対魔法国家建国記/生存園を確保する為に国を作ります/ (SimoLy)
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プロローグ

初投稿...では無いですが実質初投稿です。
個人的に書いている別の作品の番外編みたいな感じとなっています。(これ単体で読めます)
拙い文章力かとは思いますが、是非読んでいただければなと思います。



これは、彼らの物語よりもずっとずっと前の話...

 

彼らの時代では「剣の国リリエラ」と呼ばれるその地。

今はまだ名前のないその地にて、ボロボロになりながら空に叫ぶ子供の姿があった。

「まだ...まだ足りないって、そう言いたいのかァァァァァァッ‼︎⁉︎」

誰に向けてでもない、唯々何かを紛らわせるかの様に叫ぶ彼を、周りに立ち尽くしている大人達はただ見守る事しかできない。

それは、大人が故の思慮の深さからである。

かける言葉が見つからないわけではない、だがそれを口にする事は出来ない。

なぜならその言葉を口にする事が出来るのは、

『何も考えず、ただ希望だけを語るクソ野郎』か、

『出来ない事なんてない、と信じ切っている底なしのバカ』や、

『まだ我々の歴史を知らない子供』

くらいしか居なかったからだ。

この場には、どこにも属しない『正しい意味で』大人な大人しか居なかった。

彼の悲痛に満ちた声を聞き続けてどれくらい経っただろうか。

10秒くらいだろうか、それとも10分くらい経ったのだろうか。

ふと彼の声以外に新しい音が聞こえた。

カツン、カツン、とまるで人の足音の様なペースで鳴り響く甲高い音。

だが歩いて音が鳴るような靴を履いている様な奴なんて1人しか知らない。

唯一と言っていいだろう、『敵』と戦える我らの仲間。

音がしている方向に振り返ると、身体の半分以上が返り血に染まった少年が、しっかりとした足取りでこちらに向かってきていた。

「ごめん、通してもらえる?」

短く、用件だけを伝えた少年に対し、無力な大人達は道を開ける。

その様子に一言「ありがと」と言い、声を上げていた少年の元へ向かう。

座り込んでいる少年に合わせるかの様に、膝をついて血塗れの少年は一言。

「もう、やめよっか」

叫んでいた方の少年は意味が分からなかったのか、「?」が浮かびそうな顔を見せる。

その反応に満足そうに、笑みを浮かべながら血塗れの少年は続ける。

「逃げるの。ここにさ、国、作っちゃおうか」

その一言は、さっき多くの大人達が飲み込んだ一言で。

唯一彼を慰める事が出来る言葉で。

でもそれが出来る可能性を考えると、とても口に出来るものではなくて。

だがそれを平然と言ってのけた少年の声色は、そんな事を考えてる風には感じられなくて。

そう、まるで、

「出来ない事なんて何もない」

と我々大人にさえ感じさせる声色だった。

 

 

 

 

 

「とりあえずその顔拭いたら?ぐちゃぐちゃじゃん」

「そっちも大概だと思うけど....」

「これは言うなれば勲章だから....」

「汚いし臭い」

「彼女らが帰ってきたら一回全員集めて」

「勿論そのつもり」

「そ、良かった。じゃあ僕はこれを落としてくるね.。

はぁー...簡単に落ちてくれると良いんだけどなぁ....」




ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きは書く予定なので、もし見かけたら読んでください。
凄い喜びます。



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プロローグ(2)

クソみたいな試験が終わったので続きです。
ですが次なる試験が私を襲っています。

一話(?)でプロローグは終わらせるつもりだったのですが、後半の内容的にこれもプロローグと置いた方が良いかなと思いまして....




「...また、多くの仲間が死んだ」

「仲間」と評される「生き残った人々」を広場に集め、静かな怒りを込めた声でそう言うのは、

空に叫んでいた少年、海月(ウミツキ) 冬夜(トウヤ)だ。

「問おう、我々は後何人失えばいい?

後何人見捨てれば平和を享受する事が出来る?」

その声は、「答えなど聞いていない」と言った様子で、どこか諦観を含んでいた。

「分かっているさ、そんな時は訪れないってことは。

我々はこのまま逃げて隠れて、いつか最期の一人になるその日まで、奴らに怯える人生を送るのであろう。」

その言葉は、今の現状を如実に表していると言えた。

反論はおろか、変わる事のない今後の生活を憂いて顔を上げる事すら出来ない仲間達。

その様子を一瞥した彼は「だが」と今までの流れを断ち切る。

「一つ、長として提案、そして質問しよう。

我々はこのままでいいのか?

争いを避けて、より生き残る為に逃げ続けてきたが、それでも多くの仲間を失っている。

再び問おう、我々はこのままでいいのか?

『失いたくない』と逃げ、『逃げる為』に失い、失う度に居もしない神に祈る日々。

三度問おう!このまま終わるのか⁉︎

奴らに一矢報いる事も無いまま、何も残す事も無く滅びを待っているだけでいいのか⁉︎

提案しよう。一矢報いないか?

逃げ隠れする日々はもう散々だろう?

失った悲しみを堪えるのも充分だろう?

今こそ反逆の時だ。

我々の目的はただ一つ。『我々の国を作る』。

荒唐無稽な夢物語だが、夢を追ってくれる者はここに残り、夢物語は夢物語だと思う者は近隣の村に向かってくれ。」

言葉を切った冬夜に続ける様に、彼と同年代の少女は話し始める。

「この私の名前に誓って、村までの道は絶対安全だと保証するよ!

受け入れ先とも既に交渉済み。

...自分の身を考えて動いてね?」

民衆がざわめき始める。

「お前どうする?」「俺は----」「うちらは?」-------

民衆の中から一人、強い意志を宿した瞳を携え、冬夜に告げる。

「悪いな、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ。

今までありがとう、お前には感謝してもしきれない。

お前が作った国が、世界を獲るのを楽しみにしているぞ。

『またな』、死ぬなよ。」

「うん、ありがと。ゆー兄も頑張ってね」

その会話を最後に、「ゆー兄」と呼ばれた青年はその場を立ち去る。

それを皮切りに、民衆が音を立て移動を始めた。

その様子に、「そうだ、それでいい」と優しい笑みを浮かべる。

「もしかしたら、見られていると離れにくいかもしれない」

と謎の配慮から目を閉じる。

そうして何分か経ち、まだ何かを動かしているような音はするが、静かに目を開ける。

最悪、しぃ兄と二人でも....と思って目を開け、残っている人数を確認する。

そこには、目を閉じる前の大体半分くらいだろうか、それくらいの人数が先程冬夜の言葉に補足した少女の指示でキャンプの設営準備をしていた。

その様子に思わず呆然としていると、一番手前にいた中年の男性が笑顔で言う。

「これからもよろしく頼むぞ」

特に何かを説明するわけではなく、単純にそう言った男性に笑顔で応じ、先程よりも声を張り上げる。

「残ってくれて感謝する!一泡吹かせるぞ!」

その呼び掛けに、残った者は様々に応える。

「まったく、頼むぞ我らが冬夜様!」

「国の作り方なんて分かるのか...?」

「一泡どころか、百泡吹かせてオーバーキルだろ」

最後に「しぃ兄」...海月(ウミツキ) 志久(シク)が近くに来て話す。

「ってわけ。愛すべきバカしかいないみたいだ」

そう口にする志久の顔には、困った様な色と嬉しそうな色が混在していた。

「折角頑張ったのに、想像よりも使って貰えなかったね」

「うん...誰も残らないと思ってた。」

「それは冬夜が可哀想すぎるでしょー」

「遠回しに死にます、って言ってるようなものだし」

そんな会話を交わしながら、こちらに向かってくる二人組の少女。

「あ、冬夜。良い所に。

後で話したい事があるから、一通り設営終わったら会議を開こうと思うんだけど」

そう言うのは二人組の少女の片割れ、空崎(ソラサキ) 詩織(シオリ)だ。

愛すべき賢者達の為、避難先の村への交渉や、経路の確実などを担当し、見事成功させた、冬夜にとっては年の近い姉の様な存在だ。

ちなみに勝手にキャンプの指示をしていたのも彼女だ。

「おーい?冬夜〜?」

「詩織、先に行ってる」

少し舌足らずな印象を受ける詩織じゃない方の少女は、それだけ言って設営を手伝う。

彼女は星山(ホシヤマ) 絢香(アヤカ)、基本的には皆に「(アヤ)」と呼ばれている。

端的に表現するなら、冬夜にとっての妹みたいな感じだ。

絢も無事に帰ってこれたみたいで良かった、と胸を撫で下ろしていると

「冬ぉ夜〜?」

ハッと気がつき、現実世界に意識を戻す。

するとそこには、目しか笑っていない詩織の姿があった。

「無視とは良い度胸だねぇ〜...?」

「冬夜、絢の所に居るから、終わったら呼んでくれ」

そう言って絢香の元へ向かう志久。

「しぃ兄!?しお姉一旦落ち着こ?ね?」

 

 

 

これは、そんな四人の物語。

 




海月はウミツキです!クラゲじゃないです!
次回はプロローグじゃないです。
プロローグ前に一体何があったかを察せた方も居るかもしれませんが、機会があれば書きたいと考えています。
次回は....できるだけ早く更新致します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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st.1 作戦会議と彼女の思い

文自体は4日前とかに完成していたのですが、寝落ちしたり寝落ちしたりしていて遅くなりました。

今回当社比ならぬ当作比2倍の量です。
どれくらいの量が好ましいのかは分かりませんが、是非読んでいただければなと思います!




