デュエルバンドなんてなかった。 (融合好き)
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解散! デュエルバンド!

FGO廃人の作者がメンテナンス中に暇で書いたネタ作品です。突っ込みどころ満載なのは推敲を一切していないから。需要がありそうなら暇な時にでも書きます。


これが果たして苦痛でなかったかと言えば、嘘になる。

 

綺麗に終わらせた物語。未練はあれど、それは当然のことだ。そもそもからしてヒトの一生なんてものは不確定なことだらけで、人生そのものを私のように綺麗に畳める(・・・)ことができるのは、きっと珍しいことなのだろう。

 

それを不幸と取るか幸福と取るかはさておき、だからこそ私はこうしていつまでも戸惑い続けている。

 

「死」によって締め括られた、誰でもない何かの物語。今の私とはまるで異なる歴史を刻んだ、不恰好な伝記本。

 

かつての私は、それで満足したはずだった。どうにも記憶が曖昧だし、身辺整理、なんて言葉で済ませていいのかよくわからないけど、なんとなく、それなりに上手くやったような気がするのだ。そりゃあまあ唐突に死病だの宣告された時は絶望したけれど、今となっては通り魔だの交通事故だのによる外傷で即死しなかっただけ幸せであるとこの私は思っている。当然、このあたりの持論も人それぞれで、一般的には私が不幸な人間であった事実は否定しない。というかこんなに語っておいて何だが、今となってはこんなことはどうでもいい。

 

そう、かつてをどれほど嘆こうと、それは文字通り「終わったこと」なのだ。だから───

 

 

 

「ワールドデュエルカーニバル?」

 

「そうそう。この街全体を巻き込んだ、かなり大掛かりな大会になるみたいだよ?」

 

「ふーん……」

 

「それに優勝者はあのMr.ハートランドが願いを叶えてくれるんだってさ!」

 

 

 

───願い。願いを叶えると来たか。『なんでも願いが叶う』なんて陳腐な文言、正直物凄く胡散臭いのだけど。

 

 

「へぇー?」

 

 

いつもの仮面を貼り付けて、如何にも『私』らしく朗らかに微笑んでみせる。いや、この表現は適切ではない。私はあくまでも私なのだ。疑問を抱く段階など、愛すべき両親からの教育(愛情)という名の洗脳により過ぎ去っている。なら今はそれよりも、目の前のことに思考を割くべきであろう。

 

衣装をある程度整えて、スタッフの彼女へと向き直ってから言葉を紡ぐ。これ自体は無用な問答だが、無意味であるとは思わない。それがどのような結末を辿るにせよ、そうした、という事実そのものが何らかの意味を有するからだ。

 

少なくとも、この私という存在はそれをこれ以上なく体現している。だから私は───

 

 

「さなぎちゃん?」

 

「え───あ、うん。ごめん、ちょっとぼんやりしちゃってたかな?」

 

 

未だ微妙に引っかかる本名を呼ばれたことをきっかけに、ズレていた思考を元へと修正する。

 

───WDC。その単語は、良く覚えている。なにせそれは、この私とかつての私との繋がりを証明する数少ない要素の一つだ。しかし、私はそれを意図して遠ざけていたにも関わらず、まさかこんなところでその言葉に対面することになるなんて流石に予想外ではある。まあ、原作(・・)でもあれだけ大々的にやっていた大会なので、それ自体には不思議はない、けれど。

 

 

「けど、どうして私に?」

 

「え? だってさなぎちゃん。デュエル、凄く強いじゃない。あれだけ強いなら、優勝だって狙えちゃうんじゃないかなって」

 

「いや、そっちじゃなくて…………うん」

 

 

あくまで常識的に意見を返そうとしたが、嫌味になってしまいそうだったので咄嗟に言葉を濁す。

 

自慢になってしまうが、私はこれでも多忙の身だ。おそらく、同年代のアイドルの中で一、二を争うほど人気があると自負しているし、私自身も若輩の身で大任を背負っている立場に恥じぬよう日々精進を重ねている。

 

だからこそ単純に、そんな私がそう簡単に私用(大会)で休養を取ってもいいのか、といった疑問であったのだが、私以上に私のスケジュールに詳しいスタッフである彼女の様子を見るに、デュエル第一のこの世界では案外問題にならないのかもしれない。かつての私の感性からすると、なんとも信じがたいものだ。

 

それに、私が強いのは当たり前だ。なにせカードプールがそこらの人とは桁違いだし、だいぶ趣味に走っているとはいえ、私のデッキはかつての中堅デッキのガチ構成。運命力もそこそこあるから毎回理想とまではいかなくても数ターンあればだいたい勝利への道筋は掴める。更にはこの世界はいわゆる魅せる(・・・)デュエルが主流である以上、そんなある意味ではつまらない私のデッキがそうそう負けるはずがないだろう。

 

 

「ほらほら、この端末で申請すれば、すぐにハートピースってのが届くってさ!」

 

「あはは…………うん、考えておくね。でも、とりあえず今はちょっと…………」

 

 

そもそも私は大会そのものがアレなことを知っているし、それ以前に今は仕事の直前だ。スタッフの彼女と駄弁る時間くらいは流石にあっても、悠長に出るかもわからない大会の出場申請をしている暇はない。

 

否。最早私は社会人なのだ。かつての私よりもだいぶ早く社会に出てしまったとはいえ、既に我儘が通じる世界に身を投じていない。確かに私がこの世界でもどれほど通じるのかは興味がある。しかし、私が望んで挑み、成し遂げたこの道、この仕事を、そんな大会なんぞで無為にしていいのだろうか、いやない(反語)

 

───そう、私が目指すべくはアイドルマスター! 決して決闘王ではない!

 

原作なんぞクソくらえ! どうせ私はいわゆる原作では単なる脇役(モブ)! 言うなれば居てもいなくてもいい存在! 誰の邪魔にもならないし、むしろ貴重なファン(※ギラグさん)が一人増えると確約されているだけ素晴らしい人生!

 

いやぁ、アイドルって、いいよね…………。 できればアイマスの世界とかに生まれたかったけど、ないものねだりはできないし、曲がりなりにも成功している身分で贅沢は言わない───って、違う違う。また話が逸れた。

 

気づけば時間もいい感じに潰れていたので、彼女を適当に言いくるめながらスタジオへと衣装が崩れないよう丁寧に歩いていく。残念ながら色よい返事は返せそうにないし、正直割と余計なお世話であったが、まあ、彼女もミーハー気味なだけで普通にいい子だし、おかげで緊張もなく気が紛れたからむしろ嬉しいくらいだ。さて、じゃあ今日も一日頑張ろうかな………!

 

 

───なんてことを考えたのがフラグだったのだろうか。

 

 

あえて経緯は省く。私としては自然体でアイドルに望んでいるから「私」としての問答を推敲してたりはしてないし、そもそもそんな一言一句無駄に思考を割いていたら身が持たないしね。

 

だからこそ、なんだろうか。ほんの少し、僅かな時間の問答。歌が終わって「はーいお疲れ様でしたーいやー調子はどうですかー」ってノリでちょっとだけ司会の人と言葉を交わして。

 

で。

 

 

『そういえば、そろそろデュエルカーニバルが始まりますが───』

 

 

ある意味では当然のように、まずなんにせよデュエルが第一に挙がるこの世界の人物はこんなことを言い出す。

 

そうすればどうなるか。所詮は一アイドルに過ぎない私が売れっ子の芸能人(司会進行役)を落胆させるわけにはいかないので、なればとりあえずとして(・・・・・・・・)色よい返事(出るとは言ってない)を返すしかないわけで───

 

後はまあ、語るまでもない。結果として、私がスタッフの彼女を悲しませることはなくなった。ただそれだけのことだ。本当、人生とは不確定なことばかりである。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

デュエルを理由にしたら不気味なほど簡単に有給をもぎ取ることができ、少しだけこの世界のことが怖くなりつつも私は久々の休暇を堪能する。

 

しかし、これが休暇かといえばそれはそれで微妙で、どちらかといえば営業に近いサムシングなのかもしれない。

 

何故なら、今私が手に持つは、WDCの参加資格であるハートピース。しかし衣装は事務所の希望で仕事着のまま。更には私のデュエルを撮影するためのスタッフが隠れていると来た。これはあれだ。どう考えてもどっかの番組で「㊙︎映像!」的なノリで映像を使う気満々である。

 

アイドルでなくても、業界人のプライベートは視聴者を釣る格好の餌だ。「あの人が自分達と同じ大会に出ていた」という証拠映像なんて、その手の人にとってはお宝になるのだろう。

 

一応は休暇として来ている身で無遠慮な真似をされるのは業腹だが、アイドルなんてこんなものだし、自由にしているだけでギャラが入るらしいから別にいい。というか既に慣れた。伊達にこの歳でアイドルをやっていないのだ。

 

しかし、となると私は下手なデュエルは出来ない。いや、別にアイドルにデュエルの強さなんて求める人はあんまりいないのだろうが、これでも私は「アイドルデュエリスト」という謳い文句を背負っているのだ。ならば必然、拙いデュエルなど見せたくはないと思うもの。個人としても、立場としても。

 

だが、言うは易し。それは中々に難しい注文でもある。どんなものでも、一方的な展開は周りを白けさせてしまう。これは自惚れであるが、私にとっては確信に近い。そう、つまり、要するに。いい勝負(・・・・)ができそうなデュエリストが、さっきからまるで見つからないのだ。

 

 

「うーん…………」

 

 

珍しく、愚痴に近い声が口から漏れ出る。無論、言葉として成立させるような愚行はしないが、気持ちとしては同様だ。なんの気休めにもならない。

 

実のところ、ついさっき一度は戦ってみたのだ。名前も知れない、おそらくはこのハートランドで一般的な実力を持つであろうデュエリストの一人と。しかし、その結果は圧勝。しかも手札が良かったわけでもないのにまさかの後攻ワンキルという結果。所詮はアイドルとこちらを舐めていたっぽい対戦相手がこちらに恐怖の目を向けてくるとか、そんな見るも無残なそれは当然映像として使えるはずも無く。

 

そして、なまじ初戦がそうだったために私は躊躇をしている。次も、となれば、私はどうすればいいのか、と。

 

 

「…………」

 

 

うん。ちょっと休もう。

 

思考が鬱になりそうだったので、一旦間を置いてクールダウンすることにする。

 

思考が煮詰まった時は、それ以上を考えることは毒だ。そうしなくてはならない時もあるけれど、幸いにも今は(一応)休暇中。少しくらいぼーっとして無為に時間を使っても誰も咎めないだろう。

 

そうと決まれば、付近に付いてたスタッフに事情を話し、しばらくの間一人にしてもらう。そして適当な自販機で買ったジュースを片手に、近くのベンチにでも座ろうとして───

 

不意に、視界が一部闇に包まれる。

 

 

(…………ん?)

 

 

何事かと辺りを見渡せば、片目に付けっ放しで放置していたARヴィジョンが薄暗く不気味なフィールドを映し出しているのが見えた。

 

 

(フィールド魔法?)

 

 

誰か、近くでデュエルをしているのだろうか、と当たりをつけ、何となしにこのフィールド魔法について記憶を漁る。

 

はて、このフィールド魔法はなんだっただろうか。《闇》ではないし、ぱっと見ではあまり馴染みがないフィールドに見える。

 

でも、この私にとっては違う。そうだ…………このフィールドは、確か───

 

 

 

(《エクシーズ・コロッセオ》───)

 

 

 

ゾクリと、背筋が泡立つ。

 

かつての私が、どうしようもなく警鐘を鳴らしている。踏み込んでは駄目だと。これ以上を考えるなと。

 

 

(WDC、エクシーズ・コロッセオ…………遊戯王)

 

 

手に持った缶を無意識に落とす。栄養たっぷりのトマトジュース。血のように赤く、冷たいそれは、まるで何かを暗喩しているかのよう。

 

ガンガン鳴り響く警鐘とは裏腹に、私の足は事態の中心へと駆けていく。

 

まさか、とは思う。とてもでないが、こんな偶然、あまりにも出来過ぎだと思う。しかし、もしもそうだった(・・・・・)として、私がそれを見てしまったのなら───

 

 

 

「行け、ジャイアントキラー!! ファイナルダンス!!」

 

 

 

(……………………)

 

 

 

───私は、たくさんのファンを持つ一人の偶像(アイドル)として、その行為を見過ごせるのだろうか。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぎちゃ───」

 

 

……………………

 

 

 

「──なぎち───」

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

 

「さなぎちゃん!」

 

 

「───っ!?」

 

 

耳元で叫ばれた声で、深く沈んでいた意識が覚醒する。

 

まずい。完全に意識が飛んでいたみたいだ。寝坊した時特有の、瞬時に出てきた膨大な冷や汗が全身に不快感を催す。

 

一体、自分はどうしていた? まさかとは思うが、大切な仕事をすっぽかしてしまって────と脳をフル回転させ…………しかしすぐさま直前の出来事を思い出すことに成功し、安堵と同時、怒り感情がふつふつと湧き上がる。

 

 

「さなぎちゃん! 大丈夫!?」

 

「あ──うん。私は大丈夫。ちょっと疲れていて…………その、ごめんね」

 

「…………本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。ついさっきも休んだばっかりだし、ね」

 

 

嘘だ。体力的にはともかく、精神的な負担は自分でもはっきり自覚できるほどに大きい。しかし、それも当然かもしれない。でも、自分では説明できない感情もあるから、明言することはできない。

 

 

「…………」

 

 

スタッフの彼女が、何か言いたそうな表情でこちらを見ている。取り繕うのは得意だと思っていたのだが、流石に彼女を誤魔化すことはできないか。いや、私の技術を以てなお覆せないほど、私自身が参っているだけかもしれないのだけど。

 

会話する気力もなく再び沈黙し、ぼんやりと虚空を見つめて曖昧なイメージを思い耽っていると、常にない態度の私を心配してか、彼女がやや慌てた様子でかなり強引に切り込む。

 

 

「で、でも、凄いよね! 確かにさなぎちゃんなら、って言ってたけど、まさか本当に決勝トーナメントまで出場しちゃう(・・・・・・・・・・・・・・・・)なんてさ!」

 

「──それはそうだよ」

 

「え?」

 

「あ。いや、なんでも──」

 

 

いや、それとも。

 

 

(───相当、やばいのかな。自分ではあんまり、自覚はないんだけど)

 

 

むしろ、自覚が薄いからこそまずいのかもしれない。ついうっかりであまりに乱雑な発言をしてしまったが、普段ならこんなミスは絶対にしないはずだ。

 

アイドルとは、たとえ仲の良い友人相手であっても、その(・・)姿を見せてはならない。そういう姿(・・・・・)を見せてしまったら、偶像としての私が崩れてしまうから。まして私は、それこそが最大の売りなのに───。

 

 

(──駄目だ。考えるな、私)

 

 

深みにはまりそうな思考を強引に切り捨てて、意識を次へと無理矢理に向ける。

 

次。すなわち私がどうにか滑り込むことに成功した、WDC決勝トーナメント。ここハートランドから選りすぐった8人の猛者達が、互いに鎬を削り合う儀式会場。そして私は、単なる運だが、その栄えある第一試合に選ばれており───

 

 

(──あの(・・)カイトさんと闘うん、だよねぇ)

 

 

これぞまさしく運命か。よりにもよって、この私が天城カイトと闘うことになろうとは。

 

私が彼とデュエルすれば、最早嫌な予感どころか、確信を持って厄介な事態になることが確定しているが、くじ運だけは本当にどうしようもない。かといって慣れないデッキを使ってあのカイトさんに勝てると断定できるほど私は強くない…………と、思うから、目的を果たすためにも、どうにか彼を倒さなくてはならないわけで。

 

 

 

 

 

(──まあ、ランク4主体でやれば、なんとかなるかな?)

 

 

 

正直、かなり甘い見通しだなぁとは自分でも思う。けれど、人生なんて所詮はそんなものであるからして。まあ、多分だけど、なんとかなる、はず。

 

 

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

「私は、《光波翼機(サイファー・ウィング)》の効果を発動!

 

このカードをリリースすることで、自分フィールドの【サイファー】モンスターのレベルを4つ上げる!」

 

「これで、レベル8のモンスターが2体…………!」

 

 

無理でした☆

 

いやー、きついきつい。まだ(物語が)序盤だからそこまで強くないんじゃね? なんて理屈まるで通用しなかったよあはははは。や、私も頑張ったんだよ? でもね? やっぱりエクシーズ主体だと割と光子竜が刺さるなぁって、ねぇ?

 

そもそもからして、私と彼では運命力が絶望的なまでに違う。一般人に毛が生えた程度のモブな私では、メインキャラクターであるカイトさんに相対的な運気で敵うはずがないのだ。それでも致命的な事態になっていないのはこっちのカードパワーが圧倒的であるからで、しかしそれも時間の問題といった感じ。

 

いや、初手からギャラクシオンとか勘弁してよ。それも貴方確かアニメでは手札から召喚してたよね(※覚え違い)。なんで私に限ってデッキから出しているの。貴方は手札を節約するような人じゃないでしょうに。

 

カステルで凌いだらパラディオスで返されるし、次のターンにはなんかデッキに戻した光子竜を運命力で素引きしやがりますし、ダベリオンなんて出した日にはどうなるか火を見るよりも明らかだ。

 

…………というか、そもそも私のエクストラがさっきからめっちゃ五月蝿い。早よ出せはよだせハヨダセはーやーくーと騒いでいるもんだから落ち着くことすらできやしない。お前らはそんなに同族が好きか。せめて前世から持ち込んだっぽい私のカードくらいは異次元的反応を見せないで大人しくしてくれないかな。

 

 

「…………私は、レベル8となった《光波翼機》2体をオーバーレイ」

 

「っ───」

 

 

そんなこんなで圧倒的優位に立つはずの彼が、私の言葉に過剰なほど身構える。

 

それは、フォトンの力を使った反動か、私の反撃に対する硬直か、それとも────次に出すモンスターが、どのようなモノかを感じ取っているのか。

 

私の今のライフは2000。フィールドは光波翼機2体だけで手札はなし。対する彼は手札こそないが、ライフは無傷にしてフィールドにはギャラクシオン、パラディオス、光子竜に伏せが1枚という強力な布陣を敷いている。

 

ここから一体、光子竜やパラディオスと相性が悪いエクシーズを出したところで本来ならたかが知れている。しかし、かつての私のカードパワーは、そんな甘い常識を覆すほどに、理不尽の極みであったのだ。そして───

 

 

「───闇に輝く銀河よ。

 

今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ。

 

エクシーズ召喚。ランク8、《銀河眼の光波竜》!!」

 

 

 

 

 

《銀河眼の光波竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

①:1ターンに一度、このカードのX素材を1つ取り除き、

相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。

この効果でコントロールを得ている間、その対象モンスターのカード名は「銀河眼の光波竜」として扱い、

攻撃力はこのカードと同じになり、直接攻撃できず、効果は無効化される。

 

 

 

 

 

 

───同時にこれは、彼にとって、絶対にあってはならない存在でもある。

 

 

「ギャラクシーアイズ…………だと───!?」

 

 

今の今までクールな相貌を崩さなかった彼が、驚きからかその眼を精一杯に見開く。

 

だけど、それも当然だろう。かつての私の記憶が確かなら、ギャラクシーアイズとはそれすなわちバリアンの力の一端………とかだった気がする。いや、細かく覚えていないんだよね本当に。だって私、つい先日まで原作云々に関わる気なんてなかったからさ。

 

でもまあ、本来なら人外(カイトさん含む)しか使えないような、貴重なカードであることだけは間違いない。それをこんなアイドル風情………言い換えればただの人間如きがさらっと使ったのなら、それほどの驚愕もわからなくはない。

 

 

「おお! 言われてみれば…………奇遇だね!」

 

 

(───まあ、そんなわけはないけど)

 

 

しかし、ただのアイドルであるこの私に、彼の事情など知る由もなく、考慮する理由もない。たとえこのカードが異常な存在であろうと、実際にあるからには仕方ないのだ。

 

それに、このカードは元々光子竜くんのオマージュ、つまりはパクリモンスター。なら、トラコドンとかドリアードとかマタンゴみたいなノリで使っても問題は…………ありますかそうですか。でも知りません。このカードは誰がなんと言おうと「私のカード」であることは間違いないからね。

 

 

「私は、《銀河眼の光波竜》の効果を発動!

 

このカードは1ターンに一度、オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールをエンドフェイズまで奪い取り、更に奪ったモンスターの名前とステータスをこのカードと同じにする!

 

対象は、《銀河眼の光子竜》!」

 

「なんだと…………!?」

 

 

自重? 知りません。そうして勝てるならともかく、私はあの男と話し合うまでは負けるわけにはいかないのだ。思い入れとか切り札だとか、こうしてフィールドに出した時点で利用される覚悟はして然りなのです。

 

 

「だが!

 

速攻魔法、《銀河爆風》を発動!

 

銀河眼の光子竜の攻撃力を半分にすることで、その効果を無効にする!」

 

 

 

 

 

《銀河爆風》

速攻魔法

①:相手フィールド上に表側表示で存在するカードを2枚まで選択して発動できる。

このターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上の「光子」または「フォトン」と名のついた

モンスター1体の攻撃力を半分にし、選択したカードの効果を無効にする。

 

 

 

 

 

 

「むっ──」

 

 

通る予感があったのに、普通に返すことができるのか。やっぱりそこらのデュエリストとは格が違うな、メインキャラという存在は。

 

でも、甘い。私が諦めずに攻勢に出たのは、ここで仕留める自信があったからだ。

 

まあ、なるべくならこのカードだけは使用を控えたかったけど。うん、流石にね。──いや、今更、か。

 

 

「──このカードは、自分フィールドの【ギャラクシーアイズ】エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することができる。

 

私は、ランク8のサイファードラゴンで、オーバーレイネットワークを再構築」

 

 

宣言と同時、エクストラデッキの中からとあるカードを取り出す。

 

それは、ギャラクシーアイズデッキならばまず一枚は投入して然るべきの、ごく当たり前のカード。そして同時に、光波竜同様にあり得てはならないカード。しかし、それがこの世界でどのように扱われているのかなど、この私にはどうでもいいことだ。

 

 

「───銀河に滾る力。その全身全霊が尽きる時、王者の魂が世界を呪う。

 

エクシーズ召喚! ランク9、《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」

 

 

 

 

 

《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守 0

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドの

「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

このカードはX召喚の素材にできない。

①:このカードがX召喚に成功した時、

自分のデッキからドラゴン族モンスター3種類を1体ずつ墓地へ送って発動できる。

相手はデッキからモンスター3体を除外する。

②:このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。

 

 

 

 

 

 

ナンバーズ。この世界における「特別なカード」の1つであり、その筆頭。主人公たる九十九遊馬くんの相棒にしてセコンドたるアストラルの記憶の欠片。

 

私が持ち込んだ(・・・・・)のであろうこのカードはその例に入っていないのだろうけど、確かめたわけではないから実際にはどうなのか。正直、あまり興味はない。

 

 

「ナンバーズ………!?」

 

 

(───違う、んだけどね。でも、聞いてくれないんだろうな)

 

 

残念ながら、私の持つナンバーズはその全てが偽物だ。当たり前のように戦闘耐性は省かれ、ホープくんは自壊し、ホープレイは自壊せず、ライトニングさんなんて漫画の世界から紛れ込んで勝手にランクアップする始末。正直、どう考えてもおかしい。

 

まあ、今出したダークマターを始め、そっちの方が強いカードもたくさんあるから一概には駄目だと否定できずとも、サイファーはどうにかなってるんだからせっかくなら、と考えたことくらいは───おっと。まずいまずい。また思考が逸れてしまった。

 

…………今、彼のフィールドに伏せカードはなく、墓地にあるのはさっきの速攻魔法とフォトンリードフォトンサンクチュアリ、デイブレーカー×2にフォトスラフォトンサークラーだったはず。つまり、彼にこの攻撃を防ぐ術はない。

 

ここで私が本当の一般人ならば、魅せ(・・)を意識して実はまだ一度も効果を使ってない光子竜くんを打ち破ろうとするんだろうけど、卑怯な情報アドバンテージを持つこの私には無効。すなわち、彼はここで終わりだ。

 

ロクに覚えていないが、彼にもなんか崇高な目的があったような気はする。しかし、それとこれ(決闘)とは話が違う。故にそれは、事情を知らない私が考えていいことではない(・・・・・・・・・・・)

 

 

「私は、ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴンのモンスター効果を発動。

 

この子はオーバーレイユニットを1つ使うことでこのターン、モンスターに対して2回まで攻撃することができる」

 

「なっ───!」

 

 

(───ライフ4000って、やっぱり怖いよねぇ。1ターンの油断が、敗北に繋がるんだから)

 

 

アニメでは「尺の都合」で済むルールも、現実となると殊更に重い。特にかつての私(9期以降)が相手なら、当然。

 

その邪悪な双眸を妖しく輝かせるダークマタードラゴンと、状況を察してか若干萎縮しているようにも思えるカイトさんが対となって見える。このままではまずい、どうにかしてハルトを、なんて考えているのかもしれない。でも………。

 

否。改めて考えるまでもなく、私が彼に親しみを感じる必要はない。なにせ実はこの私、彼と挨拶すら交わしていないのです。まあモブなんてそんなものだよねぇ。…………それが現状に繋がっているのだから、笑えないけど。

 

 

「じゃあ、バトル!

 

私はダークマタードラゴンで、ギャラクシオン、パラディオスの順に攻撃!

 

これで、終わりだよ!」

 

 

 

(──まあ、『終わり』じゃないんだろうけどね。

 

これから、どうしようかなぁ…………)

 

 

半ば確信しながらも、攻撃の手を緩める真似はしない。今の私は、アイドルである前に、一人のデュエリストなのだから。

 

 

「馬鹿な………!!

 

うわぁあぁぁぁああああああ!!!」 カイト LP4000→2000→0

 

 

闇の光線に呑まれて爆散していくモンスターに巻き込まれて、彼が会場の端へと盛大に吹き飛ばされていく。

 

そんな彼の姿を見ながら私は、ARヴィジョンなのになんで吹き飛んだんだろう、なんて至極どうでもいい疑問を抱くのであった。





なお、予選にあった謎コースターは謎だったので省いています。決勝トーナメントはゲームを参考に8人でのトーナメント形式。メンバーは物語の中で重要そうな順に決めています。

しかし、久々に遊戯王書いたなぁ…………リンクとか勘弁してよ…………。


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突撃! デュエルカーニバル!

何故続いたし


 

『俺はシャークドレイクバイスで、デステニーレオを攻撃!

 

デプス・カオス・バイトォォ!!』

 

『ぐぉぉぉぉおおおあああああ!!』

 

 

(…………)

 

 

食い入るように見つめていた画面から目を離し、視線を中空へと彷徨わせる。

 

内より浮かび上がる感情は、諦観。それはこの結果を私が、「こうなってしまった」ではなく、「こうなるんだろうな」と半ば理解していたからこそ。

 

 

───1回戦第4試合、神代凌牙vsⅣ。

 

 

実のところ私は、この大会で私と彼が闘う可能性は低いと思っていた。

 

その根拠は、単純な実力。言ってはなんだが、この時点での彼の実力は、決して高い方だとは言えない。勿論、主人公のライバルにしてラスボスである神代くんを追い詰める程度には強いことはわかっている。しかし、それでも彼がこの大会でトロンやゼアルを超えられるかといえば、別の話。

 

一縷の望みにかけて彼らの試合を観戦していても、結果はアニメとまるで同じ。これが修正力というものなのかは私にはさっぱりだが、彼が負けた事実に対してはなんの不思議もない。

 

この世界は意外にも、少年漫画的なアトモスフィアが潜んでいる。つまりはそう、正義こそが最後に勝利を収めるのだ。ならば典型的な小悪党でしかない現段階の彼が、曲がりなりにも主人公一味である神代凌牙に勝てる可能性なんて、きっと闘う前から無かったのだろう。

 

いや、それとも。

 

 

(───この世界は完全なシナリオ形式で、そこに私という異物が紛れ込んでいるだけなのかも)

 

 

あまり考えたくはないが、そういうこともなくはない。なにせこの世界には「原作」なんてふざけたものがあるのだ。そうなってる(・・・・・・)可能性を、全てが作り物であることを、最大のイレギュラーたる私が否定できようか───

 

 

(───まあ、ないとは思うけどね)

 

 

嫌な可能性を切り捨てて、これからについて目を向ける。

 

くじ運がなかったせいでいきなり最大の目的が消滅してしまったが、大会そのものが終わったわけでも、私が失格になったわけでもない。

 

棄権は論外。その理由がないし、不本意ながらこの大会には、私を見てくれるたくさんのファンがいるのだ。デュエリストとしての私が信条を曲げるのは良くても、アイドルとしての私は彼等を裏切れない。故に不可能。

 

良いところで負ける。これは理想だが、今はもうできない。結果論でしかないが、カイトさんに負けて綺麗に退場することが、おそらくは私の最善の手だったように思う。しかし、Ⅳさんと戦える僅かな可能性を捨て切ることは、あの時の私には不可能だったのだ。

 

ならば次は、と思っても、それは最悪の一手になる。何故なら───

 

 

(………次の相手は、あのトロンなんだよね。あーもうめちゃくちゃだよ)

 

 

この世界が順当にシナリオ通りに進んでいるのなら、カイトさんを打破した私が彼と闘うことになるのはむしろ当たり前の話。

 

彼はこの大会を利用して感情を集めていて、負ければ感情を抜きとられるとかそんな感じだったはずだ。ならば当然、この私も例外であるはずはなく、負けてしまうと私は廃人となってしまうのだろう。

 

 

(───なら、やっぱり)

 

 

実のところ、改めて考えずとも答えなんて既に出ている。

 

逃げられず、負けられないなら、答えは一つ、勝てばいい。それが容易いかは別として、私にはその道しか残されていないのだ。

 

 

(───それに、逃げてもね)

 

 

あれだけ大々的にナンバーズを使用したのだ。ナンバーズを集めている九十九遊馬にナンバーズハンター達、トロン一家が私を見逃してくれるわけがない。

 

自慢になるが、私は有名人だ。大会には本名で参加しているから調べれば即座に身元も判明するだろうし、今逃げて後々周囲が巻き込まれる可能性を鑑みればますます逃げは有り得ない選択となる。従って私は、この大会でトロンを倒し、更には出来たら決勝で相見えるだろう主人公を打ち破ったりしなくてはならないわけで…………できるんだろうか、私に。

 

まあ、最悪主人公はどうでもいい。私の私物(偽ナンバーズ)が強奪されるのは物凄く嫌だが、嫌なだけだ。アイドル業には、なんの支障もない。

 

やはり問題となるのはトロン。アニメでカイトを破った経緯やゼアルをあれだけ追い詰めた実績からして、私がギリギリで打ち崩したカイトさんより純粋な実力が高いと見ていい。そして私は、そんな化け物を倒さなくてはいけないのだ。

 

 

(やっぱり、きついなぁ。───でも)

 

 

この世界が神様の脚本通りだと仮定しても、私だけは違う。カイトさんに勝てたからには、トロンに勝てる可能性だってまたあるはず。

 

そもそも、「負け」を前提に物事を語るのはナンセンスだ。私だって、そこそこには強い。それは、私が倒したカイトさんの存在からも明らかで、そんな彼はこの世界において(アニメの中で)、トロンを追い詰めるほどに強かったんだから。

 

 

「…………よし」

 

 

傍に置いてあったデッキを片手に、私は控え室をゆっくりと後にする。

 

そんな私を励ますかのように、手の内にあるデッキが怪しく輝いたような気がした。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

『会場を包む天使の歌声! 優勝候補の天城カイトを下して現れたのは!

 

かの有名なアイドルデュエリスト───蝶野さなぎだ!』

 

 

会場に入ると、万雷の拍手が私へと舞い降りる。

 

どれだけ経験しても、この瞬間は素直に嬉しい。所詮は人間でしかない私が偶像として輝けるのは、周囲の応援があってのこと。不本意な大会であろうとも、それを体感できる機会に恵まれたなら、気分が高揚して然るべきなのだ。

 

カードパワーに頼っているだけの私が、過剰な煽り文句と共に讃えられるのは恥ずかしいけれど、悪い気はしない。たとえそれが、なにかの計画に利用されてるだけだとしても、ね。

 

 

『対するは───経歴不明! 突然現れたシンデレラボーイ!

 

その名は…………トロン!』

 

 

ファンに対応しながら会場の中心まで歩み寄ると、私よりもやや早くフィールドに辿り着いていた鉄仮面の少年が、こちらを品定めするようにじっと見つめる。

 

いや、ように、ではなく、まさしく彼はこちらを品定めしているのだろう。私の価値を、私の実力を見計らうために。

 

しかし───何度も言うように、私は彼のそんな事情など知りはしない。彼がこの大会を通して何を企んでいようとも、それはアイドルたる私の管轄外だ。ならばこそ私は彼に対して、あくまでもアイドルとして正対する。

 

 

「えーっと、トロンくん、でいいのかな?

 

私はさなぎ、蝶野さなぎです。よろしくね」

 

「ああ───うん、よろしく」

 

 

(───まだ、図りかねてる…………かな?)

 

 

今の言葉、はっきりとわかる程度には違和感があった。メタ情報からの推測だが、おそらく彼は私に対し、どちら(・・・)として対応するのかを悩んだのだろう。要は、関係者か、そうでないのか。

 

先のデュエルを見る限り私はどう考えても怪しいが、私の経歴はこれ以上ないくらい真っ白だ。ギャラクシーアイズがバリアンのものと知ってる天城家ならともかく、トロンさんにとっての私は「たまたまナンバーズを拾っただけの、カイトさんと同じギャラクシーアイズ使い」なんて評価に落ち着いているのだろう。

 

観察眼には自信がある。彼もそういう目を隠す気はないようだし、そう外れていることはないはずだ。

 

 

(───まあ、だからといってなんだ、という話ではあるのだけど)

 

 

むしろ完全に獲物としてしか認識されていないのなら、なんかの気まぐれで見逃してくれる可能性までなくなってしまう。そうなると───いや、考えるな。勝つんだ。最悪を想定するのは、ピンチになってからでも遅くない。

 

 

「じゃあ…………」

 

「ああ…………うん、始めようか───」

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

(───うーん)

 

 

先行は私。手札は悪くない。むしろ私の想定している中では理想と言っていい。

 

分かりやすく強力なモンスターを出せて、分かりやすい形で防御札を残せる。この手が理想的でなければそれはおそらく、先行ワンキルなどの捻くれたデッキだけだろう。

 

 

(───悩むなぁ)

 

 

偏見だが、初手でエースを出すのは死亡フラグだ。勿論、予選ではそんなくだらないジンクスなんて踏み潰したからそんなのあってないようなものであるが、どうにも嫌な予感が拭えない。

 

 

(───様子見、だよね。彼は。だって)

 

 

だって、こんなにも手札がいいのだから、(・・・・・・・・・・・・・・)彼はしばらく防御に専念するはずだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そうなれば、私の取り得る最良の未来、最善の戦法はやはり。

 

 

(───ちょっと不安だけど、これしかない、か)

 

 

目を付けられるなんて、今更だ。廃人になることと比べたら、徹底的に警戒されてしまう方がまだいい。

 

彼にとっても誰に対しても、このカードは想定外のモノ。となるとカイトさんの例からして、おそらくはうまくいくはずだ。

 

 

「私は手札から、《光波双顎機(サイファー・ツインラプトル)》を召喚!

 

更に、《光波翼機》は自分フィールドにサイファーモンスターがいる場合、手札から特殊召喚ができる!

 

そして、光波翼機の効果発動! このカードをリリースし、サイファーモンスターのレベルを4つ上げる!

 

そして、サイファーツインラプトルをエクシーズ素材とする場合、一体で2体分の素材とすることができる!」

 

 

 

《光波双顎機》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1600/守 800

①:エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在し、

自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

②:このカードを「光波」XモンスターのX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。

 

 

 

 

 

 

2体分。OCGでは終ぞ現れることなかった効果だが、この世界では別だ。ならば当然、使えるものは使う。だって私は、負けたくないから。

 

 

「おっと、もう来るのかい?」

 

「私はレベル8、2体分となったサイファーツインラプトルでオーバーレイ!

 

2体分のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

茶化すようなトロンさんの声を敢えて無視して、エクストラデッキより我が最愛のエースモンスターを引っ張り出す。

 

 

「闇に輝く銀河よ。

 

今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ!

 

エクシーズ召喚! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

私のエース、銀河眼の光波竜。かつての私が何となしに当ててずっと使ってきた、文字通りに前世から付き合いのあるカード。だからこそこのカードはカードそのものとしての強さとはまた別に、単に想い出のカードとしても私の中で居場所を築いている。

 

 

「実際に見るまでは半信半疑だったけど───」

 

 

力強く吼える光波竜を眺め、トロンさんが寒気のする声色で言葉を紡ぐ。

 

それは、人の感情を奪ってきた彼の冷酷な面。感情を失い、取り戻すためにただひたすら寂寥感と戦い続けたその証。でも。

 

 

「本当に、カイトのモンスターを使うんだねぇ、キミ?」

 

 

(───知らない。関係ない。だって、この私は)

 

 

わかっている。この考えが思考放棄だと、現実から目を背けているだけなんだと。本当はしっかりと理解している。

 

だけど私は、そうしなくては立ち上がれない。現実に屈し、陰謀に呑まれ利用されるくらいなら、何もかもを搔きまわす愚者として在り続けるのがずっといい。

 

考えるな。理解するな。私は何も、なんでもない脇役だ。たまたまこんな大舞台に立っているだけの、単なる一人のデュエリストだ。だけど、だからこそ。

 

 

(───私にだけは、この世界で好き勝手にする権利がある、はず)

 

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンを終了するね」

 

「無視? へぇー、ま、いいけど。

 

───さて、僕のターン、ドロー!」

 

 

…………そういえば、【紋章獣】ってどんなデッキだったかな。

 

彼のドローする姿を確認し、今更になってそんな疑問を抱く私。敢えて考えないようにしていたとはいえ、ちょいと気が抜けすぎじゃないだろうか。

 

…………。…………まあいいや。多分だけど、なんとかなるよね!(慢心)

 

 

これは、きっと、フラグでは、ない。

 

 

 

「手札の《紋章獣アンフィスバエナ》は、手札にある他の紋章獣を捨てることで、手札から特殊召喚することができる。来い!紋章獣アンフィスバエナ!

 

更に僕は、《紋章獣ユニコーン》を通常召喚!」

 

 

(───レベル4の【紋章獣】が2体)

 

 

ならば、出すのはおそらく。

 

 

「僕はレベル4の紋章獣2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

現れろ、《No.8 紋章王 ゲノム・ヘリター》!」

 

 

 

 

 

《紋章獣アンフィスバエナ》

効果モンスター

星4/風属性/ドラゴン族/攻1700/守1100

①:自分のメインフェイズ時、手札からこのカード以外の

「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

②:1ターンに1度、手札から

「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。

 

 

 

《紋章獣ユニコーン》

効果モンスター

星4/光属性/獣族/攻1100/守1600

①:墓地のこのカードをゲームから除外し、

自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

 

《No.8 紋章王 ゲノム・ヘリター》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/サイキック族/攻2400/守1800

「紋章獣」と名のつくレベル4モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードのエクシーズ素材1つを取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。

この効果は相手ターンでも発動できる。

●このターンのエンドフェイズ時まで、このカードと戦闘を行う相手モンスター1体の攻撃力を0にし、

このカードの攻撃力はその相手モンスターの元々の攻撃力になる。

●このターンのエンドフェイズ時まで、相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体のモンスター効果を無効にし、

このカードはその相手モンスターの元々のモンスター効果を得る。

●相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その相手モンスター1体のモンスター名を「アンノウン」とし、このカードはその相手モンスターの元々のモンスター名を得る。

 

 

 

 

 

───紋章王、ゲノムヘリター。紋章デッキのエースにして便利屋で…………効果は忘れました。いや、なんだっけ? 能力やステータスをコピーするんだったかな?

 

でもまあ、エクシーズキラーだった気はするし、この場面で出すということは少なくとも私のサイファードラゴンを突破できる能力を持っているんだろう。

 

そして同時に、あのカードは彼の切り札とまでは行かずとも、エースとして相応しい力を所有していたはず。私の方も、微かながら勝利への道筋は掴めているとはいえ、気合いを入れて行かないと。

 

…………そうだ。姑息な手だけど、この機会に保険を入れておこうかな。

 

 

「おお! キミもナンバーズを持ってるんだね!

 

私はたまたま手に入れただけだけど、全然持ってる人がいないし、何か特別だったりするのかな?」

 

 

保険。別名、露骨な嘘、とも言う。効果があるのかも、どう作用するのかも、割と適当だけれども。

 

しかし、トロンさんは意外にもそんな私の言葉にある程度の反応を示し、感情が無いくせして妙に誇らしげに告げた。

 

 

「特別…………そうだね。確かに、特別なモンスターだよ、これは。

 

でもまあ、正直なところ、キミには全く関係ないけどね」

 

 

(なら、見逃しては…………くれないよね。

 

あーあ。怖いなぁ、ホント)

 

 

実際、さっきから運気の偏りがやばい。

 

彼がエースを召喚したからだろうか。場にある全ての運命が、彼の中へと収束しているのがはっきり見て取れる。

 

運命力は基本的にドローに影響するから今はいいにせよ、このまま放置していれば彼はカイトさん同様、手を付けられないことになる。故に。

 

 

(───勝負は、このターン)

 

 

正確には、次の彼のドローまで。おそらくは、そこまでがリミット。

 

そして、現状の運気では、次のドローにも期待はできない。だからこそ、このターンが全てのキーとなる、はず。

 

 

「僕はゲノムヘリターのモンスター効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使うことで、相手モンスター1体の攻撃力を0にして、このカードの攻撃力をその相手モンスターの攻撃力と同じにする!」

 

 

(───来た)

 

 

ここまでは、理想的な流れ。最悪はサイファードラゴンの効果をコピーされることだったけど、やはりと言うかこの期に及んでも私のことをどうでもよく思っている彼は、まずはダメージを優先して来たみたいだ。

 

そうすると当然、次の行動は───

 

 

「バトルだ!

 

行け! ゲノムヘリター! フラッシュ・インパクト!」

 

「…………」

 

 

光波竜を模したゲノムヘリターが、攻撃力を奪われて力なく項垂れている私の光波竜へと迫り来る。

 

私は、それに対抗するためにディスクの発動ボタンを押そうとし───直前で様々な思考が過ってやや躊躇し、しかし勝利のためにと改めて力強く、私の特異性を存分に主張するカードを発動させた。

 

 

「───ゲノムヘリターの攻撃宣言時。

 

私は速攻魔法、《RUMー光波衝撃》を発動」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUM-光波衝撃(ランクアップマジックーサイファー・ショック)》

速攻魔法

①:自分フィールドの「光波」Xモンスター1体を対象として、

そのモンスターが戦闘を行うバトルフェイズにのみ発動できる。

そのモンスターはその戦闘では破壊されず、

このカードの発動時にフィールドに存在する全てのモンスターの効果はターン終了時まで無効化される。

対象のモンスターが戦闘を行うダメージ計算後、バトルフェイズを終了し、

対象のモンスターよりランクが1つ高い「光波」Xモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

(──あー…………。今更も今更だけど、やっぱり早まった気がするなぁ。流石にこれは、ちょっとまずいよねぇ…………まあ、いいか)

 

 

今日だけで私は、一体どれだけ泥沼に身体を沈め続けているのか。体感では既に身長の4倍くらいは沼に浸かっている気がする。マリオのジャンプより少し低いくらい。なんだ。大したことないじゃん(錯乱)

 

 

「ランクアップ、マジック…………?」

 

「このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドの光波エクシーズモンスターを対象に発動。

 

発動時、フィールドの全てのモンスター効果を無効とし、対象モンスターはその戦闘では破壊されず、また、戦闘終了後にバトルを終了させ、そのモンスターを一つ上のランクのエクシーズモンスターへと進化させる」

 

「なんだ………そのカードは───?」 トロン LP 4000→3400

 

 

(───当然、答える義理はなし。だって、お互い様、だからね)

 

 

内心だけで補足して、トロンさんへと満面の笑みを向ける。

 

アイドルとしての神秘性を顕著にする、私個人の真実を綺麗に覆い隠すヴェール。普段ならそれこそアイドル業にしか使えないこの技能(?)も、使いようによっては効果があるのかもしれない。わからない。どうでもいい。

 

 

「私は、ランク8のサイファードラゴンで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ」

 

 

力を失っていた光波竜が咆哮と共に起き上がり、ゲノムヘリターをその閃光で溶かし尽くす。

 

ナンバーズであろうとも、効果を消されて火力が足りないなら壁にしかならない。耐性に甘んじてコンバットトリックを想定していないのが悪いのだ。

 

 

「闇に輝く銀河よ。

 

とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ。

 

降臨せよ、ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

 

 

 

 

《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000

レベル9モンスター×3

①:このカードが「銀河眼の光波竜」を素材としてX召喚に成功した場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を全て取り除いて発動できる。

相手フィールドの全てのモンスターのコントロールを可能な限り得る。

この効果でコントロールを得たモンスターのカード名は「超銀河眼の光波龍」として扱い、

攻撃力はこのカードと同じになり、効果は無効化される。

また、そのモンスターはこのターン攻撃できない。

●表側表示のこのカードがフィールドから離れた時に発動する。

このカードの効果でコントロールを得たモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る。

 

 

 

 

 

この時期にはあり得ない過程を経て、進化した我が勇士が咆哮をこの地に轟かせる。

 

辺りを見渡せば、この反撃によって、彼へと収束していた運気が和らいだような気もする。ならばおそらく、この反撃は彼の予想を遥かに上回り、文字通りに彼の気を削いだ(・・・・・)んだろう。

 

 

(───掴んだ)

 

 

正直、今の今まで希望的観測でしかなかったが、事ここに来てようやく勝利への道筋を照らし出せた。後は、詰めを誤らなければ。

 

 

「っ、なら!

 

僕は手札から魔法カード、《高等紋章術》を発動!」

 

「させないよ。カウンター罠、《神の忠告》。

 

ライフ3000と引き換えに、その効果を無効にする」 さなぎ LP 4000→1000

 

 

 

 

 

《神の忠告》

カウンター罠

①:自分の魔法&罠ゾーンにセットされているカードがこのカードのみの場合、

3000LPを払って発動できる。

●モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。

その発動を無効にして破壊する。

●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。

それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

 

 

 

私は魅せを重視していないから、危険なカードは発動前に潰すことができる。

 

以前はカードパワー云々と言っていたが、案外これこそが、私の持ち得る最大の強みなのかもしれない。

 

 

「…………墓地の紋章獣、ユニコーンの効果発動!

 

墓地のこのカードを除外し、墓地よりモンスターエクシーズを特殊召喚する! 蘇れ、ゲノムヘリター!

 

僕はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

(───手札をフルに使った。それはつまり)

 

 

これで、打ち止めか。素晴らしいデュエルタクティクスだったけど、様子見ならせいぜいこんなものだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

これでおおよその順路も定まったが、まだ不確定要素(伏せカード)もある。最後まで、気を抜かず。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 

引いたカードは役立たず。運命力がなくては、私なんてこんなものだ。でもまあ、多分問題はない、はず。

 

 

「私は、超銀河眼の光波竜のモンスター効果を発動。

 

オーバーレイユニットを全て使い、相手フィールドのモンスター、全てのコントロールを奪う。

 

そして、奪ったモンスターをこのカードと同じモンスターとして扱い、その攻撃力もこのカードと同様となる」

 

「させるか!

 

罠発動!《紋章の記録》!」

 

 

 

 

 

《紋章の記録》

カウンター罠

①:エクシーズ素材を使用した効果を無効にする。

 

 

 

 

 

(───破壊、しないんだ?)

 

 

少しばかり予想外だが、これこそどうでもいい。なんかモヤモヤするけど、手札が節約されただけ喜ばなくては。

 

 

「───なら、バトル。

 

私は、超銀河眼の光波龍で、No.8、紋章王ゲノム・ヘリターを攻撃。

 

鮮烈の、アルティメットサイファーストリーム」

 

「くっ…………!」

 

 

本来ならナンバーズには須らく耐性を保有しているが、ユニコーンの効果で呼び戻したあのカードは効果が無効となっている。ならば、火力で勝ればなんの問題もない。

 

まあ、守備表示だったから、ダメージは与えられないけれどね。

 

 

「続いて、速攻魔法《銀河眼新生》を発動。

 

超銀河眼の光波龍をリリースし、墓地から【銀河眼】モンスターを特殊召喚する。

 

戻って来て、銀河眼の光波竜!」

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 

 

 

《銀河眼新生(ギャラクシーアイズ・ノヴァ)》

速攻魔法

①:自分フィールドの「銀河眼」モンスター1体をリリースし、

自分の墓地の「銀河眼」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

 

 

 

発動せしは、分かりやすい形でのバトル中におけるモンスターの入れ替え。言うまでもないことだが、これはバトル中の特殊召喚なので、そのまま追撃が可能となる。それに───

 

 

「そして、バトルを続行!

 

私は蘇った光波竜で、トロンくんに直接攻撃!

 

殲滅の、サイファーストリーム!!」

 

「うわぁぁあああ!

 

───なんてね。トラップ発動!《エクシーズ・リボーン》!

 

墓地からゲノムヘリターを特殊召喚し、このカードをゲノムヘリターのオーバーレイユニットとする!」

 

 

 

 

 

《エクシーズ・リボーン》

通常罠

①:自分の墓地のXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚し、このカードを下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

 

(───エースの蘇生。やっぱり彼は、あのカードを相当信頼しているんだね)

 

 

微かな記憶を掘り起せば、彼は原作でも、基本的にナンバーズばっかりを使用していた印象がある。流石にこの段階では後頭部アームズは出せないみたいだけど、だからこそ彼は、あのカードを信頼し、デッキの基軸として扱っているのだろう。

 

それは、本来ならば望ましいことだ。私にとっての銀河眼の光波竜のように、信じたカードはそれ相応の反応をしてくれる。故に、彼のそのこだわりは、私が否定していいことではない。しかし。

 

 

「だけど、攻撃力はこっちが上だよ!

 

私は銀河眼の光波竜で、ゲノムヘリターを攻撃!」

 

「忘れたのかい!

 

僕はゲノムヘリターの効果を発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、このターンこのカードと戦闘を行うモンスターの攻撃力を0にして、このカードの攻撃力をそのモンスターと同じにする!」

 

「…………あっ!?」

 

 

彼の信頼に報いようとしたのか、些か以上に張り切った雄叫びを上げたゲノムヘリターが、私の光波竜の光線を吸収して、逆にこちらへと撥ね返そうとしてくる。

 

先のカードのライフコストで、私のライフは1000。効果を使用したゲノムヘリターと銀河眼の光波竜の攻撃力の差は3000。私を3回倒せる数値だ。このままだと───

 

 

(───なーんてね。流石にそれを忘れるほど、私は馬鹿じゃないよ)

 

 

先程の彼に倣うように、内心だけで否定する。

 

初手からかなり予想と外れたが、この展開も大方は許容範囲。

 

彼が最後の伏せを公開した時点で、既に勝利の方程式は完成している。だから後は、出し惜しみをせず全力で仕留める!

 

 

「まだ、終わりじゃないよ!

 

この瞬間、速攻魔法《RUMー光波追撃》を発動!」

 

「───何?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUM-光波追撃(ランクアップマジックーサイファー・パースィート》

速攻魔法

①:自分と相手のLPの差が2000以上ある場合、

自分フィールドの「光波」Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターよりランクが1つ高い「光波」モンスター1体を、

対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターのその召喚成功時、

自分はX素材を使用するそのXモンスターの効果を発動できる。

 

 

 

 

 

 

これこそが、勝利への最後のピース。文字通りの、追撃の一枚。

 

そしてそれは、彼にとっての致命の一撃へと昇華する。

 

 

「そのカードは、さっき───」

 

「このカードの効果により、自分フィールドの光波モンスターをランクアップさせて、一つ上のランクの光波モンスターへと進化させる!

 

私はランク8の銀河眼の光波竜で、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

もう一度、お願い! ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

 

銀河に轟く咆哮と共に、2体目(・・・)の我が切り札がその姿を顕現させる。

 

ナンバーズにも一切引けを取らないその圧倒的な存在感は、ただそこにいるだけで会場の全員の喉を鳴らすだけの威圧を放っていた。

 

そしてそれは、対戦相手であるトロンさんも例外ではなく───彼は一瞬、ほんの僅かな時間だけ鉄仮面の奥の瞳を大きく見開き…………また、普段なら様子へと即座に取り繕って、茶化すように告げた。

 

 

「───はは。あははははは!

 

いやぁ、凄いね。本当に! まさかこんな目まぐるしくモンスターエクシーズを召喚するなんてさ! 正直、脱帽だよ!

 

でも、忘れてはないかい? 僕のゲノムヘリターはこのターン、戦闘するモンスターの攻撃力を奪う効果を持っている。当然だけど、それはその《超銀河眼の光波龍》だって例外じゃない。

 

いくら4500もの攻撃力があっても、ゲノムヘリターをどうにかしなきゃ、さっきと状況はまるで───」

 

「それは、どうかな?」

 

「…………なに?」

 

 

にっこり笑って、私は爽やかに名言を言い放つ。

 

それは、遠回しな勝利宣言。私が微かな道筋を潜り抜け、無事に目的地まで辿り着いたことへの勝鬨だ。

 

 

「《RUMー光波追撃》によってエクシーズ召喚に成功したモンスターは、そのオーバーレイユニットを使用して発動する効果を、召喚時に発動することができる。

 

…………このカードの効果は、さっき説明したよね?」

 

「な…………馬鹿な!?」

 

 

超銀河眼の光波龍が雄叫びを上げると、先程まで迎撃準備にかかっていたゲノムヘリターの姿が一変し、こちらに侍ってトロンさんを見下ろす。

 

これを以て、チェックメイトだ。

 

 

「───今はまだ、バトルフェイズ。

 

私は超銀河眼の光波龍で、トロンくんにダイレクトアタック!

 

殲滅の、アルティメットサイファーストリーム!!」

 

「馬鹿な…………! この僕が、復讐が、アイドル風情なんかに…………!

 

うわぁぁぁぁああああああ!!!」 トロン LP 3400→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───本当に、勝っちゃったよ…………!??!?)

 

 

 

相変わらず何故かARヴィジョンなのに吹き飛ばされるトロンさんと、彼を倒したことによって熱狂するファンに無意識のうちに笑顔を振りまきながらも私は呆然とする。

 

しかしながら、勝って真っ先に感じるのが困惑な辺り、転生者という存在は、実に度し難いなぁ、なんて思うのだった。






ちなみに彼女は当然のように有用なエクストラは三積みです。たとえそれがナンバーズであろうとも。


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憤慨! アイドルデュエリスト!


多分だけどこの作品、Ⅳと闘ったらそれで終了だな…………(すぐ闘えるとは言ってない)


 

 

「───どうしたの? 何か不安でもあるの?」

 

「え?」

 

 

決闘の直前、対戦相手である女性からにこやかに声を掛けられる。

 

対戦相手。つまりは彼女、国民的アイドルである蝶野さなぎ。アイドルなんてろくに知らない自分でさえ顔くらいは知っている、まさしく雲の上の存在。

 

そんな彼女から声を掛けられた。それがたとえ、単に対戦相手としての礼儀だとしても、ならば俺は喜び勇んで、サインでもねだるのがこの場での正しい反応なのかもしれない。だけど───

 

 

「…………なあ、あんた」

 

「ん?」

 

 

気づいたら、声が漏れていた。それは決してアイドル相手に出していいようなものじゃない乱雑な口調。しかし、何よりも興味に浮かされた俺の口は、多少の良識が脳裏によぎっても留まることはなく。

 

 

「あんたは一体───何者なんだ?」

 

「───へぇ。

 

…………そっか。君からすると、そんな風に感じるんだね」

 

 

底冷えのする声。穏やかな表情を決して崩さず紡がれる冷酷なそれは、先程との落差で思わず身構えるほどに恐ろしい。

 

 

「私はさなぎ。蝶野さなぎ。生まれも育ちもここハートランドで、ちょっとしたきっかけからアイドルを目指してそれをたまたま成し遂げただけの一般人───って答えは、まあ期待してないよね?」

 

「…………ああ」

 

 

先程よりかは些か柔らかい口調で、まるで事前に答えを用意していたかのようにスラスラと彼女は述べる。

 

勿論、俺だって彼女の言を信じたくはある。だけど、それにしては彼女には謎が多すぎる。まるで当然のようにギャラクシーアイズを使用し、あれだけ怖ろしげなナンバーズをごく自然に操り、そして、自称天才のアストラルでさえ知らない特異なエクシーズ召喚を活用してきた。流石にこれで「一般人」は無理がある。

 

それに加え、俺にはどうしてか、彼女からとてつもない違和感を感じるのだ。何故、と聞かれたら「なんとなく」としか言えないし、その違和感がどんな類のものかもわからないけど、そう、まるで、彼女がここにいてはいけない(・・・・・・・・・・)存在のように───

 

 

「とは言っても、私も正直、よくわかっていないんだよね」

 

「───え?」

 

この私は(・・・・)、ナンバーズについても、ギャラクシーアイズのことも、トロンくんや君、天城さんが何を目的としているのかもわからない。

 

だから、君の言うことも実は理解できていないし、する気もない。貴方は何かしらの確信があるみたいだけど、多分それは、この私には意味のないこと。

 

───嘘だと、思う?」

 

「…………」

 

「どういうことかわからない、って眼だね。でも、私だってそれは一緒なんだよ?

 

私は職業柄、君のような人にも出会ったことはあるんだけど、その中でも君は一層面白いね。

 

なんとなく、直感で、言いづらいことをずばりと直撃してくる。まさしく物語の主人公(・・・・・・)みたいに──────おっと」

 

 

そこまで告げた彼女は、さっきまでとはまた別の微笑みをこちらへと向け、「危ない危ない、口を滑らせるところだった」などと嘯き、朗らかに、歌うように続ける。

 

 

「でも、アイドルのことを探るなんて、ちょっとマナーがなってないよ?

 

さっきは一般人って言ってたけど、私はそれと同時に偶像(アイドル)なんだ。

 

…………偶像とは、人々の理想を纏うもの。何もかもを暴かれて丸裸になった人物を、人はアイドルとは呼ばない。だって───」

 

 

そこで一度、言葉を区切った彼女は、今も彼女に声援を送る会場の人々へと振り返り、手を振りながら感謝の言葉を述べて───改めてこちらを美しい笑顔で見つめてから、茶化すように告げた。

 

 

A secret makes a woman woman.(女は秘密を着飾って美しくなるんだから)

 

───なーんてね?」

 

 

…………言葉の意味は、わけわかんなかったけど。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

やった! 誤魔化せた!(強弁)

 

第3部、完!! さなぎ先生の次回作にご期待ください!!!

 

 

(───なーんてことになっていればいいんだけど、そう甘くはない、よねぇ)

 

 

私達が立つデュエルフィールドの端、自分側の所定位置へとゆっくり歩みながら、私は横目で九十九遊馬くんの様子を伺う。

 

浮かんでいる表情は、はっきりとした困惑。それは彼がコナンを読んでいないからこその反応…………であればまだ良かったのだけど、あれは明らかにそれだけが原因ではない。

 

なにせ、先の会話で私は実質、彼の疑問に何の答えも返していないのだ。むしろやった事実を単に羅列するなら、私は彼を煙に巻いただけ。それなのに彼のような純粋な子が、全てを納得してデュエルに臨めるはずがないのだ。

 

 

(───それが狙い、って言えたら、もっと楽に生きられるんだろうけど)

 

 

残念なことに、私はそこまで性悪になれない。努めたところでぼろが出るから、最大限見積もっても小悪党がせいぜいだろう。まあ、ただやりたくないだけってのが大きいんだけどね。

 

───というか私、なんで対戦相手に助言みたいなことをしているんだろうか。

 

本気で勝つために動くのなら、完全に彼を無視した方が彼のような人には一番辛いってわかっているのに。

 

いや、本当はわかっている。内心を誤魔化すのは苦手だ。だから、私がやってしまったことも、私なりには理由だってある。

 

だって、それは、単純に。

 

 

(───元気がない人を、見過ごせないから、だよね。だって私は、それでアイドルを目指したんだもん)

 

 

きっかけは、些細なこと。

 

かつての私を心配してか、いつもの気力を失った誰か(・・)を、励ましたかったから。

 

この私は既に、その誰か(・・)を忘れてしまっているけれど───その時の想いは、感情は、願いは、私の心に染み付いている。

 

けれど、だからこそ。

 

 

(───ちょーっとあの人(Ⅳさん)のことは見過ごせないよねぇ?)

 

 

思い出したらちょっとばかし、ほんのちょっとだけイライラしてきた。

 

貴重なファンを一纏めにした挙句、あんな扱いをするなんて許すまじ。絶対に、お話しして、それで───

 

 

『この空に太陽は一つだけ。輝く栄光もまたひとつ!その道を阻むものは、全て敵!

 

皆さま、大変長らくお待たせしました! これよりこの第一回WDC。決勝戦を開始致します!

 

栄えある初代王者に輝くのはどちらなのか! それはこの私にも、全くわかりません!』

 

 

(───それはそうだよね)

 

 

会場へと響き渡る実況の声。この大会の主催者である人物、Mr.ハートランドの台詞に内心で同意する。

 

まさか想定できるわけがないだろう。手掛けた手駒(カイトさん)も、凶悪な復讐者(トロンさん)も私なんぞに敗北して、モブたる私が決勝戦まで上がるなどと、想定している方がどうかしている。

 

当然、何も知らない(・・・・・・)私は一切合切考えてはならないとはいえ、主たる理由が私にあるのなら、やっぱり少しだけは気になってしまうのだ。

 

───まあ、割とどうでもいいのも、また本音なんだけど。

 

 

「───」

 

「───」

 

 

不思議と同じタイミングで向き合い、ほとんど同時にデュエルディスクを構えて睨み合う。

 

───これが、最後の試合。これさえ乗り切れば、一先ずは。

 

 

 

 

『それでは、決勝戦!

 

蝶野さなぎversus九十九遊馬!

