違うクラスの女の子に目をつけられたんだが (曇天もよう)
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プロローグ
始まりはトラブルとともに


よう実ロスに悩みながら生活している者です。
坂柳が好きなので書いてみたような見切り発車ですがどうぞ見ていってください。


現代社会において人は皆平等だなんて言われている。選挙をすれば、『男女が平等に立ち振る舞い、生きていく社会を作り上げていきます!』なんていう政治家もいるだろう。

 

自分たちの祖先にはこのように書いた人物がいる。

 

『天は人の上に人を造らず』

 

これはとても有名な言葉であろう。福沢諭吉著の『学問のすゝめ』の一節だ。

多くの人はこの言葉を知っているが、その先に何と書いているかは知らないだろう。『学問のすゝめ』にはこう記されている。

 

『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。されど人の世は賢き人あり、おろかな人あり、貧しき人あり、富めるもあり。人は生まれながらにして貴賎貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧乏となり下人となるなり』

 

たしかに福沢諭吉は人は生まれた瞬間においては、人は皆平等だと言っている。しかし、その後学問に励んだか、励んでいないか、その結果により、人は平等ではなくなると述べているのだ。

 

確かにそうであろうと思う。人は生まれてからの努力次第で何者にでもなることができる。それは自らの努力次第だ。そこは自分も同じ考えを示している。

だがしかし、人は生まれた瞬間は平等だ、という考えは自分にとって違うものだと考えている。

 

なぜそう思うのか?それは生まれながらにしてすでに体に差ができている。頭の良さ、体の丈夫さなどがそうだろう。そしていれば親による差もすでに存在している。

それこそ極端な例を言えば、江戸時代などにおいて、徳川家に生まれるのとそこらへんにいるであろう百姓の子に生まれたのではすでに身分に差ができている。

これは現代社会においてもそうだ。親が金を持っているかいないか、親に犯罪履歴があるか、言い出せばキリがないが、親によってできる差は無限にあると自分は考えている。

 

では自分はどのように考えているのか?それはこう考えている。

 

人は生まれながらにして複数枚のカードを持っている。その手札は変えることができなく一生自分の手元に残っているだろう。しかしその手札に加えて、自らの山札から追加のカードを引くことができる。そのカードには様々な種類があり、どんな種類のカードだって所有することができる。

大切なのは「どんなカードを与えられたのか」ではない。自分が考える本当に大切なこと、それは『与えられた手札をいかに生かす使い方をし、補うのか』なのだ…と。

 

 

 

 

 

------------------

 

 

 

 

桜舞う4月。 暦の上では春であるというのに未だ肌を刺す冷気はたしかに感じられる気候の中、真新しい制服に身を包み、バスの中で揺られながら俺、桐生 司はバスに乗っていた。バスの中は人が多く、すでに座る席はないため、立っている人たちもいた。しかし、俺はバス後部の席を確保していたので、持参した小説を読みながらバスの揺れに合わせて揺れていた。

小説もクライマックスに近づき、展開が盛り上がってきたところで、バスの前方から大きな声が聞こえてくる。あまりに大きい声であったため、周りの人たちもその声をあげた人へと注目をする。

 

「聞こえなかったのかしら?席を譲ってあげようとは思わないの?」

 

静かなバスに似合わないような大声が再びバスに響き渡る。誰しもが、自らに言われた言葉ではないかと、不安そうに思って見つめているが、実際はその声を出しているOL風の女性の目の前に座っている男子学生に向けて発しているようであった。

しかしながら、注意をされている当の男子学生はそんなことに気を止めるような様子はなく、自分の髪をいじっている。

 

「そこの君、おばあさんが困っているのが見えないの?」

 

OL風の女性は注意したにもかかわらず、一切反応すらしない男子学生にイライラを募らせているようだった。先ほどよりもより強く男子学生に注意をした。

 

するとこの注意に男子学生はようやく反応を示し、女性に答える。

 

「実にクレイジーな問題だね、レディー。何故この私が老婆に席を譲らなければならないんだい?どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょ?」

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な手段はどこにも存在しない。この場を動くかどうか、それは現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者から席を譲る?ははは、実にナンセンスな考えだ」

 

 

一般的に見れば自己中な男子学生な言葉に聞こえるだろう。道徳的考えなど微塵もそこには存在しない。しかしながら男子学生の主張も間違えているとは言えまい。優先席ではあっても必ずしも譲らないといけないわけではない。あくまで『優先』席なのだから。確かに俺もそうは考えるが、断れば周りの視線が痛いだろうし、変わるだろうが。しかしあの男子学生は一切気にしている様子がないな。あれは大物になるな。そして、男子学生の屁理屈のような返答に女性はさらに怒りを増している。あれはめんどくさい事になりそうだ。ここは無視に限る。

こういうときに誰かが席を変わりますと言えば解決するだろうが、誰だってそんなことはしようとしないだろう。あんなに怒気を撒き散らしてる女性に話しかける勇気がある人なんていないだろうし、面倒ごとは避けたい人が多いだろう。

実際バスの乗客は誰一人として席を譲りますという人はいない。

まあ、男子学生があの様子なら折れることはないだろうし、女性がいずれ諦めるだろう、そう思い再び手に持っている小説に目線を下ろそうとしたときだった。

 

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

女性が折れてしまう前に第三者が会話に介入していった。絶対的に不利な言い争いに介入したのは誰だろうと再び目線をそちらの方向に合わせる。

 

介入をしたのは金髪のショートヘアーをした、俺と同じ制服を着た女子生徒だった。因みに優先席に座っている男子学生も同じ制服だ。この時間に同じ制服をきた人がいるということは同い年で今日同じく入学する人たちなのだろうと思いながら、会話を聞く。

 

 

「レディーに続いてプリティーガールか。どうやら、今日の私には女性運があるようだ」

 

「おばあさん、さっきからずっと辛そうにしてるの。席を譲ってもらえないかな?社会貢献にもなると思うの」

 

「社会貢献か。なるほどねえ。だが、生憎と私は社会貢献活動に興味がないんだ。私は自分自身が良ければそれでいいと思っている。それとプリティーガール、先ほどから君らは私を責め立てているようだが、他の一般座席に座っている者はどうだ?本当に老人のためを思っているのなら、優先席かそうでないかの違いは些細なものだと思うがね」

 

あの手の人はいくら言葉で丸め込もうとしても絶対に折れないだろう。これはいくら説得したところで水掛け論になりそうだ。そう思っていると女子生徒は意外にも男子学生ではなく男子学生以外の座っている人たちにお願いをし始めた。

 

「あの、皆さん、誰か席を譲って頂けませんか?お願いします」

 

 

確かにあの男子学生の様子からして決して譲ることはないだろう。そう考えれば女子生徒の判断は正しい事であると思う。しかしながら、席を譲ってと言われて「はい譲ります」と言える人なんてほとんどいないだろう。特に日本人なら…、

なぜ日本人ならしないだろうと言えるのか。それは至極簡単、『誰か』がしてくれるだろう、そんな風に日本人は考えてしまう。日本人は良くも悪くもマジョリティに任せる傾向があり、一人違う動きをすることに恐れがある。例えば、授業を受けていて、『AとBのどちらかに手を挙げなさい』と言われたとしよう。自分はどちらか分からないが、なんとなくBだと思ってAの意見で手を挙げなかったときにクラスメートたちが自分を除いて全員Aの意見で手を挙げたとする。そのときどう思うだろうか?

きっと、自分が間違っているのだろう…そう思うだろう。

マジョリティに入っていれば間違えていても、みんなが間違えているのだから仕方ない、そう言い訳をすることも出来る。そう考えてしまうのが大多数の日本人だ。

話を戻そう。今回の場合、そういった心理も働いているが、金髪の男子学生とOLが変な空気を作ってしまったため、名乗り出ようにも出難い状況になってしまっているのも主な原因だろう。

 

バスの中では沈黙が続く。そして、女子生徒が再び呼びかける。俺はそんなことには興味がないので小説を読むことにしよう。一般座席に座っているのだから譲る義務はない。人でなしと呼ぶのも結構。まあ、いずれ誰かがしてくれるでしょう。こういった考えも大いに日本人らしいか…。

 

 

「あ、あの……この席、よければどうぞ」

 

 

やがて一人の女性が手を挙げて席を譲った。呼びかけていた女子生徒はお礼を言い、お婆さんをそこの席に座らせる。

朝っぱらからハプニングが起こるとは、気が滅入る。自己中な生徒と優しい女性が招いた出来事が、最後には自分たちに矛先が向けられており、このバスに乗っている奴らは少しばかり気分を落としたのに違い無かろう。

 

目的地にバスが到着すると、誰よりも早くバスから降車し、今日から通う事になっている高度育成高等学校の校舎に目もくれずに教室へと俺は向かって歩き出したのだった。

 



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ようこそクラスルームへ

多くの方にお気に入り登録してもらえたためとても嬉しいです!
今回は坂柳が少しだけ登場していますが本格的な登場はもう少しだけ後なのでもう少し待っていてください。


バスを降りた生徒たちは各々のペースで指定された教室へと歩き出す。特に周りを見渡すこともなく一直線に向かっていく者もいれば、周りの大きな建造物に驚きながら歩く者、早速知り合った友人と歩いていく者もいた。

 

桐生は友達をすぐに作れるようなタイプではないので指定された教室へと一人でゆっくりと歩き出していた。

確かに周りの建物はとても大きく驚いてはいたが、これから3年間滞在するのだからすぐに慣れてしまうだろう、そう思いながら歩いていると、こちらへ杖を持った銀髪の少女が歩いてくるのが見えた。

 

ここへ着いた者たちは教室へと向かうのだから、こちらへ歩いてくるなんて珍しい。何か用事でもあるのか?

 

そんなことを思っていると少女は桐生の目の前にやってきた。桐生が相手とぶつかるのを避けるために右に避けると、少女もなぜかそれを見て桐生の目の前に移動し、お互いに立ち止まる。

そして近くなりジッと桐生のことを見つめてくる。背は意外と高くなく、少女のようだが、そこから醸し出される雰囲気は少女のそれとは全く異なっていた。

そんな不気味な少女に困惑していると少女は不意に口を開き話す。

 

「あなた…面白そうな人ですね。また会えることを楽しみにしていますね」

 

非常に簡単な一言だけ告げると先ほど歩いてきた方向へと少女は戻って言った。

 

今の女の子は何だったんだ?突然話しかけられてびっくりしたが、何かあの子の興味を引くことでもあったのだろうか。もしかして髪がはねたりしているのだろうか?と思いトイレに行ったが、特に身だしなみで変なところはなかったため、不思議に思いながら指定されたDクラスへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

俺が予め指定されていた教室、Dクラス付近までやってくると先ほどまで静まり返っていた校舎内に人が喋る声が聞こえてきた。どうやら初日から仲良くなっている人たちがいるようだ。

俺はあまり人と仲良くなるのが得意ではないため、そのようにすぐに仲良くなれる人たちを多少なりと羨ましく思いながら教室のドアを開く。

俺は「おはよう」と無難な挨拶をして教室に入る。すると何人かの生徒たちもあいさつを返してくれた。あいさつを終えると自分のネームプレートの書かれた机を見つけて、そこへ移動し、荷物を降ろした。

 

 

席の隣の人物は誰かと見てみるとやけに表情が変わらない少年と、綺麗な黒髪を伸ばした少女が話をしていた。言葉だけ聞いていれば良い雰囲気を醸し出しているようであるが、実際は違っていた。

出来れば関わりたくないなどと話をしているようで、この二人は初日から大丈夫か?と心配になるような話をしていた。そんな不思議な二人がとなりの生徒なのかと思っていると、こちらの方に少年が振り返ってきた。しかしながら少年は話しかけてくることもなく、ひたすらこちらを見つめてくるだけであった。

 

 

「あなたたちはいつまで黙って見つめあっているのかしら?」

 

お互いに黙り合って見ていると奥側の少女が沈黙を破るように話す。

少女は一見すれば美少女というものを絵に描いたような容姿をしていた。しかし、先ほどの話し方から自尊心が高くて少し接しずらそうな印象を桐生は受けていた。

 

そんなことを考えていると再び少女に言われたため、少し焦って話し出す。

 

「黙ってしまって悪かった。俺は桐生司だ。先ほどもこうしていきなりジッと見られることがあったから、何か変なものでも付いてるのかなって思ってしまったんだ。これからよろしくな」

 

簡単に名前と、先ほど黙っていた理由を述べる。少年はなるほどと納得したような様子を見せていたが、少女は興味がないと特に聞いているような様子はなかった。

 

そうしていると少年が今度は自己紹介をする。

 

「綾小路清隆だ。あまり人と話すが得意ではないからさっきは黙ってしまった。その…なんだ…よろしくな」

 

となりの表情があまり出ない少年は綾小路というらしい。あまり喋るようなタイプではなさそうだが、その分俺は仲良くできそうだ。多分俺と同じく友達が少ないタイプだろう。違っていたら?めっちゃ恥ずいけど…。

 

そんなことを考えながら綾小路の隣にいる少女にも話しかけてみる。

 

「君はなんていう名前なの?」

 

「私に答える義務はあるかしら?」

 

「そうだ、ないっちゃないが、していないと損はあるかと思うけどな」

 

「私は義務はないし、損もないと思うため答えない。何か不満があるかしら?」

 

思っていたよりもきつい返事が返って来た。おそらく一人で今までは出来ていたから友人とかが必要ないと考えているとタイプだろう。人は助けてもらえなければ生きていけない生き物だというのに愚かな考えだと思う。

まあ、この子にそんなことを言っても耳を傾けないだろうし無駄なんだろうけど。

 

「堀北、そんなこと言ってると桐生からぼっち認定されるぞ?」

 

「貴方に言われたらおしまいね。それよりも綾小路くん。勝手に人の名前を言わないでもらえるかしら?」

 

「悪い、堀北鈴音。悪気はなかったんだが…」

 

堀北は冷たい目で綾小路を睨んでいたが綾小路はそんな目を気にすることもなくこちらとも話をする。まあ、そのおかげでこの少女が堀北ということはわかった。まあ、いずれ仲良くなれたらいいな程度に思っておこう。

 

そのまま堀北はこちらと話すこともなく黙って小説を読み始めてしまったため、綾小路と他愛もない世間話などをする。なんだか、似たような考えをしているようで親近感をわきながら話をしていると始業のチャイムがクラスに鳴り響き、教室前方のドアから黒いスーツを着た女性が教室へと入ってきた。

 

それを見たクラスメートたちは一斉に自らの指定された席に着席をして、入ってきた女性を注視する。

全員が先に着席をすると女性は咳払いをして話す。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐江だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 

前の席から今茶柱先生が配ったプリントがやってくるため目を通してみる。するとやはり一度目に通した内容がそこには書かれていた。

 

この学校は、普通の高校とは違う点が複数ある。まず、生徒は全寮制であるのだ。さらに寮生活だけでなく、在学中は特例を除き、外部との連絡を一切禁じている事だ。つまり、一度この学校に入ったら、余程のことがない限り外には出られない。

しかし、娯楽が何もないというわけではない。生徒たちがなるべく不満を抱えないように、カラオケやカフェ、映画館にスーパーマーケットなど、生活に必要な施設から娯楽施設まで学校の敷地内にそんざいしている。まるで、この学校が一つの町として形成されているようだ。

そして最大の違いはこの学校で生活していくためのお金であった。

 

 

「今から配る学生証カード。それは敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することができるものだ。いわばクレジットカードのようなものだ。ただし、現金の代わりポイントを消費することになっているので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。毎月の一日に自動的にポイントは振り込まれることになっている。今お前たちには平等に10万ポイントが支給されている。1ポイントにつき1円だ。これ以上の説明は不要だろう」

 

 

茶柱先生の発言に、クラス全体がにわかに騒がしくなる。

この学校が他の高等学校と異なる部分の三つ目。それが、Sシステムの導入だ。先程茶柱先生から説明があった通り、毎月振り込まれるポイントによって、学校生活で必要な物などを購入することができる。

 

俺は毎月2万ポイントほど支給されそれでやり繰りをしていくものだと思っていた。しかし予想を大きく上回り10万ポイント…現実的に言えば10万円が振り込まれたのだ。しかし、全校生徒に毎月10万ポイントを振り込んでいると言うことはありえない。そんなことがあり得るとしたら、いくら日本政府の介入があるとはいえ、やりすぎだろうと考えられる。

この学校のモットーは社会に役立つ人材育成が謳い文句だ。そのため、自堕落な生活を全校生徒にさせるはずがないだろう。

となるとなんなのか?それは簡単なことで、何か裏がある。美味しい話には裏があるとよく本でも書かれるがまさにこの事なのだろう。証拠は無いが、最大限ポイントを消費しないように生活して様子を見るのが大事だな。

俺の見立てでは、1万ポイントもあれば十分な生活ができるだろう。服や、生活用品の持ち込みは審査を受けた上で許可されているため、水、電気、ガス、食料さえあれば生きていけるだろう。

 

そんなことを一人考えていると茶柱先生は説明を続ける。

 

「ポイントの支給額が多いことに驚いたか?この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちに対する評価のようなものだ。遠慮なく使え。ただしこのポイントは現金化は不可だからな。」

 

 

そう茶柱先生は話すが、生徒たちは10万ポイントをどのように使うかで頭がいっぱいな様子で、多くの人が上の空のようであった。だが、綾小路や堀北は浮ついた様子など見せていなかった。

 

「質問は無いようだな。では、良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 

クラス中が浮き足立つ中、茶柱先生はそう言い残すと教室から出て行ってしまった。

先生が教室からいなくなってしまうと、生徒たちはすぐに仲の良いグループの人同士で集まってグループで話し合いを始めた。何に使おうだとか何買おうかな〜などと、多くの人たちは10万円という多額のお金に疑問すら抱いていないようだった。

 

 

「思っていたほど堅苦しい学校では無いみたいね」

「確かに。何と言うか物凄く緩いな」

「緩すぎてちょっと怖いけどな」

 

 

綾小路と堀北は二人で話をしていたが、二人は10万ポイントを積極的に使おうとしてなさそうだ。他にも周りを見渡してみると10万ポイントを使うことに躊躇するものもいた。

 

これで今日の日程は終わったため、生徒たちはお金を使うためか、蜘蛛の子を散らすように教室から消えていく。

桐生も準備をするため、荷物を片付けて教室の外へと向かった。



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準備

今回は坂柳が本格登場します。意外と丁寧語で喋る女性は書くのが難しいので原作と比べると口調が変わってしまっているかもしれませんが、それでも大丈夫だよって人はゆっくり見ていってください。


「桐生くん!ちょっといいかな?」

 

教室を出てすぐに同じクラスの中から呼ばれたのだからクラスメートから呼ばれたのだろうと振り返ってみると、いかにも好青年というようなクラスメートがそこには立っていた。その隣にはポニーテールをしたこれまた可愛い女の子も立っていた。

 

「ええっと…さっきの自己紹介の時に前に出ていた…」

 

「僕は平田 洋介だよ。さっきも話したけど、サッカーが好きで部活もするつもりだよ。僕は下の洋介と呼ばれることが多かったから桐生くんも気軽に話しかけてもらって大丈夫だよ。」

 

話し方からも爽やかな様子が滲み出ている。たしかに多くの女子たちが平田のことを話していた理由が分かる。こうして一人一人話しかけに来るあたりも人気に繋がるのだろう。俺には出来ないことだ。

 

「それじゃあ、洋介よろしく。俺は桐生司だ。特にスポーツで好きなものはないけど、体を動かすのは好きだ。あとは本を読むのも好きだな。特に呼ばれていたあだ名なんかはないから基本は好きに呼んでくれて大丈夫だ。」

 

あまり人と話すことに慣れていない俺は少し高圧的になってしまっただろうかと不安に思っていると特に気にしてないようで安心した。

 

「司は体を動かすのが好きなんだ。なら一緒にサッカー部に入らないかい?」

 

早速部活に誘われた。たしかに俺は体を動かすのは好きなのだが、部活などでしたいというわけではない。たまに動かす程度のことが好きなので丁重に断っておく。洋介は少し残念そうな顔をしていたが仕方ないと諦めていた。

 

そうしていると隣にいたポニーテールの子が話しかけてくる。

 

「桐生くんはこの後暇かなー?」

 

「とりあえず買い物に行こうかなって思ってるから、用事があるんだよね…ごめんね」

 

「そっか〜突然聞いちゃってんごめんね!」

 

話し方が明るくて快活な女の子だと思った。確かこの子は軽井沢さんだったような…そのカリスマ性ですでに1つのグループのリーダーになっている人だから人脈は広そうだ。

 

「そういえばお互いに初めて話すのは初めてだったよね。私は軽井沢恵だよ!これからよろしくね〜」

 

「それじゃあ改めて、桐生司だよ。これからよろしく。」

 

「せっかく話すようになったんだから桐生くんも連絡先交換しない?」

 

女子の方から連絡先を交換しないかと言われることはやっぱり嬉しい。自分としてもいつまでも真っ白な連絡先だったら虚しいため、交換してもらう。

 

「ありがとう!平田くんも一緒にしておかない?」

 

軽井沢さんは平田にも聞いて連絡先を交換していた。なるほど、俺と交換することによって、平田とも交換しやすくしていたのか。なんだかそんなことを考えていると虚しくなって来た。少しでも女の子と交換できたことに嬉しくなっていた自分が恥ずかしい…。

 

「司も交換しないかい?」

 

平田は俺にも交換しようと誘ってくれた。その目的が同情か分からなかったが、嬉しかった。 このまま一人だけ取り残された雰囲気にされたらたまったものではないから…。

 

「それじゃあ僕たちはこのあとカラオケに行くから司もまた明日ね!」

 

「またね〜」

 

そういうと二人は先に教室から帰ってしまった。遅れてしまったが自分も行く場所があるのだから行こう。早めに準備は終わらせてしまって明日から始まる用事に備えておきたい。

 

そう思ったので、足早に俺も教室を出たのであった。

 

 

 

 

 

とりあえず生活に必要な食材を買い揃えるためスーパーを目指して歩いていたが、スーパーは寮の近くにあるらしく少し距離があるようであった。最初にある場所は行こうと思う時は長く感じるものだが、長いなと思っていた。それもそのはず、この高度育成高等学校は町一つが敷地内に存在しているためとても広大である。さらに今日は学校初日のため配布された荷物も多く、カバンも重たかったため、疲れを感じ始めていた俺は、近くに見つけたカフェに入り休憩しようと思い、店内に入った。

 

 

 

 

店内に入って空いている席に座ってメニューを見てみる。大体の商品はおよそ150ポイントほどであった。思っていたよりも安く、ちゃんと制限かけておかないとポンポン使ってしまってポイントを無くしてしまいそうだ。やはり来月も必ずしも10万プライベートポイント振り込まれるとは言われていなかったため、しっかりと考えて使わなければいけないな。

そんなことを考えながらとりあえずコーヒーとミルクを頼んで、持ってきていた小説を読んでいると、頼んだコーヒーが届く。

 

ミルクを疎らにかけてから飲んでみる。絶妙に甘い部分と苦い部分が混じり合って美味しい。人間の舌は均一に混ぜられたものよりも、適当に混ぜているものの方が美味しさを感じやすいと聞いたことがある。それもあるのだろうが、本当に美味しい。雰囲気も良く、定期的にここに来ようかななんて考えていると店員さんに相席でもよろしいですかと聞かれる。

俺は特に相席を気にするよなタイプではないので、いいですよと伝える。すると、店員は謝辞を言って、入口の方向へと向かっていく。誰がここにきても知り合いではないだろうため、相手を機にする必要もない。そのため、小説に再び目を落としていると、コツコツッと何かものがなる音が鳴っていた。

その音が気になったので小説から目を離し、確認してみると、そこにいた人物は見知った人物であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたはDクラスの桐生くんというのですね」

 

目の前の少女は面白い物を見つけたという顔でこちらを向いていた。とりあえず少女は俺と同じコーヒーを頼むとこちらに自己紹介を求めた。普通自己紹介は自分からするものでは?とも思ったが後で聞けばいいだろうと軽く説明した。

カフェの中で喋るのは如何なものかとも思ったが、ここでは大声でなければ喋っても良いらしい。そのため、他にも喋っている人達もいた。

 

「私も自己紹介をしなければいけませんね。私はAクラス所属の坂柳有栖と申します。このように杖を持って歩いていますのは先天性疾患を持っていますので。趣味はこうしてコーヒーなどを飲むことなどですね」

 

ようやく自己紹介をしてくれた。思っていたが言葉遣いがとても綺麗だな。同い年ならばもっと砕けた話し方をしてくれてもいいのにと思いながら聞いていた。それにしてもやっぱり綺麗な子だな。背が小さくて人形みたいだ。

 

「どうされましたか?まじまじと見られますと、少し気になりますが…?何か変な点でもありましたか?」

 

「い、いや先天性疾患を持っていると大変だな…って思っていたんだ」

 

「へぇ………嘘ですね。あなたは何か別のことを考えていらしゃいましたね。嘘はいけませんよ」

 

 

どうやら嘘だとバレていたようだった。ここで嘘を重ねても坂柳の印象を悪くするだけだろうから正直に話しておく。

 

「嘘だと分かってたのか。嘘を見抜くのが上手なんだな。」

 

「はい。その方の行動を見ていれば嘘をついていると分かるものですよ。先ほど桐生くんの動作を見ていますと、目線が右上に向いていましたし、何よりまばたきの回数が大きくなっていました。これらは嘘をついている時に人がとってしまう行動ですから覚えておくと得だと思いますよ」

 

「そんなに態度に出ていたのか。それじゃあバレバレってわけだ。」

 

「そうですね。さて、何を考えていらっしゃったのですか?嘘をついてもバレますので正直に言ってくださいね?」

 

坂柳が笑いながら言っているが、半ば脅しのようなものだ。ここて嘘をついても坂柳にはバレてしまうため、ここは正直に言っておく。

 

「実はだな…恥ずかしいのだが坂柳って可愛いだろ?そのことについて考えていたんだ」

 

それを聞くと坂柳は少しだけ顔を笑わせて喋る。

 

「それは言ってもらえて嬉しいですね。まさかそのようなことを考えられているなんて思ってもいませんでした。」

 

「こんなことなんで恥ずかしくてあまり言いたくなかったんだがな。嘘をついたらまたバレてもっと言いにくくなると思ったから言わせてもらったんだ」

 

「ふふっ、確かに嘘をついていてもバレていたでしょうね。これをネタにして脅迫してみるのも悪くないかもしれませんね」

 

坂柳は笑顔で話しているが、話している内容的を考えると苦笑いをしていることしか出来なかった。

 

 

 

その後もしばらくクラスのことなどを話していると、すでに日は暮れ始め、街灯が灯り始めていた。

 

「あら、こんな時間まで話してしまいましたね。今回はお話に付き合ってもらいましてありがとうございました」

 

坂柳は丁寧なお礼をして、杖をつきながら立ち上がる。時刻を見るとすでに5時30分をまわっていることから1時間くらいは話をしていたことになる。これ以上ここにいたら、家での準備も出来ないため俺も立ち上がって坂柳に礼を言う。

 

「いや、こちらこそ話し相手になってくれて助かった。またこうして話せるといいな」

 

「ええそうですね。それでしたら連絡先を交換いたしませんか?私の見立てではあなたは相当切れ者のはず。それこそなぜDクラスに所属しているのか不思議なほどに」

 

「切れ者だなんて言ってもらえて嬉しいが、俺は凡庸な生徒だよ。坂柳がいいなら俺も連絡先を交換しても大丈夫だがどうだろうか?」

 

「はい。私から提案させてもらいましたので全く問題はありません」

 

 

こうしてAクラスの女子である坂柳の連絡先を交換した俺は寮まで共に帰ると別れ、スーパーへと向かった。そこで先ほど連絡先を交換する時に言われた一言が気になっていた。

 

「それこそなぜDクラスに所属されたのか謎なほどに」

 

クラス分けはランダムではないのだろうか?何か具体的に決まっているのだろうか?何かまだ俺が知らないことを彼女が知っているなら、彼女から聞いてみるのもいいなと思い、近くにあった安売りの肉を取っていた。

 

 



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初授業

気付けばお気に入り登録が100件を超えていたため驚きました。もっと面白くしていけるように頑張ります!


「ジリジリジリ!!!」

 

甲高い目覚まし時計の音が桐生の部屋の中に鳴り響く。桐生は目をこすりながら目覚まし時計を上から叩いて起きる。布団が変わり、枕が変わると眠れないという人も多いが、桐生は特にそういうわけでもなく、快眠することができた。

スーパーから帰宅し、自分の部屋に入ると、一人暮らしには十分すぎるほどのスペースの部屋が用意されていた。簡単に荷物を片付けて、ご飯を食べ、授業の予習を少しだけやってから、桐生はすぐに就寝した。

昨日の夜に準備しておいた朝ごはんを準備し、早めに支度をして桐生は自宅を出た。

 

早めに寮を出たため、人は少なかったが、少なからず教室へ向かっている人たちがいた。その中に見知った人物が歩いているのを桐生は見つけ、その人物の元へと走っていった。

 

「綾小路か、おはよう。綾小路も朝が早いんだな。」

 

「桐生か、なんだか早くに目が覚めたんでゆっくり歩いているだけだ。」

 

昨日初めて会った時と変わらず気だるそうに歩いているその様子だったが、早起きで、この時間から教室に移動しているあたり、やはり自分と綾小路は似ているように桐生は感じていた。

 

「綾小路は何か新しく得られた情報はあったか?」

 

「…そうだな……昨日コンビニに行ったんだが、須藤が上級生と揉め事を起こしていたくらいか…」

 

「やはり須藤はそういうタイプか…」

 

ここで話している須藤とは桐生や綾小路と同じクラスメートだ。昨日、平田が率先して自己紹介をしようと話をした時にも、その誘いを拒否して教室から出て行ってしまった。

平田がイケメンで行動力もいいため、クラスメートの多くから人気を集めていたこともあり、他のクラスメートたちからも須藤はすでに嫌な奴というレッテルを貼られていたようだった。

ちなみにこの自己紹介の時、桐生は当たり障りのない言葉を話していた。自分の名前、趣味等本当にオーソドックスなことを話した。

しかし、桐生の前に平田が自己紹介をしていたため、特に皆の印象に残ることなく終わってしまった。

 

同様に綾小路も自己紹介をしようとしたが、かみかみになりながらだったので、クラスメートたちから苦笑いをされながら聞かれるという悲しいことになっていた。このことに堀北からは「二人揃って哀れなものね。」と罵られていた。

 

当の堀北は順番が回ってきても自己紹介をすることなく、帰ってしまった。そのため、多くのクラスメートたちから不評を買っていた。本人は至って気にしていなそうではあったが。

 

 

「そうだな。それとDクラスということを聞いたその上級生は急に態度を強くしていたな。そのことからクラス分けは何かしら俺たちを区別する物なのかもしれないぞ。」

 

確かに昨日カフェで坂柳も何かあると話していたな。AからDクラスまである以上、成績の良さなのかもしれない。そう考えると自分が悪い成績だということになって悲しいが…

 

その後も、世間話などをしながら、お互いに昨日掴んだ情報を話していると教室が見えてきた。

教室に着くと、1時間目の準備だけをして、綾小路以外にも話をかけてみる。

 

「おはよう洋介。」

 

「ああ、桐生くん。おはよう。」

 

「俺のことは司でいいって言ったから気軽に呼んでくれよな。」

 

「そうだったね、じゃあ改めて。おはよう、司。」

 

「おはよう。」

 

今日も洋介は朝から爽やかだった。その笑顔を多くのクラスメートの女子たちが見ている。

少し世間話をしてから、昨日誘いをしてもらったが、行けなかったことを今の間に謝っておく。やはり早めに謝っているといいだろうと謝った。(実際のところ、平田たちの誘いは断った身なのにカフェで違うクラスのクラスメートと1時間ほど話ししていたので罪悪感があったからである。)

 

「昨日は誘ってもらったのに断ってしまって悪かった。」

 

「いや、大丈夫だよ。こちらこそいきなり司の用事も考えずに誘ってしまって悪かったよ。また今度あらかじめ予定を決めてから遊ばないかい?」

 

「そうだな。また予定を決めてからの方が確実に遊べるだろうし、そうしよう。」

 

やはり洋介はすごい人だ。こちらが予定を合わせられなかったため謝っていたのに、洋介は俺をまた別の機会に遊ぼうと別の約束を取り付けることで悪かったという気持ちを少しでも減らそうとしている。やはり洋介がクラスの中心になっていくんだろうと俺は思う。

 

そうしていると始業のチャイムがなり、先生が入ってくる。高円寺、須藤の二人は先生が入ってくる数秒前に教室に入って来たが、初日から攻めているなと思った。まぁ、遅刻しなかっただけマシではあるのだと思うが…

 

今日から授業が始まると言っても初日とあって、授業の大半は先生の自己紹介と勉強方針等の説明だけだった。先生たちは進学校とは思えないほどフレンドリーで、多くの生徒が拍子抜けした様子だった。高円寺は手鏡で自分を見ながら、髪などの手入れをしていた。お前は女子か。須藤に至っては一切起きておらず、ほとんどの授業で机に伏せていた。各担当の先生達は須藤のそれに気づいていた様子だったけど、注意する気配は全くなかった。逆にそれを黙認し、意にも介さない様子で授業をしているようであった。

義務教育ではなくなったから、授業を聞くのも聞かないのも個人の自由であり、聞かなくて損するのはお前たちだ。とでも考えていたのだろうか。

 

 

 

授業は先生の教え方が上手だったためか、早く時間は過ぎていき、あっという間に昼休みのなった。生徒たちが初日に作り上げた人脈を使い、教室を去っていく中俺は特に誰かと一緒に食べに行くといったことをするわけでもなく教室に佇んでいた。ただ、全く誘いがなかったわけではなかった、途中洋介がクラスの皆に食堂に一緒に行かないかと言っていた。続々と女子が集まる中、俺はそんな女子たちと食べるのはきついと判断して行くのを躊躇してしまった。洋介はこちらを気にしていたが、女子たちに連れられて教室を出て行ってしまったのだった。

さらに他に仲が良い人といえば綾小路と堀北?くらいだった。今のところ他のクラスメートで仲が良い人はいなく、綾小路と二人並んで机に座っていた。一人で食べるのも虚しいものであるからとりあえず綾小路を誘ってご飯を食べようと、声をかけてみることにした。

 

「綾小路?」

「綾小路くん!」

 

 

桐生が綾小路君を呼ぶと同時に、だれか他の人物が綾小路君を呼んだ。綾小路を呼んだ人物の方角を見るとそこには昨日の朝、バスの中で困っていたおばあさんを助けていた少女と目があった。

 

確か櫛田と自己紹介で名乗っていた人で、学校のみんなと仲良くなりたいと言っていたな。正直言って全員と仲良くなるのは不可能だと思う。人と仲良くするのをあまりよく思ってない人もいる。例を挙げれば堀北なんかは特にそうだ。ああいうタイプはなかなか苦労するだろう。第一に俺も彼女を疑っている。やけに優しすぎて怪しいものに感じるからだ。

 

そんなことを考えていると全員が黙ったままになってしまっていたので、とりあえず自分が話す。

 

「あー、俺のはどうでもいい話だから後でいいよ。櫛田さんが先に話して。」

 

「ううん。桐生くんが先でいいよ!」

 

「俺は別にいいんだ。遠慮しなくて大丈夫だ。」

 

「私も少し聞きたいことがあっただけだから後でいいよ!」

 

 

お互いに譲り合ってなかなか折れなかったが、櫛田が先に用件を言う事になった。

 

「ちょっとしたことなんだけど綾小路くんって、もしかして堀北さんと仲がいいの?」

 

「別に仲良くはないぞ。普通だ普通。あいつがどうかしたのか?」

 

堀北のことを綾小路に聞くということは仲良くなれなかったけど、とりあえず情報を入れて仲良くしようとしているのだろう。そのため、綾小路に聞いているのだろう。

 

その後話を聞いていると櫛田さんが連絡先を聞いたら、案の定堀北は断ったらしい。それで堀北さんがどのような人なのか、一番仲が良さそうな綾小路君に聞きに来たのだと。案外、櫛田さんの本性に気が付いたんじゃなかろうか。

何分櫛田が優しすぎるのは怪しすぎるため堀北も警戒したのだろう。

 

結局、綾小路君も昨日会ったばかりでよく知らないと聞き、「改めてよろしくね」と言いながら握手をして去って行った。ついでに俺にも改めて自己紹介をしてよろしくと握手してから去っていった。普通の人なら今の行動だけで恋に落ちるだろうが、俺には不気味にしか思えなかった。

 

「それで、桐生は何の用だ?」

 

綾小路に呼ばれたため意識を戻して話す。

 

「綾小路を食事に誘いに来たんだ。一人で昼ごはんを食べるというのも虚しいものだからな。」

 

「オレを誘いに来たのか?」

 

「迷惑だった?」

 

「いや、そんなことはない。寧ろ嬉しいくらいだ。是非よろしく頼む。」

 

綾小路も快諾してくれたため、内心ホッとしながら学食へと向かう。

やはり誘って断られると…と思うと怖く感じるが、快諾してもらえると嬉しいものだ。

学食のできる食堂へと向かうと、やって来るのが少し遅かったため、全ての席がほとんど埋まっていた。

待っていると午後の授業に遅れてしまうため、コンビニに立ち寄りパンを買って教室に戻った。数名程教室に残っていたクラスメイト達は机をくっつけて友達同士食べる者から、一人静かに昼食を取る生徒など多種多様であった。

俺は綾小路と席をくっつけて、綾小路君の席で食べることになった。綾小路の席の方を見ると先ほどまで出かけていていなかった堀北が自分の机に座って弁当を食べていた。

堀北は綾小路の方を向くと突然話し出した。

「まさか、綾小路くんが誰かとご飯が食べたいからってポイントで一緒に食べる人を雇うとは驚いたわ。綾小路くんも悲しい人ね。」

 

「何でそうなる。いくら悲しくても人をポイントで雇ってまで一緒に食べたりしない。」

 

「にわかに信じがたい話ね。まさか綾小路くん、寝ぼけているんじゃないかしら?」

 

「もう昼だぞ。寝ぼけているわけがないだろ。」

 

「なんか俺だけ置いていかれてるんですけど…」

完全に蚊帳の外になっていたので割って入る。すると堀北の言葉の矛先はこちらへと向く。

 

「あら、綾小路くんを誘った物好きな人ね。あまりに存在感がなかったから忘れていたわ。」

 

「そういうと、本当に悲しくなるからやめてくれ。それにしてもお前たち仲いいのか?ぴったりの漫才でも見ているようだった。」

 

その言葉が気に障ったのかさらに口撃をしてくる。

 

「どこをどう見て私と綾小路くんが仲が良いと思うのかしら。あなたの目は節穴なの?」

 

「俺には仲が良いように見えた。堀北は人と話さないが、綾小路とは話をする。それだけでも判断材料になるだろう。」

 

堀北はさらに語感を強くしながら桐生に話す。

その間綾小路は気に留めることなくおにぎりを食べていた。

 

「嫌いだったらわざわざ憎まれ口なんて叩かないで無視するだろう?少なくとも俺ならそうする。興味なければ綾小路にどんな友達が居ようが居まいがどうでもいいだろうしな。」

 

「桐生。その言い方は酷いぞ。」

 

ずっと黙っておにぎりを食べていた綾小路がようやくしゃべる。しかし堀北はそれを無視して桐生に言う。

 

「詭弁ね。嫌いだから皮肉を言ってやっただけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

 

これ以上議論をしても終わらないな。堀北はプライドが高そうに見えるため、絶対に自分から折れることはないだろう。あまり長く話しているとこちらが昼ご飯を食べる時間がなくなってしまう。

時計をチラッと見ると昼休みの時間は残り15分になっていた。もうじき返ってくる人も出てくるだろうし切り上げることにした。

 

 

「そういうことしておくさ。」

 

「言い返すことが出来なくなったから逃げるつもりかしら?」

 

意外にも堀北はさらに追求してくる。相手が折れたならもう何も言わないと思っていたから桐生は驚いた。

 

「そんなことはない。言おうと思えば言えるが、何せ俺はまだ昼ご飯を何も食べていない。それに、あと少しもすれば午後の授業は始まってしまうし、クラスメートたちも帰ってくる。その時に口論していると面倒くさそうにも思うからな。」

 

「それは確かにそうね。それならここで終わっておきましょう。」

 

クラスメートたちの注目を浴びるのは流石に堀北も嫌だったらしく引いてくれた。そのため桐生も買ってきたパンをお腹の空いた胃袋の中に急いで詰め込んでいった。



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部紹介

よう実7巻発売されましたね。早速買いにいって見ましたがやはり面白かったですね。作者的には坂柳の絵があった時点で確かな満足を得られました。
ここ最近椎名ひよりも気になりますね。ミステリアスな雰囲気が好きです。でもやっぱり銀髪の子って最高だよね(唐突)

さて、話がずれましたが本編をどうぞ。


桐生が昼ご飯をなんとか平らげて、机を元に戻していた時、突然放送がかかった。珍しいことにクラス全員が耳を傾けていると、それは部活動紹介であった。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動及び、委員会の説明会を開催いたします。部活動、委員会に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください」

 

部活はあまり興味ないな。自由な時間が多い方がいいし、運動は趣味でする方がいいな。

 

「二人は部活に入るのか?」

 

綾小路が桐生と堀北に問いかける。

 

「俺はやらないかな。でも見に行くだけなら行きたいかも。」

 

「興味ないわね」

 

相変わらず素っ気ない反応を示す堀北であったが、律儀に返答はしてくれるあたり優しいもんだと思った。そんなことを本人に言うと不快な顔を示しながら言葉責めされそうなので桐生は黙っておくことにした。

 

 

「綾小路はどんな部活に入るとか決めているのか?」

 

「まだ考えてないが、多分入らないな。ただ、見には行きたいな」

 

「二人揃って同じことを考えているなんてね。まさかあなたたち二人揃って友達を探すために行くなんて考えているんじゃないでしょうね?」

 

「俺は今日やることないから暇つぶしに行くだけだ。綾小路もそうだろう。」

 

「オレにとって部活は友達を作るチャンスだと思うんだ。」

 

綾小路はそう考えていたようだった。てか、堀北は綾小路の考えてることがそっくり分かるとかどうなってんだ?出会って二日でわかるようなもんじゃないだろう。なんだかんだ仲がいいんだな。

 

「何か余計なことを考えているようだけどやめてもらえないかしら?」

 

「なんでわかるんだよ!?」

 

「そんな顔をしていたからよ。それにしても馬鹿ね。けど、私には綾小路くんが、本気で言っているようには思えないわ。本当に欲しいのならもっと自分から主張するべきじゃないかしら。」

 

「それが出来れば苦労はしない。」

 

「確かにそれはそうだ。ところで堀北さんは、なにか部活やってたのか?」

 

「いいえ。部活動は未経験よ。」

 

「部活以外は何が経験済みなんだ? やっぱりあんなことやこんなことか?」

 

意外にも綾小路君が下ネタで堀北さんをからかいに行った。普段の行動からは考えられないことをしたため俺は驚いた。すると綾小路が脇腹にチョップを受けていた。受けた本人はとても痛そうな顔を浮かべている。堀北に逆らうと痛い目に合いそうだからやめておこう。というか本当に綾小路と堀北は仲良い気がする。

 

「綾小路の発言は無視するとして、どうせなら放課後3人で説明会に行かない?」

 

「あいたた…俺は賛成だが堀北はどうだ?」

 

「……ねえ、少しだけでも構わない?」

 

意外な言葉が返ってきた。どうせ堀北は断るだろうと思っていたため正直驚いている。となりに目をやると綾小路も驚いているようだった。

 

「もちろんだ。興味があるものが終わったら帰ってもらっても構わない。」

 

「だな。オレはキッカケを探すだけだし。それよりいいのか?」

 

「少しだけならね。それじゃあ、放課後に。」

 

「それにしてもなんでまた参加するって言ったんだ?堀北なら断りそうだと思ったが。」

 

 

「それは友達を作れず、右往左往するあなたたちを見るのも、少し面白そうだと思ったからよ。」

 

こんな時でも俺たちのことを貶すあたり、やはり堀北はいい性格をしていると思う。

 

 

 

午後の授業が終わり放課後になる。説明会まではまだ時間があるため何かしようと思った。図書館に行ってみたいが、時間が足りないし、今から行っても暇だ。誰かと話をしよう。誰か話せる人はいないかと探していると、洋介が誰とも喋っていないのが見えたため、洋介の元に移動した。

 

「洋介はやっぱり部活動紹介を見に行くのか?」

 

「ああ、サッカー部に入るって決めているからね。司も行くのかい?」

 

振り向きながら話をする洋介はやはりイケメンだ。周りの女子たちも洋介の方向を見ている。洋介自身は特に気にすることなく話しているが、普通なら気になって仕方ないだろう。俺や綾小路なら喋れていないだろう。

 

「ああ。ただどこの部活に入るというわけではなく、ただ見に行くって感じだな。」

 

「そうか。サッカー部の紹介を見てやりたいと思ったら一緒にしよう!」

 

「とりあえずは見に行ってからだな。」

 

「二人とも何の話をしているの?」

 

俺と洋介が話しているとなりから会話に参加してくる女子がいた。彼女は昨日話をしたく軽井沢で、洋介にやはり注目しているようだった。なんか悲しい…

 

「ああ、軽井沢さん。この後の部活動紹介についてだよ。そうだ軽井沢さんも一緒に行かないかい?」

 

「いいね。私も暇だから時間つぶしをしたかったからね。」

 

「良かった。司も一緒にどうだい?」

 

「あー…すまない。既に先約がいるんだ。」

 

「そうか…突然誘ってしまってすまない。」

 

「そっかー.…桐生くんは誰と一緒に行くの?」

 

軽井沢が少し近づきながら話す。そついうことに慣れていたない俺は少し距離をとったが、気にせず話しかけてくる。

 

「綾小路と堀北だ。」

 

「堀北さんは分かるけど、綾小路って誰?」

 

「誰って、自己紹介のとき居たよ。窓際一番後ろの席の男の子だよ。」」

 

「…ああーあの人ね。地味すぎて覚えてなかったよ。」

 

ちらっと綾小路の方を見てみるとやはりダメージを受けているようだった。確かに今の言葉を自分が受けていたら綾小路のようになっていただろう。

綾小路がダメージを受けているとも知らず軽井沢が話していたが、綾小路のため、洋介が切り上げようとする。

 

「彼らとはあまり仲良くないから、司に橋渡しをしてもらえると嬉しいな。これからの三年間、僕たちは協力しなければクリアできない試験などもあるだろうし、よろしくね。」

 

「ああ。できる限り協力させてもらう。」

 

「ありがとう。さて、そろそろ部活動紹介が始まる時間だね。遅れてしまったら勿体無いしそろそろ行こうか。」

 

「そうだな。それじゃあ洋介。またな。」

 

洋介と軽井沢と別れて綾小路、堀北と合流する。そのまま体育館に向かったがかなり多くの人数が移動をしていた。体育館に着いてみると、自分が予想していた以上に人が集まっていた。中にはDクラスの生徒の姿があったが、ほとんどが知らない生徒であった。

 

しばらく待っていると部活代表による入部説明会が始まった。特に変わった所の無い普通の説明会だった。よくするような実践的に動きをしてみて紹介するところ、自分の部活のいいところを伝えるところ、面白おかしく紹介するところもあった。やはりあまり入りたいと思うような部活はなかったが、壇上で部活の部長さんが説明している中、俺のとなりにいる綾小路と堀北は昼にしていたような漫談をしていた。この二人の掛け合いは見ていて面白い。部活の紹介よりも印象に残ってしまっている。

 

何事もなく淡々と部活動紹介は進み、全ての部活動紹介は終わったようだった。だが、その後で生徒会の紹介があるとアナウンスされた。生徒会の紹介まであるとは珍しい。普通は部活動紹介なとではしないものだが、自主的に入るものとしては同じであるだろう。

なんだか堀北の様子が先程から変だ。横を見やると急に堀北が落ち着いていないのが分かった。声をかけても返事はなく、その視線は壇上の一人の眼鏡をかけた生徒を捉えていた。

冷たい印象を受けるメガネをかけた男子生徒が堀北の目線の先にはいた。他の部活動紹介の人たちが明るくフレンドリーにして、少しでも多くの生徒を勧誘しようとしていたにもかかわらず、一切そんな雰囲気は見せない。部活動紹介を始める前に多くの生徒たちは喋っていたが、その生徒は一言も発さない。体育館全体が異様さに気づきざわつきだすも、全く意にも介さず微動だにしなかった。

そして彼が壇上に立ち上がった瞬間から空気は突如として変わっていく。体育館全体が、張り詰めた、静かな空気に包まれる。誰に命令されたわけでもないのに、話してはいけないと感じるほど、恐ろしい静寂に覆われていた。話せばその場で殺されるような静寂が30秒ほど続いた頃、ゆっくりと全体を見渡しながら壇上の先輩が演説を始めた。

 

 

 

生徒会長の2分ほどの演説中誰も一言も発することができなかった。雑談でもしようものならどうなるか分からない。そう思わせる気配があった。異様な雰囲気の中、司会者の終了の挨拶で説明会が終わる。しかし、堀北さんは立ち尽くしたまま動く気配が無かった。

先ほどの男子生徒は堀北学だと名乗った。堀北と同じ名字であること、普段冷静で取り乱すことのない堀北がここまで取り乱している様子を見るに実の兄なのだろう。あの堀北をここまでさせるなんてどんだけ恐ろしい生徒会長なのだろうか…

 

 

「よう綾小路お前も来てたんだな。それと…きりょうだっけ?」

考えをしていた俺の元へ須藤がやってきた。隣にはクラスメイトである池 寛治と山内 春樹たちの姿も見て取れた。二人とも自己紹介のときにいた生徒で二人とも女子のことばかり考えている至って男子高校生らしいクラスメートであった。

 

「桐生だよ。今日話しただろ?」

 

池が須藤にツッコミを入れる。山内は昨日に少し話していたのでこちらにも話しかけてくれた。それから五人でどの部活が男子用のグループチャットに誘われ入会し、その場の全員と連絡先を交換した。堀北さんはいつのまにやら居なくなってしまっていた。後を追っても仕方がないと判断し雑談に興じた。



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図書館にて

ここ最近は急に寒くなっていますが皆さんは大丈夫でしょうか?作者は風邪を引き、ダウン状態です…
さて、今回少々文字数が少なめです。
ところで、この小説のタイトルは『違うクラスの女の子に目をつけられたんだが』ですが、他にも一ノ瀬なども追加した方がいいでしょうか?活動報告のところにアンケート置いておくので、是非よろしければご協力をお願いします。


部活動紹介が終わり綾小路や池たちと別れた桐生は学校付属の図書館へとやってきていた。すでに結構な時間が経っているため生徒たちの姿は校舎の中には少なく、疎らになってきていた。さらに図書館ともなると、さらに人は少なく中にいる人は数人程度となっていた。

 

それにしても大きな図書館だ。何冊蔵書されているんだろうか。

 

ここ高度育成高等学校は政府からの支援を受けている学校であるため、多くの施設が最新鋭に整えられている。そしてこの図書館も並の高校とは比べ物にならないほど大きな図書館であった。

 

これだけの本があると好きな作品を読むだけでも卒業まで来てしまいそうだな…学術書から世界の小説、レポートに使えるような資料までありとあらゆる本があって本好きにはたまらない施設だな。

 

桐生は本を読むのが趣味であるので、図書館に来ると少しテンションが高くなるタイプであった。実際今も普段に比べてテンションが高めであった。とは言っても図書館では静かにはしなければならないので、口には出していなかったが、桐生の足取りを見ていると普段よりも気分が高まっているのが分かった。

 

さて、何を借りようかな?これだけあると意外と悩んでしまうものだな…ってやべ、閉館時間まで30分切ってしまってる…早く決めないと。

 

少しだけ本のタイトルを見る速さを速くして、本棚を見て回っていると、少し先のミステリーの小説が置かれているゾーンに本を本棚へと戻そうと躍起になっている女子生徒が目に入った。少し見ていると、あと少しで戻すことが出来そうなのだが、あと少し届かなくて苦労しているようだ。どうやら本を取り出すのは出来たようだが戻すのは出来ない高さのようだ。

本人もあと少しで戻すことが出来そうであるため、ステップ台を取ってきてまで戻そうとせずに、自力で戻そうとしていた。

誰しもが経験しそうなことで、自分もあと少しならわざわざ取りに行かずああやって四苦八苦するだろうな…と考えていると、女子生徒の足がプルプルと震えてきていた。なんだかこのまま黙って見ているだけというのも可哀想なので手伝ってあげることに桐生はした。

 

「届かなくて困ってるなら助けようか?」

 

突然話しかけられたことに少し驚きながらこちらの方を少女は振り返った。女子生徒は声を出さなかったが、こくっと首を縦に振ったので桐生は本を借りて本棚へと戻す。桐生もそこまで高くない方ではあったが、本を戻すには十分であったため、苦労することなく戻すことができた。

 

「ありがとうございます。本が届かなくて困っていましたので助かりました。」

 

「いや、届きそうで届かない時は困るから助けたのは当然だよ。」

 

横からしか見ていなかったためあまり分かっていなかったが、感情があまり顔に出ていないがふわふわとした雰囲気を持っていて可愛らしい人だった。

 

「ところでここにいらっしゃるということはミステリーなどに興味があるのでしょうか?」

 

「確かに興味はあるが、特に何か読むものを決めていたわけでもなく歩いていたんだ。そしたら時間もなくなってきて困っていたところなんだ。そこに君が困っているのを見つけたんだ。」

 

「そうでしたか…それでしたら…」

 

そう言うと、先ほど本を戻すのに苦労していた本棚の方へと向き、一冊の本を取り出した。

 

「何を読むのか悩まれているならこちらの本『死の接吻』などがオススメですね。展開が二転三転とする面白さがたまりませんし、何より人間描写の素晴らしさを感じとれる作品で是非とも読んでもらいたいですね。他にもこちら、『誰の死体?』をオススメします。ピーター卿シリーズの1作品目で、他のシリーズも見たくなること間違いありませんよ。」

 

突然のテンションの変わり具合に桐生はあっけにとられていた。大人しそうな様子をしていた女子生徒が突然オススメの本を怒涛のラッシュで勧めてきている。今も他にも…とさまざまな本をオススメしている。

少し引いているような桐生の様子を察した女子生徒が、今度は謝罪をしてくる。

 

「あ…ごめんなさい。私ったら久しぶりに小説について語れそうな人を見つけたもので。迷惑だったでしょうか?」

 

「最初は驚いたが…本が好きなんだなって思ったよ。俺も本は好きな方だが君に比べるとまだまだ足りないもんだと思ったよ。こんなもんじゃ本が好きだなんて言えないな。」

 

申し訳なさそうな表情を浮かべていた女子生徒であったが、桐生の返答が悪くなかったため、少し顔に驚きが現れていた。

 

「それでは…他にも紹介したい本があるのですが…紹介してもいいでしょうか?」

 

「ああ、もっと本について知ってみたいから教えてくれるとありがたいのだが、時間大丈夫?あと20分ほどしか図書館は空いていないが?」

 

「問題ないです。私個人が借りたいと思った本は既に貸し出しの上限数まで先ほど借りていますので。時間が許す限り紹介させていただきます。」

 

 

 

 

図書館が閉まる時間を過ぎ、寮へと戻る道で重たそうにカバンを背負っている二人がそこにいた。

 

「少々借り過ぎてしまいましたね。本を読むためなら仕方ないことなのですか、帰り道に重くなってしまうのが辛いところです…」

 

「確かに本は面白いが、持って移動するときに重くなってしまうのがつらいところだよな。でもこれから読む楽しみを考えれば我慢できることだよ。」

 

「そうですね。新しく借りた本たちがどんな世界へ連れて行ってくれるのか私は楽しみです。一刻も早く帰って読みたいですね。」

 

「そうだな。それはそうと…君の名前は何なんだっけ?そういえばまだ聞いていなかったな。俺は桐生 司。1年Dクラスに所属しているよ。」

 

「私としたことが本を紹介することに夢中ですっかり忘れてしまっていました。申し遅れました。私は椎名ひより、1年Cクラスに所属していますのでよろしくお願いします。」

 

「Cクラスか。まだ入学してから二日目だから他のクラスの情報はあまり知らないから分からないのだが、どんな感じなんだ?」

 

「そうですね…」

 

今までハキハキと答えていて椎名は急に語尾を濁していた。その様子からCクラスでは何かあったのだろうかと桐生は予想し、無理に答えなくてもいいと伝えた。

椎名はそうしてもらえると嬉しいですと言い、Cクラスについて特に情報を仕入れることは出来なかった。

 

またしばらく歩いていると1年生の寮が見えてきた。

 

「ようやく寮まで着いたな。かれこれ20分くらい歩いたような…」

 

「確かにそれくらい歩いていましたね。それでも今日はその20分がとても少なく感じました。とても有意義で楽しい20分の帰り道でした。」

 

「確かに楽しかった。小説についてこんなに知っている人に知り合えて良かった。」

 

「はい。私もあまり共通の趣味を持つ友人とはなかなか出会えていなかったものですのでとても嬉しかったです。それはそうと…桐生くんはこちらの本には興味ないですか?」

 

寮の中に入ると少し物が置けるスペースがあるのでそこに椎名は持っていたカバンを下ろして1つの本を取り出す。その本を見てみるとエラリー・クイーン作のミステリー小説であった。これは有名な名作ミステリー小説で先ほどまで様々な本を勧めてもらっていた桐生でも知っているとほど有名な作品ばかりであった。

 

「ああ、俺でも知っているような有名な作品だな。でも聞いたことはあっても見たことはなかったから見てみたかったんだよな。」

 

桐生の言葉を聞くと、椎名は嬉しそうに手を合わせていた。その目は先ほど本を進めていたような輝きに満ちた目をしていた。

 

「よろしければ、この本をお読みになりませんか?」

 

突然の提案に桐生は驚いていた。出会ってその日に本を借りるなんて思ってもみなかったが、エラリー・クイーンの作品は見てみたいので借りてみることにした。

 

「そうですか、では返すのはいつになっても構いませんよ。じっくりと読んで楽しんでください。」

 

「ああ、ありがとう。今さっき名前を知ったのだからあれかもしれないが、連絡先を交換してくれないか?また本について詳しく聞きたい。」

 

「そうですね。私も本について色々と話をしてみたいのでいいですよ。こちらが私の宛先です。」

 

桐生が思っていたよりも軽く交換してくれたため、少し拍子抜けとなったが、こうして桐生に本を読むことが大好きな友人が生まれてのだった。

 

 



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水泳

今日は講義が2コマ空いたので連続投稿です。

池と山内のことを作者はあまり好きになれないのですが、みなさんはどうでしょう?自分は好きではないので少しきつめになってしまっているかもしれませんが気にしないで見ていってください。
それとこの小説未だ原作1巻の100ページほどしか進んでいないことに驚きました。もう少し早めに進んだ方がいいですかね?




学校生活にも慣れてきたある日、桐生たちDクラスの生徒たちは次の授業のため移動をしていた。そこは普段桐生たちが授業を受けている場所ではなかった。

 

「やつぱり水泳といえば、輝く水面に飛び散る水滴、そして何よりもスクール水着を付けたかわいい女子だよな!」

 

現在、彼らは次の授業である水泳の授業のため更衣室に向かっている。桐生の前にはここ最近一部から三馬鹿トリオと言われている、池、須藤、山内の三人がやたらと高いテンションで騒いでいた。他の男子たちや綾小路、平田、そして俺はそんなテンションについていくことができず、その後ろで泳げるか泳げないかという話をしていた。

ところであの三人がなぜあんなに騒いでいるのかといえば、この水泳授業が元凶だろう。高度育成高等学校の水泳の授業は男女合同である。この時点で多くの人は察しただろう。彼らは女子の姿を眺めることを楽しみにしているのだ。こちら側の話に参加していない男子たちも心の奥底では多少気にしているだろう。だがここまで全開に出されると鬱陶しいと思ってしまうが…。そりゃあ自分だって男だから気にはなるがあんなに言っていたら女子からも嫌悪感が飛んで来るだろう。

 

「本当にあの三馬鹿たちキモいよね…」

 

俺と綾小路は男子の最後尾を歩いているのだが、後ろを歩いている女子たちからの嫌悪感と汚物を見るような視線が俺の背中に突き刺さるため辛い。

あいつらもそのことを察してくれれば幾らか楽なんだが、彼らは何も気にしておらずあの子は胸が大きいだのそんな話ばかりしている。池とか山内は女子にモテたいなんて言っているが、そんなことを言っているうちはモテないだろう。かくいう自分もモテるわけではないのでいえた口ではないが、少なくともそれだけは分かる。

 

しばらく歩いているとプールへとやって来る。やはり政府が支援している施設であるというだけあってとても広いプールとなっていた。ただ時間があまりなかったため、みな急いで更衣室へと移動していった。

水着に着替えて、プールに出てくると、綾小路や山内たちが何やら怪しげな会話をしていた。何かやらかすのではないかと心配になったので、気になって近づいてみると不意に山内の声が聞こえた。

 

「ここだけの話、俺実は佐倉に告白されたんだよ」

山内が告白されたと言っていることに驚きが桐生は隠せなかった。まさか心の中でそんなことを言っている人はモテないと思っていたにも関わらず、実際は告白されていたことに衝撃を受けていた。

というか、佐倉って誰?なんて考えていると更衣室からガタイが良い金髪の男が颯爽と現れた。

 

「ハッハッハ。水泳という授業は素晴らしい。私の美しい肉体を存分に見せ、輝かせることができる授業だからね。」

 

Dクラスきっての変わり者、高円寺が現れた。高円寺は確かに普通の高校生には似つかないような強靭な身体をしていて、さらにこの登場だったため、注目を浴びていたが、なによりも彼が穿いているブーメランパンツに注目が集まっていた。さすがにこの頃ブーメランパンツを穿く人なんて見たことなかったため、みなが引いている。自分もだ。

ところが高円寺は他人の視線など関係ないとポージングを披露する。その気にしなさにみなも疲れたのか気にしないで仲が良い人と話すようになっていった。

 

それからほどなくして体育教師がやってきて授業が始まる。先生はやる気のなさそうな様子の女子たちや、泳ぐことが苦手な人たちにある言葉を伝えた。

 

「泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。必ず、な」

 

確かに泳げるということは人生において役に立つだろうがそこまで使う機会は少ない。それにもかかわらず『必ず役に立つ』と二度も断言していることが気になる。覚えておいた方がいいのかもしれない。

 

その後は至って普通の授業のように説明を受けた。その後初めに全員が50m泳ぎ、終わった後に競争すると先生が言い出した。競争をするということに抵抗がある人たちは文句を言ったが、1位になった生徒には特別ボーナス、5000プライベートポイントを支給するといった瞬間その反抗は収まった。変わりに最下位のものは補修を受けてもらうと付け足されたが、1位のボーナスに夢中で他の人たちはあまり気にしていなかった。

 

まず予選を行い、タイムが早かった5人で決勝を行って、その中で1位を決めるという分かりやすい方法であった。俺は洋介、高円寺と同じグループに所属することになった。

「私と同じグループとはついていないものだね。私の一位は固いものだが、せいぜい楽しませてくれよ。ボーイたち。」

 

高円寺は変わらぬ様子を見せていて、余裕そうである。確かにあの身体なら相当なタイムは出るだろう。かといって負けてやるつもりもない。やるからには勝ちに行く。

 

 

 

まずは女子から始まる。女子は男子に比べると人数が少ないため2くみしかない。注目は堀北、櫛田、そして水泳部の小野寺だ。順当にいけば小野寺が勝つだろうが、堀北はかなりスペックが高そうなため接戦が予想される。

 

「おい見ろよやっぱり櫛田ちゃんの胸やばいだろ。」

 

「いやでも…」

 

横の二人は煩悩のことしか考えていないのか…他の男子も大方のやつらはそう考えているようだ。しかし、綾小路と洋介はそんな目で見ておらず、純粋にタイムを見ていた。

 

結果としてやはり小野寺が優勝した。タイムも26秒と男子でも早い部類に入るタイムでこれには男子も女子も驚いていた。続いて堀北の28秒、そして櫛田の31秒が上位3位となっていた。

 

さて、そろそろ前の組がスタートするためしっかりと準備運動しておく。準備体操も終わったところでプールを見ると須藤が前半を一位で通過していた。その後も須藤がぐんぐんと差をつけていく。あまりの速さに他の人が遅く見えるほどであった。

 

「よっしゃあ!一位だ!」

 

余裕で一位を取り雄叫びをあげる須藤を見て、高円寺もスイッチが入ったのだろうか普段の変な雰囲気を一切出さない本気の目をしていた。

 

やがて全員が泳ぎきって全員がプールから出たため、桐生たちの組の出番になる。全員がスタート台に立つと女子から黄色い声が上がる。これは洋介がスタート台に立ったからだろう。高円寺は特に気にしているような様子はなかったが、同じく泳ぐ池、山内は不快そうな顔をしていた。やはりあの二人はモテる洋介を敵対視しているようだ。

俺も応援がなかったことは悲しかったが、応援の有無はレースに作用しない。ここにいる全員より先にたどり着けばいいだけの話だ。負けはしない。

全員が準備を整え、スタートの笛を待つ。

スタート前の独特の緊張感が周りを支配する。スタートを今か今かと待っていると先生の笛がプールに鳴り響いた。

五人が一斉に水面へと飛び込んだ。

 

 

 

飛び込むと高円寺は驚異的な瞬発力でスタートダッシュに成功すると、その勢いのままぐんぐんと加速をしていく。少しタイミングが遅れてしまった桐生はほぼ平田と同じタイムで進んでいた。さらにその二人から遅れて池、山内と続く。

このままでは高円寺の圧勝となってしまうため、ギアを上げてペースをあげる。本来ならペース配分を気にするところだが、このままでは何もすることなく負けてしまうため、ペース配分度外視のスピードで突き進む。少しづつ洋介を引き離していき、高円寺を少しづつ捉えていた。しかし追いつくことは叶わず、そのまま高円寺が一位でゴール。続いて桐生、平田、池、山内となった。

高円寺のタイムが23秒22、桐生がが25秒03、洋介が26秒13がだった。ちなみに池が33秒45、山内は37秒78となっており、山内は暫定補修圏内のためかなり落ち込んでいた。

 

「いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は好調のようだ。悪くないねぇ」

高円寺はまだまだ余裕がありそうだ。そしていつものように髪をかきあげた。それに対して肩で息をするように俺は疲れていたためまだまだ体力が足りていないと感じた。もう少しトレーニング増やすか…

そんな俺に高円寺は突如として話をしてきた。

 

「桐生司といったか。なかなかやるようだ。本気を出すまでもなく勝てると思っていたのだが、この私に本気を出させ、その上でほぼ変わらぬ速度を泳ぐとは面白い人物だ。」

 

どうやら高円寺が俺のことを少し認めたらしい。そんなことはないだろうと思っていたため、内心驚いているが、素直に感謝する。

 

「高円寺にそういってもらえるとは光栄なものだ。だが俺は肩で息をしているが、高円寺は全く余裕そうだ。それを鑑みればまだまだ俺はダメだ。もっと鍛えないといけない。」

 

この体力じゃ高円寺を越すタイムで泳げないな…こりゃあ決勝は辞退する他ないなか…

そんなことを考えていると洋介がやってくる。

 

「司も高円寺くんも早いね!僕には付いて行くので精一杯だったよ。」

 

「悲観することないぞ。確かに君たちは早く、いい泳ぎをしていたが、私がただその上をいく泳ぎをしただけだ。この美しい肉体を持ってすれば余裕なのさ。」

 

そういうと再びポージングを高円寺は決める。最初は疑っていたが、高円寺は確かな実力を持っていて、その上でこの態度を取っているのだ。圧倒的強者、そんな雰囲気を感じていた。

 

「ああ、平田も速かった。けど今回は俺が勝てた。変わりに今は動けそうにないけど…」

 

「大丈夫かい?肩を貸そうか?」

 

こんな状況でも相手の心配ができる洋介はすごい。俺が女だったら惚れるているかもしれない。さすがはイケメンだ。

 

「ありがとう。少しだけよろしく頼む。」

 

その後、桐生は決勝戦をリタイアし、決勝は実質高円寺と須藤の直接対決となった。結果は高円寺の勝利。須藤さえも寄せ付けない速さで勝利し、その日の水泳の授業は終わったのだった。



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1学期中間試験編
小テスト


最近風邪をひいて困っている作者です。みんなさんも風邪をひかないように気をつけてください。

気づけばお気に入りも150件を超え、UAも1万件を超えていたので読んでくださっている皆さんありがとうございます!
さて、アンケートを取った結果、一ノ瀬さんを加えることに関して否定的な意見がございませんでしたので一ノ瀬さんとの交流も少しづつ増やしていこうと思います。ですが一ノ瀬さんは原作2巻以降の登場なのでもうすこし後での登場になりますのでそこは把握をお願いいたします。

それでは本編をどうぞ!


