ナザリック最後の侵入者 (三次たま)
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約1巻位 始まりから玉座の間まで

 繰り返しになりますが、オリ主とモモンガ様はそんなに仲良くありません


『DMMORPGユグドラシル 最終日 ナザリック地下大墳墓9階層円卓の間』 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガの背中は、円卓の間にて一人取り残され哀愁を漂わせていた。

 

 

『ナザリック地下大墳墓がまだ残ってたなんて思ってもいませんでしたよ』

 

 先程話していたヘロヘロとの会話を反芻する。 

 

『またどこかでお会いしましょう』

 

 そしてその度、心の奥底に突き刺さった棘が疼いていった。

 

「どこでいつ会うというのだろうね」

 

(わかってる みんなにもリアルがあるんだ。 夢を叶えた人だっている)

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの加入条件は2つ。アバターが異業種であること。プレイヤーが社会人であること。社会人であれば、当然スケジュールが詰まってユグドラシルをプレイする時間は限られてくる。かつては41人という大所帯なギルドだったが、この結末ははじめからから予想がついてたはずなのだ。

 

 しかし、頭のなかでいくら理屈を整えようとも、彼の中でどす黒い何かはグツグツと沸騰する。

 

「ふざけるな!みんなで作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!なんで簡単に捨てることができる?!」

 

 モモンガは憤らずにはいられなかった。そして衝動的に叩きつけた円卓に発生した0ダメージカウントがいかにも虚しい。

 

 終焉のときは迫ってきている。嘆いていたって仕方がないし、せめて最後のときくらいましな終わりかたでいたい。モモンガはそう考えて気持ちを切り替えた。 

 

 ふとモモンガは、部屋の壁際に埋め込まれていたギルド武器のスタッフに目を向けた。

 

(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、これを作るために奥さんと喧嘩したひともいたっけ)

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重んじるギルドである。そしてそれは、その方針を決めたモモンガ自身がそれを何より尊守してきたといっていい。だからここで、独断でギルド武器を手に掛けることに躊躇を覚えていた。もっとも、今ここで反対意見を述べることができる者はいない。

 

「最後くらい、俺が勝手にしてもみんな許してくれるよね」

 

 それは、このギルドにおいてのモモンガの、はじめての我儘かもしれなかった。

 

 白磁のような骸骨の手を伸ばし、仲間との思い出の結晶に手をかける。すると、黄金のスタッフから苦悶の表情を浮かべる黒い影が現れた。

 

「…………」

 

 こんな時でもなければ手にかける機会すらなかったのに、演出設定が無駄にクオリティが凝っていたことに、モモンガは呆れつつも微笑ましく思った。

 

 

「行こうか、ギルドの証よ。いや――我がギルドの証よ」

 

 モモンガは、最後の時を過ごすため、玉座の間へと歩を進めた。

 

====================

 『同時刻 ナザリック地下大墳墓10階層 玉座の間』

 

 

 かつて1500人の侵入者すら退けた難攻不落のナザリック。その前人未到の10階層玉座の間に、前代未聞の侵入者が居た。

 

「……やれやれだぜ ホント、やれやれだぜ……」

 

 彼女の名は『マタタビ』。異形種のケット・シーであり、現在変身スキルによって紺色セーラー服を着たメガネで黒髪の女子高生の出で立ちをしている。「シノビ」「シーフ」「アサシン」「マスターアサシン」など多くの隠密系クラスを持つ密偵型ビルドであり、ソロでのPKを基本スタイルとしている。

 

 もともと彼女は、ユグドラシルの異形種PK差別に襲われたところをクラン:ナインズ・オウン・ゴールに救われた者の一人であった。訳あってメンバーにはなっていないが、AOGのPKK活動に協力したり、1500名のギルド防衛戦時にもその一員に加わりつつ、影で裏切り情報を流したりなど数多くの貢献をギルドにもたらしてきた。

 

 AOGの活動メンバーがモモンガただ一人になった後も交流を持ち続けてモモンガとフレンド登録している仲でもある。

 

 そんな彼女がナザリックに侵入している理由は、最終日にモモンガへサプライズするためであった。

 ギルド協力者の地位にあった彼女は、ナザリックのギミック情報を手にする機会があった。1500名のギルド防衛戦時に、裏でこっそりナザリックのギミックを調査しており、おおよそ8階層までのギミックは知り尽くしていたのだ。

 

 入念に計画を立てた上で彼女はナザリックに侵入。NPCや性格最悪のトラップ達を慎重に躱していった。最奥につくまでに3日はかかっているのだが、リアル体には点滴を繋いで、安全地帯に着いては寝落ちするという離れ業でフルダイブを継続させていた。 採点式であれば満点間違い無し。完璧な侵入計画といえただろう。あくまで侵入計画としては。

 

(モモンガさんもギルド武器も見つからないじゃない!あーもどうしてこうなったの!?)

 

 知略と精神と課金とを尽くし、幾度の試練を乗り越えた彼女だが、肉球に包まれた彼女のツメは砂糖菓子もかくやというほど甘かった。

 

 現在彼女は、玉座の間にて絶賛迷子の子猫中であった。そこには親切に導いてくれる犬のおまわりさんはいない。かわりといってはなんだが傾国の美女風の堕天使的NPCが女神のごとく微笑み続けてくれている。

 

(なんだろう、隠密スキルでバレてないはずなのにひたすら微笑み続けてくるのがすごく不気味。ん? あのロッド、《真なる無(ギンヌンガガプ)》ね、まぁどうでもいいけど) 

 

(ってそんなことよりどうすんのよ! 潜入に不要とか言って《メッセージ/伝言》のスクロール作ってなかったとかバッカじゃねぇの……私 これじゃナザリックのどこにモモンガさんがいるかわかんないじゃない!)

 

(下手に《ロケート・オブジェクト/物体発見》のスクロール使えば攻性防壁に引っかかってモモンガさんが来るまでに私ホトケになってるし!)

 

 ちなみに彼女にはモモンガがナザリック外で最後を過ごすかも知れないという発想はなかった。そもそもサプライズ計画そのものに重大欠陥があったというのに。

 

 玉座のそばのNPCは自分のマヌケぶりをまるで嘲笑ってるように見えて、マタタビは八つ当たりしたい気分になった。だが自制心には敵わず泣く泣くこらえることとなる。

 

「(……ハァ)」

 

 隠密スキルのランクが下がるため溜息すらできない彼女は、仕方なく心中でそれらしき発音をつぶやいた。

 

 

『ガチャリ』

 

=============================

 

 玉座の間にたどり着いたモモンガは、側に仕えていた戦闘メイドプレアデスと執事のセバス、玉座の間にて佇んでいた守護者統括のアルベドをNPCコマンドによって待機させていた。

 

「《真なる無(ギンヌンガガプ)》じゃないか!?どうしてここに」

 

 ギルド:AOGといえど、11個しか所持してなかったワールドアイテム。これを独断で持ち込んでNPCに持たせる暴挙に腹を立てたが、最後なのだから持たせたやつの意思を尊重しようと思いとどまる。結局没収はしなかった。

 

 ワールドアイテムの玉座に腰掛けて一息つくと、傍にいるアルベドが視界に入った。どんな設定だったのか気になったモモンガはコンソールからアルベドの設定情報を開く。

 

(長っ!そういえばアルベドを作ったのは設定魔のタブラさんだったか) 

 

 長々とスクロールされる大量の設定文に気圧されるモモンガ。しかし文章容量の最後の一文を見ると……

 

『ちなみにビッチである。』

 

「……はぁ。ギャップ萌えだったけ、タブラさんは。それにしてもいくらなんでもこれは」

 ―酷すぎる。

 

 モモンガはおもむろにギルド武器のスタッフをかざして、NPC設定の編集コンソールを取り出す。 件の一文を削除したあと、空白の一行が妙に気になり悪ふざけで『モモンガを愛している』と書き直した。

 

 仲間のNPCにいたずらをしかけるなど普段の彼からすればあまりに常軌を逸する行動だった。それがどのような心境の変化だったかは、モモンガ本人でさえ知り得ない。

 

「くふっ! 恥ずかし、何やってんだろ俺」

 

 今はただ、背徳感と羞恥心が胸のうちに燻っているばかりである。

 

 

「……別にいいと思います。最後なんですし、お好きになさっても」

 

 

「!?」

 

 突如虚空に響いた女性の声。まさかいまのを見られたのか?そもそもだれだ?情報がないからギルメンじゃない?侵入者?モモンガは突然のことに驚愕し、骨ばかりで空っぽの脳みその中に大量のはてなマークが広がっていった。

 

 玉座の前にある段差の下の方。アルベドがいるのと反対側の空間がぐにゃりとネジ曲がり、だんだんそれが人型に変化していく。

 

 そしてそこに現れたのは、大和撫子風の長髪をたなびかせた制服姿の女子高生であった。日本人然とした整った顔立ちに細フレームのメガネをつけたそれはいかにも優等生というイメージを与える。

 

 ただ一言いえるのは、その姿がこの玉座の間に盛大にミスマッチしていることであった。

 

「久しくお目にかかります非公認魔王さま。マタタビです」

 

 もっとも、セリフ選びと玉座の下に丁寧に跪く動作はそれなりに様になっている。

 

「マタタビさん!? どうしてここに…ひょっとして今の見てました?」

 

 対する魔王は玉座から飛び上がりあたふたと狼狽してしまう。その様は、隠していたエロ本が見つかってしまった思春期の少年そのものだ。

 

 慌てる魔王に跪くJK。「中身が逆なんじゃないの?」と思うくらい、その光景はシュールであった。

 

 マタタビの謎の臣下ロールは、おそらく気まぐれであると思われる。

 

「見ておりましたが……気にしないでください。人間大抵、生きていればそんなことの1つや2つありますから」

 

 JKは魔王を懸命に諭す。魔王は、内心尾を引かずにはいられない小心者の魔王だったが、JKの好意を無下にしないため極力気にしないように努める。

 

「……はい、すみません。ところでどうしてマタタビさんがここに?まさかここまで侵入してきたんですか!?」

 

「ほんの余興ですよ。お気に召していただけましたか?」

 

「ええ!結局10階層に攻め込んできたプレイヤーは居なかったな~って思って少し寂しかったので、嬉しかったです。 ありがとうございます」

 

 『m(*-ω-)m』モモンガは感謝の意を持つアイコンを出す。

 

「もったいないですよ~。

 隠れるつもりはなかったのですが、NPCに待機コマンドが出されるまで部外者の私はすがたをあらわせなかったものでして。

 

 それと、計画立案ひいてへ準備のために3ヶ月程連絡が取れなかったのでご心配をおかけしました。」

 

「そのためでしたか。たしか「やることがある」と、てっきりもう辞めてしまわれたのかと……」

 

 ふと、モモンガの表情に陰りが表れるような錯覚をマタタビは感じ取った。本来、ゲームのアバターが表情を動かせることはないのだ。

 

 マタタビは、モモンガの周囲と、部屋の両脇に掲げられている41種の御旗を見回し何かを察した。そして何を言うべきか、あまり自信のないオツムを回して考える。

 

「仕方ないとはいえ、魔王さまにはあんまりな話です。 最後に残ったのが私だったなんて、思ってもみなかったですから」

 

 今の言葉は半分が嘘だ。彼女は端からモモンガが一人で最後を迎えるだろうと目星をつけていた。

 

「……いいえ、気持ちはとても嬉しいですが、リアルを優先させるのは当たり前ですよ。成功した人や夢を叶えた人もいますしね。間違ってるとしたら俺の方です。」

 

 魔王の小さなつぶやきは、マタタビの耳にはしっかり届いていた。

 

(どの口が言ってるんだろう。この魔王は)

 

 最終日まで居残ったマタタビをしても、モモンガのギルドへの執着は異常である。そんな彼の理性的な物言い、それが彼自身の救いようもない人格を如実に表していた。 

 

(そういう所が良いんだけど モモンガさんは)

 

 だからこそ彼はAOGのギルド長を務められたのかもしれない。AOGは誰も彼も癖が強く、決して少なくない諍いも確かにあったのだから。

 

 マタタビとモモンガはあまり仲が良い方ではなかった。今日は最終日ということで会話することになったが、普段は金策の工面取引をするだけのドライな関係である。しかしマタタビは、モモンガの協調性というものを非常に尊敬していた。

 

 

「やはり相変わらずですね。」

 

「何がです? っと時間ももうないですね。会えて良かったです。マタタビさん、ありがとうございました。」

 

 話し込んでいるうちに、気付くとサービス終了に10秒切っていた。

 

「ではごきげんよう。 今生の別れやもしれませんが、何卒達者で」

 

 

 

 




 次は忠誠の儀までやって終わりです


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忠誠の儀

 そういえば特典小説で42人目のギルドメンバーは男性だと判明したそうですね(遠い目)

 一通り書き終わったあとにwikiで確認したけどビックリしました。TSタグつけたほうがいいのかな。


 「あれ?ゲーム終わらない」

 ふとマタタビさんがつぶやいた

 

 

 ユグドラシル最終日、俺とマタタビさんは共にゲーム終了の瞬間を待っていた。

 

 しかし予定時刻を過ぎてもログアウトは行われず、それどころかコンソール、アイコンが消えGMコールも届かなくなってしまっていた。

 

「これは……」

 

「どういうことだ!?」

 

 考えられるのは、サーバーダウンが延期になった、またはユグドラシルⅡなどの新たなDMMORPGに転送されたといったところか。満足にゲーム終了もできないなんて、最後の最後で糞運営のやらかしに腹が立った

 

「ひえっ!?」

 

 マタタビさんが口を抑えながら驚愕した声を上げる。彼女の視線の先に居たのはNPCアルベド、だがその様子がいつもと違うことに気づく。

 

「どうかなさいましたか モモンガ様」

 

 口が動いている!? 誰かが最後にAIでも仕組んだのか? いやしかしこれは……

 

 おもわずこちらが怪訝な様子で見返すと

 

「モモンガ様?」

 

(あ、あれ? 感情が勝手に沈静化されて)

 

 状況についていけず動揺していたところで突然感情の起伏がおさまり、強制的に思考が冷静化される。 

 

「GMコールが効かないようだ」

 

「お許しを、無知なわたくしではGMコールというものに関してお答えすることができません」

 

(NPCが会話をしている!?)

 

「この失態を払拭する機会を頂けるのであれば、これにまさる喜びはございません」

 

「そ、そうか」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのNPCは、ヘロヘロさん制作の特殊AIが組み込まれており多少複雑な動作が可能だが、自律的に会話ができるまでの域には達していない。と言うか不可能だ。 ではこの現状は一体……

 

 マタタビさんを見ると、驚愕のあまり口を抑えてガクガク身震いしている。まるで借りてきた猫のようだ。

 

(ありえない、何か異常が発生しているのか)

 

 確認のため、ギルド武器のスタッフを手中から放すと 空中に漂いながら浮遊して止まった。

 

 こういうところはゲームの時と同じなのに、GMコールは効かない、コンソールも開かないしどうすればいいのだろう。 とりあえず、NPCに命令してよいのなら……

 

「セバス。大墳墓を出て、ナザリックの周辺地理を確認せよ。 プレアデスからソリュシャンを同行させ、知的生物と接触した場合丁寧に交渉しこちらに連れて来い。だめだったらソリュシャンを逃し、情報だけ持ち帰るように」

 

「承知いたしました、モモンガ様」

 

 コマンドを用いない命令に従っているのか? よくわからないがとりあえず命令しても良さそうだな。

 

「他のプレアデスたちは9階層に上がり、侵入者が来ないか警戒に当たれ」

 

「仰せのままに」

 

 指示を承けたNPC達は玉座の間から退場していく。

 

(何これ疲れる)

 

 とりあえず上位者として接して於けば間違いはないのかもしれない。まさかゲーム時代にやっていた支配者ロールが役に立つなんて思いもしなかった。でも素じゃないからこれは相当気を使うなぁ。

 

「僭越ながらモモンガ様、よろしいでしょうか?」

 

「何だ。申してみよ」

 

 何だ何だ? 知らぬ間にNG行為に触れていしまったとかか?内心気が気でない俺に対し、神妙な面持ちのアルベドはマタタビさんのほうを一瞥してみせる。

 

「はい、その者は一体、モモンガ様とどのようなご関係なのでしょうか?

 先程からモモンガ様を魔王と敬い、慕っている様子でしたが…」

 

 まるで般若のような鉄面皮で問うてくるアルベド。マタタビさんは増して体を震わせ、怯えているのがわかる。

 

 そうか、NPCが俺には無害だとわかっても、マタタビさんは侵入者だから敵対される危険性がある。 だからさっきから震えっぱなしだったんだ。

 

 ここは出来る限りフォローして置かないと彼女の身が危ない。

 

「とりあえず彼女は敵ではない、よって手出しは許さん。

 

 そうだな シモベ達にも彼女を紹介せねばなるまい。 アルベド」

 

「……はい」

 

 なぜか突然、般若から反転しおらしい反応をするアルベド。タブラさんには悪いが、ギャップ可愛いと思ってしまう自分がいる。

 

「1時間後 第六階層の闘技場に、4階層と8階層以外の全階層守護者達を集めるよう手配してもらいたい。アウラとマーレには私が直接話しておこう。 

 

 そして会議のついでに、彼女についての話をする」

 

「……承りました」

 

 再度マタタビを一瞥するアルベド。

 

 マタタビはというと、何か言いたげな視線を俺のほうに向けている。 どうした?俺なんか悪い事したの?

 

「では失礼させていただきます」

 

 一礼して、アルベドは玉座の間から退場した。

 

=======================

 NPCたちが居なくなった玉座の間で、一段落つき緊張感から解き放たれた私とモモンガさん。 ワールドアイテムの玉座に座る死の支配者はなかなか絵になるが、当の本人が「…はぁ」とか「うわぁ」とか言いながら両手で頭を抱えこんでいて色々と台無しだが。

 

 そもそも制服姿でこの場の世界観と致命的に乖離してしまっている私がどうこう言えるもんではないけれど。

 

 そういえばこの世界に来てからと言うもの、ゲームシステムの能力に様々な変化がもたらされた。玉座の間で行った幾つかの成果を箇条書きで言うと

 

 ・魔法やスキルがフィーリングで発動できるようになった。

 ・自分のMP・HP量などのステータスがなんとなくわかるようになった。

 ・フレンドリファイア有効化された。

 ・黒い穴からアイテムを取り出せるようになった。

 ・精神異常無効化にMP消費がかかる等の一部仕様変更。

 ・18禁に触れても垢バンされない。

 

 まだ要実験ではあるけど、全体的に利便化されているといっていい。このレベルの機能性は現状の技術力だとゲームとして再現不可能だからここが異世界だという確信を後押しすることとなる。

 

「ねぇねぇ魔王さま、やべぇ死ぬかと思った?」

 

「どうしたんですか?マタタビさん、これでも敵対されないよう精一杯フォローしたんですけど」

 

「そりゃ最初は咄嗟の状況判断に『誰だこの魔王様は!?』って思ったけど!

 モモンガ様が別人になって私ひとりきりで異世界転生しちゃったの?って思ったけど!」

 

 突然動き出したNPCに、とっさに的確な指示を出して送り出すその手腕は、流石曲者揃いのAOGをまとめ上げただけのことはあると素直に感心した。

 

 もっとも、自己評価の低い隣人が、私の素直な感心を素直に受け取ってくれることはないだろうけど

 

「いやいやそれは言い過ぎですよ。 で、何が不満なんですか?」

 

「さっきそこにいたNPCのアルベド?でしたっけ、彼女に何したのか覚えていますよね」

 

「そのことはもうなしにしてくださいよ。 ってそれになんの関係が?」

 

「やっぱり気付きませんでしたか……。あの女の人、終始私に殺気を放ってたんですよ。 私を魔王さまの嫁かなんかと勘違いして」

 

 怖かった。死ぬかと思った。生まれてこの方あそこまで体が震えたことはない。吊革を離した通勤電車のほうがまだ安定するだろう。

 

「マジですか!?」

 

「……私、骨じゃなくて普通にお肉の付いた男の人が好きなのですがね。リアルに彼氏はおりませんが」

 

「俺だってリアルじゃ普通の男ですよ!リアルに彼女はいないですが……」

 

「告白ですか?ボーナス全部課金ガチャにつぎ込むような金銭感覚の旦那なぞ、それはそれで普通にお断りです」

 

「ちょっ!? 違いますって! 大体ここは異世界ですよ?魔法スキル色々検証しましたが、リアルに戻れる公算薄そうですし、その話をしても仕方ないでしょう。」

 

「冗談ですよ、私とて低収入のフリーターなんですし。

 しかし魔王さま的にそこのところどうなんですか? リアルに未練とかあります?」

 

「さっきのセバスの《メッセージ/伝言》を聞く限り、少なくとも自然環境はまともなようですね。 この異世界の住民の強さが不明ですが。 

 何にしても未練はありません。 リアルには何もないですから」

 

 まだこの世界に何があるともしれないのにさすがはモモンガさん。自分のギルドが現実化したというゲーマの夢的シチュエーションを逃さないとは。

 

「右に同じです。じゃ、そういうことで行きますか」

 

 私もリアルじゃしがないフリーターだったから、身の安全さえ確保されれば異世界生活というのもまんざらではない。そのへん隣の彼はやたら臆病だが、今の私には妙な慢心があった。

 

「ええ、では手を出してください」

 

 モモンガさんは骸骨の手を差し出した。私がそれを取ると、彼の指についている赤い指輪が煌めく。

 

 突如場が暗転し、気づくとそこは薄暗い石造りの廊下だった。

 

「転移の指輪は普通に作動するようだな」

 

「壁の中に埋め込まれちゃうとかじゃなくて良かったです」

 

「……さらっと怖いこと言いますね。」

 

「では私、これからスキルで隠形しますから。自己紹介のときにお声をかけていただければ」

 

「了解」

 

 さっきのNPCアルベドさんの反応からして、最高責任者っぽい立場のモモンガさんの横に、突然見知らぬ輩がいれば不快感を誘発して良くないという結論に至った。

 

 だから、NPCがモモンガさんに無害だと知れるまで私は姿を隠し、安全とわかってから登場して自己紹介するという手筈を組んだ。私を感知することができるNPCは5階層のホラー的なアレだけみたいだから無難な作戦だろう。

 

「ではスキル《隠形Ⅴ》《気配遮断Ⅴ》《認識阻害Ⅳ》っと。さて魔王さま、私が見えますか?」

 

「はい、自分が見えない誰かと話しているようで恥ずかしい感じがします」

 

 スキル名を宣言してその後果がちゃんと発動しているということを自分自身でもしっかり認識できる。初体験の感覚なのに不思議と違和感を覚えないのが不気味だけど。

 

(とりあえず会話するときにはメッセージ繋ぐので)

 

(かしこまっ!)

 

 ギルド武器の杖をコツコツつきながら歩み出すモモンガさん。置いていかれ無いよう、私も忍び足でついていく。行く先は6階層にあるという円形闘技場だ。

 

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 ほぼ原作通りの流れ。 

 モモンガさんが内心うろたえながら、ビビりまくるマタタビにメッセージを送るだけなのでカットします

===============================

 守護者のNPCとの打ち合わせ、状況確認がひとしきり終わったところで、モモンガさんが質問を投げかけます。

 

「お前たちにとって私とはどのような人物だ まずはシャルティア」

 

 妙に威厳のある言い方ですが、ようは「みんな僕のことどう思ってるの?」ってやつです。

 

「まさに美の結晶 この世界で最も美しい御方でありんす」

 

 美の結晶を自称出来そうな彼女自身がそのようにいうのもなんか不可解ですが。

 

(……彼女ネクロフィリアなんですよ。ペロロンチーノさんが製作者なので)

 

(なるほど…あのエロ翼王ですか)

 

 脳裏に、垢バン覚悟で蕩々とエロスを語るバードマンの姿が浮かんでいく。

 

「コキュートス」

「守護者各員ヨリ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者二相応シキ方カト」

 

(実際どうなんです? 守護者相手に立ち回るのは)

 

(単機でならまぁ出来なくもないですが……シャルティアがちょっとキツイですね。 あれでもガチ構成ですから)

 

「アウラ」

 

「慈悲深く、深き配慮に優れたお方です」

 

「マーレ」

 

「す すごく優しい方だと思います」

 

 この子だけ妙に頬が紅潮している気がするけど気の所為?

 

「デミウルゴス」

 

「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力を有されるお方、まさに端倪すべからざるという言葉がふさわしい御方です」

 

(……めっちゃプレッシャー感じるんですが)

 

(前半は合ってる気がしますけど……タンゲイスベカラザルって何?)

 

「セバス」

 

「至高の方々の総括であり、最後まで私達を見放さず残っていただいた慈悲深きお方です」

 

 見放さずって、そういう扱いなんだ。

 

「最後になったが、アルベド」

 

「至高の方々の最高責任者であり、私共の最高の主人であります。

 そして私の愛しい御方です」

 

「な!? ぅうんなるほど……各員の考えは十分に理解した」

 

「「「はっ!」」」

 

(何、この高評価っ!?)

 

(……知らんがな。まぁ合っていなくもないのでは?)

 

(他人事だと思いやがって! そろそろマタタビさんの紹介ですよ)

 

 緊張するなぁ。殺されたりとかしないかなぁ。

 

「それと最後になるが、皆に紹介したいものがいる。 気付いたものはいるか?私の側にずっといるのだが」

 

「「「!?」」」

 

 守護者の人たち驚愕です。まぁ自分で言うのもなんですが、100レベルを誤魔化せる隠形使いはユグドラシルでもそうはいないと自負してる。むしろ私にはそれくらいしか能がないからバレたら立つ瀬がないのだが……。

 

「さっさと出てきなさい」

 

「ぼふっ!?」

 

 隠形を解くのを渋ってたらモモンガさんが本気の<絶望のオーラⅤ>出してこっちを炙り出してきた。レジストには成功したが、うっかり隠形を解いてしまう。 

 

 いやだから、そんな能力でバレたりしたらこちらの立つ瀬がないんですって!

 

「……マタタビです」

 

 お間抜けで妙ちくりんな登場の仕方に呆然とするNPCの皆様。

 

「続けて、もっとちゃんと、詳しく」

 

 さっきから他人事のようにからかっていた報復でしょう。なんか普通に怖いです。

 

「種族はケット・シー、得意なことは隠形と罠はずし。

 モモンガ様とは懇意にさせてもらっていて友好かんke「従属の間違いじゃありんせんの?」間違えました、従属関係にあります。 

 ナザリックに直接仕える者ではありませんが、同じ主を持つシモベとしてどうか仲良くさせてもらえると嬉しいです」

 

(マタタビさんっ!?あんた何いってんの!?)

 

 トゥルーヴァンパイアの凄みに負けて、うっかり二言を吐いてしまいました。NPCの皆さんからは訝しるような微妙な視線。あ~あと約一名、殺気も少々。

 

 先程からよく殺意を読み取れるのは、《読心感知》というエネミーの敵対認識を確認するバッシブスキルの効果です。この世界では相手の悪意敵意殺意、好意善意愛情などをフィーリングで感じ取れるように変化した模様。

 

 ちなみに骸骨はわかりません。

 

 なにこれ人間不信まっしぐらなんですが。いやここに人間いないけど。

 

(へるぷ・みー 魔王さま!)

 

「う、うむ。彼女は昔からアインズ・ウール・ゴウンと付き合いがあってだな。

 かつて1500人もの軍勢がナザリックに侵攻を受けたとき、その一人に彼女がスパイとして紛れ込んで、敵司令官その他戦闘員のいくつかを殲滅したという功績があってな、それを認められシモベの一人(フレンド)になったのだ」

 

(シモベ以外は大体同じだね)

 

(アンタが言った嘘だろうが!)

 

 とにかくナイスフォローですモモンガさん。と、内心エールを飛ばしつつNPCを見やると、歓迎の気配が若干。しかし、約一名殺気が尚強くなってるような?

 

「では彼女の配属だが……アルベド、お前に委ねよう。」

 

「では一人、シモベの中で人手を求める者に心当たりがあります故、そちらに配属させようかと思います。」

 

(いつの間にか私の配属先が決まってるのですが…… 魔王さま?)

 

 アルベドさん、女神のように慈愛に満ちた微笑みでこちらを一瞥します。しかし、その内心がこちらへの敵意で満ちているとわかれば戦慄する他ありません。

 

(自分で言ったんでしょう? まぁ、突然来た奴がいきなり上にのさばるのも歓迎されませんし、身の振り方としては妥当かもしれませんね。私も目は通しておきますし、アルベドに決めさせれば問題ないでしょう)

 

(まぁ理屈は分からないでもないですが、一番問題ありそ――)

 ――うなの彼女なんですけどと言おうとした寸前で、

 

「うむ、では今後共、忠義に励め」

 

 突然、モモンガさんの姿が消えました。おそらく先程使った拠点移動のアイテムでしょうか。

 

 それにしてもまずいですね。アルベドさん、っていったけ? 彼女が私の人事を決めるなんて嫌な予感しかしない。途方もなくブラックな職場に務めさせられ過労死させられるENDとか嫌だなぁ。 ま、結局モモンガさんの目を通す訳だし大丈夫かもしれないけど。

 

 モモンガさんも大変だなぁ。部下の異常な忠誠心に当てられ、今頃は見えない胃袋がきゅうきゅう締め付けられていることでしょう。

 

 濃ゆい部下達に突然忠誠を誓われて、御可哀そうに……。

 

 

 濃ゆい部下達に……。アレ……私置いて行かれた? この濃ゆい人達と一緒に……。

 

 

 刹那、私の中に芽生え始めていたモモンガさんに対する同情心は180度反転して憤怒と恐怖心に入れ替わった。

 

(ふざけんなぁー!)




 誤字脱字が見つかったら報告お願いします。


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42人目の◯◯◯

 今回でオリ主の背景設定をやっておきます。


「私の好きなマンガに、新米メイドのヒロインがご主人様に一目惚れするラブコメディ漫画があります。

 

 ご主人様の幼馴染や秘書官、同僚メイドなど数多くの恋敵たちと女特有の陰湿な蹴落とし合いをしながらご主人様の御心を奪い合うという昼ドラ的なストーリー。それを可愛らしいイラストで描くという独特な作風で人気を博し、かなり有名なマンガとなっていました。その漫画の作者がAOGのホワイトブリム様だという衝撃の事実を知るのはもう随分前の話、AOGが全盛期だった頃です。 

 

 当時の私は、1500名の大侵攻防衛戦の功労者の一人として、AOGから報酬アイテムを貰えることとなりました。ホワイトブリム様の大ファンだった私は、是非とも御方のサインを貰いたかったのですが、それは無理なので代わりに記念になるアイテムをオーダしました。そのアイテムこそホワイトブリム様のフェイヴァリット、メイド服なのです!

 

 ホワイトブリム様は、ギルド内に自作品を評価してくれる者が誰一人いなかったという境遇から、ユグドラシルで初めて出会ったファンの存在に感動し、記念アイテム制作に猛烈な熱が入ることとなりました。

 

  そうして生まれたのが、ホワイトブリム様の最高傑作アイテム

    《メイド・オブ・ヘル・アルマゲドン(メイド服は決戦兵器)》

 

 ワールドエネミーからのみ採取できる希少素材や希少金属、それら最高級の素材たちをふんだんに使い込み、アシスタント泣かせのプロフェッショナルなデザイン技術で作り上げたそれは、神器を超えかのワールドアイテムに匹敵する圧倒的性能を誇ります。

 

 物理的、魔法的な高水準の防御力。全属性攻撃耐性、全状態異常耐性という理論上不可能だと言われていた完全耐性。その卓越した性能を持ってすれば、紙耐性ステの私ですら本職のタンクとタメを張れる防御力を得ることができるでしょう。 

 

 これが作られた当時、制作に費やされた膨大な資源のことで議論が起こって、ギルド内の別の御方にこのアイテムを渡そうという話になりました。誰が能力的に適任かという話になり、それならばと粘液盾の二つ名を有するぶくぶく茶釜様が自ら名乗り上げたそうです。しかし、ピンクの肉棒のお姿が最高級メイド服を着用する絵面を想像し多くの御方々が苦言を呈します。そのあとPVPに発展しかける大論争が起こりましたが、モモンガ様これを執り成し多数決をとって、結局所有権は私のものとなりました。

 

 まぁ悲しいことにこのメイド服を装備すると、私の十八番の隠形と素早さに若干のマイナス補正が掛かってしまうので、これまで殆ど使われることがありませんでした。が……今こうして使う機会が与えられたので、御方々は全てを見通されていたのでしょう」

 

 話が終わると、頼んでもいないのに盛大な拍手が起こります。正直困惑しかない。

 

 

 ハロ~エヴリヴァディ~ マタタビです。状況を説明すると、私が今しがた着替えた最高級メイド服に疑問を持ったホムンクルスの一般メイドの方々に、このアイテムのルーツをお話していたところです。

 

 いつの間にか41人全員のメイドとプレアデス、メイド長のペストーニャさんまで集まり熱心に耳を傾けていました。

 

 話が終わると、質問するためにメイドたちがお行儀よく手を挙げます。とりあえず反応した方がいいのかな?

 

「どうぞ、インクリメント先輩」

「その、ホワイトブリム様がお作りになられたという「まんが」なるものは一体どこで見ることができるの?」

「10階層にある、アッシュールバニパル大図書館に蔵書されているようです。

 新刊が出るたびにモモンガ様が寄贈なさっていたらしいですね。」

「それは本当ですか!」

 

 メイド達の中で歓声とも嬌声ともつかない甲高い声が上がった。この時ばかりはメイド長のペストーニャさんですらそんな粗相を気にも留めなかった。

 

 次々に上がる質問の挙手。プレアデスの方たちも自分の製作者の逸話を催促し始めました。

 

 宗教団体の司教様ってこんな気分かな? AOGの他愛もなかった逸話が、ここで神話として語られるとはまさか思いもしません。

 

 結局この流れは、廊下を通りかかったセバスさんがメイド全員に喝を入れる形で終了を迎えます。

 

 正直助かりました。自分で切り上げられる空気じゃなかったので。

 

 

 ああそれで、どうしてこんなことになったかって? 

 むしろ私が知りたいです。

 まさか本当にAOGのギルメンが、こんな未来を予想していたとでも? 

 バカバカしいったら無いじゃないですか。

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 時は遡り、6階層の円形闘技場

 

 

 モモンガさんに、キャラの濃ゆいNPCたちと一緒に置いて行かれたことで私は内心呪詛を吐き散らしていました。これが間違って口から出てしまえば、あっという間にNPCの皆様から敵対認証されて殺されてしまうでしょう。

 

 ところでNPCの皆様方はというと、モモンガさんの謁見の余韻に浸りなにやら楽しそうに話しています。 モモンガさんに絶対の忠誠を誓うという彼らからすれば、それはごく自然なものなのでしょう。彼とはただの友達でしかない私にはどうしようもなく理解しがたいものなのですが。

 

 この蚊帳の外感はちょっと寂しいけど、どうしようもないものですね。

 

「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん」

「ホント、押しつぶされるかと思った」

「マサカ、コレホドトハ」

「あれが、支配者としての器をお見せになった、モモンガ様なのね」

「ですね」

「我ワレノ忠義ニ答エテクダサッタトイウコトカ」

「アタシたちといる時は、全然オーラ発していなかったしね。モモンガ様すっごく優しかったんだよ。 喉が渇いたからって、飲み物まで出してくれて」

 おや、アルベドさんの様子が変 なんか腰元の羽パタパタしとるけど。

「あれが 支配者として本気になったモモンガ様なんだよね。すごいよね!」

 

 ふむふむ、スキル《読心感知》によると…嫉妬、歓喜、興奮状態? どゆことこれ、なんか呼吸荒くなってるし。

 

「まったく、そのとおり!」

 

 突然後ろを向き直し、感嘆の声を挙げるアルベドさん。その顔は、歓喜、興奮、畏敬、など他様々な感情が積み込まれた結果、酷い歪み方をしていた。いわゆる顔芸ってやつ。

 

「ワタクシ達の気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いをとっていただけるとは、さすがは我々の造物主! 至高なる41人の頂点! そして最後までこの地に残りし、慈悲深き君!」

 

 顔は酷いけども、言ってることは他のひとたちも概ね同意らしく、なんだか温もりのこもった視線をアルベドさんに向けていた。

 

 一拍、場に沈黙が置かれたところで、ランドスチュワードのセバスさんが言った

 

「ではわたくし、先に戻ります。 モモンガ様がどこに行かれたのか不明ですが、お側に仕えるべきでしょうし。」

「セバス、何かあった場合はすぐにワタクシに報告を。特にモモンガ様がワタクシをお呼びという場合、即座に駆けつけます。

 他の何を放おっても!」

 

 美人が台無しになる酷い顔芸だった。口裂け女なんて異業種あったかなと記憶を探るが、心当たりはない。

 

「ただ、寝室に御呼びという場合、それとなくモモンガ様に時間が必要だと伝えなさい。湯浴みとうの準備は、勿論そのままでいいから、ということであれば―」

「了解しました。 では、守護者の皆様もこれで」

 呆れたセバスはアルベドの言葉を遮って、丁寧に挨拶したあと居なくなりました。

 

 彼女の惨状は、モモンガさんは最終日の時アルベドさんの設定文弄った結果でしょう。しかし「ビッチ」を削除したにも関わらず未だビッチとはこれ如何に。

 

「ん?どうかしましたか、シャルティア」

「ドウシタシャルティア」

 

 シャルティアと呼ばれる、トゥルーヴァンパイアの少女。モモンガさんに伺った話によると、その胸中には巨乳へのコンプレックスと幾重にも重ねられたパッド、そして数多なる異常性癖が秘められているという変態のハイブリッド。エロの申し子、ペロロンチーノさんの愛娘だそうだ。

 

「…うぅ あのすごい気配を受けてゾクゾクしてしまって、すこぉーぅし下着がまずいことになってありんすの」

 

 おまえもか

 

「このビッチ!」

 

 おまえがいうな !

 

「はぁ? モモンガ様からあれほどの力の波動、ご褒美をいただいたのよ?それで濡れんせんほうが頭がオカシイわ大口ゴリラぁ!」

「ヤツメウナギ!」

「あたしの姿は至高の方々に作ってもらった姿ですえぇ?」

「それはこっちも同じことだと思うけどぉ!」

 

 

 彼らNPCの騒がしいやり取りが、どことなく創造主たちのそれらに重なって見えた。ギリシャ神話をエロ方面から語るペロロンチーノと、それを浅はかだと断じるタブラ・スマラグディナ。方面の違う両者のオタク気質が、以前満遍なく衝突してうざったらしかったのを思い出す。

 

 頭痛がしたような気がしてこめかみに手を当てるが、間もなくそれが幻痛だと気づいた。

 

 

 ……はぁ、ダメかもしれない。 就職仕立てで配属前に考えることではまず無いのだが、転職先について考えたほうが良いかもしれない。 最悪、この世界に知的生命体がいないとするなら……諦めるしか無いのかなぁ。 万一私は逃げることができるけど、モモンガさんは代表責任者だしなぁ。ほんと、御可哀そうに……

 

 

 明後日の方向に大爆発している修羅場の炎を対岸越しにぼんやり眺めていると、紳士服を着込んだお耳トンガリの上位悪魔、デミウルゴスさんがこちらに歩み寄ってくる。なんか見覚えがあるなぁと思ったら、あいつが作ったNPCだ。

 

「お初にお目にかかり初めまして、ではないかな? 私の記憶が正しければ、あなたを以前お見かけたことがあるのですが…… まぁいいでしょう。

 ナザリック地下大墳墓第7階層守護者デミウルゴスと申します。以後、お見知りおきを」

 

 デミウルゴスと名乗る上位悪魔、彼のこちらを見る目、それは少々の警戒心を孕みつつも、大部分はおそらく好奇心だろう。アルベドさんの放つ殺気とはまた違うが、器の小さい私に不快感を抱かせるには十分な代物だった。

 

「新手のナンパですか? まぁとにかく初めまして、マタタビです。こちらこそ今後とも宜しくお願いします」

 

 悪魔は少し意外そうにキョトンとした顔をした。

 

「どうしました?」

「ああ いえいえなんでもありませんよ。ただ少々意外でしてね」

 

 悪魔は続ける。

 

「これは助言ですが『ナザリックに仕えるのであれば』もう少し、協調性を大事になさったほうがよろしいですよ?」

「助言、痛み入ります。 昔からそういうの苦手でして。ついツンケンしてしまうんです。 気を付ければ、どうにかなるんですけどね……

 ところで何用でしょう、デミウルゴスさん」

「同じ主に仕える同胞として、あなたのことをよく知っておきたくてね。

 あなたは一体何者なのでしょう お教えいただけませんか?」

 

 んー、普通に下僕じゃないってバレてたか。仕方ないよね超不自然だったもん

 

「いいですよ別に。大したことではありませんが。」

 

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 同時刻 9階層 ロイヤルスイートルーム モモンガ自室

 

 

(あいつらマジだ!)

 

 マタタビの大方の予想通り、モモンガは存在しないはずの胃袋がキュウキュウ締め付けられる錯覚に苦しんでいた。

 

 その理由は言うまでもなく、自我を持ち動きだしたNPCにある。

 

 彼らのモモンガに対する高評価と、モモンガ自身の低い自己評価。この二者のギャップにモモンガは苦しんでいた。 彼らと接する時は常に、その期待に応えるように振る舞わなければならないことを考えると、モモンガの架空の胃袋は更に悲鳴を上げて穴が空きそうなほど苦しくなった。

 

『まぁ合っていなくもないのでは?』

「他人事だと思いやがって! 他人事だと思いやがって!」

 

 鈴木悟は嫌なことがあったとき、一人で抱え込んでしまうタイプの人間だ。しかもそれを結構粘着的に引きずってしまう。この本性がAOGのギルメンのうちでも暗黙の共通認識であったのを、モモンガはもはや知る由もない。

 

「はぁ……」

 

 マタタビの先程のセリフが概ね本意で言ったものであると、モモンガの方も薄々感づいてはいた。ただモモンガ自身の自己評価の低さによって、マタタビの慰めの言葉が素直に受け入れられなかったのだ。

 

 さらに言えばゲームが現実世界になるという途方もない状況についていけず感じる心労、これを発散させる対象がモモンガにはどうしても必要だった。それを知ればマタタビは、何かとモモンガに皮肉をを投げかけるだろうが、本心ではきっと攻めてこないだろう。

 

「……マタタビさん、置いてきちゃったな」

 

 急いでNPCから逃げ出したモモンガは、結果的に6階層にマタタビを置いて来てしまったことにすぐ気づいた。しかし、アルベドに出した指示内容からして差し障りはないし、万一守護者全員を敵に回してもマタタビなら逃げることは可能だろう。そんな打算から、モモンガは結局マタタビのことを放ったままにしておいた。

 

 しかし、今思えば事前打ち合わせもなしに初対面の集団に放り込む仕打ちは酷すぎたと、モモンガは反省していた。 自分一人転移していたらどうしようもなく心細かったに違いないのだから。

 

 他のギルメンに対しては普通に接することができるが、どうしてか彼女とだけは面と向かって話すことが難しい。基本的に会話するときだけは明るい調子なのだが、集団の中での距離のとり方が独特で苦手だったのだ。

 

 

 ふと、マタタビというプレイヤーについてモモンガは思いを巡らす。

 

 

 クラン:ナインズ・オウン・ゴール  

 

 それは、DMMORPGユグドラシルで異形種PK差別が横行していた時代、ワールドチャンピオンたっち・みーが異形種保護を掲げ作り上げたクランだった。異形種PKに対するPKKを生業としていたそれは、名前の通り初めは9人のメンバーが居るだけであったが、最終的に27人にまで勢力が拡大していった。

 

 当時、年齢のことが関係して課金アイテムがクラン内でもマタタビだけ使うことができなかった。そのためモモンガ、ウルベルト、ペロロンチーノらの無課金同盟に加盟していたのだが、ペロロンチーノがたっち・みーの課金エフェクトに憧れたのをきっかけに徐々に無課金同盟が崩壊していった。課金していないのが彼女だけという状態になったところで、彼女の口の悪さも起因してクラン内で孤立してしまう。

 

 クランリーダーであるたっち・みーは、マタタビが孤立したことを問題視し、歩み寄る話し合いをしようと提案したが、ウルベルトがそれを迷惑がったマタタビを思いやって彼女のクラン脱退を提案した。二者の意見によってクラン内が分裂しかかるほどになる。

 

 この混迷を極める会議を執り成したのはモモンガだった。白熱する議論をどうにか鎮め、多数決でマタタビの今後の扱いを決めようということになる。

 

 モモンガはたっち・みー派に、マタタビはウルベルト派の方に投票していた。結果、僅差でウルベルト派の意見が通り、マタタビはクランを退会することとなった。この事件がきっかけで、クランのリーダーたっち・みーは後のギルド長の役職をモモンガに譲ることとなる。そして新ギルド長はこれを戒めとして、ギルド加入条件に社会人を加えることとしたのだ。

 

 その後もマタタビはAOGと付き合いを持ち続け、ギルド戦やPKK活動にも協力し続けていた。結果的に良好な関係に収まったといえるが、それは時を経てマタタビがフリーターとして課金できる様になってからでも変わらなかった。

 

 結局未成年を皮肉るような学生服に身を包んだ彼女が、客人としてナザリックに踏み入れたことは、ただの一度としてなかったのだ。

 

「マタタビさん……」

 

 何を思ってか、モモンガはアイテム欄からひとつの指輪を取り出す。

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン:AOGギルドメンバーにのみ所有を許された、ギルド拠点の自由移動を可能とするアイテム。

 

 骸骨の指でそれを摘んで、通路のシャンデリアの光にかざし、眺めた。

 

「あとでちゃんと謝らないとな 置いて行ったこと」

 

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 ゲームの話とか課金とかは別のワードで置き換え、モモンガさんが話したことと矛盾しないように話すのには少し骨が折れた。

 デミウルゴスは話を聞けて随分と満足気だった。

「なるほど実に、興味深い話でした。アインズ・ウール・ゴウンの起源まで知ることが出来たのは思わぬ収穫でしたが」

 

「まさか貴方様が一時期とはいえ御方々と肩を並べていらっしゃったとは」

 

 彼の大げさな言い方に嫌なものを覚えた私は早々に釘を刺した。

 

「別に敬称とかいりませんからね。 

 私はAOGのメンバーだったわけではないですので、どうか気安く呼んで下さい」

「ご厚情痛み入ります。我々が忠義を尽くすのはあくまで、アインズ・ウール・ゴウンひいては至高の41人の皆様方ですから。」

「ところでこの話、バレてないなら内緒にしてください。ちょっと気まずい関係かもしれませんし」

 

 ふむ、といって何か考える素振りをしたデミウルゴス。やがて何かに納得したようだった。

 

「なるほどわかりました、そのように致しましょう

 では改めてこのデミウルゴス、ナザリックの一員として、あなたを歓迎いたしましょう。今後とも宜しくおねがいします。」

 

 胸に手を当て丁寧にお辞儀をするデミウルゴス。こちらもお辞儀を返しましたが、彼を見ると見劣りしてしまう拙さです。

 

「ど、どうも」

 

 『ではこの辺りで』 そう言って会話を切り上げたデミウルゴス。未だ続いていた女同士の醜い(異形種的な醜悪も含む)争いを止めに入っていった。

 

============================

 

 正気を取り戻したアルベドは、守護者の皆さんにひとしきりの指示をし終えたあと、私を連れて9階層まで向かいました。

 

 途中の道のりでデミウルゴスに言われたことを思い出して、アルベドにも私自身の身の上の話をしてみました。 すると、彼女が私に向けていた殺気が殆どなくなりました。

 

 しかし私の境遇って、AOGのNPCにとってどんな風に映るのでしょう。ちょっと気になります。

 

 機嫌が良いのでしょうか。アルベドはいい感じの笑顔で優しく教えてくれました。

 

「私達ナザリックのシモベにとって、御方々は唯一無二にして至高の存在。 対等なモノがあってはならないの。

 私やデミウルゴスはまだ話の判る方だけど、他のシモベにあなたの素性がバレてしまえば、かなりの悪感情を与えるでしょうね」

「そう、なんですか?」

 

 だとすればやっぱりここで働くのは前途多難だなぁ。ま、事情を考慮してくれるアルベドならマトモな働き口を紹介してくれるでしょうか。

 

「だけどあなたがモモンガ様の后、とかでないのであれば、私も貴方を歓迎するわ。ま、悪いようにはしないわよ。」

「違いますよ!」

 

 あー、この人の殺気の正体やっぱりモモンガさんへの恋慕だったか。 未だにじわじわした悪意が感じ取れるのもそのためだろう。うんきっとそうだ。

 

 アルベドは、とある部屋の前に差し掛かるとその扉にノックをしました。

 

「入るわよ」

「どうぞ」

 

 返事が来るや、豪奢な扉の取っ手を掴み、アルベドさんは扉を開けて中に入ります。私もそれに続きました。

 

「これはこれはご機嫌麗しゅう 守護者統括殿。先程メッセージで伺いましたが、件の新たなシモベとは横に居る彼女のことですかな?」

「ええ 彼女はケット・シーのマタタビ 今は人間体に化けているようだけれど立派な異業種よ。」

 

 背中は真っ黒、お腹は白くて胴長体躯。

 ペチペチ音立つおみ足は、平べったくて小ぢんまり。

 両手の代わりに翼かな、飛ぶには小さいようだけど。

 オレンジくちばしその上に、凛々しい黄色な眉毛あり。 

 その名も-

 

「イワトビペンギン!?」

 

 比喩でもなんでもありません。直喩です。一分の一イワトビペンギン。

 

 お腹にネクタイをかけてますが、それ以外は生まれたまんまのお姿です。

 

 

「……何やら不躾な娘ですな。何故御方はこのようなものを」

 

 ペンギンの表情はわからないけど、見た目の割にやたら尊大な様子だということはわかりました。

 

 ペンギンが不満そうに値踏むような視線で私の方を見ます。逆に、横にいたアルベドさんは女神を連想するほどのとてもいい笑顔でして、同性の私でもコロッと堕ちてしまいそうです。

 

「紹介するわ、今日から彼があなたの上司よ。

 ナザリック地下大墳墓執事助手エクレア・エクレール・エイクレアー 

 こと清掃において言えば、ナザリック内でも右に出るものはいないわね」

「……そうですか」

 

 何、こんなNPCいたの?っていうかこいつが私の上司?

 

「ではよろしく、マタタビとやら。今日から貴方は栄えあるナザリック地下大墳墓9階層所属、執事助手秘書官です。至高の御身に遣える身としての自覚をつねづね忘れぬよう!」

 

 ……マジでか。おそらくペンギン上司を持つ奴なんて人類史上私だけなのではないだろうか?何この初体験、今後に不安しか見いだせないんですけど

 

 かくして私はエクレアさんの部下、執事助手秘書官となりましたが、彼の望む使用人としての技能が私にはありませんでした。そのためこれからは、新人研修としてメイド長のペストーニャさんのところに回されて、メイド見習いとしてコッテリ絞られることとなります。

 

 こうして暫定的な地位として、私は42人目の一般メイドになりました。

 冒頭に続きます。 




 今回の捏造
・ホワイトブリムの漫画について
・ナインズ・オウン・ゴールの過去
・オリ主の設定全般

 タイトルは半分ミスリードというわけでした

 誤字脱字、感想や気に食わぬところがあったらコメントお願いします

 暇つぶしに「きゃらふと」でつくたよっと。
 黒歴史化不可避


【挿絵表示】


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4話

【マタタビの至高の41人大百科】

No.1:タブラ・スマラグディナ

 ホラー映画と古今東西の神話体系をこよなく愛するマニア。一見理知的なようでいて、話題が自身の領分に触れると途端口が止まらなくなる典型的オタク気質。しかも厄介なことに自分の話が迷惑がられている自覚に乏しいタイプだから結構ウザい。

 タブラは他メンバーから中二病扱いされているが、マタタビは案外ホントに狂ってるんじゃないかと踏んでいる。

 

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ナザリック地下大墳墓9階層 スイートルーム 元予備部屋 現マタタビ私室

 

 至高の41人と呼ばれるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの居住区。そこは、彼らに仕える数多くのシモベにとって神聖で不可侵なる絶対領域である。

 

 現在この領域に住まうことが許されているのはモモンガを除き2名。

 

 その二人が小さな円卓テーブルに向かい合わせで座って何やら話している。

 

 一人は紺を基調としたセーラー型の学生服の少女。長くまっすぐに切りそろえられた黒髪に細渕フレームをつけたその姿はまるで旧時代に言われた優等生、清楚という概念そのものかとも思われた。 

 

 もう一人は純白のドレスに身を包んだ黒髪で妙齢の女性。その美貌は国の1つや2つ傾けてしまいそうな程だ。しかし頭部には山羊のような白い角、縦割れした金色の瞳、腰元からは黒い天使の翼が生えており、彼女が異形の者であるとわかる。かえってそれが人外的美しさをもたらしていた。

 

 それぞれ正反対の美貌を持ち合わせた両者だが、話の様子は非常に穏やかだ。

 

「それでどうかしら、メイドとして働いてみて」

 

 妙齢の女性、アルベドは女神のように優しく微笑みを浮かべて、尋ねる。

 

 対して学生服の少女、マタタビは伏し目がちに、どこかバツの悪そうな顔で答えた。

 

「仕事はそんなに辛くはないです。ですが……、先輩たちがどうも苦手で……」

 

 マタタビがナザリックでメイド見習いとして務めるようになって数日。メイド長のペストーニャ指導の下、メイドとしての振る舞いや仕事の仕方を学びつつ、実際に一般メイドと混じって奉仕をするという生活が続いていた。

 

 100レベルの肉体ステータスや疲労無効アイテムなどのおかげもあって、マタタビはかなり順調に仕事内容を覚えていった。

 

 しかしメイドたちからは、「至高の御方に遣える自分達の尊い仕事を奪いに来た部外者」としてあまり良く思われていない。ホワイトプリム謹製最高級メイド服の存在や、スイートルームへの居住許可などの特別待遇も彼女たちの不興を買う要因となっていた。

 

「彼女たちも決して悪い子達じゃないのよ。 それをわかってくれると、私としては嬉しいわ

 だけど難しい立場だものね、あなたって。」

 

「……はい」

 

 アルベドとマタタビの居住許可が降りた際、必然的に二人が住まう部屋は隣同士となっていた。それからと言うものアルベドは、内政の片手間マタタビの元へ訪れては気にかけるようになっていた。

 

 メイド見習いという立場から、マタタビにとって現状ただ一人の知り合いであるモモンガと直接話せる機会は無い。日に何度か《メッセージ/伝言》を繋いで互いの近況報告をしているのだが、マタタビはモモンガを心配させまいと自身の境遇について詳細に語ることはしなかった。

 

 アルベドから、モモンガが日夜休まず働いていると聞かされてからは特に気をつけた。そんなマタタビにとってアルベドは、自身の心情を話せる唯一の相手なのであった。

 

「そういえば、このナザリックでは他に余ってる仕事とかってあったんですか?エクレアさんも、人材欲しがってる割には全然私なんて要らなそうでしたし」

 

「エクレアの場合事情が特殊なのよ。御方から『アインズ・ウール・ゴウンの簒奪を企てている』とのように創造されていて、その為にめぼしい存在を片っ端から集めているのよね。」

 

「うわぁ。言っちゃなんですがそれって……」

 

「言っちゃだめよ。 御方にそうあるべしと定められたものは、私達の存在意義なの。 思うところもあるでしょうけど」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いいわ、これから気をつけてもらえば。

 ちなみにメイド以外で空いてる仕事といえば、コック●ーチで満たされた部屋の掃除係、体内寄生型触手生物の世話係、特別情報収集官の拷問の実験台とかね

 メイドに不満なら、アインズ様に異動届を出してもらってもいいわ」

 

「いいえいいえお気遣いありがとうございます!そしてありがたくも遠慮させていただきます!今の仕事に十分なやりがいを感じているので!」

 

「あらそう?」

 

 いつも女神のよう微笑みを絶やさないアルベドだが、時々小悪魔のような邪悪さを覗かせる。案外こっちのほうが素に近いのかもしれないなぁと思うマタタビであった。

 

「しかし、自分で言うのも難ですが、そのエクレアさんに私みたいなの任していいんですか? 自分ガッツリ不穏分子でしょ? 見てたでしょうけどこれでも単身でナザリックに侵入したんですから」

 

「確かにエクレアの野望に一番近いところにいるのはアナタでしょうけど、あれでもナザリックのシモベの一人、忠誠心はちゃんと持ち合わせているのよ」

 

「なんかアバウトですね その辺」

 

「あとアナタに関して言えば、外の世界の情報が不足している現在私達に手をかけるのは愚策以外の何物でもない、という打算ね。」

 

「そりゃそうですけども……」

 

 目の前の人物に言うことかな? と、やるせない気持ちになるマタタビ。割り切れてはいないが、目の前で言うからこそ意味があるということも頭では一応理解していた。

「そんな顔しないでちょうだい。 ところで今日は何を話してくれるのかしら? 外でのモモンガ様の武勇伝」

 

「じゃあ今日はですね~」

 

 事情を知ってるアルベドとデミウルゴス以外のNPCにとってマタタビの存在は疎ましいものなのだが、立場上至高の御方々と行動をともにすることの多かった彼女の語るAOGの過去話は、ナザリック内でも高い需要を誇っていた。普段特にマタタビを邪険にする者であっても、コッソリ聞き入ってることがあるくらいだ。

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの逸話。それが現状、ナザリック内での彼女の人間関係的命綱であった。

「今回はワールドエネミーに立ち向かった時のモモンガ様の話でもしましょうか」

 

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「くふー さすがモモンガ様ね! とても素晴らしい話が聞けたわ」

 

「どういたしまして。 時間が空いてたら、良ければまた来てください。今度は習ったお茶とか淹れますから」

 

「ええ、また来るわ。あなたも頑張るのよ」

 

「はい」

 

 アルベドは特にモモンガについての話をよく聞きたがっていた。他のNPCは自身の創造主を所望するのに彼女だけが例外である。

 

(アルベドの設定文を弄ったモモンガが造物主という扱いになっているのかな)

 

 そんな彼女のためにマタタビは、モモンガと《メッセージ/伝言》した際に彼自身の過去話を聞き出すようにしていたのである。

 

 マタタビがアルベドにここまで懐くようになった理由は、マタタビの持つスキル《読心感知》にあった。これは相手がこちらに向けている敵意や好意などの感情をフィーリングで感じ取ることができるという効果で、異世界転移してから効果仕様が変わったものの一つである。

 

 アルベドがマタタビに向ける思いの中には 多少悪意が見えてくるもなかなか好意的なようである。だがそれ以上にアルベドの中にマタタビを同情するような感情が一切なかったということが、マタタビの心を強く討ったのである。

 

(憐れまれるのって大嫌いなんですよね)

 

 このような感性から、マタタビは当時のクランリーダーたっち・みーに対して苦手意識を持っていたのだが、それはまた別の話。

 

「さて、私も仕事行かなくちゃな」 

 

 マタタビはアイテムボックスからメイド服を取り出して着替える。そのまま自室から出て仕事場に向かっていくのであった。

 

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 ナザリック地下大墳墓9階層  アルベドの執務室

 

 先程マタタビの部屋を出たアルベドはその足で自身の執務室に向かっていた。モモンガから与えられた勅命である「情報共有システムの作成と警備の強化」についての事務処理をするためである。 

 

 これまでは至高の御方が直々にナザリック防衛についての大部分を担っていたが、しかし謎の転移に見舞われた現状では他にもやるべき必要事項が数多くあり、今後は雑務で御方の手を煩わせる訳にはいかない。 

 

 アルベドが現在確認しているのは、ナザリックに仕える他のNPC達の種族クラス、職業クラス、会得スキルといった個人情報だ。

 

 ユグドラシルでギルド拠点でNPCを作る際、その拠点ごとに作れるNPCの合計レベルには上限があり、最低でも700、最大で3000にもなる場所があった。ナザリックでの初期NPC製作可能レベルは2750レベルであり、課金によってその上限値を上昇させているためNPC総数は平均より圧倒的に多い。

 

 その膨大な量の資料を頭に入れつつ、それぞれに適した担当防衛場所を割り振る彼女の手腕はまさに圧巻ものである。

 

 しばらくしてひと束分の資料を片付けたアルベドが一息ついていたところ、入口の扉からノックする音が静かに響いた。

 

「どうぞ」

 

「失礼します。アルベド様、お茶をお煎れしました。」

 

 入室者はお茶汲みをしに来た一般メイドのシクススだった。

 

「あらありがとう。ちょうど一仕事終えたところだったのよ。 お茶はそこに置いてちょうだい」

 

「はい」

 

 清楚な顔立ちと星の如き輝きを灯す金髪が特徴の彼女は、音を立てないよう優雅に歩いてアルベドの机にお茶を運んだ。

 

「ではこれで失礼します」

 

「ちょっといいかしら」

 

 目的を終えて部屋を去ろうとするシクススに、アルベドは制止をかける。そして優しい様子で訪ねた。

 

「彼女がここに来てから数日経つけど、どんな様子かしら?」

 

 『彼女』という言葉が先日やってきた見習いのマタタビを指すものだと気づいてシクススは答えた。

 

「まだ振る舞い方や仕事に拙い部分は見られますが、物覚えがよくかなり早いペースで仕事を覚えているようです。 特に歩法については既に他のものとも遜色がありません。」

 

 マタタビのことを話すシクススの様子が、わずかに後ろ暗いのをアルベドは見逃さない。

 

「歩法についてはきっと身体能力の高さが影響しているんだわ。

 彼女は階層守護者に匹敵するレベルを有しているから、持ち前の身体能力で体幹を整えるのはそれほど難しくないでしょう」

 

「そ、そうなのですか!? 」

 

 両目を見開き顔をひきつらせるメイドの反応からは、言い知れぬ恐怖が見て取れた。部外者であるマタタビは、レベル1の一般メイドにとってただでさえ恐ろしい存在だというのに、それがナザリック内でも屈指の実力者に引けを取らないという事実を、その実力者である彼女自身が語るというのだから当然だ。

 

「だから他の仕事も紹介したけど、何故か彼女飛びつかなかったのよね。」

 

「……!?」

 

 それを聞いて彼女の心中には「何故、どうして」という理不尽に対する疑念と憤りが湧き上がった。やがてそれは一つの可能性の存在に行き着く。彼女の中で疑念が消え去って恐怖に、憤りは明確な怒りへと変貌する。

 

「まさか……!」

 

 一般メイドの業務は9・10階層での給仕や清掃などの雑務一般。それを部外者が選り好んで行う理由。それはナザリックでもっとも重要な存在の……

 

 坂を転がるボールのようにひとりでに加速するシクススの思考。それを「待ちなさい」と言って止めさせたのはアルベドだった。そして厳然な態度に打って変わり、アルベドは言った。

 

「何を想像したのかも解るし、早合点するなとは言わないわ。

 だけど彼女をここに置くという最終決定をしたのが誰なのか、それをよく考えなさい。」

 

 その言葉に、悪寒に打ちひしがれ青ざめていたシクススは、突然鋭い電撃が頭頂部から脊椎へと走る錯覚を覚えた。愕然とするシクススに構わず、アルベドは続ける。

 

「もし事態があなたの考えている通りのものだとしても、危険分子というのは闇雲に外へ放つのではなく内側に置いて注視し続ける方が賢明よ。 

 ましてや我々が仕えているのは、至高の41人の頂点であるモモンガ様。 御方に誤りなどあるはずないわ。」

 

 アルベドの言は最もだ。シクススは直前まで自身に渦巻いていた恐怖心を猛烈に恥じた。人知れずモモンガに『智謀の王』という二つ名をつけていたのが他ならぬ彼女自身なのである。にも関わらずそのモモンガの判断に疑いの目を向けてしまったのだ。

 

「私はなんと罪深きことを……この不敬は命をもって償わなければ…」

 

「落ち着きなさい!

 シクスス、あなたの生殺与奪権を握っているのはモモンガ様よ。 それを無断で散らすことこそ御方に対する不敬だと知りなさい!」

 

 アルベドは毅然とした強い口調で半ば恐慌状態で慌てふためくシクススを諭す。我に返ったシクススは重ねて及ばぬ自身を恥じた。

 

「……はい!」

 

「わかったら行きなさい あなたも私も、他の仕事が残っているのだから。

 あと、ここでした話はあくまで憶測に過ぎないから、他の子達に話してはダメよ? いいわね」

 

「承知しました。では失礼いたしました、アルベド様!」

 

 少し慌てた感じが残っていたがシクススは丁寧にお辞儀をして、アルベドの執務室を後にした。

 

=======================================

 

 アルベドは一人きりになった執務室で先程汲まれた茶を飲みきると独り言をつぶやいた。

 

「……気持はよく解るけれど 流石にあれで自害されてしまってはかなわないわね」

 

 ため息をつく。しかし状況は彼女にとって非常に都合よく運ばれていた。 

 

 アルベドの狙いは、一般メイドたちにマタタビへの悪印象を抱かせて孤立させることである。 さっきのシクススとの応答のように思考を誘導させてやれば、わざわざバレるかもしれない嘘をつく必要もない。

 

 ただし、あまりやりすぎないことが重要だ。口止めしたのもそうだが、露骨にやりすぎると犯人がアルベドであると看過されてしまう。だがそこまでやる必要なんて端からない。

 

 形のない悪印象が個人々々のバイアスを通して徐々に伝播し、最終的にアルベドの望む環境が生み出せればそれで良い。そういう意味では一般メイド達の閉塞的な人間関係は非常に都合が良かった。

 

 そしてもう一方、孤立したマタタビに寄り添うことで高い信頼を勝ち得てアルベドに有利に動くようにする。アルベドの真の目的は、孤立無援のマタタビを籠絡させて自身の手駒とすることであったのだ。

 

 自分の目でしかと見たマタタビの隠密能力は、高い防衛能力を有するナザリックすらも脅かすにたる強力なものだ。しかも彼女自身のナザリックに対する帰属意識は非常に薄く、危険な存在であることには違いない。

 

 だがもしこれを自身の手で制御することが叶うのなら、かえってアルベドにはこの上なく心強い道具になるだろうと思われた。

 

 

 異世界に転移する直前のことをアルベドは思い起こす。玉座の間でモモンガの側で跪いていた時、突然姿を表したマタタビが何やら楽しそうにモモンガと話をしていた姿だ。待機の指令が出ていたため動くことができなかった当時のアルベドだが、今でも思い出すだけで心の底から嫉妬心が湧いてくる。ただ、重要だったのはそこではない。 

 

 プレアデスやセバスには聞こえないくらいの声だったが、我らが主は確かに言っていたのだ。

 

『……いいえ、気持ちはとても嬉しいですが、リアルを優先させるのは当たり前ですよ。成功した人や夢を叶えた人もいますしね。間違ってるとしたら俺の方です。』

 

 この言葉が具体的に何を指し示すのかは不明瞭だが、ただ一つ明確に解ることがあった。 他の至高の御方々はナザリックを捨てたのだ、ギルド長のモモンガをただ一人残して。

 

 アルベドは至高の御方々の望みとあれば、どのような屈辱にも恥辱にも耐えることが出来た。端から我が身可愛さなど何一つ持ち合わせてはいないのだ。だからこそ、御方々が何も告げずにナザリックを捨てた事についてで、彼らを恨むことなどしたりはしない。それは他のシモベも同様だ。

 

 しかしアルベドは許せなかった。御方々がナザリックだけでなく、愛しのモモンガさえも取り残して去っていったことを。モモンガがいったいどんな思いでナザリックの財政管理を成し、仲間の帰還を待ちわびたことか。その様子を傍で見守っていたアルベドの想像にもつかない。だが結局『最後の時』まで彼のもとに残った御方はいなかったのだ。

 

 故にアルベドは憎む、モモンガを悲しませるすべての存在を。それが自らが忠誠を捧げるアインズ・ウール・ゴウンそのものであろうとも。

 

「そういう意味では彼女も、非常に好ましい存在なのよね。」

 

 最後の時までモモンガの側に居続けたマタタビ。そんな彼女にアルベドは僅かな好感を抱いていた。ひょっとしたらこれから掲げる自分の野望に賛同してくれるかもしれないという期待を抱いて。

 

 計画は順調だ。現状マタタビは想定以上にアルベドに懐いており、かえって不気味な程である。着実に人心掌握を進めていると言えよう。

 

 アルベドは前髪で顔を隠しながら邪悪に笑みを浮かべた。

 

『ゴンッゴンッ』

 

 しかし突然の執務室を打つ荒々しいノック音に、サッと平常の様子に戻る。

 

「どうぞ あらセバス一体何の……」

 

 やって来たのはナザリック地下大墳墓執事を務めるセバス・チャンであった。意外な訪問に戸惑うアルベドだったがセバスの宿す剣呑な雰囲気にただ事ではないのだと悟る。よもや寵愛の……

 

「アルベド様。モモンガ様より完全武装で来るようにとの伝言を預かりました」

 

「なんですってすぐ行くわ! 状況はどうなっているの?」

 

「モモンガ様直々に近隣で発見した村に出撃されるようです。 後詰めとして隠密能力を持つ下僕の配置も仰せつかったのですが、いかが致しましょう」

 

「では八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を展開しなさい。あとそうね あなたのところのエクレアの部下に丁度良いのがいるでしょう。彼女もそれに加えて頂戴」

 

 彼女の名前は平時では微妙にタブー化されている。『エクレアの部下の彼女』というワードがマタタビだという暗黙の了解が二人の間で成された。

 

 アルベドとしては、せっかくの機会なのでマタタビの力量を見極める材料にしようと考えたのである。

 

「仰せつかりました。では、モモンガ様が執務室にゲートを展開されておりますのでそちらから行かれると良いでしょう。」

 

「わかったわ」

 

 アルベドは瞬間換装によって完全武装の黒鎧の姿に変身する。そしてそのまま全速力で9階層の廊下を疾走していった。ちなみにその時のアルベドの顔は、主人に直接お呼ばれされた喜びで、それはそれは酷い具合となっていた。

 幸いヘルムの下のそれに気付けるものは誰一人いなかったが。




 次はカルネ村編ですが、書き溜めのやつを書き直すつもりなので時間がかかります。

 感想や誤字脱字があったら是非コメントお願いします。


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孤独な至高と子猫な孤高

 さり気なくモモンガさんが世界征服をつぶやく下りをカットしてますが流れは基本的に原作と同じ。デミウルゴスの勘違いは発生します。

 


【マタタビの至高の41人大百科】

No.2:モモンガ

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルド長。個性の強い面々をまとめ上げてギルドを運営していた手腕は尊敬に値する。温厚でおとなしい性質だが、しかしいつもギルドの中心にいるのは彼である。28人とは普通に仲が良いし、るし★ふぁーみたいなはぐれものすら受け入れる度量の持ち主はそうそういない。

 とはいえその根底にあるのは異常なまでの執着心であり、マタタビはそれが自身に向けられることを嫌がっている。

 

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ナザリック地下大墳墓 9階層 モモンガ執務室(モモンガ)

 

 

 ユグドラシルサービス終了直後、ナザリックが素知らぬ平原に転移した。拠点用NPCが自我を持って動き出し、魔法やスキルなど世界法則が大きく変異していた。そしてそれから数日が経った。

 

 とりあえずNPCたちは自分に忠誠を誓ってくれているため、一先ず身の安全を確保することは出来た。

 

 新たな世界法則については未だ要実験だが、それと同等にこの異世界の情報を集める必要がある。それにいるかわからないが他のユグドラシルプレイヤーがどう出てくるのかわからない。

 

 現在はアウラのシモベ達がナザリック周辺の警戒網を構築しつつ森林の調査をしてもらっているが、それだけでは時間がかかり過ぎる。

 

「この〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)〉の操作方法がわかれば、ナザリック周辺の警戒網作成に役立つはずだが……」

 

 今格闘している〈遠隔視の鏡〉は、距離に関係なく指定ポイントを見ることができるマジックアイテムだ。一見すると便利アイテムだが、魔法による隠蔽や攻性防壁に対しての脆弱さがありユグドラシルでは微妙なアイテムだった。とはいえ未知の多いこの世界では非常に有用だろう。

 

 この世界に来て操作方法が変化しているらしく、それが何なのか確かめるために現在悪戦苦闘している。

 

「ん?」

 コマンド音がしたと思いきや、ようやく鏡の情景が動き出した。どうやらタッチパネル方式だったようだ。

 

「おめでとうございますモモンガ様」

 

「ありがとうセバス、付き合わせて悪かったな」

 

 傍にいた執事のセバス・チャンが賛辞の拍手を叩いた。しかしこんなことに一々拍手されてぶっちゃけ気恥ずかしい。頼まなくてもずっと側についてくるんだよなぁこいつら。

 

「主のそばに控えご命令に従うこと。それこそが、たっち・みー様によって生み出された執事としての私の存在意義です」

 

「……そうか」

 

 上位者として振る舞おうと決めたからにはそれを辞めることはできない。しかし

(疲れるんだよなぁ)

 

 普段慣れないことをしていたからか、存在しないはずの胃がキリキリ痛む。

 

「さて、人がいる場所を探してみるか」

 

 鏡の情景を動かしてしばらくすると、村のような人里が見えてきた。ただその様子が少し変だ。人々が慌ただしく村中を走り回っている。

 

「祭か?」

 

「いえ、これは違います」

 

 画面を俯瞰図からストリートビューに変化させてみると、馬に乗った騎士風の者たちが村人を一方的に虐殺しているのがわかった。かなり惨たらしい死に方をしているものまでいる。

 

「野盗ではないようだが」

 

 おかしい。この世界にやってくる前であれば卒倒していた筈なのに、何故冷静に見ていられるのだろう

 

 どうやら体だけでなく、心までもがアンデットのものに変貌してしまったのだろうか。マタタビさんも、来たばかりの俺に「誰だこの魔王」とか言っていたけど、彼女自身はどうなのだろう?

