鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 (魔女っ子アルト姫)
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1話

これは異常な出来事だ、異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ……。

 

辿ってきた軌跡を振り返ると、発狂したように壊れたスピーカーがかき鳴らすノイズのように残された言葉が変わらずそこに羅列し続けている。今見ると如何にも醜悪に見える、見る度に溜息が漏れるのにどうしても一週間に一度はこれを見つめている。あの時、自分が自分でなくなった時の事を思い出しながら、今を生き抜くために過去を踏み台にして今という街道を走り続ける。そうするしかないから、そうしたいから今自分がいるのだから。

 

「さてと、お仕事開始しますかね。しっかり働かないとね」

 

放置していた為にやや皺くちゃになったパーカーを乱暴に引っ手繰ると肩に掛けるように羽織って歩き出していく。今日もちゃんと生きるために、後悔をしない為に生きていく為の行動を一つ一つこなしていくとしよう。

 

 

火星の荒野のような不毛な大地。野生動物による激しい生存競争など行える程の自然もない荒れている大地の上で、激しく土煙をかき鳴らしながら、走りぬけながら打ち合いをしているものがある。戦車と作業機械を掛け合わせたかのような車両、モビルワーカー(MW)と呼ばれる兵器である。三本足のローラーを駆使しながら地形に合わせるような激しい動きをしながら砲等を動かし、目の前の敵目掛けてペイント弾を発射する。その一発がローラー部分に命中し、地面に擦り付けるように車体を落とすMWの中の少年が毒づく。直後にそれらを見守るようにしている一人が、通信機を使いながらまだ残っているMW全機に呼びかけた。

 

「は~いシノアウト♪もっと頑張らないと何時までも勝てないぞ~」

『んなこと言ったって、あいつめちゃくちゃ反応いいんすよ!?』

「その位考慮して撃ちなさいって事よ。さて本日のランチ争奪MWマッチ、本日の最優秀には特盛りお代わり付きが付くわよ~」

 

MWの操縦技術向上の為の模擬戦を見守る一人の女性は、通信機越しに陽気で快活な声を響かせる。底抜けに明るく綺麗な声は操縦している少年達の耳に心地よく響いてくるだけではなく、それによって知らされたこの模擬戦での成績優秀者に送られる食事の特典という素晴らしい商品の事が、より彼らの意欲を刺激して行く。

 

『うおおおおっっ今日こそあの料理は俺のもんだぁぁぁっっ!!!それに特盛りだぜ!?俺が貰ったぁぁぁっっ!!』

『いいや今度こそ俺が貰うぜ!!三日月今日こそ特盛りは俺が貰う!!』

『今日も俺が貰う、姉さんの料理は美味いからね』

「全く貪欲というか分かりやすいというか……まっその辺りが可愛いんだけどね♪」

 

本日の景品が分かった途端に動きが良くなり、どんどん積極性が増していき機敏になっていくMWの動きに笑いがこみ上げてくる。やっぱり少年達のやる気を出させるには何か勝ち取れる物を用意するのが一番、そしてそれを用意してやるのも自分の仕事でもある。そしてどんどん過激になっていく模擬戦は、最終的には昭弘と三日月の二人が残ったが、最後には三日月が勝者となり本日のランチ争奪戦が終了した。

 

「(ハグハグハグハグッ)」

「どう三日月、美味しい?」

「姉さんの料理は何時も美味しいよ、もっと食いたいな」

「お代わりする?」

「うん」

 

勝者の特権を活用して本日の食事を食い尽くしていく三日月。大きなどんぶりに盛られた特盛りの食事を周囲の少年達は羨ましそうに見つめつつも、次こそはと執念を燃やしたりしている。お代わりがやってくると三日月は再び食事に集中し始める。それを微笑ましげに見守るのは、このクリュセ・ガード・セキュリティ(CGS)唯一の女性社員であり、彼ら少年達が所属する参番組の教官をしているエクセレン・ブロウニング。

 

こんな会社に居る事自体が間違っているかのような美人でスタイルも抜群、加えて本人の能力も極めて高い。射撃に至っては誰も敵わず、ライフルを持たせれば百発百中、走りながらの射撃でも異常なまでの命中率を叩き出している。このCGSにいる大人の男全員が狙っているかのような女だが誰一人として物に出来ていない。唯射撃の腕がいいだけではなく白兵戦においても強いからである。彼女の部屋に夜這いをした男性社員が数人いるが、その末路は腕と足の骨を折られた上でパンツ一丁にされて外に縛られて放置されるという物だった。

 

「なあ姉貴、如何したら三日月に勝てんだよ。ずっと俺達負けっぱなしだぜ」

「うーん三日月ってば基本的に一人だから、他の子達と話して集団で襲いかかるとかじゃない?それが一番かしらね」

「やっぱりか~……俺一人で勝ちてぇんだけどなぁ」

「あらあら悩んじゃって、お膝貸しましょうか?」

「い、いらねえよ!!」

 

恐れられつつも諦めきれないという感情を他の社員から向けられるエクセレンは、未成年の非正規部隊の参番組の少年達にも大人気である。綺麗なお姉さんというだけではなく、子供(自分)達をガス抜きで虐待するような屑野郎達(壱軍)と違って筋を通した事をする大人だからである。訓練は虐めの要素が一切ない確りとした物、体罰などはせずに口頭で注意しつつ慰めてくれる。これだけでも子供達にとっては壱軍の奴らとは随分違うという印象を受けるだろう。

 

「あっじゃあ俺が!」

「あら残念シノ君、もうライド君が乗っちゃってました♪」

「へへんやっぱり教官の膝の上は最高!」

「ライドお前ずるいぞ!!」

「今日も出し抜かれちゃったわねシノ君、残念無念また来週!」

 

思わず沸く笑い声。ほのぼのとした笑みをするエクセレンに釣られて周囲も笑みを浮かべていく。彼女が慕われている理由は、その陽気な性格もあり自分達のために自腹などを切って食事を用意してくれる所もある。包容力もあって一緒にいると楽しいお姉さん。参番組の少年達にとってエクセレンは太陽のような存在といえる。

 

 

 

日も落ちた夜、エクセレンは一仕事終えたように扉を開けて廊下に出ると身体を伸ばした。教官という役職は何かと仕事が多いだけではなく、何かと此方を敵視というかゴミのように見てくる壱軍から来る嫌がらせのような物まで処理させられている。ハッキリ言って今の壱軍の方がよっぽど邪魔だ。サボりは当たり前で少年達をガス抜きと言いつつ暴行する腐った人間達だ。エクセレンはそれを発見すると直ぐに止めに入ったり逆に殴り飛ばしたり経理のデータにこっそりと侵入して殴った一軍の給与から治療費をせしめたりしている。相手だって汚いんだから同じような事をしてやるという理由を持ちながらの行動だった。

 

「んぅぅ~……」

「何艶っぽい声出してんすか教官」

「あらオルガ」

 

身体を伸ばしていると、此方を見ながら何処か呆れたような視線を投げてくる浅黒い肌をした少年がいた。参番組のリーダーであるオルガ・イツカ、どうやら彼ら参番組に入ってきた地球へ行く仕事で使うMWの点検作業の手伝いの終わりのようだ。

 

「そっちも終わり?明日には例のお嬢さん来るんでしょ?」

「ああ、だから今日中に終わらせたんだよ。教官は来れねぇんだろ」

「本当は行きたいんだけどね、どうにも社長に止められてねぇ……教官だけど一応は壱軍の所属って事になってるからね」

 

明日参番組は大きな仕事を持ち込んだ令嬢と対面する。この火星では今独立への機運が高まっている。その中心に立っているとも言える人物が、明日此処へ来る令嬢、クーデリア・藍那・バーンスタイン。彼女を護衛しながら地球へと向かうのだ。是非とも同行したかったが社長のマルバに止められてしまっている。

 

「まっ取り合えず出来る事をやるさ、アンタに教えて貰った事を存分に活かしてな」

「そうしてくれちゃうと私としても嬉しいわね。あーあ是非とも行きたかったなぁ……あのくそ親父ってば一緒に行きたきゃ俺と一晩でも過ごしてもらうかなんて言うのよ?思わず骨の一本でも折ろうかと思ったわよ」

「ははっ、そうしてやりゃいいのに」

 

来てくれるとしたら有難いがその為に態々自分達を良くしてくれる教官が身体を売るというのは如何にも嫌だ。それならここで自分達の帰りを待っていて欲しいものだ。

 

「にしても何時も疑問に思うぜ、エクセレンの姉さんだけが通れるこの扉。この先に何があんだ?」

「フフッ知りたい?そうね私の宝物かしらね。無事に帰ってきたら教えて上げてもよろしくってよ?」

「その話忘れんなよ?」

「ええ」

 

腕をぶつけ合う、絶対に帰ってくるという約束を立てて、二人は別れてそれぞれの寝床へと向かう。あの扉の先にある宝物を見せれる時が来る事を願っていた……がそれは唐突に訪れた。

 

 

翌日の夜遅く、業務を終えて夜の散歩でもしようかという時に鳴り響いたサイレンと警報。敵襲を知らせるそれを聞き、急いでパーカーを引っ手繰るように纏うと外へと飛び出した。空から落ちてくる光は次々と落ちては爆発と土煙を上げている、こちらが出来ないような贅沢な絨毯爆撃をしてくる。余程羽振りが良いらしい、その2割で良いから此方に欲しいと思いつつ通信機を取ると、既に出動しているMW全機に繋いだ。

 

「皆聞こえるかしら!?良く聞いて、遠距離射撃で牽制しつつ相手を確認。確認が出来次第逐次戦力を入れ替えながら補給、三日月と昭弘はタイミングを見計らって飛び込んで引っ掻き回して頂戴!4班と5班、サポートに入って!!直ぐにオルガも来るわ、皆踏ん張って!!」

『了解!!』

 

ややうろたえていた参番組の少年達は、エクセレンの指示が入ると一斉に顔が引き締まっていく。信頼を置けている人の指示を受けて少年達の顔に生気が吹き込まれていき、すぐさま対処と攻撃が開始されていく。そして確認された敵戦力がこの火星を支配していると言ってもいいギャラルホルンだと分かるとエクセレンは顔を顰めた。それなら納得がいく、地球で絶対的な武力を以て武力を制す世界平和維持の為の暴力装置であるあの組織ならこんな豪勢な攻撃が出来る筈だ。

 

「教官遅れてすまねぇ!こっからは俺が指示に入る!!」

「ええお願い!にしてもギャラルホルンだなんて……面倒ね」

「ああ。それと教官、実は……」

「……豪勢な事ね、うちみたいな小さな会社に何でそこまで……分かったわ、此処は任せる」

 

この場の指揮をオルガに一任すると駆け出していく、オルガは参番組のリーダーとして参番組の戦力や強みを完璧に把握している。そして団員達とも信頼が厚い、彼になら此処は任せられる。施設内に戻り、昨日オルガと出くわした扉へと来るとパスワードを入力し中に飛び込んだ。ライトが無い為に暗闇ではあるが、内部の構造は完全に把握しているからかすいすいと歩いていき、目的地でスイッチを押すと内部の照明が付けられた。

 

―――そして照明に照らし出されるように白い騎士が映し出された。滑らかな装甲は白く美しい光を放ちながら確固たる力を保持し続けている、凛々しく構えたその顔は誇り高い騎士を連想させた。そんな騎士へとリフトを使って乗り込むと電源を入れる。リアクターが稼動し各部にエネルギーが供給されていく。静かな駆動音を掻き均しながらもそれは徐々に高まっていく。そしてその騎士の両目に光が灯った。

 

「さてと、久しぶりの出動ね」

 

スイッチを押すと機体の各部に繋がっていたケーブルが排除されていくと同時に機体頭上の隔壁が開いていく。まるで騎士の出動を喜んで応援するかのように。

 

「さあ行くわよ、エクセレン・ブロウニング。ヴァイスリッター、出撃するわ!!」

 

スロットルを押し込みながらペダルを踏み込むと軽く膝を曲げながらジャンプするようにしながら一気に加速し通路を付き進んでいく。直線の通路だが途中道が閉ざされていた。爆撃によって歪んでしまった為に開かなかった隔壁のようだが、そんな事で自分は止まらない、大切な弟達(参番組)を救うために自分は行くのだから。所持していた銃が光を放つと隔壁は吹き飛び、鈍く光を放っている空が見えると一気に加速し外に躍り出た。

 

「な、何だあれ!?」

「なんか飛んだ!?」

 

MWの中や補給を行っている少年達から声が漏れた。驚きに満ちた声だ。空に躍り出たそれは翼のようなものを背負いながら手にしたライフルをぐるぐると回し、それが止まると同時に先程登場し此方へと攻撃を仕掛けてきたギャラルホルンのMS、グレイズに向かって発砲した。グレイズは銃弾を頭部に食らってよろめいて膝を突くが、こちらを確認すると銃を此方に向けて撃って来た。

 

「そんなお粗末なモノじゃ私は落せません事よ~!」

 

向かってくる銃弾を回避しながら通信回線をオルガに向かって開く。

 

『きょ、教官なのか!?それってなんなんだ!?MS!?』

「あの時言った宝物よ!」

『それがかよ!?』

「ええ。MSは私が引き受けちゃうから皆を下げて頂戴!」

『分かった!それともう直ぐミカがこっから出てくる!』

 

驚いているのにも拘らず直ぐに事態を受け入れて必要な情報を渡してくるオルガにを内心で褒めつつ、そのデータを受け取り何気なく一機を其方へと誘導して行く。手にライフルから長い砲身の銃(オクスタンランチャー)へと持ち替えるとそれを回転させるようにしながらどんどん射撃を行っていく。

 

「ヴァイスちゃんのスナイピングいかがかしらん?んでもこんなものあったりして~!」

 

ばら撒くようなライフルとは違った精密射撃、グレイズの関節部を撃ち抜くとオルガの指定したポイント通りにその動きを封じる。そして時が来た。グレイズの目の前が爆発すると、その土砂と土煙の中から巨大な得物を担いだ悪魔が大地へと参上し手にしたメイスでグレイズを叩き潰した。突然現れた存在がギャラルホルンのMSを倒したという事実に誰もが驚いた。

 

「わぁお!!なんとも立派なモノをお持ちで!!」

 

唯一人、ヴァイスのコクピットで興奮しているエクセレンを除いて。



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2話

グレイズを叩き潰した悪魔、バルバトスは倒れた機体から興味を失った視線を上げつつまだ残っている二機の敵機(グレイズ)に目を向けた。バルバトスの力で振るったメイスによってグレイズのコクピットがある胸部は拉げて歪み、フレームさえ見えている。あれではパイロットは確実に生きてはいない。それを行った三日月は息を吐きつつも空を飛行している白い騎士にも目をやったが、直ぐに入った通信に目をやった。

 

『三日月聞こえる?凄いわねいきなりグレイズをあんな風にしちゃうなんて……もうお姉さん興奮しちゃう!』

「姉さんだったんだ、それに乗ってるの」

『フフフッそう、CGS参番組の教官とは仮の姿。その正体とは正義の女戦士エクセ姉様なのだっ♪』

「へぇ……良く分かんないけど姉さんカッコいいね」

『ムフフフッミカちゃんってば分かってる~♪後で甘い物作って上げるわ♪』

 

自分達の教官兼姉の言っている事は良く分からないが兎に角凄いのは分かる。あんなMSまで動かせるなんて何処まで凄いんだろうか、何時か同じようになりたいなとさえ三日月は思った。そんな最中に出てきた甘い物というワードにややテンションが上がる三日月は、スラスターを吹かして此方を狙っているのか接近してくるグレイズから距離を取りつつある物へと接近して行く。その手に持つライフルでバルバトスを狙おうとした時、バルバトスはある者達を踏み潰すようにしながら着地した。

 

『撤退中の我が軍のMW隊を!?』

「これなら撃ちにくいだろ」

 

仲間を半場人質に取ったかのような行為に、グレイズのパイロットのアインは怒りがこみ上げてきた。もう戦おうとしていない仲間を背後にする事で此方の攻撃を封じるなんて卑怯な事をするかと。それを声に上げて絶叫しようとした時、所持していたライフルが爆発した。頭上にいたエクセレンが、アインが行動を起こそうとした瞬間にトリガーを引き、グレイズのライフルを破壊したからである。

 

『今よ三日月!』

「うん」

 

姉の言葉を聞いて一気に距離を詰めながらジャンプし、思いっきりメイスを振り下ろす。初めてのMSの稼動という事もあってかやや距離を見誤り、左腕を肩から持っていく程度しか出来ない事に舌打ちをする。が、直ぐに鳴ったアラートに意識を持っていくと目の前から斧を振りかぶったグレイズが一気に迫ってくる。それをメイスで受け止め、鍔迫り合いのような状態になる。

 

『何処からもって来たのかは知らんが、そんな旧世代の機体でこのギャラルホルンのグレイズに勝てるとでも……!』

「もう一人死んだみたいだけど……?」

『なっ!?き、貴様……まさか子供か?』

「そうだよ。さっきあんたらが殺しまくったのも……これから、あんたらを殺すのも……!」

『ぬぅっ!?押し負けるっ!?』

 

鍔迫り合いの状態から一気に押し返していくバルバトス。CGSの施設の電力を賄う為の発電機という扱いを受けていただけあって出力はグレイズを上回っている。一気に押し切りメイスを振り切ると、目の前のグレイズはライフルを連射しながら無事なアインのグレイズを担ぎ上げるとそのままフルスロットルで撤退して行った。其れを追おうとする三日月だったが、エクセレンがそれを止めた。

 

『もういいわよ三日月、これ以上追いかけなくても。その機体も整備とか必要だろうし此処までで良いわ』

「本当に良いの?」

『ええっ兎に角大活躍だったわね。お姉さん嬉しい!』

 

そんな姉の笑顔を受けていると自分も少し嬉しくなってくる。そんな嬉しさとは真逆にMSから受ける情報量の多さに三日月はいい加減に限界を迎えようとしていた。そして姉から休んで良いわよという言葉を受けると同時に意識を手放した。

 

「よっとっな」

 

戦闘が終了し皆が思わず身体から抜いてしまった時、皆の前にヴァイスリッターが降り立った。オルガからあれにはエクセレンが乗っているという通達があったが、本当なのか半信半疑だった、見た事もない未知の機体に思うのは命を助けてくれた恩義と未知という響きから来る恐怖心だったが、コクピットからワイヤーのような物を掴んで降りてくるエクセレンの姿を見ると皆は心から安心し、幼い子達は思わず駆け寄っていった。

 

「教官っ、本当に教官だッ!!」

「オルガさんの言うとおりだったんだ!!」

「すっげえ!これに乗ってたの姉さんだったんだ!」

「そう教官とは世を忍ぶ仮の姿、私の正体とは……正義を愛し子供達を守る女騎士、エクセ姉様なのだっ♪」

「「「「おおおおっっカッコいいッッ!!!」」」」

「ムフフのフ~♪愛い子達よのぉ~」

 

寄って来る子達の頭を撫でたり苦労を労う美しくて更に強い姉。そんなエクセレンの人気は更に強烈な物となった。皆々ヴァイスの事やそんな物を持っていたエクセレンの事がきになるようだが、一旦それは切り上げて負傷者の収容と治療、MWの回収を始めるように指示を飛ばす。それに従って皆は仕事へと入っていくが、自分は三日月が大量に確保してくれたギャラルホルンのMWの回収にでも行こうかと思った時、オルガが此方へと向かってきた。

 

「姉さん!!そっちは大丈夫そうだな」

「まあね。この位全然平気よ、そっちは」

「兎に角怪我人が多いから人手がいる、大体はけが人の回収とかに回す。姉さんは……そうだそのMSでギャラルホルンのMWの回収して貰って良いか?」

「モチのロンよ、任せといて」

 

笑顔を見せて再びヴァイスに乗り込んでMWの回収へと向かっていく。此処からどんどん忙しくなっていくのだから自分も気合を入れなければならない。一旦跳躍しながら辺りを見回すと多くの少年達がこちらを見上げて手を振っていたりしていた。後で聞いた話だが、自分の教育のお陰か死傷者は少なかった。それでも12人という死亡者数を出してしまった事をエクセレンは教官として恥じながら、心の中で彼らの冥福を祈りつつ仕事をした。

 

「んぅっ~……ぁぁっ~……」

 

すっかり日も変わった頃、漸くMWの回収も終わり此方側のMWの修理に回す分と売却に回す分の分別が終了したエクセレンは、Tシャツとジーンズに着替えて食堂へと姿を現しながら身体を伸ばした。伸ばした際にTシャツ越しに揺れる彼女の胸に一部少年(主にシノ)がゴクりと喉を鳴らした。食事を受け取りつつ食べ進めて行くと壱軍の他の男達がいない事に気付いたが、それを聞くよりも社長室に行って欲しいという話が来たので兎に角向かってみる事にした。

 

「やっほ~♪エクセレン・ブロウニングただいま到着!」

「おっ来たか姉さん」

 

が、そこにいたのはオルガにビスケット、シノとユージンにまともな大人の一人である会計役のデクスターとトドであった。そう言えば社長だったマルバはギャラルホルンが攻めて来た時に宝石やら財産を持って逃げた事を思い出した。

 

「あららっ、なんだかちょっとピリピリムードって感じぃ?」

「いや大丈夫だ。姉さん単刀直入に言うぜ、このCGSは俺達が乗っ取った」

「へぇっ~……えっちょっと待ってちゃんと聞かせて貰える?」

 

今までMWの方に掛かりっきりだったエクセレンにとって完全に寝耳に水な話で全く付いていけない。食事している暇があったら手を動かしたいと携帯用のエネルギーバーで簡単に済ませてしまったので食堂にも顔を出していなかった。如何やら自分が作業を行っている内に壱軍の大人達に薬入りの食事を出して眠らせ、そこからある意味一方的な交渉で此処を出て行くか働き続けるか死ぬかという選択肢を与えたとの事。デクスターは会計役という事もあって強制的に残って貰ったが、その他はトドを除いて全員やめていったとの事。

 

「ふーんデクさん残るんだ」

「ええまあ、再就職出来るかも分かりませんし、もういっそのこと一蓮托生ですよ」

「それでエクセ姉さんにも聞きたい、アンタは此処を辞めたいかって事だ」

 

真っ直ぐと見つめてくるオルガにエクセレンは真剣な表情になりながら思案するようなポーズになる。その際に腕が胸の下にもぐり動いた時にはシノが声を上げたが、ユージンがうるさいと一蹴した。

 

「姉さんには世話になったし辞めるっていうなら退職金も結構出す。姉さんのお陰で生き残れた奴も大勢いる。だけど俺としては是非残って欲しいってのが本音だ、如何だ姉さん……?」

「う~ん此処にいるのはパパとマルバが知り合いでパパが作ってた借りを返す為だったのよね。だからもう此処にいる意味はなかったりしちゃうんだけど」

 

そう言うと思わずオルガ達は落胆した。自分達の周りで唯一しっかりと筋を通してくれる大人で好きとも言える人だったのに……だが去るというのならば止められない。早速退職金の計算に入ろうと口にしようとした時エクセレンは笑ってこう言った。

 

「でも此処に居る内に皆が弟みたいに可愛く思えてきちゃってね、何時しか好きで皆の相手してたわ。だから私は残るつもりよ、これからも教官として皆の頼れるお姉さんとしてリードしてあげるわ」

「本当ですかエクセレンさん!有難う御座います!!」

「おっしゃあ姉さんが残留してくれるとか俺嬉しいぜ!!何たってスタイルいいしな!!」

「へっ俺は最初っから分かってたぜ、姉貴が残ってくれるのは」

「物好きなこった……」

「なんか言ったかトド」

「い、いえ何も言ってねぇぜ大将!?」

 

エクセレンが残ってくれるという嬉しい知らせに身を躍らせつつも、デクスターは計算の終わった予算について皆に報告する。現金などはマルバが持って行ってしまい残った物とMWの売却で得られた資金から退職金と修理費、施設維持費などを計算するとなんとか三ヶ月持たせるのがやっとという事が分かった。

 

「お金ならある場所分かるわよ?ちょっと待ってね」

 

エクセレンは社長室の一角にある本棚を弄ると、その本棚が移動しそこに大きな金庫があった。

 

「やっぱり手が付けられてないわ、相当焦ってたみたいね」

「ま、まだあったのかよ!?」

「すっげえ!姉さんなんで知ってるんだ!?」

「ふふん。私を口説き落とそうとして一緒にお酒を飲んでた時にね、酔ってるのを利用して色々聞きだしておいたのよん♪こっちのはダイヤル式で時間が掛かるから、諦めたみたいね」

 

早速金庫に手を付けダイヤルを回していく。約10分後金庫の扉が開くと、そこには宝石や札束やらがある程度置かれていた。

 

「おおっ!!」

「現金だけで計算しても……これなら半年位は持たせられそうですね。宝石のほうは鑑定してみないと分かりませんが」

「兎に角助かったぜ姉さん、色んな意味で残ってもらって嬉しいぜ」

「ぬふふっお姉様に任せておきなさいって♪」

 

この後マルバが口説くために自分に渡してきた宝石なども持ってこようと言った時、サイレンが鳴り響いた。



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3話

今作の姉さんは原作と違い近接もそれなりに出来ます。


サイレンとアラートが鳴り響く施設から飛び出したエクセレン一同は、外で待機しつつ見張りをしていた少年達から報告を受ける。ギャラルホルンのグレイズ一機が赤い布を持って此方に接近し、ある程度の距離を取りつつ停止したとの事だった。双眼鏡を借りそれに覗き込んでみると確かにシールドに大きな赤い布を掛けて立っているグレイズが見える。緑系の機体に赤い布、そしてこの夕焼けというシチュエーションに思わずエクセレンは写真取りたいなぁと暢気な事を考えるのであった。

 

「ありゃ決闘の合図だな」

「決闘!?」

 

その布を持ったグレイズを見て、自分と同じくこのCGSに残った大人であり参番組の皆からおやっさんと呼ばれ慕われているメカニックのナディ・雪之丞・カッサパが少年達の疑問に答える。

 

『私はギャラルホルン実働部隊所属、クランク・ゼントである!!そちらの代表との一対一の勝負を望む!!』

「勝負ってマジかよ」

「厄祭戦の前は大概の揉め事は決闘で白黒つけてたらしいが……まさか本気でやってくる奴がいたとはな」

「昔はああやって恋人の座を争ったり、土地の権利を巡ったりしてたのよ。代理戦争、なんて言われたりもしてたわね」

 

決闘についての解説を聞きつつ少年達は思わずへぇ~と感心していた。今は廃れた古きよき時代にあった慣習、しかし300年前の決闘という方式を引っ張り出してそれを態々実行するなんて、今時そんな事をする物好きがいるとは思わなかった。雪之丞とエクセレンは呆れ半分関心半分というところであった。

 

『私が勝利したなら、そちらに鹵獲されたグレイズ。そしてクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらう!!』

「お嬢さんを!?」

「まっそれしかないわよね」

 

グレイズのパイロットであるクランクの要求はある意味予想通りと言った所だ。此処にある物で価値がある物と言ったら三日月が仕留めて鹵獲したグレイズと、革命の乙女と言われ火星の独立運動のジャンヌ・ダルクとして祭り上げられているお嬢さん、クーデリアしかない。トドは賛成と言わんばかりにさっさと渡してしまおうと声を上げるが、クランクは更に言葉を続けた。

 

『勝負がつき、グレイズとクーデリアの引き渡しが無事済めば、そこから先は全て私が預かる。ギャラルホルンとCGSの因縁は、この場で断ち切ると約束しよう!』

「はぁ?何だその条件は、こっちに得しかねえようなもんだぞ」

「俺らが負けたとしてもあのおっさんが良いようにしてくれるって事か?」

 

此方にとっては旨すぎる条件にエクセレンは表情を険しくする。どう考えても罠としか考えられない。エクセレンは拡声器を借りて声を上げる。

 

「あ~あ~……その条件幾らなんでも此方に旨みがありすぎない?それに貴方にそんな力があるのかしら?」

『クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄とグレイズさえあれば、私は上と交渉する事が出来る。私としてもその施設への攻撃は不本意であった。故にこの命と引き換えとなったとしても、必ず交渉を実現させて見せる』

「……なんとも頭のお堅そうな発言です事、これは何言っても引きそうにないわね」

「でもどうします!?これじゃあクーデリアさんは!?」

「行きます!!」

 

皆が迷っている時に件の乙女、クーデリアが声を張り上げた。気丈ながらも強きに言葉を紡ぐ彼女は、何処となく戦う覚悟が滲み出しているようにも見える。

 

「私が行けば済む話なのでしょう、ならば無意味な戦いは避けるべきです」

「そ、そうだよな!!んじゃついでに金もがっぽりと貰えるように交渉を…」

「駄目だ。それじゃあ筋が通らねえ」

「ああっ!!?」

 

だがオルガはクーデリアを行かせる事に反対した。あのクランクという男の言葉が何処まで本当なのかも分からないし、仮に渡したとしても個々が無事であるという確証はない。元々ギャラルホルンからいきなり攻撃された身としては渡した後は皆殺しに遭うような気がしてならない。

 

「ならオルガ、如何するのかしら?」

「フッ決まってるぜ姉さん。あのおっさんとの勝負、受けるんだよ」

「そう来ると思ったわよ。それじゃあその役目私が貰っても良いかしら?大人同士は大人同士でって奴よ」

「んじゃ頼んますよ姉さん」

 

クランクへと了承の言葉を返すと、エクセレンは直ぐにヴァイスへと向かい始めた。周囲には戦いに向かおうとしている彼女を応援する少年達が集まっており声援が送られている。それに笑顔で答えつつヴァイスへと乗り込むと、大声を張り上げたオルガと目が合った。

 

「頼むぜ、姉さん!!」

「任せて了解よん、オルガ♪」

 

Vサインを返しながらヴァイスは空へと舞い上がり、グレイズの眼前へと降り立った。クランクは直接矛を交えたバルバトスが来ると思っていたのかヴァイスが来た事にやや驚いているように見えたが、直ぐにコクピットに戻っていった。

 

「んじゃま私がお相手させてもらうわねん」

『貴様も、子供なのか……?』

「あらやだ若いなんてお上手ねぇ♪言っとくけど私は一応成人してるから大人よ?」

『……そうか』

 

外部スピーカーから漏れるクランクの声には何処か安堵したような雰囲気が含まれていた。出来る事ならば子供と戦いたくないという思いを孕んでいるようだった。それを聞いてエクセレンは先程の条件にある意味納得した。彼は誠実で真面目で良い大人なのだと、あの条件も少年兵として戦っている子供を出来るだけ傷つけたくないという思いから出した答えのようなものなのだろう。

 

「さてと、私達が負けちゃった時の事は決めたけどこっちが勝った場合の事は一切言ってなかったわよね?それについては如何?」

『……私にそんな権限はない』

「真面目ねぇ……。んじゃま取り合えずそのグレイズを頂いちゃおうかしら♪それと貴方の身柄もね」

『良いだろう。勝敗の決定はどちらかの死亡、または行動不能で異議は無いか』

「ないわよ。さあやりましょうか」

 

ヴァイスは一歩引きつつも腰部に装備していた一本の剣の引き抜いた。基本射撃型のヴァイスだが、接近された時の事も考えて実体剣も装備されている。それを構えながら体勢を落とすヴァイスを見たクランクは、油断できない相手である事を実感しつつ斧と盾を構える。

 

『――――ギャラルホルン火星支部実働隊、クランク・ゼント!!』

「あっそっか。え~っと此処はおふざけは無しで。CGS壱軍兼参番組教官、エクセレン・ブロウニング!」

 

刹那の静寂、皆が教官であるエクセレンの勝利を願う中、機体のユニットが稼動しエネルギーを放出しつつ互いは今か今かと戦いの始まりの時を待つ。そして二人が同時に声を発するとグレイズとヴァイスは突進して行った。クランクは迫ってくるヴァイスの速度に驚きつつも防御の姿勢を取りながら斧を振るうが瞬間、視界から相手(ヴァイス)が消えると機体が振動した。ヴァイスが斧の一撃をすり抜けるように回避しつつ、グレイズを踏み台にしながら高々と跳躍したのだ。高度を取ったヴァイスはそのまま落下しつつ剣、シシオウブレードを一気に振り下ろすが、グレイズは良い反応でそれに対応し盾で防御する。

 

「へぇっ~これでも結構近接の方も自信あるだけどやるわね。でも負けないのがこのエクセレンお姉様なのよ!」

『オオオオッッ!!!』

 

防御した直後に斧を振るうが、ヴァイスは即座に後退してそれを回避しつつ、回し蹴りで盾を押しのけてグレイズの体勢を崩そうとするが、グレイズはしっかりと踏ん張る。クランクは即座に出力を上げて盾を押し出した打撃に切り替え逆に体勢を崩そうとするが、その勢いを利用しつつ後方にバク宙をしながら距離を取ったヴァイスに驚きと感嘆の声しか出なかった。

 

『なんという操縦技術……!!』

「お褒め頂き感謝しちゃうわん♪」

『貴殿のような大人がいながら何故子供を戦わせる!!?』

「子供が戦うのは御気に召さないようね!!」

『ああ!!』

 

一気に接近しつつ斧を振り上げたグレイズに対応すべく一旦鞘にブレードを戻し、鞘でそれを受け止めるヴァイス。

 

『子供とは良く食べ良く学び良く遊び育つ!!そして夢を持ち、その夢が未来を作る!!それを戦わせるなど、私は認めない!!』

「貴方が良い大人って事が良く分かったわ。でもね……世界はそんなに優しくはないの!!」

 

クランクは良識を持った良い大人だ。彼にとって子供は大人の思惑で戦わされるような存在ではなく、大人が守り大人の背中を見て育つ存在だと思っている。それは正しい、だがそれはあくまで理想論にすぎない。現実問題としてそのように過ごせる子供達ばかりではない。生きる為に少年兵として生きる、ヒューマンデブリとして売り物にされる子供だっている。それが今ある世界の現実だ。

 

「貴方の思いはとても素晴らしい。でもそれだけじゃあ、あの子達は生きていけないのよ!!」

『だとしても……私は諦めたくなどない!!私がそうだと思っている限り、私はそれを貫き通す!!それが私の信条だからだ!!!』

 

一段と重くなってくる斧、それを受け止めるヴァイス。だがヴァイスも出力を上げていき徐々に斧を押し返していく。

 

「そう。なら私だってあの子達のお姉さんとして、あの子達を見守る義務があるのよねぇ……だからっ!!」

 

片手で鞘を保持したまま腰に下げていたオクスタンランチャーに手を伸ばし、その銃口をグレイズの頭部へと押し付けた。

 

「私がここで負けるなんて有り得ないのよ!!!」

 

トリガーを引くとグレイズの頭部が吹き飛ぶ。それによって一時的にセンサーがダウンするが、クランクは素早くサブにシステムを切り替えると後退しつつ盾を投げつけてヴァイスのブレードを弾き飛ばし、その隙を突かんと最大出力で此方に突貫してきた。

 

『うおおおおぉぉぉっっ!!!』

「この距離、貰ったわよ!!」

 

エクセレンは焦らずにそのまま機体を回転させるようにしながらオクスタンランチャーをグレイズの肩に突き刺すように構え、引き金を引いた。0距離から放たれた銃弾はグレイズの肩を吹き飛ばしながら機体を仰向けに倒した。そのままヴァイスはコクピットに銃口を突きつけるとクランクに告げた。

 

「私の勝ち、かしらね」

『……ああっそうだな。俺は敗者だ、好きにして構わない』

「そう。じゃあ取り敢えずは……」

 

エクセレンはオクスタンランチャーを空へと掲げるとそのまま一発発射し、高らかに宣言した。

 

「皆ぁぁ~お姉さん勝ったわよ~!!」

 

その宣言に皆は歓声を上げながらエクセレンの勝利を祝った。一人はエクセレンの戦いぶりに見惚れ、一人はエクセレンの強さに驚き、一人は確信していた勝利に笑った。

 

「決めたぜ……鉄華団。俺達の新しい名前だ」

「テッカ……鉄の火ですか?」

「いや……鉄の華だ。決して散らない鉄の華だ」



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4話

「はぁ~……決闘に勝ったは良いけどその分仕事がどっと増えたわね……」

 

決闘に勝利しグレイズとクランクの身柄を手に入れたCGS改め鉄華団。そして三番組の教官職兼相談役という任に付いたエクセレンだが鉄華団と名前を変え新しくスタートする為の書類などの整理や始末に追われていた。これも責任ある大人の勤めとしてやっているが他にも鹵獲したグレイズを売却し少しでも高値にしようと修繕の為のマニュアル作りやMSの整備マニュアル作りと中々に多忙を極めていた。

 

「ブロウニング、此方のマニュアルは仕上がったぞ」

「あ~有難うクランクさん、助かったわ~」

「しかしこれだけの量をもう…凄まじく優秀なのだな」

「まあ、色々あってねぇ……」

 

エクセレンの部屋に入ってきたのは鉄華団に身柄を置く事になったクランク、ただ身柄を置いて置くだけではなく彼には自分が手を回せない子供達の先生役を頼む事にした。主にグレイズの整備の手引きや知識面での補強を依頼した。

 

「え~っと鉄華団の変更業務申請書はこれでよくて桜ちゃん農場の契約更新もこれで良しっと。他の会社にも連絡を付けなきゃ行けないのは後5社で……ああそうだ、アトラちゃんが入ったから後で契約書とかも持って行かないと……なんとか地球に行くまでに間に合わせないとねぇ……」

「少し休んだらどうだ、流石に働きすぎだ」

「うん、この書類終わったらね……よし終わった!ふぅ~休憩~……」

 

書類を終わらせ一段落付いたエクセレンは机に寝るように倒れこみ疲れた~と声を漏らす。クランクが鉄華団の一員として働き始めて数日が過ぎたが彼女の優秀さには舌を巻く。少年達からの信頼も厚く腕も立ちムードメーカーでもある、ある意味要的な存在となっているエクセレン。だからこそ聞いて起きたい事があった。

 

「少し良いか、子供達を……戦いから離す事は出来ないだろうか」

 

それを聞いて身体を起こして水を喉に流し込みながら身体を伸ばすエクセレンは言葉を詰らせた。

 

「あのような子供が銃を握り、戦いに出て相手を殺すなど間違っている…私はそうとしか思えん」

「私も出来る事ならそうしたいんだけど……残念だけどそれは難しいとしか言わざるを得ないわね」

「しかし……」

「あの子達にとって出来る仕事が他にないのよ、生きて行く為のね」

 

苦々しく口を開いた彼女の表情はこの数日中で見た事もないようなものだった。暗く悔しそうな表情、明るく陽気なエクセレンには全く似合わない物だった。

 

「あの子達には他の仕事を出来るだけの能力がないの、文字を読む事が出来ない子も多い。出来るのは銃を持って撃ったり、機械を弄ったりする事が精々……そんな子達がお金を稼ぐにはこんな仕事しかないの、子供だって戦わないと生き残れないって現実が此処にある」

「……」

「私だってねあんな仕事させたくないの、出来る事なら全員引き取って育てて上げたいの。でも私の蓄えだと皆を養って行くには1年ぐらいが限界なの、それだと十分に仕事が出来るだけの能力や知識を教え込むのは難しいの。だから……今はこの仕事場で出来るだけの事をしていくのがベストだと思うの」

 

齢が十にも満たっていない子供もこの鉄華団には居る。そんな子供が生きていくのは社会は厳しすぎる、だから今この鉄華団で出来るだけの事をしてそんな子供達が生きていけるようにしていくしかないとエクセレンは思っている。強く握り締められた手には強い悔しさがクランクの目に見えた。

 

「まずはこの鉄華団を大きくしてあの子達に銃を握らせない位の会社にする。そしてあの子達には真っ当な仕事をしてもらう、それが私の目標よ」

「真っ当な……ブロウニング、如何やら君は何倍も強いようだな」

「本当に、色々あってね」

 

何処か自分の過去をはぐらかすような言い方にクランクは肩を竦めた。彼女の言い分は正しくそこにある感情も理解した、今ある現実を否定したいがただそれだけでは前に進めずに解決にならない。故に容認しつつも改善する為に前へと進み続ける、それが選んだ道なのだろうと理解した。ならば自分も少しでもその手助けとあの子供達の未来の為に尽力してみようと思った。

 

「ならば俺も今の役目を全うするとしよう、皆のクランク先生として……。大人としてな」

「お願いね」

「ああ」

 

処理し終わった一部の書類を持って部屋から出て行くクランクを見送ったエクセレンは溜息をつきながら自分の吐きだした目標に少し嫌気がさした。子供達に未来を見せる為に、その未来を奪いかねない道を進ませる。だがそうするしかない、そんな自分が嫌になった。

 

「……違うわね、そうさせない為に私が盾になるのよ。私があの子達の矛になり盾となる……うんそうしましょう」

 

そう改めて決意を決めなおすと再びげんなりしそうになる書類の山へと向かって行く。その途中で水が書類に零れて悲鳴を上げそれは鉄華団中に響くのであった。

 

『イィィィヤァァァァァ!!!??書類がぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

「ムッ……今のブロウニングの声か?」

「あのクランク先生、ナノラミネートアーマーの補強の仕方ってこれで良いんですか?」

「んっああそうだ、コツとしてはだな……」

 

 

そして遂に鉄華団が地球へと向かう為に宇宙へと飛びたつ日がやってきた。シャトルには宇宙へと上がり鉄華団の船となったイサリビに乗り込みトドが紹介したオルクス商会の案内の元、地球へと向かうメンバーが乗り込んでいた。勿論エクセレンやクランクの姿もあるがエクセレンの表情はある意味死んでいた。

 

「だ、大丈夫ですかエクセレンさん。か、顔色悪いですよ」

「だいじょ~ぶよアトラちゃん。お姉さんちょっと頑張っちゃったから、少し疲れてるだけだから……」

 

水をこぼした事で台無しになった書類、そのやり直しを行った事で徹夜をする羽目になったエクセレンはギリギリになんとかやり直しに成功してその足でこのシャトルに搭乗している為ややお疲れ気味。隣に座っている先日鉄華団に正式加入したアトラが心配そうな視線で見てくるが何処か浮ついた声で返しているのをみてクランクは何処か哀れそうな視線を送るのであった。

 

「いよいよね……あーやべマジで眠い」

「少し眠ったら如何です?」

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ~この後も何かゴタゴタがあったら嫌だから」

 

仕方なく起きているようなエクセレンを他所に、様々な思いと未来に向かう為のシャトルがいよいよ旅立とうとしていた。火星に残り帰りを待つ団員、旅立つ団員に手を振り無事を祈る家族、企みを抱えそれが如何転ぶかを楽しむ者の思いを受けながらシャトルは重力の緒を引き千切りながらどんどん加速して宇宙へと飛び出した。鉄華団の主要メンバーを乗せたシャトルはいよいよ暗黒の宇宙へと漕ぎ出し低軌道ステーションへと向かう為に案内役であるオルクス商会の輸送船に拾ってもらう予定だった。

 

「さてと、予定通りに行くのかしら……?」

「あっあれがオルクスの船じゃないですか!?」

「えっ予定より早くない?」

「だな、何でこんなに……」

 

窓から見えた巨大な船、それこそがオルクス商会の船だがまずは低軌道ステーションでその船が来るのを待つ手筈なのに幾らなんでも早過ぎる。何かあると思いつつそれを見つめていると複数の光が此方に向かって来ていた、それは船に比べると小さいが速い……。

 

「あれはグレイズ!?それに奥に見えるのはギャラルホルンの船!?」

「それってギャラルホルンの!?」

「おい奥に見えるあれがかよおっさん!?」

 

クランクが大声を張り上げながらその正体を見破った、それは間違いなくギャラルホルンのグレイズとその船だった。明らかに此方を狙って接近して来ている。

 

「はぁどうなってんだよ?!」

「おいトドテメェ説明しやがれ!!!」

「俺が知るかよ!?ギャラルホルンなんて聞いてねえ!!くそっ!!」

 

トドが操縦室に飛び込んでオルクス商会の船へと連絡すると返ってきたのは『我々への協力を感謝する』という通信であった。それを聞いたシノやユージンはトドを問い詰めるように近づいたがトドは何も知らないと叫ぶがこんな事態になってしまったはそれも意味は成さない、二人はエクセレンに視線を向ける。

 

「殺さない程度にね♪」

「「喜んでぇ!!」」

「ギャアアアアア!!!!」

 

トドはシャトルの後方へと連れて行かれるとそこで鈍い音の発信源となったがクーデリアとアトラ以外は全く気にする事はなかった。兎に角このままではまずいとオルガは加速するように指示を出すがあっさりとグレイズに追いつかれてしまい囲まれてしまう。

 

「も、MSから優先通信です!クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡せとか言ってますけどぉ!?」

「やっぱりそうきやがったか……姉さん!頼めるか!?」

「任せされた♪」

 

エクセレンはその場で服を脱ぎ捨てる、皆が驚く中そこに会ったのはオレンジを基調したパイロットスーツであった。それを覗いていたシノは思わずガックリ来ていた。

 

「シノ君残念♪それじゃあ三日月と行って来るわね~」

「「三日月?」」

「何をする気なんです団長!?」

「へっ……!!」

 

グレイズ三機に包囲されたシャトル、その後部ハッチが開かれ同時に煙幕が展開されていく。グレイズは小細工をと言わんばかりに頭部を輝かせるがその煙幕の中から三つの銃口がそのグレイズのコクピットに突きつけられ次の瞬間、銃口から弾丸が放たれ機体を穿った。それを行ったのはバルバトスとヴァイスであった、後部ハッチのギュウギュウ詰めにされた二機はストレスを晴らすかのごとく引き金を引いた。

 

「あ~狭かった。ヴァイスちゃんのお肌が荒れちゃうわ、さてとお仕事開始よ三日月」

『分かってるよ姉さん』

 

シャトルに付いたグレイズのワイヤーを切断しつつシャトルから離脱、残ったグレイズへと向かっていく。

 

「さぁ~てお久しぶりの宇宙での戦闘よん、気合入れていくわよ~!!!」

 

最初からエンジン全開なエクセレンは地上では出し切れていなかった出力を上げながら凄まじい速度でグレイズに接近しつつライフルを撃ち落としつつ片手間に三日月の背後を取ったグレイズへと攻撃するという援護を行う。

 

『ごめん、有難う』

 

その援護を受けたバルバトスはすぐさま反転しつつ奪った斧でグレイズの腕を切断しつつ0距離でコクピットを打ち抜いた。

 

「わぁお!良い戦いっぷりだと事!ちょいやっ!!」

 

距離を取ったヴァイスに攻勢をかけるようにライフルを連射してくるグレイズ、それから逃れるように高速移動をしながら狙いを絞らせないようにしつつ隙を突いて一気に接近しオクスタンランチャーを頭部へと突きつけ発射、頭部を破壊しつつそのまま胸部には動きを止めたグレイズから斧を奪いそれをコクピットへと振り下ろして破壊する。

 

「一丁あがり!」

『姉さん、オルガ達はイサリビに入れたみたいだよ』

「おりょ?あらま本当、良かったわ」

 

カメラを向けてみるとそこにはシャトルへと接近した赤い船、鉄華団のイサリビが見えていた。しかしそのイサリビもオルクスの船に攻撃されて現在は加速して退避しようとしている。速めに援護に行きたいところだがレーダーが新しい敵の反応を捉えた、今度は4機だ。

 

「あらあら私達ったら大人気ね、ちゃっちゃと片付けちゃいましょう三日月!」

『うん』

 

迫ってくるグレイズは此方に向かって揃った射撃を行ってくるがナノラミネートアーマーには遠距離からの射撃など無意味、牽制だと割り切っているのだろうが自分達はその程度では止まらない。これから鉄華団の初仕事として地球へと向かうのだ、止まってなどいられない。

 

「さてとやっちゃいましょうか!!」

『ブロウニング!!』

 

オクスタンランチャーでバンバンやって行こうという時にクランクからの通信が入った、イサリビのオペレーター席からの通信だ。

 

「もう何よ、今良い所なのよ?」

『すまん、だがお前から見て緑のグレイズが居るだろう!!』

「んん~?」

 

モニターの映像を拡大望遠して見ると確かに紫や暗い青というの中に異物のように混ざった緑色のグレイズがあった。地上でクランクが共にCGSを襲撃して来た時のと同じようなカラーリングだ。

 

「居るけど如何したの?」

『その機体に乗っているのは私の部下だ、出来る事なら殺さないで欲しい!!』

「あらあら相手は殺す気出来てるのにこっちは殺すな?もう難しいこと言うわねぇ!!」

 

どんどん迫ってきて斧を振り下ろしてくるグレイズを足蹴りしつつライフルの一射を浴びせて怯ませて後退しながら返事をする。殺すなというのは言うのは簡単だが向こうが殺す気で来ているのに此方は手加減するしかないというのはかなりきつい。

 

『すまん、だが……』

「んもう、しょうがないわねぇ。色男さんの頼みなんだから断れないわねぇ」

『感謝する……!!』

 

そう言って通信を切ったクランクに溜息を吐きつつもランチャーを構えなおす、頼みを引き受けたはいいが実際どうやってやろうかと思いつつシャトルに載せていたバルバトスのメイスが漂っている事に気付きながらそれを三日月にパスしながらそのアインというのが乗っているグレイズを捕捉する。

 

「三日月、あの緑の奴は私がやるわ」

『解ったっよっ!!!』

 