入学から三週間が経ってくると誰しもが新しい生活に少しづつ慣れ、怠けるような人たちが増えてくる。これを世間一般には五月病というが、その現象がここでも起こっていた。

始業に遅れる人はもちろん、授業中に寝る、私語をするなど普通の高校であればあまり起こらないことをしている生徒たちが増えてきた。特に須藤はほぼ100%遅刻をしてくる上、授業中は睡眠タイムときたもんだ。

桐生は特にそういったことをせず、普通の高校生らしく授業を受けていた。たまに眠たくなることはあれど、眠ることなく過ごし、予習や復習もしっかりとこなしていた。

そんな桐生がこの学校について疑問に思っていることは複数個あったが、その中でも授業中に私語をすること、睡眠をすること、そして遅刻をしてくることに対して一切注意を行わないことについて不思議に思っていた。確かに高校は義務教育ではないため、全ては自己責任であるというのも納得がいった。しかしそれにしても最近は酷すぎる。その様子に疑問を抱いていない多くの生徒にも同様のことを思った。

これが社会に役に立つ生徒を世に送り出すと謳っていた学校の授業なのか…と。

 

そして今日の3時間目、社会の授業担当である茶柱先生から抜き打ち小テストが行われる旨が伝えられた。当然多くの生徒が対策も何もしていないためブーイングを起こす。だがしかし、茶柱先生はこの小テストは成績には一切反映されない。成績表には…な、と答えた。

成績に反映されないならいいかと多くの生徒がブーイングを取り下げたが、その含みのある言い方が桐生には気になった。まるで成績表には反映されないが、成績表とは関係のない別の何かには関係することを指し示しているようだった。

綾小路や堀北はその違和感に気がついたようで、不思議がりながらも普通に解くようだ。対して池や山内、須藤といったメンツは解く気ゼロといった様子であった。

 

茶柱先生が小テストが配り、全員に答案が渡ったことを確認すると開始の合図を出す。その合図と共に問題用紙を裏返し問題を解き始める。

テスト用紙をひっくり返し、問題構成を確認してみると、国語、英語、数学、理科、社会各4問の全20問構成で、各5点配当の100点満点であった。

第1問から早速取り掛かるが、桐生は毎日勉強しているためある程度は取れるだろうと考えていた。しかし5問ほど解いてから桐生はその問題の異様な簡単さに疑問が生まれた。なぜこんなに簡単な問題ばかりなのか?それこそ受験の時の問題が比にならないくらいだ。受験のときの問題よりも2段も易しい。

そう思いつつと問題を解き進んで行き、最後3問に差し掛かった瞬間そこまで順調に解いていた桐生の手が止まった。

明らかに異質な3問。それは明らかに今までの17問とは問題の難しさが違っていた。だが最初の理科、英語の問題は多くの勉強をしてきた桐生だからこそなんとか解くことが出来た。しかし残りラスト1問、数学の問題は複雑な数式を組み立てた上で解法しなければならない問題のため苦戦していた。

明らかに高校1年生に解かせる問題じゃない…成績に反映されないと言っているのにこの難易度は一体…?

 

授業終了を知らせるチャイムが鳴り、問題用紙が回収される。多くの生徒たちは気にしていないようなそぶりをしているが、一部の生徒は問題について話をしている。

せっかくなので桐生も隣の綾小路や堀北に聞いてみることにした。

 

「さっきのテストどうだった?最後の3問がすごく難しくなかった?」

 

「ああ、最初は良かったが最後の3問は完全にお手上げだった。俺には全く何をしていいか分からなかった。堀北はどうだ?」

 

「そうね。確かに難しかったけれども、最後の1問以外は解けたと自負しているわ。ただ最後の1問だけは解け切れてないわね。ただ気になったのはこのクラスの人たちよ。あまりにペンを動かす音が小さすぎるわ。本当に解いていたのかしら?」

 

確かにそうだ。俺が難しい理科の問題を考えている時点でかなり多くの生徒たちが問題を解くのをやめていた。分からないと諦めてしまった生徒もいただろうが、寝ている人たちも多くいた気がする。それらは時計で時間を確認するときにちらっと見ただけなので確証はないが、それでも紙に書く音は少なくなっていたのは覚えている。

 

「難しかったから解くのを諦めて寝てたんじゃないのか?」

 

綾小路も俺と同じ考えのようだ。堀北はその考えに納得がいかないようだった。

 

「納得できないわね。分からないから解くのを止める?愚かすぎるわね。分からない問題があっても考えれば何かしら思いつくかもしれないのにそこで思考を放棄するなんて私には考えられないわ。」

 

無理もない。実際俺もそうだ。分からなくても何かしら書けば考えが整理されて閃くかもしれないし、部分点でももらえるかもしれない。それをしないというのは俺もイマイチ分からない。けど世の中多くの人たちがいるのだから仕方ないことではあるのだろうと思うが。

 

そんな話をしていると携帯からメールを受信したという合図が来た。まだ授業の開始まで時間があるためメールを開いてみると単純に用件が書かれていた。

 

『本日17時より例のカフェでお話し出来ませんか?待っています。坂柳』

 

今日は図書館に行くような予定もないし、誰かと遊ぶような予定もないから行けると返事をする。するとしばらくしてから、

 

『そうですか。それでは楽しみにしていますね。』

 

と返ってきた。それを確認して携帯を閉じると、桐生の後ろから大きな声がしてくる。

 

「おい、桐生。今の坂柳っていうのは誰だ?まさかお前彼女じゃないだろうな!?」

 

そんな言葉とともに池と山内が詰め寄ってくる。別に坂柳は彼女でもなんでもないが、週に一度は最初のカフェで談話する。坂柳は頭がいいので話をしていて面白い。もしかしたら坂柳もあの問題をしていたなら解けているかもしれないな。聞いてみるとしようか。

 

「聞いてるのか?おーい、桐生聞いてるか?」

 

「聞いてるさ。それにしても勝手にショルダーハッキングするのはいただけないな。」

 

「ショルダーハッキングが何か知らないけど、その坂柳って誰なんだよ!?」

 

「ショルダーハッキングは個人の情報を肩越しにみることであって、決してよろしくないことだな。」

 

「俺たちが聞きたいのはそれじゃねえよ。まさかそこまではぐらかすなんてお前の彼女だろ!?」

 

何日か前までは池と山内と仲良くしていたが、ここ最近鬱陶しく思えてきた。この二人はすぐに女の子の話ばかりをするし、誰かが女子と仲良くしているとこうやって詰め寄ってくる。めんどくさくて仕方がない。第一入学して三週間ほどで彼女作るとかありえないだろ?

 

「くそっ何なんだよ。平田も作ってやがるし本当に俺たちの敵ばかりか!」

 

前言撤回、すでにいました。しかも仲の良い友人だった。まあ、おそらく普段の様子から軽井沢だろう。あの二人よく一緒にいるのを見かけるからな。

そろそろ池と山内が騒ぎすぎてめんとくさいなってきた。これ以上騒ぎにされても困るし答えておくことにした。

 

「別に彼女なんかじゃない。ただ話が合うから話をするだけだ。お前らが考えているような関係じゃない。」

 

「そんなこと言って嘘だろ!?じゃあなんで今まで無視してたんだ?」

 

「それはお前らが騒ぎすぎて言えなかっただけだ。騒ぎすぎなんだよ。」

 

「そうだそうだ。池も山内も五月蝿いぞ!」

 

みんなが池や山内にふざけて言う。そんなみんなからの援護もあってこの騒ぎは終息し、授業に入っていくこととなった。

 

 

 

放課後となり、俺は坂柳と約束したカフェへとやってきていた。時間は4時57分でかなりギリギリだ。なぜこんなに遅くなったかいえば再び、池と山内が追及してきていてあの二人を撒くために櫛田に手伝ってもらったからだった。本当に櫛田があの二人の気を引いてくれてなかったら付いてくるとか言っていたからめんどくさかった。櫛田には感謝している。また後日櫛田には何かお返ししないとな。

そう考えながら店内に入ると、入って奥側の壁際の席に腰掛けている坂柳を見つけた。すぐに店員に坂柳の連れのものですと伝えて、坂柳の座っている席に向かった。

 

「遅くなってしまって悪かった。結構待った?」

 

桐生が話しかけると坂柳は目線をこちらに合わせて話す。

 

「こんにちは、桐生くん。待っていませんよ。私も先ほど着きましたので気にしないでください。それに桐生くんも約束の5時には間に合っているので大丈夫ですから。さあ、座ってお話ししましょう。」

 

「ああ、少し急いで来たから疲れたから座らせてもらうよ。坂柳はもう注文した?」

 

「いえ、私はまだ頼んでいません。頼むものが決まりましたら一緒に頼みましょう。急がなくても大丈夫ですよ。」

 

急がなくてもいいとは言われたものの、先に決めていると言うのでなるべく急いで決める。前はカフェラテを頼んだが、今回はカフェモカを頼んでみよう。それと坂柳も少しは待っただろうし、何か食べるものでも頼んでおこう。カフェなんて昔は自分は一生行かないところなんだろうなんて思っていたのに今は週1は来ているなんて不思議なもんだ。

 

「決まったけど、坂柳は何か好きなスイーツはある?」

 

「そうですね。私は抹茶などが好きですが…どうしました?」

 

「いや、待たせてしまったんだ。坂柳の分もスイーツを頼もうと思って。」

 

「そう言ってもらえますことは嬉しいですが、気にしなくて大丈夫ですよ。時間通りに来られてるのですし、そのように考えられる必要はありません。」

 

「確かにそうだけど…じゃあ、今回は俺がスイーツを頼みたかったけど、一人じゃ恥ずかしかったってことにしてくれない?」

 

「あまり言っても折れそうにありませんね。分かりました。ですがその分は私が払いますからね。」

 

「いや、無理を言って頼んでいるのはこちらなんだから俺が払うよ。」

 

「ふふっ、気配りの出来る男性は女性に好感を抱かれますが、意固地な方は女性に嫌われますよ。ですが今回はお言葉に甘えてご馳走に預からせていただきますね。」

 

坂柳が少し笑いながら承諾をしてもらえた。そのため注文を頼むために店員を呼ぶ。すると今は客が少ないため店員がすぐにやって来て注文を取る。

 

「注文は如何されましょうか?」

 

先に注文しようか悩んで注文をすることをためらったが、坂柳がお先にどうぞと言ったため、先に注文をさせてもらうことにした。

 

「じゃあ、カフェモカとモンブランをお願いします。」

 

「私はカフェラテと抹茶のティラミスをお願いいたします。」

 

「はい、カフェモカ、カフェラテ、抹茶のティラミスにモンブランですね?」

 

「はい、それでお願いします。」

 

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

 

店員はオーダーを確認すると厨房の方へとオーダーを伝えにいく。しばらく世間話をしていると頼んだ注文が届いたので食事しながら再び話をする。

 

「Aクラスの方でも今日小テストが行われたのか。それは最後の3問が難しくなかったか?」

 

「そうですね。それ以外は中学生に与えるような問題の易しさでしたが、最後の3問はなかなか骨が折れました。本来なら20分ほど余らせる予定だったのでしたが、5分ほどしかあまりませんでした。」

 

なんと坂柳はあの難解な数学を解いたようだ。Dクラスの誰も解けていないであろう問題を解いてさらに5分も余らせるなんてやはり坂柳は頭がいい。自分も解けていないので坂柳に聞いてみることにした。

 

「その数学問題ある程度の式を立てることはできたんだが、結局解ききることができなかったんだ。教えてもらえない?」

 

「私も完全に正しい答えが出せたとは限らないので少々不安ですが、私が考えた考え方でよろしければお教えしますよ。」

 

「ああ、是非お願いしたい。」

 

「それではまずはこの公式を使って…」

 

 

 

そこから坂柳が解いた解き方で問題を解いてみた。これが解いてみると素晴らしく、自分が解いていたやり方よりもはるかに効率が良かった。要点をまとめられていてこの解き方をすれば先ほどの解き方よりも半分ほどの手間で終わってしまうほどだった。

 

「こんな解き方があるなんて考えなかったな。ありがとう。」

 

「いえ、逆に桐生くんの考え方も面白かったです。この後その解き方からのアプローチもしてみましょう。」

 

「頭良い上に向上心もあるとは手がつけられないな。」

 

「そんなことはないですよ。それを言えば桐生くんもそうです。わざわざ終わった小テストの解き方を聞いてくる人なんてAクラスにはいませんから。」

 

「まあ、普通はテストが終わったらそんなことは考えたくもないからね。」

 

問題について終わったので再び談話に戻る。こんなに頭が良くてすごい回答ができるとなると対抗心が生まれる。次のテストのときには坂柳が驚くような回答を示したいな。

 

「さて、今日私がここへあなたを呼び出した本題へと入りましょうか。」

 

基本は週一でカフェに来ていると先ほど言っていたが、大抵の場合坂柳は何かしら集まる理由を持っている。毎度変なことだったりするのだが、今回はその様子から真面目な話のようだ。その真剣さから何かただならぬ予感をしたのできちんと話を聞く。

 

坂柳はその内容を話す。その内容は桐生が考えていたこととは全く違っていたため、桐生を驚かせることとなった。

 

「では桐生くん。あなた…私の派閥に属していただけませんか?」

 



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交渉

今月末は作者が試験のためあまり小説を書けないので今のうちに書けるだけ書いておきます。




「桐生くん、私の派閥に属していただけませんか?」

 

それはあまりに突然の話で桐生は何のことか把握するのに時間がかかった。

 

「…派閥とは?」

 

「あら、聡明な桐生くんでしたら知っておられると思っていましたので説明を省いてしまいました。突然の話で申し訳ありません。今しがた説明させていただきます。」

 

桐生は知らないと口を濁していたが、桐生自身この派閥に関して少しは知っていた。現Aクラスは二つの派閥がひしめいていると。

 

一つは葛城派。保守的意識を持つ派閥で、自ら攻めて行くことをしなく、身を固めたい面々が集まっている。派閥を率いている葛城は用心深い男で、隙をなかなか晒さない大男だと聞いている。

そして一つは目の前にいる華奢な女の子、坂柳率いる坂柳派。葛城派とは真逆の考え方をする人たちの集まりで好戦的、革新派であると聞いている。

Aクラスはすでにこの二つの派閥争いが展開されており、日夜対立しているらしい。だが対立とは言っても表ではなく水面下で火花を散らしているようだが。

 

ちなみにこの話を桐生は椎名から聞いた。曰く椎名が図書館に向かっているときにこの二つの派閥のメンバーがもめているのを見たらしい。この話は次第に他クラスにも広がっていき、多くの生徒たちが知っていた。

 

そして今回桐生が驚いたのは坂柳が桐生を誘ってきたことだった。

坂柳は普段他クラスの生徒と関わることがないため、多くの生徒がその容姿を知らない。その上派閥内でも厳しいところがあり、自ら勧誘するというのは聞いたこともなかったからだ。

 

「……というわけで理解していただくことはできましたか?」

 

どうやら長考している間に坂柳は説明を終えたようだ。返答をしておかなければならないため返答する。

 

「…ああ、理解できたよ。それにしても坂柳はどうしてクラス内での争いをしているにも関わらず、他クラスである俺のことを仲間に引き入れようとしているんだ?」

 

素直に気になっている点を坂柳にぶつけてみた。確かにクラス内で対立しているのにわざわざ他クラスであまり関係しないであろう人物を自ら交渉するのはよくわからない。メリットがあまりないように感じたために桐生は質問したのだった。

 

「確かに桐生くんは他クラスの方です。Aクラスの覇権争いには関係ありません。」

 

「ならなぜ誘ったんだ?」

 

しばらく間を置いてから坂柳は話す。

 

「簡単な話です。この学校はただクラスメートと仲良くすれば良いという学校ではありません。かといって他クラスと仲良くすれば良いものではありません。そこは桐生くんもわかっていますね?」

 

今のところ坂柳の話は矛盾しているようだが、何か真意があっての話なのだろう。深くは突っ込まず考えてみる。

確かに今までの学校の様子から少しづつ桐生は察していた。明らかにこの学校はおかしい。ただの高校ではないことは普段の授業を受けていれば何と無くわかる。教師たちはその情報を少しづつ開示し、生徒たちに気付かせるようにしている。多くの生徒はそんな思惑に気がついていないようだが。

 

「ああ、確かにそれは感じていた。だがそれなら他クラスの誰であっても良さそうだが、何故俺を勧誘したんだ?」

 

「簡単な話です。これからの学園生活でのことを考えたとき、あなたを味方にしておけば面白くなりそうだからですよ。」

 

「全体像が見えてこない。何を示したいんだ?」

 

「そうですね。これからの学園生活は自らを生き残らせるために他人をふるい落す生活となります。そのときにあなたというカードがいれば随分と撹乱が出来そうですのでそれが目的ですね。それにあなたを放置しておくのはよろしくないという私の本能的な直感ですね。放置していればあなたはいずれ私に牙を剥く、そんな予感がしたのです。」

 

「さらに質問するが、俺が坂柳の派閥に属したときのメリットは何があるんだ?メリットがなければ協力をする理由もないからな。」

 

「そうですね、定期的に私とあって話ができますよ?」

 

冗談で言っているのか分からないが笑みを浮かべながら坂柳は話した。確かにこんなに可愛い子と毎週お茶できるなら男子高校生として嬉しいことであるが、今回は交渉をしているので真面目に返す。

 

「たしかに坂柳のような美人な人とお茶出来るのは嬉しい話だが、その坂柳の話す抗争に於いてのメリットはないのか?」

 

美人という言葉に少しだけ反応したが、すぐに先ほどまでの交渉をする顔に戻り言葉を続ける。

 

「まあ、私のことを美人だなんて言ってもらえるなんて嬉しい話です。ですがその言葉は人の心を乱してしまう可能性がありますのでお気をつけてくださいね。少し話がずれましたが話を戻しましょう。先ほど話した私とこうして話をする事に関してですが、私が入手した情報を仕入れることができます。私とて派閥を束ねるリーダーをさせてもらっていますので多くの情報を手に入れることがあります。その中でも有用な情報をあなたに差し上げましょう。情報の信頼性を確認するために、今ここで一つ情報を言わせていただいても構いません。」

 

「…それは聞いたからといって派閥に入ることを強要しないのか?」

 

「ええ。ここで脅しても桐生くんは嫌々としか従わないでしょう。それでは面白くないのです。桐生くんが望んで所属してくれることを私個人は望んでいます。その方が確実に面白いでしょうから。」

 

先ほどまでの不気味な笑みがさらに不気味さを増したような気がする。聞いたことによってのデメリットはなさそうなため、聞いてみることにした。

 

「それなら教えてもらってもいいか?」

 

「はい、よろしいですよ。では、来週から起こることを少しお教えしましょう。」

 

来週?来週からは五月に入るが、特にこれといった学校行事の予定もないし、何もなさそうだが…

 

「来週、私たちには必ずしも10万ポイントが入るとは限りません。それなりに差し引かれたポイントがプライベートポイントとして入ってくるでしょう。」

 

これまた驚きの情報が入ってきた。10万ポイントが入るとは限らないなんて普通の生徒が聞いたら驚きで声を上げそうだが、ここはカフェであって交渉中なので驚きの声を押し殺して質問をする。

 

「どうしてそう断言できるんだ?」

 

「簡単な話です。桐生くんは気がついてるでしょう。欠課、遅刻、授業中の私語に携帯に触れること、さまざまな問題がこの学校では注意されません。それこそおかしな話であると桐生くんは思いませんか?」

 

確かに疑問に思っていたが…そこに深い意味があるとは考えていなかった。それこそ義務教育は終わったためできて当然、それをしない人は知らないといったスタンスなのかもしれないと思っていた。

 

「その反応が当然です。普通に生活をしていれば疑問に思うことはあれど、わざわざ先生に質問をしたりなんてしません。確かに私も最初はそうでした。ですが、あるときその回数をしっかりと数えていることに私は気がつきました。そのことを桐生くんはお気づきでしたか?」

 

注意することはしていたが、まさか回数をしっかりと数えていたなんて気がつきもしなかった。確かに思い出してみると、初日に茶柱先生は毎月10万ポイントを支給するとは言っていなかった。ポイントを支給すると言っていただけだった。それなら0ポイントを支給するといったこともありえるだろう。それらを鑑みてみるとこの話は十分に考えられることであるだろう。

 

「確かに今までの先生の言葉を考えてみればおかしくないような発言だ。かなり信憑性は高いだろう。」

 

「そうですね。そうでなければ学校法人としてあまりに適当すぎますもの。」

 

「だがその予想が外れている可能性はありえる。」

 

確かに坂柳の話していたことは間違っていない可能性が高いだろう。でもそれは可能性が高いだけであって絶対に正しいとは言えない。そこを指摘してみたが坂柳は桐生が予想していた反応とは違う反応を示した。

 

「そうですね。あくまで今の私が提示した情報は真である確率が高いだけであって偽である可能性は否定できません。」

 

すんなりとそこを認めた。何かしら否定すると思っていたため、拍子抜けであったが桐生は続けて話をする。

 

「そこで、だ。もしこの情報が偽であり、ポイントが変動されなかったならば、俺は坂柳の派閥には入らないし、協力もしないがそこはいいか?」

 

「はい。私はこの情報が間違っていないと確信しておりますが、もしも、万が一にもこの情報が間違っていたのなら桐生くんを勧誘する資格がないと私は理解しています。そのようなことはないと思いますけどね。」

 

どうやら情報は確かなものだと確信しているらしい。このときの坂柳の笑っている顔は談笑しているときの笑顔ではない別の恐ろしさを感じさせられるような笑顔であった。

だがしかし、次の桐生の言葉を受けてその笑みは消えた。

 

「そして、この情報が間違っていなかったとき、つまり正しかったとき、そのときも俺は坂柳の派閥には入らない。」

 

「………それはどういうつもりで…?」

 

先ほどまで笑っていた顔が驚きに満ちた顔に変わる。流石にこの返答が返ってくるなんて思いもしなかったのだろう。確かに先ほどの話し方から間違っていなかったときは派閥に入る、そう言うと信じていたのだろうと考えられる。坂柳にしては珍しく、ほんの少し取り乱した様子が伺えた。

 

「驚いているのは分かるが、最後まで話を聞いてみてくれ。俺はAクラスの派閥争いに興味はない。実際問題どちらの派閥が勝ち、Aクラスの覇権を取ろうとも一切の利益は俺に訪れないからな。だが、俺も今目の前にいる人物、坂柳について興味を持っている。俺が考えないようなことをしてみたりしそうで、この三年間で随分と面白いことをしてくれそうだからな。」

 

「あら、私と同じ考えを抱いていたなんて面白いですね。同じ考えを抱いているなんて私たちは意外と考えが似ているのかもしれませんね。ですが素直に私に興味を抱いてもらえていることは嬉しいことです。ありがとうございます。」

 

そう話した坂柳は先ほどまでの少し動揺してしていた様子は見られなく、普段通りの坂柳の様子を見せていた。

 

「だからだ。俺が提案するのは、俺は坂柳の派閥には属さないが、坂柳個人の協力をするということだ。それならば友人の手伝いをしているとなるため問題ない。」

 

「つまり派閥には入らず、個人の友人として手伝ってくださるということですか?譬えそれが派閥に関することであっても?」

 

「ああ。俺は集団で何かするということが好きではないからな。単独もしくは少数で動くのが好きなんだ。」

 

「なるほど、そうですか。やっぱりあなたは私が予想もしない返答をしてくださいました。私もその提案に反対意見はありません。その条件を呑みましょう。」

 

「理解が早くて助かる。」

 

「こちらこそ助かります。」

 

「まだ絶対に協力するとは決まっていないけど?」

 

「いえ、絶対ですよ。先ほども話しましたが、今回開示した情報は私が持っている情報の中でも最も確信を抱いている情報ですので。」

 

坂柳は傍にあるカフェラテを飲みながら優雅に言う。交渉に成功したという表情で先ほどまでの含みのある笑みではなく、心の底から満足したという笑みを浮かべていた。

 

まだ決まってはいないんだがな…まあいいか。おそらくこの様子だと本当なんだろう。そうなると来月からポイントがなさそうな予感しかしないんだがどうしようか…

 

「どうしましたか?何だか嫌なことを思い出してしまったような顔をされて。何かありましたか?」

 

どうやら俺の焦りが表情に出ていたらしい。心配されるほどとはなかなか俺も焦っているのだろう。

 

「いや…そのルールだと来月俺のポイント0ポイントの予感がしてだな…」

 

「…それほどDクラスはよろしくないのですか?」

 

流石に0ポイントと聞いて坂柳も驚いていた。査定がどうなのかはっきりしていないが今までのDクラスの行動を見ていたらその予感がして止まなかった。もし仮に桐生が査定する側ならDクラスには0ポイントにする自信があった。そのことを話すと坂柳と苦笑いを浮かべていた。

 

「それは大変ですね。ポイントがなければ生活をするにも困りますからね。もし桐生くんが困ったならば私が多少なりとポイントを譲渡してもよろしいですよ?」

 

「流石にそこまではしたくないが…本気で困ったらお願いするかもしれないな。」

 

「ふふっ、そのときはいってくださいね?」

 

流石に他クラスの生徒にポイントを借りて生活するというのは虚しいものだが、何とかそうならないようにこれからしていかないといけないと思った桐生であった。




高度育成高等学校学生データベース

氏名 桐生 司

学籍番号 S01T004736

部活 無所属

誕生日 12月29日

評価

学力 B +

知性 B

判断力 B−

身体能力 B

協調性 C+


面接官コメント
本人からやる気が感じられないが、その能力は高く本来であればB、またはAクラスに相応する能力を保有している。筆記試験、面接などもそつなくこなしており、やはりポテンシャルの高さをうかがわせるが、気分屋なのか途中からやる気をなくす場面も見受けられると中学からの情報には書かれているためDクラスの配属とし、本人のやる気を出させることを期待する。


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ようこそ実力至上主義の教室へ

今回でようやくプロローグ部分が終わります
それと、今回も少し長めです


少しづつ日差しが暑さを感じさせるようになる5月。桐生たちがこの学校に入学してきて一月が経過した。

桐生がいつも通り少し早く登校し、1限目の準備をしてからクラスメートたちと雑談しているとクラスメートたちは口を揃えて同じ話をしていた。

 

「ポイントが振り込まれないんだが、桐生には振り込まれたのか?」

 

多くの生徒たちが質問をする。桐生にも振り込まれていないため、振り込まれていないと返す。それを聞いて多くの生徒たちがおかしいなと首をかしげる中で桐生はどうしてこうなっているのか、その理由を知っていた。

 

先日、Aクラスの坂柳と交渉をしたときに聞いた話によると、生徒の行動により、素点である1000ポイントから減点をしていき、その点数かける100倍された数字分だけ振り込まれると言うのだ。最初は少し疑っていたが、現実問題彼女の話していたことは間違っていなかったのだと確信していた。

 

 

しばらくすると、ホームルーム開始のチャイムが鳴ったので、クラス全員が話を切り上げ席に戻る。しばらくすると手にポスター状の筒を持った茶柱先生が教室へと入ってきた。しかし、普段の表情とは異なり、その表情はいつになく険しいものだった。いつものように池がセクハラまがいの発言をするが、茶柱先生は耳を傾けることなく、クラス全体に質問が無いか、と問う。その様子はまるで生徒たちからの質問があって当然という様子であった。その後、数人の生徒がポイントが振り込まれていない、とすぐさま手を挙げ、質問をした。

ポイントが振り込まれていないのは何故か、この質問に対して先生は既にポイントは振り込まれていると言う。

 

ここまで来て完璧に坂柳の予想は当たっていたと確信する。しかし、Aクラスからクラス順が降るごとに成績の良さが分かれているのだろうことから、Aクラスは優秀な人材の宝庫であるため、そういう失態の回数は少ないだろう。その中でそのルールに気づいた坂柳は本当にすごいと思う。ちなみにこの情報は綾小路から聞いた。須藤が初日にコンビニでもめた時にDクラスであると話すと先輩たちはバカにしていてらしい。そのことからそうであると考えた。

 

「お前らは本当に愚かな生徒たちだな。」

 

今まで生徒からの不満を聞いていた茶柱先生がドスの聞いた声を出す。突然の発言に多くの生徒が驚いている。驚いていないのは、隣にいる綾小路、堀北、高円寺ぐらいであった。

 

「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという可能性もない。わかったか?」

 

だがしかし、未だ多くの生徒はその言葉が指し示すことが分からないようだ。その様子に茶柱先生はあきれた様子を示していた。

 

「ははは!なるほど、そういうことなのだねティーチャー。」

 

全てを理解した高円寺が高らかに笑いながら話す。

突然笑った高円寺に理解が追いついていない生徒たちは狐につままれた様子をしていたが、そんなこと高円寺は気にする様子も見せず、足を机に乗せ、偉そうな態度で先程質問をしていた生徒に指をさす。

 

「分からないのかい。簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、それだけの話さ。」

 

「はあ? なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって茶柱先生は言っただろう?」

 

「私はそう聞いた覚えはないね。それに私と同じく気がついているのだろう?ウッドボーイ?」

 

高円寺はそういうと桐生に目を向ける。突然高円寺に目を向けられたことに桐生は驚いたが、それ以上にクラスメートたちも驚いて桐生の方向を見る。

 

「誰がウッドボーイだ。まあいい。先生は俺たちDクラスに振り込まれたポイントは0ポイントだと言いたいんだろう。そうすれば今回、納得いく。現に他クラスはしっかりと振り込まれていると聞いていますから。それも減点されて…ね。」

 

「高円寺の態度には問題ありだが、二人とも間違っていない。全く、これだけヒントをやって自分で気がついたのが数人とはな。嘆かわしいことだ。」

 

心底呆れたという表情を茶柱先生は浮かべる。俺の言葉で今回のことに気がついた生徒たちもいたが未だに理解できていない人たちもいるようであった。

 

「振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕たちは納得出来ません。」

洋介が質問をする。おそらく洋介も気がついているようだが、未だ理解できていない人のために質問したのだろう。

それに対して茶柱先生は、なおも呆れながら機械的に返答する。

 

「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。ひと月で随分とやらかしたもんだ。この学校では、クラスポイントがプライベートポイントに反映される。その結果お前たちは10万ポイント全てをたった一月で吐き出した。入学式の日に説明した通り、この学校は実力で生徒を測る。そして今回、お前たちは0という評価を受けた。それだけに過ぎない。当校でも入学一月で全てのポイントを吐き出したのはお前たちが初めてだ。素直に褒めるよ。お前たちは立派な不良品だ。」

 

不良品という言葉に何人かが反論するが一切聞き入れてもらえることはなかった。実際今までしていることはそれと変わらないのだから…

洋介は生徒の代表として、先生に食い下がるも正論で論破され、ポイントの増減の詳細も教えてもらえない。そんな様子に次第にイライラとした表情を見せるものたちもいた。そんな様子を見てか、さらに衝撃の情報をDクラスに茶柱先生は伝える。

 

「これから先、遅刻や私語を改め、仮に今月マイナスを0に抑えたとしても、ポイントは減らないが増えることはない。つまり来月も振り込まれるポイントは0ということだ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ない。どうだ、覚えておいて損はないぞ?」

 

うっすら笑みを浮かべながら茶柱先生はそう言った。この発言に洋介の表情がさらに暗くなる。今の言葉の意味を理解してない生徒もいるが、遅刻や私語を改めても意味が無い伝わったようだと言っている。

 

 

衝撃の事実に静まり返った教室にホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。茶柱先生は本題に入る、と言い、筒から白い厚手の紙を取り出し、黒板に広げた。そこには各クラスのポイントが表示されていた。その紙を見て坂柳から送られてきた情報と相違がないのを確認していた。俺も坂柳からの情報がなければ驚いていただろう。

 

Aクラス 940

Bクラス 650

Cクラス 490

Dクラス 0

 

「おかしい……」

 

普段は臆病で人前で話さない佐倉が思わず声に出してしまう。

 

「並びがいくら何でも綺麗すぎる…」

 

そこにはAからDへと表示されていた。ここでも情報に間違いないことが分かったため、改めて感心した。ここまで正確な情報を掴めるなんてどんな情報網を坂柳は持っているんだろうか?そう思った。

 

「段々理解してきたか? お前たちが、何故”D"クラスに選ばれたのか?この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒は”A"クラスへ。ダメな生徒は”D"クラスへ、と。つまり、Dクラスは落ちこぼれが集まる、この学校最後の砦。お前たちは、最悪の不良品ということだ。実に不良品らしい結果だがな。」

 

不良品…ね。俺にはぴったりの言葉じゃないか。大きなミスをしてそれでものうのうと生きてる。今の俺を指し示す言葉としてぴったりすぎる。

 

そんな時だった。ガゴン、大きな音が静寂したクラスルーム内に響き渡る。どうやら須藤が机を蹴った音のようだ。

 

「これから俺たちは他の連中にバカにされるってことか。」

 

クラス順に優劣が決まるのだから、当然一番下のDクラスは周りから卑下される対象だろう。人間は下を見下したがるものがあるもので、下がいるから安心するという考えをする。

 

しかしそんな絶望的この状況を打開する術はある、そう先生は言う。それは、クラスポイントが他のクラスを上回る事。つまり、今回で言うと僕たちがCクラスの490ポイントを1ポイントでも上回っていればCクラスへと昇格していた。

さらにもう一つ残念な知らせがある、と言って先ほど持ってきていたポスター状の一枚の紙を貼る。そこには先週行われた小テストの結果が記載されていた。

 

「この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象だ。もしも今回のテストで適用されていたなら7人は入学早々退学になっていたところだったな。

 

その7人の中でも池、山内、須藤が生徒が驚愕の声をあげる。先生に食って掛かるが軽くいなされる。そんな中、再び高円寺が口を挟む。

 

「ティーチャーが言うように、このクラスには愚か者が多いようだねぇ」

 

爪を研ぎながら偉そうにほほ笑む。そんな高円寺に池君が同じ赤点組だと思ったのか反論する。

 

「よく見たまえ。私がどこにいるのかを。」

 

池たちはそう言われてから順位を見る。下から見ているがいつまで経ってもその男の順位は現れない。まさかと思い上を見るとなんと同率トップ1位の座に君臨していた。

自分と同じ頭の悪いやつだと高を括っていたのだろう。予想外の頭の良さに池たちは悔しそうな表情を浮かべていた。

ちなみに俺は88点でクラス内同率3位であった。おそらく最後の問題と、どこかでミスをしたのだろう。次は一位を狙ってみせる。

 

「それからもう一つ、高い進学率と就職率を誇っているこの学校だが、その恩恵を受けれるのはAクラスのみだ。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはない。お前らのような低レベルな人間がどこにでも進学、就職できるほど世の中は甘くできているわけがないだろう。」

 

もう既に満身創痍であるDクラスへと先生は止めとばかりに言う。その言葉に男子生徒、高円寺と同率トップだった幸村君が立ち上がり文句を言う。だがしかしここでも高円寺が口を挟む。

 

「みっともないねぇ。男が慌てふためく姿ほど惨めなモノは無い。」

 

「お前はDクラスだったことに不服はないのかよ!」

 

幸村がそう高円寺に反論する。しかしそんなこと気にも留めず高円寺は櫛で髪を解きながら返す。

 

「不服?別にないね。」

 

「お前はレベルの低い落ちこぼれだと認定されて何も思わないのか!」

 

幸村もエキサイトしているようだ。さらに高円寺の態度が火に油を注いでいるのだろう。顔を赤くしていきりたっていた。

しかし尚も高円寺の態度は崩れなかった。

 

「フッ。愚問だな。学校側は、私のポテンシャルを計れなかっただけのこと。私は誰よりも自分のことを評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。学校側がどのような判定を下そうとも私にとっては何の意味も持たない」

 

唯我独尊を体現した男のようであると正直思っていた。確かに高円寺はプライドが高く自分の能力を大きく信じている。しかし、実際に彼には凄まじい能力を持っているため成り立つことなのだろう。そこらへんの認識を変えなければいけないな。

 

「それに私は高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは決まっているのでね。DだろうがAだろうが些細な問題なのだよ。」

 

確かに将来を約束されている男にとっては進学先がどうだという話は関係のないことだろう。なぜ進学先にも困っていない高円寺がここを選んだのかわからない。聞いたところで流されるのだろうが。

 

「浮かれていた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら、この長ったるいHRにも意味はあったかもな。中間テストまでは後3週間、まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している。」

 

そう言い残し、茶柱先生は教室から出て行った。またもや意味深な事を残していったが、乗り切れる方法が勉強する以外に存在するのだろう。そしてその方法は考え自ら導き出せと暗に示しているのだろう。

そんなことほとんどの生徒は気づく余裕もないだろうが…

 

 

茶柱先生がいなくなり、教室は非常に荒れていた。荒れているクラスを、洋介と櫛田が必死にフォローをしているがそのフォローだけではなんとかならないようだ。

 

「皆、授業が始まる前に少し真剣に聞いて欲しい。特に須藤くん」

 

 

まだ騒然とする教室で、洋介が教壇に立つ。これ以上個人個人をフォローしていてもラチがあかないと考えたのだろう。そして洋介は来月のポイント獲得のため協力をし、助け合っていかなければならないこと、遅刻や私語などをやめる必要があるということをクラス全体に伝える。

しかし、それを言っても聞かない生徒たちがいる。それは先ほど茶柱先生が話していた、悪い点を改善してもポイントが変わらないということ。真面目にしてもポイントが増えないならやる意味が無い、そう考える生徒たちもいるだろう。その考えをしてしまう生徒たちには櫛田がフォローに向かうも、結局須藤は聞く耳を持たず教室を出て行こうとする。

このまま出ていかせてもいいのだが、須藤一人のせいで他のメンバーが割りを食らうのはどうかと思うため牽制しておく。

 

「たしかに遅刻や私語をやめたところでポイントは増えないと茶柱先生は言った。しかしあの含みのある発言を聞いて何とも思わなかったのか?」

 

「あ?」

 

出て行こうとする須藤が桐生の言葉に足を止める。足は止めたが苛立っている様子は見てとれた。普通なら刺激しないように話すだろうが、あえて俺は刺激するように話す。

 

「何もしないで去るのか。結局お前は愚か者だということだな。」

 

「あ?今お前何つった?」

 

須藤がこちらへと突っかかってきた。予想通りだ。冷静に考える余裕がないから、不利になればなるほど力で抑え込もうとする。それを利用させてもらう。

 

「挽回が出来ると言われてるのに何もしないでここから去ろうとしているお前は愚か者だと言っているんだ。ここで逃げるようなら部活だって逃げ出すんだろ?」

 

「お前に何がわかるってんだ!?」

 

声を荒げてこちらへと接近して胸元を掴み上げてくる。須藤の方が背が高いため、吊るし上げられるような状態になる。

 

「須藤くん!そこら辺にしてくれないかな?」

 

「須藤くん!もうやめて!桐生くんもクラスのためを思って言ってるだけだから許してあげて?」

 

洋介と櫛田が須藤をやめさせようと問いかける。しかし頭に血が上っている須藤にはそんな言葉は届かない。

 

「うるせえ黙ってろ。俺はこいつに用があるんだからな。」

 

「何カッコつけてんだ。敵前逃亡しておきながら。」

 

「その生意気な口を閉じろつってんだろうが!殴ってその口黙らせてやろうか!」

 

「司もそこまでだよ。言い過ぎだ謝ってくれ。」

 

洋介がこちらにも謝罪するように言ってくる。しかしここで謝ると元も子もないので続ける。

 

「解決策はあると話してんだろうが。ここで腐ってたらそのまま終わりだ。お前だってバカにされたくないんだったら何か考えろ。ポイントで逆転できないならそんな情報教えたところで意味ないだろうが。」

 

「…ちっ…」

 

少しは俺のいうことが理解できたようで俺の胸元から離れる。しかし完全には理解できないようだった。

 

「……うるせぇよ。だったらどうしろってんだ。」

 

「簡単な話さ。中間試験で高得点を取ればいい。絶対にくれるとは限らないが、高得点を取れば評価は変わる。そうすれば少しはポイントをもらえるだろう。それを重ねていくことでCクラスに上がれるんじゃないのか?」

 

「……わからねえよ。俺はバカだからな。」

少し考える素振りを見せたが教室を出て行ってしまう。ダメだったが少しは分かったようだ。須藤みたいなタイプはは負けることを嫌うと思ったけど、それよりもプライドが勝ってしまうことがある。

ここで牽制しておくことで多少須藤もこちらへ入ってきやすくなるだろう。

須藤が出て行ったことで普段の須藤の態度に文句を言い始める生徒達。そんな中、洋介と桔梗がこちらへやってくる。

 

「ちょっと司、言い過ぎだよ。」

 

「悪かった。須藤みたいなタイプは少し強めに言っておく方がいいと思った。それにあいつはバスケに全力だ。バスケができなくなると考えればするように動く。そうなるように少しだけ刺激したんだ。」

 

「少しだけっていう割にはかなり挑発していたよね?」

 

たしかに少し言い過ぎだとは思ってる。また須藤に謝っておこう。

 

「ところで司、放課後にポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。君も来てくれるかな?」

 

「テスト勉強もしたいから長時間は無理だがある程度ならいいぞ。」

 

「ありがとう。それで、みんなに参加してもらいと思っているだ。なるべく手短にするよ。」

 

その後始業のチャイムが鳴ったため、席に戻る。

そして放課後、全員とはいかないが、多くのクラスメートたちが集まって対策のミーティングが行われらこととなった。




次回以降テスト編ですが、今回は深く主人公は関わらず進んでいきます


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ミーティング

UA数が20000を、お気に入り登録が250件を超えていました!読んでくださってありがとうございます!



放課後となり、これからの対策を練るとクラスの多くの人たちが参加するミーティングの準備を洋介たちが進めていた。

洋介は人望が高いため多くのクラスメートたちが参加するようだ。しかし、堀北や須藤、高円寺などや、話し合いの苦手な数人は参加していなかった。

 

ミーティングの準備をしているメンバー以外は各々の雑談をしていた。山内は綾小路に2万ポイントで先日買ったばかりのゲームを買わないかと聞いている。綾小路は気にすることなく流している。先々考えないで使ってしまったのがいけなかったのだろう。綾小路もわかっているため相手にしていない。

 

「頼むよ〜桐生〜このゲーム機を3万ポイントで買ってくれよ〜」

 

綾小路が買ってくれないと踏んだのかこちらへとやってくる。というかさっきまで綾小路に2万ポイントで売ると言っていたのにポイントを値上げしてる。俺なら買ってくれるとでも思っているのか分からないが図々しい気がする。こういうところであやふやにすると押し切られて買ってしまう可能性があるためはっきりと断る。

 

「俺はゲームのカセットを持っていないし、興味もないからいらない。他を当たってくれ」

 

「頼むよ〜」

 

「いらないって言ってるだろ。あとくっついてくるな」

 

頼みながら擦り寄ってくる山内を引き剥がす。綾小路より高いポイントにして売りつけてくるなんて

やはりポイントを使い切っている生徒たちは他の人に分けてもらえないかと頼みに行っている。

周りを見渡してみると他にも、女子の中心メンバーになっている軽井沢が周りの友達に一人2000ポイントを恵んでもらえないか頼み込んでいる。とは言っても頼み込んでいるような態度には見えずフランクに聞いているが、櫛田のような貸してもらえそうな面々に聞いているので成功しているようだ。

なんだか女子の力関係を感じていると、教室内に放送が鳴り響いた。

 

「1年D組綾小路清隆くん、先生がお呼びです。至急職員室まで来てください」

 

クラス全員の注目が綾小路に集まる。綾小路は特に気にしないようにして、クラスの外へ出て行った。綾小路が出て行くと、多くのクラスメートたちがどうして呼ばれたんだろうかと邪推し始める。実際俺の周りでも女子たちがヒソヒソと話をしている。だがみんなが考えているようなことではないだろう。綾小路は先生から呼び出されるようなことをする人間には見えない。俺がそう考える理由は表面上は触らぬ神に祟りなしといったスタンスをしている人間に思えるからだろう。だがしかし、人間誰しも表と裏があるものなので、どうかは分からない。実際俺だって裏と表があるからな。

 

「はい、みんなミーティング始めるよ。席についてくれないかな?」

 

洋介がみんなの考えを遮るように話す。おそらく洋介はそれを狙っていっているんだろうけど。

洋介に促されたことで多くのクラスメートたちが自分の席へと戻って行く。

 

「さて、これから僕たちはクラスポイントを獲得していかないといけないわけだけど、まずはどうしていくのがいいだろうか?」

 

洋介はみんなが考えるように促す。しばらく黙っていると誰かが授業態度を変えるべきだと話した。それを聞いて、洋介はその意見に賛同してから自分の考えている意見を話す。こうすると、他の人も自分で考えるし、その上で聞いてもらうことで理解してもらいやすい。やはり洋介はクラスをまとめていくような人だと思った。

 

「でもさ、そこを変えてもポイントが増やされないのにどうやったらいいわけ?」

 

誰かが意見を出す。この質問にはさすがの洋介も顔をしかめた。たしかに何がマイナスで何がプラスなのか教えられていない今、その質問に答えることはできない。他のクラスメートたちも分からないため、黙ったままだ。

やはり、情報が不確定過ぎて誰も話せない。今の時点で話し合っても無駄だったか。そう考えていたときだった。

 

「もしかしたら、中間試験を乗り切れたらポイントをもらえるかもしれないよ?」

 

少し高めの声が教室内に響き渡る。その声の主へとクラスメートの視線が向けられる。みんなの視線の先には櫛田桔梗がいた。

 

「確かにそうであるって決まったわけじゃないけど、ずっと下向きなことばかり考えていたら進まないよ。だからもっと前向きに捉えてやっていこうよ」

 

「うん、そうだね。下ばかり見ていたらきりがないよね。だからみんな、今回は中間テストをみんなで突破できるように頑張っていこう!」

 

クラスの人気者二人の意見が合わさったことによって概ねその方針でいくことが決まった。平田だけの意見だったら男子はつき従わなかったかもしれない。そこに櫛田という男子からの人気が高い人が意見することで達成できたことだ。

 

そしてその後クラスで勉強会をし、みんなでテストの点を上げていこう、ということになった。

 

 

 

 

 

クラスでのミーティングが終わり、解散となったため、桐生は足早に教室を去った。桐生には今日は用事があったため、早くミーティングが終わって欲しかったが、平田、櫛田の活躍もあって30分ほどで終わった。これにより約束の5時にギリギリ間に合うくらいだった。

軽く息を切らしながら走り、なんとか時間内に目的地へとたどり着くことができた。そこには目的の人物がいないようであったので中へと入ってみる。するとそこには目的の人物がいた。

 

「待っていましたよ、桐生くん」

 

桐生が向かっていたのはAクラスの教室、そして会う約束をしていたのは先日とある取り決めをした少女、坂柳有栖であった。

 

「どうぞ、そこの席にでもお座りになってください」

 

坂柳の前なら席に座るように促される。今回は坂柳以外にも二人の生徒がいるが、席に座ることなく坂柳の背後に立っている。

 

「気にされなくても大丈夫ですよ。彼女たちは私の指示で動く部下みたいなものですので」

 

「それじゃあお言葉に甘えさせてもらって座らせてもらうよ」

 

そうは言われても気になるものなんだけどな…というかそこの女子は部下と言われて、ムッとしたような様子を示した。対して反対側に立っている男性はそれが当然という反応を示した。どうやら同じ坂柳派に所属していても忠誠心はまるで違うようだ。

 

 

「さて、本題に入りましょうか。やはり私の提供した情報は正しかったようですね。まあ、Dクラスのクラスポイントには流石に驚かされましたが…」

 

坂柳は笑みを浮かべながら話す。それもそのはず、今回の情報が正しければ桐生が坂柳に協力をするという取り決めになっているからだ。そしてDクラスのクラスポイントは0だった。これは坂柳の所属するAクラスは940ポイント。いかに差があるかは一目瞭然であった。

 

「ああ。確かに坂柳の言っていたことは正しかった。だから協力をしよう。ただし、坂柳の派閥には入らない、そこのところはいいな?」

 

「はい。約束を破ることはいたしません。私はただ、あなたが私とともに動いてくださることに意義がありますので。力で屈服させあなたを使うというのも甘美なものであると思いますけど、それでは面白くありませんからね」

 

クスクスと今度は笑っている。それを見てお付きの女子はまたもやムッとしていた。おそらく先ほど言っていた力で屈服させられたのだろう。忠誠心はないが従うしかないといったところだろう。

逆に男子の方はそういった様子が一切見えない。こちらは坂柳の実力を大いに認めているために従っている忠臣といった感じか。

どちらにしてもこうして俺との話し合いに連れてくるんだ。二人ともを坂柳はかなり信頼しているのだろう。

 

「さて、今回桐生くんを呼び出した理由としては協力関係の確認、そして私が普段よく使うこの二人のご紹介です。まずはこちらの少し強調性が薄めな女性の方から。こちらは神室真澄と言います」

 

なんだか今紹介しながら貶していたような…気にしたら負けなのだろうか、坂柳ともう一人の男子は一切気にしていなようだった。言われた本人はワナワナと震えていたが、堪えているようだった。

 

「……神室真澄だ。よろしく…」

 

怒りを堪えながらも名前を言う。何かしら弱みを握られているんだろうけど、ここに連れてくるってことは坂柳も信頼しているんだろう。なんだか不思議な関係だな。神室が簡潔に自己紹介し終えたので、坂柳はもう一人の紹介をする。

 

「そしてこちらが橋下正義と言います」

 

「橋下正義だ。普段は諜報なんかをしたりしている。これからよろしく」

 

神室と対して橋下は忠誠心が高そうだ。それに運動し慣れたと言う体つきをしている。ボディーガード的な役割もしているのかもしれない。

そうだ、俺も自己紹介をしなければならないな。すっかり忘れていた。

少し遅れて桐生も自己紹介をする。

 

「じゃあこちらも。Dクラス所属の桐生司だ。坂柳との約束の結果こうして力を貸すことになった。だが、派閥の争いにはあまり干渉するつもりもない。そこは覚えておいてほしい。これからよろしく」

 

全員の自己紹介が簡潔に終わる。すると坂柳は二人に指示を出す。

 

「二人とも連絡先を司くんと交換しておいでください。これからあなたたちは司くんにも頼まれたらその仕事を完遂してください。ただし、私からの仕事を優先でしてくださいね」

 

「ちょっと待った聞きたいことが二つはあるんだが」

 

「どうしましたか。何か疑問に思う点がございましたか?」

 

突然坂柳の話した内容には二つほど疑問に思う点があった。それを坂柳に質問する。

 

「疑問も何もまずいきなり初対面の相手と突然連絡先を交換するっておかしくないか?」

 

「おかしくはありませんよ。これから私が依頼することはたくさんあります。そのために情報を集めなければならない時に一人でしなければならないとなると大変でしょう?ですのでその労働力として使っても構わないと言う話です。ですが、こき使っていいとは言ってもあんなことやこんなことをしてはいけませんよ?」

 

こちらが聞いているのにジョークを交えながら話す坂柳にペースを乱される。しかも本人は面白いおもちゃを見つけたと言う表情で笑っていた。

 

「まあ分かった。確かに坂柳の依頼は無理難題な気もするしな。だとしても突然下の名前で呼んだのは何故なんだ?」

 

「あら、司くんと呼ばれるのは嬉しくありませんか…?」

 

坂柳はわざとらしくよろけるようなそぶりを見せて上目遣いをしてくる。確実に演技をしているのだとわかるのだが、実際坂柳自身がかわいいので破壊力がある。

 

「そりゃあまあ、嬉しいが…」

 

「ふふっ、新鮮な司くんを見ることができました。女性に上目遣いで頼まれると断れない…と。女性に頼まれると断りきれないのでしょうか?」

 

「こらこらメモを取らない」

 

しれっとメモを取っている坂柳を止める。どうも坂柳と話していると調子が狂う。そんな俺の様子を見て神室は同情する目を向けていた。

 

「気を取り直しまして、連絡先を交換してくださいね。」

 

「脱線させたのは坂柳の方だろが…」

 

坂柳が言うと神室と橋下が俺のそばに寄ってきて携帯を出す。俺も交換しておく方が得かと考えて交換をしておく。

 

「交換してもらえましたね。これからは二人のことも使ってもらって構いませんからね。私のことも楽しませてくださいね。ああ、ただし、私からの依頼の方が二人は優先事項なのでそこは覚えておいてくださいね?」

 

「言われなくても基本使わないで済むようにするさ」

 

「それはそれは。楽しみにしていますね。それでは今回はここら辺で終わりとしましょう。本日は来てくださってありがとうございました」

 

そう言って坂柳は杖を持って立ち上がる。それに合わせて坂柳の荷物を橋下が持つ。本当にお付きの人のようだ。神室は教室を戸締りする準備をする。教室は最後まで残っていた人が戸締りをするというルールがこの学校にはあるからだ。

 

神室が準備を整えて鍵を取ったため、俺も席を立って戻し、帰るため教室のドアをくぐる。すると出たところで坂柳が待っていた。

 

「司くん、これからは私のことは有栖と下の名前で呼んでくださいね。私だけ名前で呼ぶというのも面白くありませんので」

 

最後の最後で爆弾を持ってきた。しかもこの様子呼ばないと返してくれそうになさそうだ。

 

「坂柳じゃダメなのか?」

 

「ダメですね。私は司くんと下の名前で呼んでいるので不公平です」

 

いや、坂柳は勝手に呼び始めたのだが…

 

「勝手にではありませんよ。こうして協力関係になったので呼ばせていただいているのです」

 

「ナチュラルに心読むのやめてもらえない?」

 

「ふふふっ、今司くんが考えていることが手に取るように分かりますので。ですが私のことを有栖と呼んでくださったら大丈夫な話ですよ?」

 

明らかに俺がただただしているのを見て笑っているな。けれども実際問題女子を下の名前で呼ぶのはちょっとあれだな…

 

「呼んでくださらないならこちらにも手はありますよ。それでは私のことを有栖と呼んでください。これは私からの依頼です」

 

「それを言われちゃったら呼ぶしかないじゃないか…」

 

「それが目的ですので」

 

「ずるい女性だこと。……じゃあな有栖。また今度な」

 

恥ずかしかったが呼ばないといけなかったので名前で呼ぶ。名前で呼ぶのはやはり恥ずかしいもので呼んだらすぐに坂柳に背を向けて帰って行った。

 

一方、名前で呼ばれた坂柳は近くにいた神室曰く、普段にはないほどご機嫌だったらしい。




この小説書いていると、坂柳が自由に動くんですよね。今回の内容もほぼ坂柳が勝手に動いて作られました。対してひよりが梃子でも動いてくれないです…早くひよりも書きたいのですが…


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対策

みなさんが多く読んでくださったことでなんと、この小説日間ランキング23位になることが出来ました!
多くの方に読んでもらえたこと、とても感謝しています。これからも頑張りますので是非読んでいってください!

そして多くのお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます!


5月も第2週となり、クラスポイントを失ってしまったためにプライベートポイントを一切獲得できなかったDクラスの生徒たちは授業態度を改めていた。以前は私語をし、携帯をいじり、授業中に居眠りをする。これらが至極当たり前のようにまかり通っていたが、今では須藤を除き全てのクラスメートたちがまじめに授業を受けていた。とは言ってもこれが学校教育とはしては当然の話なのだからこの程度で良くなったとは言えないのだが、以前までのDクラスの惨状を見ていた人からすれば、確実に前進はしていると言うだろう。しかしながら、須藤だけは一向に授業態度を改めようとしていなかったため、クラスメートたちから煙たがれていた。

 

「たうわ!?」

 

そんな緊張した雰囲気を醸し出しているクラスルーム内に綾小路の謎の奇声が響き渡った。ポイントが0になってしまったため、減点対象になるような行為に敏感になっているクラスメートたちが綾小路に対して鋭い視線を送っている。

この授業の担当教員である茶柱先生は気にしている様子を示さなかったが、これを減点行為ではないと判定しているかは分からない。そんな中でした行為であったためクラスメートたちは再び減点されないかと怖そうにしていた。

桐生はそんな視線に晒されている綾小路のことを見てみる。すると綾小路を挟んで反対側の住人、堀北がコンパスを持っていたことに気がついた。綾小路が謎の奇声をあげた原因が分かったが、堀北がした凄まじい行為に内心恐れていた。自分が隣じゃなくて良かった…と。実は桐生も少し眠気が来ていたのだ。昨日の晩に図書館で借りた、ウイリアム・アイリッシュ著の『幻の女』を夜更かしして見ていたからだ。寝たら気持ちいいんだろうな…、そんなことを考えていたところであったため、もしも綾小路と席が逆であったなら、あれを受けていたのは自分であったと考えると恐ろしくて眠気も吹き飛んだのだった。

 

ところで、未だに桐生たちはポイントをプラスにする術を見つけれていない。マイナスにしない方法こそ分かれど、プラスに転じるにはどうするのか?それを放課後にクラスの中心メンバーで話し合ってはみたが、成果は得られなかった。その話し合いの結果、取り敢えずは授業は真面目に聞く、遅刻はしない、などを徹底するほかなかった。この意見に対して殆どのクラスメートたちは賛成を示し、現に授業を真面目に受けている。しかし唯一須藤だけはその傲慢な態度を変えることはなかった。その様子から生活態度を改善するつもりはないらしい。しかし、この数日は遅刻をせずに来ている。それだけでもまだいい方なのかもしれない。それでもクラスメイトから後ろ指を指されるということは変わらないが…

 

 

「みんな!先生の言っていた中間テストが近づいてる。赤点を取れば、即退学だということは全員理解していると思う。そこでなんだけど、参加者を募って勉強会を開こうと思うんだ」

 

午前中の授業が終わり、昼休みに入ると平田が教壇に立ってみんなに話し合いの結果を報告する。桐生は日によって参加したりしなかったりをしている。今回の話は聞いていた。

 

「テストで赤点を取って退学してしまう事だけは避けたい。それだけでなく勉強してクラス全体で高得点を取ればポイントの査定だってよくなると思うんだ。だから小テストの点数が良かった数人で、テスト対策に向けて用意をしてみたんだ。だから、不安のある人は僕たちの勉強会に参加してほしい。もちろん誰あっても歓迎するよ」

 

桐生も問題作成に関わっている。というよりも大半を桐生が作ったのだ。このクラスの成績トップ層はおよそ五人いる。今回作成に関わったのはその中でも桐生と平田の2名だ。他三人は話し合いに参加しないメンツであるため、主に桐生が担当することになったのだ。

平田が皆に語りかけるようで実のところ平田の視線は須藤の方向を一点に見つめていた。最後の誰でも歓迎するという文言は、実のところ須藤に宛てたものだったのだろう。しかしながらその考えは須藤には届くことなく舌打ちをして須藤は目を閉じてしまった。

 

これ以上はどうしようもないと思った平田は須藤から視線を外し勉強会の概要を説明する。平田の説明を聞き、赤点組が平田の元へ向かうが、須藤、池、山内の問題児三人衆が向かう事は無かった。平田の事を良く思っていない三人だから仕方がないと桐生は思っていた。

 

 

平田の説明も終わり本格的に昼休みになった。今日は椎名と食堂で食べる約束をしているため、食堂に行く準備をしていると、綾小路と堀北が一緒に外へと向かっていったのだ。この二人は各々一人ずつで、食べていることが多いので珍しい。綾小路とは週1ほど一緒に食べるが、それ以外の人と食べていることは見かけないので珍しいと思ったが、ただでさえ待たせているのに、これ以上椎名を待たせると迷惑だと思って桐生も教室から出て行った。

 

 

 

 

「桐生くんが遅れるなんて珍しいですね。授業が長くなってしまったのでしょうか?」

 

Cクラスの前で椎名と合流する。いつものように待っていたが、やはり少し待ちわびていたようだった。

 

「ごめん、遅れた。クラスで話し合いがあったから遅れたんだ。食堂に着いたら詳しく話すよ。とりあえず席を取りに行こう。」

 

食堂は昼時になると人がとても多くなるため、早めに席は取っておかなければ座れなくなってしまう。すでに桐生は椎名を待たせてしまってるのに、席が取れなくて食べれなかったなんてなったら申し訳ないと思っていた。

 

「そうですね。では行きましょう」

 

椎名とその考えに賛同したため、少し急ぎ目に二人は食堂に向かって歩いて行った。

 

 

「なんとか席を取ることができたな」

 

桐生と椎名が食堂に着いた時、すでに多くの生徒たちが席に座っていたため、席がないかと思われたが、食堂の端の方に二席空いていたためなんとか座ることができたのだった。

 

「座ることができたので良かったです。それでどうして遅れたのですか?」

 

椎名が持ってきたコンビニの袋からおにぎりを取り出して食べる。椎名は料理が得意ではないため、作ることは出来ないため毎日コンビニで買って生活をしているらしい。

 

「ああ、その話ね。それはこれから始まる中間テストに向けてテスト勉強をしないか、という話をしていたんだ。ほら、うちのクラス勉強できない人たちの集まりらしいし…」

 

対して桐生は持参した弁当を開けながら返事をする。持参した弁当といえば見えはいいが、実際のところ夜に余ったカレーなどを詰めてきているため、弁当のために何かを作ったというわけではなかった。たまに作ったりもするが、なるべくポイントを抑えるため、安めにすむ夜ご飯の残りを使っていた。

 

「そうですか。たしかに赤点を取りますと退学になると言われていますから仕方ないですね。私たちCクラスではそんな話出ていません」

 

どうやらCクラスでは勉強をするという話は出ていないらしい。それよりもCクラスについてあまり情報が入ってこないため、分からない。

 

「そうなのか。Cクラスは大丈夫そうなのか?」

 

「分かりません。自分は自分の勉強をするといった方針をしているのであまり他人の勉強事情について分かりません。そちらの卵焼き美味しそうですね」

 

あまり興味がなさそうに椎名は答える。普段から感情が表情に出ない椎名の感情を読み取るのは難しいが、今回もイマイチ何を思っているのか桐生には分からなかった。

 

「卵焼き食べる?俺カレーだけで結構お腹いっぱいだしいるならあげるよ?」

 

「本当ですか。ではお言葉に甘えさせていただきますね」

 

椎名は食堂の箸を使って卵焼きを食べる。よく咀嚼をしてから呑み込み、その感想を述べる。

 

「この卵焼きとても美味しいですね。卵焼きはシンプルですので料理する人の腕前がはっきりと出ると聞きます。そして桐生くんの卵焼きは美味しいですので桐生くんは料理が得意なんですね」

 

「いやいや、そんなことはないさ。というかそんなに褒めても何も出ないよ。」

 

「いえ、心から思ったことを話したまでですよ。もう一つ頂いてもよろしいですか?」

 

「ああ、構わないよ。そんなに気に入ったならこれからも作ってこようか?」

 

「本当ですか?作ってもらえるなら嬉しいですが、迷惑ではありませんか?」

 

「いや、そんなことはないさ。自分が作ったものをそんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があるというものだよ」

 

「それではお願いします。これからも食べてみたいです」

 

「分かったよ」

 

椎名は美味しそうに卵焼きを食べている。普段の彼女からすれば珍しいほど顔に表情が出ていた。そんな様子を見ていたので桐生も満足そうであった。

 

「ところで話は変わるけど、ウイリアム・アイリッシュの『幻の女』を昨日読んだよ。ストーリーに引き込まれて寝るのも忘れて読んでた」

 

椎名は普段から感情が表情に出にくいことは先ほども述べたが、その他のことで椎名に分かりやすい感情が表情に宿る瞬間がある。

 

「本当ですか!?やはりミステリーの素晴らしさを感じられる一冊でしたよね?」

 

「あ、ああ。前半は一般人を使った捜査に疑問を浮かべたが、最後まで見てみるとバージェス刑事の手腕の素晴らしさに脱帽したよ」

 

「はい。存在しないとされる幻の女を追う追跡劇にハラハラしながら読み、途中で読むのをやめられなくなってしまうあの書き方の素晴らしさがたまりません!さらに冒頭のセリフ『夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。』この冒頭がやはり素晴らしいですよね?」

 

このように椎名は大好きなミステリーの話となると、人が変わったように話し、先ほどまでの人形のような一つしかない表情に多種多様な表情が宿る。そのギャップを桐生は見ていて楽しかった。

 

(ああ、これはスイッチ入ったな。)

 

その後昼休みが終わる直前まで椎名と『幻の女』について話すこととなった。

 

 

 

放課後となり、みんなが勉強会に参加するため、移動をしている中、隣から鋭い声が聞こえてきた。

「使えない」

 

「今聞こえたぞ、何て言った?」

 

「使えない、って言ったの。まさかそれで終わりなんて言わないわよね?」

 

何の話だろうか?と気になったので話しかけてみる。

 

「二人とも何の話?喧嘩してんの?」

 

「桐生…いや、実はな……」

 

綾小路がことの発端を説明する。堀北が洋介の勉強会からあぶれた三人衆に勉強を教えるべく、もう一つの勉強会を開こうとしているらしい。その三人衆を集めるため綾小路君がその役割をすることになったらしいが、三人衆は一切応じることなく綾小路は玉砕。まあ、確かにあの三人衆を勉強に誘っても応じないだろうな。それこそ櫛田などが誘わない限り。簡単に説明を終えた綾小路に堀北が再び質問をする。

 

「それで?これで終わりなの?」

 

堀北の辛辣な言葉が綾小路に突き刺さる。普段の綾小路なら心が折れていただろうが今日は挫けずジョークをかます。

 

「そんなわけないだろ。まだオレには四百二十五の手が残されてる」

 

「それだけ残っているなら早く実践しようか」

 

綾小路君は席に腰かけて、何やら考え出す。やっぱり考えはなかったらしくこまっているようだった。その間に堀北に開催することにした理由を聞いてみる。

 

「どうしてまた堀北が勉強会を開こうなんて思ったんだ?堀北はそんなことを思いそうにないが…」

 

「別にどうもしないわ。私の為に必要と判断しただけよ」

 

「自分のため…か。それは支給されるクラスポイントを上げたいって事のためか?それとも…クラスを上げたいからか?」

 

「そうね。ポイントの支給はどうでもいいのだけど、クラスポイントを上げる為ではあるわね。私はAクラスを目指している。そのためなら興味がないこともするわ。」

 

堀北はすぐに答える。その口調から本心であろう。

 

「閃いた!」

目を伏せ考え込んでいた綾小路君がその目を開けて、突然喋る。突然のことに俺も堀北も体をビクッとする。

 

「突然喋り出すのはやめてくれ。びっくりした。それで何が思いついたんだ?」

 

「おっと、すまなかった。ところで堀北、お前が勉強を教える以外に別の力がいる。協力してくれ」

 

「別の力? 一応聞いてあげるけど、何をすればいいの?」

 

「例えば…こういうのはどうだ? もし次のテストで満点を取ったら、堀北を彼女に出来るとか。そうすれば間違いなくあいつらは食いつくぞ。男の原動力はいつだって女の子だ」

 

「死にたいの?」

 

今朝、コンパスを綾小路に向けていた時の鋭い視線が綾小路を刺す。あまりの雰囲気に綾小路がビビる。現に俺もビビっている。

 

「いいえ、生きていたいです」

 

綾小路はすぐに訂正をして謝る。あまりの対応の早さに驚いた。多分俺が綾小路の立場だったなら俺もこうしていただろう。それくらいに堀北の視線はきつかった。

 

「綾小路、確かに着眼点は悪くない。あの三人衆のことだ。そういうことになれば死に物狂いで勉強をしそうだ。だがしかし、彼女になるってのは堀北にとって負担が重すぎる」

 

「その通りよ」

 

「だから、キスをしてあげる、などの優しい条件にしたらどうだ?あいつらはそれだけでも喜んで飛びつきそうなものだが」

 

「はぁ?」

 

桐生の続けた言葉に堀北の表情が一段と険しくなる。

 

「キスと言っても口にする必要はない。別に口にするなんて一言も言っていないから頬にキスするだけでもいいからな」

 

「なるほど。その手があったか。それでいこう。どうだ?」

 

「あなたたち死にたいの?」

 

雰囲気だけで殺されそうな威圧感に襲われた。先ほどよりも増した鋭く射るような視線と、あまりの剣幕に綾小路と共にすぐに謝る。

 

「「生きていたいです」」

 

冗談で乗ってみたが、案外効果はあるんじゃないかと思う。まあ、尤も堀北がそれを了承する可能性はあるわけがないだろうが。

 

「はぁ。早く何とかしなさいよ」

 

そう言って、堀北が席を立つ。堀北はどこへ行くのだろうか。堀北はこのあと行われるテスト勉強には参加しないだろうし、興味すらなさそうだ。

そんなことを考えていると綾小路がデリカシーのかけらも感じさせない発言をする。

 

「どっかいくのか?トイレか?」

 

デリカシーのない発言に手刀で返した堀北は教室を出て行った。クリティカルヒットをしたようで綾小路は悶絶している。流石に今の発言は綾小路が悪かったが、一応心配しておく。しばらくすると綾小路の容体が落ち着いた。綾小路は呼吸を整えると真剣な話を始めた。

 

「三人を誘う方法だけど、桐生は気付いているんだろ?」

 

「…俺は何も気づいていないが?」

 

「またまた、嘘をついて。もう一度聞くけど知ってるんだよな?」

 

意外と綾小路は観察眼がいいらしい。一切語っていなかったのにもかかわらず俺が気づいていることに気づいた。綾小路は侮れないやつだな。

 

「…ああ、可能性があるとすれば櫛田しかないだろう」

 

そう言って、その人物へ視線を向ける。それと共に綾小路も視線を向ける。二人の視線に視線を向けられている矛先、そこにはクラスメイトと楽しそうに喋っている櫛田の姿があった。

 

「その言い分なら綾小路も気づいていただろう?それにもかかわらず、何で堀北にはそのことを言わなかったんだ?」

 

「あー…それはだな…以前に櫛田に頼まれて友達にしようとして相当怒らせてしまったんだ。あのときの堀北も怖かった。何よりも赤点を取ってない櫛田を勉強会に呼ぶのは違うと櫛田が関わることを堀北はまず認めてくれないだろうな」

 

そんなことがあったのか。その友達にしようとしたことが一体どういうものなのか分からないが、堀北はそれを拒否したから出来なかったのはしょうがないな。というか綾小路からも俺と同じ苦労人の予感がすごいする。

 

「堀北が拒否しているにしろ、櫛田にしか三人衆を集めてもらう以外には無理だろうな」

 

「そうなんだよな……仕方がないか。今から俺が櫛田に頼んでみよう。ちょっと行ってくる」

 

「それがいいと俺も思う。三人衆が堀北主導の勉強会に参加すればありがたいからな」

 

そのまま綾小路は櫛田の元へと向かっていった。桐生も他人を気にしていて自分の成績が下がれば本末転倒で、自分も退学になってしまったら意味がない。

桐生も自分の勉強をするために図書館へと移動をしていった。

 



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目撃

通算UA30000突破、お気に入り500件ありがとうございます!引き続き頑張っていきます!


