オーバーロード~不滅の心臓~ (ノック)
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不滅の心臓、現る

DMMO-RPG「ユグドラシル」。

 

北欧神話を題材としたファンタジー系オンラインゲームだ。

 

仮想現実世界で冒険やモンスター討伐など、自由に楽しめるゲームだ。

 

その可動年数は12年。

 

だが、その歴史に幕が下ろされる事が決定した。

 

「ユグドラシルが、終わる?」

 

そう呟いたのはモモンガ。

 

ユグドラシルの廃課金プレイヤーだ。

 

そんな彼はユグドラシルでは、「魔王」や「非公式ラスボス」と言われるユグドラシル最強最悪のギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長だ。

 

「嘘だろ・・・」

 

彼の種族は死の支配者(オーバーロード)というアンデッド系の最高位種だ。

 

瞳がある場所に真っ赤な光が灯った白骨死体をイメージすれば分かり易い。

 

「・・・・」

 

モモンガが目を手で覆い、項垂れていると警告音が鳴り響いた。

 

「なんだよ、侵入者・・・?」

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド拠点「ナザリック地下大墳墓」。

 

かつて1500人のプレイヤーたちの侵攻を跳ね返したユグドラシル最高の拠点だ。

 

そこへ、何人ものプレイヤーが侵入し、その命を散らしてきた。

 

とは言っても、大侵攻後は疎らになっているから、侵入者は珍しい。

 

「・・・・あ、死んだ」

 

どうやら、ただの馬鹿か初心者だったようで、第一階層のデストラップに引っかかってすぐに死んだ。

 

ポーンッ

 

それと同時にポップ音が鳴った。

 

「今のはメール?」

 

コンソールを開き、届いたメールを確認する。

 

差出人は運営だ。

 

「何だよ、終了に対してのお別れイベントの知らせか何かか?」

 

モモンガがグチグチと呟きながらメールを開く。

 

「何々?」

『ギルド拠点での侵入者撃破数が3000人を超えましたので、それを祝ってアイテムを贈呈します。

今後もユグドラシルをお楽しみください』

「さっきの奴で3000人目だったのか。それで何をくれたんだ?」

 

プレゼントを受け取り、アイテムボックスを開く。

 

「ちーっす。モモンガさんいるー?」

「あ、ペロロンチーノさん。こんばんわ」

「こんこん。あれ?どうしたの、それ」

「これですか?」

 

具現化したプレゼントボックスを見るペロロンチーノ。

 

「さっき、ナザリック地下大墳墓で撃破した侵入者が3000人になったんですよ。それを祝って運営が送ってきたんです」

「ふーん?何を送ってきたんだろうな。クソ運営は」

「じゃあ、開けますね」

「うーい」

 

モモンガはプレゼントボックスを開くと、中からデータクリスタルと本が出てきた。

 

「データクリスタルと本?」

「何ですかね。これ」

 

とりあえず、データクリスタルを置いておいて、本を開く。

 

「なんて書いてあるん?」

「えーと・・・名前:コア・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。概要:世界級アイテム。二十の一つ・・・・ふぁっ!?」

「二十!?」

 

世界級アイテム。

 

その名の通り、一つの世界と同等の価値を持ち、公式チートと言われるゲームバランスを崩壊させるアイテムだ。

 

その数、全部で二百。

 

その内、使いっきりだが他の世界級アイテムとは一線を画すのが二十だ。

 

「こ、効果は!?」

「え、えーと!使用方法はギルド武器と融合させること。効果は、NPC制作可能レベル10倍。拠点データ量無限化。ギルド拠点維持費無料化。NPCのギルメンに完全服従化。システム・アリアドネ対象外化。拠点のあるワールド内であればどんな場所にだろうと何度も移転可能。他にも滅茶苦茶いっぱいありますよ!」

「流石二十!ありえない効果ばっかりじゃねぇか!」

 

それもそうだろう。

 

運営としても、手に入れられるギルドがあるとは思ってもいなかったのだ。

 

このアイテムの取得条件は、ギルド拠点を踏破されたまたは壊滅したギルメンがギルドに所属したことがない事。

 

ギルド拠点のNPC製作可能レベルが2000以上であること。

 

ギルメンの人数が常に最大数の半分である50人以下であること。

 

ギルド武器の能力がある一定以上であること。

 

そして、ギルド拠点で侵入者を3000人撃破することだ。

 

到達出来そうで出来ない数字である3000人。

 

それほどのプレイヤーの屍の上に立つことで手に入れられるアイテム。

 

そんなに攻められて存在し続けられるギルドがあるとは思ってもいなかったのだ。

 

そして、その上、幾つもの厳しい条件をクリアできるとも思ってもいなかった。

 

二十の中でも最高の効果を込められたそれは、もし入手できたのであれば最大の賛辞を贈るつもりで、運営に生み出されたのだ。

 

効果はギルドに関する事だけだが、効果だけで言うのなら、最強の世界級アイテムであった。

 

「そ、それでどうしましょう」

「どうするって・・・そりゃ、使うしかないでしょ」

「そ、そうですけど、一応世界級アイテムですし、二十ですし・・・皆さんの意見を聞いてからでも」

「絶対に満場一致で使用に賛成ですって!それに俺ら以外いないでしょ!俺は使うに賛成!モモンガさんは!?」

「え、あ、俺も賛成です」

「はい、可決!ほら、モモンガさん!ギルド武器持って!」

「は、はい!」

 

ペロロンチーノに言いくるめられ、モモンガはギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取る。

 

七つの蛇が絡み合った形の黄金の杖だ。

 

データクリスタルの形のコア・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取る。

 

コア・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに当てると、ポップアップが出現する。

 

使用するかどうかを聞いてきたそれに、Yesのボタンをタッチする。

 

すると、コア・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが消え、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに様々な能力が付与された。

 

データ容量ギリギリまで詰め込んであったはずだが、それを無視してコア・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは使用できた。

 

「・・・・そう言えば、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは世界級アイテムと融合したんですよね」

「そうですね」

「世界級アイテムって壊れないですよね」

「そうですね」

「という事は、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは壊れない?」

「・・・・そう、なりますね」

「・・・・」

「・・・・」

「う、うぉおおおお!!!という事は!持ち出しても何の問題もないってことですよね!」

「ですです!やべぇ!マジでヤベェ!」

 

元々、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは世界級に匹敵するほどの強力な武器だった。

 

だが、ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、破壊されるとギルド拠点が崩壊するのだ。

 

だから、ずっと拠点の奥へ封じ込められていた。

 

破壊できなくなった今、封じ込めておく意味はない。

 

「ま、まずは。移転可能っていうのを試してみましょう」

「で、ですね」

 

ギルド武器を振り、移転の能力を使うと目の前に地図が浮かぶ。

 

「えーと、今はここだから・・・なんだ、この地下空間」

「うへー。それがヘルヘイムの全てかー」

 

ペロロンチーノが珍しそうにそれを見る。

 

「空にも浮かばせる事とかできるんですかね?」

「やってみます?」

「みましょう」

 

ペロロンチーノの呟きにモモンガは応え、何もない空中に拠点を移転させた。

 

「完了しました」

「外、行ってみますか」

「そうしましょう」

 

そう言い、二人は指輪を使用した。

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

転移を規制しているナザリック地下大墳墓の中を、一部の例外を除いてどんな所だろうと無限に転移できるアイテムだ。

 

そのアイテムを使い、表層に移動した二人は歓声を上げた。

 

「うぉおおおお!」

 

ペロロンチーノはバードマンの特性である翼による飛行を行って、ナザリック地下大墳墓の周りを飛ぶ。

 

「すげぇ!すげぇ!異空間から表層だけが出てて、他は外から見えない感じになってる!」

「凄いですねそれは!」

 

二人はわいわいきゃっきゃっと騒ぎ、手に入れたアイテムの能力で遊びだした。

 

 

 

「此処、だったはずだ」

 

ナザリック地下大墳墓の跡地。

 

そこに一人のプレイヤーがいた。

 

プレイヤーの名はウルベルト・アレイン・オードル。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバーで、今は引退した身だ。

 

ギルドからも脱退したので、ホームポイントはヘルヘイムの異形種の始まりの街となっていた。

 

そこから移動して、何とかやってきたらギルド拠点が消滅していた。

 

「おかしいだろ」

 

ウルベルトはそう呟き、考える。

 

ギルドが敗北し、ギルド武器が破壊された。

 

違う。拠点は崩壊するが、元はダンジョンだったナザリックは消滅しない。

 

なら、何故ない?

 

ウルベルトはフレンドリストを開き、ログインしているであろう人物のログインを確認する。

 

案の定、ログインしていた。

 

ついでにかつての仲間の一人もだ。

 

伝言を使用して連絡する。

 

『もしもし、モモンガさん?』

 

 

 

『もしもし、モモンガさん?』

『その声・・・ウルベルトさんですか?』

『あぁ。そうだ』

「どうした?モモンガさん」

 

突然固まったモモンガに首をかしげるペロロンチーノ。

 

「ペロロンチーノさん、ウルベルトさんです。伝言でチャットが来ました」

「おぉ、ウルベルトさんか!」

「ウルベルトさん、聞いてください!」

 

そう言い、モモンガは興奮しながらウルベルトに手に入れたアイテムの事を話した。

 

 

 

「マジか」

 

ウルベルトは唖然としながらモモンガの話を聞いていた。

 

二十の一つを手に入れたことは喜ばしいことだ。

 

だが、その能力は常軌を逸したものだった。

 

少し考えてもわかる。

 

どんな相手だろうと落とす事のできない難攻不落の要塞を生み出せるアイテムだったのだ。

 

「それで、今はどこに?」

『謎の地下空間にいます。多分、隠し鉱山かと』

「マジか」

 

ヘルヘイムに隠し鉱山があるとは思っていなかったので驚くウルベルト。

 

『探索は下見程度で、そろそろ帰ろうと思っていたので戻りますね』

 

そうチャットが来ると同時に、目の前にナザリック地下大墳墓が出現した。

 

「ウルベルトさん、お久しぶりです」

「あ、あぁ。久しぶり、モモンガさん」

「おひさー。ウルベルトさん」

「あぁ、そうだな。ペロロンチーノ」

 

こうして、ギルドメンバーのほとんどが引退したギルド「アインズ・ウール・ゴウン」。

 

それがまた最盛期へと向かって動き出した。



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終焉と始まり

「こんばんわ、皆さん」

「うーっす」

「こんこん」

「こんばんわ」

 

モモンガがログインすると、既に全員が揃っていた。

 

今日はユグドラシル最終日。

 

モモンガが手に入れた二十をきっかけに、メンバーは少しずつだが戻ってき始めた。

 

そして、ついには全員が戻ってきたのだ。

 

隠し鉱山から超超超希少金属を掘り尽くしたり、新たにNPCを大量に作ったり、大規模な模様替えをしたり。

 

ヘルヘイムの隅から隅まで冒険し尽くし、最終日を迎えた。

 

