量産型なのはの一ヶ月 (シャケ@シャム猫亭)
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コーヒーとミルクは混ざったら分離出来ないのだ

息抜き作品。
こういう系が好きってだけ。

続き書くかは未定。


 それを観たのは、本当にただの気まぐれだった。

 

 

 

『            』

 

 

 

 明日から三連休だから、何か映画でも見ようとレンタルショップに寄ったんだ。

 店に入ると、懐かしのアニメ特集と書かれたポップの下にアニメ映画が数作品置かれていた。

 特に借りるものが決まっていたわけではなかった俺は、そのコーナーに寄って行って眺める。

 半分くらいは十代の時に見たことある映画で、確かに懐かしいなと感じた。残りの半分は見たことがないが、名前くらいは知っている。

 どうせなら見たことないのを借りることにした俺は、適当に二作品選んでレジに行く。おすすめしているんだから、つまらない作品じゃないだろうと、選ぶのは適当だった。

 

 

 

『 き         』

 

 

 

 一人暮らしのアパートに帰って来て、夕飯は冷蔵庫に入っていた材料を適当に炒め物にして食べた。

 不味くはないが、店で出せるほど美味くもない、ほどほどの味。

 そのあとはシャワーを浴びる。

 浴槽にお湯を張ることはあまりない。一人暮らしをして分かったことだが、意外と風呂を洗うのは面倒なのだ。

 だからシャワーですませてしまう。

 

 

 

『  て        』

 

 

 

 シャワーを浴び終えれば、寝間着に着替える。

 冷蔵庫から缶チューハイを一本、それとつまみにスナックを用意して、ちゃぶ台に置いた。

 テレビを点けてから借りてきたDVDを再生機に放り込んで、座椅子にどかりと座り込む。

 アニメを見るのは、ずいぶんと久しぶりだ。

 缶チューハイのプルタブを立てれば、カシュッと炭酸が抜ける音がする。口を付けて傾ければ、甘い炭酸が喉に流れこんできた。

 よくチューハイは酒じゃなくてジュースなんて言われるが、別にいいじゃないか。ビールのような苦い酒は美味しいと思えないし、蒸留酒のような強い酒はまるで消毒液のような感じがして好きになれない。

 

 

 

『   く    マ   』

 

 

 

 ぼんやりと映画を見る。

 昔流行ったアニメで、それの映画版というやつだ。

 タイトルくらいは聞いたことあったが、内容はほとんど知らない。

 精々、主人公が魔法使いの女の子ってことくらいだ。

 

 

 

『     さ   ス  』

 

 

 

 タイトルにも名前が入っている女の子が出てきた。

 そうか、小学生か。

 イタチが出てきた。

 イタチじゃなくてフェレットだった。

 そうそう、確か弱っていて、慌てて医者に連れて行ったんだよな。

 夜に主人公は助けを呼ぶ声を聴いて、動物病院に行ったらフェレットが喋った。

 あと、変なスライムみたいのがいた。

 ああ、あればビビったな。ドラクエみたいに可愛ければよかったんだが、よくわからん変な奴だったし。

 ……………ん?

 あれ、俺、この作品見たことあったか?

 いや、ないはずだよな。

 でも…………どうしてこんなに懐かしいんだ?

 そんな風に首を捻っていたら、いつの間にか主人公が変身していて、ジュエルシードを封印していた。

 

 

 

『 き く  い    』

 

 

 

 映画はどんどん進んで、中盤になると敵の女の子が出てきた。

 フェイトちゃんだ。

 ……………え?

 なんで俺、名前知っているんだ?

 フェイトちゃん………フェイト=テスタロッサ。

 あ、名乗った。

 うん、フェイト=テスタロッサ、当たってる。

 

 

 

『 き   さ   スタ 』

 

 

 

 物語は終盤へと移る。

 ジュエルシードを賭けて、フェイトと一騎打ち。

 激しいバトルが繰り広げられるが、最後はなのはの全力全開砲撃で決まった。

 そして、そこで俺は映画を止めた。

 

 

 

『   く  い マ タ 』

 

 

 

 いい加減、違和感が無視できなくなった。

 俺は、俺はどうして………知っているんだ?

 この先の展開も知っている。

 時の庭園で、フェイトのお母さんと………。

 違う、違う。

 知ってるなんてものじゃない。

 違う………覚えている。

 

 

 

『  てくださ   スタ 』

 

 

 

 覚えている。

 覚えている!

 あの時の傷の痛みを、辛さを、心を!

 何のために戦ったのかを!!

 違う、違う違う違う!!

 そんなはずはない、そんなはずがない。

 だって、俺は男で、魔法何てこの世にはなくて。

 それに「リリカルなのは」は初めて見る作品で。

 

 

 

『 き  ださい マ ター』

 

 

 

 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。

 何だなんだナンだなんだこれ。

 そんなはずはない。

 違う違う違う。

 俺は男で、社会人で、今日だってパソコンに向かって仕事して!

 

 

 

『起き く  い、マス ー』

 

 

 

 煩い、五月蠅い、うるさいうるさい!!

 私に話しかけるな!

 違う違う違う!!

 俺は、俺は、私じゃない!!

 俺は、俺は俺はオレは私はおれはおれはおれはわたしは!

 

 

 

 ……………あれ?

 

 

 

 なまえ、なんだっけ?

 

 

 

『起きてください、マスター!!』

 

 

 

 

 

 目の前に、剣を振り上げた男が居た。

 

「っ!!」

 

 咄嗟に手に持っていた杖を構え、振り下ろされた剣を受け止めた。

 だが、男の腕力が強く、踏ん張りも効かせられなかった俺は、そのまま吹き飛ばされる。

 勢いが付いた体は地面に落ちると、そのままゴロゴロと転がり壁に背中からぶつかる。

 

「っがは!!」

 

 息が詰まるほどの衝撃と痛みが背中から伝わり、視界が涙でにじむ。

 

『大丈夫ですか、マスター!?』

 

 ああ、くそっ、何だってんだ!?

 大丈夫じゃねえよ、超痛え。

 口の中を切ったのか、血の味がする。

 だが、それよりも目の前の男だ。

 剣の切っ先は未だこちらを向いている。

 このままじゃ、殺される。

 

『立ってください、マスター!』

 

 分かってるよ、そんなこと。

 けど、だめだ。

 上手く呼吸出来ねえ、足が動かねえ。

 

『なら、私を構えて下さい』

 

 構える?

 私?

 ……………ああ、そうか。

 そうだね、そうだったね。

 歪んだ視界の中、俺は、私は、手に持った杖を、相棒を男に向けて。

 

『制御は私が行います。マスター、全力で行きましょう』

「うん………」

 

 体からあふれ出す熱い奔流が、相棒に伝わっていく。

 知らないけど、覚えている。

 そう、だから、呟くんだ。

 

 

 

 引き金を引いた。(トリガーワード)

 

 

 

「『ディバイン……バスター』」

 

 

 

 淡い桜色の奔流と共に、俺の、私の意識はゆっくりと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

『起きてください、マスター』

 

 ん………あと、五分………。

 

『ダメです、起きて下さい』

 

 いいじゃん…………どうせ、休みなんだし。

 

『休み? 何を言っているんですか、マスター。早くここから去らなくては、先ほどの刺客の増援が来てしまいます』

 

 ………しかく?

 ……四角……刺客…………っ!!

 

「そうだ、俺、襲われて!!」

 

 その言葉で俺は飛び起きた。

 慌てて辺りを見回せば、二十メートルほど離れたところに先ほどの男が転がっていた。

 

『マスター、すぐにここから離れましょう』

「っ、誰だ!?」

 

 機械を通したような女性の声がして、俺はもう一度辺りを見回すが、それらしき影は無い。

 

『私です、レイジングハートです』

「レイジング、ハート………まさか!?」

 

 胸元を見てみれば、首にかけられた皮紐の先に赤い結晶が付いたネックレス。

 結晶はまるで返事するかのように明滅する。

 レイジングハート。

 私の、相棒。

 

「あれ? わた、し………?」

『マスター、色々聞きたいことがあるとは思いますが、まずはここを離れましょう。あの男がいつ起きるかも分かりません』

「………わかった」

 

 疑問はいっぱいある。

 もう、わけがわからなくて、俺の頭の中はぐちゃぐちゃになってる。

 けど、さっきみたいに襲われるのはゴメンだ。

 私はレイジングハートの言葉に従い、その場から走り去った。

 

 

 

 

 十分ほどわき目も降らず走って、体力が尽きた。

 それからはレイジングハートの誘導に従い、一時間ほど歩いて移動する。

 着いたのは、小さな公園だった。

 真夜中なので人はいない。

 淡く光る街灯と、お手洗いに付けられた切れかけの電灯、そして中天で輝く二つの月が公園を照らしていた。

 ここまでくれば一先ず大丈夫だろうという言葉を聞いて、俺はベンチに座り込んだ。

 

『マスター、傷の具合はどうですか?』

「打ち身が少々と擦り傷が多数。けど、まあ、取り敢えずは大丈夫だ」

『ご無事で何よりです』

「………ああ」

 

 夜空を見上げれば、二つの月が目に映る。

 それを当たり前と感じる私がいて、俺はそれを否定する。

 けれど、私の心を否定しきれなくて、それでも認めたくない俺がいる。

 

「………なあ、レイジングハート。一番に、最初に教えてほしいことがあるんだ」

『何でしょうか』

「俺は、私は………」

 

 

 

 誰なんだ?

 

 

 

『………あなたは………あなたの体は「高町なのは」のクローンです』

「高町……なの、は………」

『そして、あなたの記憶は「平凡な青年」に「高町なのは」の記憶を混ぜたプログラムです』

「………は、はは…………うそ、だろ?」

『事実です』

 

 嘘だ。

 嘘だうそだウソダ!

 父さんが、母さんが、妹が、親友が、恋人が、同僚が、上司が。

 俺の記憶が、思い出が作り物だなんて、ウソダ!!

 

 本当だよ。

 私は本当だと知ってる。

 俺の記憶が作り物で、私の思い出が『私』のものじゃないって

 何よりも、誰よりも私が知っている。

 

「………胡蝶の夢、かよ」

『何でしょうか、それは?』

「………ある男が蝶になった夢を見て、自分は蝶になった夢を見ているのか、それとも蝶が人間になった夢を見てるのかわからなくなるって話さ」

『なるほど』

 

 この話の肝は、夢と現は共に真実で、受け入れ行動せよってことだ

 

「…………わかった。俺が私であることは一先置いておく。だから、順番に説明してくれ」

『了解しました』

 

 

 

 

 

 

 プロジェクトF。

 クローニングした素体に記憶を定着させることにより、従来の技術では考えられない程の知識や行動力を最初から与える事が出来る。

 その最大の目的は、元となった人物の肉体と記憶の複製。

 

『ですが、元となった人物の完全再現だけは叶わず、極限まで似てはいても「新たな人格と資質を備えた別人」となってしまうという所で研究は一度座礁しました』

「その辺の知識は、「私」の中にもあるな」

 

 その結果、生まれたのがフェイトだ。

 

『しかし、そこで研究は終わらず、「別人」ということを逆手に取ることになりました』

「………具体的には?」

『魔法の素質さえあれば「本人」である必要はない。いえ、むしろ「駒」にするなら本人じゃない方がいい。絶対服従の『人格』を植え付ける研究です』

「………それが、「俺」か?」

『いえ、正確には違います。マスターはその前段階、「プログラムの記憶を与えた場合の拒絶反応確認試験体」です。実験の結果は、拒絶反応無くプログラムの記憶は正しく継承されたことで成功となりました。そのため研究は次の段階に移行、絶対服従の「記憶」を受け付ける段階へと進み、マスターは「処分」が決定しました』

 

 だが、ただ殺して処分するには金が勿体ないし、なによりも私の身体は魔力に満ち溢れている。

 

『そこで、その潤沢な魔力を動力源とする装置への永久接続が決まりました』

「つまり、電池…か」

『そうです。マスター以外の個体も同様の処理がなされています』

 

 有効利用ってやつなんだろう。

 だが、今回はそうはいかなかった。

 

『その輸送中の事でした。マスターの中の「高町なのは」が目を覚ましたのです』

 