「よし、今日も時間だし帰るか」

 

この日も桐生は図書館での勉強を終え、荷物をまとめていた。最近はテストが近づきつつあるため図書館で勉強する人も少なくない。そのため席の確保が大変になっているが、桐生はホームルームが終わると直行しているため問題なかった。

桐生は坂柳と情報交換(ほぼ個人的な呼び出し)のない日は基本図書館へとやってきてその日の授業の復習や課題を済ませてしまってから自宅へと帰るといった生活をしていた。そうすれば家で勉強する量を減らし、その時間を読書の時間に充てられるからだった。因みにその際、一緒に椎名とすることがあるが、今日椎名は茶道部に行くため来ていなかった。当初椎名が茶道部に所属していると聞いた時には驚いたものだが、私はお茶が好きなので入っただけですよ、と言われたのだった。

話を戻すと、桐生は普段は閉館時間よりも早く終わらせているのだが、今回は課題が多く出ていたので終わらせるのに手間取り、閉館時間ギリギリになってしまったのだった。

 

 

そういえば教室に椎名から借りてた本忘れてたな。いくら無期限で貸してくれているとはいっても早めに返さないといけないな。ちょっと手間がかかるけど教室に取りに帰るか。

椎名はミステリーを読むのが好きなため、よく桐生にも本を貸してくれる。しかし、一冊借りて、二日ほど経つとこれもオススメですよ、と新しい本を紹介してくるのだ。最初は断っていたが、そうですか…と普段感情を出さない椎名が少し悲しげな表情を見せるのが、申し訳なく感じてしまうため、借りて二日ほどで読んで再び借りて…の繰り返しをしていた。

 

 

そのため、教室に取りに帰ることを決めた桐生は、まず最初に職員室に向かった。教室を施錠する鍵は職員室に管理されているからだ。流石にもう6時を回っているため教室に残っている人物はいないと思ったからだった。

しかしながら、いざ職員室に向かってみるとそこに1年Dクラスの鍵は返却されていなかった。それによりまだ教室に誰かがいることを示していたが、桐生と同じく忘れ物をした人がいたのだろうと考えてDクラスへと向かった。

 

もう5月とはいえ夜ならば未だ寒い。今日は一段と冷えた一日であり、防寒具が欲しく感じるほどであった。流石にそんな寒い空間に長時間いたいわけではないので桐生は駆け足でDクラスへと向かっていた。

そうしているとDクラスが見えてきた。部屋には明かりがついていなかったが、誰もが職員室からの最短ルートを通るだろうし、すれ違いもなかったため、鍵が開いているのだろうと判断した。いざ、桐生が扉に手をかけた瞬間、中から声が聞こえてきた。

 

「今ここで、あんたにレイプされそうになったって言いふらしてやる」

 

あまりに衝撃的な発言をしていたため、とっさに桐生は気配を消して中の会話を聞く。『レイプされそうになった』その発言から今この中には男女が一人づつ教室にいることになる。さらにその言葉から女子生徒が男子生徒を脅迫しているのだろう。そしてその脅迫をしている女子生徒というのは…

 

明るく全校生徒全員と友達になりたいと初日の自己紹介で語っていた女子生徒、櫛田桔梗であった。その言葉遣い、殺気のような気配は普段の彼女を知っている人ならばそんなはずがないと否定するほど普段の彼女の様子とかけ離れていた。普段は明るく快活で言葉遣いも優しいが、今の彼女の話し方は普段と真逆の冷たく威圧するようで言葉遣いもきたなかった。

 

「普段のお前と今のお前、どっちが櫛田桔梗なんだ?」

 

脅されている男子生徒が質問する。その話し方や声で脅されているのは綾小路であると分かった。一体綾小路が櫛田に何をしたのか、そこがとても気になっていった。

 

「…そんなこと。あんたには関係ない。余計な詮索をするな」

 

「そうだな……。ただ、今のお前を見てどうしても気になった。堀北のことが嫌いなら自分から関わる必要ないだろ」

 

嫌いな人間に協力するというのはあまりできないことだ。人間誰しも、あの人苦手、という人は必ず存在する。たとえどれだけコミュニケーション能力が高くても必ずだ。それなのにしていたというのは些か疑問だ。確かに桐生も聞いてみたかった。

 

「誰からも好かれるように努力することが悪いこと?それがどれだけ難しくて大変なことか、あんたに分かる?分かるわけないよね?」

 

確かに難しい話だろう。先ほども述べたが相性の悪い相手は必ずいる。そうなると誰かも好かれるというのは不可能に近いことだ。だからこそ、全員と仲良くするという考えはとうてい桐生には理解できなかった。

 

「たとえそれがストレスを抱えるとしてでもか?」

 

「そうよ。それか私の望む生き方。自分の存在意義を実感出来るから」

 

櫛田は一切迷うことなく答えた。それか櫛田なりの考えなのだろう。

 

「この際だから言っておくけど、あんたみたいな地味で根暗な男、すごく嫌い」

 

鋭い言葉が綾小路にストレートに撃ち込まれる。普段の彼らな落ち込んでいただろう。しかし、綾小路は気にすることなく流していた。

 

「…これはオレの勘だけど、お前堀北と知り合いなんじゃないのか?この学校以前の」

 

少し櫛田が黙ってから答える。

 

「……なにそれ…意味わかんない。堀北さんが私のことを何か言ってた?」

 

「いや、櫛田と同じで初対面ぽい印象は受けている。でも、少しおかしいとも思っている」

 

「…おかしい……?」

 

「まだ入学して間もないオレのことを、自己紹介の時に名前を覚えてくれたと言っていたな。だったらお前はいつ、どこで堀北の名前を知ったんだ?あの時、あいつは自己紹介に参加していない。もし知っているとするならば須藤くらいだが、あの時のお前はまだ須藤との接点はなかったはずだ」

 

とても鋭い観察眼を綾小路は持っていたようだ。確かにあの時堀北は自己紹介の場にはいなかった。興味ないと言ってすぐに帰っていってしまったからだ。この学校では名前をわざわざ学校がまとめたものなど送らない。自ら話したりすること以外で互いの名前を知れることはない。それにも関わらず知っていた堀北の名前。これは説得力が強い。

 

「もういい、黙って。これ以上綾小路くんと話しているとイライラするから。私が言いたいのは一つだけ。今ここで知ったことを黙っていられるかどうか」

 

口を閉ざすようだ。しかし、無言は肯定になる。どこかしらで櫛田は堀北の名前を知っていたのだろう。本人が口を閉ざしている中、真実は闇の中だが…

 

「言いふらしたりはしない。もしオレがお前のことを話しても誰も信じないだろうが。だろ?」

 

確かにクラスで地味な綾小路があれこれ言ってもクラスでも特に人気の櫛田がそんな顔を持っているなんて思いもしないだろう。綾小路の虚言を疑われるくらいだ。

 

「……わかった。綾小路くんを信じる」

 

「オレを信じられる要素なんてあるか?」

 

「堀北さんって変わっているでしょう?そんな堀北さんが綾小路くんだけは心を許している。」

 

「ちょっと待て、心を絶対許していない。絶対にだ」

 

「……そうかも。でも堀北さんが誰よりも綾小路くんに頼んでいることは多いかな。あれだけ警戒心が強い堀北さんが心を許しているのだから。そして私は同学年の誰よりも多くの人と接点を持ってきたと自負している。そして多くのくだらない人間や優しい人間を見てきた」

 

「…誰よりも人間を見ているから人を見る目は正しいと?」

 

「別に不思議なことはじゃないよ。だって綾小路くんは他人に対して興味ないでしょ?それなら無駄に言いふらしたりはしない」

 

櫛田も多くの人とコミュニケーションを取っているだけあって観察眼がいいらしい。Dクラスの面々はそういった人が多いな。もしかしてDクラスは欠陥があるが素材は一級品を集めたクラスなのかもしれない。その言い方だと自分の力も過信しているようだが、決してないことをここで言っておくが。

 

そんなことを考えていたら最中、次に耳に入ってきた言葉に再び桐生は驚かされることになる。

 

「でもね、綾小路くん。綾小路くんよりもうざい人が一人いるんだ」

 

「一応聞いてやるが誰なんだ?」

 

「桐生くんだよ」

 

また一段と声が低く威圧する声に変わった。先ほどの堀北のことを蔑んでいた時の声になる。

 

「……それはまたなんで?」

 

「あいつは確実に私の裏のことを知っている。最初の時もそうだったし、プールの時もだった。プールの時に私のことを綾小路くんも含めて殆どの男子は私のことを見ていたのにあいつは私のことを見ていなかった。ここまでならそういった欲がないのかと思った」

 

「違うのか?」

 

「あいつは露骨なほど私が話しかけにいくのを拒否する。これほどまでに私から距離を置く男子なんていなかった。だからあいつは私のことを絶対に警戒している」

 

どうやらあちらも相当俺のことを毛嫌いしているらしい。堀北ですらあいつとは言わなかったが、俺のことはあいつと呼んでいる。そこからも嫌われていることが分かった。別に櫛田にいくら嫌われていても気にしないが。

 

「それにあいつは私がまだ会うことも出来ていない坂柳と仲がいい。なんであんな奴にできて私が出来ないの!?あいつは私の存在価値を否定してくる!しかも坂柳ってやつも私のことを弄ぶようにのらりくらりと躱してる。本当にあいつも坂柳ってやつもうざい!」

 

また有栖が関わっていた…。有栖のことだから櫛田と接触するのを避けて、会えないところをクスクスと笑っているのだろう。その姿が容易に想像できる。自分にも理由はあるが有栖が原因というのはあるのだろう。このこと有栖に言ってもふふふっと笑って流されそうだし。訳あって有栖と同盟組んだけどこの三年間でどれだけ俺のことを振り回すのか…

 

これから密接に関わっていくことになる少女に振り回される様子を想像して頭が痛くなってきていると、中は話がついたらしく、教室から出てくるらしい。

もしも櫛田に見つかるとそれこそ大変なことになると思ったため、すぐに物音を立てないようにDクラスのドアを出て死角になる場所に身を潜める。

 

桐生が隠れた瞬間、ドアがガラリと開き、中から櫛田が出てくる。その様子は先ほどまで心の闇を見せていたということを一切感じさせない、普段の櫛田桔梗であった。

しかし少し待ったが一向に綾小路が教室から出てこない。早く出てきてくれないと借りた本を取って帰れないため、少し焦る。

 

「教室の死角にいるのは分かっているぞ、桐生」

 

不意に俺を綾小路が呼ぶ。あれだけ気配を消して動いていたのに綾小路は気づいていたのか、と桐生は驚いたがここで黙っていても何も進展しないので大人しく教室へと入る。

 

「やはりいたのか」

 

「いつから俺のことに気づいていた?」

 

「いつからといえば櫛田と話し始めてすぐだな。誰かの気配がしたが、正直言って今まで桐生だという確信はなかった。けど、気配の消し方が並ではないなって思ったから桐生だと思っただけだ」

 

「そこで俺だと思った理由は?」

 

「お前はスペックが高い。それこそ俺とは比べ物にはならないほどな。それが理由だが、他にはこの時間に教室に来そうにないというのが理由だ。さっき桐生が図書館で勉強していたのを見たからな」

 

よく見てたな…。普段俺が図書館で勉強する時には人目のつきにくい端のテーブルを使うのだが、それを見ていたということになる。やはり綾小路には注意をしておく必要がある。俺よりスペックが低いと言っているが、ほぼ確実に俺よりスペックが高い。敵対するとロクなことはないな。運良く綾小路は有栖とは違い事なかれ主義をしている。綾小路と敵対することをしなければ害はないだろう。

 

「よく見られていることで」

 

「事なかれ主義をしていると周りのことが気になるものでな…。それでさっきまでそこにいたのなら櫛田の発言も聞いていたんだよな?」

 

「ああ。聞いたよ。まあ、櫛田が俺を嫌っていても関係ない話だ。もしも俺と対立するなら容赦はしないがな」

 

「そうならないことを切に願ってるよ」

 

綾小路も目的は終わっていたらしく、桐生も目当ての本を取って帰路についた。しかし、綾小路から滲み出る不気味さが桐生は気になって仕方がなかった。




ひよりのことを椎名と書くの違和感ありますね。早く下の名前が呼べるところまで進展させたいです


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論争

なんと日間ランキング6位に入っていました。これもみなさんが読んでくださるからです。ありがとうございます!

それと連絡なのですが、本日より作者テスト期間に入りますので少し投稿頻度が二週間程度遅れます。申し訳ございません。遅れるとは言っても週1は出すと思いますので少々お待ちください。


テスト前一週間となり本格的にテスト勉強をしだす人が増えてきた。誰も彼もまじめに授業を受け、必死にノートを取る。それだけなら普通の高校とさして変わらない。しかしこの高度教育高等学校においてテストというものは大切なものであった。それは自らの退学をかけたものとなるからだ。赤点=即退学。その事実があるため、生徒たちは必死に勉強していた。そしてそれは放課後でもそうであった。

 

今日も図書館で勉強している桐生はいつになく問題に苦戦していた。普通の教科書の例題、演習問題程度であればさして問題なく解くことができていたが、今現在図書館で見つけた応用問題を解いていた。かれこれ考え始めて30分、すでに桐生に考えられる手は尽くした。これ以上どのように手を打てばいいのか分からず、完全に詰んだ状況になっていた。

 

「あーダメだ。分からないや。椎名は分かった?」

 

桐生の隣で椎名も同じように問題を解いていた。桐生に聞かれたことにより、動かしていたペンを止めて答える。

 

「一応この考え方で解いてみているのですけど、ここから先がうまくいかないです」

 

椎名も答えが分からず詰まっているようだった。

 

「ちょっと見せてもらってもいいか?……なるほど、こんな考え方は思いつかなかったな。だとしたらここをこう変形してみたら出来るんじゃないか?」

 

「えっと…ちょっと解いてみますね。………あっ確かにここを桐生くんが言う通りに変形することで解けました。ありがとうございます。」

 

「いや、俺も椎名の最初の解き方を見なければ思いつかなかった。ありがとう」

 

難しい問題を解き切ることが出来た達成感でお互いリラックスモードに入る。すると二人はいつも通りミステリーの話をする。二人で難問に挑戦し、解けた後休憩も兼ねて本の話をする。そしてその日の課題をすると言うのが彼らのルーティーンだった。

 

そんなミステリーの談義は今日は、一旦中断をせざるを得ない状況になってしまった。

 

 

 

「あ?…………お前ら、ひょっとしてDクラスの生徒か?」

 

静かな図書館の中では勉強をしていて、隣の人に分からないところを聞くといった小さな声を発する人は多くいる。現に桐生と椎名もそうである。だが今言葉を発した男はわざと隣のテーブルの人物たちをおちょくるように少し大きめの声で喋った。そのことに図書館にいる大勢の人がその方向を見る。

 

「なんだお前ら。俺たちがDクラスだから何だってんだよ。文句あんのか?」

 

そしてその挑発を受けたのは堀北、綾小路たち一緒に勉強をしているグループのようだった。舐めた態度をとる男に須藤がくってかかる。

 

「いやいや、別に文句はねえよ。俺はCクラスの山脇だ。よろしくな。ただなんつーか、この学校が実力でクラス分けしててくれてよかったぜ。お前らみたいな底辺と一緒に勉強させられたらたまんねーからなぁ」

 

「なんだと!」

 

その山脇という生徒はニヤニヤと笑いながら須藤たちを見回し、馬鹿にしたように言った。須藤がくってかかったときは桐生もまだ平気だったが、そのあまりに人を馬鹿にした態度を見て桐生も少し頭にきていた。

 

「本当のことを言っただけで怒んなよ。もし校内で暴力行為なんて起こしたら、どれだけポイント査定に響くだろうな。いや、お前らには失くすポイントが無いんだっけ?って事は退学になるのかもなぁ?」

 

「上等だ、かかって来いよ!」

 

 あまりにも馬鹿にした態度の山脇に須藤君が吠える。静かな図書館にその声が響きわたる。それによって、より多くの注目を集めていた。これ以上騒ぎを大きくするとどうなるか分からないし、退学もありえるかもしれない。ここは止めに入ったほうがいいだろう、そう考えた桐生はすぐにそのテーブルの下へと移動した。

 

「須藤、落ち着け。ここでお前が騒ぎを起こせば、最悪退学だってあり得るかもしれない。須藤がここ最近勉強を必死にしていることは分かっているんだからその努力を無駄にするのは止めよう。それと、山脇と言ったな。クラス間に別にそこまでの大差があるとは思っていないと俺は考えているのだがどう考えているわけで?」

 

 俺の言葉に須藤は少しだけ落ち着きを取り戻す。しかし、そんな落ち着きを取り戻した須藤をさらに挑発しに山脇たちはかかる。

 

「C〜Aクラスなんて誤差みたいなもんだ。お前らDだけは別次元だけどなぁ」

 

「あら、随分と面白い物差しを持たれているのですね。その話、私も混ぜてくださいな」

 

横から突然の乱入者が入ってきたことに山脇たちは誰だこいつといった表情を浮かべる。実際多くの人がその少女の存在を知らなかった。

 

「C〜Aが誤差だと考えていらっしゃる理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「は?そんなの当然に決まってんだろ。ポイントを見れば一目瞭然だろ。0のやつらなんて話にもならないからな」

 

「なるほど、0ポイントというのは確かにお話になりません。しかしながら実に浅はかですね。浅学菲才すぎて欠伸も出てしまいます」

 

肯定していた内容はいつの間にか山脇たちを否定することにつながっていっていたため、山脇たちが起こる。

 

「んだとテメェ!お前も同じDクラスだろうが!ちょっと顔がかわいいからってなんでも許されると思うんじゃねえぞ!」

 

「ふふっ、そこが愚かなところだと自ら露見させているようなものです。その行為、そこの赤髪の方と何一つ変わりませんよ?」

 

責める立場から逆に責められる立場になっていることに山脇は先ほどまであった余裕が一切なくなってしまっていた。少女の返しに更にムカついたのか、山脇が机を叩き立ち上がる。それを周りのCクラスの生徒が止めていた。

 

「今度のテスト、赤点を取ったら退学って話は知ってるだろ? お前らから何人退学者が出るか楽しみだぜ」

 

「ふふふっここまでヒントを与えてるにもかかわらず、一切何一つとして気づかないなんて、本当にダメなお方ですね。そこにいる彼の方がよほど聡明でお話がしたいですね。その様子ならCクラスがDクラスに足元を掬われるのも時間の問題でしょう」

 

「く、くくっ。足元をすくわれる? 冗談はよせよ」

 

どこからその自信が出てくるのが気になる程、山脇たちはその態度の大きさをを変えない。周りの人たちはお前が誰と話しているのか知っているため恐れていると言うのに…無知とは怖いものだ。

なおも山脇たちは饒舌に熱弁する。

 

「俺たちは赤点を取らないために勉強してるんじゃねえ。より良い点数を取るために勉強してんだよ。お前らと一緒にするな。大体、お前らフランシス・ベーコンだ、とか言って喜んでるが、正気か?テスト範囲外を勉強して何になるというんだ?」

 

「「え?」」

 

綾小路と櫛田が同時に発した。俺も内心驚いていた。テスト範囲外になっている?確かに俺たちは茶柱先生に聞いた範囲の勉強をしていたはずだ。山脇が言っていることが事実だとすれば、クラスごとで範囲が違うのか?それは公平性が無いためありえない。実力で測ると謳っているこの学校でそれは無いだろう。もしかして茶柱先生が嘘を言っていた?もしくは変更があったが伝え忘れたか?

幸い俺は椎名との勉強で賄えているが…

 

そんなことを考えていると、須藤が山脇の胸倉を掴み上げ、今にも山脇を殴ろうとしていた。ここで手を出してしまえは停学…あるいは退学が確定してしまう。

急いで止めるために動こうとした俺だったが、そんな二人の間に二人の女子生徒が割って入った。

 

「はい、ストップストップ!」

 

「山脇くん、そこまでですよ」

 

「んだ、テメェらは、部外者が口出すなよ」

 

「部外者? この図書館を利用させてもらってる生徒の一人として、騒ぎを見過ごすわけにはいかないの。もし、どうしても暴力沙汰を起こしたいなら、外でやってもらえる?」

 

「いえ、図書館を利用させていただいておりますのに大きな声を出し、至福のときを邪魔されたのです。部外者ではありません。図書館は騒ぎを起こす場所ではありません」

 

 須藤のすごみにも全く動じず、淡々と正論を言う二人に須藤もたじろき、手を放す。そして今度は山脇に向かって話し出す。

 

「それから君たちも、挑発が過ぎるんじゃないかな? これ以上続けるなら、学校側にこのことを報告しなきゃいけないけど、それでもいいのかな?」

 

「山脇くん、図書館で騒ぎを起こすとは何事ですか。私が争いを嫌う上に図書館で騒ぎを起こすのを嫌っているのを知っていますよね?」

 

「わ、悪い。そんなつもりはなかつまたんだよ」

 

椎名ともう一人の言葉を受け、山脇を筆頭にCクラスの生徒がこの場を去っていった。

 

「ごめんなさい、桐生くん。私は彼らに言わなければいけないことがありますので今日は帰らせてもらいたいのです。申し訳ないですけどよろしいですか?」

 

「ああ。大丈夫だよ。俺もあいつには言いたいことがあるから同じことを言おうと思っていたんだ」

 

山脇を完全に圧倒していた少女はすでにいなくなっていた。だが、桐生にはどこに向かっているのか分かっていた。

 

「分かりました。私のクラスの方が桐生くん、ひいてはDクラスのみなさんに多くの迷惑をかけてしまいました。Cクラスを代表して謝らせてもらいます。すみませんでした」

 

謝ることなく去っていった山脇たちに代わって椎名が謝る。突然の謝罪に綾小路、櫛田などは驚いているが、須藤はそんな椎名に詰め寄る。

 

「お前のところのやつがしっかりしてないからこうなったんだろうが!」

 

鋭い剣幕で椎名に詰め寄っていく。それこそ椎名の胸ぐらをつかもうとする勢いで椎名に向かって突き進んでいく。

 

「須藤くん!」

 

須藤を冷静にさせようと櫛田が名前を呼ぶが、頭に血が上った須藤は届いていない。本当に手を挙げてしまうのではないかとみんなが不安になり始めていた。体が華奢な椎名は須藤に詰め寄られたら危ない。

桐生はすぐに須藤と椎名の間に入り言う。

 

「おい、須藤。お前、椎名が今回の騒動と何も関係ないのを分かって今の行動をしようとしてるんだろうな?」

 

「うるせえ!大体Cクラスの奴らをしっかりできていないこいつが悪いんだろうが!」

 

もう我慢できない。この短絡な頭してるこいつをどうにかしないといけない。

 

「よく言えたもんだな。だが椎名に怪我を負わせるのは許さない。本当に椎名に怪我をさせるつもりなら表出ろ。他のやつに迷惑かけたくない」

 

「やってやろうじゃねぇか!表出ろや!」

 

「はいはい、そこまでだって言ったはずだよ。須藤くんも君もエキサイトしすぎだよ。一旦落ち着いてね」

 

もう一人の女子生徒が俺たちの仲裁をする。女子生徒に言われて気づいた。どうやら自分も熱くなってしまっていたらしい。反省しなければならないな…

 

「んだとテメェ!お前からやってやろうか!」

 

未だ須藤は怒りが収まらずイライラしていた。対照的に、桐生は冷静さを取り戻していた。

 

「これだけ言っても理解してもらえないなら先生に言うしかなくなっちゃうかな。言いたくはないんだけどね。君は理解してもらえるかな?」

 

「ああ。熱くなりすぎていた。先ほどまで注意していた立場の俺が注意される立場になってしまっていた。申し訳ない」

 

「うんうん。分かってもらえたならいいよ。それできみは?これでも暴力に訴える?」

 

「……ちっ」

 

須藤もなんとか怒り狂った感情を押し殺した。それによりこの揉め事は解決することができた。

 

「ありがとう。キミがいなければ解決することができなかった」

 

「いやいや、大変そうだったから助けただけだよ。キミの気持ちもわかるけど気をつけてね」

 

「分かったよ。それじゃあ俺ももう行く。それと俺は桐生司。よろしく」

 

「私は一之瀬帆波。Bクラスだよ!よろしくね!」

 

そう言って俺、椎名、一之瀬の三人は各々の目的の場所へと移動していった。




山脇を論破した少女って誰なんだろうなー(棒読み)


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狼煙の上がる時

作者が寝ぼけて消してしまったので再掲です。このようなミスをしないように気をつけます。申し訳ございません。

ここ最近評価があまりよろしくないのでここ最近実力不足を感じています。もっと良い評価を得られるように頑張っていきたいです。
通算UA40000件突破ありがとうございます!


須藤とCクラスがもめた後、桐生は山脇を論破した少女を追って寮への帰り道にやってきていた。桐生の見立てではそんなに遠くまで行ってはいないだろう、そう考えていた。

走って追いかけていると。案の定その少女は近くにいた。桐生は少女の近くへ走りながら声をかける。

 

「坂柳、少し待ってくれ」

 

呼びかけるが坂柳は待ってくれない。聞こえなかったのかと再び呼びかけるが、それでも待ってくれない。

 

「私の呼びかけるにはその呼び方では駄目ですね。本当にその呼び方でよろしいのですか?」

 

あくまでも独り言のように話す。坂柳は桐生が有栖と下の名前で呼ばないと振り返ってはくれないらしい。しかし桐生は躊躇していた。まだ夕方である以上、周りにも多くの生徒たちが寮に向かって帰っている。そんな周りに多くの人がいる中で女子のことを下の名前で呼ぶことに恥ずかしさを感じていたのだった。

 

「……呼ばれないのですね。呼ばれないのでしたら私は失礼します」

 

桐生呼ぶのを躊躇していると、坂柳は再び歩き出して止まってはくれない。このままでは本当に聞いてもらえず帰ってしまう。桐生にはもう有栖と呼ぶ他に手段はなかった。とても恥ずかしかったが、桐生は坂柳の手を取って呼ぶ。

 

「有栖、待ってくれ。話がしたいからいつものカフェに行かないか?」

 

「……はい。司くんが誘ってくださるなんて珍しいことですので、是非とも行かせてもらいますね」

 

ようやくまともに返事をしてくれた坂柳だったが、これからは有栖って言わないと答えてもくれないのかもしれない、と困りながらもいつものカフェへと二人で向かった。桐生は話しかけた時の微妙な間がに気になったが特に気にすることなく店内へと入った。

店内に入ると、手慣れたように、桐生はコーヒーとモンブランを、坂柳はカフェラテと抹茶のケーキを注文する。飲み物こそ毎回二人とも変えていたが、食べるものは毎度同じなので注文が早いのだった。それは店員も分かっているので、すぐに注文を取りに来て、注文を聴くとすぐにオーダーコールをしていた。注文を終えると二人は早速話に入る。

 

「しかし司くんが誘ってくださるなんて珍しいこともあるものですね。誘ってくださって嬉しい限りです」

 

「誘ってくださるなんて嬉しい、って言っているけど、実際のところ誘うように誘導しただろ?」

 

「いえいえ、そんなことはしていませんよ?」

 

坂柳は意地の悪い笑顔を浮かべる。その様子からも明らかに狙っていたということはわかった。

実際のところ、坂柳は直接桐生を誘ってはいなかったが、言葉遣いによってその意味を伝えていた。それは図書館での言葉、『そこにいる彼の方が聡明でお話がしたいですね。』であった。普通に聞いていれば状況からして多くの人が、ただ山脇を挑発するだけの言葉に聞こえるだろう。しかしながらあの時、あの瞬間だけは桐生を見ていた。そこまでは一切関係のないような人を装っていたのにも関わらずにも。桐生も最初は特に気にしていなかったが、言葉の意味を考えていると坂柳がいつものカフェで待っていると分かったのだ。

 

「まあ、そういうことにしておくよ。それにしてもどうして図書館になんていたんだ?有栖は本を読んだりはあまりしないだろう?」

 

「あら、私だって本を読むことはありますよ。ただ司くんが本の虫すぎるだけですよ?私も本を図書館は借りに行くことはありますが、たまたま司くんと会っていないだけです」

 

確かに桐生の図書館利用率はとてつもない。坂柳とカフェで話をする日以外は基本図書館に出没している。それこそ最低でも週3で行っている。しかし桐生は土日はあまり利用していないため知らなかったが、坂柳は土日に使うことがたまにあった。そのため桐生は知らなかったのだ。

 

「土日は部屋で、借りた本をずっと読んでるから知らなかったな」

 

「それでしたら今度から図書館を利用する度に司くんを呼び出しましょうか?それだけ多くの本を読まれているのですから、面白い本を知っているでしょう?」

 

「……一日中、有栖に振り回されるだけになりそうだから勘弁してくれ」

 

「ふふふっ、呼び出させてもらいますね。どんな本を紹介してくださるのか、今からも楽しみにしていますね」

 

これから桐生の土日が坂柳に振り回されることが決まったのだった。坂柳は不敵な笑みを浮かべ、桐生は困った顔をしていた。

 

「まあ、いいや。それよりもだ。どうしてさっきのような論争に入ってきたんだ?有栖はあまり他人と会ったりすることをしないだろう?それなのにまたあんな目立つところに出てきたんだ?」

 

「私が人前にあまり出ないというのはどうしてだと思ったのですか?」

 

このタイミングで注文したものが届いたため、坂柳はカフェラテを飲む。ここだけ優雅な帝室で飲んでいるような雰囲気が漂っていた。

 

「判断した理由は二つある。まずDクラスのクラスメートである櫛田桔梗と会っていないことだ。櫛田はコミュニケーション能力がとても高い。それこそ学年の多くの人が知っているほどに。そんな櫛田が有栖のことは見たこともないと言っていた。その時点でも怪しい」

 

坂柳は飲んでいたカフェラテをテーブルに置き、答える。

 

「櫛田桔梗……ああ、あの裏表の激しそうな方ですね。私のことを利用しようとしている魂胆が見え見えでしたので会っていないのですよ。おそらく裏の顔で私のことを蔑んでいるのではないでしょうか。私はいくらあのような方に蔑まれていても気にしませんけどね」

 

櫛田について思い出し、その様子を思い出したのか、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。相変わらず観察眼がすごいようで、一度見ただけで櫛田の本性に気づいていたらしい。普段ならクラスで一緒にいる多くの人がその本性に気づいていないのに一瞬見たそれだけで気づくとは恐ろしいものだ。

 

「へぇ、よく分かっているんだな。確かに櫛田は有栖のことを蔑んでいたよ。それを分かった上で会わないようにして笑ってたんだよな?」

 

「はい。その対応こそが彼女に似合うと思いましたので。それに彼女の姿を見ていれば、偽りの姿も分かります。彼女はあまりにあざとすぎますから。あ、男性なら気づかないかもしれませんが、女性でしたら多くの方が分かるのではないでしょうか?ですが、私のことを褒めていますが司くんも気づいていたのでしょう?」

 

そこもお見通しだったらしい。

 

「なんだ、そこまで分かっていたのか」

 

「私が見込んだ人ですもの、それくらいできて当然です。そしてもう一つの理由とは?」

 

「こっちの方が簡単な理由だ。単純に有栖について知っている人が少なすぎる。Aクラスの派閥を率いている二大巨頭の一人なのにおかしくないか?もう一人の葛城というやつはどんな人だって聞くが、有栖に関しては本当に話がされない。そこから判断した」

 

「ふふっ、間違っていません。全て司くんの予想している通りです。よく少ない情報でここまで断定できましたね。それでは私から話をしましょう。とはいえども簡単な話ですがね」

 

再びカフェラテを飲んで少し待たせる。桐生も喋ってばかりで喉が渇いたので注文したコーヒーを飲む。砂糖を入れすぎたのか甘すのように感じる。半分ほどのシュガースティックしか使っていないのにもかかわらず、とても甘く感じる。このコーヒーが特殊なものかと思っていたが、シュガースティックの方を見ると中身が全てなくなっているように見えた。

 

「あら、甘すぎたのでしょうか?次からは気をつけてくださいね」

 

桐生がシュガースティックを見つけたタイミングで坂柳が話す。明らかにタイミングが合いすぎていてとても怪しい。一応コーヒーにシュガースティックを入れていないのかをすぐには聞かずに返答をする。

 

「確かにめちゃくちゃ甘かった。有栖はそういったものも表情から分かるものなのか?」

 

桐生の問いに至って普通の顔で坂柳は答える。

 

「いえ、私が少し熱弁されている間に砂糖を少々付け足させていただいただけですよ」

 

案の定坂柳が仕組んだことであった。それにしてもシュガースティック丸ごと入れるというのはなかなか酷いものではないかと桐生は思っていた。

 

「いや、甘すぎると思った。ここに置いてたシュガースティック全部入れただろ?」

 

「はい。美味しかったですか?」

 

屈託のない笑顔で答える。有栖からすれば愉悦に浸れる事かもしれないが、砂糖全てを入れたコーヒーは甘すぎる。もったいないから全てを飲んだが、口の中甘く、他の水分が欲しくなってきた…

 

「甘すぎて味を楽しめなかったな」

 

「ふふふっ、面白い顔が見れたので満足ですよ」

 

「有栖は満足かもしれないが、こちらは満足できないぞ?」

 

「それでしたら私が別のものを奢らせていただきますよ。もともとそのつもりでしたし。いかがされますか?」

 

「そうさせてくれ」

 

即断即決する。正直言って甘すぎる。シュガースティック丸ごと一本は俺には甘すぎた。

 

「分かりました、そこの店員さん、よろしいかしら?」

 

相変わらずこの目の前の少女の行動は分からない。突然ふらっと図書館に現れてみたり、人に聞いておきながらその間に砂糖を入れてみたり。なんだか俺をからかって遊んでいるみたいだ。

坂柳の呼んだ店員がやって来たのでカフェモカを頼む。店員も注文を聞くとすぐにオーダーを飛ばすため、戻って行った。

 

「さて、注文もされたので先ほどの質問にお答えしましょう。答えは単純明快です。純粋にくだらないと思ったからです」

 

「くだらないとは?」

 

「彼はC〜Aクラスが僅差だと言いました。そこの時点で全くの見当違いです。確かにDクラスは0ポイントですが、Cクラスも400とAクラスから見てみば変わらぬものです。」

 

「まあ、Aクラスから見てみれば大したものではないだろうな」

 

「そうです。ですが、それ以上に愚かである点が1つあります」

 

有栖がそれ以上に感じた愚かな点ってなんだ?今話したところが一番な理由だと思っていたため、正直言って検討もつかない。

 

「分かりませんか?…ではお教えしましょう。彼は目の前の人物の力量を測ることのできなかったからです。格上の者へと挑むことを勇敢と言いますが、それも状況を見誤ればそれは蛮勇です」

 

「私からすればクラスという括りによって人を判断し、目の前の相手の力量を測り損ねるだけでも愚か者であると思いますが、よりもやって彼は司くんを彼は見下した態度を取っていましたね。司くんをバカにするということは私をバカにされているも同然なのです。あなたを見出したのは私ですので。それに彼は私にも気づいていませんでした。愚か者にもほどがあるでしょう」

 

「要するに自分をコケにされるのが許せないってことだろう?」

 

「ええ。その通りです。実力も無いものが私をコケにするなどあり得ません。彼は後で徹底的に叩き潰させてもらいましょう」

 

「物騒なことを言ってるな。まあ、確かに山脇が悪いだろうがな」

 

「それに司くんももっと強く言えばあの程度の輩、論破することなど造作もないでしょう。ですがあなたはしなかった。ひいては多くのことを率先してしない。そこで決めました。司くんには早速私からの依頼をこなしてもらいましょう」

 

ついに有栖からの依頼がきた。今までは特になかったが、どのような依頼をしなければならないのか。有栖のことだから無理難題かもしれない。

 

気を引き締めていると坂柳からその依頼の内容が発表される。

 

「司くん、あなたにはまずCクラスに上がってもらいます。期限は1年生の間です。これが今回依頼する私の依頼です」

 

 

「……えっ?」

 

想定外すぎて理解が追いついていない。てっきり山脇を徹底的に叩き潰せとかそういった類だと思っていた。正直予想外すぎてイマイチ分かっていない。というか最初のホームルームでDクラスから這い上がったのはかつて存在しないと言われていたのだが…

 

「…もしそれが出来なかったら?」

 

失敗した時の条件も聞いておく。流石に聞いておかないと、坂柳のことであるからとんでもないことをさせられそうだからだ。

 

 

「出来なかった場合ですか。そんなことは考える必要ないでしょうが決めておきましょうか。そうですね、決めました。この1年の間で達成できなければ、あなたには望んだ進学先を与えません。一生私の右腕として働いてもらいましょう」

 

「いきなり厳しいのだが!?」

 

あまりの飛躍具合に思わず大声を出してしまう。桐生の突然の声にカフェにいる全員が桐生の方を見る。すみませんと謝り、席に座る。

 

「私は不可能なことではないと思っています。そして司くんならできるとも思っています。まさかこの程度で音をあげるというのですか?」

 

「まだしないとは言ってないけど…」

 

ここで断ったりすることや失敗してしまうことは、有栖の下で一生働かされることになる。一生有栖に振り回される生活をしていくことになるってことだよな……うん、考えたくないな。そんなことしてたら胃に穴が開いて過労死しそうだ…

 

「考えは纏まりましたか?」

 

「…ああ、上げてやろう。このポンコツなDクラスを、Cクラスに。どうせならAクラスまで狙って有栖を引きづり落とそうか」

 

「ふふっ、目標を高く設定するというのはいいことですね。ですが私に勝つと考えるのは愚かです。まだ土俵にも立っていませんが、司くんと真っ向から火花を散らす対決が出来ること、楽しみにしていますね」

 

この日一番坂柳は楽しそうな表情を浮かべた。それは側から見ている人には分からないほど僅かな変化であったが、それは確かに坂柳を楽しませていた。現に近くで見ていた桐生もその表情に気づいたのだった。

 

かくしてこの日より桐生司は本格的にDクラスの下克上に携わっていくこととなったのだった。

 

 

 




坂柳の言葉は聞き様によっては告白なんですよね。一生私の右腕として働いてもらうってそれは…


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過去問

テスト期間て他のことしたくなりますよね。早く小説書きたいんですけど、時間がなかなか取れません。再来週の水曜まであるので辛いです。



図書館での衝突があった日の翌日、午前の授業が終わり、昼休憩の時間になった。多くの人が今日はどうしようかと昼ご飯の話をする中、桐生は昨日の出来事で知ったこと、テスト範囲の変更について平田に話しに行った。

 

「…それはまずいね。もうテストまで一週間を切ってしまっている…」

 

「そうなんだ。早めに手を打たなければテストで全滅もありえてしまう」

 

「分かったよ。みんなに状況を伝えるね」

 

平田はそう言うと教壇の上に立つ。平田が教壇に立ち、こちらを向いたことによって平田から何か話すことがあるのだろうと多くの人たちが注目する。今この教室にいないのは堀北、須藤、池、山内、綾小路の五人であったが、彼らは勉強会をしているのだろうし問題なかった。

 

「みんな、テスト範囲が変更されたらしい。今から書く範囲に変更されたらしいからみんなメモを取ってくれないか?」

 

そう言って平田は桐生から渡されたメモの通りにテスト範囲を書く。

 

その範囲を見た人たちは、今までしてきた勉強範囲とは全く違っていることに驚き、慌てふためいていた。

 

「みんな、大丈夫だよ!まだ一週間ある。みんなで協力して頑張ろう!」

 

平田がみんなを鼓舞する声を出す。勉強が得意な人たちはメモを取り終えるとすぐに対策を始めるが、赤点ギリギリな人たちからはネガティブな発言が飛び出していた。

 

「一週間じゃ無理だよ…それに今までの頑張りが無駄になっちゃったし…」

 

「だよねー。こっから勉強しても無駄じゃない?」

 

平田の鼓舞も虚しく、教室の雰囲気は悪いものになってしまった。多くの人たちがテスト範囲の変更でやる気を削がれてしまったようだった。一度気持ちが切れてしまうとふたたびやる気を出させるのは厳しいものだ。どうにかしてみんなをやる気にさせなければならない。

 

「みんな、今日からまた勉強会をしよう!一週間あれば対策はできるよ」

 

「そうだよ!なんとかしないと私たち退学になっちゃうんだよ!」

 

平田に続き櫛田もみんなを鼓舞する。しかし、多くのクラスメートたちは無理無理と口々に言っている。平田や櫛田が困っていると不意に一人の生徒が喋る。

 

「Cクラスの生徒が言ってたぞ」

 

突然大きな声で話し出した桐生にクラス全体が話すことをやめて桐生に注目する。

 

「俺らは底辺の不良品だと。そんな俺らのクラスから何人退学者が出るか楽しみだってな。そんなこと、言わせていていいのか?俺たちの事を何も知らないのに、Dクラスっていう括りだけで不良品だと決めつけられて?俺は良くないね。俺たちにだって意地はあるだろう?だったら今回のテストで見返してやらないか?でも今回退学者が出たならば、それを否定する事ができなくなる。結局Dクラスはその程度の奴らなんだってこの先ずっと見下されるだろう。だから下克上をしないか?」

 

桐生の言葉を聞いてみんなが各々で話をする。だがその内容は先ほどまでのネガティブな内容ではなくなっていた。

 

「そうだよ。みんなで切り抜けて、見返そう。そのために今日からまた勉強会を行うよ。新しい範囲になったから不安だって人もいると思う。だから僕たちも出来る限りみんなに教えるから是非とも参加して欲しいな」

 

その後は平田が上手く締め、勉強会を行いみんなで点数を上げていくと言うことで今回の話し合いは終わったのだった。

 

 

それからDクラスは一丸となって勉強をした。お互いに高い範囲を教え合い、苦手範囲を聞く。あと一週間しかないというのが効いたのだろう、音を上げる人は誰一人としていなかった。

そんな中、テスト前日に平田と櫛田が勉強会を終え、帰り支度をしているみんなに声をかける。

 

「みんなごめんね。帰る前に私の話を少し聞いて貰ってもいいかな?」

 

「ちょっとだけ大事な話をするから是非とも聞いて欲しいんだ。少しだけ待ってくれないかな?」

 

平田、櫛田が教壇に立ったということで重大な何かを言うのだろうと、みんな喋るのをやめて二人のことを見ていた。

 

「明日の中間テストに備えて、今日まで沢山勉強してきたと思う。そのことで、少し力になれることがあるの。今からプリントを配るね」

 

平田がみんなに10枚の紙を配る。配られた紙を見てみると、それはテストの問題用紙だった。

 

「実はこれ、過去問なんだ。2年と3年の先輩に貰ったんだ。見てもらったら分かると思うんだけど、中間テストがこれとほぼ同じ問題だったんだって。だからこれを勉強しておけば、きっと本番で役に立つと思うの」

 

思わぬ過去問の登場にみんなが喜ぶ。しかもほぼ同じテストをしているというからとても嬉しいことだ。

 

「今日は家でしっかりとこのプリントで復習をして欲しい。これをすればしっかりと点数が取れるだろうし、問題ないと思う。だけど、早めに寝て、明日眠たくないように気をつけようね」

 

平田が締めると全員が過去問を受け取り、帰っていった。桐生も帰ろうとしていると平田が話しかけてくる。

 

「司!過去問をもらってきてくれてありがとう。司がもらってきてくれたから助かったよ!」

 

「いや、たまたま知り合いに過去問を持っている先輩がいたからもらえただけだから気にしなくていいよ。洋介も今までみんなに教えていて大変だったろう?」

 

「僕はあまりしてないよ。櫛田さんたちに助けてもらっただけさ。みんなには感謝しているよ」

 

「俺はあまり出なかったから迷惑かけたな」

 

「仕方ないよ。用事があったのだから仕方ないさ」

 

「ありがとう。それじゃあそろそろ俺は帰るよ。また明日な」

 

平田に別れを告げて帰路につく。

桐生は先ほど過去問をたまたま仲の良い先輩から手に入れることができたと話したが実際のところは違った。

 

 

 

先日、坂柳にCクラスになれと言われた桐生は寮に戻ると、すぐに対策を考え始めていた。

 

Cクラスへ上るためにはまずこのテストを一人の退学者も出さずに乗り切らなければならない。が、今テスト範囲が変更されたと知ったら、やる気をなくしてテスト勉強をしなくなる人たちがいるかもしれない。まずはその対策をしなければならないな。これはCクラスに不良品であると言われたことを言えばやる気を出してくれるだろう。流石にそこまで言われてて何も思わない人はいないだろう。

けれども一番の問題はどうやって勉強の対策をするかだ。他クラスに比べて一週間ほどDクラスは遅れを取っている。なら普通に教えるだけでは他クラスに追いつくことはできない。

綾小路に聞いたところ、茶柱先生は知らせるのが遅れたことを一切謝ような素振りは見せなかったらしい。普通に考えればおかしいことだ。これは茶柱先生の失態で、あるまじきことだ。それなのに他の先生たちも気にしていなかった。ということは…何かテスト範囲が変わろうとも関係ないことが存在しているのかもしれないな。

 

少し悩んだ後、桐生はとある相手に電話をかける。少しの間電話の待機音を聞いていると、ガチャッという音とともに電話をかけた相手の声が聞こえてきた。

 

「こんな時間に何?」

 

「確かに9時を回ってた。それは悪かった」

 

「分かってるならいい。それで私に電話を掛けてきたってことは何か用?」

 

「ああ、今回可能なら中間テストの過去問を入手して欲しい。できなかったからといって何かはしない。どうだ?」

 

しばらく相手は沈黙していると、分かったと了承した。

 

「助かる。出来れば試験2日前までにしてほしい。それに際してかかる費用は俺が負担する。でも出来る限り費用も抑えてほしい」

 

「分かった」

 

短く返答すると電話の相手は、電話を切った。話しておくこともしたので桐生もテスト対策をすることにした。

 

 

それから3日後、つまりDクラスのみんなに過去問を配った日から数えて4日前の放課後、過去問を手に入れられたと報告が来ていたので指定された特別棟へ桐生はやってきていた。

 

特別棟は本校舎とは違い、理科室などの特別な教室が揃っているため、放課後に来る人が少なく、その方が便利だと言っていたからだった。

 

指定された特別棟3回階段踊り場に到着するとすでにそこに人がいた。

 

「悪い、待たせたな」

 

「問題ないよ。はい、これ。」

 

「確かに過去問だ。助かったよ、神室。」

 

今回過去問を手に入れるため協力をしてもらっていた人物、それはAクラスの女子生徒、神室真澄であった。彼女と桐生は坂柳によって連絡先を交換させられており、桐生が使っていいと言っていたので、今回使わせてもらった。お陰で、手間が省けたため、大いに助かっていた。

 

「あんたも坂柳に目をつけられて困ったもんだね」

 

「全くだよ。有栖は人のことを散々振り回すんだから。それを言ったら神室も同じだろ?」

 

「あんたとあたしの違うところは脅されているかそうでないか。あんたはあくまで協力すればいいだけ。一応拒否権もある。多分できないだろうけど。一方であたしは弱みを握られているから従わないといけない。そこが明確な違いだよ」

 

神室は坂柳に弱みを握られていた。そのため仕方なく従っているだけであって坂柳のことを嫌っていた。

 

「それは悪いことをしたな。有栖に渋々従ってるのに、おれが使ってしまって」

 

「気にしなくていい。あいつに使われるくらいならあんたに使われる方がよっぽどマシよ。それにこうして思いっきり愚痴も言えるからね」

 

最初にAクラスの教室で見たときには仏頂面で気が強そうに見えた神室だったが、少しだけ気が緩んでいるように見えた。

 

「まあ、今回はありがとう。また何かあったときは頼むからよろしく頼むぞ」

 

「分かったわ。可能な限り手伝う」

 

「また何か愚痴があれば聞くよ。普段から溜まっていると疲れるだろ?溜まったら俺に話してくれていいから吐き出しとくといい」

 

「そうさせてもらうわね。それじゃあ私は部活があるから」

 

そう言って神室は美術室の方向へと走って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

話は櫛田が過去問をDクラスのみんなに渡したときに戻る。

このとき桐生はあることが気になっていた。それは本当に櫛田が過去問を先輩からもらったのか…ということだ。

 

確かに櫛田のコミュニケーション能力には目を見張るものがある。

人間にはパーソナルスペースが呼ばれるエリアが存在する。パーソナルスペースとは他人に近づかれると不快に感じる空間のことで、その広さは、性別、社会文化、民族、個人の性格によりけりだが、多かれ少なかれ必ず存在する。

一般的にこの広さは親密度に比例して、親しい人がであればあるほど

この範囲は狭く、自らの近い範囲まで許容される。逆に嫌われているほど範囲が広くなる。

例を挙げれば、恋人などがそうだ。恋人と手をつなぐことに対しては抵抗はないだろうが、自分をずっとつけているストーカーと手を繋ぎたいと考えるだろうか?いや、思わないだろう。むしろストーカーなら視界にも入れたくないという思う人もいる。

このパーソナルスペースに櫛田は入るのが上手なのであろう。そのおかげであのコミュニケーション能力を手に入れられたと考えられる。

 

しかしながらそんな誰とでも仲良くしたいという気持ちを持つ櫛田が過去問をこんな最後にみんなに渡すだろうか?

誰とでも仲良くしていたい、悪く言えば八方美人でいたいと考える人が過去問を手に入れたなら、すぐにみんなに渡しに行くのではないか?そんな考えが桐生にはあった。

 

そんな中、過去問を得るなんて発想が他にできそうな筆頭は堀北だ。しかし、堀北は生真面目で自分で解いたものだけを信じて教えるだろう。何より彼女は発想の柔軟性が少ない。そのためないたまろう。

こうなると考えられるのは綾小路だ。綾小路は地味でパッとしない印象を受けるが、実のところかなり力を持っているはずだ。櫛田が気がつかなかった気配に気づいていた。能ある鷹は爪を隠すというため力を隠しているのかもしれない。綾小路に問い詰めても綾小路では話さないだろう。

 

これ以上考えても無駄だろうと考える事をやめ、別の事を考える。赤点をとったら問答無用で退学。厳しいルールだと思う。しかし、赤点をみんなは32点だと決めている。確か赤点の基準はこの点と決めている学校が多いと聞く。それは30点〜25点ほどだという。その基準でいくと32点というのは妥当だ。有り得るだろう。

 

しかし、本当にそうだろうか?確か小テストのとき、茶柱先生は『今回のテストで言えば、32点未満が赤点だ』と言ってた。平均点を基準にするタイプかもしれない。みんな無事に通るといいんだが…

 

こうした桐生の嫌な予感は現実になって現れるのだった。




次回も遅くなりますがご了承お願いいたします。

神室の言葉遣いがイマイチわからなくて大変ですね…

追記
分からないとの説明がありましたのでここで説明させていただきます。
桐生は現2年生が受けた1学期中間試験の過去問を神室より受け取りました。そして綾小路は3年生からの過去問を交渉して受け取りました。二人が過去問を受け取り、それを櫛田がまとめてクラスメートたちに渡した形になります。


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中間テスト

今回でようやく一巻完結です。長かったです。もう少しテンポアップしたほうがいいのかと思いますが、どんなに頑張ってもこれが限界なんですよね。
ですので気長に待っていてください。


各々がテストの対策を前日の夜までし、ついにテスト当日を迎えた。

 

テスト当日の教室内はいつもの教室とは違う張り詰めた空気が漂っていた。いつもは騒いでいるクラスメートたちも今日ばかりは仲の良いものたちで、テスト前最後の確認をしていた。それもそのはず、今日の結果次第では退学者が出ることになるからだ。

高度教育高等学校1年生のテストは1日でまとめて行われる。高校1年生は詳しく分野が分かれていないからだ。テスト日程は、社会、国語、理科、数学、英語と予告されていた。

桐生はいつも通り起き、いつも通り教室にやってきて、最後の確認を一人でしていた。多くの人たちは集まって、ここはこうだよな?などと確認しあっているが、最後の確認は一人でする方が良いと思ったからだった。

みんな不安そうにしているが、多くの勉強をこの一週間でしてきたと桐生は思っていた。殆どのクラスメートたちが勉強会に参加し、昨日には過去問を受け取り、勉強をしたと思う。そんなDクラスなら誰一人として退学者を出すことなく、この中間テストを乗り切れる、と。

 

 

そうこうしているうちに時間は経ち、ホームルームが始まる鐘が鳴る。それとともに全員が着席し、茶柱先生が入って来るのを待つ。

 

「欠席者は無し、ちゃんと全員揃っているみたいだな」

 

緊張感が漂う中、茶柱先生が不敵な笑みを浮かべながら教室へと入ってきた。先生が現れたことにより、教室はさらに張り詰めた空気になる。そんな桐生たちを見回し、先生が続ける。

 

「お前ら落ちこぼれにとって、最初の関門がやって来たわけだが、何か質問は?」

 

「僕たちはこの数週間、真剣に勉強に取り組んできました。このクラスで赤点を取る生徒は居ないと思いますよ?」

 

平田が自信満々に答える。周りの生徒の顔にも自信が表れていた。

 

「そうだな、今回のテストと7月の期末テスト、この両方で赤点者がいなければ、お前ら全員を夏休みにバカンスに連れて行ってやる。青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」

 

茶柱先生がご褒美をくれると言う。ここは一切の校外への外出を禁じている。その学校で一教師が自らの権限で生徒を連れ出せるか?…ないだろう。ということは夏には何か特殊なことがある。それを暗示しているのだろう。

しかし、クラスメートたちはそんな事微塵も気づいていなようだ。

 

「皆……やってやろうぜ!」

 

「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

 

 池君の言葉にクラスメイト(主に男子)が咆哮する。池が叫んでいるあたり、水着の女子を見たいという理由なんだろう。中には普通に楽しみたいから叫んだ人もいるんだろうが、女子からの冷たい視線が突き刺さっていた。

 

「な、なんだこの妙なプレッシャーは……」

茶柱先生は生徒(主に男子)から発せられる気迫に一歩後退していた。

 

しかし、この一件で張り詰めていた空気が少し和らいだ。結果的に良い雰囲気でテストに臨めそうになっていた。

 

 

話が終わり、全員にテスト用紙が回って来る。誰も喋らなくなり、時計の針の音だけが、カチッカチッと鳴り響く。

 

「始め」

 

短い先生の合図と共にみんな一斉にに表へと返した。桐生はまず、全ての問題に目を通し、問題が過去問と一緒かを確認した。

よし、ほとんどの問題が怖いくらい同じ答えだな。少なくとも一見しただけでは、違いを見つけることが出来ないほど、同じ問題が並んでいる。

バレないように周りを確認してみるが、誰一人として焦ったり困ったりしている様子の人はいなかった。みんな昨日の夜に過去問を仕上げたのだろう。

 

桐生も答えをゆっくりと当てはめていった。

 

 

 

数学までのテスト日程が終わり、休憩となった。各々最後の科目である英語の確認をしながら話しをしていた。

 

桐生は須藤、池、山内の三人衆がどうだったか気になったため、それを聞きに綾小路の元へと行った。

 

「綾小路、三人衆のテストはどんな感じなんだ?」

 

「桐生か、かなり良かったらしいぞ」

 

「楽勝だぜ!中間テストなんてな!」

 

「俺なんて120点取っちゃうかもな!」

 

 二人は笑顔で答える。この様子だと手ごたえはかなりあったみたいだな。しかし、まだ英語のテストが残っているため、油断せず英語の過去問を持っていた。

 

「須藤くんはどうだった?」

 

櫛田が一人机に座って過去問を凝視する須藤君に声をかける。だが、須藤は問題を凝視していた気付いていないようだった。そして、その表情は暗く、焦っているようだ。

 

「……あ?わりぃ、ちょい忙しい」

 

須藤の額には汗が浮かんでいる。

 

「須藤、もしかして過去問をやれてないのか?」

 

「英語以外はやった。寝落ちしたんだよ」

 

 桐生の質問に少しイライラしながら答える。つまり今初めて過去問に目を通していることになる。テスト開始まで残り10分程度しかない。

英語は慣れていない人から見れば呪文にしか見えない。しかもこの様子だとかなり厳しそうにみえた。

かなり焦っている須藤に堀北が席を立ち近寄る。そして、点数の高い問題と答えが極力短いものを覚えるようにアドバイスをする。今の状況でできる最善の策を教え、できる限りのことをする。

 

 そして、時間は待ってくれず、英語のテストの始まりを告げる鐘が鳴る。他の生徒たちが穏やかにペンを動かす中、須藤だけは苦しんでいた。須藤は頭をコツンコツンと机にぶつけ、ペンを持つ手が止まる。しかし、もう誰も須藤を助けることは出来ない。須藤は自分の力で乗り切るしか手立ては無いのだ。

 

 

 

 

テストが終わり、桐生は須藤ところに向かった。皆が不安そうに声をかけるが、須藤は苛立ちを隠せないでいた。何故寝てしまったのか…と自分を責めていた。

「須藤くん」

 

「……なんだよ。また説教か?」

 

堀北が詰め寄ったため、須藤が再び説教をされるのだろうと思い諦めた様子だった。今回ばかりは自分が悪いと認めているのだろう。

 

「過去問をやらなかったのはあなたの落ち度よ。でも、あなたはテストまでの勉強時間、あなたはあなたなりにやれることをやってきた。手を抜かなかったことも分かっている。精一杯の力を振り絞ったのだったら胸を張っていいと思うわ」

 

意外な言葉にみながあっけにとられる。桐生も堀北がまた冷たい言葉を言って突っぱねるだろうと思っていたため、驚かされた、

 

「んだよそれ。慰めのつもりか?」

 

「慰め?私は事実を言っただけ。今までの須藤くんを見ればどれだけ勉強することが大変だったか分かるもの」

 

あまりの異様な光景にクラス全員が堀北に注目している。桐生は綾小路と顔を合わせて信じられないと話していた。

 

そしてさらに、クラス全員を驚かせる行動を堀北は取る。堀北が頭を下げたからだ。

 

突然頭を下げられたことに須藤も困惑している。

 

「私はあなたにバスケットのプロを目指すことは愚か者のすることだと言ったわ、でも訂正させて。私なりにあの後バスケットについて調べてみたの。するとバスケットのプロを目指すということは茨の道であることを知った。」

 

「だから諦めろって言いたいのか?」

 

「そうじゃない。あなたがバスケのプロを目指す厳しさは重々な分かっているはず。私は自分以外の人のことは理解する必要がないと思っていた。だから最初にあなたが話した時、侮辱をした。けれども今は後悔している。バスケットの難しさ、大変さを理解していない人間がその夢を馬鹿にする権利なんてありはしない。だから謝らせてちょうだい」

 

このときの堀北はとても丁寧に謝った。そして教室を後にした。

 

「な、なあ見たか今の。あの堀北が謝ったぞ!? それもすげぇ丁寧に!」

 

「うん、驚いたね……」

 

 周りにいた全員が驚きを隠せないでいる。普段表情があまり変化しない綾小路も驚いた表情を隠せないでいた。

 

「や、やべえ……俺……堀北に惚れちまったかも……」

 

須藤は慌てたように自分心臓に右手を当て、焦ったように話していた。それほど堀北の謝罪は驚きだったのだ。

 

 

 

 

中間テスト結果発表日、茶柱先生は教室に入ってくるなり、簡潔に言葉を述べ、試験結果の書かれたポスターを黒板に張り出す。

そこには多くの生徒が高得点をとり、喜んでいた。その中、桐生は須藤の英語の点数だけが気になっていた。おそらく、クラスで赤点の可能性があるのは須藤の英語だけだろうと思っていた。事実、英語以外の教科は殆どの生徒が50点を越しているため赤点はないとほぼ言える状況であった。

 

そして運命を分ける英語のポスターが張り出された。

そしてポスターの一番下、そこには須藤の名前とともに39点と記されていた。

 

「よっしゃあ!」

 

須藤が立ち上がり喜びを示す。そんな須藤に茶柱先生は非情な宣告をする。

 

「お前は赤点だ、須藤」

 

手に持った赤のマーカーで須藤と上の生徒の間に線を引かれる。あまりに突然のことにみんなは唖然とし、須藤は茶柱先生に食ってかかる。

 

「どういうことだよ!俺が赤ってどういうことだ!」

 

「今回の赤点のラインは40点。そしてお前の点数は39点。これだけでどういうことか分かるだろう?」

 

「よ、40点?聞いてねえよ!納得できるかよ!」

 

「なら、お前にこの学校の赤点の判断基準を教えてやろう」

 

そう言って茶柱先生は黒板に簡単な数式を書く。

 

79.6÷2=39.8

 

「前回、そして今回の赤点の基準は各クラス毎に決められていた。そしてその求め方は平均点割る2。その点数以上がセーフ、それ以外がアウトだということだ。」

 

「…ウソだろ…俺が退学…?」

 

「ちなみに答案の採点ミスはない。確認したければするといい。ありえないだろうがな。そして赤点の基準である39.8点の小数点は四捨五入で計算される。以上だ。そろそろ1限目が始まる。私はもう行く。それと須藤、放課後職員室に来い。以上だ」

 

茶柱先生は教室を出て行く。須藤の回答を確認していた平田も間違っていなるところはないと分かり、誰もが須藤の退学を、取り下げる手段を失った。

須藤も、堀北も手立てを失って下を向いている中、桐生と綾小路は同時に教室の外へと出ていった。

途中須藤が呼ぶ声が響いたが、気にすることなく茶柱先生を追っていった。

 

 

茶柱先生が教科書を持たず来ていたことから職員室に一度戻るであろうと思い、急いで一回に降りると廊下に、窓から外を眺めている茶柱先生が立っていた。

それはまるで桐生や綾小路が追ってくることを知っていっていたようであった。

 

「どうした、綾小路、桐生。もうじき1限目が始まるぞ?」

 

「茶柱先生、答えて欲しいことがあります」

 

綾小路が質問をする。いいだろう、そう答えたため、質問をする。

 

「今の日本は…社会は平等であると思いますか?」

 

突然聞かれた仰々しい質問に少し顔を唖然とさせながらも答える。

 

「随分とぶっ飛んだ質問だな、綾小路。答えよう。私なりの見解で言えば、当然、世の中は平等なんかではない。不平等だ。」

 

「はい。オレもそう思います」

 

「何が言いたい?」

 

「オレたちのクラスには一週間テスト範囲変更の遅れがありました」

 

「その件に関しては職員室でも話したはずだが?」

 

「世の中は不平等であるが、平等にあらなければならないとされている」

 

「なるほど、学校に不平等を起こした分の対応を取れということだな?だが嫌だ、と言ったら?」

 

「それが正しいジャッジなのか、然るべきところに確認を取るまでです」

 

「惜しいな。お前の言い分は何一つ間違っていないが、その申し出は受け入れられない。須藤は退学だ。現段階ではそれは覆らない。諦めろ」

 

やはり含みのある言い方だ。現段階では覆らない。それは他の手段があると暗に示している。ここでも俺たちに何か気づかせようとしているのか。

 

「茶柱先生、俺からも質問があるんですがよろしいですか?」

 

「桐生か…いいだろう」

 

「ありがとうございます。ここ、高度育成学校において、ポイントを使って買えないものは存在しないんですよね?」

 

「ああ。確かに存在しない。ポイントを使えばどんなものでも手に入るだろう。それはお前たちが過去問を上級生から買い取ったようにな。桐生は2年生から、綾小路は3年から手に入れたと聞いて笑ったぞ。過去問を手に入れるという発想をするものは決して多くない。毎年数名はいる。だがな、過去問を手に入れてクラスで共有し、平均点の底上げを狙うといった考えをしたものはこの学校の歴史上誰もいない。そしてそれが二人もいたんだ。お前たちの発想の柔軟さは素晴らしい。誇るといい」

 

どうやら学校側はほぼ全てのことを理解しているらしい。特に俺の場合神室を通して2年生から手に入れたのにそれすら把握しているようだから完全に筒抜けなのだろう。そしてやはり綾小路が過去問を手にしていたのか。やはり侮れないやつだな。

 

そう考えていると綾小路が再び話す。

 

「茶柱先生、単刀直入に聞かせてもらいいます。須藤のテストの点数を一点売ってもらえませんか?」

 

桐生も同じ考えをしていたので重ねてお願いする。

 

すると茶柱先生は笑いながら答える。

 

「やはりお前たちは面白いやつだ。いいだろう。本来なら10万ポイントで売るところだが、特別にお前たちに9万ポイントで売ってやろう。どうだ?」

 

9万ポイントは一人では足りないが二人で割って払うのなら問題ない量だ。了承して払おうとしたところに一人の少女が現れる。

 

「私も出します」

 

背後に振り返るとそこには堀北が立っていた。

 

「いいだろう。須藤に一点を売るという話確かに受理した。お前たちの学生証は一旦預からせてもらう。いいな?」

 

「「「はい」」」

 

 

これにより波乱のあった中間テストをDクラスの生徒たちは誰一人として欠けることなく突破することができたのであった。

 




ちなみに桐生の中間テスト得点は
国語 89点
数学 94点
社会 100点
理科100点
英語 71点
です。桐生は素で英語が苦手なんで、低いんでこうなりました。


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幕間

お久しぶりです
テストは水曜日まであるのでもう少し遅い期間になりますがお願いします

そして総UA50000件突破しました。そしてあと少しで60000件になります。とても嬉しい限りです。これからも頑張っていきます!


