IS~転~ (パスタン)
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幼年期から小学生編
プロローグ~終わりと始まり~


暖かく見守ってください


 突然だが 俺は、転生者である。ありきたりではあるがそこにはツッコミを入れないで欲しい。

 

 よくある設定では転生前に神様から何らかのチートな力をもらう様だが、そんなものはなかった。それどころか神様に会うことすらなかったのだ。本当に気が付いたら赤ん坊になっていた…。

 

 小さな手足、寝返りも打つことが出来ない身体、目と耳もかろうじて機能する程度なのだ。状況も分からずにいたが、ようやく事の重大さに気づいた時は、情けないくらいに必死に泣いたし、誰に対するわけでもない罵詈雑言をあらん限り言い続けた。

 

 以前は、二十代半ばの普通の男であった。趣味はスポーツにアニメにゲームと少々オタクな感じだが仕事も含めて今の人生を楽しんでいた。さぁ明日も頑張ろうと考え眠りについた。

 

 それがどうだ……目が覚めたら突然この有様だ。

 

 泣かない方がどうかしている。だが赤ん坊の身体では、この行為が無意味であると暫くして悟り、と同時に激しい虚脱感と疲労に襲われた。無理もない今の自分は赤ん坊なのだ。

 

 無茶をすればこうなる事は、誰が見ても明らかだ。意識が途切れる間際に誰かの手が頭に触れるのを感じた。目はぼやけて見えなかったが、その手から感じたのは純粋な優しさと慈愛であったことは今でも覚えている。

 

 

 そして、「大丈夫だぞ一夏。私が側にいる…私がお前を守るからな。」そんな力強い声もかろうじて聞こえてきた。

 

 

……………………ん?あれ一夏とな?

 

 

 インフィニット・ストラトス(通称IS)とは、宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツである。

 

 開発当初は、注目されなかったが「ある事件」がきっかけで従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能を世界中に見せつけた。しかし皮肉にもこの事件が宇宙活動を目的としたマルチフォーム・スーツとしての機能より飛行型パワード・スーツとしての性能で注目を浴びた。各国はISを軍事転用し、抑止力として使用する結果となってしまった。

 

 現行の兵器の攻撃力・機動力・防御力、それらの一線を画した兵器であるが弱点も存在する。まずISには謎が多い、特にコアに関しては自己進化するという情報以外完全なブラックボックスである。加えてISの開発者である篠ノ之束(しのののたばね)もコアの製造方法を開示していない。またこの兵器最大の特徴として、原因は分からないが女性しか扱えないのである。いくら男性が触れても反応することがなく、女性にしかISを装着することは出来ない。これによって世界の風潮は男尊女卑から女尊男卑へと変化していった。

 

 ここまでの思考は、過去……所謂(いわゆる)前世の記憶をかき集めて得た情報である。なぜこんなことをしたか・・・来てしまったのだ…ISの世界に。

 

 あれから6年が経過し自分自身との折り合いも何とかついた。今の俺は織斑一夏(おりむらいちか)である。

 

そうインフィニット・ストラトスの主人公でありこの世界で唯一ISを動かせる存在にしてとんでもないハーレム・ボーイである。

 

・・・神よ今あなたに会ったなら力いっぱい殴りつけたい。某グラップラ―に出てる組長の握力×体重×スピード=破壊力で殴りつけたい。冒頭で出た通り前世で少々オタクな自分の記憶には確かキャッチフレーズが「ハイスピード学園バトルラブコメディー」だったはず。

 

 しかし俺が思うにコメディー部分は主人公(俺)が各ヒロインに暴力と暴言でボコボコにされた印象しかない。しかも原作が完結しておらず、俺自身もアニメと原作知識がそこそこしかなような状況だ…詰みかなこれ。加えて原作では物語的に露骨な死亡フラグはなかったはずだが、いつ後ろから刺されてもおかしくない状況である(それもヒロインに)。

 

……神様お願いです。あの日に帰して、悲しみの向こうに逝きたくないのです。

 




書いて初めてわかる難しさと楽しさ


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俺の決意と千冬姉

第一話に当たるのでしょうか
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ


 どうも織斑一夏でございます。6年の月日が経つことで色々な変化が俺の内外で訪れた。

 

 まず内側、心と身体が成長することで記憶がより鮮明になった。以前は前世の記憶を2~3年ほどしか遡れなかったが、現在では自分の幼少期まで記憶を遡ることが出来る。しかし思い出せないことが1つある。それは「名前」だ。

 

 自分から始まり、家族、友人、恩師、果ては飼っていた犬の「顔」も思い出せるのに誰一人として「名前」が出てこないのだ…最初は記憶喪失を疑ったが、名前に限定された記憶の喪失などあるのだろうか?世間一般的な名前あるいは名称はいくつも出てくるのに俺を含めた俺の人生に深く関わった人物の名前が一人たりとも出てこない。これにはさすがにヘコんだ…自分の存在を確立する手段の一つであるのが「名前」なのだ。それが思い出せない、若干の恐怖や不安を感じるもののこれについては早々に諦めた。

 

 名前を思い出したからといって以前の自分に戻れるわけでもないし…。そう内側での大きな変化は自分自身の「適応力」だろう。転生などというビックバーン並みのイベントを体験したのだ、もうちょっとやそっとのことでは驚かない。

 

 そう『あるがままに』である。

 

 前世で習った心理療法の用語の1つ、「ありのままで良い、あるがままより仕方がない」ということ。当り前である、しかしこのフレーズが頭に浮かびあがった瞬間、それまでの不安やその他の諸々もろもろの悩みが吹き飛んだ。なぜ転生したか?なぜ自分なのか?多くの悩みが頭の中で燻っていたが、恐らく一生悩んだところで解決なんぞできるはずもないだろう。『なら開き直ろう』とそんな安易な考えである。

 

 そして最大の変化…いや決意表明であろう。

 それは、『織斑一夏として、そして今の自分として生き抜くこと』である。理由はどうあれ織斑一夏という精神が入るべき器を乗っ取ったのだ…それは間接的とはいえ人を殺したこと。ならば俺は生きなければならない、どんなになってもあがき続ける覚悟…そう覚悟完了である。

 これが我が内側の変化。続いて…「一夏、そろそろいくぞ」我が姉の声である。

 

「どうした一夏、何か忘れ物でもしたのか?」

 

「うんうん、ちょっと緊張してトイレに行ってた。」

 

「ふふ、そうか。なに心配ないさ、小学校は怖いとこじゃないしな。」

 

「うん、ありがとう千冬姉さん」

 

「ああ、さぁ行こうか。入学式に遅れたらシャレにもならんからな」

 

「うん」

 

 そう言いながら俺たち二人はゆっくりと歩き出した。

 

 そうそう紹介が遅れた。この隣で歩くクールビューティーな方が現在の唯一の肉親にして、未来のブリュンヒルデこと織斑千冬(通称千冬姉さん)現在高校生である。

 

 切れ長の目にスレンダーな体つき、贔屓目で見てもかなりの美人さんだろう。原作では「鬼」とか「真面目な狼」なんて言われているが、幼い俺を必死に育てている苦労人である。今日だって、高校を休んで俺の小学校の入学式に来てくれたのだ…俺はそんな姉を尊敬している、そして一生頭が上がらないだろうということも認識している。

 

 あっ、原作で一夏は「千冬姉」と呼んでいたが俺は呼ばない。正直なんか恥ずかしいからだ。いや、まじ勘弁してください。前世では姉なんていませんでしたし、兄弟の中じゃ俺が一番上でしたからね。姉さんっていうのも少し恥ずかしいのよこれが。

 

 

 さて話を戻し外側の変化であるが、上記の通り本日は小学校の入学式である。前世を含め2度目となるが、年甲斐もなく(精神年齢的に)ワクワクしている。二度目の入学式に加えて、ある原作キャラに会えるからだ。

 

 篠ノ之箒 ご存知一夏のファースト幼馴染である。

 

 ポニーテールと我が姉に似た切れ長の目、そして豊な母性(胸部装甲)が印象的だ。原作では小学校のある時期からISの開発のせいで政府の重要保護対象にされ一家離散という凄まじい状態になってしまう。アニメでは事あるごとに一夏に殴る蹴るの暴行を働き嫉妬心にかられたその姿はまさに「鬼」である。

 

 ま、まぁアニメではそんな感じだったが、さて実際にはどんな子なんだろうか…。内心冷や汗をかき戦々恐々しながら学校へと歩を進めるのであった。




会話が少ないですね・・・。
さらに精進します


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お祝いの食事会with束さん

第二話あたります。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ


「……姉さん、不器用だね~」

 

「う、仕方ないだろう。初めてなんだから……」

 

 どうも、最近うちの料理が手作りになってきた織斑一夏でございます。今は、餃子を製作中なのだが…、この姉は何か餃子に恨みでもあるのだろうか?本日破った餃子の皮これで6枚目である。

 

 さて、あのあと入学式も滞りなく終わった。結論から言えば箒ちゃんを見ることは出来たが、会話をするような雰囲気ではなかった。それもそうだろう。いきなり初対面の女子に声を掛けるなんてこの年齢の視点で考えれば勇者も良いところである。というか、空気読めない人間ではないだろうか?そんな大人な思考が出たが、まぁクラスは同じだし焦らずにゆっくりと友好関係を築いていこう。

 

 目下の悩みといえば…今日は、食事にありつけるのか?ということだろう。

 

「今度こそ~、ぬぉ!また破けた、なぜだ、何がいけないのだ!?」

 

「だから中身の餡を詰めすぎなんだってば、その半分でいいの。姉さんは本当に不器用だね家事限定で。」

 

 どう考えても包めないであろう大量の餡に悪戦苦闘する我が姉の織斑千冬。何でもこなせそうな千冬姉さんであるが、家事は苦手な部類に入るのだ。特に料理に関してはダメダメであった。

 

 最初の頃は本当にひどかった…包丁を持たすと食材と一緒にまな板が真っ二つ、フランぺなどしていないのにフライパンの中で炎が燃え盛る。…やべ、ちょっと涙出てきた。しかしこうやって姉弟で過ごす内に分かったことがある。姉は割と暖かい性格をしているのだ。剣道をやっている分どこかしらで好戦的あるいは冷徹な部分は出るのだろうが家ではそう感じない。割かし笑顔を見ることが多いのだ。オンオフの切り替えが上手なのだろうか。

 

 とにかく原作も当てにはならない、やはりアニメはアニメなのだろう。そんなことを考え少し溜息をつきながら餃子を作る手は休めない。こりゃまた家事スキルがアップするな。

 

「そうなんだよ、ちーちゃんって意外と不器用だから~、君も大変だね~」

 

「まぁーそれでも大切な姉さんですからね。良いと思いますよ。これで」

 

「おお!!余裕な発言だね。束さん感心したよ~」

 

 いやいや、それほどで…あれ?何故会話が成立するのだろうか?しかも左側から声が聞こえてきた。ここで現在の状況を確認しよう。場所は織斑家1階のリビングの大きな机の前、位置関係は俺が中央に座り千冬姉さんは右側に座っている。お分かりいただけるだろうか…左側から声が聞こえるなどあってはならないのだ。幽霊という雰囲気ではない…しかも前世でこの声はよく聞いたことがある。俺は恐る恐る左側を振り向くと、そこにいたのは一人の女性である。

 

 具体的に述べると、背中ぐらいまである淡い紫色の髪、目元が少し垂れているが十分に美人で通る顔立ち、肌は少し白めで服装は不思議の国のアリスのような所謂ドレスである。最後にトレードマークであるメカニカルなウサ耳。覚えがある。

 

 この人こそ未来のIS開発者であり稀代の天才(天災)篠ノ之束(しのののたばね)その人なのだ。しかもなぜかメッチャ綺麗に餃子を作っている。すげーなこの人、作る速さもだが本当に形が綺麗だ…店で売れるレベルだぞ。

 

 そんな若干ズレたことを考えながら彼女を見ていると突然俺の頭の上を手が矢のように駆けていき束さんの顔を掴んだのだ。

 

 これがアイアンクローなのか…一瞬何が起きたのか分からなかった。

 

「束…。貴様なぜここにいるのだ?」

 

「いや~箒ちゃんの入学祝いも終わったから愛しのちーちゃんの弟君を見に来てみましたよって、いたたたた!!ちーちゃんやめてー。束さんの頭が『パン』って破裂しちゃうよ!!全人類の宝が今まさに破裂しちゃいそうなんだよ!?」

 

「やかましいわ!!このさい『パン』でも『ボン』でもなってしまえ、この腐れウサギがーー!!!!」

 

「にゃぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

~~しばらくお待ちください~~

 

 

 

 

 とりあえず収拾がついたが大変だった。悪鬼へと変貌した千冬姉さんを止めるのに10分、ようやく怒りの炎が鎮火しかけたところに「うぷぷぷぷ~、やっぱりちーちゃんは弟君に弱いね~」と某ぬいぐるみ学園長ばりの笑い声で超高校級の頭脳から飛び出たダイナマイト級の挑発を鎮火しかけた火種に投下しようとする束さんを止めること10分である…。

 

 そして現在、3人で仲良く餃子作り励んでいる中で千冬姉さんが口を開いた。

 

 

「はぁ~…いきなり取り乱してすまなかったな一夏。紹介しよう、こいつは同級生の篠ノ之束だ。ほら束、自己紹介くらいしろ」

 

 もはや姉の中には、彼女を追い出すという選択肢はないのだろう。というか不可能なんだろう。

 

「オーケーちーちゃん。ハロハロ弟君。私が天才科学者の篠ノ之束さんだよ。ブイブイ~」

 

 分かってはいたが随分と個性的な挨拶だ。チラッと姉を見るが溜息をついて首を振るばかりである。「これ以上は期待するな」ということが言外に伝わってきた。

 

「初めまして織斑一夏です。ん?そういえば篠ノ之って…」

 

「そうだ束は、お前と同じクラスの篠ノ之箒の姉だ」

 

「イエース!そういえばいっくんはキュートでビューティフォ―な我が妹である箒ちゃんと同じクラスなんだよね?」

 

「はい。まだ話したことはないけど…というかいっくんって?」

 

「一夏じゃ長いじゃんよ。てな訳でいっくんなわけよOK?」

 

 良い笑顔でサムズアップしながら答える束さん

 

「…こいつは、気に入った人間をあだ名で呼ぶ癖があるんだ。それ以外の奴は、人間とも思わんからな」

 

 言葉少なめに補足を入れてくれる姉さん。さっきの会話の中で俺のどこを気に入ったのだろうか…?

 

「あと私のことは束姉さんと呼ぶように、てか今すぐ呼んでみ?ハリハリー!」

 

 …何を言っているんだこのウサ耳は?このカオスな雰囲気で呼べってか!?何の罰ゲームだよ!!未だに自分の姉ですら「姉さん」と呼ぶことに気恥ずかさを感じているというのに…

 

 ここら辺は原作通りの性格なんだな~。破天荒というか天真爛漫というか…。

 

 いや落ち着け俺、こんな時はクールになるんだ。チラッと右にいる姉を見た。

 

「そうだ千冬姉さんなら何かこの状況を打開できる解決策があるのではないか」という淡い期待を込めて…すぐに首を戻した。

 

 …見なければよかった。どこを見ているか分からない目は瞳孔が開き、まばたきもしていない。左側を見る。相変わらず期待を込めた笑顔の束さん…だが薄く開いたその目からは底なしの闇が見えたような気がした。

 

 今の状況を例えるなら「前門のハーデス後門のポセイドン」である。ちなみに俺の装備はダンボールの聖衣だ。圧倒的な絶望感…そんな中で俺は決断した。何を迷っている織斑一夏!危ない橋一本渡れない男がこの世界で生きていけるのか?否!!断じて否である!!どうせ死ぬなら…強く言って死んでやる!!

 

「……………た、た、束姉さん」

 

 蚊の鳴くような声だが確かに言った。誰も何の言わない…。永遠とも思える時間が過ぎていきそれに比例するかのように自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 

 …そして時は動き出す。

 

「うぉーーーいっくんの恥ずかしがったカオーー!!!イヤッホーーー最高だぜーー!!」

 

 そう叫んだと同時に彼女は俺の頭を豊な母性で抱きしめるという行動にでた。他者から見れば何とも羨まケシカラン状況だがこっちはそれどころじゃない!ちょっま、息が出来ない!肩を叩いてやめるように促すが、効果なし。だ、誰か、助け、て…

 

「何をしとるかーーーーー」

 

 突如襲った怒声と衝撃は、俺の拘束を解くには十分であった。

 

 息を整えつつ最初に目に映ったのは文字通り「鬼」になった千冬姉さんだ。

 

「た・ば・ねぇ~、貴様何をしてくれてるのだ?」

 

「えっ、えへへ、やってやったゼ☆」

 

「コ・ロ・ス」

 

 もはや語るまい。このあと訪れるであろう未来予想図など誰から見ても明らかである。

 

 俺は出来あがった餃子のトレーを手に持ちキッチンに向かい料理を開始する…束姉さんの断末魔をBGMにしながらである。

 




色々とネタを入れてみましたがいかがだったでしょうか?
ではまた次回


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お祝いの食事会with束さん2

食事会完結編です。今回はside表記を使ってみました
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・


 どうも、さっきまで主夫をやっていた織斑一夏です。この世界では姉弟で食事をとる機会しかなかったので、誰かを加えた食事なんて初めてだ。正直、楽しみにしている。しかし束さん、あの悲鳴を聞く限り姉さんに相当ボコられただろうに食事を運ぶ時に見た姿は何事もなかったようにぴんぴんしていた。…本当に彼女は人間なんだろうか?

 

 さて本日の我が織斑家の献立は、ご飯・豆腐の味噌汁・肉じゃが・焼き餃子と水餃子・レタスのサラダでございます。前世の家事スキルが役に立った…。人間何でも経験しておくものだ。そんじゃ三人とも席に着いたので

 

「「「いただきます!」」」

 

 

 

 今日は一夏の入学式。忙しさを理由に一夏に寂しい思いをさせてきたが、こんな時くらいは姉らしいことをしてやらんとな。

 

 今日まで色々あった。あの人たちが突然いなくなって大変だった。幸い蓄えは豊富だから何とかなるだろうが、慣れない家事やらを必死にこなした。一人では間違いなく潰れていただろう。それを乗り越えられたのは、今隣で束と楽しそうに話をしているこの小さな弟がいたからだ。

 

 一夏はだいぶ大人びている。いや、こんな簡単な言葉では言い表せない何か大きなものを弟からは感じている。私は周りからは何でもこなしてしまうイメージが定着しているがそんなことはない。私だって人間だ、間違いだってある失敗だってする。なのに皆は、私の成功しか見ない。かかる期待に比例して日々増していくプレッシャー…辛かった、表には出さないがとてもとても辛かった。だがそんな風に私が沈んでいると一夏はきまって傍にいて声をかけてくれる。

 

「大丈夫だよ」

 

「千冬姉さんは間違っていない」

 

「俺は姉さんが頑張っていることを知っているから」

 

「一緒に頑張ろう」

 

 純粋に嬉しかった。報われた気分にもなった。

 

 その時はまるで、自分より遥かに大きな男性に包まれるような錯覚を感じるほどに…。

 

 あの雰囲気は束とは違うが、ある種の何かを超越したようなものが一夏にもあるのだろうか?

 

 ……いや、やめよう。考えたところで無意味なことだ。仮にそうだとしてもだから何だと言うのだ?

 

 こいつは私の自慢の弟ということに変わりはない。私にとって、たった一人の家族だ。今はそれで良い…もし一夏が何か話してくれるのならば、どんなことでもただ聞こう。姉として、家族として。一夏が私にそうしてくれたように…。

 

 しかし問題は、目の前のこのウサギだ。当たり前のように一夏の隣に座り餃子を作っていた。しかも私よりも断然にうまい…。おい束、お前料理なんてやったこともないだろうにどういうことだ?私へのあてつけか?

 更にどういうつもりか知らないが、一夏に自分のことを姉と呼ばせ。挙句の果てに突然抱きしめたのだ。

 

 …思い出しただけでも腹立たしい!

 

 しかし疑問に思うこともある。こいつの行動は、基本的に人をおちょくることが前提だが初対面であそこまで露骨な接し方は私にもなかった。むしろ一種の愛着すら感じるほどだ。やはり束も何かしらのものを一夏に感じたのだろうか?今度その辺りを詳しく聞いてみよう。

 

「え!姉さんって百人切りを達成したの!!」

 

 …おいウサギ、一体一夏に何を吹き込んだ?

 

 予定変更だ。やはり今ここで亡き者にしてしまったほうが良さそうだな。私は決意を新たに右手に力と殺意を溜め、機会をうかがう。

 

 

 

 

 

 いっくんについては以前からちーちゃんに聞かされていた。普段から厳格な性格で、他人をあまり褒めないあのちーちゃんにここまで言わせるのだ。しかも元々感情の変化が少ないあのちーちゃんが薄くではあるが「笑み」を浮かべながらである。

 

 興味が湧いた。唯一の肉親とはいえ、ただの子どもにそんなことが出来るだろうか?あり得ない、もしかしたら私と同じような異常性があるのかもしれない。

 

 私を正常か異常かで判断するなら間違いなく後者である。1の問題に対して100通りの答えを出せる上にそこまでの道筋も答えられる。私にはそれが出来る確たる自信がある。周りは称賛するがどうでもいい…。

 他人など私にとって道端の石ころと同じレベル…、いや、それ以上に嫌悪感すら感じるのだ。両親でさえ「私を生んだ人間」程度にしか認識できない。そこら辺に私の異常性あるいは狂気が存在するのだろう。

 

 私が本当に信頼を置けるのは妹の箒ちゃんとちーちゃんだけだった。そんなちーちゃんが絶賛する弟君に興味が湧くのも当然のことだ。小学校のデータベースにクラッキングをして確認してみれば偶然にも愛しの箒ちゃんと同じクラスではないか!

 

「会ってみたい」ただその思いだけが私の思考を支配し行動させた。

 

 そして着いた場所は、織斑家の玄関前。うぷぷぷ、この程度の鍵など束さんにかかればイチコロである。素早く鍵を開け、音もなくリビングの前にに辿り着いた。 この先にいる。一体どんな子なのだろう…私の好奇心を満たしてくれるだろうか?期待と不安を胸に静かにゆっくりと扉を開けた。

 

 だがそこで見た光景に私は驚愕した。

 

 その子は、ちーちゃんと一緒に餃子を作っていた。あのちーちゃんが餃子を作っている?普段は厳格で他人を寄せ付けないような雰囲気すら出しているあのちーちゃんが!?だが本当の驚愕はここからだった。

 

「今度こそ~、ぬぉ!また破けた、なぜだ、何がいけないのだ!?」

 

 一瞬我が耳を疑った。あのちーちゃんが悪態をついた!!…いや確かに普段から私に対しても冗談交じり?の悪態はつくが、たかだか餃子ごときで子どものように悪態をついている。普段のちーちゃんと全くかけ離れている。

 

 …ダメだ、何なんだこれは、もはや私の理解の範疇(はんちゅう)を超えている。一体何が起こっているのだ?天才と自負している私が全く理解できないのだ。…だがその中でも二つだけ分かったことがあった。

 

 一つ目は悪態をついているちーちゃんは楽しそうだった。ちーちゃんの作る餃子は歪(いびつ)だが一つ一つを一生懸命に作っている。私が何かものを作る時と雰囲気が同じなのだ。

 

 二つ目は、この空間を作りだしたのは間違いなくちーちゃんの隣に座っている弟君だということだ。私は、まるで誘われるかのように彼の隣りに静かに座る。不思議だ他者に対して一番に感じる嫌悪感が全くない。それどころか安心する。まるで包まれるような暖かさを感じる。彼は全くこちらに気づいていない。ちらっとその顔を見る。ちーちゃんと同じような切れ長の目、柔らかそうな黒髪、なるほど確かに彼はちーちゃんの弟だ。だがそれだけでは、ここまで私を安心させるその異常性を説明できない。確かめよう…この好奇心を満たすために。

 

 私は弟君の手順に習って餃子の皮をとり、餡を乗せ皮のふちを水で濡らしてから包む。完璧といって良いほどの出来だ。単純な作業だし特に難しいわけではない。 だが楽しい、理由もないのに本当に楽しいのだ。作る手が止まらない。そして考えもなしに声をかけてしまった。普段の私ならこんなこと絶対にあり得ない。しかしもう遅い、いくしかないと内心冷や汗をかきながら彼の言葉を待った。

 

 そして彼は言ったのだ。

 

「まぁーそれでも大切な姉さんですからね。良いと思いますよ。これで」と。

 

 彼にとっては、何気ない言葉、半ば無意識なものだったのだろう。とてもじゃないが子どもが使う言葉ではない。しかしどこにも違和感がない。まるで何年も使ってきたかのように、言葉自体に重みを感じるのだ。異常だ、明らかに異常だ。だが不快感はない。それどころか笑みが零れる。本当にちーちゃんを大切していることが良く分った。

 

 しばらく話をしたが未だに謎は解けない、難解なパズルあるいは方程式?…それどころかいつの間にかあの暖かい雰囲気に飲まれてしまっていた…あれは一種の麻薬のようだ。暖かさが心に沁み込む、もっともっと、と欲しくなる。

 

 

 ふふっ、ふふふ、イイ、イイよ、いっくん、最高だよ、君は最高だ!!

 

 

 

 いつか、イツカ、ワタシダケノモノニ……

 

 

 

 いやー本当に楽しい食事会だった。具体的には、束さんが姉さんをおちょくるor俺にちょっかいを出す→姉さんが制裁を加える(物理的に)→俺が仲裁する。そしてこの無限ループである。でも楽しかったから良いか…。そして楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。

 

 

 

織斑家の玄関前

 

 

 

「いや~今日は、本当にご馳走様。また食べにくるね」

 

「二度と来るな、一夏塩持って来い」

 

「ひっど!?」

 

「姉さん抑えて抑えて、束姉さん今日は楽しかったですよ」

 

「ふふ、ありがといっくん。じゃ、そろそろ帰るよ」

 

 そう言って、玄関へと近づく束さん。が、

 

「あ、そういえば忘れてた。」

 

 何かを思い出したかのように俺に近づき話をしだした。

 

「これはお礼。私を受け入れてくれたお礼」

 

 束さんの顔が近づいてくる。そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ちゅっ

 

 

 

 唇に暖かいものを感じた。

 

「ふふ、束さんのファーストキス。じゃーねーーー。」

 

バタン。

 

・・・・・・・・・え?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?




次は絶対に箒ちゃん出す

また次回。


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篠ノ之道場にて

箒ちゃん登場
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・。


 どうも、先日ファーストキスを簡単に奪われた織斑一夏です。

 

 あのうさぎ、最後の最後にとんでもない爆弾を落として行きやがった。一瞬何が起こったか分からず呆然、ハッと我に返り実感を持ったら赤面。もうね、あんなに顔を真っ赤にしたのは前世を含めても数回しかないのです。そういえば束さんがよく分らないことを言っていたけど何だったのだろう、これが主人公補正なのか?

 

 しかしその後が大変だった…。

 

 我に返って千冬姉さんを見た。その顔から一切の感情が消えていた。皆さんもご存じのように人間には喜怒哀楽などの多くの感情を持つ生き物だ。その一切が消えた。これだけで事の重大性が分かるってもんだ。しばらく佇んでいた千冬姉さんが何かを思い出したようにリビングへと戻っていった。

 

 頭でも冷やしに行ったのだろうか?しかしそんなことなかった。30秒もしないうちに戻ってきたのだ。

 

 …その手に木刀を携えてだけど…。

 

「一夏、ちょっと逝ってくる」

 

 何処へぇぇぇぇ!!!!????

 

 俺は、彼女を止めようと必死で腰に抱きついた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってーー、姉さん何処へ行くの!?」

 

「ちょっと小腹がすいてな、ウサギでも狩ってこようと思う」

 

「いやいや!!狩るってか殺る気満々でしょ!?お願いだからやめて~~!!」

 

 この攻防は2時間ほど続いたが何とか事なきを得た。詳しくは語りたくもない。

 

 そして現在、「めーーーーん!!!!」「どうーーーーーー!!!」剣道特有の勇ましい掛け声を聞きながら端っこで俺と箒ちゃんは正座をして千冬姉さんの試合を見ていた。

 

 さて、ここまでに至った経緯を説明しようと思う。

 

 あの事件から数日、俺は未だに箒ちゃんに声を掛けられずにいた。なんというか…切っ掛けが掴めないのだ。相変わらず男子は男子で、女子は女子で仲良くグループを作っていた。少々孤立気味な箒ちゃんを心の優しい何名かの女子が彼女を加えてグループを作っている。

 

 ここで勘違い系の主人公ならあのグループに割って入りニコポ的な流れで自己紹介をするのだろうが、・・・俺にはそんな度胸はない!!(キリ)

 

…いや、本当ヘタレですいません。

 

 そんなある日のこと、意外に

もチャンスは向こうからやってきたのだ。

 

 それはいつものように帰り支度をしている最中だった。

 

「織斑」

 

 ふと、呼ばれたほうを向いてみれば、そこにいたのは箒ちゃんだった。

 

「どうしたの?篠ノ之さん」

 

 一体どうしたのだろうか?動揺を悟られないように自然に返答すると

 

「千冬さんからお前を道場に連れてくるように頼まれている。ついてこい」

 

 え、何それ?聞いてないんですけど?極めて事務的に内容を伝えるとスタスタと行ってしまった。

 

「え?ちょっ、ちょっと待って!」

 

 俺は帰り支度を済ませ、慌てて彼女の背中を追った

 

 

 

 篠ノ之道場へ向かう道すがら色々な話を箒ちゃんから聞かせてもらった。

 

 どうやら篠ノ之神社は昔から存在する由緒ある神社であり、その境内の中に道場があるそうだ。神社が剣術をするものなのかと聞いてみると、警備を担当する武士が守りきれない時に備えとしてその時代の当主が篠ノ之流剣術・槍術・柔術を起こしたとのことだ。今は槍術が廃れ、剣術と柔術が残っているとのことである。

 

 なるほど不思議な話ではない。奈良県の興福寺には、かの有名な宝蔵院流槍術が存在する。初代当主である胤栄(いんえい)は、数々の武術を納め、あの柳生新陰流の当主とも親交があったとされている。その時代の篠ノ之家当主もどこかの武術を納めていたのかもしれない。まぁこの知識は前世で読んだ某天下無双を目指す漫画から得たものだが、当たらずとも遠からずといったところだろう。

 

 さてここまで話をしてきたが箒ちゃんに対する俺の印象は「お武家の娘さん」と言った感じである。話し方は人によっては少々冷たさを感じてしまうかもしれないが、これも彼女の不器用さが出ているのだろうと一人納得している。また、その佇まいや雰囲気は少し固いが好感を持てる。てか、それよりも篠ノ之家の歴史的背景を何の迷いもなく話せる箒ちゃんにお兄さんはビックリである。

 

 君、本当に小1?

 

 そんなことを色々と考えている内に「着いたぞ」と言うに言葉に辺りを見渡せば、上へと続く長い石階段があった。それなりの年季が入っているが、よく手入れがされている。

 

「結構高いとこに神社があるんだね。ここから毎朝学校まで来るのは大変じゃない?」

 

「いや、もう慣れたさ。それに足腰の鍛練にはちょうど良いしな、さぁ行こうか。」

 

 いや、君はその年齢で一体何を目指しているんだ?ストイックすぎだろう…改めて問いたい君は本当に小1なのか?そんなことを考えながら篠ノ之神社へ続く階段の一歩目を踏み出した。

 

 

 そして現在へと戻る。

 

 さっきの試合は、結果からいえば千冬姉さんの勝利である。圧倒的な力量差のもと、試合は終始千冬姉さんがリードする。一時は相手の特攻じみた攻撃にこちらが一瞬息をのんだが、そんな攻撃も嘲笑う(あざわら)かの如く流麗にかわし、相手の攻撃が終わったと同時に面へと鋭く打ち込む。もちろん一本である。

 あえて激流にその身を任せその中で勝機を掴む・・・技術もさることながらそこへ向かっていく度胸も必要とする。

 

 …後にブリュンヒルデとなるその実力を垣間見た瞬間である。俺は、不思議と胸が熱くなったのを感じた。

 

 いつか…俺もあんな風に…

 

「来たか、一夏?」

 

 姉さんの声で我に返る

 

「う、うん。姉さん格好良かったよ。」

 

「ふふっ、ありがとう。こうやって一夏に試合を見せたのは、初めてだったな。」

 

「うん、庭でよく素振りをやってるのは見てたけどね。それで今日はどうして俺を道場に呼んだの?」

 

 そう、本題はこれである。

 

「ああ、そのことなんだが…」

 

「私が説明しよう」

 

「先生」

 

 そう言って千冬姉さんの隣りから一人の男性が現れた。・・・ん?・・・先生

 

「初めまして一夏君。私がこの神社の神主兼道場主の篠ノ之柳韻(しのののりゅういん)だ。」

 

 篠ノ之柳韻

 

 名前や役職からして間違えなく束さんや箒ちゃんのお父さんだろう。年頃は40~50歳程度、引き締まった体躯と纏う雰囲気はまるで一人の武人を連想させた。

 

 そんな男性が真っ直ぐに俺を見つめる…まるで俺の中にある何かを見極めようと。

 

 …怖い、本能がそう感じた。

 

 

 だが「あの時」に比べればこの程度は微々たるものだ。

 

 人生も志半ばで訳も分からず転生させられたうえ、この世界で生きることを強要された「あの時」に比べれば…怒り、憎悪、悲しみ、不安、恐怖、後悔、嘆き、無念、嫌悪、怨嗟、空虚、苦痛、殺意…望みが断たれた状況、まさに「絶望」である。

 

 だが、そんな中で俺はある言葉を思い出した。「立って歩け、前へ進め。あんたには、立派な足がついてるじゃないか。」…とある鋼の兄弟の言葉だ。多くの悲しみや絶望が来ようとも決して諦めなかった不屈の兄弟の物語。そして俺を奮起させた言葉だ。

 

 単純だが俺なんてこの程度で十分だ、逆に分かりやすくて良いだろう。

 

 身長差から俺は見上げる状態だが、それでも真っ直ぐに見つめ返した。「あるがまま」に受け止め、そして両眼に思いを込めた、「これが…織斑一夏だ!」と。

 

一瞬目を見開く柳韻さん、そして…

 

「なるほど、良い眼だ」

 

 一言静かに呟くと、纏う雰囲気が一転して優しさに溢れた。

 

「先生・・・?」

 

「ん?ああ大丈夫、心配ないよ。男同士で通じるものがあっただけさ」

 

 この状況に戸惑う千冬姉さんを余所に嬉しそうに話す柳韻さん。

 

「さて、ここに君を呼んだのは実はお願いがあってなんだよ」

 

 お願い?一体なんだろうか?

 

「実は最近、年少の部に来る子どもが少なくなってしまってね。君さえ良ければ是非とも入門してほしいと思ったんだ。」

 

 なるほど、確かにあたりを見回すと中学生以上くらいの子どもが多い。うん、今後のことを考えるとヒジョーーに魅力的だ。ただな~経済面で千冬姉さんに負担をかけるのも…

 

「もちろん、道着と道具一式はこちらで用意させてもらうよ」

 

あら、なんて太っ腹

 

「先生、それは・・・」

 

「千冬君、どうかそうさせてくれないかな」

 

 うーーーむ、ここはやはり保護者の意見を聞かなくてはな。それとなく千冬姉さんを見る。あっ、こっちに反応した。

 

「一夏、お前はどうなんだ」

 

「俺は・・・やってみたい。頑張りたいんだ」

 

 俺は、しっかりと姉さんに思いを告げた。その後姉さんは一つ溜息をつき。

 

「分かった。・・・その代わり、しっかりやるんだぞ。」

 

 どうやら思いは通じたようだ。

 

「ありがとう!!千冬姉さん」

 

「話は纏まったようだね。では一夏君、ようこそ篠ノ之道場へ。それと、先ほどの君の勇気に敬意を」

 

 そう言い、柳韻さんは俺に右手を差し出した。一瞬ビックリしたが先ほどのやり取りを認めてくれたのだろう…。嬉しさが込み上げてきた。その手をしっかりと取り握手を交わす。

 

「はい!これからよろしくお願いします」

 

俺を認めてくれたんだ、これから頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまーここで話が終われば、めでたし、めでたしな訳だがそうは行かない。やはり俺は神様に嫌われているようだ。ふと周りを見れだ箒ちゃんがそこにいた。これからお世話になるから彼女にもあいさつしないと、いやこれを機に新密度がアップしたりして~。そんな若干不埒な考えを持ちつつ

 

「篠ノ之さん、これからよろしくね」

 

と右手を差し出した。

 

次の瞬間

 

 

 

 ぱーーーーーーん……。

 

 

 

 その右手は彼女の右手に勢いよく跳ね返されてしまった…。

 

 一瞬何が起こったか分からず呆然としていると。

 

「…とめない」

 

「え?」

 

なんて?聞き返そうとすると

 

「私は、絶対にお前なんか認めない!!!!!!」

 

鬼の形相でそう宣言するや、道場から走り去ってしまった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?なんで?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神様、やっぱ俺お前のこと嫌いだわ。

 

 




箒ちゃんはツン期ですね。分かります

では次回


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振り返りと新たな局面

あちらこちらにネタを入れてあります。
皆様が楽しんでいただけたなら幸いです
ではどうぞ・・・。


 どうも、箒ちゃんから「認めない宣言」をされた織斑一夏です。

 

 あの後、走り去った箒ちゃんを追いかけようか迷ったが、行ったところで一体何が出来るのだろうかと考え、結局その場に留まった。気まずい雰囲気が俺の心を支配したが、ポンっと肩に手を置かれた。柳韻先生だ。

 

「大丈夫さ」

 

 たった一言だったが、その言葉には力があった。子を持つ親の言葉は、偉大だ。

 

 前世でそこそこ生きた俺だが、結婚もしてないから子どもだっていない。そういった部分では、前世の経験はアドバンテージにならないことを改めて知った。

 

結局その日は、道着などのサイズを測って姉さんと一緒に帰宅したのだった。

 

 

~その日の夜~

 

 俺は、布団の中で最近の出来事を改めて振り返り、そして整理し始めた。この短期間で俺にとって大きな出来事が二つあった。

 

まず束さんのこと、続いて今日起こった箒ちゃんのことだ。

 

 まずは、束さんのことから振り返ってみよう。キスのインパクトで隠れがちだが、見逃せないワードがあった。それはこの二つ、千冬姉さんの「…こいつは、気に入った人間をあだ名で呼ぶ癖があるんだ。それ以外のやつは、人間とも思わんからな」と、束さんの「これはお礼。私を受け入れてくれたお礼」である。

 

 最初の千冬姉さんの言葉は、束さんの性格を如実に表すものだ。

 

 つまり束さんは原作通りの性格なんだろう。そう、彼女は人間関係が極めて狭いのだ。恐らく信頼を置いている人間も妹の箒ちゃんと千冬姉さんくらいだろう。天才であるが故の孤独と言えば分るだろうか?自分の感性に周りは追い付かず、その周りに異端扱いされた上に孤立する…。そんな中で、種類は違えど同じ様な才能を持つ千冬姉さんに会えたことは彼女にとって不幸中の幸いと言って良いだろう。

 

 そして、そんな天才は俺という異質な存在に眼を付けた。誇張ではなく俺は束さん以上に異質な存在だ。転生というオカルト的な過程の果てに誕生したのが織斑一夏という名の「俺」だからだ。 

 

 そんな自分以上の異質に会うことで、ある種の仲間意識、あるいは親愛の感情がでたと仮定する。それらを考慮すれば「受け入れてくれた」というフレーズが出てもそんなにおかしくはないだろう。さすがにキスされるとは思わなかったが…。

 

 ただこれからも俺は束さんへの接し方を変えるつもりはない毛頭ない。「あるがまま」に受け入れる。それだけだ。

 

 続いて、箒ちゃんのことだが…これに関しては、未だによく分らない。が、俺が彼女の逆鱗に触れてしまったことは間違いない。ただある一つの「感情」を仮定すれば納得のいく結論が出せる。

 

 その感情とは「嫉妬」だ。そういえば篠ノ之道場へ向かう途中に箒ちゃんはこんな話をしてくれた。

 

「父さんは、私の目標なんだ。いつか認められたいと思っている」と…。

 

………やっちまったーーー!!!!!そりゃ怒るわけだ。いきなり現れたやつに自分の目標をアッサリとクリアされちゃったんだもん。誰だって怒る、俺だって怒る。しかもどう取り繕っても無駄だろうし、むしろ状況が悪化する可能性が高い・・・。これについても状況の推移を見守るしかないな。

 

 

・・・・・・・・・・・・・ん?結局のとこ打つ手ねえじゃん。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明日も早いしもう寝よ。

 

 

 

 それから月日は刻々と流れて行った。あれから学校や道場に関係なく、事あるごとに箒ちゃんは俺に勝負を仕掛けて来るのだ。

 

 道場での打ち合いは勿論のこと、学校から道場へどっちが速く着くかの競争、運動会での徒競走、学校でのテスト、道場での雑巾がけなど、よく色々と思い付くものだと半ば感心している。

 ちなみに学校関係での勝負事は俺が勝ち越しており、道場での勝負事は僅差で箒ちゃんが勝ち越しているという情報は全くの蛇足である。

 

 しかしこの勝負事、一概に俺へのデメリットばかりではない。この勝負事そのものが俺の身体作りへの良い訓練になっているのだ。お陰で、剣道と同時にこっそり練習している格闘術がメキメキ上達している実感がある。

 

 そして、たまにだが束さんが織斑家のご飯を食べに来ることがある(勿論アポなしで)。何か心境の変化があったのだろうか、必ず来た時は俺の料理作りを手伝ってくれている。これには主夫織斑一夏も大助かりである。一度しか教えてないのにほぼ完ぺきに、こなしてしまうのだ。

 

 ここら辺はスペックの違いを見せつけられた感じがする。そして隣では、卵を握りつぶしている千冬姉さんがいる。

 

 …戦力外通告も視野に入れるべきだろうか?割と本気でそんなことを考えたこともある。

 

 そんな生活を続けていくうちに、いつの間にか2年生の春になってしまった・・・。ただいま俺は、教室内の清掃中である。モップで教室をえっちらおっちら回っている。

 

 すると

 

「やーーい男女~」

 

 と、どこからか威勢の良い声が響いた。声がしたほうを見ると箒ちゃんを囲むように4人の男子がいた。あ~、こいつらか、この男子4人は所謂クラスの悪ガキどもである。名前が分からないからモブA~Dにしておこう…いや、何かめんどいしモブ達にしよう。

 

 さてどうしたものか?運悪く先生方はいないし、周りのクラスメイトは腰が引けてるし…目立つのは嫌いなんだが、しゃーないか…。

 

「おい、お前らそれぐらいにしとけよ。」

 

 俺はモブ達に声をかける。

 

「何だよ。織斑、お前この男女の味方するのかよ?」

 

「俺知ってるぜ、お前ら道場に行く時も二人一緒だもんな」

 

「お前ら夫婦なんだな?夫婦~夫婦~」

 

「夫婦だー」

 

 何というか…思わず懐かしい気持ちになる。俺も昔はこんなんだったのかな~前世的な意味で。

 

 あの時からかった女子に土下座して謝りたい気分だ…名前出てこないけど。ただやはりうっとおしいことに変わりはないので声を低くして少々凄んでみることにした。

 

「おい、何とか言って…」

 

 

「黙れ」

 

 

 

 途端に、モブたちの顔が強張った。あれ?箒ちゃんの顔も強張っている。いや違うからね!箒ちゃんのことは睨んでないよ。信じてプリーズ!!!

 

「…恥かしくないのか?」

 

「な、何だと」

 

「一人の女子に、男が…しかも4人がかりなんて、恥ずかしくないのかって聞いてんだ」

 

「う…」

 

「お前たちが、どういうつもりか知らないが。篠ノ之さんは学校の勉強も、道場での稽古も一生懸命なんだ。お前らみたいに茶化すしか出来ないガキどもが、その子をからかって良い資格はないんだよ!」

 

 …うーーむ、この状況で言うのもなんだが多少熱くなってしまったとはいえ俺ってば結構恥ずかしいこと言ってね?あれ、なんか箒ちゃんの顔も赤いし…。

 

 

 まっ、まぁー今は目の前のことに集中しよう。さてモブ達はどう出るかな。

 

 

「う、うるせーー!?、俺たちに逆らうんじゃねえーー!!」

 

 あー、予想していたとはいえ、安い時代劇ばりに一番下っ端的モブが殴りかかってきた。

 

 向こうから来たわけだし、こりゃ正当防衛でも仕方ないよな・・・。俺は両腕を頭の高さまで上げ右足を半歩引いて戦闘態勢をとり、隙だらけのモブの右すねに蹴りを入れる。所謂ローキックである。まともに喰らったモブは俺の横を通り過ぎながら膝から崩れ落ちるように倒れ込み「うぐあああーー」と呻き声をあげた。残り3人…。

 

 一瞬の出来事に何が起こった分からない顔をしていた箒ちゃんと3人のモブ達、その隙を逃さず一番近いモブに同じようにローキックをかまし、喰らったモブは先ほどのモブと同じように膝から崩れ落ちた。残り2人…何が起こったか分からないうちに仲間の半分を失ったモブ達は大きな動揺に晒された。

 

 さて、ここでもう一回凄んでみるか。うまくいけば全員逃げるかもしれないし、グラップラ―でお馴染みの組長さん!!ちょっとセリフ借ります。

 

「まだやるかい」

 

「ひっ、ひーーー!!」

 

 あ、モブが1人逃げてった。いやーーーさすが組長さん、効果絶大です。あざっした。なんてお気楽な思考を余所に残はり1人、残ったのはモブのリーダー「モブリーダー」だ。…可哀想に全身が震えている上に眼もうつろだ。だが、あそこで凄んでも逃げないのだからもう同じ手は無理だろう。

 

「さてどうする?残りはお前ひとりだぞ?」

 

「うっうっう……。」

 

 どうやら逃げることも戦うこともできないらしい・・・仕方ない

 

「逃げるなら逃げろ。戦うなら…覚悟を決めてかかってこい!!」

 

 俺は、腹から声を出しモブに発破をかける。

 

「!!、う、うおおおおおおおーー!!」

 

 モブリーダーは、覚悟を決めたのか。目の集点をしっかりと合わせ、俺に右ストレートを放った。

 

 ・・・なんだやればできるじゃないか。

 

 俺はモブの右ストレートを、ちょうど背後を取る様に回避しそのまま右手を絡め捕り、さらに左手で相手の顎を抑え、がら空きになった足首部分を思いっきり後ろから蹴りあげたと同時に顎にかけた手を軽く引く。

 

 すると相手は一瞬宙に浮き、そのまま背中から落ちて行った。後に残ったその姿は、ひと昔前にお決まりだったズッコケポーズのようだ。

 

 ちなみに先ほど使ったローキックとこの技は、某駆逐系男子が受けた技である。当時あれを初めて目にした時の俺は「なにあれ、カッコいい!!」とちょっとばっかし、はしゃいでしまったもんだ(遠い目)。そしてこの世界に来て以来、イメトレとこの技の動き方だけは練習していたのだ!!しかしここまで綺麗に決まるとは…技を繰り出した俺自身もビックリだ。

 

さて~・・・・・・・・・どう収拾しようかなこれ?誰か助けて

 




最後の敵をひっくり返す技って名前が付いているのだろうか・・・

それではまた次回


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振り返りと新たな局面2

箒ちゃんの視点からです。
皆さんが楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・。


 織斑一夏への第一印象は「他の男子よりも落ち着いている」程度だった。

 ある日、父が年少の入門者が少ないことに困っていると、千冬さんが「弟だったらやってくれるかもしれません」と父に話していた。

 

 織斑とは同じクラスだがまだ話したこともなかった。物静かでクラスでも目立つ方ではなかった。学校で見る限りでは剣道に向いているとは思えないが…。

 

「箒、すまないが明日にでも一夏を道場へ連れてきてくれないか?」

 

「わかりました。」

 

 私は軽く了承した。

 

 道場へ向かう道すがら織斑は篠ノ之神社のことや道場のことを質問してきた。私が答えを返すと興味深そうに頷きながら聞いている。

 

 クラスでの私は気の良い女子たちが、私をグループに入れてくれている。ただ、話は決まって自分の自慢話かクラスの男子で誰がカッコいいかなどだった。時々、織斑についても話が出てくる。「あの落ち着いた雰囲気が良い」とか「誰に対しても優しく話してくれる」などだ。興味のない話だったが、私から出せる話題など道場のことか神社のことくらいしかないし…。

 

 正直疲れていた。

 

 だがあいつは、そんな私の話を嬉しそうに聞いてくれていたのだ。この時点では私の印象は「男子だが話の分かる奴」であった。まぁ困ったことがあったら助けてやろう。

 

 そんな矢先に道場で事件は起きた。

 

 私の父は、新しく入ってくる年少者に対して人となりを見るために真っ直ぐに目を見る。その時の父の目は鋭く大抵のやつは震えるか泣き出してしまう。そうした理由から年少者が少ないのだ。織斑はどちらだろうか?少しだけイタズラ心が芽生えた。

 

 

だがそんな私の予想は最悪の形で裏切られた。

 

 

 

 「君の勇気に敬意を」あの父が…握手を求めた。それは織斑を認めたのだ。会って間もない、それも私と同い年の人間が…じわじわと怒りが込み上げてきた。織斑がこちらに握手を求めてきた。

 

 いつもの優しい笑顔で、でもそんな笑顔でさえ私を見下していると錯覚してしまった。差し出された手を思いっきり叩き罵声を浴びせ、その場から逃げ出してしまったのだ。

 

 それ以降、私は事あるごとに織斑に勝負を仕掛けた。織斑に勝てば父も認めてくれると思ったからだ。勝負は私が勝つこともあったし負けることだってあった。織斑は勝っても負けても「楽しかった。またやろう」と優しい笑顔でいう。

 

 気付いた時には当初の目的を忘れ、勝負すること自体が楽しくなり、そんな織斑に認めてもらいたいという欲求が芽生えた。そんな時に事件は起きた。

 

 私と織斑を含めた何人か生徒で掃除をしている最中だった。私は「今日はどんな勝負を仕掛けようか…」と一人考えているといつの間にか4人の男子に囲まれていた。

 

 またこいつらか。こいつらは特定のクラスメイトに対し悪口を言ったりして遊ぶ所謂悪ガキ共だ。度を超えて泣いている子も見たことがある。最近は私をターゲットにしている。理由は私がリボンをしていたからだ。私だって女子だしオシャレだってしたい。

 

 でもこいつらは、そんな私をせせら笑うのだ。

 

 いつもは誰もいないところで私をからかって満足すると去っていくのだが怒られないことを良い事にここまで露骨な行動に出たみたいだ。4人は私よりも大きい身体でニヤニヤと下卑た顔をしながら迫ってくる…それに数の暴力も加わる。私は少しでも相手を威嚇しようと睨みつけることしかできない。正直…私は怖かった、足がすくむ、今にも泣きだしそうだった。助けを求めようにも周りのクラスメイトは皆腰が引けていた。

 

 

誰か、誰か・・・たすけて。

 

 

 

「おい、お前らそれぐらいにしとけよ」

 

そんな時に声が聞こえた、それはいつも聞いている慣れ親しんだ声…織斑?

 

「何だよ。織斑、お前この男女の味方するのかよ?」

 

「俺知ってるぜ、お前ら道場に行く時も二人一緒だもんな」

 

「お前ら夫婦なんだな?夫婦~、夫婦~」

 

「夫婦だー」

 

 相手の罵声に織斑は黙っているだけだった。やめろ、やめてくれ、頼むから織斑まで巻き込まないでくれ。言葉にしようとするが恐怖で声が出てこない。必死に喋ろうとするがダメだった。半ば諦めかけた時それは起こった。

 

「おい、何とか言って…」

 

「黙れ」

 

 場が静寂した。

 

 底冷えする様な怒気をはらんだ声だ。そして私は見た。織斑は怒っていた。初めて見た。あんなに怒った織斑を…普段の優しく暖かい雰囲気は全くない。ただ相手を鋭く睨みつけていた。まるでその目は、敵を前にした狼のようだった。自然と私の顔がこわばった。

 

「…恥かしくないのか?」

 

「な、何だと」

 

「一人の女子に、男が…しかも4人がかりなんて、恥ずかしくないのかって聞いてんだ」

 

「う…」

 

「お前たちが、どういうつもりか知らないが。篠ノ之さんは学校の勉強も、道場での稽古も一生懸命なんだ。お前らみたいに茶化すしか出来ないガキどもが、その子をからかって良い資格はないんだよ!」

 

 私の心は震えた。ただ目の前の悪意に対し、何の妥協もなく己の正当な怒りを叩きつける織斑のその姿に…そして震えは喜びへと変わった。織斑は…いや「一夏」は私のために怒っている。私の努力を、私を認めてくれていたんだ!!頬が熱くなる。嬉しい、嬉しくて仕方なかった。許されるのならばこの場で泣き出したい。

 

「う、うるせーー!?、俺たちに逆らうんじゃねえーー!!」

 

 一人の男子が、一夏に殴りかかった。危ない!だがそんな心配を余所に一夏の行動は早かった。両腕を頭の位置まで上げ、右足を半歩引いた。あれが一夏の構えなのだろうか?そして向かってくる男子の右足に鋭い蹴りを叩きこんだ。男子は一夏の横を通り過ぎながら膝から崩れ落ちるように倒れ込む。

 

 何だ今のは?ただの蹴りのはずなのに立ち上がれないほどのダメージを相手に与えた。

 

 私や男子が呆けているうちに一夏は他の男子にさっきと同じような蹴りを与える。まるで先ほどの光景を振り返るように男子が崩れ落ちる。この時点で、4人もいた男子が半分に減った。強い…ただひたすらに、圧倒的なまでの強さだ。

 

 だが一夏は毛ほどの油断もなく残った二人を睨みつけながらこう言い放った。

 

「まだやるかい」

 

 それはまるで、絶対的強者が弱者に与えた最後の警告のようにも聞こえた。恐怖に負けた男子が一人逃げだす。これで残り一人…最後に残ったのは主犯格の男子だった。

 

「逃げるなら逃げろ。戦うなら…覚悟を決めてかかってこい!!」

 

「!!、う、うおおおおおおおーー!!」

 

 その時の光景は、今も目に焼き付いている。相手のパンチをかわし背後に回ったかと思えば右手を絡め左の掌で相手の顎を押さえ背後から足をおもいきり蹴り上げたと同時に顎を引いた。

 

 後に残ったのは男子が無様に倒れた姿とそれを見下ろす一夏の姿だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、技術を行使してあの場を納めようとした織斑一夏です。

 

 結果ですか?ええ、怒られました。しかしクラスメイトの証言からモブ共の悪行が明かされ、箒ちゃんの弁護もあったことでお小言だけで済みました。いや~良かった、千冬姉さんにバレたらどうなる事やら…考えただけでも恐ろしい。

 

 現在は、道場での稽古が終わり頭を洗っております。春先とはいえ締め切った道場は暑いのなんのって、そういえば今日は箒ちゃん勝負を仕掛けてこなかったな~

 

 …どうしたんだろ?

 

「織斑」

 

 おや?噂をすれば箒ちゃんである

 

「どうしたの、篠ノ之さん?」

 

「その…だな」

 

 あれ?何かモジモジしてる?一体何が始まるんですか?第三次大戦だ的な話じゃないでしょうね!?

 

「うん」

 

「…ありがとう」

 

「へ?」

 

 今何とおっしゃいましたか?ワンモアプリーズ

 

「だから!さっきは助けてくれてありがとう!」

 

 

 ・・・・・・・・・き、キターーーーーーーーーー!!箒ちゃんのデレ期キターーーーーーー!!

 

 約1年の長いツン期からいきなりのデレ期到来である。おおお、落ち着け俺、こんな舐めた思考がバレたら、今度はツンデレどころかツンドラになってしまう。クールだCOOLになれ織斑一夏。

 

「うん、その…もう大丈夫なの?」

 

「ああ、大分落ち着いたよ。一夏のお陰だ」

 

今まで見たこともない優しい笑顔だ…。…っていうか今名前で!?

 

「あ、いま名前で」

 

「!?そ、そのだな、もし良ければこれからは一夏と呼ばせてほしい。私のことは箒で良いから。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんだこのデレのフルコースは…ああそうか明日死ぬんだ俺、前世より短かったなー。姉さん先立つ不幸をお許しください。

 

「そ、そのだめだったか?」

 

 !!??あーーーヤメテそんなションボリ(→こんな感じ(´・ω・`))した顔で俺を見ないで!!

 

 全然OKですから。むしろ呼んでください。お願いします。

 

「うんうん、いきなりだったからビックリしただけだよ。えっと、箒?」

 

「ああ、それで良い。その…これからもよろしく一夏」

 

 そう言って右手を差し出してきた箒ちゃん。それは偶然にも一年前とは逆の光景だった。

 

 でも結果は違う。俺は、差し出された右手を握る。

 

「うん、よろしくね箒」

 

まるで憑き物でも落ちたかのように箒ちゃんの笑顔は穏やかだった…。

 




いかがだったでしょうか?評価と感想をお待ちしております
では次回まで失礼します。


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インフィニットストラトス~白騎士事件

物語は進みます
皆様が楽しんでいただけたら幸いです
ではどうぞ…。


 どうも、ツンデレの真髄を垣間見た織斑一夏です。あれから箒ちゃんは変わった。勝負を仕掛けることは一切なくなり、それどころか甲斐甲斐しく俺のお世話をするようになったのだ。道場で俺がケガをしたら治療をしてくれたり、剣道では技術的なことを教えてくれるようになった。

 

 …指導中は、かなり擬音や身振り手振りが多かったがそこは俺が箒ちゃんと同じように動くことで問題は解決した。

 

 反対に俺は学校の勉強や先日披露した格闘技を教えた。そしてそれを1週間程度でマスターしてしまう箒ちゃんであった。…やっぱこの子センスあるなー、俺があの技をものにするのにかなりの時間をかけたのに、自分の不甲斐なさに少し落ち込んだりもした。しかしそんな風にお互いが教え合うことで俺達は確実に強くなっていった。そんな俺達を千冬姉さんと柳韻先生は優しく見守っていた。

 

 そして努力は実り3年生の時に市の年少部の大会で俺たち2人は優勝を果たしたのだ。あの時は、本当に嬉しかった。2人で手を取り合って喜んだものだ。柳韻先生も千冬姉さんもほめてくれた。柳韻先生は箒ちゃんに対して「良く頑張った」と頭を撫でながら労っていた。一瞬呆けた後に箒ちゃんは大泣きした。やっと目標の人に認められたのだから当然だろう。

 

 2人で記念撮影したのも良い思い出である。

 

 その年の夏は、千冬姉さんと一緒に篠ノ之神社の夏祭りに行った。普段の静かな雰囲気から一転し露店が並び活気づいていた。箒ちゃんの浴衣姿もとても印象的だった。

 

「その…、どうだ一夏?」

 

「似合ってるよ箒。とってもかわいい」

 

「そ、そうか、ありがとう」

 

 ハニカミ笑顔全開だ。やべー箒ちゃんマジヒロインである。その後、乱入した束さんが

 

「いっくーーん!束さんの浴衣姿だよ。欲情した?欲情した?」

 

 あんた小学生に何ちゅうこと言ってんだ!!つーーか胸がはだけ過ぎ!しまいなさいすぐに!!