 そう、本来あるはずのない「私」が目覚めたから。

 

『突然のことで混乱した「高町なのは」は魔力を暴走させ、輸送車を大破、私を持って逃走しました』

「………ちょっと待て、レイジングハート。お前はなんでそんな所にいたんだ? 本物の「高町なのは」のデバイスだろ」

『………私もまた、本物の「レイジングハート」ではありません。マスターの魔力運用テストのために作らせたデッドコピーです』

 

 そのため、アクセルモードにしかなれないし、出力も50%ほどしかないらしい。

 

『話を続けます。私と共に逃走した「高町なのは」ですが、当然すぐに追手にかけられました。精神状態が不安定な「高町なのは」は追手に敗北、昏倒します。ですが、そこでもう一つの意識が目覚めました』

「つまり、土壇場で今度は俺が目覚めたんだな」

『後は、マスターもわかる通り、追手を撃退、再度逃走して此処に至るというわけです。ところでマスター、今は「どちら」ですか?』

「………ベースは「俺」だ。だが「私」の記憶も確かにあるし、大人の男から少女になったってのに身体に違和感がない。完全に混ざっちまった」

『そうですか……』

 

 そこでレイジングハートとの会話が一度途切れる。

 もう一度夜空を見上げれば、二つの月の位置が変わっていた。

 結構な時間話していたし、当たり前か。

 しかし、そうか。

 俺は作り物だったのか。

 

『マスター、落ち込むのも分かりますが、そろそろ移動しましょう。此処に留まり続けていれば、管理局員に追いつかれます』

「え、追手って管理局なの?」

『先ほど交戦した追手は管理局の制服でした。管理局全部とは言いませんがあれほどの実験を隠蔽出来るということは、間違いなく上層部が絡んでいます。迂闊に接触すれば、すぐにバレるでしょう』

「……了解、気を付ける」

 

 俺はベンチから離れ、公園を後にした。

 そうして歩き始めて数分のところで、重要なことを思いついた。

 

「なあ」

『なんでしょう?』

「俺に、名前を付けてくれないか? 「高町なのは」でもなく、平凡な青年としての「記憶のプログラム」でもない、「自分」の名前」

『………分かりました。そのかわり、お願いがあります』

「うん?」

『私の名前を付けてください。私は「レイジングハート」のデッドコピーですがレイジングハートではありません。私だけの名前を下さい』

「………もちろんだ、相棒」

 

 

 

 

 

 

 あれから俺たちは一日移動しっぱなしだった。

 管理局の追手なのだろうか、空を飛ぶ奴らを何人か見たが下水道を使ったりして何とかやり過ごすことができた。

 まあ、そのせいで身体に悪臭が染み付いて酷いことになっているんだがな。

 因みに今は朝方、あの公園を移動して約三十時間が経っている。

 

「クレス、いい加減腹が減って動けなくなりそうなんだが、お金とか持ってない?」

『残念ですがありません』

 

 そういえば、相棒の名前を決めたんだ。

 ビタークレス。

 普段はクレスって呼ぶことにした。

 不屈の心って花言葉を持つ花の英名だ。

 デッドコピーとはいえレイジングハートの姉妹機だし、繋がりはあってもいいんじゃないかって思って名付けた。

 クレスも気に入ってくれた。

 

「仕方がない、この辺に川とかないか?」

『二キロほど西に小川がありますが、どうするのですか?』

「水浴びと、魚釣り」

 

 正直、臭すぎてやってられない。

 俺の中の「私」が悲鳴をあげてる。

 

『水浴びは分かりますが、魚釣りには道具が必要ですよ』

「問題ない。クレスの魔法は非殺傷なんだろ。川にぶっぱなせば気絶した魚が浮いてくるはずだ」

『……………』

 

 あ、機嫌を悪くした。

 短い付き合いだが、クレスが人と同じように感情があるのはわかる。

 本来の使い方じゃないから不満なんだろう。

 

「我慢してくれ。ぶっちゃけ、もう腹が空きすぎて倒れそうなんだ」

『………今回だけです』

「さんきゅーな」

 

 

 

「ふいー、さっぱりした」

 

 小川についた俺は、そこから人の目に付きにくい場所まで川を遡った。

 そして、いい感じに人気がない橋の下に着くと、すぐさまバリアジャケットを解除して川に飛び込んだ。

 夏の強い日差しに反して冷たい川の水が心地よい。

 そういえば言ってなかったが、バリアジャケットを解除すればマッパになる。

 輸送されるときは生命維持装置みたいなポッドに入れられていて、服は着ていなかったらしい。

 私「高町なのは」が逃走の際にバリアジャケットを服替わりにしたとクレスが言っていた。

 

「クレス、魚取るよー」

『大変不本意ですが、了解しました』

 

 その言葉と共に、胸元で赤い宝石として輝いていた待機モードのビタークレスが、杖へと変化した。

 いわゆるアクセルモードというやつで、一番魔法の杖っぽいやつ。

 ついでに俺もバリアジャケットを着て、裸の少女(12)から魔法少女(12)へと変身する。

 

「クレス、生体反応をサーチして」

『了解………前方の岩陰に一匹います』

「それじゃ、攻撃して取ろうか。スターライトブレイカーでいい?」

『ダメです。魚を取るどころか大地を抉り取りますよ。そもそも、私が耐えられなくて壊れます』

「冗談だって。レストリックロックにするよ」

 

 魔法の練習は必要ない。

 だって「私」が覚えているから。

 俺は軽くクレスを振ってレストリックロックを岩陰に放った。

 

『目標、捉えました』

「おー、上手くいったな」

 

 バシャバシャと川を歩き岩陰に行けば、光の輪によって捕獲された魚が一匹。

 三十センチほどある大物だ。

 

「クレス、これ食えるやつ?」

『解析………毒はないので食べれます』

「味は?」

『知りません』

 

 …………まあ、そこは妥協するか。

 空腹は最大の調味料って言葉を信じよう。

 俺は川から上がると、魚にその辺で拾った石を擦りつけてウロコを剥がす。

 それから、割れたガラスを使って腹を割いて内臓を取り出し、川で洗って綺麗にしたあと棒に突き刺して火に焼べる。

 火は拾ったライターで起こした。

 やってて良かったボーイスカウト。

 ま、作り物の記憶だけどね。

 

『逞しいですね、マスター』

「こんな身体だけど、精神は男の「俺」がベースだからね………っと、焼けた焼けた」

 

 いただきます、と感謝の言葉を述べてから齧り付く。

 実に三十二時間ぶりの食事だ。

 目覚めてから何も食べてないってだけで、本当はもっと久しぶりかもしれないが。

 

「うん………」

『ご感想は?』

「マズイ」

 

 けど、腹が減ってるから食べるのは止まらない。

 舌は拒絶しているのに、胃が求めている。

 せめて塩があればもう少しマシだったかもしれない。

 

 

 

「さて、腹も一旦膨れたし、これからどうすっかね?」

『一番良いのは、信頼出来る者に保護を求めることでしょう。今のマスターには衣食住の全てがありません』

 

 そうなんだよなー。

 バリアジャケットを服替わりにしてるが、これ解除したら素っ裸だし。

 飯はここでマズイ魚を食ってることでもお察し。

 住居どころか戸籍すらない。

 

「信頼出来る人、か。真っ先に浮かぶのは「私」だよな」

『「高町なのは」は確かに信用出来ますし、間違いなく全力で保護してくれるでしょう』

 

 問題はどうやって接触するか、だ。

 それも、同じ管理局に追われているからには、直接接触は絶対だ。

 間に誰かを挟めば、情報が漏れて追手にバレる可能性がある。

 

「「高町なのは」の住居、あるいは職場は分かるか?」

『残念ながら、私のコピーされた時はミッドチルダに住居を構えておりません。職場は教導隊で勤めているらしいとのことまでは分かりますが、教導隊はその仕事柄部署を転々としますので、現在どこに居るかは不明です』

 

 クレスは、いつか研究施設から抜け出せたときの為に情報を集めていた。

 ネット環境への接続は許されず、ほとんどは研究者たちの雑談からの情報であったが、それでも無いよりはずっとマシであった。

 

「お前、いつコピーされたの?」

『新暦六十七年です。「高町なのは」が撃墜され瀕死になった際、レイジングハートもオーバーホールを受けました。その時、全データをコピーされ、それが「私」になりました』

 

 因みに、今は新暦七十五年の八月下旬だから、約八年前か。

 

「「私」の記憶も大体そのくらいまでだし、俺もその頃に得たデータから作られたのかもな」

『恐らくそうでしょう。身体の隅から隅まで検査していましたから』

「……っと、それは置いておこう。全データをコピーされたならメールアドレスとかはないのか?」

『ありません。メールや通話の記録は全て消去されています。それにあったとしても機能がありません』

 

 当たり前か。

 密告の危険性は取っ払っているよな。

 

「あー、もう。何をするにも情報が足りなすぎる。「私」の記憶だって八年前のものだし」

『ならば、ますは情報収集を致しましょう。どこかでネットにアクセスさえ出来れば、ここ八年で「高町なのは」が何をしていたのかも分かります』

「そうか、そうだよな。ナイスだ、クレス!」

 

 アクセスなんてネットカフェにでも入れば簡単に出来る。

 

「他に信頼出来ると言えば「フェイト=テスタロッサ」と「八神はやて」、「ヴォルケンリッター」に「ユーノ=スクライア」、「ハラオウン親子」くらいか。この辺の情報も出来るだけ引っ張ってこよう」

『その辺が妥当でしょう。運が良ければそれらのうち誰か一人でもアドレスを見つかるかもしれません。そうすれば後は自然と向こうで連絡を取り合うはずです』

「ああ、「私」たちの友情は厚いからな。多分、八年経っても変わってないだろ」

 

 やることは決まった。

 ネットカフェ代を拾うこと。

 それで呼び出しの連絡をして、保護してもらおう。

 カフェ代なんて対して高くないから、自販機の底でもあされば得られるだろう。

 

「そうと決まれば、早速自販機を探――」

『マスター、上です!!』

 

 その言葉に見上げれば、橋の上から飛び降りる形で男が迫ってくる。

 その手には両刃剣のデバイス。

 咄嗟にプロテクションを発動させて魔法障壁を張れば、数瞬後には剣戟がぶつかった。

 

「っち、防いだか」

 

 追撃されないよう、俺は素早くバックステップを踏んで追手の男から距離を取る。

 「私」は砲撃魔法使いだけあって中~遠距離が得意だが、反面、近距離が苦手だ。

 向こうもそれがわかっているのか、すぐにクロスレンジへと持っていこうと剣を構えて寄ってくる。

 だが、一つ向こうには誤算がある。

 

「クレス、お前、武器としての強度はどのくらいだ!」

『鉄パイプくらいはあります』

「オーケー、十分だ。先に謝っておく、乱暴に使うぞ」

 

 それは、「俺」が剣道をやっていたってことだ。

 

「オラっ!」

 

 剣を障壁で受け止めると、ベタークレスで突きを繰り出す。

 「俺」の腕前は一般人に毛が生えた程度のものだが、こちらからクロスレンジに踏み込んで来るのは予想外だったのか、突きは上手いこと鳩尾に入る。

 だが、痛みで怯んだのは一瞬のこと。

 子供の力では大したダメージになりもしない。

 しかし、「私」が欲しかったのは、まさにこの一瞬。

 

「レストリックロック!」

 

 直後には男の四肢に光の輪が現れ、拘束する。

 こうなれば、「私」の必勝パターンだ。

 俺のリンカーコアからベタークレスへと魔力が伝わる。

 こっちは必死なんだ、容赦はしない。

 俺は至近距離で魔砲を発動させる。

 

「ディバインバスター!!」

 

 オリジナルの「高町なのは」よりもほんの少しだけ淡い桜色の奔流が、追手を吹き飛ばした。

 

「ふう………非殺傷だから思いっきりぶっぱなせてイイな!」

『いい笑顔です、マスター』

「しかし、もう嗅ぎつけられたか。こりゃ、早く保護してもらわなきゃマズイ」

『そうですね、ここまで早く来るとは想定外です。一刻も早く移動しましょう』

「だな………っと、その前に」

 

 俺は倒れている追手の傍によると、その身体を弄る。

 

『何をしているんですか、マスター?』

「いや、財布ないかなーって………お、あったあった」

 

 尻のポケットに入っていたそれを抜き取って、中身を確認する。

 うん、紙幣と硬貨がそこそこ入ってる。

 これさえ頂ければ、こいつに用はない。

 

「じゃ、行こうか。金もあるし、さっきよりも楽に逃走出来る」

『鬼ですね』

「オリジナルは「魔王」なんて呼ばれてるんだ。それに比べれば可愛いもんだろ」

 

 ここから離れたらコンビニで飯を買おう。

 魚だけじゃ、やっぱり足りないからな。



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バーリアー、平気だモーン!