中間テストを無事に乗り切ることができ、テスト後初めての休日がやってきた。普段は休日でも早く起きている桐生もこの日ばかりは自室で遅くまで寝ていた。この二週間はクラスのために様々なことをしていたり、自分の勉強をしたりとあまり眠ることもできなかったため、眠気がピークだったのだ。

 

ゆっくりと起きて、時計を見てみると時計の針は9時を少し回っているところであった。そろそろ起きようかと思うが未だ眠気が襲ってきているため、意識がはっきりとせずベッドの上でぼやけていた。

そんな中桐生の携帯が音を立ててなりだした。

突然鳴った携帯の音になんとか目を覚まして、携帯を取だて電話に出る。

 

「…うーん…朝から誰…?」

 

「あら、おはようごさいます。その様子ですと寝起きのご様子ですね?」

 

桐生に朝から電話をかけてきた相手、それは坂柳であった。

 

「有栖か…朝から何の用で…?」

 

桐生は寝起きのため眠気まなこをこすりながら応対している。そのため声も普段に比べて出ていない。そんな桐生に坂柳から電話をかけてきた要件が伝えられる。

 

「そうですね、要件としては、先日約束いたしました図書館に行くという話です。早速行きましょう。9時30分に寮のロビーの椅子に座って待っていますので、遅れないように来てくださいね?」

 

目覚まし時計で今の時間を確認する。時計を見ると針は9時13分を刺している。9時30分から逆算して残り17分しかない。そして桐生は今まさに起きたばかりだ。ご飯も食べてなければ、着替えてもいない。

 

「…え?ちょっと待ってくれ!まだ今起きたばかりなんだけど!?」

 

「ふふっ、お待ちしてますね。遅れないように気をつけてくださいね?」

 

すると有栖はすぐに電話を切ってしまった。おそらく俺が困っているのを考えて笑っていのだろう。その様子が目に浮かぶ。ってそんなこと考えてる暇ない!早く着替えて準備しないと…

 

桐生はベッドから飛び起きて急いではねた髪を整えて、服を着る。朝ごはんも食べようと思っていたが、すでに時間は9時25分を回っていた。

 

「もう時間がない…朝ごはんは諦めていくしかないな…」

 

桐生はご飯を食べるのを諦めて部屋からロビーに向かって走りだしたのだった。

 

 

 

 

「15秒の遅刻ですよ?どうされたのですか?」

 

急いで準備を整えて、部屋から飛び出した桐生であったが、エレベーターに目の前で行かれてしまい乗り遅れてしまった。エレベーターに乗ることを諦めて急いで階段を降りたのだが、結果15秒ほど遅れてしまったのだった。遅れてきたことを坂柳に聞かれているが、全速力で階段を下ってきていたので、肩で息をしていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…休日寝ていた人を起こして、しかも急にきてくれって言われても…」

 

「まあ、いいです。遅刻した分は今日のお昼に付き合ってもらいましょうか」

 

桐生はそれ以上何か言っても無駄だろうと諦めた。そして歩き始めたので桐生も坂柳の隣を歩き始めた。

 

「ところで聞くが、その服はプライベートポイントで買ったのか?」

 

今日、坂柳は淡いピンクを基調としたワンピースで頭には白と黒のリボンをつけ、坂柳のトレードマークとも言えるようなベレー帽を被っていた。その様子は深窓の令嬢のようであった。

 

「このピンクのワンピースに関してはプライベートポイントを使って買いましたが、それ以外は元から所有していたものです。何か変でしたか?」

 

「いや、そんなことはない。似合っていて気になったから聞いただけだ。変だとは思ってないぞ」

 

「褒めてくれるのですね。ありがたくその言葉受け取らせてもらいますね。司くんも来ている服装、大変似合っていますよ」

 

互いの服装を褒めあってから図書館へと二人は歩き始めた。

 

 

 

 

坂柳と歩いて図書館にやってきた。坂柳は生まれつき体に先天性疾患を持っているため、杖を持って移動する。そのため、他の人に比べて動く速さが遅い。そのため桐生が気遣って歩いているとかなり遅くなってしまった。

 

「ふふふっ、お心遣い嬉しいです。私に合わせてゆっくり歩いてくだ

さってとても楽に動くことができました」

 

「俺だけ先々歩いて行ったら意味ないしな。それに何だかんだ話をしたいことはたくさんあったからな。それで話は変わるが、有栖はどんなジャンルの本が好きなんだ?」

 

図書館の中に入ると桐生は坂柳に聞く。以前本を紹介してほしいと言われていたため、ある程度のジャンルの本について調べておいた桐生であったが、坂柳がどんなジャンルの本を好むか知らなかったので困っていたのだった。

 

「そうですね。私は時代小説が最も好きです。ですが、ミステリーや恋愛小説なども読みますよ?」

 

俺はぶっちゃけ言ってミステリーなどを好むだろうと予想はしていた。けれども、有栖が恋愛小説も読むなんて思ってもなかった。意外すぎて今の俺は目が見開いている状態になっているかもしれない。

 

「へぇ…有栖が恋愛小説を読むなんて意外だな。俺もミステリーとかは読んでいるだろうと思っていたけど、恋愛小説を読むなんて思ってもみなかったな」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

…なんだか凄い威圧感を隣から感じる。ここで「いやだって有栖は恋愛とか興味なさそうだし…」とか言ったら杖が飛んできそうな気配すら感じる…。当たり障りのないように返しておこう…

 

「…いや、有栖はミステリーとか時代小説とかの方が好きそうに思ったからだ。ほら、有栖は頭がいいからそういうミステリーとか歴史物が好きだと思ってたんだ」

 

「…なんだか失礼なことを考えていたような気がしますが、まあいいでしょう。確かにミステリーや時代小説は私の知性を刺激してくれるものですので好きです。大体9割ほどはその二つのジャンルを読んでいます。しかし、最近恋愛小説を勧められたので読んでいるのですよ」

 

有栖に恋愛小説を進めるなんて誰がしたんだろうか。色恋沙汰とは全く無縁そうに思えるのに…

 

「そこでです。司くんにはその3つのジャンルのおすすめの本を紹介してもらいます。もちろん私が読んだことのない本でお願いしますね?」

 

これまた無理難題が課せられた。口ぶりから有名どころは読んでいるのだろう。その中で有栖が読んだことのない本を探さなければならない。なかなか大変そうだ…

 

「けれども、俺は恋愛小説はあまり読まないのだが?」

 

「お願いしますね?」

 

無理やり「はい」と言わされた。ニコニコとした笑顔の裏に恐ろしい顔が見えた気がした。これ以上言っても返してくれそうにないし、怖いからとりあえず本を見にいくことにしよう。

 

桐生は坂柳に紹介する本を探しに奥の方へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「あまりに司くんが遅いので待ちきれなくて来てしまいました。さて、どんな本を今は持っているのですか?」

 

桐生が最後の一冊を探していると待ちきれなくなった坂柳が本を一冊持って歩いて来た。時計を見ると、なんと30分近くも探していたらしい。桐生の体感では15分くらいだろうと思っていたいたため驚いた。

 

「最後の一冊がなかなか見つからなくてな。待たせてたな」

 

「構いませんよ。それで今のところ見つけている本はどんな本なのですか?」

 

桐生が持っている二冊の本を坂柳は桐生の手から取って確認する。

 

「それは『蝉しぐれ』と『モルグ街の殺人』だ。」

 

坂柳は近くにあった椅子に腰掛けて、二冊の本の裏表紙にあるあらすじに目を通す。二冊の本のあらすじを読み終えると桐生に話しかける。

 

「どちらも読んだことがない小説ですね。この二冊のオススメのポイントは何なんでしょうか?」

 

「まずは『蟬しぐれ』からだな。藩の揉め事に巻き込まれて行く少年の成長と周りの仲間との青春、そして少女への淡い恋心がオススメの作品だ。時代物の中で一番俺が勧めたい作品は何かって言われたらこの『蟬しぐれ』を推す。それくらい俺が好きな作品なんだ」

 

先ほどまでとはうって変わり、熱く語る桐生に普段とは違い押され気味の坂柳であったが、桐生は気付かずさらに説明を続ける。

 

「もっと説明したいけど、次に『モルグ街の殺人』を説明しよう。これは世界に存在するミステリーの中で最も早く書かれた小説とされているんだ。これが世の中に出たのが1841年だから今からざっと170年前の作品になる。けれども読んで分かるのは今と変わらないその手法だ。トリックなども今と変わらなく、ミステリーの始祖の作品だから見て欲しいんだよ!」

 

「…司くん…少し近いですよ」

 

オススメの本を紹介しているうちに熱がこもって、説明している間に、桐生はかなり坂柳と近い距離まで接近して説明していた。それこそ、目と鼻の先に坂柳の顔があり、2人の吐く吐息がお互いにかかるほどの距離に。

 

「わ、悪い…熱くなりすぎた…」

 

冷静になると恥ずかしくなってすぐに離れる。しかし勢いをつけすぎたのか後ろの棚に頭をぶつけてしまう。

 

「いった…」

 

「ずいぶんな勢いで本棚とぶつかりましたが、大丈夫ですか?」

 

「思いっきり頭打ったから痛い」

 

「突然後ろに飛び退くからですよ。かくいう私も驚いて少し後ずさりしてしまいましたが…。まあ、それだけその小説を気に入っているということなのでしょう。その2つはまだ読んだことがないですので借りさせてもらいますね」

 

思わぬトラブルがあったが、気に入ってもらえたようで良かった。しかし、今探している恋愛小説がまだ見つかっていないんだよな…

 

「ところでその最後に探しているという小説は何なんですか?」

 

まだ見つかっていないため有栖が探している本を質問する。

 

「ああ、それは『ライ麦畑でつかまえて』だな。あの小説も淡い恋心を上手く口語体で示していてオススメなんだよ。でもこれだけ探しても見つからないってことは誰かが借りてるのかもしれないな」

 

あまりに見つからないので、誰かが借りてしまっているのだろう。諦めて他の本を探そうとしたときだった。

 

「それでしたらこちらにありますよ。先ほど本日返却された本の棚に入っていて気になったので持ってきました。ちょうど良かったですね」

 

俺が探していた『ライ麦畑でつかまえて』は有栖がたまたま見つけていたらしい。しかもちょうどきにいっていたようだったので良かった。

 

「それでは目的の本も見つかりましたし、行きましょうか」

 

坂柳が踵を返して受付へと向かって行く。しかし片手で杖を持ち、もう片方の手で三冊の本を持って歩くのは大変そうに見えた。

 

「片手で杖を使って歩いてるのに本を持つのは大変だろう。持つよ」

 

そう言って半ば強引に坂柳から三冊の本を取る。少しだけびっくりしていたようだったが、いつも通りの顔に戻って坂柳は再び受付に向けて歩いて向かった。

 

 

 

「目的の本が全てあって良かったです」

 

隣を歩く少女、坂柳は満足した表情を浮かべていた。坂柳を知らぬ人から見れば普通の顔をしているように見えるだろうが、桐生には満足した表情をしているように見えたため、桐生は本を読むことが好きなんだな、と思っていた。

すると坂柳が止まったため、桐生も足を止めて坂柳の方向に振り返る。

 

「どうした?急に止まって?」

 

「そうですね、そろそろいい時間ですのでご飯でも食べていきましょうか」

 

桐生が時計を確認するとすでに13時を回っていた。何だかんだで長いこと図書館にいたことになる。桐生の体感ではまだ12時も来ていないくらいだと思っていたが、時間を確認すると急にお腹が空いてきた。

 

「そうだな。俺も腹が減ってきたからどこかに食べに行くか」

 

「決まりですね。では私のオススメのお店がケヤキモールにあるので行きましょうか」

 

坂柳のオススメの店があるというので、桐生は坂柳のオススメの店があるというケヤキモールの方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

坂柳オススメの店に着くと早速店内に入る。店内を見渡してみるとお洒落な雰囲気が漂っていて、桐生はその雰囲気に少し呑み込まれていた。

桐生たちは店員に促されて席に座り、メニューを見る。メニューを見ると洋食がメインに様々な種類の料理が並んでいた。

どれも写真を見ると美味しそうに見えるため、どれを注文するか悩んでいると、坂柳は決めたようでメニュー版をしまっていた。

 

「なかなか決められなくてすまんな」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。こうして悩んでいる司くんを見るというのも愉悦なものですから」

 

「その言い方は不気味だからやめてくれ…」

 

「ふふふっ、面白い表情を浮かべていますね」

 

結局それから5分かかって桐生は何を注文するか決め、店員を呼ぶ。桐生は卵とチーズのドリアを、坂柳はサケのムニエルを注文し、しばらく待っていると料理が出てきた。

セットのドリンクを持って乾杯し、ジュースをお互いに飲む。

 

「それにしても本当に美味しそうだな。こういう店によく有栖は来るのか?」

 

「いえ、頻繁に来るというわけではないのですが、以前たまたま食べに来ることがあった際に味が気に入ったものですから」

 

「普段外食をしないから偶に食べるのもいいな。うん、美味しい」

 

チーズがとろけて卵とご飯が絡み合い、とても美味しい。さらにトマトの酸っぱさが卵の甘さを引き立てていて、食欲をそそる。

 

「ふふっ、美味しいそうに食べてもらえてるので、紹介した甲斐がありました。私もいただきますね」

 

坂柳もナイフとフォークを持ってムニエルを切り分け、上品に食べる。坂柳もとても美味しそうに食べていた。

 

 

 

食べている最中にも世間話を色々としたが、ある程度食べ終わると坂柳は話を変える。

 

「さて、言い遅れてしまいましたが、無事誰一人として脱落者を出すことなく中間試験を突破しましたね。今までのDクラスでは一人は脱落者が出ていたそうなので素晴らしいことであると思いますよ。流石の手腕ですね」

 

「そうは言ってるが、別に俺が何かしたからといって変わったことはないだろう。多少の変動はあっただろうが、結局は各々の努力が実を結んだだけだな」

 

「謙遜されるですね。ですが、司くんがしたからこそ役に立ったという点もあるでしょう。これからも1年生の間にCクラスへと上がれるように頑張ってくださいね?」

 

桐生は坂柳から1年生の間にCクラスへと上がらなければ一生坂柳の下で働かされると言われている。そのためそれを回避するため動いているのだ。

 

「せいぜい頑張らせてもらいますよ。といってもクラスのやつらにこうして有栖と繋がっていることを悟られないように動きながら、クラスメートと協力するのも大変なもんだ」

 

「あら、そうなのですか?別に気にされなくてもよろしいのでは?」

 

「そうはいかないさ。ここはクラス間で対立をする学校だからな。こうして他クラスのやつとつながっていると知られてしまったら、クラス内での信頼度に直結するからな」

 

「確かにそうですね。盲点でした」

 

口上ではそう述べているが、薄ら笑いをしながら話しているため全て知っていたのだろう。全く、今俺の前にいる少女は食えない人物だと思う。

 

 

 

 

 

食事を終え、店の外に出る。時刻は3時を回り、暑さが肌にまとわりつくようであった。今日は気温が暖かいため、少し汗ばむほどであった。これからどうするかと聞くと、寮へ帰ると坂柳が言ったため、寮の方向へと歩き出すと、桐生の見知った人たちに会うこととなった。

 

「あれ?桐生くん、こんなところで何しているの?」

 

「桐生お前!そんなかわいい女の子と何してたんだよ!」

 

「そうだぞ!」

 

 

それは櫛田と池、山内であった。なぜこのメンツで集まっているのか分からなかったが、この前のテストで最も点数の良かった人とデートをするとでと言ったのだろう。

このまま返事をしないと池と山内が面倒くさいので返事しておく。

 

「別にどうもこうもないぞ。見てもらえば分かるだろけど、体が悪いこの子が本を借りたいっていうから手伝っていただけだ。そうしたらちょうどいい時間だからここで食事してたたけだ」

 

「本当か?」

 

「信じられないな」

 

どれだけ俺のことを疑ってるんだ。現に俺は本を持ってるいるし、有栖は杖を持って移動しているからそうにしか見えないだろうに…。

 

桐生が困っていると櫛田が二人に注意をする。

 

「二人ともいけないよ。桐生くんが親切心でやってあげていることを疑っちゃダメだよ?」

 

櫛田からの言葉に苦しそうな表情を二人は浮かべる。それを見て坂柳が話す。

 

「ええ。司くんが話してくれたように、私が本を借りたかったために付き合ってもらっただけですよ。そしてそのお礼にこの店で食事をしたということです。ずっと立っているのは身に応えますので失礼しますね。行きましょう司くん」

 

そう言って坂柳は寮の方へと歩き始めてしまった。置いていかれるとあれなので簡潔に「じゃあ」と言ってその場を後にした。後ろからは「なんで桐生のやつ下の名前で呼ばせてるんだ!」と叫んでいる二人の声が聞こえてきたが気にしないでおくことにした。

 

 

 

「やっぱり、あいつらは苦手だったか?」

 

しばらく寮の方へと歩いて周りに人が少なくなってから有栖にさっきのことを聞いてみる。有栖は少し考えてから、こちらを見て話す。

 

「そうですね。あの男性二人は女性を見る目がとてもいやらしいものでした。それこそ女性の容姿だけを見て飛びつく猿のようで吐き気がします」

 

やはり池と山内はどんな女性から見られても気持ち悪いと思われるようだ。それもそうだろう。あの場面だってあれだけ普段かわいいって言っている櫛田といるのに有栖の方をガン見していた。改めて考えてみると確かに有栖はかわいい。美少女と言われるに相応しい見た目をしている。今日も一緒に歩いていて、多くの人が振り返って有栖のことを見ていた。それを考えてみても、あの二人がいかに薄っぺらい感情で動いているかが分かる。

 

「そしてあの…櫛田さんでしたかね?」

 

「櫛田がどうした?」

 

「彼女からは、やはりみなにいい顔をしておこうとする思惑が見て取れます。彼女ともあまり同じ場に居たくはないですね」

 

「確かにそうだな。だが、多くの人はその裏の顔に気づけていないんだけど、有栖はどう思う?」

 

「そうですね…確かにその裏の顔を悟らせないようにしていることはすごいと思います。しかし、観察眼の良い方が見るとそれは一目瞭然です。これからも彼女とは関わらない方がいいですね。もちろん司くんもそうした方がいいでしょうね」

 

有栖から軽い忠告のようなものを受ける。有栖に言われなくとも、櫛田は嫌な予感を感じさせるため関わりたくないものだと思っているのだが。

 

そんな話をしていると寮に着いた。ここでいいと有栖は話していたが、有栖の部屋の前まで本を持っていくことにした。有栖も折れてくれたので本を持って付いて行った。

 

「今日は付き合ってくださってありがとうございました。本を持ってくださって大いに助かりましたよ」

 

「最初は無理やりだったけど、なんだかんだいい休日を過ごせたと思う。こちらこそありがとう」

 

「ふふっ、満足してもらえて、こちらも嬉しい限りです。また誘わせてもらいますね?」

 

「今度は事前に言っといてくれると嬉しいんだが?」

 

「できる限り努めさせてもらいますね」

 

「絶対にしてくれよな…」

 

再び浮かべる坂柳の不敵な笑みに少々困りながらも、坂柳の部屋に本を送り届けて、自室へと歩いて桐生は帰った。

その様子を見た平田は、普段とは違って楽しそうな表情を浮かべている桐生に驚きを感じたという。




ここから先は第1話〜第18話までのあとがきになります。少々長くなりますので興味ないよって人は流してください



最初はただ坂柳有栖という少女を描いてみたいと始目で見たのですが、本当に最初には彼女の扱い方に苦労をしました。賢く、ミステリアスな有栖は行動をさせるのも大変でなかなか苦労をしていました。
ですが、第11話『ミーティング』の話より有栖がひとりでに動き始めたのです。こちらが何もしなくても勝手に動いて主人公、司を困らせるようになって書いていて楽しかったです。
そしてこの第11話を投稿した日、始めて日間ランキングにも乗り、多くの人がお気に入り登録をしてくださりました。これはやっぱり自由に動き始めた有栖のおかげだと思います。
ここ最近は有栖が勝手に動きすぎるため、話を全部変更させられることになったこともありましたが、それを含めても面白かったです。

長く書きましたが、まだまだ書きたいことはあるので活動報告の方で残りは書かせてもらいます。興味がある方は見ていってください。それではまた次回の更新でお会いしましょう!


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暴力事件編
波乱


投稿遅くなりました。すみません。

ついに『違うクラスの女の子に目をつけられたんだが』がお気に入り登録者1000人を突破しました!ありがとうございます!これからも頑張っていきます!

それと作者テスト期間を終えたのでもう少し投稿ペース早くしていきます


6月下旬ともなれば暑さが酷くなってくる。6月が梅雨の季節のため湿気が増すというのも原因の一因を担っていたが、それよりも7.8月がやってくることによるカラッとした暑さもやってくるため、ダブルで暑さを体験するこの頃、桐生は特別棟に来ていた。

桐生が特別棟にやってくる理由としては、神室と話をするからだ。神室は桐生の頼みで情報を収集することが偶にあったのだが、表立って会うことはできなかった。

それはこの高度育成高等学校が他クラスとの抗争を促しているからだ。他クラスと対立している中、他クラスの生徒と話をしているとなるとクラスメートたちから疑いの目を向けられることがある。そのため、放課後ともなればほとんど人気のない特別棟で神室と待ち合わせていたのだ。

神室の指定した特別棟3階踊り場へと桐生は向かっていたが、肌にじわじわとまとわりつく暑さに辟易としていた。本校舎内は空調設備が整えられているため、快適に過ごすことができるが、特別棟には設置されていない。普段空調設備の整った環境で生活しているため、その暑さに少しバテ気味になっていた。

 

汗が滲み出てくるのをハンカチで拭き取りながら階段を登ろうとしていると隣を一人の少女が駆け下りて来た。

 

「佐倉さん?こんなところで何してるの?」

 

「え?…き、桐生くん?」

 

 階段を駆け下りて来た少女は桐生のクラスメートである佐倉であった。突然話しかけられたことに佐倉はかなり驚いた表情をしていた。右手にデジカメを持っていたことから何かを撮っていたのだろう、そう桐生は考えた。しかし、そう考えるにしては動揺しているようで、何かに怯えているようであった。

 

「ご、ごめんね、私帰るね」

 

 そのまま桐生の横を小走りで通り過ぎて行ってしまった。

 その様子に疑問を思っていると、再び上から誰かが降りて来た。

 

「あぁ?なんだ桐生か。わりぃが今はイラついてんだ。すまんな」

 

 そう言って須藤も桐生の横を通り過ぎていった。

 

正直言って二人も特別棟にいるなんて驚いたな。今までここへ来たときには誰にも会わなかったのに。二人で会っていたのだろうか?…いや、ないな。二人に接点がなさすぎる。須藤はバスケ一筋だし、ここ最近堀北に意識が向いているし、佐倉はそう言ったことに無縁そうな人だ。となるとなんだろうか?

 

 二人が何をしていたのか考えながら階段を上ると、2階の廊下の奥に3人組の男たちが見えた。何やらコソコソとしているため、死角に隠れて様子を伺う。

 

「上手くできました。これで須藤は終わりですね」

 

 上手くいった?須藤を何かさせたのか?三人の方をより近づいて見てみたいが、これ以上近づくとバレてしまう。遠目に見るしかなさそうだ。

 

「あとは任せてください、龍園さん」

 

 そう言うと、男子生徒は電話を切ってカバンに電話んしまった。そして三人組はカバンを持つと、出口のあるこちらへと歩いて来た。

このまま、ここにいると盗み聞きがバレてしまうので三階に上がってその場をやり過ごす。

 

三人組は何も気がつかず、階段を降りていった。

 須藤と三人組が何をしたのかは分からない。けれどもあの口ぶりからして何かトラブルを起こしたのだろう。また解決しなければならないことが増えたようだ。

 

そんなトラブルごとに少し困りながらも神室が待っている三階階段踊り場に桐生はやってきた。

 

「少し遅かったね。何かあった?」

 

三階に上がってすぐの角を曲がるとそこに神室は立っていた。様子から少し待ったのだろう。少しだけ怒っているようだった。

 

「1分遅れてしまっていたな。悪かった。何か下でトラブルがあったみたいだけど、神室は何か聞いたか?」

 

三階にいた神室が何か知らないか桐生は聞いてみる。もしかしたら何か聞いているかもしれないと思って聞いてみたのだ。

 

「さっき?…確か何か怒鳴り声と何か物に当たるような音はしたよ。詳しくは分からないけど」

 

神室の言葉とさっきの三人組の言葉、そして須藤の言動から推測するに、三人組が挑発して須藤を怒らせ、須藤がキレて殴ったのだろう。全く、あいつはすぐにトラブルごとを持ってくる…

 

「それじゃあそろそろ本題に入りましょう」

 

須藤の一件に頭を悩ませていると神室が本題に持って行こうとする。すっかり忘れかけていた。

 

「今回はBクラスについての情報だったよね?」

 

「ああ」

 

今回、神室にはBクラスについて調べてもらっていた。Aクラスについては有栖と話をするから情報が入ってくるが、Bクラスについては謎が多い。そして目下の敵であるCクラスについては椎名がいるが、椎名はクラスに無頓着なため、あまり情報を知らない。それでも多少のことは教えてもらっている。そう考えるとまずはBクラスについて知りたかったのだ。

 

「まずは基本情報から。担任は星乃宮知恵。Dクラス担任の茶柱って人と仲がいいらしい。明るい雰囲気の先生だけど、考えていることが一番わかりづらいめんどくさそうな担任だよ」

 

星乃宮先生は一度だけ見かけたことがあったな。職員室に用事があった時に、茶柱先生にやけに茶化すように話しかけていた。たしかに考えていることがわかりにくそうな人だ。ある意味一番めんどくさいかもしれないな。

 

「続けてクラスの主な人ね。まずは一ノ瀬帆波。クラスの中心人物ね。明るい性格と差別しない優しさでクラスを取り仕切る、まさにBクラスの大黒柱ね」

 

「明るい性格ね。神室と真逆の性格じゃな…」

 

桐生が喋り終わるまもなく神室の強烈なチョップが桐生の腹に直撃する。油断していた桐生にクリティカルにヒットしたチョップで桐生は息をすることが出来ず、その場にうずくまる。

 

「余計なこと言わないで。話を続けるよ」

 

「悪かった…それにしても強烈なチョップだ…」

 

「それで他にはその一ノ瀬の右腕のような存在の神崎隆二。身体能力の高さが際立ってるけど、かなり消極的な性格。ただ切れ者であるため、総合能力はかなり高い。そして、あとは柴田っていうサッカー部の人くらいかしら。柴田はそれこそ身体能力が学校随一ってくらいで他に目立った特徴はない。Bクラスを総じて話すならお人好しが多いイメージかしら」

 

「なるほど。大体のことは分かった。他には何か情報を掴めたのか?」

 

「そうね。噂程度だけど、一ノ瀬がとても高いポイントを所有しているということくらいね。具体的なポイント、入手方法などは分からないけど、かなり高いポイントらしいよ」

 

「それは気になるな。直接聞くわけにもいかないし、こちらも調べてみるよ。ありがとう助かった。」

 

「そりゃあどうも。それじゃあお礼として愚痴を聞いてもらおうかしら」

 

桐生が依頼をする時、神室は普段溜め込んでいる坂柳に対する不満を桐生に向かって吐き出すのだ。それが、依頼する時の約束だからだ。

 

「っと、その前に次の依頼だけ決めといていいか?」

 

「いいわよ。次は何を調べればいいの?」

 

「次はCクラスについて調べて欲しい。特に龍園ってやつを調べて欲しい。何か情報を掴めたら教えてほしい」

 

神室は頷いてから坂柳に対しての愚痴を話し始めた。その坂柳の愚痴は2時間にも及び、終わった頃には神室はスッキリしていたが、対して桐生はげっそりとしていた。

 

 

 

 

 

 次の日の朝、いつも通り早起きして教室に行き、一限目の準備をしてから机に座ってぼんやりとしていると、クラスメートたちがやってきた。いつも賑やかなクラス内だが、今日はいつにも増して騒がしくなっていた。その様子はみなが浮き足立っているようであった。

その理由は今日、7月1日今日は入学以来、久しぶりにポイントの支給があるかも知れないからだ。中間テストを乗り切り、遅刻や欠席、私語をやめた事によるポイントの増加に皆が期待している。

なぜみながこんなに期待するかといえばプライベートポイントは様々なものを購入できるからだ。それは日用品からテストの点数まで多種多様である。そのため、俺としても確保をしておきたいと思っていた。

 

 そうは言えど、今朝起きて確認をしてみるとポイントは振り込まれていなかった。まだ振り込まれていないだけの可能性もありえる。Dクラスは最初から0ポイントだったため、いつ振り込まれるのか分からないからだ。しかし、すでに振り込まれているとしたならば、テストの結果だけではプラスにならない程の負債を抱えていた可能性もある。

 そんな不安を抱えながら、ホームルームの時間がやってくる。クラスの扉が勢いよく開いて、茶柱先生がいつもと変わらない表情で教室へ入ってきた。

 

「おはよう諸君。今日はいつにも増して落ち着かない様子だな」

 

 教室を見回し、クラスのようすがそわそわとしていることに触れる。そう言った先生に真っ先に反応したのは池だった。

 

「沙枝ちゃん先生!俺たち今月もポイント0だったんですか!?朝チェックしたら一ポイントも振り込まれてなかったんですけど!」

 

「それで落ち着かなかったわけか」

 

茶柱先生は冷静に判断する。しかし池がさらに茶柱先生に言う。

 

「俺たちこの1ヶ月死ぬ気で頑張りましたよ。中間テストだって誰も退学者出さなかったし……なのに0ポイントってあんまりじゃないですか!遅刻や欠席、私語だってしませんでしたよ!」

 

「まあ、そう勝手に結論を出すな。まずは話を聞け。池、お前の言うように今までとは見違えるほど頑張っていた。それは認めよう。そしてお前たちが実感を持っているように学校側も当然ながらそのことを理解している」

 

 諭されたようで池は大人しく席に座った。

池が席に座ると持って来ていた紙を黒板に張り出す。そこには各クラスのポイントが書かれていた。

 

 紙にはAクラスから順に書かれているためまずはAクラスのポイントが見える。そこにはAクラスのポイントが1004ポイントと書かれていた。それだけではなく、BやCクラスのポイントも、先月と比べ100近く数値を上昇していた。早くも、ポイントを増やす方法を見つけたようであった。

 

2つ隣の堀北は他のクラスのポイントを気にしていたが、このクラスのほとんどの人は他のクラスのポイントなんて気にしていなかった。ほとんどの人はDクラスはどんなポイントなのか。その一点のみが気になっていた。

 

 クラス全体がが息を飲んで見守る中、その結果が開示される。

 

そこには『Dクラス:87ポイント』と記されていた。

 

「え? なに、87って……俺たちプラスになったってこと!?やったぜ!」

 

 ポイントを見るなり、池が飛び跳ねる。池君が言った通り、そこには87ポイントと表記されていた。皆が喜ぶ中、茶柱先生がそれを窘める。

 

「喜ぶのは早いぞ。他クラスの連中はお前たちと同等かそれ以上にポイントを増やしているだろ。差は縮まっていない。これは中間テストを乗り切った1年へのご褒美みたいなものだ。各クラスに最低100ポイント支給されることになっていただけにすぎない。現に他のクラスを見ろ。お前たち以上に増えているだろう?」

 

 たしかに他のクラスはほぼ90ポイントほど増加している。これを鑑みると差を再びつけられてしまっている。

 

「がっかりしたか堀北。まあ、クラスの差が余計に開いてしまったからな」

 

「そんなことはありません。今回の発表で得たこともありますから」

 

 茶柱先生の問いに堀北は、桐生と同じ事を思ったのか、そう答える。池が立ったまま得したことは何か、を堀北さんに聞くが、答える気はないらしく黙って座ってしまった。それを見ていた平田が代わりに答える。

 

「僕たちが4月、5月で積み重ねてきた負債……つまり私語や遅刻は見えないマイナスポイントにはなっていなかった、ということを堀北さんは言いたかったんじゃないかな。そうでなければ僕たちにポイントは入らないからね」

 

 今回の結果得られなものは負債が無いと判明したことだ。もし今回、100ポイントを貰っていても0ポイントだった場合、負債が残っていることを意味し、その負債が残っているのかが桐生たちには分からなかった。それが無いと分かったのは大きな収穫である。そしてポイントを支給されることによってDクラス全体のモチベーションアップにもつながる。これも大きな得だろう。

 

 すると、ここで一つだけ疑問が残る。

 

「あれ?でもじゃあ、どうして俺たちにポイントが振り込まれていないんだ?」

 

 先生に疑問に思ったことをぶつける。たしかにクラスポイントが87上がったならプライベートポイントが8700ポイント振り込まれていなければおかしいのだが…

 

「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている。おまえたちには悪いがもう少し待ってくれ」

 

 茶柱先生の返答に生徒達から不満の声が上がる。ただでさえプライベートポイントが無くて困っていたDクラスであったためDクラスの生徒たちはポイントに飢えている。そしてポイントがあると分かるとみな態度が大きくなっていた。

 

「そう責めるな。学校側の判断だ、私にはどうすることもできん。トラブルが解消次第ポイントは支給されるはずだ。ポイントが残っていれば、だがな」

 

 何やら意味深な言葉を残して、教室を出て行ってしまった。みんなも茶柱先生が出て行ってしまったので追及するのを諦めて渋々と一限目の準備を始めたのであった。

 

 

 

 



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事件の発端

今回は少し長めです。
最近よう実の作品を投稿する人が減ってきているため寂しく感じているこの頃です。



放課後、学校側から未だにポイントが入らないことに関して説明もないままDクラスの生徒たちは帰宅することになった。

桐生も借りるべき本を借りたため、寮へ帰ろうと下駄箱へと来ていた。そしてそこで桐生のことを待っている人に出くわした。

 

「随分と遅かったですね。ここで私が待っていたというのに」

 

「どうせそんなに待っていないだろ?ただ歩くだけでちょっと息を切らす有栖が少しだけ息を切らしてるじゃないか。さっき来たのだろう?」

 

確かに坂柳は少しだけ息を切らしていた。そうとは言えど、それはわずかなものでほとんどの人は気づかないほどであった。

 

「よく気づきましたね。正直言って気づかれるとは思っていませんでした」

 

「それで要件は?」

 

「そちらについては帰りながらでもお話ししましょう。ここは暑くてかないません」

 

確かに今日は夕暮れであっても特に暑かった。本校舎内にいるとエアコンが効いているため特に何も思わなかったが、下駄箱は暑さが酷かった。

 

「そうだな。だが、なるべく目立つところでの接触は避けたいものだからなるべく避けてくれないか?事前に連絡くれるとかなら話は別だけど」

 

桐生としても他クラスの生徒と過剰に仲良くしているのを見られるのは厄介事が増えるため避けたかった。だが、坂柳はまるでその意図が通じなかったような反応を取る。

 

「わ、私と一緒に帰るのは嫌なのですか…?」

 

上目遣いをしながらわざと桐生の体にもたれかかるように話す。上目遣いにたじろいだ桐生であったが、どうせ演技だろうと坂柳の体に負担をかけないように優しく自分の体から離してから、今のは演技だろうと聞く。

すると案の定演技ですよとクスクスと笑う坂柳であったため、少しでもドキッとした自分に内心呆れながらも帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

「それで今回の目的は何なんだ?」

 

しばらく歩いてから桐生が坂柳に問う。いつもこうして接触してくるときには何かしら考えがあってのものであゆため、桐生も身構えている。

 

「あら、目的も何もこうして司くんと一緒に帰りたかったからですよ?」

 

「そいつは嬉しい話だが、有栖はそんなこと思わない。何か俺に伝えることがあって来たのだろう?」

 

「…本当なのですけどね。まあ、確かに今日は聞きたいことがありましたのでこうしてやってきました」

 

 

最初に何を言ったのか上手く聞き取れなかった桐生であったが、やはり坂柳が何か意図があって接触して来たことが分かった。そのためその内容を坂柳に問う。すると坂柳からその内容が話される。

 

「簡単に言って、今月のプライベートポイントが振り込まれていないということです。Aクラス担任の真島先生によりますとトラブルがあったとのことです。Aクラス内では特にトラブルを起こしたということは聞かれませんでしたので、他クラスに原因があるというのは明白ですので、こうして司くんに尋ねたというわけです」

 

有栖の言葉を聞いて、やはりDクラス以外のクラスでもポイントは供給されていないことが改めて分かった。そしてAクラスに原因はなく、有栖は他クラス、特にDクラスのことを疑っているのだろう。

 

「どうでしょうか?」

 

考えていると有栖覗き込んでくる。覗き込んで来たことに驚きながらも、昨日特別棟であったことを話す。

 

「やはりそうでしたか。それにその須藤という人は以前私が注意をしたというのに未だ何も変わっていないのですね」

 

有栖に言われてその出来事を思い返してみる。それは中間テストの真っ只中、図書館で挑発をして来たCクラスの生徒に場所を構わず騒いでいた時だったな。あの時の有栖は注意をしていたというよりはより挑発をしにいっていたような…。てか有栖が干渉して来て良くなったことって何もないような…

 

「司くん?何か失礼なことを考えていませんか?」

 

「!?い、いや、何も考えてないさ…ただ須藤についてどうしようか考えていただけだ」

 

「そうですか。それならいいのですが」

 

なんとかバレなくて済んだ。ほっと安心していると寮が見えてきた。

何だかんだ長いこと話していたようであった。

 

「それでは私はこのまま寮に戻りますが、司くんは如何されるのですか?」

 

「このまま上がろうかと思っていたのけど、食料が少ないからスーパーに寄ってから帰るよ」

 

「そうですか。それではここで失礼しますね。また明後日カフェで話せるのを楽しみにさせてもらいますね」

 

そう言うと有栖は寮の中へと入っていった。気のせいか少しだけ寂しそうな表情をしていたような気がしたけれども気のせいだろう。それよりも早めにスーパーで買い物して、須藤の件について対策しとかないとな…

 

桐生はそのままスーパーへと足早に向かっていった。

 

 

 

 

スーパーで買い物を終えて寮へと戻ってきた桐生は自室の隣の前で焦った表情を浮かべている知り合いに出くわした。そわそわと落ち着かない様子でカバンから何かを取り出そうとしていた。

 

「須藤?何してるんだ?」

 

「……桐生か…この際お前も来てくれ!」

 

「急にどうした?第一来てくれって言われてもどこに?更に言えばそこは綾小路の部屋だけど?」

 

「綾小路の部屋だよ!」

 

 そう言って隣の部屋のドアを指さす。なんだかよく分からないがとりあえず買って来たものを冷蔵庫に置いてから行くと言ったら早くしろと言われた。とりあえず部屋に入って袋の中のものを手っ取り早く冷蔵庫に詰めたが、須藤の少し生意気な態度に少しだけイラっとしていた。頼む側の立場なのに指図をするようでそれが癪だった。

とは言え、あまりに遅れると騒がしくてめんどくさいためそこそこの早さで準備してから部屋を出る。

とりあえず綾小路の部屋のインターホンを押してから中に入る。

 

「すまない。勝手に入るような形になってしまったことを許してほしい」

 

 

 

「いや、桐生はまだいい方だ。須藤に至っては勝手に鍵開けて入って来たからな」

 

 中に入ると、机を囲んで綾小路、須藤、櫛田の3人が座っていた。とりあえず空いている方面のところに座らせてもらうと須藤が綾小路に話す。

 

「ここは俺たちのグループが集まる部屋だろ? だから池たちと相談して部屋の合鍵作ったんだ。知らなかったのか? 俺だけじゃなく当然他の連中も持ってる」

 

「物凄く重大かつ恐ろしい事実をオレは今知ったぞ……まさかだとは思うが、桐生は持っていないよな?」

 

「いや、俺はその話は断らせてもらった。第一自分がされたくないことだからな」

 

 勉強会の打ち上げの後に池が勝手に合いかぎを作っていたことは聞いていた。どうして知っているかと言えば、櫛田が作らないかと聞いてきたからだ。その場で俺は断ったが、結果三馬鹿と櫛田が持っているらしい。因みに今の今までその合鍵は許可を取っているものであると思っていた。しかし許可も取らずしていたことに今は驚かされている。もしも綾小路君がこの事を学校に訴えたら、退学になるかもしれない可能性があるからだ。まあ、尤も、綾小路がそんなことをするとは思えないが。

 

「つかそんなことはどうでもいい。マジやべえんだって! 助けてくれよ」

 

「全然どうでもよくない。鍵返してくれ」

 

「は?なんでだよ。俺がポイント払って買ったんだ。俺のだろ」

 

理屈上は問題ない話だが、道徳的な面で見たらいけない話だろう。しかしながら、そんなこと一切須藤は気にしていないようであった。これには綾小路も呆れた様子だった。

 

「全員揃ったから本題に移ってもいいか?」

 

「こうなったら仕方ないよな……。それで相談ってのは?」

 

 諦めた様子で須藤の話を聞く綾小路。そんな綾小路と若干置いていかれ気味の桐生に須藤が説明を始める。

 

「俺が今日担任に呼び出されたのは知ってるよな? それで、その……実はよ……俺、もしかしたら停学になるかも知れない。それも長い間」

 

「停学?何かあったのか?」

 

「実は俺、昨日Cクラスの連中を殴っちまってよ。それでさっき停学にするかもって言われてよ……。今、その処分待ちだ」

 

 須藤の言葉に綾小路と櫛田は驚いていた。それも当然の話だと思う。俺もその話を今知ったなら驚いていただろう。けれどもあのとき神室が聞いた音と、須藤の態度から考えればそれも考えられなくないため、正直予想通りであった。

 

「殴ったって……それ、え、どうしてなの?」

 

「言っとくけど俺が悪いわけじゃないんだぜ? 悪いのは喧嘩を吹っかけてきたCクラスの連中だ。俺はそれを返り討ちにしただけだっての。そしたらあいつら俺が喧嘩を売ったことにしやがったんだ。虚偽申告って奴だ」

 

 須藤も頭の整理がついていないようで、全く情報が伝わらない。とりあえず何故殴ったのかを聞かなくては、話が進まないため聞く。

 

「とりあえず落ち着け、須藤。それじゃあ何も分からない」

 

「悪かった。もう少し説明するわ。昨日、部活の時に、顧問の先生から、夏の大会でレギュラーとして迎え入れるっつー話をされたんだよ」

 

「レギュラーって凄いね須藤くん! おめでとう!」

 

「まだ決まったわけじゃないんだけどな。その可能性があるっつーだけで」

 

 まだ入部して二月ほどしか経っていないにもかかわらず一年生からレギュラーを奪うと言うのは素直にすごいことであると思う。高校生ともなると技術や体格が出来上がってくる時期のため、一学年下なだけでもかなりの差が出来てくる。その中でレギュラーを奪うのはすごい。

 

「その帰りに同じバスケ部の小宮と近藤が俺を特別棟に呼び出しやがった。無視してもよかったんだが、バスケ部の二人とは部活中にも度々言いあってたからいい加減ケリつけてやろうと思って。もちろん話し合いでだぜ? そしたら石崎ってヤツがそこで待ってやがったんだ。小宮と近藤はそいつらのダチでよ、Dクラスの俺がレギュラーに選ばれそうなのが我慢ならなかったんだと。痛い目みたくなけりゃバスケ部を辞めろと脅してきやがった。そんでそれを断ったら殴り掛かってきたから、やられる前にやったってことだ」

 

「それで須藤くんが悪者にされちゃった、と」

 

 大体のことは理解できた。Cクラスが須藤をはめるために考えた罠だろう。それもその石田というやつではなく、電話をしていた相手、『龍園』の考えていた話だろう。罠にはめようとしてきているあたり、大体のことは想定しているだろう。これはなかなか対策が大変そうだ…

 

 櫛田が、自分たちで茶柱先生に事実を報告すれば信じてもらえる、と言うが、そんな単純な話ではない。須藤が話したことはすでに学校側にも話しているはず。それでも、停学になるかもしれないというのは、受け入れられなかったことを示している。証拠も無ければ、日ごろの行いも悪い。これが普段真面目な生徒であれば情状酌量があったのかもしれないが。

 

「因みに、学校側は今の須藤の話を聞いてなんて言ったんだ?」

 

「来週の火曜まで時間をやるから、向こうが仕掛けてきたことを証明しろとさ。無理なら俺が悪いってことで夏休みまで停学。その上クラス全体のポイントもマイナスだってよ」

 

 このまま停学になれば、せっかく掴んだレギュラーが白紙になってしまうことを危惧しているのだろう。しかし、そっちが問題であるのではない。停学になんてなってしまえば、クラスの雰囲気が最悪なものとなり、Aクラスなど夢のまた夢になってしまうだろう。つまり俺にとっても多くの不利益をもたらすこと間違い無いだろう。それだけは何としても避けなければならない。

 

「須藤くんが嘘をついてないって先生に訴えていくしかないんじゃないかな? だっておかしいよ、何も悪くない須藤くんの話が信じて貰えないなんて。そうだよね?」

 

「どうかな……そう話は単純じゃないと思うぞ」

 

「どうかなって何だよ。まさかおまえ俺を疑ってんのか?」

 

「落ち着け、須藤。おそらく綾小路が言いたいのは、同じクラスの人間が須藤を庇ったところで、それはポイントを減らされたくないだけの嘘だと判断されることだ。それがたとえ人気者の櫛田さんであっても変わらないだろう?」

 

 綾小路に詰め寄ろうとする須藤に説明をして落ち着かせる。しかし、櫛田は須藤が悪いことは一切ないと言い切っているが、本当にそうだろうか。まず須藤が嘘をついてある可能性もある。まず嘘でない証拠を提示しなければなければならない。そして、どちらが仕掛けたにしても、須藤君が殴った事実は変わらない。どう転んでも全面勝利を勝ち取るのは不可能に近い。

須藤はあくまで正当防衛であると言うが、正当防衛というのは立証が難しいとされている。それに加え、正当防衛だという須藤は無傷で、暴力をふるってきた側が重症だ。その事実を鑑みれば正当防衛とは言えないだろう。

 現状ある証拠は須藤が殴った際に負った傷のみ。他の証拠が無ければ須藤に重い罰が下されるのは当然の話だ。

 

「納得いかねえっつの。俺は被害者だ、停学なんて冗談じゃねえぞ。もしそんなことになったらバスケのレギュラーどころか今度の大会も出られねえ!」

 

納得のいかない須藤はテーブルを強く叩いた。大きな音が響いたため、櫛田がその後に驚き若干怯えた様子を示す。

 

「気持ちは分かるが、確実な証拠が無ければ厳しいだろうな」

 

「Cクラスの3人に正直に話してくれるよう頼んでみようよ。悪いと思ってるならきっと罪悪感でいっぱいなんじゃないかな?」

 

「あいつらはそんなタマじゃねえよ。正直に話すわけがねえ。クソが……絶対許さねえ、雑魚どもが……!」

 

 そう言って、須藤はテーブルに置いてあったボールペン拾い上げるとバキッと真っ二つに折る。というかそのボールペンは須藤のものでなく綾小路のものであるはず。

 綾小路は諦めた様子で床に溢れてしまったインクを履き始めたので、俺も手伝う。床が吹き終わると櫛田が質問をする。

 

「須藤君、誰かその様子を見ている人はいなかった?」

 

少し須藤が考えると気づいたように話す。

 

「そうだ!桐生!お前もあの時特別棟に居たよな?何か見てないか?」

 

「本当!?桐生くんなにか見ていなかった?」

 

 須藤と櫛田が食い入るように詰め寄ってくる。それは圧力に少し驚いて後退してしまうほどであった。

確かに須藤とは特別棟の階段で会っているので何かを見ている可能性があると思ったのだろう。

 

「いや、見てるわけがない。お前は上から降りてきただろう?対して俺は入り口から入って一階にいた。俺は音も聞いていないし、ただ腹を立てているだろう須藤を見ただけだ」

 

「くっそ、マジかよ」

 

「残念だね。他に何かあればいいんだけど……」

 

 櫛田さんの言葉に須藤君は何かを考え込むような仕草を見せた。そして、あまり自信なさげに口を開く。

 

「あるかも知れないぜ。もしかしたら俺の勘違いかも知れないんだけどよ……。あいつらと喧嘩してた時妙に気配を感じたっつーか、傍に誰かいた気がするんだよな。あれが桐生じゃなければ、目撃者がいたかもしんねぇ」

 

 そういえば須藤が階段を降りてくる前、佐倉が階段を慌てたように降りてきていたな。ということは彼女が見ていた可能性は高い。確か佐倉は臆病な性格の人だから彼女は慌てて階段を下りてきたのだろう。これが本当ならば確かな証拠になりうるだろう。だが、彼女もDクラスだ。本当だと受け入れられる可能性は低いのではないだろうか。

 頭を抱え込んでうな垂れる須藤を見て、重い沈黙を嫌った櫛田が口を開いた。

 

「須藤くんの無実を証明するためには、方法は大きくわけて二つ。一つはCクラスの男の子たちが自分の嘘を認めること」

 

「ほぼ無理だろう」

 

「そうだと思う。だから目撃者を探すしかないんじゃないか?」

 

「目撃者を探すつってもよう、具体的にどうやって探すつもりだよ」

 

「一人一人地道に? もしくはクラス単位で聞いて回るとか」

 

「それで素直に名乗り出てきてくれればいいんだけどね」

 

 綾小路が席を立ち、コーヒーを入れて戻ってくる。俺は礼を言いって受け取る。口に入れると甘みと苦味が口に広がる。須藤も同じようにお茶を飲み、テーブルに置くと、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「図々しいようだけどよ、今回の件……誰にも言わないで貰えねーか?」

 

「誰にも?」

 

「須藤、それはいくらなんでも……」

 

「分かってくれよ。噂が広まるとバスケ部の耳にも入るだろ。俺からバスケ取り上げたら何も残らないんだよ」

 

 綾小路の両肩を掴みながら須藤が綾小路熱く説く。むやみやたらと噂を広めていいことはないだろうし賛成だけど。目撃者を探すにしても暴力をふるったことが知られていれば難しくなるだろうしな。

 

「取り敢えず、須藤君はこの件にはかかわらないほうがいいね」

 

「そうだな。当事者が動くと良くないだろうな」

 

「けどよ、おまえらに全部押し付けるなんて……」

 

「押し付けなんて思ってないよ。私たちは須藤くんの力になりたいだけなんだから。どこまで出来るかはわからないけど精一杯やってみるから。ね?」

 

「……わかった。お前らには迷惑かけるけど任せることにする」

 

 櫛田の言葉を聞いて自分が関わることで厄介なことになると理解できたようだった。

 これで今日は解散となり、綾小路の部屋を出る。自宅に帰るとベッドに倒れこんでいろいろなことを考える。須藤を助けるのが吉か助けないのが吉か。正直に言って須藤の言動には目に余るものが多すぎる。今日の話し合いでもはっきりしていた。

自らが悪い点を一切感じ取らない、人の物を壊す。それだけでも疑われても仕方ない点が多すぎる。ここで生き残らせたところでまた問題を持ってきて疲れるだけではないか、そんな考えが頭に思い浮かぶ。

 

「どうするのが今後の為になるか……」

 

 そんなことを考えながら夜は更けていった。




有栖は本当に勝手に動きます。今回の話も帰宅場面で出すつもりはなかったのに勝手に現れましたからね。これからも、ふらっと現れることが多そうです…


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再会

最近お気に入りの件数が停滞気味で、評価も下がっているので少し悩んでいるこの頃です
ここを直したほうがいいなどありましたら、活動報告の方に『意見募集』という物を設けますので、教えてくださりますと助かりますので、お願いします


綾小路の部屋で話をした翌日のホームルーム、茶柱先生はクラス全員に連絡事項があると言った。茶柱先生から説明があると言われた時には大抵重要なことであるため、みながその内容に耳を傾けた。その内容とは須藤の件だった。茶柱先生は須藤がCクラスの生徒と揉めたこと、その暴力事件によって停学になるかもしれないこと、そして、クラスポイントの削減が行われることが伝えられた。

 

 ざわつく教室の中で、平田が茶柱先生に、なぜなるかもしれない話ばかりなのかと聞く。確かにそのとき、茶柱先生は全て、停学になるかもしれない、クラスポイントが差し引かれるかもしれない、と話をしていた。

 

平田の質問に茶柱先生は、双方の意見が食い違っているからだ、と説明する。

 

 それを聞くなり、『俺は悪くない、正当防衛だ!』と一切悪びれることなく須藤は叫んだ。

どちらが悪かろうと手を出し、相手に怪我をさせたにもかかわらず一切反省しているようなそぶりも見せず、寧ろ相手を貶す須藤を見て、クラスメートたちは須藤に向けて冷ややかな目線を送っていた。 しかしながら当の本人は気づいてはいない様子であった。

 

 その後、話は須藤君が言っていた目撃者の件に変わる。

 

「どうだ、喧嘩を目撃した生徒がいるなら挙手をしてもらえないか」

 

 茶柱先生はクラスメートたちに問う。誰かが声を挙げるかもしれないためみなを静かにさせる。しかし誰一人として手を挙げる者、声を挙げる者は現れない。

 

 そんな中桐生はおそらくこの一件を一部始終見ているであろう人物佐倉の方向を見ていた。正直な話、ここで佐倉が手を挙げその内容を話せばかなりの高確率で信用されるだろう。

しかしながら彼女はうつむき、怯えているかのようだった。人と関わるのが苦手な佐倉がこの場で名乗り出ることはないだろうと思っていたが。

 

 他の生徒の様子も観察していると、堀北も桐生同様佐倉の方向を見ていた。確かにみなが誰かいないのかと周りを見渡す中、一人だけ下を向いておどおどとしていたら目立つ。さらに基礎スペックが高い堀北であるため気づいてもおかしくないだろうと考えた。

 

 やがて時間が経ち、誰一人として何も言わないため目撃者がいないと判断した茶柱先生は、手を挙げさせるのを止め、各クラスで同じ説明がされている旨を話し、教室から出て行った。このことに須藤もかなり驚いていた。事件のことを隠したいと話していたため、他のクラスでも話されていると言うことは須藤にとって良くないことと思っただろう。

 

 茶柱先生が、出て行ってからすぐに須藤も教室から外へと出て行ってしまった。ただ、その判断は正しい判断であると桐生は思った。もし、須藤がこの場にいたのならば、誰かがネガティブな発言をするとそれに逆上し、問題になることを増やしかねない。

事実、須藤が教室を出て行くやいなや、クラスメイト達が口々に不満を吐き出す。それはせっかく苦労して手に入れたクラスポイントを須藤の勝手な行動で台無しにされかねないということであるため、至極当然の話であった。

 

 次第にその発言はエスカレートしていった。須藤なんて先の試験で脱落しておけば良かったなどという人が出てきた。

 

その発言を抑えようと櫛田や平田が前に出て止めようとするが、桐生はその場の雰囲気に我慢をすることが出来なくなり教室の外へと出てしまった。

 

 

 

 

 

クラスメートたちの掌を返したような態度の変化に桐生は怒りを募らせていた。ホームルームが始まるまで、このクラスメート全員で乗り切ろうなどとみなが話していたのに、一人のミスが発覚するとすぐに掌を返した。それどころか、退学になっていたほうが良かったと言っている人たちに我慢できず、怒鳴り散らしてしまう可能性があったため、教室を去ったのだった。

しばらく時間が経ち、頭も冷えてきたとき、桐生の元へ訪ねてくる人物がいた。

 

 

「なんだか体調が優れなさそうだがいいか?」

 

「…なんだ…綾小路か…どうした?」

 

綾小路だった。綾小路は桐生が返事をすると単刀直入に質問をしてきた。

 

「昨日は質問するタイミングがなかったから今質問をさせてもらう。桐生は本当に特別棟何も見ていないのか?」

 

「…ああ。何も見てない」

 

「…嘘だな。何を隠しているんだ?」

 

桐生が答えると、綾小路は間髪入れず問い詰める。この様子だともうバレているだろうから隠しても無駄だろうと諦めて知っている情報を話すことに桐生はした。

 

桐生が知っている情報を話すと綾小路は驚いた様子を示していた。それもそのはず、ただの暴力事件だと思っていたことが仕組まれていたことであったからだ。

 

「それで目撃者は見なかったのか?」

 

綾小路は目撃者がいなかったのか桐生に聞く。ここで佐倉が見ていたかもしれない、と話しても良かったが、これに関しては佐倉が上の階から走ってきただけであったので、確証はない。確証がないのに話して迷惑をかけるのは如何なものかと思ったので話さないでおくことにした。

 

「そうか…なら仕方ないか。俺は地道に目撃者を探してみるよ。桐生はどうするんだ?このことを隠していたあたり何かあるんだろう?」

 

「ああ…俺は俺で動いてみるよ。何か進捗があれば綾小路にも教えるよ」

 

「分かった。こちらでも何か分かったことがあれば伝える」

 

そういうと綾小路は教室へと帰って行った。

 

 

 

 

放課後、桐生は事件が起こった現場、特別棟の二階へと向かっていた。目的は何か物的証拠になるものが残されていないか探すためであった。

 

そしてその特別棟へと向かう道中、桐生は一人の少女と出会うことになった。

 

「えっと君は…」

 

長い髪を腰まで伸ばし、豊満なプロポーションをし、背筋を伸ばしている少女、彼女に桐生は面識があった。

 

「えっと確か…図書館での騒動のときに会ったよね?」

 

以前図書館で須藤とCクラスが一悶着を起こしたときにその間に割って入り、仲裁をしたのがこの女子生徒であった。ちなみにこの際桐生はもヒートアップしてこの女子生徒になだめられていたのだった。

 

「ああ。あのときにはお世話になった。改めて自己紹介をさせてもらってもいいか?」

 

「そうだね。私は一之瀬帆波。Bクラスの生徒だよ!よろしくね!」

 

「Dクラス所属の桐生司だ。先日の件では自分も含めてDクラスの生徒が迷惑をかけてしまったようで申し訳なかった」

 

「全然気にしなくていいよ。もともとCクラスの子たちが仕掛けていたみたいだし、あの…須藤くんだっけ?あの子もヒートアップしやすい子だったからね」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

とりあえずこの前の件を謝っておく。一之瀬には色々と迷惑をかけてしまったからな。というか一之瀬って神室が言っていたBクラスの中心人物っていう人だな。たしかに人をまとめたりすることが得意そうな人だ。それに性格も明るくて優しいし、見た目の良さもあってまさにクラスの人気者って言う人だな」

 

「あはは、そう言ってもらえると嬉しいな」

 

「!?もしかして喋ってた…?」

 

「うん、人をまとめるのが得意そうだって言ってたあたりから喋ってたね」

 

「なんか恥ずかしいな…」

 

「言われる側もなんだか恥ずかしかったよ……ところで話は変わるんだけど、桐生くんって昔に会ったことないかな?」

 

