アナザーエンドの後日談 (眼鏡が好きなモブ男)
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ながーいプロローグ
プロローグ?


最近朱里ルートを見て書きたくなっちゃいました。
誤字脱字は報告してください。


俺は何かに導かれて路地裏へと辿り着いた。

どうしてなのかはこれからも明らかにならないだろうし、探ろうとも思わない。

ただ、何よりも確かなのは、彼女―浜野朱里に会うために俺はここに来たんだ。いや、もしかしたら今までの人生すらも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置いてくわよ」

「おーい、待ってくれ!」

俺達はこれから適当な喫茶店でお茶をすることにした。ナンパと思われたのが不本意ではあるが。

彼女が気に入った店は意外と直ぐに見つかった。

「ここなんてどうかしら」

「あの、こういっちゃなんだけど、こんな所でいいのか?」

「………だし」

「え?」

「何でもないわ。行きましょう」

「あ、ああ」

良く言うならば隠れた名店という雰囲気というのだろうか。店は最近の女の子が好むような、小洒落たパフェとかを出すとは到底思えない店だ。

第一印象が最悪だったのか。それとも、彼女がこの周辺を知り尽くしているのだろうか。

俺としては是非後者であって欲しいところなのだが。

「…らっしゃい」

見事に前者を引いてしまった。

不機嫌そうな店主に小柄な彼女が乗っただけでギシギシという床。

いや、まだだ。まだ実はメニューが「花咲く森のくまさんオムライス」なんて可愛い名前の可能性がある。そうさ、あのいかにも店主なおじさんも実はバイトで。

「カウンター席にしてくれ。めんどいから。チッ、クリスマスだからって浮かれやがって」

……無いな。

きっと彼女は帰りたいんだろうな。じゃあさっさとコーヒーでも飲んで帰ろう。

席につき、メニューを見た彼女は急にピタリと動きを止めた。

「嘘よ…こんなはずじゃ…」

(ん?どうしたんだ?メニュー数が少ないとか、そういう事か?)

そう思っていると。

「店主!これもっとまけなさい!」

「はあ?これ以上は1円もまけれないね!」

「ふざけんじゃないわよ!このふざけた値段のどこが限界だっていうのよ!」

「何ぃ?!俺の生活がかかってんだよ!まけられるかこのクソ女!」

「なんですって!?もっぺん言ってみなさいよ!」

「お、落ち着けって朱里!」

「あんたは黙ってなさい!」「お前は黙ってろ!」

(酷い言われようだ…)「ほら、俺が誘ったんだしさ、俺が出すよ。な?」

「…私、人に借りを作るのが嫌いなの」

「借り?朱里は俺に付き合ってくれてるんだから当たり前だろ?」

「……それもそうね。じゃあコーヒーと、チョコケーキを頼もうかしら」

「あ、俺も同じので」

「かしこまりー」

ようやく分かった。朱里は自分で出すと思ってたからこういう店に入ったわけか。…少しは安心だ。

「そういえば、別にいいんだけど」

「ん?」

「初対面の人を下の名前で呼べるって結構凄いと思うわ」

(…言われてみるとそうだな。人を名前で呼んだのはいつぶりだったっけ?)

「ああ、ごめん」

「別に謝れとも悪い事だとも言ってないじゃない」

「あ、ああ」

「コーヒーとチョコケーキ二つお待たせ」

(ナイスおっさん!)

…と思ったのは一瞬だけだ。なぜなら、朱里に渡されたコーヒーは、アイスコーヒーだった。

「ちょっと!なんで私だけアイスなのよ!」

「ホットとは言われてねぇぜ」

「この季節にわざわざ『ホットコーヒーで』なんて言うやつが居るか!」

「まあまあ、2人とも口付けて無いんだしさ、替えれば済む話だろ」

「ぐぬぬ…そこまでされると気分が悪いわ…」

(じゃあどうすりゃ良いんだ)

「…借りを作ったときは直ぐ返すのが私のポリシーなの。何か一つ、出来る範囲でお願いを聞いてあげるわ」

「じゃあ電話番ご「無理。却下」早っ!」

「だって、持ってないんだもの。仕方ないじゃない」

「持ってない!?このご時世に!?」

「そうよ。何か悪い事でもあるの?」

「いや、無いけど…待てよ、君もしかしてテレビは?」

「持ってない」

「ベッドは?」

「床で寝てるわ」

「服は」

「これと…高校時代とかの制服と……パジャマくらいかしら」

「…………………。 買いに行こう」

「え?」

「今度、絶対に服を買いに行くぞ。絶対だ」

「え、ええ?でも…」

「問答無用!どうすればまた会える?」

「べ、別に受付で私を呼んでくれって言えばいいんじゃないの?アルバイトを呼んでくれるかは分からないけど」

「分かった。いつになるのかは分かんないけど、絶対に会いに行くからな」

「わ、分かったわ」

その後はあまり楽しそうに話す雰囲気ではなく、普通に飲食をしてお開きとなった。

やってしまったと思っていると、彼女から声をかけてくれた。

「…待ってやらなくも、ない。から、出来るだけ早く来なさい。楽しみに待っててあげるわ」

「……ああ!」

そうして俺達は別れた。たった一つ、約束を交わして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…気に食わないわ」

あの男では無く、あの男を拒絶しない私にだ。

お母さんが不倫して、両親が離婚したあの日から私は男を拒絶してきたというのに。

半生を否定するようでムカつく一方で、あの声が、アイツが私の名前を呼ぶ事に。感情がわかりやすいったらありゃしないあの表情に。私は安堵さえしてしまっているのだ。

アイツが何者なのか。それを考えてみても思い浮かばないので、私はまた一人で家へと歩き出した。




追記:急いで投稿したんであらすじ、後書きなどが雑ですいません。

朱里の記憶は本文にあるように母親の不倫で離婚、ついでにお父さんも交通事故で死亡ということに改ざんされている設定としています。
また、パワポケ11では明言されていない(はずの)主人公の記憶についてですが、朱里との記憶は全喪失し、ジャジメントが併合したのは知っているが組織名がツナミグループに変わったことは知らない。しかし勿論ナマーズの記憶はあるという設定にしています。ご了承ください