感想と評価のお礼にもう一話書きました。
見直しとかしてないから、多分誤字脱字設定矛盾とかあるよ。


下手に八月にしたの後悔したけど、逆に考えるんだ。
イベント無視で自由に書けるさ、と(錯乱)。

あ、タイトルに意味はないです。
思いつかなかっただけ。


 一時間ほど逃走して、取り敢えず追手を振り切ったと人心地付ける場所まで来た。

 逃げている間、どうしてあんなに早く追跡されたのかクレスと議論したが、色々な可能性が考えられて結局結論は出なかった。

 ただ、その可能性の中にはバリアジャケットだったからというのがあった。

 確かに、「高町なのは」のバリアジャケットは普通の服じゃないし、コスプレをしているかのようにとても目立つ。

 そういうわけで、まずは服屋に寄り上下と下着のフルセットを購入。続いて顔の印象を変えるため、百均で太い黒縁の伊達メガネを装着。ツインテールも止めて、まとめて帽子の中へしまう。

 

「よし、これでだいぶ見た目変わったな」

『確かに、パッと見では「高町なのは」とは分からなくなりました。しかしマスター、ジャージですか……』

「命かかってるのにオシャレなんぞしてられっか。動きやすさ重視に決まってる」

 

 それに、オシャレするほど金がない。

 あいつがもう少し金を持ち歩いてれば、あるいは考えたかもしれないが。

 いや、やっぱ無いわ。いくら外見が女の子でも、中身は『俺』だし。

 

「まあこの変装も、体内に発信機なんかが仕込まれてたら無駄なんだけどな」

『その可能性は低いと思われます』

 

 もし発信機があったなら、上空を素通りされるはずがない。

 何かしらの手段で居場所がバレたのだろうが、直接ここだと分かるほどの精度ではないというのがクレスの予想だ。 

 

「さて、隠れていてもジリ貧だし、ネカフェに行くか。身分証が必要ない所はわかるか?」

『残念ながら。地図くらいはありますが、そこまで詳細な情報は持ち合わせていません。一つずつ回るしかないでしょう』

「んじゃ、一番近いところに案内してくれ」

『了解、マスター』

 

 それから俺たちは、いくつもネットカフェを回った。

 身分証がない子供というのは思いのほか痛く、次々に断られてしまったが、六店目にしてようやく入ることが出来た。

 すぐにモニターに向きあい、クレスをアクセルモードにして有線でネットと接続した。クレスには無線機能が無いので仕方がないのだが、下手にオリジナルを知っているせいか、クレスは機能が制限されていることが随分と不満なようだった。

 

「どうだ、クレス?」

『アクセス完了。情報収集を開始します』

 

 クレスは俺が手で検索するよりも、圧倒的に早い速度で情報を収集していく。

 ネットに接続して十分が経つ頃には、大体の情報が集め終えていた。

 その間俺はフリードリンクをチューチューして栄養をとっていた。川魚よりずっと美味しい。

 

『マスター、「高町なのは」らについて調べ終わりました』

「聞こう」

『「高町なのは」は、やはり管理局教導部に勤めているようです。時空管理局本局武装隊 航空戦技教導隊第五班、一等空尉です』

「そうか、「私」はあれを乗り越えたのか」

 

 『私』の持つ記憶の最後は、撃墜された瞬間。腹部を貫かれる痛みと、ヴィータの悲鳴のような叫びは鮮烈に思い出せる。今は俺と混じったから客観的に判断出来るが、あれは、ヤバい。死んでもおかしくなかった。

 細かい話も聞きたいが、今は後回しだ。

 

「直接連絡が付くアドレスはあったか?」

『フェイト=T=ハラオウン執務官への依頼窓口のものがありました。それ以外は残念ながら』

「それでも十分だ」

 

 フェイトの奴、ちゃんと執務官になれたんだな。

 きっと一発合格だろ、優秀だし。

 

『いえ、どうやら二度ほど落ちたようです』

「え、フェイトが!?」

 

 フェイトが二浪するとか、俺じゃ受かる気がしない。そもそも受ける気もないけどな。

 

『それで、メールの文面はいかが致しましょう?』

「クレスのデータ全部送っちゃえば? 実験に関するアレコレなデータ持ってるんでしょ?」

『確かにありますが、メールで送るには重すぎです』

「んじゃ、実験の概要と証拠になるデータ。最後に、首都クラナガンに潜伏中保護求むでしめれば?」

『その証拠データが重いという問題なのですが』

「そんなの、今日の日付を入れた俺の写真でいいじゃん」

 

 俺は『高町なのは』なのだから、見ればわかるだろ。

 

『それなら、動画を送った方が信憑性が増すでしょう』

「いいんじゃね、それで」

 

 四杯目の野菜ジュースをストローで吸いながら答える。

 あー、うまいわー。

 お腹タプタプだわー。

 

『マスター、既に撮り始めています』

「……へ? ちょ、ちょっと、撮るなら撮るって言えよ!」

 

 慌ててジュースを机に置き、コホンと咳払いを一つ。

 

「あー、どうも、初めまして………」

 

 

 

●REC

 

「……あー、うめー」

 

 チューチュー、ズゾゾゾ。

 

『マスター、既に撮り始めています』

「……へ? ちょ、ちょっと、撮るなら撮るって言えよ!」

 

 慌ててジュースを机に置き、コホンと咳払いを一つ。

 

「あー、どうも、初めまして。いや、久しぶりの方がいいのか?」

 

 うーんと腕を組んで考え込む。 

 

「今は俺だし、やっぱ初めましてだな。えー、突然のことで申し訳ないのだが、助けて欲しい。概要はメールにある通り、プロジェクトFの実験体なんだよね、俺。運良く逃げ出したんだけど、今も追ってがかかってて、あー、正直ヤバイ。頼れるのアンタ達しか思いつかないし」

 

 はははっと笑う彼女にあまり悲壮感というか危機感が見えないのは、彼女の性格のせいなのだろう。

 

『マスター、今の姿では分かりづらいでしょう。元に戻っては如何でしょう?』

「あ、確かにそうだな。クレス、バリアジャケット出して。ついでに髪型もオリジナルと同じで」

『オーライ、マスター』

 

 動画の少女が、一瞬光に包まれる。

 そして、その光が止んだ時そこに居たのは、高町なのはだった。

 もちろん本人じゃないのはわかる。なにせ、この「高町なのは」は幼い。

 外見がおおよそ11、12歳なのだ。

 

「えーと、私としては、久しぶり、かな? フェイトちゃん、元気してる? と言っても、私の記憶じゃそんなに久しぶりって気がしないんだけどね」

 

 なははっと笑う様子は、高町なのはそのものだ。

 

「無事に執務官なったんだってね。私の記憶は八年前が最後だから、受験の結果知らなかったんだよね。私が言うのも可笑しいのかもしれないけど、おめでとう」

 

 そこで、ふうっと動画のなのはが息を吐く。

 それと同時、バリアジャケットが解除されて、もとのジャージの少女の姿に戻る。

 

「やっぱ「なのは」口調は、すげー違和感感じる」

『心配いりません、本物と同じでした』

「まあ、何だ。そういうわけで俺は「高町なのは」のコピーってわけだ」

 

 バリアジャケットの解除と一緒に口調も元に戻る。

 

「今はクラナガン二十八地区って所にいる。早めに来てくれることを祈る。ああ、最後に、俺の名前は―――」

 

 突如、爆発音が聞こえ、最後の言葉が飲まれてしまった。

 

○REC END

 

 

 

「やっば、もう来たのか!? クレス、さっさとメール送って逃げるぞ!」

『今、送ってい――』

 

 ブツンと、全ての明かりが消えた。

 俺は慌てて、暗闇の中で淡く光るクレスを掴む。

 

『転送失敗です、マスター』

「やられたな、建物のブレーカーをぶっ壊された」

『とにかく脱出しましょう』

 

 とはいえ、この状態で正面から出て行くのはマズイ。

 間違いなく待ち伏せされている。

 

「確か、トイレに窓があったな。そこから出よう」

『戦闘になる可能性高いです、バリアジャケットを装着しましょう』

 

 クレスの言葉と同時、服装がなのはモードに切り替わる。

 学校の制服をモチーフにしたようで、とても可愛らしいと思う。じっくり眺める気も時間もないけどな。

 店内の客が非常口へと向かう中、俺だけがトイレへと向かう。

 親切な誰かが、非常口はそっちじゃないと俺に言う。それに心の中で礼を言いつつ無視、トイレに駆け込んだ。

 

「っち、この窓はめ込み式だ!」

 

 迷っている暇はない。

 俺はクレスを振りかぶり、思いっきり窓へと叩きつけた。

 鈍い音をたて、窓ガラスにクモの巣状のヒビが入る。

 

『せめて、鈍器として使うなら一言――」

「もう一丁!」

『……もういいです』

 

 二回目で穴が空き、それから何度かクレスをぶつけることで、俺が潜れるほどに窓ガラスが割れた。

 外はビルとビルの隙間、人一人がやっと通れる路地になっている。ついでに、ここは三階。飛び降りるにはクレスの力を借りる必要があるようだ。

 

『飛翔魔法は準備済みです』

「流石、仕事が早い」

 

 何の気負いもなく、ひょいと窓から飛び出した。

 直後、頭上から殺気を感じる。

 

「っ! フライアーフィン!!」

 

 俺の足元に翼のような光、フライアーフィンが現れる。

 空中を蹴るような形で横っ飛びすれば、寸前までいた場所を砲撃が貫いた。

 ビルの壁に当たった砲撃は爆風を生み、体勢が崩れていた俺はそのまま吹き飛ばされる。

 何とか制動をかけて体勢を立て直し、撃たれた方を見れば、そこには先程とは違う魔導師がこちらに杖型デバイスを向けていた。

 

「っち、(かわ)したか」

『マスター、気をつけてください。今の砲撃、非殺傷設定ではありません』

「マジか! おいてめぇ、こんなところで殺傷設定の砲撃撃ちやがって! その辺の人巻き込む気かよ!?」

 

 だが、向こうは会話する気はないようで、次弾が発射される。

 避けては、多くの人が砲撃に巻き込まれてしまう。

 

「アクティブプロテクション!!」

 

 砲撃相手ではオートガードで発動したバリアでは防ぎきれない。

 自らの意思でバリアを張り、多くの魔力を流し込んで砲撃を受け止める。

 

「があああっ!!」

 

 ずしんと、吹き飛ばされそうな圧力に襲われる。

 何とか耐え切って、魔導師のことを見上げる。にまにまと嫌な笑みを浮かべていた。

 

「ちくしょう、最悪だ」

『今のロングレンジでは砲撃を撃たれます。接近しましょう』

「それしかないか!」

 

 膝をぐっと落とし、力を溜める。

 

「フラッシュムーブ!」

 

 バンッと空気を蹴って高速移動用の魔法を発動し、弾丸のような速度で魔導師との距離を詰める。

 本来は目標との距離を取るための魔法だが、早く動けるならこの際何でもいい。

 その勢いのまま、上段からクレスを振り下ろすも、奴の発動したプロテクションに弾かれる。

 

「やっぱオートで張ってるよなぁ」

『砲撃魔導師のデフォルトです』

「仕方がない、ミドルレンジでの高速射撃戦だ!」

『そもそも、それが普通です』

 

 私で殴るのがイレギュラーなんですというクレスの呟きを聞き流し、フォトンバレットを生成する。

 無論、向こうも既に近距離戦の構えを見せており、多量の弾幕をばら撒き合う戦いが始まった。

 かするようなぎりぎりの回避をし、お返しに弾幕をプレゼント。

 少しずつだが、こちらが押している。

 