迫ってきた一機の攻撃を回避しつつその胸へとメイスを突きつけつつその先端から鋼鉄の杭を打ち込む三日月、他のグレイズを滑空砲で動きを止めながら斧で仕留める。が新たな敵に其方に身体を向けた。

 

「新手……!?」

『ふん少しは出来るようだな、宇宙ネズミが!!』

 

 

「さてと……まあボロボロにして引っ張っちゃいましょうか♪」

 

もうあれこれ考えるのが面倒になったのか取り合えずボコろうという結論に至ったエクセレンは斧を構えて突撃してくるグレイズへと向かっていく。

 

『羽つきぃぃぃっっ!!!』

「わぁお何とも血気盛んな事で!」

 

荒々しく斧を振るい此方を仕留めようと躍起に会っているグレイズを遇いつつも一気に後退していきながらライフルで軽く牽制する。装甲に任せながら防御もせずに弾を弾いて迫ってくるグレイズ、熟ナノラミネートアーマーは優秀だと思い知らされる。この射撃主体のヴァイスには辛いご時世だ。

 

「だけど、ちょちょい!!」

 

しかしそれでも戦う事に変わりはないと引き金を引くが普段銃弾が発射されている上の銃口ではなく下にあるもう一つの銃口から光が放たれるとそれは斧を飲み込みながら装甲に弾かれて四散していく。

 

『な、何だ今の光は!?』

「ムフフフ……さぁて行くわよ!WモードのWは『若さってなんだ?』の略なの」

 

一気に加速して行くヴァイスから次々と放たれていく弾丸がグレイズの機体を大きく揺らし弾いていく、それを必死に制御しようとするアインだがそこへ先程と同じ光が襲いかかってくる。それは的確にグレイズの頭部のカメラとスラスターを打ち抜いた。

 

『ば、馬鹿な!?こんなピンポイントで、しかもあんなに高速移動しながらの精密射撃!?』

「ん~……振り向かないことかしら?」

 

それを行っている本人は暢気にフリーダムな事を言いつつにグレイズの戦闘能力を奪っていく、そして止めと言わんばかりに高速移動からのキックをコクピットへとブチ当てた。その激しい振動はアインへと襲いかかりグレイズは動きを止めてしまった。

 

「は~いパイロット君、もしも~し?」

『ぅぅ……』

「うん死亡確認……じゃなくて気絶してるのよね」

 

そして接触回線を用いてモニターを強制的に開いてコクピット内を確認して見ると小さくうめき声を上げているアインの姿があった。だが此方へと向かってくる機体があった、それは青い指揮官用のグレイズであった。

 

『君のお相手は、次は私がしよう』

「あららイケメンな声ねん、でも残念。好みじゃないのよね!!」

 

一旦アインを置いて青いグレイズとの戦闘に入るヴァイス、高い推力とコクピットの高い操縦技術が光り中々の強敵だとエクセレンに直感させた。

 

「くぅぅうお戯れを!」

『まだまだ……なっ!!』

 

が突然グレイズは後退して行ってしまった。何事かと思えばなんとイサリビが此方へと近づいて来ていた。どうやら小惑星にアンカーを打ち込んで強引に進路の転回を行ったらしい。

 

『姉さん待たせたな!さあ行くぜ、地球へ!!』

「ヤリ手になっちゃってまあ、お姉さん嬉しい!」

 

アインのグレイズをなんとなく回収しつつエクセレンはさっさとイサリビの内部へと入って行った。一応生かしておいたのし鉄華団的にもグレイズは美味しいので貰っておこうという気持ちからである。

 

 

イサリビのドックでは急ピッチで補給作業が行われていく中エクセレンはヴァイスのコクピットで一人、静かに深呼吸をしていた。あのグレイズとそのまま戦っていたらどうなっていたかは分からない、今回は運に救われたかもしれない。だがその運も実力の内という、一先ず喜んでおくとしよう。コクピットを出るとクランクが鹵獲したグレイズのコクピットを上げて中のパイロットを引きずり出している光景だった。

 

「アイン!おいアインしっかりしろ!!」

「うううっ……クラン、ク二尉……?えっクランク二尉!!!?ど、どうなっているんですかぁ!!!?」

「あらら、なんだかまた修羅場る感じぃ?」

 

大体貴方のせいです、エクセレン姉さん。




既に原作が壊れている件について。

うんまあ……エクセレン姉さんだから、しょうがない(思考放棄)


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5話

「ガンダム・フレーム、バルバトスか……我らギャラルホルンの伝説として語られた存在が、今や宇宙ネズミに使われるとはな」

「しかしその力は確かな物だ、実際に果たしあったお前ならそれは良く解るのではないか?」

「普通のMSに比べると強いと言わざるを得ないが、勝てない相手ではない」

 

火星の衛星軌道を飛ぶギャラルホルンの戦艦のブリッジにて、モニターに映し出されたデータを見つめながら話をしあう二人の男、マクギリスとガエリオは先程戦闘を行っていた鉄華団のMSについて話し合っていた。300年前の厄祭戦の末期に活躍した72機のガンダムの名を冠するMS、その内の一機であるバルバトスがいた故に二人はやや驚いていた。

 

「それで?マクギリス、お前の方で相手をしていた奴は如何なんだ?」

「ああ。これの事か」

 

データを出力し映し出されたヴァイスリッターを改めてガエリオは目にした。バルバトスにばかり気を取られていた為にヴァイスには余り目を配れていなかった。漸くマジマジと見る事が出来たが、白く滑らかな装甲とその出で立ちはまるで騎士のようにも思えた。

 

「ほう……中々美しいMSだな」

「私もそう思う。しかしこの乗り手も中々のやり手でな、やや手玉に取られてしまった」

「それでこいつの詳細は。見た事もないタイプだな……」

「見た目からの該当は一切無し、ワンオフの機体かもしれんな。エイハブリアクターのマッチングは今行う所だ」

 

二人にとっても興味深いヴァイス、その正体を知った時二人はどのような反応をするのだろうか……。

 

 

「つまり、今クランク二尉はこの鉄華団で子供達の教師をしていると……?」

「まあそんな所だ、出来る事はその位でな。雪之丞、MS整備のマニュアルだ!」

「おう助かるぜ!んじゃエクセレン、リアクターの調整は任せるぜ」

「任されちゃうわね」

 

イサリビの格納デッキでは戦闘を終えたMSの修理とリアクターなどの調整などが行われている、そこにはエクセレンの姿もあり、主に一番面倒ともいえるリアクターの調整作業へと入っていく。本当は彼女も疲れている事だろうが、一番その辺りの作業に慣れているのはエクセレン。本人も休みたいとは一切言わずに作業に入っていく。そんな光景を見つめながら、ドックの通路に凭れながらクランクは部下であるアインと話をしていた。アインはクランクが任務に失敗し死んだものとばかり思っており、その仇を取る為に鉄華団に襲いかかったと言っても過言ではない。しかし実際はクランクは生きており、その鉄華団で働いているという。

 

「お前も戦ったあの白いMS、あれに乗っているあそこの女性がいるだろう。彼女、エクセレン・ブロウニングに決闘で負けてグレイズと身柄を預ける事になった。そして今は先生をやっているんだ」

「そ、そうだったんですか……」

 

アインの胸中は複雑であった。胸の中にあったのは自分の事を唯一対等に扱ってくれたクランクを殺した鉄華団への怒りと憎しみだったのに、実際はクランクは生きていた。それは嬉しいが……その鉄華団には自分の半分も生きていない子供達ばかりが必死に働いていた。自分は…こんな子供達を殺そうとしていたのかと思えてしまう。

 

「自分は……どうなるのでしょうか。便宜上捕虜という事になるのでしょうが……」

「そうだな…なあアイン、俺はこのまま鉄華団に残ろうかと思うんだ」

「の、残る!?」

 

クランクから信じられない言葉が出てきた事に驚愕し大声を上げてしまった。

 

「何故ですクランク二尉!!?まだ原隊復帰は出来る筈……!」

「いや……俺は戻らない。俺はまだ数日だがこの鉄華団と行動を共にし先生として子供達と触れ合ってきた。幼く罪のない子供達が銃を握る事でしか生きていけないなど……俺はそんな彼らを見捨てて戻る事など出来ないんだ」

 

そう言われてアインはかつて自分が周囲から自分が半分火星人の血を引いている事から差別され、自分の機体すらまともに整備して貰えなかった事を思い出した。あの時自分は目の前の人に救って貰えたから生きているんだと思う、あの時救ってもらえなかったら如何なっていただろうか……差別に我慢出来ずに火星に戻って不自由な生活を送って居た事だろう。

 

「だが彼らが生きていくには今は銃を握るしかない、だから鉄華団が大きくなりあの少年達がまともな仕事が出来るようになるまで見守ろうと思う。それが今出来る最善の手だと思う」

「最善の……」

「ああ。アイン、お前は如何する?」

 

そう問われても困る。先程までギャラルホルンだった筈の自分だが、ハッキリ言って自分も今のギャラルホルンには疑問と不満しかなかった。クランクの仇を取ろうとしたのも自分を救ってくれた恩師の為だからだ。だが今恩師は鉄華団にいる、自分を救ってくれた人がそうするなら……自分も、そうしてみても悪くないかもしれないと思えた。

 

「ねえクランクさん、ちょっとナノラミネートアーマーの補強のお手伝い上げてくれない?皆宇宙での作業に慣れてないみたいなの」

「ああ解った」

「あっ待ってください!」

 

通路から離れ、無重力の中ゆっくりとMSへと向かっていくクランクとエクセレンを止めるように声を上げた。二人は器用に回転ながら此方を見る。それに恥ずかしそうに頬を赤くしながら声を高くして言った。

 

「じ、自分もお手伝いしても良いでしょうか!?こう見えても、グレイズの整備をしっかりとして貰えるまでは自分で全部やっていたので整備は出来ます!!」

「あらっ助かっちゃうわ~。それじゃあお兄さんお願いしても良いかしら?皆~あのお兄さんも手伝ってくれるって~。クランク先生の教え子さんらしいから仲良くね~」

 

皆のお姉さんの声に少年達は声を上げてその言葉に従ってアインの傍まで接近しては挨拶をしていく、アインはそれに戸惑いつつも挨拶をしつつも手を引かれていく。

 

「ねえねえクランク先生の教え子?って事はアインさんも先生なの?」

「えっ!?い、いや俺は先生だなんて……!?」

「じゃアイン先生だね!」

「宜しくアイン先生!」

「えっええっ~!!?」

 

なぜか先生扱いされている事に困惑しつつも、此方を見て暖かな笑みを浮かべているクランクとニヤついているエクセレンを見て思わず助けを請う。

 

「皆、アイン先生が困っているぞ?さあ仕事に掛かるぞ」

「そうよ~アイン先生のご迷惑にならないようにね~」

「ク、クランク二尉ぃぃぃ~!!!!???」

 

この後、アインは鉄華団に正式に入り、再びクランクの部下として子供達の先生及び整備班の班長として仕事をする事になったが、如何にも班長や先生と呼ばれるのに慣れないのか呼ばれる度に頬を赤らめ、それをエクセレンにからかわれるのであった。




エクセレン「んっ~鉄華団にも大人が増えて良い感じぃ~♪

からかい甲斐もあって本当に良いよねぇ~。

良い男の頼みって結構聞いてみるとリターン大きいのよね。

そう言えばアイン君って女性経験あるのかしら?

ぬっふふふ、今度はそっち方面で言ってみようかしら!?

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

いさなとり


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6話


いさなとり




ヴァイスの整備も完了しアトラの作ったご飯も食べたエクセレンは書類仕事や操縦で溜まっていた疲れを癒す為にベットに潜り込んだ。少々硬めだがこのぐらいでも十二分に寝られると直ぐに眠りに落ちて行った……が数時間も過ぎると艦内のアラートが鳴り響くと自然と体が反応するように飛び起きた。

 

「っもう良い夢見てたのに!!後少しで行けたのに熟練度獲得……!!」

 

一体どんな夢を見ていたのだろうか、輸送船を被弾させるなというミッションで受けていたのだろうか。そんな事は無視しつつパイロットスーツを纏うと大急ぎで格納ドッグへと急いだ。ドッグではクランクとアインが中心となって何時戦闘になってもバルバトスとヴァイス、そして昭弘が搭乗する事になったグレイズの発信準備が急ピッチで行われていた。

 

「そうだ、今のうちのガスを補給しておくんだ!その後に弾薬のチェック!!」

「よしリアクターの調子は良いな、クランク二尉……じゃなくてクランク教官、後はバルバトスのチェックだけです!」

「おしそっちは俺の方でやる、そっちは任せるぜ先生達」

「あららっ整備チームが良い感じに形になってるわね♪」

 

その様子を少々悪戯気な瞳を作りながら見守っていたエクセレンは少し前までMSの整備の仕方で困っていたり迷っていたりしていたのにクランクとアインの指導のお陰でかなりスムーズに仕事を進められるようにしている少年達、子供というのは少し目を離すと成長するというが如何やら本当らしい。姉だったつもりなのに少々母親の心境になってしまった。

 

「おやっさ~ん。ヴァイスちゃんの整備終わってる?」

「なんだもう着てるのか?気が早くねえか」

「良く言うじゃない、備えあれば嬉しいな♪って」

「いや言わねえよ」

 

真顔で返されてややしょぼんとしつつも直ぐに気を取り直してヴァイスのコクピットへと乗り込んだエクセレン、こんな状況なら追っ手が来ても可笑しくはない。敵はギャラルホルンかそれともこの船を狙っての海賊なのかは分からないが兎に角自分は戦うだけだ。機体の起動とチェックが終了すると現在の詳しい状況を知りたいのでブリッジに向けて通信を開いた。

 

「ねぇ一体このアラート何なの?一応ヴァイスちゃんには乗ってるけど」

『ああ姉さんちょうど良かった、実はな』

 

オルガの口から状況が知らされた。先程のアラートは此方を追ってくる船を知らせる物、だがその船からの通信で顔を見せたのは自分から逃げ出した前所長のマルバ・アーケイだった。そしてそのマルバは元CGSの全資産をタービンズという会社を運営する代表の名瀬・タービンに譲渡するという契約になっているらしくさっさと船を止めろという事らしい。だがそれでは鉄華団は事実上の解散、メンバーは真っ当な仕事を名瀬本人が責任を持って紹介するらしいがそれは鉄華団としては許せない。

 

何より自分達が受けたクーデリアの仕事という筋を通せなくなる。加えて言うなればこれは千載一遇のチャンスでもあった、地球に行くための案内役が使えなくなったため新しいのを探す必要があったがギャラルホルンと揉めてしまった以上火星の本部の事を頼める大きい後ろ盾が必要となってしまった。そこで目を付けたのがタービンズが傘下に入っているテイワズという巨大な組織だった。オルガはその要求を突っぱね、自分達の力を見せる事でテイワズ入りを交渉出来るようにしようと考えた。そして正しく今、戦闘は始まろうとしているらしい。

 

『っつう訳です、姉さんに相談せずに決めたは悪いと思ってますけど俺達だってもう餓鬼じゃねえ。自分達でやれるって事を姉さんに分かって欲しいんだ』

「……」

『あ、あの……姉さん?』

 

モニター越しに黙り込んでいるエクセレンに思わずオルガは心配そうな声を上げた、今までこの人が人と喋っている際に黙り込み、更に茶々も入れずにただただ静かにしている所など見た事がなかったからだ。それもそれで如何かと思うが兎に角オルガからしたら不気味でしょうがなかった。思わずブリッジ全員が息を飲んでしまう。

 

「ううううっ……お姉さん嬉しくなってきちゃった……もうそこまで……もうなんだか感激!」

『な、何だよびっくりさせやがって……まあ兎に角出て貰えますか?』

「お任せお任せ~♪」

 

通信を切り再度機体チェックをしているとアインがモニターに現れた。

 

『エクセレンさん、ヴァイスリッターの方も出来る限りの調整はさせて貰いましたが一部分からない装置があってそこはノータッチです。そこは解ってください』

「ええ了解よ、装甲とリアクターだけでも十分よ」

『ご武運を!』

「あらあら真面目な青年にそう言われちゃうとお姉さんもやる気出ちゃうわね、後でハグして上げるからねアイン君♡」

『いいいっ!?け、けけけけ結構ですのでぇっ!!?』

『よぉし最後にヴァイスを下ろすぞ!下気ぃ付けろ!!」

 

顔を真っ赤にして去っていくアインを面白がりつつもヴァイスはアームによって移動させられカタパルトへと固定させられる。発進口が開放され暗黒の宇宙が見えている、今からまたあの海で戦うのだ。やってやろうじゃないか。

 

『カタパルトスタンバイ。いつでもどうぞ』

「そんじゃまエクセレン・ブロウニング、ヴァイスリッターちゃんいくわよぉ~!!」

 

急激な射出によるGが襲ってくるがヴァイスの速度から何時も身体には負担が掛かっているような物なので平気そうな顔をしながらイサリビから猛スピードで発進したヴァイスは先に出撃していた昭弘のグレイズと三日月のバルバトスにあっという間に追いつく。

 

「お待たっ♪待っちゃったかしら」

『別に待っちゃいねえよ姉貴』

『うん、ヴァイスって凄い速いね』

 

鉄華団が所有し出撃可能な存在の中でも矢張り速度ではヴァイスが飛びぬけて速度に秀でている、なので合流した際にはブレーキを掛けて速度を調整しないとあっという間に追い越して敵艦に一人で特攻を掛ける事になる。CGSに入る前にそれをやらかして酷い目にあった。レーダーには前方から二機のMSが迫ってくる、望遠するとマッシブな身体つきをしたMS。近接に入り込まれると中々きつそうだ。

 

「わおっ中々良い身体つきしてるわね。昭弘のお知り合い?」

『ああっ!?姉貴アンタ俺を何だと思ってるんだよ!?』

「うーん筋肉モリモリ?」

『俺の印象それだけかよ!!?』

 

などというギャグをやっている間にイサリビから通信が飛んでくる、如何やらもう一機のMSが出現し此方を攻撃し続けているとの事。誰か一人戻ってきて欲しいという要請だった。

 

『んじゃ俺戻るよ。姉さんと昭弘、此処任せるよ』

『!………ああ、任せろ!』

「任せなさい、確りね!」

『うん』

 

反転して一気に戻っていくバルバトスを追撃するようにタービンズのピンク色のMS、百錬がライフルで追撃を仕掛けるが同じくライフルを握ったヴァイスが牽制のように射撃をし進路を防ぐ。

 

『邪魔をするもんじゃないよ坊や』

「あら失礼しちゃうわね、私は女よっ!!」

『えっそうなの?』

 

素早く機体を切り返しながら相手の肩を蹴りつけながら一気に距離を取りライフルを連射していく。グレイズに比べて重装甲なのか効果は芳しくは無く全て弾かれて終わっている、射撃型な機体にとって重装甲なのはきついが弟に頼まれたのだから確りとやらなくては。

 

『そりゃ悪かったねぇ、んじゃお詫びという訳じゃないけどアンタはうちで面倒見てあげようか?』

「そりゃどうも、だけど私は鉄華団って居場所が気に入ってるの」

 

オクスタンランチャーに持ち替えながら迫ってくる百錬を振り切るように速度を上げつつ周回しBモードで弾丸を連射、百錬の関節を狙ってつもりだったがそこも確りとカバーするように装甲が覆われており貫く事が出来ない。

 

「お堅いわねぇ」

『旦那持ちだからね、この位がちょうど良いのさ!!』

「あらそっ!!」

 

再び間接狙いだがそれをあっさりと回避した上に回避先を先読みして放った弾をあっさりと防御してしまった。それを見てエクセレンはこのパイロットも全く油断出来ない相手だと実感する、力量は互角かそれ以上かもしれないけど負ける気は毛頭ない。迫ってくる弾丸を避けつつ昭弘の方へと目を向けるが其方は苦戦を強いられていた。

 

『ぐっ!!オオオオッッ!!!』

『しつこい……!!』

 

ライフルを破壊された昭弘は目の前のもう一機の百錬と戦闘を繰り広げている、がエクセレンほどの腕もない上にグレイズには阿頼耶識は装備されていない。今までの戦いで培った勘と経験を頼りになんとか目の前の今強敵に食らい付いているようなものだった。斧を掴みブレードを受け止めるが力量の差か出力の差か、グレイズの斧は容易くヒビが入り砕け、グレイズは蹴りを食らった。

 

「昭弘大丈夫!?」

『俺は……あいつに任されたんだ、姉貴と一緒に任された……此処は引けねぇぇぇっ!!!引く訳にはいかねぇんだよぉぉ!!!!』

『くっこいついきなり勢いがっ!!』

 

三日月の先程の言葉が発破となったのか一気に息を吹き返した昭弘は出力を全開にしながら百錬にタックルするとそのまま頭部を殴りつけ超至近距離で肩に付けられた砲塔を向けてぶっ放すと肩の一部の装甲を丸ごと破壊した。それにより砲塔は壊れてしまった昭弘は怯まない。

 

「わぁお!昭弘やるぅ!そうよ一気に行っちゃいなさい!!」

『おおおっ!!!おおおおおおおおお!!!!!』

 

エクセレンの言葉もあり大声を張り上げながら百錬の身体に組み付くとガンガンと装甲が無くなった部分へと拳を何度も何度も振るい続けていく。装甲が無くなった部分を何度も攻撃されれば幾らMSといえどダメージはどんどん蓄積して行く。

 

『アジー!あっちの援護に行きたいけど、アンタが行かせてくれないねぇ!!』

「駄目よ駄目駄目!今は女子会の最中なんだから、途中帰宅は許しませんことよ~!!」

 

援護へと向かおうとする機体すら自分に釘付けにしているエクセレン、相手が重装甲だろうが全く怯まずに時には一直線に突撃して相手を驚かせて目の前で手を振ってから回し蹴りをしたり遠距離で高速移動しながらから頭部を集中的にスナイピングしたりと人外的なテクニックを連発していた。それに百錬のパイロット、アミダは恐ろしさを感じていた。自分が相手にしている女はどれだけ強いのかと。

 

「ではお次は……必殺!天空蟷螂拳なんてどうかしら!?」

『アンタ一体どれだけ引き出しがあるんだい?』

「人間引き出しはいっぱい多い方が良いのよ?」

 

と茶目っ気良く笑った所で突撃しようとした時に通信が入ってきた、それはイサリビからではなくタービンズの船であるハンマーヘッドからであったがそれはオルガの物であった。

 

『もういいぜ姉さん!!勝負は付いた!!』

「あららっオルガ、お話は終わった感じ?」

『ああ。姉さん達のお陰だぜ』

「そう言って貰えると嬉しいわね~♪昭弘も良く頑張ったわね」

 

そう言いながらランチャーを肩に担ぎながらグレイズの方に目を向けて見るとそこには百錬の腕に組み付いて腕ひしぎ十字固めを行っているグレイズと腕を完全に決められている百錬の姿があった。思わずエクセレンは噴出しかけたが良く見たら百錬の腕は後少しで千切れそうになっていた。

 

『ハァハァハァハァッ……やった、のか……?』

「ええ良くやったわ」

『姉さん有難う、アンタがグレイズにインプットしてくれたこのモーションが無かったら今頃ボコボコに殴られてたぜ』

「そ、そう!?いやぁ流石私ね!(言えない、遊びであのモーションデータ入れたなんて絶対に言えない……)」




クランク「鉄華団も中々悪くはない。

子供達も良い子が多いし熱心で教え甲斐がある。

最近では字を教えるためのデータを作っているんだが

ちゃんと使えるといいんだが……

アインと相談しながら作るか。

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

寄り添うかたち


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7話

寄り添うかたち





戦闘終了後約30分後。MS隊をエクセレン、昭弘、三日月が抑えている間にイサリビはある意味賭けと言ってもいい方法に撃って出た。スモークを発射しそれを迎撃させ、相手の視界が途切れた隙に真正面から一気に接近しその際にMW隊を敵艦に潜入しブリッジ制圧を狙うという賭けに。本来なら互いに反対方向同士に移動している物に無理やり飛び移ろうとしたら速度差による負担が尋常ではないほどに掛かり一歩間違えば体がひき肉になる。

 

しかしMW隊は、いや鉄華団はそれを恐れなかった。仲間が身体を張って戦って暮れているのだから自分達もそれに報いる為の行動をしなければならないと危険は承知、リスクなど知った事ではないと実行した。結果として作戦は大成功、ブリッジまで進行した所で銃を突きつけられたマルバは気絶しタービンズの代表の名瀬は取引の交渉に応じる事を約束してくれた。そしてMS戦で疲れているだろうエクセレンもタービンズとの交渉に参加するとハンマーヘッドへと移動し名瀬との交渉に入った。

 

 

タービンズ代表の部屋に通された団長のオルガ、クーデリア、教官のエクセレンとお付のユージンとビスケットはお洒落な部屋の内装に少々驚きつつも勧められて席に付く。エクセレンは一応教官だが座ろうとしなかったが名瀬に勧められてオルガの隣に座った。

 

「マルバはうちの資源採掘衛星に放り込む事にしたぜ。今回掛かった経費はあいつの身体で返してもらう」

「そちらに預けた話です、お任せします」

「そうね相応の罰よね。それにしてもお兄さん色男なのに結構いい性格してるわねぇ」

「そうかい?美人さんに言ってもらえると男冥利に尽きるな」

「いやぁんもう美人だなんて♪もっと言って♪」

「はははっ戦ってた時も思ったけど本当に面白いねアンタ」

 

先程までMS戦闘をしていた百錬のパイロットであるアミダが思わずそう口にした。互いに通信は通じていたので声を知っているので目の前の相手がそうだとは分かったがまさか此処までマイペースにいられるとは流石に思ってもみなかったのか名瀬も少々笑っている。戻ってきたアミダから

 

『あの白い奴のパイロット、相当な腕だね。百里と同等かそれ以上の推力で移動しながら間接部を遠距離から精密射撃なんて普通出来るもんじゃないよ』

 

と聞いていただけにどんな女がパイロットなのかと思えば目の前には絶世の美女とも言える美貌を持ちながら陽気でマイペースなコメディビューティな女性で名瀬もある意味驚いていた。こういった場合は堅物で無口な女性が相場かパターンだと思っていたらしい。

 

「にしてもこの船に乗り込んだ時も思いましたが、女性ばっかりですねこの船」

「そりゃそうさ。この船は俺のハーレムだからな」

「えっ?」

「はっ?」

「わぁお♪」

 

思わず安心と安定のエクセレン以外の鉄華団側の空気が死んだ。流石にハーレムをやっているとは想像もしていなかったらしい。ハーレムは男がそれ相応の財力や体力、活力などなど求められる物が多い。それを実現出来る人間などハッキリ言って少ない。

 

「まあそう言うことだ。子供も5人ぐらいいるな、腹違いだが全員俺の可愛くて愛する子供達さ」

「う~んなんていう男の夢の園、色男さんだとは思ってたけどそれ以上だったわね。なんていうのかしら、酒池肉林?」

「否定はしねえな。まあ一度に抱くのは一人一人だけどな、そうしないと皆が嫉妬深くになっちまう」

「しかも全員と関係良好と来ましたよ、これは負けてられないわよオルガ」

「ええ……って何で俺に振るんですか姉さん!?」

 

いやなんとなくという言葉に再びガックリ来るオルガに笑う名瀬とアミダ、何とも愉快な教官もいたものだと。

 

「んじゃ一旦話を戻して……ギャラルホルンとの戦いと今回の俺達との戦いでお前達の力は良く分かった、それで何が望みだ?」

「僕達はこのクーデリアさんを地球まで送り届ける仕事を依頼されています、ですが僕達は地球への旅は初めてですので案内役が必要です。その案内役を依頼したいんです」

「そして俺達をテイワズの傘下に入れてもらう事は出来ないでしょうか」

 

それを聞いて成程と納得する。圏外圏の一大商業組(テイワズ)なら強大なギャラルホルンに対する後ろ盾になると考えている。それは確かにそうだ、彼らの狙いは間違っていない。じっとオルガを見つめる名瀬は強く睨み返してくる姿に軽く笑って答えた。

 

「いいぜ、オヤジに話を通してみる。」

「あら結構あっさりと。これならこれは必要なかったかしらね」

 

そう言いながら懐からある資料の束を取り出すとそれに名瀬が興味を示した。一部だけを手渡すエクセレン、それを見つめながら目配せで説明を求められると素直に答えた。

 

「それは私のヴァイスちゃんに搭載されている航行用推進システムのデータよ、価値あるんじゃないかしら?」

「推進システムか……ほう、宇宙だけじゃなくて大気圏内でも使用可能なシステムか……」

「そういえば姉貴のMS、火星でも自由に空飛んでたよな」

「ええ。ヴァイスちゃんが飛んでるのはそのシステムのお陰なの」

 

それを聞いて名瀬はますます興味を引かれた。現在のMSが長時間空を飛行するのは難しく出来たとしてもホバーや滑空が精々、だが今の話を総合するとそのシステムを搭載するとMSの機動力が上がる上に大気圏での飛行も可能になるという話になる。これはとんでもない代物かもしれない。

 

「確かエクセレンとか言ったな。あんたこれを何処で?」

「私のパパが20年ぐらいかけて作ったとか言ってたわよ。元々は外宇宙に行く為の推進装置だ~!って言ってたけどその時の話は良く覚えてないの。まあデータは全部残ってるからいいんだけどね」

「……なぁこのデータ、タービンズ否テイワズと独占契約を結ぶ気はねえか?」

 

その言葉に全員が驚いた、アミダも資料を読んでみるとMSのパイロットとしてこのシステムは是非とも欲しいと言いたくなるような代物だった。極めて革命的なシステム、これを一人で作り上げた彼女の父親は本物の大天才と言える存在だ。

 

「いいわよ別に。私じゃなくて鉄華団の独自技術としてテイワズに提供料と使用料をくれるなら」

「お、おい姉さん!?いいのかよ!?俺全然わからねえけどそれ姉さんの親父さんが作ったもんなんだろ、そんな簡単に使って良いって言っていいのか!?」

「いいのよ」

 

技術的な部分やどれだけ凄いのかは分からないが事態の深刻さは良く分かったオルガは慌てたようにエクセレンに問いただした。名瀬の言い方して相当に凄いシステムなのは間違い無い、ある意味独占すべき物とも言えるのにそれをあっさりと使って良いと決めてしまっていい物か。自分の父親の発明を。だがエクセレンは笑って答える。

 

「私のパパって事は鉄華団の皆にとっては御爺ちゃんみたいなものなのよ?孫に自分の物を使って貰えるなんて御爺ちゃんにとって嬉しい事なんてないわ。それに少しでも鉄華団の財源が潤えば、貴方達が楽になるでしょ?」

「っ……姉さん」

 

言葉に詰りそうになりながらも珍しく聖母のような笑みを浮かべたエクセレンが眩しく見て居られなくなって来た。どれだけ自分達の事を考えてもらえているのかと、何よりも自分達の事を優先してくれている事に嬉しく思えてしまった。

 

「こりゃ想像以上にいい女だなアンタ。まあ正式な契約をするかどうかは本拠地(歳星)に着いた時に決めるとしよう」

「ええ分かったわ。出来るだけ良いお値段を期待するわ色男さん♪」

「こんなお宝、下手な額出せねえよ」

 

と何処かとんでもないお宝を偶然発掘してこれからはトレジャーハンターでも名乗ってみようかなと呟く名瀬をアミダは軽く制した。この後契約に際してエクセレンがある条件をつけそれが呑まれるのならこちらも契約すると公言し名瀬もその条件を呑む事を公言した。

 

「これであの子達が生き残る確立が上がる……嬉しいなぁ…」

 

イサリビに戻ったエクセレンはベットに倒れこみつつそう呟くと疲れからかすやすやと眠ってしまった。暗い彼女の部屋のデスクにはある計画書が置かれていた。そこには『テスラ・ドライブ、ガンダム搭載による性能上昇幅』と書かれていた。




アイン「何時の間にか俺はこの鉄華団という場所に暖かさを覚えている。

純粋な子供達の瞳に暖かな感情、久しく素晴らしいと思えるものに出会えている。

子供達の為に大人として出来る事、ただ教えるだけで良いのだろうか。

三日月や昭弘、彼らも子供なのに戦っている。自分も……

何かを、何かをしなければいけないと思う。

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使



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8話






タービンズとの戦闘及び交渉からまもなく10日が過ぎようとしていた頃、タービンズ(ハンマーヘッド)鉄華団(イサリビ)は圏外圏随一と言われている大組織であるテイワズの本拠地である巨大な船、歳星へと到達した。此処から自分達の運命が再び変動していくといっても過言ではない場に皆はやや緊張しながらも名瀬の案内の元で歳星へと降り立った。そしてゆっくりと進めていく歩みの先にはこれから話をするテイワズの代表、マクマード・バリストンの館があった。圏外圏一恐ろしい男と語る名瀬の言葉にその場全員が身だしなみを整え、入り口の人間に門を開けてもらい名瀬は脅しておきながら

 

「んじゃ行くか」

 

と軽く言った。皆緊張している中

 

「は~い♪」

 

唯一暢気なのはエクセレンのみであった。彼女のマイペース振りには何時も助けられている鉄華団だがこんな時位は確りとして場の空気をキッチリと引き締めて欲しいと心から願ってしまった。余裕綽々と言わんばかりの名瀬の軽い足取りに着いて行く鉄華団の首脳メンバーとクーデリア、そして通された部屋では恰幅が良い男性が和服を着ながら盆栽の手入れに使う鋏を持ちながら此方を見つめていた。

 

「おう来たか名瀬」

「ええ。久しぶりです親父」

「こいつらが鉄華団か……話は聞いてるぜ、良い面構えしてるじゃねえか」

 

穏やかな表情で此方を持て成しつつお茶菓子を用意してやれと声を掛ける姿に圏外圏一恐ろしい男という名瀬の言葉から連想していたイメージからかなり的外れな印象を受けてしまっていた。がエクセレンは表情は普段どおりにしつつも内心では軽く笑っていた、こういうタイプの人間は表ではなく内面が怖いのだと分かっているからだ。

 

「こいつらは大きなヤマが張れる奴だ。親父、俺はこいつらに盃をやりたいと思っている」

「えっ?」

 

小さくオルガが驚きの声を上げる。あくまで交渉の道筋を作ってくれるという話だったのにそれを飛び越えて名瀬自らがテイワズの一員として推薦したいといっている。予想外な話にオルガは戸惑ってしまう。

 

「ほうお前が男にそこまで言うとはな……。何とも珍しいな、いいだろう俺の元で兄弟の杯を交わせばいい」

「タービンズと鉄華団(俺ら)が兄弟分……!?」

 

驚いて暇も無く兄弟の盃の件は確定事項となり四分六、タービンズが兄で鉄華団が弟という事になった。余りな急展開にオルガはなんとか事態を受け止めようと必死になっていたが取り合えずしたい話は済んだので一度メンバーは外で待機しつつクーデリアとマクマードの話に入った。三日月が護衛として残っている間、他のメンバーは外でカンノーリという甘いお菓子と紅茶をご馳走になっていた。

 

「うっめぇっ~!!何じゃこりゃ~!?たまらねえぜ!」

「本当、でもカロリーとか大丈夫かしら?」

「エクセレンさんは生きているだけで普通の人の2倍のエネルギー使ってますから大丈夫ですよ」

「あらビスケット君それってどう言うことかしら」

 

食べた事もないカンノーリの甘さと味に舌鼓をしつつ堪能していると名瀬が鉄華団が鹵獲した物に対して金額がついたといってきた。

 

「これで良ければ請求を寄越してくれ」

「こ、こんなに!?」

「すっげぇっ!!」

「玉石混淆だったがな、中でもグレイズのリアクター二基は高く売れた。エイハブリアクターを新規に製造できるのはギャラルホルンだけだからな、しかもうち一機は重要な部分にダメージがないから良い値が付いた」

 

その一機とはエクセレンが鹵獲したアインのグレイズであった。カメラとスラスター部分は破損しているがその辺りは修理したり代わりのパーツに換装するだけで済むので余り値には響かなかったらしい。売る際にアインに大丈夫かと聞いたら気にせずに売ってもいいと言っていた。元々自分の所有ではないし既に自分は鉄華団だと力強く答えてくれた。

 

「こんな良いお値段するんだったら火星の軌道上でもっと鹵獲しておくべきだったわね。そしたらもっとうはうはだったのに」

「おいおいこれ以上だと業者も金準備するのに困っちまうぜ」

「そうもそっか」

 

軽口を飛ばしながらもオルガは名瀬に恥ずかしそうに兄貴と呼び感謝を示す。まだ早いだろうか慣れておくのは早い方がいい。そしてオルガこの金を使い火星からの出発やギャラルホルンとの衝突なので疲れとストレスが溜まっている団員を労いたいと申し出ると名瀬とエクセレンはそれを大いに推した。

 

「そりゃいい考えだな。家長としては家族のストレスをいい感じに抜いてやるのも仕事だからな」

「宇宙って娯楽とか限られてくるからね、そういうのって凄い大事なのよね」

「そっか……うし!今日はこれでパ~っとやるぞ!皆疲れてるだろうし色々大変だったからな、ここらで一気に疲れを癒すとするか!」

「おうそうしろそうしろ、歳星は金さえあれば楽しめる場だ。思いっきり羽を伸ばせよ」

 

そういうと早速オルガ、ユージン、ビスケットは戻ってきた三日月とクーデリアを連れて商業施設へと繰り出していった。まずは幼年組に対する簡単なご褒美と艦内でストレス解消をする為の機材を見にいった。それを見送ったエクセレンは胸元から契約書を出した名瀬と向き合って同じようにデータの入ったディスクを書類を取り出した。

 

「んじゃ早速契約と行くぞ。エクセレン・ブロウニング、鉄華団保有の独自技術である航行用推進システム『テスラ・ドライブ』。その技術とノウハウはテイワズでも研究開発を行うに伴いその許可料金と使用料を支払い独占契約を成立させる。そして条件として鉄華団所有MSである『ガンダム・バルバトス』に『テスラ・ドライブ』の搭載を望むだったな」

「ええ。如何だった?」

「親父もノリノリだったな。こんなお宝に対してこんな条件でいいのかって驚いてたぜ、だけどその分かなりの金額と弾薬や薬品、補給物資なんかを鉄華団に渡すって話だ。それでOKか?」

「ええOKよ。それにしても凄い金額ね~、これに加えて毎月毎月鉄華団(こっち)にお金振り込まれる訳でしょ?」

 

書類に書かれている金額だけで一体どんな買い物が出来るのだろうか、少なくとも火星の鉄華団本部の経営に関してはもうこれだけでやっていけるんじゃないかと思えるほどだ。自分の父親の生み出した技術のぶっ飛び加減が改めて理解出来た。そして内容を熟読し確りと確認したうえでサインを行った。

 

「んじゃこれで『TD』の技術はテイワズの物だな」

「ええ好きにやっちゃって。あっそうだ色男さん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「んんっ?なんだ」

 

 

「終わった終わったぁ~」

 

自分の用事も済ませた事でエクセレンは漸くイサリビに帰還する帰り道でオルガ達青年組が意気揚々と出掛けて行くのが見えた。息抜きにでも行くのだろうかと思いつつ見ていると背後に一人の男が迫ってきたいるのを感じ取った。迫ってくる手を手早く取るとそのままアームロックの体勢に持って行きつつ建物の影へと入る。

 

「いでででででっっ!!?てめぇ何をしやがっあたたたたたっっむぐぅ!?」

「はーいちょっとうるさいわよ~静かにしようね~。後私のお胸はそんなに安くないのごめんなさいね~」

 

背後から近寄ってきたのは派手な黄色のコートを着たケツアゴ大男であった、名はジャスレイ・ドノミコルスと言いテイワズのナンバー2と言われているが先程テイワズに入ったエクセレンにとっては初めて見る顔であるので一切容赦はしない。

 

「てめぇ俺にこんな事してただで済むと思ってんのか……!?」

「それ私の台詞。私のバストゥを無断で触ろうとして無料(タダ)で済むと思ってるの?」

 

ハッキリ言ってしまうとジャスレイは先程まで歳星を離れて仕事をしており漸く戻ってきた矢先に絶世の美女とも言えるエクセレンを発見しそれを手篭めにしようと近づいてきたのだ。なのでエクセレンが新たにテイワズの傘下に入る事になった鉄華団の人間だとは知らないしエクセレンの重要性も全く知らない。

 

「貴方……さては屑ね」

「ああんっ!?なんだとてめ(ゴキャッ!!)グピィ…!!」

「あっやっば」

 

ジャスレイが暴れようとしたのを感じ取ったのか思わず、反射的に体が動いてしまいジャスレイの肩の間接を外した上に喉に肘打ちを打ち込んでしまった。その一撃でジャスレイは完全に意識を喪失し口からブクブクと泡を吹いて倒れこんでしまった。

 

「なぁ~んか言ってたけど良かったのかしらこれで……?まっいっかっ!!さぁ~ておやっさんとクランクさんとアイン君でも誘って飲みに行っちゃいましょう♪」

 

その場にジャスレイを放置したままスキップしながらイサリビに戻ったエクセレンは大人4人はオルガ達と合流し楽しく騒ぎつつその後2次会と称して静かに大人だけの酒の時間を過ごしたとの事。因みにアインは余り酒が得意でもないのに飲みすぎて顔を真っ赤にして倒れこんでしまったのでそこでお開きとなってしまった。この時の目を回している姿はエクセレンが撮影しており艦内にばら撒かれそうになったのをアインが止めようとするのがまた別の話である。

 

後放置させられたジャスレイは数時間後に何時まで経っても会議に来ないので探しに来た部下に発見され直ぐに病院へと運ばれたが数ヶ月の間意識不明が続き、その後記憶喪失になっていたという事件が発生した。犯人は誰も分からず結局迷宮入りと化したがジャスレイの会社である『JPTトラスト』はその後分裂させられ、その一部はタービンズが請け負った結果、名瀬のテイワズでの地位が上がったとか。

 

そして後日、鉄華団はテイワズの元でタービンズとの兄弟盃を交わし正式にテイワズの傘下の一企業となった。そして同時に……

 

「うおおおおおっっっ何だこのシステムはぁぁぁっっ!!?凄い凄い凄すぎるぅぅぅ!!重力制御と慣性質量を個別に変動させることが出来る装置なんて……これを作り上げた人は天才だぁぁぁぁっっ!!!更にこれをガンダムに搭載しろって言われなくてもやっちゃうよ私!!!」

「わぁおこれが所謂マッドメカニックって奴ね!」

「バルバトス、ヴァイスみたいに速くなるのかな」

 

一方ではとんでもない事が起ころうとしていた。




オルガ「偶に考えるんだが姉さんが居なかったらどうなってたんだって。

きっともっと大変でやべぇ道のりになってたと思う。

それだけ俺達は姉さんに助けられてる、だが頼りっぱなしてのも駄目だ。

俺はもっとでかくなる、何時か姉さんの隣に居ても恥ずかしくねえようにな

だからこそ、今はこの仕事に集中するんだ!

