艦ムスと深海棲艦と時々BETA (fire-cat)
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プロローグ

勢いで書いてしまった…。


「……?」

 気が付くと全身が浮揚感に包まれていた。心と体が分離しているような…… 。

(ここは……どこだ?……今日って、何日だっけ……今、何時…………!!)

 全身に激痛が走り、男の意識が途絶えた。

 

 ********************************************************************** 

 

「終わったか」

 白衣の姿が機材から体を起こした。

「よう。戻ったか」

 隣から見下ろす体勢の同僚の姿。

「…ああ。まだ意識がはっきりしないけどね」

ぼんやりする頭を押さえながら、頭を振る姿に、

「お前も物好きだよな。『自分が作り出した<世界>で、生きている生命体の生活を観察したい』なんて言い出した時は、正気を疑ったぜ?」

 あきれたような口調の声がかかる。実際に男はあきれていた。

「ンで、観察用生体まで作って観察した結果、何か収穫はあったか?」

「まあな。似たような進化をたどるんだなってことがわかったよ」

「なんだそりゃ。そんなことの為に<世界>に潜ったのか?」

「ああ、面白い位置に作った島での生活がどうなるか気になって」

「ああ、あの大陸と微妙な位置に置いた島嶼にできた国家か。俺たちの所にはなかったからなぁ。気にもなるか。んで、どうだったよ」

「なかなか面白いものが見られたよ。独自の文化と価値観を持って、2000年続いている国家になっていた上に、異なる文化の架け橋をやっていた」

「ほぉ。国ができてもすぐに滅びると思ったがなぁ。現地時間で2000年以上続いたのか」

 感心しながら、自分の担当で気になることがあったのか、相方から目を手元の機器に移し、操作していく男。

 そんな相手を見つつ、

「参考にもう何個か<世界>を作ってみるか」

 そう宣う声に対し。

「おやおや、戻ったばかりで熱心だな。何か変わったものを作ったら教えてくれ。俺も見てみたい」

 そういうと男は手を振り部屋を出て行った。

 その姿を見送り、機器にとりつく。

「さてどう作っていこうか。……そう言えば観察用生体に自我らしきものも芽生えていたね。これを使用するか。また潜る時に使用しても便利だし。あの世界の……」

手元を操作し、

「うん、これで良し。あとは、これが望んだように時間を流して……。できた。あとはこの生体を移し替えるだけか。……ただ、移し替えるのも詰まらないから、あの国で流行っていた神様転生風にしてみよう。僕を神様に見立てて……」

そう呟くと、媒体を持ち部屋を換え、先程とは別の機器を稼働させ媒体を設置すると、体を横たえる。

「よし終わった。結構面白かったな。機会があったらまたやってみようか。さて、次は現地時間で20年後に会う生命体の作成か。時期が来たら一回時を止める必要があるな。それまでに、要素を確認して、それにふさわしいものを創って融合させるのか。面白いけど、面倒だなぁ」

 暫くし身体を起こすと、頭を掻きながら部屋を出ていく姿。

 閉じられた部屋では透明な壁を隔てて、通称<世界>と呼ばれる、無数の光の渦が浮かび上がる機器が活発に動いていた。




次回は設定集。


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設定集
設定その1(地理と勢力)


とりあえず設定。

2017/10/18書き換え


舞台:とある人物によって作成された<地球>のコピー(主人公は地球の並行世界と思っています)

地球と似た歴史をたどるも、近代以降、有色人種による白人への勝利がなかった為、第二次大戦後に行われた独立運動はここでは殆ど起きませんでした。

1.地理

①北米大陸

 1アラスカ(新洲嘉)+北方(アリューシャン)列島

  ロシアより日本が買収。同時期、アメリカはフランスより仏領ルイジアナを購入した為、

  アラスカの購入は行えなかった。現在、深海棲艦出現により、千島との船便が途絶えがち

  (就航率:3割)

 2カナダ

  南オンタリオは第二次大戦初期に米国に占領・併合されている。同時にノバスコシア州・

  プリンスエドワードアイランド州・ニューブランズウィック州も併合された。

  ケベック州は米国の侵攻を撃退したが、戦後ケベック共和国として独立した。

  その他は、地球のカナダ領通り。

 3アメリカ合衆国

  タウンゼンド諸法の一部不成立により独立が遅れたため、ロッキー山脈以西は、

  ヌーベルフランスの流れを汲むフランス系国家となっている。フランス系国家は

  第二次大戦以後、ヴィシー政権と対立した自由フランス系の影響力が強まり、

  合衆国と緊張関係にある。

 

【挿絵表示】

 

赤:日本

ターコイズ:ケベック共和国

インディゴ:フランス系国家

オレンジ:アメリカ合衆国

黄緑:カナダ

黄:メキシコ

 

 

②中米地域・南米大陸

 ほぼ史実通りだが、合衆国の影響力は比較的弱い。

 アマゾン川流域は開拓を試みる都度、深海棲艦の侵攻を招いたので、それ以上の開拓は行われていない。深海棲艦襲撃以後、パナマ運河以外にニカラグアにも大規模運河が掘削され、深海棲艦からの最重要防御拠点として多国籍軍が駐留している。

③南洋諸島(ニュージーランドを除くポリネシア・ミクロネシア)

 第一次大戦まではフランス領とドイツ領が混在し、大戦中は日仏独の激しい戦闘が繰り広げられた。戦後はフランスの委任統治領と日本の委任統治領となった。

 第二次大戦で多くの諸島がヴィシー政権側についた為、日英仏(自由フランス)同盟の攻撃を受け、多くが日本領となった。

 深海棲艦出現後、マリアナ諸島・チューク諸島など主要拠点を除く諸島が深海棲艦の占領下となった。

④豪州大陸+ニュージーランド・メラネシア

 第二次大戦でドイツとのブリテン島攻防戦に敗北した英国政府が、カナダに政府設置を画策するも、アメリカに東半分を占領された結果亡命を断念。豪州に移動して英国連邦政府を設置している。その為、自治領であったオーストラリア連邦は解体され、現在は存在しない。

 深海棲艦出現後、メラネシアが占領されたが、多くの物資・人員を費やしながらも奪回に成功した。現在は大陸とニューギニア・ソロモン諸島・バヌアツ・ニュージーランドを結ぶ戦線を維持している。

⑤欧州・アジア・インド地域

 敦煌に着陸した着陸ユニットの排除失敗により、BETAが勢力を拡大。

 黄河・長江流域やライン川など旧国際河川流域とブリテン島、カレリアを核地雷により海峡に変えて無理やり大陸と切り離した北欧地域と火山地帯を除き人類は駆逐されている。また、黄河・長江・国際河川・カレリア海峡には深海棲艦が侵攻し、BETAと交戦している為、人類は実質居住できないと()()()()()。 (生き残った人間の子どもが深海棲艦に保護されて、その子を守るために陸上でBETAと戦う深海棲艦とかいるかも)

 ロシア帝国がレナ川以東にあり、日・仏系諸国・米・加支援の下、レナ川を挟んでBETAと交戦中。

 中華・半島地域は清国が列強の草刈り場と化し、国家が崩壊した後は軍閥が割拠し、春秋時代の情勢に近いものがあった。難民の日本への密入国が相次ぎ社会問題化していたが、深海棲艦出現後、相次いでかつての故郷へと資産を持って逃げた。その後BETA出現があり、再び隣国へ脱出を試みる者も多かったが、悉く深海棲艦に飲み込まれたという。

 第二次大戦で同盟国と共に欧州を統一したドイツ帝国は、BETAにより大陸を失陥し、第二次大戦で占領したブリテン島で交戦中。

 北欧諸国とデンマーク亡命政府、スイスは連合を組み、各地で交戦中。

⑥アフリカ大陸

 伊土戦争やギリシア独立などオスマントルコの弱体化した頃から、地中海沿岸は対岸にある列強の本国化が始まっている。

 第一次大戦・第二次大戦を経てその動きは一段と速度を増していたが、深海棲艦が出現したことで一時的に速度が落ちた。しかし、BETA出現とその急進により、避難先として開発が著しいものとなり、本国失陥後は文字通り第二の故郷と化した。

 現在はフランス(ヴィシー政権)・スペイン・イタリアが地中海沿岸を本国としている。またトルコがドイツと結びエジプト・パレスチナ地方を回復したことで、運河使用料を国内予算の柱とした国内の立て直しを行っていた為、スエズ運河は幅10㎞を超える。ナイル流域に避難したトルコがアフリカ側にて深海棲艦・BETAと交戦中。そのほかの地域は独立運動が起きなかったため、旧列強植民地政府による統治とBETA戦・深海棲艦戦役への増援が続いている。

⑦日本

 史実の領土のほか、北は新洲嘉(アラスカ)・北方(アリューシャン)列島・千島列島、西は台湾、東は南鳥島、南はマリアナ諸島・チューク諸島まで獲得している。

 深海棲艦出現後、マリアナ諸島・チューク諸島などの主要拠点を除くポリネシア諸島が占領され、避難が遅れた住人に多大の犠牲が生じた。一連の撤退戦で戦艦・空母を始め主力艦と補助艦等殆どの艦船が沈んでいる。

 BETA出現後は大陸からの輸入も完全に途絶え、資源・食糧不足に喘いでいる。

 現在、ポリネシアの奪還と北方領域の安定化の為、交戦中。

 

                                         

 

2.勢力

 

BETA(原作より弱体化)

 水深500mより深い場所には行けない。また500mより浅くても2㎞以上水面・水中・水底を渡れない。原作通り,特定の種以外、意思疏通不可能。

 ハイヴの数は原作から国際河川流域4㎞以内のハイヴを除いた数。流域4㎞以内はフェイズ1になる前に深海棲艦に砕かれる

 

深海棲艦

人型は陸上生活可能(陸上では武装展開不可能だが河川・湖沼上(湿地帯は一部艤装展開不可)であれば可能。耐久力は艤装展開時と変わらず)

人型は人類と意思疏通可能。

BETAとは敵対。

実は人類側と協力できないこともない。

 

人類

BETAと深海棲艦に押され気味(欧州とアジアはBETA占領下)

国の位置と歴史はかなり改ざんされた

実は深海棲艦とは協力できない事もないが多くの人類は気づいていない

 

 

 

 

                                         

 

 

 

ネタばれ(作者がここまで進められるかは不明)

※20年後異星人襲来。それまでの状況によって異星人の種類が変わってくる(面白くする為に<世界>を作った奴がそんな設定を付け加えた為)

 

人類優勢:超友好的な異星人襲来(某銀河連合N的な)⇒残存BETA駆逐。深海棲艦の完全艦娘化。

 

BETA優勢:戦闘用BETA襲来⇒人類滅亡・深海棲艦ほぼ消滅(潜水型が生き残れるか?)

 

深海棲艦優勢:超兵器化深海棲艦(深海棲艦化超兵器)が支配する惑星と直結したゲートが出現。超兵器化深海棲艦襲来⇒BETA駆逐。人類管理化。艦娘人間化or消滅




次回も設定(歴史)


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設定その2(歴史:一部おふざけバージョン)

後日改定予定。

2017/11/01英国史を大幅追加


歴史(大まかな流れ:細かなところは後で修正予定)

 

 

米国

 本国議会の政争に付け込み、議会に少数ながら代表を送り込むことに成功。

 結果、タウンゼンド諸法の一部不成立。

 ボストン茶会事件勃発せず。

 独立戦争の時期が大幅にずれ込む(ナポレオン3世の頃に独立戦争)

 独立後、米英戦争発生するも痛み分け。

 開拓が遅れ、アラスカ・ロッキー以西獲得ならず。

※ロシアからアラスカ買収を持ち掛けられたときは仏領ルイジアナ買収直後で資金難の為断念。

※ロッキー以西にはヌーベルフランスの流れを汲む独立国が成立済。

 

第一次大戦:独墺との同盟も利がない&英国とは深刻な対立関係の為、不参加。

      両者に相手方の情報と必要な物資・兵器を輸出して荒稼ぎ。

  大戦後:国際連盟の提案? 誰が提案したの? 我が国はそんなもの知りません。

第二次大戦:英国不利とみて電撃的にカナダ南東部占領。ロッキー以西には手を出せず、

      カリブ海沿岸の英国領土を併合する。

      うやむやのうちに大戦終了。

 戦後暫く経った1970年代半ば、各地で艦船が行方不明になり他国の存在が疑われた。原因を探るべく多方面へ戦力を派遣した結果、深海棲艦の出現が確認された。

 1980年代前半、BETAが襲来する。敦煌に続き、北米大陸にBETA着陸ユニットが襲来するも原作と同じく核を用いて排除成功。

 1990年代末期になり艦娘・妖精と呼ばれる存在が、第二次大戦時に軍艦を保有していた国家に軍艦の種類に応じ顕現する(軽巡までしか計画・保有していなかった国家は軽巡まで。旧植民地には顕現していない)

 以後、深海棲艦と(時々来るBETA着陸ユニットとも)交戦中。

 

 

英国史

  フレンチ・インディアン戦争では、北米の13植民地の背後に広大なミシシッピ川以東のルイジアナを手に入れた。戦費によって膨らんだ国家債務の償還、および植民地維持のために送られた軍隊の費用を13植民地への増税で賄う方針を採り北米植民地に対する課税で賄おうとしたが、植民地人にとっては戦争の終結によって脅威が遠退いたにもかかわらず課税が強化された形となり、本国と植民地の意識に差が生じることとなった。

 植民地の代表がイギリスの議会で発言する権利がないまま、新税についても植民地に何の前もっての相談も無かったことが問題となり「代表なくして課税なし」という言葉が多くの植民地人社会で囁かれるようになった。植民地との意識の差に気付き、その状況をホイッグ党との政争に利用しようと計画したトーリー党のビュート伯爵ジョン・ステュアートにより、北米植民地から人口に応じた代表者をイギリス議会にオブザーバーとして送り込む事が決定されると、課税についてもやむなしという雰囲気が急速に植民地に広がっていった。

 一方、フランスでは1780年代から40億リーブルにもおよぶ財政赤字が大きな問題になっていた。

 太陽王ルイ14世以来続いた対外戦争の出費とベルサイユ宮殿建設にみられる宮廷の浪費、ルイ15世時代の対外戦争敗退と軍の再建などによる累積債務が嵩んでいた事に加え、それを憂いたルイ16世が試みた財政改革が天災などで失敗し、従来の放漫財政の改革を行えなかったことで破産に近づいた。財政が極度に悪化したため、免税特権を持っていた貴族、聖職者に対しての課税に踏み切ることになったルイ16世に対し、一部の貴族が三部会の開催を要請したのがフランス革命の遠因である。

 フランス革命で国王が処刑されると欧州各国は対仏大同盟を結成しフランスの革命政権を打倒することを目指したが、イギリスはジョン・ロックの市民政府二論の影響もあり、その動きは限定的な物であった。

 ナポレオンの登場によりオーストリア帝国が破れイギリスが次の目標に定まると、フランス総裁政府はイギリスとインドとの連絡を断ち切りイギリスを弱体化させた後に失った北米植民地を取り戻すことを目的とした。その第一陣として、ナポレオンに対しエジプト出兵を命じ、中東戦役を起こした。

 それに対しイギリスはネルソン率いる地中海艦隊を差し向け補給を立つことに成功し、ナポレオンは本国への帰還を余儀なくされた。

 クーデターによりナポレオンが政権を握り欧露戦役を起こし、敗北すると各国はウィーン会議を開催し、旧秩序維持を目的としたウィーン体制を敷いた。

 世界に先駆けて18世紀から蒸気機関の開発、改良を契機にして工場制機械工業の発達が促され18世紀の中ごろから産業革命が進展した。

 資本家による資本の蓄積が始まり、拡大再生産を継続する産業資本主義はイギリスの外に新しい市場と、原料の供給地を求めることになった。

 19世紀末から20世紀前半にかけて、列強間の植民地獲得競争が激しさを増し、それに伴い帝国のコストは重くイギリスにのし掛かるようになった。

 イギリスとインド間貿易ではイギリスの貿易黒字、イギリスと北米植民地間貿易ではイギリスの貿易赤字が続いていたが、対インド黒字で対米赤字を穴埋め出来ず、国際通貨の地位にあった銀が対価としてイギリスから北米に流出していた。それを補うため、イギリスは植民地への増税で賄う方針を採り、1848年に砂糖法と印紙法を適用した。

 植民地代表は相次いで抗議書を送付したが本国政府は代表者がオブザーバーであることを理由に受け取りを拒絶し、翌年には茶法を制定した。

 これに抗議した植民地人が本国政府軍と武力衝突を引き起こし、独立戦争へ発展した。

 列強は、当初事件の推移を傍観していたが、新大陸での利権回復の好機と見たフランスが1852年に対英宣戦した。翌年にはイギリスが対米海上封鎖(中立国船舶捕獲宣言)を行った事に対してロシア皇帝の提唱により武装中立同盟が成立し、ヨーロッパの中でも孤立したイギリスは苦戦を強いられた。

 1855年のパリ条約によって北米13州は独立し、バッファロー・バイユー以東のルイジアナをアメリカに、以西の地域をフランスに割譲することとなり、これによって新大陸でのイギリスの支配地域はカナダと西インド諸島のいくつかの島々に限定されることになった。

米英戦争:

第一次大戦:講和

第二次大戦:ブリテン島失陥。カナダに亡命画策するもアメリカに東部を占領され、オーストラリアに避難し英連邦政府樹立。

 1970年代半ば深海棲艦出現。メラネシアを占領される。

 1990年代末期になり艦娘・妖精と呼ばれる存在が、第二次大戦時に軍艦を保有していた国家に軍艦の種類に応じ顕現する(軽巡までしか計画・保有していなかった国家は軽巡まで。旧植民地には顕現していない)

 彼女らと共にメラネシア奪還作戦を行い、奪還に成功。あと一歩でチューク諸島・マリアナ諸島と連絡が取れそう。

 

フランス

 地中海の反対側も本国化しておこう。

 1970年代半ば深海棲艦出現。やべ、急がないと。

BETA出現。冗談じゃない、24時間戦えますかで本国化急げ⇒何とか避難、間に合った。防壁兼物資輸送の為スエズ運河拡大じゃぁ。トルコよ、資金は貸し出すぞ。

 

日本

 江戸末期の開国はロシアが最初。ロシアが日本を自国勢力に確実に取り込む為、また後から来るはずの英仏に対する嫌がらせの為、ほぼ平等(安政五カ国条約に条件付き最恵国待遇と関税自主権を一部承認した)の条約を、プチャーチンと長崎で締結した(日露友好通商条約)。吉田松陰、ロシア帝国に密航成功。ニコライ1世への拝謁後にサンクトペテルブルクにて世界初の日本人学校校長となり日本文化を紹介する。

 この時、同時に千島樺太交換条約を締結したほか、通商条約とは別にロシア領アメリカ購入条約も締結した。これはロシア領アラスカのほかアリューシャン列島を540万両(天保小判換算)で購入するものであり、幕府の財政が悪化する原因の一つともなった。幕府はアラスカを荒れ狂う北太平洋から荒洲賀と命名。浪人や無宿者、農民を移民として送り出した。

 荒洲賀(アラスカ)について、暫くは荒洲過と呼ばれ漁業資源以外は持て余し気味であったが、金鉱の発見もあり荒洲嘉へ改名。公武合体政府により道州制が実施されると新洲嘉州となり洲都を紫微と名づけ第一次大戦まで開発が急ピッチで行われた。

 第14代将軍は一橋慶喜が就任。第15代将軍に成人した徳川慶福が就任。この時大政奉還が実施され、政権が孝明天皇へ返還された。

 史実の明治維新は行われず、久邇宮朝彦親王・二条斉敬と徳川家茂・松平定敬を中心とした公武合体政府が成立する。この時、中山忠能や中御門経之らが討幕を試みるも失敗。失脚を余儀なくされた。

 日朝修好条約締結。交易を巡る内政不安から壬午軍乱発生。済物浦条約締結。これにより竹島帰属の明確化と編入が行われる。後、ロシアの求めに応じ、適正価格(英仏監修)にてロシアに貸与。ロシアは後に鬱陵島も朝鮮から租借した。

 新洲嘉の開発等もあり、日本は大陸・半島への進出を行う余裕がなく、ロシアも日本から租借(?)した不凍港(竹島)を得たので日本を警戒させる半島進出は控えるようになった。そのた為、半島には一時期、どこの列強も見向きもしない奇妙な空白地帯が生じた。