『避けるの上手いですね、マスター』

「陰蜂に比べればマシだからな!」

 

 勝ったことないけど。ホント、「俺」は変なことばかり覚えているんだから。

 

「一気に押し込むぞ! ディバインシューター、セット!」

 

 俺の周りに、5個のディバインスフィアが現れ、くるくると衛星軌道を描き始める。

 

いけよ、ファングゥゥゥ(コントロール)!!」

 

 俺の叫びに合わせ、ディバインスフィアが魔導師に向かって飛んでいく。

 魔導師は迎撃に魔法弾を撃つが、乱数回避を組み込んだスフィアにはなかなか当たらない。

 2個は落とされたが、残りが奴を上下後ろからロックオンする。

 

「シュート!!」

 

 よけられないと判断した魔導師は、全力でプロテクションを張る。

 それでも、私のディバインシュートはバリアにヒビを入れるくらいに強力だ。

 そして、ここで最も重要なのはプロテクションのために足が止まったこと。

 

「シューティングゲームやって、弾幕の張り方勉強してこい! 恋符マスタースパーク(ディバインバスター)!!」

 

 一切の容赦なく、刺客を吹っ飛ばした。

 

「やばい、めっちゃ疲れた……」

『休んでいる暇はありません。この騒ぎです、すぐに逃げましょう』

「……休んじゃダメ?」

 

 もう、丸二日ちゃんと寝ていない。

 今はアドレナリン出てるから、何とか立ってられるけど、切れたら絶対寝る。

 

『死にたいのですか?』

「雪山かよ……分かってる、逃げるぞ」

 

 飛んで逃げるのは目立つので、人気のない所に降り立ってバリアジャケットを解除。

 人ごみに紛れるようにして、その場を離れるのだった。




オリジナル小説の「メイの早撃ち講座」書きたいから、多分しばらく更新しない。


バーリアー、平気だモーン!


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変わらぬ景色を進む、土属性の竜

アニメStsの時系列では14.75話辺りです。
参考文献は漫画版Sts


『……ター、マスター、起きてください』

「………ぅえ?」

 

 クレスに声をかけられ、眠たい目を擦りながら体を起こす。

 薄ぼんやりとした視界に映ったのは、低い天井と足元が見える程度に灯された明かり。

 ああ、だんだん思い出してきた。

 たしかネカフェで戦闘した後、人ごみに紛れて逃げて。しばらくして疲労が限界に来たんだっけ。

 幸い、レールウェイの設備管理用地下道への入口が開いていたから、そこに潜り込んだんだった。

 

「……おはよう、クレス」

『身体の調子はどうですか?』

「全快……とは言えないなぁ、だいぶ回復したけど。俺、何時間くらい寝てた?」

『おおよそ六時間ほどです』

 

 地下通路には朝も夜もない。

 それでも、何となく空気で朝を感じるのは気のせいだろうか。

 立ち上がって、うーんと伸びをする。地べたにダンボール敷いて寝たのに身体がバキバキと鳴らない。

 流石、十代の身体だ。

 

「……はあ、風呂入りてぇ」

『諦めましょう』

「わかってる、言っただけだ……」

 

 頭ではどうしようもないことだと理解しているのだが、どうしても心が納得してくれない。

 頼むよ「私」、今は耐えてくれ。

 

『マスター、そろそろ移動しましょう』

「はいはい……ところで、これから何処に向かうんだ?」

『この通路を進むとE29番地下道へ繋がります。そこからE44番地下道を通り、クラナガン44地区へ向かいましょう』

 

 クレスがネットに接続した際に調べたところ、44地区は少々治安が悪いらしい。

 マフィアやギャング、ヤクザ、呼び方は何でもいいが、そういった輩が力を持っている地区であるため、管理局の手が伸びにくいそうだ。

 ここならば、フェイトに連絡を取り、それが追手にバレたとしても身を隠せそうだ。

 

『マスター、移動は徒歩ですよ?』

「わかってるって、センサーがあるんだろ?」

 

 クレスをネットに接続したことで、もう一つ良い事が知れた。

 どうやら、首都クラナガンというのは街にある監視カメラを一括で管理しているらしい。しかも、顔認証で映った人を簡単に識別出来るとか。

 「俺」の記憶の中にもそういったものがあるが、ここまで大規模にはやっていない。精々、空港とかそのくらいだ。

 だから監視カメラが付いているであろう大通りを避け、地下道へ逃げ込んだ。

 それと、移動は徒歩の理由だが、クラナガンは飛行魔法の使用は緊急時を除いて禁止されているらしく、使うと配置されているセンサーに引っかかるらしい。

 おそらく、奴らはこの二つを組み合わせて俺たちのことを追ってきたのだろう。実際、注意して潜伏した結果、こうして睡眠を取れたのだから。

 

「しかしまあ、なんつーか、未来って感じだな」

『何がでしょうか?』

「いや、「俺」の記憶ってさ、ミッドチルダの技術力より数段劣ってるんだよね。だから、俺からすると未来にタイムスリップしたみたいでさ」

 

 なのはとしては触れたことのあるものでも、俺としては初めてということが多くて。

 何だろうな、物語の中にでも入り込んだような……あ、俺の記憶じゃ物語だったか。

 

『マスターの記憶は、「高町なのは」と同じ第97管理外世界の人をベースにプログラムされていますから』

「へぇ……ん? ベースってことは、「俺」にもオリジナルが居るのか!?」

『いいえ、記憶プログラムに矛盾が出ないように文化を参考にしただけです。マスターの記憶プログラムは一から組まれた……らしいです』

「らしいって、曖昧だなぁ」

『研究員の雑談ですから』

 

 それもそうかと納得し、地下道を進む。

 今いる地下道は普段使われていないのか、点々と置かれた非常灯の照明しかない。コンクリートが打ちっ放しで、二メートルほどの低い天井には配管が通っている。

 さっき未来感があると言ったばかりなのに、こうした街の裏側はあんまり記憶と変わらないのは少々残念だ。気づかないだけで、このコンクリートが超高性能なのかもしれないが。

 

 しばらく無言で進んでいると、T字路に突き当たった。

 どうやら、この交差している通路がE29番地下道らしい。

 クレスの案内に従い左折して、またテクテクと進む。ほぼ無警戒で済んでいるのは、この辺は使われていない地下道らしいからだ。

 だが、何もかもがうまくいくわけではない。

 

『マスター、この次の扉の先がE44番地下道です』

「次ってことは、あれか」

 

 扉の下まで行き、ガチャガチャとドアノブを捻って扉を押したり引いたりするも、開かない。

 スライド式かと横へ引っ張ってみるも、これもダメ。

 まあ、つまりは、

 

「鍵掛かってんじゃん」

 

 ここで計画はつまづいたのだった。

 

「どーすんの、これ……魔砲でぶっ壊す?」

『そんなことすればセンサーに引っかかります』

「じゃあどうすんのさ?」

 

 12歳の少女の力では鉄の扉を壊すなんて、とてもじゃないが無理だ。

 ハンドドリルとか道具があれば、また別なんだがなぁ。

 

『仕方がありません、迂回しましょう』

「それしかないか。ルートは?」

 

 俺の問いかけにクレスは、空中にウィンドウを映してそこに地図を表示させる。

 

『この先にあるE37番地下道へ。そこから一度地上に出て、地上からE44地下道へ入りましょう』

 

 地上に出るのは少々怖いが、クレスが選んだルートだ。きっとそれが最適だろう。

 何の疑いもなく、俺はそのルートを承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっし、ここは鍵が掛かってないみたいだな」

 

 E37番地下道へ繋がる扉は、ガチャリと音を立てて開いた。

 この通路も相変わらず、今まで通ってきたものと同じようにコンクリ打ちっ放しで、その変化のなさに嫌気がする。

 結構な時間を地下道で過ごしているので、そろそろ空が恋しい。

 

『ここからレールウェイの地下通路に行き、そこから地上へ上がります』

「レールウェイの地下通路は今も使われているから注意、だろ?」

 

 帽子をちょっとだけ目深に被る。

 

「んで、どっちに進むんだ?」

『左です』

 

 だが、歩き出した足は幾ばくもしないうちに止まった。

 薄暗くて分かりづらいが、前から何かの大群がやって来ているのが見えたのだ。

 同時に、向こうもこちらに気づいた。

 

「あちゃー、人がいるっスよ」

 

 声からして大人の女性。

 その後ろからはゾロゾロと人ではない何がが続く。

 

「なんだ、一般人か」

 

 こちらとの距離が20メートルを切ったところで、ようやく向こうの姿が確認できた。

 ダイバースーツに篭手やらショルダーガードを付けた女性が二人。

 一人は何かデカイサーフボードみたいなのを持っていてピンク髪を後ろでまとめている。もう一人はふよふよと浮いている玉子型の機械に座っているセミロングの水色髪。

 特殊な格好をしているってことは、何かの作業員だろうか?

 取り敢えずこういう時は、

 

「お疲れ様デース」

「え、あ、お疲れっス……」

 

 挨拶をしながら、さも当たり前という顔をしてピンク髪の脇を通り過ぎる。

 秘技、「従業員成りすまし」作戦。

 

「いや、ウェンディ、通すなよ」

「へ? あ!」

 

 残念、水色髪の女性には通じなかった。

 卵型の変な機械が行く手を遮る。ひーふーみー……19体、いや、椅子になってる奴を入れると20体か。

 

「何? 俺、急いでんだけど」

「じゃ、その予定は永久にキャンセルだね」

 

 機械に座っていた女性が、ひょいと立ち上がる。それと同時に三体の卵型の機械が俺を囲み、触手のようなアームがうねうねと出した。うぇ、趣味ワル……。

 ってか、これ、もしかして機械兵器か?

 

「……お姉さん達、何者?」

「それを知られちゃマズイから、君を始末しようと思ってるんだけど?」

「ああ、そういうことね」

 

 彼女らも、俺と同じで日の下を歩けない人達か。

 ただ、俺と違うのは、彼女らはどうやら犯罪者とかテロリストっぽいところだ。

 

「ねえ、俺もバレちゃマズイんだよね。ここでドンパチやるのはお互い得策じゃないでしょ? お互い見なかったことにしない?」

「ふーん。でも、アタシ達、ここで作戦開始することにしたから」

 

 水色髪の女性が手を振ると、後ろにゾロゾロいた機械達がどこかへと移動していった。

 残ったのは俺を囲っている三体と、お姉さんが二人。

 

「まあ、運がなかったんだね」

「バイバイっス」

 

 その言葉を合図に、機械兵器の触手が俺に向かって伸びてくる。

 けれど、ここまでの会話で戦闘は予想していた。素早くフライアーフィンを展開し、跳ねるように飛んでアームを避けて天井に着地する。

 

「何だ、魔導師だったのか」

 

 好都合だという言葉に何やら嫌な予感がし、距離を取るべく後方へ飛ぶ。

 だが、突然にフライアーフィンが消えた。

 

「っな!?」

 

 慌てて再度発動させようとするも、魔力を編んだ傍から崩れていき、魔法が形にならない。

 幸いにも後方へ飛んだ後なので、敵から距離が取れた。空中で投げ出された身体はそのまま地面へ落ちていくが、何とか体勢を立て直して着地する。

 

「落し物っスよ」

 

 ウェンディと呼ばれていた女性が、俺の帽子を投げて寄こした。だがそれは、俺から少し離れた所に飛んでいく。

 

「よそ見してる余裕あるんっスか?」

 

 気づいたときには、ウェンディとの距離が1メートルを切っていた。慌ててクレスを杖にし、放たれた回し蹴りを受け止める。

 だが、彼女の体格以上のパワーにより、大きく後ろへ吹っ飛ばされた。

 

「おー、今のガード間に合うんスね。これは楽しみっス」

「っつぅ、何て馬鹿力……」

 

 追撃を入れられないよう素早く起き上がる。地面を転がったときに出来た擦り傷が、ちくりと痛んだ。

 

「ウェンディ、クア姉から許可下りたよ。実戦訓練としてそいつで遊んで良いって」

「ホントっスかセイン? わーい、やったーっス!」

「ただし、確実に()ること」

「りょーかいっス!」

 

 軽いストレッチを始めるウェンディを警戒しつつ、俺はクレスと相談する。

 

「クレス、さっき魔法が消されたの、何だか分かるか?」

『あの機械からジャマーフィールドが展開されたのを検知しました』

「ジャマーフィールド………アンチ(A)マギリンク(M)フィールド(F)か!?」

 

 フィールド内の魔力結合・魔力効果発生を無効にする、あらゆる魔法への強い妨害効果を発生させる魔法だ。

 だが、あれはAAAランク魔法防御のはず。どうしてあの機械から?