「うぅ...酷い目にあった...」

そう言って、キャンプ地の中心から少し離れた集合場所に向かっているのは、先程まで「人を無視するとは何事か!」と自身の姉分である空崎 詩織に怒られていた海月冬夜である。

彼は、一通りキャンプの設営を終え、一服を楽しんでいる大人達に適当な挨拶を送りながら大して舗装されていない道を歩く。

集合場所に関してだが、キャンプ設営地...建国予定地の外縁に位置していて、正確に場所を表すのであれば冬夜の居住テントの前である。

「何故中心地にしないのか?」と抗議したのだが、「聞かれたくない話もあるでしょ?」

と言い負かされてしまった。

ついさっきの出来事を思い出し、溜息を零していると背後から声がかかる。

「相変わらず幸薄そうな顔してんなぁ。大丈夫か?」

そう言いながら冬夜の肩を叩くのは、初老を迎えるだろう大柄の男性。

「大村さん...えぇまぁ大丈夫ではあるんですけど...」

「今日はなんだ?あいつに怒られでもしたか?」

「怒られた上、言いくるめられましたよ。

そのせいで今歩いてるんですし」

「実際お前の家は俺らで会議するには絶好の場所だからなぁ」

「諦めろ」と言う様な表情で笑う彼は 大村 竜也。

我々村民の中では比較的高齢で、面倒見が良い人で知られている。

その年功と性格から、冬夜や詩織が開く『村長会議』にも出席しており、今も詩織の召集で向かっている所だろう。

そんな彼と共に歩いて何分か経つ。

キャンプ地としてほんの少しだが整地をした中心部から離れ、所々緑の深さが目立ってきたな、という所で目的地に着く。

「ごめん、遅れました。」

集まってくれた何人かの村民...未来の国民代表に申し訳なく思ってそう伝える。

どうやら村長用の椅子は用意してあるらしく、円になる様な形で座っている彼らの間に、一席だけ即席の椅子が空いている。

空いている椅子の横の椅子に座っている者に「ここ、座っても良いですか?」と問うと「勿論」と返ってきたので遠慮せずに座る。

冬夜は心の中である事を確認して「大丈夫」と結論付けると口を開く。

「まずは、急な招集に応えてくれて感謝する。」

先程謝っていた気弱そうな少年の姿はそこにはなく、あるのは一人の長としての気迫に溢れ、強い意志を両目に宿した少年の姿だけだ。

少年はその両目で集まってくれた者を見回す。

(そうだったな...また一人犠牲になったんだな...)

また一つ空いた席に思いを馳せていると、同様に出席している 空崎 詩織 が声を上げる。

「始めますが、今回話し合いたい内容は、冬夜の宣言から察せるかと思いますが、建国についてと、魔法使いに関してです。

建国に関しては具体的な案...場所と手順でしょうか?魔法使いに関しては対策を練りたいと思います。」

「あいつらは俺が斬るのじゃ駄目なのか?」

他意なくそう問うのは、唯一戦闘経験があり、また、生還している 海月 志久...冬夜にとっては「しぃ兄」と呼び慕う少年だ。

冬夜は、その問いに強い語調で答える。

「駄目だ。一人で戦うのにも限界があるだろうし、相手だって人間だ。対策もされるだろう。」

「じゃあどうするんだ?」

勿論代案はあるんだろうな、と言わんばかりに再度質問した志久。

だがその質問に答えが返されることはなく、会議の場を静寂が包んだ。

「何も無いんじゃないか、今後も変わらず----」

「しぃ兄、話がある。終わったら来てくれ。」

この議題を流して、次に進めようとした志久だったが、食い気味に冬夜に遮られ、「お、おう」としか返せなかった。

「では次だが、国を作る、という事に関してだが、場所はそこの山を中心にしたいと考えている。

何か異論はあるか?」

冬夜が指し示すのは、キャンプ地のすぐ横に位置する山。

淡々と、まるで事務連絡を行うが如く議題の解決策を掲げる冬夜。

そんな様子を知ってか知らぬか、議会のメンバーの一人が質問する。

「『山』とは言いましたが、山本体...山岳部に居住区を作るのですか?」

「利便性が確保出来るのであれば。

ただ、確保出来ないのであれば、山の麓に作ろうと考えている。

この近辺には水源を確認しており、ここに住み、国を構える事自体は問題ないと確認済みだな?」

冬夜が視線を送った相手は 空崎 詩織。

彼女は思いがけないタイミングで話を振られ、少し驚きを見せながらも丁寧に説明する。

「は、はい。そこの山にはいくつか水源は存在していて、何本かの河川が付近を通っている事も確認しています。

また、付近の環境も我々の元いた村とあまり変わった所はなく、建国及び生存は充分可能かと思われます。」

彼女はまとめた書類を読み上げ終えたのか、「ふぅ...」と小さくため息を漏らす。

「引き続き付近の探索は行う。

山上に利便性及び生存圏が確保できると判断した場合は山上に居住区を移す。

それまでは現在の位置で準備を進める。

準備の手順はそっちで考えてくれ。」

的確にこれからの方針を示した冬夜に続く形で詩織も場をまとめる。

「何かなければ、冬夜が言った方針で進めますが...?」

「一つだけいいか?」

議会の中でも、冬夜達三人を除けば若いと言える青年が声を上げる。

「志久の働きによって、暫くは襲ってこないのかもしれない。

だが、仮に今この瞬間奴らが来たらどうする?」

「この瞬間に来たらまぁ無理だな」

あっさりと言い放った冬夜に「なっ...」と誰かが声を漏らす。

そんな事は気にしていないのか、表情を変えることなく冬夜は続ける。

「だが、『今』は来ていないからな、いつか来た時の対処法を解答にしよう。

仮に襲撃があった場合、山を盾にして逃げ切ろうと思う。

最悪山を崩落させ、防壁とする予定だ。

こちらの被害も甚大だが、命よりは安い。

まだ準備していない以上、今来られたら終わりだし、あくまでも最後の手段だ。

別の方法も用意する。」

「他に何かあるか?」と言う様な視線を7人に送る冬夜。

何も無い様なら、解散で問題ないな?」

再度詩織に視線を送ると、彼女は静かに小さく頷いた。

「という訳だ。明日からは近隣探索と建国に分かれて動く。

今日も色々あったが、その疲れを最大限に落として、明日からの生活に備えて欲しい。」

冬夜が言い終わると同時、志久と詩織を除いた5人は立ち上がり、各々のペースで中心部へ向かう。

彼ら全員の背中を見えなくなるまで見送った冬夜は、背もたれの存在しない椅子に大きくもたれ掛かろうとして、転びかけそうになりながらも溜息を吐いて吐露する。

「ああああ疲れたああああ‼︎」

冬夜は胸の奥から溢れる愚痴を溢れるがままに口にする。

「そもそもの話、別に俺の本性を知らない訳じゃないんだからわざわざ作らなくてもいいのでは!?

絶対議会の皆、「頑張ってるなぁ」

みたいな同情を心の内に秘めてるでしょ!

何で質問するの!?言わなくても分かったよね!?

俺が無理してるの知ってるなさては!?

....etc」

詩織は冬夜の愚痴を背景に、内心冬夜に対して尊敬に近い念を抱いていた。

冬夜は現在の村長代理とも言える立場に就いている。

と言うのも、私達が逃亡生活を送る前、村として定住してた頃、「村長」として村をまとめていたのは冬夜のお父さん...「海月」の名を冠する人だった。

彼は、最初の襲撃で他の皆を逃す時間を稼ぐ、と言ったっきりだ。

それ以来、冬夜が代理として皆をまとめているのだが、どうやら以前に村長の在り方を父親から教わったらしく

「民の前では弱さを見せるな。もう一人作るくらいの気概でやれ」

の言葉を元に、村長としての仕事に努める時は、会議中の様に強い物言いをする様に心掛けている。

元来の性格とは真反対とも言える性格を演じるのは、負担が生じるのだろう、仕事をした後は大抵いつも今みたいに騒いでいる。

他にも逃げる際には村長として苦渋の決断をしているはずなのだが、『それ』に関しては一切何も見せない所を見ると、本当に強い子だな、と尊敬を抱かざるを得ない。

と、詩織が冬夜に想いを馳せていると、どうやら今回も落ち着いたらしく、彼本来の優しい声色で話す。

「しお姉、しぃ兄と二人きりで話がしたいから、中心部の確認をしてきてもらっていい?」

自分の事を「しお姉」と呼ぶ彼は、本来であれば普通の、可愛げのある少年だ。

そんな年下の彼に重荷を任せきってる自分が嫌になるが、そんな内心を悟らせない様軽口を叩く。

「え?何?ホ○なの?」

「は?」と呆けている冬夜を冬夜を置き去りにして更に続ける。

「まぁ確かに?こんな時代だし、冬夜の心身ストレスも凄いものだと思うからさ、快楽を貪るのも止めはしないけど...

相手は選んだ方がいいと思うよ?」

「違う。変な誤解を勝手に抱くな。

会議中に言っただろ、あれだよ。」

志久が強い否定を示す。

「何だよ〜冗談だってば!」

笑顔でそう言いながら、中心部に向かって歩き始める。

多分だけど、志久と冬夜は戦うんじゃないかって勝手に想像する。

その想像が外れていることを願って、足を止めて一言告げる。

「頑張ってね」

冬夜は、きっと演技なのだろう、「?」を浮かべるように頭を傾げている。

志久は...「何で分かったんだ?」と動揺の色に顔を染めていた。

詩織は「もうちょっと演技をしようよ...」と心の中で呟き、再度歩き始める。

「それじゃ、私は建国についてまとめようかな!

二人も頑張ってね!」

二人がどうするのかは分からないが、自分に出来る事をして、彼らのやる事を信じて待っていようと決めた彼女は、脳内で明日の予定を描きながら、中心部へ向かうのであった。

 

 

「いやー、ドキっとしたなー!」

「しぃ兄はもう少し演技の練習をした方が良いと思う」

「は?」

「しぃ兄のせいでバレたでしょ」

「なぜ身内を騙す必要が?」

「騙すつもり無かったんだ...」

 




今回もお読みいただきありがとうございます。
最後の会話のシーンですが、気分次第で挿入されます。
次回の投稿予定日は....来週中に出せるかな...と言ったところで、次回はプロローグ前に何があったかを書く予定です!
次回もお楽しみに!


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Ex-st.1 戦う手段と4回目の襲撃

Ex-stは番外編かつ、本編に繋がりがある話につけています。
この話から閲覧している方は、よろしければ最初からの閲覧を推奨いたします。

注意:少しだけ過激な描写が入ります。(ほんの少しだけです)R-15程ではないと思いますが、流血表現が苦手な方はご注意ください。
-----------------------------------
ここからどうでもいい作者のコメントなので、興味ない方や本編を読みたい方は流してもらって結構です。

次回の更新は来週中と前回書きましたが、パソコンの操作性の良さにテンション上がった結果一話分完成してしまいました。
スマホとは違うんですよスマホとは!

