水の紡ぐ恋物語 (猫犬)
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好きの気持ちに蓋をして【ようちか】
よろしくお願いします。
千歌が好きな曜と曜が好きな千歌がとある理由でギクシャクしちゃうお話です。
「千歌ちゃん、私と付き合ってください!」
「よーちゃん……ごめんね」
ラブライブ予備予選を無事突破し、東京でµ’sと何が違うのか、私たちはどうすればいいのかを知りに行き、改めて目標を決めた翌日。
私はよーちゃんに告白された。
よーちゃんに告白されてチカはすんごくうれしかった。きっとよーちゃんと付き合ったらチカ
だから、チカは断った。
断られたよーちゃんは悲しそうな顔をすると顔を伏せて、やってきたバスに乗り込んで去って行った。よーちゃんにあんな顔をさせてしまったのは胸がいたいけど、これで良かったんだよね?ううん、きっとこれで良かったんだ。
私じゃ曜ちゃんにつりあわないんだから。
~~~
「千歌と曜、最近変な気がするんだよねー」
私は何気なくそう呟いた。東京に行った二日後で地区予選に向けて練習を進めている中、千歌と曜の間に距離がある気がした。昨日までは普通だったのに。
淡島に戻る船に揺られながら、隣に座る鞠莉は考えるような表情をする。
「そうね。あの二人少し距離ができてたわね。曜は時々上の空だし、ちかっちはちかっちで曜から極力離れようとしているし」
鞠莉も二人の異変には気づいているようだった。まっ、鞠莉はあの時も曜の変化に気付いてたし、気づいてるか。
「今回に関しては原因もさっぱりだし、鞠莉はどう?」
「さぁ?私もさっぱりね」
「そっか。じゃぁ、明日の様子を見るしかないかもね。もしかしたら、明日には戻ってるかもだし」
「ええ、そうね。そうならいいのだけど」
二人の距離の原因も分からないから、明日次第かな?問題が解決してればいいんだけど。
そうして、私たちは船を降りるとそれぞれの家に帰る。
夜にも二人に何があったのか考え、
「もしかして……」
とある一つの可能性に至った。でも、もしそうならどうして二人に距離ができたのか、それはわからなかった。もしかしたらと、そう思えない結論に至り、明日二人が元通りに戻っていることを願った。
結果から言えば翌日も事態は好転しておらず、二人の距離はあいかわらず離れていた。
「梨子ちゃん、ストレッチしよ?」
「善子ちゃん、ストレッチしよ?」
「えっ?あっ、うん」
「えぇ……」
最近は千歌と曜で一緒にストレッチをしていたのに二日連続で梨子ちゃん、善子ちゃんとそれぞれペアを組んでストレッチを始めていた。二人は困惑しながらも頷いてストレッチをし、その後も二人の間に会話は無かった。
そして、それなりに練習をすると、日中は暑さで熱中症も懸念されるから部室内での作業をすることにする。一応、日が傾き始めたら再開する予定だけど。
そして、鞠莉が理事長としての仕事があるからと少し離れることを告げた。
「なにか私たちで手伝えることはありますか?」
「ありがと。でも、大丈夫よ。果南が来てくれるんでしょ?」
梨子ちゃんが心配そうな表情で鞠莉に聞くけど、鞠莉は私の方を見てウインクをしてそう言う。これは来いってことかな?そんなに仕事溜めてるのかな?それとも……。
「いいよ。私が行くよ」
「そう、ありがと。みんなはみんなの作業を進めてて。果南がいればすぐ終わって戻ってこれるだろうからね」
「サボったりしないでよ」
「わたくしがいますから問題ありませんわ」
私たちはそう言って、部室を出た。ダイヤがいれば作業がグダることは無いと思うから安心して部室を出ることができた。
理事長室に入るとドアを閉める。これで、中での会話を聞かれることは無い。
「で、千歌と曜のことだよね?」
「ええ。流石に二人の前でできる会話でもないでしょ」
予想通り、二人のことについてだった。そもそも、鞠莉は仕事を残りそうなら夜に無理してやるタイプだからそうだとは思うけど。
「あいかわらずだったね」
「ええ。正直なところ二人で解決してほしい所だったけど、あんまり長引くとみんなも気にするだろうし、練習にも影響を及ぼすわね」
「だよね。となると、帰りに二人に聞いてみるしかないっか。原因はたぶんあれだろうから」
「そう。果南もなんとなくわかったのね」
私たちはそう言って練習終わりに二人に聞いてみることにしたのだった。鞠莉も原因がある程度わかったみたいだし、上手く行けばいいんだけど。
~~~
「はぁー。今日もよーちゃんと話せなかった……」
私は帰って来るなりベッドに横になってため息をついた。そもそも、チカにその資格はもう無いか。よーちゃんを振っちゃったんだから。
でも、仕方ないよね。こうするしかなかったんだから。
コンコンッ
「千歌ー、入っていい」
すると、襖の向こうから果南ちゃんの声が響く。どうやら、遊びに来たのかな?だったら、練習の時に来ることを言っておいてほしかったんだけど。
「いいよぉー」
返事をすると襖を開いて果南ちゃんが入って来る。果南ちゃんは鞠莉ちゃんと学校に残ってたのに、もう来れたんだ。というか、だったら一緒に帰れたんじゃないのかな?
「ベッドに横になって、そんなに疲れたの?」
「ううん。そうじゃないけど」
「そっか。で、曜と何があったの?」
果南ちゃんが来た理由はやっぱりそれだった。誰かが触れるとは思ってたけど、まさか果南ちゃんから聞いて来るとは思わなかった。いや、果南ちゃんだからこそかな?
でも、これはチカの問題だから。
私は身体を起こして、笑みを浮かべてみせる。
「よーちゃんと?ううん、なにもないよー」
「はい、嘘だね。見てればわかるよ。何年幼馴染やってると思ってるの?」
誤魔化したけど、果南ちゃんにはばれているみたいで詰め寄られた。うーん、やっぱりばれちゃうのか。
「よーちゃんに……告白されたんだ」
「……告白されたんだ。で、断っちゃったんだ」
「うん。仕方ないよね。私じゃ……」
「はぁー。どうして、そこまで自分を肯定してあげないの?」
これ以上のごまかしは聞かなさそうだから、私は正直に言う。果南ちゃんはそれを聞くと、今の私たちの状態から私の返事を予想して口にした。
そこまでわかっちゃうんだ。そして、果南ちゃんは私が断った理由もわかっていると思う。そもそも、果南ちゃんにはよく相談していたから。
だからこそ、果南ちゃんの言葉は正しいのかもしれない。
「ダメだよ。果南ちゃんも知ってるでしょ。よーちゃんはすごいんだよ。それに比べて私は……」
「千歌……」
果南ちゃんは寂しそうな表情をする。
「千歌はそれでいいの?」
「うん。チカとじゃ、よーちゃんは幸せにはなれないよ」
「でも、曜から告白をしたんだから――」
「付き合ったら、よーちゃんはすぐに幸せになれないって気付くよ。そしたら、振られちゃうかも……そして今までの関係も壊れちゃうかもしれない……チカはそれが怖いの」
「そっか。難儀なもんだよね。曜のことが好きなのに、曜と付き合うことが怖いって」
チカの思っていることを口にすると、果南ちゃんは小さく呟いた。
チカはよーちゃんの事が好き。いつから好きだったのかと言えばはっきりとは言えないけど、かなり前から。なんの取り柄もないチカといつも一緒に居てくれたよーちゃんに惹かれるのにそんなに時間はいらなかった。それから、何度もよーちゃんに気持ちを伝えようとも思ったけど、よーちゃんがそう思っていないかもと思うと告白には至れなかった。
それから少しして変わってしまった。
よーちゃんは飛び込みでよく入賞して、可愛い衣装が作れて、料理が上手で、大抵のことが出来るようになった。それに比べて私には何も無い。全てが普通で、誇れるものなんて……。
そんな私がよーちゃんと居ても、よーちゃんは幸せにはなれない。だから、私は好きという気持ちに蓋をした。この気持ちを知られれば、よーちゃんとの関係が壊れてしまうと思ったから。恋の歌を考える時も、よーちゃんの事が好きという感情に蓋をしていたから、誰にも恋してないことにした。
もしも、私にも何か誇れるものがあれば何か変わったかもしれない。でも、そんなものチカには無い。
みんなは私がいい歌詞を書いてくれるからAqoursの曲がよくなるって言うけど、私が作詞をしているのは最初、梨子ちゃんが作曲、よーちゃんが衣装を担当していたから、発案者の私も何かしないといけないと思って作詞を始めただけ。あの時はそれでよかった。
でも、それからはどうだろ?たくさんの本を読んで語彙力のある花丸ちゃん。二年前に作詞をしてたらしい果南ちゃん。二人に比べたら私はそんなに語彙力も経験もない。だから、作詞もこのまま私が続けていいのかな?もしかしたら二人がやった方が、もっといい曲になるのかも。
今になって思えば、そうしていればもっとランキングも上がったのかな?
「ていっ!」
「あうっ!」
考えているうちに暗い方向に行き、その途中で果南ちゃんが私の頭に軽く小突いた。
「なんか難しげな顔してたけど、何考えてたの?」
「分からないのにやったのぉ?」
私は小突かれた部分を手で押さえて文句を言う。だけど果南ちゃんはさして気にする様子は無かった。
「大体、千歌は間違ってるよ。曜の幸せなんて曜にしか分からない。それなのに、なんで千歌が決めつけちゃうわけ?」
「だって……」
「曜がなんでも頑張るのは、曜が頑張れば千歌が褒めて、喜んでくれるからだよ。千歌自身だってそんなことわかってるでしょ?」
「でも……」
「千歌は曜と離れてもいいの?このままだとさらに距離ができちゃうよ?もう、前みたいに仲良くできなくなるかもよ?千歌はそれでもいいの?」
「……いいわけないよ!よーちゃんと一緒に居たいよ!」
果南ちゃんの言葉に私ははっきりと否定の言葉を口にした。よーちゃんと離れ離れになるなんてチカには耐えられない。本当は今日だっていつもみたいに喋りたかった。
よーちゃんが居てくれたから友達が増えた。
よーちゃんが居てくれたからAqoursが始められた。
よーちゃんが居てくれるから色んなことを頑張れた。
よーちゃんがいたからチカは恋を知れた。
よーちゃんがいないと千歌は何もできなくなっちゃう。よーちゃんと離れるなんてチカには考えられない。いや、考えたくない!
今の中ぶらりの状態で居続けるなんて……。
よーちゃんと話したい。
よーちゃんの笑顔がみたい。
よーちゃんと笑い合いたい。
よーちゃんと幸せになりたい!
「なら、千歌が今すべきことは分かる?」
「うん。よーちゃんとちゃんと話してくる。チカのこの気持ちを伝える!」
「うん。それでいいんだよ。あと、さっき千歌は曜といたら曜が幸せになれないっていたけどそうじゃないよ。曜が幸せになれないのなら、千歌が全力で曜を幸せにするんだよ。そして、千歌自身もね」
「……果南ちゃん」
「ほら、行った。こういうのは、善は急げだよ!ただでさえ二日経っちゃったんだから」
果南ちゃんはそう言いながらチカの背を押す。
私はつんのめりながらも一歩踏み出して走り出す。家を出るとバスは行ったばかりで次のを待っているのも嫌だった。
だから私は……。
~~~
「はぁー、今日も千歌ちゃんと話せなかった……」
私はバスを降りた後、家に着いて部屋に入るとベッドに倒れ込んでため息をついた。千歌ちゃんに告白してから、千歌ちゃんとはまともに話せていない。そもそも、振られたわけなんだから、簡単に話せるわけもないか。
どうして、断ったんだろ?千歌ちゃんには好きな人がいたのかな?私の事が本当は嫌いだったのかな?だから、断ったのかな?
はぁー、どうして告白しちゃったんだろ。
私が千歌ちゃんに告白しようと決心したのは東京からの帰りにみんなで目標を決めた後だった。もっと前から千歌ちゃんの事が好きだったけど、伝える勇気がなくて言えずにいた。一度は千歌ちゃんが私の事をどう思っているのか分からなくなってたけど、自転車で私のところまで来てくれて、想いは強くなった。そして、Aqoursが次の一歩を踏み出したのを機に伝えようと決心して、告白をした。
告白しないでこの気持ちを自身の中に蓋をしておけば、こんなことにならなかったのかな?
そんなことを考えていると、階段を登って来る音が聞こえてきたから身体を起こす。ママが来たのかな?