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デート

ちょっとパワポケの動画を見てたら、朱里の一人称が「あたし」だった事に気付きました。
大人になったからです。異論は認める。
追記:ホント追記ばっかりしてるなあ(笑)設定をよく知らずにやるからこうなるんですね。皆さんもお気をつけください。
本題です。
朱里…携帯持ってるやん…クリスマス邪魔されてるやん…


ナマーズからホークスに移った俺は、いくら一軍選手だったとはいえ二軍スタートを冬季キャンプで告げられた。

二軍では制限されることも多く、また遠出をすることも無いため、朱里に会えない事が続いた。

一ヶ月後。二軍監督から「一軍に張り合えるか確かめる」と言われ、あともう一歩という所まで行ったのだが急に打撃不振となりチャンスを掴むことは無かった。

四ヶ月後。遂にチャンスを掴み一軍へと上がった。のは良いのだが、既に交流戦は終了しており、関東地方を本拠地とする球団とのビジター試合が中々なく、結局再開するのは半年後となってしまった。

 

 

 

 

 

 

(たしか、ツナミグループと言ってたよな。朱里は覚えてるんだろうか…)

不安を胸に抱きつつ、彼女が働いているのであろう東京支部へと足を運んだ。

入口に立った時、直ぐに彼女は見つかった。

彼女は受付をしていた。きっと、正社員になったのだ。となると、彼女は色々な勉強をしたのだろうか。もしそうならば、俺の事なんて覚えているはずがない。

不安をますます募らせて入ると、彼女はなんの反応も示さなかった。ただ、いわゆるマニュアル通りの丁寧な対応をしていた。

「本日はお越しいただきありがとうございます。今日はどんなご要件で?」

ここまで来たというのに、やはり何の反応も示さない。

「あ……ええ、と。君に用があるんだけど」

「はあ。私の休憩時間まではまだ時間があるので、あちらに座ってお待ちください」

「あ、はい。分かりました」

無限とも思える時間を過ごし、ようやく彼女は出てきた。あの日、出会った時と同じ服を来ていた。

彼女はスタスタと歩いて行く。「待ってくれ」と言っても聞かない。

仕方なく付いていき、どこまで行くんだろうと思ったその時だった。

「……ここまで来れば平気かしら。…あのねぇ、あんた馬鹿?!!何よその恰好!!ユニフォームが私服のヤバいやつと知り合いとか思われるじゃない!」

この豹変っぷりである。

「あー、それはその、悪かったよ」

「悪いで済む話じゃないわよ!……で、今日は一緒に服を買いに行くのよね?」

「ああ、うん。よく覚えてたな」

「そりゃあんなインパクトのある出会いをして忘れる方が不思議よ」

「まあ、それもそうか。そろそろお昼時だから、どこかでエネルギーチャージと行かないか?あ、そうそう。先に言っとくけど俺が出すから」

「まあ、どこでも良いわよ。そっちが決めてちょうだい」

とは言っても良く知らないんだけどな。この周辺。

何処に向かっているのかは俺も分からない…という事を悟られぬように目的があるように歩くが、遂に限界が来た。

「ねぇ、どこ向かってるのよ」

「ま、まあ待てよ。腹を空かせて食った方が美味しいから」

「まあ良いけど…」

そうして再び歩いて2分ほど。前に空いているラーメン店があった。

「お、空いてるな」

いつも通っているような雰囲気を醸し出してみたが、彼女の観察力は舐めてはいけないようだ。

「ねぇ、ここさっき通ったじゃない。しかもさっきから空いてるし」

もう誤魔化せないみたいだ。

「…………ごめん」

「何が?」

「いやあ、東京に来たのが久しぶりでさ、しかも来てすぐに君に会いに来たから全く分からないんだよこの辺」

「だから何?無駄に歩かせといて笑って誤魔化せと?」

「すいません……」

「………くも、ない」

「…え?」

「私に真っ先に会いに来てくれたって言うなら、許してやらなくもない…って言ったのよ」

「あ、ありがとう」

「さて、入りましょ」

昼時とは思えないくらいに空いていたのに、中々な美味さだった。

「じゃあ、行こうか」

「そうね…ってあんたに任せられるかっ」

「ははは…。でも、そっちこそ行きつけの店でもあるのか?」

「それこそあんたに言われなくないわ。約半年ぶりの再開にユニフォームで来るような男にね」

「……立ち絵がそれしかないからな」

「…え?」

「何でもない。案内してくれ。俺にはさっぱり分からん」

「そっちか誘っておきながら…?まあ良いけど。あそこでいい?」

彼女が指差す先は大手ファッションチェーン店だった。

 

「なあ、朱里はスカートを履かないのか?」

「そりゃ履くけど…あまり好きじゃないわ」

「それはどうして?」

「スカートを履くと、露出が増えるでしょ?そうすると男どもがやって来るから嫌なのよ。男自体嫌いだし」

「え……」

「あ、いや、取り敢えずあなたは嫌いじゃないわよ。そうじゃなきゃ約束も一緒に買い物もしないわ」

「あ、そうだよな。でもそうなると男が嫌いな理由まで聞きたいんだが」

「お母さんが不倫したのよ。その時私はもう小さくなかったけど、でもやっぱり敏感な時だったから。人のお母さんに手を出すなんて!って思ってたら、いつの間にか避けるようになってたわ」

「……ごめんな」

「んーん。むしろこうやって嫌な事を言えるってのは良い事だと思うけど」

「そうか。それで…スカートが嫌いな理由を聞いたところですまないんだが、俺にスカート姿を見せてくれないだろうか」

「はあ?!」

「お願いします!」

「いや、ちょっといきなり…ああもう!こんな所で土下座なんてしないでよ!分かった!分かったから!」

黒を基調とした、白と赤のラインが入ったチェック柄のスカートを持って彼女は試着室に入った。

5分くらい経った後、やっと顔を出した彼女は試着室のカーテンで体を隠しながら「ねえ、そんなに見たい?」と聞いてきた。

人間、そんな風に聞かれると見たくなると言うか。もう何がなんでも見たいというか。だから俺は迷わず「見たい」と言った。

それから再び数分してから現れた彼女に、俺は思わず見蕩れた。

ごくごく普通の、特別可愛いというわけでは無いはずなのだが、いつもはあまり見せないのか少しぎこちない不安げな表情に、見蕩れてしまった。

彼女は固まった俺を「ほら、さっさと歩く!」と叱りつけると、次はパーカー等のラフな服を買っていった。俺の「こっちが誘ったんだし」と朱里の「私の服だから」という争いがあったのは言うまでもない。結局は俺が押し切った。