以前に一之瀬に会ったことがある?今パッと思い返してみるが、一之瀬に会ったことがあるような記憶はない。しかし、こうして言ってくるのだから、何か思い当たる節があるのだろう。記憶を遡ってみて思い出してみる。一之瀬ほどの美人であれば記憶に残っていると思うが…

 

「私の記憶が合っていたら小学校の時に私たち同じクラスメートだった気がするんだけど…覚えてないかな…?」

 

少し気恥ずかしそうに一之瀬は俺に質問をする。何か恥ずかしいような出会いだったのだろうか。とりあえず小学校と言われたため思い返してみる。自分は小学校の時に転校などはしていないため、一之瀬が元からいたか、転校して来てなかったか思い出してみる。しばらく考えていると一人の少女を思い出した。確かあれは小学校の中学年の時だった。

 

 

小学校の中学年と言うものは人と違う人のことを集団で虐めたりするようになる年頃に差し掛かってくる。そのとき、桐生のクラスに一人の少女が転校して来た。肩にかかるくらいのセミロングの髪で髪の色は淡い金色の日本人であった。普通日本人の髪の色は黒色である。そのため、その少女はクラスに転校して来て一月ほど経つとクラスの悪ガキ集団からいじめの対象にされていた。

 

「お前は日本人なのに黒髪じゃない。お前は日本人なんかじゃないんだ!だからいじめるんだ」

 

悪ガキたちがそんな風に喋っているのを聞いたことを覚えている。当時から自分は冷めた考えをしていた。そのためそれを気に食わない悪ガキ集団からいじめにあいかけたが、悉く無視をして、暴力に訴えてくれば返り討ちにした。そのため、悪ガキ集団からはいないものとして無視された。悪ガキ集団に所属していない人も、もし彼女を庇えば次のターゲットにされるのは自分じゃないかと思うと誰一人として行動できなかったのだろう。

 

そんな日々が更に1ヶ月も経った頃、ついに悪ガキ集団は少女に暴力を振るった。それは確か、1ヶ月もいじめてるのに、気丈に振る舞っていることが気に入らなかった、そんな理由だったと思う。悪ガキ集団は妙に頭が切れるのか、学校の先生の目につかない背中など、服に隠れる部分を殴っていたようだった。あくまでこれは噂で自分はその時点で見たことはなかった。しかしある日、ついに自分はその現場を目撃してしまった。大勢で取り囲んで背中などを殴っていた。

 

最初は見ていて気分が悪いし、その場から去ろう考えた。しかしその場から目を背けようとしたとき、少女と目があった。暴力をされている中で助けて、そう訴えかけるような目であった。

 

そんな目を見たらここから逃げるわけにはいかない。そう思った自分は悪ガキ集団へ攻撃をしていた。しばらく経つと、ボコボコにされた悪ガキ集団は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そのとき少女は驚いた顔をしていたが、満面の笑みでありがとうと言ってくれた。照れくさかった自分も逃げるように去ってしまった。

 

その後自分は悪ガキたちと先生に、こっぴどく怒られた。普段温厚な先生だったため、そのときの鬼のような形相は特に印象に残っている。

そして翌日、登校すると彼女の姿はなかった。どんな日でも一番に来ていた彼女が来ていなかったことに違和感を覚えた。しかし、それから一週間経てど、彼女の姿は学校にはなかった。

 

そしてあくる日、彼女は再び転校したと先生は言っていた。それと悪ガキ集団は職員室に来るように、そう言っていたことを覚えている。そのことからおそらく、いじめていたことが発覚したからだろう。

 

それから少女とは会っていない。そのためそんなことも風化して記憶から抜け落ちてしまっていた。そしてその少女は…

 

 

「思い出してくれたかな…?」

 

「おそらくなんだが…昔、一之瀬の苗字は一之瀬ではなかったはずだよな?」

 

「うん。私は今は一之瀬だけど、昔は違っていたよ」

 

「そしてその苗字は『成瀬』だった…?」

 

「そうだよ。私は昔は成瀬帆波だった。転勤族な家族だったからあちこちを転々としていたの。色々とあって今は一之瀬だけど…こうして桐生くんに会うことが出来て私嬉しい!」

 

事件があってから7年ほどが経ち、消えてしまった少女と会うことが出来たのだった。




一之瀬さんの過去話は完全捏造です。原作にはそのような設定はございませんのでご注意を。


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協力

今回砂糖3割増しですので、特に前半苦い物でも食べながら見てください

それと、多くの温かい言葉ありがとうございました。自分の書きたい小説を書いていくように頑張らせてもらいますね


「こうして桐生くんに会うことができて嬉しい!」

 

久しぶりに再会した少女『成瀬帆波』、いや、『一之瀬帆波』はその身で嬉しいという感情を表現しているようであった。実際、桐生の手を握って飛び跳ねて喜んでいる。突然のことに桐生はまだ完全には追いついていないため、まだ呆けているところもあったが、今はただ飛び跳ねて喜んでいる一之瀬に揺するられていた。

 

「うん、嬉しいのは分かったから、少し止まってくれ。揺れすぎて気分が…」

 

「あっ…ご、ごめんね…」

 

ようやく桐生は解放された。しばらく揺れたことにより、少し体がフラフラとする感覚がしていたがしばらくするとその感覚も収まって来たが、先ほどまで一之瀬が握っていた手の温もりは残っていた。

一之瀬は久しぶりに桐生に出会えた嬉しさでテンションが上がっていたのが少し落ち着いたのか、恥ずかしさで顔を覆っていた。

 

「…あの、なんだ…上手く言えないけど久しぶり会えて俺も嬉しいよ。えっと…今は成瀬じゃないんだよな?」

 

「私も嬉しいよ。せっかく助けてもらったのに学校に行けなくなっちゃって…ちゃんとしたお礼も出来てなかったし、ごめんね。今は一之瀬だからそっちで呼んでもらった方がいいかな。…でも桐生くんになら帆波って呼んでほしいな…?」

 

ジッと上目遣いで見られるとドキドキとしてくる。しかも少し涙のような物を浮かべながらこちらを見ているため、いやだなんて言えない。ここで嫌だなんていう人は人としてどうかと思うレベルで一之瀬が可愛く見える。

 

「ダメ…かな…?」

 

「いや、いいよ。これからよろしくな、帆波」

 

「…よ、よろしくね。でも、本当に呼んでもらえるなんて思わなかったよ…」

 

なんだか、すごいテンション高いな。さっきからあっちこっち見てて動きも落ち着かない様子だし、どうしたのだろうか?分からないけどしばらくしてたら落ち着くかな。

 

しばらくすると落ち着いたようで、深呼吸をしてから一之瀬は話し始めた。

 

「…こ、これからは私も司って呼んでもいいかな…?」

 

「うん。いいよ。別に誰からどう呼ばれてもそんなに気にしないし、帆波がそう呼びたいなら呼んでくれていいよ」

 

「う、うん。じゃ、じゃあこれからよろしくね、…司」

 

「よろしく」

 

なんだか最後はちょっと聞き取りづらかったけど、呼び方の問題は解決したみたいだ。それにしても今思ったが、なんでこんな場所に帆波はいるんだ?特別棟から出てくる人なんて放課後にはあまりいないのに…。

 

「もしかしてなんで私が特別棟から出てきたのか気になってる?」

 

「確かに気になってるけど…なんで分かった?」

 

「それはね、なんだか気になってますって顔に出ていたからだよ」

 

顔に表情が出やすい方だとは思っていたけど、まさかそんなに分かりやすいとは…。もう少し気をつけないといけないな…。

 

「それでね、その質問に答えると、理科室にペンを落としてなかったか確認に来ていただけなんだよね。お気に入りのペンだったから気になってて」

 

「確かにそれは気になるな。それで見つけることが出来た?」

 

その問いに一之瀬は顔を縦に振って答える。どうやら見つけられたようだ。その証拠にそのお気に入りのペンをカバンから取り出して俺に見せてくれた。シンプルなデザインに、ワンポイントが印刷されているペンで、あまりそういったものに疎い俺でもオシャレで可愛らしいものに見えるものであった。

 

「お気に入りのものみたいだし、見つかって良かったな」

 

「うん、見つかって良かったよ。それで司はどうして特別棟に?」

 

「あー…それはだな…」

 

桐生は一之瀬に特別棟に来ることになった経緯を丁寧に説明した。須藤がCクラスと揉め事を起こしていること、その証拠が特別棟に残っていないか確認きたことをある程度まとめて話をした。

 

話し終えると一之瀬もホームルームでその話は聞いていたらしく、その時のことを教えてくれた。

 

 

「確かそんな話を今日の朝先生が話していたなー。誰も知らないって言っていたし、先生も、『Bクラスにはあまり関係はない話だけどねって』言ってたよ。けれど、教えてもらった事を聞くと結構根が深そうだね」

 

「そうなんだよな。どちらが嘘をついているとも分からず、互いに決定的な証拠を持ち合わせていないからな…そこで俺はこっちの棟に監視カメラがないか見に来たんだ」

 

「なるほどね。…あのさ、もし良かったら私も付いて行っていい?」

 

「?いいけど、面白いようなことはないよ。地道に確認を取るだけだから」

 

「うん、いいよ。これからすることもなかったし、その方が面白そうだから」

 

「帆波がいいないいけど。じゃあ行こっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

それから二人は特別棟二階に移動してカメラの確認をした。それは須藤が殴ったと言っていた現場やその近く、他の階もくまなく調べてみたが、カメラはどこにも見つからなかった。

 

「カメラないみたいだね」

 

「カメラがあれば一発で分かったんだけどな…」

 

「確かにあったならすぐに分かるんだけどねー」

 

「ここでは何も見つからなかったし、ここに用はないから帰りながら話す?」

 

「そうだね。ちょっと暑くなってきていたからそうしよ!」

 

熱気のこもった特別棟の中は暑く、しばらくいるだけでも汗が吹き出てくるほどであった。実際、桐生も何度か汗をタオルで拭っていたが、一之瀬も暑そうにしていたのでそうしたのだった。

 

とりあえず特別棟から外に出て、寮を目指しながら二人は会話を続ける。

 

「それにしても帆波とこんなところで再会するなんて思いもしなかったな」

 

「そうだよね。私も図書館で会った時、もしかしたら…って思ったけどあのときは聞くような雰囲気じゃなかったからねー」

 

「あのときは止める側の俺が熱くなっててたしなめられていたから恥ずかしかったな」

 

「でも、私は詳しく知らない子だけど、関係のないCクラスの子に暴力をふるおうとしていた須藤くんが悪かったよ。司はあの子を守ろうとしただけだよ」

 

あのときのことを思い出す。度重なるCクラスの生徒による挑発、イライラが溜まっていた須藤は、挑発をしていたCクラスの生徒に代わり、謝った椎名に怒りの矛先を向けた。椎名はただ謝る側だったため抵抗をしようとはしていなかったが、危ないと思ったから俺が須藤の前に立った。その後は必死だったから何を話したのか覚えていない。けれども帆波がいなかったら須藤は間違いなく俺にも手を出していただろう。

 

そう考えるとCクラスの龍園というやつは随分と前から須藤を退学にさせる気だったのではないだろうか。あのときの山脇というやつらの挑発具合、人目につく図書館での騒動。間違いなくあそこで須藤が殴ったりでもしていれば即退学もあり得た。けれどもそこに一之瀬帆波という、龍園にとって全く考えていなかったイレギュラーが現れた。そのイレギュラーによって須藤は退学にならず、Dクラスは退学者を出すことなく試験を乗り切った。そのため、今回人目のつかないところで一人須藤を呼び出させた。須藤という人間は単細胞だ。煽られればすぐに逆上し、暴力に訴える。しかも今回はそんな彼を止めるような人間はいなかった。そのため案の定須藤は暴力を振るい、怪我をさせた。そして退学者を出し、Dクラスを下げようとしている。

 

これはあくまで俺の予想の範疇だが、限りなくあり得る話だ。そうでもなければ須藤を何度も狙い撃ちなんてしない。そう考えると龍園ってやつはなかなかエグいことを考えるな…。

 

「もしもーし、聞こえてる?」

 

帆波の呼ぶ声が聞こえてくるため、考え事をやめて会話に戻ろうとする。すると顔の近くで帆波がじっとこちらを覗いているところであった。

 

「うわっ!びっくりした…」

 

急に目の前にいたため驚いて後ろに後ずさりする。その様子に驚いた帆波もギョッとして後ろに後ずさりをした。

 

「びっくりしたのはこっちだよー。さっきから話してるのに私の独り言になってたし、声をかけているのに全然聞こえていないみたいだし。ようやく気がついたと思ったら、大きな声をあげるだもん」

 

「それは悪かったな。また今度何か奢らせてもらうから許してくれ。それでさっきは図書館でのことを思い出してたんだけどな…」

 

「本当!?じゃあ今度ケヤキモールに行こう!日にちはまた決めようね。それと、図書館のことで何か分かったことがあったの?」

 

「うん。多分図書館でのことも、Cクラスの仕組んだことだと思うんだ。狙いは徹底して須藤を退学させてDクラスに損害を与えること。そう考えると、やけにあのときに、つっかかってきたことにも納得がいく。ただ椎名はそういうことには加担してなそうだけど。そうじゃなきゃあんなに怒っている人に謝らないし、椎名は本が好きだから純粋に図書館で争われるのが嫌だって言っていたからな」

 

「確かにあのときもCクラスの子たちが須藤くんにいちゃもんをつけたよね。そう考えるとそうなのかも。Cクラスの子たちは他のクラスにも結構仕掛けているんだね」

 

「というと?」

 

「実は私たちBクラスもCクラスの生徒ともめた人がいるんだよね。それ以降はCクラスの挑発には乗らないってみんなで決めてはいるんだけど、しつこくしてくる人もいるんだよね」

 

 

正直Dクラスだけを狙って攻撃しているものだと思っていたからびっくりした。龍園というやつは余程の変人だな。他クラスを一斉に攻撃するなんて普通じゃ考えられない。普通に思えば考えの狂った人間だと思う。

しかしながらここまで狡猾な手立てを取って、証拠を握らさないように動いていることを知っている今なら、龍園というやつは相当な切れ者だと判断できる。いずれ敵対するのも時間の問題だが、敵対するとなるとなかなか大変そうなやつだな…

 

「そこでなんだけどさ、BクラスとDクラスで協力関係を結ばない?」

 

「協力関係?」

 

「そう!だってさ、Cクラスとはお互いに敵対関係じゃない?Bクラスとしては追ってくるもの、Dクラスとしては追う立場だからさ。そこで私たちが協力しない?卑劣な攻撃もしてくるから互いのクラスで協力した方が対応もしやすいと思うんだよね」

 

確かにいい考えだと思う。未だこちらは敵の正体が分からない。その中で無駄な敵を増やすよりかは、味方にしておいた方が損はないだろう。

 

「いいと思うな」

 

「だよね!じゃあ…」

 

一之瀬が言い終わる前に桐生は続けて話す。

 

「ただ、これは俺の独断では判断しかねる話だ。クラスで話し合ってみて、意見が出たらまたBクラスに返答をしようと思うんだが、いいか?」

 

桐生の質問に一ノ瀬は笑顔で答える。

 

「そうだね。すぐには答えが出せないよね。じゃあ、決まったら教えてね!」

 

「ああ。それとその結果を教えるために連絡先交換してもいいか?」

 

「うん!」

 

一之瀬と連絡先を交換したとき、一之瀬は笑顔を浮かべていた。その様子にそんなに嬉しいことかと不思議に思った桐生であったが、気にすることはなく、ここで二人は別れて自室へと帰ったのであった。

 

 




二巻はこの後はサクッと終わらせます
三、四巻は変更部分が多いのでゆっくりになると思います


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審議前に

今年ももう一週間弱ですね。本当に時間の流れは早く感じます



一之瀬がBクラスとの協力関係を持ちかけてきた次の日、桐生は早速クラスの中でも有力な力を持っている、平田、櫛田、堀北、綾小路を呼び、説明をした。

正直に言って櫛田を呼ぶのは癪だったが、あれでも一応クラス内での力は強いため、一応呼んでおいた。そのときはいつも通りの笑顔で対応していたが、内心自分に対して腹が煮えくり返っているのだろうと思うと、改めて人の評価は外見だけじゃできないと思った。因みに綾小路は俺にはそんなところに参加するほどのことは出来ないとか言っていたが、無理やり連れてきた。

 

櫛田が少し遅れて来たが、全員が揃ったので、Bクラスのことを話した。Dクラスと同じようにCクラスと対立しているため、協力したいのだと。

それを聞いて堀北はBクラスとの協力関係には反対を示した。Aを目指す中でいずれは対立するのだからそんな事必要ないと言っていた。

しかしながら、平田、櫛田、綾小路の三名は協力関係に賛成のようであった。Cクラスだけでも今は苦労しているのに、わざわざBクラスも相手にする必要はない。今だけでも協力しておけば、Bクラスについても知ることができるし、一石二鳥だというのが平田たちの意見だった。堀北は反対の立場を示していたが、平田、櫛田が良い点を挙げているうちに悪くないと思ったのか、納得をしたようだった。

 

Dクラスとして協力関係を結ぶことに賛成となったため、桐生は早速一之瀬に伝えるため、携帯電話から一之瀬帆波の名前をを探し出して電話をかける。

何度か呼び出し音が鳴った後、ガチャっという音がなって声が聞こえて来る。

 

「もしもし、司?どうしたの?」

 

「いきなり電話をかけてごめん。前話していたDクラスとBクラスの協力関係についてだけど…」

 

「あー…やっぱりダメだった…?他クラスと競い合う校風だからやっぱりダメだよね…。ごめんね、迷惑かけちゃって…」

 

帆波はDクラスが協力関係を拒否して、俺が謝りの電話をかけてきたと思い込んでいるらしい。そう思っているのか、俺にも謝ってきている。とりあえず帆波にそれが間違っているということを伝える。

 

「いや、違うぞ。Dクラスは話し合った結果、Bクラスと協力関係を結ぶことに賛成した。だからそのことを報告するために、こうして帆波に電話をかけているのだが…」

 

俺が話してから少しの間お互いに黙った状態になる。次に何を言っていいのか、俺が悩んでいると帆波から話し始めた。

 

「あはは、完全に勘違いをしちゃってたよ。なんだかダメだったみたいに語尾を濁していたから…」

 

「そんなつもりはなかったんだけど…。まあ、勘違いさせちゃったなら、悪かった」

 

「いやいや、こっちも早とちりしちゃったから…。とりあえずその話は置いておいて、協力関係になってくれるのは嬉しい!これからもよろしくね!」

 

「こちらもよろしくな。それはそうとBクラスの方は大丈夫なのか?帆波が独断で言ってたみたいだけど?」

 

この話を持ちかけてきたのは帆波だ。それもほぼ一方的にしていた。そんな帆波一人で話をしてもいい話ではないはず。なのに何故帆波はしてきたのか、そこが俺は気になっていた。

 

「問題ないよ。私たちBクラスは元々Cクラスの妨害を受けて困っていたからどうにかしないといけないって思っていたの。そこでDクラスと協力してどうにか出来ないかなって話が出ていたの。そこで誰かDクラスの人と接触して話をもちかけようとしてたら、たまたま司に出会ったんだよね。本当は櫛田ちゃんに話しかけようと思っていたんだけどね」

 

「確かに櫛田なら首を縦に振りそうだな。結果俺になったけど、上手くいったっていうわけだな」

 

「そうなんだよね。でもみんなこれで少しは安心してくれると思うよ。ありがとうね!」

 

電話をしているけれども、電話の先で帆波が笑顔でいる様子が思い浮かぶくらい、明るく嬉しそうな声であった。その声は聞いているこっちも嬉しくなりそうなくらいであった。

 

「Bクラスの方も文句がないなら、協力関係成立だな。それじゃあこれからよろしく頼むな」

 

そう言って用事が終わったのであれは電話を切ろうとする。しかし、帆波がちょっと待ってというため、切るのをやめる。まだ帆波には話したいことがあるらしい。その内容が何か聞いてみると、昨日話した俺が何か奢るという話であった。

 

「その…なんだけどさ…、夏休みに入るとすぐに、豪華客船の旅があるらしいから、その前に行きたいんだよね。でもすぐにすると、その須藤くんの審議の件があるから…来週の日曜はどうかな?」

 

来週の日曜日…確か何もなかったはずだな。有栖が突然何か言ってこなければ…の話だけども…。それよりもその豪華客船の旅って何だ?そんな話聞いたことないぞ?また茶柱先生大事な話をしてないのだろう。よくあんな適当な性格で教員になれたもんだ…。

 

「何かもう予定入れちゃってる?ダメならまた違う日にするけど…?」

 

少し考え込んでいたようで、帆波が心配そうに聞いてくる。そのため、すぐに返事をする。

 

「いや、問題ない。その日はすることもなく暇だったからいいよ。それじゃあその日にしよう」

 

「うん!それじゃあ来週の日曜日にね!」

 

そう言って帆波は電話を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

やがて時間が経ち、ついに須藤の処遇を巡る審議の日がやってきた。桐生はこの期間に、一之瀬との協力関係を取り付けただけで何もできなかった。そのことも含めて謝りに綾小路たちの元へ行った。謝った後に、綾小路たちはどんな成果を得られたのか聞いてみると、佐倉が証言者として出席することになったようだった。

証言者である佐倉は、いつも通りオドオドとした様子であったが、証言をすると覚悟を決めたようで普段よりは落ち着いていた。

 

「証言者がいたんだな。Dクラスだから疑われるかもしれないが、それでもこちら側に優位に進むことは間違いないだろうな」

 

「ああ。証言してもらうまでは苦労したが、やってくれるみたいで助かった。佐倉、よろしくな」

 

「はっ、はい!よろしくお願いします」

 

佐倉も緊張しているが、やる気は問題なさそうであった。

 

「ところで堀北だけがその審議に参加するのか?」

 

「いえ、綾小路くんも参加するわよ。審議には二人までなら同席が可能と言われているから」

 

意見を冷静に判断してサバサバと返しをする堀北は審議でも活躍できるだろう。それに堀北が気づいているかは知らないが、恐ろしい能力を隠しているだろう綾小路もいるのなら問題ないだろう。

 

「ところでなんだが、桐生、お前が審議に出てくれないか?」

 

突然のことに誰しもが驚く。それは堀北や佐倉、須藤もそうであった。

 

「突然どうした?そんなこと聞いてないからびっくりしてるんだけど?」

 

「桐生は頭良いから俺よりも審議の場で良い意見を出せる、そう判断したからだ」

 

真顔で言っているが、絶対にめんどくさいからだろう。綾小路は表立って行動するのを嫌いからな。しかし俺としてもそんな話し合いの場に行く用意もしてないため、何をして良いかわからない。勿論ここは断ろう。

 

「悪いが綾小路。俺は今回何も証拠を用意できなかったし、突然審議の場に入っても何も発言できないだろう。それに俺はそう言った審議とか討論とかが苦手だし、めんどくさいから出たくない」

 

「そうか…出来ればお前に出て欲しかったんだがな…」

 

綾小路もきっぱりと断った桐生を見て諦めかけていたその時だった。

 

「てめぇ、めんどくさいって何なんだよ!ふざけてんのか!?」

 

須藤が桐生の制服を掴み、壁に押し付けてきた。その勢いで頭を軽く桐生はぶつけてしまい、頭に少し痛みが走る。

桐生は少し頭を抑えるような仕草をする。そんな桐生を見て、須藤はいきり立っていて、イライラしているようだったが、桐生はあくまで冷静に答える。

 

「めんどくさいからめんどくさいのさ。だって俺は大人数での話し合いが好きじゃないし。今回ここにいたのも、ただ綾小路がどんな情報を手に入れたのか聞きたかったから聞きに来ただけだ。それなのに急に自分の代わりに出てくれなんて言われて、行きたいなんて言うやついないだろ?」

 

その言葉に一層腹を立てたらしく、制服を掴む力が強くなっていく。

流石に少し呼吸がきつくなってきたが、ここで臆すれば負けるため反論をする。

 

「なんだお前。絶対に助けてくれるだなんて思ってたのか?くだらない。元を辿れば、お前が暴力を振るわなければこんなことにもなってなかっただろうが。けれどもお前は暴力を振るった。それが唯一確定されている事実だろう?それに以前お前が図書館でCクラスともめた時だって、その場では関係なかったにも関わらず謝ってくれた椎名を殴ろうとしていたな。あの時とお前は何も変わってないな。すぐに頭に血が上り、反論できなくなったらすぐに暴力を振るう。ただの猿だな」

 

 

服を掴み抑え込んでいるにも関わらず、寧ろ嬉々として自分を貶してくる桐生に須藤はもう我慢ができなくなっていた。今まではこれ以上暴力を振るえば本当に退学になるかもしれないと、まだ理性が効いていたが、この目の前の男から発せられる言葉を聞いているともうその理性のタガも外れてきていた。そしてその限界が来た時、その右手を振りかぶった。そのまま目の前にいる男に拳を振りかざした。

 

 

 

 

しかしその手は目の前の桐生に届くことはなかった。

 

「須藤、いい加減にしろ。ここで暴力を振るったらみんながここまで動いてきたことを無駄になる。だから止めるんだ。それに桐生、お前も言い過ぎだ」

 

右手を綾小路に抑え込まれたため、目の前の桐生を殴ることができなかったのだ。それでも構わず右手を動かそうとするが、右手はガッチリと綾小路に止められて動かすことができない。

動かすことができない以上何もできないので須藤も諦めて桐生の首元を離す。

 

手を離したのを見て、堀北が須藤に注意をする。

 

「いい、須藤くん?あなたのいけないところはそこよ。すぐに逆上して手を出す。それが今回の事件を起こした原因よ」

 

「け、けどよ…」

 

「でもじゃない。どんなに悪口を言われたとしてもあなたが暴力を振るえば相手は怪我をする。相手に怪我をさせたらあなたが悪い。これは小学生でも分かることよ。特にあなたは力が強いのだから気をつけないといけない。分かった?」

 

堀北がなだめるように須藤に伝えるが須藤は納得がいってないようであった。

 

「そんなにバカにされるのが嫌だと言うのなら、あなたがもっと努力して偉くなればいいじゃない。今回のこともバスケ部でレギュラーを取ったから言われたのでしょう?だったら次はレギュラーで活躍すればいいじゃない。そうすればそんな小さなことでやっているのか、そう言えるはずよ。だから暴力で何でもかんでも解決しちゃいけない。そこが了解できないのなら私たちはあなたを助けることはできない。そこを了解できる?」

 

「………分かった」

 

随分と悩んだようだったが、須藤も納得いったようであった。須藤がなんとか納得がいったところで桐生にも注意する。

 

「それにあなたも言い過ぎよ、桐生くん。いかに言っていることが正しくても、今のはただの挑発よ。今のはしてはいけないことよ?」

 

「ああ。俺も言い過ぎた。悪かった須藤」

 

須藤の前に立って桐生が謝る。桐生が謝ったことで須藤も若干嫌そうであったが、須藤も謝ったのでこの問題は解決となった。

 

 

 

「そろそろ時間ね。遅れると印象が悪くなるから行きましょう」

 

堀北たちは審議の時間が近づいているため、指定された会議室へと歩いて行った。この中で審議に参加しない桐生はすることがなくなったので帰ろうと玄関の方は向かおうとした。

 

しかし桐生が向かおうとする先、そこには坂柳が立っていた。

 

「あら、司くん。ごきげんよう」

 

「有栖か。こんなところでどうした?」

 

「いえ、たまたま歩いていましたら桐生くんが見えましたのでこうして来たのですよ」

 

有栖が俺の前に現れるということは大抵何かある。今まで有栖と会った時には何かしら用事があった。そのため何があるのかと疑っていると、有栖が話しかけてくる。

 

「それと司くん、あなた先ほど頭をぶつけましたね?少し腫れてますよ」

 

有栖がその腫れているという部分をジェスチャーする。桐生もそのジェスチャーにしたがいその部分手を当ててみる。すると少しだけ、たんこぶのように腫れているようであった。

 

「頭に出来た腫れはあまりよろしくありません。早く冷やすのが良いですよ。保健室まで同行しますので行きましょう」

 

「これくらい大丈夫だって…」

 

「行きますよ」

 

有栖はこちらの言葉を聞かず、俺の手を引っ張って歩き始めた。急に引っ張られたことによって、俺もよろめいて有栖の方向へ引っ張られる。

 

「分かった、分かった。保健室に付いて行くから引っ張るのはやめてくれ。俺を引っ張りながら歩くのは有栖の身体的にもよろしくないだろう?自分で歩くから、その手を離してくれ」

 

「ようやく理解してもらえましたか。では保健室に行きますよ」

 

結果、二人で保健室に向かうことになったのだった。




最近ひよりの出番がなさすぎて、ヒロインって何だっけ?ってなってますね。有栖と一之瀬さんが強すぎる…


ちなみに須藤を挑発したのは綾小路に桐生が提案したことです。詳しいことは次回書きますのでよろしくお願いします


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番外編:坂柳有栖の思い

私事がありまして投稿が出来ずにいました。申し訳ございません。
それに際して、私は新年の挨拶はする事ができませんのでよろしくお願いいたします。
それとこの小説を今年もよろしくお願いします。

今回はここまでの話での有栖視点を描いた小説になります。一部場面での有栖視点ですので、あらかじめ読んでいないと分かりづらいところがありますので、ご注意ください。


突然ですが皆さんは世の中『平等』であると思われますか?

 

突然のことに驚かせてしまっていることでしょう。私はこの考えに大いに反対です。『平等』が存在するというのなら、それは仮初めのものであって、本当に平等であるとは言えないでしょう。ヒトというのは生まれ持って能力にすでに差が生じております。例えば私。私は生まれつきにして先天性疾患を患っておりました。この先天性疾患により、私は一切の運動を禁じられていますので、この時点でも既に存在していると言えるでしょう。他の方がどう思われているにしても、私といたしましては真の意味で『平等』とは存在しない、そう考えております。

 

 

 

 

 

 

春。新たなスタートを切る人の多い季節。私、坂柳有栖もこの春より高校生となりました。私はお父様が理事長をされています高度育成高等学校に入学をいたしました。ここは政府経営の高等学校でありますので普通の高校とは異なることが多くあります。ですが、私がここへ入学してみたいと思いました理由といたしましては、やはり普通の高等学校とは違う人材が集まることに興味を抱いたからです。

私は、入学式の日に他の方々よりも少し早めに学校へとやって来ていました。これから三年間共に生活をするクラスメートたちを観察するために…

 

しかし、そこで見た人たちは私を大いに失望させました。そこにいた人たちは確かに頭は良さそうな人が多かったとは思います。それでも私を期待させるような人物は誰もいませんでした。

 

失望した私は教室の外に出ました。今まで満足をさせることを出来る人がいなかったためにこの学校へと来たのにも関わらず、それに相応しい人物がいなかった。一部しか見ていないのですが、他の方も変わらないでしょう、そう思っていた時でした。

 

この人は私を楽しませてくれる人物かもしれない、そう直感的に思わせる人物が目の前に歩いてきたのです。とても怠惰そうにしている様子を見ていると、普通の人なら期待もしないような人物かも知れません。しかし、私からすれば同じクラスのつまらなそうな方々よりも遥かに私を楽しませることが出来る人物であろうと思いました。

 

最初は話をかけておく程度にしておきましたが、彼とはもっと話をしてみたい、そう思いながらもここは一度戻ることとしました。

 

 

 

 

放課後、私は早速カフェに行き、コーヒーにミルクを軽く混ぜて飲んでいました。カフェは静かな雰囲気で自分の考えを整えるのに適している空間であると私は思います。この敷地内にも複数店カフェはあるようですが、初めにやってきたこのカフェは私好みな内装に、雰囲気を醸し出しています。ここは頻繁に通いたくなる、そう思いながらカップを手に持ち口元へと持ってきた時でした。

店の扉がゆっくりと開き、鈴の音が店内に響き渡りました。

私は誰がやってきたのかと確認するために、カップをテーブルに置き確認をしました。そして扉の方向を見ました。するとそこに立っていた人物に私は再び驚かされました。

 

そこにいた人物、それは今朝私が面白そうな人と思った人物でした。校内に複数あるカフェの中でもここを選び、そして同じタイミングで

やってくる。これは彼に話しかけておくしかない、そう思い早速話しかけてみました。

 

彼について色々と質問をさせてもらいましたが、彼はDクラスの桐生 司君らしいですね。Dクラスと言いますと、担任の真島先生が、ここ高度育成高等学校では優秀である順にクラス分けをしていると言われておりましたね。そうなると彼はいわゆる落ちこぼれという部類に分類されるのでしょうが、私からすれば彼はAクラスの生徒に負けないどころか、圧倒するであろうポテンシャルを持っていると思われますね。

その才能を見抜けなかった学校に問題があるのか、それともそう言った学力や知性以外の他の要素も考慮しているのか。後者があり得る話であるでしょうが、私には関係のない話ですね。

 

しばらく話をしていてやはり思いました。彼は私を楽しませてくれる人物に間違い無いでしょう。さらに言えば、学校からは不良品だと扱われるとうわさのDクラスだ。他の方々も彼の素晴らしさにはまだ気づかない事でしょう。そうとはいえども、いずれは彼の素晴らしさに気づく人が現れるでしょう。それまでに彼を手中に収めておきたいですね。さて、どうしましょうか。そんなことを考えていると彼との話は終わってしまいました。定期的にカフェでお茶をしませんか?と誘うことはできましたので、自宅の寮へ帰って色々と考えみましょう。

 

 

 

「坂柳、お前のやり方は苛烈すぎる。そのやり方では付いていけないものもあるのだ」

 

今日も葛城くんは私に注意をしてきます。ですが、彼の考え方と、私の考え方はまるで違うので平行線を辿るだけです。私からすれば彼の考え方は面白くありません。彼は安全志向で、すぐに安全策に逃げます。ですが、安全策など10年ほど前に私は飽きました。何かを失う覚悟を持って挑まなければ面白くありません。よって今日も彼の話は流しておくことにします。

隣で彼の腰巾着騒いでいますが、これも無視ですね。

今日は桐生くんとここ、Aクラスで待ち合わせをしているのです。何故待ち合わせをしているのかといえば、彼とついに交渉をすることが出来るようになったからです。こちらが持っている情報を提供することで彼との交渉の機会を得た、それだけ私は久しぶりに嬉しく感じているのですが、その邪魔をするこの方達ときたら…。

 

「私には私のやり方があります。それはあなた方とは相容れぬやり方ですが。それに私についてこれない人がいると言っておりますが、現に私と共にこられている方々がいらっしゃまいますので、あなた方についていかない人がいるというのも事実。何か違いますか?」

 

「確かにそうだが…」

 

「私には考えるべき事があるので、邪魔しないでいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 

そう言って、再びこれからどうするかの展望を考えます。この学校は普通ではありませんから、何かしら特別な試験などをしてくるでしょう。その時に彼がどんな活躍をするのか見ているというのも面白そうでしょう。ですが、その前にこの前にいる邪魔な方々をどうにかする方がいいでしょうか。

Aクラスを支配する、そんなことはどうでもいいです。Aクラスを支配したところで何も面白いことはありませんから。私が求めているのは、肌にひりつくような緊張感と、持っている知識を全て使い戦う爽快感…。Aクラスの方々では誰も私を満たすことはできない…。出来るとすれば彼だけ…。

 

 

 

 

 

 

無事彼と協力関係を結ぶことに出来ましたが、彼は意外と表立って行動をしないタイプのようですね。少し命令のようになってしまいますが、DクラスをAクラスに上げさせるように言ってみましょうか。そうしなければ、一生私の右腕として働かせる。そう言ってみるだけでも彼は動きそうですね。彼がAクラスに成り上がることが出来たなら、それはひりつく緊張感のある戦いをすることが出来るでしょうから満足できるでしょうし、出来なかったにしても、彼を近くにずっと置いておける。どちらに転んでも私には得となるいいものですね。次回カフェでお会いするときに言いましょうか。でも…

 

「上等だ!かかって来いよ!」

 

静かな図書館には似つかわしくない声が響き渡りました。せっかく一人思索にふけっていたというのにマナーのなっていない人ですね。注意をして差し上げましょうか。

移動をするとそこには赤髪をした如何にも不良という身なりをした生徒と、複数の生徒達が言い争いをしていました。どうやら複数人の生徒たちが挑発をしているようで、それに怒りを募らせているようでした。軽く注意をして帰ろうかと思っていましたが、赤髪の後ろに司くんが控えているのを見つけたので、少し荒らしてからいきましょうか。すると彼は私を追って来てくれると思います。そうすれば先ほど考えていたことも今のうちに話せるでしょうし一石二鳥ですね。ちょうど挑発をしている生徒さんもA〜Cの生徒がほぼ変わらないと言った過ちを話されましたのでいい機会ですね。

 

「あら、随分と面白い物差しを持たれているようですね。その話、私も混ぜてくださいな」

 

 

 

 

 

今日は桐生くんの自室へと向かっています。以前司くんが本を紹介してくれるとお話しされておりましたので、今日誘いに行っています。突然のことに司くんが驚くでしょうけど、彼の驚いた表情を見ていると、不思議とこちらが嬉しくなるので、突然行くことにしました。彼の部屋番号は予め聞いておきましたので、入り口でインターホンを鳴らします。しばらく呼び出しの音を聞きながら待っているとマイクから眠たそうな声が聞こえてきました。どうやらつい先ほどまで寝ていたようですね。すぐに降りてきてもらうように言ってからしばらく待っていると息を切らして降りてきました。15秒ほどの遅刻でしたので、図書館に行った後でごはんに付き合っていただくことにしましょう。

 

普段は物静かな司くんですが、意外と人がいるときには喋るものなのですね。図書館へ来る間、何かしら話を続けらようにしてくださったおかげで楽しくここまで来ることが出来ました。それに彼は何も言っていませんでしたが、体の不自由な私に合わせて歩くペースをゆっくりにして下さっていました。普段のスピードから考えるとゆっくり過ぎて司くんには歩きづらかったでしょうが、文句ひとつなく司くんは歩いて下さりました。これはとても嬉しいことです。そう言った心遣いが出来るところ、改めて素晴らしいところであると思います。

 

司くんは私のために本を探しに行ってしまいました。しばらくは近くにあった本を手に取り読んでいましたが、20分待っても司くんは帰ってきませんでした。あまりに長いので、司くんを探しに行くことにしました。近くにあった本棚に本を返そうかと思いましたが、この本も面白かったので借りて行くことにしました。

しばらく歩いて探していると、司くんは一心不乱に本を探しているようでした。せっかくなのでしばらくその様子を見ていると、こちらに気がつかないくらい集中して探しているようです。集中している姿を見ていると意外と司くんは背が高いのだと思いますね。私が小さいから余計にそう感じるのでしょうか。分かりませんが、司くんに話しかけにいきます。

私が来たことに驚いているようですが、探している本が無いのだと教えて下さりました。とりあえず今手にとっている本を紹介してください、そう話した瞬間でした。司くんの目が変わりました。そして水を得た魚のように饒舌に本の紹介をし始めました。本の紹介をして下さるのは嬉しかったのですが、少しづつ近づいてくる司くんに私は驚いて後ずさりをしてしまいました。ついに本棚が背中に当たり下がれなくなってしまいましたが、それでも司くんは近づいて来ます。ついにその距離は司くんの吐く息が顔にかかるくらいに近づいて来ていました。あまりに近い距離に私も心臓が鼓動を早めています。自然と顔も熱を帯びて来たようで、恥ずかしくなって来ました。

あまりに近過ぎるため、恥ずかしさが増して来て、司くんに声をかけることにしました。司くんもこの状況に気づいたようで慌てて後ろは下がりました。勢いよく下がり過ぎたため、司くんは後ろの本棚に頭を強打してしまいとても頭を痛そうにしていました。その様子を見ていると、心の底から笑えました。いつもは冷笑と表現するのが正しいような笑いをすることはありますが、心の底から笑ったのはいつぶりでしょうか。とても恥ずかしかったですが、とても楽しい一日だったことを覚えています。

 

 

 

 

思い返してみるとこの夏休みが始まるまでだけでも多くの事がありました。司くんといると私にとって良いことばかりです。そんな司くんたち含めて、全員が行くという夏休みの豪華客船の旅。本来は体調を考慮して見送るつもりでしたが、一人ここへ残っても面白いことはないでしょうね。お父様の許可を降ろすのは苦労しましたが、非常に楽しみです。

これからもあなたがどんな面白いことを私に見せてくれるのか…楽しみにしていますね…

 

 

司くん?




というわけで3.4巻に有栖参戦です。有栖が介入する事でどう変化が起こるのか、楽しみにしていてくださいね!


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審議の裏で

通算UA10万件超えていました。読んでくださるみなさんのおかげです。ありがとうございます!

それと最近レポートが忙しくてなかなか書く時間が取れません。
それでも有栖が出る回はすんなりと意見が纏まるのですよね。
やっぱり有栖ってすごいな。そう感じました。

あと、今回あとがきで大事なこと話してるので見ていってください


須藤の進退が決まる審議の前、須藤の問題点を気づかせるために挑発した結果、頭を軽くぶつけてしまった桐生は坂柳に連れられて保健室へ向かって歩いていた。

 

「それにしてもあの不良の生徒に問題点を気づかせるためとはいえ無茶なことをされますね」

 

有栖が少し怒っているような声で桐生に声をかける。普段あまり表情が顔に出ない有栖であったが、普段の声と比べてみると声が少し低く、厳しめな言い方であった。

 

「あれくらいしないと須藤は気づかないから仕方ない。それに無茶を知った上でのことだ。頭に怪我するとは思ってなかったけどな」

 

俺は先ほど須藤にすぐにキレるところがいけないということを教えるために少し強引ながら挑発をした。それに腹を立てた須藤は俺の胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。結果として、須藤はその短気さに気づいたようであったが、俺は頭に怪我を負ってしまったのだった。

 

「頭をぶつけるというのはあまりよろしくないことですよ。身体に影響をもたらしてしまう可能性もあります。周りの方々が如何にこのことを予め知っていたのでしょうが、それでも危険が伴うのでやめて下さいね」

 

「ああ…次からは気をつけるよ…。というかなんで予めみんなが知っていたって知ってるんだ?」

「周りの方々を見ていれば分かることですよ」

 

「というと?」

 

「司くんが挑発しているときに彼らは誰一人として司くんが挑発するのをやめさせようとしていませんでした。彼が短気だと知っているにも関わらず…。なぜ止めようとしなかったのか、それは予め打ち合わせをしていたというのが正しい判断でしよう」

 

あの一瞬でよく見ている。普通なら怒っている須藤や俺に注目が行くだろうが、そこで周りの人たちの様子を見て気づくなんて流石有栖だ。

だが、ひとつだけ気になることがある。先ほど有栖に会った時には、たまたま近くを歩いていたが、気づいたから来たと言っていたが、今の話し方だと、結構前から有栖は俺たちのことを見ていたのだろう。

 

「確かに合っている。でもさ、有栖。ということはあのときのこと…最初から全部見ていたな?」

 

有栖は俺に聞かれると観念したように笑って話す。

 

「私としたことが墓穴を掘ってしまいました。確かに私は口論になる少し前から一連の流れを見ていました」

 

「やっぱりな…なんで嘘なんてついたんだ?」

 

「見ていないといった方が、警戒心が薄くなるかと思いましたので…。これからは嘘はつかないようにしますね。その代わり、司くんも嘘をつかないって約束してください」

 

なんでか俺も嘘をつかないって約束をすることになっているが、そんなに気にしなくてもいいか。有栖に嘘をつくことなんて多分ないだろうし。

 

「ああ、分かった。俺は嘘を有栖につかない。代わりに有栖もそうしてくれよな?」

 

「もちろんです。約束ですよ」

 

こうして不思議な約束が二人の間に出来上がったのであった。

 

 

 

 

 

その後らしばらく歩いて保健室に着き、桐生が扉を開ける。扉を開けると中には誰もいないのか、人の気配がしなかった。奥の方に誰かいないのかと見に行ったが、そこにも誰もいなかった。

 

「保険医の先生はいないようだな。少し歩いたし、有栖はここで待っておくか?職員室にいないか聞いてこようか?」

 

有栖は慣れたように少し奥側に置いてあった椅子を取り出して机の近くに置いて座る。少しだけ息を切らしているようであったが、顔の表情を見る限り、本当にきついという様子ではなかった。

 

「ここの先生がいないのはいつものことですので問題ないですよ。多分もう少しもすれば来ますから、司くんも待っていてください」

 

いつものことというのはどういうことなのか?慣れた様子で近くにあった椅子に有栖は座って待っているので、俺も座って待ってみる。

すると椅子に座ってから1分ほど経ってから部屋の扉が勢いよく開き、一人の若い女性が入ってきた。

 

「お、坂柳さんじゃない。やっほー」

 

「こんにちは、星之宮先生。ご無沙汰しています」

 

星之宮先生と呼ばれた先生は肩ほどに伸ばした明るいブラウンの髪をした優しそうな先生であった。有栖との話し方を見る限り生徒と仲良くしていくのタイプの先生らしい。

 

「坂柳さんは固いんだからもう少し砕けた話方すればいいのにね」

 

「私はこれで慣れていますので、お気になさらずにいてください」

 

「そっかそっか。それで今日はどうしたの?何か体調の悪いところでもあった?」

 

「少し体調が優れないのですが、あまり問題ありません。それよりも今日は、こちらの方を見ていただきたくて伺いました」

 

しばらく話についていけず、置いていかれていた桐生だったが、話を振られたことによりようやく話をすることができるようになった。

坂柳に言われたことにより、その保険医の先生は桐生の方に気づいた。そして、坂柳が座っていた椅子の近くにあるテーブルの上にあった紙とバインダーを取って桐生に聞く。

 

「えっと、どこの子かな?一応保健室に来た生徒は書かないといけない約束になってるから、学年、クラス、名前を言ってもらえるかな?」

 

桐生は必要な情報を一つ一つ説明した。すると、桐生の名前を聞くなり、星之宮先生は桐生の顔をマジマジと見つめて来た。突然顔を見つめられたことに桐生は困惑していたがそんなことも意に介さず星ノ宮先生は見つめて来ていた。

そんな状況がしばらく続きどうしていいのか困っていた桐生に坂柳が助け舟を出す。

 

「星之宮先生、司くんをそんなにマジマジと見られてどうかされましたか?」

 

坂柳に言われると星ノ宮先生はハッとした様子をし、桐生から離れた。そして見つめていた理由を話し始めた。

 

「いやー桐生司って何か聞いたことあるような…って思ってたんだよね〜。でも今思い出したよ。君について一之瀬さんが話していたんだ!」

 

「帆波が?」

 

喋った瞬間、背後から恐ろしい視線を感じた。あまりの恐ろしさに身震いがして恐る恐ると振り返ってみるが、そこにはいつものように含み笑顔を浮かべている有栖が座っていた。

 

「…どうかしたのか?有栖?」

 

「…いえ、何でもありませんよ。ただなぜ一之瀬さんを下の名前で呼ばれているのかと気になりましたので」

 

「…それは今答えないといけないことなのか…?」

 

「寧ろ答えないという選択肢があるでしょうか?」

 

普段と同じ様な含み笑顔を向けている有栖であったが、その笑顔は見ているだけで身震いが止まらなくなるようであった。

有栖を怒っているのは何故なのかよく分からないが、ここは答えておかなければいけない、そう直感的に感じたので、何故下の名前で呼ぶようになったのか、その経緯を説明した。

その最中もニコニコと笑っていた有栖であったが、その笑顔はより俺を怖くさせた。

そして全てを話し終えると有栖は少し考えているようであった。何を考えているのか分からないため、怖かったが、その間に星之宮先生に呼ばれたので星之宮先生の方向を向いた。

 

「ふむふむ。面白いことになってるね〜このこのっ」

 

肘でこちらをツンツンしてくるが、何がやるのか全く分からない。何か変わったことでもあっただろうか?

 

「しかも両手に華ときたもんだ。やるね〜」

 

「両手に華?ないですよ。そんな女っ気なんて俺にはないですし、寧ろ欲しいくらいですよ」

 

「もしかして気がついてない感じ?」

 

「何の話です?」

 

星之宮先生の言っていることは意味がわからない。俺が女子から好かれるわけもないし、そんな女子がいることもないだろう。いたらびっくりすると思う。なのにそう言うなんて。どういうことだ?

 

「気づいていないなら別に私が口出しをする話でもないんだけどね〜。本人が言ってほしいなら話は別だけどね」

 

「コホン。それはそうと星之宮先生、彼は頭を打ってしまっているので見てもらえませんか?」

 

なんだか無理矢理話を有栖が変えたようだが、もともとの目的は頭を打ってしまったのを何とかするために来たのだ。早く処置をしてもらいたい。

有栖の話を聞いて星之宮先生もなんだかまだ聞きたそうな顔をしていたが、俺に近づいてきて頭を確認する。

 

「あー…たしかに頭を打ってるね。とりあえず頭を冷やすためのアイシング材出すからちょっと待っててね」

 

星之宮先生は有栖の座っている椅子の近くに置いてあった冷蔵庫からアイシング材と、近くに綺麗にたたまれて置いてあったタオルを取り出し、タオルでアイシング材を包んでから俺の患部に当てた。

 

「冷たっ!」

 

急に冷たいものを当てられたものだから、冷たさに驚いて急に立ってしまった。しかし、星之宮先生はずっと頭にアイシング材を当て続ける。

 

「冷たいって感じてるなら問題ないね。これからは自分で当てておいてね。それにしても頭をぶつけるなんてなにがあったの?」

 

「それは…」

 

ここで須藤を挑発して胸ぐらを抑えられて頭をぶつけたなんて正直に言えば、須藤と共に罰を受けることになるし、今やっている審議も無駄になってしまう。なんて答えればいいのか…。

どうやって誤魔化すか困っていたところ、有栖が答える。

 

「先程私が廊下を歩いていたところ、少しふらついてしまったのですよ。その際に彼が私のことを支えてくれたのですが、彼の方向に重心が傾いた結果、司くんが頭を廊下の壁でぶつけてしまう結果となってしまったのです」

 

有栖が上手く嘘をついてくれた。多分考えられる限り最も嘘だと思われにくい嘘だと思う。実際星乃宮先生も全く疑っていないようだった。

 

「確かに桐生くんの荷物重そうだし、それは災難だったね。でも身体の弱い女の子がふらついた時にスッと助けるなんてやるね〜、このこのっ」

 

再び肘で肩の付近をツンツンとする星之宮先生であったが、こうしてみると同じ先生でも茶柱先生とは全く違った先生だな。茶柱先生は生徒と必要以上に関係を持とうとしないし、寡黙な先生だが、星ノ宮先生は積極的に生徒と関わりを持つタイプの先生らしい。

 

「星之宮先生は確かBクラスの担任をされていましたよね?」

 

有栖が星之宮先生に質問をする。有栖に聞かれたため、星ノ宮先生も答える。

 

「うん、そうだよ。私は1年Bクラスの担任もしてるよ。急に聞くなんて坂柳さんどうしたの?」

 

「いえ、司くんが気になっているような顔をしていたので聞いてみたのです」

 

「なんかしれっと考えていたこと読まれているんだが?」

 

「司くんは思っていることが顔に少し出やすいのですよ。私もAクラス担任の真島先生とは全く違ったスタイルをされるので少し気になっていたので聞きたかったのです。どちらにしても一石二鳥でしょう?」

 

「確かに聞いてくれて聞く手間が省けたが…」

 

そんなに俺の考えって分かりやすいのか…。もう少しポーカーフェイスができるようになっておかないと…。考えてることが読まれるのはあまりよろしくないからな…。

 

「ええっと、坂柳さんがAクラス、桐生くんがDクラスだったね。ということは佐枝と智也のクラスってことかな?」

 

突然呼ばれた名前に誰か分からず困惑していたが、よくよく思い出してみると茶柱先生の下の名前は佐枝だったことを思い出した。下の名前で呼ぶということは普段から仲が良いということなのか。

なぜ下の名前で呼んでいるのか気になっていると、星之宮先生は説明してくれた。

 

「君達二人の担任と私は高校の時に同級生だったんだよね。それで今も同じ職場で働いているから、今でも下の名前で呼んでるんだよね」

 

茶柱先生と同級生…確かに二人とも同じくらいに見えるけど、同じ高校の教師になるなんて仲が良かったんだろうな。茶柱先生が誰かと仲良くしているような姿は想像できないけれど。

 

「さて、昔話はお終い。身体がふらついたってことは坂柳さんは体調が今はあんまり良くないってことだから、少しここで休んでいきなさいね。桐生くんは坂柳さんを待って帰る?」

 

「ここまで送ってもらったので待って帰ります。それに体調が悪いなら寮に帰るのも大変だと思うので、荷物持ったりした方がいいでしょうし、途中で何かあった時に近くに誰か事情を知った人がいる方がいいでしょう?」

 

「確かにそうしてくれる方がこっちとしても安心できるからね。それじゃあ、坂柳さん体調落ち着くまでここで休んでいてね。体調が良くなったら鍵とか閉めずに帰っちゃっていいからね。あと、桐生くんはアイシング材は明日返してくれたらいいから」

 

「星之宮先生はどこかへ行くのですか?」

 

「佐枝が今審議に出てるし、終わったら酒飲みに行く約束するから。ちょっとここからいなくなるけど、何かあったら隣の職員室の先生に言ってね。それじゃあ!」

 

そういうと、星之宮先生は廊下へ出て行ってしまった。保健室に残された俺と有栖であったが、とりあえず上手く嘘をついてくれたことに礼を言っておく。

 

「さっきは上手く話を繋いでくれてありがとう。助かった」

 

「いえ、あのまま本当にあったことを話せば司くんも処罰を下されていたでしょう。それは私にとって良いことではありません。ですので、させてもらったのです。ですがこれこらはあのようなやり方はあまりしないでくださいね?」

 

「これからは気をつけるよ」

 

「はい。さて、流石にすぐに帰ってしまうと疑われてしまうのでもう少しここでゆっくりしてから帰りましょうか」

 

俺と有栖は少し休憩してから、寮に向かって帰っていったのだった。

 

 




突然で本当に申し訳ないのですが、ひよりをサブヒロインから外したいと思います。これからのひよりと司の関わりを考えていたら、それ、有栖と一之瀬さんでよくね?ってなるところばかりだったんです。もちろん彼女も登場させますが、サブヒロインとして扱うことはなくなります。
身勝手なことではありますがよろしくお願いします。


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決着

今回は長めです。
そして一気に2巻の内容を終わらせます。


審議が行われた翌朝、俺は綾小路や、堀北に審議の結果がどうであったのか、それを聞くために二人が登校してきたところで、聞きに行った。

 

「よう、二人とも。昨日の結果、どうだった?」

 

二人に質問をするとまず堀北が答えた。

 

「どうもこうもないわ。昨日の審議では結果は出てない」

 

堀北の言っていることが一体どういうことなのか分からず困惑していると、綾小路が順を追って説明をしてくれた。

 

「まず簡潔に結果を言うが、さらに一日猶予を与えられて、お互いの主張を取り下げさせるような動きをしてみろ、そう言われたんだ」

 

「どうしてそうなった?」

 

「昨日の審議自体は大体こちら側の優位で進んだ。やはり、佐倉という決定的証拠を持った人物がいた事が大きかったのだろう」

 

俺が綾小路に聞いたところら須藤が暴力事件を起こした時、佐倉は偶然にもその現場に居合わせたらしい。しかし、気が弱く、臆病な佐倉であったため、当日になるまでそのことを黙っていた。そのため、Dクラスが用意した証人ではないか、と言われたらしい。しかし、写真として抑えていたため、その現場を見ていることに相違はない。そこでCクラスは和解を求め、譲歩案を出してきた。それはCクラスの生徒もペナルティを受けるが、須藤にも暴力を振るった事実は残るため、2週間の停学でどうか?という話だったらしい。

最初は1ヶ月の停学で全面的に負け濃厚であったため、相手から譲歩案を出させただけでも十分にこちら側の勝ちと言えるだろう。

しかしながら、それでは須藤にとってバスケ部のレギュラーの座を剥奪されることは間違いない。こちら側が考える勝利はこちら側の全面勝利のみ。そのため、堀北は譲歩案を蹴ったようだった。

 

「普通に考えたらおかしいことだよな?」

 

「確かにそうだろうな。譲歩案を引き出してるのだろうから、こちら側の勝利は間違いない。それでも妥協しないってのは普通の交渉ならおかしな話だろう」

 

「何か不満かしら?」

 

「いや、大いにお前らしい。多分こうなるだろうって予想してた」

 

「予想してた?なら、何か手立てはあるのでしょうね?」

 

「ああ。綾小路の言葉にヒントを得た。準備もまかりなく整えている。堀北と綾小路は審議の準備をしといてくれ。俺は相手を引きづり出す準備を整えるから」

 

そんな俺の言葉に堀北はどうな手立てを使うのか説明を求めた。あまり情報を話すと広まってめんどくさい事になるので内密にすることを条件に二人に計画内容を話した。

堀北はその内容にとても驚いているようだったが、綾小路はいつも通り変わらない顔で聞いていた。

 

「驚いたわね…確かにそれは完全勝訴を狙えるけれども…けれどもあなた、必ず遂行できるのでしょうね?」

 

疑って聞いてくるあたり、堀北はまだ信用できないらしい。半信半疑といった様子で怪訝そうに俺のことを見つめている。

勿論俺も、勝ち目があるから仕掛けるのであって、不安はない。そこを説明しておく。

 

「ああ。問題ない。これをするに当たって協力者には心当たりはある。多分協力をしてくれるだろう」

 

「桐生がそこまで言うのならいいんじゃないか?確かに桐生のいう手段はこちらを完全勝訴に持っていくには十分な手段だ。俺は桐生を信用する。堀北はどうだ?」

 

綾小路は納得してくれたようだ。そして聞かれた堀北は少し考え込んでいたが、納得いったらしく首を縦に振った。

 

「分かった。じゃあ準備をするからよろしく。二人は審議の場で問題なく進行できるように準備しといてくれ。あと、結果は決まり次第すぐに携帯で伝えよう。一応その時間は携帯を気にしといてくれ」

 

「分かった。桐生も頼んだぞ」

 

「了解」

 

そう言って、俺は綾小路と堀北の元から離れると、携帯から最近手に入れたばかりのアドレスを探し出し、一通のメールを送っておく。すると、少ししてから返信が返ってくる。内容を確認すると、手はずは整ってる、という内容がそこには書かれていた。

その内容を確認して返信をすると、ちょうど始業のチャイムが、鳴った。携帯をポケットにしまい、先に着席すると先生が中へと入ってくる。

俺は授業を聞きながら、どのようにするのか再確認を頭でするのであった。

 

 

 

 

 

放課後になり、俺は特別棟2階の事件があった廊下へとやって来ていた。相変わらずここは暑い。冷房が完備されている本館と比べると、こんなにも差が出るのかと思ってしまうほどだ。

あまりの暑さにシャツの胸元を掴んでパタパタとしていると、今日の朝、協力をしてもらうために読んだ人物が現れた。

 

 

「やっほー、司。待たせちゃった?」

 

「いや、俺も先ほどきたところだから問題ないよ」

 

口ではこう言ってるが、実際のところは15分ほど前に来て、再確認をしていた。だが言わない方がいいだろうと思ったので黙っておく。

 

「いやー、最初は想定外の発想過ぎてびっくりしたよ。でも、上手く出来れば穏便に済ませることもできると思うな」

 

やはり帆波もこの案には驚かされたらしい。確かに普通なら考えない手段だから仕方ないが。

 

「しかし、帆波はこれに協力してくれるのか?言うなれば嘘をついて相手を騙さらなければならないのだが…多くの人と交友関係を持ってる帆波は少し辛いところがあるけど?」

 

「うん。確かに進んでしたいことではないけど……司が困ってるのだから…私、頑張るね」

 

「…助かる。代わりに今度の休日に一日付き合ったらいいんだよな?」

 

「うん。もともとどこかでご飯食べようって言ってたのを、一日私と出かけるようにしてくれるようにしてくれるなら喜んで付き合うよ」

 

「分かった。そんな条件でいいならいくらでも付き合う。それで例のもの…買ってきてくれた?」

 

「うん。ちょっと待ってね…」

 

帆波は持ってきていたバッグからとあるものを取り出した。

 

「うん。問題ないな。ありがとう、助かるよ。俺はこれを設置するから、少し休憩しておいていいよ。暑かったら俺のカバンの中にジュース買ってきてるから飲んじゃっていいよ」

 

「うん、分かった。気をつけてね」

 

審議開始まで残り50分ほど。あと、20分ほどで準備を整えなければならない。急いで俺は準備に取り掛かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ。そろそろ来るだろうな。帆波、よろしく頼む」

 

「任せて。じゃあ私は少し移動するね」

 

帆波はすぐに出番があるわけではないので、少し離れた位置で待機してもらっておく。帆波がここから離れて10秒としないうちに三人組の男子が暑い暑いと不満を漏らしながらもやって来た。時間ぴったりにやってきたようだ。

 

「……お前誰だ?どうしてここにいる?」

 

「初対面だったか。俺はDクラスの桐生だ。以後お見知り置きを」

 

「てめぇの名前なんてどうでもいいんだよ。俺たちは呼び出しをされてここにきているんだ。お前に用はないからそこを退け」

 

「俺はお前らと話し合いをしに来た。それだけじゃ不満か?」

 

「話し合いだと?…大方お前も須藤の味方ってところか。そんなもの俺たちには必要ねぇよ。どう足掻いても真実は隠せねーんだよ。俺たちは須藤に呼び出されて殴られたんだ。暑いんだから面倒くさいことをするんじゃねぇよ」

 

 暑さからか口調が悪く、暑そうにシャツを掴み、パタパタと仰ぐ。これ以上世間話をしている暇もない。早速本題に移ろう。

 

「大人しく諦めることだな。じゃあな」

 

 俺のことを無視して行こうとする3人だが、ここで聞こえた一言に足を止める。

 

「観念した方が良いと思うよ、君たち」

 

「い、一之瀬!?どうしてお前がここにいるんだよ!」

 

「どうしてって、言われてもね。私もこの件に一枚噛んでいるからかな?そこで君たちを呼び出しただけ。私にも君たちには因縁があるからね」

 

 俺たちDクラスが知らないところですでに衝突は起きていたらしい。おそらくCクラスの連中からちょっかいを出されていたのだろう。

 Cクラスの三人は帆波の登場によって、目に見えて取り乱していた。それが呼び出して来た張本人であふというのに必死に帆波を追い払おうとしていた。帆波はそんなことは気にせず、手配通りに宣言した。

 

「ちゃっちゃっと言っちゃおう!そろそろ年貢の納め時だよ!今回の事件、君たちが嘘をついたこと。最初に暴力を振るったこと、全部お見通しなんだよね。それを明るみにされたくなかったら今すぐ訴えを取り下げるべし!」

 

「は? 訴えを取り下げろ? 笑わせんなよ。何寝ぼけたこと言ってんだ。俺たちは須藤に一方的に殴られたんだよ」

 

「はぁ、分からないのかな?もう少し頭を使った方がいいんじゃない?この学校が日本でも有数の進学校で、政府公認だってことは分かってるんだよね?」

 

「当たり前だろーが。それが狙いで入学してんだからよ」

 

未だ反抗的態度をとる三人であったが、相手を煽るように話す帆波にイライラを募らせているようであった。次第に口調が乱れ始めている。

 

「だったらさ、今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしいと感じなかった?少なくとも私は思ったよ?」

 

「あ?どういうことだ」

 

「君たちが訴えを学校側に出したとき、どうしてすぐに須藤君を罰しなかったのか。猶予を与えて、挽回するチャンスを与えたのか。その理由は何だろう?」

 

「そりゃ須藤が学校側に泣きついたからだろ」

 

「本当にそうなのかな? 本当は別の狙い、目的があったんじゃないかな」

 

「わけわかんねぇ。あーくそ暑ぃ」

 

窓を閉め切った廊下は、夏の逃げ場がなく、蒸し暑くなっていく。それに伴い、集中力が低下していく。さらに苛立ちも加わり、冷静な判断ができなくなる。

それを分かってかどうか知らないが、3人はこの場を離れようとする。

 

「もう行こうぜ。こんなところに居ても意味はない」

 

「いいのか?もしお前たちがここを離れたら、一生後悔するかもしれないが?それでもいいってのなら帰ればいい?尤も返すつもりはないがな」

 

「さっきから何なんだよ、お前ら!」

 

ついに怒りが限界に達したのか三人の中で中心人物のようである人が不満をぶちまけた。ここが絶好のタイミングと考え、ついに俺は話す。

 

「分からないなら教えてやろう。学校側はな、知っているんだよ。お前たちが嘘をついていることを。それも初めから」

 

 Cクラスの面々が俺の言葉に固まる。予想だにしていない言葉に理解が及んでいないのだろう。それでも何とか正気を取り戻したリーダー格の男が反論する。

 

「俺たちが嘘をついてる?それを学校側が知ってるだと?笑わせんじゃねーよ」

 

「お前たちは芸人か何かか?笑わせてくれる。お前たちは学校側の手の平でずっと踊らされてるんだから」

 

「そんな嘘は通用しねえ!」

 

「そう?でも確実な証拠があるんだけどな?」

 

「はっ。だったら見せてくれよ、その証拠とやらをよ」

 

証拠がないと確信しているからこそ乗ってきたのだろう。笑いが止まらない。ここまで想定していた流れた寸分狂わず動いている。でもその行為が敗北につながる。チェックメイトだ。

 

「お前たちはあそこについている物体が見えないかな?」

 

俺が指をさした先。そこにCクラスの面々も視線を向ける。そこを見つめ、発見した瞬間、顔は青ざめ間抜けな声を出す。

 

「……へ?ば、な、何でカメラがあるんだよ!嘘だろ!?だって、他の廊下にはカメラなんてなかった。ここだけ設置されてるなんておかしな話だろうが!」

 

 僕が指をさした場所には特別棟の廊下を、隅から隅へと監視するように、時折左右に首を振る監視カメラがあった。

 

「ダメじゃない。誰かを罠にハメるならカメラのないところでやらなきゃ」

 

帆波の援護射撃に更に動揺は増しているようで、リーダー格の一人以外はすでに顔が青ざめて思考が停止しているようであった。しかし、リーダー格の一人だけは未だ抵抗を続けていた。

 

「…俺たちをハメようったってそうはいかないぜ。アレはお前らが取り付けたんだろ!」

 

「ふーん。だったら後ろ見てみたら?カメラは一台だけじゃないよ?もし私たちが取り付けたんだとして、あっち側まで用意するかな? と言うか、そもそも監視カメラなんて学校から出られない状況でどうやって用意するの?」

 

「そんなはずはねぇ。廊下にはカメラはないはずだ!」

 

「ん?お前ら?知らないのか?職員室と理科室の前には例外的に設置されているんだぞ。お前ら理科室にどれだけ危険な薬品が保管されてるの知らないだろ?硫酸とか無断で持ち出されてみろ。どんな大惨事が起こると思ってんだ?」

 

少しづつ逃げ道を潰され、Cクラスの三人は反論する言葉を失う。もう少しだな。押し込もう。

 

「そ、そんな馬鹿な……そんな、俺たちはあの時確認した……はず」

 

「本当に2階だったのか?別の階を調べたんじゃないのか?だってここには現にカメラがあり、動いている。確かな証拠だろう?」

 

「それに君たち、自分自身でボロを出してるって分かってる?監視カメラがあるかないかなんて普通の人は気にしないし確認なんてしないよ。自分たちが犯人だって認めてるようなものだよ」

 

帆波の言葉に3人は頭を抱えるようにしてふらついた。もはや自ら自白をしているようなものだ。この暑さに加え、突然伝えられた真実により三人は正気を失っていった。冷静な判断なんてもうできないはずだ。

 

「じゃ、じゃあ……あの時のも、まさか……」

 

「まあ、音声はないにしても、お前たちが殴りかかった瞬間は写っているだろうな。お前たち、滑稽だと思わないか?自分たちは立派に演技をして騙せているとでも思っていたのだろうが、実際はそんな演技見抜かれていた。その審議の場で生徒会長とやらはどんな思いでお前たちを見ていたのだろうか。聞いてみたいもんだな」

 

 

「本当は、学校も待ってるんじゃないのかな?君たちが本当のことを話してくれるのを。だから生徒会長自ら審議に参加していたんじゃないかな?今思い返したら、全て見抜かれていたと思わないかな?」

 

 帆波の言葉を聞いて、3人はきっと昨日の審議のことを思い返しているに違いない。当然のことながら嘘を見抜かれていたかなんて俺には分からない。しかしながら、生徒会は中立の立場として、C,クラス、Dクラスのどちらも疑っていたはずだ。だからこそ生徒会長自ら出てきたのだろう。しかし、冷静な判断能力を失っている彼らからすれば、それが自分たちだけに向けられていたと思い込むには十分だろう。

 

「何で俺達がわざわざお前らに教えたと思う?」

 

「…それが何だってんだ?」

 

「それはだな、この事件は起こった時点で、互いに罰を受けることが決まっていたからだ。どちらが先に仕掛けたにしても、結局は罰を受けるんだ。それじゃ、うちも困るんだよ。悪い噂が一つでも残れば、須藤のレギュラーの座は危ない。大会にだって簡単には出られないだろう」

 

「何だよそれ。じゃあお前らだってカメラの映像は困るんじゃねえか。だったら俺たちはこのまま何もしなくていいんだ。須藤を停学にできればそれでいいんだからよ」

 

「…へぇー、君たちは退学が怖くないんだ?」

 

「は?退学……?」

 

完全に頭が回り切ってないようだな。思考能力がゼロにまで落ちているから仕方ないこととはいえ、ちょっと考えれば思いつくことなのにな。

 

「君たちは3人がかりで嘘の供述をしたんだ。停学なんかで済まされるとは思えないよ。もっと重い罰を下されるだろうね」

 

「お前たちは退学をナメていたのだろうけど、考えてみろ?ここは日本政府が直接資本を出しているような高校だぜ?そんなところを退学にされた人間を不思議に思わない人なんていないとでも思ってるのか?」

三人の顔がより一層青ざめていく。ようやく事の重さを理解したのだろう。だが容赦はしない。徹底的に追い詰める。

 

「まあ、大抵のところに就職しようにも出来ないだろうな。そんな国お抱えの高校を退学になっちまうような人材だ。欲しいと思う方が不思議だわな。何をしようにもここを退学にされたという重い足枷は一生お前たちに付いて回る。それを覚悟した上で何もしないなら結構。俺たちはお前たちの人生には何も関係ないからな。好きにしてくれ。」

 

そう言って俺と帆波は出口の方向に歩き出す。敢えてここで突き放す事で、相手は必ず、こちらに条件を提示してくるだろう。その中からさらにこちらに良い条件を引き出す。

 

「ま、待てよ!じゃ、じゃあ、何で学校は俺たちに何も言ってこないんだよ!」

 

「簡単な話だよ。学校側は試してるんだよ。私たち生徒間で問題を解決できるのか、どんな結論を導き出すのかを試してるだね。この学校らしいね」

 

「お前らに最後のチャンスを与えてやる。簡単な話だ。それは訴えそのものを取り下げるって手段だ。訴えが無くなれば誰も処罰を受けることはない。そうだろう?」

 

俺たちに打てる手立ては全て打った。後はこいつら次第だが…。

 

「……一本、電話をさせてくれ」

 

リーダー格の男が最後の悪あがきをする。大方Cクラスを仕切っているという龍園とかいうやつに電話をして指示を仰ぎたいのだろうが、そんなことはさせない。ここで考える時間を与えさせると不利になる。ここで決める。

 

「交渉は決裂したみたいだね」

 

「そうだな。今すぐ学校側に映像の確認をしてもらって、こいつらを退学にしてもらおう。おっと時間ももうないな。急いで審議する教室へ向かわないとな。それじゃあ俺たちは失礼するよ」

 

三人は俺が見た時計を見て、ついに顔が真っ白になっていった。そこの時計が指し示している時間、それは4時55分。審議開始は5時。これだけで何を指し示すか分かるだろう。審議に出なければ心象はそれだけで悪くなる。それに加えて先ほどのことを話している。そこから導き出される答えはただ一つ。退学だ。

 

「まっ、待ってくれ!わかった……取り下げる……取り下げれば、いいんだろ……!」

 

ついに心が折れたようだ。これでうちの完全勝利だな。

 

「了解した。時間もないから急いで審議室にいくんだな。遅れた時、どうなるのか、分かってるだろうしな」

 

そう伝えると一目散に審議室へと走っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。目論見通りに進んで助かったよ」

 

「お疲れ様ー。暑いから帰りながら話そうよ」

 

「分かった。そうしよう」

 

俺と帆波は荷物をまとめて特別棟から外に出た。その際に綾小路に上手くいったことを伝えた。綾小路からは了解した、と簡単な返信が返ってきた。それに俺も返信してから携帯を閉じる。携帯を閉じると帆波が話しかけてくる。

 

「いやー司のやり方は怖いね。完全に心を砕きにいってたでしょ?」

 

「ん?そりゃあ心を砕いておかなきゃ、判断力乱さないからな」

 

「それに、時間も嘘付いちゃってたね。最初なんで時計が早いんだろう?って思ってたけど、まさかそう使うなんて思ってもなかったよ」

 

実は帆波の言う通り、先ほど俺や三人が見た時計は正しい時間を刻んでいない。5分早くしていたのだ。俺の見立てではどんなに会話を長引かせても20分が限界だった。そこで、なるべく長く体感させ、ギリギリの時間であると錯覚させる。そうすれば、更に相手は焦る。それを狙ったのだ。

 

「あと気になってたんだけど、司は全然汗かいてるようには見えないんだけどどうしてなの?こんなに暑いのに?」

 

「ああ、それはコルセットを装着してるからだよ。胸の辺りにコルセットを装着して締めると、上半身の発汗が抑えられるんだ。代わりに下半身が余計に発汗するのが弱点だけどね」

 

「そんなことしてたんだ。でもそれって何か理由があったの?」

 

「それはだな、俺が全然汗をかいてないのに、自分たちは汗が止まらない。すると、自分が焦って汗をかいているのだと少し思って錯覚してしまうからだ。想像して見たら分かると思うよ。自分が汗が止まらないのに相手は汗ひとつかかず、冷静に言葉をかけてくる。するとこの汗が自分の冷や汗なのでは…って思ってしまうんだよな」

 

「…聞いてて隣にいる人が怖くなってきたよ…」

 

「まあ、そうだろうな。今回は仕方ないことだ。帆波にはこんなことしないよ。俺たちの邪魔をしなければ…だけどな」

 

「あはは…善処するね…」

 

帆波がさっきから苦笑いしかしなくなってしまった。やり過ぎてしまったのだろうか?まあ、いいか。俺は俺の仕事をやったまでだ。後は綾小路と堀北がなんとかしてくれるだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、茶柱先生からCクラスからの訴えは取り消されたと伝えられ、この一件は決着となったのだった。

 

 

 

 

 

 




徹底的に石崎たちの心を砕いた桐生でした。
次回は一之瀬さんとのデート幕間を挟んで、3巻、無人島編が始まります。楽しみにしていてくださいね


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幕間 一之瀬帆波編

今回も遅くなりました…

お気に入り1500件突破しました!ありがとうございます!
それに最近は有栖ヒロインのものが増えてますね
作者はそんな流れを嬉しく思いながら、この作品を書いてます

今回は一之瀬さんとのデート回です
どうなるのでしょうか?