コンッコンッ
「Hello、曜。入っていいかしら?」
「えっ!?鞠莉ちゃん!?」
ドアの向こうにはなんでか鞠莉ちゃんがいた。いつの間にうちに来たんだろ?というか、ママも来たなら言ってよ。
「曜?」
「あっ、うん。どうぞ」
「失礼するわよ。曜のママさんが曜に声を掛けたのに返事が無かったからそのまま通してもらっちゃった」
どうやら、ママは声をかけたらしいけど、考えに耽っていたから気付かなかったみたい。そんなわけで鞠莉ちゃんが来たのはわかったんだけど。
「なんで、鞠莉ちゃんがここに?」
「そうね。それについては追々わかるわ」
鞠莉ちゃんはとりあえず私の勉強机の椅子に座り、私はベッドの上で姿勢を正す。あの日もこんな夕暮だったっけ。
「それで、ちかっちと何があったの?」
「なにも、ないよ……」
「嘘ね。何も無ければあんなにぎくしゃくしてないわよ」
「……」
「ぶっちゃけトークするわよ」
私は否定したけど、鞠莉ちゃんは確信があるようで引き下がらず、私は黙り込んだ。そしたら鞠莉ちゃんは椅子から離れて、私の頬を両手で挟んでそう言った。
どうせ言ったって……。
「なになに?もしかして、ちかっちに告白したとか?」
「……うん」
「……そう。そして、ちかっちは」
「――断られちゃった。えへへ」
鞠莉ちゃんは私が千歌ちゃんに告白したのだと想像していたようで、当たっていた。そもそも、鞠莉ちゃんには私の気持ちがばれている訳だから、そこに行きつくのはそう難しいことではないよね。
「どうしてなんだろ。なんで……私振られ、ちゃったんだろ……」
思い出すと、私の目から涙が零れ出す。あの時はギリギリ千歌ちゃんの前では泣かなかったけど、家に着いて部屋に入ったら大号泣した。
そんな私を鞠莉ちゃんは優しく抱きしめる。
「そう……頑張ったわね。今は泣いていいわよ。この部屋には私以外、誰もいないから」
「うん……ありがと……」
私は鞠莉ちゃんに抱きしめられた状態で泣き続けた。鞠莉ちゃんは優しい手つきで背中をさすってくれた。
「どうして、千歌ちゃんは私を振ったの!?私は千歌ちゃんの事が好きなのに」
「うん」
「私と一緒じゃ、やっぱり嫌なのかな?私の事嫌いなのかな?……なんで……」
それから、私は気持ちを吐露し続け、鞠莉ちゃんは静かにそれを聞いていてくれた、そうして、どれくらい時間が経ったのか、傾いていた夕日がさらに傾いた頃、私は泣き止んだ。
「ぐすんっ。ありがと、鞠莉ちゃん」
「いいのよ。これくらい」
鞠莉ちゃんは笑顔でそう言うとハンカチを取り出して私の目元を拭う。それから、私たちは椅子に腰かけた。
「それで、落ち着いた?」
「うん」
「そう。それで、ちかっちに振られた理由はわかる?」
「ううん。断られたら逃げるようにちょうど来たバスに乗っちゃったから。でも、千歌ちゃんは私の事を友達として好きってだけだったんだよ」
千歌ちゃんが断った理由はそんなところだろうと思いながら口にする。それくらいしか思いつかないし。
しかし、鞠莉ちゃんはそうは思っていなさそうだった。
「たぶん違うわね。もしそうならちかっちの方は曜から距離を取らないわ」
「そう?振った相手だから話しづらいんじゃ?」
「そうも考えられるけど、私は別の理由があると思うわ。流石にどうしてかはわからないけど」
「別の理由?」
鞠莉ちゃんの言葉に首を傾げる。他に理由なんて私には思いつかないけど。
「まぁ、ちかっちの事情なんて私は知らないわ。そんなのちかっちに聞かないと分からないことだもの。だから、そんな目で見ないでちょうだい」
「鞠莉ちゃん……」
「でも、一つ分かるわ。ちかっちは曜と一緒に居たいと思っている。幼馴染の絆は固い物よ」
鞠莉ちゃんはウインクしてそう言う。
幼馴染の絆、か。果南ちゃんと鞠莉ちゃんはそうかもだけど。私たちの場合は。
「それで、曜は一回振られただけで諦めてしまう程度だったの?」
「それは……諦めたくないけど。でも、千歌ちゃんの気持ちなんて」
「そう、わからないわ。でも、それは前の話。告白してダメなら、OKしてもらえるまで諦めなければいいのよ」
「鞠莉ちゃん。でも、そんなこと」
「ちかっちへの好きな気持ちはその程度ではないでしょ!なら、ちかっちにぶつかりなさい!ダメなら何度だって、励ましてあげるわ」
鞠莉ちゃんは笑みを浮かべてそう言う。
千歌ちゃんの事が好き。振られた今でも未だに残っている。この気持ちを簡単に無くすなんてできない。
千歌ちゃんが居てくれたから飛び込みも衣装作りも頑張れた。
千歌ちゃんがいてくれたからスクールアイドルというキラキラした世界を知れた。
千歌ちゃんがいてくれたから好きという感情を知れた。
千歌ちゃんがいてくれたから私の世界はずっと照らされていた。
それくらいまで千歌ちゃんの事が好き。千歌ちゃんがいない生活なんて考えられない。
「私、もう一度告白してみる。また振られるかもしれないけど、それでもこの気持ちを消したくない!」
「そう……それでこそ曜よ。私は応援しているわ。それで、いつ告白するの?」
「それは……うん。今から千歌ちゃんの家に行って会って来る!」
「それがいいわ。こういうのは早い方がいいわね」
鞠莉ちゃんは優しい表情でそう言うと、私の背を押す。
「行ってきなさい!そして、ちかっちに想いを伝えて来なさい!」
「うん。行って来るね!」
背中を押された私は走り出す。そして、バスを待っているのも億劫だから、自転車を引っ張り出すとそのまま走り出した。
~~~
私は自転車でひたすら走った。よーちゃんの家までひたすらに……。
「よーちゃん!?」
「千歌ちゃん!?」
もう少しでよーちゃんの家というところで、自転車に乗って走っていたよーちゃんと出会った。と言っても記念公園の辺りだからまだ距離はあるんだけど。
私は少し戻って信号を渡って来るよーちゃんを待つ。
「よーちゃん。伝えたいことがあるの!」
「うん。私も」
よーちゃんと会うと私はそう切り出し、よーちゃんも何かあるのかそう言った。
そして、私たちは道路で話す内容でもないし、邪魔になるからと海岸へ移動した。
チカとよーちゃんは自転車を降りると砂浜に腰を下ろす。
「よーちゃん。この前はごめんね」
「ううん。私の方こそ、いきなり言っちゃって。いきなりすぎて困っちゃうよね。私の事好きじゃないんだから」
「えっ!?私はよーちゃんの事嫌いじゃないよ!」
「そうだよね。でも、好きって訳でも――」
「何言ってるの!チカはよーちゃんの事が大好きだよ!よーちゃんと付き合いたい!よーちゃんと恋人になりたい!ずっと一緒に居たい!」
「えっ!?」
「あっ」
よーちゃんが“私はよーちゃんの事が好きじゃない”と思っているようでそれを否定した勢いで告白というか、なんというか。とにかく言っちゃった!もっと雰囲気がよくなってから言おうと思ってたのに。
よーちゃんは私の言葉に驚きの表情をしていた。そうだよね。告白を断ったんだからね。
「千歌ちゃん?どういうこと?でも、一昨日はごめんって」
「……うん。一昨日のことはごめんね。チカがちゃんと自分の気持ちに素直になっていればよかったのに」
「どういうこと?」
私はそれから話した。よーちゃんと比べてチカには何も無いこと。そんな私と居たらよーちゃんが幸せになれないんじゃないかと思っていること。だから、チカのよーちゃんへの気持ちに蓋をして告白を断ったこと。
よーちゃんは静かにそれを聞いてくれた。
「千歌ちゃんはそう思ってたんだ」
「うん。チカはチカ自身のことを好きになれないんだよ。何かこれだってモノがあれば良かったんだけど」
「千歌ちゃんにもあるよ!」
「そうなの?」
よーちゃんはチカの目を見てはっきりとそう言った。チカなんかにそんなモノなんて。
「千歌ちゃんには人を引き付ける魅力がある。みんなを想う優しさがある。人を笑顔にする力がある」
「そんなのみんなにもあるよ」
「ううん。千歌ちゃんがスクールアイドルを始めようと言ってくれなかったら、私はスクールアイドルになってなかった。Aqoursのみんなともこんなにも仲良くなれなかった。千歌ちゃんだから、みんなが集まったんだよ。東京での出来事だって、千歌ちゃんは自分が暗くなったらみんなも暗くなるって、明るく振る舞ってくれた。千歌ちゃんだって悔しかったはずなのに。私はあの時諦めかけてた。千歌ちゃんの気持ちを聞くのが怖かった。もしも、辞めるって言ったら後戻りができなくなると思ったから。でも、千歌ちゃんは辞めなかった……諦めなかった」
「でも……」
「それに、私は千歌ちゃんとずっと何か一緒に何かをやって成し遂げたかった。千歌ちゃんがいたから……私が何かをすれば千歌ちゃんは笑顔で一緒に笑ってくれたから、私はなんだって頑張ってこれた。千歌ちゃんがいなかったら、私は何もできなかったよ。だから……自分をそんな風に悪く言わないで!」
引き付ける魅力、想う優しさ、笑顔にする力。
そっか。チカには何も無いと思ってたけど、ちゃんとあったんだ。
「そんな千歌ちゃんだから、私は千歌ちゃんの事を好きになった。千歌ちゃんがまだ誇れるものが無いって言うのなら、一緒に探そ?一緒に見つけよ?」
「よーちゃん……」
「千歌ちゃんと居る時間は私にとって幸せな時間なんだよ?千歌ちゃんと居たら私が不幸せになるなんて言わないで!」
チカと居る時間がよーちゃんの幸せな時間。
なんだ、結局チカの勝手な思い込みだったんだ。だったら、もうこの気持ちに蓋をする必要も無いんだね。私は私の気持ちに素直になっていいんだね。
「だから……千歌ちゃん、私と付き合ってください!私と一緒に幸せになってください!」
「……うん、私の方こそ。こんなチカだけど、よーちゃんの彼女にしてください!私と一緒に幸せになってください!」
二人が付き合うところで終わしにしたのは、区切りが良さそうだったからです。
お読み下さりありがとうございました。
次はどの組み合わせにしようかな?
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初恋と告白【ルビまる】
「ふぅ」
マルは人付き合いが苦手で、引っ込みがちな性格。だから、一人でいることが多くて、本がマルの拠り所。だから、図書室が学校の中だと大切なマルの居場所だった。
その日も、放課後まで図書室にいた。生徒は図書委員の子だけで、その子も本を読んでいるから静かな時間が図書室に流れていた。
そして、読み終わったことで一息つくと、後ろで本のページ同士が擦れる音がして振り向いた。いつの間にそこにいたのか、赤い髪をツインテールにした女の子が、棚の前にしゃがんで本を読んでいた。
その子をちょうど読み終わったのか本から目線を外し、マルと目が合う。
「ふふっ」
「にひっ」
笑みを浮かべると、その子も笑みを返してくれた。
その子は黒澤ルビィちゃん。マルの大切な友達で、初恋の子。
~~
「うーん。どうしたらいいんだろ?」
「さっさか告ればいいじゃない……」
ルビィちゃんと出会ってからもう三年の歳月が流れていた。その間に親友と呼べるくらい仲良くなったけど、告白には至れず三年間ずっと片想い。
そんなわけで呟くと、反対側に座って本を読んでいる善子ちゃんが呆れた調子でそう言う。
ここは部室で、今はマルと善子ちゃんの二人だけ。二、三年生はまだ来てなくて、ルビィちゃんはお手洗いに行っている。
「できたら苦労しないずら。でも、告白したせいで嫌われちゃって、今の関係が壊れたらって思ったら……」
今ある関係が壊れるかもと考えると、やっぱり無理。それに、これ以上望んじゃいけない。今の距離間のままいられればそれで。
「まぁ、わからなくもないけど。何が原因で壊れるかなんてわかんないし」
善子ちゃんも、マルの思っていることに対してわかってくれてるみたいでそう言う。
「でも、壊れるのが怖いからやらないって言うのはあなたにだけは言われたくないわ」
「え?」
でも、善子ちゃんはさっきの発言からそんなことを言う。さっきとガラッと意見が変わったことで、驚きとよくわからないからそんな声が漏れていた。
「私が学校に行けなくなってて、でもみんな気にしてないって言ったわよね?あの時内心は不安だった。学校に行ったらみんなに笑われるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか、いじめられるんじゃないかって」
「そんなこと……」
「でも、結果から言えば、そんなことは無くてみんな優しく迎え入れてくれた。だから、今私はここに居る」
善子ちゃんの一人語りに相槌を打ちながら静かに聞く。たしかに、あの時マルは善子ちゃんに何の心配もいらないからって来るように話した。
「あんなことを言ったあんたが何?ルビィはあんたに告白されただけで距離を置く?無いわね。最初は戸惑うかもしれない。仮にフッたとしても、その上ですぐに二人は元の関係に戻れるに決まってる。あんなたちの関係はそんなやわなもんじゃないでしょ?」
「それは……」
「それに、なんでフラれる前提にしてる訳?両想いの可能性はずら丸にはない訳?」
「そうだったらって思ったけど、そんな都合良く思えないずら」
ルビィちゃんもマルのことが好きだったらどれだけいい事か。でも、そんなマルの都合良く行くなんて思えない。そんな都合良く思って、フラれたりしたら……。
「はぁー。仮にフラれたら、慰めるし。私がいる時は二人の仲くらい取り持つわよ。だから、当たって来なさい。いつまでもその気持ちをルビィに隠して想い続けたくないでしょ?」
「……うん」
「なら、行って来なさい。ちなみにルビィは今手洗いじゃなくて、中庭に呼び出されてるわ。ラブレターを貰っただとか」
「え?」
「さてさて、急がないとルビィが他の人のモノになっちゃうわね」
どういうこと?ルビィちゃんがラブレターを貰った?そんな……。
「どうして。善子ちゃんが知ってるの?」
「そんなのルビィに相談されたからね」
「誰?」
「プライバシーだから黙秘するわ。今から割り込めば間に合うかもね」
一体誰がルビィちゃんに?
「どうして、止めてくれなかったの?マルの気持ち知ってたよね?」
「ええ。でも、進展する気は無かった。なら、止める理由は無いわ。大体どうやって止めろって言うの?ずら丸が好きだからって言えばよかったの?」
「……」
「さぁ、どうするの?今ならまだ間に合うかもよ?」
まだ間に合うかもしれない。ラブレターの相手が来る前に告白すれば……。
「マル行って来るね。やっぱり、マルはルビィちゃんの事が好き!」
「そう」
「このまま誰かと付き合うくらいなら、その前に……」
「なら行って来なさい。あと、これを渡しておくわ。ルビィに告白し終えたら開きなさい」
「これは?」
マルの意思を口にすると、善子ちゃんは一通の封筒をマルに渡した。これが何なのかはわからない。でも、今は聞いている時間も惜しくて、受け取る。
「行って来るね、善子ちゃん」
「ええ。行って来なさい。あと、ヨハネ!」
善子ちゃんのいつもの返しを聞きながら、マルは部室を飛び出して、中庭に向かって走る。
だから、その後の善子ちゃんの呟きをマルは知らない。
「ほんと、世話のかかるリトルデーモン達ね」
~~
「ルビィちゃん!」
「わっ!花丸ちゃん?」
中庭に着くと、木の前にルビィちゃん一人だけが立っていた。良かった。まだ、相手は来てないんだ。
マルの声にルビィちゃんは驚いた様子だけど、マルは気にしない。
「ルビィちゃん!マルはルビィちゃんの事が好きずら!」
「え?……えっ!?」
勢いでルビィちゃんに告白する。こうしないと多分ヘタレてしまう気がしたから。ルビィちゃんは驚いた様子だった。まぁ、マルもいきなりそう言われたら驚いちゃうと思うけど。
「初めて会った時から人目惚れ。そして、一緒にいる間もずっとその気持ちは変わらなくて……ううん。どんどん大きくなってた。だから、マルの気持ちを伝えるね。マルはルビィちゃんの事が好き。愛してる。マルと付き合ってください!」
「うぅ」
そう言ってマルはお辞儀をしながら右手を差し出す。ルビィちゃんから嗚咽のようなものが聞こえてくる。今どんな顔をしているのかわからない。この間が永遠のように感じられる。
手を握られても握られなくても、今までと関係は変わる。
そして、
「ルビィこそ、花丸ちゃんの事が好き!だからこちらこそ!」
ルビィちゃんの声と共に右手が握られる。
ルビィちゃんにフラれること無く、受け入れられた?
「え?え?」
「ふふっ。なんで、花丸ちゃんが驚いてるの?」
ルビィちゃんに受け入れられたことが現実とは思え無くなって、マルは驚きの声を漏らす。そんなマルに、ルビィちゃんは笑みを浮かべる。
夢なんじゃ?って思えたけど、マルの右手にある熱が現実だと実感させてくれる。
「ルビィもね。花丸ちゃんと一緒に居るうちに好きになってた。花丸ちゃんも同じ気持ちだって知ってうれしかったよ」
「マルも……ルビィちゃんがマルのことを好きでいてくれてうれしい」
こうして、今日長い長い片想いの日々が終わった。これからは両想いで一緒に過ごしていくんだ。
「あれ?そう言えば、ラブレターの相手は?」
「うーん。来ないんだよね。でも、花丸ちゃんの事が好きだから断るつもりだったけど」
未だに現れないラブレターの相手にマルたちは首を傾げる。ルビィちゃんがラブレターの相手の告白を元から断るつもりだったのだと知ってうれしい気持ちになる。
「あっ、そう言えば善子ちゃんがマルにこんなものを託してたずら。来るまでに見てみるね」
一向に来ない相手を待つ間に、善子ちゃんがマルに渡した封筒の存在を思い出して取り出す。一体何が書いてあるんだろ?
――ずら丸、ルビィ。これを見てるってことは、告白は済んだわよね?とりあえず、おめでとう。
半年近く相談に付き合わされてたわけだし、ようやくお役ごめんね。あっ、ルビィに出したラブレターだけど、あれは今の状況を作るためのモノだから、誰も来ないわ。じゃぁ、最後にいつまでもお幸せに。
堕天使ヨハネより――
封筒の中の手紙にはそう書かれていた。えーと、どういうこと?とりあえず、ラブレターの相手は善子ちゃんで、マルたちをこの場に集めるのが目的だったってこと?
「花丸ちゃんも善子ちゃんに相談してたの?」
「うん」
ルビィちゃんも手紙を見ると驚いていた。“も”てことはルビィちゃんも善子ちゃんに相談してたみたいだけど。
つまり、善子ちゃんはマルがルビィちゃんの事が、ルビィちゃんがマルのことが好きって知ってたってこと?はぁー。だから、さっさか告白するように勧めてたずらか。
まぁ、善子ちゃんが急かさなかったらずるずる引きずっていたんだろうけど。
「まぁ、善子ちゃんのおかげで気持ちを伝えられたし、許しておこうかな?」
「うゆ。じゃぁ、部室に戻ろっか。練習が今日もあるからみんなを待たせちゃうだろうし」
「そうだね」
マルとルビィちゃんはそう言って、中庭を後にする。手を繋いでこの幸せを感じながら。
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好きの気持ちに気付く時【よしりこ】
「よっちゃん、私と堕天しよ?」
「え?……え?」
私は学校の屋上でリリーに壁ドンされていた。練習終わりに話があるからって、みんなが先に戻る中私とリリーは屋上に残り、瞬く間にこんな状況に。
なんで壁ドンされているだとか、リリーにそう言われてるとかわからないことだらけ。
「よっちゃん?」
返答に困っているとリリーは首を傾げる。
えーと、この場合の堕天はきっといつも私が言っている事。うんうん。だから問題ない。いや、私のリトルデーモンになれって意味なのに、リリーに言われるってことは私がリリーのリトルデーモンになれってこと?そう考えると、どういうこと?
最近リリーをこっち側に引っ張ってきたと思ったのに、まさかの反逆?くっ、ぬかったわ。まさか、主たる私に反逆しようとは。
「うーん。うまく通じなかったか」
「ん?」
「よっちゃん、私と付き合って!よっちゃんの事が好き!愛してる!」
付き合って?私の事が好き?愛してる?・・・えっ!?
どういうこと?リリーが私の事が好き?
「え……え?」
「あはは。いきなりだから驚かせちゃったよね」
「Likeじゃなくて、loveの方なのよね?」
「うん。loveの方の好きだよ」
一応聞き返してみたけど、どうやらそういうことらしい。
リリーとは仲いいけど、まさかそこまでだったとは思ってなかった。
私だって、リリーの事は好きだけど、私はlikeの方の好き。
リリーのことをそういう風に見たことなんてないからどう返したらいいの?
「えーと」
「あはは、いきなりすぎて驚いちゃったよね。よっちゃんが私の事をそういう風に見てないことはわかってるから、返事はいつでもいいからね」
困っていると、リリーはそう言ってぱたぱたとみんなの事へ走って行き、私は力が抜けてその場にへたりこむ。
リリーは優しいから返事を待ってくれた。でも、いつまでも待たせるわけにもいかないと思う。
「はぁー、なんて返事をすればいいのよ」
~~
リリーに告白されて数日が経った。その間に考えたけど、未だに返事が決まらない。リリーはまるで告白なんてなかったかのように私に接し、私はぎこちないながらもどうにか返す日々が続いている。
告白を受け入れても受け入れなくても、今の関係からは変わってしまう。リリーの事は好き。でも、リリーが私に向けるそれとは違うから受け入れることができない。そんな中途半端な状態で受け入れるのはリリーに失礼だから。
昼休み、私は一人屋上で塀に背中を預けて、おにぎりを食べながら小さく呟く。
「はぁー、どうすればいいんだろ?」
「どうかしたの?」
「ん?ずら丸?」
すると、屋上にずら丸がやって来て私にそう声かけた。今日はふらーと屋上に一人来て、ずら丸はルビィと一緒に教室でお昼を食べているはずなのに、どうしてここに?
「なにか悩み気な表情で出て行ったから気になって」
私の表情からそう読み取ったのか聞く前に説明すると私の隣に座る。私ってそんなに顔に出るのかしら?まぁ、心配されたってことはそういうことなんだろうけど。
「別になんでもないわ」
「嘘ずらね」
「なんでよ!」
「悩みがあるのは一目で分かるよ。それにさっき、どうすればいいんだろ?って呟いていたずら」
「あっ……」
言われて気付いたけど、そう言えば私が呟いたら現れた訳だし聞かれてたか。となると誤魔化しはもう無理か。
「例えばの話よ」
「ん?うん」
「好きと意識したことのない人に告白されたらどう返したらいいんだろ?」
「梨子ちゃんに告白されたからどう返事しようか悩んでるんずらね」
「ちょっ!リリーに告白されたこと一言も言ってないわ!」
「今言ったずら。どんな感じだったの?」
どうして一言も言ってないのに、ずら丸はリリーに告白されたって知ってるの?もしかしてみんなにも知られてる?