終わりかと思っていたその時。

「次はあなたの服ね」

「……え?」

「当たり前でしょ。ユニフォームだけなんて信じられないわ」

「いやいや、俺らはお前の服を買いに来たわけで…」

「うるさい。問答無用よ」

「…はい」

どんな服が似合うのかを異性に考えられるのはとても恥ずかしいものはあった。が、特に波乱があったわけでもなく動きやすい服を買って外に出ることにした。

しかし、蒸し暑い。6月中旬だから、雨が降ってないだけマシだが。

「なあ朱里、暑いからどこかで涼まないか?俺が出すからさ」

「嫌よ。…ここまで出されちゃヒモみたいじゃない」

「別にいいだろ、昔からそういうものなんだから。…そういえば、女性の場合は『ヒモ』で良いのかな?大体男に使われる気がするけど」

「知らないわよ。……ここなんてどう?」

「ああ、良いんじゃないか?」

店内に入り、席へと案内されると目に留まったのは一つのメニュー。メニュー名は「カップル限定!特製Wメロンソーダ」だ。

「なあ、朱里。お前もしかしてこれやりたかったんじゃ「断じてないわ」やっぱり早い!」

「でも見てみなさい。メロンソーダ2杯分よりもこっちの方が安いわ。名前からして二杯分の量があると思われるのに」

「それはそうだな」

「ねえ、あなたはさっぱりした甘い物の気分?それともどしっとした甘味の気分?」

「蒸し暑いからな…さっぱりしたのが良いな」

「私もそうなのよ」

「……つまり?」

「やってみない?」

「スキャンダルに載るぞ」

「私そういうのに疎いから」

(そういう問題じゃないんだけどな…)「まあ、やりたいならいいよ。頼むか」

「そうね。すみませーん」

そうして出て来たソイツは存在感が半端じゃなかった。ご丁寧にストローは2本繋がっていて、ハート型を作り出している。

「…俺帰るわ」

「待ちなさい!こんなの一人で飲んでたら只の変人じゃない!!」

「二人で飲んでても凄まじいわこんなもん!そもそも飲みたいって言ったのはそっちだろ!」

「それなら誘ったのはどっちよ!私に選択権を与えたのは誰なのよ!」

「……早くしないと無くなるぞ」

「しっかり答えなさ…早っ!飲むの早っ!」

そう言って朱里はテーブルに身を乗り出す。

飲んだ後の満足気な吐息、艶やかな桜色の唇、髪の毛のいい匂い。全てが俺の本能を刺激する。

「…どうしたの?無くなるわよ」

本能に乗っ取られぬよう冷静に考えようと試みると、何かを忘れている事に気がついた。……何だっけか。

(…あれ、今日試合やったっけ?……あ)

「あーーっ!!忘れてたーーっ!!」

「うわっ!何よ!」

「やばい!試合だ!遅れる!ごめんまた会おうな朱里!」

「ちょっと待って!……少しだけ、待ってくれない?」

「多分、5分くらいなら平気だけど……ギリギリ」

「買ったのよ、ケータイ。連絡先、交換しましょ」

「あ、うん」

「……よし、完了。それじゃあ、行ってらっしゃい」

「おう!行ってくる!」

「……はあ、これどうしようかしら………ん?あいつ、買った服忘れてってるじゃない。そそっかしいわね」

 

その日の主人公の成績は代打出場、一打席一HR二打点だった。




今回、文字数が多くなっていますがどうでしょうか。多すぎる場合は言ってください。少ないという要望には善処するようにします。多分無理です
それと、一軍になるまでをバッサリ削ったのですが、見たい人がいれば書こうと思います。
追記:感想、何でもいいんですよ?いつでもお待ちしております。どしどしください。あと、次回の構想が全く無いので、時間が凄いかかるかも…


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波乱…?

そこそこペース維持は出来てる…かな?
今更ですが、()内は主人公の心の中で思っている事です。ちょっとだけ違います


あの初デートを終えた後も普通に日は過ぎていき、勿論再び本拠地へと戻る事になったのだが、今までとは違う事が一つ。

朱里と連絡先を交換したという事が何よりも大きな成果だ。「こっちも暇な時にメールするからそっちもするといい」とも言われているため、これからは寂しい思いをすることも無さそうだ。

 

ある日練習をしていると、監督が俺の方へと来て「これからはスタメン起用もある」と言ったため、その日はいつもよりも集中して練習をした。

 

二ヶ月後。レギュラー争いは続いたまま、関東でのビジター試合だったため、朱里にメールを送ることにした。

「今日会えるか?」

「大丈夫。〇〇に集合で」

「了解」

その日の試合ではいつもよりも力を出せた気がする。

集合場所に着く直前、めちゃくちゃデカい女性がいた。しかも、どこかで見た気がする。

(いつだったかこんな事があった気が……)

しかしそれはいつの間にか気にならなくなった。何よりも、朱里に会える。それだけで充分だ。

 

 

 

 

 

「あ、おーい、朱里ーー!」

「大声で呼ばないで。恥ずかしいじゃない」

いつも通りな事にほっとしつつ、話題を考えていると少し驚く発言があった。

「……ちょっと話したいことがあるの。家まで来てくれない?」

いつもあまり自分からしたい事を言わない朱里からそんな事を言われるとは思わなかった。しかし、だからこそその話の重要さや他人に聞かれたくない話なのだと分かる。

「…分かった。付いていくよ」

「ありがと。…人多いわね、手出して。」

「…?分かった」

手を差し出すと、朱里はそれをぎゅっと握りしめた。

「は?え?」

「?」

「いや、何でもない」

(…普通逆なんだけどな……)