取り乱しました申し訳ございません。
投稿は朝ないし昼かと思いますが、これを書いてるのは深夜なもので、テンションがあらぬ方向に...って奴です。

今回はプロローグ前の逃亡劇のお話になっています。
ちょっと...いえ、個人的にはすごく重い話になっていますが、是非読んでいただければなと思います。




「さて、何の用だ...って言っても「アレ」の件か。」

志久は笑いながら、断定を含んだ声色で冬夜に問う。

「うん。戦える手段があるんでしょ?それを教えて」

冬夜はここに来る前の事を思い出していた-----

-----------

「------!」

魔法を使える奴ら、冬夜達は魔法使いと呼んでいるが、彼らの意味の不明瞭な声が闇夜の森林の中に響く。

冬夜は、その声の直後、光を放ちながら一瞬浮かび上がった文字...なのだろうか、円状の何かを確認、識別して叫ぶ。

「直線に来る!散開して射線から外れろ!」

これで4度目の襲撃になる。住んでいる集落が見つかり、奴らから逃げるのにはもう「慣れた」。

その副産物として、奴らの言語は分からないが、見た事ある魔法なら一瞬浮かび上がる円状の文字で分かる様になった。

その知識を利用して、民に当たらない様誘導するのにも「慣れた」。

そして....最終的にこうなる事も分かっている。

例えどれだけ既存の攻撃を読み切り回避した所で、根本的な対策を握ってない我々の生存戦略なんて新魔法一つで瓦解する。

そう、それだけだ。今回も「その時」が来ただけ。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!」

左側面から男性の悲鳴が聞こえた。

駄目だ、まだ考えるな、今考えなければいけないのは今をどうするかだ。

雑念を振り払い、冬夜は悲鳴から得られる情報を整理する。

悲鳴が聞こえた、という事は即死系ではない、誘導系か?といった風に見えてもいない未知の魔法への考察を立てていると、正面から声が届く。

「冬夜!来てるぞ!」

その声を聞き、背後...「敵」の方を見ると、闇夜の森林には似つかわしくない白く発光している球体が冬夜を目指して飛んできていた。

速度が出ていない所を見ると、新魔法か?とあたりをつけ、少し横移動をしてみる。

すると、その球体は冬夜に引かれる様に方向を変えた。

決まりだな、と内心呟き声を上げる。

「右の一番手前に居る奴、俺と一緒に来い!今後のルートは空崎に従え!」

前方を走ってると思われる民達にそう伝え、光球の方を振り返る。

冬夜のその動作と同時、「右の一番前に居る奴」の指示で指定された一人の男性が「任せろ」と返す。

その声に少しの安心を覚えながらも、冬夜は、今も迫る光球の処理を考える。

まずは、誘導系攻撃のスタンダードな処理方法、「他の物に当てる」を試す。

光球と自身を一直線状上に置き、更に光球と自身の間に木を挟む様位置取る。

(これで止められればいいが...)

祈願に近い感情を抱きながら、光球が一本の木と衝突する瞬間を見届ける。

光球が丁度幹を中心にして衝突すると、光球は少しの硬直を見せた後、光の粒になり弾けた。

それを見た冬夜は、問題無いと結論付け、頭の片隅で思考していたもう一つの問題の解決を図る。

それは、協力者の男性と共に後ろの奴らが逃げるまでの時間稼ぎの方法...ではなく、相手を倒す方法でも無ければ、姿は見えないが目の前に居ると思われる魔法使いを撒く方法でもない。

冬夜が考えているのは、襲撃が来る度、「後で追いつく!」と言って敵陣に向かう海月 志久の救援だ。

いつもは、そろそろ合流して共に逃げ切るのだが、今回はどうも遅い。

それに、今回は何故かは分からないが追手がしつこいので、交戦開始地点から大きく離れている。

志久はいつも、「敵と味方に位置を知らせる為」歩いた時に「カツン、カツン」と音が鳴る靴を履いているのだが、交戦開始地点が離れ、志久との距離が離れたと思われる今は彼の生存の証とも言えるその足音は聞こえない。

更には、冬夜は次の集合場所を知っているが、志久には伝えていない。

これらの状況から、救援ないし合流が必要だと考えるが、その為の手段がない。

適度に敵の意識を引き付け、放たれる魔法を的確な判断により回避しながらも、次々と方法を列挙、検証し否定していると、冬夜と同じ様に注意を引き付けていた男性から声が届く。

「ただで死ぬ気は無い。一言命令をくれれば、突撃して志久を連れ戻してこよう。」

冬夜のリストのトップにその提案は躍り出たが、冬夜はそれを了承することが出来ない。何故ならそれは----

「お前には辛い決断かもしれない。でもお前も分かってるだろ?こんな事で志久を失う訳にはいかない。でもこの状況で連絡を取る手段なんて...って所か?」

「突撃して、接触する。でもその手段は!」

冬夜も分かっていた。この状況下での現実的な連絡手段なんて突撃くらいしか無い事は。でもその方法には決定的な問題があった。

「『帰還確率が低すぎる』だろ?幾ら奴らとの戦闘経験があって、生還を果たしている志久でも、足手まとい一人連れて逃げ切る程余裕があるかは分からないもんな。

仮に志久に余裕が無かった場合、囲まれて死ぬし、志久に会えなくても無駄死にだな。でも他に現実的な方法は無いだろ?あったら実践するはずだからな。

お前が考えても出てこないって事はきっと無いんだろう。」

最大級の冬夜への信頼と共に現状の説明をされた冬夜は、口を開く事が出来なかった。

どうやら彼らの魔法にも限界はあるらしく、今は飛んでくる気配はない。

それを一瞥して、男性は続ける。

「お前を失うわけにはいかない。これはお前以外の村民全員の意思だ。お前が居たから、過去3回...これで4回目か、奴らの襲撃にも最低限の被害で済んでいる。お前には辛い役割を押し付けているのは百も承知だ、何も出来ない自分が嫌になった事もある。だが同時に、お前や志久が居るから逃げて生き延びようって思う奴も少なからず居る。そんな風に、誰かに希望を見せることが出来るお前達『英雄』の為にこの命、どうせあいつらに無為に土に返される命を使えるなら、俺は喜んで使おう。

だから頼む、一言でいい。「志久を呼んで来い」と命令してくれ」

どこか懇願を感じさせるその声に冬夜は、『共に戦っていた仲間』ではなく、『一人の長』として、涙に声を震わせながらも一言、告げた。

「志久を...連れ戻してきてっ...ください...」

思わず素の口調が出てしまったが、それを気にすることなく男性は志久が居ると思われる方を見て呟く。

「まぁ心配すんな、まだ死ぬと決まったわけじゃないし、俺はこう見えても鼻には自信があるんだ。」

そう言いながら、男性はポケットの中から何かを二つ取り出し、片方を冬夜に渡す。

「それと同じ棒を志久が持っていたら、俺はしっかり任務を果たしたって事だ。」

それだけ言うと、男性は走り出す。

その様子を見た冬夜はすかさず自分に言い聞かせる。

(まだだ、まだ考えるな!今考えたら動けなくなる!)

そう心の中で繰り返しながら、目元に溜まった水気を腕で強引に拭って敵の方を見る。

が、奥の林の中に円状の光が見えるものの、こちらとは逆方向に魔法の光が向かっているのを見ると、「彼」はまだ生きてるみたいだ。

それに安堵していると、視界の端に先程まで散々見てきた光を捉えた。

光を捉えた方を一瞥し、円状に浮かぶ光を識別する。

(横方向に広がる奴!)

魔法の種類を判断し、それに合わせた回避行動...今回の場合は姿勢を落とす。

すると、冬夜の頭上を魔法が通り過ぎていく。

それを見送った冬夜は、再度体勢を整え、次の攻撃に備える。

1対1なら、攻撃が見える冬夜に負けは無い。

その事実を唯々実践するかの様に、魔法を回避し続ける冬夜。

幾らか一方的な攻防を繰り返し、そろそろ弾切れ...と言うのだろうか、インターバルを挟む時間だろうと考えていると、様子の変化に気付く。

今までは、絶え間なく、まるで逃げられたくないかの様子で魔法を繰り返していたが、次の魔法は、円状の文字列が発光している時間が長い。

その長さに警戒していると、相手の魔法使いの後ろに同種の光が灯り始める。

その光は次々に数を増やしていき、無数の光が森林を包むくらいにまで増えた。

(はぁ!?何人居るんだよ!?)

そんな冬夜の心の叫びに答える者はおらず、無数の直線型魔法攻撃が次々と発射されていく。

冬夜はそれを見て、木を盾にしながら逆方向へ駆ける。

どれくらい走ったのかは分からないが、なんとか弾幕攻撃を防ぎきった冬夜。

だが、長距離を走ったのだろう、息を切らしながらその場に座り込もうとすると、目の前に衝撃の光景が映る。

その視界に映っていたのは、先程よりは規模は格段に少ないが、暗闇によく映える円状の光。

よく見ると、外側から2列分の文字列が見た事無いものだった。

すぐさま対処法を練ろうと頭を働かせるが、思うように考えがまとまらない。

(考えろ考えろ考えろ!ここで死ぬ訳にはいかない!)

そうやって考えていると、魔法使いの一人が冬夜に近づいてくる。

(死なない方法、なんでもいい、ここを切り抜ける方法を!)

「------」

魔法使いは何かを声にして伝えようとしているが、言語形態が違うのだろう、冬夜には何を言ってるか分からなかった。

だが、差し出された魔法使いの右手に、ある一つの選択肢が過ぎる。

(降伏...死にはしない方法...)

その選択肢しか無い、と断定し、冬夜はその手を取ろうとするが、彼が冬夜の右手を取ることは無かった。

「あのおっさん、最期に良い物残してくれたなぁ」

魔法使いは鮮血を撒き散らせながら、地に倒れる。

魔法使いの手の代わりに差し出された手は、冬夜がよく知っている人の手で、具体的には、冬夜がさっき貰った棒を口に咥えている海月 志久の左手だった。

「冬夜、立てるか?」

その問いに行動で答える冬夜。

「しぃ兄!どうして...!」

「その話は後だ、お前は早く集合場所へ向かえ。あいつらは俺を放ってはおけないからお前を追うことは無いだろう。」

「分かった、場所は---」

「大丈夫だ。『こいつ』が教えてくれる」

そう言って志久が示したのは、彼が咥えている棒だ。

「どうやらお前が持っているのと引かれあうみたいでな、これのお陰でここにも来れたってわけだ。」

だがその説明を置き去りに、冬夜は叫ぶ。

「しぃ兄!前!」

どうやら先程の魔法使いが殺された衝撃から立ち直ったのか、円状の文字列を魔法として打ち出してくる。

冬夜は志久の背中に隠れていて、その魔法の全容を見ることが出来なかったが、志久が落ち着いた声色で呟くのが聞こえた。

「『剣技』...いや、『型』のがいいか、『無銘の型』...」

その呟きの直後、志久に新魔法が迫ったが---

志久の目の前で霧散した。

その様子を見た魔法使いは怯えた声で何か言っていたが、志久は靴の音を鳴らし、まるで挑発をしながら冬夜に伝える。

「この通り俺は大丈夫だ。分かったら早く集合場所に向かえ。」

「分かった、また後でね!」

冬夜はすっかり回復した体力を使い、事前に打ち合わせていた集合場所に一刻でも早く向かうのであった。

------------

 

「あの時呟いていた『剣技』、『型』』って何?」

「そうだな...簡潔に説明するなら、『俺が今まで生き残ってる理由』かな。」

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
今までとは違い、書きながら作っているので、誤字脱字などがあるかと思いますが、そこは暖かい目で見ていただければなと思います。
この話ですが、次回投稿予定のst.2に前後のシーン(襲撃以外のシーンです)が繋がっております。
すぐ出しますので...とは言いませんが、今週中には出したいと考えておりますので見かけたら是非閲覧していただければなと思います!
勿論感想、お気に入り登録などお待ちしておりますので是非是非送って(して)いただければなと思います!