そんな心配をしながらも、あの日のことを話す。
「なるほどねぇ。まぁ、梨子ちゃんが善子ちゃんの事を好きなのは見ていればわかったし」
「え?ほんと?告白されるまで全く気付かなかったけど」
「意外と自分に向けられている好意には鈍感なものずら。恋愛小説でもそんな感じだったし」
「そういうのも読むのね……てことは、みんなも知ってるの?」
「さぁ?みんなが知ってるのかはわからないかな?それでどうするの?」
みんなが知っているのかはわからないけど、ずら丸が知っているのはそういうことだったみたい。
どうすればいいのかなんてわからないわよ。そもそもわからないから悩んでいるわけだし。
「まぁ、だから悩んでるんだよね。とりあえず付き合うんじゃダメなの?一緒に居るうちに梨子ちゃんの好きと同じになるかもしれないし」
「ダメよ。そんな中途半端な状態はリリーに悪いし」
「優しいね」
「優しくなんてないわよ。返事を待たせちゃってるんだから。ずら丸はどうすればいいと思う?」
「難しいずらね。恋愛はマルにはよくわからないけど、わかるのは。その答えは善子ちゃんにしかわからないってことかな?」
「そうよね」
結局、答えは私にしかわからない。そうなると、いよいよどうすればいいのやら?
「でも、一つマルに言えるのは、一度梨子ちゃんの事を考えて直してみることかな?一から梨子ちゃんの事を頭の中で整理すれば何か見えてくると思う。まぁ、ルビィちゃんの持ってる少女漫画の一つにあったんだけど」
「一から考えて見るねー」
キーンコーン、カーンコーン
「あっ、チャイム。戻ろっか」
「ええ。て、まだお昼食べ終わってない」
チャイムが鳴って、ずら丸は立ち上がり、私は膝に乗せていた弁当箱に残ったおにぎりを見てそう呟いた。
「あーあ。マルはここに来る前に食べてきたから問題ないずら」
「ちょっ、心配してた割にちゃんと自分のは済ませてたの?」
「当たり前ずら。さぁ、戻ろー」
「あんただけ食べ終えてるなんてずるいわ!」
「はいはい」
ずら丸に聞いてもらったからか、少しは気持ちがマシになったかな?答えを見つける手掛かりは見つかった訳だし。
~~
リリーを初めて見たのは体育館のライブの告知に沼津駅北口で見かけた時。でも、その時は受け取ってすぐに逃げる様に後にしたからノーカン。ちゃんと認識してみたのはライブのあの日。ステージの上で踊る三人は輝いて見えた。その時はまだ何とも思ってなかった。
それから、Aqoursに誘われ、東京でライブして、三年生が加わって、合宿をして、ラブライブに出場して夏休みが明けた。その期間の間、みんなと一緒に居る時間は楽しく、そんな時間が好きだった。
そんな中、三つのユニットに別れることになり、リリーと同じユニットになった。そのおかげでリリーと話す時間が増えて仲が良くなったんだっけ?
「あっ、そっか。答えなんて案外簡単だったのね」
ダイヤとマリーは生徒会と理事長の仕事、果南はその手伝い、ずら丸とルビィは図書の仕事、二年三人は掃除当番。そんなわけで、私は部室で今まで撮ったライブやPVを眺めていた。そして、わかった。
どうして、わざわざ休日に一時間近くバスに揺られて三人の最初のライブを見に行ったんだろ?あんな悪天候の中。
もっと、言えば、どうしてチラシを受け取るなり逃げるようにして後にしたのか。
一目惚れ。
あの日見た時にリリーがキラキラして見えたんだ。でも、あの時は単純に住む世界が違うと思ったから逃げ、その気持ちに気付かなかった。
でも、内心は気になっていたからあの日のライブを見に行った。
それからも、たびたびリリーに見惚れていた。でも、それは単純にリリーのようにキラキラしたものになりたいだけだと思ってたから本当の事には気づかなかった。
だけど、一度わかれば全てが繋がる。リリーのことを考えるとドキドキする。リリーと一緒に居ると落ち着く。
最初からリリーの事が好きだったんだ。でも、私が恋を知らなかったから気付かなかっただけ。
もう、リリーへの返事は決まった。
「おはヨーソロー!」
「コンチカ!」
すると、ドアが開いて、同時に二つの挨拶が響いた。おはようか、こんにちはのどっちかに統一しなさいよ。
そんなことを思いながら声の方を向けば、挨拶の通り千歌と曜がいた。
「朝振り。あれ?リリーは?」
でも、リリーの姿が見えず、私は首を傾げる。てっきり、三人同時に来るものだと思ってたけど。
「ああ、梨子ちゃんなら曲のイメージが浮かんだからって音楽室に行ったよ。ピアノで一回弾いてみたいからって」
「そう……ちょっと出てくるわね」
「ん?うん!いってらっしゃーい」
私は二人にそう言って部室を出る。たぶん、まだみんなは来ないだろうからたぶん平気なはず。だいぶ待たせちゃったから早く返事をしたい。この気持ちを伝えたい。
「ふぅ、やっと返事ができるようになったみたいだね」
「あはは。やっとチカ達解放されるね」
~~
~♪
音楽室の前に着くと、ピアノの音が聞こえる。リリーの弾くピアノの音も好き。聴いていると気持ちが落ち着く。
だからか、返事をする前に一度私の気持ちが落ち着いた。そのおかげでちゃんと伝えられるはず。
ドアを静かに開けると、リリーは目を閉じてピアノを弾いていて、私が入ってきたことに気付いた様子も無い。途中で止めるのも悪いから静かにドアを閉めて、静かにその音を聞く。
ピアノを弾くリリーは綺麗で(まぁ、ピアノを弾いていない時もきれいなんだけど)、そんなリリーの姿に見惚れる。それと同時にドキドキする。リリーの演奏で落ち着いてるはずだけど、やっぱりいざ告白の返事をするとなるとドキドキしてしまう。
「ふぅー」
パチパチパチ
「わっ!」
ちょうど区切りが付いたのか演奏が終わり一息ついたから、私は拍手をした。いい演奏だったから拍手をしたわけだけど、私の存在に気付いていていなかったリリーは勢いよく立ち上がりながら驚きの声をあげてしまった。
あっ、まずった。
「ごめん、驚かしちゃった」
「あっ、よっちゃん。ううん、気にしないで、私が大げさなだけだから」
「そう?」
「そうなの!それでどうしたの?こんなところに」
リリーの疑問はもっともだった。そもそも、リリーがここに居るのを私が知るはずがないし、用が無ければここには来ないと思うだろうし。
「千歌達に聞いてね」
「そっか……」
「それでね。あの時の返事を伝えに来たの。だいぶ待たせちゃってごめん」
「ううん、それは気にしないで。それで……」
「リリーの事が好き!だから、私と付き合ってください!」
「え!?……ほんと?」
リリーは口に手を抑えて驚いた表情をする。なんで、驚かれてるのやら?
「最初は私のリリーに対する気持ちは友達として好きだって思ってた。でも、今までの事を振り返ってわかったの。私はリリーの事が恋愛の意味で好きだったんだって。恋してたんだって」
「そっか、うれしい。もしかしたらフラれるかもって心配だったから」
「じゃぁ、どうしてあの時告白したのよ?」
フラれるのが心配だったら、あの時告白した理由が分からない。いや、告白してくれたおかげでこの気持ちに気付けたわけだけど。
「それは、まぁ。のんびりしてたらよっちゃんが誰かに取られちゃうんじゃないかって心配になって……」
「だから、告白したと」
誰かに取られるかもしれないから告白に至ったって……。私に告白する人がリリー以外にいるとは思えないけど。それに、誰かに告白されたらこの気持ちに気付いただろうから、その人と付き合うことも無いだろう。
あっ、そしたら、私からリリーに告白してたのかな?
「よっちゃん」
「ん?なに?」
チュ
「え?」
そんなことを考えて意識を外していたらリリーに声をかけられて、返事をするなりいきなりキスをされた。触れるだけの短いキス。でも、私にとってはファーストキス。驚きはあるけど、リリーだからうれしい。
私から一歩下がったリリーは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。そんな笑みを浮かべるリリーにドキッとした。こんな調子で私これからもつかしら?
「ずっと一緒だよ?」
「うん!」
まぁ、リリーと一緒ならそれもいいかな?
大好きだよ、リリー。
告白するまでにようちかの二人は毎日の様に相談されたり、告白後には、フラれないかと相談され続けていたりいなかったり。そんな、裏話があったりなかったり。
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私の気持ち【かなまり】
「じゃぁね、鞠莉」
高校一年の夏。私は留学に行く鞠莉を見送った。
東京のイベントで鞠莉が練習中に怪我をして、悪化するのが怖くてダイヤと話し合って棄権した。鞠莉は「棄権するべきじゃない」って言ったけど、怪我してる状態でできるわけがない事を指摘して渋々納得させた。
夏休みにある河川敷の夏祭りで、三人で踊ろうってことに一度はなったけど、偶然留学の話をしているのを耳にして私は本当にこのままでいいのか疑問に思った。そのことをダイヤに話せば、ダイヤもそのことを心配していた。だから、私は鞠莉に解散を切り出した。鞠莉は反発して大喧嘩。鞠莉のことを思っての事だから引く気は一切無かった。
そして、喧嘩別れの形で別れて、夏休みにすぐ入っちゃったから鞠莉とはあれ以来会ってなくて、去って行くヘリを淡島の頂上から見送るだけ。
「良かったんですか?」
「うん。これでいいんだよ……」
一緒に来たダイヤにそう言われたけど、これでいい。こんなところにいないで留学した方が鞠莉の将来の為になるんだから。
「はぁー。本当にそう思っているのなら、そんな顔しないでください」
「ん?」
「自覚なしですか」
ダイヤの呆れた表情。でも、私が今どんな顔してるかなんてわからない。ううん。わかりたくないよ。
鞠莉の将来を私が縛るなんてしちゃいけないんだから。
だから、私は自分の気持ちを押し込める。
鞠莉と離れたくない。ずっと一緒に居たい。
鞠莉のことが好きという気持ちを。
~~
あれから半年経った私の誕生日。去年までは夕方に千歌と曜に祝われ、学校と夜に鞠莉とダイヤが泊まりに来て祝ってもらってたっけ。
今年は昼に学校でダイヤに祝われ、夕方に千歌と曜に祝ってもらった。
去年みたいにダイヤが泊まることは無くて、少し寂しかった。でも、高校生にもなればダイヤも家が忙しいから仕方ないと割り切った。
みんなに祝ってもらったのはうれしかったけど、何かが足りない。
わかってる。鞠莉に祝ってもらえないからなんだって。もしかしたらメールか電話が来るかもって期待してたけど、そんな都合のいい事は起きなかった。喧嘩別れな形で別れたんだから当たり前だよね。
私からするのはおかしいから鞠莉から来るかもなんて期待をしてたけど、私の期待に反して鞠莉からも一度として連絡は来なかった。
高校二年の鞠莉の誕生日。でも、鞠莉は内浦にいない。そもそも私が鞠莉を送り出したのだから仕方ないか。
鞠莉の誕生日を祝いたい気持ちがあるけど、鞠莉は私の声を聴きたくないかもしれない。言葉を見たくないかもしれない。そう思うとこっちから連絡することができなくなる。
未だに鞠莉から連絡は無い。もう愛想尽かれちゃったよね?
こんなに離れていれば気持ちを無くなると思ってたのに、どんどん大きくなって行く。鞠莉に会いたいけど、会っちゃいけない。そんな矛盾した気持ちのまま日々は過ぎていく。
高校二年の私の誕生日。父さんが怪我をしたから休学したことで最近はあまりダイヤとも会えていない。去年と同じで一応三人に祝ってもらったけど、仕事でバタバタしててあまり一緒に居られなかった。
鞠莉と離れてから一年半。やっと私は気持ちが落ち着いた。と言うよりは、仕事でバタバタしてるからあまり他のことを気にしている余裕がないからかもだけど。
高校三年になった四月。千歌と曜がスクールアイドルを始めようとし始めた。どうしてと思ったけど、東京に行った時に知って影響されただとか。千歌の目はあの頃のダイヤと同じだった。
風の噂で鞠莉が帰って来たと聞いた。あのヘリを見た時、もしかしたらとは思っていたから驚きは無いけど、どうしてこのタイミングで?という疑問はあった。
せっかく鞠莉に対する気持ちが落ち着いたのに、会ったらまたあの頃の気持ちが戻ってしまう。あれで良かったんだって決めたんだから、もうあの気持ちに戻ってはいけない。戻ったら鞠莉に迷惑かけちゃう。
~~
「かな~ん」
「ちょっ、鞠莉!」
鞠莉に嫌われていると思ってたのに、二人に聞いた後いきなり鞠莉にハグされた。どういうこと?愛想尽かれたから連絡が来なかったんじゃないの?
それと同時に、鞠莉の顔を見て、触れられて、一瞬であの頃の気持ちがよみがえってきた。でもダメ。この気持ちはしまったんだから。
驚いて声を漏らすも鞠莉はハグした状態で私の胸に顔をうずめているから肩を掴んで無理やり離す。
「何しに来たの!」
「久しぶりに戻って来れたから会いに!」
「あっそ、おかえり」
鞠莉にまた会えて、帰って来てくれてうれしい。
最初、鞠莉は喧嘩別れしたことを忘れたのか、はたまたその上でこんな態度なのかわからなかったけど、鞠莉はあの頃の関係に戻ろうとしているのだと分かってしまった。鞠莉に嫌われていないみたいでうれしい気持ちになる。あんな別れ方をしたのに私を許してくれてるんだ。
でも、私の気持ちを口にすれば迷惑になるに決まっている。あの頃の関係に戻れば、またどこかで歯車が狂うに決まっている。また鞠莉の将来を危うくしてしまうに決まってる。
だから素っ気ない態度をとる。
それからもそんな日々が続いた。
「果南、またスクールアイドルやりましょ?」
「私休学中なんだけど?」
「もちろん、復学したらよ」
浦女が廃校になるかもしれないという話は二年前にもあった。そして、また廃校になるかもしれないという話が流れ始めていた。鞠莉が理事長になって、どうにか食い止めているという話は風の噂で耳にしていた。というか、鞠莉が理事長になった時点でそんな理由だと思っていた。
そんな中、鞠莉とまたスクールアイドル。叶うなら確かにやりたい。あの頃みたいに鞠莉とダイヤと一緒にやりたい気持ちはないわけではない。
「私たち、もう三年生だよ!もう、そんな余裕はないよ」
でも、もうあの頃のようにはいかない。また二年前のようになるのが怖い。次は取り返しがつかないところにまで来てしまうかもしれない。
だから、無理やり突き放す。高校三年生。受験生だし、スクールアイドルをしている余裕も無い。学校を救いたいのなら千歌達に任せればいい。やらない理由はそんな感じで挙げられる。
「かなーん!」
「うわっ」
特に何もないある日。鞠莉が現れるなり抱きついてきた。毎回会うと同時に抱きつかれるこの現状。その度に私は内心ドギマギしているけど、頑張ってそれを表に出さないようにする。
千歌達が東京のイベントから戻って来たその日。いつもの桟橋で鞠莉といた。千歌達がどうなったかは知らないけど、何の連絡もないってことは、何か失敗したんだと思う。でも、私の出る幕じゃない。それに、ダイヤが出迎えに行ったし。
「スクールアイドルで浦女を救うなんて無理だよ」
「だから、諦めろって言うの?」
「私はそうするべきだと思う」
私たちは途中であきらめた。だからこそ分かる。無謀な夢は叶えられない。無理に掴もうとすれば誰かが傷付くに決まっている。
鞠莉を見れば大きく腕を開いてハグの体勢。
「果南」
「誰かが傷付く前に」
でも、私はその横を通る。誰かが傷付く前に辞めれば傷付かずに済む。
前みたいに鞠莉といたらきっと鞠莉を傷つける。だから、鞠莉をハグなんてできない。
私は私の気持ちを偽る。傷付くのは私だけで十分なんだから。
「復学届出したのね」
「まぁね」
いつものランニングのゴールの弁天島。なんでかそこに鞠莉がいた。で、階段のところに付いて来た千歌達六人。
どうしよ、ステップ踏んでるの見られたー。スクールアイドルを毛嫌いしてるように思わせてたのに、よりにもよって鞠莉に見られるなんて。
「やっと逃げるの諦めた?」
「勘違いしないで。復学してもスクールアイドルはやらないよ。どうして戻って来たの?」
「それはもちろん、廃校を阻止するために。果南とダイヤと一緒にあの頃を取り戻すために」
「ッ!……私は鞠莉に戻って来てほしくなかった」
鞠莉があの頃を大切に思ってくれているのはうれしい。でも、やっぱりダメ。そんなの許されない。
鞠莉が戻って来てから日に日に胸が苦しくなる。鞠莉に素っ気ない態度を取り続けるのが辛い。本当はそんな態度取りたくない。
私が無理やり送り出したんだから、そもそももう私にその資格は無いか。
~~
「果南さん、何か悩みでもあるのですか?」
そろそろ復学する週末のある日。私の家に来たダイヤにそう聞かれた。
未だに鞠莉とは疎遠。私が遠ざけ続けているだけだけど。でも、このままでいい。多くを望んじゃいけないんだから。
「特に悩みなんてないよ」
だから、私はダイヤにも嘘をつく。こんなの相談できるわけ無いよ。
「嘘ついてますね……」
「嘘ついてないよ」
「いいえ。顔を見てればわかります。果南さん、今すごく辛そうですよ?」
それなのにダイヤは見抜いてしまう。私と鞠莉を一番近くから見て来たダイヤだからこそ気付けた。でも、ダイヤには気付かれる気もしていた。三人で居た頃から、私の鞠莉への気持ちを察していただろうし。
「もしかして、好きな人がいるのですか?果南さん、告白されても毎回断っていましたし」
「あはは、私に好きな人?ないない」
「はぁー、また嘘つく……幼馴染なんだからなんとなくわかるりますよ」
「はぁー、確かに居るよ」
「やっぱり。てっきり鞠莉さん以外の誰かかと思ってましたが、どうやら今の鞠莉さんに気持ちを伝えるのを躊躇ってるっと言ったところのようですね」
「よくわかったね」
「それくらいわかりますよ。告白しないのですか?」
「しないよ。私とじゃ釣り合わないの。私と居たら不幸にしちゃうの。だから、いいの」
告白を勧められるけど、告白なんてできるわけがない。だから、するつもりはない。
でも、ダイヤは私の答えに気を召さないのか首を傾げる。
「不幸になる?よくわからないけど、そんなことあるモノなのですか?あの頃の鞠莉さんは果南さんといる時間が幸せそうでしたけど」
「そういうモノだよ」
「どうして不幸になるって果南さんが思っているのかはわからないけど、だったら果南さんが幸せにしてあげればいいのでは?」
「ムリムリ。私じゃどうやっても無理だよ」
私が鞠莉を幸せにしてあげられるなんて思えない。そんなの分かり切っていること。
それなのにダイヤは不機嫌そうな顔をする。なんでダイヤがそんな顔をするのやら?