 宮古島島民遭難事件から日清戦争が勃発し、日本が勝利を収めると、大陸へ英露仏等列強諸国の進出が盛んになった。

 満州を巡り、清国とロシアによる戦争勃発。英国とともに調停を行う。それが縁となり、後に日英露は三国協商を締結するに至った。この調停活動を評価した英国と条約改正が行われ、後にロシア、フランス、オランダ他各国とも改正した。この頃有った筈の朝鮮併合は行われず、邦人排斥に伴う条約改定に留められる。

 徳川慶喜の頃より法律をフランスに、海軍を英国に学ぶ。陸軍は当初ロシアに学ぶも後にフランス・プロイセンに学ぶ。

 第一次大戦勃発後、南洋諸島にて仏・英海軍とともにドイツ海軍と交戦。東アジア巡洋艦戦隊やUボート他による通商破壊に悩まされる。この事から日本軍はシーレーン防衛には特に力を入れることになった。

戦中、どさくさ紛れの密入国者多数発生。

第一次大戦は仏とともに独領南洋諸島攻略戦を行い、戦後マリアナ諸島(西⇒独に売却されていた)・チューク諸島を獲得した。

国際連盟不成立。

第二次世界大戦勃発。ヴィシー政府側についた仏領南洋諸島(マリアナ・チューク以外のミクロネシア・ポリネシア)を占領・併合。

1970年代半ば深海棲艦が出現。その直後、航空機が使用可能なうちにと、在日外国人(大戦中の密入国者の子孫と同盟国人)の一斉退去が起こり、一時的に国内混乱。

 国内混乱期に、ポリネシア・ミクロネシアは深海棲艦に占領された。混乱で避難手配が間に合わなかった住民に多数の犠牲者発生。連合艦隊もそのほとんどが波間に消えていった。艦船を失った日本は、北方列島を一部失陥し新洲嘉との連絡を絶たれ、マリアナ・小笠原をも失陥し、奄美・沖縄にも大打撃をこうむった。

 1980年代前半、BETA出現。80年代半ば頃には半島と大陸から救援要請があるも、東シナ海は当時深海棲艦の勢力下であったため、救援を行えなかった。

 1990年代末期になり艦娘・妖精と呼ばれる存在が、第二次大戦時に軍艦を保有していた国家に軍艦の種類に応じ顕現する(軽巡までしか計画・保有していなかった国家は軽巡まで。旧植民地には顕現していない)

 彼女らの援助を受け、北方列島の奪還を皮切りに奄美・沖縄から深海棲艦を駆逐し台湾までの航路を確保。小笠原・マリアナを回復し、現在の南方海域はマリアナ諸島とチューク諸島を結ぶ航路の維持に主力を割いている。北方航路は千島との船便が途絶えがち(船舶の撃沈は殆ど無いが就航率は3割)

 




次からようやく本編。


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設定その3:生産拠点で育てる予定の植物・動物

果樹と野菜・ハーブの名前だけ…。
詠み人いないだろうから好き勝手やっているけど…。

観賞用の植物は、うちにあるものから適当に持ち出します(書くの面倒だし…)


生産拠点で育てる予定の植物

 ※登場させるのは、自分で栽培していた(現在枯れた)もの・している植物・動物のみです。

 

動物(ペットは適当に出します)

・チャボ・鶏・在来種ヤギ・ウズラ・乳牛(ジャージー種)・肉牛

 

果樹

 柿(富有・次郎・太秋・貴秋・甘秋・禅寺丸・黒実柿・老鴉柿)・柑橘類(はるか・はるみ・なつみ・きよみ・せとか・麗江・甘夏・伊予柑・温州・スイートスプリング・サイパンレモン・レモン・ライム・ブラッドオレンジ・スウィーティー・ニューサマーオレンジ)・カシス・木苺・桃・ドラゴンフルーツ・フェイジョア(アポロ・マリアン・トライアンフ・ジェミニ・マンモス・ウィキトゥ・オパールスター・カカポ)・ポポー(オーバーリース・NC-1・スウィートアリス・テイラー)・プラム(貴陽・バイオチェリー)・ミラクルフルーツ・ジャボチカバ・リンゴ・ナツメ・山桜桃梅・キウイ・梅・ジューンベリー・ビワ・ブルーベリー・イチジク(バナーネ、サルタン、ロードス、ホワイト・ゼノア、パスティリエ、イスラエル 、ヌアール・ド・カロン )・ブラックカラント・レッドカラント・ホワイトカラント・グースベリー・グミ・アケビ・ムベ・ワイルドストロベリー・沙棘・コケモモ・ヤマモモ・クランベリー・ラズベリー・ブラックベリー・イチゴの木・ビルベリー・アロニア・オリーブ(マンザニロ・ルッカ)・ミズレンブ・カルシウムの木・コーヒー・シャカトウ・アテモヤ・チェリモヤ・モンステラ・パッションフルーツ・キワノ・バンジロウ

 

野菜(ニンジンやダイコンやカブやゴボウやスイカ、葉物野菜は書ききれませんが栽培中です)

 ジャガイモ(花標津・キタアカリ・インカレッド他)・サツマイモ(シモン1号・翠王・太白・シルクスイート・安納芋・紅赤・紅はるか)・マクワウリ・ゴーヤ

・小麦・大麦・ライ麦・アロマホップ・アイスプラント・グラパラリーフ・ウチワサボテン・雲南百薬・アロエベラ・ペピーノ・行者ニンニク・コシアブラ・コゴミ

・トマト(インカトマト・麗夏・ルビー・アイコ・宝玉・ボンリッシュ・ロッソロッソ・ルンゴ・ズッカ・パルト)・唐辛子(鷹の爪・ジョロキア・ハバネロ・島唐辛子)・カックロール・シカクマメ・モーウイ・ウド・ヒヨコマメ・レンズマメ・コールラビ

 

ハーブ(食用やら観賞用やらいろいろありすぎて…最近は家のカモミールがよそ様の畑や庭に勢力を(:_;))

 チャイブ・レモングラス・各種ミント・オレガノ・ルッコラ・ジャスミン・ラベンダー・カモミール(ローマン・ジャーマン)・ブルーマロウ・ルバーブ・フェンネル

・バジル

 

以後、随時掲載予定…。



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設定その4:艦娘とその他

前書きから移動しました。


1.一般的な艦娘

 1990年代末期に、初めて観測された存在です。

 当初は、その容姿と深海棲艦を倒せる唯一の存在であったため、聖母・戦乙女と持て囃されましたが、次第にその力に怯えられることも多くなり、一神教世界では災いも齎す魔女的なものとして排斥活動も見受けられる様になっています。

 某国家では八百万の神の存在と本地垂迹説が衰えていなかったこともあり、艦娘を八百万の神が姿を変えて現れたものと捉える考え方が主流です。

 建造時は幼児姿(凡そ4歳児位)で建造されます。艤装を纏わなければ、その身体の頑健さも精神も人間の女性と何ら変わるところはありません。空腹になれば食事も摂ります。余分なカスは艤装の展開時に機関で燃やせると言う噂があります(「アイドルと艦娘はトイレ行かないんです」某艦隊のアイドル談)

 また、ある程度の外見の艦娘は生殖能力もあります。

 身体が傷つけば痛みも恐怖も感じますが、艤装を纏う事で『艦』娘として活動出来ます(艦の記憶に引き摺られるとも言えます)

 そのことから深海棲艦とは艤装を纏った艦娘が艦・乗組員の想いと記憶に呑まれ狂暴化している状態と言う説もあります。

 艤装は一部の艦娘(任務娘の大淀・アイテム屋の明石・給糧艦の間宮と伊良湖)を除き一緒に出てきますが、ある程度成長するまで使用できません。艤装が纏えはじめたら艦娘として活動出来、心身ともに艦娘・女性として成長していきます。練度がゲームの「改」に達すると、身体的な成長は終了します。但し、艤装練度はその上限まで上がり続けます。

 艤装は艦娘の意識に合わせて展開または収納することが可能です。損傷した場合は取り外して修復し、肉体は専用の船渠で治療します。

 すでに大本営や別の鎮守府で建造されていて、鎮守府では艤装がない艦娘は全て候補生扱いで大本営や鎮守府の事務方として仕事しています。艤装が見つかったら艦娘として活動します。

 歴史上は建造されているにも拘らず、艤装が未発見の艦娘も居ますが、同じように候補生として事務方で働いています。

成長終了時の想定年齢

  駆逐艦:10歳から16歳位

 軽巡洋艦:14歳から18歳位

 重巡洋艦:15歳から20歳位

  潜水艦:14歳から18歳位(まるゆは……)

  戦艦系:18歳以上

  空母系:(体型がどうであれ)18歳以上

  海防艦:12歳以下

  補給艦:15歳から18歳位

 

※紳士諸君はYesロリータNoタッチの精神を遵守する様にお願いします。

 

2.解体と近代化改修

 解体も近代化改修も艤装解体による強制的な人間化です。解体された艤装は鋼材などの資源になります。

 近代化改修では艤装は一旦資源まで分解され、再資材化された後、改修用部品になります。

人間化した元艦娘は、人間と比べてかなり緩やか(外見20代後半にしか見えない60代とか)ですが、同じように年を取っていきます。

 人間化した元艦娘は外見に応じた一般人と同じ扱いです。人間化して戸籍を作る際に学力テストがあり、その結果を元に卒業能力(中学校卒業相当?)が決定されます。その為、軽巡以上の皆さんにとって、それまでの教育は非常に大事です。提督の役割の一つに艦娘に対する一般教育もあります。

 

3.同一艦娘の扱い

 艦娘の同一鎮守府でのダブりは、同じ艦で早く来た方が長女として扱われます。建造時のダブりは若い番号のドックの方が年長者です。

 

 

妖精

 身長は、ドワーフ位の背丈です。

 男性妖精は豊かな髭を蓄えていますが、女性妖精は合法ロリ(メリハリ有)です。

 

 

提督

 ブラック提督は存在しますが、【日本を救うために八百万の神が姿を変えて現れたものが艦娘である】という考えが主流な為、艦娘を搾取対象としたり性的暴行の対象とするブラック提督は少ないです(建造された艦娘は幼児の為、そこから育てていると情が移り邪念を抱けなくなっています。ドロップ艦は別)

 ブラック提督のブラックは、倒れるギリギリまで艦娘に出撃を命じるブラック労働(史実で泡時代に24時間戦っていたジャパニーズビジネスマンが裸足で逃げ出すほど)的なモノです。

なお、ブラック鎮守府の場合、責任者は出世欲が極めて強く同僚よりも一歩でも上を目指す為に、大本営に物資を大量に納入しています。物資を得るために出撃を命じる一方、艦娘が倒れる・轟沈があると、出世の瑕疵(すぐにライバル側から大本営にチクられます)となる為、艦娘に対して管理は厳しく行っています。

 人によっては艦娘の出撃から帰還まで管理するため艦娘以上働いている提督もいます。その為所属艦娘たちもブラックとは思っていなかったりもします。

 週の稼働時間が72時間位までの鎮守府は【ホワイト鎮守府】とされています。完全週休二日制の鎮守府など御伽噺・都市伝説の世界です。

 

 

主人公

 保有中拠点設計・各種技術開発・改良・艤装設計技術

 01:新型船体開発

 02:新型兵装開発

 03:新型合金開発

 04:新型機関開発

 05:新型機関の効率化

 06:新型電子兵装開発

 07:大型兵装の強化

 08:中型小型兵装の強化

 09:艦船補助装備の改良

 10:新型近距離防護火器開発

 11:新型航空機機体開発

 12:新型航空機用兵装開発

 13:新型航空機用機関開発

 14:新型航空機用電子兵装開発

 15:新型航空機開発理論

 16:新型航空機開発

 17:新型艦船開発

 18:新型拠点用躯体開発

 19:新型拠点用機関開発

 20:新型拠点用兵装開発

 21:新型拠点用電子兵装開発

 22:新型拠点用補助設備開発

 23:生産設備効率化

 24:防衛システム改良

 25;無人防衛システム開発

 26:防衛システム発展型改良

 27:新型拠点開発

 28:新型艦娘基礎理論(開発兵器を搭載する大型改修可能)

 29:新型艦娘改良(新型艦娘の所謂近代化改修)

 30:新型艦娘進化型改良(新型艦娘の大型改修)

 31:新型弾頭の開発

 32:新型弾頭の強化改良

 33:長距離火砲の改良

 34:陸上用新型機体開発理論

 35:陸上用新型合金開発

 36:陸上用新型機関開発理論

 37:陸上用新型機関開発

 38:陸上用新型兵装開発理論

 39:陸上用新型兵装開発

 40:陸上用新型機関の効率化

 41:陸上用新型電子兵装開発

 42:陸上機械化装甲娘(通称 陸機娘:艦娘の陸軍版)艤装開発理論

 43:陸上機械化装甲娘(陸機娘)艤装開発

 44:陸機娘艤装大型改修理論

 45:陸機娘艤装大型改修

 

特殊能力

身体的特殊能力

(10と11は本人も知らない。はっちゃけ過ぎの生体が自分の作った<世界>に与える影響を恐れた白衣によって嵌められた枷。解除不可能)

 01:薬異分解…過剰な薬効成分と毒物や爆薬などの異物を安全に分解排除する

 02:薬物耐性

 03:魅了耐性…媚薬・暗示等の無効化

 04:自然治癒

 05:身体頑健…内臓強化・細菌・ウィルス感染防止・NK細胞及びNKT細胞強化。アレルギー疾患無効。

 06:百錬成鋼…何度も鍛えられた非常に強い精神と身体

 07:格物致知…物事の道理と知識を極め尽くし、自分の理解を超える知識を得ても壊れない精神力と得た知識を理解し活用できる力

 08: 不 老…何時までも全盛期の容姿で、体力も頭の働きも衰えない

 09: 長 寿…150歳以上の寿命を保証されている

 10:顔常山舌…辛い処罰を受けても、君主や国への忠義を貫き通す心

 11:匪躬之節…自身の損得は考えずに、君主や国家への忠義を尽くす心

 

特殊能力(02~04は発動にキーフレーズwが必要と設定された)

 01:孝悌忠信…提督以外からの暗示・洗脳にかからない。

        提督に直接的・間接的な危害を加えない(破壊工作や毒物投入・

        上部組織への密告・提督の命令以外の艦娘解体等)

 02:翼覆嫗煦…所属艦娘・妖精との絆強化・建造艦娘の忠誠心Max。

 03:合歓綢繆…成人艦娘・ドロップ艦娘・妖精の忠誠心Max。

 04:憐香惜玉…轟沈艦娘の救助蘇生:合歓綢繆または翼覆嫗煦を所持していないと発動できない。

 05:純潔清浄…轟沈から蘇生した艦娘の恐怖を和らげる

        ※憐香惜玉を所有していないと発動されない

 06:植獣召喚…かつて自分が扱った植物や動物を求めた時に取寄せられる注意:初回は苗木・種・幼生しか出ません

 07:本人限定時間遡行

 08:生産性強化

 09:彼我能力強化…同じ事を行った際の双方の能力強化

 10:ご都合主義…弁解等がどんな拙い言葉でも通用し、相手が勝手に納得する。

         自分に有利な状況に物事が進む。コミュニケーション対策専用。

 11:独自拠点の設計・開発

 12:各種技術開発・改良・運用

 13:艦息化…女性のみが纏える艤装を纏い戦闘を行える。

 14:艦装設計・複数所持…独自設計艦の複数所持。必要に応じてその場に顕現させ

             操艦できる。使用回数に制限あり。

 15:隠蔽工作強化

 16:認識阻害

 17:ポイント持越し

 18:設計設備持越し

※疑念が深まると特殊能力とはいえ『孝悌忠信』や『翼覆嫗煦』、『合歓綢繆』の効果は切れる事もあります。はじめに『孝悌忠信』が切れ、そこから芋づる式に翼覆嫗煦と合歓綢繆の効果が切れます。

 

容姿

 身長:198㎝ 

 体重: 85kg

 年齢: 27歳

 黒髪+限りなく黒に近いブラウンの虹彩

 ジャミル・ニート+北村一輝の濃い顔にカイゼル髭が生えています。

 

前世の容姿は暗殺された隣国指導者の異母兄の影武者が務まる程そっくり。

 

 某艦娘談「英姿颯爽としていて『道貌岸然』とか『威風凜凜』といった言葉の生きた見本だよね。外見詐欺だけど」




陸上機械化装甲娘(陸機娘)艤装は架空のものです(要は衛士の強化外骨格の代わり)
戦術機関連技術? 使うの? ということで、主人公は取得していません。


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増員と拠点強化――近海編――
第1話:戦い


ちょっと改定


「長官! 被害報告! 加賀、赤城、瑞鶴、翔鶴、龍鳳、鳳翔、瑞鳳、飛鷹、武蔵、長門、金剛、比叡、榛名、霧島、山城、日向、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、最上、熊野、鈴谷、球磨、多摩、大井、木曽、五十鈴、阿武隈、鬼怒、早霜、浜風、綾波、夕立、時雨、長波、伊19、伊8、伊13、伊58大破! 蒼龍、龍驤、大和、扶桑、伊勢、妙高、足柄、那智、羽黒中破! 長良、名取、由良、霞、雪風、島風以下軽巡、駆逐艦に小破多数」

 首席秘書艦大淀の報告に合わせ、次席秘書艦の飛龍が駆け込んでくる。

「明石、夕張より連絡。船渠機能限界!」

 さらに悲報は続く。

「北上より連絡。火薬廠被弾! …設備中破なれど類焼損害なし! 長官! このままでは戦線が維持できません!」

 悲痛な叫びが戦闘指揮所に木霊した。

「火薬廠被弾か。継戦機能も限界に近付きつつあるな。奴ら、なぜこの時期に…」

 呻くような声に、

「長官! 私が出ます。たとえ最後の一艦になっても敵を沈めて見せます! 命令を」

 悲愴な面持ちで、出撃命令を待つ飛龍。それに対し、

「飛龍、君の艤装は前の戦いのダメージが残ったままだ。轟沈確定の出撃は認めん!」

 断固として出撃を認めない長官と呼ばれた男。

「手を拱いて、仲間が、艦が沈むのを待つつもり!?」

 指揮を執る男に掴み掛る飛龍。

「馬鹿者。むざむざ仲間を失わせるものか。私が出撃する。副長、私の艤装を用意せよ!」

 その言葉に、副長と呼ばれた人物が苦言を申し立てる。

「長官! 過度にアレを使用すると、あなたの精神が持ちません。あれが暴走したらそれこそ全て終わりです。それを考慮していらっしゃいますか?」

「むろん、承知している。まだ余裕はある。仲間を助けるためだ。反対されても行くぞ」

「反対などしません。彼女らを助けられるのは、事ここに至っては長官しかいらっしゃいませんから」

 そう言うと、副長は傍らのマイクをとり、艤装を準備するように指示を出した。

「此方指揮所。第7番ドックに伝達。艤装『豊葦原』準備! 長官が出撃する」

 マイクを置き、長官の目を見据え、

「ご武運を。轟沈なき鎮守府の為に」

 色気のある敬礼を行う副長。答礼を返し部署を離れる男。

 その姿を見送り、呟く。

「50回目の出撃までは大丈夫との事でしたが、本当に大丈夫なんでしょうか……。徐々に破壊衝動を抑えられなくなっている気がします」

 その呟きに飛龍が応じる。

「うん。私も注意してはいるんだけどね、実戦後は長官特に昂るから他の子に被害が行かないように。だから分かるんだけど、私を組み伏せてから正気に戻るまでの時間が次第に長くなってきている。……アレの時も私に対しての扱いが次第に乱暴になってきているし」

「そうですか……。なるべく艤装の使用を控えさせる様に対策を取らないといけませんね」

 

「豊葦原、出撃する!」

 出撃した男が纏った巨大な艤装には、通常の艦船ではありえない装備が見られた。

 大きなものは巨大ドリルと側面に設けられている巨大ブレード。主砲に至っては小型ではあるが超電磁砲と常識を何処かに置き忘れたものになっている。その他、多数のVLSとパルスレーザーを有し、第二次大戦はおろか、それ以降のあらゆる艦船とも一線を画しているものであった。

「しかし、出る度に思うが、まさか前世で遊んでいたゲームの世界で生きる事になるとはね」

 男は戦線に駆け付けるまで、この世界に来た時の事を思い返していた。




ちと短め


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第2話:始まりの部屋にて

 男がこの世界で過ごす事になった全ての始まりは、目の痛みさえ覚えた光に満ちたあの部屋からだった。

 