再度明記しますと、次回の更新は今週中です。
次回もお楽しみに!


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st.2 戦う手段と神の存在

いろいろあるかとは思いますが、まずはじめに。
100UAありがとうございます。これからも頑張っていきますのでどうかよろしくお願いいたします。
後前回の告知の期限ぎりぎりになってしまい申し訳ございません。

追記:謎の改行修正しました。申し訳ございませんでした。

今回も是非楽しんで読んでいただければなと思います。

一件感想及びアドバイスを頂いたので、参考にしています。その為今までと大きく文が変化している点があります。ご了承ください。


Ex-st.1より

「あの時呟いていた」『剣技』、『型』って何?」

「そうだな...簡潔に説明するなら、『俺が今まで生き残っている理由』かな。」

 

 

かの少年、海月 冬夜は自分が目にした光景を信じる事が出来ていなかった。目にした光景、といっても色々あると思うが、冬夜は『何が起こったか』を認識できていないわけではなく、『何故起こせたか』が認識できず、その光景を信じる事が出来ていなかったと言える。冬夜は、今目の前で起こった事を理解する為、言葉を紡ぐ。

 

「今のは...?」

「一番分かりやすい表現は『魔法』かなぁ?正確には違うんだけど」

 

ではまず、分かっている事...何が起こったかを整理してみよう。と冬夜は自身を落ち着かせる。『魔法』と言っていたのはこの際無視するとする。

『何が起こったか』だが、端的に表現するのであれば『剣が出現した』が最も正しい表現だと思う。彼...海月 志久は、先程冬夜から少し離れ「まぁ見てろ」と冬夜に対して言った後、何かに祈る様に少し俯きながら小さく呟いたかと思うと、次の瞬間、志久の目の前に黒い、細剣と言うほどではないが、冬夜が知っている剣よりは少し細身の剣が光と共に出現した...と言った所だろうかと、冬夜は一人で納得する。だが冬夜の整理も虚しく、疑問であった『何故起こせたか』を解決出来る様な情報を洗い出す事は出来なかった。

 

「どうやってやったの...って聞いてもいい?」

「今までは、絶対教える気は無かったんだがな...今回の襲撃はこいつが無ければ終わってたからな...」

 

冬夜がおそるおそる、疑問に対する答えを求めると、志久は剣を持っていない左手で頭を掻きつつ、今も咥えている冬夜とお揃いの、彼が仕事を完遂した証である棒を悲壮な面持ちで見つめる。だが、その表情を見せたのは一瞬で、次の瞬間には何かを考える様な表情になって突拍子も無いことを口にしていた。

 

「今から教える事は、お前を始め、何人かの者には扱える様になってもらう。特にお前は...俺と戦える位にはなってもらうから、覚悟しろよ?

今から教える『剣技』と『型』は、奴ら『魔法使い』から身を守る方法であると同時、奴らを倒す...いや、はっきり言ったほうがいいよな、『殺す』方法だ。それを念頭において話を聞いてくれ。」

 

そう言った彼の表情は先程までのどこか気の抜けた表情ではなく、ただ真剣に大切な事を話す様な、そんな表情に包まれていた。冬夜は、そんな彼の想いに応える様に真剣に話を聞こうと真っ直ぐ彼を見つめる。そうして少し経ち、冬夜が彼の言葉を心待ちにしていると、彼は、申し訳なさそうな顔を浮かべながら話し始める。

 

「まぁ別にこの剣出す奴は関係ないんだけどな?」

「え?」

「これは別、『剣技』と『型』はまだ何も見せてない。剣出す奴はまた今度な?」

 

そう言って彼は剣を構える。その姿は冬夜が想像していた騎士の様な構えではなく、自然体に近い、右手一本で剣を前に構える...といった感じだ。彼が近くの木に対して構えているのをあいも変わらず真剣に見つめる冬夜。先程とは違い、彼は間を空ける事なく冬夜に話し続ける。

 

「『型』は少し特別...みたいな感じだからそれもまた今度。今から見せるのは比較的簡単な『剣技』だ。剣身と切断の瞬間を見逃すなよ?」

 

自分の弟に自慢げに見せる様な口調と表情でそう言った志久は、一番近い木のすぐ傍まで距離を詰めると、一言「ごめんな?」と小声で呟き、剣を振り始める。

志久の右側から、半時計回りに半円を描くような軌道を取って木に近づいていく剣撃、その刃が木に接さんとしたその瞬間

 

「『剣技-斬鉄』」

 

志久の言葉が聞こえたと同時、刃に白い膜...みたいなものが浮かび上がる。その一瞬を挟み、剣が木と接したのだが....冬夜は最初と同じ様に目を疑った。志久の一振りは、まるで素振りかの様に一切の淀み無く半円を描ききったのだ。『木を切断して』。目の前で起きた手品の様な芸当に、思わず「すごい...」と冬夜が零すと

 

「このサイズの木は、専用の道具を使わないと綺麗に切断する事は出来ないだろ?ましてはこんな細身の剣で、俺一人の力でなんて土台無理な話だ。それを可能にしたのが今回の剣技、斬鉄ってわけ。」

 

細身の黒剣を右手で遊ばせながら志久が自慢げに話す。先程までの真剣な表情は見る影もないと言った感じだ。いつものどこか飄々とした雰囲気に戻った志久に合わせるかの様に冬夜も普段の落ち着きを取り戻し始めていた。そんな冬夜の心境の変化を待っていたのか、少し時間を空けて志久は問いかける。

 

「落ち着いたか?お前的にはいつもの感じで話した方が落ち着くみたいだな。じゃあ冷静になった所で質問だ、切断の瞬間何か見えたか?」

 

何かを試し、願うかの様なその声色に疑問を抱きながらも、冬夜は自分が見た光景をそのまま志久に伝える。

 

「しぃ兄が「斬鉄」って言った瞬間、剣身に白いもや...膜?よく分からないけど、そんな感じの何かを纏って木に向かって行ったと思う...かな?」

「ふぅー....良かったぁ。もしかしたら『捨てられた』可能性もあったが、流石にそこまで盲目じゃないか。」

「....?」

 

『捨てられた』とか、『盲目』とか、いまいち全容が掴めない言葉が出てきたが、多分合格...なのだろう、志久は安堵に息を吐いている。そんな志久に、冬夜は胸の中で広がり続ける疑問を解消するべく問いかける。

 

「ねぇ、そろそろ教えて貰っていい?」

 

その質問に、彼は「そうだったな」と恥ずかしそうに顔を背けるが、一瞬で元に戻り、話し始める。

 

「まず原理だが、不明だ」

「は?」

 

思わず怒りが出てしまった。こいつ...じゃない、我が兄は一体何を言っているのだろうか。と内心考えていると

 

「待て落ち着け、まだ続きがある。原理は不明だが、そうだな...神様みたいな?そんな感じの何かが力を貸してくれてるみたいなイメージだ」

「神様~?」

 

そういえばそんな存在も居たな、と内心呟く。初回の襲撃時には魔法使い達から民を守る為に力を振るっていた気がする。その後の襲撃ではうんともすんとも言わなかったが。だがそうすると一気にさっきのしぃ兄の発言の謎が解けるね。あくまで予想だけど、4回目の襲撃を乗り切って集合場所での「足りないのか」って叫んだ奴...信仰も何もあったもんじゃない発言の事が気がかりだったのだろう、居たなら言ってくれれば良かったのに。と、色々思い出していると、彼は冬夜の呟きに応える様に続ける。

 

「そ、神様。俺は元々個人的に信仰していた神様から借りているが、冬夜にも一柱くらい居るだろ?信じている神様。その神から力を借り---」

「居ないけど?」

「は?いや仮にも信仰心で出来た村に居て、かつそこの村長の家系だろ?それが信仰心持ってないなんてこ---」

「守り神様は建前上してたけど、1回目の襲撃以降何もしてこない神様にする信仰なんて持ち合わせてないです。」

 

冬夜達が居た村は志久が言った通り、どこの家も何かを信仰していた。それは志久の様に神様だったかもしれないし、もしかしたら物だったかもしれない。だが一つだけ分かっている事は、冬夜が今信じている神や物などは居ないという事であり、冬夜の家...海月家が信仰していたのはガルラだかガルーラだか呼ばれている神鳥であったが、彼?彼女?に対する信仰は1回目の襲撃以降心の片隅程度にしかしておらず、3回目以降に至っては「祈って生き残れるなら苦労しない」と信仰なんて忘れていた。先程の発言にはそう言った背景があったが、特に説明する事は無く、冬夜は話を続ける

 

「信仰が要るって言うなら、本当に申し訳ないんだけどこの話は無かったことに」

「でも見捨てられてるなら神力は見えない筈...あ、ちょっと目を閉じてイメージしてみろ、『お前の中の神様を』」

 

そう言われたので、渋々イメージしてみる。確か...こんな感じだったっけ、と胸の前で手を組み目を閉じる。

しばらくすると、何だろうか、まるで人型に感じられる、だが人型ではない何かが頭の中?心の中?に浮かび上がる。冬夜はそれの正体を掴もうとイメージを固定化させようと必死になるが、『それ』はどう頑張っても正体を掴ませない。だがその『何か』は唐突に何かを語りかけてくる。

 

「-------、-う--、す-し-け、力を貸そう。」

 

最初は不明瞭だったが、徐々に鮮明になっていった『何か』の言葉を聞き終えると、心の中でイメージしていた人影?は一瞬で消え去り、冬夜の意識は半ば強制と言われる様な感覚を伴いながら、現実世界へ引き戻される。引き戻された現実世界で冬夜が見たものは、先程までは絶対に存在していなかった白銀の剣が冬夜の目の前に突き刺さっている姿と、それを見る志久の、驚きと喜びの入り混じった表情だった。