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

明日からの手紙


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9話

明日からの手紙






テイワズの傘下となりタービンズの兄弟分となった鉄華団、歳星での取引やエクセレンのTDの技術契約による物資の搬入が終了した事で漸く鉄華団の仕事に入る事が可能となった。オルクス商会とは違い本当の意味で信頼出来る案内の元で地球を目指す事が出来る。一枚隔てた向こう側に広がる宇宙の海へと漕ぎ出して行くイサリビとハンマーヘッドを見送る三日月、雪之丞そしてエクセレン。彼らはバルバトスの完全整備とTDの搭載の為に待機し、それが完了次第追いかける事になっているが如何にも三日月は何処かさびそうに見える。

 

「寂しいのか三日月?」

「うん寂しいよ、皆と離れるってそんな無かったから」

「大丈夫よ。バルバトスとヴァイスの整備が終われば直ぐに追いかけられるから」

「まあね」

 

普段の強さから不意に忘れがちになるが彼もまだ子供なのだ。仲間の為なら、オルガの命令なら簡単に銃を手に取り嘗ての上司ですら容易く殺す。そんな恐ろしさと強さから子供っぽさのない事から子供というのが如何にも頭から抜けがちだなと雪之丞は笑う。雪之丞は出来るだけ対等な立場目線で話をしているが彼らを弟として、子供として正しく扱っているのは

 

「楽しみね~テスラ・ドライブ搭載型のバルバトス~♪」

「姉さんのヴァイスみたいになるのかな」

「それはそれで化け物染みてて見たいようでみたくないわね」

 

装甲が紙と言っても過言ではないヴァイスだからこそあの動きが出来るのであってバルバトスに同じような動きをされてしまったらもう手の施しようがないと思う、そうなったらヴァイスと同じ速度で敵陣に突っ込みつつメイスで相手を叩き潰していく悪魔が爆誕する事になるが是非ともそうなったら自分の立場が狭くなるのでご勘弁していただきたい。

 

「お~い三日月君にエクセレンさん!阿頼耶識のチェックとヴァイスのチェックを始めるからお願いよ~」

「う~す」

「はいは~い」

 

整備長の言葉を受けてそれぞれの機体へと乗り込んでいく、幾ら傘下に入れてもこんな大掛かりな整備はしてくれない筈だがどうやら三日月がマクマードに気に入られたからこそ予算上限無しという整備士にとっては夢のような条件下での整備が可能になったらしい。整備長は幻のガンダム・フレームを整備出来るというだけでテンションMAXだったのにTDという革新的な技術が搭載されたヴァイスという存在のせいでもうテンションゲージが振り切れているのかもう目がやばい事になっている。血走っていて怖い事になっている。

 

『ワハハハハハハッッッ!!鉄華団とタービンズの出発の二日という僅かな時間、本来なら開発すら出来ないだろうが今の私に不可能など無いのだぁぁぁぁっっ!!!テイワズ産テスラ・ドライブは既にバルバトスに搭載完了!!それにより性能は従来のフハハハハハハッッッ!!!!』

「うわぁ~い凄いスーパーハイテンション……攻撃力2倍どころの話じゃないわねあれ」

 

計器などチェックしつつヴァイスを体調を確認するが外から聞こえてくる整備長の狂喜乱舞している声が煩く聞こえてくる。あのエクセレンすら若干引くレベルのテンションの高さ、まあそのお陰で経った二日という長短時間でTDが完成したのだが……。

 

「何故かしら、お姉さん凄い事してしまった感が凄いわ……」

『あっそうだエクセレンさん頼まれてた特殊弾丸の準備とマガジンは積んでおいたしオクスタンランチャーに対応するようにして置きましたよ』

「アッチョンプリケッ!?というか正気に戻れるのね確り」

『ワハハハハハッッッ!!!テスラ・ドライブとガンダム・フレームの融合、なんて素晴らしいんだぁぁぁぁぁっっ!!!!』

「あっ駄目だ戻ってないわ」

 

取り合えず自分が名瀬を通して注文をしておいたデータが送信されてきたので目を通す事にする。タービンズの百錬との戦闘で感じたヴァイスの弱点、それは重装甲MSに対して滅法弱いということだ。ただの重装甲ならばまだいいのだがこのご時世のMSは射撃に強いナノラミネートが装甲に施されるので重装甲の場合、射撃主体のヴァイスには辛いとしか言えなくなる。それは装甲が厚めな百錬でも言えた事だった。

 

そこでエクセレンが注文したのが二種の特殊弾丸。一つは対ナノラミネートアーマーナパーム弾。ナノラミネートアーマーの攻略法はバルバトスのメイスのような"大質量の直撃"だがそれはヴァイスには難しい。よって装甲に蒸着している塗料を剥がす為のナパーム弾を発注した。そしてもう一つは貫通性能が極めて高い貫通弾、この二種を装填したマガジンをオクスタンランチャーに装着し撃てるようにして貰った。これで大分やりやすくなると思われる。

 

「よしっと。こっちはチェック終わったわよ~」

『こっちも終わったよ』

『よしそれではひっじょぉぉぉおおおおおに名残惜しいですが、約1時間後にバルバトスはクタン参型で。ヴァイスはそのままで行けるんでしたね』

「ええ。んじゃ準備進めちゃいましょうか」

 

そして全ての準備が完了するとバルバトスは巨大なブースターが装備されている輸送機のクタン参型の中に収容されるとクタンの操縦席へ雪之丞が乗り込むのを確認すると二機は先に歳星を出た艦を追いかけるように宇宙へと飛び出して行った。流石に大型のブースターがあるだけにクタン参型の速度は速くヴァイスも出力を上げて加速し並び立つ。

 

「やっぱり速いわね~。整備されて調子が良いヴァイスちゃんでも追いつくのがやっとよ」

『それでもヴァイスは元からこいつと同等かそれ以上の速度があるって事になるんだけどな、それでも十分やべぇよ』

『これなら直ぐに追いつくね』

 

結果としてはそれほど時間が経つほども無くレーダーにイサリビとハンマーヘッドのリアクターの反応を捕まえる事が出来た。が他の反応も拾った。

 

「っ三日月!昭弘のグレイズと未登録の反応が三つ!」

『分かった、一気に加速して突入する』

「行くわよ!!」

 

迷う事無く出力を全開にする三日月とエクセレン、イサリビをあっさりと抜かしつつ戦闘空域へと侵入するとバルバトスはクタンから出て単身で突撃して行く。

 

『お、おい待て俺は操縦なんかできねえぞ!?』

「大丈夫よおやっさん、確か自動操縦モードが合った筈。確か黄色と赤よ、んじゃ」

 

そういい残すとバルバトスと同じように加速して空域へと突撃して行くヴァイス、モニターに映っているのは複数の敵に囲まれながら銃弾を打ち込まれ続けているグレイズの姿、反撃はしているが相手のMSはずんぐりとした厚い鎧を纏っているかのようなMSでグレイズのライフルでは傷一つついていなかった。そして一機のMSが昭弘のグレイズに向けて斧を振り下ろそうとした時、頭上よりやって来た悪魔が首へと入れるように真っ直ぐと太刀を突っ込んだ。装甲の内部へと潜った太刀は機体の内部とコクピットを一瞬で破壊しMSを再起不能とした。

 

「わお流石三日月!」

『ね、姉さん!?み、三日月かあれ!?っというか二人早くねえか!?』

「まあ急いで来たからね~」

 

改めて新しくなったバルバトスを見てみる、全体的に確りとした形となっている。テイワズの整備長が厄祭戦当時の物を再現したと行っていたがあれが恐らく本来のバルバトスの姿に近い物なのだろう。そしてそこへと加えられた短い翼のような突起のTD、それによって全体的な性能が上昇しており三日月もその動かしやすさに驚きつつも笑っていた。

 

『エ、エクセ姉さん助かりました!』

「あららタカキ君まで居たのね」

『ええ。昭弘さんと哨戒に出てたんです』

「三日月は昭弘とタカキの護衛お願いね、お姉さんが殿やるから」

『分かった、無理はしないでね』

 

そういうとバルバトスは軽い動きでグレイズとタカキの乗った背負われたMWを護衛するようにイサリビへと向かっていく。その背後から迫ってくる緑色で何処かカエルっぽい印象を受けるMSにヴァイスは狙いを定めた。

 

「此処から先は通行禁止です事よ~!」

 

オクスタンランチャーのBモードで発射する、比較的距離は遠くないので距離による威力減衰は無い筈だがそれでも銃弾は弾かれてしまい敵機には大したダメージがあるようには見えなかった。矢張り重装甲タイプの敵はやりづらい。

 

『聞くかよそんなの!!』

「あらそう、そんな貴方に新商品!」

 

新しく装備されたマガジンをセットしてそれを構える、そして此方に向かって撃たれたライフルの弾を簡単に回避しつつお返しに一発放った。弾丸が敵MS、マン・ロディの腕部に直撃した。かなりの重装甲なので相手も大丈夫だと思ったのだろうがこれは先程と同じ弾ではない、直撃と同時に高熱を発しながら爆発を引き起こしマン・ロディの装甲のナノラミネートアーマーを瞬時に剥がしてしまった。そして透かさずそこへEモードを打ち込んでみると光は腕を貫通し破壊した。

 

「わぁお!想像以上の出来前じゃないこのナパーム!」

『うわああああっっ!!な、なんだよあれMS用のナパーム弾かよ!?しかもなんか光ったと思ったら腕が壊れた!?』

『くそっ!!兎に角動き回れ、隙を見せたらやられるぞ!!』

 

もう一機の言葉を受けて機体の見た目とは反した高い機動性を見せて此方の射撃を受けまいと動き始めるマン・ロディ、だがしかし唯激しい動くだけで当たらなくなるのでは高速移動している機体でまともに遠距離射撃など出来ない。エクセレンは笑いながら自分も激しく動きながら正確に頭部と胸部それぞれ通常のBモードの弾丸を寸分違わずに命中させて見せた。

 

『な、何だこいつ……!?やばい、やばすぎるぞこいつ!?』

『くそ一旦デブリの影に行くぞ!!』

 

ヴァイスとエクセレンに恐怖を感じたのか一目散にデブリの中へと逃げ込んでいく二機を見るとヴァイスはその隙に一気に後退し三日月の援護へと向かっていく、だがそこでは既にタービンズからの援護が到着していたのか三日月とマン・ロディを更に大型化させたような機体と交戦をしていた。そこから勢いよく遠ざかるようにしているグレイズを発見するとエクセレンはそちらの護衛につく。

 

「昭弘にタカキ君大丈夫!?」

『ね、姉さんタカキが!!タカキが!!!!』

 

昭弘のらしくない悲鳴のような声を聞きMWを見るとそこには拉げた装甲のMWがグレイズの手の中にあった。それを見た瞬間エクセレンの血の気が引いて行った。

 

「急いでイサリビへ!!!」

『タカキ、タカキ確りしろ!!!もう着くんだ、頼む確りしてくれ!!!』

 

 

イサリビのドッグへと戻ってきたヴァイスから飛び降りるようにエクセレンは拉げた機体からタカキを救出しようと奮闘している皆の元へと急いだ。カッターなどを使用し必死にMWの装甲を抉じ開けようとする中でライドの声が木霊する。そして開いたMWの中から出てきたのはスーツの中で激しく流血し意識を失っているタカキだった。それを見たエクセレンはドッグにある応急キットを取るとタカキの元へと立った。

 

「応急処置を始めるわ!シノまだ応急キットがある筈だから持ってきて!それと誰か包帯と輸血パックを何時でも出せるように私の近くに居て!後ライドはそのままタカキを呼び続けて!!急いで!!」

「は、はい!!おい応急キットって何処だ!!?そこか!!」

「輸血パックです!!」

「タカキ!!タカキィィ!!!」

「死なせるもんですか……!!!」

 

必死な応急処置は医務室から治療道具を持ってきたクーデリアとそれを受け取ったテイワズからの仲介役にしてお目付け役のメリビット・ステープルトンが来るまで行われた。メリビットが治療を行おうとした時驚いた、応急処置とはいえ自分がやる事がもうかなり少なくなり後少し行えば大丈夫というところまで来ていた。

 

「後は私がやります、エクセレンさんは医務室のメディカルナノマシンベッドを!」

「分かったわ」

 

そう言って去って行くエクセレンを見送ったメリビットは応急処置が行われたタカキの治療を行うが簡単な最終工程しか行うとそのまま数人の手を借りてタカキを医務室へと連れて行った。

 

「姉さんタカキは!!?」

 

医務室へと駆け込んできたオルガと昭弘、連絡を聞いてすっ飛んできたのだがそこには正常な心拍音を立てる計器と呼吸をしながら横たわるタカキを見守る二人の女性の姿があった。息を荒げながら入ってきたオルガに対してエクセレンはそっとサムズアップをする。それを見て安心したように力を抜いた。

 

「良かった……」

「こんなことなら確りと皆に応急処置のレクチャーしておけば良かったわね……他の事で手一杯で忘れたわ……」

「エクセレンさん、貴方は船医を兼任してるんですか?」

 

鉄華団の内部状況に詳しくないメリビットはそう尋ねると頷いた。

 

「大体私が皆が出来ない仕事請け負ってるの。鉄華団にはまともに教育を受けられてない子とか経験がないこが多い上にテイワズとの交渉で漸くまともなお金が入ってきたばかりだから、私が重要な所は殆ど」

 

それを聞いてメリビットは相当驚いていた。エクセレンの年は見た所20代前半、それなのにどれだけの苦労を重ねているのだろうか。そして苦労せざるを得ない鉄華団の状況の悪さにも驚きと心のどこかで船医が居ない事を責めようとした自分を恥じた。雇っていないのではなく雇えない状況だったのだから。

 

この後、自分達を襲ってきたのがブルワーズという海賊であることが発覚し加えてそこに昭弘の弟が居るという驚愕の事実までが明らかになった。そんな中エクセレンが口にしたのは

 

「だったら決まりね。作戦名、昭弘の弟君を鉄華団に迎えちゃおう!の決行よ!」

「いや賛成だけど姉さん、致命的なまでにネーミングセンスがねえよ」




昭弘「タービンズの人たちとあってから鉄華団の中である話題が出来た。

誰が一番美人かってそんなくだらねえ話だ。

タービンズで一番多いのはアジーさんだったな

うちの姉さんとは違ってクールでカッコいいもんな。

でもやっぱり鉄華団の皆は、口を揃えて姉さんだって言うぜ。

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

暗礁


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10話

暗礁





こちら側に喧嘩を売ってきた武闘派として知られている海賊ブルワーズ。大組織の傘下のタービンズにも喧嘩を売ってきているのも関らず名瀬曰く向こうは妙に強気だったらしい。この圏外圏でそれだけ強気で居るためにはそれだけ強い後ろ盾が必要となってくるのだがテイワズ以外でそんな組織となるとギャラルホルンしかない。それを決定付けるようにクーデリアを渡したら命は助けると言ってきたらしい。

 

「さてと……」

「んじゃ三日月、宜しくね」

「うん、行って来る」

 

ブリッジから出て行く三日月の背中を追い終わるとエクセレンはモニターに目を移す。タービンズが予測したブルワーズが奇襲を仕掛けてくると思われているのは近道として、隠密性の高い物が求められる仕事に使われるデブリ帯内の抜け道とされた。だが正面から行くのではなく宇宙ネズミの強みを活かして戦艦二隻はデブリの中を突破し敵艦の背後を取って奇襲を仕掛ける作戦になった。その為に航続距離の長いラフタの百里とブースターを付けたバルバトスでこちらの艦との距離感覚を狂わせる二重の作戦を行う事になった。

 

「んじゃ船の操舵はユージン頼むぜ」

「おう任せとけよ」

 

着々と進んでいくブルワーズへの攻撃作戦と昭弘の弟、昌弘の救出作戦だがエクセレンは考えていた。昭弘から話を聞いたが本当にただ話をするだけで分かってくるのだろうかと。何年も会えずじまいでいた兄と弟、必ず迎えに行くといっていた昭弘ももう死んでいると思っていたらしい。それは弟も同じで絶望してしまっているのではないかと考える。

 

「ねえオルガ。ハッキリ言って昭弘が弟君に迎えに来たぞ!言って素直にはいこっちに来ます!って言ってくれると思う?」

「んっ?ああっ~……難しい、かもしれねえな」

 

一瞬何を言ってるんだ必ず鉄華団に迎え入れようと皆で決めたのにと思ったが瞬時に頭が冷えて考えてみると確かに難しいと思う。確かに昭弘は迎えに行くと言った、だが結果として今まで来なかった、それがヒューマン・デブリにとってどれだけ絶望と希望を与えていたのかは分からないがどうせ来ない、来たとしても何でもっと早く来てくれないとか遅いんだとかでもめる可能性も考えられた。

 

「ぶっちゃけ話とかしないで鹵獲するのが一番楽だと思うのよお姉さん」

「いやまあそうだろうけどよ……」

「姉貴っていつも楽天的なのに偶に物騒だよな……」

 

操舵の準備に掛かったユージンの言葉に思わずブリッジクルー全員が同意した。

 

「これでも私は大人よ、そう感じにくいだろうけど」

「自覚あったんだな姉さん」

「あたぼうよ!んっ~……昭弘の弟君の説得、私も参加しようかしら。それが一番な気がしてきたわ」

「もうそれで良いんじゃね?これで無理矢理機体をぶっ壊して連れてきたら俺どんな顔したらいいのかわからねえから」

「笑えばいいと思うわよ♪」

「それ絶対死んだ笑いだろ……」

 

そんな話を済ませるといよいよイサリビとハンマーヘッドはデブリ帯の中へと突入していく、そんな中格納ドックへと到達したエクセレンはヴァイスに乗り込むと昭弘のグレイズに通信を繋げる。そこには精神統一でもしているのか静かに目を閉じている昭弘がいた。

 

「昭弘」

『……っ姉さんか、何だ』

「私も弟君の説得に協力する事になったよ」

『否でもこれは俺達ヒューマン・デブリ同士で……』

「何水臭い事言ってるのよ、私は鉄華団の子達全員を弟って思ってるわ。ならその昌弘って子も私にとっては弟なの」

 

強引な理屈と考えを展開しつつ話を進めていく姉に昭弘は戸惑いつつも心の何処かで安心感を覚えていた。タカキを連れて撤退している時に繋がった通信、そして組みあったMS同士が軋む音。それから感じられたのは昌弘の喜びではなく驚きと呆れに近かった気がした。以前自分はもう人間ではなくデブリ(ゴミ)だと思っていた、きっと今の昌弘もそれに近い状態なのだろうと思う。

 

『姉さん、俺昌弘になって言えばいいのか少し分からないんだ……。こんな遅くなって今更約束を守りに来たって言っていいのか解らねぇ……。俺なんかよりずっと酷い事をされて来たに決まってる……』

 

鉄華団、いやCGS時代から続くヒューマン・デブリの扱いはそれらを扱う組織の中ではトップクラスに良い待遇だったと言えるだろう。壱軍の大人に虐めは受ける物のしっかりとした寝床や食事は必ずある、そして何よりもエクセレンの存在が大きいだろう。そんな環境にいた自分と弟では雲泥の差、弟の辛さは理解出来ない。だからどんな言葉を言っていいのか分からないと昭弘が漏らした。それを聞くとエクセレンは笑って言った。

 

「ならこう言ってあげたら。お前はデブリなんかじゃない、屑やゴミ扱いするのは本当にゴミな上の奴らだって」

『姉さん……?』

「私は一度も貴方達をゴミだのって言った覚えはないわよ。人間はね、一度たりともゴミにはならないの。喩え身体が機械だとしても、腕や足が無かろうと、自分が人間だって言う限りそれは人間よ」

『そうか、そうだよ、な……ありがとな姉さん。なんか俺まで嬉しくなって来た、だから俺一人であいつを連れてくる!』

「フフフッそれじゃあちゃんと弟君を連れて帰ってきなさい、そうしたら二人纏めて抱きしめて上げるから」

 

そう言って通信をきると思わず感慨深くなった。矢張り弟達は大きく成長している、人として鉄華団の一員として大きく一歩一歩確実に前へと進んでいる。それが嬉しくなってきてしまった。そう思っていると新たに通信が二つ入ってきた、それを応えるとそこにはパイロットスーツを着ているアインとクランクの姿があった。

 

『ブロウニング、昭弘の話は聞いた。私達も鉄華団の一員として協力するつもりだ』

『自分もです。それに先程三日月君が倒したロディ・フレームの内部を見たのですがヒューマン・デブリなのですが酷く痩せ細っていました……しかもメリビットさんの話では医務室で検査をした所では胃の内容物は殆ど無かったと』

 

それを聞いてエクセレンはレバーを握る力を強くした。ブルワーズのヒューマン・デブリの環境は最悪と言っても過言ではない事が確定した、出来る限り助けて上げたいと思う。

 

「そう……出来る事なら全員助けたいわね」

『そのつもりだ。そして君が歳星で購入したこのヘキサ・フレームのユーゴーで我々も出撃する』

 

歳星にてエクセレンは名瀬にいくつかのお願いをしていた。ヴァイスの特殊弾の手配、そしてもう一つがクランクとアインの機体となるMSの調達であった。元ギャラルホルンのパイロットとして経験のあるクランクは非常に戦力になる上、アインは予備のパイロットとしても期待できる。その考えから自腹と契約金としてその場で渡された金の一部を使って購入したのが買い手が丁度居なかったユーゴーであった。

 

『自分は…出来る限り救いたい、子供達をこの手の届く範囲で!!』

『私も同じ考えだ。出撃許可を取って貰えるか、ブロウニング』

「ええ勿論!」

 

そしてエクセレンが許可を取った直ぐ後に出撃要請のブザーが鳴り響きその場4人は気を引き締めた。

 

「エクセレン・ブロウニング、ヴァイスちゃん行くわよ!!」

「クランク・ゼント、ユーゴーホーク出撃する!!」

「アイン・ダルトン、ユーゴーイーグル出撃します!!」




三日月「決闘の人と班長も出るんだ。

俺達の中で一番強いのって誰なんだろ?

まあ如何でもいいかな。皆強いから。

鉄華団は強いよ。

アトラもそう思うだろ?

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

家族のあり方


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11話

家族のあり方





無数に浮遊し漂い続けるデブリ、厄祭戦時代の遺物やガラクタがただ無造作に漂い続けているデブリの奥にて鎮座するように居座る二隻の船。その船は地球火星間にて名が知られている武闘派の海賊ブルワーズの船、その船の前方ではラフタの百里と三日月のバルバトスが斥侯として出撃偵察を行っているところだったが待ち伏せを仕掛けてきたブルワーズのマン・ロディと戦闘を繰り広げていた。

 

「おいまだ奴らの船は見えてこねぇのか!!」

「はいまだ反応は……」

 

ブルワーズのキャプテン、まるでファンタジー系に出てくるオークのような顔立ちをしているが辛うじて人間だと分かるような男、ブルック・カバヤン。今回の仕事はあの地球を支配していると言っても過言ではないあの強大な組織であるギャラルホルンからの依頼、これさえ成功させれば自分達にも凄まじく大きい後ろ盾を作る事が可能になる。その為にもタービンズ達からクーデリアを必ず奪い取るとほくそ笑んでいると突然のアラートが鳴り響いた。

 

「何だ!?」

「左舷よりエイハブウェーブの反応!デ、デブリ帯の中から!?」

「ま、まさかぁ!!?」

 

自分達の船が居る場所ですらデブリの薄い道を選び慎重に操艦してきたというのにまさかデブリがありまくる上に周囲の状況さえ把握出来ないデブリ帯を艦艇で突破してくるなんて正気の沙汰ではない。だがそんな正気ではない事ですら簡単にやってのけるのが鉄華団である。イサリビの後に続いてきたハンマーヘッドは敵艦を確認すると一気に加速して敵艦へ突撃して行く。

 

「よし全員準備はいいな!?うちの船が何でハンマーヘッドって言うのか教えてやれ!!!」

「アイサー!総員、対ショック用意!!」

「リアクター出力最大、加速最大!艦内慣性制御いっぱい!」

「吶喊!!!」

 

動力炉の出力を限界にまで高めたハンマーヘッド、まさか来る訳がないと思い込んでいたデブリ帯から来た事で右往左往している敵へと船が出せる最大限のスピードを発揮しながら一気に突撃した。まるで金槌のような形状をしているハンマーヘッドの衝角、それを最大限のスピードで殴りつけるかのようにブルワーズの船に押し付けながら巨大なデブリの山へと突撃した。なんという出鱈目なやり方だがあれではやられた側の船はたまったものではない。

 

「こっちも負けてられねえぞぉ!!!」

「うおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

ハンマーヘッドの勇姿を見たオルガが叫びを上げると操舵を担当するユージンも同意するかのように気迫を上げながら艦首からアンカーを射出しもう一隻の敵艦へと取り付いた。そしてそこからシノ率いるMW隊が突入し敵艦の内部制圧を目指す。ブルワーズも焦っているのかまだ残していたMSを出撃させて掃討を狙おうとしているがそこへイサリビやハンマーヘッドから出撃したMS隊が対処する。

 

「わおデブリ帯って本当にゴミだらけぇ~、それじゃあ本当のゴミを片付けちゃいましょう!」

 

次々と迫ってくるマン・ロディにエクセレンはオクスタンランチャーを持ちかえながら声を上げる。あの機体にもヒューマン・デブリが乗っている、だが昭弘の弟がいるという機体とはリアクターの反応が合わない。だがそれでも出来るだけ助けようと決意しながら握るレバーに力が入った。

 

「クランクさんとアイン君大丈夫?慣れない機体だけど」

『大丈夫だ、操縦系はグレイズとそこまでの相違はない!』

『はいそれに……』

 

アインは背後から迫ってくるマン・ロディに気付いていないのか動きを見せようとしない、援護しようとエクセレンは構えるが間に合わず鉈が振るわれようとした時アインのユーゴーイーグルは反転し通常のMSとは脚部が逆に着けられているというヘキサ・フレームの特徴を活用し足でがっしりとマン・ロディの肩を捕縛しつつ鉈を弾いて完全に動きを封じてしまった。

 

『この機体は如何やら俺好みです!』

「あらまあっさりと……」

『アインもあれで結構やる男だからな!俺はイサリビの援護に当たる!アイン、そっちは任せるぞ!』

『任せてくださいっ!!』

 

相手の肩をギリギリと締め上げていくイーグルは更に出力を上げていき遂にはそのままマン・ロディの重装甲を突破してフレームにまで到達しフレームを軋ませ破壊するという事までやってのける。両肩を切断されてしまったマン・ロディはそのままアンカーで捕縛されアインに拿捕されてしまった。

 

「わおやるじゃない!さてと私もやりますか!!」

 

だがそんな時マン・ロディよりも巨大な一機のMSが躍り出てきた。背中には巨大なハンマーを背負ったMS、そのエイハブウェーブの波形は何処かバルバトスに似通っていた。

 

「ゲッ何あれ!?デカッ!!?ってやばっ!」

 

そのMSの見た目に一瞬驚いていると周囲のマン・ロディ4機がヴァイス目掛けて向かってきた、どうやら前回の戦闘で見せたヴァイスの戦闘能力をかなり警戒しているようで此処までの戦力を傾けたようだ。先程のMSを追いかけるようにバルバトスが接近してくるが

 

「三日月はイサリビに!でかいのが行ったわよ!」

『分かった』

 

先程の奴が行ったイサリビの方が心配になり其方に行かせる、そして自分は迫ってくる4機のマン・ロディの相手をする事にする。

 

「さあお姉さんの胸に飛び込んでらっしゃい!!」

 

連携を取り二機が射撃で此方の動きを封じるように射線を取り残りが接近戦を仕掛けてくる。かなり実戦で行ってきたコンビネーションなのか手馴れたように迫ってきては鉈を振り下ろし回避すればすぐさまこちらに向けられて銃弾が迫ってくる。

 

「くぅぅ~モテる女って参っちゃうわよね。でもお姉さんはそんな簡単に射止められないわよ!!」

 

デブリ帯でありながら縦横無尽に高機動しながら攻撃を回避していく最中、その内の一機が昭弘が探していた波形をしたリアクターを持っている事に気付いた。つまりあの機体に昭弘の弟が載っている事になる、それをすぐさま昭弘に連絡するとイサリビからグレイズが発進して来た。

 

「ちょいな!!」

 

ナパーム弾を放ち相手の塗料を剥がしながらも軽々と回避行動を取りながらの精密射撃で一機のマン・ロディを行動不能にしているとグレイズが迫ってきた。

 

『姉さん、有難う!』

「気にしないで、さあ行きなさい昭弘!」

『おう!!行くぜ昌弘ぉ!!!』

 

そう言いつつ一機にマン・ロディへと迫っていくグレイズに驚いているのか他のもそちらへと目が向いている。だがこの作戦は昭弘が弟と落ち着いて話をする必要があるため此方に意識を向ける為に銃弾をぶつけて挑発してこちらに誘導して行く。

 

「さあさあこっちよ!!」

 

 

「待たせたな、昌弘。迎えに来たぞ!!」

『兄貴……?迎えに来た、って…今更、何言ってんだよ…なんで今更……折角諦めてたのにもう、期待して辛くならなくて済むと思ってたのに……』

「昌弘……」

『何で今来るんだよぉ!!!』

 

モニターに映り込んでいる弟、幼い頃よりも成長してはいるがあの時と変わっていないように兄の眼には見えた。そして変わっているものもあった、瞳の中にある感情。出来るだけ何も考えずどうせヒユーマン・デブリとして死ぬんだ、そうだと思い込んで終わろうとしていた過去の自分と同じ目をしていた。

 

『俺達はヒューマン・デブリなんだ!!どうせゴミみたいに、屑みたいに終わるんだよ!!!ゴミみたいに死んで行くだけだ!!!』

「煩いんだよさっきからゴミゴミゴミゴミ!!!ならお前は何だ!!昌弘っていう名前は、何の為にあるんだ!!!」

 

昭弘が叫ぶ、それに思わず言葉を失った昌弘は何を言っているんだと呟いた。

 

「昌弘っていうのは俺達の親父と母さんがくれた大切な人間の証だ!!物の名前なんかじゃねえ、人として生きて行く為にくれた名前なんだよ!!!」

『お、俺達はヒューマン・デブリで……』

「ああもう何がヒューマン・デブリだ!!いいか昌弘、本当にゴミなのはお前達をそんな風に扱う奴らのことだ!!俺達はゴミなんかじゃねえ!!!」

 

同時に蘇ってくるのはCGS時代、教官として働いていたエクセレンに無茶をしすぎだと怒られたがその時に自分はヒューマン・デブリなんだからどうせ使い捨ての道具だと行った時に本気で怒られた記憶だった。

 

 

―――何が使い捨ての道具よ!!いいよく聞きなさい、私は貴方達を一度もゴミだなんて思った事はない!!貴方の昭弘って言う名前は何なの!!?お父さんとお母さんから貰ったんじゃないの!!!?

 

 

「それにお前は俺の弟だ!!ゴミだデブリとか関係あるか!!今度は俺が守ってやる!!命懸けでどんな奴からも、だから俺と来い、昌弘ぉぉぉ!!!」

 

叫ぶ昭弘にそれを聞いた昌弘は静かに呆然としていた、そして思い出すはヒューマン・デブリとなる前の兄や家族と過ごしていた楽しい記憶。そして昭弘はどんな約束も絶対に守ってくれた事を思い出した、ヒューマン・デブリとして離れ離れになった時も必ず迎えに行くと言って、今来てくれた。そして今度は守ってくれると……そんな魂の叫びを聞いた昌弘はただただ静かに涙を流し続けていた。

 

『兄貴……俺、行っていいのかそっちに……兄貴のいる、所に……!!』

「ああ来い!俺達、鉄華団は歓迎する!!!」

『あ、ああああぁぁっっっ……』

 

コクピット内に光る無数の涙、それを隠すように顔を覆う手。そして木霊する泣き声、昌弘はそのまま子供の時のように昌弘に手を引かれて新しい道を歩んでいく。そしてそれと時を同じくしてブルワーズの船はシノ達によって占拠され残った隊長格のMSも三日月によってコクピットを破壊され戦闘は終了した。

タービンズと鉄華団に勝負を挑んだブルワーズ、だが最後は情けなく敗北しその賠償として全財産を奪われブルワーズのクルーもタービンズの資源採掘衛星に放り込まれる事が決定された。そしてヒューマン・デブリの子供達は……。

 

イサリビのドッグの片隅にて集められたヒューマン・デブリ達、クランクやアインも奮闘した結果マン・ロディの大半を鹵獲する事に成功し殆どの子供達を引きずり出す事に成功した。出来る事ならば三日月が自分を殺そうと迫ってきたからと二人殺ってしまったがそれは仕方がないという物だ。そのヒューマン・デブリ達の元へオルガとエクセレンがやってくる。

 

「ダンテ、これで全部か?」

「ああ。団長と姉さん、こいつら……」

「大丈夫よ悪いようにはしないわ」

 

エクセレンが笑顔を見せるとオルガも頷き皆に視線を合わせるように膝を付いた、皆は警戒するように此方に鋭い視線を送ってくるが団長はそれを受け流しながら口を開く。

 

「火星は良い所でもないが悪い所でもねえぞ。姉さんのお陰で本部の経営はもう楽になったからな、飯にも肉入りのスープが出るぞ」

「はっ……?」

「名瀬の兄貴には話は付けてきた、こいつらは俺達が預かる!」

 

子供達は何を言っているんだと困惑したように顔を見合わせたりオルガの方を向いたりしているがオルガは更に言った。

 

「俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだ。俺はお前達、ヒューマン・デブリって言われてる宇宙で生まれて宇宙で散る事を恐れない選ばれた勇者達と仕事がしたいと思ってる。どうだ、俺達の仲間になって一緒に仕事しないか?」

「でも俺達は……あんた達と戦ってて……」

「それが仕事、だったんでしょ?ならしょうがないわよ」

 

一人の子がそういうとエクセレンは優しく頭を撫でた、今まで暴力ばかりで優しさなど受けた事も無かった彼にとってそれは暖かくて心地が良い物だった。

 

「鉄華団は貴方達を歓迎するわ、今日から皆私達の家族よ」

 

その一言が切っ掛けとなって少年達はボロボロと無き崩れていった、優しい言葉と笑顔が今まで暴力と辛さだけで塗り固められていた彼らの心を優しく抱擁し開放した。暫し泣き続けていた皆はエクセレンによって食堂へと通された。

 

「あっ皆!!」

「昌弘……昌弘!!?」

「昌弘、昌弘だ!!」

「よかった無事だったんだ!!」

 

共に食堂に来ていた昭弘の隣にいた昌弘に少年達は嬉しそうにしながら近づき生きている事を喜び合っていた。それを見たエクセレンはやっぱり子供にはこんな笑顔が一番なんだと再認識する。

 

「アトラちゃ~ん準備はいい~?」

「は~い!仕込みは終わってますよ~!」

「私もお手伝いしましたのでバッチリです!」

「あらクーデリアさんまで、有難うね。さっご飯にしましょう!」

 

食事と聞いて皆は余りいい顔をしなかった、彼らにとって食事は娯楽などではなくただの栄養補給でエネルギーバーを食べるだけの作業でしかなかった。またそんな時間が来るのかと顔を暗くしていたら昭弘が声を上げた。

 

「今日は姉さん達がお前達を歓迎する為の特別なメニューだ、沢山食って良いんだからな!」

「そうよさあ座って」

 

言われて席に着いた皆に出されたのは熱々の炒飯、ポテトサラダに甘いタレと一緒になっている焼いた肉、そして暖かなスープにミルクが出てきた。湯気とその匂いに一瞬皆呆然としてしまった、これが食事なのかと。自分達が食べてきたのと全く次元の違った物だった。本当に自分達がこれを食べていいのかと皆戸惑ってしまうが昭弘が大きな声で言った。

 

「いただきます」

 

そう言ってガツガツと食べ始めるのを見ると皆喉を鳴らし、一斉に食べ始めた。もう何時振りなのかも分からない本当の意味の食事、貪るように食べて行く皆の表情は崩れていた。大粒の涙を流しながら食事を口へと運び続けていた。

 

「な、涙で前が……見えないよぉ……」

「うめぇ……うめぇ……」

「ぁぁっあったかいよぉ……」

「皆お代わり一杯作ったからね、遠慮なく食べてね~!」

 

今日、新たに鉄華団の入った少年達は存分に腹を満たした。ただの栄養補給ではない楽しくて美味しい食事、彼らの心も同時に満たされていき本当の意味での食事はこれからも続いていくだろう。




エクセレン「また弟が増えてもうお姉さんってば大変ね。

まあ手の掛かれば掛かるほど可愛いって言うものだけどね。

でも新しい子達なんだか私に遠慮してない?

いいのよもっと来ても。

シノ君なんて私がシャワー浴びようとすると毎回覗きに来るわよ?

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

希望を運ぶ船


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12話

希望を運ぶ船



最近二話連続投稿をしてきたんですが、プロットやストックがキツくなってきたので一話ずつにします。自分勝手な理由で申し訳ありませんが一話ずつにしないと私の書き手としての実力が間に合わなくなってしまいます。どうかご理解ください。


ブルワーズとの戦闘後新たなに仲間が増えた鉄華団、元ブルワーズの少年達は先程まで戦っていた筈の自分達をあっさりと受け入れ良くしてくれる鉄華団の皆に驚きつつも少しずつであるが馴染み始めていた。何より鉄華団とブルワーズではヒューマン・デブリという意味での差別はまるで無く一人の人間として扱ってもらえることが大きかった。もう此処から離れたくないという意味で必死に仕事を覚えたり馴染もうとしている子が大多数であった。

 

「アストン君、そろそろ区切りを付けて休憩に入ろう」

「分かりました班長」

「う、うむ」

 

「デルマ、ここはこうやってやるんだ。まだ慣れていないんだから時間は掛かってもいい、最初は丁寧にやり遂げる事を優先するんだ」

「わ、分かりました」

 

新入団員は基本的に整備班に入って貰いクランクやアインといった大人達の元で仕事を覚える事になりしっかりと仕事に励んでもらえている。中々仕事の出来前と覚えがいいので教え甲斐があると二人からの評価も上場で鉄華団としても素晴らしい人材補強が出来て嬉しい限りである。そんな風景を眺めつつ三日月と共にバルバトスのシステムチェックを行っているエクセレンは笑みを浮かべていた。

 

「いいわね~こういう風景って癒されるわ~」

「そういう物なの?」

「そういう物なのよ~、お姉さんにとっては最高ね」

 

デブリ帯を突破する事約二日、クーデリアからの依頼を果たす為に地球へと向かう鉄華団だがその前に歳星で依頼された行く途中のドルトコロニー群へと荷物を運ぶ仕事をする事になっている。その事に付いてはクーデリアは勿論納得しており了解も取れている。新入団員の皆にはそこで一旦タービンズが手配した迎えの船に乗船して貰い、火星の本部に移動してもらいそこで働いてもらう事になっている。それまでの間だけでも確りと仕事を覚えて欲しいという事で始めた事だが上手く行っているようで何よりだ。

 

「どうかしら『TD』を搭載したバルバトスは?」

「扱い易いよ、それなのに前より燃費も出力も上がってて強くなってる」

「流石パパ特製の推進装置ね」

 

三日月によればデブリ帯での戦いではあの巨大なMSとかなり有利に戦えたとの事。そして後から分かった事だがあの機体の正体はバルバトスと同じくガンダム・フレームの一機である『ガンダム・グシオン』であることが明らかとなった。改めてリアクターの波形を確認してみた所リアクターを二基搭載したガンダムだと判明した。ブルワーズはその出力を活かしてあんな重装甲にしたのだろう。そしてグシオン以外の機体は全て売却しグシオンは一応鉄華団預かりとなり今はタービンズのドックで改装となっている。

 

「姉さん。これからコロニーって所に荷物届けに行くんだよね」

「んっ?ええそうよ、楽しみなの?」

「違う。その前に荷物の確認とかしなくていいの?前の戦闘で中身が壊れたり傷ついたりしてたら俺達が賠償金だっけ、それを払う事になるんじゃない?」

 

それを言われてエクセレンは思わず納得し確かにやって置くべきだと思った。三日月の直感的な考えは的を得ている、運搬中の荷物に何かあったら此方の責任問題となってしまう。確認はしておくべきだろう。

 

「ナイス助言よ三日月!ぎゅ~!!」

 

ご褒美と言わんばかりに三日月を抱きしめるとそのままテイワズのマークが付けられているコンテナへと向かっていくエクセレンと抱きしめられた際に感じた体温と感触に三日月は良く分からないがいい気分になっていた。そして何処か懐かしい感覚も同時に覚えていた。

 

「なんか気持ちよかったな……また、良い事を言ったらやってくれるのかな」

 

 

「成程な、そりゃ確認しておいた方が良いかもな。うし、ちょっと待ってろこっちの仕事を片付けたらやるからよ」

「頼むわよおやっさん」

 

一先ず雪之丞に話を通してコンテナを開ける事を許可して貰いつつ積荷が無事であることを願う。これで何かあったらこちら側が謝罪と金を支払う事になってしまう。それだけは避けたいと思いつつも雪之丞と共にコンテナの確認へと取り掛かる。

 

「うーんコンテナに見た感じでの異常はないわね。でも確かブルワーズとの戦いでどでかいの一発貰っちゃったのよね?」

「ああ。あのグシオンって野郎にな、あれは馬鹿げてるぜ。MSに400ミリの火砲が付いてんだからな」

「わぁおなんとそんなに立派なモノを付けてたの!?でも無茶するわね、400ミリって……大昔の戦艦じゃないんだから」

 

改めて聞くと本当に奇襲などに特化した機体だったと思い知らされる。逆に奇襲が成功したから良い物の失敗していたらグシオンの400ミリをまともにイサリビやハンマーヘッドが受け続けて危ない事になっていたかもしれない。その時はもう一撃撃とうとした際にクランクがグシオンを抑えている隙に三日月が到着しクランクとのコンビネーションでグシオンのコクピットを抉って勝利したとの事。

 

「んじゃコンテナの内部チェック始めんぞ」

「はいは~い、初仕事がコケちゃうなんて嫌だもんね」

 

雪之丞もエクセレンの言葉には納得し自分も気持ちよく仕事を終わらせたいという気持ちからコンテナを開ける、ドルトコロニー群のドルト2に届けてる手筈になっている荷物。恐らく工業資源だろうと二人は聞いておりそれだろうと思っていた、しかしそんな考えはコンテナを開けた直後に粉々に砕け散る事になった。そこにあったのは資源などではなく新型のアサルトライフルとその弾丸がぎっしりと詰め込まれていた。

 

「お、おい何だこりゃ……?」

「え、え~っと……もしかして開けるコンテナ間違えちゃった?」

「いやデータだとこいつは届ける奴だぜ、だがこりゃ……」

「でもこれって……間違いなく銃よ、しかもかなり高性能な……」

 

その中の一つを手に取り構える、何かの間違いではない手に触れる感触と腕に伝わってくる重みは間違いなく銃器の物。これを自分達が届ける荷物……?

 

「す、直ぐにオルガと色男さんに連絡よ!!」

 

 

『おいおいそりゃマジか?』

「私がこんな悪趣味な冗談を言う悪女さんに見えるかしら?私だって言いたくはないわよ……」

 

ブリッジにて事のあらましをオルガに名瀬へと報告するエクセレン、その表情は暗かった。同時にドックから映像が送られてくると名瀬も参ったと言わんばかりに顔を歪めた。整備班全員でチェックして見た所テイワズから受け取った荷物には大量のライフルに弾薬、極め付けに戦闘用のMWまでも揃っていた。明らかに何か届け先を間違っているか、あっていたとしても何かやばい事をしでかそうとしているようにしか思えない。

 

「兄貴、ドルトってコロニーは今なんか大変な事になってるんですか?」

『そう言えば労働者が会社に対して待遇改善を訴えるデモを行ってるって話を噂で聞いた事があるな……おいまさか……』

「悪い予感って当たる物ね……メリビットさん、今回の仕事の依頼先は分かる?」

「はい少し待ってください……出ました。GNトレーディングという会社ですね」

 

GNトレーディングという会社自体には名瀬もよく知らないらしいが兎に角あの武器類がドルトへと運ばれるように仕組み、恐らくだがそのデモに使用される筈だったのは分かりきっている事だった。問題はここからどうするかという事だった、このまま正直荷物を届けてしまって良い物かと迷っていると名瀬が不愉快そうに顔を歪めた。

 

『分かったぜそういう事かよ……ギャラルホルンだな、間違い無い』

「どういうことですか兄貴?」

『簡単なことだ、奴らは労働者に武器を与えるフリをしてそこを取り押さえて労働者を鎮圧するつもりだろう。後はお得意の情報操作と武力による制圧という名の虐殺で見せしめとしてドルトを取り締まる気だ』

 

未然に暴発するように仕向けてそれをする直前に纏めて始末する事で均衡を保つ、マッチポンプをやろうとしているという事だった。その為にテイワズも鉄華団も利用されていると言う事になる、ハッキリいって面白くはない。

 

『そうだな……いい事思い付いたぜ、なぁ兄弟。それ俺も噛ませて貰ってもいいか?』

「そりゃ勿論いいですけど……兄貴何をする気なんですか?」

『何、世界を支配している気の奴らに一泡吹かせてやるのさ』

 

名瀬の何処か不敵だが頼り気のある表情に皆は顔を見合わせたり首を傾げたりしているがきっと名瀬の考えなのだから何かあるのだろうと思い次に口が開かれるのを静かに待つのであった。

 

「私はドルト2の労働者組合の代表をしておりますナボナ・ミンゴと申します。今回はよろしくお願いいたします」

「鉄華団団長、オルガ・イツカ」

「タービンズ代表の名瀬・タービンだ。さあナボナさんよ、希望を運んできたぜ」




オルガ「またすげえ事になってきたな、まあ今更だけどよ。

だけど今回の事はかなりの自信があるぜ、なんたって兄貴の発案だからな。

姉さんの発案も頼りに何だけどな……普段があれだからな

いざって時は少し不安になるんだよな……。

もうちょい、緊張感って奴を持って欲しいぜ。

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

足跡のゆくえ


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13話

足跡のゆくえ






ドルトコロニーの手前、廃棄され無人となった資源採掘衛星。そこに集まっているのは鉄華団団長のオルガ・イツカ、タービンズ代表であり鉄華団の兄貴分の名瀬・タービン。オルガの付き添いと護衛という名目でエクセレン・ブロウニング、そしてテーブルの目の前にはドルト2の労働者組合の代表のナボナ・ミンゴともう一人、ドルトカンパニーの役員であるサヴァラン・カヌーレが席に着いている。ドルトコロニー到達しようかという数日前に名瀬がドルトコロニーにあるテイワズ系列の会社を通じてナボナに連絡し積荷に関する話をしたいという事で此処へ来て欲しいという連絡を送ったのである。

 

「希望という言いますと矢張り荷物ですか?!」

「ええ。ですがハッキリ言いますがナボナさん、アンタらクーデターでも起こす気なんですか。戦闘用のMWにアサルトライフルとその他弾薬……明らかに引き渡し先である労働者関連の施設には不必要だと思うんですがね」

「はい間違いありませんが……あのもしやご存知ではないのですか?」

「何をだいナボナさん」

「い、いえクーデリアさんを地球へと送り届けようとしている若き騎士団である鉄華団の方々ならご存知の事かと思ったのですが……」

 

視線を向けられるオルガだがそれに関する回答など持ち合わせていない、それはエクセレンも同様であり後ろで立ちつつ肩を竦める。イサリビ内で処理しなければいけない書類などはエクセレンとメリビットが手分けをして行う事になっているのでそれらに関することがあったのであれば確実に分かる筈だが心当たりがない。

 

「我々ドルトの労働者は不当な賃金と過重な労働を強いられております。身体が駄目になれば即捨てられる、それは我々にとって我慢出来ません。その不当な扱いの撤回を求める為のデモや会社を交渉の場に引きずり出す為に必要なのです。そんな時、クーデリアさんの代理を名乗る方からお言葉を頂いたのです」

「言葉ぁ?どんなの言葉だい」

「ドルトでも反乱の狼煙を上げるのに必要な武器などの援助を行うと……」

 

その言葉の後、エクセレンの胸ポケットに入っている端末が静かに二回震動する。この端末はイサリビのブリッジと現在も繋がっておりそこでクーデリアは話を聞いておりそれが正しいのかを判定して貰っているが震動は二回、即ちNO。自分はそんな事は一切知らないということになり誰かがクーデリアの名を借りての犯行という事になる。

 

「悪いが俺達は火星から此処までの道中でそんな話は一度も聞いた事がねえ。それに渡す予定だったMWなんかを調べさせて貰ったが細工がしてあったぞ、遠隔操作出来るようにな」

「な、何ですと!!?」

「ある周波数を発せられるとコントロールが奪われるって代物だったぜ、このまま使ってたら確実にやばい事になってたな」

「そ、そんな……それじゃあ私達が来ていなかったらナボナさん達は……」

「恐らく、ギャラルホルンの平和維持って名目の元で虐殺だろうな」

 

それを聞いた顔色の悪い痩せているサヴァランはドカりと椅子に腰掛け顔を手で覆っていた。この連絡を忙しいからと蹴ろうとした自分が愚かしくやばい所だった、知り合いであり頼れる人であるナボナの頼みなのだからと必死に仕事を片付けてきて良かったと心からの安堵と絶望が同時に押し寄せてきた。矢張り労働者達が行おうとしているデモはギャラルホルンによって鎮圧という名目の虐殺の的になると。

 

「だけどまだまだ挽回のチャンスはあるぜ?」

「「えっ……!?」」

 

名瀬のそんな言葉に二人の瞳に生気が戻った、自分達の目論みは明らかに打破され終わりに近づこうとしたのにまだ会社に何か出来るのだろうかと。

 

「確かサヴァランさんっつったか?アンタ会社の役員だって言ってたな」

「は、はい」

「ならよ、その会社のネットワークに渡りを付ける事は出来るか?」

「わ、渡りですか?えっと、私の持っているPASSコードでネットワークに入る事は出来ますが……」

「十分だ。オルガ、確かお前の所に電子戦が得意奴いたろ?」

 

思い出すは鉄華団がタービンズの艦内に侵入して来た時の事、あの時鉄華団は艦内で可燃性のガスをばら撒きつつも団員の一人であるダンテが艦のコンピューターに潜り込みブリッジからのコマンドを弾き続けたという事があった。その技術は確かな物で現在ダンテは鉄華団において電子戦に最も強く有能な男となっている。

 

「ああダンテ君の事ね」

「そうそうそいつ。そのダンテ君にドルトカンパニーの中から不祥事のデータを集めて貰ってくれ」

「分かった、伝えとく」

「んでナボナさんよ、デモだが後一日か二日引き伸ばせるかい?それならなんとか行けるかもしれねえ」

「……分かりました何とかしてみましょう、後数日ならなんとかなるでしょうしギャラルホルンが此方を弾圧しようとしていると言えば皆警戒し少しは大人しくなるでしょう」

 

そして次々と語られていく名瀬の作戦にサヴァランとナボナの表情に希望が訪れていく、希望は生気と未来を見せていく。そしてその希望は二人にやるべき事を与えると同時にやる気と使命感を与える。それと同時に作戦の概要書を持ってきたビスケットだったが

 

「あら有難うビスケット君」

「ビ、ビビビスケット君!!?ビスケット・グリフォン君かい!?」

「はっはいっても、もしかしてナボナおじさん!?そ、それに……サ、サヴァラン兄さん!?」

「ビスケット、ビスケットなのか!!?は、はははっ今日はなんて凄い日なんだ!?」

 

やってきたサヴァランはビスケットの実の兄であり、ナボナはビスケットが子供の時からの顔見知りということが発覚し更に名瀬とオルガは気合を入れて事態に当たる事を確約し更に作戦を煮詰めていく。そして全ての作戦の確認が終了するとビスケットとナボナ、そしてサヴァランは話を暫くした後笑顔で分かれ二人は乗ってきたシャトルでコロニーへと戻っていく。

 

「兄さん……良かった、会えるなんて思っても無かった……」

 

イサリビの展望ブロックの向こうでは遠ざかっていくシャトルを見送りながらやや涙ぐんでいるビスケットがいた、事故で両親を喪い、歳の離れた双子の妹であるクッキー、クラッカと共に火星の桜農場に身を寄せてから一度も会えていなかった頭が良く立派な兄。そんな兄を尊敬していたし今も本当に頑張っている凄い人だとビスケットは再認識していた。そんな中後ろからエクセレンがビスケットを抱きしめた。

 

「良かったわねビスケット君」

「はい……本当に……これもエクセレンさんがコンテナを調べようって言ってくれたお陰ですよ」

「いやねぇあれは三日月が言ってくれたからやろうと思ったのよ、言われなかったらそのまま直行便よ。それよりも上手くいくと良いわね」

「ええ、本当に……」

 

そして遂に作戦の決行日、イサリビは予定通りの作業を終了するとドルトコロニー2へと入港をした。それをヤマギとビスケットが共に受け取りの来た労働組合の人間と手続きを交わしている時だった。突然ギャラルホルンの車両と人間数名が銃を構えたまま突入して来た。

 

「動くな!そのまま両手を上げて大人しくしろ!!」

「な、なんなんですか貴方達は!?いきなり大人しくしろだなんて乱暴ですよ!?」

「僕達が何をしたって言うですか!?」

「ここで武器の取引があるという通報があった。荷を改めさせて貰うぞ、言う通りにしろ!」

 

銃を向けてくるギャラルホルンにヤマギとビスケットは組合の組員と顔を見合わせて何を言っているんだこの人はという表情を作る。

 

「はぁ?じゃあ聞きますけど令状はあるんでしょうね、幾らギャラルホルンと言えどこれはうちの会社が正式な依頼を受けて運んだ荷物です。それをいきなり銃を突きつけて見せろですか、筋が通りませんよ」

 

ビスケットは心の中で深呼吸をすると若干声を荒げながらそう言い返す、その言葉は正しい物だがギャラルホルンの人間はややうろたえていた。その様子から今まで絶対的な権力に物を言わせて好き勝手やっていたのが良く分かる。それに銃を突きつけられているのに全く動じていない事も合さり更に相手の動揺は大きくなっていく、こんな銃よりも以前経験したグシオンの400ミリの方が遥かに怖い。

 

「う、うるさい早く見せろ!!抵抗する気か貴様!!!」

「駄目だこりゃ話が通じません、すいませんがサインがまだですが開けても宜しいですか?」

「はい大丈夫です、私もまさかこんなギャラルホルンが失礼な集団だとは思いませんでしたよ。これは正式に抗議させて貰いますからね」

「では開けますね」

 

組合の冷たい視線を受けながら銃を向け続けるそれに応えるようにヤマギはコンテナを開けるがそこにあったのは工業資源や工場で使う機械などの交換用のパーツで武器などではなかった。まあ確かにこれを持って人を殴れば武器にはなるだろうが。

 

「な、何だこれは!?」

「何だって注文を受けた工業資源と機械の交換パーツですか」

「ぶ、武器がないだと!?ふ、船の中だろ!?見せろ!!」

「そりゃ武器ぐらいありますよ、鉄華団は基本的に民兵組織ですから。あくまで自衛用とかのMSとか阿頼耶識搭載型のMWぐらいはありますけどそれを無許可で見せろって言うんですか!?幾らなんでも横暴です!!!すいません今すぐギャラルホルンの管理局に連絡してください!!」

「おう任せろ!!」

「えっま、待て!?な、何故こうなるんだ!?」

 

この後市民通報でギャラルホルンの管理局が出動し事情を説明した所、その隊員達は無許可で令状も無しで他組織の船を強制捜査しようとしたとして連行され何も知らず真面目に仕事をしていたギャラルホルン職員は必死に鉄華団と組合員に頭を下げるのであった。ヤマギとビスケットは頭を下げる職員には見えない後ろで手を叩いた。

 

その最中、ドルト2のコロニー内では抗議活動の為に工場を停止させた労働者達が抗議の為のデモを行っていた。但し武器などは一切持たず大きな旗に改善要求!などを書き街の中を歩きつつ本社の建物とは一定の距離を取り続けていた。

そしてサヴァランは会社のネットワーク内にダンテを上手く入れる事に成功していた。ダンテは片っ端から会社の役員の不祥事や横領などの資料を手に入れる事に成功、サヴァランはそれを元に労働者達が改善交渉の場に出なければこれらを公開すると言ってきたと会社の重役達と交渉。重役達はそれに怒りを覚えようと舌がその前にサヴァランがいきなり公開もせずに和平のチャンスと工場停止による被害拡大を防げるという話術でなんとか重役達を交渉の場に引きずり出す事に成功した。

 

「それにしてもフミタン、貴方クラッキングまで出来るなんて知りませんでした……ダンテさんのお手伝いが出来るなんて」

「メイドの嗜みです。それとお嬢様、まもなくノブリス・ゴルドンと通信が繋がります」

「分かりました。さあ、私の出来る事を、やります」




アトラ「何だから凄い事になってる……。

やっぱりエクセレンさんがいるからかなぁ…。

そういえば前に三日月を抱きしめててなんか気持ちよさそうだった……。

…………。

エクセレンさんに相談しなくちゃ!!