 

「たばねーー!!!貴様というやつは!!今日と言う今日は許さんぞー!!!」

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「…行こうか。一夏」

 

「…うん」

 

 あ、姉さんのデンプシーロールだ。ギャラリーから織斑コールが起こった。

 

 その後、縁日で3人にビーズのアクセサリーをプレゼントした。ちなみに千冬姉さんは白色、束さんはピンク色、箒ちゃんは赤色である。3人とも喜んでくれた。お返しにそれぞれからお守りを貰った。箒ちゃんからは「必勝」、千冬姉さんからは「健康」、束さんからは「安産」である。

 

・・・・・・・いや、最後の俺が持ってても必要なくね?結局千冬姉さんに買いなおされて「恋愛」へとなった。本当にこの人もブレないな。まぁ4人で写真をとったのも大切な思い出だ。

 

 そうそう、織斑家の食卓に新しく箒ちゃんが加わった。束さんが連れて来るようになったのだ(やっぱりアポなしで)。大体お決まりになってきたので食材を多めに買ってあるから問題ない。ただ箒ちゃんは、俺が料理をしているとこを見てとても驚いていた。

 

「い、一夏、お前は料理が出来るのか?」

 

「うん、織斑家の食事は俺が担当だからね」

 

「そ、そうなのか(私も母から料理を習わなきゃ…)」

 

「あ、束姉さん塩とコショウを取ってください。あとジャガイモの皮むきお願いしますね」

 

「OKだよ。いっくん」

 

「・・・ちょっと待て一夏」

 

「どうしたの?」

 

「なんで姉さんのことをお前が姉さんと呼んでいるんだ?」

 

「ああ、束さんが束姉さんって呼べって言うからさ」

 

「いや、断われよ!」

 

「いや、それが束姉さんって言わないと駄々こねてうるさいから…」

 

「子どもか!姉さん一夏に迷惑をかけないでください!!」

 

「え~いいじゃん。あ、いっくん味見お願いね」

 

「はいよ(モグモグ)おっ!また腕をあげましたね。バッチリです」

 

「わーい!!いっくんに褒められた」

 

「・・・姉さん、あなた料理出来たんですか?」

 

「うん!いっくんに教えてもらったんだ。ね?いっくん」

 

「はい、だいぶ上手になりましたね。」

 

「…な、なんて事だ。ダメな姉でさえ料理が出来るのに、私が出来ないなんて」

 

「え?ダメって言った?今ダメって言ったよね箒ちゃん!?」

 

「…気のせいですよ。ダメ姉さん」

 

「言ったーー!?今確実に言った!!ヒドイよ箒ちゃん!!」

 

 箒ちゃんもイイ性格をしている。

 

 原作では暴力的な描写が多かったが、本来の箒ちゃんは少し不器用だけど素直でとても優しい子だ。こんな感じの風景が織斑家で見られる。え?うちの姉さんですか?・

 

 ・・・・・・リビングで皿を並べているとだけ言っておきます。

 

 時々ここがISの世界じゃないのでは?と思ってしまう。それほど騒がしくも楽しい日々であり、充実した生活を送っているからだ。

 

 

 

 

 

 でも、世界はいつだって残酷だ。神様はいつも笑いながら人間を奈落の底へ叩き落とす。楽しいだけなんてありえない。俺は、それをだれよりも知っているから…。

 

 

 

 

 

 それは、4年生の秋頃だった。学校も道場も休みで、一人で留守番をしていると箒ちゃんが家に遊びに来たのだ。色々と雑談をしている時、箒ちゃんからこんな質問がでた。

 

「一夏、「力」とは何のためにあるのだろうか?」

 

「ん?どうしたの突然」

 

「うむ。ふと気になってな」

 

本当に単純な質問だったのだろう。さてどう答えたものか…。

 

「今のところ2つ答えがある」

 

「2つ?」

 

「うん、まず1つ目が自分をコントロールするため。2つ目が大切なものを守るためだと思うんだ」

 

「…理由を聞いても良いか?」

 

「うん。まず1つ目なんだけど。箒は2年生の時いた、あの悪ガキどもを覚えてる?」

 

「ああ、勿論だ。一夏が助けてくれた」

 

「うん、あいつらは多分、自分が持っている力を知らないんだと思うんだ」

 

「?」

 

首をかしげる箒ちゃん…カワイイ。…じゃなかった

 

「え~と箒ちゃんは、あの4人に囲まれた時どんな事を思った?」

 

「…正直、足も竦んでしまうくらいに怖かった。」

 

 思い出させてしまったのだろうか…安心させようとそっと彼女の手を握った。

 

 しばらくすると

 

「大丈夫だ。…ありがとう」

 

「続きを話すね。あいつらは何の武術もやってないけど『身体が大きい』『力が強い』それだけで人に怖さを与えるほどの驚異なんだ」

 

 箒ちゃんは小さく頷いた

 

「剣道を習って思ったんだけど、自分は簡単に人をケガさせちゃう「力」があると気付いたんだ。だから、必要な時以外は自分をコントロールするって決めているんだ」

 

「…なるほど、1つ目は理解できた。ただ必要な時とはいつのなのだ?」

 

「それが2つ目の答え。大切なものを守るためだよ」

 

「一夏にとって、大切なものとは何だ?」

 

「それは…、」

 

「ここで番組の途中ですが臨時ニュースをお送りします!!」

 

何だ?キャスターの人もただならない雰囲気だけど…。

 

「た、ただ今入った情報によりますと、各国の軍事基地に配備されていたミサイル約2000発が、に、日本に向けて発射された模様です!!現在事実確認と並行して在日米軍と自衛隊が緊急配置を・・・・・」

 

その瞬間俺の世界から音が消えた。

 

…なんだよ…今日だったのか『白騎士事件』

 




いかがでしょうか?評価並びに感想をお待ちしております。
ではまた次回。


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インフィニットストラトス〜白騎士事件2

物語の歯車は動き出しました。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・


情報はリアルタイムで俺たちに状況を教えてくれる…それは良くも悪くもだ。

 

 飛来する2000発以上のミサイルに自衛隊と在日米軍は必死の迎撃行動をとるが、その圧倒的な物量と初動の遅さから半数以上が日本領空への侵入を許してしまう結果となった。まさに焼け石に水とはこのことだ。

 

 誰もが絶望の淵に立たされていた。普段から当たり前と考えていた「平和な日常」は、ふと湧いた「死」に喰い尽くされてしまった。隣に座っている箒ちゃんは、全身が震え両眼に大粒の涙を溜め、俺の手を握りながらも画面から絶対に目を離さなかった。

 

 本当に強い子だ。願わくばこれから来るであろう過酷な運命にも抗ってほしい。俺はそう願わずにはいられなかった。

 

 そして日本本土からミサイル群が見えるか見えないかの距離でそれは起こった。突如として空が煌めいた。そう、ミサイルが爆発したんだ。突然のことに慌てながらも中継を行っていたカメラが最大望遠で原因の正体を突き止めた。

 

 それは、一対の翼と一振りの剣を持った騎士だった。

 

 騎士はその力を如何なく発揮し、瞬く間にミサイル群を文字通り消滅させた。その圧倒的な光景に俺たちは目を奪われた。少しして日米両軍の動きが慌ただしくなった。恐らく騎士を捕獲あるいは撃破するつもりだろう。

 

 無駄なことを…あれはお前たちがどうこうできるほど生易しいものではない!!

 

 狂気の天才篠ノ之束が、その技術の粋を集めて完成させたマルチ・フォームスーツ「インフィニット・ストラトス」そしてその搭乗者は、後に「ブリュンヒルデ」と呼ばれる程の戦闘力を持つ我が姉である織斑千冬なのだから。

 

 …結果は俺の予想通り、最新鋭の艦船や戦闘機がその使命を全うすることなく落ちていく、そして後に「白騎士」と呼ばれる第零世代のISは夕日と共にその姿を消した。

 

 

 涙が出てきた。歯車は動き出し、幾年かを経て物語は俺を中心に動き出すだろう。覚悟は出来ている。

 

 原作が完結していない以上、物語はどのように進むか分からない。強大な敵がこの先待ち構えているだろう。でも、もしかしたらその過程で誰かが死ぬかもしれない。その時俺は…どうなってしまうのだろうか?

 

 不意に身体を暖かいものが覆った。何だこれは?とても暖かくて優しい感覚

 

「もう大丈夫だ。一夏」

 

 箒ちゃん?そうか、箒ちゃんが俺を抱きしめてくれているのか…。

 

「ミサイルは、みんなあの白い騎士がやっつけてくれた。だからもう泣かなくて大丈夫だぞ。」

 

 励ましている?自分だって震えているのに?…何やってん俺は、ふざけるな!!決めたんだろ、この世界で生きるって?あがき続けるって。そうさ、泣いてなどいられない。

 

 もう世界は動き出したんだ。誰にも止められない。だったら「あるがまま」に受け入れて、自分に何が出来るか考えるんだ。思考を止めるな!歩みを止めるな!

 

「もう…大丈夫。ありがとう箒」

 

「い、いや気にするな」

 

 顔を赤らめながらしどろもどろする箒ちゃん。今は構ってられない。

 

「そういえばさっきの質問にまだ答えてなかったね」

 

「ん?あ、ああ、そう言えばそうだったな。」

 

「大切なもの、それは「これまで出会ってきた人たち、そしてこれから出会えるであろう人たち」なんだ」

 

「出会ってきた人たち…これから出会える人たち」

 

「うん。千冬姉さん、箒、束姉さん、柳韻先生、学校の先生やクラスメイト、そしてこれから生きていけば会えるかもしれない人たち。そんな人たちの為なら俺は戦える。たとえそれがどんな敵でも…ね」

 

 これだけは伝えなきゃならない。これから来るであろう逃れられない運命に彼女が負けないように。

 

「だから、箒も見つけてほしいんだ。自分が命をかけても戦える大切なものを。」

 

これが、今のあなたに送る俺からの最高の言葉です。

 

 

 

 

 

 

 一夏が泣いていた。

 

 どんなに厳しい稽古でも泣いた事もないあの一夏が、まるで何かを悟ったように。その姿は、今よりもずっと小さい迷子の子どものように儚く見えた。このままでは一夏がどこかへ行ってしまう。そんな不安に駆られた私は半ば無意識に彼を抱きしめた。暖かい、一夏の温もりが伝わってくる。

 

 しばらくして、落ち着きを取り戻したのだろう。一夏が照れくさそうに「ありがとう」といってくれた。今になって私は、トンデモナイことをしてしまった恥ずかしさにしどろもどろするしかなかった。

 

 それから一夏は、私の質問に答えてくれた。嬉しかった。一夏が言う大切なものに私が入っていたことが、そして「だから、箒も見つけてほしいんだ。自分が命をかけても戦える大切なものをね」と言った。

 

 一夏、お前は一つ勘違いをしている。…もうあるんだ。私にも命をかけて守りたい大切なものが。

 

 そう、それは「一夏」…お前なんだ。いつも見る優しい眼も暖かい雰囲気も、私を助けてくれたあの鋭い眼も。全部私にとって大切なものなのだ。

 

 伝えよう私の大切なものを、そして言おう…一夏が好きなんだと。不器用な私だけど、ちゃんと伝えよう。この淡い「恋心」を。

 

 

しばらくして、箒ちゃんは口を開いた。

 

「…一夏にとっての大切なもの。私は、しっかりと分かったよ」

 

「うん」

 

分かってくれたみたいだ、良かった。

 

「でも私にもあるぞ、命をかけても守りたい大切なものが」

 

「え?」

 

これは予想外の答え、でも、まさか…

 

「それは…」

 

 

 

ピンポ―ン!!ピンポーン!!

 

 

 

「一夏君!私だ。柳韻だ!いるなら此処を開けてくれ!!」

 

 

・・・・・・・・・Oh…柳韻先生、なんてタイミングで来るんですか。

 

 

 きっと箒ちゃんと俺を心配して来てくれたのだろう。開けない訳にもいかない。俺は箒ちゃんに断わりを入れて玄関へ向かう。

 

 

 どうも、箒ちゃんの大切なものを聞けなかった織斑一夏です…。あの後、姉さんもすぐに帰ってきたことで箒ちゃん達も家に帰って行った。俺の胸には靄が残ってしまったが、しかたがない。帰り際に箒ちゃんが、「次に会う時、ちゃんと伝えるよ」と少し恥ずかしそうに言ったことが印象に残っている。

 

 

 …だが、それ以来彼女とは会えなくなった。道場はもちろん神社にさえ近づけなくなってしまった。政府の人間が24時間体制で警備をしているからだ。 …それから二週間後、学校で彼女の転校を知った。合わせて栁韻さん達もここにはいない。政府の重要人物保護プログラムで日本各地に強制転居していったのだ。幸い神社と道場の管理は箒ちゃんの叔母である篠ノ之雪子さんが管理することになったようだ。俺は、使用後の清掃を条件に道場を使える許可を貰った。雪子さんとは交流があって助かった。

 

 次に彼女に会えるのは6年後。どうか元気でいてね・・・・・・・箒ちゃん

 

 その年の冬、俺は座布団に座って休憩している。姉さんは今は留守中だ。テレビを付けてもISのことばかりだ。世の中はゆっくりと、だが確実に女尊男卑の世界に移っている。

 

 その時、不意に俺の視界が覆われた。

 

「だーれだ?」

 

 場違いなほどに明るい声。…全く、この人も本当にブレないな。

 

「来る時は連絡を入れてくださいって言ってるでしょ。…束姉さん」

 

 視界を遮る手を握ると彼女も握り返してくる。

 

「にゃはは、そこが束さんクオリティーなのだよ。いっくん」

 

 何がクオリティーなのやら。俺は彼女の姿を見ようと振り向こうとした。が、

 

「おっと、そのまま、そのまま~」

 

 そう束さんは言うと、手を俺のお腹に巻きつけ、足が左右から伸びてきた。所謂

後ろから抱きしめられる状態だ。束さんはこれがとても気に入ったみたいで、時々俺にしてくる。その度に俺はドキドキしている。彼女の豊満な胸が当たるからだ。

 

「いやー、やっぱり落ち着くね~」

 

 こうなるとテコでも動かない。しばらく好きにさせていると、彼女が唐突に喋りだした。

 

「実は今日、いっくんにお別れを言いに来たんだ」

 

「え?」

 

 一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。現在、世界各国は血眼になって束さんの行方を捜しているのだ。まぁ、捕まるとは毛ほども思っていない。

 

「石ころどもがうるさくて参っちゃうよね~。それで、ほとぼりが冷めるまで世界を回ってみようかなって思うんだよね。」

 

「それは良いですね。是非世界にまつわる謎を姉さんの頭脳を駆使して解いてくださいよ」

 

「おお!!いっくん天才だね。暇つぶしにはちょうど良いかも」

 

 世界の名立たる学者たちが解けなかった謎を暇つぶしか…やはりこの人は底が見えない。

 

「でも、ここも寂しくなります。箒ちゃんも引っ越しちゃったから…」

 

 ほんの一瞬だったが束さんの手が震えた。やはり思うところがあるのだろう…。

 

「それでしばらくいっくんにも会えなくなるから、「3つ」だけいっくんに質問をしようと思って来たんだ」

 

 質問?なんだろう

 

「この質問にいっくんは、答えても答えなくても良いからね。まぁ気楽にしてちょ~だいな」

 

 ふむ、1つはある程度予想できるし、まぁ良いだろう。

 

「分かりました。その質問受けましょう」

 

「ふふっ、では第1問です。いっくん君、君は…何者ですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 やはり気付いていたか。予想道理の質問だ。

 

「おおよそ、子どもでは考えられないような言動、雰囲気、立ち振る舞いそして聡明さ。でも不思議とそれに違和感がない。そして、この私をも受け入れる圧倒的な包容力。でも、その根底にあるものが何なのか全く分からない。この天才の頭脳を持ってしてもね。」

 

…ごめんなさい束さん。

 

「ごめんね束姉さん。その質問には答えられません。」

 

 きっぱりと伝えた。

 

「確かに俺は、俺の中に何があるのか知っています。でも誰であっても話すつもりはありません。…それが例え千冬姉さんであったとしてもです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 しばしの沈黙…そして

 

「そっか、ならいいや。この質問に関しては全然期待してなかったからね」

 

 答えた俺がビックリするぐらいアッサリと引いてくれた。そんな俺の心情を余所に質問は続く

 

「では第2問です。いっくんは…私を怨んでいますか」

 

…なるほど、でもそれは愚問というものだ。

 

「束姉さんにしては、珍しいですね。そんな当たり前の質問をするなんて」

 

 束さんの全身が大きく震えた。

 

「そんなもん、これっぽちもありませんよ。どんな意図がったか知らないですけど、俺は絶対にあなたを否定しません。…絶対に拒絶しませんから。あなたは…俺が守りたいものの1つなんですから」

 

 これだけは言える。俺は、彼女を嫌いになることなんて出来ない。世界はISの誕生により混乱する。

 

 でもそんなの関係ない、俺は知ってしまったからだ。

 

 彼女の痛みを、悲しみを、優しさを知ってしまった。嫌いになれるはずがない。

 

「そ、そっか。こ、これは、予想外の答えだね。この束さんを出し抜くなんて、た、大したもんだよ」

 

 束さんの震えが大きくなる。

 

「そ、それじゃあ、さ、最後の質問です」

 

 ここでようやく束さんは俺を抱き起こし正面に向けさせた。そこで俺は見たんだ。

 

 彼女は…泣いていた。ぽろぽろと子どものように涙を流していた。

 

「ま、まだ、こ、ごごに、来ても良いですか?ご飯を食べたり、ゲームをしたり、一緒に遊んでくれますか?私を受け入れてくれます!!!」

 

 最後は、血を吐くような言葉だった。束さんにとって、ここは本当の家だったのだろう。彼女にとって、ここには本当の「家族」がいたんだろう。自然と俺も涙が出てきた。止めることが出来ない。どうやら随分と涙腺が弱いようだ。俺も束さんも涙でぐちゃぐちゃだ。

 

 「…い、いつでも、いづでも「帰ってきて」ください。こ、ここが、ここがあなだの帰る家なんでず。あなたは!俺の大切な「姉さん」なんですから!!!」

 

 彼女は目を見開いた。そして

 

「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!!!」

 

 彼女は俺の胸で泣いた。ダムが決壊したように、泣きじゃくっている。そして、何度も謝った…。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと、それはまるで罪人が許しを乞うようだった。俺は彼女を抱きしめた。大丈夫、大丈夫と何度も伝えた。そんな風に時間は過ぎて行き、そして

 

「ふー……」

 

 溜息を洩らしながらゆっくりと俺から離れる。

 

「ありがとう、いっくん。一生分泣いたかも知れないよ」

 

 束さんの目は真っ赤だったが、その笑顔は憑き物が取れたかのように晴れやかだった。

 

「スッキリしましたか?」

 

「うん、こんなに心が軽いのは生れてはじめてかも。もう…何も怖くない!!」

 

「こら!!!やめなさい!!」

 

 ここ来て超ド級の死亡フラグをかましやがった!!つーか何で知ってんの?何で知ってんの!!

 

「い~やん。いっくんに怒られちゃった。なんか良いかも~」

 

 そう言いながら、両手を頬に添えてイヤンイヤンとだらしない笑顔でくねくねしている。

 

・・・台無しである、色々と。特に理由のあるやるせなさが俺を襲う。

 

「…さてと、それじゃあ、そろそろ行くね」

 

 別れの時が来た。彼女と会えるのも6年後。寂しくなる。だがこの世からいなくなる訳ではない。必ず会える。原作とか関係なくそんな予感がするからだ。だから俺は、彼女にこの言葉を伝えて送り出した。

 

「「いってらっしゃい」束姉さん」

 

 一瞬ビックリしたように眼を見開くが、すぐにいっぱいの笑顔でこう返してくれ

た。

 

「「いってきます」いっくん!!」

 

 そういって彼女は、織斑家から去って行った。

 

 こうして物語は、一つの節目を迎えた。だが、新たな出会いはすぐ傍まできていたのだ。

 

 …この時の俺は、そのことを知る由もなかった

 




篠ノ之雪子はOVAで登場した。箒ちゃんの叔母さんです

感想と評価をお待ちしております。
ではまた次回


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新たな出会い

 この小説も節目の10話を迎え、お気に入りが300を超えました。
 
これも全てはこの作品を読んでくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

なお、今回一夏が少し壊れます。

皆さんが楽しんでいただければ幸いです。

ではどうぞ・・・


 どうも5年生になった織斑一夏です。物語が一つの節目を迎え、篠ノ之姉妹がこの町を去りました。でも落ち込んでもいられません。千冬姉さんも箒ちゃんも束姉さんだって頑張っていると思えば、俺も負けてはいられない。

 

 そうそう、新しい出会いが一つ。昨年の冬に篠ノ之道場に通ってた方から新しく道場を紹介された。同じ市内で、家からも近かったので千冬姉さんと一緒に見学に行った。

 

 「古牧道場」という名だった。

 

 道場主の古牧宗太郎さんは、戦国時代より伝わる古牧流古武術の正統継承者であり、その筋の人からは「格闘界の人間国宝」と呼ばれいたらしい。年は60~70歳程度で白髪をオールバックにしており体格は小柄だが、その目、風格、所作は柳韻先生以上の武人を思わせた。以前は東京で道場を開いていたのだが、現在は第一線を退き、ここに道場を新たに開いて、主に剣術、護身術、格闘術などを格安で教えているそうである。

 

・・・ん?どこかで会ったことがある様な?「龍」が出てくるゲーム?いや気のせいかな

 

 しばらく千冬姉さんと古牧さんが話をして、姉妹そろってこの道場でお世話になることになった。帰り際に古牧先生が「お主ら姉弟は、「あの男」と同じような目をしているな」と少し嬉しそうに呟いたのが印象に残った。・・・あの男って誰だろう?

 

 千冬姉さんからも「あの方からしっかりと学ぶんだぞ一夏。今よりも確実に強くなる。私も暇を見つけたら稽古を付けてもらうとしよう」

 

 あの千冬姉さんがここまで言うのだから相当な達人なのだろう…よろしくお願いします。小牧先生!

 

 

 そんなこんなで年が明け、始業式から数日後のことだ。俺のクラスに転入生がやってきた。

 

「はい皆さん、今日は私たちのクラスに新しいお友達が来ました。仲良くしてあげてくださいね」

 

 そんな先生の言葉と同時に一人の女子が入ってきた。

 小柄な身長に、ツインテール、勝ち気そう目をした女子生徒である。

 

「凰鈴音(ファン・リンイン)です。皆さんよろしく!!」

 

 そう言って彼女は、元気にあいさつをした。

 

 …ビックリしたー!!つーか鈴ちゃんが転校してくるのってこの時期だったのか!?

 

 凰鈴音 

 

 ご存知一夏のセカンド幼馴染である。

 

 ツインテールの髪に小柄な体格という可愛らしい見た目なのだが、サバサバとした性格で気性も激しいところがあり、考えるよりも行動を地で行くタイプである。自他共に認めるほどフットワークが軽く、確か原作ではIS学園に持ってきた私物はボストンバッグ一つで収まる程だったことを記憶している。…補足として箒ちゃんの次に暴力的であり若干ヤンデレが入っていたような気がした。

 

 …ヤバい。対応を誤ればボコボコにされる。冷や汗ものである。

 

「それじゃ~席は…、織斑君の隣りが空いているわね。そこにしましょう」

 

 ふぁ!?ちょっと待って先生!まだ心の準備ががが、って早!もうこっちに来てるよ鈴ちゃん。おおお、落ち着け織斑一夏!!最初の印象が大事だぞ!とりあえず名前で呼び合うのを当面の目標にしよう。

 

「あんたが織斑一夏?」

 

 いきなり「あんた」呼ばわりかい!

 

「う、うん。よ、よろしく凰さん」

 

 俺、どもりまくり

 

「「鈴」で良いわ。名字で呼ばれるの慣れてないのよ。私もあんたのこと「一夏」って呼ぶからね」

 

 ありゃ!?当面の目標がもう達成してしまった!!いいのかこれで?

 

「分かったよ。これからよろしく鈴」

 

 とりあえず鈴ちゃんに握手を求めてみる。

 

「ええ、一夏が今までの男共と違って紳士的で良かったわ。よろしくね」

 

 にかっと笑って、握手に応じてくれた。あ、八重歯がかわいいな~。何だよもうー、心配して損した。これだったら大丈夫かもしれない。

 

 

「あ、「リンリン」って言ったら殺すから、覚えといてね♪」

 

 

・・・・・・・気が引き締まりました。本当にありがとうございます。

 

 

 それから俺はそれなりに鈴ちゃんと仲良くなった。学校や街の案内をしたり、勉強を教えたり、気の知れた友達あるいは姉弟みたいな関係だ。

 

 鈴ちゃんは、そのサバサバした性格から男子にも女子にも人気がある。反対に俺は、学校では物静かな部類に入るので鈴ちゃんに引っ張られることが多い。鈴ちゃんの視点からしたら俺は弟のような存在かもしれない。でも、そんな関係も悪くないと思っているのも事実だ。

 

 そんな風に学校及び私生活を満喫していた俺に、またしても事件は起きてしまった。

 

 

 それは委員会の時間、学校裏での仕事を終えた時だった。

 

「おいリンリン、笹食ってみろよ。パンダだろお前~」

 

 不意に聞こえてきた声・・・まさか!不安を押し殺し、声のする場所まで走った。そして俺の目の前には箒ちゃんの時と同じ光景が広がっていた。鈴ちゃんを囲むように4人の男子が立ちはだかっていた。そして場所的に、ここはちょうど死角になる。

 

 誰の目から見ても明らかだ。故意によるイジメ。そして俺は男子の後ろ姿に見覚えがあった。見間違えるはずもない。こいつら箒ちゃんをいじめたモブ共じゃないか!?まだこんなことをしていたのか・・・

 

「あんたらには、私がパンダに見えるわけ?バカじゃないの?」

 

「あ゛、なんだと?」

 

 まずい!鈴ちゃんはその気性の激しさから他の男子と衝突することもある。その度に俺が仲裁に入ってその場をうやむやにしていたのだが、今回は俺がいないことでヒートアップしたらしい。

 

「女のクセにたてついてんじゃねぇよ」

 

 ドン!!

 

「きゃ!?」

 

 鈴ちゃんが倒された。それから鈴ちゃんに向かってモブ共は罵詈雑言を浴びせる。

 

「お前中国人のくせに生意気なんだよ」

 

「そうだ、中国人が勉強なんかしてんじゃねぇよ」

 

「アハハハハハハ」

 

 そのまま鈴ちゃんは耳を塞いでうずくまってしまった。

 

 もう限界だ…仏の顔も3度までと言うが…関係ない!!人類最強のドS兵長…セリフ借ります。

 

「よくしゃべるブタどもだな…」

 

 俺の言葉を聞いて4人はビクついた。モブ共は慌てて振り返り、俺を見たとたんに顔を青くした。

 

「お、お前、織斑!?」

 

「な、なんでこんなとこにいるんだよ」

 

「く、くそーー!!」

 

「お、おい!バカ、よせ!!」

 

 先手必勝とばかりにモブの一人が行き成り殴りかかってきた。

 

 …のろいパンチだ。俺はモブのパンチを避け、反対に腰の入ったボディーブローを叩きこむ。九の字になって横にうずくまる相手にさらに一発サッカーボールの要領で腹に蹴りを入れ、仰向けになったところに同じ場所踏み抜き足を置く。

 

 誰も何も言わない。恐らく俺の行為に恐怖しているのだろう。そこに絶対に逃がさないという気合いを込め、残った3人を睨みつけ某駆逐系男子をボコボコにした兵長のセリフを入れる。…やっぱり鈴ちゃんも震えていた。後で謝らなければ・・・。

 

「…これは自論なんだが、躾に一番効くのは痛みだと思う」

 

 意味を理解したモブ共が震えだす。だがもう遅い、お前たちは、一番侵してはいけない領域を侵したのだ。

 

「そして残念なことに、お前らは俺の大切なものに手を出した。…お前らブタ共に必要なのは、言葉による「教育」ではなく、「教訓」だ」

 

 モブ3人は更に顔を青くし震えていた。そして鈴ちゃんは、顔を真っ赤にして震えていた。

 

 …やべー、また勢い余ってトンデモナイことを口走ってしまった。ええい、もうやけくそじゃー!!

 

 俺は1番近くのモブの顎に飛びヒザ蹴りを入れる。喰らったモブは、背中から大の字に倒れた。前回はここで組長さんの凄みを入れたが、今回はナシだ。前回逃げた相手にもしっかりと「教訓」を刻みつける。

 

 最初のモブと同じようにボディーブローを入れ、膝立ちになった所に上からひじを叩きこむ(勿論手加減はする)。相手は土下座したかのように倒れ込んだ。

 

 残るは1人・・・。前回と同じ「モブリーダー」だ。だが今回は、前みたいに発破は掛けない…。しっかりとその身に刻み込む!俺は前転をした勢いで腹に飛び込み頭突きをかます。腹を抑えて屈みながら相手はよろめく。俺は素早く起き上がり、ガラ空きになった頭に蹴りを叩き込んだ。

 

 これぞ古牧先生に伝授された最初の技!!「前転の極み」である!!!

 

 

 あ~、やばい・・・こりゃ相当にヤバい。なんか格好つけて見たけど状況は最悪だ。死屍累々である。以前と同じで本当に申し訳ないが・・・誰か助けて。

 




実際は違いますが、古牧先生が「前転の極み」を教えたということでお願いします。
それではまた次回。


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鈴からの一撃

特に理由のない暴力が一夏を襲う!!

皆さんが楽しんでいただければ幸いです

ではどうぞ・・・




 どうも、また勢いでフラグを建設してしまった織斑一夏です。本当の自重しなければ原作以上にヒドイ状況になってしまう。

 

 さて突然ですが、今俺は、鼻血を出して倒れています…。

 

 

 

 

 

 最初に会った時、一夏の印象は「優しいけど、おとなしい男の子」だと思った。

 一夏の隣りの席になって、彼は少し怯えながらも挨拶をしてくれた。多分それは私が中国人とのハーフだからかなと結論付けた。こっちで最初に会う人は大体一夏のような感じだったから気にはしていない。

 

 こちらが名前で呼び合おうと提案すると、彼は快く応じて握手まで求めてきた。日本では、あんまり握手の習慣はないみたいだけど断る理由もないし、なんだか新鮮で嬉しかった。

 

 一夏も嬉しそうに笑顔を見せてくれた。ここでふと私の心にイタズラ心が湧いた。突然だが「リンリン」と飛ばれるのは私が一番嫌いなことだ。なので警告も込めて少し注意してみたら顔を青くしてすごい勢いで首を縦に何度も振った。

 

 …やばいこの子、かわいい上に面白い。

 

 そんな経緯で一夏とは仲良くなった。

 

 学校での一夏は、いつも優しい笑顔を浮かべ物静かでのんびりした性格だ。普段はそれで良いのだが、グループ決めや集団行動では彼は周りから少し遅れてしまう。そんな一夏を私はいつも引っ張っているのだ。その度に一夏は「ありがとう、鈴」と言ってくれる。内心では嬉しかったが、素直になれず「ふん、一夏は、どんくさいから本当に仕方ないわね。」と、つい憎まれ口を叩いてしまう。でも彼は困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

 グループの中で一夏は、他の男子と比較にならないくらい働いてくれる。でも決して出しゃばったりはしない。目立つのは苦手なんだそうだ。ただ仲の良い女友達と話しをていると一夏の話は時々出てくる。

 

 「温和でいつもニコニコしている」「見ていると何か癒される」「あんな弟が欲しかった~。」などである。なんだか私は、自分の弟が褒められたみたいでとても嬉しく、そして誇らしかった。

 

 そんな中、変な噂を耳にした。それはある男子から聞いたのだが、「織斑一夏を決して怒らせてはならない。…あいつは、人の皮を被った「狼」だ」と言うものだった。

 

 あまりの事に開いた口が塞がらなかった。そして次第に怒りが湧いてきた…あの温和な一夏にそんな根も葉もない噂を立てられたことが、そしていつも私に優しく暖かい雰囲気で接してくれる一夏に対して何てヒドイ事をと思った。

 

 私は、誰がそんな噂を流したのかその男子に詰め寄ろうとしたが一夏が止めに入った。一夏は、私がほかの男子と衝突しそうになるとすぐに間に入るのだ。内心で私は盛大に毒づいた。何よ邪魔しないで!!今あんたのことで怒っているのよ!?

 

 でもこんな噂、口が裂けても一夏には言えない。あの心優しい一夏がこんなことを耳にすればきっと落ち込んでしまう。私が・・・私が一夏を守らなきゃ!!

 

 その犯人たちはすぐに分かった。何でも以前は色んな人間たちをイジメていた男子4人組らしい。今度は一夏をターゲットにしようとしたのか…。絶対に許さない

 

 そいつらは、学校の裏手側で4人とも集まっていた。

 

 私は、そいつらの前に立ちはだかった

 

「あんた達ね、変なうわさを流してるのは?」

 

「ん?なんだお前?」

 

4人が振り向いた

 

「一夏に対して変な噂を流してるでしょ?おとなしくやめなさい!!」

 

私は、毅然として相手に告げた

 

「は?お前には関係ないだろ」

 

「あ、こいつ最近転入してきた鈴音だろ」

 

「鈴音?中国人かよ。なんかパンダみたいな名前だし」

 

「おいリンリン、笹食ってみろよ。パンダだろお前~」

 

 男子4人は私をせせら笑った。前の学校でもそうだった。リンリンと渾名されて虐められた経験がある。私は何でもない風に装い相手を挑発した。

 

「あんたらには、私がパンダに見えるわけ?バカじゃないの?」

 

「あ゛、なんだと?」

 

「女のクセにたてついてんじゃねぇよ」

 

「きゃ!?」

 

 一人の男子に押され、倒れてしまった。そして男子の大きさに私は、今更になって後悔と恐怖を覚えてしまった。後先を考えずになんて無謀なことをしてしまったのだろう。

 

「お前中国人のくせに生意気なんだよ」

 

「そうだ、中国人が勉強なんかしてんじゃねぇよ」

 

「アハハハハハハ」

 

 やめて、やめてよ。ケンカを売ったのは私の方だ。謝るわ。でもあたしが中国人なのがダメなの?私はただ、皆と仲良くしたいだけなの。そんな心も通じる筈もなく、男子たちの罵詈雑言に、私は身体を丸めて耐えるしかなかった

 

「よくしゃべるブタ共だな…」

 

急に男子達が大人しくなった。私は恐る恐る顔をあげた。そこには、一夏がいた。

 

「お、お前、織斑!?」

 

「な、なんでこんなとこにいるんだよ」

 

 男子達が慌てふためく、だがそんなこと目に入らなかった。普段の温和で優しい一夏はどこにもいなかった。一夏は誰の目にも明らかな怒りの表情をあらわにしていた。そしてその眼は、噂を証明するような「狼」のような鋭い目つきだった。

 

「く、くそーー!!」

 

「お、おい!バカ、よせ!!」

 

 仲間の制止を振り切って、一人男子が一夏に向かって殴りかかる。ダメ!逃げて一夏!!

 

 だが驚愕の光景が私の目の前で起きた。

 

 一夏は、男子のパンチを避けると逆にパンチを叩き込んだ。更にうずくまった腹に蹴りを入れ、仰向けになった所を踏みぬき足を置いた。

 

 もうこれが現実なのか夢なのか判断できない。そんな私の心情を余所に、彼は男子達を睨みつけながら静かに口を開いた。

 

「・・・これは自論なんだが、躾に一番効くのは痛みだと思う」

 

 まるで幼い子供に分かりやすく説明するような口調だった。更に言葉は続く。

 

「そして残念なことに、お前らは俺の大切なものに手を出した。…お前らブタ共に必要なのは、言葉による「教育」ではなく、「教訓」だ」

 

 大切なもの?そうか…一夏は私の為に怒っているんだ。一夏から聞いたことがある。

 

 「俺は、物心がついた時から両親がいないんだ。小学校の親友も突然引っ越しちゃったし、だからこそ一つ一つの出会いを大切にしたいんだ。」一夏は・・・、私のことを大切なものに入れてくれていたんだ。中国人とか関係なく、私を受け入れてくれたんだ。嬉しい…。

 

 ありがとう、本当にありがとう一夏…。

 

 それからは、瞬く間のことだった。近くの男子の顎に飛びヒザ蹴りが入った。喰らった男子は、背中から大の字に倒れた。早い!?いつもの一夏からは考えられないほどの俊敏性だ。更に一夏は、私が呆けている間にまた一人地面に沈めた。最後の相手に一夏は前転をした勢いで腹に飛び込み頭突きをし、ガラ空きになった頭に蹴りを叩き込んだ。

 

 それから慌てて一夏が私に駆け寄ってきた。腰をおろし、私に目線を合わせる。

 

 でも私は、先ほどの恐怖や怒りや羞恥心で頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

side一夏

 

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

ごっ!!

 

「ぶべら!?」

 

 最初に感じたのは鼻を中心に広がる痛みだった。視界は星が瞬くようにキラキラしている。それから鼻の下に広がるヌメっとした感触と口の中で感じる鉄分。

 

 ああ、俺はどうやら顔面を殴られたらしい。

 

 

 

 

 

 神様これは、あなたからのプレゼントでしょうか・・・・・・・?

 

 もし会うチャンスがあったら絶対に張り倒す!!!!

 




鈴ちゃんは一人で空回りするイメージがあります。
しかも鈴ちゃんに関する資料が本当に少なくて困る。

感想並びに評価を頂けたら嬉しいです

ではまた次回。


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それからの出来事

皆様が楽しんでいただければ幸いです

ではどうぞ・・・


 どうも鈴ちゃんから顔パンを喰らった織斑一夏です。あー、まだヒリヒリする…。

 

 あの後、鈴ちゃんの悲鳴を聞いて先生方がやってきた。こうなってくると俺と鈴ちゃんは真実を語るしかなかった。状況証拠に加え、鈴ちゃんが必死に弁護してくれたが前科持ちであるため保護者の呼び出し、つまり千冬姉さんが来ることになった。

 

 忙しい身の上に加え、この騒ぎだ…。俺は、ぶん殴られることを覚悟した。

 

 ところが…鈴ちゃんが千冬姉さんに抱きついたのだ。そして

 

「一夏のお姉さん!!一夏を怒らないでください!一夏を巻き込んだのは私なんです。私を助けただけなんです!!私が騒ぎを起こさなければこんな事にはならなかったんです!!…お願いします!どうか、お願いします!」

 

 そう震えながらも必死に懇願するのだ。 これには、俺も千冬姉さんも呆気にとられてしまった。

 

 姉さんは鈴ちゃんの頭をポンポンと撫でて、俺を見据えてこう言った。

 

「一夏・・・一つだけ聞きたい。お前は、「力」を振るったことを後悔しているか?」

 

 嘘は許さない。そう言外に伝わってきた。俺は真っ直ぐに姉さんの目を見て答えた。

 

「・・・してないよ」

 

 きっぱりと断言する。そしてこう続けた。

 

「俺は誰かれ構わず「力」を振るったりはしない。それは、ただの「暴力」だって思うんだ。・・・でも、自分の守りたいものの為なら幾らでも「力」を使うよ。「力」があるのに何もできない人間には成りたくないんだ。それが・・・俺の答えであり、「覚悟」です」

 

 嘘偽りはない。これは混じりっ気のない本音だ。全てを守る正義の味方になろうだなんて思ったことはない。身の程は弁えている。ただ、手の届く範囲だけで良い・・・その為なら俺は今ある「力」を幾らでも使う。もう「奪われる」だけなのは御免だからだ。

 

 しばらく無言の時間が続いた。そして徐(おもむろ)に姉さんの右手が伸びてきた。俺は目を瞑ってその時を待った。

 

 ピン

 

「あ、イタ」

 

 額に軽い衝撃を感じ、目を開けた。

 

 そこには、所謂「デコピン」の形をとり静かに笑みを浮かべる千冬姉さんの姿があった。

 

「ガキのくせに、生意気にも「覚悟」と来たか・・・いいだろう、この子とお前の覚悟に免じて、今日はこれ位にしといてやるさ」

 

 姉さんは、いつの間にか離れた鈴ちゃんの頭を撫でながら静かに告げ、後ろを向き少し歩いた所で立ち止まった。

 

「成長したな一夏。それでこそ私の弟だ」

 

そう言って、今度こそ歩き去ってしまった。

 

・・・誉められた?

 

・・・・・・・つーか、格好良すぎるよ姉さん!!

 

そんな我が姉の立ち振る舞いに戦慄を覚える俺がいた。

 

 

 

 

 

 一夏が学校で騒ぎを起こしたと聞いた時は、我が耳を疑った。ISの訓練を中断して小学校に言ってみると、そこには痛々しく鼻を赤く腫らした一夏と少女の姿があった。以前聞いた一夏の話から推測するに、この子が凰鈴音で間違いないだろう。

 

 先生方から事情を聞くと虐められていた鈴音を守るために一夏は4人の男子を叩きのめしたということだ。

 

 「力」の使い方は間違ってないが、だからと言って許されるわけでもない。げんこつの一発でもくれてやろうと思ったが、いきなり鈴音に抱きつかれてしまった。戸惑っている私に彼女はこう告げるのだ。

 

「一夏のお姉さん!!一夏を怒らないでください!一夏を巻き込んだのは私なんです。私を助けただけなんです!!私が騒ぎを起こさなければこんな事にはならなかったんです!!・・・お願いします!どうか、お願いします!!」

 

 これには、さすがの私も呆気にとられてしまった。友達とは言え他人の為に、ここまで必死になる彼女の姿を見て私の考えは少し変わった。

 

「一夏…一つだけ聞きたい。お前は、「力」を振るったことを後悔しているか?」

 

 もし一夏が後悔をしているのであればゲンコツ決定だ。それは、その場の雰囲気に流されて「力」を振るう所謂「暴力」と変わりないからだ。だが一夏はキッパリと私に断言した。

 

「…してないよ」

 

 そして、こう言ったのだ。

 

 誰かれ構わず振るう力は暴力であり、自分は守る者の為にだけ力を使う。それが自分の覚悟だと。

 

 …まったく、こいつには驚かされてばかりだ。「力」についての本質を見極め、守るものの為なら「力」を行使することを躊躇わない。この年齢でもうその事を理解しているのだ。

 

 私は未だに抱きついている鈴音を優しく引き離し、一夏に右手を近づける。鈴音が不安な顔をしたので、笑顔を浮かべて「静かに」とジェスチャーで伝えた。

 

 一夏は目を瞑っている。恐らく殴られると思ったのだろう。バカ者め…そう思いながら一夏の額に軽くデコピンをお見舞いした。

 

 慌てて眼を開いた一夏の姿がなんだか可笑しかった。私は笑みをこぼしながら一夏に告げた。

 

「ガキのくせに、生意気にも「覚悟」と来たか・・・いいだろう、この子とお前の覚悟に免じて、今日はこれ位にしといてやるさ」

 

 そう言って、私は一夏に背を向けた。不覚にもこれ以上は嬉しさを抑えられそうになかったからだ。

 

ああ、そうだ一つ言い忘れたことがあった。私はそのままの格好で一夏に告げた。

 

「成長したな一夏。それでこそ私の弟だ」

 

 それだけ言って私は今度こそ、その場を立ち去った。

 

 訓練施設に戻ったら山田君に自慢してやろう。そんな思いを胸に私は歩きだした。

 

 

 

 

 

 俺は今、鈴ちゃんと一緒に帰り道にいる。

 

 いやーあの時の姉さんはマジに格好良かったわ。ありゃー原作で「千冬様」と言われても仕方ないだろう。誰だって惚れるさ~。

 

 所謂「おっぱいのついたイケメン」とは姉さんのことで間違いないだろう。そんなふざけた思考に浸っていると突然鈴ちゃんが声をかけてきた。

 

「……一夏。」

 

「どうしたの鈴?」

 

 ヤベー!!ふざけた思考がばれたか?ゴミを見るような眼をされてたらどうしよう・・・ちょっと興奮しちゃうかも。いやいや!!そうじゃないから!?落ち着け俺!!

 

「えっとね……えっと」

 

 そう言いながら鈴ちゃんは、顔を俯かせ胸のところで人差し指同士をつんつんしだした。

 

……え、何その仕草?古典的だけど鈴ちゃんがやるとすげーカワイイ、なんですか?俺を萌え殺す気ですか!?しばらくそんな状態が続き、やがて意を決したのか真っ赤になった顔をあげてこう言った。

 

「さっきは、本当にごめんね。それから助けてくれてありがとう」

 

・・・・・ユニバーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!デレ鈴ちゃんキターーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

 そんな思考を御くびにも出さず。

 

「全然。どういたしまして」

 

と俺は言った。

 

「それでね。こんな私でよければ…これからもよろしくね。」

 

 そう言って、鈴ちゃんは右手を差し出してきた。

 

 俺はにっこり笑って。

 

「うん!こちらこそよろしく」

 

と言って、その手を握り返した。

 

その時の鈴ちゃんの笑顔は、ヒマワリのような優しさで満ち溢れていた。

 




千冬さんは格好良い!!異論は認めません

感想並びに評価をお待ちしております。


それではまた次回


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第1回モンド・グロッソ と中華料理

少し間が空いてしまいました。
一応これで幼年期~小学生編は終了です。
次回から中学生編に入りたいと思います。
ではどうぞ・・・


 どうも小6になった織斑一夏です。いやはや、早いもので小学校の最上級生になってしまいました。 昨年は顔パンを喰らったり、古牧道場で新しく技を伝授されたり、篠ノ之道場を掃除したり、鈴ちゃんの家の中華料理屋でご飯を食べたりと、とても穏やかな日々を過ごしていました。

 

 さて、俺は「ある世界大会の決勝戦」をテレビ中継で見ている。

 

 それは中世のコロシアムのようなフィールドをそのまま近代化した会場である。参加国は21ヶ国とオリンピックなどの世界大会に比べると少ないが、アメリカ・フランス・イギリス・日本等の誰もが知る様な先進国が名を連ねている。そして競技に使用するのは「IS」である。

 

 そう第1回モンド・グロッソ、ISの世界大会である。

 

 この大会は格闘部門など様々な競技部門に分かれ、各国の代表が競う合う。各部門の優勝者は「ヴァルキリー」と呼ばれ、総合優勝者には最強の称号「ブリュンヒルデ」が与えられる。

 

 現在、我が姉は日本国家代表として、この大会に参加してる訳であるが…桁違いの強さを披露しております。

 

 今までもとてつもなく強かったが、古牧先生からの指導が入って以来その強さは他の追随を許さないまでに発展している。日本を除く20ヶ国は最新鋭の武器、技術、トレーニングなどの正に国家の粋を結集して挑んでいるが、千冬姉さんは、ただ一振りの「日本刀」と単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を用いてその悉くを叩きのめしているのだ。暮桜…千冬姉さんが乗っている機体の名称である。白騎士に次いで開発された第1世代型IS。刀剣型近接武器「雪片」のみを備え、単一仕様能力(ワンオフアビリティー)「零落白夜」を搭載している。

 

 そんな考えに浸っているうちに、姉さんが居合の構えをとった。決める気だ・・・。

 

 次の瞬間、姉さんは爆発的なスピードで相手へと駆けて行き、すれ違いざまに一閃した。一瞬だが雪片が光ったことから瞬間的に「零落白夜」を使ったのだろう。相手は何が起こったのか分からないといった表情だったが試合終了のブザーが鳴ったのを聞いて自身の負けを悟ったようである。

 

 今の技を簡単に説明すると古牧流抜刀術「荒れ牛」の応用だろう。技名の通り荒れ狂った牛からイメージされた技だ。もともとの技の突進力に加え、姉さんはそこに二重瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)を上乗せしたのだ。その加速力は正気の沙汰とは思えないほどのものだった。

 

 更に絶妙なタイミングで発動された「零落白夜」を加えた雪片の一閃は元々の威力も相まって文字通りの「一撃必殺」へと威力が昇華されている。かすっただけでも大ダメージ必死の技をまともに受けたのだ、結果は火を見るより明らかである。

 

 何はともあれ、これで格闘部門の優勝者は決った。俺は、高らかに雪片を掲げる姉さんを誇らしく思った。その後、総合優勝者が千冬姉さんに決まり「ブリュンヒルデ」の称号が授けられた。

 

「ありゃ、もうこんな時間か」

 

 姉さんの試合を見ていたら遅くなってしまった。今から作るのも億劫だし…また鈴ちゃんとこの中華料理屋に行こう。

 

 

 

ガラガラ

 

「こんばんわ」

 

「いらっしゃ・・・あら一夏君また来てくれたのね」

 

「こんばんわ、恋おばさん。毎度スイマセン」

 

「あらいいのよ。今鈴音を呼んでくるからね」

 

 そういって店の奥へ入っていく女性は凰恋恋(ファン・レンレン)さん、鈴ちゃんのお母さんである。

 

「おう、一夏君!いつもありがとうな」

 

「いつも、お世話になります。修おじさん」

 

 こちらの、お水を出してくれた恰幅の良い男性が凰修(ファン・シュウ)さん、鈴ちゃんのお父さんである。

 

「しかし、一夏君は小学生じゃないほど落ち着いてんな~。うちの娘も一夏君くらい落ち着きが、痛!!」

 

 そんな軽口を言っていた修さんの尻から「バチン」と良い音がした。

 

「落ち着きがなくて悪かったわね。一夏いらっしゃい」

 

 エプロン姿の鈴ちゃん登場である。鈴ちゃんは修おじさんを一睨みし、こちらにはニッコリ笑顔であいさつする。

 

「うん、えっとニラ玉に酢豚にご飯スープセットをお願いします」

 

「りょーかい、ほらお父さん注文入ったから行った行った」

 

 しっしとする鈴ちゃんに苦笑いを零しながら修さんは俺に向かって

 

「一夏君、こんな娘だが末永くよろしくな」

 

「にゃーーーー!!??いきなり何言いだすのよバカ親父!!さっさと厨房に行けーーーー!!!!」

 

 突然の修さんの爆弾発言に鈴ちゃんは猫みたいな声で叫び俺は呆然としてしまった。当の修さんはまるでイタズラが成功した様なしたり顔で厨房へ消えて行った。

 

・・・・・ナニコレ、気まず!!

 

 俺も鈴ちゃんも沈黙が続いた。

 

「い、一夏。お父さんの冗談なんだから気にしなくていいわよ。」

 

「う、うん」

 

 顔を真っ赤にして言う鈴ちゃんに対して俺はそう答えるしかなかった。

 

「あらあら、初々しいわね。」

 

 それは、いつの間にかお店に戻ってきた恋さんの声だった。

 

「そういえば一夏君、この前は「肉じゃが」ご馳走様。とても美味しかったわよ」

 

「いえいえ、いつもお世話になっているので、また持って行きます」

 

 ここには、よく来るのでお礼も兼ねてよく作った料理を持っていくのだ。俺が料理をすることを知った鈴ちゃんは顔を青ざめていたの覚えている。

 

「あれから鈴も料理をするようになってきたのよ。ついこの間まで見向きもしなかったのに、一体何があったのかしらね~」

 

「べ、別に特に理由なんてないよ。ただ料理が出来たら良いなって思っただけなんだから」

 

「ふ~~ん、お母さんはてっきり「誰か」に食べてほしいのかなって思ったんだけど~」

 

「べべべ、別に「一夏」に食べてほしくて頑張ってるわけじゃ、あっ…」

 

「あらあら、お母さんは別に「一夏君」とは言ってないけどな~」

 

 とニコニコ笑顔を浮かべる恋恋さん、対する鈴ちゃんは顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。

 

 分の悪い勝負だ。って言うか俺ってば完全に蚊帳の外だな~。

 

 そんな時「おーい、料理で来たよー」と修おじさんの声が聞こえてきた。

 

 これ幸いと鈴ちゃん

 

「い、一夏君。ちょっと待っててね。すぐ持ってくるから」

 

 と言うや否や脱兎の如く駆けだしていった。賢明な判断だ、戦略的撤退である。

 

「あら残念、逃げられちゃった」

 

「あんまりイジメちゃ可哀想ですよ」

 

「うふふ」

 

 恋さんは笑うばかりだ。しばらくすると恋さんが話しだした

 

「ありがとうね一夏君」

 

「え?」

 

何に対してのお礼かよく分らなかった

 

「あの子が、あんなに生き生きした表情になったのは一夏君のおかげよ。」

 

「……」

 

俺は沈黙することで先を促した。

 

「前の学校では、帰ってきてもつまらなそうな表情ばかりだったの。でも今の学校であなたのに出会ってから今までが嘘のように昔のあの子に戻ったのよ。家でもあなたの話ばかり、「今日は一夏がオロオロしていたから助けた」とか、「明日は、一夏が街の案内をしてくれる」とか本当に楽しそうにしているわ」

 

そう話す恋さんは、とても穏やかで、母親の顔をしていた。

 

「だからありがとう一夏君、これからも鈴音の事をよろしくね」

 

そんな恋さんの言葉に俺はしっかりと返事をした。

 

「はい!!」

 

と力強く答えたのだ。それから間もなく

 

「ちょちょちょ、お母さん!!一夏に変なこと吹き込んでないでしょうね!?」

 

鈴ちゃんがトレーいっぱいに料理を持って走ってきた。

 

「あらあら、別に何も言ってないわよ。ねぇ~一夏君?」

 

「はい」

 

「ちょっと、何でそんなに意気投合してるのよ。あやしさ満点じゃない!?一夏!正直に話しなさい!じゃないとひどいわよーーーー!!!!」

 

 そんな一人暴走する鈴ちゃんを見ながら俺と恋さんは静かに笑うのであった。

 

 

 姉さんが優勝したことで、この世界の女尊男卑は更に加速していくだろう。

 

 さてどうなることやら・・・・・・・・

 




いかがだったでしょうか。
感想並びに評価をお待ちしております。
ではまた次回。


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中学生編
中学生になりました


ここから中学生編に入ります。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも、中学1年生になりました織斑一夏です。

 

 最近やたらと身長が伸びました。1年生の健康診断で身長170cm・体重65kgと細マッチョな体型になったうえ、お腹も4つに割れてる。内科健診の時に上を脱いだら周りからどよめきが起こり恥ずかしい思いもしました。

 

 やっぱり目立つのは苦手だ。

 

「一夏、飯行こうぜ」

 

「うん。鈴も呼ぶからちょっと待ってな」

 

 そんな風に俺に声をかけてきてくれたのは、赤い髪を乱雑にまとめて少し軽い感じがするが根が良い五反田弾(ごたんだ だん)である。

 

 入学後の同じ班で意気投合して以来、一緒に行動することが多くなった。原作でも一夏と弾君は、仲良しな感じだったことを覚えている。数少ない男友達だしこれからも仲良くしたいものだ。

 

「鈴、ご飯食べに行こう」

 

「ええ、今日は屋上にする?」

 

「そうだね。今日は天気も良いしね」

 

「そんじゃ行こうぜ」

 

 

 

~昼休み屋上~

 

「さて一夏、今日も採点お願いね」

 

「う、うん」

 

「鈴、お前も諦めないな~」

 

「当然よ!!絶対一夏より料理がうまくなるって決めたんだから!!」

 

 そう、中学に入学してから鈴ちゃんは自分の作った料理を俺に採点するように言うのだ。ちなみに俺も自分で弁当を作っている。その方が安いし家計にも優しいからだ…。

 

 ちなみに俺の弁当を食べた弾君は「一夏、お前将来良い主夫になるよ」とお褒め?の言葉をいただいた。鈴ちゃんからは「道は険しいわね…」と憂いの表情をいただいた。

 

「今日は、得意の「酢豚」よ。これで合格点をいただくわ」

 

 と鼻息荒く弁当箱の中身を開けてくれた。ちなみに合格点ラインは90点としているようである。ふむ、見た目はとても綺麗だな。さてお味のほどは如何に?

 

ぱく、もぐもぐもぐ。ぱく、もぐもぐもぐ。

 

「ど、どうなのよ」

 

「では、本日の採点結果を発表します」

 

「…………」

 

 鈴ちゃんに緊張が走る。弾君は大きな欠伸をしている。

 

「本日の評価は…70点です」

 

「え!!前回より5点下がった!?な、何がいけなかったのよ?」

 

 そう言いながらメモの準備をする鈴ちゃん、勉強熱心である。

 

「まず、良い点から説明するね。肉も野菜も一口サイズに均等だったし、豚も程良く揚げてあって衣のサクサク感も良く出てたよ。ここら辺は前回の反省をしっかりと生かせていた思うよ」

 

「ふふ、ここら辺は前に言われていたとこだったから、特に気を使ったわ」

 

 鈴ちゃんは誇らしく胸を張った。と、ここで弾君から茶々が入った。

 

「・・・「貧乳」だから胸張ったって色気なんてな、ゴハ!!!!」

 

 …正に神速の早業だった。「貧乳」というワードを聞いた途端、眼は光を失い無表情となり、次いで目にも留らぬスピード弾君へ近づきその腹に「崩拳」を叩き込んだ。

 

 この間5秒にも満たないのだから恐ろしいものである。喰らった弾君は、まるで陸に上がった魚のように口をパクパクさせて思い出したかのように身体を時々震わせていた。

 

 崩拳とは、形意拳の一種で中国の山西省で誕生したとされている。

 

 伝説では、宋の時代の最後期に岳飛という武将が形意拳を伝えたといわれている。この岳飛は槍術に優れていたとされており、形意拳の技の多くが槍術と共通していることからもこの武将に伝説が結び付けられたのだと考えられる。正に槍を相手に刺すが如く突き込む動作であり、殴るといったイメージは皆無である。

 

 実は鈴ちゃんのお母さんである恋さんは、中国武術の達人らしい。これも恋さんに習った技なのだろうか…?

 

「ごめんね一夏、なんか「ハエ」が五月蠅かったから黙らしてきたわ」

 

 弾君、ハエ呼ばわりである。先ほどの無表情と違いニッコリ笑って話しているが、俺からすれば恐怖心しか湧かない……。

 

「じゃあ、続きをお願いね」

 

「は、はい」

 

 思わず敬語になってしまう。き、気を取り直して…。

 

「じゃ、じゃあ悪い点なんだけど、野菜によって火の通りが全然違うんだ。良く通ってるのもあれば、半ナマなのもあってこれは良くないと思ったよ。で、味なんだけど概ね良いと思うけど、肉によって濃さと薄さが極端だから、この辺をもう少し均一に出来ると良いかなと思う。あとこれは、個人的なものなんだけど酢が少し強すぎるかな。以上の点から今回は70点とさせていただきます」

 

 ひとしきりメモを取り終えた鈴ちゃんが溜息をつきながら言う。

 

「う~ん、まだまだ改善の余地ありね」

 

「でも凄いよ。上達スピードが半端じゃないもん」

 

 

 

 これは本音だ。料理を初めて1年そこらしか経ってないのにこの上達ぶりだ。鈴ちゃんの頑張りと先生である修さんの指導があってだろう。

 

「ほ、本当?」

 

「うん、良く頑張っていると思うよ」

 

「え、えへへ。ありがとう一夏」

 

照れくさそうに笑う鈴ちゃん・・・・やだ、かわいい。

そこに、いつの間にか復活した弾君が、また余計なことをボソッと言う。

 

「…もう、お前ら結婚しろよ」

 

 あ、また殴られた。綺麗なアッパーが入ったな~。だが先程と違って今度の鈴ちゃんは顔が真っ赤であった。

 

 

 

 

 

 

~古牧道場にて~

 

 最近の俺は古牧道場に通う回数が多くなった。というのも原作で中学の時に一夏が誘拐されたのを知っているからだ。第2回モンド・グロッソが迫っているのもあり俺は身体作りに余念がないようにしている。

 

 古牧道場は基本的に実践形式での戦いが多い。1対1から1対多人数まで、場合によっては武器を持った状況も想定して行われている。所謂、超実践的思考なのだ。だが巷(ちまた)では、襲われやすいシチュエーションなどを格安で教えてくれることが戦いに巻き込まれない予防になると人気になっている。

 

「セイ!!ハッ!!!」

 

「ははは、だいぶ良いぞ千冬ちゃん」

 

 今は、千冬姉さんと古牧先生が戦っている。姉さんは竹刀を持ち、古牧先生は素手だな上にまともな防具もしていない。しかし剣一本で世界大会を制覇したあの姉さんが、まるで相手にならないのだ。

 

 面・小手・胴・突き等の基本的な打突は勿論のこと、小手面・小手胴・小手面胴・突き面・突き小手・突き胴などの連続技を繰り出すが、かすりもしない「格闘界の人間国宝」の名は伊達ではなかった。

 

 単純に先生の技量が上なのだ。そして決着はすぐだった。

 

「セヤーーー!!!」

 

 姉さんが上段から烈士の気合を込めて竹刀を振り下ろそうとする。その瞬間、古牧先生が動いた。

 

 振りおろしの動作の途中で古牧先生が姉さんの手を掴み、そのまま姉さんの振り下ろしの力をも利用して姉さんを投げ飛ばしたのだ・・・。

 

 まさに一瞬の出来事だった。後に残ったのは大の字で倒れている姉さんといつの間にか片手に姉さんの竹刀を肩にかけてにこやかに笑う先生の姿だった。

 

 「古牧流無刀取り」である。

 

 しばらくしてから姉さんがのっそりと起き上がり互いに礼をする。姉さんが防具を外した。

「ふむ、大分剣のスピードが上がったのう千冬ちゃん」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございます。古牧先生」

 

 涼しい顔をする古牧先生に対して息も絶え絶えに答える姉さん。

 

「しかし、まだまだ振りが大きい。もっとコンパクトになれば、更に早さも強さモ増すじゃろうて」

 

 これ以上、強くなってしまうのか?姉さんは・・・いよいよもって人間をやめてしまうかもしれないな・・・。

 

 そんな事を思いながら俺は修練に励むのであった。

 




いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしています。

次回から2話程一夏君が血みどろの戦いを演じます。マジで。

ではまた次回


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死闘

2~3話ほど続く予定です。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 血飛沫が飛び交う、それがもう自分のものか、相手のものか、それすら分からない。

 

 一体どれくらいの時間が経ったのだろうか?

 

 殴れば殴られ、殴られれば殴り返し、蹴れば蹴られ、蹴られれば蹴り返す。相手は「女」だ。

 

 だがそれがどうした?そんなものは些細なことだ。五体満足だが気力も体力も・・・意識を保つことさえもう限界に近い。

 

 だが、それでも俺たちはやめない。互いの顔に獣のような笑みを張りつかせ、俺たちは戦う。

 

 俺は戦う。今まで培ってきたあらゆる技術を用いて眼前の敵を打ち滅ぼすために戦う、己の矜持のために戦う、己の守る者の為に戦う、己の覚悟の為に戦う、生きるために……足掻き続けるために戦う!!