「起きたまえ、君」

 その声に男の途絶えていた意識が戻ってくる。

「起きたかね」

「ええ。……ここは」

 目を開けた時から、強い光しか映らず、男は目の痛みすら覚えていた。

 目を眇め、周囲の状況を何とか確認しようとするも、

「目を閉じていたまえ。君には眩しすぎるだろう。今――を弱める」

 声の後半が聞き取れないながらも、声の主に従う。

「これでいいだろう。もう目を開けても構わない」

 その声にゆっくりと目を開け、周囲を確認する。

 白い――白しかない部屋であった。否、よく見ると機械らしきものが置かれた台といすが見える。

 男がそれを見ていると、機械らしきものが見覚えのあるもの――タワー型デスクトップPCへと変化する。

 その光景に驚き、ふと気が付き、声の主を探すと、いつの間にか目の前に、人の輪郭を持った光影があった。

 声からして、男性。それも青年以上と思われる。だが、それ以上のことがわからない。

 影が揺らめき、声が聞こえた。

「これから君には、ある世界へと転生してもらう。異議は許されない」

 突然の宣告に戸惑う男。

「ちょっと待った。いきなり何を言ってるんだ。そもそも此処はどこだ。そしてあんたは何者だ」

 混乱して喚く男の態度を気にする風でもなく、

「君にならわかるだろう。流行りの転生というものだよ」

「はぁっ? 何を――」

 言っているんだ? 正気か。と続けようとした男を遮るように、突然、辺りの気配が変わった。

 風と見まごうばかりの強い威が男を囲む。

「これで判るかね」

 その声に、吐き気を催すほどの強い威圧感に、

 ――これは、普通の人ではない。態度を改めるべきだ。

 そう思わせられる。

 そして影の身に纏う神威とも思われる威に、男が思わず片膝をつく。

「宜しい」

 影が、その姿勢に満足げな声を出す。

 男が片膝をつき、声を震わせながらも影に問うた。

「なぜ、私なのでしょうか」

 その問いかけに、

「君が私の依代であったからだ」

 影が、そう答える。

「依代……」

 呆然とする男に

「なぜ依代に自分が、という問いには答えられぬぞ。君の定命だ」

 笑いを含む声がかかる。

「君は依代としての役目を終えたが、そのままにしておくのも不義理な気がしてな。褒賞として第二の人生を与えることにした」

 一転、厳かな声調となり影が言葉を紡ぐ。

「まずは、そこから世界を選びたまえ」

 影がPCを指す。

 おぼつかない足取りながらもPCの前に進み、画面を見る。

『――っ。本当に褒賞か?』

 思わず、疑念が生じる。

 選択肢に上がった世界。それは――

 

 1.マヴラヴオルタネィティブ

 2.モンスターハンター

 3.Fate/stay night

 4.艦隊これくしょん

 5.ゼロの使い魔

 6.銀河英雄伝説

 

『2,3,5の世界って俺ほとんど知らんぞ。1はBETAが怖いし、ヒロインは武ちゃんの嫁’Sだし、4の艦娘は良いけど、深海棲艦なんて謎のモノだし。6がまだまともそうだけど、戦死率も高いよな。うっかりラインハルトの前の帝国平民なんぞに生まれたら最悪だ。もっと穏やかな世界はないのか……』

 男が葛藤していると、それを承知しているかのように声がかかる。

「決まったかね。生憎とそこにある世界以外の選択肢は無いのでな。その中から決めるように」

 その声を他所に直も、男が悩み続けていると

「決まらないのかね。では、私が決めよう。そうだな……3の世界で」

 その声を遮る勢いで、

「4の艦これ世界で!」

 男が叫ぶ。

「宜しい。世界は決まった。では、次は君の好きなように自分の立場をデザインしたまえ。但し、際限無くという訳にもいかない。君の依代としての評価をポイントにした。このポイントを組み合わせてデザインしたまえ。時間は無限にある。隅々までよく見て考えることだ。一度決定したことは戻せないのでな。――私が居ると気も散ろう。席を外す故、不明な点はそれを使い問いかけよ」

 PCに付属しているマイクを指すと光影が消えた。

「ありがとうございます」

 素直に感謝の言葉を述べ、いつの間にか現れた電卓とメモ帳とペンを見る。

「艦これの世界か。よくわからん世界よりは良いか。ポイントとやらはどれくらいあるのかな」

 そう呟くと男はマウスを操作しだした。

 




光の人影は、プロローグにでた白衣の男です。
神様プレイでノリノリです。
ぶっちゃけると、主人公は選択肢があるようで実はありませんでした。艦これ世界を選んだことも無意識に誘導されています。


次回はチート付与回。

鋼鉄の咆哮3のデータ引っ張り出さないと…。


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第3話:始まりの時

「ポイント60万か。ん? …姦淫するなかれ。を厳守した事で更に20万ポイント付与って、余計なお世話だ!」

 中学時代からキスすら未経験だったことを茶化され、憤然とする男。

「まあそれはどうでもいいか。基本としてはまず、立場をどうするかを考えるべきだろうな。元からいた存在になるか、突然の出現か。そういえば、ここはどうなるんだ?」

 ふと疑問に思い、問いかけると、

『よく気が付いた。そこはすでに元からいた存在となることに決まっている。提督として最低限の能力も与えられる。ポイントを無駄にせず、結構なことだ』

 抑揚のない平坦な声が聞こえる。

「罠付きかよ。罠を見破った特典ポイントも付けて欲しいもんだ。……慎重にならないと」

 改めて画面を慎重に確認する男。

 『人物』の項目の『自分』を選択すると『仲間』で表示された複数の項目がグレー表示になり選択できない。『仲間』を選択すると、『自分』で表示された項目が同様になる。

「80万ポイントを使えばかなり有利な戦いができるが……。仲間をとるか、自分を強化するかの二者択一か」

 この条件さえなければ、と、考え込む男。この条件さえなければ、様々な能力を持ちつつ、強力な艦隊を率いて参戦も出来るのだが。

「仲間だろうな」

 選択しようとしたところで、思い直す。

「ほかの項目を見てから考えよう」

 

 ********************************************************************** 

 

「ほう。よく気が付いたな。意外と注意深い」

 生体からの問いかけに応えを返し、独り言ちる。

「だが、さすがに20万ポイントの原因まではわからなかったか」

 原因は、僕が入っていたからなんだけどね。と苦笑する。

「さてさて、隠し機能は見つかるかな。あれを見つけないと、かなり苦労するぞ。見つけられれば、チートプレイができるんだがね。ついでに君のポケットも探ってみることだよ、プレゼントを入れておいたんだが気が付くかな?」

 目の前に生体の姿を映しながら影が笑った。暫くし、さらに質問が来る。

 

 ********************************************************************** 

 

 『人物』の項目を戻り、『自分』をカーソルで操作する男。

 『自分』を選択すると先ほど見た複数の項目が表示される。

「身体能力、精神力、知識、能力、容姿、特殊能力か。さらに分かれそうな項目もあるな。まずは、お約束の身体能力から覗いてみるか」

 そう呟くと、カーソルで『身体能力』を選択する。

「予想通りか」

 選択すると、体力、筋力、敏捷性、技術力、特殊能力の項目が表示された。

「とりあえず保留だな。次に面白そうなのは、容姿かな」

『容姿』を選択すると、こちらも予想通りの展開になる。

「人種、性別、年齢、身長・体重、魅力、ん? プロポーション指数? バスト指数? プロポーションインデックス値? ……女性専用か、これ。性別は男にするから、これは不要だな。ボディマス指数は、自動設定でもいいかな。それより、髪の色や虹彩の色も選べるのかよ。女たらし提督(ロイエンタール)の容姿にもできるのか。……流行りだと、銀髪オッドアイか? やる気はないけどな」

 だが、と男が考える。態々髪の色や虹彩の色を選択できるような設計になっているということは、何かあるのかもしれない。

「これにするとボーナスつくのかな?」

 ふと思い返し、念のため質問を投げる。

「虹彩異色にすることで遺伝上のリスクや魅力に影響はあるのでしょうか。また、身長体重を大幅に変更することで視野等の戸惑いはあるのでしょうか」

 

 ********************************************************************** 

 

「虹彩異色にすることで遺伝上のリスクや魅力に影響はあるのでしょうか? 当然あるに決まっているだろうに。ああ、流行りの影響か。ボーナス? 付く訳なかろうが。……身長体重については、違和感を感じさせない、と。違和感があったら、動かさないだろうしな。それでは面白くない」

 しばらくすると値が変化し始める。

「おっ。始まったか」

 

「黒子の数まで設定したか。その辺りの設定は使うことないから自動設定も設けていたんだが。気が付かなかったとは」

 腹を抱え爆笑する。

「しかし、失敗に気づいているのかね?」

 

 ********************************************************************** 

 

『影響についての禍福は当然ある』

 予想された回答がある。

「そうだよな…。遺伝病のリスクを背負って虹彩異色にする事もないな。容姿は先に作ってもいいか」

 項目を操作し、ポイントを計算しながら作成する。

「……今の自分とかけ離れるほどポイントが消費されるのか。……4万ポイント消費か、結構使ったな」

 人種、性別、虹彩と髪色はそのままだが、その他は遠慮なく変更した結果だった。

「アレの大きさや、足のサイズ、顔の彫とか鼻の高さや黒子の位置・数まで設定することになるとは思わなかった。……黒子の数や位置なんて使うのか?」

 愚痴を言いつつほかの項目を探る。

「特殊能力か、2つあったけど、身体能力の方はどうかな。……薬物毒物分解能力、薬物耐性、魅了耐性、指揮能力向上……お約束だな。NK細胞・NKT細胞強化、健康維持、内臓強化、細菌感染防止、日焼け・しみ・そばかす防止、アレルギー疾患無効……細かっ。自然治癒、長寿、不老……驚かない驚かない。他には……不死!? こんなの持っていたら彼方此方で解剖されそうな気がする。これは危険だ」

 項目を別の特殊能力に変える。

「こちらは……轟沈艦娘救助蘇生、絆強化、本人限定時間遡行、生産強化、彼我能力強化……色々あるな、どれもポイント高いけど」

 カーソルを動かしているうちに形が変化する箇所を見つけた。

「ここだけカーソルが変わるな。……うぉ、こんなところにボタンかよ。見た目1×1㎜ミリ位しかないんじゃね、このボタン。何ピクセルよ、色も背景色だし。隠しボタン? ……何か良いもの有りそうだ」

 昔のサイトで作ったボタンとリンク先を思い出し、選択する。

「マジかっ。……お約束主義、独自拠点の設計・開発、各種技術開発・改良・運用、艦息化・艤装設計・複数所持、隠蔽工作強化、認識阻害、ポイント持越し、設備持越し。ポイント持越しや設備持越しとかって何だろ? これはいいか。それ以外は選択対象だな。……そう言えば、仲間の方は何があるんだ?」

 項目を戻し、仲間を選択しようとするがグレー表示のままであった。

「あれ? 選択できない……? しまった! 容姿を作成したからか。しくじったぁ……」

 

 ********************************************************************** 

 

「失敗に気づいたか。さて、どうする?」

 楽し気に見つめる。

「幸い、あれは見つけたようだしな。あとはプレゼントを見つけられるかだが……」

 生体からのいくつかの質問に答える。

「……プレゼントも見つけたか。どうするのかな? ……そうだ。そのまま使用してかまわん」

 作業を楽し気に見つめ続け、適時質問に答える。

 

 区切りがついたところを見計らい、再び人型の光影を纏い、生体の前に立った。

 

 ********************************************************************** 

 

 やっちまった失敗は仕方ない。そう自分を慰め、男は『自分』にカーソルを合わせ選択する。

「やっちまったなぁ。注意が散漫だった。過ぎた仕方ない。しかしもったいなかった」

 ブツブツと愚痴をこぼしながらも、カーソルを操作する。

「さっきの隠し機能で選んだもの全て選択と、特殊能力選択っと。不死は怖いから要らない。脳と脊髄になって精神崩壊しても死ねないなんてことがありそうだ。そういえば、独自拠点ってどういう扱いになるんだ?」

 疑問に思ったことを尋ねる男に対し、応えがある。

『拠点の扱いは立場の設定による。軍所属であれば、軍から与えられたものとなる。この場合、余程の事がなければ取り上げられることはない。が、ここで設定したものは1つを除き、事前搭載されない。後から搭載する必要がある。民間の場合、発見者としての権利を持ち、設定した設備は搭載されるが、国家に徴収される事もある。その後提督になっても返還されない事もある』

 その回答に

「軍所属以外選択できないじゃないか。徴収されない可能性なんて僅かな物だろう」

 そう呟き、操作を重ねる。

「? あれ? 自己不利益によるポイント増加? 何だこりゃ。……へぇ。自分の状況を不利にすることでポイント増やせるのか。どれどれ……世界設定まで弄れるのかよ。深海棲艦って、海や運河以外にも船の運航があった場所はどこでも侵入するのか。琵琶湖とか淀川とか四万十川とか鴨川とか中川とか、掘割・運河にも入れるのね、怖っ。侵入するのは入れた船の大きさに拠るのがせめてもの救いか。……あれ? ……これ! 事前に選択されているじゃねぇか!! ふざけんなよ!」

 操作するうちに、見つけた設定を選択し、眺めるうちに気づいた事柄に激高する。

「深海棲艦に加えてBETAもいるのかよ。冗談じゃない。……ここの設定機能は。……これか。チッ、BETAの削除は無理か。なら、少しでも弱体化してやる」

 憤りながら、弱体化させるためにポイントを注込む。

「……水面を渡る機能をほぼ消滅させるのとBETA遺骸に対する射撃も行えなくするだけで35万ポイントか。学習能力弱体化やレーザー属種消滅も行いたかったが、これ以上無理だな。大陸居住者諸君、すまん。成仏してくれ」

 そう呟き、男が一旦席を立ち、大きく伸びをする。再び作業に戻る為に席に勢いよくついた弾みにポケットからUSBが落ちた。

「あれ? こんなのあったのか。何入れていたっけ?」

 USBを差し、中身を確認すると

「おいおい、俺が使っていた咆哮シリーズの改造ソフトとセーブデータかよ。なんでこんな物が。……不要な物じゃないよな、ここにあるってことは。使えってことかね。……使えってことだよな。……使えるとしたら、拠点作成か艦息化・艤装設計・複数所持の項目か? そう言えば設計ってどうするんだ?」

 そう、困惑しながらも初期画面から『設計』を選択し、艦息化・艤装設計・複数所持の項目を選択する。表示された画面を確認し、思わず吹き出した男。

「まんま、咆哮の設計画面かよ。結果は保管できる……のか。場所は同じ、か。よっしゃ!」

 大喜びでソフトを起動し、適当に作ってセーブしたデータを書き換える。

「船体は……で、艦橋は……、兵装は……波動砲系と重力砲系は設定できないのか。まあいいか。じゃぁ代わりに……で、補助兵器は電磁防壁、防御重力場と無限装填装置と衛星視界装置と超イージスシステムと……で、航空機も変えないとな。これは……で、……で、これで良し。功績値と編成値は……。よしできた。この兵装の数、拠点に持っていけないか?」

 その呟きに、応えが返る。

『ポイントを使用することで可能である。サービスだ、選択していないポイント持越しと設備持越しを選択したまえ』

 応えがあり、焦る男。その言葉に従って、ポイント持越しと設備持越しを選択する。

「びっくりした。せっかくだし指示に従いますか。……うわぁ、残り25万ポイントか。立場を選ぶのに15,000ポイントは最低でも残さないといけないから……ギリギリかな? 次は拠点か。モデルはハーロックの海賊島かマクロスか、アクアポリスもいいな。まぁ、SeeIn青のアンドルードにするか。あれが印象的だったし。アンドルードか……設備は…… うん? デフォルトの物質変換機ってなんぞ? 工廠と船渠とRO造水機はわかるが。まぁ、既存設備なら良いか。さっきの兵装を移行して……拠点には波動砲系も重力砲系も設置できるのか……100㎝砲と超電磁砲と……ん、これで良し。後は、技術か……。……戦術機関連技術? 使うこともないだろ。いざとなれば波動砲と重力砲ぶっ放すし……あとは娯楽施設だよな……。おし、終わった終わった。農場と牧場と人工温泉もつけたし、これで良し。ポイントの残りは2万ポイントか。ぎりぎりだったな」

 終了を選択し、力を抜く。

 

「準備は終わったな」

 その声とともに、再び光影が降臨する。

 男は席を離れ、顔を伏せ片膝をつく。

「それでは、かの世界に送り込むが、質問はあるかね?」

「艦これの世界に行くものとばかり思っていましたが、なぜBETAと深海棲艦がいる世界なのでしょうか?」

「君の依代としての評価がわずかに不足していた。その不足分の補填だ(実際は僕の計算違いなんだけどね)」

 その答えに男が沈黙する。

「注意事項がある。君が作成した艤装だが全体で50回までの使用制限を設けさせて貰う。深海棲艦戦役の主役は艦娘なのでな。50回を越すと艤装が暴走する事になる」

 仕方ないと納得する男に対し、さらに。と光影が告げる。

「20年後に異星人の襲来がある。その時の異星人がどのようになるかは、その時優勢な勢力次第だ」

 思わず、顔を上げる男。――どう考えてもBETAが有利ではないか。

 その不安を承知しているかのように、

「安心するが良い。あの博士と恋愛原子核とその仲間を存在させた。だが、そちらは特に気にすることはない。軌道が交わるとすれば最後のハイヴ攻略の時だ。君は艦娘と深海棲艦の方を気にしたまえ。……最後に一言注意を。これから行く世界は君がいた世界とよく似ている。よく似た世界だが歴史が全く変わっている。能々確認することだ。では、さらばだ」

 その言葉とともに男の視界は光に閉ざされていった。

 

 

next…

 

出現時期:大日本帝国海域開放支援作戦開始直前

出現場所:呉鎮守府管轄柱島泊地

 

残存艤装展開回数:50




仲間を選んだ場合、仲間に超兵器艦娘と主人公が作成していた艦の艦娘が加わりました。その代わり特殊能力のいくつかが消えていました。

大日本帝国海域開放支援作戦は架空のものです。






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第4話:出航!