 

「何これ!?しぃ兄が用意したの!?」

「そんなわけないだろ...。でもまぁ、とりあえずは大丈夫そうで良かったわ。」

 

表情から分かってはいたが、分かっていても質問してしまうくらいには衝撃的な光景だった。とりあえずその剣を手に取ってみると、まるで今までも使っていたかの様な感覚が手から感じられる。「しっくりくる」との表現が適切だろう。そんな事を考えながら、暫くその剣の取り扱いを試していると、志久から話しかけられる。

 

「とりあえず一先ずは安心だからさ、寝ないか?ここまででだいぶ時間を使ったし...」

 

言われてみれば、そもそもの会議の時間が遅かった気がする。というか落ち着くと眠気が襲ってくる。それもその筈だろう、手元の時計はもう少しで日が昇る時間だと言う事を示していた。

 

「また明日...今日か。俺...僕はここで寝るけど、しぃ兄は?」

「外で寝るよ。自分のテントまで向かっていたら下手したら日が昇る。」

「じゃあ一緒に寝る?勿論テントは別だけど。」

 

冬夜のテントの中には、冬夜が最後にテント設営をした影響で、余った設営道具が転がっている。それを一つくらい引っ張りだそうと考えて提案する。

 

「あるのか?じゃあ借りようかな」

 

そう言って冬夜のテントの中から用具を引っ張りだしてテキパキと設営をする志久。その様子を眺めていた冬夜だったが、ついに眠気に耐えられなくなって一言告げる。

 

「しぃ兄...先に寝るね?お休み~...」

「おう、お休み。明日しっかり説明するからな」

 

その声を最後に冬夜はテントの中で意識を手放した。

 

 

 

 

 

「それにしても、まさか剣の顕現が行われるとは思ってなかったな。お前は心当たりあるか?ってあるわけないよな。あ、冬夜に何が見えたかは分からないが、最悪お前の力を借りる事になるかもだから、そこ把握よろしくな」

 

 

 




st.2で剣技の説明は終わらせるつもりだったのですが、終わりませんでした。
違いますよ?決して期限に間に合いそうになかったから急遽切ったなんて事はないですよ?
はい、少なからずありました。本当に申し訳ありません。気が付いたら文字数も多かったので良い区切りかなと思い切らせていただきました。次回では本質に触れますので、楽しみにしていただければなと思います。
感想、お気に入り登録などしていただけると、とっても嬉しいです。

今回の失敗を元に、次回の更新予定を立てたいと思います。
次回の更新は「今週中」を予定しております。
次回をお楽しみに!



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st.3 戦う手段と神の加護

なんだか土曜深夜に投稿するみたいになってますが、今回遅れたのは作者の体調不良の為です。
前回の謎改行の数々は大変申し訳ございません。今回は見直ししたので大丈夫だと思います。

今回も是非読んでいただければなと思います。
ではどうぞ!



「ん...そろそろいい時間かな...?」

海月 冬夜はそう零すと、外へ出る為の準備を進めていた。

冬夜は、自身の寝起きの良さにうんざりしつつも、テントの外から光が差しているのを確認する。彼自身は数分前に起きていたのだが、周りの様子から日の出から大して時間が経っていない事を確認すると、暫くテントの中で時間を潰す事を決めたのであった。だがテントの中で出来る事など極限られており、最初は娯楽を中心にしたものだったが、最終的には考え事に落ち着いていた。彼の暇つぶしの成果もあり、時間もいい感じの時間かな、と思い始めた所で外から声がかかる。

 

「冬夜~?どうせ起きてるんでしょ~?相談...というか報告があるんだけど!」

 

テントの外から彼の事を呼んだのは、彼の姉分である空崎 詩織だ。彼女が相談を持ってくる事と言えば村...国の事が主な用件になるのだが、記憶違いだろうか、報告される様な案件を抱えていた記憶はないのだが...と記憶を漁ったのだが、努力虚しく報告を受ける様な案件を見つける事は出来なかった。

(というか「どうせ起きてるんでしょ」って...いやまぁ起きてますけどね)

冬夜は内心文句を吐きながらも返事を返しつつ、外へ出る。

 

「おはよう。しお姉。相談って何?」

「相変わらず早起きだね。相談についてなんだけど、今日の動きについてなんだよね」

「今日の動き?悪いけど今日は---」

「大丈夫、冬夜と志久はそっちの用件を済ませてくれればいいよ。他の皆でやるんだけど---」

 

彼女はどうやらメモ帳に予定を纏めているらしく、どこからともなく取り出したメモを読み上げる様に今日の予定を伝える。流石、民達の一部(冬夜含む)から『村の頭脳』と評されてることはあり、提示された予定を聞いていると、的確に、正確に今必要な事を実践してくれる予定だと言う事が伺えた。そんな予定を組んでくれた彼女に一言「ありがとう」と伝え、確認をしていく。

「昼には帰ってくるよね、報告待ってればいい?」

「報告したら現状の状態を纏めて、午後はそれに応じてって感じかな。」

「おっけー。じゃあそういう感じで」

 

冬夜がそう言うと、詩織は早速予定通りに動くのか、冬夜のテントを離れ、中心部へ向かっていった。その光景を見ていたらしく

 

「終わったか?」

「うん。別に出てきても良かったのに。」

「タイミングを逃がした。別に出て行った所で何か変わるわけでもないだろ。」

「そうだね。じゃあ始めよっか」

 

海月 志久がテントから顔を出す。昨晩(さっき)見た黒い剣は持っておらず、そういえば冬夜が出したと思われる剣もどこかに消えていた。そんな冬夜の思考を読んだのか

 

「まずは説明から入ろうと思うんだが大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

 

その声を聞いた志久は、思い出す様な素振りを見せつつ、『剣技』についての説明を始めた。

 

 

 

志久は「説明から」と意気込んだものの、内心ではどう説明するか、今この瞬間も悩んでいた。ただ説明するだけと言えばそうなのだが、説明をする上でネックとなっている箇所が2箇所ある。それは、冬夜が見た神...志久は勝手に『内神』と呼んでいるが、それが何か、もしくは誰かが分からない事と、そもそも冬夜が神に対する信仰を失っていることだった。前者の問題は、最悪どうとでもなるので思考から勝手に除外する。だが後者は非常にまずい。言わば神を信じていない者に「神様の力が~」などと言っても良くて「そうだね」程度の感想しか返ってこないだろう。冬夜視点で考えればもはや裏切られていると言っても差し支えないはず。これどうするんだ?正直詰んでないか?そんな諦めにも似た声が心の奥で響き始め、特に何かを考え付く事無く数分が経過する。

 

「ねぇ、説明するんじゃないの?」

 

冬夜が痺れを切らして問いかける。

 

「あ、いや、うん。そうだな、説明だったな?悪い悪い」

「大丈夫、『神』は信じてないけど、『彼』は信じてるから」

 

どうやら悩みの種を察されたらしい。うちの弟は無駄に勘が鋭くて困るな。そんな事を思いつつ、志久はようやく説明を始める。

 

「『剣技』は、簡単に言えば『神の力を使い、神の技術を再現する』と言った所だな。もっと噛み砕いて説明するなら、神様の戦闘技術を借りるって感じ。例えば、俺が使った『斬鉄』は文字通り、鉄を切れる力を剣技として借りたって所かな」

「なるほど。どうやって借りるの?」

「さぁな。人と同じで神様にも色々いるんだろ。俺の場合は願えば貸してくれたが、そんな物好き他にはいないだろって言ってたからな。聞いてみればどうだ?」

 

そう返した志久は、内心ガッツポーズをしていた。成り行きではあったが、冬夜の内神についてと、信仰という2大問題を鮮やかに聞きだす一言を言えたのは自己評価では満点である。そんな思いを抱きながら、冬夜(の内神)の答えを待つ。少しして顔を上げた冬夜だったが、その表情は芳しくなく、どうやら失敗したらしい、と勝手に憶測を立てた志久だったが、冬夜の口からはそれ以上の言葉が放たれた。

 

「会えなかった」

 

...?待て落ち着けうぇいとうぇいと。一瞬弟様が何を言ってるのか分からなかったわ。

 

いや落ち着いても分かんねえよ!?「会えなかった」って何!?信仰が~とか内神が~とか言ってる場合じゃないしっていうか居ないって事!?想像してた答えの直角真上を行くかの様な答えありがとうございます!?え、もしや夜のは幻覚?うっわぁすげぇなぁ、繊細な幻ですこと。あ、でも幻だから当ぜ---

 

「いや、会えなかったって表現は適切じゃないかも。『居る』のは分かる、でも会ってくれなかった...?」

 

あ、そうですか。「あんな現実みたいな幻見せれるのが魔法だとしたらいよいよ殺される未来しか見えんわ」まで思ってたんですが違くて何よりです。志久には冬夜の言っている事が分からなかったが、本人の感覚ならその表現が正しいのだろう、と自身を納得させ、冬夜に続きを促す。

 

「どういう意味だ?」

「一つ答えて欲しいんだけどさ、しぃ兄は神様と対話なりなんなりしてるよね?」

 

質問に質問で返すなって子供の時習わなかったのだろうか、と言いたい気持ちを抑え、「してるけど」と短く返すと、冬夜は「そうだよね」と同じように短く返して続ける。

 

「実は、『彼』とは対話したわけではないんだ。剣を出した時も、「力を貸そう」とだけ言われて現実を見たら剣があった、みたいな感じだったからさ。だから、『彼』の力を借りるのは...今は無理だと思うかな。」

 

なるほど...冬夜の言ってる通りの状態であれば、『彼』とやらの剣技には期待できないか。「想定通りだな」と志久は小さく零した後、用意してあった手段を提示する。

 

「把握した。じゃあとりあえずは俺の剣技を使えるか試してみるか、出来るか?」

「出来るわけないです。出来たら既にやってます。」

「だよな、剣は出せるか?」

「よく分からないけどはい!」

「じゃあそれを好きに構えろ、その状態で少し待ってろ」

 

志久の言った通りに動いた冬夜、その構えはきっと志久自身を参考にしているのだろう、構えの所々に志久と似た様な雰囲気が感じ取られる。その構えの根幹を成す剣に手を沿え、一言呟く。

 

「汝に我が主神の加護があらんことを」

 

志久の声に応える様に、冬夜が構える白い剣身に光が集まる。その光は一層の刃を形成したのち、余剰分は剣の下部...柄の部分に集まり上部と同様に白い柄に刻印を形成した。その刻印は白銀の剣には余りにも似つかわしくないかの様に思えたが、むしろ一点の黒印が全体の白さを際立たせている様だった。