 

「どう致しますか」

 

「……本来であれば、助けに行く理由も価値もないのだが」

 

 この世界に来て初めて発見した知的生物の集落。襲われる前であれば友好的に親交を結びこの世界の情報収集の足掛かりとすることができた。しかし助けるという場合、敵の戦力があまりにも未知数なため危険が大きすぎる。正直な話、村人は見捨ててしまいたかった

 

(マタタビさんはこのことどう思うんだろう)

 

 今の彼女がどういう精神構造をしているのかまるで不明だ。俺のように倫理観を排した思考が出来るのか、最悪ここで袂を分かってしまうのかも判らない。ギルメンではないとはいえ、最後まで残ってくれた友人が消えていく姿は想像したくはなかった。

 

 どうすればいいのかわからず俺が頭を抱えていたところ、心配したセバスが声をかけてくれた。

 

「如何なさいましたか? モモンガ様」

 

(たっちさん!?)

 

 一瞬、セバスの姿が懐かしい白銀の騎士のそれと重なるも、直後それが気のせいだと気付いた。

 

 思い起こすのはとあるオーバーロードがまだスケルトンメイジだった頃。ユグドラシルにすら絶望しかけた自分に、彼はなんと言っただろうか。

 

(誰かを助けるのは当たり前……か)

 

「セバス、私はこの村に行く。ナザリックの警備レベルを最大限引き上げろ」

 

「御意」

 

「アルベドに完全武装で来るように伝えろ 

 次に後詰の準備だ。この村に隠密能力のある者か、透明化の特殊能力が使えるものを複数送り込め」

 

「畏まりました」

 

 気づくといつの間にか勝手に口が動いていた。支配者としての振る舞いにある程度慣れたからなのか、億劫なくNPCたちに指示が出せていた。

 

 迂闊な行動かも知れないが、どのみちこの世界に来たあとの自分の戦闘能力は確かめておく必要があったのだ。幾分かは私情で動いていると言えど、おかげで躊躇う気にならなかった。

 

「《ゲート/転移門》」

 

 俺はギルド武器試作版の杖を取り出しユグドラシルでの最上級の転移魔法を発動させる。空間が裂けては捻じれ曲がり、やがて虚空に混沌の穴が現れた。

 

 

====================================

1分後 カルネ村近郊(マタタビ)

 

 

 さて休憩も終わったしメイドとしてしごかれますか、マジだる~い。そんな具合に腹をくくっていたところで、執事長のセバスさんがやって来て突然後詰をやれと言いなすった。

 

 神器級学制服に急いで着替えて執務室のゲートから出るとそこは森の中。なにげに異世界に出るの私初めてなんですよね~。ずっと昼夜の区別もつかない地の底でメイドさんやっておりました故。

 

 出れなくもなかったですが、万が一バレたら怒られちゃいますし。ま、その話は置いておいて

 

 転移門から飛び出すと、《アンティライフ・コクーン/生命拒否の繭》と《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの障壁》を被った姉妹らしき女の子達が森のなかで失禁しておりました。

 

 面倒だから無視(ちなみにケット・シーの嗅覚は尿臭を鋭く察知します)。 

 

 10メートル先でモモンガさんとアルベドさんが仲良くのんびり歩いておりましたが、せっかくの逢瀬を邪魔するのはいけないのでこれまた無視します。

 

 というか二者の間で一体何があったの?事案発生ですか?

 

 

 まぁともかく仕事仕事。後詰をやればいいんですよね。あれ、でも後詰めってどういう意味?

 

 仕方がないので普通に敵情視察というのをやってみたいと思います。

 

 ワタクシめの十八番、偵察です。まずは隠形の次くらいに得意な気配察知系スキルで周囲5キロ程度のフィールドに検索をかけます。ユグドラシルでは漁業でやるソナー映像みたいなのが浮かんでくるのですが、この世界に来てからはこれまたフィーリングでわかるようになりました。

 

 ただ脳みそに負担かかっちゃうみたいで、使うとちょっとだけ頭が痛くなります。精神だけでなく、物理的に頭痛の種が増えてしまったみたいだ。

 

 ともかく、頭痛をこらえた結果見えてきたのは3種類の人間種集団でした。

 

 ひとつが今モモンガさんたちが歩いている方向、村で騎士風の人たちが村人と一緒にレッツパーリーしているところです。デスナイトが現れて若干かき乱されましたが。 

 

 もうひとつは少し離れたところから村へ直進する集団、村の騎士の奴とおんなじかも?いや、村の殲滅程度に別働隊なんて普通は必要ないから別物と考えるのが自然か。

 

 最後の集団は、二つ目の集団をちょこまか付け回しているようでした。ただ隠密について一家言もつ私から言わせてもらうと、高い統率力は見受けられるのですが尾行に慣れているとは思えません。ちょうど、傭兵魔法職ギルドの連中が最上級不可視化魔法ごときで幼稚な隠密ごっこやってたのに似ている気がしました。

 

 これらの話を総合すると

 

「村を囮に後ろからグッサリ作戦」

 

 という筋書きでしょうか?これではまだ仮説に仮説を重ねたペテン未満ですけども。

 

 なんにせよ、一番動きが怪しいのは最後の尾行集団です。偵察に行くならばそちらから先が一番良いでしょう。

 

 隠形スキルを目一杯使ってから、全速力でダッシュ開始。私のステータスはあらゆる防御を捨てての素早さ一点振りとなっておりますのであっという間でしょう。

 

 

 3番目の集団のところに到着しました。スカッシュレモンみたいな頭の男性がリーダーでしょうか。整列状態の集団に何やら御高説唱えています。

 

「各員傾聴、獣は檻にかかった。汝らの信仰を神に捧げよ!」

 

 宗教家のようです。言ってるセリフからして私の予想してたグッサリ作戦がビンゴっぽい。

 

 しかし妙なことに、皆さん弱そうですね。私が普段装備しているこの〈地味子のメガネ〉の特殊効果にはド○ゴン○ールのスカ○ター的能力がありまして、目視でおおよそのレベル、能力値、職業系統、所属ギルドが判るようになっています。

 

 スカッシュレモンさんのレベルは20代後半、年齢は30代後半、第四位階を齧った程度の信仰系魔法詠唱者、スレイン法国・陽光聖典所属?

 

 他の隊員たちは三位階までしかない初心者集団、かと思いきや統制力やチームワークが今まで見てきたどのプレイヤーものよりも抜きん出ているからそこのチグハグがなんとも言えない。 

 

 あれ? おかしいな、隊員全員目がガラス玉みたいになっちゃってる。どういうことでしょう。 スキルで調べてしまいましょか。

 

 ふむふむ、皆さんどうやら条件付きデスペナルティ系統の呪術がかけられているようですね。どういうつもりかわかりませんが、これも一応報告しておきましょう。

 

 では次に戦士集団を見に行きますか

 

=====================================

カルネ村 村長宅個室 デスナイトによる騎士殲滅から間もなく(モモンガ)

 

 

「という次第にございます魔王さま。 殲滅するもよし、友好を結ぶもよし、拷問するもよしと言う具合にどうとでも料理できる連中でした」

 

「後詰の意味についてはあとで教えてやるとして……ともかく報告ご苦労」

 

 突然現れたマタタビさんが、頼んでもないのにいつの間にか周辺情報を網羅していた事実に、思わず精神沈静化が起こってしまっていた。

 かつて彼女を敵に回して崩壊したギルドがどれほどあったことか。こっそりギルド拠点深奥まで辿り着き持ち去ったギルド武器は数知れない。「屋台崩し」の異名を取るほどだ。

 ぶっちゃけ今回はオーバーワークもいいところだが、やはりこの人は一番敵に回したくない。

 

 ところで幸いにもマタタビさんも俺同様に精神構造が変化していたようで、人間が虐殺されているところを見ても特に何も思わなかったようだった。

 

『チンパンジーの虐殺動画見てるのと同じ感じですね』

 

 ……そう感じて何も思わなかったのもどうかと思うが、まぁいいか。

 今後ナザリックを運営するにあたって、仄暗い部分も確実に出てくるだろう。NPCは全体的にカルマ値が低く、食人を好むものも多いのだから。それに対して悪感情を持たれて彼女に離反されてはたまらない。

 

 マタタビさんは昔から何考えてるのかさっぱりわからない掴みどころのない人だった。最終日に侵入してきたのもそうだし、突然メイドになるって聞いた時は度肝を抜かされた。アルベドが本人の希望と言ってたけど未だ信じ難い。

 ひょっとして彼女は外敵よりもよっぽど警戒するべき相手なのではないだろうか

 

 ひととおりマタタビさんからの報告が終えたところで、アルベドは窘めるように言った。

 

「マタタビ、御方は現在アインズ・ウール・ゴウンと名乗られておいでなのです。

 お呼びする際には気をつけなさい」

 

 自分がこんな感じに注意されたら恐縮してしまうだろう、そんな感じの口調だったが、マタタビさんはどこか慣れた具合に軽く切り替えした。

 

「あー ひょっとしてアルベドさん、私がひとりだけ『魔王さま』呼びしてるのに嫉妬してました? ごめんなさい、これからは普通に呼びます」

 

「っちち違うわよっ!?」

 

「いえいえ女性にとって男性の唯一はかなり大きいものでしょう。なんでしたら二人の時だけ『あなた』とか呼んでいいか頼んでみたらどうです?」

 

「ちょっと、おま、何いってんの!?」

 

「くふーっ!!」

 

「アルベドさん大丈夫ですか!? アルベドさんっ!?」

 

 顔を真っ赤にして両耳と頭頂部から『クフーッ』っと蒸気を上げながら憤死するアルベド。どうやらマタタビさんもアルベドとはだいぶ仲良くなったらしい。

 

 自分もこんな風にNPCたちと打ち解けあえたらどんなに良いだろう。かつての仲間達の時みたいに面白おかしく楽しくて、それはきっと素晴らしいことのはずだ。

 

 二人の楽しそうなやり取りに、かつてのアインズ・ウール・ゴウンの姿が重なる。懐かしくも愛おしい日々が

 

 俺は思わず、うつろな幻視に手を伸ばそうとうした。

 

 だが当然といえば当然、過去の思い出は時間の流れに遮られ、今目の前の彼女たちとは主従の壁が立ちはだかる。伸ばされた手は人知れず膝下に戻った。

 

 一瞬こちらを見たアルベドが何か言いたそうだったが、思い出したようにマタタビさんの方を一瞥し、結局何も言ってこなかった。

 

 

 俺は柄にもなく、マタタビさんが羨ましいと思ってしまった。まるでかつての仲間たちがそうであったように、彼女はNPCと肩を並べている。昔の俺がそうであったように。

 

 そして今の俺は、昔の彼女のように一人きりだ。

 

 (まるであべこべみたいじゃないか)

 

 昔の彼女はあの事件の後も、他のメンバーがいなくなっても、アインズ・ウール・ゴウンと友好的に付き合い続けてくれていた。しかし、ナザリックに招待されても固辞するなど一定の距離間を欠かさなかったのも事実だ。

 

 多数決という形をとりなし結果的に彼女を追い出すようにした俺のことを、一体どう思っているのだろうか。彼女の中でどのような折り合いがなされているのかはわからないが、それを一歩踏み出して問いただす手段を俺は持たなかった。

 




アルベド「モモンガに寄り添いたっかったけどオリ主が邪魔で出来なかった」
マタタビ「自業自得じゃね?」

今回の捏造設定
・オリ主の能力全般
・地味子のメガネ

 今回のオリ主はちょっとテンションおかしいかも。作者も後詰の意味がわからなくて辞書引いたのは内緒。

 誤字脱字や感想及び気に食わぬところがあればコメントお願いします


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カルネ村まで

 愛されキャラのあの男。あいつを救う方法は、非常に意外なものだった。


カルネ村近郊(ガゼフ)

 

 

 王国戦士長として国王の勅命を受けたガゼフ・ストロノーフは、国内の村々を襲う何者かを討伐するため、精鋭部隊を率いて辺境地に出向いていた。

 

 しかし、行く先々の村では既に焼き討ちに遭っており手遅れとなるばかりであった。焼け残りからわずかばかりの生存者を探し出しては、人員を割き護衛とともにエ・ランテルに連れていくよう指示を出す。

 

 厳格な面持ちで惨状を見渡していたガゼフに、部隊の副長が話しかけてきた

 

「戦士長」

 

「なんだ」

 

「王の御下命は、国境周辺の村を襲う集団を調査し、討伐せよとのことでした。

 帝国騎士の襲撃も考えられます。しかし、実際に出動を命じられたのはわずか50名。 これは戦士長を嵌める陰謀に違いありません」

 

「そうかもしれないな」

 

 ガゼフが仕えるリ・エスティーゼ王国。近年は農作物の収穫期を狙った隣国バハルス帝国による軍事政策によってその国力は着実に減衰しつつある。ところが王国内では国王派閥と貴族派閥で対立していることもあり、ロクな対策を取ることも叶わない。それどころか犯罪系裏組織につながりを持つ者や、帝国と秘密裏に手を結ぶ者もいるくらいだ。

 

 そんな彼ら貴族にとって、周辺国家最強の戦士にして国王直轄の懐刀であるガゼフは邪魔な存在でしかないのだろう。事実此度の遠征でも何かと難癖をつけてきて、ガゼフは自身の主装備を外させられていた。

 

「最悪の場合を考えるなら、このまま人命救助のために部隊を分断するより、いっそ全員でエ・ランテルに戻り体制を立て直しましょう。

 このあといくつの村が犠牲になるかはわかりません。しかし、最強の剣士であるあなたを失うほうが国の損失は大きいのです。」

 

 副長の提案は無辜の民の犠牲をやむなしとするものだ。だがそれを罪悪であると断ずることは容易ではない。周辺国家最強の戦士であるガゼフ、その存在は王国内での軍事力としても無視できないものだ。失うとならば、帝国の侵攻により危ぶまれていた国力低下に拍車をかけることとなる。また、それによって国王派が墜落し貴族派が台頭した場合、国民の暮らしぶりは悪化して結果的に多くの犠牲者が生まれることだろう。

 

 剣一筋で生きてきたガゼフとは言え、事態を理解できないほど馬鹿なわけでもない。しかし決して副長の意見を是する様子は見られなかった。

 

「今や王国戦士長なんて大層な肩書で呼ばれてはいるが、私も元は一介の平民に過ぎなかった。 それはお前も同じだろう」

 

「はい」

 

 かつてガゼフは王国主催闘技大会の優勝を経て、国王より地位を賜った。そんな彼と自身を比較してはたして同一なのかと訝しむものの、そんなガゼフの着飾らない部分を好ましく思う副長であった。

 

「だから我々は知っている

 村の生活は死と隣り合わせ。モンスターに襲われることも日常茶飯事だ。

 なればこそ期待したはずだ、力を持つ貴族や冒険者が助けに来てくれることを。」

 

 異形種や亜人種と比肩しても、人間種は圧倒的に脆弱である。戦士として鍛えた者でさえ非戦闘員のビーストマン相手に苦戦を強いられる程度には。ましてやただの村人、いつ村にモンスターが襲って来て命を奪われるかもわからない。

 

 故にモンスター退治をなりわいとする冒険者や、個人で軍隊を保有する貴族もいるわけだ。しかし、冒険者の総人数は王国全土をカバーできるものではないし、貴族たちも自身の身が可愛いだけであるため進んで出兵しようとはしない。

 

「期待しなかったといえば嘘になりますが、実際は誰も現れなかった。」

 

「そうだ そしてこの『期待』の虚しさは、王国民であれば誰もが知っている。

 しかしだからこそ、虚構の希望に縋らなければ夜安心して寝床につき明日の働きに備えることもできない。非力な民とはそういうものだ」

 

 ガゼフは拳を握り、胸部鎧の前にかざす。

 

「ならば我々が示そうではないか、危険を承知で命を張る者の姿を。 弱きを助ける、強き者の姿を」

 

「!」

 

 副長自身、諭すことが無駄なのだと薄々気付いてはいた。

 

 ガゼフ・ストロノーフは決して曲がらない。自分の中の正しさにひたすら正直に生きてきた。

 

 その気高き生き様に魅せられたからこそ、副長は彼に付いてきたのだから。

 

=======================================

 

カルネ村

 

 

 屈強な戦士ガゼフの胸中にあるのは、少女の如き純真な祈りであった。民を心から思い、立場は違えど志同じくする国王に忠誠を誓う王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。

 

(どうか次こそは無事であってくれ)

 

 そんな願いが聞き届けられたのかどうかは分からないが、次の目的地であるカルネ村の平穏無事な姿が遠目から見えてきた。

 

 村の入口のところまで来ると、どうやら何者かがガゼフ達を出待ちしているようである。数は4人。

 

 一人目はこの村の村長らしき中年の男性。あからさまに恐怖のこもった視線をこちらに向けてきている。 

 

 もう一人が漆黒の全身甲冑を装備した長身の女戦士、彼女からもジリジリとした敵意が感じられた。

 

 その女性に付き添われるようにして佇むのが、常闇をそのまま布の形にしたようなローブを羽織り、形容しがたい表情を浮かべた赤黒いマスクを被る魔術師らしき男性。

 

 最後の人物、先の二人の影に隠れるようにしていたのですぐには気付かなかったが、こちらを覗き込む黒髪黒目の少女の姿。おそらくガゼフと同じで南方の血統が色濃く受け継がれたのであろう。 

 

 ガゼフはボソっと呟いた。

 

「……3人の家族か?」

 

 怪しい3人だが、夫婦とその子供みたいな関係かもしれないと考えた。すると二人も南方系の民族だろうか。

 

「くふふふ……家族、親子、夫婦なんて甘美な響き!」

 

 僅かな声にもかかわらず、黒甲冑の女性はその音を聞き取るとくねくねと身悶えはじめ、とてつもなく気味が悪かった。

 

 ガゼフは特に黒甲冑の女性に対する警戒を上方修正した。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている下手人を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」

 

「王国戦士長……」

 

 仮面の男はガゼフを値踏みするような視線を向けたあと、背後の少女と何やらアイコンタクトを取っていた。ガゼフは視線を村長の方に向ける。

 

「村長だな」

 

「はい」

 

「横にいるものが誰なのか教えてもらいたい」

 

「いいえそれには及びません」

 

 仮面は一歩前に出て自己紹介を始めた

 

「はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た魔法使いです。 横の者は……」

 

「妻のアルベドと申します」

 

「ムスメノ……マタタビ……デス」

 

 何故か高らかと勝ち誇ったふうに妻を名乗る黒甲冑の女性アルベド。対し、娘を名乗った少女はどこか遠い目をしている。仮面の男は少し慌てた様子であったが、間もなく平常を取り戻した。

 

「村を救っていただき感謝の言葉も無い」

 

 王国戦士長という立場がありながら突然頭を下げたガゼフに、アルベド以外の3名は不意を突かれたような具合であった。

 

「いえいえ。実際は私も村を救ったことによる報酬目当てですから、お気にされず」

 

 見たところ立派な装備を身に着けていると、審美眼に疎いガゼフでも一目瞭然で理解できていた。そんな彼らが取り立てて見所のない村落にどんな報酬を求めたのかガゼフは気にかかった。 あるいは何らかの方便かもしれない。

 

 ガゼフは、強者の立場にいながら謙遜する余裕すら持て余すアインズの振る舞いに好感を抱いた。

 

「では申し訳ないが、どのような者達が村を襲ったのか、詳しい話を聞きたいのだが?」

 

「村長殿がよろしければ、私は構いません」

 

「私も構いません どうぞ私の家であれば狭いながら腰を落ち着けて話すことができますので よかったらそちらで」

 

「それはどうも」

 

「お言葉に甘えさせていただこう」

 

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カルネ村 村長宅(マタタビ)

 

 

 普通にお気づきになったかもしれませんが解説しておきます。私に唆されたアルベドさんが、ガゼフ達が来る直前にモモンガさんに内緒で私と示し合わせて夫婦設定を捏造したのです。

 

 ちょっとびっくりしたモモンガさんですが、すぐに精神安定化の効力が発動して、めんどくさいしそれでいっかと流してくれたという経緯です。

 

 ちなみにそのあとアルベドさんがモモンガさんを『あなた』呼びし始めたのですが、声がやたら艶っぽくなったり『クフーッ!』と水蒸気を上げたりしてウザくなったので《メッセージ/伝言》ごしにモモンガさんが禁止令を出したようです。

 

 その時のアルベドさんの凹みっぷりったら見ものでしたけど……ゲフンゲフン。

 

「というわけで鎧の取引についてなのだが ゴウン殿」

 

「そうですね 金銭以外となれば……」

 

 と、いつのまにかだいぶ話が進んでいますね。何のお話してるんでしょう

 

 唐突にモモンガさんから《メッセージ/伝言》が届いてきた

 

(マタタビさん、頼みがあるんですが、このガゼフという男と手合わせしてもらえませんか?)

 

(あー〈地味子のメガネ〉の検証ですね? )

 

(そういうことです マタタビさんの見た限りで30レベル程度らしいのですが、この世界ではどのくらい信憑性があるものなのか気になるので)

 

(承りました魔王さま……いえアインズさま?)

 

(呼び方はどっちでもいいです。 別にデスナイトで調べても良かったのですが、力の推し量りみたいなことをする場合、力加減が得意なマタタビさんのほうが適任なので)

 

(わかりました)

 

「よろしければ王国戦士長直々に、ワタシノムスメと手合わせしてもらいたいのですが。構いませんかな?」

 

「そちらの黒髪のお嬢さんかな?」

 

 何を言ってるのかわからないというふうに ガゼフさんは私の方を向きました。そりゃそうでしょう、娘を王国戦士長とガチンコさせる父親は普通いません。事実赤の他人ですから。

 

「……所詮どっかの処女サキュバスの茶番劇ですし」

 

 うっかり声に出してしまいました。アルベドさんがギョロッと私の方を向いて睨みつけます、めっちゃ怖い!ところが話し込んでるガゼフとモモンガさんはちっとも気づかない。

 

 あとでモモンガさんから聞いた話ですが、この時の私はガゼフさんに恐縮していたように見えたらしいです。

 

 違いますよモモンガさん、真の敵は身内にいるのです。 

 

「これでも彼女は戦士としての心得がありましてね。 彼女の今後のため、ぜひ戦士長殿と手合わせをと思いまして」

 

「ほうそれはそれは。ゴウン殿程の御仁であれば、娘さんもそれなりの使い手なのだろうな。逞しい奥方もお連れのようだし、そういうことならこちらとしてもぜひ相手してもらいたいものだ」

 

 『奥方』という言葉に対し、モモンガさんは存在しない頬を引きつらせ、アルベドさんはヘルムの下にて『くふー』とキモく微笑み、私はそんなアルベドさんが可愛いなぁと思うのでした。

 

 どうやら最近私は、ヒドイン萌えにめざめたようです

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カルネ村 広場

 

 

 帝国騎士?がデスナイトに蹂躙されて「おかにぇあげましゅうううぅぅぅ!」と断末魔していた広場にて、いざ尋常に私とガゼフさんの立ち会いが始まります。

 

 観客として、生き残りの村人やガゼフさんの部下たち。 戦士長が少女を相手取るということで、兵士の方々からは侮るような視線がちらほらと。正直めっちゃ恥ずかしいです。

 

 対して広場向かい側に佇むガゼフさんはそれなりに真剣な表情をしています。立ち会う相手に敬意を払う態度が非常に好印象。戦士然とした野蛮な風像に反して、結構紳士な方のようですね。

 

 ここで立会人を引き受けたモモンガさんが、尊大に両手を広げて試合のルールを説明します。

 

「一本勝負、相手にこの木刀を当てた方の勝ちとする。両者それで異存ないな?」

 

 「それでかまわない」と、ガゼフさん。

 

 もちろん私も同意します。私にとって実はめちゃくちゃ有利なルールなのですけど。

 

 確認が取れたところで、モモンガさんは片手をチョップ風に振り上げました。両者武器を取り、サッと身構えます。

 

 えっと、こういうとき名乗ったほうがいいのかな?

 

「マタタビです よろしくお願いします」

 

 お辞儀と声を合わせないようにしてピッチリ挨拶

 

「改めて ガゼフストロノーフだ」

 

 あーお辞儀いらなかったのね

 

 試合開始を告げるような、一陣の風が吹きました

 

「それでは はじm「せいやっ!」

 

 モモンガさんが開戦の狼煙をあげる直前、私が地面を思いっきり蹴りつけて大きな砂埃があがりました。

 

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(ガゼフ)

 

 

 少女を見た第一印象は気弱とか臆病。どちらかといえば小動物的な雰囲気であった。

 

 とても戦士としての心得を持つ者のようには思えず、ガゼフはゴウンを訝しんだものだった。

 

 しかし、こうして武器を握り目の前で立ち会ってみるとだいぶ印象が変わる。

 

 今の彼女の雰囲気は獲物に相対する野良猫に似ている気がした。

 

 普段ちいさな物音にも敏感な猫は、大型動物である人間が近づけばあっという間に逃げ出してしまう。だが一度獲物と決めつけた相手にはさながら獅子のごとく立ち向かい、あっというまに追い詰めてしまうものだ。 

 

(ひょっとして自分はこの少女からして鼠程度の存在でしかないのでは?)

 

 そんな発想が脳裏をよぎるも、戦士としての矜持によって容易く霧散する

 

「マタタビです よろしくお願いします」

 

「改めて ガゼフ・ストロノーフだ」

 

 互いに名乗り挙げたところで、アインズが開戦の狼煙をあげようとしたその直前

 

「それでは はじm「せいやっ!」

 

 突然少女が地面を盛大に蹴りつけ、前後が見えないほどの砂埃が発生した。周囲の村人や兵士は大きく咳ごんでいる。

 

(まさかこの立ち合いで目眩ましなのか!?)

 

 別にルール違反とかではないが、1体1の試合形式でこのような手段を使ってくる相手をガゼフは知らなかった。人から猛獣のようだとも比喩されるガゼフではあったが、今思えばそれは実に馬鹿らしいことだと解る。真の野生とは、生存のために手段を選ばぬことなのだ。 

 

 少女―マタタビはそれを見事に体現していた。暗黙の良識に囚われているガゼフとでは圧倒的にステージが違っていたのだ。

 

〈可能性知覚〉

 

 砂埃の発生からわずか数瞬、少女相手にガゼフは気配感知系の武技を発動させていた。それが直ちに正解であると悟る

 

 マタタビは瞬時にガゼフの懐へ突っ込んできていた。気付いたガゼフが横薙ぎに木刀を振るい距離を取る

 

(速い!)

 

 速度的な話だけでいえば、ガゼフが過去に戦ったブレイン・アングラウスよりも上だ。ガゼフの中にあったマタタビへの侮りはもはや影も形もなくなっていた。

 

 今度はガゼフが少女の方に詰め寄り、鋭い一閃を叩き込む。木刀を後ろ向きにして受け流し、懐がガラ空きになったところをマタタビが足技を入れる。彼女の爪先は的確に男性の急所、金的を捉えていた。

 

(っぐ!?〈即応反射〉)

 

 『木刀を当てた方の勝ち』というルール上、足技を受けたとしても負けにはならないが、ガゼフは己の人生設計を大きく揺るがしかねない一撃に対して戦慄し、思わず武技により全力で回避を取った。

 

 ガゼフも戦いの最中足技を使うこともあるが、剣士としてのセオリーに反する為か、自分の他に使うものなど殆ど知らない。ただ彼女らしい一撃だと納得できた

 

「!」

 

 武技による超即反応に戸惑うマタタビに空きが生じる。そんな隙を見逃すガゼフではない。蹴りが躱され体勢の崩れたマタタビにつかさず打突を入れる。

 

 瞬間マタタビは身体をグニャリと反り返らせた。その動きは軟体動物を連想する程の柔軟さでとても人間業とは思えないものであった。結果、ガゼフの突きは躱される。

 

 しかしその急激な姿勢では反撃の攻撃は入れられない。ガゼフは勝機と見るや大地を踏み締め渾身の一撃を叩き込もうとした、しかし

 

―礫かっ!?

 

 マタタビの片手から3個の小石が放たれた。

 

 一つはガゼフの利き手の指元。指がしびれるような衝撃に木刀の握りが弱まってしまう。

 

 もうひとつが胸部装甲、若干鎧が凹む程の威力。

 

 3個めがガゼフのおでこ、これにはたまらずガゼフは怯んでしまう。

 

 瞬時に体勢を立て直したマタタビはガゼフの一撃に対して、身を屈めるようにして回避した。そしてそのままガゼフの足元に木刀を振るう。

 

 これにて勝負が決まるかと思いきや、ガゼフも足技を使ってマタタビを攻撃する。くらったマタタビは地面をゴロゴロと転がっっていった

 

 試合開始の時のような一陣の風が吹いた。ただ違うのは、その風が試合の終わりを告げるものであるということ。

 

「あはは、わたしまけましたわ」

 

「良い勝負だったよ」

 

 砂埃が晴れ渡り姿を表したのは、意外と満足そうな笑みを浮かべて仰向けに倒れ込んだマタタビ。そして木刀を向けながらそれを見下ろすガゼフの姿であった。

 

 目眩まし、金的、飛礫 たしかに卑怯染みた手段ばかりであったが、勝利に対する貪欲さが強く感じられた。そんなマタタビのやり方を、ガゼフはどことなく好ましく思っていた。それも彼自身の器の大きさに由来するものだが

 

 そしてアインズの声が響く。

 

「――そこまで」

 

 どうみても勝負は戦士長の勝利。だがパチパチと軽い拍手が鳴る程度で、大して歓声は挙がらなかった。実のところ試合時間は十秒にも満たなかったし、相手が少女では当然の結果として受け止めるものが多かったからだ。

 

 もっともそれがマタタビなりの気遣いであることをガゼフは見抜いていた。初手の砂埃は目眩ましというだけでなく、少女が戦士長と渡り合う姿を見せないためのものでもあったのだ。

 

「……さすがは王国最強ですね。ガゼフ殿 彼女にもいい勉強になったことでしょう」

 

 圧勝に見えて息を切らしていたガゼフへ近づき、声をかけるアインズ。ガゼフの獰猛な微笑みを前にしてもアインズはたじろぐ様子もない。

 

「いいえ、実際娘さんにはかなり手こずらされました。ところで鎧の件だが……」

 

「鎧の一着は村長殿の家に置いてあります。どうぞお持ち帰りください。我々はそろそろ帰ろうと思います。約束通り、私達のことは内密にしてください」

 

「了解した。ではアインズ殿、村を救ってくれた恩は忘れない。私の屋敷が王都にあるから、訪ねてきた際にはぜひ歓迎する」

 

 王国内では魔術師に対する風当たりが強い。それを見越してのことだろう。アインズは自身のことを誰にも言わないように要求してきた。帝国あたりにスカウトされてしまえば王国の脅威ともなりうるので正直遠慮願いたかったが、「帝国の軍門には下らない」と言うので渋々承諾した。

 

 結局その後、アインズ一家はどこへともなく去っていった。

 

 そのあと王国戦士団は、カルネ村にて復興の手伝いのためしばらく駐在することとなった。

 

=====================================

 

 復興作業の休憩中、ガゼフはカルネ村の広場にてあるものを見つけた

 

「これは!」

 

 血の付いた小石2つに、同じ大きさの木片が一つ。 

 

 小石の方は、マタタビがガゼフとの試合で指とおでこを狙い撃ったときに使ったものだろう。

 

 その順繰りで行けば、血のついていない木片はガゼフの胸部装甲を撃ったものだとわかる。 その木片にガゼフは見覚えがあった。

 

 木片の材質は、試合の時に使った木刀と同じ材質だったのだ。

 

 おそらく『木刀を当てた方の勝ち』というルールを見越して木刀を千切り、礫に紛れ込ませて投げたものだろう。

 

「実戦では勝ったが、試合に負けたということか!」

 

 相手を追い詰めたのはガゼフに違いない。しかし試合ルールを逆手に取って勝利したのはマタタビであったのだ。

 

 事実に気づいた途端、先程勝利を誇ってしまった自分を叱責したい衝動に駆られた。そして同時に言い知れぬ闘争心が湧いて出てきた。

 

「また、会いたいものだな」

 

 

 

 その後、ガゼフ一行は無事王都へ帰還した。危惧されていた何者かの策謀が起こらず、副長はホッとしたという。

 




 前回で登場したのはスカッシュレモン頭の信仰系魔法詠唱者。
 誰もニ●ンだなんて言ってない。

 注意事項でも書きましたが、敢えて原作キャラを登場させない場合があります。

 感想、気に食わぬところ、誤字脱字があればコメントお願いします



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至上命令まで

 5chで感想をくださった方や誤字報告をしてくださった方に改めてお礼申し上げます。

 今回の話は書き直そうか悩んでたけど、結局そのまま投稿することにします。


ナザリック地下大墳墓10階層玉座の間(マタタビ)

 

 

  ガゼフさんとの勝負は意外と楽しいものでした。

 

 〈シノビ〉のスキル「影分身の術」、自身の四分の一程度のステータスの分身を作り出すスキルです。これにより25レベル相当の強さとなった私の分身を、ガゼフさん相手にぶつけてみました。

 

 全力ではありませんが、本気ではありました。戦士職でない私の25レベルではガード硬めのガゼフさんに一撃与えることも叶いません。故にあの手この手の卑怯を尽くしたのですが、意外とガゼフさんには受けが良かったようです。

 

 たっち・みーに同じことした時は笑って許してくれましたが、以来二度とPVPしてくれませんでした。ただウルベルトは、私の卑怯さを大層気に入ってくれたらしい。

 

 そしてガゼフの強さが判明し〈地味子のメガネ〉の検証が済み次第カルネ村を去った私たちは、その足で陽光晴天とかいう実にシャイニングな名前の魔法詠唱者集団をコッソリとナザリック送りにしました。

 

 根っからの宗教肌だと決めつけていたレモン頭の隊長さんですが、俗物臭い命乞いをしていたのでちょっと見直しました。無論慈悲はありませんけど。

 

 このままレモン達をガゼフを襲わせて恩を売る事もできたように思えたので、気になってモモンガさんに《メッセージ/伝言》で質問してみました。

 

(マタタビさんが報告してくださったでしょう? 偽帝国騎士や陽光聖典の装備に比べて、王国の精鋭部隊の装備は圧倒的に魔力耐性が低い。たぶん王国とやらは、魔法詠唱者という存在を軽んじているのでしょう。

 そんな連中に恩を売っても大した利益は出てきませんし、ここは出方を伺うべきです。)

 

 とのことです。いやー結構考えてるんですね頭蓋空っぽとか言ってすいませんほんと。いやマジでさすモモですわ。

 

(聞こえてるんですが……)

 

 ……おっと失礼しました。

 

 

 

 ところで現在、この玉座の間にはナザリックのNPCたちが全員総出場しております。まさか百鬼夜行を生きてみることになるとは思いませんでした。

 

 私は一般メイドの最後尾、下っ端感パない。

 

 対する我らがアインズ様は、ワールドアイテムの玉座に座して如何にも魔王さまやっています。実はこれで内心ビクついているなんて夢にも思いませんよね。

 

「面をあげよ」

 

 オーバーロードがそう告げると、場にいたすべてのNPCたちが一糸乱れずに顔をあげます。私も反射でギリギリ間に合いました。

 

「まずは、私が個人で勝手に動いたことに詫びを入れよう。詳しい話はアルベドから聞くように」

 

 セバスさんに怒られてるときはたっち・みーの時よろしくめっちゃ凹んでいたモモンガさんですが、現状ろくに反省してる気配なしの支配者モード。人間慣れれば成るもんですね、もう人間じゃないけど。

 

「そして私は名を変えた。これより私を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン――アインズと呼ぶが良い。異論あるものは立ってそれを示せ」

 異論あるものは立ってそれを示せ」

 

 この名称変更にどのような意味があるのかを私は予め聞いていた。

 

 彼はアインズ・ウール・ゴウンの名を世界に広めて、この世界に来ているかもしれないギルドメンバーの道標になろうとしているらしい。

 

(所詮、ゲーム上での付き合いなのにね)

 

 理解できないわけではなかった。私だって彼と同じでアインズ・ウール・ゴウンの外に気のしれた相手なんていない。たった唯一のものに拘る気持ちはよく分かる。

 

 だけど、ゲーム仲間にここまで執着されるなんて、相手側は思いもしないだろうしいい迷惑なんじゃなかろうか。気持ち悪いし重たい、狂ってる。そんな思いを受け止めてもらおうだなんて大した我儘じゃないか。

 

 でも自分の主義じゃないというだけで彼の一大決心を否定するつもりはないし、居る筈もない人達への心境なんて正直どうでも良かった。

 

 

 

 彼の突然の名称変更にNPCの皆さんは騒然とする。やがて他の人達もおのおの納得した雰囲気になりました。私と同じく事前に聞いていたアルベドさんは、表面上冷静だった。

 

 それがなんとなく気に入らなくて私は眉を顰めました。《読心感知》のスキルによって、アルベドさんの悪感情はバッチリ伝わってきていたのです。

 

 彼女が何を考えているのかは知りません。スキルが読み取るのは感情であって思考じゃない。憎しみや悲哀の意味は、原因は私にもわからないから。

 

 愛に呪われし純白の悪魔は、正体不明の激情に蓋をして、間もなく返礼の口上を述べようとした ―その時、

 

 何者かが立ち上がりました。

 

 声にはならない動揺が玉座の間いっぱいに広がり、絶対支配者へ異論を述べる不届き者に対して、これでもかというほどに殺気が集中する。

 

 殺意という名の槍が豪雨のごとく降り注がれながらも、不届き者とやらは妙に平然としていた。というか私だった。

 

(もうだいぶ慣れたもん)

 

 ここ毎日NPCからの悪感情をダイレクトに受けていた私の心は敵意にすっかり麻痺していたので、NPC達の殺意にもほとんど無関心でいられた。ただアルベドさんの敵意だけが他より一層強く、それがなんだかショックだった。

 

「静まれ」

 

 骸骨の彼はスタッフをコツンと床へ突いただけで周囲の動揺をあっさりと治めてしまった。そして支配者然とした態度で強く私に問いただす。

 

「マタタビ、ならば聞こう。何故お前は立ち上がった?どのような不満があったのだ」

 

 無意識か、それとも意識的だったらもっと嫌だ。モモンガさんからは絶望のオーラがうっすら広がっていく。一度は承認した私が公の場でNOって言うの、モモンガさんからしてみれば意味不明でしょう。そりゃ腹も立つ。

 

 

 私はすうっと息を吸い込み、意を決して全身全霊高らかと、そしてやけくそ気味に言い訳をぶちかました。

 

 

「モモンガ様は、40柱もの至高を失ったナザリックにおいて、まさしく夜陰を照らす月光の如き御方にあらせられます」

 

「各々が造物主という名の太陽を見失ったシモベ達は、その反射光を宿すモモンガ様に蛾のごとく群がっては絶対の忠誠を嘯いているに過ぎません。真の忠誠は、やはり自らを生み出した主にのみあるのです」

 

「モモンガ様はそんなシモベ共の気持ちを鑑みて自らギルド名を名乗られようとしておられるのでしょうが、私はそれに我慢ならないというわけです」

 

 

 

=====================================

[モモンガ]

 

 

「ふむ、お前の言いたいことはよくわかった」

 

(いや全然わかんないんですけど!?)

 

 一体全体どうしてマタタビが、モモンガの一大決心に口を挟むのか、モモンガ自身ちっとも心当りがなかった。ひょっとして何かの嫌がらせではないのか?そんなふうに勘ぐってしまうくらいに動揺してしまい、咄嗟に精神安定化が発動する。

 

 しかし、彼女の言い分はNPCたちには都合の悪い部分であるらしい。全方位からマタタビに向かっていた殺気はかなり減衰していた。モモンガはマタタビとの〈メッセージ/伝言〉による定時連絡のことを思い出した。

 

 彼女曰く、NPCの忠誠心にはギルドメンバー内でも格差があるらしいのである。

 

自らの創造主 > モモンガ(ギルド長) > 他のギルドメンバー

 

 そして自らの創造主がいない現状では、ギルド長であるモモンガに忠誠心が集中しているのだと言っていた。逆を返せば、彼らNPCたちにとってモモンガは創造主の代替品という側面も確かにあるようなのだ。それを聞いたモモンガは、何かのきっかけで彼らに裏切られてしまうこともあるのではと、多少の危惧を募らせたともあった。

 

(ひょっとしてマタタビさんははこのことを心配して、俺がNPCたちに敵対されないように泥をかぶってくれているのでは?)

 

 その発想に至った時、モモンガはマタタビに対して申し訳ないような気持ちになった。打ち合わせもなく突然こんなことを始めたとは言え、なんだかんだとモモンガのことを心配してくれている様子であったからだ。

 

 とはいえ今の状況は少々まずい。彼女のセリフが波紋を残して、NPC達は無用に自虐心をつのらせている様子だった。「見捨てられてしまうのでは」という危機感が沈黙によって広がり、まるで通夜のような有様になっていた。それはある意味では、墓にふさわしい雰囲気なのかも知れないが。

 

 マタタビは「絶対の忠誠を嘯く」などと言っていたが、彼らのモモンガに対する忠誠心は紛れもなく本物である。自らの創造主を第一とするのも、モモンガからしてみればそちらのほうが嬉しかった。

 

 モモンガは言った。

 

「私がお前たちシモベに忠義の在り方を求めることは決してない」

 

 その言葉に、「棄てられるのだ」という確信を見出し、彼らの中で、絶望感が一気に広がった。

 

 しかし、絶望を与えるのがモモンガの声であれば、それを引き上げるのもモモンガの声である。

 

「忠義を尽くしてくれるのは非常に嬉しい。だが、無理はして欲しくないのだ。

 お前たちのありとあらゆる個性は、いいところも悪いところも、かつての仲間たちが作り出したのだ。故に、私はそれに反するようなことをお前たちに求めたくはないのだよ。

 その為にも、自分自身がどうあるべきかは自分たちで考えてもらいたい。当然、それについてで思い悩むということもあるだろう。その時は、他のシモベでもいいし、私に言いたいことがあれば彼女 ―マタタビのように堂々と意見してほしい」

 

 モモンガの慈悲深き言葉に、ナザリック総幸福量の折れ線グラフは突如直角の方を向いていった。忠誠心は限界をはるか超越し、地の底から大気圏にまで急上昇していった。

 

 更に追撃と言わんばかりのモモンガの言葉が、彼らを翻弄する。

 

「そうだな、また反論があると困るし、私がアインズ・ウール・ゴウン、ギルドの名を名乗る理由を話そう」

 

 一瞬、何を思ったか黙り、再び口を開く。

 

「現在ナザリックは原因不明の自体によりこの平原に転移してしまった。よって、どんな現象が起こるのか予想がつかない。万が一、かつての仲間もこの地に転移していたのであれば、何を持ってしても探し出さねばならない。

 だからこそ道標のためにも、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に知らしめなければならないのだ」

 

 「これよりおまえ達の最大となる行動方針を厳令する」と言ってモモンガ 

 ―もといアインズは続ける。

 

「生きとし生きる全ての者に知らしめてやれ! より強きものがもしこの世界にいるのなら、力以外の手段で。数多くの部下を持つ魔法使いがいるなら、別の手段で。今はまだその前の準備段階にしか過ぎないが、将来、来るべき時のために動け。このアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なものであるということを知らしめるためにだ!」

 

 絶対支配者の厳命が玉座の間じゅうに響き渡り、魑魅魍魎共の雄叫びがあちらこちらで起こりだした

 

=====================================

(マタタビ)

 

 

 彼がそのまま転移でいなくなって、私は九死に一生を得た感覚だった。

 名前を訂正させることには失敗したけど、どうにかうまく誤魔化せたらしい。アルベドさんやデミウルゴスに何らかの反論をされるかと思いきや、結局何も言われなかったのは奇跡だ。

 これからは二度とこんなことしないように気をつけよう。

 

 

 ところで3人称で彼をどう呼べばいいのか少々迷いどころですが、とりあえずアインズ様にしておきましょう。

 

 しばらくして玉座の間から転移でいなくなったアインズ様。主役を失った玉座の間は静かですが先程の熱気は確かに残っています。

 

 沈黙を破ったのはアルベドさんでした。

 

「デミウルゴス アインズ様とお話をした際の言葉を皆に」

 

「アインズ様が夜空をご覧になられたとき、こうおっしゃいました。

『私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやもしれない』と。そして最後にこうおっしゃいました。

『世界征服なんて面白いかもしれないな』と」

 

 何いってんのデミウルゴスさん?ロマンに焦がれる少年の如き純粋な笑顔で言う事じゃあないでしょう? まさか世界征服なんてそんな……ほらほらアルベドさんもなんとか言ってやって。

 

「各員、ナザリック地下大墳墓の最終目的は アインズ様に宝石箱を、すなわちこの世界をお渡しすることだと知れ」

 

『ウオオオオォォォォォ!』

 

 OH~!?

 

(多分……冗談だよね?)

 

 きっと彼は何気なく夢見がちに呟いたのでしょう。なんだか目に浮かぶくらいリアリティのある話だ。

 

 しかしそんなこと言っちまえば連中がどう解釈するかなんて、普段肩を並べてる私からすれば明白なのでした。




 勘違いで無理やりゴリ押しした感じして気に食わない。ひょっとしたらこの話を次回まるごと書き直すかもしれません

 けど予定どおりなら次回はメイドの話です

 誤字脱字、気に食わぬところ、感想があればコメントお願いします


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地下労働メイド暮らし

 そういえば1話でオリ主の職業に〈シノビ〉というのがありましたが、あれは捏造です。
 原作では〈ニンジャ〉〈ハンゾウ〉〈カシンコジ〉しか確認されていません。
 作者は〈シノビ〉の方が気に入っているのでこちらを採用しています


  【マタタビの至高の41人大百科】

No.3:ウルベルト・アレイン・オードル

 

 ウルベルトはギルド内でも数少ないマタタビの友人だ。とはいえ彼と仲良くなるのは、実はそれほど難しくない。悪という概念にこだわる彼はそれにまつわる多くの持論を有しており、ようはその話を文句を垂れずに最後まで聞き通せるかという点に限る。

 たっち・みーと仲が悪いのは似た者同士だからだろう。ウルベルトはマタタビのことを親友と呼ぶが、本当に深いつながりがあったのはたっち・みーであるはずだ。二人の仲を切り裂く原因となったマタタビは、その点でウルベルトに強い負い目を持つ。

 

====================================

 

ナザリック地下大墳墓 9階層

〔マタタビ〕

 

 ナザリック地下大墳墓 9階層(マタタビ)

 

 

 ナザリックにおいてトイレの存在意義は薄い。NPCは飲食不要な者がほとんどだし、逆に飲食する者がいたとしても何故か排泄不要だからだ。

 ユグドラシルの時にそういったゲーム的システムが存在しなかったからこその反映だろう。普通ギルド拠点にトイレなんて設置することはありえないし、逆に必要だった場合はあまり想像したくない。

 

 ところがナザリックにはトイレがある。かつてのアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは凝り性な連中ばかりだったしあまり驚きはしない。しかしいざ現実化してその施設を運営しなければならないとすると「どうしてこんなもん作ったんだ」という恨み言の一つでも言いたくなる。連中からすれば逆恨みもいいところだろうが。

 

 大理石や黒曜石などで荘厳に造られた帝国ホテルみたいに豪奢なトイレは、時折洗面台を使う使用人がいる程度でしかなく、正直ぶっちゃけるとひたすら無駄の一言に尽きるわけであった。

 そんな誰も使わないトイレ掃除程空しいものはない。

 

(……私はいったい何をやってるんだ?)

 

 あるかもよく分からない汚れと雑巾片手に格闘する、それが元ユグドラシルプレイヤー:マタタビのここのところの日常風景であった。

 こういった異世界転生モノのファンタジーを他にも知らないことは無いが、思っていたのとなんか違う。もっとマジカルパワー的なものでドッタンバッタン大騒ぎする類のモノではないのだろうか? 今のところは良いのだが、せっかくの異世界なのだから一生地下労働でメイドを続ける気もさらさらなかった。

 

「ふうー終わった」

 

 洗面台の掃除が一段落ついて一息ついたのも束の間、横にいたイワトビペンギンの眼がギョッと光る。彼はレベル1のバードマンでしかないが、醸し出される威圧感には、レベル100である私をも戦慄させる何かをはらんでいた。

 

「どうでしょうか?」

 

 おそるおそる、掃除結果の合否を尋ねる。

 私の上司、エクレア・エクレール・エイクレアーは鷹のような目付きでトイレ内を一通り見渡し、無慈悲な宣告を告げる。

 

「全然ダメですな、やり直し」

 

「えー、ダメですか?これでもう3回目ですよ!」

 

 駄々コネみたいな私の抵抗に対し、エクレアさんは呆れたように言い捨てた。

 

「むしろ3回のやり直しをしても不完全なままというのはどういうことですか。少しは学習するということを覚えるべきです。」

 

 エクレアさんは餡ころもっちもちに作られたNPCで、掃除に強い拘りがあるというような設定を与えられたらしい。

 それが反映されてか、現実化された彼はとてつもない掃除魔と化していた。

 

「じゃあ一体何がいけないんです? 学習って言ったって何がダメなのかわからなければ同じことの繰り返しですよ」

 

 私の反論を聞いたエクレアは信じられないようなモノでも見るかのように驚き、やがてヤレヤレ顔(推測)をして答えた。

 

「あなたは目に見えない部分の清掃が杜撰なのですよ。 見なさい、あなたが入念に掃除したつもりの鏡ですが……ホラ」

 

 洗面台の鏡と壁の接合部分に手(※羽)をかけるエクレアさん。直線状をすっと撫でると手(※羽)の先が黒ずんでいるようだった。

 それを見た私はショックを受ける。わかりっこないだろうこんなの

 

「いいですか、普段滅多に使われないといえど、空気中のほこりは常に流動し、壁やモノなどに吸着されるのです。こういった見えない部分の汚れを疎かにすると、手も付けられないようなひどい汚れになるのですよ。」

 

 次にエクレアさんが指摘したのは水道部分です。

 

「一般的に水道水の中には炭酸カルシウムなどのミネラル分が微妙に含まれており、水滴をそのままにしておくと溶けていた成分が固形化し汚れとしてこべりついてしまう。水垢と言われるものの正体がこれです。あなたの使った中性洗剤ではこの汚れは落ちないのですよ」

 

 リアルでは洗剤の種類なんか気にしたこともなかった。精々混ぜるな危険に注意するくらいだ。

 

「ではどうしたらいいんです?」

 

「1から洗面台掃除の手本を披露します。よく見ておきなさい。」

 

 エクレアさんの眼が再び鋭くなりました。幾種類かの洗剤を横に並べて掃除を始めます。

 

「まずは化粧直しやうがいの時にこべりついた脂分を洗いましょう。弱酸性洗剤でさっとふき取ります。そして排水溝などのスキマ部分は特に汚れが残りやすいから特に入念にやります。」

 

 ペンギンの手(※羽)で布巾を持ち、洗剤をつけて満遍なくふき取る。私がさっきやったような力任せではなく、顔を洗うような優しいソフトタッチです。一旦拭き終わると蛇口から水を流して洗剤を押し流しました。続いて別の洗剤を取り出します。

 

「水垢の成分はアルカリ性、であるならば酸性洗剤で落とすのがセオリーでしょう。

 しかし蛇口部分は腐食に弱いステンレス製です。ふき取る際に細心の注意が必要となります。」

 

 先ほどは撫でるように優しい拭き方でしたが、反面蛇口拭きでは手早く正確な手つきでした。時折拭いた部分を水入りの霧吹きで吹きかけます。

 

「酸性洗剤の濃い成分が乾燥してしまうと、ステンレス素材はたちまち腐食してしまいます。ですから成分が凝固しないよう定期的に水をかけ、そして手早くふき取る必要があるのです。」

 

 この作業はエクレアさんをしても一筋縄ではいかないらしく、横顔に一筋の冷や汗が垂れているようでした。その後姿には鬼気迫るものがあり、掃除というより一種の職人芸です。

 

「酸性洗剤は癖が強く扱いには注意が必要ですが、汚れの付いた表面部分だけを的確にそぎ落とすことができれば……この通り」

 

 仕上げに蛇口で水を流して洗剤を取り除き、布巾で水切りをして終了です。。

 

「凄い!」

 

 元々それほど汚れてもいなかった筈の洗面台ですが、先ほどとはまるで違う洗面台の姿に、私はただひたすら感嘆しました。

 僅かにあった虹色の油汚れは跡形もなく、どれだけ目を凝らしても水垢は見当たりません。そしてステンレスの蛇口は本来の輝きを取り戻したようにピカピカと輝いていました。

 

 掃除というもの奥深さを思い知り新たな見地に眼を見開かされて、驚きのあまり私は痴呆のごとくその一言を連呼し続けました。

 

 

 

 従業員食堂

 

  

 ナザリックには食堂まで存在します。

 

 食堂は仕事終わりのメイドたちで溢れています。基本的に同じ創造主で集まってグループを作っているけど、他の創造主の者とおしゃべりしたい者たちが集まるグループもあるか、中には一人で食事する人もいる。

 

 彼女たちの現在の話の種は、私が先日紹介したことから始まった漫画についてです。私が紹介した一般メイドの製作者の一人であるらしいホワイトブリムの漫画は、メイドの皆様の間で大人気。

 

 図書館には何故か漫画教本がいくつか蔵書されていましたから、中には自分たちで漫画を作ってみようという試みを行っている者も現れました。ホワイトブリムに作られたメイドは何故か絵がうまいのです。

 

 彼女たちの書いた漫画は、私の話したエピソードを元にした至高の41人の英雄譚(神話?)や、何気ないナザリックでの生活を描いたものなどです。

 見た中で一番びっくりしたのはセ○ス✖デ○ウルゴ○の薄い本ですね。本人等が見たらSAN値直送間違いなしでしょう。

 

 エクレアさんは、いつもは男性使用人の方を呼んで食事の手伝いをさせるのですが、今日は使用人の担当箇所が違い、加えて彼が上機嫌なこともあって珍しく私と二人で食事をしようということになります。

 

 彼は餅ころもっちもちに作られたNPCであり「アインズ・ウール・ゴウンの簒奪を企てている」というふざけた設定を与えられているため、忠誠心は認められるものの他のNPCには距離を置かれています。

 

 ウザいやつですが嫌いではありません。掃除上手は普通に尊敬するし、事情が違えど私と似たような境遇にあるエクレアさんに対して私は妙な親近感を感じていました。

 

「エクレアさん今日は何食べます?」

 

「ふむ、ではB定食にいたしましょう」

 

「じゃあ私も同じものにしよっと。二人分取ってくるので待っていてくださいね」

 

「うむ」

 

 普段この従業員食堂を使うのは一般メイドの皆様方に、ペストーニャ先生、プレアデス、そして私とエクレアさん。特に一般メイドの人たちは、ホムンクルスの種族ペナルティによって大食いになっているので、調理場の作業量は膨大です。

 

 メイドの仕事の一つに調理場の皿洗いがあり、個人的にあれが一番つらい仕事だと思っています。ちなみに他の人にとっての激務は、四六時中骸骨顔を眺めるだけのアインズ様当番で、一番辛いのは当番前日の休暇らしい。大いに理解しがたい。

 

 

 私がB定食の配膳トレーを2つ分持ってエクレアさんの待つ自分の席に戻ろうとしたら、戦闘メイドプレアデスのシズ・デルタさんが座っていました。

 

 プラチナブロンドをストレートにした髪型に、アイパッチを当てて片側だけのエメラルドの瞳。可愛い容姿をしているけど、作り物めいた能面のような視線は非常に凍えていた。

 

(エクレアさんを抱えてるけど、仲良しなのかなぁ)

 

 エクレアさんは口元を抑え込まれてフガフガ言っていました。口封じの手慣れ感からして相当親しい間柄なのでしょう。

 

 なんだか話しかけづらい人物だったので距離を取っていたのですがここは勇気を持って声をかけます。

 

「……あのー デルタさん そこ私の席なんですが~」

 

「知ってる」

 

 シズさんは私の方を向きぼそっと呟くように答えました。いや知ってるって言われてもー困りましたねぇ。仕方ありません、エクレアさんはほっといて隣の席に行きましょう。

 

「エクレアさんのエサ、置いておきますね では」

 

「……待って」

 

 ガシッと腕を掴まれました。

 

「ななな何でしょう!?」

 

 突然のことに私は思わず顔をひきつらせました。

 

 能面無表情の自動人形は、何故か陽炎の如きオーラを漂わせていました

 

「……あなたとエクレアとは、どんな関係なのか教えて欲しい」

 

 こいつもか、こいつもアルベドさんと同じパターンか!

 

「存じておられるとは思いますが、私は最近エクレアさんの下に配属されたただの部下ですよ? なにもないですって」

 

 エクレアさんの口元を握る力がだんだん強くなっていきます。ペンギンがキュウキュウと声を絞らせて何事か訴えようとしていますがスルーします

 

「……ならば一緒に食事を取ろうとしていたのはなぜか。 普段エクレアは食事の時、男性使用人に手伝ってもらっていた。 だが今日はいない」

 

「本日彼らは別の場所での清掃担当をしているんです。今日だけが特別ですって」

 

(……まずいですよ)

 一般メイド人気ナンバーワンのシズ・デルタさんと胡散臭い新米メイドがイワトビペンギンを取り合って修羅場を催す様を、噂好きのメイドたちが放って置く訳ありません。ジリジリと好奇の視線が詰め寄ってきました

 

「シズちゃん頑張れ!」

「でもエクレアでしょ? あの子が貰ってくれるんならむしろ…」

「…除け者同士、かえってお似合いの二人ではあるかもね」

「揃って寿退職してくれればいっそ」

「けどシズちゃんが~!」

 

 うるせぇ!姦しいわ! そっちは聞こえないようにボソボソ言ってるんでしょうけどコチトラ盗賊なんですよ! バッチリ耳に入ってくんだかんな!

 

 これだから女という生き物は好きになれません。うるさいだけならエクレアさんのほうが数倍マシだ。

 

 エクレアさんからは「へるぷみー」というアイコンタクトが伝わってきました。メイド共の評判よりは、彼との関係が悪化することのほうが嫌でした。やれやれ、世話のかかる上司ですこと。

 

〈口寄せ身代わりの術〉

 

 シズ・デルタさんが抱えていたペンギンは仔猫ちゃんに姿を変えました。エクレアさんはと言うと私の手元の中にいます。シズさんは、何が起こったかわからないという具合に困惑していました。

 

 軽く解説しておくと、この〈口寄せ身代わりの術〉は、〈口寄せの術〉という召喚魔法の忍術版スキルと、〈身代わりの術〉というスキルを併用して行うまぁまぁな高等テク。本来は集団戦で味方を守るのに使ったりします。

 

 今回〈口寄せの術〉で召喚したモンスターの強さは第一位階相当。見た目が可愛い猫である以外は取り立てて見るところもありません。

 

 ただ子猫を抱えるシズ・デルタさんはなかなか絵になったようで、野次馬をやっていたメイド達からは黄色い歓声が起こります。戸惑うシズさんを尻目に、我々はそそくさと食堂をあとにしました。

 

「やれやれ助かりました。 シズ・デルタにも困ったものだ」

 

「いいですよ別に それより、ご飯どこで食べましょうか」

 

 先程のB定食は、食堂に置いたまんまです。ぶっちゃけ私のスキルでこっそり取りに行くことも出来ない訳じゃないのですが、力を見せつけたくないので使わないに越したことはありません。

 

「それなら、副料理長がマスターをやっているバーにでも行きましょう まぁあそこなら彼女も来ないでしょうし」

 

 バーまであるんだナザリック。せっかく出し行ってみましょう

 

「さぁ私を運べ」

 

「はいはい」

 

9階層 バー

 

 アダルティな雰囲気を醸し出すバー。マスターの副料理長ことピッキーさんは、毒々しい見た目に反してカマーベストが妙に様になっています。カウンターには一人先客がおりました。

 

 席にかける後ろ姿が、とある旧友のものと重なって見えました。しかしどうやら別人のようです。

 

「おや エクレア君と、そしてそちらは珍しい客じゃないのかい?」

 

「シズ・デルタに絡まれてしまいましてね。食事のひとときを静かに過ごしたかったので、情けない話ですが彼女とともに逃げてきたのです」

 

「デミウルゴス様、お久しぶりでございます」

 

 第七階層守護者デミウルゴスさんです。彼は役職では上の立場にいるので、出会った際はこのようにきちんと挨拶をするようにとペストーニャさんから教わっていました。ナザリックのシモベの上下関係は形式的なものでしかありませんが、無視することも許されません。

 

「君もだいぶ淑女としての立ち振舞が様になってきたようだね、マタタビ君。

 しかし今はオフタイムだ。折角の機会なのですから、君と腹を割って話してみたいのだがよろしいかな?」

 

 これはこれは珍しいお誘いです。橙色のスーツとバーの独特な雰囲気が彼のダンディズムを相乗させ、悪魔であることを度外視すればあらゆる女性がうんと頷く魅力を持っていました。

 

「謹んで…… いや普通に了解しました」

 

「ああ その話し方でかまわないとも ところで君は酒を飲んだことはないだろう。良ければおすすめを紹介させてもらってもいいかい」

 

 ご明察の通り、私は未成年なので飲酒はしたことありません。そういうのって見ただけでわかるもんなんですね。デミウルゴスさんは気遣いができるイイ男です。

 

「それじゃあお願いできますか?」

 

 今の私は、見た目がJKでも真の姿が化け猫なので年齢的問題は皆無です。せっかく異世界にやってきたのですから、新たな発見の扉を開いてみてもいいんじゃないかな、ということで快く提案に承諾します

 

「マスター、彼女にドメーヌ・ドゥ・モントリューを」

 

 お酒の名前はよくわかりませんが「ピッキー 私も彼女と同じものを」とエクレアさんも言っていますし、デミウルゴスさんのオーダーならなんとなく信用できる気がしました。 

 

 ピッキーさんは「ふむ、あれですな」と言って、そそくさと戸棚の名から一本のワインボトルを取り出しました。同じく戸棚から取り出されたグラス(よく手入れされているのが素人でもわかります)を2つ、カウンターに差し出します。

 

「どうぞ」

 

 ピカピカなグラスが、ボトルから注がれる液体により一気にワインレッドに染まっていきます。ほのかに甘い香りがしました。

 

「いただきます」

 

 普段食事でそんな挨拶をすることはないのですが、初めての体験ということで多少萎縮していたのでしょう。思わず呟いてしまいます。そんな私のウブな様子を、バーの皆さんは微笑ましく見守ってくれました。

 

 グラスが唇に触れ、口の中にワインが流れ込んでいきます。三温糖のようなほんのりとした甘さと、蜂蜜のような風味がうっすら感じられました。でも甘すぎず、丁度よい具合です。私からはちょっと背伸びした感じの、大人の味がしました。

 

「お気に召していただけたかな?」

 

「とても美味しいです!」

 

「それは良かったよ。ところですこし話があるのだがいいかね?」

 

「どうしました?」

 

「先日の玉座の間での君の発言なのだが―」

 

「っ!?それが……一体?」 

 

 液体であるはずのワインが喉に詰まるような感覚をおぼえました。

 

 あの話は、うっかりスタンダップしちゃったのを誤魔化すためのその場しのぎです。メイド生活の経験を活かし、それなりに痛いところを付いてやったはいいものの、後で思い出せば矛盾だらけのデタラメもいいところ。どうしてあの場が凌ぎきれたのか、今でも不思議なくらいです。

 

 それを今ここで、ナザリック随一の知恵者に蒸し返されるなんて最悪もいいところ。

 

 こうしてお酒を紹介してもらった身分としては、茶化して逃げ出すこともできないのです。なんと用意周到なことでしょう

 

「実に正論だ。感動させてもらったよ 君ほどアインズ様のことを重んじているものはナザリックにおいても居ないだろう」

 

 え…?ナニイッテンノコイツ

 

 

※ここからデミウルゴスさんの、ちょっと長い一人演説が始まります。彼を責めないであげてください。後で聞いた話ですが、彼はどうやら若干酔っ払っていたようなのです。

 

 

「私は常々考えてきたよ。最後までお残りになってくださった慈悲深きアインズ様に対して、我々しもべはどのように忠義を尽くせば良いのかをね。

 

 たとえば君も一般メイドに話していただろう。我が創造主、ウルベルト・アレイン・オードル様と、セバスの創造主であるたっち・みー様は幾度も衝突を起こしておられた。

 

 不敬を承知でこのような話をさせていただきますが……もし御二方が対立なさったのであれば、間違いなくセバスはたっち様へ、私はウルベルト様の方へ付くこととなるでしょう。

 これは言うまでもなくナザリックのしもべの間では共通認識です。シモベにとっての優先順位は己が主にこそ絶対だ。そういう意味では、君の言っていたことはどうしようもなく正しい。

 

 ならば、アインズ様と他の御方が対立なさればナザリックはどうなるのでしょう? 我々に与えられた使命は、ナザリックを守ること。しかし、最後までこの地に残ってくださった慈悲深き君にもしものことがあれば、……最悪ナザリックは内部分裂によって崩壊します

 

 そして……不敬極まる考えであることは、重々承知の上で言わせてもらいますと、他の至高の御方がナザリックに帰還なされないほうが、ナザリックの安寧という意味では都合が良い。断っておきますが、あくまで"安寧"です

 

 しかし、アインズ様は他の御方がこの地へ帰還してくることを強く望まれておいでです。付け加えるなら、すべてのシモベも同じ望みを抱いています。

 

 だからこそ、この不安要素を誰かが声高に主張せねばならなかった。それは絶対支配者であるアインズ様が行うには少々分が悪い。もっと客観的な立場からの意見である必要があり、今回はそれが君だった。

 

 おそらく事前にアインズ様と口裏を合わせられていたのでしょうね。君がナザリックに忠誠心を持つ存在ではないことは知っているが、反面アインズ様の為に汚れ役を請け負われる程の信頼関係がみてとれる。

 

 君の正体を知っていた私には、不可解に思っていたことが一つありました。

 

 御方と肩を並べたこともある程の人物が、何故メイドの役職へとまわされることとなったのでしょう。はじめはアルベドの姦計を疑いましたが、結局アインズ様はそれを良しとなさりました。少々気になり調べてみたところ、ペストーニャから興味深い話を伺ったのです

 

 メイドというのは昔から、家事や掃除、礼儀作法を学ぶことができる職業であるため花嫁修業という意味合いを持っており、貴族などの上位階級の者も娘を王族の使用人として働かせることがあるのだとか

 

 つまり君 ―貴女は」

 

―アインズ様の許嫁であらせられるのではないかね。

 

 話が長ぇから最後の部分しか聞いていませんでした。

 

「……あのぅ 冗談は嫌いなほうなんですが」

 

「うん、否定してくるであろうこと、予め予想できていたとも。君の現状の立場は、ナザリックの統治において非常に重要だ。知る人間は少ないほうが良いだろうね。

 というわけで、エクレアに副料理長。ペストーニャは知っているが、あなた方にもこの話は内密にしてもらいたい。よろしいかね?」

 

 副料理長は了解の意を示すように頷きます。エクレアさんも同様です。私の意志はどこかに置いてきぼりを食らったようでした。

 

「承りました。しかし『花嫁修業』となれば彼女の指導にも腕がなるというものですな。ペストーニャとも相談して、彼女には本格的なカリキュラムを導入していかなければなりません。」

 

 練習時間が増えるのはすごく嫌です。

 

「いや……ですから私は……」

 

「アルベドのことを気にしているのかい?

 心配することはないさ、彼女のアインズ様を慕う気持ちも並外れたものではあるが、シャルティア同様に時折タカが外れてしまうことがあってね。アインズ様の正妻としては、問題が無いでもないんだ。」

 

 何故こいつはアルべドさんより私を推すのでしょう。その部分になんとなく恣意的なものを感じ取りました。

 

 私は説得を諦めました。思い出すのはナザリックへの1500名の大侵攻直後のことです。

 

 アインズ・ウール・ゴウン側へ加担していた私は、戦後そのままの足でウルベルトさんからナザリック7階層へ招かれたのです。そして紹介されたのは、まだマネキンだった頃のデミウルゴスさん。

 

 ウルベルトさんの『悪』の美学がふんだんに詰め込まれた自らのNPCの話を30分ずーっと聞かされました。その時の彼の饒舌と馬耳東風ぶりは凄まじく、今のデミウルゴスさんの比でありませんでした。相当うざかったと記憶しているけど、そんな思い出すら今ではなんとなく眩しい気がした

 

「デミウルゴスさんって、如何にもウルベルトの子供って感じがしますよ」

 

 うっかり敬称を付け忘れてしまいました。しかし、私が自然に零した一言は、彼の琴線に触れたようで、尚の事上機嫌になりました。

 

「その言葉、最上級の賛辞であると取らせていただきます」

 

 褒めてねーよ   って言うのは、果たして無粋でしょうか? 案外そっちのほうが嬉しかったりして、なんて私は考えました

 

マタタビ私室

 

 

「ということがあったんですよ」

 

「思いのほか随分と楽しそうね。 ところであなた、本当に許嫁であったりしないでしょうね。もしそうなったら……」

 

「いやいやアルベドさんにまで勘違いされたらホント敵いませんからやめてくださいよ。大体私をメイドにしたのはアルベドさんでしょ?」

 

「そそそそうよね まさかあなたがアインズ様となんて……くふふふふ」

 

 アルベドさんは、ガチガチ食器を震わせながらゆっくりお茶をすすって言いました。相変わらずこちらへの疑惑は晴れないようです。

 

「ところであなたの人間形態の外装データは、ひょっとして至高の御方から賜ったものでなくて?」

 

「はい、この外装はホワイトブリム様から頂いたものですよ。確かシーゼットっていう娘のボツ案だとかなんとか」

 

「なるほど、シーゼットね」

 

 どうやら知っている方のようです。ま、知っても気まずいだけだから興味も沸かないけどね。 

 

「でも安心したわ 案外エクレアとも上手くやれているようね 彼がうまくやれる相手はあなたくらいかもしれないわ」

 

「そーなんですかね……」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの簒奪を公言している彼はNPCから疎まれています。つまりそんなやつと仲良くできるのは、アインズ・ウール・ゴウンに忠誠しない私くらい、と暗に言われているようです。

 

 ふと思いました

 

「ねぇアルベドさん 私ってナザリックにいてもいいのかな」

 

「どうしたの?急にそんなこと言って」

 

「私にはAOGに対する帰属心も忠誠心も全くありません。

 AOGの雇われ傭兵にすぎない私が、こうしてナザリックの忠臣達に混ざりこんでいるのは間違ってるんじゃないかなって」 

 

 もとはと言えば、シャルティアさんが「従属の間違いじゃありんせん?」と凄んできたのにビビってメイドに就職した次第でした。 今思えば食客としてナザリックに転がり込むだけでよかったのに、どうしてややこしい話になってしまったのでしょう。

 

「確かにあなたに忠誠心はないけれど、あなたなりにアインズ様のことを思いやっているのではなくて?

 先日のこともそうだし、アインズ様に頼み込んで今から食客となっても良いのに遠慮しているでしょう?おそらくあなたの頼みならアインズ様は快く快諾してくださるのでしょうけど、そうなればあなたの立場が変動することに疑念を抱くシモベが現れる。

 それを気にしているのよね、違うかしら?」

 

「まぁ、はい。 別にそうなったからって、アインズ様への忠誠が揺らぐことなんてないってわかってるんですけど、甘えてばかりじゃいられんって思って」

 

 アルベドさんは続けた

 

「あなたの言うとおりナザリックに忠誠を誓わないシモベがいるという事実は、私を含め多くのシモベが眉をひそめるでしょう

 でもアインズ様を愛する一人の女として言わせてもらうならば、あなたの心遣いはとても素晴らしいものだと思う

 あなたの友人として言わせてもらうならば、あなたにはここにいて欲しい……なんてね、うふふ」

 

「……ありがとう」

 

 ナザリックで必要とされていない自分を思うと辛くなる。

 

 カルネ村のことがあって外の世界を知ってから、ナザリックから逃げ出して異世界生活するのも悪くないかもって思うことがあった。

 モモンガさんは追跡しようとするだろうけど、私のスキルならきっと逃げ切れる。彼は本来私なんかに執着するべきではないのだ。

 

 でも、アルベドさんが許してくれるなら、私はまだここにいていいかもしれない。だから私はナザリックに居続ける。

 

 

 それがたとえ嘘だとしても、彼女になら騙されても嬉しい

 

 

 

 

 

 

 




 ウルベルトとの関係上、オリ主はデミウルゴスと好相性です。

 オリ主とアインズ様は結ばれません

*ねつ造設定
・清掃に関する科学知識を知るエクレア
・バーに現実の酒が置いてあること
・マタタビの忍術スキル
・ナザリックのトイレについて
 誤字脱字、気に食わぬところなどがあればコメントお願いします


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肉球に埋もれし魔爪 辺境集落への出向

 誤字脱字報告して下さった方々、どうもありがとうございます。作者の国語力が追いついて、いつかはミス無しで出せるといいな。

 これやって残り2話で書き溜が切れます。そうなったら更新速度が遅くなります。




城塞都市エ・ランテルのとある宿屋〔モモンガ〕

 

 

 エ・ランテルに着くなり冒険者組合で登録を済ませてきたアインズと戦闘メイドナーベラル。先輩冒険者に絡まれたりもしたが難なく退き、現在宿屋にて今後の打ち合わせをおこなっていた。

 

 なぜ二人がわざわざエ・ランテルに赴いて冒険者になろうとしたのか。理由は2つある。一つはこの世界独自の慣習や一般常識を生身で体感するため。二つ目は、支配者ロールに疲れたモモンガのストレス発散のためだった。

 

「冒険者……予想以上に夢のない仕事だな」

 

 組合にて受付嬢から伺った業務説明によると、冒険者の仕事は要約すれば「対モンスター用の傭兵」であるらしい。

 

 「冒険」という言葉にユグドラシル的な未知への探求を期待していたアインズにとっては非常につまらない肩透かしだった。冒険者の起源はスレイン法国にあるらしいので、この世俗とズレた紛らわしい名前も六大神とやらのネーミングかも知れない

 

「陽光聖典とやらの情報から、六大神が数百年前に転移してきたユグドラシルプレイヤーの可能性が非常に高いからな。」

 

 現在のところナザリックの捕虜としている陽光聖典は、「三回質問に答えたら死ぬ」というペナルティがかけられており、情報の引き出しに非常に苦労している。

 

 事前にマタタビからの情報がなければ一番情報を持っているであろう隊長の男を真っ先に殺してしまったであろうから、彼女の功績は大きい。

 

 お陰で順調に情報収集ができているため、この世界での情勢にもかなり迫れてきている。

 

「御身を惑わすなど、たとえ意図がなかろうとも無礼極まりません」

 

「落ち着け、ナーベよ。たかが名前の一つくらいだろう」

 

 アインズ個人としては、気を使わないで済むマタタビと二人だけで行きたかったのだが、それではマズイとマタタビが言ってきたのだ。

 

 アインズは《メッセージ/伝言》彼女と相談した時のことを思い出す

 

 

=====================================

 

『二人きりで外になんて……NPCの皆様方相手にそんな信頼関係を見せつけたら、私がアインズ様の妃だと勘違いされちゃいますよ?』

 

「へ?」

 

『9階層のバーに飲みに行ったとき、デミウルゴスさんがそんな感じで勘違いしてました。

 至高の41人の居住区である9階層スイートルームを与えられた一般メイドという不自然な待遇。そして私が元々、ナインズ・オウン・ゴール所属でありAOGに協力していたという経歴。

 結果、デミウルゴスさんが辿り着いた結論は『花嫁修業のためメイドとして礼儀作法を学んでいる』ということらしいです。そんな風習があったのは初耳でしたが』

 

「えー!? ホントですかそれ…正直さっき教えてもらった世界征服よりインパクト大きいんですが……

 それでどうなったんです?その話は」

 

『あの人の思い込みが強過ぎて、説得したけどダメでした。幸い口封じの方はできたんですけど、

 もしこんな話が他の一般メイド共にバレれば、肉を貪るハイエナの如く喰らいついてはあっという間に拡散、既成事実化してしまうでしょう』

 

「あぁそれで二人で行くのがダメなのですか。

 100レベルの随伴がいればアルベドとかにも反対されないと思ったんですけど。」

 

『いっそアルベドさんを連れてっては?