 海上を疾走している男の前方に人影が見える。

 目を凝らすと、男にとっては見知った姿。

「五月雨と夕立か!」

 その声が聞こえたか、肩を貸し合いながら距離を詰めてくる2人。

「……ごめんなさい。これじゃあ、戦えない……っぽい……」

「……うわあぁん、痛ぁい…!」

 合流できた安堵から男に抱き着いて泣き始める2人。

 男は、周囲を警戒しながらもあやす様によしよしと頭をポンポンと叩く。

「大丈夫……な訳ないな。ちょっと待ってろ」

 男はそう言うと二人から離れる。少し離れる位置に立つと身に纏った艤装が消え、その場には艦首のドリルと舷側の複数の巨大な刃が一際目を引く巨大艦が出現していた。

「乗りなさい」

 艦から男の声が聞こえる。

 

「…相変わらずの、非常識っぽい」

夕立が愚図りながらも、呆れたような声を出す。

「行こう、夕立」

 五月雨に促されながら 2人が舷梯がある場所に近付く。

 舷梯が下ろされているのを確認するが、

「これって舷梯っていうよりエスカレーター…」

「ほんとに非常識。でも、座るだけで運んでくれる。こんな時は楽ちんっぽい」

 半ば呆れながらも、段に腰掛け、甲板まで運ばれる二人。

 甲板に着くと待ち構えていた艤装妖精にストレッチャーに乗せられ、艦内ドックに運ばれる。

 その様子をモニターから観察し、安堵する男。

「やれやれ、間に合ったか。一番最初に拾ったのが、最初期の二人ってのも出来すぎてるよな」

 ふと昔を思い出し、笑みが浮かぶ。

「このまま行くか。……副長と飛龍達からは大目玉だろうな。次は……この流れから行くと、潮は鎮守府だから多摩と荒潮かな……。埒も無いこと考えてないで急ぐか」

 転生直後を思い出しつつ、戦場へと足を急がせる。

 

 ********************************************************************** 

 

「貴官には新設の鎮守府を任せる! 良いな」

 あの部屋から送り出された男が気が付いた時は、その命令を受け取った直後だった。

 自然と礼に則り命令書を受け取る。

「謹んで拝命致します」

「よし、では直ちに準備にかかれ」

 その言葉に礼を返し、急ぎ港へ向かう。

(……港? 無意識の内に向かっていたが、どこかの離島にでも向かっているのか? 新設と言っていたしな)

 男はさっそく自分の立場を確認してみる。

 ――氏名:神泉守孝

 ――身長:198㎝ 体重85kg

 ――年齢:27歳

 ――海軍特殊兵学校24期(入校時:100名中43番 卒業時:87名中8番)

(……中々優秀な事で。俺の頭じゃ絶対無理な順番。自分の設定変更しておいてよかった)

 ――現階級:特務中佐

(……特務? 艦娘指揮するから一般の軍人とは違うってことかな? 記憶のすり合わせが必要だな。歴史も変わっているとの事だったしな)

 

 約束の時間より多少早く港に着いたが、そこに居るのは女学生と見間違えんばかりの若い女性が2人だけ。

 居るべき筈の秘書艦候補生の影すら見当たらない。

 どういうことだ? と首を傾げ、取り敢えず居合わせた女性に声をかける。

「どなたかお待ちですか?」

 後ろから突然声をかけられた為か、可笑しな声を挙げる女性。

「ひゃ、ひゃい。……失礼しました。『をとめの姿 しばしとどめむ』

 咳ばらいをし、取り繕うように予め決められている符丁を口にする。男が即座に返す。

「『天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ』。……君らは秘書艦候補生か? それにしては艤装が見当たらないが?」

「神泉特務中佐ですね。私は『明石』艤装候補生です。隣が……」

 隣の女性が敬礼を行い、

「『大淀』艤装候補生です」

「2人だけか? 他にはいないのか?」

 符丁は合っている。ただ。と男が考える。

 二人だけというのは怪しい。若しかすると候補生に深海棲艦が化けているのかもしれない。

 それとなく身体を半身にし膝裏を緩める。

「はい。暫く前からお待ちしておりますが、何方もお見えになりません」

 そう言いながら2人も、特務中佐が体位を変え始めたのを訝しみ、同様の結論に達する。

 此方を確認し、体位を変えるのは怪しい。若しかすると深海棲艦が化けていて、私達を始末した後鎮守府を乗っ取る心算かもしれない。

 互いの行動が、増々疑わしく思える。視線も心成しか鋭くなっている。

(『百錬成鋼』を取得してなかったら潰れていたな。威圧感が凄いわ)

 男が現実逃避気味に考えていると、遠くからクラクションを鳴らしながら、土煙を立ててトラックがやって来る。

 すぐ近くで停車すると、1個分隊程の兵を伴った将校――階級章からすると少将――が降りて来る。

 全員を一瞥すると、

「丁度時間だな。全員あの連絡艇に乗れ。状況は道中で説明する」

 そう急かし、自分はさっさと停泊中の連絡艇に搭乗していった。

 3人で顔を見合わせ、急ぎ搭乗する。

(((……どうやら深海棲艦ではなかったらしい)))

 3人の間に気まずい空気が流れている。

「さて、これから向かう先だが」

 そんな空気など気にせず、少将がお構いなく説明を始める。

「神泉中佐、貴官は着任に当たり何か噂でも聞いているか? どのような馬鹿げたものでも構わん」

「新設の鎮守府とのみ聞いております」

「秘書艦については?」

「何も聞いておりません」

 少将は満足そうにうなずくと、視線を2人に向ける。

「君たちは?」

「何も聞いておりません」

 答えた大淀候補生の回答に何度も満足そうにうなずく少将。

「宜しい。機密の保持が成されているというのは実に結構なことだ。……見たまえ」

 その言葉とともに示された腕の方向を見る。

「何ですか、あれ!」

 2人が驚きの声を上げる。

 そこには全長600~700m、水面からの高さは100mはあろうかと思われる巨大な艦が停泊している。幅は見えないが、それにふさわしいものだろう。

(パイオニアリング・スピリットをモデルに設計したコア艦か。残りはどこにあるのだろう)

「中佐、君は驚かないのかね」

 驚く二人と異なり、動じる様子が見られない中佐に少将が訝しげに問う。

 男は自身が設計した形と違うことに気を取られていた。

 少将に問われた男が慌てて、自身が取得した能力『ご都合主義』を発動させながら答える。

「いえ。驚いておりますが、これほどのモノであれば、ここまで秘密であるのも無理ないかと納得の方が大きく」

 内心冷や汗をかきまくる男。

「なるほど」

 苦笑する少将。

 それに対し、まさかこんな言動で納得してもらえるとは。と男は自身が取得した能力の効果について驚愕していた。

「だが……」

 表情がわずかに曇る少将。

「初期艦娘が不在な理由でしょうか?」

 そう尋ねるも、

「それについては着いてから話そう」

 それっきり黙ってしまった。

 

「神泉中佐、ここが貴官が着任する新設の鎮守府だ。正式名称を【海上要塞型移動鎮守府 高天原】と言う」

 鎮守府に乗り込むと一行は会議室に向かう。

 会議室で少将が鎮守府名を紹介する。

(高天原とはまた大胆な……。名前は付けられなかったから気になっていたが)

 内心ではその艦名に複雑な思いを抱くが、

「なんというか、その……実に大胆な名前ですね」

 言葉では無難な反応を返すだけに留める。

「撃沈は絶対に許されないでしょうね」

 男の隣に居た大淀候補生が頭を振る。

「当たり前だ。この鎮守府の役割は、生産工廠にある」

 はっ? と、男が設計内容を思い起こす。

(……設定した中に生産工廠(そんなもの)あったかな……。あっ! 物質変換機か、ひょっとして)

 一点心当たりを思い出す。

「ついてきたまえ」

 そういうと少将はついてきた兵とともに、下の階層へ降りていく。

 何度も階を上り下りし、いくつも角を曲がった後、でかい謎の機械(?)の前に案内された男たち。

「これは我が帝国が極秘に入手した物質収集変換送信機ともいうべき機械だ。海中に溶け込んでいる各種微量元素を収集し、インゴットに変換する。そしてこの入口から投入されたインゴットを定められた場所に瞬時に移送する。某所で発掘されたものでな。何時何処で誰が何の目的で建造したかまるで解らん。そして発見されたのは、この1台だけだ。それだけに撃沈なんぞは絶対に許されない。万が一撃沈されても、これだけはいかなる犠牲を払っても必ず持ち帰るように。良いな」

 自分が設計した筈の鎮守府が設計図とは似ても似つかないものになった挙句、そのような大事なものになったことに焦りを覚える男。

 そういう設定だからとは言え、なぜ此処迄の重要拠点に配属されたのだろうか? 着任するまでのストーリーはどうなっているのか。と疑問に感じ少将に問う。

「なぜ、私がこのような重要拠点に着任したのでしょうか? これほどの施設には佐官級より将官級の司令官が着任するのでは?」

 その問いに対し、

「簡単なことだよ。将官と君より上位の人間には着任を拒否された。此処で貴官に問おう。この規模の艦を作る材料、どこで手に入れたと思う? 考えたまえ」

「そう言えば……」

 頭に浮かぶこの国が置かれている状況。航路が不安定化していることで生じている物資・食料の不足。深海棲艦戦役の当初に被った艦船被害も、艦船不足に未だに影響を与えている。

「これほどの艦を作るまでの鋼材を鎮守府とはいえ1隻の艦に回すのはなかなか……。!! まさかここの装置を使用して?」

 うなずく少将。

 無茶にも程がある。とあきれ返る男。

「その通り。そしてこの周囲の海域には、塩分以外に収集できるだけの元素はない。従ってこの鎮守府は直ちに外洋に出撃。外洋を周回し……」

 生物相は大丈夫なのか、と不安を覚える男たち。表情に現れていたのか、少将から注意が飛ぶ。

「聞いているのかね? ショックなのはわかるが、よく聞いておけ」

 姿勢を正し、続きに耳を澄ませる。

「外洋を周回し、食料資源の確保と併せ元素を収集しつつ資源に変換し定量を本土に送る。同時に余剰資源を用いて戦力を強化し南の英連邦との通商路回復・南洋諸島奪還・新洲嘉航路の安定化を行って欲しい。可能であれば、忌々しいBETAどもを駆逐してスエズ航路の回復も行ってくれ。BETAについては、横浜の香月女史が頑張っているので優先度は最低だが」

「島流しですか……?」

 男が要求の多さに思わず口走ってしまったその言葉に対して強い不快感を表す少将。

「口を慎め! 今回は見逃すが、次回はないぞ」

 本来であれば修正に値する言葉を発してしまった事に対し慌てて謝罪をする。

「この本土から長期間離れ、中央の情勢に疎くなる状況を将官も佐官も皆嫌がってな。3ヶ月以内に一階級昇進。佐官であればそこから3ヶ月以内に准将には昇進させる予定だったのだ。曲がりなりにも鎮守府であるからには長官職が佐官では拙いからな。だが妻帯者もいることを考慮し、この件に限り自由意志と言った途端、全員断りおった。まったくどいつもこいつも。……まぁ貴官が島流しと言った気持ちもわかるがね

 3人とも後半が聞き取りにくいが、何となく言いたいことがわかる。

「そこで碧血丹心・剛毅直諒と評判の高い貴官に白羽の矢が立ったのだ」

 普通は軍閥化の可能性を考えるだろうと内心呆れる男。そして、その信頼には応えないとな。とも考える。

「初期艦が未だに着任しませんが、その件は?」

「この鎮守府の役割は前代未聞のものだ。今までの教育を受けた艦娘では理解し難いものもあろう。そこで」

 その言葉を聞き、嫌な予感しか感じられない3人。

「物資は融通するので初期艦の開発・建造から教育まで貴官の手で行って欲しい。工廠設備は既に存在しているからな。明石候補生、大淀候補生と共に頼むぞ」

 そう言うと、何か忘れていた事に気が付いたように大淀と明石に言葉をかける。

「おお、そうだ。言い忘れていたが、大淀・明石両候補生に申し渡しておく。中佐が半年後将官に昇進した後の公式な呼称と権限についてだが、准将が責任者として着任する異例且つ小規模なものであっても、ここは横須賀・佐世保・呉・舞鶴・紫微(史実アンカレッジ)に次ぐ6番目の鎮守府である。責任者は戦隊の長や要港部・根拠地の長ではない。従って呼称も【司令官】や【司令】では無く、他の鎮守府や高雄・大湊・大阪・幌筵の各警備府、中央・南遣・北遣の3艦隊の長と同格の【司令長官】になる。当然、権限と立場も鎮守府司令長官(大将・中将相当)と同等なものとなる。此処に着任するにあたって中佐には拒否権は与えられていなかったからな、断った馬鹿者どもとの差はここでつけておく。昇進前に配属される他の艦娘にも予め徹底しておくように。ではな」

 そう敬礼を行い答礼を待たず去る少将一行。

「13番目の【司令長官】か……」

「おめでとうございます? 中佐」

「なぜ疑問形なのだ? まあ良い。司令長官だと堅苦しいから言いやすい呼び方で構わんぞ。さすがに勤務中は階級抜きの名字のさん付けというのは認められないがな。序だ、大淀艤装候補生、明石候補生の階級である候補生付は鎮守府内の口頭に限り省略する。互いも候補生付けは省略して呼ぶように」

 突然の宣告に戸惑いを隠せない2人。

「候補生を勝手に省略しても宜しいのですか? 何か不都合が生じるのではありませんか」

 疑問を呈する大淀に対し

「公の場、部外者がいる場、文書では当然候補生は省略しない。しないが、候補生とつけると半人前扱いされているようでな。2人とも本来であればもうベテランの域だろう。それにだ、口頭で呼ぶとき一々候補生をつけるのが面倒だ。ここは長としての権限を使用させてもらう」

 そう言い切る男――『ご都合主義』を発動させながら。

「仕方ないですね。候補生省略の件承知しました。では中佐の呼称の件ですが、昇進後は【長官】と呼ばせて頂きます。それまでは【提督】とお呼びします」

 それに対し、大淀、堅苦しいですね。と早速【候補生】を省略する明石。

「では、私も大淀と同様にします。勤務時間外では「守孝さん」で如何ですか?」

 その言葉に、交際してもいないうら若き未婚女性からの名前でのさん付け呼びは照れるからせめて苗字でのさん付けにしてくれと、気負うことなく返事を返す男。

「大淀はどうします?」

 大淀に話を振り、名前のさん付け呼び言っちゃいます? と茶化す明石。

 その言葉に大淀が、(つか)えながら「守孝さん」と呼び、頭から湯気が出そうなほど真っ赤に染まる。そして、

「い、今のなし。苗字のさん付けにさせてください、神泉さん、神泉さん」

 ワタワタと手を振りながら【提督】に対する大淀。

「初心ですねぇ」

 その様子を見て明石が一言呟く。

 

「今後どうされますか?」

 会議室に戻った提督に対し、

「決まっているだろう?」

「まぁそうですよね」

 会議室を出て戦闘指揮所に入る。

 室内には多くの妖精と呼ばれる存在が揃っていた。

 提督は軽く息を整えると、最初の命令を下す。

「【海上要塞型移動鎮守府 高天原】 出航!」




艦娘候補生と提督候補生達は教育課程で万葉集と勅撰和歌集の三代集を必須科目としてすべて覚えさせられています。これを用い、簡易的な符丁として利用しています。上句と下句の何れかを発せられたら対応する句を5秒以内に答える必要があります。


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第5話:建造と・・・

アップしなおしましたので、宜しければご覧ください。


「さて、これから何処へ向かうべきだろうか?」

 柱島泊地を抜錨し豊後水道まで出てきたが、提督はその先の航路を決めかねていた。

 このまま九州沿岸から奄美・沖縄・台湾の南西諸島に向かうか、土佐沖から太平洋岸沖を進み駿河湾から伊豆・小笠原・マリアナへ向かうか、さらに北上し千島・新洲嘉へ向かうか。

 少将の話――恐らくは大本営の意向――では、資源を獲得しつつ通商路回復・南方諸島奪還・新洲嘉航路の安定化との事だったが、何処を優先するか。

 ゲームであれば。と提督は思う。ゲームであれば鎮守府正面沖から南西諸島沖へとルートは固定されている。だが、現実のものとなると執れる航路が多い、故に結構迷う。と。

 況してやこの世界ではアラスカとアリューシャン列島が新洲嘉と北方列島として日本領になっている上にチューク諸島やマリアナ諸島、台湾が戦前の様に日本領になっている。

 明らかに提督の世界とは辿った歴史が異なる。そしてふと考える。

 太平洋戦争どうした? もし太平洋戦争が起きてないのであれば、艦これの艦娘と此処の艦娘では性格や装備にかなり違いがあるのではないか? 航路決めたらマジで情報整理しないと。

 物思いに耽る提督に対し、

「提督、豊後水道を抜けた後の航路はどうされますか?」

 戦闘指揮所にいる妖精達が指示を求めてくる。

 航路を決める前に情報を整理しよう。そう思った提督が艦橋詰めの航海長に指示を出す。

「航海長、現在地は?」

『――』

 位置を確認し、宿毛湾と日向灘の中間辺りである事が判る。

「航海長、スタンバイエンジン」

『スタンバイエンジン』

 5ノット以下に速度を落とす高天原。人目に付きにくい夜間とはいえ航路からは遠ざかった位置である。

『スタンバイエンジン・サー』

 提督は速度が5ノット以下に落ちたことを確認すると、

「大淀。暫く離席する。何かあったら……執務室へ連絡を」

 離席を臨時の秘書艦である大淀に告げる。

 提督は長官私室に戻ろうとしたがさすがに拙いかと思い直し、執務室にいることにした。

 宿毛湾の艦娘に敵と間違われないことを祈りつつも執務室で情報を整理する提督。

 海図のほかに何故か執務室にあった地図と歴史書、艦娘型録の中から地図を広げ、歴史書を開く。

 

 ********************************************************************** 

 

 地図と歴史書を閉じ、瞼を押さえる。

 どうしてこうなった。としか言いようがないな。そう独り言ちる提督。

 

 アメリカが独立戦争が大幅に遅れて米帝になっていないし、カナダの一部を占領している。

 そのカナダにはケベック共和国が存在している。

 北米西海岸に知らない国がある。

 合衆国がカナダの一部を占領している。その事で大英帝国が文句を言いそうだが、帝国はブリテン島を失陥している為か影響力が落ちている。そのブリテン島は現在ドイツ領になり、BETAに追われたドイツはここに逃げ込んでいる。

 他の欧州各国は地中海のアフリカ側に、BETAに追われた西葡仏伊土希が地中海連合を結成して対抗している。

 アフリカ諸国は独立せずに植民地のままである。

 英国政府はオーストラリアに移り、オーストラリア連邦は存在していない。

 ソ連が成立せずロシア帝国が健在だが、レナ川以東までBETAに追い詰められている。そのロシアと日英は同盟国である。

 歴史を見れば、アメリカの独立が遅れたせいでペリーが浦賀に来ていない。開国はプチャーチンと長崎で締結した。その時の条約はかなり平等であったと言える。

 日魯友好通商条約ーー後に日露友好通商条約に変わったらしいーーと同時にアラスカを購入している。どうやら当初は持て余し気味だったらしいが、のちに金鉱を見つけ大開発が行われている。そのアラスカ開発のせいで朝鮮進出が起こっていない。

 吉田松陰がロシアに密航成功し、ロシア皇帝に拝謁して学校を開いて校長に収まって居る。そのせいで高杉や久坂が表に出ていない。長州は長井雅楽が権力を握って居た。高杉達が活躍していないせいか、明治維新も起きていない。ロシアと最初に条約を締結した影響か一橋派の徳川慶喜が14代将軍に就いている。その後を成人した家茂が継ぎ、孝明天皇へ大政奉還。公武合体政府が成立した穏やかな政権交代になっている。

 日清戦役はあったものの時期も開戦理由も異なる。

 江戸幕府と最初に条約を締結した国がロシアであり、史実と比較するとかなり平等な条約になっていた為か日露戦役が起こらず、日本海海戦も生じていない。日本海海戦に匹敵しそうな出来事は第一次大戦のマリアナ海戦になる。Uボートとドイツ巡洋艦戦隊を相手に太平洋で大戦果を挙げているが、ドイツが本気を出した通商破壊戦術を喰らい通商路に大被害を生じている。

 西部戦線と東部戦線からの挟撃を行う為、緒戦で被害を出したロシア軍を援護する目的で日本軍がシベリア鉄道で移動。ボリシェビキによる反乱が発生するも、偶々近くにいた日本軍と共に早期鎮圧に成功。両国の絆が深まりロシア皇女と皇族の婚姻を契機とした貴族と華族の婚姻交流の活発化が生じている。

 第二次大戦は日英露対米独の戦いで有耶無耶のうちに自然休戦になっている。

 そして深海棲艦出現とBETA侵略。

 日本領のポリネシアやミクロネシア、小笠原、奄美、沖縄、アリューシャン列島がこの時深海棲艦に占領され、民間人に多大な被害をもたらし、撤退戦を戦った連合艦隊は大多数が戦没している。

 1990年代末期になり第二次大戦時までに計画・設計・保有していた艦に応じた艦娘・妖精と呼ばれる存在が国家毎に顕現する。

 この艦娘と呼ばれる彼女達と共に人類の海上での反撃が始まった。

 

 歩んできた歴史がまるで異なる。前世の知識はまるで役に立たなくなったと、判断する提督。

 次に艦娘型録を開き、現在までに確認されている艦娘と今後の顕現が予想される艦娘と艦時代の武装を確認する。

 

 明石とその同型艦が三原・桃取・須磨の3隻、香取とその同型艦が鹿島・香椎・橿原・春日の4隻いたり、八八艦隊が曲がりなりにも成立してしまっているなど、提督の知識以外の艦艇が増えている事が確認された。

 レシピは覚えているが、これも当てには成らないだろうな。と呟く提督。

 他にも人間で言うと4歳位の幼児と艤装が分かれて出てくる事や、ある程度身体が成長するまで艤装を纏えない事、ゲームで言う【改】の練度になると身体の成長が止まる事等がゲームと異なる点であった。

 少将の話を思い出し、教育というより子育てだよな。と思い、自身の前世では子育ての経験はなく、最悪同じ艦娘である大淀か明石に頼む事も念頭に置く提督の姿があった。

 

 頭痛の種が増え、気が重くなる提督。

 建造することで気を紛らわそうと工廠へと向かう。

 工廠までの長い道のりに懲りて早期の改造を決意する提督。

 改造の件から、自身の能力の事も思い出し対処を検討する提督。

 調子に乗って獲得した能力と知識が拙い。このまま行くと何処から漏れる分からないと、この能力が発覚した後の事を考える。

 少なくとも大淀と明石と妖精には確実に使用することを決意する。

 先に使用しておくか。と行き先を工廠から大会議室へ変更し、大淀と明石を呼び出す。

 