 

デュエル開始!!』

 

 

 

 

 

「「───デュエル!!」」

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

WDC決勝戦のルールは、先程までのデュエルとはやや違う様相を見せている。

 

それこそが、このデュエルフィールド。『スフィア・フィールド』というらしいこの空間の中では、手札の同じレベルのモンスターを素材扱いとして【No.】モンスターをランダムに召喚することができるそうな。

 

また、その条件で出したナンバーズは素材を失うと破壊されるらしい。なんともまあ、面倒なことだ。

 

特にランダムというのが頂けない。狙って出せるのならまだしも、手札を2枚も使ってすることが灰汁の強いギャンブルなら、そんなのあってないようなものだ。

 

故に、この場での正答はこの一見便利そうな意味不明ルールを無視し、その場の空気でこのルールを活用してくるであろう九十九遊馬くんのアド損の隙をつくこと。

 

───さて、ここで問題です。ならば何故私は、改めてこのルールを振り返っているのでしょう?

 

 

 

(───うわぁ、事 故 っ た )

 

 

 

根本的な運命力の差。加減なんてしないであろう性格。先の会話からの警戒───理由はさておいて、やっぱり酷いことになった。流石は主人公。モブな私なんかとは基本が違いますね(白目)

 

こんなん謎ルールに頼るしかないやん…………などと思っても、ランダムというのが不確定要素すぎてどうしても躊躇してしまう。考え過ぎるのは私の悪い癖だ。それはわかっているのだけど。

 

 

(───ええい、やってしまえ☆)

 

 

「私は手札のレベル6、《光波複葉機(サイファー・バイプレーン)》2枚をオーバーレイ!」

 

 

 

 

 

《光波複葉機》

効果モンスター

星6/光属性/機械族/攻 1000/守 2000

①:「光波」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

②:1ターンに1度、自分フィールドの「光波」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターのレベルは8になる。

③:このカードが破壊されたターンに発動できる。

墓地のこのカードを除外し、デッキから「光波翼機」1体を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

カイトさん、トロンさんと緊張が長く続き過ぎていたせいか、いよいよもって考えるのが嫌になり、半ばヤケクソに私は手札の2枚を手に取る。この行為が吉となるのか凶となるのかは、まさしく神のみぞ知る───え?

 

 

(───このカードは…………)

 

 

エクストラデッキからランダムに排出された一枚、そのカードを確認して私は硬直する。

 

これぞまさしく神の導きか。どうやらこの世界を定めた神さまという存在は、この期に及んでなおもこの物語を修正しようと足掻いているらしい。

 

 

(───でも)

 

 

悩む。私はこれに従うべきか、抗うべきなのか。

 

冷静に辺りを見渡せば、私には到底あり得ない量の運気が私の方へと収束してくるのを感じる。何かあったわけでない、ただの偶然でこの偏りは不自然極まりないから、これはきっと、私に対して何かしらの介入があったと見るべきなのだろう。

 

従うのは簡単だ。ただ何も考えずにこのカードを出して、そのまま普通に闘えばいい。でも、きっと、おそらくは。

 

 

(───そうすると、私は彼の役を担うことになる(絶対に負けてしまう))

 

 

これほど露骨な干渉があったのだ。イレギュラーとしての直感でしかないが、それくらいのことはあって然るべき。

 

 

(───ふざけるな)

 

 

これは、私のデュエルだ。神だか何だか知らないが、ここにいないのに口出しをするんじゃない。

 

こうなったら、私は何としてでもこの運命に抗う。そして、勝つんだ。勝って、神様とやらの鼻を明かせて、この世界を嘲笑ってみせる!

 

 

「───今ここに、怒りを解放する。

 

エクシーズ召喚。ランク4、《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》!」

 

 

 

 

 

《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/サイキック族/攻2600/守1400

レベル4モンスター×3

「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:このカードが特殊召喚に成功した時に発動する。

このカード以外のフィールド上の全てのエクシーズモンスターの効果は無効となる。

②:自分のメインフェイズ時、

このカード以外のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、このカードは選択したモンスターと

同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 

 

 

 

なお、どれほど立派な役割を押し付けられたところで、私にはどう足掻いても役者不足になるのはご愛嬌。

 

 

(───あの、その、神様(仮)? 支援とかをしてくれるなら、気を利かせてこの子をアニメ効果に直してくれないかなぁ…………?)

 

 

まあ当然、その要望は終ぞ通ることはなかったとさ。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

彼女の叫び声と同期して、空に巨大な紋様が浮かびあがる。

 

まるで亀裂の入った盾のような、どこかで見覚えのあるその形は、しかし彼女が保有していいものではなく、その先入観から特定を僅かな時間だけ遅らせる。

 

 

(───これは確か、ⅣとⅢが)

 

 

だが、あれだけ印象的なものを忘れてしまうほど、私は間抜けではない。もしかしたら遊馬ならば、と思いやや懐疑的に彼の方を見ても、彼にもしっかりとその紋様に見覚えがあるらしく、むしろ無意味に考え込んで特定を遅らせた私よりも早く、彼が自らの思考を告げた。

 

 

「───お前、それは」

 

「ん、何かな?」

 

「なんで、お前がIIIの…………」

 

 

(───【紋章(メダリオン)】…………それは、彼らのリーダー、トロンという少年が使用していたモノのはず)

 

 

彼の口より紡がれるのは、純粋な疑問。ナンバーズ回収を退け、この私を視認、束縛し、時空を捻じ曲げる力までをもあるその力を、どうして彼女が使用しているのか。その理由を。

 

更には、それだけではない。あまりにも自然な流れで召喚されたので反応が遅れたが、本来ならナンバーズは特別なカード。彼女のような一般人が当然のように持っていていいものではないのだ。そして。

 

 

(───どうしてか、彼女からは、未だナンバーズの気配を感じない(・・・・・・・・・・・・・・・))

 

 

最大の疑問。全ての前提を覆す、根本的な謎。

 

ナンバーズのオリジナルであるこの私は、ナンバーズの気配を本能的に感じ取れる。しかし、その力を以ってなお私は、彼女からナンバーズの気配をまるで感じないのだ。だが、そうなると彼女はつまりそういうこと(・・・・・・)になる。

 

実のところ、確信はある。なのに私がそれを解として出せないのは、それ以上に彼女の特異性が大きすぎるからだ。

 

 

(───ランクアップマジック)

 

 

彼女が使用する、異様な魔法カード群。私にはそれが、どうしても引っかかって仕方がない。

 

ランクアップ。彼女はそれを、はっきり「進化」だと言っていた。だが、あんなエクシーズ召喚などまるで私は聞いたことがなく、会場の反応からして、それはこのハートランド全域でも同様だろう。

 

何故、彼女だけがあのような召喚を扱えるのか。何故彼女なのか。疑問は尽きないが、何よりも私が奇妙に思うのは。

 

 

(───いや、そうだ。

 

私は、あれを、知っている───?)

 

 

奇妙に思うのは、私自身。つまりはそう、こういうことだ。

 

私はおそらく、ランクアップについて知っている。失われた記憶の、きっと重要な部分にその秘密はある。故に私は。

 

 

(───何としても、彼女と話をしなくては…………む?)

 

 

 

 

 

「───だから、まあ、この程度では終わらないよ?」

 

「っ…………!?」

 

 

(───これは…………)

 

 

どうやら、些か思考に時間を掛け過ぎていたらしい。

 

戦況自体に異変はないが、私が思考の沼に嵌っている間、遊馬と彼女の間で何かしらの変化があったようだ。内容は後で遊馬から聞くとして───何をしてくる?

 

 

「私はマジックカード、《サクリファイス・ランクアップ》を発動。

 

自分フィールドのエクシーズモンスター、コートオブアームズのオーバーレイユニットを2つ除外することで、コートオブアームズよりもランクが一つ高いエクシーズモンスター1体を、エクストラデッキからエクシーズ召喚できる」

 

「なっ…………!」

 

 

 

 

 

《サクリファイス・ランクアップ》

通常魔法

①:自分フィールドのXモンスター1体を対象に発動できる。

そのモンスターのX素材を2つゲームから除外し、

そのモンスターよりランクが1つ高いXモンスター1体を、

X召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

(───噂をすれば、か。それにしては、やや変則的だが…………)

 

 

だが、結果は変わらない。このルールでは素材を失ったコート・オブ・アームズは破壊されてしまうが、きっとそれを上回る何かが、彼女の中ではあるのだろう。

 

しかし、あのカードの効果なら、次に出すモンスターも、ユニットがない状態になってしまうが───

 

 

(───いや、違う。これは、まさか)

 

 

ランクアップ。彼女曰く、エクシーズの進化。はて、ならばナンバーズの進化系とは果たしてどんなものだった?

 

系統が違うからと、その可能性に目を向けないのは間違いだ。エクシーズモンスターの進化。ナンバーズの進化。ならば当然、それらはすなわち、等号で結ぶことも───

 

 

「降臨せよ───CNo.69(・・・ ・・)

 

虚ろなる怒りの亡者よ。復讐の化身に宿りて、我がしもべとなれ。

 

ダイレクト・カオス・エクシーズチェンジ! ランク5、《CNo.69 紋章死神 カオス・オブ・アームズ》!!」

 

 

 

 

 

《CNo.69 紋章死神 カオス・オブ・アームズ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/サイキック族/攻4000/守1800

レベル5モンスター×4

①:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

相手フィールド上のカードを全て破壊する。

②:このカードが「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」を

エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

相手フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、このカードの攻撃力は選択したモンスターの元々の攻撃力分アップし、

このカードは選択したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 

 

 

 

 

「カオスナンバーズ…………!?」

 

 

『───気を引き締めろ、遊馬。

 

彼女は、出し惜しみをして敵う相手ではない』

 

 

尚も感じるどうしようもない違和感から目を背け、我々は必死に目の前の脅威へと対応する。

 

しかし、どうにも私の中には違和感以上に、あのカードを使う彼女の姿にダブつく何かの影を感じるのだった。





区切りがいいのでここまで。続きは作者が剣豪やり終わったら。感想とかでネタバレされたら退会します(迫真)



最大の敵は修正力。ただし効果は微妙な模様。


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進撃! コートオブアームズ!

剣豪終わった。楽しかったです。では投稿します。しました。

タイトルは嘘です。





「───俺のターン、ドロー!」

 

 

エンド宣言からしばらく経って、何やら虚空へとぶつぶつ独り言を呟いていた彼が決意と共にカードを呼び寄せる。

 

纏う運気は、未だ私の方がやや高いくらい。それは、この状態の私に抗えるほど凄まじい彼の運命を讃えればいいのか、ドンさんなんかより遥か上にある超常的な存在が全力で援護してなおこの程度の運命しか味方しない自身を笑えばいいのか。さて。

 

 

「自分フィールドにモンスターがいない時、《トイナイト》は手札から特殊召喚できる!」

 

 

(───ん?)

 

 

 

 

 

《トイナイト》

効果モンスター

星4/地属性/機械族/攻 200/守1200

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 

 

 

感じた違和感に、虚空へと彷徨わせていた視線をフィールドへと向ける。

 

モンスターを特殊召喚。それはいい。エクシーズ主体のこの世界では緩い召喚条件の低ステータス持ちは重宝されてるし、私だって似たようなカードは持っている。しかし。

 

 

(───あれ? このルール、使わないのかな?)

 

 

違和感の正体は、現状との照らし合わせの結果。私の予想では、彼の性格ならば間違いなくこのルールを活用し、原作みたいにテラバイトやらクリムゾンシャドーやらを出して一喜一憂するんじゃないかと思っていたのだが…………どうやら微妙に違うらしい。

 

手札が悪いだけ、とも取れるが、運気を見定められるこの私にその辺りの理屈は通用しない。今の私と同等、つまりは原作沿いの流れに乗っているのなら、手札の差異はあれど用意された舞台(スフィアフィールド)を利用できないなんてことはないはずだ。となると。

 

 

(───意図して使わない。そうなると、理由はあの人かな?)

 

 

先の独り言。正直不気味だったが、妙に長かったし、アストラルの助言でもあったのかもしれない。

 

すなわち、私が当初に予定していたのと同じく、ルールを完全に無視、乃至は利用できそうな時にだけ無理せず活用し、普段通りのデュエルを心がける戦い方。

 

 

(───つまり、出したいモンスターがいる、と)

 

 

考えてみれば、この時点での彼らはそこまでナンバーズを所持しているわけではない。アニメでは断片しか語られてない&記憶が曖昧なせいで断言できないが、持ってて20枚そこそこ程度だろうか。更には初期は効果も控えめなナンバーズが多かったから、ただでさえ単体としての火力が神クラスのカオスオブアームズを相手にして、ランダム頼りに行動するのは流石に控えたのだろう。

 

 

(───しっかし、常時セコンドって割と卑怯だなぁ)

 

 

タッグは別にして、デュエルとは基本決闘の文字通りに一対一のぶつかり合いだ。それが主人公としての特権とはいえ、こうも堂々と無粋をされると腹も立つ。

 

これは私が、仮にも怒りの化身(笑)を操っているから浮かぶ感想なのか───いや、この私が考えていいことではないといえ、事情を知っている人なら文句の一つ二つ、普通に呈していい気がする。うん。───というか、いや、むむ。

 

 

(───またちょっと思考が…………いい加減、どうにかしないと)

 

 

アイドル業なら「アイドルとしての自分」にしかなれないが故に考えがぶれることはないが、プライベートだと途端に霞がかかってしまう。それは「アイドルじゃない自分」がかつての私に被るからで、この私がそうありたいといつも思っているからこそ。直すべきだとは自覚しているのだけど、なんとも度し難い。

 

…………気を、引き締めないと。でないと、本当に負けちゃうから。

 

 

「そして俺はトイナイトをリリースして、《ガンバランサー》をアドバンス召喚!」

 

(───んん??)

 

 

 

 

 

《ガンバランサー》

効果モンスター

星5/光属性/戦士族/攻1000/守2000

①:このカードをX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。

 

 

 

 

 

随分と久方ぶりに見た気がするアドバンス召喚によって現れたのは、レベル5・低ステータスのおそらくはダブルコストモンスター。

 

ホープじゃないのか、と首を傾げ、ランク5に何かいたかなと記憶を漁り…………一つ、有名にして凶悪な、後に量産される類型効果の代名詞として語られるモンスターの存在を思い出す。

 

 

(───あれ? これってもしかして、とってもピンチ?)

 

 

今の私の伏せは2枚。しかし、その中にアレを凌げるカードはあっただろうか?

 

 

「エクシーズ召喚! 現れろ!

 

《No.61 ヴォルカザウルス》!」

 

 

 

 

 

《No.61 ヴォルカザウルス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/炎属性/恐竜族/攻2500/守1000

レベル5モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択した相手モンスターを破壊し、

破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 

 

 

 

(───うわぁ)

 

 

灼熱の肌を纏う怪獣。ヴォルカザウルス。

 

調整されたOCGにおいてもなお脅威と呼べる恐ろしい力を持つ、単純明快にして強力なモンスター。無論、まともに暴れてもらったら私は負けちゃうから、どうにかして凌がないといけないんだけど…………うーん。

 

 

(───あのカードを使えば2000に1250。残るのは750、1500以上を追加で出されなければ…………)

 

 

既に召喚権も使っている以上、更に追加でモンスターを召喚してくるとは考えづらい。しかし、1500といえば彼のお気に入りモンスターの攻撃力がジャストでその数値だったはず。彼がトチ狂ってガガガウインド辺りを使われる可能性もないわけじゃないから…………うん、まずいねこれ。

 

 

(───最初の事故がねぇ…………いや、一応は防御札があっただけマシ、かな?)

 

 

なにせ、本来なら通常召喚できない、防御札も一枚しかない、後の手札は条件が整ってないの三重苦だったのだ。これ以降はだいぶ向上する感覚があるが、そのためにはどうにかしてこのターンを乗り越えなくてはならないわけで。

 

 

「ヴォルカザウルスの効果を発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、相手フィールドのモンスターを破壊! 更に、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!

 

マグマックス!」

 

「罠発動! 《ダメージ・ダイエット》!

 

発動後、ターン中のダメージを全て半減する!

 

…………っ」 さなぎ LP 4000→2000

 

 

 

 

 

 

《ダメージ・ダイエット》

通常罠

①:このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。

②:墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動できる。

このターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。

 

 

 

 

 

 

(───痛い(・・)?)

 

 

初めて経験する不可解な苦痛。かつての私に比べたらなんてことのない些細な感覚だが、確かに身体中へとよくわからない衝撃を感じた。まさかとは思うが、これがナンバーズによるダメージなんだろうか?

 

 

(───)

 

 

私はこの世界のイレギュラーだ。だから私は彼らデュエリストがARヴィジョンに影響される理由がわからなかったし、そういうゲームなんだからそういうリアクションをするんだな、などと考えていた。つまりはそう、あれは演技なんだと。実際、私も衝撃を受けたフリをする程度ならまるで恥ずかしくないくらいこのゲームが好きだと断言できるから、私もそれを今の今まで抵抗なくやっていたわけなんだけど。

 

 

(───効果ダメージでこれなら、直接攻撃は…………)

 

 

慣れているからといって、苦痛は望んで受け入れたいものではない。特に酷いものだと、かつての私が脳裏によぎるから。

 

どこまでいっても、私は私だ。だから───いや、私も彼も互いの事情は何も知らないんだから、お互い様か。なら、いいや。

 

 

「バトルだ! 俺はヴォルカザウルスでダイレクトアタック!」

 

「っ、くっ…………!」 さなぎ LP 2000→750

 

 

気のせいかも、とは考えたが、やっぱり痛い。それもどうやら物理的なものでなく、精神的な何かっぽい。文字通り、心に響く。

 

ならば何故彼らはこのダメージで吹き飛んで───などと考える暇はない。だって私のことだから、また思考が明後日の方向へと行ってしまうしね。

 

あっさりカオスオブアームズを破壊できたのと、《ダメージ・ダイエット》の効果に首を傾げながらも、彼がカードを2枚伏せてターン終了を宣言する。…………あっさり逆転かぁ。でもまあ、事故ってたらこんなんだよね、普通。

 

 

「私のターン───」

 

 

私のフィールドは、伏せカードが一枚だけ。手札も一枚。それも、どちらも使えないカード。ならば現状は、とっても危険な状態なのだろう。

 

だけど私は、不思議と緊張はしていなかった。何故なら、コートオブアームズがフィールドにいない以上、神様がそれを召喚できる運命へと修正してくれると半ば確信しているからである。

 

それに私が従うかは別にして、そうなると引けるカードは自ずと限られる。そして、該当するカードを引けさえすれば、私のカードパワーなら、割とどうにでもできるのだ。

 

 

「ドロー…………!」

 

 

(───ほら、予想通り。ちょっと悔しいけど、状況だって使える手札だから別にいいよね)

 

 

具体的にはサルガッソとかヌメロンネットワークとか。あんなインチキに比べたら、私のやってることなんて大したことはない。というか実質私は何もしていない。ただ神様とやらが支援せざるを得ない方向へと、戦況を誘導しているだけだ。

 

 

「私は手札から、《グローリアス・ナンバーズ》を発動!

 

自分フィールドにモンスターがいない時、墓地のナンバーズを特殊召喚し、カードを一枚ドローする!」

 

『ナンバーズ専用のマジックカード…………!?』

 

「…………ん?」

 

 

 

 

 

 

《グローリアス・ナンバーズ》

通常魔法

①:自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分の墓地から「No.」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚し、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 

 

 

 

 

 

今、何か聞こえたような…………気のせい? まあ、いいか。

 

 

(───ただ、蘇生するのは当然…………)

 

 

「戻ってきて、カオスオブアームズ!」

 

 

選ぶのなら強い方。当たり前だ。どうやら神様とやらは理論的にできる方法を示しても、それで当人がどう選択するのが自然なのかを考慮していないっぽい。まあ、神様神様言ってるけど、多分これ誰かが意図してじゃなくて修正力的なアレだしねきっと。

 

そして、基本的に優位だった彼の役目を継いでいるから引いたカードも良好。実際に盤面を逆転できるかはさておき、これならどうにかなりそうだ。

 

 

「そして、魔法カード、《エクシーズ・トレジャー》を発動して、更にカードを2枚ドロー。

 

更に更に、私は手札から、《RUMー幻影騎士団 ラウンチ》を発動。

 

このカードの効果により、カオスオブアームズを一つ上のランクのエクシーズモンスターへとランクアップする」

 

 

 

 

 

《エクシーズ・トレジャー》

通常魔法

①:フィールド上に表側表示で存在するモンスターエクシーズの数だけ、

自分のデッキからカードをドローできる。

 

 

 

《RUMー幻影騎士団 ラウンチ》

通常魔法

①:自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターよりランクが1つ高いモンスター1体を、

対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

②:自分フィールドの「幻影騎士団」Xモンスターまたは

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」を対象として

このカードの①の効果を適用した場合に発動できる。

このカードをこのカードの①の効果で特殊召喚したモンスターの下に重ねてX素材とする。

③:自分スタンバイフェイズにこのカードの①の効果で特殊召喚したモンスターが

自分フィールドに存在する場合、そのXモンスター1体を対象として発動できる。

自分の墓地のこのカードを対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

 

 

『RUM…………!』

 

 

(───気のせいじゃないなぁ、これ。今のははっきり聞こえたね。

 

いやぁ、役割を押し付けるって、思った以上に難儀なんだねぇ)

 

 

あはは、と苦笑しつつも、これは違うだろ、と内心でツッコミを入れる。最初は聞こえなかった以上、原因は明らかに神様なんだろう。スフィアフィールドとも思ったが、それなら最初から見えてるはずだしね。なんともまあ、融通が利かないというかなんというか。

 

なんだろうか。このまま時間をかけると紋章の力を使えるようになってしまうのか。多少の興味はあることはあるけど、顔に影響が出るのだけは本気で勘弁して欲しいかな。ま、まだ彼の姿も認識できないから、そうそうとそうはならないとは思うんだけど。

 

 

「私はランク5のカオスオブアームズで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

顕現せよ、ランク6。《No.24 竜血鬼ドラギュラス》 !」

 

 

 

 

 

 

《No.24 竜血鬼ドラギュラス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/闇属性/幻竜族/攻2400/守2800

レベル6モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

エクストラデッキから特殊召喚された表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを裏側守備表示にする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

②:表側表示のこのカードが相手の効果でフィールドから離れた場合に発動できる。

このカードを裏側守備表示で特殊召喚する。

③:このカードがリバースした場合に発動する。

フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る。

 

 

 

 

 

攻撃力はだいぶ下がったが、結果として与えるダメージは上になる予定だから構わない。これで私が彼ならばコートオブアームズに拘りそうだが、私にとっては逆にあのカードは避けるべきものであるのでそれも問題はない。

 

強いて言うならコンバットトリックがやや恐ろしいが、その場合にもこのカードならば柔軟に対応できる、はず。

 

 

「新しいナンバーズ!?

 

だけど、わざわざ攻撃力を下げた…………?」

 

「あー、それはね。まあ見てればわかるよ。具体的には、そのまま大人しく何もしないでくれたら」

 

「効果破壊………?」

 

「惜しい。私はドラギュラスの効果を発動。

 

オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドのモンスター1体を裏守備表示へと変更する。

 

対象は当然、ヴォルカザウルスだよ」

 

『───表示形式の変更…………もしや、貫通効果か?』

 

 

あ、鋭い。流石は天才デュエリスト。でもちょっと違うかな。かつての私なら迷わずそうしたんだろう(ガイアドラグーンを出した)けど、この世界だとナンバーズ耐性があるしねぇ…………。

 

というか、だんだんと言葉が明瞭になって来ているね、アストラル。これは早いとこ決着をつけないとやばい?

 

 

「そのままバトル!

 

私はドラギュラスで、裏守備となったヴォルカザウルスを攻撃!」

 

「くっ…………!」

 

「更に、リバースカードオープン! 速攻魔法《RUMーダーク・フォース》!

 

この戦闘でモンスターを破壊したドラギュラスを墓地へと送り、その一つ上と、二つ上のランクのエクシーズモンスター2体を、効果を無効にしてエクシーズ召喚する!」

 

「何だって!?」

 

『一気に2体のランクアップ…………!』

 

「ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

まずはランク7、《No.89 電脳獣ディアブロシス》!

 

そして───降臨せよ、我が魂! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

 

 

 

 

《RUMーダーク・フォース》

速攻魔法

①:自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体が戦闘によって相手モンスターを破壊した時、

そのモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターよりもランクが1つ高いモンスターエクシーズ1体を

自分のエクストラデッキから表側攻撃表示で特殊召喚できる。

さらに、選択したモンスターよりもランクが2つ高いモンスターエクシーズ1体を

自分のエクストラデッキから表側守備表示で特殊召喚できる。

このカードの効果で特殊召喚したモンスター2体の効果は無効化される。

また、この特殊召喚はエクシーズ召喚扱いとする。

 

 

 

 

《No.89 電脳獣ディアブロシス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/サイキック族/攻2800/守1200

レベル7モンスター×2

このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

相手のEXデッキを確認し、その内の1枚を選んで裏側表示で除外する。

②:このカードが戦闘でモンスターを破壊したバトルフェイズ終了時、

相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを裏側表示で除外する。

③:相手のカードが裏側表示で除外された場合に発動できる。

裏側表示で除外されている相手のカードの数だけ、

相手のデッキの上からカードを裏側表示で除外する。

 

 

 

 

 

 

『現れたか…………ギャラクシーアイズ───!』

 

「それに、新しいナンバーズまで…………だけど、守備表示?」

 

「この効果で特殊召喚したモンスターは、ランクが高い方は守備、低い方は攻撃表示でしか出せない。

 

だけど、私にとってはそれはどうでもいいんだ。ただこの子が、ここに駆けつけてくれた。それだけで私は、更なる追撃ができる───!」

 

 

流石にランク4から登りつめるのは厳しかったが、出来たからにはそれまでの苦労などどうでもいいことだ。

 

アイドルとは、日々の修練を内々に秘めるべきもの。これ見よがしに努力する姿なんか見せても、人の心は寄ってこない。泥臭い偶像なんて、華やかとは言い難いから。当然、一概にそうとは絶対に言えないし、私にしてもこれは正確性を欠く偏見だと思うけどね。でも。

 

苦しいのなんて、現実で充分。だから私は、笑顔を振りまくのだ。少しでも、誰かがその重みを忘れられるように。

 

 

「速攻魔法、《RUMー光波追撃》!

 

このカードの効果により、サイファードラゴンをランクアップさせて、一つ上のランクのサイファーモンスターへと進化させる!

 

───そして、この効果で特殊召喚したモンスターは…………」

 

「エクシーズ召喚に成功した時、オーバーレイユニットを使う効果を発動できる…………!」

 

 

お、詳しい。ちょっと嬉しいな。たまぁにテレビで漏らしちゃったりした趣味を握手会とかでファンが覚えてくれると感動するよね。ああ、この人はちゃんと私を見てくれてるんだなぁって。

 

ストーカーとかも怖いんだけど、実は私は居てくれたらちょびっとだけ嬉しかったりする。こればっかりは誰にも理解されないしして欲しくもないけれどね。あ、被害が出るようならノーセンキューです。警察に通報します。その辺りはきっちり、ね。

 

…………本音を言えば、ホープを出される前にディアブロシスの効果を使って(ホープを封じて)おきたかったけど、いいや。別に。

 

 

「私はランク8の光波竜で、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 

にっこりと笑顔で、懸命にデュエルをする。彼が多少なりとも私のデュエルを覚えてくれたのなら、それこそが私の励みになるから。…………まあ、実際は警戒していた、ってのが正しい理由なんだろうけど、そこは考えてはいけない。考えては、いけないのだ…………!

 

 

「───闇に輝く銀河よ。とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ。

 

ランク9、《銀河眼の光波刃竜》!」

 

 

 

 

 

 

《銀河眼の光波刃竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻3200/守2800

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドのランク8の

「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

このカードはX召喚の素材にできない。

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

②:X召喚したこのカードが相手モンスターの攻撃または

相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「銀河眼の光波竜」1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

 

 

 

ふははー、すごいぞー、カッコいいぞー、と顕現せしは、多分私の持っているカードの中でも単純な効果だけならぶっちぎりの壊れ性能を持つマジモンの切り札、超銀河眼の光波龍…………ではなく、ランクは同じながらもパワーと引き換えに性能を利便性に振った便利カード、ブレードちゃん。

 

もちろん、モンスターがいたならネオの方を出したんだけど、こっちもこっちで強いから別に私は気にしないのだ───ええ、単なる自慢ですが、なにか?

 

 

「トロンの時とは、また別のモンスター………!?」

 

「それはねぇ。進化が一系統しかないと思うのは甘えだよ、九十九くん。

 

ちなみにこの子はオーバーレイユニットを一つ使って、君のフィールドのカード1枚を破壊できる。光波追撃の効果で、その効果をこのタイミングで発動するね。

 

対象は…………そうだね、左のカードで」

 

『むっ…………!』

 

 

破壊したのは、《聖なる鎧 ーミラーメールー》。ミラフォをオマージュした通常罠で、確かブリージンガメンに似た効果だったかな? 要するにハズレか。まあ、この辺りはどうしようもないね、運だし。

 

 

(───さて、通るかな?)

 

 

正直、このターンでは厳しいだろう。

 

彼の伏せは1枚。とはいえ、手札は2枚もあるし、彼は手札誘発をアニメだけでも割と積んでいたはずだ。ガガガガードナーとかジェントルーパーとか。

 

現在の攻撃力は2800と3200でぴったり6000。攻撃表示でしか出せないアニメガードナーなら…………いや、戦闘耐性があるから無理だったっけ?

 

 

(───まあ、とりあえずやってみよう)

 

 

「今はまだ、バトルの途中。

 

私はナンバーズ89、ディアブロシスで九十九くんに直接攻撃!」

 

「させるか!

 

手札の《ガガガガードナー》のモンスター効果発動!

 

相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札のこのカードを、攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 

 

 

 

《ガガガガードナー》

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1500/守2000

①:相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

②:このカードが攻撃対象に選択された時、手札を1枚捨てて発動できる。

このカードはその戦闘では破壊されない。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

ですよねー、わかってましたとも。あの九十九遊馬が、こんな簡単にやられはしないって。

 

さっきの対面では情報の不足からかトロンさんとの関係を疑われたりしてイラっときたぜ! しちゃったけど、彼は本来なら私が逆にサインをねだりたいくらい尊敬しているデュエリストなのだ。そんな彼がこの程度で負けるわけないじゃないか!(盲信)

 

いや、流石に冗談だけどね。でもまあ、この程度、凌がれるのは普通だ。ならば私は、ここでできる限りをするまで。

 

 

「攻撃は続行!

 

ランク7、ディアブロシスでガガガガードナーを攻撃!」

 

「ぐぅ…………!

 

だが、ガガガガードナーは手札を一枚捨てることで破壊を無効にできる!」遊馬 LP 4000→2700

 

「なら、続いて、ランク9、光波刃竜でガガガガードナーを攻撃!

 

烈刃の、サイファーストリーム!」

 

「ぐぁぁぁあああ!!」 遊馬 LP 2700→1000

 

 

光波刃竜の攻撃によってガガガガードナーが爆散し、衝撃に遊馬くんが吹き飛ばされていく。ガガガガードナーにターン制限はなかったとは思うが、手札がないならそれも意味はない。火力に押され、無残に消えゆくのみ。

 

しかし、同時に。これで私の攻撃は打ち止めになったのも本当だ。このターン、彼は間違いなく私の追撃から逃げ延びた。ならば私は彼の敵役として、彼の健闘を褒め称えるべきだろう。ま、そもそも和睦一枚でなんとかなったしね!(台無し)

 

 

「ふぅ。

 

じゃあ、バトルを終了。私はカードを一枚伏せてターンを終えるけど、何かある?」

 

「…………いや、ねぇ」

 

「じゃあ、まずはカードを一枚伏せようかな」

 

 

宣言と同時、踵を返してスフィアフィールドの更に端の方へとゆっくり進み、フィールドに手を当てる。

 

ビリっとした感触にやや手を押し返されてなおも手を無理に推し進めれば、奇妙な感覚と共に右手がその空間に接触した。不安定で不完全で、それでいて力強く存在を主張しているフィールドは、まるで何かを暗示してるようで。

 

そのままの状態で顔だけ彼へと向け、私はなおも何故か衝撃を受けて倒れた彼らに向かって言葉を紡ぐ。

 

 

「頑張るね、遊馬くん。流石に、ここまで上がってきただけはあるよ。

 

でもね、だからこそ聞きたいんだ。君は───どうして、そこまで頑張るの?」

 

「──え?」

 

「………質問が悪かったね。

 

勿論、私だってデュエルに負けたくなんかないし、なんとしても勝ちたい気持ちもしっかりわかる。

 

でも、君はなんか、微妙に違う気がする。なんというか、目標があったのに、それを既に達成してしまっている───いや、はっきり、目的を見失ってるんじゃないかな?

 

だって君───どうしても私に勝ちたいわけじゃないでしょう?」

 

「───!」

 

「なのに君は、私が何者だとか、勝つべき(・・・・)理由なんかをデュエル以外の要因にこじつけて、自らの持ち味を殺しているようにみえる。

 

きっと君は、今まで真っ直ぐに自分を貫いてきたんだろうね。でも、だからこそ、君は現状の違和感に慣れていない。だけど」

 

 

視線を私のエクストラデッキに移し、中に入っている膨大な量のカード。私が前世より持ち込んだ、私にとっては馴染みの深いカード達の方へと向ける。

 

これらのカードは、私のイレギュラーたる所以だ。しかし、それと同時にこれらのカードがあること自体が───

 

 

「人生なんて、上手くいかないことの連続。

 

貴方はさっき、トロンくんについて質問してたよね? 推測だけど、貴方は私ではなく、トロンくんと闘いたかったんじゃないかな。だからこそ、貴方は戸惑っている。

 

───というかね、君。私よりも、私が持つカードのことばかり気にしているでしょう? そんなんで私に勝てると思ってるのかなぁ?」

 

「っ…………」

 

「君が注目していたトロンくんが私なんかに負けて拍子抜けしたのはまあわからなくはないけど…………今だけは、私だけを見てくれると嬉しいな」

 

「あんた…………」

 

 

今の私はアイドルであるのと同時、彼に対峙する一人のデュエリスト。つまり、言うなれば彼はこの私を、アイドルを独占しているに等しいのだ。それなのに、余計なことをごちゃごちゃと考えて、縛られてまともに楽しめてないなんて、アイドルとして見過ごせない。

 

そして同じく、デュエリストとしてもそうだ。もっと熱く、もっと楽しく、もっと笑顔にデュエルする! それこそが、私の望み。私の願い!

 

 

「勝たなければならない───今の理由は、それでいいけど、私はそんな時にでも、いつも笑顔で闘ってきた。だってこれは、そんなとっても楽しい遊戯。

 

だから私は、たとえ負けたら全てを失っても、最後まで自分を貫こうと思う。貴方はどう?」

 

「…………」

 

「ナンバーズとかそんなのは、勝つべき理由になったとしても、勝ちたい理由になり得ない。

 

だから、そんなのはいいんだ。重要なことじゃない。全てを忘れて、君らしく闘って欲しい! 君の後ろの、その友達と一緒に!」

 

「───!

 

まさか、あんた…………」

 

 

いよいよ以ってぼんやりと認識できてしまったアストラルの方を全身で示し、歌うように私は続ける。

 

このデュエルをより彩るため、このデュエルをより楽しむため。そして何より───彼の後ろで考え混んで楽しめてないあの人を、もっと盛り上げるために!

 

 

「さあさあ、私はこれで、ターンエンド!

 

じゃあ、君のターンだね! 君達(・・)がこの状況をどう突破するのか、しっかり見せてもらうよ!」

 

『もしや君は…………私が、見えて───?』

 

「まあね! ファンを見逃すなんて、アイドルじゃないし!

 

───って言うのは冗談かな。違和感はあったけど、見えるようになったのはついさっきだから」

 

「じゃあ、なんで…………」

 

「あれ? それにはもう答えたよね?」

 

「え?」

 

 

惚けた声を上げた遊馬くんにはっきりと向き直り、カツカツと靴を鳴らして彼へと近づいていく。

 

そうして元の位置、自身のスペースに戻った私は、謎めいた、アイドルとしての笑顔を敢えて顔にぴったり貼り付けて、常のように爽やかに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

「───それは秘密。だって私は、アイドルだからね!」

 

 

 

 

 

煌めく笑顔と、神秘性。私のアイドルとしての理想を、私はうまく体現できているのか。

 

その答えは、きっと永遠に出てこないけど───ただ、最後に見た彼らの顔は、まるで何かを吹っ切ったような爽やかな様相を示していた。




しかしマーリン強いなマジで。私の宝具5スキルマレベル100フォウ1560マリーと一文字しか違わないのに100倍くらい強いんじゃね? というかマリーが弱いんだな。なんで強化されないんだろう………ずっと待ってるのに………。

あと武蔵邪魔。特にインフェルノ戦とか。無敵覚えてから出直せ。



追記:手札枚数が間違っていたのでインチキトレジャーで補完しました。今後もこんな感じでトレジャー使われるかもしれませんが、基本的にトレジャーは手札枚数修正用のカードとしてしか使わないので許してください。



さなぎ「実は私は、ガンマン一発で死ぬぞぉぉおぉぉおおお!!!」





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反撃! ホープ剣・スラッシュ!

前半はゼアルになるための理由付けなので読み飛ばしても結構です。割と無茶苦茶やってますので。というか一々本気を出すのに理由がいるとかクッソ面倒だな主人公。アストラル視点が何故か超書きやすくなければ投げ出してたかもしれん。

ゼアル視点(アストラル)というカオス。いつにもまして突っ込みどころ満載なので許容できる方だけお読みください。


 

『───遊馬。君は本当に、彼女に勝ちたいか?』

 

「え?」

 

 

珍しく。本当に珍しいことに、アストラルから俺にこんな質問をして来る。

 

いつも自信満々な彼が、負けを前提とした提案をすることは滅多にない。だからこそ俺はその言葉に戸惑い………しかし、先の会話と関連付けて俺なりに回答する。

 

 

「…………さっきの話か? 確かに、一理ある、って言うのか? 俺にも思うところはあったけど───」

 

『───遊馬』

 

 

けど、負けられない事実には変わりはない。目の前のこいつに言ってやることは絶対にないが、何だかんだ言ってもこの俺は、アストラルのことを大切な友人だと思っている。確かにトロンのことやあいつが使うカードについて気になって集中できていない自覚はあるが、アストラルのことが懸かっている以上、俺は絶対に勝たなくちゃならない。なのに。

 

 

(───どうしてお前が、そんなこと言うんだよ)

 

 

この場で誰よりも勝つべき(・・・・)理由があるのは彼のはずだ。何せナンバーズに関わる事件の解決が、他ならぬ彼の全てなのだから。

 

彼女の言葉は胸に響いた。これは本当だ。流石はアイドルとでも評すればいいのか、単純な俺の心へと容赦なく直撃してきた。でも、それとこれとは、本当に違うのだ。

 

 

(───俺の頭じゃあ、どうにもうまく言えねぇけど…………)

 

 

どう反論すべきか、そもそも反論してもいいのか。何にどう答えたかったのか。そんなのさえもぐちゃぐちゃで、全くわからなかった俺だけど。

 

ただ一つ。俺にとっての勝つべき理由。アストラルが消えちまわないために、それだけは揺るがず、きっちりと考えて───

 

 

『───遊馬。

 

おそらくだが…………彼女は、ただの一般人だ』

 

「───え?」

 

 

思考が止まる。人は自分の理解を遥かに超えた事態に遭遇すると咄嗟の行動ができなくなると言うらしいが、今の俺はまさしくそれを体現していた。つまりはそれだけ、アストラルが端的に紡いだ言葉は、俺にとっての驚天動地だったのだ。

 

 

「…………何を、言ってるんだ、アストラル?

 

だってあいつは、ナンバーズを。お前が言ってた、謎の───」

 

『───それについては、申し訳なく思っている。

 

彼女に対して、君の不安を煽ったのは私だ。彼女の異常性ばかりに目が行き、彼女の本質を───いや、彼女と私の関連性(・・・)を見抜けなかった私のミスだ。

 

彼女が異様なのは確かだろう。しかし………それはおそらく、我々とは何の関係もない』

 

「なっ…………?

 

それは一体、どういう…………?」

 

『あれらのカードは、私の知るナンバーズではない。ナンバーズの名を冠しているだけの別物だ。

 

…………実のところ、分かってはいたのだ。ただの偶然、ということは流石にないだろうが、すなわち仮に我々が勝利しても私達の得るものはない。逆に、彼女に敗北したところで、失うものは何もないのだ。

 

気づいているか、遊馬。ナンバーズの使い手が相手なのに、ここまでライフを削られた今も、私が消滅する兆しすらも見受けられない異常に』

 

「───!」

 

 

───それは、この私には意味のないこと。………嘘だと思う?

 

 

少し前の会話、彼女が言っていた一言を思い出す。

 

確かに、俺にはあの時の彼女が嘘をついているようには思えなかった。しかし、それと同時に真実を言っているようにも思えず、どうにも誤魔化されている感が強かったというかなんというか。

 

はっきり言って、他ならぬアストラルからの言葉でも、こればっかりは判断できない。アストラルが死なないとはっきり彼から明言されているのは本当に良いことだ。だけど、彼女がどう見ても異常なことも、誰の目から見ても明らかで───

 

 

「あー、いいかな?」

 

「っ!」

 

 

思考を巡らせていると、不意に正面から聞こえて来た朗らかな声に思わず身構える。

 

考えるまでもなくこのタイミングで俺らに声を掛けられる人物なんて一人しかいない。つまりは彼女、俺の対戦相手である蝶野さなぎによるものだ。

 

アストラルへと向けていた視線を戻して反射的に向き直ると、彼女は先程と同じ顔、この場にそぐわないほど柔らかな笑顔のまま告げる。

 

 

「あ、驚いちゃった? いや、ごめんね。なんか相談していたっぽいけど、九十九くんの声が大きめだから普通に聞こえてるんだよね。

 

これが九十九くんだけなら会話の整合性を理解できずに独り言として認識しちゃうのかもしれないけど、私にはそっちの彼の声も聞こえるから───まあ、それはいいや。で、私のこと?」

 

「…………ああ」

 

 

俺は誤魔化すのも誤魔化されるのも苦手だ。だから、素直に回答する。仮に嘘を吐こうにも会話を聞かれていたのなら言い訳のしようもないし、どちらにせよ彼女相手に俺程度の嘘が通用するとも思えないから。

 

だが、ある意味でこれはチャンスだ。なにせ、彼女の方から彼女の正体について口出しがあったのだ。彼女の方が素直に答えてくれるかはわからないけど、聞くだけならタダ、なんて言葉もあるし、この機会にはっきりと聞いておいても良いだろう。

 

 

「さっき、アストラルから聞いた。お前のナンバーズは、ナンバーズじゃないってな。

 

だけど、俺にはどうもそれがよくわかんねぇ。つまりはお前が持つナンバーズは、偽物だったりするのか?」

 

「あ、そこまでわかっちゃう? でも、偽物って言うのはちょっと可哀想だから…………。

 

そうだね。九十九くんはアニミズムなんて言葉を知ってるかな?」

 

「アニミズム?」

 

「付喪神、って言った方がいいかもね。

 

万物には魂が宿っていて、それぞれがきちんと意思を持つ、なんて考えだよ。

 

特にこのゲームはその説の代表例とされていて、君くらいの学生なら習っててもおかしくはないんだけど…………」

 

「そういえば、どこかで…………」

 

 

デュエルに関する授業で、微かに単語を聞いた覚えがある。普段の授業はお世辞にも真面目に受けているとは言えない俺だが、デュエルに関しては別だ。そんな俺にも覚えがあるということは、おそらくそれはデュエリストにとって大切なものなんだろう。

 

 

「うーん。ちょっと専門的過ぎたかな? ちなみに、このゲームの場合、それは『精霊』なんて表現で呼ばれているね。

 

カードの精霊、なんて単語。こっちは流石に一度くらいは聞いたことがあるんじゃないかな。

 

つまり、何が言いたいかというと、私のナンバーズには、全てにその精霊が宿っていないんだ。だけどそれは、決して真偽の証明にはならない」

 

「…………?」

 

「…………要するに、ね。私のカードに君らの言う『力』はないけど、これは私のカードなんだから勝手に『偽物』なんてレッテルを貼らないで、ってこと。

 

これは貴方のナンバーズとは何の関係もないけれど、間違いなく本物のカードであって、貴方の言う偽物なんかじゃない。私にとっては、これこそがナンバーズ。貴方の事情なんて、私にはどうでもいいんだよ。

 

それでもなお、私のことが気になるって言うのなら、私をこの場で倒すことだね。ふふ」

 

 

ニコニコと愛らしい笑顔を崩さず、彼女は一息に、おそらくはこれ以上なく馬鹿丁寧に回答を述べる。

 

いまいち要領を得ていない俺なんかの疑問にも嫌な顔一つせずきっちりと答えてくれるその姿は、彼女が人気アイドルとして活躍している理由の片鱗を伺えた。………しかし。

 

 

「───なぁ、アストラル。つまりは、どういうことなんだ?」

 

『遊馬…………』

 

 

小声でアストラルへとこう聞くと、心底から呆れた声が返ってきた。な、なんだよ。確かに彼女には悪いとは思うけど、わかんねぇもんはわかんねぇんだから仕方ないだろ!

 

聞き返そうにも、あんだけ詳しくしっかりと返されたらまさか「理解できなかった」なんて言うわけにはいかないし、多少の恥を忍んでも、ここはアストラルに意見を求めるべきなのだ。

 

 

『…………。

 

君は、深く考えなくても良い。ただ、彼女の持つ異常は、我々の望むものではなかったというだけだ。

 

───その上で、もう一度聞こう。君は、彼女に勝ちたいのか?』

 

「…………?」

 

『勝つべき理由は既にない。ここで負けても、誰も君を咎めない。少なくともこの場において、君の選択を阻む要素は何もない。

 

…………思えば、私は君に今まで理不尽な重みを背負わせていた。何が起こるかわからないこのゲームで、私は君を『絶対』という鎖に縛り付けていた』

 

「アストラル…………?」

 

『私は、彼女の秘密を知りたく思う。しかし、それを君に強制する気は無い。

 

何故ならそれは、私の使命とは何の関係もない、ただの好奇心だからだ。私は常に、君のことを利用しているのだろう。だが、だからこそこの線引きは、はっきりしておかなくてはならない』

 

「…………」

 

 

常になく真剣な表情で、いつになく饒舌に、アストラルは独白する。

 

それは俺にとっては今更で、彼にとっては当然で、しかし本来、決して無視してはならなかったはずのもの。つまり、俺らの関係の、その不自然さを。

 

………だけど。

 

 

「…………なあ、アストラル」

 

『…………?』

 

「何を今更、水臭いことをいってんだよ。

 

使命だとかどーとか、俺らの関係は、ナンバーズだけで成り立ってるわけじゃねぇ。

 

確かに最初はそうだったのかもしれねぇけど、今の俺にとって、お前は大切な仲間なんだ。それともアストラルは、俺が仲間が困ってるのに見過ごせると思うのか?」

 

『いや。しかし…………』

 

 

しかし、じゃねえ。

 

口には出さねえが、俺とアストラルは文字通りに一心同体だ。こいつは何やら考え込んでるみたいだけど、そんなこと俺にとってはどうでもいい(・・・・・・・・・・・・)。それに。

 

 

(───勝ちたいのは、俺だって同じだ。負けてもいいなんて、それこそ絶対に許さない)

 

 

彼女に倣い、そのような旨の言葉をアストラルへ返すと、彼は一瞬だけ目を見開き、次に何となく不快な笑顔をこちらに見せつけてから、妙に優しい口調で続けた。

 

 

『…………このフィールドは、異世界に似せられて作られた擬似空間。言うなれば、王の鍵と同じだ。

 

つまり、ここでなら、ゼアルになれる』

 

「───!」

 

『強制はしない。それに、このデュエルは今も、大勢の観客が見ている。

 

それでも───』

 

「行くぞ、アストラル」

 

 

アストラルの言葉に被せて、力強く宣告する。

 

悔しいが、今の俺では力不足だ。彼女に勝つには、ゼアルの力しかない。ならば俺の勝ちたい(・・・・)気持ちを通すには、その力を存分に発揮しないといけない。

 

使命ではなく、我儘で。勝つべきではなく、負けたくないが為。俺は俺らの望みをここに掛け合わせる!

 

 

「俺と、

 

『私で、

 

「『オーバーレイ!!」』

 

 

 

 

───エクシーズ・チェンジ、ゼアル!

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「いやぁ、まさか変身なんて裏技を隠し持っていたなんてね。あははは。でも女性をこんなに待たせるなんて、ちょっと減点かな。

 

でも、それでどうするの? 貴方の手札はさっき引いた1枚。フィールドにも伏せカードが1枚だけ。どうやらそれが君達の切り札みたいだけど、こんな状況でこのフィールドを逆転なんてできるのかな?」

 

『「マジック発動! 《逆境の宝札》!

 

相手フィールドに特殊召喚されたモンスターがいて、自身のフィールドにモンスターがいない時、カードを2枚ドローする!」』

 

「っ───。

 

でも、たかだか2枚。それなら如何様にも…………!」

 

 

 

 

 

 

《逆境の宝札》

通常魔法

①:相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 

 

確かに、戦況はこれ以上なくピンチだ。

 

ライフこそ辛うじて上回っているが、相手のフィールドには強力なモンスターが2体も存在する。しかもおそらく、彼女の異常性を鑑みるにそれだけで終わるとは考えにくい。

 

残された伏せは、防御か迎撃かあるいは新たなモンスターを出す布石か。それは今の我々には見切れないが、我々にはしかし、この状態でのみ使える真の切り札がある!

 

デッキトップに右手を重ね、力を合わせて集中する。それは、輝かんばかりの運命の奔流が、彼女を倒せと轟き叫んでいるかのように。

 

 

『「最強デュエリストのデュエルは全て必然!

 

ドローカードさえも、デュエリストが創造する!」』

 

「───っ」

 

「『シャイニング・ドロー!!」』

 

 

この場で我々が引き寄せた(創造した)カードは、レベル4の効果モンスター、ガガガマンサー。

 

単体でもかなり優秀な効果を保有するが、このカードの真価は今我々が伏せているカードとのコンボにある。

 

目には目を、というわけではないが、全てがハマれば逆転と言わず、ここから彼女を下すことも不可能ではない。

 

 

「俺は手札から、《ガガガマンサー》を召喚!

 

そして、効果発動! ガガガマンサーは1ターンに一度、墓地にあるガガガモンスターを特殊召喚できる!

 

蘇れ、《ガガガマジシャン》!」

 

 

 

 

 

 

 

《ガガガマンサー》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻 100/守 100

①:1ターンに1度、メインフェイズに発動できる。

自分の墓地から「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

②:自分の墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。

このターン、自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体の

攻撃力はダメージ計算時のみ500ポイントアップする。

 

 

 

 

《ガガガマジシャン》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1000

①:1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に

1から8までの任意のレベルを宣言して発動できる。

エンドフェイズ時まで、このカードのレベルは宣言したレベルになる。

 

 

 

 

 

 

「ガガガマジシャン? いつそんなモンスターを…………ああ、あの時」

 

 

呼び起こすのは、ガガガガードナーのコストとして墓地へと送られた遊馬のフェイバリット。レベル変動効果を持ち、様々なナンバーズを保有する我々に柔軟な対応をしてくれるカードだ。

 

尤も、遊馬はホープがそれ以上のお気に入りで、レベル4であるこのカードの効果がまともに使用されたのは数えるほどしかないのだが。

 

 

「ランク4…………【ガガガ】ってことは、《ガガガガンマン》でも出すのかな?

 

でも残念だね。私の墓地にある《ダメージ・ダイエット》は、墓地から除外することで受ける効果ダメージを半減する効果もある。

 

ガガガガンマンが与えられるダメージは800。その半分は400で私の残りライフは750。この状況で冷静に私のライフポイントを見定めた慧眼は認めるけど、それじゃあ次のターンに…………」

 

「『それは、どうかな?」』

 

「…………あはは、やっぱり?」

 

 

先程にも違和感はあったが、どうやら彼女の持つ《ダメージ・ダイエット》の効果は遊馬が持っているそれとは違うらしい。

 

これもおそらくは彼女の特異性の一つなのだろうが、今に限ってはそれも構わない。我々の狙いは、端から効果ダメージによる勝利などではないのだから。

 

 

『永続罠、《ガガガミラージュ》を発動!

 

このカードの効果により、フィールドのガガガモンスターをエクシーズ召喚を行う場合、1体で2体分のエクシーズ素材となる!』

 

 

 

 

 

 

《ガガガミラージュ》

永続罠

①:自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスターを

エクシーズ召喚の素材とする場合、1体で2体分の素材とする事できる。

この効果を適用してエクシーズ召喚する場合、1ターンに1度、

モンスターエクシーズが指定する種族・属性の召喚条件を無視できる。

 

 

 

 

 

 

「2体分…………それに」

 

「更に俺は、ガガガマジシャンの効果を発動!

 

このカードのレベルを、7に変更!」

 

「───ランク7?

 

………………………………えーと、何を出すのかなぁ?」

 

 

ここに来て二体ものモンスターエクシーズを召喚しようと試みるのは流石に予想外だったのだろう。先程までとはまるで異なるやや震えた声で笑顔を固めながら彼女が呟く。

 

 

「俺はレベル7となったガガガマジシャン2体分で、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!

 

現れろ、《No.11 ビッグ・アイ》!」

 

 

 

 

 

 

《No.11 ビッグ・アイ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/魔法使い族/攻2600/守2000

レベル7モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターのコントロールを得る。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

 

 

 

 

呼び出すは、ジンと名乗った青年が使用していたナンバーズ、ビッグ・アイ。

 

立場や状況は違えど、このカードの存在はあのホープレイ誕生のきっかけとなったのだ。カオスナンバーズをも所有する彼女に対し、これ以上の適任は存在しない。

 

 

『ビッグ・アイの効果を発動!

 

このカードはオーバーレイユニットを一つ使うことで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールを得る!

 

対象は、銀河眼の光波刃竜!』

 

「むっ…………」

 

 

まずは一体。これで状況は逆転した。だが、これではまだ彼女を削り切るには足りない。

 

ディアブロシスとブレードドラゴンの攻撃力の差は400。ガガガマンサーの攻撃力は100だから最大で500ダメージ。故に我々は、ここから更にもう一体を呼び寄せる必要がある。

 

そして、呼び出すモンスターも既に決まっている。この場面で我々が従えるモンスターといえば、あのナンバーズをおいて他はないだろう。

 

 

「更に俺は、レベル4のガガガマンサー2体分でオーバーレイ!

 

現れろ、《No.39 希望皇ホープ》!」

 

 

 

 

 

《No.39 希望皇ホープ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/ATK 2500/DEF 2000

レベル4モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動できる。

モンスター1体の攻撃を無効にする。

 

 

 

 

 

我らがエース。No.39、希望皇ホープ。遊馬が初めて召喚したモンスターエクシーズで、それからはいつ如何なるデュエルにも参戦し、我々を支え続けた実績を持つカード。

 

ならば、この場面で使うことになんの躊躇いがあろうか。これは確かに我々の我儘だが、だからこそこのカードには、力を貸して欲しく思う。

 

 

(───遊馬)

 

(───どうした?)

 

 

最後の手札をカードが折れないように繊細に、それでいて力強く握りしめながら私は内に潜む遊馬へと語りかける。否、この表現は適切とは言えない。何故なら今は、我々こそがゼアルなのだから。

 

 

(───この決闘、勝つぞ)

 

(───おう!)

 

 

『「バトルだ!

 

俺は光波刃竜で、ナンバーズ89、ディアブロシスを攻撃!」』

 

「っ…………!」 さなぎ LP 750→350

 

 

ナンバーズはナンバーズでしか破壊できずとも、あのモンスターは彼女の【RUM】の効果で強引に召喚されたもの。

 

強力な力には、得てして相応の代償が伴う。あのカードの場合、素材を墓地に送った上で召喚されたモンスターエクシーズの効果までをも無力化せねばならなかったというだけだ。

 

そして、この攻撃で彼女のモンスターは全て退けた。つまり、次がこの決闘における最後の攻撃!

 

 

「『これで、終わりだ!

 

俺は希望皇ホープで、ダイレクトアタック!

 

ホープ剣、スラッシュ!!」』

 

「…………甘いよ。甘い、甘い甘い甘い甘い───!

 

この舞台に立った(トロンの役目を担っている)この私が、まさか奥の手を使わずにこのまま終わるわけがないでしょう──!

 

罠発動!《昇華螺旋》!!

 

この戦闘で破壊されたディアブロシスをゲームから除外することで、ランクが2つ上のエクシーズモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

『なっ…………!』

 

 

 

 

 

 

《昇華螺旋(アセンションスパイラル)》

通常罠

①:このターン破壊された自分の墓地のモンスターエクシーズ1体をゲームから除外して発動できる。

除外したモンスターエクシーズよりもランクが2つ高いモンスターエクシーズ1体を、

自分のエクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

最後のセットカード。これまた彼女以外にはまるで馴染みがないモンスターエクシーズのランクを上げる罠カードに思わず瞠目する。

 

次々と巻き起こるエクシーズ召喚。一体、彼女の技量は我々と比べてどれほどかけ離れているのか。興味は尽きないが、今はそれどころではない!

 

 

(───ここに来て、更なるランクアップとは!)

 

 

ランク9のモンスターエクシーズ。「奥の手」というワード。彼女が使用しているカテゴリ。そして、先程に行われた、彼女とトロンとの決闘。つまり、この場面において唐突に現れるのは───!

 

 

「───闇に輝く銀河よ。

 

とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク9、《超銀河眼の光波龍》!!」

 

『ネオギャラクシーアイズ───!』

 

 

見上げる程の巨体。透き通る美しい肌に銀河の眼をギラつかせ君臨するその姿。どこか、否、カイトの持つ銀河眼光子竜と非常に酷似したこのモンスターエクシーズは、しかしてカイトのそれに勝るとも劣らない迫力を醸し出している。

 

彼女がギャラクシーアイズを保有するのはただの偶然なのか、そうでないのか。カイト本人の反応を見るにそれを確かめられる人物は目の前の彼女しかいないのだろうが───

 

そこで思考を区切り、改めてフィールドに現れたモンスター、超銀河眼の光波龍について考えを巡らせる。

 

超銀河眼の光波龍。攻撃力は4500。その効果はオーバーレイユニットを全て使うことで、相手フィールドのモンスター全てを自らのものとし、ステータスをも超銀河眼の光波龍と同じにする、というもの。

 

なるほど、確かに強力な…………強力過ぎる、とも言えるとんでもないモンスターだ。如何に我々と言えど、正面からその力を浴びてしまえば、あっという間に敗北していたに違いない。───だが。

 

4500。希望皇ホープ。そして、手札の最後の一枚。

 

 

(───だが、これで。勝利の方程式は、ここに全て揃った)

 

 

ならば後は、それを実行するだけだ。彼女が防御札を全て使い果たしたこの一瞬こそ、我々の最初にして最後、そして最大の勝機となる!

 

 

「良くやったね、と言いたいところだけど、残念───貴方の希望皇ホープじゃあ、私の超銀河眼の光波龍は超えられない。

 

ナンバーズが特別だろうとなんだろうと、このゲームでは基本的に攻撃力こそが絶対の目安なんだ。まして今は、バトルフェイズ。戦闘以外にロクな行動を取れないこの時間で、火力の劣るモンスターなんて何の役にも立たない。

 

君のそのモンスターの効果は攻撃を無効にする、だっけ? でも、覚えているでしょう?

 

私の持つナンバーズ、ギャラクシーアイズダークマタードラゴンはギャラクシーアイズを素材にエクシーズ召喚ができ、火力は4000。そして2回攻撃の効果を持つ。如何に君のモンスターが3体並んでいても、攻撃を無効にできるモンスターがいても、一度だけしか無効にできないのなら───」

 

「『───それはどうかな?」』

 

「───え?」

 

 

攻撃を無効にできるのは一度だけ。

 

その通りだ。既に満身創痍な我々は、彼女の攻撃を凌ぐリソースなど残ってはいない。このままターンを明け渡してしまえば、彼女が先に言ったように我々はあのナンバーズによる連続攻撃を受けて敗北してしまうのだろう。───だが。

 

だが、ホープによって無効にできるのは、彼女の攻撃だけではない。そうだ、無効にするのは、たったの一度だけ───それこそが、起死回生の一撃。

 

 

「『───攻撃を続行!

 

俺はホープで、超銀河眼の光波龍を攻撃!」』

 

「え…………。

 

───いや、まさか」

 

『希望皇ホープのモンスター効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、その攻撃を無効にする!』

 

「これは…………いや、なんで(モブ)に───でも!」

 

 

意味のない行動。それに何かを感じ取ったのか。

 

見るからに狼狽える彼女へと、我々は手札の最後の一枚を掲げ、その名を高らかに宣言した。

 

 

「『速攻魔法、《ダブル・アップ・チャンス》、発動!」』

 

「あ───」

 

 

 

 

 

 

 

《ダブル・アップ・チャンス》

速攻魔法

①:モンスターの攻撃が無効になった時、

そのモンスター1体を選択して発動できる。

このバトルフェイズ中、

選択したモンスターはもう1度だけ攻撃できる。

その場合、選択したモンスターはダメージステップの間、攻撃力が倍になる。

 

 

 

 

 

 

 

希望皇ホープの攻撃力は2500。その倍は5000。そして、超銀河眼の光波龍は4500だからその差は500。僅かな差ではあるが、350しか残されていない彼女のライフを削り切るには充分だ。

 

 

「…………あーあ、負けちゃったか。悔しいなぁ。

 

でも、覚えておいて。私の運命力はこの世に数あるランクアップ使いの中でも最弱。ここで私が負けても、あと少しもすれば必ず第二、第三のランクアップ使いが現れて───」

 

「『行け! 希望皇ホープ! ホープ剣・スラッシュ!!」』

 

「って、待ってまだとちゅ───きゃぁぁぁああああ!!!」 さなぎ LP 350→0

 

 

 

ホープの全霊の一撃が光波龍を切り裂き、その体躯を爆散させる。

 

同時にこの大会の主催者、ハートランドからの試合終了合図が響き───私は、事ここに来てようやく勝利の実感を存分に得るのだった。





ちょっとリアルが忙しいので次回更新は遅れるかもしれません。ちなみに次回は多分フェイカー戦です。





最強のナンバーズはビッグ・アイ(確信)


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恐怖! スフィアフィールド砲!