 人間蔑視なんて、ナザリックのNPCではほとんど共通していますよ』

 

「角や翼の見た目も人間社会ではかなり目立つし、彼女にはナザリックの管理運営を任せたいから外には出せません。ですから今回の供はプレアデスのいずれかにしようと思います」

 

『仕方ありませんね。アルベドさんには『愛する殿方の家を守るのは妻の役目』とでも言っときますよ。多分、納得してくれるんじゃないかな?』

 

「……妙にアルベドを推しますね」

 

『設定変えたんだから責任取れーなんて無責任なことは言いませんが、アインズ様も、勘違いで私と結婚するより彼女を嫁に取ったほうがマシでしょう?

 まぁこれもただの身勝手な保身ですけど』

 

「さいですか。じゃあ随伴してくれるNPCを選びたいのですが、差し当たってナーベラルかルプスレギナのどっちかを考えているんですけど、どっちがいいと思いますか? メイドとして働いているマタタビさんの意見を聞きたいです」

 

『うーん 二人のどっちって言われると悩みますねぇ。人間への対応力という意味ではルプスレギナさんに軍配が上がりますが、彼女には少し問題があってですね……』

 

「問題ですか?」

 

『なんていうか、ルプスレギナさんは、るし☆ふぁーさんみたいに、自分の快楽を優先しちゃうところがあるんです。 ナーベラルさんは、若干ポンコツだし人間蔑視が凄まじいけど、基本的には従順で致命的なこともありません。

 アインズ様はどっちがいいですか?』

 

 

 

=====================================

 

 アインズはナーベラルの方を向いた。

 

 対人コミュニケーションに優れるルプスレギナにすれば良かったのではないか?と後悔する気持ちがなくはない。しかし、「るし☆ふぁーみたい」という評価から、彼女が致命的な失態をする可能性も考えられる気がした。

 

 ナーベラル・ガンマは、言ってはなんだがかなりのポンコツだ。物覚えは悪いし人間を虫けら呼ばわりしてしまうところがあるが、それでも自分に対して忠実に動いてくれている。

 

「アインズ様、如何なさいましたか」

 

「少し考え事をしていた。……それと今の私はモモン、お前は冒険者仲間のナーベだ」

 

「承知しましたモモン様」

 

「モモンだ」

 

「はい、モモンさーん」

 

「ちょっと間抜けだが……まあよい」

 

 最終的にナーベラルを連れて行くことを決定したのはアインズだ。後悔するかどうかは彼女たちの今後の働きを自分の目で見て考えよう、そう決心したアインズであった。

 

=======================================

同時刻 カルネ村〔マタタビ〕

 

 

 ナザリック近い大墳墓から10km程のところにあるカルネ村。

 

 国王直轄領であるため王国では比較的徴税が軽いのと、森の賢王という魔獣のテリトリー付近であるため襲ってくるモンスターが少ないこと以外は取り立てて見るところもない、そんな程度の村である。

 

 先日の帝国騎士(偽)の襲撃により村の人口が激減したため、人手が足りず農作業をこなす村人たちはどことなく忙しそうであった。そしてその様を眺めるのが、最近メイド服が様になり始めてきた新人メイドのマタタビだった。

 

 彼女は天候影響無効のデータクリスタルが組み込まれたパラソルテーブルの座席に淑女然と腰掛けて飲み物片手に読書をしていた。その優雅な佇まいには、1週間みっちりメイド長に叩き込まれた礼儀作法が既に染み付いていた。

 

 この上達速度のからくりは、〈シノビ〉の職業スキルの一つ〈影分身の術〉にある。自身の思考形態と25%の能力値を持つ分身体を発生させるこのスキルは、実験の結果、転移後の世界では解除後に経験値をオリジナルにフィードバックする効果があると判明した。

 

 つまるところ、分身体を大量(体数制限はあるが)に作って作法の練習をすればとてつもない練習効率を得られるということである。上司にとやかく言われるのを嫌った彼女がなるたけ早く技術習得する手段を考えた成果だった。

 

 ところでマタタビがどうしてここにいるのかというと、それはアインズに週三回のペースでカルネ村に視察に向かうよう命じられたからだ。

 

「入社して1週間で辺鄙な村に出向とか、ナザリックブラックすぎアハハハ」

 

 などど彼女はふざけて呟いたが視察とは名ばかりで、これはアインズがマタタビに休暇を与えるための口実であった。こうでもしないとナザリックのシモベという立場ではおいそれと休暇を取ることもかなわないからであり、マタタビ自身重々承知している。

 

 以前アインズに冒険者となって共に羽根を伸ばさないかと誘いを受けたが、結婚関連の面倒事が増える(のと、単純に面倒くさい)ので遠慮したため代案としてこのような手段を取ることとなったのだった。

 

 日がなジュースを片手に少女漫画を読みふける。リアルの世界では逆立ちしてもありえない職場環境を堪能していたとき、バッシブスキルの〈読心感知〉によって何者かの悪意が近づいてきていることに気づいた。

 

「……ルプスレギナさん、不可視化で近づいて何かイタズラしようとすんのやめてください」

 

「あちゃー、バレちまったっすか。プレアデスの他の娘たちはこれで引っかかるんすけどね。やっぱマタちゃんは一筋縄ではいかないっすわ」

 

「その下半身みたいなあだ名もやめてくださいね」

 

 接近者の正体は、戦闘メイドプレアデス:ルプスレギナ・ベータだった。

 

 表面上は太陽の如き笑顔で接しているが、内心マタタビへの敵意で満ちていた。マタタビと同じくカルネ村への監視が命じられている彼女は、マタタビのことを自身の仕事の領分を奪っている存在として疎ましく感じているらしい。

 

「えー、折角親睦を深めようと二三日の間ずーっと考えてたんすよ、このあだ名。」

 

「それって単に暇なだけでしょう。」

 

「仕方ないじゃないっすか。アインズ様に監視を命じられたとはいえこの村って何にもないんすから。殺戮の一つでも起これば面白いんすけどね~」

 

 マタタビは内心嫌な顔をしたが、冷静な表情であろうと努める。

 

「だからって不可視化の魔法使って悪戯するのもどうかと思いますけども。それに暇だったら村近郊の弱い魔獣相手にでも無双してればいいでしょう?」

 

 ゲーマ思考で言えば雑魚敵無双というのはそれなりに快感である。体感覚が現実化されているのだからマタタビからすれば尚の事だ。

 

「ちっちっちっ、私の趣味を全然わかってないっすねーマタちゃんは。悲鳴が飛び交い恐怖に慄きながら絶望していく相手をじっくりと嬲るからこそ殺戮は面白いんすよ。動物本能しかない雑魚敵とかを虐めまくるのは趣味じゃないっす。」

 

 マタタビにとっては殺戮の嗜好なんて聞いてて不快な話だ。ルプスレギナもそれを承知しているからこそ、そんな話を自慢げに語るのであった。

 

「ふーん」

 

 ルプスレギナはマタタビに何かと嫌がらせをしようとしているが、それら全てはマタタビ相手に通用するものではなかった。

 

 ただ、悪意に敏感なマタタビにとって、かまってくるルプスレギナの存在そのものがひたすら鬱陶しかった。

 

 冒険者モモンの随伴相談を受けたときも、自分がルプスレギナのことを正直に話してしまえば慎重派のアインズがナーベラルを選ぶだろうと予測していたためなお座りが悪い。事実を知ればルプスレギナはマタタビをさらに敵視するだろうと思われたからだ。

 

(不運な人事、というか私が自分の待遇をアインズ様に話してないから当然といえば当然だよね。万一バレたら彼の気苦労を増やしてしまうし、アルベドさんに火の粉がかかるのはまずいからなぁ)

 

 アルベドがマタタビをメイドたちの間で孤立させようと画策していることは、こっそり彼女の執務室に行ったときに気づいていた。彼女の悪意は端から解っていたことだったので、ショックというより合点がついたような感じだった。

 

 表面上は取り繕っているが、モモンガとマタタビは折り合いが悪い。それに勘付いたからこそ、アルベドは隙きを突いたのだ。

 

 結果どんな形にしても、この異世界に来てマタタビを初めて受け入れてくれたのは、彼女にとってアルベドに違いなかったのだった。だからこそ、マタタビはアルベドの悪意は黙認し続けていた。

 

(ルプスレギナさんは駄目だけどね)

 

 アルベドと違い、彼女の悪意は明確な敵意であって、マタタビを排除しようとするものだ。つまり暗に、アインズの人事をルプスレギナが不満に感じているということでもある。

 

(ブラック企業出身だし、職場でいじめとか絶対アインズ様ショック受けるだろうな。)

 

 マタタビ自身は嫌になったらいつでも逃げられる気でいた。しかし、真実を知ったアインズが心を痛める姿を想像して眉をしかめる。彼にはそんな表情をして欲しくないと思った。

 

(何か仕返しして二度とちょっかい出さないようにした方がいいかな)

 

 どんな方法が良いか、直接痛めつけるのではなくて、屈辱を与える系統が良いだろうか。サディストは受けにとことん弱い。

 

 

 良い方法が閃いた。マタタビは突然ルプスレギナに向かって言った。

 

「すいません、ちょっと私お手洗いに行くのでついてこないで下さい」

 

 あからさまな嘘である。

 

「なにいってんすか?」

 

 しかしマタタビはユグドラシル最高クラスの隠形スキルによって姿を消してしまった。普段マタタビは自身の力量を警戒されないように、このような隠形の発動などは極力控えてきたのだが、今回は特別だった。

 

 

「居なくなっちまったすね、つまんないっす」

 

 マタタビは人狼の種族スキルによる感知にもさっぱり引っかからなくなったようだ。

 ルプスレギナは殺戮に関する話でマタタビが、実は嫌なのに強がって無関心ぶっていたのをちゃんと勘付いていた。

 

 嘘の理由は当然ルプスレギナにあるだろう。楽しみが逃げ出してしまうのは少し残念でもある。

 

 だがつまらないと言う割に、彼女の胸のうちには相手を追い出せたことへの達成感も確かにあった。

 

 そういえばと思い出し、ルプスレギナは先ほどマタタビが座っていたパラソルテーブルを見やった。飲みかけのジュースと少女漫画の横に、キャンディやらチョコレートやらが入っているお菓子の入りの皿を見つけた。

 

 ルプスレギナはプレゼントを貰った子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。その実、邪気に満ち満ちた笑顔でもある。これを彼女は、自身のささやかな勝利の報酬にしようと身勝手に決めた。マタタビも当分戻って来ないだろう。

 

 ルプスレギナは躊躇なくお菓子に手を伸ばす。キャンディの包みを開き、自分の口の中に放り込んだ。

 

 刹那、彼女の意識はそこで途絶えた。

 

 

「警戒心なさ過ぎ」

 

 一部始終を眺めていたマタタビは、自身にかけていた隠形を解除し、いびきを嗅いてぐっすり眠っているルプスレギナを改めて眺めた。

 

 催眠効果のあるお菓子をテーブルに配置しただけなのだが、あっさり引っかかったルプスレギナに若干引いていた。上手くいくにしても、もうちょっと考えると予想していたのだ。

 

 何はともかく、これでルプスレギナはダメージを与えない限り数分は目覚めない。ここから弱体化系統の魔法をかけまくるのがユグドラシルでの一般的な催眠の使い方である。だがマタタビがここで取り出したのはサインペン。

 

 それによってルプスレギナのおでこに『駄犬』と書いた。丁寧に異世界文字と日本語の両方で。

 

 彼女が起きた頃には村人やナザリックにて大恥を書くこととなるだろう。顔色と髪色を同化させて顔中真っ赤になるルプスレギナを思い浮かべ、マタタビは僅かに微笑んだ。

 

 しかしこのままにしているのもどうかと思い、崩れ落ちたルプスレギナを起こさないよう慎重に椅子に腰掛けさせる。そしてマタタビはその場を後にした。

 

 

 ちなみに起き上がったルプスレギナは、机に置いてあった菓子を再び食べて眠るのを、皿の菓子が尽きるまで延々繰り返すことになる。期せずして文字通り一杯食わせることとなるのだが、マタタビには知る由もなかった。

 

 ルプスレギナが寝ぼけて顔をテーブルに擦り付けるうちに、マッキーのインクは落ちて『駄犬』の文言は次第に読解不能となっていくのである。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 ルプスレギナを片したマタタビは、機嫌よくスキップで村の周りを歩き回った。

 

 何もなかった村の外周には木の柵が置かれている。村人たちは集まってゴブリンたちから護身法を学んでいた。先日の襲撃が彼らの意識を一変させたのは間違いなかった。

 

 収穫時が近いようで、普通に農作業に従事するものもいる。その中に見知った姿があったので声をかけた。

 

「こんにちはエンリさん」

 

「ゴウン様の娘さ……お嬢様ですか!? どうしてこちらに」

 

(あぁ、そういえばアルベドさんの茶番で娘ってことになってたんだっけ)

 

 拙い口調でお嬢様と言い直したのはエンリ・エモット。騎士襲われていたところがアインズの目に止まり、奇跡的に助かった強運の持ち主だ。

 

 彼から賜った〈ゴブリン将軍の角笛〉で召喚したゴブリンは、パワーデフレの激しい異世界ではそこそこの強さに位置するらしい。それにより現在の彼女は実質的に村長的なポジションに収まっていた。本人は断固否定しているが

 

「普通にマタタビでいいよ。私達、同い年くらいでしょう?」

 

 人間化スキルによって変身したマタタビの外見年齢は16歳程度。リアルを換算した実年齢ではもう少し上なのだが、エンリの年齢に合わせてついた虚言だ。

 

「わか、うん なんかこう言うの馴れないけど、よろしくねマタタビ」

 

 現状では互いに同性の知り合いは少ない。二人は軽く握手をしてからなんとなしに話しだした。

 

 

「なんかマタタビって不思議な感じ。

 あんま詳しくないけど礼儀作法とかしっかりしてるぽいし、すごーく上流階級だってことはわかるけど、全然気取った感じがしないのね。」

 

 エンリの何気ない洞察にマタタビは冷や汗をかいた。彼女は上流階級……な訳ないのだ。

 

「うんまぁ……どっちかって言えばウチは引きこもり気質だからね。礼儀作法はうるさく言われてるから結構頑張ったの。」

 

「やっぱりゴウン様の家って厳格なんだねぇ!私は普通の村娘だからそういうのよくわかんないけど、ゴウン様とかすっごい厳しかったり?アルベドさんは絶対そうだってわかるけど」

 

(なんで貴方は私が答えたくないところをピンポイントで捉えられるのでしょう。これがいわゆるタレントってやつですか?そうなのですか?)

 

「あーうん そういうのはリョウシンより使用人の人たちがすごいの。私ってあんまり使用人たちの受けが良くないから、必要以上にスパルタされちゃってさ」

 

「大変なんだー」

 

 マタタビはどうにか話題をそらそうとする。

 

「村の生活のほうがよっぽどだと思うよ。農作業なんて私できるかなぁ?すぐ逃げ出しちゃいそうだよ」

 

「ふーん」

 

ねぇ、と続けてエンリは言った。

 

「なにか隠してない? というのもゴメン、なんかマタタビってゴウン様の話になると途端歯切れ悪くなるし、こないだもちょっと仲悪そうだったけど」

 

(なぜばれた!?)

 

「えっとそれは……」

 

「ごめんね? 話したばっかの人にこんなこと聞くのは間違ってる気がするけど、私の両親、ちゃんと親孝行する前に……いなくなっちゃったから、そういうすれ違いがあったらほっとけなくて」

 

(そんなヘビーな話を偽親子相手にされてもどうしろと?)

 

 両親をなくしたばかりのエンリにとって、親子関係の不和など見える限りではあって欲しくなかったのだ。そしてエンリの直感はかなり鋭く的を得ていた。マタタビがアインズと若干気まずいのは事実である。

 

 あれからアインズとは《メッセージ/伝言》で何度か話をしたが、元々仲の良い方ではないため結果的に気まずいことのほうが多かった。

 

 エンリの直感は正しかったが、状況認識のほうがどうしようもなく間違っていた。

 

(あはは、悪意よりも、勘違いからくる善意のほうが質が悪いなんてね)

 

 マタタビは、先日のバーでのデミウルゴスとのことを思い出す。彼らの厄介さに比べたら、ルプスレギナやアルベドなんてかわいいもんだとシミジミ思った。

 

「別に大したことない話だよ。

 トウサンは今の家族よりもいなくなった友達のことばっか気にしてるんです。カアサンが哀れでなりませんが、本人が重々承知してるっていうんだから救いようがない、ただそれだけ」

 

 マタタビはいかにもどうでも良さそうな冷めた調子で、その場しのぎに虚実織り交ぜた話をする。事実本人にはどうでも良いのだが、かえって無関心な雰囲気が作り話に真実味を吹き込むことになるのを彼女は気づかない。

 

「ゴウン様が最近まで引きこもってたってそういう……」

 

 アインズが友人のことが忘れられずに引きこもっていたのだと、エンリは考えたようだった。

 

 的はずれなようでいてその実妙に的を射るエンリの直感に、マタタビは吹き出しそうになるのをこらえた。こらえきれずに口元が緩んでしまうのだが、それをエンリは苦笑いだと納得する。

 

「面倒なのでこれあんまり人に言わないでくださいね?」

 

 マタタビはこれ以上勘違いが加速するのを防ごうと、件のアルベドと同じ台詞回しを使った。なんだか聞いてはいけないようなアインズの人間的一面を知ってしまった気になったエンリは、頭を縦に振って頷く。

 

 彼女は非常に同情的な眼差しをマタタビに向けていた。

 

 その眼差しが鬱陶しいため、マタタビはまた違った話題を持ち出した。

 

「そういえばこの村に少しモンスターがやってきてるようですけど、今までゴブリンが居なかった時はどうしてたんです?」

 

「この村は森の賢王という魔物の住処の近くだから、あまり他のモンスターは寄ってこなかったの。もしも来たときにはラッチモンさんっていう野伏の人が対処してきたわ。」

 

「ラッチモンさんは見たけど、あの量の魔物をやっつけるなんて本当にできるの?

 馬鹿にするつもりじゃないけど、あの調子で村に来る魔物をすべて追い払えるとは思えないよ」

 

 マタタビの感知能力は秀でている。村周囲までの敵感知であれば造作も無いことだった。

 

 そしてマタタビが戦士長とも立ち会いすることができる程度の実力者だとエンリは知っていたので、マタタビの言葉を完璧に誤りだとは考えられなかった。

 

「え?」

 

「うん?今まではそれで大丈夫だったてことかな。なんか最近変わったのかも」

 

「それって大丈夫なの?今はゴウン様から賜ったこの角笛があるけど」

 

「しっかり外周の守りを固くできれば、ゴブリン達もいるし今のところ余裕だよ。

 ただ、ウチから外周調査で派遣している人も今のところは派手にやってるわけじゃないし、生態系を崩すとかありえないと思うんだけどねぇ。もし他の要因があるなら詳しく調査したほうが良いかも。」

 

 階層守護者アウラがトブの大森林の調査を命じられていることは、カルネ村に在留しているルプスレギナとマタタビに予め知らされている。

 

 そしてアウラが入り込む前後で村の周囲を感知したことのあるマタタビは、森林の様子があまり変わっていないことを知っていた。

 

(つまり変化はナザリックがやってくる以前からのものってことだよね)

 

「ごめんねもう時間なの。またねエンリ 私はこれくらいで」

 

「うん、ゴウン様にもよろしく言っておいてね」

 

 二人は互いに手を降って別れた。別れた直後、マタタビは再度隠形によって姿を消した。

 

 さてこれからどうしようかと、マタタビは今後の予定を考えた。ルプスレギナがここにいることを考えれば、カルネ村で羽根を伸ばすことなどもとより不可能である。ならば別の場所での暇つぶしが必要だった。

 

(さしあたって、トブの大森林でもほっつき歩いてみますかね。こういうのはどっちかって言うと、アインズ様の領分だけど)

 

 本来マタタビはユグドラシルで言われているような冒険の類があまり好きではなかった。とはいえルプスレギナの居る村に残り続ける気にもならなかったので消去法としてそうすることを選ぶ。

 

 実際のところこれから彼女が行おうとしていることのほうが、冒険者になったアインズよりも『冒険』らしいという具合になるのだが、これまた彼女には知る由もない。

 

(一般メイドからは不穏分子、デミウルゴスさんやエクレアさんからは嫁候補、村人からは魔王の娘って、私は一体何になりたいんだろうか)

 

 自身に向けられたバリエーション豊かなレッテルに、マタタビは頭が痛くなる感じがした。彼女の状況をキチンと理解しているのは、良くも悪くもアルベドだけである。

 

(ともすれば、アインズ様よりは幾分マシかなぁ)

 

 自身がアインズの理解者であることをすっかり失念しながら、彼女は思った。

 




 作者はナザリックのメイドが特別嫌いなわけじゃないんだけど、オリ主のポジション的にアンチな表現になってしまうのが悲しい。やっぱキャラ再現って大変ですね。つい話の都合で動かしてしまうから不自然になる。

※独自設定
・ルプスレギナがカルネ村に来るのが原作より早いかも
・影分身の経験値効率はNA●UT●のパクリです

 感想、気に食わぬところ、誤字脱字があったらコメントお願いします。

 


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精神年齢詐称

 毎度誤字報告してくださった方、どうもありがとうございます。
 今度こそ誤字が起きないように見直し数回やりました。
 今度こそいけるはずだ間違い無い(フラグ)


【マタタビの至高の41人大百科】

No.4:ぶくぶく茶釜

 ぶくぶく茶釜は、豪胆ながらも気遣いがよく出来る姉御肌な印象だ。弟を相手にする時なんかでたまに裏表ある人なのだが、そこまで悪い人ではなかっただろう。しかし他人の気遣いが苦手だったマタタビはは彼女にややキツく当たってしまうことがあった。次第にぶくぶく茶釜の方も、マタタビに構ってやることはなくなった。多分、それもマタタビへの気遣いなのだろうと思われた。

トブの大森林〈マタタビ〉

 

 

 トブの大森林の外周部分に立った私は気配遮断のスキルを解除した。すると、こちら目掛けて猛スピードでやってくる森の探索者。

 

 彼女は侵入者が私のことだとわかった途端、鬼気迫る表情を引っ込め吐き捨てるように言った。

 

「……誰かと思ったらあんたか」

 

「どうもこんにちは!アウラ・ベラ・フィオーラ様」

 

 学生服のスカートをちょこっとつまみ上げ、先言後礼に礼儀正しくお辞儀をする。

 これまでメイド長から何度も注意されながらも頑張って習得した礼儀作法は、我ながら完璧な出来だった。ところが相手は嫌なものでも見たように顔をしかめる。

 

「気色悪いからアウラでいいよ」

 

「アッハイ ワッカリマシター」

 

 どうやらお気に召さなかったよう。堅苦しいのが嫌いなのか、それとも私が相手だから?どっちにしてもやるせない。

 

 アインズ様が支配者ポーズを必死に考えてノートに記しているのはこっそり覗いていたから知っているけど、メイド長による教練や影分身による効率強化によって猛練習している私のほうが努力は上だ。

 なのにこの格差である。

 

 やってられっかという気分になるが、おくびにも出さぬようポーカーフェイスは崩さない。

 

「で、こんなところに何の用? あんたはメイドじゃなかったけ」

 

 アウラはどうやら私がアインズ様の命でカルネ村に来ていることは知らないようだった。

 元サラリーマンとはいえアインズ様の情報管理能力にも限界があるのだろう。冒険者になる際、執務はアルベドさんに引き継がれることになったので今後はこういうすれ違いも減るだろうと思われた。

 

「ルプスレギナと一緒にカルネ村へやって来たんですよ。

 村人の話によると、カルネ村周辺のモンスターの生態系が我々がやってくる以前から少しずつ変化しているようでして。それでアウラならなんか知っているのかなと~思って訪ねてきた次第です」

 

 実際は、ルプスレギナの居るカルネ村から距離を取るための口実にすぎない。

 

 デミウルゴスさんによると、この間の玉座の間での私の振る舞いは、シモベの中での好感度を著しく上げたらしい。とは言えまだまだ胡散臭さは拭いきれぬようで、アウラは怪訝そうに私を見つめてくる。

 

「ふーん、でもそれってあたしじゃなくてアルベドとかに報告する内容じゃないの?」

 

 本来異なる部署同士が情報を共有する場合は、無用な混乱を避けるために管理部門を中継ぎして行うのが常識である。つまり私がこうしてアウラを直接尋ねるのは社会常識的にガッツリアウト。

 とはいえ言い訳を考えずやってくる程私も馬鹿ではない。

 

「しかし、私とルプスレギナがカルネ村に在留していることがアウラさんに伝わっていないことから分かる通り、出来て日の浅いナザリックの情報管理システムではまだまだ穴が多い。

 ですから重要な案件はなるべく直接話しておいた方が良いかなーと思ったんです」

 

「そういうもんなのかなー」

 

「まぁ、あんまり褒められた方法ではないですねぇ」

 

 私がメイド新人であるのと同様、本来防衛の為に作られたNPCのアウラも外の仕事は初心である。いくら指揮管理に優れたぶくぶく茶釜のNPCとはいえ、経験不足で幼いアウラを丸め込むのはあまり難しくなかった。

 

 もっとも結局彼女は最後まで煮え切らない様子だったが、ある意味正しい反応だ。

 

「何か心当たりはありますか?」

 

 多少ごまかしを持ち越したまま、私は大森林の生態系についてを彼女に尋ねた。

 

 すると意外にも親切に色々と教えてくれた。

 

「今んところナザリックを中心にして調査範囲を広げているところだけど、結構な種族数が生息してるから、自然淘汰によってあっさり環境が変化することもあるんじゃないかなぁ。

 あるいはまだ調査してない地域に原因があるのかもしれないけど。」

 

「どんなのが生息してるんです?」

 

「戦闘力皆無な小動物がほとんど。確か悪霊犬、ゴブリン、オーガ、トロールにリザードマンなんかの亜人種もいる。トードマンっていうユグドラシルじゃ聞かないのも居たわ。

 強いのでもレベル30くらいで、銀色の良い毛皮持ってるのが一匹、あとはウォー・トロールとショボい不可視化を使うナーガかな。」

 

「その良い毛皮ってのは多分、カルネ村で森の賢王って呼ばれてる奴でしょうかね」

 

「あいつ?……あいつが賢王ねぇ、慈悲深く叡智に富むアインズ様にこそ相応しい称号でしょ。やっぱ人間共の目は節穴よね。そう思わない?」

 

(うわぁ出た人間蔑視のナザリック魂。)

 

「そうですねぇ無知というものは、かくも罪深きことでありますなぁアハハ」

 

「なんか声上ずってない?」

 

「気のせいっすよ」

 

 何故か唐突に某赤髪メイドの口調が移った。

 

「そ、別にどうでもいいけど」

 

 興味の色をなくしたことに、私は内心胸をなでおろした。

 

 アウラと接していると、言動から滲み出る隙の無さが非常に際立つ。

 アインズ様と共にいるときは見た目相応の無邪気さを表すのだが、妹のマーレさんを始めとした他のNPC等と接するときには今のような大人びた具合になる。

 

 周囲が年上ばかりの環境だからこんな人格形成がなされたのだろうか。いやそもそも彼女の人格が誕生したのはついこの間の筈だ。情報のない現在、このあたりは考えても不毛だろう。

 

「あとはまだ見つけてはいないけど、この規模の森林ならドライアードくらいいると思うよ。円周上に調査範囲を少しずつ広げてるから森林全体まで把握するにはもうちょっと時間がかかるね」

 

「そうですか もしこっちの村に何か悪影響のあるものが潜んでたら困りますね

 私はタマにしか来ないし、プレアデスのルプスレギナで手に負えないレベルの魔物とかいたらちょっとマズイんです」

 

「そんなに強いのいなかったけどなぁ~。

 あ、でも思い出した。土地の栄養は十分なのに木々が枯れてるところがあったんだ。原因不明だし調査範囲に入ってないから放置してたけど、あそこなら何かいるかもしれないね」

 

「う~ん気になるなぁ。行ってみてもいい?」

 

 ダメ元の要求は当然アウラの機嫌を損ねる事となる。

 

「やだよ!この森林の調査はあたしがアインズ様から直々に与えられた勅命なのよ。それをあんたなんかに奪われてたまるか!」

 

「ですよねぇ。ダメ元ですあんまりお気を悪くしないで」

 

「でもあんたさぁ、6階層でやったのと同じようにあたしの目を誤魔化してコッソリ森林に入っていくことも出来んじゃないの?」

 

「……あーうんまぁ、できるのかなぁ?」

 

 ぶっちゃけやる気満々だったのだがあっさり看破されて焦る。

 

 ナザリック内で盗賊特化の私の存在を探知できるのは情報魔法特化ビルドであるアルベドさんの姉だけだろう。

 職業を幾らかビーストテイマーに割り振ってるアウラ位なら余裕で誤魔化せるのだ。

 

「それじゃあたしから許可を取ろうが取るまいが変わんないじゃない。アホらし

 いいよわかったわ。入りたいなら好きにすれば?」

 

「いいんですか?」

 

「ただ好き勝手ウロチョロされるのもイヤだし、あたしもついていくわ」

 

「……えぇ」

 

「なによなんか文句あんの?」

 

 あれれぇーおかしいぞぉ?なんで目は子供なのに頭脳は大人なのでしょう。

 

 設定で実は76歳だったからか、それとも茶釜のNPCだからなのか。実際どうなんだろう。

 

(アウラ・ベラ・フィオーラ)

 

 

 アウラのマタタビに対する印象は「得体の知れない気色悪い奴」だ。

 

 6階層のアンフィテアトルムで彼女が自己紹介した際、協力関係と言おうとしたところをシャルティアの剣幕に押されて従属関係と言い直したことは、シャルティア以外に見逃した者はいなかった。

 

 彼女が自分たちと同じシモベでないことは明白である一方、絶対支配者アインズが彼女の従属について不問にしている為、シモベ達もまたマタタビへの追求は許されていないのが現状であった。

 

 経歴不明で話をしたこともないため得体の知れない感が強く、マタタビの存在はただただ不気味であった。

 

 そんな彼女とのファーストコンタクトがアウラの縄張りへの侵入である。

 能力が能力だけに、全面的に信頼できるヤツのほうがどうかしている。

 こんなやつを自身の領域にのさばらせる訳にはいかないが、かといって秘密裏に行われれば止める手立てはない。

 

 自分の作業を止めて彼女をつきっきりで監視するというのが今のアウラにできる精一杯の抵抗だった。

 

「でも大丈夫なの?作業止めてまでって凄く申し訳無い気がするんだけど」

 

「あんたどの口が言ってんのよ……。ま、調査は無理でも魔獣をそのまま行進させて警戒網を広げることくらいは出来るし、怪しいところを先に調べるってのもやり方としては妥当だからね」

 

「そういうことなら私もあんまり気にしなくていいのかな。」

 

「そこは是非とも気にしなさい!」

 

 素直にカルネ村に帰ってくれるならそれ程楽な事はないが、言動が逐一信用できないからこうして面倒見る他ないのである。

 事が終われば必ずアインズ様にチクってやろうとアウラは心に決めた。

 

「フェンリルおいで」

 

 アウラの掛け声に応じて森の中から一匹の魔獣が姿を現す。

 体は全長20メートルにもなる巨大な黒い狼で、尻尾は鋭い眼光を宿す蛇だ。

 フェンリルはアウラの手持ちの魔獣の中でも最高位の強さを誇り、強力な直接戦闘能力を有する。

 

 そんな獰猛な魔獣が、アウラを見た途端子犬のように懐いて戯れてくる姿にマタタビは「おおー!」と言って感嘆した様子。

 アウラは少し得意気になる。

 

 しかし魔獣の方はマタタビの姿を捉えると獣独特の鋭い感性からその危険度を察知し体毛を逆立てた。

 アウラが「どうどう」と宥めて暫くようやく落ち着いたようだった。

 

「私って最近こんなのばっかだなぁ」

 

「あんたのレベルじゃ無理ないでしょ。100レベルなんて守護者や至高の御方を除けば、ナザリックへの侵入者以外会ったことないのよ」

 

 何故かバツの悪そうな顔をするマタタビ。

 

「……アハハ」

 

 以前ナザリックに1500名の大群が来たときには守護者全員が全滅したのだ。

 最終的に戦いは御方々の勝利で終わったものの、その時殺された記憶はアウラの中でも鮮明に残っている。

 

「じゃ、とっとと行ってとっとと終わらせるからフェンに乗って。」

 

「いいの?乗っても」

 

「……早く終わらせたいの。ホントは乗せたくないんだからね」

 

「ツンデレかな?ではアウラさんの面倒見に甘えて、あらよっと。」

 

 マタタビも跳躍し、アウラの後ろフェンリルの上に跨った。

 フェンリルは当然機嫌を悪くしたが、最終的にアウラがテイマーの職業スキルの吐息を使って宥めさせた。

 

(アインズ様や茶釜様が乗ってくれたらなぁ~ 断じてこんな奴ではなく!)

 

「じゃあいくよ フェン!」

 

「うわぁっ!」

 

 フェンリルはアウラの掛け声に合わせて走り出した。

 アウラは普段から慣れているが、魔獣への騎乗が初めてであるマタタビはそのスタートダッシュの勢いの良さに驚かされた。

 無論カンストレベルの身体能力があるため振り落とされることはない。

 

 二人を乗せた魔獣は、樹齢幾許かも知れぬ大樹たちが鬱蒼とひしめき合う中をグングンと風の如くくぐり抜けていった。

 

「凄いっ、気持ちいいっ!」

 

 アウラには知る由もないが、マタタビがかつて住んでいた世界は汚染物質によってあらゆる自然が穢されてしまった死の世界である。

 

 反面亜人や魔獣の跋扈するトブの大森林は、彼女の知る現実世界のように人間が手を加えてしまうことが一切ないありのままの大自然だ。

 

 騎乗感覚に次第に慣れてきたマタタビは、魔獣の上から眺める風景と風になって飛ぶような感覚に魅了され始めていた。

 

 仮想現実では感じ取ることのできなかった森の匂いや風圧を、異形種ケット・シーとして与えられた鋭敏な感覚器官によって感じ取り、魂に強く刻み込んでいく。マタタビは感激の余り思わず涙を零した。

 

(目にゴミでも入ったのかな)

 

 一方アウラはどうしてマタタビがそこまで感動しているのか理解できないでいた。

 

 そもそも住居がナザリック第6階層のジャングルであるアウラにとって、森林の風景は飽きるほどに見慣れている。

 言うなれば都会の風景に感激する田舎者を見る心境か、もしくはその逆である。

 

 アウラの冷めた視線に気づいたマタタビは、一旦興奮を落ち着かせて何か思い出したように、申し訳なさそうな顔をして言った。

 

「……あーそういえば、無理言って森に入れてもらったのにお礼言ってなかったね。ありがと。それと…ごめんね」

 

(なんだよ今更)

 

「…別に」

 

 ややそっけない謝罪。しかしアウラは、何故だかマタタビの謝意が嘘偽りのものではないのだと直感してしまった。

 

 結果、沸騰しきれず怒りの域にまで達せられない、モヤモヤとしたわだかまりがアウラの胸の中で燻る。

 

 扱いに困る

 

 ナザリックというある意味閉鎖された環境で生活してきたアウラにとって、このような対人関係の悩みはかつてないものであった。

 

 数多いるナザリックのシモベは、精神性や価値観が非常にまばらであり、セバスとデミウルゴスを筆頭に分かり合えない者同士も多い。

 

 そんな彼らを結びつける絆こそ、至高の41人への忠誠心なのだ。忠誠こそまさに、ナザリックを治める唯一にして最大の秩序とも言えた。

 

 しかしマタタビは違う。

 

 数多くのシモベが感づいているが、マタタビはナザリックへの忠誠心を持っておらず、他のシモベに対しての接し方も決して友好的とは言えない。

 

 ならば敵なのかというとそれもまた違うらしく、アインズからの一定の信頼は勝ち得ているようだし、玉座の間のあの出来事からも、彼女なりにアインズに対して気を遣う気持ちがあったことも垣間見えた。

 

 ただ実際に話してみると、興奮したアルベドやシャルティアとはベクトルが違うウザさというのがある。一々相手を逆なでして癇に障るような話し方は、ナザリック内でコミュニケーションに長けたアウラをしても心底ウザいと思わせた。

 

「ごめんねー、私の話し方を嫌いな人多いんだよ。わざとじゃないけれど」

 

 その発言も信用ならない。

 

(いっそ本当に敵なら楽なんだけどなぁ。アインズ様から討伐指令が下されれば、喜々として赴いていけるのに)

 

 考えても仕方のないことである。アウラはこのことについて悩むのを後回しにした。

 

 マタタビに対する扱いに苦心しているのはアインズも同様だったりするのだが、これもアウラには知る由もないことである。

 

 

 

 大自然を駆け抜ける快感に大興奮していたマタタビだったが、冷淡なアウラの機嫌を伺っているうちにハイテンションをすっかり抑えていた。

 

 いつのまにか移動中のフェンリルの背中の空気は気まずくなっていた。そんな空気を打ち破ろうと明るい調子でくだらない話を振ったマタタビだったが、その態度が余計にアウラを苛立たせた。

 

 そわそわして落ち着かないマタタビ。

 ふと何かを思い出したような顔をして、アウラの方を向き言った。

 

「そうだ、今回森林に入れてくれたお礼に至高の御方の御話でもしましょっか?」

 

 マタタビが神話とも言うべき至高の御方のエピソードを語っているという話は、シモベの中でも比較的仲の良いペストーニャやユリ、エクレアから聞いていた。

 このトピックスに、当然アウラは強い興味をそそられる。

 

 マタタビが至高の御方々とナザリックの外で共に活動していたという紹介はアインズから直々になされたものである。

 

 それならばナザリックの守護を任されたアウラたちと違い、彼女が外の世界での御方の伝説についてを知っていても別段おかしくはない。

 相手がマタタビでなければ直ぐ様その話に飛びついただろう。

 

 逆にマタタビだったからこそ、アウラは冷静に言動の矛盾をつくことができた。

 

「で、でも今回のお礼っていうなら普段からメイド達にしてるよーな話にするのもどうなの。仕事を一旦休めてるんだからもうちょっとなんか無いの?」

 

「うーん確かになぁ、いいゴネ方です、さすが茶釜様の娘」

 

 アウラの言い分にふむふむと納得したマタタビはさらっと爆弾発言を零してしまう。

 アウラをぶくぶく茶釜の娘と呼び褒め称えたことに対し、アウラは一瞬どう反応していいか分からなくなる。

 

 だが上記への思案は、次のマタタビの発言の衝撃で間も跡形も無く吹き飛ばされた。

 

「じゃあ、ぶくぶく茶釜様について私が知ってることでも教えてあげようかなぁ。どう?聞きたい?」

 

 マタタビはアウラの方を伺う。僅かに微笑み、返事も待たずに話を始めた。

 

「顔にYESと書いてあるから」

 

 アウラは思わず、真っ赤になった自分の顔に手を当てた。

 

====================================

 

 セイユウとは、いわゆる人形劇で人形のセリフを代弁するような声だけの役者なのだそうだ。

 

 それはある意味で花形な職業とされていたが、実態はたった一つの座席を大勢で奪い合うような過酷な競争が待ち受けている厳しい現実がある。

 

 ぶくぶく茶釜は元々語学関連の仕事を目指していたが、その最中彼女の声質に目をつけた人物からセイユウになることを勧められ、セイユウの養成所へ入会し数年後本格的に活動を始めた。

 

 恵まれた声質も然ることながら、仕事を選ばずどのような役でも精力的に演じていこうという気概が評価され、熾烈な競争を勝ち進み有名役者の一員になったという。ぶくぶく茶釜の実弟であるペロロンチーノは複雑な心境を抱えながらもその躍進ぶりを喜んでいた。

 

 演じる役柄の影響らしく何故か芸名が多かったようだが、本人が最も気に入っていたのは「カザミクミ」。そのために至高の一柱やまいこや、彼女の馴染みのファンは「かぜっち」と呼んでいる。

 

 彼女がユグドラシルに訪れたのは、セイユウの活動が軌道に乗って余裕ができ始めた頃だった。

 

 ぶくぶく茶釜の姿は一見男性器そのもの。この異形は世界各地でも生殖器崇拝として恐れ崇め建てられており、その余りある威光の凄まじさによりユグドラシルで彼女に声をかけた者は、純銀の聖騎士たっち・みーをおいて他に無かった程である。

 

 後にたっち・みーが率いるナインズ・オウン・ゴールに加入。タンク役及び指揮官としての頭角を現していき、粘液盾の二つ名を轟かせるに至る。今日のギルド拠点の原型であるナザリック地下墳墓攻略の際にも、他の至高の方々を指揮官としてまとめ上げ、自動湧きアンデットの攻略などに大きな貢献を与えた。

 

 ナインズ・オウン・ゴールがギルド:アインズ・ウール・ゴウンに移行した後も、数多の偉業をユグドラシルに轟かせていった。

 

====================================

 

 「それから数年後、ぶくぶく茶釜様はナザリックからお隠れになられました。

 これが私が知る茶釜様の全てです。私は御方ともそれほど近しい関係ではなかったので、どんな理由があったのかも何処に行かれてしまわれたかも存じませんけども。」

 

 マタタビの話を聞き終わったアウラだが、話を聞けて嬉しいという感情よりも先に、大きな違和感を感じた。

 

(あたしの知っている茶釜様と……違う?)

 

 アウラはマタタビの話を聞いて、自らの創造主のことを自分自身よく知らないのだということに気付かされた。

 

 アウラの知っているぶくぶく茶釜という人物は、至高で絶対なる神の如き存在だ。ナザリックを攻略、統治するという偉業を成し遂げ、そのナザリックの管理を行うためにアウラ達シモベを生み出した。

 

 アウラ自身の居住でもあるナザリック6階層のツリーハウスで、やまいこや餡ころもっちもちと共に談笑したり、時々アウラやマーレを着せ替え人形にしたりする。

 

 ただそれだけの僅かな記憶だが、それは思い出すだけで今でもふわふわするような多幸感を味わえる程に思い入れのある大切な記憶である。

 

 しかし、マタタビが語るぶくぶく茶釜は自分が思っていたイメージとまるで違う、だが何故かフィットしてしまう意外性がそこにはあった。

 

 この感触は、6階層の闘技場で初めて話し、優しげなアインズの姿に感じたものと非常によく似ている。

 

 アウラは知らなかった。創造主が語学について取り組もうとしていたことも、セイユウが声の役者だということも、「カザミクミ」という呼び名を好んでいたことも。

 

 マタタビは「ぶくぶく茶釜様ともそれほど近しい関係ではなかった」と言った。そんな彼女すら知っていることを、作られたアウラは知らない。

 

(どうして……)

 

 これの意味するところは何か。御方にとって自分はどんな存在なのだろうか。自分は取るに足らない存在であり、だから御方に見捨てられたのだろうか。

 

 アウラは階層守護者として与えられた自分の任に高い誇りを持っている。

 

 だが、階層守護者とは言えど敵襲がこなければ存在意義は無いに等しい。

 そういう意味では、現在ナザリックで待機を命じられているコキュートスを見ていると哀れでしょうがない。

 

 たった1度、1500名の大群が攻めてきた際には守護者も駆り出されたが、自身と同格の存在を複数相手にするのは流石に厳しい。

 当時は結局、時間もろくに稼げずあっさり殺されてしまったのだった。

 

 そこでさえマタタビは大活躍をして守護者を差し置き褒美を賜ったというではないか。ならば自分は何なんだ。ただの役立たずではないのか?

 

 森林を駆け抜け感じる冷たくて心地よい空気抵抗は、思考がマイナスに下るにつれて爽快感は薄ら寒さに取って代わり、繊細な心を嬲るようになる。加速していくネガティブシンキングは止めどなく溢れていく。

 

 このままではマズイ。

 

 生存本能によく似た何かが、頭のなかでガンガンと警鐘を鳴らしだした。別のことを考えて、別の考え方を考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ

 

 絶望が漂う思考の海を一人きり、縋るアテを探してひたすら足掻いた。

 

 存在意義は揺らぎ、海に広がる振動は瘋癲の津波を引き起こして少女をより一層飲み込んだ。

 

 狂気の深海に沈んでいく中、朧気に見えたのはアウラがよく知る死の支配者の御顔。

 表情筋は伺えないが、優しげに、心配そうな様子でこちらに向かって……

 

「 ―いじょうぶ!? ねぇだいじょうぶってば! アウラさん!?」

 

(あれ、違う)

 

 突如、内向空間から現実へと引き戻される。目の前に居たのは骸骨ではなく制服を着た女子高生。けど、何故か失望感は小さい。

 

(……白昼夢か)

 

 頭がオーバーフローを起こしてトランス状態になっていたようだった。深淵から帰還したての精神は思いの外落ち着いていた。だが目の前の女子校生はかなり慌てている。

 

「やっぱり働き過ぎのせいかなぁ、大丈夫!?なんかデリカシーの薄いこと言っちゃった?えっとえっと、精神回復系の魔法スクロールあるから使ってあげよっか?たしかアインズ様も常時同じヤツ張ってるから効果はちゃんとあるはずなんだけど……それとも何か具体的なエピソードみたいなヤツのほうが良かった?いやいや子供だからアメ食べる?違う!76歳だから私より年上じゃん、そんな年齢じゃないよねまずいよねえーと」

 

 目を白黒反転させてながら、何やら一人で焦って呟きまくるマタタビ。アウラを気遣って色々考えてるのだろうが、今度は彼女自身がトランスしそうな具合である。

 そんな様子が、アウラにはおかしくてたまらなかった。

 

「あはははははっはっ!あははっ!あはっはは!あははははは!」

 

 笑った

 

 見た目相応、子供っぽい無邪気な笑い方だ。

 腹を抱えて涙目ながらバシバシとフェンリルの背中を叩いた。

 これほどまでに笑ったことがかつてあっただろうかという程の、心の底からの大爆笑だった。

 

 笑いだしたアウラを見て、マタタビの混乱はより一層深まった。

 いよいよ半狂乱でもしたのだろうかという明後日方向の戦慄を抱くが、それがまた、アウラの笑い袋を刺激することになる。

 

(そっか)

 

 ある程度思考が落ち着いて、アウラは先程抱いていた一つの疑念に結論を見出した。

 

(確かにあたしは茶釜様のことを意外と知らないかもしれないけど、それは他のシモベもきっと同じだし、マタタビの地位がちょっと特殊だからかもしれない。

……それに少なくともアインズ様はあたし達を必要としてくださるんだから)

 

 御方にとってのアウラが一体何であろうと、マタタビが何者であろうと、今のアウラにできるのは目の前に与えられた仕事のみ。であるなら抜かりなく全力で取り組むべきである。そうすれば、いつかはきっと……

 

(あたし必ずやり遂げますから、茶釜様!)

 

 ヴェールに包まれた朧気な思い出を抱いて、ダークエルフの少女は自身が知る唯一の神の名に祈り、誓った。

 

 そんなアウラの自己完結のことなどマタタビには理解できるはずもない。ただスキル〈読心感知〉によるとアウラからの好感度が上昇しているらしい。大方また訳もわからない勘違いが生じているのだろうと、マタタビは経験則から勝手に納得した。

 

 実際のところアウラは最も真実に近づいていたのだが

 

 




 10歳の頃ガ○ジだった作者の数万倍賢いアウラは凄い!

※捏造設定
・ぶくぶく茶釜様の経歴(アニメの中の人を参考)
・アウラがカルネ村への人材派遣を知らないこと

 感想気に食わぬところ誤字脱字があったらコメントよろしくお願いします。
 正直句読点の入れ方とか自信ない。

 次の次から山場です。がんばれオリ主


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トブの大森林まで

 誤字報告3件もあった……内2つは自分だけど。めっちゃありがたいけど、自分自身にいやんなっちゃう
 そして書き溜め終了。嫌なことは重なるらしい。


・ザックリ概要
マタタビ「大森林行きたい!」
アウラ「ウゼェ」




トブの大森林〈マタタビ〉

 

 

 大森林の木々が枯れているエリアを目指し、アウラの騎乗獣に二人乗りしていたところ、突然何者かの気配を感じ取った。

 

 盗賊系特化である私は当然、レンジャーであるアウラも気付いたようで、相槌をして一旦フェンリルを止めさせた。

 

「突然気配が現れるなんて不気味です、一体何者でしょう?」

「誰かが森林入り口でやった手口とそっくりじゃん。 日に二度もこんなことがあるなんてね」

「アハハ一体誰でしょう」

 そういえば私がトブの大森林に入ったときも同じ感じでしたね。ごめんなさい

「突然現れたってことは、私達では感知出来ないレベルの隠形?」

 

 ビーストテイマー兼職のアウラはともかく、専業盗賊の私を誤魔化せる隠形使いなんてユグドラシルではそうは居ない。ともすれば後者の可能性が高いけど、この世界にはタレントとかあるらしいからなぁ。

 

 とりあえず正体を確認するため、右目を手で覆いユグドラシルでも大人気だった探知スキルを発動させた。

 

「《ピープ/覗き見》」

 

 手に閉ざされて見えないはずの右側の視界が、本来見えないはずの場所の景色を映し出した。

 

 そこにいたのは全身に黄色タイツに身を包んだヒト型の何か。頭に生えた植物からして明らかに植物系のモンスターである。一応その姿には見覚えがあった。

 

「ドライアードですか?」

 

 マジックアイテム《地味子のメガネ》の能力を併用させて簡単なステータスを測るが、レベルはそんなに高くないみたいだ。ではどうして気配を感じなかったんでしょう。アウラが教えてくれました。

 

「ドライアードの本体は木だから、実体化するまで様子がつかめなかったんじゃないのかな。木なんてそこらじゅうにあるから」

 

 なるほど、木を隠すなら文字通り森の中ってことですね。わかりやすい

 

「どうしますかアウラ?」

「うーん、一応アインズ様から知的生物がいたらまずは交渉しておくようにって言われたから、話だけでもしていこっかな。

 あんたが言ってた生態系の崩れってのも気になるし」

「了解です」

 

 生態系とか……やけに知的な子供ですこと。少なくとも10歳の時の私よりは頭いいですよ。これでまだ将来があるってんだから怖い怖い

◇◆◇

 

「あのー、あなたがダークエルフで……そちらの変な格好してる人は、人間?」

 

 ドライアードは見事に私の機嫌を損ねさせる。第一印象は最悪だ。

「変な格好って言ったけど、故郷じゃこれ正装なんだからね?それに私人間じゃありませんケットシーです。」

 

 別にケットシーに拘りはない。

 

 苛ついたのでちょっと睨みつけてみました。当然ドライアードは狼狽するも、アウラが「まぁまぁ」と宥めて間を取り持つ。

 

 へそを曲げた私と反面、アウラは子供っぽく親しみやすそうな雰囲気で自己紹介をした。

 

「こんにちわ、あたしの名前はアウラ・ベラ・フィオーラ。隣のこいつがマタタビ

 あなたの名前は?」

 

「えーとピニスン、ピニスン・ポール・ペルリアだよ」

「わかった、ピニスンね。ピニスン、あたしたちこの森の生態系が崩れているようだから調べているんだけど、最近何か変わったこととか知らない?」

 

 会話そのものに慣れてない様子のピニスンでしたが、柔らかい物腰のアウラに促されて言葉を紡いでいく。

 

「……あーとうん、多分…‥それなら、あの魔樹のせいだと思うよ」

 

 アウラは首を傾げます。

 

「魔樹?」

 

 名前からしてイビルツリーとかのことでしょうか。

 

「あたしが生まれるずっとずっと大昔、突然空を切り裂いて幾多の化け物たちが大地に降り立ったことがあったんだってさ。そいつらはドラゴンの王様たちと渡り合い、世界をも滅ぼすことができる力を持っていたんだ。でも結局、すべて退治されたらしいんだ。」

 

 「世界をも滅ぼす」という互換を聞いて私が連想するのはワールドエネミーだ。ユグドラシルでも「ワールド」の名を関しているだけあって最強のボスキャラである。

 

 もしそんな奴がレベルの奴が複数体いたとして、逆にそれらと渡り合うドラゴンというのも一体何者なのだろう。

 

 ピニスンによるとその化物の一体がこの森の奥地に封印されてて、時々触手を伸ばして動物や植物の栄養を奪おうと暴れまわり迷惑しているらしい。

 

 以前はとある7人組とやらが触手退治をしてくれて、もし魔樹の封印が解かれたら今度は魔樹を滅ぼしてくれると約束してくれたらしい。ところが今現在になって封印の解除が近いにも関わらずその7人組は現れない。

 

「君たちその7人組について何か知っていない?出来れば居場所とか知っててくれたら最高なんだけど……」

 

 知らんがな。

 

「あたしたちここに来たばかりだからその人たちのことよく知らないんだ。力になれなくてゴメンね」

 

 アウラの内心も7人組に無関心なことは《読心感知》でわかりきっています。演技派の彼女は外面では非常に親切です。

 

「しょうがないかぁ……約束してくれたんだけどねぇ……約束」

 

 アテが外れたと見るやピニスンはがっくりと肩を落とした。

 

 このドライアードの時間間隔は結構アバウトのようだし、ひょっとしてその7人組は死んでるんじゃないだろうか?まぁ私とてわざわざ指摘してやる程鬼ではないけど。

 

「どうします?強敵だったらちょっと不味いし、様子だけでも見に行きましょうか?」

「そうしよっか。あたしたちだけで処理できる相手ならそれに越したことないし」

 

 するとドライアードは食いつき、これでもかと言わんばかりの反論を訴えました。

 

「ええーっ!? 倒すって君たちがかい? あいては世界を滅ぼし尽くすことの出来る魔樹だよ!? 前に来てくれた7人組も、その一部とだって苦戦したんだからね!?私たちに出来ることなんか何一つとしてないんだよ!倒したいならドラゴンの王様でも引っ張ってこなきゃ!大体君たち年端も行かぬ少年少女でロクに武装もしてないじゃないか!そもそ(ry)」

 

―少年少女……少年

 

 張り詰めた糸がプツンと切れるような景気のいい音が鳴った。

 

「ちょっと黙れ薪の材料、殺すぞ」

 

 アウラのドスの効いた子供声に、私はどこか懐かしいモノを憶えました。

『黙れ、弟』

 

 しかし、男装してるくせに男扱いされるのが嫌って理不尽じゃありませんか?

 

====================================

 

 キレたアウラが嫌がるピニスンを無理やり引っ張って魔樹のところまで案内させると、そこは私達が目指していた木々の枯れた場所でした。

 

 〈地味子のメガネ〉でユグドラシル後期登場のレイドボス、ザイトルクワエがいることを突き止めたので、私が爆弾を使って無理やり叩き起こし、アウラが魔獣を沢山呼び込んで殲滅することになりました。

 

「マタタビさん、私はちっぽけな世界しか知らなかったんですね、うん。

 私の目は今日見開かれました。世界を滅ぼせる化物なんて、その辺にいるんです。石を投げれば当たるのです。そう考えれば何もおかしいことはありません。」

「それは良かったですねぇ~」

 

 なんということでしょう。あれだけやかましかったピニスンが今では悟りを開いた釈迦のようです。

 

 目の前の光景がそれほどに衝撃的ということでしょうか。

 

 ザイトルクワエ、全長300メートル程にもなる「歪んだトレント」ともいわれる植物系モンスター。竜王とも互角に渡り合い、世界を滅ぼす力を持っていたソレは一時の封印から解き放たれ世界に大いなる災いをもたらす……筈でした。

 

 今ではその大木の体も何十という数の魔獣の群れにバキバキと齧られまくり、中には火を噴く魔獣から火炎放射を浴びせられています。なかでもアウラが一番大暴れしておりまして、ビュンビュン鞭を振り回して幹を叩き折っていきます。見た目に反して超パワフル、ピニスンが卒倒するのも頷けるというもの。

 

 この魔樹の寿命(それとも樹命?)はあと数分も持たないでしょう。

 

 

 まもなく魔樹、ザイトルクワエは消滅しました。

 

 一見無秩序に大暴れしてたように見えて、アウラは残った木材資源を後で活用できるようなるたけ痛めつけないよう魔獣にも指示していたらしく、おかげで推定樹齢500年以上というまぁまぁレアな木材を大量入手することが出来ました。

 

 あとピニスンが教えてくれたのですが、ザイトルクワエのてっぺんの苔はかなり貴重な薬草なのだと。運良く残っていたのでそれも回収しました。

 

「村の脅威となるモンスターを討伐して、木材資源を大量入手しつつ希少な薬草まで手に入れるなんて大手柄ですね。つまり私が来たこともそう悪いことではなかったのでは?」

 

「……恩着せがましいなぁ。べつにこいつが目覚めたところでぴゅっと飛んで行ってやっつけることくらいわけないんだから。

 ま、久々に体動かしたから退屈しのぎにはなったけどさ。あんたは良かったの?割り込んできても別に良かったんだけど」

 

 うーん運動でストレス解消かぁ。考えたこともなかったなぁ。

 

「それも悪くなかったけど、私の取ってる職業に〈トリックスター〉ってのがあって、そいつのペナルティが『レイドボス、ワールドエネミーに対する攻撃力50%ダウン』なんですよ。

 だからユグドラシルのレイドボスだったアイツじゃ私では分が悪いんです。」

 

 そもそもなんでユグドラシルのレイドボスがこんなところに居るのかもよく解らないけれど、確かピニスン曰く空から落っこちてきたんだっけ?倒す前に詳しく調べときゃよかった?……いや無理か。

 

「何そのペナルティ!? シャルティアの〈血の狂乱〉よりも酷いじゃん」

「ま、ペナルティ度外視すれば中々強いし捨てたもんじゃないよ。無論ユグドラシルでは不人気筆頭だったけど。」

 

 ふーん、とどうでも良さそうな反応をしてからアウラは言いました。

 

「じゃ、用事も終わったしちゃっちゃっと帰ろ。あんたもこの森林にはもう用事ないでしょ」

「ですね]

 

 ドライアードに今日のことは内緒にするよう言い含めて(ほとんど脅し)私たちは帰ることにした。

 

◇◆◇

 

(アウラ)

 

 

 今日一日マタタビと過ごしたアウラだが、彼女は一体どんなやつなのかという疑問は結局先送りにした。

 

 御方に何らかの形で一目置かれている。口調がうざく、テンションが軽い。それでも案外悪いヤツではないことなど、断片的な特徴は少しずつ集まったがそれでもマタタビへの全体像は未だぼやけがちだ。謎が謎を呼ぶようで掴み所がない。

 

(嫌なやつだけど、嫌いではないかも)

 

 自分でも訳の分からない複雑な心境に、アウラは眉をひそめ不機嫌そうに頭を掻いた。

 

 

 行きと同じくマタタビとアウラは、フェンリルの背中に二人乗りで帰ることになった。

 

 日没の差し迫る夕暮れ時、生まれたときからナザリックの防衛に従事し続けていたアウラはこの世界に来るまで夕焼けを見た事は無かったが、マタタビのように感動する気分にはならなかった。

 アウラにとっては本物の星空なんかより、第六階層にある星空模様の天井のほうが遥かに輝かしいのだ。

 

 マタタビも今日のことで疲れたのか、フェンリルの背中に掴まりながら器用に居眠りしているためリアクションの取りようがない。疲労無効の装備をつければ眠る必要はないのだが、趣味で装備から外しているらしく、やっぱりアウラには理解しようもない嗜好だ。

 

 アウラからしても起きて軽口を叩かれるより眠ってもらった方がありがたかったから、フェンリルに速度を落とすよう指示したのは内緒である。

 

 マタタビの寝顔は間抜けそのもので、柔らかな獣毛に顔を埋めながら涎をこすり付ける行為はフェンリルもアウラにも不愉快だったが、今は注意しようもないので我慢するしかない。

 

 あまりに無防備な姿を見せつけられたアウラは、彼女に自分が気を許されたのだという決定的な証拠を前に、なんとも言えないもどかしいような苛立ちを感じた。

 

 マタタビのことを思うとイライラしてたまらないので、アウラは別のことを考えることにする。

 

 今日挙げた成果についてだ。

 (マタタビが押し掛けてきたことがきっかけだったのはともかく)アウラはこの世界でも屈指の強さを誇る脅威に打ち勝って、大量の木材資源と貴重な薬草を手に入れることに成功した。

 

 以前六階層で炎の原精霊を倒した時に、アインズがアウラとマーレを非常によく褒めていたことを考えると、倒した敵(名前は既に忘却の彼方)も同程度の強さだったので今回はなお賞賛されると思われる。

 

 それも全てアウラを作り上げた創造主が優れていたということなので、結局のところあらゆる成果は御方に還元されるであろう。

 しかし自身の行いが御方の超越性の証明になるというのであれば、アウラはこれ以上の誉れを知りえない。

 主人に賞賛される場面を空想して機嫌良く鼻歌を口ずさむアウラの姿は、親に褒めてもらうことを嬉しがる年相応の少女にしか見えなかった。

 

 

 フェンリルに速度を落とすよう指示したせいだろう。マタタビを送り届けるカルネ村までまだ距離はあったが、日はすっかり沈みきって、木々の影は夜陰と同化していた。

 

 アウラやフェンリル、おそらくマタタビにとってもこの暗闇は一切障害足り得ぬものだったが、夜の森から運ばれる風はどことなく不気味で不吉じみていた。

 

 別にナザリックにおいて門限などがある訳ではないが、このままの状態というのもどうかと思い、アウラはフェンリルに速度を上げるよう指示しようとした。

 

「!」

 約2時間ほどフェンリルの背中のもふもふに夢見心地だったマタタビが、ピタッとスイッチが入るように目を覚ました。

 

 先程までの判然せぬ寝ぼけ眼には肉食獣のような閃光が宿り、かつて無いマタタビの豹変に何かを感じ取ったアウラは、おそるおそる「何かあったの」と尋ねる。

 

 マタタビの表情には、さっきまであった喧しい程の喜怒哀楽は消え失せていて、刀剣のような鋭さだけがあった。

 

 以外と大きい犬歯をギラつかせながらも、マタタビは淡々と答えた。

 

「推定レベル95以上が2つ、感知に引っかかった。」

 

 95レベル以上。アウラの記憶上、シモベや至高の方々を除いたらその領域に立ちうる者は唯一つしか考えられない。

 

「プレイヤー……!」 

 

 かつて1500名の大群がナザリックを襲撃した時、6階層まで突破されてアウラの前にまで立ちはだかった存在。立ち会ったのは、アウラにとってたった一度でしかなかったが、忌々しい死の記憶がフラッシュバックして戦慄する。

 

 前回は数の暴力により壊滅させられたとは言え、今回は二人だ。決して油断できる相手ではない。

 

「あんたがやった時みたいな、誘い出しだったりしない?」

「多分違うと思う。今回は私の索敵範囲に入り込んだだけだから、意図してやるならば、私達の位置情報と、この私の能力を把握していなければならない。」

 

 もし全バレしてたら逆に終わりだけどね、とゾッとするような付け加えをする。それから状況を詳しくアウラに伝えた。

 

「2者の因果関係は、発見した私達の存在をも含めても皆無。これはどう見ても偶然ですよ」

 

 片側は50レベル以下30レベル以上の雑魚集団を数人連れてカルネ村の方向へと移動中。もう片側はそれを気にせず、何やら洞窟で暴れているようだが詳細は不明。

 

 一通り聞いたアウラはフェンリルを止めさせてしばし考える。

 

 偵察しに行くかどうか、リスクとリターンとを推敲して顎を擦る姿は、彼女の幼い風貌にどうしようもなく不相応だった。

 

 チラリとマタタビの方を見ると、彼女のアウラへの眼差しは真剣そのものだ。

 

 アウラの判断に任せるという信頼感がひしひしと感じ取れる。どうして今日話したばっかの自分なんかを信じられるのか、アウラには理解できない。とにかく自身の判断に伴う責任の重さが一層増した気がした。

 

 自らの主人はこれ以上の重圧の中で常に最善手を取り続けているのだなぁ、というやや現実逃避気味な思考がよぎる。

 しかし実際時間ではそれ程たたないうちに、彼女の判断は決した。

 

「よし、行こう。案内して!」




 ここでエタッたら最悪すぎる。次話の完成度50%くらい?

※今回の捏造
・ザイクロさんはユグドラシル後期のレイドボス
・オリ主の設定全般
・アインズ様がいなければピニスンとアウラは結構話せる。

 感想気に食わぬところ誤字脱字があったら報告くださいな。おねげーします。

 
●次回予告(一度やってみたかった)

「精神支配は完璧だというのに、何故こんなことが!」
「せめてメイドさんが優しく冥土までエスコートして差し上げましょう。」
「なんて綺麗なの」
「信じたあたしが馬鹿だった」

 次回「木天蓼」


「きっとそれが正解です。」





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木天蓼 前編

 時系列が前回からちょっとズレるので一見整合性が取れないように見えますが、次回でちゃんと保管するので大丈夫です。

 やりたくてたまらなかった次回予告だけど、尺の問題で分割投稿になるから、微妙に嘘予告になってしまった。

 誤字脱字報告してくださりありがとうございます。


とある盗賊団の拠点跡地

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは焦っていた。

 

「……叱られる……どうしよう……。でも……」

 

 

 彼女はアインズの命により〈武技〉という能力を持つ存在を回収するため、セバスらが誘い出した盗賊の中からそれを探し出すことになった。

 

 ソリュシャンとセバスによる誘い出しは順調に進み、シャルティアは見事盗賊の拠点にいた〈武技〉使いに接触することができたのだが、相手の力量を舐めてかかっていたらシャルティアはうっかり捕縛対象を逃してしまい、隠密活動のためにわざわざ盗賊を狙ったというのに、やってきた冒険者に自分の存在が露見してしまったのである。

 

 何もかも、〈血の狂乱〉が発動してしまったことがいけなかった。あれさえなければ今よりましな対応ができたに違いない。

 

 とはいえ〈血の狂乱〉を自身に与えたのは創造主であるから、そのせいにするというわけにも行かない。

 

 考えるということを苦手とするシャルティアは、失敗続きで結果思考が沸騰してしまいそうになった。

 

 そんな中、苦し紛れに森に放った眷属から消失反応が送られる。

 

「……見つけたの?」

 

 眷属のレベルはそれほど高くないが、しかし余りあるほど消滅の速度が早い。ひょっとすると先程逃した目的の男が居るのかもしれない。

 

「後から付いてきなさい! マーカーを準備しておく!」

 

 おざなりに吸血鬼の花嫁へそう告げると、シャルティアは風のような速さで森の中へと駆け込んでいった。

 

 

 

 眷属の消失地点まで駆けつけると、そこにいたのは先程逃した男ではなく、装備やら何やらがこの世界で見たものの中でも段違いである12人の人間だった。

 

(あれは……強い?)

 

 その中でもシャルティアが特に注目したのは、身に纏う装備に反してみずぼらしい槍を持った黒髪の少年。

 

 他の連中は雑魚だが、そいつだけは侮りがたい強者の雰囲気を漂わせている。

 

 シャルティア自身は戦士特化ではないので目視での能力判定に自信はないが、少なくともプレアデスの姉妹では歯が立たないであろうことは明白だった。

 

 始めは彼らをどうするべきか迷ったが、よくよく考えてみるとこれが実に恵まれた巡り合わせなのだとシャルティアは気づいた。

 

(そうよ!こいつらを生け捕りにすればさっきの失敗をチャラにできるじゃない!)

 

 

 シャルティアが放つ殺気が狼煙となり、両者は臨戦態勢を整える。

 その時『強者』の少年は小さく呟くように言った

 

「……使え」

 

 その一言がどんな意味を持つのか、数瞬かかってシャルティアはようやく悟った。

 12人の陣形の中でも後ろの方にいる老婆、ソレが身に纏う中華服の余りある魔力を感じ取ってシャルティアは戦慄する。

 

(よく解らないけどあれはまずい、真っ先に処理しなければ!)

 

 第6感とも呼べるその直感は自ずと彼女に最善手をもたらす。

 陣形の中心へ捨て身で突進するシャルティアだったが、先程思慮に費やした数瞬が命取りだった。

 

 シャルティアの意図を察した『強者』の少年が彼女の前に立ちはだかり、両者の武器が凄まじい衝突音を轟かせる。

 

「邪魔!」

 

 全力の拳で少年を殴り飛ばした。

 100レベルの腕力によって吹き飛ばされ、大地が弾けるような衝撃波が起きるも少年は無事だ。

 やはり、と歯噛みしたくなるシャルティアだったが今はそれどころではない。

 

 老婆を守るように、また別の複数人がシャルティアに襲いかかる。

 

「〈集団全種族捕縛〉!」

 

 魔法は成功し数人が動きを止める。

 

 今度こそとシャルティアが目標を捉えた次の瞬間、老婆から繰り出される光の束が目鼻のすぐ先に差し迫っていた。

 これはまずいと、今更気づいても遅い。こんな一瞬では彼女とて躱しようもないのだ。

 しかし―

 

「危ない!」

 

 ―閃光に飲み込まれる直前、甲高い女の声が聞こえたこと思うと、何かがシャルティアの背中を突き飛ばした。

 凄まじい威力で遠くに突き飛ばされたシャルティアは隕石のように大地に炸裂する。

 

「んきゃあ!」

 

 シャルティアを含めた場の一同は、突如現れた乱入者の方に注目した。

 その意外な正体に、シャルティアは唖然とする。

 

 (どうしてあいつが!? たしか名前は……マバタキ)

 

 先程までシャルティアが立っていた場所に、夜陰と同化するような黒髪をたなびかせた学生服の少女が佇んでいた。

 ただどこか様子がおかしい。目はどこか虚ろで、たった今「危ない!」と声がけした姿とはどうしても結びつかない。

 シャルティアの知る限りその状態に当てはまる言葉は一つだけだ。

 

(精神支配!まさか100レベル相手に通用する程なんて)

 

 状況からして、彼女がシャルティアの身代わりになったということだろうか。

 何故彼女がここにいて、どうしてそんなことをしたのかはまるで見当がつかない。

 

 その困惑は、彼女が何者かすら知らないあの人間たちの方がよっぽど強いだろう。

 各々状況に対する意見をかわしだす。

 

「どういうことだ!あの吸血鬼は逃げたのか、そしてこいつは何者なんだ!」

「支配は成功したようじゃ……、この女もさっきの奴の仲間か。」

「人の見た目こそしているが、人間ではないようだ。どうしましょう、隊長」

 

 

 シャルティアはこの時、またしてもミスを犯した。

 

 さっきあまりにも遠くに吹き飛ばされたためか、敵側からシャルティアは姿を消したのだと思われたらしい。

 だからこそ遠目から何が起こっているのか確認して、それから転移で「撤退」しようと考えたのだ。

 しかし、何もかも手遅れである。

 

 

 怪物の名はマタタビ。

 最凶最悪の殺戮兵器の産声は、既にあがっている。

 最早この場に『彼女』を止められるものは「誰一人」としていなかった。

 

 

 隊長と呼ばれた少年は、平静を保ち毅然に指示する

 

「カイレ様、事は一刻を争います。この者を操って尋問しましょう」

「うむ」

 

 謎の少女を睨むように一瞥してから、老婆はアイテムに意識を込めようとする。

 

 だが突如、少女の目に光が差し込んだかと思うと、少女の指先から鋭い獣爪が生えて老婆に襲いかかる。

 伸ばされた白魚のような手は、老婆の眼球を的確に捉え潰す。有り余った威力はそのまま頭蓋骨を貫通した。

 僅かコンマ一秒にも満たない一瞬の出来事である。

 

 被支配状態にある存在が支配側に反旗を翻すという常軌を逸した現象に、それを見た一同が驚愕する。

 

「バカな!神々の遺産であるケイ・セケ・コゥクが命中して精神支配は完璧だというのに、何故こんなことが!」

 

 完成された殺人マシーンはゆっくりと声のした方に反応する。今さっきの獣のような雰囲気を一変し、温和で友好的な口調で答えた。

 

「私が精神支配? へぇーそうなんですかこれが……なぁるほど。思ったよりも悪い気はしませんね。」

 

 両手を夜空にグイッと伸ばして背伸びをする。おおよそ殺戮とは無縁な、無邪気な少女の姿だった。

 足元をよく見ていなかったようで、すぐ横に転がっていた老婆の死体を踏んづけて「ぐぇっ」と唸る。靴が血に汚れて不満そうだった。

 気を取り直すようにニカッと魅力的な微笑みを浮かべる。

 

 

 少女は虚空に開いた暗黒の中に、血まみれに汚れた手を伸ばした。

 取り出したのは、カタナと呼ばれる刃渡り1メートルにもなる剣である。

 少女の風貌にはあまりに不釣り合いな獲物だと思われたが、彼女がそれを掴み取って抜刀した瞬間空気は凍りつく。

 

「いやはやそう考えると、みなさん本当に運がお悪い。これでも殺しは初めてで、私正直内心ビクつきまくりなんですけれど仕方ありません。

 せめてメイドさんが優しく冥土までエスコートして差し上げましょう。冥土の土産に自己紹介、私の名前はマタタビです。」

 

 オーバーに演技掛かった彼女の振る舞いは明らかに滑っていた。

 少女―マタタビは口が割けんばかりに頬を引きつらせて獣の如き鋭利さを表す。

 一同が、加えて遠くから傍観していたシャルティアでさえも戦慄を覚える程の殺気は、背景に積み重なった死屍累々を容易く想起させる。

 そして、もって回した死刑宣告はやはりどこか意味不明だ。

 

「うーんやっぱ『あの人』みたいに格好良くはならないか。ウルベルトもよくやってたけど、中2口上やるやつって大した勇者ですわ」

 

 吐き捨てるように言うと、老婆の死骸が纏っていたチャイナ服を汚物にでも触れるように刀の切っ先で持ち上げ、先程の暗闇の中へ無造作に放り込む。

 続いて取り出したのは1枚の〈羊皮紙〉だ。軽く投げ上げると蒼炎が灯り、あっと言う間に焼失した。

 

「〈次元障壁〉」

 

(しまった!転移を封じる魔法、これでは逃げられない!)