「いやー、今日で終わっちゃうなんて・・・一度引退した身ですけど、なんとなく寂しいもんですね」

「そうですね。はぁ、もっと遊びたかったな」

「だったら、また別のゲームで集まって遊ばない?」

「あ、それいいですね。三日後くらいに仮想集会所に集まりましょう」

「集まれなくても、メールでやり取りすればいいしね」

「おいおい。まだ終わってないだろ。ほら、ギルド長も呆れてモノも言えないって感じだぞ?」

 

急に話を振られ、モモンガは「え?」と声を漏らし、ギルメン全員の視線がモモンガに集まる。

 

「あれ、モモンガさん怒ってる?だったらごめん!まだユグドラシル終わってないもんね!」

 

終わった後の事を話していたギルメンが謝ってくる。

 

それにモモンガは両手を振って「いやいや」と言う。

 

「怒ってませんよ。ただ・・・」

「ただ?」

「最終日だっていうのに、こうして皆さんと話せるのが嬉しくて・・・少し前まで、俺一人・・・たまに一人ログインしてくれるだけでしたので・・・最終日もこうして一人で迎えるのかなって・・・あ、いや、責めてる訳じゃないんです。引退したのだって、皆さんなりの事情があるって知ってますし」

 

そう言うと、ギルメンたちは震え出し、鼻を啜る音が聞こえ出す。

 

「ご、ごめんねぇ。ごめんねぇ」

「モ、モモンガざん!ごめんなさい!寂しい思いさせてごめんなさい!」

「誰だ!モモンガさんにここまで寂しい思いをさせた奴!俺らだ!」

「抱きしめたいけど、ハラスメントでBANされる!くっそぉ!」

「おぉおおおお!」

「え、あの、皆さん?落ち着いて。落ち着いてください」

 

乱舞するギルメンたちを落ち着かせるモモンガ。

 

そして、それから今までの思い出を話し始める。

 

気づけば、終了30分前だった。

 

「皆さん、最後は玉座の間で終わるってのはどうでしょう」

「いいですね。行きましょう」

「じゃあ、行こう行こう」

 

壊れることのないギルド武器を持ち、モモンガたちはナザリック地下大墳墓の最奥部。

 

玉座の間へと向かった。

 

途中で執事のセバスと戦闘メイド「プレアデス」たちを引き連れ、玉座の間にたどり着いたギルメンたちはわいわいと話し始める。

 

「やっぱり此処は手が込んでるね」

「でしょでしょ。デザイナーたちが頑張ってくれたんだよな」

「マジで死ぬかと思ったよ。あの時は」

 

豪華絢爛の玉座の間を作った時の事を思い出して話し始めるギルメンたち。

 

「ん?」

「あれ?」

「どうしました?」

「いや、アルベド・・・」

真なる無(ギンヌンガガプ)・・・」

 

全員が最高位NPCである守護者統括アルベドが握る黒い短杖へ視線を注ぎ、そして製作者であるタブラ・スマラグディナへと向けられた。

 

「・・・・・・テヘッ★」

「何がテヘッ★だ!るし★ふぁーか、この野郎!」

「世界級が六十個あるにしても、無断はいけませんよ!」

「PVPを申し込んだろか!」

「ちょい待ち。俺って、罵倒言葉なの?」

「今までの所業を省みろ!この問題児!」

「・・・・・・テヘッ★」

「ほら見ろ!るし★ふぁーじゃねぇか!」

 

ぎゃいぎゃいわいのわいのと騒ぎ出すギルメンに、冷静なメンバーたちはため息を付く。

 

モモンガは無言で巨大な水晶から切り出したような玉座に座り、ギルド武器で床を叩いた。

 

甲高い音と共に、騒いでいたギルメンたちが静まり返る。

 

「騒々しい。静かにせよ」

(((非公式ラスボス!魔王モードキター!)))

 

ギルメンたちはすぐにモモンガのロールに付き合うために跪く。

 

「申し訳ございません、我らが王よ」

「偉大なる御方の前で騒いだ者は、後で私どもが仕置しておきます故・・・どうぞ、お許しを」

 

冷静だったギルメン───ぷにっと萌えと死獣天朱雀がそう言うと、モモンガは頷く。

 

「我が友、ぷにっと萌えよ。かの報告を頼む」

「はっ・・・様々な対策をして参りましたが、もうまもなくユグドラシルは消滅します」

「そうか。もはや避けられぬか」

 

モモンガは残念そうにそう呟くと、立ち上がった。

 

「かつて1500人の大軍勢を退けた我々でさえも、世界の滅びの運命を覆すことはできなかった。だが、これだけは言っておこう」

 

ギルド武器スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げ、モモンガは宣言した。

 

「世界が滅びようとも!我らアインズ・ウール・ゴウンは永久に不滅だ!歌え!我らが友たちよ!叫べ!我らが友たちよ!願え!我が友たちよ!我らを称えるあの言葉を!」

「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」」」

 

ギルメンたちがそう叫び、その直後、ユグドラシルはサービスを終了した。

 

 

 

「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」

「「「「・・・・・はい?」」」」

 

そして、世界が始まった。



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困惑と捕縛

声の方を見ると、そこには涙を流すセバスと「プレアデス」の面々。

 

モモンガは隣に立つアルベドを見て、同じように涙を流しているのを見て顎が外れんばかりに口を開いている。

 

「え、なに。どういうこと?」

「サービス終了はドッキリでしたー・・・とか?」

「いや、お前じゃあるまいし・・・」

「大々的に宣伝してましたし、それはありえないかと」

「もしくは、ユグドラシルⅡに強制移行とか」

「ありえない・・・とは言い切れない運営が怖い」

「いやいやいや、それ以前にNPCが涙を流すとか色々とありえない事が起きてますよ」

 

ギルメンの言葉に全員がそれに気づいた。

 

NPCにまるで生きているかのように表情があり、涙を流していること。

 

そして、匂いなどもあることに。

 

「セバス!」

「はっ!」

 

モモンガの声が響き渡り、全員がそちらに目を向ける。

 

「プレアデスを一人連れて、外を探索せよ!時間は二時間。範囲は周囲一キロだ!残りのプレアデスは第十二階層へ上がり、侵入者を迎え撃て!行け!」

「「「はっ」」」

 

セバスとプレアデスたちが玉座の間を去り、モモンガはアルベドに目を向ける。

 

「アルベドは玉座の間に第四・第八・第十一階層守護者を除く全守護者たちを集めよ。時間は二時間後だ。真なる無は置いていけ」

「畏まりました」

 

アルベドから真なる無を受け取り、モモンガは頭を下げて玉座の間を出るアルベドを見送り、ようやく息を吐いた。

 

「はぁー・・・緊張した」

「お疲れ様です、モモンガさん」

「あぁ、ぷにっと萌えさん」

「的確な指令でしたよ」

「ありがとうございます」

 

ぷにっと萌えに言われ、モモンガは照れくさそうに頭を掻く。

 

「さて・・・まずは、モモンガさんがお疲れのようなので、此処からは私ぷにっと萌えが進行を務めさせていただきます。異論はありますか?」

 

ぷにっと萌えがそう言うと、ギルメンから異論の声はなく「賛成」や「ぷにっとならオケ」など賛同の声が聞こえた。

 

「では、まずはペロロンチーノさん」

「はーい」

 

ペロロンチーノが手を上げる

 

「18禁用語をシャウトしてください」

「よっしゃ来た!・・・・はい?」

「18禁用語をシャウトしてください」

「え・・・あ、はい」

 

二度の有無を言わさない言葉に、ペロロンチーノは押されて息を吸う。

 

「ち○○!」

「うわっサイテー」

「ほんとほんと」

「愚弟が・・・」

「うわぁ・・・」

「いや、もっとオブラートに包めよ」

 

ギルメンから引き気味の声が出て、ペロロンチーノが膝をつく。

 

「やっぱりダメですかー」

 

ぷにっと萌えは予想していたのかため息を付く。

 

「え?どういうこと?」

「いえ、ペロロンチーノさんがBANされても文句の言えない言葉を言ったのに存在し続けている。つまり、これはゲームではない可能性が高いです」

「あぁ、確かに」

 

ギルメンが項垂れるペロロンチーノを見る。

 

「そして電脳法で禁止されている匂いも感じる。突拍子のない───いえ、ありえない───話ではありますが、ゲームが現実になった可能性が高いです」

「「「・・・・・」」」

 

ギルメンたち全員が黙る。

 

「結論を出すのは後にしましょう。まずは検証をしましょう」

 

モモンガの言葉にギルメンたちが我に返る。

 

「まずは身を守るためにスキルや魔法が使用可能かどうか。後はフレンドリーファイヤが解禁されている可能性もあります。その次はNPCが敵になり得るかどうか。コア・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効果の中にNPCの絶対服従がありましたが、アイテムの効果がちゃんと発揮されているかも不明ですのでそっちも確認しましょう」

「・・・・そうですね。そうしましょう」

 

ぷにっと萌えも頷き、様々な検証を行う。

 

それによって、スキルや魔法は使用可能。

 

フレンドリーファイヤ解禁。

 

アイテムも使用可能という事が分かった。

 

「とりあえず、身を守る位は出来ると分かりましたね」

「そうすると、NPCは絶対服従なのか?」

「いや、そう思うのは早計だろ」

「そう思って寝首を掻かれちゃ世話ないしな」

「そろそろ時間ですね。皆さん、階段を上って整列してください」

「うーい」

「りょっ」

「へーい」

 

ギルメンたちが階段を上り、玉座の隣に並び立つ。

 

その数分後、玉座の扉が開かれ、階層守護者たちが入ってきた。

 

入ってきたのは八つの異形の者たち。

 

それらは玉座の階段の目の前で立ち止まった。

 

「皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

まず最初に前に出て跪いたのは銀髪紅眼の美少女。

 

「第一・第二・第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。御方々の前に」

 

次はコバルトブルーの甲殻を持つ虫の異形。

 

「第五階層守護者コキュートス。御方々ノ前ニ」

 

次は金髪に左右の瞳が違う闇妖精(ダークエルフ)の男装少女と女装男子。

 

「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。御方々の前に」

「お、同じく第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御方々の前に・・・」

 

次は三つ揃えのスーツに浅黒い肌の悪魔。

 

「第七階層守護者デミウルゴス。御方々の前に」

 

次は全身真っ黒の歌舞伎における黒子のような服装の存在。

 

「第九階層守護者ノウ。御方々の前に・・・」

 

次は茶髪に青い瞳の騎士風の美女。

 

「第十階層守護者アイン。御方々の前に」

 

次は黄金色の戦隊ヒーローなどで怪人として出てきそうな者。

 

「第十三階層守護者ディバイン。御方々の前に」

 

そして最後はアルベド。

 

「守護者統括アルベド。御方々の前に。第四階層守護者ガルガンチュア、第八階層守護者ヴィクティム、及び第十一階層守護者イルミスールを除き、各階層守護者御方々の前に平伏し奉る。御命令を、思考なる御方々よ。我らの忠義全てを、御方々に捧げます」

 

全員が跪き、頭を下げ続けている。

 

「・・・・面を上げよ」

 

モモンガが許可を出し、全員が頭を上げる。

 