───え? なんで彼女にこんな謎スキルを付けたのかって?

だって、こうでもしなきゃバリアン達と(闇のゲーム的な意味で)闘えないじゃないか! 結局はデュエルなのにいちいち理由付けとか苦痛を受けるシーン入れたりとか面倒なんだよ!(本音)


そんなわけで、あまり深く考えないでください。あくまでデュエル用の補助スキルですので。なお、その辺りの制約がなかったらさなぎちゃんは多分転生オリキャラにはならなかった。






「ん…………?」

 

 

辺りを包み込む喧騒によって目を醒ます。

 

いつも浴びてるはずなのに、常とは違う、耳障りなそれ。どうしようもない違和感が私を掻き立てて、意識が急速に覚醒していく。しかし。

 

 

(───そっか、私は…………)

 

 

負けた。無様にも。あれだけ大口を叩いておきながら。

 

その事実に、覚醒した意識が一気に冷え込む。瞬間凍結もかくやといった速度による感情の変化は、そのまま私の心に名状し難い軋みを練り込んだ。

 

 

「あ、あはは…………」

 

 

ゆっくり、無理矢理声に出して笑う。しかし、一度キンキンに冷えた心がそう簡単に解れるはずはなく、はっきり空元気と分かる渇いた笑いしか出せない。…………やばい、どうしよう。

 

───落ち着こう。この痛みは一時的なものだ。かつての私ならいざ知らず、死ぬまで苦痛が全身を襲い続けるなんてそんな馬鹿なことがあってたまるものか。まして、この痛みは明らかに心的外傷によるもの。だから大丈夫、大丈夫、大丈夫…………って、なにこれ。

 

 

「うるさっ…………何が起きてるの?」

 

 

冷静に(強調)周りを見渡せば、九十九くんに集っていた運気が周囲へと霧散、ないしは消滅し、代わりに奇妙な力場が周辺を満たしているのが見て取れる。

 

これは一体、如何なる事象か。真っ当でもそうでなくてもデュエルでこんな現象が起こるなんて聞いたことがないし、おそらくは何らかの外的要因によるものだと思うんだけど。

 

 

「九十九くん───って、大丈夫!?」

 

「『ぐっ…………いや、ああ、大丈夫、だ…………!』」

 

 

この力場が私を阻害しないことに気づいた私は、気持ちをどうにか切り替えて周囲の喧騒を収めようと立ち上がって、直ぐ様目の前で苦しそうにしている九十九遊馬の姿に声を荒げる。

 

彼は気丈にも大丈夫と言ってるが、どう見ても大丈夫そうには見えない。敗者が勝者を心配するなど決闘者としてあってはならない姿ではあるのだが、急病の類なら別だ。処置が遅れて手遅れになった人の末路、その悲しみは、私が誰よりも知り得ているのだから。

 

 

「ああ、もう! どういうことなの………!」

 

 

とりあえず九十九くんをその場に寝かせて(フィールドのせいで空中に寝かせる変な構図になったけど)介抱し、その際に見えた観客が逃げ惑う姿に更に困惑を強める。

 

 

(───いえ、待って。思い出してきた。そうだ、この大会は…………)

 

 

『何故、貴様はこのスフィア・フィールドの影響を受けていない…………?』

 

「っ───!」

 

 

中空に存在するデュエルフィールド、その更に遥か上空から呼びかけられた声に反射的にそちらの方向を見上げる。

 

見覚えがないが、覚えのある顔。かつての私がふざけて「ワイリー」と呼んでいた如何にも科学者然とした姿。そう、彼は───

 

 

『まあいい。今更イレギュラーの一人や二人、どのみち貴様がその場にいる時点で結末は変わらん。

 

あの忌々しいトロンを倒してくれた褒美だ。全てが終わるまでそのスフィア・フィールドの中で大人しくしているがいい』

 

(───Dr.フェイカー!)

 

 

そう、彼こそはDr.フェイカー。この大会の実質的な主催者にして関連する一連の事件の黒幕、そして、遊戯王ZEXAL一期におけるラスボス!(メタ) その立体映像!

 

 

「貴方は…………って、この際、それはいいか。それで、大人しくって言われても、そもそも私、何が起きてるのかもはっきりしてないよ?

 

だったら普通に、健常なこの私は、この場を治めるべく行動すべきだと思うんだ」

 

 

言いながら九十九くんを肩に担いで移動し、スフィアフィールドの壁面に片手で触れる。

 

奇妙な感覚。先に触れた時と変わらない、不自然に硬く柔らかで堅牢な檻。こうして触れているだけで凄まじい拒絶感と嫌悪感が私を容赦なく襲ってくる。しかし───

 

 

(───この私、なら)

 

 

メタ情報からの推測及び先に確かめた感覚が正しいのならば、この力場を形成している物理的な部分はおおよそが「精霊」の力によって成り立っている。

 

この世界において、精霊の力とはとても強大だ。極めるとカードの創造なんて意味不明な現象を容易く引き起こすことができるし、かめはめ波(直喩)が打てたりするトンデモパワーだ。

 

 

(───だけど)

 

 

だが、そんな強大な力にも、否、強大な力だからこそ、弱点もある。いや、弱点という表現は適切でない。何故ならこれは、弱点などではなく───

 

ゆっくりと浸透させるようにスフィアフィールドに手首を沈める(・・・・・・)。凄まじい脱力感が全身を襲うが、抵抗されたりはしない。これは決して物理的なものではないのだ。故に、この世界の人間にはいざ知らず、この私にだけは通り抜けられる(・・・・・・・)

 

 

『何っ…………!? 馬鹿な…………!!』

 

 

(───よし、成功した。ナンバーズでもそうだった(・・・・・・・・・・・・)からもしやと思ったけど、やっぱりね)

 

 

そう、弱点などというモノでは決してなく、これはあくまで素質の問題。

 

あまりにも遠い異世界人であるこの私には、精霊なんてモノには干渉できない(・・・・・・)───そんな、あまりにもあんまり過ぎる、ある意味では当然の理由である。

 

 

(───違和感として感じる(・・・)ことはできるんだけどね。そういう現象を利用するのも…………でも)

 

 

ナンバーズですらこの私に触れなかった。せいぜいが感情を揺らすのみ。それさえも今まで出会えなかったのだと考えるとナンバーズも凄い力を持つのだろうが、それでもかつての私を揺さぶるには力及ばない。

 

私の所有物として同様に引きずり出した九十九くんを本格的に背負い、とりあえず負の違和感が凄い方向へと駆けていく。ぶっちゃけ闇雲に走っているけど、こういうのは大体が暗い雰囲気の場所に原因がいるのだ。というか私、実のところ最初から黒幕がいそうな場所には当たりをつけてたし。

 

 

「ん…………あれ、ここは…………」

 

「起きた? って、いつのまにか変身が解けてる? まあ、そんなのはいいや。で、九十九くん、状況わかる!?」

 

「あ…………?

 

いや、ああ、ある程度は…………」

 

「じゃあ、説明して! 私(詳しく覚えてないから)あれからどうなったのかわからないんだけど!」

 

 

スフィアフィールドから離れたからか、いつの間にやら気絶していた九十九遊馬がしばらくして意識を取り戻す。

 

ちなみに、ここまでで既に怪しい地下へと突入しています。アイドルとしてもデュエリストとしても、力仕事は大切だからね。

 

そうしていると、私の勢いに押されたのか、九十九くんが彼の知り得る範囲での現状を事細かに語る。曰く、この大会そのものがナンバーズの乱獲場で、さっきのフェイカーが黒幕で、彼の目的はナンバーズのエネルギーによってアストラル世界を滅ぼすこと………等々。

 

 

(───だいたいはアニメと同じかな? でも私、肝心のアニメをうろ覚えなんだよね…………)

 

 

これである程度記憶の擦り合わせは完了したが、私は特に一期は殊更にすっかすかだ。正直、フェイカーが何のためにこうしているのか全く覚えてなかった。トロン戦はなんとなく印象深いから割と覚えてはいたんだけど。

 

 

「じゃあ、上の騒ぎを止めるには、そのフェイカーさんを倒せばいいの!?」

 

「ああ、多分だけど、それが一番早いはずだ…………!」

 

 

駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。

 

かつての私、その特異性だけを頼りに、私は地下への階段をひたすらに駆けていく。広い広い地下の空間。おそらくはここハートランドに点在しているゴミ処理施設の一つと思われるそこは、しかしてDr.フェイカーが残したのであろう怪しげな実験機器により、異様な光景を醸し出している。

 

 

(───正解っぽいかな? 薄々は勘付いてたけど、やっぱり私って、本当に異端なんだね)

 

 

スフィアフィールドを抜けられた時点で証明は済んでるとはいえ、改めて認識すると割と凹む。いやまあ、アイドル目指した段階で「人と違う」何かになりたかったのは明白なんだけど、世界そのものから外れていると認められるのは流石にショックというかなんというか。ま、別にいいんだけどね!

 

 

「だからこそ、こうして出来ることがあるわけだし」

 

「───?

 

今、何か言ったのか?」

 

「なんでもないよ。…………それより、ほら。見えてきたよ」

 

 

しばらくして見えてきた不自然に広大な空間。まず目に付いたのは地の底、地獄へと繋がっているような深い深い穴。そして、その直上に取り付けられている巨大な大砲のような何か。

 

話からして、あれがスフィアフィールド砲。ならば、その近くで何かを今か今かと待ち構えているその人こそ…………。

 

 

「貴方が、Dr.フェイカーでいいの?」

 

「ほう───貴様は。そうだ。如何にも、私がフェイカーだ。

 

丁度いい。貴様には少し、聞きたいことがあったのだ」

 

「え?」

 

 

UFOみたいな乗り物に乗りながら、開口一番にフェイカーは告げる。

 

それは、私がおそらくは今一番聞かれたくない質問で、同時に私の存在を更なる疑念に包み込むものだ。

 

 

「カイト…………否、貴様の持つギャラクシーアイズ。それはすなわち、私の求めるバリアンの力の一端。

 

答えよ。貴様は何故、ギャラクシーアイズを所有している?」

 

「…………」

 

「バリアン…………?」

 

 

彼とこうして相対してしまった以上、それを聞かれる可能性は考えていた。

 

しかし、実際にそうなるとどうか。色々と考えて来た言い訳も弁明も、まるで頭から捻り出せない。

 

緊張か、萎縮か、ストレスか、疲労か───原因はイマイチ分からないけど、咄嗟の言葉に詰まってしまったのは確かだ。そして、一度そうなってしまえば、疑念を抱かれてしまったならば、彼のような人物には、きっと言葉は通じないのだろう。

 

彼のような目は、見覚えがある。良くも悪くも一つのことに集中し、それ以外を露骨に蔑ろにする目。研究者やゲーマー特有の、ある意味での狂気の瞳だ。

 

特に彼の場合、蔑ろにする範囲が広すぎて少し笑えない。彼はハルトくんを救うためにこんな大事をやらかしているらしいが、これをしてさらにハルトくんが苦しむとは考えなかったのか。

 

それとも、それさえまともに判断できなくなってしまったからこそ、彼はバリアンなんて禁忌に手を伸ばしたのか。どちらにしろ彼はトロンさんを見捨てた時点で人として一つ堕ちている。同情の余地はあれど、叩き潰すのに異論はない。

 

 

「さぁ、ね。バリアン世界もアストラル世界も、私にとってはどうでもいいことだから。

 

どうしても知りたいと言うのなら、私を倒せばいい。尤も、バリアン如きの力も扱えず、対極の力であるナンバーズをわざわざ集めてる時点で底が知れるけどね?」

 

 

似合わないのは自覚しているが、私なりに精一杯挑発する。

 

私は彼らの謎パワーの影響を受けないとはっきりしてしまったが故に、だからこそ私には彼らを止める手段がない。未だに背負ってる九十九くんを彼へぶん投げればゼアルパワー(仮)でどうにかしてくれるのかもしれないけど、アイドルとしての矜持がファンを蔑ろにしてはならぬと雄叫びを上げる。

 

ならばどうするか。決まっている。「おい、デュエルしろよ」作戦しかない!

 

デュエルが全てのこの世界。私はなんか彼の計画のおかげで難を逃れたが、基本的にこの世界では敗者は全てを失う運命。それは、人生を懸けた計画であろうとも同じ。

 

なのに、みんなデュエルは受けて立つ! 何故かって? 私も含めて、みんなデュエルが大好きだから! ここはそういう世界だから!───という冗談はさておき、単にあれです。まだ見た感じスフィアフィールド砲?とやらにエネルギーとかがあんまり溜まってないように見えたから、暇つぶしに受けてくれるんじゃないかなーって。

 

 

「ふむ。よかろう───スフィアフィールド砲にエネルギーが溜まるまでの時間潰しにはもってこいだ」

 

 

(───乗った!?!?!??!?)

 

 

なんたるデュエル脳。おい、マッドサイエンス枠のお前がそんなに素直でいいのか。普通に考えてハルト>>>>私だろうに、こんな小娘の戯言なんか聞き流して少しでも準備を進めろよこのお馬鹿!

 

…………まあ、いいや。受けてくれるならこれ以上はないわけだし。

 

 

「───なら、俺も」

 

「九十九くん?」

 

「遊馬でいい。───俺だって、あいつを止めたいんだ。いいだろう?」

 

「うん、じゃあよろしく。…………あ、私もさなぎでいいよ。

 

でも、いいの? ほら、私は貴方の友達であるアストラルくんと対極の力を持っているわけだけど?」

 

「いいさ。今はアストラルはちょっと休んでるけど、きっとあいつもそう言うはずだ」

 

「…………え。

 

───その、大丈夫なの?」

 

「大丈夫とは言えねぇかもな。でも、逃げる理由にはならねぇだろ?」

 

 

───あ、やばい、超カッコいい…………!(素)

 

寂しげにしながらも気丈に、精一杯胸を張って前を見る遊馬くんの姿に思わず見惚れる。私はあれだ。どこまでもアイドルだから、こういう元気に頑張ろうとする人間には弱いのだ。

 

特に、その、明らかに弱っているのも滾る。私の起源は、かつての私が感じたものによる感覚が大部分だから。前世は多分男性っぽかったとは思うんだけど、そんなのもうあってないようなものだし。ま、アイドルはしばらく恋愛厳禁だから「いいな」以上にはならないけどね!

 

 

 

 

 

「「「───」」」

 

 

 

自然とお互い無言になり、デュエルディスクを構えて相対する。

 

 

…………彼を倒せば、この騒動は終結する。だから、私は───

 

 

 

 

 

 

「「「決闘!!!」」」

 

 

 

 

 

 

(───絶対に、勝つ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

ルールは海馬スペシャル…………じゃなくて、基本的にはバトルロイヤル。ただし、実質一対二なので、私と遊馬くんのフィールドは共通、フェイカーは無条件で先行、かつライフが私達の合計である8000になった。

 

それだけか、とも思う甘いハンデだけれども、油断はできない。何故なら今の私はぶっちゃけ足手まといになる可能性が高い。運命力の格差というのは、それほどまでに残酷であるのだ。

 

 

(───というか、また手札が…………)

 

 

そもそも、さっきから手札の偏りが酷くて目も当てられません。なんです? 私はかつての私と同じ感覚でデュエルしてるはずなのに確率論とかガン無視ですか?

 

通常召喚どころか、手札に魔法罠しかない。なんだこれは、私はどうすればいいのだ! ───とりあえず勝てばいいんですねわかります。

 

 

「私のターン!

 

私は手札の《ガーベージ・オーガ》の効果を発動!

 

このカードを手札から墓地に送り、デッキから《ガーベージ・ロード》を手札に加える!

 

そして、手札の《ガーベージ・ロード》の効果発動!

 

1000ポイントのライフを払い、手札のこのカードを特殊召喚!

 

来い! 3体のガーベージ・ロード!!」 フェイカー LP 8000→5000

 

 

 

 

 

 

 

《ガーベージ・オーガ》

効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻 800/守1300

①:自分のメインフェイズ時に、

このカードを手札から墓地へ送って発動できる。

デッキから「ガーベージ・ロード」1体を手札に加える。

 

 

 

《ガーベージ・ロード》

効果モンスター

星5/闇属性/悪魔族/攻 0/守2400

①:このカードは1000ライフポイントを払い、手札から特殊召喚できる。

 

 

 

 

 

 

(───うわぁ、贅沢)

 

 

ライフが本来4000しかない世界で、3000ものコストと引き換えに現れたのはレベル5の半上級モンスター3体。

 

私にすればこれは前世の感覚でさえ贅沢と感じる展開だが、それはきっと、次に出てくるモンスターが覆してくれるのだろう。

 

レベル5が3、フェイカーと来れば、出るのはあのナンバーズ。流石の私も、進化前のアニメ効果までは覚えていないし、さて。

 

 

「私はレベル5のガーベージロード3体で、オーバーレイネットワークを構築!

 

───これがナンバーズの頂に立つ最強のナンバーズ!

 

超然の鎧を纏い、世界を震撼させよ!

 

現れろ、《No.53 偽骸神 Heart-eartH》!」

 

 

 

 

 

 

 

 

《No.53 偽骸神 Heart-eartH(ぎがいしん ハートアース)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/悪魔族/攻 100/守 100

レベル5モンスター×3

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードは相手の効果を受けない。

③:このカードが攻撃対象になった時、墓地のモンスター1体を対象に発動できる。

対象モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

この効果で装備カードを装備している時、このカードの攻撃力は攻撃モンスターの元々の攻撃力分だけアップする。

④:このカードが破壊される時、代わりにこのカードに装備されているカードを墓地に送ることができる。

この時、このカードの攻撃力が変化した場合、その数値分のダメージを相手プレイヤーに与える。

⑤:1ターンに一度、このカードのX素材を一つ取り除き、以下の効果から一つを選択して発動できる。

●このカードが相手にダメージを与えた場合に発動できる。

与えたダメージと同じだけ、自分のライフを回復する。

●自分がダメージを受けた場合に発動できる。

そのダメージ分のダメージを相手に与える。

⑥:X素材のないこのカードが攻撃対象に選択された場合に発動できる。

エクストラデッキから「No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon」1体を選択し、このカードの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

奇怪な出で立ちのオブジェ、偽骸神、Heart-eartH。

 

前世で超絶弱体を受けたナンバーズの一つにして後頭部に続くその筆頭であり、確か凄まじく面倒なバーン効果とかを持ってた記憶がある。あとはその、互いのライフがゴリゴリ削られてたりとかそんな。

 

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン!」

 

 

続くのは遊馬くん。大口叩いたのはいいんだけど、私は手札が相変わらずだからここで彼に頑張ってもらわなくては。

 

 

「カード効果を受けないナンバーズ…………でも、攻撃力は大したことないね。それが逆に怖いけど。

 

遊馬くん、なんかバーン効果持ちのナンバーズとかいないの?」

 

「え? …………いや、今の俺のナンバーズは、ホープしか残ってねぇ。みんな、あいつに盗られちまった」

 

「へ、へぇ…………ごめんね」

 

 

なんとなくなら効果も覚えているから、メタ知識から誘導しようとしてみたが、あえなく失敗。

 

私の助言も甲斐無くして、遊馬くんはレベル4のモンスターを2体揃えてホープホープする。よく考えたらむしろ私の場合がおかしかっただけで、彼はいっつもホープだから普通だな!

 

 

「バトルだ!

 

俺はホープで、ハートアースを攻撃! ホープ剣・スラッシュ!」

 

「この瞬間、ハートアースの効果発動!

 

このカードが攻撃対象となった時、墓地のモンスター、ガーベージオーガをこのカードに装備する!

 

そして、この効果でモンスターを装備している限り、このカードの攻撃力は攻撃モンスターの元々の攻撃力分だけアップする!」

 

「あー…………」

 

 

やっぱりそういう類だったか。ていうか、この辺は微妙にOCGの方が強くなってる? んだね。いや、回数制限があるから弱体化しているか。過程が面倒だけど、こっちは聞く限り何度もパンプアップができるみたいだし。

 

 

「やべぇ!

 

俺はホープの効果を発動! その攻撃を、無効にする!

 

…………俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

そういう意味では、ホープはこの場面で理想的だったのかもしれない。

 

自身の攻撃さえも無効にできる地味に珍しいその効果は、初見殺しの敵にはピッタリの偵察用として機能する。まあ、彼にとってホープは名実共にエースモンスターなんだろうから、そんな意識さえもないんだろうけどね。

 

 

「私のターン───」

 

 

さて。どう出るか。そもそも私のデッキにあんな面倒なカードに対応できるモンスターはいたかなぁ?

 

いや、頑張ったらランク4や8は出せるだろうから、いざとなればハートランドラコやランスロットさんを出してライフを直接削ればいいんだけど───っと。

 

 

(───まあ、まずはドローしてからだよね)

 

 

「ドロー…………!」

 

 

アンドレさんも言っていたし。もしかしたら、この状況を打破できるカードを引ける可能性も───!!

 

引いたカードを見て、固まる。そんな馬鹿な。このカードは、今の今まで万を超えるだろうデュエルの中、一度足りとも引けなかったのに───!

 

 

「いや…………これもまた、運命なのかな?」

 

「───え?」

 

「いや───なんでもないよ。そう、なんでも、ね。

 

…………私は手札から、《RUMーバリアンズ・フォース》を発動!」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMーバリアンズ・フォース》

通常魔法

①:自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。

選択したモンスターよりもランクが1つ高い

「C(カオス)」と名のついたモンスターエクシーズ1体を、

自分のエクストラデッキから、選択したモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。

この効果でエクシーズ召喚したモンスターエクシーズは

「戦闘では破壊されない効果」を無効にする。

②:相手フィールド上に存在するモンスターエクシーズ1体を選択して発動できる。

選択したモンスターのエクシーズ素材全てを、

このカードの効果でエクシーズ召喚したモンスターエクシーズの

下に重ねてエクシーズ素材とする事ができ、選択したモンスターの攻撃力は、

このカードの効果で奪われたエクシーズ素材の数×300ポイントダウンする。

 

 

 

 

 

 

 

「バリアン、だと…………!?」

 

 

バリアンズ・フォース。遊戯王ZEXALⅡにおけるキーカードで、バリアンと名乗る存在の力によってエクシーズモンスターをランクアップさせる魔法カード。

 

実は当然のようにエクストラにひっそりと忍んでいる私のタキオンちゃんのほぼ専用カードとしてピンで投入し、今まで一度も引けなかったからこそ存在を忘れていたこのカード。

 

しかし、それをこの場面で引けたということは、すなわち。

 

 

(───やるなら徹底的に、か。やれるかは、まだわからないけど)

 

 

「このカードは、自分のエクシーズモンスター1体を対象に発動し、そのモンスターをランクが一つ上の『C』エクシーズモンスターにランクアップできる。

 

この効果で、私はランク4の希望皇ホープをオーバーレイ!」

 

 

ランクアップ。異世界の力。私が当然のようにこの世界でもこれを扱えるのは、やはり私が異世界人であるからなのだろう。

 

アストラル世界でも、バリアンでもない別の世界。本当の意味で、この世界から外れた位置にあるかつての世界。しかし、そんな私であるからこそ、どちらの力も、過不足なく利用ができる。

 

 

(───まあ、肝心な『この世界の力(カードの精霊)』を使えないなら、頭落ちなんだけどね)

 

 

「───出でよ。CNo.39。

 

混沌を統べる赤き覇王。悠久の戒め解き放ち、赫焉となりて闇を払え。

 

ランクアップ・カオスエクシーズチェンジ!

 

降臨せよ、ランク5、希望皇ホープレイV!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《CNo.39 希望皇ホープレイV》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/戦士族/攻2600/守2000

レベル5モンスター×3

①:このカードが相手によって破壊された時、

自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択して

エクストラデッキに戻す事ができる。

②:このカードが「希望皇ホープ」と名のついた

モンスターをエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを破壊し、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 

 

 

 

 

「ホープが、進化した…………!?

 

「貴様───何故貴様如きが、バリアンの力を…………!」

 

 

 

 

 

(───そんなの、私が一番知りたいよ。未だ私は、この世界にどうして生まれ変わったのかを知らないのに)

 

 

 

 

こちらを殺す目付きで睨んでくるフェイカーの視線にやや怯えながらも、今も混乱しているだろう私のファンのことを想って踏みとどまる。

 

そんな私を見かねてか、本来ならば悪の存在(バリアン側)である私のホープレイVが、私の方を心配気に見ている気がした。





原作と違う点。

①フェイカーがデュエルを受ける理由が微妙に違う。原作では確か制御コンピュータが壊されてそれが自動修復されるのに時間がかかるからとかだった。今作は原作に比べて到着がやや早いためにエネルギーが未だ溜まってない。

②カイトやシャークはまだ到着していない。これも彼女達の到着が原作よりも早くなったためである。まあ、普通に考えたらそれぞれが勝手に行動してるのにアニメみたいにみんなベストタイミングで集うとかないよね。従って彼らは多分途中で合流してリアクション役になります。

③アストラルへのダメージが増大。これはスフィアフィールドによって与えられるトロンへのダメージが、トロン役であるさなぎちゃんにはまるで効果なく、その分の皺寄せがアストラルを襲ったから。原作では「力が抜ける」程度だったのに遊馬が気絶してたのはそのためです。ただしその代わり、アストラルがスフィアフィールド内に閉じ込められはしてない。

④そもそも原作にはさなぎちゃんなんて脇役は(ry




ちなみに、描写がカットされてるだけでフェイカーは既にサイボーグ化しています。


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戦慄! ハートアースドラゴン!

前半のは全部独自設定、あるいは解釈です。割といい線は行ってると思うんですが。興味なければ適当に流してください。


 

 

 

 

「遊馬くん。君は、輪廻転生って言葉を聞いたことはあるよね?」

 

「あ、ああ…………」

 

 

彼女のカードによって進化したホープ。それについて聞いてみると、こんな言葉が返ってきた。

 

輪廻転生。流石に単語くらいは知っている。その大まかな概念だって、ある程度ならば答えられるだろう。確か、人の魂は死んだり生まれ変わったりを繰り返しているとか、そんな感じだったはずだ。

 

そのように返すと、彼女は笑って「そうそう。それそれ」と告げ、歌うように続ける。

 

 

「だけど、細かな部分までは流石に知らないんじゃないかな?

 

ざっくり分かりやすく説明すると、魂にも幼児期、若年期、青年期、老年期、超越期、無限期といった段階があって、輪廻を繰り返す度にその位が上がっていく、なんて考えなんだけど」

 

「…………」

 

 

───やべぇ。早速だけど、全くついていけねぇ。

 

彼女が丁寧に語ってるのは分かる。でも、その内容はさっぱりだ。魂の位とか聞いたこともねぇし、段階がどうのとか言われても「そうか」としか浮かばない。そもそもこれは、ホープの進化と何の関係があるんだ?

 

俺がそう思っていると、彼女の話は俺にとっては突如として、しかし彼女にとっては当然の流れで核心へと至る。

 

 

「ランクアップっていうのもそれに近い考えでね。

 

ヒトの場合も輪廻を重ねて超越期まで至れば守護霊や菩薩、神といった概念的存在にまで成長するんだけど、多分それがアストラル世界なんだ」

 

「…………へ?」

 

 

───アストラル世界?

 

どうして、ここでアストラル世界が出てくるのか。話を聞いても理解ができずにいる俺を他所に、彼女の話は続く。

 

 

「仏教的には解脱、なんて言われてるけど、アストラル世界の住民は、魂のランク、つまりはその格を上げることで更なる高みへ至ろうとしている。それこそがランクアップ。

 

でも、全てが全てそうじゃない。ヒトが罪を犯すように、その過程で逃れ切れない『業』を背負ってしまう魂だってある。それが、カオスと言われている力なんだよ」

 

「…………」

 

「もちろん、全体数は少ないだろうね。魂とはそのランクを上げる度に、現世への関心を無くす傾向がある。

 

これはその魂の持ち主が神や霊魂に近づくことで、物欲などといった欲望に関心がなくなるから、なんて言われてるんだ。

 

故に、その段階にまで至った魂は、カルマを成就させることにより現世を解脱する。これこそがアストラル世界。ただし、ここに例外が存在する」

 

「…………」

 

 

───例外。穏やかじゃない言葉だ。

 

未だ話の内容もわからない俺だけど、この流れで出てきた「例外」が良いものであるとは到底思えない。

 

なにせ、神様の逆。それに至れなかったモノ。不穏な空気を醸し出すには充分だ。

 

 

「それがバリアン世界………堕落した魂だね。

 

堕落って単語は知ってるよね? 快楽や欲望のまま生きると堕落して悪魔と化す…………ちょっと宗教は違うけど、大体同じだからまあいいや。

 

これもちょっと解釈が難しくてね。厳密に言えば、というか私の持論では無住処涅槃なんかも含まれてるような気はするから、あまり一纏めにはしたくないんだけど…………」

 

「…………よく、わかんねぇ」

 

「大丈夫。君の年齢で理解されたら逆に怖いから。

 

それで、魂の格と同じように、悪魔にも位階といった概念が存在する。こっちはシンプルに上位中位下位といった感じなんだけど、これがバリアン世界におけるランクアップだね。

 

業を重ねて凶悪に。いちいち別の存在に転生したりしない分、単純でわかりやすく強力になる。

 

ヒトの魂は老年期なら強いってわけじゃないからね。勿論ランクを上げればそれはそれだけ凄いんだろうけどさ」

 

「…………」

 

 

業を重ねる。これもまた、穏やかじゃない言葉だ。

 

業ってのはよくわかんねぇけど、話を聞く限りでは罪のようなもので相違ないだろう。それを重ねる。つまるところ連犯。姉ちゃんが報道関連の仕事をやってるからこそ、罪を重ねることの恐ろしさは理解できる。そして、彼女はそれをバリアン世界なのだと。

 

 

「悪魔となるには、アストラル世界と同様、魂のランクを超越期まで上げなくてはならない。つまりその過程で、しっかりとランクアップを体感している。

 

ヒトの場合にも老年期辺りの人物には過去世が見えたりとかするみたいに、それよりランクの高い彼らにはそれくらいは容易いはず。多分彼らは、その感覚を自分のモンスターに当てはめているんじゃないかな。

 

高みに至る過程を。カルマを重ねる欲望を。ランクという要素に上乗せしてね」

 

「あんたも、そうなのか?」

 

 

耐えられず、無遠慮に発言する。彼女の言が正しいのなら、彼女はホープにカルマとやらを重ねた。故の質問だ。すなわちそれは、彼女という存在の根幹についての質問に等しい。

 

 

「そうだねぇ。あんまり吹聴したいことじゃないけど、私はちょっと前世の記憶とか持ってるから…………。

 

そして、私の場合、まだ解脱せずにカルマの清算をしてる段階だからどちらの力も扱える、というわけだね」

 

「…………そうか」

 

 

だが、返ってきた言葉は、これまた理解できないもの。いや、彼女の解説をきちんと理解できていればわかることなのかもしれないが、少なくともこの俺には、結果として理解できないことがわかった。ただ───

 

 

(───どちらでもない、か。そうなのかもな…………)

 

 

いつか彼女が言ってたこと。きっとこれだけは、嘘ではない。先の解説を聞いてなお彼女が何者かを理解できない俺だが、とりあえず彼女はバリアンとやらでもアストラル世界の人間でもないことは伝わった。ならば俺は、彼女を信じてみたいと思う。

 

それこそが、今の俺にとって、最善の方法だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、わかんない? わからないよね? そんな貴方に、このさなぎちゃんが各国の宗教について教えてあげようか?

 

いやぁ、実は私の前世はちょっとしたきっかけで(闘病生活中に)この辺りの死生観について調べてた時期があったから詳しいんだ私」

 

「い、いや、別に…………」

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから!

 

ほら、これを聞けば、君もランクアップができるかもしれないよ遊馬くん!」

 

「お、落ち着けって…………今はまだ、デュエル中なんだから」

 

「───そうだったね。

 

じゃあ、決闘を再開しようかな」

 

 

 

 

 

 

…………まあ、話は相変わらず理解できないんだけどさ。確かにランクアップについては、多少の興味はあるんだけど。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「私はバリアンズフォースの更なる効果を発動!

 

相手エクシーズモンスター1体のオーバーレイユニット全てを、この効果でエクシーズ召喚したモンスターのオーバーレイユニットにする!」

 

「なにっ!?」

 

 

完全耐性のモンスターであろうとも、そのエクシーズ素材だけは別だ。エクシーズ素材はフィールドに存在するようで存在していない扱い。故に持ってるモンスターの格とは何の関係もないわけで。

 

でも、なら《スペース・サイクロン》とかどういうことなんだろう、と思うことはある。フィールドにないはずのエクシーズ素材をフィールドから墓地に送るって割と意味不明な文章だよね───まあ、いいか。

 

 

「そして、この効果でエクシーズ素材を奪われたモンスターの攻撃力は、奪った素材の数×300だけダウンするんだけど…………こっちはハートアースには効かないから無効だね。

 

だけど、まだまだ終わらないよ!」

 

 

宣言と共に、手札のカードを手に取る。

 

元よりホープレイVではハートアースに相性が悪いのは承知済み。言い方は悪いが、このカードは単なる繋ぎだ。活躍させるのは、ホープを重用している遊馬くんに任せるとしよう。

 

 

「更に私は、手札から《RUMーアージェント・カオス・フォース》、発動!

 

自分フィールドのエクシーズモンスター、ホープレイVを選択し、そのモンスターを更にランクアップする!」

 

「えっ!?」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUM-アージェント・カオス・フォース》

通常魔法

①:自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターよりランクが1つ高い「C」と名のついたモンスター1体を、

選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

せっかく召喚したホープの進化系が単なる踏み台だった事実に遊馬くんが驚いているが、そんなことはどうでもいい。

 

ハイハイホープホープな遊馬くんとは違い、私はそのホープホープすら出来ない手札しか持っていないのだ。そこから望むべく形に運命を持っていくためには、やはり運命力の高いところを利用するしかない。

 

それに、多分だけど結果としては良くなる、はずだ。…………きっと、おそらく。

 

 

「私はランク5のホープレイVで、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・ダイレクトカオスエクシーズチェンジ!

 

混沌なる世界の亡者よ。我が力によって赫焉に集い、混濁とした現世に君臨せよ!

 

ランク6、《CNo.5 亡朧龍 カオス・キマイラ・ドラゴン》!」

 

 

 

 

 

 

 

《CNo.5 亡朧龍 カオス・キマイラ・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

レベル6モンスター×3体以上

①:このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×1000アップする。

②:このカードが攻撃を行ったダメージステップ終了時、

このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このカードは相手モンスターに続けて攻撃できる。

③:バトルフェイズ終了時、LPを半分払い、

自分・相手の墓地のカードを合計2枚対象として発動できる。

その内のカード1枚を持ち主のデッキの一番上に置き、

もう1枚をこのカードの下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

 

「で、でけぇ…………」

 

 

呼び起こすは、アニメ終盤にてベクターが用いた巨大な赤き西洋龍。

 

面倒臭いタイプの連続攻撃を持ち、更には面倒臭い冗長なロック効果ももっている面倒極まりないモンスター。正直、こんな場面でなければ素直にレディジャスティス辺りを出してお茶を濁したかった。でも、今はこのカードこそが最適なのだ。

 

 

「ハートアースの攻撃力アップは、攻撃モンスターの元々の数値。

 

でも、この子はその素の数値が0。つまり、攻撃力は変わらない」

 

「でも、今のあいつのモンスターの攻撃力は2600あるぜ?

 

なら、どっちにしろ突破できないんじゃ…………」

 

「慌てないで。

 

カオスキマイラドラゴンは、攻撃力がオーバーレイユニットの数かける1000ポイント上昇する効果もある。

 

すなわち、その攻撃力は6000! 更にはオーバーレイユニット一つを使って連続攻撃ができる。

 

一撃目は3400、二撃目は2400って感じに火力は下がっていくけど、彼のライフは5000だから、面倒臭そうな効果も全て無視してこのターンの内に彼を下せるって寸法だよ」

 

「おお!」

 

 

万人を安心させる柔らかな口調(自慢)で、諭すように遊馬くんに語る。

 

ぶっちゃけこの攻撃で仕留められるとは微塵も思ってないが、安心する分にはいくらでもするべきだから構わない。たださえ彼はダメージを負ってるし、次に出してくるだろうモンスターも彼に取り付いてる何かも、本来なら遊馬くんが知るべきものではないのだから。

 

 

カードを1枚伏せて(・・・・・・・・・)、バトル!

 

私はカオスキマイラドラゴンで、偽骸神 Heart-eartHを攻撃!」

 

「むぅ…………!」

 

 

6000ものパワーがハートアースに迫り、フェイカー諸共その外殻を消し飛ばそうとする。

 

先に述べたように、フェイカーの残りライフは5000。ガーベージオーガを装備しているハートアースは未だホープの攻撃力を加算されたままでも、これ以上がなければこれで頭打ち。すなわち、これで王手。でも。

 

 

「ハートアースの効果発動!

 

オーバーレイユニットの無いこのカードが攻撃対象に選択された時、このカードをオーバーレイユニットに、私のエクストラデッキから《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》をエクシーズ召喚する!」

 

「なっ…………新しいナンバーズ!?」

 

 

(───王手であっても、チェックメイトではない(・・・・・・・・・・・)んだよねぇ)

 

 

なんか微妙に条件が違うが、ハートアースドラゴンが出るだろうことも予測済み。そのために事前にカードを伏せたわけだし、わざわざ更なるランクアップをしたのだから。まあ、伏せカードはあくまで保険だけども。

 

 

「偽りの骸を捨て、神の龍となりて現れよ!

 

《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》!」

 

 

 

 

 

 

 

《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0

レベル9モンスター×3

①:このカードは戦闘では破壊されない。

②:このカードが特殊召喚に成功した時に発動する。

相手フィールドに攻撃表示で存在する全てのモンスターの表示形式を守備表示になる。

この効果の対象になったモンスターの表示形式は変更できない。

③:このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを無効にし、

その戦闘ダメージの数値分だけ相手ライフにダメージを与え、

自分はその数値分だけライフポイントを回復する。

④:このカードの特殊召喚後に相手フィールド上に置かれた全てのカードは、

その次のターンのスタンバイフェイズ時にゲームから除外される。

⑤:このカードがエクシーズ素材の無い状態で破壊され墓地へ送られた時、

このカードは1度だけ墓地から特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚したこのカードの攻撃力は、

ゲームから除外されている全てのカードの枚数×1000になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお…………」

 

 

思わず漏れ出る感嘆の息。カオスナンバーズでもないのにはっきり感じる吹き荒れるカルマ。カオスの力を便利以上に見たくないこの私でも、こればかりは畏敬の念を向けざるを得ない。

 

何故なら。ナンバーズとは、ヒトの心を映す鏡。そして、あのカードより感じられる感情は───

 

 

 

(───誰か(ハルト)を救いたい欲望(エゴ)、かなぁ。

 

いや、ちょっとこれは、笑えないなぁ…………)

 

 

アニメでは悪以上の視点を持てなかったこのカードだが、実際に見ると随分と印象が違う。かなり歪んでる部分はありそうでも、私にはこのナンバーズを単なる邪魔者として見ることは、少し、できそうにない、かな。

 

───まあ、でも? それと勝負とはまた別なんだけど?

 

 

「守備表示にされちゃったか…………なら仕方ないね。

 

メイン2に入り、私は永続魔法、《ランクアップ・スパイダーウェブ》を発動。

 

このカードの効果により、カオスキマイラドラゴンのオーバーレイユニットを一つ取り除くことで、一つ上のランクのエクシーズモンスターをエクシーズ召喚する」

 

「馬鹿な、更にランクアップだと!?」

 

 

 

 

 

 

《ランクアップ・スパイダーウェブ》

永続魔法

このカードはルール上、「RUM」カードとしても扱う。

①:自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。

選択したモンスターのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、

選択したモンスターよりもランクが1つ高いモンスターエクシーズ1体を、

自分のエクストラデッキから、選択したモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。

このターン、この効果でエクシーズ召喚したモンスターを対象にこのカードの効果を発動できない。

②:このカードの効果でエクシーズ召喚を行わなかったターンのエンドフェイズ時に発動する。

このカードを破壊する。

 

 

 

 

 

 

罪とは、重ねるもの。業とは、背負うもの。カルマを積み、清算を怠り、手遅れとなった救い難いナニカ。

 

それがカオス。それこそが欲望。この世で最も醜く美しい力で、それ故強大極まりない、生きるべき原動力である。

 

だが、人間とはそれだけではない。その欲望を理性で抑えることができるのも、知性ある生命体の特徴なのだから。

 

 

「───そうだ、先に言っておくね…………」

 

「───?」

 

「私、あの舞台(WDC本戦)に立った時点で、自重はしないと決めたんだ☆」

 

 

遊馬くんへと向き直り、にへらと笑ってエクストラホルダーからとあるカードを手のひらに引き摺り出す。

 

これは、私のサイファードラゴンと同様の、否、それ以上のコントロール奪取効果を持つ─────そうだ。ここで改めて言うまでもなく、あの時のカードである。

 

 

「───世界に広がる、ビッグな愛。

 

現れろ、ランク7、《No.11 ビッグ・アイ》!」

 

 

ランク7、眼征竜ビッグアイ。───そう、これこそが禁断の一手。同一のナンバーズ!

 

今まではさりげなぁく(強調)アニメに出てないナンバーズを使っていたこの私だが、既にここまで彼と関わった以上、隠し立てしても意味はないと判断してのことだ。

 

ちなみに、このビッグアイさんの効果はアニメの完全下位互換です。具体的にはナンバーズ耐性がありません。まあ、それでも異常に強くて制限までかかったのがこのカードなんだけど。

 

 

「ビッグアイだって!?」

 

「一体いつから、私のナンバーズが君のと全く同一じゃないと錯覚していた…………?

 

なんてね。同じなのは一部(※大半)だよ。何せナンバーズとは人の心を映し出す鏡。千差万別な人々の欲望の化身なんだから」

 

 

───嘘は言ってない。嘘は。…………真実も言ってない。まっこと、私って地味にアレな人間だなぁ。

 

 

「人の心を映す…………?」

 

「───え? そこから? ナンバーズ使いなのに知らなかったの?

 

…………ちょっと、アストラル? くんを起こして。話をするから」

 

「いや、まだ無理だと思う。あいつ、相当参ってるみたいだから。

 

…………それに、あいつも多分、それを知らないんじゃねぇかな」

 

 

寂しそうに、しかして気丈に遊馬くんが呟く。これまた私のどストライクの表情でぶっちゃけ割と滾るけど、そんなことはどうでもいい。

 

というか、そうか。勘違いしてたけど、こんな前提にして重要な情報さえ彼は知らなかったのか。これを知っていれば、相手の人格からナンバーズの能力を推察できたりとか便利そうなのに。もったいない。

 

 

「まあ、今はいいや。そもそも、私が口出すことじゃないしね。

 

私はビッグアイの効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、相手のモンスター1体のコントロールを得る。

 

私は当然、ハートアースドラゴンを選択するよ」

 

「なんだと…………!」

 

 

進化して攻撃的になった分、進化前の保守的な効果が失われたハートアースドラゴンがビッグアイの洗脳光線に屈し、こちらに侍ってフェイカー睨みつける。なんだろう。私がやったこととはいえ、その光景は中々に来るものがあった。

 

…………うん。やっぱり最強のナンバーズはこの子だね。だってほら、こんなにも恐ろしいんだもんビッグアイ。オバハンやヌメヌメさんも余裕で突破できるし(対抗できるジャイアントハンドレッドさんすら火力が足りない)、もう全部この子でいいんじゃないかな? あ、でもベクターは無理だっけ。いや、アニメシャイニングもバトルフェイズ限定だったかな? まあいいや。

 

 

(───これで、後は…………)

 

 

これで、状況は整った。今からすることを思うと少しばかり頭痛とコンマイへの憎悪が湧くが、そんなことばかり気にしてもいられない。それに、それに、ほんっっっっっっとうに僅かな可能性だけど、この世界の空気に当てられて、あのカードがエラッタ(創造)による超絶強化を受ける可能性だってないことはないんだし…………!!

 

 

(───ごめんなさい、ハートアースドラゴン)

 

 

内心だけで謝罪して、私は今発動しているカードの効果を適用する。

 

万人を計り知れない絶望に叩き落とした、恐怖のカードを召喚するために。

 

 

「───私は。…………私は、永続魔法、《ランクアップ・スパイダーウェブ》の効果を発動。

 

私のフィールドのエクシーズモンスター…………ハートアースドラゴンを対象に、そのモンスターのオーバーレイユニットを一つ取り除くことで、一つ上のランクのエクシーズモンスターへと進化(弱体化)させる」

 

「貴様…………!?」

 

「あいつのモンスターまで…………!?」

 

 

 

(───あああああぁぁぁ…………お願いだから驚かないで…………私はきっと、酷く残酷な行為をしているんだから…………)

 

 

 

きっと、ではなく、確実に、である。

 

少なくとも、かつての私がいた世界の人たちがこの所業を見た場合、悪魔と罵られてもおかしくないくらい外道な行為なんだから。

 

そんな私の感想などいざ知らず、ランクアップ・スパイダーウェブの効果を受けてあのエクシーズモンスターの召喚エフェクト的な宇宙っぽい例のアレに吸い込まれていくハートアースドラゴン。

 

それに伴う圧力は尋常なものではなく、同じ本物のナンバーズを素材にしたはずなのに、ホープレイVが起こした脈動が赤子の駄々に感じられるほど凄まじいものだった。───凄まじい、ものだったんだ…………!

 

 

「───次元の狭間より現れし闇よ、世界を越えたこの舞台を絶望に彩れ。

 

ランクアップ・カオスエクシーズチェンジ!

 

降臨せよ! ランク10、《CNo.92 偽骸虚龍 Heart-eartH Chaos Dragon》!」

 

 

 

 

 

《CNo.92 偽骸虚龍 Heart-eartH Chaos Dragon》

エクシーズ・効果モンスター

ランク10/闇属性/ドラゴン族/攻1000/守 0

レベル10モンスター×4

①:このカードは戦闘では破壊されない。

②:自分フィールド上のモンスターが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

その数値分だけ自分のライフポイントを回復する。

③:このカードが「No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon」を

エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在する全てのカードの効果をターン終了時まで無効にする。

この効果の発動と効果は無効化されない。

 

 

 

 

 

 

 

───なお、口上における「闇」と「絶望」は、そのまま「OCG化」と等号で結ばれます。

 

 

「ハートアースドラゴンまでも、カオス化した…………!」

 

 

私のフィールドに現れし勇士の姿(失笑)に、遊馬くんが眼を見張る。うん、その、ええと。

 

………………………………知らない方がいいことだって、ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。

 

私は…………うん。私はこれで、ターンエンド」

 

「ぐっ…………私の、ターン!」

 

 

凄まじい罪悪感に虚無感、及び自身の無力さを痛感しながら、私はエンド宣言を行う。

 

そんな私を、正確には私が召喚したハートアースカオスドラゴンを脅威として見たDr.フェイカーは、最初の余裕なんぞ地の底へとかなぐり捨てて、決死の表情で新たなカードを手の内に呼び込むのだった。






戦慄(進化先が)




ちなみに、彼女の手札にやたらRUMが来てるのは、彼女自身が割とランクアップ厨であるのもそうですが、彼女が世界に「彼女はそういう役目の存在(キャラ)だから」と認識されているから、なんて裏設定があります。



さなぎ「どうしよう…………実はでっち上げだったって言い出しにくい…………」


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脅威! バリアンズ・フォース!

今回から二期になります。相変わらず突っ込みどころ満載です。熱血指導さんは犠牲になったのだ……。


 

 

 

 

その後の顛末について、少しだけ語ろうと思う。

 

まずは大前提。あのデュエルの結末について。これはまあ、御察しの通り我々の勝利だった。

 

ナンバーズとは人の心を映す鏡。人々の欲望を汲み取り、最適な形へと抽出するモノ。しかしそれ故、ナンバーズの使い手は一部例外を除いて全てがナンバーズに拘ってしまう悪癖を発症する。ホープ然り、ホープ然りホープホープホープ。

 

無論、フェイカーもその例に漏れず、否、下手をすれば遊馬くん以上に顕著にして代表例であり、私が奪い取った挙句に素材にしたハートアースをどうにかして奪い返そうとしていた。しかし。

 

 

(───相手のエクシーズ素材を特殊召喚する、なんてカード、あるわけないよねぇ)

 

 

後で考えたらあのⅣさんがそんな謎カードを使っていたような気はするが、それはそれ。少なくともあの場面、ランクアップなんてふざけた召喚に対する情報が僅かな期間しか出回らず、更に私への警戒が薄い段階でそんなピンポイントな状況を対策する理由などなかったのだろう。結果として、彼はハートアースドラゴンを奪い返せず、伏せカードで時間を稼ごうとした。

 

デュエルに熱中して忘れそうになっていたが、あの時の彼にとっての勝利条件とはデュエルの勝敗ではなく、スフィアフィールド砲にエネルギーを貯められるか否かだ。かなり早い段階で黒幕へと到達したから(これも後で知ったことだが、私のターン辺りで制御コンピュータとやらが破壊され、更に時間を稼ぐ必要があったらしい)ある程度の猶予はあっても、それは決して長い時間ではない。

 

ハートアースカオスドラゴンの火力が大したことない…………反射効果を受け継いでるんだな、と容易に想像できることも後押ししたのだろう。実際はまあ大間違いだったわけだが、ならばこそ彼は、防御を固めるだけに努め敢えて消極的にターンを譲り渡した。それこそが、最大の過ちだったとは知らず。

 

彼の判断は、間違っているとは言えない。実際にそのようにしてしまったのは大いなる間違いだけど、あの場面ならそう考えてもおかしくはない。むしろ即座にカオスエクシーズの性質を把握し、「ハートアースの進化系」としての力を発揮し辛くする戦法を取ったのはまさしく天才的とまでいっていい。

 

 

(───でも)

 

 

経緯は語らない。語りたくもない。ただ結果として、彼は敗北した。何もできず、何もせず、これ以上なく無様に、決闘者として失格とも言える容易さで。───そして、彼の心は折れた。

 

何もできない。それは、彼がハルトに対して常日頃思っていただろうこと。その無力感、寂寥感、罪悪感や焦燥は、彼をバリアンなんて禁忌に追いやるほど大きなものだった。それを私は、よりにもよってその欲望(エゴ)を意趣返しする形で叩き返したのだ。

 

どんな気分だったのだろう。彼は何を思ったのだろう。そんなこと、神でないこの私に理解はできないことだけど、あれだけ手がけていた計画を放棄………正確には一時とはいえ完全に忘却するだけのダメージを負ったはずだ。少なくとも私は、彼が最後に「ハルト」と発狂したような金切り声で泣き叫んだことを忘れられそうにない。

 

気絶した彼を回収し、ハルトをついでに救い上げ、遅れて登場したカイトさんに諸共投げ渡した。色々言いたいことはありそうだったけど、そもそもからして私は脇役だ。彼が何をしてたのかも知らないし、興味もない。カイトさんにしても、事情を説明することで突っ込まれるかもしれない罪…………自分がナンバーズ関連で人々を廃人にしていました、なんて事実を伝えることは流石に躊躇したのだろう。最後まで何かを言いたそうにはしていたが、結局は押し通した。後は家族の問題だ。私が関与していいのは、あくまでここで彼が引き起こした騒動の解決だけなのだから。

 

その後はまあ…………会場をどうにかして纏めるためにフェイカーのUFO的な乗り物を強奪して会場まで飛び立ち、あちこち崩れそうな会場で逃げ遅れた人を回収したりとか…………この辺りの話はもう、思い出したくもない。結局大会は有耶無耶になってしまったし、優勝者は遊馬くんとはっきりしていても、賞品云々は完全になかったことになってしまった。尤も、フェイカーやハートランドにまともに願いを叶える気があったのか、そもそもそれが怪しいのだけど。

 

遊馬くんに関しては、全てが終結した後に爽やかに去っていった。カイトがあっさり帰ったというのに優勝賞品のことも特に引き摺らなかったし、実に好感の持てる少年だと思う。主人公の名は伊達ではない。小鳥ちゃんがいなければ狙っても悪くないかな、とこの私が思うほどには。…………別れる直前、恋愛云々を抜きに爽やかな握手した我々に対する、彼女の視線が忘れられない。ある意味でフェイカーを上回る衝撃だった。幼馴染コワイ。私、アイドルなんだけど…………いや、だからかな?

 

それで、私については───

 

 

 

「ねぇねぇ、さなぎちゃん!

 

あのランクアップって何!? 凄くかっこよかったけど、私にもできるの!?」

 

「あ、あはは…………どうだろ」

 

 

まずは良いことから。ファンが増えた。それも、物凄く。

 

多分、「アイドルデュエリスト」なんて名乗ってても、所詮はアイドルなんだからとファッション感覚で私のデュエリスト成分を見ていた人が今回の件で見直してくれたんだろう。プロデュエリスト、なんて職業もあるこの世界、デュエルが強ければそれだけ注目も深まる。私のように、見ていて異質なデュエルなら尚更のこと。事務所の人が嬉しい悲鳴を上げていたのが印象的だった。

 

次に悪いこと…………と言っていいのかは分からないが、上記のような質問をされることが増えた。当然である。増えたというより、あの後殆ど全員から似たような質問を一度はされた。スタッフの彼女然り、アイドル仲間然り、事務所の人然りと。

 

特に事務所の人からはかなりしつこく話を聞かれた。なんでも、私のランクアップがあまりに革命的過ぎて問い合わせがあちこちから殺到してるらしい。それだけならまだしも、酷いものになると直接「デュエルさせろ」と言ってくる始末。私のデュエル番組へのオファーも数え切れないほどだったみたいだし、こればかりはこの世界のデュエル脳を舐めていたとしか言えない。握手会にどう見ても堅気じゃない人が現れて決闘を申し込まれたこともあった。プロデュエリストだった。勝ってしまった。プロにならないか誘われた。いや勘弁してよ。私はほら、まだまだアイドルで居たいんだから。

 

 

(───Ⅳさんもあれからまるで見ないし…………本当に、あの闘いはなんだったのやら…………)

 

 

そんなわけで(?)やや忙しい日々を過ごしながらも、私はなんだかんだ楽しい時間(アイドル活動)を過ごしている。…………未だにガチデュエル番組とかにちょくちょく出演しているのは、まあ気にしない方向で。

 

そして、そんな日々が崩される時があるとすれば、それはやっぱり非日常的な何かしかないわけで───

 

 

「私以外のランクアップ使いが現れた?」

 

『ああ、アンタも使ってたバリアンズ・フォースってのを…………』

 

「いやいや、私言ってたよね? アストラル? くんが存在する以上、いずれ第二、第三のランクアップ使いが現れてもおかしくないって」

 

『…………奴らはそれを、バリアンの力だと言っていた。だから、アンタに聞くのがいいんじゃないかって』

 

「あー…………」

 

 

時刻は向こう側が配慮したのか、比較的に暇な時間の多い日の夜中。

 

仕事とも違う、プライベートの回線(Dパッド)から突如として掛かってきた遊馬くんからの連絡に、私は頭を抱えると同時に納得する。

 

 

(───そうだよねぇ。バリアン(ベクター)が出てないから…………)

 

 

そう。実はあの時の闘い、フェイカーの中に潜んでいたであろうバリアンくん(仮)が現れなかったのだ。すなわち必然的に情報の獲得が一手分遅れ、彼にとってのバリアンは「敵」というより「いきなり襲ってきた存在」となる。もしかしたら私がバリアンの力を普通に使ってるのも誤解を加速しているのかもしれない。つまりは、この状況は間違いなく自業自得なわけだ。…………連絡先も交換してたしね。

 

ちなみに、推測でいいならベクターが現れなかった理由もわかる。というか普通に「こんな状況でバトン渡されて勝てるか!」って感じだろう。考えるまでもない。でもベクターくん、そんなものだよ人生って(経験談)。───まあ、どうでもいいや。

 

 

「…………それで、私にどうして欲しいの? あの時の講義の続きでもする?」

 

『いや、それは…………アストラルはすっげぇ聞きたがってたけど、ちょっと…………』

 

 

ちょっと何だ。ちょっと聞きたくないってか。せっかくあの時必死になって捻り出した理論がちょっと嫌だと申したか。そんなんじゃ私、協力なんてしたくなくなっちゃうよ…………。

 

ちょっと、ほんのちょぉっっとだけイラッとしたので巫山戯てそのような旨の言葉を言うと、遊馬くんが慌てて否定し、次いで要件を告げる。

 

 

『さなぎちゃんは、その…………バリアンについて、何かしら知ってるんだろ?

 

だったら、教えてくれないか?』

 

「あー、そういう? 先に言っておくけど、私はバリアン世界について知ってるだけで、バリアンそのものについてはあんまり知らないよ?」

 

『それでもだ。頼む』

 

「いやいや、知らないよ。知りたくもない。だってそんなの、下手したら『なんとなく』かもしれないわけだし」

 

『…………え?』

 

 

通信越しに、呆然とした声が帰ってくる。しかし、これは私の本音だ。いや───私の立場では、そこまで(・・・・)しか想像し得ない、というのが正しいんだけど。

 

 

「悪魔の逸話を知ってる? 千差万別だけど基本、そのどれもこれもがろくでもなく、そして割とくだらないものばっかりなんだよね。

 

もっと言うなら、神様の方は更にくだらない理由で動く場合が多い。どっかの北欧の主神とかがその最たる例だね。

 

案外、アストラルくんの使命とやらも痴話喧嘩の際にナンバーズが散らばっちゃったー回収しなきゃー、とかそんなので、バリアン側はそれを見て茶化しに来てるだけかもしれないよ? 契約だのなんだので、この世界に力を与えてさ」

 

『そ、そんなわけ…………』

 

「ない、とは断言できないよね? だってアストラルくん、どう見ても怪しいし。

 

記憶喪失で、ナンバーズなんてものを集めていて、そのために君を利用している。善意だろうとなんだろうと、私からすれば信用しちゃいけない類のものだよ。

 

そうだ、彼のこともあったね。じゃあ単純に、彼がバリアン側に怨みを買ってる。これで間違いない。だって遊馬くんはバリアンを知らないし?」

 

 

理論を立てて、順当に会話を進める。全てを知る私からすればかなり悠長で冗長だが、彼の立場を考慮するならこれくらいは積み立てなければならない。そうでなくても彼はアストラルを信用し過ぎている。そんなんではいつか痛い目を見るだろうから、少しは相棒の酸い面に目を向けるべきなのだ。

 

 

「で、ここまでが前提。アストラルくんの人格を考慮しない場合の定石。いわゆる勝手な邪推だね。

 

色々言ったけど、私としても、アストラルくんはともかく、遊馬くんに関しては信じたいと思う。だからここは一つ、ちょっとあちらに波紋を入れてみようか?」

 

『波紋?』

 

「あ、そんな大したものじゃないよ?

 

───今の君は、あちらに対して『アストラルくんの協力者』以上の意味を持たない。でも、こちらには私がいる。だから君を、いや、君にそれ以上の意味を持たせたい」

 

『…………?』

 

「あちらがこちらに疑問を抱けば、あちらも対話に出るかもしれない。君は確かにアストラルくんの協力者であっても、本来君はアストラルくんとは無関係な一般人でしかない。なら───あっちの事情を聞いて、もしや話し合いに持ち込むことができるかもしれないね」

 

『───!

 

そ、それって、どうやって!?』

 

「簡単だよ。本来ならあちらにしかないはずの力………カオス化の上、魂のランクアップを、君が体現して見せればいい。

 

尤も───できるかどうかは、君次第だけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なお、ここまで助言しておいてあれだが、真の狙いは分断である。主に私が狙われる可能性を低くするための。だって、私の場合、あの人が来るのはほぼ確定だし、ね。…………諦めてるけどさ。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

───さて、やや唐突にここで記憶のおさらいをしよう。

 

 

 

 

皆さんは覚えているだろうか? この頃のゼアルで、果たしてどんな出来事があったのかを…………!

 

激闘のデュエルカーニバルからしばらくを隔て、彼らの闘いは新たなステージを迎えた。そんな時、新たに登場した味方キャラ(失笑)を塗りつぶす勢いで凄まじいインパクトと共に現れた人物と言えば! さあ、誰だったのかを!

 

 

 

 

 

「そんなわけで、久しぶりだね、遊馬くん」

 

「ん?───って、えぇ!? さなぎちゃん!?」

 

 

 

 

───そう、それこそがこの私、アイドルデュエリストこと、蝶野さなぎである!…………嘘です、はい。正解はまあ、アニメを見て確認してね☆

 

いやぁ、しかしいい反応してくれるなぁ遊馬くん。ちょっとでも強引に様子を見に(学校に)来てみて良かったよ本当に。見た感じでは元気そうだし。犠牲になった(出番を盗られた)宮野さんのことは忘れません。私が来たことで洗脳されなかったならそれでいいような気もするけどね。

 

 

「───どうして、アンタがここに!?」

 

「あれ? 先生から聞いて…………なさそうだもんねぇ、君。まあ、いいや。

 

今日の授業は外部からコーチを呼んで、生徒にデュエル指導をするって話なんだけど…………」

 

「あ、あ、あ、貴女は!?」

 

「んー?」

 

 

最早聴き慣れてしまった驚愕混じりの声に反応して、私は遊馬くんに向けてた視線をその方向へと変える。

 

そこにいたのは、またもや見覚えがある、しかして見覚えのないメンバー達。ぶっちゃけてしまえばナンバーズクラブのみんな。その男性陣が揃っている。確か名前は等々力、裏ノ助、鉄男、だっただろうか。…………なんか違うような気もするけど。まあいいや。後で聞けば。

 

ちなみに、今の時刻は丁度登校時間辺りである。私は今日、この学校の1限目の授業に間に合うように来てるから、そこでたまたま登校していた遊馬くんに声を掛けたというわけだ。他意はない。驚かすつもりはあったけど。

 

そんなことを考えていると、私のことを瞠目して見つめていた青髪オカッパの真面目そうな少年が、いっそワザとらしいくらい説明口調で叫ぶ。

 

 

「貴女は! かの有名なアイドルデュエリストにして、今を輝く時の人! 蝶野さなぎさんではないですか!!」

 

「あはは。そうだね、ありがとう。と言っても、私はそんなに凄いわけじゃないよ。私が輝けるのは、みんなの声援があってこそだからね。

 

───だから、初めまして。私はさなぎ、蝶野さなぎです。君の名前は、なんて言うのかな?」

 

 

いーいリアクションをしてくれたのが嬉しくで、にこやかに手を差し出して挨拶をする。挨拶は大事だ。特にアイドル業だと、まず何よりも名前を覚えてもらう必要があるから。

 

ファンへの感謝と、若干の打算も込めて差し出された手は、初々しい手つきと緊張した自己紹介によって返される。うーん。実に微笑ましい。いいね!