 

 逃げられない

 

 シャルティアは、先程から使っていたその言葉に、主に目的語に大きな違和感を覚える。

 何から逃げるというのだろう。先程のチャイナ服の効果内容も、効果範囲もすでに見切った。あれがアンデットであるシャルティアに有効なのだとしても、それを扱う者の程度は所詮知れている。最早シャルティアの敵ではない。つまりは……

 

(あいつを? 御方に創造された私が、あんなやつを恐れているとでも言うの!?)

 

 シャルティアのマタタビに対する認識は非常に薄い。

 高位の隠形を使えるという話だが、そもそも探知系の能力を持たないシャルティアにとってはそれがどの位凄いことなのか判らないし、配属先が異なるので交流なんてある訳がない。

 面識は、六階層へ招集された時が最初で最後で、シャルティアにとっては覚えている方が奇跡と言えた。

 

 微かに覚えている印象は、ただ臆病で脆弱な小動物。

 あの時はこちらが一瞥しただけでも、全身を強張らせて敏感に身を縮ませてしまっていた。それでも無謀に挑んでしっぺ返しを食らった先程の剣士よりは賢明かもしれないが。

 噂で自身と同じ100レベルだと聞いたときには、ありえないと一笑に付してやったものだった。

 

 それがどうだろうか。現在彼女を中心に、濃密な死の気配が辺り満遍なく広がっている。

 ザラついた猫舌で直接心臓を舐め回されるような悪寒。

 少年もシャルティア自身も、彼女の前にしては等しく小動物に成り下がってしまうようだった。

 

 人間たちは動揺を抑えて冷静に、先程シャルティアを手こずらせた陣形を組み直していた。

 

 否、彼らの所業は理性的ではあったが、冷静とは程遠いかもしれない。

 殺気に当てられ、かえって理性の暴走を許してしまった。

 彼らは本能に従いみっともなく逃げるべきだったのだ。

 1%にも満たない誤差だろうが、生存率も上昇してくれただろうに。

 

 捕食者はそれを嘲笑うような目で眺めつつ、自身も刀を構えて臨戦態勢を整える。こうなるといよいよ本当に獣じみてくる。

 

 シャルティアが恋しくてやまない絶対支配者は、死を司る神である。

 

 そう考えると甚だ不敬でしかないのだが、今の彼女を見るとどうしようもなく「死神」という言葉が相応しい気がしてならなかった。

 

「なんて……綺麗なの!」

 

 殺気に酔いしれ正気を失っていたのは、どうやら彼女も同様らしい。

 もしアインズがこの場に居ればまず間違いなく、撤退を指示していただろうから。

 

 

◇◆◇

 

 

「はっ!」

 

 軽い一呼吸とともに捕食者の狩りは開始された。

 

 

 彼女の狙いは明らかだ。老婆が死んだ今、彼女の眼中にあるのは少年唯一人。しかし『強者』と付け加えるには、今の彼の背中は小さすぎた。

 

 たった一歩を踏み込んだだけで、転移と見紛う素早さで少年の懐に潜り込んだマタタビは、何の躊躇もなく鋭利な手刀を彼の首元へ突きつける。

 彼は体幹をズラし、見事最短の動作で攻撃を交わすことに成功する。

 だが上半身への攻撃に気を取られて居る内に、強烈な膝蹴りが少年の股間部に向かっているのを気が付かない。

 次の瞬間、男児にのみ与えられた宿命的痛感が少年を遅った。

 

「ぶぐっ!?」 

 

 痛みに耐えかね、マタタビの顔に唾液を吹きかけた少年。それがどうやら彼女の眼球に入りこんだらしく、奇跡的な目潰しとなる。

 

「ッチ」

 

 瞬時、非常に顔を顰めて目を瞑るも折角の攻撃チャンスを逃す気はないらしい。

 両手で刀を構え、装甲を貫いて槍を持っている右側の肩を縦に切り裂いた。

 そのまま追撃を仕掛けようとするが、その時陣形の後方から回復魔法を詠唱する魔法詠唱者の姿が確認された。

 

 マタタビは追撃を中断し、バックステップで少年の間合いから離れた。アイテムボックスの〈無限の背負い袋〉から手早く何かを取り出して、尋常ならざる脚力で上空へ飛び上がった。

 

「失せてください」

 

 彼女の両手にそれぞれ構えているのは、黒鉄色で刃が付いた礫のようなもの。すなわち手裏剣である

 マタタビの手から投擲される手裏剣が、雨のように陣形全体をまんべんなく襲った。

 

 手裏剣は忍系統の職業会得者にのみ使える武器だ。

 今マタタビが使っているのは、わざわざ一つ一つ作っては使い捨てにするタイプ。これは、威力は見込める代わりに膨大に資源を食うので、わざわざ実践に使っている者は少ないというなかなかのゲテモノである。

 数多くのPKとギルド拠点荒らしを繰り返した結果、中小ギルドを容易く凌駕する財力を有しているマタタビだからこそ使える贅沢品といえよう。

 

 圧倒的レベル差から繰り出されるそれらは、一発一発の威力が必殺級。被弾者の肉を容易く貫き、骨を豆腐のように砕いていく。

 手裏剣のうちいくらかは〈低位武器貫通〉などの微弱なデータクリスタルを仕込んでいるので、複数回被弾していく間に伝説級のフルプレートを着込んだものですらダメージを免れ無くなっていった。

 

 鋼鉄のゲリラ豪雨がようやく止むと、少年の他の戦闘員は既に全滅していた。

 少年自身も手裏剣で全身は傷だらけ、槍を握る腕の肩には大きな切り傷があって使い物にならなくなっていた。

 人数差によるアドバンテージをあっという間に覆され、絶望的な戦況を前にしてようやく少年は悟ったらしい。自分が相対しているのが、化物すら超越した怪物なのだということを。

 

 

「あなたは一体何者なんだ!!まさか罪人なのか!」

 

 今の彼は、それがどんなに陳腐な質問なのだとしても、尋ねずにはいられなかった。

 少年の必死さに反比例するように、少女の顔は冷めていくようだった。

 

「ただのメイドです。強いて言うなら、あなたより強い、それだけだよ」

 

 そう言い捨てて、今度はまたアイテムボックスを開き、先ほどとは別の〈羊皮紙〉を複数取り出した。

 

「そういえばあなた達。といっても今は貴方だけだけどさ、私に洗脳アイテムを使ったんだよね?

 きっと私を辱める気だったんでしょう?エロ同人みたいに。」

 

「…………」

 

「アハハごめん冗談ですよ。でも某国では洗脳って殺人より重罪らしいからさ、仏ならぬ私としてはやり返さないと気がすまないんだよ。」

 

 彼女は持っていた〈羊皮紙〉をバサッと宙へ投げ上げた。

 その枚数は11枚、奇しくも先程死んでいった人間と同数である。

 

「まさか……それだけは止めてくれ!」

 

「やーですよ」

 

 ふわふわと宙で燃え上がる十一の蒼炎は、夜陰の中で蛍火の如く優雅に揺らめいていた。

 無慈悲で単調な詠唱が紡がれていく。

 

 

「〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉」

 

 彼女が〈羊皮紙〉で発動した魔法は第三位階。

 カンストクラスの戦闘に於いてかなり心もとない値だが、この魔法こそ少年に最も大きなダメージを与えるであろうことは明らかであった。

 

 魔法の効果対象となるオブジェクトは、当然彼の仲間の死体。

 偽りの生命は阿鼻叫喚の如き産声を上げて現世へと再誕された。

 

『アアァァアアぁ『ゥアアァァァアアァ『アアアアァァァ』』』

『アァァァアアァアァァア『アアアウウウウゥ『ゥアァァアアアァ』』』

『『アアァァアア『ァッッァア』』ア『ァァ『アアァ『アァアア』』』

 

 瞳は濁れ、不事前極まる青白い肌には幾多の致命傷と食い込んだ手裏剣。変わり果てた仲間達の姿に、少年はただ一人慟哭する。

 

「罪人めっ!信仰深き同胞の、その死までをも冒涜するか!」

 

「死を冒涜?」

 

 一瞬何を言われたかわからないとでも言うように呆けた顔をした。

 やがて何かを悟り、鉄面皮を崩して呵々と笑い出した。

 

「あはははははは!バッカじゃねぇの。 洗脳アイテムで生者の尊厳踏みにじろうとした奴が死者の尊厳をほざくとかギャクですか?それともネクロフィリアなの?

 さぁさぁ、ゾンビな皆様ハッピーバースデーおめでとう。プレゼントはあの可愛い可愛いショタ野郎です、早い者勝ちだよヨーイドン!」

 

 動死体の強さは、元となった人間の強さに依存する。

 今しがた死んだ少年以外の人間もこの世界では屈指の実力者だ。前衛後衛などで差は出るが、生み出されたゾンビはこの世界でも皆伝説級の性能を有するだろう。

 11体のゾンビはあっと言う間に少年を取り囲んでは襲いかかる。

 

 仲間の亡骸を相手取り精神をすり減らしながらも、唯一残された信仰心にどうにか寄り縋った。

 使えなくなった右腕の代わりに左手で槍を構える。

 目の色を変えて、少年は反撃を開始する。

 

「クソっ!……皆……許してくれ! ウオォォォォォォリャアアアアアアア!」

 

 まず三名。レイピアを持ったゾンビと修道服のゾンビに、ウィッチハットのゾンビを横一閃に槍で切り裂く。

 

「ハァァァアア!」

 

 巨大な盾を構えたゾンビには、槍で盾ごと貫き頭部を破壊。

 大斧を振り下ろさんとするゾンビ、チェーンを身に纏うゾンビ、漆黒のローブと杖を持つゾンビを続々と片す。

 そして金髪ボブのゾンビに、大剣を振りかざすゾンビは直線状に一緒に貫いた。

 

「うわぁぁぁああ!!」

 

 全裸の老婆ゾンビが上から飛びかかってきたのを、槍の槍の峰で地面に叩きつけて頭部を繰り返し、執拗に粉砕した。

 

 今度はマタタビが自ら飛び込んで来て、背後から斬りかかろうとする。

 

「隙ありですよー」

 

「お前だけは絶対に許さない!ハアアアアアア!」

 

 憎しみによって超加速された反射神経が、素早い彼女を捉えることに成功する。

 

「ゴブっ!?なんで……」

 

 槍は彼女の腹部を刺し貫く。致命傷である。

 血が滴り、槍伝いに少年の手を濡らした。

 

 突然刺されたことに驚愕するマタタビ。

 

 が、演技とばかりにおどけてみせ、少女はそのまま武器を掴んでニンマリと凄惨な笑みを浮かべた。

 

「な~んてね〈身代わりの術〉解除」

 

「なっ!?」

 

 煙が広がりマタタビの姿が隠れた。

 

 そして煙が上がると、槍に突き刺さっていたのはマタタビではなく、彼女によく似た学生服装備を纏ったゾンビであった。

 ―しかも、体中にダイナマイトを巻きつけている。

 

 どこからともなく声が聞こえた

「ポチッとな」

 

 ダイナマイトは徐々に赤色発光していく。

 間もなく凄まじい爆風が舞い上がった。

 

「ぐわあぁあああああああ!!!」

 

 

 マタタビがゾンビに仕掛けていた無数のダイナマイトは、火薬の合成材料に微量な希少金属を含有しているというこれまた贅沢品。

 アインズが放つ〈現断〉と同等の威力であり、至近距離の爆発に巻き込まれたのであればカンストレベルでも瀕死寸前のダメージ量となるであろう。

 

 

「かぁ、かはぁ、かぁ、かぁ」

 

 爆風が止むと、ゾンビの残骸すら焼失したらしい。

 その場に残っていたのは、全身黒焦げな少年だけであった。

 

 しかし、そんな原型すらわからない姿の少年に対し、隠形を解いて姿を表したマタタビが送るのは、素直な賛辞の言葉である。

 

「よく生き残りましたね。それだけの耐久力と技量があるんなら、刀で真っ向勝負してたら絶対負けてましたよ。流石です」

 

 それは皮肉でも何でもなかった。

 

 実は元よりマタタビは、少年たちに対して何も恨みや敵対心など微塵も持っていなかったのだ。

 少々卑劣な戦法を組んだのも純粋に戦術的打算によるところが殆どで、先から言っていた皮肉も相手を煽るための布石でしかない。

 

 

 今の彼女はただの機械。

 敵を排除するため最善手を模索し実行する、最凶最悪の思考体。

 

 皮肉な話ではあるが、そんな怪物を生み出したのが、他ならぬ少年たちなのである。

 

 自覚より一回り分聡明なマタタビは、自分の状態が一体どうなっているのか、少ない情報からすでに導き出していた。

 

 

 

「少年や、褒美に一つメイドさんが講釈して差し上げましょう。

 

 精神支配の待機状態の行動は、被支配側のカルマ値に依存します。

 

 私のカルマはマイナス500。この値では、近付いた相手に対する無差別攻撃ですね。

 

 当然支配側に攻撃したりはしませんが、それにもたった1つ例外があります。

 

 被支配側は外部から攻撃されたり敵対認証を察知すると、それに対して反撃するようになるのです。

 

 ですから多分今回の場合は、私のスキル〈読心感知〉が貴方達の「敵意を認識」してしまったことが発端というワケ。」

 

 

 黒焦げになった少年の前に立って、マタタビはゆっくりと長刀を振り上げる。

 

「みんな本当に、私のせいで運がお悪い」

 

 神速の剣閃が炭素の塊を透過した。

 かつて首だったものであろうか。

 サッカーボール大の黒い何かがボトッと大地に転がって、ボロボロ崩れていった。

 

 

 役目を終えれば、彼女の意識は闇に沈んで指示を待ち続ける。

 結局、彼女を御する洗脳アイテムは彼女自身が握っているのでそんなもの来る筈ないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「……それでも意識を保っているということは、次の敵か。

 やだなぁ、魔王さまに殺される。

 シャルティア逃げて、超逃げて。

 こっちはMPもスキルも殆ど残ってるっていうのに……」

 

 マタタビは、自身の有利を憂鬱気味にぼやいた。

 




オリ主設定
◇マタタビ[異形種] matatabi
◇性別:女性
◇年齡:19
◇二つ名
・屋台崩し
・42人目の???


◇嗜好
・趣味:恋愛モノの小説・漫画
・好物:なんでもよく食べる
・好きな人:アルベド?
・尊敬する人:モモンガ
・嫌いなもの:集団の和を乱す者

◇役職
・旧クラン:ナインズ・オウン・ゴール 元構成員
・ナザリック地下大墳墓 執事助手秘書官 兼 一般メイド見習い

◇住居
・ナザリック地下大墳墓 第九階層スイートルーム予備部屋

◇属性アライメント
・極悪 [カルマ値:-500]

◇種族レベル
・ケットシー10LV
・ハイケットシー5LV
◇職業クラスレベル
・アサシン:5LV
・マスターアサシン:10LV
・シーフ:15LV
・ファントムシーフ:5LV
・シノビ:15LV 
・ハーミット:10LV   
・シカケニン:10LV   
・ポイズンメーカー:5LV
・スレイヤー:5LV
・トリックスター:5LV

◇[種族レベル]+[職業レベル]:計100レベル
・種族レベル:15
・職業レベル:85

◇能力表(最大値を100とした場合の割合)
・HP(ヒットポイント):70
・MP(マジックポイント):70
・物理攻撃:70
・物理防御:40
・素早さ:測定外
・魔法攻撃:60
・魔法防御:40
・総合耐性:70
・特殊:測定外

◆能力値出典:パンドラズ・アクターの能力形態データNO.42

=======================================

※捏造設定
・オリ主の道具
・精神支配に関する設定
・少年たち御一行の強さ

感想気に食わぬところ誤字脱字があったら報告ください。おねがいします。

 次回、シャルティア逃げて!超逃げて!


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木天蓼 後編

 戦闘メインで構成するつもりじゃなかったのに……どうしてこうなった……

 そして戦闘シーンが気に食わないなら、最後のところだけ読んで要領つかむだけでもありかと。まぁ普通気に食わなかったらブラウザバックだよね。

 更新遅れたごめんなさい


木天蓼 後編

 

 

 私はゆっくりと、まるで散歩でもするかのよな軽い足取りで、彼女が隠れているクレーターの影まで歩んでいく。

 だけども私がそこに辿り着く前に、彼女が自ら私の前に出てきてくれた。

 

 彼女、シャルティア・ブラッドフォールンは、いつもの漆黒に紫の刺繍が入ったボールガウンではなく、血のように紅い全身鎧を身に纏っている。天翼を広げ銀色に輝く月光に照らされた姿からは、格好いいとも美しいともつかないような、何とも言えない感動を私に抱かせた。

 

 普段はエロばかり頭に詰め込んでいるペロロンチーノだが、こういうところで私の中二心の残症を煽ってくれるから隅に置けない。

 しかも変なところで真面目な彼のことだ。きっとNPCのビルドにすら遊び心を加えず、ガチで組んでいるだろうことは容易に想像がつく。ウルベルトとは大違いだ。

 

「こんばんわ、シャルティア・ブラッドフォールン様。良い夜ですね。個人的にこんな日にはお茶とお餅でも拵えて月見でもしていたいところなんですが、どうかその殺気を止めていただけませんか?」

 

 彼女はちっとも脅威ではなかったが、背後についているモモンガさんと敵対したくない。そうなれば彼は相当苦しむだろうし、アルベドさんにも嫌われてしまう。ついでに言えば死にたくない。

 

「よしなんし。おんしは、今でもこうして守護者である私との上下関係を気にして振る舞っているんでありんしょうが、一度6階層での振る舞いを見た後では、その後の猫かぶりの巧妙さが鼻について仕方ありんせん。」

 

 なるほど、通りで私の礼儀作法の受けが最悪だったわけ。無理やり支配ロールしたモモンガさんと真逆な結果とは、ひどい皮肉じゃないか。

 

「しかし、猫の裏側に居たのが獅子だったなんて思いもしなかったでありんすよ。よくもまぁこれまで騙し通したものでありんすね。きっとおんしを気にかけていたアルベドもデミウルゴスも気付かなかったんじゃありんせんか?」

 

「本題お願いできます?どーして人畜無害なワタクシめが、あなたに狙われなきゃならないのよ」

 

「自分で言っていたではありんせんか。おんしは強力な精神支配に侵されていて、敵対認証を察知しては暴れまわるという厄介な状態なのでありんしょう?

 であれば、守護者最強の私が直々に一度殺害してそれを解いてあげるというまでのこと。感謝しなさい」

 

 その割に血気盛んな楽しそうな顔。馬鹿馬鹿しい、大方アウラと同じで欲求不満なんだろう。

 

「言っておきますが、私は撤退をオススメしますよ。」

 

 私の挑発に見事シャルティアは引っかかる。もっとも挑発を兼ねた本音だけれど。

 

 シャルティアはこめかみに力強い血管を浮かび上がらせ、殺気が最高潮に達した。

 最早デタラメ廓言葉は完璧に鳴りを潜めていた。正直ウザかったのでちょっとありがたい。

 

「あぁん、大した自信だな!ペロロンチーノ様に生み出されたこの私が、負けるはずがねぇんだよ!」

 

「ソレハスゴイ」

 

 勝利を確信しているのだとすれば、そんなあいてにわざわざ全身鎧を着込むのだろうか?

 なんとも分かり易い虚勢である。

 

 彼女は巨大な片手槍を構え、両翼をはためかせて臨戦態勢を整える。

 きっと転移前の私だったら逃げたくなるような鬼気迫る程の迫力だろうが、案外嫌われメイド生活も無駄ではなかったらしい。

 敵意に感覚麻痺した私は、彼女のそれが只のウザいそよ風のようにしか思えなかった。あるいは洗脳によって気が狂っただけかもしれないが

 

「井の中の蛙というよりは、墓穴の蝙蝠かな。貴方じゃ私には勝てないよ。」

 

 

 

◆◇◆

 

(殺す!絶対殺す!至高の御方に作られし私をコケにした代償に、死の寸前には地獄を見せてやる)

 

 憤怒と殺意に塗れたシャルティアの思考は、一周回って冷静さを取り戻した。

 

 彼女を相手取るときには特に、取り乱してはならない。それが、先程の少年たちとマタタビの闘いを見て分析した成果である。

 

 殺した敵をアンデットに変えてそのままぶつけるとは、今度機会があればシャルティア自身試してみたくなる位に良く出来た方法だ。相手の精神を揺さぶっている合間に強力な罠を仕掛ける手腕は純粋に感心した。だが、自身が同じ過ちを犯す訳にはいかないだろう。

 

「ふー、やりますか」

 

 マタタビは右半身を後ろに引いて、刀を隠すように後ろ方向に構える。

 一見すると隙きだらけだが、シャルティアからは刀身の長さが掴みづらい上にカウンターの体制が整った嫌な構え方だ。

 先程の戦闘では白兵戦を避けていたようだが、前衛としての技能を身に着けていることは一目して理解できた。

 戦士職は取っていないのであろうが、それはシャルティア自身にも言えることだ。

 

 手の内の知れないマタタビに対し、序盤から近接戦闘に持ち込むのは勇み足が過ぎる。

 まずは遠距離からの攻撃で動きを読む取るのが望ましいだろう。

 

「〈魔法最強化・ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星〉」

「遅いよ」

 

 マタタビの周囲が紅蓮の炎で包み込みこまれたが、気付いた時には彼女の姿はなかった。

 次の瞬間、シャルティアの背後にマタタビが肉薄している。そこから神速の袈裟斬りが見舞われようとしていた。

 

「ぐっ!」

 

 シャルティアは反射で身を捩り、スポイトランスを盾にしてどうにかその攻撃を受け止める。受け止めた一撃は思いの外軽かった。

 

 ところがその後の追撃では、手数の多さと素早さに間に合わず何回か直撃を食らってしまう。

 一撃一撃の数値的威力はそれ程でもないが、攻撃箇所が一々的確過ぎる。装甲の隙間や顔面部分スレスレに掠める感覚は怖気が走った。攻撃力はなくとも急所に当たれば致命傷なのだ。

 

 対してシャルティアが仕掛ける攻撃は、その尽くを風のように躱されてしまう。

 シャルティアの武器、スポイトランスはダメージを与えた時その何割かの体力を回復できる凶悪な効果を有している。前衛同士の打ち合いには有利な武器なのだが、当然といえば当然、当たらなければ無意味である。

 

(こいつ本当に盗賊系!?真っ向勝負じゃ勝てないんじゃなかったの?)

 

「そんなんただのブラフですよ。」

 

 このままではダメージレースでシャルティアが負けることは明らかだ。

 一旦距離を取るため、回数制限系の近接スキルをシャルティアは発動させた。

「〈不浄衝撃盾〉!」

 

「あがっ!?」 

 

 武器攻撃よりも範囲のある衝撃波攻撃を、マタタビはモロに食らった。そのまま後方の大地に吹き飛ばされていく。

 どうやら彼女の物理防御力はあまり高くないらしく、手足に擦り傷ができていた。

「……くそぅ、受身取ったのに痛いなんて」

 

(これだけで効いてるみたいね……)

 

「《ライフ・エッセンス/生命の精髄》」

 

 確認してみると、たったこれだけの攻撃でマタタビのHPは半分を切っていた。

 それならばと、シャルティアは片手を振り上げて手中に光の塊を顕現させる。

 今度は必中効果のある遠距離攻撃を目論みる。

 

「これで終わりよ〈清浄投擲槍〉!」

 

素早いマタタビでも回避は不可能。そして命中すれば絶命に至るだろう。

 

「〈生口の術〉大福招き猫」

 

 マタタビが大地に手を翳し、墨色の独特な文字で魔法陣を発生させる。

 そこから煙を巻き上げて召喚されたのは、文字通り大福のようにまんまるとデフォルメされた巨大な招き猫の像。

 猫像は壁のように立ちふさがり、光の槍と相殺されるように消えていった。

 

(……厄介ね、これが忍。神官職の私では良く判らないけれど、今のは召喚魔法の忍術版かしら?)

 

 忍は盗賊系の中でもアサシン関係のスキルを多く必要とするクラスだ。

 直接戦闘能力を多少失う代わりに忍術を多く収める〈カシンコジ〉、逆に直接戦闘能力を高める〈ハンゾウ〉、または両者の間をとった〈シノビ〉などのクラスが存在する。

 

 忍術は魔法と同じでMPを消費して発動し、その威力はその忍術に込めたMP量に依存する。

 例えば第三位階相当のMPを込めて発動した〈生口の術〉なら《第3位階怪物召喚》とほぼ同じものと考えて良い。

 だが一見すると、どの程度のMPが消費されたか相手には解からないのが非常に厄介な点なのである。

 

 シャルティアはまじまじと相手を注視した。

 一瞬でも気を許せば、マタタビはあっという間に詰め寄ってくる。ならば隙きを見せないまでの事。

 放たれる威圧感に気圧されて自分を見失ってはいけない。彼女は決して倒せない相手ではないのだ。

 

 戦う者として生み出されたシャルティアは、戦闘においてあくまで冷静を失わない。蹂躙とは根本的に異なる行為だから。

 自身に暗示をかけるように、念入りに気持ちを切り替える。

 

 

 相手が、動き出した。

 

「〈炎弾の術〉」

 

 太陽の縮小図の如き巨大な火の玉がシャルティア目掛けてやってきた。

 躱せる速度ではあるが、まず間違いなく囮だろう。既にマタタビは移動している。 

 

 最適な逃げ道としてシャルティアが選んだのは空だった。 

 シャルティアの背中から生えている翼は飾りではなく装備だ。スキルにより強化された飛行速度は〈飛行/フライ〉より上。彼女が〈羊皮紙〉で飛んでくれば今度はシャルティアに軍配が上がる。

 地上移動しか出来なさそうなマタタビには有効な手立てかと思われた。

 

 しかしそれを待ち構えていたとばかりにマタタビの顔がニヤける。

 また別の〈羊皮紙〉を取り出し盗賊スキルで発動させた。

 

「逃がしゃしませんよ、〈要塞創造/クリエイト・フォートレス〉」

 

「拠点作成系の魔法?」

 

 瞬時に大地から、100メートルほどの巨大な漆黒の重厚感のある円筒状の塔が地鳴りを上げて飛び出した。

 マタタビは、そのまま塔の外壁を駆け足で登り上がってシャルティアのもとまで走り出す。

 

 わざわざ足場のためだけにこんな魔法を使うなど、与えられた能力の知識しか持たないシャルティアでは驚く他ない。

 完璧に、常識の埒外にいる存在だった。

 

「なっ!」

 戸惑うシャルティアの間合いに肉薄し、マタタビはシャルティアの背中に飛びついた。束縛耐性のあるシャルティアに通用したということは、盗賊系のスキルで強化されている可能性が高い。

 翼にしがみつかれ、飛行バランスが著しく崩れる。

マタタビは体制を組み換え、両翼を両手で引張り、背中を両足で押さえつける。

 

「クソっ離しやがれっ」

「せーのっ」

 そのままシャルティアの翼は引き千切られた。

 飛行手段を失い、二人はもみくちゃに取っ組み合い名がら真っ逆さまに地面へ落下していく。

 

「仲良くしましょうよ」

「〈ミストフォーム〉!」

 

 シャルティアはとっさに幽体化のスキルを発動させ、マタタビの拘束から逃れることに成功した。

 対し一人地面に降下するかと思われたマタタビだが、取り出したワイヤーフックを塔の積石の隙間に引っ掛け、もう一度壁面を駆け上がる。

 

「……やれやれつれないですね。スクロール〈霊体接触/インヴィジブル・タッチ〉

 からの~」

 

 マタタビが懐から大量の手裏剣を投げつけ続々とシャルティアの幽体に突き刺さる。

 苦悶を上げて実体に戻ったシャルティアの口元からは血が垂れていた。

 

 両者は再び地面に降り立って互いを見つめ合う。共に相手の隙きを、一瞬たりとも逃すまいとした緊迫した空気が漂う。

 

 受けたダメージ量は大きいものの、試合の流れはマタタビに握られているようだった。

 しかしシャルティアにとって見れば、「流れ」なんてまやかしだ。あと一発まともに攻撃をぶつけるだけでマタタビは負けるという事実は揺るがない。

 素早いとはいえ徐々に慣れていけば、マタタビ相手に一撃を当てるくらいそれ程難しくはないだろうと予想する。

 

 そんなシャルティアの落ち着いた態度に、マタタビは素直に感心を抱いた。

 

「ったく、想定していたより強いですね、シャルティアさん。」

 

「馬鹿にしてるのかしら?」

 

「いえいえ、見直したんですよ。貴方みたいなガチビルド纏っている奴なんて、大概はテンプレパクっただけの雑魚ばかり。モンスター相手なら武器振り回すだけで済むから、前衛技能をちゃんと身に付けたプレイヤーって凄く稀なんですよ?

 

 それに貴方、一見頭が弱いように見えて、プレイヤースキルもいい線に行っています。アインズ様ほどじゃないけどね。

 最初にやった挑発も逆効果みたいだし、これなら素直に不意打ちしとけば良かったな~。

 まったく変なところで真面目なところが、あいつに……いやなんでもない」

 

「なんだか微妙に貶されている気がするのだけれど」

 

「まぁともかくです。シャルティアさんの強さはバランス良く組まれた能力と、それを活用しきる技能。

 確かにこのまま持久戦にもつれ込めば、ビギナーズラックが決まって逆転される可能性も十分あるね。」

 

(……こっちの戦術を読まれてる)

 

「だから簡単な話、その強みを殺してしまえばいいのさ。」

 

 それだけ言って、再度マタタビはシャルティアの間合いに接近する。

 とはいえシャルティアもいい加減、彼女の速度には慣れてきていたため簡単に懐へは近付けさせなかった。

 刀とスポイトランスがぶつかり合う間、マタタビは空いた片方の手で別のアイテムを取り出した。

 

 それはバケツ大程度の蓋付きの壺。それに特別魔力が感じられるわけでもない。

 そのまま取っ手を掴んで、シャルティアの方へと振りまわした。

 

 壺程度ぶつけられたところでシャルティアにはダメージは無いが、マタタビが只の壺を出すわけもない。半信半疑ながらもスポイトランスで殴りつけて弾いたところ、あっさり割れて中に入っている液体がシャルティアへとぶちまけられた。

 

 

(血液!マズイ、〈血の狂乱〉が)

 

「アウラに聞いたんです。

 確かにその武器との相性上、自由意志のないマネキンには相応しい能力だとは思いますが、PVPでは些か致命的過ぎますよ?」

 

 

「ぐゔぉあああぁぁぁぁぁぁだめぇえええええおさえられなあぁぁぁぁあいいいいいい」

 

 たった今までは麗しき戦乙女の姿を保っていたシャルティアだが、この瞬間〈真祖〉本来のおぞましい姿へと変貌した。

 殺戮衝動があらゆる思考を塗りつぶし、戦士は魔獣に成り下がっていく。

 

「肉体能力は上昇されちゃうけど、これまで戦って体感した肉体能力からして十分対処できると判断しました。

 唯一厄介な飛行能力はさっき潰しちゃいましたしね」

 

「このぉぉぉおおよおぉぉうううくもおおおぉぉおお」

 

「あははは、いくら威力があったってそんな大振りじゃあ当たらないよ」

 

 空気すら引き裂くような連続攻撃がマタタビに向かってくる。

 命中すれば即死必定だが、優雅に舞うようにその尽くを平然と躱されてしまった。

 

「それと一つ誤解を解いておきたかったんだけどさ、あなた私の攻撃力を軽視してるよね?

 私のこの日本刀、武器属性なんだと思う?

 答えは霊属性、つまり一番あなたに効き目の薄い属性って訳。

 

 ちなみにこれ、製作が面倒なことで定評のある神器級なんだけど、お金持ちな私は同じ能力を持つ武器を全属分揃えているの。」

 

 一撃必殺の雪崩を軽々避けつつ、マタタビは鼻息混じりに武器を取り出した。それは元から持っていた日本刀と瓜二つだった。

 

「ホラ見て全く同じでしょ? ちなみにこれ、あなたの弱点の神聖属性ね。

 ……そろそろ終わりにするか」

 

 先程使っていた刀を乱雑に地面に放り捨て、新たに取り出した刀を構えた。

 

 隙きに塗れたシャルティアへ、神速の剣閃を浴びせ掛けられる。

 

「ぐうっがっががあがああああああああ!!!!!!」

 

 異形の絶叫が月夜に響き渡った。

 

 刃と触れ合う肉から、「ジュウゥッ」という蒸発音が煙とともに流れ出て、

 神業とも言うべき速さと正確さにより、四肢は切断され眼球が切り取られていく。

 

 〈真祖〉の怪物には、達磨のような無様な姿だけが残された。

 

◆◇◆(視点変更)

 

「ぁかぅ……はぅ」

 

 私はダルマの爪をぎゅっと食い込ませ首を絞め上げてた。気道が狭まり、辛うじて残っていたシャルティアの虫の息がさらに弱まっていくようだ。

 もっともヴァンパイアに呼吸は不要だから、この現象の意味合いは少しだけズレている。

「まぁ、もちょっとだけ生きてもらわにゃならんのですけど」

 

 彼女ほどではないが、私もだいぶ消耗してしまっていた。

 私のHPは実質飾りみたいなもんだから良い、浪費しまくった消費アイテムもストック全体からすれば微々たるものだ。けれどMPの消費はかなり痛い。特に〈要塞創造/クリエイトフォートレス〉の燃費は結構悪く、使ったときの脱力感が凄まじい。

 

 ユグドラシルにはMP回復アイテム等は存在せず、自然回復を待つしかないのが常識だが一応例外もある。他人から貰えばよい。

 普通プレイヤー同士のMPのやり取りは、譲渡スキルを持った側が相手に任意で送りつける者なので、一人きりの私では不可能だ。しかしこれにも例外もある。

 

「スキル〈魔力泥棒〉」

 職業〈トリックスター〉で会得できるこの〈魔力泥棒〉はその名の通り相手から一方的にMPを根こそぎ奪う事ができる。直接触れ続けることが発動条件だから、こうして無力化してから出ないと使えないのがちょっと不便。

 

 ダルマの首を握る手首をつたい、力の波動みたいなものが私の中へ流れ込んでいった。

 全部を吸収しきっったので、ぽいっと地面に放り捨てる。

 

 見ていてなんだか気の毒な気がしてきたので、さっさとトドメを刺してあげようとしたその時、いつかバーで飲んだ、甘ったるいお酒みたいな匂いが鼻腔に張り付いた。

 

「え?」

 

 私は酔っ払ったように体のバランスを崩して倒れてしまった。

 

 どういうこと?なんだか思考がまとまらない。これは……吐息?

 遠距離からのスナイピングのスキルで狙い撃ちにされたのか。

 でもこんな芸当できるやつが、どうして私の感知に引っかからなかった。

 

 まさか、私の感知範囲がバレてるのか?範囲外ぎりぎりから吐息のスキルを発動させるなんて……

 とすれば、考えうる相手は一人しかいない

 

「……うーん次はアウラさんかぁ~。折角仲良くなったのに……」

 

 私の感知範囲の円周上全体から、何かが勢い良くこちらへと進んでくるのを感じ取った。

 この世界では非常に高レベル、先程の人間たちとも比べ物にならない用な力量の魔獣たちがいっぱい近付いてくる。それは、いつか魔樹で感じ取った気配そのままだ

 

 

 刀を杖にしてなんとか立ち上がった頃、魔獣軍団は私の周囲を取り囲んでいた。その先頭で指揮を取っているのはアウラだ。子供ながら、視線だけで人を殺せてしまいそうな、強烈な殺意を感じ取れる。

 多分、弟……妹分のシャルティアがやられて腹を立てたのでしょう。あれでも茶釜姉弟は仲が良い。窮地に駆けつけるお姉ちゃんなんて、一人っ子な私では妬けてしまいそうな光景だった。

 

「一応先に手出ししてきたのはシャルティアさんなんですよ?逃げる機会はあったのに、あの人そのまま居残りやがるから……」

 

 私は悪いことをした子供みたいに言い訳じみた調子で白状した。

 

 しかし、怒りが最高潮に登っている故でしょう。底上げされた平常心は一切揺るがず、こちらへの敵意に何ら変化はない。

 多分シャルティアと同じで、挑発が逆効果になるタイプなんだろうと思う。

 

「全部知ってる。始めっから見てたんだ、あんたが洗脳される前から。

 まったく……あんたなんか信じなければよかった」

 

 少女の声にしては、やや低い声域。

 今の彼女の気配には、非常に覚えがあった。あれは、怖いぶくぶく茶釜だ。

 

 嫌になるような懐かしさ。でもどこか、憎めなくて愛おしい。

 どうしてだろう? もう随分前のことなのに

 

 信じなければ……か。確かにそうかもしれない。 

 私が居なければ、あんなことには……そして今みたいなことにはならなかっただろう。

 

「そうですね、きっとそれが正解です。」 

 

 ここには居ない魔王さまへ向けて願う。

 

 今度は、間違えないでくださいよ?

 




 
 あともう一話だけオリ主が暴れるの続くから、書くのが苦痛。
 いい加減にしやがれオリ主と言いたいところ。

※今回の捏造
・オリ主の能力

 気に食わぬところ感想誤字脱字あったらよろしくお願いします
 コメント荒れるかなぁ……

 シャルティアへの対処は趣味じゃなくて合理性の追求なんだけども。グロ嫌いやし


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悪神

 更新遅れた言い訳

・新作ポケ●ン発売、
・未だ不明なアウラの戦闘設定の補完、
・俺TUEE!を書く俺TUREE!



 これまでのあらすじ☆


1トブの大森林をアウラと散策。ザイトルクワエ撃破

2帰り道で漆黒晴天とシャルティアの気配を感じ取る

4シャルティアの身代わりで洗脳されたマタタビ

5洗脳したチャイナババア達は、色々訳あり暴走したマタタビに返り討ち

6シャルティアVSマタタビ

7負けたシャルティア。四肢切断で動きを封じられた上にMP根こそぎ奪われる

8とどめ刺される寸前で、魔獣軍団引き連れたアウラ登場


※ちなみに今回登場するアウラのモブ魔獣のデザインは、まんまポ●モンのパクり
※更にいうと、マタタビの捏造忍術もN●RU●Oのパクリです

 駄目な方は即座にブラウザバックすることを推奨します


 カルネ村へ向かっていく者たちと、洞窟内で暴れている存在、マタタビから計二種類の100レベルの報告を受けたアウラ。最近実質的支配地として治めたカルネ村のほうが緊急性が高いということで、ひとまず二人でカルネ村側の100レベルを監視しに行くことを決断する。

 

 より隠密能力の高いマタタビが接近し、遠視に優れたアウラが遠距離で監視するという手筈を組み、二人は別れて行動することになった。

 ところが、監視していた部隊に、突然現れたシャルティアが急襲を仕掛け始めて様子が一変する。

 

 シャルティアに謎の光弾を打ち込まれる寸前で姿を表したマタタビがシャルティアの身代わりになった。

 直後は様子がおかしかったマタタビだが、普段の間抜けた雰囲気を一変させたかと思うと、洗練された手際であっという間に敵部隊を殲滅させる。そこまでは良かったのだが、何故かその後シャルティアと戦闘を始めてしまったのだ。

 

 高速移動で斬り合う二人の速度では、流石にアウラのスナイピングでも捉えきれない。

 一旦手持ちの魔獣を集めてから奇襲援護を仕掛けようとマタタビの感知範囲から退避したのだが、魔獣を集めきった時シャルティアは既に瀕死状態だった。

 

 これほどの短期決戦で守護者最強のシャルティアが追い込めれることをアウラは想定していなかった。

 シャルティアへとどめを刺す寸前に出来た僅かな隙を狙い、アウラは〈吐息〉でマタタビを狙い撃ち酩酊状態にしてから急いで魔獣を動かしマタタビを包囲したのであった。

 

・・・

・・

 

「一応先に手出ししてきたのはシャルティアさんなんですよ?逃げる機会はあったのに、あの人そのまま居残りやがるから……」

 

「全部知ってる。始めっから見てたんだ、あんたが洗脳される前から。まったく……あんたなんか信じなければよかった」

 

 アウラの中には最悪な形で裏切られた期待感への失望、友人を殺されかけた怒り。けれども……

 

「そうですね、きっとそれが正解です。」

 重みの篭った言葉でマタタビは強い同意を示す。まるでアウラの思考を遮ろうとしているようにも思えた。

「さ、そろそろ始めましょうか」

 バッティングフォームのように刀を立て、マタタビは半身で刀を構える。剣先の間合いには濃厚な殺意だけがただ渦巻いていた。

 

 

◆◇◆

 

トブの大森林近郊(マタタビ)

 

 

(よりにもよってアウラさんだなんて、二重に最悪……くそ)

 

 マタタビは心の中で力なく嗤う。ケットシーには相性最悪のなビーストテイマーの〈吐息〉の効果で、思考が霞がかかり、正常な機能を著しく侵されているようだった。

 慌てて解毒のポーションを取り出し体に叩きつける。酔い覚めの気分は最悪で、これが俗にいう二日酔いなのだろうかと考えた。

 

 気付けば周囲には、アウラと彼女が従える魔獣たちで包囲されていた。地上だけではなく夜空にも、翼を持つ者や羽虫の群れによって閉ざされている。圧倒的数の暴力が視界いっぱいに広がっていた。感知によると地中にすらもワーム系やモグラ系のモンスターが蔓延っている。

 4πステラジアン全体から徹底的な包囲が完成していた。

 

 これが階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラの完全戦闘態勢なのだろう。

 大森林をともに探検した時の面倒見のよい風情はどこにも残っていない。それが昨日だったか一昨日だったか、更にもっと前だったかは判然付かないが、仲良くなった人から向けられる敵意には、マタタビでも流石に堪えた。しかし、敵ながら同情されるよりは余程マシかもしれない。

 

 もっともそんな感傷は、完成された戦闘マシーンには一切関係ないことだ。

 邪魔な感情だけがピンポイントで溶けて消えていくのがわかる。

 

 刀を構えると、思考形態が戦闘時のそれへ半強制的にシフトされていった。

 

 アウラの戦闘力考察を開始する。

 〈地味子のメガネ〉の能力測定による大雑把な能力分析によると、アウラはビーストテイマー系とレンジャー系の二種類に特化した職業編成のようだ。

 特にレンジャーの中でもスナイパーやシューターを取っているらしく、回避が得意なマタタビでも必中コンボで〈吐息〉を狙われると致命的だ。

 本人に近づいて叩くには、遠距離攻撃に注意しつつ総数100体からなる魔獣軍団を潜り抜けなければならない。回避速度に自信はあるが、100体の猛攻を躱せるかはわからない。

 

 アウラはマタタビにとってシャルティア以上に厄介な相手なのだが、そんな能力編成を組んだぶくぶく茶釜の真意なぞ今更知りようもない。ただ恨めしく思った。

 

(とりあえず、シャルティアのトドメは諦めるかね)

 

 ほぼ無力化した状態だ。アンデットであるシャルティアには、MPが空である現状有効な回復方法は存在しない。

 ともかく今は、目の前の相手に隙きを見せるわけには行かなかった。

 

 先程のシャルティア戦でもそうだったが、自律思考を獲得したNPCの戦闘技術というのはユグドラシル内一般の戦術体系とは少しズレている。

 フレンドリィファイアやソニックブームの有無など、この世界特有の物理法則を想定した戦い方を知っていること。使用する武器やスキルに関する技能が完全習熟されていること。反して戦闘行為への経験が圧倒的に不足していることなど.。

 例えて言うなら、ドライビングテクニックは完璧なのに、交通マナーを理解していないようなちぐはぐさがある。

 うかうか信号機で止まってたら、相手に追い抜かれてしまうなんて事があるかもしれない。

 

(悠長な気もするけどまずは様子見かな。)

 

 

 

 

「突撃!」

 

 アウラの発破から、一切に魔獣たちが襲い掛かってきた。

 

 

 一角獣の突進、複眼怪鳥の滑空を、バッティングフォームの日本刀で迎撃。

 蝙蝠からの衝撃波攻撃、巨大マンモスのじならしに対し、希少金属ダイナマイトで相殺する。

 

 こちらは最善手を淡々とこなすが、息を付く暇すら与えず追手は次から次へやってきた。

 

 魔蜂の毒針、ケルベロスの咆哮、魔眼の大蛇、30cm台の蛍蛾の毒鱗粉、

 サボテン型植物モンスターのミサイル針、鉄装甲をかぶった怪獣の尻尾撃ち、火狐の火炎車、電気鼠の雷撃、二足歩行クワガタのギロチンバサミ、

 

 ただ頭数があるだけではない。マタタビの呼吸をずらすように2,3手先まで組まれた多様な連携攻撃が放たれた。

 

 数の利点を活かし、各個体のダメージ量を分散させるようにヒットアンドアウェイを繰り返していく。

 ユグドラシルのビーストテイマーでもこれほどまでに微細に魔獣をコントロールできる者はマタタビの記憶にはない。

 

 以前、マタタビはアルベドに、NPCの戦闘技術について聞いたことがあったのを思い出す。

 その時のアルベドは「ナザリックのシモベは皆、与えられたすべての力をあますところなく使えるようになっている」と答えていた。今ならばそれは非常に恐ろしい事だと理解できる。実践経験が蓄積されていないにせよ、一部プレイヤースキルに於いては究極的高みにあるということではないのか。

 

 ましてやアウラを創造したのは粘液盾の二つ名を冠するぶくぶく茶釜だ。ホワイトブリムに創造された一般メイドが絵描の技術を持っていたならば、指揮官としてユグドラシル屈指のプレイヤースキルを持っていた彼女の因子を受け継いだ場合、一体どうなるだろうか。

 

 

 そろそろ攻勢に出るつもりでマタタビは、自身の習得忍術の中でも珍しい全体攻撃型の技を最大威力で発動させる。

 

「〈爆炎陣の術〉!」

 

 出力最大の忍術は第10位階魔法よりも基礎威力は上である。テイマーのスキルで強化されたといえど、低レベル帯の魔獣ならばまず殲滅できる筈だ。

 間もなく爆炎が噴き出されて周囲一体を焼き尽くした。

 

 ところが魔獣の断末魔は一向に聞こえてこない

 

(そりゃ範囲攻撃の対応も出来るか。マネキンじゃないんだから)

 

 予めマタタビからの範囲攻撃のタイミングは読んでいたらしい。術が発動する間際に高レベルの魔獣を前方配置して攻撃を防いでいたようだ。

 

 アインズやシャルティアならともかく、マタタビの魔法攻撃力では80レベル以上に強化された魔獣では範囲攻撃で倒すことはできない。そもそもマタタビの能力編成ではモンスターを相手取ることを全く想定されていないからだ。そのことをアウラに教えたのは他ならぬマタタビ自身である。

 

 炎の海の干潮際を見計らい一転して、先程の猛攻がお遊びだったような一際大きな攻勢をアウラは仕掛ける。

 

 

 地面から奇襲する八爪口のワーム、自爆し石礫を飛ばす顔岩、回転突進する毒ハリネズミ、鼻から砂埃を巻き上げるカバ、氷柱の鉾を構えるホッキョクグマ、

 追尾する銀色のトビウオ、溶岩の体を持つ蝸牛、丸めた耳でパンチを繰り出す兎、粘着糸を吐き出す巨蜘蛛、目から怪光線を放つ蝶、背に雷雲を背負う虎、

 瘴気を垂れ流すムジナの動物霊、甲羅に放水ランチャーが取り付けられた二足の水亀、巨大な舌をブンブン振り回すピンクのカメレオン、無数の毒手を操る赤目のクラゲ、

 岩の表皮を持つTレックス、綿雲の翼をした歌い鳥、背中にラフレシアを背負う緑の大蝦蟇、鋼の翼を振るう鷹、絶えず自壊する泥の人形、骨棍棒を振り回す骸骨のマスク

 

 

(……こいつら一々相手にしてたらキリねーですね)

 

 消耗戦を繰り返していくとなるとこちらのほうがやや分が悪い。消費アイテムを浪費して持久戦にもつれ込むこともできるが、ナザリックから援軍を呼ばれる可能性も考えてなるべく早期に決着をつけたいところだ。

 

 戦士職や魔法職の戦闘はMPとHPの消費合戦という節があるが、アサシンは違う。

 不意打ちでも陽動でも罠でも良い、とにかく相手の隙きを作って一方的にこちらの勝ち筋を押し付ける短期決戦を最も得意とする。

 

 しかしこの対面は非常に不利だ。先手を取ったのはアウラだし、マタタビ一人では陽動も難しい。これほどの数を相手取ると分っていれば事前準備で戦場に多重トラップでも仕掛けておきたかった。

 いつものマタタビなら得意の逃げ足で即座に撤退するところだが「精神支配状態」らしいからそうも行かない。勝ち筋が全くなくならない限り。

 

「〈レインアロー/天河の一射〉」

 

 更に遠方から無数の光の矢がマタタビをめがけて殺到してくる。

 アウラからの遠距離射撃援護だろう。状態異常や束縛系の追加効果持ちで威力はそれほどでもないが、一撃でも当たればマタタビには致命的だった。

 回避しようと移動するが、ホーミング効果が含まれているらしい。軌道を曲げて追尾してくる。

 

 

 マタタビは自身のアイテムボックスに手を突っ込んだ。

 彼女のアイテムボックスは戦闘に最適化された特殊な整頓がなされており、欲するモノがあれば瞬時に取り出すことができる。これはアイテムボックスが乱雑なモモンガの反面教師として考案された、マタタビオリジナルのテクニックである。

 

「〈アクティブデコイ・フレア〉起動!」

 

 マタタビの体から幽体離脱するように、半透明の分身体が複数体現れ四方八方散り散りに走り去っていく。すると光の矢の束は分身体の方へと向かって分散し、やがて分身が突進した魔獣たちへと炸裂してしまう。

 魔獣の苦悶、そして奥にいるアウラの眉間が寄っているのが伝わった。

 

 このアイテムはホーミング攻撃に対し分身体のデコイを放って誘導する事が出来るのだが、誘導先がフレンドリィファイア有効かつ敵味方問わずランダムなのがタマに瑕。

 MPを消費する癖に一対多を想定した混戦でなければまず使い道はないという不人気アイテムだ。マタタビはこれを非常に愛用している。

 

(本丸抑えてちゃちゃっと終わらせますか!)

 

 穴が出来た包囲網を抜け出て、一直線にアウラの間合いに直進するマタタビ。しかし、アウラの周囲には〈吐息〉の酩酊効果が広がっていたらしく、ポーションで抵抗力を上げた状態でも一瞬怯んでしまう。

 

 アウラ一番のお気に入り魔獣、フェンとクアドラシルが主を守らんと立ち塞がる。手榴弾を二発取り出し二体の顔元へ投げつけ爆発させるが、近距離であったためにマタタビも一部爆風にかすってしまう。ゲーム時代ではあり得ない自爆ダメージだったため、思わぬ不意打ちだった。

 

 その一瞬の間で弓をしまい、アウラが居合いの如く腰から抜き出したのは青白く輝く鞭。これまたマタタビには最悪の武器チョイスである。

 

(茶釜ぁ!!絶対私のことメタってるだろ!)

 

 自意識過剰を通り越して半ば確信を抱くに至る。

 

 マタタビの直接戦闘能力は規格外の素早さに大きく依存している。物理防御力は50レベル台であるため、相手の攻撃をすべて躱して自分は急所に当てるという戦法を取る他ない。

 並の前衛であればある程度は通用する戦法なのだが、鞭系の武器だけには最悪の相性だった。

 

 人力で操る武器の中でも、鞭は史上最速の攻撃速度を有する。マタタビの知るホモ・サピエンスでもうまく扱えば最高ヘッドスピードは音速域だ。一方癖の強い武器でもあるため精々サブウェポン止まりで、かつてユグドラシル内に鞭のプレイヤースキルを極めた者は見たことがなかった。

 

 しかし、ナザリック地下大墳墓第6階層守護者:アウラ・ベラ・フィオーラは「与えられたすべての力をあますところなく使える」技能と、レベル100の超常的身体能力を持つ。

 彼女の鞭術を全て回避するなど、生身で針穴をくぐり抜く方がまだ易しかろう。

 

「ちょっと使いたくなかったけど……スキル〈瞬間換装〉!」

 

 体表を覆っていた学生服が掻き消え、代わりに繊細な刺繍を施されたメイド服の姿に変身した。

 

〈メイド・オブ・ヘル・アルマゲドン/メイド服は決戦兵器〉

 普段はただの作業着に成り下がっているが、元々はマタタビがギルド:アインズ・ウール・ゴウンから報酬として与えられた世界級に匹敵する最強防具。

 隠形能力の不能、そして素早さを平均値にまで減少させてしまう代わりに、耐久力と総合耐性を限界まで上昇させるという破格の性能を持つ。

 この装備を纏ったマタタビの攻撃力は前衛戦士としてやや劣るものの、盾役としては十分な防御力をほこる。ただし防御系のスキルは一切持っていないので、本職に比べると性能面では劣ってしまうのだが。

 

 しかし、職業レベルを野伏とビーストテイマーに割り振ったアウラを屠るにはこれで十分だ。

 

「効かないっ!?」

 

 アウラから、神器級の鞭の連撃が暴風の如く押し寄せる。しかし元来攻撃力の低い鞭では、今のマタタビに有効な打点とはなり得ない。

 〈吐息〉のスキルで陽動を仕掛けるも、常識外に広域なメイド服の耐性の前に防がれ、アウラは驚愕以外の反応を示せなかった。

 

「終わりです」

 

 子供の細い胴体の僅かな中心部、小さな心臓へと目掛け必殺の斬撃が叩き込まれようとしたその刹那、鳴り響いたのは肉を抉り切り裂く音ではなく、硬質同士の衝突する金属音だった。

 

 狩人と獲物の二者、突然の乱入に心を一つにして息を呑む。

 先程の自身の失態を非常に悔やむ狩人。

 獲物は間一髪で生き残った安堵と、反転し「何故逃げなかった」という怒りを露わにした。

 

「ちっ、文字通り死に損ないですね」

 

 マタタビの一撃を防いだのは、儚い輝白色の光子が凝固して象られた月光の化身。シャルティア・ブラッドフォールンそのものだった。

 

〈エインヘリアル/死せる勇者の魂〉

 

 発動者のステータスと武装を完全コピーした分身体を生み出す能力。魔法や特殊スキルは使えないとは言え、単純に100レベルクラスの敵を召喚する能力なのだから弱い筈もない。しかし不可解な点がある。

 

 瀕死寸前のシャルティアでも一応は発動できるが、隙を見計らって分身体に自身を担がせて逃げる事も出来たはずだ。

 

 何が彼女を目覚めさせたのか、何故逃げなかったのか。

 浮かび上がった仮設を思い、自分が意外にロマンチストなのだなと自嘲した。

 

(……なんと恨めしい姉弟愛でしょう)

 

 火力不足に加え、先程の戦闘でマタタビの剣技が見切られてしまったらしい。シャルティアの分身体を薙ぎ払おうにも、一撃一撃を堅実に防がれて上手くいかない。この場合異常なのはシャルティアの学習速度だった。

 特殊技術が使えない点も〈血の狂乱〉の誘発が出来ないのでかえって厄介だ。

 

「これでもくらえ!」

 

 起き上がったクアドラシルとフェン、破れかぶれの体当たりが横からマタタビを直撃した。数十メートル吹き飛ばされて、受け身も取れずに大地へと衝突した。

 

「……痛い怖い逃げたい死にたくない嫌だよぅ……」

 

 実質レベル100二人の連携。ゲームのPVPと異なり、実際に死ぬ可能性を秘めた本気の殺し合いだ。有利対面ならまだしも、1週間前までただの少女だったマタタビには恐ろしくてたまらない。

 

 だがそんな思いとは裏腹に、洗脳効果によって思考はたちまち合理化されていき、感情は闇夜に溶けて消えてしまった。

 

 

◆◇◆

(アウラ)

 

 100体もの魔獣による包囲網をいともたやすく潜り抜け、鞭攻撃や〈吐息〉を物ともせずにあっという間にこちらの命を取りに来たマタタビ。

 シャルティアのエインヘリアルに助けられなければまず死んでいただろう。それほどまでに絶望的で恐ろしい相手だ。

 

 しかし、フェンとクアドラシルがマタタビを吹き飛ばしたのを見て、またダメージを受けたマタタビが一瞬元の少女に戻ったのを見て、勝機が見えた気がした。

 このまま連携を組んでいけば勝てるかもしれない。

 

 だが期待を打ち消すように突然エインヘリアルはアウラの手首を強くつかんだ。その手は酷く強張っている。

 

「え、何?」

 

 分身体の造形はシャルティアそのものだが、顔の表情を表すことも意思疎通することも不可能である。ただ親友としての勘で、恐怖しているのではないかと思った。

 けれどそれこそアウラには不可解だ。マタタビを仕留めるチャンスは今しかないだろう。

 

(……いや違う)

 

 相手を見ると、これまで戦闘中僅かに垣間見えていた彼女の感情意識が、最早完全に抜け落ちている。

 吸い込まれそうな真っ暗闇の瞳孔と、鋭く月光を反射する艶やかな黒髪。思わず見とれてしまいそうな恐ろしくも美しい立ち姿。

 意思を持たない「死」という概念そのもののような濃密な気配、死を慈悲とするアインズとは正反対の超理不尽的存在だけがそこにはあった。

 

 先程戦ったシャルティアはこれを知っていて、だからこそいち早く感じ取れたのだろう。

 

 納得して瞬時、示し合わせるように目を通じ合わせる。エインヘリアルは掴んだ手首を振り上げて、アウラのことを思いっきり投げ飛ばした。方角は言うまでもなくシャルティアの本体だ。

 

「〈火遁・鳳仙花〉」

 

 数発の炎弾がアウラを撃ち落とそうとするが、スポイトランスを投擲したエインヘリアルに妨害される。

 エインヘリアルは小手越しの腕を構え、そのままマタタビへと襲いかかった。

 

「………」

 

 小手と日本刀が激しくぶつかり合う。神器級武器と伝説級武器ではやや分が悪く、やはり破片が散っている。

 飛ばされるアウラは後方から激しい金属音が鳴り響くのを無視して、シャルティアの方へ向かっていく。

 

 四肢と両目を切り裂かれた無残な真祖の姿を改めて目にし、マタタビへと強い憎悪が沸いたがそれを振り払った。

 状態的に一番適している姫様抱っこの姿勢で抱え込み、フェン以外の魔獣を全てマタタビの方へと回した。

 

「みんな突撃!フェンは私達を乗せて、逃げるの!」

 

 魔獣の大群を全て陽動として使い捨てる判断にビーストテイマーとして心が傷んだが、今はなりふり構ってはいられない。

 今回の件をどうにかしてアインズに報告しなければ、恐らくナザリックそのものが危ない。あの存在はそれが出来るだけの力を持っている。

 

 のしかかる勢いでフェンに跨り、背中を蹴って逃げるよう指示する。スタートダッシュをかけたところで、後方から凄まじい爆風と爆発音が追ってきた。

 

 振り返ると魔獣達やエインヘリヤルとマタタビが熾烈な攻防を繰り広げている。あれで倒せるかと言われれば怪しい気もするが、足止めはできている。とにかく今を逃げ切れればそれで良い。

 

 そう思っていた矢先、〈メッセージ/伝言〉みたいなテレパシーが脳へと直行した。

 マタタビの声だった。

 

 『〈Welcome to the stomach of the giant./我が胃袋へとご招待〉』

 

 起伏なく、ボソリと呟やかれたそれは、歓迎というより呪詛のよう。

 肌がピリッと逆立ち、「何かが来る」と本能的に身構えた。

 

 

 

 最初の異常

 引っ切り無しだった剣戟、爆音とそれに喘ぐ魔獣の唸り、大地が抉られる音。

 それらが一斉に沈黙へと閉ざされた。

 

 あまりに常軌を逸した減少に、何が起きたのかと振り返るとコールタールみたいな暗黒の波が既に戦場の一切を飲み込んでおり、夜すらも闇へと侵蝕せんと押し寄せてくる。間もなくアウラ達も飲み込まれてしまう。

 

(これは!)

 

 するとそこは、音も光も匂いも無い、死後のような世界だった。

 

◆◇◆

 

異形種:ケットシー:マタタビ

 

 約10年というロングセラーなDMMORPGユグドラシルに於いて、発売当初から最古参のプレイヤーにあたる彼女の、現在の実年齢は19歳。

 旧クラン:ナインズ・オウン・ゴールに加入した当時はメンバーの中でも最年少。幼女だった

 この話の恐ろしいところは、当時の彼女が後にDQNギルドとして名を馳せるクラン:ナインズ・オウン・ゴールの悪質PK戦術を貪欲に吸収していったという点だ。ぷにっと・萌えやたっち・みーを筆頭に、数多の上級プレイヤーの戦闘技術を幼少期から目の当たりにしてきた彼女の境遇は、まさにPKの英才教育といっても過言ではない。

 そういった数々の影響を受けた彼女のビルド選択は「モンスター戦闘は切り捨て対プレイヤー特化」という、ユグドラシル本来の楽しみ方から大きく逸脱したものとなった。クランを離れた彼女が、後のギルド:アインズ・ウール・ゴウンの化身とも言うべき能力を得るとは皮肉な話だが。

 脱退後の彼女は、様々なギルドに忍び込んで荒らし回るギルド荒らしと、人気のモンスター狩場に大量の即死系トラップを仕掛けやってきたパーティを尽く壊滅させる悪質pkをソロで繰り返し行っていった。蓄積された財力は中小ギルドを有に超えて、個人規模として規格外な域に達する。

 

 そんな彼女の職業レベルの中に、ユグドラシルの元ネタの北欧神話の三代神の一柱、悪神ロキを示す〈トリックスター〉というものがある。

 このクラスの会得条件は『単独潜入によるギルド武器破壊回数累計61回以上』。

 職業設定は『数多の悪行と悪戯により世界を引っ掻き回したユグドラシルの悪神』となっており、運営からの害悪プレイヤー認定と言っても過言ではない。

 最大レベル5で会得するスキルの名は、《Welcome to the stomach of the giant》

 

 使用者が単独で、なおかつ95レベル以上の者を二体以上を相手にしている時のみというピーキーな条件だが、その効果は凶悪だ。

 

 発動時半径200メートル内にいる効果対象者の五感を全て奪い取る能力だ。

 

 視覚だけでなく嗅覚、聴覚、感知能力も封印。

 更にアウラの魔獣等にかけられているような強化効果や〈メッセージ/伝言〉などによる通信効果の完全無効化すら引き起こす。

 結果連携が取れなくなるどころか、互いの存在を認識できず同士討ちが頻発し甚大な被害が発生することになる。

 そして加えて効果対象者が自然回復する分のHPとMPは発動者へと吸収されていく効果があるので、多数が被弾してしまえば量的攻撃による消耗戦も困難。

 これこそかつて1500名によるナザリック地下大墳墓侵攻の際、その内50名を「単独」撃破したマタタビの対集団戦最凶の切り札である。

 

◆◇◆

(マタタビ)

 

 ただ一つだけこのスキルには重大な弱点があって、それは五感が閉ざされた暗闇の中でも何故か使用者の姿だけは見えるということだ。

 

 なのでこのスキルを食らった連中は皆私のほうを注目する。

 でもこれだけで十分戦況はひっくり返るのだ。

 

 言うまでもないことだが、指揮官のいる百獣の軍団と、ただ獣が百体居るのとでは戦闘能力に絶望的なまでの開きがある。ましてアウラの強化スキルを引き剥がされたのだから、戦況の悪化は悲惨の一言に尽きるだろう。

 

 緻密な計算によって行われていた巧みな波状攻撃は無謀な神風特攻に成り下がり、回避を繰り返すだけでそこらじゅう同士討ちの火柱が立つ。壊滅するのも時間の問題だろうが、それ以上に包囲網が穴だらけになっていたのでマタタビが相手をする理由がもはや存在しなかった。

 

 アウラとシャルティアを追いかけることに注力する。

 

 一方アウラ達側は、遮断効果により騎乗用のフェンが使い物にならなくなったため、シャルティアを抱えて足で逃亡する他無くなっていた。

 触覚だけは辛うじて生きているので、元から抱えていたシャルティアとはぐれる事はなかった。ただ周囲風景が見えなくなっているので、木々や岩に衝突しながら少しずつダメージが蓄積されている。

 

 こちらが魔獣の幕が薄い部分を縫うように進んでいくと、そこを待ち伏せの如くエインヘリアルが槍による刺突攻撃を仕掛けてきた。

 咄嗟に半身を反らせて回避するが、その時相手の武器に違和感を覚える。

 

 バックステップで距離を取り、改めて相手の方を観察した。

 

 元々持っていたコピー武器は放り投げたときに消失している。今エインヘリアルが持っていたのは、本体の四肢切断の際に消失した本物のスポイトランスだ。どさくさにまぎれ上手く拾ったのだろう。

 

 相手はこちらを迎撃しようと、じっくりこちらを伺いカウンター体勢を組んでいる。

 時間稼ぎであろうことは明白だが、防御重視のメイド服ではエインヘリヤルを振り切れない。逆に学生服では〈吐息〉と鞭を使うアウラに勝てない。

 どうしたものか。

 

「〈烈風刃衝〉」

 

 片手を翳し、乱回転する空気の塊を発生させて投げつける。

 対しエインヘリヤルは直撃すれすれのところをスポイトランスで受け流し、リニアを彷彿させる猛烈な勢いで突進を仕掛けた。

 槍の切っ先は一点の曇なく頭部を目指してくる。

 比類なき防御性能を有する防具ではあるが、メイド服という形に拘った結果頭部だけ無防備なのだ。

 

「〈不動金剛盾の術〉」

 

 虹色に輝く六角形の盾を出現させ防ぎ、逆に盾の硬度を利用してそのまま体当りする。

 続いて装甲の右肩口の隙間へ刀で突き刺そうとするが、相手の左手に刀を掴まれ動きを封じられた。

 

 隙アリと言わんばかりに槍を振り上げて攻撃してくる。しかし端から頭部を狙ってくると判っていれば躱すのは容易い。

 決死の一撃は体幹をずらす極小の動作によって目標を見失い、宙になびく黒髪をかするのみ。

 この一連の流れには憶えがあった。

 

 直後シャルティアから放たれる膝蹴りを、目視するまでもなく膝で受け止める。

 鮮血の装甲と純白のスカートが交差しけたたましい金属音が響いた。

 

 掴まれた日本刀を捨て、数多の神器スペアからギラついた刀身のサバイバルナイフを取り出した。

 

 そのまま首元を狙いとどめを刺そうとするが、遠距離から放たれる光の矢に被弾してしまう。

 ダメージはないものの、ノックバック効果により吹き飛ばされ大地に叩きつけられた。

 地面から這い上がり遠視すると、シャルティアを抱えながら器用に弓射撃するアウラの姿が確認される。

 

 

(遮断状態で援護射撃ですって!?)

 

 驚きのあまり、薄れかかった感情が再び息を吹き返した。

 

 今のアウラ視点からすれば、虚空に武器を振るうマタタビの姿しか見えず、斬り合っているのがエインヘリヤルかさえ不確定のはずだ。

 つまりマタタビの動きを見るだけで状況を悟り、絶妙なタイミングを見計らって矢を放ったということになる。

 

 そして矢の追加効果がノックバックであるという点がミソだ。

 仮に状況が掴めたとして、それでもこの状況での援護射撃では、姿が見えないエインヘリヤルに被弾する可能性も考慮すると愚策でしかない

 しかしノックバックであれば、たとえ被弾した場合もマタタビのナイフによる致命傷を回避することは出来ただろう。

 

(NPC天性の戦闘センス、なまじ柔軟性に富んでいる分下手なプレイヤーより厄介かもしれない。もしこれが実戦経験でも得た暁には……いや違うな)

 

 先程のエインヘリヤルとの斬り合いを思い出す。

 あの時彼女が繰り出した膝蹴りは、マタタビが槍使いの少年に使ったのと全く同じ動作だった。その時に覗き見たのを真似たのだろう。

 当の本人にそれを使う辺りがまだ甘いものの、この戦闘中にも貪欲に経験値を蓄積させていると考えると恐ろしいものだ。

 

(シャルティアが前衛で時間を稼ぎ、逃げるアウラが片手間に援護射撃。

 これじゃ茶釜とエロ翼王のあべこべですね。ならそれを利用してやろう)

 

「〈火炎弾〉!」

 

 口から龍を象る巨大な灼熱業火を吹き出す。

 MP吸収効果に物を言わせた最大出力なのだが、放つ方向はエインヘリヤルから右に大きくそれている。

 一見意味不明の行動だが、半端に回る頭で察した彼女はむしろ自分から炎龍へと飛び込んだ。

 そっちがアウラとは逆方向だとは知らずに。

 

 そして走るアウラへと距離を詰めようとダッシュするものの、今度は追い付いてきた魔獣軍団、――もとい魔獣の群れが襲いかかってくる。

 こちらへの対処は簡単だ。指令塔はもう居ない。

 

「邪魔っ!〈爆炎陣の術〉」

 

 風に乗った火炎が渦巻きを作り出し周囲の魔獣を一掃する。盾役は不在で、尚且つスキル強化が剥がされた分魔法防御も低下しているので先程より圧倒的に被害が多きい。

 

 こちらを遠ざるために走りながらアウラがノックバックアロー連射するが、こちらは魔獣の方へ被弾するような避け方で回避して距離を詰める。

 無駄を悟ったアウラはただ走ることに集中しはじめたが、追いつかれていく恐怖と絶望感は〈読心感知〉を持つマタタビには筒抜けだ。

 

 ようやく囮攻撃を悟ったエインヘリヤルも追いかけてきたが、彼女の召喚時間も無制限ではない。

 シャルティアとアウラにトドメを指すまであと十数メートルまで追いつき、あともう少しでというところ。

 

 しかしまたしても、今夜三度目の妨害がマタタビへと去来した。

 突如強大な敵意がマタタビへと降りかかったのだ。

 

(援軍?……いや違う。こいつ、気配がしない)

 

 記憶では、マタタビの気配感知を潜り抜ける芸当ができるNPCはナザリックには居ない。

 だが半径100メートル範囲の〈読心感知〉で敵意は感じ取れるのに、何故か更に広範囲な別の感知能力に一切反応は無かったのだ。

 

 つまり考えうるは、ユグドラシル由来ではないこの世界独自の異能による気配遮断能力だということ。

 少なくともそいつはプレイヤーではないが、何故かこちらに強い敵意を持っている。

 

(……結構まずいかも)

 

 であるならどうするか。最善手は、間もなく屠れる筈だった眼前の獲物は見逃すということ。

 さもなくば、こちらがとどめを刺している隙間を狙われる可能性がある。

 死ねば最悪、誰も始末することが出来ないで、最悪よりマシな選択肢をマタタビは選んだ。

 

「ッチ、スキル〈瞬間換装〉」

 

 舌打ちしつつ、メイド服から使い慣れた神器学生服へと着替え直す。

 

「……まったく、つくづく命拾いしましたねあなた達。そうね、良ければアインズ様によろしくって伝えてね」

 

 眉間に皺を寄せ憎らし気な視線で睨んだ後、マタタビはそう言い捨ててアウラ達の前から姿を消した。

 

 

 

◆◇◆

 

(アウラ) 

 

 

 結局マタタビが二人を見逃した理由は考えてもわからなかった。謎の暗黒空間は、彼女が姿を消して間もなく解除された。

 

 走りながら振り返ると後方には、アウラの魔獣の死骸がこれでもかと積み重ねられている。

 生き残ったのは80レベル以上の極小数だけで、更にそれすらほぼ瀕死状態であるために、マタタビの脅威を想起させる材料にしかならなかった。

 

 

「うぅ……なんで!」

 

 階層守護者二人がかりでも惨めに敗走する他ないという事実がアウラに死にたくなる程の屈辱を与え、絞り出すような涙を流した。

 何事もなく順調に帰っていれば、魔樹を滅ぼし薬草と木材資源を持ち帰ってアインズから褒められたかもしれないというのに。

 

 常時の頼れる姉御気質は「自分がちゃんとしていれば」という自責を一層強めるばかり。

 唇を噛み締め、重体のシャルティアをぎゅっと抱きしめる。頬から垂れる雫がピタッとシャルティアの頬へと垂れる。

 それに応えようとパクパク口を動かし反応するシャルティア。しかし潰された喉には、掠れた空気の流動しか出すことが出来なかった。

 

「バカ、無茶しないで。もうすぐナザリックよ」

 

 

 冷たい肌から感じる温もりが、今は愛おしくてたまらなかった。

 




 ちなみに最後にやってきた謎の気配は、評議国の鎧ということにしています。
 今後登場させるかは決まっていません。もし王国編を書きおえられたら登場させようかな?無事行けたらいいんだけど……

 あとオリ主の切り札スキル、あれは単独で50人斬り出来る糞チート能力です。
 作者の文章力の問題でめっちゃ分かり辛いですけどね。
 どうしても気になるという方は、これから活動報告に詳細載っけますんでそこからどうぞ



 感想、気に食わぬところ、誤字脱字があればどうぞコメントしてくださいお願いします

 次回ようやくアインズ様が主人公がを始めます。 


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幕間

身内では雑魚キャラ臭漂わせておいて、敵に回ると強キャラ化するマタタビとかいう無能オリ主
おそらくオバロオリ主界隈でも屈指の無能っぷりでしょうな。


幕間だから今回は短めです。





カルネ村空き家 (アインズ)

 

 

 あれからアインズとナーベラルは、名指し依頼によりある人物をカルネ村まで護衛をすることになった。途中色々あったがここでは省略する。

 ともかく現在は、カルネ村の空き家に宿泊することになったということだけを押さえておけば良い。

 

 

 天井から吊り下げられた蛍光ランプの弱々しい灯火は誘蛾の羽ばたきによって見え隠れし明滅を繰り返している。薄汚れた白塗りの壁の所々、拭いきれなかった茶色いシミが残っており、見るものが見ればそれが何なのか理解できるだろう。

 

 鈴木悟ならば怖くて一泊するにもご遠慮したいところだが、幽霊を恐れる死の支配者とはいかにも馬鹿らしい。

 絶対支配者休業中のアインズは、硬いベッドに腰掛けて溜息……のような何かを零した。

 

 不潔感が嫌なのか、それとも主のそばでくつろぐことを躊躇っているのかわからないがナーベラルはドアの横で仕えるように立ち尽くしている。

 

 宿泊と言っても夜はまだ長く、やることは別にない。沈滞したようななんとも言えない空気の中を二人は過ごした。

 

 

(あー暇だ、やっぱりナザリックに帰るべきだったか?)

