャムシャと何か食べる音が聞こえ、見てみれば何時の間にか俺の手から唐揚げが入ったタッパーが消えていた。

 

「塩気が強いし油っこい。調味料のキツい味しか感じないよ」

 

「……有り体に言えば不味いですね」

 

「轟!?」

 

 先程までこの場に居なかった轟と遥は手掴みで唐揚げを口に運びながら文句を口にする。いや、クリスも遠回しに食べないで良いと言っていたし、見ただけで失敗料理だと分かる出来映えだ。揚げる温度も油に入れるタイミングも出す時間も調味料も間違えているのだろうが……。

 

「遥、流石に俺が貰ったものだし食べなくては失礼なのだが……」

 

「相手は敵だよ? 無礼で結構じゃないか。それとも彼女に礼儀を通したい訳でもあるのかい?」

 

「……いや、それは」

 

 敵である事を指摘された以前に遥の態度は普通ではない。むくれた顔でもなければ不機嫌顔でもなく、真顔なのだ。声からは何の感情も感じられず、この様な遥など俺は知らない。それに対する動揺が俺から思考力を奪っていった。

 

 

 

「兎に角君は君と自分の家族と私が作った物だけ食べていれば良いんだ、分かったね?」

 

「いや、急だな……」

 

「分かったね?」

 

 有無を言わせぬ強い態度に思わず頷いてしまう。その間にも轟の胃袋に唐揚げは吸い込まれていき、後には油でベタベタになって洗うのが大変そうなタッパーのみが残った。揚げた後で油を切ってなかったな、これは……。

 

「……じゃあ私は先に戻るから」

 

「お前がか!?」

 

「別に良いだろう? じゃあ」

 

 あまりのことに絶句する。あの遥が特に用もないのに俺と別行動をしようと言い出すなど、一体何が起きたのだと呆然とする俺は咄嗟に救いを求めて轟を見る。だが目を合わせてくれなかった。

 

「……人前で舌を絡めるとか不潔です」

 

「いや、あれはどう見ても……」

 

 そこは断固抗議させてもらう。俺は急にキスをされ、挙げ句の果てに舌をねじ込まれたのだ。抵抗はしなかったが唖然として行動が遅れたからであって……。

 

「不潔です……」

 

 だが、思春期の彼女には言い訳など通じないようだ。プイッと更に顔を背けると足早に去っていく。ああ、非常に気まずいな……。

 

 

 

 

「あの者は何を考えているのでしょうかっ! 主殿も一度怒るべきです」

 

 夕食時も遥の態度は直らず、散歩中に何があったか訊ねて来た小鈴は憤慨している。俺のために怒っているのだろうが……。

 

「気持ちは嬉しいが怒るな、小鈴。撤退させるのに役立ったし、ああ言えば今後は言い寄って来ないかもしれないだろう?」

 

「ですが……主殿、此処は拙者が一言ガツンと……いえ、放置しておきましょう」

 

 拳を振るわせていた小鈴だが何時も何をされているのか思い出したのか途端に涙目になって小刻みに震えている。完全にトラウマになったな。あのセクハラが……。流石に今度は注意をキツメにしておくか。

 

「俺は大丈夫だ。……さて、お前の忠誠心に応えるために何か買ってやろう。何が食べたい?」

 

「焼き鳥でお願いいたします!」

 

 瞬時に元気になった小鈴は遠くに見える焼き鳥の屋台を指差しながらポニーテールを激しく振るう。ネギは……大丈夫だったな。魂に刻まれた本能からか苦手意識が有るらしいが……。

 

 

 

 

 

「おい、入るぞ」

 

 何時も遥は勝手に俺の部屋に入ってくるので今日も文句を言ってスッキリして終わりかと思いきや一向に来ない。このままではモヤモヤして眠れないので少々遅い時間だが遥の部屋のドアをノックすれば返事が返ってきた。

 

「……勝手に入れば?」

 

 少し機嫌が戻ったのか感情が戻っている。酷く拗ねた様子だが、昼間よりはずっとマシだ。帰る途中も帰ってからも感情を一切出さなかったからな。

 

「こんな時間に何用だい? 夜遅くに乙女の部屋に来るなんて常識がないよ」

 

「……すまん。だが話がしたくてな。昼間の件だが……」

 

 上目遣いに睨んでくる遥に何も反論できず俺が口ごもるとベッドの端に座っていた彼女はスペースを空けてやや乱暴に手で叩く。此処に座れと言うことだろう。当然俺は素直に座るが遥は目も合わせようともせず、俺は気まずさから腕を組んで黙り込む。沈黙が続いた時、不意に遥が口を開いた。

 

 

「……最近、私の居場所が侵されてると感じたんだ。身勝手でも何でも君の隣は私の物なのに小鈴やらアリーゼやら君の隣に居ようとする。挙げ句の果てに君はアリーゼの想いを僅かでも受け入れるような発言だ。……だから私は悪くない」

 

「そうか。なら、悪いのは俺だな……どうすれば許して貰える?」

 

 遥は女子校に通うというのに俺に同じ学校に通いたいと言ったり転生特典に家族をそのままにするというのを選んだりと寂しがりやだ。だからかこの世界に来てから俺への依存が強くなっていると分かっていたのに、僅かでも自分の側から居なくなるのではと誤解を与える発言をしてしまったからな。

 

 見つめること数秒、長く感じた間をおいて遥が口を開いた。

 

「……添い寝。今日添い寝してくれたら許す」

 

「……分かった」

 

 返事を聞くなり遥は布団に潜り込み手招きをする。そういえば昔は一緒に寝たものだ。別に意識し始めた訳ではなかったが、この年頃なら一緒に寝ないものだと知った頃から一緒に寝なくなったがな。最近たまに潜り込んでくるのも寂しさからだったか。

 

「悪かったな。思い返せば最近他の者に構う時間が増えていた」

 

 小鈴が一緒に散歩に行きたいと言い出したので夕食後に散歩が日課になり、エリアーデのラボに不定期に視察に行ったり、焔や轟と修行したり、治癒崎を始めとするクラスメイトに勉強を教えたりと、同じ高校なのに一緒じゃない時間が増えていた。特に最近はエトナが夢に出てきて疲れてたりしたしな。

 

「……気にしなくて良いよ。私の我が儘なんだからさ」

 

 俺の首に手を回して密着してきた遥は珍しく照れた様子で俺に視線を向ける。うん。こうしてるだけなら美少女なのだがな。改めて残念だと感じるぞ。

 

「ねぇ、昔みたいに頭を撫でてくれるかい? 慰める時は手を繋いだり撫でたりしてくれただろう?」

 

 別にその程度ならと撫でてやると嬉しそうにはにかむ。釣られて俺もつい笑ってしまった。いや、本当に此奴と居る時が一番楽しいな。苦労も多いがそれ以上に楽しさがある。

 

 

「もう一つだけお願いがあるんだけど……ほっぺで良いからキスしてくれないかい? 君って私やアリーゼからされたことはあっても自分から誰かにしたことないだろ? 君の初めての相手だって思うと安心できそうなんだ。……駄目かな?」

 

 不安そうにしながら目を閉じて頬を近づける遥。少々気恥ずかしいがこの状況で断るに断りきれんな。断ったら泣かれるパターンだ。

 

「……今回だけだぞ」

 

 深呼吸をして遥の頬にキスをする。ああ、恥ずかしい。もういっそのこと本当に恋人にでもなれば楽に……危ない!? しっかりしろ、俺。流されては駄目だ。もう寝ろ。寝て全部忘れてしまえ。

 

 遥も寝ているので俺も目を閉じて睡魔に身を任せる。さてさて、どんな夢を見ることやら。予知夢でないと良いのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがフラグという奴か……」

 

 この日、またしても始まった予知夢に俺は深い溜め息を吐くしかなかった……。



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夏休みが忙しくて辛いのだがどうすべきだろうか?

何人かは感想にこう書くかも お前がしろっ! と

ゲームイベントと定価で買えたミニスーファミで遅くなりました


 どうも俺の持つ能力の中で『予知夢』だけは何とも言い難い。未だその時が来ていないだけで何時か役に立つ日が来るのだろうが、今日この時は脳が疲れるだけで役に立ちそうになかった。

 

『……久々の長期任務だったね。結構寂しかったぜ』

 

 ……うむ。またしても俺と遥が結ばれた未来か。特に相手は思い浮かばないが他の者と結ばれる未来は存在しないのか? いや、こう何度も何度も見せられると少々気まずいというか。……まさか結ばれるから予知したのではなく、予知することで生まれた意識が結婚に繋がったのでは? 

 

 悪夢に身を震わせるも夢は終わらない。玄関先で俺を出迎えた遥は抱き付いてキスをすると今度は腕に抱きつく。俺は鬱陶しがりもせず受け入れた様子で歩き出した。

 

『……君が側にいないだけで心が引き裂かれそうだったんだ。私も現場復帰しようかな?』

 

『お前が家を守ってくれているから俺は安心でき、無事に帰ろうという意思が生まれる。これからも頼むぞ?』

 

『そうかい? それはそうと食事は未だ早いし肉をオーブンで焼いているから……お風呂にしようか? それとも寝室に行くかい? 君が居なかった時間を埋め合わせしたいんだ』

 

 甘えるような声と表情で遥が誘ってくるのだが、俺は少し考え込むと首を左右に振った。

 

『いや、ソファーでお前とゆっくり話がしたい。……食事が終わったら風呂にしよう。お前が望むだけ相手をしてやる』

 

『……う、うん。宜しくね、旦那様』

 

『ああ、任せておけ。愛しい妻の為だ……それにお前に会えずに出来た渇きを潤したいのは俺もだからな』

 

 今度は俺が遥を抱き寄せキスをすると二人でリビングへと向かっていく。そこで今回の夢は幕を閉じた……。

 

 

 

 

 

「ひにゃぁああああああああっ!?」

 

 早朝から家に響いた絶叫によって俺は無理矢理覚醒させられる。寝不足の症状に頭が重く感じながら起き上がれば隣に遥の姿は無く、先程の声の主は間違い無く……。

 

 

 

「……あの馬鹿、朝から盛りおって」

 

 抜き足差し足忍び足、足音を消し気配を遮断して玄関に向かうと予想通りの光景が広がっていた。

 

「朝から私に会いに来るなんて可愛い子だ。お望み通りに可愛がってあげるよ」

 

「違っ…せ、拙者は主殿…ひゃんっ!? き、貴様! 何処を触って……あひゃっ!?」

 

 遥に捕獲されて全身をまさぐられている小鈴は悶えながら脱出しようとするも無駄に終わる。最後には遥の人差し指が小鈴の小さい唇を軽く撫でた。

 

「感度良好。ふふふ、何処を触って居るかって? ほら、その可愛いお口で言ってごらん。君が私に何処を触られ、てぬるばっ!?」

 

 油断しきった馬鹿の襟首をつかんで引き寄せ、脳天に辞書を振り下ろす。言葉の途中で珍妙な悲鳴を上げたが容赦はせず

、辞書を振り下ろした箇所に今度は拳骨を叩き付けた。

 

「いい加減にしろ!!」

 

「ぬばっ!?」

 

 襟首から手を離すと顔面からベシャリと床に倒れピクピクと痙攣している。毎度毎度飽きないなと呆れていると涙目の小鈴が抱き付いて来た。途中で遥の後頭部を踏み台にし勢い良く俺の胸に飛び込んでくる。

 

「主殿ぉーーーー!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 忘れがちだがエリアーデは紛れもなく天才だ。その天才が自分が所属していた組織の追っ手から身を護るために作り出したメカ忍者が此奴であり、当然のようにスペックが高い。その小鈴が勢い良く飛びかかってきた結果、俺の腹に物凄い衝撃が襲い掛かる。派手にぶっ飛び天井を床に倒れて見つめる中、小鈴はポニーテールを盛大に振りながら頬を擦り寄せてきた。

 

「主殿主殿主殿ー! あの大馬鹿者の護衛を言いつけられ主殿の元を去った今となっては散歩の時間と就学時にご尊顔を拝謁することだけが拙者の喜び! さあ! 絶対なる忠義を誓う拙者めを存分に撫で回して……ひにゃんっ!?」

 

「ふふふ、油断したね。今日の私は元気一杯でしぶといのさ。おや、ここが弱いのかい? 良い顔だ。そそるね、実に。君はやはり私のハーレムメンバーに相応しい」

 

 何時もよりも早く復活した遥は小鈴の胸を鷲掴みにして俺から引き剥がす。ジタバタ暴れる小鈴の抵抗は一切通じず脇やらお尻やらを撫で回されて……仕方ない、助けるか。

 

「おい、遥。その程度で終えろ」

 

 何時でも振り下ろせるようにと辞書を構えるが無駄だった。色々と限界が近いのか目を回している小鈴はあっさりと解放されたのだ。

 

「ちぇ。分かったよ。たまには君の言うことを何でも聞く日があっても悪くないからね。……何でも言ってごらん?」

 

 珍しくセクハラを即時中断する遥。何か悪いものでも食べたのか? 拾い食いは駄目だと前から言っているのにしかし何でもか……ふむ。

 

 俺の中でフツフツと欲望が湧き上がる。何でもと此奴は口にした。ならば本当に何でもしてもらおうじゃないか。

 

 

 

 

 

「じゃあ風呂掃除を頼む。湯垢という湯垢を根絶やしにしてくれ。朝飯が終わったら日のある内に布団を干して庭の草むしりも頼む」

 

「……くっ、卑劣な。覚えていなよ」

 

 さて、今日は楽が出来そうだ。たまには怠惰に過ごすのも悪くはないからな。俺は悔しそうに拳を握りしめる遥から小鈴へと視線を移し、最後に玄関マットの上で倒れている汗だくのエリアーデを見る。腰には此処に来るまでの間、小鈴と繋がっていたロープが結ばれており、何があったか少し想像できる。

 

「小鈴、どれくらい走った?」

 

「真っ直ぐ向かっては距離が足りないので42・195km程ですが、普通の犬ほどの速度しか出していませんよ? 奴が貧弱すぎるのです。人間だってその程度の距離は走れるのでしょう?」

 

「ず、頭脳は対して考えずに作ったけど失敗だったんだね。な、何か飲み物を。味の付いた冷たい物が欲しいんだね……」

 

「ああ、分かった。ついでだから朝飯も食べていけ」

 

 さて、自家製の青汁でも持って来るか。栄養は高いが治癒崎の料理レベルのアレ、捨てるのは勿体ないからな。

 

「食事ですか!肉を所望します」

 

「私はフレンチトーストにカフェオレとツナサラダを頼むんだよ」

 

 小鈴にはハムかベーコン、エリアーデは……適当な物を与えるか。何時も苦労をかけられているからと雑に扱うことを決める俺。折角今日から夏休みなんだ。遊びに行く計画をしっかりと決めないとな。何人かに共同自由研究を誘われ、終了間近には追い込みの手伝いもあるだろうし、遊びに行きたいが遥へのナンパ対策も考えなくては……。

 

 他にもキャンプや花火、サーフィン仲間とのバーベキュー大会など予定が多いからな。更に勉学や仕事で大忙しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、私の所有するプライベートビーチに皆を招待するんだね。別荘もあるし絶好の釣りスポットもあるんだよ。って言うか監視がないと遠出無理だから来て欲しいんだよ。滞在費はこっち持ちなんだね」

 

「フレンチトーストだな? 任せろ」

 

 こんな奴でも一応仲間だ。このくらいの要望に応えてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

「海だーーー!!」

 

 っと言うわけで俺達一行は海にやってきた。絶好の行楽日和だが他の客は当然居なくて貸し切り状態。遥などセクハラも忘れてテンションを上げて飛び回っている。

 

「楽しいねー」

 

 治癒崎も同様に走り回り、二人揃って……うん、まあ眼福だと言っておこう。

 

(もげろ…千切れろ…垂れろ…削れろ)……何か?」

 

 俺の視線に轟は怪訝そうな顔をする。よし! 先程の呪詛の言葉は空耳だな、うん!さて、焔は……ついでに呼んだ田中と一緒か。

 

 

 

「海の来るのって久し振りだね。ねぇ、新しい水着なんだけど……似合うかな?」

 

「ん? じm……お前らしくて似合っているぞ」

 

 二人で砂浜での砂遊びか。砂山にトンネルを作り、両側から掘り進めた二人の手が触れたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレをリア充というのか?」

 

 全く仲の良いことだ。付き合ってしまえば良いものを……。男女問わず友人は多いが恋人は居ないからな、俺は。よし、心の中で叫んでみるか。リア充爆発しろ、とな。

 

 

 




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俺も青春を謳歌したいのだがどうすべきだろうか?

待たせました 全部ミニスーファミが悪いんや


 海に来たテンションから無邪気に燥いでいた遥だが、少し落ち着いたのか何時ものテンションに戻ってしまっていた。あのまま普通にしておけば普段から口にしている通りに完全無欠の美少女だったというのに……。

 

「来た来た来た来た、水着回来たー! これはアレだね。開放的になったヒロインと主人公である私が急接近。一夏の危険で甘酸っぱい思い出って奴だ。ふふふ、燃えて来たよ」

 

「ああ、そうか。お前の頭は普段から危険だし、是非ともそのまま燃え尽きてくれ」

 

 グッと拳を握り締めて欲望を叫ぶ馬鹿に辟易しながら辛辣に呟く。急に俺の手を取って物陰に連れて来たかと思えば妄想を聞かせるためとは呆れたものだ。どうせ俺に何か手伝えとか言ってくるのだろうが、リーダーとして他の面々のリフレッシュの為の遊興の邪魔はさせん。

 

「……おい」

 

 妙に張りきっって不気味な遥の腕をつかみ、不意に引き寄せる。真剣さが伝わるように視線を合わせて告げた。

 

「今回の海水浴だが俺と過ごせ」

 

 どうせ世話を焼くのも不始末の後始末もいつものことだ。ならば身近で見張る方が意識を割かないで良い分楽しめそうだ。遥はジッと俺の瞳を覗き込み、顎に指を当てて考え込んだが歯を見せて笑みを向けてきた。

 

「仕方ないなぁ。偶には君の頼みを聞かないと愛想を尽かされそうだからね。うん、君と一緒に過ごすよ」

 

「悪いな。ああ、それと安心しろ。馬鹿をやれば仕置きはするが俺がお前に愛想を尽かす事はない。ずっと近くに居てやるさ」

 

 さて、これで安心して遊べそうだな。海の家がないから雰囲気だけで美味しく感じる高めの料理は食べられないが……釣りでもするか。素潜りで貝類を探すのも悪くないな。

 

 何をして遊ぼうかと考えて居たとき、肩に手を置かれたので振り返ろうとすると、それよりも前に遥が背中に飛び乗ってきた。

 

「少し太ったか? 菓子ばかり食ってゲームばかりしてるからだ」

 

「ウエストはキープしているし腕にも無駄な肉は無いよ。でもさ……君の背中に当たっている部分はまた成長したんだ。……感想はどうだい?」

 

 海ということで遥は水着姿、黒のビキニだ。俺も水着なので薄い布越しに直接重量感ある双丘の存在が伝わってくる。感想はそうだな……。

 

 

 

 

「これでお前でなければ最高なのだがな」

 

「酷いなぁ。それでも将来を約束した仲かい? 私が気に入る感想なら揉ませてやろうと思ったのにさ」

 

「自分で揉んでろ。じゃあ皆の所に戻るぞ」

 

 ふてくされた声で頭をペチペチ叩いてくる遥を適当に相手をしてやりつつ声のする方へと戻っていく。しかし田中と焔を見ていると羨ましくなるな。俺も年頃だし彼女が欲しくない訳ではない。……まあ、友人は多くても恋愛感情を向けてくるのは敵だけだがな。

 

 クラス中の友人との約束で予定は埋まっているが、そういった夏の過ごし方も憧れる。友人の中には付き合っている者達もいるし、きっと恋人同士で充実した夏を過ごすのだろう。

 

 リア充爆発しろ、か。友人の幸せは応援するが、少しだけなら心中で叫んでも罰は当たるまい。

 

 

 

 

 

 

 

「主殿ー!」

 

 戻るなり今日泊まる予定であるエリアーデの別荘から飛び出してきた小鈴が飛びついてくる。咄嗟に受け止めようとするも今は遥が背中に乗っているので手は空いていない。結果、サラシを巻いただけというエリアーデの影響らしい格好の小鈴は飛びついた勢いで俺の頭に抱き付いた。

 

 顔面にサラシによって圧迫されるも存在感を主張する物が押し付けられた。……がっ、即座に轟によってポニーテールを掴まれて引き剥がされた。

 

 

「……着痩せするタイプでしたか。いえ、今はどうでも良いです。何馬鹿なことをやっているのですか」

 

「拙者は主殿に初めての水着姿を披露していただけだ。貧相な貴様では無駄だろうから理解できなかったか?」

 

 ……うん。一刻も早くこの場から去りたい。いや、轟も似合っているぞ? 水色のパレオ付きの水着。今は口を挟める状況でないので言えないがな。双方ともにらみ合っていた時、不意に背中が軽くなる。俺の背中から飛び立った遥が二人の間に降り立ったのだ。おい、馬鹿。状況を悪化させる気か!?

 

「まあ落ち着きたまえ。可愛い顔が台無しだ。……それと彼は彼に願われて私が独占するから仲良くするんだ」

 

「……本当ですか?」

 

「この変態の虚言ですよね?」

 

「似たニュアンスの事は言ったな。まあ、明日も遊ぶことだし仕方ないか」

 

 小鈴は兎も角として轟まで固まっているが……ああ、友人が少ないから友である俺と遊ぶのを楽しみにしていたのか。少し悪いことをしたなと思ったとき、遥が居なくなってがら空きになった背中に柔らかく重量感の有るものが再び押し付けられた。

 

 

「いいんちょーと遊べないのー? でもでも、夜中にはトランプとか出来るんだよねー?」

 

「ああ、勿論だ」

 

 流石は治癒崎だな。何とか二人のショックを和らげてくれた。……しかに海に来てまで何故に学校指定の水着なのだ? ……小柄な体型に合わせたサイズにしたので一部がだな……。

 

「焔は……田中と一緒か」

 

 

 

 

「未だ泳げないのか? 仕方ない。今日は練習に付き合ってやる」

 

「ありがとう。頑張って泳げるようになるね。そうしたら一緒に泳いだり出来るし……」

 

 仲が良くて結構だ。まあ、俺がドタバタに巻き込まれている時に何を、と僅かに思うがな。リア充共め。さて、遥がサンオイルを塗って欲しいそうだから塗ってやらねばな。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、見たかい? 彼女達が向けた嫉妬の視線を。嫌よ嫌よも好きの内。心の奥では私への愛が確かに有るのさ。これだからモテる女は困…ひゃっ!? オイルは温めてから塗ってくれ!」

 

「海に来てまで馬鹿な話を聞かされる俺の方が困るのだが?」

 

 遥はシートの上に寝転がり、背中の紐を外すと俺にオイルを塗らせながら話を始めるのだが聞いていられんな。背中を塗り終えたので今度は頼まれるままに側面や腕や足に塗り込んでいく。海に来てまで俺は此奴の世話とは情けないな。

 

 

 

「やあやあ委員長君。私達もお願いしても良いかい? 彼女が動けない間にね」

 

「……それに委員長なら邪魔をさせないとおもいますので」

 

「主君に何をさせるのだとは思いますが……あっ、私はロボですが焼けますよ? 拙者を作った馬鹿は一応天才ですから」

 

「お願いねー」

 

 遥にかまけて放置するのだし、彼女達だけ駄目とは言えないが……こんな時に焔は田中と遠くで良い感じだ。リア充爆発しろ。

 

 

 

 

 ああ、せめてトランプは楽しみたい。夜まで妙なことにならねば良いのだが……フラグになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこの時の嫌な予感は的中する。この日の夜、ソファーに座る俺に正面から遥が抱き付き、耳元で囁いてきた。

 

 

 

「私は君が好きなんだ。君で良いのでもなく、君じゃないと駄目だ。私の全てを君に捧げる。だから……私を愛して欲しい。いや、愛してくれなくて良い。欲望のはけ口にするだけで良いから私の愛を受け取って側に居させて欲しいんだ」

 

 ……どうしてこうなった。

 

 




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私の幼馴染みの反応が流石に辛いんだけどどうすべきかな?

明けましておめでとうございます

本年も宜しくお願いします


 私と彼の共通の知人(と言っても私の知人の殆どが共通だが)からよくされる質問がある。彼と私が付き合っているかどうかだ。大体は別に付き合っていないと答えるし、相手が可愛い子なら即座に口説き文句を送るんだ。折角主人公になれたんだし、新しい人生を楽しまなくちゃ損だろ? ハーレムの夢は絶対に諦めないのさ。

 

 でも、偶に別の返答をする時もある。相手が女の子で、さらに言うなら彼に好意を寄せている場合さ。

 

「さてさて、どっちだと思うんだい?」

 

 意味深な顔で返答すれば何かを勘違いして去っていく。どうも彼に恋をする相手は原作キャラでもない限りは口説く気になれない。まあ、原作キャラが彼に好意を向けようが私が横からかっさらってやるけどね。

 

 昔から私の隣に居てくれて、私の手を握ってくれて、私の頼みを聞いてくれた大切な幼馴染み。その隣をキープしつつ原作キャラを手に入れることが出来る。うん、我ながら素晴らしい作戦だと思う。

 

 ……でもなあ、彼って男女問わず友人多いし、中には恋愛感情に発展するのも居るから少し不安だよ。彼に恋人が出来たら私に構ってくれる時間が減るじゃないか。だからいっそのこと本当に付き合ってしまえば良いかもと思う時もある。まあ男嫌いの私にとって唯一結婚しても構わない相手だし、もっと多くの可愛い子を落とす為には経験から来る色気も必要だろうし? ハーレム唯一の男にしてやっても良いかなぁとは思ってるよ。

 

「お前と付き合うとかどんな悪夢だ」

 

 ……実に失敬だ! この超絶美少女の遥ちゃんが彼女になってあげようと言っているのに幼馴染みとして側に居る方が良いって正気を疑うね。

 

 

 ……でも、そんな彼と私が結婚する未来も有るとか。ふむふむ、その選択をした彼は実に利口だね。奇跡的な確率で付き合うことになったら浮気は禁止とか言われたこと有るけど、美しい花は数多く集めて愛でるものだ。きっと理解を示したんだろうね。

 

 

 え?彼にデレデレになって女の子に向ける余裕なんかなくなるんじゃ無いかって? はははは! 有り得ない有り得ない。だって私は主人公だぜ? さて、どうにかして彼を私にメロメロにさせなくちゃね。他の男が寄ってくるのも防げるしさ……。

 

 

 

 

 

「むむむ……『三番に膝枕をされながら頭を撫でられる』」

 

 エリアーデの別荘でのお泊まり会(一名余計なのが居る)の夜、トランプでビリになった小鈴は箱に入れた罰ゲームの紙を引くなり三番目になった彼の方を向く。押し殺しているつもりなんだろうけど尻尾代わりのポニーテールが動いているし、目が輝いている。

 

「おや、流石に恥ずかしそうだね。ならば同性である私の膝枕で構わないだろう? 頭と言わず全身を撫で回して……」

 

「同性という自覚があるのなら自重しろ。……手早く済ませるぞ」

 

 中々楽しそうな罰ゲームが有るのに私と子猫ちゃん達が絡める機会が得られない。……これは最後の最後に凄いのが来るパターンだな。徐々に盛り上がって寛容になってきた所で……グッドだ。

 

 私が手招きをした途端に怯えた様子で彼にしがみつく姿も可愛いよ、小鈴。お持ち帰りして撫で回したいなあ。お風呂で全身をくまなく洗ってあげてさ。

 

 

『そ、そこは駄目です!』

 

『こらこら、手を退けなさい。うまく洗えないだろう』

 

『で、ですが……』

 

 ……最高だ!