「まずは集まってくれたことに感謝をしよう」

「感謝などもったいない!我らは思考の御方々にこの身を捧げた者たち。至高の御方々にとって、取るに足らない者でしょう。しかしながら、我らの造物主たる至高の御方々に恥じない働きを誓います」

「「「誓います」」」

 

それらを見て、反抗はないと判断してモモンガは頷いた。

 

「素晴らしいぞ!守護者たちよ!お前たちならば、失態なくことを運べると強く確信した!」

「「「おぉ・・・!」」」

「それでだ。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に巻き込まれている。何かしらの予兆やそれに気づいた者はいるか?」

 

モモンガの言葉に全員が首を振る。

 

「そうか。であるなら・・・」

 

モモンガの言葉の途中で玉座の間の扉が開かれる。

 

守護者たちが殺気を込めて扉を開いた者を睨み付けるが、モモンガが杖で床を叩く。

 

「よい」

 

その言葉で殺気は消え去る。

 

入ってきたのはセバスだ。

 

セバスは玉座の間に入り、守護者の隣に跪いた。

 

「遅くなり、申し訳ございません」

「よい。それで、外はどうだった」

「はっ。かつてナザリック地下大墳墓があった沼地とは全く異なり、草原でした」

「何?」

 

ギルメンたちがざわつくが、すぐに静かになる。

 

「続けろ」

「はっ。周囲一キロに人口建築物、人間などの知的生命体、モンスターの類の存在は一切確認できませんでした。空は夜空が広がっており、何かが浮いているということもございません」

「・・・・そうか」

 

モモンガはそう呟くと、考え込む。

 

「どうやら、何らかの原因でどこか不明のちに転移してしまったようですね」

「となると、警備を厳重しないとな・・・」

「隠蔽に関しては、コアを使えば問題ないだろうけどな」

「外にどんな存在がいるかも分からない今じゃ、大規模調査は出来ないしな・・・」

「どうするべきか・・・」

 

ギルメンたちが声を出して話し出す。

 

モモンガは何かを思いついたのか頷いた。

 

「スーラータンの意見を採用しよう。デミウルゴス、アルベド、アインの三名で階層守護者語社内の情報共有システムをより高度にし、警備のレベルを最高レベルまで上げよ」

「「「はっ!」」」

「次にニグレドとぬーぼーに魔法を使用して周辺を探索をさせよう。それまでは我々の許可無く外はもちろん表層部に出るさえ禁止だ。無論、これはギルメンたちにも適用される」

「「「はっ!」」」

「仕事を与えられていないものは、任せられている階層に異変が起きていないかを調査。デミウルゴスとアインの階層は副官に命じよ」

「「「はっ」」」

「では、仕事に戻れ」

 

モモンガの言葉で階層守護者たちは立ち上がり、一礼してから玉座の間を出る。

 

「・・・・・・うへぁ」

 

その直後にだるんっと力を抜くモモンガにギルメンたちは賛辞を送る。

 

「モモンガさんマジ魔王!」

「痺れたぜ・・・」

「さっすが我らがギルド長!」

「素晴らしい采配でしたよ」

「うんうん。すごかったよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

モモンガはお礼を言うと、姿勢を正して立ち上がる。

 

「とりあえず、これでNPCが反乱することはないと思います」

「だね。やっぱりコアの効果は発動してるから大丈夫だね」

 

うんうんと頷くギルメン。

 

「さて、これから忙しくなりますよ。円卓の間に移動して話し合いましょう」

「だな」

「指輪を使おうぜ」

「んじゃ、先に行ってまー」

 

先走ったギルメンたちが指輪で円卓の間に転移する。

 

「全く、気が早い人たちですね」

 

ぷにっと萌えはそう呟き、自分で転移した。

 

「待たせたら暴走するでしょうし、皆さんも行きましょう」

「りょうかーい」

「て・ん・い!」

「失敗したら壁に埋まったり・・・」

「怖いこと言うな!」

 

そして続々と転移していく中、最後に残ったモモンガは誰もいないことを確認して、自分も転移した。

 

 

 

「さて、それではぬーぼーさん。お願いします」

「はい」

 

探知魔法を使用し、ぬーぼーは外の光景を水晶の画面(クリスタル・モニター)に映す。

 

「ふむ。確かに草原のようですね」

「となると、遮蔽物がないから丸見えですね」

「幻術を使いますか」

「表層部分にだけかけて、後は移転先しだいだな」

「素晴らしい!」

 

一人のギルメンが突如叫んだ。

 

そのギルメンを見て、全員が納得した。

 

「汚染されていない自然が広がってるじゃないか。素晴らしい、素晴らしいぞ」

「確かに素晴らしいことですね。でも、今は耐えてください。安全が確認できたら許可しますから」

 

モモンガにそう言われ、叫んだギルメン───ブルー・プラネットが「むぅ」と言って大人しくなる。

 

「ぬーぼーさん、生物は探知できますか?」

「んー・・・あ、ナザリックのすぐそばに凄い一杯いますね。後は南西に10kmくらいの所にも」

 

探知魔法を使用したぬーぼーが報告して、水晶の画面にそれを映す。

 

「も、森!」

「どうどう。ブルプラさん」

 

また興奮しだしたブルプラをギルメンが嗜める。

 

「森はいいです。南西に10kmの所を」

「はーい」

 

そして映ったのは小さな寒村。

 

「文化レベルは中世だね。うーん、ぬーぼー君、家の中が見たい」

 

最年長の死獣天朱雀がそう言うと、ぬーぼーは魔法で感覚器官を作って家の中を覗く。

 

「ランプがある。中世にはなかったはずだし・・・うーん。ちぐはぐだね」

「つまり、我々のような存在がいると?」

「その可能性が高いね」

 

死獣天朱雀の言葉に、ギルメンたちは警戒すべき相手を見据える。

 

「警戒すべきは、プレイヤーとこの世界特有の強者。後はいるならドラゴンですかね」

「いや、もしかしたらこの世界の平均レベルが1000とかかもしれないですよ」

「もしそうなら、俺らマジ雑魚じゃん」

「うわー。それは困る」

「最優先にすべきなのはこの世界の平均的な強さを調べる、ですかね」

「そうなりますか」

「では、採決を取ります。この世界の平均的な強さ。可能であれば最高位の強者についても調べる。これを目下の最優先事項にすることに賛成の人」

 

全員が手を上げる。

 

「では、可決です」

 

基本方針を固め、ギルドメンバーたちは少し話し合った後、数日は自由時間として───ほとんどは私室を整理するために───解散した。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓第十二階層。

 

「フンフフ~ン♪」

 

ロイヤルスイートと呼ばれる階層は、ギルメンの私室や娯楽施設などで構成された階層だ。

 

その一室。

 

ギルメンの私室の一つで、それは一般メイドと呼ばれるレベル1のNPCに手伝ってもらいながら部屋の物を整理していた。

 

この部屋の主の名はるし★ふぁー。

 

至高の問題児であり、それはギルメン大好きなモモンガですら「正直あまり好きではない」と言わしめる程だ。

 

「るし★ふぁー様、これはどちらにしまいましょう」

「ん?あ、それはそっちに置いといてー」

「畏まりました」

 

るし★ふぁーに言われてメイドは言われた場所にそれを置く。

 

「お、あったあった」

 

整理のはずが、いつの間にか何かを探すことになったようで、るし★ふぁーはそれを取り出した。

 

「後は適当に片付けといて」

「畏まりました」

 

そして、それを持って私室を出て行った。

 

 

 

食堂。

 

「うめぇ・・・」

「何という美味しさ・・・」

「こんなに美味いものがあったとは・・・」

 

ギルメン三人が食事をして、そのあまりの美味しさに恍惚としていた。

 

「もがふががっ」

 

口いっぱいに含み、一心不乱に食べているギルメンもいる。

 

「ぶとうの風味と甘味を強く感じる。素晴らしいワインだ」

「この日本酒も味わい深いぞ」

 

他にも何人もギルメンがいる。

 

「お、お食事中失礼します!」

 

そこへ、「プレアデス」の一人ナーベラル・ガンマがやってきた。

 

急いでいたのか、肩で息をしている。

 

「どうした?」

「た、たっち・みー様とぷにっと萌え様が!」

「たっちさんがどうしたって?」

「ぷにっとが?」

「とりあえず、息を整えなさい」

「は、はい」

 

ナーベラルは息を整え、もう一度報告した。

 

「たっち・みー様とぷにっと萌え様がご出陣されました!」

「「「・・・・・・はぁ!?」」」

 

 

 

数分前。

 

円卓の間。

 

「うーん。家畜も飼ってないからそんなに余裕のある村じゃないのかな」

「という事は付け入る隙あり、ですか」

「あの、俺ご飯食べに行きたいんですけど・・・」

「あぁ、すみません。もうすぐ終わりますから」

 

死獣天朱雀とぷにっと萌えがぬーぼーを付き合わせ、村の様子を探っていた。

 

「おや、何をしてるんですか?」

「あ、たっちさん」

 

そこへたっちがやって来た。

 

そして水晶の画面の映像を見て目を見開いた───つもり───。

 

そこには、騎士のような者たちが村人を追いかけて虐殺をしているところだった。

 

「これは、どういうことですか?」

「いや何。我々の変化と干渉の最高のタイミングを探っていました」

「つまり?」

「襲われているのを見ていました」

 

ぷにっと萌えがそう言うと、たっちが拳を握る。

 

「何故、すぐに助けに行かなかったんですか?」

「そうですね。正直に言えば、先程までショックを受けていたんですよ」

「ショック?」

「はい。私はこれを見つけた時に「あぁ、これで価値がなくなったから別の村を探さないと」と思いました。人間が殺されているというのに、人間であれば吐いて同然の光景なのに、私が最初に思ったことはそんな損得勘定の物でした」

「私はまるで実験動物を見るかのように冷静に観察していたよ。思ったことと言えば「あ、これは致命傷だな」とか「健康そうな色の内蔵だな」だとかだったよ」

「俺はどうでもよかったです」

 

三人がそう言うと、たっちは拳の力を抜く。

 

「そして、その後も冷静に皆さんの意見を聞こうかと話していたんですよ。それでようやく異常性に気づいて混乱。冷静を保つために論議を交わして、今に至る、です」

「なるほど」

 

学者気質の二人が冷静になろうとしたのなら、論議をかわそうとするだろう。

 

「それなら、私も冷静になるために行動を起こしてもいいですよね」

「「「え」」」

 

アイテムボックスから超位魔法以外を封じ込める魔封じの水晶を取り出し、発動する。

 

封じ込められていたのは、転移門。

 

「あ、ちょっ」

 

止める間も無く、たっち・みーが転移門に入っていく。

 

それを見て、ぷにっと萌えはため息をついて頭をかく。

 

「仕方ないですね。朱雀さん、皆にこの事を伝えるのをお願いしてもいいですか」

「行くのかい?」

「はい。たっちさんなら戦闘は大丈夫でしょうが、交渉になったら私がいたほうがいいでしょう」

「分かった」

「じゃ、よろしくお願いします」

 

ぷにっと萌えもたっちを追って転移門へと入っていった。

 