 

 

「等々力くんだね、よろしく。

 

それで、他の人は───」

 

 

周りを見渡し、固まる。それはいつのまにか私達が注目を集めていたことに対するもの…………ではなく、私が気づかなかっただけで、遊馬くんのすぐ近くにいた人物と、私の目が合ってしまったからこそ。

 

オレンジ色の逆立つ髪。柔和な表情に隠された鋭い目つき。間違いない。彼こそは───

 

 

(───ベクター、だよね。やっぱりと言うか、何というか…………)

 

 

もしかしたら、あのフェイカー戦で現れなかったわけだし、真月くんとしての彼も登場しないのでは、と思っていたら案の定そんなことはなかった。流石というか何というか。お勤めご苦労様ですね(?)。

 

まあ、今の彼は猫を被っているだろうし、私にはバリアンズフォースの洗脳も効かないだろうから、無視していれば派手な行動はしないだろう。

 

というか、最近仕事が本当に忙しくて、仕事という名目で無理矢理潜り込んだ今日を逃せばガチでしばらく遊馬くんに会えないし、どうにかして今日の彼の授業の内に、彼にランクアップのコツを教えなくてはならないわけで、正直、(彼に構っている時間なんて)ないです。

 

 

「───いや、今はいいかな。どうせまた、すぐに自己紹介する機会はあるし、学生の貴重な朝の時間を、私が無為に潰すのもね。

 

じゃあ、遊馬くん。またね。今更だけど、約束を果たしに来たから」

 

「あ、ああ…………」

 

 

さりげなく(強調)その場を離れ、なおも感じる鋭い視線をなるべく無視しながら私は学校の来賓用玄関へと向かう。

 

今更ながら、所詮は脇役でしかないこの私が、正しい歴史を無視して彼を成長させられるのかな、などと思いつつも、私は内心で今日の授業のカリキュラム(自己流)を見直すのだった。

 

 

 

……………………

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

(───って予定だったのになぁ…………)

 

 

「───ほら、いいぜ。アンタのターンからだ」

 

「あ、うん。私のターン、ドロー」

 

 

上手くいかない人生を儚みながらも、私は気丈にカードを引き抜く。引いたカードはまあ普通。これはまあ、多分あっちがこちらを警戒しているからだと思う。あるいは、こちらの手を見たいと思ってるのか。まあ、どちらでもいいけれど。

 

 

(───なーんで私、シャークさんと闘ってるんだろう?)

 

 

決まっている。授業だからだ。そして自分が、それを引き受けたから。しかも割と強引に。あとはあれだ。単に見通しが甘かった。これに尽きるだろう。いや、彼と闘うこと自体は別に構わないのだけど(授業だし)、できたらこんなところで彼と因縁ができるのは嫌というか何というべきか。

 

 

(───まあ、ねぇ? 外部から強い人をわざわざ呼んでるのに、一クラスしかそれを受けられない、なんてことはないよねぇ)

 

 

この世界はあのカオス極まりないデュエルカーニバル時空ではないことは確認済みなので、なるべくなら私は彼と関わりたくはない。だってこの人面倒だし。

 

しかし、人生とは画してこういうもの。何事も、思うようにいかないことばかり。それこそが、という人間に私はなれそうにないけれど、まあ、たまには。

 

 

(───この闘いは、所詮『お遊び』だからね。なら、別にいいよね。あ、でも、これだけは聞いておこう)

 

 

「えーと、神代くん?」

 

「くん付けはやめろ。シャークでいい───で、なんだ?」

 

「ではシャーク。貴方は、そうだね、どうして私に挑んだの?」

 

「んん?」

 

「私の秘密が知りたいのなら、私の授業を受けるだけでも十分だったはず。私自身、ランクアップのことを完全に説明できるわけじゃないけど、大まかには理解してるし、実際、君以外の生徒はその概要に満足していたようだった。

 

まさか、私に惚れちゃったかな? なんて自惚れてもみたけど、違う。貴方の視線は、惚れた腫れたの類じゃない。

 

だから、教えて欲しい。明らかに授業に積極的じゃなかった貴方が、実演となると相手役を買って出た理由を。

 

卑怯だと思うけど、これも授業だからね。私の存在によって生徒の心境に変化が生じたのなら、担任の方に伝えなきゃならないし」

 

「チッ…………」

 

 

なるべく真っ当な理論を積み立てて問い詰めると、態度こそは(一応)目上の人間に対するものではないといえ、案外素直にファッション不良なシャークは答える。

 

 

「───あの騒動を、遊馬とアンタが解決したって聞いたからな。どういうことか気になっただけだ」

 

「───」

 

 

ちょっと絶句。それはその内容が想像以上にくだらないというか、多分私の特異性とは関係がないからこそ。

 

 

(───なんだ。単なる嫉妬か)

 

 

つまるところ、彼の理由はそれに尽きる。私の正体とか、私の特異性とか、そういうのを完全に無視して、ただ単に「ポッと出の私が遊馬くんと一緒に騒動を解決したのが気に入らない」という───

 

 

「ぷっ、あははははは」

 

 

なんだかちょっとおかしくなって、小さく小さく含み笑いをする。バリアンの王だとか警戒していても、蓋を開ければこんなものだ。考えてみたら、今の彼は一人の中学生でしかない。私が深く考え過ぎただけなのだ。なんともまあ、情けない。

 

こうなれば、私は真剣に彼の相手をしよう。バリアンだのライバルだのとくだらないことを考えたお詫びと、彼の疑念を少しでも晴らすために。

 

 

「じゃあ…………私は手札から、《光波異邦臣》を召喚。

 

そして、魔法カード《エクシーズ・レセプション》を発動。このカードは自分フィールドのモンスター1体と同じレベルのモンスターを、手札から効果を無効・ステータスを0にして特殊召喚できる。

 

この効果により、私は2体目の《光波異邦臣》を特殊召喚」

 

 

 

 

 

 

《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》

効果モンスター

星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

①:このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「RUM」カード1枚を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

「レベル1…………?」

 

「ん? ああ、別に舐めてるわけじゃないよ。ただ、これは一応『RUMの実演』なわけだし、ランク1からどれだけ登れるかやってみようかなって」

 

 

それに、ランク1だからと舐めてはいけない。前世におけるレベル1フルモンの凄まじい粘り強さと瞬間火力は、ガチデッキですら凌駕しかねないほどなのだから。

 

 

「私はレベル1、エトランゼ2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。

 

顕現せよ。ランク1、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

レベル1モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

自分のエクストラデッキのカードを相手はランダムに1枚選ぶ。

それが「No.1」~「No.99」のいずれかの「No.」モンスターだった場合、

自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 

 

 

ディスクの召喚ボタンを力強く押すと、なんの変哲も無い体育館だった光景が一変し、神秘的な空気を纏う図書館のようなナニカが顕現する。

 

一見してフィールド魔法のようなこれ。これこそがナンバーズ78、ナンバーズアーカイブ。アニメにおける王の鍵の内部をモチーフにしたOCGオリジナルのナンバーズにして、アニメ本編との繋がりを深く感じる一枚である。

 

 

「なんだ、これは…………」

 

「ナンバーズ・アーカイブ。見た通りに、ナンバーズを収める場所だね。

 

多分だけど、アストラル君に聞けば見覚えがあるんじゃないかな。尤も、私のこれと彼のそれが同一とは限らないわけだけど」

 

「…………どういうことだ?」

 

「残念だけど、教える義理はないねぇ。で、この子の効果だけど…………まあ、後のお楽しみ、ということで。

 

私はカードを2枚伏せて、ターンを終了するよ」

 

 

当然のように疑問を抱かれたが、答えるのがめんど………その理由がないので適当に流してターンを明け渡す。

 

得てして女の嫉妬とは、存分に発散させることが一番なのだ。彼は女性じゃないし彼が抱く感情を嫉妬だと彼自身理解していないかもしれないけど、どうせあくまでお遊びではあるのだし、彼にも楽しんでもらうとしよう。

 

 

「俺のターン、ドロー!

 

俺は手札から、《ハンマー・シャーク》を召喚!

 

このカードが召喚に成功した時、このカードのレベルを一つ下げることで、手札のレベル3、水属性モンスターを特殊召喚する!

 

来い、《キラー・ラブカ》!」

 

 

 

 

 

《ハンマー・シャーク》

効果モンスター

星4/水属性/魚族/攻1700/守1500

①:1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

このカードのレベルを1つ下げ、

手札から水属性・レベル3以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

《キラー・ラブカ》

効果モンスター

星3/水属性/魚族/攻 700/守1500

①:自分フィールド上のモンスターが攻撃対象に選択された時、

墓地のこのカードをゲームから除外し、

攻撃モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃を無効にし、

その攻撃力を次の自分のエンドフェイズ時まで500ポイントダウンする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レベル3のモンスターが2体、ね。さて、何が来るのかな?」

 

 

久しぶりに何も考えず、ワクワクしながら次のカードを待つ。

 

特に最近は心労が激しい事案だらけだったので、本当に何も考えずにいられるデュエルはガチで久々なのだ。ならば私も、楽しまなくては。

 

 

「エクシーズ召喚!現れろ!

 

漆黒の闇より出でし赤き槍!《ブラック・レイ・ランサー》!」

 

 

 

 

 

 

 

《ブラック・レイ・ランサー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/獣戦士族/攻2100/守 600

レベル3モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の効果をエンドフェイズ時まで無効にする。

 

 

 

 

 

 

地を割き空を舞いて現れし漆黒の勇士。体躯と同色の黒光りする槍は、単なる武器以上に厳かな雰囲気を醸し出し、獲物を絶対に逃がさない鋼鉄の意思を感じる。

 

そう、彼(?)こそはシャークさんの真の切り札、ブラックレイランサー。かつての世界の巨大な闇(OCG化)に飲まれて忘却の彼方へと消えていった、悲劇の英雄の姿なのである!

 

 

(───なーんてね。ブラックレイランサーはある意味で有名だから、忘れられないんだよねぇ)

 

 

モリンフェン様とかレオウィザードとかエアロシャークとかフリーザードンみたいにアレなカードは記憶に残る。むしろ彼のカードだったらシャークカイゼル辺りの方が忘れられてそうだ。…………いや、どうでもいいけどさ。

 

 

(───確かアレの効果は、効果無効だったかな。でも…………)

 

 

でも、それならば多分、どうにかなるはずだ。…………きっと。

 

 

「ブラックレイランサーの効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使って、モンスター1体の効果を無効にする!

 

対象は、お前のナンバーズだ!」

 

「むっ───」

 

 

ブラックレイランサーが投擲した槍が周囲へと突き刺さり、フィールドを満たした図書館もどきが色を失っていく。

 

それはすなわち、私のナンバーズアーカイブが彼のカードに封じ込められ、単なる無力な背景と化したことを示していた。

 

 

「これで、お前のナンバーズは封じたぜ!

 

バトルだ! 俺はブラックレイランサーで、ナンバーズ78、ナンバーズアーカイブを攻撃! ブラック・スピア!!」

 

「甘い。この瞬間、私は速攻魔法、《RUMーデヴォーション・フォース》を発動。

 

この攻撃の対象となったナンバーズアーカイブをランクアップさせ、新たに召喚したモンスターへと攻撃対象を移し替える」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMーデヴォーション・フォース》

速攻魔法

①:相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターよりランクが1つ高いXモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

その後、相手モンスターの攻撃対象を

このカードの効果で特殊召喚したモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。

 

 

 

 

 

 

 

ナンバーズを封じられても、私は別にナンバーズだけに拘っているわけではない。それはまあ、こんな世界にいるわけだし私もナンバーズはカッコいいとは思うけど、それはあくまで余裕があれば、の話なのだ。故に、容赦はしない。これは遊びでも、適当にやっていいものじゃないから。

 

…………あと、多分、そのままランダムに頼ったら、絶対微妙なことになってたし。

 

 

「私はランク1のナンバーズアーカイブで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

現れろ! ランク2、《No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス》!」

 

 

 

 

 

 

 

《No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク2/地属性/アンデット族/攻2200/守 0

レベル2モンスター×2体以上

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

このカード以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。

このモンスターが表側表示で存在する間、対象の表側表示のカードの効果は無効化される。

②:このカードの①の効果の対象としているカードがフィールドに表側表示で存在する限り、

お互いに対象のカード及び同名カードの効果を発動できない。

 

 

 

 

 

 

 

「まずは一つ、だね」

 

「これが、お前のランクアップか………!」

 

 

進化ではなく、あくまで戦術の一つとしてランクアップを用いる私を見て、バリアンの王は戦慄する。

 

そんな彼に、私はあくまでも彼に教える一人の講師として、ただただ優しく微笑むのだった。

 







遊馬強化イベの筈だったのに、なんでシャークと闘ってるんだ……?


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怒涛! ランクアップマジック!

やっとミッションが全部終わった………メカエリ再臨がある意味で一番面倒だった…………。

あと十節だけ解放するの面倒過ぎ。自然回復じゃ終わらないだろこれ。いや、後一週間もあるんだし余裕だな!

そんなわけで投稿します。


 

 

 

 

 

 

「くっ…………俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「ふふん。私のターンだね、ドロー!」

 

 

やはりというか、何事もうまくいくと気分が良くなるものだ。

 

人生とはそう甘くはないとはいえ、全てが全て予想外なことではない。地道な積み重ねは成功に繋がるし、その逆も然り。私が今アイドル活動を続けていられるのも、そういった成功を積み上げてきた成果なのだから。

 

まあ、それはともかくとして、引いたカードはこれまた普通。期待値通り、とも言う。運気が見える私に言えたことじゃないとはいえ、これでいいんだよこれで。デュエルに非常識な要素が絡むと、どうしても計算が狂ってしまうから。

 

 

「私は………うーん。手札からフィールド魔法、《魂魄の格闘場》を発動。

 

このフィールド魔法は、ランク8以上のナンバーズが破壊された時に手札全てを捨ててその効果を発動できるんだけど、今はあんまり意味ないね」

 

「ランク8…………」

 

「まあ、気になるならそこまで行くのを阻止するか、普通に破壊すればいいよ。私もあんまり期待してないし。

 

で、私は手札から《RUMー幻影騎士団 ラウンチ》を発動。私のフィールドにいるグランブルロゴスを対象に、対象モンスターをランクアップできる」

 

 

 

 

 

 

 

《魂魄の格闘場》

フィールド魔法

このカード名の効果は各プレイヤーがデュエル中にそれぞれ1度ずつ、合計2度までしか発動できない。

①:このカードがフィールドゾーンに存在し、フィールド上に存在するランク8以上の「No.」と名のついたモンスターが破壊された時、

手札を全て捨てて発動できる。

エクストラデッキにある「No.」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

 

使えないフィールド魔法はさておいて、発動せしは2枚目のランクアップマジック。私にしても、真剣勝負で大真面目にランクアップチャレンジなんて初めてだからかなり緊張しているけど、さて、彼はどう出るかな?

 

 

「私はランク2、グランブルロゴスでオーバーレイ!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

顕れよ、ランク3、《No.47 ナイトメア・シャーク》!」

 

 

 

 

 

 

《No.47 ナイトメア・シャーク》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/水属性/海竜族/攻2000/守2000

レベル3モンスター×2

①:このカードが特殊召喚に成功した時、

自分の手札・フィールド上から水属性・レベル3モンスター1体を選び、

このカードの下に重ねてエクシーズ素材とする事ができる。

②:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

自分フィールド上の水属性モンスター1体を選択して発動できる。

このターン、選択したモンスター以外のモンスターは攻撃できず、

選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

 

 

 

 

 

 

召喚するのは、シャークくん繋がりで漫画の彼が使用していたナンバーズ。シャーク繋がりならリバリアンシャークでもよかったし、どちらかと言えば私にはそっちの方がお似合いかもしれないけど、流石にこの段階でセブンスワン想定のモロにバリアン要素を含むカードを出すのは気がひけると言うか。

 

 

「ランク3は、シャーク繋がりでこのカード。

 

このカードはオーバーレイユニットを一つ使って、水属性モンスターに相手プレイヤーへと直接攻撃できる効果を付与する能力があるんだけど、まあ今は関係ないね。君のフィールドは、モンスターがいないし」

 

「…………それはどうかな?

 

この瞬間、罠発動!《スプラッシュ・キャプチャー》!

 

墓地にある魚族モンスター、ハンマーシャークとキラーラブカを除外し、お前が召喚したナンバーズを頂くぜ!」

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

《スプラッシュ・キャプチャー》

通常罠

①:相手がエクシーズ召喚に成功した時に発動する事ができる。

自分の墓地に存在する魚族モンスター2体をゲームから除外して、

そのモンスターエクシーズ1体のコントロールを得る。

 

 

 

 

 

 

 

 

どや顔で効果の解説をしていたら、なんかナンバーズが奪われてしまったの巻。モンスターを奪うのは私の専売特許だと言うのに、少し油断しすぎである。

 

というか、やばいやばい。まさか本来ならばデメリットありきのナンバーズをこんなどうでもいいデュエルなんかで奪ってくるのは流石に想定してなかったよ。

 

え? もしかしてアレ? 彼はこのデュエル、そんなに覚悟をキメてやってるの? 嫉妬如きで? 嫉妬って怖いなぁ。いつか私にも、そんな相手ができるのかな?───って、違う違う。また思考が逸れた。

 

 

(───やっばい。どうしようかな)

 

 

私が好んで使っているからよくよく理解しているが、コントロール奪取は決まれば致命的な被害を被る必殺技だ。特にこの世界ではライフが半分しかないし、フォローができねば普通に死んでしまう。

 

もちろん、私にだってコントロール奪取対策のカードはいくらか積み込んでいるとはいえ、私にはそれを都合良くこの場面で手札に控えさせられるほどの運命力はない。いや、ガチでどうしよう?

 

 

「えーと。…………私はこれで、ターンエンドで」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

やれることがないので、素直にターンを明け渡す。対するシャークはと言えば、ナンバーズのデメリットがないからなのか何時ぞや(アニメで)のアシゴと比べ物にならないほど元気そうだ。

 

いや、私は別に彼を苦しめたいわけじゃないからそれでいいんだけど、今だけはその気力が恨めしい。だって私、なんだかんだで割と疲れてるし。過労死するほど過密スケジュールではないにせよ、まだ成人にもなってない小娘に与えられていい仕事量ではない。───まあ、かつての私よりは断然楽だけど(物理的に)。

 

 

「自分フィールドに水属性モンスターが存在する場合、手札の《サイバー・シャーク》はリリースなしで召喚できる!

 

更に俺は、サイバーシャークを対象にマジックカード、《アクア・ミラージュ》を装備!

 

このカードの効果により、装備モンスターをエクシーズ召喚の素材とする場合、装備したこのカードを装備モンスターと同じレベルのモンスターとして扱える!」

 

 

 

 

 

 

《サイバー・シャーク》

効果モンスター

星5/水属性/魚族/攻2100/守2000

自分フィールド上に水属性モンスターが存在する場合、

このカードはリリースなしで召喚する事ができる。

 

 

 

《アクア・ミラージュ》

装備魔法

水属性モンスターにのみ装備可能。

①:装備モンスターをエクシーズ素材とする場合、

この装備カードは装備モンスターと同じレベルの

モンスターとして扱ってエクシーズ素材とする事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

(───えーっと、つまり、レベル5が2体?)

 

 

ややこしいが、多分間違いない。わざわざ装備カードを付けた以上、まさかそのまま攻撃してくるはずはないだろうし。しかし、彼にナンバーズ(アビスのおっさん)以外でのランク5がいただろうか。まあいるんだろう。きっと。

 

それよりなんとなく出したナイトメアシャークくんがおもっくそ足を引っ張ってますね…………これはいけません。こんなんなら素直にアシゴを出せばよかったか。私のアシゴはアニメと違って特殊召喚を封じるから、すぐリリースされるにせよ最低1体はモンスターを減らせたわけだし。…………いや、今更すぎるけど。

 

 

「俺はレベル5のサイバーシャークと、アクアミラージュをオーバーレイ! エクシーズ召喚!

 

海よ切り裂け!猛々しき鮫の巣よ! 現れろ!《シャーク・フォートレス》!」

 

 

 

 

 

 

《シャーク・フォートレス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/魚族/攻 2400/守 1800

レベル5モンスター×3

自分フィールド上にモンスターエクシーズが存在する場合、

このカードはエクシーズ召喚に必要な素材の数を1つ減らしてエクシーズ召喚する事ができる。

①:このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

相手はこのカード以外のモンスターを攻撃対象に選択する事はできない。

②:自分フィールド上に存在する「シャーク」と名のつくモンスターが

戦闘を行った自分のバトルフェイズ中、

このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

そのモンスターはもう一度だけ続けて攻撃する事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…………」

 

 

そういえばいましたね、シャークフォートレスさん。

 

というか、なんで私はシャークカイゼルなんて微妙なモンスターを覚えていたのにあのカードを忘れてたんだろう…………多分「シャーク」のイメージじゃないからですねわかりますん。いや、だってあのカード、純正シャークデッキ(バハムート主体)にはほぼ入らないで別のデッキのコンボパーツの印象が強いんだもの。私は悪くない。全てはワンキル脳に溢れた前世が悪いんだ。

 

 

「バトルだ!

 

俺はナイトメアシャークで、ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!《双龍降臨》!

 

相手エクシーズモンスターの直接攻撃宣言時、エクストラデッキからこのカードを特殊召喚する!

 

降臨せよ、我が魂! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

 

 

 

 

 

《双龍降臨(ダブル・ドラゴン・ディセント)》

通常罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

①:相手のエクシーズモンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

エクストラデッキからドラゴン族・光属性のエクシーズモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚し、

攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は

攻撃モンスターの攻撃力と同じ数値になり、効果は無効化される。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、こちらも負けてはいない。普通の手札なら普通に防御札くらいは用意している。これで相手がモノホンのナンバーズを使っていたなら話は別だが、あのナンバーズは………。

 

 

「そして、この効果で特殊召喚したエクシーズモンスターの攻撃力は攻撃モンスターと互角となり、強制的に戦闘を行う!」

 

「───へっ、無駄だ! ナンバーズはナンバーズでしか破壊されない!

 

一度攻撃を防いでも、シャークフォートレスの効果で追撃をすれば…………」

 

「さて、それはどうかな?」

 

「───何?」

 

 

シャークの攻撃指示に従い、私の時より心なしか張り切ってハイドロポンプ(※違います)を放ったナイトメアシャークが、光波竜の迎撃の光線に巻き込まれて消滅する。

 

そう、改めて説明するまでもなく、私のナンバーズには特定の相手以外にのみ及ぶ戦闘耐性なんて面倒な効果は保有していない。これはエクシーズそのものの特別性を廃し、シンクロや融合といった普遍的な要素に擦り合わせるためである。まあ、シンクロがあるかも怪しいこの世界では、そんな理屈は通用しないんだろうけど。

 

 

「なっ───馬鹿な、ナンバーズが破壊された…………?」

 

「それはまあ、攻撃力は互角なんだから普通に破壊されるでしょ。

 

で、私はナイトメアシャークの素材として墓地に送られた光波異邦臣の効果発動。デッキから『RUM』を手札に。2体だから2枚加えます。

 

そして、罠カード、《光速速攻》を発動。このカードは、手札の速攻魔法を発動できる罠カード。この効果によって、私はさっき手札に加えた《RUMーマジカル・フォース》を発動するね。

 

これにより、この戦闘で破壊されたナイトメアシャークとこのカードを素材に、ランクが一つ上の魔法使い族エクシーズモンスターをエクシーズ召喚する」

 

「墓地のカードで、ランクアップだと…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMーマジカル・フォース》

速攻魔法

①:このターンに戦闘で破壊され自分の墓地へ送られたXモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚し、

そのモンスターよりランクが1つ高い魔法使い族Xモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚し、

このカードを下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

 

 

 

(───厳密には、墓地からランクアップってわけじゃないけど…………まあ、いいか)

 

 

どちらにせよ、似たようなものだ。実際、ソウルシェイブ辺りとの違いなんてトリガーの有無や進化先の指定くらいしかない。

 

そして、このカードを発動したならば、召喚するのは当然。

 

 

「天空の奇術師よ。華やかに舞台を駆け巡れ!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク4、《Emトラピーズ・マジシャン》!」

 

 

 

 

 

 

《Em(エンタメイジ) トラピーズ・マジシャン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/魔法使い族/攻 2500/守 2000

魔法使い族レベル4モンスター×2

①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

このカードの攻撃力以下の効果ダメージは0になる。

②:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターはこのターン、2回攻撃しなければならない。

2回攻撃しなかった場合、その対象のモンスターはバトルフェイズ終了時に破壊される。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 

 

 

 

発動した人物繋がりで、このカード。私とのイメージでもさほど外れてないし、別にナンバーズ縛りをしているわけでもないしね。…………あとは単純に火力がシャークフォートレスを上回ってる魔法使い族のエクシーズがこれとシャイニングくらいしかなかったから消去法で。

 

 

「2500…………!」

 

「それだけじゃないよ。私はトラピーズマジシャンの効果発動。

 

オーバーレイユニットを一つ使って、シャークフォートレスを選択。選択したモンスターはこのターン2回攻撃ができる代わりに、2回攻撃をしなければ破壊されてしまうデメリットを背負う。

 

さぁ、シャーク。戦闘を巻き直すけど、どうするかな?」

 

「チッ…………!

 

俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「じゃあ、バトル終了後、シャークフォートレスは破壊される」

 

 

これで形勢は逆転。攻撃される順番が逆だったら厳しかったけど、ナンバーズ耐性やシャークフォートレスが破壊された場合のリスク、奪ったモンスターへの思い入れとかを考慮すればこんなものだろう。少なくとも、私が彼の立場だったのなら、次元幽閉とかを警戒してナイトメアシャークから攻撃する。

 

それに、彼からすればナンバーズ耐性がないナンバーズなんて、完全に思慮の外側だっただろうしね。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

引いたカードは上々。多分、形勢がこちらにはっきり傾いているからだと思う。私の感覚だとあと二、三手は必要そうな感じだったけど、下手したらこれはこのターンで終わりかな?

 

 

「私はトラピーズマジシャンの効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使い、トラピーズマジシャン自身を対象に、2回攻撃の権利を与える!

 

今、君のフィールドにモンスターはいない。これが通れば、君は終わりだね」

 

「っ…………!」

 

「バトル!

 

私はトラピーズマジシャンで、シャークにダイレクト───」

 

「───罠発動、《ディープ・カーレント》!

 

その攻撃を無効にし、バトルを終了させる!」

 

 

 

 

 

 

 

《ディープ・カーレント》

通常罠

①:相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃を無効にしバトルフェイズを終了する。

 

 

 

 

 

 

(───あっ)

 

 

「…………むぅ」

 

やばいやばい。まさかの無力化だったのねそれ。いや、想定内ではあるんだけど、このタイミングではその中でも最悪に近いなぁ。

 

しかしまあ、未だ運気は私を味方している。ならば、どんな状況だろうとも挽回ができるのが運命力という力。そして、デュエリストという存在なのだ。

 

 

「なら、チェーンして速攻魔法、《RUMークイック・カオス》を発動!

 

自分フィールドのエクシーズモンスター1体をランクアップさせ、カオスエクシーズを特殊召喚する!」

 

「───カオスエクシーズ!?」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMークイック・カオス》

通常魔法

①:自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターよりランクが1つ高い「C」と名のついたモンスター1体を、

選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

「───顕現せよ、CNo.39!

 

混沌の力まといて勝利を目指せ、進化した勇姿が今ここに現れる!

 

ランク5、希望皇ホープレイV!」

 

 

ランク5、カオスエクシーズと言えばこのカード。ホープレイV。色々と嫌な印象を受けるこのカードも、私が使えばただのカードと変わらない。だって、私にしたらどちらも同じカードでしかないから。

 

 

「ホープ、だと…………!?」

 

「そう。これは遊馬くんのエースがカオス化したモンスターだね。まあ、残念なことにその真価が発揮される機会はなさそうだけど。

 

───じゃあ、シャーク。時間もそろそろ良い感じだし、最後は飛ばしていくよ!」

 

「っ───」

 

 

私の残る手札は2枚。その内1枚がさっきサーチしたRUM。

 

普通に考えたら、この状況でランクアップをしたところで上がり幅はたかが知れている。しかし、かつての私のエクシーズという名のナニカ(原作再現カード)には、そんな常識は通用しない! …………ランクアップ自体が常識的ではないという意見は却下で。

 

 

「メイン2。

 

私はホープレイVのオーバーレイユニットを一つ取り除くことで、エクストラデッキにある《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》の効果発動!

 

このカードは、自分フィールドのランク5以上のエクシーズモンスターのユニットを一つ使うことで、そのモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる!

 

来て! ランク6、レディジャスティス!」

 

 

 

 

 

 

《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/水属性/水族/攻 500/守 500

レベル6モンスター×2

このカードは自分フィールドのランク5のXモンスターからX素材を1つ取り除き、

そのXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

①:このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×1000アップする。

②:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 

 

 

 

この前からロクな扱いをされないホープレイVさん。でもまあ、私はホープに思い入れなんかあんまりないし。むしろホープ一族はだいたいライトニングさんの素材扱いしかしてなかったし、いいのだ。

 

 

「ランク6………!」

 

「まだまだ。

 

続いて私は、手札から、《RUMーアストラル・フォース》を発動。

 

このカードは、自分フィールドにいる最もランクの高いエクシーズモンスターを選択し、そのモンスターを2つまでランクアップできる」

 

「一気に2つ、更にランクアップか………!」

 

 

 

 

 

 

 

《RUMーアストラル・フォース》

通常魔法

①:自分フィールド上のランクが一番高いモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。

選択したモンスターよりもランクが1つまたは2つ高いモンスターエクシーズ1体を、

自分のエクストラデッキから、選択したモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。

②:自分のドローフェイズ時に通常のドローを行う代わりに、

このカードを自分の墓地から手札に加える事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

当然のように使われるアストラルフォース。さっきからRUMを多用しているせいか、だんだん驚かれなくなっているのが少し悲しい。もっと周囲の生徒みたいに手放しに驚いてもいいのよ? おどろおどろしいフィールド魔法がいろいろと台無しにしているけど。

 

それとも、そんなことを考える暇もないのだろうか。『アストラル』・フォースってカードなのにその辺はノーリアクションだし…………いや、このカードの特異性を知ってるのは私だけだから別に不思議はないんだけど。

 

 

「ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク8、《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》!

 

───そして私は、今召喚したランスロットを素材にして、更にエクシーズ召喚を行う」

 

「っ…………」

 

「出落ちみたいで申し訳ないけど、これも勝負だからね。

 

───このカードは、自分フィールドのランク8から10の闇属性エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することもできる。

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク11、《No.84 ペイン・ゲイナー》 !」

 

 

 

 

 

 

 

《No.84 ペイン・ゲイナー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク11/闇属性/昆虫族/攻 0/守 0

レベル11モンスター×2

このカードは自分フィールドのX素材を2つ以上持った

ランク8~10の闇属性Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

①:このカードの守備力は、自分フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする。

②:X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、

相手が魔法・罠カードを発動する度に相手に600ダメージを与える。

③:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このカードの守備力以下の守備力を持つ相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

 

 

 

 

発動しているフィールド魔法にこれ以上なくマッチしていたランスロットくんが消滅した先に現れたのは、割と普通の彩色をしている体長1メートル近くの巨大な蜘蛛。

 

ぶっちゃけこの時点でかなり不気味なモンスターではあるのだが、遊戯王の昆虫族は下手をしなくても人間大を遥か上回るモンスターばっかりなために全体を見れば小柄な部類に入るという…………。

 

でもまあ、言い方は悪いのだがこのカードも所詮は繋ぎだ。流石に全てをランクアップマジックで、なんてことは不可能だったけど、【RR】を使わないでこれだけやれたのなら十分だろう。少なくとも、授業としては。

 

 

「そして、これが最後。

 

このカードは、自分フィールドのランク10及び11の闇属性エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することもできる。

 

ヒトの絶望を紡ぐ化天を司る糸よ。

 

儚き無幻となりて我が混沌なる魂を導け!

 

ランク12、《No.77 ザ・セブン・シンズ》 !」

 

 

 

 

 

 

《No.77 ザ・セブン・シンズ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク12/闇属性/悪魔族/攻4000/守3000

レベル12モンスター×2

このカードは自分フィールドのランク10・11の闇属性Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

この方法で特殊召喚したターン、このカードの①の効果は発動できない。

①:1ターンに1度、このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。

相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て除外し、

除外したモンスターの中から1体を選んでこのカードの下に重ねてX素材とする。

②:フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊される場合、

代わりにこのカードのX素材を1つ取り除く事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

天空を覆い尽くす、魔天を統べる大蜘蛛。

 

空そのものを我が庭として扱うその不条理な存在は、その邪悪にして異質な威圧感を以ってして、この世界すらも震わせんとして君臨した。

 

 

「こいつは………!?」

 

「ランク12、ザ・セブン・シンズ。私の持つ、最高ランクのエクシーズモンスター。本当はもっと解説すべきことはあるんだろうけど………今の君は敵だから、それを語る理由はないね。

 

じゃあ、私はこれで、ターンエンド───さぁ、君はこのカードを超えられるかな?」

 

 

セブンシンズを背後に従え、にっこりと微笑んで宣言する。

 

そんな、あまりにアイドルというイメージにかけ離れたカードを使う、デュエリストとしての私を今更ながら認識したシャークは、ただでさえ険しい顔つきを更に精悍なものへと切り替えて、力強く自らの運命を切り開く(カードをドローする)のだった。

 

 











我が魂(壁)



流石に一つ一つRUMは長くなり過ぎてシャークさんのリソース(アニメ・漫画での使用カード)が尽きたので後半をざっくり削りました。今度は逆にシャークさんのターンが薄くなった感はありますが勝てばいいんだよ!(勝てるとは言ってない)

一応、まだどちらも勝てる状況にはしています。というか割とどっちも盤面はスカスカです。次回はゴールドラットやギャラクシークイーン辺りが出せるかもしれません(出すとは言ってない)

あ、光波竜の出番はこれで終了ですので悪しからず。


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爆誕! アーマードエクシーズ!

やぁっっと書き終わった………。

短いです。でも今回でシャーク戦は終わります。


 

 

 

 

 

「さあさあ、是なるは私の持つ最高ランクのナンバーズ!ランク12、セブンシンズ!

 

那由他の彼方、須臾の可能性、輪廻を経てして手にした我が力、その断片の一つ! なんてね!

 

この子は光波竜が如く本家に至った(・・・・・・)りはしてないけど、神代凌牙である(・・・・・・・)君なら、もしや討ち滅ぼせるやもしれないね!」

 

 

霊魂漂う闘技場を背景(バック)に、化天を統べる少女は笑う。

 

この場にあまりにそぐわない朗らかなその表情(カオ)は、それがより一層奴の不気味さと異常性を醸し出していた。

 

 

(───攻撃力4000、最高ランクのナンバーズ…………)

 

 

デュエルモンスターズにおけるモンスターの最高レベルは12。それと同様の数値を持ったモンスターエクシーズだ。どうあっても無反応ではいられない。

 

無論、あれだけのものを見せられた後だ。今の俺は、奴が先に言ってたようにランクを基準にしてモンスターの優劣を語る気は無い。しかし、アレはそんな奴自身がわざわざ自慢するだけのモンスター。なら、俺が警戒をするには十分だ。

 

 

(───だが…………)

 

 

それに加え、思考の淵にこびり付いて離れない疑問もある。奴のターンに起きた摩訶不思議な戦闘。アレを前提とするならば…………。

 

 

「───随分と妙な表現だな、アンタ」

 

「そうかな? いや、そうだねぇ、確かに。───でもまあ、どうでもいいよね?」

 

「いや、そうでもねぇが…………」

 

「あら、それはちょっと予想外だね───長くなるけど、説明する(言い訳を聞く)?」

 

「それはいい。どうせはぐらかす気だろ」

 

「あ、バレちゃった?」

 

 

(…………)

 

 

へらへら笑って、歌うように奴は告げる。不思議なことに、不快感はあまりない。上手な笑い方、とでも言える何かがあるのだろうか。それとも、彼女の人徳が成せる技なのか。少なくとも俺は、Ⅳに同じことをされたらブチ切れる自信がある。

 

アイドルデュエリスト、蝶野さなぎ。俺はアイドルなんてもんに興味はなかったが、奴は別だ。アイドル云々ではなく、デュエリストとしてアイツは異常過ぎる。だか、それさえも下手すれば塗り替えそうな遊馬に匹敵するお人好しオーラが、その印象を諸共にヴェールで覆い隠していた。

 

 

「───どうも、アンタみたいな奴は苦手だ。調子が狂う」

 

「そう? ───まあ、君みたいなヒトならそうかもね。

 

良く言えば孤高、悪く言うなら人見知り…………良くも悪くも、懐に入られることを苦手とするタイプ。

 

私がそうなら、多分君は遊馬くんも苦手なタイプなんだろうけど、私と彼では君との付き合いが違うからね。君の友達に対する基準は流石にわからないけど、それに自分が入ってるなんて自惚れはできないから」

 

 

どうかな、とおどけて聞き返す彼女に対し、俺は返す言葉を失う。それは果たして、奴の言葉が正しいからなのか、あるいはあまりに的外れであるが故に困惑でもしているのか。自身に問うが、いまいち答えは出ない。俺がどんな人間なのかなんて考えること自体が、ガラではないと自覚しているからだ。

 

 

「あ、ちなみに私はかなり友達の基準が緩いよ。とりあえず君もそう、って言えば伝わるかな?」

 

「…………いや、俺は流石に違うだろ」

 

「違う違う。デュエルをしたら友達(・・・・・・・・・・)なんだよ、私にとっては。

 

勿論、ファンの人たちも友達感覚で接してる私の基準が相当軽いのは認めるけど、これだけは譲れないね。あとはそうだね。自己紹介してから握手をする、とかかな。いや、まあたまぁに例外がいるのは認めるけどね。会話する気すら感じられなかった天城カイトさんとかそれこそあの傍迷惑な大会を開いたDr.フェイカーさんとか」

 

「…………」

 

「トロンくんは微妙かなぁ…………なんか他に思考がいっぱいで私なんか眼中にないって感じだったし。いや、こうして振り返ってみると例外ばっかだね! たまぁにって発言は撤回で。あ、だけど君はちゃんとカウントしてるから」

 

「───そうかよ」

 

 

デュエルをしたら友達。まさしく遊馬と同じようなことを言う女だ───いや、そうだ、思い出した。

 

いつしか俺は、奴と同じように苦手としていた暑苦しい奴(九十九遊馬)を認めていた。煩わしく思って邪険にしていても、きっとどこかで気に入っていた。つまりはまあ、そういうことなんだろう。

 

奴の笑顔が、どこかあいつに被るから、俺は奴にどうにも強く出られない。気に入らないのに、そういう奴なのだと認めている。アイドルなんてくだらない役職も、こういう奴がやっているならば。それもそれで、不快とは思わない。

 

 

「…………俺のターン、ドロー」

 

 

引いたカードは《逆境の宝札》。この場面なら、ノーコストで2枚ドローができる有用なカードだ…………が。

 

 

(───ここで、あいつ(遊馬)が使っていたカードを引くとはな)

 

 

噂をすれば、というヤツか。このカードは、先のデュエルでのあいつを連想させるカード。しかも、対峙してる相手や、一見して絶望的な状況も同じ。単なる偶然なんだろうが、こうもタイミングが良いと笑ってしまう。

 

さて、これはどういうことなのか。あまりオカルトに興味がないこの俺でも、この引きには運命のような何かを感じずにはいられない。

 

 

「ふむふむふむ。手札が2枚に、ね。

 

なーんか嫌なことを思い出すなぁ。でも、今の君にそれができるかな?」

 

「さぁな。───俺は手札から、《ダブルフィン・シャーク》を召喚!

 

水属性モンスターエクシーズの素材とする場合、このカードは1体で2体分の素材にできる!」

 

 

 

 

 

 

 

《ダブルフィン・シャーク》

効果モンスター

星4/水属性/魚族/攻1000/守1200

①:このカードを水属性モンスターエクシーズのエクシーズ素材とする場合、

1体で2体分の素材とする事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

お前には無理だ───被害妄想でしかないが、暗にそう言われたような気がして、やや憤って返答する。

 

だが、逆境と言うだけあって戦況は間違いなくこちらが不利だ。残された手札は1枚………いや、2枚。フィールドはアドバンテージ面では互角でも、肝心の中身は向こう側が圧倒的。そもそも俺のデッキは小回りが利く代わりに火力を出すのに向いてない。そんな状況で、俺はあのバケモンをぶっつぶさなきゃならねぇわけだ。

 

 

(───できるか? いや)

 

 

出来るか、ではない。やらねばならないのだ。幸いにも、引いたカードから流れ自体は来ている。これを綺麗に維持できるかはどうあれ、可能性があるならやってやろうじゃねぇか。

 

 

(───だが、一つ。このフィールド魔法…………)

 

 

発動したっきり、何の動きもないこの恐ろしいフィールド。これがどうにも引っかかって仕方がない。

 

このフィールドは、『ランク8以上のナンバーズが破壊された時』に発動できると奴は言っていた。なら、ここで奴がランク12であるセブンシンズを召喚したのはこれを狙っているからなのか?

 

奴に残された手札、ナイトメアシャーク、双龍降臨、そして、このフィールド魔法。

 

 

(───ごちゃごちゃ考えるのは性に合わねえ。どっちにしろ俺にはこれしかねぇんだ。なら、その可能性を信じてやる)

 

 

「手札がこのカードのみの時、マジックカード《オーロラ・ドロー》を発動できる! カードを2枚ドロー!」

 

 

 

 

 

《オーロラ・ドロー》

通常魔法

①:手札がこのカード1枚のみの場合、手札からこのカードを発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 

 

 

 

引いたカードは《死者蘇生》に《プルート・サルベージ》。俺の予想が正しければ、これはほぼベストの手札だ。これならば、きっといけるはず。

 

 

「更に俺は、《死者蘇生》を発動!

 

この効果で俺は、お前の《銀河眼の光波竜》を特殊召喚する!」

 

「──────え?」

 

 

奴の笑顔が完全に固着したことで、俺は更なる確信を深める。

 

ヒントはあった。それは、このカードの名称。カイトと同じ、ギャラクシーアイズ。デュエルモンスターズには、時折このように名称の似通ったモンスターが存在する。それを別の人物が使用する、というケースは珍しいが、それ故に。

 

 

(───おそらく、このカードにはナンバーズを破壊できる(・・・・・・・・・・・)効果がある)

 

 

系統は違えど、カイトのギャラクシーアイズはナンバーズを対策した効果を持っていた。ならばそれを、同じギャラクシーアイズであるこのカードが保有していないと誰が言えよう。

 

 

(───奴の反応からして、これはビンゴだ。ならば後は、火力を増せばいいだけ)

 

 

苦手とはいえ、出来ないわけではない。フィールドには丁度お誂えのカードがあるわけだし、なんとなく、少しだけ気にいらねぇが、やってみせる!

 

 

「この瞬間、罠カード《フル・アーマード・エクシーズ》を発動!

 

自分フィールドにモンスターエクシーズが特殊召喚された時、新たにエクシーズ召喚を行う!

 

これにより、俺はレベル4、2体分のダブルフィンシャークでオーバーレイ!」

 

「ちょっ───それ、私の…………」

 

「吼えろ、未知なる轟き。

 

深淵の闇より姿を顕せ!《バハムート・シャーク》!」

 

 

 

 

 

 

 

《フル・アーマード・エクシーズ》

通常罠

①:自分フィールド上に特殊召喚したモンスターエクシーズ1体を選択して発動できる。

このターンに1度、エクシーズ召喚を行う。

その後、このターンのメインフェイズ、この効果でエクシーズ召喚したモンスターエクシーズ1体に、

選択したモンスターを装備カード扱いとして装備することができる。

この効果でモンスターを装備したモンスターエクシーズの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。

また、装備モンスターが破壊される場合、

代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを墓地へ送る事ができる。

 

 

 

 

《バハムート・シャーク》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/水属性/海竜族/攻2600/守2100

水属性レベル4モンスター×2

①:1ターンに1度、エクストラデッキから水属性・ランク3以下のエクシーズモンスター1体を特殊召喚できる。

その後、このカードのエクシーズ素材1つを、この効果で特殊召喚したモンスターに分け与える。

 

 

 

 

 

「バハムートシャークの効果発動!

 

俺のエクストラデッキから《潜航母艦エアロ・シャーク》 を特殊召喚し、このカードのオーバーレイユニット一つをエアロシャークに分け与える!

 

ゴッド・ソウル!」

 

「むぅ………!」

 

「呼び出したエアロシャークの効果発動!

 

俺の手札の枚数×400、つまり400のダメージをアンタに与える!」

 

「っ…………!」 さなぎ LP4000→3600

 

 

 

 

 

 

 

《潜航母艦エアロ・シャーク》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/水属性/魚族/攻1900/守1000

レベル3モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

自分の手札の枚数×400ポイントダメージを相手に与える。

 

 

 

 

 

 

 

これでひとまずライフは逆転した。とはいえ、元から逆転云々と言えるほどの差はない。しかし、口火としては充分。あとは奴のナンバーズを打ち崩し、更にこの最大の懸念事項(フィールド魔法)をさえ封じれば、勝てる!

 

 

「ここで俺は、フル・アーマード・エクシーズの更なる効果を発動!

 

効果の対象となった銀河眼の光波竜に、この効果で特殊召喚したバハムートシャークを装備! 装備対象となった銀河眼の光波竜の攻撃力は、バハムートシャークの攻撃力分だけ上昇する!」

 

「えっと、つまりは5600?

 

しかも、うわぁ、なんかスゴイカッコ良くなってるし…………」

 

「バトルだ!

 

俺は銀河眼の光波竜で、ナンバーズ77、ザ・セブン・シンズを攻撃!」

 

「………………………………」 さなぎ LP 3600→2000

 

 

見れば見るほどカイトのモンスターにそっくりなこいつが、奴の巨大な蜘蛛を仕留めんと光線を吐き出す。

 

その姿にますます既視感を覚えるも、しかし結果はカイトのそれとは全く違い、奴のモンスターは俺が推察した通り、ナンバーズであるはずのセブンシンズを真正面から打破せしめた。

 

 

「見事───と、言いたいところだけど、残念。忘れていないかな?

 

この戦闘によってランク12であるセブンシンズが破壊されたことで、私はフィールド魔法、《魂魄の格闘場》の効果を発動できる。

 

その効果は、手札を全てと引き換えに、エクストラデッキから可能な限り『No.』を呼び出せるというもの。

 

この効果により、私は───」

 

「この瞬間、俺は速攻魔法《プレート・サルベージ》を発動!

 

発動後、2ターンの間、全てのフィールド魔法の効果を無効とする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

《プレート・サルベージ》

速攻魔法

①:発動後2ターンの間、フィールド魔法カードの効果を無効にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ…………!?」

 

 

初めて。ここに至ってようやくはっきりと奴の顔が歪む。

 

派手な展開を繰り広げることで、意識を逸らしたと錯覚していた切り札をまんまと防がれた所為だろうか。少なくとも、奴にとって驚愕に値する出来事ではあったのだろう。

 

これで若干の溜飲は下がったが、攻めの手は緩めない。食らいついた獲物は決して離さないことが、鮫の流儀だからな。

 

 

「そして、俺はエアロシャークで、ダイレクトアタック!」

 

「〜〜っ!!」 さなぎ LP 2000→100

 

 

(───もう1枚、手札があれば…………いや)

 

 

もしもの話は好きじゃない。あの時に手札を余分に持って置けなかったのは単に俺が実力不足だっただけのこと。同様にこのタイミングで奴のライフを削り切れなかったのもそう。他ならぬ俺が、それに苦言を呈してどうなるのか。惨めなだけだ。

 

それに、絶体絶命と思われた戦況も完全に逆転し、ライフ差もほぼ初期値にまで膨れ上がった。これ以上は、贅沢と言うものだろう。

 

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

 

「…………っ、

 

私の、ターン!」

 

 

《プルート・サルベージ》の効果が適応されていることで、完全に色が抜け落ちたフィールドの中央で奴がカードを引き抜く。

 

既にその表情に余裕らしさは感じられず、しかして気迫は微塵も衰えずに、俺は彼女の仮面(アイドル)に隠されたデュエリストとしての面を垣間見た気がした。

 

 

「来た………!

 

私はマジックカード、《ディメンション・エクシーズ》を発動!

 

ライフが1000以下で、フィールド・手札・墓地のいずれかに同名のモンスターが3体揃っている場合、それらのカードを素材としてエクシーズ召喚する!」

 

 

 

 

 

 

 

《ディメンション・エクシーズ》

通常魔法

①:自分のLPが1000以下の場合に発動できる。

自分の手札・フィールド・墓地に同名モンスターが3体揃っていれば、

それらを素材としてX召喚できる。

 

 

 

 

 

 

おそらくは奴にとってのラストターン。最後に彼女が発動したのは、見覚えのないエクシーズ召喚補助カード。だが、今までのとんでもないカードと比べると随分妥当な効果のサポートではある。

 

しかし、奴が今までに使用した同名モンスターなど、最初に素材としたあのカードしか思い当たらない。最後の1枚は手札のアレだとしても、この場面で再びランク1のモンスターを…………?

 

 

「私は手札に1枚、墓地に2枚存在するレベル1、《光波異邦臣》3体をオーバーレイ!」

 

「来るか………!」

 

 

大地に煌めく銀河が爆発し、莫大な光がフィールドを覆う。

 

いつも目にする、モンスターエクシーズの召喚エフェクト。この場においても正しく行われたその先にあったのは、とてもランク1とは思えない派手な様相をした獅子のモンスターだった。

 

 

「ランク1、《No.54 反骨の闘士ライオンハート》…………。

 

だいぶ予想外だったけど、このカードで決めさせてもらうよ───!」

 

 

 

 

 

 

 

《No.54 反骨の闘士ライオンハート》

エクシーズ・効果モンスター

ランク1/地属性/戦士族/攻 100/守 100

レベル1モンスター×3

①:フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードは戦闘では破壊されない。

②:このカードの戦闘によって自分が戦闘ダメージを受けた時、

受けた戦闘ダメージと同じ数値のダメージを相手ライフに与える。

③:このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、

このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃力100…………?」

 

 

この場面で、攻撃力100のモンスター? いや、ランク1に攻撃力の高さを期待してなんかいないが、3体をも素材にした割には…………。

 

 

「ステータスやランク、効果の強弱に優劣、ましてや希少さでそのカードの価値は決まらない。

 

属性のサポートを受けられる。レベルの高さが武器になる。その種族であることに意味がある。名前こそ重要な要素となる。君もテーマデッキを組んでいるのなら、その理由はわかるよね?」

 

「…………ああ」

 

「このカードも、その一つ。ステータスや効果に無視できないほどの癖があって、簡単に対策されるからこそ使いづらい、されど強力な効果を持つモンスター。

 

私の切り札とは比べるべくもない、だけれどこの場においてはその評価を軽々と凌駕する価値を持ってるカードだよ」

 

 

真剣に、真っ直ぐこちらを見つめて彼女は続ける。

 

ランクに優劣など、本来なら無いと。ランクアップなど、単なる芸でしかないのだと。よりにもよって、その常識を覆した女が。

 

 

「つまり何が言いたいかと言うと───まあ、あれだね。勝利宣言。

 

君のフィールドには、さっきの私のように強力なモンスターが棒立ちしているだけ…………故に、勝利の方程式は、ここに全て揃った」

 

「───」

 

 

それは、その言葉は確か。あいつの、いや、あいつに憑いた、アストラルの───

 

 

「ライオンハートの効果。

 

攻撃表示のこのカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘で自分が受けるダメージと同じ数値のダメージを相手にも与えることができる。

 

───また、オーバーレイユニットを一つ使い、戦闘ダメージを反射する能力も持っている。

 

君のライフは、3900。銀河眼の光波竜の今の攻撃力は5600。つまり、発生するダメージは5500」

 

「───なるほどな」

 

 

確かにかなり癖のあるカードで、対処も容易なモンスターだ。さらに言えば、レベル1を3体も素材とする関係上、そもそもが出しづらい一面もある。しかし、この場においてのあのカードは、おそらく奴にとっての最後の切り札。最強の1枚。出した以上は、その経緯などどうでもいい、と。

 

 

「今回は私の勝ちだけど───一歩間違えば、私は惨敗していた。でも、それでいい。それがいいんだ。だってそれが、デュエルモンスターズという遊戯なんだから。

 

では、バトル。私はライオンハートで、銀河眼の光波竜を攻撃!」

 

「ぐっ…………!」 シャーク LP 3900→0

 

 

 

 

 

静かに紡がれた最後の言葉と共に、かなりの衝撃が身体中を襲う。

 

これで、俺が企てた奴の正体を少しでも暴こうという目論見は失敗に終わり、結局奴の謎はカケラも明かされないままとなったが───不思議と、俺は彼女のことを、ほんの少しだけ理解できたような気がした。








ゴールドラットを出せる(出すとは言ってない)


ようやく書きたかったバリアン戦に入れるよ…………でもこれからガチで仕事が忙しい罠。下手すれば休みがある18日辺りまで更新できないかも。






さなぎの思考


→よりにもよって光波竜を奪った挙句まさか強化してくるなんて!

→セブンシンズを戦闘破壊する気かな? じゃあやっぱりナンバーズ耐性がないことはバレてるか。でもセブンシンズには耐性が………。

→いや、待てよ。このままセブンシンズで耐えるのもいいけど、セブンシンズで私の光波竜を破壊するのはちょっと嫌だなあ。

→よし、ここはフィールド魔法の効果で色んなナンバーズを持ち出して…………そうだ。ジェットストリームギミパペやってデステニーレオ辺りを進化させれば攻撃込みで綺麗に終わるし!

→ファ!? なにその超ピンポイントカード!?

→あぶなっ!? ライフ超ギリギリじゃん。死ぬかと思った。しかも発動タイミングを逃しちゃった(物理)し、手札が雑魚モンスター(光波異邦臣)だけってどうすれば…………。

→あ、勝っちゃった。やったぜ☆


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対決! ギャラクシーアイズ!

思考が無駄に二転三転するのは彼女の悪癖です。変態女しか書けない作者が変態じゃない女性をどうにか取り繕おうとした結果がこれだよ!

しかし、そういう設定とはいえ、こんなにブレッブレの人を主人公にしていいんだろうか…………いや、今更過ぎますね。多分ずっとこの調子で走り抜けると思うのでよろしく。

追記

感想見て気づきましたが、前回のフルアーマードエクシーズの装備先を勘違いしてました。正確にはバハムートシャークの方に装備するみたいです。ですが、漫画初期効果のバハムートシャークに装備しても最終的な結果は変わらないので「あ、間違ってんじゃん」と苦笑して流していただけると幸いです。アニメのテキストを修正ではなく改竄するのはアレなので訂正はしません。よろしくお願いします。


自分がかつての役割から逸脱し始めてる自覚はあった。

 

当然だ。私の知る原作での『私』は何せ、デュエルそのものをしたことがないのだ。更に言えば、台詞さえも数えるほどしかない。僅かな出番に付随していたギラグやシャークの存在から名前が妙に印象に残っているだけで、私の役目は単なる脇役なのだから。

 

そんな私が原作に関わる。それはとても、烏滸がましいことなのかもしれない。いや、これだけ盛大にやらかしているのだ。もしもこの世界の創造主なんてものがいたとしたら、私の存在はこの上なく目障りなものだろう。

 

しかし、その上で私はここにいることができている。上位存在に消されるわけでもなく、思考の干渉を感じることもなく、私は『私』として矛盾なくここに在り続けている。

 

これは一体、どういうことなのか。私の干渉など、この世界に何の影響も及ぼさないという余裕か。そもそも私が考え過ぎなだけで、この世界の創造主なんて大袈裟な存在はいないのか、それとも───

 

 

(───『私』という存在(キャラクター)が、この世界の一員として認められたのか)

 

 

自惚れであるが、そうであって欲しいと思う。私如きが、とはこれまで幾度も考えてるけど、そうで在りたいと私は考える。だって私は、なんだかんだ言っても、一人の人間としてこの世界で生きているんだから。

 

 

(───だけど)

 

 

だけど、私が本来の『私』ではないことも間違いない。

 

かつての私やこの世界、まして創造主なんて馬鹿げた存在は知らない私でも、それだけはこの世で誰よりも理解している。

 

だからこそ、したがって、故に───

 

 

「貴様が、蝶野さなぎと言う女か?」

 

「…………えっと、貴方は誰かな?」

 

 

ならば当然、私がここに『在る』ことで変わってしまうことも、ある。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「我が名はミザエル。貴様のデュエルの、最後の相手となるものだ」

 

「───」

 

 

───状況を整理しよう。

 

シャークとの死闘よりしばらく、遊馬くんへの指導もそこそこに私にできること、伝えるべきことを告げてから〆て一週間。再び舞い戻って来た私の日々。

 

特に今週は大規模な歌番組に出演する機会もあり、めっきりデュエルに触れる時間も減ってしまい、危うく私が既に遊馬くんと友達になったことすら遠い出来事に感じる、みたいなある意味危険な状態な陥っていたわけなのだが───

 

 

「フッ───どうした、何を惚けている」

 

 

気づいたらこれである。正直、初見ではあまりのことに脳が理解を放棄した。

 

ちなみにここ、事務所のトレーニングスペースです。本当についさっき(5分くらい前)まで仲間のアイドル達と切磋琢磨していた運動場です。そんなところから突如として空間を切り裂いてバリアンさんが現れたんですよ? それは驚くし固まるし惚けるのも自然だと思うんだ。というかこの人、もしかして私が一人になるまで待ってくれたのかな? ぶっちゃけ迷惑だけど地味に優しいんですね。でも(突然来るのは)やめろミザエル。

 

 

(───まさか本当に私生活を妨害してくるなんて…………いや、彼らにそういう気遣いとかあるとは思えないけど…………)

 

 

いや、厳密には私は未成年だからこのトレーニングはあくまで『レッスン』であって仕事じゃないんだけど、あれ? 違うか。私は中卒で既に社会人になってるから───って、違う違うこんなことはどうでもいいや。

 

何しに来たんだろうこの人。いや、ぶっちゃけ簡単に想像できるし間違いなくその通りなんだろうけど、目的ありきとはいえ彼のようなビジュアル系がアイドル事務所(こんなところ)なんかにいるのはガチで冗談としか思えない。というかそうであって欲しい。むしろアイドルになりに来た、とかだったら諸手を挙げて賛同するんだけどなぁ。

 

 

(───どう反応しよう)

 

 

不毛な話題はさておき、いよいよ本題について思考を巡らせる。

 

本題。すなわち私がバリアンに対し、どのようなスタンスで対応するのか、ということ。

 

選択肢はたくさんある。演技力にも自信がある。私は脇役だ。だから何にでもなれる。正直に話したところで謎は解けないし、逆に色々とでっち上げた場合にも暴かれる訳がない。つまりは、私の意思でどうにでもなれる。

 

大前提、人間世界を間接的に滅ぼそうとしているドンさん側につくのは絶対に無いとして、ならば私は、どうすべきなのか。

 

ギャラクシーアイズはともかく、ランクアップは言い訳が効かない。とはいえ、馬鹿正直に理由を語る義理はない。理由を騙る(・・)にしても、さて。

 

 

(───決めた)

 

 

一通り役割を当てはめて、良い感じのムーブができそうなのを思いついたので決め打ち。ぶっつけ本番、失敗はそれすなわち身の危険どころでない大博打ではあるが、アイドルとはそんなもの。数多の期待を背負って飲み込み糧にできるからこそ、私はアイドルとして今も生きているんだから。

 

と、言っても、そもそもこれはそんな大層なものではない。単にいつも通り、アイドルとしての私を貫くだけだ。それに───

 

 

「貴方は───いえ、貴方。もしかして…………」

 

 

なるべく自然に呟いて、意味深に腰に付いたエクストラホルダーからとあるカードを取り出す。事情を知れば白々しいことこの上ないが、事実としてこの子が騒いでるのは本当だし、問題はない、と思う。知らない。

 

 

「貴方は、私を………いや、この子に惹かれてここに来た。

 

なら、貴方は、私と闘う意志があるということ?」

 

「───私がここに来たのではない。ギャラクシーアイズが、ギャラクシーアイズを呼んだのだ。

 

ならば私がここにいるのは必然。真なるギャラクシーアイズ使いとして、私が貴様を見極めてやろう」

 

 

着いて来い、と命令口調で言い放ち、ミザエルと名乗ったバリアン………いや、ミザエルは毅然とした態度を崩さずに表の方へと歩いていく。

 

ドッチボールさながらの会話に引っ掛かりを感じつつも、意図は十分に伝わったので、私は彼に粛々と付き従い、向かった先は近くの河川敷。ほどよく広く、そして人目もあまりない空間。どうやら、本当に場所を変えたかっただけらしい。ならもう少し理解できるよう発言してもらえないものか。まあ、私も人のことを言えないんだけどね。

 

 

「…………」

 

「───フン」

 

 

無人のここ、河の流れる音が微かに響く空間にて、私たちはしばし無言で見つめ合う。

 

ガラにもなく緊張をしているのか、と自嘲しても、全身には不快な冷や汗が後を絶たずに流れ落ち、柔軟さが自慢の肢体はどうにもぎこちない反応を示すばかり。

 

こんなことは────ああ、あの時みたいだ。私がオーディションを受けて、アイドルとしての一歩を踏み出すかの、あの瀬戸際の感覚。今か今かと待ち侘びて、しかしそれがいつまでも来ないで欲しいと思っていた、あの時。

 

すなわちこれは、要するに。この私が彼と同じ、『真のギャラクシーアイズ使い』として相応しいのか。その面接のようなもの。私が(カイト)のところまで至れるのかという、試練だ。

 

そうだ。私はきっと、結果(・・)が出るのが怖いんだ。この子に相応しくないデュエリストだと、他でもない彼に言われることを恐れている。それは私が、このデッキを前世より持ち込んだ時点より、ずっと気に病んでいたことだから───

 

 

「───女。いや、蝶野さなぎ、だったな」

 

「え?」

 

「貴様が何を考えているかは知らん。貴様が何者なのかも、貴様の目的さえ私には興味がない。

 

だが───」

 

 

私の思考を意に返さず、ミザエルは揚々と語る。

 

端整な顔より溢れ出る絶対の自信は、運命力に対して劣等感を抱いてしまうこの私にはあり得ないもので、しかし本来ならこの私が持っているべきだったものだ。

 

 

「貴様がその調子なら───闘うまでもないかもしれんな」

 

「…………発破をかけてくれてありがとう。でも大丈夫。いや───大丈夫じゃなくても、私は」

 

 

私は。

 

私は、違う(・・)

 

私は本来、この世界の人間ではない。

 

 

 

 

でも、だからこそ、このカードは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───絶対に、私だけのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───)

 

 

その時、カチリと脳内で、ナニカが綺麗に噛み合った音がする。

 

不思議なことに、迷走する思考・鈍い肢体とは真逆に、やる気はだんだん、不自然なほどにこれ以上なく満ち溢れてく。

 

これは果たしてどういうことか。先程までの思考の内に、私の心の点火剤となる何かが混ざっていたのか───でもまあ、そんなことはどうでもいい。

 

ごちゃごちゃと意味のないことを考えるのは好きだ。考えることに意味があるし、頭の体操にもなる気がする。それでよく思考が明後日の方向へと行ってしまうのが問題なんだけど…………それもそれで、悪くはないと、今なら思う。

 

偶然だろうとなんだろうと、今は何故だか、すっごい良い気分だ。じゃあこれは、そういうものでいいんじゃないだろうか───

 

 

「じゃあ、始めようか───ミザエル」

 

「ほう───?