 

「……何を妙な顔で笑っているんだ、お前は……そろそろ終わる時間だな」

 

 完全に理性がとろけきって至福の顔になった小鈴を撫でながら彼は時計に目を向ける。ああ、確かに遊びの時間を終える頃合い。女子で一緒にお風呂に入る時間だ。

 

 成長途中の未熟さを持つ初々しい刹那

 

 小柄ながらたわわに実った果実を持つ鹿目

 

 あどけなさと平均を超えた肉体を持つ小鈴

 

 残りの二人もだけどこの三人との仲をお風呂イベントで一気に進展させよう。ふふふふふ。実に楽しみだ。さぞかし目の保養になる光景が見られるんだろうね。

 

 思わず顔がにやつき思考はこの後のお風呂のことばかり。だからか最後の一回で負けてしまった私は罰ゲームのクジを引く事になってしまった。……成る程。これで子猫ちゃんに私を普段より意識させた状態でお風呂って事か。感謝するよ、神様。

 

 

「『二位の膝に座って告白する』……二位は」

 

 おや、女の子かと思いきや彼だ。露骨に嫌そうな顔をしているね。ふふん。少しイラッと来たから悪戯してやれ。視線を向ければ子猫ちゃん達が少し機嫌が悪そうだ。嫉妬だね。うんうん。水着イベントで距離が一気に縮まって自分の気持ちに素直になったんだね。

 

「じゃあ座るぜ?」

 

「……おい」

 

「私はちゃーんと膝の上に座ってるぜ?」

 

 私は彼と向かい合うようにして膝の上に座る。背中を預けることが出来ないので落ちないように首に手を回して密着し、耳に息がかかる距離に顔を持って行く。

 

 

 恋愛には駆け引きが重要。こうやって嫉妬心を抱かせると同時に彼を陥落させれば一石二鳥だろう? 流石に恥ずかしいみたいだし意趣返しにもなっているしね。

 

 ……流石に私も少し照れるから顔が熱いし鼓動だって速くなる。それは彼も同じなのが伝わってくる鼓動で分かった。……は、早く済ませてお風呂を楽しもう。

 

 

 私が出来る限りの甘えた声を出し、よりいっそう体を密着させる。自慢の胸が押し潰されて少し苦しいけど余裕を保ちながら私は声を出した。「私は君が好きなんだ。君で良いのでもなく、君じゃないと駄目だ。私の全てを君に捧げる。だから……私を愛して欲しい。いや、愛してくれなくて良い。欲望のはけ口にするだけで良いから私の愛を受け取って側に居させて欲しいんだ」

 

 最後にキスをして欲しいとばかりに目を閉じて顔を間近に持って行く。ふふふ、恥ずかしいだろう? 私も照れるが君の方が恥ずかしいはずだ。

 

 ……あれ? どうして私の腰に手が回されて抱き締められてるんだ? えっと、本気にしちゃった? いや、罰ゲームだよ!?

 別に君ならそう言った関係になるのも悪くないけど、流石に私にだって理想とか……。

 

 それに他の皆も居るし、もしかして君ってそういった趣味……? 仕方ないなぁ。受け入れてあげよう。複数人同時に抱くとか浪漫だって思ってたし、見られるのは仕方ないか。でも焔は何処かにやって……。

 

 

 

 

 

 

 

「よし。俺が捕まえておくから皆は風呂に行ったら良い。絶対に逃がさないから安心しろ」

 

「おい!? 私の乙女心返せ!」

 

「お前にそのような物存在するか。無い物をどうやって返せと言うんだ……」

 

 あ、呆れたように言いやがって! 見ていろ、そのうち押し倒して私の物にした後で謝らせてやるからな!!

 

 

「……本当に大丈夫ですか?」

 

「あ、主殿。拙者は主殿が護ってくださるのなら平気ですしご無理をなさらずに。……それなら一緒に入れますしお背中をお流し……いえ、何でも」

 

「水着なら一緒に入れるしいいんちょーも来るー?」

 

 こ、これはチャンス到来か!? お風呂でのセクシーイベントの予感が来たー!?

 

 

 

 

「いや、大丈夫だ。この馬鹿は俺がずっと抱き締めて離さないから安心して入浴すると良い」

 

 あ、終わった。子猫ちゃん達が、お風呂イベントがぁ……。

 

 

 

 

 

「……酷いなぁ。折角の機会だったのにさ」

 

「自業自得だ馬鹿者」

 

 腹立つし不貞寝してやれ。こうやって抱き締められてると安心するし熟睡できそうだ。ふふん。腕の中でスヤスヤ眠る私をどうすべきか迷うと良いさ。邪魔したお返しだ。

 

 

 

「お休み……」

 

 本当に君の腕の中は心地良くて安心するなぁ。ずっとこうしていたいとさえ思えてくるよ。目を閉じると直ぐに意識が途切れる。子猫ちゃん達がお風呂から上がって暫くしても私は起きず、当然彼は私が落ちて体を打たないように抱き締めているしかなかった。

 

 

 あはははは! 仕返し成功だ。……でもまぁ少し悪い気もするし、今度家のお風呂で水着で背中でも流してやりに突入するか。




感想お待ちしています  オリの短編書いているのでそっちも宜しくお願いします


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俺と幼馴染の関係が間違われるのは何故だろうか?

お待たせしました さて、乾燥増やすために頑張ろう

またイベントだけど!


 俺と遥の関係は傍から見れば付き合っているように見えるらしい。実際、知り合いの多くは俺と奴が付き合っていると思い込んでいると、現実は解せない。いや、そういった話題に敏感な同級生は分かるのだが、両親や祖父母でさえそう思っている理由が分からないな。

 

 此処で奴と俺の日常を振り返ってみよう。まず、奴は俺の護衛ということで俺の家の客室で生活している。まず、朝だが奴は朝が弱いので俺が起こす。

 

「おい、起きろ」

 

「あ~と~五~分~」

 

 カーテンを開け朝日が差し込むと奴は布団に潜り込むのだが、俺は無理やり引っぺがす。ベッドから奴を持ち上げて引き離すと着替えを放り投げ、一旦退室だ。俺が居ても直ぐに着替えを始めるから油断は大敵なんだ。

 

「別に見られても構わないんだけどなぁ。時間の無駄だろ?」

 

「少しは恥じらいを持てと何度言えば……」

 

「君にかい? 別に君にならどこを見られても平気だぜ? ……なんならじっくり観察するかい?」

 

 このようなやりとりを毎朝繰り返しながら俺は遥の髪を解いてやる。寝ぼけたままだブラッシングさえもせずに居るからな、あの馬鹿は。完全無欠の美少女というならば身嗜みくらい自分でして欲しいものだが……。

 

 

 

「やっぱり君の方が料理が上手だね。毎日食べたいよ」

 

「いや、当番は守って貰うぞ? まあ、できる限り叶えてやるさ」

 

 うちの両親も奴の両親も組織に属しているからか家を空けることが多く、俺と遥は交代で炊事をしている。だが、朝が弱い奴のために俺が弁当の当番だ。俺は卵焼きは塩の方が好きなのだが、遥は甘いのが好きだから砂糖で味付けしたりと気を使わざるを得ない。……まあ、自分の当番の時に偶に塩で味付けした物を作ったりするから不満はないがな。

 

「お前は本当に美味そうに食べるな。見ていて気持ちが良いよ。ほら、俺の分も食べるか?」

 

「うん、食べる。あ~ん」

 

 遥は俺の料理を毎回褒めてくれるし、だから俺も自分より奴の好みを優先させてしまう。だからまぁまぁ、満足だ。ついつい俺が口に運ぼうと思ったメインのおかずを奴の口に運んでしまうのだ。俺もたいがい甘いな。

 

 

 

 学校から帰宅後、遥の制服にアイロンがけをし、洗濯やら掃除を共同で行う。付き合いが長いから細かいやり取りをしなくとも何をして欲しいか通じるのは本当に助かるよ。

 

「風呂沸いたぞ。先に入れ」

 

「いや、君が入りなよ。ああ、それとも私の残り湯を堪能したいのかい? ふふふ、仕方がないなぁ」

 

 呆れて物も言えないとはまさにこの事だな。さらにバスタオル姿でウロチョロしたり、俺が入っている時に水着やらバスタオル姿で入ってくるなどのおふざけも偶にするし風呂くらいゆっくり入らせて欲しい。あと、風邪を引くから直ぐにパジャマに着替えろ。

 

 

 

「じゃあお休み」

 

「ああ、お休み。……夜更かしは程々にな」

 

「分かってないなぁ。この時間こそ至高なんじゃないか。なんなら私の部屋で見張るかい? 同じベッドに居れば監視は楽だろうさ」

 

「阿呆か、貴様。いや、大馬鹿だったな」

 

 俺と遥の部屋は隣なので同時に自分の部屋へと入っていく。この後、予習復習や趣味に少し時間を使ってから俺は眠る。余計な邪魔が入らなければ毎日快眠だ。偶に悪戯で遥が潜り込んで来ていると朝驚くがな。

 

 

 あとは任務で一緒に戦ったり、ナンパ除けや荷物持ちでショッピングに付き合ったり遊びに行ったりなどだな。至極有り触れた幼馴染の関係だと思うのだが、どうしてこれで両思いだと錯覚するのか理解に苦しむよ。

 

 

 

 

 

「……いや、自分の姿を鏡に映してから言ったらどうなんだ?」

 

 以前から疑問に思っていたので焔に遥との関係を勘違いされるのが疑問だと相談して普段の様子を話した所、何故か呆れられた。いや、溜息を吐かれたが意味が分からない。

 

 今の俺の姿? 遥が風呂場で他の女子に粗相を働かないように正面から抱きしめて拘束しながら座っているだけだが? 安心した様子で眠っているから転げ落ちて頭を打たないように抱きしめておかないといけないのは面倒だ。それに途中で目を覚まして風呂場に行かれたら俺と焔では立ち入りができない。

 

「ところでエリアーデは大丈夫か? 此処は奴の別荘だし……」

 

「確かに心配だな。……会話だけでも聞くか?」

 

 俺の能力なら可能だが……流石に気まずいな。だが奴のホームグラウンドだし、事前に下調べはしたが用心を重ねる必要はある。俺は気まずそうな声で焔に訊ねる。自分の判断だけで行うのは勇気が足りないからな……。

 

『聴覚強化』や『遠隔性感覚器官』等の能力で風呂場の声を拾い、俺と焔にだけ聞こえるようにする。下心はないと自己弁護はさせて貰いたい。

 

 

 

 

『うわー。轟さん、お肌綺麗だねー』

 

『ひやっ!? 急に触らないでください……無駄な脂肪が押し付けられています』

 

『むむむ。田中、貴殿意外と有るのだな。って、何処を触っている!?』

 

『そういう小鈴ちゃんだって綺麗な形をして』

 

『ふふふ、こうして観察しているだけでも……』

 

 

 能力使用を中断し、互いに顔をそらす。いや、下心はなかったが……うん。非常にアレだ。凄い背徳感だな……。

 

 

 

 

 

「やあ。少し夜風に当たらないかい?」

 

 あの後、何事も無かったかの振舞った俺は遥に散々文句を言われた。折角のお風呂イベントを台無しにしたってな。あの空間にこの馬鹿を放り込まなくて本当に良かったよ。仕方がないので今度の休みに俺の奢りで映画館とランチとディナーに行く事になったのだが……当分は小遣いがやばいな。誕生日プレゼントをくれた級友達に誕生日プレゼントを買わなくてはならないというのに……。

 

 風呂場の事での罪悪感や懐事情の事で落ち込んでいた俺は夜中にノックもせずに入ってきた(毎度の事)遥の誘いに乗って夜の海を見に出かける事にしたが、夜釣りでもする為に釣竿を持って出れば良かったなと後悔している所だ。

 

 

 

 

「……さてと。君も座りなよ」

 

 周囲に光はエリアーデの別荘の明かりと懐中電灯の物だけ。夜闇の中、漆黒の海から波の満ち引きの音が聞こえてくる中、遥は岩の上に座り込むと足をブラブラさせながら自分の横を指し示す。特に文句もないので同じように座って足を投げ出すと遥は俺にもたれ掛って来た。俺の肩に頭を乗せ上機嫌に鼻歌まで歌っている。

 

「随分とご機嫌だな」

 

「君と二人っきりだからね。いや、子猫ちゃん達とお泊り会は最高だけど、君とこうして二人っきりになる時間は欲しいのさ。……そうそう。小さい頃にもこうして一緒に夜の海を見に行ったっけ。家族でキャンプに行った時」

 

「ああ、その日の前の日にアニメで海坊主の話を見たからいないか不安になって俺を起こして連れ出した挙句、海に落ちて俺が助ける羽目になった」

 

 あの時は両親に随分と怒られたな。まあ、俺達を心配しての事だが。

 

「あの頃、私は君が好きだったんだぜ? だから結婚するって誓約書も書かせた。まっ、今じゃ私の目標は子猫ちゃん達でハーレムを築くことだけどね」

 

 態々誇らしげに言うことか? 俺が呆れていると悪い物でも食べたらしく遥は少し恥ずかしそうな顔をしている。

 

 

 

 

「……でもさ、君が望むなら君もハーレムに入れてやっても良いぜ?」

 

「いや、望まない。それに言っておくが俺とお前がそういった仲になった場合、浮気は許さん」

 

「相変わらず固いなぁ。そういった所直し……いや、それでこそ君なんだろうけどさ」

 

 俺の言葉に遥は辟易した様子で立ち上がった。さてと、さすがに夜風に当たりすぎると体を冷やすからここ等で部屋に戻るとしよう。俺は上着を遥の肩にかけると懐中電灯で足元を照らしながら別荘への帰路に着く。

 

 

 

 

 

 この日の夜、俺はまたしても予知夢を見た。ただ、何時もと違って……。




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俺の周囲にノーブレーキが多くて辛いのだがどうすべきだろうか?

 人生は何が起きるか分からない。極めて低い可能性だろうが俺と遥が結婚する未来が存在する様に、俺が今見ている予知夢の内容に至った経緯も全く予想不可能だった。

 

「……あの、お願いが有ります」

 

 大きめのソファーに俺は座り、隣に座る女性、どう見ても轟が少し成長(一部除く)したと見られる相手の肩に手を回して優しく抱き寄せて居たのだが、轟らしき女性は手で口元を隠しモジモジしながら俺を見上げていた。

 

「お願い? 別に構わんぞ。お前の願いなら可能な限り叶えてやるさ」

 

 ……うーむ。これ、本当に予知夢か? 轟は確かに友人で、吊り橋効果やら何やらで今の関係になる可能性は否定できないのだろうが、遥以外にこの様な事を言うとはな。つまり俺は二人のお願いを必ず叶える気なのか。随分と豪胆な事だなとことの成り行きを観察しながら呆れていると、轟は恥ずかしいらしく間近でないと聞こえないような声を出した。

 

「……キス、して欲しいです」

 

 言った途端に恥ずかしさから顔を逸らす轟であったが、俺は彼女を強く抱き締めると強引に唇を奪う。一瞬びっくりした顔の轟だが直ぐに喜色が目に浮かび、両手で俺に抱きついてより強く唇を押し付けていた。

 

 ……何と言うか、非常に気まずいな。予知夢は可能性の高い未来の中からランキング上位の未来をランダムで見るという物だから非常に低くても他のより高ければ見るのだろうが……。

 

「……俺からも頼みが有るのだが」

 

 唇を離した俺は名残惜しそうに俺の唇を見詰める轟の耳元に口を持って行く。ふっと息を吹きかければ轟の体がピクリと反応した。

 

「……何ですか?」

 

 何かを期待する様な声で轟は俺の言葉を待つ。視線はドアの方を一瞬向き、次に窓の方を向くと指先を胸元のボタンに掛けていた。彼女が何を期待しているのかが伝わる中、俺はゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

「今度はお前からキスをしてくれるか? その後で……」

 

 

 

 

 夢の途中だったが息苦しさから目を覚ます。流石にアレより先は気まずそうだから良かったのだが、問題は息苦しさの理由だ。遥の馬鹿がまたしても俺のベッドに潜り込み、俺の頭を抱き締めていた。それ自体は何度も経験しているから問題ではないのだが、流石に他の皆が同じ建物内に居るのは拙いな。しかも何処から出したのか俺のシャツを下着の上から着ているだけだからパンツが見えているし……。

 

「おい、早く起きろ……」

 

 何時もならば辞書を頭にたたき落とすのだが、音や声で不審に思った誰かが来ても問題だからと小声で揺り動かす。だが、寝汚いこの馬鹿がそんなことで起きるはずがなかった。

 

「……うーん? 起きろー? 良いじゃないか、君も寝ていようぜー」

 

 漸く目を開けたと思えば俺を抱き寄せてまたしても眠り出す。顔が胸に押しつけられて息苦しいので暴れれば頭を解放してくれたが、まだ寝ぼけていた。

 

「くすぐったいなぁ、もう。はいはい、胸に息をかけないでくれよ? 代わりにチューしてやるから……」

 

 ええい! このまま馬鹿にされるがままではキスをされてしまう。別に嫌ではないが、されたい訳ではないのでな。それに誰か今入ってきたら……。

 

 俗にこれをフラグと呼ぶ。それは何故かと聞かれれば……。

 

 

 

 

「主殿ぉー!朝の散歩に行きましょ……」

 

 何故かというと、この様に実際に起きるからだ。まだ早いというのに元気一杯の小鈴は足音を立てずに俺の部屋の前まで来るとノックもせずにドアを開けて満面の笑みを向けてくる。まあ、家にいた時は朝夕散歩を一緒にしていたがエリアーデの護衛になってからは休日以外はしていない。

 

 

 だから一緒にいる今朝は喜び余ってやって来たのだろうが……タイミングが悪すぎた。さて、冷静に今の状況を見てみよう。俺と遥は同じベッドの中で寝転び、もがいた時に掛け布団が落ちて今の遥の姿(下着の上はシャツだけ)は丸見え。そして寝ぼけた馬鹿が今まさに俺に抱き付いてキスしようとしていた……。

 

「……お邪魔致しました」

 

「ちょっと待てー!!」

 

 もう騒がずに収集するのは無理だと遥を無理に引き剥がして脳天に辞書を叩きつけ、錆びた機械のような動きで去ろうとした小鈴の腕を掴むと部屋に引き入れてドアを閉める。……間に合って良かった。

 

 

「少し落ち着いて話を聞け。俺と遥は……」

 

「あれー? 何で小鈴が居るんだい。……三人で楽しむのかい?」

 

 ……最悪だ。まだ覚醒していない大馬鹿が誤解を更に重ねるような事を口にした。後で殴ろうと思いながら誤解を解くために小鈴に視線を戻すと指先を合わせてモジモジしながら顔を赤らめてチラチラ見てきている。

 

「……分かりました。主殿がお望みならば受け入れましょう」

 

「いや、待て。お前は何も分かっていない」

 

「で、ですが初体験はその……主殿に可愛がっていただきたいです……」

 

 ……頭が痛くなる。遥やらアリーゼやらエトナやら俺の周囲にはどうしてこうも……。

 

 

 

 

「ふ、服はどうなさいますか!? 自分で脱ぐのか、主殿に脱がされるのか……」

 

「……頼む。少し黙っていてくれ」

 

(こ、声を殺せということか。う、うむ。必死に耐える姿が興奮するのだろうな。矢張り主殿はSであったか……」

 

 この後誤解を解くのに三十分を要した。要所要所で余計なことを言ってくる遥、それを真に受けたり、俺の言葉はそういったシチュエーションを希望していると勘違いする小鈴。朝から本当に疲れた……。

 

 しかし、俺の周囲は本当にブレーキが壊れた奴らが多い……何故だ?

 

 

 

 

 

 

「……本当に申し訳ございませぬ。主君の意図を汲めぬとは、この小鈴一生の不覚。忍びとして未熟でした」

 

「誤解が解けたなら別に構わない。ほら、口元にケチャップが付いているぞ」

 

 何とか誤解を解いた俺は食事の時間になっても落ち込んだ様子の小鈴を慰める。流石にあの状況では誤解を受けても仕方がない。犬は結婚イコール交尾だから思考がそっちに行くだろうしな。ポンポンと頭を軽く叩いた後で口に付いたケチャップをティッシュで拭ってやる。そう、此奴は何一つ悪くない。悪いのは……。

 

 

「私も反省しているぜ?」

 

「お前の反省は聞き飽きた。暫くそうしていろ」

 

 そう、悪いのは俺の隣で正座中の遥だ。ちゃんと着替えさせた後で床に直に正座をさせている。しかも皆が食事をしている間にだ。辞書だけでは仕置きが足りんからな、いい加減。

 

「頼むよー。可愛い子猫ちゃん達との優雅な朝食って最高のシチュエーションなんだ…むぐっ」

 

「反省していないだろ、お前」

 

 反省の色が見られないから食事が終わるまでは正座を続行させようと決め、遥の分の朝食は俺が時折食べさせる。嫌いなものが残るようにな。好きな物を取っておく派の此奴には堪えるだろう。

 

「……あの、委員長。さっきから同じフォークで……」

 

「うん? ああ、そうか。うっかりしていたが……まあ、今更だな」

 

 轟が指摘したように先程から俺は遥に食べさせる時のフォークと自分が食べるフォークを使い分けていなかった。もう使ってしまったから別に構わないが……。

 

 

「ねぇねぇ、いいんちょーは今日は何して遊ぶのー? 私達とビーチバレーでもするー?」

 

「お誘いは有り難いが既に先約が有ってな。……此奴と一日過ごす事にしているんだ」

 

 そう言いながら俺は隣に座る奴を指差した。

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

 小鈴との会話  下ネタ注意

 

 

 

「お前は勘違いしている。初めては俺と、などと言っているが誤解だ」

 

「ご、五回もですかっ!? い、いえ、私は主殿の忠信。その肉欲が尽きるまでこの体をお使い下さい」

 

「へぇ、凄いね、君。五回も擦る自信があるなんて……そういった能力を得たのかい?」

 

「この馬鹿は無視しろ。居ないものと扱え」

 

「な、成る程。安心しました」

 

(……何とか誤解が解けたか)

 

「ずっと二人っきりで可愛がって下さるのですねっ! で、では早速始めましょう。ま、先ずは前戯からですね。く、口や手胸を使うという知識はあるのですが……」

 

「違う」

 

「……いきなり本番ですか? い、いえ、不安なだけで不平が有るわけでは……」

 

 この後、三十分掛けて誤解を解いた……。




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俺の嗜好が誤解されそうで辛いのだがどうすべきだろうか?

お待たせっ!


「い~や~だ~! わ~た~し~も~行~く~!」

 朝食後、尻尾代わりのポニーテールを丸め、怯えた目で物陰から此方を伺っている小鈴を筆頭に皆が遠巻きになる中、遥は俺を羽交い締めにして駄々を捏ねていた。忘れがちだがこの馬鹿は俺より力が強いので引き剥がせず、取りあえずの嘘も通じない付き合いの長さなので丸め込むのも難しい。

 

(もげろ…垂れろ…削ぎ落とされろ)

 

 ……うん。俺の背中に強く押しつけられても大して形を変えないほどに張りも感じるのだが、轟がそれを凝視して呪詛の言葉を呟いているなど気のせいに決まっているな。それは兎も角、どの様な理由があって今の状況になったかというと、普段からエリアーデの護衛と監視を任せている小鈴に対し労いのために今日一日付き合うことにしたのだ。

 

 ……その程度で良いのかと俺は思うのだが、本人がそれを望んで、了承したら喜んで飛び跳ねたりしたので、まぁ良いのだろう。流石に頬を嘗めてきたときは止めたがな。犬の慣習が残っている上にロボットと分かっていても見た目は同年代の少女なのだから恥ずかしい。遥がやってくるのとは違うのだぞ、まったく……。

 

「お前の普段の行動で怖がられているんだ、我慢しろ。大体、どうしてそこまで一緒に来たがる?」

 

「それは……」

 

 既に砂浜まで着ていて他の女子も水着姿だ。少し悪い気もするがスケープゴートには十分だろうにと思った俺が訊くと遥が言いよどむ。珍しい、此奴がこの様な態度を取るなど一体何が……。

 

 

「初めて見る景色にビックリしたり興味を持ってソワソワする小鈴の姿を見たいっていうか愛でたいから!」

 

「よし! 平常運転!!」

 

 心配して損したと暴れる力を強めるが引き剥がせない。遥も俺が了承するまで離れないつもりだからか力を強め、胸が更に強く押し当てられると轟から殺気がより濃厚に発せられるという幻覚に囚われる。さて、時間の無駄だしここは交渉と行こうか。

 

 

「……交換条件だ。今日我慢するなら要求を何か飲もう。試しに言って見ろ」

 

「私は君と一緒に居たいだけさ。小鈴をじっくり眺めた後で撫でさせてくれて、最後に色々と可愛がらせてくれたら文句は無いよ」

 

 見えないがドヤ顔をしているのだと容易に想像が付く。あぁ、少し腹が立ってきた。もう電撃か何か放つべきだろうか。

 

「よし! 却下! ……おい、誰かバールのような物を持ってきてくれ」

 

「……了解しました。鈍器で後頭部をガツンと叩いた後で無駄な贅肉を削ぎ落とすの……いえ、何でもありません」

 

 怖っ!? 轟さん、何があったのですか!? ……俺がつい敬語になる中、流石に怖かったのか遥が何やら考え出した様子。これで漸く解放されるな。

 

 

「……そうだね。君がこの場で私にキスができたら大人しく残るよ」

 

「了解した。キスするから離せ、遥」

 

「ぴやっ!?」

 

 俺の声色から本気だと感じたのか遥の腕が驚きの声とともに離される。俺は素早く振り向くと固まったままの遥の肩を掴んで引き寄せた。

 

「え? ちょい待ってくれっ!?」

 

 俺の行動が予想外だったのか大いに慌てる遥。ふん、甘いな。お前が俺の行動をどの様に予測するなど予測済みだ。ここで落ち着く余裕を与えず、慌てているが抵抗する様子を見せない遥に顔を近付けてキスをする。

 

「ひゃんっ!?」

 

 ……ただし、額にだ。流石に皆の目の前だし無理だ。だが、この馬鹿には効果があったようで赤面して口をパクパクと動かすなど言葉も出ないらしい。自分が攻めるときは大胆不敵なくせに受け手に回ると途端に弱くなるのがこの馬鹿だ。

 

「今だっ!」

 

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 

 何故か轟は頬を膨らませ、治癒崎は笑顔が恐く、焔と田中は治癒崎に怯え、エリアーデがこの隙にと遥からサンプルを採取しようとしていたのをローキックで悶絶させた俺は海に向かって走り出しながら小鈴に手を伸ばす。あの程度でも刺激が強かったのか赤面していた小鈴が慌てて俺の手を掴んだ瞬間、脚力を強化して一気に跳躍、遥前方の海面へと水柱を上げながら着水した。

 

「に、逃げられたぁっ!? 小鈴の興味津々な姿をじっくりねっとり観察したかったなぁ……。じゃあ子猫ちゃん達、私と一緒に遊ぼう。あっ、エリアーデはそこの男と乳繰り有ってればいいよ」

 

 

 放置した遥が心配だが……心配いらない気がするな。いや、轟達が心配か……。

 

 

 

 

 

 

「主殿、主殿っ! なにやら巨大な貝が居ます。むむっ! 私の手を挟むとはっ!」

 

 一応小鈴が俺に忠義を誓うのは俺の迂闊な行動のせいであり、ロボット相手とはいえ感情がある相手だ(漫画の世界だし、能力がある時点で細かいことは考えない)、無碍には出来ない。だから二日目は小鈴に付き合うと伝えたのだが、ならば行ったことのない場所で散歩がしたいと言われ海中散歩をしている。

 

 ……水中で息や会話が出来るのは『水中呼吸』等の能力のおかげだ。尚、この能力の持ち主は後援部隊の知り合いで、火山の噴火で流れ出した溶岩から逃げる最中に覚醒したとか。能力自体は役に立たなかったが、目覚めたら身体能力が上がるので助かったらしい。

 

 ……閑話休題、何故か三メートルはあるシャコ貝(化け物か?)に不用意にベタベタ触っていた小鈴は見事に腕を挟まれてしまった。ロボットなので窒息の危険は無いだろう。それに俺はエリアーデから聞いている。小鈴には少年の心を擽るあの装備が、ビームが搭載されているのだ。なお、水中でも撃てる仕様らしい。天才だからな、一応。

 

「小鈴、ビームで焼き切ったらどうだ?」

 

「成る程っ! 流石です、主殿っ!」

 

 ビーム見たさだったから誉められると気まずい。ああ、曇り一つ無い綺麗な瞳が痛いな……。俺が軽く落ち込む中、小鈴の目がキラリと光る。やはり目からビームがでるのかっ!?

 

 

「成敗っ!」

 

 掛け声と共に小鈴がビームを放つ。但し膝からだった……。」

 

「……主殿?」

 

「いや、何でもない……」

 

 帰ったらエリアーデとじっくり語り合おうかと悩んで目を離した瞬間、小鈴は前方へと駆けだしていく。

 

「主殿、このウネウネした物が飛び出ている袋は一体……」

 

 二メートル程のイソギンチャクをしげしげと観察し、俺が教えるよりも前に上に飛び乗る。ロボットの頑丈な体に毒は通らなかった。

 

「むむっ! 奇妙な生物が……ひゃうっ!?」

 

 超巨大なタコに不用心に近づいた結果、タコの足が小鈴の身体中にまとわり付き、谷間やらの隙間に侵入して悲鳴をあげていた。

 

「蟹っ! これは食いでが有りそうだっ!」

 

 熊ほどもある巨大な蟹に挑み、一撃で仕留めるが、水中で食べようとしたので塩気が強すぎて不味かったようだ。

 

 

「先程から巨大生物に出会いすぎではないか? いや、それよりもお前は少しは落ち着け」

 

 遥としょっちゅう散歩をするのだが、時折いうことを訊かずに暴走する犬のリードを必死に引っ張る飼い主を見かけることがある。少女の姿の相手に感じることでは無いのだが、今はその気持ちが少し分かった。

 

「……お前が見た目も犬なら首輪とリードを着けたい気分だ」

 

「私なら構いませんが? 既に用意していますし」

 

「俺が構うのだ、俺が。……そもそも、そのような物を何故……っ!」

 

 真剣な眼差しで首輪とリードを差し出されて頭痛を感じた時、海の中にも関わらず女の笑い声が聞こえてきた……。




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ウチの死んだ犬は馬鹿だったが散歩中は横をぴったりと歩き、止まったらお座りをしていました。他は馬鹿だったけど


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俺の同僚のマッドがやらかして辛いのだがどうしてやるべきだろうか?