「やれやれ、皆が怒るのが目に浮かぶよ」

「あ、あのー・・・俺は怒られないですよね」

「あぁ、可能な限り擁護するとも。だけど、ぷにっとさんが行っちゃったからなぁ・・・」

「うぅ・・・俺、ほとんど悪くないのに」

「ごめんね、巻き込んじゃって」

 

そして、ナザリック中にたっちとぷにっと萌えが出陣したことが直ぐに知れ渡った。

 

 

 

「弐式炎雷さんとぶくぶく茶釜さんは私と一緒に!ペロロンチーノさんはウルベルトさんと一緒に完全不可知化して上空で監視を!残りの人は後詰を考えて送り出してください!それと、アルベドに完全武装で来るように伝えておいてください!朱雀さんはたっちさんとぷにっと萌えさんを連れ戻したらお説教ですからね!」

 

モモンガの転移門に五人が入ったのを見送り、ギルメンの一人が口を開いた。

 

「じゃ、私がアルベドに伝えてこよう」

「じゃあ、後詰は我々が考えよう」

 

モモンガの指示に従い、ギルメンたちは動き出した。

 

 

 

「弱い」

 

たっちはそう呟き、村を襲っていた騎士だったものを見下ろす。

 

まるで始めからそうだったかのような綺麗な切り口で死んでいる騎士。

 

「私でも殺せるとは・・・レベル一桁くらいですかね」

 

ぷにっと萌えは騎士たちを植物の蔦のようなもので縊り殺している。

 

此処は村の広場。

 

そこに集められていた村人たちの前で、二人は一方的に殺していった。

 

「ぅ・・・」

 

ぷにっと萌えの持つ騎士の何人かはまだ生きているようで、うめき声を漏らしている。

 

「殺さないんですか?」

「えぇ。鎧を着ている事からどこかの国の騎士なんでしょうが、偽装かもしれません」

「なるほど」

 

たっちはぷにっと萌えの考えに納得する。

 

すぐにでも殺してやりたいところだが、偽装工作の可能性もある。

 

蘇生アイテムは試していないので、殺しても蘇生出来るかどうかも分からない。

 

それなら殺さずに生かしておいたほうがいいだろう。

 

そう思っていると、すぐ近くに黒い闇が出現した。

 

そして、そこからピンク色のスライムと忍者風のハーフゴーレムが現れた。

 

ぶくぶく茶釜と弐式炎雷だ。

 

「大丈夫っぽい」

 

ぶくぶく茶釜がそう言うと、さらに闇の中からそれは現れた。

 

七つの蛇が絡みついたような黄金の杖を持った死の支配者。

 

「言いたいことがやまほどありますが・・・用件は分かっていますね?」

 

我らがギルド長であるモモンガだ。

 

その声は、完全に怒っている時の声だ。

 

滅多に怒らないモモンガが怒っている。

 

それだけで、たっちとぷにっと萌えは少し後ずさる。

 

「すまない。村が襲われているのを見て・・・つい、飛び出してしまった」

「たっちさん一人では色々とマズイと思いまして・・・すみませんでした」

 

頭を下げて謝る二人に、モモンガはため息を付く。

 

「お説教は戻ってからですよ。それで、戦った感じはどうですか?」

「極めて脆弱です。恐らくはレベル一桁かと」

「私でも一方的に殺せたり、捕まえたり出来ていますから、その辺かと」

「なるほど。そいつらが特別弱いという可能性・・・いや、一方的にこの村を蹂躙できるからその可能性は皆無。防御は低いのに攻撃が高いという事は?」

「ないですね。わざと当たったら、逆に剣が粉々に砕けました」

「私は流石に砕けませんでしたけど、概ね同じです」

「ふむ」

 

モモンガは少し考えて、生き残った村人を見る。

 

「本当はもっと後でやるつもりでしたが・・・仕方ないですね」

 

骸骨の顔を晒しながら、モモンガは村人に近づく。

 

村人たちは震えながら、身を寄せ合う。

 

「初めまして、我々は「アインズ・ウール・ゴウン」。私はその長をしているモモンガという」

 

村人は反応せず、ただただ震えている。

 

困ったように首をかしげるモモンガに、ぶくぶく茶釜が突っ込んだ。

 

「いや、アンデッドが自己紹介をしても怖いだけでしょ」

「あぁ、なるほど」

 

モモンガはそう呟くと、たっちとぷにっと萌えを指差す。

 

「我々は彼らの仲間だ。彼ら───特に騎士の方───は正義感が強い人でね。この村が襲われているのを見つけて助けに来たようなんだ。それで、独断で動いたことについてのペナルティは後で話し合うとして」

 

たっちが肩を竦める。

 

「我々は貴殿らの味方だ。我々は貴殿らに害はなさない。それどころか守護しよう」

「そ、それで・・・わ、私たちに何をさせようと・・・」

「心配はいらない。我々が貴殿らに要求することは少ない」

 

要求、と言われて村人たちが息を呑む。

 

どんな要求を求められるのかと恐怖して。

 

「一つ、我々のことを口外しないこと。一つ、我々の質問に全て素直に答えること。一つ、我々と仲良くして欲しい。今の所は以上だ」

「そ、それだけ・・・ですか?」

「今の所は。だが殺したり、怪我をさせたりすることは絶対にしないと約束しよう」

「し、信用出来ません」

 

村長らしき人物がそう言うと、周りを見る。

 

「では、騎士たちを退治した報酬をもらいたい。そうだな・・・生き残っている村人×金貨百枚でどうだ?」

「そ、そのような大金。この村にはございません!」

「そうだろう」

 

モモンガは分かっていると言う風に頷く。

 

「だからこそ、先ほどの要求だ。この様になってしまった村から大金を払えるほど余裕がないことはすぐにわかるからな。ただでも構わないが、そっちの方が恐ろしいだろう?」

 

モモンガが笑い混じりにそう言うと、村長は頷いた。

 

「そ、それでしたら・・・」

「納得してくれたようだな。では、たっちさん、弐式遠雷さん。崩れた家に生存者がいないかどうかの探索を。遺体も掘り起こさないといけないでしょう」

「分かった」

「了解」

 

二人が崩れた家へと向かう。

 

「お待たせしました、至高の御方々」

 

そこへ、アルベドがやってきた。

 

「ぶくぶく茶釜、アルベドに後詰の事を聞いておけ。俺は情報を聞いてくる」

「あ、私も行きます」

 

ぷにっと萌えも付いてきて、村長らしき男の案内で彼の家へと向かった。

 

 

 

「なんじゃそりゃ」

 

モモンガは思わずそう呟いた。

 

ある程度の常識と呼べる知識を教えてもらい、地理について聞いた。

 

その結果、森はトブの大森林。

 

それを中心として、逆さのTの字を書いて区切った三つの国が近隣諸国だ。

 

左が、リ・エスティーゼ王国。

 

今いるカルネ村が所属する国だ。

 

右がバハルス帝国。

 

襲った騎士たちの鎧がそうだ。

 

下がスレイン法国。

 

偽装であれば、この国に決定だ。

 

遠くにもいくつか国があるらしいが、詳しくは知らないらしい。

 

そして、騎士たちの着ていた鎧から、おそらくバハルス帝国の騎士だろうとのこと。

 

「では、人間種以外のことをお聞きしても?」

「申し訳ありません。詳しいことは・・・ですが、この村の南にカッツェ平野という王国と帝国の戦場があり、そこでは常にアンデッドが彷徨っていると聞いております」

 

ぷにっと萌えの問いにそう答えた村長は、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

つまり、周辺以外の場所の情報は知らないということか。

 

あまり使えないと言えなくもないが、知ってそうな人物はそれなりの知能があるだろう。

 

そんな相手に無知を晒すことがなくなったことを考えれば、今回のたっちの暴走も良い事だったと考えるべきか。

 

「では、次に・・・」

 

ぷにっと萌えが質問をしようとした時、モモンガに伝言が繋がった。

 

『モモンガさん。謎の部隊がそっちに向かってる』

『ウルベルトさんですか。数は?』

『四~五十人。武装はバラバラだが、全員同じ紋章がある鎧を着ている。傭兵っぽい。そしてそれを追いかける形で百人近くの魔法詠唱者部隊がいる』

『分かりました。傭兵っぽい部隊はそのまま通してください。魔法詠唱者部隊は一時的にほうっておきましょう。ですが、ペロロンチーノさんに合図をしたら爆撃できるように準備をお願いしてください』

『会うのか』

『えぇ。傭兵っぽい部隊恐らく味方でしょう。魔法詠唱者部隊は敵だと思います』

『分かった』

 

伝言を切ると、モモンガは口を開いた。

 

「村長、部隊がこちらに向かっているようです」

 

モモンガの言葉で村長が目を見開き、震えだし、縋るように此方を見てきた。

 

「ご安心を。仲良くしたいと言ったでしょう?守って差し上げますよ」

 

モモンガがそう言うと、ホッと息を吐いた。

 

「村民を一箇所に集めてください。そして村長は我々と共に」

「は、はい」

 

村長夫人が村中の人々を家に入れ、モモンガたちは村長と共に村の広場に立つ。

 

弐式炎雷は隠密を行って隠れ、たっちとぶくぶく茶釜とアルベドがモモンガとぷにっと萌えの前に立つ。

 

ぶくぶく茶釜が言うには、後詰として隠密系のモンスター三十とアウラとマーレがいるらしい。

 

最悪、勝てなさそうならこの村を捨てなければならないが問題はない。

 

どうせ情報は全て吸い上げた後。

 

出来れば姿を見られていない今のうちに逃げたいが、そうしないのはたっちが嫌がりそうだからしないだけだ。

 

待つこと数分。

 

地平線の向こうから砂煙が見え、そして部隊が見えた。

 

「襲い掛かって来た場合は、殺さずに無力化しろ」

 

アルベドがいるので、魔王ロールを行いながらそう言うと全員が頷く。

 

馬に乗ったそれらは、少し離れた場所で剣を抜いて向かってくる。

 

「はぁ・・・」

 

予想していた事なので、モモンガは遠い目をする。

 

「ぷにっと萌え。指揮は任せた」

「分かりました」

 

ぷにっと萌えが頷き、指示を出す。

 

「たっちさん、ぶくぶく茶釜さんは敵を通さないようにしてください。殺さないのなら倒しても構いません。アルベドはもし二人の壁を突破してきた時の護衛を」

「畏まりました、ぷにっと萌え様」

 

頷く二人とアルベドは、言われたとおりの布陣を取る。

 

「モモンガさん、まずは挨拶をお願いします」

「では、失礼して・・・集団標的(マス・ターゲティング)・睡眠《スリープ》」

「え」

 

ぷにっと萌えが驚きの声を出すが、既にモモンガが複数人に状態異常魔法を放った後。

 

そして魔法は面白いようにかかって魔法にかかった男たちが落馬する。

 

「たっちさん。彼らのレベルを」

「レベル30台が一人。後はレベル10台ですね」

「え」

 

たっちの答えを聞いて、やっちゃった感が否めないモモンガ。

 