 

いいだろう…………バリアンズ・スフィア・キューブ、展開!」

 

 

 

 

 

 

 

───デュエル!!

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

さて。そんなわけで遂に始まってしまった因縁(偽)の対決、なわけだけど………。

 

 

(───うーん。 微 妙 )

 

 

自身に配られた手札、最初に与えられたカードの内容に辟易する。いや、自分がこの場面で理想の流れを生み出せるのなら私は今まで苦労なんてしてないのだが、ここに来てこれはあんまりではないだろうか。

 

悪くはない。悪い手札では断じてない…………んだけど、なんとなく物足りない。なんというか、メインとサブの中間で彷徨っている今の私の立場を暗喩しているような、そんな微妙な引きだ。

 

最近はだいぶ運命力も向上し、いわゆるツモ運が明らかに以前を上回っているとはいえ、私の運気はメインキャラを超えることは多分ない。それが私が無意識のうちに彼等に遠慮しているのか、そもそも私の素質の問題なのかはどうあれ、少なくとも今現在のところはそうなっている。

 

全身全霊を尽くす。これは間違いない。でも、こんな微妙な手札で、私は満足するデュエルができるのだろうか………?

 

 

(───まあ、いいや。今更何を嘆こうとも、今はどうにもならないし)

 

 

「私は手札から、魔法カード《アクセル・ライト》を発動。

 

このカードはこのターン、通常召喚権を放棄することで、デッキにある光属性・レベル4・戦士族のモンスターを特殊召喚できる。

 

この効果で私は、デッキから《光波鏡騎士》を特殊召喚!」

 

 

 

 

 

 

 

《アクセル・ライト》

通常魔法

「アクセル・ライト」は1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン、自分は通常召喚できない。

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。

デッキからレベル4・光属性・戦士族モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 

《光波鏡騎士(サイファー・ミラーナイト)》

効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻 0/守 0

「光波鏡騎士」の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:自分の「サイファー」モンスター1体が戦闘で破壊され自分の墓地へ送られた時、

このカードを手札から捨てて発動できる。

自分の手札・フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送り、

その破壊されたモンスターを特殊召喚する。

②:このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。

デッキから「サイファー」カード1枚を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「更に私は、手札から《光波複葉機》を特殊召喚!

 

このカードは、自分フィールドに光波モンスターが特殊召喚された時、手札から特殊召喚できる。

 

そして更に、《光波翼機》も特殊召喚。このカードは自分フィールドにサイファーモンスターがいる場合、手札から特殊召喚できる。

 

更に更に、光波翼機の効果を発動。このカードをリリースし、自分フィールドのサイファーモンスター全てのレベルを4つ上げる」

 

「…………?」

 

 

アド損なのかそうでもないのかよくわからない私の展開に、端整な顔つきを微妙に歪ませて成り行きを見守るミザエル。

 

でも仕方ないのです。私自身、割と回りくどいことしている自覚はあるんだけど、こんな微妙な手札では少しくらいアド損でもしないと切り札を出せないからね。

 

───このデュエルは、いつものソレとは違い、儀式としての側面が強い。故に前提としてあのカードが無ければ私は、彼の前に立つには相応しくないのだ。

 

 

「そして《光波複葉機》は、自分フィールドの光波モンスター1体のレベルを8に変更する効果がある。

 

よって、これでレベル8のモンスターが2体」

 

「ふむ、なるほどな。───来るか」

 

「私はレベル8となった光波複葉機、光波鏡騎士の2体をオーバーレイ。

 

───闇に輝く銀河よ。今こそ怒涛の光となりて、その姿を顕せ!

 

エクシーズ召喚! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

降臨せし、輝ける銀河の眼を持つ竜。私のエース、銀河眼の光波竜。

 

スフィアフィールドを意にも介さず、ここが己の庭だとばかりに光波竜は吼えたてる。いつにも増して響き渡る雄叫びは、世界が違えど自身の同胞が目の前にいることに興奮しているのか。カイトさんの時もそうだったが、銀河眼というのは妙に仲間意識が強いらしい。何故だろうか。知らない。実は興味もなかったりする。

 

 

「───おお。これが」

 

 

しかし当然、私の前に立つミザエルはそうではなかったらしく、召喚エフェクトが収まってすぐに私の光波竜を眺めると、興奮した様子でそのように呟いた。

 

かつての私がフィルター越し(アニメ内)でも見たその顔。だけどそれをこの私が受けることになんとなく違和感を覚えた私は、ついつい彼に対してこのような質問をする。

 

 

「…………ねぇ、ミザエル。貴方はどうして、私の元に来たの?」

 

「む?」

 

「質問が悪かったね。───私が初めて公式の場でこの子を出した時、私の側には他のギャラクシーアイズがいた。

 

彼のソレがなんなのか、私のカードとの繋がりとか、そういうのはわからないけど、全く関係がないとは思わない、思えない。

 

だから、教えて欲しい。貴方はどうして、彼ではなく、私の元へと現れたのかを」

 

 

無意味な問いかけ。彼が答える必要も、その理由すらも見受けられない無謀な言葉。

 

だけど彼は、意外にも素直に、益にもならない私の疑問に答えを返してくれた。

 

 

「───フン。私とて下調べをせずに貴様の元へやって来たわけではない。

 

貴様の言う、カイトとやらのギャラクシーアイズ。僅かだが、我がタキオンドラゴンと同様の気配を感じた」

 

 

───故に。おそらくあのカードは我がタキオンドラゴンのデッドコピー。察するに我々バリアンと契約を結んでいたあのDr.フェイカーが、我々の力の残滓

より生み出したものだろう───

 

 

淀みなく、当然のように彼は告げる。そんなことは当たり前だと、敢えて言うまでもないことであると、吐き捨てるように。

 

───私にとって(メタ視点で)は、完全に誤っているその言葉を。

 

 

「可能性として、もしや、とも考えてはいたが───貴様のそのギャラクシーアイズを見て確信した。

 

貴様のソレは、そやつのソレとは違い、私のタキオンとはまるで異なる気配を感じる───コピーとオリジナル。どちらの優先度が高いかは明白だろう?」

 

「…………えーと」

 

 

違 い ま す。

 

ご高説のところ悪いのですが、私の方がパチモノです。間違いありません。むしろ紛らわしい真似をして本当に申し訳ない。

 

タキオンドラゴンのデッドコピーってのは確かにそうなんだろうけど、だからってオリジナルではないわけじゃないし、頭数に入れられないわけでもないから!

 

 

(───参った。主張が妥当過ぎて何も言えない)

 

 

私の視点が反則なだけで、彼にとっての推論は真っ当でこれ以上なくそれらしい仮説だ。というか答えを知ってる私でさえ普通に「なるほど、確かに」とか思ってしまった。いや、これはホントにどうしたものかな?

 

 

(───いや、別にいいんだけどさ。でも、本当に、人生ってものは…………)

 

 

儘ならず、度し難い。どうにもならないことが、あまりにもありふれている。そのどうしようもないことを理解すら及ばない反則で乗り越えたこの私が言うのもあれだけどね!

 

 

「私はカードを1枚…………いや、2枚───ええと、3枚を伏せて、ターンエンド、かな」

 

「フン───私のターン!」

 

 

ビシュィィイ!! とこちらまで風切り音が聞こえそうな勢いで、ミザエルがデッキよりカードを手札へと引き込む。

 

周囲の運気を感じ取るに、彼の調子はほぼ絶好調。ゼアル時の遊馬くんにすら匹敵しかねない膨大なもの。正直、デフォルトでこれとか心が折れそうです。私、ホントに彼に勝てるんだろうか…………。

 

 

「私は《限界龍シュヴァルツシルト》を特殊召喚!

 

このカードは、相手に攻撃力2000を超えるモンスターがいる時、手札から特殊召喚することができる。

 

続いて、マジックカード、《エルゴスフィア》を発動!

 

シュヴァルツシルトがフィールドにいる時、デッキから新たなシュヴァルツシルトを手札に加える。そして、そのまま特殊召喚!」

 

 

 

 

 

《限界竜シュヴァルツシルト》

効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻 2000/守 0

①:相手フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 

《エルゴスフィア》

通常魔法

①:自分フィールド上に「限界竜シュヴァルツシルト」が存在する時に発動できる。

自分のデッキから「限界竜シュヴァルツシルト」1体を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

(───シュヴァルツシルトの専用サポートなんてあったんだ…………)

 

 

私と違い、全く無駄がなくレベル8を揃えたことより、ある意味そっちの方が驚いた。流石アニメ世界。バリアンであろうと、謎すぎるピンポイントなサポートカードは健在らしい。

 

 

(───私も本来なら《光波翼機》とか超ピンポイントな効果だったんだけどねぇ。でも、私は効果を選別しているからなぁ…………)

 

 

至った(・・・)カードは数あれど、それが強いとは限らない。そもそも私が勝手にこの世界に馴染んだソレを『至った』なんて表現をしているだけで、実際には進化でもなんでもない。ただそのカードが、この世界のどこかにいる精霊の現し身として相応しい効果に成ろうとしているだけだ。選別なんて反則ができる私が色々とおかしいだけである。

 

そんなことはさておき、これで彼のフィールドにはレベル8が2体揃った。先程までの私と同じ。だが、おそらく結果はまるで別物になるだろう。何故か、などと言うつもりはない。私と違い、あのカードは唯一無二。そういうものだから、だ。

 

 

「私はレベル8のシュヴァルツシルト2体をオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

宇宙を貫く雄叫びよ。遥かなる時を遡り、銀河の源より甦れ!

 

顕現せよ! そして、我を勝利に導け!

 

《No.107 銀河眼の時空竜》!!」

 

 

 

 

 

 

《No.107 銀河眼の時空竜》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻 3000/守 2500

レベル8モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:1ターンに1度、バトルフェイズ終了時に

このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの効果を無効にし、

その攻撃力・守備力を元々の数値に戻す。

さらにエンドフェイズ時まで、このカードの攻撃力は、

このターンのバトルフェイズ中にお互いのプレイヤーが

効果を発動したカードの枚数×1000ポイントアップする。

③:このカードの②の効果を自分のターンで使用した場合、このカードはもう1度だけ続けて攻撃する事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大な力の渦巻きが、スフィアフィールドを軋ませる感覚がする。

 

メカメカしい変形と共に顕現したモンスター、ナンバーズ107、ギャラクシーアイズタキオンドラゴン。似たような命名法則に、まるで別物である姿を見せるこれらの竜は、しかしてただ一つ、最大の共通点たる銀河の眼をこれ以上なく煌めかせて、共鳴するように世界へ吼えたてた。

 

 

(───これが『最強のギャラクシーアイズ決戦!!(半ギレ)』ってやつかぁ…………流石に壮観だね)

 

 

などと。

 

茶化しても状況は変わらない。依然として双龍は【光波】が如く干渉し合い…………そう、まるで、互いを求め合うかのように。

 

 

(───なーんてね。流石にそれは、穿った見方すぎるか)

 

 

そも、私。あの子達に性別があるのかすら知らないしね。

 

…………どっかの次元竜みたく、OCG次元で擬人化とかしてたらどうしよう。今更どうにもできないけど。

 

 

「107…………ね。まあ、だいたいの想像はつくからそれはいいや。

 

うん。やっぱり君も、私と同じギャラクシーアイズ使い───それも、私以上にそちらに特化しているみたいだね」

 

「無論だ。タキオンドラゴンは我が生涯の友───いと気高き最強の竜。

 

ならばそれを誇ることに、何の衒いがあるというのか」

 

 

いやない。と無言で続けて、ミザエルはタキオンドラゴン(自慢の竜)を存分に見せびらかす。知っていたとはいえ、こうも堂々とタキオン頼みのデッキだと宣言されるとは。何故だか聞いたこっちが恥ずかしくなって来た。

 

もう、突っ込むのはやめよう。私のためにも。

 

 

「バトルだ!

 

私はタキオンドラゴンで、貴様のギャラクシーアイズを攻撃!

 

殲滅の、タキオンスパイラル!」

 

「攻撃力は互角…………でも、貴方のモンスターにはナンバーズ特有の耐性がある。

 

なら私は、リバースカード、《RUMーデヴォーション・フォース》、発動!

 

攻撃対象となった光波竜をランクアップさせ、新たに召喚したモンスターへと攻撃対象を移し替える!」

 

「むっ………!?」

 

 

予想外のカードに、多少の動揺を示すミザエル。

 

私に対して『何者』云々と言ってたから私がRUMを使うことは知ってたんだろうけど、こうもあっさり当然のように、それも単なるコンバットトリックで平然とランクアップを決行するのは、やはり彼にとっては驚愕に値する出来事、なのかもしれない。

 

 

「私はランク8の光波竜1体で、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 

しかし、そちらの事情など、バリアンなんかを優に凌駕する異端であるこの私には何の関係もない。出来ることは、なんでもやる。彼が張ったこのフィールドもそう。元よりこのゲームはそういう遊戯(なんでもあり)なのだから。

 

 

「闇に輝く銀河よ。とこしえに変わらぬ光を放ち、未来を照らす道しるべとなれ!

 

顕現せよ! ランク9、《超銀河眼の光波龍》!

 

───そして、そのまま迎撃!」

 

「ぐっ…………!?」 ミザエル LP 4000→2500

 

 

進化した我が勇士が時空を司る竜を圧倒し、繰り手に浅くはない傷を確と刻み込む。

 

たかが一撃と侮るなかれ。この迎撃は、一時とはいえ彼のタキオンをこちらの光波竜が上回った証だ。特にタキオンを溺愛する彼ならば、この一撃だけでこちらの認識を改めるには十分だろう。

 

 

「貴様───」

 

「残念。この戦闘は私の勝ち。でも───」

 

 

でも、彼の銀河竜が、バリアンの力の結晶が、この程度で終わるはずがない。

 

 

「…………いいだろう。ならば、見せてやる!

 

バトル終了時、私はタキオンドラゴンのモンスター効果を発動!

 

タキオン・トランスミグレイション!」

 

 

 

───その瞬間。世界から、色が消えた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「───銀河眼の時空竜は、1ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドにいる銀河眼の時空竜以外の全てのモンスター効果を無効にし、その攻撃力・守備力を元に戻す!

 

更に、このターンの間、タキオンドラゴンの攻撃力は、このバトル中に効果が発動したカード1枚につき、1000ポイント攻撃力をアップする!

 

時空を遡り、再び顕現せよ!」

 

 

最早見慣れた色褪せた景色。全ての時が歪み行く世界の中で、タキオンドラゴンのみが気高く吼える。

 

今のこの空間は、タキオンにのみ行動を許可された聖域。如何なプレイヤーと言えど今のタキオンに逆らえば、火傷では済まない怪我を負うことになる。

 

 

「なるほどね───確かに強力な効果だよ。

 

でも、如何に凶悪なスキルも、貴方のバトル終了時、つまりエンドステップに発動されたのなら、幾らでも対処法はある。

 

そもそも、私の光波龍の元々の攻撃力は4500。このターンバトルで発動したカードの枚数はデヴォーションフォースの1枚、すなわち君のギャラクシーアイズの攻撃力は4000止まり。それなら残念だけど、ちょっとだけ足りないねぇ」

 

「───フン」

 

 

愚かな。そのくらい、他ならぬタキオンドラゴンの所持者たるこの私が理解してないとでも思ったか。

 

確かに突然のランクアップ、バトルを介しての進化には面食らった。これは真実だ。しかし、私にすればそんなもの、単なる弱者の小細工に等しい。

 

いや───そうか。そうだった。奴はランクアップこそ使えれど、その肉体は間違いなく人間である、とベクターは言っていた。あやつの言葉を信じるのは業腹だが、実際に相対した感覚では、その見立てが間違っているとも思えない。すなわちこれは、正しく弱者の足掻き、小細工であるわけか。

 

───それならば、こちらも遠慮はすまい。誇り高きバリアンの戦士、強者の義務として、その小細工を真っ向から粉砕せしめようではないか。

 

 

「更に、この効果を使用したタキオンドラゴンは、再び攻撃ができる」

 

「っ、でも…………!」

 

「そして私は、速攻魔法《銀河衝撃》を発動!

 

私の場のギャラクシーアイズがそれ以上の攻撃力を持つモンスターと戦闘を行う場合、デッキの『ギャラクシー』カード1枚を除外することで、その攻撃力を1500ポイントアップさせる!

 

更に! この効果でバトルを行う相手のモンスター効果は無効となり、そのモンスターに適用されているカード効果も無効とする!」

 

 

 

 

 

 

《銀河衝撃(ギャラクシー・ショック)》

速攻魔法

①:自分フィールド上の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を選択し、

その選択したモンスターがその攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターと戦闘を行う時、

自分のデッキから「ギャラクシー」カード1枚をゲームから除外して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力は1500ポイントアップする。

また、選択したモンスターと戦闘を行う相手モンスターの効果と、その相手モンスターに適用されたカードの効果は無効化される。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドルベからの「ギャラクシーアイズを使う奴がDr.フェイカーの開催した大会に参加している」という言葉を受けてあの大会を観始めた私は、奴の超銀河眼の詳細な情報を知り得ていない。

 

だが、それでも記憶には確と残っている。覚え違いでなければ、奴のギャラクシーアイズの効果は大雑把に「コントロール奪取」だ。

 

それに加え、あのモンスターの効果はオーバーレイユニット全てと引き換えに相手モンスターのコントロールを全て奪う、だったと思うが、しかし、それ以外には何もない、というのは甘えだろう。

 

客観的にあの大会を観た限り、あのモンスターの効果は先に述べた起動効果のみで相違はない、そう思う。だが、念には念を。もしや奴のギャラクシーアイズが「このカードを破壊したモンスターのコントロールを奪う」なんて効果を保有していた日には、我が魂たるタキオンドラゴンが私の失態により無様を晒すことになる。故に、過剰であろうと、奴の行動は可能な限り潰させてもらう!

 

 

「私はタキオンドラゴンで、貴様のギャラクシーアイズを攻撃!」

 

「うくっ───」 さなぎ LP 4000→3000

 

 

かつて大会で、「奥の手」とまで公言していたカードを破壊されたからか。

 

今の今まで、真剣な雰囲気ながらも笑顔で固めていた表情を僅かに曇らせて、しかしまるで衝撃を感じてないかの如く身動ぎさえもせずに奴は佇む。

 

その思考は、未だ読めない。いつもヘラヘラとして感情を読ませない人物はといえばあのベクターが第一に浮かぶが、奴はそれとはまた別の意味で他者にその思考を悟らせずにいる。

 

全く───実に面倒だ。対応に悩む人間など、あのベクターのみで充分だと言うのに。ドルベの心配性が、私にも感染ったか?

 

 

「っ───さすが、だね。でも…………」

 

「ほう。貴様は、随分と頑丈なようだな。

 

我がタキオンの一撃を受けてなお、目立ったダメージすら見られぬとは」

 

 

分厚い笑顔に隠された表情、悔しさからこちらを鋭く睨みつけてくる奴に対して、私は素直に賞賛する。

 

タキオンドラゴンの一撃。それは我々バリアンにとってさえ、まともに喰らえばかなりの衝撃となるものだ。それを奴は、人の身で軽々と乗り越えた挙句、逆にその衝撃を与えたタキオンを睨み返している。

 

生意気だ、とは言うまい。奴は先の戦闘で、それだけの力を示した。神聖なるランクアップをあのように気安く使うとは、我々バリアンには考えもつかなかったことだ。しかし、そんな小細工も、この一撃で流石に───

 

 

「さて。それはどうかな?」

 

「───なに?」

 

 

一転。

 

奴の表情が先のより更に腹立たしいヘラヘラしたものに変化し、それに伴って周囲の雰囲気すらも変わっていく。

 

同時に感じる、拭いきれぬ既視感。そうだ、間違いない。この手口は、ベクターのそれと同じ───

 

 

「罠カード、《光波分光》、発動!

 

この戦闘で破壊された超銀河眼の光波龍を、墓地から特殊召喚する!」

 

「チィッ…………!」

 

 

まんまとしてやられたことに加え、心底から気に喰わない男の不快な笑い声が脳裏に浮かび、私は人目も憚らず盛大な舌打ちをする。

 

まだ、せいぜい盤面を戻した程度ではあるが、タキオンを前にしてこのような真似を、

 

 

「更に! この効果で特殊召喚したモンスターと同名のモンスターを、エクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

 

「───な。んだ、と?」

 

 

 

 

 

 

 

《光波分光(サイファー・スペクトラム)》

通常罠

①:自分フィールドのX素材を持っている「光波」Xモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、

その「光波」Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを墓地から特殊召喚する。

その後、その対象のモンスターの同名Xモンスター1体を

エクストラデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

奴の言葉を理解できず、固まる。

 

単語の意味は、当然わかる。だが、それを為した後の結果が理解できない、想像できない。奴は今、(・・・・)なんと言った(・・・・・・)

 

 

(───同名の、モンスターエクシーズ………?)

 

 

「さぁ、かつての次元を経て、この世界にその身を顕せ!

 

ランク9、《超銀河眼の光波龍》!」

 

「2体目の、ギャラクシーアイズ───!?」

 

 

 

 

 

 

 

───ギャラクシーアイズが2体、揃うとき

 

───大いなる力への、扉が開かれる。

 

 

 

 

 

 

(───まさか…………!)

 

 

あり得ない光景。寸分違わぬ姿形をした【銀河眼】の名を冠する2体のモンスターが立ち並ぶフィールドを間近で見てしまった私の脳裏によぎったのは、誰が伝えたのかさえ定かではない、しかし確かにバリアン世界に逸話として残されてきた、ギャラクシーアイズに関する伝説のことだった。

 




なーんでシャークといいミザエルといい、普通に動かしたら変な勘違いをしちゃうのかなぁ…………特にシャークはなんであんな勘違いをしたし。いや、ナンバーズをある種の絶対視をしてる彼らならそう考えるのが自然だろうと作者が思ったからなんだけどね。





ちなみに、彼女が81話終了時点まで忙しかったのは、原作の流れにあるギラグさんがさなぎちゃんをテレビで見るイベント(仮)に世界さんが精一杯合わせようと必死になっていたから………なんて裏設定があります。それゆえに『偶然にも』前回の学校でギラグさんが『なんとなく』何も遊馬に手出しをしなかったり、とか。まあ、そんな感じです。


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地獄! プトレノヴァインフィニティ!

この作品、憑依タグがないってので運対くらったんだけど…………憑依なんだろうか。違うつもりなんだけども。まあいいや。


あ、今回で(冒頭で)ミザエル戦は終わります。…………あっ(察し)


この世界における一般的なデュエリストのいわゆる『切り札』は、基本的にピン挿しであることが多い。

 

いや、多いどころか、ほぼ大半がそうであるというべきか。勿論複数枚利用することが利点になるモンスターもたくさんいるからどうしてもざっくりとした表現になってしまうけど、少なくとも私の知る範囲では私を除くほぼ全員がそのようにしている。

 

何故か、そう聞いたことがある。前世の鬼門たるエクストラデッキの枚数制限もないこの世界。その気になれば己の切り札のみならず、そこらで販売されてる汎用エクシーズや簡易融合で特殊召喚できる低級の融合モンスター、素材が(この世界では未だに)禁止カードとなっているどう考えても使えない《クリッチー》なんかを三積みしていてもなんのデメリットもないどころかメリットにすらなるというのに、どうして誰もそうしないのか、と。

 

 

『え?…………ええと、うん? ああ、言われてみれば…………。

 

でも、(・・・)そういうもの(・・・・・・)じゃないの(・・・・・)?』

 

『へ、へぇ…………?』

 

 

何か深刻な不文律的理由があるのかと思えば、返ってきたのはそんな言葉。勿論、全員が全員、彼女のように『なんとなく☆(要約)』と答えたわけではないにしろ、中身はどれも似たり寄ったりで『これぞ!』と言える理由はなく。でも、みんなそれが当然のように思っていた。

 

それに対し、私は何故、という以前に、ああ、と納得をしてしまった。私と違い、みんなは『合理的』とはかけ離れたところに生きている。デュエリストとは本来そういうもので、それでこそなんだな、などと。

 

だから、彼らは変なサポートカードをデッキに入れるし、コンセプトに関して妙な拘りを持つ。それは彼らが安価で販売されている上位互換を使わずに舐めプをしてこのゲームをバカにしてるわけではなく、このゲームをそういうものとして見ているから。

 

この辺りの意識の差が、きっと私がイマイチこの世界に馴染めてないと感じる要因なんだと思う。こんなにも私と彼らで、意識の差があると思わなかった………!ってやつだ。しかもこれ、絶対に治る気がしない。だって私、なんだかんだでOCG脳だもの。エクストラに全く別のカテゴリ(Em)が入ってる時点でお察しというね。 これでもだいぶ拘ってるんだけどなぁ。

 

で。

 

 

「2体目の、ギャラクシーアイズだと…………!?」

 

 

今ある光景も、その要素の一つ。かつての私が、かつてのように振る舞うからこそ生まれしもの。

 

フィールドに狭苦しく立ち並ぶ2体のギャラクシーアイズ。これぞ前世では良くあった光景ながらもこの世界では世にも珍しい、『超弩級エースモンスターのガン積み』行為である!

 

 

「【光波】は本来、同名モンスターを並べることで真価を発揮するデッキ。私の光波竜が奪ったモンスターを自身の現し身とするのもその一環。

 

ならば何故、私がこの子を複数枚持っていないと考えるのか。貴方のナンバーズは唯一無二で、それでこそ特別なカードなんだろうけど、同じギャラクシーアイズだからと私の子に貴方の相棒を当てはめるのは視野狭窄だよ」

 

「なっ…………!」

 

 

運命力の欠如から、私がその『本来の闘い方』をできていないことは棚に上げて尤もらしく語る。

 

このゲームの創始者である誰かさんも言ってたように、デュエルとはすなわち互いの心理のせめぎ合い。動揺を誘えば運命に翳りが生じ、迷いがあれば戦術を曇らせる。無論、それが全て、というわけではないにしろ、精神面で優位に立つことがデメリットとなることはまずあり得ない。

 

だから、ただでさえ運命力が低────ん?

 

 

「───あれ? なんか、変な破砕音が…………」

 

「───!

 

いかん、エネルギーが大き過ぎる…………!」

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 

 

(───え。マジで?)

 

 

気づけば、私のそこそこ優秀な聴覚が、小さくスフィアフィールド内に反響するメキメキメキといった感じの謎の音声を拾い上げる。

 

と、同時、いつかの決勝戦が如くスフィアフィールドに電流的な謎パワーが放電(比喩表現)し、それを見たミザエルまでもが慌てだして…………って、え?

 

え?

 

 

(───いやいやいやいやいや。なんでさ。まだネオタキオンどころか、真の姿(バリアン態)すら見せてないのに…………)

 

 

それとも。

 

 

仮に、私に(・・)何の負担もないからと、他でもないこの私が、この子の力量を見誤っていたとしたら。さて、どうだろう。

 

私の感覚に間違いがないことを大前提として、この子の単純な『格』はと言えば、だいたいあのコートオブアームズ辺りに匹敵する。つまり、一般的なナンバーズよりも格上で、しかしカオスナンバーズには及ばない。これは、本来なら何の変哲もなかったはずのカードに宿った力としては破格と言える。

 

次に、ナンバーズについて。これはまあ、察しの通り、いわゆる原作にて特別とはっきり明言されていたカード群だ。故にこれまたそんじょそこらのカードなんかでは格として及ぶべくもなく、また使い手の思い入れにより良くも悪くも変化する。

 

しかし、ムラがあることを考慮してもそのアベレージは軒並み高く、例えるなら…………なんだろう。王様のブラマジ並み? いや、映画のスフィンクスアンドロジェネスくらいかもしれない。実のところ、このあたりの格付けは全て私の独断と偏見で行なっているため著しく正確性に欠けているのだ。なにせ私は、それを実際に体感することはできず、かつて無かったからこそ過剰なまでに感じ取れる第六感を頼りに計っているだけなのだから。でも、最低限、低くはないことだけは理解できる。

 

加えて、私自身の体質。私は、この世界の人間ではないが故に精霊に干渉できず、また本来ならそれに干渉されることもない。事実、私はナンバーズなんてものに出会うまで精霊の干渉による被害(ダメージへのリアクション)を単なるジェスチャーの一種なんだと誤解していたくらいだ。スフィアフィールドを抜けられたからには、この体質に関しても間違いはないだろう。でも、この辺の感覚はどちらかと言えば繰り手本人の格に左右されるから、あまり当てにしない方がいいかもしれない。

 

ここまでを前提に内容を組み立て、客観的に私の光波龍くんの力量を測ってみることにする。…………いや、できないか。そもそもムラだらけのナンバーズが基準として成立していない以上、こんな仮定に意味はない。無理に基準を算出しても、自己満足以上の結果にはならないだろう…………でも。

 

 

(───あの時)

 

 

あの時、トロンさんとの闘いで私がこの子を出した時、Ⅳさんを始め、凶悪なナンバーズなんか見慣れているはずの彼は、明らかにこの子を見て『惚けていた』。まるで、信じられないものを見たかのように。

 

あの時はそもそもそれどころではなく、気にはなっても流してしまったが、アレはもしかしたら私の光波龍に対し、彼が『ナンバーズ以上のもの』を感じたからなのではないだろうか?

 

アニメで遊馬くんと闘った彼。私に影響を与えたホープ、その進化系たるホープレイすら涼しげな表情で受け流していた人物が、このカードを見て驚いていた。勿論、ランクアップなんて非常識なものを見たせいもあるんだろうけど…………。

 

 

(───そうなると、ホープレイ以上のモンスターが2体。それに加えて、ランクアップにタキオンドラゴン…………)

 

 

しかも、タキオンドラゴンは効果を使用した本気モード。カオスナンバーズではなくても、原作でのネオフォトンドラゴンと互角以上の力を持った超性能モンスター。事実、彼がタキオンを召喚していた時は明らかにスフィアフィールドに負担が生じていたし、これだけ要素を詰め込めば、この段階でのオーバーフローもあり得ない話ではない。

 

いや、今更も今更だがこの際細かい理由はどうでもいい。現状、何よりも大切なのは、現にこうして、スフィアフィールドが崩壊寸前だという事実…………!

 

 

(───どうにか、伏せカードは…………駄目だ。《銀河眼新生》だったらなんとかなったかもしれないけど、このカードじゃ…………)

 

 

しかも、現状、私に打てる手はない。まだ私のターンならどうにかできる可能性はあったのだが、相手ターンのバトルフェイズ、しかもエンドステップに都合よく割り込めるカードを、私如きの運命力で見通して仕込むなんて───あ。

 

───違う! 今はこんなこと、考えるより前に、逃げないと───!

 

 

「ま、まず───!」

 

 

崩壊(・・)への予兆をデュエリスト特有の勘で感じ取り、慌ててスフィアフィールドの外壁へと駆け寄り、手を───

 

 

「あ、っう…………!」

 

 

タイミングを狙ってたかのように、私の額に河辺の石であろうそこそこの大きさの物体が衝突する。おそらくだけど、スフィアフィールドが発するエネルギーに引き寄せられた物体が亀裂を通り抜け、たまたま私に───ああもう! こんなこと考えるより、前に…………!

 

 

(───ま、にあ、え───!)

 

 

前世でいう、トップアスリートにも匹敵する、しかしこの世界では割と微妙な身体能力を最大限引き出して、どうにかスフィアフィールドを潜り抜け(・・・・)た瞬間、

 

 

 

 

「あ───

 

 

 

覚えているのは、ここまで。

 

後方より発された、凄まじい轟音と共に拡散する光の波動に、私の意識は飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと、河辺を歩く。

 

沈みかけの夕陽が眩しく世界を照らすこの光景は、私にとって、仕事で荒んだ心を癒してくれる優しい絵画のようなものだ。だけど───

 

 

「はぁ…………」

 

 

小さくため息。幸せがまた一つ、逃げていく感覚がする。

 

原因はわかっている。他でもない自分のことだ。いくら目を逸らそうと仕事に没頭しても、こうして少しでも余裕が出てしまうと、いつも私はこうなってしまう。

 

 

「今日も、何も言ってくれなかったな…………」

 

 

思い返すのは、目下の悩み、私が抱く自分勝手な自己嫌悪の要因にして元凶。そして最近、いつまでも何かを抱えて悩み苦しんでいる憧れの人について。

 

彼女の悩みについて、私は何も知らない。でも、だからこそ、曲がりなりにも彼女の友人である私は、どうしても気に病んでしまう。

 

しかし、それが彼女にとって、余人に立ち寄れないほど大切なものであることはわかっていた。そう、私はそれを、ただ傍で見守り続けてあげるべきだってわかってたのに…………私はかつて、どうしても耐え切れなくなって、自分の気持ちをぶつけてしまっていた。

 

 

『───さなぎちゃん! 大丈夫!?』

 

『あ──うん。私は大丈夫。ちょっと疲れていて…………』

 

 

こちらの真剣な気持ちを察してか、いつもの綺麗な笑顔すらまともに見せず、俯いてそう応えた彼女の態度が、辛かった。

 

何も話してくれない彼女。何もしてあげられない自分、双方に湧く悔しさと無力感が抑えられなくて。

 

 

『その、ごめんね』

 

『…………本当に大丈夫なの?』

 

『大丈夫大丈夫。ついさっきも休んだばっかりだし、ね』

 

 

未練がましく食い下がる自分の言葉を遮って、悲しそうな声が響く。その悲しみが何に向けられたものなのかさえ、私にはわからなかった

 

肝心な事は教えてくれない。でも、彼女は私に、隠さずに感情を吐き出してくれている。その事に…………彼女の傷口を抉っている事に気付いていながらも、それを私なんかに晒してくれる彼女の状況に、自分勝手な満足感を得ていた自分へやや嫌悪しながらも。

 

 

『で、でも、凄いよね! 確かにさなぎちゃんなら、って言ってたけど、まさか本当に決勝トーナメントまで出場しちゃうなんてさ!』

 

『──それはそうだよ』

 

『え?』

 

『あ。いや、なんでも──』

 

 

 言葉の端々から覗く意味と彼女の様子から、悩みの種類にあたりをつけた。自分の知らない所であった“何か”、そこで何があったのかまではわからないけど、それが彼女を、これほどまでに追い詰めているのだと。

 

 

『……………』

 

 

 らしくない(・・・・・)、そう思った。常にアイドルとして懸命に生きてきた彼女の姿は、私にとっての憧れだった。そこに至れず、だけれどいつまでも追い求めてこんなところに燻っていた私には、彼女が誰より羨ましかった。

 

そう。私もいつか、彼女のようになりたくて───でも。

 

でも、私は。それなのにこの私は。それと同時に、そんな彼女が、自分と同じように(・・・・・・・・)悩んでいる姿を見て、きっと密かに安心(・・)していた。

 

自分だけがこうではない。彼女のような人だって、何かにつまづくことはあるんだって、そんな、あまりにも格好悪い安心を、よりによって私は、誰よりも憧れている彼女に抱いてしまって。

 

私は、私のことが、心底から嫌いになった。ただ、それだけ───

 

 

 

───ドオォォン…………

 

 

 

「ん…………?」

 

 

劈く轟音。まるで地上で花火が爆発したような、現実感のない音声が私の耳を掻き鳴らす。

 

ごく自然に、当然の反応として音のした方へ目を向ければ、人気も無く荒れ果てた河川敷の一部が崩壊して、その周辺に不自然なクレーターを作り出していた。

 

 

(───え…………?)

 

 

固まる。あまりに穏やかな河川敷に不釣り合いで、現実感のない光景が私の脳を問答無用で停止させた。

 

先程まで確と歩いていた軌跡が、急に夢の中にいたかのように色褪せていく錯覚に囚われるが、あの破砕音の付随品であろう肌に焼きつく熱、ジワリと押し寄せる熱風が私を現実世界へと引き摺り込む。

 

 

「ち、ちょっ、河が、クレーターって、ば、爆弾…………?!」

 

 

どうにか捻り出した言葉も、混乱に飲まれて形にすらならず、支離滅裂な単語を刻むのみ。果たしてここで、何があったのか。理由は分からずとも、それが成した結果を客観的に把握することは容易だったはずなのに、それすらも今の私にはできなかった。

 

反射的に、仕事着が汚れるのも構わず、丈の長い草が無遠慮に生い茂った道無き道を掻き分けて、現場と思わしきクレーターの方へと向かう。

 

───そこで私は、”あり得てはいけない“ものを見た。

 

 

「うぅ…………」

 

「ひっ───!」

 

 

ソレ(・・)を見た時、私は最初、目の前に何があるのかも分からなかった。いや、理解しようとしなかった。何故なら、ソレはあまりに私にとって馴染み深いものであり、そして───ソレは同時に、あまりにも私にとって、想像し難い状態でその場に在ったのだから。

 

 

「さなぎ、ちゃん───?」

 

「───あ、───ちゃん…………? さっきぶり、だね…………ごめん、ちょっと、救急車とか───お願い」

 

 

ひゅぅ、と口から変な息が漏れ出る。絞り出した言葉も、驚愕からか先程以上に掠れている。先程までに考えていた葛藤も、もはや思慮の内にすらない。私がたまたま遭遇した目の前の非常識(ボロボロになった蝶野さなぎ)は、それだけ私の心から余裕や判断力を奪い取っていた。

 

 

「な、なんで…………」

 

「ああ───ちょっと、油断、しちゃって…………。私なら、って思ってたんだけど。………流石に、無理だったみたい…………」

 

 

弱々しく、私以上に掠れた声で力なく紡ぐ彼女の姿に、嫌な想像が脳裏をよぎる。

 

そも、私の貧困な想像力では、道端で女性がボロボロになって放置されてる原因なんて数えるほどしか挙げられない。しかもそれが、彼女のようなずば抜けて見目麗しい少女ならば尚更のこと。私自身、自惚れかもしれないが割と容姿の整った方だと思うし、ならばどうしてもそういう(・・・・)可能性を考えてしまうのは、仕方のないことだろう。

 

邪推を振り払うように、私は改めて彼女の状態を確認する。服に乱れはないか、顔に殴られた痕がないかなど、これがヒトの手によるもの(・・・・・・・・・)なのかどうかを。

 

 

(───違う(・・)、わね。じゃあ、やっぱり、さっきの音に巻き込まれて…………?)

 

 

「あの、早く…………救急車───」

 

「…………あ!

 

え、と。今呼ぶから───!」

 

 

そもそもなんで彼女がこんな人気のない河川敷にいたのかは疑問だが、私の想定していた最悪(・・)ではなかったことにひとまず安堵、同時に怪我の具合もそこまで酷くなかったことに純粋な意味での安心(・・)を抱く。

 

こんな場面に出くわしたことで本来の安心(・・)を思い出す辺り、私は相当最低な人間なんだなと嫌悪してしまうが、しかし私のそんなネガティブ思考も、てんやわんやの対応に追われていつしか消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

(───ああ、これ(・・)は私が彼の代わりになったんだな)

 

 

「…………なーんて思っていたのに、なんで君も怪我してるのかなぁ。遊馬くん?」

 

「? …………何のことだ?」

 

 

今世では初めてのはずなのに、もはや馴染んだとかそんなレベルじゃないほど慣れ親しんでる病院のベッドの中で私は愚痴を零す。それを受けた当人はと言えば、私が何を言ってるのかさえわからないとばかりに困惑顔だ。まあ、実際、これは私にしかわからないんだけど。

 

 

「むしろ、どうしてアンタがそんな大怪我してんだよ…………」

 

「それはね遊馬くん。私が譲れないもののために馬鹿な意地を張って馬鹿やったからだよ。つまり、いつもの君と同じだね。

 

というか、そんなことよりここにいるとトラウマ(幻痛)が…………早く帰りたい…………」

 

 

病院。この単語だけで私は、かつての私を思い出して鬱になってしまう。だからこそ今まで怪我には細心の注意を払っていたし、更にデュエル中に怪我することがまず私にはあり得ないと判明した時はそれこそ狂喜乱舞したくらいなのに。

 

 

「でも、あれ? 遊馬くんだけ? シャークは?」

 

「シャーク? いや、今日は来てねぇけど…………」

 

「…………?

 

あれ? 遊馬くんって、何で怪我をしてるんだっけ」

 

「ああ………ちょっと恥ずかしいけど、デュエル庵ってところへ行った帰りに崖から落ちちまって───」

 

 

不思議そうにしながらも、スラスラと淀みなく、自分がここにいる経緯を恥ずかしげに語る遊馬くん。それも当然だ。彼にとってのこの疑問は、私以外の存在には違和感すら感じることはないごく当たり前の経緯なのだから。

 

 

(───ちょっと、いや、だいぶシナリオを外れてるなぁ…………)

 

 

相変わらずうろ覚えで頼りない記憶だけど、確かこの時期の彼はシャークと一緒にあのミザエルと(カイトが)闘ったことが原因で入院してたはず。だからこそ私は彼らの怪我を引き継いだのだ、などと考えていたわけなのだが、それでも彼は怪我をした、しかも何故か遊馬くんだけとなると、妙な陰謀を感じなくもない。主に、私への役者変更辺りで。

 

一体、この世界は脇役代表たる私に何をさせたいのか。ここまでタイミングよく彼と一緒になるということは、私にシャークの代わりでもさせたいのか。それとも───

 

 

「デュエル庵? それって───」

 

「───なあ」

 

「ん?」

 

 

何、と聞こうとした私の発言を遮り、神妙なトーンで遊馬くんは切り出す。

 

力無く紡がれた言葉は私にとっての予想外であり───そして、私という存在がこの世界に与えた影響を、如実に感じ取ることができる一言だった。

 

 

「バリアンって奴等は…………何がしたいんだろうな」

 

「え?」

 

「いや、奴等がナンバーズを奪いたいってのはわかる。でも、俺にはその理由がイマイチわかんねぇんだ。いいや、それも違う。理由がわからねぇことも奴等の目的を知らない俺がわからないのは当然だ。だけど、なんつぅか、その…………。

 

”なんかモヤモヤする”って言えばいいのか…………すまねぇ。なんか、俺には上手く言えねぇや」

 

「それは───」

 

 

何を。

 

何を彼は、言っているのか。彼らが何をしたいのか、何をしているのかなんて明白だろうに、どうして彼は、そこ(・・)を悩んでいる…………?

 

 

(───いや)

 

 

いや、違うんだ。前提が。今の彼は、私がいることによって原作とは違う道を辿っている。思い出せ、彼の軌跡を。私の行動を。それが及ぼすだろう、起こり得る可能性を───

 

 

(───まさか、とは思う、けど…………)

 

 

一つ。私の闘った相手、それらの共通点を思い浮かべて、やや突飛な考えが浮かんだ。まさか、とは思うけど、彼のような純粋な少年なら、確かに「そこ」を理解できない(・・・・・・)ことだって、あり得ない話ではない。

 

でも、彼が? よりにもよって、この世界の主人公である九十九遊馬が?

 

彼のような存在がまさか、私如きの行動によって、そこまで変わってしまうものなのか?

 

 

「もしや、とは思うけど───」

 

『───遊馬。そこから先は、私が話そう』

 

「…………アストラル?」

 

 

それでもやっぱり信じられなくて、いくらか会話の予防線を張りながらそれ(・・)について切り出そうとした矢先、私の出鼻を挫くように、否、私の出鼻をまさしく挫くタイミングで、今まで静かに私達の会話を見守っていたアストラルが、遊馬くんへと語りかける。

 

そして、やはりというかなんと言うべきか。彼が続けて遊馬くんへと告げた言葉も、おおよそ私の想像通りのものだった。

 

 

『遊馬。君の感じているモヤモヤ、とやらは、おそらく“敵意”、乃至は悪意と呼ばれるものだ。

 

彼らバリアンは、我々、いや、君を対象に、明確な敵意を持って目的を成そうとしている。君にはきっと、それを受け入れ難い…………違うな。上手く、受け止められていないのだろう』

 

「───“敵意”?」

 

 

(……………………)

 

 

トロン、フェイカー、バリアン(ベクター)。私が請け負った、乃至は勝負そのものを妨害してしまった彼の敵。

 

それらの共通点はずばり、悪であること。悪意を以って人々に害を成し、自身の欲望を満たそうとした人物であること、だ。

 

アストラルはこの期に及んで地味にボカしているが、はっきり言って今の彼は、悪意に対する経験が足りてない。だから、イマイチそれを理解できていない。それが自分に向いてると、自分を対象に向けられてると、彼は認めたくないのだろう。

 

無論、トロン一家やカイトさんを始め、彼に対して害意を持った人はいた。しかし、それは彼がナンバーズのオリジナルであるアストラルを伴っていたから、もしくは単にナンバーズを持っていたからで、彼個人を理由にそれを向けられたことなんて、ライバル関係なシャークを除けば、それこそⅢくらいしかいなかったはずだ。実際にはどうだったかはさておき、彼にしてみれば今まである種の蚊帳の外だった自分が、突然バリアンなんてよくわからない存在に狙われるようになった。それはさぞかし困惑することと思う。

 

今までと本質的には同じなのに、彼がそう感じるようになったのはおそらく「九十九遊馬がナンバーズを持っている」ことに対してギラグが警戒しているから、なんだと思うけど、それを素直に実力がついたんだ、とポジティブに捉えることは、彼らの事情を全く知らない遊馬くんには不可能な話で、と。

 

 

(───こんな感じ、かな? ちょっと、いやだいぶ強引だけど…………)

 

 

私のは勝手な想像だが、どのみち彼の相棒たるアストラルはまず間違いなく確信を持って言っている。ならきっと、結論自体に誤りはない。いずれ慣れるから気にするな、と言ったところで、意外にもきっちり物事を考える彼(ソースはアニメ)は、しばらくの間悩みそうだし…………。

 

 

(───悪意、ねぇ)

 

 

職業柄、そういうのには慣れ親しんでしまったこの私には、彼が抱く葛藤や困惑は「わからないことがわからない」というのが現状。とはいえ、彼の悩みの原因は明らかに経験不足。そしてこれから先、彼はバリアンに容赦なく狙われるからには、それが原因で敗北する可能性もないわけではない、わけで。

 

 

「…………どうしようか、アストラル、くん?

 

───そういえば、自己紹介とかしてなかったね。私はさなぎ、蝶野さなぎです。よろしく」

 

『私はアストラル。好きなように呼んでくれて構わない。…………どうもこうも、時間に任せるしかない、というのが現状での最善手だが…………すまない。私自身、薄々と気付いてはいたのだが、それをあえて遊馬に伝えるのは憚れた』

 

「いや、なんとなくなら理解できるし、いいよ。あれだよね。純粋な子を汚したくないというか…………今まで君がソレを受けていて、彼には背負わせたくない、なんて考えていたんでしょう?」

 

『…………そう、だな。その通りだ』

 

 

観念したように、空中で器用に項垂れながらアストラルは告げる。そういえば私、デュエル中でもないのに未だアストラルが普通に見えるんだけどこれって結構やばいんじゃないだろうか。いや、実害はなさそうだから別にいいけど。

 

しかしまあ、なんともお優しいことだ。どうせ彼が遊馬くんを利用し続けてる限り、ソレはいつか必ず遭遇する事態だと言うのに、限界までソレを見せたくない、などと。

 

 

(───なら)

 

 

でも、気持ちはわからないでもない。理解できないことと、共感できないことは微妙に違う。いずれにしろ彼がソレを理解する日は来るのだろうけど、ソレをアストラルが懸念する悪い方向ではなく、それらしい、彼の主義に沿うものとして誘導してあげれば…………。

 

 

(───よし)

 

 

正直、気は進まない。でも、後のことを考えるなら。

 

 

「要は悪意を向けられることを、それも直接じゃなくて間接的に被害が出てることに納得がいってないんでしょ?

 

自分を襲うのはいい。アストラルくんを伴う以上、ある程度の覚悟はしている。でも、それになんで関係ない周りを巻き込むんだって憤ってる。典型的なお人好しだね。甘い、と言い換えてもいいかも」

 

「甘い…………?」

 

「甘い。そう、甘すぎる。いい? 人間はね、決して綺麗なモノばっかりじゃないんだ。彼等は人間じゃないのかもしれないけど、おそらく根本は同じ、我々と同一の価値観で動いてる。

 

そして、非常に残念なことに、人間ってのは、善も悪も、理由さえあれば、いや、理由なんてなくたって、誰しもが簡単にどちらにも転ぶものなんだよ」

 

「なっ───そんなわけは…………」

 

「ある。───と言っても、君はあまり実感できないだろうね。なら、君はそれでいいんだよ。

 

何の理由があったとしても、それは他人を利用することの大義名分にはならない。特に、その理由を告げもしない人物ならなおさら。そうでしょう?」

 

『…………』

 

 

最後の言葉は遊馬くんを通して、後ろから見守る彼へと揶揄しながら告げる。遊馬くんなら壁面通り受け取る言葉でも、彼にとってはどうなのか。さて。

 

まあ、この程度であの九十九遊馬のお人好しっぷりを修正できるわけないけどね。でも、信じていた仲間であろうと「その可能性がある」ことが頭のどこかに入っていれば、いずれ来るその未来で、衝撃を多少は和らげられるかもしれないし。

 

 

『───遊馬。今まで、君と闘ってきた“悪党”は、みな、君ではなく、それ以外の何かを目的として闘っていた。カイトならばハルトという少年、Ⅲならば家族、といった感じにな。比較的過激なあのⅣですらそうだ。ナンバーズは、あくまでそのための手段に過ぎなかった。

 

だが、此度のバリアン、という者は、「君がナンバーズを所有していること」を懸念している。その違いが、君の認識で違和感となっている。

 

例えばカイトは、「ハルトのため」にナンバーズを奪い、人を昏睡状態へと追い込んでいた。だが、バリアンは、「遊馬を倒すため」に人々を操っている。つまり君は、原因が君であるからこそ、それに苛立ちを感じている、というわけだ』

 

「…………わかるような、わかんねぇような」

 

「それを飲み下せるようになるには、やっぱり経験が足りないかなぁ。こればっかりはどうしても、“そういうの”に触れていかないとわからないものだし」

 

 

見捨てるような言い方だが、別にそれが悪いと思ってるわけではない。悪意など、本来は理解できないくらいに純粋な方がいいのだ。まして、彼のように誠実さが武器になる人物ならなおさら、ね。

 

 

「けど、経験ね。アストラルくんの懸念も心配も葛藤も優しさもなまじ理解できる分、こればっかりは難しいなぁ。

 

まさか、逆にバリアンを挑発でもして戦線布告をしろ、だなんて言えないし、出来るとも思えない。話を聞く限り、襲う頻度も割と適当みたいだし、ミザエルみたいに乗ってくれるはずも───」

 

 

(───)

 

 

 

 

…………あ。やばい、うっかり口が滑った。油断、しちゃった。

 

 

 

 

(───お願い、気づかないで…………!)

 

 

「そも、悪の定義は各々の価値観によるものだからね。ナンバーズを守ることだって、アストラルくんの記憶がないからには、必ずしも正義に繋がるとは限らない。いや、正義を成すためのものだとしても、それがバリアン世界にとっての悪だとも考えてられる。

 

正義の反対はまた別の正義、あるいは寛容や善、といった概念的要素だから───」

 

『───すまない。少し、いいだろうか』

 

 

なるべく自然に、そして遊馬くんがついてこれないような哲学的な話題を矢継ぎ早に展開していた私に鋭く、いや、目敏くアストラルが言葉を挟み込む。

 

やはり賢い彼は誤魔化せないか、とやや観念しながらも処刑を待つ受刑者が如く続きの言葉を待っていると、しかし彼の紡いだ台詞は私にとってかなり予想外なものだった。

 

 

『君は、その、アイドル、なのだろう? だが、先程から君の話を聞いてると、君はどうもソレ(・・)に慣れてるように感じられる。それは───』

 

「…………」

 

 

どうしてか、と無言で追及する異世界人(・・・・)。まず彼の疑問が私の想像した最悪の追及ではなかったことに対して安堵したが、これはこれで地味に答えづらい質問だ。

 

───いや、答え自体は簡単なんだけど、主にアイドルのイメージ的な意味で。

 

 

(───これは…………まあ、いいか)

 

 

どのみち、彼らには私が普通のアイドルとは違うことがバレてしまっている。先の失言を誤魔化すためにも、この疑問に敢えて乗り、このまま話題を逸らしてしまうのも悪くない。私とてアイドルにはある種の崇拝に近い何かを持っているから、なるべくこういう面を見せたくはないんだけど…………仕方ない。

 

それに、被害を被るのはあくまで私で、私が好きなアイドルが変わるわけじゃないからね。

 

 

「これも、認識が甘いのかなぁ。残念なことに、芸能界では君の懸念する『悪意』なんてありふれているんだよね。

 

しかもそれは、なにも私に限った話じゃない。大人になれば、どうしてもそういう要素は随所に付き纏う。…………認めるのは遺憾だけど、アイドルっていう職業は、見かけ通りの綺麗なものじゃないんだよね…………」

 

 

私のなるべく些細な体験談を交えて、大人になることの悲しさを刻々と説く。こんなことをある意味遊馬くん以上に純粋な彼に言っていいのか、とかは言ってる最中に何度も思ったが、ここ最近の忙しさで積もり積もってしまったストレスが、良くも悪くも私の口数を増やしてしまった。

 

ふと、我に帰る。失言を誤魔化すためとはいえ、変な方向に振り切りすぎだ。意外にもアストラルが興味深そうに聴いてるからいいにしろ、この私がアイドルの幻想を壊すような真似をするなんて、いよいよもって本気でやばいのかもしれない。あるいは、油断し過ぎである。

 

 

「…………って、なーに言ってるんだろうね、私。疲れてるのかな…………最近、デュエルもあんまり出来てなかったし。

 

───そうだ、遊馬くん」

 

「え?」

 

 

鬱になりそうな話題を割と強引に断ち切って、途中から興味無さげに私の愚痴を聞き流していた遊馬くんに視線を合わせ、告げる。

 

 

「ちょっとデュエル、しよっか。ほら、病院では気分を盛り上げないとあっさり死んじゃうからね。───ハッ、そういえば私、点滴が刺さってない!? やばい、死んじゃう…………!

 

───じゃなくて。ちょっとだけ、付き合ってもらえるかな?」

 

「だ、だけど、俺ら、激しい運動は禁止されているんだぜ?」

 

「そりゃあ病院だしね。当たり前じゃない。

 

………………………………?」

 

「?」

 

 

(───?)

 

 

なんでここで、彼は疑問符を浮かべるんだろうか。病院だから激しい運動はできない、でもこのまま寝転んでいても気分が落ち込むだけ。だから気分を盛り上げようとデュエルを提案したのに…………?

 

 

「デュエルディスクはどうするんだ? それに、場所も…………」

 

「…………え?」

 

 

何を言ってるのか理解できません。

 

いや、本当に何言ってるの? そんなの───

 

 

(───え、待って、まさか)

 

 

「……………………えーと、そこにテーブルあるから、それでいいんじゃ…………?」

 

「へ?」

 

「いや、『へ?』じゃなくて…………え?」

 

 

私はあくまで常識的に、本来のテーブルゲームとしての「遊戯王」を提案したつもりだったのだが、なんかおかしい。なんだろう、この謎の認識の違いは。

 

そういえば、それはあくまで常識だからと、誰かにわざわざそんなこと(・・・・・)について問いかけたことはなかったし、私にしても『どうせだから』とデュエルディスクを使ったデュエルばっかり、否、それしかしてなかったような気はするが。

 

 

(───そうか…………テーブルデュエルは一般的じゃないのか…………知らなかった…………)

 

 

これは驚き桃の木、ではなく、世界の違いからの齟齬とはいえ、よくもまあ今までこんな致命的な話題を避けて来れたものだ。運が悪いのかはとにかくとして、常識外れだと大恥をかかなかっただけ良しとしよう。

 

 

「…………とにかく、やろう。うん。こればかりは、実際にやってみないと。ほら、デッキを持ってきて」

 

「あ、ああ…………」

 

 

私の気迫にやや押されつつも、遊馬くんと私は普段デュエルディスクに挿しっぱなしなデッキをテーブルの右端の方へと置き、やったら分厚いエクストラデッキをホルダーごと前世のエクストラデッキゾーンへと設置して5枚ドロー。互いに向き直って構える。

 

私にとっては少し懐かしいだけ。でも、遊馬くんにとってのこれは相当に珍しい、というかやったことがないらしく、かなり戸惑っているのが見て取れる。

 

 

「じゃあ、私のターンだね。ドロー。

 

スタンバイ、何かある?」

 

「へ?」

 

「ないならメイン。私は手札の《銀河戦士》の効果を発動。手札のこのカード以外の光属性モンスターを墓地に送って、手札のこの子を特殊召喚する。特殊召喚成功時の効果、並びに墓地に送った《光波異邦臣》の効果を処理するけど、何かあるかな?」

 

「な、何かあるかって…………」

 

 

 

 

 

 

《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》

効果モンスター

星5/光属性/機械族/攻2000/守 0

「銀河戦士」の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:このカード以外の手札の光属性モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。

②:このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから「ギャラクシー」カード1体を手札に加える。

 

 

 

 

 

 

まずは信頼と安心の銀河戦士。ギャラクシーを嗜む私のデッキにも当然のように三積みしている。サーチするのは銀河遠征。銀河戦士そのものが発動条件を満たすので実際、相性は抜群だ。

 

うさぎやうらら、ヴェーラーを握ってなさそうなのですかさず発動。2枚目の銀河戦士を呼び出す。サーチ効果は使えないけど、そんなのはどうでもいい。

 

 

「私はレベル5、機械族の銀河戦士2体で《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》をエクシーズ召喚。ここまではいい?」

 

「いいって言われても…………」

 

 

どうにもできない、という顔をしていたので、何もないと判断して展開を進める。どのみちこのタイミングでヴェーラー使っても手遅れだし、うさぎやうららも意味ないからいいんだけど。

 

「じゃあ、ノヴァの上に重ねて《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》をエクシーズ召喚。このカードはノヴァの上に重ねてエクシーズ召喚することもできる。

 

次に、《光波鏡騎士》を召喚。光波がいることで《光波翼機》も特殊召喚して、この2体をオーバーレイ。ランク4、《フレシアの蠱惑魔》。守備表示で。

 

フィールドに2体、エクシーズモンスターがいるので《エクシーズ・ギフト》を発動。2枚のカードをドロー。

 

カードを3枚伏せて、メイン終了。エンドフェイズ、私はこれでターンを終了かな。

 

あ、効果確認は自分でお願いね。一応、発動時に説明はするけど」

 

「お、おう…………」

 

 

 

 

 

《銀河遠征(ギャラクシー・エクスペディション)》

通常魔法

「銀河遠征」は1ターンに1枚しか発動できない。

①:自分フィールドにレベル5以上の、

「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合に発動できる。

デッキからレベル5以上の、

「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

 

 

《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/機械族/攻2100/守1600

機械族レベル5モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

自分の墓地の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

②:1ターンに1度、自分の手札・フィールド上の

「サイバー・ドラゴン」1体を除外して発動できる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、2100ポイントアップする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

③:このカードが相手の効果によって墓地へ送られた場合、

機械族の融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚できる。

 

 

《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/光属性/機械族/攻2100/守1600

機械族・光属性レベル6モンスター×3

「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」は1ターンに1度、

自分フィールドの「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」の上に重ねてX召喚する事もできる。

①:このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×200アップする。

②:1ターンに1度、フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターをこのカードの下に重ねてX素材とする。

③:1ターンに1度、カードの効果が発動した時、

このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 

《フレシアの蟲惑魔》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/地属性/植物族/攻 300/守2500

レベル4モンスター×2

①:X素材を持ったこのカードは罠カードの効果を受けない。

②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

「フレシアの蟲惑魔」以外の自分フィールドの「蟲惑魔」モンスターは戦闘・効果で破壊されず、

相手の効果の対象にならない。

③:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

発動条件を満たしている「ホール」通常罠カードまたは

「落とし穴」通常罠カード1枚をデッキから墓地へ送って発動できる。

この効果は、その罠カード発動時の効果と同じになる。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

《エクシーズ・ギフト》

通常魔法

①:フィールド上にエクシーズモンスターが

2体以上存在する場合に発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 

 

 

盤面をなるべく固めてターンを譲る。久しぶりだが、だからこそ前世の感覚でデッキを回せた気がする。いつもこんな感じに妨害ができるフィールドを敷けたらいいんだけど、そうはいかないのがこのゲームの悲しいところである。

 

 

「えーと、俺のターン…………」

 

 

いつもと違うフィールドに戸惑っているのか、彼とは思えないほど普通にカードを手札に加える遊馬くん。なんだろう、なんとなく新鮮だ。そう感じられるほど彼とデュエルをしてきたわけじゃないんだけども。

 

 

「俺は、《ブンブンセブン》を召喚! このカードは、相手フィールドにモンスターエクシーズがいる時、手札から特殊召喚できる!」

 

「えーと、ちょっといい? 他の効果は…………なさそうだね。じゃあいいかな」

 

「…………そして俺は、《ガガガマジシャン》を召喚!」

 

「通さない。フレシアの蠱惑魔の効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使って、デッキの《狡猾な落とし穴》を墓地に送り、その効果を発動する。

 

自分墓地に罠カードが無い場合、相手モンスター2体を破壊する」

 

「なら、《ガガガリベンジ》を発動!」

 

「えーと、確かそれは…………《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果を発動。1ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使って、相手が発動したカード効果を無効にし、破壊する」

 

「っ、《死者蘇生》! 蘇れ、ガガガマジシャン!」

 

「何もありません」

 

「ガガガマジシャンの効果発動! このカードのレベルを8に変更する!」

 

「このタイミングでレベル変更? 何も無しで」

 

「更に、《ガガガイリュージョン》を発動! フィールドにガガガマジシャンがいる時、墓地のモンスターをガガガマジシャンと同じレベルにして特殊召喚する!」

 

「へぇー、そんなサポートが。ランク8ね。嫌な予感がするから賄賂で」

 

「…………永続魔法、《ガガガ×ガガガ》を発動!」

 

「まだあるなんて、流石だね。何もないよ」

 

 

前世の感覚で淡々と、しかしてなるべく適切な処理をしてフィールドを制圧する。相手ターンにこれだけ色々とできるのが、デュエルの醍醐味だと思うのです、はい。

 

なお、彼が最後に発動したのはガガガモンスターと同じカードとなってフィールドに出される魔法モンスター。つまり、フィールドにはレベル8モンスターが2体となる。あんだけ妨害しまくったのに狙い通りになるあたり、彼の運命力が私と桁外れなことが伺えた。

 

さて、何が来るんだろうか。ランク8のナンバーズって何がいたかなぁ。

 

 

「レベル8のモンスター2体をオーバーレイ! 現れろ! 《No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー》!」

 

「え?───ジャイアントキラー!?!!????」

 

 

待て。なんでそれをこんなどうでもいいデュエルで使う。ホープを使え、ホープを。

 

というか持ってたの? てっきりアニメではトロンとのデュエルのついでに回収したと思ってたんだけど、シャーク戦の時点で回収していたんだろうか。

 

 

「ジャイアントキラー、効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、このカード以外のモンスターエクシーズを全て破壊、破壊したモンスターのコントローラーにその攻撃力の合計分のダメージを与える!