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

クーデリアの決意


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14話

クーデリアの決意





ノブリス・ゴルドンはかつてないほどの冷や汗をかいていた。モニターには顔すら映っていないがそこにはあの少女の表情が浮かんでいるように感じられる、サウナの中にいるのに寒くて寒くて致し方ない。心の奥から、身体の奥から冷えていくような感覚がある。何故このような事になっているのだろうか、自分の配下であるフミタン・アドモスからの通信が来たと思いきや聞こえてきた声はクーデリア・藍那・バーンスタイン。自分が始末しろと命令した人物であった。

 

『今回の出来事、貴方が引き金を引いていたのですね。ノブリス・ゴルドン、フミタンから全て聞きました』

「はて、何を聞いたのですかね」

『ドルトコロニーへと鉄華団が運ぶ荷物、それを手配したのは貴方の傘下の会社であるGNトレーディング。そしてそのGNトレーディングはギャラルホルンと癒着している証拠を私は掴んでおります』

 

ダンテとフミタンが共にドルトカンパニーのネットワークに侵入し不祥事などのデータを漁っている際に偶然発見したそれにはギャラルホルンと密接な関係を持っている会社のリストと今回のデモの鎮圧の連携計画書を入手した。そこにはGNトレーディングが武器などを用意しギャラルホルンの意志一つで使用不可に出来るように細工するというところまで確りと書かれていた。

 

『そして貴方がどれだけ下賎で愚かな事をしていたかの証拠も大量に……フミタンから全て話は聞きました。貴方の部下であった、だがもうそれも辞めると』

「……」

『私はあの男に魂まで売った気はありません、お嬢様に尽くすメイドですからっと言葉を預かっておりますわ』

 

ギリリっという音を立てて歯軋りが起きる、普段考えられないような力に口から一筋の赤い線が垂れる。

 

「……私に如何しろと?」

『フミタンの事を諦めてくださるなら公表はしませんわ、そして貴方はこれからも私に資金援助を続けてくださるならこの証拠は見なかった事にします。そうすれば貴方はハーフメタルの利権で儲けられるのでは?』

「いやはや言いなさるな……良いでしょう、それで手を打ちましょう」

 

同時に通信が途絶する音がサウナ内に響くと思わず身体から力が抜け同時に汗が噴出していく、あんな小娘に自分が此処まで手玉に取られるなんて思いもしなったことだろう。火星支部のギャラルホルンさえ操り戦争の戦火拡大による利益を増すフィクサーである自分が……兎も角今は何も考えずにサウナから出て思い存分アイスを食う事に決めたノブリスはノロノロとサウナから出ようとして自分の汗で転び、頭を打って気絶し、その後秘書に発見され脱水症状を起こして僅かな間、入院したという。

 

「よし出航すんぞ!!」

 

鉄華団としての仕事を終えたイサリビはハンマーヘッドとの合流ポイントに向かいつついざ意気揚々と地球への進路を取ろうとしていた。念のためとしてハンマーヘッドは既にドルトから離れた場所で待機しているのでそこへ向かう、これからは漸く地球を目指す事になる。ドルトでの大仕事も無事に終わった事で最初の仕事を片付ける事が出来ると思っていた矢先の事だった。ブリッジにアラートが鳴り響いた。

 

「なんだっ!?」

「エイハブウェーブの反応を確認!戦艦クラスの物だよ、数は3!!」

「映像出します」

 

フミタンが操作して出したモニターの映像にはイサリビの後方から迫ってくるギャラルホルンの船ともう一隻が迫ってきているのが見えている。だがその内一隻はウェーブの波長が記憶されていた、火星を出発する際に此方を攻撃して来たギャラルホルンの船であった。

 

「おいおいまさか追って来たのかよご苦労なこった!!」

「フミタンさん、姉さん達に出撃準備をさせてくれ!」

「了解しました。総員第一戦闘配置、繰り返します総員第一戦闘配置。各パイロットは搭乗機へ」

 

格納ドックにてヴァイスとバルバトスの『TD』の調整の手伝いをしていたエクセレンはすぐさまパイロットスーツを着に行くとヴァイスのコクピットに入った。

 

『すまないブロウニング。私とアインのユーゴーはブルワーズとの戦闘の修理が済んでいない、だからそちらだけで頼む。私達は整備班の手伝いをする』

「分かったわ、なんとかなるでしょ。ニューフェイスもいる事だしね!」

『すまん!』

 

クランクのカラの通信内容を頭に入れつつも着々と出撃準備を済ませていく、今回の戦力は少ないかもしれないがそれでもきっとやってみせる。今自分はかなり気分が良い、調子も万端なエクセレンは喜々としてヴァイスの立ち上げを終了させ颯爽と出撃した。続いてバルバトスが出撃するとその後に続くように少々キツいピンクに塗装されたグレイズが飛び出した。

 

『おう待たせたな!今回からこの俺も参加させてもらうぜ!!』

『シノ?グレイズで出るの?』

『違うぜ三日月!こいつは流星号だ!!』

「流星ってロマンがあって素敵ねぇ。でも流星っていうカラーリングではないわよねピンクって」

 

グレイズに乗り込んでいるのはシノ、今まで昭弘が乗っていた筈の機体は完全にシノの専用機だと言わんばかりに塗装され頭部には鮫のような鋭い目までペイントされている。では昭弘はどうなったのかというと最後に飛び出した機体が答えとなっている。クリーム色の装甲に特徴的なバックパックとシールドを保持している機体、それこそタービンズの手を借りて改修され昭弘の機体となった『ガンダム・グシオンリベイク』であった。

ブルワーズに使用されていたような重装甲は影も形も無く機体を軽量化、稼働時間が大幅に延長されているのが見た目からでも伝わってくる。高い汎用性とタービンズが製作した『TD』一号も搭載されており高い機動性も獲得する事に成功していた。

 

『昭弘、それ完成したんだね』

『ああさっきタービンズから受け取った所だ。だけど俺はまだ阿頼耶識に慣れてねえ、援護頼むぜ』

「お姉さんに任せておきなさいって!」

『おう俺もこの流星号で活躍してやるぜ!!』

 

全員の士気が高い中、此方に迫ってくるリアクターの反応を検地する。向かってくるのはグレイズが約6機、此方の機影を見た瞬間にライフルを構えて早速発砲をしてくる。この距離では撃っても装甲で弾かれるだけ、つまり脅しや牽制の類であるが鉄華団にそんな手は意味を無さない。

 

「それじゃあ三日月は好きにやって良いわ、昭弘とシノ君はタッグを組んで互いをフォローしあうのよ」

『分かった』

『分かったぜ姉さん!!』

『おう、昌弘の前で情けねえ姿は見せねえぜ!!』

 

それぞれが了承の言葉を返してくると真っ先にバルバトスが飛び出して行きその後を追うかのように流星号とリベイクが追いかけるように速度を上げてグレイズへと向かっていく。それを援護する為にオクスタンランチャーを構えるが今回必要かどうかという事を考えた。それは通信から聞こえてくる声が原因であった。

 

『バルバトス、凄い上機嫌だなお前。俺もだ』

 

テスラ・ドライブが搭載された事でバルバトスを動かす三日月の顔は以前より良くなっていた。期待の反応が良くなっただけではなく機体そのものが軽くなっているかのように動きに更なるキレが出るようになっていた。超至近距離にて振るわれるグレイズの斧ですら紙一重、産毛だけを切らせるような回避で華麗な回避をしながらメイスを叩きつけ頭部を潰すとそのまま胸部を膝蹴りするとそのまま0距離での滑空砲をお見舞いする。コクピット部には穿った穴がでかでかと空きそのままスパークを起こして爆発を起こした。

 

『うん、やっぱり機嫌良いんだなお前も』

「やれやれ凄いわね、更にパワーアップしてるってのが分かるわ。そりゃ」

 

三日月とバルバトスは明らかに強くなっているのを実感しつつランチャーの引き金を引いた。それは流星号とリベイクが2機がかりで仕留めようとしているグレイズの頭部を捉えた。

 

『姉さんの援護か!助かったぜ行くぜ昭弘!!』

『おう!!』

 

頭部に受けた銃弾によって動きが鈍ったグレイズ、その隙にリベイクは一気に距離を詰めると背後に回りこむと両腕ごと拘束するように腰に腕を回して動きを封じると流星号が斧を奪い取ると頭部に突き刺し止めに胸部へ深々と斧を突き刺した。流星号はブルワーズのマン・ロディから阿頼耶識を移植しているらしくかなり動きをしており同じく阿頼耶識を搭載しているリベイクとの連携が様になっているようにも見える。

 

「うんうん良い連携が取れているようでお姉さんは嬉しいぞっ!!」

 

弟達の戦いに見惚れているようで確りと此方に向かってくるグレイズに気付くと機体を翻し距離を詰めながらBモードで連射する。グレイズも回避行動を取るがそれさえも計算に入れた銃撃に成す術も無く捕まって行く。そして近距離にまで接近したヴァイスはシシオウブレードを抜刀すると斧を叩き落としながらライフルを切り捨てる。武器が無くなって逃げようとする敵を逃がさぬように特殊貫通弾を装填し引き金を引く。スラスターに命中しつつ弾丸は機体を貫通しコクピットを破壊しグレイズを動かぬ屑鉄へと変えた。

 

「わぁお!この貫通弾もいいわねぇ♪気に入ったわ!んっ?」

 

テイワズに発注した弾丸に満足しているとアラートが鳴り響いた、前方から何かがかなりのスピードで迫ってきていた。軽く機体を動かしてそれの進行上から動くがそれは弾丸のように宇宙を駆けて行くMSであった。それは真っ直ぐとバルバトスへと向かっていく。

 

「三日月何か行ったわよ!昭弘にシノ君、私は三日月の援護に行くわ!」

『分かった!残りは任せてくれ!』

 

グレイズを任せるとヴァイスの出力を上げ先程のMSを追いかける。追いかけながら先程のが何なのか解析させるが先程僅かに拾えたリアクターの反応を調べて見るとそれはガンダム・フレーム特有のツインリアクターであった事が明らかになった。

 

「っという事はあれも悪魔ちゃんなのかしら!?」

 

バルバトスの元へと向かうが流石に時間さの為かあれは既に三日月と交戦状態へと入っていた。凄まじいスピードでバルバトスへと突進してはリアクターの慣性制御と複数のバーニアによる方向転換によって縦横無尽に飛び回りながらバルバトスへと槍を構えた突撃を繰り返していた。

 

「三日月無事!?」

『姉さん大丈夫だよ、でもこいつ速い……!!』

 

なんとか滑空砲で狙ってみようとして見るものの余りにも早すぎるためにそれが出来ずにいる。それどころか狙おうと足を止めればそこを狙われ巨大な槍を構えて突撃してくる、初めての相手に三日月も手間取っていた。

 

「私の弟にちょっかいなんて1光年早いわよぉ!!」

 

ならば速度には速度で対抗しよう、ヴァイスのリアクターとテスラ・ドライブを最大限に発揮しヴァイスのフルスピードを発動するエクセレン。久しく感じる身体に掛かる感覚に少し顔がニヤ付きながらガンダム・フレーム、キマリスを追いかける。圧倒的な速度だがヴァイスは同等の速度に達するとキマリスの背後を取った。

 

『このキマリスの背後を取っただと!?なんて速度だ!!』

「ヴァイスちゃんは速度が自慢でもあるのよぉ!!さてと、これよりサービスタイム始めちゃうわよ!」

 

ランチャーを握りなおすとキマリスの頭部、腕部、胸部に連続して弾丸を打ち込んでいく。それによってスピードが落ちてしまうキマリスは槍の矛先をヴァイスに向けようとしたがそこへバルバトスの滑空砲の弾丸が飛来し胸部を捉える。

 

『ぐぅ!!くそ汚らしい宇宙ネズミが!!』

「あららネズミさんにそんなこと言うと夢の国から刺客が来るわよ?」

『何だ夢の国とは!?』

「うーん、千葉県にあるところかしら?」

 

相変わらずフリーダムな言動をぶっ放しながらキマリスの各部へと銃弾を打ち込んで行く。Bモードの弾丸を受け続けた事でナノラミネートアーマーが弱まってきているのを感じたのか離脱しようとするキマリスだが

 

「その武器、おいてけっ~♪」

 

手元を狙った弾丸に槍を落としてしまった。だがそれには目もくれずキマリスは一気に加速して後退して行くと同時に信号弾を放ち残った一機のグレイズと共に撤退して行く。如何やらそれ以外のグレイズは昭弘とシノが仕留めたようだ。

 

「武器ゲット♪三日月これって使う?」

『姉さんが使えっていうなら使うよ、でもなんか使いにくそうだね』




ビスケット「いよいよ地球も迫ってきたけど緊張してきたなぁ……。

なんだかんだあったけど道中も楽しかったなぁ。

でもまだまだ問題が山済み、僕も頑張らないと。

エクセレンさんばっかりに仕事を押し付ける訳には行かないからね。

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

願いの重力


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15話

願いの重力






ギャラルホルンからの追撃を振り払った鉄華団、キマリスのスピードと攻撃には驚かされたがそのキマリス以上の速度で戦場を移動するヴァイスの影響からか三日月もそこまで驚かずに対応出来ていたらしい。奪取した大型の槍、グングニールは一応バルバトスの予備兵装とされる事になったが本人曰く使い難いということでそのままタービンズの方で売却する事になったらしい。そもそもが加速による運動エネルギーと機体の質量を上乗せした突撃が本来の使用法らしく鉄華団ではそれを発揮出来る機体がいないというのが理由だった。

 

「まあお小遣い稼ぎになったから良いかしらね」

 

という奪った張本人の言葉でこの件は終了となった。

 

 

そしていよいよ鉄華団は地球へと降りる段階にまでやってきた。このまま地球軌道上にある共同宇宙港にて降下船を借りてそれで地球へと降りる手筈になっていたのだがギャラルホルンに手を打たれてしまったのか借りるのを断れてしまったと名瀬が困ったように呟いた。恐らく先程の船が手を打ったのだろうが厄介な事をしてくれた物だ。

 

「何とかならないのでしょうか……?」

「俺達も案内役として、兄弟分として手を尽くしてるんだがな……圏外圏じゃ天下なテイワズも地球圏では一企業に過ぎないからな……現在交渉中としか言えねぇな」

 

名瀬も手を尽くしてくれているようだが状況は芳しくはないようだ、自分達も何か手筈を考えた方が良いかもしれないと皆が考え込んでいる時にオペレーターのフミタンが声を上げた。此方に接近してくれるエイハブウェーブを感知したとの頃、再びギャラルホルンかと身体を硬くするが接近してくる反応は一つだけとの事。あのギャラルホルンが一隻で来る事は考えにくいがそれなら何だと警戒を抱いているとその船から通信が来ていた。

 

「どうします団長さん。受けますか?」

「兄貴」

「ああ、受けてみろ」

「正面に出してくれ」

 

正面に投影されるモニターに全員が釘付けになる、この状況で一体何が来るのかと身構えていると驚きの声が漏れてしまった。映し出された先にあったのはくすんだ灰色の長髪と顔の上半分を金属の仮面のようなもので覆っている恐らく声からして男であった。

 

『いきなりの事で驚かせてしまって申し訳ありません。私はモンターク商会と申します、代表者とお話をしたいのですが』

「鉄華団団長のオルガ・イツカだ、話ってのは何だ」

『ええ。実は一つ、商談がございまして』

 

「モンターク商会?」

「ええ。クランクさんとアイン君知ってる?」

「幾らか聞いた事があるな、100年続く地球の老舗という事ぐらいしか知らないが」

 

格納ドックにてヴァイスの整備を手伝いながら元ギャラルホルンの二人にモンターク商会について尋ねてみる。だが得られる情報は大した事は無く老舗で貿易を主とした商会だという事ぐらいしか分からなかった。それは名瀬も同様で怪しむところがない所が余計に怪しく思えている。

 

「それでモンターク商会はなんて言ってきたんですか?」

「地球への降下船を使わせて上げるから、クーデリアの目的が達成された時にハーフメタルの利権に混ぜろだって」

「成程……確かにあそこの利権を得たいと思っている連中は大量にいる。そこへ今の話で上手く滑り込もうという訳か」

「しかしこれで地球に下りる算段は付いた、という訳ですね」

「ま~そう何だけどね……」

 

ヴァイスを見上げるエクセレンの表情は何処か硬い、あの男、モンタークという仮面の男からは何やら不愉快な物を感じた。故に自分が交渉の場には出なかった。顔をみたくもないし接触したいと思わなかったからだ、あれとは係わり合いには合いたくない。

 

「ブロウニング如何した?」

「う、ううん何でもないの」

 

―――ぁぁっ……何故こんなにも苛々するのだろうか……。あの男の声、それに含まれる感情、読み取ってしまった心の内部の情報が自分を苛立たせている。今はそれを抑え付けると地球降下の為の作戦の準備取り掛かる。

 

 

見えてきた青の星地球、火星とは比べ者にならないほど美しく青い星。豊富な命と自然に溢れている星を目指す鉄華団、それらを待ちうけるかのようにギャラルホルンは動いていた。進路を阻むかのように展開している艦隊、地球外縁軌道統制統合艦隊がその剣を掲げながら鉄華団へと瞳を向けていた。その艦隊司令官、カルタ・イシューは声を張り上げながら親衛隊に檄を飛ばす。

 

「我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!」

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

長ったらしい上に超が付くほどの硬い言葉の連続だが言葉と共に発せられる親衛隊の覇気と士気は非常に高い、何度も何度も訓練を積み重ね美しいとまでいえるほどの完璧な同一タイミングでの宣言にカルタは気分がよさそうに言葉を漏らしながら席に着く。

 

「確認しました、奴らです!」

「停船信号、発信!」

 

鉄華団の存在を確認するとまずマニュアル通りに停戦信号を投げ掛ける、これで止まってくれれば一番楽な事だがどうせ止まる事などのないとカルタは確信してる。だからさっさと来い、撃沈してやるとやる気が十分だった。その思いに答えるかのように返答は無くカルタは改めて大声で命じた。

 

「鉄槌を下してやりなさい!!砲撃開始!!」

 

合計七隻の同時砲撃が開始される。たった一隻も十分な火力があるというのにそれが七隻も揃っての砲撃、最早虐めや嬲り殺しにも等しい攻撃だが下賎な火星の人間が地球に下りようとしているのだから当たり前の報いだと内心で思いながら降り注いでいく砲撃の雨に撃たれていく船を見つめるカルタの瞳に爆散するような爆炎が見えた。

 

「手応えのない事」

「エイハブの反応増大!こ、これは反応が増えたっ!?」

「なにっ!?まさか……あいつらっ!!」

 

爆炎を突っ切るように飛び出したのは確かにイサリビであった、だがただのイサリビではない。その前方にブルワーズの船を盾にするように設置し猛進し続けていた。砲撃の殆どはブルワーズの船で受け続けイサリビには殆ど損傷は無かった。余りにも無茶苦茶で常識はずれな戦法に大声を張り上げて野蛮な事だとカルタは叫ぶがそれでも鉄華団は止まらない。

 

「くっそなんつう砲撃の雨だ!」

「ブルワーズの船の装甲補強しといて正解だったなユージン!!」

「あたぼうよ!この鉄華団副団長のユージン様の考えだぜ!!さあチャドにダンテ、もっと深く突っ込むぞぉぉお!!!」

「「おおおおおおっっっ!!!!!」」

 

阿頼耶識によってイサリビとブルワーズの船を制御するユージンは常に多量の情報量の圧迫による苦痛を受けているのにも拘らずそれに耐えながら必死に操舵をしながら艦隊との距離をどんどん詰めていく。そしてもう艦隊が目と鼻の先という直前にまで来た時イサリビはブルワーズの船との連結を解除し進路を変更し、ブルワーズの船はそのまま真っ直ぐ艦隊へと真正面から突撃して行く。

 

「ど、どちらに砲撃を!?」

「撃沈撃沈撃沈!!真正面から迫ってくる船から先に沈めなさい!」

 

進路を変えた船も気になるが真っ直ぐと迫ってくる船の方が問題だと判断したカルタはそちらを優先するように指示した。こちらとの距離がかなり迫った時に爆弾で自爆でもして道連にれされたらたまらないという判断から、砲撃が集中していく船の装甲はどんどん抉れ穴が開けられていく。そして遂に最早スクラップと変わらなくなった時船が爆発炎上を起こしながら細かな金属片と共にナノラミネートアーマーにも使われる塗料が周囲一帯にばら撒かれた。それが一帯を包んだ時地球外縁軌道統制統合艦隊の光学モニター、僚艦とのリンクが消失した。

 

「何事!!」

「これは……ナノミラーチャフです!!これでは目も耳も塞がれたも同然です!」

「そんなあれは実戦では通用しない物だろ!?」

「今使われているでしょうが!この程度で我らがうろたえるな!全艦に光信号で伝達、周囲にミサイルを自動信管で発射。古臭いチャフを焼き払いなさい!」

 

一時はうろたえていたクルーもカルタの言葉を受け落ち着きを取り戻し的確な指示の元命令を実行して行く。信号にて艦との連携を取りつつ周囲にミサイルをばら撒きチャフを焼いていく。それによってセンサー類が回復し再びイサリビの位置の特定を急ごうとするが……

 

「行くぞお前らぁぁぁっっ!!!総員対ショック防御!!!」

 

カルタがチャフの対処に追われている間にイサリビは衛星軌道にあるグラズヘイムⅠへと特攻まがいの突撃を敢行した。最大速度で突っ込んでいくイサリビはグラズヘイムⅠの外壁をガリガリと奥深く削りながらそのまま宇宙の彼方に逃げ出すかのように移動していくが特攻を受けたグラズヘイムⅠは炎を吹き出しながら地球へと落下しようとしていた。

 

「総員MS隊の発進!!その後グラズヘイムⅠの救助へと向かうのよ!!急ぎなさい!!なんて手を使うの……!!」

 

作戦は成功、ユージン達がイサリビとブルワーズの船を囮にしその隙にモンターク商会が準備した降下船へと乗り込み一気に降下するという物。極めて順調な物だった、だがそれでもMS隊が此方を狙って向かってきた。それを周囲で待機していたヴァイス達はその対応に向かっていく。

 

「良い、低軌道だと地球からの引力を受けるから気を付けるのよ!」

『うん、なんか機体が重いな』

『だけど問題ねえ、やってやるぜ!!』

『おっさん達、オルガ達の事任せるぜ!!』

『ああ任せてくれ』

『搬入完了、次のランチを急いでくれ!』

 

船の守りをクランクとアインに任せて迫ってくるMSへと向かっていく各機、多数のグレイズに紛れるように一機全く違う機体がいた。それはキマリスであった、それはヴァイスとバルバトスを確認すると一気に加速して迫ってくる。

 

『見つけたぞ宇宙ネズミに羽付き!!』

「今度は私も?浮気性はいけません事よ~!!」

 

此方も急加速しながらオクスタンランチャーで射撃するが以前戦った時よりもキマリスの速度は増加しているのかヴァイスの最大出力でもどんどん迫ってきている。

 

「足の速い男の子がモテるのは小学生までです事よ!」

『姉さん、こいつは俺も任せて』

 

反転したヴァイスを庇うように躍り出たバルバトスは予備と思われる同系の大型の槍を突き刺そう迫ってくるキマリスへと向かっていく。圧倒的な加速による突きをメイスと太刀の二刀流で受け流しつつ頭部を殴りつけた。

 

『ぐっ!この宇宙ネズミが!!今日こそ引導を渡してくれる!!』

『何それ、そんなのいらないよ』

 

再度距離を取ったキマリスは加速してバルバトスへと向かっていくが今度は真正面から向かっていく三日月。キマリスも血迷ったか思いつつもグングニールを構えてその胸部へと突き動かすが当たる寸前にバルバトスは急激な反転をしキマリスの背中の大型ブースターに組みつきそのままそこへ太刀を突き刺した。

 

『な、なにっ!?』

『確かに速いけど姉さんに比べたら単調な突進ばっかり、パターンを見切るのは簡単』

『くそ離れろ宇宙ネズミが!!』

『分かった』

 

バルバトスはブースターを破壊するとそのままキマリスのスラスターを壊してそのまま地球へと向けて蹴った。地球の引力に引かれてキマリスは落ちていくが残ったスラスターを全開にしてなんとか持ち堪えている、まああのままだったら何れガスが切れて落下するだろうが。三日月はそのままキマリスを放置して降下船へと向かっていく。

 

「うわぁエグい事するわねぇ。おっとっ!!」

 

三日月の所業に少し引きつつも接近戦を仕掛けてきたグレイズを足蹴りにして距離を取るとエクセレンは笑った。そしてヴァイスは拳法のような構えを取るとそのまま後方へと飛びながら回転した。

 

「受け取って私の思い、などと申しまして!さぁ~てちょい懐ネタいってみましょう!稲妻一段蹴り!ワンダーボルトスクリュゥゥゥゥゥウ!!!!」

 

回転の勢いのまま加速したヴァイスは最高速度でグレイズへと迫っていくとそのまま胸部へと強烈な蹴りを食わせた。それを受けたグレイズは吹き飛んでしまいそのまま勢いを殺す事も出来ずに地球へと落下していってしまった。それを見届けたエクセレンは何処か艶々とした表情をしつつ降下船の護衛に付こうとしたらそこには見慣れぬMSが降下船を守っていた。

 

「ねえオルガ、あのMSは?」

『ああアジーさんとラフタさんだ!兄貴が心配だからって付けてくれたんだ!さっきもグレイズをあっという間に片付けてくれたぜ!!』

「そりゃ凄い!」

『姉さんも早く降下船に!もう降りるぜ!!』

「了解!」

 

そのままエクセレン達は敵の増援が来ぬうちに地球への降下を開始した。無事に地球へと降下して行く彼らを待つのは一体何なのだろうか……。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

相棒


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16話

相棒





待ち受けた地球外縁軌道統制統合艦隊を突破し地球へと降り立つ事が出来た鉄華団、降りた先は地球四大経済圏が一つ【オセアニア連邦】の領内のとある島の近くであった。降りた時には既に夜中で薄暗かったが鉄華団全員は無事に地球に降りられた事に感動し大声を上げて喜んだ。此処まで色んな事があったが無事に来れたと感動の涙を流していた。鉄華団として初めて請け負った巨大な仕事を、地球へクーデリアを送り届けるという仕事を見事に達成する事が出来たと皆喜んだ。

 

「うおおおおおっっ俺が地球かぁぁっ!!!いやっほぉぉおおおう!!!」

「シノさんずりぃ!!俺もっ!!」

「シノなんか遅れて堪るかよ!」

 

海上に着水した降下船から海へと飛び込んでその喜びに浸りながら大声で騒ぎ回る子供達を見つめるエクセレンやクランクは暖かな表情であった。

 

「ここが地球……美しい所、だなやっぱり……」

 

イーグルのコクピットから周囲を警戒しているアインだが初めて目の当たりにする地球の海という大きな存在に目を奪われていた。夜だというのに月明かりに照らされてキラキラと光っている水面は遥々火星からやってきた自分達を祝福し出迎えてくれているかのように思えた。同時に自分が来る事なんてないと思っていた地球へと来れた事に感動しつつ一人でこっそりと涙を流していた。

 

だがしかし何時までも感動に浸っている訳でもなく早速作業を開始するとオルガが号令を掛ける、自分たちの降下地点などギャラルホルンは恐らく把握済みだろう。ならば速やかに降下船に積み込まれている荷物を下ろして体勢を整える事が先決となる。それらを作業を行っている島の奥から一人の老人が姿を現わした。

 

「えっと御爺ちゃんは一体何方?」

「いやなんでもお話をしたいとかで……」

「お前さん達だな?鉄華団というのは、地球へようこそ歓迎するぞい」

「誰だアンタは」

 

和服に身を包みつつも蓄えられたひげと歳が積み重ねられた皺、ただの老人というには威圧感というものがあり只者では無いというのが一目で分かる。

 

「わしはこの島の持ち主である蒔苗 東護ノ介じゃ。お主らの事は良く知っておるぞ」

「持ち主……その悪いな、勝手に荷物を下ろしちまって」

「いやいや構わんよ。それより荷物を運ぶ場所としてこの島にある廃棄された中継基地を提供したいんじゃが如何かな?」

「何が狙いかしら、サンタさんが似合いそうなお爺ちゃん?」

 

ニコやかな笑みを浮かべながら誘導をしたそうにしている蒔苗に怪訝そうな瞳を投げ掛けるエクセレン、蒔苗 東護ノ介という名前には覚えがあった。地球のアーブラウの代表を努めているやり手の政治家、見た目こそ老人だがその中に秘められている鋭い刃のような部分はエクセレンには見えていた。そしてこの男こそクーデリアが火星ハーフメタル資源の規制解放に関して交渉を進めていた相手でもある、視線を向けると首を縦に振った。

 

「美人さんには嘘は言えんの、だがこの老骨にはもう夜更かしはちと辛くてな。明日の夕刻、この島にあるわしの屋敷に来て欲しい。そこで詳しい話をしようではないか、基地は自由に使ってくれて構わんぞ」

 

そういうと蒔苗は去っていくがオルガはエクセレンやクランクに視線を投げてどうするかと聞いてみる。クランクも蒔苗が代表である事を承知しているしやり手の政治家には下手に逆らえば絡め捉える事は知っているので素直に使わせてもらおうと進言しオルガもそれを受け入れる事にした。結果、鉄華団は蒔苗の言葉に甘える形になり中継基地に物資やMSを運び込んでいく、すると次第に空は明るくなっていき初の地球での朝を迎えた。

 

「朝か……夜更かしはお肌に悪いけどそうも言ってられないわよね」

 

空からサンサン降り注ぐ太陽の輝きを受けながら油断をしてはいけないと鋭い言葉を発するエクセレン、何時ギャラルホルンが来ても可笑しくはない。早くMSの地上に対応させる為の調整を急がなくてはならない。

 

「うわっエクセレン姉さんスタイル良いなぁ!!羨ましいぃ!」

「ホントッホントッ!!しかもお肌プルプルで憧れるぅ!」

「うーん本当にいい肌……聞いた限り火星の環境って良くないのに凄い」

「いやんもうそんなに見ないでよぉ♪」

「「そう言いながらセクシーポーズを取る姉さんに憧れるぅ!」」

 

なのに浜辺ではドキツいスリングショットの水着姿で立っている姿があった。周囲には普段着でいるラフタにエーコ、アジーといった名瀬の頼みで鉄華団に同行してくれたタービンズのメンバーがエクセレンのスタイルの良さに声を漏らしながらガールズトークを始めていた。

 

「ってこんな事してる場合じゃないだろうに……さあ行くよ」

「あ~ん折角ドルトコロニーでこっそり買った水着を試しかったのにぃ~!!」

「今の所『TD』に一番詳しいのは貴方なんだからしっかりと働いてもらうよ」

「アジーのいけずぅぅぅ~!!!」

 

そんなこんなで強制的に着替えさせられたエクセレンはきびきびと『TD』の調整作業とヴァイスの地上対応調整に終われるのであった。リベイクも完成した事で『TD』搭載型のMSは3体になっているので兎に角エクセレンが働いてくれないと中々終わらないのである。だから泳がせている暇などないのである。

 

「やれやれ大変ね~出来る女って。まあ弟達だけに仕事させるなんて駄目なお姉ちゃんになる気はないんだけどね」

 

ヴァイスのコクピット内でキーボードを叩きながらプログラムの値の変更などを行っていくエクセレン、無駄口を叩きながら指などは一切無駄が無くただただ作業を進めていく。それを見つめるエーコは簡単の溜息を漏らしながらある事を質問。

 

「あの聞いてもいいですか?ヴァイスって阿頼耶識対応していないのになんであんなに人間みたいな動きが出来るんですか?」

「んっ?ああそれはヴァイスちゃんの操縦系が他とは異なってるのよ」

 

MSの操縦はプログラムパターンを念頭に入れてスティックやペダル等で操作入力し、それをMSが現時点で最適なプログラムパターンを選定し機動するという流れがある。しかし動きが大ざっぱになったり、対応がコンマ数秒遅れてしまうなど、柔軟性に欠けてしまう。阿頼耶識の場合はパイロットが思考で操作入力し機動実行という早く高い柔軟性を発揮するがヴァイスはそのどちらにも当てはまらない。

 

「違うってどんな感じに?」

「この子には学習型のコンピュータが組み込まれててね、私が動かしたデータを学習して機体のプログラムとかを最適化して私に合わせてくれてるのよ。私はもう長い事この子に乗ってるから阿頼耶識並に動けるようになったの」

「へぇ~!それ凄いじゃないですか!!阿頼耶識なんか必要ないぐらいに」

「それはそうでもないのよ」

 

凄いと褒めるエーコとは逆に苦笑するエクセレン、確かに操縦者に合わせてくれるのは有難いがそれには操縦者による膨大な稼動データが必要になってしまい兎に角時間が掛かる。そしてこれを採用してしまうとそのパイロットに機体が合わせてしまうので他のパイロットが使えなくなるという欠陥がある。専用機なら良いかもしれないがこれは数を揃える場合には全く向かない。

 

「さてとこれで調整終了!次はリベイクだったわよね」

「はいお願いします!」

「はいは~い。それにしても空を飛べるのってヴァイスちゃんの専売特許だったのに……気付けばバルバトスにリベイクまで飛べるのよね。なんか嬉しいような悲しいような……」

 

リベイク、バルバトスの『TD』のチェックと調整。そして飛行テストを行った結果テスラ・ドライブは正常に作動している事を確認した時には既に時間は夕刻となっておりオルガ達は蒔苗と会談をするべく向かっていった。エクセレンは残った皆と蒔苗の手配で届けられた魚を食べてオルガ達の帰りを待った。そして帰ってきたオルガ、ビスケット、クーデリア、メリビットの表情は良くなかった。

 

「つまり蒔苗のお爺ちゃんはこう言いたい訳。自分は鉄華団を庇ってやっているんだから此方の要求を呑め、飲まないなら直ぐにギャラルホルンに引き渡すぞって」

「ああそう言う事だ……くそやってくれるぜの爺」

 

それを聞いて表情を硬くするエクセレン。戻ってきたオルガ達の口から話されたのは衝撃的な内容だった。現在蒔苗には何の権力も無くクーデリアとの間にハーフメタル関連の交渉も意味は無さない。だが再び代表に返咲ければそれは実現可能だから連れて行け、連れていけないのならば今すぐ庇うのを止めてお前達をギャラルホルンに引き渡すと。何とも一方的でふざけた条件だがそうするしかないというところまで来ている気もする。だがそれを実行する為には真っ向からギャラルホルンと対決するのを覚悟しなければいけない。

 

「んで団長はどういう考えなんだ?」

「……考え、中だ……流石に、まだ考えてぇ……」

 

流石のオルガも迷いを見せていた。顔に影を作り困っていた。

 

「受ける必要などありません、鉄華団の皆さんは私からのお仕事を確りと果たしてくださいました。ならば後は私の仕事です。大丈夫、なんとかなります!」

 

そう後押しするようなクーデリアの言葉にオルガは更に詰った。そして基地の通信設備に来たという連絡を受けるとオルガは一人、砂浜に座りこんで空を見上げた。満天の星空、少し前まで自分達はあの中に居たというが信じられない。真っ暗な宇宙、それが真実なのに地球からは青い空に浮かぶ星々となっている。不思議なものだと言葉を漏らすと背後から物音がした。振り返るとそこにはビスケットが居た。

 

「なんだビスケット、まだ寝ないのか?」

「オルガこそ、如何したの」

「全然考えが纏らなくてな」

 

二人揃って座りこんだ砂浜は静かに打ち寄せる波の音だけが木霊していた。そんな静寂を破るようにビスケットが言った。

 

「オルガ、オルガは蒔苗さんの話を受けようとしてるんじゃない?」

「……分かるか」

「うんまあ長い付き合いだしね。でもハッキリ言うと僕は反対かな、危険だしクーデリアさんを送り届けるっていうオルガの言う所の最低限の筋は通してる訳だし」

「ああ、筋は通してる。確かにな……」

 

筋、自分が重視しているもの。それはしっかりと通され果たされている、地球に留まる理由もない筈……。そうない筈なのに火星に帰るという選択肢を選びたくない自分がいた。

 

「このまま火星に帰っても俺達はきっと上手くやっていけると思うよ、エクセレンさんのお陰で本部の経営もやっていけてるし仕事もテイワズから来る。もう確りとやっていけてるよ」

「だな……帰るっているのも確りとした道の一つだな」

「じゃあ何で……」

「俺はよビスケット、今の鉄華団が好きなんだよ」

 

何の飾りもない言葉、心に従った結果の言葉に偽りはなくただただ心の中で思い形作られた物。それをビスケットは少し驚いたように受け止めた。

 

「CGSを鉄華団にしてよ。皆で馬鹿騒ぎしながらも必死に前に進もうとする鉄華団が好きだ、ライドがチビ達の為に大人ぶって笑われて怒ってる所が好きだ。シノがユージンと女がらみのことで話しててヤマギがそれ見て呆れてるのが好きだ。昭弘と昌弘が一緒にトレーニングしてるのが好きだ、姉さんがふざけてそれに釣られて皆が笑ってるのが好きだ。ミカとアトラ、そしてクーデリアが一緒に皆に飯配ってるのが好きだ。今、皆が居る鉄華団が好きだ。そうだ、今の鉄華団が好きなんだよ」

「オルガ?」

「俺にとっちゃ……クーデリアも、鉄華団の一人なんだよ」

 

その言葉を聞いてビスケットは悟った、何故蒔苗の提案を呑もうとしているのかを。鉄華団の一人、クーデリアを残して自分達は火星に戻っていいのか。団員のやりたい事に手を貸して一緒にやり遂げるのが鉄華団じゃないのかと。

 

「だけど蒔苗の依頼を受ければ当然危険が付き纏っちまう……今の鉄華団が壊れちまうかもしれねえって心のどこかで思っちまったんだ……でも俺はクーデリアを、あいつが見た目的の手伝いをしてえ。そう思ってるんだ」

「オルガ……ごめん。てっきりオルガは危険な道ばっかりを選ぼうとしてるって思ってた。三日月に見られてるからって無理してるって、でも違った。オルガは誰よりも鉄華団を大切に思ってたんだ」

 

立ち上がって笑ったビスケットはそのまま歩き出して行く、それを止めるように名前を呼ぶと振り返ってこう言った。

 

「好きにすればいいんじゃない?団長が決めた事ならそれに従うし全力でサポートするよ!!」

 

そう言い残して去っていくビスケットにオルガは大きく笑った。やっぱり自分はビスケットという存在が必要だ、あいつは自分の相棒だと改めて実感させられる。三日月とは違った頼れる仲間、その言葉が何処までも有難かった。心の楔が消えたようながした。そんな事を思っていると木々の隙間からエクセレンが顔を覗かせた。

 

「オルガ、決めたの?」

「ああ。決めたぜ姉さん、なんか心配かけちまったか?」

「お姉さんは何時も弟のことを信じてるから心配なんかしてないよ」

「それはそれで寂しいかもな」

 

互いに笑みを零すと共に空を見上げた。あの空の向こう側に帰るべき火星があるがその前に後一仕事をこなそう。

 

「やっぱりビスケット君はオルガの足りない物を補ってくれるね」

「なあ姉さん、俺に足りないものって何だよ」

「明確なビジョン、どんな未来を掴みたいのか。それを考える事かな?」

 

そう言われると確かにそうかもと思いつつももう少し言い方を変えてくれてもいいんじゃないかと思ってしまった。だがだからこそこの姉らしい。

 

「んじゃお姉さんに足りない物は?」

「自制心羞恥心自重」

「わお容赦ない!でもそんなもの捨ててしまえ!それを得たら私ではあらず!!」

「はははっ確かにな!やっぱすげえよ姉さんは」

 

気付けばオルガの心に掛かっていた靄は消えてこの星空のように晴れやかになっていた。やるべき事は決まった、やりたい事も見つけた。なら後は走りぬけるだけだ。

 

「姉さん」

「何かしら?」

「これからも面白可笑しく頼むぜ」

「了解♪では早速私の普段着をもっと刺激的に」

「それは面白可笑しくじゃねえ、狂ってるって言うんだよ」




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

還るべき場所へ


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17話

還るべき場所へ



オルガが覚悟を決め、鉄華団の団員の一人であり此処まで旅を共にしてきたクーデリアの目的の実現を手伝う為に蒔苗の話を聞く決心をした直後島にギャラルホルンの部隊が接近している事が発覚した。蒔苗がオセアニア連邦に働きかけギャラルホルンを止めるという算段だったはずだがギャラルホルン内でも独自の指揮系統を持ったセブンスターズの第一席カルタ・イシューが直接出向いてきたとの事。オセアニア連邦でも抑えきれないとの事、そしてギャラルホルンからの通達があり中身は最早パターン化してきたクーデリアを引き渡せ、応じなければ武力を持って制圧する。最早テンプレだ。当然応じる鉄華団とクーデリアではない。

 

直ちに迎撃と脱出の為の準備が行われていく。MSの立ち上げやトラップの設置、CGS時代からの積み重ねもある為かそれらは非常にスムーズに進行していた。一重にエクセレンの指導のお陰でもあるのだが全ての準備が済んだ時には日が昇り間もなくギャラルホルンから勧告された制限時間が終わろうとしていた。沖に展開されたギャラルホルンの水上戦艦は島への飽和攻撃を始めた。次々と発射されていく砲やミサイル。だが島の中央部を狙うミサイルは次々と撃墜されていくのであった。

 

「何だ!?何故ミサイルが空中で一斉に迎撃されている!?」

「わ、分かりません!」

「エイハブリアクターの反応を確認!空中に展開しているMSが居ます!!」

「な、何だと!!?」

「モニターにて最大望遠映像を出します!!」

 

艦のモニターにて出力されたのは島の上空にて居座りつつ長い砲身の銃を自在に扱いながら次々とミサイルを撃ち落としていく白い堕天使の姿であった。歯噛みをしながら睨み付ける指揮官だが意味は成さずに迎撃は続けられていく。

 

「はいは~いミサイルなんてお姉さんに掛かっちゃえば無意味です事よ~!MSの関節狙うよりも簡単だからね~」

 

空中にて静止したまま次々とミサイルを迎撃して行くエクセレンのヴァイスを各機は見上げながらその腕前に感心しながら弾薬を節約できる事に軽く笑みを浮かべていた。本当にあの人が味方で良かったと。そして片手間に艦を狙ってのEモード射撃を行う。

 

「昭弘~代わりに船を狙って貰えるかしら?敵さんってば躍起になってバンバンミサイルを撃ってるのよ」

『そりゃエクセレン姉さんミサイル落としまくってるからね、躍起になるのも分かるわよ』

『うっし、やってみる!』

 

大型のライフルを構えた昭弘は艦を狙って射撃を行った。初めての遠距離射撃、本人としては確り狙ったつもりだったのだがそれは僅かに艦をかする程度にしか命中せずに大きな水柱を上げた。

 

『ちっ外した!』

『何やってんのよへたくそ!姐さんにどやされるわよ!』

『い、いやだって……』

『大気圏だと大気の影響を受けるからデータを修正して撃つんだよ』

『落ち着いて射撃するんだ』

『まだ来るか!ミサイル追加来ます!』

『んなこと言ってったよ……!!』

『昭弘、さっきの感覚身体に残ってるだろ、それに合わせて撃てば良いんだよ』

 

初めての大気圏内射撃は宇宙とは全く勝手が違う、流れる風や重力など様々な環境が織り成す事象が影響し射撃にぶれを生じさせる。それによるブレのデータを素早く入力し修正を加えて射撃するのが一般的だが阿頼耶識を持った人間はそんな事をせずとも良いと三日月がアドバイスを行った。ライフルを放った際の感覚、ライフルの反動によって動いた腕、それらが全て身体に記憶として残っている。それらに従って放つと弾が艦艇に見事に直撃し浸水を発生させた。艦は大急ぎでMSの発進を行い次々と乗員は脱出して行く。

 

「う~ん案外昭弘も狙撃手(スナイパー)として資質があるのかしら?」

『いやあんなガチムチな奴には似合わないって。それよりも海上から来る敵の迎撃手伝ってくださいよ!』

「はいはいっと」

 

次々と艦から発進してくるフライトユニットのような物を背負い海上を滑るように迫ってくるグレイズ、それらのユニットなどを狙って射撃するヴァイスと漏影、ホークとイーグル。ただただ迫ってくるのを撃つだけなので楽な作業。だと思っていたが突如アラートが頭上からの敵機を知らせた。機体を翻して空を見てみると何かが盾の様な鉄の塊が次々と降ってくるのが見えてきた。

 

『おいおいなんか降ってきたぞ、地球の異常気象か?』

「んな訳ないでしょうに。どんな恐ろしい気象よ。真島の兄さんが降ってくる並に怖いわよ」

『誰だよ真島の兄さんって……』

 

そんな事を言っている間に鉄の塊から次々とグレイズの系統のものだと思われる機体が降下して来た。それらは牽制射撃を繰り返しながら着地してバルバトス達へと向かって行くと思いきや敵機であるグレイズリッターは一列に並び始め中央の赤いラインが引かれている機体を中心にしながら剣を地面に刺しながら構えると外部スピーカーをONにして叫び始めた。

 

 

「我らっ地球外縁軌道統制統合艦隊!!!」

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

と何やら名乗りを上げているところだったが飛来した銃弾二発が左から1番目と2番目の機体の頭部パーツを吹き飛び倒れ込んだ。正々堂々と戦いを申し込むという前の名乗りでの攻撃に思わず敵は固まった、そして謎の沈黙が訪れ黙っていられなくなった昭弘が口を開いた。

 

『撃って、良いんだよな……?』

『当たり前じゃん』

『つうかなんで名乗り上げてんだ?別に決闘する訳でも無いのにな』

『馬鹿だからじゃない?』

「ちょっと三日月失礼でしょ、本当の事でも言っちゃ駄目よ!本当に馬鹿な事だけど!プクククッ……」

『そうだね姉さん、ごめんね馬鹿な人』

 

同じく外部スピーカーで外に聞こえるようにして会話をしていた三日月の会話は当然降下して来たMSのリーダーであるカルタに確りと聞こえていた。そして三日月の遠慮無しの罵倒に青筋を立てていた。

 

「無作法な野蛮人がぁっ!圏外圏の鉄の野蛮人に制裁を加える!!