『なんで言ってくれないんですか』

『いや、知ってるかなと思いまして・・・すみません』

『いえ、別にいいんですが・・・どうしましょう、攻撃しちゃいましたよ』

『まぁ、話し合えば大丈夫でしょう』

『そんな簡単に行きますか?』

『・・・・大丈夫ですよ、きっと』

 

たっちの言葉を信じ、ぷにっと萌えの凝視に気づかないふりをしてモモンガは口を開いた。

 

「双方、少々誤解があるようだ。話し合わないかね?」

「部下を魔法で攻撃しておいて何を言う!」

 

先頭の男がモモンガを睨んで怒鳴る。

 

ですよねー。

 

モモンガたちはそう思いながら、ぷにっと萌えが咳払いを一つ。

 

「我々は見ての通りの異形種。ですが、我々はこの村の人間を救った者たち。貴方がリ・エスティーゼ王国の兵士なのであれば感謝されど、攻撃を受ける謂れはないと思いますが?」

「何?」

 

先頭の男がたっちたちに隠れるようにして立っている村長を見つける。

 

村長は目が合うと、強く頷いた。

 

「そして、先に攻撃の意思を示したのはそちら。攻撃されるとわかっていながら何もしないというのはおかしな話でしょう?」

「む・・・全員、納刀!」

「ですが!」

「納刀!」

 

全員が男の指示に従い、納刀する。

 

「話し合いの準備が出来ました、モモンガさん」

「うむ」

 

おおように頷き、モモンガが頷く。

 

「初めまして、我々は「アインズ・ウール・ゴウン」。この村が襲われているのを見つけて、助けに来た者です」

 

男は村中を見回して尋ねる。

 

「他の住民は?」

「村長の家に集めてあります。守るのであれば一箇所に固めてあったほうが楽なので」

「なるほど」

 

男は顎に手を当てて少し考えると、馬から降りた。

 

「名乗りが遅れて申し訳ない。私はリ・エスティーゼ王国王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ」

 

村長が「王国戦士長」と呟いたので聞くと、なんでも周辺国家最強の戦士だという。

 

レベル30台で周辺国家最強か。

 

たかが知れているな。

 

そう思っていると、ガゼフが気を付けをした。

 

「この村を救っていただき感謝する。そして、早とちりで無礼を働き、申し訳なかった」

 

そう言い、頭を下げた。

 

「せ、戦士長!」

 

部下から声が上がるが、ガゼフは手を挙げて制止する。

 

「人外だろうと何だろうと、目的がどうであれ救ってもらったのだ。感謝するのは当たり前だろう」

「ほう?」

 

たっちから感心するような声が出る。

 

それはモモンガたちも同じで、このガゼフという男に好感を得る。

 

「そこでお聞きしたい。何が目的でこの村を救っていただけたのだ?」

「数千年前、我々はこの世界を統治していた」

「何?」

 

モモンガの言葉にその場にいる全員が───ぷにっと萌えたちも含めて───驚く。

 

「少々眠りについて、起きたら街が消え、森があり、不愉快なことが起きていた。だから、助けた。そしてその報酬として今の常識などを教えてもらう事と友好関係を築く。これが目的です」

「数千年前・・・気が遠くなる話だな」

「我々異形種には寿命がない。だから我々にとっては瞬きのような一瞬ですよ」

 

モモンガはそう言うと、村の外を見やる。

 

「それはそうと、ガゼフ殿。貴殿はバハルス帝国の騎士がこの辺の村を襲っているから来たのではないですか?」

「その通りだ」

「では、後ろの彼らに見覚えは?」

 

ガゼフたちが後ろを向き、村を囲むように浮かぶ天使たちを見た。

 

「天使・・・スレイン法国の特殊部隊群「六色聖典」か!」

「なるほど。その「六色聖典」とは?」

「詳しくは知らないが、裏で暗躍するスレイン法国の切り札だ」

「では、敵ですね?」

「その通りだ」

「そうですか・・・」

 

そう言い、モモンガはウルベルトに伝言を送った。

 

次の瞬間、空から光の雨が降り、村の外に展開する全ての天使が消え去った。

 

「なっ・・・」

 

更にモモンガはアウラに伝言をし、外に展開する連中を殺さずに捕らえ、数人はこちらに連れてくるように命じる。

 

ナザリックへの輸送はウルベルトの転移門を使うので問題ない。

 

唖然とするガゼフたちを他所に、モモンガは口を開いた。

 

「では、戦士長殿。村長殿の家で今後のことをお話しましょう」

 

 

 

ガゼフを見送り、モモンガは息を吐いた。

 

ガゼフにはスレイン法国特殊部隊の隊員数人と騎士に化けた兵士を数人引き渡した。

 

他は死んだか跡形もなく吹き飛んでお渡しできないと伝えたら、「あれではそうなるだろうな」と苦笑いして頷いた。

 

そして、ガゼフには口止めを依頼し、ガゼフは王などの信頼できる者以外には話さないと誓って王都へと戻っていった。

 

「では、村長殿。我々から復興の支援をしたいのですが・・・」

「よ、よろしいので?」

「もちろんです」

 

モモンガが頷くと、村長は「おぉ」と感激したように崩れ落ちる。

 

「これからは我々が安全を保証します」

「ですが、ですが、我々には貴方がたにお渡しできるものは何も・・・」

「いいえ、たくさんありますよ」

 

モモンガは崩れ落ちた村長の肩を掴んで立たせる。

 

「我々に人としての光を見せていただきたい。眩しいほど綺麗な光を」

「そ、そんなことで・・・」

「えぇ、そんなことでいいんです。何せ我々は異形種ですからね」

 

いたずらっぽく笑い声を漏らすと、村長は泣きそうな顔で笑った。

 

 

 

第五階層「氷河」拷問室「真実の部屋(Pain is not to tell)」。

 

そこの主人は、六本の触手を持つタコの頭部の溺死体のように膨れ上がった白い体の異形。

 

ニューロニスト・ペインキル。

 

ナザリック特別情報収集官。またの名を拷問官だ。

 

ネイルアートを施した四本指で拷問器具を撫でながら、送られてきた愚者たちを眺める。

 

「どれがいいかしらん」

 

全員が動けないように手足を縛られ、猿轡を噛まされている。

 

動かれては厄介だし、舌を噛んで自害など以ての外だ。

 

ニューロニストは、初仕事とも言うべき今回に相応しい相手を拷問するつもりだ。

 

何せ、拷問を見たいと至高の御方々がなんと四人も見学しに来てくださったのだ。

 

あまりお待たせするのも不敬。

 

だが、お見せするに相応しいであろう獲物のヨーコーセーテン隊長は絶対に最初に尋問してはいけないと言われているのだ。

 

他は似たような連中ばかり。

 

「誰がいいかしらん・・・あらん?」

 

悩んでいると、一人だけ異色の人物を見つけた。

 

「ふふふ。いいわねん、その顔ん」

 

小物っぽくて・・・いい声で歌ってくれそうねん。

 

ニューロニストは笑みを浮かべ、それを引っ張り出した。

 

初仕事は大成功。

 

獲物は面白いようにぎゃーぎゃーと騒ぎ歌う。

 

何やら「おがねっおがねあげましゅっ」と歌っていたが、ニューロニストは笑いながら続けた。

 

この世の全ては、至高の御方々の為だけにあるのだから。



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浮かぶ霊廟と胎動

周辺国家最強だというガゼフがレベル30台だと判明した。

 

なので、モモンガは外出の際に必ずレベル70以上のシモベを二体連れて行くのと、行き先と外出を必ずギルメンへ伝える事と名簿にチェックを入れること。

 

外出中は目立つことは絶対しないこと、伝言には必ず出ること、伝言が来ても出られない時はその日のうちに必ず返事をすること、必ず指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)は置いていく等、様々な条件を出し、外出禁止令を解除した。

 

まず最初に外出したのはブルプラだ。

 

名簿が出来るまで待つことにはなったが、待っている間にハンゾウを二体召喚し、名簿が出来るなりトブの大森林に行くと言って、指輪を置いて出て行った。

 

それから何人も外出していった。

 

その後、ブルプラが外出する前に、決めておいたナザリックの移転場所に移転することになり、外出しているギルメンたちに手分けして伝言をしてその旨を伝える。

 

「ブルプラさん了解でーす」

 

最後の一人が終わり、モモンガは頷く。

 

「では、ナザリックを移転します」

 

ギルド武器を握り、コアの力を使う。

 

目の前に世界地図が出現し、場所を指定した。

 

「はい、終わりです」

「え、もう?」

「早くね?」

 

地響きもなにもなく、移転が終わり拍子抜けする一同。

 

「では、外に出て見ましょうか」

 

モモンガの言葉にギルメンたちは頷き、指輪で一瞬で表層に転移する。

 

表層と周囲100m以内はギリギリ外出ではないので、何の問題もない。

 

各々、飛行またはそれに準ずる行為をし、少し離れたところでナザリックを見る。

 

「うん、いい感じですね」

 

転移門のような巨大な黒い渦の中に浮かぶナザリックの表層。

 

眼下には雲海が広がっている。

 

高度12kmに、ナザリックは存在した。

 

「この高度まで来れる生物もいないでしょうし、何の問題もありませんね」

「うん。これなら攻め込まれる心配もないだろうし」

「元あった場所がどうなっているかも確認しないとな」

「それは、ブルプラさんにお願いしようぜ。近くにいんだろ」

「やまいこさんでもいいんじゃね?カルネ村にいるだろ」

「そうするか」

 

ギルメンたちは色々と話しており、モモンガはそれを無言で眺めていた。

 

「どうしました?」

「あぁ、たっちさん」

 

たっちが話しかけると、モモンガは笑みを浮かべた。

 

「もし、一人できていたらどうなっていたんだろうって考えちゃいまして。終了一ヶ月前まで、名実ともに俺一人でしたから」

「モモンガさん・・・」

「でも、今は違う」

 

モモンガは両手を広げて静かに言う。

 

「ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」は誰一人欠けることなく、この世界にいる。中にはリアルに帰りたい人もいるかもしれない。でも、今は・・・今だけはそうだ」

 

いつの間にか静まり返るギルメンたち。

 

「るし★ふぁーさん、ウルベルトさん、ベルリバーさん、ばりあぶる・たりすまんさん。この四人が前に言っていましたよね。世界の一つぐらい征服しようって」

「モモンガさん、まさか・・・」

 

たっちが少し驚いたような、感心したような声を漏らす。

 

「ギルメンが、リアルに帰りたいギルメンが、リアルに帰ったとしても。ずっと誇りに思えるように。アインズ・ウール・ゴウンを永久不変の伝説として名が残るように・・・誰もが成し遂げたのことのない偉業を成し遂げましょう。困難だろうと、何があろうとも、アインズ・ウール・ゴウンなら不可能はありません」

 

モモンガはそこで言葉を切り、息を吸って、力強い口調で宣言した。

 

「しましょう。世界征服」

 

魔王の宣言。

 

それに付き従うのは神すら超越せし四十の異形たち。

 

そしてそれらの命令なら犠牲になることすらこの世で最高の幸福と言わんばかりの忠誠を捧げる数千の化物たち。

 