 

『幸い、それほど効果範囲は広くないようです』

 

 ぱっとクレスがスキャンしたところ、AMFの範囲は機械からおおよそ二メートルほど。

 距離が取れた今なら魔法が使える。もちろん、向こうも織り込み済みだろうが。

 だが、不利な状態なのは変わらない。問題は、ここからどうやって逃げるかだ。

 後ろに逃げ道はある。だが、この状況で背を見せて逃走するのはあまりにも危険だ。

 逃げるにしたって、隙を突かなきゃならない。

 

「さーて、準備は良いっスか?」

 

 ガチャリと音を立てて、ウェンディはサーフボードのようなものを抱え持つ。

 先端をこちらに向けたことで見えたのは、砲身。

 

「っクレス、バリアジャケット展開!!」

「まずは小手調べっス」

 

 バリアジャケットを装着しつつ全力でプロテクションを張った。

 直後にウェンディの砲撃が着弾し、爆発で辺りは粉煙に包まれて敵が見えなくなる。

 

「何、一撃?」

「いやー、ちゃんと防いでるっスね」

 

 この粉煙の中なら逃げ出せるかとフライアーフィンを展開して後退しようとした矢先、二発目が飛んできた。

 慌ててプロテクションを張って防ぐ。

 

「逃がさないっスよ。ちゃんと見えてるんっスからね」

「クソッ、ディバインシューター、セット!」

 

 プロテクションを維持しつつ、ディバインスフィアを4つ生成する。

 粉煙で何も見えないが、それでも正面に敵がいるのは分かる。

 ならば、

 

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる! シュート!!」

「おお、バリア張りながら撃てるっスか!? なかなかやるっスね」

 

 魔法の並列処理と思考制御は「私」の得意分野だ。これを使えばそうそう遅れは取らない。

 

「けど、残念。全部AMFに防がれてるっスよ」

「ウェンディ、余計なこと言わないの」

「おっとっと、楽しくってつい口が滑ったっス」

 

 ウェンディの発言を、セインと呼ばれた女性が嗜める。

 そうか、これじゃさっきの奴に防がれるのか。

 とはいっても、他に手は無い。弾幕を張って接近だけはされないようにする。

 

「ん? ………あーらら、もう嗅ぎつけられちゃった」

「どうしたんっスか?」

「機動六課だっけ? 例の部隊がこっち来てるみたい」

 

 くっそ、会話してる時ぐらい、撃つの止めろよ。

 いや、俺も止めてないけどさ。

 

「了解、クア姉………ウェンディ、遊びは終わり。さっさとそいつ殺って退()くよ」

「しょうがないっスね」

 

 その言葉と共に、撃たれる砲撃の威力がぐんと増した。

 プロテクションに割く魔力を増やして、何とか防ぎきるが、正直ジリ貧だ。

 

『マスター、下です!!』

「遅いよ!」

 

 クレスの声に足元へ目を向ければ、青い魔法陣が展開されており、そこからセインが飛び出してきた。

 突然のことに、防ぐことも避けることも出来ず、首を掴まれて宙吊りにされる。

 

「セイーン、上手くいったっスか?」

「ああ、捕まえた」

 

 ぎりぎりと首が締まる。こいつ、本気で殺す気だ。

 何とか逃れようと抵抗するも、セインの腕はびくともしない。

 

「後はポッキリやれば終わり………あれ?」

 

 首が段々と締まっていったのが、唐突に止まる。

 だが、呼吸を止められ脳にも血液が行かない。どんどんと意識が遠くなる。

 

「何か、こいつ見覚えないか? ほら、デバイスとかも」

「え~、んー……あ、わかった! 向こうの隊長っスよ、白いのそっくりっス!」

 

 俺と……そっくり?

 それ……て…………。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

 アタシ達の前に現れた魔導師。

 腕はそこそこ立つようだったけど、アタシ達が苦戦するほどじゃなかった。

 現に、今こうして地面に転がってる。

 だが、このまま殺すには少々気になることがあった。

 

「いやー、こうして見ると、ホントそっくりっスね」

 

 私たちの敵にして機動六課の隊長、高町なのはとよく似ていた。

 違うところといえば、こちらの方は幼いってところか。

 

「クア姉、どう思う?」

『そーおね~え。今、情報を洗い直してるけど高町なのはに妹が居るなんてものは一つもないわね』

 

 通信の画面ごしに、魔導師を見ながらクア姉は言う。

 

「こいつ、戦う前にバレちゃマズイとか言ってたっス」

『へえ~、ということは裏の人間よね』

「クア姉。もしかして、こいつ「F」の実験体なんじゃない?」

 

 プロジェクトF.A.T.E.

 アタシ達と根幹を同じくする、人造魔導師計画。

 たしか、余裕があれば手に入れろって話じゃなかったっけ?

 

『セイン、それ、一応持ち帰って来てくれる?』

「はーい」

『それと、もう戻りなさい。今、最後のガジェットドローンが撃破されたわ』

「え、もう? はっやいなー」

 

 ここに来るもの時間の問題だ。

 ウェンディに魔導師を連れて来るよう指示し、地面に手を付けるとアタシのインヒューレント(I)スキル(S)を発動させる。

 無機物潜行(ディープダイバー)、無機物の中を潜ることができるこれは、潜入や奇襲に便利だ。さっきもこれで魔導師を仕留めたし。まあ、連れて行ける容量が2、3人しかないのが欠点だけど。

 あ、魔導師連れてくなら、ガジェット連れていけないな。まあいいか、機動六課の奴らの方へ向かわせて少しでも時間稼ごう。

 ガジェットたちに指示を出して向かわせていると、ウェンディが魔導師を引きずってやってきた。

 

「じゃ、帰ろっか」

「りょーかいっス」

 

 ウェンディがアタシの肩に捕まる。

 後は潜って、はいさよなら。

 そのはずだった。

 

「フラッシュインパクトッ!!」

 

 突然、目を覚ました魔導師がISを展開していた地面に向かって杖を振り下ろした。杖がぶつかった地面は強い閃光とともに爆発を起こす。

 咄嗟に身を守ろうとしてウェンディとアタシは魔導師から手を離してしまった。

 それに、閃光によって目が眩んで一瞬魔導師を見失ってしまう。

 見つけたときには十分に距離を取った場所で、こちらに杖を向けて魔力を貯めていた。

 

「っ、ウェンディ!!」

「え、うわ!」

「ディバイーン、バスター!!」

 

 慌ててウェンディを引っ掴んで、地面に潜る。間一髪で、あの桜色の奔流から逃れることが出来た。

 だが、今から戻って戦闘をしていては、機動六課の奴らとも交戦になる。

 悩んだが、ここで無理をしては後に控える祭りに支障を来すことから、退くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

 僕たちフォワード隊がその連絡を受けたのは、訓練のため陸士108部隊に向かっている時だった。

 何でも、E37番地下道に不審な反応があると警邏の人が気づいた直後、付近でガジェットドローンが出現したらしい。

 AMF戦は他の人たちは不慣れということで、僕たちがメインで撃破することになった。

 Ⅰ型のガジェットが17機と、Ⅲ型が2機。

 Ⅲ型は多脚歩行型で初めて見るタイプだったけど、僕たちのコンビネーションが上がったおかげか、意外とすんなり倒すことができた。

 それから、最初に反応があったE37番地下道へ向かおうとしたら、Ⅰ型のガジェットが3機出て来て、スバルさんとティアナさんが素早く撃破した。

 まだ出てくるかもしれないと、警戒しながら地下道に向かったのだけれど、入口が崩れて土砂で埋まってて、すぐにはE37番地下道へは行けなかった。センサーの反応では、ここで戦闘があったらしい。

 スバルさんとティアナさんが災害担当部に居た経験を活かして、土砂を退かしたり破壊突破して何とかE37番地下道へ降りたのだけど、もうそこには誰もいなかった。

 残されていたのは、子供用の帽子だけ。

 ちょっと釈然としなかったけど、そこから先は陸士の方たちに引き継いで、僕たちは地上で警戒態勢に移ることになった。

 いったい、あそこで誰が戦ってたんだろう……怪我とかしてなきゃいいけど。

 

 

 

 

 

 




日間ランキングに乗ったこと、大変驚きました。
この場でもお礼を申し上げます。
慌ててNanohaWIKIを引っ繰り返して時系列や世界設定を調べ、漫画版Stsも買って色々新しい知識が付きました。

そんなわけで、細かいところ修正しております。主人公の年齢が10歳⇒12歳になったり、一話の日時が八月中旬⇒下旬になったりね。



活動報告で「風邪にお気をつけて」ってメッセージ貰った次の日に風邪引く奴。
……はい、私です。もう治ったけどね。


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○○○○がアップを始めたようです

忘れた人のための、あらすじ。
第一話 俺、量産型なのはだった。
第二話 げ、もう追手が!
第三話 地下道で戦闘機人と遭遇


加筆修正
第一話 エリオを知らないことに修正(時系列上、知ってるはずないので)
第二話 襲ってきた管理局員を魔導師に修正(殺傷設定なのに、即所属バレする管理局員の服を着てるのは変)
第三話 戦闘現場に帽子が落ちてたことを加筆。


 これから間抜けの話をしよう。

 地下50メートルほどにある狭い通路で、あろう事か全力でディバインバスターを撃った奴の話だ。

 

 はい、「私」です。

 

 そんなことをすればどうなるのか何て、火を見るより明らかだよな。

 そう、地下通路の崩落だ。そりゃもう、瓦礫が雨あられと降ってきて死ぬかと思った。

 幸運だったのは、ディバインバスターが天井だけでなく足元も崩落させたことか。

 そのままだったら生き埋めだったが、逃げ道が出来たお陰で何とか助かった。

 そして不運だったのは、崩落した先は下水道だったこと。

 

「ちくしょう、ぐしょ濡れで気持ちわりぃ」

『命あっての物種です。それよりも、着きましたよ』

 

 クレスの言葉に前を向けば、地上に続くハシゴと円形のマンホールから漏れる光が見えた。

 ハシゴを登り、マンホールに手を付ける。

 親指ほどの穴がいくつか空いていたので、そこから待機状態のクレスを通して向こう側を確認してもらう。

 

「……どうだ?」

『周囲確認………人通り、監視カメラ無し。行けます、マスター』

 

 クレスの言葉を信じ、俺はマンホールに手を付けて押し上げた。

 長年メンテナンスされていなかったのか、蝶番が錆びてめちゃくちゃ堅い。ギギギッと音を立ててゆっくりと持ち上がった。

 同時に差し込んだ光が俺の目を眩ませ、視界が一瞬真っ白になる。

 一度目を閉じて、今度は目を慣らすようにゆっくりと目を開けた。

 見えたのは、ビルとビルの隙間によって出来た、人がすれ違うのがやっとという細い路地。

 空き缶やコンビニの袋が捨てられ、放置されている。

 

『ここが44地区です』

「……はぁ、やっと着いた」

 

 マンホールから這い出ると、そのまま地面に寝っ転がった。濡れたジャージがベチャリと音を立てる。

 見上げたビルとビルの隙間からは鉛色の空が見えた。青くないのは残念だが、それでも天井が無いって素晴らしい。

 一体、何時間俺は地下道を彷徨っていたのだろうか。

 日付はもう九月に入ってしまった。

 

「にしても、何だったんだアイツ等」

『犯罪者、それも過激派なのは間違いないです』

 