「提督。大淀、明石参りました。ご用件は何でしょうか」

 呼び出された二人に提督が話し始める

「そこに座れ。2人に話がある」

 そう言うと提督は

「――――」

 二人にとっては意味が分からない言葉の連なりを紡ぎだす。

「あの? 提督?」

 訝しげに問いかける2人の言葉に耳も貸さず。

「――。合歓綢繆」

 提督の能力が発動する。

 大淀と明石に情念が注ぎ込まれる。

 身体が火照り、理性が飛びかける。

「こ、これは! 提督、これは一体――」

 

 暫く後――。

「明石、大淀。私を見なさい」

 その言葉に提督を見つめるも、目が合うと理由のない気恥ずかしさから素早くそれを逸らす2人。

 だが、大会議室の広い空間では逸らした先には視線のやり場がない。

 そのことに気付いた二人が落ち着きない様子で焦点をさまよわせる。

 すでにその瞳は艶っぼく潤み、その白い肌がほんのりと上気して桜色をしてた。

「成功したか。では引き続き――」

 先程とは異なる言葉の連なり。

「――。翼覆嫗煦」

 肢体をびくっと震わせ、崩れるように倒れこむ二人。

 先程から上気している桜色の肌から強烈かつ蠱惑的な匂いが漂っている。

「効きすぎたかな」

 そう呟くと提督は予め用意しておいたタオルで2人の汗を拭い去った。

 

「大淀、明石。起きなさい」

 二人の耳に心地よい声が沁み込んで来る。

 暖かくも懐かしい様な、愛おしさを感じる声。建造間もない頃に抱いた自らが慈しまれ愛されていることを実感した思い。同時に肉親に抱く愛情とは別の、深く愛しあい睦みあいたい人への思い。

 二つの思いを同時に感じさせる声が。

「て、い、とく?」

「気が付いたか? 突然倒れるとは、どうした?」

 そう顔を覗き込まれるのが恥ずかしくもあり、安心感もあり――。

 目を閉じかけるが、我に返る二人。

「も、申し訳ありません」

「大丈夫か? 少し休むか?」

 自らが仕掛けた事等、億尾にも出さずに心配な表情を見せる。

「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「なら良いが。2人には此処に当直以外の妖精を集合させて貰いたい」

「はい。当直を除く全妖精ですか? それでしたら、ここよりも――」

 

 ********************************************************************** 

 

 大淀と明石の助けを借りて、妖精を集合させる事に成功した提督。

 訝しげな様子の妖精に対し。

「――。合歓綢繆」

 提督の能力が発動する。

「――。翼覆嫗煦」

 慣れてきたのか、先程と異なり妖精たちに可笑しな様子は見られない。

 常時発動している『ご都合主義』と『孝悌忠信』の影響も合わさり、最大限の効果を発揮できていると、提督には感じられた。

 提督は影響下に置いた妖精に対して当直妖精と一時的な交代を命じこの場にいない妖精を集合させた。

 先程と同じ手順を繰り返すと、再度の交代を命じ当直の予定表通りに戻した。

 自身の能力の秘匿を終えると、再度交渉へ向かう提督。

 工廠に着き、レシピを思い起こしながら今回は最低値で行うことにした。

 

「投入資源はどうしますか?」

 工廠造船妖精の問いに、最小限の資源投入を指示する提督。

「全て30で」

 資源の投入と同時に建造が始まる。

「さてさて、誰が来るかな。初期艦の5人の誰かだろうけどな」

 そう呟くと、建造を待っている間に要塞の拡張を行う予定の提督は執務室に筆記具を取りに戻った。

 あの光で満ちた部屋での出来事を疑ってはいないが、肝心の設定した機材が不明のままであることに聊か疑念を生じていた。

 

 提督が執務室の扉を開け机の上を見ると、いつの間にか目の前の机にPCが鎮座していた。

「このPCはあの部屋のモノか? となると、もしかするとこの艦の改装にはこれを使用する必要があるのか?」

 半信半疑ながら電源を入れOSを立ち上げ、ホーム画面を確認する。見覚えのあるアイコンを見つけクリックするとあの部屋で立ち上げた設定画面が目に飛び込んでくる。そこにはすでに艦体が表示されていた。

「……設計した移動鎮守府だな。ということは、この実行を押せば……」

 そう呟き実行を選択する。その瞬間【高天原】に振動が走った。

 警報が鳴り響く。

「やはりか」

 すぐに作戦指揮所に移動する。

 

「何があった! 敵襲か事故か」

「判りません。目下応急班が調査に向かっています」

 提督が作戦指揮所に上がると鎮守府と艦の副長を兼ねる妖精副長が怒鳴り声をあげ、状況の確認の最中だった。

 中は戦場そのものである。

 どのように声をかけようかと迷っているうちに、周囲を警戒していた歩哨から至急報が飛び込む。

「見慣れない艦に周囲を囲まれました!」

「なんだと。どこに目をつけていた! ……間に合うか? 総員、戦闘用意!」

 提督の姿に気付き目礼を行う副長。その表情はすぐに悲愴なものになる。

「提督、機材搬出の準備と退艦準備をお願いします」

 申し訳なさを抱きながら、警報解除を命ずる提督。

「警報解除。あれは……味方艦だ」

 拡張のためのユニットを艦として捉えるべきか悩むも、取り敢えず艦として紹介する提督。

「提督、あれが何かご存じなんですか? 我々には覚えがありませんが」

「あれは鎮守府拡張の為に私が開発したユニットだ。あれの接続をもって【高天原】は完全なものとなる」

 内部がすでに改装準備されている事を知る提督。

 無言で説明を求める妖精達にどう説明するか。が目下の問題である。

 

 説明する前に工廠から初期艦建造終了の連絡が入ったので、これ幸いと逃げ出す提督。

 説明求められるのは確実ではあったが――。

「明石、様子はどうだ? 誰が来た?」

「あ、提督。これから開ける所です。人間で言うと4歳児位ですからね、心も体も」

 いろいろ気を付けないと。と言いながら、明石が重い扉を開けると――。

「五月雨っていいます! よろしくお願いします。護衛任務はお任せください!」

 完全に成長しきった艦娘が現れた。

 幼児ではなかったのか? そう訝しむだけの提督とは裏腹に、

「「「「えっ? えっ? えぇぇーー!」」」」

 明石と妖精の声が工廠に響いた。



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第6話:五月雨

「明石。どういう事だ、これは。聞いている話では、艦娘は幼児の姿で艤装と別々に建造との事であったが?」

「ええ。その筈ですが……。明らかに成長しきっていますね。艤装も見当たりませんし、どう言う事なんでしょう?」

 工廠造船部所属の妖精達も顔を見合わせている。

「あの。……私、ここの世界の艦娘じゃないんです。艦娘なんですけど、違うんです」

 五月雨が事情を説明しようとしているが、要領を得ない。

「混乱しているのね。無理もないわよね。私も聞いた限り、今までになかったことだし。大丈夫よ、五月雨ちゃん」

 明石が労わる様な視線を五月雨に向ける。

「そうじゃなくて……。あっ、あの、提督っ。これ、これを見てください」

 そう左手を振って見せる五月雨。

 提督が改めて左手を確認する。

 銀色に輝く環。

「……指輪?」

「はい。そうです。結婚(仮)で、提督から頂いたものです」

 その言葉を聞き、

「提督。こんな子に手を出すなんて……。このケダモノ」

 汚らわしいものを見る視線でこちらを一瞥する明石。

 周囲の妖精も距離を置き始めている。

「待て、身に覚えがない。そもそも艦娘とは君らを除けばこれが初の出会いになる。明らかな濡れ衣だ」

 周囲に大声で説明する提督。

 それもそうかという雰囲気が生じるも、

「そ、そんなぁ。酷いです、提督。あんなにも、愛してくれたの…に…」

 そう言って涙ぐむ五月雨の声に霧散する。

「女の敵ですね」やら「見損ないました」「妊娠させられそうですから近くに来ないでください」「憲兵はどこだ」などといった声も上がり、五月雨に同情の視線が集まる。その反応に、戸惑う提督。

 ――『翼覆嫗煦』も『合歓綢繆』も効いていない?

 一瞬その考えに至り動揺するも、それはないと打ち消す。しかし――。

 思考がループに陥る。それを救ったのが五月雨が言った一言であった。

「提督、本当に覚えていらっしゃらないのですか? ()()()()とは言え、飛龍さんと交互に秘書艦を務めていたのに」

 画面越しという言葉に気が付く提督。

「もしかして……」

 その言葉に涙で潤んだ目をこすりながら、

「……はい。提督が1年以上いらっしゃらなくなって、みんな不安で、どうなっちゃうんだろうって……。そんな時、気が付いたら白衣の人がいて。その人に言われて……飛龍さん達には申し訳ないんですけど、提督の初期艦ということで私だけ此処に来られました。ご迷惑でしたか?」

 提督を上目遣いに見上げる五月雨。

「五月雨。その話が本当だとして、君の練度は幾つだ?」

「はい。最後にお会いした時の練度は126でした」

 記憶にある五月雨の練度は確かにその位であったと思い出す提督。

「間違いなく、私の嫁艦の五月雨だな。なぜ()()()()に来られたのかは君の説明ではまだ良く判らないが、五月雨の言う白衣の人にも心当たりは有り過ぎるほどに有る」

 そう言うとため息を一つ付き、

「五月雨、よく来てくれた。ありがとう」

 その言葉とともに五月雨を抱きしめる。

 呆気に取られる一同だが、代表して明石が声をかける。

「如何やら深い事情がありそうですね。先ほどの件と言い今の言葉と言い失礼ですが提督、貴方何者ですか? ただの特務中佐ではありませんよね」

 そう疑念を抱きかけている声に、説明を行う必要を感じる提督。

 疑念が深まると特殊能力とはいえ『孝悌忠信』や『翼覆嫗煦』、『合歓綢繆』の効果は切れる事もあるという注意事項を覚えていた。

 

 ********************************************************************** 

 

 大淀と明石、五月雨の他に妖精からは工廠長を初めとした工廠の各部門長や副長、航海長ら艦の幹部士官が大会議室に集合する。

「まずは諸君らに不信感を与えたことを詫びる」

 その言葉と共に『ご都合主義』と『孝悌忠信』を発動させながら詳細な説明を行う提督。

「私には二つの記憶がある。一つは特務中佐神泉守孝としての記憶。もう一つは――」

 

 一通り説明はしたが、果たして納得してもらえたであろうか? と表情を確認する提督。

「……なるほど。正直なところ、信じられないことだらけです。この艦を取り巻くユニット? でしたか。あれを見ている我々でも半信半疑です。この事は、事実であっても口外されない方が宜しいでしょう」

 幹部士官を代表して副長が口火を切った。

「お話によれば、この鎮守府は司令が設計されたとの事。そして」

 言葉を切り、建造された五月雨を一瞥する。

「別世界で、この世界と同じように深海棲艦が襲来しそれを撃退する遊戯ーーゲームと言われると西洋のカードのようなものを連想しますgーーがあり、そこの五月雨嬢は初期艦だったと。五月雨嬢、君にはその記憶があるとの事だったが、間違いないか?」

「はい。そして、私は提督のお嫁さんの一人でした」

「あぁ、まぁ、それは良い。そのことは公言しないようにな」

 五月雨のその無邪気さに毒気を抜かれたように苦笑する副長。

「事務方の記憶があるのであれば、五月雨は予定通り秘書艦にするのが宜しいでしょう。ただ、秘書艦とするにあたって問題なのは艤装がないことです。その件はどうされますか?」

 その言葉に、造船部と造兵部の長が此方に目を遣る。

「開発は司令官でも出来る筈だな?」

「はい。……ということは、司令が艤装の作成を行うのでしょうか? 小官は聊か無謀だと思いますが」

「造兵部長の言われるとおり、小官も無謀だと思います」

 造兵部長と造船部長が相次いで懸念を表明する。

「2人の言う事はもっともだと思う。だが、一度試してみても良かろう?」

 その言葉にお互いを見つめ、肩をすくめる2人。

「幸い資源はまだありますからね。司令のお話が事実であれば、ひょっとしたら面白いものが見られるかも知れません」

 その言葉で、一旦散会し、工廠長等工廠関係者と共に工廠に向かう。その途中、

「外洋に出たら、ここも手を加えるので承知して置いて欲しい」

 予め改装の予定がある事を伝える。

 

「さて、始めるか」

 兵装開発設備の前に立ち資源を投入する。

 暫くすると、兵装が目の前に現れた。

「これは!」

 造兵部長と妖精さんたちが騒めく。

 やれやれ、こいつは――。と提督が呟く。

 面倒なことになりそうだと。

 

 




建造される艦娘の中で前世(?)の記憶持ち+成長後の身体を持つ艦娘は五月雨だけです。
今後、ゲーム内で嫁艦だった艦娘がドロップ艦として登場する予定です。ドロップ艦という事で、当初は戦力になりません。

艦娘候補生の明石・大淀や妖精さん達だけで育児と教育はさすがに行えませんので。秘書艦だけは成長させた状態で登場させました。


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第7話:五月雨改…Ⅳ(?)

五月雨が……


「新型パルスレーザーと20㎜機関砲と小型超電磁砲に多目的ミサイルVLSと対潜ミサイルVLSか。まあこんな物だろう」

提督が五月雨の艤装開発を行っていると工廠長が焦りの声を上げる。

「待った。駆逐艦娘の艤装は多くても3つしか載せられぬぞ。残りはどうする気じゃ?」

 艤装設計については、話したはずなのだが。と訝しむ提督。

「主兵装が7つと補助兵装が7つ、全て搭載させます。工廠長、私の特殊能力については説明した筈ですが」

 信じられないといった表情の工廠長達に対し、執務室にあったタブレットを操作する提督。

 ――タブレットに艤装と艦娘を写すだけでHLG設計システムが起動するのだからな、便利なものだ。

 手元を操作する提督。

 画面には五月雨の名と船体の選択画面が表示されている。

「船体や艦橋を変更しても問題は生じないのか?」

 船体を選択する直前に生じた疑問。

 ヘルプ機能を確認し、船体・艦橋を変更しても艤装と娘の繋がりや娘の容姿には影響がない事と艦娘が成長しきってからの変更にも対応していることが判明する。成長しきった後の変更による影響としては船体・武装が違う事への戸惑いがある事が判明した。

「五月雨の場合は、これに当てはまるな」

 艤装の開発後は、完熟訓練が必要と判断する提督。

 船体を選択し、兵装を設置する。

 装備とその数を確認すると溜息を吐く。

 ――あの部屋で得た装備もここにあるとはな。見つからない筈だ。

 気を取り直し、五月雨に向けてタブレットを翳しながら『兵装転写』を選択する。

 変化に戸惑う五月雨。

 4つ目の兵装を確認した時から驚きの表情を隠せない。

「嘘。4つ目が搭載できてる。何で……?」

 呆然とする五月雨。

「これが提督の……? あの時これがあれば夕張さんも……」

 膝をついて項垂れている五月雨と、呆然としている工廠長達を無視して、改装は進む。

「次は艦橋と機関に補助兵装の設置か。これは手持ちの中から放出するか」

 あの部屋で入手していた中から提督が選択し設置したものは次の通りになった。

 前 艦 橋:駆逐前艦橋γ

 後 艦 橋:駆逐後艦橋γ

 機  関:ガスタービンζ

 補助兵装:電磁防壁・新型探信儀・防御重力場・自動装填装置γ・超イージスシステム

      謎の装置ε・無限装填装置

 開発された補助兵装等をそれぞれ転写する。

 未だ項垂れていた五月雨を後ろから抱き起こし、艤装として支障がないか確認する提督。

「五月雨。艤装に支障はないか展開して確認しなさい」

 その言葉に聊か顔を赤らめながらも艤装を展開し、彼方此方確認しながら砲等を動かす五月雨。

「本当に積みおった……。説明を受け、この目で見ても未だ信じられん。夢でも見ておるのか」

 頭を振り工廠長が呟く。

 造兵部長と造船部長も同じ素振を見せる。

「ありえない。兵装と補助(?)兵装でそれぞれ7つも積めるとは。それもありえないが……何だ、このパルスレーザーとやらは。それにこの無限装填装置とは……」

 色々と葛藤している様だがそういうものと諦めて貰おう。と、内心思う提督。

「如何やら上手く出来た様だ。五月雨、違和感はないか?」

「……ありすぎですが、慣れていくしかないんでしょうね」

 達観した雰囲気の五月雨から応えが返る。

 

「ところで、司令。誠に申し上げ難いのですが……」

 開発装置を担当している妖精から備蓄表を渡される提督。

「資源が底をつきかけております。早急に航路を決め、資源の回収を行いませんと」

 提督が渡された備蓄表を改めて確認すると、艦娘の建造より先に資源回収を行わないと非常にまずい状況であることに青ざめる。

 と、同時に気が付く。

 大陸沿岸付近ではAL弾が使用されていないだろうか? それともこの世界には未だAL弾は存在しないのか? もしAL弾があれば、ひょっとすると台湾近海まで重金属雲の影響があるのではなかろうか? であれば、そこから資源を回収できそうだ。と。もしなければ、自分で開発するしかないが。

 執務室に資料を確認する為に戻る。

 

 結論から言えば、AL弾も戦術機すらこの世界にあった。

 原作と違って香月博士が一から開発を手掛けていることに驚く提督。

 博士、マジで人外。それに応じられる企業も企業だが。XM3も時間の問題かな? 武ちゃんいるし。等と他愛もない事を考え、

(……戦術機関連技術も取得しておけばよかったかな)

 と少し後悔する。

(AL弾があるのであれば、航路は決まった。台湾近海で重金属を回収し、鎮守府機能の強化を行う。その後、できるだけ大陸に近付き重金属を回収し、2,3人の艦娘建造を行い、残りを日本に送付する。これで行こう)

 

 工廠に戻ると未だ関係者達が何やら呟いているので耳を澄ませて内容を聞き取る提督。

 艤装開発について自分達であれが開発できるか、作れないなら存在意義が――。との呟きに内心冷や汗を垂らしながら、考える。

(『翼覆嫗煦』と『合歓綢繆』に『孝悌忠信』を乱用したことで、妖精達と今いる艦娘の繋がりが存在と因果が消失しても尚永久の忠誠を誓うレベルまで強化されている。この繋がりであれば恐らく自分が開発したものは配下も開発可能であろう。……開発できないのであれば開発方法を教えるしかないが。出来れば前者であってほしいものだ。一人で(こな)していたら、えらいことになる)

 

 主だった者を再度作戦指揮所へ招集する。

「注目! これからの航路を発表する」

 皆の目が此方に向いたことを確認する。

「航路は台湾方面へ。あの近海で資源回収と鎮守府の強化を行う。その後、艦娘の建造と資源の送付を行う予定である。機関を巡航状態へ戻せ。台湾方面へ舵を向けよ」

 敬礼が見事に揃った。




魔改造されました。


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第8話:拠点改装―外観と設備―

 移動鎮守府高天原に提督の新たな改装は行われていない。

 全長650m、型幅200m、満載排水量は90万トン越えの超大型船は、パイオニアリング・スピリットをモデルに提督があの部屋で設計した姿そのままである。

 提督が設計した鎮守府に接続する予定のユニット艦は光学迷彩と防御重力場を搭載したまま周りを囲んで航行している。

 提督は五月雨の完熟訓練を行いながら台湾沖を目指す予定であったが、現実には予想外の速さで4日で到着している。

 

 まいったな。と提督は、台湾を見つめながら考えていた。

(五月雨の完熟訓練も計画していたのだが、予想外の早さだった。兵装の扱いは何度か生じた深海棲艦の襲撃で習熟してくれたが)

 ふとゲームでの五月雨を振り返る。

(当初は結構ミスを繰り返しヤキモキさせられたものだが、これほど早く新武装に慣れるとはな。最後に見た時のレベル126は伊達ではなかったか)

 カ級やヨ級に対して対潜ミサイルを雨霰と打ちまくり、撃沈を繰り返す姿を思い出す提督。

 同時に、五月雨に撃破され浮いている深海棲艦を回収し、妖精が物質収集変換送信機に丸ごと投入した事を思い出す。

(物質収集変換機に投入した元深海棲艦がきれいにインゴットとその他に解体されたのには驚いた。丸ごと転送したが、インゴット以外はどうするのだろう?)