 

不意に互いの距離が離れた。浅い息を整えながら女は狂ったように笑い出した。

 

「ふふっ、ふふふ、ふふうふははっ、はははっ、ひひひひっはははっは!!!」

 

「・・・何が可笑しい?」

 

 息を整えつつ、俺は女に問う。そして力を蓄える。「最後の一撃」を敵にぶつけるために・・・。女の狂った笑いがピタリと止んだ。

 

 

「可笑しい?・・・違う、違うよ一夏。あたしは嬉しいんだよ!!!」

 

顔面を血まみれにしながら女は叫ぶ。それは鬼気迫るものがあった。

 

「今の男共は、口を開けば「ISなんてあるから」「ISがなければ」と同じような事を何度も何度もほざきやがる。その癖、ISを持っている女を見れば犬みたいに尻尾を振って愛想笑いを浮かべやがるんだ。反吐が出る。まるで家畜と一緒だ!!糞の集まりだ!!!」

 

ひとしきり叫び終えると、その表情をトロンとさせ猫なで声で俺に語りかけた。

 

「だけど~、お前は違ったんだよ一夏~。あたしがISを持っていても、お前は「化け物」みたいな笑みを浮かべて啖呵を切った。そしてあんたは、このあたしをここまで追い込んだ・・・。互いに生身同士とはいえ、あんたは15にも満たないガキだ。それに比べあたしは長年命のやり取りをしてきた」

 

そこで一息つき、更に言葉を重ねる。

 

「だが今の私は、ここまで追い込まれている。白状すると満身創痍だ。だけどね・・・あたしは今、心の底から満たされているんだよ!!!」

 

「……」

 

「なぁ一夏~、あたしたちと一緒に行こう。あんたは絶対に「こちら側の人間」だ。あんたほどの男がこんな生温い世界にいること自体が異常なんだよ。その眼の奥に燻っている常人じゃ発狂しかねない程の闇…。あたしらだったらまとめて受け止める事が出来る。だから来い一夏!!あたしら「亡国企業(ファントム・タスク)のもとへ、そして…、この「オータム」様のものになっちまえよ!!!」

 

 …亡国企業、通称ファントム・タスク

 

 裏の世界で暗躍する巨大秘密結社だ。その存在が確認されたのは第二次世界大戦中であり、単純な計算で50年以上前から活動している。

 

 原作で俺の誘拐事件がこの組織によって行われていたことが分かっていたが、まさかこんな大物が来るなんて。

 

 俺と死闘を演じている「オータム」、そしてそんな俺達を笑みを浮かべながら見つめる「スコール」。予想出来る限りで最悪の組み合わせだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、織斑一夏です。

 

 現在、俺は日本を離れドイツの首都ベルリンに来ている。そうISの世界大会「第2回モンド・グロッソ」が開催されているのである。

 

 ここまでテレビ中継でしか見たことがなかったが生で試合を見て思ったのは、・・・チート過ぎるだろ姉さんである。

 

 もうね・・・本当に対戦相手がかわいそうになるくらい力の差があった。例えるならば、プロボクサーと中学生がケンカしているようなもんだ。だって相手選手がもう涙目だもん。

 

 そんでもって今日は、いよいよ姉さんの決勝戦な訳である。つまり・・・俺を誘拐するなら正にこのタイミングが絶好だろう。俺は今とあるオープンカフェででコーヒーを飲んでいる。

 

 片言な英語が通じて良かった~。英語は嫌いじゃないんだけど、イントネーションが難しいよね。

 

 そんな感じで「熱々のコーヒー」をちびちび美味しく頂いていると、黒いワンボックスカーが店先の前で止まった。

 

 …来た。俺は直感で感じた。

 

 だが焦らない、不用意に動かず、まずは人数を確認する。車からは男性4人・女性2人がこちらに向かって歩いてくる。屈強そうな男4人だが怖くは感じない。古牧先生や柳韻先生の方がよほど怖い。

 

 一番に注意しなきゃいけないのは女2人の方だ。遠目でも分かった。

 

 強い、恐らく相当な修羅場を潜り抜けて来ていると予想する。そんな風にどうやってこの場を切り抜けるか思考していると一組の男女がこちらにやってきた。

 

「失礼、織斑一夏君でよろしいかしら?」

 

 そう流暢な日本語でニコリと問いかける金髪が美しい女性(女Aと呼称)。年齢は10代後半~20代ほど、整った顔立ちとモデルのような体形が印象的である。

 

「あなた方は?」

 

 少し目をやりながら単刀直入に聞く

 

「私たちは、IS委員会から派遣された。警備の者です」

 

「警備?」

 

「ええ、なんでもIS操縦者の関係者を狙った誘拐犯がこのベルリンに潜伏しているという情報を掴み、急ぎ関係者達を確保をしていたのよ」

 

 見え透いた嘘をつらつらとよく言うものだ。

 

 だいたいそんな事になっていたら各国の外務省関係者が直ちに動くはずだし、俺は前回大会の優勝者の家族だ。ドイツよりも日本が先に動くのは明白。それをさもIS委員会が一手に警備を引き受けているような言い方からして引っかかる。

 

 

 

 もう良いだろう。ここらでとんずらかまそう…。

 

 

「…そうですか。それはわざわざ」

 

 にこやかにそう言いながら熱々のコーヒーが入ったカップに人差し指をかけ…。

 

「ありがとうございます!!!!」

 

 2人の顔にぶちまけた。

 

 男の方はモロに熱湯を顔に浴びたが、女の方は咄嗟に顔を両腕でガードした。

ちっ、どっちかと言えば女の方を沈めておきたかったが仕方ない…。

 

 そして俺は、座っていた鉄製の椅子を持ち上げ男の頭に叩き込み、そのまま逃走を開始した。後ろから叫び声が聞こえてくるが関係ない。当然だがベルリン関した地理感覚は、ほとんどない。今になってもっと会場に近いところを選べば良かったと思ったが後の祭りだ。

 

 

 

 

 走って走って、辿り着いたのが川付近の廃工場だった…。

 

 

 

 

 長時間同じ場所にいるのは、得策ではないが…ここで一息つこう。そう思い呼吸を整えながら次に逃げる場所を考えていると、突然扉を開く音がした…。

 

 バ、バカな!!いくらなんでも早すぎる!!一体なぜ…?そこでハッとした。慌ててポケットを調べてみると人の第一関節程度の大きさの機械が入っていた。

 

 …やられた、こりゃ発信器だ。恐らく入れたのは女の方だろう。あの騒ぎの中で、冷静にしかも瞬時に俺のポケットに入れたんだ。やはりただ者じゃなかった。俺がそんな思考に浸っていると声が聞こえてきた。

 

「織斑一夏君、ゲームオーバーよ。おとなしく出てきなさい」

 

 さっきの女の声だ・・・。こりゃ逃げられそうにないな。俺は素直に姿を現した。

 

「あら、先程振りね。ご機嫌いかがかしら?」

 

 皮肉のつもりか?笑えやしねぇ。俺は、そんな悪態を顔にも出さず

 

「その節はどうも、機嫌ですか?最悪ですよ」

 

 そんな風ににこやかに皮肉を返した。

 

「それは良くないわね。ところで、あまり私たちが現れた事に驚いていないようだけどなぜかしら?」

 

 相手の人数を改めて確認すると、男3人・女2。どうやら最初に一撃をかました男は脱落したらしい。しかしこれは純粋な質問だろうか?まぁ良いおしゃべりが長ければ長いほど俺にとっては利益になる。付き合ってやるよ。

 

「先程ポケットの中を探っていたらこんなものが出てきました」

 

 そう言って、出てきた発信器を腕を伸ばしながら相手に見せる。

 

「恐らく発信器の類でしょう。要するに俺の行動はあなた方には筒抜けだったってことですね!」

 

 そう言いながら発信器を握りつぶす。

 

「なるほど、それとどうして私たちが「偽物」だって分かったのかしら?参考までに聞かせてくれる」

 

「…またえらくはっきりと白状しますね」

 

「あれだけの思い切った行動は、何か確信がないとそうそう出来るものではないわ。あなたにはそれがあった。けど私にはそれが分からないのよ」

 

 さて、どれくらい引きのばせるかな…出たとこ勝負だ。

 

「…初めに感じたのは疑問です」

 

「疑問?」

 

「はい、IS委員会は確かにISの動きを監視することを前提としていますが、警備部門があるなんて聞いたこともない。更に警備は前回も今回もドイツが全面的に行っています。いきなりIS委員会が出ても主催国側の動きが制限されるでしょう。よってここで「IS委員会からの派遣された」というフレ―ズに疑問を持ちました」

 

「なるほど、理屈は通っているわね。続けてくれるかしら。」

 

「2番目に感じたのは疑念です」

 

「疑念…」

 

「もし仮に誘拐犯のような人間が潜伏していたなら、各国の外務省やエージェントが動いているでしょう。それに日本からの大会関係者は俺だけ、それも前回大会覇者「ブリュンヒルデ」の弟です。何者に変えても日本政府は真っ先に俺の確保を最優先します。あなた方が出てくること自体がおかしいんです。そして最後にこれで俺の疑念は確信へと変わりました」

 

「・・・それはなにかしら?」

 

分からないか・・・ならば教えてやろう。俺は女を指さしこう言い放った。

 

 

「香水でごまかしているつもりでしょうけど、あなたからは血の臭いがするんです!!!昨日今日の話ではない!!どれだけ拭っても消せないような濃密な血の臭いがね」

 

 

 しばらく場が沈黙したが目の前の女が笑いだした。

 

「ふふ、ふふふ、あはははっははは」

 

 俺に緊張が走った。髪の隙間から見える眼に「狂気」が宿っていたからだ。

 

「素晴らしいわ一夏君。あの短時間にそれだけの推理、思考、直感が出てくるなんて……称賛に値するわ」

 

 若干興奮気味に頬を赤らめながら女は言う。と、ここでもう一人の女が口を開いた。

 

「それぐらいにしとけよスコール。写真を見た時からこいつがただ者じゃねぇことぐらい分かっていただろう」

 

 …スコール?スコール……スコール!!??じゃあ、今喋っているこいつは

 

「あらそうね、ごめんなさいオータム。ついつい彼とのおしゃべりが楽しくて」

 

 そんな風ににこやかに女…いやオータムに語りかけた。

 

 

 

ああ、間違いない…こいつら原作でも出てきた「スコール」と「オータム」じゃねえか!!!

 




いかがだったでしょうか
感想並びに評価をお待ちしております。
また近々、誤字脱字の修正と改行作業を行いたいと思います。
ではまた次回。


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死闘2

皆さんに楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・。


「ブリュンヒルデの弟である織斑一夏を拉致するわよ」

 

 その任務をスコールから聞いた時、ソファーで寝そべっていたアタシは自分でも分かるくらいのアホ見たいな顔をしていた。

 

「おいスコール、もう一度任務の内容を言ってくれないか?」

 

 ふつふつと沸いて来る怒りを抑えて改めて恋人であるスコールに問いかけた。だがスコールはにこやかに繰り返すだけだった。

 

「あら、聞こえなかったかしら?じゃあもう一回言うわね「スコール並びにオータム両名はブリュンヒルデの弟である織斑一夏を拉致せよ」という任務が先程決定したわ」

 

 その瞬間私はブチ切れた。

 

「ふざけんのも大概にしろスコール!!このアタシは泣く子も黙るオータム様だぞ!!それがたった一匹の男のガキを誘拐して来いだぁ!!んなもん下っ端の仕事だろうが!!!」

 

 あたしらクラスの人間であれば送られてくる任務をある程度拒否することが出来る。どう考えてもこんな任務は下っ端の役目だ…。それに加え「男」ってとこがまた虫唾が走る。

 

 あたしが見てきた男なんざどいつもこいつも「家畜」と同程度の存在だった。女と分かって強気に出てくる奴らもISをチラつかせれば犬みたいに頭を垂れるのだ。

 

 そんな男共に愛想を尽かせたアタシは、現在スコールと言う恋人がいる。

 

「落ち着いてオータム」

 

 そう笑みを零しながらスコールはアタシの手を握った。

 

「確かに私もこの程度の任務は下級構成員で事足りると思ったわ・・・この写真を見るまではね」

 

 そう言って、1枚の写真を差し出してきた。その写真には1人のガキが写っていた。

「!!!!」

 

 その瞬間、私の身体に電流が走った。

 

 何だこいつは?写っているのはどこにでもいる穏やかに笑みを浮かべるガキだ。だが問題はそこじゃない。

 

 …こいつの「眼」はなんだ?多くの戦場で多くの敵の眼を見てきた。色んな眼をしたやつを見てきた。 だがそんなもんが一瞬で吹っ飛んでしまった。こいつの眼からはあらゆる「負」が読み取れた。

 

 恐怖、後悔、無念、嫌悪、軽蔑、嫉妬、破壊、殺意、空虚、憎悪、憤怒、悲哀、苦痛、狂気、絶望…。

 

 それを全部1つの鍋にぶち込んでゆっくり時間をかけて抽出したもの。

 

 そう闇だ!!うまく笑顔の仮面で隠しているつもりだがアタシの眼はごまかせない。このガキ、常人じゃ発狂しそうなほどの闇を抱えている。なのにそんな事を何でもないかの様な穏やかな笑みを浮かべていやがる?

 

 …一体どんな精神構造をしていやがるんだ!?

 

「分かってくれたみたいね。オータム」

 

 そう笑顔を浮かべるスコール

 

「ああ、理解したよ。何なんだこいつは?本当に同じ人間か?」

 

「その子がターゲットの織斑一夏よ」

 

「!?そうか~、こいつが・・・こりゃ下っ端にはまかせられねぇな~」

 

 自然と笑みが零れてくる。自覚できる今自分はとんでもない笑みを浮かべてるだろう。

 

「決行は3日後。準備しといてね」

 

 そう言って、スコールは部屋から去って行った。

 

 

 あ~、楽しみだ。いつ以来だ?こんなに気分が高揚したのは…早く会いたいな織斑一夏…

 

 

 

 

 

 オータムの言葉で周りの雰囲気が変わった、いよいよだ。この世界に来て初めての「実戦」…恐らく「命のやり取り」になるだろう。俺は初めて本気を出す。

 

 唐突だが俺はよく「あるがまま」という思考を使う。これは状況をしっかりと受け止め今後の対処を考える時、所謂「外側」に関して考える時に使っているが、最初は違った。

 

 俺自身の「内側」にあるどうしようもない負の感情を内在化させるために使っていた。この世界に無理やり転生させられたことへのあらゆる負の感情。それを時間をかけてゆっくりと心に定着させていったのだ。

 

 普通の主人公ならばそれらの感情を乗り越えることで強くなるであろうが、俺の場合はこの感情をあえて心に沁み込ませたのだ。これらの感情だって俺が思った事に違いはない、それを伴った上でこの世界に生きると決めた。こうして酷く歪な織斑一夏が出来上がった。だが後悔はない大切な者を守るためには、こういった負の感情も大いに役立つからだ。

 

 そして、俺は今あらゆる「負の感情」をこの場で出すことを決めた。これが俺の本気だ。さぁ戦おうか。イキシニヲカケテ…。サァ!!イクゾ!!!ブタノヨウナヒメイヲアゲロ。

 

 

 

 最初に「それ」気付いたのは、スコールとオータムだった。そして伝播するように周りも気付いた。雰囲気が変わった…彼を中心にして熱を奪われているような錯覚を受けた。冷や汗が流れる、まるで丸腰で怪物の檻に入れられたみたいだ。

 

 彼が構える両腕を頭の位置まで上げ右足を半歩引く基本的なファイティングポーズだが、顔は影が遮って見えていない。それを見て緊張に耐え切れなくなった一人の男が彼に向っていく。

 

「よせ!!!」

 

 オータムが無意識に声を出した。男の右ストレートが一夏の顔面を捕え…なかった。

 

 それより早く一夏が男の喉(のど)に拳を叩き込んだからだ。

 

「かっ!?!?」

 

 声にならない声を上げながら膝をつく男に一夏は容赦なく攻め立てる。下を向いていた顔にアッパーを喰らわせることで無理やり上を向かせ、振り子のように戻ってきた所に膝蹴りを入れる。男は糸が切れたかのようにうつ伏せに倒れたが更なる追撃を加える。その後頭部に容赦のないジャンピングエルボー叩き込んだ。

 

 悠然と起き上がる一夏。誰も声が出なかった戦慄を覚えたからだ、一連の動きに何の容赦も躊躇もなかった。まるで、そうすることが当然のような無駄のない、そして慈悲のかけらもない攻撃。ここで一夏の表情がやっと確認できた。

 

 眼の瞳孔は開き、口は三日月を描くようにニタリと笑っていた。

 

 だれもが思った・・・人間じゃない・・・化け物だ

 

 残った男2人が同時に攻めようとして

 

「やめろ!!!」

 

 オータムの怒鳴り声が響いた。

 

「お前たちじゃ束になっても敵わねぇよ。そこに転がってる男を回収して下がってな」

 

 オータムは静かに、だが有無は言わせないと言外に伝えた。男たちは止む終えず男を回収して下がった。息をしている…どうやら死んではいないらしい。

 

 

「スコール、…一つ訂正がある。」

 

「なにかしら?」

 

「アタシは、あいつの事を同じ人間かって聞いたよな?」

 

「ええ」

 

「あれ訂正する。ありゃ間違いなく…化け物だ」

 

そう言いながらオータムが一夏の前に出た。

 

「おいガキ、次はこのオータム様が相手になってやるよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 一夏は答えない。ニタリと笑い再び先ほどの構えをとった。

 

 ここで、オータムは少し一夏を挑発してみた。純粋に気になったからだ自分がISを持っている事を知ったらどうなるか?他の男と同じに用にはならないだろうが気になってしまった。しかしこの行為は一夏の逆鱗に触れるものでしかなかった。

 

「おいガキ、良い事教えてやるよ。アタシはISを持ってる。今ここで展開すればてめぇなんざ紙を引き裂くのと同じように殺せる。どうする?」

 

 その瞬間、一夏の表情はさらに変化した。明らかな怒りを含んだ獰猛な笑みに変わった。

 

「それがどうした!それがこの「闘争」をやめる理由にでもなるのか?能書き垂れてねぇでさっさとかかってこい!!ハリーハリー!!!!!!」

 

 それを聞いた瞬間オータムは歓喜の震えに襲われた。

 

「ふふ、ははっは、…そう、そうだよな。そんなもんは関係ないよな。悪かったよ「一夏」、ISなんざ使わねぇ。そんな事したらせっかくのお楽しみが台無しになっちまうもんな~」

 

 スコールは、自分の耳を疑った。あの男嫌いのオータムが彼の名前を呼んだのだ。なるほど、どうやらオータムは彼を認めたらしい、私も彼の事は気に入っている。

 

「決勝戦が始まるまでどれくらい時間があるかしら?」

 

 近くの男に聞いた。

 

「約2時間後です」

 

 2時間か・・・だったら

 

「あなた達は、当初の予定通りに動きなさい。それまで誰も此処へは近づかせてはダメよ」

 

「分かりました。指示に従います。」

 

 そう言って男達は、そのまま消えて行った。

 

 私はここでも見守ろう。この戦いの行く末を、どんな結末が訪れるのかただ見守ろう。

 

 

 

 

 

 最初に動いたのはオータムだった。

 

 ものすごいスピードで一夏に近づき、その顔に拳を繰り出す。ギリギリのところで回避した一夏が逆にオータムの脇腹に拳を叩き込んだ。苦悶の表情をするオータム。

 

 追撃を加えようとするが、反対側の拳が一夏の顔に振り下ろされた。二歩ほど後ろに下がり体勢を立て直す一夏。追撃を加えようとするオータムにローキックで牽制するがオータムは飛び上がりそのまま左わき腹え蹴りを叩き込む。まともに入った…。

 

 さらによろめくがこれは一夏のブラフ。勢いに乗って攻撃してきたオータムの顔に右斜めから変則的なアッパー喰らわせる。オータムの首が跳ね上がる。更にがら空きになった腹に前蹴りを叩き込む。これによって互いに距離が開いた。呼吸を整えつつ互いを見合う、両者が獰猛な笑みを浮かべていた。互いに分かっていたかのように距離を縮め互いに顔に拳がめり込む。

 

 

 それからは両者の拮抗した状態が続いた。殴れば殴られ、殴られれば殴り返し、蹴れば蹴られ、蹴られれば蹴り返す。そして時は現在に至ったのだ。

 

 

 

 

「なぁ~一夏~、あたしたちと一緒に行こう。あんたは絶対に「こちら側の人間」だ。あんたほどの男がこんな生温い世界にいること自体が異常なんだよ。その眼の奥に燻っている常人じゃ発狂しかねない程の闇・・・。あたしらだったらまとめて受け止める事が出来る。だから来い一夏!!あたしら「亡国企業(ファントム・タスク)のもとへ、そして…、この「オータム」様のものになっちまえよ!!!」

 

 

 オータムの話が終わったようだ。こちも準備が出来た。

 

「…オータム」

 

 俺は、静かに語りかけた。

 

「何だ一夏?」

 

「最後だ」

 

「あ?」

 

「俺は今から最後の一撃を放つ」

 

「っ!!」

 

「これでもしお前が立っていたならお前の勝ちだ。どこへ成りとも連れて行け。だが、もしお前が倒れたら・・・黙って見逃せ。俺は…姉さんの試合を見に行くんだからな」

 

 俺は構えをとる。左足を前に肩幅大にまで開き、左手をオータムに向け伸ばし右拳を自分の体に引き込み力を込める。そこに「あるイメージ」を加える。身体の関節数十箇所を全て固定するイメージだ。

 

「いいぜ、その賭け乗ったぜ!!」

 

再び笑みを浮かべてオータムは突っ込んできた

 

「お前は私のもんだ、一夏!!!!!!!」

 

 

このタイミングだ!ここしかない!!俺は全ての力を右手に乗せてオータムに叩き込んだ。

 

 

 

メキメキ

 

 

 

 

 ……骨が軋む音がした。なんだ?俺はオータムを打ったはずなのに。何か壁みたいなものに遮られた????

 

 

 

 そこで俺は頭に衝撃を受け意識を手放した。

 




いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしております。
ちなみに後1~2話続きます

では次回。


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死闘3

「死闘」完結です。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・・


 衝撃の光景だった。一夏君が放った技、間違いない…あれは「剛体術」だ。

 

 パンチの動作に稼働する関節は実に数十箇所ある。同時にこれは数十箇所のクッションが存在するという事になる。そしてこのクッションこそが打撃の最大の障害となっている。もし仮に、このクッションを完全に固定化できたなら…人は鉄球になれる。一夏君の体重が約60キロと仮定すると文字通り60キロの鉄球の出来上がりだ。この年齢でこれほどの技を習得しているとは、畏怖すら感じてしまう。

 

 そんな正気の沙汰とも思えないバカげた拳がオータムの胸部に向かって放たれる。当たれば良くて肋骨の粉砕骨折、最悪命を落とすかもしれない…。

 

 だが手出しは出来ない。そんな事をすれば彼女のプライドを傷つけることになる。

 

 両者の拳が交差する。僅かにだが一夏君の拳の方が速い!!やられる。私がそう思った時、更なる衝撃的な光景が起こったのだ。

 

 突如としてオータムの胸にISの装甲が部分展開された。次の瞬間に聞いたことがある嫌な音、骨が何らかの障害を発する音だ。そんな状態で無我夢中のオータムは一夏君に拳を叩き込込む、喰らった一夏君は前のめりに崩れ落ちた。恐らくISが搭乗者の生命の危機を感知して自動的に部分展開を行ったのだろう。

 

 呼吸を整えながらオータムは訳が分からないといった表情をしていた。彼女は分かっていたんだ一夏君の拳が自分を先に捉えていた事を…。

 

 そしてやっと事態を把握した、自分の胸にISの装甲が展開れている事に…。彼女は青ざめた表情でガタガタと震えだした。そして倒れている一夏君の傍でへたり込んだ。

 

「お、おい一夏、ま、待ってくれ。これは違うんだ。ア、アタシはISなんて使っちゃいない!!」

 

 見ていられなかった。オータムはこの戦いを心の底から楽しんでいた。まるで長年待ちわびた恋人との語らいのように、この戦いで命を落としても本望だったのだろう。それがこんな形での幕引きだ。悔むに悔やみきれない…。

 

「なぁ頼む一夏、起きてくれ!!あんたの拳は間違いなくアタシを先に捉えていた!!なのにこんな、こんな終わり方ってねぇだろ!!!」

 

 そんな時に通信機から連絡が入った。どうやら潮時のようだ。私はオータムの肩に手を掛ける。

 

「オータム、時間よ。…ドイツ軍へのリークが済んだわ。もう此処にはいられない。」

 

 しばらくして、オータムは立ちあがった。しかしその顔は、酷く憔悴していた。

 

「一夏は、一夏は置いて行く。もうどのツラ下げて、こいつに会ったらいいか…アタシには分からねぇよ」

 

「……」

 

 私は何も言えなかった。酷く緩慢な足取りで出口に向かうオータムに肩を貸しながら一緒に進む。

 

 

 

 だん!!!!

 

 

 

 

 その音は私たちの近くから聞こえてきた。力強く大地を踏みしめる音、…ありえない。今この場には、私とオータムと倒れている一夏君しかいない。私とオータムは弾かれた様に後ろを向いた。

 

 

 この子には…何度となく驚かされていたが、最後の最後にこんな「サプライズ」があったとは…。

 

 彼は…立ち上がろうとしていた。膝が震えガクリとなる、それでも倒れない。そして完全に立ち上がったのだ。だがそれだけじゃなかった。あろうことか彼は、震える腕を必死に上げながら戦闘の構えを取ろうとしている。

 

 

 

 

「くくく、あははあはっはは、ひひはは、はーははははっはははっはは!!!」

 

 隣りからけたたましい笑い声が響いた。オータムだ。もう先ほどの憔悴した彼女はいない。そっと私の手をどけて再び戦闘態勢をとった。

 

「アタシの声が聞こえたか一夏?それなら本当に嬉しいぜ。柄じゃないが言わせてくれ…愛してるぜ一夏!お前はアタシが愛するに値する唯一の男だ!!」

 

 そう言いながら、彼女は一夏君に向かって飛び出す。拳を振り上げ一夏君に当り…そうになって止まった。なんだ?何が起こったの?私が一人考えていると、オータムが声を出した。

 

「スコール・・・。こいつ…意識が…ない。」

 

 意識がない?…意識がない!!慌てて一夏君の傍に寄った。そして見てしまった。その眼に…光はなかった。

 

 オータムはだらりと腕の下げ、彼に近づいて壊れ物を扱うような動きで一夏君の頬に手を添えた。

 

「一夏…今回はアタシの負けだ。認めるよ…。だが、必ずお前をアタシのものにする!!それまではせいぜい、ぬるま湯の世界で楽しく過ごしてな…」

 

 そう言ってオータムは足早に出て行った。すれ違い様に見た彼女の頬に流れる光るものは、私の見間違いではなかっただろう・・・。

 

「ありがとう一夏君。オータム…とても満たされていたわ。ふふ、私も君のファンになってしまったみたいね。それじゃ縁があったらまた会いましょう」

 

 そしてその場に残ったのは、戦いの終焉を知らない一夏だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始5分前

 

「一夏が拉致された?」

 

 初めは言っている意味がよく分らなかった…。

 

「はい、現在ドイツ軍の情報部が総力を挙げて捜索に当たっています」

 

 なぜだ?一夏が、どうして?私は突然足元が崩れ去った感覚に引きずり込まれそうになった時、突然ドアが開いた。入ってきたのは左目に眼帯を巻いた小柄な銀髪の少女だ。

 

「失礼します!!先程、情報部より新しい情報が入りました。どうやら織斑一夏さんは試合会場付近の廃工場にいるらしいです」

 

 それを聞いた瞬間、私は暮桜を展開した。

 

「お、お待ちください。何処へ行かれるつもりですか!?」

 

 スタッフが慌てて止めに入る。

 

「知れた事だ…。家族を助けにいく!!」

 

 失ってたまるか。これ以上…私の大切な家族を失ってたまるか!!

 

「今出て行けば失格になってしまいいます!!」

 

 尚も食い下がるスタッフ。

 

「どけ…私の邪魔を知るなら…」

 

 斬る。そう言外に伝わった。周囲に緊張が走る。その時、少女が叫んだ。

 

「あの…私も連れて行ってください!!決して足手まといにはなりません!!」

 

 突然のことだったが、この状況を切り抜けるには形振り構ってられない。

 

「…名前は?」

 

「ハッ!!ラウラ・ボーデヴィッヒ中尉であります」

 

「よし、案内を頼むぞ中尉」

 

 そう言って私は彼女を右腕で抱えた。

 

「はい!!」

 

「では、行くぞ!!」

 

 私は空へと駆ける。待っていろ一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 中尉の案内もあってその廃工場にはすぐに着いた。私は中尉を下がらせ展開した雪片で入口を切り裂いた。注意深く1歩、2歩と中へと入ってすぐに気付いた。

 

「うっ!?」

 

 隣で中尉が鼻を覆った。むせかえる様な濃密な血の臭いだ…。

 

 

まさか…。

 

 

「大丈夫か…中尉」

 

「は、はい。進みましょう」

 

 中尉は銃を構えながら先頭を進んだ。

 

 少しするとハイパーセンサーが生命反応を捉えた。

 

「中尉…気をつけろ。前方に誰かいる」

 

 私の言葉に更に緊張感を高めた。暗闇に誰かいる。その時、月明かりがその人物を照らした。

 

 

 

 

「…い、一夏?」

 

 血だまりの中で私の弟が、構えをとって佇んでいた。眼に光がない、気絶しているのだ。その姿はボロボロだった。どこもかしくもが傷だらけで無事な部分を探すほうが難しかった。特に右拳は皮膚を突き破って骨が出ていた。

 

 隣で中尉も唖然としている。間違いない一夏は戦っていたんだ。こんなボロボロの姿になっても戦っていた…。まさに「死闘」だったのだろう。気を失っても構えだけは緩めていない。

 

 

 …だが、もう終わったんだ。

 

 

 私はゆっくりと一夏に近づいた。

 

「一夏、もう…終わった。もう…拳をおろして、大丈夫だ。…良く、頑張ったな」

 

 私は言葉が震えた…。気をしっかり持たないと、この場で泣き崩れてしまいそうだから。

 

 その瞬間、私の言葉を待っていたかのように上げていた腕がダラリと下がり身体が前のめりに倒れた。私が慌てて抱きかかえると、一夏はボソボソと何かを繰り返していた。

 

「ま、も、る、おれ、が、まもる、だ」

 

 それを聞いた瞬間、私の涙腺は決壊してしまった。…やっと分かった。一夏は、私を守るために戦ったんだ。恐らく敵はとてつもなく強かったんだろう、恐怖もあったのだろう。だが一夏は逃げなかった。自分の大切な者を守るために命をかけて戦ったのだ。

 

 馬鹿者が!お前がそんなボロボロの姿では、私は嬉しくもなんともないんだぞ!!しかし聡明な一夏の事だ。それを分かった上で戦ったのだろう。だから私は伝える「感謝の言葉」を愛する弟に…。

 

「あ、ありが、とう。ありがとう一夏…本当にありがとう」

 

 そうやって私は、医療チームが来るまでしっかりと一夏を抱きしめていた。

 




いかがだったでしょうか。うまくまとまっているか心配です。

感想並びに評価をお待ちしています。

では次回。


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死闘を終えて

その後のことです

皆様が楽しんでいただければ幸いです。

ではどうぞ・・・


 最初に眼にしたのは真っ白い天井だった。意識が少しづつハッキリしていく、どうやら随分と眠っていたらしい…。

 

 とりあえずこの言葉は言っておかないと。

 

「知らない天井だ…」

 

 何言ってんだ俺?とりあえず感覚的に自分がベットの上で寝ているのは分かる。

 

「ん?気が付いたか」

 

 誰かいるのだろうか?痛む首を少しづつ声のする方へ向ける。そこに居たのは小柄で長い銀髪をなびかせ左目に眼帯をした少女だった。

 

 会った事ある。主に前世の二次元で…。

 

「私の声が聞こえるか?」

 

「…うん」

 

「うむ、意識はハッキリしているようだな。お前は5日近く眠っていたんだぞ」

 

 5日?・・・・5日!?

 

「あ、いたた!!」

 

 身体を起こす動作をすると全身に激痛が走った。

 

「お、おい!?無理をするな。手伝ってやるから少しづつ身体を起すんだ」

 

 そう言いながら彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒ俺の背中を支えながらゆっくりと起こしてくれた。

 

「あ、ありがとう。えーっと…」

 

「?、ああ、自己紹介がまだだったな。しばらくの間、お前の警護をするラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 そうラウラちゃんは自己紹介してくれた。

 

「そ、そうなんだ。よろしくお願いします、ボーデヴィッヒさん」

 

 初対面で呼び捨てする勇気なんて俺にはありません!!

 

「そう、堅苦しくしなくて良いぞ。それと私のことはラウラで良い。私もお前のことを一夏と呼ぶ、異論は認めんぞ」

 

 はい、早速ラウラさんから名言をいただきました。ありがとうございまーす。

 

「わかったよ。よろしくラウラ」

 

「うむ」

 

 ラウラちゃんは、優しい表情で答えてくれた。

 

 そうだ、これは聞いておかないと…。

 

「ねぇラウラ。姉さんの試合はどうなったの」

 

「「教官」は…、決勝を投げ出してお前を助けに行った。当然だが試合は相手の不戦勝だったよ」

 

 やはりそうなってしまったか。俺は負けてしまったんだろうな。

 

 ………あれ?今ラウラは千冬姉さんのことを「教官」と呼ばなかったか?

 

「あの、ラウラ聞いてもいいかな?」

 

「どうしたのだ?」

 

「今ラウラは、千冬姉さんのことを「教官」って言ったよね。どういうことかなと思ってさ」

 

「ああ、それは…」

 

「ラウラ、それは私から話す」

 

そこには、いつの間にか花束を持った千冬姉さんが立っていた。

 

「きょ、教官!?」

 

 ラウラちゃんは慌てて敬礼をとった。

 

「ラウラ、しばらく一夏と話をしたい。席を外してくれ」

 

「ハッ!では私は外で待機しています。ではな一夏」

 

 そう言ってラウラちゃんは部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 千冬姉さんは、手早く花瓶に花を飾ると俺の近くにある備え付けの椅子に座った。

 

「……」

 

「……」

 

 く、空気が思い。そりゃそうだこんだけの大怪我しちまったし、5日間も意識が戻らなかったようだし、・・・何にしても謝らないとな。そんな風に俺が思考していた時に、突然何かが覆いかぶさった。

 

 でもすぐに分かった。姉さんだ。姉さんが俺を抱きしめているんだ。姉さんの体は震えていた。

 

「馬鹿者、この大馬鹿者め!!どれだけ心配したか分かっているのか?眼を覚まさないお前を私がどんな思いで待っていたか分かっているのか?この馬鹿者め、こ、の、ば、ば、ばか、ばか、ううう」

 

 …泣いている。姉さんが泣いている。どれだけツライことがあっても気丈に振舞っていたあの姉さんが、声を押し殺して泣いているんだ。今までひた隠しにしてきた胸の内を抑えきれなかったのだろう。

 

 なら、俺がやることは一つだ。痛む体を押して姉さんの身体をギュッと抱きしめた。そして比較的痛みが少ない左手で姉さんの背中を優しくさする。

 

「ごめんなさい、姉さん。たくさん心配掛けてごめんね。でも大丈夫、俺は姉さんを一人にはさせないから。何処にも行ったりしないから…。だから…泣いて良いん

だよ。もう…泣いて良いんだよ」

 

「う、う、う、うあああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 俺の言葉が引き金になったのか姉さんは今まで溜めていたものを全て曝け出す様に泣いた。暖かい涙がとめどなく零れて行った。

 

 しばらくそうやって抱きしめていると不意に姉さんが俺の背中を優しく叩いた。どうやらもう大丈夫という合図らしい。俺はゆっくりと抱きしめていた腕を解いた。

 

 そこには、目元を赤く腫らしながらも今までにないほど穏やかな表情をした姉さんの顔があった。

 

 そうだ、姉さんも束さんも同じなんだ。誰にも言えないような大きな思いを抱えながらこの世界で必死に生きている。

 

 弱音も吐けない、弱みも見せられない…常に気を張ってないと自分が自分でなくなってしまうのかもしれない恐怖と闘っているんだ…。

 

 俺が出来ること、些細な事だが2人の拠り所になろう。2人が家に帰って来た時、その一瞬だけでも心も体も休められるように、2人がまた戦えるように・・・。

 

 

「す、すまなかったな一夏」

 

 少し頬を赤らめて姉さんが言う。いっちゃなんだがとても可愛らしい。

 

「うんうん、もう大丈夫?」

 

「ああ、お陰でだいぶ楽になった。(この私が、こんな簡単に泣いてしまうとは…、まったく我が弟ながら恐ろしいものだ。)」

 

そう言う姉さんは、なぜか苦笑いを浮かべていた。

 

「そう言えばラウラが言ってた教官の事なんだけど…」

 

「ああ、そうだなそれも含めて説明しよう」

 

 

 姉さんの説明を要約するとこんな感じだ。

 

 試合開始直前に俺の拉致を聞いた姉さんは、報告に来たラウラちゃんを引き連れて俺が死闘をした廃工場まで来た。そこで見たのは、血塗れになりながらも戦いの構えを取りながら気絶していた俺だけがいたそうだ。すぐに駆けつけた医療班に俺を任せ病院に直行した。その際、護衛にラウラちゃんを付けたようだ。

 

 翌日、姉さんは不戦敗の責任を取る形で引退を宣言した。元々この大会が終わったら引退するらしかったので姉さん自身は何とも思ってないらしい。なんだか俺が複雑だ…。

 

 それから二・三日日か過ぎて、姉さんは諸々の礼も兼ねてラウラちゃんが所属する「黒兎部隊」へ1年間限定での教官をしたいとドイツ軍に対して申し出たそうだ。

 

 ドイツ軍は、これを二つ返事で承諾し現在の姉さんはISの教官を務める事になったようである。色々な準備などがあるため正確にはまだ教官ではないらしいが…。

 

 

「そっか~、俺が眠ってる間にそんなん事があったんだね」

 

「ああ、しばらくはお前を一人にさせてしまうな…」

 

 そう言う姉さんはどこか申し訳なさそうだった。

 

「俺は大丈夫だよ。姉さんは自分の道を信じて進んで」

 

 俺がニッコリ笑って言うと姉さんは一瞬目を見開いたが、どこかイタズラっぽい笑顔を浮かべて俺の頬をツンツンしだした。

 

「全く、弟のくせに生意気だぞ」

 

「や、やめてよ姉さん。恥ずかしいよ」

 

 そう俺が言うと更に笑みを浮かべてツンツンしだした。

 

「ほう、一夏が恥ずかしがる事なんてそうはないからな、もう少し堪能させてもらおうかな」

 

 そんな感じで俺はしばらく姉さんのおもちゃにされていた。

 

 

 

 

 

一週間後

 

 あれから、病院の検査で特に異常がない事が分かった俺は、松葉杖をつきながらではあるが歩行が出来るまでに回復した。…これが主人公だけが持つ驚異の回復力なのだろうか?原作であれだけボコボコにされているのに一夏ってほとんど無傷だもんな~。ただ右拳の傷は相当に酷かったようで完治にはもうしばらくかかるようだ。

 

 まぁ、骨が皮膚を突き破って出てたみたいだからしょうがないか。ちなみにしばらくの間は食事をラウラちゃんに手伝ってもらった。具体的には「アーン」してもらった。恥かしかったけどラウラちゃんも楽しそうだったし良しとするか。ラウラちゃんの視線からは、どこか俺を尊敬しているような感じを受けたのだが…何かしたかな俺?全然記憶にないぞ。

 

 それから俺達は、帰国の途に着くことになった。見送りにはラウラちゃんが来てくれた。

 

 

「ラウラ、短い間だったけどお世話になりました。右手はちょっと厳しいから今回は左手で許してな」

 

 俺はそう言って左手を差し出した。

 

「何、気にする事はないさ。こちらも楽しかったぞ。またアーンしてやるぞ」

 

 握手に応じながら、そうイタズラっぽく笑うラウラちゃんにおれは苦笑いを返すしかなかった

 

「ラウラ、お前には世話になった。ここに戻ったらお前は私の生徒第一号だ。1年でお前を部隊のナンバー1にしてやる。その変わりビシバシ行くから覚悟しとけよ」

 

「ハッ!!よろしくご指導お願いします!!」

 

 そう言ってラウラちゃんは綺麗な敬礼を取った。空港のアナウンスが聞こえる

 

「それじゃあ、そろそろ行くね」

 

「ああ、道中気を付けてな」

 

 俺は頷いて背中を向けた。しばらく進むと突然大きな声が聞こえた。

 

 

 

「一夏!!」

 

 

 ラウラちゃんの声に俺が振り向く

 

「私は絶対に強くなる!!そしてお前のように誇り高くなる。だからお前も頑張れ!!」

 

 そう叫ぶラウラちゃん。俺はどこか嬉しくなった。

 

「うん!!俺ももっと強くなるよ!!またねラウラ」

 

 そう叫び返し今度こそ振り向かず、ゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 この世界に来て初めて本気の勝負をし、初めて敗北したが得る物も多かった。

 

 

 

 強くなろう…もっと、もっとだ。

 




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ではまた次回。


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共同生活

 リアルが忙しくなってきた。
 皆様が楽しんでいただければ幸いです
 ではどうぞ・・・


 どうも傷だらけの織斑一夏です。あれから3日後に姉さんはドイツへと旅立っていった。これでしばらく一人での生活か~。うーん、左手は少し痛む程度だけど肝心の利き手がこの有様だし…食事とか風呂とかどうしようかな?そんな思考をしていると。

 

ピンポーン、ピンポーン

 

「ん?」

 

画面を見てみると鈴ちゃんがいた。

 

「鈴?どうしたの急に?」

 

「やっといたわね。どうしたのじゃないわよ。ずっと学校にも顔見せないで、クラスの皆も心配してたのよ!!」

 

 あーそう言えば、しばらく学校にも行けてなかったな。…色々ありすぎてすっかり忘れてた。

 

「ごめん。今開けるからちょっと待っててね」

 

松葉杖をつきながら玄関の扉を開けた

 

「もう~一体どうしたのよ。一・・夏?・・・・・」

 

「ん?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 鈴ちゃんの顔が急激に青くなりガタガタと身体が震えだした。

 

「あ…」

 

 そこでようやく悟った。。この時俺は失念していた。鈴にケガのことを全然話していなかったのだ。

 

「キ・・・・・」

 

 き?

 

「キャアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

辺りに響く鈴の悲鳴

 

「どどどどどど、どうしたのよ一夏その怪我は!?」

 

「あ、えっと、いや、その~」

 

 あまりの鈴ちゃんの勢いに俺はしどろもどろになるしかなかった。

 

「ととと、とにかく家に入って!!!」

 

俺は鈴の促されるままに家に入った。

 

 

 

 はい、今俺はお布団で寝ています。うーん見た目ほど悪くはないんだけど俺の言葉を頑として受け入れない鈴に半ば強引に寝かされているのだ。

 

「はぁ~~、ビックリしたわ…。寿命が縮んだわ」

 

「ごめんね、色々バタバタしてて連絡入れられなかったよ」

 

 素直に謝った。

 

「一体何があったの?千冬さんは突然引退しちゃうし、一夏は大けがしてるし、分からない事だらけよ…」

 

 至極真っ当な質問だ。うーんどうしたものか。これについては緘口令に近いものが言い渡されてしまったし・・・。さて、どうしたものか

 

「う~ん、ちょっと猛獣見たいのとやり合っちゃって…」

 

 あながち間違いではないだろう。

 

「あんたドイツに何しに行ったのよ!異種格闘戦!?」

 

 至極真っ当な突っ込みありがとうございます。

 

「本当にごめんね。これ以上の事は俺の口からはちょっと…」

 

「む~~」

 

 眉間にしわを寄せながら唸る鈴ちゃん、しばらくすると溜息を吐いた

 

「はー、まぁ良いわ。いつもは、ぽわぽわしてるくせに時々とんでもないことするんだから、こっちは気が気じゃないわよ」

 

 うーむ、なんだかお母さんに怒られているみたいだ…。でも心配かけたことも確かだし、ここは黙って謝るのみだな。

 

「本当にすみません」

 

「もう良いわよ。ところで、その怪我で食事とかお風呂とかどうするつもりだったの?」

 

「実は、それを今考えてたところなんだよね。どうしたものか…」

 

 少し考えていると急に鈴ちゃんが真剣な表情で立ちあがった。

 

「一夏、ちょっと電話してくるわね」

 

 そう言って部屋から出て行った。…なんだか嫌な予感しかしない

 

 しばらくして部屋から戻ってきた鈴に唐突にこう告げられた。

 

 

 

 

「一夏、今日からしばらくここに住むわ。」

 

 

 

 

 

「……・…え???えーーーーーー!!!!!!」

 

 突然何を言いだしてんだ!?この中華娘!

 

「ななな、何言ってんだよ鈴!そんなのダメに決まってるだろ!!」

 

「しょうがないじゃない。そんな松葉杖ついてる身体じゃまともに料理も着替えも出来ないし、お、お、お風呂にだって入れないじゃない!!」

 

 おい!なんで風呂でどもった!?

 

「風呂は、身体拭くから大丈夫だよ」

 

「そういう問題じゃないでしょ!!と・に・か・く!アタシは、もう決めたんだから!!良いって言うまでここを一歩も動かないんだからね」

 

 そう言うとドカリと胡坐をかいて俺に背を向けてしまった。

 

 弱った。こうなると鈴は絶対に自分の意志を曲げない…。だが鈴が言う事も正論ではあるし…。

 

 ハァ~、背に腹は代えられないか・・・。

 

「…わかった」

 

「…え?」

 

「鈴が言う事も正論だしね…」

 

「ほ、ホントに?」

 

「ただし2週間」

 

 そう言って痛む左手で2本指を作る。

 

「2週間?」

 

「松葉杖がとれて、左手が治るのに2週間って言われてるんだ。その間、鈴の世話になる。この提案が受け入れられなかったら俺も絶対に首を縦に振らない。」

 

 これが最大限の譲歩だ

 

「…分かった。それで良いわ」

 

 不承不承と言った感じだが納得してくれたみたいだ。

 

「じゃあ私、家から荷物とってくるね。一夏はしっかり寝てなさいよ。」

 

 そう言うとリビングから出て行ってしまった。

 

「ハァ~…」

 

 思わず溜息が漏れてしまう。まさかこんなことになってしまうとは思ってもみなかった・・・。

 

 

 さてはて、一体どうなる事やら・・・。

 

 

 それから俺と鈴ちゃんとの共同生活が始まった。

 

 

 

 

食事風景

 

「一夏~、ご飯が出来たわよ」

 

 そういってエプロンをした鈴ちゃんがお粥を持ってきてくれた。鈴が持ってきたお粥は所謂「中華粥」と言われるもので生姜とゴマ油の香りが食欲をそそった。

 

 具はごはん・鳥の胸肉・青ネギと結構シンプルな作りになっている。まぁ怪我人には丁度良いだろう。

 

「い、一夏の手がそんなんだから、た、た、食べさせてあげるね」

 

 そう言いながら顔を真っ赤にして震える手でレンゲを持ちお粥を一掬いして俺の顔まで持ってきた。

 

ブルブルブルブルブルブルブルブル

 

「あ、あの鈴?」

 

「あ、あ、あーーーん」

 

「いやね、だから鈴?」

 

「な、何よ!!私に食べさせてもらうのが不満だっていうの!?」

 

 顔を別の意味で真っ赤にして詰め寄ってくる鈴ちゃん

 

「いや、そうじゃなくてさ…」

 

「だったら何だって言うのよ!」

 

「レンゲの中に…何もないんだけど」

 

「…へ?」

 

 俺の言ってる事が分からなかったのか、鈴ちゃんがチラッとレンゲを見ている。そこには掬ったはずのお粥がなくなっていた。実は先程の手の振動でお粥が器に戻ってしまったのだ。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい雰囲気が流れる。俺は特に悪い事はしてないがなんだか居た堪れなくなってしまう。

 

 …はぁー、しょうがないか

 

「あーーん」

 

 俺はそう言いながら口を開いた。

 

「え?」

 

 鈴ちゃんが眼をパチクリさせている。

 

「食べさせてくれるんでしょ?あーん」

 

 俺は鈴ちゃんにそう問いかけて再度口を開いた。

 

「う、うん」

 

 幾分か落ち着いた鈴ちゃんが、お粥を掬って暑くないようにフーフーしながら

 

「あーん」

 

 と食べさせてくれた。鳥ガラスープや生姜がよくご飯と絡み合ってて美味しいな。だからちゃんと感想を鈴ちゃんに伝える。

 

「美味しい~」

 

「ほ、本当に!?」

 

「うん、身体に沁み込むよ」

 

「…お、おかわりあるから、ゆっくり食べて」

 

 少し頬を赤く染めながらも鈴ちゃんは食べさせる事をやめなかった。

 

 

お風呂風景

 

「・・・・」

 

「ほ、ほら一夏覚悟を決めなさい」

 

「う、うん。じゃあお願いします」

 

 えー只今、お風呂場の中です。俺は腰にタオルを巻いており、鈴ちゃんは水着姿です。

 

 あーー、ヤ、ヤバい、色々とヤバい…。

 

「じゃー頭から洗わよ。一応防水用にビニール袋かぶせてあるけど、濡れない様に気を付けてね」

 

「はーい」

 

 俺が返事をすると、鈴ちゃんは早速シャワーを俺の頭にかけて行く。

 

 ゴシゴシ。さすがは女の子と言ったところか、鈴ちゃんは丁寧に俺の髪を洗ってくれる。

 

「あー気持ち良い~」

 

 ついついこんな言葉が出てしまう。俺の顔絶対こんな感じ→(◦´꒳`◦)になってるよ。

 

「ふふ、お客さ~ん。何処かかゆいところはありませんか~?」

 

 緊張が解けたのか鈴ちゃんの声からも喜色の感情がうかがえる

 

「大丈夫でーす。とっても上手だよ」

 

「ありがとう、じゃあ流すわね」

 

 そんな感じで背中と手も洗ってもらった。…え?さすがに前は自分でやったよ。

 

 

 

就寝風景

 

「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」

 

 現在午後11:00頃

 

「うん。ところで鈴は俺の隣で寝るの?」

 

 俺が聞くと、鈴は少し顔を赤らめながら

 

「そ、そうね。もし何かあった時に近くに入れた方が良いしね」

 

 そう言いながら、せっせと隣で布団を敷いて行く鈴ちゃん

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

 

「うん、じゃあ一夏。おやすみなさい」

 

そういって鈴ちゃんは電気を消した。

 

 

 

チクタク、チクタク、チクタク、チクタク、チクタク、チクタク、チクタク、チクタク・・・。

 

「「(・・・・・・・ね、寝れない!!)」」

 

 いや!寝れる訳ないじゃん!!隣に眠ってるのは美少女だぞ。しかも多分俺に好意があると思う。

 

 むしろここまでしてくれるんだから、普通に考えて確実にあるでしょ!!

 

 原作一夏!!お前は何で彼女たちの行為に気付かないんだ!

 

 そんな無意味な悪態をつきながら眠れぬ夜は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

学校での風景

 

「ちょっ!!一夏お前一体どうしたんだよ!!」

 

 俺を見た弾君の開口一番のセリフがそれだった。

 

「いやーちょっと向こうで事件に巻き込まれちゃってさ~。心配掛けてごめんな」

 

「それはいいけどさ。その怪我で学校来ても大丈夫なのか?」

 

「見た目ほど怪我は酷くないから大丈夫だ」

 

「そっか、困った事があったら何でも言えよ」

 

「ありがとうな」

 

 それからクラスの皆が代わる代わる様子を見に来てくれた。どうやら俺には人望と言うものがあるらしい。うーん、学校では普段目立たないように生活しているのに・・・。謎だ。

 

そんな感じで鈴との共同生活は過ぎて行く。

 




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ではまた次回


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カウントダウン

大分苦労しました…。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 一夏の怪我を見た時、本気でアタシは気絶してしまうかと思った。特に右手は包帯をぐるぐる巻きにして、見ていて本当に痛ましかった。どうしてそうなったか聞いてみたけど結局詳しくは教えてくれなかった。でも仕方がない、一夏だって言えない事の一つや二つくらいある。以前の私だったら強引に聞き出して場の雰囲気を壊していたかもしれない。

 

 一夏と出会えたことでアタシは確実に変わった。一人で突っ走る事が少なくなり、皆と歩調を合わせるようになれた。

 

一夏には本当に感謝している。

 

 ・・・アタシが好きな人、ずっと一緒に過ごしたいと思える人。

 

 あの陽だまりのような笑顔も好き。

 

 私を守ってくれた狼のような眼も好き。

 

 本当に心の底から好きになってしまった。

 

 

 だからこそ、「別れ」を言うのが辛いんだ。

 

 

 最近になって、父さんと母さんの関係が急速に悪くなってきた。何とか仲直りしてもらおうとアタシなりに色々と手を尽くしたのだが、ほとんど効果がなかった。

 

 そしてアタシは悟ってしまった。恐らくもうすぐ日本を去らねばならない。また一夏に別れの辛さを味あわせてしまう…それが、それがどうしようもなくツライ、胸が張り裂けてしまいそうな程に…。

 

 こんな時だがアタシは一夏が前に話してくれた大切な友達である「篠ノ之箒」の事を今になって思い出してしまった。

 

彼女はどんな思いで一夏の元から離れたのだろうか?

 

 これは女の勘だがその子も一夏に「好意」を寄せていたのだろう。「さよなら」も言えないような状況で別れて行った彼女の事を考えると私は十分に恵まれている。

 

 アタシは半ば強引に一夏のお世話をするという名目で共同生活をする事となった。少しでも、ほんの少しでも長い時間一夏の傍にいたかった。多少渋ったがどうにかOKは貰えた。

 

ごめんね、こんな強引なやり方しか知らなくて…

 

 それからアタシたちの共同生活は始まった。最初はドタバタ感もあったが、2~3日すればそれもなくなり穏やかな日々が続いた。食事を用意するのも洗濯をするのも楽しかった。お茶を飲んで雑談したり窓際で一緒にひなたぼっこもした。

 

 アタシは今、信じられないくらい心が満たされている。

 

 神様、あなたは本当に残酷なんですね。確実に来る別れまでの僅かな時間に、こんなにも楽しい思いをさせてくれるなんて…。

 

そして、そんな至福の時間は瞬く間に過ぎて行った。

 

 ある日の夜、アタシは急な不安に襲われ眼が覚めてしまった。

 

 一夏の怪我もだいぶ良くなった。もう松葉杖がなくても歩けるし、左手も自由に使えるようになった。いよいよ、ここを出なければならないんだ…。

 

 嫌だよ。折角いっぱい友達も出来て、好きな人も出来たのに…。

 

こんなのって、こんのってないよ。

 

「う、うう、ひっく、ふうぅぅ」

 

 声を押し殺して泣くしかなかった。せめて一夏に聞こえないようにするのが精いっぱいだった

 

「…鈴?」

 

突然隣りから声が聞こえてきた。

 

なぜ?どうして?

 

「ど、どうしたの一夏?」

 

 私は慌てて涙を拭い一夏の方を振り向くと彼は心配そうな顔をしていた。

 

「泣いてたのか?」

 

「違うの、こ、これは何でもないのよ。な、何でも、な、い」

 

 ダメだ。こんな状態で一夏の顔を見てしまった。声が震えてしまう。

 

「違うの、違うの、違うのよ…」

 

 一体何が言いたいのか自分でも分からなくなってきた…。もう頭の中がぐちゃぐちゃになりかけた時だった。

 

 

ぎゅ

 

 

 

 突然アタシの視界は何かに覆われてしまった。暖かい鼓動、背中をさする優しい手、ああ一夏だ。一夏が抱きしめてくれているんだ。

 

「大丈夫だよ鈴。俺はここにいるから、大丈夫、大丈夫」

 

「ふ、うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 抑えることなんて出来なかった。アタシは泣いた。ただただ泣いた。この世の理不尽さを呪う様に泣いた。愛する人との別離に泣いた。自分の力の無さに泣いた。その間一夏は何も言わずただ黙ってアタシを抱きしめてくれていた。

 

 

 

 

 

 

俺達は今リビングにいる。しばらくして泣きやんだ鈴が話してくれた。両親の不仲の事を、もうすぐ自分が日本を去らねばならない事を、そして今まで本当の事を俺に話せなかった事を…。

 

 全て話し終えた鈴に少し待つように声をかけ俺は台所へと向かった。ホットミルクを作るためだ。小さい鍋に2人分のミルクを注ぎ、コンロに火を付けた。

 

 来るべき時が来た…。あるがままに受け止めるしかないのは分かっている。

 

でもツライ…今までずっと一緒に居た存在が急にいなくなるのは慣れるものではない。幾ら年を重ねようと、やはり別れとは単純にツライものなんだ。俺は、自身の心中を整理しながら鍋の中のミルクが温かくなっていくのを待つ。

 

 厳しい様だが俺に出来る事は何もない。鈴ちゃんの話を聞く限り恋さんと修さんの仲は修復不可能な所まで行っている。仮に部外者の俺が出て行ったところで場をかき乱してしまうだけだ。ガキのように叫べば何でも解決できると思ってはいない。

 

俺は良い意味でも悪い意味でも「大人」なのだ。

 

 気が付くとミルクも良い具合に温まっているようだ。2つのカップの注ぎ、更に蜂蜜をひとさじづつ加える。小さめのお盆にカップを乗せて鈴ちゃんのところへ持って行った。

 

「熱いからゆっくり飲んでな」

 

「ありがとう…」

 

 鈴ちゃんは冷ましながらゆっくりと飲んでいく。俺も自分のカップに口をつける。しばらく無言が続いたが鈴ちゃんが口を開いた。

 

「一夏…、少し聞いてくれるかな?」

 

 俺は無言でうなずく

 

「私はもうすぐ中国に帰ってしまう」

 

 鈴ちゃんの口からハッキリと告げられた言葉。カップを持つ手に力が入る…。

 

「でもね…。アタシは、必ず日本に帰ってくる!!いつになるか分からないけど、絶対にここに帰ってくる!!」

 

 鈴ちゃん、いや、もう子ども呼ばわりはできない。

 

「鈴」の目に火がともった。

 

 …あれは戦う者の「目」だ。俺はどこかで彼女たちのことを「子ども扱い」していたんだ。だから心の中では「ちゃん付け」になっていた。

 

 だが、もうやめよう。彼女たちはそれぞれが確たる意思を持って「運命」と戦っている。

 

そんな彼女たちをちゃん付けなど失礼に値する…。

 

「だから…一夏。また日本に戻ってきたら…アタシの料理を食べてくれる?」

 

 俺の答え?そんなの決まっている。鈴の手を握りながら俺は言う。

 

「もちろんだ。待ってる、だから…必ず戻ってくるんだぞ」

 

「ええ、勿論よ。一夏が唸るほどの料理上手になってやるんだからね!!」

 

 不敵な笑顔を浮かべる彼女にもう涙はない。本当に強い子だ…。

 

 翌朝、鈴は自分の家に帰って行った…。がらんとした我が家は、随分と寂しくなってしまった。

 

だが寂しがってなどいられない。それぞれが自分の道を歩いているのに俺だけ止まってなどいられない。

 

 休息は十分にとった…さぁ進む時間だ。とりあえずランニングをしよう、鈍った体を元に戻さなければ、俺はトレーニングウェアーに着替え走り出した。

 

 それから直ぐに鈴は中国へとか帰って行った。

 

 物語は更に進んでいく…。

 

 俺の歩みも止まらない




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剣道大会 ~告げられた想い

久々の箒ちゃんの登場です。
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 どうも織斑一夏です。早いもので中学3年生になりました。

 

 ケガも全快し、日々のトレーニングやISの勉強も順調に進んでいる。

 

 姉さんもドイツから帰国し1ヶ月ほど家でゆっくりしていた。ラウラはこの一年で特殊部隊の隊長まで上り詰めたそうだ。隊員との仲も良好で、副隊長であるクラリッサさんとは日本の文化の好きな者同士で意気投合し強い信頼関係ができたそうだ。

 

 …クラリッサさんは間違った日本文化の啓もう活動をしていたような気がするが…。まぁ良いか、ラウラが色んな人との交流を持つのは良いことだしね。

 

 千冬姉さん曰く向こうに居て一番辛かったことは俺の料理が食べられなかったことだそうだ。だからこの1ヶ月は姉さんのリクエストをほぼ全部聞いてあげた。見事なまでの食いっぷりだったことをここに記述しておく。

 

 それから千冬姉さんは今度からIS学園で教師を務めることが決まったとの事だ。ドイツで教官をしてから人に何かを教えることに思うとこがあったのだろう。今の姉さんは、どこか使命感に燃える良い目をしていた。今の俺から言えるのはこれだけだ。

 

俺はにっこり笑ってこう言った。

 

 「帰ってくる時に洗濯物は持ってきてね。スーツはちゃんと衣替えするんだよ。それと俺がいないからって部屋の掃除をサボっちゃダメだからね」

 

 俺の言葉を聞くたびに姉さんの顔が赤く染まっていき、最後には両手で顔を覆い小さくなってしまった。

 

…どうやら色々と聞かなければならないらしい、主夫織斑の降臨である。 

 

 

 

 

 さて俺は今、剣道の全国大会会場に来ている。原作では、力に溺れた箒は、この大会で優勝しているが試合後にそれが単なる憂さ晴らしでしかなかったことに気付いて強い自己嫌悪と後悔に陥っている様であった。

 

 ここでの箒がどうなっているかは知らないが、折角来たんだし一声かけられれば良いのだが…。

 

 その時、入場口が少しざわついた。…箒だ!大垂にしっかりと「篠ノ之」とあった。下を向いて表情は分からないが直感的に感じた。

 

何か言わなければダメだと…。

 

「箒!!!」

 

 俺はあらん限りの声を出す。突然の大声に周りは驚いているが気にしていられない。当の本人は慌てて周りを見渡し、俺を見つけるとまるで幽霊でも見たような表情を見せた。時間も無いしこれだけは言わなければ、あの駆逐系女子を奮起させた言葉にアレンジを加える。

 

「戦え!!!」

 

 箒の見が見開く

 

「戦え、戦うんだ!!!自分と戦え!!前を向くんだ!!戦わなければ勝てないぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 あの事件が私と一夏を引き裂いた。ずっと続いて行くと思っていた幸せな時間は音も無く簡単に崩れ去った。次の日から私は学校に行くことすら出来なくなった。

 

せめて、せめて一目で良いから一夏に会いたい、会って伝えたい、あの時言えなかったことを伝えたい。

 

 でも私の願いは神様に聞き入れてもらえなかったようだ…。それから直ぐに政府の重要人物保護プログラムで私たち家族は強制的に離散してしまった。

 

どうしてこうなってしまったのだろうか?