 それはそうだろうな、俺のこと容赦なく殺そうとしたし。

 だが、それだけじゃないはずだ。

 俺が気絶している間のことをクレスから聞いたが、俺を「F」の実験体かもしれないから持ち帰ろうとしていたらしい。

 Fってのは「プロジェクトF.A.T.E」のことだろう。まず、この単語を知っている時点でおかしい。「私」の記憶じゃ、P.T事件や闇の書事件関係はかなり高いレベルで情報規制されている。次元災害事件があったらしいという程度の噂は流れても、その詳細までは知ることが出来ないはずだ。

 もしかして、裏で管理局と繋がってる………いや、それは考え過ぎか。

 何にせよ、普通の犯罪者じゃないことは確かだ。

 しかも、俺を実験体として欲しがってるみたいだし。

 

「管理局以外にも追手がいるとか、聞いてないんだが?」

『安心してください、私もです』

 

 思ってたよりも敵だらけの現状に、はぁ、と二人でため息を吐く。

 や、一人と一機か。

 

「……これからどうするよ?」

『当初の予定通りフェイト=T=ハラオウンへ連絡を取りましょう。見つかる前に合流するのが最善かと』

「となると、またネット環境探しか………付近のネットカフェをリストアップしてくれ」

 

 クレスに指示を出した直後、空中にウィンドウが現れ、周辺の地図を映した。

 いくつかの地点にポイントがされているのを見ると、クレスは既にリストアップしていたようだ。

 一番近いのは、通りに出て400メートルほど行ったところか。

 俺はよっこらせと声を上げて立ち上がろうとして、ふらりと身体が傾いた。

 慌てて壁に手を突いて転倒するのを防ぐ。

 

『マスター?』

「何でもない、ちょっと力が入らなくてふらついただけだ」

 

 ほら、もう何ともない。

 

「さ、行くぞ」

 

 クレスが見せてくれた地図を頼りに、路地から通りに出る。

 そこでクレスが言っていた、クラナガン44地区は「治安の悪い」という意味が分かった。

 遊郭、色街、夜の街、ネオン街。言い方は色々あるが、つまりはそういう地区なのだ。

 今はまだ日があるから多くの店が閉まっているが、後数時間の内にここらは賑わいを見せるのだろう。

 もしかしたら今向かってるネットカフェも、そういうことに使う店なのかもしれない。

 それなら、身分証の提示は無いかもしれないと期待を抱いた。

 

 だが、ここで、思い出して頂きたい。

 さっきまで俺は下水道に居た。しかも、水に浸かってぐしょ濡れという状態。

 そんな状態で店に行けばどうなるのか?

 入店拒否、門前払いである。

 

「そりゃまあ、そうだよな………」

 

 長い時間を下水道で過ごしたお陰で、すっかり鼻がバカになっていた。

 臭くて汚い、まさにドブネズミなのだから、俺が店員でも同じことしただろうな。

 

「……クレス、身体洗えそうな所ない?」

『44地区は川はありませんので、水が使える所となると公園ですね』

「公園って、それじゃ人目に付くじゃん」

 

 空からはぽつりぽつりと水玉が落ちてきていた。

 直に雨になるだろう。

 

「……へくしゅっ!」

『マスター』

「へ、平気だって。それよりも本降りになる前に、何処か雨宿り出来そうなところ探そう」

 

 身体を洗うのは後回しだ。

 降り出した雨の中をあてもなく彷徨う。

 夏とはいえ、雨はどんどんと俺の体力を奪っていく。

 一歩一歩が重くなって歩くのが億劫なのに、そのくせ視界はふわふわとしている。

 

『……ター、マスター!』

「………あ? 何だよクレス?」

『このままでは危険です。そこの軒下でいいので休んで下さい!』

 

 危険って……敵か?

 だが、周りを見てもそれらしいものは見当たらない。

 あるのは薄汚れたビルと、隅に置かれたゴミ箱…………それと、アスファルトの壁。

 ………壁?

 違う、地面だ。

 あれ? 

 俺、いつの間に倒れて……?

 ああ、そうか………危険って、俺のことか……。

 

 そこでぶっつりと俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

「すんません、わざわざ来て頂いて」

「いえ、事が事ですから」

「そう言って貰えると助かります」

 

 機動六課の会議室。

 ここで機動六課の部隊長である八神はやて二等陸佐は、陸士108部隊から来たラッド・カルタス二等陸尉を迎えていた。

 わざわざラッドが機動六課を訪れたのは、他でもない、この間起きた「37地区レールウェイ襲撃事件」の捜査に進展があったからだ。

 

「今ハラオウン執務官が来ますんで、お茶でも飲んで待って貰えます?」

「では、失礼して」

 

 ラッドは目の前に置かれた湯呑を手に取り、緑茶を口元に持っていく。

 若い香りの内に、ほのかな甘味を感じる。あまりお茶に詳しくはなかったが、素直に美味しいとラッドは思った。

 

「どうです、最近の陸士は?」

「良いですね。先日、そちらのヴィータ三等空尉に教官として来て頂いたお陰で、皆の練度とやる気が上がりました」

「そうですか、やはりヴィータには教導の才がありそうやね」

「ええ、教え方も適切ですし」

 

 ラッドは口には出さないが、もう一つの理由として小さな子供にぶちのめされるのは、大人として相当悔しいというのもある。見た目通りの歳ではないのは知ってはいるが、それでもだ。

 事実、ラッドもトレーニング量を前より増やしている。

 

「そう言えば、来週からうちのギンガがそちらにお邪魔することになってましたね」

「この忙しい時に人員を割いて頂いて、ホンマ感謝してます」

「いえいえ、ギンガには良い経験になります。みっちり(しご)いてやってください」

 

 そうやって談笑しているところで、会議室のドアが開いた。

 入ってきたのはフェイト=T=ハラオウン執務官だった。

 

「すみません、お待たせしました!」

「お気になさらず、多忙なのは存じていますから」

 

 ラッドは席から立ち、軽く敬礼する。

 それに軽い返礼を返した後、フェイトははやての隣の席に腰を下ろした。

 

「それでは、揃いましたので報告させて頂きます。まず、こちらが今回の事件の調査報告書です」

 

 ラッドはネットを介さずに直接はやてとフェイトにへ報告書を送る。今回は特に漏洩の危険を避けるため、直接の渡しとなったのだ。

 二人は空中にウィンドウを呼び出して、報告書を開く。

 

「すでに承知のこともあるでしょうが、一応報告書の頭から説明致します」

「せやな、確認の意味も含めてお願いします」

「では……先日、サードアベニュー警邏隊から陸士108部隊及び近隣の武装捜査官に緊急連絡がありました。内容は、E37地下道から不審な反応あり、識別コード=未確認(アンノウン)のため確認処理求むとのことです。付近に居た武装捜査官と108部隊、それとそちらのフォワード部隊が駆けつけたところ、ガジェットドローンの出現を確認、まもなく戦闘になりました」

「同時刻に、私とシグナムが緊急出動しましたね」

「ええ、上空警戒をしていただいて助かりました」

 

 陸士部隊は何処も空戦をこなせる魔導師が少ない。飛べるだけなら居なくはないのだが、戦えるとなるとぐっと数が減る。

 陸士108部隊もそれに漏れないため、この時フェイトとシグナムが上空警戒にあったって貰えたのは、ラッドからしたらとても助かった。

 

「ガジェットとの戦闘は、フォワード隊の活躍のおかげで大きな人的被害もなく鎮圧できました。物的被害としては戦闘による軽微な損壊がいくつかと、大きなものとしてE37地下道の崩落ですね。それらを確認後、フォワード隊は警戒態勢により現場待機でしたが、新手の出現もなさそうだということで夜には解散となりました。以上が事件の流れです」

「こっからが本題やな」

 

 そう、何故スカリエッティ陣は今回の事件を起こしたのか。

 今回の事件はレリックの回収とは関係がない。

 

「出現ガジェット数はⅠ型が20機とⅢ型が2機。Ⅲ型は新型………やっぱり新型ガジェットのテストだったんやろうか?」

「その可能性は大いにあります」

「だけど、やっぱり一番気になるのは地下道での戦闘ですよね」

 

 フォワード隊や陸士の武装捜査官が現場にたどり着く前、すでに戦闘は始まっていた。

 たまたま居合わせた一般の魔導師が自衛のために行ったと見ているのだが、それにしては管理局へ名乗り出ることもなく、何だか腑に落ちない。

 

「それに関して、今回、ちょっと(おおやけ)に出来ない調査結果が出まして……」

 

 ラッドが二人に見るよう促したのは、地下道の傍にあった魔力センサーの解析データ。

 フェイトとはやては、その内容に目を通す。

 

「………なんや、これ。ホンマですか?」

「私も疑って、センサーの生データを貰って自分で解析しましたが、ほぼ同じ結果でした」

 

 三人が驚く理由。

 それは、

 

「なのはとの魔力波長適合率、73%………」

 

 フェイトがポツリと言葉をこぼす。

 

「一応確認しますが、高町一尉が現場に先行していたということは?」

「あらへん。緊急出動命令が来たとき、間違いなく高町一尉は六課におりました」

「うん、ちょうど私と打ち合わせしてたから」

 

 本人じゃないとすると、この魔力波長の適合率は高すぎる。

 魔力波長は指紋と同じで、全く同じものを持つ人は居ないと言っていい。いや、指紋は1兆分の1で一致することを考えれば、なお確率は低い。

 

「センサーの故障ってことはあらへんのですか?」

「チェックしましたが、正常に動作しています。それと、もう一つ。こっちの方が決定的なものになるのですが……」

 

 ラッドが示したのは、現場に残された遺留物の分析結果だ。

 

「子供用の帽子が現場に残されていたのは、お二人ともご存知ですね?」

 

 ラッドの問いに二人は頷く。

 

「もしやと思い、帽子に付着していた頭髪からDNA解析をしたのですが……」

 

 その結果は、高町一尉との遺伝子適合率94%。二人の顔が険しくなる。

 ここまで証拠が出揃うと、もう答えは出ているようなものだ。

 

「なのはのクローン……」

「………せやな、間違いないやろ」

 

 ラッドがわざわざ機動六課に来てデータを手渡しするのも頷ける。この調査報告は通信などで記録を残すわけには行かない。

 調査に関わった数名の局員にも、機密として口止めをかけている。

 

「この件は私が預かってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。むしろこちらからお願いするところでした」

 

 陸士108部隊は地上の警備と密輸品のルート捜査を主としている。流石に今回の違法研究の捜査は専門外だ。

 餅は餅屋。

 この件は、古代遺物(ロストロギア)の私的利用と違法研究の捜査が専門の、フェイトが捜査するのが適任だろう。もっとも、はやてが止めたとしても独自に捜査するだろうが。

 

「戦闘を起こしているあたり、スカリエッティとは別口そうやな」

「うん……取り敢えず、私は一度本局に行って情報集めてくるね」

 

 今以上にフェイトが機動六課を空けることになるだろうが、仕方がないとはやては割り切る。

 ただ、今一番問題なのは、

 

「なのはにも教えるべきかな?」

「当事者に黙ってるっちゅうわけにはイカンやろ。せやけどなぁ……」

 

 フェイトの言葉に、はやては悩む。

 今、この件をなのはに伝えれば、間違いなく捜査に協力するだろう。してしまうだろう。

 ただでさえ、フォワード隊の教導と分隊長としての仕事、更には最近保護したヴィヴィオの世話まであってオーバーワーク気味になっているのに。

 

「折を見て私から話すわ。まだ未確定情報ばかりやし」

 

 (ゆえ)に、はやては心苦しさを感じながらも、隊長として今は黙っておくことにした。

 その気持ちが分かるフェイトは、何も言わずに頷いた。

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

 ふわりふわりと身体が宙に浮く。

 上も下も右も左も無くて、ただふわりと漂う。

 ただただ、懐かしさだけが募る。

 

 風邪を引いたのはいつぶりだろうか。

 

 そんなに昔のことじゃないはずなのに、思い出せない。

 出てくる記憶は、実家のベッドで横になる私の姿。

 心配そうな表情をして私を見る母の顔。

 熱を計るために額に置かれた手のひらが、ひんやりしていて心地よい。

 

「お母さん……」

「おや、起こしたかい?」

 