 嫌な予感が浮かびかけたが、忘れることにする提督。

(ウルトラマンに倒された怪獣の遺骸の行方の話なんて思いださないぞ)

 提督は戦力をドロップ艦にも期待したが、残念ながら出会わなかった。

 

 ********************************************************************** 

 

「どうだ、慣れたか? ドジっ子らしく随分とこけまくっていたが」

 傍らに秘書艦として控えていた五月雨を揶揄う提督。

「うぅ。このガスタービンとアジマススラスターの組み合わせ、凶悪です。それと提督、私ドジっ子じゃありませんから。この推進器が凶悪なんです。大体、公試全力54.5ノットって何なんですか? 島風ちゃんより早いじゃないですか。私の公試全力って34.1ノットですよ。20ノットも違ったら慣れませんし、遊びが無いというか、舵の効きが良すぎるというか、今までの感覚でいるとバランスを崩しやすいんです」

 顔を赤らめ抗議してくる五月雨。その表情を見るために揶揄う提督であったが表情を改める。

「五月雨。後3日以内に、そうだな、「海賊」のメドーラのバリエーションを踊れる位になって欲しい」

 提督の突然の言葉に

「え? いきなり何の話ですか? 「海賊」のメドーラって?」

 キョトンとした顔の五月雨。

「今、台湾のフィリピン海側の沖合を周回しているが、そろそろ収集も限界になりつつある。高天原を強化して、資源を得るには大陸にギリギリ迄近づかなくてはならない。大陸に近くなると深海棲艦の数も増して来るのは分かるな?」

 表情を変える五月雨。

「高天原にはまともな武装がない。今すぐに武装を増やすのは可能だ。だが、武装を増やしてもそれを自在に操れるかは疑問が残る。そうなるとその中で頼りになるのが五月雨なんだが推進器に不慣れなまま出すわけにもいかない」

 真剣な表情で続きを促す。

「深海棲艦と交戦等となって砲弾を避けた拍子に転倒したり、BETAのレーザー照射範囲ギリギリの所で交戦して航路変更できずに照射を受けた場合どうなるかは判るな? それと「海賊」のメドーラはバレエの話だ。これは冗談だが、それ位艤装を操る心構えで臨んで欲しい」

「はい。艤装も3日以内に前と同じ位まで操れる様に頑張ります。お任せください」

「頑張ってくれ」

「私は轟沈なんてしませんし必ず提督のもとに戻ります」

「ありがとう、五月雨。先程の「海賊」のメドーラの話だが、資料室に資料があるはずだから興味があれば見てみると良い」

 その言葉に、はい、後で見てみますね。失礼します。と退室しかける五月雨に

「そうだ。五月雨、此れを見てくれ」

 その言葉に五月雨が振り向き近づく。

「どうかしましたか?」

「――――」

 提督が五月雨には意味が分からない言葉の連なりを紡ぐ。

「あの? 提督?」

 訝しげに問いかける言葉に耳も貸さず。

「――。合歓綢繆」

 能力を発動する。

「はうぅ」

 

 顔を上気させ退室する五月雨を見送り、内心で呟く。

(済まないな、五月雨。大陸に近付き過ぎてレーザー照射を食らっては、電磁防壁があるとはいえ轟沈の恐れもある。訓練が間に合えばいいが、最悪の場合を予測しておかないとな。憐香惜玉と純潔清浄、できるだけ使用を避けたいものだ)

 

 ********************************************************************** 

 

 2日後、五月雨が訓練の成果を見て欲しいと提督に伝えて来る。

「提督、見てください。新しい私、お見せします!」

 そう言って海上に飛び出す五月雨。

 2日前の言葉通り海上を自在に走破し、序でとばかりに――資料室に映像があったのであろう――「タリスマン」のバリエーションまで踊る姿があった。

(ギリギリ間に合ったか……)

 五月雨の訓練を一通り見守り、呼び戻す提督。

「どうでしたか、提督。新しい私、お見せできましたか?」

 上気した顔で問いかけてくる五月雨の姿。

 髪をぐしゃぐしゃに撫でて、返事に代える提督。

「もう。言葉で言ってくださいよ」

 そう頬を膨らませながらも笑顔で髪を整える五月雨の笑顔は提督にとって眩しいものであった。

 

 艦橋に上がり、

「航海長、艦を澎湖と厦門の間に泊めろ。なるべく澎湖寄りにな。ただ、澎湖には警備府があった筈だ。そこの目には触れさせるなよ」

 航海長に命令を下す提督。

「また、難しいことを仰いますな。まぁ何とかしてみましょう」

 そう言いながらも、直接舵を取る航海長は鼻歌でも歌いそうな位に操船する姿に余裕があった。

 

 夜の帳が降りる頃、目的地に艦が泊まる。

 周囲を警戒しながらユニット艦を呼び集めつつ、会議室に幹部陣を招集しする提督。

「これより、予てから伝えていた【海上要塞型移動鎮守府 高天原】の改装を行う。改装中の敵勢力の攻撃は考慮しなくて宜しい。全員今夜はゆっくりと休み英気を養うように伝えてくれ。以上」

(急激な改装で起こる記憶の流入と妖精の増員に加えて1個大隊分の陸戦妖精増員の事は良いだろう。寝て目が覚めれば、当然のように受け入れてしまう筈だ)

 提督はそう考えていたが、その予測は大きく異なるものであった。

 

 ********************************************************************* 

 

 各部署のモニターから全員休まった事を確認し、改装準備に入る提督。

 大型艦設計用のKND設計システムを起動する提督。

「ユニット艦1号から8号まで接続開始……。接続確認、良し。続いて……」

 画面と窓の外を交互に見ながら高天原と全ユニット艦の接続を確認する提督。

 画面を確認し、窓の外の風景でも確認する。双方で接続されたことを確認し、階層を含めた大改装が開始される。

(まずは外観か。高天原をコアと考え中心に据え、その周りに外郭内郭の二重構造をとるか。郭同士は海上橋梁で接続させると同時に水面下10mの位置で船底を一体化させる。直接郭の間に潜水艦の侵入を許すわけにもいかないからな。外海への出入り口は、内郭は0、3、6、9時の位置に、外郭は1時半、4時半、7時半、10時半の位置にしよう)

 それにしても、と提督は思った。

 ――外郭が馬出しになっているな。馬出しにしては巨大だが。

 埒もないと頭を振り、改装を続ける。

(上空から見れば長半径3.5㎞、短半径3.0㎞の楕円形をした艦――島だな。水面から甲板(?)までの高さが30m。階層は4階層位でいいか。設計中も思ったが、アンドルードより銀英伝のヴィルヘルミナ級に似ているかもな、この艦の外側を二重に囲む構造は。あっちの方は盾艦が一重だが)

 

【挿絵表示】

 

 外観の改造を終わらせる提督。伸びをすると、改めて画面に向かう。

(外観の後は機関と推進装置の改造か。高天原はディーゼルエンジンとハイブリッド型二重反転プロペラのポッド推進システムだが、これをディーゼルエンジンは磁気絶縁方式慣性核融合炉に交換してアジマススラスターを追加しよう。各設備の補助発電機としてとしてトリジェネレーションシステムも設置するか)

 機関と推進器の改造を終えると外郭に取り掛かる。

 外郭に防波堤機能を持たせると同時に防御設備と武装を設置する。

 ――外郭――

 KND設計システムを使用し、画面に映る外郭と化したユニット艦に防御設備と武装を設置する提督。

 外郭外側に、AGS 280mm砲、80口径50.8㎝四連装砲、CIWSに対艦ミサイルVLS3と多目的ミサイルVLS3、対空対潜ミサイルVLSに多弾頭噴進砲、12cm30連装噴進砲、OTO 152mm三連装速射砲、406㎜ガトリング砲を設けるとともに、死角を補うような位置に機銃を設置する。

 内側には超重力砲、拡散波動砲、砲塔型超電磁砲、軌道と掩体壕を設けた80口径100㎝砲、80口径80㎝連装砲、80口径61㎝三連装砲といった主兵装の他や超イージスシステムを流用した小型イージス・アショア、電磁防壁発生設備――対エネルギー兵器防御97%――、防御重力場発生設備――対物理的兵器防御90%――といった防御設備の他、ドックや外洋への出入口を設ける。

 内部には、兵員待機施設や無限装填装置用設備が設置される。

 内郭との間の水面に艦娘の演習場や訓練場を設けると同時に、反対側に海洋生物の養殖場も設ける。

 漁は潜水艦娘に任せる予定の提督。

「転写するか」

 外郭の設計を終え、外に見える外郭に向けてタブレットを翳しながら『外郭総転写』を選択する。

 ――内郭――

 内郭外側には人工海浜や植物園・薔薇園・日本庭園といった公園施設の他、農園・果樹園も置かれる。その他に陸上演習場を置いて、万が一深海棲艦の攻撃が届いた際の防御地区とした。

 内郭内側には造船部・造兵部の他、空廠・火薬廠・燃料廠・衣糧廠・療品廠の他、微細藻を利用した各種バイオプラントや一般用向け製品の工場施設として冶金施設・木工工場・金型加工も含む金属加工工場が設けられる。各工廠の境は桐の植樹帯を設け万が一の火災に備える。他には衛星視界装置用の衛星打上施設、汚水処理施設、仮想演習施設、教育機関が置かれた。

 ――高天原本体――

 物質収集変換送信機が強化され複写増幅機能を持った機器が併設される。

 これで、転送できる物資が大幅に増やせる。と考える提督。

 居住区の他、屋内遊園地、屋内庭園、人工温泉・入渠設備、劇場・映画館、プラネタリウム等の娯楽施設と多目的スタジアム、学校や水族館・動物園・美術館・植物園等の教育機関、医療施設や購買施設などの生活に必要な施設や水耕栽培プラントや屋内農園・屋内果樹園等の生産施設が設置された。

 他に予備指揮所が複数設置され、艦橋を含めた指揮所には強化された新型探信儀が複数設置されている。

 改装後の鎮守府に、上空から見れば砂浜と森と山に見える擬装網をかける。

 陸戦用装備も生産しないとな。と考える提督。

(Steyr MannlicherのAUG-A3 SFとSauer&SohnのP250を携帯装備として、M249軽機関銃を分隊支援火器にすればいいな。後はIMTVにFASTヘルメットを1個大隊分か……。疲れそうだ)

 

 東の空が白み始める頃、提督は執務室の机に机に突っ伏していた。

(やっと外装は終わった。後は内装だが……やれやれ、東の空が白み始めてしまった。少しだけでも寝るか。起きたら内装に取り掛かって、終わったら大陸沿岸で元素収集作業と艦娘建造だな……)

 そう考え、提督は動かない体を引きずりながら長官私室のベットに潜り込む――。




次回は、内装設定です。その前に一波乱。

内装が終わったら大陸ギリギリ迄接近してからの元素回収と艦娘建造です。


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第9話:拠点改装―内装編―

「提督、起きてください。提督、提督ってば。大変なんですよ」

 熟睡している提督を揺さぶる蒼い髪が印象的な影。

「……後3分待って。ラーメン……」

 寝ぼけている提督。

「て、い、と、く。お、き、て」

 その声に薄らと目を開ける提督。揺さぶる影を見つめ、

「夢か……」

 手をつかみ布団に引きずり込む。

「きゃ。ちょ、はなして……」

 布団の中で一頻りもがくも、次第におとなしくなる。

「……提督(あ、でも暖かいかも、私も眠くな…)」

 暖かい存在を抱きしめ再度眠りにつく提督と五月雨。

 

「提督! 起きなさい!」

 黒髪の女性が怒気を孕む声と共に布団をめくりあげる。

「!! なっ! 五月雨ちゃん! 大丈夫!?」

 抱きしめられたまま身動きできない態の五月雨。

「う……ん。あ、大淀さん、おふぁようございますぅ。どうしたんですか?」

 寝ぼけながら体を起こす五月雨。大淀が素早く服装を観察する。

 大きな乱れもないようですし、暴行されていた訳ではないようですね。と安堵する。

 同時にもう一つの理由に思い至り、沸々と怒りが沸いてくる。

「……五月雨ちゃん、貴方、何しているのかしら? 私は提督を起こす様にお願いしましたよね」

 その怒りを孕み震える声に五月雨の意識が戻ってくる。

「あ……」

 次第に青ざめる五月雨。

 五月雨を寝室から連れ出す大淀。

「良いですか、五月雨ちゃん。貴方が『お嫁さん達』の一人であったことは昨日に説明を受けています。そのことには何も言いませんが、早速提督の布団に潜り込むのは如何なものでしょうか? そもそも――」

 涙目で五月雨が大淀の説教を受けている最中に提督が目覚める。

 隣から聞こえる声に気付き部屋を出る。

「あ、提督」

 五月雨が気付く。

「提督! これはどういうことですか。五月雨ちゃんのような少女を布団に連れ込み抱いているなんて、憲兵事案ですよ。大本営に発覚したらどうする御積りですか!」

 大淀の声に心当たりがある提督。

「あ~。寝ぼけて引きずり込んでしまったのか。道理で温かく眠れたわけだ」

「提督!」

 火に油を注ぐ言葉に大淀がヒートアップする。そこに更に

「ところで、うら若き女性が朝から男の部屋に入り込むのは感心せんな」

「――――!!」

 大淀が真っ白な感情になったままに提督の頬を張る。

 

 真っ赤に腫れ上がる頬に水に濡らしたタオルを当てる提督。

「申し訳ありません。上官の頬を張るなど、軍人に有るまじき失態でした。どのような処分も覚悟しております」

 大淀がひたすら頭を下げる。

「勤務外の事だ。むしろあの時は此方が謝罪せねばならぬ立場だった。大淀が怒るのは当然だ」

 改めて姿勢を正し、深く上半身を折り曲げる提督。

「2人とも済まなかった」

 その様子に

「私は気にしていませんからね。……暖かかったし」

 五月雨が多少慌てながらも、気にしていないと伝える。

「え、えっと、その件につきましては、謝罪を受け入れます。ですが、私の行為は……」

 自分の非については、謝罪の態度を崩さない大淀。

 その頑なな態度に呆れかえるも好ましく思う提督。

「頑固者が。そこまで言うのなら処分を受けてもらう」

 はいと頷く大淀と止めようとする五月雨。

「提督」

 手を挙げ五月雨を制し、大淀に向かう。

「大淀、五月雨が自分から潜り込んだと説教していなかったか? その誤解について五月雨に謝罪してほしい。あれは私が引きずり込んだのだから。それと、この子に手出しはしていない。五月雨はまだ生娘だ」

 その言葉に五月雨が顔を染める。

 ああ、そう言えば、と全ての元凶を思い出し、

「五月雨ちゃん、貴女は提督の被害者でしたね。誤解からお説教して本当にごめんなさい。今まで随分苦労したのでしょう?」

「いえ、そんなことはありませんでしたよ。彼方此方突かれたりしただけ……あっ」

 賑やかな時間が過ぎる。

 

「処で二人とも、何用があって私室まで来たのだ」

 二人が朝から私室にまで押し掛けた理由を訝しむ提督。

「そうでした。大変なんです。鎮守府がすごく大きくなっていて、それは知っているんですけど」

「明石の話では見慣れない設備と見慣れない妖精たちがいるとの事で、副長と工廠長からは提督の仕業だろうから話を聞いてくるようにとの事でした」

 その話に訝しむ提督。

(寝て目が覚めれば、当然のように受け入れてしまう筈だったのだが)

 内心そう思うも

「わかった。すぐに行こう。大会議室に招集してくれ」

 

 ********************************************************************** 

 

 大会議室――。

「提督。昨夜から今朝にかけての事態の説明を求めます」

 入室するなり副長と工廠長に詰め寄られる提督。

「説明? 私は昨夜、【海上要塞型移動鎮守府 高天原】の改装を行うと伝えたが?」

「確かにそう聞いた。此処にいる皆はその言葉は覚えておる。じゃが!」

 窓から外を指す工廠長。

「ここまでの大改装とは聞いておらん!」

「それに!」

 後を副長が受け継ぐ。

「あの妖精達は! 提督の仕業とは分かりますが、一個大隊の陸戦妖精に加えて医療妖精に――」

 増えた妖精を挙げていく副長

「――と、今までは1,225名だったのが、合わせて5,435名と大幅に増員されています! 組織と体制を見直す必要があります。そうでしょう、工廠長!」

 最後は叫ぶような声を上げる副長。

「まあ、そうじゃのう。わしも部下に見慣れない者がおるようでは、ちと困るでな」

 周囲も皆頷いていることを確認した提督は予定の変更を余儀なくされる。

「内装がまだ終了していない。そうだな……本日1400迄各自自室待機を命じる。副長、放送を流せ」

「本日1400迄各自自室待機。放送流します」

「以上だ。解散」

 

 解散後、提督は新たに設けた内郭の農園・果樹園に来ていた。

「見事なまでに何もないな。あるのは土だけか」

 何もない――作物や樹木がない区画を見て愕然とする。

 これにはタブレットは使用できるのか。と疑問を抱く提督。

 試しに翳してみるも反応はない。

 さてどうするかと考え、取得していた能力の一つに気付く。

 植獣召喚――自分が扱った植物や動物を求めた時に取寄せられる能力――。

 能力を発動させる。果樹や野菜を揃える心算であったが、何故か苗木と種しか現れない。

 疑問に思い再度能力を確認する提督。

 注意事項がある事に気付く。

「成程。気が付かなかった私が間抜けだったか」

 これは妖精達に手伝わせよう。と、一か所に苗木と種を集めて保管する提督。

 そのまま足を娯楽施設に向け、こちらは設備が整っていることを確認する。

 執務室に戻り、居住区の内装に取り掛かる。

(待機中の妖精達には悪いが寝ていてもらおう)

 調理などを行っていないことを確認した提督がハロタン系の睡眠ガスを流す。

 各部署のモニターから全員休まった事を確認し、改装準備に入る提督。

(各居室は25.1平米で統一する。シッティングエリアとベッドルームを設けるか。ベッドはダブルで良いな。シャワーに、トイレか。バスタブは士官以上の居室に適用しよう。設備は冷蔵庫・テレビ・電話・金庫・ラジオ・化粧台・クローゼット・室内温湿度調節器で良いな)

 タブレットを操作しながら、間取りと設備を画面に配置する。インテリアスタイルの項目に気が付く提督。

(インテリアスタイル? 部屋のイメージか。どれどれ……アメリカントラディショナルにアーリーアメリカン、ヴィクトリアンカントリーにイングリッシュカントリー、フレンチトラディショナル、イタリアントラディショナル、スウェディシュカントリー、ヨーロピアンクラシック、和風モダン、アジアンエスニック、シノワズリ。マニアックなものも多いな)

 何度か操作し、悪戯気な表情を浮かべる提督。

(共用部はヨーロピアンクラシック、幹部の部屋はフレンチトラディショナル、艦娘の部屋はイタリアントラディショナル、一般用はアーリーアメリカンでいいな。長官私室は和風モダンで良い。執務室は……アメリカントラディショナルにするか。暖炉は好みだ。……皆、目覚めて吃驚だな)

 忍び笑いを隠せない提督。

 

 暫く後、目覚めた妖精や艦娘が自室を見回し、驚愕の声をあげる光景があった。




幹部部屋のフレンチトラディショナルスタイル、ものすごく豪華に見えます。
主人公の嫌がらせw


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第10話:初陣と新たな出会い

第10話:初陣

 

「提督、何考えとるんじゃ」

 1400に大会議室に行くなり嵐のようなブーイングを受ける提督。

「落ち着かない」や「退役した後が困る」等の声が上がる。

 大淀や明石も

「共用空間の方が自分達の部屋より貧弱なのは……」

 と苦笑交じりの声。

 とにかくインテリアを変えてくれという声に提督も、まあ遊びはここまでにするか。と後ほど変えることを約す。

 フレンチトラディショナルスタイルを共用部に使用し、他の部分とインテリアスタイルを入れ替えるだけであることは億尾にも出さずに。

 

「さて、それでは会議を始める。まず、昨夜から今朝にかけて改造した箇所であるが――――」

 昨夜までの高天原と現在の高天原の違いについて事細かに説明していく提督。絶え間なく上がる驚愕と悲鳴を伴奏にしながら。

 

「――であるから。この」

「提督、待つのじゃ。さすがについて行けん。実際に現場を見て説明してもらった方が早かろう。序に新たに加わった者達への挨拶も済ませておきたい」

 工廠長の制止と要請に説明を止め周囲を確認する提督。

 周囲が困惑している様子に、それもそうかと説明を実地で行う。

 

 1層構造から主機操縦室・鎮守府管理機能を包括した3層構造に変化した戦闘指揮所や予備指揮所にいた新たに増えた部下と同僚を確認し、互いに礼を交し、暫し歓談する。

 新たな同僚は当初から設備の使用法・先任妖精の事は理解していた。

 また、会話の中で、当初からの妖精達は設備の使い方を目覚めた時の記憶流入――流入する記憶量に焼け付く様な痛みで七転八倒する苦しみを味わったと言う――の後に気が付けば自然と身につけていたと判明する。