 

デストラクション・カノン!」

 

「《ダメージ・ダイエット》、発動。あー、せっかくのフレシアインフィニティが…………」 さなぎ LP 4000→2600

 

「バトルだ! 俺はジャイアントキラーでダイレクトアタック!」

 

「《エクシーズ・リボーン》によってノヴァを蘇生、壁にします」

 

「バトルを終了して、ジャイアントキラーの効果を発動する!」

 

「ノヴァが相手によって破壊された場合、エクストラデッキから機械族の融合モンスターを特殊召喚できる。

 

これによりレベル10、《スーパービークロイド-モビルベース》を特殊召喚」 さなぎ LP 2600→1550

 

『融合モンスターとは、珍しいな』

 

「というかエクストラデッキ分厚すぎないか…………?

 

ホルダー5個って、流石に多すぎだろ…………」

 

 

うるさい。君のような運命力を持たない私は、前世から持ち出した引き出しを最大限に活用しないと勝てないんだから仕方ないでしょ。それに、エクストラデッキの分厚さなら君だって大概じゃない。デッキの2倍近くあるし。

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「じゃあ、エンドフェイズにミラーナイトの効果で光波翼機を手札に加えるね。

 

私のターン、ドロー。スタンバイ。メイン。私は手札から《簡易融合》を発動して《旧神ノーデン》を融合召喚して、その効果で墓地のミラーナイトを蘇生、ウィングを自身の効果で特殊召喚からのプトレノヴァインフィニティ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかぐだぐだな、雑とも言えるお遊戯そのもののデュエルが、病院の一室で賑やかに執り行われる。

 

何のしがらみも、勝敗の意味すらないどうでもいいこのデュエル。最初は戸惑っていた遊馬くんも淡々と行う制圧にいつしかムキになり、悩みも忘れてデュエルへと没頭していく。

 

そんな彼を見た私は、前世を含めて始めて、病院のことがほんの少し、ほんっっっっとうに少しだけ、悪くないな、なんて血迷ってしまうのだった。





なんか超長くなった。謎。デュエルなんてほとんどないのに…………。


ひっどい展開を綺麗な回想で誤魔化そうとする作者。普通に最低だと思う。でも、こうして療養期間とかを無理に取らないと、彼女の立場的に遊馬の付き添いとかができないから仕方ないんだ…………!


なお、彼女はいわゆる幻想殺し(全身)みたいなスキルを持っていますが、間接的な被害は防げません。今回の怪我は、スフィアフィールドの影響によるものではなく、爆発の衝撃で起きた風に吹き飛ばされた事による打撲や擦過傷が主です。上条さんなら立ち上がって「歯ァ食いしばれよ最強───」とか言う程度の被害でしかありません。つまりデュエルに支障はないので無問題です(軽いとは言ってない)



















この作品の禁止制限は放送当時のものです(ボソッ


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増殖!サイファープロジェクション!

実は、前回のさなぎちゃんがテーブルデュエルが一般的じゃないんだ、と思ったのは、遊馬の側に問題があります。

まず前提として、あの世界でもテーブルデュエルはあります。当然です。別に珍しいわけでもありません。あれだけ世界的なゲームとして描写されてるので、寝る前にちょっとだけやる、みたいな光景はあの世界の家庭ではどこもありふれたものだと思ってます。まあ、それでもディスクを使ってそうなイメージは確かにあるのですが。

ならば何故遊馬は違うのか、と言いますと、それはアニメ初期で散々描写されていた彼の家庭環境に問題があります。

アニメ初期、遊馬は何故かデュエルを禁止されていました。しかも見たところ、それを律儀に彼は守っていたようです。したがって彼にとってのデュエルとは「家ではできない・やらない」ものである、という認識が前提として刷り込まれていることになります。

更に言うなら、周囲の環境もそうです。アニメを見る限り、おそらくナンバーズクラブのみんなと遊馬の家はかなり離れていて、小鳥ちゃんだけがご近所さん、という位置関係になってるはずです。私の勝手なイメージですが、多分、鉄男辺りの家は学校を挟んで正反対にある、みたいな感じだと思っています。

要するに、気軽に小鳥ちゃん以外の家に遊びに行けない、ってことですね。これも遊馬が小鳥ちゃん以外の友達と2人で歩いてる描写が驚くほど少ないので間違いはないかと。多分、みんなで遊ぶ時は待ち合わせでもしてるんじゃないかな。

トドメに小鳥ちゃん。彼女はおそらくデュエルを好みません。というか遊馬が彼女をデュエルに誘う光景がどうしても浮かびません。何故だか2人になると絶対デュエルとは無関係な遊びをしてるイメージしかない。でもどうしてか2人とも幸せそうなのがまた。デュエル馬鹿の遊馬も、完全プライベートで小鳥ちゃんと2人でいる時はデュエルをまるきり忘却してるイメージがあります。

よって、少なくとも遊馬にとって、デュエルとは屋外でやるもの、遊びとして使うもの、であり、家でなんとなくダラダラと楽しむものではないと考えている、と想定できるわけです。



…………なんて言い訳が、後から浮かびました。実はテーブルデュエルが廃れてることにしたのはその場のノリです。だからそういうことにしていてくださいお願いします。


ついでに。禁止制限が当時のものでも、基本的にギャグ以外では禁止カードを使わないので禁止カードの有無がストーリーに影響を及ぼすつもりはありません。


あちこちについた土埃を払いながら歩く。

 

自身のやったことに対し「不快だ」と思うことはないが、煩わしいのは確かだ。それに、汚れたままでは美意識に欠ける。いと美しきギャラクシーアイズを体現する者として、最低限の身嗜みすら整えないのはあり得ない。

 

苛立ちからか、心なしか足音も大きく聞こえる。納得がいかない、とはまさにこのことを指すのだろう。

 

 

「おのれ…………」

 

 

愚痴に近い言葉が、力の入った身体から漏れ出る。昂ぶった精神が、治らずに怒りへと昇華する。向かう先は当然、この結果を引き起こした彼、私の友人にして仲間たる人物、ドルベの所。

 

 

「ミザエル、戻ったか───」

 

「ドルベ。貴様、アレはなんだ?」

 

 

少しの時間を経て見つけたドルベに詰め寄り、発言を遮って、最優先の課題を問い詰める。彼からすれば唐突だろうと、そんなことはどうでもいい。

 

 

「アレ、とは………?」

 

「貴様の渡したバリアンズ・スフィア・キューブ───アレは、我が真の姿にも耐えられる、と他ならぬ貴様が言っていたではないか。それがどうだ、タキオンドラゴンの威光にすら屈するようでは話にならんぞ!」

 

 

彼を信じて、その言葉を全面的に信頼していたからこそ、裏切られた気分となり口調も厳しいものとなってしまう。ベクターならともあれ、彼の誠実さ、高潔な精神は私も認めていたのだ。彼の予想を超えたエネルギーが発されただけだ、などと推定することは容易で、過ぎたことをこうして詰め寄ったところで惨めなだけなのに、我らの聖戦に水を差されたその怒りは、私の心から冷静さを奪い取っていた。

 

そんな、ある意味では理不尽な追及にも、ドルベは真剣な態度で受け止め、冷静に自身の過ちを認め、ミザエルに責はない、悪いのは私なのだ、と頭を下げて謝罪をする。

 

彼の態度に冷や水をかけられた気分となり、ここに来て、ようやく冷静さを取り戻すことができた私は、先の態度を謝罪、悔い改めて彼へと向き直り、かつての本題に入ることとする。

 

 

「───それで、あの女について、何かわかったのか?」

 

「ああ、と言っても、あやつが何者なのかがわかったわけではない。私が感じたのは、やはりあの女のランクアップは我々とは異なるものである、ということだけだ。だが、それで十分なのだろう?」

 

「やはりな…………もしや、とは思っていたのだが、違ったか。まあ、あの女のソレは、アストラル世界のソレに近い。故に、可能性は元より低いと考えていた。だが、ならば───」

 

「何故、蝶野さなぎはバリアンズ・フォースを所有していたのか、だな」

 

 

解せないことは、これだ。彼女がアストラル世界に連なるものならば、彼女がバリアンの力の象徴であるあのカードを保有しているのはどう考えてもおかしい。

 

更に言うなら、ギャラクシーアイズのこともそうだ。バリアン世界に伝わる伝説のモンスター。それをあやつは従えていた。ならば自然、彼女は何らかの形で、バリアン世界との繋がりを持っている、と考えるもの。だが、それは。先の想定をまるごと翻してしまうことになる。だから、解せない。

 

 

「………我々バリアンは、本来の姿でなければカオスエクシーズを使用することができない」

 

「わかっている。だが…………」

 

「だが、何だ? 貴様はまだ、あやつら(・・・・)が生きている、などと妄言を吐くつもりか? 貴様にも、実はわかっているのだろう?」

 

「…………」

 

 

(───『だが』、か。やはり、未だ、認められぬのだろうな…………)

 

 

幾度もなく釘を刺しても、頑固な彼はこれに関して決して譲ることはない。万全の状態ならば、空間転移すら起こせるあやつらがそうしないのはつまりそういうことであり、どう好意的に見た(見捨てられた)としても結局、あやつらが彼の前に姿を現すことはないというのに。

 

私にだって、仲間である彼らの喪失は悲しく思う。だが、我々はバリアン。幽玄に漂う亡者たち。孤高にあらねばならぬもの。その本質を見誤り、己すら保てなくなるようでは話にならんのだ。

 

疑問はある。しかし、それだけだ。ドルベの考えは、全てが理想論、自身がそう思いたいだけの妄想に過ぎん。最低限の義理を果たした以上、私個人としてはこれ以上の検証に付き合うつもりはないのだ。

 

まあ、決定的な証拠(・・・・・・)でもあれば話は別だが…………バリアンズフォースすら関与を疑われてもその(・・)証明とはならない以上、そうそうは───

 

 

「なんだぁ? シケた面しやがってよ。またぞろくだらねぇ話でもしてんのか?」

 

「貴様は───」

 

「…………ベクター」

 

 

 

 

『だが』、そうだな。まだ、色々とドルベにも言いたいことはあるが…………。

 

 

 

 

───まずは突然現れたこの不快な男を、制裁するところから始めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

こんにちは。今日も貴方のお側に特殊召喚! おなじみアイドルデュエリストこと蝶野さなぎです。

 

久しぶり(初めて)の闘病生活を開けて早1日。怪我をする前の大きな仕事の分と合わせて随分と長めの療養期間を取るように事務所から言われた私ですが、ぶっちゃけ暇です。それもかなり。私自身、プライベートの大半がアイドルなので、ある意味では当然なのだけど。

 

しかも、怪我も全快した以上、実質的には休暇のはずなのに名目を療養にして最近忙しかった私のために気を利かせてくれてるおかげでレッスンにも行けません。一度様子を見に行ったらスタッフのあの子に超心配されて申し訳なくなりました。無視してレッスンに励む選択肢もなくはなかったんだけど、なんかあの子、私が怪我をしてから反応が過剰と言うか何というか。後で聞いた話だけど、私の療養を引き延ばしたのも彼女の強い要望らしい。

 

で、馬鹿をやって大怪我をした私をこれほどまでに思ってくれる友人がいる。そのことがとっても嬉しくて、あれこれ不満はあれど感謝の気持ちが大幅に上回り、結局、無理をせずに実家で休みを取ることにした私なのだけど。

 

 

「…………暇だなぁ」

 

 

早朝に行なっていたボイトレ。リハビリを兼ねた一時間程度のランニング。常日頃から日課としてこなしていたそれが終わり、いざ自分の時間…………となった私は、これまた随分と久々に尋ねた気がする実家の自室にてぼんやりと窓下を眺める。

 

本日は快晴。遊馬くんが言うなら絶好の決闘日和、とはいえ、それは決してアイドル日和(?)と同じにはならない。人が密集するアイドルのパフォーマンスでは、日差し云々よりも涼しさや湿気の快活さ、つまりは過ごし易さこそが大切なのだから───

 

 

「…………練習も、なんかする気が起きないなぁ。駄目なのは、わかってるんだけど」

 

 

休日にさえ仕事のことしか浮かばない。典型的なワーカーホリックである。自覚しているだけマシ、と油断してはいけない。起伏のない日々は心を鈍化させ、その潤いを容赦なく奪っていく。永きに渡る闘病生活の最後でかつての私が色々悟って大人しく死を受け入れたのも、多分そういう理由なんだから。

 

 

「あー、ダメダメ。せっかく退院できた(・・・)のに。

 

でも、アイドル以外の私…………うっ、頭が」

 

 

朝早くから何を考えているんだろう。私は何者なんだろう。そもそもこの世界はかつての私が見ている夢なんじゃないか、などと無駄に哲学的な思考を繰り広げ、どんどんと落ち込んでいく私。

 

気休めのように勉強机の中央に置いてあったデッキに手を取り、適当にカードを入れ替えてデッキを改築する。ここ最近は新しいカードも生まれてないし、デッキの構築を今更多少改善したところで、むしろ運命力が向上した私には、ピンポイントなメタカードに対抗できなくなる可能性が出てくるからムラのあるカードはあんまり抜きたくはないんだけど。

 

 

「…………病院、楽しかったなぁ」

 

 

やばい。いよいよ思考があり得ない方向にまで堕ちて来た。この私がよりにもよって病院を楽しいと漏らすなんて、私を構成しているかつての私の全否定である。

 

でも、本当に、楽しかったのだ。場所こそ最悪も最悪だったけど、その事実を否定することは付き合ってくれた遊馬くん達への侮辱になる。それだけはいけない。だって。

 

 

「───ん? 『だって』…………?」

 

 

だって、何だと言うのか。わざわざ口に出したが、その続きは咄嗟に浮かばない。

 

はて、私は何を言おうとしたんだろう、といつものように思考をまた広げようとして…………いつものように紆余曲折しながらも、そう時間も掛からずにその理由について思い当たる。

 

 

(───そういえば私、友達とあんな感じで遊んだの初めてかも)

 

 

無論、正真正銘初めて、というわけではない。自慢になるが、コミュ力は高い方だし、中卒でも幼稚園・小学・中学と友達は数えられないくらいいた。でも。

 

 

「私、中学ではあんまりはっちゃけなかったしなぁ───」

 

 

小学生の頃は精神年齢が高過ぎて完全に保護者みたいな扱いされていたし、中学では多少差が和らいだものの、私自身が無駄な小賢しさを発揮して内申とかを稼いでいたおかげで友人とは良くも悪くも浅く広くの付き合いしかしてはいなかった。高校にはそもそも行ってすらないし、未だ小中学の頃の友達も応援に来てくれてそれはそれで嬉しいのだけれども、あんな感じに遠慮なくズケズケモノを言われたのは初めてかもしれない。

 

 

(───アンタ、だったかな。邪険だけど、悪くないかも)

 

 

多分、私が年上だから観月さんみたいに名前で呼び捨てることに抵抗があるんだと思うけど、それで逆に態度が悪くなるのなら意味がないだろうに、デュエルになるとあれだけ格好良いのに、こういうところだけ子供っぽくて、

 

 

「───っと、いけないいけない」

 

 

仕事のことから抜け出せたのはいいが、私は何を考えているのだ。アイドルには

恋愛は厳禁。皆の偶像である私は同時に皆の擬似的な恋愛対象にもなり得る。その私が処女性を欠くなど、絶対にあってはならないことだろうに。

 

 

「………それに」

 

 

彼には、公式(・・)で定められたお相手がいる。幼馴染で、気心の知れた仲で、優しくて気丈で家事もできる可愛い少女が。

 

彼女のことは、入院中に何度も見かけた。何度も話した。何度も何度も何度も毎日のように。当然だ。彼女は他の友達とは違い、本当に誇張なく毎日毎日足繁く病院まで足を運んでいたのだから。あの目を覚えている。あの熱を、あの献身を、あのゾッとするほどの魔法を、私はちゃんと理解している。

 

観月小鳥。あの少女がシナリオ通り(・・・・・・)に舞台に立ち続けるからには、私なんかの入る隙間なんて…………。

 

 

(───何を対抗心なんて燃やしてるんだ、私は。そもそも私は、舞台にすら上がれない脇役だったのに)

 

 

だった。過去形だ。今の私は、決して脇役であるとは言い難い。カイトを倒し、トロンを止め、フェイカーの野望を破壊し、ミザエルに目をつけられた。仮に私が舞台から降りたら、まず間違いなくシナリオは大幅な修正を余儀なくされることだろう。つまり、その点に関しては問題は───

 

 

「───あああ! 違うっっっ………!!

 

馬鹿か、私! 何を屁理屈で言い訳してるんだ! ちょっとだけ、ほんの少しだけ遊んで、それで………!」

 

 

それで。それは、かつての人生そのものと言えるトラウマを、単純な「楽しさ」で塗り替えるほどに───

 

 

「っ───!」

 

 

半ば衝動的に、身の薄着のまま、デュエルディスクを手に取り部屋から飛び出す。

 

ダメだ。これ以上を考えると、望むと、求めると、かつての私が築き上げたこの私という偶像が揺らいでしまう。私はアイドル、皆のものであり、誰か1人のものになんかなれない。なのに。

 

 

「お母さん! ちょっと出かけてくる!」

 

「え、ええ? ああ、うん、いってらっしゃい…………?」

 

 

思考のドツボにハマりそうな身体を奮起させ、玄関にあったコートを片手に外に出る。

 

キャラの意向や状況を無視してシナリオ通りに進めようと奮闘する世界が、その先に待ち受けるであろうイベントを用意していることも分からずに。ただただ、自らの意思で私は、この舞台を掻き回していく。

 

それが良いことなのか、悪いことなのかは、きっと、終幕の時にでも、分かるのかもしれない。

 

 

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

あてもなくハートランドを彷徨い歩く。かなり広大な開発都市とはいえ、ここは十数年暮らした故郷だ。前世のアドバンテージで勉強をろくにせずとも好成績だった私には時間があったし、それこそ隅々まで散策して泥だらけで帰ったこともある。

 

故に、どこを歩こうとも迷う心配なんてない。いや、私もある意味では(人生とかに)迷っているのかもしれないけど、とりあえず行動に支障はない。もしもそれがあり得るとしたら、それは。

 

 

「…………なんだろう、これ」

 

 

ランニングに行った時に来たままだった運動服をなんとなく持ってきたコートで隠しつつ、目の前の光景に疑問を抱く。

 

人の波、こう表現するのが最適だろう。しがない工場街の一角、コンテナが無数に立ち並ぶだけの本当に何もないようなその場所には、どうしてかいつかに見覚えのある制服を着た年若き少年達が、所狭しと無駄に流麗なコンビネーションで何者かをずっと散策しているのだから。

 

 

「…………額のあれ、まさか」

 

 

ついでに言えば、彼らにはもう一つ共通点がある。言葉として呟いてしまうほど一目でわかる外見的な特徴が。

 

額に浮かぶ、謎の紋章。否、はっきり言ってしまうとまさしく『バリアンズ・フォース』そのものであるその文様は、操られたように行動する生徒たち全員に等しく見受けられた。

 

 

(───入院イベントの後…………なんだっけ。忘れちゃったなぁ。ベクター襲撃じゃなかったかな…………いや、そういえば、遊馬くんが)

 

 

最近、アリトと名乗る少年と勝負した、と言っていたはずだ。ギラグとアリト、どっちが先に脱落したかすら覚えていないけど、ベクターに嵌められた彼らが脱落してベクターが代わりに、みたいな流れだったはず。

 

アニメの方はともかく、アリト戦一戦目については遊馬くんが楽しげに語っていたからよく覚えている。確か、そのきっかけは───

 

 

「……………………」

 

 

…………まあ、きっかけはどうあれ、時系列的には彼との二戦目以前、ベクターの襲撃前の時期であるのは間違いない。彼らがなんの理由で誰が放ったのかは忘れてしまったが、目的は明白だ。すなわち、彼の持つナンバーズの奪取。及び、アストラルの撃破(?)。

 

 

「…………放っては、おけないよね」

 

 

何故か、いつのまにか固く握り締めていた手を解し、人混みの隙間を器用に掻き分けて中心部にへと向かう。

 

如何に密集しようとも、所詮は専門の訓練も受けていない烏合の衆。いくらでも通れる猶予はあるし、人混みに慣れている私ならばこの程度、労力にもなりはしない。

 

 

「や、遊馬くん、また会ったね。…………何をしているの?」

 

「あ、アンタ、ここで何を…………!?」

 

 

さほどかからずに見つけた騒動の中心へと降り出て、事態の中央で何故かベクター(真月くん)に羽交い締めされた状態になっていた遊馬くんに声を掛ける。彼の正面にいるのは私のファン筆頭(未確認)であるギラグさん。どうやらこの事態は、彼の策略による騒動のようだ。

 

そういえば今更だが、炎天下にコートなんて着てるからめっちゃ暑い。表情には出さないけど、化粧とかしていなくて本当に良かった。

 

 

「何をって…………散歩かな。君の方こそ、何をやってるの? まさかこれが俗に言うIJIME? 初めて見たかもしれない。

 

なんてね。経緯はわからないけど、大体の事情は察したよ。良ければ、助太刀しようか?」

 

「───その必要はねぇぜ!」

 

「…………ん?」

 

 

突如として、快活な声がコンテナ街から響き渡る。

 

若干事態の把握が遅れて硬直していると、その声の持ち主は今にもIJIMEられそうな(※違う)遊馬くんの真正面へと降り立ち(比喩ではない)、カールのように中途から奇妙に逆立った黒髪をたなびかせ、あっという間に周囲の有象無象を蹴散らして、こちらに向き直ってさわやかに告げた。

 

 

「へへっ、間に合ったか」

 

「お前は、アリト…………?」

 

「て、てめぇ、アリト、何をしてやがる!」

 

 

(───ああ、この場面か。あったなぁ、確かに)

 

 

ようやくもようやくだが、朧げな記憶が蘇って来た。この事態を見て浮かぶ感想が「アニメでもあったなぁ」とかふざけたものになる辺り、本当に転生者と言う存在は度し難い。なんで私は本当に、あんな観測世界の記憶を持っているのだろうか。

 

 

「───九十九遊馬を、舐めんじゃねぇ!!」

 

「───お前のやってることは、デュエルじゃねぇ! 消え失せろ!!」

 

 

なんてことを考えてる内に、彼らバリアンの話し合い(柔らかい表現)は苛烈し、しかし正しく互いの意見が交錯する真っ当な盛り上がりを見せて、やがて衝突寸前にまで至る。

 

要はどちらも遊馬くんを警戒して、でもアリトはそれでも敢えて正面から挑みたい、だけどギラグさんはそれを認めない、って感じらしい。朧げな記憶でもそんな感じだったし、間違いはないだろう。…………でも。

 

 

「…………ねぇ。ちょっと、いいかな?」

 

「ああ?」

 

 

比較的、こちらの側に立っていて話が通じそうなアリトへと兼ねてよりの疑問を問いかける。アニメの描写から答えは明白でも、これはしっかり聞いておかなければならないことだ。

 

 

「君たち、ええと、バリアンはどうして、ナンバーズなんて集めるの?

 

あんなもの、(・・・・・・)君達バリアンにとっては、(・・・・・・・・・・・・・)害にしかならないのに(・・・・・・・・・・)

 

「…………は?」

 

 

予想通り(・・・・)、私の言葉を受けたアリトが、何を言われたのか理解できずに固まる。やはり、彼らにはナンバーズの使い道が、集める理由がよく分かっていなかったようだ。

 

それに、今の私の発言こそデマカセに近いが、嘘は言ってない。ナンバーズを集めれば集めるほど、バリアン世界の神たるドン・サウザンドが復活し、彼らの力にして手駒であったバリアンの戦士たちが存在の危機に陥る。すなわち害になる。

 

論点が違う詭弁だが、彼のような直感で物事を判断する人物には、その「間違っていない」ことこそがなによりも説得の材料になるのだ。

 

 

「(ど、どういうことだ!? ナンバーズが、害にしかならないって………)」

 

「(でまかせだよでまかせ。つまりは嘘。とりあえずこの場を収めるために言っただけ。彼らは何らかの目的でナンバーズを狙っている。その意思は見る限りかなり強固。だったら話し合いにはその前提を揺るがすしかないでしょう?)」

 

『(…………ふむ、なるほどな。これが、君の言う「綺麗じゃない」もの、ということか)』

 

 

学習早いなぁアストラル!!?! 流石天才、さわりしか話してないのにもう大人の汚さを理解してる!? …………お願いだから忘れて、謝るから。なんかもう、ごめんなさい。

 

そして同時に、その嘘が解釈違いなだけで真実に近くないわけでもない、とも言わない辺り、大人って存在は実に実に汚いなぁ、なんて他人事のように思う私であった。

 

でも、なんか有効っぽいので説得(笑)をこのまま続けることにする。弱った子どもに甘言を呟く。これが大人のやり口ですよ遊馬くん。真似しないでね☆

 

 

「あのね、ナンバーズはアストラルくん側、つまりはアストラル世界の力なんだよ? そんなもの集めて、対極に位置するバリアン世界に影響がないなんて思わなかったの?」

 

「そ、それは…………なんでだ?」

 

「おい。アリト、そいつは敵だぞ。そんな奴の言うことなんて───」

 

 

ここで襲撃者、羽根の謎アクセサリをつけたモヒカン巨漢のバリアンの戦士、推定ギラグさんとようやく目が合う。

 

…………その、なにかな。まさか、こんな時に私に見惚れるなんてないよね?ないよ、ね? そもそも勝手にメタ知識から推定しただけで、彼が私のファンなのかもわからないし…………。

 

 

「…………」

 

「えーと、何、かな?」

 

「───なんて、めんこいんだ…………」

 

 

(───えー…………?)

 

 

恋はいつでもハリケーンですかそうですか。私にもちょっと分かりま…………分かりません。

 

いくらこのアニメがギャグに近い何かだからと言って、こんな場面でもギャグ要素を…………そういえばさらっと命がかかった場面でも時折笑えないギャグによるピンチを定期的に差し込む作品でしたね。主にそこにいるアリトさん一戦目とか(あれは存在とか懸かってなかったけど)。あとはまあ、GXとかで頻出してた気がする。

 

 

(───これだけ歪んだ歴史でも、彼はギャグキャラの宿命から逃れられないのか…………)

 

 

というか、マジでどうしよう。なんか成り行きとはいえ(一応)制圧が完了してしまったぞ私。どうするんだ私。世界さんは何をどう頑張ったらこの微妙な空気を元の流れに戻せるのだろうか。

 

…………まあ、いいや、どうでも。いや、ファンが増えたのは嬉しいけど、今はもう、なんかいいや。暑いし、帰ろう。なんで私、コートなんてひっぺがして来ちゃったのかな…………頭でも茹だってたんだろうか。

 

 

「って、ちげぇ! ナンバーズがどうとかじゃねぇんだ。俺はただ、九十九遊馬と闘いたいだけだ!」

 

「なんで?」

 

「なんでって、そんなのは───」

 

「どうでもいい? いや、そうじゃないよね?

 

君は今、君たちの目的を『そんなこと』だと切り捨てた。つまり、少なくとも今の君に遊馬くんと闘う理由はないわけだ。私の真偽はどうあれ、自ら答えを出すかそれを知る人に確認を取るまでは。

 

確かに人生は何が起こるのかわからない。突如として君のような通り魔(・・・)に襲われて、友人がいなくなることだって、無いとは言わない」

 

「と、通り魔? いや、俺は…………」

 

「でも、私は彼らの友人だから、明確な危機を未然に防げるのなら、そのために精一杯努力をする。君も、バリアンも、その理由がわからないままに誰かを傷つけているようなら、いずれ必ず後悔をする時が来る。

 

───アリト、だったね。君は何故、あのバリアンから彼を守ったの? 多少なりとも罪悪感があるんじゃないの? 違う?」

 

「そ、それは………」

 

「迷いがあるのなら、私は君に敵対する。誰かを失わないために、何かを失わないために。私は立ち向かう。幸いにも、この世界にはそのための手段がある」

 

 

コートをたなびかせ、デュエルディスクを構えてアリトを睨みつける。力の総量も、人種も、価値観だって違う存在であっても、ここが「遊戯王」の世界であるからには、これだけは絶対に平等なのだと信じて。

 

 

「…………なぁ、オマエ」

 

「何かな? バリアン」

 

「俺はな。多分、オマエの言うことを半分もわかってねぇ。ナンバーズに関しても、ドルベって仲間に『集めてこい』って命令されただけで、あいつがそれをどう使うかなんて興味もなかった」

 

「…………へぇ?」

 

「だけどよ───そんなバカな俺だからこそ、オマエが本気で俺と闘うつもりだってのはわかる。その上で、この俺を倒そうとしているのも」

 

「違うよ。倒そうと、じゃなくて、確定事項。私は、君なんかには負けないから」

 

「へへっ───いいじゃねぇか」

 

 

虚勢でも、これだけは譲れない。負けを前提に挑むなんてナンセンスだ。負けた後のことは、その時になった自分が考えればいい。

 

遊馬くんやその仲間、ギラグさんが成り行きを見守る中、私達2人は互いに無言で睨み合い、距離を取り、自然とディスクを展開していく。そして───奇しくもその宣言は、意図したように全く同じタイミングで行われた。

 

 

 

「「───デュエル!!」」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、バリアンズ・スフィア・キューブの中にいる限り、オマエは絶対に逃げられない。じゃあ、タイマン勝負と行こうじゃねぇか!

 

俺のターン、ドロー!」

 

「………………」

 

 

絶対に逃げられない(私は例外←しかも実証済み)。

 

なんて冗談はさておいて、なんかアリトくんと闘うことになってしまった。何故だろう。いや、後悔はしてないけれども、これ色々と大丈夫なんだろうか。シナリオとか息してるのかなぁ?(他人事)

 

しかしまあ、やっぱり理由を知らないのねアリトくん。まあドルベ以外はそうなんじゃないかなとか思ってたけど、それでナンバーズなんて色々と不確定なものを引き受けるなんてお人好しすぎじゃないですかね。

 

でも、理由も明らかじゃない暴力は単なる理不尽だ。デュエルは暴力とは違うけれど、存在云々が関わる以上はそれと同義。私のような精神的にアレな人間ならともかくとして、遊馬くんにそれを味わわせるわけには、いかない。

 

大人として、年上として、そして何より彼の友達として。彼の持つ、シナリオなんかよりも大切な何かを守るために。

 

 

「俺は手札から、《BK ヘッドギア》を召喚!」

 

 

 

 

 

 

《BK ヘッドギア》

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻1000/守1800

①:このカードは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

 

 

 

 

 

 

【BK(バーニングナックラー)】。炎属性、戦士族統一のボクサーをテーマにしたカテゴリで、リードブロー(多分後で出してくる)を基本的に壁や殴り役としてサポートしながら中・高火力の安定した下場を作る、みたいなデッキだったはず。

 

とにかくリードブローが強力で切り札のはずのセスタスを使うと逆に弱くなる、とかそんな悲しい評価を受けていた記憶もある。だけど、容易く三体素材を並べられてカウンターに秀でたようなデッキが厄介でないはずはない。

 

私のデッキとは割と相性が悪いとはいえ、未だ運命力ではやや及ばない現状。ただでさえ何時か揺り戻しとかが来てもおかしくないのに、私が勝てるのだろうか。さて。まあ、頑張るけどね。

 

 

「そして、フィールドにバーニングナックラーが存在する時、手札の《BK スパー》を特殊召喚するぜ!

 

そして、この2体をオーバーレイ!

 

エクシーズ召喚! 現れよ!《BK 拘束蛮兵リードブロー》!!」

 

 

 

 

 

 

 

《BK スパー》

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1400

①:自分フィールド上に「BK」と名のついたモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚した場合、このターン自分はバトルフェイズを行えない。

 

 

 

《BK 拘束蛮兵リードブロー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/戦士族/攻2200/守2000

レベル4モンスター×2

①:このカードが戦闘を行う場合、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

このカードはその戦闘では破壊されず、

ダメージステップ終了時に

その攻撃力を800ポイントアップする。

 

 

 

 

 

 

「早速来たね───でも」

 

「スパーを特殊召喚したターン、俺はバトルフェイズを行えねぇ。だが今はまだ先行、どっちにしろ関係はねぇな。

 

俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「あ、待って待って。私はリードブローの召喚時、手札の《飛翔するG》の効果を発動するね。

 

手札のこのカードを、君のフィールドに特殊召喚します」

 

「はぁ? 俺のフィールドにモンスターを召喚だと?

 

…………まあいい。改めて俺は、ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

《飛翔するG》

効果モンスター

星3/地属性/昆虫族/攻 700/守 700

①:相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、

このカードを手札から相手フィールド上に表側守備表示で特殊召喚できる。

②:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードのコントローラーはエクシーズ召喚できない。

 

 

 

 

 

 

(───3枚、ね)

 

 

彼は確か、戦闘補助のカウンターを多く積んだビートダウン。そして同時に、戦闘に比重が重く乗った小細工潰しの面倒なデッキだった覚えがある。ボクサーなんだから容易に想像できるとはいえ、なんともまあこちらにとっても厄介なことこの上ない。

 

そもそも私は、否、あの世界のデュエリストはほぼ大半の人間がカウンター罠が苦手なのだ。特に神シリーズ。あの白髪オヤジに切り札を召喚前に殺されて、涙を飲んだ人物は数知れない。無論、それは私だって例外じゃない。

 

私のデッキは基本が派手とはいえ、根底にあるのはコントロール奪取という小細工だ。それを潰された私は、単に打点がそこそこ安定したビートダウンにしかならない。すなわち、物足りない。

 

故に、私が勝つためには───まあ、これから先は、ドローをしてから考えるとしよう。

 

 

「じゃあ、私のターン、ドロー」

 

 

自身の今ある運命力に任せ、その場の最善を引き当てる………が、引いたのはそこそこ有用なカードでも、完璧とまではいかないもの。つまり私の今の運命力はこの程度。しかし手札はかなり良さげ、ひっさびさに飛翔するG(超メタカード)も引けたし。となると。

 

 

(───若干、向こうに戸惑いが残っていた………? まあ、わからないけど)

 

 

だが、手札のカードがかなり優秀なのは間違いない。勿論、3枚ものカードによって妨害される可能性があるにせよ、ここいらで一つ、ぶちかましてみよう。

 

 

「私は手札から、《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《銀河魔術師》をコストにデッキからレベル1のモンスター、《銀河眼の雲篭》を特殊召喚する。

 

そして更に、飛翔するGを対象に《狂った召喚歯車》を発動。アリトくん、君はデッキから対象のモンスターと同じレベル、種族のモンスターを2体まで特殊召喚できるよ。まあ、あったらの話だけどね」

 

「…………なるほどな。そのためにわざわざ俺のフィールドに」

 

 

 

 

 

 

 

《銀河眼の雲篭(ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン)》

効果モンスター

星1/光属性/ドラゴン族/攻 300/守 250

①:このカードをリリースして発動できる。

自分の手札・墓地から「銀河眼の雲篭」以外の

「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。

「銀河眼の雲篭」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

②:このカードが墓地に存在する場合、

自分のメインフェイズ時に自分フィールド上の

「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

墓地のこのカードを選択したモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。

「銀河眼の雲篭」のこの効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 

 

 

《銀河魔術師(ギャラクシー・ウィザード)》

効果モンスター

星4/光属性/魔法使い族/攻 0/守1800

①:このカードをX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。

この時、このカードのレベルはこのカードより4つ高いレベルとして扱う。

②:このカードの①の効果を使用してX召喚したモンスターは以下の効果を得る。

●このX召喚に成功した時、

このカードの攻撃力は2000ポイントダウンする。

 

 

 

《狂った召喚歯車(クレイジー・サモン・ギア)》

通常魔法

①:相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

相手はデッキから選択されたモンスターと同じレベル・種族のモンスター2体を選択して特殊召喚する。

その後、自分の墓地に存在する攻撃力1500以下のモンスターを1体選択し、

そのモンスターと同名のモンスターをデッキ・手札・墓地から全て表側攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

(───それだけでも、ないんだけどね?)

 

 

レベルのないエクシーズを対象にできないこのカードを使うため、という目的も勿論あったが、実際の狙いはどちらかと言えばメタ効果の方にある。

 

エクシーズ召喚できない。この一文に秘められたパワーは、この世界では果たしていかほどの力があるのか。漫画版のアストラルが絶望したこの効果は、スタッフのあの子にやらかして二重の意味(見た目・効果が怖い)で泣かれたという逸話を持っていたりする。まあ、あくまでこれは地雷、一度効けばいい、程度だ。それよりも、今は───

 

 

(───それに、やっぱり)

 

 

彼は、こちらの展開を積極的に妨害してこない。あるいは、する気がないのかもしれない。向こうの魂胆や理念は不明だけど、納得は行く。彼ならば、と理屈抜きに信じられる。ならば私は、全力でフィールドを整えるまで!

 

 

「そして、サモンギアの更なる効果により、墓地の銀河魔術師及び、その同名モンスターをデッキから全て特殊召喚する」

 

「レベル4のモンスターが3体………!」

 

「残念。銀河魔術師の効果を発動。

 

このカードをエクシーズ召喚の素材として扱う場合、このカードのレベルを4つ上げて、更に2体分の素材とすることができる。つまり、レベル8モンスターが2体分かける3になるね」

 

「まさか、レベル8のモンスターが6体………?」

 

 

いや、流石にそれはちょっと………ロマンはあるけど、いくらなんでも実用性が無さすぎるよ…………。

 

なんて突っ込んでいる場合じゃない。私は私で、精一杯、頑張らないと。

 

 

「私はレベル8、2体分となった銀河魔術師をそれぞれオーバーレイ。

 

2体分のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

ランク8、我が魂、《銀河眼の光波竜》!…………を、3体で」

 

「……………………は?」

 

 

 

───ギャオォォォオォオ!!

 

───グゥォォォオォオオ!!

 

───ギシャァァァアァア!!

 

 

それぞれ銀河魔術師の上空に展開されたエクシーズの召喚エフェクト。それが晴れると私のエースモンスターこと光波竜くんがスフィアフィールド内に所狭しと立ち並ぶ。

 

なんかつい最近にもおんなじような光景を見たような気はするが気にしない。スフィアフィールド崩壊の可能性も、事前に心構えさえしておけばそう酷いことにはならないはずだ。決して遊馬くんを巻き込んで爆破を起こし、また病院で和気藹々と過ごしたいな、なんて考えてはいない。本当です。

 

 

「さて、じゃあ効果処理に入り───」

 

「いやいやいやいや、待て待て待て。なんだこれ、なんでこんなにギャラクシーアイズがいるんだよ!?」

 

「え? ……………………さあ?」

 

「さぁ、じゃなくてだな───」

 

「いや、話す理由がないし。

 

えー、では。まず、銀河魔術師の効果によって召喚したモンスターの攻撃力は2000下がります。つまりはみんな1000だね。

 

そして私は、銀河眼の光波竜くんその1の効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、このターン、リードブローのコントロールを奪い取り、奪ったモンスターの名称をこのカードと同じにする」

 

「させるか…………!

 

カウンター罠、《エクシーズ・ブロック》! リードブローのオーバーレイユニットを一つ使って、その発動を、無効にする!」

 

「なら、2体目の効果。サイファープロジェクション!」

 

「───っ、カウンター罠《エクシーズ・リフレクト》を発動!

 

自分フィールドのモンスターエクシーズが効果の対象になった時、その効果を無効にして破壊、更に相手ライフに800ダメージを与える!」

 

「だったら、3度目の正直と行こうかな…………!」

 

「くっ…………!」

 

 

 

 

 

《エクシーズ・ブロック》

カウンター罠

①:自分フィールド上のエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手が発動したカードの効果の発動を無効する。

 

 

《エクシーズ・リフレクト》

カウンター罠

①:フィールド上のエクシーズモンスターを対象にする

効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

その後、相手ライフに800ポイントダメージを与える。

 

 

 

 

 

よし、これでひとまず第一関門はクリア。無論、バーニングナックラーの粘り強さを侮るつもりはないけれど、かなり楽になったと見ていいはずだ。

 

素材がないことや火力の減退も、他ならぬギャラクシーアイズならばいくらでも解決できる。意気揚々と挑んだ彼には悪いが、変に粘られて変なことをされる前に、とっとと片付けてしまうとしよう。

 

 

「クラウドラゴンの効果を発動。このカードをリリースすることで、墓地に送られた光波竜を蘇生する。

 

そして、この子達を更にそれぞれオーバーレイ。ランク9、《銀河眼の光波刃竜》!」

 

「また、新しいギャラクシーアイズだと………!?」

 

 

(───ん? 『また』って、もしかして…………)

 

 

彼、もしかして私のことを知らないんだろうか。このカードなら、遊馬くんとの決闘で見せたことがあると思うんだけど、見るからに反応が初見だし。3体並べたことに対して驚いてる、とかだったら流石に演技が達者すぎるから、多分間違いない。まあ、だからと言ってなんだ、ではあるんだけど。

 

 

「ブレードドラゴンは、自分フィールドのギャラクシーエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚することもできる。

 

そのまま、私はブレードドラゴンのモンスター効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドのカード1枚を破壊する!

 

対象は、そのセットカード!」

 

「ぐっ…………!」

 

「更に更に、もう一体の効果で飛翔するGを破壊!

 

そのまま、バトル! 私は1体目のブレードドラゴンで、アリトくんにダイレクトアタック!」

 

「まだだ!

 

手札から速攻魔法、《ライトニング・クリンチ》を発動!

 

3000のライフと引き換えに、このターンのバトルを終了する!」 アリト LP 4000→1000

 

「え!? …………相手のターンで、手札から速攻魔法?」

 

 

 

 

 

《ライトニング・クリンチ》 

速攻魔法

相手モンスターの攻撃宣言時、このカードは手札から発動することもできる。

このカードの発動と効果は無効化されない。

①:3000ライフポイントを払って発動できる。

このターンのバトルフェイズを終了する。

②:自分のエンドフェイズ時に発動できる。

墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

 

 

 

なんたる珍妙なカードを。最近増えた手札から罠より珍しいのではないだろうか。

 

 

(───うーん…………)

 

 

決まった、と思ってたのに、仕留められなかったかぁ。流石の運命力だと彼を褒めればいいのか、こちらにハンデスがなかったことを恨めばいいのかよくわからないなぁ。いやまあ高望みしすぎかもしれないけど、せっかく高まった運命力をうまく利用できないのはデュエリストとして、ね。

 

 

「まさか、このコンボを凌ぐとは…………でも、君のピンチは変わらないよ?」

 

「へっ、どうかな。バトルが終了したことで、リードブローは俺のフィールドに戻ってくる。今は攻撃力こそオマエのモンスターには及ばねぇが、こいつさえいれば───」

 

「ああ…………それは、どうかなぁ?」

 

「───何?」

 

 

半信半疑だったけど、これで確信した。彼は私のデュエルを、私が使ったカードをろくに知らない、聞いていない。

 

それは単に彼がものぐさなだけなのか、刺客として放ったのに要注意人物の情報を与えないドルベを罵ればいいのかよくわからないけど───こちらに好都合であることは、間違いない。

 

 

「今のリードブローのカード名は、私の光波竜の効果によって《銀河眼の光波竜》となっている。

 

よって私は、ランク4のギャラクシーアイズでオーバーレイネットワークを再構築」

 

「なっ………!?」

 

「銀河に滾る力。その全身全霊が尽きる時、王者の魂が世界を呪う。

 

───エクシーズ召喚! ランク9、《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」

 

「俺の、リードブローを素材に、ギャラクシーアイズのナンバーズだと…………!?」

 

 

 

 

私の宣言に合わせて、ぼごり、と嫌な音を伴い、虚像たる銀河眼の光波竜の体躯が不自然に揺らぐ。

 

否、揺らぐという表現は適切ではない。正確には、光波竜の身体は今まさに作り変えられているのだ。

 

じゅくじゅくと腐り落ち、怨嗟の雄叫びを上げながら、痛みに堪えるように巨大な竜が身動ぐ姿は、まるでこの世の地獄を表しているようで。

 

そんな異常な光景と、その異様な雰囲気に飲まれているアリトくんを目撃してしまった私は、かつての私が気軽に使っていたあのカードが、果たしてこの世界ではどのような経緯で生まれたのかを密かに思い出すのだった。





→スフィアフィールドが壊れる

→デュエルができない。あるいはカオスエクシーズが使えなくて大幅に弱体化する。

→彼女の最終的な目的は、バリアンの脅威から遊馬を守ること。

→よし、なら、積極的に壊しにいこう!


…………なんて考えるのは、作者が捻くれているからです。ちなみに、またぶち壊すのは面倒というかあんまり中断をしたくないので、今回のデュエルは決着までフィールドが壊れずに持ちこたえたことにしますので悪しからず。




なお、くっそどうでもいいことですが、彼女が無意識にコートを手に取ったのは普段の衣装を隠すため(ジャージを着ていたので無意味)、つまりは自分がアイドルの蝶野さなぎであることを一目ではわからないようにするためです。その理由は…………まあ、察してください。


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剛拳! バーニングナックラー!

前話にさらっと書いた「カードが生まれる」とか言う意味不明なパワーワードをスルーする読者は、みんな遊戯王に毒されてるんだな、と思いました(KONAMI感)。


『一つ、聞きたいことがあるのだが、いいだろうか』

 

「ん?…………こんな深夜に?」

 

 

深夜の病室、月夜が差し込み室内を幻想的に照らすここで、私はベッドより半身を起こして月を眺めていた彼女へと語りかける。

 

 

『非常識だとは理解している。だが、どうしても気になることがあってな』

 

「いや、そうでもないよ? ぼんやり起きてた私もアレだし。ほら、私ってば病院で『快復に向かう』って状況がレアでさ…………興奮して、クールダウンでもしなくちゃ───じゃなくて。

 

それで、何かな、アストラルくん」

 

『以前、君の言っていた言葉についてだ。

 

君は、「ナンバーズは人の心を写し出す鏡」だと言った。それは一体、どういうことなんだ?』

 

「ああ、それね。それはね───」

 

 

勿論、これ以外にも、疑問はある。そもそも何故彼女がそれを知っているのかさえ不可解な現状、本来ならこんな部分的な質問ではなく、もっと根本的なことを聞くべきなのだろう。しかし、どうしてか、私は彼女に対してこれ以上を、彼女の秘密に関わる部分に関しての疑問を問いかけることに、どこか躊躇いを感じていた。

 

 

「そうだね。その前に一つ、聞いておきたいんだけど───アストラルくん。君は『白紙のナンバーズ』って知ってるかな?」

 

『…………白紙のナンバーズ?』

 

「あ、その様子だと知らないんだね。了解。じゃあ、今のは忘れてくれていいよ。

 

それでなんだけど。正直、そのままの意味です、としか言えないかな。逆に疑問に思ったことはない? 君の力であるナンバーズが、どうしてこれだけあれこれのカテゴリに属しているんだろう、って」

 

 

また一つ、疑問が増えた。白紙のナンバーズ。それは一体、何を指す言葉なのだろう?

 

単にナンバーズの力のカケラのことを言うのならそう言うだろうし、こちらに知らないか、と確認を取るということはあちらはそれを知ってることになる。ナンバーズのオリジナルの私にさえ知らない、その言葉の意味を。

 

本当に、彼女は一体、何者なのか。会話すればするだけ、その経歴に次々と謎が増す。これが彼女が言う「神秘性」を高めるための伏線ならば、そのために彼女が何を知ったのか。それもまた、興味深い題材だ。

 

 

『そうだな。シャーク、ギミックパペット、オーパーツ、紋章、そしてギャラクシーアイズ………偶然だとは、考えられないだろう』

 

「偶然じゃないからね。多分だけど、その気になればリセットとかもできるんじゃないかな。変な表現だけど。

 

でね。…………なんて言ったらいいんだろう? というか、これって本来、君が説明する側じゃないの?」

 

『…………そうだな』

 

「まあいいや。───ねぇ、アストラルくん。ちょっと貴方のナンバーズ、一枚だけ貸してくれない?」

 

『…………?』

 

「特殊カード変質論。異世界人である君がそれを知っているのかはわからないけど───存在している(・・・・・・)ことだけは、確かなんだ。

 

私は精霊に触れない。だけど、影響を受けないわけじゃない。また、その逆も然り。いや、むしろ負担を無視できる分、こういう呪われたカードとかを扱うのに向いている。

 

更に言えば、私はソレの可能性を、指向性を事前に知っている。うまくいくかはわからないけど、ちょっとだけ、実験だと思って私に任せてくれないかな?」

 

『…………一体、何を』

 

 

私には、彼女が何を言っているのか、理解することはできない。

 

だが、彼女は私の困惑など意にも返さず、言葉を巧みに弄び、歌うように述べる。私の求めた回答とはまた違う、しかして無視できない類の言葉を。

 

これは、私が彼女にはぐらかされているのか、彼女にとっては当然の流れでそのような会話となったのか、その答えは、彼女の意を汲めないこの私にはよくわからないが───

 

 

 

 

 

『いや。だが、そうだな。───実に、興味深い話ではある』

 

 

 

同時に、私が彼女の巻き起こす事態に、一定以上の興味を抱いてることも否定はしない。たとえこれが彼女の酔狂だとしても───たまには、こういうことも悪くはないだろう。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

(───失敗、か)

 

 

このデュエルモンスターズにおいて、必勝法と呼べる戦法はない。

 

いや、正確には、デュエリスト達が見い出せてないだけで、この世界にはそれがあるのかもしれない。だけど、一般的に考えられるどの必勝法を引っ提げてデュエルに臨んでも、結局は失敗することが多い。

 

 

(───やっぱり、かつての条件(・・・・・・)に合わせようとしたのが駄目だったのかな。原作再現(・・・・)でもしていれば、また違った結末になっていたかもしれないけど…………まあ、いいや)

 

 

それは何故か、決まってる。俗に言う、カード精霊のせいだ。正確には、互いの力量が拮抗乃至は抵抗して、それをさせるまいと妨害しているからである。

 

 

「アリトくん。私はね、実はあんまり、強いわけではないんだ」

 

「あぁ?」

 

「私は、特別なだけで、強いわけじゃない。私の秘密に触れたヒトは、みんな私のことを『異様』と言うけど、それは間違いじゃない。

 

私はね、色々と変なんだ。このナンバーズも、ギャラクシーアイズもそう。私の秘密の副産物にしか過ぎないんだよ」

 

「…………何が言いてぇんだ?」

 

「簡単。───私を人間だから(・・・・・)と舐めてると、痛い目を見ることになるよ。

 

じゃあ、私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

敢えて笑顔で、子どもに言い聞かせるように優しく、柔らかな口調で宣言する。

 

この状況でも自分を貫くのは正直、いやかなり精神的に辛いけど、このデュエルは遊馬くんも見て、否、誰も見ていなくても、私はアイドルなのだ。いつもにこにこ貴方の隣に。どっかの邪神のようにめげずにしつこいくらいアプローチをする! それこそがアイドル!(※個人差があります)

 

その割には私闘とかアイドルらしくないことばっかりやらかしてる気はするけど、普段から決闘(デュエル)アイドルだって予防線を張っているからこちらは本当にどうでもいいのだ。

 

決闘をやって咎められるヒトはいない。それがこの世界における大前提にして絶対の常識なのである。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

彼のフィールドにカードは無く、手札は今引いた一枚だけ。客観的な視点だと誰がどう見ても彼の劣勢としか言えない現状、しかし彼らメインキャラという存在は、そんな一般論を容易く打破してみせる。

 

 

「俺は手札から、《エクシーズ・トレジャー》を発動!

 

フィールドにいるモンスターエクシーズの数だけ、デッキからカードをドローだ!」

 

 

(───やっぱり引いてくるよねぇ。流石の運命力)

 

 

初期手札にほど近いレベルにまで手札を加算してきた彼に警戒を深める。

 

思い出すのは、WDC決勝戦のこと。私が負けた、現状ではただ一つのデュエル(非公式戦を除く)。あの時もこうやって、たった一枚の最期の手札から膨大な量の運命を操り、フィールドをどんどんと展開し、私の切り札をさえ見事打ち果たしてみせた彼。

 

 

(───まあ、彼のように、とはいかないだろうけど)

 

 

「まずはマジックカード、《バーニングナックル・スピリッツ》を発動!

 

デッキトップを墓地に送ることで、墓地にいるヘッドギアを守備表示で特殊召喚する!

 

更に俺は、《BK スイッチヒッター》を召喚!

 

このカードは、バーニングナックラーの素材とする時、1体で2体分の素材にできる!」

 

 

 

 

《バーニングナックル・スピリッツ》

通常魔法

「バーニングナックル・スピリッツ」は1ターンに1枚しか発動できない。

①:デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動できる。

自分の墓地の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚する。

 

 

 

《BK スイッチヒッター》

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻1500/守1400

①:このカードを「BK」XモンスターのX召喚の素材とする場合、このカードは2体分の素材にできる。

 

 

 

 

 

 

「レベル4のモンスターが3体…………」

 

 

ついにくるのか。オーバーハンドレッドナンバーズ。デッキ解説の時はボロクソ言ってたような気がする、でもあれで何故かアニメより強化されていた地味に珍しいナンバーズが。

 

 

「俺はレベル4のヘッドギアと、スイッチヒッター2体分をオーバーレイ!

 

3体分のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 

現れろ!《No.105 BK 流星のセスタス》!」

 

 

 

 

 

《No.105 BK 流星のセスタス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/戦士族/攻 2500/守 1600

レベル4モンスター×3

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードがこのカードの攻撃力よりも高い攻撃力を持つモンスターと戦闘を行う場合、

このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

このカードはこの戦闘では破壊されず、この戦闘は無効化されない。

この戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。

 

 

 

 

 

 

「105番目…………やっぱりバリアンは、アストラルくんのナンバーズとは別の、ナンバーズの名を冠すに相応しいモンスターを持っているんだね」

 

「へっ、その程度の認識でいいのか?」

 

 

いいんじゃないかな。結局、アニメでも細かい理由とかは明言されてなかったと思うし。多分、ナンバーズじゃないとナンバーズは破壊できないから、ナンバーズ以外の勢力を持つ人にナンバーズを当てはめただけ…………なんか変な表現になっちゃうなぁ。とにかく、まあ、そんな感じだろうから。

 

ちらっと、後方で見学しているはずの遊馬くん達の方を見る。ミザエルとの決闘を引き受けたからには、多分彼らにはこれが初めてのオーバーハンドレッドナンバーズ。となると。

 

 

(───うーん。面白いくらい動揺してるなぁ)

 

 

新たな空間を作り出すスフィアフィールドが音を遮断しているのか声こそ全く聞こえないけど、それでも遠目ではっきりと見て取れるだけ彼らは動揺を示している。アニメ通りの反応をしているんだろうか、なんて浮かぶのは、もはや業に近い何かだから諦めているけど。

 

加えて、真月くん。いや、ベクター。今は役に徹しているとわかっていても怖い。しかも役者としてもほぼ完璧に近くて、芸能にどっぷり染まっている私ですら先入観が無ければ違和感に気づかなかったかもしれない。病院で話した時は本当に気の良いお調子者の少年、みたいな感じだったしね。

 

文句なしの満点。驚いてる演技も完璧。機会があれば、演技指導を願いたいくらい。正直、私は彼のように嫌がらせのために全てをかなぐり捨てる覚悟は嫌いじゃないです。やってることは邪悪だけども。

 

 

「その程度、ね。正直、私にとってはナンバーズなんて妙ちきりんな戦闘耐性を持っているだけのエクシーズモンスターでしかないから、評価の対象はそれを操るデュエリスト本人だけだよ」

 

「へぇ、なるほどな」

 

「ただ、この状況でたかが一体、ランク4のモンスターを出したところで私の優位には変わりない。

 

勿論、私はランクでエクシーズモンスターを格付けするつもりはないけど、ブレードドラゴンにすら劣る火力で、この私をどうにかできるのかな?」

 

「慌てんじゃねぇ! 俺の本気はまだまだこれからだ!

 

行くぜ! バリアルフォーゼ!!」

 

「えっ」

 

 

そんな言葉を皮切りに、うぉぉぉお、という掛け声と共に彼の身体が光り輝き、光が開けた先にはなんと、バリアン究極態となったアリトくんの姿が!!

 

 

(───そういえば、真の姿じゃないとカオスナンバーズ使えないんだっけ?

 

いきなり変身するから、何事かと…………)

 

 

いや、何事云々を言い出すなら現状がもはや何事なのか突っ込みたい気持ちで一杯だけど。

 

 

「───」

 

 

パクパク、口を動かす。違う、何かを言おうとしたのだ。まさかの変身!?とかそれがお前の真の姿か………とかそういうリアクションを。だけど、言葉がどうやっても捻り出せなかった。これがまさに絶句、と言うのだろう。前世も含めて初めての経験である。経験したくなかった………。

 

 

(───やばいよやばいよ。心構えもなしに目の前で変身とかやられると困っちゃう)

 

 

実際、反応に困る。何を言えばいい? 事前に身構えていたミザエル戦とは違い、この闘いは本気で偶発的なものだ。プライベート時のアドリブに期待が持てない自分では、気の利いた反応なんてとてもとても。

 

 

「へっ、覚悟しやがれ! これが俺らバリアンの、真の力だ!

 

俺は手札から、《RUMーバリアンズ・フォース》を発動!」

 

「それは───」

 

 

ランクアップマジック。エースの効果をお披露目せずにいきなり進化とは。焦っているのか、余裕がないのか。───そうでもしなければ、勝てないと踏んだのか。

 

マインドスキャンを持たない私には、彼の真意を推測は出来ても断定は出来ない。だけど、彼が真の切り札を私に見せるに相応しいと考えてくれたのなら───

 

 

(───負けられないなぁ、絶対に)

 

 

「闇を飲み込む混沌を!光を以て貫くがよい!

 

カオスエクシーズ・チェンジ!

 

現れろ、《CNo.105 BK 彗星のカエストス》!」

 

 

 

 

 

 

《CNo.105 BK 彗星のカエストス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/炎属性/戦士族/攻 2800/守 2000

レベル5モンスター×4

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、

その破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

③:このカードが「No.105 BK 流星のセスタス」を

ランクアップしてエクシーズ召喚に成功した場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊し、

その破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 

 

セスタスの拳に膨大な力が宿り、混沌を編み上げ全身を覆い尽くす。

 

快活な青い装甲がカオスを表す赤に染まり、その色を紫に染め上げていく姿は、知ってる私にも衝撃的な構図だった。

 

 

「バリアンズフォースの更なる効果を発動!