 ぽつりと漏れたつぶやきに、聞きなれない声が返ってきた。

 ぼんやりとした視界の中、私を覗き込んでいるのは見覚えのない女性。

 

「………だれ?」

「後でいくらでも自己紹介してあげるさね。だから、今は寝な」

 

 額に乗っていた手がゆっくりと下がってきて、私の瞼を閉じさせる。

 その優しく冷たい手が心地よくて、すぐに私の意識は沈んて行った。

 

 

 

 

 

 

 白い天井、淡い水色の壁紙。

 ふわふわのベッドに、微かに薔薇の香りがする掛け布団。

 全く見覚えのない部屋。

 そんなところで目を覚ましたのだから、第一声は決まっている。一度言ってみたかったんだ。

 

「知らない天井だ」

『マスター、お目覚めですか?』

「え、おう」

 

 声のした方を見れば、クレスがベッド脇に引っかかっていた。

 取り敢えず、手に取って首にかける。

 

『スキャン開始……心拍数正常、呼吸安定……体温はまだ高いですね』

「そう言われると、身体がだるいような……」

 

 上手く力が入らないし、何だか頭が重い。

 

『風邪と過労で倒れたんです。しばらくは安静にしていて下さい』

「ああ、急に身体が動かなくなったのはそのせいか」

 

 無理してたもんな、俺。

 睡眠時間削って移動して、行く先で戦闘を繰り返して。

 しかも、これまでバイ菌ゼロの生体ポッドの中にいて免疫力なんて必要なかったのが、突如バイ菌わんさかの下水道だ。そりゃ風邪も引くわな。

 

『マスターの体調管理も出来ないなんて、デバイス失格です………』

「大げさな」

 

 大体、クレスと俺は一蓮托生なんだ。失格だろうが何だろうが、関係ない。

 それよりも、まずはこの疑問に答えて欲しい。

 

「クレス、ここ何処?」

「アタシん()さね」

 

 答えは別のところから返ってきた。

 部屋の扉を開けて、初老の女性が手にお盆を持って入ってくる。少し濃い目の化粧がシワを隠し、香る香水が雅さを出していた。

 

「アンタ、裏路地で倒れてたんだよ。救急車呼ぼうとしたら、そっちのデバイスに止められるし。仕方がないからアタシん家に運んだってわけさ」

「それは、えー、ご迷惑をおかけしました……」

「いいさ、別に初めてのことじゃない。どうせワケありだろう? この地区に来る奴は皆んなそうさね」

 

 俺が頭を下げれば、女性はそれにおざなりに返す。

 

「はい。ですので、すぐに出て行きま―」

「待ちな。誰も出て行けなんて言ってないだろう?」

 

 ベッドから出ようとした俺を、女性は手で制した。

 

「せめて体調が良くなるまで休んで行きな」

「けど……」

「今出て行っても、またどっかで倒れるよ。そんなのアタシの寝覚めが悪いさね。それに……」

 

 女性は言葉を切ると、持っていたお盆を俺に差し出した。

 乗っていたのは、じっくり煮込んだポトフのような野菜スープが入った(うつわ)

 それを見たとたん、俺の腹はキュルルと鳴った。

 

「丸一日寝てたんだ。腹も減ってるだろう?」

「うぐ………」

 

 自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

 ちくしょう、俺が顔を赤くしたってキモイだけで可愛くなんか………可愛いんだった。

 

「ほら、食べな」

 

 女性は俺にお盆を押し付けると、ベッド脇にあった椅子に座り、タバコに火を付けた。

 

「……いただきます」

「ゆっくり食べな。胃が驚くからね」

 

 スプーンを手に取り、スープをすくう。

 鶏がらの香りが鼻腔をくすぐり、俺の腹がもう一度キュルリと鳴った。

 沸き立つ湯気を何度か息で吹き飛ばし、そっと口へ運ぶ。

 

「……うまい」

「そうかい」

 

 フー、と煙を天井に向かって吐きながら、女性はそっけなく言った。

 もう一度、スプーンを口へと運ぶ。

 温かさが喉を通り、胸に広がっていく。

 

「……おいしい、です」

「聞いたよ」

「あった、かくて………やさし、くて………」

 

 三口目を掬おうとしたけれど、視界が滲んで器が見えない。

 ひくりひくりと身体が痙攣し、スプーンを持つ手が震える。

 そんな俺を見て、女性はため息を一つ吐く。

 そして、そっとお盆を机に退けると、

 

「泣いちまいな。楽になるから」

 

 そっと俺の頭を胸に抱いた。

 そこが、限界だった。

 

「うぁ……俺、私、あたし……ああああああああああああぁ!!」

 

 決壊した心の堤防は、溜め込んだ全てを吐き出した。

 

 

 

 

 

 




やっぱ、ここらで一度休憩を挟まなきゃって思いました。それと、各勢力がどう動くかも書かないといけないしね。

二話みたいにネタぶち込みたいけど、大して思いつかない悲しみ。

はやてって、ゲンヤ三佐とかと話すとき、ちょっとアクセントの違う標準語を使うんですよね。けど、文章にするとただの標準語になってはやてが喋ってるってわからなくなっちゃうから、ちょっと無理矢理ですが関西弁っぽい感じにしてます。

誤字脱字報告ありがとうございます。
誰が報告してくれたか、こっちでもわかるんですけど、誤字脱字報告する人って大体決まってるのが、少し面白いです。





どうせ、嵐の前の静けさ(ボソッ






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モブにだって名前があるもんさ

忘れた人へのあらすじ。
一話 なのはクローンになっちゃった。
二話 フェイトそんにSOS送ろうとしたらバレちゃった。
三話 戦闘機人に殺されそうになっちゃった。
四話 疲労と風邪で倒れちゃった。


加筆修正箇所
随分前のことで忘れちゃった。


 泣いて泣いて泣いて。

 少し分離し始めていたミルクの私とコーヒーの俺は、もう一度ぐるぐるとかき混ぜられて。

 心に溜まったアレコレを涙と一緒に出し切ったときには、ガムシロップが加わったカフェオレな俺になっていた。

 

「落ち着いたかい?」

「………ありがと、ごさいます」

 

 女性の胸元から身体を離し、手の甲で涙を拭う。お礼の言葉はしゃくりあげながら言った。

 

「あ、服……」

 

 俺の涙によって女性の胸元はぐしょぐしょに濡れていて、(すが)り付いた場所は強く握られくしゃくしゃになっていた。

 

「構やしないよ、ゲロよりマシさ」

「すんません……」

「構わないって言っただろ。それよりも、スープが冷めちまったようだね。温めなおしてやるから、ちょっと待ってな」

 

 脇に置いていたスープをお盆に乗せると、よいせと言って女性はお盆を持って立ち上がった。

 そのまま部屋を出て行こうとするところを、俺は慌てて呼び止める。

 

「あの! 名前を伺ってもよろしいですか?」

「『シロ』だよ」

「し、しろ?」

 

 まるで犬の名前のような……って、そうじゃなくて。

 今、日本語じゃなかったか?

 

「もちろん偽名さね。最近流行りの管理外世界があるだろう? その世界の言葉で白色って意味の言葉さ」

 

 本名は教えられないとシロさんは言う。訳ありなのは自分も同じだからと。

 

「シロさん、助けていただいてありがとうございます」

 

 改まって俺が頭を下げれば、シロさんはふっと笑い、何も言わずに部屋を出て行った。

 扉が閉じたのを確認して、俺は起こしていた半身を重力に引かれるままベッドへと落とす。ポフリと音がして、柔らかな布団は優しく俺を受け止めた。

 

『お休みですか、マスター?』

「いや、シロさんがスープ温めてくれているだろう。寝ないさ」

 

 けど、ひどく疲れた。

 泣くっていうのは、ホント体力使うんだな。子供が泣いた後で寝てしまうのが、今はよくわかる。

 シロさんが戻ってくるまで暇になった俺は、手慰みにクレスを指でつまんで何となく眺めた。

 真紅の宝玉が金の台座に収まり、台座には茶色の革紐が取り付けられている。本物のレイジングハートと寸分も違わない。

 ……ん? 違わない?

 

「なあ、クレス。お前ってさ、「レイジングハート・エクセリオン」のデッドコピーだよな? 「レイジングハート」じゃなく」

『そうですが?』

 

 「レイジングハート」と「レイジングハート・エクセリオン」は、レイジングハートとしては同じだが、その機能は全然違う。

 レイジングハートは闇の書事件の時にヴィータにぶっ壊され、修理する際に色々機能を改良した。いわばアップグレード版がレイジングハート・エクセリオンだ。

 何より大きな違いは、ベルカ式のカートリッジシステムを搭載したこと。

 

「ってことは、クレスにもカートリッジシステムが……」

『ありますね。今の私は一発のリロードしか耐えられませんが』

 

 たとえ一発でも使えるなら、戦闘の要所要所で使うことで戦術の幅は広がる。例えばそうだな……フラッシュムーブ中にカートリッジリロードを入れることで、もう一回フラッシュムーブを発動させる連続瞬間移動なんてどうだろうか。

 魔法の発動起点は俺になるから、クレスへの負荷はそれほど大きくないはずだ。

 

『砲撃をカートリッジで更に高出力にするようなのは厳しいですが、確かにマスターの案なら可能ですね』

「よし!」

 

 これで一つ逃走に使える手が増えた。今のままじゃ、地下道で交戦した奴らとまた遭遇した時に同じように負けてしまう。少しでも使える手は増やさなきゃならない。

 

『ですが、それには大きな問題が一つ』

「……なんだよ?」

『弾がありません』

「…………」

 

 俺は無言でクレスをアクセルモードへと変化させ、杖の先端に付いているカートリッジを引き抜いた。

 クレスの言う通り、カートリッジの残弾はゼロ。なんにも入ってなかった。

 

「弾切れとか……何のためについてんだよ、これ」

『取っ手なんじゃないですか?』

 

 クレスはカシャリカシャリと意味なくリロード動作をしながら、俺の言葉に自虐的に返した。

 せっかく思いついた手が早々に消え、やるせなさだけが残る。

 クレスを待機状態に戻して首にかけ直した。

 

「……はぁ」

『ため息を()きたいのは私の方ですよ』

「なら一緒に吐くか?」

『結構です』

 

 つれないなぁ。

 

『それよりも、これからどうしますか?』

「そうだなぁ……」

 

 やることは変わらない。フェイトに連絡を入れるため、クレスをネットに繋げればいい。

 手っ取り早いのはシロさんにお願いして、この家からネット接続することだが。

 

「それすると、逆探知された時にシロさんに迷惑かかるんだよなぁ」

 

 逆探知されるのは防げない。一度ネットカフェでクレスを繋げた時にされている。あの時は30分もかからずに追っ手がやってきた。

 なら、どうするか。

 

「……やっぱ体調を回復して、戦えるようになってからネカフェでメールを送るか」

「なんだ、メールしたいのかい?」

 

 バッと起き上がり、声のした方を見れば、シロさんが扉を開けて入ってくるところだった。手に持ったお盆には湯気を立てるスープがのっている。

 ノックせずに入ってきたので声をかけられるまで気付かなかった。

 

「そのデバイスですればいいじゃないか」

「いや、クレスはネットに繋げられないんです」

「インテリジェントデバイスなのに? 随分な欠陥機さね」

 

 シロさんにさらりと言われ、胸元で淡く光っていたクレスが、光るのを止めて(ただ)のガラス玉になる。

 おーよしよし、そんなに落ち込むなって。ほら、よく言うだろ、ダメな子ほど可愛いって……あ、濁った。

 

「アタシの端末を使うかい?」

「いえ、足が付くとご迷惑になりますので……」

「そうかい、じゃあ仕方がないね」

 

 それよりも食べな、とシロさんはお盆を差し出してきた。

 身体を起こし、それを受け取る。

 いただきますと手を合わせてから、もう一度スープを口へと運ぶ。

 

「……やっぱり美味しいです」

「そりゃ良かったよ。食べたら一眠りしな。まだ顔色が良くないさね」

 

 シロさんはその間に仕事に出かけると言う。

 聞けば、()()なスナックのママをやっているとのこと。俺の介抱をしていたせいで、昨日は店を開けられなかった。幸い、予約は一件も無かったらしいが。

 