 

 部屋は当然密室なのでやろうと思えば転移で帰還することも当然出来たのだが、そもそも冒険者となった本音の理由はナザリックのストレス空間から逃れるためなのだ。

 そう考えるとナーベラルがついて来たのは本末転倒だったが、あの場所から距離を置いただけでも意外と気分が軽くなった気がする。これまでたった一人で維持し続けてきたナザリックだというのに、それこそ矛盾しているかもしれない。

 

 暇にあかせてルプスレギナから預かったマタタビの少女漫画を読んでみた。

 しかし、現実離れした異性像やキラ付いた画風がどうも好きになれない。青臭くて甘酸っぱい人間模様のやり取りは見ているだけでお腹いっぱいになる(骸骨に腹はないけれど)。

 

 異性で尚且つ倍近い年齢差があるマタタビと趣味嗜好が異なろうと、それは仕方ないことだ。最近の子はこんなのが好きなのかぁ、という年寄りくさい感慨に耽る。

 しばらくして、室内でじっとこちらを見てくるナーベラルの視線が居た堪れなくなり、結局ページ数半分程度で閉じた。

 

 

(そういえば、ナーベラルは退屈しないのか?)

 

 ちらっと彼女の方を見る。公私混同というか、公=私みたいなところのあるナーベラルは別段不満そうなようには見えない。

 強いて言うなら、至高の存在がただの民家で一晩過ごされる、ということに苦言を呈していた程度だ。こちらが問題ないと言うと一応は引き下がってくれた。むしろ二人きりのこの状況を、どこか嬉しがっているような気さえする。

 

 ひとつ屋根の下で美女と二人きりというシチュエーションに男として何も感じないこともなかったが、友人の娘的な存在に手を出してしまうほど、鈴木悟は節操のない人間でもない。ましてや今はアンデッドなのだから。

 

(……うーん、それにしても気まずい。)

 

 アルベドの場合は事務的が多いし設定改変のこともあって非常に構ってくるのに対し、ナーベラルの場合はかなり物静かである。

 アインズ個人では後者のほうが好ましいのだが、密室の沈黙は別ベクトルの心労をもたらすことになった。身に纏った全身鎧の内側に疼くようなムズムズを感じても、やはりどうすることも出来ていない。

 

 薄暗い部屋の中、ベッドから見上げる凛としたナーベラルの横顔は天上の月光のようであり、主従を分かつ絶壁はかくも果てしなかった。

 

 今日で異世界転移から十日目、幾度となく繰り返した自問は未だアインズを飽かすことはなかった。

 

 

(かつての仲間達みたいにNPC達と肩を並べることが出来るだろうか?)

 

 世界征服の方がまだしも優しいかもしれない。彼らを傷付けてしまうかもしれない。それでも思わずにはいられなかった。

 なぜなら

 

 見てしまったからだ、カルネ村でアルベドと親しげに話す姿を

 

 聞いてしまったからだ、トイレから響くエクレアと共に笑う声を

 

 知ってしまったからだ、バーでのデミウルゴスとの一部始終を

 

 頭蓋裏にこべり付いた情景は渇望の業火の薪となり、アインズの身を冷酷に焼き焦がした。

 自分はどうしようもなく一人なのだと、求めてしまうくらいなら気付かなければよかったと思う。

 それでも狂いたくなるくらいの妬みを押さえ込み、共に外出しないかと彼女を誘ったが断られた。

 

 それらは今に至るまでアインズを苛み続け、剥き出しの精神を徐々に削り取っていき

 泥水に満たされたお盆は、とうとう一滴、どす黒い涙をこぼした。

 

「……おまえなんて、いなければよかったんだ」

 

 静かな水面に垂れた一雫が波紋を広げるように、小さく呟かれた一言は無音の部屋にはっきりと響いた。

 

「ああああぁあいんじゅさま!?どどどどぅどうされたというのですかっ!私が、今度は一体どのような失態をしてしまったのでしょう!?」

 

 アインズはテンパるナーベラルを見て自身も驚愕したが、間もなく沈静化により正気を取り戻した。

 

 自分が口にしたことがあまりにも信じられなかった。

 ひとまず支配者ロールを緊急発進し、恐慌するナーベラルを諭した。

 

「すまないナーベラル、お前では……お前のことを言ったわけではない。紛らわしいことを言って悪かった、許せ」

 

「いえ、アインズ様が謝られることはないのです!悪いのは、アインズ様を煩わせたその者に決まっております」

 

「いや、それは……」

 

 覆水盆に帰らず。

 八つ当たりだということは、アインズ自身イヤというほど理解している。

 無意識にこぼれ出た悪意は理性に抑制されるも、呪い返しのような後悔になって本人を蝕んだ。

 

(俺、何言ってんだ……こんな)

 

 そんな時、〈メッセージ/伝言〉が届く。

『アインズ様』

 

「……アルべドか」

 

『執事長助手秘書官マタタビが、反旗を翻しました』

 

「え」




筆遅くてごめんなさい。次回分は6割り程度出来ています。


実はもっとギャグやる予定だったのです。
だのにどうしてこんな構成になった……


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そういえば今更ですが、オリ主の見た目は「ひまわりさん」で検索するとわかります
まか当然性格は全然違います


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悪意を自覚する不死者 知恵に溺れる淫魔

オリ主の「猫可愛がられ~」のくだりを全カットしました。
メアリーさんがどうとか言われたし、自分でも気に食わなくて納得できなかったからです

相変わらず投稿ペースが遅くて嫌になる……一応毎日書いてるんだけど


 マタタビの反逆を知らされた俺は、宿泊場所の留守をナーベラルに任せ、急いで転移でナザリックへと帰還。出迎えたプレアデスから転移の指輪を預かり、アルベドとともに執務室へ移動して詳しい報告を受けていた。

 

「――その後、シャルティアがとどめを刺される間際でアウラが参戦しましたが、敗北寸前にまで追い込まれました。

 しかし、詰めのところで何者かの気配を察知したマタタビが撤退し、辛くも敗走。

 以上が今に至る経緯となります」

 

「そうか……シャルティアとアウラの状態はどうだ」

 

「重症のシャルティアは現在ペストーニャを主導に集中治療が行われておりますが、命に別状はありません。

 アウラの方は特に手傷はありませんでしたが魔獣軍団は壊滅的被害を被っており、シャルティアのこともあり軽度の心神喪失状態にあります。

 二名共に戦線復帰はあまり薦められません」

 

「いや、二人共、彼女を相手によく無事で帰ってきてくれた。

 もしこの状況で情報も得られないままであれば、最悪の事態も想定せねばならなかっただろうからな。」

 

 だが、シャルティアを精神支配から庇うなんておかしな話だ

 アンデッドであるシャルティアには精神支配は無効のはずである。それを知らずに身代わりとなるような彼女ではないだろう。一体何の意味があるというのか

 

「マタタビ本人による供述であるため、ブラフの可能性も考えられますが」

 

「いやまて、一つ心当たりがある。アルベド、精神支配の術者はどんな姿をしていた?」

 

「アインズ様の御耳を汚す冒涜的な格好なのですが……」

 

 曰く、純白のチャイナドレスを纏った老婆ならしい。

 想像してみるとかなりアレすぎる格好だ。死獣天朱雀さんでも顔を顰めることだろう。

 

 ……ともかく謎は解けた。どうして今まで警戒してこなかったのか不思議なくらい、大きな見落としだった。

 

「まさかチャイナ服とは〈傾城傾国〉、ワールドアイテムのことか!?

 マタタビさんがシャルティアの身代わりになるなんて、それしか……いや」

 

 それでもおかしい。そもそもどうして彼女は、ロクに面識のないシャルティアの身代わりになんかになったのだろうか。

 NPCを庇うプレイヤーなど、ユグドラシルでは笑いものにされたに違いなかったろう。

 

 しかしアインズは知ってしまった。たっち・みーの面影を残すセバスを、姉弟のようにじゃれ合うシャルティアとアウラを。

 

 

 眼窩の赤い灯火を閉じて思い浮かべたのは、バードマンの影を被ったシャルティアを突き飛ばす、黒髪の少女の姿。

 多分、何も考えてなかったのではないだろうか。

 普段は計算高いのに頭に血が上ると体が勝手に動く、彼女はそういう人だ。

 

 端から見ればただの馬鹿者だろう。それでも今のアインズには、ひたすら気高く映った。

 

 果たして自分に出来るだろうか?討たれる「子供たち」を前に、駆け出したい衝動を抑えることが。

 結局答えは出なかった。今の自分はこの地を守る主人、しかし我が身可愛さがまったく無いとは断言できない。

 

 途端、NPCの事で彼女に嫉妬する自分が酷く矮小で、馬鹿らしい存在に思えてならなかった。

 

「糞! 糞! 糞がぁ!」

 

 思いのままにまかせ床を何度も蹴りつけた。100レベルの身体能力は強烈な地響きを部屋全体へと轟く。

 だが九階層の床はびくともしない。

 最終日と違ってダメージカウント表記は現れなかったが、それでもやはり虚しかった。

 

 激情と鎮静化を数度反復し、思考はやっと冷静さを取り戻した。

 気付くと、側にいたアルベドの瞳は潤み、含意のある悲しげな面持ちで黙ってこちらを見ていた。

 

「……すまないな。少しばかり我を忘れていたようだ。今の失態は忘れてくれ」

 

「アインズ様が謝られることはありません! 全ての非は、常日頃マタタビを監視していながらこのような事態を招いた私にあります!」

 

 なんだかやたら食い気味で、(色事関連でもないのに)アルベドにしてはらしくもなく強引な論調だ。

 しかし、自分が悪いのだと一切疑っていない。

 

「気負いすぎだ、アルベド。彼女の上司はエクレアだし、そもそも事件はナザリックの外側で起こったこと。

 断じてお前のせいではない」

 

 言った言葉が、自分に跳ね返ってくるような気がした。

 

「違うのです! 私は――」

「違わない」

 

 守護者統括という立場から、余分に責任感を覚えているのだろう。

 まるでそれが今の自分自身に重なって見えて、妙なシンパシーが感じられた。

 だからこそ、そんな悲しそうな表情をして欲しくはなかった。

 

「アルベド、おまえには感謝しているのだ。あの子をずっと見守ってくれていたのだろう?」

 

「ですから!」

「メッセージではアルベドの話ばかりしていたぞ。あれでかなり気難しい奴だから、彼女が懐くなんてウルベルトさん以来だ。

 おまえに話をするために、俺の過去の冒険譚を聞いてきたりもしてきた。「武勇伝」と聞かれたから、答えるのも気恥ずかしかったがな」

 

 こちらが何か言うたびに嗚咽を漏らし、やがてアルベドは涙を流してしまう。

 女性経験に疎い自分ではどうすれば良いのか解らずたちまち困惑した。

 

 先程読んだマタタビの少女漫画を思い出して、おもむろに骨の手をそっとアルベドの頭へと伸ばした。

 漆喰のような豊かな黒髪へと指が優しく包み込まれていく。その柔らかさに驚きつつも、表には出さず優しく撫でつけた。

 

「よすのだ、どうしてアルベドが泣く必要がある。

 本来彼女とは私が相手をしなければならなかったのに……そう出来なかったのは私の弱さ所以だ。

 あぁ……まったくこれではかつての仲間達に顔向けできない。

 それでもアルベド‥‥彼女を一人にしないでくれて、本当にありがとう」

 

「あああああぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 アルベドは、顔を手で覆って泣き崩れてしまった。

 

(……そんなにマタタビさんのことを思っていたなんて……)

 

 自身がマタタビに歩み寄れない怠惰さを見せつけられるようで、忸怩と胸が傷んだ。

 

 NPCとして与えられた忠誠心ではない、純粋な思いやり。自分には到底手に入れられないものだ。

 こんな状況でもなお、嫉妬心が湧くのを止めることは出来なかった。

 

 

 

 

 結局アルベドは自室で休ませることにした。

 当然本人は固辞しようと抵抗したが、やつれた彼女の言質を取るのは悲しいくらい簡単だった。

 

 今はアルベドの穴埋めとして、外部で働かせていたデミウルゴスの帰還を待っているところだ。

 

 無駄に豪奢な回転椅子にもたれ込み、大理石の天井に吊るされたシャンデリアをぼんやり見上げた。そして本日何度めかもわからぬため息もどきを呟いた。

 

「……あぁ」

 

 緊急時なのだから転移魔法で早く済ませたほうが良いのだが、あえて執務室まで呼びつける遠回りをさせている。

 自分の気持ちに整理をつけるために。

 

 だが、宙に舞う蝿を取り損ねるように、その試みは上手くいっていなかった。

 

「……糞が」

 

 もう手遅れだからである。

 

 白いチャイナ服の術者という供述から、彼女を洗脳したアイテムは世界級:〈傾城傾国〉と見て間違いない。

 ところが術者は〈読心感知〉で敵対認証されて、中途半端な洗脳状態のまま世界級を奪われたのだという。

 彼女が敵の手中に堕ちるというナザリックにとって最悪の事態は免れたものの、ある意味どうしようもない状況だった。

 

 世界級の洗脳効果は、アインズ・ウール・ゴウンの所有するとある世界級アイテムを消費すれば解除することは可能である。

 

 仲間を救うためなら世界一つ分とて惜しくない。

 

 ところが今の彼女にはそれが出来ないのである。

 何故なら、彼女を救う為に二十の世界級を発動させても、既に〈傾城傾国〉を手にしたマタタビには効果が無いからだ。

 

 つまり自体を解決する手段はたった一つしかなく、まさにそれこそ最悪の事態のようにも思える。それは、彼女を――

 

 

 

 そこから先は考えるなとでも言うように、扉の向こう側から軽快なノックオンが鳴り響く。しかし続いて述べた口上はやけに重々しかった。

 

「アインズ様、厳命に従い馳せ参じました」

 

 デミウルゴスだ。

 

「……構わん、入れ」

 

「失礼します」

 

 一瞬、入室してくるデミウルゴスの気配が、ウルベルトさんに重なって写った。

 今しがたの思考を責められるような錯覚を覚える。

 

「〈メッセージ/伝言〉で要件は聞いた筈だな? 今から第5階層のニグレドの元へ行って捜索をさせる」

 

「御心のままに」

 

 表情は固く、彼らしくもない短い台詞だった。

 

「では行くぞ。ついてきてくれ」

 

 

第5階層 氷結牢獄

 

 

 氷河を意識して作られた第5階層の大地は鉛色の曇天から降り注ぐ粉雪によって白く塗りつぶされている。

 巨大な氷塊が山脈のように連なっており、透明な結晶は青白く発光していて見る者の心を凍てつかせる。同じ光でも太陽光とは正反対な印象だ。

 

 そして氷の世界の只中にポツンと置かれた洋館は、牢獄という名前に反して童話『雪の女王』を彷彿とさせるメルヘンチックな雰囲気を醸し出していた。

 

 洋館の中は外部よりも尚寒いが、冷気耐性のある俺とデミウルゴスには何の問題もない。淡々と目的地へ歩いて行く。

 ただ精神的な意味で、二者間の空気は凍りついていた。

 

 どちらかと言えばお喋りな部類のデミウルゴスだが、先程からずっと寡黙を貫いている。見るからに不機嫌であり、話しかけるのは非常に憚られた。

 そして多分、彼から見たら今の俺も相当不機嫌なのだろう。

 互いを腫れ物のように扱う空気は不快で堪らなかった。

 

(……彼女が抜けたあとのウルベルトさんも、こんな雰囲気だったなぁ)

 

 だがここで押し黙っていては彼女を羨む資格もないだろう。俺は意を決してデミウルゴスに話しかけた。

 

「なぁデミウルゴス、お前は彼女をどう思っているのだ」

 

 質問するまでもなく、彼の心情についての検討はなんとなくついていた。

 無闇に痛いところを突いたことに罪悪感が湧いた。しかし、他に何を話せば良いのかわからなかった。

 

 眉をひそめ、喉元に言葉を詰まらせ苦悶しながらも、デミウルゴスはゆっくりと返答した。

 

「マタタビが、一時期は御方と肩を並べられた人物であることは本人より伺っています。

 それを踏まえた上で私が正直な心情を述べれば、御方々に対する不敬に違いないでしょう。もし不快になられましたら――」

「この状況、そんな下らないことで自害なんてしてくれるなよ」

 

 思わず高圧的な言葉が出てしまい、自分が嫌な上司像と重なってうんざりした。

 

「……すまない。自らが下らない失態を犯したことで、不機嫌になっていたようだ。許して欲しい」

 

「何をおっしゃいますか、頭を上げください! 軽率な発言をした私こそ責められるべきです」

 

 そう言われてもやはり気になったが、ここで張り合えばイタチごっこになるであろうことは明らかだった。

 

「よくわかった。では話してくれるか」

 

 ――はい と言ってデミウルゴスは続ける。

 

「初め見た時は臆病で内向的な性質に思われたのですが、実際に話してみると、協調性に欠け周囲に対し摩擦を生み出しやすい人物でした。

 

 しかして何故か、私自身彼女に対し親近感が湧いてきて放っておけなく思ったのです。まるで旧知の間柄だったかのような気すらしました」

 

「そ、そうか……」

 

 ある程度の好意があるのは見越していたが、その斜め上くらいの返答がやってきたため狼狽した。

 今にして思えば「彼女をどう思っている」という質問は部下に対するセクハラ染みていたのではとすら思った。

 

 精神沈静化をしているうちに、デミウルゴスから一本釘を差される。

 

「しかしアインズ様、もし私めの心情を慮って彼女への対処を緩めることを考慮されておいででしたら、それだけは何卒おやめください」

 

「……わかっているさ。彼女は危険だ」

 

 デミウルゴスなら彼女の処遇について自分と違う結論を出してくれるかもしれない。そんな淡い期待は、やはり儚く消えていった。

 彼とデミウルゴスは別人なのだから、当然といえば当然の話だ。

 

 

 ややこしい状況と拗れた自分の感情が、二重螺旋をおりなして頭の中で無限ループを描いていていた。

 思考は混沌の渦で濁っており、どれだけ頭を抱えて見せても光明は見いだせないでいた。

 

 ただしばらく渦の中心を眺めていると、光明の代わりにある人物の影がちらつくようになる。

 それが誰なのかは最早言うまでもなく、やがて彼女を取り巻く濁りの正体に気が付いた。

 ――もとい、思い出した。

 

 それはなんてことない、だたの負い目であった。

 

 今更ながら白状する。

 彼女がクラン:ナインズ・オウン・ゴールを辞めた時、俺は内心ホッとしていたのだ。

 

 ふと、クラン時代の思い出のとある1ページを偲んだ。

 

◆(回想)

 

 当時まだ初心者でビルド選択について悩んでいたマタタビに「たっち・みー」がこう持ちかけたのが始まりだ。

 

『マタタビさんには前衛としての才能があると思うんですよ。

 よろしければ戦士職の職業編成について相談に乗りましょうか?』

 

 ワールドチャンピオン直々の職業相談というのは、ユグドラシルプレイヤーなら誰もが羨む魅力的な提案である。

 だが当時、年上に囲まれてマセていた彼女は、早くも反抗期を迎えていた。

 

『お断りします。どうせ戦士じゃあなたに勝てないのに、相談だなんて嫌味ですか?』

 

 幼女にしてはあまりに嫌味すぎる嫌味を受けて、イケメンスマイルはビシッというひび割れた幻聴を響かせた。

 見ていた周囲は気の毒そうな視線を注ぐ中、一人手を叩いて笑い転げまわる山羊悪魔がいた。

 

『たっちさん振られちゃいましたねぇwww』

 

 凍りついた笑顔が灼熱によりたちまち氷解し、ギロッという鋭い視線が声の主へと向けられる。

 

『……ウルベルトさん』

 

『アハハハハ! いやはやごもっともな反論ですねぇマタタビさん。よければ私が魔法職の職業編成手伝って差し上げましょうか?

 彼に一杯食わせるってんならぜひ協力しますよ』

 

 仇敵の消沈を見て得意げになったウルベルトが語りかける。だが、無自覚に仇敵を認めている言動は相変わらずであった。

 

『魔法職は興味ないので結構です』

 

『え……アッハイ』

 

 氷柱みたいな一言がお調子者を貫いた。

 先と同じく同情的な眼差しが向けられるが、やはり彼だけはむしろ愉快そうであった。

 

『あはははは! 結局ウルベルトさんも断られてるじゃないですか』

 

『私があなたと同類だなんて聞き捨てなりませんね。嫌味なたっちさん』

 

『なるほどもっともな話です。ならここは一つ、剣と魔法をぶつけて雌雄を決しましょうか?』

 

 魔法職最強と戦士職最強が燃え盛る闘気をぶつけ合い、見守る周囲の間にも緊張が広がっていく。

 蚊帳の外に放り出された元凶は嫌そうに眉を顰めた。

 

『うわぁ……ないわ』

 

 ボソリとつぶやかれた一言は、ワールドの名を冠した最強職ホルダー二人を一辺に打ちのめした。

 雌雄は決し、爆心地に残されたのは二名の敗者だけである。

 

『……もちっと自分で考えてきます』

 

 屍を背にどこへともなく歩み出す彼女を引き止められる者は誰も居なかった。

 幼女から罵られたくて「〈スナイパー〉系どうっすか?」と宣うバードマンもいたのだが、ピンクのスライムに取り押さえられその発言が耳に届くことはなかった。

 

◆(回想終わり)

 

 天邪鬼で口が悪くてぶっきらぼう。協調性に欠け周囲と不協和音を奏でる彼女の存在は、正直言って苦手だった。

 でもそんな彼女も、仲間の一人として認められていた。だから俺も仕方なく、認めていたに過ぎなかった。

 

 自分の嫌いな人を好きな人もいる

 自分の好きな人を嫌いな人もいる

 

 彼女への嫌悪を認めたくなかったのは、そんな当たり前の理屈に納得できない自分を直視したくなかったからだ。

 

 そして嫌悪しながらも今更になって、たった一人残った仲間としての彼女の存在に都合よく依存する自己矛盾を避けたかったから。

 

 俺は、最後までナザリックに居た者として、自分と彼女を同一視してしまっていたのだろう。

 多分それに気付いていたから、彼女は冒険者になる誘いを断ったのではないか。

 

『やはり相変わらずですね』

 

 どちらにしても彼女は俺の、たった一人の理解者だったのだ。

 唯一の理解者を失った喪失感は、骨ばかりの俺の胸中が、これでも存外満たされていたのだと嫌という程知らしめた。

 

 どうしてこんな時になって気付かされるのだろう。

 あるいは、今回の事件が起きるまで気づけなかった自分自身は、なんとも救い難いことだろうか。

 

 

 考え事をしていたことで再び途切れてしまった会話を、今度はデミウルゴスが拾い上げた。

 

「御身をして『危険な存在』と言わしめる彼女とは、実際どれほどのものなのでしょう。

 どんな力量を持ち合わせていようと、所詮個人であるならば数の利にまさるナザリックの敵ではないように思うのですが?」

 

「ああ、確かにそれは正しい。たとえ〈ワールドチャンピオン〉と言えど、同レベル帯を複数相手にして勝利することは難しいだろう」

 

「では一体?……」

 

「彼女の得意戦術は撹乱だ。ギルド荒らしとして活動していた彼女には敵対勢力が多くいたが、討伐隊相手に彼女は単独で渡り合ってきた。

 100レベルが複数体相手といえど、半端な連携では容易く返り討ちにされるのがオチだ……アウラとシャルティアのようにな……」

 

 それを聞いて一瞬くぐもるように眉をひそめるデミウルゴスを、アインズは見逃さなかった。仲間に対する心配と、無力な自身への叱責のように見えてならない。

 

「……なるほど不見識でした。さしずめ彼女は対集団戦のエキスパートという訳ですね?」

 

「そうだな。だからこれからの対処を考えるにあたり、まずは状況確認が必要だ。

 ……さて、そろそろニグレドの部屋だな。用意はいいか?」

 

「はい、問題ありません」

 

 

 

 タブラさんの仕掛けた茶番劇を一通り終えて、落ち着いたニグレドにマタタビを探知するよう頼んだ。

 

「しかしアインズ様。私はその、マタタビという者と会ったことは無いのですが、何を手がかりに探知すれば良いのでしょう?」

 

「そういえばそうだったな。では彼女の保有しているスクロールを依代に〈ロケート・オブジェクト/物体発見〉を発動してくれ。

 彼女の持っているスクロールの殆どには、私の魔法が込められている筈だ」

 

「そうなのですか? では、承知しました。そのようにさせていただきます」

 

《カウンター・ディテクト/探知対策》

《クリスタル・モニター/水晶の画面》

《クレアボヤンス/千里眼》

《ディテクト・ロケート/発見探知》

《フェイクカバー/偽りの情報》

《ロケート・オブジェクト/物体発見》

 

「これは!?」

 

 ニグレドが続々と情報系魔法を発動させた。

 モニターが写りだしたのは、平原に立ち尽くすマタタビと、その足元に転がる銀色の全身鎧の残骸だった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

ナザリック地下大墳墓9階層スイートルーム(旧予備部屋)アルベド私室 (アルベド)

 

 

 ギルド旗の耐久力はそれなりに高い。並の者が引き裂こうとするなら手から出血するだろう。

 ところが重厚で格調高い紋章の御旗、その布地は、バリバリと断末魔を上げながら見事2つにちぎられていた。

 

 二枚になった布は部屋の入口扉へと投げつけられ、バシンという音が響く。

 どうして扉なのかと言われれば、その方向しか投げられない為だった。

 

「あぁ、あいんず様あいんず様あいんずさまぁ、どうかどうかどうかぁ……ぁ」

 

 アルベドは奇声を挙げながら部屋を逡巡する。

 

 そこには一面のアインズで埋め尽くされていた。

 ぬいぐるみ、等身大ポスター、フィギュア、枕カバー、写真

 その全てが、彼女の敬愛するアインズ・ウール・ゴウンの肖像だ。

 アルベド自作のアインズコレクションで埋め尽くされたこのハーレム部屋では、扉以外にモノを投げ飛ばす方向は存在しないのである。

 

 そんな彼女にとって理想郷のような場所であるのに、気分は一向に晴れなかった。

 むしろ、コレクションから目を背けたがる自身の存在に女は気付いている。

 

 原因はわかりきっている。マタタビの件を報告した時だ。

 

 実のところマタタビの離反そのものは、アルベドの計画にも都合が良かった。

 

 守護者最強のシャルティアと、軍としての強さを持つアウラ。

 二人を返り討ちに出来る実力を確認できたことは非常に大きい。もしも利用できるのであれば、場合によってはルベドより有用な駒になる。

 

 そして何より、この事件からアインズとの関係性の溝が深まれば、彼女は更に利用しやすくなるだろうと思われた。

 だがそこが大きな間違いだったのだ。

 

 

 アンデッドであるアインズの表情は、白磁のような骸骨であるため読み取りづらいく、故に仕えるシモベはその内心を想像していく他に、理解への足がかりを持たないのだ。

 だがアルベドだけは唯一、その骨身の裏側にある内心を読み取ることができていた。

 

 報告した際、アインズは強い動揺を示し、それがアルベドの想定を遥かに超えるものだったのである。

 

 どうしてそんな誤算が起こったのか、思い返してみれば非常に馬鹿馬鹿しい凡ミスだった。

 

 精神的接近を図るために隣部屋のマタタビの元には頻繁に訪れていたのだが、そこでは彼女からよく至高の方々のエピソードを聞かされていた。

 その話を聞く限り、どうにもモモンガがマタタビを疎んでいるようなニュアンスが含まれていた。これを何度も聞かされていたアルベドは結果バイアスに踊らされ、アインズ自身のマタタビへの認識というものを完璧に見誤ってしまっていたわけだ。

 

 アインズのマタタビへの想いはアルベドの想定以上に強く、実際は至高の存在へのそれと同等以上の域にあった。

 これの意味するところは、非常に大きなものなのである。

 

 だってそれはつまり、アインズにとって二人を引き裂く裏工作は、至高の存在に置いて行かれれる寂しさと同義の仕打ちだったということではないのか。

 アルベドにとってこれほど耐え難い事実はない。

 

 憎むべき至高の存在同様、他ならぬ自分自身がアインズを傷つけてしまったというのだから。

 

『彼女を一人にしないでくれて、本当にありがとう』

 

 確かにマタタビはアルベドという理解者を得た。

 だがその結果、アインズの孤独はより深まってしまったのだ。他ならぬアルベドの策略により。

 

 主人から向けられる感謝はシモベにとって最上の幸福であるはずなのに、今のアルベドにはいかなる罰よりも苦痛であった。

 いっそ罰されたほうが楽とすら思えるくらいに。

 

「ああああ!! 違うのですアインズ様、私は私は私は私がぁ……」

 

 けれどその先を白状することも、やはりできなかった。

 我が身可愛さなど微塵も持ち合わせていない。ただ、失望し落胆するアインズの姿を見るのも同様に恐ろしかったのだ。

 

 アルベドがアインズに開けてしまった空白は、自分自身では埋め込むことすら出来ない。

 今それが出来るのは世界で唯一人、彼女だけだ。




アルベドがオチ要員として定着しつつある。一辺倒な描写は良くないからこれから反省

感想、気に食わぬところ、誤字脱字があればコメントお願いします






※偽次回予告

マタタビ「シャルティアにアウラ、そしてアルベドさんすら退けた今!
 アインズ様の御心は最早私のモノ! 正妻戦争に勝つのはこの私だ!」

ナーベラル「身の程を弁えなさい、オリキャラ風情が

ニューロニスト「得体の知れない小娘なんかに正妻の座は渡さないわよん?

マーレ「おねえちゃんの仇は僕が取ります!

マタタビ「あなたが仇取ってどうすんの……


 全女性守護者を退けて正妻の座は間もなくかと思われたマタタビ。
 しかし至高の花嫁への道のりはまだまだ遠い。

 果たしてナザリックの将来は如何に?


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影から生ずる光明

 辛いアインズ様を書くのは凄く辛い。ホント筆が止まること止まること
 更新めちゃ遅れてごめんなさい

 ところで今回は原作の宝物殿シーンに沿った進み方になりますが、アインズ様のストレス状況と付き添い人物の変更によって、分岐が生じます。


第5階層 氷結地獄(アインズ)

 

 

「この鎧は一体何だ?」

 

 情報魔法の表示画面に映し出されたのは、闇に閉ざされた平原に佇む少女の姿だ。

 

 精緻な刺繍の施されたメイド服により華やかに着飾られているものの、手元に握られている血塗れた日本刀の存在とはアンバランスだ。

 夜陰に溶けてしまいそうな艶やかな黒髪は月光を反射して鋭い輝きを放っており、対象的に肌は白く際立ち病的なように映えている。

 焦点のあっていない瞳は朦朧としていているようで、均整の取れた清楚な顔立ちは待機中の自動人形を彷彿とさせる寒々しい印象を与えた。

 

 そんな彼女の足元にガラクタのように打ち捨てられていたのは、龍をデフォルメされた白金色の全身鎧の残骸だった。

 「それ」は天を仰ぎながら大の字で大地に伏せており、腹部から首の根元にかけて大きな亀裂が走っている。

 

 もし中に入っていた人物がいればただ事ではすまなかったであろう損傷だが、その鎧には一滴の血もついていなかった。

 

「ゴーレムの類か ?あるいはゴースト系のモンスターが乗り移っていたのだろうか」

 

 放たれた疑問符に対し、ニグレドは首を横に振る。

 デミウルゴスはクイッとメガネの付け根を持ち上げて自分の意見を述べた。

 

「情報が少ない故考察は困難ですが、恐らくこの世界固有の存在ではないかと思われます

 あの二人にとどめを刺す寸前にマタタビが察知した者であるとすれば、合点が行きます」

 

「ふむ、たしかに辻褄は通る。あるいは例のシャルティアと対決した世界級ホルダーの集団が追撃してきたのかもしれんが」

 

「その可能性も十分検討できます。どちらにせよ警戒対象が増えるということに変わりありません」

 

 例の集団の力量は実際かなり未知数だ。彼女に奪われたのとは別の世界級を保持している可能性もあり、プレイヤーギルド組織を敵に回したとなれば、メンバーのいない今のナザリックでは分が悪い。こういう時こそマタタビが頼りになるはずなのだが、無いものは強請りようがなかった。

 

 彼女をどうするか

 考えても仕方のないことは先送りにするしかない。それにも限度があるのはわかっているが、今回の場合、どんな結論を取るにせよ今やることは変わりない。

 だったらその間くらいは、猶予を持っても良いだろう。

 

――執行猶予、そんな言葉がアインズの脳裏から連想されたが、頭の端っこに追いやって見ないふりをした。

 

「その通りだな。これで一先ずの方針は決まった。

 ニグレドは引き続き魔法による監視を継続してくれ、と言ってもMPの問題もあるからな。

 しばらくしたら偵察部隊を用意させて、監視をそちらに引き継がせる。その間は頼むぞ」

 

「承知しましたアインズ様。御身の御心のままに」

 

「そして偵察隊の準備だが、その前にプレアデスのシズ・デルタとユリ・アルファを呼んでくれ

 先に宝物殿に行かなくてはならない」

 

 

ナザリック地下大墳墓 宝物殿

 

 

 この際なのでと、アインズはデミウルゴスに転移の指輪を渡したところ、彼はそれはそれは大喜びし、若干涙目にすらなっていたので、アインズは内心やや引いた。

 その後ユリ・アルファとシズ・デルタを連れてきて宝物殿に転移する為、アインズの手を二人に取らせたのだが、横で見ていたデミウルゴスのジト目が、アインズには妙に印象に残った。

 そんな一幕を経て宝物殿へと転移する。

 

 転移して間もなく視界いっぱいに広がる財宝の山が現れる。

 

 アインズはこの世界に来る前の、一人でギルド維持費を稼いでいた時のことをに思い出した。

 当時は稼いだ金貨を還元するために宝物殿へもよく訪れていていたので、金貨の山々も割りと見慣れた風景ではあったのだが、電子情報でない物体として存在しているそれらを見て得も言えぬ感銘がもたらされた。

 

 目の前の光景から無意識的に息を呑んだデミウルゴスとユリ・アルファの様子に、多少シンパシーを覚えつつも優越感を覚える。

 自動人形のシズ・デルタだけは、種族的特性のために窺い知れないが

 

 本来ギルド維持費もここの財物を使っておけば良かったのだから、かつてはアインズが外貨を稼ぎに行っていたのも所詮自己満足でしかなかっただろう。

 だが今こうして彼らに胸を張れたのだから、無駄ではなかったのだなと、報われたように思えた。

 

「行くぞ」

 

 アインズは感傷を振り切り〈全体飛行〉の魔法を一団にかけて移動する。

 黄金の山脈の更に上へと浮かび上がって、すると再び背後の二人が息を呑む音が聞こえた。多分、壁際に陳列されている宝物の数に圧倒されているのだろう。

 

 やがて武器庫の入り口が見えてくる。扉というより丸く切り取られた黒い壁みたいに見える場所だ。

 この扉は、ギミック担当タブラ・スマラグディナの凝り性が所以して、わざわざ暗証パスワード式にされている。

 

「シズは確か、ナザリックに仕掛けてあるギミックについてを全知しているという設定だったな」

 

「…………はい。����様から、ナザリックに現存する暗号、罠、防衛システムについての全知識についてを与えられております。

 ……また、それらが新たに組み変わった場合にも、その変化を自動的に察知するように作られております」

 

「そうか。ならとりあえず、武器庫のパスワードロックを解除してもらえるか。少し面倒だ」

 

「…………承知しました。

 ……かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう」

 

 サラリと暗唱された解除コードに反応し、中心部分の一点へ闇が吸い込まれていき扉は開かれた。

 実はパスワードを忘れた時用のヒントコードが存在したのだが、彼女には不要なようである。

「ご苦労、シズ」

 

 一行はアインズに続いて武器庫の廊下へと足を踏み入れる。

 広間の絢爛な宝の山とは打って変わって武器は整然と廊下の壁に飾られており、博物館じみた印象を受ける。

 先程財物に反応しなかったシズも、多種多様なここの武器には興味を惹かれているらしかった。

 

「シズと、あとデミウルゴスにも後で頼みたいことがあるのだが、かまわないか?」

 

「我々は御方の忠実な下僕であります。何かありましたら、一言命じていただければよろしいかと」

 

 同意するようにシズもコクリと頷いた。

 

「そうか……」

 

深読みに定評のあるデミウルゴスをしても、今のアインズの真意は掴むことは出来ないらしい。

(対等な立場として頼みたかったんだけどなぁ。やはり、そう簡単に上手くは行かないか……)

 

「ここでの用事が終わり次第また追って説明するが、二人にはナザリック第1から第3階層に仕掛けてある全トラップの配置換えを行ってほしいのだ」

 

「マタタビを警戒してのことですね? しかし、全てとなりますと時間もだいぶかかると思われますが」

 

「これはなるべく早急に取り掛かってもらいたいな。無論必要な物資や人員があれば手配する

 期限はそうだな。丸一日くらいあれば可能だろう」

 

 最終日に10階層へ侵入されたことを考えれば、マタタビが何らかの手段でナザリックのトラップ配置を知っていたのは間違いない。

 であるならば、彼女がナザリックを襲う可能性がある以上、警備を固めてからでないと待機中の彼女に手を出せないのだ。

 

 だがそれを知ってから知らぬか、デミウルゴスの見解は相変わらずアインズとはズレてしまっているらしかった。

 

「なるほど。ちょうどシャルティアの目撃情報が冒険者組合へ届く頃合いを見計らうとおつもりであられますか

 表向きで冒険者モモンがその異変を解決し、一気に名声を得ると」

 

「……まぁあくまで予定に過ぎないから、打ち合わせで変更するかもしれんがな

 っと、そろそろ霊廟……いや、宝物殿最深部と言ったほうがわかりやすいか」

 

 ぼろが出ることを恐れたアインズは、若干無理矢理に話を切り替えた。

 その誤魔化しが微妙に爆弾発言であることを今のアインズに気付けと言うのは、無理な話なのかもしれない。

 

 薄暗い通路の先に見える広間は待合スペースのようになっていて、薄紫色のソファーが二脚向かって置かれている。

 そのさらに奥の方に「霊廟」らしき、得も言えぬ厳かな気配をたたえる一本道が続いていた。

 追順する3名の視線は一同にその方向へと向けられる。そして、浮かび上がった疑問もまた同様であった

 

 「霊廟」が一体何の意味を持つのか。

 

 口ぶりからしてアインズ自身も隠す気はなく、尋ねれば容易く答えられる。しかし彼らにとってそれも簡単ではない。

 望まない真実に打ち当たるかもしれないという恐怖と、それでも知りたいとする心。

 天秤の梁は、ギシギシと痛ましい軋みを上げながら平衡している。

 

「霊廟とは……一体」

 

 それでもデミウルゴスは問いただすことを諦めきれなかった。知らねばならぬという強迫観念が、彼を後押ししたのだ。

 

 物憂げな彼の様子を見て、アインズもようやく自身の失言に気が付いた。

 てっきりアインズは、NPCがここの事をすでに知っているとばかり思っていたからだ。

 

「まぁ私が名付けた場所だから、知らないのも無理はないだろう。

 断っておくが、別に彼らが死んだというわけではないぞ

 ここには仲間たちから「預かった」装備品を飾っているに過ぎん」

 

「なるほど、納得いたしました。御方々程の霊廟ともなれば、建造する手間もかかりますし当然の配慮でしょう」

 

 デミウルゴスたちの顔が、ほんのわずかに安堵を表現したのをアインズは見逃さなかった。

 

 別にアインズは虚偽を述べているわけではない。でも、敢えて誤解を解こうとしないのなら、騙しているのと何も違わないだろう。

 アインズの中にまた一つ、鉛のように重く冷たい何かが流れ込んでいった。それを誤魔化すように続けて述べる。

 

「まぁ、霊廟も未完成だからな」

 

 現在霊廟に配置されている課金ゴーレムは37体。予定する数ではあと4体必要であり、未完成と言うのも嘘ではない。

 ただし完成する日は絶対に訪れないであろうと思われた。

 

 

 嫌な思慮を巡らせていたところで、件の通路から一人の異形が姿を現したことによりそれが打ち止められる。

 

 それは初め、人型の頭部に紫色のタコを載せたブレインイーターの見た目をしていた。

 顔面の半分に施されたラテン文字の刺繍や黒革の衣服。

 見た目は、ギルドメンバーであったタブラ・スマラグディナそのものである。

 

 驚愕したNPC達が何か言おうとする寸でのところで、「それ」はこちらを見定めたところでグニャリと全身を歪ませ変態していった。

 

 その姿は、ユグドラシルにおいてドッペルゲンガーを示すものだ。

 ブレインイーターと同じく人型であり軍服を纏っているのものの、指は細長い4本、何より頭部がのっぺりした卵頭なのが特徴的である。

 一切の凹凸や模様がなく、辛うじて目口を表した黒丸があるのみである。

 

「ようこそおいでくださいました、モモンガ様」

 

 宝物殿領域守護者:パンドラズ・アクターは、引き締まりながらも無駄のない丁寧な所作で敬礼をする。

 その仕草自体には何ら不自然な点はない。アインズ自身、他のNPCから同じようなことを毎日されているので見慣れてすらいた。

 

 だが、彼の落ち着きの払った礼に対して、アインズは違和感を禁じ得なかった。

 アインズの記憶にあるパンドラズ・アクターの設定と、眼前の彼の様子には著しく乖離が起こっていたからだ。

 

(あれ? もっと”アクター”って感じにオーバーアクションを取るかと思って覚悟していたけど……イメージと違う) 

 

 そんなアインズの戸惑いを察してか、ハッと思い出したかのように仰々しく立ち振舞っては言った。

 

「おおぉぅ!失礼致しました。

 何やらモモンガ様から緊迫した気配を感じとりました故、つい、あなた様より定められし作法をすっかり忘れてしまっておりました!

 大変、申し訳ございません!」

 

――あぁ、と内心合点しつつも、改めて彼の黒歴史たる所以を目の当たりにしてアインズの精神は沈静化される。

 

「いや、控えてもらったほうが非常に助かる。

 それと今私は自らをアインズ・ウール・ゴウンを名乗っている。呼ぶときはそうしてくれ」

 

「……承知しました」

 

 心なしか不服そうに見えたが、気にしないように努めるアインズであった。

 

「しかし、モモンガ様改めアインズ様。貴方様ほどの方が余裕を失くされる事態とは、一体如何程のことなのでしょうか?」

 

 (お前のせい……違うよな。そういうことではなくて)

 

 黒歴史が自己主張を抑えたことからも伺えるとおり、今日のアインズがやけにピリ付いている。

 自覚はあったものの、面と向かって言われて落胆しないと言われれば嘘になる。

 

 しかしてその事情を逐一彼に伝えるのも、なんだかんだ面倒だ。

 どう説明してやるかと悩んだところで、とある事実を思い出し「もしや」と思って尋ねてみる。

 

「パンドラズ・アクター。おまえは『マタタビ』を知っているか?」

 

「えーとそれは、猫ちゃんをフラフラにさせるアレではなくて……あの方のことにございましょうか」

 

 どうやら知っているらしい

 

 再び体全体を歪ませて粘土工作でもするかのように変態していって、やがてそれは渦中の人物であるマタタビを象っていった。

 

 パンドラズ・アクターはドッペルゲンガーとしては最高位の能力を保持しており、変身できる対象者のストック数は45にも上る。

 そのうちの41はAOGギルドメンバーのものなのだが、残り4つの枠の一つを占めていたのがマタタビだったのである。

 そこから連想して「パンドラズ・アクターなら彼女について知っているのでは?」と思いアインズは尋ねた訳だった。

 

 しかし当然といえば当然、付き添いの3名は、マタタビを模したパンドラズ・アクターを目の当たりにして露骨な敵意の視線を浴びせかける。

 戦闘態勢になる程ではないが、ユリとデミウルゴスはサッと素早くアインズの前側に庇うように立ち入った。

 

 アインズは内心「はぁ」と溜息を零す。だがそれも仕方のないことと言えよう。

 元からNPCにとってマタタビの存在はうさん臭かった上に、離反して階層守護者2名を敗走させたという事実は非常に大きいことなのだ。

 

 ここでアインズは、骨の手をシズの前に覆うようにかざし苛立った声で止めに入った。

 

「やめないか3人共。これはコピーなのだぞ」

 

 この状況で気が立ってしまうのはアインズ自身も非常に共感出来るところではあったが、だからと言って無駄に険悪ムードを生み出すことはないだろう。

 各々はハッと我に返って謝罪を述べた。

 

「申し訳ございませんアインズ様」

「先程軽率な言動を慎むよう注意されたばかりだというのに、大変失礼致しました」

「……申し訳、ございませんでした」

「まぁ私を守ろうとしての行動なのはわかるがな。以後気をつけてくれ」

 

 強烈な殺意の奔流を浴びせられながらも、マタタビの見た目をした当のパンドラズ・アクターは飄々としていた。

 マタタビの顔で、マタタビの声のままで「ふむふむ」と意味深に呟き顎に手を添える姿は、見ていてどことなくむず痒い。

 

「なるほど、そういう訳でしたか。よもやあの方がナザリックに反旗を翻すとは……」

 

「話が早くて助かるが、付け足せばこれは彼女の意思によるものではなく、洗脳効果を持ったワールドアイテムが原因だ

 精神支配状態のまま術者側を殺害した為に待機状態で放置されている」

 

「おぉ……そうでありましたか。現在私が常在させている〈読心感知〉によるものですね?

 ワールドアイテムで精神支配されてなお御されないとは流石という他……失礼、いささか不謹慎が過ぎました」

 

「彼女が完全支配されるより、余程マシなのは変わりないさ。

 ふむ、パンドラズ・アクター。これから霊廟奥のワールドアイテムを取りに行くのだが、おまえと二人で少し話がしたい。付いてきてくれ」

 

 

 

 

 ●

 

霊廟

 

 

 厳かに静まり返った一本道に、2名の足音だけがコツコツと響いている。

 横並びに彼らをを睥睨する不気味なフォルムの化身ゴーレムを無視し、両者は淡々と進んでいく。

 

 入口部分からいくらか距離を取ったところで、とうとうアインズが口を開く。

 

「ところで、いつまで彼女の姿を取っているんだ?」

 

 パンドラズ・アクターは入口前で変身したときから姿を元に戻していなかった。

 アインズとしては一緒に歩いていてこそばゆくなるし、その上付き添いの3人は露骨に気を害したというのに、むしろそれを煽っているようにも思えた

 

 言われたパンドラは直ちに元の姿に戻り、こたえる。

 

「おっと失礼いたしました。少々、拗ねていたものでして」

「拗ねるとは、どういう?」

 

 意外な返答にアインズは戸惑った。

 

 目の前の間抜けな卵顔には、むしろそんな悪感情は無縁なように思えたからだ。

 どちらかといえばマタタビがよくやりそうだ。だが何となく、今のアインズには心の中に引っかかる部分があった。

 

 その違和感を根こそぎほじくり返すみたいに、パンドラは続けて言った。

 

「今回の事件は、いくらナザリックに牙を向いたといえど「マタタビ様」からすれば精神支配にされた故の不可抗力状態と言えます。

 むしろそのようになられて尚、敵に抗い一矢報われたというのは流石という他ありません。

 ところがです。マタタビ様の写し身に対し、先のお三方は敵意を向けられました。

 ですから私には、わざわざ気を遣って元の姿に戻るのが馬鹿らしく思えたのです」

 

「……あぁ、そうだったか。どうやら全NPCの中でも彼女のことを知っているのはお前だけらしいから、彼らがああするのも当たり前なんだがな

 どうか責めないでやってくれ」

「事情はよく理解しました。しかしアインズ様は相変わらず、慈悲深くあられるのですね」

「どうだかな……」

 

 まるで見透かされたかのような言葉だった。

 パンドラズ・アクターがこぼした本音とは、仕方がないと思いながらもあの時アインズが不満を指摘できなかったことでもある

 だから彼の言い分を聞いたアインズの心は、遠慮して隠した自分の本心が掬いあげられた気がして、少し軽くなった。

 

 おかげでようやく、面と向かって尋ねる覚悟が、アインズの中で固まった

 そもそもこのことを聞くために二人になったのである。

 しっとりと何処か遠慮がちだが、それでも鮮明な発音でアインズは尋ねた。

 

「なぁパンドラズ・アクター。お前はマタタビさんについて、どのように認知している?」

 

 さっきデミウルゴスに質問をした時とは異なり、今の場合は自問に近い試みである。

 

 今回の件を通してアインズは、自分の、彼女に対する心情というものがわからなくなってしまったのだ。

 唯一残った同胞というだけで、それ以外には嫌悪の対象でしかないか

 だとすれば、このふつふつと燻る正体不明な情動とは一体何なのか

 たとえ魔法による蘇生が可能でも、これを気付かない限り、このままマタタビを殺してしまえば後悔するような気がしてならなかった。

 

 そこでアインズは考えた。

 パンドラズ・アクターの中でのマタタビの立ち位置を知れば、アインズのマタタビに対する心情を明確化できるのではないかと

 

 NPCと造物主の間には精神性的なつながりがあることは既にわかっている。

 我ながら妙案だなと思う反面、 言語化を他人任せにする自身の卑怯さに、アインズは自嘲気味な溜息をこぼした。

 

 そんなアインズの葛藤を察してなのか、今の彼は人格設定文に反した神妙な面持ちである(少なくともアインズにはそう見えた)。

 これが彼の素なのかは判然付かないが、少なくとも今から紡がれる言葉は、紛うことなき真実なのだろうと確信出来る。

 今生味わったことがないほどの誠心誠意に圧倒されながらも、聞かねばならぬと自身を鼓舞してじっと言葉を待つ

 気が遠くなるような一瞬を経てパンドラズ・アクターは答えた。

 

「私にとってマタタビ様とは、忠誠を尽くす存在ではありません。

 そして正直に申し上げますと、かの御仁の名を耳にすると何故か癪に障ってしまうのです」

 

 それこそ決して耳触りの良い言葉ではなかったが、受け取ったアインズはなんだか笑いたくなった。

 自分が必死に秘蔵していた悪意がいとも簡単に証明されてしまったのが、可笑しくてたまらなくなったからである

 

 続けて話そうとする彼と呼吸を合わせるように、聞く姿勢を立て直してアインズは臨んだ。

 

「ですが、ドッペルゲンガーとして生み出された私の使命は、モモンガ様の輝かしき思い出を永久に残すことです。

 私の変身形態の一つに保存されたマタタビ様もまた、守るべき思い出の一つなのでございます。

 

 故にマタタビ様は、私にとって他の御方々と同等に大切な存在なのであります」

 

 晴れやかなる信仰告白を聞き届けると、彼の背後から曙光が立ち昇り、暗く濁った思考を強烈に照らし出した。

 やがて奥底より一人の囚人が解き放たれる。囚人は、万年ぶりの娑婆に雄叫びを上げて歓喜した。

 

「はははは! はは!! あははは! はは!」

 

 振り切られた情動は間もなく沈静化されるが、水面に浮上せんとする気泡の如きそれは、種族能力程度で止めれる道理もなかった。

 気分が抑えられたのはしばらく経ってのことだった。ただし沈静化ではなく、あくまで自制のおかげであった。

 

「済まなかったな、パンドラズ・アクター。ようやく覚悟がついたよ」

 

「いいえ、私が御身にお役立ちできたのであれば、これに勝る喜びはございません。

 ですが正直意外でした、まさか『そのような決心』をなさるとは」

 

 どうやらNPCは、創造主の心を見透かすことができるらしい。ただ、逆もまた然りである。

 主従関係は相変わらずだが、心が通じ合う感覚は悪くもなかった。

 

 

「久しぶりに飾らないで話せて良かったよ、パンドラズ・アクター

 今度また何も無い時に、こうして二人で話せたらいいな」

「是非もありません。私を”アクター”として創造されたのは、モモンガ様の御心と近く在るためだったのですね」

「あっうん、もうそれでいいや」

 

「私が演技を取り去るのは、モモンガ様と『二人きりの時のみ』というわけですか。承知いたしました」

 

(いや……全然意味がわからないんですけどぉおお!?)

 

 つまり平時では、他NPCに自分の黒歴史が晒され続けるということになるらしい。

 心が通じ合うと言っても、行き違いが撲滅されるわけではないらしかった。

 

 意味不明に嬉しそうなドッペルゲンガーを指摘してやる気力は、今のアインズにはどうしてもわかなかった。やはりちゃんと話さなくてはだめなようだ

 




 モモンガ様とアインズ様の表記揺れは、半分くらい意図的なものです

 アクターさんは、唯一アインズ様が素で会話相手できるらしいけど、黒歴史ポーズ引剥してこうなるのかは解らない

 因みに パンドラさんの中での人物優先順位はこんな感じ

モモンガ様>>>他至高41≧マタタビ>>>その他NPC>>>>>>ナザリック外

 どうして他至高とマタタビ風情が同格なのかというと

 モモンガ様からの使命>>他至高 だからです


誤字脱字、気に食わぬところ、感想があったらどうぞお願いします
今回の表現は結構不安なので、遠慮せずお節介を焼いてくれるとうれしいです
 


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非公式ラスボス戦

ひょっとして自分はエたってしまうんじゃないかと危惧しました


【至高の41人レビュー byマタタビ】

No.5:アインズ・ウール・ゴウン

 

 コイツ絶対頭おかしいよ!!

 

◆◇◆

 

 

 マタタビの事件に対する方針が決定してから作戦の実行が起こるまでに、約丸一日の時間を要した。

 彼女をしばらく放置しなくてはならなかった理由は主に2つ

 

 前者は冒険者モモンとしての体裁。

 事件のことがアインズに報告されたのは、とある護衛任務でカルネ村に宿泊している最中であった。

 そして情報収集やその他諸々の調整をしているうちに夜が明けてしまっていたので、任務継続の為、彼女への対処をする時間がなかったのである。

 

 デミウルゴスに言わせると、どこぞの支配者は冒険者へと漏れたシャルティアの目撃情報を利用した名声獲得計画を企てているらしいが、アインズがその意味を知るのは少しあとになってからだった。

 

 もっともモモンとしてのアンダーカバーの価値など彼女に比べれば無に等しい。本命の理由は2つ目にある。

 

 後者は、マタタビがナザリックのトラップギミックを熟知していることによる危険性であった。

 現状は精神支配の待機モードによって静止しているが、戦闘モードに切り替わればナザリックそのものを攻撃してくる可能性も出てくる。

 

 確率としてはあまり高くないが、万が一そうされればナザリックそのものが危機に瀕するだろう。

 

 だからこそ、ナザリックのトラップギミック配置を入れ替える必要があった。それにかかる時間が丸一日というわけである。

 

 結局冒険者稼業は継続されることになり、内心気が気でないアインズだったが、共同墓地のアンデッド発生事件解決やとある女戦士との戦闘など、得るものがないでもなかった。

 

 ゴタゴタしながらも一気に名声を稼いで、それによって冒険者組合を上手いこと丸め込みながらかくして今に至る。

 

 

エ・ランテル近郊(アインズ)

 

 一面の景色が一気に緑色へと染まる。周囲を見渡し、転移阻害は起きてない事を確認して、アインズはひとまず安堵する。

 

 人の手のかかっていない自然林の間を抜け、やがて開けた崖のところへ出ると、既に二人の少女が膝をついて出迎えていた。

 

 監視役を任されていたシャルティアとアウラである。二名はあどけない快活な声をもって、支配者への敬礼をする。

 

「「お待ちしておりました、アインズ様!」!」

 

「二人共、監視役ご苦労だったな。何も問題はなかったな?」

 

「はい。近隣の魔獣たちはあたしの〈吐息〉で退けておいたので、あの鎧のやつを最後に彼女へ接近した存在はおりませんでした。苦戦するような相手もいなかったです」

 

「そうかそうか、お前たちも無事で何よりだ」

 

 そう言いつつも、アインズは二人の姿をざっと眺めて、汚れや外傷などがなく無事であったのを確認し改めて胸をなでおろした。もちろん杞憂であるとは承知しているが、先日の戦闘を思うとそうせずにはいられない。

 

 しかし、アインズが二人を監視役に任せたのは、一度敗走したという経験があったからこそでもあった。

 

 初期レベルから研鑽してきたプレイヤーと比べると、元から強者として生み出された100レベルNPCでは、戦闘における慢心がどうしてもついて回る。今回の二人の件については、そういった経験不足が露骨に現れ出た結果とも言えるだろう。

 

 だからこそ、慢心から目を覚ました二人は今のアインズにとって非常に信頼できる存在となりえた。更に言えば、マタタビとの戦闘経験のある二人なら不測の事態での対応も期待できる。

 

 何よりレンジャーであるアウラの能力は、神官戦士のシャルティアの苦手な箇所を丁度補えるようになっており、コンビとしてはこの上なく優れていたのである。

 

 ただ最初はアインズも、トラウマの残る相手の監視任務を頼んで良いのか迷っていた。

 ところが、話を聞いたシャルティアとアウラは「失態を挽回させてほしい」と強く求めてきたので、アインズはその熱意を買ったのである。

 

(失態って言っても……シャルティアのアレはともかく……初戦闘がマタタビさんだったのは、単に相手が悪すぎただけなんだけどなぁ。

 むしろ幸運とは言え生き残れたのは凄いと思うんだが、二人の成長に繋がったなら良いことのなのか……)

 

 それでも気負い過ぎるのは良くないだろうと、アインズは考える。

 なぜなら二人は「敗北」したわけではないからだ。

 

 実質的に敗北したのはまさにそのとおりかもしれない。失点とすべきところも数多くあったに違いなかった。

 

 だが実際には、互いにフォローし合い、引き際を見極めた上での逃亡に「成功」している。いくらかの幸運があったにせよ、この事実は決して軽んじてはならないだろう。

 

 悲しい認識のズレを正さんと、アインズは優しく語りかけた。

 

「良いか、二人共。お前たちが逃げたことは決して恥ずべきことではない。むしろ引き際を見逃さなかったことは賞賛すべきことだ

 初戦で能力情報を把握したら撤退し、後から対策を練るのは基本中の基本。これはぶくぶく茶釜さんやペロロンチーノさんもよくやる常套手段なのだぞ」

 

「かの御二方もでありんすか?」

 

 アインズも、自身の失敗を引きずる心理は嫌というほど理解している。ましてや忠誠心を持つNPCなのだから、説得にも狡い言い回しを使わざる得なかった。

 

「ついでに言えば私も、な。

 お前たちがアインズ・ウール・ゴウンを誇り思ってくれていることは嬉しいが、だからと言って敗走を恥とすれば彼らの顔に泥を塗ることとなる。

 大切なのは次だ。もし……あって欲しくはないが……次に彼女と対峙した時に、しっかり対応出来るようにすればよいのだから

 その辺の対策も、ちゃんと二人で考えていたりするか?」

 

 答えたのはアウラだった

 

「はい! その時はまず、シャルティアがエインヘリアルを出して足止めし、シャルティアと一緒に空中へ逃げてから〈吐息〉や狙撃を狙うつもりです。そのまま距離を取ってから転移で偽ナザリックに撤退します」

 

「うむ。たぶんそれなら逃げ切れるだろう」

 

 プレイヤーへの対応を考慮する姿勢は、これからのことを考えても非常に好ましい。かつて教師である「やまいこ」が、 子供たちは教えたことを素直にスポンジみたいに吸収してくれるので教えがいがあると言っていたのを思い出し、まさにそのとおりだとなぁとシミジミ思った。

 

「しかし、アインズ様。あやつ……マタタビの討伐についてでありんすが、どうして御方がお一人で向かわれなければならないんでありんしょう?

 多少の損害を被むる覚悟をした上でも、守護者を交代させながら戦ったほうが、より確実に目的を達せられると思うんでありんすが……」

 

「ああ、そのことなんだが実は――」

 

 

◆◇◆

 

ナザリック地下大墳墓9階層 待合室

 

 

「―――彼女相手に過剰な戦力を出してしまうと、かえって逃げられてしまう

 先日もマタタビは、二人を殺害する絶好のチャンスを前にして、直後敵の気配を察知した素振りを見せて撤退してしまったでしょう?」

 

「なるほど、つまりこちら側が盤石な布陣を用意しようものなら、卓上ごとひっくり返されてしまうわけですか。

 彼女の移動速度に追いつけるシモベはいないし、逃した先でどんな問題が起こるかもわからないと。……実に厄介です」

 

 例えば詳細は不明だが、謎の全身鎧との戦闘があがる。

 あの場では結局事なきを得たのだろうが、鎧を動員していた存在の事も考えると単純な話では済まされないかもしれない。

 

「そのとおりよデミウルゴス。そして逃げられないための前提条件として、彼女側にも勝ち目のあるカードを切る必要がある」

 

「ええ、理屈は理解しましたとも。で? それがどうしてアインズ様をお一人で行かせた理由に繋がるんだい?

 人間の都市に向かわれる御方をあれ程止めたがっていた君が、よりにもよってそれを許容するなど信じ難い」

 

「心外ね、本当はあなただってよくわかっているんではなくて? 今の彼女の相手は、アインズ様以外につとまりようがないってことぐらい」

 

 デミウルゴスのこめかみに、一筋の血管が浮かび上がってはピクリと脈動する。普段の冷静さとはかけ離れた様相だが、それが一線を超えることは決してない。

 その理由を、アルベドは嫌味たらしく言語化してきた。

 

「お節介でしょうけど、素直にシャルティアとアウラを信頼した方がいいわよ? あなたが自身の配下を動員しても、かえって御方を危険にさらすだけだもの」

 

 足手まとい

 

 至高の御方の戦いは、シモベごときが立ち入れる領域より遥か遠いところにある。かつては頭では理解しているつもりだったが、今回の件でその認識すら甘かったのだと痛感させられた。

 

 御方々に準ずる存在であるマタタビが、単騎でああも容易くシャルティアとアウラを退けるなんて思いもしない。

 

 そうでなければ、アルベドの言うとおりに配下の魔将を動かしていたに違いなかっただろう。誰かに止められていなければ、だが。

 デミウルゴスは自身の無力さがたまらなく悔しかった。

 

「……先日自室に謹慎させられた君に理性を説かれるだなんて、私もヤキが回ったようだ。

 そもそも何に悩んでいたかは知らないが、一体どういう心境の変化だい? 個人的には大変興味深いのだが」

 

 デミウルゴスは、この真実を知ってなお凛としていられるアルベドが不思議に思えてならなかった。

 

 同じシモベであるはずなのに、彼女と自身が全く異質な存在な気すらする。この違いは一体どこから来るのか。

 

 するとアルベドは、どこか遠い眼差しで《クリスタル・モニター/水晶の画面》に映るアインズの姿を目に止める。

 自嘲気味なため息を零し、吐き捨てるように言った。

 

「御方の大事とするものが、私達と同じなわけではない。そんな簡単なことに気付けなかっただけよ」

 

 義理は果たしたとでも言わんばかりに、それだけ言ってアルベドは閉口した。

 デミウルゴスの求めた解ではなかったが、一つの真理であることには違いなかろう。

 

 1日謹慎という罰が、アルベドの中にどういう葛藤をもたらしたのかはわからない。ただ、彼女の瞳が何かしらの堅い覚悟をたたえているのはわかる。

 

 ならば自身もいじけているだけではいられまい。考えるべきはこれからのことだ。

 

 全てはナザリックのために。

 

 

 

 二人と別れ、いよいよマタタビの感知領域に侵入する。これを誤魔化せるのは本人くらいだろう。脊椎がぞわ付くような感覚を覚えた。

 

 もっともただ感知されただけでは敵対はされない。〈読心感知〉は種族的特性上アインズには通用しないし、監視者からの連絡はあるので現実的問題は微塵もなかった。それでも不意を撃たれる恐怖は否応なしに付いてまわる。

 

2~3キロほど歩いてしばらく、ようやっと目的地の平原へとたどり着く。時間帯こそ違うが、今見ている風景は情報魔法で覗いた時とそのままだ。

 

 足元に白銀鎧の残骸を横たわらせる少女は、孤独な瞳で虚空を眺めながら静止していた。携える神器級の刀は拒絶的な輝きを灯していて、視界に入れると存在しないはずの網膜がチクチクした。

 

 ギルド武器クラスの耐久メイド服を着用しているのは、先手を許してしまう支配待機の状況を見据えた不意打ち対策なのだろう。

 

 思えばあのメイド服についてでも一悶着あったのを思い出した。たしか、たっちさんがホワイトブリムさんを誑かしたのがきっかけだった気がする。彼女にまつわる思い出は、不思議と不快なものばかりだった。

 

『マタタビ様は、私にとって他の御方々と同等に大切な存在なのであります』

 

 じゃあなぜパンドラズ・アクターは、ああも堂々と言い切れたのか。

 今なら思い出せる。皮肉にも彼女を仲間だと認めたのは、クランが彼女の処遇で紛糾していた際に自ら「退会」を選んだ時からだ。

 

 ゲームの時は、アバターの表情は動かないからどんな表情をしていたかわからなかった。でもなんとなく、あの時の彼女の心は笑っていたような気がした。

 

「それはそれで気に食わないかもな」

 

 同族嫌悪かもしれない

 様々な逡巡を手のひらに握り込むように、骨の指で拳を象る。

 

 無数の強化魔法を発動させ、最後に超位魔法の魔法陣を展開させた。やがて何も襲いかかってこないのを確認して課金アイテムを取り出す。

 

 改めて視線のピントを彼女に向けて、僅かなつぶやきと共に魔法発動の宣言を行う。

 

「我慢して下さいよ? 超位魔法〈天地改変〉」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 唖々、在りし日の月曜日の如し糞ったれた目覚め。こんな現実には、堂々二度寝と洒落込むのが礼儀かもしれない

 

 それは、私史上最悪の覚醒だった。

 どのくらい最悪かって言うと、寝起きの顔に液体窒素をぶち撒けられるくらいの最悪だ。

 

 瞬間的に凝固された空気中の水分は、体表全体に隙間なく殺到して霜の万年苔を象り、体温という体温を根こそぎ奪ってしまう。

 

 メイド服で被服している部分はまだしも、手とか、特に粘膜がヤバイ。

 凍りついた眼球から望む視界が想像できるだろうか? 寒い日の水道管みたいに網膜血管も凍結されるわけだから、瞼が開いても世界は真っ暗です。失明なのかと錯覚した。

 

 やがて、その手の症状特有の眠気がやってきて、二度寝の誘惑にかられる。心臓、止まっちゃうんだろーなぁなんて、どこか他人事みたいな思考が脳裏をよぎった。場違いな余裕は、かつてない熟睡の予感の歓喜故である。

 

 そりゃ永眠だろうからかつてないのも当たり前。理解していても、睡魔の皮を被った死神の誘いには抗い難かった。暴力的なまでの冷感が、徐々に外的触感を忘却させていった。

 

 

 

「って死んでたまるかっ! 」

 

 刹那、ノリツッコミじみた生存本能が、現世の出口付近を彷徨う私の魂を取り押さえる。

 そして、二度寝の寝起きは先に輪をかけて最悪だった。

 

「ちぃ〈シバリング〉」

 反射的に氷属性対策として保有している体温ステータス調整のスキルを発動させる。HPを削るデメリットが有るため連発は出来ないが、背に腹は代えられない。ゲームの時からの常套手段だったのだが、ここで手痛い誤算に見舞われる。

 

「ギイィィィイイ痛い痛い痛い痛いいイイィィィ!!?」

 

 低体温から再起し、無理やり加速された血流は、強酸を点滴されたかのような灼熱感で全身を焼き焦がした。ギシギシとした音が何かと思えば、氷を砕く関節の駆動音だったりする。

 

 諸々の痛みを堪え、毎秒100回程度瞬きを繰り返して凍結した眼球を解凍する。

 光を取り戻した視界がまずはじめに捉えたのは、超位魔法でスケートリンク場と化したフィールドに佇む「敵」の姿だった。

 

 40m先、格調高い漆黒のローブを羽織り眼孔から力のこもった紅い灯火を瞬かせる死の支配者を確認。

 

 おそらくこの〈天地改変〉も彼の仕業に違いない。すなわち残念ながら私の敵だ。

 

 しかし、視線を合わせて対峙してみると妙な親近感が湧いてきて、これから始まる殺し合いへの現実感が薄れていく気がした。

 

 スケルトン系統には〈読心感知〉が不能だからかかもしれない。この世界に来てから極小の敵意すら感じなかった相手なんて、これまでエンリかデミウルゴスくらいだったから。

 自然と口調が砕けていった。

 

「ハァ……再開早々超位魔法とはとんだご挨拶ですねぇ魔王さま。死んじゃうかと思いましたよぅ」

 

「〈天地改変〉は攻撃用の魔法じゃないんですが、至近距離なら氷属性が弱点であるケット・シーには効果があるみたいですね

 ゲームのときと比べても効果範囲は拡大されているようだし」

 

「うわー、友達殺しかけてその反応はどうなの? サイコパスですか?」

 

「そりゃあ俺アンデッドですし。マタタビさんのこと嫌いだから、むしろスカッとしましたよ。まぁこれくらいで死なれては困りますけど」

 

 閉じていた口元に僅かな隙間が生じている。ニヤけてるのだろうか。 

 

「うわー外道だー、外道がおる」

 

 軽く流しつつも、彼の意外な言動に内心驚かずにはいられなかった。

 嫌われてるのは知ってる。ただ、「嫌い」なんて正面切って告げてきたのが彼らしくないなぁと思ったのだ。

 

 何があったのだろう。

 好奇心をそそられる、私の口元も緩んでいた。

 

 

 

 そんな油断が、彼に先制のチャンスを与えてしまったらしい。

 私は一瞬ここが闘争の場なのだと忘れていた。

 

「しまっ!?」

 

「〈魔法効果範囲拡大化・海皇神の憂鬱〉」

 

 モモンガさんの前方より高さ20mの大波が出現し、つるやかな氷上で加速されながらこちらへと迫ってくる。

 

 フィールド利用で速さを兼ねた手堅い質量攻撃。対しこちらは寒さによる種族ペナルティがある。メイド服でダメージは軽減されるが、能力値ペナルティを無効にすることは出来ない。

 

 瞬時、両手を氷の地に付けて魔力を籠める。

 

「〈土遁・地動核〉!」

 

 私を中心とした直系20mの正円に沿って大地が切り取られ、波より高い40mのビルみたいに隆起する。

 

 波は土ビルと衝突して弾け、辺りが水浸しになるかと思えば間もなく凍りついた。

 

 早く距離を詰めようと体勢を整えるが、彼相手にそう簡単に行く筈もない。案の定追撃も止まない。

 

「〈魔法位階上昇三重最強化・魔法の矢〉」

 

 無数の光弾が周囲に浮かび上がり、私目掛けて一斉射出される。

 

 躱そうかと思ったが、直前で追尾効果があった筈だと思い出して頭を掻いた。目の前の男は全魔法体系の知識を網羅しているが、私にはとても真似出来ない所業である。

 

「ちぃ!〈混凝土の術〉」

 

 それなりの魔力を込めた土壁で防御するが、案の定防ぎきれずに何本か貫通してダメージが入ってしまう

 

 いくらメイド服に防御力があっても痛いものは痛い。私もアンデッドに成ればよかったかしらん?