 外郭や内郭では衛星を打ち上げた後に、工廠関係者――主に工廠長の胃――に負担を掛けながらも、大増員された部下や同僚達と共に喧々諤々の議論を交わす。

 最後に陸上訓練施設に勢ぞろいしていた陸戦妖精と交流を深め一日を終える。

 

 居室に戻った妖精達と提督の間で一悶着あったらしいが、大淀が記す鎮守府の記録には記載されていない。だが、高天原の居室は他と趣が違っている事は、後に演習に参加する艦娘が演習先で確認している。

 

 ********************************************************************** 

 

 数日後、停泊していた高天原が厦門方面へ進む。

「いよいよだな。五月雨」

 外郭内側のドックに立ち、傍らにいる秘書艦に声をかける提督。

「はい。いよいよ私の出番ですね! もうドジっ子なんて言わせませんから!」

 と意気込む五月雨。その声に提督がわしゃわしゃと五月雨の頭を撫でつける。

「鎮守府からはなるべく離れるな。砲弾の備蓄が不十分で深海棲艦と対峙するのに不安が残る。元素収集中の護衛は頼むぞ」

 もう。と乱された髪を整えながら

「お任せください!」

 と破顔一笑する五月雨。ドックから外郭と内郭の間の水面――通称:外堀――を進み外海へと出撃する五月雨。

 そのまま警備行動へと移行する。

 五月雨を見送り提督が戦闘指揮所へと戻る。

 副長・参謀長をはじめとする鎮守府幹部と工廠長、造船・造兵両部長や各廠長ら工廠幹部が、艦上からの砲撃と異なり、新艤装を纏った艦娘の海上での初実戦ということで画面を見守っている。

『こちら五月雨』

 明瞭な声と姿が画面越しに映る。

『目視では11時から1時の方向異常ありません。水中探信儀も反応有りません。引き続き3時の方向へ向かいます』

 画面に映し出されている衛星視界装置の映像も特に変わった点はない。泉州の沿岸にBETAが屯し深海棲艦と砲撃戦を行っている程度である。

「泉州方面へは進まぬように」

 そう提督が航海長に指示を出すと、即座に肯定の返事が上がる。

 1時間後、五月雨より定期連絡が入る。

『2時から4時の方向に敵影無し。水中も同様です。これから……!! 4時半の方向、敵性反応有り。此方に進路をとっています。至急対処願います』

 五月雨の発見に戦闘指揮所がざわめく。

「五月雨、付近に他の敵影は?」

『他に敵影無し。先ほどの敵の艦種は駆逐ロ級と判明しました。間もなく鎮守府警戒区域に入ります』

「五月雨、直ちに迎撃せよ」

『はい!』

 速度を上げロ級に接近し、小型超電磁砲を放つ五月雨。

『やぁーっ!』

 弾はわずかにロ級を逸れる。轟沈こそ免れたものの、その衝撃波に大破に追い込まれる。

『小型超電磁砲、やっぱり重いです。外しちゃいました』

 そう報告する五月雨。

「提督、やはり軽くて速い砲に替えた方が宜しいのでは?」

 そんな五月雨の様子を見て、造兵部長が提言する。

「五月雨、どうする?」

 パルスレーザーでロ級を始末した直後の五月雨に問いかける提督。

『そうですね。提督には申し訳ありませんが、小型超電磁砲は出来ればもっと軽くて速い砲が良いかなって』

「そうか。では五月雨が戻り次第、改修する事にしよう」

(そうなると……威力が劣るが127mmガトリング砲か新型127mm速射砲あたりか。いや、船体を替えて居るから新型155mm砲AGS辺りでも問題ないか)

 その後、駆逐ハ級が2隻の艦隊や軽巡ホ級・駆逐ハ級・駆逐ロ級×2のこの海域での主力と思われる艦隊の襲来もあったが、装備に慣れた五月雨にとっては何ら脅威とはならず、全て撃沈している。

 

「ただいま戻りました」

 五月雨が哨戒活動を終え帰還する。

「ご苦労さん。怪我はないな」

 執務室に戻りタブレットを操作し、五月雨の改装を画面上で行っていた提督に帰還の報告をする五月雨

「はい」

「では補給を済ませた後、工廠へ向かえ」

「あ、提督。その前に」

 そう言って五月雨が楽しげなそれでいて悪戯気な表情を見せる。

「どうした?」

「実は……」

 そう言うと半身を引く五月雨。

 訝しむ提督に、

「提督さん!」

 その言葉と共に突っ込んでくるクリーム色の塊。

 提督が回避しようとするも、間に合わず体で受け止める。

「会いたかったっぽい」

 その言葉に混乱する提督。

 まさか、またなのか? と。

「夕立を見つけましたので連れてきました」

「お前、画面の向こうの夕立か? 嫁艦でもないのになぜここに来れた?」

「ん~。五月雨も居なくなった後で、白衣の人が言ってたっぽい。提督さん、いつまでも2万ポイント使わないから没収だって。代わりにお嫁さんを全員ドロップで送るから伝えておくようにって。夕立は伝令でここに来れたっぽい。夕立にはよく分からなかったけど、提督さんは分かるっぽい?」 

 抱き着いたまま、赤い瞳を潤ませ上目遣いで提督に報告する夕立。

 そう言う事かと納得する提督。

「夕立、念のため確認するが、誰が来るか覚えているか?」

「え~と、夕立と五月雨の他は、白露と時雨と村雨に浦風ちゃんに浜風ちゃん、時津風ちゃんに谷風ちゃん。名取さんと五十鈴さん。榛名さんと金剛さんと扶桑さんと山城さん。後は大鯨さんに龍鳳さんに鳳翔さん、蒼龍さん。千歳さんと千代田さんは甲標的持って来るって言ってたぽい。あ、羽黒ちゃんもいた。明石さんと夕張さんもくるって。雪風ちゃんと島風ちゃんと潮ちゃんは、こっちでレシピ通りに建造したらこっちの姿に合わせて来るって。後のあの鎮守府にいた子たちは魂魄だけでくるから建造していれば何れ出会えるかもって言ってたぽい」

 一旦言葉を切り、提督の表情を窺う夕立。

「提督さん、飛龍さんがいないと寂しい?」

「来ないのか?」

 表情が曇る提督。

「もちろん来るっぽい。やっぱり提督さんには飛龍さんがいないといけないっぽい」

 それと。と提督の耳元に微かな声で夕立が伝える。

「早く夕立に孝悌忠信と翼覆嫗煦か合歓綢繆を使うっぽい。せっかく触れ合えるのに轟沈したくないっぽい」

 ぎょっとなり思わず身体を離す提督。

「ん? どーしたの、提督さん」

 夕立が首を傾げる。

「いや、何でもない。五月雨、そろそろ補給に向かいなさい。よく夕立を見つけてくれた」

 わしゃわしゃと頭を撫でる。

 もう、また。と、くすぐったそうな表情をしながら部屋を出る五月雨。

 

「さて、夕立。さっきの言葉はどういうことだ」

 威を込めて夕立に問いかける提督。

「そんなことしても無駄っぽい。夕立は五月雨の後、初めて配属された艦娘。五月雨が聞き忘れていた事を色々と白衣の人に教えてもらったぽい。提督さんの秘密も」

 紅の瞳をまっすぐ提督に向ける夕立。

「早く使うっぽい。使わないなら、五月雨たちに全部話すっぽい。色々と解けちゃうかも」

 その夕立の言葉に提督が言葉を紡ぐ。

「――」

 それを遮るように夕立が素早く提督の懐に飛び込み腕を掴む。

(しまった)

 内心焦るも紡ぐ言葉は中断しない。

 夕立が提督の身体を引き寄せる。にやりと笑い顔を近づけ――接吻をする。

 自らの舌を提督の口腔に差し入れ提督の舌を弄る。

 言葉が途切れ、身体が固まる。

「んッn……プッハ……な、何をする!!」

「口づけっぽい。提督さんの初物、夕立が奪っちゃったぽい?」

 妖しげな、外見に不相応な艶っぽさを秘めた視線で提督を見つめる夕立

「何故このような真似をした」

「提督さんの翼覆嫗煦も合歓綢繆も能力の特徴を知られたら防ぎ方って簡単よ。その警告っぽい。それと翼覆嫗煦か合歓綢繆の影響を受ける前に夕立の気持ち知って欲しかったから」

 特徴的な語尾をつけずに話す夕立。

「夕立、お前……」

「それで、提督さん。翼覆嫗煦か合歓綢繆使わないの? さっき言った事本当にするっぽい」

 挑発的に腰に手を遣り胸を反らせる夕立。

「……使う前に」

 不意を突き夕立を抱きしめる提督。

「ちょっと。離すっぽい」

 夕立の腕を持ち上げ、身体を壁に押し付ける。

「先ほどは不覚を取ったからな。此方からもお礼をしないとな」

「えっ。……ちょっと待つっぽい。……いや、飛龍さん達に悪いっぽい。待って」

 夕立の足を割り身体を押し付ける提督。そのまま片方の手を夕立の――。脇に手を差し入れ擽り始める提督。夕立の必死に制止する声も聞かず。何時しか擽られ疲れた夕立の手を提督が離すと、夕立が崩れ落ちる。崩れ落ちた夕立に覆い被さりさらに足先から首元まで擽り続ける。夕立の身体が汗ばみ始め、うっすらとその肌が上気し始める。息も絶え絶えに制止を願う夕立。その手は止まらず、這うようにして逃れようとする夕立。逃れられるかと淡い期待を抱いたところで足首を持たれ引きずり戻される夕立。着衣がめくれ上がり艶姿になっていることにふと提督が気付く。気まずい思いを抱きながら、夕立を覗き込む。その唇を奪うと立ち上がる提督。

「さて、始めるか」

 息も絶え絶えな夕立を見下ろしながら、襟元を整え言葉を紡ぎだす提督。

「ひどいっぽい。飛龍さんが来たら言いつけてやるっぽい」

 服装を大きく乱し、涙目で蹲る夕立。

「――――――合歓綢繆」

 夕立の紅の瞳から一瞬光が消え直ぐに戻る。

「夕立。今あったこと覚えているか?」

 その言葉にキッと提督をにらむ夕立。

「絶対忘れないっぽい。能力の事は言わないけど、このことは絶対に飛龍さんに言いつけるっぽい」

「覚えているのか。まあ良い。ついて来い、夕立」

 

 補給を済ませた五月雨が工廠に佇む。

「遅いな、提督と夕立」

 そこへ2人が現れる。

「待たせたか、五月雨」

「あ、やっと来た。遅いですよ2人とも」

 頬を膨らませる五月雨。

「夕立と話し込んでてな。済まんな」

「そうでしたか。夕立、楽しかった?」

 後ろにいる夕立に微笑む五月雨。

 目を逸らす夕立に首を傾げたところに提督の声がかかる。

「五月雨、小型超電磁砲を外し新型155mm砲AGSに切り替える。五月雨の要望は叶えている心算だが、不足があったら言って欲しい」

 そう言うとタブレットを五月雨に翳す。

「相変わらずですよね、それ」

 一瞬で兵装が変わるのがまだ慣れません。という五月雨に

「それは慣れてもらうしかないな。それと、これは私専用だからな。他の誰も操作できない仕組みだ」

 興味深そうにしている夕立に言い聞かせる提督

「明日から暫く完熟訓練を行うからその心算でな。本日は積もる話もあるだろうから、夕立を居室に案内した後はそのまま業務終了して構わん。夕立の居室は五月雨の隣だ。では解散」

 そう2人に告げる。2人が去ると提督は資源の備蓄状況を確認に向かった。

 

「備蓄状況はどうだ?」

 確認する提督に明石が、

「すごいですね。さすが大陸沿岸です。先ほど本土に定められた量を送りましたが、まだまだ余裕があります。建造も開発も余裕をもって行えます」

 興奮気味に報告を挙げる。

「そうか。ようやく無限装填装置と複写増幅装置にも火が入るわけだ」

 その声に明石が額に手を遣る。

「それがありました。そうなると……ギリギリですね。どうされますか?」

 提督に確認する明石。

「私の艤装を開発する」

 その言葉に固まる明石と居合わせた造兵部と造船部の妖精達。

 

 ――――悪夢再び。

 




提督が持ってきていた20000ポイントが消えました。
引き換えに嫁艦全員集合です。
ただ、ドロップ艦の為、深海棲艦に撃沈された記憶もあります。
その流入した恐怖を嫁艦たちは克服できるのか。






……克服できなくてもあっさり解決できますけど。主人公の能力で。


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第11話:ある艦娘の災難

久しぶりにこれを投稿。


「そんなことがあって」

 艦内入渠設備に入りながら夕立と五月雨が半身浴で話し込む。

 そこに、

「五月雨・夕立」

 長官の声が聞こえる。

「長官。覗いちゃ駄目ぽい。映像は消して」

 艦内カメラの存在を知る二人が浴槽に肩まで身を沈める。

 浴槽の湯は鶯色をしているので肩まで浸かれば、カメラに映る事もない。

「馬鹿者。二人が入った時点で映像機能は停止しているわ!」

「赤外線センサーは?」

 沈黙が続く。

「それも切ってね」

「2人とも、そろそろ上がれるか?」

 話題を逸らせるかの様に、長官の問い掛けがある。

「ん〜もう少しっぽい」

「わかった。追加の中速修復剤を投入する。修復完了次第、戦闘指揮所まで来てくれ。聞きたいことがある」

「わかったぽい。それで、センサーは?」

「切った。……そうそう、二人とも成長したなぁ。夜が楽しみだ。では頼むぞ」

 頬を真っ赤に染める二人。

「もう」

「どうせ風呂屋の暖簾っぽい。五月雨は期待しちゃダメ。相手するのはいつも通り母性のある空母の飛龍さんで決定。でもさっきの夜の発言云々は伝えるっぽい」

「期待なんてしてないよ。でも飛龍さんか……。あの世界でもこの世界でも、一番早く来た空母だものね。長官が頼りにするのも納得」

「あ、修復終わったっぽい。早く上がって長官の元に行くっぽい」

「急ごう、夕立。この艦、大きすぎ……」

 

 ********************** 

 

 大陸付近での資源回収作業はまだ終了していない。

「提督が自身の艤装を諦められて良かったです」

「艦隊を形成することが最優先だからな。私の艤装は当分先だ。艤装云々は冗談に決まっているだろうが」

 物資の回収作業を見守りながら明石と提督が言葉を交わしている。

 五月雨と新たに加わった夕立の二人で深海棲艦を駆逐しつつ確保した資源をもとに艦娘を建造・発見し戦力を増強している為、提督の艤装に資源を回す余裕はない。

 現在は潮・多摩・荒潮・白雪の4名が新たに建造されているが、未だに艤装を纏えるほど成長はしておらず、大淀が育児・教育を行っている。

「記憶のある潮が来たのはありがたいが、戦力化はまだまだ先だな」

「ええ。あ……深海棲艦の……ロ級でしょうか? 珍しいですね、形が残っているなんて」

「そうだな。……うん? 動かなかったか? あれ」

 その言葉に明石が改めて見直す。

「え? ……あっ! 仮死状態!」

 口調に焦りの色を滲ませる明石。

「提督、退避願います」

 深海棲艦が生きていることに気が付いた明石が鎮守府内に非常警報を流す。

『五月雨と夕立の両名は至急工廠に集合。搬入された深海棲艦が生きている。繰り返す。深海棲艦が生きている』

 数度の放送の後。明石が呟く。

「間に合うかしら……」

「明石、深海棲艦はクレーンで下げたままにしておけ。万が一の時はそのまま変換機へ突っ込め」

 仮死状態のロ級から目を離さず指示を出す提督。うっすらと汗がにじむ。

 一分、二分と時間が過ぎる。

(二人はまだ?)

 二人の到着を待ちわびる明石と提督。

 すでに工廠妖精はクレーンの周囲から退避している。

(拙いな、このままでは間に合わないか……)

 少しづつ動き出すロ級。その砲身がせり出すとともに、明石と提督がクレーンに駆け寄り全速で変換機の中にロ級を突っこむ。砲弾が射出されるのとそれごとロ級が変換機の中に消えるのは同時であった。

「提、督。無茶を、しないで、頂けませんか」

 肩で息をしつつロ級のこの世のものとは思えない叫び声を聞きながら明石が苦情を述べる。

「此処にいるのは非武装の工廠妖精以外に私と明石しかいなかったからな、明石も艤装がなければ只人と同じだろうが」

 涼しい顔で宣う提督に

「提督と艦娘では立場が違います。提督は替えの効かない上官。それと部下である艦娘のどちらを優先すべきか新兵でもわかる事です」

「わかったわかった。今後はなるべく非武装では前に出ないようにする」

 そこに駆け付けてくる五月雨と夕立。

「深海棲艦は?」

 武装を構えながら警戒する2人。

「変換機の中だ」

 心なしか振動が激しい機械を見つめ、事態が終わっていることを示す。

「二人とも遅いですよ」

 明石が二人に注意を発する。

「五月雨、夕立。今回は不問に付すが、止めは確実に刺せ。良いな」

 その言葉に項垂れる二人。

「しかし……生きたまま深海棲艦を放り込んだが、変換機は無事なのか?」

 警戒態勢のまま変換機に近付く提督達。

 明石が警戒しながらも外観を確認する。

「特に外観は問題なさそうです」

「そうか、ならば良かった。そうなると深海棲艦がどうなっているか気になるな」

「はい。生きたまま投入しましたからね……」

 資材の搬出口を確認する一行。

 そこには……。

 数種類の金属インゴットと燃料、そして泣きじゃくっている幼子の姿が……。

「酷いよ……。今度こそアンタの役に立とうって思ってたのに……。いきなり解体なんて……酷いよ……」

 状況が呑み込めない一行。

「えっと……」

 事情を確認しようと明石が近づく。

 幼子の髪飾りにふと目を停めた提督が、『今度こそ』という言葉に気付く。

「お嬢ちゃん。もしかして、向こうの曙……か?」

「そうよ、クソ提督」

 その言葉に明石が眉をしかめる。

「おぉ。その台詞、間違いなく曙だ。初めましてで良いのか?」

  それを聞き呑気な口調でのたまう提督。夕立や五月雨に喜色が見える。

「元、よ。ついさっき曙じゃなくなったわ」

「あ~。それについては、私からは何も言えんな。状況が状況だったからな」

「……うん。私も深海棲艦になってたから、仕方ないのは解る。解るんだけど、じゃあ私、何のためにここに来たのよ……。こんなんになるなら記憶なんて要らなかったわよ……」

 涙目で男を睨む幼子。

「記憶はあるのか……。ぼの、記憶持ちなら此処から解放するわけにはいかん。少し考えるから、五月雨、夕立、曙を部屋に」

 3人が工廠から立ち去る。

「あの娘も、提督の関係者だったんですね。……提督の艦娘と他の艦娘では大分性格に違いがありますね。そこは気を付けないと」

「……そんなに違うのか?」

「ええ。少なくとも他所の曙ちゃんは提督をクソ呼ばわりはしません。むしろ、とても甘えん坊な所がある娘です」

「……曙が甘えん坊? 信じられん。変われば変わるものだ……」

「あの口調なら、むしろ綾波ちゃんが近いかと」

「……。本気でもう一度資料を読み直す必要があるな」

 

 

 その夜。解体された曙を主だった鎮守府幹部に紹介し待遇を決める提督。

「まあそうなるじゃろな。では、この娘はある程度成長したらわしの下に就けるという事で構わんのだな、提督?」

「それがこの娘の為になりそうなので。念のため暫くしたら艤装が使えるか試しては見ますがね」

 後日、解体された曙はその知識と経験を活かし、工廠長の懐刀として、また、提督の技術参謀として頭角を現していくことになる。

 

 



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色々と送ります――日常編――
第1話:ローズヒップと熊野