焔 名前間違ってごめん 後で直しておきます 伊吹に統一しよう


 桃も桃、李も桃、桃にも色々ある。この様な早口言葉を知っているだろうか? それと同じように海に関係する怪物として有名なのがクラーケン。巨大な烏賊のモンスターで、日本でも同じような怪物の言い伝えはある。

 

 まあ、俺が前までいた世界ではダイオウイカやらミズダコが妖怪として伝わったのだろうが、この世界では普通に存在する。……神話の立ち位置は無視して欲しい。大体の作品で、ギリシャ神話では女神の血を引く王妃から生まれた怪物の筈のミノタウロスが何匹も居たりするだろう?

 

 さて、話が逸れた。海に関する怪物といえば他に有名なのはやはり人魚ではないだろうか? 人の上半身と魚の下半身を持ち(日本のはまさに人面魚と呼ぶべきなのが伝わっているが)、八尾比丘尼で有名なように肉を食べれば不老不死になると伝わるアレだ。尚、この世界の人魚を食べても腹を下すだけらしい。

 

「ええい! 下がれ下がれ! 主殿は貴様らなどの伴侶にならぬっ!!」

 

 その人魚だが、俺と小鈴の前に群れで現れていた。絵本のようにヒトデや貝殻で胸を隠した人魚達だが、姿を見せるなり興味深そうな視線を送り、俺にある交渉を持ち掛けてきた。

 

 自分達と交わらないか、とな。

 

「ここ数年、巨大化した生物が増えてきて、強そうな貴方の血が欲しいのよ」

 

 それを聞いた瞬間、小鈴は腕の内部に収納されていた刃を出して威嚇したのだが……非常に拙い。誤解しないで欲しいのだが、誘いがご破算になると心配したのでは無いぞ? 温厚で浪漫的なイメージを持っている者も居るだろうが人魚の中には人を食うとされる種族も存在する。

 

「……お前達はセイレーンだな?」

 

 セイレーン、歌声で誘い出した船を座礁させるとされる人魚。ハーピーのような半人半鳥の場合もあるが、人魚の時もある。歌声を使って捕らえた人間の男を誘い……断れば食い殺す。

 

 俺の半ば確信した上での質問に対し、誘いを掛けて来た人魚、おそらく群れのリーダーらしい一体が口を開く。美人と言えるだろう姿で妖艶に微笑むが、覗かせた八重歯は鋭く尖っていた。

 

「ええ、そうだけど……私達と楽しむかお昼ご飯になるかどっちが良いのかしら?」

 

「はっ! どうせ要求を呑んでも食べるのだろう? 大体、元居た世界に戻れば全て解決するだろう。断る」

 

 俺はそう宣言するなり『神器招来』を発動させて刀を呼び寄せる。水中だが既に発動している能力によって動きの制限はそれ程無い。問題は数が多い上に奴らのフィールドだという事だ。

 

「馬鹿な男ね。強くても馬鹿は駄目よ、馬鹿は。もう少し賢ければ死ぬ前にいい思いが出来たのに」

 

「まぁ此処は適当に乗った振りをして隙を突くはずだったんだが連れが余計な事を言ったしな」

 

「うっ!? も、申し訳ありませぬ……」

 

 嘲笑して来る人魚達に俺は肩を竦ませ、小鈴は肩を落とす。まぁ此奴は目覚めたばかりで子供のようなものだ。俺は気にするなとばかりに頭に手を置くと刀を構える。それにあのままでも誤魔化そうと思えば誤魔化せた。だが、俺は我儘なんだ。

 

 

 

「生憎、お前達に嘘でも口説き文句を垂れるなら、先に口説くべき相手が居るんでな」

 

 まあ、今は別に口説く気はしないが彼奴に言いもしない言葉を此奴らに言うのは嫌だった。そんなしょうも無い我儘だ。

 

 

「……そう。なら死になさい。肉の一片たりとも残しはしないわ」

 

 人魚のリーダーは目をすっと細め、手を振り上げる。下した方の片手は屈辱で震えている所を見れば自分の美貌に自信があったのだろうな。

 

 

「お前達、俺の幼馴染に比べれば……」

 

 一斉に向かってくる人魚達。大きく開けた口の中には収納されていたのか鑢状の鋭利な歯がビッシリ出現し、爪も鋭利に伸びている。人間の男を誘う為の擬態から本来の姿に戻ったのだろうが……うん、残念だったな。

 

 

 突如海が割れ、人魚達は水中から空中に投げ出される。重力に従い落ちていく時の顔は困惑と驚愕に染まり、場の空気を支配するかのように高笑いが響いた。

 

「ははははははっ!! 主役は遅れて登場するっ! 故に遅れてきた私は主人公の中の主人公という事さっ!!」

 

 さて、モーセの杖かポセイドンの槍でも出したかは知らないが何にせよ助かった。流石に無傷で全部倒すのは骨が折れそうだからな。

 

「ぐっ! 貴様、何も……」

 

「……煩い、消えろ」

 

 遥を睨んだ人魚の首を轟の刀が串刺しにする。

 

「委員長、全部倒して良いんだよな?」

 

「小鈴から送られて来た信号で敵襲って分かっているだろう? ったく、これだから……」

 

 焔が数匹纏めて炎で包み込めば、ここぞとばかりに馬鹿にした口ぶりの遥が態々炎を出す剣で数倍の数を灰に化す。さて、俺も参加するか。人食いの怪物を放置は出来ないからな。

 

「取り合えずそこの一体はボスだから他の群れの情報を聞き出すとして……エリアーデ、助かった。小鈴もだ。お前達のおかげで早く増援が来たのだろう?」

 

 褒めるなり上目使いで無言の要求をしてくる小鈴の頭を撫でてやる。本来なら頭を撫でられても嬉しいと思うのは多くはないのだろうが、此奴は嬉しく思うタイプみたいだからな。……犬とのスキンシップで撫でるのと同じなのか?

 

「ふふん! 私の頭脳ならイザというべき時の為に準備は抜かりないんだねっ! さて、お礼に少し実験に……」

 

「所で巨大化した生物が増えているらしいな。俺も何度か遭遇したが……お前の仕業だ」

 

 仕業か? ではなく、仕業だ。実際、俺が断言するなり目を逸らして口笛を吹きだしたのだから間違いない。俺が指を鳴らせば即座に小鈴が羽交い絞めにする。さて、どうしてやろうか……。

 

 

 

「出来心ー! 出来心なんだねー! この辺は私のプライベートビーチだし問題ないと思ったんだよっ!」

 

「なら、俺と小鈴が海中散歩をすると知っていて教えなかったのは? どうせデーター取りだろう?」

 

「そ、それも出来心で……」

 

 さて確か落語にこんな感じのオチがあったな。確か『出来心』だったか?

 

 

 

 

 

「おい、皆。バカンスは中止。巨大生物の処理を開始するぞ」

 

「……仕方ないですね、では、幾人かに別れましょう。取り合えず委員長は私と……」

 

「じゃあ別荘に残ってる二人に連絡しないとな」

 

 流石に人間より大きいシャコ貝やらは危険だし放置は出来ん。皆も仕方なさそうにしているな。……エリアーデは後で反省文や研究予算の大幅削減などの罰則フルコースだが……俺も諸々の書類を提出すべき必要が出来た。今夜は徹夜か……。

 

 気が重くなった俺はガクリと肩を下す。終わり良ければ全て良し、と言うが、終わりが駄目なら全部駄目だな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、お疲れ様。リラックスするお茶を持ってきたよ」

 

 この日の夜、家に戻った俺は提出する書類を何とか徹夜せずに書き上げたのだが、それを見計らったかのように遥がお茶を持ってきてくれた。さて、何も仕込んでいないようだし頂くとしよう。

 

「美味いな。それにリラックスしたおかげか眠くなってきた」

 

「君は頑張り過ぎだからね。もう少し肩の力を抜くべきだよ」

 

 散々苦労を掛けてくる奴が何を言うかとは言わず、ここは素直に頷いておく。流石に此奴が受けに回ると純情になるのを利用したのは気が咎めているしな。我慢だ我慢。

 

「そうそう。一つ聞きたいんだけど」

 

 俺がもう寝ようとした時、珍しく素直に出ていこうとした遥が足を止めて振り返る。何を聞く気のだろうか。俺は少し身構えたが、聞かれた内容は他愛もない事だった。取り越し苦労という奴だな。

 

 

「あの種族って男を誘ってくるそうじゃあないか。少しは心を動かされたのかい?」

 

「あのなぁ。たとえ冗談だと分かっていてもお前の口説き文句に拒否で返す俺だぞ? 奴らに動かされる程度なら俺とお前はとっくの昔に恋人だ」

 

「……そっかっ! ねぇ、今日は一緒に眠ろう。そんな気分なんだ」

 

 俺が拒否する間もなく布団に潜り込んできたり、お茶のコップを水に漬けておかないと色素が沈着するとか色々あるが今日は疲れたので口にするのを止めておこう。

 

 

「変な事はするなよ」

 

「いや、男の君が言うのはどうなんだい? ああ、君はしても良いよ」

 

 まったく、馬鹿者が。仮にお前とそういった行為に及ぶ場合はちゃんと段取りを踏むに決まっているだろうに。俺は呆れながら布団に潜り込んで目を閉じる。

 

「明日は朝から書類を提出に行くぞ。事情説明に一緒について来い」

 

「面倒だなぁ。……行く代わりに抱き着いて良いかい?」

 

 既に抱き着きながらの言葉ではないだろうに。さて、寝るとしよう。本当に此奴には苦労させられるが……不思議と落ち着くな。俺は目を閉じて直ぐに意識を手放した。




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彼にあんな顔をさせるのは辛いんだがどうすべきかな?

好きな漫画が出版社を変えて書き下ろしのおまけや加筆込みで出たが……全巻持ってるんだ。電子書籍限定だから古本屋でチェックも出来ない……


 こんな化け物が実際にいる世界で、それと戦っている私達みたいなのの中には死にかけた人だって結構居るし、その瞬間を夢に見る事だって有るらしいね。……実は私もそうだ。

 

 転生特典で精神の強化を貰ったから戦いとは無縁だった私でも戦える。でも、偶にあの時の夢を、この世界に来る切っ掛けとなった事故の夢を見ることがある。ずっと部屋に閉じこもっていた私は彼と一緒だったから外に出ることが出来た。でも、外出先でまさかの隕石落下によって……。

 

 即死だったから苦痛はなかった。最後の記憶は私を守ろうとした彼の姿。私のせいで死んでしまった最期の姿……。

 

「……起きてるかい?」

 

 深夜、またあの時の夢を見て飛び起きた私は不安を紛らわせる為に彼の部屋に忍び込む。顔を近付けて、彼の存在を確かめると安堵感と共に睡魔が襲ってきた。彼の存在は私を安心させてくれるけど、こんな風に自室に戻るのが面倒になるのは問題だね。

 

「汗が気持ち悪いし……よし! 脱ごう」

 

 悪夢のせいで体は寝汗でビッショリで寝間着が、張り付いている。ボタンを手早く外して寝間着を乱雑に放ると彼の布団に潜り込む。後は体を密着させるだけで残っていた不安が完全に消え去った。

 

 彼は今でも私の側に居る。それだけで私は心の底から幸せだと、そう思うんだ……。

 

 

「多分明日になったら君は驚いた後で怒るだろうね。でも、それって君が私の相手をしてくれているって事なんだ。君が側に居てくれて私を見ていてくれている。ああ、私は本当に幸せだよ」

 

 物心つく前からずっと一緒に居てくれる君。君が居ない人生なんて意味がないし考えられない。だからさ、何度も言ってくれるけど、本当にずっと私の側に居てくれよ? 君が居ない人生に興味は無いんだから……。

 

 腕と足を彼に絡ませ強く密着する。触覚で、嗅覚で、視覚で、聴覚で、大切な彼の存在を確かに感じながら私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「絶景かな、絶景かな。この眺めは値千金。最高の光景だ」

 

 今日は年に数度有る各支部の支部長やお供の部下が集まってのパーティーの日。着物にドレスと綺麗に着飾った美女美少女達は眺めているだけでご飯三杯はいける。さて、後でまずあの子から口説こう。美少女と会ったならば口説くのが礼儀というものだ。

 

「……ふぅ」

 

「おや、ため息なんて良くないぜ? 幸せが逃げてしまうからね。まぁ、君は私のような超絶美少女と一緒に居られるって幸福を味わい続けるんだけどね」

 

 目の保養の最中に彼の深い溜息が聞こえてくる。折角のパーティーだと言うのに仕方がないなぁ。仕方がないから元気付けてあげよう。私は彼に正面から近付くと腕に抱き付きながら胸で挟み込んであげた。こんな事してあげるのは君だけなんだから感謝するんだぜ?

 

「おい、お前なぁ……」

 

「恥ずかしがるなよ。恋人だろ?」

 

 私みたいな完全無欠の美少女の唯一の欠点は鬱陶しい男が寄ってくる事だ。使い古された言葉を耳障りな声で吐き出して私を口説こうなんて馬鹿馬鹿しい。私を口説く権利が有るのは彼だけさ。

 

「他の女に目移りしないでくれよ? 私だって嫉妬するんだからさ」

 

 私同様に彼も前まで言い寄って来る相手が沢山居た。何で私じゃなくって彼に可愛い子猫ちゃんが寄ってくるのか不思議だよ。見た目が良くって同学年の殆どが友達なくらい人望があって仕事が優秀で頭が働くけど、本当の良さって長く付き合わないと分からないんだぜ? ……それにだ、彼の側は私の場所だし私に構ってくれる時間が減るのは非常に困る。

 

「どうせならキスでもするかい?」

 

「場を弁えろ、馬鹿者が。一応支部同士の交流の為のパーティーで、俺達は代表として来ているのだから慎め」

 

 相変わらずの頭の固さに私が溜息を吐きたくなる。流石に馬鹿馬鹿連呼されれば腹も立つし、彼を狙っても無駄だと釘を刺すためにもう少し体をくっつけよう。どうせなら正面からピタリとくっ付いて……。

 

「おや、何か文句有るのかい? 恋人同士ってアピールしてた方が今後の面倒を減らせるじゃないか」

 

「……いや、何でもない」

 

 真顔で誤魔化す彼だけど、この位置だと私の胸の谷間が間近で見えると分かっての行動さ。必死に目を向けまいとしている姿を見るとスッキリする。偶には私が女だって意識させないと面白く無いからね。……普段は反応が薄すぎて、ぶっちゃけプライドが傷付く。

 

 

「喉が渇いてきたし……ふふふ。唾液でも交換する?」

 

「いや、俺が何か持って来よう。少し待っていろ」

 

 どうやら離れる口実を作ってしまったらしく、足早に去っていく彼の背を退屈そうに見詰めながら壁に背を預ける。すぐ横の窓に目を向ければ窓ガラスに私の姿が映っていた。黒い長髪を夜会巻きにして少し胸元を開けた漆黒のパーティードレス。前のは胸が成長してキツくなったから両親が新調してくれた物だ。

 

「偶には違う一面を見せてドキドキさせなさい、か。分かってないなぁ」

 

 彼には自分の全てを見せてきたつもりだし、私だって彼のあらゆる面を見てきたつもりだ。新しい一面を演技で取り繕っても見破られるだけだと悩んでいると横からグラスが差し出される。

 

 

「よう。お前、可愛いな。名前は何って言うんだ?」

 

 話し掛けて来たのは見知らぬ男。先程までの楽しい気分が一気に台無しにされた気がして非常に不快だ。私は家族と彼と彼の家族以外の男は嫌いなのにさ。

 

「全く急に能力に目覚めて、凄い能力だからって連れてこられて散々だぜ。だがまぁ……お前と出会えたから良しとしよう」

 

「……」

 

 此奴、私が一番嫌いなタイプだ。声を聞かせるのも腹立たしい。初対面の相手を口説くとか常識を疑うよ。

 

「緊張してるのか? 大丈夫だ。直ぐに俺のことを理解させてやるよ」

 

 私が黙っているのを何を勘違いしたのやら。これは今まで人生お花畑だったんだろうと呆れ果てる。面倒だし立ち去ろうとした瞬間、腕を伸ばして進路を妨害しようとしてきた。まぁ壁ドンという奴だ。

 

 

「……あれ?」

 

 まぁ、私の身体能力なら行く手を阻まれるより先に進めるんだけどね。今までどうやって女を口説いてきたかは知らないけど、私に甘い言葉を掛けようなんて鬱陶しい真似はさせない。そんな事をする権利は彼にしか与える気は無いんだ。

 

 

「おい、待てよ。恥ずかしがらなくても……」

 

 いい加減大人しくするのも我慢の限界になってきたし、揉め事を嫌う彼には悪いけど、手を伸ばしてくる男をぶっ飛ばそうとした瞬間、不意に横から私の肩に手が置かれ抱き寄せられた。驚いて見上げると不機嫌そうな彼の顔が身近に見える。

 

「此奴は俺の彼女だ。口説くなら他を当たれ」

 

「ひっ!?」

 

 普段は温厚な彼がこの時は怒気を滲ませて男を威圧する。情けない声を出して逃げるように去っていく男から外した視線は今度は私に向けられた。

 

「悪かったな。お前は男が苦手なのに……」

 

「……大丈夫だよ。もう苛められていた頃の私じゃないし、また君がどうにかしてくれたんだからさ」

 

 だから君はそんな申し訳無さそうな顔をしないで欲しい。ずっと私を守ってくれているんだから……。

 

 

 

「今日は新顔が結構来ているみたいだし、ずっと俺の側に居ろ。分かったな」

 

 有無を言わせない口振りで肩に置かれた手の力が強まる。思わず無言で頷いちゃったし、仕方ないかぁ。今日は子猫ちゃん達を口説くのを諦めて君と一緒に楽しむよ。そっちの方がずっと楽しそうだしね……。

 

 

 

 ……あー、駄目だ。胸が高鳴ってきた。私もまだまだだなぁ。

 

 

 

「……顔が赤いが大丈夫か?」

 

「君のせいだよ……」

 




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下手に受けを狙うよりも思いつくがままに書こうと決めました


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閑話 本当に何があったのだろうか?

「あっ…くぁ…ひゃっ……」

 

 ベッドの上に横たわった遥の肌に置いた指に力を込める度に部屋に声が響いた。時折指の位置を変え、各所に合わせた力加減で刺激を続ける。強く捕まれたシーツにシワが出来たからベッドメイクをしてやらねばな。

 

「……うん。やっぱり君にして貰うのが一番だよ。自分でするのとじゃ全然違うからね」

 

 俺の顔を見る遥の顔は余程心地良かったのか恍惚の表情で、俺もこうしてやっている甲斐があるという物だ。少し声が大きいが防音も能力でどうにかなるので問題ない。

 

「急に部屋に連れ込まれて何を頼むのかと面食らったが……お気に召したのなら結構だ。この程度なら何度でもしてやる……さっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 親指に力を込めると遥の体が跳ねてベッドが軋む。あまり動かれるとこっちもしにくくて困るのだがな。……しかし、此奴の普通の悲鳴など久々に聞いた。馬鹿をやって俺に仕置きされた時の悲鳴は蛙が潰れた時のような酷い物だから驚いてしまう。

 

「……すまん。痛かったか?」

 

「構わないよ、慣れてないんだからさ。……今日はこの辺で終えよう。名残惜しいけどさ」

 

 残念そうな所を見るともう少し続けて欲しいのだろうが、変なところで欲求を抑えるからな。普段は欲望ダダ漏れな癖に俺に何かさせるとなると気を使う。その必要は無いというのに。

 

 俺は遥が起き上がろうとしたので場所を空ける。上半身を起こした遥はベッドの上で俺と向き合って居たのだが、また禄でもないことを思い付いたのか口元に手を当てて微笑むと正面から抱きついてきた。

 

「君には随分と気持ち良くさせて貰ったしお礼をしなきゃね。……何が良い? 何でもして良いよ?」

 

 顎を細く柔らかい指が撫で、耳元で囁かれた後で吐息が吹きかけられる。密着してくる遥の体の感触を感じながら俺は腕を動かした。

 

 

 

 

「いい加減にしろ、馬鹿者がっ!」

 

「ぐべっ!?」

 

 辞書の角で脳天を強打すれば何時もの間抜けな悲鳴が上がる。やはり此奴はこうでなくてはなと思っていると頭を押さえながら涙目になった遥が抗議の視線を送ってきた。

 

「酷いなぁ。此処はRで18な展開に持ち込むか、私を押し倒してから自分だって男だって警告するシーンだろう。君は相も変わらず……はぁ」

 

「たかがマッサージをした程度であの様な展開に持ち込むなと言っているんだ。だいたい高校生なのだから節度を持て、節度をっ!」

 

 そうなのだ。風呂上がり、自室で喉を潤すための飲み物を入れたコップをリビングに忘れていたから届けたら、ついでにマッサージをして欲しいと頼まれた。胸が大きいと凝るそうだ。……何故か離れた場所の文系少女から殺気が届いた気がしたが気のせいだろう。少なくても俺向けではなかった。

 

「高校生だからこそだ。色々溜まっている年頃の大切な君に恩返しついでに経験を積んで大人の色気を手に入れようと思ってね。……本番は我慢してあげるから本当にどう?」

 

「一人でやっていろ。俺は寝る」

 

 馬鹿馬鹿しいので溜め息と共にベッドから降りてドアへと向かう。精神的にドッと疲れたからか俺にマッサージが必要な気分だ。明日にでも遥に頼むとしよう。今日はもう寝る。

 

 

 

 

 

 

「強情だなぁ。私の恋人の一人としてハーレムに入るのなら望むだけ相手をしてあげるのにさ。私に魅力を感じない訳じゃ無いだろう?」

 

「……前も言ったがお前は言動をどうにかすれば本当に完璧だ。あと、ハーレムに入る気は無いとも言った。日本は一夫一妻制で、俺の倫理はそれに従っている」

 

 分かり切ったことを何度言わせる気なのやら。俺は呆れながらドアを閉める。もう少し真摯に来るなら俺も対応を変えるのだが、あの分では無理そうだな……。あの性格も含めて遥なのだから無理矢理矯正する気は微塵も無いが……流石にああやって迫られたら困る。彼奴が綺麗ではないなど思ったことは一度も無いのだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この夜、またしても予知夢が発動した。いい加減制御が出来るようになって欲しい今日この頃だが、転生の時に他の内容を希望しなかった自分が悪いと反省するしかない。兎に角、俺は黙って見ているしかないのだ。

 

 

「お帰り。待ってたよ。ああ、君の顔を見れて嬉しいよ。本当にこの瞬間が幸せなんだ」

 

「ああ、ただいま。俺もお前の顔を見られて嬉しいぞ」

 

 ……またしても遥と結婚した可能性らしく、見慣れない玄関で仕事帰りの俺を遥が出迎える。遥がおれを含む誰かを口説く時のより数割り増しに悦の籠もった顔を向けているが、そこはまぁ、致し方ないのだろう。だが、言いたいことがある。

 

 

 何故裸エプロンなのだろうか。この可能性の俺は諦めたのか慣れたのか何も言おうとしない。一体どんなことが有ればそうなるのかと思っていると、靴を脱いで上がろうとした俺の行く手を遥が立ちふさがって邪魔をした。

 

「……何か忘れていないかい?」

 

 恥ずかしそうに何かを期待している素振りを見せる遥に対し、俺は指先をそっと彼女の顎に添えるとクイッと軽く持ち上げる。すると遥は目を瞑り、俺は遥にキスをした。最初は唇を合わせる程度の軽い物だったのが互いを求めるかのように抱き締めあう。

 

 

 

「……ごめん、我慢できなくなった。ご飯は後にしてベッドに行こう。……今日は私が好きにする番だし、搾り取ってやるから覚悟してくれよ?」

 

「さて、覚悟するのはどちらなのやら」

 

 唇に付着した両者の唾液を舐めとりながら遥は笑う。俺は遥の腰に手を回すと寝室らしき部屋へと入っていった。

 

 

 

 

「……いや、本当に俺達に何が起きたんだ?」

 

 何れ時が来れば自ずと分かるのだろうし忌避感は無い。幸せそうだと感じたのは確かだからな。ただ、今回ばかりは明日彼奴の顔を見るのが大変そうだ……。

 

 

 

 

 

 

 その頃、俺が住んでいる街から少し離れた山中の道路、夜景が絶景だとかでドライブやツーリングを楽しむカップルに人気なその道を一組のカップルが走っていた。対向車が来ないか注意しながらも互いに視線を向け、今の幸せな時間を噛みしめていたのだが、背後より迫る爆音とライトの灯りに顔が曇ってしまう。

 

(暴走族かよ。アンラッキーだな……)

 

 バックミラーに映るのはゴテゴテと飾り付けたバイクに乗った如何にもといったかっこう暴走族。絡まれたら嫌だから先に行ってくれとの願いが通じたのか暴走族のバイクは横を通り過ぎていく。彼氏はホッと安堵してチラリと暴走族に視線を……送ってしまった。

 

 

 

「マジかよ……」

 

 バイクと違って飾り気のない使い古されたヘルメットに守られているはずの頭部は存在せず、ただ空洞が有るばかり。思わず声を漏らした時、前を走っていた暴走族の、その内部がないヘルメットが真後ろの彼氏の方を向いた。

 

 

 

「……見たな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、錯乱した彼女が語った。彼氏の頭が急に飛んできた、と……。




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俺の間違いが恥ずかしくて辛いのだがどうすべきだろうか?