『鉄拳制裁!』

「エルドラソウル!!」

『姉さんマジで何言ってんだよ!?』

「鋒矢の陣!吶喊!!」

『一点突破!!』

 

剣を構えたまま一気に加速して突撃してくるグレイズリッターに流星号が射撃を行うがそれすら物ともせず突進してくる。がそれに怯まずバルバトスは今まで手にしたメイスよりもさらに巨大で恐竜の頭部のような形状をしたメイスを手に引きずるように前進していく。そして先程ヴァイスとリベイクによって損傷をした二機に狙いを定めた。軽くジャンプするとそのままバルバトスは飛行を開始し巨大なメイスを一気に振り下ろすとグレイズリッターを二機纏めてコクピットを潰しながら吹き飛ばしてしまった。

 

『カ、カルタ様!!我らの陣が!!』

『お、おのれぇ!!!落ち着きなさい、各機散開。冷静に各機敵を各個撃破!我ら地球外縁軌道統制統合艦隊が負けるはずなどない!!』

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

策が破られたカルタだがそこまでうろたえる事もなく冷静に指示を飛ばし一機を複数で攻撃するように命令する。幸いな事に先ほど此方を狙い撃って来た機体は上陸したMSと戦闘し上空の機体は沿岸部に到達したMSの対処をしている。ならば今こそ好機!と攻め始めるが相手は阿頼耶識を搭載したMS、二機一組で襲い掛かっても攻め切れずに寧ろ押し返されている。

 

『こんな戦いイシュー家の戦歴に必要ない……!!早く、撃滅なさい!!』

『カ、カルタ様!!上陸部隊との通信途絶!状況不明!!』

 

次々と飛び込んでくる此方にとって都合の悪い事ばかりにカルタは強く歯軋りをすると一機の部下が流星号が引いた所を追い討ちしようとした時、足場の崩落というトラップに掛かってしまった。助けに入ろうとするがバルバトスのメイスが襲い掛かり助けられずコクピットを斧で抉られた際の断末魔が聞こえてきてしまった。

 

『おのれぇぇっっっ!!!っあれはっ!!?』

 

バルバトスの一撃から逃れた時、遠くからにMWが見えた。それだけなら気にも止めないがそこから顔を出している男は指示を出しているように見えた。恐らくあれが前線指揮官、あいつさえ撃ちとれば指揮系統は崩壊すると睨んだカルタはバルバトスの足止めを部下に指示すると一直線にオルガとビスケットの乗ったMWへと向かっていった。

 

『良くも私の可愛い部下達をぉぉぉ!!!!』

「ビスケットォォ!!」

「分かってる!!!」

 

反転して森の中へと向かおうとするMWだがMSとは速度の違いがありすぎる、その為に容易に接近され今にも剣が振るわれ自分達ごと機体が抉られようとした。オルガは迫ってくるカルタのMSが剣を振りかぶりこちらを斬りつけようとするのが視界一杯に広がり此処までなのかと思ってしまった。三日月も必死に向かおうとしているが阻まれて間に合わない、もう終わりなのか。そして剣が振るわれ……

 

 

―――装甲を抉る音が島に木霊した。周囲に飛び散ったオイルはまるで血のように地面を塗装している、装甲の破片は肉片のような無様な姿を晒している。

 

 

 

 

 

「あ、あれ……俺生きてるのか……!?お、おいビスケット無事か!?」

「う、うんなんとか生きてるみたい……で、でもなんで……?」

 

自分もビスケットも確かに無事だった、MWは森の木々に突っ込んでやや傾いているが確りと無事であった。だが何故自分達は生きているのか、先程の攻撃はどうなったのか。思わず目を後ろに向けてみた、だがその時、目が映し出したのは見たくない物だった。そこにあったのは胸部にグレイズリッターの剣が貫通し装甲が抉られながらも攻撃を防いでいたヴァイスリッターの姿だった。

 

「お、おい嘘だろ……?ね、姉さんっ!!!!」

「エクセレンさん!!!!」

 

あの時、MWに攻撃が当たろうとした時その間にヴァイスが割って入ったのだ。最大出力でグレイズリッターに肉薄したヴァイスは身体を張って二人を守った。通信に悲鳴じみた二人の声が響いてくる。無事なのかそれを知りたいと言う一心で通信機に声をぶつける。

 

「姉さん、おい返事しろぉ!!!おいいつもの冗談とおふざけは何処行ったんだよ!!!」

「お願いですエクセレンさん返事をしてください!!!」

『………どう…ら無事、な感じで安心、した……わ……』

「!!!姉さんおい大丈夫なのか!!?」

 

通信から漏れてきた声は小さく薄れていて掠れていた。苦しげな息遣いと痛みに耐えるような声が聞こえる、ヴァイスのコクピットは胸部。コクピットを貫通しているのかもしれない、そんな心配が過ぎりながらもヴァイスは必死にグレイズリッターを抑えつけている。

 

『わた、しの……弟、たちには……指一本、ふれさせは……』

『ええいまだ生きているのか!!ならばこんどこそ引導を……!!な、何!?』

『おい……お前、姉さんに何をやってるっ……!!!』

 

自らを抑え付けていた機体を振り払ったバルバトスは怒りのままに巨大なメイスを振りかざした。それは展開し獰猛な肉食恐竜のようにカルタへと食らい付きそのまま易々と持ち上げるとグレイズリッターを地面へと叩きつけた。それでも三日月の怒りは収まらない、メイスを頭部へと叩き付けて粉砕しても収まらない。

 

『お前がっ……!!!』

 

今度はコクピットを重点的に潰そうとした時残った機体がカルタの機体を庇うように躍り出てると自分を蹴り体勢を崩した。その隙にと言わんばかりに最大出力で撤退して行く。

 

『待て……!!!』

「ミカもうそいつらは良い!!それよりもヴァイスを寝かせるんだ!!」

『オルガ……分かったっ……!』

 

メイスを手放すとヴァイスを抱えてその場にそっと横にする、そこへ飛び乗ったオルガはコクピットを開ける。どうか無事であってくれと願いながらハッチが開くとそこにはモニターに飛び散った血と眠っているかようにしているエクセレンの姿があった。

 

「お、おい嘘だろ……!?おい嘘だよな……!?」

「オルガ早く、早くエクセレンさんを治療しないと!!手遅れになる前に!!!」

「あ、ああっ分かってる!!」

 

カルタが撤退した事で戦闘は終了しギャラルホルンも引いて行った、皆が基地に戻ると皆はそこでエクセレンに教わって通りに応急処置をしているオルガとそれを受けているエクセレンの姿に言葉を失った。必死に応急処置をするオルガの鬼気迫る表情と眠るようにしているエクセレンに誰もが最悪の事を連想してしまった。

 

「これで、良い筈だ……良い筈、だよな……!?」

 

応急処置を終わらせたオルガは同意を求めるように問いかけた、だが誰もそれに応えられない。身体が震え喉が枯れていく、そんな感覚に襲われ押し潰されそうになった時そっと自分の頬に暖かい感触があった。

 

「……ええっとっても上手く、出来てるわよ……」

 

意識を取りも出した彼女の言葉とややぎこちない笑顔が浮かんだ時、島全体が震えるような大歓声が巻き起こった。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

進み続ける歩み


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18話

進み続ける歩み





鉄華団とタービンズ、そして蒔苗。彼らはクーデリアが手配した船に乗り込みアーブラウへと向かう為に海上を進んでいく。クーデリアが手配したのはモンターク商会の船、その船長はギャラルホルンが使用している監視衛星の情報を得ているのかそれらを回避するように船を動かしギャラルホルンからの追撃を逃れていた。船は一旦アラスカに向かいそこでテイワズの定期便の列車に乗り込みそこからエドモントンへ向かう。クーデリア発案のこのコースはギャラルホルンに発覚しにくい事や周囲に都市部がなくエイハブリアクターによる電波障害を気にする必要が無いので堂々とMSを運べるという利点を狙っての物だった。

 

「良く考えられてるわ、凄いわね」

「勉強しましたから。私も今は鉄華団の一員のようなものですから」

 

船の一室、身体に包帯を巻きつつベットに大人しく横になっているエクセレンとクーデリアが話をしていた。先の戦闘でオルガとビスケットを庇って事で受けた傷、ヴァイスの胸部を貫通した事でダメージがコクピットの計器にも発生し小規模の爆発が起きた。それにより脇腹と額に傷を作ってしまった、出血は多かったが命に別状はなく皆は酷く安堵していた。

 

「それにしても……傷もそんなに深くないしもう動けるのに皆大袈裟なんだから……」

「皆さん本当に心配してたんですよ。あの時、エクセレンさんが死んでしまったんじゃないかって思って、私も含めて皆絶望の一歩手前でした……だから今は皆さんの安心の為にも安静してください」

「ふ~まあしょうがないわね。でも列車に乗り換えたら動くからその気でいてって皆に言って貰えるかしら?何時も忙しかったから何もしないっていうのはなんか嫌なのよね」

 

昔から常に忙しかった故の習慣、身体に残っているのは銃の反動を抑えこむ方法と目を瞑っていても正確に書類にサインをする方法にMSの整備方法と仕事をする為の事ばかりだった。ある意味仕事中毒に近い何かかもしれない。怪我もしないし病気にならなかったからこその仕事中毒、そんな事を言う彼女にクーデリアは笑った。

 

「やっぱりエクセレンさんって鉄華団のお姉さんですね。皆さんの事を本当に大切に思ってる、少し羨ましいです」

「あらっ私は貴方の事も妹って思ってるのよ?ねっクーちゃん」

「ク、クーちゃん?ふふっ悪くないかもしれませんねエクセ姉様」

 

そんな言葉の駆け合いで生まれた笑みからは自然と笑いが零れた、そしてクーデリアは蒔苗との話があると言って去って行った。手を振って見送るとエクセレンはベットに背中を預けながら持ってきて貰ったヴァイスの状態報告書を読み始めた。致命的な損傷という訳でもない為現在修理中、定期便に乗り換えるまでには完了するとの事。それに安心すると暇になってしまい何かしようかなと考えると扉が開いた。

 

「姉さん、今良い?」

「あら三日月、勿論良いわよ」

 

入ってきた三日月の手にはお菓子やエネルギーバーなどが入った小皿が持たれていた。どうやら幼年組からのお見舞いの品という物らしい。素直に嬉しく思いながらそれを受け取り机の上に置くと三日月は先程までクーデリアが座っていたイスに座った。

 

「ごめん。俺が止められてれば姉さんが怪我しなくてすんだのに」

「気にしちゃってるの?いいのよ今更起きた事を後悔しても何も変わらないのよ?」

 

何処かテンションが低く凹んでいるような三日月に物珍しそうな視線を送る。実際三日月はやや落ち込んでいた、エクセレンは三日月にとってとても大切な人でもある。そんな人が怪我をしてしまったのは自分があの機体を逃し足止めを受けてしまった事が原因、だから落ち込んでいた。そんな弟の頭を軽く撫でながら姉は言葉を紡ぐ。

 

「優先すべきなのはその後悔を次に活かすか活かさないかよ、私は生きてるそれが事実よ。だから三日月、もう元気を出して何時もの姿を見せて」

「姉さん……分かった、次あいつが出てきたら絶対に潰す。確実に潰す、徹底的に潰す」

「うむそれでこそ三日月♪ほらおいでっ」

「?」

 

分からなそうに首を傾げた弟の手を引っ張って胸へと引き寄せるとそのままぎゅ~と抱きしめた。二度目の抱擁はいきなりだったが三日月は何処か嬉しそうにしながらそれを甘んじて受けていた、そして離れると普段通りの表情に戻りそのまま部屋から出て行った。

 

「やっぱりキレてたわね。まっ折角だから私の分の仕返しをやって貰おうかな」

 

その言葉がまもなく実現する事を、エクセレンは思いもしなかった事だろう。

 

いよいよテイワズの列車に乗り換えたエクセレンは漸く動く事を許された事で喜々として働いていた。今まで働けなかった分を取り戻すかのように整備に作戦会議、食事作りなどなど様々な仕事に参加してその能力に見合うだけの働きをしてはキラキラとした笑みを零して達成感に浸っていた。

 

「ふぃ~お仕事最高!やっぱりじっとしてるなんて私の性にはあわないわね!」

「全く姉さんときたら……俺としてはもっとゆっくり休んでて欲しいんだがな。仮にも俺とビスケットを庇って出来た傷だ、そうしてくれた方が安心するというか。つかもっと怪我人らしくしやがれ」

「無☆理」

「だよな……ハァッ……」

 

廊下で出会ったオルガに深い深い溜息を吐かれたエクセレンは彼の心配などお構い無しに今度は見張りの交代でもしに行こうと直ったばかりヴァイスへと足を向けた。だがそんな時列車全体に危険を知らせるアラートが鳴り響いた。同時にエクセレンはパイロットスーツへと着替えると急いでヴァイスへと向かっていった。

 

線路上に立ち塞がった3機のグレイズリッター、地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシュー率いる親衛隊が先回りして待ちうけていた。透かさず列車は停止するとそれに合わせるようにカルタがマイク越しに声お張り上げた。

 

『私はギャラルホルン地球本部所属地球外縁軌道統制統合艦隊司令官、カルタ・イシュー!鉄華団に対し、MS3機同士による決闘を申し込む。我々が勝利した場合、クーデリア・藍那・バーンスタイン及び蒔苗東護ノ介の身柄を引き渡してもらう、そして鉄華団の諸君には投降してもらう』

「おいおいこれって確かクランクのおっさんがやった決闘の合図じゃ……」

「ああその通り。私がやったのと同じだが……まさかあのセブンスターズの第一席のイシュー家の人間がここまでやるとは……」

「如何しますクランクさん、この決闘を我々(鉄華団)は受けるべきなのでしょうか?」

「そんな必要は無いよ」

「私も同意だ。受ける価値がないな」

 

意見を述べるクランクはそう断言した。自分が鉄華団に対して持ちかけた決闘の時とは状況が違う、此方からしたら決闘を受けるメリットが無い。あちらはクーデリアと蒔苗の身柄を押さえればだがこちらは押し通れば良いだけなのだから、それに受ける道理も無い。向こうも素直に此方が応じると思っているのだろうか。

 

『そうそう!クランクのおじ様の言う通りよ。こっちの方が数も上なんだからボコ殴りにしちゃえばいいのよ!』

「まあそう言う事だな。しかしおじ様……呼ばれ慣れんな」

「皆直ぐにMSへ、押し通るわよ!」

「おう姉さんにやった事を倍返しにしてやるぜ!!」

「あらシノ君嬉しい事……あっ」

 

そんな時、エクセレンはある事を思い出した。それは先日行った三日月との会話だった。

 

「……ねえ今の見張りって三日月よね?」

『えっ?ええそうだけど如何したの?』

「…あの子、私が怪我した事でマジギレしてたから多分もう……飛び出してるんじゃない?」

『あっ』

 

その場の気持ちが重なった瞬間だった。

 

『30分、セッティングに掛かる時間を考慮し我らは待つ。準備が整い次第正々堂々と戦おうではないか』

 

言いたい事を言いきったカルタはコクピットに戻ろうとした時、目を見開いた。メイスを持ったバルバトスが列車から飛び出し猛スピードで此方に向かってきていたのだから。自分が待つといってたのにそれを完全に無視しての行動に驚きつつも親衛隊の一人が声を荒げて何故カルタの言葉を無視したと咎めるがバルバトスはそのまま止まらずグレイズリッターの胸部へとメイスを叩きつけた。軽々と浮いた機体はそのまま装甲とフレームを歪ませながら吹き飛んだ。

 

『カルタ様一度体勢を整えて……ぐあっ!!!』

 

一人がカルタにそう進言するがそれよりも早く投げられたメイスによって倒れこむ。バルバトスはそのまま立ち上がる隙すら与えずにテスラ・ドライブより高々と跳躍するとそのまま一気に降下しコクピットを踏み潰した。バルバトスは地上戦仕様の為に足をヒールのようにし反応速度を高めているがそれは踏み潰す際にも有効な武器となり機体のコクピットを貫き潰した。

 

『な、なんと卑劣な!!誇り高き私の親衛隊をっ……!!!』

「……後は、お前だ……俺は姉さんと約束したんだ」

 

メイスを持ち直したバルバトスは一気に迫りながらメイスを振りかぶるがカルタはそれを素早く回避する。だがそれ以上にバルバトスから発せられている覇気と殺意が異常である事が自分を圧倒しているかのように感じられた。

 

「今度、あんたが出てきたら…潰す。確実に潰す、徹底的に潰すって」

 

姉との約束とカルタへの怒りが今まで以上にバルバトスの動きを機敏に鋭くしていた、剣の一撃を身体を沈めて回避するとそのままメイスを叩きこみ吹き飛ばし追撃にメイスの口を開けさせグレイズリッターの肩へと喰らい付かせた。内部に仕込まれていた刃が作動し肩の装甲を切断し破壊していく。再びメイスを振り切ると今度はグレイズの脚部が潰れた。

 

『私は、私は恐れない!!』

「あっそ、だったら―――さっさと死ね」

 

コクピットを思いっきり殴りつけられた機体は雪原を転げ回るように回転しボロボロになった装甲の切れ目から機体から発せられる熱で溶け出した雪がコクピットの内部にまで入ってきていた。傷だらけになったカルタは気丈に振舞いながら目の前の悪魔を睨みつけながらまだ戦おうとするが残っていた最後の四肢である右腕を叩き潰されてしまった。完全な達磨になったグレイズリッターを三日月は静かに見下ろした、そして止めをさすためにメイスで喰らい潰した剣を折るとその刃を握りコクピットへと差し向けた。

 

「これで終わりだ」

 

自分の誇りである筈の剣が折られ自分へと向けられている、そんな現実をカルタは受け入れられなかった。そして一筋の涙を流した時、その場に新たな悪魔が姿を現した。新たなエイハブウェーブの反応と共に高速で迫ってきた機体は銃弾をバルバトスに浴びせかけながら雪上を滑るように登場した悪魔、新たな姿となったキマリスであった。バルバトスは身構えるがキマリスは銃弾で雪を巻き上げるとそれを煙幕のようにしながらボロボロとなったグレイズリッターを抱えるとそのまま撤退して行った。追おうとするがさすがに速度が違い過ぎると思った三日月は身体から力を抜いた。

 

「……姉さん、約束守ったよ」

 

今、彼の胸の中にあったのは姉との約束を守れたという達成感。それで溢れていた。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

未来の報酬


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19話

未来の報酬



夜明け前の早朝、オルガは団員全員を集めた。自身は適当に作った台に立ちながら皆を見つめていた。

 

「皆、今日までよく働いて来てくれた。もう直ぐ鉄華団初の大仕事も正念場だ、だけど俺は此処まで皆と此処までこれた事を誇りに思ってる!今までの場面でもあぶねえ局面はあったがそれを俺達は乗り越えた来た!だからそれはこれからも変わらねぇ、俺達は皆この仕事をやり遂げて火星に帰るんだ!!」

 

一字一句に気持ちと力の込められた演説に皆身構えてそれを聞いている、思えば火星から宇宙に上がる時もタービンズに自分達の力を証明する時も、ブルワーズとの戦いも、地球に降下する時も、蒔苗を島から連れ出す時もどの場面も本当に危なかった。島に至っては団長であるオルガやビスケットをエクセレンが庇わなければマジで死んでいたところだった。

 

「これから俺達は蒔苗の爺さんを議会に連れていく。そこにはギャラルホルンが待ち受けてやがるだろうが俺達は止まらない、俺達は怯まない。その上で仕事を完遂する、だがお前達に団長として絶対的な命令を出す。絶対に生き残れ!!絶対に死ぬんじゃねえぞ!!!勝手に死んだら団長権限でもう一辺殺すからな!!」

 

その演説に鉄華団全員は奮起し大歓声を上げた。自分達だってこんな所で死ぬつもりはない、仕事終わりのボーナスを貰って皆で騒いでこれからもそれを何度も何度も続けるつもりなのだから。そんな思いを語りながら叫ぶ子供達をクランクやアインは見守りながら自分達も何時の間にかそんな思いに感化されていて、その中に混ざろうと思っていた事に驚いていたが自然を絶対に生き残ろうと誓っていた。

ラフタ、アジー、エーコ。タービンズから出向して来た鉄華団を見守る為の三人は団長のオルガが思っていた以上に家族の事を考えていてそのための選択をした事に笑いつつ、兄貴分である名瀬に良い報告が出来ると笑っていた。

そしてエクセレンは……これからも弟達と共に進み続け笑顔でい続ける事を誓った。CGSの三番組の教官職が決まった時と同じように。

 

 

―――そしてその演説は、鉄華団全員の力となってエドモントンへの侵入を拒むギャラルホルンへと牙を向いた。エドモントンへと配置されたギャラルホルンの防衛線、通常では撤退するか降伏するのかベターな戦力だが彼らそれなのに猛然と立ち向かって行った。

 

「オラオラオラオラッッ!!!!」

「オオオオオオッッ!!!!!」

 

一機、また一機とグレイズが落とされていく、挟み打ちにしようと背後から迫って来るギャラルホルンのMS隊を撃退いや撃破し続けている。流星号が斧で相手のコクピットを抉るとリベイクが負けてられるかとハルバードでグレイズの上半身を吹き飛ばすという昭弘の怪力を体現するかのような鬼のような戦いを見せる。互いが互いの刺激となり気付けば戦果を競うように戦っていた。

 

「これで8」

 

そんな対抗意識を燃やしている理由としては三日月の存在が大きかった。誰よりも巨大で凶悪な得物を手にしながら誰よりも多くの敵に囲まれながらも悪魔のような、鬼神のような戦いをするバルバトス。メイスを振るえばグレイズごと地面を割り、太刀を握らせれば装甲の内部に滑りこませて抉り壊す。常に前線に立ち続けて多くの敵を引き付け続けている彼にギャラルホルンはバルバトスの姿を見るだけで恐怖し士気が下がる。まさか悪魔としての面目躍如という所だろう。

 

「さあさあ誰かしらね~こんな美人で聡明で素晴らしい私を白銀の堕天使なんて二つ名をつけたギャラルホルンの隊員さんはっ♪もうちょい他にも付けようあるじゃない」

 

エクセレンはエクセレンで凄まじい活躍をしていた。上空から地上のMSの関節を狙い撃ちながらもエドモントンの都市部侵入を図ろうとするMW隊の援護を行うという事をしている。どちらにしてもヴァイスの天使のような外見からは想像も付かない程の戦果を発揮する、それゆえにギャラルホルンがヴァイスに付けた名が白銀の堕天使(ルシファー)。その姿を見れば抵抗出来ずに殺される、悪魔に手を貸す堕天使だと称されていた。それを否定する気もないし寧ろ肯定するエクセレンはそのままヴァイスを駆り続ける。

 

鉄華団を磨り潰そうとするギャラルホルンだが逆に大きな損害を受け続ける事になっている、既に撃墜されているMSの数は30を超えて更に拡大しているというのに此方は相手に全く有効なダメージを与えられていないのだから。MWですらまともに撃墜出来ていない、それもある意味当然と言える。ギャラルホルンが経験している戦闘はその皮を被った虐殺のみ、その殆どがゲリラ戦を未経験のマニュアル戦闘が大半。それに加えて上空から援護を加えるヴァイスの超遠距離射撃により防戦一方で相手にまともな打撃を与えれていない。

 

二日間の戦いの末にいよいよギャラルホルンが展開した防衛線の限界が見えてきた、MSの数もMWも以前と比べれば少ないと言わざるを得ない状況と化している。オルガは間もなくと迫ったアーブラウ議会代表選挙の投票日、いよいよ本格的なエドモントンと支部への突入作戦に打って出る事とした。

 

「皆、今日で終わりにするぞ……三日月や昭弘、シノ、姉さんの奮闘のお陰であいつらの戦力は大幅に削いでやった!!そしてラフタさんやアジーさん、クランクのとっつぁんとアインさんのお陰であいつらの補給も十分じゃねえ、今日で終わりにするぞ……俺達は仕事をやり遂げるぞ!!!」

『オオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!』

 

そして鉄華団最後の大攻勢が始まった。

 

補給物資はそこまで届かず、臨時に草原に作られたギャラルホルンの駐屯基地。そこでは整備班とパイロットの確執が出来ていた。自分の機体を直せという言葉を物資がないからこれ以上無理だという罵詈雑言、輸送部門を担当するタービンズだからこそ補給ラインの重要性を理解しそれを攻撃していた。既に機体は満身創痍、パイロットも悪魔や堕天使に恐れを抱き一部はノイローゼを発症している。これから如何すればいいのかと迷う部隊長、カルタ・イシューの部下として、仇を打つために此処にいるのにそれが出来ずにいる事苛立っている。そんな時だった、待機中のグレイズに次々と銃弾が叩きこまれ爆発して行く。

 

「な、何だ!?」

 

悲鳴にも似た声が上がると正面から煙を上げて迫ってくるものがあった。鉄華団のMSだ、バルバトスやグシオンリベイク、流星号にホークにイーグル、そしてタービンズの漏影、上空からはこちらの物資を集中的に狙ってくるヴァイスと恐れていた奴らが遂に最大限の力を持って強襲して来た。

 

「EモードのEはEE気持ちの事よ。だってこれで仕事が終われると思ったら良い気持ちだからね!!!」

 

MW突破の為にオクスタンランチャーのEモードで橋を占拠していたギャラルホルンのMW隊を薙ぎ払う、てんからの光の一撃で開けられた希望への道にオルガは感謝の言葉を漏らすとそこへ一気にオルガの乗るMWとアトラが運転する蒔苗、そしてクーデリアの乗せた車、護衛のMWが突入して行く。いよいよ終わる、これで本当に。いやまだ終わらない、自分達がMS隊を引き付けておく必要があるのだから。

 

『姉さん。この前の奴が来た増援連れて』

「熱烈大歓迎、して上げましょう!」

 

キマリスが大部隊を率いて参上する、だがそれらに怯む者は一人としていない。これで終わりにするのだから。だがそんな時、空から降った無数の弾丸がヴァイスの装甲を掠めた。

 

「うわわわっ何事ぉ!!?」

 

咄嗟の機体操作と今まで蓄積されたデータによる機体の自動慣性制御によって難を逃れたが本気で驚いた。だが今の何だ?空を見上げるとそこには巨大なMSが2機、空に浮かんでいた。ガンダム・フレームよりも一回り巨大なそれは1機は地上におりつつももう1機はヴァイスのように空を浮遊し続けながら此方へと睨みを利かせていた。

 

『おいおい何だこいつ!?でかすぎるだろ!?』

『俺達の機体の一回りでけぇ……』

『あ、あれってグレイズ!?でもデータにはなにも無い!』

『こんなタイミングで新型を投入するとは……』

『何だ……このプレッシャーは……!?』

 

驚きが周囲を支配する中、そのMSは声を上げた。

 

『我ら……地球外縁軌道統制統合艦隊!!カルタ様、どうか見届けてください!!我らが果たすカルタ様のご意志を!!!』

『私はあの堕天使を!!!』

『私はカルタ様に仇名したこの逆賊を!!』

『『撃つ!!』

 

決意を固めように動き出した機体は猛スピードでヴァイスに接近し剣を振りかざしてくるがそれらを回避しつつBモードで狙い撃つがまるで人間のような柔らかな動きでそれらを回避していく。

 

「まさかこの動き……阿頼耶識!?」

『その通り!!我らはカルタ様の為に、人間をやめ悪魔になる決心をしたのだ!!』

『我らは決して負けぬ!!カルタ様の為に!!』

 

人体改造は悪であるという思想を持つギャラルホルンがそんな事をするなんて思えないが現実がこれだ、本当に阿頼耶識があるとしか思えない動きにエクセレンは苦しげな声を上げる。あの巨体で三日月以上の動きに自分と同じく飛行が可能、厄介にも程がある。

 

「カルタ……見ていてくれ、お前達の、部下の戦いぉぉぉ!!!!」

 

そして槍を構えて突撃するキマリス、戦場は、一気に混沌とした物へと変じて行った。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

鉄華団


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20話

鉄華団



地上では巨人が軽い身のこなしで弾頭を避け一閃を受け流しカウンターの一撃を振りかざす、それを焼き直しという名を持った家族の為に戦う悪魔が受け止めた。鈍くも甲高い金属音が響く中、巨人の力に思わずおどきつつも必死に食いしばる。それでも巨人の想像以上の力に舌打ちと怖気が止まらない。

 

「こいつなんて馬鹿力だっ……!!」

 

昭弘の駆るガンダム・グシオンリベイクは現行の他のフレームタイプMSとは違ったエイハブ・リアクターを2基並列稼働によって他とは一線を画した出力によるパワーを発揮出来るのにそれでも互角並の馬鹿力に驚愕を禁じえなかった。

 

「昭弘どけっ!!」

「シノッ!!」

 

リベイクの背後から飛び出した流星号はボディプレスを仕掛けるように飛びかかった、横っ飛びをするような体勢のまま通常のグレイズリッターよりも二回りは巨大な機体。グレイズリッターベルセルクの頭部を捉えるかのような斧が振るわれたがその頭部の一部が上下に開閉するとそのまま斧を受け止めるかのように閉ざされた。まるで生物の口のように。

 

「なっ!?」

『無駄だ、私はカルタ様の為にこの身を悪魔に捧げ狂戦士となる事を誓ったのだ!!例え野蛮だと蔑まされようと私はお前達を倒し、カルタ様の栄誉を守り続けるのだぁっ!!』

「くそっ!!」

 

斧から手を離しつつ頭部を足蹴りして離れる流星号を援護するようにリベイクはサブアームを展開し4本の腕でベルセルクの両腕両足を拘束した。出力を最大にしながら全力の力で持って動きを封じようとする、それを好機と見てホーク、イーグル、漏影が近接戦闘を仕掛けようと一斉に武器を持って襲い掛かる。幾らあの巨体でもリベイクの馬鹿力で抑え込まれては動けまいという判断からだったが甘かった。

 

『舐めるなぁぁぁぁっっっ!!!!!』

 

ベルセルクの背中のユニットから異形の物が姿を現した、それは機械の腕、新たな腕であった。4本の腕が展開しクランク達を同時に殴りつけたのだ。それを見た昭弘は此方に超反応して殴りかかろうとするベルセルクから離れるためにサブアーム一本を犠牲にしながら後退したが今のあの姿は完全に異形の物、ベルセルクの奥の手とも言えるサブアームを搭載したユニット。それを展開した姿は正しく阿修羅。

 

「とっつぁんたちは射撃重視で頼む!!ありゃ阿頼耶識じゃねえと捌き切れねぇ!!昭弘まだいけるか!?」

「ああっまだサブアームが一本逝っただけだ!まだ行ける!!」

 

それを聞いてシノは少し安心した、あの六本腕に対抗するのは間違いなく自分と昭弘だけなのだから。三日月はキマリスを抑えてくれている、エクセレンの話ではあれもバルバトスやグシオンと同じガンダムらしい。なら今はそれに集中していて貰おう、それが一番だ。あれまで混ざっての乱戦なんて勘弁、そして今頭上では自分達以上に辛い戦いを強いられている姉がいる。そんな姉に負けないように自分達も気張られけばならない。

 

「おい昭弘、姉さんに良い所見せてやろうぜ!俺達は姉さんの扱かれた鉄華団、こんな奴なんか負ける訳がねえ!!」

「当たり前だ誰に行ってやがる!!」

「へへっだな!んじゃ」

「「行くぜオラアァァァァァアアアアア!!!!!!」」

 

 

「くっこいつっ!!!」

「今度こそ、お前が俺が倒す!!宇宙ネズミィィィッッ!!!」

 

短い距離でも上手く加速しつつスピードを生み出して槍の威力に上乗せしてくるキマリスにバルバトスはやや苦戦を強いられていた。今までの時よりもガンガン攻めてくるようになった上に今までとは全く違ったキマリスに三日月は戦いづらさを覚えていた。脚部が変形し騎馬のような形に変化しキマリスは常にホバーしながら襲ってくる。常に浮遊しているため受けた攻撃の衝撃を受け流しバルバトスのメイスの一撃を上手く殺していた。

 

「貴様らのような紛い物の阿頼耶識とは違った真の阿頼耶識となったカルタの部下達、俺もお前を討ちカルタの仇を討たせてもらう!!」

「知らないなそんな事」

 

嘗て奪われた槍の代わりに携えた巨大な槍、デストロイヤーランスを構えて突撃するキマリスに対抗するように同じく超重量級のメイスを構えたバルバトスは『TD』によって完璧な飛行を可能とした事を活かして機体を浮き上がらせてメイスを持ったままハンマー投げを行うかのように勢いよく回転し始めた。

 

「おおおおっっっ!!!」

「ふっ!!」

 

最高速に達したキマリス、クリンヒットすれば例えガンダム・フレームだろうと一溜まりも無い一撃を回転しながらギリギリの所で回避しながら回転の勢いが乗った一撃をキマリス目掛けて全力で振りぬいた。それをシールドで防御しようとするキマリスだが『TD』によって生まれた回転による一撃はシールドを一撃で粉砕しながらキマリスを吹き飛ばした。必死に機体を制御して倒れこむのを防ぐガエリオ、騎兵(トルーパー)形態だったのが功を奏したようだ。だがさらに追い討ちをかけるかのように投擲されたメイスが機体を後ろ倒しにしてしまった。流石の騎兵形態でもそれなりの質量が勢いよく飛んできてぶつかった場合受け止めきれない。

 

「今っ……!!」

 

三日月は倒れ込んだキマリスに構う事無くリベイクや流星号に襲い掛かっているベルセルクへと向かっていく、キマリスに相手をしている暇など無いと言わんばかりの行動。それを支援するかのように一機のMSがバルバトスと後退するかのようにキマリスの前に立ち塞がり、そのままその動きを拘束した。

 

「昭弘、シノっ!」

「三日月!?」

 

背後から迫ったバルバトスは最大出力で突入しながら太刀を構えてベルセルクの阿修羅の如き腕の2本を串刺しにしながら突進をかました。

 

『ぐぅぅぅぅ!!貴様、カルタ様を討った憎き悪魔か!!!!』

「誰そいつ」

『貴様ぁぁぁぁカルタ様を、カルタ様を侮辱するなぁぁぁぁっっ!!!!』

 

背中越しに刺さった太刀など気にも止めずにバルバトスを引き剥がそうと跳躍するとそのまま背中を地面に叩きつけようとしたが太刀を素早く引き抜いたバルバトスは脱出しベルセルクは一人で背中を強打しながら再び立ち上がった。

 

「昭弘にシノ、行ける?」

「ああ大分あいつの動きには慣れてきたぜ!あいつ、動きが硬いから行けるぜ!」

「ああ。今度こそあいつを仕留める!!」

「だが今度は俺達も接近戦を仕掛けさせてもらうぞ」

 

バルバトス、リベイク、流星号と並び立つようにホーク、イーグル、漏影が立った。その手には近接武器を手にし三日月達と同じ立場で戦うという覚悟を示しながら。

 

「あんた達だけに美味しい所なんで上げないからね!」

「他のグレイズも片付けた、後はこいつらだけ…連携してやるよ!」

「アイン覚悟はいいな、阿頼耶識だとしても負けないところを見せてやるんだ!」

「はい!!アイン・ダルトンとして鉄華団の剣の一本として輝きを見せてやります!」

「へっおい昭弘に三日月、俺達って姉さんやとっつぁんにアインさん、ラフタさんにアジーさん、良い大人ばっかりに恵まれてるな!」

「だな、さあ終わらせようぜ!!」

「うん、皆行こう」

 

 

ベルセルクへと一斉に襲い掛かるMS隊、連携し異形のグレイズへと向かっていく。

 

その上空では同じように激しい戦いが繰り広げられていた。それも同系の機体とたった一人、孤独な戦いを強いられているモノが。

 

「あんなに巨大なのに何でなんてスピード……!!」

『堕天使、貴様は私がこの手で裁いてやるぅぅぅぅ!!!!』

 

ベルセルクと同型の機体、グレイズリッタージョーカー。両腕や肩に搭載されている多数の火砲による圧倒的な火力とその巨大でありながらヴァイスに迫るような速度を発揮する異常な敵に相手にエクセレンは立った一人でそれを抑えこんでいた。こんな力を秘めている敵を既に一機相手取っている三日月達に向かわせれば確実に大きな被害出る、弟達にはこれ以上負担をかけられない。ならば自分がその負担を追うしかないとヴァイスでタイマンを張っていた。

 

『堕天使ぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!!』

「そんな激しいラブコールなんて欲しくないんだけどねぇ!!」

 

圧倒的な加速を見せながら突撃してくるジョーカーに対して小回りを利かせながら背後を取ってオクスタンランチャーを乱射するエクセレン。普段の精密射撃をしている暇が無い、兎に角相手の機を引きつつ相手を仕留める気でやらなければならない。BとE、二つのモードを扱いながら相手の火砲に狙いを絞って行くが阿頼耶識特有の人間のような動きで回避して行く。本来人間には無い火砲すら自分の一部として感じているかのような動きに気持ち悪さすら覚える。

 

「それならこれならどうかしら!?Eモードマキシマムチャージ、シュートォ!!!」

 

直線的な機動に限定すればヴァイスすら凌駕する速度で迫ってくるジョーカー、だがただ直線的な動きに加えて阿頼耶識の人間的な動きがリズムを狂わせ予想外な運動性能を生み出している。やり難そうにしながらある意味奥の手を発動する、迫ってくるジョーカーへと向けたランチャー。引き金を引くとEモードのビームが発射されジョーカーを狙うがそれをアクロバティックな動きで回避して行く、しかしランチャーからはそのままビームが放たれ続けていた。

 

「まだまだぁぁぁっっ!!!」

 

コクピットにはランチャー内の温度が急上昇している事を知らせるアラートが鳴り響くがそれを強引に機体ごと動かすように銃身を動かすとビームが撓るように動き回避したはずのジョーカーを飲み込んだ。機体にはナノラミネートアーマーが施されているジョーカーにはダメージらしいダメージは無いなんて事は無い。火砲などにはアーマーは施されていない、故にビームの干渉を受けて爆発を起こして破壊されていきあれだけあった圧倒的なジョーカーの火力を激減させる事に成功した。

 

『貴様ぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!』

「えっうっそぉ!?」

 

ジョーカーは怨嗟の叫びを撒き散らしながら狂ったかのように超スピードを発揮しながら接近して来た。先程とは比べ物にならない速度、鬼神のような動きをするジョーカーが迫る。だがヴァイスはEモードのマキシマムチャージを行って影響で一時的な出力不足に陥ってしまい動きが鈍った。そこを付け狙われヴァイスの胸部へとジョーカーの拳が炸裂した。

 

「きゃああっっ!!!」

 

ヴァイスの胸部は一瞬で剥ぎとられてしまった、コクピットにまで達した一撃は正面のモニターを割りコクピットハッチを抉った。それでバランスを崩して落下して行くヴァイス、必死に機体を制御しなんとか墜落だけは避けるが抉られた装甲の隙間からは映像ではなく実際の景色が見えている。そしてあのグレイズも。まだ、この子(ヴァイス)も自分も戦える。なら精一杯やるしかない!

 

「行くわよヴァイスちゃん!!私達の全力全開を、あのこんちきしょうに見せ付けるのよ!!」

 

長年連れ添った相棒に声を掛ける、同時にその瞳が翠に輝くと出力を上げてヴァイスはジョーカーに突撃して行く。切れ目から入り込んでくる風の重圧が操作を鈍らせる、そんな彼女を気遣うように緊急用ハッチが作動し風を遮りつつ予備のモニターが灯った。まだまだヴァイスも死んではいない、行けると確信した。

 

『まだ足掻くか!!ならこれで終わりだぁぁぁっっ!!!!』

 

まだ向かってくる堕天使に腹を立てたのかジョーカーか肩と胸部装甲を開放した。そこからは無数の弾丸が射出されていく。ジョーカー最大の火力を誇る前面集中射撃形態、鉛弾の雨、それでもヴァイスは進み続ける。肩、脚部に被弾しても止まる事は無い。そして頭部の半分を吹き飛ばし瞳の光が露出するように見えても、止まらない。

 

「そこよっ!!!」

 

此方を仕留めようと最大限の武装を展開したのが誤りだった。握り締めたレバーに力を込めるとビームと弾丸が同時に発射され胸部の発射口を潰した、装甲を展開した事でナノラミネートアーマーが機能しない内側を晒す事になっているそこを狙った。そしてナパーム弾をセットするとそのまま同じポイントを狙い討ち続けた、ナパームによってジョーカーは内部から焼かれていき苦悶の声が周囲から響いていく。

 

「オクスタンは槍って意味よ、それをその身で味わいなさい!!!」

 

最後に貫通弾をセットするとランチャーをそのまま焼け爛れボロボロとなったジョーカーの胸部へと押し付けた、銃口は機体の内部に潜り込みコクピットの目の前で静止した。だがそこから連続的に特殊貫通弾が連射されていき機体を穿った。自らの身体を悪魔に売り渡した忠義の塊とも言えるカルタの部下を屠りながら、ジョーカーは沈黙し落下し動かなくなった。

 

 

『っジョ、ジョーカーまさかおまえっ!!?』

「隙が出来た、今よ!!」

「喰らえっっっ!!!」

 

ジョーカーが落とされた事で動きが止まったベルセルク、そこへ所持してバズーカを打ち込みラフタとアジー。動きを止めた事、そして阿頼耶識という考えその物が機体に連動するシステムの影響で動揺が諸に機体に反映され完全に静止したベルセルクへと弾丸が炸裂する。

 

『グググッ!!!貴様らぁぁっ!!!』

「どこを、見ているぅぅ!!!!」

 

頭上からアインが飛びかかるとイーグルの脚部を両肩へと食い込ませると更に自分へと伸びてきた二本の腕を抑えこんだ。必死にアインを振り払おうとするがガッチリ両肩に食い込んだ脚は離れない。そしてそこへ追い討ちと言わんばかりにホークが最後の武装であるバスターブレードを残った片腕で保持しながらベルセルクの右足へと突き刺した。

 

『がああああ!!!貴様ぁぁぁっ!!!』

 

怒り狂ったベルセルクは器用に肘から先を動かしてホークの頭部へと腕についていたパイルバンカーを打ち込んだ。それは僅かにコクピットをかすめクランクの直ぐ傍を杭が襲い掛かり、その際の爆発でクランクは頭部から血を流した。

 

「とっつぁん!!」

「私など気にするな!!三日月今だっっ!!!!」

「うん、ありがとうっ!!!」

 

十分に距離をとったバルバトスは一気に加速して手に持った太刀をそのままホークの肩へと突き刺しそのまま装甲を貫くとベルセルクの腹部へとブチ当てた。クランクは残った最後の腕をパージするとそのまま後退するがベルセルクはその一撃によって動きが鈍った。

 

「シノ!昭弘!」

「喰らえぇぇぇアルティメットスーパー流星キィィィイイイクッッ!!!」

 

バルバトスの背後から流星号が躍り出た、跳躍しながらベルセルクの頭部へと渾身の蹴りを命中させ頭部を抉りそのまま破壊した。そしてベルセルクの背後に落ちた流星号はまだ終わらずクランクの一撃によって最早片足でバランスを取っているベルセルクに残された左足へと蹴りを入れた、それによって身体を上へと反らせたベルセルクへと

 

「喰らええええええええええええ!!!!!!!!」

 

リベイク渾身の右ストレートが炸裂した、その一撃は装甲を歪めコクピットを露出させる一撃となった。そしてそのまま吹き飛ばされようとしたベルセルクへと太刀を引き抜いたバルバトスが真一文字に全力で振るった。今まで太刀を突きさすなどの方法でしか使った事の無い三日月にとってそれは無意識のうちに取った行動だった。バルバトスがこうするのが一番だと教えてくれたかのような感覚、その一閃はベルセルクのコクピットを破壊しそのままベルセルクの機能を完全に停止させ沈黙させた。

 

「終わったのかな……?」

「あ、ああ終わった……」

「やったぜ……」

 

それと同時にMS全機へと通信が舞い込んできた、それはオルガからの物だった。クーデリアと蒔苗を無事に送り届けたという物、それが示すものは鉄華団の仕事の終わりとこの戦いの勝利であった。終わった戦い、それによって齎された勝利と仕事の成功に鉄華団は歓喜の声を上げた。蒔苗はアーブラウの代表に返り咲きクーデリアとの交渉にあったハーフメタルの事を実現させようとクーデリアと握手をした。

 

そして数日後……

 

「ほらほら急いで~明日には火星に向けて出発するんだから。早くしないと置いて行かれるわよ~」

『ウィ~ス!!』

 

地球での仕事も終わり、いよいよ鉄華団は火星へと帰る為にアーブラウの宇宙港へと荷物を運び込み準備を行っていた。長くはいなかったが本当にこの地球での時間は印象に残っていた、これから鉄華団の名は大きく知れ渡っていく事だろう。それがどんな事態になるのかは分からない。だけど鉄華団は必死に生きていくだろうそれは間違い無い。

 

「姉さん何やってんだよ、休んでろっつったろ」

「え~でも」

「いいから指揮は俺がやるから!!」

 

オルガにどやされて準備指揮から降ろされて文句を言うエクセレンだがそれは皆からも同意見だった。あの阿頼耶識対応型のMS、三日月達とは違ってたった一人で倒しただけではなく一歩間違えれば死んでいた所まで追い込まれていたエクセレンには確りと休んでいて欲しかった、それが鉄華団の総意だった。有難いような複雑な気持ちを引きずりながら宿舎に戻ろうとすると三日月がアトラとクーデリアにサンドされて頭を撫でられていた。

 

「何これ……?」

「えへへっ頑張った三日月へのプレゼント!」

「えっと……はい、激励も込めてです」

「だったらギュウ~としてあげたらいいんじゃないかしら♪」

 

とニヤ付いた笑みを浮かべたエクセレンが登場するとアトラとクーデリアは素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。

 

「エ、エクセレンさん!?」

「エクセ姉様何を!?」

「三日月、ギュウ~の方が良いわよね~」

「うんそうだね」

「「えっ!?」」

「ふふふじゃあ後はお楽しみに~」

 

そう言って厄介事の種だけを残して宿舎へと入ったエクセレンはとある一室へと入った、そこには一人の男がベットに横になっていた。

 

「具合はどうかしら?もう平気?」

「……」

 

男は口を閉ざしたまま何も言わない、口も利きたくないというのが見えているようだ。それもそうだ、本来彼は此処にいるのも可笑しい筈の人間なのだから。そこにいたのは友に裏切られ、絶望を知った青年、ガエリオであった。エクセレンはオルガの勝利の通信を聞きながらボロボロになったキマリスを発見し回収、ガエリオを手当てし此処に寝かせていた。機体の方は何処からか現れた一人の男、ダンディな髭を蓄えたおじ様が一時的に預かっている。

 

「何故、俺を助けたんだ……?」

「怪我人を助けるのに理由が必要なの?」

「俺はお前達の敵で何度もお前達を襲ったんだぞ」

「だから?私は敵だったヒューマン・デブリの子達を弟として迎え入れる位の女よ、敵だった怪我人を手当てするぐらい当たり前よ」

 

然も当然のように語るエクセレンにガエリオはやや呆気に取られた、今まで会った事の無いタイプの女性だと思いつつも治療してくれた事に感謝しつつ初めて顔を合わせた。

 

「俺は、ガエリオ。ガエリオ・ボードウィン……だが既に俺は死んだ身……俺はこれから如何するべきなんだろうな……」

「やりたいようにやってみたら?人間それが一番よ、私がそうなんだから間違い無いわ」

 

まさか即答されるとは思っていなかったガエリオはキョトンとすると次の瞬間には愉快そうに笑いを表した。

 

「そうか、したい事をか……有難う確かエクセレンと言ったな。感謝する」

「いいえ。このぐらい当たり前よ、あっこれ私の連絡先、貴方友達いないタイプでしょ?私がなって上げてもいいわよ?」

「これは新しい逆ナンパだな、それと俺にも友人ぐらいいる」

 

エクセレンはそのまま笑うと少しばかりガエリオと話してから部屋を後にした。なんだか彼は大成するようなきがする、気紛れで助けたようなものだがこれがどうなるのか少し楽しみにも思える。そんな事を思っているとオルガが呼んでいると言われて表に出た。そこではバルバトスを前にしてオルガが鉄華団の皆を見下ろしていた。

 

「皆、今回の仕事良くやってくれた!鉄華団としての初仕事、お前らのお陰でやりきる事が出来た。だけどな、これからもまだまだ仕事を続けていく。俺達はもっともっと立派になる、そして今まで宇宙ネズミだとか馬鹿にしてきた大人を見返してやろうぜ!!けど、まあ次の仕事までには間がある。お前ら、成功祝いのボーナスはたんまり出すから期待しとけよ!!」

 

歓声が上がるとオルガはエクセレンと三日月の元へと歩いた。もう明日には地球を離れる、これから戻る火星、鉄華団の帰るべき場所。此処からがスタートライン、此処から本当の意味で鉄華団は始まる。

 

「なあミカ、姉さん。終わったな」

「うん」

「そうね」

これからどんな事があろうと彼らは前へと進み続けるだろう、頼りになる大人達の手を借りながら。それでも立派に前へと進んでいく、何れ手を借りずとも進める時が来るだろう。でも今は……一緒に進んでいける事に喜びを感じる。

 

「さあ帰ろうぜ」

「ええそうね、皆が待ってる物ね」

「うん―――火星に」




これにて一期完結ぅぅぅ!!!

此処まで見てくださってお疲れ様でした!!

いやぁ原作壊れまくってるなぁ最初から最後まで!!本当にこれどうすれば良いんだよ。もう二期で出る重要な部分とか壊れてるぞ!?主に阿頼耶識システム Type-Eとかタービンズが壊滅しないとかケツアゴがいないとか。あれ、二期行けるの?

っつうかこれで二期書かないと駄目なの?えっマジで?ぶっちゃけ一期限定のつもりで此処まで派手に原作壊したんだけど。このまま二期……?えっ。

ハッキリ言うと二期はマジで未定なつもりだったんだけどなぁ……うーん……姉さんが暴れる事になるけど、書くか!!!





近日公開 鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

2nd Season

乞うご期待!!