少し彼女の手の温もりを意識しながらも、俺は不安になっていた。

彼女がそうまでして聞かれたくない、それでいて話すべき事。いったい何があったのか…

そんな不安を抱きつつ、長い道のりを終えて朱里の家へ辿り着いた。

「さて、上がって上がって。今紅茶出すから。あ、コーヒーの方が良い?」

「どちらかって言うとコーヒーかな…ってそんな良いよ」

「そう?遠慮しなくて良いのに。ほら、そこ座って」

「あ、うん。それで、要件って?」

ひとまず部屋を見渡してみる。

意外と片付いている。結構ごちゃごちゃしてそうなイメージだったが。

そんな思案が伝わるはずもなく、朱里は俺の問いに答えた。

「ああ、前買い物行ったの覚えてる?」

「そりゃ覚えてるよ」

「その時、買ったやつ忘れてってたのよあんた」

「……言われてみりゃそうだったな…。…で、それだけなのか?」

「そんな訳ないでしょ。それなら会う時に渡せば良かった話じゃない」

「…じゃあそっちを頼むよ」

「分かった。…これは、お願いなんだけど」

「何だ?」

「その、こっち見ないで聞いてくれる?」

「…分かった」

「ありがと」

お願いを聞いて、反対に振り向いた。

すると、腹に手が回された。つまり、抱きしめられているのだ。

「…朱里?ちょっと危ない気がするんだが…主に世間からの目が」

「別に抱いてくれって言うわけじゃないんだから良いでしょ」

そういう事をバッサリと言い放つ所辺りも彼女らしいと言うべきだろうか。

「そういう問題じゃ無くてだな…まあ、話してくれ」

「前に帰ってくる途中での出来事なんだけど………」

 

 

 

 

 

「はーー…帰ったらすぐ寝ようかしら…」

疲れてそんな事を口にしながらいつものように騒がしい道を歩いていると、一際目立つ人影が見えた。

(…デカっ!190は超えてるわね…しかも女性だし)

気になってずっと見ていると、不意に目が合ってしまった。

しまった、と思っているとあっちの方から凄く悲しげな顔をして目を逸らした。

「……?ねえ、あなた。どうしてそんな顔を…って、え?」

凄まじい勢いで彼女は逃げていった。しかし、土地勘に勝るこっちに分があったようで、追いつくことが出来た。

「…何よ。急に逃げて」

「いや、すんません、こっちが悪かったです」

(…どこかで会った気がする。そういえば、アイツも会った気がするって言ってたかしら。ここは…)

「…変わらないのね」

「……!!?あ、朱里、お前記憶が…?」

「…残念。あなたなんて見た事ないわ。さて、どうして私の名前を知っているのかしら?」

「…こ、こりゃ逃げるが勝ちやな。ほなさいならー!」

「?!」

そう言って彼女は飛んでいった。何も仕掛けはないのに…

 

 

 

 

「って事があったのよ」

「それは、いつの話なんだ?」

「……一ヶ月くらい前…かな」

「なんですぐに言ってくれなかったんだ!」

振り向きながらそう言うと、俺は彼女が見ないでと言った理由を知った。

彼女は泣いていた。全く震えた声を出さず、あくまで平静を保ちながら泣いていた。

「…だから、見ないでって言ったのに。ほら、あっち向いて」

「……分かった」

「…あなた、親の顔思い出せる?」

「そりゃあ思い出せるけど」

「声も?」

「うん」

「口癖も?」

「…キツいかも」

「仕事は?車は運転してた?喧嘩は良くしてた?」

「ど、どうしたんだいきなり…」

「…私は、覚えてる。父さんの好物も、家族で良く行った場所も、その景色も、お弁当のおにぎりの形も、全部!すぐに思い出せるのよ。鮮明に、鮮明すぎるほどに!」

「……!」

「あまりにも、不自然すぎる。だからきっと、この記憶は偽物。記憶だけじゃない。あなたが今まで『浜野朱里』だと思っていた私は、全く別の何かかもしれないのよ!それなのに、それなのにどんな顔してあなたに会えばいいってのよ!!」

「……朱里」

「取り乱してごめん。で、ここからが本題なんだけど」

(え?本題じゃなかったのか?!)

「別れ話を切り出そうってわけじゃないわ。むしろ逆よ。…私の記憶を取り戻すのを、手伝って…ください」

「分かった」

「え?即答?」

「当たり前だろ。なんというか、頼ってもらえて嬉しいし。……もしかして、自分で調べてたのか?」

「どうしてもお手上げだったのよ。それに、初めて会った時の言葉が引っかかって」

「…会った事がある気がする、か。でも、今でもそんな感覚があるだけで、思い出したりなんて無いぞ?」

「それでも良いのよ。少しでも手がかりになる…はず」

「…そう言えば」

「何?」

「さっきの話で出たデカい女性…今日見た気がする」

「本当?!」

「ああ、待ち合わせ場所の近くで…」

「次はそこで決まりね。…それじゃあ、改めてよろしく。相棒」

「ははは、相棒か。よろしく」

こうして、記憶探しが始まったのである━━




軽くイチャイチャ回です。
前回も言った気がするのですが、この先ほっとんど考えていないので(出来て二、三話くらい)、投稿ペースに関しては勘弁してください……


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記憶探し
野球しろよ


1話1話の文字数は少なくします。話数が減っちゃうので()