 首無しライダーの都市伝説を知っているだろうか? とある暴走族が走行中に前方に仕掛けられたピアノ線で首を切り落とされるが、死んだ後も首無し状態で走り回るといった内容だったかと俺は記憶している。

 

 西洋にもデュラハンという首無し騎士の話はあるし、首無し馬という妖怪の言い伝えも有る。割とポピュラーな内容なのかと、父さんからの説明を聞きながら考えていた。

 

「それで今回はマジモンの幽霊ですか?」

 

「ああ、既に名前も把握している。七年前に他の事件に埋もれて大して話題にならなかった事件の被害者……いや、加害者と言うべきか」

 

 焔の問いに父さんはやや呆れた様子で資料を差し出す。今回の犯人とされている首無しライダーの生前についてを中心に、遭遇した生き残りから聞き取った情報について詳しく書かれていた。

 

 尚、焔が今回は本物の幽霊かと質問をしたが、勿論偽物も存在する。いや、正確に言うならば異界からやってきた化け物を幽霊と間違ったり、目撃証言から伝説が出来たりなどしているのだ。もっとも、幽霊が出現したり俺達の持つ能力の発現自体、化け物が放つオーラの影響だとか何とか。悪霊になって人を呪う力を得るのもその辺りが理由らしい。

 

「まっ、相手が何かなんて関係ないさ。敵か味方かだけが重要だからね」

 

「……化け物によって歪められて凶行に及んだのなら同情はしますが、人に害を成すなら消すだけです」

 

 化け物には見敵必殺を貫く轟も、死者を出しているとはいえ元々人間ならば多少は思うところが有る様子だ。だからか珍しく遥に賛同する発言をしたのだが、その言葉が聞こえた途端に轟の肩に遥の手がそっと置かれ、耳元に口が持って行かれる。

 

「ふふふ、早速賛同とは嬉しいよ、刹那。さて、今から意見を更に合わせるために二人で仲良く……」

 

「……委員長」

 

 振り払っても離れるように言っても、遥は都合のいい解釈をするだけと理解したのか俺に轟の視線が向けられる。まぁ、これも隊長の仕事だと諦めるしか無いようだ。

 

「おい、遥。今は説明中だ。お前はこっちに来い」

 

「うへっ?」

 

 遥の襟首を掴むと強引に引き寄せる。多少抵抗が有ったが腕力を強化する能力を重ね掛け、本気で抵抗する前に羽交い締めにしたまま椅子に座り込んだ。丁度俺の膝の上に座る形になったが、流石に困った。

 

「支部長、すいません。話を聞く格好では有りませんが……」

 

「構わん。では説明を続けよう」

 

 仕事中なので父さんを役職名で呼び、続きを促す。脱出しようと暴れていた遥も父さんが続きを話し出すと抵抗を弱めた。ただ、膝の上は座り心地が悪いらしくモゾモゾと動いていたが。おかげで脚に尻が擦り付けられて感触が伝わってきた。

 

「おい、あまり動くな」

 

「おや? 悪い気はしないんじゃないかい? それに私も得している気分だからね。もう少し君の膝の上を堪能させてくれ」

 

 苦言にニマニマ笑い、更に強く動かしてくる遥。轟など説明中に何をしているのかと怒っているらしく射殺さんばかりの眼光で睨んできていた。

 

「見てくれよ。この状況に対して嫉妬の視線を送ってきている。ああ、後で君を私の膝に座らせてあげるよ、刹那。だから拗ねないでくれたまえよ?」

 

 投げキッスまでしている馬鹿の姿を見ていて本当に疑問に思う。どうしてここまで自分に都合が良いように考えられるのだろうとな。

 

「……有る意味お前が羨ましい」

 

「仕方ないさ。君は素敵だけど、私が側に居れば霞んでしまう。でも、私は君の魅力を知っているからそれで良いじゃないのかい? そう。だから私の側にずっと居ることだ」

 

「……了解了解。お前と一生添い遂げれば良いのだな」

 

「ぴゃっ!?」

 

 変なのは何時もの事だが、この時は更に変な遥。奇声を上げたと思ったら縮こまってジッとしてしまっている。チラリと見た顔も心なしか赤いようだが……ん? 先程、俺は添い遂げると言ったが、少し不適格な言葉だったか。だが、今更言葉の意味を間違って使ったと言うのも恥ずかしい。皆も特に何も言わないのなら黙っていた方が賢明だな。

 

 

 

 

 

「……お前という奴は」

 

 父さんは呆れているが、どうやら間違った言葉を使ったのに気付かれたらしい。少し恥ずかしくなった 。

 

 

 

 

 

 昔、龍善治 輝彦(りゅうぜんじ てるひこ)という名前の暴走族がいた。警察の追走から尽く逃げ切り、族同士の抗争は連戦連勝。一人で二桁もの武器を持った集団を返り討ちにしたとさえ噂されている彼には幼馴染みの少女が居た。幼い頃に結婚の約束をし、中学生の時には交際を始めていた大切な存在。唯一心を許した相手だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、抗争相手にピアノ線の罠を仕掛けた日に彼女の浮気現場を目撃、ショックで走り出したら自分で罠に掛かって死んだのだがな」

 

 既に犠牲者を出している首無しライダーの生前についての情報を知った焔達の表情は何とも言い難そうだ。自業自得というか哀しいというか、どんな表情をすれば良いのか分からない。遥など興味なさそうにそっぽを向いていた。

 

「……それで委員長、出現する日に規則性は有るのですか?」

 

「日には無いが、目撃者には共通点がある。カップルな事と、同じ喫茶店にツーリングで立ち寄った事だ。……それと次の資料に絵が乗っているが、急に手の甲に模様が現れたらしい。本人達にしか見えないらしいぞ」

 

 どうやら首無しライダーのチームが掲げていたマークらしいが、自分が振られたからと他人を襲うとは気に食わん。死者まで出しているのだから尚更だ。

 

 

 俺が憤慨する中、轟は口元に手を当てて暫し考え込み、おずおずといった様子で手を挙げる。何やら作戦がある様子だ。

 

 

「……カップルが狙われるのなら私と委員長が囮になるのはどうでしょうか? 神野さんは襲ってきたのを横から殴る役で」

 

 確かに轟の案は悪くない。どちらにせよ囮は必要で、襲われた時に対応出来る力が必要だ。だが、問題が有る。

 

 

 

 

 

 

「実はカップルという以外に女性の方の胸がな……」

 

 被害者や目撃したカップルの女性、そして浮気した幼馴染みの共通点。それは胸が大きいことだ。流石にハッキリと言えないので言葉を濁すが轟は理解したらしい。非常に殺る気が溢れ出していた。

 

「……よし。私が首無しライダーを退治します。奴は私の獲物です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。なら囮は俺と遥で引き受ける。構わないな?」

 

「別に良いけど、君にカップルの事が分かると思えないし私がリードさせて貰うよ? じゃあ、試しに私をハニーと呼んでごらんよ、ダーリン」

 

「了解だ、ハニー」

 

 さて、不安な作戦になりそうだ……。




感想お待ちしています  さて、評価を再び浮上させるぞぉ 次回は甘めで イチャイチャシーン予定  新キャラは・・・気分次第


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彼に嫌われると思うだけで辛いけどどうすべきだい?

 鏡に映る完全無欠の美少女()の姿についつい見とれてしまう。この世界の主役たる私に相応しい美貌とスタイル。愛しい子猫ちゃん達が夢中になるのも納得だ。……まあ、今攻略中の子達は照れ屋さんだから素直に私への好意を出さないし、煩わしいことに男まで寄って来るのだけどね。

 

 私に惚れて良い男は彼だけだというのに本当に煩わしいと思いながらお気に入りのライダージャケットのチャックを上げていると途中でキツくなった。

 

「……あれ? チャックが……あっ」

 

 一瞬太ったのかと思ったが、よくよく思い起こせば胸がまた大きくなったのを思い出す。手足がブカブカになるからあまり大きなサイズは買わないようにしているが、この赤いライダージャケットは前に一人で買い物に行ったときに買ったっきりで初めて着るので買い直すのは嫌だと思う。

 

「さて、行こうか」

 

 胸が少し苦しいがピチピチになって体のラインが分かることで私の色気が増すのだから何一つ問題はない。ただ、彼がどの様な反応を示すのかが気になった。

 

 

 

「お待たせダーリン。さっ、楽しいデートに出掛けようか」

 

 先に着替えて外で待っていた彼の背後から忍び寄り、不意打ち気味に背中に体を預ける。無論、胸に体重が掛かって強く押し当てられる様にだ。だが、残念なことに予想されていたのか驚いた様子はない。少し残念に思っていると彼が振り返った。

 

「確かに恋人の演技をする上でその呼び方は了承したが……」

 

「ん? 言葉が止まるほど私が魅力的だったのかい?」

 

 珍しく言葉を途切れさせて私を見つめる幼馴染みを何時もの様にからかいながら正面から抱きつこうとするが避けられる。彼に接触を拒まれるのは嫌なので再び抱きつこうとするが、彼が顔を逸らしているのが目に入った瞬間、頭が真っ白になった。

 

「……えっと、もしかして怒っているのかい? も、もしそうなら何でもするから許してくれ。君に嫌われたら生きていけないんだ」

 

 自然と涙声になり目にも涙が溜まり始める。まるで拒絶するような彼の態度に胸が締め付けられるようで悲しかった。縋るようにして彼に抱きついた時、気まずそうな彼の声が聞こえてきた。

 

 

 

「……あー、なんだ。その格好が非常に似合っていてだな。恥ずかしくて直視が出来なかったんだ。不安にさせたなら謝ろう」

 

「……本当かい? うん、別に気にしていないから構わないよ。でも……ふふふ。君が素直に誉めるなんて珍しいじゃないか」

 

 ホッと胸をなで下ろすと彼の指先が涙を拭う。それにしても良いことを聞いた。今まで下着姿やバスタオル一枚の時にも慌てたが、今回みたいな反応ではない。水着の時も直視できないって事はなかった。つまり、彼はこういった服が好みだってことだ。

 

「そうかいそうかい。自分から言うなんて、君も漸く私が美少女だって理解したのか。なら、今からのデートが楽しみだろう?」

 

 彼の服装の好みは露出系よりも密着系だったと知れたのは本当に良かった。彼にずっと側に居てもらう為に一番の方法は男女の仲になる事だ。どのみち彼以外の相手など考えられないし、子猫ちゃん達を集めたハーレムの中で特別扱いをしてあげても良いとさえ思っている。

 

 だからこそ、彼の好みに一歩でも近付きたいと思うし、幼馴染みとしてではなくって女として見て欲しいと思う時もあった。この発見は本当に嬉しいよ。じゃあ、彼の照れる姿をもう少し堪能しよう。

 

 

 

 

「いや、俺は前からお前が美少女だと認識していたぞ? 少なくても好みの見た目程度には思っていた。だからまあ……そういった格好のお前と出掛けるのは本当に楽しみだ」

 

「う、うん……ありがとう」

 

 胸がドキドキ高鳴り、顔が一気に熱くなるのを感じた私はサッと反転してバイクの上のヘルメットを被る。照れる、本当に照れる。あー、少しの間、彼の顔を直視出来そうにないな。……まったく、不意打ちとか反則だよ、反則!

 

 

 

 

「見えてきたが……矢張りな」

 

 目的地である喫茶店間での道中で何とか余裕を取り戻した私と彼が到着すると店の駐輪場には何台ものバイクが見える。窓から店内を見ればカップルの姿が多いようだ。たぶん怖いもの見たさで集まったんだろうけど、男は帰って良いよと思うし、予想していたのか彼も困った様子だ。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ここが噂のホラースポットよね」

 

「知ってる知ってる。この店に来たその日一番のベストカップルの前に首無しライダーが現れるんでしょ」

 

「私も彼氏が出来たら一緒に来ようかなー」

 

 店に入って評判のパンケーキのセットとフライドポテトを待っていると背後の女の子達の会話が耳に入ってくる。良い、実に良い。女の子が女の子している瞬間は実に素晴らしい。耳を澄ませているだけで時間が経つのを忘れそうだと感じていると注文の品が運ばれてきた。

 

「お待たせしました。パンケーキとドリンクのセットに大盛りフライドポテトです。ごゆっくりどうぞ」

 

 早速食べようと思いながらそれとなく周囲を観察する。カップルで来ているのに私に見とれている男の視線が鬱陶しい。直ぐに彼女の怒りを買って謝っているけれど、あんなのを守るために戦うと思うと情けなくなる。

 

 

「……ねぇ、あの人格好良くない? ほら、窓際の席の」

 

「本当だー」

 

 私に鬱陶しい視線が集まるように彼にも女の子の視線が集まり、注目する会話が耳に入ってくる。何故か腹が立ってきた‥…さて、任務に集中しよう。私は気分を切り替えるとパンケーキをカットし、フォークに刺すとそっと前に差し出した。

 

「ほら、ダーリン。あーん」

 

「……了解だ、ハニー」

 

 甘い声で周囲に見せつけるようにパンケーキを彼の口に運び、今度はフォークを彼に手渡す。ふふふ、事前の打ち合わせで強引に納得させたし、ターゲットに選ばれる為だから拒否は出来ないよね。実際、照れながらも差し出してきた。

 

「お返しだ、ハニー。ほら、あーん」

 

「あ、あーん」

 

 彼が照れているからか私も恥ずかしくなってきた。彼をリードする予定が狂って困るなぁ。互いに相手に食べさせあい、予定では同じフライドポテトを両端から食べるはずだったんだけど、頭が正常に働かなくって忘れてしまっていた。

 

 

「……仕方ない。失敗してもいけないし最後の手段に出よう」

 

 会計を済ませ、二人で店を出る。でも、このまま帰る訳じゃないんだ。もしもの時って口実で私が提案していた事をする時がやってきた。

 

 

 

「……何照れているんだい? キスなら何回かしただろうにさ」

 

「照れるものは照れる。お前が相手だしな」

 

 二人で人目がない店の裏で顔を近づける。そう、今からキスをするんだ。実際、遭遇したカップルの殆どがキスをしていたらしいしね。でも、普通のキスじゃ面白くない。だから私は彼を壁に押し付けると右手を掴み自分の胸に押し付けた。彼の指が布越しに私の胸に当たり鼓動が高鳴る。普段なら多少の色仕掛けをしてもこうはならないのに、、きっと出掛けるときに言われた言葉のせいだ。

 

「……抵抗したら駄目。君は私だけを見ていれば良いんだ」

 

 驚いた彼の耳元で囁き、喋るよりも前にキスで唇を塞ぐと同時に強く体を押し付ける。二人の体に挟まれた彼の手は私の胸にいっそう強く当たり、私はそれを意識しながら足を彼に絡ませ夢中で唇を貪る。私の方が力が強いから抵抗は意味を成さず、暫く頭がとろけそうになるのを感じていた。

 

(あっ、これ良い。彼に強引に迫って一方的に責め立てるのって凄く興奮する。……うん。絶対に君は私のモノにしてみせるぞ)

 

 この時、一瞬だけハーレムじゃなくても構わないと思ってしまった。まあ、諦める気は無いけどね。ふと手を見ると私の手の甲に変な模様が浮かび上がるそれは彼も同様で無事にターゲットに選ばれたようだ。

 

 

 

「じゃあ、覗き見野郎を倒しに行こう」

 

「……ああ、そうだな」

 

 顔を背けて先に行こうとする彼の腕に慌てて抱き付く。だって私達はカップルなんだからこうしないと不自然だからね。

 

 

 

 

 そして夜、バイクを走らせる私達の後ろから人間ではない気配と共に一台のバイクがけたたましい音と共にやってきた。

 

 

 

 

 

 

 でも、私達が攻撃するより先に、待機していた刹那の跳び蹴りが首無しライダーの脇腹に突き刺さった、……白か。

 

「……貧乳の敵は消え去るべし!」

 

 派手に転倒した首無しライダーのマウントを取った刹那は無表情で殴打を繰り返す。分析によると顔を見ようとした相手の前方にピアノ線を張る力があったみたいだけど、あれじゃあ使う暇も無いだろうね。

 

 一撃の度に首無しライダーの下のコンクリート製の道路にヒビが入り、攻撃の凄まじさを物語っている。うん、任務完了だね。じゃあ、このまま彼をツーリングの続きにでも……。

 

 

 

 

「おい、遥。まだ時間があるし、噂の絶景スポットでも見に行くか?」

 

「……うん!」

 

 本当に参ったなあ。何が何でも君を手に入れたくなっちゃうじゃないか……。

 




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私の疑問が解消されず辛いのですがどうすべきでしょう?

「最近遥の様子がおかしいのだが……」

 

 放課後、相談が有るというので委員長に付き合って入ったラーメン屋にてチャレンジメニューの『煉獄麻婆豆腐』と『テラ盛りキムチ炒飯』を食べる手を思わず止めてしまう。

 

 あの遥さんの様子がおかしいという事は品行方正で男女の区別無くあたりが優しく、淑女の様になったとでも言いたいのでしょうか? いえ、有り得ませんね。

 

 あまりにも馬鹿馬鹿しい考えを振り払い食事に戻ろうとした時に私はとんでもない過ちに気付く。折角委員長と食事をするのに何て物を頼んでしまったのでしょうか、私は。

 

「辛い物だけだと途中で飽きそうですね。……杏仁豆腐五皿お願いします。あと、ソフトドリンク全種類」

 

 店員さんに追加を頼み、ふと横のテーブルを見れば隣のクラスのカップルの姿。少し思う。今の私達も端から見ればデートに見えるのかと。

 

「餃子二十皿追加で……」

 

 だから二人でシェア出来る物を頼みます。いえ、何度も何度も言うように私にとって委員長は頼りになって近くにいると安心できて気付けば頭の中に浮かんでいるだけの優しくて格好の良い仲間に過ぎません。すぎませんが……組織のことは内緒なので一緒にいる理由が必要ですし、恋人と思われても別に構わないのです。ええ、只それだけです。私に普通の幸せなど不要ですから。

 

 

「……チャレンジメニュー完食です」

 

「おい、轟。口元に米粒が付いているぞ」

 

 制限時間の半分で食べきったので別のチャレンジメニューを頼もうと思った時、委員長が手を伸ばしてくる。私の脳裏に先週の神無さんと委員長のやり取りが浮かびました。

 

 

 

『おい、口元にソースが付いているぞ』

 

『おや、悪いね』

 

 神無さんの口元を指で拭い、指先のソースを舐める委員長。つまり今から私の口元の米粒を委員長が……。それって間接キス……。

 

 

 

 

「ほら、ちり紙。お前の場所からだと皿が邪魔だし箱の置き場所を変えるか?」

 

「……いえ、結構です」

 

 一瞬感じた胸のドキドキを何処に向けるべきか悩んだ結果、取りあえず次の店でチャレンジメニューを制覇しようと心に決める私でした。

 

 

「ああ、言い方が悪かったな。遥の奇行は相変わらずだが、内容が変わってきていてな……正直参る」

 

「成る程、悪化したのですね。私に被害が来ないように頑張って下さい」

 

 少し冷たい気もしますがクラスの女子の会話によると偶に冷たい態度を取る方が男女関係ではギャップが出て良いのだとか。漫画の話ですし、私は別に委員会の事を魅力的だとは思っていても男性としての好意を向けているわけでは無いのですが、仲間ですし男と女には変わりないので同じでしょう。

 

「……ですが愚痴ならお聞きします」

 

 冷たくしてからの優しさってこれで良いのかと迷いつつ餃子を流し込む。春巻きも食べたくなりました。

 

「ああ、実は……」

 

 

 

 遥さんがアリーゼ達対策として委員長の家に住んでいるのは知っています。家が隣なので別に一緒に住む必要もなく、私も護衛程度ならこなせるので私が住むべきかとも思いますが、それは追々支部長への提案内容を考えるとして委員長に何があったかを聞くことにしましょう。もしかすれば委員長が好む事について知る機会があるかもしれませんし……仲間として興味があるので。

 

 

 

 

「……朝から人の上に乗るな馬鹿者」

 

 朝、仰向けで寝ていた委員長は目を開けなくても腹の上の物の重さで神無さんが乗っていると分かったらしく、脇腹を抓ろうとして違和感を覚えました。どうやら手触りが素肌や寝間着とは違ったらしく、目を開けてみると競泳水着姿の神無さんが居たそうです。

 

「朝からということは夜になったら上に乗ってくれって事だね? ふふふ、参ったなあ。でも君の頼みなら仕方ないや。ほら、私に向かって優しく抱いて下さいって言ってごらん? 一緒に極楽に行こうじゃないか。……後悔はさせないぜ?」

 

「いや、違う」

 

 肩紐を半分ずらし、顔をズイッと近寄らせますが委員長は流石と賞賛すべきでしょう。真顔のままです。……所でわざわざそのような格好にしたという事は露出が高いのよりもラインが分かる服の方が好みなのでしょうか? スクール水着やサイズが小さい体操服、ブルマは……さて、冗談は此処で終わりです。

 

「今は一緒に台所に行って朝飯を作るぞ。早起きしたなら手伝え」

 

「照れちゃって可愛いなあ。ああ、そうだ。朝御飯を食べたら君を食べたいな。勿論服は私が脱がせてあげよう全部委ねると良いさ」

 

「…何度も言うが、俺を口説くならハーレムを諦めてからにしろ。話はそれからだ」

 

「……君は不動のお気に入りナンバーワンでもかい? それと朝ご飯に君の卵焼きが食べたいな。砂糖で頼むよ」

 

 この後、二人で肩を並べて料理をしたそうですが共同生活をするなら当然ですし、私も自炊の幅を増やしたいので委員長に指導をお願いしましょう。神無さんは邪魔をしそうなので二人だけで。

 

 

 

 そして夜は夜で委員長の部屋に勝手に入り込んでいたばかりかバスタオル一枚でベッドに寝転んでいたとか。

 

 

「悪いけどマッサージをしてくれるかい? 胸が大きいと肩がね……」

 

 話の途中で思わず箸を咬み砕いてしまう。ああ、矢張り私に胸は必要ないあんな脂肪は化け物との戦いで防具になりはせず、肩が凝るなど邪魔でしかないですから。私は何をビックリしているのか固まっている委員長に話を続けるように言いました。

 

「……変な所は触らないでくれよ? 触ったら罰として君を抱くからな」

 

「それは別の責任が発生しそうだな。触らないから安心しろ」

 

「……触って良いのに」

 

 ……しかし彼女も大概ですね。私や治癒崎さんを筆頭に美少女を口説いてきましたが、此処に来て委員長まで追加ですか。委員長は真面目な方ですから見え透いた色仕掛けに屈さないなど長所が多く、狙う気持ちも分かりますが。

 

此処まで話を聞いた様に今までも(無駄な)色仕掛けを委員長にして来たのが急に内容が変わったそうです。

 

「Sっ気を向けられて困っていると。急ですし、只の気紛れに悪戯しているだけだと思います。……(私はSかMならMですよ)

 

 最後の言葉は聞き取れない大きさで。ええ、仲間ですし、委員長の反応からS相手が好みじゃないと思ったので何となく言っただけです他意はありません。仲間なら平等が一番ですから。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は助かった。こんな悩みを相談できる友人は五十人ほどだけなのだが、裏の話が絡むと轟だけだからな。治癒崎や焔も居るがお前が一番話しやすい」

 

「……そうですか。何よりです。では、私はここで」

 

 恐らく誰かに何かされたらしく今の私は委員長に見られたくない顔になっています。なのでプイッと背中を向けて歩き出しました。

 

 

「そうそう。お礼と言ったらなんだが、轟、すき焼きを食いに今夜家に来るか?」

 

 ぴくりと反応して足を止める。委員長の家にお呼ばれですか。この時、少し悪戯を思い付きました。

 

 

「……委員長、私を名字でしか呼びませんが名前を覚えていますか? 試しに今夜のお誘いですが名字を名前に変えてもう一度。呼び捨てで構いません」

 

「覚えているさ。刹那、スキ……」

 

「ああ、予定を思い出しました。では、今夜お邪魔します!」

 

 自分で驚くような大声で私は立ち去っていく。変だと思われていないと良いのですが……。

 

 

 

 

 

 家に帰り、先ほど録音した物を再生する支給された物だけあって携帯の録音機能は高性能でした。

 

『刹那、スキ』

 

 ……これは悪戯に過ぎません。ですからもう一度再生を……。

 

『刹那、スキ』

 

 ……もう一度、もう一度だけ……。気が付けば三十分の間私は再生を続け、鼓動は高鳴り顔が熱くなっていました。

 

 

 

 

 

 

 

「……私は何故こんな事を」

 

 別に委員長が好きなわけではないのにと。ですが、その問いに答えをくれる方は居ませんでした……。

 

 

 

 

 




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俺の幼馴染の依存が深くて辛いのだがどうすべきだろうか?

朝は時間あったからギリギリ投稿 間が空いたからね


「君、芸能界に興味ない?」

 

 とある休日の昼間、遥と飯を食いに行った後、カラオケで散々デュエットに付き合わされて少し疲れてきた時、一人の青年が話し掛けてきた。どうも古いカラオケボックスだからか音漏れがかなりあったらしく、芸能事務所のスカウトマンの彼は遥の歌声と容姿なら絶対に成功すると思ったらしい。

 

「興味ないね、微塵もない。むしろあった方が奇跡だよ。彼氏とデートの途中なんだ、邪魔しないで欲しいんだけど?」

 

 予想はしていたが容赦のない眼差しと口調で即座に拒否する遥。せめて名刺だけでもと差し出されるが受け取ろうともしない。だが、この青年も引き下がらない。どうも何を血迷ったか百年に一人の逸材と評価し、人に知られないのは勿体ないと言い張るのだ。

 

「……仕方ないな」

 

 遥の機嫌が見るからに悪くなっていくし、何かと思って集まった野次馬で人集りが出来て通行人の迷惑になる。少し抵抗があったが背に腹は代えられないと俺は覚悟を決めた 

 

「君も彼女を説得して……」

 

「悪いが断る。此奴と過ごす時間が減るのは悲しいからな。行くぞ、遥」

 

 即座に膝裏と腰に手を回して遥を抱き上げると駆け出して行く。背後から制止の声が掛かったが止まるはずもなく、付いて来られないように少し離れた距離にある公園まで逃げていった。

 

 

 

 

「しかし、私と一緒にいるのがそんなに幸せなのか~。うんうん、素直になったじゃないか。ご褒美をあげよう。キスして良いぜ?」

 

「黙って漕げ。代金が勿体ない」

 

 遥の希望で公園の池でアヒルボートを借りたのだが、急に先ほどの会話を持ち出して得意そうに笑う遥は俺の肩にあたまを乗せて得意気だ。此奴と一緒なのは当然のことで離れるのは落ち着かないから嘘ではないが、キスに繋がる程ではない。直ぐにこういった話題に進めるのは本当に悪い癖だ。

 

「……でもまあ、嬉しかった。何時も私から言って君が同意してくれるけど、君からは中々言ってくれないからね。少し胸がドキドキしてきたぜ」

 

「更年期障害……嘘だ、冗談だ、剣をしまえ。……しかし断るときに一切躊躇が無かったな。お前なら誉め言葉に調子に乗ったり、アイドルや女優と知り合えると少しは興味持ちそうなものだが……」

 

「それで君との時間が減ったら意味がないじゃないか。確かに私は子猫ちゃん達と遊んでいるけど、君と一緒にいるのが一番なのは変わらないんだ。まっ、色々摘まみ食いしたくなるのと同じだよ。……だから君の周りに女の子が増えて嫉妬しているんだぜ?」

 

 拗ねているのか頬を膨らませ顔を背ける遥の姿に不覚にも可愛いと思ってしまう。思わず抱きしめて頭を撫でたくなったがグッと堪え、平静を装った。

 

「それならナンパやら何やらを控えろ。その時間に相手をしてやる。お前が望む事にも……まあ、極力付き合おう」

 

「……じゃあさ、手を握って欲しいな」

 

「その程度なら、ほれ」

 

「……うん、嬉しい」

 

 急に沈黙して俯く遥。何となく恥ずかしくなった俺は遥の手を握ったまま反対方向を向く。しかし昔から思っていたが、遥は俺に依存しすぎな所があるな。口説いた女子とデートしても俺と遊ぶ方が楽しいと一度きりで止めてしまい、俺がその相手から相談を受ける始末。

 

 

 

 

「じゃあさ、次はね……私のベッドの上で絡み合おうぜ!」

 

「却下だ、馬鹿者!」

 

「えー? こんな美少女に抱いて貰えるんだぜ? ……あっ、初体験は攻めの方が良かった? 仕方ない。最初は君に譲ろう。でも、代わりに私のハーレムに入るんだ。……一線を越えて良いのは君だけだ。悪い話じゃないだろ?」

 

「いや、非常に頭の悪い話だ」

 

 俺以外の男とも友人程度に仲良く……はしなくても良いが、口説く対象にしない同性の友人の一人でも居れば落ち着くと思うのだが、と悩むも中々浮かばない。

 

 

「あっ、居たな」

 

 

 

 

 

 次の日、俺は早速美少女なら節操なしに口説きにかかる遥が口説こうとしない女子、エリアーデに遥と友人になれないかと聞いてみた。

 

「いや、突然だね!? っと言うか私、彼女にきらわれているんだけど!?」

 

「第一印象と普段の行動が最悪だからな。だからこそ口説く対象に選ばれないお前は遥の友人に成れる……のか?」

 

「いや、聞かれても困るんだよ!? 委員長君、君は友達多いんだし、友達になる方法位知っているんだろう? 私、心理学は専門外なんだねっ!」

 

 友達の成り方、正直言って分からない。友人全部普通に話してたら友人になっていたし、成り方と言われても困る。

 

「友人って普通に出来るものじゃないのか?」

 

「お前、今世界中のコミュ障を敵に回したんだねっ!」

 

 成る程、どうも俺はデリカシーが足りていないらしい。やはりエリアーデはボッチだったか。これはお詫びをしなくてはな 

 

 

「此処は謝罪させて貰う。ああ、俺で良ければ今から友人程度に思ってくれて構わないぞ」

 

「え? 君の中では私は友人じゃなかったのかね?」

 

「え?」

 

 どうも言葉を間違ったようだ。だが、初対面で実験材料扱いし、普段から珍妙な発明で迷惑を被っているのだから無罪を主張したい。

 

 

 

 

 

 

「……ふーん、へーん。じゃあ、彼奴と少し関係が進んだって訳かい」

 

 その日の夜、ベッドの上でトランプをしながら今日の話をしたのだが、エリアーデとの件がお気に召さなかったようだ。ジト目を向けて不機嫌そうになる。こうなると本当に厄介で機嫌を直すのが大変なんだ。

 

「よし。何か要求を言え。それで手打ちにしようじゃないか」

 

「……仕方ないなあ。じゃあ抱かせて……は流石にこんな形で進めるのは抵抗があるし、でも、君をつなぎ止める為にも関係を進めたいし……」

 

 腕を組み、ウンウン悩みながら要求を考える遥。安心しろ、流石に拒否していた。此奴とは幼馴染みのままでしかないが、見た目は好みだし関係が進展することに抵抗がなくなって来たのは認める。だが、俺にとって大切な関係性だったから安易に変えたくはないのだ。

 

「……今日のところは予行演習で我慢しておくよ」

 

 少し惜しそうにしながらも遥はベッドの上のトランプを片付ける。俺が勝ちそうだったのに勝負が有耶無耶にされて惜しい気持ちだ。

 

「……予行演習?」

 

 遥の言葉の意味が分からず聞き返す中、彼女はベッドに寝転がると抱き締めて欲しいかのように両手を伸ばしてきた。

 

 

「今晩は私を抱き締めて眠るんだ。それだけで良い。……でも、抱き締めた時に私を口説き欲する言葉が欲しいな……」

 

 最後の方は照れている様子で俺まで恥ずかしくなる。だが拒否はできない。したら泣く。泣かせたくはない。俺は遥を抱き締めて布団をかぶり、耳元でそっと囁く。

 

 

「……お前が欲しいんだ、遥。抱くぞ」

 

 ……ああ、明日はちゃんと顔を見られたら良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝たのかい? ちぇ、寝ちゃったのか。言うだけで良いって私が言ったけど……少し本気にしちゃったのにな。君になら嫌われる以外なら何をされても良いのに……」




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俺の幼馴染みへの理解が間違っていたようで辛いのだがどうすべきだろうか?