 

幼いながらに私は考えたが明確な答えは出てこなかった。

 

 最初は姉さんのせいにしようともしたが、それも出来なかった。姉さんと過ごした時間に嘘はない。あの一緒に過ごした時間があったからこそ姉さんを憎むことなんて出来ないんだ。

 

 しばらくして一本の電話が掛かってきた。姉さんからだった。盗聴されていることを告げたが心配することはないそうだ。姉さんは、ただただ私に謝った。そして自分は大きな隠し事をしている。でも私を思う気持ちに嘘はないそれだけは分かってほしい。例え私に憎まれようともこの思いは変わらないという事を泣きながら話すのだ。姉さんの声に嘘はない…。直感的にそう感じた。だからこそ一つ姉さんに質問をした

 

「姉さん…。私は姉さんにとって何ですか?」

 

 姉さんは、こう答えた。

 

「箒ちゃんは私の家族だよ。命を賭けても守りたいと思える大切な家族よ!!」

 

 不覚にも私はその言葉に泣いてしまった。確かに感じ取った姉の愛に私はどうしようもない喜びを覚えたからだ

 

「あ、あり、ありがとう姉さん。体に気をつけてね」

 

 そう言って一方的に電話を切ってしまった。もうこれ以上自分の感情を抑えることができそうになかったからだ…。

 

その日、私はひたすらに泣いた。

 

 あれから瞬く間に時間が過ぎていった。私は一夏から聞いた最後の言葉2つを実践しようとしている。

 

 1つ目が自分をコントロールするため。一夏から離れてからも欠かさず剣道と一夏から教えてもらった格闘術だけはしっかりと練習している。一夏だって戦っている。私も負けてはいられないんだ。だが決して力に溺れたりしない。むやみやたらと振るわれるのは暴力だ!私は絶対に溺れたりしない…。

 

でも2つ目は、今の私にはない…。

 

 私の大切な人、一夏がいないんだ。大切な人のため振るうべき力は、向けるべき矛先がないまま宙に浮く形になっている…。長らく続く引越しと聴取に私の心も限界に近づいている。

 

苦しい、悲しい、寂しい…。

 

 そんな陰鬱な気持ちを抱えながら中学生活で最後の大会に出場している。いっそうこの感情を相手にぶつけてしまおうかと思った。そんな時に私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 この声は!?だいぶ声が低くなったが間違いない…。

 

 一夏だ‼どこ?どこなんだ!?あたりを回して見ると彼がいた。あの頃と比べるとかなり成長しているが紛れもない一夏だ。なぜ?どうして?と思考が流れたが更に一夏の声が響いた

 

「戦え!!!」

 

 一夏が必死に叫ぶ

 

「戦え、戦うんだ!!!自分と戦え!!前を向くんだ!!戦わなければ勝てないぞ!!!」

 

 その瞬間、私の全身を電気が流れた。そして私の頬に涙がこぼれた。また、助けられてしまった。

 

 すまない…、すまない一夏。私はもう間違えたりしない、もう諦めたりしない。ここで自分に負けてしまえば私は、あなたを想うことすら出来なくなってしまう。ありがとう一夏、何としても勝つ‼私は絶対に勝ってみせる‼だから見ていてくれ、私の剣を!!

 

 

 

 

 

 圧巻の戦いだった。流れる様な足捌きは相手を翻弄し、隙を見せた所に的確な一撃を加える。

 

 かの有名なヘビー級チャンピオンが言った名言「Float like a butterfly, sting like a bee(蝶のように舞い蜂のように刺す)」を体現するような戦い方だ。

 

 千冬姉さんとは違う、荒々しさが残りながらも美しい戦い。強くなった…本当に彼女は強くなった。優勝はもちろん箒だ。あの晴れやかな笑顔は、あの時の箒のままだった。

 

 今俺は会場の外にいる。なんとなくだが、彼女と会える気がしたからだ。

 

「一夏!!」

 

 振り返るとそこには道着のままの箒がいた。どうやら俺を探し回っていたらしい顔も少し赤くなっていた。

 

「久しぶり、箒」

 

「ほ、本当に、本当に一夏なのか?」

 

俺は無言で頷く

 

 彼女は一歩一歩近づいて確かめる様に俺の顔に触れた。俺は彼女の手を握りながら笑顔で答えた。

 

「優勝おめでとう。素晴らしい戦いだった」

 

それを聞いた瞬間、箒は俺の胸に飛び込んで泣き出した。

 

 暫くして落ち着いた箒と色々と話をした。終始笑顔の箒と聴き手に回る俺。

 

 

 そんな時、急に箒は真剣な顔で話し始めた。

 

「一夏、最後に会った日に話したことを覚えているか?」

 

「…勿論だよ。箒は言ってたな。私にも大切なものがあるって」

 

「覚えていてくれたか…そうだ。あの時言えなかった事を今此処で言わせて欲しい」

 

 それは、箒の願いなのだろう。箒がどんな時も大切にしていた。俺には聞く義務がある。

 

「聞かせてくれ、箒の答えを…」

 

 一つ頷いて箒はやや緊張した面持ちで答えた。

 

「私の大切なもの、それは…一夏、お、お前なんだ」

 

「……」

 

「いつも見ていた優しい笑顔も、私を守ってくれた鋭い目も、暖かい雰囲気も、全てが大切なものなんだ」

 

一息ついて、箒は話を続けた

 

「い、一夏‼」

 

「お、おう!?」

 急だったからどもってしまった…。

 

「私は、お前が好きだ‼‼」

 

 

 

え?………え??

 

ここで言っちゃった。




いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしております。


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原作の始まり

いよいよです。
ここまで長かった…。

皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・


 どうも現在受験会場内で迷っている織斑一夏です。

 

 カンニング対策の関係で俺が住んでいる場所から4駅先に受験会場がうつされたと御達しがあったのは二日前だ。いよいよ来るべき時が来たと言った所か…。俺が受ける受験校は原作と同じ私立藍越学園(あいえつがくえん)である。

 

 さて話は変わるが1つ俺の中で変化が起きた…。神様の特典か何か知らないが原作の知識が俺の中に流入してきたのだ。しかも小説をそのままアニメ化したみたいな映像的な感じだ。簡単に言えばパソコンのアップデートだろうか。

 

うーむ、これが今回の一回限りなのか分からない以上、当てにして行く訳にもいかないが、まぁマイナス面はないしこれで良いだろう。

 

 さて箒との事についての報告もしておく。回想スタート!!

 

 

 

 

 

 

「私は、お前が好きだ!!」

 

 え…?ええええええええええ!!!!!!!いきなり何言ってんだこの侍ガール!?こんな公衆の面前で、サプライズ告白かましやがった!!!

 

 ほら!周りの人達がすごい温かい眼をして見てるもん!!…若干数は血の涙を流している人もいるな。

 

と、と、とにかくこの場所から早く撤退しないといけない。

 

「ほ、箒」

 

 俺は、彼女の肩を掴んで軽く揺する。箒の体がびくりとする。

 

「一夏、い、いきなりなんて、そんな…」

 

 ちーがーうーかーらー!!!そんなんじゃないから!!もはやそんな状況じゃないから!!!

 

「箒!目を覚まして!そして周りを良く見んだ!!!」

 

「え?周り?」

 

 箒は周囲をぐるっと見た。

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互い無言となる。が、箒の顔は瞬く間に赤くなっていった。それはもう熟しすぎたリンゴの様に。

 

そして…。

 

「い…」

 

「い?」

 

「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 そんな叫び声をあげながら、走って行ってしまった…。

 

ってヤバイ!!今ここに俺一人だけなんてどんな公開処刑だよ!?そんな考えが浮かび上がった俺は、すぐさま箒を追いかけた。

 

「おーーい待ってくれ箒!!俺を一人にしないでくれー!!!」

 

 つーか速!?袴姿なのになんであいつあんなに速いんだ?????

 そんな感じの追いかけっこが約10分程続いた。

 

「はい箒、緑茶で良いか?」

 

「(コクン)」

 

 俺達は今人気のない試合会場のベンチに腰掛けている。果てしない追いかけっこの末、辿り着いたのが試合会場だった。どうにか箒を落ち着かせて備え付けの自販機で緑茶のペットを2本買い、片方を箒に差し出した。未だに恥ずかしいのか箒は頬を赤らめながら無言で頷きペットの口をあけ緑茶を飲んだ。俺も自分のを飲む。

 

 さてどうしたものか…。箒からの好意は、あの時から薄々気づいていた。でも今の自分には、簡単にその好意を受け入れることは出来ない。その大きな理由は2つある。

 

 1つ目は、別離した時間が長すぎる。約6年の歳月は箒を美しい女性へと変貌させた。誤解しないで欲しいが外見だけでなく内面も含めてだ。正直俺には勿体ないと思えるほどだ。しかし俺は、箒が過ごした年月を知らない。つまり箒をほとんど知らないと言っても過言じゃない…。そんな状態で箒の思いを受け入れるのは、あまりに失礼じゃないだろうか?

 

 2つ目は、鈴の存在だ。別れ際の彼女の姿が今も鮮明に残っている。鈴の思いを蔑ろにしてもいいのだろうか。そんな思考をしていたが途中で全てやめた。

 

 馬鹿か俺は?結局今までの考えなんて全て自分が傷つかないための「言い訳」でしかない。選択をすれば何かしら失う事なんて分かってるじゃないか。箒の思いから逃げちゃダメだ。伝えよう。今の自分は君の想いを受けれないと…。そんな風に決意を決めた俺だが箒が先に口を開いた。

 

「一夏…」

 

「どうした?」

 

「その…、先ほどは突然すまなかった…」

 

「い、いや別に」

 

 箒の言葉は続く

 

「だが、私の一夏への想いに嘘はないんだ」

 

「…」

 

「一夏、私があの町を離れて何年目になるか知っているか?」

 

「もうすぐ6年経つ」

 

「そう6年だ。言葉にすれば簡単だが、互いに長い年月が過ぎたのだ…」

 

 そこで一息ついて、ここで箒は予想外の言葉を紡いだ。

 

「一夏、私から告白をしておいてなんだが…私はもう一度お前とやり直したいんだ」

 

「…やり直す?どう言うことだい?」

 

「あの日以来、私たちは一度として会った事はない。そんな状態で私の想いを告げたところで一夏が困惑するのは目に見えている」

 

 俺の胸がチクリと傷んだ…。

 

「私は、中学を卒業すると自動的に「IS学園」に入学することが決まっている。ここは基本的に全寮制だから、しばらくの間は引越しをすることも無い」

 

 つまりそれは…。

 

「だから、今度は私から一夏に会いに行けるし、一夏の家にだって遊びに行ける。時間を戻すことはできないが、別の形でやり直すこともできると思うんだ。少しづつで良い、また私を知ってほしいのだ」 

 

 箒が最大限考えた結論なのだろう…。「あの頃に戻る」のではなく「新たにやり直す」という結論。あまりニュアンス的に違いはないだろうが箒がこの短い時間で必死に考えだした結論なのだろう。

 

「…すまない一夏。私は本当に浅ましく、自分勝手で愚か者だ。でも…それでも、私はお前の傍にいたいんだ…。もう一人は嫌なんだ!!」

 

 本当に箒は限界だったのだろう…。彼女の言葉の一つ一つが俺の胸に突き刺さる。

 

違う、違うんだ箒。本当に浅ましいのは俺の方なんだ。俺は箒の提案に心の底から安堵している。選ばなければいけない俺が箒の言葉に助けられてしまったんだ。

 

「…箒はそれで良いのか?」

 

「え?」

 

「やり直すか。そんな考えも悪くないな」

 

「じゃ…!?」

 

「改めてよろしく箒」

 

 あの時のように俺は笑顔で右手を差し出す。

 

 その意味を理解した箒はポロポロと泣きながら、俺の手をぎゅっと掴んで。

 

「あ、ありがとう一夏、本当にありがとう…」

 

 それから互いに携帯の番号交換を行い、その日は別れた。あれ以来、俺たちはメールのやり取りを欠かしていない。時々だが電話もしている。

 

 

 

 以上が事の顛末だ。また自分自身の心の弱さを再認識した瞬間でもある。そんなこんなと思考を凝らしていく内に、1つのドアの前に辿り着いた…。恐らく「ここ」がそうなんだろう。俺はドアを開いた

 

「あー、君、受験生だね。向こうで着替えてきて。時間が押してるから急いでね。」

 

 そこにいたのは、神経質そうな女性教員が1人だけ、俺は「はい」と声をかけカーテンを開けると、そこには一体の甲冑が鎮座していた。

 

 間違いない。日本が開発した量産第2世代型IS「打鉄(うちがね)」だ。

 

 いよいよだ…。ここから始まる。俺は高鳴る鼓動を抑えるように1つ深呼吸を入れる。ここから先、もう本当に後戻りはできない。俺の意思とは関係なく戦いの渦中へと巻き込まれるだろう。だがそれも「あるがまま」に受け止めてやる。

 

「いくぞ!!当方に明日を切り開く用意あり」

 

 

 

 

 その日、世界の流れを変えるような1つのニュースが駆け巡った。「日本の15歳の男子中学生がISを動かした。」というものだ。

 

 

 

 物語は二つ目の節目を迎える。これより始まるは喜劇か?悲劇か?引き続きご観覧ください




 今回の話は賛否が分かれそうだ…。でも15歳で箒の境遇を考えると、この程度は良いんじゃないかと考えてしまいます。

感想並びに評価を頂けたら幸いです

ではまた次回。


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家族会議〜関係者の反応

やたらと長編になってしまいました
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも織斑一夏です。

 

只今、急遽IS学園から帰って来た千冬姉さんと家族会議をしている。先ほどまで家の周りには、マスコミやら変な科学者やらが押し寄せ得ていったが警察と千冬姉さんの一睨みで蜘蛛の子を散らすように逃げて行った

 

 

 

 

 

 

織斑家リビング

 

「しかし、大変なことになってしまったな」

 

 千冬姉さんが茶を啜りながら言う

 

「うん、俺も不用意に触ったのは悪かったけど、まさか動きだすとは思わなかったよ」

 

 スイマセン、本当は100%動くと思ってました。

 

「無理もない事だ。「ISは女性しか扱えない」こんな事はその辺の小学生でも分かる事だからな。しかし現に男であるお前は動かしてしまった。これがどういう意味か一夏、お前に分かるか?」

 

 俺は頷いて、こう答えた。

 

「由々しき事態だってことは間違いないよね?それも世界の流れが変わるほどに…」

 

 姉さんも真剣な目になる

 

「その通りだ。ISの登場によって女尊男卑の世界になってから幾年か経ち、良い意味でも悪い意味でもある程度バランスの保たれた世界が構築されつつあった」

 

「……」

 

「そんな最中にお前という新たな因子(ファクター)が出現した。今はまだ各国が混乱の状態にあるが、これが収束した後に、最悪なケースの話をすればお前は男性からは「希望の象徴」、女性からは「脅威の象徴」として認識されるかも知れない」

 

 つまりそれは…。

 

「俺の存在は、今の女尊男卑を再び男尊女卑の世界に戻しかねないって意味で受け取っていいのかな?」

 

「そうだ。勿論これは飛躍した考え方だ。だが、どんな事が起こるか予想が出来ないのも世界と言うものだ」

 

 それもそうだ。至極正論、誰もが異論の余地を挟むことなどできないほどの正論だ。今日が平和だからと言って、明日ミサイルを撃ち込まれないと誰が断言できるだろうか?少なくとも俺には出来ない…。原作の知識があろうともこの世界は予想もできないからだ。

 

 現に俺を誘拐しにスコールとオータムが現れた。原作ではきっと違っていたのだろう。

 

 そんな思考の中に入りかけたときに姉さんの言葉が響いた。

 

「だが、一つだけ確かなこともある」

 

「ん?」

 

「それは、私が一夏、お前の味方であるという事だ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら姉さんはハッキリと答えた。

 

「お前が倒れそうになったら、私がお前を起こそう。お前が迷いそうになったら私が最大限に導こう。お前が私を守るように私もお前を守る」

 

 俺が呆然としていると、更に姉さんの言葉が続いた。

 

「一夏、私は本当に感謝している。もしお前が支えてくれていなければ、今の私はいなかっただろう。だからこそお前に言いたいんだ。助けて欲しい時は、まず私を頼れ。お前と私は「家族」なんだからな」

 

 万感の思いが胸を渦巻いている。この人には、本当に頭が上がらない…。俺は姿勢を正して頭を下げた。

 

「その時は…よろしくお願いします!!」

 

「ああ、任せろ。いつまでも不甲斐ない姉ではいられないからな」

 

 そんな風に言い姉はやさしい笑顔をしていた。

 

 

 

 

「さて、少し話は変わるぞ。今後のお前の処遇についてだ。主に2つの選択肢がある」 

 

 そう言って千冬姉さんは右手の2本指を立てた。

 

ん?2つとな

 

「2つ?IS学園に入る一択しか思い浮かばなかったけど…」

 

「うむ、それはもちろん大前提だが…。言い方が悪かったな。入学までの約2ヶ月をこの家で過ごすか、「倉持技研」で過ごすかという選択肢のことだ」

 

 倉持技研(くらもちぎけん) 確か俺の専用機である白式の元々の製作、開発に加えて後付装備の開発もここが担当しいたようだったな。だが、白式の特性に加え、白式自体が「雪片弐型」と「雪羅」以外の後付装備を拒絶しているため未だ専用の後付装備の完成には至らなかった。しかも元々は「打鉄弐式」の開発も行われていたが、前述の通り白式の装備開発にスタッフが割かれてしまい、7割方組み立てられた時点で放置されてしまっていた様だが…。

 

「うーーーん。姉さん、IS学園の寮の空きはないかな?早い段階から寮に住むという選択肢を希望します」

 

 などと提案してみたがスパッと切られた。

 

「生憎と寮の方は満室だし、そもそもお前の受け入れ態勢が整っていないのだ。だからその選択肢は、100%可能性はないものと考えた方がいい」

 

「ですよね~」

 

「まぁこの家にいるより向こうにいる方がメリットは多い。まずISに馴れる事ができるし、煩わしいマスコミ共も施設内に侵入はできない。私としてはこの案を推奨するがな」

 

 確かに、千冬姉さんが言う事も最もだ。だが最新の原作情報に照らし合わせると技研の中には1人気を付けなきゃいけない人がいた。

 

 篝火ヒカルノ(かがりび ヒカルノ)倉持技研の第二研究所の所長だ。切れ長の瞳と山田先生並の胸部装甲を持つ女性である。確か専攻はISのソフトウェアだったかな?「白式」のメンテナンスのために倉持技研に訪れた原作一夏の前に、濡れた状態でISスーツに頭に水中眼鏡を着けて銛と淡水魚を持った格好で出現したというトンデモナイ人だった。

 

 高校生の頃の千冬姉さんと束さんの同級生であったらしいが、友達ではなくただの同級生であるとのことだ。初対面でいきなり原作一夏の尻を触ったり、上記のような格好で現れたため最初はヘンタイと思われた。

 

 なんだか束さんと同じ匂いがするんだよなー。でも俺に選択肢はないし…。

 

しかたないか。

 

「分かった。俺は入学式まで技研でお世話になるよ。」

 

「そうか。そう言ってくれると助かるよ。」

 

 姉さんも安堵の表情を浮かべた。

 

「すまないな、仕事上どうしても学園を長期間離れることは出来ないのだ。苦労をかける。」

 

 そう言って頭を下げる姉さん。俺は慌ててしまった。

 

「そ、そんな事ないよ。それで俺はいつ頃から向こうに行けばいいのかな?」

 

「予定としては3日後となっている」

 

「分かった。じゃあ必要な物の準備をしておくね」

 

「ああ、そうしろ。何か要り様があったら買ってくるから私に言いなさい」

 

「うん、お願いします」

 

 こうして俺は、倉持技研への出向が決まった。ん?そう言えば「あの子」はいるのかな?

 

 

 

 

「はははっ、ははっ、はあひいひひひひははっはは!!!」

 

 けたたましい笑い声。オータムのものだ。余程嬉しかったのだろう。本当に「彼」には驚かされてばかりだ…。私も自然と口元が上がってしまう。2年前、ふとした興味から請け負った「織斑一夏拉致計画」。結果は私の予想を良い意味で遥かに上回るものだった。

 

 純粋な格闘戦であのオータムを後一歩まで追い詰めたのだ。いや正確にはオータムは負けていた。本人も認めているところだ。「あの技」が決まっていれば、ほぼ間違いなくオータムは死んでいた。

 

 あれから彼女は一夏君だけを唯一「男」として認め、自分が愛するに値する対象と決めたのだ。私も彼のファンになってしまった。一夏君に対しオータムほどの恋愛感情があるかと聞かれれば首を捻ってしまう。まだ自身の感情が分からないのだ…。だからこそ彼のファンという位置にいる。

 

しかし…本当に彼は楽しませてくれる。まさかISを動かしてしまうなんて…。誰が予想できるだろうか?

 

「うれしそうねオータム」

 

「ああ、嬉しいさ!!何かしてくれる奴だとは思ってたけど…。まさかISを動かしちまうなんてな!!本当にあいつは規格外だぜ。大したもんだよあたしの一夏は」

 

「ふふ、そうね。「あの子」も驚きを隠せなかった様ね。しばらく呆けた顔していたもの」

 

「あの子?あ~、ブリュンヒルデに似たあのガキか…。あいつ今どうしてるんだ?」

 

 さして興味もなさそうにオータムが聞いた。

 

「自分の部屋にいるわ。以前に比べると随分と安定しているわよ」

 

「あーー、そういや最初は暴れて仕方なかったな~」

 

「ええ、でも一夏君の写真を見たら途端に静かになったわよね。それから確かこう言ったわ「この人が私の兄さんか?」って」

 

「だな。そっからまるで宝物みたいに一夏の写真を持ち歩いていたな。馬鹿な家畜共が面白半分で一夏の写真を取り上げたら、その日の内に惨殺死体の出来上がりだったけか?あんときゃ、しばらく血生臭くてたまったもんじゃなかったぜ」

 

 あの時を思い出したのか顔をしかめながら愚痴っぽくオータムは話した。

 

「ふふ、そうね。でも彼女も写真とは言え何か感じたんでしょうね。一夏君が発する底知れない闇の気配を…」

 

「けっ、気に入らねえ。一夏の事はアタシとスコールが分かってさえいりゃ良いんだよ」

 

「まぁまぁ、そんなオータムに更なるビックニュースよ」

 

「ああ?なんだよビックニュースって?」

 

「時期はまだ未定だけど、IS学園への襲撃がほぼ決定したわ」

 

「!!」

 

「勿論乗るでしょ?」

 

「愚問だぜスコール。ああ~また一夏に会えるのか~。楽しみだな~。TVで確認したが更に大人っぽくなったしな~」

 

 そう言いながらオータムは、頬を赤らめ目元が垂れてしまった。全く本当にご執心だ。

 

 

「その話は本当か…」

 

 

 突然第3者の声が聞こえてきた。

 

「あら「M」来てたのね」

 

「て、てめぇガキ!?驚かすんじゃねえよ」

 

「何だ?「兄さん」の事を考えて、だらしない顔でも晒していたのか?…歳を考えろこの中年め」

 

 鼻で笑いながら見下したような言い方をする「マドカ」にオータムは切れてしまった。

 

「ぶっ殺されてぇのかクソガキ!!!!それにアタシはまだ20代だゴラァァァ!!」

 

いきり立つオータムを抑える

 

「ハイハイ、抑えなさいオータム。「マドカ」もケンカ腰に接しないの」

 

「…ふん」

 

 はぁ~この二人の仲もどうにかならないか…。オータムが落ち着き話を戻す。

 

「話を戻すわよ。IS学園の襲撃は私たち3人で行うわ。それまでは、また色々と忙しくなるから覚悟しておくこと。いいわね?」

 

「「了解だ」」

 

 

さて、また会えるのを楽しみにしてるわよ一夏君

 

 

 

 

「うむー…」

 

 私はただ困惑している。一夏がISを動かしてしまった…。最初にニュースを見たとき何を馬鹿なと思ったが「打鉄」を装備した一夏を見た瞬間。飲んでいた熱い緑茶を盛大に噴いて対面に座っていた副官のクラリッサの顔面にかけてしまったのだ。

 

「あちゃちゃちゃたたたたったた!!」

 

床を転げまわる副官に慌たてて冷たいタオルを押し当てた。なんとか事なきを得たようだ。

 

「す、すまない!大丈夫かクラリッサ!?」

 

「は、はい。な、なんとか」

 

 どうやら大丈夫のようだ、良かった…。

 

「隊長、「彼」が常日頃私たちに話していてくれた…」

 

「そうだ。織斑一夏だ」

 

「何というか…。本当に彼は一般人ですか?」

 

「確かにそう思うのも無理はないが、一夏は間違いなく一般人だ」

 

 クラリッサが疑うのも無理はない。映像でも分かる雰囲気や立ち振る舞いは一般人のそれを明らかに逸脱している。

 

「…ふふふ」

 

 どうやら一夏は私との約束を忘れていなかったらしい。

 

強くなった

 

「隊長?」

 

 怪訝な顔をするクラリッサ

 

「何でもないさ。それよりクラリッサ、私がIS学園に行くのはいつ頃だったか?」

 

「そうですね。5月の終わりごろだったかと思われますが…」

 

「ふむ…。今から楽しみになってきた」

 

 会えるのを楽しみにしているぞ一夏。

 

 

 

 

 

「で、ではIS学園編入試験の手続きが終わりましたので…。」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 私はにこりと笑い、そのまま立ち去った。

 

「ふぅ~まさかISを動かしちゃうなんて…。予想外すぎるわよ一夏」

 

 彼と別れてから一年、私は中国に戻りISの代表候補生にまで上り詰めた。私なり

に色々と考えた結果だ。一夏との再会はもう少し先かと思ってたけど、まさかこんな形で私の願いがかなうとは…。

 

「ふふ、一夏待っててね。もうすぐ会えるから…」

 

 私はそんな思いを胸に、訓練所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がISを動かした。そのニュースを知るや否や私は慌てて一夏の携帯に連絡した。詳しく事情を聴き、入学までの間は「倉持技研」でISの勉強をするそうだ。

 

予想外の事だ…。

 

 でも、嬉しい。また一夏と過ごせる事がこの上なく嬉しい。IS学園で毎日一夏と顔を合わせる事ができる。ああ、今から楽しみだ。心に温かいものを感じながら私は布団へともぐった。




この展開をどなたか予想できたでしょうか?
感想並びに評価を頂けたら幸いです。

では次回から「倉持技研編」スタートです

あ、「あの子」が誰だか皆さん予想がつきますよね。

ではまた次回


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倉持技研編
倉持技研


今回も賛否両論になりそうです
皆様に楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも倉持技研での滞在が決まった織斑一夏です。

 

 あれから俺は政府の公用車を利用して目的地である倉持技研の前にいます。

白を基調とした施設は如何にも「研究所」と言った様相だ。

 

「…誰もいない」

 

 目の前にはシンプルな門があるだけでインターホンすらない。どうしたものかと途方に暮れていると、ふいに誰かに尻を触られた。

 

「うおお!!?」

 

 油断していたとはいえ、こうも簡単に間合いに入られるとは…修行が足りないな。俺は誰であるかを確認するべく後ろを振り向いた。そこに立っていたのはシンプルな黒のスーツに白衣を着てなぜか水中メガネを付けた女性だった。

 

 …間違いないこの人が篝火ヒカルノだ。

 

「んーふふふ、やっぱ未成年のお尻はいいねぇ。君のは特にガッチリしているね、何かスポーツでもやってるのかい?」

 

 こちらの事などおかまいなしと言った感じに聞いてくる篝火さん。やはり束さんと似ているとこがあるようだ…。

 

まぁ、ここは相手のペースに乗るとしよう。

 

「え、ええ、剣道と格闘技を少々…」

 

「ほほー!!だからこんなにいい尻してるんだね。近年稀に見るいい尻の持ち主だよ君は~」

 

 そう言って笑う顔からはやたらと長い犬歯が見え隠れする。ていうか褒められても嬉しくないぞ。

 

「そりゃどうも、あの今日からお世話になる織斑一夏です」

 

 そう言って俺は、目の前の篝火さんに挨拶をする。

 

「おお、君が噂の織斑君か…、ふーむふむふむ」

 

「…」

 

 見られてる。メッチャこっち見られてる!!何なんですか!?俺なんて食べてもおいしくないですよ!!!そんな感じで嫌な汗が流れそうになった時だった。

 

「いたぞ!皆こっちだ!!」

 

 何処からか数名の男性達がこちらにやって来た。皆一様に白衣を着ていることから恐らくこの研究所の職員なのだろう。俺を見るとハッとしたような表情をした

 

「お、織斑一夏君だね」

 

 一人の男性職員が俺に声をかけた

 

「はい、今日からお世話になります」

 

 俺は彼にお辞儀をする

 

「そうか、いやすまないね。所長が迎えに行く約束だったんだが、突然姿を消してしまってね。慌てて探していたら…」

 

「すでに俺の所にいたという事ですね」

 

 彼の言葉を引き継いで話す。

 

「そう言う事だね。ところで織斑君。君所長に何かされなかったかい?今はこんな感じだけど、この人ど変態だからね。」

 

 うわー、スゲーどストレートに言っちゃったよこの人。仮にも所長だろうに…。いいのかな?

 

「やかましいぞ、このブサイクめ!!」

 

 そう言いながら篝火さんは話をしていた男性研究員に何処からか取り出した野球ボールを投げつけた。

 

「ほぎゃ!!」

 

 見事に股間にヒット!何だか俺が喰らったような錯覚に陥り、下半身が「キュッ」と縮こまってしまった…。周りの男性陣も同じ様に顔を顰めている。目が合うとお互いに苦笑いをした。

 

 

 

 

研究所の住居室

 

「ふぅ、何とも慌ただしい挨拶だった…」

 

 現在、俺は研究所内にある居住区の一室に案内された。ここが二ヶ月間住むことになった部屋だ。壁は白を基調とし床には畳が敷いてあり、和洋折衷と言った感じの部屋だ。

 

 あれから何とか回復した男性研究員が俺を部屋まで案内してくれたのだ。歩き方が少し変だったが、そっとしておいた。去り際に篝火さんから「君は、中々に面白そうだ。暫くしたら私が研究所の案内をしてあげよう。」言って一人足早に去って行った。

 

「何だか見えない人だ……」

 

 先ほど会った篝火さんのイメージを聞かれれば束さんとは、違う部類で異質な存在だと感じた。とにかく二ヶ月あることだし、ゆっくりと俺なりに見定めておこう。

 

 さて話は変わるが 本日のスケジュールは、午後から研究所内の規約説明と施設の案内となっている。なお携帯電話は、エントランスで預けている。連絡の際は、研究員立会いの元で連絡を行うのだ。少々面倒に感じるが、物が物だけに仕方のないことだ。技術情報が流出でもすれば冗談では済まされないしな。

 

「さて、本格的な訓練は明日からだし…取り敢えずストレッチでもしておくか」

 

 俺はひとり呟き、体をほぐし始めた。

 

 しばらくして、午後となって研究所に関する様々な規約の説明が終わり、俺は篝火さんの案内で研究所の施設を巡り、今は所長室を篝火さんと話をしている。

 

 

「しかし君はお姉さんと似ているね。今もお姉さんは元気かい?」

 

「ええ、…あの姉とは知り合いなんですか?」

 

「そうそう、言ってなかったね。君のお姉さんとは高校時代の同級生だったんだよ」

 

 しっくりこないのか、ゴーグルの位置を直しながら俺の質問に答える。

 

 てかゴーグルは必ずしなきゃいけない物なのか?

 

「という事は、束さんとも友人なんですか?」

 

「いやいや、それは違うのだよ織斑君」

 

 篝火さんは首を横に振るって否定の意を伝える。

 

「友人やそれに類似する言葉は、対等な相手を指すんだよ。彼女らにとって友人はお互いでしかないのだよ」

 

 それから彼女は、やれやれと言わんばかりに溜息をつきながら続ける。

 

「私は、二人の足元にも及ばないからね。だから同級生なのさ」

 

 ふむ…何だか違う様な気がする。

 

「何だか変な感じがしますね」

 

 独り言のつもりで言ったのだが篝火さんに聞こえてしまった様だ。

 

「ほほう、変か〜、面白い。是非君の意見を聞きたいな」

 

 明らかに目の色が変わった。猛禽類の様な目だ。どうやら彼女の何かに火をつけてしまった。

 

 はぁ〜…。仕方ないか。

 

「まず、お互いが「対等」でなければならないという所に疑問を感じました」

 

「ふむふむ」

 

「これは俺の持論ですが、まず人間は人種、性別、立場、生きる環境も含めてほとんどが違うものですよね?」

 

「まぁ当然だね。この世に生まれ落ちた時から既に不平等が発生しているからね」

 

 彼女は頷く

 

「ならば、必ずしも友だちであるには「対等」でなければならないという言葉は、いささか説得性に欠けるように思われるんです」

 

「…続けて」

 

「所謂「相違」があるからこそ人に対して興味が湧くし、アクションを起こそうとするんじゃないでしょうか?」

 

「相違……」

 

 俺は頷く

 

「俺の友人に出身が中国で明るく活発で勉強が少し苦手な子がいます。対して俺は、目立つのが苦手で割と周りから一歩遅れてしまう事があるんです。でも俺たちは互いに友人としの関係が成り立っています。」

 

 彼女は別の形を望んでいると思うけど、とりあえずこの場をこれで切り抜けよう

 

「…」

 

「最初、俺がいつも引っ張られたり遠慮したりする形でしたが、それも時間をかけて対等になりました。この事からも分かるように初めから「対等な関係」なんてないと思うんです。」

 

 間をおかず続けて言う

 

「姉さんも束さんも確かにすごい人ですが、厳密に言えば対等ではありません」

 

 俺の言葉に篝火さんは目を見開き体を前に出してきた。

 

「ほほう、どの部分で対等ではないのかな?」

 

 俺は自信を持って話す

 

 

 

「それは…「料理」です」

 

 

 

 若干の静寂

 

 

 

「…え、え~と…料理??」

 

 戸惑うように篝火さんが口にする

 

「はい、口外しないで欲しいのですが、姉さんは料理が得意ではありません。むしろ苦手な部類に入ります。対して束さんは料理がとても上手です。この部分で既に対等な関係は崩壊しています。以上の事から「対等」という言葉は変ではないかと判断しました。」

 

「………………」

 

 呆けている篝火さんをよそに俺は締めに入る。

 

「勿論、これは俺の持論で、強引で説得性や論理性に欠けていますが…。」

 

 篝火さんが下を向いてプルプル震えだした。

 

 や、やばい!!偉そうなことを言いすぎたか!?かくなる上は…当方に土下座の用意あり!!

 

 だが、俺の心配は杞憂だったようだ。

 

「ふ、ふふふ」

 

 突然篝火さんが笑い出した。その声は、どんどん大きくなっていく

 

「ふふふふ、あはははは、だーーはははははっははっはは、ひっひひひひ」

 

 そして遂には腹を抱えて笑い転げてしまったのだ。突然の事に驚く俺をよそに目に涙を溜めながら笑い声が続いた。そして…

 

「はーー、こんなに笑ったのは久しぶりだ…。しかし「料理」と来たか、それは盲点だったな~」

 

「あ、あの~」

 

「うん、本当に面白くなってきたな~」

 

 聞いてない…おーい所長さ~ん

 

「織斑君…いや一夏君!」

 

「は、はい!!」

 

「明日からのISの勉強は私が教えよう」

 

「え?」

 

「今後私の事は「篝火先生」と呼ぶように!!」

 

 笑顔でのたまう篝火さん

 

 

 また厄介な人に気に入られたようです…。

 

 神様、どうしてこうなるのでしょうか?




いかがだったでしょうか?
今回は大変苦労しました。
安易に新キャラを出すのも考えようですね…。
1つ勉強になりました。
感想並びに評価をお待ちしております


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友達の作り方、知らされる試験相手

過去最大の長さになってしまいました…。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ…


 どうも織斑一夏です。座学を篝火先生に習う事になり1ヶ月が過ぎました。

 

でも授業で先生は必ずISスーツを着てくる。しかも授業中は、これ見よがしにお尻を振ったり胸を当てたりしてくるのだ。一度当たってる事を伝えたらいい笑顔で「当ててんのよん♡」と言われた…。

 

 誰か助けて下さい。俺近いうちにこの肉食系に食われてしまうかもしれません。さて実際ISを動かす訓練については…。

 

「一夏…それじゃ、昨日のおさらいから始めるね…」

 

「うん、今日もよろしくお願いします。『簪』」

 

 俺は、彼女に向かって一礼する。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 彼女も慌てて俺に一礼した。

 

 さて、もうお分かりだろうが俺の訓練には、日本代表候補生である更識簪さん(さらしきかんざし)が特別に教官となってくれる事になった。ここまでに至った経緯を説明したいと思う。

 

 あの篝火さんの先生宣言の後、俺は食堂に向かうところだった。が、突然曲がり角から人が出て来て避ける間もなくぶつかってしまった。

 

「うお⁉」

 

「きゃ⁉」

 

 俺はよろめいただけで済んだが相手は持っていた大量のDVDケースをばら撒いてしまった。俺は慌てて相手に謝った。

 

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です」

 

 相手はどうやら女性のようだ。衝撃が響いたのか、おでこを抑えてる。

 

………おや、この人のこと知ってるぞ二次元的な意味で。

 

 水色がかった髪は、セミロングほどの長さで切りそろえて、毛先は内側に向いており眼鏡をかけているこの人物。間違いない、原作での6番目のヒロイン更識簪さんだ。

 

 って今はほうけてる場合じゃない。俺はDVDケースを拾いながらジャケットを見ると「仮面バイザー The First」と書かれてあった。そういえば、簪さんの趣味はアニメ鑑賞だったな、中でも特に大好きなのが勧善懲悪のヒーローものだったと記憶している。

 

「!!!!!!」

 

 何気なく簪さんの方を振り向くと顔を真っ赤にしながら口をパクパクしていた。

 

 ヤバイ…。見られて恥ずかしい様だが取り敢えず落ち着かせないといけない。彼女が何か言う前に先に口を開いた。

 

「落ち着いて、取り敢えずDVDを拾っちゃおう」

 

「………(こくり)」

 

 少し間が空いたが、彼女が頷いたのを確認して再び散らばったDVDを集めて行く。一通り拾い終えてから、再び彼女を見ると顔はまだ赤いがどうやらある程度落ち着いた様だ。

 

 良かった〜、悲鳴なんてあげられたら暫く篝火さんに弄り倒されることが決定してしまうとこだった。

 

「あ、あの……」

 

 内心ホッとしていると簪さんが小さな声で呼びかけて来た。

 

「うん、何かな?」

 

 俺は出来るだけ彼女を怯えさせないように笑顔で対応した。

 

「あ、あり、がとう。それと…さっきは、ごめんなさい」

 

 そう言って簪さんは俺に向かって頭を下げた。

 

「いえいえ、俺もごめんね。怪我はないかな?」

 

「(こくり)」

 

 今度は、間を置かずにしっかりと頷いた。あ、そうだ。良い事考えた!!

 

「あの、半分持とうか?」

 

「え?」

 

「このままだとまた人にぶつかるかも知れないし、実はお願いもあるんだ」

 

「…お願い?」

 

「それは向こうに行ってから話そう。どうかな?」

 

 少し考えてから更識さんはおずおずと言った感じで

 

「…じゃあ、お願いします」

 

 と了承の言葉を頂いた。

 

「うん、じゃあ行こうか?」

 

「(こくり)」

 

 

「これは、此処に置いていいかな?」

 

「…うん」

 

 更識さんの部屋は、俺の部屋と変わらないと変わらない作りだったが、ショーケースには、結構な数のフィギュアが並べられていた。

 

「あ、あの…」

 

 おっと、女性の部屋をじろじろ見るのは失礼だな。反省

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったよね。俺は織斑一夏です。知ってると思うけど世界で初めてISを動かした男だ。よろしくお願いします」

 

 なるべく驚かせないように挨拶をする。

 

「え、えっと、テ、テレビで見たことある…。さ、更識簪です。よろしくお願いします。」

 

 どうやら最初の挨拶はうまくいったようだ。何事もあいさつが大事です

 

「それで、お願いって何かな?…」

 

 そう!それが重要なんだ!!俺は意を決して更識さんにお願いした。

 

「お願いします!!更識さんの持っているアニメDVDを幾つか貸して下さい!!」

 

「……え?」

 

 訳の分からないと言った表情をする更識さん。そりゃそうだろう、俺は詳しい事情を話していく。

 

「実は、俺も結構アニメが好きでさ。でもここでの入居が決まってから慌ただしくなってね…。お気に入りのを持って来るの忘れちゃったんだ。だから是非とも更識さんの持っているコレクションを貸して頂きたいと思って…」

 

 この研究所にもレクリエーションルームはあるのだが…アニメがない!!!もう一度言うアニメがないのだ。そんな思考をしていると更識さんは慌ててDVDの山から1本の作品をとりだした。

 

「…あ、あの、この作品は分かる?」

 

 おお~、これは俺が最初に拾ったやつじゃん

 

「仮面バイザー The first。第一期仮面バイザーのリメイク映画だよね。バイザ~変身」

 

 ついつい、掛け声まで入れてしまった…。

 

「!!!じゃ、じゃあこれは?」

 

「おお!!超時空要塞マキロス。戦闘機からロボットになる描写は興奮したよ。あと歌で敵味方の心を開くって言うのも斬新だったね。デカルチャ~」

 

「これはどうかな?」

 

 更識さんのどもりが無くなくなった。緊張が解れてきたかな?

 

「こりゃまた随分と古風な…。科学忍者隊チャッカマンだね。世界征服を企む秘密結社と戦う、5人の少年少女の物語だっけ?確か三部作構成だよね?」

「当たってる…すごいね」

 

 よし、少し裏情報を入れてみるか

 

「そういえば知ってた?この作品、当時の製作者サイドはあまり良く思ってなかったんだってさ」

 

「!?その話、もっと詳しく聞かせて!!」

 

 すげー勢いで食い付いた!!よっしゃ、俺も熱くなってきた!こうなったらとことん話してやるぜ!!!

 

 

そんなこんなで更識さんとアニメ話で物凄く盛り上がってしまった。

 

「ありゃ⁉こんな時間か…随分と長居したみたいでごめんね」

 

「う、ううん、話が出来てとても楽しかったよ」

 

「俺も本当に楽しかったよ。でもこんなに借りて本当にいいの?」

 

 更識さんから紙袋一杯にDVDを借りてしまった。見た事ないがどれもこれも良作な予感がする。

 

「み、みんなオススメの作品、織斑君に見てもらいたい」

 

「分かった。じゃあ見たらまたアニメの話をしようね」

 

「ま、また、来てくれるの!?」

 

 更識さんが驚いたような表情をする。

 

「勿論、俺たちもう『友達』なんだからさ」

 

 俺の言葉を聞いた更識さんの表情が固まった。

 

「……と、とも、だち?」

 

「うん、俺達はもう友達だよ」

 

「…………」

 

 やべ!!ちょっと馴れ馴れしかったかな…?あ、謝らないと

 

「ごめん!いきなり馴れ馴れしかったかな…」

 

 だが、更識さんは慌てて両手を振ってきた

 

「ち、違うの!わ、私は臆病で…その、友達の作り方もよく分からなくて…」

 なるほど、彼女は自信が持てない故に人と話は出来るけど関係を作る事が困難だったのか…。

 

 よし、そんな時はこの方に限る!!!リリカルなN教導官、あなたの言葉をお借りします。

 

「大丈夫!」

 

「え?」

 

「簡単だよ。友達になる方法、すごく簡単」

 

 俺は自信を持って彼女にこう告げた

 

 

「『名前』を呼んで」

 

 

「な、名前?」

 

 キョトンとした表情をする更識さん

 

「うん、俺も更識さんの名前を呼ぶから」

 

「…い、一夏…」

 

 戸惑いながらも更識さんは俺の名前をしっかりと呼んでくれた。

 

 ならば俺もしっかりと返さなければならない。

 

「簪」

 

「!!!」

 

 驚いたような表情をする更識さん。今度はさっきよりも大きな声になる

 

「い、一夏!」

 

「簪」

 

 そう返すと、眼に涙をためて改めて俺の名前を呼ぶ

 

「い、いぢが!!」

 

 や、やばい…俺も少し泣きそうになってきた。こんなに泣き虫だったかな?

 

「簪」

 

 俺は何とか彼女に涙を見せないように笑顔になる。

 

「わ、わだじだち、こ、ごれで友達なんだよね!!」

 

「勿論!これからよろしくね」

 

 そう言って俺は右手を彼女に差し出す

 

「グス、うん…よろしく」

 

 彼女は俺の手を両手でギュッと握ってくれた。その表情は涙で濡れていたがとても良い笑顔だった。

 

 

 

 そんな事があって俺と簪さんは名前で呼び合う仲になった。次の日に俺にISの実地訓練を教えてくれるのが簪さんだった事にビックリだったが、どうやら簪さんも知らされていなかったらしくお互いにビックリ顔だった。

 

 実地訓練の中休みとなり、俺たちは食堂で昼食をとっている。ちなみに俺は牛塩鮭定食で簪さんは、カルボナーラだ。

 

「今日は、どうだったかな?」

 

「だいぶ機動も良くなったよ。上達が早いね」

 

 簪さんと話をするようになり今では、どもりも減って俺の事を本当の意味で友人として認めてくれたようだ。

 

「先生が優秀だからね」

 

 俺がそう言うと

 

「は、恥ずかしいからやめて…」

 

 と顔を少し赤らめてしまった。Oh~まじカワイイです簪さん。俺は心の中で親指を立てた。

 

「あーいたいた。一夏くぅ~ん、簪ちゅわ~ん」

 

 何処かの三代目大ドロボウのイントネーションで篝火先生が俺達を呼んだ。てゆうか何で知ってるの?

 

「どうしましたか?篝火先生」

 

「いや~実は2人に重要な知らせがあってね。とりあえず一夏君お尻触らせて」

 

 そんな事をニッコリ笑ってほざく篝火さん

 

「ひっぱたきますよ」

 

 ニッコリ笑って毒を吐く俺、そんな俺の言葉にビックリする簪さんである。

 

「ぐ!最近私への当たりが強くなってるような…」

 

「気のせいです。それより重要な知らせって何ですか」

 

 こんな時は、話題を変えるに限る

 

「う~ん、ちょっとここでは話し辛いね…。とりあえず2人とも食事が終わったら所長室に来てちょうだいな」

 

 そう言って篝火先生は去って行った。

 

「なんだろね?」

 

「(ふるふる)」

 

 簪さんも分からないと言った感じに首を振る。

 

「とにかく行ってみようか」

 

「うん」

 

 俺たちは、少し食べる速度を速めた

 

 

 

 

所長室

 

 俺たちは、所長室の扉の前でノックをした。

 

「失礼します。織斑一夏です」

 

「更識簪です」

 

「おー、入ってきてちょうだい」

 

 部屋の主の了解を貰い扉を開く

 

「やあ、早かったね。まぁ座って座って」

 

 俺たちは、促されるままに高級感溢れるソファーに座った

 

「それで俺たちに話って…」

 

「そうだね~…」

 

 歯切れが悪いな…。余程の事なのだろうか?

 

 …………………まさか!!

 

「簪さん」

 

 いつにない真剣な表情で篝火先生が話をする

 

「は、はい」

 

「君のIS「打鉄弐式(うちがねにしき)」の完成なんだが、……少々危うい状況にある」

 

「…え?」

 

 やはりか!!確か打鉄弐式は倉持技研が開発を進めていたが、俺の機体「白式」の開発やデータ収集に全ての技術者を取られてしまい、永らく未完成のままだったはずだ。何という事だ。こんな所で原作的な場面に遭遇してしまうとは…。

 

「な、なぜなんですか?」

 

「うん…。実は我が倉持技研では、一夏君の機体「白式」の開発をしているのだが、そちらにスタッフを回せと上からお達しがあってね。弐式まで開発がいかなくなる恐れがあるんだよ…」

 

「そ、そんな」

 

 簪の表情がみるみる青褪めていく。こんな事あっていいのか?…良い訳ないだろ!!冷静になれ篝火先生は「危うい状況」だと言っていた。つまり打開は出来るという事だ。

 

「篝火先生。危うい状況と言う事は何か打開策があるんですか?」

 

 俺がそう言うと簪さんが俺の方を向き、篝火先生がニヤリと笑う。

 

「さすが一夏君だね。冷静に相手の言葉を読み取り判断する能力、なかなか出来る事じゃないよ」

 

 教え子を褒める様な口調だが、今はどうだっていい。

 

「そりゃどうも。それでどうなんですか?」

 

「焦らない焦らない、確かに打開策はあるにはある…。だがそれには君の「犠牲」が必要だ」

 

「俺の犠牲ですか?」

 

「正確には君のIS、白式のことさ。打鉄弐式の完成度は8割強だ。後はソフトウェア関係だから、うちの職員が総出で当たれば簪さんのISは入学式に間に合わせる事が出来だろう」

 

 なるほど読めてきた。篝火先生の言葉を俺は引き継いだ

 

「代わりに俺のISは入学式までには間に合わない…ですか?」

 

 更に彼女の笑みは深くなる

 

「その通り!優秀な教え子を持って先生は鼻が高いよ」

 

 いっそそのまま折れてくれないかな~。と若干黒い思考が頭をよぎる

 

「な、何か怖い事考えてなかった一夏君!?」

 

 おや?顔に出てたかな?こんな時は素知らぬふりだ。

 

「気のせいです。それでその決定権は誰にあるんですか?」

 

 これが一番大事だ。この決定権が今誰に委ねられているか…。それによって俺の選択が重要になる。

 

「そりゃ勿論、この私さ。何たってこの第2研究所の所長なんだからね」

 

 そう言って胸を張る篝火先生、や、やっぱり大きいですね~。何がと言わないが…。

 

「痛!!」

 

 そんな事を考えていると、突然俺の脇腹に鋭い痛みが走った。見ると簪さんが俺の脇腹を抓っていた。

 

「あ、あの、ごめんなさい」

 

 こんな時は、男が折れるに限る。

 

「ふん!」

 

 プイッと顔を背けられた。やっちまった…。見ると篝火先生が必死になって笑いを堪えていた。くそー、覚えてろよ~。と、とりあえず話を戻さないといけない。

 

「そ、それで先生はどのようにお考えなんですか?」

 

「う~んそうだね~。…一夏君が決めて良いよ」

 

「……え?」

 

 突然の事に頭が回らなかった。。

 

「あの、何故俺なんですか?」

 

 至極真っ当な質問だろう

 

「うん、まぁ上から言われた事は仮決定だしね。それに面倒だし。」

 

 開いた口がふさがらない。ふざけているのかマジなのか分からん…。だが俺にとっては好都合だ。

 

「だったら迷う事なんてありません」

 

 俺はハッキリと彼女に告げた

 

「打鉄弐式の完成を最優先にしてください」

 

 

 

 

 

 

「打鉄弐式の完成を最優先にしてください」

 

 彼はハッキリと篝火所長にそう告げた。一夏君は最近出来た私の友達だ。出会いは私が注文していたDVDを部屋まで持って行く時に彼にぶつかってしまった時だった。そして彼に内容を知られてしまった。

 

 内気で臆病な私は、他人に自分の趣味を知られてしまった事への羞恥心で声も出せずに震えているだけだった。そんな私を彼は温和笑顔で落ち着かせ、DVDを拾うのを手伝ってくれた。それだけでなく部屋まで一緒に運んでくれたのだ。普段の私だったら拒絶してしまうのだが、一夏君の笑顔と雰囲気が本音のそれと似ていたのだ。何だか落ち着く笑顔だった。

 

 それから一夏君もアニメが好きだという事が分かり色々な話をした。色々な話をしてどこからか仕入れてきた裏話なんかも教えてくれた一夏君は私以上にアニメ好きだという事が分かった。話してる最中、一夏君は常にニコニコ笑っていた。本当に落ち着く笑顔だ。こんなに穏やかな心は久しぶりかもしれない…。

 

 私は、嬉しくてコレクションから厳選した作品を一夏君に貸した。一夏君がまた話をしようと言った時は驚いたが更に驚く事を言ったのだ

 

「勿論、俺達もう「友達」なんだからさ」

 

 ……友達?最初は理解できなかった。けどその言葉を心の中で反芻していく内に私は呆然となってしまった。

 

私達は…友達なの?

 

「ごめん!いきなり馴れ馴れしかったかな…」

 

 どうやら、私が気を悪くしたのだと勘違いしているようだ。私は慌てて否定し、自分の性格や友達の作り方が良く分からない旨を告げた。

 

 こんなこと今まで誰にも、本音にさえ言った事はなかった…。なのに、どうしてこうも彼には自然と胸に抱いていた事を口にしてしまうのだろうか…。会って数時間しかたっていない彼に、そんな戸惑う私に彼は笑顔で友達の作り方を教えてくれた。

 

「名前を呼んで」

 

 彼が教えてくれたのはこれだけだった。とてもシンプルで明快な答えだ。

 

「簪」

 

 彼が私の名前を呼んだ瞬間、体に電気が走った。でもそれは、決して不快ではない。優しく温かい彼の声が私の名前を呼ぶたびに、私が彼の名前を呼ぶたびに、私の心の氷は溶けていき、遂には涙が溢れてきた。そして彼は私に右手を差し出した。彼の眼にも薄っすらと涙が見えた。私のために泣いてくれるんだ。嬉しい。嬉しくてどうしようもない私は、両手で彼の右手を握った。その手はすごくごつごつしてたけど、いつまでも握っていたい手だった。

 

 そんな一夏と過ごす1ヶ月は、とても幸せだった。

 

 私は一夏にISの操縦を教えることになった。一夏は教えた事を直ぐに吸収し、その応用も自力で発見していった。私が褒めると嬉しそうな笑顔を見せてくれた。訓練が終わると2人でアニメを見て過ごしたり今までにない充実感に私は満ちている。

 

 気づくと私は一夏にどんどん惹かれている事に気付いた。

 

 そうか…、私は…一夏の事が「好き」なんだ。それに気付いた私はその日は眠れなかった事を記録している。

 

 そんな時に、篝火所長からの残酷な宣告…。長年制作されてきた打鉄弐式が完成しないかもしれない状況…。しかも、私が好きな人の機体が原因となっている。

 

 でも私は不思議と怒りや恨むといった気持ちがなかった。そして、私のISが完成するかしないかの決定権は一夏に委ねられた。途中、所長の胸を凝視していた一夏に制裁を加えたの全くの蛇足だ。

 

 だが彼は、何の迷いも無く私の機体の完成を最優先にして欲しいと告げたのだ。

 

 

 

 

 

「即決だね~」

 

「迷うことなんてありませんから」

 

「理由を聞いても良いかな?」

 

 にたりと笑って篝火さんが質問してきた事に対し、俺は真剣に答えた。

 

「彼女は日本の国家代表候補です。偶然ISを動かした俺と違って、必死に努力してこの地位を掴んだんです。そんな彼女が未完成のISを持たされるなんて理不尽過ぎます。」

 

 そう、彼女は必死に努力したんだ。自分の「姉さん」に追いつくために…。

 

「それに」

 

「それに?」

 

「大切な友達を助けない友達なんていないでしょ?」

 

 俺もニヤリと笑って篝火先生を見る。一瞬呆けるが、すぐに忍び笑いを浮かべる

 

「ぷっくくく、確かにそうだね。迷うことなんてないか」

 

 互いに笑みを浮かべる。簪だけが状況を分かってないようだ。

 

「分かった。彼女の機体は、この私が責任を持って完成させるよ。技術者の『魂』に誓ってね」

 

 力強い笑顔で篝火さんが答えた事で、簪もようやく理解したようだ。

 

「い、一夏、本当にいいの?」

 

「良いんだ」

 

「で、でも」

 

「簪!」

 

 少し強めの口調で彼女の名前を呼ぶ。

 

「ひゃい!!」

 

 そ、そんなに驚かなくても良いのに…。

 

「その代わり、俺と1つ約束してほしい」

 

「約束?」

 

 戸惑う簪に俺は伝える

 

「『勇気』を持ってほしい」

 

「勇気?」

 

 俺は頷く

 

「そう、どんな困難にも立ち向かっていける勇気を…ね」

 

 しかし、途端に簪はおびえた表情を見せてしまった

 

「む、無理だよ。私一人じゃ…。」

 

「誰も一人でなんて言ってないよ」

 

「え?」

 

「俺も一緒に戦う」

 

「!?」

 

「だから、簪も勇気を出して立ち向かってほしいんだ。『正義のヒーロー』の様にだ」

 

「!!」

 

「約束できる?」

 

 俯いた表情の簪が顔を上げる。いつもの弱気な表情じゃない。まっすぐ真剣に、戦う事を決意した眼だ。

 

「分かった。私、約束する。どんな敵にも絶対に退かない!!」

 

「うん」

 

 これで大丈夫だろう。もう彼女は間違ったりしない。この表情を見れば満足だ

 

「いよっし。これで1つ問題が片付いたね。で、次は一夏君なんだけど…」

 

 ああ、そう言えばそうだった。一体何だろうか

 

「君の相手が決まったよ」

 

「相手?」

 

「IS学園入試の実技試験の対戦相手さ」

 

 ああ、そうか。そう言えばあの時は試験なんて出来る状況じゃなかったな。まぁ山田先生あたりだろうけどね。原作一夏でも足を引っ掛けて終わりだったもの。

 

 楽勝でしょーーーー(*。>ω<)vブィッ~☆

 

「それで、一体誰なんですか?」

 

 俺が気楽な感じで聞くと

 

「ブリュンヒルデ」

 

と気楽な感じ篝火さんが答えてくれた。

 

 

ブリュンヒルデ?ああ、姉さんか?

 

………………………ゑ?

 

 

 

「イ、イ、イマ、ナント、オッシャイマシタカ」

 

「君の対戦相手は織斑千冬君に決まったよ。なんと!!向こうからの逆指名だよ」

 

 ………いやいやいや、いやいやいやいや!