「………」

「どうしたの?」

「さっき、どんな顔で会えばいいなんて言ってたけど、いつも通りの表情だったからさ」

「ああ、多分メガネのせいじゃない?ほら、メガネと前髪をどけると…結構変わるでしょ?」

「へー、確かに」

「度は入ってないんだけどね」

「…じゃあなんで付けてるんだ?」

「……友達に似合うからって言われて…?いや、違う…」

「もしかして、そこも偽物なのか?」

「…そうかも」

今、朱里は何を考えているのだろう。やはり、不安なのだろうか?または、これからの計画でも練っているのだろうか。

しかし、一つ言わなければいけないことがある。

「朱里」

「何?」

「あと二ヶ月…いや、三ヶ月。大人しくしていてくれないか」

「嫌。………って言いたいんだけどね。出来ることが殆ど無いし、良いわよ」

「…ありがとう」

「礼を言われる程の事でも無いわ」

「……この雰囲気の中申し訳ないんだけど」

「?」

「終電逃したから泊めてください」

「……お風呂は貸す。布団もあるから良いんだけど…あんたが期待するような展開は断じてないから」

「ありがとう!助かる!」

勿論その夜は何かがあった訳でもなく、朱里を起こさぬように出ていき、そのまま試合に向かった。

昨日は移動日だったからあまり怒られずに済んだが、今後は気を付けるよう監督に言われた。

それからも時は過ぎていき……ホークスは優勝を果たした。正直あまり役に立っていないため微妙な所ではあるが。

 

クライマックスシリーズ。ライオンズを5戦目で下し、日本シリーズへと進出した。

 

日本シリーズ。巨人との戦いはもつれにもつれ、最終戦で先制ホームランを浴びたホークスは悪い流れを断ち切ることが出来ず、負けてしまった。

来年こそは日本一を目指そうと気持ちを入れ直し、秋季キャンプでは主にミート力を鍛え…ついにオフシーズンへと突入した。

その後も優勝旅行があったわけだが、旅行が終わってすぐ朱里に会いに行った。

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「私一人だからあまり邪魔じゃないけどね。いらっしゃい」

「相変わらずキツいな。お土産買ってきたぞ」

「え?ホント?…ありがと。わ、美味しそう!」

幼さの残るはしゃぎ方は正直見ていて微笑ましかった。

「あ、そうだ。もう夕飯食べた?食べてないなら用意するけど」

「いや、悪いよそんなの」

「大丈夫大丈夫。まだ私食べてないから」

「あ、そうなのか?じゃあお言葉に甘えて」

 

 

(食べ終わってから…)

 

「ふう、食った食った。ミートソースのスパゲッティは久々だけど、美味かった」

「そう?良かった。…それで、話があるんだけど」

「…大人しくしてたか?」

「…尾行()けてみたんだけど、撒かれちゃった」

「おい。大人しくしとけって言っただろ。…危ないんだから、気を付けてくれよ?」

「分かってる分かってる。…で、アイツらのアジトっぽい所を見つけたから今度一緒に行かない?」

「おう。分かった」

「……それでね」

「?」

「あのー…今日から来年まで試合無いんでしょ?」

「うん」

「だったら、わざわざホテル行ったりとか面倒だし、一緒に住む?」

「…それはとてもいい話なんだけど、良いの?」

「良くなかったら提案しないわよ」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「素直でよろしい」

「じゃあ泊まる予定だった所から荷物持ってくるから、また後でな」

「うん、また後でね」

 

(……その後)

 

「…結構荷物多いのね」

「ああ、バット2本と着替え1週間分とその他諸々があるからな」

「ふーん。どこで練習しようってのは決めてあるの?」

「まあ、最悪どこかで走り込むだけでも出来れば良いや」

「へえ。…私、明日仕事だから寝るわね」

「ああ、じゃあ俺が電気消すから。おやすみ」

「ありがと。おやすみ」

…実は荷物が多くなった理由の一つに枕を持ってきた事がある。

なぜ持ってきたか。

それは、前回来た時に貸してもらった枕が、使用済みかどうか気になって眠れなかったからだ。




今回、特に文章が稚拙かも


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潜入!

「……よし!今日こそは取り戻すわよ!私の記憶!」

「おう!…で、そのアジトってのはここからどれくらいなんだ?」

「20分から30分くらいかしらね」

「ふーん、意外と近い…のか?」

「近いんじゃないかしら。徒歩だし」

「へえ。準備はokか?」

「うん、大丈夫。行きましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱里が来る。どうしようか?」

「…そろそろ、本気で帰してみよか。情報を得られんと分かれば、少しは退くやろ」

「…手荒なのは嫌なんだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

「うん。…多分」

「おいおい、立ち入り禁止って書いてあるぞ?しかもこんなボロボロの所をアジトにするか?」

「そんなの私は分かんないわよ」

ボロボロのビルの階段を上っていくと、布団や食べ物などが置いてある部屋のような場所に出た。

「…本当に、こんな所で生活してるのか?こいつらは」

「まあ、そうなんでしょ…う……ね…。…隠れて」

「え?」

「しっ!静かに、そこのロッカーに隠れるわよ」

「あ、ああ」

「……狭い」

「仕方ないだろ。それよりも、なんで急に?」

「静かに。…来る」

少し待つと、本当に、朱里が見たのであろうガタイの良い女性が現れた。

ちなみに、俺がロッカーの奥の方にいる。

「……(ジロリ)」

(…なんか見られてるんだけど……?)

(バレてない。平気だから。多分)

(そこは確信を持って言ってくれ……)

「………(スタスタ)」

(うわっ!こっち来てる!)

(大丈夫。平気だから)

「…お前ら何やっとるんや」

急に視界が明るくなった。

「うわっ!やっぱりバレたじゃないか!」

「あんたが騒ぐからでしょうが!」

あの女性は、怒っているのではなく、呆れたと言わんばかりの顔をしている。

「お前ら、こんなとこでもイチャついとるんか」

「「イチャついてなんかない!」」

「おーおー、息ピッタリやな」

「うるさい!…で、今日こそは聞かせてもらうわよ。どうして私を知っているのか。そして私の記憶について」

「出血大サービスで教えたる。ウチがお前を知っとるんは、同じ高校に通ってたからや」

「…やっぱり、私の記憶は偽物なのね」

「おお、そこまで辿り着いたか。流石やな」

「ふん。大事なのは私の記憶よ。誰が私の記憶を奪ったの?」

「そっから先は答えられんな。お引き取り願おうか」

「…く、くそ…何、を……(バタッ)」

「あ、朱里!!?お前、朱里に一体何を!」

「気絶させた。…言っとくけどな、始末するつもりならいつでも出来る」

そう言ってそいつは後ろを向くと、壁に向かってパンチをした。

メシャッという音が鳴り、手が壁にめり込んでいるのが見えた。

「………!」

「分かったか。お前ら二人は、こんな奴がうじゃうじゃいる世界に足を踏み入れようって言うんや。これに懲りたら2度と近付かないことやな」

「………一つ、聞いていいか」

「うん?」

「朱里は…高校時代の朱里は、今と同じ性格なのか?」

「…高校時代って言うんなら別やな」

「……?それって…」

「ウチは、高校で朱里との付き合いが無くなったなんて言ってないで?…ほら、行った行った」

朱里を背中に担いで、今日の所は退くことにした。

今日の所は。

 

 

 

 

「……ん………あっ!…いてっ…あの女、今度絶対ぶっ飛ばす…」

(…なんだか、ぼーっとする……記憶が…少しだけ……?)