「さてと……」

 

 昼休み、弁当ではなく鏡と櫛を取り出した遥が珍しく髪を整え出す。寝起きは酷く、俺が毎日セットしてやっているのだが、それ以外では風が吹こうが全力で動こうが一切セットが乱れず、その容姿に陰りなど現れないのが此奴であり、だからこそ身嗜みをわざわざ整えて何処かに行こうとした遥の腕を掴んで動きを止める。絶対に禄な事をしないからだ。

 

「おいおい、ずっと私と居たいのかい? 私もだが、今から一年の転校生を口説きに行かなければ駄目なんだ。美少女だと聞くし、口説くのが礼儀というものだろう」

 

「お前は一度礼儀という言葉を辞書で調べろ。それにだ……」

 

 腕に力を込め強引に引き寄せて受け止めると逃げられないように肩を掴む。転校早々この馬鹿に関わるなど不幸にも程があるからな。

 

「お前は俺と昼食を食べろ。……良いな?」

 

 何故かクラスの女子がキャーキャー言っているが何か変なことを言っただろうか? 遥は何やら固まって動かないが妙だと思う。だが、杞憂だったようで椅子に座る俺の膝に座り込んだ彼女は何時もの笑みを浮かべていた。

 

「ああ、仕方ないなぁ。君が遥ちゃん超絶美少女、結婚してと言うなら妥協してあげよう。君の膝を椅子代わりにして良いのなら一緒にご飯にしようじゃないか」

 

「美少女だとは思っているし、膝の上に座りたいのなら座ればいい。結婚もまぁしたくない訳ではないが……其処までは言っていないぞ? 大体、俺と居るのが一番と言いながら何故次々と手を出そうとするんだ。俺の苦労も考えろ」

 

「君は馬鹿かい? 一番好きなモノだけじゃ面白くない。一番好きな君をずっと側に置いて色々楽しむのさ」

 

 得意げに言いながら俺の顎を撫でてくる遥。今、俺に馬鹿と言ったか? 俺が遥などに馬鹿と言われた? 俺は凄いショックを受け、仕返しする事にした。

 

 弁当箱の蓋を開ければ俺手製の遥好みに作った弁当が姿を現す。クラスに未だ大勢が居る中、俺は膝の上の遥の口に卵焼きを運んだ。

 

「今日は俺に食べさせられておけ。拒否するなら明日から卵焼きは出汁巻きだ。甘いのは暫く作らん」

 

 好物を脅しの材料にし、遥に弁当を食べさせる。脅しが利いたのか大人しく食べる遥だが、大勢に見られているのだから恥ずかしいだろう。馬鹿に馬鹿と言われた屈辱、これで晴らしてやろう。

 

「……こういうの良いな。照れるけど、君に食べさせて貰うのって幸せだよ」

 

 ……俺は失敗したかもしれない。普段の言動からSだと思っていた遥だがMなのかも知れないとは。何から何まで理解など無理とは分かっていても少し寂しい。さて、手を止めずに食べさせるか。手元や遥の口の状態は見えないが、咀嚼のタイミングなどは分かっているし、食べやすいタイミングで与えてやれば良い。

 

「ふぅ、御馳走様。あっ、君は食べられてなかったじゃないか。……仕方ないなぁ」

 

 遥は手で解放するように指示し、俺が従うと俺の弁当と箸を手に向き直るとその状態で俺の膝の上に座る。此処まで接近すれば顔に息がかかるし、胸が押し付けられるのだが遥は気にせず、今度は俺が食べさせられる事になる。

 

「ほら、あーん。ふふふ、本当に幸せだ。まるで新婚夫婦みたいじゃないか」

 

 成る程、言われてみればその通りだと思う。どうやらMだと思ったのは勘違いで、新婚みたいなやり取りが楽しかっただけのようだ。それにしてもクラスの中で人に食べさせて貰うのは些か照れるものだ。少し悪いことをした気分だし、お詫びでもするか。

 

 

「おい、遥。帰りに駅前の喫茶店にでも行かないか? 彼処のパンダパフェが好きだろう?」

 

「おや、デートのお誘いかい? ふふん。じゃあ私の手の甲にキスをするならついて行っても構わないぜ!」

 

 グッと親指を立てて笑う遥。本当に調子に乗っているなと呆れてしまう。流石に人前でそのようなことが出来るかと言いたいが、言っても無駄だろう。

 

 

「そうか、残念だ。お前と寄り道したかったのだがな……」

 

 この時、本当に落ち込んだ。大勢の前で言った手前、覆すのは難しいだろうし、帰り道に結局寄ることになるが、落ち込みモノは落ち込む。

 

「……なら、私がご一緒しましょうか、委員長?」

 

 横から轟が袖を引っ張って来る。何やら期待している顔で、奢ると財布に響きそうだから怖いとは流石に言えない。さて、どうするべきかと悩んだ時、今度は治癒崎が背中に飛びついて首に手を回す。

 

「じゃあ、私も行きたいなー」

 

 あの店は店員が全員着ぐるみの変わった店だがカップルが多く、一人だと行きづらいのかと俺は判断する。誘うのも照れるから一緒に来てとは頼めないのだろう。気軽に頼めないほど信頼されていないのは残念だ……。

 

「おや、二人も来たいのか。なら私が行かない理由はないね。美少女在るところに私ありだ。さぁて、私達の蠱惑的な時間を楽しもう」

 

「……ふぅ」

 

 未だ遥は俺の膝の上。腰に手を回して抱き締め、辞書を振り上げる。数種類の能力を同時発動し、脳天に叩き落とした。

 

「ぶげっ!?」

 

 相変わらず醜態を晒す奴だ。もう全部が台無しで情けなくなる。っと言うか本当に此奴は毎度毎度……。

 

 

 

「お前は俺と二人で喫茶店に行くんだ、良いな?」

 

「……うん。変な条件出してごめんよ……」

 

 どうせ後で拗ねるのだし遥と行くのは仕方がない。轟や治癒崎と一緒に行く場合、男の俺が出さなくては駄目な空気になりそうだ。今回遥と行くことで誤魔化そう。……誤魔化せると良いな。

 

 

 ……しかしまぁ、此奴は此奴らしいのが一番なんだが、こうして素直にしてくれたら魅力的だと思うのだがな……。

 

 

 

 

 

 

「なあ、良いだろ? 遊びに行こうぜー」

 

「良いところに連れて行ってやるからよー」

 

 駅前の喫茶店『正体不明』に行く途中、うちの学校の制服を着た女生徒がガラの悪い二人組に絡まれていた。金髪にピアス、ボタンを外して胸元全開にした典型的な不良ルック。俺は溜め息を吐くと遥を待たせて近寄って行った。

 

 

「おい、止めてやれ。嫌がっているだろう」

 

 俺の言葉に二人は振り向き、表情を一変させた。

 

 

「委員長っ!? 久し振りだな、おい!」

 

「変わんないなー! え? この子知り合い? まぁ、委員長に言われたら仕方ねぇかー」

 

 この二人、中学時代の同級生だった奴らだ。一瞬威圧するような表情をするも、俺が誰か分かると嬉しそうに肩を叩いて来る。根は悪くない奴らだからな。友人とはいえ、こうもアッサリ言うことを聞いてくれるのだから嬉しい。

 

「あ、あの……」

 

「知り合いがすまんな。もう大丈夫だから安心しろ。じゃあ、俺は此処で……」

 

 放置すれば拗ねる遥の元に急ぎ、喫茶店に向かう。しかし、なぜ店員が着ぐるみなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、昨日のお礼に……お弁当を作って来ましたっ!」

 

 昨日の少女がクラスにやって来た。面倒事の予感がする……。

 




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俺の幼馴染みが直ぐに調子に乗って辛いのだがどうすべきだろうか?

また予知夢が発動した。もう慣れたし、それ自体は問題ない。だが、流石にこの内容は無いだろう……。

 

「……おい、流石に冗談では済まないぞ、遥」

 

 大人の俺は切羽詰まった様子で遥に止めるように言うが、全く言うことを聞く様子がない。寧ろ、俺が抵抗することにさえ快楽を感じているようだった。

 

「んっ! そんな事言わないでおくれよ。今、とっても気持ちが良いんだ。君だってそうじゃないのかい? 私と一つになってさ……」

 

 この時、俺は馬乗りになった遥に無理矢性行為をさせられていた。床に散乱する酒の空き缶、脱ぎ散らかされた衣服。俺の服は無理に脱がされかけている状態だ。身体能力はレベルによる関係で遥の方が高く、力で引き剥がせない様子。結果、なすがままだ。

 

「あはっ、あはははは! 今、漸く分かったよ。私は子猫ちゃん達より君が……」

 

 流石に自分と遥の濃密な性行為を見せられるのは精神的にキツいと思った時、目の前の光景が煙のように揺れて溶けて消える。気付けばベッドの中で目を閉じていた。

 

(……僅かにコントロール出来るようになったのか?)

 

 何やら肉体に違和感があり、それが何か予想が付いていた。この世界に転生した際に既に今の状態に至っていたが、混乱を避けるためか存在したこっちの世界での人生の記憶。そこにヒントがあった。

 

「レベルアップか。……少し厄介だ」

 

 試しにその辺に置いてあってペンを握ってみると音を立てて折れる。レベルの上昇による身体能力の強化の影響だ。……今日は学校を休んで体を慣らさなければ。

 

 

 

「やあ、お早う」

 

「お前が早起きして朝ご飯を作っているとはな。……救急車は必要か? いや、必要だな」

 

 毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日っ! 俺が苦労して起こしている遥が俺よりも早く起き朝ご飯の支度をしている。ふと目を向ければテーブルの上には既に用意された二人分の弁当。これは絶対に病気に違いない。感染症でない事を祈ろうと俺が本気で思ったのが伝わったのか、遥はやや不機嫌そうな顔をしながらも二人分の飯を机に並べた。

 

「私だって早起きくらいするさ。ああ、これからは弁当も当番制ね。ほら、君の好きな出汁巻き卵だ」

 

「お前、本当にどうしたんだ?」

 

「……私が作れば昨日の様な事にはならないだろ? 私が君の為に作ったんだ、当然だ」

 

「昨日の様な……?」

 

 はて、何のことかと思考を巡らせる。昨日は又しても全裸で布団に潜り込んできた遥が起き抜けにキスをしてきたので辞書で殴り、登校時に腕組みをせがんできたので仕方なく五分まで了承したけど結局十分まで延長する羽目になり、夜はバスタオル一枚で背中を流すと言って風呂に入ってきただけだが……。

 

「ああ、昼のことか」

 

 友人達から日頃のお礼として何かを貰うのは良くあることだから忘れていたが、中学時代の友人に絡まれていたから止めるように言った見慣れぬ後輩がお礼と言って弁当を作ってきたな。

 

「あの後落ち込んでいたが大丈夫だろうか……」

 

 俺は自分で作ってきたのがあるが、だからと言って貰わないのも無礼だ。幸い、一人分しか作れなかったと言ったので代わりに自分のを渡したが、弁当箱を返すときに消沈した様子だった。渡したときは喜んでいたのに、負けたの何だの呟いて少し妙だったな。……ダイエット中だったのに誘惑に負けて食べ過ぎたのか?

 

「ふふん。刹那達も君の弁当を食べてみたいと言っていたが失敗したね。少なくとも今日は私の手料理だ。嬉しいかい?」

 

「ああ、そうだな。お前の料理は美味い。寝坊助だから休日しか昼に食べられないが、こうして朝昼食べることが出来て幸せだ」

 

 本心で思う。自分の拘りの料理も良いが、遥の料理も美味しい。毎日三食だって食べられる程にな。

 

「そ、そうかいっ! ふふふ、漸く君も私の魅力にメロメロって訳だ」

 

「いや、違うぞ? 後、悪いが俺は学校を休む。どうもレベルアップした様でな。身体能力を今日一日かけて馴染ませなければ……」

 

 この瞬間、俺は失態を犯したと察する。遥は一瞬キョトンとした後、最高に機嫌が良さそうな顔になって俺に擦り寄って来た。後ろから首に手を回して絡みつかせ、体重を預けて胸を押し付けると耳に息が掛かる距離で囁いて来た。

 

「なら、今日一日は私が何から何まで世話をしてあげるさ。食事も私がさせてあげるし、着替えも私に任せたまえ。……ああ、どうせなら性欲処理も任せて貰おうか。さっそく風呂場に行ってさ」

 

「いや、別に良いから学校でのフォローを頼む。風邪を引いたとでも言っておいてくれ」

 

「ええい! それでも健全な男子高校生かっ!」

 

「少なくともお前は健全な女子高生ではないな」

 

 服の中に滑り込ませようとした手を振り払い、これ以上するなら容赦しないとばかりに辞書を見せ付ける。やや不満そうにしながらも遥が離れたので朝飯をゆっくり食べようとしたのだが、手元から箸が折れる音がした。

 

 

 

「はい、あーん。まったく素直じゃないんだから」

 

「……あーん」

 

「どうせなら口移しで食べさせてあげようかい?」

 

 結局、朝飯は遥に手伝って貰う事になったのだが、はっきり言って恥ずかしい。昔から俺がこいつの世話を焼く事があっても、此奴が俺の世話を焼くなど殆ど無かったからな。悪い気はしないのが幸いだが、確実に調子に乗りそうで不安だ……。

 

 

 

「あっ、着替えはどうする? 勿論私が下着まで着替えさせてあげるけど」

 

「いや、裏を知らない級友が見舞いに来た時の為に寝間着で居よう。慣らしの為のトレーニングなら家で出来るからな」

 

 

 

 

 

 

『そうか。なら慣らしが終わったら申請書類を書いておけ。レベルがⅣになったのならば手続きが必要だからな』

 

 何とか電話を使って父さんに連絡した後、トレーニング器具を使って体を動かしていく。重りを変え、器具その物を変え、普段の速度や力と同じ数値が出るまで調整を繰り返す。何とか慣れて来たのは昼飯前、遥が置いて行った弁当を食べる前に携帯を見ると画像付きのメールが送られてきている。遥からで件名は大丈夫かい? だ。心配してくれたようだな。まずは有難うとお礼のメールを送り、開き忘れていた画像を開く。

 

 

 

 

「……先程のメールは取り消しだ、馬鹿者め」

 

 送られて来たのは自撮りした下着姿の写メ。あの馬鹿が調子に乗ったり周囲が誤解する前に抗議のメールを送ると焔から電話が掛かって来た。

 

 

 

『委員長、調子はどうだ?』

 

『ああ、何とか慣れた。今は遥が作った弁当を食べる所だ』

 

『神無さんの弁当……愛妻弁と……さ、さて、俺も飯を食うか。じゃあなっ!』

 

 何故か恐怖にかられた声で話題を変えた焔が通話を切り、俺も食事に戻る。桜田夫でハートが描かれた白米にヒレカツやヒジキの煮物、タコウィンナーや何故かこれもハート形にカットされた野菜サラダ。ふとテレビを見るとドラマをやっており、主人公が恋人に作ったもらった物とよく似ていた。

 

「偶然もあるものだな。……おや、こんな時間に来客か」

 

 チャイムの音がしたので玄関まで向かう。宅配便ならば注文していた名産品セットが届く頃だからうれしいと思っていたのだが、開けてガッカリだった。

 

 

 

 

「ふははははははっ! 私が顔を見に来てやったぞっ! 嬉しいか? 嬉しいだろうっ!」

 

「帰れ」

 

 アリーゼだったのでドアを閉めて鍵を掛ける。近所迷惑だから騒がれると嫌だなと思いつつ遥の手製弁当を食べ続けた。

 

 

 

 

「……そういえば原作ではラスボスの妹が転校してくる頃だが……エリアーデが来ている時点でないか。俺達みたいな異物が居るんだ、展開も変わる」

 

 特に居ないと詰む様な描写もなかったし、ネットでも居ても居なくても展開は同じだと評価されていた。何かあってもそれに応じて対処すれば良いだけだと納得し、最後にお茶を飲む。この日は俺好みの味にしていたので何時もより美味しく感じた。メールで令状を送ろう。

 

 

 

 

 

『そうかい? なら結婚しよう。私のハーレムに入れば毎日食べさせてやるぜ。当然口移しでなっ!』

 

 速攻で送られて来た返信を読んで送ったのを後悔した。




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俺の周囲が変人だらけで辛いのだがどうすべきだろうか?

「ふふふふふ。ようやく私を家に入れる気になったか」

 

「あっ、代引きですね。じゃあ、一万七千円ちょうどで」

 

 お昼過ぎ、父さんが(母さんに内緒で)注文していた物を受け取り、母さんにメールで送っておく。どうやら超希少な本らしくプレミアで値段が途轍もない事になっていた。

 

「あの、この人は……?」

 

「まだ暖かいですからね。変なのが出るんですよ」

 

 俺が扉を開けると同時にドヤ顔で高笑いするアリーゼをスルーし、宅配便のお兄さんにも気にしないように言っておく。まあ、ぱっと見は軍服のコスプレをした外国人(なめ茸の瓶の首飾りもしている)にしか見えないし、最近は頭のおかしな奴が居るから少しは気にしつつも納得した様子で帰っていく。

 

「取り合えず近所迷惑だ。帰れ」

 

「断るっ! 今日こそは貴様と床を共にする気で来たのだからなっ!!」

 

「……どうして俺の周りにはこんな奴ばかりが居るんだ」

 

 街中で大声を出すアリーゼに頭が痛くなる。週一で問題を起こすエリアーデ、もうやらかした事を挙げるのさえ疲れた遥。そして目の前の馬鹿とそのお供二人。変人ばかりで頭が本当に痛い。

 

「……帰る気はないんだな」

 

「当然だろう。……ほぅ、よく見ればさらに強くなったのだな。やはり私の婿に相応しい。だが、まだ慣れていないだろう?」

 

 思わず舌打ちをしたくなる。確かに日常生活に支障がないレベルまで慣れたが戦闘は別だ。特に市街戦のように周囲の被害を考えなければならない戦いはまだ早い、それをこの短時間で見破られた。……脳みそお花畑のポンコツ発情期似非軍人だと思っていたが、流石に侮り過ぎたか。

 

 

「きょ、今日は家に上げてくれてたら大人しく帰るぞ? 貴様の住処をよく見たいしな」

 

 明らかに期待しています、断られたらどうしよう、というのが見え見えだ。目が泳いでいて挙動不審。恐らくこのまま放置したら不審人物丸出しで玄関前に立たれるのは簡単に予想出来る。情報を聞き出せと指示も受けているし、上げるしかないか。……心底嫌だが。

 

 

「……家に上げるだけだぞ」

 

「ああ、分かっている。私に二言はない。……この後何かしらのハプニングがあって馬鍬うのだろう? 漫画でよくある展開だし、人間社会では普通なのだろう?」

 

「よし、死ね」

 

 ああ、無性に追い返したい。玄関前が多少吹き飛ぶくらい構わないから今すぐ追い返したくなった。遥、早く帰って来てくれ。俺にはお前が必要だ。いや、遥でなくて構わない。誰か助けてくれ。出来れば常識がある奴……無理か。

 

 

「貴様ぁぁああああっ!! 主殿から離れろぉおおおおおおおおっ!!」

 

 だが、俺の願いは叶う事になる。常識が有るというのは叶わなかったが、最初から分かっていたさ。エリアーデの護衛と監視は他の皆が居るから良しとしよう。厄介払いの気持ちが無かったといえば嘘になるし、慕ってくるお前に罪悪感を感じるからこそ一緒に散歩している訳だしな。

 

 

 

 ……だがな、小鈴。俺の家が直線上にあるのにロケットパンチを打つのは止めようか、うん。もう放たれたけど……。

 

 炎を吹き出しながら迫ってくる小鈴の腕。アリーゼの氷の壁を粉砕し、腹に直撃する。それは良い、それまでは良いんだが、吹き飛ばされたアリーゼは俺の真横を通り過ぎて背後の壁をぶち抜いた。

 

「……やってくれるな、ガラクタ娘がぁっ!!」

 

 起き上がった彼女が腕を振ると小鈴目掛け次々と凍って行く地面から上目掛けて鋭い氷柱が突き出す。当然、二人の間の床や庭は凍り付き、ドアも氷柱がぶつかって少し壊れた。

 

「……ふぅ」

 

 ああ、意外だな。人は此処まで来ると逆に落ち着くのか。俺は新しい発見に驚きながらも左右の腕を二人に向ける。俺を挟んで今まさに戦おうとしていた二人の体が『念動力』によって浮いた。

 

「む? どうかしたか? ああ、これで私をベッドまで運び、空中で服を脱がすのだな。……全身をまじまじと見られるのは少し恥ずかしいが仕方あるまい」

 

「ま、まさか私もですかっ!? この様な奴と同時なのは不服ですが……いえ、主様がお望みならばこの小鈴に不服など有りませぬっ!」

 

 二人は何を期待したのか顔に喜色を浮かばせるが、俺は反対に表情を完全に消す。もう、限界だった。

 

 

 

「お前達、反省」

 

 二人がこれ以上何か言う前に左右の二人を引き寄せ、両手に辞書を持つ。そして二人が衝突する瞬間、脳天に辞書を叩き付けた。

 

 

「「ぐぎゃんっ!?」」

 

 ……ふぅ。少しスッキリした。

 

 

 

 

 

「痛かったでございます。小鈴は主殿を守ろうとしただけですのに」

 

「あーはいはい。俺を守ろうとしたのは分かった分かった。だから今度は被害とか考えてくれ」

 

 リビングにて少し拗ねている小鈴の頭を撫でてやる。ロボットの癖に頭にたんこぶが出来ていたが『物体修繕』で直しておいた。まあ、基本的に此奴は入れられた魂の持ち主である犬が基本だからして、群れを守る為に周辺の被害を考えないのは当然だ。先程のは俺に非があると素直に認め、頼まれるがままに膝の上に乗せてやる。中学生程の姿なだけに犯罪臭がする気もするが、気にしないでおこう。

 

「さて、そろそろ私の番だな。場所を開けろ、小娘」

 

「その様な予定は一切合切存在しない。それよりも何か情報を寄こせ。茶の代金だ」

 

「ふんっ。せっかちな奴め。悪いが大した情報は渡せん。仲間意識などみじんもないが、それでも同じ組織に属するからな。精々、私に従属の呪いを掛けた奴の妹が家出を……私も撫でろ。その小娘の顔を見る限り気持ちが良さそうだ」

 

 俺の向かい側に座るアリーゼは出してやった茶をゆっくりと飲み干すと俺の膝の上をびしっと指差す。どうやら俺の膝の上に座るのは確定事項だったようだ。当然、俺はそれを認めない。彼女から好意を向けられているのは認めるが、俺が自分側に寝返るのを前提とした物だ。つまり俺に敵として接されても文句を言われる筋合いはない。だから撫でる気はないと手で制して伝える。

 

「つれないな、貴様も。なぜ私の婿にならん? これでも絶世の美女という自覚はあるぞ」

 

「あっ、エリアーデの馬鹿から聞いたのですが、この似非軍人は処女どころか男の手を握ったことすらないそうです。っと言うか周囲の使用人すら女ばかりで身内以外の男と口をきいたのも成人してからだとか」

 

 小鈴の暴露に頭だけでも撫でろと頭を向けた格好のままアリーゼの動きが止まる。どうやらエリアーデが言いふらさないと思っていたらしく、何時も偉そうに婿にするなど抱かれてやるなど言っているのに実際はそんなものだと知られたのがショックだったようだ。

 

「……まあ、なんだ。ドンマイ?」

 

「自分を美女と称しましたが……性格ブスですよね、此奴。ミス・ブスハート」

 

 居た堪れなくなってフォローする俺だが、小鈴は更に追い打ちをかける。流石犬、群れ以外に容赦がない。固まったアリーゼの目に涙がジワリと溜まった。

 

 

 

「泣くぞ泣くぞ、ブスハートが泣くぞ」

 

「う、うぇええええええんっ!! 馬鹿ぁああああああっ!!」

 

 泣きながら去っていくアリーゼ。小鈴が得意げだが、追い返したことをほめるべきか、近所への情報操作で後方部隊の方々の力をお借りしなければならないのが気が重いし、少し気遣いを教えるべきか?

 

 

 

「主殿! 主殿! 彼奴は小鈴が追い返しましたっ!」

 

 目をキラキラさせ、誉めてくれ、と、小鈴は表情で語っていた。

 

 

 

 

「あーよしよし。小鈴は良い子だなー。可愛くって賢いなー」

 

 膝の上から一向に退こうとしない小鈴の頭や顎やら腹を撫でる。俺は一体何をしているのだと思うが、手柄を立てた小鈴を誉めてやっているのだと自分を誤魔化す。でないと本気で悩んでしまいそうだった。

 

 

「むっふー! 小鈴は幸せでございます」

 

「そうかそうか……何よりだ」

 

「にゃん」

 

 得意げに鼻息を吹き、足をバタバタ動かしながら誇る小鈴。此奴がロボットだと今でも信じられない。エリアーデ、お前は本当に天才だったんだな。遥の飼い猫の一匹である黒猫のブッチーの視線を浴びている俺が気の迷いからそんな事を思っているとチャイムが鳴る。遥なら鳴らしはしない。

 

「少し隠れていろ。客だ」

 

 これ幸いにと小鈴を退かし、名残惜しそうにしているので後で遊んでやると言って奥に追い払う。ドアを開けると、其処には少女が立っていた。

 

 

 ハーフらしく金髪碧眼のツインテールの少女。クリクリした瞳に少し低い身長、スタイルは並より少し上。確か……柳堂寺リア。昨日弁当を交換した後輩だ。

 

 

「あ、あの、先輩。調理実習で作ったクッキーです。お大事に!」

 

 俺の手にクッキーを手渡した彼女は一目散に去っていった。弁当を交換したし、礼が足りないと思ったのだな。義理堅い子だな。

 

 

 

 

 

「先輩、食べてくれるかな? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食べるに決まってるわよね。だって私達は運命の赤い糸で結ばれているんだもの。じゃないとあんな出会いをするはずがないわ。そうよ、先輩は王子様、私の、私だけの王子様よ。生まれる前から私達は結ばれる運命なの。近い内に先輩は私のことが好きになって……いえ、もう心の何処かでは私が好きだよね? 好きに決まっているわ。きゃっ! 一目惚れなんて恥ずかしい。もしかしたら知り合いみたいだったし、私と知り合うためのお芝居? もう、回りくどいんだから。先輩だったら普通に声を掛けてくれたら。でも、私がそんな軽い女じゃないって分かってたのね。先輩は私の全てを分かってくれるんだ、嬉しいな。兄さんとは違って私を絶対に裏切らない本当の味方。……直ぐ傍にいる女の人は……そうだわ! 私に嫉妬して欲しいのね。いつか絶対出会う私に嫉妬して欲しいだなんて可愛い人。優しくて格好いいだけじゃなくって可愛いだなんて先輩はどれだけ凄い人なの? 私、先輩に相応しいかな? ううん。先輩は私にガッカリなんか絶対にしないけど、私が許せないから頑張らないと。ふふふ、見ていて先輩。絶対に先輩に相応しくなるから。そして将来は……先輩、子供は何人欲しいのかな? 私と先輩の子供なら賢くって、息子なら凛々しく、娘なら愛くるしくなるわよね。最初はどっちかな? 家事は交代が良いかしら? 先輩が働きたいなら私が家を守るし、家事に専念したいなら働きに出なくっちゃ。じゃあ、明日から色々と資格の勉強ね。ご両親とも仲良くしなくちゃ駄目よ。最初から同居でも構わないけど、最初は二人っきりが良いかな? アパートに二人で住んで、出掛ける時には行ってきますのキス、帰ったときはお帰りなさいのキス。寝るときと起きたときも……あっ、先輩ってベタベタするの嫌いかも。うん。ここぞって時に愛を語り合うのもドキドキよね。時には喧嘩もするだろうけど、仲を更に進展させるには必要だわ。絶対に仲直りするし、私達の絆は天井なんて無しに上がり続けるのよ。ああ、先輩。私の愛しい愛しい王子様。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き!」

 

 




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私の食欲が落ちて辛いのですがどうすべきですか?