須藤の審議を終え、帆波が一日付き合ってほしいと言っていた日曜日がやってきた。本来は何か奢ることになっていたのだが、須藤の件で協力をしてもらったお礼として何がいいか聞いたところ、今日一日帆波に付き合うこととなったのだ。

昨日帆波にどこで待ち合わせるか聞いたところ、寮の前の広場にしようと言われたので、今はそこに向かっているところだ。

 

こうして女性と出かけるのは2回目であるため、こういう時にどう言った格好をすればいいのか分からず困ったが、なんとか服を決めて、自室を出たのだった。

 

もう少しで広場にたどり着くところで、手につけている腕時計に目を落としてみると、集合時間10分前であった。もしかしたらもう帆波は来ているのかもしれない。そう思って広場に行ってみるとすでにそこには帆波がいた。

 

「おはよう、帆波。待たせちゃってたな、ごめん」

 

「あっ…おはよう司!ううん、私も今来たところだから大丈夫だよ」

 

「そうなのか。ならいいんだが…」

 

「それじゃあ早速行こっか。まずはご飯でも食べに行く?」

 

「そうだな。ぼちぼちお昼時になるからレストランでも行こうか。帆波は何が食べたい?」

 

「それなんだけどね、もう行きたいところある程度決めてるんだ。ケヤキモールにどれもあるから話しながら決めよ?」

 

「分かった。じゃあ行こうか」

 

帆波はすでにある程度決めて来ているらしい。俺も何か決めて来た方が良かったかな…。

 

 

 

 

 

 

 

帆波とどこの店にするか決めながらしばらく歩いていると、ケヤキモールのレストラン街に到着した。話あった結果、最近美味しいと評判になってるらしいイタリア料理店があるらしい。俺は知らなかったが、いったいどこで女子はこう行った情報を仕入れて来るのだろうか?

 

そしてその料理店にやって来ると、開店前であるが、すでに多くの人が並んでいた。やはり人気店のようだ。

 

「ありゃあ…並んじゃってるね…お店変える?」

 

「帆波が食べたい店なんだろう?だったら俺は待つよ。帆波が別の店がいいって言うなら変えてもいいよ?」

 

「ならここで並ぼっか。早速列の後ろに行こう!」

 

早速列に並ぶことにしたが、あと15分ほどかかるらしい。しばらく暇なので帆波に話しかけて時間を潰そうとするが、帆波の反応が悪い。何か怒らせるようなことをしてしまったのか…?もしかして隣で歩きながら帆波を見過ぎたのが悪かったのだろうか?でもぶっちゃけいってかわいいし…今日だってここまで歩いてきてたけど、その最中で通り過ぎる人が帆波のこと振り返って見てたし、隣を歩いている俺にすごい視線感じたからな…。帆波はこういった視線に慣れてるのだろうけど、俺はそんなことに慣れてないから緊張したんだよな…。よく考えたらこんなかわいい子と一緒に休日に出掛けられるなんて俺めっちゃ運いいんだな」

 

「…ねえ、司…恥ずかしいよ…」

 

帆波が俺の着ているシャツを引っ張って話かけてくる。何のことか分からなかったため、帆波の方に向いてみると、少し頬を赤くして、下に俯いていた。

 

「…?どうした?何かあった?」

 

「……司の話してた言葉が…」

 

「?話した…?…もしかして言葉漏れてた…?」

 

「…うん…」

 

すごい恥ずかしい…。思ってることが言葉で漏れてたとか普通の内容でも恥ずかしいのに、よりにもよって…。

 

二人揃って下に俯き、照れていると中から店員が出てきて、席が空いているから中に、と案内をしてきた。二人ともお互いの顔を見ることなく、中に入ると、席に腰かけた。

 

店員はメニューを俺と帆波の間に置くと、ごゆっくりどうぞ、と言って戻っていった。不思議と店員が温かい目でみていたような気がした。それが気になったが、今はそんなことよりも、お互いに恥ずかしくて声をかけづらく、メニューを挟んで黙っているこの状況をどうにかしないといけない。

とりあえず、メニューを決めないといけないと思って、声をかけてみることにしてみた。

 

「…あのさ…帆波?」

 

「…あのね…司?」

 

二人揃って同じタイミングで声を出してしまった…。再び気まずくなってしまい二人揃って黙り込んでしまう。そんな状況がしばらく続いて、もう一度声をかけてみることにした。

 

「…メニュー…決めよっか?早く決めないと他にも待っている人たちがいるから困っちゃうだろうし…」

 

「…うん、そうだね…。決めよっか。ここはね、魚を使ったパスタが美味しいって評判なんだよね。私は美味しいって聞いてたこのアンチョビとセロリのパスタにしようかな。司は…どうする?」

 

帆波はすでに何を頼むか決めていたらしい。かく言う俺は全く何にするか決めていない。早く決めないと帆波にも申し訳ない。

とりあえずメニューにざっと目を通してみる。

目を通してみると、ここのメニューはたくさんあるようで、候補が複数あり、何を頼もうか悩んでしまう。こう言う時に優柔不断な性格は困るんだよな…。

 

「ここのメニューって多いから最初に来た時困るよね。友達が言ってたから分かる。私は大丈夫だから、ゆっくり決めてね」

 

俺がなかなか決まらず焦っているのが伝わったのか、帆波がゆっくり決めていいよと話してくれた。嬉しいけど、待たせすぎるのもあれなので、もう決めてしまおう。

 

「ありがとう。でも今決めたよ。帆波ももう大丈夫?」

 

「うん。じゃあ呼ぼっか」

 

メニューが決まったので、店員をボタンを押して呼ぶ。ボタンを押すと、しばらくして店員がやって来たので、帆波は先ほど言っていた、アンチョビとセロリのパスタを、俺は4種のチーズとベーコンのパスタにすることにした。

店員が注文を聞き終え、厨房に伝えに言ってから10分ほどで俺たちの注文した料理がやって来た。

 

机の上に置かれた皿からは香ばしい香りが漂ってくる。それはとても美味しそうな香りで、食欲を唆る香りであった。

 

「わぁ!美味しそう!早く食べたいな!」

 

「そうだな、じゃあ、手を合わせて」

 

「「いただきます!!」」

 

手を合わせて挨拶をした後、俺はフォークを取って、帆波はフォークとスプーンを取って、早速パスタを食べ始める。

 

パスタを口に入れると、チーズの旨味が口いっぱいに広がり、所々にまぶしてあるベーコンの香りが、さらにパスタを口に運びたくさせる。総じてとても美味しいパスタであり、ここまで行列になるのも納得と言った料理であった。

 

「ん〜美味しい!やっぱりここの料理は美味しい!」

 

帆波の食べてるパスタも美味しいらしく、帆波が舌鼓をうっている。

 

「帆波の頼んだのも美味しいみたいだな」

 

「うん!司のも美味しそうだよね!」

 

「ああ。けど、少し味が濃いから、薄味が好きな人にはちょっときついかも?」

 

「そうなんだ。…ちょっともらいたいな…いいかな…?」

 

帆波は俺のも食べてみたいらしい。女子はみんなで頼んでシェアをするのが好きと聞くし、帆波もそうなのだろう。

 

「分かった。取ってくれたらいいよ」

 

俺は少し皿を帆波側に寄せて取りやすくする。しかし、帆波が取ろうとしないため不市議に思ったので質問する。

 

「?どうして取らないんだ?食べたいんじゃないのか?」

 

「…あのね…出来たら…でいいんだけど…」

 

「…何?出来ることならするよ?」

 

「……あのね、『あーん』して欲しいの…ダメ…かな…?」

 

「……え?」

 

今何って言った…?俺の聞き間違いじゃなければ…『あーん』って言ったような…?…嘘だよな…?

 

「…やっぱりダメだよね…ごめんね…無茶言っちゃって…」

 

俺が何も言わず呆然としていると、迷惑を掛けたと肩を落としてしょんぼりと帆波はしてしまった。その様子を見ていると罪悪感でいっぱいになる…。…ええい、ままよ。後は野となれ山となれだ。

 

「…帆波、口…開けてもらっていいか…?」

 

「…えっ?」

 

「ほらっ…俺もこうしてると恥ずかしいから…」

 

「う、うん」

 

帆波が口を開けてくれたので、俺は帆波に『あーん』をする。今までは『あーん』なんてそんな恥ずかしいものじゃないだろとか思ってたけど、いざしてみるとめちゃくちゃ恥ずかしい…。店員の人とかの好奇の目がすごい刺さるし…。

 

「うん、美味しいね。じゃあ、せっかくしてくれたし私も…」

 

そういうと、帆波はパスタをフォークに巻き始める。あの恥ずかしいのをもう一回しないといけないのか…?なんかさっきから冷やかしの声も聞こえてくるし…。オーダー取りに来た店員さんがすごいニコニコ笑ってるのがすごい気になるし…。

 

「じゃあ、司、あーん」

 

さっきでも割と勇気振り絞ったのに…。もう、どうにでもなれ…。

 

結果俺は帆波にあーんをしてもらった。緊張と恥ずかしさから、帆波の注文していたパスタの味は分からなかった。そして、それが終わると店員さんがお冷やを変えにやって来たのだが、そこで帆波も思い出したように恥ずかしさがやって来たのか、二人揃って下を俯いてしまったのだった。それは食べ終わって会計をするまで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ご飯を食べ終わった俺たちは帆波が次に行きたいというブティックに向かうことになった。

帆波が言うには夏休みになると、一年生全員参加の客船ツアーが、あるらしく、そこに来ていく服を決めたいらしい。

相変わらずうちの担任は仕事をしない人だと思う。有栖もそのようなことを仄めかしていたから、他クラスではある程度話されているのに、うちのクラスでは何も話されていないからな…。どうせなら俺も着ていく服を買っておきたいかな。

 

「着いたね。司も服買っておきたいんだっけ?」

 

「うん。でも俺は服をどうしたらいいとか全く分からないからな…」

 

「私も服を選ぶの手伝うよ!だから、私も服を見てどうか教えて欲しいな…?」

 

「分かったよ。じゃあ、とりあえず一旦別れて、服を各々選んでみようか」

 

「そうしよう!じゃあ、決まったら試着室の前に来てね!」

 

「分かった」

 

服を選んで集まることにしたため、一旦帆波と別れる。

店内を回ってみるが、イマイチどんな服を持っていけばいいのか分からない。こういったお洒落な店に来ることなんてないから困るし…。

この店内にいる人もすごくお洒落な人たちに見える…。

 

帆波と別れて15分ほど経って、どんな服を選んでいいか分からず困っていた時だった。

 

「あれ?桐生くんだよね?どうしたの?」

 

突然声をかけられたので誰かと思いその声の持ち主の方を向いてみる。するとそこにいたのは、同じクラスメートの櫛田と池、山内であった。以前有栖と出かけた時にも出会った組み合わせだな…。

 

「お前たちこそどうしてここにいるんだ?」

 

「私たち?須藤くんの件で頑張ってもらったから、そのお礼かな?それでデートしてるの」

 

なんかまた櫛田は裏で不満を吐き出してそうだな…。どうせ池と山内は櫛田の裏の顔には気づいていないだろうが、その方が幸せなんだろうな…。

 

「どうしたんだ、桐生?」

 

「そうだぞ。気が重そうな顔して?」

 

「いや、何でもない。こういったお洒落なところは苦手でな。ただ服がないから買わないといけないから来ているのだが…」

 

どうやら、顔に出ていたらしい。下手に顔に出しすぎると櫛田に勘づかれる可能性があるから気をつけないといけないな。

 

「そっか、それは大変だよね。私も選ぶの手伝おうか?」

 

俺が困っているのをみて櫛田が手伝おうかと聞いてくる。しかし、櫛田といるのはめんどくさいし、帆波が待ってるから断っておこう。第一、帆波がここに来たら池と山内もめんどくさくなるから、早く離れておきたい。今も池と山内がいろいろ言ってるからめんどくさいし。

 

「いや、自分で決めるからいいよ。それにデートの邪魔をしちゃ悪いでしょ?それじゃ」

 

とりあえずここから急いで離れようとした時だった。

 

「司〜、服決まった?」

 

なんと帆波がこちらにやって来てしまった。しかも俺のことを下の名前で呼んでいる。ああ…確実にめんどくさくなる…。

 

「司だ!?こんな可愛い子に下の名前で呼ばせてどういうことだ!桐生!説明しろ!」

 

「そうだ!説明しろ!お前前も有栖とかいう女の子と一緒に出かけていただろ!」

 

案の定池と山内が突っかかって来た。帆波は何のことか分からず困っているようだし…。はぁ、めんどくさいけど、少し話すか…。

 

「今日ここに来てたのは一之瀬に須藤の件で手伝ってもらったからだ」

 

「そうなんだ!須藤くんの件で協力してもらってたのは聞いてたんだよね。ありがとう!」

 

「いいや〜。別に大丈夫だよ。Cクラスとはちょっと因縁があったからね。それと、司?」

 

突然帆波は俺のことを呼んだ。しかしいつものように明るく元気な声ではなく、低く、聞いているだけで恐ろしさを感じさせるような声であった。

 

「司?私のことは帆波って呼んでくれてたのになんで呼んでくれないの?」

 

「そ、そりゃあ…」

 

「確かにクラスメートの前じゃ恥ずかしいかもしれないけど、呼んでほしいって言ったから、ちゃんと呼んでほしいな」

 

「は、はい。これこらはしっかり帆波と呼ばせていただきます…」

 

「うん。ならいいよ。じゃあ、私たち服決めるから行くね。それじゃあ、またね、桔梗ちゃん!」

 

そう言って帆波に手を引かれて俺は櫛田や池、山内たちのいる場所から離れることとなったのだった。

 

 

 

 

「司?恥ずかしかったのだろうから、名前で呼ばなかったことは許してあげるね」

 

櫛田たちの元から離れて、店の端にやって来た俺と帆波だったが、未だ少し怒っているようだ。今も少しトーンが低く怖く感じさせる…。

 

「けど、有栖ってのは誰?」

 

なんだか浮気現場を押さえられた夫の気持ちを今感じている…。なんだか帆波の目からハイライトが消えているような…。

 

「誰?」

 

「あ、有栖はAクラスの坂柳有栖だよ。有栖とは同盟関係を結んでるから…」

 

「ふーん。そうなんだ。それでどうして名前で呼んでるのかはよく分からないけど、私も坂柳さんはよく分からないし、まあいっか」

 

なんとか帆波の怒りは治ったらしい。やはり女性を怒らせるとめちゃくちゃ怖い…。有栖も怒っためちゃくちゃ怖そう…。今度からは怒らせないように気をつけないと…。

 

「…私だってまだ司と付き合ってる訳じゃないから、他の人とのことまで言ったら印象が悪くなっちゃうよね…。気をつけないと…」

 

「帆波?どうした?何か言った?」

 

「な、何もないよ!それよりも服選んだから見てほしいの!来てくれる?」

 

「…?分かった。俺まだ服決めてないけど、また後でいっか」

 

「ありがとう!先に試着室に行っててくれる?服取って行くから」

 

「うん。分かった」

 

そんなわけで、俺は先に試着室に行くことになった。とりあえず試着できる場所を確保してもらって、帆波を待っていると、服をいっぱいに持って、帆波がやってきた。

 

「ごめんね、待たせちゃった。着てみたい服が一杯あって…」

 

「俺はいいよ。とりあえず着てみる?俺は待ってるからさ」

 

「分かった!ちょっと待っててね!」

 

そう言うと帆波は試着室の中に消えていった。その後帆波のいろんな衣装を見て、率直な感想を話した。ぶっちゃけどんな服着ても帆波ならかわいいっていったら顔をまた真っ赤にしてたけど何だったんだろう?

 

結果帆波はいっぱい服を買っていた。一体どうすればあんなに服を買えるお金が出てくるのか不思議に思ったが、普段の生活を安く押さえておけば問題ないのだろう。それにここの店は意外と値段が安くなっている。俺も2着ほど服を買っておいた。

 

そして寮に帰るときにはもう夕日もかなり橙色になっており、影も長くなっていた。

別れ際に見た帆波はとても嬉しそうな顔をしていたので本当に楽しめたようで、俺も一緒に出かけて良かったと思った。

また、こうして、帆波と出かけてみたいな…と思いながら俺も自室に帰っていったのだった。

 




今回の一之瀬さんは、初めてのデートなので、最初は緊張しまくっていると言う感じです
ブティックに行く頃には慣れてきたって感じですね
少しヤンデレ感出てしまいました。
一之瀬さん好きな方はすみませんでした…



さて、次回からは無人島試験編です!
司と有栖が混じることでどのような変化が生じるのか?
楽しみにしていてください!


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無人島特別試験編
船上にて


今回より3巻、無人島編スタートです



「美しい景色ですね」

 

となりに座っている少女、有栖が突然に呟く。突然呟いたことに俺は驚くが、的確に突っ込んでおく。

 

「何言ってんだ、室内でチェスしてるってのに美しい景色も見えないだろう?」

 

今、俺と有栖は豪華客船の船内、遊技場にあるチェスをしている。周りに人はいなく、誰一人として話すことのない空間でのチェスなので、そこに響くのはチェスを動かす音だけ。そんな中での有栖の突然の呟きだったのだ。その上何も関連性のない話であったので、俺は驚いたのだった。

 

「確かに見ることはできませんが、外には美しい景色が広がっているのでしょう。皆さん外に行かれているので、そこで楽しんでいるのでしょうが」

 

「仕方ないだろ。有栖は身体が丈夫じゃないんだから。船が揺れたりでもしたら危ないから、誰か付き添いがいないとあんまり外も歩けないんだろ?」

 

今、俺とチェスをしている少女、坂柳有栖は生まれつき身体が弱い。それは医師に一切の運動を禁じると言われているほどであった。

 

「ええ。誰か見知った人を付き添いとして、行動すること。それが今回私がこの船に乗るための条件ですから。その点は司くんがいてくれたら問題ないでしょうからね」

 

「そこでなんで同じクラスの奴らじゃなくて、俺なのか謎だが、ずっと船内にいるというのも有栖には退屈だろう。俺も手が空いてるなら有栖の外出の手伝いくらいするよ」

 

「ふふふっ。これから二週間、一緒に行動してくださるのですね。では、楽しみにしていますね」

 

有栖はいつものように不敵に笑っている。有栖がこんな風に笑うってことは大抵良いことは起きない。嫌な予感がする…。事あるごとに呼び出されて自由時間がなさそうな予感がするな…。

 

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

突然の船内放送が俺と有栖しかいない空間内に響き渡る。内容はデッキから見える景色を見ておくといいといったことであった。確かに外の景色も見ておきたいが、今はチェスもいいところまで来てるから、外に出たくないな…。

実際、あと数手で決着がつくであろう局面まで来ていた。今のところはこちらが劣勢で、なんとか覆そうとか、奮戦はしていたが、なかなか絶望的な展開であった。

 

「さて、チェスはここまでにしてデッキにでも行きましょうか」

 

「ん?いいのか?今かなりいいところなのに?」

 

有栖はもう少しで勝てるというのにデッキに移動すると言ってきた。もう少し待てば終わっていけるのに何故だろうか?

 

「チェスなんていつでも出来ます。おそらくですが、ここで景色を見ておく方がいいでしょう」

 

今すぐに景色を見ておいた方がいいということなのだろうか。確かにこの学校では常軌を逸したことがよく行われる。そういったことが起こっても大丈夫なようにするためだろうか?

考えても答えは出てこないので、とりあえず有栖に従ってデッキに移動することに俺も賛同した。

 

「分かったよ。じゃあ、チェスは片付けて行くか」

 

「ええ。エスコート、よろしくお願いしますね」

 

結果、俺がチェスを片付け終わってから移動することになった。その間有栖は何か考えていたようだが、何を考えていたのかは分からなかった。

 

 

 

 

「潮風が気持ち良いのですね」

 

有栖が船の揺れでふらついたりしないか気をつけながら船のデッキまでやってきた。すでにそこそこな人数はあるようでその生徒たちは綺麗な海の景色を眺めているようであった。

 

「確かにな。風が強すぎるわけでもなく、心地いいくらいに吹いてくるから気持ちがいい。とりあえず景色の見やすいところへ行くか?」

 

ここは人が多すぎるため、有栖に移動することを提案する。デッキより後方の方にはあまり人がいなく、景色も見れそうだったからだ。

それに集まってきた人たちは我先にと景色を見ようと端に寄ろうとする。その際に有栖が押しのけられるようなことがあったら、身体の弱い有栖には辛いだろうから、というのも理由であった。

 

「そうですね。ここからでも景色は見れますが、後方に移動した方がより見えるでしょう。移動しましょうか」

 

有栖も意見に賛成した事で移動することが決まったので移動を始めようとする。

すると、景色を見ていた生徒たちが騒ぎ出した。我先にと手すりにつかまり身を乗り出してその外側に広がる景色を眺めている。

その様子から目的地の島が近づいてきたようであった。

 

「テメェ!何しやがる!」

 

後ろから須藤が誰かと揉めているような声が聞こえてきたが、俺も有栖も気にせず、船の後方部へと移動をした。

 

有栖が転んだりしないようにゆっくりと移動をし、有栖が座って外の景色を見れるところにやってくると、すでに島が肉眼で見える位置まで船は接近していたらしい。それはすでに船をつけるであろう桟橋すら見えるほどであった。しかしながら、何故か船は桟橋には付かずに島の周りを回り始めた。

 

「確かに雄大で美しい景色をしていますね」

 

「ああ。確かに美しい景色だ。こんなに綺麗な景色なら意義ある景色と言えるだろうな」

 

「そうですね。しかし…気になりませんか?」

 

突如有栖が有栖が疑問を投げかけてくる。その疑問の意図が俺には読み取れなかったので、一度聞き返してみる。

 

「というと?」

 

「ふつうに美しい景色を見せるだけだといいのですが、それにしては船の航海速度が速いように感じます。単に景色を見せると言うのならば、ここまで早い速度を出すでしょうか?」

 

有栖に言われてみると、確かにただ景色を見せるだけと言うには速度が速すぎることに気がついた。俺たちは船の後方部にいるため、あまり風を感じてはいなかったが、前方部にいる人たちはかなり風を感じているのではないだろうか。しかし、気づいていない人がほとんどであると思うが…。

 

「となると司くん。これは一体何を指し示すのでしょうか?」

 

有栖は授業をしている教師のように質問をしてくる。その様子から有栖はすでに気づいていたのかもしれない。

 

「そうだな…景色をただ見せるだけではない…。しかし他に考えられそうな理由はないな。となると…ただ観光のためではない…といったところか?」

 

「流石ですね。私が認めただけあって、すぐに気づきましたね。これはただの観光旅行ではないのでしょう。恐らくですが…何かしらの試験がこれから行われますね」

 

「……この学校ならあり得なくもないな。と言うことはこの景色はその試験を優位に進めるためのもの…ということか」

 

「恐らくですが。この景色…しっかりと記憶しておく方がいいでしょう」

 

これが本当なのかはまだ分からない。しかし、この学校の今までのことを考えればあり得なくはない話だ。とりあえずこの景色を覚えておこう。

 

しばらくの間二人で船から見える景色を眺めていると、船内にアナウンスが鳴った。

 

 『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

アナウンスが鳴り終わると、周りにいた生徒たちも、各々の部屋へ戻るために移動をし始めた。

それに合わせて、俺と有栖も部屋に戻るために移動を開始した。

 

「やはりあのアナウンスの話し方…何かありそうですね」

 

「確かにそうだな。鞄と荷物を確認して降りるというのは不思議ではないが、携帯を必ずもってこいというのが不思議だ」

 

「確かにそうですね。これからどんなことが起きるのか、楽しみです」

 

有栖はいつものように不敵に笑い始めた。この笑い方をするときには大抵いいことは起きない。しかも俺が何かしないといけないときに、有栖はこうした笑い方をする。

今回は何をさせるのかと考えていると、有栖は俺に一つのことを告げる。

 

「そうですね。司くん、あなたには今回してほしいことがあります。もちろんやってくれますよね?」

 

「…因みに拒否権は?」

 

「無いです」

 

即答で否定された。やはり拒否権はないようで、絶対にやらなければならないことが確定し、俺は一度ため息をつく。しかし、そんなことは一切気にせず、有栖は俺にして欲しいということを説明し始める。

 

「今回は、私と対立しているもう一つの派閥のリーダー、葛城くんに一泡吹かせてください。それが今回司くんにしてほしいことです」

 

「…はい?」

 

有栖から言われたことがいまいち飲み込めず、どういうことかもう一度聞く。しかし同じ説明をもう一度されるだけであった。

 

「なんかよく分からないけど…その葛城に一泡吹かせればいいと。因みにその手段は何か指定があるのか?」

 

「いえ、ありませんよ。司くんのやり方で葛城くんを驚かせればいいんです」

 

なんだか漠然としていて実感が分からないな。それに葛城について俺は何も知らないし…。この様子だと有栖は何もしてくれないだろうから…とりあえず後で神室、橋本と落ち合って情報仕入れとくか…。

とりあえず神室と橋下に携帯を開いてメッセージを送ろうとするが、ここで、有栖の部屋の前にやってきたらしく、有栖とはここで一旦別れることとなった。

 

「ふふっ、エスコートありがとうございました。楽しい散歩になりましたね」

 

「確かにチェスをしてた辺りは楽しかったが…今は有栖に言われたことをこなすためにどうするかで頭がいっぱいだ…」

 

「楽しみにしていますよ。それでは…」

 

有栖が部屋に入ろうと、部屋の鍵を取り出したその時、有栖はとある人物に話しかけられた。

 

「坂柳、ここにいたのか。探したぞ」

 

「あら、真島先生ではありませんか。どうされましたか?」

 

有栖に話しかけた人物、それはAクラスの担任である真島先生であった。俺はあまり出会ったことがないので分からないが、その様子を見る限り、他のクラスの担任と比べると、一番学校の先生らしい様子をしていた。

 

「坂柳、お前はここで待機になる。少し待っていなさい」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「不可解に思うかもしれないが少し待っていなさい。それに一度私は全体に説明にもいかないといけないから時間がないんだ。とりあえず待っていなさい」

 

「しかし、私が納得できません。納得できる理由をお話し頂かなければ、私はここで待機するつもりはありません」

 

突然告げられたことに納得がいかないと拒否をする有栖であったが、真島先生はそんなことは意に介さず、淡々と言葉を告げる。

 

「では、簡潔に伝えよう。今回は君の身体に関してのことだ。今回のこの行事参加も随分と理事長に訴えかけてなんとか許可を降ろしてもらったのだろう。しかしその際に交換条件として、我々教員の指示には必ず従ってもらうという取り決めをしたと聞いている。これで納得のいく回答を得られたか?」

 

真島先生の言葉に言い返すことが出来なくなり、有栖は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。話を聞くに、本当は有栖はこの旅に参加できなかったのだろう。しかし、反対を押し切ってここにやってきた。しかしその参加を認める代わりに、有栖にとって少しでも危ないと判断されたことはさせないというのが条件なんだろう。

 

しかし、その話を聞いても有栖は納得がいかないようで、渋っていたので、俺からも有栖にここで待っているように言っておく。

 

「仕方ないだろ、それが有栖がここに来るために行った交換条件なら。しばらく待ってなよ。代わりに俺が有栖に面白い土産話持って来るから」

 

有栖だって行きたいだろうが、ここて無茶をされる方が不安になる。

 

「…分かりました。では司くんの持って来る土産話を楽しみにしてるので、しっかりと面白い話を持ってきてくださいね?」

 

「ああ。面白い話を持ってこれるように頑張るさ」

 

ようやく有栖は待機することを認めた。これには真島先生も安心したようだった。

 

「なんとか分かってくれたようだな。そして、君は…確かDクラス所属の桐生だったな。そろそろ時間が迫っている。君は先に行きなさい。遅れるとクラスポイントが減点されてしまうぞ」

 

真島先生に言われたので時計を見て見ると、集合時刻の10分前ほどであった。

 

「やばっ…じゃあ俺はもう行くよ。それじゃあ、また後でな」

 

有栖に簡潔にあいさつして俺は船内を駆け出したのだった。




次回投稿についてですが、これから二週間、作者テスト週間につき、更新がかなり遅くなると思われます
おそらく、2月10日あたりに次の投稿はなりますが、ご容赦ください
同時にこのテストが終わると春休みになるので、今までの話の地の文を直す作業もしていきますので、よろしくお願いします


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試験開始

投稿遅れてしまったすみません
それに加えて、今回少し文が短めです




「遅かったな、桐生。お前が最後だ」

 

有栖との話を終え、急いで準備を整えた俺が急いで集合場所であるデッキに行くと、既にほとんどの生徒は揃ってあるようであった。更に、茶柱先生の話す通りなら、Dクラスとしては一番遅かったらしい。

たしかに有栖と話をしていたため、遅いとは思っていたが、まさか一番最後に到着することになるとは思っていなかったため、驚いた。

驚いたことを表情には出さずにいたところ、茶柱先生が携帯は預かると言ってきた。他の人も携帯を先生たちに回収されているようなので、黙って茶柱先生に携帯を渡し、並んでいる列の最後列に並んだ。

 

「全員揃ったようだな。それではAクラスより順に島へ上陸をするんだ。上陸した先ではまた別の支持をするため、身勝手な行動はくれぐれも起こさないように」

 

Aクラス担任の真島先生の指示によりAクラスから順に島へと上陸を皆し始めた。俺たちDクラスは最後になるため、皆が雑談をしながら待っていた。その内容は、早く島で泳ぎたい、島の中を探索してみたいなど様々なことを話していた。

 

一方俺は別のことを考えていた。

元々配布されていたパンフレットには、島に上陸後、7日間に渡ってバカンスを楽しむと書かれていた。

7日間バカンスを楽しむのなら、先ほど有栖を待機させることに疑問を覚える。ふつうにバカンスを楽しむのなら有栖も上陸させ、比較的安全に過ごせるであろうロッジにでも有栖を待機させればいいはずなのだ。それにもかかわらず船内で待機させたことに疑問を感じる。

それに加えて、先ほど島の周りを遊覧していた時に、島な外縁部にこれほどの大人数が休めるような大きさのロッジは確認できなかった。それどころか、ロッジのような人工建造物すら確認できなかった。

確認できたのは、二方向に存在したひらけた海岸、洞窟のような形状をした洞穴、切り立った崖と、島中心部に広がる森林地帯くらいであった。

島の様子を見る限りおよそバカンスに来たとは思えない。それに加えて有栖を島ではなく、船に待機させたこと。これらを踏まえて、考えてみると思いついてくるのはサバイバルをさせるなどといった行為などが思いついてくる。まさかそんなことはないといいのだが…

 

「最後はDクラスだ。Cクラスに従って歩いて行きなさい。Dクラスが着き次第、詳しい説明をするため、速やかに指定の位置に着き、待機をしていなさい」

 

深く長考している間にどうやらCクラスのほとんどが上陸をしたようであった。前の人たちが歩き出しているので、それに従って俺も歩き出した。

 

歩きながら島の外観を見てみると、ここは先ほど見た開けた海岸の一つのようであった。周りに風を遮るような建物が船を除けばないため、気持ちの良い浜風が吹いてくる。そんな磯の香りを感じながら歩いていると、AクラスからCクラスの生徒たちが順に並んで立っている場所が見えてきたので、Dクラスの生徒たちもなるべく急いで移動して、先生たちがくるのを待った。

俺たちが指定の位置について5分ほど待っていると各クラスの担任たちがやってきた。

 

「今から各クラス点呼を行う。名前を呼ばれた生徒は返事をすること」

 

各クラス担任が整列を促し、点呼を行う。その時の各先生の格好は自分たち生徒と同じようにジャージ姿であったので、不思議に思ったが、誰も気にしている様子はなかったので、突っ込んだりはしなかった。

 

そして、全クラスの点呼が終わると同時にAクラス担任の真島先生やり真実が告げられる。

 

「ではこれよりーーーーー本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

真島先生の発言を聞いて多くの生徒たちがざわめき出した。しかし、そんな生徒たちを黙るように言い、言葉を続ける。

 

「試験期間は今より一週間。8月7日の正午をもって終了とする。続いて試験内容、君たちにはこれからの一週間、この無人島で集団生活を行ってもらい、無事過ごしてもらうことだ。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

「無人島で生活って…船ではなくて、この島で寝泊まりをするということですか?」

 

Aクラスの生徒が質問をする。それに真島先生は答える。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由なくして認められない。この試験中、君たちは寝泊まりする場所、食料全てを自分たちで確保しなければならない。ただし、スタート時、各クラスにテントを2つ、懐中電灯を2つ、マッチを一箱づつ支給する。それと同時に日焼け止めは無制限に借りることが可能だ。歯ブラシに関しては各1人ずつ配布され、特例として女子の場合に限り、生理用品は無制限に許可される。日焼け止め、生理用品を借りる場合は各クラス担任に申し出るように。以上だ」

 

ざっとではあるが、大まかな内容は把握した。以上、そう言っているので、これ以上聞いても特にこれといった成果を得られることはないだろう。こうなると、どうやって一週間を過ごすか、生活ポイントをどこにするか、そこがこの特別試験の鍵だろう。さてどうしたものか…。

 

「だが、安心していい」

 

真島先生が強い口調で話した。そこまで不平不満を漏らしていた生徒たちは一度不満を漏らすことをやめ、話を聞こうとする。皆が黙ったのを確認して、真島先生は話を続ける。

 

「これが過酷な生活を強いるものであったならば批判が出るのも無理のない話だ。だが、特別試験だからと言って身構える必要は一切ない。今から、君たちは海で泳ぐことをするのも、バーベキューをするのも悪くない。時にキャンプファイヤーを囲んで友と語り合ってみるのも良いだろう。この特別試験、テーマは『自由』だからだ」

 

真島先生の言葉に再び生徒たちがざわめき出す。試験であるのに自由にできる。その意図が汲み取れず、皆が動揺しているようであった。

 

「この特別試験では大前提として、各クラスに試験専用のポイントを300支給される。このポイントをどのように使ってもらっても構わない。使い方では旅行のように楽しめることだろう。そして、そのポイントに関したマニュアルも用意している」

 

すると、別の先生が、真島先生に数十ページほどの冊子を渡した。

それを読み、説明を続ける。

 

「このマニュアルに、特別ポイントを使う事で入手できる物のリストが全て記載されている。一例を挙げよう。生活必需品である、飲料水、食料はもちろんのこと、バーベキューをするための機材や食料、海で遊ぶためのモーターバイクなどなど、無数の道具を揃えている」

 

「つまり、何でもポイントで使えるものは何でも使っていいってことですよね?」

 

「ああ、そうだ。あらゆる使い方をしてもらって構わない」

 

他の人たちはどんな使い方をしようと胸を膨らませているようであったが、俺は何か裏がある気がしていた。そして、その予感は的中することとなった。

 

「そして、この特別試験終了時に各クラスに残っている特別ポイントは、全てをクラスポイントに加算をし、夏休み明け以降、反映をする」

 

その説明は今日一番俺たち生徒を驚かせただろう。ここの7日間を楽しむか、これからの学校生活に活かせるクラスポイントのために我慢をするか。この二つを天秤にかけられたようなものだ。これまで楽しく過ごすつもりであっただろう生徒たちの顔は一気に変わった。

 

「そして、マニュアルは各クラスに一冊ずつクラスに配布する。紛失した際、再発行することは可能だが、その際ポイントを使用することになるので、注意をしておくように。また、今回の試験を欠席になった者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与えることとなっている。そのため、Aクラスは初期ポイントを30ポイントマイナスとし、270点より開始とする」

 

欠席になっているのは有栖だろう。身体の弱い有栖はこう言った類のことは出来ないからだからである。先ほど有栖が船内に残された理由がこれによって分かった。移動するにも杖がいるのに、こんな足場の悪い場所を歩いたりすることができない。だから待機命令になったのだろう。有栖は悔しそうにしていたが、仕方ないことだな…

 

そんな有栖が欠けているAクラスの方を見ていると誰も動揺しているような様子は見えなかった。いたって普通に先生の話を聞いていた。

寧ろその様子を見ていた他クラスの方が動揺しているようであった。

 

「質問が内容であれば試験を開始する。開始の合図をした後は各クラス担任の元へ集まり、備品などを受け取りなさい。では質問がある生徒はいれば、質問を許可する」

 

真島先生は質問を受け付けるというが、誰も質問をするような生徒はいないようであった。

 

「…いないようだな。ではこれより現時刻を持って特別試験を開始する」

 

真島先生の言葉により、特別試験が開始されたのだった。

 




なるべく丁寧に説明するように努めてみました。
原作と同じ内容の説明をしていますが、文言は変化させていますので、少し分かりにくかなっている箇所もあるかと思います。
その際は遠慮なく聞いてください。


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説明

一度書いていたデータが全て吹き飛んだので遅くなってしまいました
なかなか辛かったです…


「全員集まったようだな。それでは概要の説明を始める。一度しか言わないため、しっかりと聞いておくように」

 

真島先生から解散を命じられた生徒たちは各々の担任の元へ移動し、具体的な指示を仰ぐこととなっていた。

 

俺たちDクラスはDクラス担任の茶柱先生の元へと移動し、今、まさにその指示を聞くところであった。

 

「具体的な内容は先ほど真島先生が話した通りだ。それ以上でもそれ以下でもない。そして、お前たちには腕時計を配布する。この腕時計は試験終了時刻まで外すことが許可されていない。如何なることがあろうとも必ず身につけておくように。もしも仮に腕時計を外したのならばペナルティが課せられるため注意すること」

 

「その腕時計は何のために付けるんですか?」

 

そこまで徹底して義務付けるには何かしら腕時計に何か仕掛けがあるに違いない。そう思ったため、質問をする。

質問をされた茶柱先生はダンボールの中に入っていた腕時計の一つを取り出し、実際に手にとって説明を始める。

 

「いい質問だ。この腕時計には時刻を確認する機能だけが搭載されているのではない。体温、脈拍、人の動きを探知するセンサーGPSの機能、少々ながらも音声の録音をする機能も搭載されている。実際に腕時計を配布されたら確認してみるといい。そして、この時計の側面にあるボタンに注目してみろ。このボタンは緊急時に学校側にそれを伝えるためのボタンだ。何かしらの非常事態が起こった時にはそのボタンを迷うことなく押せ」

 

その説明が終わる頃にはさまざまなダンボールが俺たちDクラスの近くに積み上げられていた。その中の一つであるダンボールから皆が腕時計を取り出し、つける。

 

「非常時って…クマとかそういうのが出たりしないですよね?」

 

「これは試験だ。試験内容に関する質問には答えられない」

 

茶柱先生の返答に皆がざわつく。もしクマなんかに遭遇したらどうしよう…と心配になっているようだ。

しかし、クマなどの危険な生物が生息していることはないだろう。もしも存在していれば、万が一死亡者が出るかもしれない。そうなれば大問題だ。単純に全生徒の体調管理をするためというのが目的だろう。

同じことを平田が皆に伝える。すると少しは落ち着いたようだ。

 

「でもよ、先生、こんな高機能なやつをつけて海に入ることなんてできないでしょ?」

 

「問題ない。それは完全防水になっているため、海に入ることも問題ない。さらにゲリラ豪雨などにあっても壊れないことが保証されている。付け加えて言えば衝撃耐性もある。しかし自ら壊すような行為はしてくれるなよ。そして、万が一にも故障をしてしまった場合には試験管理者がやってきて代替品と交換される決まりになっている」

 

話を聞く限り安全面の保証はされているようだ。とりあえず安心して無茶をすることができそうだ。

 

「ちなみになんですけど、ポイントを使わない限り俺たちは完全に自力で全てのものを揃えないといけないんですか?」

 

「ああ。学校側はポイントを使わない限り一切関与しない。食料も水も全てお前たちで用意してもらうことになるだろう。全ての解決方法を考えるのはお前たちだ。私たちの知ったことではない」

 

それを聞いて再び戸惑う声があがるが、これは主に女子からの声が多かった。

 

「心配すんなよ!魚とか捕まえて、森で果物探せばいいっしょ!テントは葉っぱとか木とか使えば作れるからな。最悪体調崩してでも頑張るぜ!」

 

300ポイントを温存してプライベートポイントに回したい池は、不安など全くないといった様子で話した。

しかし、その計画は無理だと思った。一人が生きていくために必要な食料と水を7日間手に入れるのならば、頑張れば大丈夫だろう。しかしながら、これはクラス全体で行う試験だ。少なくとも30人超えの食料を1日3食分、そしてそれを7日分用意しようとするのならば、それはとても厳しいものとなる。どれだけの魚を突かなければならないか、果物をゲットしないといけないか、それはとても大変なものだろう。さらに言えば、魚を手に入れるためのもりなどはどうして手に入れるのか?作るにしてもかなりの時間がかかる。これらを考慮すると池の考えは無理だ。

 

そんな池の考えにさらに茶柱先生は注意をする。

 

「残念だが池、お前の考えではダメだ」

 

突然言われたことに何か分からず困惑している池に説明をする。

 

「どういうことか分からないって顔だな。配布されたマニュアルの最後のページを開け。そこに今回の試験におけるマイナス査定となる行為などの項目が載っている。確認してみるのだな」

 

それを確認してみると、大きく分けて4点の項目が記されていた。

 

その1、著しく体調を崩したもの、大怪我により試験続行不可能と判断された者はマイナス30ポイントとし、その者はリタイア扱いとする。

 

その2、環境汚染とされるような行為を発見した場合、マイナス20ポイントとする。

 

その3、毎日午前8時、午後8時に点呼を行うが、その際に欠席をした場合、一人につきマイナス5ポイントとする。

 

その4、他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物損壊などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収とする

 

以上の4点がまとめられていた。

なるほど、無理をして我慢などをして体調を崩すのを防ぐためか。それに一般的な人としての立ち振る舞いを守るためのルールでもあるな。

 

「池、お前個人が無茶をするのは勝手だ。しかし、もしも10人の生徒が体調不良にでもなってみろ?それでアウトだ。それに一度リタイアとされた者は体調が良くなろうとも試験復帰を認めない。それでも強行するというのならば覚悟をしておくことだ」

 

話を聞いたところ、完全にポイントを使わない生活は不可能のようだ。いかに効率的にポイントを使って、ポイントを残せるかがこの試験のポイントと言えるのだろうな。

 

「つまりさ、ある程度のポイントの使用は仕方ないってことなんじゃないの?」

 

ここで篠原が自分の意見を言う。しかし、それに納得のいかない男子生徒たちが噛み付いていく。

 

「最初からそんな気持ちになるなよ。やれるところまで我慢するべきだ」

 

そんな意見に平田は難色を示すが、それを聞いても意見は変わらないようだ。

 

そんな話し合いをしている間に、俺は平田からマニュアルを借り、ポイントで手に入るものを確認する。

見てみると、一食用の食料と水、調理器具やテント、デジタルカメラ、無線機、パラソル、浮き輪など雑多ものがそこには記されていた。ここに何か試験のカギを握るものがあるかもしれないと頭の中に入れておく。

 

「仮にですが、ポイントを全て使用しきった後にリタイアが現れた場合にはどうなるのですか?」

 

堀北が質問をする。その質問は気になっていたことのため、助かった。

 

「その場合、リタイアとなる者が増えるだけだ。ポイントは0となるだけだ」

 

「つまり、マイナスポイントにはならない、そういうことでよろしいですか?」

 

「ああ。それと、支給テントは一つの重さが15キロなるため、運ぶ際には注意をすること。破損や紛失に関しては手助けはしないから取り扱いには気をつけろ。ちなみに一つで8人が寝泊まりできるようになってるから、そこも注意すること」

 

さらにどのようにして点呼を取るのか確認したところ、茶柱先生は俺たちが決めたベースキャンプに常駐するようだ。監督責任というやつだろう。

 

「なあ、話の途中で悪いけどよ、さっきジュース飲みすぎたからトイレに行きたいんだよ。トイレはどこなんだ?」

 

須藤が質問をする。少し焦った様子のようであるため、尿意が高いようだ。そんな様子を見て、手間が省けたと言った様子で茶柱先生は再びダンボールの中から小さなダンボールのようなものと紙を取り出す。

 

「これを使え。クラスに一つずつ支給されるもののため、大切に取り扱うこと」

 

「はぁ!?」

 

この説明に女子たちが一斉に声を大にして文句を言いだす。

それもそうだろう。クラスに一つずつということは男女共用ということであろう。それに、そんなダンボールにするなんて嫌だという嫌悪感があるためであろう。実際、男である俺もあれにするのは嫌だと内心思っている。

 

「まあ、そう騒ぐな。これは災害時にも用いられるものだ。今から使い方を見せるからしっかりと確認してくように」

 

茶柱先生はブーイングなど気にしないといった様子で手際よく簡易トイレを作っていく。そして、組み立てられたダンボールに内に先ほどの青いビニール袋と白いシートを設置する。

 

「このシートは吸水ポリマーシートと言って、汚物をカバーし固まるものだ。これにより見えなくなると同時に匂いも抑制する。使い終わった後はシートを重ねる。これを繰り返せば5改善が可能だ。なお、このビニールとシートだけは無制限で支給することになっている。どうしてもだというのならば一度毎に換えても構わない」

 

しかし、そんな説明を聞いたところで納得できるはずもなく女子たちが主として反論をする。その様子を聞いていた池が我慢しろというが、そんなことはできないと口論を始めてしまった。一応さっき見たマニュアルには仮設トイレがあったが、このことは後で言えばいいだろう。今説明するのはめんどくさい。

 

同じように思っているのか、茶柱先生も辟易とした様子を示していた。

 

そんなとき、俺たちのの後方から気の抜けた声が聞こえてきた。しかし、他の人たちはトイレについての論争で気づいていないようであった。

 

そして、その声の主はBクラス担任の星ノ宮先生であり、いきなり茶柱先生に抱きついた。茶柱先生は嫌そうな顔で何か言っていたが、何を言っているのか、俺には他の人たちの声で聞こえなかった。

 

なんだかうるさくて離れた場所に行きたいと思っていると、こちらに星ノ宮先生は近づいてきて、俺に声をかけてきた。

 

「おっ!桐生くんじゃない。久しぶり〜」

 

いきなり俺に話しかけてきたことに俺は驚き、一歩下がったが、そんなことも意に介さずさらに近づいてきて話をする。

 

「夏は恋の季節。好きな子に告白するならこういう綺麗な海の前が効果的かもよ〜?一之瀬さんや坂柳さんなら喜んでくれるかな?」

 

「はぁ…何を言ってるんですか。俺がなぜ告白をすると?それに加えて有栖は船上で待機してるのでここにはいませんよ」

 

「まぁ!有栖なんて下の名前で呼ぶなんてお熱いこと!」

 

「別に有栖が呼べって言ってるから呼んでるだけですよ」

 

「へぇ〜気になるな〜」

 

話にかなり食いついてくるので対処に困ってるいると、茶柱先生が帰るように脅迫のようなことをする。すると、しぶしぶと言った表情を浮かべながらBクラスの方へと戻っていった。

 

星ノ宮先生が戻ると、大きなため息を俺と茶柱先生はつき、顔を合わせる。茶柱先生は何も言わなかったが、お前も大変なんだな…と言っているようであった。俺も同じような表情を返しておくと、肩に手を置かれた。完全に同情されているようであった。

 

 

そんなことをしていても、終わることのない口論は続いており、終わりは見えないようであった。

そんな様子を見かねた茶柱先生は大きく手を叩いてそちらへと注目をさせる。

 

「少し注目しろ。これで説明は最後だ。追加ルールについてだ」

 

追加ルールと聞いて皆がまた声を出す。そんな声を気にせず茶柱先生は説明を続ける。

 

「島について、自由に散策できるようになっているが、島には複数箇所のスポットが存在している。それぞれのスポットには専有権が存在し、占有したクラスのみがその場所を使用できる。しかし、効力は8時間しかなく、自動で取り消されるため、その都度更新しなければならない。さらに、一つのスポットを一度占有する度に1ポイントを加算するようになっている」

 

「何すかそれ!?大事なことじゃないすか!」

 

山内たちが声を大きくして言う。

しかし、説明には続きがあるようで、茶柱先生は説明を続ける。

 

「ただし、これは試験終了時に加算されるポイントであるため、試験期間中に使用することはできない。そこを把握しておくように。そして、焦る気持ちは分かるが、このルールには大きなリスクもある。そのリスクとメリットを天秤にかけて、利用するのか決めるように。そのリスク、メリットについてはマニュアルに全て記されているため確認しておくように」

 

マニュアルを持っていた俺はすぐにページを開き確認をする。するとそこには箇条書きでこう記されていた。

 

・スポットを占有するためには専用のキーカードが必要となる

・1度の占有につき1ポイントを獲得できる。占有したスポットについては占有したクラスが自由に使用できる。

・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合はマイナス50ポイントとする

・キーカードを使用することが出来るのは各クラスに一人設定されているリーダーに限定される

・正当な理由なくリーダーを変更することはできない

 

その他茶柱先生の説明にあった内容が示されていた。

一見これを見れば全てのスポットを確保してしまえばかなりのポイントを確保できるように見える制度だが、箇条書きに書かれていた最後の文言により、それには多くのリスクが伴うことが分かった。

その最後の一文がこれだ。

 

・最終日、点呼をするタイミングにて他クラスのリーダーを当てる権利を各クラスに与える。これは権利であるため使わなくても良い。当てることが出来たのならば、その数かける50ポイントをそのクラスには与える。代わりに当てられたクラスは50ポイントを失う。

 

これにより、大胆に動くことは大きなリスクが伴うことが分かったのだ。もしも他の3クラス全てから当てられた場合、150ポイントを失うことになる。逆に言えば全クラス的中すれば150ポイントを獲得することが出来る。この制度が今回の試験の最重要ポイントということになるのだろう。

 

「リーダーについては本日夜の点呼で誰にするか教えてもらう。それまでに話し合いをしておくように。もしも決まらないのならば、こちらがランダムに決めさせてもらう。話は以上だ。解散とする」

 

この最後の説明により、本格的に特別試験が開始となったのであった。

 

 



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行動開始

最近リアルが忙しくてなかなか投稿できなかった上に、今回は短めです、すみません…

次回もなるべく早めに書きますが、遅くなるかもしれません


「とりあえずこの後…どうしようか?」

 

茶柱先生からの説明も聞き終えた俺たちはこれからの行動をどうするか話し合おうとしていた。この後の試験は俺たちが自由に行動することができるため、何をするか全く決まっていなかった。

 

「ねぇ、平田くん?トイレのことを早めに決めた方がいいんじゃないかな?」

 

特にこれといって決まっていなかった中、女子の誰かがトイレのことをどうしようかと話題に出した。

 

現状俺たちはクラスで男女兼用とされているダンボールの箱にトイレをしないといけないとされていた。

いくらなんでもそんなダンボールにトイレをすると言うのは俺でも嫌であるので、女子からすれば余計にそうであろう。

 

しかし、そんな意見に待ったをかけるのは、池を始めとしたダンボールのトイレを我慢できると言っている、ドケチな…いや、ポイントを極限まで節約しようといっている男子集団であった。

 

この意見は全く折り合いがつかず、ポイントを使って仮設トイレを買おうと言っている女子と、それに頑なに反対している男子たちの口論が先程からしきりに行われていた。

 

正直言って衛生環境を整えるためにも買った方がいいと俺は思っているが、そんな意見を俺が言う暇がないほど加熱していた。

もはやここで余計な口出しをすると余計にめんどくさくなると口を出さずその様子を外側側から傍観していたのだが、男子側から幸村が出てきて、女子の中でも特に嫌がっている篠原に対して、「本能のままで動くのなら猿にでもできる。女は感情論で動くから嫌いだ」などと言い放った。

 

幸村はクラスの中では堀北と同じ、自分を優秀と思ってる人間だ。他人を足手まといと見下してる気質がある。それが今回も出たのだろう。

 

そんな上から、それも女だからと見下した発言に気が強い篠原が黙ってるわけがなかった。案の定幸村に噛みつき、余計に話は混迷を極めていった。

 

そんな状況にどうしていいのか分からなくなり、クラスで意見をまとめる役割を担ってある平田も困っているようであった。

そして、そんな中、他クラスの状況を観察していると、有栖を欠き、クラスのリーダーが一人となっているAクラス、帆波をリーダーとしてクラス全体が大きな一枚岩になっているBクラスは意見がまとまったようで、行動を開始し始めた。ちなみにCクラスは言い争いこそ見えぬ様子だが、まだ動き出すようなそぶりは見えず、意見がまとまってはいないようであった。つまりこんな怒号を鳴らして言い争いをしているのはDクラスだけであり、いかにDクラスが他クラスと差があるかが露呈しているようであった。

 

そんな様子に言い争いをしていたやつらも気づいたようで、より一層焦りを見せ始めた。そんな状況に池が森の中へとスポットを探しに行くと言い出した。

その行動を平田は止めようとしたが、山内、須藤も一緒に行こうとしたため、止めるのを諦めて一人で行動しないように言っていた。

 

もう行動していいなら俺も一人で軽くこの周りでも確認しておきたい。どのみちここに残っても不毛な言い争いに付き合わされるだけで無駄な時間を過ごすだろうしな。

 

「俺もこの周りを少し探索しておきたい。と言うわけで失礼するぞ」

 

平田に一言告げて移動をしようとする。しかし、そんな俺を平田は止めてくる。

 

「何いってるんだい!?一人で移動するのは危ないよ!」

 

「そこら辺適当にほっつき歩いてみるだけだ。大丈夫だ」

 

「いやいや、危ないよ!みんなで行動して…」

 

「だったらさ、今の状況で行動できると思うか?」

 

俺の言葉に平田は黙る。今の状況でみんなで集団行動ができるはずもない。こんなにも言い争っているのに仲良くなんて今はできるわけもない。

 

「出来ないだろうな。これはある意味クラスの団結力を測る試験だ。どれだけ辛い状況を協力して生活できるかがポイントになるだろう。それなのにこんなに喧嘩をしてたらいつまで経ってもスタートラインにも立たないね」

 

「で、でも!幸村くんが!」

 

「この女たちが!」

 

俺の言葉を聞いてお互いに相手のせいにしようとする。そして、その言葉を聞いてお互いにさらに睨み合っている。

 

「だからそれがいけないって言ってんだろ。俺の意見を言わせてもらう。確かにポイントを節約することは大切だろうな。他クラスに追いつくにはそれが絶対条件だ」

 

「それみたことか。だから俺たちは我慢しろって言ってんだよ」

 

俺の意見を聞いて幸村たちが強気に出る。それを聞いて逆に篠原たちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「俺の話は終わってない。もう少し聞け」

 

俺が強い口調で言うと、幸村たちもそれ以上の言葉を言おうとはしなかった。

 

「続けるぞ。だがな、そんなキッチキチの生活で7日間も生活できると思ってんのか?そんなの絶対不衛生に決まってるじゃねえか。現にお前ら、あのテント見ろよ」

 

俺か指差した方向をみんなが揃って目を向ける。

 

「あれが何だって言うんだ?」

 

幸村が質問をしてくる。女子たちも何かと質問をしてくるので、答える。

 

「あれか?あれは、茶柱先生がトイレ用って言って俺たちにくれたテントだ。お前たちさ、さっきトイレに行きたいって言ってたやつのこと覚えてるか?」

 

そう言われてみんなが思い出そうとする。そして気づいた様子をするので、さらに言葉を続ける。

 

「要するにだ。少し汚いが、要するに須藤がトイレに行ったテントってことだ。さっき須藤がこっちに帰ってくるときに何か手に持ってたか見たやつはいるか?」

 

先ほど、あのテントに行く際に須藤はクラスで一つしかないと言っていたダンボールをあそこへ持って行った。そして、あのテントから帰ってくるときに、須藤は何も手に持たず帰ってきた。それが意味すること…つまり…

 

「ま、まさか…」

 

女子たちがその意味に気づいたようでとても嫌そうな顔を浮かべる。その女子の顔を見て、幸村たちも悟ったように目を背け始めた。

 

「あいつは用を足した後の処理を何もせずに森に行った。それが何を指し示すか分かるよな?トイレに反対してるお前たちは今からあのテントに行って片付けてこいよ。トイレはあっこにしかないんだから、出来ないのだが」

 

幸村にたちにわざとらしく言う。誰だって人がトイレとして使用したものを片付けたくなどないだろう。

その原因としてまず汚いと言うのもあるが、今は8月、それも今日は快晴だ。締め切ったテントの中で蒸されたテント。誰だって行きたいわけがない。行きたいって言うのならそれは相当な変態か、そう言うフェチでもある人くらいだろう。

だが、現状幸村たちの意見を採用しようと言うのならばあのトイレを回収しなければならない。

 