「果南さん、どうしてやる前から諦めちゃうのですか?いつもの果南さんらしくないですよ?」
「私らしさって……」
「わたくしの知ってる果南さんは簡単には諦めないで、まっすぐ突き進む。悩みがあればまっすぐ正面からぶつかる。そんな性格」
「そんなの昔の話だよ」
今の私は過去に引きずられて一歩を踏み出せない、ただの臆病者。ダイヤの言うような私は昔の私のだけだよ。
「ほらほら、そろそろ帰りな。家の事とか忙しいんでしょ?」
これ以上言われるのが嫌になって、ダイヤを無理やり帰らせる。これ以上言われたら気持ちが揺らいじゃうよ。
「はぁー。言っても無駄のようですね。では、一つ忠告しておきますわ。果南さんが鞠莉さんの事を心配しているように、鞠莉さんも果南さんの事を心配している」
「え?どういうこと?」
「これ以上は本人に聞きなさい。わたくしもすべて話すほど時間があるわけではないので。家の事で忙しいので」
ダイヤは悪戯っぽい笑みを浮かべるとそう言って帰って行ってしまった。
鞠莉が私の事を心配してる?どういうことなんだろ?
結局、ダイヤの言葉の意味も分からないまま、私は復学して登校する日を迎えてしまった。
~~
『部室で待ってるわ』
復学したその日。鞠莉はスクールアイドルをやろうと言ってきて、私はそれを突っぱねた。突っぱねる訳を知っているダイヤは私の味方で、それから千歌に怒鳴られ、でも本当の事を言わずに私は家に戻っていた。
そして、二年ぶりに鞠莉から短いながらのメールが送られてきた。
どうして急に送ってきたのかわからないながらも部室に行くと、鞠莉が部室の中に立っていた。入り口には水たまりがあり、雨の中ここまで走ってきたみたい。
「鞠莉……」
「どうして言ってくれなかったの?果南が私の事を思うように私も果南のことを考えてるのよ?将来の事?留学?そんなのどうでもよかった。あの時果南が歌えなかったんだよ?放っておけるはずない!」
パンッ!
「私が果南を思う気持ちを甘く見ないで!」
ダイヤから本当の事を聞いたみたい。ダイヤの性格なら無理に聞かれれば話してしまうのはわかってた。でも、昨日の感じからして、たぶんそろそろ決着を付けたかったんだと思う。
鞠莉が私を思う気持ち?そんなの分からないよ!あの頃鞠莉は「次はリベンジしよう」とか「他のグループに負けていられない」とか言っていた。それ以上の事は言わなかった。
「だったら、ちゃんとそう言ってよ。リベンジとか負けられないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」
「だよね。だから」
すると、鞠莉は自身の頬を私に向ける。きっと、私に叩けって意味。だから、私は手を振り上げ……鞠莉のことが気になってダイヤと一緒に鞠莉のホテルに忍び込んだあの日を思い出した。今思えばあの頃、ハーフでキラキラして見えた鞠莉のことが気になって、ホテルに忍び込んだ。そして、鞠莉に見つかって、どうすればいいのかわからなくなった結果、鞠莉にハグをした。今思えば我ながら考え無しだったと思うけど、あの時はそのおかげで鞠莉と仲良くなって忍び込んだことはお咎めなしになった。
そして、鞠莉と一緒に居るうちにどんどん惹かれていった。そして、鞠莉の事が好きになっていた。鞠莉ならスクールアイドルになって注目を浴びれるって気持ちもあったけど、鞠莉と一緒に居たい気持ちもあった。思い浮かぶのは鞠莉とダイヤの三人で過ごした日々。
それに、本当の気持ちを隠していたのは私も同じ。
だから、今すべきことは、叩くことなんかじゃない……
「ハグ……しよ」
仲直りをすることなんだ。私たちはまだあの頃の喧嘩別れをした状態のまま。
だから、私は一歩を踏み出すのが怖かった。鞠莉はあの時の事を恨んでいるんじゃないか。私の事なんて嫌いになってるんじゃないかって怖かった。
「果南……うあわぁぁん」
「う、うぅ」
私たちは抱き合っておもいっきり泣いた。今までの時間を埋めるかのように。
どれくらいの時間が経ったのか、私たちはお互いに泣き止むと、外はだいぶ暗くなっていた。
仲直りした今。これで私は一歩踏み出せる。鞠莉が本当の気持ちを口にしてくれたんだから、次は私の番。もう過去の事に臆病になる必要も無いし、そもそも私にはやっぱり似合わない。ダイヤに言われた通りまっすぐにぶつかった方が私らしい。
「鞠莉、大事な話があるの」
「ん?なに?」
「鞠莉の事が好き」
「ん?私も果南の事が好きよ」
「ううん。たぶん鞠莉の思ってる好きとは違う。鞠莉の事愛してる」
「え?」
顔を真正面に見るのは恥ずかしいからハグしたまま告白をする。たぶん、今私の顔は真っ赤だと思う。
鞠莉は驚きの声を漏らす。
「初めて会った時に気になって、どんどん惹かれていった。留学に行ってからはどうにか鞠莉への気持ちを忘れようとしたけど、やっぱり忘れられなかった!だから、こんな私だけど、付き合ってほしい」
「……私も果南の事が好き。愛してる!嫌われたと思ってたけど、それでも果南の事が好きだった。向こうで告白されたことは何度もあったけど、その度に果南の顔が浮かんで断ってた。だから、こちらこそ」
私の告白を鞠莉は受け入れてくれた。もしかしたらって不安もあった。鞠莉のハグは友達としての添えかもって心配もあったから。
だからうれしい。仲直りができて。両想いだと分かって。
「大好きだよ、鞠莉」
「大好きよ、果南。もう離さないんだから」
「うん!私だって!」
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トライアングルラブ 前編 【ようちかりこ】
アニメの内容も多々あります。
「じゃぁね」
「うん、また来週。サークル頑張ってね」
友達に手を振って私は大学構内を出る。
高校を卒業した私は東京の大学に進学した。結局、最終的には十千万で働くつもりだけど、料理をちゃんとできる様になれということで調理学校に。お父さんにならうのも選択肢にあったけど、外の世界で色々なことを学んで来いということで私は勉強中。
今日は夏休み中にあった特別講習。参加は任意だったけど、参加した方が得られるものは多かったのと、気を紛らわせるのによかったから受けた。結果から言えば、色々なことを学べたからやってよかった。
友達はサークルをしてるけど、私は特にやっていない。何かやろうと思ったりもしたけど、ピンと来なくて結局やらずに今に至る。
そんなわけで、明るい道を一人歩く。大学から私の住んでいる家までは電車数駅と少し歩いた場所。
電車に揺られて最寄りの駅で降り、とぼとぼ道を歩いて家に着くとドアを開けて「ただいまー」と言って中に入る。まあ、誰もいないから返事なんて返ってこないんだけど。
荷物を自分の部屋に置くと、椅子に座って机に突っ伏す。
しーんと静まりかえっている家。どこか空虚に感じる。本来なら講義の予習・復習をするべきなんだろうけど、今はそんな気分にはならない。
少し顔を動かすと目に入るのは二つの写真立てに入った二枚の写真。
一つは浦女の卒業式・閉校式の後にAqours九人で十千万前の砂浜で撮った写真。
もう一つは、高校卒業の日に私とよーちゃん、梨子ちゃんの三人で私のスマホで自撮りした写真。真ん中に左手でピースしている私、私の右隣に敬礼してるよーちゃん、私の左隣に小さくピースしている梨子ちゃん。私たちは肩寄せあって三人とも笑顔だった。
「よーちゃん、梨子ちゃん、会いたいよぉ」
その写真立てを手に取って小さく呟く。
でも、二人ともいないから私の願いは叶わない。
「うぅ」
そして、最近あまり眠れていないからか私はウトウトして眠りに落ちる。
私はよーちゃんと梨子ちゃんの二人に恋をした。でも、そんなのおかしい事で、間違っていること。だから私はあの日、自分の気持ちを閉ざした。
これはそんな私の過去の夢。
~☆~
梨子ちゃんと初めて出会ったのは、二年に進級して初めて登校した日の夕暮。梨子ちゃんがキラキラして見えて、目を奪われるように見ていたら、いきなり海に飛び込もうとしたから慌てて駆け出して止めようとした。残念ながら、私も一緒に海に飛び込む形になっちゃったけど。
それから梨子ちゃんが東京から来たのを知って、翌日転校生として再会した。梨子ちゃんがピアノを弾けることは砂浜で聞いていて、もう作曲できる当てが梨子ちゃんしかいなかったから、何度も梨子ちゃんにお願いをした。あの後思ったけど、ちょっと強引すぎたかな?あれは後で反省した。
それから一緒に海に潜って、梨子ちゃんの探していた海の音を聴いたことで梨子ちゃんが作曲してくれることになった。でも、一緒にスクールアイドルはやってくれそうになかった。だけど、その日の夜に、ピアノを弾く梨子ちゃんを見て思った。梨子ちゃんならきっとスクールアイドルをやれば輝けるって。梨子ちゃんは最初ピアノを諦める訳にはいかないからって断ってたけど、私はそうは思わない。スクールアイドルをやったからって、ピアノができなくなるわけじゃない。少し回り道。ううん、別の事をすれば何か見えてくると思ったから。
その結果、梨子ちゃんもスクールアイドルをやってくれることになった。作曲ができて、一緒にスクールアイドルをやってくれてうれしかった。
それから、体育館でライブして、ルビィちゃんと花丸ちゃん、善子ちゃんが加わって、内浦の人みんなの協力でスカイランタンが上がる中ライブをした。その後、東京のイベントに参加して、誰も投票してくれてなくて挫けかけたけど、まだ何も見えてないと気づいて、みんなでその先を見ようと決めた。果南ちゃんたちの仲違いが終わって三人が加わり、私たちは九人で夏祭りのステージに臨んだ。
今思えば、あの三カ月の間で色々なことがあった。そして、家が隣の梨子ちゃんとは毎日のように寝る前に喋って、気付いた時には惹かれていた。
でも、その頃はまだただ単に仲良くなったから友達として好きって感じだと思ってた。
本当の気持ちに気付いたのは、夏休みにやった合宿の後だった。
「梨子ちゃん、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
夏休みに入り、練習時間を増やすために合宿をすることになった。本当は昼間に練習する予定だったんだけど、海の家のお手伝いをしなくちゃいけなくて、その時間に練習が無理だったから朝と夕方にやるためにこうなった。本当は私と曜ちゃん、果南ちゃんだけのはずだったけど、みんなも手伝ってくれて、ダイヤさんが言うには接客でルビィちゃんたちの人見知りを少しでも改善しようだとか。たぶん、思い付きのこじつけだろうけど、手伝ってくれるのはうれしかった。
海の家での接客、夕方の練習、夕ご飯と一日目を過ごして、私は時折梨子ちゃんが何か考えてるような暗い表情をしているのを見て気になってた。でも、聞いても何もないとはぐらかされる。うーん、私が考えすぎなのかな?