 最近少し悩みが有ります。そのせいで食欲も減り、チャレンジメニューを十店目で危うく失敗しそうになる程に……。

 

「先輩! お早うございます!」

 

 最近、朝早く起きてウォーキングをするのが日課です。学校に直ぐに行ける様に制服を着て、コンビニのパンを半分ほど買い占め、偶々……ええ、適当に決めたコースに偶然存在する委員長の家の前でついでだからと合流して登校しています。少し早い場合は上がらせて貰ってコーヒーを飲みながら朝食に買ったパンを食べるのですが、最近、見慣れない後輩の姿をよく見かけます。

 

 柳堂寺リア、転校してきたハーフの少女で、毎朝のように家の前で待って居るようです。どうも顔見知りが居ると不安が紛れるとかで、委員長も転校したてで不安なのだろうと思っているようです。胸は……敵意を持つほどではないですね。いえ、胸の大きさ程度で敵意は持ちませんが。

 

 

「あ、あの、お昼ご一緒しても……?」

 

 ですが、お弁当の時間までやって来るのは感心できません。ふと教室の前を通ったついでに視線を向けた際、クラスメイトと談笑していましたし、絆を深めるためにも其方とご飯を食べるべきではありませんか? 私達も裏の話が出来ませんし困っています。

 

「まあ、断るのもアレだが、自分から積極的に行かないと友達は増えんぞ? この馬鹿などオレの十分の一程度しか友人が居ないからな」

 

「は、はい! でも、先輩とお話しするのが楽しくってつい……」

 

 委員長、人がよいのも結構ですが、時と場合も考えてください。特盛り牛丼を私がかき込む中、柳堂寺さんは嬉しそうに委員長の隣に座って弁当箱を取り出す。何故、隣に座るのですか? 正面の方が話しやすいでしょうに。私が折角特盛りカツ丼と特盛り豚丼と特盛り天丼と特盛り唐揚げマヨ丼と特盛りカルビ丼と特盛りカレーと牛すき弁当ご飯特盛りを入れた袋を此方に寄せて座りやすくしたというのに。

 

 ……ああ、成る程。彼女は委員長に惚れたのですね。他の後輩や同級生や先輩達は神野さんとの仲……といってもあくまで幼馴染みでしかなく恋愛感情は皆無ですが、を見て友達以上の関係を諦めるというのに、転校してきたばかりだから。

 

「……くだらない」

 

 恋愛なんて馬鹿馬鹿しい。私には不要なことで、理解できない。

 

「ん? どうした、轟。何か買い忘れた弁当でもあったか」

 

「いえ、別に……あっ」

 

 不意に今日までの限定メニュー八種類が行きつけの弁当屋であったのを思い出す。今晩はバイキングに行く予定ですし、放課後のオヤツに買いましょう。しかし委員長、私を本当に理解している。……ええ、恋愛は興味ないですが、貴方が望むなら一緒に買い物に行ったり、二人で遊びに行ったり、膝枕をして耳掃除をしたり、キスをしても……別に構いませんよ。

 

 

「ふふふ、その弁当は私が作ったのさ。美味しいかい?」

 

「ええ、美味しいですけど、神野先輩より先輩のお弁当の方が美味しかったですよ?」

 

 委員長に料理のこつを聞いた柳堂寺さんに対して差し出されたのは委員長のお弁当箱。色々食べて勉強するのも大切とのことです。ええ、確かにそうですね。非常に意見が合います。

 

 ……では、皆さんが先程から言いたくても言わなかった事を代表して言いましょう。

 

「……神野さん、どうして委員長の膝の上に座っているのですか?」

 

「ああ、嫉妬してくれるのかい? なら、後で私の膝に座らせてあげよう。私が彼の膝の上に座るのは……私にとって特等席で、お気に入りだからだよ」

 

「……もう俺はどうこうするのを諦めた」

 

 神野さんは何時もの様に見当違いな事を言いながら委員長にもたれ掛かる。顔は幸せそうに緩み、口振りとは別に委員長に嫌がる様子は見られない。寧ろ先程から黙ってお茶を注いであげたり、今も口元についた米粒を指先で摘まんで除けています。

 

「だらしのない奴だ。柳堂寺もこの馬鹿の言葉の七割は脳を通さずに出ていると覚えておけ。気にするだけ無駄だ」

 

「おや、酷いな。なら、私が何を言っても君は気にしないね? 私はね、ずっと君が好きだったんだ。何時も側にいて守ってくれて、私だけの王子様って奴だ。君になら何をされても構わないし、寧ろ君に無茶苦茶にされたい。私の心も体も君の物さ」

 

「ああ、そうか。それは結構。俺もお前が好きだぞ?」

 

 何故か箸をへし折ってしまいましたが、真っ赤になって俯いている神野さんと違い、委員長は勝ち誇った顔ですし、からかいにからかいで返して勝っただけでしょう。

 

「……少し顔が赤いな。ほら、俺の上着を着ていろ。保健室行くか?」

 

 神野さんの顔が赤く染まっているのに気付くなり委員長は上着を脱いで肩に掛ける。神野さんは掛けられた上着を内側から引っ張るようにして密着させています。

 

 

「……いや、大丈夫さ。でも、出来ればもう少しこうしていたいかな?」

 

「そうか。好きなだけしていれば良いが無理はするなよ?」

 

 先程から私達は何を見せつけられているのでしょうか? いえ、只の仲の良い幼馴染みのやりとりですね。恋人には微塵も見えませんし。

 

 

 

「……先輩達、随分と仲が良いんですね」

 

 あっ、柳堂寺さんが驚いて居ます。ですが仕方がないでしょう。何だかんだ言って二人は……。

 

 

 

「まさに幼馴染みの姿って所ですね! 恋愛感情なんて皆無の男女の絆って素晴らしいです」

 

 おや、彼女がそう思うのなら、私が同じように思うのも勘違いではないようだとホッとする。しかし、先程から誰か居ないような……田中さん! ……はよく見たら焔さんの隣に居ました。

 

 

 

「おーい! 待たせたんだねっ!」

 

 あっ! 誰も待っていなかったエリアーデがやって来ました。そういえば居ませんでしたね。非常に楽しかったので忘れていました。

 

 

「…あの、先輩。私、用事を思いだしたので失礼します。……こ、今度お茶に行きましょう。良いお店知っているんです!」

 

 何を忘れたのかは分かりませんが、柳堂寺さんは慌てて去っていく。エリアーデが嫌だったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

「主殿、主殿! 鬼共を狩って参りました!」

 

 今日の任務は雑鬼の群れの討伐。発生した範囲が広いので、最高戦力の委員長と神野さんは別行動。私と委員長……ついでに小鈴の三名で数だけの雑魚を狩って行きます。先程三つに分かれた群れを手分けしたのですが、小鈴は誇らしげに委員長に近寄ると体を密着させていました。

 

 ……アレは犬が飼い主にじゃれつくのと変わりませんよね。さて、帰ったら暇潰しに委員長が私を好きだと言った録音を聞きましょう。ええ、暇潰しです。

 

「……よしよし」

 

「むはっ!気合いが入って参りました! このまま全滅させたらご褒美を頂きたいです!」

 

 臆面もなく要求できるのは凄いと思いますが、委員長に何が欲しいのかと聞かれた途端にガッチガチですが、玩具や散歩の回数を増やすなどではないですね。

 

 

 

「わ、私と交尾して欲しいのです」

 

「いや、貴女はロボットでは?」

 

「……黙れ貧乳。認めたくはないがエリアーデは天才なので私には発情期が有るのだ。あ、あの、駄目でしょうか?」

 

「……他のにしてくれ」

 

「では、一緒にお昼寝を……良いのですね!」

 

 嬉しそうに飛び跳ねると気合いを入れて残った鬼へと向かっていく小鈴。委員長は精神的に疲れた様子で大変そうです。此処で優しい言葉を掛けるべきかと迷った時、今日は冷えるのか冷たい風が吹く。思わず体を震わせた時、上着が差し出された。

 

「俺は能力を使えば平気だから着ていろ」

 

「……はい」

 

 少し大きめの上着を昼間の神野さんの様に密着させる。温かくて委員長の香りがして、まるで抱き締められているようで幸せな気分がしました。




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俺の幼馴染みに泣かれると弱くて辛いのだがどうすべきだろうか?

「そうそう。今日、ウザい奴に会ったんだ。先輩の子猫ちゃんとのデートを楽しんだ後、一人で帰っていたら高級車が急に止まってさ。どこぞのボンボンが、気に入った、名を名乗れ女、だってさ。初対面の相手を口説くとか常識を疑うよ」

 

「そうか。じゃあ、泡を落としてやるから目の前の鏡を見ろ」

 

 遥の事を知る者ならば大体が言いたいであろう事を告げ、シャワーで髪に付着した泡を落としてやる。昔はシャンプーが目に入ったと言って泣いていたものだ。

 

 

「鏡かい? ああ、実に美しい私が映し出されているね。一生眺めていたいよ」

 

「そうか。なら一生風呂場に居ろ。うん、其れが良いな」

 

 鏡に映る自分にうっとりしているバカの脳天に辞書を叩きつけたい衝動を我慢する。生憎此処は風呂場だから辞書は持ち込めない。……此処までの描写で分かるだろうが、俺は風呂場で遥と一緒にいた。

 

 

 

 

「やあ! 偶には一緒に入ろうじゃないか。ああ、君が私の中に入って来ても……あべしっ!?」

 

「偶にどころか頻繁に俺が入っている時に乱入してくるのは何処の馬鹿だ? 俺の目の前の馬鹿だな」

 

 今日はバスタオルを体に巻いているから良いが時に全裸で入ってくるから困る。視線を外せば幸いと抱き付いて来るし本当に仕方がない奴だ。俺は退室を促すが、何時に増して頑固に出て行こうとしない。うっすら涙目になっているのを見てしまって強く出る気が削がれてしまった。

 

「……髪を洗って貰ったら背中合わせに入るだけで我慢するから」

 

「家の風呂だし、バスタオルは巻いたままだ。……まったく、両親が不在で助かった」

 

 もし両親が居て、俺と遥が混浴をしたと知られれば勘違いをされる所だ。実際、将来の結婚式に呼ぶ客や式場の相談を互いの両親がしているのを見たことがある。これ以上の誤解は避けたいからな。

 

「じゃあ、私が背中を流すから後ろを向くんだ。ああ、前も洗って欲しいなら洗ってあげるよ?」

 

「……さて、今日はもう出るか」

 

 浴槽に入れないのは惜しいが馬鹿に調子に乗られても困るから出て行こうとするが腕を掴まれて動けない。何か一言言おうとしたが、また泣きそうな顔だ。……一体どうしたというのだろうか。

 

 

「……一緒に入るだけで良い」

 

「そもそも約束ではそうなっている。さっさと入れ」

 

 仕方なしに抵抗を止めて浴槽に入ると背後で遥も入るのが分かる。背中に背中が当てられるのも感じ、先程のシャンプーの香りが漂って来る。少し緊張して来たな。

 

「……君とは幼い頃から何度もこうしてお風呂に入ったのに、なんか緊張するね。背中合わせだっていうのにさ」

 

「其れが成長するって事だ、愚か者。分かったならばもう少し自重しろ」

 

 緊張しているのは俺だけではなく遥もの様だ。声で緊張が分かり、背中越しにも緊張が伝わってくる。つまりは俺の緊張も伝わっている訳だな。少しばかり泣かれても良いから断るべきだったか。

 

 

 

「……また一緒に入ってくれるかい?」

 

「気が向いたらな……」

 

 まったく、仕方のない奴だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、先輩。先輩の好みってどんなのですか?」

 

 次の日の昼休み、柳堂寺が不意にその様な事を聞いてきた。轟や治癒崎は何故か固まり、焔は何かに怯えているように顔を青くする。調子でも悪いのだろうか?

 

「俺の好みか。玉子焼なら砂糖より出汁巻きだな。全体的に塩気のある方が好みだが、濃すぎても良くないな」

 

 其れを言うなら遥が作った今日の弁当は実に俺の好みだ。今までは俺が遥の好みに作ったが、こっちの方が良い。俺の作ったのを美味しそうに食べる姿を見るのも悪くはないがな。

 

「あ、あの、そうじゃなくって、その……あっ、そういう事ですね?」

 

「……うん?」

 

「や、やっぱり! ……失礼します!」

 

 何がそういう事なのか分からず聞き返したが、何が矢っ張りなのだろうか? 俺には遙以外にも女子の友人は多いが、どうも理解できん。

 

「……むぅ」

 

 ……そんな事よりも遥が何やら不機嫌そうだ。こんな時の此奴は何をするか分からんから怖い。帰ったら何かお菓子でも作ってやるか。

 

「何が良い?」

 

「エクレア」

 

 うん。特に何のことか言わなくても伝わるのは楽で良い。本当に此奴と居ると気が楽で良いな。甘い物を与えておけば変な事はしないだろうしな。

 

 

「……ああ、アッチは何だ?」

 

「猫科の猛獣」

 

 今年の誕生日プレゼントのヌイグルミは猫科と……。虎とライオンどっちにするか……。

 

 

 

 

「変なことはしないと思ったんだがな……」

 

「おいおい、何処が変なのさ? 只の朝の挨拶じゃないか……」

 

 次の日の朝、赤いチャイナドレスの遥が俺の上に寝そべって起き抜けにキスをしてきた。不機嫌そうな俺に対して微笑みかけ、再びキスをしてくる。二回目は先端だけだが舌も入れてきた。

 

「君を犯す夢を見てさ。興奮してるから相手をしてくれよ。……良いだろう?」

 

「いや、良くないな、うん。腹が減ったから退いて朝飯を作ってくれ」

 

「私の料理が食べたいのかい? 仕方ないなぁ……」

 

 機嫌良さそうに俺の上から飛び降りる遙だが、降りた際に短い裾が翻る。……下着は穿けと言っておこう。

 

 

 

 

 

「あっ、今夜は私も食べるかい?」

 

「いや、食べない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩ったら大胆なんですから。他の先輩の前で私が好みだって遠回しに肯定してくれるんだもの。でも、口に出して言って欲しかったなぁ。あっ、駄目駄目。先輩って奥手なんだから。私の全てを受け入れてくれるんだから、私も先輩の全てを受け入れないと。恋人ってそういうものだもん。でも、互いにもっと好きになって欲しいから相手の好みに変えていくのも大切よね。互いに相手の色に染まっていくの。……素敵。何時か先輩と同棲して、朝はお早うのキスから始まって、一緒にご飯作って、お風呂も一緒に入って……先輩と体を洗いっこして、そのまま先輩に……きゃっ! は、恥ずかしいけど先輩が望むならどんな事でも受け入れるけど、受け身の女ってどうかしら? 私から積極的に行った方が先輩の好みかもしれないけど、奥手な方が好みだったら一瞬だけ失望されるかも。私と先輩の仲だから直ぐに受け入れてくれるだろうけど、一瞬とはいえ嫌われるのは嫌だよね。どっちでも大丈夫なようにお勉強しないと……。あっ、料理の方も頑張らなきゃ! 奥さんになって旦那様である先輩の体調を管理するためにも好みの味で健康的な料理を作れるようになるの。そして次は私を食べたいって先輩に押し倒されて……あっ。……先輩、()()貴方が大好きです。先輩の顔を思い浮かべるだけで切なくなって……はしたない子でごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 




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俺の幼馴染の機嫌が悪くて辛いのだがどうすべきだろうか?

「おい、次の日曜日に映画でも行かないか? 丁度知人からチケットを譲り受けた」

 

 最近、遥の様子がどうもおかしい。おかしいと言っても一般的な常識の範疇の行動をするのではなく、おかしい行動が更におかしいのだ。目覚めのキスやら勝手に膝に頭を乗せてくる等は軽い方で、流石に参ってしまう。原因は思い付く。最近、二人だけの時間が少なくなった。共に過ごす時間は特に変わらないが、他の誰かが居ることが多い。

 

「へえ、君から誘うなんて嬉しいじゃないか。映画の後のディナーは何処のホテルのレストランだい? 実は部屋を取っているんだろう?」

 

「いや、外泊はせんぞ? 日曜だと言っただろう……不満なら他の奴に譲ろう」

 

 このチケットは友人の喋るパンダから……喋るパンダ? 何か記憶がおかしい気がする。頭に手を当て考え込むが、喋るパンダの存在を普通に受け入れてしまっていた。今も常識的に考えればおかしいと理解しているのに、それでも妙とは思えない。

 

『ふっふっふー! 君は面白そうだね。渾名で呼んで良い?』

 

 一瞬、寒気に襲われた。有ってはならない会合をし、向けられたら終わりの興味を向けられた気がするが何故だろうか。急に固まった俺を心配してか遥が手を伸ばして服の裾を掴んでいる。

 

「何かあったのかい? 映画は喜んで行かせて貰うよ。……所で私に何か言うことは?」

 

 思考を切り替え、遥に集中する。俺のベッドに寝転がった遥は風呂上がりなのか上気し髪も少し湿っている。俺の服を掴んでいない手で漫画のページをめくり、口には煎餅を咥えていた。服装だが、上はTシャツ一枚で身長に合わせたサイズなので胸の周囲がパツンパツンになり、下はズボンを穿いてないので黒い下着が見えている。

 

「髪は乾かせ。痛むぞ」

 

「いやいや!? 自分のベッドの上で超絶美少女の幼馴染みがこんな姿しているんだぜ? ほらほら、何かあるだろ?」

 

「ベッドの上で漫画読みながら物を食うな。食べかすがページの間とベッドに散らばるだろう。あと、風邪引くぞ?」

 

 言いたいことを全て言ったにも関わらず不満そうにする遥。胡座をかいて頬を膨らませている。まるで子供だなと思いつつ、寝転がって本を読みながら煎餅を食うのを止めたので誉めてやろう。

 

「取り敢えず髪を乾かしてやる。ほら、後ろ向け」

 

「……実は今の私……ノーブラだぜ。揉んだら生の感触を堪能できるんだ」

 

「そうか。ちゃんと着けないと形が崩れるのではなかったか? 詳しくはないが友人の一人が言ってたぞ」

 

 能力で温風を発生させて髪を乾かしてやる。俺が寝るから出て行けと追い出そうとしたが一緒に寝ようとパンツに指を掛けながら言ってきたが、歯を磨かないと虫歯になるので追い出した。

 

 

 

 

「……そしてこうなるか」

 

 翌朝、予想はしていたが遥が格好そのままで俺のベッドに潜入していた。俺の手と指と指とを絡めて幸せそうに眠っており、起きたら起きたらで目覚めのキスをしてくるのだろう。

 

 

「……勘弁してくれ」

 

 辟易して呟く中、遥が目を覚ます。後は察して欲しい……。

 

 

 

 

 

 

「しかし、何故わざわざ待ち合わせを?」

 

 同居しているのに何故か待ち合わせ時間と場所を指定された俺は疑問に思いながら歩いていた。途中、サーフィン仲間のアメリカ人の青年や図書館で出会った少女、碁会所で仲良くなったお爺さんなど、数名の友人に出会って予想以上に時間をとられた俺がたどり着いた時、遥がイタリア人の青年にナンパされていた。

 

「……鬱陶しいなぁ」

 

 美女には目がない奴なので遥と気があるかもしれないが、男という時点で無理だろう。嫌悪感を隠さない相手を誘い続ける精神も似ていて笑えるが、もめ事になる前に止めるとするか。

 

「マーカス」

 

「!」

 

 ナンパを邪魔されたと思ったのか不機嫌そうなマーカスだが、俺が誰か分かると途端に嬉しそうにする。何度かハイタッチを繰り返し、俺の連れだと教えると大人しく帰って行った。多分途中で他の誰かに声をかけるのだろう。近所のテニスクラブで仲良くなったが、出会いもナンパを注意した事だと思い出すと笑えてきた。

 

「待たせたな。じゃあ行こうか」

 

「本当だよ。君の友人っぽいけど、不愉快だったし埋め合わせはして貰うからね。……今日一日は私が君に何をしても文句は無しだ。絶対だよ!」

 

 待ち合わせ時間まで少しあるので理不尽とは思うが仕方ない。限度はあると言っておくが、出来る限り善処はしよう。俺の腕に抱きついて隣を歩く遥に伝えると嬉しそうに微笑む。こんな姿が見れるから多少の苦労も良しとしようか。

 

 

 

 

 

 

「あっ! 奇遇ですね、先輩!」

 

 映画館に入り、ポップコーンと飲み物を買って席を探していると柳堂寺が居た。しかし、本当によく会うな。休日に出掛ければ一度は会うぞ。生活のパターンが似ているなと言ったら何故か嬉しそうだった。

 

「ふふふ、私達は運命で結ばれているんだね。だってこうも出会いが続くなんてさ」

 

「……神野先輩と相変わらず仲が良いのですね。まあ、赤ちゃんの時からの付き合いですし、()()()()に口出しはしませんけど?」

 

 気のせいか友人関係を強調した気がするが、する意味がないので気のせいだろう。拗ねているように見えるが、先輩として慕われているようだし、自分は一人で少し寂しいのか?

 

 

 

 

 

『何故だ! 何故私を裏切った! そのクーポンは私の物だったはずだ!』

 

『知らないのかい? 最近じゃクーポンはサイトから印刷すれば良いのさ!』

 

『……さん。絶対に許さんぞ!! 期間限定ミックスフライバーガーの恨みを思い知れぇえええええっ!!』

 

 

 

 映画の最中、不意に手に手が重ねられる。緊迫したシーンだからだろうが両手にだ。片方は遥だが、もう片方の席は開始前に見た限りでは知らない人だった。それが肘掛けを越えて膝の上の手に重ねられては俺も驚いたので横を見れば何故か柳堂寺が座っていた。

 

 

 

 

 

「知り合いでしたし、折角なら先輩の隣が良かったので変わって貰いました。……ご迷惑でした?」

 

 映画終了後、スタッフロールの後に何かあると期待していたが何もなく、少し残念な気分で柳堂寺に聞いてみた所、悪戯がバレたのを笑って誤魔化す子供の顔をした後で不安そうに訊ねてくる。

 

 

「気にすることはない。後輩に慕われて悪い気はしないしな」

 

「……先輩」

 

 嬉しそうだし、これで良かったのだろう。何故か遥は少し不機嫌そうだったが……。

 

 

 

 

 

 

「おい、何が不満なんだ……」

 

 あの後、遥が不機嫌なので同行したがった柳堂寺に謝って別れた。別れ際、付き合いの長い友達のお世話も大変ですね、と言ってきたのに頷いたのが悪かったのかもしれない。兎に角不機嫌で、帰宅後も一言も発さず俺の膝から退こうとしない。俺は謝り宥め続け、何とか口を開いてくれた。

 

 

 

「ギュッとしてくれたら許す」

 

「分かった。それだけで良いんだな?」

 

 俺は了承して抱き締めようとするも、何故か遥は俺の膝から立ち上がる。怪訝に思った時、向き合う形で膝に上に座り、首に腕を回してきた。

 

 

 

「このまま三十分。じゃないと許さない」

 

「……分かった」

 

 背中に手を回し、強く抱き締めれば機嫌良さそうに鼻歌が聞こえてくる。矢張り機嫌が良い時の此奴が一番好きだ。拗ねたときは拗ねたときで可愛いがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……実は今もノーブラなんだ」

 

「……そうか」

 

 ああ、変に意識しないのが大変そうだ。




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評価下がって終わりゴロかなと思ったが戻ったし続けれる!


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俺の幼馴染と真面目に話すのが馬鹿馬鹿しくて辛いのだがどうすべきだろうか?

久々で短い イチャイチャが思いつかなかった


「大丈夫だ。俺が守ってやる」

 

 この日、遥は昨日の任務中にやり過ぎたからと始末書の提出を言い渡されたので先に帰り、俺は偶々買い物があるからと帰り道に同行した柳堂寺と商店街を歩いていたのだが、不意に周囲から人の姿が消える。どうやら化け物の術中に嵌った様だ。

 

(我ながら迂闊だな。あの馬鹿が隣に居ない寂しさがこの様な隙に繋がるとはな…)

 

 言い訳はしない。今回は完全に俺の落ち度だ。思えば俺の後ろで事態を把握できずに混乱した様子の柳堂寺からも言われたが、何やらボーっとしていたらしい。ああ、不甲斐ない。

 

 商店街のアーケードの屋根の付近でカサカサという音が鳴り、見上がれば蜘蛛の巣が張っている。……遥がいたら足手纏いにしかならないか、また混乱から被害を大きくしそうだ。実際、昨日も廃屋で戦っていたら蜘蛛を踏んづけてパニックになったのが原因だからな。

 

「ひっ!」

 

 ドシンという重量のある物が降り立った音が背後から聞こえ、俺の服を柳堂寺が悲鳴と共に掴む。背後には熊ほどの大きさの蜘蛛の化け物が居た。俺は怯える彼女を背中に庇って蜘蛛と対峙する。さて、今夜は俺の食事当番で、メニューは遥の好物のクラムチャウダーだ。速攻で終わらせようか。

 

 

 

 

「それでは彼女の記憶処理はお任せください」

 

 蜘蛛を秒殺後、軽くパニックに陥っている柳堂寺を喫茶店で落ち着かせた俺は後方部隊の人を呼び、後処理と彼女の保護を頼んだ。この様な世界、知らない方が良いからな。田中は時間が足らずに記憶処理が出来なかったが、遭遇して然程たっていない彼女なら大丈夫だろう。

 

「あの、先輩……」

 

「大丈夫だ。俺を信じて彼らに任せてくれ。また明日の朝に会おう」

 

「はい!」

 

 素直に聞いてくれた事だし、俺も早く家に帰るとしよう。遅くなれば不機嫌になる馬鹿の顔が見たくなったので俺は急いで家を目指す。

 

 

 

 だから俺は知らなかった。俺と別れた後、後方部隊の人達が糸が切れた人形の様に倒れた事など。

 

 

「……もう、先輩ったら大胆なんですから。私と二人でいるのが恥ずかしくって注意散漫になったり、()()守ってやるとか、毎朝私の顔が見たいとか……ふふふ、うふふふふふふふふっ!」

 

 翌日、後方部隊の人達は俺に彼女の記憶の操作は済ませたと報告をして、だから俺は彼女が一般人だと、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「遅い! 今夜は罰として添い寝して貰うからねっ!」

 

「ああ、その始末書を全て八時までに終わらせたらな。今夜はお前の好物だし、好きなテレビもあるだろう。俺は観るぞ。俺もお前の好きな番組は好きだからな」

 

 流石に報告などをしていると遅くなり、帰ればリビングで山の様に積み重なった始末書を必死で終わらせている遥の姿があった。顔を見ると安心する一方、無茶な要求をして来たので俺も要求を出す。どうせ無理だろうし、時間までは落ち着けるからな。

 

 

 

 

「……辞書を叩きつけて断れば良かった。ところで何故その恰好なんだ? 着替えろ」

 

 まさかあの量を本当に終わらせるとは思わなかった。一応チェックしたが不備はなく、俺は仕方なく約束を守る為に寝室に遥を招き入れたのだが、何故かスクール水着だ。胸の所が苦しそうだが、サイズを大きくすれば身長が足らずに困るそうなので仕方ないのだろうが。……いや、違うな。問題は何故その様な格好で俺と一緒に寝ようとしているのか、だ。

 

「あっ、うん、この格好で寝ると何かしらに良いとかいうのを何かで見た気がするんだ、多分。……ああ、着替えろと言うなら着替えよう。ただ、何を寝間着にしようが私の勝手だし、着替えるならこの場でだ」

 

 凄くアヤフヤな事を言いながら肩紐を片方ずらし、挑発的な笑みを浮かべながら見てくる遥。大体察した。俺の性癖的に露出が多いのより体のラインが分かる服の方が好みだと知られているから、あえてその恰好をしたのだろう。

 

 ……いや、流石に俺にも我慢とかがあるからな? 遥が美少女で見た目だけなら好みだというのは認めるし、押し倒して良いとか言われてそんな誘惑をされればその気になってしまいそうになる。だが、何か負けた気がするので絶対に耐えきってやるがな。大体、関係が変わるのも嫌だ。

 

「俺はお前とは自然な関係でいたいのだがな……」

 

「じゃあ、こういうのがが自然と思えば良いじゃないか。君と私の仲だ。多少の変化があっても大本は変わりはしないさ。ほら、もう寝ようぜ」

 

 もう俺をからかうのも面倒なのか、始末書で頭を使ったらしい遥は勝手に俺のベッドに潜り込み、ものの数秒で寝息を立てだす。これなら落ち着いて眠れそうだと俺もベッドに潜り込み、電気を消した。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれっ!? さ、流石に私も限界で……」

 

 また予知夢の発動だ。レベルが上がったのでどの様な状況なのか判明する。何故か頻繁に選ばれる遥と俺が結婚した未来だが、出張から帰った俺は玄関で出迎えた遥に迫られたのだ。鍵を閉めるなり体を押し付けながら器用に服を脱がして誘惑し、俺も呆れながら押し切られる。だが、数度した所で攻守が逆転。リビングのソファーで遥を押し倒した俺は悲鳴を上げる遥の唇を唇で塞いだ。

 

 

「……誘ったのはお前だ。好きなだけ使えと言ったのもお前だ。そして俺はまだいける」

 

「き、君がまだ続けられるのは能力の…ひゃうっ!?」

 

「お前はここが弱かったな。それに口では嫌がっているが体は正直だ。……夕飯までには終わらせる」

 

「夕飯って、まだお昼を過ぎたばかりじゃないか……」

 

 

 

 

 ……なんだこれ、と正直に思う。何が楽しくって自分と幼馴染ラブシーンを見せられなければいけないのだ、とか、砂糖を吐きそうだ、とか、この能力に目覚めた人はスカイダイビング中にパラシュートが絡まったのが切っ掛けで目覚めたのは本当に無駄だったな、とか、色々言いたい事がある。

 

 

「明日の朝、顔を見るのが少し恥ずかしいな」

 

 

 実際、朝起きた途端に抱き着かれキスをされたのだが、何時もの様に辞書を頭に叩き付けるのも恥ずかしくて出来なかった……。

 

 

 

 

「今朝は君の様子が変でビックリしたけど、こうやって元に戻ってくれた安心したよ」

 

 放課後、柳堂寺はクラスメイトに誘われて部活見学に行くと、何故かわざわざ言って来たので俺と遥だけで帰っていた。少し遠回りしたいと言われたのでその通りにしたが、落ち着いた俺に安心したのか腕に抱き着いて歩く遥は嬉しそうだ。

 

「叩かれないのが変だと思ったのか? なら叩かれないようにするという思考になってくれ……」

 

「馬鹿だな。叩かれると分かっていても、君とのキスで感じる幸福感には価値がある。それだけさ」

 

「お前と一緒に居るだけで幸せだとは感じるが、その感情は理解出来ん。お前、マゾだったのか?」

 

 此処に来て此奴の性癖が判明したのかと本気で驚く。今まで俺に悪戯をして楽しそうににしていたのでサド寄りかと思っていたのだが……。

 

「……君が望むならどっちでも良い、でも、偶には私が攻めたいかな?」

 

「いや、其処まで聞いていない」

 

 何と言うか、非常に馬鹿馬鹿しくなって来た。他に話す事があるだろうに、何故に性癖の事など俺達は話しているのだろうか……。

 

 どうも此奴とは真面目に話せる気がしない。俺は自分では真面目だと思っているのだが、遥と話す時は別だ。

 

 

 

 

「……それだけお前に気を許しているのだろうな」

 

「うん? 私も君に心を許しているぜ。だから言っているんだ。君になら何をされても良いってさ。こんな美少女にそんな事を言って貰えるんだ。感謝して口説きに掛かりなよ?」

 

 ……うん。此奴と真面目に話すのは馬鹿馬鹿しいな。




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私の幼馴染みとの今が幸せすぎて辛いのだがどうすべきだい?