「…ちっ…確かにトイレにポイントを使うのは…あれだが…他を節約していくのなら…俺はトイレにポイントを使うのを認める…」

 

幸村の隣にいた男子生徒が折れ、ポイントの使用を認めた。それにつられるように幸村を除く男子たちはこぞって意見を逆転させ、トイレを使っても良いと言い始めた。

周りの奴らの意見の転換に幸村はまだ諦めた様子を見せてなかったが、俺が「そこまでポイント使いたくないなら、早くトイレを回収してきてくれよ」ともう一度言うと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、幸村も心が折れたようで、ポイントを使っても良いと言ったのだった。

 

「じゃあ、意見もまとまったようだし、俺は少し探索に行く。周辺状況を確認したらすぐに戻るから問題はない。すぐに戻るから」

 

そう簡単に伝えて俺は森の中へと入って行ったのだった。

 



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接触

かなり間隔が空いてしまいました…
投稿間隔が開いても失踪はしないので、これからもお願いします


先ほど平田たちに少しの間単独行動をすると伝えた俺は早速森の中に入った。

地面はぬかるんでないため、走ることもできそうだ。しかし、森の中は木が生い茂っているため、見通しが悪く、しばらくもしていると方向感覚を失う可能性がありそう…そう言った印象を受けた。

とりあえず一定間隔で歩いて来た方角を指し示すための目印を残しておく。

目印といっても木の枝を踏みつけて置いておく程度のものだが、これがあるだけでもかなり方向性は分かりやすい。よくそんなことしなくても方向を見失うことはない、という人を聞くが、実際に深い森に入ってみると5分もしないうちに道に迷う羽目になる。

ここは決して深い森とは言えないが、方向感覚を見失って彷徨うのは問題だ。それに加えてすぐに戻ると平田と約束しているため、なるべく早めに戻れるような手段も必要だから、今回はしている。

 

しばらくそうしながら歩いていると、少し開けた場所にたどり着いた。そこは洞窟のような洞穴が存在していて、人気は感じなかった。

とりあえず誰かに見られていないかを確認しながら中に入ってみると、その中はいたって普通の洞窟であるようであった。

 

しかし、その洞窟の中にはひとつだけ不自然なものが存在していた。これといった人工物も存在しない無人島であるこの島には似つかわしくない機械が置かれていたのだ。

 

「これは…?」

 

思わず何かと思い、その機械に近づいてみる。

 

近づいて確認してみると、画面が起動し、「リーダーカードを提示してください」といった文面が画面に映し出された。

 

リーダーカードとは一体…?と思ったが、先ほど茶柱先生が話していたクラスのリーダーに関するものだと俺は考えた。おそらく、そのカードはリーダーのみが使用可能で、その使用しているところを盗み見るなどするのがこの時間において大事なことなんだろう。

 

しかし、そんなに簡単に見させてもらえるとは思えない。ある程度誰がもっているか予測をつけて、その上で証拠を揃えていくのが良いのかもしれない。

 

ある程度洞窟内の構造を調べておいた上で、この洞窟から脱出をしておく。もしかすればここを拠点にするクラスがあるかもしれない。そうなれば先にここにやって来ていた俺は少し優位に立てるかもしれないため、なるべく痕跡を残さないようにしておいた。

 

 

 

 

 

俺は洞窟から離れ、一旦Dクラスに合流しようと考えた。これ以上長く離れていると心配されてこれからの行動が取りにくくなる。これからも好き勝手行動するのに支障をきたしてしまう。それに、ちゃんと上位クラスを目指さないと有栖にどういったことをされるか…。

…考えたくないな…。とりあえず戻ろう…。

 

 

「…桐生か。ちょうど良かった」

 

目印にしていた枝を見つけながらすぐに戻っていこうとしたが、俺は横から突然話しかけられたため、足を止めてそちらの方向に振り返る。

するとそこにいたのはAクラスの生徒である、橋下と神室であった。

 

「どうしたんだ、こんなところに二人いて?」

 

「戸塚がお前たちもスポットを探しに行けって言ったんだよ。あいつは何もしないくせに」

 

神室が文句を言う。その時の表情からかなり言われたのだろう。

 

「そういうわけだ。俺たちはスポットを探してここに来たんだ。逆に桐生はどうしてこんなところに一人でいるんだ?俺たちと同じように誰かに言われたのか?」

 

「いや、俺は一人でちょっと散歩してただけだ。そこにスポット有ったぞ。多分俺たちは使わないから使ってもいいと思う」

 

先ほど見つけていた洞窟の方を指差しながら言っておく。すると、「神室が確認して来るから」と言って少し離れて行った。

 

神室が離れていくと、橋下は再び話しかけて来た。

 

「ところで、俺は坂柳からお前にこの試験において手伝いをするように言われている。何ならAクラスのリーダーをここで流してもいい。どうする?」

 

「…正気か…?」

 

この試験においてクラスのリーダーを他クラスに知るというのはとても大切なことである。他クラスに知られるということは他クラスにポイントを50与えることとなり、自クラスのポイントを50失うことにつながる。

そんな情報を流そうと言っている。普通なら正気なのか疑いたくもなる。

 

「正気だ。俺は葛城に従うつもりはさらさらない。俺は葛城が信頼を失うように裏工作をするつもりだ。神室には伝えてないが、あえて俺一人でやることでバラにくくするつもりなんだ。どうだ?納得してもらえたか?」

 

「…ああ」

 

なるほど。この試験では有栖が欠席をしているため、葛城派が優勢に動いているわけか。どうりで二大派閥に分かれているAクラスにしては行動開始が早かったわけだ。多分有栖が参加していれば、意見の対立は必須で、あんなに早く行動開始とはならなかっただろう。有栖派の人たちも今回は葛城派に、渋々ながらも従っているというところだろう。

 

「今回の試験は俺たち有栖派は表立ってすることは何もない。坂柳自身も特にこれといった指令を出してないため、勝手に行動して首を絞めるようなことに繋がらないようにするつもりだ」

 

「そへなのになぜクラスのリーダー情報を流そうとするんだ?クラス全体への影響があるからお前たちにも影響があるんだぞ?」

 

聞き返すと、橋下はこちらを振り返って説明をし始める。

 

「だからこそだ。俺たちが情報をリークするなんて誰も考えないだろう。そうなると、クラスのリーダーがバレた責任は誰に行くと思う?」

 

「…なるほど」

 

今の発言で橋下たちが狙っていることがわかった。今回この試験においてAクラスの指揮を取っているのは葛城だ。有栖派はリーダーがいないことにより行動を起こさないため指揮をとっているが、もしも他クラスからリーダーを的中させられたのならばその責任は全て葛城に降りかかる。そうなれば葛城派は少なからずな被害を受けるうえに、離反してこちらに流れ込んで来るかもしれない…そういった目的があるのだろう。

 

「坂柳が認めてるのだから全て分かったのだろう。その前提で話を続ける。そういうわけで俺たちは葛城派に気づかれないように妨害をしていくつもりだ。それが俺たちにとってリスクがあろうとも、相手の戦力を大きく削れるのならば俺たちは積極的に仕掛ける。どうだ?協力してくれるか?」

 

橋下はこちらに手を差し伸べて来る。

たしかにここでAクラスのリーダーを知ることが出来れば序盤から大きくリードを取れるだろう。少しでもAクラスに近づくには大きくポイントを獲得して、なおかつAクラスにポイントを入れさせないように妨害もしていかなければならない。今回はその絶好の機会である…が…やはり…

 

「どうした?協力してくれないのか?」

 

橋下が俺に質問をして来る。いつまでも無反応だったため、確認をしてきたようだ。

 

「ああ…今回はとりあえず見送らせてもらいたい。いくら教えてくれるといっても最初から知ってたら面白くない気がするんだ。最終日手前に答え合わせをしたい。そこまで待っていてくれ。そこで答えが違っていたのならば聞いて、その答えを俺たちDクラスは出そう」

 

俺の回答を聞いて、どんな反応をするか伺っていたが、橋下は納得したような表情を浮かべ、話を続けた。

 

「そうか、分かった。たしかにいきなり話すというのも面白くないだろうな。少し急ぎすぎていたようだ」

 

意外にもすぐに納得してくれたようだ。実のところ橋下と話をする回数はあまり多くなく、あまりどんな人物か分からなかったのだ。有栖がAクラスの中で一番信頼しているのは橋下であり、かなり使われているようなので、俺が助けを借りるときにはもっぱら神室であったことが主な理由だ。神室自身は有栖に忠誠を誓っている訳ではないため、俺の依頼をこなす方がいいらしいが。

 

「6日間でAクラスのリーダーを的中させることを楽しみにしているぞ?」

 

笑顔で言ってくる橋下に軽くプレッシャーを感じながらも、とりあえずこれで意見はまとまった。6日後の密会場所は橋下たちが先ほど見てきたという、崖側近くの森にするとのことだ。曰くかなり入り組んでいて周りにスポットのようなものも確認できなかったため、人が来ることはほとんどないとのことだ。

とりあえずポイントを教えてもらったので、明日にでも確認に行こう。

 

「確認してきた。拠点にするには結構良さそうに見えたけど、どうする?」

 

俺が先ほど見ていたスポットのチェックが終わった神室が戻ってきた。どうやらここをスポットとして推していくようだ。

 

「そうか、それならここを推しておくか。その方が桐生も動きやすいだろうからな」

 

「その話し方だと計画を話したのね。坂柳は嫌いだけど、葛城派はもっと嫌いだからちゃんと成功させてよね」

 

「分かったよ。できる限り尽くすよ」

 

神室とも話した後俺たちはすぐに別れることにした。他クラス同士で話し合っているところを見られると、どうなるか分からないからだ。

俺もやりたいことは出来たため、なるべく急いでDクラスの元へと戻ることにしたのであった。

 



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合流

また遅くなってしまいました。
なんでこんなに書けないんだろう…って思って、考えていたら、有栖が出ないから…って思いました。
有栖書きたい…


橋下、神室と別れた俺はDクラスの皆と合流するために、目印をつけていた道に従って最初の海岸に戻ろうとしていた。

 

しかし移動をしようとした時、近くにバナナのような果物がなっている木を見つけた。食料になるかもしれないと、確認に行ったところ、それは確かにバナナの木であった。果物は熟れているようで食べるにも適しているようであったので、早速回収しようと思ったが、意外と高めのところになっているので、取ろうにもすぐには取れないでいた。

とりあえず木を揺らして落としてみようと思っていたのだが、近くから大勢の足音が聞こえて来たため、すぐに身を隠さないといけなくなってしまった。

もしも他クラスなら思わぬ情報を得られるかもしれないと思ったからだ。

 

周りを見渡すと、先ほどの洞窟が近いため、半面は開けているが、対して反対は木が生い茂っているので、その木の茂みに身を隠し、様子を伺った。

 

「しかし葛城さん。あいつらいいスポットを見つけたって言ってましたね。近くでいいスポットがあって良かったです」

 

やたらと大きな声で喋る奴がやって来た。会話の内容から察するにAクラス、それも葛城派のメンバーで、その近くに葛城もいるようだ。

 

「…ああ。橋下と神室が見つけてくれたからだな。今回ばかりは感謝しないといけない。だが戸塚、もう少し声を静かにするんだ。誰が聞いているとも分からない。確実に安全とはまだ分からないのだ」

 

「それはそうですね!分かりました!」

 

「…もう少し声を下げるんだ。とりあえず洞窟を確認しに行くぞ。自分たちでも一度確認しておくに越したことはない」

 

そう言うと葛城と戸塚と呼ばれた男、及びその取り巻きたちは洞窟の中へと入っていった。それは凡そクラスの半数ほどの人数で、残り半分の人たちは洞窟には入らず、外で待機していた。

そして、その洞窟の外にいる集団の中心には橋下、神室がいた。

その様子から、その集団は有栖派なのだろうと予想がついた。

 

「…行きましたね。それで今回はどういったことをするんですか?坂柳さんがいませんが、このままあいつらに好き勝手させるのですか?」

 

「…そんなつもりはない。あいつらは泳がせて失敗するように妨害工作をするつもりだ」

 

「何をするんですか?」

 

「具体的に言えば…敵クラスにリーダー情報を流すとかだな」

 

「…それでは私たちにも被害があるのでは…?」

 

どうやら先ほど俺が聞いたことは他の人には伝えてなかったらしい。その内容に動揺が他の人たちに伝わっていく。しかし、橋下はそんな動揺している皆に続けて伝える。

 

「確かに今回の試験においてボーナスポイントを得られないかもしれない。しかし、それを差し引いても葛城派の信頼を打ち崩せるのなら大きなポイントとなる。葛城派の戦力を削り、こちら側に引き込めたのならば、これからの試験において優位に持っていける。それならばここでのボーナスポイントと釣り合いにかけてもおつりが返ってくると思わないか?」

 

橋下は力強く語る。その言葉を聞くと多くの生徒たちは黙っていった。橋下の言葉に説得力があったからである。この言葉に不満がある生徒もいないようで、有栖派は葛城派を妨害し、貶める方針で決まったようだ。

 

「ただ、勝手に行動は起こさないでくれ。何か行動を起こす時には俺か神室に伝えてくれ。そうすれば安全に、確実に相手の戦力を削れるだろう」

 

その言葉に多くの生徒たちが納得したようだった。その言葉を聞くと、有栖派も洞窟内へと入っていった。完全に人気がなくなったところで、茂みから動き、バナナを他の木によじ登ってから採る。

最初に木を揺らして採ろうとしていたのにもかかわらず、揺らさず、他の木から採ったのは、もしもAクラスの生徒たちが外に出て来た時にここにいることがバレるとめんどくさくなると思ったからだった。

 

そして、バナナを回収し終え、近くにあった大きな葉を使って簡易式の袋を作り、今度こそ戻ろうとしていた時だった。

 

突然草がガサッと動く音がした。

その音を聞くと、同時にこちらもすぐに近くの木の陰に身を隠し、様子を伺う。

 

物音の下方向にを伺ってみると、同じクラスメイトの綾小路、佐倉が草陰に隠れているのが見えた。綾小路が佐倉の口を塞いで気配を察知されないように息を潜めていた。

 

その視線は洞窟の方を見ているだけで、一切他の場所を見ていなかった。佐倉の方は苦しいのか悶えているようであったが。

 

そんな綾小路が見ている方角を、俺も気づかれないように確認してみると、先ほど中に入っていった葛城、戸塚が外へと出て来ていた。

そしてその葛城の手には何やらカードのようなものを持っているのが確認できた。

 

葛城と戸塚は何かを話しているようであったので、その声が聞こえるように耳を澄ましてみる。するとその会話が聞こえてくる。

 

「……す、すみません。でも上陸前から…ってどういうどういう意味ですか?」

 

「船は桟橋に付ける前、何故か遠回りをするように島の外周を一周した。あれは生徒たちにヒントを与えるために学校側がやっていた行動なのだろう。船のデッキからは森を切り拓いていた見えていた。あとは船を降りてすぐにその道を辿ればよかっただけの話だ」

 

「で、でも観光のためではなかったのですか?」

 

「いや、それはない。観光のためにしては旋回速度が速すぎる。アナウンスの内容も妙であったからな」

 

「そうなんですね…俺には全然感じられかったですけど、そんなことに気づくなんて流石です!」

 

どうやらここを見つけた話をしていたらしい。実際のところ、橋下たちがやって来て確認しているのだめ、本当に先ほど言っていた通りなのか、些か謎であるが、おそらくその考えはあったのだろう。

実際俺も船から見えたため、ここにやって来たのだ。やはり見ているやつは見ているようだ。

 

「ここは他の人たちに任せて俺たちは他のスポットを探しに行くぞ。あと2か所ほど船から見えた道があった。その先にも何かしらの施設、スポットがあるに違いない」

 

「は、はい!でも、これだけ結果を残せば『坂柳』も黙るしかありませんね!」

 

「内側ばかり気にしていれば足元をすくわれるぞ」

 

「そうは言いますけど、警戒するとすればBクラスだけですよ。特にDクラスなんて不良品ばかりの落ちこぼれ集団じゃないですか。あんなの気にするだけ無駄ですよ」

 

「…行くぞ。時間を無駄にはしたくない」

 

そう葛城は言うと足早に去っていった。しばらく待機していて、他の人がいないか確認していたが、いなかったので、身を隠すのをやめ、少し話していたことを振り返る。

 

他にも数か所すでに目当てが付いているらしい。俺もここ以外に見当をつけている場所はあったが、具体的に見つけていたのはここだけだった。やはりAクラスを取り仕切る二大巨頭の一人といったところか。有栖と比べてどちらがより強いのかは分からないが、厄介な相手には間違いなさそうだ。

そして、今回のことで一番大切であったのは、葛城が持っていたカードのことだ。

 

うまく確認はできなかったが、おそらくリーダーなどを指し示すカードだろう。先ほどの洞窟内に存在していた機械にもカードのようなものをかざす場所があった。あれを使うことによってスポットの占領が完了するのだろう。そしてそれを出来るのは各クラスのリーダーだけのはずだ。

 

……しかし、外で誰かが見ているかもしれないにも関わらずそれを見せつけるような行動をするのだろうか?

少なくとも俺ならしない。そんなことをしたらリスクが高すぎないか?

まずもって、元からリーダーをしている葛城をリーダーにするか?直ぐに当てられそうでもある。となると…あれは…フェイク…?

もしも…見ている人がいたならば、引っかかるように…仕向けた…可能性があるな。

 

となると…リーダー候補は結構絞られる気がするな。まずもって有栖派にリーダーを指名はしない。敵対している勢力に権力を与えるとめんどくさい上に、裏切られる。

そんなリスクを負うタイプではない。葛城派は穏健、慎重派と聞いている。有栖ならやりかねない気もするが、そんな葛城派ならありえない。

そうなってくると、葛城派の誰かになるが…末端の人間にはしないだろう。普通のクラス…特にBクラスのように一枚岩の組織あり得そうだが、Aクラスのように二つの勢力が混在している組織なら、末端の人間は裏切る可能性を孕んでいる。そんな人間に与えるとも思えない。そうなってくると、葛城に近い人間…それも仲の良いやつを指定する可能性が高い…。つまり…あの葛城の腰巾着…戸塚の可能性が高い。

まだ予想の範疇を超えないが、あり得ないとも思えない。まだ日数はある。観察を続けて断定していこう。

 

考えるのをやめて綾小路たちの方を見ると綾小路たちも立ち上がって戻ろうとしているところのようであった。

綾小路たちがここにいると言うことは、Dクラスも移動している可能性が高い。

とりあえず合流しておくことにしよう。

 

そして、俺は一度綾小路たちと合流することとしたのであった。



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ベースキャンプにて

またまた遅れてしまいました

次回こそは早く書き上げたいのですが、リアルが忙しがったりするので、次回もいつになるかは未定ですが、気長に待っていてください


葛城の話を聞くことに成功した俺だったが、その後綾小路、佐倉と合流し、一旦Dクラス本隊と合流することにした。

葛城や洞窟内に残っているAクラスの面々が気づかないように静かに移動し、二人の背後に近づくと綾小路に話しかけたのだった。

 

この時佐倉はギョッとしたような仕草を見せていたが、綾小路は至って冷静に対応したのだった。

普通突然背後から話しかけられれば何かしら反応する…例えば佐倉がしたように身体が大きく動く、顔の表情が強張るなどがあるが、綾小路は一切そのような反応はなかった。

俺と同じように葛城を監視していたのならば話しかけられればそれは監視していたのがバレたのでは…そう思ってしまうため、何かしらあると思ったが、それがないということはよほど肝が座っているのか、俺がいたのをすでに気づいていたかのどちらかだろう。

 

味方ではあるが、綾小路は実力の底が全く見えないので不気味に思う。この試験で綾小路がどのような動きをするのか、それも観察しておきたい…そう考えていた時、綾小路に何の要件か聞かれたので、戻りたいが移動していて分からないと伝える。すると、綾小路たちもそろそろ戻る予定だったというので二人に付いて行くこととなった。

 

綾小路は相変わらず戻る間も無口であったため、何も話さなかった。そのため、何も伺えなかったが、佐倉は何か惚けているのか小さな声でうわ言を言っては、はっとした表情になって首を振るなどしていた。

 

 

 

 

「桐生くん!無事そうで何よりだよ!」

 

綾小路たちと移動すること15分、平田と軽井沢がいる場所に到着した。他に人がいないのでどうしてか尋ねると、どうやら池や山内たちが綺麗な川を見つけたため、そのポイントに移動したらしい。一度軽井沢が移動した後戻ってきて、まだ帰ってきてない人を待っていたらしい。そして、あと帰ってきていなかったのは俺、綾小路、佐倉、高円寺だけだったらしい。

 

高円寺をここで待つことになるかと思ったが、どうやら高円寺は最初は綾小路たちと行動していたらしいが、勝手にどこかへ行ってしまったらしい。そのため、ここで待っていても帰ってくるとは限らないと綾小路が話した。それを聞くと、平田も仕方ないと諦めて移動することになった。佐倉はあまりこういった外で動くことに慣れてないのか疲れているようであったが、綾小路があと少しだから頑張れと励ますとやる気を出していた。

 

 

 

 

 

軽井沢の先導でそのポイントを目指していると、少し開けた場所に到着し、そこに他のDクラスのメンバーたちが揃っていた。しかし、またも険悪なムードを醸し出していたので、平田が中心で睨み合っている人たちの間に入って仲裁に入った。

軽井沢もそれについて行ったが、綾小路と佐倉はそんなこと気にする余裕がないのか、テントに腰をかけて座っていた。

 

俺もクラスの中で喧嘩していてはこの試験を乗り切らないと思ったので、少し離れた場所から話を聞いてみることにした。

 

話を聞いてみると、川の水を飲むことに女子たちが反対していて、男子たちは実際に飲んで安全生を証明したようであった。

その実際に飲んだことに対して女子たちが貶したようで、池や山内たちが反論し、互いににらみ合ったまま火花をぶつけ合っているようであった。

 

平田は周りにいたクラスメートに落ち着いて話を聞いてから仲裁に入った。女子たちが喧嘩腰に突っかかっているため、まずは女子たちを大人しくしようと試みるが、なかなか上手くいかない。そして、その喧嘩腰に頭が来た池や山内たちも今にも飛びかかりそうな勢いで迫っていた。

 

平田もどうすることができず困っていると、意外にもここで須藤が喧嘩の仲裁に入った。女子たちには全てを否定していたら始まらないと言い、男子たちにもムキになって話をするな、そう言った。

 

男子たち、特に中心になって話している池や山内たちは須藤に言われて落ち着きを取り戻したようで、喧嘩腰になっていたのを辞めた。

 

しかしながら、女子たち、特に篠原を中心としたグループは須藤にも突っかかり、チームワークを散々無視して迷惑かけてきたあんたがチームワークを語るなと言った。

 

この言葉によって須藤が怒るかもしれない、そう直感的に思った平田が須藤を宥めようとしたが、意外にも須藤は冷静に対応したため、その場は喧嘩の様相にはならないで済んだのだった。

 

そして、その場で須藤が煮沸をやったらいいんじゃないかと言う。これに対して女子たちはそんな事は分からない、バカなあんたがそんなこと言っても信用ならないと言った。

 

これに業を煮やした池や山内が再び突っかかろうとしていたが、俺が制して止めさせる。そして、喧嘩腰の女子たちに少し話をする。

 

「須藤の言ってることは間違いじゃない。実際、災害にあった時の対処マニュアルにもそれは乗ってるからな。それによると災害時に川の水を飲む際には、水をろ過し、煮沸をした上で、消毒をすれば安全な水になる、とのことだ。ここの水を見る限り澄んでいるからろ過については多分あまり考えなくてもいい。最低限煮沸消毒だけすれば飲み水として適するようになるだろう」

 

「で、でも…」

 

「それでも気になるのはわかる。普段安全な水を気にせず飲んでいたからな。川の水を飲むってなると気がひけるかもしれない。だから俺が気になる人の分はろ過、煮沸も行う。それで手を打ってはくれないか?」

 

「…」

 

女子たちはみんなで相談を始めた。いいんじゃないかな…と話している人たちもいたが、断固反対している人もいた。

それから少し話を続けていたが、最終的に俺の案になってくれたようなので、この話も解決となった。

 

その後平田が「ありがとう、助かったよ」と感謝の言葉を伝えてきたが、そんなに大したことをしたわけでもないのでそれを伝えてその場を後にした。

 

 

 

しばらくしてDクラスの面々は様々なことをするために一度別れることになった。櫛田の率いる食料調達班、須藤たち男子組の島の探索、及び他クラス監視組み、平田と軽井沢率いるベースキャンプで準備を整える組み、そして俺の所属する焚き火のための枝の回収班に分かれた。

 

俺は個別でろ過、煮沸をするためのセットも用意しないといけないが、そこもなんとかしなければならない。そう思いつつも同じく枝を回収に向かったのだった。



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遭遇

一月もサボってすみません
最近レポート、バイト、テストがあるため、ほとんど触れられていませんでした。
次回もいつになるか不明ですが、気長に待っていてください


これからの一週間、どのようにして飲み水を確保するのか…それについて揉めていたDクラスは、ひとまず俺が煮沸消毒をすることで、ひとまずの終結となった。

 

その煮沸消毒をするためには火を用意しなければならない。そのために、俺は木材を探しに行くこととなった。他のクラスメートたちも夜の点呼の時間まで時間があるので食材探しをするもの、周りにスポットがないか探すもの、他クラスがどこに陣を張っているか探すものなどに分かれて何かするようであった。

 

依然として男子と女子の間には大きな溝があるようで、そのグループを見ると大体男子と女子で分かれているようではあったが、平田は男女混合チームで動いた方がいいと言っていた。

 

しかし、互いのグループはそれを良しとせず、別れて行動するようになったようだった。男子たちは主にスポット探し、他クラスの偵察に向かうようであった。大体がポイントに関わることなので、男子たちの積極さが分かる。特に、池や山内、幸村が中心となっているようであった。

対して女子たちは食材確保、周りの探索の二つのグループに別れたようだった。櫛田を中心とした食材確保組、軽井沢を中心とした周りの探索組のようだった。

櫛田たちは積極的に動いているようではあったが、軽井沢たちは動きたくないようで、ダラダラとしているようであった。

 

そんな様子を横目に見ながら俺は木の枝を回収するために森の中へと入って行った。しばらく森を歩いて、焚き火に使うための木の枝を探す。鬱蒼としている森ではあったが、近場に木の枝は落ちていなかった。

 

そのため、少し離れた地点に向かって行ったが、かなりの数の木の枝を見つけることに成功した。幸いなことに大小様々な木の枝が落ちていたので手に持てるだけ回収して、ベースキャンプへと戻ろうとしたときだった。

 

「…痛い…龍園のやつ…本気で殴って来るんだから…」

 

戻ろうとした方向、こちらからは見えない位置から何やら女性の声が聞こえた。誰かは分からないが、龍園という人物は以前神室から聞いたことがある。

龍園 翔、Cクラス所属の男子生徒。非常に頭の切れる人物でCクラスの実質的リーダーの役割をしているらしい。

ここまでで聞けば良い人物に聞こえるが、彼について語る上で欠かすことのできないことは、その凶暴性だ。

彼は入学して早々クラスを支配下に置くため、逆らう者を暴力を持って制した。抵抗した者たちは完膚なきまでに叩きのめされ、服従させたらしい。これにより、恐怖政治を敷いているだけでなく、他クラスとの抗争も辞さず、校則の穴をついた非人道的とも言える手段も取ってくる。

直近で言えば、須藤の暴力事件、あれも裏で龍園が糸を引いていたようだ。須藤を挑発し、あたかも全て須藤が悪いように見せかけてDクラスに攻撃を仕掛けて来た。幸い、綾小路たちの活躍などにより、この事件は無事解決されたが、同様の事件をBクラスも受けていることを帆波からも聞いている。

総評すると危険な人物であるということだ。恐らくこの学年のなかでも特に警戒すべき人物の一人に入ると言えるだろう。

 

話を戻そう。先ほど聞こえて来た少女から聞こえて来た話を聞くに、その少女は恐らくCクラスの生徒であることは間違いなさそうだ。どうして、龍園がこの少女を殴ったのか、それは分からないが、どうやら目的のためなら女であろうと手をあげるような人物らしい。

 

そのやり方には反吐が出るが、少女をこのまま置いていくか、声をかけに行くか、悩むところだ。

これが普通の学校なら迷わず助けに行くだろう。しかしここはクラス単位での競争が行われる学校、それも一大イベントの一つ、特別試験。もしも龍園が少女を殴ることによって他クラスに潜入させるということを考えてしていた…としたならば、話しかけることすら危険な予感がする。

 

しかもこれはCクラスの生徒だ。CクラスはDクラスにとって最も近い敵だ。Aクラスを目指す上で最初に対立するクラスであろう。わざわざ助ける義理もないというのも本音だ。卒業までにAクラスに辿り着かなければ有栖に一生使えなければならなくなる。

有栖は友人としてならばとても面白い人物であるとは思う。素晴らしい知識の量、発想力の豊かさ、どれも常人を逸しているといえよう。それ故に自分だけでは思いもしないような面白いことを聞くことが出来る。それはいいのだが、有栖は自分が楽しめるようにと動くので、振り回されることが多い。友人ならまだしも、一生使えるのは勘弁願いたい。

 

そのためにも何としてもAクラスに上がらなければならない。そのためにも、わざわざ危険因子に話しかける必要はない。ここは酷だが、話しかけず、バレないようにベースキャンプに戻ろう。

 

そう考え、物音を立てないように戻ろうとしたときだった。

 

「お、桐生じゃないか。結構木の枝見つけれたみたいだな!」

 

ベースキャンプの方向から大きな声を出しながら山内がやって来たのだった。その背後には綾小路、佐倉の姿も見えた。二人は特に何も言わず黙って周りの枝を探し始めたが、山内はそんな事はせず、大声で色々と話しかけてくる。

 

俺は既に枝をかなりの数持っているので、早めに戻りたい、そう思っていた上、その少女にも話しかけるような状況を作りたくない。そう考えていたので、早く話を切り上げて帰ろうとするのだが、山内がそれを許してくれない。「一緒に来ている佐倉が気になるだの、俺に手を出すんじゃないぞ」などと、俺からすればどうでもいい事を意気揚々と語って来た。

 

俺はその話を適当に流していた。ぶっちゃけ言えば、佐倉なんてそんな感じで思ったこともないし、まだ付き合うような関係になった訳でもないのにそんな事を言うことがナンセンスだと思う。

 

そんなくだらない話を長時間聞かされていると、綾小路、佐倉は枝を回収し終えたようで、戻ろうと二人が話しかけて来た。俺もさっさと帰りたいと思っていたので、二人に賛同する形でなんとか山内を振り切ることができた。

そうして帰ろうとするとき、何も持っていなかった山内が佐倉の枝を持ってあげると言って、大半の枝を勝手に持った。本人は気になる人に、かっこいい姿を見せれたと自慢げな顔をしているが、佐倉は不快そうな顔を浮かべていた。

確かに考えてみると、枝拾いに来たのに、何もせず話をしてるばかり、帰るときに急な持ってあげるよアピール。良いところ見せたいんです感が半端じゃない。そりゃあ、嫌な感じで見られるわ、そう伝えてあげるのが良いことなんだろうが、どうせ何も話は聞かないだろうし、無視して置くことにした。

 

 

そんなことがありながら、戻ろうとしていたとき、山内がさらに厄介な事を持ち込んでくる。

 

先ほど考えていたCクラスの少女を見つけるやいなや、すぐに話しかけ、Dクラスのベースキャンプに連れて行かないか、と俺たちに提案して来た。俺としては断固反対をしたかったが、綾小路、佐倉も賛成の意を示したため、断るのが不可能となってしまった。

これにより、この少女、伊吹澪を連れて帰ることとなってしまった。伊吹の顔を見ると、右の頬に青アザができていたため、恐らく右の頬を龍園がグーで殴ったのだろうと思った。

見た感じ、潜入させるために付けたような軽いものではなく、本気で殴られたような後に見えた。これによってスパイではないかと思いはしたが、どうか分からないため、警戒して置くに越した事はないだろうと思った。

 

その帰り道、山内が積極的に伊吹に話しかけに行くが、ほとんどを無視で返答しているため、伊吹はどちらかと言えば、クールで一匹狼タイプ、それも気が割と強いタイプであろうと判断した。

話し方を聴くと、ハキハキと話すし、大事な事をきっちり話してくる上、龍園に殴られたとは言え、一人でいたためである。それに、持っていた荷物を山内が待とうかと何度も話しかけていたが、断固受け入れる事はしなかったのもこう判断した理由だ。

 

果たして伊吹をDクラスのベースキャンプに置いて置く事でどうなるのか、不安には感じつつも、早くこの重い枝を早く置きたいと思っていた俺たちは足早にDクラスのベースキャンプへと戻っていただった。



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提案

テストからの風のWパンチでまた投稿遅れてました。
次回はもう少し早く登校できると思います


山内の厄介…ではなく親切心で、怪我したCクラスの生徒、伊吹澪をDクラスの拠点へと連れ帰ることになった俺たちは先ほどまで歩いて来ていた道を歩いていた。

当初の目的である火をつけるための木の回収を終えたからだった。

怪我をしていて、なおかつDクラスではない伊吹はもちろん木を持っていなかった。そして、比較的運動神経の悪く、女性でもある佐倉も木を少なく持っているのも真っ当だと思った。しかし、そう行ったわけでもない山内がほとんど木を持たずに佐倉や伊吹に話しかけていることに関しては、正直気に食わなかった。

 

伊吹は一匹狼で他人とあまり干渉しないタイプのため、山内の話をほぼ聞き流していたが、佐倉はあまりどうしていいか分からず、困っているようであった。

そんな佐倉の困った様子など気づいていないのか、山内は自分の自慢をしていた。

 

佐倉は困惑しており、伊吹は興味ないとそっぽを向いているのに、気づかず話しているとは呑気というかアホらしいというか…。大方佐倉がネットアイドルをしていたこと、胸が大きいことに気づいて急にアピールし始めた、といったところだろう。

 

以前須藤の暴力事件が起こる前に山内が、「佐倉ってやつ誰だ?そんなやつクラスにいた?」ということを池と話していたのを覚えている。ところが須藤の事件で証人として出ることになった佐倉がネットアイドルをしていたことが一部の人に知られた。そこから気づいたのだろう。

それに加えて山内は常々、「胸が大きい女で可愛いやつを彼女にしたい」と言っている。確か最初は櫛田を狙っていたはずだが、まず櫛田はいろんな人と仲良くしているため倍率が高い上に、相手にされていない様子だった。そこでまだ、知ってる人が少なく、内気で推していけば折れそうな佐倉をターゲットにしたと予想できる。

 

これは単なる俺の予想でしかないが、山内は同じ男としてあまりいいと思えない。ころっとターゲットを変え、相手の事情も考えず自分のことばかり話す。そんなことしていたら女性は振り向いてはくれないだろうに。まあ、そんなこと本人に言ったところで話を聞かないだろうし、わざわざ言ってやる義理もないため言わないが。

 

そんなことを考えている間にも、山内はひたすらに話しかけており、佐倉は依然どうしていいか困っていた。

俺は佐倉と接点がないため、助け舟を出そうか困っていたが、あまりにしつこいため、流石に口を挟もうと思った。

 

しかし、そのタイミングで綾小路が割って入ったため、話すのを止めた。佐倉は嬉しそうな顔で綾小路を見ていたため、綾小路を相当信頼しているようであった。山内は綾小路が割って入ったことに不満そうな顔を浮かべていたが、佐倉が困っていたことには依然気づいていないようであった。

 

そんなやりとりを伊吹はくだらないといった様子で見ていた。

 

 

そんなことがありながらも、少しづつ拠点へと戻りつつあったが、俺は伊吹に対する警戒を解いてはいなかった。理由はやはりスパイである可能性が高いからであった。

この試験は7日間を無事生き残ること、そして、他クラスのリーダーを特定することといった大きな二つの目標がある。その他クラスのリーダーを当てることはかなり重要なポイントになる。そのためにCクラスが送り込んだのではないかと思ってしまう。

 

伊吹の顔には青あざがくっきりと残っているため、本気で殴られたというのは間違っていないようではあったが、どうしても信頼するには至らなかった。

山内や佐倉はただ伊吹が喧嘩をして出てきたと本気で信じているようであった。綾小路はどう思っているのか分かりにくいため、謎であった。

 

ともかく、そんな危険因子を連れ帰ってもいいのか、それを未だに考えていた。今Dクラスはただでさえ雰囲気が悪い。少しでも多くのポイントを残そうとする男子、快適に過ごしたい女子で多くもめている。そこにより喧嘩になりそうな原因を持ち帰って何も起こらないか、と言われたら、絶対に何か起きるだろう。

 

さてどうしたものかと思っていると、俺たちから見て右手側の方向から話し声と草をかき分ける音が聞こえて来るため、俺たちは立ち止まった。

話し声から察するに女性2人、男性2人と言ったようであった。

 

佐倉は誰!?と緊張して身構えているようであったが、俺はその声の中の1人に聞き覚えがあった。

 

その人物を含む集団は少しづつこちらに接近しているようで、草をかき分ける音が少しづつ大きくなってきていた。

 

やがて近くの草むらの中からその人物たちは現れた。

 

「少し強引だったんじゃないか?結構草むら激しかったし、みんな草が体についてるぞ」

 

「確かに少し疲れたね…近くで休憩できる場所ないかな…?」

 

「俺はまだ元気だけど、確かに白波は疲れてそうだな。どうする?休憩する?」

 

「んー、確かに千尋ちゃんも疲れてるし休憩しよっか!…ってあれ?司?」

 

草むらをかき分けてやってきていたのは帆波たちBクラスの面々だった。それもBクラスの中でも中心人物である、帆波、神崎、柴田、白波の4人であった。

 

「あー!一之瀬ちゃん!今日もかわいいね!」

 

「ん?帆波たちか。ここで会うなんて偶然だな」

 

「にゃはは、かわいいなんてありがとう。それにしてもこんなところで会うなんて思わなかったなー。会えて嬉しい!」

 

帆波は山内に感謝しつつもすぐに俺の方に来て話を始めたため、山内はショックを受けているようであった。そして、山内が俺に向けて鋭い視線を送っているが、気づいていないフリをして無視しておいた。

 

他にも白波も懐疑的な視線を向けていたが、俺は白波と接点があるわけではないし、どうしてそんな視線を向けられているのかわからなかったため、こちらと流しておくことにした。

 

「司に会えて嬉しいな!丁度Dクラスの人たちと話をしたくて探してたところだし、本当にタイミング良かった!」

 

「ん?俺たちを探してた?何か用事でもあったのか?」

 

「うーんとね、それについて今話したいところだけど、B、Dクラス以外の人にはあまり聞かれたくないことだから、少し離れたところで話ししたいな。どうかな?」

 

「俺はいいけど、伊吹はどうだ?何かあるか?」

 

伊吹にどうであるか聞いておく。こちらとしては納得できるが、どうか分からないため、念のためだ。

 

「他クラスの動向について私は興味ないから勝手にしたら?それでも気になるっていうのなら、私に監視でもつけとけば?」

 

伊吹は問題ないようだが、確かに万が一にでも盗み聞きされていては困る。そのため、俺と一之瀬はBクラスの柴田、白波、Dクラスからは山内と佐倉をここに残して、少し離れたところで話をすることになった。

佐倉は綾小路もいなくなることを不安そうにしていたが、綾小路が何か話すと、待っていることをなんとか受けてくれた。

 

 

こうして少し移動をし、凡そ伊吹には聞こえないような場所まで移動してから本題に入る。

 

「よし、ここなら聞こえないね。じゃあ、簡潔に話そうかな」

 

「ああ。早めに何を話したいのか教えてほしい。俺たちもしないといけないことがあるし、そっちにもあるだろうしな」

 

「うーんとね、簡潔に言ったら、今回の試験でもBクラスとDクラスの間には同盟関係があるのか、それを確認しておきたいんだよね」

 

「同盟関係?」

 

綾小路が聞き返す。これに神崎が答える。

 

「以前Dクラスの須藤が起こした暴力事件についてBクラスとDクラスの間には協力関係にあったことを綾小路?は知っているか?」

 

「…ああ。詳しくは知らないがそう言った話を聞いた」

 

「そのときの説明については今更話したところで意味はないから省かせてもらう。今回の同盟関係について、簡単に言えば、互いのクラスのリーダーが分かっても言わないということをこちらからは提案したい。俺たちBクラスはなるべくリスクを避けた動きをしたい。そのため、少しでも当てられる可能性を下げておきたい。そう思った上での行動だ。理解してもらえただろうか?」

 

神崎が分かりやすく説明をしてくれる。綾小路も納得したようで、首を縦に振っていた。

 

「今回の試験について、私たちはどこのクラスのリーダーについても当てるつもりはないんだよね〜。勿論当てれたときの50ポイントは大きいけどね、外したときのリスクが怖いなってみんな言ってたの。だからDクラスも私たちのクラスについてして欲しくはないんだけど…どうかな?」

 

確かに帆波は一理ある。ハイリスクハイリターンのため、出来るならしたくない手段ではある。しかし、最も特典の少ないDクラスは他クラスに追いつくために少しでもクラスポイントを獲得しないといけない。そう考えるとこの提案は断りたい。

しかしながら、現状Cクラスはかなり積極的に動いているため、Cクラスを抑え込めるためにもBクラスと協力関係にはありたい。

 

さてどうするべきか…。悩んでいると、綾小路も悩んでいるようではあった。

その様子を見ていた神崎が一つの提案をする。

 

「突然言われて困っているのだろう。そこでだ。一旦戻って相談してみてくれないか?これはクラスに関わることだから悩んでいるのだろう。クラスで相談して、意見をまとめてくれ。期限は…そうだな、あまり遅すぎるとこちらも不安になる。明日の夜までに教えて欲しい。どうだろう?」

 

「ああ。確かにそれならいい。俺一人で決めるには荷が重すぎるから、その提案をしようと思っていたところだ。こちらとしても十分に考えてから返答させてもらいたい。帆波と綾小路もいいか?」

 

「俺は詳しくはわからないから、桐生の意見に従っておくよ」

 

「うん!司が言うなら待ってるね!…といってもどこに私たちがいるか分からないと困るもんね」

 

綾小路もとりあえず意見にのってくれ、帆波も了解してくれた。そして帆波はBクラスが拠点にしている場所への行き方を教えてくれた。

 

「それじゃあ、明日の夜まで私たちは待ってるから、良い結果を言ってくれるのを楽しみにしてるね!それじゃまた明日ね!」

 

そう言うと帆波と神崎たちは柴田、白波たちを呼びに帰っていった。

 

ここには綾小路と俺だけが残された。綾小路も戻ろうとするが、少し綾小路にも聞いておきたいことあるため、待ってもらう。

綾小路はめんどくさそうな顔をしたが、律儀に待ってくれるため、質問する。

 

「さっき俺には分からないって綾小路は言っていたよな?」

 

「ああ。俺はそんなに頭が良くないからこう言ったことは分からないんだ。それがどうした?」

 

「いや、お前は賢い。今回の内容についてちゃんと理解しているはずだ。そうじゃなければ、神崎の提案に質問をするだろ?それにお前はその直前まで腕を組んでいたが、その提案を聞いてからは外していた。人の心理状態として手を組むのは思案していることが多い。違うか?」

 

「…買いかぶりすぎだ。そんなことない。これ以上待たせると佐倉たちに申し訳ないから戻るぞ」

 

そう言うと綾小路も戻っていってしまった。果たして綾小路が本当にそうなのか。真相は分からなかったが、これ以上問い詰めても何もないと判断した俺も元の場所へと戻っていった。

 




よう実8巻買って読みました。
この小説でも割と重要そうな橋本について結構出てきたことや、有栖と帆波の対立など盛りだくさんで面白かったですね
また投稿意欲が上がってきたので、もう少し頻度上げていきたいと思います

早く有栖書きたい…


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女子との交渉

また遅くなりました(いつものこと)
前回の話が好評だったようで嬉しいです
また皆さんに満足してもらえる作品を書けるように精進していきます


Bクラスの帆波、神崎と同盟関係の有無を確認し、情報を交換した俺と綾小路は、山内や佐倉、伊吹が待っている場所は戻っていた。

そこにはBクラスのメンバーである柴田、白波の二人もいたはずだったが、既にいなかったため、帆波達と合流し拠点へと帰っていってしまっていたようだった。

 

3人に合流して、俺たちも拠点へと帰ることになった。

 

その後は特にこれといった問題や出来事もなく拠点に帰ることができた。その間も山内は佐倉にアピールを繰り返していたが、やはり鬱陶しがられているようであった。当の本人は気づいていないようなので幸せそうであったが…。

 

 

そんなことを尻目に見ながら拠点に帰ると、男子達の一部が不機嫌そうにテントを組み立てていた。

 

テントについてだが、元々クラスには2つのテントが支給されていた。しかし、篠原たち女子組が占有すると言い張り、言うことを聞かないため、どうにかしないと幸村や池たちが、俺たちが出かける前に話していたことを思い出す。

今組み立てていることから、テントを買うことが出来ているようであったが、様子を見る限りいい様子ではないようであった。

 

とりあえず、近くにいた平田に話を聞いてみる。

 

「平田、これは何があったんだ?」

 

平田は俺が呼んだことで、振り返る。その平田も少し疲れたような表情が伺えたので、一悶着あったのであろうことが伺えた。

 

平田が疲れた様子になった原因は何か。厄介なことでないといいけど…とは思うが、厄介なことじゃなければ平田一人でなんとか出来たはずだ。

 

「ああ…桐生くん、戻ってきたんだね…。実は…」

 

平田はここで起きたことを簡潔に話してくれた。その話をまとめると、最初にクラスに与えられた2組のテントを女子が占領してしまったらしい。最初はそれに男子も抵抗していたらしいが、結局篠原たち強硬派が奪い取ってしまったらしい。これに対して、男子も寝るためのテントが欲しいからポイントを使わせてくれ、と幸村たちが言ったらしい。最初はポイントを節約しようと話していた幸村たちが言だだと言うことに驚いたが、流石にこんなに硬い地面に一週間も寝泊まりしたら疲れが取れないと判断したのだろう。

 

話を戻そう。この男子の提案に対して篠原率いる強硬派は、男子の提案に対して、「あんたたちがポイントを節約しろっていったんじゃなかったの?そんなのに使うんだったら私たちだって使わせてもらうから。何か文句でもあるの?」と挑発のように言ったらしい。これに対して、男子も女子が占領したからこうなったんだろう、と文句を言い、再びの喧嘩状態になったらしい。

 

平田は両方ともを落ち着かせようとしたが、両者頭に血が上って話を聞いてくれなかったらしい。そして今は櫛田が戻ってきたため、櫛田が両者なだめている状況だと話をしてくれた。

 

まとめると、再びDクラスは傾いた状態になっているらしい。

 

また厄介な状況になったと正直なところ思った。この問題はいきなりテントを占領した篠原たちに非があるのは明白だが、これを言ったところで篠原たちはさらに言い返して来るだろう。

 

何を女子たちが欲しがっているのか分からないが、ある程度そちら側の意見も譲歩しなければ男子の意見は通りそうにない。正直、俺としても地面に何も敷かず寝るのは嫌だ。普段ベッドなどで寝ている人は床で1日寝てみると、この辛さが分かるだろう。地面が硬いと想像以上に疲れが取れない。それに加えて、今俺たちがいるのは周りを木々に囲まれた大自然の中だ。もちろん地面には虫などが生息してあることはあり得る。都会の生活に慣れてしまっている俺たちにとって、地面に寝そべって寝ることには大きな抵抗がある。

 

以上の2点から、なんとかしてテントを2つほど確保しておきたい。下手に男子を連れて行くと挑発によって交渉が決裂して話がややこしくなってしまう。出来るなら平田を連れて行きたいが…

 

平田の様子がどんなものかと伺ってみるが、疲れ切っているようで、少し呆けているようで、連れていっても余計に疲れさせるだろうと思った。

 

「平田、俺今から篠原たちと交渉して来る。お前は今疲れてるみたいだし、ゆっくり休んでくれ。いきなり無茶してこのクラスの精神的支柱のお前が倒れてしまったら、それこそDクラスはやばい。とりあえず悪化はさせないように気をつけるから、少し待っててくれ」

 

「いや、桐生くんに任せっきりと言うのは良くないから僕も行くよ。僕も上手くできなかったからこうなってしまったところもあるからね」

 

 

平田の意思は固いようで、付いてくるようだ。

これ以上言っても無駄なようなので、平田にも付いてきてもらうことにした。

 

平田に女子たちがどこにいるのか、案内してもらい、俺たちは現在テントの前に来ていた。

平田が話があると言ったら、篠原や軽井沢、歌詞だと言った各女子の派閥の上位の人たちが集まった。他の人たちは今も外に出かけている面々を除くと、篠原たちの後方で話を聞いていた。

 

「で?平田くん、話って何かしら?」

 

篠原は平田に少し高圧的に聞く。普段の篠原は平田に対してはかなり優しい口調で話すため、先ほどの話し合いの時の怒りがまだ残っているようであった。

 

「えっと、今回は僕からじゃなくて、桐生くんからあるみたいなんだ。話を聞いてもらってもいいかな?」

 

「…ふーん、桐生くんが…。何の話?テントを買うなんて認めないよ。そっちがポイント勿体無いって言ってたんだし、野宿でもすればいいじゃない?ねえ、みんな、何か私間違ったこと言ってる?」

 

篠原は断固反対のようで、強い口調で話してくる。また、同様に反対の意見を持つ人たちも大きく頷いて、「そうだそうだ!」と言う。

 

これに対して、櫛田は反対のようで、他のみんなの神経を逆なでないように、制している。平田は困った様子で、こちらを見つめていた。

 

正直、ここまでは大方予想通りの動きをしているが、ここで想定外だったのは軽井沢率いるグループの動きであった。

 

正直なところ、軽井沢たちのグループも反対側の意見を出しているのではないかと思っていたが、意外にも傍観をしているようであった。この嬉しい誤算により、想定していたよりも説得しやすいのでは…と思いつつもこちらも提案を始めた。

 

「簡単に言ったら取引をしたい」

 

「取引?」

 

突然の言葉によく分からず、不思議そうに首を傾げいる篠原に順次説明して行く。

 

「男子としてはテントなど、生活に最低限必要なものが欲しい。けど、それでは女子としては不公平に感じるかもしれない。それは分かる。だって男子だけ買おうとしてるんだからな。しかも、女子にはポイントを使うなと言っているから余計にだ。そうだろう?」

 

「桐生君が言った通りだよ!あいつらったら私たちに文句言う癖に自分たちが使う分はいいとか言うんだよ!意味わからないよね!?」

 

篠原が言うと他の女子たちも一斉に文句をあげる。この様子だと須藤などがそんな感じで言ったのだろう。

 

「と言うわけでだ、俺としてはこちらもポイントを使いたいが、代わりとして女子も欲しいものを一定量使ってもいいと言う条件を提案したい。単純明快だが、これなら平等だと言えるだろう?」

 

「それはそうだけど…」

 

「納得いかないとは思う。女子だってポイントを少しでも残したいんだろう?」

 

「うん…」

 

「そこで、だ。考えてみて欲しいんだ。クラスの中間テスト、そこで獲得できたポイントは何ポイントであった?」

 

「えっと…確か110ポイントくらいだったよね?」

 

「そう、110ポイントだね。そして今回元から与えられてるポイントは300ポイントだ。そう考えれば少しは使っても問題ないと言えるだろう。これは学校側が予めポイントを使うことを想定してるということだろう。だからある程度のポイントは使用しても問題ないと俺は考える。どうだ?平田?」

 

ここで平田に意見を振る。俺の意見ばかりでは不満を覚える人もいるだろうからだ。女子からも信頼されている平田が賛同すればより強い意見となる。

 

「そうだね、全くポイントを使わないで一週間を過ごすのは不可能だと思うな。最低限必要なポイントは使わないといけないと思うな。どうだろう?ここは桐生君の言う通りにしてみないかい?勿論無駄遣いはしないように確認した上で…になるけど…」

 

やはり平田も賛同してくれた。これにより女子たちもいいんじゃないかと話し始めた。やはり平田の影響力は強い。平田が来てくれたのはありがたかった。

 

「私もいいと思うな。やっぱり男子も女子もポイントを少しは使わないと一週間も過ごすのは無理だと思うんだよね。だから、みんなで考えて使おうよ!」

 

「…私も賛成かな。無理して過ごすなんて私たちには無理でしょ?」

 

平田に続いて櫛田、軽井沢も賛成の意思を示す。女子の中でも特に影響力のある面々が次々と賛成することによって、多くの人たちが賛成へと流れ始めた。

 

最初は渋い顔をしていた篠原であったが、やはり多くの人が賛同することに折れ、納得した。

 

「…分かったよ。まだ何を買うかは決めてないけど、しっかり話して決めるならいいよ…」

 

「ありがとう。これで過ごしやすくなった。感謝するよ」

 

これで、一先ず問題となっていた問題は解決することができた。納得してくれたようなので、俺も水を煮沸するために戻ろうとする。すると平田が話しかけてきた。

 

「ありがとう、桐生君。僕だけじゃこの問題は解決できなかった…だから本当に感謝しているよ」

 

「そんなに感謝されることじゃないさ。俺だって平田に頼らないと出来ないことも多い。また、俺も頼らせてもらうかもしれない。その時はよろしくな」

 

「…ああ。僕に出来ることを全力でさせてもらうよ。改めて、これからもよろしくね、桐生君」

 

そう言って平田は俺に手を差し出してくる。

 

「ああ。勿論だ」

 

俺も手を差し出し固い握手をした。このとき、平田と改めて信じ合えたような気がしたのであった。




次回はもう少し早く出したい…って毎回言ってますね
次はいつになることか…


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知らされる事実

この小説、ヒロインが登場したのいつだっけ?となったら作者です

有栖が全く出てこれない状況だから、早く書けるようにテンポアップしたいのですが…


女子との交渉が終わった俺と平田は一度男子側の拠点に戻ろうとしていた。

 

その最中、何か気づいたことはないか、お互いに意見を交換したり、平田の方で起こったことや見たことを聞いたりした。

 

すると、この近くのところに果物畑のような場所を見つけたことなどを知った。恐らくだが、これは学校側が意図的に作った畑だろう。見つけて有効活用し、ポイントを節約しろという目的だろうか。

因みにその畑にはバナナやいちじくと言った多種多様な果物があったらしい。果物を保存しておくような冷蔵庫などはありはしないので、腐ってしまっても困る。そのため、早速今夜の晩御飯に回されるらしい。調理の方は櫛田たちのグループが担当らしく、これから準備を始めるようであった。現に、先程俺たちが話し合いに行ったときに、櫛田たちのグループの人たちは果物を持って川の方向へと向かっていた。その途中で俺たちがやって来ていることに気づいて顔を出したのだろう。

 

「ところで桐生くんの方はどんな成果があったのかな?」

 

ここで、平田が俺の方で起こったことを聞いて来た。なので、俺の方であったことを簡潔にまとめて話す。木を集めに行った際、綾小路たちと出会ったこと、その帰りにCクラスの伊吹澪に出会ったこと、その伊吹が怪我をしていたこと、伊吹をうちのキャンプに連れ帰ることになったこと、Bクラスと同盟関係を未だ結んでいくのか、などを話した。

 

話を聞くと、平田は腕を組んで少し困ったような様子を示した。

それもそうだろう。伊吹を連れて帰ることは正直なところ俺でも反対であった。Cクラスは他クラスへの妨害工作などをよくするクラスだ。Dクラスも須藤が暴力事件を起こしたとして退学を受けかてた。Bクラスの方にも何かしら仕掛けており、小競り合いを起こしていたらしい。それだけに警戒しない方がおかしい。これで他クラスにもCクラスの生徒が忍び込んであれば黒で確定できるのだが、まだ判断できない。明日Bクラスに向かう際に確認をしておこう。

そしてBクラスとの同盟関係についてだ。こちらに関しては素直に同盟関係を組んでいいと俺自身は思っている。いずれは敵対することになるだろうが、Bクラスとの利害は一致している。共通の目標、それはCクラスを叩くことだ。DクラスはCクラスを倒して這い上がりたい、Bクラスとしては下から追いかけてくるCクラスを押さえ込んでおきたい。

 

「そうだね…僕としては、伊吹さんを僕たちの拠点に連れて来たことについては間違ってないと思うよ。困っているみたいだし、怪我もしているみたいだからね。それにこんな島で女の子一人野宿させるなんて危なくてさせてはいけないと思うんだ」

 

いつも優しい平田らしい回答だと思う。実際のところ、女性一人を野宿させるのは危険であるとは思う。学校が管理している島とはいえ、少なからず危険な場所は必ずある。そのために保護するのは間違ってないだろう。ただ、やはりスパイに関しての疑惑は晴れない。平田もそこについてのリスクも考えてはいるだろうが…。

 

「それとBクラスとの協力についてだね。これも僕は賛成だよ。協力者がいれば少しでも楽に生活していけるんじゃないかな。Bクラスで得られた情報も使えればかなり優位にこの試験を進められると思う。これが今の所の僕の考えかな。僕一人で決めるのはいけないと思うから、あとでみんなにも確認取ってみようかな?」

 

「ああ。確かに確認した方が確かだな。あとでって言うのは点呼の時か?」

 

「うん、そうだね。点呼の時にはみんな集まるだろうから。それでいいかい?」

 

「ああ。分かった。それまでに俺も水を蒸留するなどのことをしておきたい」

 

「分かったよ。じゃあ、あとでまた合流してみんなに話そう」

 

このように話しはまとまった。平田はそのまま男子たちの集団の方へと向かった。

 

俺も水の蒸留などしないといけないことがあるため、その場を離れたのだった。

 

 

 

 

 

平田と別れ、水の蒸留の準備をし完成するのを待っていた時、点呼の時間がやって来た。どうやら時計が点呼の時間が30分前になると軽いアラームを鳴らすシステムらしい。突然音が鳴ったため、びっくりしてせっかく組み立てた蒸留するためのセットを壊しそうになったが、なんとか壊れなかったので、一安心して、Dクラスの点呼場所へと俺は向かった。

 

 

 

 

おおよそ全員が集まって来たところで平田は、Dクラス名前に立ち、先ほど話していたことを話し始める。俺が話したことをさらに噛み砕いて説明する。

平田の内容を聞いて、Bクラスとの協力について文句を言う人は誰一人としていなかった。こちらはデメリットが限りなく低い上に、こちらのメリットが大きい。そのため反対意見はなかった。

 

これを受けて、俺が明日の朝にBクラスの元に向かって協力関係を結んでくることになった。俺が選ばれた理由としては、その話を直接受けたため、そして、Bクラスを取りまとめている一之瀬帆波と仲がいいからと言うことらしい。

それなら櫛田でもいいんじゃないかと思ったが、櫛田はクラスの女子のグループを率いる人のため、長期間離れるのを良しとしないと話された。その点、俺は一人で動いても問題ないから、適任とのことらしい。

 

クラスでぼっちであると言われたようなものだが、ここで反論してもあれなのでその仕事を受けておいた。

 

 

これに対して、大きく意見が割れたのは伊吹澪の処遇についてだ。やはりスパイだからつまみ出した方がいいといった意見の人と、可哀想だからここに泊めてあげた方がいいという意見の人で真っ二つになってしまった。

 

これに関して、再び口論が始まりそうになったが、ここで待ったをかけたのは平田であった。平田個人の意見、伊吹をここに置いておくことに関して賛成ということを伝え、そのメリットを話した。

伊吹をここに置いておくというメリット、それはCクラスは伊吹がここにいる限り、点呼を取るたびに5点を失うというところであった。この生活は1週間。そのうち点呼は一日に2度行われる。ただし、初日と最終日は1度のみ行われるとされているため、単純にずっといれば12回分損をすることになる。合計すれば60ポイントの損になる。これはCクラスにとって大きな損なのではないか?、と話した。

 

これには反対側の生徒たちも納得したようで、反対派の生徒たちで話し合い始めた。その後しばらく話していたが、反対派は折れ、伊吹をここに置いておくことで決定された。

 

「どうだ?話し合いは終わったか?」

 

俺たちの話し合いが終わると同時に茶柱先生がやってきた。時間を見ると点呼の開始時刻になっていた。

 

「点呼をするから、呼ばれた生徒は声を出して手を上げなさい。では一番!」

 

こうして点呼は始まった。呼ばれた生徒は声を出しているのだが、一つ気になっていることがあった。ここには何故か高円寺がいない。あれだけ目立つ男だ。いれば必ずわかるはずだが、どこを見渡しても見当たらない。まさか迷ったか?、そう思っていた時だった。

 

「そういえば、伝え忘れていたことがあったな」

 

茶柱先生は点呼を一時中断し、話し始める。

 

突然中断してまで話そうとするくらいだ。大事な内容なのだろう、そう思いみんなは茶柱先生に注目する。みんなが注目したところで茶柱先生はとても大切なことを話した。

 

「高円寺についてだが、あいつは体調不良を起こして船に戻った。よってポイントから30ポイント減点だ。これはルール上仕方のないことだ。高円寺はリタイアとなり、1週間船内で治療と待機が義務付けられた」

 

「えええええええ!?!?!?」

太陽が隠れ始めた無人島に、俺たちDクラスの叫び声が響き渡ったのであった。

 

 



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早朝の出来事

テストなんてなくなればいいのに(突然)
現在、テスト直前ながらこれを書いてました。もう少しすれば夏なのでもう少し早く書けそうかな…(希望的観測)



まだ日も上りきっていない早朝、俺は目が覚めたので、他の人を起こさないようにテントを抜け出し、川の水が汚れていないことを確認して、顔を洗い、服を着替えた。服を変えるといっても、同じジャージに着替えるだけではあるが。

 

服を着替え終わってから、手元の時計を確認すると、時計の針は4時を指していた。点呼を取るまでまだ3時間もあるため、他クラスの偵察に向かうことにした。Aクラスのベースキャンプの場所は把握しているが、B、Cクラスのベースキャンプはどこにあるか分からない。それに、この島の全景を把握しておきたい。そのため、誰も行動しないこの朝の時間に島の地図を作っておこうかと思ったのだ。それと、朝だからこそ警戒されにくいと思うので、そのうちに他クラスに偵察を仕掛けるというのも目的にある。8時までには戻らないといけないので、すぐに紙とペンとバインダー、それを持ち運ぶリュックを持って移動を開始した。

 

 

 

 

周りを木々に覆われた森を普通に移動するのは体力が必要になる。普段の舗装されたコンクリートを移動するのなら体力はさほど必要ではないが、ここは地面は舗装されてない悪路などもあり、体力を削られる。そのため、フリーランニングと言われる技術を利用して俺は森の中を走り抜ける。フリーランニングとは、自分の肉体のみで、特殊な器具を使うことなく障害物を使って走る技術だ。今回で言えば、障害物とは鬱蒼と生えた木々のことだ。この木々を使って普通なら移動には使わないであろう木の上などを移動していく。

この技術を使うメリットとして、普通なら移動に時間がかかる道でも、時間を大きく移動できることが挙げられる。現に、海岸から俺たちDクラスのベースキャンプまで20分ほど歩いたと、池や山内は言っていたが、俺は10分もかからず移動を終えた。

 

このように時間を短縮できたので、さっさと様の周りを探索する。まずは島の外周だ。島の周りは砂浜となっているので、日が昇る前にさっさと終わらせておきたいというのがある。夏に海水浴に行った時、砂浜は地獄のように熱くなる。しかし、まだ日が昇りかけの5時ごろともなれば、さほど熱くはない。そのため、すぐにバインダーを取り出し、地図を書き始めた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなもんか」

 

顔から滴り落ちる汗をぬぐいながら、完成した地図を確認して俺は一息ついていた。これからの6日間で使う大切なもののため、時間をかけてゆっくりと使っていたら、2時間かけて外周を完全に書き終えることができたのだった。実際に歩いてみると、割と広い島のようで、広いということが分かった。そして、Bクラス、Cクラスは海岸沿いにベースキャンプを張っているということも分かったのだった。流石にそのベースキャンプの中を堂々と歩くことはできないので、そこは森の中を抜けたが、そこからでも他クラスの状況はよく分かった。

 

まずはBクラス。Bクラスはうちと同じように、節約を徹底して、使わないといけないところは使って凌ごうとしているようであった。見るに近くに井戸のようなものも見えるため、水の確保にも困ってはなさそうだ。

 

正直なところ、Bクラスについては想定内であった。堅実主義の帆波がクラスをまとめているというのもあるが、現実的に使わないで済むポイントは使わないで、それでも楽しく過ごせるようにある程度は使うと予想がついていた。

 

それに対してCクラスの様子には度肝を抜かされた。CクラスはBクラスやDクラスとは対極、ポイントを使いに使いまくっているのが目に見えていた。俺が遠目に確認しただけでも、モーターバイク、BBQセット、テントに大型仮設トイレ、体を洗うのに使う仮設施設など、ポイントを散財しているとしか思えないポイントの使い方であった。しかも、それらは各設備の中でも最も高いポイントを要するものばかりだ。何故それを俺が分かるのかと思うかもしれないが、それはポイントを記したマニュアルを俺が見たときに、それぞれ一番高いもので印象に残っていたからだ。

 

あの様子から、Cクラスはすでに諦めたか、もしくはあえて0ポイントにすることで、他クラスのクラスリーダー指定のリスクを0にすると行った目的があってかもしれない。

前者なら敵が人組脱落してくれるので有難いが、恐らくその可能性はないだろう。Cクラスを牛耳るのは相手に勝つためなら手段を選ばないと言われている龍園だ。そんなやつがこんな機会をみすみす手放すとは思えない。要警戒だろう…。

 

 

そんな思考を巡らせていると、もうじき7時になりそうになってきていた。暑くなっていた体も冷えてきたし、一旦ベースキャンプに戻ろう。体も汗をかいたから、川の水で汗も吹き流しておきたい。

 

そう思って、立ち上がって移動をしようとした時だった。

 

「…あれ?司くんじゃん!こんな時間にこんなところでどうしたの?」

 

振り返った先にいたのは、同じく少し汗をかいて服をパタパタしながらこっちに歩いてくる一之瀬帆波であった。汗をかいているため、服が身体に張り付いていて、帆波の抜群のプロポーションが目に見えて分かるようになっており、目のやり場にすごく困る…。それに加えて上着を引っ張って暑さを凌ごうとしているため、胸の谷間の部分も見えてしまい、少し目線をそらして会話をする。

 

「…ああ…朝早く目が覚めたから島の地図でも作ろうかなって思ったからしてただけだよ。それこそ帆波はこんな朝早くからそんなに汗かいて何してたの?」

 

「ええっとね、私も早く目が覚めちゃったから、少し体を動かしておこうかなって思ったんだよね。それで砂浜走ってたらすごい汗かいちゃったんだ」

 

言われて足元を見ると、確かにジャージに砂がこびりついている。確かに砂浜を走っていたようだ。

「朝から走ろうなんてよく考えたな…こんな暑い時期に走ろうなんて俺は思わないからさ。それに女子って、日焼けとか気にするから、そこら辺、帆波も大変じゃない?」

 

「にゃはは、確かに大変かな〜。日焼けはお肌の天敵って言うから、みんな意識してるかな。私もこの時期だけど、長袖のジャージ着るとかして対策してるけど、それでも焼けちゃうんだよね…」

 

確かに露出する肌を少しでも抑えようとしているのは多くの女子を見ていれば分かる。昨日だって、隙が出来れば日焼け止めのクリームを塗っている女子たちがいた。男子の視点から見ると、めんどくさくないかなって思うけれども、やっぱり肌の問題は死活問題なんだろうなと思う。

 

「…あのさ、司って肌が白い子の方がいい…?」

 

突然帆波が質問してくる。肌が白い方がいいかと言われたが…。じっと見つめられて回答を待っているので、早く答えないといけないが、どうしてそんなことを俺に質問してくるんだろうか?俺の答えなんて聞いたところで何もならないと思うのだが…。そんなことを思いつつも、とりあえず答えることにした。

 

「そうだな…。俺は肌が白すぎるってのは嫌かな…。なんだかさ、白すぎたら人形みたいに見えてちょっとあれじゃないかな…って思うんだよね。だから、ちょっとくらい焼けてるくらいがいいんじゃないかな?それこそ、帆波くらいかな?帆波ってめっちゃ白いわけじゃないけどさ、人肌あるくらいでいいと思うな。まあ、別に俺の意見だから。気にしなくても……?」

 

そんな感じで、話をしていると、ふと帆波がこっちを見ていなかったことに気づいた。話始める時には、じっと俺のことを見つめていたのに、今は顔を赤くしてうつむいてしまっている。

 

「大丈夫か!?熱中症か何か…?」

 

急に顔が赤くなってうつむいてるので、不安になって帆波と移動しようとするが、帆波は大丈夫だと言って聞かない。とりあえず、本人が大丈夫だと言うので、少し待ってみる。

 

「…うん、もう、大丈夫!」

 

「それならいいが…無理をして倒れるようなことはしないように気をつけてな」

 

「うん!そろそろ点呼の時間になるし、帰りながら話でもしない?」

 

腕につけられた機械を確認すると、時刻は7時30分手前であった。そろそろみんなが起きてきて、朝の準備を始める時間帯だ。そんな時間にいないって気づいたら探されたりするかもしれない。そうなので、少し急ぎ目に歩いて帰ることにした。帆波をBクラスのベースキャンプに送り届けてから、Dクラスのベースキャンプに戻るとしても15分で戻れるくらいの距離であったので、遅れることはまずないとは思うが、遅れたらアレなので、帆波を送り届けたらダッシュで戻ることにはしておこう。

 

 

 

 

 

 

「ここまででいいよ。もう、私たちのベースキャンプも見えてるし、司が遅れちゃったら申し訳ないから…」

 

10分ほど先ほど話していた場所から歩いて来ていたが、もうBクラスのベースキャンプが見える場所までやって来ていた。帆波が気遣ってくれているので、ここはその気遣いに甘えさせてもらうことにしよう。

 

「それなら嬉しい。もうそろそろ点呼の時間も来るから、帆波も遅れないように気をつけてな」

 

「うん!司も遅れないように気をつけてね」

 

「ああ。気をつけるよ」

 

別れの言葉も済んだので、俺ももベースキャンプに戻ろうと踵を返した時だった。後ろから再び声をかけられたので、もう一度振り返る。

 

「あ、あのさ!すっかり聞き忘れちゃってたんだけど、私たちBクラスとDクラスの同盟についてはどうなったのかな?」

 

帆波に言われてようやく思い出した。何か伝えなければいけないことがあったのに思い出さないと思っていたが、それだった。危うくもう一度こちらに来る手間がかかるところだった。

 

「すっかり言い忘れてた…」

 

「もう、こんな大事なことを言い忘れるなんて、司も意外とドジっ子なんだね」

 

帆波はちょっと意外な一面を見つけたようで、驚いているようだった。

 

「案外俺は忘れっぽいんだよね…。そんなに意外だった?」

 

「うん、司ってDクラスの中でも頭いいって聞いてたから、忘れっぽいなんて思わなかったんだよね」

 

「そんなことはないけどね。Aクラスなんかに比べたらまだまだ足りてないと思うぞ…と、そんなこと言ってる暇はあんまりなかったんだった。じゃあ、正式に伝えさせてもらうけど、俺たちDクラスはBクラスと同盟を組むことを望んでいる。同盟を結んでもらえるか?」

 

「もちろん!Bクラス代表の一之瀬帆波として、今回の同盟、結んだことを認めるね」

 

「ありがとう。それと、確認したいことがあるんだけど、Bクラスの方にCクラスの生徒が来たりした?」

 

「??変なこと聞くんだね?えっと…確か、昨日司と別れた後に、Cクラスの金田くんが怪我をしていて、私たちのベースキャンプに連れて来たよ。龍園くんに怪我させられたって言ってたし、許さないよね!」

 

帆波は同じクラスメートを怪我させた行為について少し怒っているようであった。クラスメートを大切にし、何よりも仲間が第一優先主義の帆波には考えられないことなんだろう。

 

「ああ…。確かに仲間に手を挙げるというのは許されるべきことではないって俺も思うな」

 

「だよね!だからさ…」

 

「けど、その金田には気をつけた方がいい。多分だが、そいつはBクラスのリーダーを当てに来たスパイだ」

 

突然のことに、よく分からないといった顔をしている帆波に続けて警告しておく。

 

「うちのクラスにも同じように怪我をしたCクラスの伊吹という女子がやってきた。ちょうど金田と同じような状況だ。だから二人は、スパイの可能性が高い。まさか偶々龍園に暴力をされて違う2クラスに同じタイミングで行くなんて考えにくい。だから、帆波も気をつけた方がいいぞ」

 

帆波はそれを聞いて複雑そうであったが、すぐに内容を理解してくれて、Bクラスのみんなに伝えておくと言ってくれた。これでCクラスの目論見を少しは挫くことが出来るかもしれない。

 

「それじゃ、俺はもう帰るか。金田にはくれぐれも気をつけてな。また何かあったら、言ってくれ。また話に来るから」

 

「うん、教えてくれてありがとうね。また何かあったら言うね!」

 

こうして帆波と別れて俺はDクラスのベースキャンプの場所へと足早に戻ったのだったが、点呼開始5分前であったため、他のクラスメイトたちにこっぴどく怒られてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




なんか普通に一之瀬さんがヒロインじゃないかと思い始めた今回…。
あと何話したら有栖は登場するんだろうか…


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探索

どうもお久しぶりです
有栖の栞を手に入れるために県内の書店4店舗回った作者です
ただ、栞の有栖がかわいいくてとても満足してます
皆さんはゲットしましたか?