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21話

鉄華団再び




えっ早過ぎる?早い方が良いと思って……。


地球での鉄華団とギャラルホルンの戦闘、いやアーブラウの代表選挙から約2年。蒔苗 東護ノ介の代表再選とギャラルホルンが用いたMSに搭載されていた人道に反した人間を生体ユニットにするという腐敗の発覚による世界の縮図と情勢は大きく変化していた。

 

クーデリアを地球へと送り届けただけではなく蒔苗をアーブラウへと送り届けた鉄華団の名前は一気に知れ渡る事となった。加えて鉄華団がテイワズの傘下に入りタービンズの兄弟分となる際にクーデリアとマクマードの交渉によってテイワズに齎されたハーフメタル利権、それによってテイワズに大きく貢献した鉄華団は改めてテイワズとの盃を交わし直系団体としてテイワズ内でも大きな成長を見せた。

 

アーブラウは弱体化し信頼度が落ちたギャラルホルンに頼るのをやめ防衛力を強化、それに当たり軍事顧問として鉄華団を指名する。これにより地球に鉄華団支部が誕生、鉄華団整備チーフであったクランク・ゼント、整備班班長であったアイン・ダルトンが地球支部の支部長と副支部長に就任し奮闘している。

弱体化の背景には地球外縁軌道統制統合艦隊指揮官カルタ・イシュー、地球本部監査局付武官である特務三佐ガエリオ・ボードウィンの死亡による物が大きかった。

 

クーデリアは火星での独立と経済の発達の為にハーフメタルの採掘一次加工輸送業務を行うアドモス商会を設立、更に鉄華団と提携し桜農場内に孤児院を設立し社会的弱者への能動的支援と火星全土の経済的独立の為、その社長として副社長のフミタンと共に奔走する毎日を送っている。

 

2年前まで名も知られず、人知れずに起業された鉄華団は今や地球圏及び圏外圏において知らぬものはいない企業となった。その企業は嘗てヒューマンデブリと呼ばれた子供達が立ち上げた物、そこに希望を見出した子供達は鉄華団に憧れ入団者は増え続けている。そんな新入団員を鍛える教官職に就きながら笑顔と陽気を振りまく女性の姿は変わらずあった。

 

「ほらほら足が止まりそうになってるわよ~。頑張れ頑張れ~」

 

鉄華団は今や唯の民兵組織では無くなっている、ギャラルホルンという組織の力の弱体化により火星の治安は悪化して来ている。それをカバーするように鉄華団に護衛や治安維持のための出動依頼が増えて来ている。武器こそ握るが目的はパトロール、今や火星では鉄華団に逆らおうという物好きはいない。ただそこに居るだけで威圧感を与え抑止力となっている。だがギャラルホルンの弱体化により出動依頼は増えており人手が不足がちになっている。

 

「ぁぁぁっっ~なんか川と新しい地平が見えるぅ~……」

「ほっほっほっ」

「ザック君ほらほら頑張る~あと半周よ~♪デイン君はペースを崩さないようにね~」

「うっす」

「うおおおおおっっお姉様からのエールだぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

一時は教官職を退き自分が鉄華団に齎した技術、テスラ・ドライブの技術者としてテイワズに出向し開発などに協力していたが鉄華団からの要請を受け教官職に復帰。エクセレンは今日も笑顔を作りながら新入団員に訓練を施していた。その美貌と明るい性格故か矢張り大人気となり彼女の前だと何時もは訓練にやる気を示さない者も真剣になる為、それまで教官をしていたシノはその気持ちを理解しつつも複雑な気持ちを抱いていた。今日の外周が終了し皆が休んでいると遠くの荒野で土煙を上げながら二機のMSが模擬戦を行っていた。

 

「ダンテ反応遅い!!」

『んなこと言ったって!!?』

『ほらほら余所見しない!!』

 

そこで模擬戦を行っているのはテイワズが開発した新型MS、イオ・フレームが使用された獅電。それを操るのはタービンズから鉄華団のMS操縦技術向上の為に出向して来たラフタとアジー、そしてそれらのメカニック指導を行うエーコであった。テイワズ内での地位が向上し莫大な利益を齎した事で鉄華団は獅電を低価格で購入しそれらを主として運用している。

 

「すっげぇっ……あれがMSか……」

「かっけっ~あれ初めて動かしてるんだよなデイン」

「ああ確かそう」

「あれが、阿頼耶識の力か……」

 

最近入団したハッシュが思わずそう呟いた、確かにダンテは今日初めて獅電に搭乗し操縦している。それゆえかアジーに駄目出しをされまくっているが初めての操縦にしては良い方だと思われる。だがハッシュの言葉に納得するザックを見たエクセレンは声を上げた。

 

「獅電ちゃんに阿頼耶識は乗ってないわよ、確かに私が監修した学習型のコンピューターを載っけてるけどあれは純粋なダンテの腕前よ。まだまだ甘っちょろいけどね」

「えっあんだけ動けてるのに阿頼耶識じゃないんすか」

「そうよ。あれは300年も昔の古いローテクな技術でハイテクな最近のには載せられないんだってさ。まあうちだとどこぞのスケベ君は無理矢理搭載してるけどね」

 

それは勿論シノの事である。彼は先代流星号、即ちグレイズから阿頼耶識を取り外しそれを自分の機体に搭載し直した。本来は出来ない筈だが整備班班長代行のヤマギの努力と培われた戦闘データの移植によってそれは叶っている。

 

「皆には阿頼耶識なんて必要ないの、学習型のコンピューターだって使い続ければ乗り手の動かし方を学習してどんどん自分で回避パターンとか攻撃の動作を覚えて行くからね」

「へぇっ~……」

 

目の前でラフタの獅電にぶっ飛ばされているダンテを皆が見つめながらも自分もあんな風に操縦できるようになるのかと想像を捗らせる。矢張り憧れがあるのだろうかMSを見つめる皆の視線は何処かキラキラとしている、兵器を見て嬉しそうにして興奮を覚える。エクセレンとしては少々複雑な気分であった。そして獅電からグロッキーなダンテが降りた時、そこへ新たな機体が登場した。

 

「お、おい何だあのMS!?」

「すげえ俺初めてみた!!」

「白い、カッコいいなおい!!」

「あれってヴァイスじゃねえか!!やっぱりカッコいいなぁ!!」

 

リフトアップされたのはエクセレンの愛機でもあるヴァイスリッターであった、白銀の堕天使の異名は圏外圏にまで轟いており宇宙海賊達はその姿を見ただけで恐怖で撤退して行く。狙われたら最後の最強の狙撃手とまで言われているがそれは機体の性能ではなくエクセレンの腕前がおかしいのである。

 

「さてと皆の訓練はこれで終わりだけど如何する?このままMSの訓練に入りたいっていう人居る?」

『ハイハイハイハイ!!』

 

殆ど全員が手を上げていた、是非ともMSに乗りたいというので溢れていた。本来新入団員にはまださせるべき事ではないがそれぞれの適性は早めに判断しておくに越した事は無いとエクセレンが判断した。そしてヴァイスを見つめなおすとその周囲に3機のMSが運び込まれた。

 

「あ、あのエクセ姉様あれも新型っすか!?」

「ええそうよ。先日届いたばっかりの新型、試作型MSのゲシュペンストよ」




エクセレン「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

新しい血へ



新人の子達はからかい甲斐があっていいわよね~。

今度は何で行こうかしら?

やっぱりバニーちゃんで決まりよね!」


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22話

新しい血へ






白騎士という意味の名を持つヴァイスリッターとは対照的に黒く並び立つ獅電よりも装甲は厚く機動性よりも装甲による防御力などを重視しているようにも見える。それはハッキリ言って装甲が装甲としての仕事を一切していないヴァイスと並べて見ると改めて理解できる。この場合はヴァイスが異常なほどに紙すぎる装甲なだけなのだが。

 

「ひゃ~カッコいいなゲシュペンストでしたっけ?」

「そうよ。ヴァイスちゃんを基にして作られたMS、まあ汎用性と安定性を持たせる為にヴァイスちゃんとは随分違う作りになってるけど」

「確かに基本的にヴァイスの方が異端って感じしますもんね」

 

仮にヴァイスをバルバトスがメイスで殴ったとするとたった一撃で装甲が砕け散り行動不能になり最悪フレームごとリアクターがイカれるという可能が非常に高い位に装甲がない。それをカバーする為の機動性なのだが世間一般のパイロットからしたらヴァイスなど使ってられない機体だろう。

 

「さてと……これらって動かせるのかしら?」

「流石にまだ無理ですね。実は急かされて持ってきたので最終調整が終わってないんです。取り合えず確認のメンテとOSのチェックが終われば動かせるようになりますから訓練に使うのはそれまで待ってください。後追加モーションデータの準備もお願いします」

「はいは~い」

 

手元のタブレットのデータを確認しながら作業員はゲシュペンストを本部のドックへと運んでいく、テイワズの次期主力機として獅電と争いをしているゲシュペンスト。流石に量産性と操縦性は獅電の方が上回るが性能面ではゲシュペンストが上回る。その為テイワズでは隊長機をゲシュペンストにし他の機体を獅電にするというチーム編成を考えているとの事、それを試験し評価する為に鉄華団にゲシュペンストが搬入される事となった。

 

「うーん今日はMS訓練出来そうに無いわね~地球に獅電送る為にゲシュペンストの搬入を急いで貰ったのが仇になっちゃったわね」

「ありゃ~それじゃあMSの適正テストはお預けっすか?」

「そういう事になっちゃうわね期待させてごめんなさいね~、その代わり……」

 

鉄華団のジャケットを脱ぎ、シャツ姿になるエクセレン。自重しないプロポーションはシャツ越しに主張を行っているので団員達は非常に興奮する。

 

「お姉さんのこの姿で許してね☆」

『勿論ですっっ!!!ご馳走様です!!!!』

 

スケベ心を上手く掴んで人身掌握をするエクセレンとそれを見て呆れつつも上手い事するもんだと心の何処かで尊敬するような注意しようと心するハッシュであった。

 

「オルガ、ゲシュペンスト三機の納入確認したわよ。予定通りに2番隊と3番隊に回すけど良いわよね」

「ああそれで頼む。これで後は歳星からバルバトスとグシオン、本部で使う獅電がくれば戦力は十分に揃う。でかくなっていくのは良いがその分厄介事も増えてきてるからな」

 

提出される書類を見つつオルガは呟いた。鉄華団を設立しテイワズの傘下になる二年、書類仕事や挨拶回り、様々な事を必死に覚えながら鉄華団団長として成長をしていくオルガ。時には名瀬の、時にはエクセレンの手を借りながら苦労しながら自らの成長と鉄華団運営の為の団員教育などにも手を回しながら鉄華団を引っ張って行っている。

そんな鉄華団を良く思わない人間達がいる、海賊や他の企業。海賊などを通じて鉄華団に対して攻撃などを仕掛けてなども来るので自衛の為の戦力はあって困らない。その為に歳星から戻ってきたエクセレンと彼女の愛機を基にして作られた新型MS。これで大分楽になって来たというものだ。

 

「そういえば運び込んだあれは?もう変わってる?」

「ああ、それならシノが新人とかライドと一緒に変えたよ。俺としてはノーマルカラーの方が好きなんだけどな……」

「ですよね~……」

 

エクセレンはオルガから受け取った書類を見て矢張りかと苦笑する。最初に鉄華団でテストとして搬入されたゲシュペンスト一号機はそのまま鉄華団実働一番隊の隊長機とされているがその一番隊の隊長はシノである。書類にある写真には黒ではなくピンクに塗装され頭部には鮫の目がペイントされて三代目流星号となったゲシュペンストの姿があった。彼らしいと言えばらしいのだが……。

 

「そだ姉さん、来週末アドモス商会の仕切りで採掘現場の視察が行われるんだけど俺もそっちに行っちまう。その間の団長代行頼んでも良いか?」

「勿論よ。承ったわよ」

 

胸元の谷間から取り出した腕章を腕に通す、そこには団長代行!と書かれておりそれを見たオルガはまたかと呆れてしまった。

 

「おいおい……んなとこにしまうなよ。というか他所でそれやるなよ?鉄華団が妙な集団だと思われる」

「悪魔と堕天使が同居してるんだから既に妙じゃない?」

「それ言ったら終わりだろ」

 

そんな事がありながら1週間後、鉄華団としては久しぶりのクーデリアの再会と喜びつつその護衛を行っていた。ハーフメタルの採掘現場は火星にとって独立の旗印、それと同時に莫大な利益を生み出す場である。そんな場へと行き鉄華団としての団長として、テイワズの人間として参加するオルガは重要な立場にある。そんなオルガの代行として団長の席に座っているエクセレンはオルガが少しでも楽になるようにと遅くまで仕事を続けているとアラートが鳴り響いた。持っていた通信機からヤマギの声が響いてくる。

 

「何事!?」

『団長代行、ユージン副団長から緊急の発進要請です!!ハーフメタル採掘場に敵が来たとの事です!』

「一番隊を直ぐに上げて!装備はB、それと援護の為にMW隊の3班と4班もMS隊出撃後発進!』

『了解!ヴァイスは如何します!?』

「ヤマギちゃん聞くまでも無いでしょ?当然行くわ!!」

 

笑顔で通信を切るとジャケットを脱ぎ捨てて格納庫へと走って行く、途中慌しく動く団員達をすれ違いになりながらも格納庫へと到達するとそこには何時ものように鎮座するヴァイスの姿がある。思わず二年前、CGSの時にヴァイスを起動した時の事を思い出しながらヴァイスへと乗り込み通信を一番隊へと繋ぐ。

 

「一番隊聞こえるかしら?発進後リアクターと『TD』と出力は全開で採掘場まで行くわよ!飛ばせば直ぐに着けるわ!!」

『了解!それと姉さん、一番隊じゃなくて流星隊だぜ!!』

『流星隊って……』

『俺達そんな名前なのかよ……』

 

シノのそんな発言でダンテらのテンションがやや下がりながらも出撃していくヴァイスら、外に出ると同時にテスラ・ドライブよりに浮かび上がり一気に加速し空へと舞い上がって行く。ヴァイスを戦闘に後に流星号、獅電と続いていく、一直線に採掘場を目指して飛んでいく。

 

『ユージン3分、いや2分待ってくれ!そうすれば到着する!!』

『分かった!でも早く頼むぜ!!』

 

現地への連絡をしながらもエクセレンの瞳にはまだ見えていない筈の採掘場近郊での戦いの灯火が見えるようだった、ポツリポツリと明るく照らされていく死の光。それを拭う為にオクスタンランチャーを手にし構える。

 

「さあ行くわよ皆!!」

『おう!!』

 

 

現場ではMW隊同士による激しい砲撃が行き交う中、遂に敵側のMSが姿を現した。マン・ロディと違い機動性と汎用性を重視ていると思われるガルム・ロディが躍り出ては鉄華団のMW隊へと銃撃を行い始めた。MW同士とは違った死の恐怖が一気に襲い掛かってくる中それを払拭するように到着した流星隊とヴァイスは戦闘を開始した。

 

「オラァァァァッッ!!!!」

 

シノのゲシュペンスト、いや流星号の左腕が唸りを上げる。その腕に装備されているのはプラズマを纏い高熱化し激しく音を立てていく。敵をそれを危険と判断し後退しようとするがそれよりも早く加速してタックルを喰らわせるとそのまま転倒させ仰向けになったガルムの胸へとプラズマ・ステークを突き立てた。高熱化したステークはナノラミネートアーマーを突破して内部へと潜り込むと連続的に内部へと攻撃を打ち込み敵機を撃破する。

 

「シノの野郎ゲシュペンストを上手く乗りこなしやがって羨ましいんだよ!!」

「全くだぜ、俺だって乗りたいのによぉぉ!!!」

 

負けじとダンテとデルマの獅電は互いに連携を取りながら敵を薙ぎ倒していく。ダンテは相手の得物を破壊するとデルマが通り過ぎるように脚を払い体勢を崩しそこへダンテが一撃を加えて確実にコクピットを潰していく。確実かつ正確な連携で相手を倒す二人は次の敵へと向かうがその視界の端で自分達の背後を狙おうとした敵が空からの攻撃を受けて爆散するのが見えた。

 

「うちの弟達に手出しはさせません事よ~!!」

 

鉄華団の堕天使、悪魔と同じく恐れられている存在であるヴァイス。どれだけ激しく動こうが狙われたが最後全身を撃ち抜かれ動けなくなった所を必殺の一撃が襲う。そんな噂が広まっている、それは事実であり各部の間接を遠距離と高機動を両立させたまま狙撃し止めをさすというキチガイのような所業を持って相手を打つ。エクセレンは酷く恐れられているがそれを撃つ為に敵もかなりの戦力を投入しているらしい、新たなリアクターの反応が8もあった。

 

「美しいって罪よね~、追加入ったわよ~」

『おうどんどん来やがれってんだ!!』

『おいシノお前は阿頼耶識あるから良いだろうけどこっちはガスの消費とかきついんだぞ!!』

『そうだ増援とかたまったもんじゃねえよ!!?』

 

という声が響いた時、夜明けが訪れ始めた空から一機のMSが落下するように此方へと向かって来ていた。片腕に得物を携えながら自分達へと向かってくる敵を全て薙ぎ払い潰す悪魔が翼を広げながら降臨する、天から地上に向けて銃口を向けながら降りてきたそれは瞳を輝かせ敵を睨み付けた。

 

「姿勢制御システム、テスラ・ドライブ、スラスター全開」

 

地上から敵へと喰い付くかのように飛びかかり一機のガルム・ロディへと得物を貫通させると顔を上げた悪魔はギラリと周囲を睨むと得物を構え、突撃しながら姉に言葉をかけた。

 

「姉さん、ただいま」

「おかえりなさい、三日月」

 

鉄華団の堕天使、エクセレン・ブロウニングとヴァイスリッター。鉄華団の悪魔、三日月・オーガス、そしてテイワズによって改修され生まれ変わったバルバトス・ルナ・ルプス。今、最強の戦力が敵へと襲い掛かった。




三日月「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

嫉心の渦中



やっと火星に帰って来れた、取り合えずこいつら片付けよう。

これで全滅させたら姉さん、ギュっとしてくれるかな?」


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23話

嫉心の渦中




地上へと降り立った翼を折りたたむと地上を滑るかのように駆け抜けながら新たな獲物を喰らう為に動き始めた。悪魔に睨まれ命の危険を感じ取った敵は発狂したかのように銃を乱射するが発射された銃弾を手にした細長い剣のようなメイス、ソードメイスで受けながらその反動と衝撃を利用しながら回転しその勢いでメイスをMSへと炸裂させて装甲をフレームごと歪ませるという圧倒的な破壊力を生む一撃を放った。

 

「な、何だよあれ……!?あんな簡単にMSを……!!?」

 

MWに乗っていたハッシュは呆然とするようにその光景を目に焼き付けていた、突如空から舞い降りてきた天使よりも遥かに慈悲も無くただただ目の前に立ち塞がる敵を屠り抉るだけの悪魔は次々と敵を狩って行く。正に悪魔のような狩人だ。それを横で見ていたデインは思わずバルバトスと三日月さんが帰ってきたんだと呟く。

 

「み、三日月って何時も寝てるあの……!?」

「ああ。間違い無い、見た目は変わってるけどバルバトスを動かせるのは三日月さんだけだ」

「あれが……」

 

戦いは何時の間にか一方的な殺戮へと転じていた、先程まで攻められていて防衛していた筈の此方が何時の間にか相手を全滅させる為に身体を動かしていた。それを見つめるハッシュは気付けば笑いを浮かべながらゾクゾクとした感覚が身体を突き抜けるのを感じながら背筋が熱くなっていた。その力に憧れたのか、MSという存在が発揮する力に憧れたのかは分からない。だがハッシュは獰猛そうな笑いを浮かべ続けていた。

 

「これで最後っ…!」

『うわぁぁぁぁっっ!!!!!!』

 

気付けば最後の一機もバルバトスが殲滅したハーフメタル採掘場へと襲い掛かってきたMS部隊は壊滅していた。それらを目の当たりにした新入団員はその圧倒的な力に憧れたりその強すぎる力に震えたりと様々だったが悪魔たる三日月とその隣に降り立った堕天使、そして幽霊と獅子を見つめ続けていた。

 

 

戦闘も終了し本部へと戻ってきた皆、そこで襲ってきたのは夜明けの地平線団という大規模な海賊である事とそれを依頼した人物をオルガとビスケットが突き止めた。二人はユージンとこれから如何するべきかと会議をしている間に戦闘によって出来た破損などの修繕作業に入っている中久しくドック内に入ったバルバトスを三日月は見上げながらエクセレンの膝に座りながらエネルギーバーを齧っていた。そんな三日月へと雪之丞が近づいていく。

 

「んで如何だったよ、ルナ・ルプスの調子はよ」

「うーん……なんか今まで以上に出力とか機動性が上がってるのに凄い扱いやすい。なんか俺自身の身体?みたいに違和感なく動かせるよ」

「グシオンと同じくガンダム・フレームに対応する為の新型設計の『TD』搭載型だからね。小型化もされてるし燃費も良い、それでいて空を飛べるというね」

「今までのMSの常識を完全にぶっ壊してるな、『TD』っつう代物は」

 

こうなったのも大体エクセレンが即答でテイワズにテスラ・ドライブの契約を結んでしまったせいである。そのお陰かテイワズは圏外圏で更に勢力を伸ばしておりギャラルホルンの正規部隊ですら戦う事を恐れるようになってきている。そんな中でも最も恐れられているのはダントツでエクセレンと三日月だろうが。バルバトスを見上げると背中から伸びている翼にも似ている機関が目に入る、そこに新型『TD』が搭載されておりバルバトスの性能を底上げする結果となっている。

 

「ヴァイスちゃんの改修プランも考えてもいいよって言われたんだけどねぇ~……現状で満足してるしパーツを新しいのに変えちゃえばそれだけで性能はある程度上がるから私としてはそれで満足よ」

「まあヴァイス自体性能はいいからな、余り必要としてないって感じだな」

 

そんな世間話をしているとドックに二人の女性が入ってきた、それはクーデリアとフミタンであった。此方に頭を下げてくる、忙しくて大変と聞いている割には顔色も良く元気そうにしている。

 

「お久しぶりです三日月。エクセ姉様に雪之丞さんも」

「おう久しぶりだな」

「久しぶり、なんかオルガと話してたんじゃないの?」

「はい。お嬢様……いえ私と社長は暫くの間桜農場の方にて避難させていただく事になりましたのでその後挨拶にと」

「あらそれじゃあ2年前みたいに一緒にいられるわね」

「はい、なんだか懐かしいですね」

 

懐かしげな空気になりながらもエクセレンはニヤつきながら三日月を降ろすと暫くクーデリアの護衛がてら桜農場で自分がやっている事を教えてあげたら如何かと提案するといいねそれっとクーデリアを連れて桜農場へと向かって行った、それを見送ったエクセレンは自分のヴァイスの整備を開始する為に動き始めるのであった。

 

「くぅ~はぁ~……あ~お腹すいた」

 

ヴァイスの整備と調整、補給要項などを纏めて団長補佐のビスケットに渡すと食堂に姿を現したエクセレンを皆が囲って自分達と一緒に食べようと誘ってくる。鉄華団の食堂は以前よりも大きく拡張されておりそこでは本格的な調理器具が揃っており何時でも美味しい食事を食べられるようになっている。そんな引き金となったのは『TD』の技術を提供した際の契約金や次々支払われるお金のお陰だった、本部に残りながらオルガ達の帰りを待っていた皆にとってエクセレンの齎してくれた資金のお陰で美味しい食事が食べられるので更に人気が過熱する事になっていた。

 

「アトラちゃん今日のご飯は~?」

「えっとこの前地球からのレシピで見たドネルケバブって料理です!おっきなお肉からお肉を削いでそれを野菜と一緒にソースで食べるんですよ!」

「へっ~因みに何ソースがあるの?」

「ヨーグルトとチリソースです、はいどうぞ」

 

ドネルケバブを受け取って席に着くと早速ソースをかけようとするが手を伸ばそうとした瞬間、周囲の子供達や食事をしに来ていた雪之丞やヤマギ、デインや三日月までもが此方を見つめていた。

 

「え、えっと何かしら皆お姉さんを見つめちゃって……?」

「姉さんは何ソースを掛けるんですか?」

「えっまだ決めてないけど」

『だったらヨーグルトでしょ!!』『チリソースで決まりだろ!!!』

 

と一斉に声が上がった。どうやらこドネルケバブ、以前エクセレンが居ない時に昼食として出た際に大人気となったものらしいがその際に掛けるソースで派閥が出来てしまったらしい。辛くて元気が出て肉の旨みを引き出し食欲も増進するチリソース派と肉の臭みや油を旨みへと昇華させ後味のさっぱりさと酸っぱさが身体を癒すヨーグルト派が誕生しケバブが出る度に言い争いが生まれていた。

 

「姉さんならヨーグルトですよね、あんな外道(暗黒面)でケバブに対して冒涜に等しいソースなんて掛けませんよね」

「ヤ、ヤマギちゃん顔が怖いわよ……?」

「俺もヨーグルト派です、試す価値はあると思いますよ。特に疲れてる時なんか堪りません」

「デ、デイン君もそうなのね…?」

「うっす」

 

心なしか普段会話する時よりも饒舌になっているデインにやや興味が引かれるエクセレンはヨーグルトも悪くないと思いつつ手を伸ばそうとするがそれを三日月が止めた。

 

ケバブ(これ)ならチリだよ。身体が暖かくなって元気が出るんだ、それにこれならチリが鉄板」

「お、おう三日月はそっち派なのね……」

「そうだぜエクセレン。このピリリとしたのが肉と絶妙にあってな、特に体力を使う俺達に取っちゃ最高の栄養食みたいなもんだぜ」

「お、おやっさんまで……」

「兎に角試してみてよ」

 

大好きな姉に自分の好きな味を試して欲しいと三日月は親切心からチリソースを掛けようとソースを手に取った。だがそれに負けじとヤマギもヨーグルトソースを手に取った。

 

「待ってください三日月、姉さんには白くて優しいヨーグルトです」

「チリ」

「ヨーグルト!!」

「チリ」

「姉さんまで邪道に落とす気ですか!!幾らなんでもそれは見逃せません!!」

「それ味が弱いから強い姉さんには似合わないよ」

 

二つのソースの容器を握り締めたまま少しの間エクセレンの皿の上で繰り広げられる小さな戦争、それらを周囲の子供達も応援するようにしていた。だがそれも終焉の一撃が訪れてしまった、戦争をしているうちに思わず強く握ってしまい二つのソースがケバブの上にダイビングしてしまったのだ。

 

「ああっっ……」

「あっ」

 

ヤマギと三日月は自分達の争いの結果を見た、先程までこんがりと焼かれた肉と新鮮な野菜が乗っていたケバブは赤と白のソースが大量に掛かってもう大変な事になっていた。思わず情けない顔でそれを見つめるが二つのソースが混ざったぐらいじゃ倒れはしないだろうとエクセレンは覚悟を決めて食べたが結局素材の味はせずソースの味が口一杯に広がる結果となった。この後もう一皿用意されたケバブだが再び争いが発生したが

 

「おいお前ら何やってんだ?ケバブっつったらガーリックマヨネーズに決まってんだろ」

 

まさかの第三勢力(オルガ)の登場に更に食堂は賑やかになった。がMSに乗せて欲しいとお願いしに来たハッシュはケバブ論争に巻き込まれてしまいエクセレン共々、延々とケバブのソースに付いて語られるのであった。




シノ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

夜明け前の戦い


なんか俺もすげぇヤマギのヨーグルトお勧めされたな

まあ確かにうめえんだけどさ、そこまでのこだわりっているのか?」



鉄華団にも出来たこんな平和な一幕を書いてみたかった。


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24話

夜明け前の戦い



「い~やぁ~お互いに大変なのに巻き込まれちゃったわねハッシュ君」

「そうっすね……まさか飯一つで2時間も説教染みた話をされるなんて思いもしなかったですよ……」

「2年前まで本部で私以外の大人ってまともなのデクさんしか居なかったからねぇ……それで漸くご飯もまともになってきてそれからかしらね、こんな平和な事で喧嘩までするようになったのは」

 

結局ケバブ論争は互いに味が素晴らしいのだから攻めあう事自体が意味を成さないという結論に至った結果収束へと向かった。その間何度もソースの違うケバブを食べる羽目になったエクセレンとハッシュはお腹がパンパンになったのを少しでも軽くするために本部の周囲を散歩がてら歩きながら話をしていた。

 

「それで私に話って?」

「ええ、俺もMSに乗りたいんです。早く乗せてもらう事は出来ませんか」

「あ~そういう系ね。うーん獅電の空きには余裕もあるし一応可能ではあるんだけど問題なのはハッシュ君の操縦適正がどの位高いのかって事なのよね、だから近々やる訓練でそれを判別して皆には進む道を決めて貰おうと思ってるんだけど」

 

新入団員の錬度も日に日に増してきている鉄華団、それゆえにこれからすべきなのはそんな団員達の進むべき道である。整備班や経営班、管制班、そして実働班などに分ける必要が出てくる訳だが一部の団員を除けばまだまだ適正は出ていない。

 

「俺がMS使えるって分かった場合どの隊に入るんですか?」

「そうね~……多分2番隊かしら、ああでも成績が良いなら遊撃班に入ってもらうって選択肢もありね」

「遊撃班?」

 

鉄華団には実働隊としてシノ率いる一番隊(流星隊)、昭弘率いる二番隊、実質三番隊とも言える遊撃班が存在している。遊撃班は高い実力を持ちながら高い活動範囲を行えるメンバーとMSを配備する予定であり今の所その班員は遊撃隊長である三日月と教官であるエクセレンのみである。

 

「遊撃班……なら今度の訓練で俺が良い成績ならそこに入るんですか?」

「まあそれもありってだけよ?強制はしないしいやだったら他の所に異動する許可だって出すし」

「いえ。俺は意地でも遊撃班に入らせていただきます」

 

強気に言葉を口にしながらもやや軽くなってきた腹を持ち上げながらハッシュは頭を下げて宿舎へと向かっていく。やる気があるのは結構と思いつつも遊撃班の事をもっと確りと話せば良かったとやや後悔するエクセレン。遊撃班はエース級の人間が入り相手に対して大きな打撃や全体の補助など役割も多い上に重い、そして何より危険性が高い。それを分かってくれてるなら良いのだが……。

 

「はぁ……なんだか海賊退治の前に厄介な事になって来たわね」

 

 

鉄華団へと襲撃を行ってきた夜明けの地平線団という海賊。地球火星間で派手に暴れている海賊であり構成員3000人、10隻にも及ぶ艦とそれに比例するような数のMSを所有する海賊。そんな奴らに目を付けられ襲撃された鉄華団。だが無視する事も出来ず如何するべきかとビスケットとオルガは話し合いを続けていた所、地球のギャラルホルンから直接の依頼が舞い込んできた。それは夜明けの地平線団の討伐という物だった。

 

流石のビスケットも驚いたがギャラルホルンからしても夜明けの地平線団というのはかなり厄介な存在であり早く処理出来るとしたら助かるという話らしい。その話を持ってきたモンターク、いやマクギリス・ファリドの依頼をオルガは受ける事を迷ったが鉄華団が既に狙われているという事実とギャラルホルンからも戦力を出して貰えるという事を総合しビスケットと共に審議を繰り返した結果海賊討伐の依頼を受ける事に決定した。

 

「ギャラルホルンと共闘か……なんだか変な気分ね」

「そういうなよ姉さん、俺達としても戦力を増やした状態でぶつかれる。俺達だけで戦うよりずっと勝算もある」

「まあそうだけどね」

 

既に宇宙へと上がった鉄華団はイサリビと新しく鉄華団の船となったホタルビと共に今まで避けてきた筈のギャラルホルンが宇宙航行に使用する灯台とも言えるアリアドネを堂々と使いながら此方に向かってきているギャラルホルンの艦艇との合流地点へと向かっていた。本来はもう一隻艦艇を所有している鉄華団だがそれは完全な輸送船で戦闘が目的である今回は除外される事となった。

 

「それにしても予定だと5隻って話でしょ?なのに3隻って……」

「どうやら向こうにも事情があったらしい、アリアンロッドとのいざこざがあって2隻が遅れるらしい。それでも最初の予定だと1隻が先行する予定だったらしいが向こうが努力してくださった結果らしい」

「努力、ね……」

 

簡単な言葉の裏にある地球の策謀と渦に思わず毒づくように溜息を吐いた。出来る事ならばギャラルホルンとなんて手を組みたくはなかった、2年前は普通に銃を向けていた相手だし此方も向こうも互いに向ける感情は決して良い物ではない。今回の共闘とて皆は渋々納得しているに近い、出来るだけ借りは作らないように戦った方がいいのかもしれない。

 

「さてとそろそろヴァイスちゃんの所にでも行きますかね……」

「頼んますぜ、遊撃班さんよ」

「二人しか居ないのに遊撃班って可笑しくないかしら?」

「良く言うぜ一人で最低中隊分の戦力になるくせによ」

 

軽口を飛ばしあいつつブリッジから格納ドックへと向かって行く。そして展望ブロックを通る際に見えたギャラルホルンの船、ハーフビーク級戦艦が3隻。ある意味自分が行った予想通りの結果とも言える、そんな事を振り切り格納ブロックの愛機のコクピットへと入っていく。

 

エクセレンが居なくなってから僅か数分後、新たなエイハブウェーブの反応を各艦が捉えた。それに一番機敏に反応したギャラルホルン、流石建前上世界を守る組織。だがギャラルホルンへ鉄華団は素早く連絡を入れそれは援軍だと知らせる。その船はタービンズのハンマーヘッドにやや似ている強襲装甲艦、そしてその船からホタルビのオルガに対して連絡が入った。

 

『遅くなって申し訳ない、途中海賊に遭遇し始末に手間取った』

「こっちとしては作戦開始前に合流して貰ったんだから無問題だ、鉄華団団長オルガ・イツカとして今回の援軍感謝しますぜ」

『礼など必要ない、俺としても鉄華団には世話になっているからな』

 

モニターに映りこんでいる男は静かに此方を見つめながらも強い意志を投げ掛けている、今回の為というよりもこれからの為に姉が手配した戦力なのだから頼りにさせてもらおう。

 

「頼りにさせてもらうぜ。アサルトウルフ代表、キョウスケ・ナンブさんよ」

『期待に応えられるように努力をしよう』




オルガ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

新たな引き金


そういえば気にした事なかったが姉さんって幾つなんだ?

確か昔聞いた時は二十歳だって言ったよな……。

今度聞きなおすか、書類に必要だから教えてくれって」

次回戦闘からスタート
そして遂に登場我らがウルフ。がっかりになるかやったぜになるかは神のみぞ知る。
私?私は知らんよ(オイ)。


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25話

新たな引き金





「オルガ、アサルトウルフって一体どんなとこだ?」

「俺もそこまで詳しくはねえけどテイワズの中でも有数の武闘派って聞いたな。俺よりもメリビットさんに聞いた方が良いんじゃねえか?」

 

通信を終了させつつ真横に接近して来たイサリビよりも一回り巨大な艦に思わずユージンが息を飲んだ。先程までは距離があったせいでおもちゃのように見えていたものも此処まで接近すると艦に描かれた狼のエンブレムが現実味を帯びてくる。

 

「相対速度、アサルトウルフ所有艦アセナとの合わせ完了しました」

「どもっす。んでメリビットさんアサルトウルフって知ってます?」

「ええ勿論、鉄華団に来るまではテイワズで働いてましたし。良く知ってますよ」

 

メリビットの口からキョウスケ・ナンブという男という男について語られていく。アサルトウルフ、テイワズの直系団体に属しておりテイワズの中でも有数の武闘派組織で彼らだけで敵対組織の4つほど壊滅させているというほどの腕利き集団。主に合法的なギャンブルや傭兵に近い仕事を生業にしている。特に有名なのがその代表であるキョウスケ・ナンブという男。

マクマードから直接スカウトされ親子の盃を交わした人物であると同時に凄腕のパイロット、以前までは専用にカスタマイズされた百錬を使用しているが重装甲に高出力のブースターを装備して相手の迎撃を無理矢理突破して戦艦に風穴を開けた、正面から迫ってきたMSを正面から潰したなどなどそのような噂が耐えない。

 

「おいおいなんだよそれ……おっかねぇな」

「最近では試作型のゲシュペンストを購入して自分仕様に改造して愛機として使っているらしいです。でも噂ではエイハブリアクターの慣性制御があってもかなりのGが掛かるとか……」

「なんつぅか……俺らも人の事言えねぇかもしれないがその機体も如何かしてんな」

 

伝説的な活躍をしたガンダム・フレームにMSとしては破格過ぎる速度と操縦者の能力によって異常な狙撃能力を発揮するヴァイス。これらの戦力を抱えている鉄華団としては何かを言える立場ではないがその愛機とやらはヴァイスかそれ以上に狂った機体なのだなとオルガは思った。

 

「そう言えば……その愛機を作る際にはエクセレンさんの手も借りたとか」

「ああそれは俺も知ってる。アサルトウルフに連絡が取れたのも姉さんのお陰だからな」

「フ~ン……なんか気にくわねえな」

 

一人だけムスッとしたユージンは前へと向き直りつつ胸の中で蠢く感情を抑えつける事に専念した。そしてギャラルホルンからの情報通りに進めていくとその情報にあったエイハブ・ウェーブの反応を感知、遂に海賊の艦隊を捉える事に成功した。

 

「一応情報通りか……偵察隊からの報告は?」

『オイオイ冗談きついぞ!!』

「如何したシノ!?」

 

通信が繋がっているシノから零れた言葉に全員が驚きを隠せなかった、それはシノも同様であり提供された情報では合流前の艦艇3隻を叩くという物だったのに相手は10隻。夜明けの地平線団の全艦隊が勢ぞろいしていたのだ、だがレーダー上では3隻では確認で来ていないのに如何いう事だとオルガが声を荒げる中、レーダーには新たな艦の反応が次々と出現していた。

 

「そんな……相手は10隻!?」

「まさかあいつら……!!」

 

シノの流星号から送られてきた映像を見てみるとそこには3隻の艦が他の艦を牽引しながら此方に迫っているのが確認出来た。何とも上手い戦法だとオルガは舌打ちした、相手へ自分達の戦力差を間違えさせるという手法。稼動しているリアクターの反応は他の艦を牽引している3隻のみ、これなら確かにレーダーに反映される数を抑える事が出来る。

 

『MS隊、出撃だ!』

「待ってました!さあ行くわよ三日月!」

『うん』

 

既に待機していたエクセレンと三日月は出撃準備を完了させておリカタパルトの展開を待っていた。そして敵が此方へと向かって来ながらMSを出しているのを確認すると出撃の合図が出た。

 

『姉さんに三日月、あいつらは俺達を包囲する気らしい。それを正面突破してそこから叩く!』

「相変わらず強引な手ね。でもそういうの好きよ、んじゃ三日月と私でMS隊を引き付けておくわね」

『分かった。兎に角目立つように暴れれば良いんでしょ』

「大正解!んじゃエクセレン・ブロウニング、ヴァイスちゃん行くわよ~!!」

『三日月・オーガス、ガンダム・バルバトス出るよ』

 

イサリビから出撃して行く鉄華団の最高戦力とも言える二機のMS、先陣を切るように突撃して行くバルバトスとヴァイスは同時に射撃を開始し敵の射程外から次々と弾丸を命中させていき相手のライフルなどを潰していく。

 

「はいは~い大サービスで撃ちまくっちゃうわよ~!!」

『んじゃ俺行って来るから』

「行ってらっしゃいね~」

 

片手間に投げキッスをモニターの三日月に飛ばしながらヴァイスは縦横無尽に回転や常識外れな機動を見せながら敵の頭部や間接部へとビームや銃弾を叩きこんでいく。その援護射撃を受けながらソードメイスを握り締めたバルバトスが一気に距離を詰めて行くと胸部などを集中的に狙って得物を振り回す。カメラや間接を撃ち抜かれて動きの鈍るそれを一気に抉るような一撃が悪魔によって加えられていく。

 

『こ、これが噂に聞く悪魔って奴かよ!?』

『か、数では此方が圧倒してるんだ距離をとりつつ……ぐわぁ!!!』

 

確かにバルバトスは接近主体のMS、距離をとろうとするのは悪い選択肢ではないのだがその援護を行っている堕天使の存在を忘れてはいけない。元々が遠距離からの援護狙撃を行う機体なので距離をとればヴァイスが襲い掛かり、距離を詰めようとすればバルバトスのメイスで命が抉られるという見事な関係が出来上がっていた。その影響か夜明けの地平線団のMSの勢いは大いに削がれその隙に鉄華団は艦の守りを固めるMSを次々と出撃させていく。

 

『オオオオッラァァァァッッ!!!!!』

 

ホタルビから出撃した一機のMSが雄たけびを上げながら手にしたライフルを連射しながらなんとか艦に取り付こうとしているMSを薙ぎ払っていく。ナパーム弾を使用しているからかそれを受けたMSのナノラミネートアーマーは剥がされてしまい獅電や流星号などの射撃であっさりと落とされていく。その連携の核をなしているのがやや黒っぽくなった強靭な4本腕のMS、改修された悪魔『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』であった。

 

『どんどん行くぞぉぉっっ!!!』

 

バルバトスと同じくテイワズによって改修されたグシオンは新型『TD』が搭載され性能が向上した事に加えてヴァイスのオクスタンランチャーを応用して開発されたライフル、『ローストランチャー』が装備されている。ナパーム弾と通常弾頭を打ち分ける事が出来るライフルは高い効果を発揮しながら相手を落としていく。そんな嵐のようなグシオンの弾幕を掻い潜るかのように突破して来たガルム・ロディが迫ってきた。

 

「ちっ!なんだっ!?」

 

突然のアラート、後方から凄まじい速度で何かが突っ込んできた。それは目の前まで迫っていたガルムに突進をかますとそのまま胴体を真っ二つにするかのように破壊すると更なる前線へと突っ込んで行った。その突進力と速度にヴァイスを連想した昭弘は当然だがIFFには味方と表示されていた。そしてそこにはアサルトウルフのエンブレムが刻まれていた。

 

「あれが、まさか話に聞いてた……」

 

その機体の残痕を追うようにカメラを動かすとあっという間にMSの防衛陣を突破すると左舷の一艦へと突撃していった。無謀とも言える行動だが艦の迎撃さえも無駄と吐き捨てるかのように突撃したそれは莫大な推力によって生じた運動エネルギーをそのまま破壊力に転換するように腕を振るうと艦橋を破壊してしまった。

 

『おいおい何が起きてんだ!?なんか突っ込んだと思ったら相手の一隻沈んだぞ!?』

「なんかシノ君の流星号よりも流星染みてたわね」

『んなぁっ!?』

 

驚きと心外と言いたげな表情を浮かべながらも敵をプラズマ・ステークで落としながらも突撃から戻ってきたそれを見つめた。先程敵艦に突っ込んだというのにもうこちら側に戻ってきている、とんでもない推進力だ。

 

『すまない単機突撃をしてしまった。だが此方としてはそれだけ力になれるという事だ』

「その為にこんなアピールゥ?無茶するわねキョウスケ」

『ただ、撃ち貫くのみ。それが俺に出来る最大限の事だ』

 

それを形容するならば赤く重装甲化させたゲシュペンストだろう。まず目を引くのは肥大化している両肩、輸送用のコンテナをそのまま肩に内蔵したと言われても違和感がないほどの大きさ。機体に複数装備されている大型のバーニア、それがあの化け物のような突進力を実現させているのだろう。そしてその突進力を余さず破壊力に転換出来る腕のリボルバー式の杭打ち機、あれが戦艦の装甲ごと艦橋を破壊したのだ。試作型のゲシュペンストをキョウスケが自分に合うように改造した結果誕生した機体、『アルトアイゼン』の力に鉄華団は驚いていた。

 

「だけど今がチャンスよ!!今のアホみたいな突進でお相手さん浮き足立ってるわよ」

『まあそりゃそうだろうな……まさかMSが戦艦ぶっ壊すとか普通思わねぇよ、しかも単機で一撃で』

『アンタ凄いね。ねえ俺と一緒に突っ込まない?』

『了解した、エクセレン援護を頼む』

「はいは~いお任せよん♪」

『よし鉄華団及びギャラルホルン、そしてアサルトウルフの全員!今の一撃であいつら驚いてやがる!いまのうちに畳んじまうぞ!!!』

 

オルガの号令と共に大攻勢が開始された。異常な力を見せ付けたアルトと既に名が知られ恐れられているバルバトスとヴァイス、その影響か海賊達は最早まともに連携すら取れていなかった。

 

「邪魔」

「どんな装甲だろうと、撃ち貫くのみ!!」

 

背後からエクセレンの援護を受けながら前進して行く二機は次々と敵を薙ぎ払っていく。メイスでコクピットを潰し、装甲の隙間から腕を差込みコクピット内部を破壊したりと正に悪魔的な活躍をするバルバトス。圧倒的な突進力を破壊力に変えMSを粉砕するかのような一撃で相手を穿つアルト。一騎当千の活躍をしていく二機を支えるヴァイス、それらに触発されるように獅電や流星号、リベイクの動きも格段に良くなっていく。結果として夜明けの地平線団は構成艦3隻が撃沈させられ、MSの大半を沈められるか鹵獲され上にボスまで完全に捕縛されこの世界から消滅する事となった。

 

「さあ海賊ども、このイオク・クジャンが正義の鉄槌を……あれっ?」

『はぁ……イオク様が妨害にまんまと嵌ったせいで完全に出遅れたじゃないですか』

「わ、私のせいか!?」

『それ以外に何があると?ラスタル様には確りと報告させていただきますので』

「ちょっ!?」

 

月外縁軌道統合艦隊の部隊の指揮官であるイオク・クジャンがMSで出撃しながら声明を出すが既に戦闘は終了し後始末をしている最中であった。その影響でアリアンロッドは赤っ恥をかく事になった上にイオクの評判が火星と地球で下がったとか。

 

「ねえ狼の人、姉さんとはどんな関係なの」

「どんなか……難しいな」

 

この後、打ち上げとして鉄華団とアサルトウルフはパーティをするのだがそこでエクセレンがキョウスケを呼び捨てで親しげに呼んだりしたので感謝の念と嫉妬の念が鉄華団の団員内に渦巻く事となった。

 

「すまねえなキョウスケさん。姉さんは俺達鉄華団にとってかけがえのない存在でな」

「気にしていない。エクセレンが慕われる理由は俺も理解している」

「そうか。だが姉さんに手出したら許さねぇからな、その時は鉄華団全員が相手になるからな」

「……肝に銘じておこう」




アトラ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

狼と狼


最近三日月機嫌良いみたいでよく笑ってる。

うんやっぱり積極的に行かないと駄目だよね!!