 

「その刻印があるうちは、俺と同じ剣技が使えると思う。試しに斬鉄でも使ってみたらどうだ?」

 

冬夜は言われるがままに使用しようとするが、何やら上手く言っていないらしい。一回目は難なく使う事が出来ていたが、2回目以降は苦戦してる様だ。

 

「やっぱり無理だったか...?そんな簡単に話が進むわけないか...」

 

志久はそう零しながらも、冬夜がなんとかしてくれるのを願ってただ眺めているだけなのであった。

 

 

 

 

この状況をなんとかしてしぃ兄に伝えられないだろうか、と考えるが「無理だな」との結論に至って『彼』の言うことに再び耳を傾ける。

 

「何故分からない!?これをこうした方がやりやすいだろ!?」

 

最初の遭遇よりもだいぶ饒舌になった『彼』の言い分はこうだ。「あんな非効率的な武装よりももっと効率的にやる方法がある」と。ちなみに冬夜に実現出来るなんて都合の良い未来などなく、『彼』の声を背景にさっき一度出来た斬鉄をもう一度と奮闘するだけなのであった。さっき出来たのも偶然...というよりは『彼』の助けがあったからであり、『彼』がもっと良い方法を模索している時点で「もう一度」など訪れないのだが、志久は勿論の事、冬夜にそんな事が分かるわけもなく、只管に時間を浪費するだけなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

...?周辺調査から帰ってきた空崎 詩織は調査結果を報告しに村長代理である冬夜の元へ向かったのだったが、そこにあった光景は色々と想像の範疇を超えていた。

例えば...志久が岩に腰掛けたまま寝ていたり。

例えば...冬夜が何かをやり切った後の様な、色濃い疲労を表情に宿しながら、白銀の剣を抱いて地面に突っ伏してたり。

例えば...冬夜が突っ伏した先にあった『はず』の森林が、『何か』によって幹を真っ二つにされていたりなどだ。

詩織は「とりあえず起こそっか」と、最後のは見なかった事にして、昼間から幸せそうに寝ている男二人を叩き起こすのであった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回は詩織の周辺調査をお送りする予定です。次回も是非読んでいただければなと思います。

1週1話を『目標』にしていきたいと思います。

次回もお楽しみに!


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st.4 周辺調査

初めての方は出来れば最初から読んでいただけると、より楽しめるかと思います。
今回少し少なめです。
今回は彼女達側での話になります。

文体が迷走している気がしますが、暖かい目で見守っていただけると助かります...

ではどうぞ!


時は少し遡り、冬夜と志久が色々する前まで戻る。

 

昨晩...最早今晩と言うべき深夜に行われた会議による疲れと、4回目の襲撃から逃げてきた疲れが出たのか、彼女...空崎 詩織は、自分が召集した会議が終わった後、「明日の事について纏めようかな!」と宣言したのはいいものの、実際の所は寝床に導かれる様に向かい、そしてそのままお休みなさいしたのであった。そんな彼女は冬夜よりも先に目が覚め...たのかなぁ?正確には分からないが、とりあえず早くに起きて、今日の予定を纏めたのである。そんな背景が隠されているメモに記された内容を伝え終え、彼女は冬夜に背を向けて歩き始める。

(さて、とりあえずは周辺環境の調査用の班割り振りかな...)

班編成を考えながら、村民が集まっている中心部へ向かう。とりあえず考えなきゃいけないのは、人数と主な調査内容かな、と整理する。

(調査内容は...植生の調査かな。下見した時点で元いた場所と大体一緒なのは確認済みだけど...何がどこにあるのかくらいは把握しておきたいし...)

そんな風に考えながら、彼女が歩みを進めていると、丁度中心部に差し掛からんとした所で一人の少女の姿を見かける。その少女は何やら広場に集まった多くの大人達に指示を出している様だった。大人達に指示を出してるその気迫とは裏腹に、指示を出している四肢はまだあどけない少女を感じさせるものだった。暫く彼女が指示を出す姿を遠目で眺めていると、どうやら気付かれたらしい。まるで「少し待ってて」と言うような素振りを見せると、こちらに向かって歩いてくる。

 

「おはよう、詩織。暇してた人達を設営に回してたとこ。この後はどうするの?」

「うん、おはよー。絢ちゃんの指示が終わってからでいいよ、きっとすぐ終わるんでしょ?」

「分かった、早く終わらせる様伝えるね。」

 

詩織に「絢ちゃん」と呼ばれた彼女...星山 絢香は再度大人達の集団に戻り、指示を飛ばす。詩織はそんな彼女を見送りながら、設営に励む大人達を眺めていた。昨晩の設営は主にテントやちょっとした整地など、住居の確保が主だったが、今の設営を見ると、農業的...例えば、襲撃時に確保していた苗木の植え付けや、ちょっとした水源の確保など、農業的準備が主となっていた。

暫くして、どうやら一通りの設営が終わったのか、絢香の元に何人かの代表と思われる大人達が集まっている。その中でも一番若い、だが詩織よりは年上だと思われる青年が話しかけてくる。

 

「詩織さん、今日は調査に行くとの事でしたが、具体的にはどうするんですか?」

「私のが年下なんだから、「さん」は要らないって言ってますよね?それはさておき、今日は6人1チームで、8チーム作りたいんだけど...絢ちゃん、作れるかな?」

「48人....大丈夫。」

「そっか、ありがと。じゃあここに居る人たちを班長として、8方向に散って調査します!今回の調査では、周辺環境の確認を主に行って貰います、それを踏まえて、各自準備をして、そうですね...30分後に再度集まってください。では解散!」

 

詩織の指示に探索班の隊長となった、詩織と絢香を除いた6人はそれぞれ返事する。その後すぐに各自の持ち場へ戻っていった。詩織は詩織で、自分の班の班員を呼びに行ったり、調査用の道具を整理していたりしていた。...まぁ今回は資材収集とかでは無いので、主に筆記用具だが。

 

 

 

 

「さて..と、皆集まってくれたね。」

 

30分と言ったが、皆大体25分後くらいには集まってくれた。優秀で何より。全48人が広場に集まった事を確認すると、詩織は再度皆に呼びかける。

 

「手早く済ませます。今回の調査内容ですが、今までの一回目の調査と同じように、まずは周辺の地図の作成と、植生を調べてもらいます。1~8班に分かれ、8方向に分かれますが、山岳方面の調査は絢ちゃんの班を、一番接敵率が高いと思われる北方面には私の班が向かうのも同様です。これまた今までと同様ですが、どこに居るかは分からないので、万が一魔法使いを発見した場合は班長の指示に従い速やかに退避してください。」

 

一番危険な班の班長は詩織が、最も重要な所を調査する班の班長は絢香が、と言うのは前々から決まっていた事である。伊達に4回も襲撃に遭っていないって事。伝える事は伝えたので、出発の合図を出す。

 

「私達2班を除いた割り振りは、3班から時計周りに1班ずつです。12時には帰ってきてください。 ...今回も被害が出ない事を願っています。では順次出発します。」

 

そうして詩織の班が最初に設営地を出発した。

 

 

 

 

「うーん...やっぱり前居た所の植生と同じだよねぇ...」

 

詩織は持ってきた図鑑...というよりは、前回の環境調査で調べ上げた資料に目を通しながら、探索ポイントの丁度中心地に生えていた木を観察する。

ここに生えている木、及び付近の森林を構成している木は通称「火消しの木」と呼ばれている種類。この木は指に乗る程度の小さな実を付けるのだが、この実が文字通り「火を消せる」性質を持っている為、私達は勝手にそう呼んでいる。一方で物理的衝撃には弱く、少し力を加えると簡単に殻が割れ、お世辞にも美味しいとは言えない中身が露になる。数を集めて色々加工すれば食べれない事は無いけど、主に火事を防ぐ意味合いで使われる事が多い。

一方木材としての評価は、切り倒すまでは頑丈な強度を誇っているものの、一回切り倒すと、大変加工しやすくなる謎性質を有している。その為森林は強固な盾に、建築は簡単に出来るという大変都合の良い素材である。魔法に対しての強度は分からないけど。

調査用の資料に「同じ」と走り書きで記し、暫く近辺を調査してみるが特筆するべき事項は見つからなかった。規定の時間の調査を終えたので、最初の探索ポイントの中心に帰ると、他の班員も大した成果は得られていない様だった。

仕方無いので、それぞれが描いた断片的な地図を繋ぎ合わせ、一つの地図にすると、細心の注意を払いながら、設営地への帰路に着いた。

 

 

設営地に何事も無く辿り着き、同様に無事に帰ってきた各班の報告を聞き終えると、冬夜に報告する為、朝冬夜と話した外縁部に向かったのだったが、そこで目にした光景は---

外で寝てる二人の男の姿と、不自然に切り倒された火消しの木の森林だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は準備回の様なものになりますので、初見の方は前の話を、続けて読んでくださっている方は次も読んで頂けると、嬉しいです。

基本的には詩織Sideと、冬夜Sideで分かれて話が進んでいきます。
今回は詩織Sideで、今までは冬夜Sideという様な形です。

週一投稿を目標に頑張りたいと思います。
次回もお楽しみに!


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st.5 調査結果と練習の成果

ギリギリ今週中です!
なんだか土曜日の夜に定期更新とかにしたほうがいい気がしてます。
後前書きで書く事が枯渇してきました。

ここから読むよ!って方はお手数ですが、最初から読んで頂いた方が楽しめるかと思います。

ではどうぞ!