ソースが切れちゃったってことで家に取りに行くと、志満姉と梨子ちゃんのお母さんが玄関で何か話していた。内容はピアノコンクールがあるらしくて、でも梨子ちゃんがどうするつもりなのかわからないということだった。ピアノコンクールあるんだ。ん?じゃぁ、梨子ちゃんそれで悩んでるのかな?出ればいいのに……。
そう思って調べてみると、ピアノコンクールの予選の日とラブライブの予備予選の日が被っていた。だからわかった。梨子ちゃんはどっちを取るか悩んでいるんだって。
寝ている梨子ちゃんを起こして砂浜で聞いてみれば、
「私はラブライブに出るよ。最初は考えた。でもこの合宿を通して、皆といる時間が大切だと思ったの」
「え?」
「それで、ちゃんと考えた。どっちが大切かって。そして、決めたの。一緒に予選に出るって。今の私夫目標は今までで一番の曲を作って、予選を突破することだよ」
「そっか」
梨子ちゃんはラブライブを取ってくれた。きっと一人で悩んだ末に決めたんだと思う。だから、私がその気持ちに何か言うのはダメな気が知ってしまった。
「だから、早く歌詞頂戴ね」
「えー」
だから、家に戻る梨子ちゃんが一瞬暗い顔をしたのに何も言えなかった。
「うーん」
「どうかしたの?千歌っち?」
「悩みでもあるんですか?」
翌日も午前中と夕方に練習、昼間は海の家で仕事をして過ごした。梨子ちゃんは特に何もないかのように振る舞っていたけど、やっぱり時折暗い顔をしていた。たぶん、コンクールを諦めきれたわけじゃないんだと思う。でも、私は梨子ちゃんみたいに一心に打ち込めたものが無いから、なんて言ったらいいのかわからない。よーちゃんだったらきっと何か言ってあげられるんだろうなぁ。
そうして砂浜で悩んでいると、鞠莉ちゃんとダイヤさんがやって来た。どうすればいいのかわからないけど、梨子ちゃんの事を勝手に言う訳にもいかないから、二人に相談することもできない。
でも、せっかく心配してくれてる二人に嘘をつくのも嫌。
「友達があることに悩んでたんだけど、悩んだ末に一つの結論を出したの。でも、私は本当にそれでいいのかわからなくて。本当は無理してるんじゃないかって思って」
だから、ぼかしながら相談をしてみる。二人は私の言葉を聞くと少し考える素振りをする。
「つまり、それを伝えるべきか悩んでいると」
「うん」
「うーん。悩みが何なのかわからないから私たちがこうすべきって言えないわね。その子の悩みを聞いても平気?」
「ごめん、勝手に言う訳にはいかないから」
「そう」
梨子ちゃんの事に関係するから、流石に言う訳にもいかずにそう言うと、二人はそれ以上踏み込んで来ることはなかった。
「その方が無理しているようで、千歌さんが思う事があるのなら、ちゃんと言葉にするべきでしょうね」
「でも、私が口出すのは……」
「いいのよ。友達なら思ったことは口にして。思っていることをちゃんと口にしなかったらどうなるかわかるでしょ?」
鞠莉ちゃんと果南ちゃんがお互いの本当の想いを伝えなかったことで生じたすれ違い。鞠莉ちゃん本人の事だからこそ説得力がある。
自分の気持ちを隠すのはいい事とは限らない。場合にもよるけど、今回に関してはたぶん、伝えるべきなんだと思う。
でも、本当にそれでいいのか、梨子ちゃんに迷惑がられないかっていう心配が生まれる。
「思っていることを伝えるのに躊躇う気持ちもわかります。ですが、それに怯えて踏み出さないのは千歌さんらしくありませんわ」
「そうそう。私たちの時にグイグイ来たんだから」
「それは……」
「だから、真正面からぶつかりなさい!誰なのかは知らないけど、千歌っちの友達ならきっとちゃんと聞いてくれるわ」
「そうかな?……うん。そうだよね」
二人が言う通り、何もしないのは私らしくない。そもそも、梨子ちゃんをスクールアイドルに誘った時だって強引だったもんね。だったら、今回だって。
「ここだったら、どれだけ弾いても大丈夫。だから聴いてみたいの。お願い」
「そんないい曲じゃないよ?」
その日の夜。みんなが寝鎮まった頃に梨子ちゃんを起こして、浦女の音楽室に来た。最初はただ思ったことを伝えようと思ってたけど、そう言えば梨子ちゃんの弾くピアノをちゃんと聴いたことが無いからここに来た。丘の上で誰もいないから、近くに住んでいる人の迷惑にもならない。梨子ちゃんは困惑しながらも弾いてくれた。私は静かに聴いた。
梨子ちゃんのピアノには梨子ちゃんのピアノを大好きって気持ちが籠っていて、やっぱり私は伝えようって思った。
そして弾き終ると、私たちは学校を出てバス停の椅子に座った。
「いい曲だね。梨子ちゃんがいっぱい詰まってた。梨子ちゃん……ピアノコンクールに出てほしい……こんなこと言うのは変だよね?スクールアイドルに誘ったのは私で、せっかく梨子ちゃんがAqoursの方が大切って言ってくれたのに」
「私が一緒じゃ嫌?」
「ううんそうじゃないの。一緒がいいに決まってるよ!」
梨子ちゃんはそう言い、私はそれを否定する。梨子ちゃんと一緒にステージに立ちたい気持ちはある。
「でも、思い出したの。最初に梨子ちゃんを誘った時のこと。あの時思ったの。スクールアイドルを続けて、梨子ちゃんがまたピアノと向き合えるようになって、また前みたいに前向きに弾けたらって。そうしたら、すてきだなって」
「でも……」
「うん。この街が、みんなが大切だって言うのはわかるよ。私もおんなじ。でもね。梨子ちゃんにとってのピアノも同じくらい大切だと思ったの……だから、その気持ちにちゃんと答えを出してあげて」
私は思っていることをちゃんと口にした。梨子ちゃんはAqoursも大切に思っていてくれていて、ピアノコンクールに出たら、みんなに迷惑がかかるって気持ちもあったんだと思う。
「ここで待ってる。みんなと待ってるって約束するから」
だから、私はそんなこと思わずに梨子ちゃんの嘘偽りのない気持ちでちゃんと決めてほしかった。自分が一番望む形で。
「ほんと、変な人……大好きだよ」
「ふぇ?」
梨子ちゃんに“大好き”と言われた瞬間、胸がドキンッと鳴った。
「千歌ちゃん、もう少し考えてみるね。自分が本当にどうしたいか」
「うん!ちゃんと梨子ちゃん自身が納得する答えを見つけてね」
考える間もなく、梨子ちゃんは続けてそう言い、私は考えるのを一度止めた。梨子ちゃんはどうしたいかをちゃんと考えてくれる。だから、それで梨子ちゃんが選んだ答えに背中を押そう。
梨子ちゃんはピアノコンクールに出ることになり、私たちは八人で、ううん、離れていても想いは一つだから気持ちは九人で臨んだ。
それからは梨子ちゃんの事を目で追ってしまった。
それで気づいた。私は梨子ちゃんに恋していたんだって。今思うと初めて梨子ちゃんに出会った時に一目惚れしてたんだと思う。でも、その時は恋なんてよくわかってなかったから、梨子ちゃんに一目惚れしていたんだと分からなかった。
あの日“大好き”といわれたことがきっかけで、梨子ちゃんに恋しているのだと気づいた。それから一緒に過ごした事で、仲良くなって梨子ちゃん、よーちゃんと三人でいる時間が好きになっていた。そして、あの日を境に梨子ちゃんと顔を会わせるだけでドキドキするようになった。
梨子ちゃんに好きだという気持ちを伝えたい気持ちもあったけど、それで今の関係が壊れるのが怖かった。そのせいでラブライブに影響したらと思って、せめてラブライブが落ち着くまでは伝えないことにした。もし、落ち着いてからもこの気持ちが残っているのなら、梨子ちゃんにこの気持ちを伝える。私はそう決めた。
でも、二つの理由から私は梨子ちゃんに気持ちを伝えられなくなった。
一つは、地区予選で敗退して決勝が終わってすぐのタイミングで次のラブライブが発表され、みんなでラブライブに出場することになって練習の日々になったこと。それと同時に浦女の廃校がほぼ決定したという話が流れたから。その為に、どうにか廃校阻止をしようということで忙しくなり、このタイミングで告白するわけにはいかなくなったから。
もう一つは、梨子ちゃんへの気持ちに気付いてすぐ。よーちゃんにも恋しているのだと気付いたから。
~☆~
よーちゃんの家と果南ちゃんの家含めて家族ぐるみで付き合いがあった。だから、物心がついた頃からよーちゃんと一緒に居た。幼稚園も小学校も中学校もいつも一緒この辺りは子供が少なかったからクラスも一クラスか二クラスで、そのおかげかずっと同じクラスだった。
浦女に入学する前によーちゃんの家が沼津の方に引っ越した時は、高校は別々になるんじゃないかって心配したけど、よーちゃんは浦女に入学した。沼津の高校の方が飛び込みのできるプールが近いし、そもそもよーちゃんの家からだとそっちの方が近いから浦女に入学した理由が分からなかった。聞いても、秘密にされちゃってほんとのことはわからない。
よーちゃんとはほとんど一緒に居たからもう姉妹のような感じで、一緒に居ることが当たり前だった。それまでは、よーちゃんに対する気持ちは単純な家族愛、姉妹愛みたいなものだと思ってた。
でも、私は本当はそんなんじゃなくて、恋愛の意味で好き、いわゆる愛しているのだと気づいた。
そう気づいたのは夏の予備予選が近づいた、よーちゃんの家に行ったあの日の後だった。
「もう一度、梨子ちゃんと練習してた時みたいにやってみて」
「えっ、でも……」
「いいから」
梨子ちゃんがピアノコンクールに出ることになって起こった、センター不在問題。残り僅かになった時間で選べる選択肢の結果、梨子ちゃんの位置によーちゃんが入ることになった。よーちゃんとのダブルセンター。よーちゃんの隣に立てる機会ってことで内心舞い上がってた。まぁ、表には出さないでおいたけど。
でも、どうしても歩幅がうまく合わなくてぶつかっちゃうことを繰り返していた。どうしてうまくいかないのかわからないまま練習は続き、結局練習時間中にうまく行くことは無く、その日の練習時間が終わった。わかったことといえば、梨子ちゃんと合わせていた歩幅が染みついちゃってることくらい。
帰りにコンビニに寄って、コンビニの横の空きスペースで練習を続ける中、よーちゃんがそう言った。
梨子ちゃんの時みたいって言われて、聞き返そうとするもよーちゃんが動き始めて慌てて私も動く。
結果はぶつかること無くきれいにそろった。
その時は成功したことがうれしくてあまり気にしなかった。でも、翌日やってみて何か違う感覚に襲われた。何が違うのかわからない。せっかくうまく行ったのに、ここでそれを言ったらダメな気がしてそれを口に出せない。せめて、この違和感の正体に気付ければ。
「うーん、どうすればいいんだろ?」
「そんなの、練習あるのみよ」
「マルもそう思うずら」
「あれ?三人とも何してるの?」
練習終わりに部室に忘れ物をしたから部室に戻って来ると、パソコンとにらめっこして呟く三人がいた。どうしてルビィちゃんたちがここに?花丸ちゃんの図書委員の仕事を手伝いに二人も行っていたはずなのに。ちなみによーちゃんは家の用事でもう帰っている。果南ちゃんたちは生徒会の仕事だとか。
「あっ、千歌ちゃん。どうしたの?」
「あはは。忘れ物を取りに。どうしてここに?」
「くっ、秘密の特訓がばれてしまったか」
「うまくいってない部分があったから、練習風景を見て苦手な部分の復習をしようと思って」
「図書の仕事はもう終わってるずら」
「あっ。じゃぁ、チカも見る。いいものにしたいからね」
三人がここにいる理由はそういうことだった。図書委員の仕事って言うのは口実だったみたい。
棚に置いていた歌詞ノートを鞄に入れると、特に急ぐ理由もないし、もしかしたら違和感の正体が分かるかもってことで私も隣に座って一緒に見る。
パソコンに流れる映像は今練習中の曲で、やっぱりあのステップはきれいにそろっている。うーん、やっぱり違和感の正体が分からない……。
「ねぇ。私とよーちゃんのこのステップどう思う?」
わからないから、三人に意見を聞いてみる。もしかしたら何かわかるかもって期待を込めて。
「ん?綺麗にできてると思うよ。流石二人だよね」
「うんうん。息ぴったり」
「最初は心配だったけど、見事に合致してるわよね」
でも、私の望む答えではなかった。そもそも、この違和感自体私の勘違いかもしれないけど。
「あっ、でも。二人らしくないかも」
「え?」
「あっ、マルもそれは思った」
「そうね。二人らしくないなって。二人ならもっと大きく動いてるような」
「うん。なんだか梨子ちゃんとやってる時みたいで……」
「それに、二人とも無理に合わせようとしてて、無理してる感じがするかな?」
「あっ!」
それでわかった。よーちゃんが梨子ちゃんの動きをしていて、よーちゃんらしさを感じない。まぁ、よーちゃんらしさが何かって聞かれたらうまく説明できないけど。でも、よーちゃんにはよーちゃんのステップがあって、梨子ちゃんの形に合わせるのは違う気がする。私とよーちゃんだけのステップがある気がした。
今わかったところで、やり直すわけにもいかないけど。きっと、またうまく合わずにぶつかっちゃう。
「もしかして、今から曜ちゃんとやり直すの?」
「ううん。流石にそんな時間無いよ」
衣装もまだ完成していない以上、時間に余裕はそんなにない。それにうまくいく保証もない。もしかしたらそのせいで今のステップも崩れちゃうかもしれない。
「ルビィのわがまま言っていい?」
「ふぇ?」
「ルビィは二人が本当の意味で納得する形にして欲しいかな?少しでも違和感があると思ったら、納得する形になるまでやって欲しい」
「でも、衣装もまだだしそんな時間……」
「衣装ならルビィと私が手伝ってどうにかするわ」
「うゆ!」
「こういう時くらいマルたちを頼って欲しいずら。マルたちは仲間であり友達。友達は頼り頼られあうものだよ?」
「ルビィちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん……」
私が一歩踏み出すのを躊躇っていると、その原因を察してか三人はそう言ってくれた。こういう時は頼って本当にいいのかな?ううん、こう言ってくれてるんだから、頼らないとダメだよね?
「ありがとう、三人とも!行って来るね!」
「ええ。あと、ヨハネよ!」
「千歌ちゃん、がんばルビィ!」
「いってらっしゃーい」
三人にそう言って私は部室を出た。バスが来るのはまだ先だから、私は走って家に帰る。そして、家に着くと練習着に着替えて家を出た。本当は車で送ってもらいたかったけど二人とも忙しそうだった。だけど、バスが来るのを待っている気分じゃないから自転車を引っ張り出して、一気にペダルをこいで走り出す。
よーちゃんの家までは結構距離があるけど、練習のおかげか息が上がるる事もなくすいすいと進んで行く。
よーちゃんの家に着く頃には陽は完全に落ちて暗くなっていた。
「よーちゃん!」
「……」
「よーちゃーん!」
「千歌ちゃん?どうして?」
家の前で呼ぶと、一度目は反応が無かったけど、二度目で顔を出してくれた。私がここにいる事に疑問を持っているような表情をしていた。
「練習しようと思って」
「練習?」
「うん!私考えたの。よーちゃんは自分のステップでダンスした方がいいって。合わせるんじゃなくて、よーちゃんと私の二人で!」
私は私の思ったことをぶつける。すると、よーちゃんは奥に引っ込んでしまった。あれ?急にどうしたんだろ?
そんなことを考えていたらドアが開く。でも、何故かよーちゃんは後ろを向いていて、じりじりと近づいてきて腕を伸ばして、私の肩に触れる。
「千歌ちゃん、汗が」
「あはは。バスも終わってたし、美渡姉も志満姉も忙しくてね。だから自転車で」
この距離を走るのはやっぱり無茶だったのか汗はすごくかいてる。そもそも夏だしね。
「よーちゃん何か気にしてそうな気がして……私の想像だけど。あはは」
「私、バカだ……バカヨウだ」
「バカヨウ?」
すると、よーちゃんが振り返るなりいきなり抱きしめてきた。それと同時に「バカヨウ」って言っていた。どういうこと?
「よーちゃんどうしたの?何で泣いてるの?」
「いいの!」
話を聞こうにも、よーちゃんは泣いているから話が聞けない。そんな訳でよーちゃんが泣き止むまで私もよーちゃんに抱きついた。よーちゃんに抱きしめられていると落ち着く。それに、胸がドキドキする。
よーちゃんが泣き止むと、どうして泣いていたのか教えてくれた。
最近梨子ちゃんと仲良くしてたから、本当は私がよーちゃんと一緒に居るのが辛いんじゃないかと思っていたこと、ピアノコンクールの事をよーちゃんに相談しなかったから頼りないのかと思っていたこと。
「私は千歌ちゃんと一緒に何かやりたいってずっと思ってた。だから、一緒にスクールアイドルができるってなった時うれしかったの」
「うん、私もよーちゃんと一緒に何かできるってなってうれしかった。中学に入ってから、よーちゃんの誘いよく断っちゃってたから。普通の私じゃ、中途半端にしかできないからって」
よーちゃんが気持ちを話してくれたから私も気持ちを口にする。それから、今まで思ってたことを全て打ち明けた。その結果、今まで以上によーちゃんの事がわかった。
それから、私とよーちゃんだけのステップを目指して練習をして、なんとか納得できる私たちの形にできた。
そして、予備予選を私たちは突破することができた。
それからすぐ、私はどうしてよーちゃんに抱きしめられた時ドキドキしたのか気になった。果南ちゃんにハグされた時も落ち着きはするけど、あの時みたいにドキドキしない。
だから、気付いた。
私はよーちゃんに恋してるんだと。よーちゃんと一緒にいるのが当たり前になっていたから、この気持ちが恋なのだと気づくのに時間がかかったけど、梨子ちゃんと同じくらいよーちゃんと居てもドキドキする。だからそうなのだと分かった。
でも、梨子ちゃんとよーちゃんの二人の事が好きになったことで、どうすればいいのかわからなくなってしまった。こんなの普通の事じゃないし、二人に告白して受け入れてくれた方と付き合うなんてことをしていい訳が無い。二股なんてやっちゃいけない。
だから、どちらかを選ぶしかない。
そう決めて、梨子ちゃんとよーちゃんのどちらの方が好きなんだろうと考えた。でも、結論は出なかった。どっちも好きで、だから選べない。
その結果、私はずるずると引きずりながら日々を過ごした。どちらにしろラブライブが終わるまでは告白するつもりは無い。決勝まで行ければ、三月までは時間がある。それに、廃校を阻止するから、どっちにしろそれくらい先の話だと思う。
そうして時間は流れ、私たちは予備予選、地区予選と突破していった。でも、廃校を止めることはできなかった。あと一歩のところだったのに。
その結果、本当にラブライブの決勝に臨んでいいのかわからなくなったけど、浦女の名前を残すことを目指してまた走り出した。
二人に対する気持ちはあいかわらずで、前よりも大きく膨れ上がっていた。
決勝が終わったら、この気持ちをはっきりさせよう。きっと輝きが見つかれば、私の本当の気持ちもわかる気がしたから。
でも、私は優柔不断にしていたらいけなかったんだと、この気持ちをもっと早くにはっきりさせておけばよかったのだと後悔した。
「梨子ちゃんの事、だぁーい好き!」
「私も曜ちゃんの事大好きだよ!」
卒業式・閉校式の日。よーちゃんと梨子ちゃんのその言葉を聞いてしまったことで。
千歌ちゃんの大学選択は勝手な想像です。
さて、やたらと長くなったので前後編にわけています。
後編は明日中には投稿予定です。まだ、書き終わってない・・・。
では、ノシ
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トライアングルラブ 後編 【ようちかりこ】
アニメの内容も多々あります。
決意して迎えた決勝。私たちAqoursはラブライブで優勝して、浦の星の名前を残すことができた。今までで一番のパフォーマンスができたと思う。でも、私の探していた輝きは見つからなかった。
ラブライブが終わったけど、私の気持ちははっきりと固まっていない。二人の事が好きなのだと気付いて半年経つのに未だに曖昧なまま、果南ちゃんたち三年生が卒業する日。そして、浦の星女学院が閉校になる閉校式の日を迎えた。
いつも通りに登校して、卒業式、閉校式は特になんのアクシデントもなく終わった。
みんなそれぞれ浦女での思い出の場所に行く中、私は手洗いに行ってから二人がいる音楽室に向かって歩いていた。風に乗ってピアノの音色が響いていて、やっぱり梨子ちゃんの弾くピアノの音色が好きだなぁと実感する。
そして、音楽室前にたどり着くと、演奏は終わっていて二人は窓際に立っていた。いざ中に入ろうとドアに手をかけ、
「梨子ちゃんの事、だぁーい好き!」
「私も曜ちゃんの事大好きだよ!」
二人のそんな言葉が聞こえてきた。だから、私はそこで手が止まる。
え?二人ともお互いの事が好き?
あはは。なんだ、そうだよね。こんな特に誇れるもののない私の事を好きな訳ないよね。
それに、お淑やかで綺麗な梨子ちゃんと、いつも明るくてかっこいいよーちゃん。うん、どう考えてもお似合いな二人。私が割り込む余地なんて全くない。
二人が付きあえば、私の恋は叶わない。
でも、二人の言葉を聞いても、二人への気持ちは全く変わらない。まぁ、どうにもならないけど。
きっと、二人を同時に好きになってしまった私への罰だよね?諦めよう。私じゃ、二人には敵わない。私が諦めれば、三人の間でぎくしゃくすることは無い。付き合った二人を私が祝福してあげないと!
あっ、それとも私はもう二人に近づかない方がいいのかな?二人だけの時間が欲しいだろうし、私はあまり近づかないようにしないと邪魔になっちゃうよね?