まずは……エクセレンさんみたいに刺激的な事をした方がいいのかな?」


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26話

狼と狼




「そうそれじゃあ良い感じに事は運んだのね?」

『ああ、こちらとしても問題が多く発生したが何とかする事が出来た、だがそのお陰かここ数週間まともに寝ていなくてな』

 

火星の本部へと齎された通信、それを受け取ったエクセレンは地球からのものであると気付くと嬉しそうに自室で開いた。通信相手は鉄華団地球支部支部長であるクランクであった。現在アーブラウの防衛軍設立の為に軍事顧問として動いている鉄華団の代表として毎日奔走しているとの事。途中テイワズから出向して来たラディーチェの裏切りや現地での少年達との確執などもあったがアインが事前に察知しそれを処理したり緩衝材となってそれらを上手く防ぐ事に成功し無事に地球支部の仕事を完遂する事が出来たとの事。

 

「それにしてもラディーチェって人とんだ食わせ者だったって事ね、お仕置きしたんでしょ?」

『当然だ。横領に未遂だが機密情報の横流しなどもあったからな、現地の防衛軍に処理を任せたさ。悪を許さぬ皆だから心配いらんだろう、エクセレンが回してくれた人の情報のお陰もあったね』

「私は何もしてないと思うけどね~」

 

地球での重要な仕事をやり遂げたのはあくまで地球支部の皆の力であり自分はその手助けをしただけだ。本当に功労されるべきはクランクやアイン達なのだ。

 

『それでは此方はもう切らせて貰う、まだまだ忙しくてな。やれやれゆっくり寝られそうになくて適わない』

「それなのに嬉しそうじゃない?」

『フッ』

 

連絡を切ると椅子に背中を預けながら天井を見つめる。これで地球支部も御役御免、これからは火星での仕事が中心になってくる、夜明けの地平線団を討伐した事でテイワズから手柄として大きな物が与えられた。クリュセのハーフメタル採掘場の管理採掘を預けるという話、これによって更なる財源の確保や仕事の確保まで調達出来た。いよいよ鉄華団の皆がMSに乗って戦わなくても無事に生活出来るビジョンが見えてきた、そんな事に嬉しそうにしつつもある番号を入力すると通信回線を開いた。

 

「どうも。またお世話になっちゃったわね、夜明けの地平線団での事とか地球での事とかさ」

『気にするな、俺とてお前には世話になっている』

「お互い様って物よ、それと今はなんて呼べば良いのかしらね?」

『ヴィダール、そう呼んでくれ』

 

通信の先から響いて来るややエコーの掛かった声に軽く笑う、矢張り慣れない所がある。ヴィダールと名乗る男と思われる通信相手、エクセレンと何処で繋がっているのかは不明だが彼女は彼を通じてアリアンロッド艦隊の情報や妨害などを依頼してそれを実行して貰った経緯があり間接的だが鉄華団の夜明けの地平線団の討伐に貢献して貰っているととも言える存在である。

 

「ヴィダールねぇ……随分趣味的な名前ね?さながらあれはオーディンかフェンリルかしら?」

『そんな尊厳的な物ではないと思うがな、それとそちらは如何だ?此方には早速クジャン公の赤っ恥の件が届いているぞ』

「ああ終わってるのに正義の鉄槌云々言ってたお坊ちゃんね?」

 

ぼやきのような独り言を聞いたヴィダールは深い溜息のようなものを吐きだした。

 

「本当にあれってアリアンロッドの指揮官なの?それにしては随分と無能な香りがするんだけど」

『むぅ……ハッキリ言ってそうではないな。今のクジャン公、イオク・クジャンの評価が高いのは前クジャン公が余りにも勇猛且つ有能すぎる方だったからだ。それゆえにその嫡子であるクジャン公にもそんな能力があるのではないかという期待があるから、と言えば満足かな。次いで言うとMSの腕前はハッキリ言って糞だ。あれなら訓練校を卒業した新兵の方がよっぽどいい働きをする』

「……」

『総評すると経験もなく未熟であるに加えてMSの操縦がヘタクソである自覚がなく、自分は凄腕と思い込んいておまけに無駄に正義感が強く、さらにお偉いさんという事だな』

 

ヴィダールの歯に衣着せぬ発言に思わず絶句してしまった。彼自身虚言は言わずに率直な言葉を言う事を好んでいる事からそれが事実であると悟るが事実だとしたら相当な無能という事になるような気がする。というよりも問題児にも程があるだろう、自分の腕前を如何やったらそんな風に勘違い出来るのだろうか。彼の周囲にはそれほどまでにイオクの手柄に見せ掛けられる技術を持った者がいるのかそれともギャラルホルンお得意の情報操作なのか。

 

「そう言えば提供したコンピュータは如何?」

『漸く俺の癖や挙動の学習が終了した所だ。まもなく実戦だ、そのための調整でこれからもまた掛かりきりだ。すまないが今日はこの辺りで、また連絡してくれ』

「ええそれじゃあね」

 

通信を切ると同時に室内の呼び出しようのスピーカーからオルガの声が漏れてきた。団長室に来て欲しいとの事だ、また何か面倒な事でも起きたのだろうか。最近草臥れて来たから新調した鉄華団のジャケットを羽織ると団長室へと気だるげそうに歩き出して行く。本来そんな歩き方などしてはいけないのだろうかやや疲れているのかもしれない。そんな疲れを隠しながら辿り着いた団長室にはオルガやビスケットに加えてキョウスケの姿まであった。

 

「あらキョウスケまで居たのね。如何しちゃったの?」

「それを深めた話をしようと思ってんだ。実はクリュセのハーフメタル採掘場の管理採掘を鉄華団でする事になったんだが俺達はそれに関してノウハウなんかは知らないからな」

「そこで今回の採掘場はアサルトウルフとの共同経営にする事になったんですよ。その打ち合わせをする為にキョウスケさんは此方に」

「そういう事だ」

「あらら、歳星に加えて火星でも良く顔を合わせるようになるわね」

 

やや嬉しそうな表情を浮かべるエクセレンに比べて冷めているような表情だが薄い笑みを浮かべているキョウスケにオルガは何処か複雑そうな思いを浮き彫りにしながらそんな思いを仕舞い込みながら咳払いをした。

 

「鉄華団本部の空いてるスペースをアサルトウルフに使ってもらう事になったからその際の注意事項とか連携に関する事とかもあるから姉さんには会議には参加して貰う、加えてこいつもだ」

 

書類を彼女へと回す、それを覗きこんで見るとそこには様々なデータと共に写真が貼り付けられていた。ハーフメタル採掘場と隣接するように置かれているのでてっきり現場の写真かと思っていたが合っているようで違った。そこに映り込んでいたのは地面から顔を覗かせながら何かを、抑え付けているかのように埋まっているMSの姿だった。しかもそれは鉄華団としては非常に見覚えがある物だった。

 

「これってガンダム・フレームじゃない……!?こんなお宝が埋まってたなんて凄い大当たりじゃない!?」

「ああんでシノがよ、如何しても俺が乗りたいって聞かねぇんだよ。まああいつも一番隊の隊長だから相応しいって言えば相応しいんだけどよ」

「シノってば我先にゲシュペンストを欲しがってたのにね」

 

困ったような表情を浮かべるビスケットに肩を竦めるエクセレン、まあ幾ら新型と言ってもゲシュペンストは所詮量産モデルの機体。それと幻のガンダム・フレームを比べるのは可笑しい事だろう。

 

「まあいいわ。隊長機にガンダムっていうのは二番隊と同じだしね、まあまずは歳星へ持っていく事になるでしょうね」

「ああ頼むぜ。それとよ、もう一つMSにしてはでか過ぎる物が出て来てよ」

「でか過ぎるもの?」

「ああ。ついでにそれの近くにあったMWモドキも一緒に歳星に持って行って調べてもらってくれ」

「分かった」

 

 

 

――……。―――……。

 

―――……?。……!……?。

 

――――……、……??。

 

―――――、………




ビスケット「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

目指すべき道


クッキーとクラッカに太ってる方が俺らしくて良いって言われたんだけど

その方がいいのかな?」


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27話

目指すべき道



鉄華団本部の団長室、そこへと繋げられた専用回線。誰かと思いながら繋げた結果相手はモンタークことマクギリスであった。そんな彼からは改めて夜明けの地平線団討伐の礼やアリアンロッドのイオクの恥をかかせたくれた事に関する事であった。酷く愉快そうにしながらも艦隊の一部の艦艇にダメージが入っているとマクギリスからしたら喜ばしい事が続いている。そんな声を聞きながらオルガは何処か興味がなさそうに耳を傾けている。だがオルガのさっさと本題に入れという言葉にマクギリスは言葉を切った。

 

『例の採掘場からの情報だが……これは、事実なのか?』

「ああ事実だが……一応周辺はアンタの言う通りに立ち入り禁止にしてる」

『兎も角私も火星に向かっている最中だ、警戒は厳にしてくれ』

 

フラウロスと共に発見されたMSよりも巨大な何か、それを詳しく調べる事も余り出来ずにテイワズのデータベースにも何もなく結局地球で最も情報があるギャラルホルンのマクギリスに問い合わせてみた所その正体が明らかになった。地球で行われた忌まわしき記憶、厄祭戦の発端となった「人間を殺すこと」を基本プロトコルとして開発された大型機動兵器でありた対人殺戮兵器、モビルアーマー。人類の総人口の4分の1を殺し尽くし、地球の衛星である月を無残な姿にした戦の原因たる存在。

 

「俺もアンタから送った本を読んでみたがあれマジなのか……?」

『事実だよ。それが地球と火星間で行われたのもね』

「ぞっとしねぇぜ……」

 

機械の自動化が人類にとって豊かさの象徴となっていた、だが機械技術の発達の結果、やがて各勢力は戦争の自動化すら積極的に推進していった過程で効率化を突き進めていく中で開発されたMAは過剰な殺戮兵器として進化を遂げ人類の手には余る存在として人類を脅かす存在となった。その対抗策として開発されたのがMSと阿頼耶識システムだと。

 

『それもいいがオルガ・イツカ、私と手を組むという話は考えてくれたかな?』

「その話か」

 

突然切り替わった話に良いのかと思いながらも話を合わせる。夜明けの地平線団討伐では一時的とはいえギャラルホルンと手を組んだ事となった、そして2年前クーデリアを送り届けるという仕事の際には協力を仰いだ相手がマクギリス。彼はその後もギャラルホルンの改革の為にと鉄華団への接触と勧誘じみた事を続けていた。オルガの性格上組んだならば通す筋、それを利用しようとするかのように。そして今回マクギリスが撒こうとした餌は、ギャラルホルン火星支部の権限を鉄華団へと委譲するという物だった。実質それによってえられるのは火星の支配権、火星の王の椅子であった。

 

「火星の王、響きは悪くねえ。鉄華団の目指す場所、ある意味そこかもしれないな」

『ならば―――』

「だが断る」

『っ!』

 

キッパリと強く言葉を口にしたオルガにマクギリスは一瞬声を吐息を震わせた。

 

「確かに最短で駆け上がって成り上がる道だ、昔の俺ならそれを飲んだ。だが今の俺は違う」

『………』

「今の俺は多くの家族を背負ってる、その家族を守る為に養う為に鉄華団をやってる。その為に火星の王になる必要なんてねえし最短だとしてもその先が崖だったら如何する、意味がないんだよ」

『そうか……分かった、だが気が変わったら何時でも言ってくれ。では』

 

そう言いつつ何処か落胆したような雰囲気のマクギリスの回線は切れた。通信を終えるとジャケットを脱ぎ捨てるとベットに横たわった、最近如何にも忙しかったからかまともに眠れていない。今日ぐらいは確りと眠ろうと思いながら火星の王という事に考える。僅かに惜しかったかもと思ったが直ぐに振り払う、自分が大好きな鉄華団をそんな物の為に危険に晒すなんて有り得ない。そう思うと心が決まった、これでいいのだと。そう思うと睡魔が襲いオルガは久方ぶりの睡眠を楽しむのであった。

 

 

「やれやれ漸く帰って来れた~!!」

 

歳星から帰還したエクセレンは本部へと脚を踏み入れると同時に身体を伸ばした、採掘場で発見したガンダム・フラウロスの改修とそのテスラ・ドライブの調整の為に赴いたが満足出来る仕事が出来た。しかも『TD』のお陰でもあって実質上オミットされていたフラウロスの機能の修復まで出来たので万々歳なのである。

 

「おうエクセ姉さん!俺のガンダム戻ってきたって本当か!?」

「ええ本当よ。早速テストでもする?」

「おう勿論だぜ!!」

「了解」

 

早速トレーラーを使って搬入したコンテナを開けて見る、そこには雄雄しくも眩しい姿をした新たな悪魔の姿があった。両肩から伸びている砲身が特徴的なガンダム・フラウロス、シノ流に言えば新たな流星号となるのだろうか。発見された時は銀に近い白でカラーリングされていたらしいがゲシュペンストと同じく目立つピンク色にリペイントされている、しかもシノの自腹で。

 

『うおおおおおっっ!!こいつがガンダム・フレームかぁぁぁっ!!!!!』

「うわぁ~すっごいはしゃいでる……」

 

一旦パイロットスーツへと着替えてヴァイスに搭乗し地上へと出てみるとそこには模擬戦場という名目の荒野で縦横無尽に駆け回っているフラウロスの姿があった。ハイキックに裏拳、挙句の果てには背中に砲撃戦を行う為の砲身があるのにも拘らずバク転まで決めている。凄いというべきか余りにも無邪気すぎるというのか。

 

「あ~シノ君、乗り心地は如何?」

『おう最高だぜ!!』

「そりゃ良かったわね、それじゃあ特殊機能の確認と行こうかしら」

『特殊機能?』

 

そう、テイワズにて改修されガンダム用に開発された『TD』を搭載した事によって生まれたある意味フラウロスの真の姿とも言うべき物。

 

「そこら辺になんかスイッチ無い?なんかわんちゃんっぽいの」

『何だよそれ?え~っと……こいつか?』

 

ふわふわっとした説明に思わず呆れつつもコクピット内を見回すシノはそれと思わしきスイッチを見つけて押してみる。するとフラウロスは瞳を輝かせ始める、自動的に前傾姿勢を取り始めるとそのままガントレットを展開し始めた。各部の装甲が動き始めていく、シノの驚きの声が通信越しに聞こえる中フラウロスは四足獣型への変形を行った。

 

『うおおおおおっっ何だこりゃああああ!!?』

「それがフラウロスの機能の一つよ。そのガンダムは変形機構を持っているんだけどその形態は砲撃モードを持ってるの、そしてもう一つ」

『まだあんの?!』

「高機動形態ってなってるわね。でもそれはオミットに近い状態だったのをテイワズの整備長が復活させたのよ」

 

ガンダム・フラウロスは砲撃戦仕様の重火力MS、しかしナノラミネートアーマーの性質故に射撃が決定打となりにくく近接武器による接近戦が推奨されるがそれでもツインリアクターの仕様上砲撃でも圧倒的な破壊力を発揮する事が可能となっている。この変形機能もリアクターの出力を余さず砲撃に注ぎ込む為の物なのだが、整備長はフラウロス内に残されている高機動形態のデータを発見した。しかしそれは実質的にオミットされているに近い状態で放置されていたので折角なので『TD』を搭載すると共に復活させたとの事。

フラウロスは人型の汎用形態で様々な状況に対応しつつ、高機動形態で素早く動きそこから砲撃形態へとなるというのが本来の運用方法らしい。

 

「さてと今度は『TD』の飛行テストよ、さあ行くわよ!」

『おう!!』

 

ヴァイスと共に飛び上がるフラウロス、ヴァイスの速度ほどではないが矢張り凄い出力で飛び上がった。流石はツインリアクターのガンダム・フレームだけの事はある。それを褒めようとした時、エクセレンは凄まじい吐き気と背筋が凍りつくような気持ち悪さに襲われた。

 

「っっっっ!!!!???な、何これ………!!?」

『ね、姉さん!?お、おい如何したんだよ!!?』

 

気分が悪い、眩暈がする、動悸が止まらない……今まで感じた事も無いような物が一斉に押し寄せてきた。自分を脅かすような何かが目覚めたようが気がした。自然をヴァイスの向きを変えるとそこには……火星の空を切り裂く光が走っていた。

 

『お、オイオイ何だよあの光!?』

「そん、な……目覚め、た……?!」

 

 

―――スリープモード解除、状況把握。状況イエロー、プルーマ作動。戦闘開始、殺戮開始、欠陥品抹消工程再始動。モビルアーマー『ハシュマル・ゲミュート』行動、再開―――。

 

穢れた翼が、目覚めてしまった。




ヤマギ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

目覚めた静寂なる翼


姉さんに相談したら貰ったこの食事券、シノ喜んでくれるかな

そうだと、いいな。」


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28話

目覚めた静寂なる翼


たわけ、やらかす。


エクセレンが空を切り裂く光を見た時、クリュセの採掘場ではモビルアーマーの存在確認をする為に火星へとやってきたマクギリスを案内するオルガや三日月達がいた。そしてギャラルホルン側の人間としてモビルアーマーの恐ろしさを語りながらその姿を確認しこれを如何するかという議論に入った所だった。火星の空に現れた鉄の塊は空を見上げた三日月に何かを与えた。空から降りて来るそれはMSが大気圏を突破する際に使用する大型のグライダーであった。

 

『ふっ動くな、マクギリス・ファリド!!』

「この声はイオク・クジャンか、なんという事を……まさかMSで直接来るとは……」

 

それから降り立ったのはグレイズとその発展型と思われる新型のMS、レギンレイズと呼ばれる物であった。そしてそのレギンレイズから聞こえる声の主はエクセレンがヴィダールから聞き及んだ酷評塗れで能力に乏しい愚か者、イオク・クジャンであった。

 

『貴様がMAを倒して七星勲章を手にし、セブンスターズ主席の座を狙っている事は分かっている!!ギャラルホルン全軍で対処すべきMAを隠蔽しファリド家のみで対処しようとしている事こそ何よりの証!!』

「どうやら誤解を招いたようだな……。だとしても貴公がMSを持ち出しこうしている事の危険性がどれほどの事が理解しているのだろうな」

『私は貴様の戯言など聞かん!!さあ貴様を拘束させてもらうぞ!!』

 

一歩、レギンレイズが踏み出すとマクギリスが必死に声を上げて止まれという。だがそれを自分を恐れていると解釈した戯け者は愉悦に浸るような表情で脚を進める。この男、イオクはギャラルホルンなら知っている筈のMAの事に関しての知識が非常に乏しい。ギャラルホルンの兵士なら常識である「モビルアーマーが厄祭戦の原因になった」という歴史を知っていなかった。それゆえかその危険性すら分からないまま近づこうとした時、静かな駆動音が聞こえた。

 

「っ!」

 

それに気付くは動物の言葉を理解することが出来るなどの能力を有する悪魔の名を冠するガンダムのパイロット、三日月・オーガス。静かな駆動音が徐々に高まっていくのを身体が本能が感じ取っていた。眠りに付き、300年という時を経て、それに命が灯ってしまった瞬間を三日月だけが理解出来ていた。同時にそれの異常性すら理解していた。それと同時に埋まっている筈のMAから煙が立ちこめた。それは地面を抉るように広がっていき徐々に大きくなっていきながら赤い土を撒き上げた。

 

「なっ!!?」

『へぇっ!?』

 

まるで長い時の経て目覚めた厄祭が目覚めの声を上げているかのようだった。声にすら聞こえるような音は空を裂きながらその目覚めを祝福する福音となった。身体を持ち上げ、再開するかのようにMSを発見するとそのまま跳躍しイオク達へと襲い掛かった。純白の機体に根ざすように広がる植物のようなライン、それは標的を見つけたと歓喜するようにイオク達へと自らの刃と爪を差し向ける。

 

 

「ハァハァ……ゲホゲホ……」

「だ、大丈夫かよ姉さん!?突然、具合悪いなら医務室付き合うぜ?」

「大丈夫、よシノ君……」

 

突如として体調を崩しヴァイスから降りたエクセレンに肩を貸すシノ、何が起きたのか分からないがオルガから連絡が入ってきた事が本部に知らされた。MAが目を覚まし最寄の人口密集地、クリュセへと向かっているのでその防衛線を鉄華団とマクギリスとその副官で敷くという事になった。その為に鉄華団の動かせるだけの全てのMSを総動員するという事であった。

 

「私も直ぐに行くから先にいって頂戴!……MAなんて……鉄華団に掛かれば、お茶の子さいさいよ……!」

「あ、ああそうだな!!四代目流星号の初陣、派手に決めてやるぜ!!」

 

駆け出してフラウロス改め四代目流星号へと乗り込んだシノは素早く機体を起動させると高機動形態へと変形させ防衛ポイントへと急いでいった。それを見送るエクセレンは必死に身体を起こしヴァイスへと脚を踏み出すが如何にも気分が悪すぎる、だがそれでも行かなければならない。鉄華団の矛となり盾となるという決意の為に一歩踏み出すとキョウスケが肩を掴んだ。

 

「そんな状態で何処に行く気だ。残れ」

「嫌よ。私は行くわ、あの子達だけに戦わせるなんて絶対に嫌よ」

「不完全な状態で出られると余計にあいつ等に負担をかけるぞ」

 

冷静に簡潔に事実を突きつけてくるキョウスケにエクセレンは唇を噛んだ、確かにあの光を見てから身体が何か可笑しいのを感じる。精神が何かに襲われるような不快感と圧迫されるような感覚がある。ハッキリ言って今の状態のエクセレンは足手まといになる可能性が非常に高い。だからキョウスケは止める、代わりに自分が出るからお前は大人しくしていろと言うように。

 

「……なら一緒に行ってくれないかしら。一緒に行って私をフォローしてよ」

「……はぁ……。これ以上の問答は無駄だな、ヴァイスで先行しろ、アルトで追いかける」

「サンキュキョウスケ♪やっぱり貴方とは気があうわね」

 

折れたように諦めたキョウスケはアルトに乗り込むとエクセレンと共に防衛ポイントへと飛んだ、『TD』を搭載している関係上アルトも飛ぶ事は出来るが機体重量の影響で他の搭載機に比べて飛行高度は非常に低い、がそこを自前の推力で強引に浮かせるという荒業でヴァイスよりも少し遅いペースで済む程度に済ませている。それをモニターで確認するエクセレンはやっぱりあるとは化け物のような機体だと思った。

 

「さてと……嫌な感じが強くなるわね。あんまりやりたくないけど……しょうがないか」

 

エクセレンは一時的なオートパイロットに切り替えるとコクピット内の応急セットから注射器を取り出しそれを腕へと突き刺し注射した。その中身は所謂アドレナリン、興奮剤である。精神を高揚させ強引に精神を蝕むそれを払い除ける為の物、応急セットをしまいながらマニュアルに戻すとクリュセへと続く渓谷が見えてきた。

 

「っ!!!」

 

同時に襲い掛かってくる強い嫌悪感、だがそれを濃い濃度で注射したアドレナリンが強引に打ち消していく。そしてMAの姿を直視した。周囲に黒い従者であり兵器であり使い捨ての道具であるサブユニット、プルーマを大量に引き連れながら闊歩するそれは酷く異様なものに見えた。そこには渓谷の上から銃弾の雨を降り注がせている鉄華団の獅電とゲシュペンスト、そしてラフタとアジーの獅電も見える。

 

「あれが、MA……!!」

『エクセレン、こちらは後少しで到着する。落ち着いて行け』

「分かってるわよキョウスケ……!!!」

 

高揚していながらも思考は冴えている、オクスタンランチャーを構えるヴァイスのレバーにも力が入る。そんな時であった。圧倒的な出力で放たれた一撃が渓谷を抉り取り大量の瓦礫がMAとプルーマへと降り注いで行った。瓦礫の山は次々とプルーマを押し潰して行きながら平然と進み続けていくMAと分断して行く。

 

『よっしゃあああああっっ!!!見たかお前ら!!これが四代目流星号の破壊力だぜ!!!』

『やったぜシノ!!!そのまま援護射撃頼むぜ!!ガンダム・フレームで近づくとやべぇらしいからな!!』

『分かってるぜ!!オラオラオラ!!!』

 

その一撃を放ったのは流星号を操るシノであった。自分が此処に至るまでに判明した情報を基に立てられた作戦、MAとプルーマを分断しての各個撃破。だがガンダムはMAに対してリミッターのようなものが発動してしまいまともに動けなくなってしまうとの事、故に接近主体のバルバトスは動けずに待機しているらしい。その為砲撃戦主体の流星号が出張ったという事らしい。

 

「よし、これなら……!」

 

見えてきた希望、成功しそうな作戦。だがそこへ飛来した一発の弾丸と共に一機のMSが登場した。それはイオクの乗るレギンレイズであった。

 

『お、おい何だこいつ!?』

『貴様ら邪魔だどけ!!このMAは私が倒す!!そして、部下の仇は私が取る!!!私を守ってくれた部下の為に!!』

 

レギンレイズは残った片腕で保持したレールガンを構えるとそのままMAに向けて連射を開始した、だがその殆どはMAに命中せずにプルーマとの分断の為に降り注がせた瓦礫へと命中し爆発し瓦礫を崩していく。これでは何の為に分断したのかも分からなくなってくる、周囲の獅電がレギンレイズを止めようとする中遂にMAの矛先がイオクへと向いた。

 

『うおおおおおおお!!!部下達の、私の為に、散った!勇者達の仇だぁぁぁぁっっ!!!!』

 

叫びを上げながら連発される弾丸は全く当たらないどころかプルーマを再合流させようとしている、だがそれを終わらせようとハシュマルが脚を上げ蹴ろうとした時レギンレイズを抱え込んで飛び上がった機体があった。それはヴァイスであった。

 

「あっぶない!!アンタ何やってるのよ!?折角分断したのに邪魔する気なの!?」

『そちらこそ私の邪魔をするな!!これは正義の仇討であるぞ!!』

 

抱え込んだレギンレイズから聞こえてくる聞くに耐えない言葉に思わずエクセレンは苛立った、こんな奴のせいで自分はこんな気分になっているのか。弟達が危険な目にあっているのかと思うとこいつを今すぐにでも殺したくなってくる。

 

「すまない遅れた!」

『キョウスケの兄さん!!よかった来てくれたのか!?』

「当然だ。キョウスケ・ナンブ、戦闘を開始する!!」

 

到着と同時にアルトが最大出力で突っ込んで行く。獅電やゲシュペンストには無い厚すぎるととも言える装甲を武器にしながら突撃していく。ハシュマルは機械とは思えぬ生物顔負けの動きをしながら脚部のクローで切り裂かんと迫りつつも鞭のように撓っている尾の刃をアルトに向けた。

 

「アルトの装甲を、甘く見るなっ!!!」

 

それを受け止めつつも無事な姿を見せるアルトに鉄華団の皆が勇気付けられた。必死にハシュマルの動きを止めながらも左腕のマシンキャノンを向け注意を引きながら火線が集中しやすいよう誘導しステークを撃ち込めるタイミングを見計らっている。それを片手間に援護しつつエクセレンは叫んだ。

 

「何が仇討ちよ自己満足も好い加減にしなさいイオク・クジャン!!!」

『なっ……!?』

「元はと言えば貴方がMAの事を無視してMSで来て覚醒させたせいなのよ!!部下が守ってくれた!?違うわよあんたは部下を殺したのよ!!!」

 

援護射撃を続けながらエクセレンは叫び続ける、如何してこのような事態になったのかそれを糾弾するように。

 

『わ、私は……私はただ、部下の仇を……!!!』

「黙りなさいお坊ちゃんが!!!なんで部下はアンタを守ったのよ!!それも考えずに仇を討つ?!命舐めるんじゃ無いわよ!!!!」

『ぁ、ぁぁっ……』

 

遂に何も言えなくなるイオク、彼も此処まで一方的に強く言われた事も無いのだろうか。吐き気すらしてきたエクセレンは捨ててやろうかと思いながらも彼を救おうと機体を抱いたまま飛行していたが

 

「っ!!?くっ!!」

『なっなにを!!?』

 

突然、ヴァイスはレギンレイズを離した。刹那、イオクが見たのは自らの代わりに胸に刃を受けた白騎士であった。

 

『な、何てことを!?』

 

刃に突き刺さったままのヴァイスは鞭の様に振るわれる刃のまま振りまわれ渓谷へと叩き付けられた。落下しようとする機体をイオクは咄嗟にレギンレイズをクッションにするかのように受け止めたがヴァイスは肩と胸を大きく抉られていた。

 

「くっ……私も焼きが回ったかしらね……?」

『な、何故私を庇った!?そんな理由ない筈だろう!!?』

「邪魔だった、から退かしたら、そうなっただけよ……これなら盾にすれば良かったわね……」

 

額から血を流しながらも機体を動かすエクセレン、まだ機体は動く。ならばする事はあると跳躍しながらナパーム弾を装填するとハシュマルへと発射した。だがそれすら片足立ちで回避しその勢いまま脚部から弾丸を発射するハシュマル、普段なら回避できるはずの攻撃すら今のエクセレンには難しかった。

 

「エクセレンッッッ!!!!」

 

ヴァイスの左肩と翼を吹き飛ばすように貫通した鉄芯のようなハシュマルの弾丸はヴァイスを渓谷へと串刺しにしそのまま固定するかのようにしてしまった。その光景に思わずキョウスケが叫んだ、その一撃でヴァイスの機能は停止し動きも静止してしまった。

 

「くっ……」

 

エクセレンに駆け寄りたい気持ちを抑えつけながらキョウスケはアルトをハシュマルへと向けた、がその直後その隣に空から降りてきたバルバトスが着地した。本来この場にはいてはならないガンダム・フレーム、オルガの静止すら振り切って出撃した三日月はドスの聞いた声で怒りのままに言葉を口にした。

 

「おいお前……姉さんにっ何をしている……!!!!」

「三日月、こいつを、潰すぞ!」

「ああ、狼の人……やるよ……!!!」




キョウスケ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

天使を狩る者


エクセレンには金を借りている……。

エイハブ・リアクター一基分ほどの金を」


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29話

天使を狩る者




「ミカ……」

 

MA迎撃とクリュセへの進行を止める為に防衛線を築いた鉄華団、仮に設置した前線拠点にてMAとの激しい戦闘の状況を得ているオルガは不安でたまらなかった。マクギリスにMAの事を知らせたと同時に送られてきた電子書籍の本、それはギャラルホルンの創設の理由と人類を全滅の危機にまで追いやったMAの危険性について知りされていた。人間を殺すという基本プロトコルに機械とは思えぬ生物のような動きをするという怪物を鉄華団は攻撃している。シノのフラウロスがプルーマとの分断を成功させ現在はキョウスケを中心とした攻撃が行われているとの事。だが自分も行くとミカも飛び出して行ってしまった、じっとしていれらなかったのか。それとも……

 

「バルバトスとずっと戦ってきたからこそ分かるのか、MAのやばさが……」

 

本当は出したくなかったが三日月抜きでMAを止められるかと言われるとどうしても不安が過ぎる。三日月はエクセレンと並んで鉄華団の最高戦力に数えられていた、そんな二人が前線で身体を張って仕掛ける相手への攻撃が鉄華団全員へ発破をかけて更なる攻勢に繋がっていた。様々な意味で重要な立場にいる二人、だがガンダム・フレームに起きたリミッター機能によってバルバトスは出さないと決めたオルガを無理矢理に説得して飛び出した三日月にオルガは不安げな思いを抱いていた。

 

「そ、そんなっ!!?そ、それは事実なんですか!!!?」

 

空を見上げながら思いを募らせていると通信機に張り付いているメリビットが悲鳴のような声を上げた、それに反応して雪之丞とオルガも其方を見つめた。不吉な声に不安が更に募っていく中に追い討ち、青ざめたメリビットの顔が此方を見つめていた。

 

「な、何があったんだ!?」

「そ、それが……」

「おい落ち着け、深呼吸をしろって」

 

雪之丞の言葉に深呼吸をしたメリビットは少し落ち着いたのか、連絡をくれたハッシュの言葉を正確にオルガに伝えた。

 

「エ、エクセレンさんが……やられました……」

「なっ!!!?」

「嘘だろおい!?」

「ヴァイスは大破、回収したくてもそれに怒り狂った三日月君とキョウスケさんの戦いで近づけもしないそうです……!!」

 

 

『―――!!!!!』

 

奇声を上げながらも威嚇するように大口をあけ、敵意を剥き出しにするハシュマル。アルトと戦っている際には見せなかった何かを発散させながら各部にある赤い球体を赤く輝かせながらバルバトスを見つめる。怨敵に遭遇したかのように憎悪を発散させながら。

 

「……おいバルバトス、余計な事やってないで見せろよ。あいつを狩る力を……姉さんを傷つけたあいつを潰す力を……!!!」

 

自然と握り締める手に掛かる力が増していく、硬い筈のレバーが柔らかく感じられてしまうほどに。同時にバルバトスのリミッターが完全に解除されていく、MAを目の当たりにした瞬間から開放された機体出力の制限をパイロットが使用出来るようシステムが変わっていく。今までのバルバトスが悪魔だとしたら今からのバルバトスは真の悪魔、狩人の悪魔となる。混濁して行く赤い瞳がそれを物語るかのように輝きを増していく。赤く濁って行く筈のに輝く、矛盾を孕みながらもそれすら超越して行く。

 

「アルト……お前の力を、俺に貸せ……!あいつを、潰すぞ……!!行くぞ三日月!!」

「行くよ狼の人」

 

同時に出力を最高までに持っていくとハシュマルへと二機は向かっていく。開戦の合図と言わんばかりに放たれたハシュマルのビーム、素早くアルトが前に出るとそのビームを受け止めながらも更に加速していく。ナノラミネートが施された装甲とは言えそれを受けながら逆に押し込めるような出力を誇っているアルトだからこその持ち味を活かしつつどんどん接近して行く。接近するとビームを中断し接近戦に備えようとするハシュマルの脚を掬い上げるようメイスを振るったバルバトス、それでも体勢を崩しながら尾のブレードを伸ばしバルバトスを狙うが普段とは違った速度でそれらを回避していく。

 

「こいつっ尻尾がしつこいな」

「ならばっ!!」

 

マシンキャノンを連射しながら跳んだアルト、上からの攻撃を仕掛けようとするがハシュマルが片足を深く突き刺す用にするとそれを軸にしもう一方の脚を振り上げ蹴りを繰り出した。だがキョウスケは全く慌てていなかった、寧ろそうするだろうと無意識にそう思えていた。

 

「今だね」

 

ブレードを右腕で弾いたバルバトスはメイスをハシュマルの軸足へと投擲するとそれが間接部に直撃させた。それによって自重を支えていたバランスが狂ってしまい片足をもぶれてしまった。そこへアルトが飛び込みながら右腕のステークを掲げた。ステークがハシュマルの身体の一部へと炸裂する、アルトの推力で更に深く食いこませようとしながらそれに合わせてトリガーを連続で引こうとするがそれを邪魔するかのようにテイルブレードが飛来しアルトを吹き飛ばす。しかしそれでもハシュマルの肩の一部を破壊する事には成功している。

 

「次は、俺……!!」

 

ステークの一撃を受けて各部がスパークを起こしているハシュマルへ飛び込んでいくバルバトスを迎え撃つようにテイルブレードを動かすがそれを蹴り飛ばし渓谷内の岩盤に突き刺すとハシュマルへと飛び乗り先程ステークの一撃で穴があいた部分へ両手を突っ込んだ。

 

「そうだ、もっと教えろ…こいつの倒し方をっ……!!!」

 

傷口を更に広く深く広げていくバルバトスとそれに対して痛みを訴えるかのような動きをするハシュマル、悲鳴のような声と動きは三日月を更に喜ばせる要因にしかならない。こいつ(ハシュマル)エクセレン(姉さん)を傷つけた。殺すにはそれだけで十分過ぎる意味を持つ。そして更に出力を増していくバルバトスは遂にハシュマルの本体から左肩を引き裂いてしまった。

 

「ッ!!」

 

岩盤から引き抜かれたテイルブレードが再び飛来するがそれをあっさりと受け止めると刃部分を脇で挟みこんで固定してしまう。そしてハシュマルの頭部にすら手を伸ばしていく。

 

「三日月そのまま捕まえろ!!」

「うん」

 

距離をとったアルトは最大出力でスラスターを吹かすと圧倒的な推力で機体を飛ばした。同時に『TD』が作動し宙へと浮かび上がりながら構えられたステークが光ながらハシュマルへと向かっていく。

 

「撃ち貫くっっ!!!」

『―――ッッッ!!!!』

 

ヴァイスにすら匹敵する推力からなる機体重量とその運動エネルギーから生まれる一撃は今度こそハシュマルの身体へと突き刺さった。今度こそ味合わせてやろうとキョウスケはトリガーを連続で引いた。アルトのリボルビング・ステーク内のシリンダーには火薬ではなくヴァイスのオクスタンランチャーから開発されたビームによって衝撃派を発生させるカードリッジとなっている、それらが全て炸裂しハシュマルを内部から崩壊させていく。自身に搭載され人間を殺す為の兵器とされているビームが自らの身体へと流れ込み崩壊されていく、それに堪らなくなったのかハシュマルは肩をパージすると身体を回転させて両機を振り来った。そして内蔵されていたスラスターを起動させると浮上し一気に飛びあがろうとする。

 

「逃がすか!この距離でのクレイモア、貰ったぞ!!」

 

アルトの異常すぎる両肩が開放された、そこからは大量に内蔵されたチタン製のベアリング弾を出し惜しみする事無く至近距離から一気に撃ち込んでいく。全身に浴びせられて行くベアリング弾の雨に飛び上がる事も出来ずに落下するハシュマルへと上から飛び上がったバルバトスが襲い掛かった。

 

「死ねよ……!!」

 

落下しながら最大出力のスラスターで突進したバルバトスがその手に持ったメイスを全力で叩き付けた。その勢いと速度によって振り抜かれた一撃はハシュマルの頭部を吹き飛ばしながら内部へとめり込んだ。重すぎる一撃は300年間眠りについていた厄祭を永久の眠りへといざなった。全身から光が消え爆散すると同時に鉄華団からは歓声が上がった。

 

「ふぅ……はっお前ら喜ぶのは後だ!!早くエクセレンを!!」

『ハッシュ、ヴァイスを確保!!急いで本部に運ぶ!』

『はっはい三日月さん!』

 

MSの適正試験で優秀な結果を上げたハッシュ。彼にはゲシュペンストが与えられ遊撃班のメンバーの一人として、圧倒的な強さを見せた三日月に憧れたのか彼について行くと決めたのか従順に従っている。そんなハッシュは左肩が完全に消し飛びヴァイスの特徴的だった翼がもげた姿を見てMAの圧倒的な強さを改めて感じつつもそんなものを倒せた三日月の凄さを垣間見た。

 

『…なんて、恐ろしい……』

 

目の前で自分の事など完全に忘れているのか無視されているレギンレイズの中でイオクは唯、MAの恐ろしさに震えていた。そして鉄華団が引き上げた後に自分を探しに来たジュリエッタとヴィダールに連れられて行ったが彼の頭の中には自分を突き飛ばし身代わりに傷ついてしまったヴァイスが離れなかった。

 

 

「んでエクセレンの容態は如何なんだ?おいオルガ、大丈夫」

「あっはい、すいません……」

 

MAとの戦闘の約6時間後。鉄華団の本部へと足を運んできた名瀬はそこでMAの発見と激しい戦闘があった事を聞いた。そしてその戦いであのヴァイスが大破したという話も聞いた。

 

「身体の方は…左腕の骨と鎖骨にヒビが入ってたらしいですがそれはなんとかなったらしいです。今では意識もハッキリしてるらしくて、チビ達に泣きつかれて困ってる所です」

「そっか。それなら良かったじゃねえか。家族が無事でよ、三日月も大丈夫なんだろ?」

「ええっ…!少し片目が見えにくくなったとか言ってましたけど大丈夫みたいです。あいつには今度眼鏡を作るとか考えてます」

 

心の奥底から深い安堵の息を吐いたオルガに名瀬は笑顔で言葉をかけた。エクセレンは大怪我をしていたものの命に別状がある程の事で大事には至らなかった。胸から腹にかけて僅かに傷跡が残ってしまう程度に済んだらしい。

 

「それでMAで出た被害は?」

「獅電が数機中破、ゲシュペンストが一機小破。大半は三日月とキョウスケさんが戦いを引き受けてくれたお陰です」

「流石あの二人って所か…んで歳星には何時来るんだ?」

「ええ、三日後を予定してます」

 

今回のMAでの大きな損害、それはヴァイスとバルバトス、そしてアルトであった。ヴァイスは言うまでもなくMAの攻撃を受け大破してしまったのでそれを含めて改修を行うという事になった。バルバトスとアルトはそこまで深いダメージは負ってはいないものの激しい戦闘によって間接部が異常な磨耗とシステム系が三日月とキョウスケの動きに付いて行けなくなるという事態になってしまいそちらも改修が行われる事となった。

 

「それで整備長がMAも持ってきて欲しいと言ってたので持って行こうと思ってます」

「なるほどあの人、MAのパーツとか技術でまた魔改造する気だな?」

 

様々な話をしている最中だが名瀬は先程とは違った鋭い瞳をした。それに驚いたオルガだが直ぐに合わせるように顔つきを変えた。

 

「今回の一件は親父も高く評価してた、それで俺の所にある連絡が来たんだ。MAの討伐に関係あるかは分からないが月外縁軌道統制統合艦隊のラスタル・エリオンがお前達鉄華団と話がしたいって言って来やがった」

「ア、アリアンロッドが!?」

 

 

「MAの討伐……フフッ矢張り素晴らしいなガンダム……。矢張りその力こそ、アグニカ・カイエルと同族の力だ……」




名瀬「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

目指していた場所


弟分が立派になると自分の事みたいに嬉しくなる。

なあオルガ、これからも頑張れよ」


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30話

目指していた場所





『にしてもまあ随分と派手にいったねぇ、エクセレンさん?』

「あ~はははっ……いやぁその…やっちゃいました☆」

 

歳星へと繋がった通信、ヴァイスにバルバトス、そしてアルトを送り出してある程度経った頃。漸くMAによって出来た傷跡が塞がり通常業務に戻れてきた鉄華団。歳星にて改修を始めたという連絡をしてきた整備長は漸く全面的に弄れるヴァイスに興奮しつつも怪しげな瞳をエクセレンに投げかけていた。

 

『MAでの戦いで確かギャラルホルンの人間を庇ったとか言ってたねぇ。それで鉄華団の皆荒れただろう?こっちにも話は来てるよ、鉄華団の皆が火星支部に殴りこみをかけそうになったのをオルガ団長とビスケット補佐と一緒に必死になって止めたって』

「私ってば罪な女よね、大人気過ぎてギャラルホルンを滅ぼそう!って事になってたから……バルバトスとかがあったら本気で殴りこみに行ってたでしょうね」

『そうそうそのバルバトスの件でね、これを見てくれるかい?』

 

そう言いながら出力されたのは改修終了予定のバルバトスの姿とそのデータであった。それを見た瞬間、思わず目を丸くした。

 

「……えっ」

『いやぁ私渾身の設計だよ!!残されていた三日月のデータを最大限に発揮するようになるにはこれが一番効率的なんだよ!』

「いやだからってこれは……凄すぎない?ご立派なモノっていうレベルを超えてるわよこれ」

 

流石のエクセレンも若干引き気味になる完成した姿をしているバルバトス、一般的なMSからすると正に異形の悪魔といえる。ルプスのスマートなシルエットは一体何処に行ったのだろうと言えるほどにビルドアップしている上に背中には翼のようなものまで背負っている。バルバトスを更にマッシブにしてヴァイスの翼を足してみましたっと言えばいいのだろうか……。

 

「何を如何したらこうなったの?」

『バルバトスを全体的にビルドアップして私のやりたい事、主にMAの要素を盛って見たらこうなった』

「わぁお完全に趣味の領域だわぁ♪って私のヴァイスちゃんとキョウスケのアルトちゃんも!?」

『勿論!!』

 

力強い返答共に現在改修中のアルトのデータが出力された。元々頭がおかしい凄まじい突貫力を持つアルトアイゼンであったが、今回のハシュマルの戦闘でアルトはもっと上へと登る事が出来ると確信出来たキョウスケが更なる強化改修案を提出しそれを整備長が一応否定しつつも同様のコンセプトで改修したものである。

 

「因みにキョウスケが出した改修案って?」

『色々書いてあったけど、簡単に纏めると

武器を大きくすれば強い

装甲を厚くすれば硬い

ブースターを増やせば速い

だったね。全く子供のような発想だったよ、まっ私も同じコンセプトでそれを実行したけどね』

「えっ」

 

ハッキリ言ってキョウスケが提出したもののよりも酷い事になったらしいがキョウスケ自信は酷く満足げにこのまま進めて欲しいと笑顔で行っていたらしい。

 

続いてヴァイスのデータも出力されたがそれを見た瞬間エクセレンは硬直した。全身にハシュマルに付いていた赤い宝玉のようなものが設置され、各部の装甲の隙間からは緑色の蔦のようなケーブルが見え隠れしている。ヴァイスもやや以前よりもガッシリとするようになって居るがそれ以上に目を引くには悪魔じみている4枚の翼であった。

 

「………(絶句)」

『ふふん如何だい!?ハッキリいってバルバトスの改修よりも手を入れたからね!!MAから解析した厄祭戦時の技術をふんだんに盛り込んだこのヴァイス!!恐らく最早君にしか扱え切れない代物となっているよ!!』

「わ、私のヴァイスちゃんが……小悪魔になってるぅぅぅ!!!??」

『いやいや白銀の堕天使が何を言うんだい』

 

そんなこんなもあってそのまま改修が進められる事になったヴァイス達を引き続き整備長に頼むと何処か疲れたのかエクセレンは外に空気を吸いに行く事に決めた。既に日も落ちて夜空が広がっている火星の空、ひんやりとした空気が身体に当たりながら深呼吸をする。そんな自分に後ろからジャケットがかけられた。振り向くそこにはキョウスケが立っていた。

 

「あら、紳士的ね」

「怪我は、もういいみたいだな」

「もう大丈夫よ、骨だってちゃんと戻ってるし」

「そうか」

 

無愛想に何時もどおりの鉄仮面ぶりを披露するキョウスケにエクセレンは何処か違和感を感じた。確かに無口で表情変化が少ないが彼は静かに燃える熱血漢、なのに今の彼は何処か落ち込んでいるように見える。気のせいではない、確かにそうなっている。

 

「すまない、俺がお前をフォローすると言っておきながらあのような事に……」

「何まだ気にしてるの?キョウスケが悪い訳じゃ無いでしょ、元は私が無理言って出たせいよ」

「……」

 

如何にも納得してなさそうにする彼にエクセレンは寄り添うように身体を預ける。いつもは皆に身体を預けられる側だったエクセレンとしては始めての事だった。

 

「う~んいいわね~偶には誰かに甘えなくちゃ」

「……」

「悪いと思ってるならさ、これからも宜しくね」

「……ああ」

 

そのまま二人の大人の夜は更けて行く、静かだが何処か熱い夜は……。

 

 

「月外縁軌道統制統合艦隊司令官、ラスタル・エリオンだ」

「鉄華団団長、オルガ・イツカ」

 

そして、事態は大きく変わろうとしていた。




ハッシュ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

望んだ居場所


三日月さん、お茶持ってきます。

あっそれと今日はケバブらしいですけど、三日月さんもヨーグルト試しません?」


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31話

望んだ居場所



「噂に名高き鉄華団、その団長に会えてこちらとしては光栄だ」

「そりゃどうも。俺としてもまさかのアリアンロッドの司令官が直接会いに来るなんて思いもしなかったぜ」

「はっはっは驚いてくれたかな」

「正直顎外れかけたよ」

 

鉄華団はその日、最も緊張する日を迎えていた。団長たるオルガと教官であるエクセレンは共に宇宙へと上がるとギャラルホルン火星支部の宇宙ステーションにてその時を待ち続けていた。そんな彼らへと姿を見せたのは月外縁軌道統合艦隊、通称 アリアンロッド艦隊の総司令官であるラスタル・エリオンと仮面を付けている男、ヴィダールであった。名瀬からラスタルが自分から望んだという鉄華団との会談、正式な物であった為に受けない訳にも行かず了承し日取りを決めいよいよとなった日。オルガは隣に居るエクセレンのお陰で辛うじて冷静を保っていたが内心は驚きと警戒心で飽和していた。

 

「それでそちらの美人のお嬢さんは?オルガ団長の秘書さんですかな?」

「あらお上手です事♪私は鉄華団の教官を担当しておりますエクセレン・ブロウニングと申します」

「教官!こいつは驚いた、そして鉄華団の団員が酷く羨ましく思えますな。こんな美人から訓練の手解きを受けるなど……いやはやさぞ訓練にも身が入るでしょうな」

「あらあら本当にお上手ねぇ♪」

 

ラスタル・エリオン、セブンスターズの一角であるエリオン家の現当主。ワイルドなままに残された髭と以下にも勇猛そうな顔つきは相手に威圧感と共に一種の安心感のようなものを与えている。会談中だというのに口説くような言葉回しからすると見た目に違わず豪快な男なのだろうという印象を受ける。

 

「んでそっちの……仮面の人は……?顔の傷でもあるんだったら聞いちゃ悪いが」

「すまない。とある事情からか外す訳には行かずにこのままで失礼する、名はヴィダール」

「そうか、なら気にしないでおく。んで天下の月外縁軌道統合艦隊の司令官様が俺達火星の一企業になんの御話があるんですかね」

 

何処かニヒルっぽく口を開いたオルガ、ハッキリ言って自分達はギャラルホルンとはこれ以上関わる気はなかった。マクギリスからの勧誘を蹴った上にMAはギャラルホルンの力を借りる事もなく討伐する事に成功し無用な貸しを作らずに済んだ。っというかMAの覚醒自体はギャラルホルンの責任なのだからこちらに非はないだろう、MAを掘り出したのは此方だが……。

火星内での経営も軌道に乗り始め仕事も良い感じに入るようになってきてオルガが目指す真っ当の仕事だけで運営して行く鉄華団が形になろうとしている所だった。そんなオルガにラスタルはニヤリと笑った。

 

「一企業とは謙遜をするな、君達は伝説的なガンダム・フレームを三機所有している上にあのMAを討伐している。既にその戦力は火星ではトップと言えるだろう、ギャラルホルンの火星支部も君達と真正面から戦っても勝つ事は難しいだろう」

「そりゃどうも。だが俺達はこの力を使ってどこかに攻め込む気はない、あくまで自衛や防衛の為だ」

「分かっている。そして君達はマクギリス・ファリドからの誘いを蹴った、故に今こうして会いに来ているのだ」

 

瞬間的にエクセレンの瞳が鋭くなる、マクギリスが鉄華団と繋がっていたのは公然の秘密のようになってはいるが火星の王に関する事は完全な機密な筈。それを知っている上で会談の申し出をしたという事はこちらも何かがあるという事になるだろう。

 

「それで私達に何を望むのかしら?」

「そうだな。面倒な事な言い回しや理由は退屈だろう、ならば率直に言うとしよう。我々月外縁軌道統合艦隊は君達鉄華団と協定を結びたい、その内容はアリアンロッドの火星圏及び地球との境における案内役兼顧問を鉄華団に委託したい」

「「……はいっ!?」」

 

思わず変な声を出したオルガとエクセレン。思わず木星までぶっ飛びそうになるほどの衝撃に二人は顔を見合わせてしまった。この男は今なんと言ったのだろうか、鉄華団がアリアンロッドの案内役を請け負うと同時にその顧問になるという事だ。前代未聞どころの話ではない一体何のメリットがあるというのだろうか。

 

「理由はいくつかある。2年前より地球火星間では以前よりも宇宙海賊共が活発化している、その影響はギャラルホルンが火星支部へと輸送する物資にまで手を出しているところもあってな。唯の海賊なら対処出来るが奴らは阿頼耶識対応型のMSを大量に投入して来て被害も大きくなっている」

 

2年前と言えば鉄華団始まって依頼の大仕事、クーデリアを地球へと送り届けるという仕事を行いそれを無事に達成した時の事を指されている。

 

「だが数なら上なんじゃねえのか?」

「数だけならな。しかし海賊共も馬鹿じゃない、複数の組織が手を組み戦力確保した上で阿頼耶識対応型MSを大量投入されては幾ら数で上回っても押され気味になる」

 

そう言われると確かに納得できる。自分達は正にそれをやってのけていたのだから、しかも自分達の場合は戦力は少なかったのにその乗り手が全員腕が良かった為に数で圧倒されても盛り返し押し返す事が出来ていた。MSを操縦するのにタイムラグが発生せず人間のような動きが出来る阿頼耶識対応型は普通のギャラルホルンのMS乗りからしたら厄介な事この上ないのである。

 

「蛇の道は蛇、阿頼耶識の強さを最も把握している者達に協力してもらうのが一番だと考え君達鉄華団にこの話を持ちかけたという訳だ」

「成程……詰る所それを受けた場合はギャラルホルンの輸送船を護衛したり、軍事演習の参加協力とかになるのかしら」

「その通り、美人な上に頭も切れるとはますます羨ましい。この件についてテイワズのトップ、マクマード・バリストンからは鉄華団(お前達)の許可があれば良いと言われている」

「親父が!?」

「あらら~手回しが早いです事……」

 

オルガが断ろうとした親父に確認して見ないという事を先に封じられてしまった。加えてマクマードからは合法的な商売になるんだから良いだろう、加えてお前達が表に出て動けば裏に輸送依頼が多くなって利益が大きいとの事。

 

「……」

「勿論鉄華団の案内役という便宜は通常の業務でも使っても構わない、民間企業が地球へと行きたいと言えばアリアドネを使用してもらって構わない」

「随分と、高待遇過ぎないかしら……」

「ああ、裏があるとしか思えない」

「……フッ流石に分かるか」

 

矢張り何かあるかとオルガは身体を硬くした。

 

「来る時に備えた布石と、とでも言えばいいかな。近々起こる大きな戦いに備えて鉄華団にはアリアンロッド側に回って貰いたい」

「でかい戦い……?」

「ああ。ギャラルホルンを、いや地球と火星を巻き込んだ大きな戦いになるだろう。その為にだ」

 

それを聞いて真っ先に連想したのはマクギリス、あの男の事だった。常々話していたギャラルホルン改革の話、腐敗したギャラルホルンを変えたいというあの男が出てきた。しかしこうしてアリアンロッドの司令官が出てきている以上マクギリスが何か大きな事を起こすのだろうというのは明らか。間違い無い事なのだろう。ならば自分がとるべき道は……。

 

「俺達は、鉄華団は降りかかってきた火の粉を払う為に戦う。それで良いか」

「十分だ!ではこれで成立かな、オルガ・イツカ」

 

満足げに笑いながら豪快な笑みを浮かべるラスタル、先程まで冷徹な武人のようだったのに陽気なおっさんのように見えてオルガは若干この男の事が分からなくなってきたが決めた。自分達は真っ当になり、平和に暮らしていく為にアリアンロッドと組むと。

 

「ああ。宜しく頼むぜラスタル・エリオン」

「うむ。では後日火星の鉄華団本部を訪ねる、部下を連れてな。そこで我々の協定を祝って焼肉パーティでもしよう」

「肉か……良いな皆喜ぶだろう」

「ヴィダールお前も強制参加だ!その仮面外せよ!!」

「いやこの仮面のままで出させてもらう」

「でも食べれないんじゃない?」

「無問題だ。この仮面は口元の部分がスライドして開くようになっている」

「何だよその無駄なギミック!?」

 

本来とは別の道を進む事になった鉄華団、だがオルガに後悔はなかった。きっとこれが家族を真っ当な仕事をする鉄華団に導いてやれる道だと信じている。そう思いながら握手をするラスタルの手を強く握り返した。




ジュリエッタ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

落とし前


駄目ですこれは私が焼いた肉です!