 

このカードの効果で特殊召喚したモンスターに、オマエのナンバーズのオーバーレイユニット全てを移し替える!」

 

「くっ…………」

 

 

ダークマタードラゴンのオーバーレイユニットは2つ。これによりカエストスのユニットは5つとなり、こちらの火力まで微妙に下げられてしまった。それでもまだカエストスは私のどのモンスターにも及ばない攻撃力でしかないけれど、彼のバーニングナックラーには、簡単に火力を1000も上げられるモンスターがいる───!

 

 

(───でも!)

 

 

私だって、負けはしない。負けられない。バリアンだろうとなんだろうと、デュエリストであるならば如何様にも出来る!

 

 

「カエストスの効果を発動! カオスオーバーレイユニットを一つ使い、オマエのナンバーズを破壊! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!

 

これで、終わりだ! いっけぇぇぇぇええ!!」

 

「させない! 罠発動!《ランク・ゲイザー》!

 

自分フィールドのエクシーズモンスターのランクの合計かける300、自分のライフを回復する!

 

私のフィールドにいるエクシーズモンスターはランク9が4体!よって私は、10800のライフを得る! ───っ」さなぎ LP 3200→14000→10400

 

 

(───っ、流石に、初期ライフに近いダメージは…………)

 

 

相変わらず肉体的には異変はないが、とてつもない不快感が魂に刻まれる。呪縛、とはまさに真理を得ている。これがまともなカードであるはずも、まともな手段で生まれるはずもない!

 

 

「───その程度?」

 

「───んなわけ、ねぇだろ!

 

更に俺は、カエストスのカオスオーバーレイユニットを全て取り除き、《ストイック・チャレンジ》をカエストスに装備する!」

 

 

(───ストイックチャレンジ!? やばい、これは…………まさか、ワンキル狙い!?)

 

 

 

 

 

 

《ストイック・チャレンジ》

装備魔法

Xモンスターのみ装備可能。

①:このカードの発動時の効果処理として、装備モンスターのX素材全てを取り除く。

装備モンスターの攻撃力は

この効果で取り除いたX素材の数×600ポイントアップし、

相手モンスターとの戦闘によって相手ライフに与える戦闘ダメージは倍になる。

また、装備モンスターの効果は無効化される。

②:相手ターンのエンドフェイズに発動する。このカードを墓地に送る。

③:このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターを破壊する。

 

 

 

 

 

ストイック・チャレンジ。そのカードは、よく覚えている。火力強化と、戦闘ダメージ倍化の圧倒的なライフダメージによって、アドバンテージの概念を打ち滅ぼす一発逆転のカード!

 

 

「そして、取り除いた数×600ポイント、装備モンスターの攻撃力をアップする! 俺のカエストスのカオスオーバーレイユニットは4つ! よってその攻撃力は2800に2400を加えた5200だ!」

 

「でも、私のブレードドラゴンの攻撃力は全て3200。つまり通るのは最大でも4000ダメージだけ。

 

私の今のライフの前では、その程度じゃあ、まだまだ軽い!」

 

「それでも構わねぇ!

 

バトルだ! 俺はカエストスで、銀河眼の光波刃竜を攻撃!

 

コメット・エクスプロージョン!!」

 

「───なら、貴方の切り札は、この場に相応しいこのカードで打ち砕く!

 

速攻魔法、《ぶつかり合う魂》、発動!」

 

 

 

 

 

 

 

《ぶつかり合う魂》

速攻魔法

①:自分の攻撃表示モンスターが、そのモンスターより攻撃力が高い

相手の攻撃表示モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。

その戦闘を行うモンスターの内、攻撃力が低いモンスターのコントローラーは、

500LPを払ってそのモンスターの攻撃力をダメージ計算時のみ500アップする事ができる。

その後、お互いがLPを払わなくなるまでこの効果を繰り返す。

その戦闘で発生するお互いの戦闘ダメージは0になり、

ダメージ計算後にその戦闘でモンスターを破壊された

プレイヤーのフィールドのカードは全て墓地へ送られる。

 

 

 

 

「このカードを発動後、バトルするモンスターの攻撃力が低い方のプレイヤーは、ライフを順次500毎に支払い、その攻撃力を500アップでき、それを互いのプレイヤーが諦めるまで続ける!」

 

「意地の張り合いってやつか!だが…………」

 

「そう、私と貴方のライフ差は圧倒的!

 

よって私は、ライフを2000支払い、攻撃対象となったブレードドラゴンの攻撃力を5200にアップ!」 さなぎ LP 10400→8400

 

「攻撃力は互角…………ってことは」

 

「互いに効果を発動できず、ストイック・チャレンジの効果によって貴方のモンスターも破壊。そして、この効果の対象となったモンスターが破壊されたことにより、互いのフィールドのカードは全て墓地に送られる!」

 

「なっ………」

 

 

ブレードドラゴンとカエストスが文字通り、ぶつかり合い、フィールドの全てのカードを巻き込んで消滅する。

 

これにより、互いのフィールド及び手札は0。墓地も使えるカードはない。次の私のターンこそ、勝負の決め手となる、そんな場面になったわけだけど、

 

 

「貴方のターンは、これで終わり?」

 

「…………ああ。俺はこれで、ターンエンドだ。

 

俺は、俺に出せる全力を出し切った。これでオマエが次のターン、新たにモンスターを引いて負けたとしても、悔いは───」

 

「いや。その必要はないよ。というか、多分次のカード、私の運命力的に役立たずだと思うし。

 

だから私は、エンドフェイズにランク・ゲイザーの更なる効果を発動する」

 

「何………!?」

 

 

 

 

《ランク・ゲイザー》

通常罠

①:自分フィールド上に存在するXモンスターを任意の枚数選択して発動できる。

それらのモンスターのランクの合計×300ポイントのライフを回復する。

また、このカードの発動後、このターン選択したモンスターがフィールドを離れた場合、それらのカードを対象に、墓地のこのカードを除外して発動できる。

そのランクの合計より低いランクのXモンスター1体をX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚し、対象のカードを下に重ねてX素材とする。

この時、素材とするモンスターの数は、そのX召喚に必要な条件と同数でなければならない。

 

 

 

 

私の運命力では、本気を出した彼に到底及ばず、運気を取られて絶望の未来となるのが目に見える。だから、私は事前に布石を仕込んだ。故に、彼はここで終わりだ。

 

そして、今の私の後ろには、あの遊馬くんがいる。希望の象徴、ナンバーズのオリジナル。ならば、出すモンスターと言えば、これを除いて他はないだろう。

 

どちらにせよ、4体素材のエクシーズなんて数えるほどしかいない。なら、少しくらい気を利かせてこのカードを召喚しても、誰にも文句は言われないと信じて。

 

 

「ランク・ゲイザーの発動時、フィールドに存在したエクシーズモンスターがフィールドを離れた場合、それらのカードをエクシーズ素材として、そのランクの合計よりも低いエクシーズモンスターをエクシーズ召喚す───」

 

 

(───いや。待て待て待て。ちょっと落ち着こう。落ち着いて、落ち着いて…………。

 

今の私は、ほぼ勝利が確定している。気を利かせるのもいいけど、こんなところで奥の手を使っていいのかな?

 

……………………よし、やめよう)

 

 

ホルダーに手を差し伸べたその時、私はふと冷静になって地味に酷い思考を繰り広げる。こんな全力の闘技でもまず打算が前提に入ってしまうあたり、私という人間も、実に救い難い。

 

けれど、一戦一戦が本気で何の支障もない彼と違って、私は遊馬くんを最低7人から守り抜かなきゃいけないからね。この程度なら、いくらでも飲みくだしますとも、ええ。

 

しかし、1000以上の攻撃力で4体素材。何かいただろうか…………あ、あの子がいたっけ。よし、これで行こう。

 

 

「偽りの骸を捨て、神の龍となりて顕れよ!

 

ダイレクト・カオスエクシーズ・チェンジ!

 

降臨せよ! ランク10、《CNo.92 偽骸虚龍 Heart-eartH Chaos Dragon》 !」

 

 

いつしか、フェイカーさんを完封して見事に勝利を収めたカオスナンバーズが、スフィアフィールド内を蹂躙するように君臨する。

 

確かにこのカードは弱い。進化すると弱くなる。しかも段違いに。こんな意味不明な悲しみを背負うナンバーズなんてきっと他にはいないだろう。でも、それも問題はない。

 

彼がここに来てくれた。えらく限定的で、選ばれ過ぎた状況だとしても、今の私はそれだけでこの決闘に勝利することができるんだから。

 

 

「攻撃力1000の、カオスナンバーズ…………!?」

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

引いたカードは融合。ある程度の確信はあったといえ、本当にビックリするほど現状では役に立たないカードだ。でも、それも全てにおいて無問題。勝利の方程式は、既にフィールドに出揃っている………!!

 

 

 

 

 

「バトル!

 

私は、ハートアースカオスドラゴンで、アリトくんに直接攻撃!

 

ハートブレイク・キャノン!!」

 

「ぐっ………ぁぁああああああ!!!!」 アリト LP 1000→0

 

 

ハートアースの放つ凶悪にして強大、無敵の砲撃が、スフィアフィールドごとアリトくんを吹き飛ばす。

 

それを確認し、慌てたように駆け込んで来た遊馬くん達の姿を見て、私はようやく、バリアンとの闘いを見事制した事実を実感するのだった。




何故か勝率100パーセントのハートアースカオスくん。二回も出るなんてそんなん想定しとらんよ………。


なお、ブレードドラゴンの蘇生効果が発動してないように思われますが、ぶつかり合う魂のデメリットを受けた場合、戦闘破壊が確定したブレードドラゴンをもデメリットとして墓地に送ることになるため、相手によって破壊されていない扱いとなり、蘇生効果が発動しませんでした。

…………わけがわからないって? 安心しろ。私にもわからん。




クオリティが下がってる気がするなぁ…………仕事であんまり、時間取れてないからなぁ。


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挑戦! タッグデュエル!

アークソでモチベが下がり、リンクのせいで大好きな正規融合がお亡くなりになり、デュエルそのものからもすっかり離れてしまいました。

この作品についても、ぶっちゃけモチベがアレでエタってしまいましたが、というか割と黒歴史気味ですが、別に消すまでしなくてもいいんじゃね、って戻ってきた次第です。

伏線そのままに強引に畳んだ糞みたいな作品ですが、それでもよければ嗤ってやってください。


 

 

「よい、しょ…………」

 

 

未だ気絶しているアリトくんを右肩に担いで、その足のまま自宅に向かう。

 

体格は細くても、肉体は強靭で筋肉に塗れた彼を背負うのは中々に骨が要る作業だけど、何のことはない。この程度、さっきのデュエルに比べたら可愛いものだ。

 

 

「…………なぁーにやってるんだろうなぁ、私」

 

 

時折、ふと冷静になって後悔する。今更だとわかっていても、全てに納得済みで行動していても、私のこの行為が、周りを巻き込む恐れがあるのなら当然。

 

だけど、見過ごすことはできなかった。私は、特別だから。私がおかしいから。私の行動こそが唯一、この世界のシナリオに干渉できるのだと、実感していたからだ。

 

これはいわゆる強迫観念というやつなのだろうか。わからない。どうでもいい。だけど私は、確信を持ってしまったからには、そうしないわけにはいかなかったのだ。何故なら───

 

 

(───私には、それができるから。だから、しなくてはならない。なんて、本当に、馬鹿だなぁ、私は)

 

 

それか、盛大に自惚れてる。調子に乗っている。勘違いしてる。表現は、なんでもいいけれど───やっぱり、馬鹿をやってる、が一番しっくりくるかな、うん。

 

 

「…………まあ、いいや」

 

 

私の行動がどうあれ、良くも悪くもシナリオに影響を及ぼしてることは間違いない。気絶しているとはいえ、こうしてアリトくんも健在ではあるし、あの様子だとギラグさんの狙いだって多分こちらに変わることだろう。

 

全く、人質(・・)なんて、本当に馬鹿なことをした。唐突にベクターのこの後の行動を思い出さなければ、私がここまで矢面に立つつもりはなかったのに。

 

 

「そろそろ頃合いかな…………」

 

 

でも、やってしまったものは仕方ないと思考を切り捨て、Dパッドの通信機能を呼び起こし、一応時間を確認してから器用に目的の連絡先にコールする。凄まじくどうでもいいが、私は割と器用である。

 

 

「もしもし、さなぎです。ちょっといいかな? まだそっちにギラグってバリアンはいる?」

 

『さ、さなぎちゃん!? 大丈夫なのか!? アリトは、いや、アンタは無事なのか!?』

 

「まーまー落ち着いて落ち着いて。とりあえず無事だから。さっきのアレについても、今からちゃんと説明するよ。あのね───」

 

 

当然のように慌てふためく遊馬くんを宥め賺しながら、私はつい先ほどの私の行動の意を懇切丁寧に語りかける。

 

遊馬くん達を守るためにデュエルを挑んだこと。バリアンと一括りに自称していたからには彼らの仲間意識がかなり高いと踏んでこうしてアリトくんを人質にとったこと。それにより、遊馬くん達への刺客を減らす、乃至は全てこちらの方へと向ける目的があったこと、などと。

 

 

『…………じゃあ、アンタがああした理由は───』

 

「まあ、そういうことだね。と言っても、アリトくんを構えて動くな! とか言っただけだけど。

 

…………君みたいな良い子が、バリアンなんて不埒者と闘う必要はない。ああいう輩は、私みたいな大人に任せて───

 

『アンタだって、子どもじゃねぇのかよ! アンタは俺以上に、あいつらと闘う理由はないはずだ!』

 

…………」

 

 

───それは。

 

 

それは、違う。私は普通じゃない。少なくとも、自分で自分を子どもだと定義することは、私にはできない。私は、異端だから。

 

なのに、どうしてだろう。心が痛い。苦しい。彼に責められると、かつて私が本当に子どもだったあの頃がフラッシュバックする。

 

彼に叱られるのが怖い? 馬鹿な。そんな段階は、とうに過ぎ去っている。いくら肉体に引っ張られて多少精神が若くなってても、私は。

 

 

『アイドルだろうが何だろうが、俺からすれば何も変わらねぇ。アンタは子どもだ。俺と同じ、1人じゃ何もできないただの餓鬼でしかねぇ。

 

だけど、俺にはアストラルがいた。小鳥がいた。鉄男や委員長、徳之助にシャークも、アンタだってそうだ。俺はいつだって、1人じゃ何もできないままだった』

 

「…………」

 

『なぁ、何で何も言わなかったんだ? アンタが俺らのことを、俺のことを案じてくれたのはわかった。でも、なんで───』

 

「それを───それを、君が言うの? 九十九遊馬。貴方は、貴方は誰より、彼に体良く使われているのに」

 

『…………え?』

 

 

ぼそりと吐き捨てて、通話を切る。

 

これ以上を求めると、辛くなるのは自分だ。なら、事が終わるまではすっぱり諦めてしまった方がいい。

 

 

「…………」

 

 

わかっている。自分のこれが、単なる我儘だってことも。感謝されるどころか、恨みを買うだけの愚行だということも。

 

でも。

 

 

───彼はきっと、全員分の責任を抱え込もうとするだろう。

 

 

だけどそれは、純粋に彼の負担になる。

彼ならできるかもしれない。でも、だからこそ(・・・・・)私がやったのだ。

 

九十九遊馬の考えは正しい。私の考えは、きっと正しいとは言えない。でも。

 

彼が全てを知れば、彼はバリアンなんて不埒者の重みを背負うことになる。

 

何故なら彼は、主人公だから。そうなるだろうと、そうなってしまうことを、既に未来を定められてしまっているから。

 

でも、私は知っている。

 

私は、彼がそれで思い悩むことを知っている。

 

 

まだ悩むだけならいいだろう。しかしそれが彼の重荷となり、彼の側にいるあの男の悪意が絡みつき、その挙句それを利用しようとするものが現れれば、彼はきっとつぶれてしまう。

 

確かに彼は、きっとそれに耐えられる。だが、それは今ではない。

 

早すぎる決意は、いつか来るそのときに。だからこそ、蝶野さなぎは彼を守ると決めたのだ。

 

だからこれは私が飲み込む。だってこれは罪ではない。ただ、やらなくてはいけなかっただけのこと。

 

いつか彼が消化できることもあるだろう。

いつか全てを話せる日があるかもしれない。

だが今は駄目だ。それは彼に押し付けていいものではない。

 

誰か一人のモノになれない私では、彼の精神を癒すことはできないから。

 

私は彼を選択肢の前にすら立たせるべきではないと考えた。

 

だからその責任は私が取る。納得したことだ、理解していたことだ。だから問題なんて何もない。

 

私は彼が直ぐにそれを耐えられる人間になることを知っている。でも彼が今既にどれほどのものを抱えさせられているかを知っている。

 

これは正しいこと。これは間違ってはいない。これは間違いではないはず。

 

だから私は、何も気にしていない。

 

 

「そうだ。私はただ…………」

 

 

呟きが思わず漏れる。仕方ない。だってこんなの、誰にも相談できるわけがないのだから。それにそもそも、慰めだろうと説法だろうと受け入れられないことが決まっている。

 

だから勝手に全てを決めて、勝手に全てを終わらせて、だから何一つ、彼の責任なんてなくて、ただ、私が馬鹿をやってるだけで。

 

自分でそう決めたのだ。自分の責任は自分で取る。これが私の選択。

 

 

「…………嫌われちゃった、かな」

 

 

───けれど。少し、ほんの少しだけ、胸が痛い。

 

何故だろう。私は、精霊なんて見えないものに、存在を揺るがされるわけがないのに。

 

けれど、落ち込んではいられない。やらかしたことには、責任を持たなければならない。たとえ彼に見捨てられたとしても、単純に彼の身代わりになるだけならばむしろ好都合だ。

 

目元を拭い、いつのまにか止まっていた足に無理やり力を込めて前に進む。どうしてか、先程よりもアリトくんの重さが増した気がして、改めて彼を担ぎ直し、力強く大地を踏み出そうとしたその時、

 

 

「───ようやく、追いついたぜ」

 

「え───?」

 

 

聞き覚えのある声と共に、アリトくんを担いでいない方の手。左腕の手首を背後からがっしりと握り締められる。

 

それを行った人物の顔はと言えば、怒っているような、安心しているような、悲しんでいるような、喜んでいるような、そんな、なんとも言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「遊馬くん………?」

 

 

縋るようなか細い声で、怯えたように彼女が振り返る。

 

時折ビクッと身体を揺らしながら恐る恐るこちらを眺めるその態度は、今までの彼女の態度からは想像もしていなかった姿だ。

 

いや、俺にそれを見せないように努めていただけで、彼女はいつも内心ではこうして怯えていたのかもしれない。俺が知らない何かを知ることで、その弊害に苛まれながら、笑顔の裏で葛藤しながら、俺にそれを悟られまいと気丈に振舞っていただけなのかもしれない。

 

ならば、その負担を彼女に背負わせたのは俺だ。彼女はさっき、俺のためと言った。彼女がどのように考えようとも、俺が動く理由なんて、それだけで十二分にある。

 

 

「…………アンタがアストラルを信用できないのはわかる。俺だって最初は、あんな幽霊みたいな奴のことなんて怪しくて、胡散臭くて、ナンバーズなんて説明受けても眉唾で、非協力的に要求を突っぱねたことだってある。いや、それは今でもそうだ。

 

あいつのことは信頼してるが、信用し過ぎるのもダメだと思ってる。俺があいつに対してどんなスタンスでいようと、アンタの立場からすれば、俺は確かにあいつに体良く利用されてるだけだからな」

 

「…………うん」

 

「でも、俺は違うだろう? 俺は利用されているだけ、そう言ったのは他ならぬアンタのはずだ。アストラルと俺は一心同体でも、間違いなく別個の存在なんだ。

 

なあ、俺はアンタから見て、そんなにも信用できないか? 信頼したくないのか? アンタがそんな泣きそうな顔で全てを背負おうとするほどに、アンタにとっての俺は頼りない存在なのか?」

 

「───それは」

 

 

バツの悪そうな顔で、俺から微妙に焦点をズラしてこちらを向いてる彼女を真正面からはっきりと見つめる。

 

何故か彼女が厚着をしていた上、アリトを担いで走ってたからか、その整った顔つきの化粧っ気のない肌にたらりと滑り落ちる汗が、上気した呼吸と相俟って妙に官能的だった。

 

しかし、それでも視線は逸らさない。向こうが惚けていても無視だ。こういう徳之助みたいな小難しい理屈で誤魔化すタイプは正攻法でねじ伏せるしかないのだから。

 

 

「…………」

 

 

しばらくじっと瞳を合わせていると、彼女が小さく喉を鳴らす。互いの息がかかるほどの至近距離だ。気づかないはずはない。それでも視線は変えない。目は泳ぎ、頰はやや赤く染まり、逃げようと抵抗してもそのままに。むしろ手に力を入れて、何が何でも主張を通さんと視線に意思を込める。

 

やがて根負けしたのか、いつのまにか顔を真っ赤に染め切った彼女が担いだままだったアリトを放り投げて両手のひらで顔を隠す。…………どうでもいいが、結構勢いよく放り捨てたように見えたけど、アリトは平気なんだろうか。地面に落ちた時「ヴッ」と呻いていたから、意識はあると思うけど。

 

 

「……………………ごめん。ちょっと待って。話すから。全部言うから。だからちょっと待って。ね?」

 

「あ、ああ…………」

 

 

顔を器用に隠したまま、妙な迫力と共に紡がれた言葉に押されて曖昧に相槌を打つ。

 

先程までの儚い表情とあまりに変化が激しくて動揺をしているんだろうか。少なくとも、元気にはなったみたいだ。

 

 

「…………ふーー。

 

よし、大丈夫。私はまだ、アイドルでいられる。だいじょうぶ、だいじょうぶ…………。

 

それで、信用できるか否か、って話だったね。

 

───ごめん、ちょっと無理かな。君の人格は文句なしに信用できるけど、ちょっと厳しい」

 

「な───」

 

 

 

流れ的に肯定が返ってくると思っていたので、まさかのはっきりした否定に素で驚いてしまった。

 

自然、反射的にその理由を問い詰める。そこまではっきり断言するなら、彼女なりのちゃんとした理由があるはずだと。しかし、その返ってきた台詞は、期待通りにその理由について回答したのと同時、俺にとってはあまりに衝撃的な内容だった。

 

 

「あの子、真月くん。彼は多分、バリアンだね。しかも、かなりの悪意を以て君を欺いている。

 

君が悪いって話じゃないけど、彼に現在進行形で騙されてる君の信用度は、お世辞にも高いとは言えないかな。少なくとも、今だけはね」

 

「な、んだって…………?」

 

 

真月がバリアン。

 

何を言っているのか、彼女は。あいつが、あのお人好しが、人を騙せるような根性を持っているわけがないのに。

 

 

「信じるか信じないかは勝手。………というか、君は信じなくてもいい。少なくとも、私はそうだと判断した。その結論に答えを出すまで、いや、出しても今の彼が君の仲間であることは変わりない。

 

でも、でも。彼をこのまま放置していれば、君はいずれ彼に裏切られる。これは確実。だから私は決断した。この選択が間違いじゃないと確信した。彼の奥底の思考が、私にとってあまりに見過ごせなかったから」

 

『…………根拠はあるのか?』

 

「そ、そうだ。なんでそんな───」

 

「残念だけど、はっきり『これだ』とは言えない。だから私は、私独自の手段でそれを暴こうと考えた。具体的にはアリトくんを皮切りに芋蔓式に人質を増やしていって、みたいな感じに。

 

もちろん、うまくいく保証なんてなかったけど…………」

 

「どうして…………」

 

 

何も相談を………いや、俺が信用できないから、なのか。真月に気取られるからと、彼女から見ての真月は、俺を巧みに騙している悪者で、俺はまんまとあいつに騙されているからと。

 

やっぱり色々言いたいことはあるが、彼女の主張は概ねわかった。割と突発的な犯行っぽいのが気にはなるが、彼女の目的も、理由もある程度理解した。でも。

 

 

「あいつは、真月は、バリアンなんかじゃねぇ。あいつは、人を騙すような奴じゃないんだ」

 

『…………これに関しては、私も同意見だ。私と彼は会話すら交わしていない間柄でしかないが、それでも彼の人柄は知っている』

 

「なんで、そう言えるの?」

 

「なんでって、そりゃ───」

 

 

少し考え、割と直ぐにその根拠に思い当たる。いや、根拠と言うには随分と弱いが、俺にとっては充分な判断材料だ。

 

 

「それは、あいつがヘタレだからだ!」

 

「あ───そ、そう。そうなんだ。へぇ」

 

『…………遊馬。それは流石に』

 

 

う、うるせぇ! 根拠なんかなくたって、あいつは俺の仲間なんだ! 仲間を信じて何が悪い!

 

 

「悪くはない。むしろいい。じゃなくて。───でも、それとこれとは話が別。

 

残念だけど、この件に関してはいつまでも平行線だね───」

 

「───ああ」

 

 

自然な流れで互いに深妙な雰囲気になり、視線を重ねる───が、直ぐに逸らされる。なんでだよ。

 

そんな俺の疑問には答えずに、彼女はそっぽを向いたまま、不思議とよく通る声で「でも」と区切り、このように述べた。

 

 

「とはいえ、私の推論はあくまで邪推で、彼のその裏切りが杞憂、もしくは単に君のためである可能性もある。だから、私の言葉を鵜呑みにするのも厳禁。だからこれは、参考までに。

 

ただ、とりあえず、アリトくんを利用するような真似はしないと約束する。不安はあるけど、それはそれ。君が嫌だと言うことを、君のためだと言い訳するのは筋が通らないから。

 

だけど私は、反省はしていない。必要だと思ったの。悪いとは思ってるけどね…………」

 

「あ、ああ………」

 

 

───わかるような、わからないような。

 

とは言っても、なんとなくなら理解した。要するにアレだ、彼女は非常に疑り深いのだ。あるいは、過保護であると言ってもいい。

 

そも本来なら、彼女が俺らの事情に首を突っ込む理由はない。それでも彼女が俺に付き合うのは、自惚れながら俺が彼女の友人であるからだろう。俺だって、鉄男や小鳥がナンバーズ絡みのトラブルに巻き込まれた時、その身を賭して戦いに挑んだ。今の彼女は、それと同じだ。

 

「だったら」、そんなことを思う。続く言葉は曖昧だけど、悪い意味には決してならない。もちろん、真月だって俺の友達であるからには、あいつが何らかの隠し事をしてようと、悪く言われることには思うところはある。でも、それでも。

 

 

「あ、それと最後に───」

 

「…………ん?」

 

 

ここでようやくいつもの調子を取り戻したのか、真っ直ぐにこちらを見つめて軽く声を鳴らす彼女の姿に内心で安堵する。

 

さっきまでの彼女は、いつか何処かに消え去ってしまうのではと危惧するほど危うい雰囲気だった。俺の行動がその陰りを取り払えたのなら、こんなに嬉しいことはない。

 

よっと、という掛け声と共に、軽々と彼女がアリトを背負い直す。自然と動作に目が釣られてその様子を微妙に見つめていると、朗らかながらも鋭く響く絶妙な声色で、貫ぬくように彼女は告げた。

 

 

「とりあえず、バリアンだから(・・・・・・・)、という見分け方はやめた方がいいよ。

 

バリアンにも、人間にも、アストラル世界やデュエルモンスターの世界にも、悪人もいれば、善人もいる。少なくとも、ここにいるアリトくんはバリアンだというレッテルだけで悪と断定していい人格をしていない」

 

 

でも、と続ける。自身の考えを押し付けるでなく、ひたすら俺に判断材料を与えるためだけに彼女は語る。

 

俺には致命的に欠けているもの。しかし、決して直ぐには補うことが不可能である、モノの見方というべき人生経験。

 

 

「逆に、善い人だからって、善いことをしているとは限らない。

 

私がアストラルくんに懸念しているのもそれでね───欲望を増幅させるとか一歩間違えば、いや普通に人生を台無しにできるモノを事実としてこの世界にばら撒いてしまった以上、どうにも穿った見方をする他ないんだ。

 

…………ごめんね。性格が悪くて」

 

『…………いや』

 

 

その言葉に、アストラルが鈍く反応し、しかし直ぐに言葉を濁し、そのままの状態で黙り込む。

 

この手の反応は、アストラルには珍しくない。アストラルは常日頃から自分で主張しているように頭は良いが、その反面頭でっかちな部分がある。ナンバーズ絡みの件では意外に声をよく荒げるし、ひどい時にはそのままダンマリを決め込んで呼びかけても反応がないなんてザラだ。

 

だけど、今回ばかりは気持ちもわかる。言葉を濁した理由も、言葉の途中で黙り込んだ理由にだって見当はつく。

 

 

(…………アストラルの、目的)

 

 

正直な話、俺にもさっぱりだ。それを知るための手段としてナンバーズを集めているのは知っているが、本人さえも理解してない動機なんて探りようがない。

 

でも、それこそ俺にはどう判断していいのか。あれこれ選択肢を用意して、必要とあらば即決で即座に行動を起こせる彼女が、今は少しばかり羨ましい。

 

しかし、俺がそんなことを思っていると、彼女は相変わらず妙に俺を見透かした態度で「違う違う」と嘯いて、

 

 

「嫌でもやらなければならない。そういう機を逃したらどれだけ後悔するか。それをただ知ってるだけだよ、私は。

 

以前にも、入院するより前に夢の国へ一度でも行っておけば、後から唐突に行きたくなって後悔するなんてことは───じゃなくて。

 

なんにせよ、しばらくはあっちの出方を見るしかないかな…………ギラグってバリアンも、あの問答で少しは動揺したっぽいし」

 

『あれは、動揺と言うより…………いや、やめておこう』

 

 

(…………出方を見る。本当に、それしかねぇのか?)

 

 

彼女からすればそうだろう。言ってはなんだが、本来こちらの事情とは無関係でしかないはずの彼女は、義理や人情以上の感情でこちらに関与する理由はない。

 

だが俺は違う。あいつらは、明確に俺を狙っている。また、ギラグの発言や服装を鑑みるに、学園に侵入かなんかをしてこちらの動向を見張ってた節がある。

 

俺が言うのもあれだが、あいつはあれだけ目立つ容姿だ。今まではバリアンが学園にいるだなんて想像もしてなかったから発想自体が浮かばなかったが、奴が学園に潜んでいると仮定すると、委員長辺りの人脈を利用して人海戦術なりなんなりで探し出すことも不可能だとは思えない。

 

…………卑怯な言い方だが、元より、選択権は俺にある。アストラルではなく、その大元のナンバーズを持っているこの俺に。

 

どうすればいいのか。どうやればいいのか。どのようなことができるのか。どんなことができそうなのか。

 

今の彼女は、全てを俺の意思に委ねている。自分の行動が過ちだと。それが最善であると、それこそが理想だと、俺自身が彼女にそう思わせてしまったから。

 

 

(…………バリアン、か)

 

 

バリアン。異世界から来たらしい、同じく異世界からやって来たアストラルのナンバーズを奪おうと目論む謎の集団。突如として現れたこの襲撃者に対し、俺は何の情報も持たない。何故ナンバーズを狙うのか。アストラルとの関係は。そもそもバリアン世界とは何か。謎だらけだ。

 

しかし、奴らとは話ができる。情報としては、それで十分だ。加えてどうやら互いの因縁も曖昧らしい。それで襲撃されるこちらとしてはたまったものじゃないが、今はそれが好都合だ。

 

困難ではあっても、不可能ではないのなら、挑まないのは心情に反する。常日頃から俺の掲げる目標。俺の意志。

 

 

 

「…………かっとビングだ、俺」

 

 

小さく口の中で呟かれたその言葉は、誰の耳にも届くことなく我が内にへと消え行く。

 

されど漲る決意を胸に秘め、俺は今後の可能性と、それが齎す未来を羨望し、自然と笑みが零れるのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

『…………それで、どうなったの?』

 

 

通信機(Dパッド)越しに紡がれる透き通るような声。デュエルモンスターズにおけるモンスターの鳴き声を代表とするあらゆる音声を世に抽出する高性能な機能が、彼女の言葉を忠実に再現する。

 

どうなった。端的だが、難しい質問だ。なにせここ数日の俺の日常は激動と言っても過言じゃなく、どうにも一言じゃ言い表わせないほど複雑なものだったのだから。

 

加えて、迂闊に吹聴してはいけない事柄も混ざっている。具体的には、真月の素性。でも正直、俺なんかの判断に委ねるより、腹をくくって話して彼女の意見を仰ぎたい気持ちもある。だけど俺は、その判断すらできやしない。何が正解で、何が間違いで。誰が味方で、誰が敵で。あるいは完全に無関係で。そんなことで悩むくらいなら、無闇にデュエルでも挑んだ方がまだマシだ。

 

 

「ああ、実は───」

 

 

しかし。

 

それでも俺は、伝えなくてはならない。おそらく誰よりも俺のことを案じ、らしくもない役目を引き受けようとした彼女へと。たとえそれが、アストラルにとっての不利益となる可能性があろうとも、彼の記憶が定かではない現状で、それを伝えない選択肢はあり得ない。

 

その方がいい、ではなく、俺がそうしたいから。どちらの考えも、俺は尊重したいと願っていればこそ。

 

 

『…………ちょっと確認するよ。遊馬くんは、ギラグって人と戦った。デュエルでどうにか襲撃を跳ね除けるも、アストラルくんはその戦いで疲弊、王の鍵の内部にて療養。

 

しかし、どうしてか内部では番人を名乗る者が待ち受けていて、これを打破すると、これまたどういうわけかアストラルくんが本来の目的を思い出す。まあ、話を聞く限りだと、ブラックミストが意図して隠していたっぽいから、そっちはいいや。

 

ヌメロンコード…………聞く限りだと、まんま伝説にあるアカシックレコードだね。この世の全ての情報が記されている記録媒体とかそんな概念上の。

 

カードとしての《アカシック・レコード》も大概だけど、そっちの厄さはそんなものとは比較にもならないかな。

 

となると、アストラルくんの目的はバリアンがそれを手に悪事を目論むのを防ぐこと。あるいは逆に、ヌメロンコードの力で何かを為すこと、といった感じ?

 

いやぁ、マジで何でもできそうだから、逆に何をするつもりかまるでわからないね!』

 

 

笑いごとじゃないけどね! と、彼女は自棄っぱちに笑う。空笑いではなく、本当に心底からどうしようもなくて笑っている辺り、俺が思う以上に事態が深刻なことが伺えた。

 

ヌメロンコード。俺もこの話を聞いた時は驚いたものだ。この世の全てを記したカード。世界を生み出したとかいうとんでもないモノ。そんなものが実在し、しかもアストラルがそれを狙っている。加えてバリアンの奴らもヌメロンコードを求めているとなると、どう転んでも厄介なことになるのが目に見えてる。

 

 

『この世界は一枚のカードから生まれた…………というより、この世界こそが一枚のカードである、なんて理論は哲学を齧ればいくつか見つけられるけど、そんなのが現存しているとなるとまずいね。

 

しかも、見つけ出すと来たかぁ…………何が目的なんだろ? まあ、彼自身もわかってないみたいだけど』

 

「さあな。あいつはいつも、あれこれ無駄に考えているから」

 

 

まずあり得ない話だが、仮にあいつが何かヌメロンコードに関する重大な事実を隠していたところで俺は驚かない。なにせ事が事だ。如何に相棒であろうと警戒しすぎて損になることはないと断言していい。

 

思えば、あいつは自身が消滅する危険を推してナンバーズなんかを集めているのだ。己が存在を賭ける価値のある何かを、あいつは持っているのだろう。

 

その目的が良いことなのか悪いことなのか、今の俺には判断ができない。だが俺は、あいつの人格を信じている。あいつが掲げる目的ではなく、あいつ自身の考えを。ならば俺は、進むだけだ。俺が求めるその道を。俺が辿るべき輝ける未来へと。

 

 

『…………えっと、遊馬くん?』

 

「ん? ───ああ、悪い、ちょっと…………」

 

 

似合わないことを考えていたからか。表情とかではなく、声だけで違和感を覚えるほどに上の空だったらしい。雰囲気を察して心配気に声をかけられる部分は流石だが、こちとら彼女との会話を流していたに等しいわけで、できれば無視して欲しかったのだが。

 

そんなわけで、とは違うが、空気を変えるために目の前に迫ったとある行事の話題を切り出してみる。本来ならば多忙な彼女にこの手の話題を繰り出すのは気がひけるが、今の彼女は療養中。あわよくば、という欲が出てきても仕方ない。

 

 

「そういえば、そろそろ俺らの学校で、学園祭をやるんだけど───」

 

『…………ん?』

 

 

しかし、意外にもその言葉に、怪訝な声で彼女は反応する。唐突な話題転換ではあっても、そんな過剰な反応をされることに心当たりがなくて、俺が一瞬言葉に詰まると、

 

 

『ああ、そういえば、そんな時期だっけ。そっか、そうだよね。今の私に、仕事のオファーとか来るわけないよね。

 

って、ごめんごめん。…………学園祭ねぇ。私も実は君の学校が母校なんだけど、私はほら、いっつもそれっぽい出し物でお茶を濁していたから、あんまり深い想い出はないんだよね』

 

 

朗らかに、そんなことを彼女は言う。俺の学校が母校だってのはどこかで聞いたような気はするが、続けた言葉は少し意外だ。アイドルなんてもんをやってる彼女のことだから、てっきり講堂を一日中借り切ってライブなんかをしててもおかしくはないのだが。

 

 

『チョコラテよりも甘いよ、遊馬くん。残念ながら、アイドルになるのにも、内申ってものはすっごく重要なんだ。特に私は中卒だからね。幸いにも成績は良かかったから今は高卒認定くらいは持ってるけど、最初は本当に色々と大変だったよ?

 

まあ、そんな無茶をしたのもその道を選んだのも私だから、後悔なんてしてないんだけどね』

 

「チョコ………?」

 

『買い被りすぎ、ってことだね。喫茶、お化け屋敷、あとは…………舞台劇だったかな。まあとにかく、君が想像したような大それたことはやってないよ。無駄に小賢しかったから、良くも悪くも「良い子ちゃん」だった。今思うとかなり勿体無かったな、とは思ってる。

 

あ、ちなみにチョコラテってのはアレだよ。飲み物。気にしないで。ちょっとふざけただけだから』

 

「へぇ…………」

 

 

 

意外ではあったが、別におかしなところはない。俺たちのクラスがやるのも喫茶店だったし、妥当すぎて逆に違和感を覚えるレベルだ。チョコラテってのに関しては…………後で小鳥に聞けばわかるか? まあ、どちらにしろ今はどうでもいい。

 

 

「それで、良ければ───」

 

『ほう。

 

うん、分かった。絶対に顔を出すから、その時はよろしく。……………………そういえば、確かだけどその学園祭、タッグデュエルの大会があったよね?』

 

「え?」

 

 

何故か感心したような声と、すぐさま継ぎ足される喰らいつくような声。

 

どうせならばと誘ったのはこちらだ。乗ってくれるのは素直に嬉しい。だがこうも何故、彼女は時折理解できない反応をするのか。小鳥やキャットちゃん、最近だと妹シャーもそうだったか。どうにも女性というものは難しい。小鳥に言わせれば「遊馬はデリカシーが〜〜」だ、そうだが、こんな微妙な雰囲気の差異にすら対応しなければならないのは、流石に無謀な試みであると言えるだろう。

 

結局、言及しようにも無意識のうちに萎縮して、それらしい会話を繰り広げる自分。これについては割と本気で困りものではあるが、周囲に相談できそうな人物もいないため(強いて言えば機械を介した先にいる彼女がそうだが、今は除外)、どうしようもなかったりする。

 

 

『大会っていうか、余興だね。プロのタッグデュエリストに挑めるとかそういうアレ。なんで学園祭でそんなのをやってるのかは謎だけど、見世物だと思えばまあ別に。

 

それでなんだけど、ついでだから、一緒に出ない? それに』

 

「…………へ?」

 

 

諸々の問題はこっちでどうにかするから、と続けて、妙に鋭く強調した語感で俺を貫く彼女。なにがなんだかわからないが、凄い迫力だ。何故だろうか。彼女の声色に、含むものなど見受けられないのに。

 

 

「まあ、別に構わねぇけど…………」

 

 

頭の中に色々な言葉が過ぎったが、結局俺は何も返せず、そう告げた。

 

後にして思えば、学園祭の存在さえ定かではなかったはずの彼女が、どうして不真面目とはいえ学園の生徒である俺でも知らなかったような大会の情報を知っていたのか。

 

女とはかくも美しく恐ろしい、とは誰の言葉だったか。それとも造語か。とにかく俺は迂闊にも、その発言の意を察することはできなかったのである。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「やっほー、遊馬くん!」

 

 

久方ぶりに出会った彼女は、妙に元気だった。いや、彼女が普段から明るいのは周知の事実だ。あれから彼女が身体を酷使するような賑やかな番組に出演するのは見たことがないが、ランクアップ云々の関係で時折デュエルの解説番組とかにひっそりと名を連ねたりで顔を見てたこともあって、身体がどうこう、という心配はしていない。

 

ならばどうして「妙に」などと、とは自分でも思うものの、結局はよくわからないでいる。どうしてか小鳥にそれを聞くのは気が引けたし、姉ちゃんはなんというかこういうことを聞ける感じじゃない。今にして思えば婆ちゃんに聞いてみるのが最適解であったんだろうが、それこそ後悔後先に立たずとなんとやら、だ。

 

 

「時間は? あ、自由時間なの? へぇ。

 

じゃあ、早速行こうか! あ、大丈夫大丈夫、場所は把握してるからね!」

 

 

エントリー制だから急がないと締め切られちゃう、などと宣い、そのままあれよこれよと手首を掴まれて連行され、気づけばそこはこの学園のグラウンド。贅沢なことに、このタッグデュエルは、そこらのドームにすら匹敵するこの広いグラウンド全てを利用して行われるらしい。

 

だがそれはそうと、彼女がこれまた妙に慌てているのはなんでだろうか。そういえばさっき真月にこのイベントのことを訪ねた時、なんとも言えない表情を浮かべていたが。

 

自然と前を向く。そこにいるのは、二人のデュエリスト。最近は隣にいる彼女の影響でデュエル番組を良く見ていたから顔も見覚えがある。名前こそは覚えてないが、宣伝されてたようにプロのデュエリストだ。

 

まだまだ若手の、しかし頂点にほど近いタッグデュエリスト。触れ込みとしては夫婦であることも相俟って抜群のコンビネーションを誇る、だったか。俺がタッグデュエルをしたのは数えるほどしかないが、それでもタッグデュエルの複雑さや難しさは身に染みている。故に、身構える。

 

 

「やぁ、ボーイ。自己紹介は必要かな?」

 

 

───が、意外にも。『プロ』などと言う厳格な肩書きに似合わない気安さと友好的な態度で声をかけられ、身体中に張り詰めていた緊張が緩やかに溶けていく。

 

声を掛けて来た青年に導かれるよう、互いに自己紹介を交わす。羽原プロ。名前はそれぞれ飛夫・海美。今回の大会は母校であるこの学校へのボランティアに仕事を混じえた余興で、しばらく休業することに対してのファンサービスとしてあるのだとか。

 

ファンサービスと聞くと何の変哲も無い言葉なはずなのにどうにも身体が身構えてしまうが、まあいい。なんか色々と突発的で正直展開についていけない面はあるが、せっかくの機会だ。傲慢な考えだが、プロを名乗るなら腕試しに持って来いだろう───

 

 

『───遊馬』

 

 

と、俺の思考がひと段落ついたその瞬間、まるで見計らったようなタイミングで中空より声が響く。

 

もちろん、幻聴などではない。およそ人間に出せるような声質もしてないし、出現位置から全体像、加えて所有する道具(※ナンバーズ)まで悪霊要素は満載だが、そうではなく。俺の側で脈絡もなく鳴り響く音といえば、彼以外にはあり得ない。

 

 

「なんだよ、アストラル」

 

『君が言っていた「約束」とは………彼女のことか?』

 

「はあ?」

 

 

何故かやや険しい顔を携え、糾弾するかの如く鋭い声を向ける彼。言われてみればアストラルに彼女との約束について話したことはなかったが、そもそも俺は小鳥たちとは違い、教室の設備等をやっていたおかげで当日のシフトは無く好きなだけ見て回っても構わないはずだし、何かを咎められる筋合いはないのだが。

 

むしろ、今までの流れで理解できなかったのか、と問い返す。別に不機嫌なわけじゃない。単純に気になったからだ。元々学園祭なんてもんにはカケラも興味を示さなかったクセに、今更何を、と。

 

 

『いや…………小鳥が少し、不憫に思ってな』

 

「小鳥? あいつはほら、午前中がシフトだからどうせ一緒に回れねぇだろ? まあ、せっかくの学園祭でってのはあるけど、それこそ気にしても仕方ねぇし」

 

『そういうことではないのだが…………ふむ』

 

「…………?」

 

 

どこか歯切れの悪い煮え切らない返答に、疑問符が浮かぶ───まあ、こういう時のこいつに話しかけても、どうせロクな返答は帰ってこない。どちらにせよ、今はこいつばかりに構ってる場合じゃない。ただでさえ不慣れなタッグデュエル、それもその最強格と闘うことになったのだ。相方が彼女ならばそうそう負けはないにせよ、今の俺の出せる全力で尽くさないと。

 

 

「しかし、驚いたわ───まさか、貴女がこんな大会に出たい、だなんて。しかも、あのWDCでの彼と一緒に」

 

「あはは…………ちょっと思うところがありまして。多分貴女は好奇心か何かでOK出してくれたんだと思いますけど、残念ながら私達はそういう関係ではありませんよ」

 

「まだ、でしょう? 隅に置けないわね。でも、大丈夫なの? ほら、アイドルとしては」

 

「心配ご無用───あのWDCから、良くも悪くも私のファンは私に“そういうの”をあんまり求めなくなりました。無論、無視できない程度には問題もありますが、それを踏まえてもこのデュエルには価値がある。

 

おそらく、このデュエルこそが、私と彼が何にも縛られず共に闘える最後の機会なので───何を言われても、誤魔化す算段はできています」

 

「…………へぇ。まあ、君がそういうのなら、私は何も言う気はないさ。君の申し出を受けたのだって、いちデュエリストとして君と闘いたかっただけだしね。

 

ただ───そうだね。君はどうやら、自分でその言い訳に納得してないみたいだけど?」

 

「…………む」

 

 

決意を固める俺をよそに、この舞台を俺に提供してくれた形になる三人が、何やら主語を欠く会話を繰り広げる。

 

言葉としては通じている。だが正直、俺には何を言っているのかさっぱりだ。どうやら三人の間では意思疎通ができているようだが、何が何やら。

 

でも、どうやら。彼女はまたもや俺のために何かをせんとしてくれているらしい。俺なんかのためにそこまでしてくれる。その事はひたすらに照れ臭いが、それ故に俺は、彼女の期待に応えなくては。

 

 

『…………遊馬。君はまず、あの会話の意を察することから始めた方がいい』

 

「ああ。だったら、デュエルが一番だな!」

 

『…………』

 

 

つい最近にあった、王の鍵の中にいた鎧の巨漢を思い出す。そうだ。何言ってんのかわかんねぇ奴は、まずデュエルでぶつかり合う! そうすればきっと、どんな誤解も行き違いも齟齬もあっさりとぶっ飛んで、これ以上なくわかりやすいシンプルなものに変わっちまうんだ。

 

 

「ボーイ。流石、デュエルカーニバルのチャンピオンだな。良い持論だ。

 

そうだ、たとえどんな思惑があるにせよ、デュエルをすれば全てが分かる。彼女の目的も、君たちの関係も、そしてその強さも。

 

本当、デュエルとは素晴らしいコミュニケーションツールだ───僕がプロを目指したのも…………って、これは関係無い話だったね」

 

「今の、微妙に気になる………」

 

「ふふっ。それこそ、デュエルで聞き出してみなさいな。幸いにも、舞台は整ってるしね…………っと、あんまり待たせるわけにもいかないわね」

 

 

多少強引なれど場を収め、静かにDゲイザーを装着する海美プロ。よく考えなくても、デュエル前に話しすぎ、ということだろう。俺にとっても彼女達にとっても時間は限られている。積もる話があるのなら祭の後で。それまではさあさご興じろ、というわけだ。

 

そうと決まれば、俺も彼女に倣うように無言でDゲイザーを装着。不思議なことにお決まりの合図は誰からでもなく、図らずもほぼ同じタイミングにて宣言された。

 

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

───いつからだろう。こんなにも、心がざわつくのは。

 

 

 

 

 

「先行は私だ。ドロー!

 

私は魔法カード、《バルーン・パーティ》を発動!

 

自分フィールドに、バルーントークンを2体特殊召喚!

 

そして、この2体をリリースして、アドバンス召喚!

 

来い!《超巨大飛行艇 ジャイアント・ヒンデンブルグ》!」

 

 

 

 

《バルーン・パーティ》

通常魔法

①:自分フィールド上に「バルーン・トークン」(水族・風・星1・攻/守0)2体を特殊召喚する。

このターン自分フィールド上のモンスターは攻撃できない。

 

 

 

《超巨大飛行艇 ジャイアント・ヒンデンブルグ》

効果モンスター

レベル10/風属性/機械族/攻撃力2900/守備力2000

①:自分フィールド上にこのカード以外の

レベル5以上のモンスターが召喚された時に発動する。

相手フィールド上のレベル9以下の攻撃表示モンスターの表示形式を守備表示にする。

 

 

 

 

 

 

───いつからだろう。一人の時、何となく寂しさを覚えたのは。

 

 

 

 

「更に、フィールド魔法、《氷山海》を発動。

 

フィールドにいる、守備モンスターの守備力は0になる。

 

カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

 

《氷山海(アイスバーグ・オーシャン)》

フィールド魔法

①:フィールド上に表側守備表示で存在するモンスターの守備力は0になる。

 

 

 

 

一体いつから。私はいつから、これほどまで。

 

いつからか私は、どうしようもなく燻っている。この感情は、果たして何なのか。本当のところは分かっているけど、それを口にすることはとんでもなく恐ろしい。理由もまあ、分かっている。分かってはいるのだ。目をそらしているだけで。

 

いつからだったか。いつからこんな、当たり前のことに───そう。

 

 

───いつからだろう。相手が初手にエクシーズをしないことに関して、疑問符が浮かぶようになったのは。

 

 

(なーんて、どうでもいいけどねぇ…………)

 

 

初手がフィールド魔法でなかったことにも若干の違和感を覚えつつ、山札からカードを一枚ドローする。

 

引いたカードは、《エクシーズ・ギフト》。流石に現段階では使えないが、可能性を広げるという意味では悪くないカードだ。

 

とはいえ、現時点で腐っているカードを抱えるのがアレなのは確か。幸いエクシーズモンスター2体なら出すのもそう難しくはないし、手札もそこそこ運が良い方。しかし、後々逆転の布石になり得るカードをあっさり使うというのも…………なーんかもにょるなぁ。

 

 

「私は手札から、《ギャラクシー・ワーム》を召喚。

 

召喚時に効果を発動。自分フィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル3以下のギャラクシーモンスターを特殊召喚できる。

 

私はこの効果で、もう一体のギャラクシーワームを特殊召喚します」

 

「レベル3のモンスターが2体…………」

 

「私はレベル3、ギャラクシーワーム2体でオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。

 

戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ。

 

エクシーズ召喚! 現れよ、ランク3!《幻影騎士団ブレイクソード》!」

 

 

 

 

 

《幻影騎士団ブレイクソード》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000

レベル3モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、

自分及び相手フィールドのカードを1枚ずつ対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

②:X召喚されたこのカードが破壊された場合、

自分の墓地の同じレベルの「幻影騎士団」モンスター2体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターのレベルは1つ上がる。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

 

 

バトルロイヤルルールでは、全てのプレイヤーが一巡目にはバトルを行えない。加えて、彼らのデッキは徹底したコンビデッキだったはず。ならば、この段階で片方の手を削る選択は、そう悪いものではないだろう。

 

彼らも彼らで、間違いなくトップクラスの決闘者───こんな稚拙な手、確実に防がれるだろうけど、それはそれで、次の手を打てばいい。

 

 

「ブレイクソード、効果発動!

 

オーバーレイユニットを一つ使って、互いのフィールドから一枚ずつを対象に発動、そのカードを破壊する!

 

対象は、ブレイクソードとヒンデンブルグ!」

 

「なるほど。しかし、まだまだ!

 

永続罠発動、《安全地帯》! ヒンデンブルグを選択し、対象モンスターを破壊から守る!」

 

 

 

 

《安全地帯》

永続罠

フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

その表側表示モンスターは、相手の効果の対象にならず、

戦闘及び相手の効果では破壊されず、相手に直接攻撃できない。

このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。

 

 

 

 

(《安全地帯》ね…………)

 

 

ジャンルは違えど巨大戦艦デッキ故に、そのカードを入れている可能性は考慮していた。が、実際に発動されると地味に困る。

 

ただでさえ安全地帯は強力だ。デッキタイプによっては、その一枚だけで戦況が停滞しかねない程に。まあ、彼のそれはあくまでエクシーズモンスターに繋ぐための防御札なんだろうけど。

 

 

「…………なら、私は手札から、《RUMー埋葬されし幻影騎士団》を発動。

 

このカードと、墓地に存在するブレイクソードを素材として、ランクが2つ上のエクシーズモンスターをエクシーズ召喚する」

 

「墓地から、しかも2つもランクアップ…………!?」

 

 

 

 

《RUMー埋葬されし幻影騎士団(ベアリアル・ファントムナイツ)》

通常魔法

①:自分の墓地の「幻影騎士団」Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚し、

そのモンスターよりランクが2つ高いXモンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

さらにこのカードをこの効果で特殊召喚したモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

 

 

 

お生憎だが、このカードは見た目以上に不便なモノだ。確かに一見、軽い条件で新たなエクシーズモンスターを呼び出せるようにも見えるだろう。しかし、実態はまるで違う。

 

具体的には、素材となり得るモンスターの数。本来の持ち主たるユートくんならともかく、あくまで遊戯王OCGを基盤とする私は違う。ブレイクソードかカーストジャベリンのどちらかしか素材にできないから、実質ランク4、5のモンスターしか出せないのだ。

 

と言っても、基本的に幻影騎士団以外では使い切りのブレイクソードを綺麗に再利用できるのも事実。出すモンスターは…………悩むがまあ、あのカードでいいだろう、うん。

 

 

「私はランク3のブレイクソードで、オーバーレイネットワークを再構築。

 

超然の鎧を纏い、世界を震撼させよ。ランクアップ・エクシーズチェンジ!

 

ランク5、《No.53 偽骸神 Heart-eartH》!」

 

 

 

 

《No.53 偽骸神 Heart-eartH》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/悪魔族/攻 100/守 100

レベル5モンスター×3

①:1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された時、

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで

その攻撃モンスターの元々の攻撃力分アップする。

②:フィールド上のこのカードが破壊される場合、

代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。

③:エクシーズ素材の無いこのカードがカードの効果によって破壊された時、

墓地のこのカードをエクシーズ素材として、

エクストラデッキから「No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon」1体を

エクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する。

 

 

 

 

 

 

「こいつは、フェイカーの…………」

 

 

一応、このカードでもリセットを試みたが、敢え無く失敗。やはりというか、流石に癖がありすぎて無理だったようだ。そもそもダークマター同様、全く状況再現なんてしてないし、この結果は妥当の極みであろう。それに成功したらしたで、そのカードを処理しないとあれだし。

 

だけど、あくまで壁として見るならば、このカードも悪くはない。カードの効果を確認できないこの世界ではオネスト効果はそれだけで初見殺しだし、まかり間違って原作ハートアースを再現できれば凶悪な制圧力を誇る。

 

 

(まあ、それだと本来の目的から外れるから、やらないけどね)

 

 

本来の目的。打算と言ってもいい。それこそが、私がこの舞台を組んだ理由。そして、私がいることによる弊害だ。

 

遊馬くんから、彼の道程について聞いた。ギラグさんが彼に挑んだ理由も、そのデュエルの推移についても。

 

それ自体に問題はない。強いて言えばそこに至るまでを止めることができなかったのが問題ではあるが、あの場でアリトをどうこうするのは流石に憚られたのでそれは仕方がない。仕方ないのです。

 

ならば何が問題か。決まっている、デュエルの中身だ。これもまた、私が彼のことを、彼の成長を、私の影響を軽く見ていた結果だと主張するように、それはあまりに看過できないものだったから。

 

 

(圧勝だったって…………エース召喚を妨害したって…………いや、妨害は立派な戦略だって教えたの私だけどさぁ…………なんかこう、ね?)

 

 

ざっくり聞いた内容は、もう少しなにか手心を、みたいなものだった。しかもどうやら、口八百で真月くんが巻き込まれないよう手を尽くしたみたいだし、ホント妙なところばかり成長している気がする。その割には真月くんの正体(バリアン警察)について知ってるフシがあったけど、そっちは多分彼がなんかしたんだろう、うん(思考放棄)

 

だけど正直、こんなとこばっかり参考にしないで欲しかった。なんだ、あれだ。手がけた子供が、いつのまにか夜遊びを覚えた、みたいな、なんとも言えない気分になる。しかもそれが、明らかに自分の所為だとわかれば尚更のこと。あれこれイベントの度に、自ら色々と考えることを推奨したのは自分だ。ならばこれは、明らかに私の失態。特に妨害に関しては私以外に心当たりがない。よって、こうなれば自分が、と、私がそう決意したのも、仕方ないことだろう。

 

…………まあ、よりにもよって『このデュエル』でそれを敢行しようというのは、多少の私情が混ざっているのだが、それはそれ。ぶっちゃけそっちは諦め気味とはいえ、それで努力をしないというのは何か違う気がするし。

 

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

「ランク5で、攻撃力100を攻撃表示…………私のターン、ドロー!

 

私は手札から、《ラフト・パーティ》を発動! このターンのバトルを放棄して、フィールドにラフトトークン2体を特殊召喚する!

 

そして私も、この2体をリリースして、アドバンス召喚!《超巨大不沈客船エレガント・タイタニック》!」

 

 

 

 

 

 

《ラフト・パーティ》

通常魔法

①:自分フィールド上に「ラフト・トークン」(水族・水・星1・攻/守0)2体を特殊召喚する。

このターン自分フィールド上のモンスターは攻撃できない。

 

 

《超巨大不沈客船エレガント・タイタニック》

効果モンスター

レベル10/風属性/機械族/攻撃力2800/守備力2900

①:1ターンに1度、フィールド上に存在する表側守備表示モンスター1体を対象に発動できる。

そのモンスターを破壊し、コントローラーにその攻撃力の半分のダメージを与える。

 

 

 

 

 

 

(タイタニックにヒンデンブルグ…………言っては何だけど、沈みそう)

 

 

そもそも、この世界にはいわゆるカードの元ネタは存在しない。あくまてカードとは、精霊界に存在するモンスターの姿形を彫ったものだ。我々には精霊界を見通す力がないから精霊界であのモンスターがどんな運命を辿ったのかはわからないけれど、少なくとも勝手に不名誉なレッテルを貼られる筋合いはないはず。まあ、分かってても穿った目で見ちゃうんだけど。

 

 

『ヒンデンブルグの効果は、レベルを持たないハートアースには適応されない。尤も、元よりハートアースはカード効果を受け付けない効果を持つが…………』

 

「(いや、アストラルくん。このハートアース私のだから、完全耐性なんてないんだよね…………)」

 

『…………何?』

 

「私はレベル10のヒンデンブルグと、エレガントタイタニックをオーバーレイ。

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!

 

天かける勇者と、海の王女が結ばれし時、大いなる世界の不思議が花開く。エクシーズ召喚! 現れよ、《超巨大空中宮殿ガンガリディア》!」

 

 

 

 

 

 

《超巨大空中宮殿ガンガリディア》

エクシーズ・効果モンスター

ランク10/風属性/機械族/攻 3400/守 3000

機械族レベル10モンスター×2

①:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する。

その後、そのモンスターのコントローラーのライフポイントを半分にする。

 

 

 

 

 

「うわぁ…………」

 

 

やたらと広いグラウンドすら霞むレベルの、あまりに巨大な浮遊施設に目眩がする。しかもそれが相手のモンスターで、本来ならば私達にダメージを与える相手となれば更に、だ。

 

とはいえ、ナンバーズでもなければ私にダメージは来ないはずだし、舞台そのものもお遊びであるし、気負うことはない。遊馬くんだってこの程度のことなら日常茶飯事以前の常識だろう。

 

だからといって、大人しくダメージを受ける、というわけではないのだが。

 

 

「ガンガリディアの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使って、フィールドのモンスター1体を破壊する!

 

更にその後、コントローラーのライフを半分にできる、タイタニック・ダイブ!」

 

「ハートアースの効果発動!

 

このカードが破壊される場合、代わりにこのカードのオーバーレイユニット一つ一つを取り除くことができる」

 

「破壊耐性…………そしてその攻撃力ってことは、《ネコ耳族》のような効果かしら。

 

私もカードを2枚伏せて、ターンエンドよ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

ガンガリディアを始めとする、○○した後に●●する、といった類の効果は、○○の効果が成功しないと●●の効果を使えない。加えて、○○の効果で破壊したモンスターが「△△された時▲▲できる」タイプの誘発即時効果を保有していた場合、●●の効果が挟まるためにタイミングを逃したりする。ただし、この世界では割とタイミング云々はガバガバなので、未だについうっかり間違えたりもするし、それで失態を犯したことも。まこと、遊戯王とは複雑なゲームである…………どうでもいいけど。

 

さて、遊馬くんはどう出るか。遊馬くんと言えばとりあえずホープホープだが、彼ら夫婦はプロとはいえ一般人。当然ながらナンバーズなんて危険なカードは使えないし(私のは危険じゃないからセーフ)、ホープに頼らない彼が果たしてどれだけ強いのか、単純に興味もある。

 

 

「俺は手札から、《二重魔法》を発動!

 

手札の《代償の宝札》をコストに、相手の墓地にある《ラフト・パーティ》を選択、そのカードを発動する!

 

俺はその効果で、フィールドにラフトトークン2体を特殊召喚!

 

更に代償の宝札の効果で、2枚ドロー!」

 

 

…………トークンの召喚?

 

というか二重魔法とはまた渋いカードを。いや遊馬くんが《チャウチャウちゃん》とか相手のカードに干渉するカードを入れてるのは知ってたけど、ここでトークンを出して来るとは流石に予想外だ。何をするんだろう?