 

 とはいえ受けてばかりではいられない。アイテムボックスに手を突っ込み、手早く所定のものを取り出した。

 

 すぐさまその壺型のアイテムを彼の方向へ投げつけ、同時に忍術を発動させる

 

「〈爆炎陣の術〉」

 

 口から火を吹き出す業火によって周囲は火の海に包まれるが、火属性と言えど私の魔法攻撃力では彼には大してダメージにならないだろう。

 

 しかし投擲された壺が焼け崩れて中身の液体が漏れ出すとともに、火は橙から海のような群青へと変色する。

 

 ここでようやく彼の表情にも苦悶と動揺が見て取れた。

 

「火力増強アイテム……〈蝦蟇油〉」

 

「よくもまぁ系統外のアイテムをご存知で」

 

 骸骨が火の海に水葬されていく隙を見て、〈瞬間換装〉により学生服やその他現状に適した装備品へと着替える。

 

 ここにしてようやく、私は戦いの土俵に立つにいたった。だがまだ不利だ。

 

 良くも悪くも、彼と私の能力相性は最悪である。

 彼からすれば近接戦主体の私は相手にしづらいし、刺突・斬撃に耐性のある彼はその手の武器を好む私にとって非常に嫌な相手なのだ。

 

 私には膨大なアイテムストックがあるが、仲間の財を私有した彼なら五分。加えて700の魔法を自在に使いこなしてくるので、状況対応能力はあちらに分がある。

 

 〈地味子の眼鏡〉によると事前に魔法強化もされてるらしく、全体的に見て私が不利。さてこのディスアドはどうしてやろうか

 

「ここからが本番だな。〈魔法効果範囲拡大化・腐浄の霧〉」

 

 負のエネルギーを孕んだ赤黒い瘴気が周囲一体に漂い始める。

 あれを受けるのは不味い。HPに加えて肉体能力にも影響が出るだろう。

 

「〈砂塵大竜巻〉」

 

 砂埃の風で目眩ましと同時に、瘴気の塊の一部を吹き飛ばして僅かに穴を作る。

 視界不良のなかで感知により彼の位置を補足し、居合の型でもって刀を構え一目散に駆け出した。

 

 接近し、殴打ダメージを与えられる峰打ちでもって上段から大腿骨へ叩きつける。が、期待していた骨折の手応えはなく、それよりも硬質的な感触だった

 

「その程度の攻撃は読めている。〈魔法最強化・負の衝撃/ネガティブバースト〉!」

 

「がはっ!」

 

 負属性魔法の衝撃波が全身を直撃し、HPがガリガリ削れ、身の毛のよだつ気持ち悪い感触と倦怠感がもたらされる。

 

 巻き上げた砂塵が吹き飛ばされて互いの姿があらわになると、先の剣撃を受け止めた物体の正体が判明する。

 

 驚愕を禁じ得なかったが、あからさまな反応をこらえて絞り出すように小さくつぶやいた。……こっちのほうが悔しそうな気がした。

 

「……スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」

 

「ガワだけ借りた試作品ですがね。使用した金属は同じなので耐久値は馬鹿になりませんよ。俺の物理防御もマタタビさんに比べればよほど上です」

 

「へぇそうですか、ならこういうのはどうですか? 〈瞬間換装〉」

 

 杖と競り合っていた日本刀を消失させ、代わりの武器を手に装備させる。その獲物への意外性から彼の眼孔の赤い灯火が大きく見開かれた。

 

「メリケンサック!?」

 

「やまいこの真似ですが、下手くそですから許して」

 

 身を縮ませてスタッフの下側へ素早く潜り込み、ローブから露出した肋骨部分を思い切り殴りつける。

 

 いくら本職でないとはいえスケルトン系には弱点である殴打攻撃である。拳から破砕感が伝わってきて肋骨の一本が砕けて地面に落下した。

 

 続けて連撃を放つため一呼吸入れたが、その瞬間を狙って相手は事前にかけていた防御魔法を開放させてくる。

 

「〈光輝緑の体/ボディ・オブ・イファルジェントベリル〉」

 

 みるみるうちに欠けた肋骨が再生していき、今しがたの一切のダメージが吸収されてしまったらしかった。やはりこういう事前準備の差は非常に大きい。

 

 続いて至近距離でスタッフの先をこちらに向けて最強クラスの攻撃魔法を仕掛けてきた

 

「〈魔法最強化・現断/リアリティスラッシュ〉!」

 

 今の私にはオーバーキル気味ですらある、第10位階最大級の火力を誇る斬撃攻撃。

 〈瞬間換装〉を使うひまもなく、反射的にメリケンサックで受け流そうとする。このメリケンも神器級だが、いくつかあるサブウェポンの一つに過ぎないため、本職と比べれば能力は格段に弱い。

 

 拳の先で凄まじい熱量の火花が散って、衝撃を殺しきれず手首に切り傷が走っていく。

 

「くらうかぁぁああああああ!」

 

 なんとか気合で斬撃を跳ね上げた。我ながら脳筋臭いやり方だ。

 ギリギリで生き残れた安堵感とともに、ある一つの確信が私の中で的中した。今の私には素晴らしい事実だが、期待ハズレな感もある。

 

 即座にバックステップで距離を取って向かい合う。

 

「魔王さまぁ、どうして今の〈現断/リアリティスラッシュ〉を三重詠唱しなかったんです? そうすれば私は、受け止めきれずに死んでましたよ?」

 

「あらら。ユグドラシルも過疎ってて、PVPする機会もあんまりなかったし勘が鈍ってるみたいですね」

 

「嘘つけよ」

 

 今は殺し合いなのに、まるでゲームのPVPをギルドメンバーと話すような穏やかな口ぶり。

 

 現在自分は確かに不利だ。先制の超位魔法により私の苦手な氷上のフィールドが組まれていたし、事前の強化魔法による能力差もある。

 

 これだけの差があれば、私と彼のレベルでの戦いでは勝負がつくのに十分な条件だ。現にさっき、実質一回死んでいた。

 

 じゃあなんで、最初から私は逃げなかったのか。そしてどうして今生き残っているのか。

 考えられる答えは一つ。

 

「アインズ様。かつて仲間だった私を殺すの、躊躇してるんですね?」

 

 それはそれで当たり前だろう、と内心では思ってる。

 ましてやユグドラシルでの日々をあれほど愛した彼なのだから。

 

「躊躇はしてませんよ」

 

「よくそんなこと口走れますね。いつもの〈精神異常無効化〉ですか?

 じゃあ手始めに「それ」を潰しちゃいましょう」

 

 自慢の足で一足飛びに接近し、アイテムボックスに手を突っ込む。取り出したのはパーティ用のクラッカーだ。

 

「なっ!? そのアイテムは!」

 

「〈完全なる狂騒〉――存じ上げてるとは思いますが、一部異形種の精神耐性を無効化するアイテムです。

 ピンポイントメタって当たるとすごく気持ちいいと思いません?」

 

 ちょうど彼を見上げる体勢にもっていき、紐を引っぱて中身をパカンとぶちまけた。彼の感情線とともに




アインズ様「時間停止対策は基本
マタタビ「精神攻撃対策は基本(なお洗脳中)

戦闘シーンは次回までで終わりにします
まぁ散々心理描写やっといて今更小娘に手玉に取られるアインズ様じゃありません


アルベドの葛藤ついては、この章でやりきる予定ではありません
あるいは大幅修正する際に、デミウルゴスとの会話シーンがまるまる変更される可能性もあります



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同族

戦闘シーンの裁定はかなりいい加減です
ご容赦ください


 

 

 マジックアイテム〈完全なる狂騒〉は元々、アンデット系統の精神攻撃耐性を無効化するだけの、いわゆる微妙系に分類されたゲテモノだった。

 しかしどうやら転移後の世界では、アンデットの精神構造に直接干渉するような効果に変わってしまっていたらしい。

 

 静止していた心臓が鼓動を取り戻したかのような衝撃が、ドクッと肋骨の内側に響く。乾いた血管が潤うように、感情線に電撃が走りリミッターが故障した。

 約1週間ぶりに突然再起された人間性は、アインズと鈴木悟の境界をハチャメチャにさせ、人格回路は過負荷にさらされた。

 

 その混乱すら、いつものように鎮静してはくれない。だが眼前の相手を忘れるほど理性を捨てたわけではなかった。

 

「〈爆裂/エクスプロージョン〉!」

 

「んぬ!」

 

 巻き込まれまいと慌てたマタタビは後方へと距離を取り、アインズもやがて発動した自身の魔法の衝撃によって意図的に後方へと吹き飛ばされる。

 痛みと熱気が文字通り骨身に差し込んだ。

 

「流石はアインズ様。自爆ダメージで距離を取られるとは」

 

「ふんっ」

 

 手でホコリを払い、表面上は強がりながらも内心アインズは焦っていた。

 さっきは咄嗟の判断で爆裂魔法の自爆によって距離を取ったのだが、強化系のスキルを使っていないにも関わらず想定以上に痛みが激しい。

 ダメージ量的にはマタタビから与えられた火炎系忍術とメリケンサックの拳撃の方が上なのに、今のほうがよほど大きなダメージに感じられた。

 

(アンデットの痛覚抑制効果も無効化されてるのか!?)

 

「ま、私も色々やりましたからね」

「どういう意味ですか?」

 

 マタタビはサディスティック気味に口元を釣り上げ笑いかけてくる。

 

「保険です。そりゃあ私、あなたに嫌われてますからね。毎日、ナザリックに自動湧きするアンデット相手でいろいろ試してたんですよ?

 殺されそうになったらこれ使って命乞いでもしとこうと思ってまして、カルネ村から帰還した後でアイテムボックスに仕込んでみました」

 

「やはり気づいてましたか」

 

「ええ。痛いのも、嫌われてるのも、どっちもね」

 

 彼女が「この世界での戦闘」についてをここまで深く研究していたのなら、一体どれだけアインズを恐れていたというのか。

 関係性の溝が最悪な形で露呈していた。

 

「おかげで肩身の狭いメイド暮らしでしたよ。アルベドさんがいなけりゃ、多分失踪してましたね」

 

 彼女の暮らしぶりがあまり芳しくなかったのを知ったのは、宝物殿に向かった後日、復活したアルベドから聞かされた。

 どうやらメイドとして働き出した彼女は他の一般メイド達に疎まれていたらしい。

 言えばよかったんじゃないかと思ったが、唯一プレイヤーとしての素性を知るアインズ自身との関係も不良好だったのである。

 実は職場に不満だったとしても、彼女の立場から文句なんて言えるはずなかったのだ。

 

「……我ながらいい気味だ。これでは仲間割れした八欲王を笑えないな」

 

 かつてスレイン法国の特殊部隊を尋問した際に聞いた、とある神話の話を思い出してアインズは自嘲した。

 

 そんな情けない風体を見てますます失望の念を深めたのか、マタタビは目の色を冷たく変えて侮蔑の表情で睨みつける。

 

「とんだ拍子抜けだわ。命乞いなんて言ったけど、今のアインズ様なら簡単に殺せそうだよ」

 

 瞬時に体躯よりも大きいガトリング銃に持ち替えて、容赦なくトリガーを回す。

 〈飛行/フライ〉を発動させて空中移動で回避していくが、弾の一つが左肩を掠めた瞬間焼き付くような感覚が骨髄を貫いた。

 

「ぐっぬぅぅぅぅ神聖属性か!  〈骸骨壁/ウォールオブスケルトン〉!」

 

 天地の間に無数の骸骨兵の集合体が壁となって立ちはだかり、連射弾幕は骨に埋もれて消えていった。

 やがてカルシウムの質量体は万有引力に従ってマタタビの頭上へと崩れ落ちていく。

 

「〈要塞創造/クリエイトフォートレス〉」

 

 漆黒のタワーの破城槌が、骸骨の壁を突き破ってアインズもろともを吹き飛ばした。

 痛みにあえぐ間もなく、スパイク付きの城壁を駆け上がってマタタビが迫ってくる。だが何度も簡単に近付かれるわけには行かなかった

 

「〈上位道具破壊/グレーターブレイクアイテム〉!」

 

 道具破壊魔法により城壁は建物と共に粉砕されていき足場を失うマタタビだったが、宙に和文字の魔法陣を描き咄嗟に忍術を発動させた。

 

「〈生口の術〉スフィンクス」

 

 翼の生えた獅子が召喚されて、落下するはずだったマタタビの両足は白く大きな翼に受け止められた。

 そのままマタタビを乗せたスフィンクスは、鋭い爪を突きつけて一直線にアインズの元へと飛びかかろうとする。

 

「〈上位排除/グレーターリジェネレイト〉」

 

 アインズは手をかざし標準を合わせ、召喚獣を帰還させる。

 だが消滅寸前のスフィンクスは踏み台とされ、気付いたときには彼女はアインズのもとまで辿り着いてしまっていた。

 野獣の眼光を宿したまま、アイテム空間より抜き出された日本刀が横一閃に撃ち放たれた。

 

 知っている。この一撃は、斬撃耐性と急所耐性を併せ持つアインズには決定打になりえず、彼女の得意な短期決戦は通用しないのだと。

 

 だが現在は〈完全なる狂騒〉によってアンデットの冷静さを失っており、人間としての精神で戦わねばならない。

 どれだけ意識で理解しようと常人たる鈴木悟が凶刃に慄いては、状況判断が曇らされるのも必定だ

 

 一瞬の不意を見逃さなかったマタタビは、斬撃と共に頭蓋骨へと踵落としを放つ。アインズは硬質な凍土へと叩きつけられた。

 架空の脳髄がシェイクされながら、不動な筈のの視界がぐるぐると回り混乱する。

 

 本当に脳振盪されたわけではない。四肢を欠損した者が、元は存在した触感を錯覚するようなものだ。

 胃どころか、内臓全体が肋骨に引っかかって振動する。異形の器に人間の魂が入り込んだ故の苦痛に、更に実態の痛みが伴った。

 

 戦況の有利も不利も関係なしに、激痛によって先んじ心のほうが折れかかったが、ここに来る際の不退転の覚悟を再念させて踏みとどまる。

 弱い心を打ち砕き、腹の底から煮えたぎる鉛を沸騰させるように、二足で力強く立ち上がった。しかし、

 

「いや遅いですよ?」

 

 マタタビはそんな奮闘を冷たく嘲笑う。振り降ろされた刀の峰がまたもや頭蓋骨へと炸裂した。

 手元よりレプリカのスタッフが離れて、絢爛な造形が氷につきささった。レプリカのスタッフには、浮遊効果なんてものついていない。

 それに続くようにして、アインズは再び地に伏した。 

 

 

◇◆◇

 

 言い訳なつもりはないが、これでもマタタビは自分が根暗で生意気な糞ガキであることを、ちゃんと自覚している。

 善意で歩み寄ってきた相手に嫌味を言って傷つけたり、皆が一致団結したり盛り上がってるところに水を刺したりなんていうのは、昔からよくあったのだ。

 

 クランを辞めるきっかけになった課金騒動の顛末は、今でも思い出すと気分が悪い。

 もともと非課金至上主義を声高と唱えていたペロロンチーノがある日突然課金を始めたのがきっかけだ。

 ムカついたマタタビは、課金していたプレイヤー全員に「口を利かない」という嫌がらせを始め、それが巡り巡ってクラン全体を大炎上させてしまった。

 始まりそのものは大したことなく、そして今となってはなんの意味も持たないことだった。何にせよいつかはこうなっていただろう。

 

 見かねたウルベルトはマタタビに、クランから距離を取るべきだと提案し、マタタビもそれを受け入れた。

 そして諸々の人間関係を犠牲にしたものの、モモンガさんの調停もあり、どうにかマタタビはクランを辞めることになったのだ。

 ナインズ・オウン・ゴールの連中には、本当に嫌な思いをさせてきた。

 

 

 それで何が言いたかったかというと

 身内での諍いを好まぬモモンガさんが周囲に火種をばらまきまくったマタタビのことを嫌っていたのは、極めて自然なことだということだ。

 

 ところがそんな彼が、最終日以降のマタタビとは話せるようになった。昔はロクに口も利かない仲で、取引的なドライなやり取りしかしてこなかったというのにだ。

 大方、最後に残された「マタタビ」を、都合よく執着の対象としているのだろうと思う。アルベドさんだったら羨む役回りだろうけど、マタタビにとっちゃ酷く気に食わない。裏切られた気分だった。

 

 もしも自分のことを嫌ってるはずの奴が突然「冒険者になって羽根を伸ばしませんか」とか言ってきたらどうよ? 気味悪いと思わない?

 本命相手に振られたから、じゃあお前でいいやって勝手に妥協されていたのと同じだ。

 

 

『各々が造物主という名の太陽を見失ったシモベ達は、その反射光を宿すモモンガ様に蛾のごとく群がっては絶対の忠誠を嘯いているに過ぎません』

 

 玉座の間でモモンガさんの改名に異を唱えた時、私が言った台詞。

 じつは彼宛の皮肉だったのだが、遠回しだったし気付かなくても無理はない。

 

 ただやっぱりそのせいでマタタビを殺せないとなれば、感謝していいのか苛ついていいのかわからない。

 

 

 

 突っ伏したアインズ様を足蹴にしながら、手早くマタタビは〈瞬間換装〉でメイド服へと着替える。

 そして彼のガラ空きな胴体に両手を上げて思いっきり押し倒した。

 

「ウグぁああ!! 〈魔法三重詠唱最強化/黒曜石の剣・オブシダントソード〉」」

 

 苦し紛れに召喚系の攻撃魔法を発動させるが、今のマタタビには邪魔にもならない。

 

 右手を肋骨の中心位置である彼の胸骨に添えて、墨字の忍術陣を起動させる

 

「無駄ですよ。〈契約封印〉」

 

 直接接触が発動条件の除去忍術である。

 条件が厳しいだけに、魔法職を極めたアインズ相手でもたやすく通用した。

 

 

 続いては彼の両手を左右それぞれ握手して地面に押し付ける。

 更に骸骨の顎下から私の頭頂部を潜り込ませ、無理やり上を向かせた。

 手足と視線の向きを支配して、こっちに魔法を向けさせないようにしたのである。この魔法詠唱者専用の捕縛術はマタタビオリジナルのものだ。

 

 しかし無力化してやったはいいが、この体勢ではダメージを与えることが出来ない。

 とはいえ魔法職ならば、HPを削るよりも更に手っ取り早い解決方法が存在する。

 

 

「スキル〈魔力泥棒〉」

 

 MP吸収系の希少スキルだ。

 魔法詠唱者の生命線とも言えるMPがなくなれば、残るはただの案山子である。

 万一〈完全なる戦士〉とかで戦士化されても、剣の素人に負ける私ではない。

 

 これで詰み。

 

 それでも負けじとアインズ様は足掻く。

 

「〈負の接触/ネガティブタッチ〉出力最大」

 

 接触してMPを奪う〈魔力泥棒〉対して彼が使ってきたのも、接触により負属生デバフを与えるスキル〈負の接触/ネガティブタッチ〉である。

 メイド服はダメージそのものにはめっぽう強いが、弱体化への耐性には若干穴があった。

 

 MPとネガティブダメージを両方吸収する感覚は、言うなら腹を満たしながらも喉が渇いていくようなものだ

 そんな気持ち悪い感覚をごまかそうと、マタタビは暇な口を動かした。

 

「あなたは他人というものを、とことん想い過ぎる。普通、実質初対面なNPC達の期待に応えるべく己を偽るなんて無茶は、誰もやろうとしないだろうに。

 ギルド長やってた時だってそうだ。昔っからあなたは他人に譲るるばかりで自己主張をほとんどしなかったですよね」

 

「………」

 

 相手は答えず、ただ黙って負エナジーを押し流す。

 だから独り言のつもりでこっちも好き放題に舌を回した

 

「あなたほど我儘という言葉が似合わない男は居ない。だからあんな個性集団のまとめ役が務まったんだろうさ」

 あなたのそういうところ、心から尊敬しますよ。でもね」

 

 間もなく死ぬというのに、相変わらず彼は閉口していた。

 その平然さが酷く気に食わなかった。意地でも反応させたくなって、おそらく彼の一番であろう地雷を踏み込んだ。

 

「そういえばメイドから聞きましたよ。最終日に来てたんだってね、ヘロヘロのやつ」

 

「っ!」

 

 鉄面皮が剥がれて、孤独な呻き僅かに空気を震わせる。

 眼孔の中の赤い灯火が一瞬揺らいだのを、マタタビは見逃さなかった。

 

「大方、過労気味なあいつを引き止められなくて帰したんだろうけど。でももし引き止めてたらどうなってたろうね?」

 

「……黙れ」

 

 らしくなく荒げた声。けれど毛を逆立てた小動物じみた威嚇は、恐怖ではなく寧ろ憐憫を誘った。

 

 マタタビは、一人ぼっちの玉座の間が少しだけ賑やかになるのを、そして少し嬉しそうな骸骨顔を空想した。

 きっとアインズ様にとって、人生最大の後悔に違いなかっただろう。

 

「そして今回もあなたは間違えた。

 ちゃんと私を殺しておけば、このクソみたいな洗脳は解除されていたんだ。あとは蘇生魔法でも使えば良かったはずだ。

 やっぱりあなたは殺しに向いてないよね」

 

 

 もしこの勝負がただのPVPだったなら、本来マタタビに勝ち目なんてあるはずがなかった。

 ただでさえ、スケルトン系統のアンデットであるアインズには、マタタビが得意とする斬撃や刺突の武器は効果が薄い。

 得意の短期決戦には持ち込めないというのに、加えて事前準備による能力差もある。

 何より〈天地改変〉によってマタタビに不利でアインズに無害な氷雪フィールドで戦うことを余儀なくされたのが非常に致命的だ。

 前提条件からして、このPVPによるマタタビの敗北は必定だった。

 

 けれど勘違いしてはいけないのは、この戦いはユグドラシルにおけるPVPではなく、互いの生存をかけた真剣勝負だということだ。

もし彼が、本気の殺意ではなく偽物の友情を抱えながら立ち向かってくるのであれば、そこに唯一勝算があったということだ。

 でも確信していた。

 

 

 大相長々と語ったが、ようは彼の甘さに付け込んだだけである。

 

 

 昔から、他人の揚げ足を取るのは悲しいくらい得意だった。

 こうしてまた一人友人を失うのだから、損ばかりな特技なのは言うまでもない。

 

「……昔から食えない人だ。だから嫌いなんだよ。」

 

「心より同情いたします。私だって、嫌いと言いつつ甘くなりガチなあなたはは大嫌いですよっと」

 

 彼のMPは全て空になった。

 拘束を解き、今度は魔法の鎖を取り出してガチガチに締め上げた。死体の芋虫の出来上がりである。

 

「ごちそうさまでした。せめて痛くないように殺しますからね。許さなくてもいいですけど」

 

 アイテムボックスから筒状ダイナマイトを山のように出す。

 これだけあれば、まぁ即死だろうか。即死って痛いのかな?

 

「……どういうつもりですか。俺を殺すだけなら、爆弾はその半分もいりませんよ」

 

「洗脳状態のまま生き続けたいとは流石に私も思わないよ。

 別にあなたさえ殺せれば、私の安否は関係ないんだ」

 

「そう……ですか」

 

 

 鎖でぐるぐる巻きになりながらも、彼は間もなく訪れる死に対してまるで無頓着な様子だった。

 それなのに私にはどこか咎めるような視線を向けていた。たまらなく気に食わない。

 

 私ははライターを取り出して、ボタンを擦り火を灯す。

 

「……折角ですし遺言くらいは聞きますよ。いやまぁ私も死んじゃうんだけどさ」

 

 

「じゃあ一つだけ。俺言いましたよね 『躊躇はしていませんよ』って。

 この戦いで手を抜いたつもりは、まるでないんですよ」

 

「は?」

 

 

 唐突に、頭頂部へポツンと雫が落ちてきた。

 やがて雫は、落下してくる数を加速度的に増加させる。本降りの雨になるには数秒とかからなかった。

 しかしこの雨がダイナマイトを濡らして駄目にしたのを、数秒かかってようやくマタタビは気付く。

 

 第6位階魔法〈コントロール・ウェザー/天候操作〉。

 敵意の気配が現れたのは、魔法が使われるのとほぼ同時。転移で援軍を呼んだのか。

 

 振り返るとそこにいたのは、ありえない筈の姿だった

 黒一色に統一されたスーツにシルクハットとマントを身につけた、山羊面のバフォメット。

 

 マタタビはそれを知っている。最後に見たのが数年前でも、忘れるわけがなかった。

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウン41名が内、最強魔法職であるワールドディザスターを冠しながらも、数少ないマタタビの話し相手だった友人。

 ウルベルト・アレイン・オードル

 

 数瞬懐かしさに心奪われていたが、間もなく違和感を覚える。

 マタタビの心の微細な動きを感じ取って〈地味子のメガネ〉はひとりでに起動した。レンズは無造作にソレの正体を暴露する。

 

「……ドッペルゲンガーですか」

 

 我ながら、零した声音は思った以上に寂しそうだった。

 

 そいつはグニャッと崩れるように溶けていき、粘土細工みたいに寄り集まっては真の姿を露わにする。

 ゆで卵の埴輪ヅラが軍服を纏ってるというシュールなデザイン。かっこいいと思って作ったんなら、製作者は悪趣味に違いない。

 

 埴輪は大仰な手振りで会釈し、やたらハリのある声を上げて自己紹介をした。

 

「お初にお目にかかります、マタタビ様。

 ワタクシナザリック地下大墳墓が宝物殿の領域守護者、パンドラズ・アクターでございます。以後お見知りおき――」

 

「くたばれ!」

 

 ご口上を逐一聞いてやるほどマタタビは人間ができていない。

 不意を突きノータイムで放たれる、刀による本物の居合い斬り。

 これこそ今のマタタビに出来る最善の攻撃手だ。

 

 ……けれど案の定、刀身は相手を傷つけるには至らなかった。

 いや厳密に言えば、攻撃は相手の身体に届いていたが、ピンクの肉棒型スライムを相手には文字通り刃が立たなかった。

 言うまでもなく、ぶくぶく茶釜の現身だろう。

 

 如何にもこの人らしいNPCである。ウルベルトに化けた時点で予想はしてたが、最初からアインズは囮で本命はソイツならしい。

 

 

 すべてを悟って無駄なことだとわかっていたが、それでもマタタビは足掻き出した。

 

 刀を捨てて踵を返し、敵に背を向けなが敗走を踏み出す。

 

 全身くまなく負ダメージを食らいながら、ましてや凍てつく氷上においての疾走の不快感は想像を絶した。

 四肢は重たく、手指は腐って千切れてしまいそうだ。

 駆けるマタタビに並走するようにして、今度は全身黒装束の忍者衣装、弐式炎雷の写し身が差し迫ってきた。

 しかしいくら弐式炎雷がスピード特価の能力編成でも、ステータスを8割コピーした程度では、本来マタタビに追いつくことは不可能なはずだった。

 今ならわかる。彼が散々負ダメージでマタタビの身体能力を削っていたのは、移動速度を抑えてマタタビを逃さないようにするためだったのだ。

 

 締めは純銀の聖騎士、たっち・みーへと変身する。

 大ぶりの聖剣の峰部分によって、マタタビは盛大に凍土へと叩きつけられた。

 

 

 

 少し気絶していたらしい。

 

 目が覚めると、マタタビは冷たい地面に寝そべっていた。

 

 多分体中の骨がバキバキになっており、僅かに身動ぎするだけでも痛くて痛くて死にそうだ。

 それなのに何故か、さっきアインズ様に巻きついてた筈の自分の鎖で、元々動かない手足が更に縛られていた。

 

 

 傍らでそんなマタタビを見下ろしていたのは、アインズ様ともう一人。多分、パンドラズ・アクターとかいうやつだ。

 その姿を見たマタタビはひたすら呆れるほかにしようがなかった。

 

 黒長の髪をたなびかせ地味なメガネを掛けた制服姿の美少女。つまりはマタタビの姿そのものである。

 ギルドメンバー全員をコピーするだけでもアレなのに、加えてマタタビまで入れていただなんて。

 

「嫌がらせか。いくらなんでも悪趣味すぎますよ」

 

 その一言が彼(彼女?)の琴線に触れたのだろうか。

 顔は動かないが〈読心感知〉でものすごく不機嫌そうなのは伝わった。

 それを察したアインズ様が手を前に出して宥めるように制した。

 

「もともとその外装データはナザリックの所有です。あなたが使っても良いという許可を与えただけですし、何も問題ないですよ」

 

「……釈然としない」

 

 さっき続々とギルメンに姿を変えたパンドラが、最終的に自分の姿になったこと。

 そして自分の姿が、アインズと肩を並べているという光景が、なんだか妙にむず痒い。指摘できるはずもないけれど。

 

「まぁ、それはいいや。ところでここまで大層お膳立てして、結局あなたは何がしたかったの?」

 

 どうやら見るからに、マタタビは生け捕りにされたらしい。

 でもそうしたところで殺さなければならないという事実は変わらないだろうに。わけがわからなかった。

 

「わかりませんか? この状況が何を意味しているのか」

 

「うーん? 自分の手では殺せないけど、それでもやっぱり自分で殺りたかった。だから生け捕りにした、とか?」

 

 それくらいしか考えられなかった。

 ところがその答えに対して何故かパンドラが憤る。

 

「その程度の考えしかできない愚者でいらっしゃったとは。

 貴方様は御方の意思を侮辱するおつもりでしょうか? あなたを仲間として認め、この状況から救い出してみせようとする深いご覚悟を」

 

「……やめてくれパンドラズ・アクター」

 

「は?」

 

 聞き間違いだろうか。今とてつもなく阿呆なフレーズを聞き取った気がする。

 

 救う? 掬うでも巣食うでもなく、救うですって?

 この人は今の私の状況を本当にわかっているのだろうかと、敵ながら急に不安になった。

 

 ところがそんな私を「珍しく察しが悪いみたいだ」と悪戯気味にからかって、アインズ様は答えた。

 

「世界級アイテム〈傾城傾国〉の精神支配効果を解除するには、同じく世界級アイテムを使用しなければならない。

 しかし今のマタタビさんは精神支配されながらも〈傾城傾国〉を所持しており、よって他世界級アイテムによるアプローチが無効化されてしまうだろう。

 俺も最初はどうしようもないと思っていた。だが――」

 

 僅かに横の彼(彼女?)に目配せをする。

 

「要するにこれは、マタタビさんから〈傾城傾国〉を取り除けばそれで済む話だったんだ」

 

「………」

 

 あまりの衝撃に言葉を失った。

 いやわかる。全く予想外だったというだけで、言っていることはわかった。理屈としてはこれ以上なく納得できる。

 

『躊躇はしてませんよ』

 

 ようやく合点が行った。

 わざわざ自らマタタビに戦いを挑んだというのに何度か殺し損ねる場面があったのは、覚悟が中途半端だったからじゃない。

 むしろ逆だった。本気で助ける覚悟で挑んでいたから、そもそも殺害という選択肢をもっていなかったのだ。

 

 そして今パンドラズ・アクターがマタタビの格好を取っているのは、コピーした盗賊のアイテム奪取スキルによって〈傾城傾国〉を奪うためだ。

 

 本来この奪取スキルは、盗賊特化であるマタタビには特に効きづらいのだが、その成功率を上げるためにHPをレッドまで削り不ダメージによる弱体化を施したのだろう。

 

 この状況を作り上げるためにアインズは動いてきたのだ。だとすれば、殺る気と思ってたマタタビはとんだ道化である。

 まったくもって完敗。ボロクソだ

 

 

「じゃあパンドラズ・アクター、始めてくれ」

「御意。スキル発動〈最上位窃盗〉」

 

 パンドラ(マタタビ)は、私の方へと手を伸ばす。しかし指先は触れ合うこともなく暗黒の空間、おそらく私のアイテムボックスへ吸い込まれた。

 

 やがて拾い上げられたのは一着のチャイナドレス。

 シルクのような純白の布地には、派手ではないが華のある美麗で精緻な描かれている。

 ただ謎の老婆の血液がべっとり付着しているがたまらなく惜しい。かえってその芸術的価値を、審美眼の無いマタタビにすら理解させた。

 どうやらこのままでは、ということで〈無限の水差し〉で洗い流されているらしい。汚れ自体は簡単に落ちた。

 

 

 世界級アイテム〈傾城傾国〉は、マタタビの中で忌々しいモノとして深く刻み込まれた。

 

 けれど今は、それ以上に許せないことがあった。

 

 

「……ふざけんな! なんでよりにもよって私なんかを、命賭けてまで助けたんだよ」

 

 わかっていた。アインズがそういう奴なのは、とっくにわかっていた。

 けれども感情として割り切れなかった。

 理解するのを拒みたがる駄々っ子な自分が、頭のなかで暴れ狂っていた。

 

「もしも私じゃなくて別のメンバーが洗脳されたのなら、助けようとするのもまだわかります。

 でも私は違うでしょう? あんたにとっては本来、私なんざただのウザイ糞ガキでしかないはずだ」

 

 声を張り上げるたびに、微小な振動が砕けた肉骨に響いて凄く痛い。

 それでもなお叫ぶことをやめられなかった。

 

 

「それを一時の寂寥感の為に、仲良しごっこで命をかけるなんて、まるで馬鹿みたいじゃないですか!!

 ふざけんな! 万一あんたが死んだなら、ナザリックの連中はどうなるんですよ! もっと自分を重んじろ。このクソ骸骨が!!」

 

 裏返して言えば、マタタビにはアインズほどの価値はないということだ。

 当然である。マタタビは嫌味で生意気で、対しアインズは謙虚で慎み深く和を重んじる。集団の中でどちらを好くものが多いかは明らかだったろう。

 言ってるうちにいつの間にか、目元の端より涙が流した自分が腹立たしい。

 

 ところが決死の訴えを聞き届けたアインズは、何故かなお上機嫌に笑い出した。

 それはそれは心の底から嬉しそうであり〈精神異常無効化〉が無効化されてることもあって尚更だった。

 

 

「勘違いしないでもらいたいが、これは俺の我儘です。

 

 マタタビさんは、最終日に俺がへロヘロさんを引き止めなかったのは遠慮してたからだろうって言ってましたよね。本当は違うんですよ

 

 最終日にヘロヘロさんに言われたんです。ナザリック地下大墳墓が残ってるなんて思わなかったって。

 過去の思い出に拘泥して、来るかもわからない仲間を待ち続けるなんて確かにどうかしてる。わかってるんだ。

 でも彼の一言ですべてを否定されてしまったような気がして、いや。自分で自分を否定するのが怖かったから、俺は心の中で……みんなを拒絶したんです

 気づけば引き止める言葉を紡ぐこともできなかった

 多分俺は、自分の居場所を守りたかっただけなんだと思います」

 

「……それがどうしました。何が言いたいの」

 

「だから俺は、仲間のために居場所を捨てたマタタビさんのことを、結構尊敬してたんです」

 

 ――嫌いなことには変わりありませんがね、というどうでもいい注釈をつけて彼は言った。 

 

 

「……あんた、バッカんじゃねぇの?」

 

 

 クソ骸骨と肩を並べた、チャイナ服が似合わない自分の姿を最後に見て、マタタビの意識は闇へと沈んだ。




もう二度と戦闘シーンは書きたくないと思いました
そして書く習慣を一度サボると後もツケが回ってくるとは……

今度こそ本気でエたると思った

次でこの章は終わりです


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気にしすぎ

気分的にはエたってました
どうもごめんなさい

あと前回の救出時にアインズ様がマタタビに話したセリフを大幅に修正しました

 時系列的には、アインズがパンドラズ・アクターの力を借りてマタタビを救出してからそう経たない頃です

 


【至高の41人レビュー byマタタビ】

No.6:ペロロンチーノ

 

 自由人。

 女性の前で厚顔無恥に猥談を語るこの男は、軽蔑を通り越していっそ憧憬にすら値する。

 ちなみにエロ翼王というアダ名は、クラン時代の騒動でマタタビが流行らせようとしたものだが、言うまでもなく流行ってない。

 

◆◇◆

 

ナザリック地下大墳墓9階層:バー・ナザリック

 

 

 生まれて初めて自棄酒というものをした。

 

 飲み場は当然、先日エクレアさんと共に夕食時を過ごしたバー・ナザリックである。

 

 とはいえ月月火水木金金なナザリックにおいて、ましてや真昼間から飲酒に付き合える使用人なんて居るはずがない。

 

 ちなみに私はアレだ、体裁的には懲戒解雇って奴。

 多分、このナザリックにおいて死よりも重たい重罰なのだろう。

 

 凹んでフラフラしていた私を拾ってくれたのが、バーテンダーのピッキーさんというわけだ。……いや別に、解雇されたことに凹んでいたのではないんだけど。

 

 彼には彼の仕事があるはずなのだが、曰く「わざわざ厨房でなくとも夕食分のドリンクならここでも作れますから、気の済むまで居ても構いません」というハードボイルドっぷりである。情緒が不安定であったこともあり、彼が菌糸類でなければあるいは惚れていたかもしれない。

 

 最初こそ浮遊感に似た快感と深くも透き通る美酒の香りに舌鼓をうち我を忘れていたものの、脳漿や舌もとろけて味覚が鈍り次第に何を飲んでいるのかわからなくなる。

 

 

 あっと言う間に

 

「少々飲み過ぎではないですか?」

 

「うるさいでずっ!……おかわりください」

 

 飲酒経験の浅さからたちまち酔っ払ってしまったのだった。

 

 ハァ、とため息をつきながらも、ピッキーさんは七色で10階層を模したカクテル:ナザリックを差し出してくれた。

 面倒な女を憐れみつつも内心やっかんでる心象が、読心感知でありありと伝わってくる。ごめんね。

 

 いっそ毒耐性を切ってるのが丸わかりなのだから、睡眠薬でも調合して一服盛ってくれればいいのになと思った。

 調理人としての矜持なのか、はたまた発想自体がないのだろうか。少なくとも、ピッキーさんが優しいということだけが事実だった。

 

 飲んで忘れるなんて言葉があるらしい。けどむしろ飲めば飲むほどネガティブシンキングの振れ幅が広がっていき、より憂鬱の坩堝に嵌っていく感じがした。

 さりとてグラスを手放すのも今更怖い。薬物依存とはこういう感じなのだろうか。

 

 うつらうつらと鉛のように重くなった瞼。だが決して下ろしはしない。

 肉蓋の裏側には悪夢がこべりついているとわかっていたからだ。

 

 隣人に刃を向けるという凶行を、なんの躊躇いもなく実行できてしまったという悪夢を。

 でも

 

「許されちゃったんですよねぃ……」

 

 彼が、よりにもよって私のことをである。

 まったくもって信じられなかった。

 

 

『俺だってあなたにはひどい仕打ちをしてしまった。やはり最初から誤解を解くべきだったんだ。メイドなんてさせてしまって申し訳ない』

 

 彼は――だから気にしないでください――と。また、こんなふうにも言っていた。

 

『こちらの損害は皆無で世界級アイテムのオマケまで付いたんですから、こちらから言うことはありません。

 もしマタタビさんがいなかったなら、シャルティアだけ連れ去られて最悪だったかもしれませんし』

 

 もっとも、かく言う彼自身の顔に陰りがあったのは間違いなかった

 だから私は、その後尋ねられた『世界級を所持していた謎の集団』については「何もわからなかった」と答えたのだ。実際は〈地味子のメガネ〉の効力で〈スレイン法国特殊部隊:漆黒聖典〉とバッチリ判っていたが、今のアインズ様が知れば碌なことになるまい。流石に国家相手に報復を成す気にはなれなかった。

 

 最早アインズ様にとって、私とはそういう存在であるらしい。邪険にされてるのは相変わらずだが、体感的には「るし☆ふぁー」の二段階下程の扱いのように思う。

 

 

 

 まさか彼が、私のことを『仲間のために居場所を捨てた』なんて風に思ってたなんて思いもしなかった。

 

 私としては極めて個人的な居心地の悪さから距離をとっただけのつもりだったのだが、他人がどう解釈するかなんて案外読めないものである。

 

 

 それからアインズ様は〈リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉を私に対して差し出した。湾曲的なギルメンの勧誘としてか、利便性を考えた単純な気遣いか、多分どっちも。

 

『いらんです』

 

 けれど私は断ってしまったのだ。自らのこじらせっぷりが嫌になる。

 

 酒色のため息を吐き出しながら、ぼやくように私は呟く。

 

「こういうの、本当に苦手。ただでさえ大迷惑をかけたっていうのにさ」

 

 他者の好意に恐れを覚える性質は、昔から変わっていなかった。

 腹立たしい事実だが、今辛うじて表面上を取り繕えるのはAOGの連中との付き合いがあったからだろう。

 

 唯一救いだったのは、断られた彼自身がそれをあまり気にしてなさそうだったことだった。

 

『いつでも待っていますから』

 

 それはそれで、気色悪い気もしたけれど。

 

 

◆◇◆

 

ナザリック地下大墳墓:宝物殿・霊廟入り口

 

 

 壁面に所狭しと広げられた、ここに来る時点でもはや若干見飽きた宝物の山を見上げながら、アルベドは待合室のソファーにゆったりと腰を下ろした。

 この待合室には普段何も置かれていないらしいのだが、緊急措置として仕方なくこういった形にしているのだと、向かい合わせに座るパンドラズ・アクターは不満げに語った。

 

 今ここに積み上げられてるマジックアイテムは全て、警備上の問題、精神支配から解き放たれた直後ということもあって、一時的にマタタビから預かっているモノだというのだ。

 

 ナザリック内でも屈指の知恵者であるアルベドといえど、立ち上がって驚愕の声を挙げるのも仕方がないことだった。

 間もなく我に返り、席について再び財物の山々を細かく見てみると、品々からは確かに明らかな偏りが伺えた。

 

 まず圧倒的に武器関係が多い。

 刀剣関係や各種銃火器、はたまた飛び道具系や鎖鎌などの変わり者まで取り揃えられており、しかもその七割近くが制作困難な筈の神器級である。

 耐久に乏しい盗賊系なためか、防具に関しては極々軽装なものばかりだ。

 また、現状のナザリックでは貴重品であるスクロール関係。最上位のポーションなど、その他高位のアーティファクトばかりが取り揃えられている。

 

 武装やアイテムの絢爛な装飾で誤魔化されているものの、物品一つとっても明確な目的意識が込められているようで無駄がない。コレクションというよりは武器庫と言い表すのがふさわしいだろう。

 そしてそれらの圧倒的物量。

 パンドラズ・アクターは無機質に答えた。

 

「世界級を除いた、ナザリック地下大墳墓が保持する全てのアイテム・武器の4分の1に値する財物が、現在一時的に仮置きされている状態です」

 

「4分の1……」

 

 ただの個人が保有するには余りにも過ぎた値だった。

 少々不敬な勘定ではあるが、単純計算で至高の存在10人分の稼ぎを立った一人でやり遂げたということになる。

 

 マタタビ曰く、大体のモノが略奪品か、それらを資本に委託制作させたものらしい。礎として積み上げられたであろう死屍累々の山と、アルベドが知る彼女の人物像とは若干乖離があるように思えてならない。

 

(……見かけには寄らないということね。成り損ないとはいえ流石、至高の御方々に次ぐ存在なだけのことはある)

 

 むしろ情緒不安定なあの娘がこれほどまでの武装、即ち戦力を個人で所有している事実というのも、それはそれで恐ろしいことのように考えられた。

 

 先日こそアインズ様より大敗を喫したものの、そもそも精神支配の待機状態という極めて特殊な状況下にあったのだから、実力の底を見せたとはまだ言い難い。

 そして忘れてはならないが、彼女の本職は盗賊であるということである。戦闘以外での戦い方など山程持っていることだろう。

 

 アルベドは、把握しうる限りのナザリックが持つ防衛力とマタタビ個人の脅威度を頭の中で比較する。

 ナザリック側が敗北することは万に一つもありえないだろうが、推算された被害額は収入源を絶たれた現状において馬鹿にできない程であった。

 

 もっともこの手の悩みも既に杞憂と等しくなっていたのだが。

 

「ところでパンドラズ・アクター。先日彼女に『かけ直した』精神支配の経過は順調に行っているかしら?」

 

「現在のところ、特にこれと言って問題はありません。アインズ様にも未だ見抜かれてはおられないようです」

 

 先日、アインズ様がマタタビを救出なさる時のこと。

 仕上げとしてパンドラズ・アクターが〈傾城傾国〉の効果を解除する間際。パンドラは支配の解除ではなく上書き、更新を行ったのである。無論、アインズ様には内密で。

 

 発案者はアルベドだ。アインズ様が救出作戦を発表した直後デミウルゴスと大揉めを起こした最中、パンドラに口添えをしたのである。

 

「しかし如何様な手段を閃くとは流石、守護者統括殿といったところでしょうか。ワタクシめでは到底思いもつかなかったでしょう」

 

 確かにその通りかもしれない。マタタビの正体を知った上でそれを手篭めにしようなどと思いつくのは、全下僕の中でも恐らくアルベドだけだろう。

 たとえ同等の知性を持つパンドラズ・アクターや、ましてやデミウルゴスでも同じことを考えられるとは思えなかった。

 

「共犯者がよく言うわ。それもあなたは、アインズ様の眼前で欺きを行った実行犯じゃない」

 

「あの時自分がとった行動が正しかったかは今でもわかりかねます。少なくともアインズ様が望まれることではありますまい

 もしあの時統括殿がおっしゃった事が虚実であったなら、すべてを洗いざらいアインズ様に白状し、然るべき処罰を賜りたく存じます」

 

「残念ながら事実よ。疑わしいなら彼女に直接聞いてしまえばいいわ」

 

 今のパンドラズ・アクターであれば尋問など容易なことだろう。

 

 アルベドは既に、マタタビから聞かされていた。

 かつてのギルド:アインズ・ウール・ゴウンの絆の薄さと、それに縋る他ない今のアインズ様の切なさを。

 

「そのような真似、できることならしたくはありませんがね」

 

 現状〈傾城傾国〉でマタタビにかけてある制約は

 【アインズ様及び、配下の下僕へ危害を加えないこと】

 【アインズ様の赦しなく勝手に隠遁しないこと】

 【精神支配されている状態であることを認識できない】の3つのみである。

 

 今のところは万が一の枷に過ぎない。パンドラズ・アクターも彼女に手荒な真似はしたくないだろう。

 

「彼女は至高の存在に対する切り札よ。あなたの思いは理解できるけれど、そういうわけにはいかないもの」

 

 最悪の事態も想定しておかねばならない。

 その最悪とは言うまでもなく、他の至高の存在との衝突である

 

 当初はアインズ様と対面する前に、秘密裏に抹殺してしまったほうが安全だと思っていた。だが今のアルベドの見解は、違う

 もし他の至高の存在がこのままナザリックに帰還することがないのなら、アインズ様には永久に幸福は訪れない。

 

 流石にマタタビだけでは役不足だし、下僕ではまったく論外だ。

 

「至高の存在の選別を、いずれ行う時がやってくる

 アインズ様と共に悠久の時を生きられる覚悟があるならば、心からの歓迎を

 気安く捨て去ろうとする者は、排除する」

 

 リミットは、アインズ様の眼が世界へと届くその前に

 もし手遅れになれば最悪、下僕を絡めたナザリック地下大墳墓の空中分裂が予想された。これに比べれば、マタタビによる被害など到底生ぬるかろう。

 

「いいでしょう。地獄の底までお付き合いしましょうとも、守護者統括殿

 アインズ様の思い出を守るためなら安いものだ。たとえそれで御方に憎まれることがあろうと」

 

 アインズ様と我々下僕の目的が一致するとは、必ずしも限らない。破滅願望などもっての外だ。

 もし、「アインズ・ウール・ゴウン」が御方自身へ牙をむくと言うなら、取るべき行動は言うまでもない。

 

「そうね……本当に」

 

 その言い分は、どうしようもないくらい正論だった。

 

「おや、統括殿はアインズ様の正妻を目指されておいでではなられなかったのでしょうか?

 しかしなんと言いましょう、今の貴女はどこか諦めているように見えますが」

 

「…………」

 

 正妻なんて……今更何の意味があるというのだろう。

 

 今のアルベドにはわからなくなってしまっていた。

 真に愛されることが有り得ないのなら、肩書だけを背負っても惨めに思えて仕方ないのだった。

 

 アインズ様が見ているのはアルベドそのものではなく、アルベドの背後にあるタブラ・スマラグディナの影に違いないだろう

 所詮一シモベに過ぎない者への心象など大したものではない。

 

 ましてや自分は、かの裏切り者の落とし子なのだ。

 そもそも果たして、愛される資格なんてあるのだろうか?

 

「決めるのは貴方ではなくアインズ様だ。たとえタブラ・スマラグディナ様に何があったとしてもね」

 

 パンドラズ・アクターは、アルベドの手に握られている漆黒のロッドを一瞥する。

 

「それに案外、我々下僕の立場というのも捨てたものではないかもしれませんよ?」

 

◆◇◆

 

 目覚めると、いつの間にかピッキーさんは居なくなっていて、何故か代わり銀髪赤眼の吸血鬼。シャルティアさんが隣の席からジッとこちらを見つめていた。

 

 

「……っ!」

 

 私を見定めるなり彼女は、やや怯える様子でビクッとなって半歩身を引いた。

 彼女には結構ひどい仕打ちをしたのを覚えている。どうやら若干トラウマになったらしかった。

 それでも何らかの矜持は持っていたらしく、引いた半歩を改めて踏み戻した。

 

「……目が覚めたのね」

 

「ええ、見ての通り。ピッキーさんは?」

 

「そろそろメイド達の食事の時間だからとか言って、通りかかった私にあなたを任せて行ってしまったでありんすよ」

 

「ですか」

 

 不思議だ。このあいだまで殺し合った仲だというのに、思いの外普通に話している。

 息苦しさは多少感じられたが、不快というほどでもなかった。

 

 シャルティアの場合は一度痛い目を見ているから、というのもあるだろう。

 けれど一番大きいのは、彼女側の中にある萎縮。同情というより、申し訳無さのような感情だ。

 

 〈読心感知〉は相手の感情を読み取る事ができるが、思考の理解までは不可能だ。

 聞いてやろうか少し迷い、そしてやっぱり尋ねることにした。

 

「なにか言いたいことでも?」

 

 うつむきがちになる彼女に嫌なものを感じて、口調が尖りつつあった。わかっていてもどうしようもない。嫌な傾向だ。

 

「マタタビ。あなたにはあの時助けられた礼を言わなければいけんせん」

 

 まさしく案の定な要件だった。

 

「……お前それ、意味わかって言ってんの?」

 

「わかっていんす。御方より与えられた任務を遂行できず、挙句の果てに無闇な突貫をして失敗してしまったのでありんす。

 もしあの時あなたがわたしを庇わなければ、精神支配されていたのはわたしでありんした」

 

 個人的にはなぁなぁで済ませてくれても構わなかったというのに、真っ直ぐすぎる性格も考えものだと思った。

 無論、捻くれてるよりはよっぽどマシなんだけど。

 

「逆を言えば私は無事だったわけだ。つまり、私がアインズ様と戦う必要も一切なかった」

 

 意識と切り離され脊髄反射で放たれ始めた悪舌を、止めることは出来なかった。

 

「まったくもってその通りでありんす。

 でも、これがどれだけおんしにとって辛いことだったとわかっていても……

 いざ自分がアインズ様へ牙を向くことを考えると、感謝せずにはおられせんのでありんすよ……」

 

「自分じゃなくてよかったぁって安心してるだけじゃん

 ならもし私じゃなくて、あなたが精神支配されていたほうがアインズ様の心が傷まなかったとしたら?」

 

「……それは」

 

 事の顛末を知っているのなら、シャルティアもわかっているはずだ。

 アインズの中で、私がどれだけ大切な存在なのかということを。

 

 愛され自慢をしたいわけじゃなかった。むしろ逆だ。

 

「お前が洗脳されてた方が、アインズ様にとってもまだ良かったはずだよ。

 だから、どれだけ頭下げようと勝手だけど、私はお前を助けたことは心底後悔してる」

 

 突き放すように言ってやる。

 けれどシャルティアはまっすぐこちらを見据えたままだった。

 

「でも、あなたが私を助けてくれた事実は変わりありんせん」

 

 どうして嫌味は何万編でも吐き出せるのに、本音は全然出てこないんだろう。

 

 彼女にエロ翼王の影がちらついたのはこれで二度目だ。

 どうしてこいつらは、自分の云いたいことをはっきり口にできるのだろう。たとえ下ネタでも謝罪でも。

 

 真っ直ぐな人間は嫌いだ。自分が曲がっていると思い知らされるから。

 そして

 

「……ごめんね」

 

 憧れてしまうからだ。

 

「どうしてあなたが謝るのよ?」

 

 もしもあの時、〈傾城傾国〉に捕捉されたシャルティアを見ても飛び出さず、冷静に対処していれば最良の結果が得られたはずだったのだ。

 アウラさんの後方支援と私の突破力で協力すれば、ババアから〈傾城傾国〉を奪ってシャルティアを取り返すのはそれほど難しいことでもなかっただろう。

 

 じゃあ何故出来なかったのかといえば、私が昔から連携プレイが大の苦手だったからだ。

 仲間がいると理性的に動けず、クラン時代もレイドボス戦なんかでは大概お留守番だったのである。

 

 私がちゃんとしていれば、アインズ様やシャルティアさんも変に気に病む必要はなかったんだ。

 

「……なんでもないよ」

 

「……そう、でありんすか」

 

 なんだい、いっちょ前に気を遣いやがって。

 

 吸血鬼相手に人格で負けたような気がして、なんだか可笑しかった。




 ようやくこの章もおしまい
 次からは王国かな? リザードマンなんて知らない


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隙間 アドバイザー

 カタツムリ投稿でごめんなさい
 執筆速度や時間が足りなくて今の有様です。
 これからはもっとちゃんとやりますんで、なにとぞ、なにとぞ


「ここもしばらく久しぶりだな」

 

 というのも、先日の『吸血鬼騒動』によってアダマンタイトへと昇格して以降、アインズは冒険者として引っ張りだことなったのである。

 モモンとしてしばらくナザリックを開けていて、ようやくできた暇な時間に自室に帰ってきたアインズは感慨深く呟いた。

 

 とはいえかつてプライベートのほぼ全てが『ユグドラシル』に集約されていたものだから、ゲームが現実化してしまった今では『暇』な時間の過ごし方が行方不明となっていた。

 だからかえって、帰宅して間もなくNPCが訪ねてきたのは幸いだったのかもしれない。

 

 コンコンと控えめなノックが扉に響く。

 

「失礼します、アインズ様。偽ナザリック建設計画についてなのですが」

 

「アウラか。どうした」

 

「現在ダンジョンに仕掛ける罠ギミックの草案をまとめているのですが、恥ずかしながら難航しておりまして」

 

「なるほどな」

 

 事情を聴いてアインズは得心した。

 

 現在アウラには対プレイヤーを想定した偽のナザリック建設の仕事を任せている。

 ナザリックのダミーとしての機能は言わずもがな、有事の際の避難拠点やアインズの作り出したアンデットの保管スペースなど、多目的にわたる活用が想定されており、現行の『アインズ・ウール・ゴウン』における重要プロジェクトの一つである。

 もちろんそれなり防衛力が要求されるため、金額的に言えば今最も予算をかけている計画でもあった。

 

 難航しているというのはおそらく、先日マタタビに敗走した経験によりプレイヤーに対する警戒が強くなり目標水準が高くなったからだろう。

 アインズ自身これまでもプレイヤーの存在には強い警戒を示していたのだが、外の世界を知らないNPCたちにはいまいち実感が伝わらなかったので予想外ではあるが嬉しい変化に思えた。

 

 だからアウラの口から「難航」と聞いてアインズの気分は悪くなかった。しかし同時に悩ましくもあった。

 もし親心が叶うのであればつきっきりでアインズのプレイヤースキルを伝授してやりたいところではあるが、しかしアインズ自身忙しい身である。

 

(どうしたもんかな。俺だってこの後また出かけなくちゃならないし、こういったことで当になりそうなアルベドやデミウルゴスだって暇じゃない。パンドラズ・アクターは……絶対人前には出せないしな……)

 

 ところがアウラの成長はアインズの想定の上を行っていたらしく、思いもよらない一言が放たれる。

 

「それでアインズ様がお許しくだされば、その……マタタビの、力を借りたいなぁって思うんですが、だめでしょうか」

 

(えぇええええ!?)

 

 親心を抱いた途端に子が離れる衝撃でアインズの顎が大きく下がった。

 

◆◇◆

 

『なんで俺じゃなくてマタタビさんなんかに……。俺に頼ってくれれば後の予定蹴っても良かったのに』

 

「知りませんがな」

 

 久しぶりにアインズ様から急に〈メッセージ/伝言〉が飛んできたかと思えばとばっちりな恨み言である。

 アウラさんと会うとなればこっちだって気まずくて仕方がないじゃないか。変われるものなら変わりたいのはこっちも同じである。

 

『でもアウラは自分のトラウマ乗り越えようとしているんですからすごいですね。当の『トラウマの方』はあれからずっと部屋に籠ってるっていうのに』

 

「そのくらいにしねぇと切断しますよ?」

 

 あれ以来、アインズ様の私に対する接し方は大きく変わった。

 以前は表面上とても好意的だった反面、無自覚な嫌悪感があったからか要所要所では塩対応だったのだ。6階層で私のことを置いてけぼりにしたり、メイドになったのを放置したりとか。そのくせ仲間面して外出に誘ってきたりしたもんだからムカつくことムカつくこと。

 それが自覚化されて以降はこの通り、むかついたら容赦なく嫌味を言ってくるように『改善』された。転移直後に比べれば私としてはこっちの方が千倍マシである。

 

『真面目な話良い機会だと思いますけどね。マタタビさんだってアウラに負い目があるはずだ。

 借りを返すと思ってやってくれれば、俺としてもうれしいですよ』

 

「……どうだかね」

 

 かの世界級アイテムの騒動以降、メイドもクビにされ必然的にやることもなくなった私は、必然的に自室に引きこもることとなっていた。

 することと言えば、隠形を使いながらナザリック内を探検するとか、無駄に広い自室を影分身を使って掃除するとか、読書とか、時々バーで顔見知りのNPCと話すとかそのくらい。

 

 ……まぁトラウマという程のことではないけど、例の件があってから少しだけ外に出るのが億劫になっていて、精神衛生上あまりよろしくないとは薄々思っていながらも「また明日」を内心毎日繰り返しながら怠惰に過ごしていた。

 

 アルベドさんは多少気にかけてくれるそぶりは見せるが、こちら側が拒否すると簡単に引き下がってくれる。

 彼女に関して言えば「マタタビを気にかけている」というポーズをアインズ様側に表示する必要があっただけで本意ではないらしい。〈読心感知〉で感じ取ると、私が引き籠ってくれることに対しむしろ安堵している節がある。先までは私を利用しようとしていた彼女らしくない、安堵などという妙に消極的な姿勢には引っかかりを覚えたが

 

『まぁ強制はしませんしマタタビさんがどうしようと勝手ですよ

 ただ、社会人ギルドの『アインズ・ウール・ゴウン』にニートが巣食ってるというのは気に食わない話だ』

 

 ああもうこれだ。

 結局この人は変わってない。どれだけ悪態をつくようになっても肝心なところでぶれていない。

 前に進まず、私みたいな奴にすら執着する始末だ。

 

「……わかりましたよ、手伝ってやればいいんでしょ。 ったくそんなんだからアルベドさんに愛想つかされるんだよクソ骸骨」

 

『は? どうしてアルベドが――

 

「自分で考えて。じゃあ切りますね」

 

 

 

 

 

 昼過ぎごろ、アウラさんとは偽ナザリック建設地にて待ち合わせた。

 なんだったら転移してもらうこともできたのだが、世話になるであろう輸送係のシャルティアさんのことを考えると気が咎めたので地図だけもらって自力で向かうことにした。

 

 コンパスと地図とを交互に睨み、変哲もない森林地形の僅かな特徴を頼りにどうにか切り抜けていってようやく霊廟らしき建物の屋根部分が見えてくる。

 さらに近づいていくと森林開発に従事するゴーレムや現場主任らしき様子で指揮を執るエルダーリッチという珍風景を散見する。彼らにも既に話は通ってるようで、こちらを一瞥すると手を止めて軽く会釈してくれた。

 

 やがて木々が開かれた偽霊廟前に到着すると、待ち受けていたアウラさんはパラソルテーブルに茶菓子とファストフードを広げてくつろいでた。

「お待たせしました」 

「遅かったね。まぁ座りなよ」

 

 彼女は椅子を後ろに傾けて退屈そうに振り返った。一見して危なっかしい姿勢だが後ろに転ぶイメージはできなかった。

 敵意は感じられない。恐れを抱いてるわけでもなさそうだ。まったくもって落ち着いている。

 

 言われるがままに空いている向かい側の席に座った。

 

「意外ですね。てっきりアウラさんには恨まれても仕方ないと思っていたんですけど」

「あんたを恨むなんて筋違いでしょ。憎むならシャルティアを襲ったっていう連中か、無力な自分くらいなもんだよ」

 

 なんていう出来た割り切り方だろうか。相変わらず子供気の無い少女だなと思った。

 

 ……でもなぁ、言わなきゃなぁ

 出来ればこのままアウラさんの厚意甘えてあやふやにしておきたかったが、それはそれで自分の矮小さが顕著になって嫌な気分になる。

 結局諦めるようにして、謝罪の旨を打ち明けた。

 

「でも悪かったですね。あの時私がポカしなければもっと穏便に事を運べたっていうのに」

「だからそのことはもう気にしてないよ。それに――まぁいいや。けどあんたにしてはやけに素直だね?」

 

 短い付き合いの癖によくわかってらっしゃる。

 先日シャルティアさんに言い損ねたからだとは、恥ずかしくてとても言えなかった。

 

「あんたのことを呼んだのは、あんたの『嫌な性格』を少し見習おうと思ったからなんだ」

「ふぇ?」

「戦ってるところもさんざん見たし、罠仕掛けとかが得意なんでしょ?」

「……あぁそういうこと。ならまぁ、それなりにね」

 

 プレイヤーキャラクターとしてのマタタビは元々純粋な戦闘タイプではなく、欠落した能力値をいつも外付けのアイテムによって補って戦っていた。

 だからユグドラシルでPKやPVPをする際には地雷仕込みをはじめとした様々なトラップを駆使してきたし、それでなくてもかつて他所のギルド拠点を散々荒らしてきたものだから防衛拠点のノウハウは体感的に理解しているつもりである。

 自分で言いうのもアレだが、そんな私をアドバイザーとして選んだアウラさんはやっぱりなかなかの人選であると思った。

 

「それじゃあ手始めに軽く偽ナザリックの設計概要を説明するね」

 

 偽ナザリック――略して偽ナザは地下五階層から構成されており、1~3層が防衛ライン兼召喚したアンデッドの保管場所。4,5層が緊急時の拠点と物資の保管場所となっている。

 現在4,5層に工事が集中している一方、1~3層は計画が練り切れてないのでフロア中が空っぽという具合なのだそうだ。

 

「防衛能力の要求水準としては、平均80レベルのパーティ1つを壊滅させられる程度。

 そしてもしそれ以上の存在が侵入してきた場合には、こちら側の迎撃準備ができるまで十分な時間稼ぎができればいい」

 

「あまり厳しい条件とは思えないのですが?」

 

「そうなんだけどさ……」

 

 困った顔をしながら彼女は1枚の羊皮紙を取り出して見せる。

 促されるように羊皮紙を覗き、記されていた予算額の桁を見て得心した。

 

「前述の条件を満たすだけならこの半分も要らないですね。エルダーリッチや即殺不可なデスナイトもいるんだし」

 

 おそらく石橋クラッシャーなことで定評のある某骸骨が余計に気を利かせたのだろう。

 要求条件に釣り合わない高すぎる自由度。これは迷うのも無理はない。

 

「アインズ様は遠慮せず使って構わないって仰っられたんだ。何か意図があるのかなと思ってデミウルゴスに相談したんだけど」

 

 デミ曰く――

『私やアルベドを含め、これまで我々シモベはプレイヤーという存在を過小に評価していた節があった

 だから先日の件から学び取ったアウラがプレイヤーに対しどこまで気を回すのかということをアインズ様は測っておられるのでしょう』

 

 深読みだ。あの人そこまで気を回すタイプじゃない。

 

 湧きあがりそうな心の声をのど元でキュッと抑えて飲み込んだ。これでまたアインズ様の胃痛の種は着々と発芽して行くのだろう。

 自業自得な部分もあるんだし、彼が自身の過大評価に苦しめられようと知ったこっちゃなかった。彼以外、誰も不幸にはならないしね

 

「一応予算を最低限にした場合の設計プランを作ったからまずは読んでくれないかな」

「いーですよ」

 

 

 プランニングに目を通して第一に思ったのは、モンスター配置がなかなか巧いということだ。

 例えばアンデッドの徘徊するエリアに酸・負・冷気のダメージを与える広範囲トラップを仕掛け、耐性を持たない侵入者だけに一方的にダメージを与えるとか。蜘蛛型モンスターのを天井に這わせて床に地雷を仕込むトラップ部屋とか。用水路の抜け道があると思いきや水中に無色透明のスライムが潜んでいるとか。

 

 魔獣の造詣が深く感じられ、流石ビーストテイマーといったところでしょうか。PKばかりでモンスターに関する知識に疎い自分には却って出来そうにない所業だ。

 だが同時に欠点もある。トラップ単体の扱いとなると途端に雑になってしまうのだ。

 

「ここの地雷トラップさ、少し目を凝らせばスキルを使わなくても見つけられるようにして、さらに下に別の爆弾を仕掛けるんです。上の方を解除して気が緩んだら下の方が起動してボカンってね

 ……能力的に看破できたはずの盗賊でもついつい引っかかったりとかするんですよねこれが」

 

「ひょっとしてアンタもあるの?」

 

 しまった顔に出ていたか。

 

「まぁね。昔、ぷにっと萌え様が戯れに仕掛けていたヤツに少々痛い目を見たんです。

 元々ゲリラ戦争なんかで使われていたブービートラップの手法なんだってさ」

 

 ギルメンの名前が出てきたからか、アウラさんの目の色が変わる。

 罠に引っ掛けられたことなんぞに嫉妬されても困るんだけど。

 

「他にはないの?」

「あるよ。ほらここの〈狂気ガス〉トラップのところ。これを幻術魔法と組み合わせれば直接被害は無いにしろ、精神的にかなりダメージを与えられると思うよ

 喩えるなら五大最悪の恐怖公さんが〈絶望のオーラ〉を使って近づいてくるイメージ。わかります?」

「……端的に言ってすごくヤダね」

 

 おそらくナザリックのNPCの中で最もプレイヤー撃退スコア、厳密にいえば戦意喪失による回線切断が多いのが彼だろう。

 製作者は知らないが、あの手の悪辣な手法を好むのは大抵るし☆ふぁー辺りだ。

 

 

 

 しばらくはガールズトークならぬ戦術トークで盛り上がった。3時間ぐらい話し込んできたところでとうとう日が暮れてきた。

 

「やっぱりあんたに相談して良かったよ

 計画書にもまだ見直しの余地がありそうだってわかったし」

「なら何よりです」

 

 ここまで他人と長話したのは何時以来だろう。小さいころまで遡っても思い出すことができなかった。

 ユグドラシルにおいても、アウラさんの制作者であるぶくぶく茶釜とはここまで打ち解けられた覚えはない。アルベドさんみたいに、気難しい私のご機嫌取りをしてくれたわけでもあるまいし、まったく不思議だ。

 

 なんでこんなに素直なんだろ、自分

 

 そんな疑念を頭の片隅に浮かべていたところで、対するアウラさんも何やら気になっていることがあるらしい。彼女は鷹揚と訊ねた。

 

「先日マタタビが戦う姿を見て、それと今日色々教えてもらって思ったんだけど、あんたの戦い方って至高の御方々のものと凄く似ているよね

 マタタビは御方々から師事を仰いでいたの?」

 

「違うよ

 私は、私にはどうしても勝ちたかった人がいたんです。だから連中の……御方々の傍でひたすら戦略を盗み見ていただけ」

 

 ぷにっと萌えの『誰でも楽々PK術』から始まり、ウルベルトの時間操作テクやぺロロンチーノの狙撃術、弐式炎雷の暗殺技、やまいこの体術

 そしてその他諸々のメンバー技能を、多様な魔法を駆使するアインズ様の戦い方をモデルにして自分の戦略として確立させた

 

 対応力には自信があるが、おかげで酷い器用貧乏だ。武器のストックも大量に用意する必要があるし、1戦ごとのアイテムの消費量が馬鹿にならない。この戦い方を維持するために盗賊職となってギルド荒らしを始めたといっても過言ではないくらいだ。

 

「もっとも、それだけやっても勝てはしませんでしたがね。無駄骨です」

 

「ひょっとしてアインズ様のこと?」

「え? 何で、全然違いますよ。いやまてよ……」

 

 ここで意外な名前が出てきて戸惑うもしかしよくよく思い出してみると自然な流れなのかな。

 たしかアウラさんは、私とアインズ様が戦うところを監視していたんだっけ。ひょっとして会話も聞かれてた?

 

 

『簡単に殺せそうだよ』

『嫌がらせか』

『バッカじゃねぇの?』

『クソ骸骨が!!』

 

 恥ずかしさで蒸気する顔面に冷や汗が伝った。

 こうなると最早不敬どころではない。敵対ルートまっしぐらじゃないか? なるほどだから今日アウラさんに呼ばれたのかなるほどなるほど。『抵抗せず一方的に殺されなきゃいけない』んですねわかります。

 

「……なんか今、スッゴク馬鹿なこと考えてない?」

「ほへ?」

 

 呆れ気味な溜息を浴びせられて思考が冷静になり、そもそもアウラさんからは一切敵意を感じないのを思い出した。

 じゃあ……どない?