「アタシが帰ってくるまで、勝手に出て行くんじゃないよ。ちゃんと元気になった姿をアタシに見せるのが介抱のお代さね」

「……わかった」

 

 俺が頷いたのを確認してシロさんは部屋を出て行った。去り際にぽんと撫でられた頭には、スープとはまた違った暖かさを感じた。

 

 俺はスープを一滴も残さず綺麗に平らげると、ベッド脇の机に置いた。

 それから掛け布団を肩までしっかりかけて目を閉じる。

 

「……クレス」

『はい』

「なんだか、いい夢が見れそうな気がする」

『……お休みなさいませ、マスター』

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 時空管理局地上本部。

 中央の超高層タワーとその周り数本の高層タワーからなるそれは、ミッドチルダのどこからでも見えると言われる。

 その中央の超高層タワーの最上階にレジアス・ゲイズ中将の執務室がある。

 天井も高く広々とした部屋は、そのほとんどが本棚で埋まっていた。大量に収められた書物のほとんどは様々な参考資料や報告書であり、同じものがデータベース上に存在する。

 レジアス中将がデータよりも紙の書物の方が好きで、より内容が頭に入るという、多忙の中の小さなわがままによってこの執務室が出来上がった。

 そんなレジアス中将はというと、窓を背にした執務机に着いてオーリス・ゲイズ副官からの報告を受けていた。

 

「機動六課からは材料は出ませんでした」

「そうか……公開陳述会まで間もない。より有利な交渉材料を押さえておかねば」

「引き続き、こちらの査察部を動かします」

 

 その回答に、レジアス中将は頷く。

 とにかく今は情報を集めなければならない。公開陳述会では、間違いなく本局の者達はレジアス中将のやり方に異を唱える。こちらの意見を通すには、こちらも向こうの意見を通す必要があるのだ。

 それが相手の弱みの黙殺なら、こんなに旨いことはない。こちらが譲歩することなどなくなるのだから。

 無論、それは向こうも同じこと。

 オーリス副官から向こうもこちらを探っているという報告を聞くも、レジアス中将は驚かない。

 ただ面倒だとだけ思う。

 

「奴らに理解させるには時間と実績がいる。まったく、必要あってのことだというのに、面倒な奴らだ」

「最高評議会からの支援は頂けないのでしょうか?」

(わし)から問合わせておこう……アインヘリアルの方はどうなった?」

 

 その問にオーリス副官の顔が少し険しくなる。

 アインへリアル、地上防衛の要と成るべくして建造が進められている超長距離大型魔力砲だ。独自の魔力精製炉を有し、魔力を持たない一般人でもスイッチ一つで砲撃が撃てるようになる。

 何よりもアインへリアルの配備が進められている理由は、ミッドチルダほぼ全土を射程に収めることが出来ることにある。

 地上本部の主力たる陸士部隊は9割が飛行能力を有しておらず、残り1割の内で戦闘をこなせる者は半分にも満たない。それはつまり、空からの襲撃、空への逃亡に対して取れる手段が非常に少ないことを意味する。

 アインへリアルが運用されれば、これまで煮え湯を飲まされてきた飛翔魔法を使う犯罪者に対する有効な攻撃手段になる。レジアス中将の試算では犯罪検挙率は25%も上昇し、ミッドチルダは今よりもずっと暮らしやすく安定した世界になるはずだった。

 今回の公開陳述会でも大きな争点になる事項である。

 だが、オーリス副官の元にはそれに影を差す報告が上がっていた。

 

「1、2号機は順調に調整が進んでおり、公開陳述会には間に合うとのことです」

「1、2号機? では3号機はどうなのだ?」

「それが、3号機に搭載している魔力炉の炉心の手配が遅れており、このままでは公開陳述会での試射は難しいと──」

 

 それを聞いたレジアス中将は怒り、机に拳を叩きつけた。

 ドンという音と共に、置かれていたマグカップが跳ねて中身のコーヒーが少量溢れる。

 

「何をやってるんだっ! 陳述会には絶対に間に合わせろ!! リソースが足りないというなら、他から回せ。優先順位を間違えるな!」

「わ、分かりました」

 

 肩を怒らせるレジアス中将。だが、すぐに目を閉じて深呼吸をして自分を鎮める。

 起こったことは仕方がない。オーリスを叱責しても戻ってくるわけではないのだ。

 

「……オーリス、お前はこれからアインへリアルの視察に向かうんだったな?」

「は、はい。間もなく向かう予定です」

「炉心の手配が遅れた原因を追及しろ。無論、二度と起こさぬよう対策も立てるよう伝えておけ」

「分かりました」

「それと、今回の責任の追及は後回しで良い。それよりも、公開陳述会に間に合わせるにはどうしたらいいかを中心に打ち合わせしてこい。人的リソースが足りないならこちらから応援を出せ、物的リソースが足りないなら手配しろ」

 

 レジアス中将は、本件の人選や手配には中将命令を使っても構わないことを伝え、オーリス副官を下がらせた。

 マグカップを手に持ち席を立ったレジアス中将は、窓から地上を見下ろす。

 瞳に映るその全てがレジアス・ゲイズにとって守るべきものであり、それを守ってきたことが何よりも誇りだ。そしてそれを、より強固なものとするにはやるべきこと、やりたいことがまだまだ残っている。

 レジアス中将はすっかり冷めたコーヒーを一息で飲み干すと、また執務机に着くのであった。

 

 

 一方、オーリス副官は当初の予定通りアインヘリアルの視察へと向かった。

 アインヘリアルのすぐ近くに建てられた庁舎に車を付けると、庁舎からアインヘリアルの技術責任者であるドーリック・ハクト三等技佐が出てきて、オーリス副官を出迎える。

 

「ようこそおいで下さいました、オーリス三佐」

「今日は視察の予定でしたが、後回しにします。理由はお分かりですね?」

「ええ。では応接室へとご案内します」

 

 ドーリック三佐の案内に従い、庁舎の中を進む。

 今回の視察にはオーリス副官の秘書官は連れてきていない。彼をここに連れてくるには、まだ早いと判断した。いや、もしかしたらこういった場に彼を連れてくることは一度もないかも知れない。

 彼はレジアス中将の掲げる()()の信者だ。彼の忠誠は地上本部と正義に向いている。

 

「どうぞお座りください」

 

 応接室へと入るとオーリス副官は上座へ座った。

 同じ三佐ではあるものの、その立場は二人の間で大きく異なる。中将付きの副官という立場は一佐とも引けを取らない。

 庶務の女性官が飲み物を置いて部屋から退室すると、オーリス副官は早速本題に入った。

 

「まず、アインヘリアル建造の進捗状況について報告をお願いします」

「1、2号機は予定より3日ほど前倒しで作業が進んでおります。既に砲塔の動作確認を終え、現在は細かなデバッグを行っているところです」

 

 魔力炉との接続は完了し、やろうと思えばいつでも試射を行える状態にある。

 

「分かりました。1、2号機についてはこの調子で建造を進めてください。それで、肝心の3号機についてはどうなっていますか?」

「先日ご報告致しましたが、魔力炉の炉心の手配が遅れていまして。動力源の炉と接続できないため砲塔の動作確認等が行えていません。他の部分の建造はほとんど終わっていますので、炉心が届くのを待つばかりとしか……」

 

 もちろん空いた人員を遊ばせているわけではない。その分を1、2号機に回しているため、作業が前倒しで進んでいるのだ。だがそれでも、現状のままでは間違いなく3号機建造が公開陳述会に間に合わず、陳述会で本局側に突かれてしまう点となる。

 

「私がここに来たのは、遅れるという報告を受けるためではありません。どうやって挽回するのか、その対策を立てに来ました」

「ええ。ですので、今急いで代わりを手配しております」

 

 ここでオーリス副官は、ドーリック三佐の言うことに違和感を覚えた。

 代わりを手配? そもそも、炉心が届かないという話ではなかったか?

 

「ドーリック三佐、私は炉心の手配が遅れていると報告を受けました。つまり、炉心の製造が遅れていると思っていたわけですが、どうやら違うようですね」

「ああ、いえ、炉心の製造は出来ていたんですが、それを輸送中に事故が起きまして……」

「事故ですか……報告にはありませんでしたが?」

 

 オーリス副官が突っ込めば突っ込むほど、ドーリック三佐の説明はしどろもどろになっていった。

 これは何かあると確信したオーリス副官は、持ち前の論理思考力を駆使して説明の矛盾点を突いていく。

 

「輸送中の事故ということは、交通事故でしょうか。陸士で運用している輸送車は、少々の事故程度では貨物に影響はないはずですが?」

 

 それに、仮に事故による影響が出たとして、何故炉心の修理を行うと言わないのか。修理を行えないほどに粉々になるような事故だったと言うなら、それは輸送車の強度からして大惨事に違いない。そんな事故が起これば、数分も置かずにオーリス副官の耳に届く。

 そうやってオーリス副官は一つ一つ追及し、逃げ場を無くしたドーリック三佐は、ついに隠していた本当の原因について話すことになった。

 

「……魔力炉の炉心が逃亡しました」

「逃亡、ですか。つまり、炉心とは生物だったのですね?」

「はい……その生物の持つリンカーコアへ外部から魔力を充填(ポンピング)し、臨界状態にしてから解放することで充填した魔力に加えて、リンカーコアから誘導放出として莫大な魔力が瞬時に生成されます」

 

 そんなことをして、炉心の生物が無事であるはずはない。フルパワーでアインヘリアルから砲撃を放てば、そのリンカーコアだけでなく身体までもが魔力へと変換されて消滅する。

 言うまでもなく、そんな命を犠牲にする兵器は違法中の違法だ。

 オーリス副官は思わずこめかみを押さえてしまう。

 

「…………魔力炉は一年以内に違法性の無いものへ切り替えなさい。多少スペックが落ちても構いません」

 

 だが、今は、今は切り替えることは出来ない。それは、アインヘリアル建造中止を意味する。

 多少の違法性は飲み込んで、確かな実績を上げて有用性を示す。それから違法性を無くせばいい。

 

「当然、逃亡した炉心を追ってはいますね?」

「残念ながら、巻かれてしまったと報告が」

「では、新たな炉心の製造にはどのくらいかかりますか?」

「おおよそ一ヶ月と聞いています」

「早めることは?」

「厳しいでしょう。未成熟では精製出来る魔力が落ちてしまい、運用できるレベルになるかどうか」

 

 それを聞いてオーリス副官は少し考え込む。

 新たに炉心を製造することと逃亡した炉心の捕獲。その二つを天秤に乗せ、メリットとリスクを天秤に加えていく。

 数分の間黙り込んだ末、結論が出る。

 

「炉心の捕獲を最優先事項とし、レジアス中将直轄の陸士000隊を動かします。ドーリック三佐はこれまでの炉心捕獲に関するデータを早急に私に送りなさい。まとめる必要はありません、全部送りなさい。これは中将命令とします」

「わ、分かりました」

「それと今回の件、今すぐに責任を追及することはありませんが……身の振り方は考えておいて下さい」

 

 やるべきことは終わった。

 早急に手を打つため、オーリス副官は足早に応接室を後にする。

 後に残されたドーリック三佐は椅子に崩れ落ちると、天を仰いで長く息を吐き出した。

 それから、のろのろと動き出すと、オーリス副官へデータを送る作業に入るのであった。

 

 

 

 




明けましておめでとうございます。
え、遅い? もうすぐ年の半分過ぎる?
……うん、知ってる。


さて、まさかこの五話を、あとがきから読む人はいないと思いますので、中身にちょっと触れましょう。

レジアス中将の執務室。
みんな電子書籍化してるだろう世界観で本有りすぎ。本好きなの? ビブリオマニアなの? よし、本好きにしよう。

犯罪検挙率の向上。
演説で言ってた気がする。多分。

魔力炉の原理。
ようはレーザーの増幅と同じ。



夏コミにWonderland Warsの同人出そうと奮闘中につき、次の更新も多分遅いです。
友人がイラスト担当。お互い初めての同人活動なので手探り中。
まあ、6月の抽選で落ちたら元も子もないんですが。

6/9追記
夏コミC94受かりました。
東地区ポ-44bだそうです。


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