 

「ま、まじですか…」

 

「大マジだよ」

 

 簪の方を見る

 

「(フイ)」

 

 眼を逸らされた…。少々汗が出ている。

 

 

 

 

オレオワタ\(^o^)/




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姉弟対決

大分時間が掛かりました。
申し訳ありません。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも、格納庫で機体の最終チェックをしている織斑一夏です。

 

 あのサプライズマッチ決定から2週間が過ぎ、いよいよその当日を向かえた訳だが…。

 

 どこからか試合を聞きつけた研究所の職員たちが試合会場であるアリーナにいるのだ。それも一人や二人ではない。一体何処にいたのやら、詰めかけた職員は少なく見積もっても100人はいる。分からなくもないが自重してほしい。そんな若干の憂鬱感を持ちながら、俺は機体のチェックに勤しんでいる。

 

「システムチェック……オールグリーン。近接ブレード『葵』……状態良好。打鉄の最終チェック完了……ふぅ〜〜」

 

 試合前の状態チェックが、たった今終わった所である。傍らでは、簪がブースターの調整をしてくれている。

 

「一夏、ブースターの最終チェックも終わったよ」

 

簪の言葉に俺も頷く

 

「ありがとう簪。でも自分の訓練まで休んで大丈夫?」

 

 そう簪は、この日のために自分の訓練を休んで、俺の機体のサポートをしてくれている。

 

 そう言う俺に対して簪は、にこやかに返答した。

 

「大丈夫。ちゃんと休みの申請は出してあるから…」

 

「それに…」

 

「それに?」

 

「大切な友達を助けない友達はいない…でしょ?」

 

 以前俺が言ったセリフを、簪にイタズラっぽい笑みを浮かべて言われてしまった。

 

「はは、こりぁ一本取られたな」

 

「ふふふ」

 

 ついつい、互いに笑みが零れてしまう。試合前で高揚していた気持ちが幾分か落ち着きを取り戻しつつある。

 

 無理もない…相手は公式戦無敗の王者、ブリュンヒルデの名を冠する我が姉織斑千冬だ。そんな王者がISを操縦し始めて間も無いヒヨッコ同然の俺の相手をしてくれる。IS乗りにとってこれ程の名誉は無いだろう。

 

「一夏、少し聞いて欲しいことがあるの…」

 

 突然簪が真剣な表情で話し始める・

 

「うん」

 

「私にもね…一つ歳の離れたお姉ちゃんがいるの」

 

 恐らく更識楯無さん(さらしきたてなし)の事だろう

 

「うん」

 

「お姉ちゃんはね、ロシアの国家代表。性格も明るく優しくて…私とは正反対なの…」

 

「…」

 

「そんな完璧なお姉ちゃんと私は、いつも比べられていた。…そして私は、いつの間にか劣等感の塊になって自分の心を閉ざしていたの」

 

「一夏…」

 

「ん?」

 

「あなたがこれから戦う人は、世界最強のブリュンヒルデ。そして…あなたのお姉さんでもある。…怖くは無いの」

 

 分からなくもない。俺も学校で「ブリュンヒルデの弟」と言われることが多々あったのも事実だ。そんな事を幼少時代から言われ続けていれば心を閉ざしてしまうのも何ら不思議な話ではない…。

 

 かといって、こんな状態まで放置していた更識先輩を責める気も起きない。恐らくだが、どちらもどうにかしなきゃいけないと考えながらも、互いに触れ合うのが怖くなってしまったのではないだろうか…。エヴァの金髪博士曰く「ハリネズミのジレンマ状態」だったと推測できる。まぁ、ここは素直に答えましょうか

 

「怖いよ」

 

「え?」

 

「昔から姉さんの戦いをまじかで見てきたからね。…その強さは誰よりも知ってるつもりだよ。」

 

 縦横無尽に駆け巡る機動、その細腕のどこから来るか分からない信じられない一撃、例を挙げればそれこそいつまでも語れる自信がある程に姉さんの戦いを見てきた…。

 

「…」

 

「でも、それ以上に楽しみでもある」

 

「…楽しみ?」

 

「今の自分の力がどれだけ通用するのか…まぁ〜これは試験だから実力の二割も出さないと思うけどね。」

 

「一夏…」

 

 そんな時に通信からアリーナ入場の知らせが届く、最後にこれだけ簪に伝えよう。今の彼女なら分かってくれるはずだ。

 

「見ててくれ簪」

 

「…」

 

「俺の勇気を…」

 

「!?」

 

 

 

「織斑一夏、『打鉄』行きます!!!」

 

 ちなみにこれは、某機動戦士風です。

 

 

 

 

「来たか…」

 

 誰に言うでもなく千冬は呟く。双方が乗る機体・武器ともに同じもので揃えている。

 

 両者が所定の位置に着くと双方のISに通信が入った。

 

「本日、試験の判定をする山田真耶『やまだまや』です。ルールの説明をします。制限時間は1時間1本勝負。シールドエネルギーが0あるいは手持ちの武器が破壊された場合、その時点で試合終了とします。双方よろしいでしょうか?」

 

 お互いに頷く事で了解の意を伝える。

 

「……」

「……」

 

 静寂…、両者は語らない。眼をつむり、1つ深呼吸を入れた一夏の雰囲気が変わる。次いで開かれたその眼光からは、目の前の相手を打倒さんとする確固たる決意が滲み出ている様であった。

 

 そのまま一夏は無言で近接ブレード「葵」を鞘から引き抜き、正眼に構える。それを見た千冬はニヤリと笑い、持っていたブレードを上段に構えた

 

「言葉は…、不要か」

「推して参る」

 

研ぎ澄まされた雰囲気の中、真耶の声が双方に響き渡る

 

 

 

 

「試合開始!!!」

 

 

 

 

 開始の言葉とともに両者が近づき正面から振り上げたブレードがぶつかる。一回、二回、三回と、互いのブレードがぶつかり合う。ブレード同士がぶつかる音は、一種の音楽の様な錯覚すら覚える。

 

 一夏の戦闘スタイルは「柔」・「剛」・「流」を併せ得たバランスタイプだ。 

 不用意な攻撃が来れば「柔」の技を持って相手をいなし、一撃を加える。逆に相手が亀の様に防御に徹するならば、一撃で断ち切るような「剛」の技を持って相手を倒す。更に相手との戦力差など状況によっては、機動力を生かした「流」によって相手の機先を制するような戦い方をする。

 

 本来ならば一夏は、早々にこの打ち合いから脱出し「柔」か「流」のスタイルで戦いの流れをこちらに引き寄せる考えでいた。…が、甘かった。早さと力を併せ持った千冬の「剛」の剣に一夏は打ち合いをするしか選択が無くなってしまったのだ。

 

 1つ1つの攻撃の重さもさることながら、剣の返しが早くこちらは反応するのがやっとという状態に追い込まれていた。この状況で下手にスタイルを変えれば大きな代償を支払ってしまうのは明白だった。姉弟は同じようなスタイルでありながら、その技量は想像を超えた差があるのだ。

 

 何とか追い付いているがジリ貧だ。このままではいずれ押しつぶされる。それを分かった上で一夏は冷静に相手を見据えた。

 

 

そして「それは」起きた。

 

 千冬が袈裟切りを出した瞬間、一夏が動いた。両手で持っていたブレードの左手を離し、腰に備えられている鞘を手に持ち向かってくるブレードに平行になる様に合わせ千冬の攻撃をいなしたのだ。

 

「!?」

 

 若干よろめく千冬に一夏は右手のブレードを千冬の脇腹に放つ。瞬時に態勢を立て直した千冬が左に飛ぶ。

 

 この試合で両者が初めて離れた。双方が一定の距離を空けしばしの間の後、千冬が笑みを浮かべながら一夏に語りかける。

 

 

「先制は奪われてしまったか…」

 

 初めは、千冬の言葉に観戦者達は訳が分からないと言った表情を浮かべていたが、モニターに表示されている両者のシールドエネルギーを見てその表情を一変させた。本当に微量ながら千冬のシールドエネルギーが減っているのだ。受けたダメージは人間で言えば特に問題のない掠り傷である。

 

 しかし、ISを乗り始めて僅か一月半しか経過していない素人が最強の称号を欲しいままにしたブリュンヒルデに手傷を負わせたのだ。

 

 その意味は推して測るべきであろう。

 

 観客達の歓声の中、双方は初めて言葉を交わす。

 

「狙ってやったのか?」

 

「数ある可能性の一つに入れてただけさ。打ち合えば必ず追い詰められるのは分かっていたからね」

 

「ほう」

 

「下手に下がればキツイ一撃を貰うのは目に見えてたし、あの状況はさっきの距離で我慢強く勝負に徹するしかなかったんだ」

 

 一夏の答えを聞いた千冬は更に笑みを深める。

 

「言うは易し、行うは難しだ。分かっていても私と打ち合おうとする度胸のある奴は、国家代表でもどれだけいるか分からんな」

 

「ヒヨッコには勿体ない賛辞だね」

 

 一夏は、苦笑いを浮かべる。

 

「褒めるべき所は褒めるさ。私の場合、若干そのハードルは高いがな…」

 

 一夏の笑みが引きつる。

 

 両者が再び構える。千冬は先ほどと変わり、ブレードを正眼の構えにする。

 

「さて、お次は機動だ。」

 

 言うや否や、千冬は爆発的な加速力で一夏に迫る。その動きに合わせる様に一夏はバックブーストを掛けながら払い切りを放つ。が、そこから千冬は廻り込むような機動を加え一夏の左肩を強かに打ち据え通り過ぎる。

 

「ぐっ!!」

 

 痛みに思わず声が出るが、ヒット&アウェイの如く瞬時に方向転換した千冬が更にブーストをかけて迫る。堪らず一夏は上昇しそれを避けるが、更に千冬は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使いその軌道を一夏へと向けて迫る。

 

「ちっ!?」

 

 迫るブレードに一夏はブレードの反りの部分に手を当て防御の構えを取る。

瞬間、まるでトラックが全速力で突っ込んできたような衝撃をその身に受けながら遥か後方に下がる。ブーストを吹かす事で何とかシールドへの激突は防げたが、先ほどの攻防で少なからずシールドエネルギーを消費してしまった。

 

 守ったら負ける攻めるしかない!!

 

 再びブーストを吹かしながら向かってくる千冬。負けじと一夏もブーストを吹かしながら互いに交錯する一瞬にブレードを振るう。

 

「ぐわ!!!」

 

 だが一夏の攻撃は避けられ、代わりに千冬のブレードが一夏を捉える。機動力では勝負にならない事を知りながらも、あれに対抗する術(すべ)を持たない一夏は、千冬のブレードの軌道を先読みし、いなす要領で千冬の剣をさばく高速機動戦に従事するしかなかった。

 

 それども3回に1回は攻撃が当たってしまう事から一夏のシールドエネルギー残量は確実に減少していった…。

 

 そして更に悪い事は続く。

 

 突如、一夏の打鉄から警告音が鳴り響いた。

 

 

「警告!!警告!!近接ブレード『葵』の耐久力が限界に近づいています!!完全破壊の可能性95%!!」

 

 

 無機質なモニターからの警告は最悪な報告を一夏に伝える。

 

「馬鹿な!?」

 

 高速戦闘を続けながら、慌てて「葵」のステータスをチェックすると所謂「鎬(しのぎ)」の部分だけ危険領域である赤色に染まっていた。他の部位も注意領域の黄色に染まっていたが何かがおかしいと一夏は本能的に感じた。

 

 そして衝撃的な結論に至った。あれだけ縦横無尽に駆け巡っていた千冬が静かに佇んでいる。それはまるで生徒に解答を求める教師の様に…。

 

 先程とは逆に一夏が千冬に質問する。

 

「最初っから…鎬だけを狙って打ち込んでいたんだね」

 

「正解だ」

 

 千冬は静かに簡潔に述べた。

 

「あの速さで、同じ所に当てるなんて…。正気の沙汰じゃないよ」

 

 一夏の弱々しい悪態に千冬が涼しい顔で答えた。

 

「難しい事ではない。国家代表でも同じ芸当が出来る奴に心当たりがある」

 

「そっか…」

 

 国家代表の凄さに若干の眩暈を感じる一夏に千冬は投げかけた。

 

「さてどうする?」

 

 恐らく降参の意も含んだ選択を投げかけたのだろう。だが一夏は不敵な笑みを浮かべ言い放つ。

 

「…降参はしない」

 

 そう言うって地上に降りていく一夏を千冬が追う。両者が一定の距離を置く形になる。一夏が鞘に「葵」を納め抜刀術の構えを取る。

 

「ほう、私に抜刀術で挑むか?」

 

 千冬の真剣な問いに一夏が答える。

 

「高速機動戦では勝ち目はナシ。その上『葵』がこんな状態では、打ち合う事も出来ない…。加えて俺のシールドエネルギーも限界に近い。…ならば一撃必殺の抜刀術に賭けるしかない」

 

「お前の判断は正しい。だが、随分と分の悪い賭けになるな…」

 

 一夏は、不敵な笑みを浮かべて切り返す。

 

「嫌いじゃないさ!!」

 

「…ふっふふふ。そうか」

 

 千冬も同様に抜刀の構えを取る。 

 

 観客も一様に静まり返る。今の二人の戦いは、ある種「神聖」な雰囲気を醸し出している。誰も邪魔が出来ない状況…。互いが構えを取りしばしの時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 刹那、互いに砂煙をあげながらイグニッション・ブーストを発動し、交錯するその一瞬、一夏は持てる己の力の全てをを壊れかけの刀に乗せ、横薙ぎに振り抜きそのまま通り過ぎて行った。

 

 砂煙が収まり、両者の姿が現れる。互いにブレードを振りぬいた状態で止まっていた。

 

 しかし、一夏のブレードは、ほぼ中間点から綺麗に折られていた…。

 

 その瞬間、アリーナに真耶の声が響く。

 

「し、試合終了!!織斑一夏機、ブレード破壊及びシールド残量0!!よってこの試合『織斑千冬』の勝利です!!!」

 

 その宣言がされた瞬間、全ての観客が立った。所謂スタンディングオベーションの状態でアリーナから歓声と惜しみない拍手が両者にいつまでも送られた。




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ではまた次回


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IS学園編
クラスメイトは全員女子


おまたせしました!!
とりあえず短めです
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


 春の麗らかな日差しが差し込むこの季節、俺は無事にIS学園へと入学した。

 

 倉持技研での二ヶ月は、俺にとって素晴らしい経験となった。姉さんとの力量の差を明確に認識できたことは、今後の目標設定の良い材料になったし、簪にも良い影響を与えたようだ。格納庫に戻った時に思いっきり抱きしめられたのはビックリしたが…。

 

 それから二ヶ月の研究所生活を終えて、お世話になった職員さん、簪、篝火先生に挨拶をした。途中で篝火先生は、懲りずに俺の尻を触ってきたので孤独なグルメな方が得意とするアームロックを笑顔でかけて上げた。隣の簪に「それ以上はいけない」と言われたのも良い思い出だ。最後に皆で写真を撮った。

 

 簪も篝火先生も職員さんたちも良い笑顔だった。さて若干回想的な感じで今の状況から逃避しちゃいそうになったが…俺は今教室内で無数の視線にさらされている。

 

 さてIS学園とは、ISの操縦者育成を目的とした教育機関であり、その運営及び資金調達には原則として日本国が行う義務を負っている。ただし当機関で得られた技術などは、協定参加国の共有財産として公開する義務があり、また黙秘、隠匿を行う権利は日本国にはないものとしている。機関内におけるいかなる問題にも日本国は公正に介入し、協定参加国全体が理解できる解決策を提示することを義務付ける。入学に際しては、協定参加国の国籍を持つ者には無条件に門戸を開き、日本国での生活を保障することとする。

 

 また、学園は全寮制、生徒はすべて寮で生活を送ることが義務付けられている。学園の制服は許容範囲内であればカスタム自由であり、制服のリボンは学年ごとに色が違い、1年は青、2年は黄色、3年は赤となっている。

 

 名目上、高校生なので授業数自体は少ないが、一般教科も履修する。中間がなく期末テストのみ試験がある。

 

 またIS学園では2年生からIS開発・研究・整備を専攻にした「整備科」が1クラス作られる。学内でのトーナメント戦、特に2年生以上が参加するものには、基本的に整備科に協力を仰ぎ、複数名からなるチームをつけてもらう。「整備科」のための施設として、競技場である各アリーナに隣接する形で「IS整備室」が設置されている。

 

 最後にIS学園において「予測外事態の対処における実質的な指揮」は、すべて我が姉である織斑千冬に一任されている。

 

 ざっとIS学園について説明したが、この空気はどうにか出来ないだろうか…。試しに箒に助けを求めて視線を送って見たら、苦笑いをしながら首を振るうだけであった。軽いため息が出てしまう。

 

 そんな風にしていると一人の女性が教壇の前で自己紹介を始めた。

 

「皆さんご入学おめでとうございます。私は、このクラスの副担任の山田真耶と言います。1年間よろしくお願いします。」

 

 しーん…誰も何も言わない。山田先生…顔が引きつってます。

 

 不憫だ。

 

「そ、それでは出席番号順に自己紹介をおねがいしますね」

 

 分かっていたとはいえ原作の言葉を借りるならば「これは、想像以上にツライ」と言いたい気分だ…。

 

「では次に織斑一夏君お願いします」

 

 おっと、山田先生からのお呼びだ。一丁頑張りますか!席を立ち後ろを振り向くと全女子の視線がこちらに向かう。

 

 胃が痛い…。無難に無難に

 

「織斑一夏です。趣味はスポーツと料理。ISについては、まだまだ初心者なので、皆さん色々と教えてください。よろしくお願いします。」

 

 礼儀として頭を下げる。

 

 

 

 一時の静寂

 

 

 

「「「「きゃーーーー‼‼‼」」」」

 

〜〜〜〜っ‼‼み、耳がーーーー!!どこからあんな声が出てくるんだ⁉

 

「男子だー!男子がここにいる〜!」

 

「背が高い!モデルみたい!」

 

「すごく優しいそう!お兄様って呼ばせて〜」

 

「やべえー鼻血出てきた‼ひぁっほーーー‼最高だぜぇ‼」

 

 すげー…、さっそく女子のパワー垣間見たな。一体どこからあんな声量が出るのか分からん。

 

 ちなみに今の俺の身長は180cmを超えました。前世では165cm程度だったから非常に素晴らしい‼そんな風に一人思考していると…。

 

「随分と騒々しいな」

 

 素晴らしいタイミングで我が姉が教室に入ってきた。俺もどさくさに紛れて席に座る。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「うむ、山田先生。クラスへの挨拶は終わったかな?」

 

「いえ、織斑君までが終わったところです」

 

「そうか、では私の自己紹介もさせてもらおう」

 

 そう言って織斑先生は、教壇から挨拶を始めた

 

「諸君、初めまして。私が織斑千冬だ。主にISの座学と実技の指導を担当する。君たちには一年で多くの知識と操縦技術を覚えてもらう。その過程で、分からないことや教員への不満がある場合は、私や山田先生に相談してくれ。私自身も至らないことがあるかもしれないが精一杯君たちの力になりたいと思う。よろしく頼む」

 

 …………なんというカリスマだ。原作と違ってただ恐ろしいだけでなく、教師として自覚ある発言に感じた。姉さんの仕事への本気度が感じられる。

 

あ、耳に手を押さえてとこ。

 

「きゃーーーーー‼‼‼千冬様よ。本物の千冬様よ!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しすぎるわ!」

 

姉さんも少し困った表情をしている。話を変える様に俺に話しかけた。

 

「織斑、今までに無い特殊な環境だが、ここに入った以上は慣れるしかない。私生活も含めて色々と学ぶようにしなさい」

 

 教師として、そして姉として最大限に気を使った言葉なんだろう。胸に刻もう

 

「はい。お心使いありがとうございます。織斑先生」

 

 そう言って頭を下げる。姉さんは満足したように小さく頷いた。

 

「やっぱり織斑君は、千冬さまの弟なのね」

 

「テレビで見たけどやっぱり本当なんだ」

 

周りが少しざわめく。

 

「さぁ、自己紹介を続けてくれ。私も皆の名前と顔を覚えないといけないからな」




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クラスメイトは全員女子2

皆さんが楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・


「見てあの子よ。世界で最初の男性IS操縦者」

 

「しかも千冬様の弟なんだってさ」

 

「私、声かけてみようかな〜」

 

「あ、抜け駆け禁止だよ!」

 

 どうも、織斑一夏です。

 

 現在SHRと1時間目の授業が終わり休憩時間に入っているが、正直全然休めていない…。廊下は人の山ができている。勿論目当ては俺だろう。チラッと視線を廊下にやると皆して明後日の方向を見てるし…。

 

 はぁー…お願いです。誰か私をここから連れ出してください。

 

 そんな俺の願いが通じたのかポニーテールをした一人の女子が心配そうな表情で近づいてきた。

 

「大丈夫か一夏?」

 

勿論その正体は箒だ。

 

「いや〜、かなりきつい…」

 

 苦笑いを浮かべながら答える

 

「外の空気でも吸いに行こう。多少なりとも気も紛れるだろう」

 

「そうだな。じゃあ行こうか」

 

 俺たちが廊下に出ると人の山が分かれ「道」ができ、そんなんで屋上までは楽に行くことができた。

 

 

〜屋上〜

 

「いやー、助かったよ箒」

 

 はぁ~、海風が気持ちー。

 

「ふふ、気にするな。しかし…本当に大変な事になったな」

 

「うん…。色々大変な事もあるだろうけど、大丈夫さ」

 

 箒の方を見ながら笑みを浮かべる

 

「え?」

 

「俺は…、夢が出来たから」

 

そう言いながら海の方を向く

 

「夢?」

 

「…」

 

 そうだ。ここはスタートライン。原作一夏と違ってがむしゃらに自分を鍛えた。それでもまだまだ足りない…。心も体も鍛えて俺は…俺は「夢」を叶えなければならない。

 

 決意を新たに、俺は自分の胸の前で拳を作る。

 

 

 

 

 

 

「俺は…、夢が出来たから」

 

「夢?」

 

 私の問いに答えず一夏は、海を見ながら黙って拳を胸の前に持ってきた。とても真剣な目だった…。

 

 一夏…、お前は何も変わっていない。私がいない間も、きっと自分を鍛えていたんだな。 女尊男卑という世界になり、私は行く先々で男は女の下という風潮が蔓延している光景を目にしてきた。酷い時は男を奴隷として扱う女も多かった。でもお前は…こんな状況にもかかわらず、希望を持って前に進もうとしている。

 

 嬉しい、そして叶うなら全ての人間に伝えたい。私が愛した人はこんなにも誇り高く、勇気を持った人だと自慢したい。

 

 彼の隣を歩みたい。

 

 でも今の自分じゃ一夏には到底釣り合わない。強くならなければ…、そして私も自分の「夢」を見つけよう。ただ一夏の傍にいるだけじゃダメだ。そんなんじゃ一夏に相応しい人にはなれない。この学園生活で見つけよう…。私自身が命を燃やせる夢を、そして姉さんから貰ったこの「力」に恥じない様な自分にならなければ…。

 

「箒、そろそろ戻ろうか。予鈴がなる時間だよ」

 

 そこには、いつもの優しい顔を浮かべた一夏がいた。

 

「あ、ああ。そうだな…行こう一夏」

 

 私の決意を後押しするように右手首にある「鈴」が小さな音を出した。

 

 

 

 

 

 

「このように、ISの基本的な運用に関しては現時点で国家の認証が必要となります。協定内のIS運用から逸脱した場合は、刑法によって罰せられるので注意しなければなりません」

 

 淀みのないペースで教科書を進めていく山田先生。よしよし2ヵ月間の成果が出てるぞ~。篝火先生、そして簪、本当にありがとう。

 

「織斑君、何か分からない所はありますか?」

 

「え?」

 

 気を使ってくれてるのだろうか?山田先生が訊いてきた。

 

「分からない所があったら何でも訊いてくださいね。なんたって私は『先生』なんですから!」

 

 うーむ、今のとこは大丈夫なんだが折角だし何か質問しないと山田先生の立場がな~…。

 

「はい、先生」

 

「はい、織斑!」

 

 俺が元気に手を挙げると、先生も元気に答えてくれた。山田先生の快活な性格は好感が持てるな~、あと巨乳だし(笑)。

 

「ISの運用に関して質問なんですが、『例外的に国家の承認がなくISの使用が可能な場合がある』と記載されていますが、具体的な例等はありますか?」

 

 この辺が無難なとこだろうか?俺がそう考えていると、待ってましたと言わんばかりに笑顔になる山田先生。

 

「織斑君、良い質問ですね!!最も基本的な例を挙げるならば『偶発的に操縦者の身に危険が起きた場合』が通例となっています。皆さんもここはチェックしておいてくださいね」

 

 ふむ、どうやら山田先生に恥をかかせずにすんだらしい。あ、姉さんが少し苦笑い気味だ。どうやら俺の意図がバレていたようだ。そんな感じで授業は進んでいった。

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしいかしら?」

 

「ん?」

 

 2時間目の休み時間、次の授業を準備している中で誰からか声をかけられた。振り返って声の主を確認して見ると、そこにいたのは一人の白人女子だった。ありゃ、セシリアさんじゃん。

 

 セシリア・オルコット 

 

 この物語の3番目のヒロインだ。長い金髪を縦ロールにし、透き通った碧眼を持つ。胸は白人女性としては幾分小さめらしいが、それでも一般的な日本の女性に比べればデカイ。イギリスの名門貴族のお嬢様で、過去に両親を列車の事故で亡くし、勉強を重ねて周囲の大人達から両親の遺産を守ってきた努力家だ。男尊女卑の時代だったころから実家発展に尽力した母親のことは尊敬していたが、婿養子という立場の弱さから母親に対し卑屈になる父親に対して憤りを覚えていたらしい。

 

 当初は原作一夏に対しても高圧的で蔑視した態度だったが、クラス代表を決めるIS戦の中で、自分が考える「理想の男」の姿を見せた一夏に好意を抱くようになった。以降は、一夏への態度は180度変わり、代表候補生として培ってきた知識や経験を活かしてISの操縦技術向上の手助けをするという建前で一夏にアタックしている。

 

 プライドが高く、上品な口調と物腰から大人びて見えるが、根拠の無い自信家ぶりを見せたり、何事にもポーズから入る節があったりと、自分を印象づけたいがために無理な背伸びをするなど年相応に子供っぽい面も見せた。俺からすると微笑ましい限りである。あと意外にも友達が多い…主にいじられキャラになっているが。

 また、本人に自覚はないが料理の腕は壊滅的だ。視覚的な部分のみを頼りとしており味見もしないため、作る料理は見た目だけは完璧だが味のほうはすさまじいものとなっている。

 

 ……………………………………胃薬は十分に用意せねば。

 

 

「訊いています?お返事は?」

 

 おっと、少し考えが長かったかな

 

「聞いているよ。えーと、セシリア・オルコットさん?」

 

 そういうとオルコットさんは笑みを浮かべて口を開いた

 

「あら、自己紹介はちゃんと聞いていらっしゃったようですわね。そう、イギリスの代表候補生にして、入試主席のセシリア・オルコットですわ。以後よろしくお願いしますわね」

 

 よろしくと口では言っているが、その眼からは明らかな敵意と侮蔑等の暗い感情が見て取れた。どうやら原作通り彼女にとって俺は、お気に召さない存在らしい。

 

 まぁ俺からしたら気に入らない相手に必死に食ってかかる小さな少女の様なものだ。見ていて逆に微笑ましすら覚える。俺はいつもの笑みを浮かべてオルコットさんに語りかける。

 

「ほぉ、それはすごいな。頑張って努力した結果が今の君なんだな?」

 

「……え?」

 

 まるで鳩が豆鉄砲でも食らったような表情をするオルコットさん。俺は何か変な事でも言ったかな?まぁ良いや続けよう。 

 

「友人に日本の代表候補生がいるんだが、その子も必死に努力してその地位を獲得したものだから。君もそうじゃないのかと思ったんだが?」

 

 そう、簪は俺へのレクチャーが終わった後に自分の訓練を夜遅くまでやっていた。何かに向かって頑張っている姿は本当に感銘を受けた。そして俺自身も更にトレーニングの量を増やしたのだ。

 

「えっと、その、あの…」

 

 急にどもり出してしまったオルコットさん。本当に大丈夫だろうか?心配で声をかけようとすると予鈴が鳴ってしまった。

 

「っ……!ま、またあとで来ますわ。逃げないでくださいまし!!い、良いですわね!?」

 

 顔を真っ赤にしながら捲し立てるオルコットさんに、俺はにこやかに頷いた。やっぱり微笑ましい。

 

 

 

 

 

 

 

「さてこの時間は、実践において使用する各種装備の特性について説明する。かなり大事な部分だからしっかりとノートを取るように」

 

 説明を始めようとした姉さんが、ふと思い出したように別の言葉を紡いだ。

 

「すまない、その前に再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決めなければいけなかった」

 

 ああ、やっぱりこれだよな。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。代表者になったものは、対抗戦や生徒会が開く会議、委員会への出席等を行ってもらう。まぁ平たく言えばクラス長だな。ちなみに対抗戦は、入学時点での各クラスの実力を測るものだ。加えると1度決まると1年間変更はないからそのつもりでいなさい。自薦他薦は問わないので、意見があるものは挙手するように」

 

 まぁこの後の展開はお決まりだよな~。

 

「はい。織斑君を推薦します」

 

「私もそれが良いと思います」

 

 はい、テンプレですよね。

 

「候補者は織斑一夏。他にはいないか?」

 

 このままスムーズに行けば万々歳なんだが、そうもいかない。

 

「待ってください!納得がいきません!!」

 

 オルコットさんが机をた叩いて立ちあがった。

 

「そのような選出は納得できません。大体男がクラス代表なんて恥さらしも良い所です!このセシリア・オルコットにそんな屈辱を1年間味わえと仰るのですか!?」

 

 やれやれ、まるで駄々っ子だな…。代表候補生として自覚ある発言をしなければいけないのに…怒りで回りが見えていないな。

 

「実力から行けばわたくしが代表になるのは必然ですわ。それを、物珍しさで極東の猿にされては困ります!わたくしがこんな島国まで来たのはISの技術を学ぶためでサーカスをする気は毛頭ありません」

 

 マジでヤバイ…。姉さんは表情には出していないが静かに怒っているようだし、箒に至っては鬼の形相になっている。事はそれだけじゃない。うちのクラスは日本人が多いから周りも良い顔をしていない。しょうがない、少々お灸を据えなければ。

 

「大体ですね…」

 

 俺は座りながら彼女の発言に割って入った。

 

 

「そこまでにしておけ、『三流候補生』」

 

 

 クラスが凍った。雰囲気で分かる。俺はそれに構わず静かに立ちあがりオルコットさんを見据える。彼女は何を言われたか分からない表情をしていた。

 

「い、今何と仰ったのでしょか?」

 

 オルコットさんは怒りのあまり体が震えているようだった。だが俺も言ったからには引けない

 

「聞こえないのならもう一度いってやろう。そこまでにしておけ、この三流候補生め」

 

 それを聞いた途端、彼女の白い顔は怒りのあまり真っ赤になってしまった。

 

「君は恥かしくないのか?」

 

「?」

 

 眉をひそめる彼女。どうやら分からないようだ

 

「国の代表候補生でありながら、他国を平気で侮辱し虚仮にしている自分を恥かしくはないのかと聞いているんだ!!」

 

 思わず大きな声が出てしまった。周囲の女子が少しびくっとした。…後で謝ります。

 

「代表候補生は、その国をいずれは背負って立つかもしれない重要で名誉なものであり、そして極めて大きな責任がある立場だ。…君の言葉一つで国の信用問題に発展することだってあり得る」

 

「!?」

 

「それを君は自覚も無く、自分の思い通りにいかなくなった駄々っ子のように騒ぎ立てる。見るに堪えない、恥を知れ!!」

 

 オルコットさんを見ると言っている事の正しさは理解できているようだが納得はしていない表情だった。それも仕方がないことだろう…。いきなり素人に代表候補生の在り方について説教されても受け入れられるもんじゃないしな。

 

「け、決闘ですわ!!」

 

 ま、こうなるよな。

 

「いいだろう俺は一向に構わないが、いかがでしょか?織斑先生」

 

 俺たちで決めても本筋の決定権は先生にあるから指示を仰ぐのも必然だろう。

 

「ふむ…、こうなってしまっては仕方がない。互いに話し合いでは解決できない状況だろうからな。では勝負は一週間後の月曜日、放課後の第3アリーナで行う。両名はそれぞれ出来うる限りの準備をしなさい。それでは授業を再開する」

 

 さて、色々とがんばりますかね。




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ではまた次回


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クラスメイトは全員女子3

皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ…


 どうも織斑一夏です。

 

 時間は、放課後まで進み今俺は帰り支度をしている。あの後、俺は周りの女子たちに謝罪をして回った。怖がらせたのは確かだし一人一人に丁寧に頭を下げた。気にしてないと言われたが、いかんな…、俺も人の事を説教できるほど偉そうなことは言えない。月曜の対戦が終わったらオルコットさんにも謝ろう。

 

 そんなことを考えていると、織斑先生と山田先生が教室に入ったきた。

 

「あ、織斑君。まだ教室にいてくれたんですね。良かった〜」

 

「どうしたんですか?山田先生」

 

「寮の鍵を渡すのを忘れてました。はいどうぞ」

 

 そう、予め姉さんから寮での生活ができることを通知してくれたのだ。そういえば…。

 

「あの、3つ程質問があるんですが」

 

 これは絶対に聞かなければいけない事だ。

 

「ん?どうした織斑」

 

「部屋は誰かと一緒なんですか?」

 

「…」

 

「…」

 

 2人とも気まずそうな表情となる。ああ、何となく予想できた。

 

「あ、あのですね織斑君…」

 

「すまないな織斑。どうしても調整が間に合わなかった。少しの間、篠ノ之と一緒に生活してもらうことになったのだ。」

 

 やっぱりここは原作通りなんだ…。まぁそれはそれで構わない

 

「そうですか」

 

「ごめんね織斑君」

 

 山田先生が申し訳なさそうに謝る。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それに気心の知れた箒だから問題ありませんよ」

 

「なら良いんですけど…」

 

 千冬姉さんも、少々心配そうだ。別に不埒な事はしませんよ。

 

「あ、もう一つは寮には男子トイレはありますか?」

 

「うむ、お前が暮らす1階と2階にそれぞれあるから心配はないぞ」

 

 よかった~。これはマジで死活問題になるからな。

 

「最後に、この事は箒は知っていますか?」

 

 そうこれだ!!ラッキースケベフラグを回避せねば、あの連続牙突がきたら避ける自信がない…。

 

「ああ、それは山田君に伝えるようにしたから心配せずとも…」

 

「…………」

 

 あれ?おかしいな、山田先生の表情がみるみる青くなった。おまけに冷や汗も出てるぞ。

 

「…山田君?」

 

 あ、姉さんの目が鋭くなった。

 

「すぐに伝えに行ってきまーす‼」

 

 おお…、原作の山田先生からじゃ考えられない様な速度で教室を出て行った。そのスピードは、まさに「脱兎の如し」である。

 

「…」

「…」

 

 呆気にとられていると、気を取り直すように姉さんが咳払いを一つした。

 

「…山田君の代わりに謝ろう。すまない織斑」

 

 本当に申し訳なさそうだ。おまけに頭も痛そうだ…。

 

「いえ…聞いて正解でした」

 

 俺は苦笑いをするしかなかった。

 

「少し時間が掛かるかも知れないから、学園を見て回るのも良いかもしれんぞ。」

 

 確かに良い案だ。お言葉に甘えよう。

 

「そうですね。早いうちに慣れないといけないし、ちょっと見て回ります。」

 

「うむ、それと織斑、これを渡しておくから明日までに提出しなさい。」

 

 そう言って姉さんは一枚の書類を俺に渡した

 

「これって…」

 

 書類の一番上には「IS貸出申請書」と記載されていた。

 

「2日だけならどうにかなるだろう」

 

 言葉は少なめだが姉さんからの気遣いを感じた。本当にこの人には、どこまでも敵わない。

 

「…何から何まで、本当にありがとうございます」

 

 俺は感謝の気持ちを込めて頭を下げた

 

「うむ、では私は会議に行ってくる。…頑張れよ」

 

 姉さんは、薄く笑みを作りながら教室から出て行った。ここまでして貰ったからには、いよいよ勝つしかなくなった。

 

「さてと、行きますか」

 

 目指すはトレーニングルーム棟だ。でもその前に、教室の前に張りついている女子たちをどうにかせねば…はぁ~気が重い

 

 そんな感じでやっと目的地に着いた俺は半袖のスポーツTシャツと同じく黒のスポーツズボンに着替えた。

 

「お〜い、おりむ〜」

 

「ん?」

 

 この独特なのんびり系癒しボイスは。

 

「おお、のほほんさんも来てたんだね」

 

 布仏本音(のほとけほんね) IS学園の1年生生徒会書記。袖丈がやたらと長い制服や私服や着ぐるみを好んで着ている。常に眠たそうで行動もゆったりとしており、のほほんとした雰囲気を醸し出すところから原作一夏は「のほほんさん」と呼んでいた。

 

 一夏のことは「おりむー」と呼び、会う度に腕などにくっついている。間延びした口調でズレた発言も多いが、たまに核心を突いた発言や正論を言うこともある。

 

 本人曰く、生徒会にいると仕事が増えるからほとんど仕事をしていないらしい。…それで良いのか生徒会。ちなみに布仏家は代々更識家に仕えてきた家系であり、更識姉妹の幼なじみでもある。だから彼女は簪の専属メイドでもあり、簪の世話やISの整備を手伝ったりしているそうだ。事実、整備の腕はかなりのものらしい。

 

「うん、私もトレーニングしちゃうのだ〜」

 

 実は先ほど謝った時も、この子が助け舟を出してくれたお陰で他の人への謝罪がスムーズに行ったのだ。本当に感謝です。今度お菓子を作る約束をすると、ものすごく喜んでくれた。

 

「はは、俺も負けてられないな〜」

 

「えへへ、それじゃ〜おりむーも来週の試合頑張ってね。応援するからね。」

 

 そう言ってのほほんさんは何処かに行ってしまった。 

 

 よし、そんじゃ頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 この日、私は偶然トレーニングルームに足を運んだ。特に理由はない。ただ面白いネタでもないかな程度の気軽なものだった。しばらくすると周りがざわついた。

 

「ねぇ、なにかあったの?」

 

 私は同じ2年生の子に聞いてみた。

 

「噂の男子が来たんだってよ」

 

 どうやら今日の私はついているようだ。振って湧いた思わぬ幸運にカメラを持つ手に力が入った。 

 

「へぇ、是非とも取材をしたい!!」

 

 うまく行けば我が新聞部の発行部数はとんでもない事になるかもしれない。そんな期待を胸に私は噂の男子、織斑一夏君の元へ向かった。直ぐに彼が見えてきた。一人黙々と柔軟体操をしている最中だった。ふむふむ、身長は180弱、なるほど顔立ちは織斑先生とよく似ている。体格は結構ガッチリしているようね。そんな思考をしながら私は取材ノートに自身の感想を書く。

 

 最初に驚いたのは彼の柔軟性だった。開脚をするとほぼ180度まで開き、そのまま体を倒すと床にまで着いてしまった。周りからどよめきの声が上がる。

 

 運動系の部活に所属している女子が口々に感想を言っているのが聞こえた。カメラのシャッター音がどよめきに紛れる。

 

「あんなに足って開くものなんだ」

 

「あれってほぼ180度開いてない?」

 

「凄くしなやかで柔らかい筋肉ね」

 

「あれだけの柔軟性を獲得するには一朝一夕では無理ね。恐らく長い時間をかけて鍛錬を積んだんでしょうね…。」

 

 ふむふむ、何らかの格闘技を長年やっている可能性が高いと、要チェックね。しばらくして織斑君はベンチプレスに向かった。

 

「うそ、いきなり60㎏から!?」

 

「すごい、私60㎏がマックスなのに…」

 

「やっぱり男の子だよね」

 

 男子のトレーニングなんてほとんど見た事がない女子たちからまた声が上がる。その時、彼のシャツが捲り上がる。

 

「ちょっと見てよ!お腹が六つに割れてるよ!!」

 

「やばい…ちょっとでいいから触らせてくれないかな?」

 

 勿論、その瞬間もカメラに収めた。…個人用に保存しとこ。結局ベンチプレスは80㎏まで持ち上げてしまった。その後もいくつかの機材を使ってトレーニングをする織斑君。

 

 でも私が本当に驚かされたのはここからだった。

 

 どうやら最後の締めにサンドバック打ちをするようだ。馴れた手付きでバンテージを巻き、足にサポーターをはめる。

 

 サンドバックの前で眼を瞑り1つ大きく深呼吸をし眼を開いた。その表情は真剣だった。半端なく真剣だった。まるで実践の様に隙のない構え、自然と緊張が高まる。

 

 最初は感触を確かめるように叩きそして蹴る。しばらくするとそのスピードが上り、同時に、サンドバックから重厚な音が響くようになった。スピードも然ることながら、一発一発の衝撃音がその破壊力を物語る。女尊男卑…。男は小さくか弱い生き物だと誰もが口を揃えて言うが、この男の子を見ても同じ事が言えるだろうか?

 

 そして最大限に力を込めた渾身の右ストレートをサンドバックに放った。

 

「!!!」

 

 圧巻の光景だった不覚にもこの瞬間をカメラに収められなかった…。

 

「…サンドバックって『縦』に揺れるの?」

 

 そう、「縦」に揺れたのだ…。IS学園では絶対にお目にかかれない光景だ。

 

 あーー!!!私の馬鹿!!何見とれてるのよ!?けどいつまでも悔やんでいられない早速部室に戻って記事の作成をしないと。明日の一面はこれで決まりね。

 

 

「IS学園にサムライ現る」

 




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クラスメイトは全員女子4

遅くなりました
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


寮内

 

「1025室」

 

 どうやら部屋は原作と同じらしい。とりあえず2度ノックをする。

 

「は、はい!」

 

 よし箒はいるようだ。でも念には念を入れて一声かけるよう。 

 

「えっと、一夏だけど開けても大丈夫か?」

 

「あ、ああ良いぞ…」

 

 はぁー、もうここまで来れば大丈夫だろう。俺はドアを開けた。そこにはベッドにちょこんと緊張して座っている箒がいた。

 

「……」

「……」

 

 正座をしている箒と突っ立ってる俺…え?何?どうしろと?すげーー気まずいんですけど!?

 

「そ、そのだな」

 

「あ、ああ」

 

 突然の箒の言葉にどもる俺。かっこ悪い。

 

「山田先生から事情は聞いている。し、しばらくは…、その…私との共同生活なのだな?」

 

「うん、えっと…急な話で申し訳ない。迷惑だった?」

 

「いや、良いんだ。その…だな、部屋は一夏から頼んだのか?私と一緒が良いと…」

 あ、これも分岐点だったな。言葉を選ばなければ。

 

「いや、姉さんが決めたんだと思う」

 

「千冬さんが?」

 

 キョトンとする箒

 

「うん、多分だけど気心が知れた者同士が良いと思ったんだろう」

 

「なるほど、確かにそうだな」

 

 よし、箒も納得してくれたようだな。その後、俺と箒は諸々のルールを決めて寝る支度ができた頃のことだ。

 

「そ、そのだな一夏」

 

「うん?」

 

 顔を真っ赤にして急に姿勢を正した。何だ⁇とりあえず俺も姿勢を正す。

 

「ふ……ふ、ふ、ふ」

 

「ふ?」

 

 え?なに?豆腐?

 

「不束者ですが、よろしくお願いします‼」

 そう言いながら頭を下げる箒と口を大きく開けてアホ面を晒す俺…なんでさ?

 

 

そして夜は過ぎて行く……

 

 

翌朝

 

「あ、あのさ箒…」

 

 朝、場所は大食堂。俺は今、戦慄している。

 

「どうしたのだ一夏?」

 

「昨日より…視線が増えてるんだけど」

 

 それも約5割増しで…。そして俺を見ている大部分の人に共通しているのが片手に持たれた新聞紙のようなものだった。

 

「な、なぜだ?」

 

「わ、私に聞かれても…」

 

「だよな…」

 

 朝からため息なんてつきたくないけど、しょうがないよね

 

「お、織斑君。隣りいいかな?」

 

 おや確か相川さん、谷本さん、のほほんさんだ。どうでもいいけどこの3人は一緒にいることが多いな。とりあえず箒を見てみると、コクリと頷いてくれた。どうやら了承してくれたようだ。

 

「どうぞ」

 

 3人のガッツポーズがなんだか微笑ましいなんだか周りから色々声が聞こえるが気にしない。

 

「織斑君、朝は結構食べるんだね」

 

 と谷本さん。彼女は、こう言っているが特にたいした量ではないのだがな〜

 

「まぁね、体が資本だからさ。ていうか、それだけで大丈夫なの?」

 

 女子にお決まりのサラダとフルーツの定番の朝食だ。とてもじゃないが昼までもたない…。

 

「わ、私たちはね…」

 

「へ、平気だよ」

 

 苦笑いする相川さんと谷本さん。

 

「それよりも新聞見たよ」

 

「新聞?」

 

「うん、IS学園新聞!ほら」

 

 相川さんから差し出された学園新聞を見た瞬間、この視線の多さの原因を理解した。

 

 が、これだけは言わせてくれ

 

「な、なんじゃこりぁー⁉」

 

 そこには俺が柔軟体操やサンドバックを叩いている写真がデカデカと掲載されていた。そこに追い打ちをかけるように横から覗いていた箒が見出しを読む

 

「なになに…IS学園にサムライ現る…」

 

 い、一体いつ撮られていたんだ?全く分からない…

 

「た、谷本さん。この新聞はまだあるだろうか」

 

「うん、急げばまだ間に合うと思うよ」

 

 そう聞くや否やそれまでのゆっくりな食事ペースが嘘のように箒の朝食が綺麗に無くなっていく。

 

「一夏、私は急用が出来たから先に行くぞ!」

 

 俺の返事を待たずに箒は駆け足で去って行った。

 

「……」

 

 某然とする俺。…絶対あの子新聞を貰い行ったな。この日、俺は二度目のため息をつく

 

「織斑君と篠ノ之さん君は仲良いの?」

 

 何気ない相川さんからの質問

 

「ん…、そうだね。俺と箒は幼なじみなんだ」

 

 思考が追いつかない俺は、そんなことを何の気無しに返してしまった

 

「「「え!?」」」

 

 驚く3人娘。さらに詳しく聞かれそうになって慣れた声が俺の耳に響いた

 

「さぁ、遅刻しないように食べなさい。遅刻したらグラウンド2週だぞ。」

 

 

 

 

 

授業

 

「えー、そもそもISは宇宙空間での作業を想定しています。だから操縦者の体をエネルギーバリアで包んでいるんです。」

 

 山田先生の授業は、とても分かりやすい。要点もまとまっていて、何が大事なのかすぐに判断できる。ただこれも基礎が出来ていればの話だ。やはり基礎は大事だよね。

 

「先生、なんだか体の中をいじられてるみたいで怖いです」

 

「大丈夫ですよ。ん〜、そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしてますよね。あれと同じだと考えれば……。」

 

 そこまで話して俺と山田先生は、バッチリと目が合ってしまった。

 

「あ、あの、織斑君には分かりませんよね。すいません」

 

 苦笑いしながら謝る山田先生、胸を隠して恥ずかしがる女子、そしてどうしていいか分からずオロオロする俺。なんだこのカオス?

 

「んん、山田先生、続きをお願いします」

 

 言葉少なめに、続きを促す織斑先生。ナイスタイミングです⁉さすが頼りになる我が姉。

 

「えー、大事なことがもう一つあります。ISには意識に似たものがあります。操縦時間に比例してISは操縦者の特性を理解しようとします。」

 

 こんな感じで授業が進んだ。ちなみに俺の専用機も用意されることが分かった。着々と準備が整って行く感じだ。

 

 

 

 

 

昼休み

 

「さて、IS貸出申請書が通ったから今日と明日はISが使える。この二日間で、どれだけ練習ができるかだな…。」

 

 食堂で、一人どの様な練習をしようか考えていると、対面に座っていた箒がおずおずと声を出した。

 

「その…一夏。私も手伝うよ」

 

 箒だったらもちろんこう言い出すことは予想できる。でも申し訳ない

 

「気持ちは嬉しいけど、打鉄は一体しか借りれなかったし…。」

 

 そう、申請は一人一体が原則だから箒の分は借りられないのだ。キョトンとしている箒、だが俺の言っていることが分かったのか。

 

「成る程、そういうことか。一夏、それについては問題ない」

 

「え?」

 

 今度は俺が分からない顔をする。首を傾けている俺に箒は右手の裾を捲り上げて、金と銀の美しい鈴が付いたアクセサリーを見せてくれた。

 

あれ?もしかして…

 

 

「これが私の専用機『紅椿』だ」

 

 

 一瞬、箒が何を言っているのか分からなかった。

 

「せ、専用機‼」

 

 その意味を理解して俺は思わず声が上ずってしまった。

 

「ああ、入学式の一週間前に千冬さんから連絡があってだな」

 

 箒の話を要約すると入学式一週間、姉さんからIS学園に来るように呼び出されたらしい。指定した場所に行くと姉さんと束姉さんがいたそうだ。突然のことに呆然としていると、急に束姉さんに抱きしめられ今までの事を謝られたそうだ。混乱の中にいた箒だが、姉の暖かさと謝罪の意味を理解した途端に大号泣したそうだ。

 

 ひとしきり泣いた後、箒の専用機である「紅椿」を託してまた何処かに行ってしまった。

 

「別れ際、姉さんに言われたんだ」

 

「箒ちゃんが信じた道を進むために使って欲しいと…誰もためでもない自分のためにと言われたよ。」

 

「…」

 

「私には…まだ進むべき道はわからない。が、それでも歩こうと思う。歩けば何か分かる思うから」

 

 そう呟きながら箒は待機状態の紅椿を優しく握った。彼女は自分の道を歩こうとしている。それがとても嬉しい、誰かに依存するのではなく自立しようとしているのだ。

 

「そうだな。じゃあよろしくお願いします」

 

 今の箒なら大丈夫だろう…。

 

「ああ、こちらこそだ」

 

 二人で笑いあっていると、これまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「一夏」

 

「ん?」

 

 見上げるとそこには、倉持技研でお世話になった彼女の姿があった。

 

「簪!久しぶり…って訳でもないか?」

 

「ふふ、そうだね。2、3日ぶりだね」

 

 そう、簪だった。2ヶ月間をほぼ一緒に過ごしたもんだから2、3日ぶりの再会が久しぶりに思えてしまう

 

「おっほん!あー、一夏、こちらの方は?」

 

 おっといけない。箒が置いてけぼりになってしまった。

 

「ああ、紹介するね箒。こちらは更識簪。俺の友達で日本代表候補生。倉持技研にいた時にISの技術指導をしてくれたんだ。簪こっちは、篠ノ之箒。俺の幼馴染」

 

「は、はじめまして、よろしく篠ノ之さん」

 

「こちらこそよろしく、あと私のことは箒でいいぞ」

 

「な、なら私も簪で、いい」

 

 おお、簪は若干緊張と怯えがあるものの箒が頑張って引っ張った感じだな。

 

 それからしばらく一緒に談笑したせいか箒と簪は割と馬が合うようだ。その証拠に二人とも少しづつ笑顔が見えてきた。

 

「そういえば一夏、本音から聞いたんだけどイギリスの代表候補生と試合するの?」

 

 とここで、簪から来週の試合についての話が出てきた。

 

「うん、成り行きでそうなってしまった」

 

 と、苦笑いを浮かべる俺に簪は真剣は表情で話す。

 

「一夏、私も手伝うよ」

 

「え?でも」

 

「イギリスのISについては情報を持ってるからきっと役に立つよ」

 

 うーむ…気持ちは嬉しいが1組の問題に簪を巻き込んで良いものだろうか…。

 

「いいんじゃないか」

 

 一人考えていると意外にも箒の方から肯定的な声が上がった。

 

「え?」

 

「本人もこう言っているんだ。」

 

 ふむ…、簪の表情もう一度見る。かなり真剣な表情だ。…しょうがないか。

 

「分かった。じゃあまたよろしくお願いします」

 

「うん、こちらこそ」

 ホッとする簪。ここで箒から締めの言葉が入る。

 

「さて話も纏まったし早速放課後にはISの訓練。夜はオルコットの情報を確認しよう」

 

「了解。さて頑張りますか‼」




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セシリアとの戦い

皆さんに楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも織斑一夏です。箒と簪の協力を得て試合までにかなりの練習が出来た。まずISが使える最初の2日間で箒の専用機「紅椿」とは主に近接戦闘を、簪の専用機「打鉄弍式」とは主に遠距離戦闘と高速機動の訓練を行った。

 

 ここで少し箒と簪の専用機である「紅椿」と「打鉄弍式」について説明したい。

 

第4世代型IS「紅椿」

 

 白式の対となる存在で、コンビでの運用を前提として開発された機体である。エネルギー自体を消滅させる白式に対してエネルギーを増幅させるという位置におり、両者を停止させる抑止力的な意味も持っている。

 

 現行機を遥かに凌駕する機体性能に加え、即時万能対応機というコンセプトを実現し、全身のアーマーである「展開装甲」を稼動させることで攻撃・防御・機動のあらゆる状況に即応することが可能である。更に束姉さんが独自に開発した「無段階移行(シームレス・シフト)」システムが組み込まれており、蓄積経験値により性能強化・パーツ単位での自己開発が行われる。

 

 問題はこの展開装甲についてだ。本来紅椿の展開装甲は白式に装備されている「雪片弍型」に試験的に使われている展開装甲のデータを基に開発されたのもである。

 

 このためか現在の紅椿は、背面部のみに展開装甲が装備され他は通常の装甲が充てがわれた所謂完成度7割程度の機体と言ったところだ。

 

 …それでも基本性能は第3世代機を遥かに凌駕していることは間違いない。

 

 その証拠に俺が借りた打鉄と近接戦闘を行ったが、すぐにブレードが使い物にならない状態になってしまったのだ…。織斑先生と山田先生に二人で謝りに行ったのは言うまでもない。しかしこれでは練習にならないので、紅椿の主兵装である空裂(からわれ)を借りて近接戦闘の練習を行った。

 

 次に紹介するのは簪の「打鉄弍式」だ

 

第3世代型IS「打鉄弍式」

 

 打鉄の後継機で、原作では倉持技研が開発を進めていたが、俺の機体の開発やデータ収集にすべての技術者を取られてしまい、永らく未完成の機体だったが、篝火先生への俺からの訴えでIS学園の入学に間に合う事が出来たのだ。それまで防御を重視した打鉄と比べて打鉄弍式は、機動性に特化した機体となっている。武装は、背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲「春雷(しゅんらい)」、近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀「夢現(ゆめうつつ)」、そして打鉄弐式の最大武装である第3世代技術のマルチロックオン・システムによって6機×8門のミサイルポッドから最大48発の独立稼動型誘導ミサイルを発射する山嵐(やまあらし)である。

 

 この春雷と山嵐を対セシリアのビームライフルとミサイルビットに想定して回避の練習を行った。ここで1度だけ簪に頼んで48発のミサイルの回避のを行ってみたが……

 

 ありぁ無理だ‼

 

 空一面がミサイルで埋め尽くされた光景は筆舌に尽くし難い。思わず辞世の句が頭に出てきた程だ。

 

 ちなみにそのミサイルは簪が手動で自爆させてくれたので、打鉄自体が壊れることはなかった。

 

 こんな感じで、2人の協力を得てISでの戦闘訓練は順調に終結した。

 

 最後に残りの5日間は放課後に箒と剣道場で試合や型の確認、夜は簪を加えてセシリアの専用機「ブルーティアーズ」の攻略について話し合った。

 

 本当に彼女たちには世話になった…。今日は勝って2人の苦労に報いたい。

 

 

 

 

 

 

 

試合当日

 

「これが織斑君の専用機『白式』です」

 

 俺の目の前には「白」が鎮座していた…。その姿は未だ武骨で少々くすんでいるが、触れただけで分かった。こいつからは溢れんばかりの強い生命力を感じる。

 

「織斑、時間がない。フォーマットとフィッティングは実戦で行ってもらうぞ。」

 

「了解しました」

 

「背中を預けるように、座る感じで大丈夫だ。あとはシステムが最適化する。」

 

 乗ってすぐに分かった。打鉄とは比べられない程のフィット感だ。まるで自分の半身のようによく馴染む。

 

「ISのハイパーセンサーは問題ないようだな。気分はどうだ?」

 

「大丈夫、いつでも行けます」

 

 そうだ、予め武器を展開しておこう。出会い頭に一発喰らうなんて絶対嫌だからな。そう思いながら装備欄を確認していると…ん?近接ブレードと…近接格闘グローブ??

 

 なんだこの武装は?