 

 それから一転、柔いこめかみに年齢不相応な血管を浮かび上がらせ苛立たし気にアウラさんは言った。

 

「よもや何かされるとでも思った?アインズ様は今のマタタビをアインズ様は生かしたんだよ。あんたを手にかけるなんてそれこそ背徳行為も甚だしい。

 まったく、馬鹿にしないで!」

 

つまるところ私の勘違いは、アウラさんの使命と忠誠心を侮辱してるのも同然だ。

 ああしまった、これは怒られて当たり前じゃないか。

 

「ごめんなさい」

「わかってくれたならいいよ。それにあたしは『何も知らない』からね。元々あんたの振る舞いにどうこう言える立場じゃないし

 だから教えてくれないかな、マタタビとアインズ様がどんな関係なのか」

 

 乗り気はしなかったが、直前に失言してしまった手前断りづらい。それにもうアウラさんはアインズ様と私の会話を聞いてしまってるんだから、下手にごまかしても仕方ないだろう。

 だから観念して白状することにした。 

 

「セバスさんとデミウルゴスさんの関係に近いんじゃないですかね。互いに気が合わないんです

 正直今アインズ様がどう思ってるのかはよく解らんですが、私みたいな厄介者にすら執着する様は見てられなかった

 だから最初はそのうち出奔しようと思ってたんだ」

 

「それなのにどうしてナザリックに居続けることにしたの?」

 

「私が自分でも思ってる以上にアインズ・ウール・ゴウンが好きだったからかな。もっと言えばギルドメンバーの面影が残るあなた達のことを存外気に入ってしまったってのもある

 それでもアインズ様の好意なんて絶対受け取りたくはなかったから、アルベドさんの悪意に甘えてでメイドにさせてもらったんです」

 

「アルベドが悪意を?」

 

「おっとしゃべりすぎましたね。そこは出来れば追及しないでください

 んで何か感想は?」

 

「よくわからないところもあるけど、アインズ様がマタタビを気にかける理由はなんとなくわかった気がする」

 

「あっそ。今更ですけど、喋り方とか気にしないでくださいね? 今になって敬語なんてされたら迷惑です」

 

「わかってるよ。アインズ様も気にされていないし、今更整えるのは正直やりづらいから

 ……それと話してくれてありがとう」

 

「どうもどうも。自分でも何でこんな饒舌なのか不可解なんですけどね」

 

 まるで〈魅了/チャーム〉でも使われたみたいです。ビーストテイマーが魔法なんて使ってくるわけないけれど。

 ビーストテイマー? ありゃもしや……

 

「〈影分身の術〉」

 

 嫌な予感を感じ、咄嗟に分身体を生み出した。

 そして〈地味子の眼鏡〉により分身体のステータスを確認すると、案の定状態異常の項目に『軽度のヘイト値減少』と記されている。

 

「あっちゃ~」

 

 スキルの使用がばれ、旗色を悪くしテヘペロ顔するアウラさん。

 

「……うわぁ、ないわぁ」

 

 

 スキルの使用自体はまぁ許せる。アウラさんも仕方なかったんだよね。

 悪いのはわざわざスキルを使わないと碌に話せもしない私の方なのだろう……

 

 今度こそ仲良くなれたと思ったのだけど




 オリ主のナザリック勢に対するスタンスは

「私なんかを好きになるわけがない」
「私なんかを好きにならないで」

です。だからアウラが何となく察した『理由』なんて本人には至極どうでもいい、というか聞きたくもないのでしょう。
 でも愛情には飢えていますから、つれなくされれば普通に凹みます。

 狂ってはいないけど至極面倒な奴



 あー、ちゃんとアインズ様主体の話も書いていきたい。


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another under ground 前半

 10月14日に投降した出来損ないに後ろからくっつけた奴です。
 思った以上に文章がかかり、これで後半もこれと同じくらいになると思います

 10月14日のを見た人は★印から読んでください

 焦って未完で投稿した挙句継ぎはぎして読みづらくしたこと、深くお詫び申し上げます


 

 

 わずか1週間という異例の速さでアダマンタイト級にまで上り詰めた冒険者チーム『漆黒』だが、早急すぎる成果は何かと軋轢を生みがちだ。

 今は亡きミスリル級チーム『クラルグラ』との衝突が最たるもので、都市の英雄たるモモンを称賛する声が多くあれど、妬み嫉み訝しむ者たちも一定数存在する。

 

 だからここ数日モモンとナーベは二手に分かれて冒険者組合内のボードから依頼書を片っ端から千切ってはこなしていくこととなった。圧倒的能力差を宣伝していくことで手っ取り早く不満の声を黙らせるためだ。

 とはいえやり過ぎれば下級冒険者の稼ぎ口が減りかえって逆効果となる。

 その点を考えれば討伐金目当ての魔獣狩りは良い。基本的にやり過ぎることはないし、狩り過ぎて組合側が料金を出せそうもないなら提出しなければいいからだ。

 

 

 というわけでモモン、もといアインズはいつものように漆黒の鎧で擬態しながらカッツエ平野を彷徨い歩いていた。

 

 漂う薄霧はただの水蒸気ではなく常にアンデッド反応を放ち続けている。基本的には体に無害だが、他のアンデッドの気配を丸ごと包み込んで隠してしまうので急に不意を突かれる可能性があった。

 この地では敵に囲まれることも想定し常に気を張っていなければならない。エ・ランテルの冒険者の間で「カッツェ平野を生きて帰れりゃ1人前」と言われるのはこのためだ。

 

 とはいえ出てくるアンデッドのレベルは基本的に一桁程度。たまにエルダーリッチやスケリトルドラゴンなども出てくるが無論アインズの相手ではないし、加えて先日の一件があってからNPCやアインズが外出する際には80レベル以上のシモベを複数体同行させることにしていて、今も隠形状態のハンゾウを周囲に忍ばせている。最悪格上のプレイヤーと遭遇することとなってもどうにかなるのだ。

 

 未踏地に足を運ぶ感覚は嫌いではなかったが、如何せん緊張感がない。

 退屈に任せ最近扱いなれてきた気がするグレートソードを振り回し、同族意識のわかない同属種たちを屠っていく。

 

 始めこそ悪くない無双感だったが飽きるのに時間はかからなかった。剣を操る片手間で最近癖になりつつある一人語をつぶやいた。

 

「そういえばアウラが設計したあの仕掛けにはたまげたなぁ!」

 

 先日アインズのもとに提出された偽ナザリックの建設計画書の事を思い出す。

 

 プレイヤーなどの脅威対象が明確でない現状では、下手に防衛力を高くしても無駄な骨折りになりかねない。だからとりあえず『平均80レベルのパーティ1つを壊滅させられる程度』という要求水準に留めたのだが、予算を決めるときにそのことを失念してしまい大きく割り振り過ぎてしまった。

 

 当然アウラも困惑したに違いない。

 結局彼女はそのノルマを最低限の予算で完遂させ、余った資金は全てとある仕掛けに注ぎ込むことで対処した。

 

「絶対アレはマタタビさんのアイデアだろうなぁ……」

 

 その仕掛けとは、偽ナザリックの1~4階層をすべて爆破する大規模な自爆装置である。

 避難拠点として使う予定を考慮すると少々難のあるギミックだが、上手くいけば侵入してきたプレイヤーたちを一網打尽できるという、如何にもアインズ・ウール・ゴウンらしい悪辣さが気に入ったので採用することにした。

 

 恐らく没にされることも織り込み済みで、その場合余った予算は返上する予定だったのだろう。アウラのそういう気遣いを含めて非常に好感の持てる計画だった。

 マタタビはマタタビでアウラとも上手くやれてるようで何よりである。アインズからすればむしろ妬ましい立ち位置だが。

 

「……チッ! 剣を振りながら彼女のことを考えるのは良くないな」

 

 そこである嫌なことを思い出し、抑制されるギリギリ程度のイライラが浮かび上がった。

 

 というのは世界級アイテムの事件以降、アインズが習得した剣術をマタタビに見てもらう機会があったのだがそこで酷い酷評を受けたのだ。

 

『技術面は基本を押さえたって程度で、まだまだ体力頼りなところがあって粗削り。辛うじて及第点ですかね。

 だけどロングソードの二刀は論外。アンデットだから膂力の疲労はないだろうけど、両刀長くて可動範囲被るしもう本当に色々と論外。

 見た目派手だし冒険者としての宣伝効果を考えるなら悪くないですけど、私や弐式炎雷みたいな機動性重視の前衛相手じゃ格下相手でも簡単に見切られる 

 素直に片手外して盾を装備した方がいいですよ』

 

(何もそこまで言わなくてもいいじゃないか。そんなんだから温厚なギルドメンバーですら不評を買ったっていうのに)

 

 意見そのものは正論だし、今のアインズにとって容赦なく評価してくれる相手は貴重だったが、それでも辛辣な物言いや上から目線っぷりがどうしようもなく腹立たしかった。

 やはりまだマタタビとは距離を取った方がいいだろう。とはいえこのままというわけにもいかない。

 

 マタタビのことが嫌いなのは昔から変わっていない。

 だが皮肉なことに、アインズは彼女の『アインズ・ウール・ゴウンへの愛着』をかつての仲間の誰よりも信用していた。

 

 本人はそれを絶対に認めようとはしないだろう。

 しかしそれならどうして、メイドになってナザリックに居座り続けたり、世界級アイテムからシャルティアを庇ったり、何より自身を救出しようとしたアインズを非難したというのか。

 

 無理に仲直りなんてしなくてもいい。ただアインズは、マタタビの本当の想いを知りたいのだ。

 そしてもし、今でもギルドの加入に未練があるならば……

 

 そこまで考えてアインズは思考を打ち切った。

 

(……いや無いな。メンバーだってもう俺だけだし、俺の事もどうせ嫌いだろうし、今更いろんな意味で面目が立たない)

 

 なんににしても、とにかく今はマタタビの本音を知らなければならない。どうするべきかを考えるのはその後でいいのだ。

 

 

 アインズは少しクールダウンしようと剣を置いた。

 思えばずいぶん時間がたったような気がする。もしやと思い背後を振り返ると、アンデッドの残骸が二対の山脈のように一本道を切り開いていた。

 

「おっと、これは少々やり過ぎてしまったなぁ。全部を組合に持って帰るのはやめた方が無難だな。というかここはどこなんだ?」

 

 周囲を眺めると、何もなかったはずの平地にいつの間にやら朽ちかけの廃墟やらがいくつも並んでいる。

 カッツェ平野の深部には数百年前の建造物が立ち並ぶ区画があるという話を冒険者組合で思い出した。どうやら切り進んでいくうちに迷い込んでしまったらしい。

 迷ったといっても転移魔法で帰還できるので遭難の心配はないが。 

 

「こういう雰囲気、タブラさんが好きだったよな。俺はアンデッドになってしまったから怖いとは思えなくなってしまったけど、見せてあげたかったな……」

 

 ホラー好きの仲間を思い出してわずかに切ない逡巡をするが、考えても仕方ないと切り替え真新しい光景に心躍らせた。

 

 文明の痕跡がみられるが、一体どういう歴史背景があってここにあった集落―― 都市は無くなってしまったのだろう。ここのアンデッドにもユグドラシルにいた種族があったが、ひょっとしたら過去に転移してきたプレイヤーが関係しているかもしれない。

 あれやこれやと取り留めもない想像が掻き立てられ、心地よい好奇心が胸の中に広がっていく。

 

 案の定振り切れた喜びは沈静化されていくが、それでも感情の波が完全に途切れることはなくじわじわとした喜びが滞留する。

 

「これこそまさに冒険だな! あぁけどあと2.3時間後には別の依頼予定があるし、準備もしてないしなぁ!」

 

 しかし何もしないでこのまま帰るのはあまりにも惜しい。本格的な調査は後日にまわすとしても、軽い下見くらいはしておきたい。

 

 というわけでモモンとしての活動は一時OFF。いつもの神器級のローブを羽織りなおし、関節をウキウキと鳴らしながら散策を開始した。

 

 

★(追加分)

 

 

 

◇◆◇

 

 アインズ様直々の依頼書が私の自室に配送されたのはつい昨日のこと。

 封筒には90レベル以上の盗賊職、つまりナザリックでは私にしか解除できない厳重な封印がかけられていました。

 むろん私は特殊技能でこじ開けて読みました。

 

 それは私が、精神支配をくらって待機状態にあった時のことです。

 エ・ランテルにてアンデッドの大群が暴走するという大事件があったのだが、その首謀者は運悪く、イライラ気味のアインズ様とナーベラルさんにバッティングしアッサリ殺されしまったそうな。

 しかしその後、事件関係者の死体は冒険者組合に引き取られたものの、翌日行方不明になってしまったんだと。

 うち一人はアインズ様の正体がバレた(というか舐めプでばらした)らしく、もしその死体が蘇生されて情報が抜き出されれば一大事。

 アインズ様は後になって失態に気付いたが、今更部下に相談なんてしづらいし(馬鹿じゃねぇの?)、そもそもNPCには調査任務に向いてる人材が居なかった。

 

 ここまで言えばおわかりでしょうが、結局、部下でもなく見えを張る意味もない、加えてこういった水面下での捜索が得意である私の方にお鉢が回ってきたというわけです。

 

 ようは尻拭いだが、このあいだ自分がやらかしたことに比べれば大したことではありません。

 互いに最近ますます悪態が増えてきたものの、クラン騒動やら先日のことやら、今まで彼から受けてきた恩は計り知れない。

 無論引き受けることにした……のだけど。

 

 

 依頼書類には二枚の写真が同封されていた。

 

 一枚は金髪ボブカットにスケイルアーマーの獣然とした女戦士の姿。

 そして……二枚目は、怪しく濁ったオーブを握りしめ小汚くぼろいローブを羽織ったぬらりひょんのような禿げジジイの姿。

 パット見どちらも見覚えのある顔立ちと姿だ。

 

 特に二枚目。何故かジジイの方は妙に身近な雰囲気を感じる。

 寂しい色をした、今を写さず過去を遡るような眼光から連想するものと言えば

 

(多分この写真って、アインズ様が幻術で再現した姿をアイテムで撮影したんだよね?

 だとしたらコイツの目は……なら尚更、まさか、そんな?)

 

 その時荒唐無稽な閃きが頭の中に電撃を走らせた。

 それは『ほぼ』ありえない可能性だが、もしあり得たとしても事実として非常にしっくりきてしまう。

 

 途端、本能と理性が大音量で警鐘を鳴らし始めた。これは、関わってはいけないタイプの案件だ。

 下手すれば全力をもってナザリックから離れないと、さもなくば近い将来地獄を見る羽目になるかもしれない。

 

 しかし『アインズ様を一人で残してはならない』。そんな声がどこからか聞こえる。

 恐怖と反比例して、逃亡という意思は瞬く間に消失した。

 

 それが『自分の意志』によるものなのかは怪しかったが、賛同はできる

 心の底から。

 何故なら彼は今も昔もどうしようもないくらい、私の恩人だったからだ。

 

 仕方ない。

 まずはジジイの身辺調査から始めよう。幸いアテはいくつかある。

 

「最近会っていないけど多分まだ生きてるよね? あいつら」

 

 見ないうちに数人は死んだだろうが全滅はあるまい。

 忘れた名前の代わりに間抜けたレモン面を脳裏に浮かべる。

 

 信じない神に彼らの無事を、そして私の徒労と杞憂を祈った。

 

 

◇◆◇

 

 

 約小一時間廃墟群を散策したアインズ。最初こそたかが廃墟探索なのにはしゃぎ過ぎたかと内省したが、これが思った以上に楽しかった。

 朽ちていく建物の在りし日の姿を思い描き、そして今に至るまでの経緯に哀愁を味わう。

 リアルに存在した廃墟マニアという人種は、廃墟の持つ独特の崩壊の美に魅了されてるのかもしれない。

 いわゆるファンタジー的なものではないにしろ、なるほどこれも冒険である。

 

 まだ若干時間があったのでもう少しだけ見てみようかなと思ったところで、水を差すように大地を削る重低音が薄霧の中で響いた。

 

「なんだ? あれは」

 

 音のする方向から延びるのは巨大な霧のシルエット。

 それが建物の陰ではないことは、不気味に移動していることから一目瞭然だ。

 

 なら巨大モンスターの類だろうか?

 

 当然必ずしもデカけりゃ強いという訳でもないが、巨体には巨体の利があるので油断はできない。

 だが何より姿が見えないというのが厄介だ。

 

「この霧がアンデッド反応を持っているとするならいけるか?〈ドミネート・アンデッド/死者支配〉」

 

 霧そのものがアンデッドモンスターの一種ではないかと予想して、アンデッドモンスターをコントロールできる魔法を使ってみたところビンゴだった。

 さすがにカッツェ平野全体までは無理だが、アインズの周囲に漂う霧を退かすことには成功する。

 

 かくして影の塊は徐々に輪郭を露わにし、最終的には巨大なガレアス船の残骸として姿を現した。

 

 側方にはところどころ亀裂や穴あきが見受けられた。帆はボロボロに敗れ怪風を受け流すばかりで、側方から無数に延びるオールもひたすら無意味に空を泳ぐだけ。

 動くはずのない残骸が異なる理で行進する様はまるで船のアンデッドのように思えた。

 

 そこでようやく目の前の物体と記憶していた内容が合致する。

 これは噂に聞いたエルダーリッチの幽霊船という奴に違いないだろう。

 

 一般のエルダーリッチよりも強力らしいが、それでいて目撃証言や敗戦記録が多く残り結果有名化しているという妙な個体だ。

 その矛盾点が気にかかり、前々からアインズもマークはしていた。

 どうやら積極的に人間を害そうとしていないので、何らかの交渉ができる程度の知性や理性を持ち合わせている可能性があったからだ。

 

 もしそうであってくれたならナザリックの陣営に招き入れ、冒険者などから身の安全を保障するのを対価にこの世界の情報を引き出すつもりである。

 まぁ無理なら無理で滅ぼすだけだが。

 

 思ってもみなかった遭遇に僅かばかりのときめきを感じながら、しかし同時に心を引き締める。

「〈飛行・フライ〉」

 定番の飛行魔法で身を浮かせ、甲板を超えマストの頂点部分まで上昇し船内を俯瞰した。

 

 噂ではアンデッドの軍団を率いているという話だった。しかし甲板には人っ子一人、骨っコロ一つ落ちていない。

 幽霊船という割にはキチンと整頓されているようで、木樽や木箱などの備品は一塊にされて隅に置かれている。

 というか不要だから適当にうっちゃっているというのが正確かもしれない。

 少なくとも日ごろから、この廃船を手入れしている者がいることは間違いない。

 

 うまく交渉できるだろうか。そんな不安が肋骨あたりに溜まるが、支配者としての自覚と自負がたちまちそれを打ち消した。

 やらなければいけない。やれなければいけない。

 皆の支配者たり得ねば

 

 自室で密かに励んだ練習を思い出し、喉元に残った不安の残渣を吐き出すように声を張り上げた。

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。噂に名高い幽霊船の船長殿、こちらに敵意がないことは我が名に誓う。

 話がしたい、姿を見せてくれないだろうか」

 

 すると奥の扉がひとりでに開き、両脇の外灯が青い灯を灯す。そして頭の中に声が響いた。

『面倒だから、勝手に入って自分で見に来てくれよ』

 

 投げやりで遠回りな、入室許可。

 これは特殊なテレパシーでも何でもない只の〈伝言/メッセージ〉だ。

 しかしユグドラシルでモンスターとして登場するエルダーリッチが習得しているはずがない魔法である。

 この世界のエルダーリッチだからという理由も考えられた。しかしもう一つの可能性の方が高い。

 

(俺と同じスケルトン系統のプレイヤーか? 迂闊だったが、しかし呼び出してしまった挙句勝手に帰るのは……)

 

 ここで「あなたはプレイヤーですか?」などと尋ねても意味はない。こちらは既にアインズ・ウール・ゴウンとして名乗ってしまっているから、プレイヤーなら感づいているだろう

 こっちは個人的なこだわりなので仕方なかったが、自身が相手の立場ならプレイヤーであると正直に自己紹介することは決してない。

 

 幽霊船という自身の陣地から迎撃しようしている場合も考えられる。

 だがいきなり交渉を持ち掛けた相手を殺しにかかるほど軽率な相手なのだろうか。

 噂からして凶暴性は低いはずなのだ。

 

 様々な可能性が考えられたが、折角の交渉のチャンス。ここを逃せば次がない可能性もある。

 以後水面下でプレイヤーの可能性に怯えなければならないのは損失だ。

 それに別に相手は『一人で来い』とは言っていなかった。

 

 慎重に行くに越したことはないが、石橋でも鉄橋でも、いつかは渡らねばならない橋ならば今渡ったほうがマシだ。

 

「もう仕方ないよな。『わかった、少し準備してから入る』」

 

 

 

(まさかカッツェ平野への探検がこれほど大ごとになるとは思わなかったな)

 

 ナーベラルに依頼の破棄を伝言。

 その後すぐにアルベドに連絡して、後詰とニグレドによる監視を手配してもらい、その間強化魔法を身に纏った。

 共に入室するのは、元々連れていたしていた隠形状態のハンゾウ達だ。

 

 マタタビを連れてくるのもアリだったが、彼女には別件の用事を出しているのと、個人的な心境の問題から。

 そして一番大きい理由として、彼女の隠形がバレた場合取り返しがつかなくなるから呼ばなかった。

 

 ナザリックにとって対プレイヤーの切り札である一方、数多のギルドを滅ぼしてきたユグドラシル屈指の危険人物であるマタタビを傍に潜ませていた事実が明らかになれば最悪戦争である。

 

(まったくマタタビさんは、使い勝手がいいんだか悪いんだか。いや多分絶対悪いよな。

 能力は器用なくせに性格と悪行のせいで色々台無しなんだから)

 

 思い出してイライラするのは毎度のことだが居ない奴のことを考えても仕方ない。

 

 

 準備完了。かかった時間は5分程度。

 アルベドはまるでこのような事態を事前に想定していたかの如く、手際よく戦力を整えてくれた。

 

「急用だというのに迅速な対応、本当に感謝するぞアルベド」

 

『これはその……とんでもございません。 やはりアインズ様の仰る通りプレイヤーはナザリックにとって強大な脅威ですから』

 

 〈伝言/メッセージ〉越しにも鬼気が伝わる必死さである。

 直接体感したシャルティアやアウラが顕著だが、悪くも良くもマタタビの影響が色濃かった。

 

「お前が深く理解してくれたこと、重ねて感謝するぞアルベド。まぁとはいっても、今回の場合プレイヤーが無関係な可能性もある。

 それにシャルティアたちにも言ったが、先日のマタタビなんかは特殊な例だし気負い過ぎなくて――」

 

『お言葉ですがアインズ様、常に最悪の、最低の結果を想定するべきと、このアルベドは愚考します』

 

「アルベド?」

 

 これまでと違う反応だ。

 いつもならどんなに小さな称賛でも、受け取ったNPCはこれでもかという程大げさに反応しただろう。

 だが今日のアルベドは違う。

 

『この世界はひたすら未知にあふれています。一歩踏み誤れば全てを失うこととなりましょう』

 

 自主性が芽生えた。それは恐らく間違いないし、自ら意見するようになれたのも喜ばしいことだ。

 

『先日、恩方に牙を剥いたのが何者であるか、またそれが何によって引き起こされたか、くれぐれもお忘れなきように』

「そうだな……まったくだ」

 

 それにとても手痛い指摘だった。

 

『ではこれにて失礼します。どうかご武運を』

 

 だがそれ以上に……ひょっとして

 

「ありがとう、アルベド」

 

 ひょっとして自分は失望されてしまったのだろうか?

 

『っう!? ……はい』

 

 〈伝言/メッセージ〉は途切れた。





アルベドがオリ主に嫉妬してるのを、アインズが勘違いしただけ。
とは言ってもあながちアインズも的外れではなく、アルベドはアインズの執着に少し呆れてる。

大体オリ主の悪影響です


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another under ground 後半

 冒頭でオリキャラは禁止にしてましたが、苦渋の決断で今回は出番なしの既存キャラを捏造満載で登場させることにしました。申し訳ございません。



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 男には願いがあった。

 それは切なる想いであり、深い愛情だった。

 ただどういうわけかその願いが、彼が彼であり続けることを否定した。

 

 これまで積み重ねた地位を、名誉を、誇りを、人生を、『願い』は彼から捨てさせた。

 慄く周囲はこれを引き留めようとするも既に手遅れだった。

 

 男は歪み、やがて年月を経た『願い』は無形の妄執へと変質する。

 ならば『願い』と外道がすれ違うのも時間の問題でしかない。

 

 誰もが望まぬ凶行に手を染め、邪法への探求は十数年にも亘って行われた。

 

 そしてようやく一歩前進できるというところで、しかし理不尽な運命が男を挫いた。

 

 成就の寸前に来訪した敵こそ、後に漆黒として名をとどろかせる王国最強の冒険者チームの片割れ。

 女はナーベと名乗った。

 

『不本意だけど、ナーベとしてとれる最短手で手早く終わらせるわ

 今は下等生物(ミノムシ)の相手をしてるほど暇ではないのよ』

 

 《次元の異動(ディメンジョナル・ムーブ)

 

 背後に転移で迫った女は手早く懐から抜いた片手剣を男の腹に突き刺した。

 彼の人生で初、そして最後となるであろう激痛の電流が全神経に迸る。

 

『あぁああぁぁぁぁああ!?』

 

 痛い、死ぬ、避けられない

 何故、どうして、ここに来て?

 

 かつてない苦痛は男の思考から理性と冷静さを強引に引きはがす。

 女が第三位階の転移魔法で急接近し物理攻撃を仕掛けた、ただそれだけの事象を認識することすらままならない。

 しかし男の本能だけが、不可避の死の訪れを絶望的に理解していた。

 

『腹を突かれたぐらいでうるさいわね、虻の方がまだしも静かだわ。虫けら以下の下等生物(アオミドロ)が』

 

 喘ぐ男にひたすら冷徹な女。

 嗜虐心の欠片すらない純粋な無関心、明後日な方向への焦燥感だけが向けられる。

 

 女は無造作に人差し指を男へ向ける。

 流れ出る魔力が白魚のような指先へと集約し、鋭く輝く閃光となって間もなく男の死を生み出すのだろう。

 

 男の脳裏に流れる走馬燈には一人の女性――目の前の女ではない――の微笑みが浮かぶ。

 

 会いたかった、そのためならば世界のすべてを敵に回しても構わなかった、母の姿。

 

『ぉかぁあさ』

 

 《電撃(ライトニング)

 

 

 激しい雷光に包まれながらカジット・デイル・バダンテールの意識は潰える。

 

 

>>}*+L+>?+L>?+>?`+>?_{}+*KLIUJ

 

………

 

 

◆◇◆

 

 おそらく船長室なのだろう。

 開かれた扉から入って、ほの暗い燭台が並ぶ廊下を渡ると、奥には木製のボロい両開き扉があった。

 恐らくこの先に意中の人物がいるはずだ。

 

 湧きあがる緊張を投げやりな気持でもって追い払い、指骨で二回扉を小突く。

 

「勝手に入れと言っただろうに……」

 

 不機嫌そうなしわがれた声が扉越しから聞こえてくる。

 しかし勝手に入れと言われたとして、それを躊躇なく真に受ける奴は人としてどうかと思う。

 

「では失礼する」

 

 半ば意地を張って入室の礼を崩さないまま、ゆっくりと扉を開き入室した。

 

 

 船長室という見立ては正しかったのだろう。

 少し広い程度の小部屋である。壁際にはカビ臭そうな本を敷き詰めた本棚や、潮風を浴びすぎて読めなくなったと思しき地図が広がっていた。部屋のサイズに見合わない、でかでかと意匠の凝ったシャンデリアが窮屈そうに天井を占拠していて、そのシャンデリアの直下にはコンパスや油の染みた書物と地図で散らかった執務机が照らされていた。

 全体的に賊船のような野蛮さが垣間見える雰囲気だ。

 

 そして机の奥の回転椅子に腰掛ける者が一人。

 紺色の外套に身を包み、退廃的なまでにギラギラとした指輪やネックレスをこれでもかと下品に着こなす男。

 ただしその顔は白骨死体のそれである。

 

 目の前のエルダーリッチは短く自己紹介を切った。

 

「パーミリオンだ。今はこの汚い船の船長やってる、しがない愛猫家だよ」

 

 パーミリオンはそう言い捨て、白磁の腕を虚空に伸ばす。

 その意図に反応し空間がねじ曲がって『穴』が開いた。

 穴に突っ込んだ腕は一本の上等なパイプを取り出して、そのままパーミリオンの剥きだしの歯に咥えられた

 

「………!」

 

 それら仕草の一部始終は間違いなくアイテムボックスの使用、

 そして何よりわかりやすい自己紹介である。

 

 プレイヤーと相対する覚悟はしていたが、的中してもなお動揺は負えなかった。

 同族のアンデッドだからか、そんなアインズの心境も筒抜けのようだ。パーミリオンはパイプの煙を、からかうようにアインズへと吹きかける。

 

 

「……んでもって、いわゆる魔神って言えば通りがいいかい? プレイヤーさん」

 

「魔神だと? てっきりあなたは――」

 

「――その驚きぶりからして聞きたいことは山ほどあるんだろーが、その前にアンタの、アインズさんの話を聞かせてくれよ。

 さもなきゃアンフェアだぜ?」

 

 親し気に二の句を遮り、パーミリオンはアインズの疑念を窘めた。

 続いてアイテムボックスから悪趣味な趣向を凝らした黄金の玉座を取り出し置いて、座るように促した。

 

 なんとなく嫌だったので、アインズは普通に地味な木椅子を取り出し勝手に座る。

 

「……そうだな失礼した。ではこちらから開示できる範囲のことを話すとしよう」

 

 「ぐぬぬ」と唸るパーミリオンはなんとなく無視した。

 

 

「へぇあんた()最近ハウスごとユグドラシルからこっちに引っ張られたクチかい。

 んでもって今は部下と一緒にこの世界の情報をかき集めてる最中と」

「そんなところだ。だから事情通らしきあなたの話は是非聴かせてもらいたい」

 

 話を聞いて満足げなパーミリオンは、手前の気怠さを嘘のようにかき消し無い舌を饒舌に前し始めた。

 

「“あなた”なんて他人行儀は結構、パーミリオンと呼んでくれ。

 むしろハウス持ち(・・・・・)なんて知らなかったし、おたくの部下が怖いから、アインズ様とでもお呼びしましょうかい?」

「……嫌な奴を思い出すからそのままで結構。部下にはこちらから言い聞かせる」

「そりゃども失敬、頼んまっせ」

「初対面の不気味な面影がまるで嘘のようだな」

「よく言われ……無いな。引きこもりだから」

 

 重厚な声の響きに対して存外明るい性格である。

 不気味な装束と幽霊船の雰囲気から醸し出される独特の気配とまるで乖離している。 

 これでも周辺国から恐れられるエルダーリッチだというのに威信も何もあったもんじゃない。

 

 アインズは自分は決してこうはなるまいと内心で戒める。

 ただ実のところ、部下の忠誠に内心あたふたするオーバーロードのほうが100倍滑稽だったりするが、本人に自覚はない。

 

「さて何から話したもんか。客人と話すなんて久しいからな。俺の生涯1から10までエッセイするのもやぶさかじゃあねぇぜ?」

「どれだけ人恋しさに飢えてるんだ……。心意気感謝するが、正直そこまで聞いていられない」

 とはいえアインズも気持ちはわからないでも無かった。

 

「HAHAHAHA!! 辛辣なこった! でもいいさ! 自己紹介の続きをしようか。

 まず魔神のことを話さにゃならんが、そもそも魔神って何か知ってるか?」

 

「私が知りうる限りでは、数百年前に突如大量発生した強大な力を持つ有象無象。

 この世界に甚大な被害をもたらした亜人や異形や人間種など個々纏まりの無い者達のことで、世界中の種族が手を組んで滅ぼしたという話のはずだが……」

 

 ここまではアインズが現地で調べた伝承そのままだ。

 だがもしそれが額面通りであれば、目の前の存在と矛盾してしまう。

 つまりまだ裏があるのだと、パーミリオンは言いたいらしい。

 

「しかしどう言ったもんか、ハウスの主にはちと言い辛いことなんだが……」

 

 パーミリオンは痒いはずのない頭蓋骨をガリガリ引っかき言い淀む。

 その仕草からアインズも、前々から考えていた仮説が脳裏に浮かんだ。

 そして結局ドンピシャだった。

 

「端的に言えば魔神っつーのは、ギルドが拠点崩壊して行き場をなくしたNPCのことだ」

 

「やはり……そうか」

「……そらちょっと頭まわせば勘づくよな、わりぃ。あんまいい話じゃなくてよ」

「別にお前が謝ることじゃない」

 

 目の前のパーミリオンは、エルダーリッチにしてはあまりにも情緒が豊か過ぎる。

 だがそれがNPCとして作られた設定ならば納得がいくものだ。

 

 きっとかつては信望する何者かがいて、恐らく今はその人も、忠誠心も失われている。

 もしNPCとしての忠誠が残っていたなら、冗談でもアインズへ『様』の敬称つけたりなんてしないだろうことはよく知っている。

 

 

「本題に戻ろう。何なら私の推測を述べようか。

 600年前に転移した六大神のギルド拠点を500年前に転移した八欲王が破壊し、六大神のNPCが魔神化。

 八欲王が自滅した後、そのまま残った八欲王のNPCが13英雄にアイテムを貸し与え魔神を殲滅させた。状況としては恐らく全体的に八欲王側にコントロールされていたのだろう。

 これが伝承に残る魔神戦争の実態ではないかと私は考えているのだが、どうかね?」

 

「凄いな、まるきり正解だぁ……と言いたいところだが生憎満点は上げられないな」

「違うのか?」

 

 急に硬い表情―と言っても骨なのだが――をとって渋面をするパーミリオン。

 

「アンタが言ったことは、そんで八欲王がバカでワルなのも事実だぜ?

 ただ俺らにとっちゃ、六大神に仇討ってくれた恩があるということさ」

「ならばお前は、というかここは!」

 

「ご察しの通りだ。おいでユダ」

 

 パーミリオンは指骨をパチンと打ち鳴らす。

 それに釣られて一匹の子猫、正確に言うなら骨格だけのキャット・ボーン(骨猫)というモンスターが、執務机の下から這い出て木椅子に坐したアインズの大腿骨上りあがる。

 そして口元に咥えた一枚の布を見せつけるようにしてアインズを見上げる。

 

 それはアインズも良く知るとあるギルド旗だ。

 

「ネコさま大王国の骨猫飼いパーミリオン、それがかつての俺の名だ。

 愛しいハウスは六大神に潰され、今じゃ死霊の巣窟で

 カッツエ(・・・・)平野と、そう名付けたのも他ならぬ俺なのさ」

 

 

 ネコさま大王国とはその名の通りネコ好きたちによって結成されたギルドであり、その成り立ちもあってユグドラシルにおいても指折りの勢力を誇っていた。

 当然「誇っていた」と言ってもそれは最盛期の話であり、最終日ごろにどういう状態だったかはアインズも知る由がなかったが

 

「そうか、来ていたのか……」

 

 正直複雑な心境である。

 同じくして異世界へ迷い込んだ同郷とも言えるし、あるいは敵対していたかもしれない可能性を考えると既に滅んでいてくれたことは都合が良い。

 ただ眼前のパーミリオンのことを思えば、そういう打算は酷く気が咎めるようにも思う。

 

「いやいや、どう考えたってアインズさんが気にすることじゃあねぇと思うぜ?

 身内びいきを度外視すりゃあはっきり言って、『滅ぶべくした滅んだ』んだからなぁ」

 

 『身内びいき』などと宣うが、かつてNPCだった者がそれ(・・)を口にすることがどれほど異常なことだろう。

 そんな冷めた客観視など、アインズの知る子供たちなら決してしないし、不可能だ。

 数百年の時空の流れか、はたまた魔神化による影響が彼の在り方を歪めたというのか。

 

 そんなアインズの戦慄を知ってか知らぬか、パイプの煙を噴き上げ自嘲気味に肩をすくめながら、パーミリオンは経緯を語った。

 

 

 

 

 

 大昔、元々この地はとある亜人種族の集落だったらしい。

 それが実に700年前、数名のプレイヤーとNPCを引き連れたネコさま大王国の拠点が突如転移してきたことで、その運命が大きく歪む。

 時間をかけて亜人と密接に関係を深めたネコさま大王国は亜人と周辺人間国家との抗争に介入し、一時はそれらすべてを支配下に治めるほどにまで至った。

 ところが600年前に転移してきた、今で言うところの六大神達が今度は人間側に付いて、プレイヤー同士の戦争にまで発展する。

 結局自力で負けたネコさま大王国とその亜人達は歴史の闇に葬り去られ、魔神化した者たちも尽く殲滅される。

 やがて現在に至るまでのスレイン法国の信仰心、ヒューマイズムの礎となった。

 そしてそれから約700年間、唯一の生き残りであるパーミリオンは拠点の残骸の周囲を亡霊のようにずっと彷徨い続けている。

 

「HAHAHA! かれこれ主人に仕えていた期間より、一人の存在として在り続けた生涯の方が断然長い。

 だからまぁ、今にして思えばあんまりいい主人じゃなかったぜ? 無駄に見栄張るもんだから、おだてるこっちが大変だっつのよ、HAHAHA!」

 

「…………」

 

 そんな話を何気なしに語ってしまえる平然さが怖い。

 もっと言えば、平然とならざる得なかった700年という深い虚空が。

 

 自分だったら耐えられる気がしない。

 しかし仮に耐えられなかったとして、アンデッドの精神はどんな狂気や悲嘆も沈静させることだろう。

 永遠に、正気のままで孤独にあり続けるのだ。

 

 目の前の男が立つ境地はきっと限りなく地獄に近しく、そしてきっと――

 

「今じゃ一人きりっつっても、ほら来なペットども」

 

 快活な声で、何かを呼ぶように手をたたく。

 するとそれにつられてか、棚や机の隙間などから10匹のケット・ボーン(骨猫)が姿を現しパーミリオンの傍に寄り添った。

 

「ペトロ、ヨハネ、アンデレ、フィリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス・ヤコブ、タダイ、ヤコブ と、それにさっきのユダ。

 主人が残した忘れ形見で、今なお残る俺の御役目にして唯一の生きがい。

 こいつらがいたから俺は寂しくなかったよ」

 

「……なら、良かったな」

 

 ――そしてきっと、今のアインズもそう遠くない場所にあるだろう。

 

 

 虚構の肺から息を吹き込み、パーミリオンはパイプを蒸かしてまた紫煙を放った。

 なるほど煙草ならアンデッドでも味わえる。よく考えられた娯楽だ。

 

 鼻腔をくすぐる甘い香りが心地よく感じる自分自身に嫌悪した。今度自分もやってみようかなどと、思える自分が恐ろしかった。

 

 だから恐怖に反射するようにして、かつてマタタビが侮蔑した一つの感情が再び浮上した。

 

「パーミリオン」

「なんだい?」

「ナザリックに来ないか?

 あなたを狙う冒険者は多い。そのうち討伐隊が編成されて、あなたの身に危険が及ぶこともあるだろう

 当然ケット・ボーン(骨猫)も一緒だ。こちらとしても、この世界の情勢に詳しいであろうあなたはぜひ引き入れておきたいのだが」

「すまん、ムリだ」

「なら時々でいい。こうして面会し、情報交換する機会をまた作ろう!」

 

「……あのなぁあんたっ!」

 

 感情に任せに机が叩かれる。地雷を踏んだ音がした。

 温和で陽気な彼がアインズの前で初めて感情を荒げ、薄笑いの下の本物の想いで殴りつける。

 

「年端も行かぬクソガキが。馬鹿にすんなよ、俺が何年生きてると思ってる。眼を見りゃわかるさ、あんたが俺と同じなことくらい。

 そのおまえが、よりにもよって俺の在り方を否定するのか? 

 俺が手にした安穏と平穏、これを手にするのにどれだけ心身削ったか。お前もいずれ知ることになる」

 

 エルダーリッチがオーバーロードを小僧呼ばわり。

 知ってか知らぬか、しかしあまりにも状況に相応しい。

 

「……もう十分なんだ、こいつらが居れば。この船さえありゃ。お前だって、家と家族、それさえありゃ十分だろ? この世界(・・・・)にそれ以上の幸福があるか? 無いだろ?

 無いだろ、無いんだ、無くなったんだよ、そもそも存在しないんだ! お前が何より知ってるはずだ、アインズ・ウール・ゴウン」

 

 そうだ、知っている。

 この世界(・・・・)にはもう心許せた仲間たちはきっと居ない。彼が仕える主人と同じだ。

 居たとして、それは恐らく……

 『ふざけるな! みんなで作り上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんで簡単に捨てることができる?!』

 主人ではなく、仲間は居ない。

 

 ならそうだ、閉じてしまえ。

 全て思い出の中に閉じ込めて、叶わぬ想いを想い続けて、忘れ形見と慰め合おう。

 それしか無くて、それしか無いならそれでもう……

 なんだ、誰だ

 

 

『ったくそんなんだからアルベドさんに愛想つかされるんだよクソ骸骨』

 

 

 あぁそうだ、思い出に埋没することを拒絶した声があった。

 そして彼女は思い出ではない。思い出ではない彼女をの想いを、アインズはまだ知らない。

 

 これから(・・・・)知ろうと、ついさっきだって思っていたはずなのに

 

 だから

 

「知らないな、老いぼれがほざく幸福論なぞ欠片ほどの興味も沸かない。俺が知りたいのはもっと別のことだ」 

「……話が違うな。こんな奴だったのか?」

 

 彼のいう話が、何の話かはわからない。

 

 ただ確かに、あれから何かが変わったのだろう。

 マタタビを嫌いだと自覚した時と、そんな彼女が嫌いではないと気付いた時から。

 

「あんただって、ホントは来ない方がいいんだがなぁ……」

 

また来るよ(・・・・・)パーミリオン。あなたとは友達になれそうだ

 あぁだがしかし、何の土産もなのは少しアレだな。何か良い物は……」

 

 整理されてない乱雑なアイテムボックスを漁る。

 友好の証に相応しいものは無いだろうか。

 

「そうだこれがいい」

 

 死の宝珠。前回の依頼で手に入れた戦利品だ。

 40レベルのアイテムはアインズには不要だったが、能力的にもパーミリオンなら丁度よいだろう。

 

 ああだこうだ叫ぶ宝珠を無視し掴んでほいっと投げ渡す。

 

「おまえ、こいつは! 最初から知っていたのか?」

「ん? なんだ、この世界では有名なアイテムだったりするのか?」

 

 デスナイトが伝説扱いされるなら案外それもありうるのか。

 余りものを押し付ける意識と相手の反応のギャップが少しつらい。

 

「知らバックレやがって。へぇ、やっぱアンタ気に入った!」

「あぁそう……なら良かった」

 

 知らない間に好感度を上げてしまうのはもう慣れた。ともかく歓迎してくれるなら何よりである。

 出した椅子をしまい込み帰り支度を済ませた。

 

「……とりあえず今日のところは根負けってことにしといてやる。

 来るなら勝手に来てくれよ。ただし俺にも事情があるから、この地から離れることは出来ないがな」

「わかった、今日はありがとう。また会おう」

「じゃあな」

 

 

 意味深な視線に見送られながら転移門を開き帰還した

 

 

 

 

 




 ……こいつを真面目に解説すると1話書けそうで怖い。
 推しキャラではなく、あくまでアインズ様の合わせ鏡。舞台装置として作ったつもりです(遊び心はありますが)。

オリキャラの解説
 

◆パーミリオン[異形種] parmillion
◆性別:男性
◆年齡:推定700歳以上
◆二つ名
・幽霊船長

◆役職
・フライングダッチマン号船長
・???
・旧ギルド:ネコさま大王国骨猫の番
◆住居
・フライングダッチマン号の船長室(カッツェ平野)

◆属性アライメント
中立[カルマ値:0]

◆種族レベル
・スケルトンメイジ10LV
・エルダーリッチ5LV
◆職業クラスレベル
・チョーセン・オブ・アンデッド:5LV
・ネクロマンサー:10LV
・ビーストテイマー:1LV
・レッドローブウィザード:5LV 
・ハーミット:10LV   
・ロード・オブ・キャッスル:10LV 

◆[種族レベル]+[職業レベル]:計56レベル
・種族レベル:15
・職業レベル:41


 ネコの骨格標本を愛したプレイヤーが課金で設置したケット・ボーン(骨猫)の飼い主として創造したエルダーリッチ。
 ネコさま大王国で唯一の猫以外のNPCなのだが、その作成経緯上から創造主の思い入れは皆無だった。
 転移の際には創造主も同行していたのだが「俺も猫のNPCにすりゃあよかった」など散々。種族上、猫ばかりの他のNPCと打ち解けられるはずもなくひたすら孤独。
 NPCは拠点崩壊の影響で忠誠心を失いその多くが暴走したのだが、彼の場合精神構造上暴走せず生き残った。むしろ虚しい忠誠心を失ったおかげで救われたまである。
 ケット・ボーン(骨猫)にはキリストの十二使徒の名前が付けられているが、見分けがついてるわけでは無い。本人には見分けがついてるつもりなのだが、ネクロマンサーの能力で操ってるだけなので名前(ユダ)を呼んで最初に現れたヤツがそう(ユダ)呼ばれるだけ。ツッコミは不在。

 アインズが好印象だった理由はケット・ボーン(骨猫)が敵対反応を示さないアンデッドだから。


※原作ではアウラあたりが交渉役だったということにしておく(ねつ造)。
 アンデッド以外のキャラがコイツと交渉したら魔神うんぬんまで喋らないが、12巻みたいに船に旗飾るくらいなら条件次第でやってもらえる。


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嫌な予感

 話の都合でオリ主の察し力がエスパー並みになってしまってやや強引な展開です。




 昔から、嫌な予感ほどよく当たるほうだった。

 これの逆のパターンで、嫌な予感が尽く外れまくり取り越し苦労連発なのが愛すべき支配者、我らがアインズ様だ。

 あれはあれで大変そうだが、やっぱり嫌な予感は外れてくれるに越したことはない。うらやましい限りである。

 

 

 本題に戻りましょう。それで今回の嫌な予感というのが、カジットのことである。

 写真で一目見た時からただ事ならぬ感じを受けたのだけれど、なにせそれはただの直観であり妄想に過ぎないから、誰かに具体的に説明するにはまだ情報が足りない。

強いて言語化するならば、ただなんとなく、何者かのすさまじい邪悪と冒涜の思惑を感じた、となってしまう。

 だからまず裏取りが必要なのだが幸か不幸かアテはあった。

 

「ごきげんようスカッシュレモン。久々の娑婆の空気はいかがですか?」

「うっ、ここは」

 

 木造建築、六畳間ほどの素朴な一室。薄汚れた白塗りの壁につけられた小さな窓辺。差し込む陽光は長らく地下幽閉されていた彼にはやはり眩いようで、目覚めと共にうめくようにシーツを被る。

 やがて瞼越しからゆっくりと目を慣らし起き上がって、ベッドの傍に腰掛ける私の方へと視線を合わせた。

 

「ここはお前らが襲って滅ぼした旧村の空き家の一つです。喜べよ、私がわざわざおまえを釈放してやったんですから。

 怖い怖いニューロニストはここに居ない。尿道結石ごっこも聖歌隊ともこれでおさらばですよ?」

「…………」

 

 一方的に喋りかけるこちらに対し、眉間にしわを寄せ硬い表情で押し黙るスカッシュレモンさん。まぁ無理もないでしょう。

 

 陽光聖典にかけられている呪術ペナルティを私が看破してしまったがばかりに、カルネ村での騒動以来ずっとこいつは6階層の捕虜施設に収容されていたのだ。

 それで時々、ニューロニストの実験台にされたり幾ばくかの尋問によって呪殺したりと散々だったご様子で。

 こいつらのやったことを思えば同情には値しないけれど、解放されたことに少しは気を緩めてくれてもらわないとこちらが困る。

 わざわざアインズ様に釈放手続きを取り、希少アイテムである超位魔法版の魔封じの水晶で〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を行使し呪術ペナルティまで解いてやったのだから。

 

 あぁしかし最近実に馴染み深いような、こちらを見定める彼の懐疑な眼差し。

 どうしたもんか。アウラさんならもっと気楽に対話が見込めるだろうがそうはいかない。

 今のこいつをナザリックに引き渡すと〈傾城傾国〉の件がバレて、スレイン法国がアインズ様に潰されかねないから。

 そう考えると私って案外、彼らの祖国の救世主になるのかも。仇を恩で返す慈愛っぷりが我ながら半端ない。

 

 現実逃避的な思考を巡らせていると、向こうから会話の口火を切り始めた。

 

「聞きたいこと、知りたいことは山ほどある。だがまず一つだけ確認しておきたい。

 お前はあの恐るべき魔法詠唱者、アインズ・ウール・ゴウンの何だ?」

 

 それは非常に深い問いだ。

 敵か、味方か、あるいはどちらでもないのか、どちらでもあるのか。

 質題者にとっては我が身の運命に直結するから言わずもがな真剣で、回答者にとっても己がアイデンティティの定義に他ならない。

 これまでの不安定でふわふわとした立場が許されていたのは、私の甘さとアインズ様の優しさのせいだ。

 けれどここから先に踏み出すならばそうはいかない。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは恩人だ。基本的には味方だけれど、アイツと相反する思惑が無いわけじゃない。

 この尋問自体アインズ様も実は知らないからね。これ満足です?」

 

 我ながら凄まじい胡散臭さだ。

 せっかくの初対面なのだから、馬鹿正直に白状せずに堂々と敵対声明でもあげて信用させる方が賢いのに。

 

「お前についてはひとまず、いい。そもそもこちらは多くを求められない立場だ」

「なら早速質問に~」

「……待て」

「多くを求められない立場じゃあ無かったの?」

「お前については、だ。駆け引きというものをまるで理解していないようだな」

 

 すると呆れたように首を振り、多少何かをためらうようにしながらも答えてくれる。

 

「詳しいことは知らないが、私の処遇がこれほどまでに変わったということは相応の事情があったのだろうと予測がつく

 私との尋問に対しそれだけの価値を見出したのなら、それに答えた私には、或いは答えなかった場合には一体何がもたらされる?」

「考えてなかったですね」

「……おい」

 

 だってどうでもいいんだもん。

「生殺与奪を握られてるのは確かなようだ。しかし国家機密を暴露し祖国を危険に晒した挙句、用済みだからと捨てられるのは割に合わない。

 ならば沈黙を貫き殺されたほうがマシだ」

「つまり国家機密でも何でも喋るから殺さないでくださいと?」

「……解釈は自由だ」

 プライド張るのも忘れないとは面白い人。

 

「いいでしょう。答えてくれた暁には衣食住不自由の無い極楽監禁生活か、条件付きで祖国に返還してやるのもやぶさかではありません

 そして信じるか信じないかはあなた次第です」

「好きにしろ」

 

 どのみち不信の先に彼の命は無い。

 けれど祖国のことを慮るなら、不信を貫き情報を死守するほうが大事だと思いますがね。

「おまえ存外俗人だねぇ」

「真偽はともかくそこまで破格の待遇を並べるのだから、一体私から何を聞き出そうというのだ。国宝の隠し場所なら――」

 

 

「じゃあ聞くけど、カジット、もしくはクレマンティーヌの名前に聞き覚えがあったりしない?」

「そんなことで……よかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 カジットとクレマンティーヌ、そして目の前のレモン。

 三者を結び付けた発想の根拠は、それほど複雑なものでもない。

 

 以前カルネ村でニアミスしたレモンは〈地味子の眼鏡〉の効力により『スレイン法国陽光聖典』の所属であると看破済みだ。

 アインズ様から渡された資料によると、クレマンティーヌとカジットは所持していたマジックアイテムによってスレイン法国の出自であると既に冒険者組合が特定していた。

 そして特にクレマンティーヌに関しては、私が精神支配中に遭遇した『スレイン法国漆黒聖典』に兄妹のようによく似た顔の奴がいたから、加えて実力からしても中枢に近い人物であると予想した。

 最悪クレマンティーヌのことだけでも聞き出せれば良かったのだが、運がよくカジットとも面識があったらしいので助かった。

 

 曰く、クレマンティーヌ。

 優秀な兄に恵まれ本人も英雄の領域へとたどり着いた実力者で在りながら、その力を人類のために行使することをせず猟奇的な快楽殺人にばかりかまける人格破城者。

 私がぶっ潰した漆黒聖典の第九次席だったらしいのだが、つい先日祖国を裏切り国宝である〈叡者の学環〉を奪い逃走していたらしい。別働隊である風花聖典が追跡中だったのだとか。

 

「まさかズーラ―ノーンに身を隠していたとはな……」

「しかし優秀な兄ねぇ。個人的には色々と思うところが無いではありませんが、まあいいでしょう」

 

 快楽殺人者、〈叡者の学環〉に亡命者。

 アインズ様の報告書と符合する箇所がいくつかあるし、彼自身〈読心感知〉でも嘘の気配はしないから情報の正確性は立証できたといってよいだろう。

 

「ちなみにズーラーノーンについてはお前の立場なら何か知ってるんじゃないの?

 死霊系魔法詠唱者が集った国際的カルト集団っていう私の認識が正しければ、当然スレイン法国とも対立関係にあるんじゃないかな」

「確かに思想上対立こそしているものの、宗教国家として完成している我が国とでは実際のところ相容れないのが現実だ。

 生憎、私や最高神官たちの認識もおそらくお前のソレと大差はない。王国や帝国のほうがまだしも事情に通じているくらいだろう」

「そりゃ残念」

 

 とはいえ問題はない。期待してない訳ではなかったが、今一番欲しい情報(・・・・・・・・)は別にある。

 そもそも何のために希少アイテムである超位魔封じの水晶を使い捨てたのかといえば全てはあいつのためなのだ。

 

「じゃ次。これが本命なんだけど、カジットについて教えて。生い立ちや、闇落ちした経緯何かが分かれば出来るだけ詳しく」

 

 レモンにしてみればわけがわからないだろう。とるに足らないような奴の情報を、どうしてそこまで聞きたがるのかと。

 心を読み取るまでもなく顔に描かれる疑念の様相。しかしそれらを飲み込んで、「わかった」と、二つ返事で語り始める

 

 

「カジット・バダンテール、洗礼名を含めてカジット・デイル・バダンテール。辺境の村落出身で、かつては神官を目指していた実に信心深い男だった。

 信仰系魔法における深い造形を持ち、以前陽光聖典に勧誘したこともあったのだが断られた経緯があって、以降短い期間だが付き合いがあったのだ」

 なんでも彼は、生命力を喪失しない新たな復活魔法を生み出すことが長年の夢であったらしい」

「復活魔法の研究? それって……」

 

 たしかこの世界で一般的に知られている主な復活魔法は第5位階の〈使者復活(レイス・デッド)〉だけだったはずだ。

 ユグドラシル基準で言えば低位な部類に入るこの魔法は、復活の際に大量の経験値を喪失する。精々1~2レベルしかない一般人では復活させることが出来ないだろう。

 

 前々より感じていた嫌な予感。あいまいだった予想図が徐々に輪郭帯びていく。

 

「確か母親だったか。幼少期に亡くして以来、故人を復活させるために研究を続けている。

 しかし本人の魔法の才の問題もあって行き詰まっていたらしいのだが、ある日突然その方針が大きく変わることとなった

 とあるアイテムを譲り受けたと言って、当時自慢げに見せてくれたのだが――」

「まさか死の宝珠?」

 

「なぜそれを……いやいい。

 ともかくあの男はそのアイテムで自らをアンデッド化させ、研究に必要な悠久の時間を手に入れると言っていた。

 馬鹿なことだと私や周囲が言い聞かせたが聞く耳を持たず、奴は洗礼名であるデイルを捨ててスレイン法国から姿を消してしまった。

 以上、これが私が知りうるカジット・バダンテールとクレマンティーヌの全てだ」

 

「ねぇ、その死の宝珠をカジットに渡したヤツってわかる?」

 

「知らないが、奴がズーラ―ノーンに加入したという話が本当ならば大方の予想はつく。

 自らをアンデッド化させる魔法と言えば第7位階の〈死の螺旋〉。その昔、ズーラ―ノーンの盟主がこれを行使して、都市を一つ滅ぼした逸話は非常に有名だ

 つまりはそういうことだろう」

 

「……よぉーくわかった、ありがとう。本当に助かりました」

「何が役に立ったのかは知らんが、約束は本当なのだろうな?」

「ただし条件付きでね。

 でも大丈夫。あなたにとっても悪い話では、というか聞いたら絶対引き受けてくれるだろうけど」

 

 

 

 

 

「実はさぁ、おまえをフルボッコしたアインズ様のことはよぉーく覚えてると思うんだけど、先日あいつの部下がカルネ村近辺に潜伏していた漆黒聖典ってーのと衝突して危うく死にかけたんですよ。

 それで激おこしたアインズ様が返り討ちにして滅ぼしたんですが、不幸中の幸い、結局どこの国の回し者なのかあの人知らないままなんです。

 ここでクエスチョン。バレたなら、スレイン法国はどうなるでしょーねぇ?」

 

「何を言っている! あんな奴に勝てるわけがない! 滅ぼされるにきまっているだろう!?」

 

 やはり相当トラウマなようで、話を聞いたレモン面はすっかり青ざめて絶望色に染まっていった。

 変に疑われると厄介だったので話が早くて非常に助かる。

 

「そうそう。ちなみに私も個人的な事情があって奴にスレイン法国が滅ぼされると大変気分が悪いんです。

 だからお前にはこっそり祖国に帰ってもらい、国家首脳と口裏合わせて知らんぷりしてもらうと凄く助かる。もちろん私も援助もするからさ

 それで答えは?」

 

「無論是非もない。最高神官たちの説得は難航するだろうが、絶対にあの男を法国にぶつけるわけにはいかない。

 尽くせる限りの力を出すが、おまえは良いのか?」

 

「はい?」

 

「お前がアインズ・ウール・ゴウンの味方なのだとしたら、これは大きな裏切りであるはずだ。

 あのおぞましい拷問部屋から解放してくれたことと、裏切りかけた祖国へ挽回のチャンスを与えてくれたことは非常に感謝している。しかし私が祖国に戻ってお前を裏切らないとは限らないだろう。

 おまえにとってこの共謀はあまりに綱渡りが過ぎるのではないか?」

 

「優しいね。でも最初に言ったでしょう?

 基本的には味方だけれど、アイツと相反する思惑が無いわけじゃないって。

 万が一バレたら土下座するし、許してもらえなくてもあの人に殺されるならそれはそれで良い(・・・・・)

 

 味方でも譲れない一線はある。

 よりにもよって、私に対する好意なんかのためで国家を滅ぼされるなんて真っ平ごめんだ。

 かといって私が滅ぼさないよう頼みこんだとしても、結局彼の殺意を『私への好意』で押さえつけてしまうなら本質的には同じこと。

 

 だから人知れず証拠隠滅してしまうか、あるいは裏切った私のことを彼が見限ってくれたならそれでも良い。

 それで私や仲間に対する執着が薄れてくれて、アルベドさんに少しでも日の目が当たれば儲けもんだ。

 どうせ、彼に拾われてしまった2度目の生なのだから。

 

「それとお前の裏切りに関してだけど、これでも人を見る目はあるからね。

 残念ながらこれだけの恩義を吹っ掛けられて裏切ってしまう根性はお前にはなさそうだし、万一でも裏切らないように監視もつけるつもりだよ」

 

「……覚悟はよくわかりました。いいでしょう、貴方の企てに乗らせていただきます」

 

 アイテムボックスに手を突っ込み取り出したのは一冊の皮造りの重厚な魔導書だ。

 ページを開き、ユグドラシル金貨を零して落とすと見る見るうちに吸い込まれていく。

 やがて一枚のページが千切れ舞い上がったかと思うと、切れ端に描かれた魔物が飛び出すように召喚される。

 

「傭兵モンスター、レベル80のハンゾウくん。

 基本的にはお前の言うことを聞くようにしておくけど、裏切ったりナザリックの連中に見つかりそうになったらお前共々心中してもらいます。

 そのほか情報工作については追々考えましょう

 それでは改めまして自己紹介、私の名前はマタタビです。これからどうぞよろしくね?」

 

「私の名前はニグン。ニグン・グリット……いえ、ニグン・ルーインです」

 

 

 

 

 実は少し前、くだんの騒動が落ち着いた少しあとで殺人実験をしたことがあった。

 

 カルネ村でアインズ様が殺戮じみた振る舞いをしていたのは今の私の記憶には新しい。

 しかしデスナイトに襲われる甲冑の皆さんの悲鳴とかダイレクトな感情反応を感知しても、人間だった時ではありえないくらい私の心境は無感情だった。

 まるで蟻とか虫がつぶれてるだけのような感覚だ。

 

 それなら私自身が誰かを殺すことになる場合はどうなのだろうと。

 まぁ厳密には精神支配状態だった時に漆黒聖典の人間たちを結構むごく殺害してしまったのだけれど、あれは状況が状況だから除外する。

 

 今日みたいに陽光聖典の捕虜から適当に一人かいつまんでから、適当な刃物でぐさぐさしてみた。焼いたり削ったり煮たり切ったりとかもしてみた。

 結果はやはり何もない。

 罪悪感に押しつぶされて死にたくなったりもしないし、生理的嫌悪感も皆無。かといって過剰なアドレナリンが出て高揚感に浸るわけでも無い。ちょっと汚いな、ってくらいだった。

 

 小さいころ好きだったものが今じゃなんとも思わないなんてのは誰しも経験があるだろうけど、そんな範疇は超えている。

 異形化して精神が変質したことは火を見るよりも明らかで、その変化自体に恐怖を覚えないわけではない。けれどもしこれからもナザリックの連中と付き合い続けていくことを覚悟するなら、この変化を受け入れあまつさえ「都合がいい」と思えるくらいじゃなきゃダメだ。

 こういう擦り合わせはらしくないとわかってるけど、それほど難しいことでもないのだし。

 

 

 と、ずっとそんな風に割り切るつもりだった。ところがそこへ来て今回のニグンである。

 もともとニグンは殺すほうが都合がよいとは分かっていたし、スレイン法国への情報工作なら私がやれば良かったのだ。ところが結果はどうだろう。

 先ほど私は、高価な傭兵NPCやその他諸々を握らせて、転移魔法でスレイン法国に彼を送り届けてやってしまった。

 どうしてそこまでの厚遇を彼に与えてしまったのか。

 理由は私が最低に甘ちゃんだからだ。

 

 先ほどのやり取りの中で懐疑にかられながらも正体不明の私に対し慎重に言葉を選ぶニグン。

 しかしその心の奥底では、解放してくれたことへの感謝とさらなる救済への切望がずーっと渦巻いていた。

 ありがとう、そして頼むからどうか助けてくれと。

 

「困っている人がいたら……なんてばっかみたい、私」

 

 偽善ここに極まれり。まったくもって反吐が出る。

 

「まぁいいまぁいいそんなことより問題はアイツ!」

 

 ごちゃごちゃして収集つかなくなりそうな思考を放棄し、また別の厄介ごとについて考える。

 どのみちニグンがいなくても、現在の状況は非常に頭が痛いのに変わりはない。

 

 カジットにまつわるとある突飛な疑惑は、否定されるどころか着々と確信へと近づいてしまっている。

 それでも未だに妄想の域を出ないのだが、如何せん、未だ直観のほうは煩わしく警鐘を鳴らし続けていた。

 

「なんたって似すぎにも程があるんですよねぇ。擬人化アインズ様かよアイツ」

 

 カジットの写真を見て思った感想が正にそれだったのだ。

 単に怪しいローブの魔法詠唱者ってだけだったら気にも留めなかったのだが、あの目だ。

 

 行き場をなくした愛情と異常な執着心と寂寥をぐつぐつに煮込んだものを、そのまま眼孔に流し込んだかのような異様な眼色。

 片手に握る切り札であるらしい玉、〈死の宝珠〉を持つ死霊系魔法詠唱者。

 それでモモンガ玉とアインズ様を連想した私はバカでいい。

 

 念のため、気になって素性を洗ってみれば、アンデッド化してまで母親を復活させたがるという、どこぞの誰かとよく似たマジキチだと発覚する。

 しかも〈死の宝珠〉を渡し〈死の螺旋〉まで手引する何者かの存在がいたようだ。

 

 まるでモモンガさんみたいな人を再現しようとしてるみたいだなぁって、思った私はバカでいい。

 もしそんな悪趣味なことする奴がいるとしたら、きっとアイツくらいだろうなぁって、思った私はバカでいい。

 

 私はおもむろにアイテムボックスから連絡用のスクロールを取り出しメッセージを送った。

 

「もしもしアルベドさん。実はですね――」

 

 昔から、嫌な予感ほどよく当たるほうだった。

 これの逆のパターンで、嫌な予感が尽く外れまくり取り越し苦労連発なのが愛すべき支配者、我らがアインズ様だ。

 あれはあれで大変そうだが、やっぱり嫌な予感は外れてくれるに越したことはない。うらやましい限りである。

 

 もっとも彼には身内の悪意なんて気付きようがないだろうけど。 

 

 

 

 




 嫌な予感の正体は、4話目くらいから微妙に存在をほのめかしていたあの人です。原作で登場される前に完結させたいけどたぶん無理でしょう

 しかしまさかニグンを再登場させるとは自分でも思わなかった。死亡シーンカットしてキープしといて本当に良かった。



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君の脳漿を吸いたい

タイトル読めば大体察してもらえると思います








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 弱者に縋る女がいた。

 女にとって、弱者の存在は救いだった。

 

 悲痛にあえぐ顔を覗きながら内臓をかき回す興奮。憎悪にまみれた形相で襲い掛かる者たちを足蹴にする快感。

 強者としての矜持を崩した時の、何とも言えぬ幸福感。

 

 何故それらが救いになりえたかと言えば、女もまた、ありふれた弱者の一人であったからだ。

 

 両親の愛情を奪いつくした兄の弱者だったからだ

 色情の滾った似非神官の弱者だったからだ

 目の前で無二の親友を食い尽くす亜人達の弱者だったからだ

 絶対的な力によってこれまでの研鑽を否定する先祖返りの弱者だったからだ

 

 足元に積み重ねた骸の上が唯一安息をもたらす揺り篭。迸る鮮血こそ魂を潤す生乳。

 女にとって殺人は生涯に寄り添う伴侶であった。

 

 

 それは今日も今日とて変わらないはずだった。

 

 漆黒の全身鎧に身を包む男は少々手ごわい相手だが、動きが雑で読みやすい。

 全速力で間合いに飛び込み、ヘルムの隙間へスティレットを滑り込ませればそれで終わる。

 

 あとは武器に仕込ませていた魔法を起動させ、超至近距離で打ち放つ。

『まだまだ終わりじゃないんだよぉ!』

 さらに腰元のスティレットを追加で差し込み同じように魔力を放つ。執拗に執拗に。

 手ごたえはあった。

 スッといってドスっとやって、それで生きていられた者を女は知らない。

 しかし未知であることが必ずしも不在の証明になるとは限らない。往々にして現実とは常識の先にあるものだ。

 

『本当に、お前には感謝しているよクレマンティーヌ

 後に待つ大きな戦いの前にお前と戦い、戦士としての戦い方を知ることが出来て良かった』

 

 声が聞こえた。

 それは女が望んでいた悲鳴でも断末魔でも、ましてや命乞いなんかでもない。圧倒的優位に立つ強者が眼下のものを見下す声色だ。

 

 やめろ、そんな目でワタシを見るな。

 

 次の瞬間、鋼鉄に覆われた男の両椀が女の矮躯を尋常ならざる膂力によって抱擁する。それは押さえつけ胸部のプレートで潰すようにして決して女を離さなそうとしない。さながら巨大な地割れに飲み込まれたかのように。

 

 つづいて、男の着こんでいた全身鎧が光の泡となって掻き消えて、その下にあるおぞましい正体が外界へと露になった。

 一言でいえば『死』の具現体。

 絢爛な漆黒のローブをまとった大柄な白骨死体の魔法詠唱者の姿。女の知識に該当するとすればそれはエルダーリッチだが、目の前の存在がそんなものと次元が違うことくらい馬鹿でも理解できる。女を締め付ける剛力と、感触からして前の鎧以上とおぼしき白腕のありえない強度。祖国の宝具をも凌駕しかねない魔力を宿したローブと、何より全身を突き刺するような絶対的威圧感。

 

 そして鉄の皮とともに、傲慢なある種落ち着いた態度もその表層から剥がれ落ちる。

 吸い込まれてしまいそうな深淵な眼孔から女をうかがう赤黒い光はベタ塗りの憎悪に彩られていた。

 男、否『死』は世界の条理を語るがごとく不遜で傲慢な己の身の丈を女に告げる。

 

『良かった、本当に良かったとも。しかしだ、今日の私は史上稀にみるほど機嫌が悪い。

 そんなところへノコノコとお前たちが私の依頼人へ手出しをしてきたとなれば、わかるか? わかるよな?』

 

 わかるかと問われれば言われるまでもない。自分が竜の尾を、いやそれ以上の何某かの逆鱗に触れてしまったのだということくらい。

 半分とばっちりだが。

 

『やはりマタタビさんの助言を無視してルプスレギナを連れてくるべきだったか?

 五体をじっくりと擦りおろし、治癒で破壊と再生を繰り返せば少しは気が晴れたかもしれないが、いや

……時間の無駄だしナーベラルで問題なかったな。ではそろそろ終わらせよう』

 

『おまえぇえ!? まさかぁああア』

 

 女を閉じ込めていた白骨の檻がゆっくりと、しかし着実に折りたたまれていく。スケイルアーマーのプレートがポロリポロリと剥がれ落ち、女の終幕に喝采するように朽ちた大地で跳ね上がった。間違っても肉体から奏でられるはずがない禁断の圧迫音が静寂の墓所に響き渡る。

 

 大概の者なら命の先に心が潰れる絶望そのものの極限状況でありながら、けれども女の魂は潰えていなかった。

 女にとっての絶望は眼鼻の先にある『死』という結果ではなく、自分が弱者である事実と敗北そのものであったから。

 

 だから抗ってしまう。

 絶望に浸り諦めることを忘れた狂戦士の四肢はがむしゃらに眼前の『死』へ向かっていく。

 引っ掻いた爪ははがれ、つかみかかる指は捻じれ曲がり、打ち付けた膝の皿は粉砕されて、噛み付いた歯は抜け落ちて、なぶりつける腕は折れ、蹴りつけたつま先は逆側へ向いた。

 それでも衝突する魂は砕けない。

 

 絶望という名の安寧に抗い永遠に続くように思われた苦しみの中で、クレマンティーヌの意識は潰えた。

 

 

llp、。;lp@khjkm、。」;lpl;。

 

◆◇◆

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓:9階層 守護者統括執務室

 

 

 山のように束になった執務を片付けていた合間に一本の〈伝言(メッセージ)〉が届いた。

 うるさい女だ。唐突に連絡するなり、ズーラ―ノーンという組織のカジットという魔法詠唱者について頼んでもいないのに詳しく一方的に説明してきた。

 情報源を伏せているというのもあるが、そもそも非常にわかりづらい論調であったため彼女が何を言いたいのかを理解するのに手間取った。そして理解とともに胸中に去来したのは大いなる呆れだった。

 

「マタタビあなた、そんな馬鹿げた偶然があっただけで本当にタブラ様がいると思っているの?」

 

『でもさ、あのアイツの存在を見過ごして最悪の事態を招くよりは、その馬鹿げた妄言を信じて馬鹿を見る方がマシなんじゃないかって思うんです』

 

「大した確信ぶりのようだけど、確証が得られていないのであればやることに変わりはないでしょう

 どうせ、ナザリック側からあなたの調査を支援することは出来ないのだから。気になるのなら一人で勝手にやりなさい」

 

『端からそのつもりですよ。ただタブラのことに関してだけは、アルベドさんにも頭の端っこに留めてもらっておいた方が良いと思いましてね』

 

「……それはどうもありがとう」

 

 有難迷惑だった。

 

『アルベドさんがアインズ様の幸せを願い続ける限り私もアルベドさんの味方ですから。どうぞ好きなだけ利用してください』

「…………」

 

 拗れた自己否定精神からくる自分を投げ売りするようなスタンス。アインズ様からの好意を受けている彼女はもっと自分を労わるべきなのだが、それを口にすれば彼女の拒絶を招く。アインズ様の言葉ですら彼女の根底を覆すことは出来なかったのだからアルベドは黙っているしかない。

 

『ではでは失礼いたします。アインズ様から許可は取りましたが、私の方はしばらく王都で情報収集とかその他etcでナザリックから離れますんで、何か御用があれば連絡ください。今後ともよろしく』

 

「ええ、じゃあね……ふぅ」

 

 魔法の効力が切れたのを感じ取ると自然にため息が出てきてしまった。

 まだしもデミウルゴスやパンドラズアクターのような知恵者と読み合いをする方が、彼女の相手より幾分か楽だ。

 

 出合った頃はぶっきらぼうだが人懐っこい愚かな少女であると踏んでいたのだが、なかなかどうして食わせ物だった。

 彼女はナザリック内で唯一人アルベドのうちに燻る憎悪を見抜いたうえで、至高の存在にまつわる絶望的真実を告げたのだ。

 

シモベが神々のごとく奉る至高の41人の集いは、その実ただの遊興の集いでしかなかったこと。お隠れになられた至高の存在とはつまり、ナザリックという玩具を飽いて捨てて行った薄情者たちだったということ。そしてそんな儚い繋がりに友愛を尽くしてしまったアインズ・ウール・ゴウンという男の生きざまを。

 

 アルベドがそれらを知ることをアインズ様は決してお望みにならないだろう。それでもマタタビがアルベドに真実を語ったのは、その事実を知ろうが知るまいが結局アルベドがこれからとる行動(・・・・・・・・)に大した変更が無いからだ。

 

 そしておそらくマタタビはその行動を止めようとはしまい。彼女もアインズ様ほどではないにしろギルド:アインズ・ウール・ゴウンに心を縛られている上に、大恩あるアインズ様にとって不都合な他の至高の存在を見過ごせるほど薄情にもなれはしないだろうから。だからマタタビはアルベドに自身を道具として利用させようとしていたのだ。

 

 ならば望み通り使い潰してやろうと思っていたのだが、一方アインズ様にとっても今のマタタビは唯一無二の存在であるため、無暗に酷使して彼女の存在を損なってはならないのは難しい問題だった。

 

 

「ああ妬ましい! いくらアインズ様のためとはいえこんなことって無いわ……」

 

 自己を投げ捨ててまでアインズ様を守ろうとするマタタビと、最後まで残り続けた彼女に心動かされるアインズ様。

 この世界においてアインズ様の伴侶に最も相応しいのは、認めたくない事実であるがマタタビを於いてほかにいないのだ。

 

 他の至高の存在についての問題が片付いたら、今度はお二方を結びつける謀略を巡らせなければならない。こちらの問題についてはデミウルゴスの手を借りられるので、パンドラズ・アクターと合わせ三人でじっくり練っていくことになるだろう。

 

 果たしてこれから気が休まる時はやってくるのだろうか。

 

 頭痛で重くなる頭を手で押さえながら、アルベドは山のような雑務を再開した。

 

 

 

 

◆◇◆

 

旧ネコさま大王国拠点:王城地下室

 

 

 アンデットであるパーミリオンはかつてネコさま大王国のNPCの中で唯一飲食不要な存在だったのだが、当時はそれが酷くコンプレックスだった。

 なにせ猫一色だったあの城の中でたった一人きりなのだから。飲食に限った話じゃないが、その隔絶っぷりはというと桃色の耳の象なんか目じゃない。

 せめて飼っていた骨猫くらいにはそれらしいことをしてやりたかったので、食事の時間には全員集めてネガティブエナジーを吹きかけてやったものだ。今思えば劣等感から無意味なことを押し付けていただけだった気がして彼らには少し申し訳ない。

 

 今でも食事行為に憧れみたいなものを抱いているが、目の前のソレ(・・)には流石に心がなびかなかった。

 

 心なしか、ヤシの実ジュースを飲む時のそれに少し似ている気がする。

 金髪ボブで、多分女の生首だろう。どんな凄惨な最期だったのやら、恐怖に歪んだ死に顔は今にも叫びだしそうだ。それを鷲掴みにしながら後頭部に突き刺ささったストロー、のような触手で脳液を啜る光景のおぞましさったらない。

 もしこの世界に創造主がいるならばブレインイーターなんて種族を生み出した真意を是非問いたい。偶然の産物であってもおぞましい話に変わりはないのだが。

 

 

 薄紫色の細長いのひょろり触手の手足と人型に、紫色のタコがそのままのっかたような異形の姿。

 やがて脳漿を啜り切ったタブラ・スマラグディナは残った首を触手の根元の口の中へと飲み込んで満足げに腹をさすった。

 

「先ほどから人の食事をじろじろと。相変わらずマナーがなっていませんよ? パーミリオン君」

「そちらこそ相変わらず悪趣味なこったぜ。カニパリズムには多少の理解があるつもりだが、お前のソレは食事と言えるかも怪しいだろう」

 

 反論を言い切ったところで失態に気付いたが、しまったと思った時にはもう遅い。タブラは眼の色を喜悦色に変え、犬がしっぽを振るようにおぞましく顔の触手を振り回しながら、自身の否定の言葉にまっすぐ飛びかかった。

 

「趣味だなんてまったく酷い言いようですね。あなたと食の定義を論ずればいずれ平行線に至り収拾がつかなくなるのは眼に見えてますが、異形と化したこの身にとってはこの行為こそ唯一の生きる糧であることは厳然たる事実です。たしかに脳に残された海馬から対象の人生記録を吸収する『脳食』は実際食事というよりは読書に近いかもしれませんし、そもそもブレインイーターも飲食不要な種族であることも相まって趣味的な側面を完全に否定するのは難しいでしょう。しかし世界から永劫の時を与えられてしまったわが身にとっては、ちっぽけで限られた儚い時を生きる者たちの在り方に共感する瞬間こそ唯一生への実感を得られるのです。特に死の間際、命の灯は消えかかる寸前で極一瞬大きく輝きます。たとえば今のクレマンティーヌ女史は本当に最高でしたね。絶対的、絶望的な状況でもなお弱者であることを認められない彼女は、常人なら砕けてしまうであろう精神的負荷を身に受けても止まるに止まれないのです。そして戦士として優れた過ぎた知覚能力によって体感時間を引き延ばされ永劫に近いほどの恐怖と苦痛を味わいながらやがて命尽きました。これこそ超越者である100レベルでは決して味わえない真なる恐怖! 生の実感! わかりますかね!」

 

「…………」

 

 どうでもいい、なんて本音を口にすればそれが100倍くらいで帰ってくるのは眼に見えていたので沈黙を貫いて切り抜けようと試みる。

 こんな狂人が付き合いだけはこの世界のだれよりも長いのだという事実を改めて思い、いつものように辟易とした。

 

 

 彼との出会いは400年前のことだ。

 当時パーミリオンは城跡に住み着く強大なエルダーリッチとして馳せたくもない悪名を広げてしまい、近隣諸国から度々やってくる討伐隊に迷惑していた。

 そんなある日タブラ・スマラグディナは噂を聞きつけやってきて、〈死の螺旋(アンデスアーミー)〉によってカッツェ平野を包み込み露払いをしようと提案する。手伝ってやるから色々言うことを聞いてくれという条件で。

 

 以来タブラは城跡に居候しながら様々な意味不明な要求でパーミリオンを振り回し続けた。秘密結社ズーラ―ノーンを結成してパーミリオンを勝手に盟主に仕立て上げたり、ホラー趣味で作った幽霊船にパーミリオンを乗せてカッツェ平野をうろつかせたり。先ほどタブラが脳食したカジットとクレマンティーヌの死体も、わざわざエ・ランテルの冒険者組合に忍び込んでパーミリオンが回収したものだ。

 

 自らをこき使い続けるタブラの存在は腹立たしい。

 しかし一方で魔神化し忠誠というアイデンティティを失ったパーミリオンはこの偽りの主人に依存していて、それをわかっているからこそタブラも容赦がなかった。それが二人の関係である。

 

 

 

 長年の付き合いですっかり慣れてしまったからか、こっちが閉口してもしばらくするとタブラは性懲りもなく話しかけてくる。

 

「ところで前に君に話したモモンガ君のことを覚えておりますか?」

「あぁ雛形だったカジットの元ネタだよな?」

 

 雛形とは端的に言えばタブラの悪意に人生を狂わされた、タブラに言わせれば『調理』された被害者のことである。

 自分好みの人生を食すため、時にタブラは他人の人生に干渉してその人物を狂人に仕立て上げるのだ。

 例えば今挙げたカジットの場合、母親への執着心を死霊系魔法研究へと向けさせるとか。

 

 ズーラ―ノーンの十二高弟の大半はこんな連中ばっかりなのだが、タブラのカジット・デイル・バダンテールへの入れ込みようは特に強かった方だ。

 というのもカジットはタブラの旧友であるモモンガという男とよく似ていたのだという。

 

 方や己が過ちで失った母親を外道に身をやつしてまで取り戻そうとするカジットと過去の栄光に心を置きざりにしたモモンガ。

 彼らの人となりはタブラから既に聞かされていて、実は前からパーミリオンはモモンガ(アインズ?)にはシンパシーを感じていた。

 

「モモンガ、本人はアインズって名乗ってたけど奴とは今日会ったぜ?」

「……わざわざ自分から言わないとは意地が悪いですね。実はクレマンティーヌを殺害したのもどうやら彼のようでしてそれを話したかったのですが

 そうですか既にカッツェ平野に来ていましたか」

 

 マイペースなタブラが気を落とすのは実は珍く、それが愉快でパーミリオンは追撃を図る。

 懐から一つの珠を取り出しこれ見よがしに見せつけた。

 

「死の宝珠だ、懐かしいだろ?