え~と、近海編は、もう少し続きますが日常編のネタができてきましたので、章を設けて並行して投稿します。


「熊野~。どこだ~」

 執務室での勤務時間外は、だらける長官の声が聞こえて来る。

 勤務時間の様にとは言いませんが、もう少ししっかりと為されば宜しいのに。

 そう思い、熊野は一つため息をつくと飲みかけの紅茶を皿に戻し、ショールを肩にかけ扉を開く。

「こちらですわ。長官」

 その声に

「此処にいたか。熊野、ローズヒップの収穫に行かないか?」

「あら。長官にしては気が利きますわね。宜しくてよ」

 にこやかに笑うと長官の腕に絡まる熊野。

「早く収穫しないと間に合わなくなる。というかギリギリの時期だ」

「そう言えば、私、ローズヒップの収穫など初めてですけど、収穫場所はどちらかしら? この鎮守府にあるのは間違いないと分かるのですが」

「ん? そうか、熊野はまだ此処に着て1年経っていなかったな」

「ええ。それが?」

「なら、お楽しみだな」

「あら、残念」

 たわいもない話をしながら、2人とも歩みを進める。

「あら。ここはバラ園でしたかしら?」

 目的地に着いたと言われ、熊野は絡めていた腕を解き辺りを見回す。秋薔薇が見事に咲き誇っている。

 暫し見とれていると、

「こっちだ」

 長官が手を振るその一角には、春には見事な花を咲かせていたが、今の時期は葉が落ちかけている薔薇があった。

「こちらのバラは花が咲いていませんね」

「それはオールド・ローズだからな。四季咲きもあるが、ここのは原種だから一季咲きだ。春に来ると見事な香りだぞ」

「楽しみですわ。ところで、長官。私はローズヒップの収穫のお誘いを受けたと思ったのですけれど。ここにあるのかしら? それとも……。私は別に宜しくてよ、収穫が口実のデートでも」

 いたずら気な口調と表情を見せる熊野。

「何を言ってる。目の前にあるだろう?」

 そう言われて多くの赤い実をつけた薔薇に気付く熊野。

「もしかして、この赤い実がそうなのかしら?」

「『ローズ』ヒップだからな。この『ロサ・カニナ』の実がローズヒップの正体という訳だ。ロサ・カニナはドッグローズとも言って、欧州ではどこでも見られた薔薇だった」

「今は?」

「欧州はBETAの巣になっているからな。残ってないだろうな。北米大陸にならまだまだあるはずだが」

 さて、取り掛かるか。との声に、戸惑う熊野。

「どうすれば?」

「普通に指でつまんで、このかごに入れてくれ」

 

「結構とれたな」

 籠一杯になったローズヒップを見る。

「この後はどうするのかしら?」

「これからがなぁ……。最後まで付き合ってもらうぞ、熊野」

「ええ。それは良いですけど……」

 

 部屋に戻り、作業に取り掛かる2人。

「……これは、大変ですわね」

「そう。これが面倒なんだ」

 半分に切り、毛を小さいスプーンですくい取り さらに半分に切る。

「この毛が下痢を引き起こす事がある。確実にのぞいてな」

「はいはい。でも、半分に切っただけではいけませんの?」

「果肉が厚いからな。2等分だと乾燥中にかびるんだ」

「どのくらいで、完成しますの?」

 ふとした疑問。熊野には、これだけ苦労したのだからできれば自分が一番に飲みたいという想いもある。

「水分をしっかりきり、風通しの良い日陰で乾燥させた後だから……一カ月後位だな」

「随分掛かりますのね」

 些かウンザリしながらも黙々と手を動かし、収穫分を終わらせる2人。

 

「さて、内地に送ってくるか」

 そう言い、加工したてのローズヒップを手に取り、複写装置まで運ぶ。

 1t以上に増殖したローズヒップを担当妖精と一緒に6時間がかりで物質収集変換送信機の投入口に投げ込む。

 

 

 一月後、最初の一杯を熊野と2人で頂く長官の姿があった。

「このほのかな酸味が良いですわね。苦労した甲斐がありました」

 ティーカップに口をつける熊野。

「言っておくが、中の実も食べろよ。そこに栄養分の殆どがあるからな」

「そうでしたの? 初めて聞きますわ」

「ハイビスカスとのブレンドが多いからなぁ、市販のものは。勿体無い事だ」

 まぁ、それはそれとして。だ、と長官が席を立つ。見上げる熊野。

「ローズヒップゼリーでも作るか」

「あら、良いですわね」

 厨房に向かう二人。

「まずは、ローズヒップティーを作らないとな」

 そう言うと、鍋にローズヒップと水を入れ火にかける。

「沸騰したら火を止めて蓋をして、5分蒸らしてくれ」

 熊野に鍋を任せる。その間に収穫しておいたレモンを絞る長官。

「長官。できましたわ」

 できあがったローズヒップティーを少し別の容器に取り、ゼラチンを溶かす。

 ローズヒップティーにハチミツと搾りたてのレモン果汁を混ぜ、溶かしておいたゼラチンを加えよく混ぜ合わせる。

 お気に入りの容器を準備する熊野。

 粗熱がとれるまで他愛もない話をする。

 粗熱が取れると準備していた容器に移す。

 冷蔵庫で1時間程度冷やしている間に、他の姉妹を呼び出す。

 

「ちぃーす。お邪魔に来たよ~」

 賑やかになる部屋で完成したゼリーを取り出す。

「盛り付けは好きにしてくれ」

「う~ん。僕はヨーグルトが良いかな」

「鈴谷は、アイスかな」

 各々盛り上がりながら、おやつタイムを楽しんでいった。




次は、ポポーかフェイジョアか……。


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第2話:高雄型と一緒に。キウイ狩り――前編――

「長官、今日はどこ行くの?」

 賑やかな駆逐艦たちの声。

「何時でも頼っていいのよ」

 そんな声と共に纏わり着いている雷の頭をわしゃわしゃと撫でながら作業着姿の長官一行が目的地に向かう。

「はい、皆さん。列に並びましょうね、車が来るわよ」

 列が広がりすぎると、引率する高雄と愛宕から注意が飛ぶ。

 その脇を資材を満載したトラック(妖精運転中)が横切る。

 

「此処って果樹園?」

 50m四方に植えられている果樹を見ながら暁が確認する。

「今日は、ここで果樹の収穫。駆逐艦の皆はフェイジョアの収穫をしてくれ。高雄と愛宕はキウイの収穫を手伝って」

「はーい」

 元気な声とともに駆逐艦の娘らが散らばるのを見ながら、3人がメッシュコンテナ(ビールが入っているアレ)と鋏を手に、キウイ棚へ向かう。

「どうされます?」

「なるべく種類別に分けて欲しい。少なくても香緑と紅妃と黄色系は分けて欲しいな」

「了解しました」

 

「ねえ、高雄」

「なに?」

「長官は分けて欲しいって言ってたけど、間違いようがないわよね」

 余分なメッシュコンテナを足場にしながら頭上に腕を伸ばし収穫する愛宕が、実を触りながら話しかける。

「そうそう。この香緑はうぶ毛が多いものね」

 この果樹園にある品種を思い返しながら応じる高雄

「ここにあるのは、香緑とアップルキウイと紅妃とジャンボイエローだものね。どれも特徴的で似たような品種がないから楽よね」

 産毛が多い香緑、小ぶりな紅妃、大きさが異なるアップルキウイが判れば残りは決まってくる。

「それで、愛宕、残りはどれくらい?」

「ええと。私の方は後10m位かしら。高雄は?」

「私の方は少なかったからもうすぐ終わるわ。長官が紅妃の収穫しているから、終わったら手伝わないと。摘果が不十分だったから一番数が多いのよね」

「じゃあ、私は終わったら、アップルキウイの収穫に行くわね」

「宜しくね。紅妃の収穫が終わったらそっちに行くわ」

 メッシュコンテナを動かす高雄。その姿を見ながら。

「脚立があるといいのに」

 愛宕のそんな声を聴きながら、

「脚立は高生り物を収穫している妙高さん達が使っているから仕方ないわよ」

 苦笑する高雄。

 漏れ聞こえる2人の声を聴きながら、

「まぁ、もう少し脚立を増やしても良いけどなぁ。あの光景も目の保養だしな。あの二人に棚物の収穫任せてよかったなぁ」

 視線の認識阻害を使用しながら、腕を伸ばしている2人の強調されているモノをチラ見する。

 

「長官、私の方は終わりました。お手伝いしますね」

「お、助かる」

 先ほどの思いなど億尾にも出さない長官。

「あと……直に終わりますね、この数では」

「まぁな。終わったら愛宕を手伝うか」

 手をこまめに動かしながら

「これは柔らかすぎるな……。高雄、ホレ」

 柔らかい実を高雄に放る。

「えっ? キャ」

 突然放られた実を取り損ね、胸で受け止める高雄。

「お、済まん済まん。狙ってはいなかったんだが胸で受け止めるとは。良いもの見られたな」

 この程度では互いに悪びれない。

「もう、仕方ない方ですね。頂きます」

 苦笑交じりに手にした実の皮を剥き、口に含む。

「やっぱり、紅妃って他のキウイより甘いですね」

「糖度が違うからな。爽やかな風味と上品な甘味というものだ」

 澄まして言う長官に苦笑を隠さない高雄。

「何方からの受け売りですか? 金剛さん? 比叡さん? それとも熊野さん?」

「誰だったかなぁ。しかしこういった場面で比叡の名前が出てくる事は少ないだろうな。うちの比叡は語学堪能だけでなく料理も上手だから」

「本当に意外でしたよね。磯風ちゃんの時もそうでしたけど開発資材いれた時に料理のレシピ本と料理教室動画CDも一緒に混ぜた五月雨ちゃんのファインプレーかしら」

「あれは受けたな。こけた拍子に本とCDが蓋閉める寸前に入るなんてな――」

 暫く盛り上がる。

「終わった終わった。さて、愛宕を手伝いに行くか」

「はい。……ところで、あの子たちは大丈夫かしら? 愛宕の所に行く序でに見に行きませんか?」

「そうだな、一寸見に行くか」

 

 




次回は駆逐艦とフェイジョア収穫を挟んで愛宕とキウイ狩り。


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第3話:駆逐艦と一緒にフェイジョア収穫

「どんな感じかしら?」

 地面に踞みながらフェイジョアを探して拾っている駆逐艦たちに声をかける高雄と長官。

「たまには屈伸しろよ。身体が痛くなるぞ」

 そんな声をかける提督に、

「艦娘がそんな軟な身体してないわよ」

 そんな声が挙がる。

「それもそうか」

 困ったような声を出す長官。

「まったく。何考えてるの?」

「済まん済まん」

 あっさり受け流し、苦笑しながら声の主の頭をなでる。

「撫でるな」

 

「ねぇ、長官」

 裾を引かれる感触に振りむき、目を合わせるように踞む。

「ん? どうした?」

「ん、このフェイジョアって、なんで形が違うの?」

「ああ、これか。それはね、同じフェイジョアでも種類が違うから、形に違いがあるんだ」「ふ~ん。じゃあ同じ木の下にあるのにこんなに違うのは?」

「お、ずいぶんと違ったのがあるな。良く見つけたな」

 頭を撫でながら

「こうなるのは、受粉樹が違ったんだろうね。同じ樹に着いた花でも条件によって受粉樹が違うことがあるのは知っているね?」

 頷いている事を確認して話が続く。

「ここにあるフェイジョアは、アポロ・マリアン・トライアンフ・ジェミニ・マンモス・ウィキトゥ・オパールスター・カカポと8種類ある事は知っているね。アポロは自分で実をつけられるからあまり変わった実は出来ない。ジェミニは自分でも付けられるけどアポロより変わった実ができる可能性がある。その他のは自分で実をつけられないから、他の樹の花粉を使う。例えばマンモスはマンモス以外の7種類の花粉を使って実をつける。同じマンモスの花でもアポロの花粉で出来た実とオパールスターの花粉で出来た実は大きさも形もあまり似ていないし、種を播くとマンモス以外の新しい種類が生まれることもある。君たちも同じかな。同じ……そう、あそこの霞も他の鎮守府ではまた違った霞だし、今年中学生になった艦娘を引退した霞も此処にいる霞とは違う。だから勉強することはとても大切なんだ。それだけ可能性が広がるからね。……っと、お話はこれでお終い」

 ニコニコと2人を見ていた高雄が近づいてくる。

「神泉センセ、授業お疲れさまでした」

「お前なぁ。上司を揶揄うんじゃありません」

 高雄の頭をグイっと抑える。

「……ホンットこの部隊はぬるいわ。仲良しごっこしてんじゃないのに……」

「まぁ良いじゃないの。ぎすぎすしているよりは」

 

「2人のお話し中に一通り見てきましたけど、粗収穫されてますね。貴方達、本当にお疲れ様」

 駆逐艦に声をかける高雄。

 その言葉に胸を張る駆逐艦たち。

「よーし。じゃあ少し早いけど休憩。採ったフェイジョアは籠に入れて一か所に纏めておくように。高雄と私は愛宕の様子を見に行くから、何かあったら呼ぶように」

 その言葉に、

「一緒に行っちゃだめですか?」

 そんな言葉が上がる。

「もちろんいいわよ。ね、長官」

「構わないが、休憩しなくてもいいのか?」

「愛宕さん達と一緒に休憩したいです」

 その言葉に

「なら一緒に行くか」

 と、皆で愛宕の下に出かける準備。

「ちょっと。このフェイジョアはどうするのよ」

「そうだった。妖精さんに運んでもらうから、そこに纏めておいて」

 まとめた後で、改めて皆で愛宕の下に出かける。



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第4話:高雄型と駆逐艦と一緒に。キウイ狩り――後編――

その頃愛宕は

「うーん。高雄達遅~い。そんなに多いの、あっち。私も行った方が良いかしら?」

 アップルキウイの収穫を終え、ジャンボイエローの収穫を始める愛宕だが、一向に来ない2人を気に掛ける。

 そこに

「ごめん、お待たせ」

 高雄と長官、駆逐艦一行が到着する。

「アップルキウイの収穫終わっちゃったわよ。今からジャンボイエロー」

 ホッとすると同時に、頬を膨らませる愛宕。

「愛宕さん、ごめんなさい。お2人に私達の様子を見てもらっていました」

 申し訳なさそうな声に

「あら、そうだったの? ご、ごめんなさい。ちょっと心配だったから、ね」

 慌てる愛宕。

「私たちもキウイの収穫お手伝いしに来ました。何処から始めれば良いですか?」

 そんな声に愛宕はやや困った様子で

「えっと……ちょっと良いかしら。皆さん整~列。いくわよ~。ぱんぱかぱーん」

 掛け声と同時に両手を挙げる愛宕。釣られて駆逐艦たちが手を挙げると、

「う~ん。暁ちゃんたちは届かないかなぁ。暁ちゃんたちはこの青いケースに入っているキウイから柔らかいもの・形がおかしいものを分けて、ここのケースに入れてね。……暁ちゃん、そんな不満そうな顔しないの。とっても大事なのよ、これ。ですよね、長官」

 話を振る愛宕。

「ん? ああ、選別はとても大事なんだ。柔らか過ぎるものは腐っているかもしれないし、形のおかしい物にはひょとしたら虫がいるかもしれない。内地に送る大事な食料だからな、できれば立派なレディに任せたいのだが……暁が不満なら仕方ない、他に――」

 遮るかのように

「仕方ないわね。暁が一人前のレディとして頑張るわ」

「そうか。頑張ってくれるか」

 視線を愛宕と互いにかわし、苦笑する。

「じゃあ、残りの子たちは…このコンテナに乗って。乗りましたか? それじゃあ鋏で此処を切って、切った実をこの青色のコンテナに入れてください。暁ちゃんたちはこの青いケースをみて、さっきの通り、変なものとか、柔らかすぎるものはこっちの黒いケース、少し柔らかいものはこっちの白いケースに入れてね」

 早速分かれて作業を行う駆逐艦。

 その途中、

「わっ。潰れた。汁が~」

「大変、洗濯しなくちゃ。早く脱いでって長官何見ているんですか!」

「馬鹿! 愛宕、ここで脱がすな! 向こうで着替えさせろ」

 等、騒ぎも多少あったが、おおむね順調に収穫は進んだ。

 

「皆、お疲れ様」

 収穫が終わり、無事に選別も終わった後は皆で複写装置までキウイとフェイジョアを運ぶ。

 増えた果実を物質収集変換送信機の投入口に投げ込む。少し投げ込んだところで後の作業を妖精に任せる。

「柔らかいキウイってどうするの? 腐ってはいなさそうだけど」

 その言葉に、高雄や愛宕達と視線をかわし、満面の笑顔で答える。

「皆で食べちゃおう」

 

 

 ※収穫したフェイジョアと追熟予定のキウイは食糧庫に保存しました。



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第5話:芋堀り

駆逐艦たちのお話ですが、特定の型とは関係ありません。


 鎮守府も嵐を回避し、爽やかな風が吹き抜ける頃。

「お芋、お芋、芋ほり、芋掘り、楽しいな♪」

 幼い容姿の駆逐艦たちが年長の駆逐艦に手を引かれ農園にやってくる。

 事前に蔓を切られ準備されていたサツマイモ畑を見て歓声を上げる。

「おい。お前ら、こっちだ」

 眼帯の可愛い方と呼ばれる天龍が駆逐艦をまとめて整列させる。

「ねえ時雨」

 赤い瞳を持つ夕立が傍らの姉に問いかける。

 何? と問う時雨に

「私たちもいていいのかな?」

 疑問を投げるも、

「良いんじゃないかな? 僕らも駆逐艦だし。それにほら」

 と示す方向を見ると、姉妹達がすでにワイワイと六駆や七駆達に交じって畝を崩している。

「こんなに取れちゃった」

 白露が周囲に大人げなく自慢する。

 その様子を見やり、時雨が額を抑える。

「何やってるのかな、うちの長姉は……」

「小さい子に大人げないっぽい」

 呆れる2人。

 負けず嫌いの暁達が畝を猛然と掘り起こす。

「見てなさい。暁だって」

「暁には負けないよ」

 そんな子供たちを見て

「まあ良いか。泣いている奴はいなさそうだし」

 天龍が白露をたしなめようと近づいていたが、踵を返し、割り当ての場所を掘り起こす。

 

「取れた~」

 籠一杯にサツマイモを詰め、皆満足気な様子。

「よ~し。それじゃあ、芋焼くぞ」

 蓋つきの鍋と丸石を持ってくる天龍。

 周囲に駆逐艦が集まる。

「まず、この丸石を鍋に敷く。お前ら、他の鍋でやってみな」

 その声にワイワイと鍋に丸石を均していく。

「で、敷いたら、芋を並べる」

「は~い」

 あれが良い、これが良いと賑やかな駆逐艦。

 穏やかな目で見守る天龍達。

「並べ終わったか? 終わったら、この七輪の炭に火をつけ、中火にする。そしたら鍋を七輪にセットするんだ。火を使うから気をつけろよ。火の回りで騒いだりしたら……怖いぞ」

 なかなか火がつけられない幼い駆逐艦たちの七輪の炭に白露達が火をつけて回る。

「てんりゅ~。どれくらい待つの?」

「そうだな。芋が大きめだったから1時間半位か」

「え~。そんなにかかるの?」

「待っている間に、こっちの芋と野菜を工廠に運ぶぞ。白露達は火の番していてくれ。おら、お前ら行くぞ」

 袋に入った芋や野菜を猫車に乗せ運んでいく一行。

「行っちゃった。あっちの方が楽しかったぽい?」

「そんなわけないだろ? 僕たちはこっちで火の番しようよ」

「は~い」

 

「どうだろう? そろそろ良いかな?」

 いい香りが漂い始め、皆もそわそわしだす。

「ちょっと待て。今串刺してみるから」

 そう言うと天龍が串を差して回る。

「これは大丈夫。ここも――」

 一通り回ると、ニカッと笑みを浮かべる。

「よし、できたぞ」

 その声に歓声を上げながら芋を取り出す子供たち。

「はふ、はふ」

「火傷するなよ~」

 天龍が一応声をかける。

「甘ぁ~い!!」

「あまいね」

「すごい蜜!」

 尻尾があればぶん回していたであろう勢いで大喜びの駆逐艦たち。

「このサツマイモ、去年までと違う芋?」

「お、気が付いたか。去年までは【紅あずま】と【鳴門金時】だったんだが今年は【紅はるか】と【安納芋】に変えたんだ」

「なんで?」

「長官の趣味」

「アンのクソ長官、職権濫用じゃないの。……確かに美味しいから良いけど」

 その言葉に苦笑いを隠せない天龍。

 

「食べ終わったか~? 食べ終わったら撤収するぞ~」

 その声に、手に持っている芋を口に頬張ったり、包んで持ち帰る支度をする駆逐艦たち。

「準備できたよ~」

「使った炭は再利用するから、炭消し壺に入れるのを忘れるなよ」

 

「これ、なんかまだ焼き芋出来そう……」

 炭消し壺に炭を入れながら、誰かが呟く。

「出来るぞ。前にやったことあるから。でも今日はもう時間だ。おとなしく撤収」

 

 夕暮れを見ながら居住区へ戻る一行。

「また、食べられるといいね」

「そうだね」

 そんな会話を交わしながら。

 



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