だから、私は自分の気持ちに嘘をついて、音楽室に入るのをやめてこの場を去る。こんな状態で二人と会えばどうなっちゃうかわからないから。
「千歌?」
「果南ちゃん、ダイヤちゃん、鞠莉ちゃん……」
「千歌っち、暗い顔してるけどどうかしたの?」
「ん?あはは。浦女とお別れだと思うとね」
廊下を歩いていたら三人と遭遇した。鞠莉ちゃんの手には賞状があるから、二人は無事に渡せたみたい。
やっぱり、私の表情は暗くなってるみたいで、三人は心配そうに私を見る。でも、本当の事なんて言えないから、嘘をつく。一度自分の気持ちに嘘をついちゃったから、もう嘘をつくのにも抵抗ないや。
「そうですわね」
「もう少し見て回りたいから行くね」
「ん、わかった」
今は一人になりたい気分だから、三人にそう言うと私は三人と別れて屋上に向かう。
今の時間なら、屋上には誰もいないはずだから行くと、予想通りそこには誰もいなかった。
「うぅ」
塀の前で浦女全体を見渡し、屋上で一人になると、我慢していた涙が零れる。
浦女が閉校になるのは辛い。
卒業して遠くに行っちゃう果南ちゃんたちとの別れが辛い。
よーちゃんと梨子ちゃんへの気持ちが叶わないとわかって辛い。
どうして、今日一日に辛い事が連続しちゃうんだろ?別々の日にならまだ耐えられたかもしれないけど、こんなの我慢するのは無理だよ。
「よーちゃん、梨子ちゃん」
浦女で過ごした日々。九人で過ごした日々。よーちゃんと梨子ちゃんの三人で過ごした日々。目を瞑ればそんな日々が巡る。
今頃、きっと二人は互いの告白の返事をして付き合うことになったんだろうなぁ。あっ、そもそも音楽室で待っててって言っちゃったから、待ってるのかな?だったら、もう少し待っててほしいなぁ。
せめて、この涙が乾くまでは。
「何処で間違えちゃったんだろ?」
「さぁ?どうなんだろうね?」
「ん?果南ちゃん?」
一人呟くと、私の言葉に返事が返ってきた。声だけで果南ちゃんだと分かる。果南ちゃんは近づいて来るのか足音が響く。でも、足音が一つだから、果南ちゃん一人だけのようだった。
どうして果南ちゃんがここに?
目元を拭って、果南ちゃんの方に身体を向ける。
「どうかしたの?果南ちゃん?」
無理矢理笑顔を作って果南ちゃんに聞く。果南ちゃんに心配をかけたくない。だから、あの時みたいに私は私の気持ちを偽って何事も無いように振る舞う。
でも、果南ちゃんは私を見て「はぁー」とため息をついた。
「泣いてたの見えてたし、目元赤いし、色々手遅れ。気になったから追いかけてきたんだよ」
「あはは」
「で、どうしたの?」
「さっきも言ったけど、浦女とお別れするのが寂しくって。なんか色々思い出しちゃってね」
私の本当の気持ちなんて、口にしなければ私以外は知れない。だからこそ、嘘をついてやり過ごす。ううん、浦女が無くなるのも寂しいから完全に嘘って訳でもないか。
「そっか。で、それ以外にも何かあったでしょ?」
「ふぇ?なんのこと?」
「誤魔化さないの。何年の付き合いだと思ってるの?千歌が何か隠してるのなんて私には見破れるよ」
「隠してなんて……」
「曜と何かあった?それとも梨子ちゃん?」
果南ちゃんは首を傾げながらも言ったその言葉は合っていた。たぶん勘で言ったと思うけど、まさか当たるなんて。
「二人は関係ないよ?」
まぁ、当たったところで本当の事は話さないけど。こんなの話したって困らせちゃうだけだよ。
「なるほど、二人が関係してるのか」
「なんで?関係ないって言ったよ?」
「ん?だって、嘘ついてるでしょ?だいたい、千歌が二人に何か思ってることがあるのは前から分かってたし。千歌が相談してこないってことは踏み込んでほしくないと思ったから聞かないでいただけだよ」
「だったら、このまま放っておいてよ……」
「うーん、それは無理かな?もうすぐ千歌達と長期間会えなくなるし、高校生最後のお節介ってことで」
「勝手すぎるよ……」
「知ってる。でも、私が千歌の性格を知ってるように、千歌だって私の性格わかってるでしょ?」
果南ちゃんは悪びれた様子はない。果南ちゃんらしいけど、相談するのには抵抗がある。
そもそも、二人の事が同時に好きなんてしたら、普通引かれるに決まってる。
「ほらほら、早く言ってよ。それとも、私じゃ役不足?」
「そんなこと無いけど……」
「だったら、聞かせて?ここに居るのは私だけ。それに、どんな重いのが来たってちゃんと聞くし、内容がどうあれちゃんと受け止めるからさ」
これ以上、隠そうとしても果南ちゃんも引かずに聞き続け、ずっとこのままな気がした。
「ほんとに引かない?」
「引かないよ。てか、そんな内容なの?」
確認の意味を込めて聞くと、果南ちゃんはその言葉で困った顔をした。でも、大丈夫。果南ちゃんならちゃんと聞いてくれる気がした。
「チカね。よーちゃんと梨子ちゃんの事を好きになっちゃったの」
「好きって言うのは……」
「恋の方の意味だよ。二人の事が同じくらい好き。気づいたのは夏で――」
それから、一通り話した。
合宿を終えた後に梨子ちゃんの事が好きだと気づいたこと。
夏にやった予備予選が終わった後によーちゃんの事が好きだと気づいたこと。
でも、二股なんてやっちゃいけないからどちらか一人に決めようと思ったこと。
それなのに、気持ちは変わらず、どんどん膨れ上がっていたこと。
未だにどちらかを選べないこと。
「って、感じで」
「なるほどね」
「果南ちゃんはどう思う?やっぱり引く?」
「ううん。私だって鞠莉とダイヤの事は大好きだよ。私の二人に対するそれよりも、千歌は曜と梨子ちゃんの事が大好きなだけ」
「そうなのかな?」
果南ちゃんはチカの話を静かに聞いてくれて、そう言ってくれた。普通の大好きよりも、私が二人の事が大好きなだけ、か。果南ちゃんは引いたりしなかったけど、それは私の事を知っているからで、知らない人からすれば引かれると思う。
「告白はしないの?気持ちを胸の内に抑え込み続けるのは辛いよ?」
「無理だよ」
「二人ならきっと、ちゃんと聞いてくれると思うよ?」
「二人に同時に告白するのはやっぱりダメだよ……どちらか一人にしか告白しちゃダメだよ。」
「ありゃ。でも、一人に絞れないんでしょ?それと曜か梨子ちゃんか片方を選ばなくてもいいんじゃない?あの時だって、二つのどちらかを選ばなくちゃいけなくて、でもどちらも大事だったから両方選んだ」
果南ちゃんが説明会と予備予選が被ったあの日のことを言っているのはすぐわかった。たしかに、あの時は両方選んだ。どうにかできる道があったからどうにかなった。でも、それとこれとは話が別。二人に同時に告白なんてしちゃダメだよ。
それに、
「そもそも、告白なんてできないよ……さっきね。見ちゃったの」
ついさっき二人が告白しているところを見てしまったこと。
だから、もうこの気持ちを無かったことにしようと思ったこと。
それを話すと果南ちゃんは困った顔をする。
二人が告白してたんだから、もう手遅れだよ。
「二人の告白現場に遭遇ねー」
「だから、告白なんてできないよ」
「本当にそれでいいの?」
「うん」
両想いの二人に告白なんてするべきじゃない。私が我慢することで丸く収まるのなら私はそうするだけ。それが一番に決まってる。
「ありがとう、果南ちゃん。話したらだいぶ気が楽になったよ」
悩みを口にしたおかげか気持ちがだいぶ軽くなった気がする。そう考えると、果南ちゃんに話したのは正解だったのかな?
でも、果南ちゃんは納得がいかないのか何か考えている。
「そもそも、本当に二人が告白し合ってたのかって言うのも疑問だけど?」
「でも、見たもん」
「ただ単に友達として大好きって言い合ってただけって可能性もあるでしょ?」
「……確かに」
今更ながらその可能性もあった。二人の前後の会話を聞いていないから、そもそもどういう流れで大好きって言い合ってたのかもわからない。もし果南ちゃんの言う通りだったら……。
「じゃぁ、二人の告白が千歌の勘違いだったら告白する?」
「ううん。こんな状態じゃ二人に悪いよ」
仮に勘違いだったとしても、告白なんてしちゃダメだよ。よーちゃんと梨子ちゃんに迷惑だと思われちゃうよ。
「ダイスキだったらダイジョウブなんじゃないの?」
「いや、大丈夫じゃないよ」
「未熟DREAMERってことで」
「いや、ダメでしょ。夢は夢だよ」
「想いよひとつになれってことで」
「一つなわけないよ!というか、さっきからなんで私たちの曲使うの!」
「いや、ノリ?とにかく、ぶつかりなよ。私はそうすべきだと思う。だいたい千歌は思った通りに動いた方がらしいよ」
「私らしいって……」
私らしいってなんだろ?まっすぐぶつかる?でも、それじゃダメだと思う。
「人のことを考えちゃって自分の事は後回しにしちゃう。人の機微には鋭いのに、自分の事は鈍感」
「貶してるの?」
「ううん。千歌は自分の事よりも誰かの事を優先しちゃうってこと。いい事ではあるけど、たまには自分の事を優先していいんだよ?」
「でも、それだと迷惑をかけちゃう……」
「いいんだよ。友達なら迷惑をかけたって。二人だって、千歌が悩みを溜め込むことを望んだりしないよ?千歌だってみんなが悩みを溜め込むことを望まないでしょ?」
みんなが悩みを抱えて、それをため込んでいたら助けたいって思う。
でも、いいのかな?本当に私の事を優先しても。そんなの、ただのわがままでしかないのに。
「うん、そうだけど……でも本当にいいのかな?」
「いいんだよ。私はそう思うから。千歌はどうなの?本当にこのままでいいの?告白しないで胸の内に秘め続けて後悔しない?」
「それは……」
「千歌が後悔しない道を選びな?」
私が後悔しない道。
梨子ちゃんはピアノが好きで、その想いを聞いたから本当に好きなんだと知った。そして、そんな大好きな気持ちがあるからこそ、梨子ちゃんの弾くピアノが好きで、演奏している梨子ちゃんがキラキラして見えた。
よーちゃんは運動が大好きで、その中でも高飛び込みはすごかった。高飛び込みをしているよーちゃんはカッコよくて、大好きなことをしているよーちゃんはキラキラして見えた。
二人ともチカには無いモノを持っていて、そんな二人に憧れた。そして、恋い焦がれた。二人のことを考えれば胸が高鳴り、ドキドキする。
できれば告白したい。こんな気持ちを持ち続けるのは辛い。
「気持ちを、伝えたいよ……でも……」
伝えたい気持ちがあるけど、やっぱり怖い。
告白したら今の関係が壊れてしまう。二人に嫌われたくない。
想いを伝えたい気持ちと、伝えたくない気持ち。もうどうしたらいいのかわからなくなって、また涙が零れる。
「千歌……」
そんな私を果南ちゃんは優しくハグしてくれた。果南ちゃんに抱きしめられたことで、なんだか気持ちが落ち着く。気持ちが安らぐ。
「その涙が答えだよ。本当に好きで、二人のことを想っているから涙が出る。そんなに好きなら、やっぱり千歌の気持ちを伝えるべきだよ」
「いいのかな?」
「いいんだよ。それに、二人は千歌の気持ちを聞いたって嫌ったりしない。確かに少し困らせちゃうかもしれない。ぎくしゃくしちゃうかもしれない」
「うん」
「でも、すぐにまた今の仲良し三人に戻れるに決まってる」
果南ちゃんの言う通り、告白したら困らせちゃうだろうけど、二人とも優しいから時間が経てば元の仲の良い関係に戻れると信じたい。二人を疑うなんてことしたくない。
疑って後悔するくらいなら、二人に正面からぶつかりたい。
「もし、関係が崩れたのならちゃんとフォローしてあげるから」
「うん!ありがと」
二人に告白する。もう、どうなろうが関係ない。二人にまっすぐぶつかるだけ。
「ん?さて、じゃぁ、早速きっかけあげるよ」
「ふぇ?」
「曜、梨子ちゃん、さっき音楽室で告白してたの?」
「告白?」
果南ちゃんが何か言ったと思ったら、いきなり二人の名前を呼んでそんなことを聞いた。どうして急に?って思ったら、梨子ちゃんの声が聞こえた。
果南ちゃんのハグが解かれて入り口の方を見れば、そこには二人が立っていた。
嘘!もしかして二人に聞かれた?
「告白なんて……あっ、もしかしてさっきのかな?でも、どうして果南ちゃんが?」
「千歌が聞いちゃって、気にしてたからね」
「あはは」
「あー、そういうこと」
「だから、千歌ちゃん来なかったんだ」
二人に聞かれた様子は無かった。それに、見た感じあれは告白って訳じゃなかったみたい。じゃぁ、安心かな?
「そっか。じゃぁ、私は戻ろうかな?千歌頑張って」
後半を私の耳元で言うと、果南ちゃんは屋上をあとにして、屋上には私たち三人だけになる。
果南ちゃんに相談して、疑問を聞いてくれて、応援してくれた。ここまでされたら、もう引き下がるわけにはいかない。
よーちゃんみたいに言えば全速前進だね!
「よーちゃん、梨子ちゃん。大事な話があるの」
「ん?大事な話?」
「なに?」
心臓がバクバク言っている。どうなるのかわからないからやっぱり怖い。でも、もう告白するって決めたんだから!
「よーちゃん、梨子ちゃん。私は二人に恋してる。こんなのおかしいって、普通じゃないってわかってる。でも、それでもこの気持ちは嘘じゃないって気付いた。だから、私は二人の事が大好き!できれば二人と付き合いたいって思ってる!」
「「え?」」
「ごめんね。いきなりこんなこと言われたら困っちゃうよね?でも、この気持ちを抱えたままいるのが辛いから、気持ちを伝えたの。それくらい二人の事が大好きって伝えたかった。あはは。気持ちを伝えたら、なんだか安心しちゃったや」
二人に気持ちを伝えることができた。わかっていたことだけど、二人はいきなりの事で驚いていた。私が二人の立場だったら、たぶん驚いていたと思う。
二人は驚いた表情のまま固まっていて、少し沈黙が流れる。
そして、二人は口を開き、言葉を紡ぐ。
「千歌ちゃんが勇気を持って伝えてくれたんだよね?だったら、ちゃんと返事をするね。――」
「そっか。ありがとう、千歌ちゃん。思っていたことを言葉にしてくれて。――」
~☆~
コンッコンッ。コトコト。
「ん~」
何処からか聞こえる、包丁で切る音と鍋で煮る音。その音で目を覚ますとすでに日は暮れ始めていて、部屋はミカン色に染まっていた。
あの頃の夢を見るのは久しぶり。まだあの日から一年と半年しか経っていないんだけど。
部屋に置いている時計を見ると、時刻は午後六時。
「……あっ、寝過ごした!」
夕飯の準備をすでに始めていないといけない時間。まぁ、私一人だから遅くなっても問題ないけど、できればあまり時間は変えたくないという訳で、慌てて部屋を出る。
リビングに行くとそこには、
「あっ、千歌ちゃん。ただいま!よく寝てたね」
「よーちゃん?」
よーちゃんがいた。ここにいるはずがないのに。
「どうしてよーちゃんが?」
「ん?ああ、遠征自体は今日終わりで、明日は練習が無いから一日観光してから帰る予定だったんだけど……」
「うん、そう聞いてたけど……」
「我慢の限界で戻ってきちゃったであります!」
よーちゃんは苦笑いを浮かべてそう言った。
「よーちゃん!」
「わっ、千歌ちゃん!」
私はよーちゃんに抱きつこうと近づき、よーちゃんはそんな私を見て慌てて手に持っていた包丁を置いて私を抱きしめる。
よーちゃんは航海士の勉強を大学でしていて、その傍ら高飛び込みのサークルに入っている。ここ一週間は高飛び込みの遠征で家を空けていた。こんなにも長くよーちゃんと離れていたのは初めてだった。何時も一緒なのによーちゃんが遠征に行ってすぐに寂しくなっていた。
だからこそ、よーちゃんを久しぶりに見て感極まって抱きついちゃった。
ガチャ
「ただいま」
すると、玄関のドアの開く音がしてリビングに梨子ちゃんが現れた。
え?どうして梨子ちゃんが?今日はまだ帰って来れないはずじゃ?
「え?あっ、おかえり」
「梨子ちゃん、おかえり」
「あー、なんで二人抱き合ってるの!」
困惑しながらも挨拶をかえすと、早々に梨子ちゃんは私と曜ちゃんを見て起こった表情をする。感極まってよーちゃんに抱きついているのが今の私たちの状態。梨子ちゃんは手に持っていた鞄と、引いていたキャリーバッグを置いて、私たちに近づいて来る。
梨子ちゃんは私たち二人まとめて抱きしめる。
梨子ちゃんは今音大に通っている。ピアノのコンクールは度々あったけど、大体東京でやってたから、夜には帰って来て家を空けることは無かった。でも、この一週間は海外のコンクールで海外に行っていて、家にいなかった。
だからこそ、私は二人ともいないこの一週間が辛かった。
「二人に早く会いたくて、終わり次第さっさか戻ってきちゃった」
「あはは、私と同じだね」
「よーちゃーん、梨子ちゃーん」
「「わっ!」」
二人とも私と同じ気持ちだったらしくて、私はうれしさが込み上げる。
私たち三人はそれぞれ東京の大学に進学し、今は三人一緒にシェアハウスに住んでいる。
あの日。二人に告白した後、二人から告げられた。
『私は千歌ちゃんと曜ちゃんの事が好き。二人に恋しているんだって。でも、言うのが怖かった。こんなこと知られたら嫌われちゃうって思ってたの』
『私もね、千歌ちゃんと梨子ちゃんが好き。千歌ちゃんが言葉にしてくれたから私も言う勇気を貰えた。だから、ありがとう。千歌ちゃん!私と、ううん――』
『『私たちと付き合ってください!』』
『うぅ……こちらこそ、こんなチカだけど付き合ってください!』
二人も私と同じように二人同時に好きになっていたらしい。そして、私と同じように、本当の事を伝えるのが怖かった。でも、私が告白したことでその心配が無くなって、二人の気持ちを知ることができた。
それから私たち三人は付き合いだした。といっても、今までと変わったことはほとんどないんだけど。
私たちのこの関係を知っているのはそれぞれの家族とAqoursのみんなだけ。他の人からすれば仲の良い三人組にしか映っていないはず。
世間一般からすれば、きっと私たちの関係はおかしな関係だと言うと思う。みんなはそんな私たちのことをおかしいだとか思わず、普通に接してくれている。
私は今のこの関係を幸せだと感じている。
大好きな二人と一緒なんだから!