 

「一夏、あれだけ練習したんだ。落ち着いてやれば問題ない」

 

「自分を信じて、私たちは、ここでしっかりと見てるから…」

 

 いけない。今は気にしてはいられないな。これは後から考えよう。気持ちを切り替えなければ…。そう思いながら改めて近接ブレードを展開し、二人に力強く返答する。

 

「ああ、勝ってくる‼」

 

「織斑一夏、白式行きます‼」

 

俺は勢い良くアリーナに飛び出した。

 

 

 

 

 

アリーナ内

 

「あら、遅かったですわね。逃げたかと思いましたわ」

 

「逃げる?誰がかな?」

 

「ふん…まぁ良いですわ。さてここで一つ提案があります」

 

「提案?」

 

「わたくしが勝利を得るのは自明の理。ここで謝罪すれば許して差し上げてもよろしくてよ」

 

 ここで白式から警告が入る。 

 

 敵IS操縦者、射撃モードに移行。セーフティーロックの解除を確認しました。

 

 まぁ、俺に逃げるという選択肢はない。ならばこう返してやろう…。俺は彼女を睨みつけながらブレードを正眼に構えた。

 

 

 

 

「その言葉、宣戦布告と判断する。当方に迎撃の用意あり‼」

 

 

 

「っ!?そうですか…、では、お別れですわ‼」

 

 来る!!「避ける」という思考よりも先に体が反応した。ビームの弾道の右に避ける。原作の一夏と違い白式の反応にしっかりとついて行っている。

 

「な!?」

 

 回避されると思わなかったのかセシリアが驚愕する。よし、ビームの弾速は春雷と同じくらいだ。早速練習が実を結んだ。簪に感謝。

 

 ここで一夏は一旦距離を置いて相手の射撃の癖やタイミングを見極めるため戦闘スタイル「流」を選択する。

 

「さぁ、ブルーティアーズが奏でるワルツで踊りなさい!!」

 

 自分を鼓舞するかのように叫ぶセシリア。ブルーティアーズの主力武装である巨大なスターライトmkⅢから弾雨の如き攻撃が降り注ぐ、加えてそれら全てが的確に白式を襲う。

 

 が、当たらない。右に、左に、上に、下に、と一夏はそれら一つ一つにしっかりと反応し回避を行う。避け損なったビームはブレードで弾き・防ぐ事でシールドエネルギーを削らせない。

 

 予想以上の攻防に、アリーナがヒートアップしていく。

 

 セシリアから試合当初の余裕はもうない。自身の攻撃が当たらず、時間が経つにつれて徐々に焦りが生まれる。そんなセシリアに対し一夏は獲物を狙う狼の如く視線を持ってセシリアから片時も視線を外さない。

 

 ここで、初めて一夏が動いた。荒くなったライフルの狙いを潜り抜けて、セシリアの右足に一閃。そのまま離脱、ヒット&アウェイだ。

 

「きゃ!」

 

攻撃を受けたセシリアから小さな悲鳴が上がる

 

「先制は頂いたぞ!」

 

「生意気な!」

 

 セシリアは、ビット型兵装ブルー・ティアーズを4機展開し、死角を含む全方位オールレンジ攻撃で一夏を襲う。彼女は本気になった。驕りや油断を捨て、ただ一夏を倒すことだけに集中したのだ。

 

 負けじと 一夏も更にスピードを上げてビットからの攻撃を巧みに回避する。しかしそれにも限界がある。

 

「ぐっ!」

 

 一本のレーザーが一夏に直撃するが動きを止めない。ここで止まれば残りのビットから一斉に攻撃がくるのが分かるからだ。少しづつ一夏のシールドエネルギーが減少して行く…。

 

 このままではジリ貧になることを悟った一夏は勝負でた。一機のビットに向かい猛然と突っ込み、勢いのままブレードを振り下ろした。爆散するビット、代償に3発のビームを貰う。いかに縦横無尽に動き回るビットだとしても、攻撃体制に入れば動きは止まる。一夏はそこを見逃すことなくビットを捉えたのだ。

 

 更に、ビットの攻撃が3機になったことで単純に一夏の回避範囲も広がったのだ。

 

 勝負は未だに互角だ。

 

 

 

 

 

アリーナ制御室

 

 ここでは、千冬、山田、箒、簪の4人が巨大モニターで試合を見ていた。

 

「お、織斑君すごいですね」

 

 生徒2人の気持ちを代弁するように若干興奮気味に山田先生の声が響く。

 

「ああ、2ヶ月前までISを動かしたこともない素人の動きとは思えんな。…私も我が弟に末恐ろしさすら感じてしまう。…だがオルコットにとって本当に恐ろしさを感じるのはここからだ」

 

「え、それはどうしてですか?」

 

 山田先生、そして箒と簪も疑問に思う。

 

「あいつのISまだフィッティングとフォーマットを行っている状態だ。しかしその状態でオルコットと互角に渡り合っている。これが何を意味するか…少し考えれば分かるだろう」

 

織斑先生の指摘に一同が驚く。

 

「そして…時間的にもそろそろのはずだな」

 

千冬の言葉と同時に白式が光り輝いた。




試験に落ちました…。
また来年頑張ります・・・。
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セシリアとの戦い2

皆さんが楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


 フォーマット及びフィッティングが完了しました。確認ボタンを押してください。

 

 

 白式からの要求に一夏は迷わずボタンを押す。刹那、脳内に膨大な情報が流入する。通常なら人の脳では耐えられない情報量を苦も無く理解していく。

 

 眩く光が段々と収束していき、白式はその姿を現した。くすんでいた白は純白へ、全体的なフォルムは美しく洗礼されたものへ、肩部の高出力スラスターは天使の翼を連想させる様なある種の荘厳さあるいは神秘さを帯びた物へと変貌した。

 

「まさか…一次移行(ファーストシフト)!?あなたは今まで初期設定だけの機体で戦っていたというのですか!?」

 

 一夏は答えない。反対に一夏は彼女の名を呼ぶ。

 

「セシリア・オルコット…」

 

 ただ名前を呼ばれただけ、それなのにセシリアは心臓を掴まれたような感覚に陥った。

 

「君の言っている事も正しい」

 

「あ、あなたは何を…?」

 

 言葉の意味を理解できないセシリアの問いに構わず一夏は続ける。

 

「ISの誕生よってそれまでの男女の立場が逆転し、世界の風潮で俺達『男』は君たちにとって弱く、そして取るに足らない存在としか認識されなくなってしまった…」

 

「…だけど、訂正しなければいけないことがある」

 

 一夏の瞳が真っ直ぐとセシリアを射抜く。

 

「男という生き物は…大切な存在の為なら己の命を賭して戦う事が出来る!例えそれが、敵わない存在であろうともだ」

 

「っ!?」

 息を飲むセシリア。尚も言葉を紡ぎながら一夏は進化したブレード「雪片弍型」の切っ先をセシリアに向けた。

 

「俺のこの想いも信念も誇りも矜持も…誰であろうと穢せはしない!!ここから先は一歩たりとも譲らんぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

「おい2人とも、呆けている場合ではないぞ」

 

「「はっ!!」」

 

 全く、恋する乙女の顔だな。だが無理もないか…。一夏の言葉の一つ一つが2人の心へと響いたのだろう。それは私とて例外ではない。

 

 もし「言霊」という現象が存在するならば今のはまさにそれなのだろう。

 

 あの頃から何も変わっていない。誰よりも穏やであり、誰よりも苛烈であり、そして誰よりも「深い闇」とともに生きることを選んだ存在。表面上はうまく隠しているつもりだろうが、見くびってもらっては困る。幼い頃から見てきたからこそ分かるんだ。

 

 お前が私の想像つかないものを抱えていることを…。私がそれを指摘しないのは、その闇がお前に順応しているからだ。恐らく拒絶や抑え込むのではなく、受け入れたからこそ成せる技なのだろう。何はともあれ私はお前を信じる。

 

 かつて、私を守るためには戦ってくれたお前を…ただ信じるだけさ。

 

「ん?」

 

 ふと妙に静かな山田君が気になって視線そちらに向けて見た。

 

「…」

 

 おい、山田君。なんで君までそんな顔をしているんだ?私は手に持っていた出席簿を山田君目掛けて振り下ろした。

 

バシーーーン‼

 

「へぶ⁉」

 

「山田君。君も呆けている場合じゃないぞ」

 

「はひ、す、すみません!」

 

 

さぁ、見せてみろ一夏!お前の「力」を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファーストシフトを終えた白式の性能が頭の中に入ってくる。恐ろしいほどの性能だ…。油断はしないが…確信がある。

 

 この勝負俺の勝ちだ。

 

「いくぞ!セシリア・オルコット!!」

 

「どこまでも…私を!!」

 

 今だに健在な3機のビットが俺を襲う。しかし怖くはない。

 

 通常ブーストでそれらの攻撃を避ける。

 

「なっ!!」

 

 ファーストシフト前のスピードと比較にならない程の速さで近くのビットを叩き切る。意識がより鮮明になりビットの動きがしっかりと見える。そのまま動揺してコントロールを失った二つのビットを続けざまに破壊。

 

「まだですわ!!」

 

 言葉と同時に腰に装備された2機のミサイルビットが、こちらに迫る。だが焦りはない。イグニッションブーストを使用しすれ違い様にミサイルを破壊、爆発的なスピードでセシリアに迫る。

 

「このーー!!」

 

 そんな叫びと共にスターライトmkⅢのビームが俺に向かって放たれた。イグニッションブーストを使用している俺は方向転換が出来ない。

 

でも…、白式なら答えてくれるはずだ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ここで白式のスピードが更に増す。かつて姉さんが使用したダブルイグニッションブーストが成功したのだ。ワンオフアビリティー「零落白夜」を発動。ブレードか展開し刀身が美しいビーム状に変化する。

 

 そのまま迫り来るビームの射線上にブレードを縦に振り抜く。

 

「あっあぁ…!!」

 

 セシリアが驚愕する。ビームを文字通りに「斬る」という非現実的な事が目の前で起こったのだ。そうしてる間に俺の攻撃範囲に入った。

 

「これが…、織斑一夏だ!!」

 

 そう言いながら横一閃にセシリアを切り裂いた。

 

 直後にブザーがなる。

 

 

 

 

 

「試合終了!勝者織斑一夏!!」

 

 

 

 

 

アリーナに一際大きな歓声が響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

 格納庫に帰投すると同時に白式が待機状態になり、俺は片膝をついた。予想以上の疲労感だ。身体が鉛のように思い…。

 

「「一夏!?」」

 

 焦ったように箒と簪が駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫か一夏!?」

 

「どこか痛めたの!」

 

「いや、予想以上の疲労感で…、どうやらガス欠らしい」

 

 慌てる2人に力なく笑いかける。いやはや、我ながら締まらないな〜。二人の肩を借りて立ち上がると山田先生と織斑先生が立っていた。

 

「よくやったな織斑。今日は…ゆっくりと休むんだぞ」

 

 優しく微笑み頭を撫でながら労う織斑先生。ちょっと恥ずかしいけど俺も満更でもない。

 

「織斑君、私も感動しました!」

 

 興奮した表情で笑みを浮かべる山田先生。2人に言われてようやく実感が湧いた。

 

 俺は、勝てたんだな。嬉しいが込み上げ、自然と頬が釣り上がる。

 

「はい、ありがとうございました」

 

「さぁ、一夏行こう」

 

 そうして俺は2人と共に帰路へと着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 シャワーのノズルから熱い湯が吹き出す。水滴が私の肌に当たって弾ける。心地良い感覚が私の全身を包むが、心は今だに混迷の中にある。

 

「負けた…」

 

 自然と口から零れた言葉だがそれを否定する気持ちは一切起こらない…。この1週間、彼は勝つために必死に努力をしたのだろう。後悔よりも先に彼に対する申し訳なさが心に浮かんだ。私は何をしていたのだろうか?彼は自分が持つ全ての力を私にぶつけた。

 

 でも…自分はどうだった?自分の思うようにいかなければ幼子(おさなご)のように周囲に喚き散らし、挙げ句の果てに相手を慢心して挑み、そして負けた。

 

 そして試合開始から私を捉え離さなかったあの目、私には覚えがある。私がまだ幼い頃、両親と共に博物館で見た動物「狼」だ。悠然と岩の上に佇むその姿はどこか犯してはならない荘厳さがあった。そしてその目は、まるで生きているかの如く輝いていた。死して尚も誇り高いその出で立ちに心を奪われた私は閉館時間までそこを動かなかった。

 

「……」

 

 思えばこの2年間で多くの事があった。突然の事故で他界した両親。その財産を守るために必死になって勉強した。ISもその一環でチャレンジした結果、適性A+を残した。それから専用機「ブルーティアーズ」の候補に選抜された。

 

 

 そして…この日本で出会ってしまった。

 

 

「織斑、一夏…」

 

 誇り高い狼の瞳を持つ男性、若きサムライ…。話がしたい。謝りたい。彼だけではなくクラスの皆にも。

 

 私は居ても立っても居られなくなり、彼の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「う……、うーーーん」

 

 視界が開ける。覚醒時特有の気だるさが残るも、ある程度は体力が回復したようだ。あたりを見回して気が付いた。

 

「箒?」

 

 どうやら留守のようだ…。食事にでも行ったのだろうか?そんな風に考えていると、ふと視界に入った右手のブレスレット。白式の待機状態だ。

 

「………」

 

 今回俺が勝てたのは白式のお陰だ…。いや、正確には白式の性能と彼女たちの協力がなければ自分は負けていた。

 

「これからもよろしく…相棒」

 

 自身の更なる成長を誓いながら白式に語りかける。見間違えかもしれないが俺の言葉に応えるかのように一瞬光ったようだった。

 

 

 

 

トントン

 

 

 突然のノックが来訪者を知らせる。誰だろうか?

 

「はーい、今開けますよ~」

 

 そう言いながら俺がゆっくりとドアを開けるとそこに若干緊張したセシリアさんが立っていた。

 

「ご、ごきげんよう…」

 

「オルコットさん?」

 

「あ、あの今…お時間よろしいでしょうか?」

 

 以前の高飛車な態度が鳴りをひそめている…。何か大事な話があるのかな?

 

 そう推測した俺は笑顔で答えた

 

 

「立ち話も何だし…。中へどうぞ」

 




いかがだったでしょうか
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話し合い sideセシリア&一夏

サンプル設定。後日、ちゃんとした設定集を作ります。
尚、今回は少々短めです。
それでも皆さんが楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・

織斑一夏 身長181cm 体重70㎏
 鍛えこまれた肉体、格闘術、剣術は原作一夏と比較にならないほどのレベルにある。 その正体は転生者だが、神様に会う事もなく、これと言った転生特典も無い。織斑一夏として、そして今の自分として生き抜くことを胸に掲げている。
 若干思考がオタクな感じだが、真面目で勤勉な性格。基本的に目立つのは苦手、しかし言わなければいけない事はしっかり意見する。密かにヒロインズにボコボコされないよう日々を奮闘中である。

専用機「白式」







 どうも、只今本場イギリスの方に紅茶を淹れている織斑一夏です。日本では豊富な軟水を100℃まで沸騰させ、ガラスのティーポットに先に注ぎ、温まったポットにティースプーン2〜3杯の茶葉を入れて3〜4分蒸らす。

 

 最後に茶こしで茶ガラをこしながら、濃さが均一になるようにまわし、"ベスト・ドロップ"と呼ばれる最後の一滴まで注ぐ。砂糖とミルクと一緒にお盆で運び、セシリアの前にカップを一つ置く。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます。…いただきますわ」

 

少し緊張しながらもカップに角砂糖を2個入れて、ゆっくりと味わうように飲む。

 

「あ…」

 

 セシリアが少し驚く。え、もしかして美味しくなかった⁉︎やべーな緑茶にすりぁよかったかな?

 

「ど、どうかな?」

 

 若干吃りつつも感想を聞く俺。

 

「これは、ダージリン…とても美味しいですわ」

 

 どうやらお気に召したようだ…。よかった〜ちょっとビックリなのです。

 

「はは、本場イギリスの方にそう言って貰えるなら嬉しいよ。これはスコーンとジャムも用意しとくべきだったかな?」

 

「まぁ、『一夏さん』たら」

 

 おや、名前で呼んでくれた。そう言えば彼女がまともに俺の名前を読んだのこれが初めてじゃないかな?…まぁー本人は気づいていないが可愛い笑顔をしてるし、無粋な指摘は無しにしよう。

 

「ははは」

 

「ふふふ」

 

 俺たちは互いに少し笑い合った。

 

 しばらく雑談をしているとセシリアが急に真剣な表情をした。

 

「その、今日は一夏さんに謝りに来ました」

 

「ん?」

 

 そう言って彼女はその場から立ち上がった。

 

「この度は、男性の方を軽視した発言。そしてあなたを侮辱してしまい本当に申し訳ありませんでした。後日クラスの皆様にも同様に謝罪いたしますわ。」

 

 作法に沿ったその姿勢は、彼女が心から謝っている事がよく伝わるものだった。っていうかもう俺は全然怒ってないんですけど。折角謝罪をしてくれているのに無碍(むげ)には出来ないよな…人として。むしろ俺も彼女に謝らなければいけないことがあるしな。

 

「うん、謝罪を確かに受け取りました。そして俺も君に謝罪しなければいけないことがある。」

 

 自分も立ち上がり、しっかりと頭を下げた。

 

「三流候補生の発言、本当に申し訳なかった。どうか許して欲しい」

 

「で、でもそれは一夏さんが私を戒めるために…」

 

 戸惑うセシリアに俺は続ける。

 

「だとしてもさ。…戦ったから分かる。君の強さは本物だ。白式の性能と2人の協力がなければ…間違いなく俺は負けていた」

 

「セシリア・オルコット、君は強かった。そんな君に勝てたことを誇りに思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア・オルコット、…君は強かった。そんな君に勝てたことを誇りに思う」

 

 優しく微笑みながら…でも真っ直ぐに私に伝えた偽りのない言葉…。

 

 お金目当てに寄ってくる人達が着飾った言葉と全く違う。何か言わなければいけないのに出来ない。涙を抑えるので精一杯だった。

 

 彼から与えられた最大級の称賛への嬉しさと、そんな相手に慢心しあまつさえ途中まで手加減をしてしまった自分の愚かさに…。それでも自然と言葉が出てきた。

 

「うぅ、ふぅ…わ、わだぐじは…ただ、寂しくて…」

 

「うん」

 

「父も、母も…急に死んでしまって、突然知らない人たちが来て…怖くて」

 

「うん」

 

「そ、それ、でも私は、大切な、オルコット家を、思い出を護りたくて…失いたく、なくて」

 

「うん」

 

「必死に頑張っても、分かって、くれるのはチェルシーしかいなくて…日本に来るのも、ほ、本当は不安で…それがばれるのが怖くて…一夏さんにも、皆さんにも、あ、あんな、心にもない酷い事を…」

 

 呼吸さえ苦しくなる。もう自分が何を言っているのかも分からない。罪悪感、愚かさ、悲しみに押し潰されそうになる。

 

「大丈夫だよ」

 

 そう言いながら私の両手を優しく包む暖かく包む一夏さんの手。安心する、心が暖かくなる。

 

「その気持ちを、ちゃんと皆に伝えよう。俺も一緒に謝るよ。だから大丈夫」

 

 尚も彼の言葉が続く、優しく全てを受け入れてくれそうな笑顔をしながら…。もうやめてください。これ以上はもう…、本当にもう…。

 

「ここには織斑先生・山田先生・クラスの皆、そして俺もいるんだ」

 

 

 

 

「だから、もう大丈夫!セシリアは独りじゃないよ」

 

 

 

 

「あ、あ、あぁぁぁぁ‼‼‼‼」

 

 もう限界だ。これ以上、我慢できない。私は彼の胸に飛び込んで幼子のように泣き出してしまった。今まで溜め込んでいた涙を全部出してしまうように。そんな私を彼は黙って抱きしめながら背中をさすってくれた。

 

 

 それはまるで、自分よりも遥かに多くの経験をした大きな男性に包まれている。そんな不思議な感覚だった…。

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

 ドアの前でゆっくりとお辞儀をするセシリア。目元は腫れぼったく少し赤くなってはいるが、その表情はどこか晴れ晴れとしたものだ。

 

「もう大丈夫?」

 

 恥ずかしいのか?少し頬を赤らめながら答えてくれた。

 

「ええ、たくさん泣かせていただきましたから」

 

 彼女も運命に翻弄されながらそれを良しとせず、必死に戦っている人なんだ。まだ年端もいかないのに強い娘だ…純粋にそう感じた。

 

「あ、あの…」

 

「ん?」

 

 え?何ですか?モジモジして…やめてよ、そんな可愛い仕草をしないでよ。…思わず萌えちゃうでしょう。お兄さんを萌え萌えにして何が楽しいの?

 

「その、遅くなりましたが私のことは『セシリア』と呼んで下さいまし。これから私は『一夏さん』とお呼びしますわ」

 

 

 

 …うぉーー‼皆の衆よ、セシリア様からお許しが出たぞー‼宴じゃー、宴の用意じゃーーーー‼しかも身長差があるから自然と上目遣いになるー!

 

 可愛らしい顔してとんでもねー凶器を隠し持っていやがった。

 

 セシリア…恐ろしい子。

 

 まぁー、そんなふざけた思考は絶対に表に出しません。蜂の巣にはなりたくないもん。

 

 

「うん、これからよろしくねセシリア」

 

 そう言って右手を差し出す。恒例だがこれをやらないとダメな気がするんだよなー。

 

「はい、こちらこそ宜しくお願いしますわ」

 

 しっかりと俺の右手を掴むセシリア。その笑顔は澄んだ湖のように透き通るものだった。

 

 




いかがだったでしょか?
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次回はside箒&簪のお話し


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話し合い side箒&簪

皆様に楽しんで頂けたら幸いです
ではどうぞ・・・。


 疲労困憊の一夏を簪と2人で支えながら寮への道を歩く。

 

 夕暮れ時の太陽がゆっくりと水平線に沈むのと同様に、私達の歩みもゆっくりとしたものだ。しかし不満はない。むしろずっとこの時間が続けば良いとさえ思ってしまう。不謹慎かもしれないが愛する人の支えになっているという思いが私の心を満たしている。一夏の重さ…それが暖かく心地良い幸福感を生み出している。

 

 なんて幸せなんだろうか。

 

「箒、簪…」

 

 急な一夏の言葉に私は内心で飛び上がりそうな程にびっくりしてしまった。反対を見ると簪も少し動揺した顔をしている。

 

「ありがとう、あの1週間が無ければ…、俺は負けていたよ」

 

 静かにでも心の底からの感想なのだろう。一夏からの感謝の言葉に自然と頬が釣り上がる。

 

「ああ、気にするな。それよりも格好良かったぞ」

 

「うん、素敵だった…」

 

「そっか、最後は締まらなかったけどね」

 

 苦笑いを浮かべる一夏だが、その表情は嬉しさを噛み締めているようだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜」

 

「はぁ〜」

 

 私と簪は、人の少ないラウンジでお茶を飲んでいる。一夏は部屋へと着くなりそのまま自分のベットで眠ってしまった。余程疲れていたのだろう、あれだけの激戦だから無理もないか。

 

「箒…」

 

「ん?」

 

「私たちが2人っきりになるのは初めてかもしれない…」

 

 言われてみれば確かにそうだな。基本的には3人でいたしな。

 

「その…聞きたいことがあるの」

 

「?」

 

 なんだろう?私も簪も不器用な方だから3人で話していても話題を振る事があまりなかったな。

 

…もう少し色々と話題作りができるようにしたいな。

 

 

 

「箒も…一夏の事が…好きなんだよね?」

 

 

 

 呼吸が止まった…。突然のカミングアウトだ。彼女の「も」と言う言葉が、私の心に重くのしかかった。

 

 …いや、本当は分かっていた。一夏と話している時の簪は本当に楽しそうだった。それだけで十分だ。

 

簪も一夏のことを好きなんだ。

 

「ああ、私は一夏のことが好きだ。…愛している」

 

 そうだ、この気持ちに嘘はつけない。真っ直ぐに簪に伝えた。

 

「やっぱり…そうだったんだね」

 

 簪が苦笑いをしながらため息をつく。

 

「簪も、やはり一夏のことを好きなんだな?」

 

「うん、その…一夏は私とって恩人なの」

 

 それから簪が話出した。一夏との出会い、臆病な自分に友達の作り方を教えたこと、生徒会長である姉に劣等感を感じていた自分に織斑先生と戦うことで身を持って立ち向かう勇気を示してくれたこと…。

 

「これが、私が一夏を好きになった理由」

 

「そうか…変わらないな」

 

「え?」

 

「実は私も一夏に救われたんだ。」

 

 私も簪に一夏との出会いを話した。最初は私が一方的に敵視していたこと、そんな自分に一夏は変わらずに接してくれたこと、私を守るために男子4人を相手に戦ったこと…。

 

「なんて言うか…」

 

「ん?」

 

 どうして簪は複雑な表情をしているんだ?私は渇いた口を潤すためにお茶を飲む。

 

「正義のヒーローが颯爽と助けに来てくれたんだね。羨ましい」

 

「ぶはー‼」

 思わず飲みかけのお茶を吹き出してしまった。あ、虹が綺麗だな〜。じゃなくて‼‼

 

「と、と、突然何を言い出すんだ!」

 

 今の自分は頬に熱が集まるのを感じながら、元凶に食ってかかる。

 

「だって…箒のピンチに颯爽と駆けつけて悪の4人組を倒しちゃったんでしょ?それってアニメの世界みたいよ」

 

「う、うーん。確かにそうだが…」

 

 一夏がヒ、ヒーローか間違ってはいないが…そう考えると何だか急に恥ずかしくなるな。

 

「その、私は一夏が好きだけど箒とは友達でいたいの」

 

「…」

 

「ダメかな?」

 

 言い終わると急に小さくなってしまう簪。全く何を心配しているのか知らないが

私の答えは1つだ。

 

「そんなことないさ。私たちはいつまでも友達だ。…そしてライバルだ」

 

 何のとは言わない。簪は一瞬驚くが、いつになく強気な笑みを浮かべる。

 

「負けないよ」

 

「私だって」

 

 

 

 

「「ふふふ、あはははは」」

 

 

 

 何だか良いな。転校ばかりしていた私にとっては新鮮だ。IS学園に来て本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、1年1組のクラス代表は織斑君に決定しました。1つながりで縁起がいいですね」

 

 山田先生の発言に皆が拍手をする。クラス代表は特に問題なく俺に決まった。自身の努力で勝ち得たから嬉しさも大きい。

 

「あの、織斑先生。1つよろしいでしょうか」

 

 挙手をするセシリア

 

「オルコットか、どうかしたのか?」

 

 彼女は立ち上がり教卓まで進むと、クラスのみんなに向かって頭を下げた

 

「先日はクラスの皆さんだけでなく日本の方を侮辱するような発言をしてしまい大変申し訳ありませんでした。深く謝罪いたしますわ」

 

 突然の謝罪にクラスの皆も戸惑う。さてと、フォローに回りますか。俺も立ち上がりセシリアの隣に移動する。

 

「皆の戸惑いも最もだと思うけど、俺からもお願いします。セシリアを許してあげて欲しい。この通りだ。」

 

 そう言って俺も皆に向かって頭を下げた。

 

 

 

パチパチパチ。

 

 

 どこからか拍手がなる。不思議に思い顔を上げると何とそれはあの時に一番怒っていた箒からだった。そこからのほほんさん、谷本さん、相川さん、最後は全員が拍手をしていた。どうやら皆が受け入れてくれたようだ。

 

「オルコット」

 

「は、はい」

 

 千冬姉さんから呼ばれて、セシリアは少し萎縮しながらも返事をする。

 

「これで懲りたようだから私から言うことはない。今後は代表候補性として、その肩書きの重みを十分に理解し、精進しなさい。わかったか?」

 

「はい!」

 

セシリアの力強い返事に姉さんも満足したようだ。

 

では二人とも席に戻りなさい、という姉さんの言葉で俺達は自分の席に着く。

 

「それではクラス代表は織斑一夏に決定だ。織斑にはクラス代表としての頑張りに期待する。では授業を始めよう」




これにて原作1・2話が終了
次回は皆大好き鈴ちゃん登場?
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転校生はセカンド幼馴染でした

皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも織斑一夏です。春も半ばを過ぎ、暖かな日差しが気持ち良い今日この頃。ISの本格的な実習が始まった。

 

「今回はISの基本的な飛行操縦と武装展開のデモンストレーションを諸君らには見てもらう。織斑、オルコット、篠ノ之。それぞれはISを展開するんだ」

 

「「「はい!」」」

 

 3人が揃って返事をし意識を集中させる。俺とセシリアは、ほぼ同時に展開。少し遅れて箒が展開した。白式の写真を見てイメージをインプットさせた事が、しっかりと反映されている。やはり練習は嘘を付かないな。

 

「ふむ、オルコットと織斑はなかなかの速さだな。篠ノ之は今後もう少し早く展開できるように練習しなさい。目標は2秒だ」

 

「は、はい」

 

「よし、では飛行開始!」

 

 言葉と同時に俺は急上昇し上空で待機する。少し遅れてブルーティアーズが、更に遅れて紅椿が到着する。

 

「篠ノ之。初心者にしては上出来だが、スペック上の出力は白式やブルーティアーズより上だということを忘れてはいかんぞ」

 

「はい!」

 

 ふむ、箒はうまいことイメージが掴み切れてないようだな。ちなみに俺は、自分自身をコントローラーで動かす様にイメージをしている。例えば十字キーで上下左右、R1で加速、L1減速。こんな感じが一番しっくりきている。

 

「むぅ…、なかなかに難しいものだ…」

 

 ぼやく箒にセシリアが寄り添うように飛びながらアドバイスを送る。

 

「箒さん。空を飛ぶイメージは中々に難しいものです。私も一夏さんもそれぞれ明確なイメージがありますね。箒さんも色々な飛ぶものをイメージして自分にあったものを選ぶべきですわ」

 

「ああ、ありがとうセシリア。色々と参考にしてみる」

 

 箒もセシリアのアドバイスに素直に応じる。

 

 実は箒とセシリアは意外にも仲が良い。あの謝罪の後に簪を加えて俺を含めた4人でいる事が多くなった。今では3人共仲良しだ。

 

 …でも食事の時は誰が俺の隣に座るかでよく揉める。そして毎回周りの視線が俺の胃のライフをガリガリと削って行くことを3人は知らない。一頻り文句を言い合ったらジャンケンをするのが恒例となっている。しかし未だに「修羅場」にならずにいるのでセーフだ。…セーフったらセーフなの‼︎

 

「よし、では3人とも次は急降下と完全停止だ。少々きつめだが、目標は地上から10cmだ」

 

 おっと、指示が出た。

 

「了解しました。では一夏さん・箒さん、お先に」

 

 そう言うと、セシリアは頭から突っ込み、地上スレスレで反転して完全停止をやって見せた。

 

「うまいものだ…」

 

「だね。それじゃ、次は俺が行くよ」

 

 セシリアに習い俺も頭から突っ込み、地上が見えて来たところで反転して急停止した。測ってみると15cm程度だ。結構オーバーしちゃったかな?

 

「織斑も悪くなかったぞ。今後は10cmに近づけるよう練習するように」

 

「はい!」

 

 先生の言葉に返事をして空を見上げた。

 

 

 おや、箒も頭から突っ込んで来たな結構加速ついてるけど大丈夫かな?……ん?あれ?なんかこっちに来てないか?絶対こっちに来てるぞ‼︎ちょ、ま‼︎

 

 

 

 

ちゅどーーーーーん‼‼‼‼‼‼

 

 

 

 

「ぎゃーーーーーー‼‼」

 

 辺りに砂ぼこりが巻き上がる。バリアでなんとか無事だがさっきの衝撃でISも待機状態に戻ってしまったようだ。とりあえず視界が悪いから声で無事なのか確認する。

 

「いたたぁ…大丈夫か?箒〜」

 

「うっ、うっ…何とか、すまない一夏…」

 

 普段とは違い、弱々しい声だがどうやら心配ないようだ。だが…完全に油断していた。原作一夏のシチュエーションをまさか箒がやるとは…予想外すぎる。

 

 つーか起き上がれない?何かが全身に乗りかかってる?身じろぎしてみよう

 

ふにょん

 

「ひゃん⁉」

「…え?」

 

 なんだ今の艶かしい声は?…もしかして俺の胸の辺りに乗っかってるフカフカなものって‼

 

 開けた視界で改めて確認すると、そこにはちょうど箒が俺を押し倒した状態で乗っかっていた。

 

 しかも箒の「立派なものが」俺の胸の上でぽよんぽよんとしている。…ああ、これぞまさに桃源郷、桃だけに…。って違う違う⁉早くどかさないと、こんなとこ誰かに見られでもしたら…

 

「あーー!しののんがおりむーを押し倒してる〜」

 

 早速ばれたー‼のほほんさんやめてー⁉そんな大声で叫ばないで!

 

「本当だ⁉大胆すぎるよ」

 

「すごい行動力ね。見習いたいわ」

 

「一夏君が受けか〜……多いにアリね‼」

 

 うぉ〜…場がカオスになっている。箒は慌てて飛び退いたが顔は塾しすぎたトマトのように赤くなってしまっている。

 

「ほ、ほ、箒さーん!!」

 

 セシリア来ちゃったー‼本当の地獄はここからなのか?

 

「授業中なのにそんな羨ま、ではなく妬ま、でもなくハレンチな行為に及ぶなど、このセシリア・オルコットが許しませんことよーー‼」

 

 おーい、本音が漏れてんぞ。羨ましのか?妬ましいのか?

 

「こら、そこまでだ!」

 

 織斑先生の声が響く

 

「はぁ、2人とも怪我はない様だな。再度ISを展開してこちらに来なさい。授業の続きをするぞ」

 

 

 

「これより武装展開を始める。まず織斑」

 

「はい!」

 

 俺は正眼に構えを取りながら「一振りの刀」をイメージする。強くしなやかで、あらゆるものを断ち切る最強の刀。眩い光が手から放出され、それが収まると「雪片弐型」が展開されていた。うーん…時間的にはますまずかな?

 

「イメージはしっかりと出来ているようだな。今後はよりスピードを心がけるように。ではもう一つの武装も展開してみろ」

 

「はい!」

 

 雪片を収納し、今度はもう一つの武装である格闘グローブ「八龍(はちりょう)」を展開する。(誤字ではありませんので悪しからず)

 

 両手の甲には龍の上顎が装飾され、指には牙のような爪が装備されている。爪の長さは調節可能で最大で1m程度まで伸ばすことが可能だ。拳を固めることも剣のように手刀も出来る。また、この装備でも零落白夜を発動することが可能だ。

 

 更にこの武装の特殊能力なのか、相手から受けたダメージの蓄積分がそっくり攻撃力へと変換される。使い所を間違わなければ頼りになる武装だ。

 

「こちらもイメージは纏まっているようだな」

 

「はい、イメトレを欠かさずにしました」

 

「うむ、良い心がけだ。引き続き頑張るように」

 

 俺は頭を軽く下げて答えた。

 

「次にオルコット」

 

「はい!」

 

 返事と共にスターライトmkⅢが展開される。すごいな…、1秒とかからなかった。

 

「流石は代表候補生だ。が、銃身は正面を向けるように展開しなさい。1秒を争う最中では命取りになるぞ」

 

「はい」

 

 至極真っ当な意見にセシリア自身も思う所があったのだろう、素直に返事をする。

 

「次は近接武装だ」

 

「は、はい」

 

 光の粒子がうまく纏まらない。

 

「まだか?」

 

「うう、インターセプター!」

 

 こちらは先程とは違いコールを使わないといけない程にイメージが出来ていないようだ。

 

「ふむ、これに関しては練習が必要なようだな。織斑に懐を許したことがある以上、やっておいて損はないぞ。最後に篠ノ之、やってみろ」

 

 千冬姉さんが箒の方に行くとセシリアがふくれっ面でこちらを睨みながらプライベートチャンネルで通信が入った。

 

『い、一夏さんが悪いんですわ!』

 

『えー、本当にそうかな?』

 

 俺は優しく問いかけてみる。

 

『……すみません。本当は私が未熟なせいですわ』

 

 素直でよろしい

 

『また、一緒に練習しようか?』

 

『は、はい是非ともお願いしますわ‼︎』

 

 うんうん、笑顔が一番だ。そんなことをやってる間に箒の番がやって来た。だらりと腕を下げた状態から目を瞑りイメージを構築しているようだ。しばらくすると箒の両手には雨月(あまづき)・空裂(からわれ)が握られていた。

 

「まずまずだな。もう少しイメージを明確にする所から始めてみなさい。スピードに関してはそれからだ。」

 

「はい!」

 

 と、ここで授業終了のチャイムが鳴る

 

「では、本日の授業はここまで。織斑、すまないが篠ノ之を手伝ってやってくれ。シャベルと土はそこにある」

 

そう言うと織斑先生と山田先生は去って行った。

 

 

 

「さてと、頑張りますか」

 

 シャベルを片手に気合を入れる。

 

「す、すまない一夏」

 

 申し訳なさそうに謝る箒

 

「気にしないで、先生に言われなくてもどうせ手伝うんだからさ」

 

「箒さん、私も手伝いますわ」

 

 なんとセシリアから声が上がった。慣れない手付きだが頑張って土を運んでいる。正直予想外だな〜、良い意味で。

 

「私も」

 

「あたしも〜」

 

 結局ほぼクラスの全員が参加して穴を埋めている。いやはや、これぞ青春って感じだな〜。俺も負けてられん!!そう思いながら俺もえっちらおっちらと土を運んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

「ここがIS学園…」

 

 夜も更けて来た午後8時頃。あたしは今IS学園正門にボストンバッグ片手に立っている。帰ってきた…。遂にあたしは、この日本に帰ってきたんだ‼1年…言葉にすれば簡単だがその時間はあたしにとって永遠にも感じた…。彼のいない1年がこんなに苦痛だとは思わなかった。

 

 元気かな?あたしがいない間にまた怪我とかしてないよね?一言連絡をすれば良かったかな?逸る気持ちを抑えてあたしは総合事務受付に向かって歩みを進めた。




 この八龍は、清和源氏に代々伝えられたという8種の鎧の一つに数えられており、この8種の中にはなんと「楯無」という鎧も存在します。


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転校生はセカンド幼馴染でした2

皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


「織斑君!クラス代表決定おめでとう‼」

 

「おめでとうー!」

 

 ぱんぱんぱん、ぱーん。

 

 クラッカーが乱射する。壁にかかる『祝☆織斑一夏クラス代表就任パーティー』と言う看板で分かる通りだ。

 

 クラスメイトだけでなくあっちこっちから人が集まっている。どう考えても50人はいるんじゃないかな?ちなみに俺の右側に箒、左側にセシリア、箒の右側に簪が座っている。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるよねー」

 

「ほんとほんと」

 

「あの時の織斑君のセリフ、格好良かったよね。『ここから先は一歩たりとも譲らんぞ‼』私、思わずしびれちゃったもん」

 

「ほんとほんと」

 

 ぎゃあああああ‼それ言わないで!改めて思い出すとメッチャ恥ずかしいんだから⁉

 

「織斑君のお陰で夏イベも大成功間違いなしだね」

 

「ほんとほんと」

 

 おーい君達、俺に何やらす気だ?行かないからな⁉︎俺は絶対に行かないからな‼

 

「人気者だな…、一夏?」

 

「…もてもて」

 

 ちょっと拗ねた感じの箒と簪。何だがこの2人、すごく仲良いな。

 

「半分は箒と簪のお陰だね。ありがとう」

 

「い、いや、まぁー分かってくれているならいいんだ…」

 

「(こくこく)」

 

 そんな話をしていると1人の2年生が俺の前に出てきた。

 

「はいはーい、IS学園新聞部でーす。本日は織斑一夏君の特別取材に来ました」

 

 おー、と一同が盛り上がる。

 

「あ、私は2年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。新聞部の副部長です。これ名刺ね」

 

「ど、どーも」

 

「では一夏君、クラス代表になった率直な感想をどうぞ」

 

 うーん、やっぱり恥ずかしいな。無難に行こうかな

 

「えー、まだまだ未熟者ですが代表として皆の期待に全力で応えたいと思います。」

 

「うーん、模範的な解答だね。もう少しパンチが欲しいんだけどな〜」

 

 お気に召さないようだ。これならどうだ。

 

「誰の挑戦でも受けて立ちます!」

 

「お!良いね〜。そういうのが欲しかったんだよ!バッチリバッチリ!」

 

 下手に捏造されても困るからな。満足してくれて良かった。それから黛先輩は箒、簪、セシリアの3人からコメントをもらい、最後にこんなことを言い出した。

 

「さて、最後に専用機持ち4人の写真を撮らせてくれるかな?」

 

「「「え⁉」」」

 

「1年の専用機持ちが一度に集まるなんて珍しいからね。是非とも一枚欲しいんだわ」

 

 先輩やめてください!不用意にそんなこと言うと…。

 

「一夏の隣は私だ!」

 

「いいえ、このセシリア・オルコットが相応しいですわ‼」

 

「…じゃあ、反対側はいただいても」

 

「「良い訳あるか‼」」

 

 ほら、こうなるんだから…。あー胃が痛いよ〜。

 

「一夏君。人気あるね〜。それについてはどうでしょうか?」

 

 ニヤニヤしながらコメントを求めてくる先輩に俺はため息をつきながら答えた。

 

「…ノーコメント」

 

 結局、その場にいた全員での集合写真になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

翌朝

 

「おはよー織斑君、ねぇ転校生の話聞いた?」

 

「今の時期に?」

 

「うん、噂じゃ中国の代表候補生なんだって」

 

「あら、わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「だが、このクラスに転入して来るわけではないのだろう?」

 

「転校生か…」

 

 ついに来た…。帰って来た。あの子がここに…

 

「気になるのか?」

 

 箒が俺に問いかける。

 

「まぁね、入学試験の数倍難しい上に国からの推薦状も必要になる…。ほぼ間違いなく専用機を持っているはずだよ」

 

「ふむ、強敵というわけか…」

 

 うまく誤魔化せたようだ、良かった…。

 

「まぁー取り敢えず勝つための練習はしなきゃだよね」

 

「そうですわね。クラス対抗戦は1月後に迫ってますし、より実践的な訓練をしましょう。相手はわたくしと箒さんが務めます」

 

 意気込むセシリアと頷く箒。

 

「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せになるんだよ」

 

「織斑君、がんばってね!」

 

「スイーツフリーパスのためにもね!」

 

 周りの欲望ダダ漏れの声援を聞きながらの苦笑いをしていると

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、そんな簡単にはいかないわよ」

 

 

 

 

 

 

「2組のクラス代表も専機持ちになったの。そう簡単には優勝できないわよ」

 

 一夏がいる。やっと…やっと会えた!でもその前に、もうクラス対抗戦で優勝が決まった気でいる1組に宣戦布告をしとかないと!

 

「鈴…鈴か⁉久しぶり!」

 

 ちょ、ちょっと一夏!そんな嬉しそうな顔しないでよ。いや、あたしもすごい嬉しいけどさ…くっ!出鼻を挫かれたけど負けないわよ!込み上げてくる嬉しさを抑えながらあたしは宣言した。

 

「そ、そうよ!中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たんだから‼︎」

 

 …うぅ〜、ちょっと吃ってしまった。あたしのバカ〜!これじゃあ全然格好がつかないよ〜!

 

「鈴」

 

 心の中で自己嫌悪に陥っていると一夏があたしを呼んだ。

 

「な、何?」

 

 一夏がじっとこちらを見る。な、何だろう。怒らせちゃったかな?いや、こんなことじゃ一夏は怒らないし…。戸惑っているあたしを他所に一夏が優しく微笑みながら答えた。

 

「おかえり」

 

 瞬間、私の周りから音が消えた…おかえり?

 

 

 

トクン

 

 

 

 静かに…でも確かに、その言葉は私の心に響いた。帰ってきた、今の言葉で間違いなく私の身も心も、本当の意味で日本に帰ってこれたんだ。

 

 嗚呼、本当にあんたは…。いつもあたしの欲しい言葉をくれるんだから…。言わなきゃ、「おかえり」って言われたんだから、ちゃんとあたしも言わなきゃ。未だに色々な感情が心を駆け巡っているけど、これだけは貴方に伝えます。

 

「ただいま!」

 

 

 

 あたしは今できる最高の笑顔を彼に見せた。

 

 

 

「…ふぅ」

 

 一体、彼女は誰なんだろうか?一夏があんな言葉をかける女子…。

 

 あの時の一夏の表情はとても穏やかで嬉しそうだった。確信を持って言える。彼女は一夏に好意を寄せている。そして…間違いなく私の知らない一夏を彼女は知っている…。

 

 6年も離れていたから私の知らないことがあって当たり前だ。…でも、どうしたって胸がざわついてしまう…。6年間の差をこんな形で味わうとは思ってもいなかった…。

 

 …だが、いつまでも考えてはいられない。昼休みになったら一夏から聞いてみよう。一夏だったらちゃんと答えてくれるはずだ。私は無理矢理そう結論づけて授業に集中するようにした。

 

 

 

 

「ハァー…」

 

 あの方は一体誰なのでしょうか?いきなり現れたと思ったら宣戦布告、そして一夏さんとは旧知の仲のようでしたし…。と言うか、あれはわたくしと同じ…恋をした女性の目ですわ。

 

 …完全に出遅れていますわね。箒さんと簪さんは、この学園で初めて出来た友人であり、同時に恋のライバルでもあります。ただでさえ2人とも強敵なのに新たにライバルがくるなんて…。

 

 とにかくあの方について一夏さんに聞かなければなりませんね。




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転校生はセカンド幼馴染でした3

鈴がフルスロットル
皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


 どうも織斑一夏です。昼休みとなり俺は食堂へ向う道すがら3人に鈴のことを説明している。

 

「ふむ、つまり彼女は私が引越したあとすぐに転校してきたのだな?」

 

「そう。そんで鈴の家が中華料理屋だったから、よく食べに行ってたんだ。あの頃は本当にお世話になったよ」

 

「なるほど」

 

「でも鈴さんはなぜ中国に帰ってしまったのですか?」

 

 そんなセシリアの質問に困ってしまう

 

「あ〜、それは俺からは言えないかな」

 

 苦笑いを浮かべながらやんわりと答える

 

「…何か事情があるの?」

 

「そんなところ」

 

 俺は彼女たちとの会話を切り上げ食堂へと歩みを進めた。

 

 

 

「待ってたわよ一夏!」

 

 おー、相変わらずの元気娘だな〜。

 

「お待たせ、食券出すからちょっと待っててな」

 

「うん」

 

 トレーを持ちながらも鈴と会話をする

 

「本当に久しぶり、帰ってきたなら連絡くれればいいのに」

 

「それじゃあ感動の再会にならないじゃない」

 

 ふふ、鈴らしいな。ちょっと背伸びしてる感が微笑ましい。

 

「なるほど、あっちでも元気だった?」

 

「勿論よ。あんたこそ怪我や病気してないでしょうね?」

 

「さすがに大丈夫だよ」

 

 まだあの時のことで心配してるのかな?流石にあんな怪我は早々…

 

「あんたの大丈夫は安心できないのよ!」

 

 …ごもっとも。とりあえず苦笑いを浮かべながら本日の昼食(和食定食)を貰って席に着く。

 

 

「さて鈴に紹介するよ。手前から篠ノ之箒、セシリア・オルコット・更識簪。箒のことは話したことはあるよな?俺が通ってた剣術道場の娘さん。セシリアと簪は代表候補生で俺にIS操縦を教えてくれているんだ」

 

「篠ノ之…あんたが…」

 

「?どうかしたか?」

 

「ううん。よろしくね箒」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 どうしたんだろうか?少し複雑な表情だったな…。

 

「セシリア・オルコットですわ。よろしく鈴さん」

 

「うん、よろしくね」

 

 おお、原作と違ってすんなり挨拶できたな〜。

 

「さ、更識簪…よろしく」

 

「う、うん。よろしく」

 

 あ、あはは…やっぱ簪は初対面ではまだ緊張しちゃうか。しばらく雑談をしているとすぐに鈴は皆と打ち解けたようだ。もともとさはさばした性格だから男女関係なくすぐに仲良くなってたな。これも人望なのかな?さて俺から言っておかないといけないことがある。

 

「鈴…一つ言っておきたいことがあったんだ」

 

「なに一夏?」

 

「クラス対抗戦…全力で来い」

 

「!」

 

「下手な手加減はいらない。本気の勝負だ」

 

 原作では一夏の鈍感発言で鈴の怒りに火をつけてしまったが、俺は純粋に鈴と勝負がしてみたい!

 

「…分かった。あたしの力を存分に見せてあげるわ!!」

 

「ああ、期待してる」

 

「じゃ、後でね」

 

よし、これで本気の鈴と戦える…。そう言えばここにもう一人いたんだった。

 

「あ、もちろん簪もだぞ」

 

「ふぐ!!」

 

 簪が必死に胸を叩いている。あれ?喉詰まらせたかな?…え、顔色が段々と青く…

「か、簪が喉を詰まらて白目になったーー!」

 

「簪さんお気を確かにーー!」

 

「ちょーー!!簪カムバーーーク!!」

 

なんでこうなるかな?

 

 

 

 

 

 

アリーナ

 

「くっ!」

 

 目の前すれすれにレーザーが通る。思わず体を逸らして避けるが、体勢が不十分な所に箒が斬りかかる。咄嗟に八龍のクローを交差させ防御。

 

「せい、はっ、やぁ!」

 

お構いなしに押し込むような怒濤の連撃が襲う

 

「ぬぅ!」

 

 流石は全国大会を制しただけはある。見事な剣技だな。…だが甘い!!

 

「そこぉ!」

 

 箒が右腕を振り上げたと同時にその手に蹴りを入れる

 

「な!?」

 

 衝撃で雨月がふっ飛ぶ。いけるか?

 

「箒さん!」

 

 その声とともに箒を守るように四方からビットのレーザーが襲い、寸でのところをバックブーストで回避する。

 

「ちぃ!」

 

 ナイスアシスト…。本当に攻めずらいな。

 

 

 

ブーーー!!

 

 

 

終了の合図だ

 

「よし、今日はここまでにしよう。2人ともありがとう」

 

「ああ、最後は危なかった…。もし1人だったらやられていたかもな…」

 

「一夏さんも近接格闘がだいぶ上達しましたわ」

 

「うん、取り敢えず空中での格闘のコツは掴めたかな」

 

「それで鈴には勝てそうか?」

 

 箒の質問に少し間をおいて答えた。

 

「…長丁場になれば必ず不利になる、短期決戦に持ち込めるかがポイントになると思うんだ」

 

「やはりエネルギーの問題ですか?」

 

 セシリアの問いに無言で頷く。分かってはいたが白式の燃費が本当にひどい。最重要課題だよな…。

 

「どうにか出来ないのか?」

 

「こればっかりは今日明日で改善するものじゃないし、クラス対抗戦が終わったら簪に相談してみるよ。」

 

「うーむ。残念ながらそちらは専門外だ…」

 

「わたくしもあまりお役に立てそうにありませんわ」

 

「まぁーこれについては改めて考えてみるよ。それじゃあピットに戻ろうか?」

 

 

 

 

 

ピット

 

「ふぃー」

 

「お疲れ一夏。はいタオルとスポーツドリンク」

 

「おお鈴!わざわざありがとう助かるよ」

 タオルで顔を拭いてからキンキンに冷えたをスポーツドリンクを一口飲む。

 

「くぅ〜〜!最高!」

 

 それから静寂が辺りを包む

 

「やっと…2人っきりになれたね」

 

「あ、ああ」

 

 やばい…緊張するな。そう思っていると隣に座る鈴が俺の胸に頭を預けてきた。

 

「り、鈴…」

 

「寂しかった」

 

 その一言に、あらゆる思いが詰め込まれている。わずかに震える鈴を俺は優しく抱きしめた。

 

「鈴…大丈夫だ」

 

 言葉少なめに声をかけながら、しばらく鈴が落ち着くまで抱きしめていた。

 

「ありがとう一夏。もう大丈夫だから」

 

「おお」

 

 昔から気付いてたけど、…鈴も俺に好意を寄せている。…決めなきゃダメだよな。分かっているのに皆の気持ちに甘えている。はぁー俺って本当に恋愛ごとになるとダメだ…

 

「くっしゅん」

 

 やべ、体が冷えたな

 

「ごめんね一夏、体冷えちゃったよね」

 

「大丈夫、でもそろそろ戻るよ。シャワーも空く頃だし」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「シャワーも空く頃って…1人部屋じゃないの⁉」

 

「あ…」

 

 やべ、口が滑ったー!

 

「あ、いや、えっと」

 

「い・ち・か〜?」

 

「は、はい…」

 

「どういうことか説明してくれるわよね〜」

 

 殺される…。下手をすれば殺されてしまう。

 

「はい!ルームメイトがいます!!」

 

「はぁ!?ルームメイト!一体誰なのよ!誰なのよ!!」

 

 俺の肩を掴んで揺さぶる鈴に一言で答えた。

 

「ほ、箒…」

 

「箒って…あの箒のこと!?どうしてそうなった!!」

 

「い、いやね。1人部屋が間に合わなかったから…やむを得ずなんだよ~」

 

「ちょっと!それってつまり寝食をともにしてるってこと!?」

 

「そ、そうなるのかな?」

 

「そうとしかならないでしょうが!あーもー、こうしちゃいられないわ」

 

 そう言うと鈴は一目散に出口に向かって走り出した。

 

「お、おい鈴!」

 

「一夏!ちゃんとシャワー浴びなさいよ!風邪引かないように長袖のTシャツを着ること!いいわね!!」

 

「……」

 

 鈴は一気にまくしたてるとそのままピットから出て行ってしまった。

 

 

 

 いや、なんというか…

 

「鈴…まじオカン」

 

 俺の呟きは虚しく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「という訳だから部屋代わって」

 

「だが断る」

 

 笑顔で両手を合わせてお願いする鈴とそれを笑顔でぶった斬る箒。あ、鈴の目尻がピクピクしてる…。

 

「い、いやー、箒も男と同室なんて大変でしょう?だったら…」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「…」

 

「…」

 

 ちょっと、2人とも笑顔が消えてるよ!!瞳孔が開いてるよ!?怖いです…ものすごく怖いです!

 

「代わって…」

 

「嫌だ」

 

「代われ」

 

「お断りだ」

 

「お・ね・が・い」

 

「い・や・だ」

 

ブチ…!あっ、なんか切れる音がした。

 

「代われって言ってんでしょう!こんのモッピーめー!!!」

 

「嫌だと言っているだろがー!!てか誰がモッピーだ!!このちっぱ鈴めー!!!」

 

「誰がまな板貧乳娘じゃーーー!!」

 

「そこまで言ってないわーー!!」

 

イッピー知ってるよ!箒も鈴も強情だってこと。

 

そしてイッピー分かってるよ!これが修羅場だってこと!

 

「「一夏!!!」」

 

「はい!ごめんなさい!!」

 

「なに謝ってんの?それより一夏!あたしの味方しなさいよ!幼馴染でしょ!」

 

「一夏!鈴をどうにかしてくれ!幼馴染だろ!!」

 

 あーー、就寝前に板挟みですか?誰か助けてください。…しかたない鈴には悲しいお知らせをしないといけないな。

 

「はぁ〜鈴…部屋の交換なんて不可能だよ」

 

 俺は断言する。

 

「な、なんでよ!?」

 

 戸惑う鈴に俺はさらに続ける。

 

「まずは1年の寮長に許可を貰わないといけないけど誰だか知ってる?」

 

 そう、これが最初の障害にして最大の障害なのだ。

 

「そう言えば知らないわね。まぁー誰が来てもあたしなら問題ないわよ」

 

 うわ〜、なんてことを…。鈴は全然気づいてないけど、箒も思わず可哀想な子を見る目になってるよ。無知って怖いな…。

 

「で、誰なの?今から乗り込んでやるから!」

 

「その…姉さん」

 

「……は?」

 

「1年の寮長は千冬姉さんなんだ」

 

「……」

 

 あまりの事に大口を開けて呆然としてしまう鈴の肩に優しく手を置く箒、そしていい笑顔で口を開いた。

 

「では鈴、逝ってらっしゃい。短い間だったが楽しかった。武運を祈ってるぞ」

 

 この子、清々しいほどの笑顔でとんでもないこと言っちゃったよ!?

 

「いけるかー!理由を告げた途端にアイアンクロー確定じゃないのよ!?ちくしょー神様のバカやろーー!!あんたなんて大嫌いだーー!!!!」

 

 鈴は泣きべそかきながら捨て台詞を残して部屋を出て行ってしまった。そして残された俺たちはなぜか居た堪れない気持ちになってしまった。

 

「……」

 

「……」

 

「…一夏、もう寝よう。なんだがドッと疲れてしまった」

 

「奇遇だな箒…俺もだ」

 

俺たちは力なくそれぞれのベットに入り眠りについた。




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鈴との戦い

今回は新しい試みで行間を1~2行開けてみました。
読み易ければ今後は全話をこのように改行したいと思います。

皆様が楽しんで頂ければ幸いです

ではどうぞ・・・


アリーナの映像が管制室へと届く。

 

既に準備は出来ている…そう言外に語るほどに向かい合っている両者は気力に満ちていた。

 

 

第3世代型IS甲龍

 

 燃費と安定性を第一に設計されており、機体カラーは赤み掛った黒。待機形態は右手に付けた黒のブレスレットとなる。正式名称は「シェンロン」。武装は大型の青龍刀である双天牙月(そうてんがげつ)が2基装備されており、連結することで投擲武器としても使用できる。そして背面部に装備されたスパイク付きのアンロックユニット龍咆(りゅうほう)は空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。

 

 

 

 

 食堂での言葉通り、一夏が本気をだして自分と戦うつもりである事を鈴は感じ取った。何故なら鈴は知っているからだ。

 

 

あの雰囲気を、そしてあの眼を…。

 

 

『それでは両者、試合を開始して下さい!』

 

 

 

「おらぁぁああああ!!!」

 

「はぁぁぁあああああ!!!」

 

 それぞれの獲物が刃を交えた。鈴は2本の青龍刀を巧みに操り連撃を繰り出す。一方の一夏は雪片と機動力で連撃を捌きながら一瞬の隙を見つけて剛の一撃を入れようと立ちまわる。開始早々から白熱した試合が展開された。

 

ここで鈴が鍔迫り合いの状態を嫌い一旦距離を取る。

 

が、この隙を一夏は見逃さなかった。

 

「チェストォォォオオオ」

 

「な!?」

 

 ブーストで一瞬の内に鈴との距離を縮め、上段から気合を込めて雪片を振り下ろした。

 

「くっ!!??」

 

 鈴は咄嗟に獲物をクロスさせ刃の腹で受け止める事で機体へのダメージは受けなかったが、受け止めた双天牙月には決して小さくない皹が眼で確認出来た。

 まともに食らったらヤバかった…。鈴は内心で冷や汗をかいていた。

 

 互いに距離が離れる。再度一夏が鈴との距離を縮め、鈴は己を奮い立たせるように叫んだ。

 

「まだまだ勝負はこれからよ!!」

 

 

 

 

 

管制室

 

「一体何が起こったんだ…見えない何かが一夏を攻撃した?」

 

 管制室からモニターを見て箒が疑問を口にし、それにセシリアが答えた。

 

「あれは『衝撃砲』ですわ。空間自体に圧縮をかけ砲身を生成、余剰で生じる衝撃を砲弾として打ち出す。わたくしのブルーティアーズと同じ第3世代兵器ですわ」

 

 さらにここで山田先生の捕捉が入った

 

「付け加えとロック機能はハイパーセンサーを利用してる上に砲身の斜角はほぼ無制限みたいですね」

 

 モニターを見ると一夏は隙を窺うように上下左右から接近を試みるが、その度に龍砲によって牽制を入れられ近づく事も容易に出来なくなっている。遠距離攻撃が選択肢にない白式の装備では、まず接近しないと何も始まらないのだ。この状況は誰の目から見ても一夏は苦戦していた。

 

「一夏…」

 

「一夏さん…」

 

 モニター越しに見る一夏の苦い表情を箒とセシリアは心配する。

 

「ふむ、確かに苦戦はしているようだが、私はそれ程に悲観的な状況には思えないがな」

 

 ここで初めて織斑先生が口を開いた。そして口にした言葉は予想外の言葉だった。

 

「それはどういう事でしょうか?」

 

「なに簡単な話だ。織斑は少しづつだが攻略法をつかみかけている。よく見てみなさい」

 

一夏は鈴に向かって短く小刻みなブーストを使うことで狙いを一点に集中させずに相手の懐に入り攻撃を敢行する。

 

 離れようともがく鈴を決して離さずに近接戦闘を行っていた。

 

「凄いですわ。あれだけ攻めあぐねていたのに…急にどうしたんでしょうか」

 

「原理としては単純なものだ。目視によってロックされるならば、それ以上の速さとフェイントを合わせた機動を駆使して相手を翻弄すればと考えたのだろう。撃たせてしまえば手を出せないと悟った織斑は撃たせないようにするにはどうしたらと考えた結果なのだろうな」

 

 セシリアの問いに簡単に説明する織斑先生。

 

「しかし本当にすごいことは、これ程の機動をたった3ヶ月しか乗っていない織斑がやってのけたことだ。恐ろしいほどの成長スピードだ……」

 

この場の誰もが口をつぐんだ。かつてISの祭典モンドグロッソにおいて輝かしいほどの成績を納めた彼女、ブリュンヒルデからの言葉を笑い話に捉えるものは誰もいなかったのだ。

 

「しかしこれで一夏の勝ちの目が見えてきましたね」

 

「そうだな、ここで油断さえしなければ時間の問題だろう。あいつ自身も決して詰めの甘いやつではないからその心配もないが、勝ちを急いで足元を掬われないかだけが気がかりな点だな…」

 

「あ、やっぱり織斑先生も弟さんのことは心配なんですね」

 

 ここで山田先生が場の空気を和ませようと茶化した様に織斑先生に問いかけた。

 

「……」

 

 彼女が目を細め、一瞬のうちに山田先生の後ろに回り込むと柔らかそうな両方の頬を白く美しい細い指で引っ張ったのだ

 

「いひゃい!いひゃいですよ!?おりむりゃふぇんふぇい!!!」

 

「何ですか?山田先生。よく聞こえませんよ。もっとはっきり喋ってください」

 

「ごめんなひゃい!ごめんなひゃい!ひゃかしてしゅみましぇんでした!!」

 

 ここでようやく織斑先生は溜息を一つはいて指を頬から離したのだ。山田先生は両頬を抑えながら悶絶している。

 

「私は身内がネタにされるのは嫌いなのだ……。よく覚えておくように」

 

「ふぁ、ふぁい……」

 

 山田先生が力なく答えた側で箒とセシリアが苦笑いしていた。

 

 一方、アリーナでは試合が最終局面に入っていた。

 

「次で決めるぞ。鈴」

 

「上等よ!かかってきなさい!!」

 

 正面から相対する2人。一夏は雪片を正眼に構え、鈴は連結した双天牙月を片手で上段に構えながらその時を待った。

 

 一陣の風を気に同時に動き出した2人だったが、アリーナの中央に放たれた大出力のビーム砲がアリーナ全体に走ったのだった。

 




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ではまた次回


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無人機との戦い

かなり苦労しました。その割にクオリティーが…。

皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。

ではどうぞ…


 強大な衝撃が地面を揺らし、アリーナ中央では未だに大量の粉じんが舞っていた。

 

『な、…何が起こったの?』

 

 突然の出来事に戸惑う鈴に一夏が答える。

 

『どうやら、…招かれざる客が来たようだ』

 

 一体何の事か理解できなかったが、今やるべき事は分かっている。鈴は一夏に叫んだ。

 

『とにかく一夏、試合は中止よ!すぐにピットに戻って!!』

 

 鈴は頭をフル回転させ、愛する人を如何にして守るか考えた。そうピットに入ってしまえばとりあえずの安全は確保される。しかしその提案は無情にもその相手に否定されてしまった。

 

『無理だ。…ピットの格納扉が閉まってる』

 

『そ、そんな…』

 

 僅かに動揺する鈴。だがこの動揺は致命的、敵ISが甲龍にビーム砲を放った。

 

『っ!?鈴!!』

 

 一夏は鈴を抱きかかえてその場を緊急回避。同時に2人が居た空間に凄まじい熱量が通過した。一夏がオープンチャンネルを開く。

 

「危なかった…。怪我はないか鈴?」

 

「だ、大丈夫…」

 

「そうか…悪いがもうしばらくこのままだ。敵を視認したら下ろす、それまでしっかり抱きついてろ。いいな?」

 

「は、はい!」

 

 返事とは裏腹に鈴は動揺していた。想い人の顔が息が当たるほど側にあり、身体同士はこれでもかと密着している。この鼓動の速さは戦闘だけが要因ではないだろう。

 

 そんな鈴の心情に一夏が気付くわけもなく敵が放つビームの連射を回避していると、ようやく不明機の姿が露わになった。

 

ーーーその姿は一言で表すとまさしく異形。

 

 全体は世にも珍しい全身装甲(フル・スキン)仕様、肩と頭部が一体化した胴体にはセンサーレンズが幾つか並び、姿勢制御のためか全身にはスラスターが点在している。そして最も特徴的な地面につきそうな程に長い両腕には左右2門づつ、計4門のビーム砲が搭載されている。

 

 

 ビームの連射が止むと同時に不明機に注意を向けながら鈴を傍らに下ろした。

 

「ちょっと!あんた何者よ!?」

 

 先程の事もあって少し八つ当たり気味に相手を威嚇する鈴。

 

「………」

 

 そんな言葉に相手が答える事も無かった

 

 

『織斑君!凰さん!アリーナを脱出して下さい!直ぐに制圧部隊が向かいます!』

 

 その言葉に一夏が静かに答えた。

 

『…山田先生、ピットの格納扉が閉まっています。脱出不能です』

 

『え!?い、今開き、そんな…シールドレベルが4になってる。しかも扉が全てロックされてる!!』

 

 慌てる山田先生を余所に、通信に千冬が割って入る。

 

『織斑、凰、聞こえた通り現状は最悪だ。システムクラックが完了するまでそちらへの支援が出来ない』

 

 その言葉に一夏は迷いなく答えた。

 

『分かりました。こちらで迎撃行動に入ります!』

 

『織斑君ダメです!そんな無茶なこと…』

 

『許可する!ただし2人とも、決して無理はするなよ』

 

『『了解!!』』

 

ここでタイミングを見計らったように敵が突っ込んできた

 

 

 

「行くぞ鈴!!」

 

「オーケー、やぁぁってやるわぁぁ!!!」

 

2人は敵を挟んで左右に展開した。

 

 

 

 

 

管制室

 

「織斑!凰さん!応答してください!」

 

 必死に回線を開こうとする山田先生を千冬が戒める。

 

「落ち着きなさい山田先生。…悔しいが今の私達には何も出来ない。あの2人に任せるしかないんだ」

 

「ですが…」

 

「信じるんだ」

 

「!?」

 

「生徒を信じるのも教師の役目だ…」

 

「織斑先生…、はい!!」

 

pppp

 

「ん?通信だと?」

 

 千冬がコンソールを操作してモニターを映した。そこには打鉄弐式を纏った簪の姿があった。箒とセシリアから驚愕の声が上がった。

 

「簪!」

 

「簪さん!どうしてピットに?」

 

「試合に向けて機体の調整をしていたの…それより織斑先生、お願いがあります」

 

「…何だ?」

 

 普段の簪からじゃあり得ない発言が飛び出た。

 

 

 

「私に出撃許可をください!」

 

 

 

 突然の申し出に驚く一同。当然ながら最初に異議を唱えたのは山田先生だった。

 

 

「なっ!何を言っているんですか更織さん!?だいたい格納扉が閉鎖されてるのに…」

 

「今シュミレーションしましたが山嵐と春雷の同時攻撃で格納扉を破壊してアリーナに突入する事ができます!」

 

「だからって…私は反対です!!これ以上、生徒を危険な目に合わせるなんて…」

 

 尚も食い下がろうとする山田先生。だが…

 

 

 

 

 

「約束したんです!!!」

 

 

 

 

「!」

 

 山田先生だけでなく、箒もセシリアも言葉にしていないが驚いている。あの簪が怒鳴ったのだ。普段彼女と長い時間ともにしているが、どこか気弱で自己主張が決して得意ではない印象が強かった。だが今の簪からは普段の気弱さはなかった。ただただ真剣な眼差しをこちらに向けていた。更に簪の言葉が続く。

 

 

 

「どんな敵にも絶対に引かないって、私は…『彼』と約束しました」

 

 彼が誰であるか…簪の視線が答えていた。今もアリーナで戦う翼を纏った戦士の姿を。

 尚も戸惑う山田先生を余所に千冬が簪に問いかけた。

 

「…更織、一つだけ聞く」

 

「…はい」

 

「怖いか?」

 

 単純明快な質問。だがこの質問は極めて重要だ。これから簪が向かうのはルールに守られた『試合』ではなく『戦場』なのだ。1つのミスが簪だけではなく一夏や鈴にまで危険を及ぼす可能性がある。故に簪が自身の状態を冷静に判断できているか含めた意味での質問である。簪が口を開いた。

 

「怖いです…」

 

 偽りのない簪の本音だ。

 

「でも、ここで引けば私は一生後悔し続けます!!だから…行かせてください!!!」

 

 そしてこの思いもまた簪にとっての偽りのない答えなのだ。しばし両者がじっと眼を合わせる。とここで千冬の口元が少しだけ緩んだ。

 

 

「…いいだろう。行け!…みんなを守ってみせろ!!」

 

 

「…はい!!」

 

 格納扉に向かって全武装を格納扉にロックオンした所で箒とセシリアからプライベートチャンネルに通信が入る。

 

 

「簪!一夏と鈴を頼んだぞ!!」

 

「ご武運を!!簪さん!」

 

 大切な友人である2人の言葉に簪がしっかりと答える

 

「うん!行ってきます!」

 

 簪は格納扉に向かって全弾発射した。 

 

 

アリーナ

「いけえええ!!」

 

 衝撃砲の斉射。何発が不明機に掠り機動が乱れる。

 

「一夏!今よ」

 

「うおぉぉぉ!」

 

 隙が出たところを横合いから右ストレートを叩き込む。手に伝わる衝撃で一夏は確かな手応えを感じたていた。しかし不明機は人間では信じられない様な動きから直ぐに態勢を直し長い両腕を生かし駒の様に回転しながら一夏に迫った。

 

「ちっ!」

 

 まるで嵐のような猛攻から辛うじて回避に成功した一夏は、鈴の所まで戻って行った。

 

「一体何なのアイツ!!アタシや一夏の攻撃を何発も食らっているのにピンピンしてるじゃない!?てか何で一夏はグローブでばっか攻撃してんのよ。雪片はどうしたの?」

 

 鈴の疑問に一夏が説明する。

 

「この『八龍』は、機体のダメージがそのまま攻撃力に返還される武器なんだ。鈴との試合で貰ったダメージ分が上乗せされた一撃を浴びても大して効いてる様には見えない。今の八龍は『雪片弐型』の実体剣より攻撃力は上なんだけど…こりゃ厄介だな」

 

「どうにかなんないの?」

 

「さてはて…どうしたものか」

 

 しかし一夏には予感があった。予想も出来ないような「神の一手」がこのアリーナに舞い込んでくると。

 

 

ドカーーーーーーーーーーーーン

 

 

 敵の後方に位置するピットから爆発音が聞こえた

 

「こ、今度は何なの!!」

 

「新手か?」

 

 突然の出来ごとに緊張感が増す二人。と、ここで未だに煙が立ち込めるピットから多数のミサイル群が姿を現す。

 

 一夏と鈴が慌てて回避行動を取ろうとする。が、ミサイル群はそのまま不明機へと脇目も振れずに進んでいった。回避行動を取りながらビームによる迎撃を行う間に一機のISが一夏たちの基に近づいてくる。ハイパーセンサーがその正体を正確に捉えた

 

「あれって…」

 

 鈴と一夏が驚く。

 

「打鉄弐式…。簪か!!」

 

「一夏、鈴、…お待たせ」

 




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無人機との戦い2

皆様が楽しんで頂ければ幸いです

ではどうぞ・・・


「簪!?」」

 

 鈴だけでなく俺も驚いた。まさかピットを破壊してアリーナに入ってくるとは…普段の簪からは考えられないほどのアグレッシブさだ。

 

「簪…」

 

「一夏、私も…戦う!」

 

「!!」

 

 少ない言葉だが、簪から俺は確かな意志と思いを感じた。

 

「分かった…一緒に戦おう!!」

 

「頼りにしてるわよ」

 

「!!、…うん!!」

 

 予想外だったが、これは最大級のチャンスだ!