帆波と別れてベースキャンプに戻った俺だったが、点呼を終えると、再び島の探索に向かうことにした。

 

今朝は砂浜方面の探索をしたが、今度はAクラスが占有している洞窟があるエリアを探索することにした。あちらの方はB、C、Dクラスとは離れているため、そちらの方面のエリアはAクラスが占有している可能性が高い。もっともリスクを良しとしない保守的な動きのBクラスはあの海岸以外の占有をしていないと言っていたため、Bクラスは占有から予測するのは難しい。尤も同盟関係結んでいるため、当てたりはしないが。

 

Cクラスに関しては謎のポイント大量ポイント使用が見えたので行動が読めない。今朝、砂浜から観察した程度だが、BBQセット、テント、仮設トイレ、ウォーターバイクなどポイントを散財しなければ手に入らないような品物ばかり揃えられていた。あれではポイントが0になるのでは?と思ったが、B、Dクラスにスパイの疑いありの人を送り込んでいるため、何かしら企みがあると考えていいだろう。そう考えると、Cクラスもどこかのエリアの占有をしている可能性はある。だが、この洞窟のエリアは島のマップ上は対岸に存在している。わざわざこちらまで出向いてからのはリスクが高いだろうと思う。

 

話が逸れたが、万が一にもCクラスがそちらのエリアに手を出していないとは言い切れないため、Aクラスの探索を主としてCクラスの情報も集めながら、島の詳しい地形を確認することにしていた。

 

こちら側は意外と起伏が激しい場所もあるため、あまり人は近づかない気がするが、気に留めずスポットを確認して回る。先程確認した島でも随一の巨大樹の下にあったスポットは誰も占有していないことを確認した。これは流石に目立ちすぎるため、慎重派な葛城は占有しなかった可能性が大きい。葛城はリスクを良しとしないため、やはり目立つスポットは空振りに終わりそうな気がする。

 

「次は船が旋回していた時に見かけた塔のような場所に向かうか…」

 

島の周りを旋回している時に洞窟を見かけたが、その近くに小さくだが、出っ張った不自然な洞窟のような物を一瞬だけ見かけたのだ。あまりに見づらかったため、気づいているかは分からないが、現在Aクラスが占有している洞窟の付近にあるため、周りの探索をしたは拍子に気づいている可能性はある。

 

次の目的地が決まったため、地図にこの辺の地形を書き込みながら移動を開始した。

 

 

 

日が天高く昇る時間となり、厳しい日差しが容赦なく降り注ぐ時間帯になって来た。ジリジリと照らされることで汗が止まらなくなり、日陰で何度か休憩を取りながらも、目的としていた付近にようやくたどり着いた。森の中の坂道が長く続いたため、歩くだけでもかなり体力を奪われたが、少しづつ波音が聞こえて来たため、気力を振り絞って移動を続けていた。

 

森を抜けるとすぐにそこは断崖絶壁となっていたため、肝を冷やした。落ちたりしないように気をつけながら下の方を確認すると、この場所がかなり高く、落ちたら怪我を負わずにいられるわけがないほどであることがよく分かった。

 

とりあえず、周りを確認するため、崖に沿って歩いていると、浜風が心地よく、先程までの暑さによる不快さはなく、心地よさを感じさせてくれた。

 

そんなことを思いながら注意深く周りを確認していると、一見見逃してしまいがちな場所にハシゴが架かっているのを見つけた。すぐに下の方へ確認に行きたいが、場所が場所のため、壊れてないかなど入念に確認して、安全性を確認してたから下に降りていく。

 

下に降り終えると、小屋や、釣りをするための道具などが丁寧に置かれていた。明らかに自然に置かれてるとは思えないため、どこかのクラスが占有しているのだろうと思えた。

 

ここにいることがバレると面倒になるため、さっさと確認して戻ろうと、小屋の中に入ってみた。これだけ辺境の場所にあるにもかかわらず、小屋の中には一切埃が多くたまっており、人が生活しているような雰囲気はなかった。日が当たりにくいため、暗い室内を手探りで進んでいくと、奥の部屋に洞窟の中で確認したスポットを占有するための機械を発見した。

 

機械には現在Aクラスが占有していることが記されていた。そして、残り1時間程度と記されていたため、近くAクラスがやってくる可能性がある。疲れは溜まって来ているが、ここに長居すると面倒なことになるため、すぐに戻ろうとした時だった。

 

バタンッと扉が思い切りよく開かれ、部屋の中に一筋の光が差し込む。ちょうど扉とテーブルまで挟んで場所に立っていたため、眩しさに目が眩んで目を隠していたが、入って来た人物に気づかれてしまったようで、「誰だ!」と小屋の中に駆け込んで来た。

 

今更逃げようにも崖の中に作られた空間のため、窓を蹴破って逃げようとしても、最終的な脱出ルートは最初に使ったハシゴしかない。そこに先回りされたらどちらにしろ捕まってしまう。そのため、逃げようとはせず、大人しく手を挙げて抵抗しない意思を示しておく。

 

「お前、どこのクラスのやつだ?名前を言え」

 

高圧的に詰め寄ってくることに少しイラっとはするが、面倒ごとは避けるため、大人しく名乗っておく。

 

「Dクラス所属の桐生司だ」

 

「…知らんな。とりあえず何か怪しいものを持ってないか調べさせてもらう。これは決して暴力をするわけではない。こちらとしても暴力をし、面倒ごとはしたくない。Dクラスの少ない脳みそでも理解してもらえたか?」

 

いちいち発言にイラッとさせられるが、黙って賛同の意思を示す。すると、後ろの方に何人かいた数人がこちらに詰め寄って来て確認をしようとする。野郎に体を触られることに関してはそんな趣味はないので不快感しかないため、早く終わってくれないかと思いながら、待っていると、ここで指揮しているやつの後ろの方から、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「ん?桐生か?」

 

その人物の姿は後ろから差す光で見えなかったが、ようやく見えるようになって、その人物が自分の知り合いだと確認できた。

 

「橋下か…なんとかツキはあったようで良かった」

 

俺を知っていた人物、それは橋下であった。橋下がここにいるということは、ここにいる集団は有栖派閥の人間だろう。これが葛城派閥ではなくて本当に良かった。

 

「お前ら、桐生は信用に足る。ボディーチェックなんかしなくていい。解放するんだ」

 

「しかし…」

 

橋下の命令により、ボディーチェックを止めようとするが、納得がいかない人もいるようで、何人か戸惑っているようであった。しかし、橋下が強い口調で伝える。

 

「聞こえなかったのか?桐生は坂柳が個別に信頼をしている生徒だ。なんなら、俺よりも信頼をしているのかもしれない。そんな人物に粗相をするのか?坂柳を怒らせるようなことはしない方がいいとお前たちは知らないのか?」

 

「そ、そうなんですか…」

 

やめることに抵抗していた人も、橋下の言葉を聞いて一斉にやめる。今の言いようからかなり有栖は圧政を敷いているのかと思った。普段の俺に接する姿的にはそこまで怒る素ぶりは見えないが、俺が知らない一面なのかもしれない。有栖は怒らせない方がいいと言うことを思わず知ったかもしれない…。

 

「他の奴らはここから出て、誰か来ないか確認しててくれ。一対一で少し話したい」

 

「分かりました」

 

そう言うと、橋下以外の人は外へと出て行った。全員が外へ出て行ったのを確認して橋下は話し始める。

 

「うちのもんが迷惑かけてすまない。わざとではないんだ。どうか許してやってくれ」

 

開口一番に大きく謝って来たので、驚いたが、とりあえず顔を上げるように言う。

 

「彼らがやろうとしたことは、理解できるから謝らなくていい。それよりも俺に聞きたいこととは?」

 

「理解してもらえて嬉しい。聞きたいことは一日でどれくらい情報を掴んだかだ」

 

「そのことか。まあ、なんとなくAクラスのリーダーを予想はした。確定まではたどり着いてないから不安要素はあるが…」

 

「なるほどな…」

 

橋下は腕を組んで考えるようなそぶりを見せた。坂柳派閥としては葛城派閥がこの時間で失敗することを望んでいるため、自身に損を被るとしてでも葛城の評価を下げようとしている。そのため色々と考えているのだろうか。

 

「とりあえず1日でかなり前進しているようだな。その様子なら答えにたどりつきそうか。因みに自信はどれくらいあるんだ?」

 

「そうだな…8割方といったところか。俺がマークしてないだけで他に誰か知らないメンバーがいる可能性があるかもしれないが、神室から事前に聞いていた情報とすり合わせると、多分その人物で間違いはないと思っている」

 

「なるほど…それなら安心したよ。まあ、俺たちも影で妨害工作は続ける。何か情報が欲しくなったら俺か神室に伝えてくれ。それと、坂柳派閥のメンバーでも主要なメンバーには桐生の話は通しておく。坂柳が言っていないのが気になるが、今回のような出来事がまた起こるとお互いに大変だからな」

 

「ああ、助かる。また何かあれば接触させてもらうよ」

 

そう言って俺は立ち上がり、ここから去ろうとする。小屋の扉を開けたところで不意に橋下が話しかけてくる。

 

「なあ、桐生、お前はどうして坂柳に従っている?」

 

どうしてこんなところでそんな質問をするのか、疑問に思ったが、その理由を考えてみる。

確かに最初は無理矢理従わされたような気がする。突然話しかけられ、お茶に行った先で強引に引き込まれた。考えてみれば別にそこで強引に引き込まれただけであって、強制はされていない。別に従わなくても良かったかもしれない。それでも俺は結果的に有栖に従い、Aクラスに上がるように裏から工作をしている。

相変わらず、よく考えてみれば、自分がいるクラスを蹴散らしてAクラスになれなんて変なことを言っているとは思う。いつも変なことは言うし、無茶苦茶はする。それでもなぜか有栖といると面白いし、楽しく思う。なぜなんだろうか。俺でも分からない。

 

「…考えてみたが俺でも分からない。変わった人だとは思う。無茶苦茶だし、有栖の言う通りにするのは大変だ。それでも不思議と有栖といたいと思う気持ちある」

 

「…そうか。変なこと聞いてすまなかった。葛城派の奴らが来ないとは限らないから早めに戻っておくことを勧めておくぞ」

 

橋下は納得はしていなそうであったが、早く帰ること、このルートを辿ると帰りが楽など、いろんな情報をくれた。そのことに感謝しつつ、俺は葛城派にバレないように早々に退散するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議といたい…ね。何を言ってるんだか。くだらない」

 

「橋下さん?どうしました?」

 

「いや、なんでもない。そろそろ葛城と弥彦が来る時間だ。一応あいつらに従順に接しておけ。バレないようにな」

 

「分かりました!」

 

橋下に聞きに来た一人が他の人に連絡を伝えに行き、いなくなった小屋に一人橋下が佇む。その表情は先ほどまで桐山と話していた好青年な一面ではなく、まさに悪人顔と言うのが似合っているような不気味な笑顔であった。

 

「俺が従うのは常に優位に立ちたいからだ。そんなくだらない感情に流されたりはしない…。あいつに接触してみるか…」

 

桐生の知らないところでまた別の思惑が動いているのであった…

 

 

 

 




また更新が遅くなってしまいました
今回は結構展開が進んだ気がします…ですよね…?
次回はもう少し早く出せるはず…


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痕跡

遅くなりました(謝罪)

もうじき9巻発売で楽しみですね。そんな中未だに3巻が終わらない当小説ですが…




橋下と別れ、流石に長時間歩き続けたために、疲れが出てきていた桐生は、大きな木に背を預けて休憩を取っていた。普段コンクリートで舗装された歩きやすい道を歩いているため、慣れない悪路を歩き続けるのは想像以上に体力を使う。それに加えて朝早くからの行動もあり、桐生の体力はかなり消費されていた。

 

そのため、少し長めに休憩を取っていた桐生であったが、いつのまにか眠気に襲われ、その欲求の赴くまま眠ってしまっていた。桐生が目を覚ました時、すでに陽はかなり傾き、綺麗な夕焼け空が鬱蒼と茂る森の隙間から露見していた。

 

起きてすぐに状況を確認して、何か他のクラスにものを奪われていないかを確認し、何も盗まれていないことを確認すると、少し一安心してから、再び移動を開始する。流石に1時間程度寝ていたせいか、身体は軽くなり、かなり動きやすくなっていた。

そうして移動をし、次の目的地である伊吹と昨日出会った場所にやってきた。

 

「ふう、ここまで戻ってくるのに以外と時間かかったな…意外とこの島広くて困るもんだ…」

 

島の広さに悪態をつきながらも、桐生は当たりの捜索を始めた。

桐生は正直なところ伊吹のことは半信半疑で疑っていた。いくら龍園が暴力的な生徒だとはいえ、いきなり追い出したりするようなことが起こるだろうか?ただ、暴力は男女関係なく行われていると聞いていたため、万が一も考えられていた。

しかしながら、今朝一之瀬と話をした時にBクラスにも同じように一人生徒がいるということを聞いていたため、疑問は確信へと変わった。

 

『伊吹澪はクラスリーダーを見つけるためにDクラスに潜入したスパイである』と。

 

伊吹はあの様子だと試験終了か、クラスリーダーを見つけるまでDクラスのキャンプ内に滞在し続けるだろう。だが、クラスリーダーを見つけた時、どうにかして龍園にコンタクトを取るのではないか…そう思った桐生はまず連絡手段となるものを携帯していたのではないかと思った。

朝キャンプを出る時にカタログを見ていると、コンパクト通信型トランシーバーが帰ることなどは把握して来ていた。そのため、トランシーバーを隠している可能性はある。もちろんそれは自身の荷物の中に隠している可能性はある。だが、まずキャンプに入る時や、俺たちと遭遇した時に荷物検査をされる自分の私服、私物は歩き」u<7可能性は高いと考えるはずだ。普通ならそう考えるのが妥当だ。となると、疑われざるを得ないような物体を持って入るだろうか?いや、持っては入らないだろう。

そうなると、どこかわかりやすい場所に隠している可能性がないかと桐生は考えた。

 

その隠し場所はCクラスの近くにはないだろう。もしそんな場所に隠すなら、直接Cクラスに戻り口頭で伝える方が早いからだ。それに加えてBクラス側にも隠しにくいだろうと思う。Bクラス側にも間者らいる訳だが、二人揃って同じ場所とは考えにくい。

そうなると、かなり隠す場所は限られてくるのではないかと思う。

 

そして俺が予想したのはここ、最初に伊吹が座っていた木の付近だ。

 

俺がここに目をつけた理由として、あの時の伊吹は少し息が切れていた。Cクラスから追放されてから走ることがあるかと言われたら恐らくないだろう。他クラスに見られたとしても同じように接近すればいい。そうなると、体を動かす理由がわからない。そうなってくると、他の理由としてはトランシーバーか何かをどこか、茂みや木の上、もしくは土の中に埋めたと考えるのが妥当だ。

そして、俺たちのキャンプへ帰ろうとする時に、伊吹の手を横目に見たが、爪の間に土が詰まっているのが一瞬ながら見えた。本当に一瞬では会ったが、髪をかき上げようとするその動作の時に見えたのだ。

 

以上のことから、どこかの地点に何かを埋めたと言うことが分かった。伊吹自身もどこに埋めたか変わらなくなる可能性があるため、どこかに目印になるようなものを残していると思われる。だからこの周辺を重点的に探してみることにした。

 

暫く辺りを探してみると案の定、一本の木に一見見逃してしまいそうになるが、意図的につけられたであろう傷の跡があった。そのため、その木の根元付近を見てみると掘り返されて土の色が僅かながら変化しているのが見つけられた。

 

その場所を近くにあった木などを使って掘り返してみると、案の定そこから雨が降っても大丈夫のようにジップロックに入れられたトランシーバーが出てきた。さらにそのジップロックの中にはカメラも入っており、完全に伊吹が黒だと言うことが発覚した。

 

伊吹が黒だと分かったことで、もしもこの場面を見られらとまずいので、すぐに元どおりに戻してその場を立ち去る。

これからの伊吹の対処を考えながら、Dクラスのキャンプへと戻ろうと歩いていると、1人森の中にポツンと立っている少女を見つける。何をしているのか、それを伺ってみることにするが、これと行って何をするわけでもなくポツンと立って森を見渡している。どうしたのかと思い、桐生は声をかけてみることにした。

 

「…こんなところで椎名は何をしているんだ?」

 

「……」

 

声をかけるが、返答は帰ってこない。もしかしたら聞こえていなかった可能性があるので、一応もう一回声をかけてみることにした。

 

「おーい、椎名?ここで何してるんだ?」

 

「…あら、桐生さん、こんなところでどうしました?」

 

「それはこっちのセリフだよ。俺はふつうに散策してたらここに辿り着いただけなんだけど、椎名は?」

 

「…私は暇をしていたので散歩をしていたら迷っちゃったみたいで。ちょっと帰り道がどっちか探してたら桐生くんに出会ったって感じですね」

 

「要するに迷子ってこと?」

 

「世間一般に言う迷子ですね」

 

淡々と顔の表情を変えることなく椎名は答える。普段から椎名の顔の表情はあまり変化するものではないが…

 

「それならCクラスのキャンプまで連れて行こうか?」

 

とりあえずここで椎名が1人で困っているのを見過ごして帰るのも気がひけるし、唯一読書について語り合える友人である椎名の困ってることだから助けないわけにはいかない。

 

「桐生くんはCクラスの場所が分かるのですか?」

 

「…まあ、今日一日島を歩いて地図を作ってたからその一環で知ったんだ」

 

「そうなんですね。もし、桐生くんがCクラスの偵察で知ってたとしても私は別に報告したりしないので安心してくださいね。私はCクラスの試験結果がどうなっても気にしないので」

 

「は、はぁ…」

 

やはり椎名はその表情も相まって考えを読み取ることができない。突拍子なことを言うことも多いため、果たしてそれが真意なのか図りかねる。普段本を借りてその感想を聞いて来るときは、普段の表情のあまり動かない様子とは一転して、すごく楽しそうな表情をする上に、積極的になるため、純粋に興味がないのだろうと思うが…

 

「桐生くんも帰る時間がありますし、遅くなって点呼に遅れたりしたら申し訳ないので、行きましょう?」

 

どっちが自分の帰り道なのか分からないのにも関わらず、椎名は自身があるように歩き出した。

 

「…こっちだぞ?」

 

「…私としたことが間違えてしまいましたね」

 

こんな時でもポーカーフェイスな椎名に素直に称賛を送りながらも椎名と一緒にCクラスのキャンプへと歩き始めたのであった。




多分あと8話くらいで3巻の内容は終わりそうですね……あと8ヶ月かかりそうだな…


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Cクラス

よう実9巻発売されましたね
今回の内容はこの作品にも大きく影響ありそうなので、結構気になってました
ネタバレは控えますが、一言言うなら山内、その場所変われ。

さて、本編は龍園初登場です
口調があやふやな気がしますけど…


森の中で偶然遭遇した椎名をCクラスの拠点に連れて行くことにした桐生は、椎名と2人で鬱蒼と茂る森の中を歩いていた。道は軽い下り坂になっており、いくらか歩きやすかったが、蔦や木が生い茂っていることで、歩きにくいことに変わりなかった。

 

そんな歩きづらい道を進みながらも椎名はいつも通り、桐生に本についての話を振り、話をしていた。

 

「桐生くんは『幻の女』という本を読んだことがありますか?」

 

「いや…見たことがないな」

 

「それは勿体ない…この本はミステリーとしても最高に面白いのですが、それだけでなく、友情の素晴らしさなども表現されており、とても面白いのですよ!私、今回の旅行に持ってきているので、この試験が終わったら貸すので読んでみませんか?」

 

「それなら読んでみようかな?ミステリーなのに友情ってのは少し変わってるように思えるし」

 

「はい、いつでも貸すので私の部屋に来てください。私の部屋は〜号室ですので」

 

普段から本が好きな者同士で読んだ本について語り合うことがあった。だが、本を紹介するのは大体椎名であった。逆に桐生が本を勧めても椎名はすでに読んでいるということが多かった。そのため、桐生は、紹介してもらった本を読んで、その感想を語り合うということをしていた。

それだと椎名は物足りないのではないかと毎回桐生は思っていたが、その度に椎名は、「自分の知っている本を紹介して、他の人に読んでもらうということがとても楽しいのです」と言うのであった。

 

今日もいつものパターンであり、既に3冊の本を紹介されていた。

椎名のオススメする本はどれも名作で、読み応えのあるものばかりなので、どんな本なのか、桐生は期待に胸を膨らませていると、不意に椎名がそれまでとは違う人物になったように静かに桐生に質問をしてきた。

 

「…桐生くんはこの試験についてどう思いますか?」

 

急な変化に少し戸惑った桐生であったが、真面目なトーンで話すため、こちらも真面目に答える。

 

「…どう…というと?」

 

「この試験について先生たちは自由にしていいと話していました。それでも、試験と言われたものですから、身構えて私たちは挑みました。しかしながら、現状先生たちからは何も言われず、まさに『自由』といったところです」

 

「確かにそうだな」

 

「ですが、本当にそれだけなのでしょうか?どうしても私は何か他に意図する目的があるのではないかと思ってしまうんです。そこで桐生くんはどう考えているのかと思ったので…」

 

椎名に言われてから少し考えてみる。この試験は確かに楽しむも我慢してポイントを貯めるも自由。何を食べ、どこで過ごそうが自由。まさに何をしてもいいと言った様相の試験だ。

しかし、ただ過ごすだけでなく、クラスポイントやプライベートポイントの増額といったボーナスもある。そう考えるとただの試験ではないと思う。何か俺たちに説明された試験の説明の裏に、学園側の意図する本当の目的があるのかもしれない。これが俺のただの考えすぎなのかもしれないが…

 

「私はこの試験について、生徒、もしくはクラスとしての情報力を見てるんじゃないかと思います」

 

椎名はきっぱりと言い切る。俺と同じような考えではあるようだが、更に突っ込んだところまで答えが辿り着いているようであった。

 

「椎名がそのように考えるのは…この試験のもう一つのポイントである他クラスのリーダーを見破るってところにあると思っているからか?」

 

「はい。この試験はクラスのリーダーであるキーカードを使うことでスポットの占有が可能ですけど、この瞬間などに情報を奪い取ることなどが求められていると思うんです。もちろんそれだけに限らず、他クラスの動向を伺うことで推測し、当てることもできます。こうした情報収集能力、及びその得られた情報から推測する力が図られているのではないか、そう私は思ったんです」

 

椎名の推測はとても納得のいくものであった。この学園の目標は社会で活躍する人材を育てるとしている。そのための特別試験というのなら、とても分かりやすい。

椎名がこちらの顔を伺っているため、自分の意見も話す。

 

「椎名の言う通りなのかもしれない。俺も椎名ほどはっきりとは考えていなかったが、何か表向きな自由に過ごすと言う目的の裏に学園が意図する真の目的があると考えていた」

 

「やはり桐生くんもそうなんですね。しかも今回のことについて、学園側は『今年度最初の』特別試験を開始する、と話していましたから、これから何度か特別試験があると言っていいと思います」

 

「そうだな…これからも大変な時間になりそうな気がする」

 

「特別試験ですからね。大変ではない訳がないと思いますよ」

 

「それもそうか…おっと、森が開けて来たな。あと少しで着くぞ」

 

そんな話をしていると、かなり歩いて来ていたようで、森が開け、足元に砂が少し見えるようになってきた。そしてしばらくすると、完全に砂浜に出て、ようやくCクラスの拠点にたどり着いたようであった。

 

鬱蒼と茂る森をぬけた海岸に存在するCクラスの拠点、そこに存在していたのは、DクラスやBクラスのように生活する上で最低限必要な物だけでなく、BBQをするためのコンロや大量に用意された食材、日差しを避けるための大きなテント、水上を颯爽と駆けていくモーターバイク。まるで同じ試験を受けているとは思えないような豪勢なものがこの空間には取り揃えられていた。ここまで来ると肉を焼く匂いが辺りに広がっており、一日中歩き回った桐生にとってはお腹が自然と鳴ってしまうような香ばしい香りであった。

 

ようやく辿り着いたことで、椎名は桐生にここまで送ってくれたことに謝辞を述べて、恐らくクラスで話すであろう面々の元へと向かっていこうとしていた。その時に桐生と椎名の元へ2人組の男たちが近づいてきた。

1人は柄の悪そうな中肉中背の男。もう1人は見るからに黒人の巨漢の男であった。

 

「あ〜?お前誰だ?」

 

柄の悪そうな男が桐生に突っかかって来る。

 

「Dクラス所属の桐生だ」

 

「Dクラスだ?あの学年のポンコツで使い物にならない不良品の?」

 

桐生がDクラスと聞くと、更に態度はデカくなり、とても偉そうにそして挑発的に桐生に向かって話す。その間巨漢の方は何も言うことなく、横柄な態度の男の後ろに鎮座していた。

 

「ああ、その不良品のDクラスさ。ところで?俺何か用でも?」

 

「用は大アリだ!他クラスの奴がここで何してやがる?ここが何処かだってわかっているんだろうな?」

 

「Cクラスの拠点だ」

 

「ほう?分かってここに来るとはいい度胸したんじゃねえか」

 

男は桐生の胸ぐらをつかもうとその手を伸ばして、桐生の体操服をつかもうとして来る。しかし桐生はその手を掴んで桐生は柔道の小外刈りの要領でその男を地面に突き落とす。それは下が砂浜のため、思いっきりしても怪我をすることはないと判断したからであった。

 

「テメェ!調子に乗るんじゃねえぞ!!」

 

急に転ばされたことで最初は呆けていた男は、立ち上がってすぐに桐生に殴りかかろうとする。それに合わせて後ろの大柄な男も同じように桐生に殴りかかろうとしていた。

 

「危ない!」

 

椎名が咄嗟に叫んだが、2人の拳は桐生には届くことはなかった。

 

「誰だ邪魔しやがったやつは!」

 

2人の腕は、1人の男によって止められたのだった。とてもその2人を止められそうには一見見えないが、その腕に掴まれた2人は微動だりすることができず、腕を掴んだ張本人を振り返って確認する。

 

「何だ石崎。随分と偉そうじゃねえか?それにアルベルトも勝手なことをしてるじゃないか」

 

「りゅ、龍園さん…?」

「……!」

 

石崎と呼ばれた男は、龍園を見るなり、今までの強気な姿勢は何処へやら、急に萎縮してしまっていた。同じくアルベルトも龍園を見るやその手を引っ込め、すぐに龍園の後ろに引き下がった。

 

「随分と飼い慣らしているみたいだな」

 

「暴力で飼い慣らせば犬みたいに尻尾を振るものさ。お前も同じように飼い慣らしてやろうか?桐生司?」

 

他クラスの、それも特に目立つようなこともしてない俺のことを知っていたのは驚いたが、隙は見せないように平常心を保って答えるように心がける。

 

「へぇ…Dクラスの一下っ端である俺のことを知ってるとは…光栄だよ、龍園翔」

 

桐生はCクラスの面々と須藤が揉めたとき、神室にCクラスについて調べてもらっていた。その時に、Cクラスを実質的に支配、指揮しているのはこの目の前にいる男、龍園だと聞いていた。その性格は冷酷で暴力的。暴力によって入学してすぐにクラスを掌握。逆らう者を支配し、Cクラスのリーダーの地位に上り詰めた。その暴力は女性でも例外なく、逆らうならば女性であっても手にかかるほどと聞いていた。

 

「一下っ端だ?笑わせんな。ただのDクラスの下っ端が坂柳に目つけられるとでも思ってんのか?」

 

「さあな。俺もあいつは読めないから分からないな。当人に聞いてくれ」

 

「はっ、坂柳の小判鮫かと思ってたが随分と言ってくれるじゃないか。面白い、気に入ったぜ。お前も十分に俺のことを楽しませてくれそうだ。覚えておくぞ、桐生司」

 

随分と俺のことを気に入ったようで、龍園はこちらの方を見てくるが、ジロジロと男に見られる趣味はないので、さっさと俺も戻ることにした。

 

「あ、桐生くん、送ってくれてありがとうございました。また試験が終わったら本貸しますので会いましょう。それではまた」

 

椎名は律儀に桐生の前に来てお辞儀をする。桐生もいろんな話をしたことで、タメになったと感謝を伝え、龍園にこれ以上突っかからないようにそそくさと退散したのであった。




私の住む地域にはメロンブックスがないので、特典SSが見れないのが難点です
有栖も出てるみたいで見たかったです…



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試験の裏で

先週の金曜日にこの小説を投稿し始めて1年が経ちましました
意外と一年は早いものですね
本当はこの小説を金曜日に出そうと思ってたのですが、最近忙しくてすっかり遅れてしまいました…

さて、今回は一周年記念で無人島特別試験の裏の有栖についてです。時系列的には特別試験3日目です


桐生たち1年生が特別試験で無人島での生活をしている中、唯一この試験に参加することなく、豪華客船で一人優雅に坂柳有栖はそのひと時を過ごしていた。

喉が乾けばカフェへ行って注文をし、お腹が空けばレストランに行って食事をする。暇をもて余せば、デッキに置かれている椅子に座って水平線を眺めたり、自室で本を読んだりもした。

 

しかしながらそれらは彼女を満足させることはしなかった。

元々坂柳有栖は平穏無事という生活が好きではない。常に何か行動を起こし、変化を楽しんでいた。

 

例えば入学して間もなく、Aクラス内で早々に勃発したクラスの派閥争いだ。坂柳は入学するやいなや一つの派閥を作り上げた。それは彼女の性格を表しているように、好戦的で他クラスに対しても積極的に仕掛けていくといった派閥だった。だが、それに待ったをかけたのが坂柳の対立派閥を率いている葛城 康平だった。彼は坂柳とは全く相反する穏健、慎重派で、Aクラスを保つことを第一に考えている派閥だった。

 

当然のことながら、彼女たちは対立、派閥戦争に入ったわけだった。そして、好戦的な性格の彼女がこの試験においても何もしないはずがなかった。

今回の特別試験、坂柳は参加できないため、Aクラスの全権を握っているのは実質葛城であった。今回の特別試験に参加できないことを知った坂柳は、責任が全て葛城の方へと向くことに気づき、この機会を絶好のチャンスと考えた。担任の真島に話を聞かされるやいなや、すぐに、神室、橋下に妨害工作を指示し、そしてDクラスながら伏兵として使っている桐生を味方につけてAクラスの内側と外側から葛城の失脚を狙った。

既に試験開始から三日目。坂柳には試験の進行状況は一切伝わって来ないため、今現在その計画がどの程度進んでいるのか不明だが、概ね上手く計画は進んでいるだろうと考えていた。

 

葛城は基本に忠実に試験を進めるだろう。恐らく何箇所かの拠点を確保し続け、他クラスのリーダーを当てに行くようなことは滅多にしない。それこそ、直接リーダーだと証明できるものを確認しない限りは。それが慎重派の葛城という生徒だからだ。そして彼は如何に対立している派閥とはいえ、自身の不利益になるようなこの試験での妨害を坂柳派はしてこないだろうと考えているだろうと坂柳は思った。

 

坂柳にとって、その考えをしているであろう葛城は滑稽でしかなかった。セオリー通りなら、確かに自分にとってプラスになるこの試験で妨害なんてしないはずだ。試験で使わなかったポイントはクラスポイントに還元され、それは自分が使うプライベートポイントとなるからだ。だがそんなセオリーを坂柳はどこまでも嫌っている。自分にとって不利益しかないからこそ、ここで仕掛ける。ミスをすれば一転こちらが不利になるかもしれない。それでも相手を蹴落とすことが出来るのなら、坂柳有栖はそれを躊躇なく使う。それが彼女のやり方だった。

 

まさかここで妨害されることはない思いながら試験を終わり、そして負けてその責任の追及を受けている葛城の姿を想像するだけで自然と坂柳の表情に笑みが零れた。もうあのような自分を楽しませてくれない葛城を相手しなくてもいい、それを思うだけでもとても嬉しかったのだ。

 

そんなことを思いつつ、船のカフェエリアでコーヒーを飲んでいた坂柳だったが、少し人の声がするようになってきたことに気がついた。今船内にいるのは、自分と、ごく一部の引率の教師、船の各種乗組員と、1日目にリタイアしたらしいDクラスの生徒くらいのはずだった。

それにも関わらず、次第にざわざわとした人の声が大きくなっていく。その声を不思議に思いながら、カフェの外側に目を向けてみると、Cクラスの生徒らしき男女が何人も歩いているのがその目に映った。

 

その生徒たちはカフェには目もくれず、進んで行くためこの先のレストラン、もしくはプールのあるデッキを目指しているのだろうと推測できた。彼たちがどうしてここにいるのか、その理由を考えてみるが、恐らくはCクラスを率いている龍園翔の作戦の一つなのだろうと坂柳は予測した。

龍園翔もまた自分を楽しませることのできる貴重な人物であるため、今回のこの試験でとったこの戦略の不可解さに何が目的なのかと考え、楽しんでいると、後ろから扉を開く音とその際扉に付けられている鈴が扉が動いたことで鳴り響き、店内に誰かが入ってきたことが伝わった。

 

「これはこれは、Aクラスを率いているリーダー様じゃないか」

 

後ろから品のなさそうな輩が入ってきたようで、坂柳のことを雑に呼ぶ。本来ならこんな相手ならば話もしないが、今日は気分がいいので坂柳は返事をしてみることとした。

 

「あら、どちら様でしょう。そちらは存じているみたいですが、私は存じていませんので」

 

「あ?俺を知らないってのか?」

 

「ええ、存じませんね。貴方の様な人は私の記憶には残っていないようです。強いて言えば、CクラスにはDクラスの生徒に喧嘩をしかけ、逆に撃退されたという生徒がいたらしいという事実なら記憶に残っていますが…」

 

須藤に喧嘩をしかけ、その結果須藤にボコボコにされた上に、それを訴えた石崎はDクラスの戦略にはまり、その訴えを取り下げることになった過去がある。そのことを言われ顔を真っ赤にした石崎が坂柳に詰め寄ろうとする。

 

坂柳は身体がよろしくないので、石崎のようなガタイのいい男には到底かなわない。それでもなんとかしようと、椅子に立てかけていた杖を手にとって構えるが、石崎は隣にいたアルベルトに体を掴まれて押さえ込まれたのだった。

 

「またかよアルベルト!こいつはバカにしたんだ!止めるんじゃねぇよ!」

 

アルベルトに止められてなお坂柳に噛み付こうとする石崎であったが、アルベルトが無理やりその場から連れ出して行ってしまった。もっともアルベルトにひきづられていく中でも坂柳に対して不満をぶちまけていたが。

 

「全く、これだから面白くありません。葛城君のように全く挑発に乗らないのも面白くないですが、あそこまですぐに挑発に乗るのでは楽しめません。やはり司くん、神室さんくらいじゃないと楽しめません」

 

今はここにいない、二人のことを思い浮かべていると、いつのまにか隣に銀色の髪を腰まで伸ばした女子生徒が座っていることに坂柳は気がついた。先ほどの石田、アルベルトのように入ってくるなら気付くはずだが、なぜか気づかなかったことに少し違和感を覚えながらも、特に何もしなさそうなので無視をしておくことに坂柳はした。

 

先ほどの二人のせいで冷めてしまい、あまり美味しくなくなってしまったコーヒーを飲むと、口の中にコーヒー特有の苦味が広まる。普段はブラックのコーヒーなんて飲まないため、その苦味に慣れずに少し飲むのを躊躇っていると、ふと隣の少女が話しかけてきた。

 

「貴女はAクラスの坂柳有栖さんですか?」

 

「ええ、そうですが?いかがなさいましたか?」

 

「私はCクラス所属の椎名ひよりと言います。突然で申し訳ないのですが、龍園翔くんから貴女宛にメッセージを預かってますので、ぜひ聴いていただけたらと」

 

少女は物腰丁寧に、ゆっくりと話す。それは聴いているこちら側が少し眠気を覚えてしまうくらいだった。

 

「龍園くんが私にですか。面白そうですね。彼は私に何を伝えようとしたのでしょうか?」

 

「龍園くんは、『いつまでも余裕で見下せる立場にいると思ったら大間違いだ。手始めに葛城を落としてやるよ』…と言ってました」

 

相変わらず好戦的で、他クラスとの揉め事を積極的に引き起こす龍園らしい言葉だと坂柳は思った。実際に龍園が自分を楽しませてくれるかは微妙だが、少しながら楽しみはできたと坂柳は思った。

 

「そうですか、分かりました。ではこう返事しておいてください。『それでは貴方の活躍を期待していますよ、ドラゴンボーイさん』…と」

 

「ではその通りに伝えておきますね」

 

椎名も聞いてくれたようなので、坂柳はコーヒーを飲み切って、カフェを後にしようとする。ここはプライベートポイントを使わなくてもいいために勘定が必要ない。そのため、そのまま帰ろうと扉に手を掛けた時だった。

 

「…私個人から貴女に質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

最低限の連絡事項しか話さなかった椎名が始めてそれ以外のことを話した。別に話を聞かず帰ってもいいが、帰ったところで何か予定があるわけでもないので、坂柳はその話を聞いてみることにした。

 

「いいでしょう。私に貴女からどんな質問があるのですか?」

 

坂柳が振り返って質問を促す。

 

すると、その女子生徒も座っていた席から立ち上がって、坂柳の前にやって来て質問をぶつける。

 

「坂柳さんにとって桐生司くんとはどんな人物なんですか?」

 

思いがけない質問に、流石の坂柳も驚いた表情を浮かべる。だが、すぐにいつも通りの少し笑みを浮かべた表情を浮かべて答える。

 

「Dクラスの桐生司くんについてでしょうか?そうですね…私を最大限楽しませる可能性のある人物といったところでしょうか。私自身はっきりと答えは出ていませんが、例えば同じAクラスの葛城くんなどとは違った型にはまらない面白さを持っていると評価していますよ」

 

「…そうですか。わざわざ答えてくださってありがとうございます」

 

椎名は礼を言って、帰ろうとする。しかし今度は坂柳がその帰ろうとする椎名を引き止めるのであった。

 

「貴女はどうしてそのような質問を私にしたのですか?」

 

そんな坂柳の質問に椎名はすぐに答える。

 

「私は桐生くんの一友人として、気になっただけですよ。桐生くんがよく一緒にいるという貴女が気になったんです。それに貴女は龍園くんが特に意識をしているようなので」

 

「あら、そうでしたか。貴女の満足するような回答が出来ましたか?」

 

「ええ。やはり龍園くんとが思っているように面白い方だと思いましたよ。これから試験で同じになることがあればよろしくお願いしますね」

 

そう言って丁寧なお辞儀をして椎名はどこかへ去っていった。

 

会話をしたのはわずかな時間であったが、彼女もまた、少なからず自分を楽しませてくれるかもしれない人物かもしれないと思った坂柳は、一人楽しそうに笑みを浮かべるのであった。




有栖の登場は実は14話ぶりなんですよね
ヒロインなのに…


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騒乱

長らくお待たせしてすみません
テストにレポートに追われてなかなか時間が取れず、1ヶ月以上書けてませんでした
次回もまた遅くなる可能性があるので、ご理解お願いします


無人島特別試験開始から4日目、橋下と神室との約束の日がやってきた。桐生は二人と今日の夕方に例の隠れ家的スポットで合流し、答え合わせをする予定になっている。互いに他の者には知られるわけにはいかないので、こっそりと抜け出して合流する予定だったのだが、そうもいかなくなってしまった。

「誰よ!恵の下着を奪った変態は!」

 

その原因とは、Dクラスの女子生徒、軽井沢恵の下着泥棒が現れたということだった。

この事件によってクラスの雰囲気は最悪となり、男女間で睨み合う険悪な雰囲気が辺りには漂っている。この中でこっそり抜け出したともなれば間違いなく疑いの目が俺自身に向けられるのは目に見えて明らかだ。

俺自身は最初に女子の手伝いをしたことによって多少なりと女子からの疑いの目は少ない方だが、それでも疑われていることに間違いはなかった。

 

「俺らだって知らないよな!?そんなもん盗んでどうしろって言うんだよ!?」

「そうだ!こんなところでしても疑われるだけだろ!」

 

池や山内たちを中心に俺たち男子はしていないと主張を続けてきたが、信じてはもらえなかった。寧ろ隠しているとさらに強く責められているのだった。

 

「はぁ…めんどいことになったなぁ…」

 

意見は常に平行線上をたどっているため、口論が絶えず、クラスの雰囲気は最悪と言って過言なかった。

 

「まあまあ、みんな落ち着いてよ。そんな下着を盗んだりするような人はこのクラスにはいないと思うんだ」

 

クラスのまとめ役の洋介も必死に女子たちをなだめようとしていた。洋介がそう言った疑心暗鬼になったりするのを嫌っているからというのもあるだろうが。

 

「いくら平田くんが言っても、こんな誰が盗んだかも分からない状況だったら信用することなんてできないよ!ね?軽井沢さん?」

 

今回の騒動、主に男子に文句を言ってきているのは軽井沢本人ではなく、その軽井沢の所属しているグループのメンバーたちだった。軽井沢本人はそのことがショックだったのか、ここにはおらず、自身の寝ているテントの中にずっといるようであった。

つまり、本人ではなく、別の人たちが俺たち男子をまくし立てていたのだった。

 

「本当男子なんてクソだよね」

「下着を盗むなんて本当最低!人としてどうかしてるよ!」

 

思いつく言葉でこちらを罵ってくるので、当然そんなことをしていない(はず)の男子たちも、そんな言葉に腹を立てて逆に罵り返したりする悪循環だった。

かくいう俺も早くこの場を抜けて橋下や神室に合流したいと思ってるので、早く終わらせたかったのだが、朝から続くこの状況に辟易していたし、いつまでも罵られるのはイライラしていた。

 

「だからやってないって言ってんだろ!そうやって女子が勝手に疑ってるだけだろ!俺たち男子はやってないし、軽井沢がどっかに落としたとかじゃねえの?」

 

須藤が軽井沢が落としただけじゃないのか指摘する。確かにそれは大いにあり得ることだと思うし、あるいは無くした可能性があると思っていた。いつも通りにしまったと思っていても、実際はどこか別の場所に置いてて気づいてないという可能性もあり得る。だからそこらへんはどうなのか…と思っていると、他の男子たちも口を揃えて言う。

そんな男子の意見に対して、女子たちは、自分たちが疑われていることに逆に怒り出した。

 

「落とすなんてあり得るわけないでしょ!そうやってこっちばっか疑うのがより怪しい!絶対隠してるに決まってる!」

 

「こんな犯罪者たちと一緒に後4日も探さないといけないなんて考えられない!」

 

一切その可能性はないと断定し、さらに文句を女子たちは言っていく。

いつまで経っても進まないこの言い争いに俺としても苛立ちが募っていた。女子は俺たち男子の意見を一切聞こうとしない。俺たちが犯人だって信じて疑わないという姿勢がとても不愉快に思われるからだ。

 

しかし、俺まで苛立ちを募らせていても何も進展はない。ともかく、一度冷静になってこの事件について考えてみる。

 

女子たちの主張によると、昨日の夜には確かに軽井沢のバッグの中に下着はあったらしい。それを確認してから軽井沢はテントで寝た。そして朝起きて、準備をしているときにはすでに下着は軽井沢のバッグの中からなくなっていた。これがざっくりとした今回の流れだ。

普通に考えれば軽井沢がバックから離れて、寝ている間に誰かが盗んだと考えるのが妥当だ。 しかしながら、男子と女子のバックは混同しないように、そして、こういったことが起こらないように少し離れた位置に置くように洋介が提案していたので、女子のバックは女子側のテントの近くに置かれていた。

 

これを踏まえて考えてみると、男子が勝手に女子のバックの場所に近づくのは不自然に思われるのが普通だ。

そして、昨日は俺が夜遅くまで起きて水の煮沸消毒をしていた。そのため、夜の遅くまで起きていたのだが、俺とその作業をしながら話をしていた洋介以外に男子の誰かが起きているような様子はなかった。もちろん、俺たちが寝るのを見計らって犯行をした可能性もあるだろうが…。

 

ここまで考えて、俺はある可能性に気がついた。盗むことによって同じくメリットがあると考えられる人物…それはCクラスからやってきている伊吹だ。恐らくスパイとしてここへやってきていると考えられる伊吹にとってDクラスで男女が喧嘩するというのは他クラスを蹴落とす意味では大きなメリットだ。

 

こう考えると伊吹が意図的に仕組んだようにしか思えなくなってきた。そして、伊吹を俺は朝から見ていない。女子側の方にずっといるのかもしれないが、怪しいとしか思えない。

 

「なあ、洋介、少しいいか?」

 

とりあえず、この考えを洋介には伝えておこうと思って洋介に話しかける。しかし、俺と同じように何かを考えているのか、下の方を向いて反応しない。何かブツブツと言っているようだが、男女間の言い争いのせいで何を言っているのか聞き取れない。とりあえず、もう一回呼んだが、また聞いていないようなので、肩を掴んで呼びかけた。

 

「なあ、洋介!」

 

「…司…ご、ごめん…どうしたの?」

 

洋介はようやく反応する。一瞬見えた洋介の目は虚ろだったように見えたため、洋介も疲れているように思われたが、すぐにそんな様子は鳴りを潜め、いつものクラスをまとめるリーダーの洋介といった様子に戻った。

とりあえず、洋介に俺の考えを伝える。俺たちが起きていたから、犯人がこのクラスにいる可能性はかなり少ないということ。伊吹が怪しい可能性が高いということ。

話を聞き終わると洋介も納得したようで、早速女子たちの元へ行って確認に向かった。

 

「少しいいかな?」

 

「平田くん!こいつらに言ってやってよ!こんなやつらと一緒に生活できないって!」

 

「怒るのも分かるけど、少し待って、僕の話を聞いてほしい。いいかな?」

 

怒りに任せて文句を言う女子たちも洋介が言う言葉には黙って聞こうとする。やはり洋介は女子からかなり信頼されているようだ。明らかに俺たちとは扱いが違う。

 

「確かに僕たち男子が一番疑わしいと思うだろうけど、一つの可能性として、伊吹さんがした可能性はないかな?伊吹さんは他のクラスだし、もしかしたら…万が一だけども、僕たちを混乱させるためにやったのかもしれない」

 

「確かに伊吹さんは他のクラスだけど…それでもやっぱり男子がしたとしか思えない!」

 

「僕もこう思ったけど、あくまで一つの可能性ってことだけだからね。信じてくれとは言わないよ。それでもここで喧嘩するのはやめよう。これ以上お互いに文句を言ってもいたちごっこだよ。男子はボディーチェックも荷物検査も僕がした。だから一旦この話は終わりにしよう。どうかな?」

 

「でも…」

 

「これ以上続けてもお互いに相手を恨むだけだよ。だからね?」

 

女子たちはまだ言いたそうだが、流石に洋介に強く言うことはできないようで、大人しく引き下がっていった。流石である。

 

「男子のみんなも一旦この話は終わりにしよう。これ以上お互いに喧嘩してもお互いに疑心暗鬼になるだけだからね。そして、これ以上疑われることがないように、しばらく男子と女子の生活空間をここを中心に完全に分けておこう。どうだろう?」

 

みんな最初は戸惑っていたようだが、すぐに納得した。お互いにこれ以上刺激し合わないようにだろう。

 

「女子たちは何かあれば僕に伝えて欲しい。基本的に僕はここにいていろいろ橋渡し役になるから。けれど、僕はその代わりご飯の調達とかはいけなくなるから、代わりにみんなにしてもらうことになるけどいいかな?」

 

「それくらい俺たちがやってやるよ。だからその代わりに女子の方はよろしく頼む」

 

幸村たちが率先して動くらしい。それでみんな納得して、解散となった。

そして、俺はその解散をした後、洋介に他クラスの偵察に行くとだけ告げて、俺はようやく橋本、神室たちとの合流地点に向かって動き始めれたのであった。




原作でのくだり、ボディーチェックからの池のバックに下着があったくだりなどはすでに行われていたと言う時系列で今回は書いています



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答え合わせ

本当に投稿が遅れてしまってすみません
なかなか書く機会がない+リアルが忙しい+モチベーションの低下で3ヶ月もサボってしまいました
次はもう少し早く出したいな…とだけ思ってます
遅れましたが、有栖誕生日おめでとう!


「草木が鬱陶しいな…」

 

夏の日差しが木々の隙間から差し込み、初夏特有の肌にまとわりついてくるような暑さが身に応える中、桐生は草木を掻き分けて目的地に向かって突き進んでいた。

腰はどの高さのある草むらをかき分けて進むは一苦労かかるもので、さらに上空から降り注ぐ暑い日差しが余計に桐生の体力を奪っていた。ある程度進んでは休憩。またある程度進んでは休憩をしながら道無き道を一心不乱に進んでいるとようやく草木の高さが低くなった、開けた場所に出ることができたのであった。

そして、そんな開けた空間に、待ち合わせをしていた人物、橋下と神室が丸太に腰をかけて待っていた。

 

「遅かったな。何かあったのか?」

 

腕を組んで少し不満そうな様子で、桐生を迎える橋下。神室も同じく不満そうであったが、神室は何も言わず近くにあった岩に場所を変えて体重をかけながら、こちらを見ていた。

 

「すまない、想定外の騒動が起きてしまって抜け出せなかったんだ。遅れてしまって申し訳ない」

 

桐生が遅れてしまった要因。それはDクラスの中で騒動に理由があった。それはDクラスの女子生徒、軽井沢恵の下着が盗まれたという事件であった。それは男女間で一触即発の状況に陥るのには十分すぎる事件であった。

互いに相手を疑い、売り言葉に買い言葉状態。そのため、迂闊に抜け出そうとすることは、より一層疑いを濃くすることになってしまうことになってしまう。それを回避するために、いろいろしていたのだということを、橋下と神室に説明する。

二人は話を聞くと、遅れてしまった内容が内容なので、致し方ないことであると、この場は納めてくれたのであった。

 

「まあ、まだ今日時間内だから、そのことはいいとして。早く終わらせないと、葛城派のやつらに疑問に思われるし、さっさと用件だけ終わらせない?」

 

神室は桐生に今回やってきた目的をはやく果たすように促す。

そもそもこの密会、要するに桐生と橋下、神室の接触は極秘にしなければならないことであった。ただでさえ試験の内容上、他クラスともなる険悪になっており、対立関係になっている。

そんな他クラスの生徒同士の密会ともなれば、自分のクラス内での立場が怪しくなる。そのため、早めにこの話を終わらせておこうと思ったのだった。

 

「ああ、そうだな。単刀直入に答えから言わせてもらうと、Aクラスのリーダーは戸塚 弥彦。そう俺はこの4日で判断した」

 

「…ほう。理由は?」

 

二人ともそれを聞いて眉ひとつ動かさず、その考えに至った理由を聞く。桐生も橋下に促されたように、この4日間で判断するに至った根拠を述べる。

 

「色々判断するポイントはあったが、やはり最初の洞窟の接触が大きかった。あのとき、葛城と戸塚が色々と話をしていたが、その時に葛城がクラスカードを持っていた。それが今回の判断において大部分を占めている」

 

「しかしそれだと葛城がリーダーだとは思わないか?カードを持っている人物こそリーダーだろう?」

 

「普通なら俺もそう判断したと思う。もしもあのカードを持っていたのがDクラスのやつで、俺がAクラスの立場だったとしたら…そう判断した可能性もありえる。だが…」

 

「だが?そこから何か分かることがあったの?」

 

橋下の後ろの方で黙って聞いていた神室も不思議そうな表情を浮かべながら理由を催促する。

そんな二人の視線に少し緊張感が増してきて桐生の心臓の鼓動が早まるのが感じられた。そんな不安になりそうな感情を忘れるため、一度呼吸をし、呼吸を整えてから、改めて意見を桐生は話し始めた。

 

「…クラスのリーダーカードを持っていたのはAクラスの中でも警戒心が強く、常に周りを気にしている葛城だ。もし葛城がリーダーだとしたならば、葛城は絶対にそれを他人が見えるような場所で見せびらかすはずがない。それくらい慎重な男だ。なんせ、情報が外に漏れないように洞窟にカーテンをして外からの目視による情報の漏洩を対策するくらいだ。そんなやつが人前でカードを見せびらかすような行動をするとは思えない」

 

桐生は他クラスの主な人物の特徴について神室から情報を仕入れていた。そのため、Aクラス2大巨頭である葛城もまたその例外ではなかった。

葛城は攻撃的、革新的な坂柳とは相反する、防御的、保守的な考えをしている。常に他クラスを警戒していて、わずかにでも付け入る隙を与えようとはしない。また、自分から攻撃を仕掛けることは少なく、あくまでも自分たちが攻撃された時の反撃として打って出るくらいであった。

それほどに慎重な葛城がわざわざ見せつけるようにカードを人前で見せるとは桐生は思えなかった。そうなった時、あの行動がなんだったのか考えると、自分のように隠れて見ていた人物にフェイクを入れるためだったと考えるのが妥当だと思ったのだ。

 

「なるほどな。だが、それだけでは葛城1人が候補から消えただけだ。他にも可能性はありえるんじゃないか?例えば俺なんかでも十分にありえるとは考えなかったのか?」

 

「橋下の言う通り、葛城が消えただけだ。だが、他にも判断に足ることはある」

 

「何があるの?早く教えてちょうだい」

 

「今から話すさ。まず、この試験に有栖は参加していない。そして、Aクラスは2大派閥による対立の激しいクラスであることを加味すると、今回の試験を実質的に取り仕切っているのはリーダーが健在する葛城派閥と思っていい。そうなると、有栖の派閥に入っているAクラスの生徒は必然的に候補から外れる。それだけで橋下たちの可能性はないんだ」

 

桐生の語る理由に橋下も神室も納得がいったようで静かに頷いていた。そんな2人の様子を見て内心ガッツポーズをとりながら、戸塚にリーダーを絞った理由を続けて話す。

 

「それで戸塚に絞りきった理由だが、まず葛城がリーダーを任せるなら自分の信頼する人物に絶対するはずだ。クラスの命運を担う人物だからな。信頼しきれてない人物をリーダーにするほど大胆な策は葛城にはできない。そうすると、葛城派閥の中でもカーストの高めな人物になってくる。この時点でほぼ2.3人に絞れるんだ。さらに、そのうち怪しかった2人を尾行したりしていると、戸塚は常に複数人で行動をしており、常に中心にいたんだ」

初日に葛城の行動を見かけた桐生は、即座に葛城派の主要人物に狙いを絞っていた。そのため、島の全体像を把握するように歩き回りながら、戸塚などの行動もマークしていたのだ。

その4日間で怪しいと思ったのが戸塚なのであった。

 

「これが俺の判断した理由の全てだ。こんだけ力説しておいて間違えていたら恥ずかしいものだが…」

 

自信満々で話した桐生だったが、話し終わると少し不安な気持ちがこみ上げてきた。少し緊張した面持ちで神室と橋下の様子を伺う桐生。そんな緊張した様子の桐生の肩を手で叩いて笑いながらその推理が正解だと橋下は桐生に伝えた。

 

「そう心配そうな顔をするなよ。正解だ。よくこの4日で見破ったな。流石は坂柳が見出した他クラスの生徒、と言ったところだろうか」

 

橋下から伝えられた正解という結果。これに安心した桐生は大きく息を吐いて

 

「…本当に4日間で根拠をもって当ててくるなんて思わなかった」

 

「そんなに俺のこと期待してなかったのか…」

 

「そうだぞ。それは失礼ってやつじゃないか、神室?まあ、俺も内心は当てれるか微妙に思っていたけどな」

 

「橋下もかよ…。まあ、橋下とこうして具体的に行動を合わせてやるのは初めてだから、疑う気持ちは分かるけどさ…」

 

桐生は目に見えるように落ち込んでおり、肩を少し落としていた。そんな桐生の背中を橋下は叩いて励ましていた。

 

「それでさ、Dクラスにうちのクラスのリーダーを当ててもらうってことになってるけど、これで私たちの仕事は終わり?」

 

落ち込んでる様子の桐生を放っておいて神室は橋下にやるべきことが全部終わったのか質問する。質問を受けた橋下は桐生の肩を叩くのをやめてその答えを話し始める。

 

「ああ。そうなるな。これ以上俺たちにできることは何もない。下手に行動して俺たち坂柳派が被害を被るのもゴメンだからな。そんなことしたら坂柳から何をされることか」

 

そう話す橋下の顔は少しめんどくさそうな顔を浮かべていた。察するに、まだどちらの派閥に付くか悩んでいたときにされた手段などを思い出しているんだろう。坂柳は自身のためなら様々な手段を使って必ずゲットしてくる。そのため、橋下もすごいことをされたんだろう、そう桐生は思ったのだった。

そして、神室も同じように苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。同じように強引な手段をされたのだろう。神室は坂柳を特に嫌っているため、とても顔が引きつっていた。

 

「じゃあ、俺も下手な行動はとらない方がいいな。こうして繋がっていることがバレたら俺もクラス内で吊るし上げになりそうだからな。正直そんなにクラスの中に仲のいいやつはいないが、それでも日常生活に悪影響が出るからそれは避けておきたい」

 

「それが懸命な判断だろうな。まあ、もうじきこの特別試験も終わる。その試験の結果発表の時に驚いている様子の葛城を見て楽しませてもらうとするかな」

 

そう言うと、橋下は悪そうな顔を浮かべて笑っていた。それほどお互いに嫌い合っているということなのだろうか、そう思っている時に神室が急に桐生の後ろの方向をじっと見始めた。

 

「どうした?何かあったか?」

 

急な神室の態度に少し訝し目をした橋下だったが、何かに気がついたのだろうか、急に桐生との距離をとって警戒し始める。

何があったのか咄嗟に分からず困っていた桐生だったが、耳を澄ますと自分の後ろの方から草木を掻き分けるような音がし始めた。

 

桐生もその自体に気づき、橋下たちと距離をとって警戒心を高める。そうしていると草木を掻き分けていた張本人が姿を現したのだった。

 

「お、お前は…!?」

 

桐生も思わずその人物の登場に声を出して驚いてしまう。しかしそれも仕方なく、その人物はその場にいた全員を驚かせるのには十分すぎた。どっしりとした大きな身長。肩幅が広くガッチリとしているため、そこから醸し出される威圧感は他の生徒の比ではなく、立っているだけで気が弱い生徒なら黙りこくってしまうくらいであった。

 

「こんなところで何をしているんだ?橋下、神室?」

 

草木を掻き分けてやってきた乱入者、それは現在Aクラスを取り仕切っている人物である葛城康平その人なのであった。



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