神すら超越せし異形たちは空中で胸に手を当て、頭を垂れて声を合わせて言った。

 

「「「仰せのままに。我らが王よ」」」

 

 

 

外出していたギルメンたちを呼び戻し、世界征服を発表した。

 

すると、外出していたギルメンたちは目を瞬かせた。

 

「世界征服?いいじゃんいいじゃん!やろう!」

「今のままだと自然はいずれ消えます。その前に世界を我々の物にしましょう!」

「面白そうじゃん」

「世界征服かぁ。うんうん、楽しそうだ」

「では、世界征服に賛成の人は挙手を願います」

 

肯定的な意見が出て、多数決を取る。

 

全員が手を挙げ、モモンガは頷いた。

 

「全員賛成ということで、世界征服をしましょう」

 

そして世界の命運は決まる。

 

「作戦立案はぷにっと萌えさん、お願いします」

「分かりました。実は既に一つ考えてあるんです」

「流石、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛亮孔明」

「それでそれで?どんな作戦?」

「そうですね。まずは・・・」

 

ぷにっと萌えが考えた作戦。

 

それは。

 

「ラララ・ミントさん」

「うーい」

 

吟遊詩人のような服を着た蟷螂人とでも言うべき異形が軽く手を上げる。

 

「ミンストレルをとっていましたね。適当にアインズ・ウール・ゴウンを賛美する歌を作って、とりあえず帝国で歌いまくってください。お金稼ぎも兼ねていますが、お金よりは歌の方を重視してください」

「りょうかーい」

「次にあまのまひとつさん」

「ん」

「とりあえずギルメンの倍の数の人間化アイテムを作ってください。材料は宝物庫から出したいと思いますが・・・」

 

ぷにっと萌えがモモンガを見る。

 

「そうですね・・・いずれ必要になるでしょう。必要経費です。皆さんはどう思いますか?」

「人間の街にも行きたいし、いいんじゃね?」

「そうだな。人間化アイテムならデータクリスタルだけで、レア度が低い金属を使えばいいだろ」

「それで行こう」

 

全員が賛成の意を示したので、人間化アイテムを作ることが決まる。

 

「次は音改さん」

「ほいな」

「王国の王都に商人として行ってください。使用人が居ないと舐められると思いますので候補は・・・そうですね、私としてはセバスと戦闘メイドらへんを推薦したいですね」

「セバスと戦闘メイドなら問題ないだろう。レベル100とレベル50以上だからな」

「シズは許可できない。彼女はナザリックのギミック全てを知っている」

「エントマもだな。観察力がある奴が居れば表情が動かないと気づく奴がいるかもしれない」

「ユリも駄目かな。首が落ちたら言い逃れできない」

「オーレオールは絶対に無理。彼女は転移門の管理がある」

「となると、ナーベラル、ルプスレギナ、ソリュシャンか」

 

ギルメンたちは、候補を作ったギルメンたちに目を向ける。

 

「ナーベラルは・・・割と融通が利かない面がある。ぶっちゃけ、演技とか無理」

「ルプスレギナは演技は出来るな。でも、絶望の表情とかが好きだから、ちょっとなぁ・・・快活な性格にもしてあるから無理かな」

「となると、ソリュシャンですか」

「彼女は完璧ですよ。演技とかも出来るし、暗殺者ですから逃げれる可能性もあります」

「じゃあ、ソリュシャンで」

「異議なーし」

 

音改の同行者が決まる。

 

ぷにっと萌えはその後もギルメンたちに様々な指示を与える。

 

計画の詳細は知らされていないが、第一段階の目標は知らされた。

 

「とりあえず国を一つ傀儡国家にします。本格的に動くのはその後ですから、それまで大きく動くのはやめてくださいね。特にるし★ふぁーさん」

「え、俺?」

「防衛組、監視は頼んだぞ」

「任せろ」

 

るし★ふぁーは、ナザリックで低位のゴーレムを作成する事を頼まれたためにナザリックから出ることは少ない。

 

だが、問題児なので監視の為に何人ものギルメンを割いていた。

 

因みに、防衛組の防衛は、るし★ふぁー防衛組のことである。

 

「では、次に大事な事を言います」

 

ぷにっと萌えの言葉にるし★ふぁーですら真面目な顔で瞬時に聞く準備を整えた。

 

「全員に世界級アイテムの装備を提案します」

「「「なっ」」」

 

全員が絶句する。

 

世界級アイテム。

 

ユグドラシルで最高位のアイテムだ。

 

それをギルメンたちに持たせようと提案したのだから、驚きもするし、絶句もする。

 

「この世界に来たのは我々が最初だと思いますか?」

「なるほど。先客がいる可能性もあるということか」

「つまり、世界級アイテムを持つプレイヤーが?」

「もしくはプレイヤーの遺産の中に世界級アイテムがあるか、だな」

聖者殺しの槍(ロンギヌス)があったらやばいな」

「後はアンデッドにも通用する支配(ドミネート)アイテムとかな」

「ははは、なんだそれ。ありそうでこえぇわ」

「あったら叫ぶか。クソ運営が!ってよ」

 

軽口を叩くが、その顔は全く笑っていない。

 

「となると、レベル100NPCにも持たさないといけませんね」

「そうですね。とりあえず、外に出る可能性があるNPCだけにしても・・・合わせて50ですか」

「大量だな。まぁそれでも何個か残るけど」

「絶対に奪われないようにしろよ」

「わかってるって」

 

公式チートである世界級アイテムは世界級アイテムかワールド・チャンピオンの次元断層をタイミングよく発動しない限り防げない。

 

「では、レベル100NPC分も含めて世界級アイテムを持たせるという事で」

「「「異議なし」」」

 

世界級アイテムを出すことも決まり、ぷにっと萌えの計画の準備が確実に進んでいく。

 

「以上です。質問がある人はいますか?」

 

ぷにっと萌えの問いに全員が首を横に振る。

 

それを見て、モモンガが口を開いた。

 

「では、解散しましょう」

 

そして、動き出した。

 

数日後。

 

バハルス帝国帝都アーウィンタール。

 

中央に皇帝の居城である皇城があり、そこから放射状に国の重要施設が並ぶ形の帝国の首都だ。

 

そこに吟遊詩人一行がたどり着いた。

 

「うっへー。しょっぼぉ」

 

緑髪の吟遊詩人風の男が、帽子のつばを持ちながら王都を眺めていた。

 

「ラント様、あまりそのようなことは言わない方がよろしいかと」

「おー。そうかねぇ」

 

それを嗜めたのは、淡い紫が混じった銀髪の美女。

 

もう一人、羽の髪飾りを付けた銀髪の美女に似た───恐らく姉妹だろう───銀髪の少女がコクコクと頷いていた。

 

「さーて。お仕事お仕事っとぉ」

 

緑髪の吟遊詩人は、ラララ・ミント。

 

共の銀髪の姉妹は、ユグドラシル金貨で召喚した傭兵モンスターだ。

 

歌翼人(ハルピュイア)という種族で、そのレベルは85だ。

 

今は、人間化アイテムと気配を消すアイテムを装備させているのでただのか弱い人間にしか見えないが、それでもレベル70以上の実力はある。

 

何故、こんな高レベルのモンスターを連れているかというと、仕事でも外出と見做され、レベル70以上の共を二体連れて行かないと駄目だったためだ。

 

ミントは、ちょうど歌手と踊り子が必要だったのでハルピュイアたちを選んだのだ。

 

「んじゃー。広場に行って歌いますかっとぉ」

「はい」

 

ミントの言葉に頷き、ハルピュイアの二人はミントと共に広場へと向かっていった。

 

そして時同じくして。

 

豪華な馬車がリ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼへと入った。

 

その中には、八重歯が似合う茶髪の青年と、剣を思わせる老齢の執事。そして天上の美を体現したが如くの美貌を持つメイドが乗っていた。

 

「アラタ様、まずはどこに参りましょう」

「せやなー・・・まずは此処にある商会を回らんとな。筋は通さんとあかんさかい」

「畏まりました」

 

八重歯の青年こと音改は笑みを浮かべる。

 

「この世界の商人がどんなもんか見てやるさかい。楽しみや」

 

くつくつと笑う音改は、まるでネズミを前にした蛇のような雰囲気を持っていた。

 

 

 

リ・エスティーゼ王国城塞都市エ・ランテル。

 

帝国との軍事拠点となるエ・ランテルは、三つの壁に囲まれた都市だ。

 

「冒険者とは名ばかりのモンスター専門の傭兵ですね・・・」

「ガハハハハ!そう気を落とすなって!」

「キヒヒ。そうそう。モンスターを殺して金をもらえる。いい仕事じゃねぇの」

「こういったほうが楽だな」

「色々あって目移りしちゃうなー」

「だよね!」

 

小柄でひ弱そうな男性が銅で出来たプレートを手の中でいじり、大柄で豪快な男性が大口を開けて笑う。

 

真っ黒なフードを深くかぶった怪しい男が狂気的な笑みを浮かべながら大柄の男性に同意する。

 

格闘家風の男性が少々的外れな事を言い、見慣れない法衣を着た女性と修道女風の女性が街のものを見てわいわいと騒いでいた。

 

小柄な男性はぬーぼー。

 

大柄な男性が武人建御雷。

 

怪しい男がばりあぶる・たりすまん。

 

格闘家風の男性は獣王メコン川。

 

法衣を着た女性がやまいこ。

 

修道女風の女性は餡ころもっちもちだ。

 

全員は先ほど冒険者に登録したばかりの新米冒険者だ。

 

それでも、注目の的になっているのは全員の装備が見たこともない程立派なこと。

 

そして、やまいこと餡ころもっちもちがとてつもなく美しかったからだ。

 

やまいこは、メガネをかけて長い髪をそのまま垂れ流しており、餡ころもっちもちは短くカットされた髪を後ろで束ね、快活な印象を与えている。

 

六人の共通点は、全員が黒髪に黒い瞳だということだ。

 

「翻訳アイテムを作ったのはナイスな考えでしたね」

「だな」

 

提案したぷにっと萌えと作ったあまのまひとつには感謝しかない。

 

「おーい、二人共。置いてっちまうぞー」

 

メコンが呼ぶと、女性二人はパタパタと駆け足で付いてくる。

 

「タリスさん、暴走だけはやめてくださいね」

「あぁ、大丈夫さ」

「ガハハハ!」

 

狂気的な笑みで答えるたりすまんに、大口で笑う建御雷。

 

常識人である女性二人は盛り上がって話を聞かない。

 

貧乏くじを引いた。

 

ぬーぼーはそう思いながらも、勧められた宿屋へと向かっていった。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓第十二階層にあるギルメンの自室の一つ。

 

そこでぷにっと萌えはお願いをしていた。

 

「ボクの絵を売りたい?」

「はい。お願いできますか?ガーネットさん」

 

ガーネット。

 

吸血鬼系の最高位種族であるザ・ワンをとっている魔法詠唱者。

 

とある条件下であれば、ゲーム内屈指の実力者であるたっち・みーや魔法職最強であるワールド・ディザスターを持っているウルベルト相手にすら完封勝利できる程の実力を持っている。