「はーい!起きてくださーい!」

 

ます詩織は昼間から地面に突っ伏して寝てる...と言うよりは倒れてるとの表現が正しそうな冬夜を起こそうと肩を叩いてみるが、こちらの反応は非常に悪い。一応「んぁ..?」と小さく反応は見せるものの、すぐに「...」と今までに戻る。仕方が無いので、冬夜は諦め、石の上にも3年をその身で体現してるかの様な姿勢で冬夜と同じ様に睡眠を享受している志久の方へ向かい、同じ様に肩を叩いて起こすと、こちらは案外すぐに起きた。

 

「悪ぃ。少し寝ちゃってたみたいだ。」

「それは別に良いんだけど、あれは?」

 

詩織が指差したのは、先程起こされたのにも関わらず、地面と添い寝を続ける冬夜の姿...ではなく彼が抱えている白銀の剣だ。その問いに志久は

 

「何で寝てるんだろうな?」

 

と敢えてそれには触れない。

 

「そうじゃないから、あの剣...だよね?あれは一体...」

「そうだな。知りたいなら冬夜本人に聞いてみれば良いんじゃないか?」

 

 

 

「そーろそろ起きて欲しいんだけどなぁ~?」

 

何やら頬をつつかれてる気がする。

...しつこいな。冬夜さんはすごく眠いのです、お休みなさ----

「冬夜、起きてるんだろ?このまま狸寝入りを続ける様なら...『斬鉄の(後ろ)がお前になるぞ?』」

ガバッ。

そんな擬音が似合う俊敏な動きで、俺は可及的速やかに「起きた」を表現しようと思ったのだが、顔を何かに強打した。あまりの痛みにそのまま元の位置に回帰...はせずに、その場で顔を抑えていると、すぐ横から「痛い...」と詩織姉(しおねぇ)の涙交じりの声が聞こえた。

 

「しお姉!?ごめん当たった!?」

「それはそれは綺麗に。クリーンヒットでしたよ?」

 

志久兄(しぃにぃ)は笑いながら零す。

 

「すっごい痛いけど、大丈夫...!報告、するね...!」

 

彼女は、涙声ながらも、気丈に振る舞い報告を始めた。

 

「えっと、周辺環境ですが、確認できた限りでは前の集落付近と変わりませんでした。それと、北東方面に魔力的水源を、南西から西にかけて自然の河川を確認しました。南方の山についてですが、頂上付近は未確認なものの、麓、及び中腹部での生活は可能である、との報告がありました。それと、今回の調査では、魔法使いとの接触はありませんでした。決め付けるのは早計ですが、付近には潜んでないものと見て良いかと思います。」

「了解、把握した。今後の予定は?」

「はい、まずは非戦闘員...優先避難人員を山岳部に避難させつつ、徐々に設営地を山方面に拡大していく予定です。人が余るようであれば、同時並行で資材集め、防壁の構築も行う予定です。」

 

正直期待していなかった今後の予定までスラスラ語られた俺は、一つの決断をして、言葉を紡ぐ。

 

「それも把握した。今後の報告は必要ない。国内の事は全て委ねる。他の奴らにも伝えておく。」

「冬夜!?何を言って---」

「ついつい長の口調になっちゃったから、戻して話すけど、しお姉のが詳しいでしょ?俺が出来る事なんて限られてるしさ。それに、多分だけど、これからは今までと違って迎え撃つ機会...と言うよりも、こっちから襲撃する事になるかもしれない。そうなった時、ここで指揮...指示が取れる人が必要だと思うんだ。その役はしお姉以外には務まらないと考えての判断なんだけどどうかな?」

 

俺は考えていた事をそのまま伝えた。前半のはずっと前から考えていた事だ。

1回目の襲撃の後こそ、俺が全ての指揮を執っていたが、2回目、3回目と時間を重ねていく内に、彼女は俺と同様、いやそれ以上に的確な指示を出せる様になっていた。それこそ俺が半日も志久兄と一緒に居られる位には。だとしたら、わざわざ俺に報告する手間なんて無くても、俺は彼女が考えた計画に口出す事なんて無いんじゃないかと考えたわけだ。

それに詩織姉は俺なんかよりもよっぽど頭がいい。多分それは、単純な知識の差じゃないと思う。だったら少し押し付ける形になったとしても、今のうちに彼女に指揮役を任せた方が良いのではないか、と言うのは前々から考えていた。

後半のは伝えるきっかけになった事で、『剣技』について教わった時、志久兄は「殺す方法」と言った。それはきっと守るだけでは終わらないって事だろうし、第一建国なんて馬鹿げた真似を奴らが黙って見ている筈もない。攻撃は最大の防御とも言うし、きっと志久兄は襲撃を仕掛けるつもりなんだと思う。だったら勿論俺はそれに付いて行くわけで、そうなったらこここには誰も残らないわけで。だったら誰か代役を立てなきゃいけないじゃん?というか襲撃される事も考えて詩織姉は「防壁」と口にしたんだろう。...やっぱり任せるしかないな。

だが彼女は、俺の判断の可否には答えず、その中身について言及する。

 

「そう、それだよ。襲撃って何?まさか戦うつもりなの?」

「そうだが?国を作るんだぞ、敵対勢力(まほうつかいども)の排除は常識だろ?」

 

あ~...志久兄はこれだから駄目なんだよ。絶対止められるでしょ...

 

「正気なの?」

「あぁ。その為に後で頼みたい事があるんだがいいか?」

「分かったけど、まだ冬夜の剣の説明をしてもらってないから、それを条件にしとくね。」

「だってよ、ほら説明してやれ」

 

止められなかった!?絶対分かってやってないけど、何この敗北感。

 

「説明って何、しぃ兄のが詳しいでしょ」

「『それ』については寝てたから知らん。とりあえずそれについて俺に教えろ」

 

そう言って彼が指し示したのは、幹から真っ二つに切断され、切り倒された火消しの木の森林だった。

 

「しぃ兄は分かると思うけど、斬鉄の練習をしてたじゃん」

 

短くそれだけ言うと、志久兄は頷き、詩織姉は「?」を浮かべている。それを確認して続ける。

 

「名前が分からないから、暫定的に『彼』と呼んでいるけど、俺の中のイメージが口出ししてきたの。「それはそうやるよりこうやった方が良いだろ」みたいな感じで」

「それで?」

 

志久兄が続きを促す。

 

「その後碌に具体的な助言を寄越さない『彼』のせいでひたすら打ち続けたの。

一応色々変えてやってたんだけど、まぁ結果はお察しで。」

「待って話についていけないんだけど」

「いいから、それで?」

 

とうとう詩織姉が口を挟んできたが、志久兄が止めたので、更に続ける。

 

「それが何度目かは分からないけど、いい加減どうにもならないのでしぃ兄に聞こうとした時に急に『彼』が言ってきたの。

「分かった。一回身体借りるぞ、感覚で覚えろよ」って。」

「「は?」」

「それで『彼』が放った『斬鉄』の結果があれ。ちなみに俺も出来る様になって、試しにやってみたら力尽きたって所かな」

 

とまぁこんな感じだったのだが。多分信じられないと思う、特に志久兄は。

 

「今出来るか?」

 

やっぱり見たいよね。「勿論」とだけ返して、俺はそろそろ慣れる剣の出現をこなす。さっきまでは腐る程見ていたこの白銀の剣も、少し見ていないと物珍しく感じる。

そんな剣を当たり前の様に何も無い所から出すのを目の当たりにした詩織姉は、驚愕の表情を浮かべていたが、これについては後で志久兄が説明してくれるだろう。気にせず宙に浮いているその剣を右手で掴み、散々練習したその技の名を口にする。

 

「『剣技-斬鉄』」

 

俺が小さくそう呟くと、白銀の剣身に白い膜が浮かび上がる。それを確認した俺は、手首の捻りを効かせながら、その剣を既に切り倒された森林の方へ振るう。

俺の前を横方向に通り抜け、丁度俺の左肩前辺りにまで剣先が届いた時には、その剣の白い膜は剣身を離れ、本来ならば木の幹があっただろう地点を目指して飛翔していた。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
続けて読んでくれてる方がいたら嬉しいな、と思う作者です。

今回はst.3、st.4の結果発表(?)みたいな感じでした。
次回、次々回くらいまではこう言った感じの話が続くかと思います。(まだ構想練ってる最中なので分かりませんが)

週1更新を目指しています。
基本的に土曜の0時前に更新する事が多いです。

お気に入り登録、感想などしていただけると大変励みになります。
次回もお楽しみに!


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st.6 閑話休題

まず遅れた事を謝罪します。
その上非常に少ないです。

それと一時的な更新停止をお知らせいたします。詳しくは後書きにて。

では今回は少ないですが、どうぞ!


半ば自慢するかの表情と共に、俺は自身の剣技を放った。それを可能にした『彼』の化身とも思えるその剣身には、残り香の様に白いもやが揺らめいていた。

俺はそのもやを振り払うかの様に剣を振り、その技を見ていた者達へ笑顔を向ける。

 

「こんな感じなんだけど、どうかな?」

 

精一杯の力を振り絞って一言そう言うと、志久兄は驚きと喜びが入り混じった様な表情をしていて、詩織姉は話に付いて行けてないみたいだった。

そんな二人の反応をしっかりと確認した俺は、先程と同じ様に意識を手放した。

 

 

 

次に俺が目を覚ました時には、俺は自身のテント内に寝かされていた。未だに覚醒を拒む身体を従わせ外の様子を探ると、志久兄と詩織姉が二人で話していた。

 

「ふーん。じゃあ私には見えないんだ。」

「ああ、そうみたいだな。でも良かったと思うぞ?戦わなくて済むんだから。」

「そんな事...!

いや、なんでもない。あ、さっきの頼みってそれ関係?」

「そうだな、まぁそれはまた後で話すよ」

 

丁度話が途切れたので、俺はテントから顔を出す。

 

「おはようございます...」

「おう。撃つ度に倒れてたんじゃ使い物にならんぞ?調整を覚えないとな」

 

余りの不甲斐なさに、俺は申し訳無さそうに一言挨拶をすると、志久兄は優しく微笑みかけてきた。詩織姉は「もうとやかくは言えないけど、無理だけはしないでね?」と顔を伏せながら続けていた。

だが彼女は、何かに気付いた様に顔を上げると、わなわなと震え始めた。

 

「....やばい。何も指示して無かった。」

 

彼女はぶつぶつと呟く様に先程も使っていたメモを取り出して中身を確認している。

 

「これと、ここと、あとこれもやっておきたかった...あああああ」

「やっぱりここにいたの」

 

唐突に口を挟んできたのは、俺は4回目の襲撃以降殆ど話していなかった絢香だった。

 

「冬夜に用があって来たんだけど、詩織も見つけられて良かった」

「俺に?何かあったっけ?」

 

てっきりそこで震えてる詩織姉を迎えに来たと思っていた俺は、絢香の言葉で過去の記憶を漁る。...だが当然の如く見つける事は出来ず、代わりに既視感に襲われていた。

 

「冬夜には、今から仮設部隊の移動に付き添って欲しいの」

 

彼女は詩織から見て学んだのか、まるで彼女の様に話し始める。

 

「詩織が用意した面々は、あくまでも資材運搬や、実際の施設敷設用の人数しか用意されてないの。だから安全確認、先導する人を冬夜に頼みたいの。」

「分かった。今すぐに用意するから少し時間くれるか?」

 

絢香は小さく頷く。だが意外な所から声が上がる。

 

「それは私がする予定だっ----」

「お前は俺の頼みに付き合ってもらう」

「うぅっ...ごめんね...使えないお姉ちゃんで...」

「志久は詩織をお願い。冬夜は準備が終わったら広場に来て」

 

てきぱきと役割分担をしていく絢香の姿が、詩織姉と重なって見えた。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
私の作品が今回初見という方は、前の話も読んで頂けるとより楽しめるかと思います。
それと作者が喜びます。
続けて読んでくださっている方は本当にありがとうございます。今回遅れてしまい申し訳ないです。

前書きで書いた更新停止の件ですが、今までは週1更新を目標に投稿してきました。
ですが最近の更新では正直言うと無理してる所がありました。
なので少し時間を頂きたいと思います。
今後の話の流れとか、設定とかをしっかり練り直す時間です。
帰ってきてからはまた週1更新をしていきます。

次回の更新予定は....年内には帰ってきます。

感想、お気に入り登録などして頂けると、作者が大変喜びます。

最後までお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。


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st.7 運搬作業と戦闘準備

お久し振りです。無事に帰ってきました。
今日からまた更新していこうと思いますのでよろしくお願いします。

※重要
この作品は旧名「国栄の英雄-----よりもちょっと前の話」です。
12/27を以て「対魔法国家建国記/生存園を確保する為に国を作ります/」に変更しました。


では今回もどうぞ!