最近タイトルが難しい


「ねぇねぇ、やっぱりスタンダードなのが一番だと思うの。ほら、このドレスなんか貴女に似合うんじゃない?」

 

 久々に実家に戻り、パソコンで十八禁の百合ゲームをしていた時、母さんが結婚式場のカタログを見せてきた。用意できるウェディングドレスの一部が掲載されているけど、私はスタンダードなのよりも別のタイプが好きだ。今やってるゲームのヒロインの一人もシンプルなマーメイドラインのぴったりドレスだ。

 

 やっぱり本心では私が好きなくせに素直になれない原作ヒロイン達もこんなドレスを着せてあげたら素直になるのかな? ふふふ、実に楽しみだ。

 

「……まーた変なこと考えてるわね。いい加減にしないとあの子に捨てられるわよ? 貴女と結婚してくれる人なんて他に居ないんだし、もう少し大人しくしなさいよ」

 

「はいはい。うーん、このハイウエストで短めのスカートのドレスなんか好みかなぁ? まっ、超絶美少女の私なら何を着ても似合うんだけどね」

 

「……うん。土下座してでも結婚してもらわないと一生独身ね。まあ、あの子となら熱々だし間違いないでしょうし、いっそのこと卒業したら籍だけでも入れて……」

 

 実の娘に向かって失敬だと思うが、彼以外と結婚する気は無いので確かに独身になりそうだ。私を幸せにしてくれるのは彼以外に居ないし、彼以外に幸せにして欲しくない。だから抗議は一旦保留にしておこうと思った。

 

 少し興味が湧いたのでマンガを閉じてパンフレットに集中する。彼との結婚式を想像してみると実に胸が躍る気分だ。そんな時、彼からの電話があった。

 

「あらあら、デートのお誘いかしら? ホテル代出そうか?」

 

「いや、出させるよ。その場合、たっぷりサービスしてあげるけどね」

 

 こんな事を言いつつも、たぶんそういった展開にはならないと思う。でも、それはそれで構わない。今の距離感が好きだからね。どうせ仕事の話だろうと思った私だが、取りあえず言うだけ言ってみる事にした。

 

 

 

「やあ、デートのお誘いかい? 君が全額出すなら構わないぜ? ……勿論、ホテル代もだ」

 

「いや、その必要はない。だが、用件は正解だ。遥、俺とデートしてくれ」

 

「……はう!?」

 

 思わず変な声が出て、顔が途端に熱くなる。ゆ、夢じゃないよね? 彼からデートのお誘い……ドキドキしてきた。思わず電話を置いて胸に手を当てて深呼吸していると母さんの顔が視界に入る。親指を立てて非常に良い顔だ。

 

 

 

「ちょっと避妊具買って来る……いや、孫が出来た方が手っ取り早いかしら? でも、結婚は学生中はさせないって向こうの親とも取り決めをしてあるし……」

 

 母さん、気が早くない? ただのデートだと言っても取り合ってくれず、恥ずかしさと期待がドンドン高まるのを感じていた……。

 

 

 

 翌日、デートの行き先は総合アミューズメント施設だと聞いたので動きやすい服装を選ぶ。本当なら待ち合わせをしたいけど、今回はお邪魔虫が一匹居るんだ。どうやらWデートとの事だ。二人っきりか両手に花が良いけれど特別にモブの同行を許してやろう。

 

 

 

「むっ、貴様は……」

 

「えっと、人違いじゃないかな? 私は君に興味も関心も見覚えもないんだ」

 

 黒塗りのリムジンで家の前まで迎えにきたWデートをするカップルの男だけど私を見て驚いているが、誰だろう? 隣に座った彼は納得している風だけど……。

 

 

 

 全く興味がないが紹介された彼の名は金田持夫(かねだ もちお)。有力な財閥の御曹司で、通っている学校では三大キングとか馬鹿みたいな異名を付けられた一人らしい。

 

「しっかし、三大キングとか妙な異名を三人とも教えてくれなかったが……くくくっ」

 

「ええいっ! 庶民共が勝手に呼んでいるだけで俺様が知った事ではない!」

 

 ああ、この会話の通り彼は残りの二人とも知り合いっていうか友人らしい。三人とも別口で知り合って仲良くなったらしいけど、どんな交友関係をしているのだろうか……。

 

 因みに今回の経緯はこんな感じだ。

 

 

 

「急に呼び出して相談ってなんだ?」

 

「……生意気だった庶民の女が居るのだが、どうも気になってな。見極めてやろうと思うが俺と二人だと奴も緊張するだろう。貴様も誰か連れて同行しろ」

 

「ああ、デートに誘いたいが二人っきりは恥ずかしいからWデートにしてくれと。任せろ。……っと言っても俺も交際経験は皆無なのだがな」

 

「……恩に着る」

 

 

 そして女の子の方なんだけど……。

 

 

「へー! 委員長と神野さんって矢っ張り付き合ってたんだ」

 

「……どうも不思議なのだが、中学の時の俺と此奴がそう見えたのか?」

 

 確かに中学の時の関係と今の関係に特に大きな変化もないし、なぜそう見えたのか不思議で、私も彼と同時に首を傾げる。

 

「……相変わらずなんだ」

 

 呆れた表情の彼女……中学の時の同級生の藻武黒子(もだけ こくこ)を見ていて不思議に思う。彼と私、どう見たらカップルに見えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「ボウリングにカラオケにビリヤード、ダーツに……お化け屋敷まで有るのか。もう八月も過ぎているだろうに……」

 

 案内が書かれたパンフレットを見て、最初に選んだのは季節外れになってきたお化け屋敷だ。まあ、普段の相手が相手だけに退屈しそうだけど……。

 

 

 

 

「ひゃうっ!? 無理無理無理ぃ!」

 

 入ってみると中は古びた洋館風の構造で……蜘蛛の巣やリアルな蜘蛛の人形がある。人形と分かっていても怖い物は怖い! 咄嗟に手を伸ばせば彼の手が私の手を握って包み込む。少しだけ勇気が出て来た。

 

「……有り難う」

 

「この程度気にするな。其れよりも二人に置いて行かれたな」

 

 このお化け屋敷だけど、入場時に腕に巻いたタグで経過時間が分かり、脱出ゲームも兼ねているのか謎を解いて進むんだ。経過時間で賞品が出るし、競争で足を引っ張って情けないな……。

 

 少し落ち込んだ時、頭の上から何かが落ちてくる。見上げてしまった私の顔に蜘蛛が着地した。しかもこれ……」

 

「うぎゃぁああああああああああっ!? ほ、ほんものだぁあああああああああっ!?」

 

「落ち着けっ!」

 

 咄嗟に彼が払いのけたけど、顔にまだ嫌な感触が残ってる。繊毛が生えた足が顔の表面でカサカサ動いたときの恐怖から走り去りそうになった時、後ろから抱き締められた。

 

「勝手に先に行くな。また蜘蛛の人形があったら嫌だろう? ……仕方無いか」

 

 彼の腕に抱き留められて一旦落ち着いた私に彼は背中を向けてかがむ。おぶされって事だ。当然、迷い無く飛び乗った。

 

 

 

「お前は俺だけ見て、俺だけ気にしていれば良い。それで安心だろう?」

 

「うん。そうだね……」

 

 思わず笑みが零れ、巻わした腕に力が籠もる。変な目的じゃなくって、彼ともっと密着したいと、自然にそう思った。……ああ、これが幸せなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、息子に用事? 悪いわね。あの子、友達に頼まれてWデートに行っているのよ。どうも二人っきりで誘う勇気がないらしくって」

 

「……そう、ですか。先輩、そのお友達に頼まれたからデートしているんですね。……へぇ、そうなんだ。頼まれたから……」

 

 




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俺と幼馴染の楽しみを邪魔されるのは腹が立つのだがどうすべきだろうか?

難産 次回も遅れます マーベル楽しい


「あー、うん。これは失敗したな。背負われるんじゃなかったよ」

 

 お化け屋敷から出るなり遥は後悔したように項垂れる。その手に持っているのは一枚の写真。時間内に出てきた客は写真を撮られるのだが、ものの見事に背負った状態の写真を撮られた。

 

 

 

「ふふん。蜘蛛から守って貰ったしこれはお礼だよ」

 

 こんな風に何時もの調子で俺の頬にキスをした瞬間を撮られたのだ。流石に残るのは俺も恥ずかしい。二人きりの時にされるのは仕方ないが、今後は人目がある場所でしないように言わないとな。

 

「あそこはアレだね。無理を言ってでもお姫様抱っこにして貰うんだったよ」

 

「よし、分かった。今度の休みに好きなだけしてやるから、その写真は廃棄しろ」

 

「……まあ、良いや。後で廃棄してあげるさ」

 

 未だに俺の背中から降りない遥に対して提案すると嬉しそうに密着してくる。しかしそろそろ降りてくれないだろうか。目の前には金田と藻武が居るのだからな。

 

「えー! 君とこうして密着しているだけで私は幸せなんだ。もう少しだけ良いだろ?」

 

「俺も悪い気はせんが、人目もある。何か好きな物を作ってやるから勘弁してくれ」

 

 お化け屋敷から出た後、金田が喉の渇きを訴えたのでフードコートまでやって来た俺達は席に座ったのだが、俺の背から降りた遥は今度は俺の膝の上に横向きに座っていた。

 

 

「しかし金田。前に遊んだ時は庶民の食い物は口に合わんとか言っていなかったか?」

 

「うぇっ! あんた、そんな事言ってたの?」

 

「ななな、何を言うかっ! 多くの者の上に立つ身として多くの事を知るのは必要だと……」

 

 おや、どうやら藻武に本気で惚れているようだな。僅かに落胆されただけで慌てるなど此奴らしくもない。遥はどうでも良さそうに欠伸をしているが、出来れば力になってやりたいな。

 

「……ねぇ、折角のデートだし二人っきりになりたいな」

 

 俺の耳元で遥が甘い声で囁く。首に手を回し、体を密着させてだ。

 

 

「二人っきりなら何時もでもなれるだろう。たまにはこうしたのも刺激があって悪くない。ほら、ダブルデートを続けよう」

 

「……デート、か。君がそう言うなら仕方ないな」

 

 今回の外出をデートと言っただけなのに遥は顔を真っ赤にして俺の膝から降りて横に座る。鼻歌を歌いながら腕を絡みつかせるが、この程度なら構わないだろう。

 

「……お前達本当に仲が良いな」

 

「長い付き合いだしな。此奴と俺は既に家族同然だ。両親など式の日取りや場所まで今から決めようとしているのだから笑えるだろう?」

 

 別にこの程度の情報を教えても構わないだろうと思っていると遥が飲み物を差し出してくる。コップにストローを二つ差し、片方を咥えている所を見ると一緒に飲もうという事らしい。

 

 迷わず口をつけ、一緒にコーラを飲む。炭酸は苦手なので咽そうになるが、この状況で咽るのは格好が悪いので堪えた。

 

 

 

 

 

 

「本当に仲が良いな、お前らっ!?」

 

 二度も言うほどの事なのだろうか……?

 

 

 

 

 この後も俺達は四人で遊んだ。カラオケでは俺と遥がデュエットを歌い、ボウリングも交互に投げた。勿論こっちの圧勝だ。

 

 

 

「ほらほら、ハイタッチハイタッチ!」

 

「ああっ!」

 

「あっ、ハイタッチならぬパイタッチでも構わないぜ? あでっ!?」

 

 馬鹿な事を言ったので軽くデコピンをしておく。本当に此奴の言動にはため息が出るな。

 

 

 

 

「そういう事を他人の前で言うな。……聞いた奴が想像するのも不愉快だ」

 

「ご、ごめんよ。君と二人っきりの時にしか言わないからさ……」

 

「そうか。それなら構わない」

 

 素直に従ってくれる遥に安心し、先ほどデコピンをした部分を軽く撫でてやる。本当に困った奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし先程から思ったのだが、お前と俺はどうして偽のカップルだと疑われないんだろうな。よく分からんから普段通りにしているだけなのにな」

 

 施設内に存在する小規模な遊園地の観覧車の中で俺は首を傾げる。今回、俺達は金田が藻武を誘った時の嘘である『知り合いのカップルと遊びに行くから貴様も付き合え』に乗っかって恋人のふりをしているが、まさかデートに誘った相手が中学の時の知り合いにも関わらず疑われないのだから本当に不思議だ。

 

「そのくらい君と私がお似合いだからじゃないかい? ふふふ、本当に付き合うってのはどうかな? 君が構わないならさ……キスしても良いんだぜ?」

 

 向かい合って座っていた遥は正面から俺の膝に乗り、顔を間近に寄せる。息が掛かる至近距離で、狭い観覧車の中だから無理に振り払えない。それにだ。一台後の車内には金田達が乗っているから今の位置からして此方の内部が見えている。下手な真似は出来ない。

 

 

「キスなら何度もしているんだし、今回は君の友人の為に付き合ったんだぜ? だからさ……君からキスをして欲しい。頬や額じゃなくって唇にね」

 

「……そうか」

 

 俺の目を正面から見据え、期待するように囁く遥。少し不安そうにしながら俺の返事を待っている。……今回ばかりは仕方ないな。

 

 俺は遥の腰に手を回し、そっと引き寄せて唇を重ねる。一秒にも満たない僅かな間だが、俺は赤ん坊の時から一緒に居て、家族同然に思っていた遥にキスをした。予知夢で見た此奴と結婚した未来だが、こうして少しづつ変わっていった結果なのかもしれないな。

 

 

 

 ……俺がそう思った時、施設の一部で爆発が起きる。轟音と振動、客や職員は固まり、次にパニックに陥った。遠くで上がる黒煙と聞こえてくる警報の音。そして爆発元に立つ異形の姿。

 

 

 

「アレって確か……ラスボスの妹の力だ」

 

 遥の呟きに俺の朧げな記憶が蘇る。ヤンデレヒロイン枠だった、ラスボスの妹カーミラは他者の思考や記憶を操る力を持つが、力を限界以上に注ぐ事で人を化け物に変える。今暴れているの化け物は原作において主人公が轟とデートしている事に嫉妬したカーミラが差し向けたのと同じ姿だった。

 

 

「……ちっ! 原作との違いがこうなるとはね。折角君がキスしてくれたのに余韻が台無しだ。……君から、してくれたのに」

 

 もう直ぐ地上に到着だという時、遥は悲しそうに呟く。何度もふざけた態度で俺とキスしたくせに、俺からキスしたというのが余ほど嬉しい事だったようだ。……少しだけ腹が立ってきた。

 

 俺は遥の頭に手を乗せ、撫でながら暴れる化け物の方を向く。もうアレは元に戻せないハズだ。いや、もしかしたら戻せる方法があるのかもしれないが、少なくても俺はそんな能力を手に入れていない。エリアーデに引き渡すにしても、まずは動きを止める必要がある。

 

 

「キスならもう一度する機会もあるだろう。今は彼奴を止めるぞ」

 

「……うん!」

 

 さて、俺も楽しいと思っていたのだ。邪魔をしたお礼はしっかりさせて貰うとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇ? おかしいなぁ? 先輩、なんであの人とそんなに親しそうにしているんですかぁ? ふふふ、そう絶対私が遠くから見ているのに気付いて嫉妬させる気なんだぁ。先輩ったら仕方ない人なんですから。……でも、今回のデートを設定したお友達は消しますけど構いませんよねぇ?」




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俺と幼馴染みの責任を考えると辛いのだがどうすべきだろうか?

活動報告でも書いたけど辛辣なコメントや評価低迷でスランプと意欲低下 何とか復活 次回は・・・・


 観覧車よりも巨大な人型の土塊、それが俺の前に立ちふさがっている敵の姿であり、原作において主人公、つまり焔が一度心を折られるエピソードに関わっている。土砂が絶え間なくこぼれ落ち、足元からせり上がって補完を続ける巨体の胸部、心臓の部分が核であり、中には生きた人間が入っている。

 

 原作では知らずに弱点だとだけ思って吹き飛ばした焔が自らを人殺しだと責め立て、慰めた轟との仲が進展する。戦闘中には劣勢で仲間が死にかけた事でレベルアップを果たすなど、焔にとって主人公としての成長イベントという訳だ。

 

「あはははは! 今此処で此奴を倒せば私の主人公としての地位は盤石だっ!」

 

 つまり、オリ主を自称する遥なら絶対に介入するイベントであり、それが向こうから舞い込んできたのならば見逃さない筈がない。根は善良だから人殺しをさせて責め立てる様な真似はしないが、主人公の成長フラグを積極的に折ろうとする労力を、何故他に回さないのかが甚だ疑問である。

 

「おい! あの胸部からは人の生体反応がする。まだ生きているから絶対に壊すな」

 

 何故此奴が此処に現れたのか、それは不明だ。もしかしたら同じ種類の別個体かもしれないし、俺たちがこの世界に来たことで何かが変化したのかもしれない。つまり、今回出た犠牲は俺達の責任かもしれないということだ。

 

「なら、最善を尽くすだけだ……」

 

 もう原作だの何だのというべき時はとうに過ぎている。今確かに生きている世界の住人として、何かをどうにかする力を持つ者の責務として、自分に出来る事をする。そうすべきだし、そうしたいと思った。

 

「よしっ! このまま駆け上がってくれっ!」

 

「了解っ!」

 

 遥の指示の下、俺は一気に巨体を駆け上がり頭部を目指す。尚、彼女は俺に肩車をされている状態だ。飛ぶ道具を持ってはいるが、使えるのと使いこなせるのは別なので、周囲を気にしながらの戦闘は難しいので空を走れる俺に乗っているのだ。背負うのは腕が使いにくいから却下され、俺の頭を足で挟み、俺が更に足を掴んで固定させて腕が自由に使えるようにしていた。

 

 

「私の腿の感触はどうかな? 癖にならないかい?」

 

「いや、別に? お前の足に挟まれているよりは抱き締めてやってる時の方が心地良い。どうも受け身は性に合わんのだ」

 

 振り下ろされる腕を蹴り上げ、遥が雷を纏った槍を投げる。頭部に着弾した瞬間、耳を劈く様な雷鳴が響き雷光が周囲を照らす。土塊の巨体が崩れ、赤い核だけが残された。

 

 

 

 

 

「むむっ! これはカーミラの仕業なんだねっ!」

 

「へぇ、やっぱり」

 

 遥の馬鹿がつい口を滑らす。此奴は本当に馬鹿だと心では慌てながらも顔は平静を装う。奇行は平常だ、俺が知らない振りをすれば大丈夫だ。

 

「……やっぱり? 君、彼女を知っているのかい? まあ、どうでも良いか。ふふふ、燃えてきたんだねっ! 仲間だった時には無理だったけど、今は存分に研究できるんだからねっ!」

 

 後方部隊に連れられてやって来たエリアーデは巨体が復活しないように軽く封印を掛けている核をべたべた触りながらご満悦だ。直径三メートル程の球体の中からは未だに生体反応が確かにしており、助けられるのなら助けたい。……それはそうとエリアーデに怪しまれる所だったな。前世で漫画としてこの世界を知った、など頭がおかしいと思われる……いや、変わらないか?

 

 

「おい、小鈴」

 

「はっ! もしもの時は小鈴めが此奴の首を切り落として御覧に入れて見せましょうっ!」

 

 エリアーデの護衛である小鈴は俺が名を呼ぶと同時に膝をつき、命令をしなくても言いたい事を理解してくれた。目が明らかに期待しているので頭を撫でてやると本当に嬉しそうで顔がにやけてしまっている。だらしのない蕩け方だな。

 

「それにしても私と主殿は以心伝心、まさに理想に主従で御座いますね、ここは景気づけにエリアーデめの首を跳ね飛ばして、護衛任務は終わったとしてお傍に……」

 

「いや、此奴は馬鹿で厄介だが必要だ。一応護衛なのだから首は切るな、首は」

 

「なら腕をっ!」

 

 ……だから此奴はどうして此処まで物騒なんだ。胃がキリキリ痛むのを感じつつ、涎を垂らしながらキラキラした目で核を調べるエリアーデと小鈴の間に入る。心底惜しそうに刀を握るな。

 

 

「……今度遊んでやる。だから我慢しろ」

 

「はいっ!」

 

 小鈴は人型のロボットだが基本は犬の精神で、俺を群れのトップだと認識して好意を向けてくる。だからエリアーデのせいで俺と引き離されているって認識なのだろう。とりあえず定期的に頭を撫で、遊んでやろう。

 

 

 ……それにしても金田は災難だったな。藻武と進展したと思ったら今回の事件だ。事後処理の為に記憶をいじるし、下手すればデート自体がなかった事になる。俺が遥と遊んだ時の記憶が消えるとなると気落ちするな。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか事故が起きるとはな。やれやれ、ついていない。藻武もすまんな。俺様の責任だ」

 

「別に良いわよ。あんた、私を守ろうとしたじゃない。少しは見直したわ、お坊ちゃん」

 

 記憶改竄によってWデート中に事故が起きた程度になったようだが、二人の仲は進展しそうで何よりだ。俺には相手がいないから羨ましいと思うのと同時に微笑ましく思う。二人の仲が無事に進展するには紆余曲折の末に艱難辛苦が待ち受けているだろう。余計なお世話かも知れんが頼られれば力になろう。交際相手もいないから暇だしな、と自虐ネタを交えつつ二人と別れた。

 

 

「今日は楽しかった……だが」

 

 金田達と一緒に遊んだ時間は確かに楽しかった。大勢でワイワイ騒ぐのは好きだ。だが、どうも物足りない気がしてモヤモヤする。いったい何がと思いながら歩いていた時、横で手を繋いで歩いていた遥の言葉で何か気付いた。

 

「やっと二人っきりだ。うん。とっても嬉しい」

 

 忘れかけているが遥は元々引きこもりで対人能力が低い。今回金田達との行楽につきあわせたのは軽率だったな。

 

「飯でも食って帰るか? 奢るぞ」

 

「大勢の友達への誕生日プレゼントとかで金欠の君がかい? さて、何が良いか」

 

 少し思案した遥だが、良い店があったのか俺の腕を引っ張って遠くを指さす。派手な色彩の建物の外壁が目に入った。

 

 

 

 

 

「彼処のルームサービスが良いな」

 

「ラブホテルではないか馬鹿者っ!」

 

「……私を食べて良いんだぜ」

 

 腕に抱きつき上目遣いに誘惑してくるが応じない。ノリで此奴を抱きたくはないからな。腕を掴んで引っ張り足早にこの場を去る。取りあえず適当な店に入ろう。

 

 

 

 

 

「さっきの店、カップルが多かったな」

 

「傍目から見れば私達もカップルだぜ? それも美男美女のだ。はは、嬉しいかい?」

 

「悪い気はしないが……ないな。うん、お前とカップルとか絶対にない……とまでは言わないが、想像出来ん」

 

 少々こじゃれた洋食屋から出た頃、既に暗くなっており俺達は並んで帰路に就く。空には雲に少し隠された満月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「今日は我が儘に付き合って貰って助かった」

 

「おいおい、君だって何時も私の世話を焼きっぱなしじゃないか。おあいこさ、おあいこ」

 

「そうか。……しかしだ、こうしてお前と一緒にたわいもない話をしている時の方が楽しいな。どうやら俺はお前と二人っきりの時の方が好きなようだ」

 

「……私も君と一緒なのが一番好きだ。一緒にいてくれるなら何だってしてあげられる程にね」

 

 そろそろ家が見え出す頃、もう一度空を見上げる。月を隠す雲が消え、綺麗な月が輝いていた。その月明かりに照らされた遥も綺麗だと素直に思う。

 

 

 

 

 

「見てみろ。月が綺麗だぞ」

 

 この言葉の後、遥が少し照れた様に見えたのは気のせいだろうか? ……うん? 確か月が綺麗云々の話を何処かで聞いて、遥に教えた様な気がするのだが……。




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俺の宿敵がとんでもない勘違いをして辛いのだがどうすべきだろうか?