 

とはいえ、その条件を満たせる時間が短いためにかなり実力に波があるが・・・。

 

「ホワイトブリムさんに頼んでみたらどうだい。彼も絵が上手いだろう」

「それも考えましたが、この世界には合わないので没になりました」

「そうかい」

 

これだけを伝えるなら、他のギルメンでも構わない。

 

だが、ガーネットはクセの強いギルメンの中でも特にクセが強い。

 

その上、頭も良い───流石にぷにっと萌えや大学教授の死獣天朱雀ほどではないが───ので世話がない。

 

それに、彼に絵を頼む最大の理由がある。

 

「ホワイトブリムさんもダヴィンチの再来と言われる貴方が一番だって言っていましたよ」

「はっ!モナリザを描いている時に言われるとは・・・皮肉にも程があるね」

 

リアルで世界最高と謳われる画家が彼なのだ。

 

彼の描く絵は最低でも数千万で売買され、富裕層で彼の絵を持っている事が一種のステータスでもあった程だ。

 

「この世界でまた頂点を極めてみませんか?」

「頂点・・・」

 

ガーネットは筆を弄びながら目を細める。

 

「・・・・・悪いけど頂点になんて興味はない。だが」

「だが?」

「魔王の城に調度品は必要か」

「はい。その通りです」

「条件がある」

「なんでも言ってください」

「この世界の絵を見たい。美術品ならなんでもいいけど、一番は絵だ」

「分かりました。用意します」

「頼んだぞ。絵は適当に・・・いや、とりあえずこれを持っていくといい」

 

そう言われて渡されたのは葉と数種類の果物が入った籠が描かれた絵。

 

「確かカラヴァッジョの果物籠でしたか」

「よく知ってるね。そのまま」

 

ガーネットはそう言うと、ぷにっと萌えにそれを持たせたまま絵画に何かを書き込む。

 

「サインですか」

「この世界で果物籠を知っている存在はいないだろうからね」

 

もし居たとしたらそいつはプレイヤーだ。

 

「用件が済んだのなら出て行くといい。まだやることがたくさんあるのだからね」

「了でーす。あ、売る時に相手の感想も聞くように言っておきますね」

「任せるよ」

 

ぷにっと萌えは渡された絵をアイテムボックスに入れ、部屋を出た。

 

次にすることを考えながら、円卓の間へと向かっていった。



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闇へと堕ちた裏

ナザリック地下大墳墓第十二階層・円卓の間。

 

「───ってな感じだわ」

「しょっぼ!王国しょっぼ!」

「静かにしろって」

「くぁ・・・」

「お前はもうちょっと興味示せよ」

 

モモンガの招集でギルメン全員が集まっていた。

 

外に行っているギルメンたちの報告と幾つか決めることをするためだ。

 

興味なさそうなギルメンたちと騒いでいるギルメンたちによって、場が混乱し始めるとモモンガが骨の手で───どうやっているのかわからないが───パンパンと鳴らす。

 

「皆さんお静かに。報告はまだ終わってませんよ」

 

モモンガの一言で、ギルメンたちは静まり返る。

 

これだけでギルメンたちがどれほどモモンガを慕っているのかが窺い知れる。

 

問題児だらけのギルドを何年もまとめていた腕は伊達ではないという事だろう。

 

「では、ついでに定期確認をしましょう。欠員や問題は?」

「るし★ふぁーの野郎はちゃんといまーす」

「んー!んんんー!」

「ぐるぐる巻きにされてるけどな」

「なにしたの?こいつ」

「あまのまさんとタブラさんが風呂に入ってる時に「ゆでダコ」「ゆでガニ」って笑ったらしい」

「へー・・・それで?」

「それを聞いた女性陣が浴場で大笑いしたら、お湯が出てるライオンが動き出したんだとよ」

「あー・・・内緒でゴーレムに改造してたのかこいつ。でもそれくらいなら叱られる程度だろ」

「超希少金属製だったんだとさ」

「・・・・」

「・・・・・・んふっ★」

 

ギルメンたちが突き刺すような視線をるし★ふぁーに向ける。

 

「ペロもいる」

「宙吊りだけんな」

「扱いが酷くない!?」

「ウルベルトさんとたっちさんがやばいです」

「人間なんざ家畜!だから俺らで有効活用してやんだよ!」

「悪人なら構わない!だが、選ばずに行うのは外道のすることだ!」

「お二人とも、落ち着きなされ。今は会議中で」

「残念!俺は悪魔だからそれは褒め言葉だわ!」

「なんだと!」

 

睨みあう二人。

 

いつ激突するかもわからず、近くにいればそれなりのダメージを負うにもかかわらずギルメンたちはそれを余裕な態度で見ていた。

 

ユグドラシル時代に何度となく対立してきた彼らだが、実際に激突したことは意外と少ない。

 

「ウルベルトさん、たっちさん。落ち着いてください」

 

何故なら、ギルド長が間に入って仲裁していたのだから。

 

「それについての議論は報告を聞いてからにしましょう。人間───ナザリック外の生物全般───の扱いについてもいずれは決めなければならないことでしたし、ついでに決めてしまいましょう」

「・・・・分かりました」

「ちっ」

 

二人は渋々矛を納める。

 

それを見てモモンガは懐かしさを感じながら報告を促す。

 

「では、報告の続きをお願いします」

「おう。後は八肢刀の暗殺蟲がエ・ランテルでズーラーノーンとかいう秘密結社の幹部がいたもんで、そいつらを捕まえたらしいな」

「ズーラーノーン・・・確か、死を隣人にする~とかいう中二病真っ只中の組織でしたね」

「ニューロニストの拷問で片方は簡単に口を割ったらしいけどな」

 

けたけたと笑いながら補足をしたギルメンは、周囲の視線に気づいて咳ばらいをした。

 

「それで?」

「聞き出した情報から、組織のトップである吸血鬼王侯(ヴァンパイアロード)の盟主(笑)をタブラさんとシャルティアがとっ捕まえて来ました」

「吸血鬼王侯は確かレベル55でしたね。強いのはいるところにはいるんですね」

「それでもナザリックじゃ雑魚止まりだけどな」

「エ・ランテルについて他には?」

「ないな。愚痴ならたんまりあるらしいぜ?」

 

ニッと笑う建御雷がぬーぼーに目を向け、それでなんとなく察したモモンガは次の報告を聞くことにした。

 

「次は・・・帝国でしたか」

「うーい。フールーダってのが第6位会まで使えるらしいぜぇ。あー。ジルクニフっていう皇帝が冷酷でぇ。それとー。わりと住みやすいなぁ。後はー。金がっぽがぽだぁ」

「・・・・そうですか」

 

ミントの報告では要点しか得られなかったので、モモンガはもう一人に尋ねた。

 

「アルバー豚さん」

「ミントが帝都の広場で「アインズ・ウール・ゴウン」を賛美する歌を歌ってー、残りの二人が踊ったりして人気って感じー。帝国最強はフールーダ・パラダインという魔法詠唱者でー。第6位階魔法まで使えてー、一人で帝国全軍を相手にできる感じらしーい。皇帝はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスっていってー。鮮血帝と呼ばれている感じでー、先帝が崩御して即位した後に大規模な粛清を行ったらしくてー、母親や兄弟も含めた歯向かう貴族や無能な貴族を処刑や取り潰したりして中央集権国家にした感じー。それまでは王国と同じような感じだったらしーい」

「なるほど。それなりに優秀なようですね」

 

そう呟くとモモンガはデミウルゴスたちが手に入れた情報が書かれた資料を手に取って報告と照らし合わせる。

 

「ぷにっと萌えさんどうします?」

 

モモンガがぷにっと萌えに尋ねると、ぷにっと萌えは何かを考え付いたのか頷くと口を開いた。

 

「凄く個人的な理由なんですがいいですか?」

「もちろんです。いつもお世話になってるんです。少しくらい我がままを言ってもいいですよ」

 

モモンガはにっこりと笑って───骨だから笑えないが───言うと、ぷにっと萌えは「ありがとうございます」と言って咳払いをして注目を集める。

 

「帝国はうまみがありますが、帝国はやめようと思います」

「という事は?」

「第一段階の標的を王国にしようかと」

「ふむ・・・何故ですか?」

「帝国よりも簡単だとか色々とありますが・・・一番は、どうせならレベル1からやりたいなって」

「レベル1っていうか、レベルマイナスになってっけどな」

 

ギルメンの呟きに他のギルメンたちが大笑いする。

 

「アッハハハハハハハ!」

「言えてる!腐りきった貴族のせいだよな!」

「国王はそれを分かっていないか、分かっているけど何とかする力がない・・・どう考えても無能だな」

「無能なら無能なりにやり方はあるのになぁ」

「ってことは、無能以下か!」

「どんな人だって価値はあるんですから、無能って言っちゃいけませんよ」

「そうだな。悪い悪い」

 

一頻り笑ったところで、モモンガが「静粛に~」と言って静まる。

 

「では、採決を取りましょう。王国を傀儡国家にしたい方」

 

賛成のギルメンたちが手を上げる。

 

モモンガはそれを数えると咳払いをした。

 

「では、賛成三十八。無効票三で王国を傀儡国家にします。次の報告をお願いします」

「では、我輩が」

 

ギルメンが手を上げると思い出すかのように話し始めた。

 

「前に会議で話したこの世界の鉱山のことでありますれば。王国内にあった非合法らしき鉱山を乗っ取り採掘した結果、アダマンタイト以上の物は見つからなかった」

「これについては私も一緒に確認したから確定だよー」

 

ギルメンの言葉をテンパランスが保証し、全員が唸る。

 

「という事は、アダマンタイト以上の金属は使わない方が良いな」

「そうなると、結構出来ることが限られてくるな」

「せやな。売ろうと思っとった物も売れなくなるわ」

「シュコー大変そうだな」

「その通りや。この世界の商人はみぃーんな舌が回らないみたいでなぁ。つまらなさ過ぎて死にそうや」

「アダマンタイト以上は使えないとなると・・・私もやり応えが無くてつまらないな」

「世界のレベルが低すぎてワロタ」

「るし★ふぁー、お前どうやって縄ときやがった」

「ハッ!この世界のどこかに金髪の合法ロリがいる気がする!」

「なんか変態のアンテナに引っかかったみたいだぞ」

「弟ぉおおおおおお!」

「んぁっ!?仕事!?残業!?オールナイト!?」

「ヘロヘロ君。もっと寝てていいんだよ」

「あ、そっか。異世界に来てたんだ・・・お休みなさーい」

「姉ちゃっタンクの殴りっ地味に効くっやめっ」

「アイアンゴーレム!いけー!」

「きゃぁあああああ!?」

「鉄のゴキだと!?」

「踏み潰せ!」

「はいはい。皆さん、まだ終わってないですよー」

 

モモンガが手をひらひらさせると全員が「はーい」と言って、騒ぐのを止める。

 

鉄のゴキは踏み潰され、ペロロンチーノは実の姉のサンドバックになっているが、気にせずモモンガは会議を進める。

 

「鉱山に関しては分かりました。他に何か問題は?」

「ありません」

 