 

 簪のお陰で勝ちの芽が広がった。ここで俺は2人に敵ISの情報を伝えた。

 

「2人とも聞いてくれ。戦っていて一つだけ分かったことがあるんだ…」

 

「どうしたの一夏?」

 

「…何か重要なこと?」

 

「結論から言えば…あれに人は乗ってない」

 

 俺の言葉に某然とする2人。慌てて鈴が声を荒げる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたはあれが『無人機』だって言いたいの?!」

 

「一夏…それはあり得ない」

 

 二人から否定的な声が上がる。

 

「勿論理由はある。1つ目はあのデタラメな機動性だ。人間の反応速度と関節の構造上から見れば、あんな動きは到底不可能だ。鈴はあれと同じ動きが出来るか?」

 

「それは…」

 

 俺の言葉に言い淀む鈴。更に俺は続ける。

 

「2つ目はこの状況だ」

 

「どういうこと…?」

 

「俺たちが会話をしてる時に限って、あいつは殆ど攻撃してこないんだ」

 

「!…確かにそうね。これだけ話をしてれば攻撃しても良さそうだけど…」

 

「でもあり得ないよ一夏。ISは人が乗らないと動かない。そういうものなんだもん…」

 

「そうでもないさ。極端な話をすれば研究の成果を黙っていれば、いつまでも実現不可能という偽りの事実だけが残る」

 

 簪がまだ不満そうな顔をしているが、ここで鈴が再び口を開いた。

 

「いいわ、あれを無人機と仮定しましょう。それでどうするの?」

 

俺は無言で〈八龍〉をクローズし〈雪片弐型〉を出す。

 

「3方向から時間差で攻める!狙いは両腕。敵の武装はあのビーム砲だけだ!そんで、それを破壊したら鈴と簪は遠距離から最大火力で沈めてくれ。いくら奴が頑丈でもIS2機の同時攻撃を喰らえば一溜まりもないだろう…」

 

「分かった。それで行きましょう!」

 

「うん…こっちも大丈夫!」

 

「よし!作戦開始だ!」

 

 

 

 

 

 

 最初に動いたのは一夏だった。

 

「うおぉぉぉおおおおお!!」

 

 正面から近づき上段からの袈裟斬り。奴は難なく躱し一夏に攻撃をしようとする。が、今度はそれだけでは終わらない

 

「せぇぇぇい!」

「うりぁぁぁぁ!」

 

鈴は〈双天牙月〉、簪は超振動薙刀〈夢現〉による左右からの同時攻撃。しっかりと不明機の両腕に当たる。その攻撃により僅かだが装甲が破壊され、そこから僅かにだが配線やコードが見えた。

 

ここで一旦3人は不明機から距離を取る。

 

「いい感じだ。奴は反応できてない!このまま押して行くぞ!!」

 

 この3方向からの時間差攻撃が功を奏した様で、少しづつではあるが不明機の両腕の装甲が削れていく。

 鈴も簪もそれぞれの獲物を全力で扱いヒット&アウェイの要領で攻める。遂には殆どの装甲が破壊され剥き出し機械部分が露わの状態になったのだ。

 

 

 

 

 このまま押し切れる一夏はそう確信していた。

 

 

 

 

 だが…ここで予想外のハプニングが起こった。

 

 

 

 

 バッキィィィィンンンンンン

 

 

 

 

 突如として響いた甲高い破壊音。それは鈴の方から聞こえてきた。

 

「なっ!」

 

 一夏は驚愕した。

 

 そこには、無残に刃が全損した双天牙月を持ち呆然とする鈴の姿があった。そんな無防備な状態を敵を見逃すはずなく鈴に向かって拳が迫る。

 

「りぃぃぃぃぃん!!」

 

 咄嗟に一夏は鈴を横から押し退けて庇った。

 

「ぐう!」

 

 防御は間に合ったが、それなりのダメージだ。再び3人は不明機から距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 何て事だ…。ここに来て、こんなことが起こるなんて…原因は間違いなく俺の一撃だ。試合の最初に放った刺突。あのダメージで…。

 

 …いや、起きてしまったことは仕方ない。あるがままに受け入れろ。そして考えろ、この状況で最善の戦略を見つけるんだ!!

 

 俺は、この状況を打開できる作戦を頭をフル回転させて考える。

 

 

 

 良し…これしかないな、取り敢えず鈴を何とかしないと…。

 

「あっ、ああっ…」

 

「鈴!しっかりしろ鈴!!」

 

 今だに呆然とする鈴の肩を掴んで俺は叫ぶ。

 

「っ!!い、いちか…」

 

 俺の声に目の焦点が合ったようだ。

 

「大丈夫、落ち着くんだ。衝撃砲はまだ使えるか?」

 

「う、うん。まだ使えるわ」

 

 良し受け応えもある程度しっかりしている。恐らく大丈夫だろう。

 

「簪、〈山嵐〉と〈春嵐〉は?」

 

「損傷はしてないからいつでも撃てる…」

 

 よし、作戦の前提条件はクリアした。ここで俺は作戦を二人に伝える。

 

「2人とも作戦の変更だ。俺が何とかして奴の両腕を切断する!2人は遠距離からの攻撃に集中してくれ!」

 

 〈八龍〉を展開し、クローを限界まで伸ばす。

 

「ダメよ一夏!もう十分じゃない!?ここから遠距離で攻撃すればあいつに当たるはずだわ!!」

 

 鈴から否定の言葉が入る。俺は鈴にしっかりと状況を伝える。

 

「鈴…確かに俺たちは相当なダメージを与えたと思う。だが奴は今だに動きはある程度は機敏だ。…万が一、避けられでもされたらそれこそ終わりだ」

 

「でも…でも!」

 

「鈴!!」

 

 尚も反論しようとする鈴に俺は思わず怒鳴ってしまう。

 

「っ!!」

 

「これが最善策だ」

 

 ビクつく鈴に俺はピシャリと答えた。

 

「……」

 

「大丈夫。無理はしないよ」

 

 それだけ伝えると俺は更に高度を上げ、ある程度の高さで停止する。

 

 イグニッションブーストを含めて全力の零落白夜を打てるのは一度きり…。この一撃で…必ず決める!!!

 

 逸る気持ち沈めて一気に急下降。途中でイグニッションブーストを発動して不明機へと迫る。回避行動を取る無人機に向かって更なるブースト、ダブルイグニッションを発動。

 

 俺の突然の軌道変更に着いて行けない不明機は少しだけ動きが止まる。

 

 

 

 今だ!!〈零落白夜〉発動!!!!!

 

 

 

 両手のクローが上下に展開し収納される。そして雪片弐式と同じ青白いレーザークローが展開される。俺は零落白夜を纏った両手を手刀の様にして大きくバンザイの様に振りかぶり、そのままの勢いで振り下ろす。

 

 瞬間、奴の両手がバターの様に切れたが、俺の攻撃はまだ終わらない。

 

「まだだーーー!!!」

 

 俺はその場で回転した勢いで右回し蹴りを叩き込む。なす術なくまともに食らった無人機はそのままアリーナのシールドへと叩きつけられ、磔のようになった。

 

 俺はその場を離れながら二人に向かって叫ぶ。

 

「鈴、簪!!!撃てーー!!」

 

「いけーーー!!フルパワーよ!!!!」

「オールウェポンファイヤーーーー!!!!」

 

 

 磔となった無人機にミサイル群、荷電粒子砲、そして衝撃砲が殺到。2機分のISの最大火力が無抵抗の無人機を蹂躙する。

 

 結果、全ての攻撃が被弾、両足も無くなり胴体も穴だらけになった無人機は重力による自由落下をし、遂にはグラウンドへと叩きつけられた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 呼吸を整えながら暫く上空から観察したが奴はピクリとも動かない。

 

 …どうやら完全に機能を停止したようだ。

 

「はぁ〜〜、終わった…」

 

 深いため息とともに緊張を解くと2人から通信が入ってきた。

 

「い、一夏…本当に終わったの?」

 

 恐る恐るといった感じの簪の問いに俺が答える。

 

「ああ、どうやら完全に機能が停止したようだ…」

 

「はぁぁぁ〜〜〜…、しんどかったわ…」

 

 鈴の気の抜けた返事が聞こえた。全くもって同感だ…。今日くらいはシャワーじゃなくて湯船に浸かりたい。そんな考えをしていると姉さんから通信が入った。

 

 

『織斑聞こえるか!』

 

『はい、聞こえます』

 

『こちらで不明機のエネルギー反応の消失を確認した。そちらの被害状況はどうなっている?』

 

『白式の装甲が中破しましたが、3人とも無事です』

 

『そうか…3人とも本当によくやってくれた。ピットに医療班を待機させてある。3人はすぐに戻るんだ』

 

「了解です」

 

 俺は鉄くずとなった無人機を一瞥し、そのままピットへと進んだ。




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織斑一夏の休日

おまたせいたしました
皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。
ではどうぞ・・・ 


それは一夏のこんな言葉から始まった。

 

「一夏、出掛けるのか?」

 

「うん。あ、そうだ箒」

 

「どうしたんだ一夏?」

 

「今日の夕飯さ…。俺が作るよ」

 

「そうか。……え?」

 

「場所は…、少し狭いけどこの部屋で良いかな。鈴とセシリアと簪にも伝えといてくれ。じゃあねー」

 

バタン

 

 

「…………ゑ?」

 

 

 

 どうも、織斑一夏です。

 

 無人機との闘いから数日、とりあえず平穏な日常を送っています。さて、俺は今ある人と釣りをしている。

 

「お!一夏くん引いてるぞ」

 

「おっと…!そりゃ!」

 

「おお!また鯵だね〜。これで14匹目。才能があるんじゃないかな?」

 

「いやいや、轡木(くつわぎ)さんが教えてくださった仕掛けとポイントが良いだけですよ」

 

 

轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)

 IS学園の用務員であり、柔和な人柄とその親しみやすさから「学園内の良心」といわれている壮年の男性である。だが本当の姿はIS学園の実務関係を取り仕切っている事実上の運営者だ。表向きの理事長は奥さんがやっているようだ。各国との調整・荒事を含めた交渉もしているようで見た目とは裏腹にかなりの切れ者だという事が伺える。

 

 その出会いは偶然だった。偶々外を歩いている時に花壇用の肥料の袋を重そうに持った轡木さんを見つけ手伝ったのがキッカケだ。最初に名前を聞いた時は内心驚いてしまったが、今ではこうして釣りを一緒に楽しむ程に仲良くなったのだ。

 

「一夏くん。学園にはもう慣れたかな?」

 

「そうですね〜。最初は珍獣扱いでしたが、今は友人も出来て楽しく過ごしてますよ」

 

「はははは、無理もないさ。世界で初めての男性IS操縦者であり、織斑千冬先生の弟である。その上学園新聞では華々しい一面デビューを飾っていたしね」

 

 あ、あれの事かあああああああ!!!!ちくしょーー忘れた頃にやって来るとはまさにこの事だよ!!

 

「あ、あははは…。轡木さんもご覧になってたんですね」

 

「そりぁそうだ、『IS学園にサムライ現る』。あんな見出しと写真を見てしまえば、女子達は騒いでしまうものさ」

 

「こっちは、しばらくの胃が痛い日々でしたよ〜」

 

 いや、ホントに切実にそうでした…。胃腸薬を1瓶開けちゃったもん。

 

「はっはははは、まぁ有名税だと思って諦めな…おっと!きたきた」

 

 轡木さんは魚の動きに合わせながら竿を扱いリードを巻いていく。

 

「おお!カサゴですね。煮つけにすると最高ですよ」

 

 ちなみに前世では唐揚げにして日本酒で一杯とか最高でした。はぁ〜お酒が飲みたいよ…。

 

 そんな感じでしばらくのゆったりと釣りを楽しんだ。

 

「ふむ、今晩のおかずが釣れて良かった」

 

 轡木さんが満足そうに呟く。

 

「こっちも皆に振る舞える位に釣れて良かったです。ありがとうございます」

 

 本当に釣れて良かった。料理を振る舞うと言いながら1匹も釣れなかったら目も当てられなかった。

 さーてと、何を作ろうかな〜

 

「いやいや、ところで一夏くん…」

 

「はい?」

 

 

 

「君は本当に不思議な子だ」

 

 

 

「……」

 

 轡木さんの纏う空気が変わった。どこか俺を測っている様にも見える。

 

「私も長年、多くの人を見てきたが君のような青年を見たのは初めてだ」

 

「と、言いますと?」

 

「あまりにアンバランスだ。大人の振る舞いをする子どもはよく見てきたが、君は大人そのものだ。そして何処か私たちとは違う場所にいるように思えてしまう」

 

 当たらずとも遠からず…。素晴らしい観察眼だ、素直に尊敬する…。

 

「そして君のその眼だ」

 

「眼…ですか」

 

「そう、眼だよ。その眼が…全てを物語っている。一体どれだけの憎しみや悲しみ…怒りを背負っているのか…。君の内側に眠る獣がどれ程のものか…、私には想像すらできないよ」

 

 こちらも想像できませんでしたよ…。まさかここまで的確にこちらの事を捉えられるとはね。さて…、嘘が通るほど単純な相手ではないし、どう返せば良いものやら…

 

「…轡木さん」

 

「うん?」

 

「俺は…この学園が好きです」

 

「友達がいて、姉さんがいて、こんな自分を慕ってくれる人がいて、真面目に勉強したり、少しだけ悪ふざけしたり、それで皆が笑っている…。たったこれだけの事で心から満たされるんです。」

 

「それを守るためなら、俺はどんな敵とも戦えます!…答えになっているか分かりませんが、今言えるのはこれだけです」

 

しばらく俺と轡木さんは互いに向き合い

 

「そうか…君の気持ちは良く分かったよ」

 

いかん…、少し真面目になり過ぎたか。早々に退散しよう。俺は釣り道具を手早く片付けクーラーボックスを担いだ。

 

「一夏くん」

 

「?」

 

「今度は海に出ないか?船釣りも良いものだよ」

 

「はい!是非お願いします!」

 

俺はしっかりと一礼して寮へと歩みを進めた。

 

 

 

 

「ふふふ」

 

 ついつい笑みが零れてしまう。この学園が好き…か。心の底から出た言葉なのだろう。何とも嬉しいことを、教育者冥利に尽きる。

 だが…彼の進む道は間違いなく平坦ではない。支えが必要だ。誰かが支えなければ、彼はいつか…

 

「理事長、こちらにいらっしゃったんですね」

 

そんな思考をしていると後ろから声が聞こえてきた。

 

「織斑先生でしたか」

 

「ん?どなたかと一緒だったんですか?」

 

 怪訝な顔をする織斑先生に私はにこやかに答える

 

「ええ。良い釣り仲間が出来ましてね。…ところでお話は先日の件ですか?」

 

「はい。詳しい話は学園で…」

 

「分かりました」

 

 私は彼女に頷きクーラーボックスを担ぎながら学園へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントントン

 

ジュージュー

 

コトコトコト

 

 リズミカルな包丁の音、フライパンと鍋からは食欲をそそる美味しそうな匂いが伝わってくる。淀みのない動きは長年の経験によるものだろう。全く動きに無駄がない。

 

 ただこの作業を行っているのが1人の男子であることが4人の女子を複雑な気持ちにしている。

 

 

 

「…」

箒は黙っている。

 

「…」

セシリアは黙っている。

 

「…」

鈴は黙っている。

 

「…」

簪は黙っている。

 

「♩」

一夏はキッチンで楽しんでいる。

 

 

 

 

「一夏さん、生き生きしてますわね…」

 

 セシリアが何処か遠くを見るような目でつぶやいた。

 

「一夏は昔から料理をするのが好きだったからな」

 

「やっぱ、箒がいた頃からそうだったの?」

 

「ああ…、当時は子供ながらに女として危機感を覚えたものだ」

 

「箒の気持ちよく分かるわ〜、アタシも慌てて習い始めたもん」

 

「一夏の料理…どんなのだろう?」

 

「確かに気になりますわね」

 

「和洋中なら大体のものは出来るわね。その上アタシが言うのもなんだけど、味は保証するわ。」

 

…女のプライドが粉々に砕け散る程度にね。とは言えない鈴

 

「ああ、でも一夏さんの手料理…。楽しみで仕方ありませんわ」

 

「それには同感だな」

 

「楽しみ…」

 

 想い人の料理を純粋に楽しみする面々、しかし鈴だけは少し違った。

 

「そうね。でも、悠長にはしてられないわよ」

 

 鈴の言葉に首をかしげる3人。

 

「一夏は家事全般をほぼパーフェクトにこなすわ。一体アタシたちはどこで女子力を見せれば良いのかしらね…」

 

「「「……」」」

 

 乙女達に電流が走った。

 

「い、いやほら、な、なにか?何かあるだろ!」

 

「何かってなによ。私たちは一夏より女子力が劣る存在なのよ…ふふふ」

 

「やめろー!聞きたくない、聞きたくないーー!!」

 

 変にやさぐれてしまった鈴の言葉に箒が耳を押さえて否定する。他の二人も一様に暗い顔だ…。

 

「みんなお待たせー」

 

 そんなカオスな空間が構築されている事など知らずに一夏が陽気に入ってきた。

 

「「「「!!」」」」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「い、いや何でもないぞ!なぁ皆!!」

 

 箒の言葉に3人が首を縦に振る。

 

「?まぁいいや。料理並べるぞー」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 乙女たちは言葉も出ない…。サラダから始まりムニエル、鯵のタタキ、鯵の唐揚げ、鯵の南蛮漬け、鯵の甘酢餡かけ、鯵のトマト煮…etc

 

 鯵にこれだけのレパートリーがあるのかと思うと同時にこれだけの料理スキルを持つ目の前の男子に目眩さえ覚えてしまう…。

 

 

「いやー、久しぶりだから気合いれて作ってみた」

 

 

 いや、気合入りすぎだろ!?お前どこの料理上手なお母さんだ!!4人の乙女の心が一致した瞬間だ。

 

「じゃあ、食べようか。いただきまーす」

 

「「「「い、いただきます…」」」」

 

 それぞれが好きな料理を取り、一口食べる。

 

「どうだ?」

 

「…うまい」

 

「…おいしいですわ」

 

「…おいしいわ」

 

「…おいしい」

 

 当然のことながら感想を聞く一夏に上から箒、セシリア、鈴、簪が返答していく。

 

「そうかそうか~。お口に合って何よりだ」

 

 上機嫌の一夏。しかし

 

「しかし…」

 

「ですが…」

 

「でもね…」

 

「だけど…」

 

 一様に皆の目元に影が出来き、プルプルと震えだす

 

「え…?何?どうした?」

 

 彼女たちの様子がおかしい。ここに来て漸く一夏も異変に気が付いた

 

 

 

「「「「解せーーーん!!!!!」」」」

 

 

 

「なんでーーーー!!!???」

 

 

 

 とある1年寮の1室で4人の乙女叫びと1人の男子の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

オマケ

 

「ふふふ」

 

 私は今すこぶる機嫌が良い。一夏の手料理を食べているからだ。鯵の刺身とビール…素晴らしい、理想的だ。そして夕飯は鯵フライと鯵のトマト煮。鯵尽くしだが勿論文句はない。あいつの料理は何でもうまいからな。

 

 しかし本当にうまかった。まさか学園であいつの料理が食べられるとは。…今度は私から何か注文してみようかな?

 

「ん?そういえば…」

 

 理事長が仰っていた釣り仲間とはもしかして…。

 




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乙女バトル勃発!!

時間が掛かってしまい申し訳ありません
皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ


 朝、目が覚めると視界一面に青空が広がっていた。

 

「……んん?」

 

 あれ?おかしいな、昨日は寮のベッドで寝たはずなのに…。とりあえずゆっくりと身体を起こしながら辺りを見渡す。

 

 どうやら何処かの海辺の様だ。

 

 コバルトブルーの海が奏でるリズミカルな波の音はとても心地良い。寝そべっていた砂浜はゴミ一つ落ちていない。美しく幻想的な光景、まるで俺の理想を体現した様な世界がここには広がっている。

 

 

 気になる点といえば浅瀬に生えている朽ちた木々の枝にはには大小様々な「骸」が括り付けられている位か…。まるで歪な果実のようだな。

 

 風が吹く度にカタカタとこの世の無情を嘆くように骸達が音を奏でる。

 

 美しくも残酷な現実を突きつけるような酷くアンバランスな世界観は、ここが現実の世界ではないことを示唆している。

 

「白式の深層心理……」

 

 無意識に呟いた言葉を脳内で反芻して結論が出た。そうだ、原作一夏が福音に墜とされた時、彼はこの世界に初めて足を踏み入れた筈だ。

 

「一体どうなっているんだ?」

 

 俺も白式も健在だし、福音が現れるのはもう少し先のはずだ。朽ちた木々はあったが、あんなものはついていなかった…。近場にあった流木に腰を下ろしてボーっと海を眺めた。異常な光景のはずなのに特に危機感が湧かない。俺の心はこの海のように穏やかだ。

 

 暫くそんな風にしていると、右側から突然人の気配を感じた。

 

「あ…」

 

「…」

 

 白の大きな帽子と白のワンピースを着た少女。こんなに近いのに目元は影になっていて分からない。恐らくだがこの子が白式の統制人格なのだろう。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「あ〜、隣に座るかい?」

 

 無言の世界に耐えられなかった俺が彼女に声をかける。俺の言葉にこくりと頷く彼女、どうやら会話は成立するようだ。

 

ぎゅ

 

「おろ?」

 

 右隣に座った白式(仮)は、俺の腕に抱きついてしまった。

 

「えっと…」

 

 心無しか隙間から見える彼女の頬は少し紅潮しているようだ。…照れてるのかな?なんだか可愛らしい。心の中で苦笑いを浮かべながら俺は視線を海へと戻した。

 

「楽しい?」

 

「ん?」

 

「あなたの暮らす世界は…楽しい?」

 

 鈴を鳴らしたような美しい声から発せられた唐突な質問。何を意図してか分らないが彼女にとっては重要な事なのかも知れない。

 

「楽しいよ」

 

「色々大変なこともあるけど、大切な人たちと過ごす世界を愛おしく思えるよ」

 

 ただ思っている事を正直に彼女に伝えた。欲を言うならば修羅場は勘弁してください。本当マジで…。

 

「…そっか」

 

 ただそれだけ呟いて彼女はまた黙り込んでしまった。此方からも質問をしようとした時だ。

 

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

 

 不意に響いた大きな鐘の音。音の元に目を向けると少し離れた場所に教会のような建物が存在した。

 

はて?さっき見た時、あんな建物あったかな?

 

「そろそろ戻る時間」

 

これまた唐突の別れの言葉。一体なんでここに来たのだろうか?全くもって分からない

 

 

「…そうか」

 

「一夏」

 

「なんだい?」

 

「私も『あの人』も…どんな事があろうと一夏の味方。この命が尽きるまで…」

 

あの人、恐らくは『白騎士』のことだろう。しかし命が尽きるまでときたか…どれぼど俺は信頼されているんだか。

 

「だから…負けないで」

 

 確かに伝わった彼女の想い。笑みがこぼれた。俺は彼女の頭をひとなでして最大限の感謝の言葉を伝える。

 

「ありがとう、君の想い…確かに心に刻み込んだ」

 

 その瞬間、俺の意識はブラックアウトした。

 

「ん…」

 

 ゆっくりと意識が覚醒する。天井がある、いつもの天井だ。ついで上半身を起こして周りを確認。いつもの学習机、備え付けの簡易キッチン、…箒がいなくなって空いたベッド。

 ついこの間、部屋の調整ができたので箒が出ることになった。少々しょんぼり顏をして去って行くその姿が子犬みたいでなんだか可愛らしかった。

 

「なんだったのかな…?」

 

 夢と言うにはハッキリし過ぎた記憶があるし…白式はどうして俺をあの『世界』に呼んだのだろうか?正体不明な胸のつっかえを抱えながら俺は身支度を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、明日は予定ある?」

 

 土曜日の授業が終わり、いつものメンバーで夕食をとっていると右隣にいる鈴から明日の予定を聞かれた。

 

 …相変わらず座るまでやたらと時間が掛かる。理由はお察しください…。

 

「いや、特にないよ」

 

「じゃあ、皆で買い物に行くわよ」

 

突然の提案にセシリアと簪は戸惑っているようだ。

 

「買い物ですか?鈴さんどこに行くんですの?」

 

 セシリアが鈴に問いかける

 

「レゾナンスっていう駅と直結した複合施設よ。お店もかなりの数があるし一日中楽しめるわ」

 

 

そう言いながら鈴がレゾナンスのパンフレットを出してきた。鈴の言う通り様々なお店の名前が連なっている。しかし買い物か…。う〜ん特に買いたいものもないんだけどな。

と、ここでさらに鈴の言葉が続いた。

 

「それに…あんた、ここ最近オーバーワーク気味よ。たまには休まないとそれこそ潰れちゃうわ」

 

はて?オーバーワーク?なんのこっちゃ?

 

「そうかな?」

 

 

「クラス代表の仕事、連日のIS訓練と自主トレーニング、女子達のお悩み相談、果ては山田先生の仕事の手伝いまでしてるじゃない!!これをオーバーワークと言わずしてなんて言うのよ!!」

 

 

「……」

 

 俺ってそんなに働いてたのか!?やべぇ…全然意識してなかった。確かにオーバーワークだな。これが日本人の性だと言うのか…恐ろしい。

 

「ん?」

 

「「「………」」」

 

視線を感じて顔を上げると残り3人の非難混じりのじと目をいただきました。アザース!!

 

……はぁ〜、心の中でおちゃらけてみたけど、こりぁ勝てないわ。降伏でーす。

 

「分かった。明日一日は皆で羽根を伸ばしてのんびりしようか」

 

「決まりね」

 

 満足そうにうなずく鈴

 

「じゃあ、俺は明日に備えて戻って休んでるよ」

 

「ああ、明日は楽しみにしてろよ」

 

「おう、じゃあまた明日」

 

 

 

一夏が去った後、乙女達の作戦会議が始まった。

 

 

「良いわね、明日はみんな私服を着て少しでも女子力を見せつけるのよ」

 

「うむ」

 

「勿論ですわ」

 

「頑張る」

 

それぞれが想い人のために一致団結する姿は美しい友情が伺える。ここに日英中同盟が締結された瞬間だった。

 

しかしここで鈴が呟いた。

 

「まぁー、一夏が私のものになるのは間違いないけどね」

 

「ははは、何を言ってるのだ鈴?それは私の間違いだろう」

 

「やれやれ、箒さんが冗談を仰るなんて明日は槍が降るかも知れませんわね」

 

「…妄想乙」

 

「「「「HAHAHAHAHA〜」」」」

 

食堂に高らかな笑い声が響き渡る。しかし目が笑ってない完全に据わっていた。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 底冷えする様な空間が生まれた。『触らぬ神に祟りなし』という格言の通り周りの女子たちは足早にこの場から撤退した。

 

 

「さてと、…そろそろ白黒ハッキリさせるべきかしらね」

 

「上等だ」

 

「このわたくしに敗北はありえませんわ」

 

「負けられない戦いがここにある…」

 

 

 

 

「「「「勝負!!」」」」

 

 

 

 

いとも容易く同盟が破棄された瞬間でもあった。

 

 

 

 

「うお!?」

 

とんでもない悪寒がした…。な、何だ?一体何だったんだ!?

 

「気のせい…だよな?」

 

知らぬは彼ばかりであった。




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乙女バトル勃発!!2

新年明けましておめでとうございます

これからもパスタン並びにIS~転~をよろしくお願いします

ではどうぞ


 どうも、織斑一夏です。本日はヒロインズのみんなと一緒に買い物に行くことになり、俺は待ち合わせ場所である駅前の噴水広場にいる。

 

 服装はボーターの七分袖のTシャツ、無地で長袖のボタンシャツ、白の黒のデニム、茶色のブーツである。しかし流石はイケメンといったところか、何を着ても似合っちゃうもん。問題は俺自身があまりオシャレに興味が湧かないとこかな。

 

 …この機会に何着か私服を買おう。うん、そうしよう。

 

「一夏」

 

 そんな考えをよそに俺を呼ぶ声が聞こえる。鈴だ。鈴を先頭に箒、セシリア、簪が続く。

 

「お待たせ、待った?」

 

「いや、俺も今着いたとこだから」

 

 これってデートではお決まりのテンプレ文だよな。原作一夏は正直に答えるけどね。彼はある意味凄いよ。全くぶれないもん……決して真似したくないけどね。

 

「そう。で、どう?」

 

「似合ってるよ。でも鈴の私服姿も2年ぶりだから新鮮に感じるな」

 

 俺の言葉に鈴は満足そうに笑顔を浮かべた。

 

 中学時代、弾を加えて3人で遊びに行くことも多かった。この時に鈴の私服を何度も見たことがある。鈴の私服は動きやすさとオシャレを両立したような組み合わせが多い。彼女自身のセンスが垣間見える瞬間だった。

 

「そう言えば、箒の私服を見たのも久しぶりだよな?簪とセシリアの私服は初めてだし」

 

 6年の歳月は1人の少女を女性へと変貌させたと言っても言い過ぎにはならないだろう。白のワンピースと中に長袖のインナー、黒のパンツと動きやすいスニーカーは箒らしさが存分に出ている。素直に綺麗だという感想が頭に浮かんだ。

 

「ああ、その…どうだ?」

 

「えーと…綺麗だと思った…かな?」

 

 若干恥ずかしくなってしまう。

 

「き、綺麗!?そ、そうか、そうか…。オッホン!い、一夏の服も良いと思うぞ」

 

 褒められて恥ずかしいのか、わざとらしい咳払いをして箒も俺の服を褒めてくれた。

 

「一夏さん!鈴さんと箒さんだけずるいですわ」

 

「…差別」

 

 セシリアと簪がしかめっ面をして前に出てきた。そんなつもりないんだけど…。俺は苦笑いを浮かべながら二人にも感想を言った。

 

「青のワンピースはゆったりしてて落ち着いた感じがいいね。セシリアに良くあってると思うよ」

 

「あ、あら一夏さん。流石に見る目がありますわね」

 

 言い方は上からだけど、口元がニンマリしているのがバレバレなとこがなんだか可愛らしくも微笑ましい。

 

「簪はロングスカートに茶色のブーツがおしゃれだね。それに黒のアウターが大人っぽくて良いね」

 

「…あ、ありがとう」

 

 言葉少なめだが此方も嬉しそうに頬が緩んでいるあたり、悪くは思っていないだろう。

 

 ここで鈴が右手を上げながら号令をかけた

 

「そんじゃ、今日は楽しむわよ!!」

 

「「「「おーー!」」」」

 

なんだかこんな感じもイイね。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さん、これがセイロン、あちらがダージリンですわ」

 

 今回の私たち四人の取り決め。1人1時間で一夏さんをもてなし、誰が1番に一夏さんを満足させられるかで勝敗を決めることになりました。他者からの妨害は一切禁止、極めてクリーンな勝負ですの。そんな一番手のわたくしは紅茶専門店と雑貨が合わさったお店で一夏さんをおもてなし致します。

 

「紅茶ってかなり種類が多いだね」

 

「そう思われがちですが、基本的には『ストレート』『フレーバー』『ブレンド』の3種類に分けられますわ」

 

「たった3種類なのかい?」

 

「ええ。ストレートについてはおおよそ生産された地名が名称となります。複数の産地の茶葉を組み合わせたりしたものがブレンドとなります。フレーバーはストレートやブレンドに香りを加えたものです。よく耳にするアールグレイとダージリンは種類が違うと思われがちですが、ジャンルが違うと感じてもらえればいいかと思いますわ。ダージリンに着香して作られたアールグレイというのも豊富だったりしますもの」

 

「へぇ〜、さすがセシリアだな。すごく勉強になるよ」

 

 こ、これはかなりの高ポイントではないでしょうか!?一夏さんとの少しだけ距離が縮まったような気がします。ここでさらに押して電撃戦ですわ!!

 

「そ、その、もしよろしければさらに美味しい紅茶の淹れ方を一夏にお教えしたいのですが…。2人っきりで」

 

「いいのかい?それは是非とも教えて欲しいな」

 

 ヒットですわーー!!!超大物が私の手元に掛かりました。他の3人に比べてほんのちょっぴりわたくしの影が薄いような気がしましたが、ここで巻き返しますわよ!!そんな気持ちとは裏腹に努めて冷静に一夏さんと会話をする

 

「そ、それでは時間と場所は追って連絡しますね」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 た、楽しみだなんて……。嫌ですわ一夏さん。楽しみだなんてそんな。乙女心を簡単にくすぐって、いけない人ですわ〜。そんなトリップ気味の思考を遮るように鈴さんと箒さんから声が掛かった。

 

「はーい、終了」

 

「え?」

 

「セシリア、時間だ」

 

え?時間?わたくしは自分の時計を確認した。きっちり1時間が経過していました。

 

「……はぁ、楽しい時間はいつも短いのですね」

 

名残惜しいがルールはルール。オルコット家の名において卑怯な真似はしませんわ。それに今回の結果にわたくしは大満足ですもの。

 

わたくしは一夏さんと買ったダージリンの缶を胸元でギュッと握りしめた。

 

 

 

 

「(ちゃっかり二人っきりの約束までしたわね)」

「(私も負けてはいられないな)」

「(どうしよう…。何にも考えてないよ)」

 

 

 

 

 

 

 

2番手は私だ。私たちは純和風のグッズが取り揃えてあるお店に来ている。

 

「一夏、どちらの帯が良いだろうか?」

 

「う〜ん……。右の桜色の帯が好きかな?」

 

 一夏だったら桜色を選ぶと予想が着いていた。子どもの頃に好きな色が桜色だったことを私は覚えていたからだ。どうやら色の趣味についてはあの頃と変わっていないようだ。しかし流石は日本男児だな。桜の美しさを小さい頃から分かる者はそうはいまい。私は内心で満足しながら言葉を続けた。

 

「ふむ、ではこれにしようかな。一夏は何か買いたいものはあるか?」

 

「おお、実は箸と湯のみが欲しかったんだ」

 

「箸と湯のみ…か」

 

 一夏の言葉を繰り返しながら私はある考えに至った。

 

「一夏、良ければ湯呑みは私が選んでやろうか?」

 

「ん?いいけど、急にどうしたんだ?」

 

「べ、別に特に理由はないさ。じゃあ一夏は箸を選んでこい。私は湯のみを選ぶからな」

 

「分かったよ。それじゃお願いな」

 

「うむ」

 

 一夏が箸のコーナーに向かったのを確認して私は行動を開始した。

 

「よし…これだ」

 

 私は湯呑みコーナーで淡い青色がポイントの湯呑みと美しい桜色の湯呑み二つでセットになっているものを買った。他の三人は驚愕の表情をする。

 

 ふふふ、どうやら気づいたようだな。そう私が買ったのは夫婦茶碗ならぬ『夫婦湯呑み』だ!!セシリアが「その手がありましたわー」と頭を抱えながら言外に告げていた。残念だったなセシリア、詰めが甘いのだよ。

 

「おーい、いいのあったか?」

 

「ああ、これなんてどうだ?」

 

 私は意気揚々と湯呑みを出した。

 

「おお!色合いも綺麗だし、バッチリだよ箒。でも二つでセットか…」

 

「その私もちょうど湯のみが欲しかったから片方を貰っても良いだろうか?」

 

「おお、勿論だよ。お金は俺が払うからプレゼントでも良いかな」

 

「プレゼント!?勿論だとも、ありがとう一夏!」

 

 これは予想外のプレゼントだ。良いも何も大いに結構ではないか。

 

「はーい、終了ですわ」

 

 ここでセシリアから声が掛かった。ふむ、もう時間か。セシリアではないが楽しい時間はあっと言う間だな…。しかし十分な戦果を得ることが出来たぞ。

 

 

 

 

 

 

「(まさか、お揃いのものを買うとは……油断したわ)」

「(自分自身の迂闊さに泣きたくなってきましたわ)」

「(本当どうしよう……。お腹痛くなってきた)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 3番手はあたし。お店は普通のメンズやレディースの服が揃っている店をチョイス。ここで一夏が服を買いたいと言ったので

 

「これもいいわね、でもこっちも捨てがたいし」

 

「……」

 

 あたしは一夏を着せ替え人形にしている。

 

「鈴、適当でいいんだぞ」

 

「いい訳ないでしょ!折角あんたがオシャレするって言ってんだから気合い入れないとダメよ」

 

「……」

 

「あーもー!時間が足りないわ。取り敢えずこれとこれはキープね。でもこれも……」

 

「はぁ〜」

 

 こんな感じでいつの間にか時間が過ぎてしまった。……あれ?おかしいな?どうしてこうなったんだろう

 

 

 

 

「(鈴……不憫だ)」

「(鈴さん……不憫ですわ)」

「(……次わたしの番)」

 

 

 

 

 

最後はわたしの番…。勿論お店はホビーショップだ。とにかく頑張る

 

「う〜む、これクオリティー高いな。……こっちのDVDも魅力的だな」

 

「一夏、これも見るべき」

 

「……これは買いだな!」

 

 とても和やかに、でも楽しく過ごしている。こうやって一緒にいてしみじみ思う。一夏と一緒にいると自分を素直に表現出来る。何も気負うことなく自然と笑顔になる。そんな風に考えてると一つのぬいぐるみが私の目に入った。

 

「あ……」

 

 それは真っ白なゴマアザラシのぬいぐるみ。目がチャーミングでとても可愛い。

 

「……」

 

 自然と目が行ってしまう。どうしよう、もうお金もないし……。

 

ヒョイ

 

 そう考えてると急に視界からゴマちゃんが消えた。

 

「これ、欲しいんだろ?」

 

 一夏がゴマちゃんを私に差し出した

 

「で、でもお金が……」

 

「俺からのプレゼント」

 

「え!?」

 

「さぁ、会計を済ませちゃおう」

 

 そう言ってスタスタとレジまで行ってしまった。少し強引だけど……すごく嬉しかった。なんだか色々考えていたのが馬鹿らしいな。おもてなしするどころかされちゃったし。

 

「はい、どうぞ」

 

 にっこり笑って私に渡した。ちゃんと言葉にしないといけないよね

 

「ありがとう一夏」

 

 

 

 

 

 いやー、楽しかったな。すごくリラックスできた。たまにはこんな感じで皆と遊びに行こうかな〜

 

「一夏、楽しかった?」

 

「ああ、すごくリラックスできたよ。ありがとうみんな」

 

 俺の言葉にみんなは笑顔で返してくれた。

 

「さて、んじゃ帰ろうか?」

 

「そうだな」

 

「そうですわね」

 

「…楽しかった」

 

 さて、この後は彼女たちが学園にやってくるな。

 

 

 さてはてどうなることやら。




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赤い流星

 大変お待たせ致しました。皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。


 有史以来、人類はあらゆる知恵や技術を駆使して環境への適応を果たしてきた。火を使うことから始まり、道具を作り使うことを覚え、あらゆる分野で理論を構築し、わずか数十人程度の小さな集落はやがて数億の人間が巨大な国家へと進化を遂げた。

 

しかしそんな人類にも根付くことができない環境というものが幾つか存在する。

 

その一つが砂漠地帯だ…

 

 降雨量が年間で250mm以下、または降雨量よりも蒸発量が方が多い地域である。当然のことながら水がなければ動植物はほとんど生息できない。加えて日中の最高気温は50℃、最低気温はマイナス10℃、寒暖差60℃という恐るべき日較差(にちかくさ)があるため農業も適していない。所謂アネクメネ(人間の居住が難しい地域)に指定されている。

 

 しかも長年に渡る環境問題等により地球上の砂漠は毎年600万ヘクタール、東京ドーム約128万個相当の規模で拡大されているのだ。纏めれば広大で極めて過酷な環境…おおよその人間が定住の地とはしないことが一般的な常識である。

 

 

 

 

 しかし、そんな常識の枠に収まらない連中にとって自身の存在を秘匿するにはこれほどに好都合な場所は存在しないのもまた道理というものだ。

 

 

 

 

        それは、自身を『亡国』と称する存在にとっても……

 

 

 

 

 

 広大な砂漠のほぼ中心部に位置する場所に一つの名もなき基地が存在する。この基地で本日一体のIS稼働試験が行われていた。某国から奪取したコアと機体にファントム・タスクが独自の改造を施したワンオフ機体……その最終稼働試験が今まさに行われている最中だ。

 

実働部隊の幹部の地位にあるスコールは前々からこの実験に大きな興味を持っていた。

 

 

最も、どちらかと言えば機体よりもパイロットである『彼女』に対してだ。

 

 

 彼女もスコールと同様に実働部隊の幹部である。大きな作戦では何度か共同で任務もこなしたことがある間柄だ。そんなスコールの視点から見た彼女に対する評価は概ね良いものである。実力的な観点から言えば問題はない。戦闘センス、指揮能力、瞬間的な判断、人心掌握、どれをとっても一級と言って良いだろう。実際、彼女を慕って部下になる人間も多く存在する。

 

 だが、いやだからこそスコールは心の片隅に違和感を覚えていた……。それはひどく曖昧なものだが確かに感じる違和感。拭うことがでない『それ』はまるでタールの様にへばりついる。

 

 

 

 

 遠隔カメラから転送されてくる映像を真剣な表情で見据えながらスコールは思う。地上に設置された対空兵器から吐き出される数多の弾丸によって飽和気味になった空を『それ』が駆けて行く。自らを死地へ追いやる様な異常な機動は気負いもなく、かと言ってその機動には高揚感も感じられない。第三者が見れば拍手喝采ものの芸当も当事者に聞けばニヒルな笑みを浮かべてこう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『私はただ、当たり前の作業を当たり前にこなしただけさ』

 

 

 

 

 

 

 

「如何だったでしょうか?」

 

 

 

 不意に響いた声が思考の海からスコールを呼び戻す。目線だけ向ければそこには自信に満ちた顔で1人の白衣姿の男が立っていた。確か、このプロジェクトの主任だったか?

 

 

「素晴らしい出来ね。特に機動力と攻撃力には目を見張るものがあったわ」

 

 

 笑みを浮かべながら若干大袈裟に賞賛を送る。長年の経験から言ってこの様な手合いは、適当に賞賛を送って自己愛を満たしてやれば良い。

 

 

 彼の笑みがますます深くなった。……どうやらこちらの予想通りの人間だった様だ。こちらが聞いてもいないのに機体が如何に素晴らしいかを語り始めた。溜息を吐きたくなる衝動を抑えながら話半分に相槌をする。

 

 しかし彼の気持ちも分からない訳ではない。外見的な部分も含めてそのISの性能は、確かに目を見張るものがある。背面と脹脛側面の推力偏向スラスターのほか、全身に多数のスラスターを装備し、あらゆる姿勢においても高い機動性を可能にした。

 

 武装はビームライフル・バズーカ・ビームアックス内蔵型シールド・高振動型ブレードを二本だ。

 

高い機動力と攻撃力を合わせ持った優秀な機体……。

 

そして最も目が行くのがその機体のカラーリングである。全身を血で染めた様な鮮やかなブラッティーレッド。

 

 

高機動で動くその姿はまるで……。

 

 

 確かに優秀な機体ではある。しかし真に注目すべきはそれほどの機体を十全に使いこなす『彼女』であろう。彼はそれを見ることなく自身の成果に酔いしれているだけだ。技術者としては一流かもしれないが『彼』と比較すれば、いや比較することも失礼な話だが男としては三流もいいところだろう……。

 

 

 

「(……どうもいけないわね)」

 

 

 スコールは苦笑いを浮かべる。自身のパートナー程ではないにしろ男など嘲笑に近い対象でしかなかった。愚かで取るに足らない存在。

 

その程度の存在でしかなかった。

 

 だが『彼』と出会い状況は変わった。年端もいかない男性と呼ぶには少々若すぎる。しかし誰よりも苛烈で深すぎる闇を秘めた存在。

 

 

織斑一夏……

 

 

 あれから2年、あの時のことは鮮明に思い出すことが出来る。互いの肉を叩く音、骨が軋む音、血飛沫が舞い地面に血溜りを作る。おおよその人間はその光景を不快に思うだろう。

 

 だがスコールは確かな高鳴りを感じた。互いの命を賭け、それを削り合う光景は……美しく切なくどうしようもない狂おしさと愛おしさが合わさりし混沌とした空間。その一方を受け持ったのは、これまでそんな評価しかしてこなかった男だったのだ。

 

彼が今後どの様な人間になるのか……

 

 

 

 

 

「最終稼働テスト終了。これより帰投する」

 

彼女のハスキーな声がスピーカー越しに聞こえてきた。

 

「了解。お疲れ様です。『ストーム』」

 

オペレーターが彼女、ストームをねぎらう言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

〜格納庫〜

 

「お疲れさま」

 

赤いISスーツを見に纏いオーダメイドのサングラスを掛けた顔がこちらを向いた。

 

「スコールか、君がここまで来てくれるとは予想外だったよ」

 

 彼女特有のニヒルな笑みを浮かべて体をこちらに向ける。女性としての部分を維持しながらも引き締まった筋肉が中性さを醸し出す様な不可思議な雰囲気を演出している。

 

「順調そうね。さっきの動きも中々のものだわ」

 

こちらの言葉に若干の苦笑いを浮かべる彼女

 

「大したことではないさ。私はただ、当たり前の作業を当たり前にこなしただけさ」

 

思わず込み上がった苦笑いを抑えることができなかった。

 

「ふふふ、まぁ良いわ。早速だけど任務よ」

 

「……場所は?」

 

「イタリア北西部の秘匿基地への襲撃。腕ならしにはちょうどいいんじゃないかしら、すでに『彼女達』も現地入りしている頃よ」

 

 薄い笑みを浮かべながら彼女が答える。それはどこか嘲笑にもにているようだ。

 

「なるほど、クライアントは実戦データを希望するか……了解したよ」

 

 

「……ああ、そうだ」

 

踵を返して2、3歩進めたところでストームが思い出した様にこちらに向き直った。

 

「?」

 

「いや、一つ思い出してね」

 

「……なにかしら?」

 

 

 

 

 

「織斑一夏君とは、……どんな子なんだい?」

 

 

 

 

 瞬間、自身の中で警戒レベルが上がったのを感じた。彼女の口から語られた名前に目が細まるのを認識する。

 

「なぜ……と聞いても?」

 

「……」

 

「……」

 

 暫く互いに沈黙が続くが、ストームがクスリと笑みをこぼした。

 

「そう警戒しないでくれ、大したことじゃないさ。あの男嫌いで有名なオータムが随分とご執心な様子だ。しかもこれから戦う相手かもしれない。良ければ参考まで聞かせてくれないか?」

 

「……」

 

「……」

 

 しばしの沈黙の後、スコールはため息交じりに話し始めた。 

 

「出来る相手ね。戦闘面は勿論だけど、相手を殺すことに対する戸惑いが一切ない鋼の心がある。敢えて言うならば……人の皮を被った魔獣かしら」

 

「ほぅ、魔獣か……」

 

「……ただ」

 

「ただ?」

 

「それだけじゃない何かが彼には、……一夏君にはある。其れはひどく曖昧で分かりにくいけど確かにそこにあった」

 

「なるほど……」

 

 少し考えるそぶりを見せた後、ストームはからかう口調で

 

「随分と抽象的だが、君が彼を高く評価していることは分かったよ」

 

「参考にはなったかしら?」

 

「とてもね」

 

 心の内を見透かされた様ですこし腹が立ったのもあって若干皮肉目いた様な口調になったが相手にとってはどこ吹く風の様だ。……気に入らない

 

自分に背を向けて歩き出した彼女にスコールは半ば無意識に呟いた

 

「赤い流星……」

 

「?」

 

 聞こえたのだろうか。彼女が若干訝しみながらこちらを振り向く

 

「貴方の機動を見て思ったのよ。変則的な機動が尾を引く流星みたいにね」

 

「赤い流星……。なるほど響きは悪くない」

 

その言葉を最後に今度こそ彼女は外への入り口へと進んで行った。

 

 

 

スコールは思う。

 

解き放たれた赤い流星は白い魔獣と相対した時、どうなってしまうのか?

 

楽しみだが気に入らない……




 今後も更新が不定期になりがちかもしれませんがよろしくお願いします。


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転校生は黒兎と金髪の貴公子でした

本編に突入、今回は中途半端なとこで切ります。

皆さんが楽しんで頂ければ幸いです

ではどうぞ・・・


 どうも織斑一夏です。同居人だった箒が引っ越して広くなった部屋を独り占めしている。

 

 ふとカレンダーに目をやるとある日付に赤マルをしていることを思い出した。

 

「もうすぐ学年別個人トーナメントか…」

 

学年別個人トーナメント

 

学年別のISトーナメントだ。全員強制参加によって一週間かけて行なう一大イベントだ。

 

 1クラスが30名で4クラスだから合計120名。一大イベントということも頷ける。加えて学年によって評価も分かれてくる。1年は先天的な才能評価、2年は成長能力の評価、3年は具体的な実践能力の評価となっている。特に三年はIS関連のスカウトはもちろん、各国のお偉いさんが見に来るらしい。

 

 取り敢えずはこの大会で優勝を目指す。一つ一つ実績を作って男性としての地位を確立しないとな。

 

トントン

 

「ん?はーい」

 

「一夏、ご飯食べに行くわよ」

 

「ああ、今行くよ」

 

 俺は外で待っているであろう皆の元に向かった。

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいよね」

 

「でもあそこはデザインだけって感じじゃない?」

 

「そのデザインがいいんじゃない」

 

「私はミューレイがいいかな。特にスムーズモデル」

 

 本日はISスーツの申し込みに当たり、カタログ片手にクラスも俄かに活気付いている。

 

「そういえば織斑君のスーツはどこのなの?」

 

「倉持技研の特注品なんだ。元々はイングリッド社のストレートアームモデルだったかな」

 

 そう、実はこのスーツは倉持技研の篝火先生が送ってきたものなのだ。俺が女子の質問に答えていると山田先生が現れISスーツについて説明を始め、女子からは茶化すように親愛を込めたあだ名を言われ慌てる先生をよそに織斑先生がその状況を絞める流れとなった。

 

 

 

「では山田先生、ホームルームをお願いします」

 

 一通りの連絡事項を伝え終えて山田先生にバトンタッチだ

 

「はい、ではみなさん!」

 

「今日はなんと転校生を紹介します!しかも2人です」

 

「「「えええええええっ!?」」」

 

 クラス中がざわめきたつ。俺はと言えばいたって落ち着いている。鈴の時とは違って大体の事は予想が出来ていたからあまり驚きは強くないのだ。

 

「では、入ってきてください」

 

「失礼します」

「失礼する」

 

 山田先生に促されて二名の生徒が教室に入ってくる。転校生の姿をみて周りのざわめきがピタリと止んだ。

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさんよろしくお願いします」

 

「…お、男?」

 

 礼儀正しい立ち振る舞いと忠誠的な顔立ち。濃い金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。スマートな体格が合わさると正に『貴公子』という言葉が相応しい…。

 

 だがしかし、残念ながら女性である。

 

 ふむ、こうして見ると男であると言えないわけではないが…、どこか怪しさがあるんだよな。その証拠に姉さんも少し怪訝そうにしてる。

 

 しかしここは原作通りか。特に何をしていた訳じゃないが俺がいることで何かしらの変化が起こると思ったんだが特に変化なしなんだな。

 

「き」

 

 一人の女子の声が耳に入る。

 

あ!やべぇ!?俺は慌てて耳をふさいだ

 

「「「「きゃーーーーー!!!」」」」

 

 あっ、危なかった〜。もう少し遅かったらこのソニックウェーブに巻き込まれるとこだったぜ…。セーフセーフ

 

「男子!2人目の男子だ!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「よっしゃー!今年は運があるぞ!!」

 

 只今、お祭り騒ぎの女子の皆さん。元気があって何よりです。

 

「み、皆さん、まだ自己紹介は終わってませんからね〜」

 

 もう一人の転校生、俺からすると懐しいあの子だ。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ…。こちらと目が合うと笑顔で目の挨拶をしてくれた。

 

「それでは、自己紹介をお願いします」

 

 山田先生から言われると視線をみんなに向けビシッと敬礼をしながら自己紹介をし始めた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。学校という施設に来るのは初めてなので色々と至らないことが多いと思うが皆と楽しくやりたいと思う。好きなものはポテチと緑茶だ。よろしく頼む」

 

 堂々と何の迷いもない挨拶だった。生徒から軽い拍手が起こった。

 

 原作に比べるとかなり社会性が高くなっているようだ。姉さんやクラリッサさんのお陰かな。俺としてはとても喜ばしいことだ。両名の挨拶が終わり席へ着く。

 

「よし、ではHRを終わる。1時間目は第二グラウンドで二組と合同授業を行う。解散!」

 

「織斑、デュノアの面倒を見てあげなさい」

 

「はい、わかりました」

 

「君が織斑君?初めまして。僕は…」

 

「おっと、まずは移動しよう。女子が着替え始めちゃうからね。取り敢えずついて来てくれ」

 

 そのまま俺は背を向けて歩き出した。

 

「男子は空いているアリーナの更衣室で着替えをするんだ。実習のたびにこの移動があるから早めに慣れてな」

 

「うん、わかったよ」

 

 シャルルは俺と並走して歩く。さて問題はここからだ…。

 

「ああっ!転校生見つけた」

 

「しかも織斑君と一緒よ!」

 

 うわ、やっぱり来たか!?各クラスの女子たちが情報収集にやってきたのだ。遅れると酷いことになりそうなんで戦術的撤退だ!!ってわらわらと集まり出してきた!しまった…余計なこと考えてたからか?こうなったら最終手段

 

「黛先輩、黛先輩はいらっしゃいますか?」

 

俺は人混みの中、目的の人物を叫ぶ。するとほかの女子たちにもみくちゃにされながらも目の前に現れた。

 

「織斑君〜、独占インタビューいいかな」

 

あんだけもみくちゃにされたのに根性あるなこの人。

 

「先輩、夕食時にシャルルと二人でインタビュー受けますんでこの場を収めてもらえませんか?」

 

「交渉成立!まかせておいて」

 

ニヤリと笑ってそう言うと先輩は果敢に女子の前に出て説明を始める。

 

「デュノア君のインタビューは新聞部が責任を持って行います!写真の配布を希望される方は新聞部の部室まで来てください!」

 

「黛先輩、ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます〜」

 

俺とシャルルは女子の波を抜けながら黛さんにお礼を言った。

 

 

アリーナ更衣室

 

「ふぅー」

「はぁー」

 

二人揃ってため息をつく、時計を見ると少し時間に余裕ができた。

 

「さて、ここだったら邪魔も入らないし改めて織斑一夏だ。よろしくデュノア」

 

「こちらこそ、それと僕のことはシャルルでいいよ」

 

「わかった。俺も一夏でいいからな、それよりもごめんな。いきなりインタビューなんて受けることになっちゃって……」

 

 これに関しては不可抗力とは言えダシにしてしまった事に罪悪感を覚えている。

 

「そんな、気にしなくていいよ。むしろ助けられたのは僕の方なんだから、ありがとね一夏」

 

 な、なんていい子なんだ!!シャルちゃんマジ天使!!

 

 互いに簡単な挨拶と俺の謝罪を交わしていそいそと着替えを始める。もちろん俺は後ろを向いて。

 

「ん?……っっっ!!」

 

 ふと、ロッカーに備え付けられていた鏡を見て俺は思わず絶句してしまった……。

 

 チラッとだがシャルルが着けている女性用のコルセットが見えてしまったのだ。これにはさすがの俺も驚いてしまった。これでシャルル…、いや『シャルロット』が女であることは確定してしまった訳だ。しかし心の中で言わせて欲しい。

 

もっとちゃんと隠して!!!