リビングのテーブルを見ると、不格好なおにぎりが二つと突っ伏しているアイツがいた。

「…ありがと」

そっと耳元で囁くと、少し反応を見せるのがアイツらしい。

「…ごめんね」

聞こえないような小さな声で呟いて、私は走り出す。




境界の彼方の二周目を見ていて、ふと思ったのが朱里と栗山さんって似てるよねって事です。
まず容姿が近いです。メガネ、ゆるふわな髪型。あと普通の人間ではない所や、朱里の正史でも境界の彼方未来編でも記憶を失ってしまっている点です。
だからこの二人を好きになってしまったんでしょうね…困る

いつもの追記:そういえば!next stageの17話が出来る…かもしれないので!頑張ります!
追記第2弾 お気に入り、ありがとうございます!こうなったら絶対に頑張らなくては!


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見た夢は…

何となく知ってたけどね。年内に更新無理とか言っときながら出来るってホント恥ずかしいですね。


「ここか…」

あの高身長の女に出会い、気絶してる間に科学者らしき人物を助けた夢を見た…気がする。場所も正直適当だ。

しかし、それっぽい建物があるし、そうなのだと思う。

「インターホンは無いのかしら…」

と呟くと、ドアが開き、夢で見た人物が出てきた。

「…ん?朱里ではないか」

「…もう、驚かないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく分からんのだが、取り敢えず記憶が無いと言いたいんだな?」

「まあ、そういう事で良いわ。…それより、一つ…いや、二つ聞きたいんだけど」

「なんじゃ?」

「私、人間じゃないでしょ」

「…何故分かる?」

「夢を見てね。明らかに人とは思えない動きだったもの」

「まあ、その通りじゃが。二つ目は?」

「今の私の運動能力、結構低いのよね。だから…改造お願い♪」

「…良いのか?お前のねが…いや、金はあるのか?」

「ちょっと前、とある事情でレントゲン検査したけど異常なしって言われたわ」

「それは…つまり、人の体に限りなく近いということか…?」

「たぶんね。気になるんじゃない?そんな顔してるわ」

「分かった。引き受けよう。要望はあるか?」

「絶対に外から見られてもバレないようにして」

「ふむ、武器はどうする?」

「武器?」

「ああ、ちょっと前に送られてきたのだ。昔お前に付いていたこの七つがな。バレないとなると四つが限界かのう」

見せられた七つの武器。その中に他と違う存在感を放つ四つがあった。

ていうかこれ全部入ってたの?ホントに?

「…これが良い」

「良いのか?これなんて多分使い物にならんぞ」

「それでもお願い」

「分かった。じゃあそこに仰向けになってくれ」

指定された手術台のような場所に仰向けになると、麻酔をかけられたのか意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私達が勝つには、これしかない」

「朱里ちゃん、頑張ってね」

「お願いね、朱里」

(…絶対に…勝つ。勝って…生きてやる)

闘技場までは少し短く感じた。それは、私の心が落ち着いているのか、それどころじゃないのかはどんなに考えても分からない。

相手の顔が少し歪んだのが見えた。当たり前だ。本来内蔵されているはずの武器が三つも剥き出しなのだから。

 

 

 

戦闘開始の宣言がされ、相手がこっちに向かってくる。当たり前だが私よりも速い。

全力のパンチを繰り出したが、いとも容易く受け止められてしまう。

「それは…反則じゃないの…?!旧型ッ…!」

「……」

残念だが、この状況は私が一番作りたかった状況だ。

私なら体の動きはコ・ブレインに任せられる。だからその隙に…

「これは…レーザーブレード…。まずい!」

逃げようとする相手の腕を掴む。

「どこに行くつもり?」

「くっ…死」

言いきる前に首を跳ねた。これ以上声も聞きたくなかったからだ。

控え室に戻ると、私に武器を提供した一人が戦っている映像を流しているモニターを見た。が、言うまでもなく、瞬殺されていた。

モニターから逃げるようにトイレに駆け込み、鏡を見るが、鏡も見れなくなるほど涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱里、終わったぞい」

「…あいつ、なんて事忘れさせてんのよ。くそう…」

「……?にしても…医学なんぞかじっとらんから苦労したわい…」

「ありがとう。助かったわ」

外に出てみると、もう日が出ていた。ただ、家を出た時間がよく分からないからどれくらいここに居たのかは不明だが。

「…今日こそは、聞かせてもらうわよ……貴方が何者なのか」

(あちゃあ、やっぱりこうなったかあ…)

(まあ、らしいと言ったららしいけど)

(あはは、そうだねぇ。朱里らしいや)

「……!今のは…」

(…私のこと、見守っててくれてるのかしら)

未だに名の分からぬあの女の所へ向かい、私は走り出す。もう名前は思い出せないが、彼女達3人も私を見ていてくれているだろう。




今回、もうちょい上手く出来たのかなぁって思います。さて、話は変わって。next stageとは違ってボツになったシーン集とか作れないと思うので。
朱里のトンネル・バスターなどの新型から奪った三つの武器は朱里が武器を譲り受けた旧型3人を殺した相手から奪ったものだと思ってます。…特に展開には関係ないんだけどね。