「あの、主殿。臣下として恥ずかしいことではありますが、ご褒美を頂戴いたしたいなぁっと思いまして……」

 

 早朝、小鈴との散歩の為にエリアーデの家(シーサーに変わっていた。昨日までは河童の頭部)に向かうとドアを勢いよく開けて小鈴が飛び出してくる。足音や臭いで俺を察したらしいが、それなら家主である馬鹿の実験で発生した悪臭は大変だろうなと思いながら身構えた。だが、今日は珍しく飛びついて来ない。

 

 言いにくそうに目をそらし、指先を合わせて動かしながらチラチラと俺の顔を見ていた。

 

「何だ? お前には苦労を掛けているからな。何でも……は無理だが、可能な範囲なら」

 

 俺の迂闊な行動で植え付けてしまった忠誠心、犬の魂をベースにした精神の為か異常に強いそれは、群れの長と認識している俺の側に居たいとの思いを強めていた。だが、現状は群れの仲間とさえ認識していないエリアーデ(創造主)の見張り。ロボット相手とはいえ、見た目は少女で魂由来の精神が有るのなら無碍には出来ない。

 

「も、勿論何かを買ってくれと我が儘を言う気は御座いません。只、テレビの犬特集を見て羨ましくなった事が……」

 

 その番組なら俺も観たので知っている。膝の上に飼い猫の猫左衛門を乗せて撫でくり回す遥が乗っていて時々画面に集中出来なかったが、飼い犬の芸自慢のコーナーが良かった。この時点で俺は思い当たる。ああ、ボールやフリスビーで遊んで欲しいのかと。確かに此奴ならどんな速度でもキャッチ出来そうだ。

 

 只、光景を思い浮かべたらアウトだった。中身犬の少女(中学生程度)が投げられたボールやフリスビーをキャッチし、男子高校生に渡す、そして投げるの繰り返し。通報物だ、後方部隊に隠蔽を頼まなくては。

 

「……あの、ずっと思っていたのです。散歩中に何度も見掛けて、主と犬との繋がりだと……」

 

 どうやら間違いないようで、小鈴は期待する瞳を向けてくる。負い目とか関係なしに好意を向けられている以上は何かしてやりたいが、犬発言で完全にアウトだ。少女に犬と自称させているとか変態の極みだ。

 

「まあ、お前はよく働いてくれているしな……」

 

「ひゃんっ!? あ、主殿、そんな急に……いえ、別によいと言うか嬉しいのですが」

 

 この発言に小鈴は反応し、尻尾代わりのポニーテールが千切れそうな程に激しく動く。中身だけでなく見た目も犬なら良かったのに。それなら躊躇無く撫で回して遊んでやっていた。思わず頭を撫でてやると目を細めて更に嬉しそうだ。これではもう後には退けない。だが、俺には秘策があった。

 

 キャッチボールやドッヂビー形式にすれば良いし、場所は組織の地下トレーニング広場を使えばいい。何時でも言えとばかりに構えていると、少しお待ち下さいと言って小鈴は家へと駆けていく。どうやら既に用意していたようだな。ボール遊びなど遥以外とするのは久々だと思っていると小鈴が戻ってくる。

 

「主殿ー! お待たせしましたー!」

 

 大声で主殿呼ばわりは少し困るので即座に隠蔽系能力を発動。俺の目の前で小鈴が立ち止まった時には落ち着いて手の中にある()()()()()()を見ることが出来た。

 

「これを御手ずから小鈴めに装着して下さい。何というか、他の犬を見ていて主と一心同体っぽくて羨ましく感じておりまして……」

 

「……ちょっと待て」

 

 目をこすり、もう一度見ても現実は変わらない。真っ赤な色の首輪とリードを手に少女が俺に向かって自分の首に着けて欲しいと言っている。後、たぶんその状態で散歩に行きたいと言い出しそうだ。

 

 これで遥ならコブラツイストからの正座で説教だが小鈴は別だ。悪意も変な欲も微塵もない。期待に満ちた純粋な目で俺を見て、駄目だと言われるのを恐れている様子も見受けられる。これでは断るに断れないが、俺の社会的評判が地に落ちそうだ。

 

 

「……やはり駄目ですよね。。ははは、私は何を思い上がって……」

 

「よこせ、じっとしていろ」

 

 乾いた笑い声を耳にした瞬間、即座に認識阻害系の能力で一般人には分からないようにした後、首輪を小鈴の首に着けてやる。細い首に革のような素材の首輪を巻き、苦しくない程度の所で止める。リードの金具を首輪の金具に引っ掛け、望み通り首輪を着けてやった。

 

「散歩に来てみれば貴様と会う…とは……」

 

 着けた時、背後から聞こえてきた声に反応して振り向けばアリーゼの姿がそこにあった。何時もの軍服ではなく、年頃の女性が着そうな小洒落た服で、肩や足の露出面積が広く、身長に合わせたので胸がキツそうだ。ボタン、弾け飛ばなければ良いが。

 

 だが、その程度は問題じゃない。奴の視線は俺の手元、小鈴の首に巻かれた首輪と、それに繋がれたリードに注がれ、現実を受け入れられないという顔で固まっている。うん、一般人以外が来たときの為に感知系も使うんだったと、現実を受け入れたくない俺は思うのであった。

 

「あらあら、婿殿ったら矢張り。……どうせなら私も参加いたしますよ? 首輪だけを身に付けてリードに繋がれて四つん這いで街中を……姫様もほら、そっちの方が好みのようですし……」

 

「んなっ!? そ、その様な真似が出来るかっ!? せ、せめて初めては野外ではなくベッドでだな……」

 

 顔を赤らめ嬉しそうに胸元をはだけさせるエトナに対し、アリーゼは初対面で子供を作るのを要求したにも関わらず、俺に対しての誤解で耳まで真っ赤になってプルプルと震えていた。非常に遺憾であり、即座に誤解の解消の機会を要求したい。俺は頼まれたから中身犬の美少女型ロボットに首輪とリードを着けただけであって……文章にすると最低過ぎた。

 

「と、兎に角今日は散歩で遭遇しただけだっ! 野外露出羞恥プレイについて勉強せねばならんから今日は退いてやる!」

 

「俺はお前に引いている」

 

「あらあら、でしたら私は此処で婿殿の鬼畜さをこの身で計ってから帰りますわ。それで服は自分で脱ぐのと、脱がされるのと、どっちが好みでしょうか? 更に言うなら喜々として脱ぐか屈辱に耐えながらか、抵抗せずに脱がされるか抵抗の末に脱がされるか……想像しただけで濡れて参りました」

 

「誰が鬼畜だ、さっさと帰れ。ゴーホム、エターナルグッバイ」

 

 テンパった表情のままアリーゼは逃げていき、エトナは興奮しきった表情で熱を帯びた視線を俺に、特に下半身を中心に舐め回すように向けてくる。怖い、凄く怖い。

 

 

「小鈴、助けてくれ」

 

「ななな、なんとっ! 主殿に頼られるとは感涙の極みっ! では、リードをしっかりとお持ち下さい!」

 

 精神的に追いつめられた俺はどうにかしていたのだろう。小鈴に助けを求めると張り切った様子で胸をドンッと叩き、俺がリードを握り締めたのを見るなり全速力で走り出す。この時、俺は浮いた。エトナを置き去りに風景が矢のように去っていく中、俺はある事に安堵していた。

 

 

 

(認識阻害、使えて本当に良かった)

 

 でなければ首輪とリード着けた少女に引っ張られて宙に浮く男子高校生の姿が近所の人に目撃されていたのだから。

 

 うん、大丈夫。途中、両手で抱えなければ持てない大きさのメロンパンに嚙り付きながら歩く轟と目があった気がするが、きっと大丈夫だ。取り敢えず食べかすが落ちるから歩きながら食べるのは止めるように言っておこうと思ったが、何処で目撃したとかの話になると拙い気がするので心に仕舞う事にした俺であった。

 

 

 

「も、もう止まれっ!」

 

「はっ!」

 

 町外れの道路を疾走し、路地裏を駆け抜け、商店街を超高速で通り過ぎ、全力で走り抜いて辿り着いたのは俺の家。家のドアを蹴り破き、俺がようやく止まるように命令を下す。即座に急停止する小鈴、浮かんでいた俺は慣性の法則に従って前に飛んでいき、褒めて欲しそうな顔でこっちを向いた小鈴に向かって飛んでいく。巻き込んでで転がること数度、柔らかい感触を顔で感じる。

 

 

 

「主殿……どうぞお好きになさって下さい。私の純潔をお捧げしますっ!」

 

 これがラッキースケベという奴なのか、俺は小鈴を押し倒した格好で胸に顔をうずめている。しかも服がめくれて肌が露出しているのだ。完全に興奮というか発情というか兎に角ヤバい状態の小鈴が照れながらも器用に服を脱ぎ捨てていく中。俺は先程までの空中散歩で三半規管が狂って上手く動けそうにない。

 

「ま、待て……」

 

「何を今更。では、来ないのでしたら私が、いや、それをお望みなのですねっ! 自ら純潔を捧げ、誠心誠意ご奉仕せよと、そう申すのですねっ!」

 

 言っていない言っていない、俺は何も言っていない。だが、もう聞く耳がない。エリアーデの奴、ロボットにどこまで機能を付けてるんだ、あの天才馬鹿。そして血走ってさえいる眼で舌なめずりをする小鈴がショーツに手を掛けた時、背後から鋭い蹴りが放たれて小鈴を蹴り飛ばした。

 

「ひきゃんっ!?」

 

 俺の隣を通り過ぎ、壁に激突する小鈴。特別丈夫な我が家の壁は彼女の激突の衝撃に耐えきり、ずり落ちた小鈴は目を向いて気絶していた。……本当に高性能な奴だ。

 

 

 

 

「さぁて、助けてお礼をして貰おうか。君、覚悟は良いかい?」

 

 前門の虎、校門の狼、一難去ってまた一難、小鈴を蹴り飛ばした遥は俺を見下ろしながらニヤニヤと笑う。何を要求されるか本気で怖かった。

 

 

 

 

 

 

「……本当にこれだけで良いんだな?」

 

「ああ、勿論さ。私に二言はない。……ほら、あの言葉忘れずに言ってよ」

 

 ベッドの中、抱き寄せた遥の髪の香りが鼻を擽る。俺の両手は彼女の細い腰を抱き締め、遥の両手は俺の首、足は俺の足に絡みついて密着する。これが助けたお礼の要求内容。昼寝をするので添い寝して欲しい。ああ、それと、ある言葉を言って欲しいらしい。少し拍子抜けだ。

 

 

 

 

「月が綺麗だな」

 

「……うん。もう私は死んでも良いよ」

 

 拍子抜けで怖いくらいだが、この時の本当に嬉しそうな遥の姿を見る事が出来たのだから良しとしようか。俺はそんな事を思いながら瞼を閉じる。少し疲れたし、こうして此奴を抱き締めていると心の底から安堵して、眠気が襲って来た……。




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最近アブソリュートデュオって作品に興味持って二次も書いています


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俺の幼馴染みが純粋な同僚と違いすぎて辛いのだがどうすべきだろうか?

大雨の被災地の友人と連絡着かず執筆も止まってました 大丈夫かな?

新作も要因・・・




 瞼を通して入ってくる朝日に覚醒した俺は、身体に乗った重さから何時もの事だと呆れ果てる。大抵遥が下着姿だの裸Yシャツだので俺を誘惑して楽しんでいるからだ。

 

「やあ、良い朝だね。ご主人様?」

 

 ほら、この通り。今日は仰向けになった俺の腹を挟む形でベッドに膝を付き、俺の腹に尻を乗せての前傾姿勢。服装は下は黒い下着とニーソのみで、上は俺のYシャツだけだ。俺の方が大きいが、胸の辺りが布を圧迫している。呼吸の度に揺れる上に汗で湿って少し透けていた。

 

「おい、今日はどうした? いや待て、言わなくても良い……」

 

 この馬鹿がこの様な真似をするのは日常茶飯事だが、今日は特に酷い。俺の胸に置いた左手で体重を支え、右手は顔の側に持って行って手首を少し曲げている。そう、招き猫の如くな。後、何故か犬耳カチューシャを着けて首にはリード付きの首輪を巻いている。流石の俺も反応出来なかった。取り敢えず理由は聞きたくないし知りたくもない。

 

「おや、こういった趣向は嫌いかい? 昨日の一件で目覚めたかもって思ったのさ。今だけは君専用の雌犬になってあげようじゃないか!」

 

「俺は聞きたくないと言った筈だ。……いい加減俺も我慢しきれん」

 

「ひゃうっ!?」

 

 この至近距離で遥の甘い香りが漂ってくるだの、サイズが合わないために今にもボタンが弾け飛びそうな胸が目の前だの、少し照れる。知られれば調子に乗るので絶対に内緒であり、あっちのペースに乗るわけにはいかない。俺は判断するなり即座に遥の手を掴んで引き寄せ、間近に迫った顔をすんでの所で片方の手で受け止める。俺の行動に面食らって余裕がなくなった遥の顔と俺の顔は息が掛かる程に近く、手を離せば勢いでキスしてしまう位置にある。

 

「あ、あの、やっぱりシャワー浴びて来て……」

 

「その必要はない。十分いい香りだぞ? 嗅いでいたい程だ。……なんてな」

 

 どうやら緊張に伴う発汗や寝汗で匂うと思ったようだが俺は気にしない。嗅いでいたい、というのは勿論冗談だが、俺は此奴がどんな臭いだろうと気にしないからな。それだけの絆が有る。

 

「うひっ!? わ、分かった。じゃ、じゃあ今から……あれ?」

 

 何やら覚悟を決めた様子の遥だが、本棚から厳選したハードカバーの本が浮かんで引き寄せられたのを見て固まっている。直ぐに気付いて逃げ出そうとするだろうから顔の位置を少しずらして頬がくっつく位置に持って行き、両手で強く抱き締めた。胸が押し付けられ形を変える。強く遥の存在を感じてやや緊張するが、どうも遥も同様らしい。目を逸らして耳まで真っ赤だ。

 

 

 

 

「俺はノーマルだ。首輪だのリード付きだのといった趣味は談じてないっ!!」

 

 只でさえ轟に見られたんだ。知り合いに変態趣味だと思われるのがどれだけストレスになるか理解せず、あまつさえそんな趣味に目覚めたかもと見当違いな結論に達した馬鹿めがけ、俺は『念動力』(持ち主は砂漠での遭難時に目覚めた)で操った本を遥の頭に殺到させた。

 

 

「あばっ!? あべしっ! しぐまっ!? ごばっ!?」

 

 

 相変わらず奇声の悲鳴をあげる遥。この後、俺にそんな趣味はないと理解するまで語るのであった。

 

 

 

 

 

「いや、分かってたよ? 君がどんな奴でも受け入れるって意思表明じゃないか」

 

「既に分かっているから不要だったぞ。俺が困っただけだ」

 

「それでも言いたいんじゃないか。君は乙女心が分かってないな。何度も好きだ、君は大切な存在だ、君が欲しい、そう言っているだろうに」

 

 乙女心……遥がっ!? 少々理解不能な組み合わせに戸惑い固まる俺であった……。まあ、遥に対して大切だの何度も言いたいかどうかで言えば肯定だから気持ちは分かるが……乙女? 乙女って何だろう。何時もの行動に悩まされている俺は本気で戸惑った……。

 

 

 

 

 

 

 

 日の光が届かない洞窟の中を俺は進む。時折水滴の音に混じってカサカサと無数の脚が蠢く音が聞こえ、壁を黒い物の群が横切った。目の前では天井から垂れ下がった糸にくっついた葉っぱが揺れ動き、炎で焼いて進めば此方を伺っていた影が慌てて逃げ去っていく。どうも明かりが苦手な様だ。土竜がそうであるように、暗い場所で生息しているから光に鈍感かと思ったが違うらしい。いや、熱に反応した可能性もあるのか……。

 

「さっさと見付けて帰るとしよう」

 

 空気が淀んでおり、腐臭も時折漂う。気体操作や解毒系能力が無ければ重装備で来なければならなかっただろう。そもそも、だからこそ俺一人で来ているのだが。では、事の始まりを思い出すとしよう。

 

 

 

「治癒崎が連れ去られた?」

 

 後方部隊の仕事は事後処理や実行部隊のサポートであり、現地調査も含まれる。今回も捜索中のターゲットが潜伏している可能性がある怪しい場所の様子を探りに行ったのだが、その際に全く別の化け物に襲撃を受けたらしい。父さんから話を聞かされた俺は今動けるメンバーを思い浮かべるが、父さんから遥は駄目だと告げられた。

 

「確かに社交性が乏しく常識もないが……いや、そういう事か」

 

「ああ、そういう事だ。攫った化け物の姿の報告は受けていてな……蜘蛛だ」

 

 傲岸不遜な遥だが、蜘蛛だけは大の苦手で、小さいのを見ただけで使い物にならない。なら今回は仕方ないな。

 

 

 

「しかし未来の嫁さんに少し失礼じゃないのか? 結婚後は大切にしてやれよ?」

 

「結婚する気はないぞ? 彼奴は大切な存在だが、幼馴染みでしかないからな」

 

 何故か呆れられたが問題ない。しかし父さんが失礼って言うくらいだ。詫びとして今度どこかの店で何か奢ってやるか。

 

 

 

 

 

「キシャアアアアアアアアッ!!」

 

 金属がこすれ合う音のような耳障りな鳴き声をあげながら、大型犬ほどの巨体を持つ蜘蛛が向かって来る。蜘蛛の背後にはモゾモゾ動いている蜘蛛の糸の繭があり、治癒崎の髪の毛がはみ出している。

 

「さて、どうすべきか……」

 

 この蜘蛛だが普通に斬り殺したならば体内の卵から一斉に子蜘蛛が孵化して鬱陶しい。だが先ほど倒した同族は焼けば鼻が曲がるほどに臭いし、淀んだ空気がさらに減ってしまう。俺は兎も角、弱っているかも知れない治癒崎には危険だ。考えている最中も溶解液を吐き出しながら迫る蜘蛛。俺はそっと右手を突き出した。

 

「凍れ」

 

 『氷神の加護』。アリーゼの能力だ。焼いても斬っても駄目ならば凍らせるまで。床や壁は無事なので気温はさほど代わらず、先ほど連絡があって他の被害者の救出は完了している。そして今、最後の一匹を倒し、最後の一人の救出を今終える所だ。俺は中の彼女に傷を付けないようにしながら繭を切り裂く。

 

 

 

「……ふぁっ!?」

 

「あっ! いいんちょーだー!」

 

 繭の中の治癒崎は全裸だった。小さい体格に反し遥程の胸が丸出しで、そんな状態にも関わらず俺を見るなり嬉しそうに抱きついてくる。彼女にも羞恥心は無いのだろうか? いや、きっと助かった事で興奮しているだけで直ぐに悲鳴を……。

 

「ありがとね、いいんちょー」

 

「あのだな、治癒崎。離れて欲しいのだが……」

 

「えー? 今離れたら裸見えちゃうよ? いいんちょーなら平気だけどねー」

 

 信用されて居るのだろうが、流石に今の状態は拙い。俺は目を瞑って離れるように言い、上着を差し出した。後で知った話だが、あの蜘蛛は可食部でない服を剥がして獲物を保存するらしい。直ぐに見つかった服だが、上は下着すら無惨な状態だったのだが、下はどっちも無事で助かった。

 

 

 

「いいんちょー速ーい! 凄ーい!」

 

 治癒崎以外の全員の救出を確認。一応生命探知系の能力を使い他に被害者がいない事を確認した俺は彼女を背負って出口を目指していた。どうも疲れて歩けないそうだ。怪我なら治せるが疲労は無理なので仕方がない。俺の肩に両手を乗せ、少し体を離して居る治癒崎には安心だ。

 

「神野さんなら体をギューッてくっつけてたかもねー? 私も助けて貰ったお礼にくっつけた方が良いー? いいんちょーは好きだし、別に良いよー?」

 

「俺も治癒崎は大切な友人だから好きだが、そういった真似は止めておけ。誤解されるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ」

 

 今、舌打ちが聞こえた気がしたが水滴が落ちる音音を聞き間違えただけだな。遥と違って純粋で天然な治癒崎がまさかな……。

 

「いいんちょー、ちょっと眠くなっちゃったー」

 

 有無を言わさず俺に体重を預ける治癒崎。当然、豊満な胸が背中に押し付けられる。……急いで戻るとしよう。俺は背中に意識を向けないようにしながら足を速めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(うーん、反応はイマイチ。でも、委員長の服が着れたし、オブって貰ったから良いかな?)




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俺の幼馴染みが愛しすぎて辛いのだがどうすべきだろうか?

「……しくじったなぁ。オリ主の私が最終決戦に参加できないなんて、まるで踏み台転生者じゃないか」

 

 組織が運営する医療施設の隔離棟の病室で遥は深いため息を吐く。その白い肌には無数の解読不能な文字が浮かび上がり、発光する色を変化させながら蟲の如く蠢いている。此奴は今、呪いに侵されていた。

 

「功を焦るからだ馬鹿者。今は治療に専念しろ。戦いはこっちで済ませる」

 

「だって敵のボスが姿を現した上に妹まで現れたんだぜ? ぶっ倒せばヒロイン達が漸く素直になって私にデレるんだ。ふふふ、子猫ちゃん達は素直じゃないからね」

 

 だが、この馬鹿はこの通りピンピンしている。本来は苦痛の中で死に至る呪いらしいが、レベルⅩともなれば各種異能への耐性も尋常ではない。……無論、無事ではない。耐性に力が注がれて普段通りの力が発揮できない。これで能力が使えないのなら兎も角、制御が全く出来ず力の強弱がコントロール不可なのだから後方要員も無理だ。尚、俺のように呪い耐性の能力(本来の持ち主は餅をのどに詰まらせた時に目覚めた)を持ってないと伝染する可能性が有るからと隔離している。

 

「今の私はただの超絶美少女か。おやおや、此処で君に押し倒されても抵抗できないって訳だ」

 

 ベッドに寝ころんだままチラチラ此方の様子を伺い、胸元を広げてみせる馬鹿が一人。俺は冷静に対処した。

 

「そんな予定は未来永劫無いから安心しろ。少なくても同意の上でしかお前を抱かん」

 

「じゃあ、今すぐ抱いてくれるかい? ……ちょっと君が心配だし、景気付けにさ」

 

 不安そうな声を出す遥。そもそも、此奴を此処まで追い込んだ相手はなんと龍堂寺……いや、ラスボスの妹であるカーミラだった。何時もの様にアリーゼ達との戦いの最中、紛れ込んだ蜘蛛に怯えた遥が正面から抱き付いて来たので仕方なく抱っこした状態で戦っていた時、彼女は現れた。虚ろな瞳を俺に向けながら……。

 

 

 

 

「……その人、何をなさっているんですか?」

 

「情けない話だが……いや、待て。お前、一体どうやって……」

 

 龍堂寺は一般人の筈だ。にも関わらずワープでもしてきたかのように突如現れた事に俺は動揺して固まり、アリーゼ達は最大限の警戒で動けずにいた。

 

「何故貴様が此処にいる? ……カーミラっ!!」

 

 憎悪さえ感じさせる声で叫んだのはラスボスの妹の名であり、原作においてラスボスと共にアリーゼの一族と家臣のほぼ全員を皆殺しにした上で従属の呪いを掛けた者の名前。その声を聞いた龍堂寺の首が僅かに動いてアリーゼの方に視線が向けられた。

 

「……ああ、貴女の仕業ですか。兄さんの道具のくせに、先輩と、私の大切な人と到底釣り合わない癖にモーションを掛けている勘違い女。そんな屑のせいで先輩が苦労して私に笑顔を向けるための時間が減るし、同じ組織ってだけで目障りな人達が側にいるんです。貴女が居なければ、貴女とその女達さえ居なければ先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は私だけを見て、私だけと側にいて、私だけと話して、私だけを愛してくれるのに……死ねっ!」

 

 感情の読めない表情で息継ぎなしに一気にまくし立てた彼女の足元から赤紫の泥があふれ出す。グツグツ沸騰して波打つそれは津波のように押し寄せ、アリーゼ達を飲み込むと引き潮のように龍堂寺へと戻って行く。後に残ったのはなめたけの瓶の残骸。急展開にオレは表情を変え、遥も蜘蛛が何処にいるか気にしながらも俺の横に立って身構えた。

 

「……さてと。ここで私が彼女を単独撃破すれば大手柄。子猫ちゃん達も私へのラブ度を振り切るだろうね。じゃあ、行くよっ! 来た来た来た来たぁあああーーーーーーーー! オリ主に相応しい大活躍の場だぁっ!!」

 

「おい、待てっ!」

 

 制止しようと伸ばした手は空を切り、遥は龍堂寺……いや、カーミラへと突き進んでいく。そんな遥に煩わしそうな視線を向けたカーミラの足元から赤紫の泥で形成された槍が無数に飛来した。

 

「死ね、恋敵っ!」

 

「はははははっ! 彼も君も私のハーレムメンバーさ! さあ! 私の強さに見惚れるんだ!」

 

 飛んでくる槍を次々に呼び出して射出する剣で相殺し、身体能力に任せてカーミラに接近した遥の拳が腹部に突き刺さり、地面に叩きつけると同時に服を剣で貫いて地面に縫い付けた。

 

「顔は絶対に傷付けない。ふふふ、紳士だろ? 惚れても……いや、素直になっても……」

 

 完全に油断している遥は格好を付けて歯を見せて笑いながら髪を掻き上げる。その腹部をカーミラの口から吐き出された黒い煙が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、あの後モンスターに変貌したカーミラをお前を庇いながら倒したのは俺だったな」

 

「まあ、主人公にだって失敗は……」

 

 苦言を呈しても反省の色が無い遥。俺はその体を両手で抱き締める。自分の声が震えているのが分かった。

 

 

「……動かなくなったお前を見て本当に心配したんだ」

 

「……ごめん」

 

「もう無茶はするな」

 

「……うん。約束だ」

 

 遥も同じ様に俺を抱きしめ、暫くの間、俺達はそうやって抱きしめあっていた。互いの体温や体の感触が何時もより感じられる。こうやっていると遥は少し華奢だと、そう感じさせられた。

 

 

 

「じゃあ、行ってくる。最後にカーミラ……龍堂寺が教えてくれたラスボスの本拠地に殴り込みだ。お前は俺の勝利を信じて待っていろ」

 

 最後、彼女は正気に戻って笑いながら逝った。最後の言葉は『兄さんを救って』と『好きでした』だ。……何故俺を好きになったのかは知らないが、彼女のことは忘れないでおこう。勿論、アリーゼ達もだ。きっとそれが俺の責務なのだから。

 

「……行かないで、とは言わないよ。君が私の側から居なくなるはずがないんだからさ。でも、これは勝利を祈っての景気付けだ」

 

 腕を掴まれ引き寄せられた俺の唇に遥の唇が重なる。普段のふざけてしてくるキスとは何処か違った気がした。

 

 

「……待ってるからね」

 

「……ああ。勝利の女神の祝福を貰ったんだ。さっさと終わらせて帰るとするさ」

 

 互いに相手の顔を見れないほど恥ずかしく、背中を向けあって言葉を交わす。では、そろそろ行くとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……畜生。一体私の何処が問題なんだ。容姿端麗頭脳明晰高収入経験豊富の美女だぜ?」

 

「普通に考えて性別だろう。あと、お前の何処が経験豊富だ」

 

 あの戦いから数年、呪いも解除して前線復帰した遥と家飲みをしながら愚痴を聞かされていた。あの日、結局焔が原作通りに死の淵から復活して一時的にレベルⅩに到達、俺も居たので道連れ目的の攻撃で轟も昏睡状態にならずにすんだ。原作では回想シーンで明らかになったラスボスが悪霊になったり妹を狂わせた理由も当然不明なのでただの悪として判断されたのは少々悲しいが仕方がないだろう。

 

 ……しかし、轟も治癒崎も焔に告白しなかったせいで田中と結婚したが、俺や遥が邪魔してタイミングを逃したのだろうか?

 

 

「ちょっと聞いているのかい! ……大体、性別なんて些細な問題じゃないか」

 

「いや、極度の男嫌いのお前が言うか?」

 

 この会話から分かると思うが、前世同様に遥は振られたんだ。しかも容姿がそっくりな相手にな。再び引きこもるなら俺が側で支えるが、取り敢えず今は愚痴に付き合ってやろう、俺がそう思ってツマミに手を伸ばして視線を外した瞬間、突如立ち上がった遥が服を脱ぎ捨てた。器用なことに下着もだ。

 

 

「……風邪引くぞ。暑いなら冷房の温度を下げろ」

 

「君は馬鹿かい? 今からヤるんだよ、君と! 経験を積んで大人の魅力を増すのさ!」

 

 また馬鹿が馬鹿を言い出したと何時もの様に対処しようとするがこの日は違った結末を迎える。酒が入っている事と任務があったので疲れていた事、両腕を掴まれレベル差のある身体能力で今まで以上に強引に迫られた事。この日、俺と遥は……。

 

 

 

 

 

 

 

「うん、今分かったよ。私は君が、君だけが欲しかったんだ。もう女の子は別にいらない。ああ、君の愛が欲しい」

 

 ……どうしてこうなった。強引に迫られ果てた後、遥が今まで以上にベタベタして来た。正直言って不気味にすら感じる。しかも、この日から本当に同性を口説くのを一切止め、その分のアプローチを俺にして来たのだ。その上、俺が不気味がれば怒って何度も強引に迫ってくる。結局、何度も関係を持つ内に俺にも限界が訪れた。

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしろ、遥。俺も男だ。悪いのはお前だからな」

 

「へ? いや、君、落ち着いて。……ひゃわんっ!? ま、待って! 私、そこは弱いしさっきしたばかりで敏感に……ひぃっ!」

 

 結局、こんな事が数回あった事もあり、俺は遥に求婚した。別に責任感からだけじゃない。此奴と一緒に居るのは楽しいし、変な罪悪感を感じずに側にいたいと思ったからだ。……好きかどうかと聞かれれば素直に好きと認めよう。

 

 

 

「おい、遥。結婚するか?」

 

「あっ、良いよ。じゃあ今から親に挨拶にいこう」

 

 この後は最初の方で語った様にあっさり承諾を貰い、俺の友人だけで千人近い招待客が全員出席しての大規模な式をあげた。花嫁姿の遥が相変わらず綺麗だったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、赤ちゃんは何時出来るかな? ……今から頑張らないかい?」

 

「さてな。授かり物だから仕方がない。まあ、少し待て。暫くこうしていたいんだ」

 

 俺は甘えた声を出す遥の膝に頭を乗せてウトウト微睡む。幸せとはこう言うのを指す言葉で、これからもこれまで以上に幸せを感じるのだろう。遥と一緒なら間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、遥。好きだ、愛している」

 

「私もさ。好きだ、愛しているよ」

 

 ああ、全く。俺の幼馴染みは踏み台転生者で今は俺の嫁だが、少し辛い事がある。こんな時、どうすれば良いのだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     俺の幼馴染みが愛し過ぎて辛いのだがどうすべきだろうか?




今まで応援ありがとう御座いました 次回作と更新中の作品にご期待下さい 機会があれば追加の話を投稿します









予告


滅ぼされた故郷、通じなかった力、少女レヴァは魔龍への復讐を誓いある人物の元を訪れる。世界最強の魔剣を創り出す鍛冶師グラムの元へと


 だが、そこで出会ったのは……



「え? グッ君に会いたい? じゃあ、このメモの物を買ってきて」

 何故か喋るパンダだった




「買って来ましたっ!」

「ありがとう、さようなら。え? 会わせてくれる約束? 僕、洗剤とトイレットペーパーを買ってきてとは言ったけど会わせるとは言ってないよ? 君、自分に都合の良い解釈をする癖があるけど直しなよ、良くないよ、そんなの」

「俺の剣があればって考えは捨てろ。無力を剣に押し付ける奴に渡す物はない。……剣が欲しいのなら力を示せ」

 性格の悪いパンダ、そして偏屈な鍛冶師に出された条件は指示されたモンスターの全討伐。果たして少女は強くなれるのだろうか……


 初期プロット未完成のオリジナル作品 滅龍の誓いと謎のキグルミ 乞うご期待! ……まあ、書けるかどうか未定


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