私は今ある幸せが逃げないように二人を力いっぱい抱きしめる。
「大好きだよ!よーちゃん!梨子ちゃん!」
「「うん!」」
不穏な感じで始まったトライアングルラブ。というか、千歌ちゃんが寝落ちるまでだと、二人の身に何かしらあったようにしか見えない・・・。
まぁ、ハッピーエンドが一番好きだからこうなっちゃうんですけども。
では、ノシ
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私と彼女の一カ月恋戦争【ダイマリ】
~day15~
「ダイヤ、好きよ」
「はいはい。そんなことよりも仕事をしてください」
「もー。なんでそんなあっさりなのよー」
「何度も聞いていますから」
二月のある日。生徒会の仕事をしているダイヤに対して、理事長の書類に目を通しながら言った。でも、ダイヤはさして気にした様子もなく流してしまった。
「なら、私の気持ちもわかるでしょ?」
「はいはい。知っていますよ。余計なことに気を向けていると書類の内容を見落としますよ」
「マリーはそんな凡ミスしませーん。それより、ダイヤの返事は?」
「何度も言いますがlikeの意味でなら鞠莉さんのことは好きですわ」
「えー、まだloveになってないの?」
ダイヤの私に対する感情が私のそれと違うから私は口をとがらせて言う。こんなに好きだと言ってるのに、ダイヤには響かないみたいだった。
「逆に、どうしてわたくしが鞠莉さんのことをloveの方の好きだと思ったのですか?」
「えー、私が好きだからダイヤもきっとそうだと思ったのに~」
「鞠莉さんの勝手な想像じゃないですか。だいたいこんな仕事の片手間で告白されたって響きませんよ。また明日頑張ってくださいな」
ダイヤは書類に目を向けて、一切私の顔を見ずにそう言う。ダイヤの髪のせいでダイヤの顔はこっちからは見えない。たぶん、いつも通りの凛とした表情だろうけど。
仕事の片手間って言うか、私としてはダイヤのことが好きってことを知ってほしくて言ったんだけどなぁ。
そうして私とダイヤの戦いは続くのだった。
~day1~
事の始まりは地区予選を終え、年を越したある日だった。
私はダイヤのことが好きで、ダイヤが東京に、私はイタリアの大学に行くことを伝えあったことで私はダイヤに気持ちを伝えることにした。
「ダイヤ、私はあなたのことが好き。私と付き合って」
「え?」
だからその数日後にダイヤを淡島に呼びだして、私は告白した。
ダイヤは私の告白に驚いた表情をしていた。いきなりのことだから、驚かせてしまうかもしれないとは思っていたから、こういう反応をされるかもとは思っていたけど。
ダイヤはすぐに表情を戻すも、何故か疑いのような目を私に向ける。
どうしてそんな目をするの?
「本当なのですか?あなた果南さんにも好きって言ってるでしょう?」
「果南に対する好きはlikeで、ダイヤに対する好きはloveよ!」
「そうですか。ですが、わたくしは鞠莉さんに対してその様な感情はありませんから」
ダイヤの思っていることはもっともだった。
みんなには私は果南のことが好きだと思われてる。たぶんダイヤにもそう思われていたんだと思う。
まぁ、果南に対してはちょくちょくハグしたりしてるからそう思われるのは仕方ない。ダイヤのことが本当に好きだからこそハグするのにも勇気が必要で、ダイヤにはハグがあまりできない訳だし。
でも、そのせいでダイヤには私の気持ちが届かないみたい。
「そんな。なんでよ!」
「いや、鞠莉さんがそうでもわたくしも同じ気持ちとは限らないでしょう。鞠莉さんが本気なのかわたくしにはわかりませんから」
「それはそうだけど……じゃぁ、真剣に言ったらOKしてくれるの?」
「さぁ?それはあなたの言葉次第なのでは?わたくしの心に響けばもしかするかもしれませんね」
「そう……なら、ダイヤが好きと返してくれるまで言い続けるわ!」
「はいはい。一週間や二週間で折れないでくださいね」
ダイヤの愛想ない反応を他所に、私はそう宣言した。ダイヤはさも興味のないような反応を返すが私はもう気にしない。
私のダイヤを想う気持ちを分かってほしいから、毎日だって言い続けてみせる。一度拒絶されたくらいじゃ諦めないわよ!それに、likeなら可能性はあるしね。
こうして私はこの日から毎日ダイヤに好きという日々が始まったのだった。
~day29~
「うーん。どうしてダイヤには私の気持ちが届かないんだろ?」
「それを私に言われても、返答に困るんだけど?」
ダイヤに告白を始めてもうすぐ一カ月が経とうとしていた。未だにダイヤからはいい返事がもらえず、私は塀に身体を預けてぼやく。そんな私のぼやきに、果南は困った表情でそう返す。
果南にはダイヤに告白して少し経った頃から相談に乗ってもらっている。
「でも、これだけ言えばなびいたりするもんじゃないの?」
「ダイヤがそんな簡単に折れないことは鞠莉もわかってるでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「というか、今日もダメだったんだ」
「ええ。閉校祭の準備で忙しいって流されたわ」
「あらら。まぁ、そう返されるか」
今日は閉校祭の準備で、学校の皆は遅くまで準備を進めていた。そのかいあって、このままいけば閉校祭は無事始めることができそうだった。私はシャイ煮の準備やら理事の仕事で今日はずっと仕事をしていて、果南に少しは休むべきだと言われて屋上に連れ出された
で、今に至る。
「そもそも、なんでダイヤはOKしてくれないのよ!いいじゃない!付き合ったらloveになるかもしれないじゃない!」
私は不満を口にする。かれこれ一カ月も告白をしてるのに、そろそろ我慢の限界よ!付き合えば私と同じ想いになるかもしれない。私はダイヤが好きだからそれでいいのに。
「いやいや。ダイヤがそんな中途半端な気持ちでOKする訳ないでしょ。鞠莉に失礼って思うだろうし」
「私は気にしないわよ!ダイヤと一緒に居られれば!ただでさえもうすぐ離れ離れになるのだから!」
果南の言ってることはわかるけど、私はそんなこと気にしない。
すると、果南は何故かため息をつく。
「はぁー。そもそもダイヤが鞠莉の告白を受け入れない理由考えたことある?」
「え?そんなのさっき果南が言った通り、私と同じ気持ちじゃないからなんじゃ?」
「あー。そう考えるか」
「なに?違うの?」
果南の反応に違和感を覚える。まるで果南はダイヤの告白を受け入れてくれない本当の理由を知っているかのよう。いや、そもそも、別の理由があるのかも知らないけど。
「知ってるかといえば知ってるよ。というよりわかると言った方がいいかな?でも、私の口からそれを言う訳にはいかないよ」
「なんでよ」
「だって、ダイヤのプライバシーだし」
「えー、教えてよー」
果南は教えてくれる気は無さそうで、私は果南にハグして無理やり聞こうとする。話すまでハグはやめないんだから!
「鞠莉、抱きつくなー。言うとダイヤに後で文句言われそうだし」
「えー」
「もしかしたらそれでダイヤに嫌われるかもよ?」
「うぅ」
果南にそう言われて、ハグをやめて渋々引き下がる。それでダイヤに嫌われるのは嫌だし。でも、どうせならダイヤに秘密で教えてくれてもいいのに。
「まっ、一つ言えるのは鞠莉がさっき言ったことが関係してるよ」
「さっき言ったこと?」
「まぁ、のんびり考えてみなよ」
「えー、教えてよー」
果南の中途半端なヒントに、私はよくわからないからそう言う。どういうことよ?私がさっき言ったことって?というか、どれのこと?
すると、屋上のドアが開き、
「ここに居ましたか、鞠莉さん」
ダイヤがやって来た。口ぶりからして私の事を探していたみたい。
流石にダイヤが来てしまった以上はこれ以上この話をする訳にはいかないから、果南への問い詰めはやめてダイヤの方を向く。
「どうかしたの?ダイヤ」
「確認したいことがあって理事長室に行ったのにいないから探していましたのよ。それと、果南さん。曜さんが探してましたよ」
「あら。携帯で連絡しくれれば良かったのに」
「ありゃ。そう言えば少し外出てくるって言ったきりだったや。と言う訳で先戻るね」
果南はそう言って私たちの返答を待たずに去って行った。
ちょっ、ダイヤと二人きりにしないでよ!
「果南さんと何を話しておりましたの?」
「ん?たわいない話よ。さっ、私に用があったんでしょ?」
下手に詮索されるわけにはいかないから、はぐらかしてダイヤの要件に話をすり替える。果南の言葉の意味がわからない以上、まずはそれがわからないことにはね。
~day30~
「うーん。やっぱりさっぱりだわ。どのことなのよ」
翌日。特にtroubleなく閉校祭は進み、キャンプファイヤも終わった後、私は一人呟いた。片づけ自体は明日に回して、ほとんどの生徒はもう帰路についている。私は仕事がいくつかあったからまだ残ってるけど。
昨日あの後に果南の言葉の意味を考えてみたけど、結局何のことなのかはわからないまま今日を迎えてしまった。果南に聞こうともしたけど、なかなか捕まらず、聞けずじまい。
バタバタしていたから今日はまだダイヤに告白もできてないし。
コンッコンッ
「失礼しまーす」
「あら、曜」
すると、今日は千歌っちの家に泊まるとかでそこまで急がない曜がやって来た。
理事長室に来たってことは用があるってことだろうけど。
「鞠莉ちゃん、キャンプファイヤの薪って倉庫の前に置いておけばいいんだよね?」
「ええ、問題ないわ。それを聞くために来たの?それくらいならダイヤに聞けばいいのに。あの場にいたでしょ?」
「生徒会の仕事がとかでいなくなっちゃったから」
「そう」
曜が来た理由が分かり納得ってところかしら?
「それで、鞠莉ちゃんは何か悩みでもあるの?」
「なんのこと?」
「いや、何か悩んでそうな顔してるから。それに、今日も時々悩んでそうな表情をしてるの見たし」
「そう……」
曜に言われて今日は時々考えていたことを思い出す。だから、たぶんはぐらかせても曜に心配をかけるだけ。
それに、悩みを口にしたらもしかしたりするかもしれないしね。
「聞いてもらっていい?」
「うん」
「ありがと。私ね、ダイヤのことが好きなの」
「うん」
「……あれ?驚かないの?」
ダイヤが好きだと言ったのに曜はさして驚いた様子がなかった。まるで知っていたかのように。
「まぁ、なんとなくね。何人かは気づいてると思うよ」
「そう」
「それで、悩みって?」
「告白してるのに、ダイヤが受け入れてくれない」
「……」
曜に促されて話を続けたら、曜は黙ってしまった。というか反応に困ってる感じかしら?
「えーと、どういうこと?」
それから、ここ一カ月毎日好きだと言っていること、でもダイヤは流してしまうこと、果南はダイヤが受け入れてくれない理由を知っているみたいだけど教えてくれないことなどなど。
曜は静かにそれを聞いてくれた。
「なるほどねー。ダイヤちゃんの気持ちもわからなくはないかな?それに果南ちゃんの考えも」
「え?もしかして、曜はわかったの?」
「あー、うん」
「教えて!」
曜がわかったみたいだから、曜の肩に手を置いて頼む。曜は困った顔をする。
「うーん。まぁ、口止めされてないしいっか」
「うん」
「たぶん、果南ちゃんの言ってたのは“もうすぐ離れ離れになる”ってところだと思う」
「え?」
曜の言葉を聞いて私は言葉を漏らす。
離れ離れになるのは一カ月前から分かっていることだし、今更なんじゃ?
いや、そもそも。ダイヤだったらもしかしたら……。
「もしかして……」
「おっ、鞠莉ちゃんもわかった?」
「ええ。私の考えた通りなら絶対にダイヤは受け取ってくれない訳ね」
「そっか。ダイヤちゃんなら生徒会室だと思うよ。じゃっ、私は千歌ちゃんたちを待たせてるから行くね」
「ええ。Thank youね。曜」
理事長室を出ると、曜にお礼を言ってダイヤのいる生徒会室に向かう。ほんと、言いたいことはちゃんと言ってほしいわね!
~☆~
「ダイヤ!」
「ピギッ」
勢いよくドアを開けたらダイヤに驚かれた。でも、今はそんなことは気にしない。
「大事な話があるの」
「いきなり大声を出さないでください。それに、大事な話っていつも通りのことでしょう?」
「ええ、そうね。でも、今日はちゃんと私の気持ちを全部伝えるわ」
「そうですか」
ダイヤは目線を書類に落としていて、どうやら今までと同じような感じになると思っているみたいね。たしかに、今まではダイヤの考えてそうなことなんて無視して、私の気持ちを押し付けてきた。でも、今回はもうそんなmissはしない。
「ダイヤ、私はあなたのことが好きよ。愛しているわ。前にも言ったけど、何事に対しても常にまっすぐで真面目なところが好き。スクールアイドルが好きで好きにまっすぐなところが好き。いつも真面目でミスし無さそうなのに、時々ドジをしてしまうそんなお茶目なところが好き」
「ちょっ、鞠莉さん。なんで今日はそんなに言うんですか!」
私の告白にダイヤは顔を上げてツッコむ。ようやく私の顔を見てくれたわね。告白してるのにウッとそっぽ向くのはやっぱり嫌よね。
「いい所なのに。そんなの今日こそダイヤにOKを貰うつもりだからよ」
「何度も言いますが、私の答えは変わりませんわ」
「そう。なんでこんな時期に告白してきたのかってダイヤはきっと思ってるわよね。というか、私はそれを言ってこなかったわけだし」
「確かにそうですわね」
さて、ここからは私の予想でしかない。あってればいいんだけど。
「告白しようと思ったのはね、ダイヤが東京に行くって知ったからよ」
「え?それが理由?」
「ええ。てっきり近くの大学に行く物とばかり思っていたのに、まさか東京に行くなんて思ってなかったわ。だからね、私はダイヤに告白しようって決めたの」
「えーと、話が見えませんわ。それと告白につながりなんてないでしょう?」
「それに、あなたはイタリアの大学に行くのですから、告白したってすぐに離れ離れになるでしょう?」
ダイヤの意見は最も。私だってダイヤの立場なら正直そう思うかもしれない。でも、現実はこうなのよ。
「そうね。確かにすぐに離れ離れになって、お互い四年生の大学だから四年間は最低離れ離れになる」
「でしょう?だから、わたくしはあなたを受け入れることはありませんわ」
「そう。ダイヤはやっぱりそれを懸念してたのよね?でも、私はそれでも構わないって思ってる。今の時代なら電話で話せる。テレビ電話を使えば顔を見ながら話すことだってできる」
「たしかにありますが……」
ダイヤの懸念材料が当たっていたことに対して内心ほっとする。もし、間違ってたら今回も失敗が確定していたわね。
「その上ではっきり言うわ。ダイヤにこの時期に告白した理由を」
「理由?」
「ええ。だって、東京にダイヤが行ったら、間違いなく誰かと付き合っちゃう。内浦にいる分には私の知ってる誰かと付き合う可能性だけで済んだ。それならまだ諦めが付いたかもしれない……いや、諦めたくないけど。でも、東京になんて行ったら私の知らない誰かと。そんなの無理よ!だから、そうなる前に告白したのよ!」
「え?……つまり」
「そう、いつか来るダイヤに告白する人に嫉妬したのよ!」
私は私の思いのたけをぶちまける。もう、想ってる事は全部吐き出してしまう。その方がダイヤにちゃんと伝わるに決まってる。
「ぷっ」
「ちょっ!マリーが真面目に告白したのに笑わないでよ」
「すみません。ですが……まさか、そんな理由で告白に至ったなんて……。はぁー、わたくしの決意はなんだったのですか?そんな理由で告白されていただなんて」
「あれ?バカにされてない?」
なんだか、ダイヤの良いようにムッとする。なんで、告白を笑いで返されるのよ!
「はぁー。鞠莉さんのことを想って身を引こうと思っていましたのに」
「なんのこと?」
「あなたがわたくしのことをどれほど想っているのかは今のではっきりわかりましたわ。だから、もうわたくしもはっきり言いますわ。わたくしだって鞠莉さんのことをお慕いしていましたわ。あなた同様愛していますわ」
「え?」
いままで素っ気なかったのに、私の事好きだったの?じゃぁ、なんで今まで?