 

 

「そして俺は、このトークン2体をリリースして、モンスターを裏守備でアドバンス召喚!

 

俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

「最上級モンスターのアドバンス召喚…………ボーイ、随分と珍しいことをしてくるんだな」

 

「流石はWDCのチャンピオン、かしら? 尤も、ガンガリディアは破壊効果を持ってる。ただ珍しいことをしただけなら、ダーリンのターンに敢え無く敗北だけど…………対策くらいはしているでしょうね」

 

(いやいや珍しいなんてものじゃないよ。最上級のアドバンスセットなんてまさかこの世界で見られると思わなかったし。なんだろう、あのカード。【遊馬】デッキにアドバンスセットするようなのいたっけ…………?)

 

 

混乱が脳を巡る。まさかこのエクシーズモンスター全盛期の世界で、私以外が全員最上級のアドバンス召喚をしてくるなんて予想外にも程がある。特にアドバンスセットなんか予想外も予想外で、なけなしの知恵で脳内のデータベースを漁ってもそれらしいモンスターをまるで思い出せない。これはひょっとして、かなりまずいのではなかろうか。

 

 

「私のターン、ドロー!

 

「この瞬間、罠カード《フォト・フレーム》を発動!

 

ダーリンのフィールドに残された安全地帯を選択し、このカードをそのカードと同じにする!」

 

 

 

 

《フォト・フレーム》

永続罠

永続罠

①:相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象としてこのカードを発動できる。

発動後、このカードは対象のカードと同じ種類(魔法・罠)のカード及び同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 

 

 

 

更には、どこかで見たような罠によってあの厄介な安全地帯さえも継承されてしまう。パートナーのカードを使い回すことを前提とした、応用力の高いカード。タッグデュエルの場合、「相手」を信頼した人物に委託できるとはいえ、あのように扱いが難しいカードを、よくもまあ。

 

 

「これは有り難い───メインフェイズ、私もガンガリディアのモンスター効果を発動! 対象は九十九遊馬くん、君のセットモンスターだ!」

 

「罠発動、《もの忘れ》!

 

効果を発動したフィールドのモンスター1体を対象に、その効果を無効にして、対象モンスターを守備表示にする!」

 

 

 

 

 

《もの忘れ》

通常罠

①:フィールド上に表側攻撃表示で存在する

モンスターの効果が発動した時に発動できる。

その発動した効果を無効にし、そのモンスターを表側守備表示にする。

 

 

 

 

 

「……いや、遊馬くん。《もの忘れ》は対象を取らないから……まあ、そのおかげで安全地帯を抜けられるんだけど」

 

『加えて、彼自身が発動したフィールド魔法、アイスバーグオーシャンの効果により、ガンガリディアの守備力は0となる。故に、理想的な妨害と言えるだろう。

 

尤も、遊馬がそこまで想定していたのか、というのは疑問だが』

 

「………あ、当たり前だろ!」

 

 

いや、これは流石に忘れていたな。アイスバーグオーシャンはともかくとして、安全地帯を前提として発動したなら「対象に」とか言わない。紛らわしいから。とはいえ、的確な対応であることに違いはない。偶然だろうと意図してだろうと、彼の行動に感謝こそすれ批判する謂れはないのだ。…………流石に、勘違いしたままだとあれだから指摘はするけど。

 

 

「やるな──だが、今はまだメインフェイズ1。となれば当然、私にはフィールドのモンスターの表示形式を変更する権利が残されている。

 

また、今のカードによって私たちのガンガリディアの守備力が0になったように、チェーンブロックを組まないこのフィールド魔法の効果は、ダメージ計算時にも問題なく適用される。つまり、仮に君のセットモンスターが万・億・兆単位の守備力を誇ろうと、このフィールドの前には無意味、というわけだ」

 

「チェーン……ブロック?」

 

『遊馬……』

 

 

効果がシンプルな程に強いのが、このゲームでの常識。たった一枚でふたつみっつよっついつつの効果を持つような便利カードが増えてきても《死者蘇生》が弱いと思う奴はいない。つまりはそういうこと。

 

今現在展開されてるフィールド魔法もその例に漏れず、場にあるだけで『守備力』という概念を帳消しにする効果を持っている。当然、このゲームはそれだけで有利不利が決まるような単純なものではないけれど、現状では間違いなく、それが彼の追い風になる───!

 

 

「私はガンガリディアを攻撃表示に変更し───バトル!

 

私はガンガリディアで、ボーイ、君のセットモンスターを攻撃!」

 

「なら───」

 

「この瞬間、ハートアースを対象に罠カード、《立ちはだかる強敵》を発動!

 

相手の攻撃宣言時、自分フィールドのモンスター1体を対象に発動し、このターン相手のモンスターは対象のモンスターにしか攻撃を行えず、また相手モンスターは全て攻撃宣言をしなくてはならない!

 

更に、ハートアースのモンスター効果も発動! 1ターンに一度、このカードが攻撃対象となった時、その攻撃力は攻撃モンスターの数値分アップする!」

 

「やはり、そういう効果か…………!

 

しかし、安全地帯をコピーした《フォト・フレーム》の効果により、私達のガンガリディアは戦闘破壊されない」 飛夫 LP 4000→3900

 

 

知ってるよ! ああもう、ほんとに厄介だなぁ、もう!

 

いや、本当に凶悪なカードだ──直接攻撃できない程度のデメリットで、あの効果は強力にすぎる。デッキによっては、あのカード1枚だけで戦況が停滞することもあるくらいだ。加えて、デメリットすら状況次第では防御に使えるとなると、わかりやすくパワーカードだと言える。

 

でも、凌いだ。未だにあのカードが何なのかはわからないけど、アドバンスセットなんて驚愕の戦法を取ったのだ。間違いなく何かがある。

 

───それが単なる買い被りに過ぎないことを私が知るのは、それから大体10分後のことである。

 

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

「私のターン───ドロー!」

 

 

引いたカードは………バリアンズフォース? こんなの───いや、そうだ。その手があった。バリアンズフォースの隠されたあの効果を発揮できれば………!

 

 

「私は《RUMーバリアンズ・フォース》を発動!

 

ハートアースを対象に、ランクが一つ高いカオスエクシーズモンスターをエクシーズ召喚する!

 

私はランク5のハートアースで、オーバーレイネットワークを再構築!

 

ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 

渦巻く混沌の水流を突き破り、バリアンの力を得て君臨せよ。私の持つ石板は何処からか取り出したまがい物でも、元よりそれは精霊の写し身。引き出す力はハリボテだろうと、ゲームにおいては一切の不足なし。

 

これは戦争ではない、決闘だ。更に言えば、闇のゲームじゃないのなら、生死を分ける必要すらもない。故に、よって、だからこそ、処理さえできれば問題など有りはしない。

 

 

「───現れよ、ランク6。《CNo.73 激瀧瀑神アビス・スープラ》!」

 

 

 

 

 

《CNo.73 激瀧瀑神アビス・スープラ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/水属性/戦士族/攻3000/守2000

レベル6モンスター×3

①:自分フィールドのモンスターが相手モンスターと戦闘を行う

そのダメージ計算時に1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

その自分のモンスターの攻撃力は、

そのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。

②:このカードが「No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ」を

X素材としている場合、以下の効果を得る。

●このカードは効果では破壊されない。

 

 

 

 

 

突如としてフィールドを蹂躙する濁流。氷に覆われた海を軒並み自らが好む環境へと塗り替え君臨する暴力の化身。

 

アビス・スープラ。遊戯王ZEXALの世界においてもキーパーソンとして語られる神、その進化系。流石に来歴等の細かなアレは忘れてしまったが、少なくともこんなデュエルで召喚していいモンスターではない───否。

 

 

(タイミング云々とか、私が知るわけないよね☆)

 

 

実際問題、これに尽きる。責任を放棄する、と言えばいいのか。だがしかし、そもそも私にそんな意味不明な責任など存在しない。あくまであるのは、私の内の違和感だけだ。

 

───それを前提に動いてる時点で、確信犯だとは言ってはいけない。

 

 

『ランク6のカオスナンバーズ…………! だが───』

 

「それでも攻撃力は、あっちのが───」

 

「足りないね。素材一つを奪って火力を下げられるけど、それでもあと一歩が届かない。でも大丈夫。このカードは脳筋だけど、それ故に強い。

 

アビス・スープラの効果は、自身を含むフィールドのモンスターがバトルを行うダメージステップに一度、オーバーレイユニットを一つ使って、相手モンスターの攻撃力分だけそのモンスターの攻撃力をアップできる。

 

つまりはこのフィールド魔法と同じように、攻撃力の概念を消し飛ばす効果だね」

 

「やっぱりか。だけど、それだけではね」

 

 

それだけではない。いや、アビス・スープラとしての効果はそれまでだが、それだけでは終わらせない。

 

良くも悪くも『融通の効く』このタッグデュエルでは、たとえ旦那さんが倒れたところで残されたカードも引き継がれてしまうけど───これで、決める!

 

 

「私は手札の《エクシーズ・ギフト》を発動。フィールドに2体以上のエクシーズモンスターがいるので、2枚ドロー。

 

そしてフィールド魔法、《エクシーズ・テリトリー》を発動!」

 

 

 

 

《エクシーズ・テリトリー》

フィールド魔法

①:エクシーズモンスターがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時のみ、

そのエクシーズモンスターの攻撃力・守備力は

そのランクの数×200ポイントアップする。

②:フィールド上のこのカードがカードの効果によって破壊される場合、

代わりに自分フィールド上のエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。

 

 

 

 

 

「エクシーズ・テリトリーはフィールド魔法。当然ながら、私達のモンスターにも影響を及ぼすカードだ。

 

加えて、我々の持つガンガリディアのランクは10。対する君のアビス・スープラは6。上昇値はそれぞれ2000に1200。本来なら、自らの首を絞めるカード…………だが」

 

「相手の攻撃力分だけ攻撃力を上昇させる効果を持つなら、相手の攻撃力がどうなろうと関係ない。

 

ただ一点───ダーリンのライフを削り切れる3900の数値にまで自身の攻撃力を上げる…………そうすれば」

 

「一気にこっちが有利になるってことか………!」

 

「ご名答───それでは、バトルフェイズ。

 

私はアビス・スープラで、超巨大空中宮殿ガンガリディアを攻撃!」

 

 

さて、これはどうかな?

 

正直に言えば、通る気はしない。諸共に倒すのならともかくとして、文字通り結ばれてしまった二人を引き裂く行為は、『運命』が多分に絡むこのゲームではとても難しい。

 

人間関係とは、フレーバーではないのだ。《ダイ・グレファー》をデッキに入れれば《荒野の女戦士》がフィールドにいる場合にほぼ確定でドローできるし、ドラゴンならサイバードラゴン相手にさえ出しゃばる《バスター・ブレイダー》なんて生半可な運命力では御すことすらできやしない。そんなものわけで、

 

 

「攻撃宣言時に罠発動、《エクシーズ・ムーブ》!

 

私のフィールドのガンガリディアをハニーのフィールドへと移し替え、バトルをスキップする!」

 

 

 

 

《エクシーズ・ムーブ》

通常罠

①:相手のバトルフェイズ中に発動できる。

自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体のコントロールを相手プレイヤーに移し、

バトルフェイズを終了させる。

 

 

 

 

『パートナーへとコントロールを移し替えるカード───ここまで徹底しているとは………!』

 

「付け加えて、デッキの構成もかなり似通ってるっぽいねぇ。まあ当然だけど?

 

その点では、流石に私たちはどうしようもなかったかな…………だって遊馬くんのデッキ、自由だし。このコンビだって即興だしね」

 

 

本当、色々な意味で。そもそも彼のデッキは【ホープ】ですらない。ごった煮のモンスター達にホープがお気に入りとして君臨しているだけなのだから。

 

…………なお、最近の私のデッキも、分類を【RUM】に偏らせないと回りづらくなるという謎の障害が発生してたりする。好きだからいいけどね。

 

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………さて、と)

 

 

偶然であるが、お膳立ては整った。

 

既に素材が存在しないガンガリディア。有名無実化した超火力。不足し続けるリソース。ジリ貧で動かない戦況。

 

これでこの闘いが正真正銘の「お遊び」であるか否かが見極められる。ちょっとばかり特別な力を保有していても人間でしかない私には、彼女がここで洗脳されているのかどうかの判別もできやしない。

 

しかしそれでも私がいわゆる「原作」から外れた午前中までに彼らへと挑んだのは、もちろん神月アンナさんを避けるためもあるが、実際にはベクターがどこまで想定してるか見定めるため。

 

なにせ、遊馬くんが何故かギラグさんと彼のタッグを神回避したのにどういうわけかバリアン警察のことを存じてるのだ。これはもう、何が起きても彼のシナリオ通りにコトが進む可能性もあると思っていい。

 

彼の陰険さ。いや、その悪意がどこまで根深いのか。所詮は子ども用アニメでしかないこの世界の健全さを、こればかりは全面的に感謝する他ないのだ。

 

 

「───私はマジックカード、《RUMーバリアンズ・フォース》を発動!」

 

「なっ───」

 

『何!?』

 

「…………へぇ」

 

 

結果としては、ご覧の通り。何という周到さか。正直、割と見習いたい。いや本気で。これだけ臨機応変に対応できると仮定すれば、今後どれだけ有利に動けるか。少し考えただけで笑いが止まらない。笑いごとではないけどね!

 

 

「ちょ、ハニー、そのカードは彼女が…………いつの間にそのカードを?

 

それに、その額は一体───?」

 

「そう、もはや説明は不要ね───私はランク10のガンガリディアでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 

唐突な闇落ちに困惑する飛夫さんと、それを意図して無視し愛の宮殿を暗黒の要塞へと塗り替える海美さん。そんな光景を見て私は、洗脳って誠に恐ろしいものだなぁ、なんて思いました、まる。(KONAMI感)

 

いや、私にそういうアレを無効化できるスキルがあって本当に助かった。デュエル中とかならまだいいけど、もしも舞台でああなったらと思うと…………なるべく早く助けてあげよう。一応、最大の目的も達したし。

 

 

「混沌より生まれしバリアンの力で、愛の宮殿が今、生まれ変わる!

 

現れよ、《CX 超巨大空中要塞バビロン》!!」

 

 

 

 

《CX 超巨大空中要塞バビロン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク11/風属性/機械族/攻 3800/守 4000

レベル11モンスター×3

①:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、

その攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

②:このカードが「超巨大空中宮殿ガンガリディア」を

ランクアップしてエクシーズ召喚に成功した場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

 

 

 

風属性最大の守備力を誇り、その圧倒的な攻撃性能で敵を蹂躙する要塞、バビロン。ただでさえ弩級のモンスターを素材とする必要があり、加えてランクアップしてまで召喚しなくては最大限性能を発揮できないこのカードの奇襲性は前世ではかなり低かったが、それは同時に、それだけ出しにくいモンスターにもかかわらず警戒されていた証でもある。

 

【列車】相手ならば、いざという時の奇策としてこのカードの採用を検討する。幸い、ガンガリディアは列車では貴重なバック破りの手段だ。素材には事欠かない。それだけの価値が、このカードにはある。

 

当然、事故とは無縁なこの世界では尚更のこと。更に言えば、ぶっちゃけこっちのバリアンズフォースはエクシーズモンスターならどんなモンスターにも作用するから汎用性が段違いなので、その辺も───って、集中しないと。

 

 

「バリアンズ・フォースの効果を発動! 相手のモンスターエクシーズ一体のオーバーレイユニットを、全てバビロンへと移し替える! カオス・ドレイン!

 

───ふふ。これで自慢の効果も使えなくなったわね?」

 

「おまけに、攻撃力も下げられちまった…………」

 

「それだけじゃないわ───バビロンの効果発動!

 

このカードはカオスオーバーレイユニットを一つ使うことで、1ターンに2回攻撃することができる───マルチプル・ランチャー!」

 

 

禍々しいユニットが砲台に吸収されて、妖しい光がその中を満たす。カオス特有の紫の威光。はっきりと私にへと向けられる強大なそれは、ARヴィジョンと言えど私の恐怖を煽るには十分だった。

 

 

「バトル!

 

私は超巨大空中要塞バビロンで、アビススープラを攻撃! デステニー・バスター!」

 

「なら、私は破壊されるアビススープラを対象に───」

 

「いや、まだだ!

 

俺は罠カード、《聖なる鎧─ミラーメイル─》を発動!

 

攻撃対象になったアビススープラの攻撃力を、バビロンの数値と同じにする!」

 

 

 

 

《聖なる鎧─ミラーメイル─》

通常罠

①:自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが

攻撃対象に選択された時に発動する事ができる。

そのバトル中、攻撃対象となるモンスターの攻撃力は、

攻撃モンスターの攻撃力と同じになる。

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

 

先程の意趣返しか。私を敢えて遮るように遊馬くんが自身の罠カードを発動させる。

 

果たして私のフィールドのアビススープラを彼にとっての「自分」のカードとして扱えるのかはさておき───これだと、

 

 

「いや、まだだ!

 

罠カード、《エクシーズ・コート》!このカードによって、バビロンは戦闘及びカード効果では破壊されない!」

 

「いや、それは…………」

 

 

無意味だ。バリアンズフォースのメタ効果を知らない旦那さんの行動はこれ以上なく正しい行為であるが、この場においては悪手であると断言せざるを得ない。

 

無駄とはいわない。何故ならその行為は尊いものだからだ。だがしかし、バリアンによる支配という名の洗脳は、彼らの絆さえも塗り替える卑劣なものなのだ。

 

 

『相打ち……たが、バビロンは発動した罠カードに守られ、ナンバーズも戦闘では───いや、バリアンズフォースの効果で特殊召喚したモンスターは、戦闘耐性を無効にできる』

 

(しかもこの場合、あくまで『戦闘破壊』に該当するから効果破壊耐性付与では守れない。そもそも私のナンバーズには戦闘耐性なんてないけれど、これはどっちにしても───)

 

 

 

凄惨。目の前で繰り広げられた光景は、この一言に尽きる。

 

ただでさえ広いこの学校のグラウンド。それを遥かに超える大きさの空中要塞。僅かに劣るものの人型としてはそこそこの巨躯であるアビススープラ。2体が宙空で激突し、相打つのだ。あくまでARヴィジョンに過ぎないと分かっていても、目の前でビル並みの建造物が爆散し、一切の動揺を示さない人間などいるのかどうか───

 

 

「っ───罠カード、《昇華螺旋》、発動!

 

破壊されたアビススープラをゲームから除外して、ランクが二つ上のエクシーズモンスターを特殊召喚する…………!

 

降臨せよ、我が魂! ランク8、《銀河眼の光波竜》!」

 

 

少なくとも、私はその例に漏れず、苦し紛れ───とは違えど、似たような感覚で縋るよう咄嗟に呼び出してしまったのは、我がエースである光波竜。バーンを与えるバビロンの効果は相打ちでは適用されない類。壁にしかならないし、無駄なダメージを受けてしまうことになるが、何はともあれ、これでこのターンはなんとか………。

 

 

「まだよ───速攻魔法、《エクシーズ・ダブル・バック》発動!

 

破壊されたバビロンともう一体…………ガンガリディアを選択し、それらのカードを墓地から復活させる!」

 

『なっ───!?』

 

 

 

 

 

《エクシーズ・ダブル・バック》

速攻魔法

①:自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分の墓地から、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体と、

そのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは次の自分のエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

 

 

 

 

(ま、ずっ───)

 

 

私のライフは無傷だが、前世と違い、その数値は4000しかない。

 

フィールドにいる銀河眼の光波竜の攻撃力は3000。バビロンのバーン効果はランクアップとは無関係に発動するため、受ける最大ダメージの合計は3000に1600を加算した数値の半分である2300に、ガンガリディアの3400を合わせた5700。ワンショットには申し分ない数値だ。

 

一応、防ぐ術はある。あるが───いや。

 

 

(違う。忘れるな。私は彼を、彼のためにここにいるんだ)

 

 

勝つだけならば、きっと容易い。自慢じゃないが、今の私にはそれだけの力がある。

 

でも、勝つだけでは駄目なのだ。勝って次に繋げることができないと、あの陰湿なバリアンにいずれ嵌められてしまう。

 

彼に多少の実力がついたからと、放任するのは目覚めが悪い、どころじゃない。ならば、せめて、これだけは───絶対に。

 

 

「…………遊馬くん」

 

「どうした?」

 

「えっと───いや、うん。そうだね………ちょっとだけ、いいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「私ってば、これだけランクアップなんてものを便利に使ってるけどね───エクシーズモンスターってやっぱり、ランクアップが全てじゃないと思うんだ」

 

「…………え?」

 

 

ゆったりとした口調で、柔らかくいつものように朗らかに、しかしいつもとは微妙に異なる低めのトーンで彼女は語り出す。

 

いつかを思い出す。あれはそう───彼女の正体を疑っていたころ、WDCの時だったか。いや、未だに彼女の正体については謎が多く、極論彼女が本来は敵勢力だったとしても驚きこそすれ不思議ではないが。

 

 

「これはいつかシャークにも言ったけどね───進化なんて豪語しても、いや確かにそれは間違いではないんだけど、そうじゃない。

 

そもそもこのゲームは、エクシーズモンスターだけが全てじゃない。どれだけ優れた召喚を扱えても、どんなに強いモンスターを従えても。それだけに驕れば、そんな人ほど勝つべき時を見誤る。

 

運命の流れに敗北して、私のようになってしまう(・・・・・・・・・・・)

 

「……シャーク?」

 

 

どうしてここでシャークが出るのか。そもそもシャークと知り合いだったのか、などと考えている内にも会話は続く。否、勝手に進んでいく。

 

いつかのような、まるで他人に理解させる気のない発言。…………彼女が良く好んで使う、意地悪な言葉。彼女自身は「ミステリアス」だのと嘯いているが、違う。どうせ誰にも(・・・・・・)賛同されない(・・・・・・)からこそ───今にも溢れ出しそうな内心の涙を堪え、愚痴として世界に吐き捨てるのだ。

 

彼女は続ける。当然、言葉の意味は俺にも理解することはできない。それは、きっと、彼女以外には不可能なことなのだろう───それほどまでに、彼女と俺とは、致命的な部分を掛け違えてる。

 

 

「私は弱い。残念なことに私には、それをどうこうできる可能性がなかった(・・・・・・・・)。だから私は、ちょっとしたインチキで手に入れた手持ちのリソースを限界まで活用して、どうにか勝敗を誤魔化している。

 

私はできない。私には成し得ない。私では届かない───どうあっても異物でしかない私には、絶対に、絶対に、絶対に…………絶対に」

 

 

だけど。

 

私は知っている。貴方を知っている。九十九遊馬を知っている。貴方ではない誰かの、貴方達のあり得た未来を知っている。

 

私のような見苦しい再現(・・)なんかじゃなくて───光溢れる世界の創造(・・)を、君は可能としてみせる。君にはきっと、その力がある。

 

かつて私が欲しかったもの。いつか私が諦めたもの。そして私が得られない何かを、君は当たり前のように持っているんだ。

 

 

『…………それで、君は我々に何を求める?』

 

「何も。───ただ、私は信じてる。

 

他ならぬ君ならこんな茶番、きっと当たり前のように乗り越えるはずだって」

 

 

にっこりと笑う。完璧な笑顔。アイドルとしての彼女がよく魅せる、デュエリストではない一面。

 

それが悪い、とは言えない。ただ、もどかしい。だけど結局、何も言えない。贔屓目にも口が達者とは言えない自分には、気の利いた言葉など、出せるはずもないのだから。

 

 

「と、言っても。

 

───別に、私が負けるとか、そういうわけじゃないんだけどね?」

 

「あ、ああ…………」

 

 

唐突に自信満々な表情での勝利宣言…………とも違う。むしろこれは、自惚れだろうか。なにせこの発言は、この盤面からどうにかできることを断言しているに等しい。

 

そうなるとさっきの弱音はなんなんだ、って話になるが………彼女のことだからどうせまたいろんなことをごちゃごちゃと考えていつのまにか思考が一巡でもしたとかで、考えるだけ無駄だ。

 

前世云々から察していたが、こうして改めて見ると彼女には二面性が、はっきり言えば微かに躁鬱の気があるのがわかる。付き合わされる身からすれば堪ったものではないが、彼女も彼女でバリアンだの何だのとイベント目白押しで、ストレスやらが溜まっていたのだろう。きっと。

 

 

(アストラルも、たまにそういうとこあるよな…………変に頭が良いと、逆に何で物事を判断してるのかわかんねぇし)

 

 

加えて、アストラルの場合はもっとタチが悪い。あいつは思考が煮詰まると直ぐに黙り込んで答えを出すまで反応もしねぇから、唐突に出てきた結論に驚いて聞き直すことなんてザラだ。

 

とはいえ同時に、俺は決して、それらの行為を無下にはできない。何故ならそれはその悉くが、彼らなりの好意、俺への配慮から生じたもの。彼女風に言えば用意された舞台なのだ。彼女がどうして俺がこんな参加するかも定かではなかったはずのデュエルに潜む刺客について知っていたのは謎であるが、ここまで丁寧にお膳立てが整っているのなら、きっとこれは偶然じゃない。付け加えて、あの言い分。俺の推察が正しいのなら、彼女はこの場面においてもなお、一欠片も俺の敗北を疑ってはいないのだ。

 

 

(…………まあ多分、フォーカスフォースみたいな(未来視ができる)カードとかを持ってるんだろうな)

 

 

とりあえず今はそう仮定しているが、答え合わせをしてもどうせそれに似たようなものだろう。踊らされているようなそうでもないような微妙な気分ではあるのだが、こっちも口振りからしてフォーカスフォーカスの奴みたいに場合によっては「促す必要がある」程度の不確定な未来視ならば、俺にとっては割とどうでもいい。

 

そう、あれこれと考えを並べても、俺のすべきことはあまり変わらない。彼女が思い描く理想形───デュエリストならば誰もが求める勝利の栄光を目指して、漫然と突き進めばいいだけなのだから。

 

 

(…………でも、なぁ)

 

 

そこまで俺を買ってくれるのは嬉しい。嬉しいのだが───正直、今の手札じゃあ俺には何もできない。ここ最近では「ここぞ!」というデュエルにおいてこういう事故が発生したことはなかったのだが、当然あくまで気楽に腕試しを求めたこのデュエルはそのケースに含まれない。要するに、どうしようもない。

 

彼女がこの場をどう乗り切るつもりなのかはわからないが、プロたるあちらだって愚図ではない。むしろデュエルの腕自体は俺やアストラル、そして彼女をも超えているかもしれないのだ。そうなると当然、タッグデュエルのプロである女性が、その最重要とも言える「詰め」の後にみすみす隙を晒すわけもなく───。

 

 

「そろそろお話は終わりかしら?

 

全く───最後に貴女の本音でも聞けるのかと思っていたけど、頑固ね」

 

恋愛脳(スイーツ)………」

 

「何か言った? ───まあいいわ。

 

当然、バトルは続行。私はバビロンで、貴女の銀河眼の光波竜を攻撃!」

 

 

ボソッと、隣にいた俺が辛うじて聞こえるかどうかの小声で妙に薄ら寒いことを呟きつつ、割と惜しげに破壊されゆくギャラクシーアイズを見送る彼女。いつも飄々としてる印象のある彼女にしては珍しい反応だが、なんだかんだで彼女のギャラクシーアイズに関する思い入れは本物だ。あの場面では仕方ないとはいえ、みすみすエースを破壊されることに「良し」とする者は少ないだろう。つまりはそういうことだ。

 

 

「この瞬間、私はバビロンの効果を発動!

 

このカードが戦闘でモンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!

 

───貴女の銀河眼の光波竜の攻撃力は3000。しかし、それに加えて、そのカードはランク8のモンスターエクシーズでもある」

 

『フィールド魔法《エクシーズ・テリトリー》の効果は、たとえバトルするモンスターエクシーズが守備表示となっていても問題なく作用する。

 

すなわち、この戦闘におけるギャラクシーアイズの攻撃力は4600。受けるダメージは、その半分』

 

「2300………!」

 

「っ…………」 さなぎ LP4000→1700

 

 

一気にライフを削られて身動ぐ彼女の姿を見て、焦りが生じる。しかし俺にはこの状況で、あの攻勢を防ぐカードなんて………!

 

 

「これで終わりね。私はガンガリディアで、貴女にダイレクトアタック!」

 

「まだ、終わらない!

罠発動! 《天使の涙》! 私の手札1枚を相手プレイヤーへと渡し、ライフを2000回復する!

 

っ、むぅ…………!」 さなぎ LP 1700→3700→300

 

 

 

 

《天使の涙》

通常罠

①:自分の手札を1枚選んで相手の手札に加える。

その後、自分は2000LP回復する。

 

 

 

 

 

 

(確かに、どうにか凌いだみてぇだけど…………)

 

 

確かに宣言した通り、「負け」にはなっていないのだが、これではもう終わったようなものだ。

 

彼女に残されたライフはわずか300。フィールドのカードだって全部出し尽くした。おまけに最後に残された手札さえ相手に渡しちまうのなら、いよいよ以って対抗する手段がなくなっちまう。

 

 

「遊馬くん…………これ。渡しておくね」

 

「ん? ───とと。って、これは………?」

 

 

手裏剣か何かのように正確なコントロールで投げ渡されたのは、彼女の手札に残された最後の一枚。意外なほど速い速度で飛来したそれを咄嗟に受け止めるも、思わず困惑の言葉を投げ返す。

 

そうだ。なんなのだ、このカードは。見たこともないと言えば彼女のカード全般がそうであるのだが、流石にこれは、予想外にも───

 

 

「まあ、ギリギリだけど、どうにか生き延びたね…………厳しいというか、私はもうアレだけど、これで羽原さんのリソースも使い切ったみたいだし、形勢そのものは見かけほど悪くはないはず───」

 

「───さて、それはどうかな?」

 

『…………何?』

 

 

しかし、たとえ俺に何があろうとも、時間とは誰にとっても等しく進み続ける。それは先程から動揺しつつも静かに状況を見守っていた旦那さんも同じこと。尤も、彼の場合、豹変した妻の態度についていけなかっただけのような気もするが。

 

だけど、何だ? バトルも既に終了したどころか、ディスクを見るに今はもうエンドフェイズ。海美さんからのエンド宣言こそまだなものの、ここで彼が何かをしたとして、それだけで状況を引っ掻き回せるとは到底思えないが───

 

 

「エンドフェイズに罠カード、《メタバース》を発動し、その効果でデッキからフィールド魔法、《オーバーレイ・ワールド》を発動。

 

このカードにより、フィールドのモンスターエクシーズはカード効果で破壊されず、エンドフェイズ、モンスターエクシーズをコントロールしていないプレイヤーは500のダメージを受けることになる」

 

「…………え?」

 

 

 

 

《メタバース》

通常罠

①:デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。

 

 

《オーバーレイ・ワールド》

フィールド魔法

①:エンドフェイズ時に発動する。

Xモンスターをコントロールしていない

プレイヤーは500ポイントダメージを受ける。

②:フィールドゾーンにこのカードが表側表示で存在する限り、

フィールド上のXモンスターは魔法・罠・効果モンスターの効果では破壊されず、破壊されたXモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。

 

 

 

 

 

 

「油断………とは違うね。言うなれば失念か───経験不足、と言ってもいいのかもしれない。

 

とにかく、タッグデュエルでは、たとえ一瞬だろうとパートナーの存在を失念するのは厳禁だ。君のデュエルタクティクスそのものは私達を軽く凌駕しているのだろうけど…………タッグデュエル、という観点においてだけは、どうやら私に分があるようだね」

 

「───っ」

 

 

そうだった、と悔しそうに、やや恨めしげに彼女は旦那さんを見つめる。だが、無理もない。フェイカー戦での彼女の態度から察するに、彼女はタッグデュエルを数えるほどしかやってないはずだ。かくいう俺もそれは同様だし、となると彼が言う積み上げるべき経験などないに等しい。

 

当然ながら、タッグデュエルとは一人では絶対にできないものだ。そうなると多くの謎を抱える自称ミステリアスな彼女としては、そうでなくてもその道のプロとして君臨する彼らに敵う道理はない。

 

 

「いや、君たちの連携が悪い、と言ってるわけじゃないさ───おそらくは即興のコンビでそれほど庇い合いができるんだ。互いをしっかり尊重できるのなら、それだけで文句なしに合格さ。───でも」

 

 

庇い合い、では足りない。時にはパートナーを信頼し任せることにも大切───否、それこそが極意。相談が禁止されているタッグデュエルでその辺りの判断はとても難しい。しかし、決して不可能ではない。

 

 

「もちろん、私だってまだまだ未熟者だ───それでも私は、プロという肩書きを背負っている。

 

それに、ついうっかり忘れそうになったけど、私達は先達として後輩たちにその術を多少なりとも伝えるためにここにいる。だから、意地も出るさ」

 

 

尤も、ハニーがこれほどエキサイトするのは、流石に予想外だったけどね───そう告げて、鋭く彼は俺たちを射抜く。現在進行形で暴走している嫁さんとは違い、侮蔑の意思は驚くほど感じられない。つまりは宣言通り、ただの親切心からの忠告。

 

 

(…………凄えな、プロってのは)

 

 

自然と息を飲む。未だ「プロ意識」なんてものを与太以上に実感できていない俺でも、とにかく彼らが凄まじいことをやってることはわかる。さなぎちゃんにも通じるものを感じる、指導者(・・・)としての目線。それを、彼はこの異常事態においてなお、貫こうとしてるのだ。

 

 

(…………でも)

 

 

横目で「彼女」を見つめる。謎多きアイドル、蝶野さなぎ。バリアンとの闘いを前に、いつだってこの俺を導いてくれた女性。

 

それなりに理由はあるのだろう。打算があっても不思議じゃない。邪推を承知で言うのなら、ナンバーズの集うWDCで彼女に出会った時点で何か俺に計り知れない壮大な計画が始まったのかもしれない。でも。

 

でも、それでも。それでも俺は、彼女の方が、まだ。

 

 

「俺は、罠カード《罠蘇生》を発動!

 

ライフを半分支払い、相手の墓地から罠カードを除外! そしてこのカードを、その除外したカードと同じにする!

 

選択するカードは、《メタバース》だ!」 遊馬 LP4000→2000

 

「なっ………!?」

 

「え………それに、何の意味が───って、そうか。そういえば、今はまだ………」

 

 

 

 

 

《罠蘇生(トラップ・リボーン)》

通常罠

①:自分のライフポイントを半分払う事で、

相手の墓地の通常罠カード1枚を選択して除外する。

このカードの効果は、ゲームから除外したカードと同じになる。

 

 

 

 

幸いにも、いや、どんな運命の悪戯か。よりにもよって旦那さんがダメ押しとして発動したカードをこそが、ここで彼女を庇うための唯一の手段として存在した。ならば、このままお互いに庇い合うだけのデュエルをし続ければ、タッグとしては不出来なのだとしても、そうせずにはいられないのだ。

 

何故ならこのデュエルは、他でもない彼女に直接報いることができる、おそらくは最期の機会だから。

 

 

「きっと、アンタの言葉の方が、どうしようもなく正解に近いんだろうな。

 

…………でも、それでも今の俺は、こっちの方が正しいように思えてくる。

 

庇い合い? いいじゃねぇか。それってつまり、お互いに、庇うだけの価値があるってことだろ?」

 

「…………ほう」

 

「信じてもらえねぇかもしれないけど、俺はつい最近まで───いや、今でも正直俺は、大したことはないんじゃないかって思ってる。

 

実績として証明された今だって、ふとした時にあれは偶然だと、奇跡だったんだって思うことはある」

 

「遊馬くん………?」

 

 

ナンバーズ絡みの事件をきっかけに、俺の腕は間違いなく上がったはずだ。それはあの捻くれ者のアストラルだって認めるところではあるし、俺自身、多少なりともその自覚があるから。

 

けれども、今でも時々思うのだ。俺は今も、強くなってなんかいないんだって。ナンバーズの恩恵に預かっているだけで、俺自身の実力が成長したわけじゃないのだと。

 

偶然に偶然を重ねた奇跡の産物を、俺の実力なんだと勘違いしているだけかもしれないことを。

 

 

「まあ、それも含めて全部、俺の実力ってことなんだろうけど───それにしたって、俺は弱すぎた。

 

今時、モンスターエクシーズさえ使えない………それも、特に拘りだの何もなく、だ。そのくせ、取り立ててデュエルが上手いわけでもない、むしろそういうやつは苦手。そんなデュエリスト、とてもじゃないけど『強い』とは思えないだろ?」

 

「…………」

 

 

実際、アストラルと出会ったばかりの俺は、ずっとあいつに馬鹿にされっぱなしだった。あの時は気取っていたが、タクティクスだのなんだのはぶっちゃけ今でも良くわかっていない。しかし。

 

 

「けど───そんな俺が、俺なんかよりもずっと強烈で、見ていて本当にいろんな意味で圧倒されるやつより『強い』んだって。凄いって、そう言われたんだ。

 

だから、ってのは変だけど───俺にとっては、それだけでも十分だ」

 

 

よくわからない期待をされて、奇妙なほど認められてて、不思議なくらい評価される。友人とも微妙に異なる気がするこの複雑な関係を、言葉としてうまく表現するにはおそらく俺には足りないものが多すぎる。

 

だけど、それだけで、俺が動く理由にはなる。先程旦那さんが混乱しながらも妻をサポートしたのと同じ。理屈なんてなくても、理解なんてできなくても、そうしたいと思うだけの動機になる。できることをやりたいのに感情を理由に躊躇するのは、俺の心情からも外れた行為だ。

 

かっとビング…………いつか、頭でっかちな幽霊に一笑に付された単語。だけど最近は、語感だけで嗤われることもなくなった俺の信念。それを貫き通すまで、俺は絶対に諦められないから。

 

 

「ふん。泣かせるわね…………けど、それはあくまで、貴方の妄想。貴方はただ、これまでの印象から、彼女に対して都合の良い幻想を抱いているだけ。

 

ねえ、知ってる? そういうの、なんて言うか。それはね───」

 

 

 

 

 

───希望(・・)、って、そう言うのよ。

 

 

 

 

「希望…………?」

 

 

思わず、手の内にある彼女から託されたカードを見る。

 

希望。すなわちホープ。俺の欲望が具現化されたナンバーズ、それに記された単語。

 

思えば、どうして人の欲望を写し出されるカードに、このように前向きなカードが顕現したのかさえわからない。あまり思い出したくはないが、あの時の俺は大好きなデュエルで負けが込んだ挙句、大切なアクセサリーまでもシャークに壊されたりなんだので荒んでいたはずだ。なのに、何故。

 

 

(…………いや、そうだ。俺は、そんなことより)

 

 

深く深く、あの時の感情をこの身に浸す。もはや遠い出来事のような、しかしまだまだ最近のこと。あの時俺は、何を思った? そんなこと、今更思い返すまでもない。

 

 

 

 

(そんなことよりも、ずっと。モンスターエクシーズを使えることに対する喜びの方が───)

 

 

 

 

 

 

 

「───俺はデッキから、フィールド魔法《希望郷-オノマトピア-》を発動する」

 

 

 

 

《希望郷-オノマトピア-》

フィールド魔法

①:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、

自分フィールドに「希望皇ホープ」モンスターが特殊召喚される度に、

このカードにかっとビングカウンターを1つ置く。

②:自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、

このカードのかっとビングカウンターの数×200ポイントアップする。

③:1ターンに1度、このカードのかっとビングカウンターを2つ取り除いて発動できる。

デッキから「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」

モンスターの内いずれか1体を特殊召喚する。

 

 

 

 

「希望郷───皮肉のつもり?」

 

「いや。アンタが言ってる希望ってやつが、良い意味なんかじゃないってのは流石にわかる。

 

ただ、それ以上に俺は、希望って言葉の持つ力を信じてみたいだけだ」

 

「…………希望」

 

 

信じるものは救われる。などという迷信を、別に闇雲に信じ切ってるわけじゃない。俺が知るだけでも、これまで救えなかったもの、救われなかったことが無数にある。トロン然り、フェイカー然り。父ちゃん達のことだってそうだ。希望なんて、理想なんて、そもそも俺がどうにかできる範囲にはなかったのだから。

 

でも今は、今だけは違う。馬鹿な俺でも理解できるほど単純明快で、呆れるくらい簡単な答えが見えている。すなわちそれは、このデュエルに勝つこと。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

海美プロのエンド宣言に合わせ、デッキから新たにカードを呼び起こす。引いたカードは《エクシーズ・トレジャー》。理想的だ。ただでさえリソースが不足しがちな今、カードを新たに補充する魔法の存在は素直に有難い。

 

 

「俺はマジックカード、《エクシーズ・トレジャー》を発動!

 

フィールドのモンスターエクシーズ一体につき、カードを1枚ドローする!

 

続けて俺は、《シャッフル・リボーン》を発動! このカードは、自分の墓地からモンスターカード1枚を選択し、効果を無効にして特殊召喚できる!」

 

「だけど、どのモンスターを呼んでも、攻撃力はこちらの方が上!」

 

「わかってるさ!

 

俺が選択するのは、《銀河眼の光波竜》だ!」

 

「えっ………!?」

 

 

タッグデュエルだからこそ行える俺の選択に、これまでにないほど表情を崩して彼女は驚愕の顔を浮かべる。だが、今更何を驚いているのだ。こうでもしないと扱いに困るようなカードを渡してきたのは、他でもない彼女だろうに。

 

 

「更に俺は、セットしていた《ドドドガッサー》を反転召喚!

 

この瞬間、ドドドガッサーのリバース効果を発動! 相手フィールドのモンスターを2体破壊する!」

 

「まさか、通るとは思ってないでしょう?

 

───私は永続罠、《スキルドレイン》を発動」 海美 LP4000→3000

 

「───え」

 

 

 

 

 

《ドドドガッサー》

効果モンスター

星8/地属性/悪魔族/攻 0/守3000

①:リバース:相手フィールド上のモンスター2体を選択して破壊する。

②:このカードが反転召喚に成功した時、このカードの攻撃力は

お互いのライフポイントの差分アップする。

 

 

 

《スキルドレイン》

永続罠

1000LPを払ってこのカードを発動できる。

①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

フィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化される。

 

 

 

 

『スキルドレインだと………!?』

 

「えっと、それは確か───」

 

 

デュエルモンスターズの中でも最高峰の影響力を誇る、モンスター効果に対するメタカード。確かに元々の攻撃力が馬鹿高い大型モンスター使いならば持っていても不思議じゃないが、まさかこんなタイミングで。

 

(…………いや)

 

こんなタイミングで、ではない。もう既に海美プロにとっては、この状況は詰めの段階に入っている。だってそうだろう。如何に洗脳されていても、世界で一番信頼できる男が後に控えているのだ。当然だ。

 

だけどそれは、俺だってそうだ。どうしてかは未だによくわからないけど、彼女は俺を信じて今を託してくれている。強迫観念はない。ただ、応えたい。だから俺は、この程度では屈しない。

 

 

「俺は手札から、ガンバラナイトを召喚し、それをトリガーにカゲトカゲを特殊召喚!

 

カゲトカゲはレベル4のモンスターを通常召喚した時、手札から特殊召喚できる!」

 

「レベル4のモンスターが、2体……ね」

 

 

そうだ。今更何かを言うまでもない。あまりにお馴染みなこの布陣。強いて言うなら隣にいる大型モンスター2体が違和感ではあるが、俺のやることには何も影響がないだろう。

 

 

「俺はレベル4、ガンバラナイトとカゲトカゲをオーバーレイ!

 

2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 

現れろ、No. 39。俺の欲望、俺の願望、俺という人間の象徴。

 

どんなに愚直だと嗤われても、揺らぐことなき希望の星、不屈の精神。その名は。

 

 

「来い! 光の使者、希望皇ホープ!!」

 

「またしても、希望……」

 

「そうだ。そして、まだまだだ!

 

フィールド魔法、オノマトピアの効果を発動! ホープが召喚されるたびに、このカードにかっとビングカウンターを乗せ、そのカウンターの数かける200、俺のモンスターの攻撃力を上げる!」

 

「……でも、まだだ。まだ足りない。そうだろう?」

 

 

煽るように、茶化すように、あるいは励ますように。旦那さんが挑発的な口調で告げる。先人として期待しているのか、単純に俺が何をするのか興味があるのかはわからないが。

 

 

「俺はホープをエクシーズ素材として、カオスエクシーズチェンジ!

 

現れろ、《CNo.39》! 混沌を光に変える使者《希望皇ホープレイ》!」

 

 

 

 

《CNo.39 希望皇ホープレイ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻 2500/守 2000

光属性レベル4モンスター×3

①:自分のライフが1000ポイント以上の場合、このカードを破壊する。

②:自分フィールド上に存在する「No.39 希望皇ホープ」1体をこのカードのエクシーズ素材として、

このカードはエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。

この時、「No.39 希望皇ホープ」のエクシーズ素材をこのカードのエクシーズ素材とする事ができる。

③:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

④:このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。

エンドフェイズ時まで、このカードの攻撃力を500ポイントアップし、

相手モンスター1体の攻撃力を1000ポイントダウンする。

 

 

 

 

「ホープレイ……」

 

 

現れしは、彼女とは異なる進化を遂げた俺のナンバーズ、ホープレイ。本来ならデメリットにより自壊するこいつも、効果が無効になっているのなら破壊されることはない。尤も、最大の長所かつ一発逆転の強力な効果が使えなくなる上に、ホープ本来の守りさえ失ってしまう賭けではあるが、もはや安定を図るような段階ではないのだ。

 

 

「フィールド魔法、オノマトピアの第二の効果を発動!

 

このカードに付与されたかっとビングカウンターを二つ使い、デッキからガガガ・ドドド・ゴゴゴ・ズババと名のつくモンスターを特殊召喚できる! 来い、《ガガガシスター》!

 

この特殊召喚に成功したことで、ガガガシスターの効果を発動! デッキからガガガと名のつくカードを手札に加える!

 

俺が手札に加えるカードは、《ガガガボルト》だ!」

 

「無駄よ。永続罠《スキルドレイン》の効果で、全てのモンスター効果は封じられている。

 

《ガガガボルト》の効果で私のカードを破壊しようとしたのでしょうけど、それじゃあ───」

 

「まだ、まだだ!

 

オノマトピアをデッキに戻すことで、俺は墓地から、《シャッフル・リボーン》の更なる効果を発動!」

 

「───!」

 

 

 

 

 

《シャッフル・リボーン》

通常魔法

このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。

②:墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主のデッキに戻してシャッフルし、

その後自分はデッキから1枚ドローする。

このターンのエンドフェイズに、自分の手札を1枚除外する。

 

 

 

 

 

 

きっとこれが、俺らにとってのラストドロー。確信がある。このドローをこそが、このデュエルの勝敗を決定づける一枚になると。

 

そしてそれは同時に。彼女が褒め称えて羨んだ俺の強さ、土壇場での底力………彼女風に言うのなら「運命力」とやらを、残酷にも彼女に見せつける行為でもある。

 

 

「…………俺が引いたカードは、通常魔法、《ガガガボルト》だ!」

 

「なっ───!」

 

「ほぅ………!」

 

「…………」

 

 

驚愕と、感嘆と、羨望の視線。誰がどの感情を持っているのかなんて、目を瞑っていてもわかる。俺自身、こんな土壇場も土壇場、最後の最後の悪運が多少強い程度を誇ったことはないのだけれど、思うところがまるでないといえばそれも嘘になる。

 

そも、俺は運命だのなんだのはあまり信じていない。だけど、カードに意思があるだろうことは否定しない。しかし結局、つまるところこの俺は、何もわかってないだけだ。

 

 

「そして───」

 

 

最後の詰めにと、手札のカードを使おうとして、言葉に詰まる。………言葉を掛けているわけではない。流石にこの場面でそんなくだらない洒落を言うつもりはない。もっと単純に、躊躇しているのだ。

 

 

(───俺なら、きっと)

 

 

できるはずだ。不可能ではないはずなのだ。他でもない彼女から、嫌な方向でのお墨付きを頂いたのだ。ホープレイや魔人、その他数多のサポートカードの存在からも、生み出すこと自体は不可能とは言えない。

 

デュエルモンスターズのカードには魂が宿る。与太話のようで誰もが信じて疑わないその言葉には、そう思わせるだけの実例がある。特殊カード変質論やそれこそカードの精霊などと呼び表される、摩訶不思議な事象が。

 

手の内の1枚、彼女から託されたカードをディスクに収め、発動する。あまりに特異で理解し難い、卓越した召喚を駆使する彼女でこそ扱えるだろうこのカードを。

 

 

「俺はマジックカード、《Xエクシーズ》を発動!

 

このカードの効果により、俺はレベル8のドドドガッサーと、ランク8の銀河眼の光波竜をオーバーレイ!」

 

「何っ………!?」

 

 

 

 

 

《X(クロス)エクシーズ》

通常魔法

①:自分フィールドに存在する、レベルとランクが等しいモンスター2体を選択して発動できる。

それらのモンスターをX素材として、その数値と同じランクを持つXモンスター1体をエクストラデッキからX召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

「モンスターエクシーズと、それ以外のカードでエクシーズ召喚だって……!?」

 

(……しっかし、マジでなんなんだ。このカード。強いとか弱いとか以前に、普通はアド損、とやらじゃないのか………?)

 

 

ボードアドバンテージだの損失と利益だのといった「勝つための要素の一つ」は参考情報として習っているが、だからこそランクアップマジック同様に、コンボ前提のカードは扱いづらく感じてしまう。

 

とはいえ、デュエリストの大半はそういう単体で見たら役に立たないようで当人にとっては「これぞ」というカードを持っているのが普通で、かくいう俺だってそうだ。

 

………実のところ、あれだけ日頃から効率云々を説いているアストラルですら気づいていないこの矛盾も、あの病院で彼女に問われてから気づいたことではある。むしろ普通は疑問に思うことすらない当然のことだ。

 

そしてこれに気づく時点で、彼女は当たり前のようでいてどこかがズレている。あるいは外れている。根っこの部分で感じるこの違和感こそが、彼女の醸すあの不思議な雰囲気なのだろう。

 

 

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! クロス・エクシーズ召喚!」

 

 

だがしかし。だからこそ人々は、彼女に惹かれるのだ。そも偶像とは触れ難きモノ。ヒトにあってヒトに非ず、そういうもの。また俺は、それを理由に彼女を見限ることをしない。レッテルだけで存在を否定することは、きっと誰にとっても不幸な結末にしかならないから……だ、そうだ。

 

まあ俺も、アリトやギラグと触れ合った限りでは、それについては同意見である。

 

 

「広がる希望、重なる勇気が新たな軌跡を照らし出す! 現れろ、《No.38》!

 

《希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》!」

 

「なっ───!?」

 

 

 

 

 

 

《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

①:このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。

②:相手モンスターの攻撃宣言時、このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動できる。

その攻撃対象をこのカードに変更する。

③:相手が魔法カードを発動した時に発動できる。

その魔法カードの効果を無効にして

その相手の魔法カードとこのカードをゲームから除外する。

この効果でゲームから除外されているこのカードがフィールド上に戻った時、

ゲームから除外されている相手の魔法カード1枚をこのカードの下に重ねてエクシーズ素材にできる。

④:フィールド上のモンスターエクシーズが破壊された時に発動する。

そのモンスターの元々の攻撃力をこのカードの攻撃力に加える。

また、この効果を発動したこのカードが破壊される時、

このカードの攻撃力をフィールド上のモンスターエクシーズ1体の攻撃力に加えることができる。

 

 

 

 

 

 

ナンバーズとは、人の心を写し出す鏡。故に、使用者の望むカタチに進化する。

 

暴力、堅実、補助、残虐、凌駕、優美、洗脳、圧制、破滅、懲罰、強奪、そして希望。多種多様な欲望。それらは決して良きものであると言えないけれど、それが示すことは即ち人の欲望の数だけこのカードは分岐する、あるいは変化を遂げるということ。

 

リセット、という概念についても俺には正直よくわからなかったが、つまるところはいつもと大して変わりない。その場の勢いで、突っ走るだけだ。

 

自分には不可能だと彼女は言った。だったら、そんな理不尽が不可能じゃない人種だっているわけだ。デュエルの才能とも違うであろう何らかの要素が、彼女には欠けているのだと。

 

彼女は俺を羨んだ。それは何故か、決まっている。俺にはきっと、それができるからだ。いや、俺だけじゃない。ある程度の力量を持つデュエリストなら、おそらくできるはず、なのだろう。

 

……あくまでこれは、願望に近い推測だ。実際にできる保証なんて、それこそ彼女が何故か俺に寄せてる期待以下の信憑性もない。しかし現実として、その希望はカタチを成した。なればこそ必ず、これは未来を切り開く鍵となる。

 

 

「───なんで。君が、そのカードを……」

 

「さあな。これもまた、可能性ってやつじゃないか?

 

───ここで俺は手札から《ガガガボルト》を発動し、スキルドレインを破壊。これにより、効果が無効になっていたホープレイのデメリットにより、ホープレイ自身も破壊される」

 

 

 

《ガガガボルト》

通常魔法

①:自分フィールド上に「ガガガ」と名のついた

モンスターが存在する場合に発動できる。

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 

 

「───ふん。かなり驚かされたけど、そっちの希望は随分と脆いのね。そんなんじゃ、私とダーリンは倒せないわよ?」

 

「いや、これでいい。

 

この瞬間、俺はタイタニックギャラクシーのモンスター効果を発動する!」

 

「っ───!」

 

 

羽原夫妻はプロとはいえ、どちらか片方だけでいいのなら、ホープレイの能力を駆使すれば倒せない相手ではない。だが違う。それでは足りない。それでは勝てない。勝てないのならば───言うまでもない。そのための布石は、既にフィールドに存在している。

 

 

「………タイタニック・ギャラクシーがフィールドに存在する時に他のエクシーズモンスターが破壊された場合、その攻撃力はタイタニック・ギャラクシーに引き継がれる………」

 

(………え?)

 

 

だが、どうして。ついさっき創り出したこのカードの効果を、他でもない彼女が知っているのか。今までも彼女の知識には驚かされてばっかりだったが、今回ばかりは絶句する他ない。

 

ここで「知識」という言葉から連想して突飛な心当たりが脳裏をよぎったが、すぐさま否定する。仮にそうだとするならば、あまりにもお粗末すぎる。

 

ならば何故───と考えて、諦める。いずれにせよ、今はどう足掻いてもそれを暴くことはできないのだ。それならば、疑念だけを胸の内に秘めて、今後を見据えた方が未来への糧になるだろう。

 

 

「……タイタニック・ギャラクシーの攻撃力は3000。それにホープレイの攻撃力を加えると合計は5500だ。

 

しかし、我々のライフは共に3000を超えている。3400のガンガリディアを破壊したところでが2100───尤も、モンスターが存在しない私を狙うというなら話は別だが、君の狙いはそうではないだろう?」

 

「ああ───バトルだ!

 

俺は攻撃力5500となったタイタニックギャラクシーで、超巨大空中要塞バビロンを攻撃!」

 

「っ──!」 海美 LP3000→1300

 

 

轟音、衝撃、閃光。あの空中要塞が破壊されるのはついさっきぶり2度目ではあるが、到底慣れるような気がしない。直ぐ隣に優雅な「元の姿」が並んでいれば尚更だ。

 

これでバリアンの象徴たるカオスエクシーズは粉砕した。だが、それだけでは終わらせない。彼女と共に、勝利を掴むためにも!

 

 

「ここで俺は永続罠、《オーバーレイ・アクセル》を発動!

 

このカードは───」

 

「モンスターエクシーズがモンスターを戦闘破壊した場合、素材1つと引き換えに連続して攻撃ができる。

 

ハニーのフィールドに残されたガンガリディアと君のタイタニックギャラクシーの差分は2100。加えて私のライフは3900にしてタイタニックギャラクシーの攻撃力は5500。つまり───」

 

「………まさか、こんな───!」

 

 

 

 

 

 

《オーバーレイ・アクセル》

永続罠

①:自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体が戦闘によって相手モンスターを破壊した時、

そのモンスターエクシーズのエクシーズ素材1つを取り除いて発動できる。

そのモンスターエクシーズはもう1度続けて攻撃できる。

 

 

 

 

流石はプロデュエリスト。加えてランク10の大型モンスター使いともなれば、自身のデッキに役立ちそうなカードの効果は知っているか。いや、あの反応。もしかしなくてもこのカードが彼らのデッキに入ってる可能性が高い。………まあ、そんな意図せず手にしたアドバンテージも、もうすぐ意味のないものとなる。

 

 

「タイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットは2つ。つまりこのカードは、あと2度のバトルができる!

 

行け、タイタニック・ギャラクシー! 破滅のタイタニック・バースト!」

 

「くっ……!!」飛夫 LP 3900→0

 

「きゃぁああああああ!!」 海美 LP 1300→0

 

 

仲良く2人で、2人の象徴たるガンガリディアと共に彼ら夫婦は吹き飛ばされる。

 

酷い言い方だが、敗北した姿だ。決してそれに俺が何かを思うことはないのだが───どうしてか、ほんの少しだけ羨ましい(・・・・)なんて感想が浮かび、自分でも困惑するのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「バリアン、ね。正直、信じられない話だけど───随分と、迷惑をかけちゃったみたいね」

 

「いえ、私としても、いい勉強になりましたから」

 

 

白熱したデュエルが明けて、既に祭りも後片付けの段階に移行した頃、夕陽の差し込む誰もいない校舎裏にて私は海美さんと語り合っていた。

 

内容は当然、あのデュエルについてのこと。原作では挑戦者も閑散とした時間帯に挑戦していたため事情についてもすぐに伝えられたのだろうけど、私達が彼女達と決闘したのはまだまだ祭りも佳境な昼ごろ。

 

そうなると必然、押し寄せる数多の挑戦者を裁かねばならない彼女達は、私達と悠長に話す時間なんてあるはずもなく───結果、後片付けに忙しい遊馬くんに代わり、私がこうして事情を話しているわけなのだけれど。

 

 

「そう? 貴女にしてみれば、私とのデュエルなんて───」

 

「いえ、本当に──学ばせていただきました」

 

 

遮るように断言する。これに関しては、紛うことなき私の本音だ。デュエリストとしても人としてもそれ以外にも、色々と学ぶことが多い闘いだった。

 

彼女達、偉大なる先人のおかげで、私もようやく道が見えてきた気がする。実際にはどうあれ、間違っても無益とは言えなかった。

 

 

「なんていうか、貴女も大変ね。他人事みたいで申し訳ないけど……」

 

「……望んでやっていることです。それに、報酬だってないわけじゃありませんから」

 

 

彼の助けになれる。私にとっては、それだけで十分だ。勝てないなんて分かっているけど。これだけ変わった世界なら、そう望まずにはいられないのだ。

 

それに、未来がどうかなんて、誰にもわかるはずがない。彼のように、カードのように、この世界そのもののように。些細なきっかけで、いくらでも変動する。

 

それはきっと、善いものばかりじゃないのだろう。何故なら私の介入は、完結した舞台劇に外から素人が割り込む行為となんら変わりはない。

 

如何に結果が良くなろうとも、壊すことには変わらない。だけどそれでも、否。その行為こそが、未来を切り開く礎となるのだ。

 

かっとビング───何事にも挑戦する諦めない心。それに伴う意思こそが、彼に惹かれた理由なのだから。

 

 

「……よし」

 

 

小さく呟いて、自然と手元を見つめる。そこに握られた一枚のカード。デュエルの後、彼に強引に渡された、あのデュエルでのフィニッシャー。

 

既知なれど未知でもあるこのカードこそは、私と彼の───いや、やめておこう。

 

 

「いい顔ね」

 

「……え?」

 

「貴女、とっても綺麗な顔をしているわ。あのデュエルの時みたいに、凛々しくて、苦悩して、謎めいて、だけど笑顔で。

 

正直、アイドルらしくはないなって思っていたけど───今の貴女は、それ以上に素敵よ」

 

「───」

 

 

アイドルらしくはない。その言葉は、アイドルである私には酷評のはずだ。生まれ変わって早16年、私はずっとアイドルになりたくて、偶像としての自分を壊さぬように生きてきた。前世で得たこの世界に対する絶大なアドバンテージすらかなぐり捨てて、燻る感情のまま駆け抜けてきたのに。

 

けれど、違ったのだろうか。おそらくはきっと、忘れもしないあの人のデュエルを見て、それまで必死に目を背けてきた「遊戯王」の世界に足を踏み入れると決めた瞬間から、私はきっと、決闘者として───。

 

 

「………まあ、いいか」

 

 

考えすぎて駄目になることは、文字通り死んでも治らなかった私の悪癖だ。そんな不毛な思考を繰り広げるくらいなら、何も考えないほうがまだマシだ。これもまた、私が彼から学んだこと。

 

 

「あら、存外、適当なのね。貴女はもっと、いい意味で狡猾だと思っていたのに」

 

「あ、いや、これは違っ──」

 

「まあいいわ。それで、これからどうするの?」

 

「え?」

 

「やりたいこと、見つけたんでしょう? なら、どうしたいの?」

 

 

私が浮かべることはない、浮かべることができないであろう慈しみに満ちた笑顔で、海美さんが柔らかく問う。

 

矛盾しているようだが、デバガメ感の溢れるいい笑顔だ。いいことを言っているようで、いや実際にいいことは言っているんだけどそれでもその実、こちらをからかうことが目的なのが見て取れる。

 

だが、しかし、まるで全然。逆らう気や誤魔化す気が一切起きないというのはどういうことなのだろうか。これが噂の、まるで意味がわからない、というやつなのだろうか。

 

 

「そうですね───」

 

 

結局、私は何も憚らずに明け透けに、次の目的を彼女に語る。あのデュエルで見出した「やりたいこと」とは少しだけ違うけど、この世界に足を踏み入れた私が、やっておかなきゃならないことを。

 

 

 

 

 

 

「ええと、海美さん。貴女は『Ⅳ』さんってプロデュエリスト、ご存知ですか?」

 

 

 

これは私が、どこにでもいる1人の決闘者になるまでの物語である。

 






お目汚し、失礼いたしました。多分ないですが、またいつか機会がありましたらよろしく。


もうアニメとかも見てないけど、融合やランクアップも出ないだろうからいいや。ではでは。


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