 

「ん?どうかしたの一夏?」

 

 振り返らずに器用に聞き返すシャル(めんどいからシャルに統一する!)に

 

「……いや、なんでもない」

 

 俺は少し項垂れながら答えた

 

「?」

 

 互いに着替えが終わり俺たちは足早にグラウンドへと向かった。

 

 

第二グラウンド

 

「遅くなりました!」

 

「ギリギリだな、まぁいい。すぐに並べ」

 

「「はい」」

 

「随分ゆっくりでしたわね」

 

「シャルル目当てで他のクラスの女子が来てさ……」

 

「なるほど、理解できましたわ。お疲れ様です」

 

「あんたも大変ね」

 

 セシリアの言葉に俺がそう返すと若干苦笑いを含めた顔で労いの言葉をかけてくれた。横の鈴も哀れむ感じの言葉だが気にしない。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

 そんな言葉を交わしていると織斑先生から授業を開始した。




いかがだったでしょうか?

感想並びに評価を頂ければ幸いです。

ではまた次回


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転校生は黒兎と金髪の貴公子でした2

壁|ω・)大変ご無沙汰しています

壁|ω・)皆さんが楽しんで頂ければ幸いです

壁|)

壁|;゚Д゚)))))))

壁|`_´)¬[最新作]スッ

壁|[最新作]ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘


 どうも織斑一夏です。今回1組・2組は合同実習だ。ある程度の基礎学習を終えて初めてISを動かすということで皆それぞれで少なからず緊張しているようだ。

 

「では早速だが戦闘の実演をしてもらう。そうだな……凰とオルコット頼めるか?」

 

「「え!?」」

 

 織斑先生が顎に手を当てて考えるそぶりを見せてから鈴とセシリアにそう告げた。絶妙なタイミングではもる二人。鈴は単純にやる気が起きないだろうこと、セシリアは多少なりとも見世物にされてしまうことへの抵抗感があってのことだろうが、それにしてもお二人さん返事が露骨すぎるな~。

 

「…何か問題でも?」

 

「「イ、イエベツニ」」

 

 先生が目を細めて二人に確認を取る。うん、そりゃそうなるよ。素直なのは非常に美点なんだけどね~。なお不満顔な2人に織斑先生が近づく

 

「ほれ、やる気を出せ。あいつに良い所を見せる絶好の機会じゃないか」

 

「やはりここはイギリス代表候補生。セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「専用気持ちの実力を見せるいい機会ね!」

 

 めちゃめちゃやる気だよ!フルスロットルだよ⁉︎だって背後に炎が見えるもん!姉さん、俺をだしに二人を焚きつけたな〜。てか、二人ともチョロ過ぎだよ……。もうちょい落ち着きなさい。

 

「さて、対戦相手だが」

 

 キィィィィン……。

 

 おや?この空気を切り裂く音は……しまった!!このイベントのことスッカリ忘れてた!!!!

 

「いやーーーっ!ど、どいてくださーーい!!」

 

 やばーーーい!!!こっちきたーーーー!?避け…ダメだ間に合わない!!こうなったら……やってやらぁぁぁぁ!!!

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!キャァァァッッッチ!!!!」

 

 覚悟を決めた俺は瞬時に白式を展開し、風を切りながらこちらに向かってくる山田先生に対して肩幅まで足を広げて両手を高らかに突き出した。そして、

 

 ズシィィィィィィィイイイイイイイイイン!!!!

 

 

「「「「「「「ええええええええええええ!!!!!?????」」」」」」」

 

 まさか受け止めるとは思わなかったのだろう。あまりの衝撃に少々地面が陥没している中で山田先生を受け止めた俺に四方から驚愕の声が上がる。

 

 が、こっちはそれどころではない。

 

 ぬぉぉっっ……あっあ、足に、っていうか体全体に響いた〜……。けど生きてる?俺生きてるよね!?ヤバイ…涙目になってきた。

 

「あ、あの~~織斑君……。大丈夫……ですか?」

 

 俺の腕の中で頬を赤らめながら困ったような笑顔の山田先生のあまりな第一声に俺は少しカチンとくる。

 

 なに…?大丈夫…?ISを纏った状態かつ殺人的な加速度で落下。おまけに受け止めたこっちは素人に毛が生えた技量しかないこの状況で大丈夫かだと……?俺は無言でかつ丁寧に山田先生を下ろすと空に向かって力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫じゃないですよ!!なまら怖かったよおおおおおおおおーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほん!さて、山田先生はこんなんだが元代表候補生だ。相手にとって不足はないだろう」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし…というか先生、今『こんなん』って言いませんでしたか?」

 

「さて二人とも、準備は出来てるな?早速始めるぞ」

 

「あれ?無視ですか」

 

「え?二対一ですか…?」

 

「さすがにそれは…」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける……多分」

 

「織斑先生!?」

 

「では、はじめ!」

 

 織斑先生がさっきの出来事を丸々なかったことにしつつ、ちょいちょい山田先生をけなしながら話が進んでいく。山田先生が抗議をするも一切無視してスタートの号令をかけた。鈴とセシリアは『負ける』という言葉に闘志を滾らせて勢いよく空へと飛び出していった。山田先生も自分の抗議が無駄だと悟ったのかため息をつきながら空中へと向かった。

 

「さて、それではデュノア。山田先生が使っているISについて解説してくれ」

 

「わかりました」

 

 咳払いを一つ、空中での戦闘を見ながらシャルが説明を始める。

 

「山田先生が使用しているISはデュノア社製のIS『ラファール・リヴァイブ』です。第二世代最後期の機体ですが、スペックは初期第三世代機にも劣っていません。安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。特筆すべき点として操縦の簡易性によって操縦者を選ばない点と装備によって格闘・射撃・防御・支援などマルチロール・チェンジを両立しています。以上の利点から現在は7ヵ国でライセンス生産。12ヵ国で正式採用されています」

 

 一体のISが二体のISを翻弄している。前者は山田先生が駆る第2世代機ラファール・リヴァイブ。それを追う二体のISは鈴とセシリアがそれぞれ愛機としている甲龍とブルーティアーズだ。鈴もセシリアも山田先生を堕とそうと躍起になって攻撃をしかけているが当たる兆候が見られない。機体性能の観点から見たら比較することすらおこがましい程の差が両者にはあるにもかかわらず、その攻撃すらも山田先生の計算の範囲のように錯覚してしまう。その機動は時に美しい弧を描く様に、時に予想外な変則的に、そして要所要所で的確な武装の選択をして反撃をする。千変万化の如く変わるそれらはされど危なげは無く安心して見ることが出来る。

 

 山田先生を表すなら『強い』ではなく『上手い』という表現が的確だと思う。姉さんのような圧倒的な力とは実に対照的だ。何年も積み重ねてきた基本や応用、そして実戦経験が彼女の力となっているのだろう。彼女と俺とでは武装や戦闘スタイルからして違うが学ぶべき点は多くある。シャルの説明を横目にしながら白式の録画機能を使用して山田先生の戦いを目に焼き付けていた。

 

「ありがとうデュノア。さて上の方もそろそろ終わるな」

 

 その言葉と共に鈴とセシリアが先ほどの山田先生を真似るかのように上空から落下してきた。

 

「あっ…たたたたぁぁ〜」

 

「ぶ、無様です~」

 

 結果はご覧の通りだ、鈴とセシリアが絡み合って落っこちてきた。山田先生を追いかける事に熱中するあまり気付いた時には両者は凄い勢いで激突。そこにグレネードランチャーの砲撃を浴び、錐揉みしながら落下してきた。そのあまりの負けっぷりに周りの生徒たちはクスクス笑い出してしまった。

 

「これで分かってもらえたと思うがIS学園教員の実力は本物だ。以後は敬意を持って接するように」

 

「それでは実習に入る。専用機持ちは織斑、篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒだな。では出席番号順に八人グループで実習を行う。グループリーダーは専用機持ちがやりなさい。でははじめ」

 

 一つ手を叩くと皆が整然と列を成している。おおー、原作では混乱が起きてたがやっぱり教員スキルが高いな。

 

「やったー!織斑君と同じ班」

 

「セシリアかぁ~……」

 

「凰さん、よろしくね」

 

「篠ノ之さん、頑張ろうね」

 

「わー、ボーデヴィッヒさんの髪とっても綺麗だね。シャンプー何を使ってるの?」

 

「デュノア君、色々教えてね。ちなみに私フリーだよ」

 

 ふむ、全ての班で概ね円滑にコミュニケーションが取れてるな。ラウラも戸惑いながらも同年代の女子のノリについて行こうと……。いや、あれは完全におもちゃにされてるな、律義に皆の質問に答えようとしてるし。でも原作の様に拒絶しているわけじゃないし取敢えずはOKだな。

 

「みなさーん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。『打鉄』と『リヴァイブ』がありますので好きな方を取りに来てください」

 

 そんじゃうちの班はリヴァイブにしようかな、シャルの言う通り操作性は簡易だし、皆にはしっかりと自信をつけてもらおう。

 

 

 

「それじゃ出席番号順に装着・起動・歩行までやろう。さて一番目は……」

 

「はいはーーーい!」

 

 およ?この元気な声は確か

 

「出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はジョギングとスポーツ観戦です。よろしくお願いします」

 

「あっ、あはは、はい、よろしくお願いします」

 

「やったー!」

 

 元気な自己紹介の後にお辞儀をしながら手を差し出してきた。俺は苦笑いしつつその握手に応じると余程嬉しかったのかその場でピョンピョンとび跳ねてる。

 

「ああっ、ずるい!」

 

「私も!」

 

「第一印象から決めてました!」

 

 まぁこうなるわな…仕方ない

 

「はいはい、後で皆にも握手するから取敢えず実習に入っちゃおう。分かった?」

 

「「「はーーい」」」

 

 元気だな~。てか、これじゃあ俺が先生だなと内心で苦笑い気味だ。




 皆様ご無沙汰しております。パスタンです。しばらくぶりの更新でしたがいかがだったでしょうか?
 さてリアルにおきまして活動報告にも書きましたが、1年かけて勉強していた資格試験にこの度合格いたしましたので執筆活動を行えるほどに時間的な余裕が出来ました。
 今年度は今回を含めて二回の更新を予定しております。この作品は中途半端に終わらせる気持ちは一切ありません。時間はかかるかもしれませんが末長くよろしくお願いいたします

以上、パスタンでした。


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転校生は黒兎と金髪の貴公子でした3

今年最後の投稿です。

今年は本当にお世話になりました。

来年も『IS~転~』をよろしくお願いします。




「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、班別に格納庫に集合。専用機持ちは時期と訓練機の両方を見るようにしよう。では解散」

 

 どうも織斑一夏です。午前中の1・2組合同実習が終わって、今は着替えに行く所だ。……しかし酷い、俺の班は俺と相川さんの2人でリヴァイブを運んだようなもんだ。確かに俺一人でも別に運べないこともないけど一緒に運んでこそ仲間意識も生まれると思うのだが……俺の考えが古いのかな?まぁ良いか。俺の中で相川さんの株は上昇中だ。お礼にお菓子でも持っていこうかな?シャルルの班は、体育会系の女子数名が運んでいった。「デュノア君にそんなことさせられない‼︎」とかなんとか言ってたな。何というか…その努力が報われることが決して無いとわかってる人間からするとホロリと涙が出てくる思いだ。

 

「シャルル。俺クラスの仕事が残ってるから先に行ってるけど良いか?」

 

「う、うん。僕は機体の微調整があるから、待ってなくていいからね」

 

 まぁ、性別を隠してる人間が誰かと着替えを一緒に出来る訳ないよな。安心しろシャル!俺は空気が読めるタイプだ。なるべく皆にばれないようにサポートしていこう。ちなみに俺のISスーツなんだが原作一夏のようなヘソ出しルックじゃない。7分袖のウェットスーツみたいな感じだ。

 

 つーかあんな恥ずかしいスーツ着れんし……。

 

「わかったよ。ああそうだ、お昼はみんなで屋上に行くからシャルルもどうだ?」

 

「ぼ、僕も行っていいの?」

 

「もちろんだとも、それじゃお昼は屋上でな」

 

「……」

 

 一夏は背を向けていて見えなかったが、その時のシャルロットの表情は複雑だった……。

 

 

~屋上~

 

「それじゃ、ラウラ・シャルルようこそIS学園へかんぱーい!」

 

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

 

「感謝する。カンパイ」

 

「みんなありがとう。カンパイ」

 

 IS学園の屋上はヨーロッパ調の石畳の上に四季折々の花々が咲いた花壇。そして数か所に円テーブルとイスが点在している。今日は他の生徒がシャルやラウラ目当てで学食に向かった事を予測してのことだ。屋上に行くついでに自販機でジュースと一緒に食べられる様な軽食を少し買って皆でささやかなパーティーをやろうと言うことになったのだ。ちなみにこれらの費用は俺のポケットマネーである。

 

 主賓の二人といつものメンバーはそれぞれで自己紹介を行っている。予想通りシャルは短時間ながらも全メンバーと良好な関係が築けそうだ。緊張しやすい簪も初対面ながらそれなりにシャルとコミュニケーションが取れている。シャルの母性の高さだろうか?

 

 ラウラは軍人気質なのは相変わらずだが変に肩肘を張っていないせいか結構気さくに話が出来ている。ここら辺は原作と違った柔軟性が見れるな。特に箒とは日本文化で話が弾んでいる。割と共通点が多いのかもな。

 

「ラウラ久しぶり。まさかIS学園に来るとは思わなかった」

 

 我ながら白々しいが、実際俺にはラウラが来るなんてことは知らないわけだし……こんな感じで良いよな。

 

「軍上層部の意向などが絡んで昨年から入学は決定していたのだが、愛機の調整に手間取ってこの時期にずれこんでしまったのだ。というか、お前がISを動かしたことに私は驚きだぞ。テレビで見たときは思わず噴きだしてしまったのだからな」

 

「いや~自分でも驚きだったよ……。色々あったけど、みんなの力を借りながら今日までどうにか過ごしているかな。それより初めての授業はどうだった?うまかやれそう?」

 

「長らく軍で生活していた身としては戸惑いが大きいな……。あんな無邪気な接し方をされたことも、こんなに騒がしい雰囲気もほとんど経験がない。学校とはこれが普通なのか?」

 

 なるほど、ある意味この質問はラウラの視点だと当然だな。規律と階級が至上な軍において対等な関係はほとんどない。例え同年代の女の子がいたとしても階級差で対等な関係など持ちようもないし佐官クラスになれば特にそれは顕著に表れるだろう。だがIS学園、というより学校では基本的に先輩後輩くらいしか上下関係はないし……変な話をすれば今の状況は三等兵が少佐と同列になっているようなもんだもんな。そんな風に俺が考えていると……。

 

「10代の女子なんて大体あんな感じよ。理由云々を考えるなんて時間の無駄になるわよ」

 

 鈴が手に持ってるタッパーをいそいそと用意しながらラウラに何でもないかのように告げる。事柄の本質は捉えてるがもう少し言いようもあるだろうに……。てか君もその10代の女子でしょうに

 

「ふむ、考えるだけ野暮か」

 

 そう思っていたが当のラウラは特に思うところもないようだ。それどころか単純明快な鈴の言葉を気に入って部分があるようだ。

 

「そっ!それより折角日本に来たんだから色々やりたいこと探したほうが建設的よ。よし出来た‼︎はい一夏」

 

 そう言って鈴は俺の方にタッパーを渡してきた。ラウラは先ほどの鈴の言葉で考えてるようだ。……邪魔するのはよくないな。

 

「おお、酢豚丼だな。ありがとう鈴」

 

 下味をつけた角切りの豚肉を用い、衣をつけてピーマン、ニンジン、タマネギなどの野菜と一緒に油で揚げ、甘酢あんをからませた中華料理。そう、鈴の得意料理の一つ『酢豚』だ。今回は下にご飯を敷き詰めて丼仕立てにしてある。酢豚の甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐるりとても美味しそうだ。

 

「今朝作ったのよ。アンタ食べたいって言ってたからね。味わって食べるのよ」

 

 若干上から目線だがよく見ると頬が少し赤くなり口元が緩んでる。つっこむと面倒なので取り敢えずスルーして食べよう。

 

「はいよ。ではいただきます」

 

 先ずは箸で豚肉を一口。うん、衣はサクサクだが中の肉はとても柔らかい。恐らくバイナップルと一緒に寝かせたのだろう。とてもうまい!そのままご飯を一口。うむ、ご飯も餡と絡んでいい按配だ。自然と箸が進む。

 

「腕を上げたね鈴。すごく美味しい」

 

「と、当然よ‼︎頑張って練…じゃなかった。これが実力ってもんよ」

 

 俺の言葉にパッと笑顔を浮かべたが変な咳払いと共にそんな風に言葉を続けた。そーかー、頑張って練習したんだな〜。他の人間がいるとあまり素直じゃないな〜。でも、こんなこと言えば鈴が怒るのは火を見るより明らかだから口にはしない。面倒なので却下です。なので密かに忍び笑いをする。

 

 

 

「コホン。一夏さん、わたくしもたまたま早く目が覚めまして、サンドイッチを作ってみましたの。おひとつどうぞ」

 

 そう言いながらセシリアが見た目『は』とても素敵なサンドイッチが入ったバスケットを俺に差し出してきた。

 

 ……大事なことだから二回言おう。

 

 ミタメ『ハ』トテモステキナサンドイッチガハイッタバスケットヲオレニサシダシテキタ。

 

 ヤバイ……変な汗が流れてきた。シェフ・セシリアからトンデモ料理をおみまいされた。

 

「さぁ一夏さん、遠慮なさらず召し上がって下さいな」

 

 お願いです、頼みます、遠慮させてください‼︎簪がプルプル震えながら俺に首を振っている……。『アレ』の危険性を本能で理解したようだ。箒も鈴も軒並み顔をしかめている。

 

 皆の言いたいことは分かってるよ。でもそれは食べてからだ……。苦笑いしながら皆に首を振り、バスケットの中からBLTを一ついただく。

 

 うーん、見た目は何の変哲も無い……むしろとても美味そうなBLTだ。心なしか少し光って見える??

 

「それじゃ、いただきます」

 

「はい、召し上がってくださいまし」

 

 セシリアが嬉しそうに返答した。さて覚悟を決めて食べますかね。

 

 一夏、逝きマーース。ぱくっと一口

 

「どうかしら?」

 

 

 

 

「〜〜〜〜っおおおおおをををををヲヲヲヲヲ!!!!!!」

 

「い、一夏ーー!大丈夫か⁉︎震えてるぞ⁉︎携帯のバイブレーション並みに震えてるぞ!!!」

 

「アホなこと言ってる場合じゃないでしょモッピー!!一夏ペッてしなさい!!いいからペッてしなさいってば!!」

 

「一夏~、死なないで~!!!」

 

 唖然としているセシリアを横に、手元にあったお茶を慌てて飲み干す。

 

「ぷっはぁぁ……。あ、ああ、あ、あま⁉︎甘い、これ甘いよ!!!」

 

「甘い??それ……BLTでしょ?」

 

 訝しげに見ている。鈴、君の言いたい事は分かる。

 

「バニラエッセンスとか、砂糖とか……とにかくいろんな甘いものがいっぱい入ってた!!」

 

こんなものを……断じてこんなもの料理とは認めないぞ俺は‼︎

 

「セシリア~~」

 

 俺の勢いにたじろぐセシリアに俺は指をさして言い放った。

 

「料理禁止!!」

 

「そ、そんなーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッホン、あー一夏、私もお弁当を作ってきたんだ。よければなんだが食べてくれ」

 

 そういいながら箒は、お弁当の包みを差し出してきた。

 

「え!本当に?じゃあ早速……おお!!」

 

 中身は鮭の塩焼き、鶏のから揚げ、金平牛蒡、ホウレン草の胡麻和えという非常にバランスの良い和風の献立がそこにあった。先のセシリアの件もあったから嬉しさも倍増だ。

 

「こんな手の込んだお弁当を……箒、ありがとう」

 

「ふふ、全く……気にせず食べてくれ」

 

 いやーこりゃうまい。みんな好きなものばっかりだし。箒も自分のお弁当の包みを開ける。おや?

 

「あれ?そっちに唐揚げはないのか?」

 

「!こ、これは、その、だな」

 

 箒は今までの嬉しさが嘘のように動揺してしまった。そして諦めたようにボソボソ呟いた。

 

「うまく出来たのがそれだけしかなかったから……」

 

 なるほど、それで俺のほうに入れてくれたのか。しかし女子とはいえオカズの彩りが少なくなるのはイカンだろう。

 

「はい」

 

 俺はオカズのから揚げの半分を箒のお弁当箱に差し出す。

 

「え…」

 

「おいしいものは一緒に食べなきゃな」

 

 

 

「ふふ、一夏ってやさしいんだね」

 

 上品に笑いながらつぶやくシャルさん。なんだかシャルが年上のお姉さんみたいに見えるな~。まぁラウラとのコンビはまさしく姉妹みたいだし、あながち間違えじゃないな。

 

「まぁ、大したことないさ。シャルルもこれからルームメイトになるわけだし、遠慮なんかしなくていいんだからな」

 

「一夏さん、部屋割りはもう決まったのかしら?」

 

「いや、でも普通に考えたら俺の部屋だよ。男だし」

 

「そっか、まぁ、普通に考えたらそうよね」

 

「……」

 

 そんな風に話している中で、ここで一人だけ訝しそうにしているラウラをみつけた。一体なんだろうか?

 

「どうかしたかラウラ?」

 

「いや、あ~んはいつするのだ??」

 

「へ?」

 

「へ?」

 

「へ!?」

 

「へ?」

 

 ……ん?なに?なに?何言ってんだ?この銀髪ジャーマニーロリは俺の聞き間違えか?いかんいかん、取り敢えず理由を聞こう。話はそれからだ。

 

「あの~、ラウラ……どうしてそうなったのかな?」

 

「クラリッサが教えてくれたのだ。仲の良い学生同士はア~ンをするものなのだろ?」

 

 あの人か……。ある程度予想はついてたけども。あんまりおかしな知識をラウラに授けないでください。無駄だろうけど

 

「そんな面白恥ずかしイベントなんてないわよ。あんた間違った知識植えつけられてるわよ。てか、誰よクラリッサって?」

 

「副官だ」

 

「今すぐクビにしろ!!」

 

 鈴の魂の叫びがさく裂した瞬間。




いかがだったでしょうか。

感想・誤字等の修正は適宜行っていきたいと思います。

それでは、来年もよろしくお願いします。


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ブルー・デイズ/レッド・スイッチ

 今年最初の投稿です。みなさま本年もよろしくお願いします。

 ではどうぞ


 俺が今手にしている獲物はいつものブレードではない。かと言って無手でもない。一般的な名称を『ライフル』と呼ばれる代物である。

 

 俺は心を落ち着かせ、精神を集中させる。倉持で簪に習ったことを思い出す。

 

 ストック(銃床)の定着は射手の右頬を、一定の位置に密着させる。この定着性が高まると、その分が銃の安定性に繋ってくる。安定性が高いほど、照準も段違いにしやすくなる。バット(床尾)の位置は右肩のくぼみに正確に当てることにより、よりしっかりと銃を構える事が出来ることに加えて反動軽減にも繋がる。右肘は位置は射手のバランス調整、バットの当て具合に影響を与えるので、ここを軽視してはならない。右手は人差し指を引き金に、残る指はグリップ(銃把)をしっかりと握る。同時に、銃を引きつけてバットをしっかり肩のくぼみに固定する。左手のハンドガードを支える位置は、射手の体格、目標の位置によって異なるが、基本的には指が自然にハンドガードに巻き付く感じで手首共々楽にし、左肘はその時の構えに応じて、出来るだけ銃の機関部の下に持ってくるようにする。

 

 態勢は万全。

 

 然らば撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!

 

 五五口径アサルトライフル『ヴェント』を的に向かって撃ちまくる。銃声が非常に耳に心地いい。心臓の鼓動が高鳴り、銃を撃った後の反動が体に響く……そしてなぜだか口元が自然と吊り上がる。間違いなく楽しんでる。気分が高揚する。やっぱり俺も男の子なんだなと内心で苦笑いしつつリズミカルにマガジンを撃ち終え、安全装置をかけると銃を下ろして楽な姿勢で一息つく。

 

「ふぅー」

 

 隣から二人分の拍手が聞こえてきた。

 

「すごいよ一夏!!とても初心者には思えなかった!」

 

「ふむ、FCS(射撃管制システム)ナシでここまでやれるとはな……。射撃の適性もあるようだし格好も中々様になっていたぞ」

 

 どうも織斑一夏です。シャルとラウラが転校してきて5日目の午後。本日は射撃関係のレクチャーを両名から教わってるところだ。ちなみに他の4人は箒のレクチャーに回っている。ここで改めてラウラが登場しているISについて説明していきたいと思う。

 

シュヴァルツェア・レーゲン 

 

 ドイツが製作したラウラの第3世代型IS。主な武装は右肩の大型レールカノンと両肩・リアアーマーに計6機装備されたワイヤーブレード、両腕手首から出現するプラズマ手刀。AICと呼ばれる機能を搭載する。待機形態は右腿の黒いレッグバンド。機体カラーは黒色。AIC(慣性停止結界)とはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称。ラウラ自身は「停止結界」と呼称している。もともとISに搭載されているPICを発展させたもの。対象を任意に停止させることができ、1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要であり、複数の相手やエネルギー兵器には効果が薄い。

 

「ここに来る前なんだけど、倉持技研でISを操作する機会があってな。一通りの射撃訓練を教えて貰ったんだ。ちなみに先生は簪だった。リクエストがあれば言ってくれ」

 

「そうだったんだ」

 

「一夏の撃つ方を見ればわかる。基本を忠実に守った綺麗な姿勢だった。簪は良い指導者だったようだな。それじゃ次は伏せ撃ちを見せてくれ」

 

「了解」

 

 伏せ撃ちは他の姿勢に比べて非常に安定性が高い。従って射撃精度も高くかつ姿勢が低く敵に対する防御にも優れているので、戦闘で最もよく取られる射撃姿勢の一つとされている。但し、遠距離での撃ち合いと言う事に限定されるだろう。つまりこの姿勢の欠点は、近付かれた場合一方的にやられてしまう可能性が高くなり次の動作に移る時、他の姿勢に比べて最も時間が掛かこと等がある。幾ら射撃姿勢が安定しているとはいえ、状況を考えずにこの姿勢ばかり取るのは考え物である。まず、両膝を地面に落とし、銃のバットストックを地面に付け、右手、左肘の順で地面を突き、状態を前方に倒す。次に、右手でストックを持ち、バットをしっかり右肩に当て、両肩の線と銃を直角にする。そして右の頬を自然にバットストックに当てる。この時、両肩は水平に。両足は軽く開き、楽にする。両肘は肩幅よりやや広く、上体の重みを均等に掛ける。右足を曲げることにより、呼吸がしやすくなり、左足がストッパーの役目を果たしている。

 

 更にラウラが言っていた通り白式には兵器が目標物を正確に射撃するために火器を制御するための、計算機・測的器を主体とする装置であるFCS(射撃管制システム)を含めたその他の機能が備わっていない完全なる近接格闘型のISなのだ。それを分かっていた俺はこうして旧来の構えを簪から習うことができた。

 

 準備万端、カートリッジを交換しリズムをつけて撃つ!!撃つ!!撃つ!!……先ほどと同じくワンマガジン分撃ち終えてから先程のを含めたトータルの命中率を確認する。

 

……総合命中率73.2%か、それなりにはやれているだろうか。

 

「まずまずだな」

 

 ラウラからのありがたい評価である。

 

「でも、初心者にしてはすごいと思うけどなぁ」

 

 苦笑いしながら俺のフォローをするシャル。そこにラウラは付け加える。

 

「無論、初心者ということを加味すれば中々のものだ。しかしこれが実戦となると命中率は今の半分以下を想定しておいたほうがいい。実戦になれば外の状況に加えて心身も全く変わってくる。今も撃つ瞬間に銃身がブレてしまっていた。まだまだ実戦で信頼を置くには鍛錬が足りんだろうな」

 

 この辺のことについては、特殊部隊の隊長をやってるラウラの言葉は何よりも説得力がある。しかしあの一瞬でこうも的確に指摘が飛んでくるとは……流石だよな。

 

「確かにまだまだ訓練は必要だな。しかしシャルルはすごいよな」

 

「え!?何のこと?」

 

「それぞれ特性の違う武装を20も扱えるんだから。俺だったら2つか3つが精一杯だよ」

 

 実際まじかで見たシャルの特技『ラピッドスイッチ』には思わず目を見張った。鈴とシャルの模擬戦でその場の状況に応じて適切な武装が瞬時に切り替わっていく様は、正しく才能と努力によって得た千変万化といっても過言じゃない。鈴もかなりやりずらそうに相手をしていたし、見ていた箒はポカンと口を開けてた。機体の性能差が戦力の決定的な差ではないというセリフが思わず思い浮かんでしまった。様は全てにおいて操縦者の扱い方次第なんだろうな。

 

俺に出来ないことがシャルには出来るシャルに出来ないことが俺には出来る。今はまだこれでいい……そう、今は

 

「そんな、僕なんてまだまだだよ」

 

 そう言いながらも、嬉しそうに答えるシャルを見るがその仕草はどう見ても女の子だろう。思わず溜息が出そうになる。こっちからするといつか誰かにばれないか内心冷や汗ものだ。お願いだからもう少しだけ男っぽくふるまえないだろうか……無理だろうな~。まぁ女子たちにはこれが貴公子の振る舞いに見えるのだから良しとしよう。

 

 事実上、男子が2名いる1年ではどちらが好みかで二分しているらしい。俺への評価は、強く頼りがいがあり料理が上手で守ってくれそうな男子。シャルの評価は、気品があり儚げで思わず守りたくなる男子。気持ちは分からなくはないけど、その評価が本人の知るところになるとどうしていいか分からず戸惑ってしまうのが本音である。

 

「みんな~、そろそろ終わりにしよう。アリーナの閉館時間が迫ってるぞー」

 

 俺はプライベートチャンネルで4人を呼び出した。

 

「はぁ~今日も疲れた。それじゃあシャル、俺は先に入って着替えてるな」

 

「うん。また後でね」

 

「はいよ~」

 

 こんな風に出来るだけ鉢合わせにならないように自然な会話からシャルと離れるようにしている。最初の頃は変にどもっていたが、今では自然な流れができていると思う。ただ部屋にいるとこんな事もある。

 

 

 

 

『ちょっと一夏!また髪乾かしてない』

 

『いいじゃないか、そのうち自然に乾くよ』

 

『そんなこと言って、風邪ひいたら困るでしょ!』

 

『夏も近いし大丈夫だよ』

 

『そういう問題じゃないの!ほらドライヤー持って来る!僕が乾かしてあげるから』

 

『はいはい』

 

 

 

 

 とまぁこんな感じに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるシャルについ甘えてしまう自分がいる。俺からしてみると、だらしない父親にプンスカ文句を言いながらも世話を焼く娘の描写がイメージに浮かんでしまって妙に笑えてくる。それを見たシャルが勘違いをしてさらに怒って小言が増えてしまう。でもこんな感じのやり取りができるくらい仲良くなったことは喜ばしいのだろう。

 

 

「さてと着替えも終わったし、部屋に戻りますかな」

 

「ああ、織斑君!ナイスタイミングです」

 

「山田先生、ナイスタイミング?」

 

 着替えを済ませて更衣室から出ると山田先生がいた。何か俺に用があるらしい。ちなみにあの件はしっかり山田先生から謝罪してしまった。どうやら山田先生も織斑先生からこってり絞られたらしく暫くションボリしていた。

 

「俺に何か用ですか?」

 

「今月の下旬から大浴場が使えるようになります。週二回の使用日を設けました」

 

「本当ですか⁉︎」

 

 これは予想以上に嬉しい‼︎この学園に来て以来、シャワー三昧だからな〜。広い風呂で体を休めたいと思ってたんだ。俺はこの予期せぬ朗報に自然と笑みがこぼれる。

 

「山田先生、ありがとうございます。凄くうれしいです」

 

「そう言ってもらえると、頑張ったかいがあります。後ででゅのあ君にも伝えてくださいね」

 

「はい、分かりました」

 

 そう言うと顔を綻ばせる山田先生。察するに許可を取るのに結構苦労したんだな。本当にありがとうございます。

 

「それと織斑君にちょっと書いて欲しい書類があるので、職員室まで来てください。白式の正式な登録に関する書類なので、枚数が多いんですが」

 

「分かりました」

 

 風呂が使えることの嬉しさも相まって意気揚々と山田先生についていく俺。

 

 でも俺はこの後に起きるある意味最も大きなイベントを忘れていたんだ……。ホント時折自分の馬鹿さ加減に呆れてものも言えなくなる。




いかがだったでしょうか?

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ブルー・デイズ/レッド・スイッチ2

 遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。今回は非常に難産でした。
みなさんが楽しんでいただければ幸いです。



 どうも、織斑一夏です。少しの間だけ俺の話に付き合ってほしい。生き物には大なり小なり『隙』というものがある。中でも最も大きな隙が生じる場面として疲労が高まっている時ではないかと考えてる。この時、俺もシャルもアリーナでの訓練で結構な疲労がたまっていた。加えて俺は白式を自身の期待にするための登録書類を何十枚と書いていたため精神的な疲労も溜まっていた。

 

 

 

 

 

だからだろう、こんな状況が生まれてしまったのだろう。

 

 

 

 

 

「いっ、一夏……」

 

「シャ、シャルル……」

 

 部屋の脱衣所で正面から向き合っている俺とシャル。一方は制服をしっかりと着ている『男子』、もう一方は生まれたままの裸体を晒し片手にボディーソープのボトルを持った『女子』がそこにいるのだ。前もって言っておくが、俺が彼女に渡したわけではない。あらかじめ彼女の正体を知っている俺が平然と風呂場に行けば変態野郎もいい所だ。

 

 色々と疲れて注意力が散漫としていた俺が脱衣室に入ったのと替えのボディーソープを探そうとシャルがお風呂場から出てきたのはほぼ同時だった。

 

 

 

その瞬間時が止まった。

 

 

 

 双方が同時に相手を認識したが多分2~3秒程度は惚けていたと思う。こんな奇跡の出会い方をするなど互いの頭の中にの片隅にも無かったのだ。

 

 ……俺はベッドに座っているが思わず頭を抱えて大きなため息が出てしまった。我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れしか浮かばない。こんな事だってちょっと考えれば分かるだろうに……。余談だが日常での織斑家は脱衣所にある洗面所で歯を磨いたり手を洗ったりしていたが、シャルが来てから入り口付近にある台所の洗い場で手を洗うようにしていた。ところが今回、上記のような事情で半ば無意識に習慣的な行動をしてしまいこのような事態になってしまったのだ。

 

 

「あ、あがったよ」

 

「う、うん」

 

 思考の海に沈んでいた俺を引き上げたのはシャルの声だった。彼女の話が原作通りだと幾つか解せない部分がある。それらを統合して道筋を立てれば彼女にとって良い結果を生み出せるかもしれない。原作通りの展開では問題の先送りにしかならないからな……このままいけばシャルの立場はかなり不安定なものになってしまうかも知れない。ここは一つ他の方々も巻き込んでしまったほうが事態を迅速に解決するだろう。俺の予想通りだと俺自身も幾つか危ない橋も渡るだろう……。

 

 でもそれだけの危険を冒す価値はあるはずだ。

 

「そーだな。うん」

 

 覚悟を決めると案外どうにでもなってしまうものだ。しかし命令とは言えシャルのやろうとしていた事はハニートラップと間違えられても仕方ないことだしな。その部分も追々考えないとな。

 

「?」

 

「シャルル」

 

「な、なに?」

 

「お茶でも飲もうか」

 

「え?」

 

 俺の言葉に目をぱちくりさせるシャルに苦笑いが浮かんだ。

 

「もちろん色々と聞かなきゃいけないこともあるし言いたいこともあるけど、まずはお互いに落ち着かないと」

 

「そう、だね。うん、僕もそう思うよ」

 

 シャルは俺の言葉を一つ一つ噛み締めながら聞き、納得したような表情を浮かべた。まずはこちらに協力的なようだし良い兆候かな。

 

「緑茶でいいかな?」

 

「うん、ありがとう」

 

 さて手際よくいこうかな。茶葉の量は大さじ約2杯くらい。お湯の温度は約70~80度で横ゆれして湯気が上がる程度が良いくらいだ。お湯の量180ccで、浸出時間は蓋をして約1分間くらい。

 

 お湯をまず人数分の湯のみに注ぐ。これお湯を冷ますためとお湯の分量を量る事が出来るためである。次に急須に茶葉を入れる。そして、あらかじめついでおいた湯のみのお湯をゆっくり急須に注ぎ、その後約1分ほど、お茶の葉が開くまで静かに待つ。急須を揺すると、お茶の中の苦みの成分が出てしまうから揺らさずそのままにしておく。約1分ぐらい経って、お茶の葉が開いたら、急須から湯のみに均等につぎ分ける。つぎ始めは薄く、後になるほど濃くなるので、お茶の濃さが平均するように注ぎまわす。注ぐときには急須に残らないように、必ず最後の一滴までしぼるように注ぎきる。こうすれば2煎、3煎まで美味しく飲むことができるからだ。

 

 よし、良い感じに入れられたようだ。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 緑茶独特の味と香りを楽しみながらお互いゆっくりした時間が過ぎて行く。カップを半分ほど開けたところで俺から話を切り出した。

 

「さて、それじゃあいいかな?」

 

「……うん」

 

「まずは、どうして男のふりをしていたんだい?」

 

「その、実家のほうから……」

 

「デュノア社?」

 

 無言でゆっくりと頷くシャル

 

「父からの命令なんだ」

 

「……」

 

 フム、この辺りは原作通りか。この様な検証をおざなりにすると痛い目に合ってしまう。この戦いは正に情報が非常に重要になる。正しい情報を掴むことで交渉のカードが増えるかもしれない。一つ一つの情報を見極めて相手より優位に立たなければ。デュノア社だけでなくフランス政府も巻き込むだろうしな。

 

「親なのにどうしてって言いたそうだね」

 

「え?ああ、その……」

 

 実際は別のことを考えていたわけだが……普通はそんな風に考えるよな。シャルは苦笑いを浮かべながら話をつづけた。

 

「僕はね一夏。愛人の子なんだ」

 

「引き取られたのが2年前。ちょうどお母さんが亡くなったときに、父の部下がやってきたんだ。そこで偶然ISの適性が高いことがわかって、非公式にデュノア社のテストパイットをやることになったんだ」

 

「ふむ」

 

「父に会ったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。本妻の人に殴られたこともあったかな……」

 

「それは……」

 

 なんというか……実際に話を聞けば随分と理不尽な言いようだろう。シャル自身には何の罪もないのに。

 

「それから少し経ってからかな、デュノア社が経営危機に陥ったんだ」

 

「……最後発の第二世代機に加えて第三世代機の開発に遅れたことが原因かな」

 

「その通り。それにフランスは欧州連合統合防衛計画である『イグニッション・プラン』から除名されていることが話をややこしくしているんだ」

 

「聞いたことがある。確か第三次イグニッション・プランの次期主力機にはセシリアのティアーズ型、ラウラのレーゲン型、それにイタリアのテンペスタⅡ型の中から選定中なんだっけ……悪いことはつながるな」

 

 俺の言葉にシャルは失笑を浮かべながら話を続けた。

 

「本当にね、話を戻すと一夏の言う通り元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算も大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかったら予算を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪されるって流れになったんだ。ここまで話せばあとは分かるよね」

 

「シャルルが男装していたのは注目を浴びるための広告塔としての役割。そしてあわよくば白式のデータを手中に収めること……かな」

 

「大正解」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 少しの間をおいて、シャルは視線を宙に浮かばせながら大きなため息をついた。

 

「とまぁ、そんなところかな。でも一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。」

 

「……」

 

「でも話したら楽になったよ。ここの皆は良い人ばかりで、こんな僕にすごく良くしてくれたし。ウソをついてる自分がどうしようもなく惨めになってウンザリしてたんだ。一夏、本当にごめんなさい」

 

「なに、俺自身に被害が出たわけじゃないんだ。」

 

 俺はなるべく明るい口調で言葉を紡いだが、シャルはあいまいな笑みを浮かべるだけだった。

 

「まぁ、それについては一つ貸しにしとくよ。それより今はこれからのことを考えなきゃな」

 

「これから?」

 

「ああ、このままの流れじゃどう考えてもシャルルにとって良い結末が来るとは考えられないからね。そうならないためにいくつか対策を講じないと」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「ん?どうかした」

 

「僕の話ちゃんと聞いてた?僕は一夏を騙そうとしてたんだよ。一夏だけじゃない他の皆も欺いていたんだ。そんな僕に……」

 

「……なら君は好きでこんなことをやってたのか?」

 

「そんなはずないだろ!!僕は、僕は……」

 

「シャルルが率先してやってたなら俺だってこんなことは言わないさ。でも命令されて仕方なくやってたなら話は別だ」

 

「……」

 

「但しここからは君の意思が大事になってくる」

 

「僕の意思?」

 

「そうだ。ここに残る事を選んだ時、この先シャルルにとってとてもツライことがあるかも知れない。それでもその先へ進んでいける勇気が必要になる。どうする?このまま何もせずただ流れに身を任せるか。それとも運命に抗って、逆風の中を自分の足で歩いて行くか?」

 

「……」

 

 いまだに迷っているシャルに俺は自分の右手を差し出した。

 

「この手を握るかは君自身が決めるんだ。君の人生はだれのものでもない君だけの人生だ」

 

 暫くしてシャルはうつむいていた顔を上げた。その顔には覚悟を決めたことが容易に分かった。そのまま俺の手を握り締め小さくも力強く言葉を紡いだ。

 

「僕の、ぼくの名前は『シャルロット』」

 

「シャルロット……それが君の」

 

「うん、僕の名前。お母さんがくれた本当の名前。僕はみんなと、一夏と一緒にいたいんだ」

 




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ブルー・デイズ/レッド・スイッチ3

 お待たせしました。皆様からの感想を踏まえながら無駄をなくしつつ、楽しんで読める小説を書けるように心がけたいと思います。今回はなるべく第三者視点という部分に力を入れてみました。

ではどうぞ


「……」

 

「……」

 

 翌日の放課後。IS学園のとある一室に織斑一夏と織斑千冬が対面に座っていた。一見するとわからないが部屋は盗聴・盗撮対策がなされた特殊仕様になっている。一夏は先日の件をすぐに千冬に報告するためこの場を設けてもらった。人の目や耳はどこにあるかはわからない。なるべく部外者に聞かれないよう最大限に配慮された結果といえよう。一夏から話された内容はこの部屋を使うだけの深刻かつ厄介な内容だった。話を聞くにつれて自身の顔がこわばっていくことを感じ取れるくらいに……。

 

 一夏が大体の概要を話終えると、双方に長い沈黙が続いていた。やがて千冬は手元にあったコーヒーに口をつけながら言葉を紡いだ。

 

「……しかし厄介な事案を持ってきたものだな」

 

「返す言葉もありません」

 

 バツが悪いのか目線を合わさない一夏。普段の身内からは見られない表情に場違いながらも千冬は内心で苦笑いを浮かべると同時に嬉しさもあった。この苦労性の弟は何かと自分だけで物事を進めてしまう。そして悪いことに何事も粗なくこなし、それなりの結果をだしてしまうのでこちらも軽い説教だけで済ませてしまうことが多々あったのだ。ただ今回のように一学生では到底解決できない事態に対してこちらを頼ったという点は評価していた。何事もできてしまう人間は総じて人の頼り方を知らない。IS学園へ入学する前に自分が伝えたことを間違えなく理解してくれていた弟に安心感を抱いていた。だからこそ今度は私が教師として、一人の大人として生徒の気持ちに応える番だと強く決意していたのである。

 

「まぁいいさ、デュノアに何かあるということは薄々感じてはいたんだ。実際に話を聞くと悩ましいものだが到底見過ごせる問題ではない。よく知らせてくれた」

 

 それを聞いた一夏は、少し困ったような笑み浮かべながら頭を下げた。見過ごせない問題とはいえ多忙を極める実姉に負担をかけてしまったことは看過できることではないからだ。これは一夏にとっても悔やむ負えなかった。自身が信頼するもう一人の姉の手を借りるという選択肢も考えることはあった。

 

 しかしそれを一夏は良しとしなかったのだ。例え今回うまくいったとしても彼女を利用したというシコリが残る。が、これは自身の心情の問題だからどうにかできる。問題は彼女との関係を第三者に勘ぐられてしまうことだ。最悪自分を利用して彼女をどうにかしようとする不逞な輩が出ないとも限らない。常に最悪なケースを想定する。こちらに転生してから常に一夏が心がけていることの一つである。

 

「それで」

 

「?」

 

「今回の件についてお前はどう見る?」

 

「……」

 

「お前のことだ。何かしらの推測はあるのだろう?」

 

「憶測も含まれますが」

 

「それでも構わないさ」

 

 少しの間をおいて一夏は静かに語り始めた。

 

「……結論から言えばこの計画自体は非常に杜撰極まりないと思います。ですがそれに関連する根っこの部分はかなり深いものではないかと」

 

「……」

 

「……」

 

「続けてくれ」

 

 一つ頷いてさらに言葉を紡ぐ

 

「たった一代で世界を代表するような企業を起こしたリチャード・デュノア。いくら経営危機にあるとはいえ、いつばれるとも知れないシャルロットを送り込む……リターンに対してあまりにもリスクが高すぎます。実際こんなにも早くばれてしまった。このことが明るみに出れば会社自体がなくなってしまうことは火を見るよりも明らかです。それだけじゃありません。ことはフランス政府の国際的な信用問題にまで発展します。リチャード氏はスケープゴートにされた挙句、頃合いを見て事故死あるいは自殺という名を借りて殺されるでしょう」

 

「……」

 

 実弟から出た現実に即した冷酷な言葉に一瞬顔をしかめそうになるも千冬は踏みとどまった。千冬と一夏の考えは一致していたのだ。トカゲのしっぽ切りとはよく言ったもの、多数を生かすために小数を切り捨てる。古来から国家や組織が使ってきた常套手段、感情も慈悲もなく、自分たちが生き残るための謀略。使い古されたものであるが極めて使い勝手がいい方法。その尻尾は大きく肥えていればいるほどに良い餌となる。尻尾の名前はリチャード・デュノアとシャルロット・デュノア。一夏は知らないのだ。保身に走った人間の醜悪な姿を、自分が生き残るためにはなんだってするのだ。たかが小娘を生贄に捧げれば助かる、彼らからしてみればその程度のことだ。『娘を生贄に捧げる鬼父とその犠牲になった悲劇の男装の麗人』陳腐な見出しだがメディアにとっては素晴らしい餌になるに違いない。

 

 そんな千冬の思考をよそに一夏の言葉は続く。

 

「俺みたいな一学生が考えられることをリチャード氏が考えない訳ありません。しかしそれだけのリスクを冒してもシャルロットをIS学園に送り込みたかった。何らかの価値を彼は見出した……あるいはそうせざる負えなかったか」

 

「ふむ」

 

 そうせざる負えなかった……。彼が言った希望的観測の部分だろう。しかし一体何が彼をこんな愚行に駆り立てたのか。

 

「実は、それ以上に気になることがあります」

 

「というと」

 

「代表候補性になるにはISに関する知識や技術は勿論ですが、その出自や身分といった様々な情報も重要視されます。シャルロットが女性であることをフランス政府が知らなかったということはあり得ないでしょう」

 

「つまり……」

 

「政府の中にこの件で利を得た人物がいる。問題はどれほどのポストにいる人間が関係しているか……最悪な場合、国際IS委員会も関係してるかもしれません」

 

「……」

 

「……」

 

 話し終えた一夏は腹に溜まった不快感を吐き出す様に大きなため息を吐きつつ少し温くなってしまったコーヒーに口をつけた。根が深いとはよく言ったもの、千冬はというと深刻かつ厄介な事案は極めて深刻かつ厄介な事案にランクアップした今回の事件、どう対処しどこに落としどころ作るべきか思案していた。国際IS委員会が絡む。言葉にするのは簡単だが、これは今だ嘗てない世界的な事件になる可能性もある。対応を一つでも誤ればIS学園の存在意義も揺るがしかねない。一夏は気づいてるか分からないが編入生の入学にはIS学園の教師陣も関わっている。もし仮に今回の件にこちら側にも関係者がいるのなら学園にだって何らかのペナルティーが科せられることは火を見るより明らかだろう。

 

「……」

 

「……」

 

 長い沈黙を破ったのは千冬だった

 

「ふぅ、考えれば考えるほど厄介なものだ。これは私だけでは手に負えなさそうだな」

 

「かといって、手をこまねいていると向こうが先に手を打つ可能性も……」

 

「無論分かっているさ。餅は餅屋の諺があるようにこの件には専門家の力が必要になるだろう」

 

「専門家……ですか?」

 

「うむ、性格に……少々難ありだが、信頼のおける人物だ。お前も知っている」

 

「俺も?」

 

「IS学園生徒会長……更識楯無。更識簪の姉だ」

 

「よく分からないのですが、なぜ簪のお姉さんが専門家になるんですか?」

 

「うむ、そこから説明しなきゃいけなかったな。そもそも更識家とは……」

 

「織斑先生、そこからは私が説明します」

 

「「!?」」

 

 この部屋に聞こえるはずのない声は通気ダクトからその正体を表した。まず目についたのはその鮮やかなスカイブルーの髪の毛、同じ学年の彼女と瓜二つの美しい髪だ。しかしその目元は自身が知っている彼女と違い、勝気だがどこか本心のつかませず知らない内にこちらの奥底へと入って来てしまう、そんな不思議な感覚に陥りそうな眼をしている。

 

 そんな一夏の心情をよそに彼女は堂々と挨拶を行う。

 

「初めまして一夏君。私が生徒会長の更識楯無よ。簪ちゃんがいつもお世話になってるわ」

 

「は、初めまして」

 

 ウィンクと同時に広げられた扇子には『よろしくイッチー!』などと書かれていた。一夏はと言えば多少どもった上にこわばった形での挨拶になってしまった。それは彼女が予想外の登場をしたからということも少しあるがその理由の大部分を占めているのは陽気に挨拶をしている楯無しの後ろの存在にあったからだ。

 

 バシーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

「いったぁぁぁ~~~~~~!!!!」

 

 突如自分を襲った大きな衝撃と次いで表れた激痛にその場にうずくまってしまう楯無。その後ろには額に二つほどの鋳型マークをつけ、普段の鋭い目つきをさらに鋭く、その右手にはみんなのトラウマご存じ出席簿を持ち仁王立ちしている我らが千冬の姿があったのだ。

 

「楯無……お前何でここにいる?」

 

 生徒が聞いたら震え上がってしまうような声を出しながら千冬はうずくまっている楯無に問いかけた。そんな問いに楯無は頭頂部にマンガみたいなコブを作りつつも怒りマックスな千冬真っ向から対峙しする。何か大事な言葉が更識から出るのではないかと一夏は姿勢を正したが、右手にこぶしを握りしめながら紡いだ言葉はというと。

 

「放課後の人気のない、それも盗聴、盗撮対策が万全な部屋に生徒と教師が二人っきりなんて……気にならないほうがどうかしてますよ‼︎嗚呼、学園という閉鎖された空間で遂に始まってしまう姉弟の禁断のラブストーリー……解き放たれる一夏君の熱く若いパドs

 

 バシーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 言わせねえよ!?どこぞの芸人張りの締めのセリフを出席簿に乗せた千冬の無慈悲な一撃は楯無が無言で転げまわってしまうほどの威力が備わっているようであった。当たった場所も先ほどコブを作った場所だが姉のことだから狙ってやったのだろう。一夏は思う俺の緊張感を返してくれと……。だがいつまでもこのままでいる訳にもいかない。意を決して一夏はこのカオス空間に入り込んだ。

 

「あ、あの〜」

 

「……んん、すまない。更識、場を掻き回したんだ。収集しろ」

 

「はいは~い。了解しました」

 

 「一夏くん、私たち更識家は室町時代から時の権力者の影として代々仕えていたの。現代では対暗部の暗部、破壊工作から政府が表立って処理できない対外交渉なんかもやってるのよ」

 

 先ほどの場面なんてなかったといわんばかりに楯無はとても真面目に分かりやすく更識家についてドヤ顔で説明している。が、悲しいことに頭頂部のコブ二つが『私は馬鹿です』と言わんばかりにこれでもかと主張してしまっている。一夏はまじめに話を聞きつつ両頬が吊り上がってしまうのを必死に水際で食い止めていたのだった。

 

「な、なるほど。正にこの件ではスペシャリストですね」

 

「ふふ~ん。その通りよ」

 

「さて、顔合わせも済んだことだ。これからどう動く?」

 

「まずはシャルロットから詳細に事情を聴きましょう。それと更識先輩にお願いが……」

 

「はいダメーーー!」

 

「え!?」

 

「もう一夏君~。他人行儀なの!これから一緒にイタズラする仲なんだから、私のことは『たっちゃん』か『楯無さん』って呼びなさい」

 

 半ば強引だがどこか彼女ならしょうがないというおかしな雰囲気が一夏を戸惑わせていた。同時に原作で語られた『人たらし』という原作一夏の人物評価は極めて正しいということを一夏は改めて理解したのであった。

 

「……た、楯無さんにお願いがあります」

 

「あら、たっちゃんでも良かったのに、まぁ良いわ。それってシャルロットちゃんと政府要人を含めたリチャード氏周辺の情報収集ってとこかしら?」

 

「はい、それと合わせてなんですが……」

 

 一夏から出た言葉に楯無は若干首をかしげる

 

「確かに調べるのは簡単だけど……関係あるかしらね?」

 

「恐らくこの事件の中心点はここだと思うんです」

 

「ん~……分かったはとりあえず調べてみるわね」

 

「よろしくお願いします。こっから先は焦らず、でも早急に行きましょう。相手が油断している今が絶好のチャンスです」

 

「うむ」

 

「ふふふ、なんだか楽しくなってきたわね」




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激闘!!タッグマッチトーナメント1

 更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。間が空かずに更新できるよう頑張りますのでよろしくお願いします。


 どうもみなさん、織斑一夏です。シャルロット・デュノアに関する三人だけの会議を終えて幾日か経った日のことだ。あの後シャルは俺を交えて姉さんと楯無さんの軽い事情聴取の様なものを受けた。こちらに協力的かつシャル自身の人当たりの良さは二人にとって良い心証を与えられたようだったので割と柔らかい雰囲気でその時間は過ぎて行った。

 

それから時は流れ、帰りのHRでのことである。

 

「さて最後に、来月から行われる学年別トーナメントについてだが皆には重要な知らせがある」

 

「今回行われる学年別トーナメントでは、より実戦的な戦闘を行うためタッグでの参加を必須とする。尚、ペアが出来なかった生徒は抽選で選ばれた生徒同士で組んでもらう」

 

 いよいよか……。原作の様なラウラと険悪なムードはないからな、鈴やセシリアが出場辞退なんて場面は起きないだろうが、何かしらのイレギュラーが発生しないかが気になるところだ。

 

「もう一つある」

 

「今回織斑とデュノアの二人には特例として強制的にタッグを組んでもらう」

 

「そ、それはどうしてですか⁉︎」

 

「そうです!納得できません‼︎」

 

「落ち着け二人とも、もちろん理由はある」

 

 苦笑いしながら二人を宥める織斑先生に周りからクスクスと笑いがこぼれ、二人もそれを感じ取ったとの若干顔を赤らめながら席に着いた。この二人は人間的には大分成長しているようだが、俺が絡むとまだまだ直情的になってしまうんだよな~。

 

 まぁ、慕われているんだから嬉しいことなんだが……。

 

「まず今回タッグを組むことについてだが、これは先のクラス対抗戦のようにまた襲撃者が襲ってくるとも限らない部分からの処置だ。タッグを組むということは単純に考えてもIS4体の戦力となる。もしものことがあっても制圧部隊が突入するまでの時間稼ぎには対処できる十分な戦力だ」

 

「それは……」

 

「それに襲撃者が織斑やデュノアの様な男性陣を狙ってきたとしても、二人が固まっているということは護衛する側も分散されずにいられる。そのために必要な処置なのだ。納得はできないだろうが各々は理解してほしい」

 

「……」

 

 

 

「話を続けよう。チーム登録は来週の月曜日までに1年生の担任あるいは副担任にチーム名とメンバーを所定の用紙に記入して提出。月曜までに決まらない生徒は自動的に抽選に回されるので注意するように。では授業を終わろう」

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

「てな理由で俺とシャルルはタッグを組むことになったんだ」

 

「なるほど、確かに気持ちでは納得できないけど理解は出来るわね。うまい言い方」

 

「?」

 

 いまいち理解できていないのか簪が首を傾げた。それに対して鈴は続きを説明する。

 

「納得はできないだろうって言葉は一夏やシャルルと組めない私たちの不満や不平の気持ちを汲んでるっていうこと、そして理解してほしいって言葉は現実的に対処しなきゃいけないことを知ってほしいってことね。自分たちの我儘でこの二人が危なくなったらそれこそ色々な部分で立場も危うくなるしね。あの織斑先生がここまで言ってるのよ?これで誰も表立って批判はできないわ」

 

「なるほど、鈴すごいね」

 

 目をパチパチしながら感心している簪を鈴は苦笑いしながら話すをつづける。

 

「まぁそれは良いとして……。そいうことならさっさとパートナ決めに行こうかしら。皆また後でね」

 

「私もパートナー探しに行ってくるね」

 

 そう言って二人は足早にパートナー探しへと去って行った。鈴はセシリアと組みそうだけど簪はだれと組むのかな?そんな疑問を感じながら俺はトレーニングルームに足を進めた。

 

 

 

 

 

 それからあっという間に1週間が過ぎたある日の食堂での風景。

 

 

 

 

「生徒会ニュ-スをお送りしまーす。司会は生徒会長更識楯無」

 

「生徒会会計の布仏虚です。みなさんよろしくお願いします」

 

「さぁ!タッグトーナメントマッチまで残り2週間。全生徒のチーム登録も終わり臨戦態勢に入っている頃でしょう」

 

「さて今回の特集はIS学園新聞部の協力で、大会の注目チームをピックアップ!!」

 

「最初にご紹介するのは、元気印の中華娘々『凰鈴音』と英国淑女『セシリア・オルコット』からなる『ブルー・ドラゴン(青龍)』」

 

「凰選手の甲龍は継戦能力に優れ近中距離戦を主体なバランスの取れた万能タイプ。一方のオルコット選手のブルー・ティアーズは遠距離支援と精密な狙撃に優れた遠距離タイプ。バランスの取れたチーム構成は優勝候補の一つに挙げられます。さらに未確認情報ではありますが、両機ともに今大会のために追加武装を組んでいる模様とのことでこの辺も大会での見どころの一つになりそうですね」

 

「次に紹介するのは、日本の剣術小町『篠ノ之箒』とドイツ軍の黒ウサギ『ラウラ・ボーデヴィッヒ』からなる『シュヴァルツ・カメーリエ(黒椿)』」

 

「篠ノ之選手の紅椿は世界初の第四世代機。攻撃、機動、防御とすべてにおいて一線を画した能力があるものの搭乗者である彼女がどこまで機体のポテンシャルを引き出せるかが注目ですね。一方のボーデヴィッヒ選手は軍所属ということでISに関しては経験豊富であることから新人とベテランの良いコンビになるでしょう。二人のチーム力がどのような結果を生むのか?楽しみなところです」

 

「続いては、頑張れ妹ズ!お姉ちゃん達も応援してるぞ!!ラブリーマイエンジェル『更識簪』と1年生の癒し少女『布仏本音』からなる『ビルドファイターズ』」

 

「更識選手の打鉄弐式は国産初の第3世代機。旧来の打鉄を遥かに凌ぐ性能は打鉄のさらなる可能性を見せてくれるでしょう。布仏選手は選手パラメーターま完全に未知数ですがこれがどの様に影響してくるか。注目選手内で一番のダークホースと考えられてます」

 

「簪ちゃーーーん頑張ってね!お姉ちゃん応援してるから!!!お姉ちゃんの愛はまさにインフィニ」

 

 

 

~~~~~~~~しばらくお待ちください~~~~~~~

 

 

 

「視聴者の皆様には大変お見苦しい姿を晒してしまったことをここにお詫び申し上げます」

 

「じゅ、じゅびばせんでじた!!」

 

「それでは最後に紹介になります。全世界注目の男性操縦者コンビ!日ノ本の若侍『織斑一夏』と西洋の貴公子『シャルル・デュノア』からなる『ブラン・ラファール(白き疾風)』」

 

「彗星のごとく登場した織斑選手。実力は折り紙付き、1年生唯一のワン・オフ・アビリティーを発現した白式を駆り大会に殴り込み。一方のデュノア選手はリヴァイブを独自に改良したカスタム機体には30以上の武装を搭載。これらを臨機応変に使い分ける技量も持ち合わせた実力派コンビになってます。すべてを巻き込む疾風は今大会でどのような活躍を見せてくれるのか?私たち二人も非常に楽しみにしているチームです」

 

「今大会は色々な意味で盛り上がること間違いなしでしょう。それぞれが力を尽くして素晴らしい大会になることを期待しながら本日はこの辺で失礼したいと思います。お相手は更織楯無」

 

「布仏虚でした」



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