「あなたと付き合えば、すぐに離れ離れになってしまう。あなたほどの人なら向こうで付き合うかもしれない。わたくしはそれが怖かったのですわ。付き合っても離れ離れで、もしかしたら浮気されるかもしれないと。そしたら、わたくしは……」
「ダイヤ!」
ダイヤの考えていることはわかった気がした。つまり、もし付き合っても、すぐに離れ離れで、遠すぎる距離のせいで浮気される心配をしていたと。
確かにその心配はあったわね。
だから、私はダイヤを安心させるためにハグをする。
「バカね。私がダイヤ以外の人と付き合う訳ないじゃない」
「ですが……」
「ダイヤを想う私の気持ちを甘く見ないでちょうだい!ダイヤが悲しむようなことなんてしないわ!」
「……そうですわね。あなたはそういう人でしたわ」
「ええ。だから、もう一度言うわ。ダイヤ、私と付き合って」
「ええ。わたくしの方こそ、鞠莉さんわたくしと付き合ってください」
「ええ。もちろん!」
やっと、ダイヤの本当の気持ちが知れた。ダイヤと付き合うことができた。そのうれしさで私はハグしている手に力をさらに籠める。
そして、数分抱きしめあって身体を放す。
「そういえば、鞠莉さん。あなたはわたくしが浮気するかもなんて心配ないんですか?」
すると、ダイヤはそんなことを言った。浮気ねー。そんなの考えたことも無かったわね。
「そんな心配必要ないわ。だってダイヤだもの♪」
だって、あの真面目なダイヤがそんなことする訳ないじゃない。
「だから、浮気なんてしちゃダメよ」
「ええ。鞠莉さんこそ」
~6月12日~
「ふぅ、やっと課題が終わったわね。あっ、もうすぐ私の誕生日ね」
あれから数か月が経った。結局ダイヤとは遠距離恋愛になってるけど、毎日電話をしたりメッセージアプリで連絡を取っている。
本当は誕生日をダイヤに祝って欲しかったけど、流石に無理は言えないわね。それとも、こっちからダイヤのもとに行って祝ってもらおうかしら?
チリーン
「あら?」
すると、いきなり私の部屋のチャイムが鳴る。私が住んでいるのは小原グループの経営するホテルの一室。ホテルに住んでいれば経営のこともけっこう勉強できるという理由と、大学から近かったから。後は、一人暮らしは心配だからという理由で。
こんな遅くに私の部屋に来るなんてどうかしたのかしら?というか、こんな時間に来たことなんてないけど。
そんなことを思いながら、私はドアを開ける。私の部屋は従業員区画にあるから関係者以外は絶対にここには来れないから不審者の心配はない。仮に不審者でも、果南とダイヤ仕込みの体術で大抵はどうにかなる。
「ルームサービスには遅いわよ~」
「ルームサービスではありませんわ」
「え?ダイヤ」
部屋の外には何故かダイヤがいた。いやいや、なんでダイヤがいるのよ!
ピィー
6月13日0:00
「鞠莉さん、お誕生日おめでとうございます」
「はぁー。そういうことね」
どうやら、私の恋人は私に触発されてやることが多少bigになったみたいね。
「ありがと、ダイヤ♪」
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好きの契約 【ちかよし】
今回は早めに書き始めたから間に合った。
高海千歌。私の一個上の先輩で自分の事を“普通”だという、私に言わせれば十分普通じゃないと思う人。スタイルは十分いいと思うし、誰に対しても物おじせずに明るく接することができる。それに、普通の人ならロンダートからのバク転なんて完成させられないと思うし、千歌の書く歌詞も魅力的だと思っている。現にそうだからラブライブだって勝ちぬけた訳だから。
まぁ、何が言いたいのかと言えば、
「千歌、私と恋人契約して!」
「恋人契約?」
私は千歌に恋をしている。
~☆~
私が千歌の事を好きなのだと自覚したのは、秋にあったラブライブの地区予選に向けて練習して、無事終えた頃だった。
どんなに傷を負っても諦めずに挑み続ける姿に惹かれていた。最初は途中で諦めてしまうのだと思っていた。曜の話だと昔から途中で投げ出すことがあったらしいから。でも、投げ出すことなく、スクールアイドルもラブライブ優勝という形でやり遂げることができた。
あの全員が砂浜に集まって、初めて千歌がバク転まで成功させた時には千歌がキラキラして見えて、その時に私は千歌に恋しているんだと悟った。
でも、それよりも前から想うところはあった。
大荒れの中で行われた体育館でのライブで三人はキラキラしていて、その中でも千歌が特にキラキラして見えた。今までずっと堕天使としての私は煙たがれていたのに、千歌はそんな私を否定なんてせず肯定してくれた。千歌が笑顔だとなんだか私は安心した。
恋しているのだと自覚してからは大変だった。
千歌と二人きりになるとドキドキしてまともに顔が見られない。だけど、少し離れた位置だと目で追ってしまう。
告白しようと何度も思ったけど、もしもそれでフラれたらと考えてしまうと告白には至れなかった。しなければ、まだ今のような友達の関係でいられるし、ぎくしゃくしたりすればAqoursの活動に影響を及ぼしかねない。結局は私のフラれる怖さが尻込みさせてしまう。
でも、このまま気持ちを伝えないでいるのも嫌だった。だから、決勝が終わってAqoursの活動が一段落したら、ラブライブで優勝することができたら告白しようと決めた。
そして、本当に優勝することができたから、私は卒業・閉校式を終えた数日後に千歌に告白をした。
その結果、
「善子ちゃん、まずどこ行く?」
「まずはみとしーかしら?」
「わかったぁ」
私は千歌の家に来ていた。そして、これからみとしーに向かうつもり。
なんでこうなったかと言えば、
『千歌、私と恋人契約して!』
『恋人契約?』
『ええ。私はあなたのことが好き。だから』
『そっかー……善子ちゃん。明日一緒に出かけよっか』
『え?』
『返事はそれが終わったらね』
なんてことがあり、返事を先延ばしにされてしまったからだった。そして、出かける先は全て私が決めるという、完全にデートな気がする。たぶん、これで千歌が満足しなければ私の告白が受け入れられないのだと思うから、悩みに悩んで今日行くコースを決めた。
千歌の家に迎えに行くことを知らせてあったから行くとすでに千歌は準備万端のようで私たちはみとしーに向かって歩き出した。てっきり、こういう日は雨が降るものだと思っていたけど、今は晴れている。一応折り畳み傘はバッグにいれてあるけど。
「みとしーかぁ。アルバイトした時以来だなぁ」
「そうなの?てっきり、目と鼻の先にあるからちょくちょく行ってるかもって心配だったけど」
「あはは。確かにそうだけど、Aqoursを始めてからはね。それに昔からけっこう行ってたし」
「てことは、今日はやめといた方がいい?」
千歌の言葉から、もしかしたらみとしーは失敗かもと思えてきた。飽きているんだったら、行っても楽しめないだろうし。千歌が楽しめないんだったら。
「ううん。半年近く経つから平気だよ。それに、せっかく善子ちゃんが考えてくれたんだし」
「そう?ならいいんだけど」
でも、どうやら問題ないらしい。と言う訳で、入り口に着くとチケットを買う。千歌は去年の春に年パスを買っていたらしく、チケットを買う必要は無かった。
「おー、期限が明日までだった」
「すごい幸運ね。私ならそういうのは期限切れになってるパターンなのに」
「そうなの?まぁ、いいや。行こー」
千歌は言うなり私の手を握り、そのまま歩き出す。まさか、千歌から私の手を握って来るなんて思ってなかったから、私は内心驚きながらもついて行く。
セイウチ、ウミガメ、魚と順に見て行き、
「いつ見てもきれー」
「ええ、そうね」
クラゲの水槽に行くと、ライトアップされたクラゲを見てそう呟いた。ライトの色が変わる度に透明なクラゲたちがその色になるから幻想的。
綺麗なクラゲを見ながら、千歌の顔を盗み見ると、幻想的なこの空間に負けないくらい千歌も綺麗に見えた。
まぁ、そんなこと恥ずかしくて言えないけど。
「チカね。みとしーだとここが一番好きなんだ」
「そうなの?」
「うん。色んな水族館があるけどこれはみとしーだけだから」
「そうね。こんなに綺麗だから私も好きよ」
「そっか。じゃぁおそろいだね」
千歌の言う通り、クラゲのライトアップをしているのはここ以外だと聞かない。だから、特別に感じられるからかしら?私は単純に綺麗だからって理由だけど。
千歌に笑顔を向けられてドキッとする。やっぱり、千歌の笑顔を見るのが好きだと実感させられる。
『まもなくショースタジアムにてショーを行います。アシカやイルカのパフォーマンスをぜひご覧ください』
「あっ、もうそんな時間。行こっか」
「ええ」
すると、そんな放送が流れてきたから私たちはショースタジアムに向かって歩き出し、イルカがジャンプしても水がかからないであろうギリギリの位置の席に座る。千歌の話だと、長年の経験上ここが水のギリギリかからないで済む一番前らしい。なんでそんなことを知っているのかと言えば、曜と果南と一緒に昔にどの位置ならぎりぎりかからないかという遊びをしていたからだとか。
最初はアシカが登場してパフォーマンスをし、続いてトドがパフォーマンスをしてイルカの番になる。イルカはすいすいとプールを泳ぎ、トレーナーの指示に従ってプールに投げられた輪を回収したり、跳んだりする。
そして、最後の大技に水面から五、六メートルの位置にボールが下げられ、イルカはボールに向かって勢いよく跳ぶ。結果は見事にタッチして成功だった。
ビュー
ザバーンッ!
「きゃっ!」
「わっ!」
しかし、イルカが着水して水が舞うのと同時に強風が吹き、私たちのもとまで水飛沫が飛んで来て私たちにかかる。強風が吹くタイミングが最悪で不幸だと感じる。でも、最近不幸なことが起きてなかっただけで、元々私は不幸体質だったわね。
逆に今日は今まで不幸っぽい事が起きてなかったから珍しいかも。
「あはは。まさか水が飛んでくるなんて。ごめんね。もう少し後ろに座っていれば」
「千歌は悪くないわ。あのタイミングで風が吹いたのは私の不幸のせいだから。だから、ごめん」
ハンカチでポンポン叩きながらそう言ったからそう返しておく。
「善子ちゃんは悪くない!こんなのただの偶然!」
「千歌?」
いきなり千歌が大声でそう言ったから私は首を傾げた。千歌がそう言ってくれるのはうれしいけど。
「だから、自分のせいなんて言わないで」
千歌はどこか寂しそうな表情をする。そんな表情を見ると胸が苦しくなる。千歌には笑顔でいてもらいたいし、その方が私もうれしい・
「ごめん……それと、ありがと。さぁ、気を取り直してまだ見てない場所に行くわよ!」
「うん!」
その後、カワウソやペンギンなどを見たりして過ごした。
~☆~
「ふぅ。いろんなところに行ったね」
「ええ。と言っても、悪かったわね。変に連れまわしちゃったり、待たせちゃったり」
陽が傾いてきた頃、私たちはびゅうおの中に来ていた。
みとしーを出た後、お昼を食べようとお店に行ったけど、行く店が何処もやたらと混んでいるか定休日、果てに臨時休業という事でなかなかお昼を食べることが出来ず、途中からすでに決めていたルートは諦めた。どうにか沼津駅前に行くと時間がだいぶ経ったからかようやく空いて来て私たちはお昼を食べることができた。
お昼を食べた後は駅前をぶらぶらして、気になるお店が入るといった感じで過ごした。どうせ、予定してたコースは変更する必要もあったから。
でも、
「ううん。あれはあれで楽しかったから」
「そう?千歌がそう言ってくれると、少し気が楽になるわ」
「そっか。それにしても、ここからの夕日綺麗だね」
「そうね」
私がここに絶対に行きたかった理由は二つあった。
一つはこの夕日。ここからだと綺麗に沈んでいく夕日が見られるから。私はこの景色が好き。じきに陽が完全に堕ちて世界が闇夜に包まれるから。まぁ、冗談は置いといて海に反射された夕日がきれいだからだけど。
もう一つは、ここが始まりだから。いや、正確には少し手前だけど。びゅうおのすぐそばで私はAqoursに加わることを誓った。あの日から私の日常が変わったから。
「さてと、善子ちゃん。昨日の返事をした方がいいよね?」
「ええ」
すると、唐突に千歌がそう切り出した。一応そろそろ私から切り出そうとは思っていたけど、千歌の方から切り出してくれるのはありがたかった。私の方から切り出すのはなんだか催促しているみたいな感じになっちゃいそうだし。いや、催促だけど。
「でも、一つお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん。善子ちゃんからもう一度告白して欲しいんだ」
「……わかったわ」
どうしてそんなお願いをしたのかはわからないけど、断る理由はない。それに、千歌に想いをちゃんと伝えたい。
「改めて言うわね。私は千歌、あなたのことが好き。ううん、好きなんて言葉じゃ足りないくらい愛してる」
「うん」
「体育館でのライブを見てキラキラ輝いて見えた。その時はただ明るい先輩で、一生懸命だからそう見えただけだと思ってた。私をAqoursに誘ってくれた時、私は私のままでいいって言ってくれてうれしかった」
「うん」
「それから色々あったわね。あなたが一人で抱え込んだり、輝きが何なのかわからなくて探したり、難しい動きの練習をしたり。果南たちでも無理だったあのフォーメーションを練習してる時、千歌には無理なんじゃないか?怪我をしてしまうんじゃないか?って思ってた。でも、やり遂げた。その時の千歌は一番輝いて見えた。それで分かったの。あなたに恋してるんだって。それで、それまであなたに対して思っていたのはその一片だと気づいた」
「うん」
「千歌の諦めずに足掻く姿に憧れた。千歌の書く歌詞に込められた想いはいつも私の心に響いてた。みんなが堕天使としての私を否定する中、あなたは肯定してくれた。あなたのやさしさに救われた」
「うん」
「好きなみかんを美味しそうに食べているあなたが好き。諦めずに駆け抜けたあなたが好き。私を堕天使として肯定してくれたあなたが好き。太陽のように輝くあなたの笑顔が好き」
「いいの?私は普通だよ?」
「ううん。あなたは私にとって特別な存在。だから、私と恋人の契約を。私と付き合ってください!」
昨日以上に私は千歌への想いを告げた。私の想いを聞く千歌は静かに相槌を打ってくれて、千歌はまた自分を普通だという。
でも、私にとってはもう特別な存在。それ以外の何物でもない。
最後にそう締めくくると、千歌の返事を待つ。
今日は散々だった。だからもしかしたらフラれるかもしれない。それが怖い。でも、もう伝えてしまった以上引き返すことはできない。
「善子ちゃん、ありがとう。私もね、善子ちゃんのことが好きだよ」
「ほんと!?」
「うん。昨日はいきなりだったからびっくりしちゃって先延ばしにしちゃってごめんね」
「それはいいけど」
千歌も私の事が好きだと言って驚きとともにうれしさが込み上げてくる。まさか両想いだったなんて。
「ありがと。善子ちゃんを始めて見た時、綺麗な子だなぁって思って、あの時は一緒にスクールアイドルをやってみたいなぁって思ってた。善子ちゃんが加わって、善子ちゃんの優しい部分を見て、少しずつ惹かれてた」
「そう」
「私ね、善子ちゃんの堕天使が好きという気持ちを貫く姿に憧れてたんだ。私はいつも中途半端で諦めちゃって、何かを貫くなんてできなかったから。でも、善子ちゃんのその姿を見てて勇気付けられた。だから、スクールアイドルをやり遂げることができたんだと思う」
「それは言い過ぎじゃない?みんながいたからでしょ?それに、千歌、あなた自身の意志でしょ?」
「確かにそうだけど、きっかけはそうだったんだよ」
千歌の為に何かできていたのなら素直にうれしいけど、本当にそうなのかは私にはわからない。まぁ、本人がそう言うのならそうなんだろうけど。
「気づいたら善子ちゃんへの気持ちが憧れから恋に変わってた。まぁ、気付いたのは最近だけど。善子ちゃんを見ているだけでドキドキすることに気付いたから」
「そうだったの?全くそんな素振りは無かった気がするけど」
「まぁ、気付かれないように頑張ってたから。だからね。こちらこそ。こんなチカだけど、お願いします」
千歌はそう言って締めくくる。
「えーと、つまり私たちは付き合えるってことよね?」
「うん!」
確認すると、やっぱり私たちは付き合えることになったのだと分かった。うれしい。実るか不安だったこの気持ちが実って。
「そう言えば、恋人契約って結局なんなの?付き合うってことでいいの?」
「ええ。でも、恋人なのだから他の人にうつつを抜かしたりなんてダメだからね!」
「わかってるよ!よろしくね、善子ちゃん」
「ヨハネ!」
「あっ、今日初めて聞いたかも」
「あっ、そう言えばそうね。これからは私の事はヨハネって呼びなさいよ」
「えー。気が向いたらね」
千歌は小悪魔っぽい笑みを浮かべる。うーん、これは一筋縄じゃ行かないかしら?一体どうすればいいのやら?
チュ
「……ッ!」
「ふふっ。千歌以外の子にうつつを抜かしちゃダメだからね。これはその約束だよ。ヨハネちゃん♪……うぅ、やっぱり恥ずかしい」
そんなことを考えていたら、いきなり私の唇に短いキスをされ、笑みを浮かべてそう言われた。でも、すぐに顔を真っ赤にして恥ずかしがってそっぽを向いた。
まさか、千歌の方からキスをしてくるなんて思ってもなかったから驚きしかない。こういうのには案外奥手なのとばかり思っていたのに。恥ずかしがってるってことは勇気を出してってことなのかしら。
でも、なんというか釈然としない。私が遊ばれてるような?
「うにゃ~」
チュ
「……ッ!」
だから、お返しとばかりに私も千歌にキスをすると、反撃が来ると思っていなかったのか千歌は目を見開いていた。
うん、やっぱりこうじゃないとね。あっ、今更ながら恥ずかしい……。
「これで契約は完了よ、千歌」
「うん、ヨハネちゃん」
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