代表してギルメンの一人が答えると、モモンガは嬉しそうに頷く。

 

「では、幾つかの決め事を決めましょう。まずは人間の扱いについて」

 

そして一人一人が議題を上げ、それに関して決める。

 

それを何度か繰り返し、議題が尽きると何人かがぷにっと萌えから仕事を言い渡されて解散となった。

 

 

 

リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ某所。

 

八本指会議場。

 

王国の裏社会の頂点に君臨する犯罪組織「八本指」。

 

この組織は、賭博、麻薬、金融、暗殺、警備、奴隷売買、密輸、窃盗の八つの部門に分かれており、それぞれに部門長がいる。

 

そして八本指の幹部会議場には、各部門長とその護衛。それとまとめ役がいた。

 

「ゼロはまだ戻らないの?」

 

疑問を口にしたのは紫色のアイシャドウと口紅をした高級娼婦のような女性。

 

ヒルマ・シュグネウス。

 

「八本指」の麻薬部門長である彼女はイラついたように口にした疑問は、その場にいる全員が持っている疑問でもあった。

 

ゼロ。

 

王国の貴族のみならず王族とすら通じている「八本指」の中でも最強の人物だ。

 

「八本指」の警備部門長でもあり、最強部隊「六腕」リーダーでもある。

 

彼のみならず「六腕」の実力は英雄と呼ばれる最高位冒険者であるアダマンタイト級冒険者と同等と言われている。

 

そんな彼を最後に見たのは一週間前。

 

八本指が持つ鉱山の中でも有数の鉱山の一つが奪われたのだ。

 

相手の正体は不明。

 

様子を見に行った暗殺部門の構成員も帰って来ない上、鉱山を守っていた警備部門の失態ということもあってゼロを含めた「六腕」全員が鉱山の奪還へと向かった。

 

片道二日程度なので、時間的には戻ってきているはずなのだが・・・。

 

「もう時間だ」

 

会議の時刻となり、まとめ役の男が唸る。

 

「裏切ったと言うことは考えにくいが、来ないということは裏切ったとみなすべきか?」

「もしくは敵に殺されたかだな」

「ありえん。奴らはアダマンタイト級冒険者と同等の実力者たちだ。この国のアダマンタイト級は動いていないし、冒険者以外の実力者だとしても耳に入っていないのはおかしい」

「なら聞くが、ゼロが裏切る理由はなんだ?「八本指」最強の座は奴にとっても魅力的なはずだ」

「殺されたよりは裏切ったという可能性の方が高いと・・・」

 

金融部門長が質問した相手に目を向けて固まった。

 

他の部門長や護衛たちもその目線を追って同じように固まる。

 

「ん?どうした、もっと話すといい」

 

警備部門長であるゼロが座っていた席。

 

そこに、異形が座っていた。

 

山羊の顔に捩れた角。

 

見るからに高級そうな鮮血色のシルクハットにスーツ。

 

そしてその異形の後ろには・・・いや。

 

この部屋の壁際には、異形たちが立っていた。

 

「く───」

「動くな。喋るな。跪け」

「───」

 

山羊の顔の異形の後ろに立っていた仮面の男───よく見れば銀のプレートに包まれた尻尾が生えた異形───の言葉の通りに、跪いてそれから指一本動かせなくなる。

 

「聞く体勢が整いました。我が君」

「あぁ」

 

山羊の顔の異形は、仮面の男が出した飲み物を口にしながら尋ねてきた。

 

「すまないが、私の質問に答えてくれるかな?」

「口を開くことを許可する」

 

仮面の男の言葉で口が自由に動かせるようになる。

 

「な、何だお前」

 

護衛の一人が口を開いた瞬間に爆ぜた。

 

どこか、ではなく文字通り爆ぜた。

 

近くにいた護衛や部門長に血肉が降り注ぐ。

 

それで理解する。

 

少しでも機嫌を損なえば、蟻を潰す様に自分たちは簡単に死ぬのだと。

 

「もう一度言おうか。私の、質問に、答えて、くれるかな?」

 

一つ一つ、力強く尋ねた異形に全員が頷く。

 

「よろしい。では、早速・・・キミたちは八本指で間違いないかな?」

「は、はい。間違いありません」

「そうか。では、キミたちに祝福を与えよう」

 

祝福じゃなくて破滅だろ。

 

人間たちはそう思ったが、口にせずに黙って福音とやらを受ける。

 

「まず、警備、暗殺、奴隷売買部門は一掃。当該の各部門長は死ね」

「暗殺、奴隷売買の各部門長は自害したまえ」

「え?」

 

声を漏らしたのは残ったまとめ役と五人の部門長と護衛たち。

 

二人の部門長が自分で自分の喉を切って血の海に沈む。

 

「残ったのは、金融」

「っ」

「麻薬」

「ひっ」

「窃盗」

「・・・・!」

「賭博」

「ぁ、ぁ」

「密輸」

「ひぃ・・・」

「この五つか」

 

異形は楽しそうに五本の指をゆらゆらを揺らす。

 

「三本も減ったら、もう八本指じゃなくて五本指だな」

「流石は我が君。お上手です」

「そうか?お前がそういうのならそうなんだろうな。ははは・・・お前らはどう思う?」

 

ビクッと体を震わせるまとめ役と五人の部門長たちは恐る恐る口を開く。

 

「そ、その通りかと」

「お、お上手です」

「は、はい。とても面白いです」

「す、素晴らしいです」

「さ、さすがです」

「笑いが、止まりません」

「お前笑ってないだろ」

 

最後に返答した窃盗部門長が小気味いい音を立てて爆ぜる。

 

「ひっ!ひっ!」

「ひ、ひぃ、ひぃいいい!」

「ぁ、ぁあ・・・・!」

「た、助けて。助けてぇ・・・」

「ぅぁぁぁぁ・・」

 

ついには泣き出したまとめ役と部門長たち。

 

それを見て異形は楽しそうに目を細めると立ち上がった。

 

「これで四本指になったわけだが・・・ぶっちゃけ、後いらないのは密輸だけなんだ」

 

つまり、まとめ役、金融、麻薬、賭博部門長は助かる。

 

それが分かり、密輸部門長は口をパクパクとさせる。

 

「我々の力を持ってすれば、警備部門は不要。暗殺も同様。密輸もだ。窃盗は・・・俺たちが欲しいものを奪える可能性が無いから潰した」

 

異形は、これまでで一番楽しそうに目を弓なりに歪めて笑うと呟いた。

 

「生き残れると思って希望を持っただろう?」

 

遠いのに、まるで耳元で囁かれているかのように密輸部門長には感じた。

 

 

 

「さて!」

 

五つの死体とその血肉で汚れた部屋で、ウルベルトは柏手を打って───ナザリックのシモベ達だけの───空気を切り替える。

 

「指は三本しかない。だが、我々は組織は八本指として動いてもらいたいわけだ」

 

ニヤニヤとウルベルトはニヤつきながら転移門を開く。

 

すると、そこからペストーニャが現れる。

 

その姿を見て、部門長たちと護衛たちはまた震え上がる。

 

「死んでる奴らを生き返らせてやれ」

「畏まりました・・・わん」

 

ペストーニャはウルベルトの命令で、死んだ五人を生き返らせる。

 

それを見て、その場の全員が戦慄した。

 

護衛だけならまだしも、部門長たちは蘇生には耐えられずに灰になるはずなのだ。

 

だが、現実は違う。

 

死んだ全員が蘇り、何が起こったのかを理解して、その場の全員がただただ平伏する。

 

自分たちの常識を覆す魔法。

 

攻撃どころか蘇生魔法も未知。

 

自分たちがどれほど低レベルで争い、思い上がっていたのかを悟り、全員は嵐が無事通過するのを待つ弱者の気持ちで平伏し続ける。

 

「警備部門の連中は、俺の仲間を侮辱したが・・・お前たちは違うよな?」

 

コクコクッと壊れた人形のように何度も何度も無言で頷く八本指たち。

 

「人間というのは愛でたくなる程に愚かだが、恐怖を与えられたら学習し、それを活かそうとする。そこがたまらなく面白い」

「まさに真理かと」

 

後ろのデミウルゴスが仮面越しに笑いながら同意する。

 

それに気を良くしたウルベルトは八本指たちが粗相をしても許してやる気持ちになる。

 

「だからこそ、お前たちは生かしておく。恐怖を与えられて学習しただろう?」

 

ウルベルトの問いかけに全員が頷く。

 

ウルベルトは満足したようにそれを見ると立ち上がり、デミウルゴスに言う。

 

「死なない程度に教育しとけ」

「畏まりました」

「お前たち、帰るぞ」

「はっ」

 

ペストーニャを始めとしたほとんどのシモベたちを連れ、ウルベルトは転移門でナザリックへと戻っていった。

 

残ったのは八本指とデミウルゴスとデミウルゴスの親衛隊たちのみ。

 

「では、改めまして・・・私の名はヤルダバオト。魔皇ヤルダバオトです。以後お見知りを気を・・・八本指の方々」

 

そして、裏は闇へと堕ちた。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓第十二階層・円卓の間。

 

「ぷにっとさん。言われた通りに彼我の実力差を痛いほど教えてきたぞ」

「ありがとうございます、ウルベルトさん」

 

ウルベルトは、円卓の間が最早自室と言わんばかりに篭もりっきりのぷにっと萌えに報告をすると自分の席に座る。

 

他にも、暇な奴やNPCから逃げてきた奴らがグダグダと駄弁っていた。

 

ウルベルトはアイテムボックスからグラスとワインボトルを取り出すと一人で飲み始める。

 

今、ナザリックに居るギルメンは十四人。

 

三分の一程しかいないのだ。

 

なら、他の三分の二は何処へ行ったのか、だが。

 

「死の騎士までしか出ない狩場にレベル100を十人も行かせるとは、オーバーキルが過ぎると思うんだが」

「あそこは広い上に霧が深いですからね。何事も静かに進められるいい場所なんですよ」

 

ウルベルトの呟きが聞こえたのか、ぷにっと萌えの言葉にウルベルトは肩を竦めた。

 

「何事も静かに、ね」

 

秘密に、の間違いではないだろうか。

 

ウルベルトはそう思うが、考えても仕方ないことなのでこれから起こる事を想像する。

 

そして悪魔的にも個人的にもほくそ笑んだ。

 

「これぞ悪の華たるアインズ・ウール・ゴウンに相応しい事だ。ふふっ良いぞ。世界征服はかくも素晴らしい!アーッハッハッハッハッハッハッ!」

「また中二病が何か言ってるわ」

「まぁあそこまでじゃなくても、世界征服って良くね?」

「そりゃな。どんなお偉いさんでも出来てない事をするんだからな・・・滅茶苦茶テンション上がるわ」

 

他のギルメンの言葉も聞こえず、ウルベルトは高笑いをし続けた。

 

「・・・・後は待つだけですね」

 

そしてギルメンたちは魔王の夢の為に邁進し続ける。

 

それだけが、ギルメンたちが聞いた唯一と言っても過言ではない魔王(モモンガ)のワガママなのだから。



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