いつもの
ごめんなさい。ボツシーン作れる可能性もあります。少し悪い方向に行けばバッドエンドになった可能性のあるシーンがあったので、何とか1000文字超えればやってみます。
次回、最終回の予定。


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おんぶして

最終話です。


「…あの男、来るなって言わんかったんか…」

「今度こそ、教えてもらうわ。私の過去を…」

「残念やが、もう1回帰させるだけや」

「ふん、そう簡単には帰らないわよ」

そうして、私はレーザーブレードを起動した。ついでに壁も抉っておいたから、存在には気付いただろう。

「そうか、だから…か」

「大人しく教えれば無傷で済むけど?」

「いや、良い。それに…それはこっちのセリフや。死んでも恨み言は無しやで」

さて、なんて返したものか。

……そうだ、これがいい。何となくだが、これしかない気がする。

「手加減はしてあげるわ」

「…なあ朱里、お前ホントに忘れとるんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

…俺は知らぬ間に寝てしまっていたらしい。

そして、朱里が起きた事を示すようにおにぎりが亡くなっている。事実、ベッドには誰も居なかった。

…それにしては、物音がしない。

仕事…の可能性は少ないと思う。アイツの事だから、恐らく「昨日言えなかったけど仕事あるから」くらいの手紙は残していくはずだ。

「…じゃあ、どこいったんだ?」

最も良いのは手紙を書く時間が無かったという状況だが…。

(ズズーン…)

「な、何だ!?」

何かが崩れた音がした。結構遠くの方だが…

音のする方を見ると、昨日言った廃ビルが煙を上げていた。とは言っても炎は出ていないようだが。

「…あそこか…あそこなのか…」

空きっ腹に適当なパンを詰め込んで、俺は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯一の勝算が無意味なんて、どんだけ絶望的なのよ…」

「…もっかい聞くぞ。本当にまだやるんやな?」

「人間捨ててまで来たのに、これしきで諦められるかっ!」

全力の右パンチだったが、いともたやすく受け止められた。

「くっ!」

「無駄や。そんなん効かんって分かっとるやろ?」

「黙れっ!」

左手のパンチも受け止められる。

「サービスタイムは終わりや」

直後、右足の感覚が消えた。蹴りを入れられたらしい。

ボキッという音が聞こえるまでは随分時間が掛かった気がする。

「パンチはな、こう打つんや!」

突如、視界が真っ暗になった。

その後私は気絶したのだろうが、全く覚えてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんや、ブラック」

「…超音波装置」

「ああ、朱里の武器か。でも、ウチにはあんまし「彼が来るから。もう、すぐそこだよ」…黙っとったな」

「さあ。…ほら、来たよ」

「あ、ちょ…」

(昔もこんなことあったなぁ…面倒事おしつけよって…)

━━━━

「…朱里は」

「来とらん」

「嘘をつくな。それに…俺はもう思い出してるぞ大江」

「!」

「昨日言ったあの言葉。昔にも似たような事を言われたんだよ。あの時は…朱里が平和に暮らせるならと思ったし…それは今も変わらない」

「…だったら」

「でも、現に朱里は苦しんでいる。確かにアイツの性格は変わっていなくても、偽りの自分で居ることに。だから、断る」

 

 

 

 

 

 

 

(暗い…。ここは……痛っ!)

右足が痛い。…思い返してみると「ボキッ」とか言ってた気がする。

それはそうと、今ここが何処なのかというのが一番大切な事だろう。暗く、狭いという事だけは分かる。

取り敢えず、上手く力が入るかは別として壁を一発殴ってみようと思いついた。

「ふん!」

壁が吹き飛んだ。

外はまだ明るい。恐らく、足が折れてバランスを崩したおかげでパンチがあまり深く入っていなかったのだろう。

そして、私が居たのがロッカーだということが分かった。吹き飛んだのはロッカーのドアらしい。

すぐ先にあの女がいる。

再戦…は遠慮したい。ただでさえ勝算は無いのだから。

…いや、もう一人いる。

「は?え?」

なんて間の抜けた声を出してしまった。

「え、いや、なん…で…」

ここで気付く。普通の成人女性がロッカーのドアをパンチで吹き飛ばせるだろうか。

「……!」

少し先に居るアイツは今まで見せたことのないような険しい表情をしていた。

しかし、すぐにいつもの顔に戻って、これまた今まで見せたことのないくらいの笑顔で、

「朱里…帰ろう」

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて事もあったよな」

「何年前の話よ…それ」

今日はクリスマス。あれから、毎年俺達はクリスマスには二人でパトロールをするようにしている。

 

 

 

あの後、二人で大江に「この物騒な世界で生きる」と伝えた。

一応、大江が朱里の新型の体を持っていたらしく、朱里はそっちの体に乗り換えた。

しかしその新型というのも過去の話。サイボーグ界の成長は速く、朱里の体は今では旧型になってしまっている。

そんな朱里を俺はいつもおんぶして、昔の住処だった廃ビルへと送っている。

ついでに俺の事を話すと、俺はベイスターズにトレードしてもらった。理由は、お察しの通り朱里と会うのが楽になるからだ。

 

 

…さて、今の話に戻ろう。

俺達はひと仕事を終え、ボロボロになった朱里をおんぶしながらクリスマスを味わっている。もちろん、都会の喧騒に混ざることなんて夢のまた夢だ。

「あーあ、この道を選ばなければあそこにいれたのかしら」

「なあ、新型になって重くなったお前の体をおぶる俺の事を考えて言ってるか?」

「はいはい、文句言わない」

「自分の事は棚に上げやがってさ。ちぇっ。……メリークリスマス」

「…メリークリスマス。あ、そうだ、ちょっと下ろして」

「…了解」

次にする事は分かっている。

朱里は少し背伸びをして。俺は少し前かがみになって。たった数秒の、二人だけの静寂を楽しんだ。

「……じゃ、帰りましょ。ねぇ、おんぶして」

「さっきまで立ってたくせに…。…乗れよ」

まだまだ、俺の不思議な日常は続くらしい。




アナザーエンドの後日談、見ていただきありがとうございます。
これにて本編は完結、やる気が出ればバッドエンドを投稿して終わりとなります。
また書いておきたい事が出てくれば追記します。今のところ追記率百パーセントですからね。