絢香に依頼され、とりあえず足回りの準備だけ終えた俺は、絢香に指定された集合場所である設営地中心の広場に辿り着く。俺が準備運動を兼ねて身体を動かしながら辺りを見渡していると、丁度広場の中心辺りに絢香らしき人影と、大きな荷物を背負った何人かの人影を見つける。俺に気付いたらしい絢香は、小さくこちらに手を振って、目の前の女性の方へ向き直る。

俺が少し小走りでそこに向かうと、どうやら二人は言い争い...と言うほどの物でもないが、何やら揉めている様だった。

 

「準備終わりましたよ。」

 

「冬夜、貴方だったらどうする?」

 

...?唐突な質問に、俺は首を傾けて静止する。何の話?と口に出そうとした所で絢香の前に立っていた皆と同じ様に大きな荷物を背負った女性が付け足す様に話し始める。

 

「今回の目的は、山上までへの道の確認と、拠点...ないしは集落などの設置用の設備や資材を運ぶ事なんですよ。ただ...」

 

「替えが利きにくい様な物もあるの。仮に何らかの問題が発生して損失したら大きな被害になる」

 

設備や資材ねぇ...。替えが「利きにくい」ってだけだし、良いと思うけど。それに---

 

「俺は置いておいても良いと思うよ。まず大きな布でも被せておけば動物に襲われる事は無いだろうし、それに、『索敵』として安全を確保できるなら命より大切な物は無いよね?後は、詩織姉に確認取らなくて大丈夫?」

 

現在の総指揮を執っているのは詩織姉だ。彼女ならスケジュール管理はしっかりしているだろうし、絢香の考えも織り込み済みの可能性は高い。絢香が詩織姉にどう伝えたかは分からないが、少なくとも皆が持っている荷物分の運搬くらいは伝えている筈だ。そもそも運搬役は詩織姉が選んだって言ってたし、詩織姉は多分準備として置いていく事を想定しているのではないかと思う。そういった事も含んだ意味での確認だったのだが...

 

「...そう。分かった。」

 

絢香は小さくそう呟くと、他の運搬役の者の所へ向かう。多分説明してるんだと思う。

 

「冬夜の言う事は聞くんですから...」

 

絢香が離れると同時に同じ様に呟く言い争っていた女性。そんな彼女に「そんな事無いと思いますよ」とだけ伝え、ついでに長が変わった旨を伝える。彼女の驚きを余所に、俺も絢香の所へ道の確認や目的、状況の確認などをしに行く。

様々な確認が済んだ後、俺達は本当の居住地帯を求めて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が出発した様々な事に利用される広場から例の山まではそんなに距離は無く、俺が話しながら先頭に向かう頃には既に先頭集団とも言うべき人々(と言ってもそこまで人数は居ないが)は登山道の入り口に差し掛かる所だった。

俺はそんな彼らの前に行くと、先程の調査で得た地図や、荷物の運搬役に選ばれた調査隊の者に尋ねながら彼らを先導する。俺の随伴の目的は彼らの先導だが、俺はもっと色々な事を警戒していた。例えば道が無かったりだとか、山に住む動物に襲われたりや、考えたくは無いが...人に襲われたりなどだ。道が無い場合用に多少の崖なら俺は上れるし、人や動物の撃退方法も考えてある。だが先程の過去形が示す通りに、警戒していたそれらが起こる事は無く、今のところ平和な登山で済んでいる。道は舗装されているとまでは言わないものの、充分人が歩ける物がずっと続いているし、動物や人に至っては姿はおろか気配すらも感じられない。それはこの山全体が「死んでいる」とかそう言った意味では無くて、ただ単純に俺達を襲う様なそれらが見えないだけである。警戒を解くつもりは無いが、それでも想像よりも楽な道のりを歩いている事は否定できなく、後ろに続く運搬役の彼らの中でも和やかな雰囲気が流れ始めている。これが続く事を祈りながらも、俺は目的の場所を目指す。

 

 

 

 

 

 

無事に目的の場所に辿り着いた俺が最初に思った事は、「運が良い」だった。何が危ない場面とかがあったわけではなく、純粋にここまで上手く事が運んだ事自体が運が良いと、そう思った。俺がそんな事を思っている間にも、運搬役の皆はそれぞれ自分の荷物を降ろし始める。

 

「絢香さーん!これらは何処に置いたらいいですかー?」

 

「それは...こっちかな。そっちはもう置けないし」

 

絢香や皆がそれぞれ用途毎?に荷物を分けてる中、俺はここからの景色を楽しむと同時、志久兄と詩織姉の二人は何してるかな、と見当違いな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方冬夜に「詩織姉」「志久兄」と呼ばれる二人...空崎 詩織と海月 志久は志久の頼みであるとある目的の為の人材収集をしていた。

 

「最低限『これ』が見えなきゃ話にならない。一対多の戦闘になる事が多くなると思うからな。大人数を用意できるのであれば、武器に頼った人海戦術でも問題は無いが現実はそう甘くない。ここまではいいか?」

 

「うん。それで?見える人の当てはあるの?」

 

志久は私には見えない物を判定基準として使うらしいけど、私に見えないんだから協力も何もあったもんじゃない。私は一つの質問を投げる。

 

「『ある』。というか全員調べてある。これがそのリストだが、詩織にはここから二種類の条件を参考に人を絞って欲しい。」

 

そう言って渡された名簿に目を通した私が一番最初に抱いた感情は「圧巻」だった。私の知りうる全員の名前と、それぞれの対応が細かく記されていた。私はパラパラとそれをめくりつつ、内容を端的に頭に入れる。失礼だとは分かっているが、視線を向けながら再度質問を投げる。

 

「二種類の条件って?」

 

「まず『決められた役職を与えられてない者』。これは絶対だ。戦闘要員だからな、特定の仕事がある者は起用したくない。同様の理由で建設方面に詳しい者も省いてくれると助かる。

もう一つは『強い意志がある者』。なんでもいいんだ、誰かを守りたいだとか、復讐したいだとか。とにかく『やり遂げる』という強い意志と、『ある決断』を支える『精神』が必要になる。」

 

「ある決断?それってどんな----」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩織との話し合いから数分が経過し、詩織にリストアップして貰った名簿を手に、俺は「戦闘部隊」の編成を始めていた。相変わらずの正確かつ速い仕事だ。条件に合致した人物は俺と冬夜を合わせて十五人、多く集まったほうだろう。俺は彼らに声を掛けて回り、説得なども挟みながらなんとか全員の賛同を得た所だ。まずはあの時の冬夜と同じ様に基本的な事項から教えていくが...まぁ冬夜のケースが特殊だっただけだな。一日二日で出来るなんて思ってはない。人に物事を教えるのは苦手なんだけどな、と零しながらも、俺は彼らを全員一定の場所に集めて、授業を始める----

 

 

 

 

 

志久の頼みを聞き終わり、私は絢香達の帰りを待っている間、ついさっき急を要する問題に格上げされた一つの問題について考える為、暇を持て余してる人に声を掛けて回っていた。

...暇なら人手不足の所に入って欲しいんだけどな。何をするにも人手は足りないし。でも今回は色んな意見が聞きたかったから、丁度良かったとも言える。

何について聞いて回ってるかというと、ここが襲われた時の防衛設備について。志久が戦闘部隊を作ってたみたいに、国の方でも考えて行かなきゃいけないのが襲われた時の事。これからは今までの様に逃げる訳にはいかないしね。

集まった意見は山上の場合と、このままここに建国する場合の二種類に分かれてる。これらを整理し、組み合わせて絶対不落の城(?)を建てるのが目標かな。ただ一つ、今すぐにでも取り掛かった方が良い意見が出たから、それは進めておきたいんだけど、これは絢香達待ちな要素が強い。人手的にも場所的にも。

それらを筆頭にした「やらなきゃいけない事」が記された手帳は文字でびっしりと埋まっている。私はそれを見て思わず溜息が零れそうになるものの、すんでの所で抑えて頬をパンパンと叩く。

 

(落ち着いて。今の私は皆の標と言うべき存在。私はしっかりしてないと駄目。)

 

冬夜は皆の前で弱音を吐いたことは殆どない。それは彼が作っていた人格の影響もあるかもしれないけど、多分彼の『強さ』はそういう所にあるんだろうなと思考が逸れる。彼ならきっと、『決断』も迷い無く出来るんだろうけど、それを簡単にやらせる訳にはいかない。それは私達年長者の義務でもあると考えてるし、第一しなくていい決断をさせる必要はない。

 

(頑張らないと。とりあえずは仮設家屋の設立が一番の急務か。)

 

私は気持ちに整理をつける。何時までもサボってる訳にもいかないしね。私は頭の中で設営地の地図を浮かべ、各場所の動きを考えながら人手の足りなさそうな所に向かう。

絢香達の遠征組が帰ってきてからは多くの案件が動き出す為、今出来る事はなるべく多く終わらせておきたい。

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
評価、感想など待ってます。大変励みになります。

少し吹っ切れた所がありまして、とりあえず書く事にしました。
次回から本格的に動き出す予定です。(なんか毎回言ってる気がしますが)

次回の更新は一週間以内にはしたいと考えてますが、年末は何があるか分からないので明言は出来ません...申し訳ないです。
名前を見かけたら見てくれると嬉しいです。

次回もお楽しみに!


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