あっイオク様は石でも焼いててください」


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32話

落とし前





「う~んアリアンロッドとの事実上の同盟……なんとまあ、よくもまあ此処まで来たって感じするわよね」

「ああ。鉄華団が発足してまだ3年も経っていないだろう。それになのに此処までの急成長、ハッキリ言ってアサルトウルフの代表としては羨ましいものがあるな」

「そう言いつつそっちだってハーフメタルの採掘場はアサルトウルフとの共同経営なんだからそっちも十分美味しいんでしょ?」

「ああ。ギャンブルに傭兵事業よりも儲かっているな」

 

エクセレンの執務室にて先日のラスタルとの会談の結果によって出来上がった鉄華団の成り上がりに付いて話し合う二人。鉄華団だけではなくテイワズそのものを深くまで潤していく結果となり鉄華団のテイワズ内の評価が上がっていく中他の組織からの妬みや悪意は更に大きくなっていく事だろうがその辺りの対処になれているキョウスケも動いているので下手な手は取れない。

 

「それとラスタルさん達が今回の事を祝って鉄華団の本部に顔を出して友好を深める為にやるバーベキューパーティをやるけどキョウスケ達も出る?」

「……すまないがその時はアサルトウルフの皆はギャンブル事情について会合があってな。恐らく俺以外の連中は出れないだろう」

「なんでキョウスケは出れるの?代表なんでしょ?」

「……ギャンブルにおいて俺はカモにしかならんからだそうだ」

「大穴ばかり賭けるからよ」

 

実際キョウスケは経営者としては非常にやり手ではあるがギャンブルの一点に限っては全くもって駄目、何が何でもの大穴の分の悪い賭けばかりをするので事業は成長するものの自分自身は負け続けているという奇妙な事になっている。その影響かギャンブル事業に関わって大負けでもしたら困るからという理由で部下達から除外される扱いを受けておりエクセレンにも借金をしているのが現状である。

 

「それで何時返してくれるのかしら?もうリアクター1,5基分位は貸してるわよね~?」

「……」

「アサルトウルフの売り上げで返しちゃ駄目よ?自分で働いた分のお給金から出す事♪」

「……分かっている」

 

旗から見たらギャンブル好きの亭主に金を貸している資産家な女房なのだが、実際仲は良いが交際などはしていない。発展しそうになっても鉄華団の古株のメンバーがエクセレンに恋人が出来るという一点に置いて過剰な反応を示してしまい認めようとしない。

 

「そろそろ、アルトが戻ってくる頃だ。見てくる」

「逃げたわね……まあいいわ、ヴァイスちゃんどうなってるかな~♪」

 

 

「ふぅ……これで受け入れ準備は完了っと」

 

汗を拭いながら空を見上げるビスケット、今日行われるアリアンロッドとの協定を祝してのバーベキューパーティ。その為に外に発注し届いた道具を運んだりとビスケットは忙しくも嬉しそうに働いていた、漸く鉄華団の悲願とも言える真っ当な仕事のみでの事業に大きな一歩を踏み出せたのだから。合法的なルートの使用許可に地球圏との大きなコネ、これを喜ばずにはいられない。

 

「ビスケット~こっちは終わったよ~!」

「ありがとうアトラ、でもまだ時間はあるんだし休んでも」

「ううん折角大人数のお客さんが来るんだから気合入れなくちゃ!よ~し後4品作るぞ~!!クーデリアさん手伝ってね!」

「ええっ三日月のためにも美味しい食べものをっ!!」

「そうだね!!」

 

最近料理長に就任し更に腕前が上がってきたアトラは張り切りながらバーベキューの付け合わせなどの準備をする為にクーデリアと共に食堂へと駆け込んでいく。今までなかった大人数のお客さんというのが何か掻き立てるるものがあるらしい。それに負けじと下げていたボトルから水を飲んで身体に力を入れる。

 

「さてと……もう一頑張りっと!」

 

 

「さてと、今日のこの日我々アリアンロッドは鉄華団との協定を迎える。日増しに増加する阿頼耶識対応型のMSを大量投入する海賊に対抗する為の事だ。知っての通り彼らは少年達だがだからと言って彼らは我々にとって重要な立場にある人物達であり来る日の友人達でもある!」

「そうだ、お前らも思うところあるだろうが鉄華団はこれでアリアンロッドから正式な案内役を任された。その期待に応えるだけの活躍をする!」

「おお頼もしい、では本日は無礼講だ!お前達も鉄華団の皆も好きなだけ飲み食いをし絆を深めようではないか!!」

「ああ、んじゃ乾杯!!」

『乾杯!!』

 

鉄華団本部の野外ではあちこちから肉の焼ける匂いと煙が天へと向かって伸びている、準備されている鉄板の上ではジュウジュウと肉が油によって焼ける音が心地よく鳴り響きながら空腹に訴えかけてくる。その油を纏いながらこちらも負けずと焼けて野菜は熱が通っていくたびにしんなりとなっていき肉を引き立てるサポーターとして十分な見た目を発揮している。

 

「焼肉だけじゃないわよ♪新装開店、エクセお姉さんのウルトラ焼きそば!!」

「おい姉さんが焼きそばやるってよ!?」

「マジかよ!早く行かねえと直ぐになくなっちまうぞ!?」

 

肉に負けじと熱々の鉄板にて調理を開始するエクセレン、彼女が出すのは焼きそば。CGS時代から稀に出していたメニューであり皆に大人気である、そして経営が安定している今では大量の肉に新鮮な野菜まで入っているのでその旨さも倍増している。その為に三日月を始めとしたメンバーが殺到して行くのを見たジュリエッタを筆頭にアリアンロッドのメンバーも自分達もと駆け出して行く。

 

「姉さん、今日のは随分肉が多いね」

「ふふんバーベキューに負けないようにお肉も野菜も山盛りよ♪」

「(ゴクッ……)美味しいのですか焼きそばというのは」

 

三日月と同じく最前線にいるジュリエッタが思わず喉を鳴らしながらそう聞いてきた。アリアンロッドのラスタルが目を掛けているMSのパイロットと聞いたがそれだけではなく食欲旺盛な少女とも聞いた。今回は鉄華団の腕白達だけではなくアリアンロッドの大人達までいる、気合を入れて作られなければ。食べた事が無いが思わずソースが焦げる匂いに誘われてきたジュリエッタに三日月が応えた。

 

「当然だよ、姉さんの作る焼きそばは世界で一番美味いよ」

「世界で、一番……是非食べたいです山盛りでお願いします!!」

「姉さん俺は激山盛りで」

「はいは~いちょっと待ってね♪」

 

新たにソースを熱せられた鉄板へと掛けると大きな音を立てながらソースが焦げながら面に深みを与えて行く、その匂いが更に空腹を攻撃してくる中鉄ベラを鉄板に叩きつけながらエクセレンは決め顔を作りながら言う。

 

熱い頼みます!!アチョチョチョチョアチャァァアア!!!ホワチャアアアア!!!」

『オオオオオッッ!!!!!!』

 

最早意味の分からない盛り上がり方をし始めた焼きそばの一角をオルガは少し呆れ顔で見つめていた。無礼講とは言ったがアリアンロッドとのパーティなのだからもう少し確りとして普段のテンションは抑えて欲しかった言わんばかりの表情であった。

 

「出来たわよ~!!さあ好きなだけお食べなさい!!」

「こ、これが焼きそば……!?このモチモチとしつつも歯応えのある麺を包むコクのあるソースの香ばしさ、ジューシーな肉の旨みのそれを上回っているですって!!?こんな美味しい食べ物があるのですか!!!?」

「アンタ分かってるじゃん、これが姉さんの焼きそばの美味さ。このからしマヨネーズかけるともっと美味くなるよ」

「っっ!!?な、何ですかこれは!?辛さが味を引き締めつつまろやかになってるですって!?どうなっているんですか美味しすぎです!!」

「……アンタ分かるじゃん」

「…貴方こそ、こんな美味しい食べ方を教えてくださって感謝します。ジュリエッタ・ジュリスです、仲良くしましょう」

「三日月・オーガス、宜しく」

 

なにやら食を通じて意気投合してしまった三日月とジュリエッタは互いに固く握手を結ぶと次の瞬間にはガツガツと貪欲に焼きそばを貪り始めた。

 

「はははっ良く食うじゃないか鉄華団の小僧共!!ほらそこが焼けているぞもっと食え!もっと食え存分に食え!」

「おう任せてくれよラスタルのとっつぁん!」

「フム……この流石美食家としても名を轟かせているエリオン公、肉のチョイスも抜群且つこの自家製のタレも良いな…」

「仮面の兄ちゃんすげぇそれ口の部分開くんだ!?しかもなんか開閉速度がくそ速ぇ!?」

「なんでそんな機能あるのか分からないけどカッコいい!!」

「ふふん如何だ、中々にイカすだろう?」

『超イカすぅぅぅぅ!!!!』

 

制服の袖を捲くりながら鍛えられた筋肉を露出させた腕でトングを持ち更に肉を焼いていくラスタル。地球のギャラルホルン、その中枢をなすセブンスターズの一角でありアリアンロッドの司令官が自ら焼肉奉行をこなしながら鉄華団、アリアンロッド双方に肉を振舞っている姿は如何にもシュールである。何も知らない人間が見たら近場の気の良いおっさんが焼肉奉行を引き受けているようにしか見えない。

 

「この鉄華団のお嬢ちゃんが漬けたキムチ凄い美味いぞ!?」

「おおっマジだ!?」

「しかもキムチに紛れている火星ヤシが更に味を深めている、だと!!?」

「えっへん!これがクーデリアさんとの共同開発した火星ヤシ入りキムチ!」

 

アトラもクーデリアと共に作ったキムチを皆に振るまいながら給仕として調理人として慌しく動き回っている。しかし自分の作った料理が受け入れられて嬉しそうにしている、そんな中オルガは熱々の肉を頬張りながら野菜と共に水を流し込み豪勢な食事を楽しんでいると焼肉奉行を一旦交代し食べる方に回ったラスタルが近づいてきた。

 

「如何だオルガ団長、楽しんでるか?」

「ご覧の通りだ、満喫させてもらってるぞ」

「そうかそれは何よりだ」

 

隣に立ちながらビールを開けてぐいっと一気飲みするラスタルをオルガはやや驚嘆の目で見た。あれほどぐいぐいと酒を飲めるのは得意ではない自分からしたら畏敬の物のように映ってしまう。矢張り年を取ると酒も美味くなるのだろうか。

 

「そだアンタに一つ聞いてみたい事がある」

「何だ?」

「うちの姉さんがMA戦で一機のMSを助けたんだがそいつは俺達の作戦に割り込んで折角分断したMAとプルーマを合流させかねない攻撃をした。その落とし前を付けたい、そいつどんな奴か知ってるか」

 

それを聞いたラスタルはああ……っと思わず溜息をついた。ジュリエッタから報告を聞いたがそれは恐らく自分が後見人をしているイオクの事だろうと思う。あの無能は何をしてくれているんだと思ってしまった。

 

「……ああ知っている、此方でも処罰は与えているがお前達も気が済むまでやりたいだろう?」

「ああ。是非頼むぜ」

「分かった。ではそいつを2週間ほど鉄華団に預けよう、殺さない程度に嬲ってくれ」

「助かるぜ」

 

本人の知らぬ間にイオクの鉄華団の出向及び徹底的な扱きがされる事が決定した。肝心の本人はMA戦時の行動が原因で謹慎処分とされているがそれ以上にMAの恐ろしさのせいで部屋に閉じこもってしまっているらしい。それも何時までもという訳にも行かず……イオクは鉄華団へと送り込まれる事になるのであった。




ラスタル「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

生贄


イオク、お前には我々と鉄華団との仲を保つ為に火星へ行って貰う。

自分のせいでMA起こしたのだ、鉄華団に扱かれてこい

これで少しはマシになれば良いがな」


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33話

生贄



「オラオラもっと気合入れて走れやがれってんだ!!ちんたらしてっと倍増させっぞ!!」

「ク、クソ……こ、このイオク・クジャンがこんな一企業の訓練で音を上げるなど有り得ない……!!」

「イオク様もっとキリキリ走ってくださいませんか、もう周回遅れしてますよ。それではお先に」

「ま、まてジュリエッタ私を捨てるのか!!?」

 

月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)との協定を結んだ鉄華団は火星と地球間における案内役兼顧問となった事により鉄華団の仕事はより真っ当且つ良い物へとなっている。アリアンロッドとの協定によって得られた信用は火星での地位を更に強固な物にしており火星では鉄華団に表だって文句を言うような連中を一掃していた。その仕返しをしようにもアリアンロッドと通じてしまっている鉄華団に何かしようものなら即座にアリアンロッドにその事実が流れてしまうので結局何も出来ない事が発生していた。

急成長をし続ける鉄華団を妬ましく思う連中から嫌がらせや奇襲などが問題となっていたのでそれがなくなった事に関してビスケットは大喜びしていた。当初こそ未だ鉄華団を下に見るアリアンロッドとの人間との諍いがあったがラスタルの懐刀と言われているジュリエッタが積極的に鉄華団との交流をしているのを見て自分の行いを見て改める事もしている。

 

そんな鉄華団を潰そうと宇宙海賊達は徒党を組んでアリアンロッドの輸送船団を襲おうと躍起になるがそれらを潰す鉄華団も活躍し海賊達は歯痒い思いをしながら地球へと行く為にタービンズらの力を借りているという現実があり如何にも喜べない物があった。

 

「ぁぁっ……星が見える……」

「妙な事をのたまっているとシノさんにブッ飛ばされますよ」

「私はセブンスターズの人間だぞ!?」

「今は鉄華団の二週間の体験入団員ですがね。ラスタル様からも好きにしてくれて良いと言われてますから遠慮無しにやってきますよ、嫌だったらさっさと後3週頑張ってきてください。でないと昼食食べれませんよ」

 

そんな鉄華団にアリアンロッドの人間が出向して来ていた。その人物とはイオク・クジャンとジュリエッタ・ジュリスであった。元々はイオクのみであったのだが形だけではあるが護衛と連絡員として派遣されたジュリエッタ、本人は嫌々だったが鉄華団の美味しい食事の事を考えると悪くないと思っているらしい。

本来違う組織である筈なのにイオクが何故居るかと言えばMA迎撃戦においてそれを妨害するかのような攻撃を加えたイオクへの罰である。仇を討つなどと言いながらやったのは折角分断したMAとプルーマを再び合流させる事になりそうな危険な行為であった。加えてそんな奴を助ける為に鉄華団にとっての聖女というべき存在であるエクセレンが傷ついてしまったのが一番許せない事であった。

 

そんなイオクへの罰を与える為にラスタルは鉄華団への二週間の出向を命じた、新たなに協定を結んだ組織との連携と友好を深める為に上の立場の物が率先してそれを実践するのだとラスタルから言われて意気揚々とイオクはやってきたが実際は怒りや恨みで今にも破裂しそうな場へ放り込まれただけだった。出向してまだ三日、それなのにイオクはもうヘロヘロとなっていた。

 

「ゼエゼエ……」

「もうへばっているんですか、午後からはMSの訓練だというのに暢気な物ですね」

「な、何故お前はそんなに食欲があるのだ……!?」

「鍛え方が違いますから」

 

確りとした正規訓練を受けているジュリエッタと違ってイオクはそのセブンスターズという圧倒的な名前によってアリアンロッドに入りラスタルという七光りもあった為に一部隊の指揮官を任せられているがそれまでの過程が到底指揮官とは思えないような物なので肉体面も技術面も酷く未熟なのである。彼の機体であるレギンレイズの射撃仕様のカスタマイズも前に出したら直ぐに死にそうだからという理由からである。

 

「三日月、今日のご飯は何です?」

「今日はケバブ。鉄華団(うち)だと人気メニューなんだ」

「ケバブ……聞いた事がないですかきっと美味しいんでしょうね!」

「美味しいよ、きっとジュリも気に居るよ」

 

食堂に入るとイオクに対して一斉にヘイトが集まる中ジュリエッタは無視しつつ三日月に今日のメニューを聞きつつ一緒に食事を取りに行く。イオクが早々に席に倒れこむように座りゼエゼエと息を荒げている。イオクの評価は最悪だがジュリエッタの評価は非常に高い、あのイオクの付き添いという事で皆警戒していたが、普通のやり手のパイロットでありなにより三日月とも仲が良いので皆直ぐに打ち解ける。そんなジュリエッタはイオクの分も取りつつ三日月と共に席に戻る。

 

「これがケバブですか……何やらサンドウィッチの一種のような感じですね」

「このソースを掛けるんだよ」

「二種類あるようですが三日月のお勧めは」

赤い方(チリ)

 

三日月のお勧めの赤い容器を取りソースを掛けて頬張るとチリソースの辛味によって肉の旨みが高められた味に思わず感激し身体を震わせ三日月と硬い握手をする。

 

「三日月感謝します、矢張り貴方という友人を持てた事を誇りに思います」

「やっぱり気が合うね俺達」

 

そんな二人を他所にこっそりとヨーグルトソースを掛けて食べるイオクであったがこっちの方が美味いぞ!と大声を出してしまい三日月とジュリエッタから凄まじい眼光で睨み付けられ萎縮したまま食事をするのであった。それを遠巻きに見つめているエクセレンは何とも言えない表情を浮かべつつもオルガとキョウスケにガードされていた。

 

「お姉さんなんか凄いお姫様感があるんだけどどうしてかしら……?」

「あのたわけをお前に近づける訳にはいかない、お前の優しさに惚れられでもしたら最悪だ」

「そうだ、無駄に権力を持ってる糞野郎ってのは無理矢理姉さんみたいな美人を手篭めにしようとするんだからな。皆にも姉さんを守るように言ってある」

「か、考えすぎなんじゃない?」

 

その後、MSの訓練が始まったのだが……

 

「おいクジャンお前本当に一部隊の指揮官か!?全然なってねぇじゃねえか!!基本から全部やり直しだ!!」

「な、何故私がこんな目に!?」

「大体自業自得です。三日月、次は私とお願いします」

「いいよ」

 

イオクが自分の駄目駄目さを全面的に押し出し徹底的に扱かれている中、ジュリエッタは初めて扱う獅電やゲシュペンストを難なく使いこなし阿頼耶識無しの三日月と互角にやりあうという実力を発揮し鉄華団内での評価が更に上昇し子供達からもジュリ姉ちゃんと呼ばれるようになった。

 

「わ、私はこんな所で……(バタッ!!)」

「こんな所で寝るなんて良い度胸ね……来な模擬戦30本だ!!」

「さあ行くわよえ~っと……ベニヤ・ペシャン!」

「誰だそれは!?」

 

MSの技術向上のために出向していたタービンズのアジーとラフタにも徹底的に扱かれ、その日はボロボロになって眠りについた。がまだまだスケジュールは続きイオクは更なる地獄を見るのであった。




マクマード「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

落とし処


鉄華団、最初こそ餓鬼ばっかりでどうなるかと思ったが

俺の勘もまだまだ捨てたもんじゃねえな。

さてと、久しぶりに名瀬と一杯やるか」


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34話

月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)からやって来たイオクとそのお目付け役であるジュリエッタが鉄華団への体験入団をする事10日が過ぎた。未だに扱きにひぃひぃ言いながら必死に身体を動かしているイオクに比べてジュリエッタは涼しい顔をしながら訓練を行い鉄華団の中でも人気が出ている。時折三日月と食事について談義している姿も見慣れ始めた。

 

「おいビスケット、アリアンロッドから送って貰った資料って何処にしまった!?」

「B-7だよ!急いでよオルガ今度やる軍事演習の打ち合わせに必要な資料を作らないといけないんだから!もう鉄華団は小さな企業じゃないんだよ?!」

「分かってる!!ああもう姉さんもキョウスケの兄さんも戻ってきたMSに夢中で動けないなんてったくなんて日だ!」

 

アリアンロッドから正式に移譲された権利によって協定を結んだ鉄華団はギャラルホルンと大きなパイプで繋がっている大企業へと成長している。しかし元は民兵組織、それを運営しているのは子供達という事もあり経験もしていない事で大変な毎日を送っている。

 

「団長さん、そこはこうするのよ」

「団長さんよこっちは終わったぜ!」

「早く終わらせて飯行きましょうぜ」

「ああすんませんアサルトウルフの皆さん」

「「「気にするなもう仲間みたいなもんだ!」」」

 

そんな彼らをフォローしつつ経営について必要な知識や技術を伝授して行くのはキョウスケがトップを努め現在は鉄華団と共にハーフメタルの管理採掘を行っている『アサルトウルフ』の面々であった。元々差別意識などが皆無に近くあっさりと鉄華団を受け入れ弟達が出来たと思いつつ彼らに確りとした仕事を教えているからか鉄華団からの受けも良く素直にオルガも助かっている。

 

「よし行きましょうぜ飯に」

「今日はなんだっけ、ケバブじゃないよね?」

「あれ美味いけど食堂が殺伐とするからなぁ……」

「確か今日は和食とかいう奴らしいですよ」

「俺、魚苦手なんだけどなぁ……」

 

思い描いていたかのような日々、忙しく大変ながらも毎日毎日が充実して行っている。オルガの目標だった鉄華団になりつつある。戦いではなく真っ当な商売だけで皆を食わせていけて楽しく明るく過ごしていける鉄華団。最近では兄貴分であるタービンズの方も景気が良く連絡をすると笑顔で名瀬が出迎えてくれる事にもかなりの嬉しさを抱くようになった。

 

「そういえば団長さんって女となんか無いの?」

「な、何すかいきなり!?お、俺は女なんて別に……」

「そっかまだ経験してないのか!よしよしなら今晩一緒に如何だ団長?」

「いいいっ!?か、勘弁してくださいよ!?」

「こらこら青少年を穢すんじゃないよ」

「「男は穢れてなんぼだろ!!」」

「……団長にビスケット君、これの言う事は真に受けないでね?」

「「は、ははははっ……」」

 

様々な事が自分よりも経験豊富な彼らにからかわれる事もあるがそれもそれで悪くないと思えている。これが平穏な日常の一ページなんだと思いつつも楽しんでいる、書き続けている団長日誌にも毎日こんな事が羅列され続けている。

 

「シノ、坊ちゃんの様子は如何だ?」

「全然駄目だぜ、まともな訓練受けて来なかったんだな。ありゃきっとアリアンロッドも持て余してただろうな。同情するぜあれの部下には。まあジュリは良い腕してるけどよ」

「ミカと同格だからな」

 

そんな会話をしながらも食堂に付けば今日も皆の談笑と食事を貪る音と笑い声が聞こえてくる、今日も料理長であるアトラは大忙しだろうが彼女には笑みが張り付いている。楽しみながら仕事をしているのが分かる。

 

「はい団長さん、今日はニホンって国で生まれたカツ丼だよ」

「カツドン?おおっすげぇなこれでけぇ肉が乗ってやがる……?!」

「戦いに勝つ!って思いが載せられるらしいよ、お代わりは自由だからどんどん言っておくれ」

「おう」

 

最近鉄華団の調理チームに入ってきた綺麗なマダムがそう言ってくる、以前までアトラが務めていた店の女将さんである。如何やらアトラが誘いを掛けて此方に入ったらしい、毎日毎日忙しいっと愚痴を零しながらも笑顔で働いて皆に活力を注入してくれている人だ。そんな人から料理を受け取りつつ三日月の隣に座る。

 

「おうミカ、そっちも飯か」

「オルガ。うん今日の訓練は全部終わらせたし新しいバルバトスの調整も終わったから」

「そっかどうだ新しいバルバトスは?」

「なんか、ゴツくなった」

「まあ確かにな」

 

歳星へと送り出され改修が施されたバルバトス、ヴァイス、アルト。それらも帰って来たが今まで以上のパワーアップを遂げている。特にバルバトスは三日月とキョウスケが討伐したあのハシュマルをそのまま背中に背負っているかのパワーアップを遂げておりそれを見た時皆たまげたものだ。

 

「おおっうめぇなこれ……!!すげぇジューシーだな」

「うんどんどんお代わりしちゃおう」

「だなっ!」

 

まるで競走でも始めるかのように同時にカツ丼をかき込んでいく二人は何処か兄弟のようにも見える。そんな二人が幸せな時間を過ごしている中ヤマギが食堂に飛び込んでくるかのように走りこんできた。

 

「団長!大変です!!」

「如何したヤマギぃ!?」

「タ、タービンズから緊急連絡です!!団長室に繋いでありますから急いでください!!」

「兄貴から?!分かった直ぐに行く!!!」

 

オルガ最後のカツを平らげると大急ぎで団長室へと走り出した、部屋に飛び込み机の上にある端末を起動させ即座に通信回線をタービンズへと合わせた。

 

「兄貴!!」

『オルガか』

「ええ、緊急連絡って聞いてすっ飛んできたんです!!何があったんですか!?」

『ああ、ちとまずい事になった』

 

神妙な声の名瀬にオルガは自然と身体が緊張してしまった。あの名瀬が此処まで声を硬くするなんて普段なら有り得ない事、一体何が起きたのだろうか。

 

『テイワズの元ナンバー2、ジャスレイ・ドノミコルス、そいつが面倒を起こしやがってな』

「ジャスレイ……って確か記憶喪失でそいつの会社の大半は兄貴が手中にしたって話じゃ」

『ああだが最近記憶が戻ったらしくてよ。あの野郎巧妙に手を回しやがってよ、元JPTトラストの奴らを引き抜いて歳星から自分の船とMSを大量に奪って逃げやがった。しかも他の傘下が動けないように細工までしやがって……』

 

名瀬の声は強張ったまま、酷く不快そうな声色をしている。

 

『しかもあいつは他の海賊連中を束ねて新しいでかい勢力まで作ってやがった、そいつらは遅かれ早かれ歳星に向かって来るだろうな』

「そ、それって滅茶苦茶やばいじゃないですか!?」

『ああやばい。今歳星にはまともな戦力は無いし動けるのはタービンズを含めて少しの戦力しかない、オルガ悪いが手を貸してもらえるか?』

「勿論です兄貴!!そうだ、アリアンロッドにも声掛けませんか!?」

 

この時オルガには電流が走っていた、自分達がアリアンロッドと協定を結んだのは大きな理由がある。それがギャラルホルンだろうが構わずに襲撃してくる海賊の存在だった。ジャズレイが束ねているという勢力は殆どが海賊でありギャラルホルンに対抗するために手を結んでいるような物、ならばこれを一気に殲滅する為だったらきっと手を貸してくれるだろうと。それを名瀬にいうと彼は愉快そうに笑った。

 

『そりゃ良いな!オルガ、お前良い事を考えるじゃねえか』

「へへっんじゃ早速ラスタルに連絡を取ります!」

 

これにラスタルは上機嫌に笑いながら承諾、海賊を殲滅する為の一大作戦を計画する事となった。因みに鉄華団内でこれを発表した際にエクセレンが

 

「あっこのケツアゴ、私を後ろから襲うとしてきた奴じゃないの」

 

と言った結果、鉄華団全体から殺意が染み出し異常なまでに士気が高まったという。

 

「い、言っちゃいけない事言ったかしら……?」

「いや良く言ってくれた。奴は俺が打ち貫く」

「俺がやるよ狼の人」



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35話

清算



「はははっこりゃすげぇぞこの機体!!ロディ・フレームとは比べ物にするのも失礼なご機嫌な性能だぜ!」

「ゲシュペンストっつったか!?こんなのが17機か!!最高だな!!」

「ジャスレイさんよぉ、アンタの誘いを受けて正解だったぜ」

「全くだ。これだけの機体があれば歳星に攻め込んで其処を俺達の拠点にすることも出来るぜ!!」

 

周囲の人間達からの賞賛などの声を盛大に受けながら機嫌よく酒を煽る男、ジャスレイ・ドノミコルス。記憶を漸く取り戻し準備を整えた彼はテイワズから大量の機体を奪いそれを自らの艦隊に詰め込むとそれらを手土産にするように連絡を取っていた大海賊同盟への身を寄せた。

鉄華団のアリアドネの糸の正式利用による仕事受け入れによって裏へのルートを使用しなければ行けない筈の一般的な人々も地球への仕事をする事が以前よりも容易くなっていた。それらが使えない裏ルートも信用度が高く実力も確かなタービンズに依頼するようになっている、それらを襲えれば良いのだが高確率で鉄華団の一部が随伴するので危険が高すぎる。

 

それらを避ける為に同盟でアリアンロッドの補給船団を襲うとしてもそれらにも鉄華団の護衛が付く事によって火星近海は仕事が出来ない状況になってきている。其処へ救いの手を差し伸べたジャスレイ、彼の手によって現在テイワズのシステムや戦力は軒並みダウンしてしまっており復旧には長い時間が掛かるのは明白。今ならば其処を襲撃する事で歳星の施設や産業を丸ごと手に入れ息を吹き返す事も夢ではない。

 

「これからテイワズは俺達大同盟、新世代の暗闇団のもんだ!!そして、俺達はもっともっと上へだ!!」

「「「「「おっ~!!!!」」」」」

 

高らかに宣言するジャスレイに続くかのようにこの大同盟に身を寄せた小規模な海賊団達が声を上げる。鉄華団によって示された阿頼耶識の優位性、それらを有効に使いアリアンロッドに対抗するために組まれた大船団、それが新たな門出を迎えようとしている。これを祝わずして如何するのだろうかという気分なのだろう。アリアンロッドという巨大な鯨が取れずに小さなネズミからの搾取をする時は終わった、これからは自分達の時代が来るのだと自意識過剰気味にそう笑っていた。

 

「―――っ!?お、おいなんだこの警報は!?」

 

艦内に響き渡ったアラートに、ジャスレイは慌てて立ち上がった。上物の酒は床にぶちまけられた。

 

「エイハブウェーブの反応を検知! っ!?た、大変ですこちらに10隻以上の艦艇が接近してきます!!」

「んだとぉ!?」

 

その報告に酒の余韻など吹き跳んだ、間もなく歳星に着こうと言う時に……自分が再び返咲く時が目の前にまで来ているのに何故それらを逃さねばならないのか。直ぐに第一戦闘配備が敷かれたが、大戦力を手に入れた筈の新世代の暗闇団は立ち向かう事が無駄であるとは理解していなかった。床に撒かれた酒は、まるで噴出す自らの血を暗示するかのように残り香を放ち続ける。

 

 

「ラフタさんからです。敵船団を発見、敵艦数27。ジャスレイの旗艦及び船も発見、これより帰還する、以上です!」

「よし全艦に通達、総員第一戦闘配備!各自持ち場に着け!!ラフタさんのゲシュペンスト帰還を確認,各艦との連携を確認後戦闘開始だ!」

『アリアンロッド艦隊了解』

『アサルトウルフズ、承知した』

『おうオルガ、中々様になって来たじゃねえか』

 

兄貴分からからかいの言葉を受けつつもオルガは鼻の下を擦りながらも指示を飛ばし続ける。やがて戻ってきたラフタ専用のチューンがされているゲシュペンストが見えてくる、元々搭乗していた百里と同様のカスタムが施されているゲシュペンスト。大出力スラスターと、腕部の格納スペースを搭載したゲシュペンストは通常戦闘だけではなく偵察や斥侯としても十分すぎる力を発揮する機体となっている。ラフタがハンマーヘッドに戻るのを確認すると手元のスイッチを押してイサリビとホタルビに通信を開く、団長が使用する専用回線だ。

 

「鉄華団全員に告げる。これから俺達はテイワズを裏切りやがったケツアゴを潰す、相手は約30隻の大艦隊。こちらはアリアンロッドに名瀬の兄貴にキョウスケの兄さん達の船の数を含めても16隻、半分ぐらいしかない」

 

普通に考えればこんな戦力差で戦闘を仕掛ける何て狂っているかもしれない、拠点を防衛するのではなく攻め込もうとしている敵に対してこれから攻撃を仕掛けようとしているのだから。仕掛けないのが無難且つ無意味な事。だがしなければならない、確固たる理由がある。

 

「だがやらねえとならねえ!!あいつらはテイワズを潰そうとしてやがる、だがなお前ら、お前らが別にテイワズを助けようなんて考えなくて良い!!」

 

それに思わず反応したのは通信士で元テイワズの人間だったらメリビットであった。仮にもテイワズの傘下の企業である鉄華団の団長から出る言葉とはとても思えなかったからだ。だがその次の言葉を聞いて納得しつつ思わず笑ってしまった。

 

「あのケツアゴは俺達の大切な姉さんを手篭めにしようとしやがった、それがどういう意味になるのか思い知らせる為に戦え!!!いいか、団長命令だあいつをぶっ潰せ!!」

 

オルガは回線を切ったが聞こえない筈の団員達の声が聞こえてくるような気がした。当たり前だ!!と大声で返している声が、これもエクセレンの人徳というかカリスマというか人気が成せる業なのだろう。古参の団員だけではなく新参の団員達もそれを叫んでいる。厳しい訓練の中に咲く美しい花、それがエクセレンである。彼女が齎す光は活力となって団員たちにやる気と力を与えている、確実に鉄華団内で誰が支持を集めているかと言われたらエクセレンと言われるだろう。メリビットは彼女の人気に呆れるような感心を寄せつつ彼女は結婚出来るのかだろうかと心のどこかで考えるのであった。

 

「団長さん、通信が入りました。ハンマーヘッドとアセナからです」

「兄貴とキョウスケの兄さんからか?繋いでくれ」

 

言いたい事は言ったなと思っているオルガは通信を開いてもらうと通信の先からは大爆笑している名瀬とアミダ、小さく笑っているキョウスケ、そして双方のブリッジクルーの笑い声が聞こえてきた。

 

『オ、オルガ言ってくれるなぁ……ぷくくく……ハハハッ!!!やっぱりお前最高だな!』

『全くそれだから、坊やって、言うのさ……アハハハハ!!』

『フフフ、まあお前たちらしくて安心したさ』

「えっ、えっ?」

『お前さっきの通信、ハンマーヘッド(うち)アセナ(キョウスケ達)にも丸聞こえだぞ、ククククッ……』

 

思わず先程押したスイッチを見るとそれは全く別の通信スイッチであった。オルガ、渾身のウッカリである。幸いな事にアリアンロッド艦隊には聞かれていないようだが……。

 

『まあ良いさ、さあやろうぜエクセレンに手を出そうとした奴への罰をな』

『ふっ、ああそうだな』

「……止めてください……」

 

やや締まらないがまもなく一大決戦が始まろうとしていた。




キョウスケ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

釣り


先程のオルガの演説、ではないがあれは正直笑ってしまったな。

だがあれこそ鉄華団らしいとも言えるな、あああいつらにはああいうのがらしいな。

さあ俺もアルトに急ごう、巨人の名を新たに冠したアルトで敵を撃ち貫く!!」


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36話

釣り



ジャスレイ・ドノミコルスよ、念仏は唱え終わったか。鉄華団はお前を許さない、例え地獄の業火に焼かれる事になったとしてもそれだけでは不十分だ。鉄華団はお前を逃さない。

 

―――さあ、散らして貰おうじゃないか。自らの命の華を、墓前に手向ける為に。

 

 

真空と闇が支配する海にポツポツと命の花が散っていく、赤い花びらを撒き散らしながら瞬時に花が咲き散って行く。鉄華団の主力MS、獅電とランドマン・ロディが散開して行く。ユーゴーと共に編隊を組む百練の砲門が開き銃撃を行っていく。獅電は所持している巨大な盾、ランドマン・ロディは自らの重装甲でそれらを容易く弾きながらもお返しと言わんばかりに銃撃を相手の武器に狙いを絞って放って行く。武器が破壊される事で後退しようとする相手を食い破るように突撃する機体があった。それは黄色をメインにペイントされたゲシュペンスト、腕のプラズマ・ステークを胸部へと突き刺し内部から抉るように破壊し戦線に穴を開けると仲間と共に更に戦線を押し上げていく。

 

「二番隊行くぞぉ!!」

「おいおいライド遅いぜ、置いてくぜ!!」

「あっシノさんずりぃ!?」

 

敵機が爆発したことで突破した戦線からさらに奥へと潜り込もうとしながらも残った敵へ機体を向けたライドを尻目に、マゼンタの機体があった。フラウロスこと流星号がくるりと回転するかのように変形すると両肩に装備されている『ショートバレルキャノン』を連射する、ナノラミネートアーマーの防御があってもやや脆弱なスラスター部へと砲撃を直撃させ三機のユーゴーを撃墜する。

 

「邪魔」

 

流星号と同じくガンダム・フレームであり歳星にて改修を受けた機体を駆る三日月は以前よりも巨大となったメイスを振り下ろし隊長機の百錬を容易く粉砕してしまった。三日月は以前よりも遥かにパワーアップした相棒(バルバトス)の圧倒的な力に機嫌を良くしながらも更なる獲物を求めるように機体を動かすと隣にブルーとピンクにカラーリングされたゲシュペンストが付いた。登録コードはアジーとアミダの物だった。

 

『やるじゃないか三日月。早速新しいバルバトスを使いこなしてるのかい?』

「うん。テスラ・ドライブのお陰で制御も楽だからね」

『やっぱりエクセレンの親父さんは大天才だね。にしても新しいバルバトス凄いゴツいね、名前なんだっけ』

「えっと……確か"バルバトス・ルナ・ルプス・レクス"だったかな」

『また、長くなったねぇ……』

 

思わず名前の長さに苦笑するアミダだが三日月も大体同意見であった。彼にとってバルバトスはバルバトスに変わりは無い為此処まで名前を変える意味があるのかと疑問を浮かべているがそこへ一機のMSが突っ込んできた、百里であった。瞬時に反応した三機は機体を上昇させ回避するがバルバトスはサブアームを展開し百里の装甲にそれを引っ掛け捉えると腕を振るって投げ飛ばす。

 

『そぉら!!』

『ハァッ!!』

 

完璧なシンクロを見せながらゲシュペンストのプラズマ・ステークが百里へと炸裂した。完全にコクピットを潰された百里は沈黙した。機体性能や反応速度では勝っているが矢張り純粋な操縦の技術ではあの二人にはまだまだ勝てていないと三日月は思った。

 

『百里で此処まで接近するとかアホかい?折角の高機動を潰しかねないじゃないの』

「ラフタの百里に比べたら凄い楽だったよ」

『だろうね、ラフタだったらもっと上手くやるし今の機体だったらそうは行かないだろうけどね』

『さてと三日月アタシらに付きあいな、一緒にあいつら潰すよ』

「うんいいよ」

 

快諾した三日月はアミダとアジーに続くように翼を広げて突撃して行く。正しく悪魔に相応しい活躍を、周囲に轟かせながら……。

 

「おうらぁぁぁっっ!!!」

 

そのバルバトスに負けず劣らずの活躍をするのはグシオンを駆る昭弘、強化改修が施されたバルバトスほどではないがその怪力と4本の腕を巧みに使いながら相手を圧倒し時にはその怪腕で接近戦を仕掛けて来た敵機を掴むと力任せに装甲を引っぺがすとコクピットをブロックごと引き抜いて戦闘不能にするという常識外れな力技を披露していた。

 

『昭弘後ろに3機!!』

「おう、ラフタケツに4機着てるぞ!」

『ああもうしつこいなぁ!!』

 

高速で戦場を引っ掻き回すラフタ専用のゲシュペンストが背後に迫ってきたユーゴーへとライフルを向ける最中グシオンは両目を輝かせながら両腕で敵機の頭部を鷲掴みにすると出力を一気に上げて頭部を握りつぶすとそのまま残った一機へと投げつけハルバードを力任せに振り下ろして深い傷を刻み込んで爆発させた。

 

「ッシャア!!」

『うっわぁ凄い馬鹿力…アタシのゲシュちゃんとは比べ物にならないなぁ……まあいっかガンダム・フレームと比べるのが間違ってるし。昭弘、今度は敵の船を落としに行くよ!』

「おう任せろ!!」

 

全ての腕にライフルを持たせてラフタと共に船へと突撃していく昭弘、圧倒的なライフルによる支援砲撃を背後に受けつつラフタは最高出力で一気に敵戦艦に肉薄すると腕部のプラズマ・カッターでエンジン部を破壊するとそのまま砲塔も破壊し僅か1分足らずで一隻の戦艦を戦闘航行不能へと落としいれた。

 

「よし!」

 

戦闘開始から僅か10分、新世代の暗闇団は大きな損害を受けて始めているがそれでもまだギャラルホルンという戦力は加わっていなかった。これからか彼らにとっての地獄になるのだ。




短めですいません!少々忙しくてこれが限界です!

出来るだけ急いで次回も上げます。多分次回もまだまだ戦闘です。


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37話

新生



戦闘開始から15分が経過しようとしている頃、新世代の暗闇団の旗艦となっている『黄金のジャスレイ号』には月々と凶報が舞い込んできている。

 

「ユーゴ第3小隊隊長機撃墜、戦線を離脱!」

「百錬4、6番機戦闘不能!!撤退します!!」

「カス共が……!!!」

 

旗艦に据えられているジャスレイの艦には戦闘状況の全てが入ってくるが次々に入ってくるのは凶報ばかり、次々と落とされ戦線から離れていく報告や撃墜報告、補給の要請などが鳴り止まない。新世代の暗闇団は数こそ27隻という大艦隊だがその殆どは生きて行く為に致し方なく手を結んだ別々の組織の混成軍である為に統率などが取れる訳もなくバラバラに判断して行動をし続けている。それぞれが海賊として名を上げて来た者ばかりというのが逆に仇となり被害に歯止めが利かない状況が続き続けている。

 

「叔父貴、援軍要請がまた来てやがる!!」

「クソ共が……何の為にゲシュペンストを渡したと思ってやがんだ!!!」

 

怒りのままに拳を振り下ろすが状況は変わらない、鉄華団にタービンズそしてアサルトウルフズは全く勢いを止めずに自分の喉笛を噛み千切ろうと迫り続けてくる。テイワズ内で戦闘能力の三強と言われる組織が手を取り合って自分達を討伐しようとしている、そしてそこに加わっているアリアンロッドの艦隊。悪い夢でも見せられているかのような感覚に陥りそうだ。

 

「各艦に通達しろ、ヒューマン・デブリ共を投入しろ!!こっちの方が数では勝ってるんだ押し潰させろ!!」

 

 

「そろそろ、向こうも焦ってくる頃じゃないかしら。そろそろ子供達を使ってくる筈よ」

「だな。頃合いって奴だな」

 

イサリビのブリッジにて戦局を見守っているオルガの隣でパイロットスーツのエクセレンが言葉を零した。向こうからしたら数で有利な筈なのに有利な所が劣勢な状況を覆したいだろう、その為に阿頼耶識搭載型のMSを大量投入してくるだろう。自分達は阿頼耶識の対応には慣れているし化け物的な能力を持っている三日月との模擬戦を重ねている事で対阿頼耶識戦は問題ないがアリアンロッドからしたら大量に迫ってくる阿頼耶識は厄介な事極まりないだろう。

 

「アリアンロッド艦隊に連絡、予定通りにMSは3機構成の小隊運用を基本に。そこをゲシュペンストや獅電が入らせろ!」

『此方アリアンロッド了解した、小隊運用を徹底させる』

「頼む。被害拡大を防ぐにはそうするのが一番だからな」

 

連絡を徹底させながらエクセレンはそろそろ自分もでるべきだと思いブリッジを後にする、通路では補給の為に戻ってきているパイロット達に食べさせる食事を持っていくクルーや補給が終わった事を確認して機体に向かっていくパイロット達が視界に入っていく、彼らの傍を通りながらヴァイスの元へと辿り着いたエクセレンは即座に機体の立ち上げを開始する。

 

「新生ヴァイスちゃんのお披露目って奴ね、うーん堪らないわね~♪」

 

MA戦にて大破してしまったヴァイス、歳星によってMAのパーツや新造の『TD』などによって最早新しい期待へと生まれ変わっている。今までは堕天使という言葉が似合う姿をしていたが今では悪魔と化した天使と言われるようになっている。そんなヴァイスは機嫌良さそうに機関を起動させると今すぐに叩かせろを言わんばかりに出力を上げていく。

 

『エクセレンさん出撃準備完了、何時でもどうぞ!!』

「エクセレン・ブロウニング。ライン・ヴァイスリッターちゃん出撃するわよ!」

 

射出され暗黒の海へと解き放たれたヴァイスは悪魔の如き翼を広げると、一気に出力を高めると閃光の如き速度で戦場を駆け抜けていく。以前のヴァイスであれば限界であった筈の速度をあっさりと越えていくがまだまだ速度は上がっていく。

 

「くぅぅぅっこれは、想像以上ね!!」

 

白い閃光となって突き進んでいくヴァイスの前に数機のMSが躍り出る、急激な速度で接近して来るヴァイスを食い止める為に迫ってきたのだろうがそれを見て無意識なうちに唇を舐めた。

 

「行かせるなぁぁぁっ!!」

「止まれえええ!!」

 

罵声を飛ばしながらライフルを乱射して此方を捉えようとして来る、しかしそれは超高速移動を行っているヴァイスに掠る事もない。銃口を向け引き金を引き弾丸が発射されるまでの短い間にヴァイスはその射線上から姿を消している、捉えたかと思えばそれは残像であり攻撃を全く与える事が出来ない。

 

「こ、攻撃!?何処から……があっ!!?」

 

刹那、周囲から襲い掛かってくる弾丸がライフルを抉った。ライフルを手放すが直後に腕の関節に閃光が突進し穿ち腕を爆炎に飲み込んだ。周囲を警戒しつつ全速力で逃げ去ろうとするがその初動すら今のヴァイスにとっては隙だらけでしかなく手にしたライフルから放たれるビームは無慈悲にスラスター、メインカメラに関節といった急所を打ち抜いていき戦闘能力を奪い去って行く。

 

「し、白い閃光……!!」

 

気を失いかけたパイロットが最後に見たのは僅かに動きを止めた白騎士が瞬時に速度を上げて閃光となって去って行く姿であった。その白騎士の内部ではエクセレンも今までとは段違いの性能となったのに驚きを感じずに入られなかった。

 

「凄いわね新しいヴァイスちゃん……ムフフフ……さあ、暴れるわよぉぉお!!!!」




イオク「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season

手向けの花


ジュリエッタ、お前本当に私を蔑ろにしすぎだぞ!?

えっ何、わ、私の食事抜き!?何だとぉぉ!!?」


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