いつもの追記:今回ちょっと本文の修正をしました。これで全話追記したぜ!
追記2:なんか色々と書き直したいところが出来てきたので(特に後半)いつかまた修正するかもしれません


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閑話
ハッピー、クリスマス


やべ、next stageやってねぇ。
シチュエーションとしては前回から続きです。前回色々と大事な所を抜かしてたので


世間はどこもかしこもクリスマスムードの中、正義の味方として、ひと仕事を終えた俺たちは家へと向かっている。

まあ、あまり家と言えるものでは無いが。

というか重い。

「なあ、朱里」

「ん?何?」

「お疲れの所悪いんだが、偶には並んで歩いて帰らないか?」

「…アンタも疲れてるだろうし、偶には、ね」

朱里は、昔の事を全て思い出した…らしい。

意外と簡単に思い出したのは、1度だけ記憶の再結合を試し、駄目だったら一般人としての記憶を埋め込むことにしたからだそうだ。

「……ん」

ぶっきらぼうに差し出された彼女の右手を握って、再び家へと歩き出した。

 

そうそう、今の朱里は「浜野」朱里では無い。

その証拠に、今俺が握っている方ではない彼女の手の薬指には、指輪が嵌っている。

これは、朱里が唯一文句を言わずに受け取ったものだ。

「こうしてると、去年を思い出すよな」

「…大体、アンタは何もかも遅いのよ」

やっぱり、彼女は厳しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―去年の話―

「…もっと、楽しくクリスマスを過ごせないものかね」

「それを選んだのはアンタでしょうが」

例年通り、俺達はパトロールをしているわけだ…が。

「やっぱり、もう少し色彩が欲しいよな。帰路につけば灰色ばっかだもんな」

「はい、無駄話は止めなさい。…喧嘩騒ぎっぽいわね」

特に大きな事がないというのも暇な理由の一つだ。

しかし、最近は相手のサイボーグも強くなって来ているから、あまり大きな事があると色々と面倒だ。特に朱里を運ぶのが。…なんて言うと怒るから理不尽だと思う。

「うーん、もっとこう、デートっぽく出来ないかね…」

「…仕方ないでしょ、レストランとか行く余裕無いし」

(キャーー!)

「な、なんだ?向こうが騒がしいぞ」

「…また何かあったのね。先行ってるわよ!」

「あっ、ちょっ…。デートっぽくしたいって言ったらこれだよ!」

 

 

 

騒ぎがあった場所に辿り着いた。

叫んだ女性の話を聞くと、スリにあったらしい。

被害にあった女性はその場に居てもらって、取り敢えず二手に別れて犯人を探すことにした。

 

 

 

しばらくすると、電話がかかってきた。もちろん、朱里からだ。

「捕まえたから。先にあの人に捕まえたって言っといて」

「了解」

言われた通りに被害者の女性に説明すると、すぐに朱里がやって来た。

「大丈夫でした?」

「はい、ありがとうございます…。」

「いえいえ、これが役目なので。それでは」

そうして、その場を去ることにした。

それにしても、本当に俺は必要なのだろうか。

「…なあ、俺は本当に必要なのか?」

答えは返ってこなかった。

 

パトロールが終わり、灰色一色の帰り道を歩く。

あの問いかけをしてから、特に何も起こらず、一言も喋っていなかった。

手を繋いで歩いていると、朱里から静寂を破ってきた。

「…さっきの問いだけど。……デートは、一人じゃ出来ないでしょ」

何となく、察した気がする。

たとえあの場において役に立たずとも、朱里にとって俺は必要な存在である、とそういう事だろう。恐らく。

…今しかない。

朱里と繋いでいる手を離す。すると、彼女は立ち止まって不思議そうにこちらを見る。

俺は今日一日ずっとポケットに入れておいたモノを手にし、彼女の名前を呼んだ。

「…朱里」

「…何よ?」

相変わらず訝しげな顔をしている。

「…その、これを…受け取って欲しくてな」

「…?……!」

朱里は凄く驚いた顔をしている。それはそうだろう。

俺が取り出したものは、指輪だ。…安物ではあるが。

「結婚、してくれ」

「……遅い」

「…え?」

…今、なんて?

「遅い!何年前から待ってると思ってるのよ!〇年前からよ?!〇年!」

〇年というのは、俺達が正義の味方としての活動を再開した年だ。…嘘だと言って欲しい。

「毎年クリスマス迎えるたびに今か今かと待ってる私の気持ち考えた事ある?無いでしょうね!」

「…その、ごめん。…一応、返事頂いて良いかな」

「はあ、私なんでこんなのに惚れたのかしら。…こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういう訳で、彼女の苗字は変わった。

指輪を付けているのを見たあの二人から、もちろん猛攻を受けたが、がっつり自慢しといた。

結婚1周年の今日。帰ってから何かあったか聞かれるのがもう予想できる。しかし、何も無かったのだから仕方が無い。そういう関係なのだ、俺達は。

「…どうせブラック達になんか聞かれるよな」

「…ねえ、ここにブラックが居たら弱みを握られるような物だって分かってて並んで歩こうって言ったの?」

「良いだろ、二人で愛を確かめ合ってきましたとか言ってやろ(バキッ!)…すいませんでした」

「…ふんっ」

「……(ジーーッ)」

「「ぶ、ブラックッッ!」」

「…楽しそうでなにより♪」

そしてブラックは消えた。

…恐らく、大江とこの話をする為に……。

「は、早く帰るぞ!」

「ああもう!だから嫌だったのよ!」

…騒がしい日常はまだ続く。




ホントはクリスマスに投稿しようと思ったんですが。
他の人もクリスマスって事でたくさん投稿してくるだろうから大幅に早くします(ズルい)
いつもの追記:やべ、まだ色んな話書きたい…。
それはそうと、今更ながら正史とは違います。少しだけ。ただ、正史でも朱里の見た夢はこうすれば説明がつくと思いまして、1度記憶の再結合を試したという事にしています


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