 今日来たアインズに友好の印だとかでもらったんだが、これはどういう意味だと思う?」

 

 死の宝珠は錬金術師であるタブラがこの世界の素材を用いて生み出した唯一無二のインテリジェンスアイテムだ。

 だから死の宝珠から製造者について問いただせば、タブラ・スマラグディナの存在に辿り着くことは可能なのである。

 

 とすればアインズは、カジットから奪い取った宝珠の手引きでタブラの関係者であるパーミリオンの元に訪れ、背後にあるタブラの存在を見越したうえで宝珠だけ置いて帰ってっしまったということになる。

 

 もしもタブラの言っていたモモンガの人物評『仲間の作り上げたもので完結し、それ以上の宝はないと思考を閉ざした者』が正しければそれは妙なことだ。

 タブラに気付けば一目散にやって行きそうだったのに。そうでなくともパーミリオンに探りを入れもしないとは。

 

「察するにつまり餞別と言ったところでしょうか。彼がこの世界に来ていた可能性は想定していましたよ。

 しかし単独ならまだしも拠点付きで訪れていたとすれば、あの凝り固まった妄執がどうにかなるわけないと思っていたのですがね」

「あんたが実は相当嫌われてたとかじゃねぇの」

「ふむ、その可能性は……いや彼女たちならもしや、彼の考えを変えられるのか?」

「おいおい」

 

 一つの可能性に思い当たり、なにごとかぶつぶつ呟き今度はタブラは自分の世界にこもりだした

 

「……まったく、最終日の戯れがこんな失態に結びつくとはわからないものですね。

 さらにマタタビ君がいるとなれば一筋縄ではいかなくなる。しばらくは状況が動くのを待つしかないでしょう。既に手は打ってしまいましたが(・・・・・・・・・・・・・・)、やはり早まらないで正解でした。このぶんだとモモンガ君に看破されてる可能性も高いでしょうし」

 

 何を言ってるか理解できないが、こいつの悪だくみが傾いてくれればこちらはご機嫌だ。目を付けられたアインズのことは少し気の毒に思っていたところだし。

 

「しかし本気なんだな。俺には理解できないぜ、かつての旧友を食べようとする意気込みなんざ」

「理解を求めた覚えはありませんよ。スケルトンの『脳食い』には少し手順が必要ですが、それでも彼は特別ですから」

 

 ゾッとするようにパーミリオンは自身の頭蓋に手を当てた。

「おや嫉妬ですか?」

「馬鹿言ってんじぇねぇよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 ちなみにタブラは次の王国編以降しばらく出番ありません。むしろタブラの動きを止めておくために今回ズーラ―ノーンの話を挟み込ん見ました。
 


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王国編 犬のリビドー

 それはあくる日、珍しく非番のクライムが王都の街中を歩いていた時のことだった。

 王都の中でも馬車の通行が多いメインストリートの隅っこに路上駐車している馬車が一台あった。馬車の主人であろう有力貴族フィリップが、石畳に降りて一人の女性に言い寄っている。

 

 女性のほうはどこかの屋敷のメイドであろうか。外に出歩くには不自然なくらい精緻に編み込まれた上等のドレスに匹敵するであろうメイド服からは魔力の気配すら感じさせた。艶やかな黒髪を肩かた鎖骨にかけて緩やかに伸ばし、透き通る白い肌に気品の感じさせる清廉な顔立ち。通り過ぎるモノは皆、自然と彼女の方へと意識が引き寄せられてしまう。

 一見して二人は主従の間柄なのだろうかと通りかかったクライムもそちらを覗き見るが、どうやらそうではないらしい。

 

「こんな昼間に使用人が出歩いてるなんておかしなことだ。大方粗相を働いて追い出されてしまったのだろう

 よければウチの屋敷へ来ないかい?」

「結構でございますフィリップ殿下。ワタクシめは主人にお使いを頼まれていますので失礼します」

「それは変じゃないか。君のような見目麗しいレディが使用人などという小間使いに身を窶し、あまつさえお遣いだなんて馬鹿らしい。

 ならどこの屋敷の者か言ってごらん、すぐに君の身元を引き取ってあげるから」

「……本当に結構でございますから」

 

 どうやら女性のほうが訳ありなのは間違いない。それに付け込んでフィリップが手籠めにしようと寄り掛かっているというところだろうか。

 仮に女性がついさっき放浪の身となり街中をさまよっていたとすれば、有力貴族であるフィリップに魅入られたことは一見幸運なことに思えるが、彼の女癖の悪さは王国中でもっぱらの評判だ。大抵は使い潰され最終的に娼館送りになり不幸を迎えることになる。

 

 ともすれば誰かが庇ってやるのが正しいのだが、貴族に楯突けばろくなことにならないのは言うまでもない。周囲は気の毒な視線を投げかけながらも口出しを控えた。

 フィリップを撒こうとする彼女のイラつきには、そういった気持ちだけの同情に対する嫌悪が含まれてるようにクライムには思えた。

 

 ならクライムが取りべき行動はただ一つ。自らの主人に迷惑がかかることは当然懸念したが、迷惑以上に主人は目の前の有様に納得しないだろう。

 クライムは一歩踏み出し二人の間に割って入る。

 

「フィリップ殿下、そのあたりにしていただけないでしょうか。彼女は嫌がっています。これ以上詰め寄るようであれば、殿下の気品が問われるでしょう」

「なんだお前は。誰かと思えばラナー姫の腰ぎんちゃくではないか。

 平民上がりの分際でこの私に楯突こうというのかね? 少しは分をわきまえたまえよ!」

 

 あまりに予想のついた身分差による常套句を投げかけられてもクライムは物怖じしない。

 しかし状況は芳しくない。こうする他にないとわかっていたが、それでもあまりに分の悪いこと。役に立たないなら無暗に突っ込んでもお節介に変わりなかったと後悔してももう遅い。背中の彼女の方からも先ほどの比ではないほど腹立たし気な雰囲気を感じ取った。

 

 そんな膠着する状況の中で動き出したのは女だった。突然彼女はクライムの足元へ跪くと、口元から細長い舌を伸ばして

 ――あろうことかクライムの靴を舐め始めた。

  

 

「あぁ! ご主人様! ご主人様ではないですか! この卑しい雌豚めをまだ見放しておられなかったとはなんと慈悲深いことでしょう!

 先日私はご主人様の言いつけを守れずに、疼くわが身の可愛さに負けて●●●で●●●●を●●●してしまったというのに。

 でもでもやっぱり仕方なかったですよね! わかってくださいますよね! 私はご主人様無しではもう生きていけない体にされてしまったのですから!

 ある日は●●の●薬を飲まされ発狂寸前だった私を●●●の●●●●の元へ放り込み、ヌルヌルの●●で三日三晩●●●●ました! ある日は●で貧民街の●●に●●●けられ、数日間●●●●どもの●●●にされました! ●●の魔法で●●に●●させられた状態で●●●の●●がはびこる●●に放置されました!

 始めは嫌で嫌で仕方なかったのに、段々癖になっちゃって最後に自分がどうしようもない●●●だと気づかされてしまいました! 最高です!

 でもでもでもでもやっぱり一番良いのはご主人様の●●●で! もうご主人様の●●●の●●●●●になっちゃって、他所では生きていけないのですよ!

 だからだからありがとうございますこれからもご主人様に――」

 

「変態だぁー! こんな娘付き合ってられん! 早くしろ馬を出せ! こいつらの言ってること聞くと頭おかしくなりそうだぁー!」

 

 自分の知らない異世界の変態性に恐れおののき、とうとうフィリップは馬車に逃げ込んですぐに走らせた。

 少女は下から馬車が見えなくなるまで伺って、居なくなったとわかった突端立ち上がって地面に砂利交じりの唾を吐いた。

 

「……アハハハハ! ざまぁみやがれ処女厨め!」

 

 顔を真っ赤に染め上げて目尻に雫を垂らしながら、勝ち誇ったように握りしめた拳を天に掲げた。

 

「……えぇ」

 

 クライムと周囲はあまりにも無残すぎる勝鬨を見て、胸のすいたような、それでもやっぱりモヤモヤするような、何とも言えない感を抱いた。

 

 

 

 あれからしばらく時間がたって、場所は昼下がりの飲食店。

 クライムと共に円形の食卓を囲む黒髪のメイド少女は上目遣いに容赦のない文句を垂れ流した。

 

「……こんなことになったのは、大体クライムさん――もといご主人様が悪いのですよ?」

「出来ればその呼び方だけはやめてくれませんか?」

 

 そういいながらも詫びだと言って少女は飲食店でクライムを食事に誘ったのだ。むしろクライムの方が奢りたいくらいだったが、メニューを頼んですぐに少女の方が先払いで会計を済ませてしまったのでどうしようもなかった。

 

「ハイハイ。もしクライムさんが声をかけなくても、連れていかれた先から逃げ出すくらいどうてことなかったんですよ?

 ところがどこぞの平民風情が横槍入れて面倒になりそうだったから、仕方なく私が淫語マシンガンしてフィリップの野郎を撃退してやったんです。

 これで野郎はクライムさんの変態性に度肝を抜かれ、無礼を働いたことなんか気にもならないでしょう。ほれ見たまえ、仇を恩で返す私の聖人っぷりを!」

 

「私が介入してしまったことに関しては本当に申し訳ございません。……もっとも別の意味でよからぬ風潮が立ちそうですが」

「仕方ないし、きっと大丈夫ですよ。私のアレが演技だったことくらいみんな察してくれますし、フィリップのクソ野郎一人がどう喚こうが『お前が言うな』って思てくれます」

「そう、ですね。本当に申し訳ありませんでした」

 

 今後の展開が読めなさすぎるのがネックだが、結局後の祭りなのだから気にしても仕方がないのだろう。

 もっと禍根を残さずやり過ごす手があったのではと振り返っても、悔しいが彼女のアレ以上のモノが思い浮かばないのも事実だった。彼女の言う通り、自分のお節介が招いた結果なのだ。

 

 

 反省しながらしばらく、互いに無言で卓上の料理に手を付けて、やがて食べ切ったころに少女が会話の口火を切った。

 

「ところでクライムさんて本当に人間ですかね?」

 

 唐突な一言にいかなる含意が含まれているのか咄嗟に判別がつかず、ムッとしながらも生真面目にクライムは応答する。

 

「人間です。少なくとも私の主人に拾われ忠誠を誓ったその時からは」

「あーいやいやそういうことじゃあなくってさー」

 

 少女は猫背気味にクライムを見上げ、右手で横から自分の顔を指さした。

 まるで芸術品のような端正な顔立ち。南方人種固有の艶やかな黒髪は透き通る白い肌によってより映えて、周囲のものは皆彼女の一挙手一投足に目を奪われている。

 そんな彼女が今度は自身のメイドドレスの襟元に手をかけ、ボタンを一つずつおろし胸元の肌を外界に晒はじめた。クライムは何事かと不思議そうに訝しむ視線を送り、それを見て彼女は呆れたように手を戻した

 

「やっぱりだね。クライムさんは私のことを性的対象としては一切見ていない。普通男ならその気がなくても美少女のお開けには、不快感を含め、何らかの性的反応を示すはずなんだけど、クライムさんは全くの無反応です」

「?」

 

 そういって今度は向かい側のクライムからして斜め後ろ方向に指を向ける。クライムが振り返ると後方席に掛けていた青年がビクッと顔を赤くしてそっぽを向いた。

 彼女がこういった反応を求めていたのは合点した。確かに少女、マタタビが美少女と自称することは全く傲慢でも何でもない。しかし思うところが無いこと自体はしょうがなくないか。

 

「別に気にしてないですよ。ただクライムさんの朴念仁っぷりが不可解だっただけ。

 欲情ってのは生物が子孫を残すための重要な能力の一つですし、それが見るからに欠陥してれば心配にもなります。自覚はなかったんですか?」

 

「そんなことで人間性を疑いますか、普通……」

 

 自分の女性を捉える機能はおかしかったのだろうか。思えば主人との縁故で冒険者チーム蒼の薔薇の方々とは懇意にさせてもらっていて、リーダーのラキュースを始めガガーランやティア・ティナなどの魅力的な女性との交流はあったが、特にこれといって性的魅力というものを感じたことはなかった。

 

「身近に同性の知人がいれば少しはわかりやすいのでしょうが、生憎巡り合わせがないもので」

「そうなんですか? 意外です。 ……というか異性の知人はいるのね」

 

 やはり自分はズレてるのだろうかという思考がよぎったが、しかしクライムは考えを改める。この世で唯一、よりにもよって自らの主人にだけは分不相応な傾慕を抱いてしまっていたことに思い至ったからだ。もっともそれが普通のことかと言われればやはり自信はない。クライムは顔を赤くしながら心の袋小路に潜り込んだ。

 

「良かった、好きな人自体はいるんですね」

「んなっ!? い、いませんよ」

 

 そんな心中の葛藤を覗き込んだかのように少女は安堵を口にする。少女のこういった鋭さがクライムは非常に苦手だった。自分も人のことは言えないが、友達が少なそうな人だと思った。

 

「きっとクライムさんの中ではそのヒトの存在があまりにも大きすぎて、他の異性に一切意識が向かないんでしょう。一途なのは素敵なことです」

「やはり……そうなのでしょうか」

「自分に嘘ついても碌なことありませんよ」

 

 本来は許されざる恋慕であるため、改めて認めることに抵抗が強くあったがここまで見透かされてしまったなら恋心自体は認めてしまうしかなかった。そしてきっと彼女が言うように、クライムは他の女性へ意識が向かなくなるくらい主人への想いが強いことも真実なのだろう。

 もっとも諦めて忠義を尽くすように割り切るしかないのだが。

 

「ところで私が人間じゃないというのは、正直申し上げますと言われ過ぎのように思うのです」

「あっとごめんなさい。ただまぁ何と言いますか、モノのたとえで、あなたが私の知ってるとあるサキュバスによく似てまして」

 

 大の男に向かってサキュバスに似てるとはどういう言い分だろう。というかサキュバスが知り合いというのはいろんな意味で聞き捨てならない。

 

「何ていうか結構変わり者なんですよねぇ、そのヒト。サキュバスって本来万年発情期で全方位の異性に色情を感じる種族なはずなんですけど、彼女はよりにもよって精力皆無のエルダーリッチにゾッコンなんです。

 男性だって理性剥がせば大抵はケダモノだから、そうじゃないあなたもひょっとして人外に惚れる異常性癖でも持ってるのかなぁって疑ってかかっただけです。気を悪くしないでください」

「……どうやったらそれで気を悪くしないんですか?」

 

 謂れのない言いようには流石のクライムも腹を立てた。もっといえば想い人が人外扱いされたような気がして、王国の第2王子とのやり取りを想い出していい気はしなかった。

 あからさまに不快感を示すとようやく自らの失言に気付き、少女は急に申し訳なさそうにクライムを見た。

 

「そうですよねそうですよね本当に、ごめんなさい……」

 

 クライムでも強く納得できるくらい彼女から悪気は感じなかった。普通なら許す気にはなれないのだが、撤回を求めても応じない陰気な男(第2王子)を思い出しアレよりマシだと思い許すことにした。

 

「撤回してくれたのなら……もういいです。あぁそういえば、エルダーリッチに惚れるサキュバスって伝奇小説かなんかですか?」

「あぁ……えっと、そうですね。もう絶版になってて本屋には売ってないと思いますけど、タイトルは『オーバーロード』です」

「そうですか」

 

 クライムは気にしても仕方ないと追及を諦めた。思えば出合ったばかりの間柄なのだから、何の事情があるにせよ詮索するのは失礼すぎる。

 果たしてこの少女が如何なる理由で街中に躍り出てるのかなど、今の自分が聞くものではないのだ。

 

 

 

「ところでさっきフィリップの野郎がクライムさんのことラナー姫の腰ぎんちゃくって言ってたけど、

 ひょっとしてクライムさんが好きな人ってそのお姫様のこと?」

「ブフッ!?」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 その昔、茶釜が声優をやっていると聞いたので、彼女が出演したアニメといのを視聴してみたのです。

 今思えば、いくら弟だからってエロ翼王にアニメ紹介をしてもらったのは間違いでした。あれはセクハラです、間違いない。

 まさかR18のベリーハードなエロアニメを普通、年端もいかぬ少女に見せますか? 頭おかしいでしょ。おかげでしばらく茶釜とは近づけなくなったし、年端もいかぬ少女とか自称したせいでうっかり実年齢バラしてさらに面倒なことになってしまったのだ。

 

 

 しかし人生わからないものです。こうして当時の彼女のセリフを覚えていたことが、変態貴族を撃退する口撃手段になりえたのですから。エロをもってエロを制す。素晴らしい護身術です……あぁ死にたい。

 

 そもそもの話、こんな美少女外装のメイド服姿なんかで街中をうろつかなければ良かった話なのです。本当に失策でした。

 歩くたび周囲からの欲情が〈読心感知〉でダイレクトアタックされてメンタルがやばい。もう止めようと思った寸前でクソ貴族に絡まれてマジで最悪。

 

 唯一良かったことは、クライムさんと親交を持てたことくらいでしょう。彼からまったく、同情心と性的視線を向けられなかったので対面しててもすごく楽でした。お礼に食事がてら、軽い恋愛相談にのってあげましたよ。もっともお節介だったでしょうけど、それは御相子ということで。

  

 かくして彼と別れた現在、二度と人目につかぬよう最高位の隠形で身を隠しながら、予約していた宿屋へ向かっています。

 王国での情報収集の一日目は都市の探索と拠点確保だけだったのですが、明日からは忙しくなるでしょう。シャワー浴びてとっとと寝て翌日に備えるに限ります。

 

 

 

 屋根伝いに街中を駆け回り、そろそろ遠目に宿屋が見えてきました。恥ずかしながら気を緩めていたその時に、強大な力を感じさせる気配を受信した。

 

「100レベル? 誰?」

 

 瞬時に弛緩していた脳内血管に血が巡る。アイテムボックスから扱いなれた日本刀を取り出して臨戦態勢を整えた。

 それからプレイヤーの可能性を懸念したが、直ちにそれは打ち消した。

 

「この気配の色は()ですか?」

 

 この世界に来てからというもの〈読心感知〉をはじめとして様々なスキルの能力が変質された。

 その中でも広範囲系の索敵感知スキルについては、ゲームの時には不可能だった索敵対象の識別までもできるようになっていた。

 さらに言えば、その対象が臨戦常態なのかそうでないのかも。

 

「知っている気配。それが単独で戦闘モードにまでなるとすれば考えうる対戦相手は……ツアー?」

 

 先日マタタビが敢えて逃がした(・・・・・・・)白金の鎧ならば、マタタビの感知に引っかからない一方で()が必然臨戦モードへ追い込まれることにも納得する。

 彼の身の安全からも、マタタビの個人的事情(・・・・・・・・・・)からもツアーと彼の接触は好ましくない。ならば――

 

「ちくしょう行くしかないか」

 

 遠慮してはいられない。近隣の屋根の瓦を踏みつぶし気配を消しながらでの最高速度でその地へ向かう。

 やがて辿り着いた場所は治安の悪い貧民街の路地裏だ。

 

 ここまで近づけば〈読心感知〉の範囲内に入り、ツアーも索敵できるかと思いきや実はそうでもない。ややこしい事情なのだが〈読心感知〉は元々敵対認証スキルである。対象者が術者であるマタタビを認識していなければ、あるいはマタタビ側が対象者を認識していなければ発動しないのだ。

 

 それに対戦相手の方はツアーであるとは限らないので、屋根上から俯瞰しながら先に感知できる()の姿を探し出す。

 見つけた。

 ズタ袋に包まれた瀕死の女性を抱え込んで、暴力の気配を感じさせるガラの悪いチンピラと対峙する、白髪の矮躯な老人の姿。

 臨戦態勢ってまさかこんなチンピラに喧嘩吹っ掛けてたの?

 

 その光景を眺めながら驚愕と失望が渦巻いた。マタタビが靴まで舐めて回避した準戦闘行為に、これからセバスは及ぼうとしているのだ。

 対戦相手の気配が感じ取れないなんてそりゃ当たり前だ。こんな低レベルな奴に力を見せつける愚か者だったとは流石のまでマタタビも予想ができなかった。

 マタタビは盗み聞きのスキルを発動させる。

 

『そうそう、白金貨10枚はこの状態の彼女にはつりあわないほどの高額だと思いますが。これで双方あったことを忘れてはどうでしょうか?』

『あ、ああ……』

『それに、次回あったときは彼女の治療に掛かった金額は請求させていただきます。無論、これはあなたが彼女を引き取りに来た場合ですが……金銭には糸目をかけずに治療行為を行うつもりですので、高額になることを約束しますよ。それと保証金ですので彼女を引き取りに来る場合は、全額の返済もお願いします』

 

「……おじいちゃん何してんの」

 

 馬鹿者にも程がある。

 振込詐欺に引っかかる後期高齢者を見るような目で眺めながら、私は溜息を吐いた。




ようやく今回から王国編です。長かった、すごく長かった

ところでオリ主の淫語セリフ読みたい変態さんは活動報告へどうぞ。
でもまさか居ないですよね?

一月八日 運営さんからクロスオーバータグ付けるように警告されてしまいました
多分オバロ世界での忍術の設定にNARUTOのモノを混ぜ込んでしまったせいだと思います
ストーリーそのものには特に影響はありません


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退かない奴には後押しを

今回少しこじんまりに纏まってしまって短いです


【至高の41人レビュー byマタタビ】

 

No.7:たっち・みー

 

 類稀なる人間的魅力で周囲の人間を引っ張っていく先導者。周囲にはいつも頼りにされている一方で、実は本人はあまり他人を頼りたがらない。何かにつけて一人で抱え込みたがる部分があり、そんな彼と真の意味で対等に付き合える人物は極めて稀だ。

 ちなみにリアルの女性事情はドン引くくらいだらしない。

 

 

◆◇◆

 

「帰り道にはお気を付けください」

 

「どうもありがとう、それでは良いお返事を期待しておりますよ?」

「精々馬鹿なことは考えないようにな」

 

 下卑た笑みを浮かべた男二人組が離れていくのを、セバスは暗澹たる気持ちで玄関先から見届けた。やがて姿が見えなくなり、気が抜けて出そうになっため息を押し殺す。

 振り返ると背後の屋敷が迫るような重圧を放っていた。それは2階の窓枠からずっとこちらを睥睨していた者の正体と等しいと言える。その痛烈な視線を見上げてセバスは独り言のように話しかけた。

 

「今戻ります。ソリュシャン」

 

 あえて大きく声をかけずとも盗賊職であるソリュシャンの聴力なら先のやり取りを含めてすべて耳に入れていることだろう。その証として、視線は凍てついたまま金色をたなびかせた美貌はコクリと軽く上下に揺れた。それを見てセバスは屋敷に入る。

 

 

 困ったことになった。つい昨日、スラム街で今にも廃棄されそうになっていた女性の身を引き取り介抱したのだが、さきほど女性を雇っていた事業所とやらから人身売買のやっかみをかけられてしまった。主人からは荒事を起こさぬよう厳命されていたというのに、自身の愚かな行いによってそれに背いてしまったのだ。

 果たしてこれからどうしたら良いか。相手が八本指となれば公正な手続きでこの場をしのぐことは難しい。ハイエナのような連中には下手に金銭で解決しようとすると膨大な損失を被ることになる。

 

 結局碌な解決方法も見当たらぬままソリュシャンの部屋に辿り着いた。待ち受けていたソリュシャンの視線はやはり非難的である。至高の方々のそれとは違い、六芒星(プレアデス)の上下関係はあくまで形だけのモノであり尊敬や啓蒙は存在しない。あるいはレベル差や役職の差が多少はそうした感情をもたらしていたかもしれなかったが、それもセバスの背信によって容易く吹き飛ばされてしまった。

 しかし多少の失望を招いたからといって与えられた執事(バトラー)としての自負をセバスが崩すわけにはいかない。ソリュシャンもそれはわかっているだろう。

 だから毅然と、あくまで上官としてセバスは部下に話しかける。

 

「話は聞いていましたね」

「はい。ではどういたしましょう? 彼女をあの者どもに返しましょうか?」

「いえ、それだけでああいった手合いが手を引くとは思えません。アレは弱みを見せると骨の髄までしゃぶりつくそうとする手合いです」

「……本当にそうでしょうか?」

 

 目を細めチラリと横の壁を睨むソリュシャン。その壁の向こうにはすやすやと寝息を立てる女性 ――ツアレの気配があった。言外にソリュシャンが言いたいことは理解できる。

 彼女(・・)を返せば表向きは八本指がセバスを非難する理由は無くなる。無論それだけで手を引く連中だと考えるのは楽観的だが、時間稼ぎにはなるしそもそもツアレが居なくなってもセバスたちに損害はない。

 

 しかし今更地獄から拾い上げたツアレを再び地獄へ叩き落す選択肢をセバスは選ぶわけにはいかなかった。セバスの人助けが王都で知れ渡っていたのだろうか。八本指はそんなセバスの善性に付け込んだに違いなく、ソリュシャンが批難しているのはつまりそういった部分だった。

 

「ではこれからどうなさるのですか?」

「それは、少し外を歩きながら考えてまいります」

 

 時間だ。時間が欲しかった。

 忠義、正義、すべてを都合よく収める手段を求め、刺すような視線を背中に浴びせられながらセバスはその部屋を後にした。

 

 

 

 再び玄関口から外へと歩み出す。すると突然、悩ましい煩いに思考を奪われていたセバスの右方から虚を突くように快活な声が投げかけられた。

 

「どうもこんにちはぁセバス様」

 

 セバスをして驚愕に目を開かされた訳は、その人影が急に現れたことにもあるのだが、それ以上に彼女(・・)がセバスに話しかけたこと自体にあった。

 黒い長髪を背中まで流したメイド姿の少女。顔は真っ赤に蒸気していて、低質の麦酒の匂いをごまかすように香水がかけられていて、その混じり合った悪臭にセバスは内心眉を顰める。

 

「マタタビ御嬢様、どうしてこちらに?」

 

 声の主、マタタビはセバスにこれまで見せたことのない笑顔を向け、そして嗤いかけた。

 

「王都にって意味なら、アインズ様の密命を賜ったからとしか言えません。なにせ極秘なので。

 おまえの前にって意味なら、今のセバス様がおもしろおかしく困っていらしたからだよ」

 

 彼女の態度はセバスのよく知る上位悪魔(アーチ・デビル)を想起させた。以前から薄々わかっていたことではあるのだが、やはりセバスは彼女に毛嫌いされているらしい。

 

 というのもセバスが情報収集でナザリック外に出張する前、メイドとして仕えていたマタタビと接する機会があったのだが、その時はことごとく殺気の籠った視線で睨みつけられ邪険にされていたからだ。もっとも不思議なことにセバスはマタタビのことが嫌いになれなかったのだが。ともかくセバスがマタタビとまともに会話したのはこれが初めてだった。

 

「恥ずかしながら御嬢様のおっしゃる通り、私のくだらぬ失態によって少々面倒が起きています。解法を探るためこれから練り歩こうと思っていました所存です。

 僭越ですが御嬢様はどこまでご存じなのでしょう?」

 

 セバスがそう尋ねるとマタタビは、透かした嘲笑をより色濃くして悪魔のように微笑んだ。

 

「全部ですって。昨日セバス様がチンピラ風情に調子こいてた時から、ソリュシャンさんに軽蔑されつつ屋敷から逃げ出した今までずっと、傍にいてあげたんですよ?

 気配消してたから気付かなかったですかぁ? あら悲しぃわぁうぇんうぇん」

  

 マタタビはわざとらしく目の下に人差し指を擦り付けて衝撃的な事実を口にした。はじめは彼女の性悪さにあっけにとられ呆然としていたセバスだが、次第にその意図を鑑みて訳が分からなくなった。本当にただ嘲笑いに来ただけののだろうか? それならそれで相手にしないまでなのだが……

 

「要件は以上でよろしいでしょうか。では失礼します」

「そう邪険になさらないでくださいましぃセバスさまぁ」

 

 かつて散々邪険にしたのはそちらの方だろうと、さすがのサバスも胸の内から湧き上がる苛立ちを抑えきらなかった。

 セバスが振り切ろうとしたところ、案の定、マタタビが素早くセバスの手首を掴んで捕らえ引き留める。彼女を本気で振り切るのは不可能だろうとセバスは悟り、諦めて対話に応じた。

 

「一体どういうおつもりなのでしょう」

「どうって、そりゃ最初に言っただろうが。折角セバス様が困っていらっしゃるんですから、助けて差し上げるのが道理でしょ?」

 

 困っている人を助けるのは当たり前

 彼女の言葉は、セバスの心の中の芯の部分を足蹴にされたかのようで、強烈な不快感をもたらした。

 

「私にかかれば八本指なんてどうとでも料理できる。証人全員闇に葬りさるでもいいし、トップを牛耳って好き放題するでもよし、組織そのものをこの世から消し去るでもよし

 だからもしセバス様がお嫌で無いのなら、どうぞ望みを言ってくださいまし。このマタタビが、全力を尽くしてあなたを助けて差し上げますから」

 

 今度は一転、甘えるようにセバスの首に両腕を絡ませ、掌一重分まで顔を近づけて誘惑した。麦酒の残差を孕んだ吐息が顔にかかる。

 セバスはマタタビの柔い両肩を掴みゆっくりと、それでも力強く突き放した。

 

「ありがたいご提案ですが、御嬢様の御手を煩わせるわけにはいきません」

 

 マタタビの提案は確かにセバスには魅力的だったが、今の様子がおかしい彼女に全てを委ねるには信用が足りないのも事実だった。

 突き放されたマタタビは指先から爪を伸ばしてセバスの襟首に突き立てた。

 

「はぁ!? 何調子こいてですかあんた。そうやって自分の身の丈わきまえず不相応にあちゃこちゃ救いの手を差し伸べるくせに、自分が助けられるのが嫌だって?

 あなたはただ身勝手に自分で何でも背負いこんで楽したいだけだろが。さもなきゃどうしてアインズ様に報告しないんだよ、バレるのが怖いからだろ?」

「ッ! それは……」

 

 的確に、セバスの痛いところをマタタビの言葉が抉り出す。

 たしかにその通りだ。どうしてアインズ様に報告することをセバス考えなかったのか。それこそまさに背信ではないのか。

 失望されることへの恐れがその判断を捨て去ってしまっていたのだ。主人に騙りを働いて楽なほうに逃げたがる身勝手さ、それは断じて忠義と同じにしてはならない。

 

「だからさぁ、もし私に任せてもらえればアインズ様に報告しなくても丸く収まるようにしてあげるから。ねぇ?」

「……………」

 

 自分の弱さに気付かされたセバスは改めてマタタビに目を向ける。

 情緒は安定しておらず、先ほどからの滅茶苦茶な言葉遣いは彼女の支離滅裂な心情がそのまま現れ出ているように思えた。

 

 きっと真意と呼べるような一つの意思が定まっているわけではなく、セバスには推し量りえぬ様々な感情が彼女の内側で飛び交っているのだろう。

 どうしてマタタビがセバスのことをこうまで知り尽くしているのか、どうして毛嫌いされているのか、どうして施し紛いのような真似をしようとしているのか。

 セバスは何一つ理解できない。

 理解できないが、やはりマタタビのことはどうしても嫌いになれない。それだけは確かだった。

 

 掴みかかったマタタビの黒い頭頂に手を伸ばし、柔らかい感触を掌に感じながら優しく撫でた。

 

「我が身の至らなさをご指摘くださり深い感謝を申し上げます。そうですね、ただいま引き返してアインズ様に連絡させていただこうと思います。」

「!ッ~~~」

 

 暴れた獣がおとなしくなる具合でマタタビは静かになる。やがて何も答えないまま ポンッ という軽快な音が響いたかと思うと彼女の姿は煙となって掻き消えてしまった。

 

「おや? 影分身でしたか」

 

 

◆◇◆

 

 

「!ッ~~~」

「一体どうしたというの?」

 

 窓辺から玄関口で話し合う二人を静観していたソリュシャンは、同じく横で覗き見していたマタタビ(・・・・)の突然の豹変に目を丸くした。

 今先ほどセバスと話していた影分身が姿を消したのとちょうどのタイミングだったのでなんとなく状況を察する。

 

「ひょっとしてあなた、セバス様のことが」

「ないないない絶対にありえない! まだしもアインズ様の方が可能性あるから!」

「それはそれで聞き捨てならないけど……あ、セバス様が中に戻ってくるわ。まさか本当に説得できたのね」

「えっと……うん、なんかアインズ様に報告するらしいですよ」

 

 なぜかマタタビが微妙な顔をしたのを尻目に、ソリュシャンは手元に握っていた〈伝言(メッセージ)〉のスクロールを体内(・・)に押し戻す。

 

 本当はセバスが屋敷を出た時点でこれを使いアインズ様に報告しようと考えていたのだが、突然陰から現れたマタタビに止められしばらく待って欲しいと言われたのだ。

 半信半疑ながら玄関口でセバスに話しかけるマタタビの分身を眺めていたのだが、会話内容は〈(カーム)〉のスキルで聞こえないようにされていたのでソリュシャンにはわからない。

 セバスの人となりは部下であるソリュシャンもよく知るところで、彼が一度決めたことを折り曲げたとは信じられなかった。

 

「どうやってセバス様を説得したの? どうやら分身体は酩酊状態にしていたようだけど」

「……セバス様と素面話すのはキツかったんですよ、アイツ嫌いだから会話にならないと思って。

 (でも失敗したぁ、まさかアインズ様に報告するようにするとは思わなかったなぁ)」

「え?」

「なんでもないないんでもない」

 

 いろいろと聞き捨てならないことを聞いてる気がしたが、本当にどうしてこんな間抜けがセバスを説得できたのやら。

 色仕掛けで動く人物でもあるまいに。

 

「あーうんまぁ強いて言うなら、退かない奴には後押しするってかんじ?」

 

 わけがわからない

 戻ってきたセバスのノック音が聞こえると、悔しそうに慌ててマタタビは姿を消した。

 

「本当に、なんだったの?」

 

 結局戻ってきたセバスに問いただしても答えてもらえなかった。




オリ主×セバスも多分無い



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番外編:アゼリシア山脈の霊廟

 更新ペース遅れてしもうてごめんなさい
 ストーリー的にはそこまで必要は無かったんだけど、リハビリとして戦闘シーン描きました。例によって捏造モリモリです


 人生、人外に生まれ変わっても思い通りにはいかないのは変わらない。

 そんな風に考えると自分の中の根本は結局変わっていないんだなーと思えて、安心半分がっかり半分。人間性への未練はまだ少し残っているようで、どうしてかなと考えてみると親の顔が浮かびあがる。逆にそれさえなければ自分はもっと残酷になっていたのだろうかと、そうを考えるとやっぱり怖い。

 

 ところで今頃本体(・・)は王都でちゃんとやれているだろうか。本体と切り離された影分身が心配するの考え物だが、基本的に私は私を信用してない。きっとあっちでもしょうもない失敗をするだろうし、こっちの私も何かをしないということはあるまい。

 そもそも考えてみれば今こうしてアインズ様に黙って()と密会を図るのも、すでに重大な失敗と言えないだろうか。アインズ様を恩人と称えまくっているはいいものの、実際のところ彼には仇しか返していない気がする。

 彼が知れば激怒必至の裏切りを、私はいくつも犯しているのだ。

 

1つ目、ギルドメンバーを憎んでいるアルベドさんの意向を黙認してること

2つ目、私に手を出したのが法国の連中であるという事実を伏せていること

3つ目、情報握らせたニグンをスレイン法国に送還してしまったこと

4つ目、実は精神支配中の戦闘でツアーの全身鎧をわざと逃がしたのを黙っていること

 他にも何かあったっけ? こうして羅列してみると凄まじいものがある。これからは誰かに向かってホウレンソウを説くなんて真似一生出来そうにない。あるいはしくじり先生の卓上で反面教師を振るうのもアリかもしれない。

 

 冗談は半分として、でも実際この4つを私の思い通りに解決しようとするならばやっぱりアインズ様に報告するわけにはいかないと思う。

 1つ目がバレればアルベドさんは処分されるというのと、ぶっちゃけ彼女の考えにも一理あるから。2,3つ目がバレれば法国は只では済まずそれは嫌だ。4つ目は……下手したらプライベートに関わるので報告できるかまだ分からない。

 

 え? お願いすれば許してくれるかもしれないって?

 馬鹿言うな。それは嫌だと散々言っているだろう。私がアインズ様に甘えればアインズ様がダメになる。あんなヤンデレ骸骨に依存されたくないし、依存するなら私じゃなくてもうちょっとマシな奴を選んで欲しい。例えばアルベドさんとかアルベドさんとか。まぁそれも今じゃややこしい話になってるんだけど。ああひょっとしてこれが5つ目か。

 

 で、何の話だったか。そう今は4つ目の話がしたいのだ。

 

 どうして分身の私がえっちらおっちらマンモスに乗って雪山登山してるかと言いますと、彼もとい、自称ドラゴンの全身鎧に話を付けに行くためだ。

 それがまたどうしてって話になると、彼が私のリアルネームを口にしたからである。

 

『やはり君が、ナツウメサクラだね』

 

 

※以下回想

 

◆◇◆

 

 アウラさんたちを見逃す羽目になった後、夜風を切りながら木々を駆け抜け、人外境地の六感をを研ぎ澄ませてその原因の気配を探る。

 帳の降りた深淵の森にて我が身を照らす敵意の灯を頼りに前へ前へ。

 

 やがて少し開けたところへ出ると風が止みいつの間にか空が晴れていたのに気づく。

 月光と星々に照らされてまばゆく平原の中心に、地面からわずかに浮遊しながらそれは待ち受けていた。

 

「驚いたね。まさか鎧の私の気配に気付ける者がいるとは。そしてそれがよりにもよって君だなんて」

 

 それは、身に纏う白金色の全身鎧(フルプレート)の威圧感に反し気安く親し気な口調で語りかける。一方で口調以外が攻撃的なことは肌に刺す敵意の具象が示していた。

 ならばコイツはマタタビの敵だ。

 

 彼の姿や気配を消しきるその能力は記憶にないが、ひょっとしてユグドラシルで私にギルドでも荒らされた被害者だろうか?

 ご愁傷さまではありますが、ゲームでの感情をこの世界に持ち込むなんてあまり関心はしない。約一名の知り合いがそれをやって友情お化けになり果てたから。

 

「まったく何のことやら知ったこっちゃないけどその敵意、納めてくれないと困ったことになるよ。

 普段ならまだしも今の私は、敵意の灯が消えるまで本気で殺しにかかるから。おかげでアウラさんたちを殺さず済んだのは礼を言うけど」

 

 世界級アイテム〈傾城傾国〉の効力により、今の私は相手の敵意を受信して襲い掛かる殺人マシーンと化している。さっきの二人に王手寸前までかけたところで、こいつが邪魔してくれたから本音を言えば助かったのだ。しかしその恩もあだで返すことになると思えば心苦しいことである。

 

「君が妙な様子であることは始めからわかっているさ。流石はスルシャーナ()の忘れ形見、スレイン法国の国宝だね

 この身にその力が及ぶことを想像するだけで背筋が凍りそうだよ」

 

 スルシャーナと言えばスレイン法国で信仰されている六大神の一柱にして、アインズ様と私の間では推定プレイヤーとして警戒されている要注意対象だ。もっとも伝承通りなら既に八欲王に滅ぼされているはずだけど、全身鎧(フルプレート)の3人称はまるで旧知の間柄のソレだ。

 

「お前何者? プレイヤーや、どうやら私のことを知ってるようで」

 

「自己紹介が遅れたね。私はアークランド評議国永久評議員にして白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)のツァインドルクス=ヴァイシオンという。

 呼びにくいならツアーで結構だよ。もしくは十三英雄『白銀』と言った方が通りが良いかな?」

 

 こいつ呼び名めっちゃ多いなと思いつつも、残念ながら何一つ記憶にかすりません。

 

「君にはとても及ばないだろうが、おそらくこの世界(・・・・)では最もユグドラシルのこと知っていると自負しているよ。

 ついでに言えば君のこともね。マタタビ」

 

「初対面の女子に凄くキモイこと言いますね。おまえ絶対モテないだろ。」

 

 できればもう少し話していたかったが、こいつを殺せというオーダー待ちがそろそろ限界。

 相手が知ってくれてるのなら名乗りをしなくても良いだろう。刀を抜き出し、敵に向かって刃を向けた。

 

「……彼の言う通りならこの鎧では歯が立たないらしいが。仕方ない、気のすむまで遊んであげよう」

 

 諦めるようにぼやいて、ツアーは数々の神器武具を 

 ――神槍を、妖刀を、宝剣を、聖盾、鉄鎚、魔剣などを召喚し、浮遊させながら自身の周囲に漂わせる。驚くなかれその数は100。

 ユグドラシルでは見たこともない戦闘形態である。まったくもって厄介。たどいうのに、ひとたび意識を切り替えた途端体中が熱くなり、全身の細胞が眼前の未知との戦いに歓喜を露にした。

 

「精々、戦いの中で語り合いましょう」

 

 戦闘狂だった覚えはないのに洗脳のせいか、はたまた段々と肉体が精神を侵し始めたのか。

 凶悪な笑みが抑えられない原因は出来れば前者であってほしい。……いや、どうせこのまま死んでいくならどちらであろうと意味はないか。

 

 

 先手必勝というより後手必敗。基本的に〈地味子の眼鏡〉でも読み取れない未知の敵相手には安易にペースを掴ませるわけにはいかない。

 自称ドラゴン、全身鎧、浮遊状態、同じく浮遊する無数の武器、徒手。読み取れる限りの情報から瞬時に取るべき手段を考察。その一瞬の考慮を経て、右手の二本指を突き立て意中の忍術を起動させる。

「〈雹塊砲(ひょうかいほう)の術〉」

 十位階ぶんの魔法が込められたその術は直径10メートルほどの氷塊を生み出してそのまま勢いよく飛んでいく。

 

「ドラゴンだからってただの氷が通用するとでも?」

 しかしツアー右手をかざすとともに浮遊していた武器たちが一切にと飛び掛かってそれを砕きにかかる。魔力を込められたとてたかが氷塊、無数の神器たちにかかれば水を切り裂くことに等しく、破砕音と共に勢いそのまま今度はマタタビへと刃の雨が降り注いだ。

 

 それらはあらかじめ飛び道具として作られた矢や銃弾の類ではない。どの武器にも持ち手があり、すなわち肉体によって用いられるための武具である。見た目としては悪くないが、まさか謎の念動力で操ることを想定されていたわけでもあるまい。

 仮にこれらのうち一本を喰らったとして、いくら神器武器であろうとも守護者やアインズなどを筆頭とした同じく100レベルの者たちならば大したダメージにはなるまい。

 ところが防御耐久が極めて低いマタタビには一本どころか掠った程度でも深傷になってしまう。

 

 そんなことを誰よりも知っているマタタビが、しかし数多の武具の奔流へと弾丸のように投身した。

 

 

 無謀すぎる。ツアーはあまりに偏ったマタタビの能力を知っていた。だから彼女の自殺行為を見て攻撃を仕掛けたツアーのほうが驚愕し、まもなく迎えるであろう少女の凄惨な最期に戦慄を憶えた。

 だが次の瞬間そんな未来予想図を超えた狂気の光景にツアーは重ねて戦慄した。

「正気じゃないね、君は!」

 

 それは降り注ぐ無数の神器がすり抜けるように躱されていく光景だ。

 ツアーとてただ直線的を動かしてるわけはなく、大雑把ではあるものの常に彼女を追尾するように操作している。だというのに、である。

 

 四方八方から向かってくる武器を、まるで全身に目が生えてるかのようにマタタビは躱し続ける。時には蹴り飛ばして他のとぶつけ、別方向から砕けた氷塊の残骸を足場にしながら立体的に動いて攪乱する。ただ素早いだけでは説明がつかない戦技の頂点を極めた神技である。

 氷の結晶を弾き飛しながら百の神器と共に宙を舞う少女の舞踊はいっそ神秘的ですらある一方、そんな生死の境目を行き交う無茶苦茶な戦い方を何故覚えたのだろう?

「正気で殺し合う方がよっぽど狂ってるでしょう?」

 

 だが相手はわずかな思慮の隙すら与えない。飛び交う武器を今度は軽々足蹴にし、ツアーの視線よりはるか上空から斬りかかる。

 刃を携えた彼女が飛び掛からんとする咄嗟のところで受け止めようと腕を交差させるツアー。しかし次の瞬間、刀はツアーの両腕をすり抜けて首の隙間刺し込まれていた。

「!?」

 

 宙に飛んだマタタビが既に刀を振り下ろしていたのを見て、ツアーの意識がようやく追いついた。

 彼女は斬りかかるフェイントを見せ実際には刀を投げつけたのだ。回転させながらちょうど両腕を躱す具合に、かつ寸分たがわず首元を狙ってだ。

 防御タイミングを外されて攻撃を受けては大樹のようなツアーの自我すら容易く揺らぐ。生まれた意識の空白を塗りつぶすようにマタタビの追撃はやはり続いた。

 

「ギミック起動、〈爆裂刀〉」

 

 鎧に突き立てられた鋼色の刀身が赤色発光したかと思えば間も無く空を切り裂く爆撃が舞起こった。

 

 

 夜空の儚い輝きをかき消すように赤い爆炎と硝煙が勢いよく立ち込める。

 自爆効果を持つ神器の刀で急所を貫き、そのまま自壊させてやったのだ。消費は痛いが、敵が未知数であったからこその大奮発である。並みの前衛プレイヤーなら十分仕留められただろう。

 しかし期待に反し我が身を貫かんとする殺意は一層強烈なものへと変貌しただけだった。

 

「……まぁだ生きてやがる。」

 

 ならまぁ前向きに考えて、神器を使い捨てただけの意味はあったと言えるのかな? まさか世界級エネミーのような馬鹿げた体力を持ってるわけでもあるまいし、即死級のダメージを回避する方法は非常に限られるはずだ。即死もしくは一定量のダメージを一度だけ無効化する類の特殊効果か、それともそもそも……

 私の感知能力を持ってなお読み取れない気配、高すぎる耐久性。一つの仮説が思い浮かぶが、まだ情報が足りない。

 

 すぐさま思考を切り替えアイテムボックスからガトリング砲を取り出し、爆炎に向けてトリガーを回転させる。

 けたたましい発射音。空薬莢が転がる音。弾丸が黒煙を貫いて何か硬質の物体へ炸裂する音。どうやら命中はしている。

 

「うっとうしいね」

 

 手を横へ振って黒煙を薙ぎ払うツアー。向かい来る弾丸が雨風程度でしかないかのように悠然とたたずんでいいた。一方鎧の損傷度はそれなりで多少はダメージがありそうなのに、姿勢は一切崩れていない。

 今度は右掌を差し向け光の粒子を収束させる。

「〈エマルフ・タハイル・スエルブ(光炎の吐息)〉」

 流石にドラゴンを自称するだけあってか、光り輝く炎のブレス攻撃を前方に放ってきた。さらにダメ出しとばかりに背後から武器の嵐で挟み撃ちだ。

「〈千防ガマの術〉」

 大地に手をかざし自身を取り囲むように忍術で岩石の壁を生み出して防御する。しかし光波の火炎と刃の嵐を同時に受けて保てるほどマタタビの忍術は強くない。

 まもなく数秒(・・)で亀裂が入り、先んじて火炎が壁内へと流れだした。

 

 

 念動力で操れる最大数の武器と限定ブレスの合わせ技。これが容易く防がれてしまったなら今回の勝利はあきらめざるえなかったのだが、彼女の防御術式を突破できたため一先ず安堵する。

 やがて白炎が晴れ渡ると彼女が立っていた場所は剣山のように連なった武器の山と荒れ果てたクレーターだけが残っていた。

 

「やり過ぎてしまったのかな」

 

 万が一殺害してしまうことがあれば蘇生させるだけのつもりだったが、死体の肉片すら残らない事態までは想定していなかった。リーダーからは彼女の危険性を嫌というほど聞かされていたため油断せず挑んだというのに、これではむしろ合わせる顔がない。マズイことになったと頭を抱える。

 

『こちとら厄介さが売りなんだ。まさか死んだとでも思ってるんです?』

「!?」

 

 不意にどこからともなく掛けられる声。周囲を見回せど姿は見当たらない。ところが次の瞬間ガリガリと大地に割れ目が生じ、大穴が掘り開かれたかと思えば無数のマタタビが滂沱のごとく大量噴出された。そしてそのまま勢いよくツアーめがけて殺到する。

 

「イジャニーヤの使っていた影分身だね。これほどの数まで分身できるとは驚きだが、無駄だよ〈エブ・タハイル(光あれ)〉」

 

 前方発射のブレスとは打って変わり今度は全身から輝く魔力を放出する。飛びついてきた無数の分身体たちは瞬く間に消失。したはいいが、肝心の本体がいない。

 不意打ちに備え周囲を見回すと斜め上方向から彗星のごとくこちらへ突っ込むマタタビの姿があった。

 

「〈瞬間乾燥〉カモン!〈メイド・オブ・ヘル・アルマゲドン(メイド服は決戦兵器)〉さらにメリケンサック!」

 黒白のドレスへと姿を変え、魔力を展開させたままのツアーの方へ拳を向ける。

 ドレスの恐ろしき魔力強度がツアーの体表に放出した輝く魔力を尽く弾き、換装した金色の拳鍔(けんつば)による強烈なストレートジャブが撃ち込まれる。

 打たれた勢いで背面の大地へ叩きつけられたツアー。マタタビは猛撃の手を緩めず、今度はツアーのヘルムを鷲掴みにして地面の凹凸へ擦り付けながら音速で疾走した。

 

「おらぁあああああ!」

 

 大地を抉り轟音を響かせながらしばらく滑走し、大岩へと叩きつけられてようやく勢いが止まる。かと思いきや、マタタビは拳鍔を纏わせた両腕を振り上げ、次の瞬間に怒涛の連拳を叩き込んだ。

 

「シャアアアアアァラァアアァアララララララ!」

 

 拳を一撃受けるごとに地響きのような振動が装甲を徐々に削り取り、鎧の中へと強く響く。

 なるほどプレイヤー相手でも只では済まない強烈な攻撃だが、今のツアー(・・・・・)には痒みすら感じない。

 だから結局気の持ちようなのだ。

 

 濁流のようなラッシュを喰らいながらそれら動作をじっくり見切って、その一撃に向かって掌を向ける。

 やがて掌へ吸い込まれるようにして彼女の右手の一撃は止められた。あれだけ恐ろしい攻撃を繰り出す手だが、掴めば意外と小さいものだ。

「チッ! 怯みもしないのですか⁉」

「言っただろう、無駄だって」

 

 ◆

 

「無駄かどうかをぞお前が決めるな。〈行動阻害耐性Ⅳ〉!」

 

 掴まれた手をスキルで振りほどき、後方から迫っていた武器達の猛攻を紙一重で躱していく。躱した武器が勢いそのままツアーの方へとぶつかるが、やはりダメージを受けた様子はない。

 

 決定打のないまま接近していてもらちが明かないので高速移動でツアーからいったん距離を取り、隠形を発動させて夜闇に紛れた。

 

「怖気づいたかい?」

 うるさい黙ってろ。

 

 手の出しようのないツアーは武器達を自身の周囲へ浮遊させこちらが仕掛けるのに備える態勢を整えた。そして手の出しようがないのはこちらも同じだ。

 いくら何でもタフすぎやしないか?

 

 メリケンサックを仕舞い込み、アイテムボックス出した上級ポーションのボトル握りつぶして零れた薬液を掌の傷口へなじませた。

 この掌の傷は今のメリケンサックのギミック、〈震動波〉の反動だ。

 

 マタタビのメリケンサックには、本職のソレに劣るマタタビの拳撃を実践レベルで通用させるために、反動ダメージをくらう代わりに高威力を出せるデータクリスタルを込めていたのだ。しかしそれでもツアーには全く効いていなかった。

 さっきだって自爆機能を持つ神器をクリーンヒットさせてもびくともせず、あまつさえすぐさま反撃に打って出られるほどの余裕ぶりを残していたし。

 

 これが普通に世界級エネミーみたいな化け物だったら素直に納得できたのだが、仮に防御を140レベル相当であるとしても攻撃能力や機動性能は精々あって80レベル。ありえないだろ。

 とはいうものの、今さっき猫パンチ喰らわせたところで大体の種は予測ついた。あとは確証さえ得られれば勝ち目はある。

 

 

 ツアーから直線距離100メートルほどのところまでとぼとぼ歩き、最も使い慣れた武器の日本刀〈珀狼王〉を抜き出し左手に握ってから隠形を解いた。

「さてそろそろ勝負を付けましょうかツアーさん。もしくは白銀(・・)クン?」

 

「ああ良いだろう、勝敗はともかくいい加減君との戦いには飽きてきたところだ。じゃあ

 ――十三英雄『白銀』」

「わた、いや……クラン:ナインズ・オウン・ゴール『永久欠番』マタタビです」

 

 

 大地を強く蹴り潰しスタートダッシュを切り飛ばす。加速して4歩目でMAXスピードへ突入し、前方から放射される剣群へと一直線に突き進む。

 この超高速では先ほどやったような曲線的回避は困難。だが本当はさっきみたいな技術だけで無理やり乗り切るような曲芸を行う必要は無かったりする。というのも端からちゃんと防御用のスキルは持っているのだ。

 

「〈旋風陣の術〉!」

「何⁉」

 

 駆け抜けるマタタビの周囲に風の障壁が発生し、向かい来る凶刃の数々はことごとく後方へと受け流される。先ほどの技術だけでの超回避を見た手前、まさか普通に防御(・・・・・)できる手段があったっとは予想つくまい。

 武器の嵐を乗り超えた先には、案の定オフェンスに全ての武器を費やしてがら空きなツアーの姿。そりゃそうだ、その防御力で更に守りを固める判断なんて普通しないだろう。

 

「〈タハイル・ノガルド・レウェジェ(光竜の宝玉)〉」

 

 ツアーは両手を前に向け輝く魔力を収束させ間も無く解き放った。

 直径20メートルの巨大な光弾は大地を削りながら、突進してくるマタタビをそのまま光の奔流へと飲み込まんとしていた。

 負けじとマタタビも日本刀にMPを食わせギミックを起動して対抗する。

「〈氷狼牙〉」

 

 氷属性特化の神器武器〈珀狼王〉、マタタビの掛け声とともにその刀身から凍てつくオーラが溢れ出す。その冷気は大気を凍えさせるのみならず、所有者であるマタタビの腕にすら霜を張りめぐらせる。

 しかしそれを一向に気にせず、オーラを纏った剣を振るい猛吹雪のごとき斬撃をツアーの光弾へ撃ちと放った。

 

 力と力がせめぎ合い、火花を散らして世界が揺れる。

 数秒均衡していた両者。だが徐々に天秤はマタタビの方へと傾いて、氷刃が光を押し退いていく。

 

「波ッ!」

 

 次の瞬間巨大な光弾の中心から氷晶眩く一本道が切り開かれ、その先に待ち受ける標的(ツアー)へ向かって再びマタタビは走り抜けた。

 やがて刃に冷気を宿したままで横薙ぎにツアーの首元へと斬りかかる

「懐かしい太刀筋だ」

 

 間も無く刃が届くその刹那、ヘルム越しのツアーの瞳が強く輝いてマタタビの視線を捉えた。

 反撃だろうか。だとしても、今更刀を振るう腕は止まらない。たとえばそう――

 

「やはり君が、ナツウメサクラだね」

 

 誰にも言った覚えのない真名(まな)を告げられたとしても。

 刀の切っ先は狙い定めた鎧の間隙へ正確に食い込んで、やがて夜空高くへツアーのヘルムを斬り飛ばした。

 

 

 

 切り跳ね上げたツアーのヘルムは月光に照らされながら空中で放物線を描いて間も無くカツンと音を立て着地した。

 すると今度はぷわぷわ浮かび上がって、首なしで屹立していた全身鎧の本体の方へうごめき元の頭部へとおさまった。

 

「はぁ……やっぱり」

 

 その光景に思わず気抜けした一言がこぼれる。

 

「その様子だと薄々感づいてはいたんだね」

「まぁね。殴りつけたとき、感触が軽すぎたんだよ」

 

 結果を言えば私の推測は当たっていた。

 どれだけ痛めつけてもピンピンし過ぎていたもんだから、おかしいとは思っていたのだ。

 

 なるほど鎧だけならどんなに攻撃しても碌なダメージにはならない。そしてこいつの気配が感じ取れなかったのだって、そもそもここに存在しないからだ。ただの防具を感知するスキルなんて私は持ってないし。

 

「あーもうまったく、どーりでそっちは余裕だったわけだ。ずるいねぇ、安全地帯からずっと睥睨してただなんて」

「そうでもないさ。直接的な死の危険はないにせよ、この鎧を失う覚悟はそうそうできない。

 プレイヤーによって世界法則を歪まされた今ではもう二度と作り出すことは出来ないし、それ以上にこの鎧には強い思い入れがある」

 

 そう言って私にボロボロにされた胸板に手を当てるツアー。

 

「さいですか。その思い出とやらには興味ないけど、ひょっとして私の名前を知ってる理由と関係あるのかな?

 次第によっては思い出ごと、本体のお前も滅ぼさなきゃいけなくなるんだけど」

 

 もしも推測通りなら、ナザリックの連中には絶対に知られるわけにはいかないだろう。

 とはいえ今の私にはどうしようもないから、ただの脅し文句にしかならないが。

 

「ヤマモトマサヨシ、それが今の君に話せるすべてだ。」

「おーけー十分、ぶち殺し確定です! 白銀だか竜王だか知りませんけど精々首を洗って待っててくださいね? 手始めにその鎧をぶっ壊てやる!」

 

 アイテムボックスから一つの拳銃を取り出し引き金へ指をかけ銃口を向ける。

 やれやれと両手を手を振るうツアー。気抜けした動作だが、今日一番の敵意が手向けられた。

 

「真実が怖いのかい? 200年もの間、愛情から逃げ続けてきた愚か者め」

「ドラゴンのお前に私の何がわかるんだよ! つーか200年手なんだ! こちとらユグドラシル最終日からまだ2週間だっての!」

「最終日から……二週間?」

 

 なんだ? 妙なところで食いつきやがって。

 2週間って聞いた途端、敵意が急に小さくなっていく。

 

「……フハハハは、2週間! そうか2週間か! なんていう皮肉な運命だろうね!」

「狂った?」

 

「狂ってるのは今の君のほうだろう? 真実を語るなら、正常な君の方が良いのだがね。

 そのかわりにこの鎧のことは見逃してもらえないかい? やはり今ここで壊されるにはとても惜しいんだ」

 

 何様だろうか?

 とはいえ手段がないこともない。真実が怖いだのとほざかれるのは我慢ならないし、せっかくだから乗ってやろう。断じて罪悪感などではない。断じて。

 

「しょうがないなぁ。どうせ壊したっておまえ本体じゃないし。それならお前の敵意だけを消す方法はなくもない」

 

 拳銃をしまい、アイテムボックスから一枚の呪符を取り出した。

 

「どうせお前に選択肢はないんだ。精々私を信じて抵抗しないことですね。この札は、貼り付けたマジックアイテムの効力を無効化する札です」

 

「それで遠隔操作を無効にするんだね? でもそしたら鎧は無防備になってしまうけど」

 

「今の私はお前の敵意に反応してるに過ぎないんだ。その鎧から感情が読み取れなくなれば、私の方は何もしない。

 札の効果時間の5時間後。目覚めた私をまだあなたが恨んでるっていうなら同じことの繰り返し」

 

「逆に君に対する敵意を消すことが出来れば、そのまま立ち去ることが出来るんだね?

 なるほど。理屈はわかったが、それだと君の方はどうなる?」

 

「余計な心配はしなくても良いよ。私のことなんかどうせ……どうとでもなる」

 

「今度は正常な君に出会えるのを願っているよ。もしも解放されたなら、私はアゼリシア山脈の霊廟にて待っているから尋ねてくるといい。

 あるいは王都にかつての仲間のイビルアイという冒険者がいるから、先に彼女を頼るのもかまわないが」

 

 

 

 

 以上がことのあらましだ。

 

 鎧が機能停止したことにより一旦は敵意が消失したと判断して、私の方は待機状態に戻った。

 5時間かけて頭を冷やしたのであろう。ツアーはいつのまにか消えてくれていた。ただ姿だけはニグレドさんにばれていたのが唯一の誤算である。

 いや、というかこの一連の流れ全てが誤算だったといった方が正確だろうか。

 

「ったくマサヨシの野郎!」

 





※マサヨシはオリキャラではありません。既存キャラのリアルネームを捏造したものです
ヒント:名前を漢字にするとすぐわかる
 
 あと鎧のツアー、原作だと多分ここまで強くないと思います


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悪魔のキューピット的苦悩

うえーん、デミウルゴスがかってにうごいてぼくのプロットこわしやがったー
(更新遅れてごめんなさい)



 

 

 隠し娼館の制圧、及びその後の現場処理は意外なほどにアッサリと終了した。かかった時間は10分ほど。

 昨夜セバスを発見した段階で場所はとっくに割れていたので、まずはその施設構造を盗賊のスキルを使って丸裸にした。

 

 外目の分にはボロい掘立小屋なくせして、どうやら地下施設が本業らしい。王国でもリョナ系パブは違法だからこういった構造になっているのだろう。

 これだけ大規模なものを作り上げたとなると不動産の動きが怪しくなるし建築組合も一枚噛んでる可能性が高い。

 同じ地下でも、アインズ様含めナザリックの連中にとっちゃ一笑にも値しないだろうが、せめて私くらいは褒めて遣わす。

 

 いや潰しますけど。

 

 攻め手は地下施設なら必ずあるはずの排気管。

 ナザリックの場合は謎のマジカルパワーで勝手に空気清浄されるわけだが、幸いこの世界での換気設備は普通に現実的なものだった。

 

 室外の排気管から、レベル30以下まで有効の催眠ガスを放り込む。

 やがて〈気配感知〉で全員の行動が止められているのを確認したら影分身を15体ほど送り込み、あらゆる物資や人間を〈異開門(ゲート)〉のスクロールを使って事前に王都内に購入していた屋敷へ運び込んだ。

 空になった施設には何の証拠も残さぬよう、魔術師組合でダース買いした〈清潔〉のスクロールを使用。

 残されたのは元が娼館だったとすら思うまいただのデッカい空きテナントである。

 表向きに刑事告発できない八本指相手にはこのくらいが丁度良いだろう。

 

 屋敷にはおなじみの傭兵NPC、半蔵くんを残して〈異開門(ゲート)〉をとじる。

 カーペットすらはぎ取ったむき出しの石畳に靴底を鳴らしてスキップし、唯一残した照明設備の魔鉱石を天井に見上げて思わず口元を吊り上げた。

 

「ま、こんなもんでしょ。あはは」

 

 我ながら惚れ惚れする完璧な手腕。これなら たっち の野郎――もといセバスさんも私のことを見直してくれるに違いない。

 あのムカつく面の彼からちょっと申し訳なさそうな視線を頂ければこちとらお腹いっぱいだ。見下し気味に「どういたしまして」と言ってやれればより最高。

 

 ちょうど今頃他の影分身がセバス達を説得させてるところだから、そろそろいい返事がいただけると思いきや……

 

「!ッ~~~」

 

 なぜか突然、顔中が火のように熱くなる感覚に襲われる。

 遅れて脳の海馬に情報が刷り込まれ、ようやく状況を理解した。

 

 影分身の情報統合はいまだ慣れない。

 

 

……えぇ、説得失敗とかマジか

 

 

 

 

 何とも言えない不完全燃焼感と不毛感に胸中を支配されながら、幽鬼のごとく足取りですごすごと宿屋へ引き返した。

 宿屋で高級似非フレンチもどきの夕食を頂いた後で自室で晩酌という名のヤケ酒にしゃれこもうとしていたその時、突然脳内に声が響いた。

 

『夜分遅くに失礼、マタタビ君。君もよく知ってるであろう娼館の件で話があるんだ。今夜会えるかい?』

「で、デミウルゴスさんっ!?」

 

 

 

 

 待ち合わせ場所は宿屋にあったバーコーナー。

 

 デミウルゴスさんの見た目で大丈夫なのか? と思っていたのだが半信半疑言われた通り来てみると、カウンターに待ち受けていたのは人間姿にデフォルメされた彼の姿だった。

 

 どこぞの豪商のように見える上等な服装やら一体どういう種なのかと思っていると、彼の隣にいた金髪ぼんきゅっぼん美女の姿を捉えて納得した。

 配下のサキュバスさんを呼んで幻術を使わせているみたいだ。

 

「へぇずいぶんとまぁ、粋な装いをなさりますね!」

「やぁマタタビくん、久しぶりだね。君のドレスも似合っているよ」

「……あー、うんどうも」

 

 そう言って優しげな顔で微笑みかけるデミウルゴスさん。宝石ではない人間化した瞳も同様に柔らかい表情を見せていて、セバスさんやたっちとは別ベクトルの男性的色香を醸し出していた。男にかける言葉じゃないかもしれないが、なんというかエロい。

 ちなみに私が今着ているのは、潜入捜査用に購入した王都随一のブランドものだという黒いドレス。

 多分今の私の見た目も彼には負けず劣らずなのだろうが、ゲームアバターとしての仮初の姿を褒められても正直反応に困る。

 ただでさえ今の彼は眼に毒だというのに。

 

 店主に適当な酒を頼み腰かけてから〈(カーム)〉のスキルで防音(or盗聴対策)を済ませて、再び話しはじめた。

 

「悪いね、ありがとう。

 丁度私の方も王都にいたし、ここにいるはずの君と会うためにわざわざナザリックにもどるのも馬鹿らしいからね

 このとおり、横の彼女の幻術でカモフラージュしてもらってるというわけさ」

 

 ここでようやく後ろのサキュバスさんが私の方へ一瞥し、無言で軽く礼をする。

 彼女は確か、かつてデミウルゴスさんとナザリックのバーで相席したときに、たまに連れてくる魔将の一人だったはずだ。

 

 意外と寡黙な方で、特に私とデミウルゴスさんが話をするときには空気のようになってしまう。

 己がその場において無価値であると自覚しているらしく、当のデミウルゴスさんもそんな彼女が眼中にない。自然と私も彼女を無視せざるを得なくなる。

 ナザリックのバーではいつものことだ。

 

 

 だからついついいつもの流れで頼んだお酒に口を付けようとしたところ、ハッと思い出し慌ててグラスをテーブルに立て戻した。

 

 それを見てデミウルゴスさんがクスッと噴き出す。

 

「いや別に構わないよ。何も私は君を叱りに来たわけじゃないからね」

「えっ、そうなの? てっきり娼館を勝手に潰したことで怒りに来たかと思ってたけど……」

 

 うっかり謎の歓迎ムードで忘れそうになってしまったが、彼は娼館の話があると言って私のことを呼んだのだ。「セバスの件」とか、その「ペットの件」とかではなく、はっきりと「娼館」と言及したのだから私の暗躍がバレているのは間違いない。

 

 組織においてこういった独断専行は許され難い。さっきのセバスさんが良い例だが、彼も危うくソリュシャンさんにアインズ様へ告発されかけたのだ。

 ともなれば、そんな彼の有り様を助長するような真似を働いた私の方へも処罰が及んでしかるべきだろう。

 そう覚悟していたのだが……

 

「先に言っておくが今回の件、自己申告を行ったセバスは不問とされたそうだよ」

「……へぇー、デミウルゴスさんは不服そうだね」

「本音を言えばその通りだが、これは他ならぬアインズ様の決定だ。

 それに私の彼に対する感情には私怨が混じる。この場ではやはり不問にするのが最も合理的だろうね」

 

 どうやら自覚はあるようだ。

 しかしやっぱりそれって製作者であるたっちとウルベルトの関係性が反映されてるんじゃなかろうか。

 そう思うと二人を引き裂いた元凶である私として心が痛む。

 

「もっとも彼は栄えあるナザリックの家令(ハウスチュワード)だ。

 上に立つものとして、失態を招いたことへの筋を通す必要はある。軽い禊のようなものは行われたよ」

「そりゃまたどんな」

「確かツアレ、と言ったか。彼の失態の象徴であるあのニンゲンを自らの手で殺害するよう命じ、それを遂行できるか試すものだ」

「不問ってことは合格したんだよね?」

「当然さ」

 

 妙に強いトーンで応じるデミウルゴスさん。無意識だろうが、迂遠で遠回りながらも強固な信頼感が感じ取れた。

 指摘したらきっと眉を顰めるだろうけど。

 

「本当に殺してはいないがね。彼女の近親者にアインズ様と縁があったらしい。実に運のいいことだよ」

「さいですか、ふーん」

 

 全てバレたのだからてっきり殺されるものかと思っていたが、おっしゃる通り本当に悪運のいいこと。

 もっともこれまでの境遇だけに、総合的にみれば全然不幸な女だが。

 

 一つの納得を済ませてから、私はグラスに再び手をかけちびりちびりと口元へ麦酒を注ぐ。

 コク深い苦みと柔い泡沫の触感を舌に転がせ、食道に滞留したアルコール臭い一息をふっと零した。

 

「つまり主犯のセバスさんが不問になった手前、いろいろ勝手にやったとはいえ私の方を摘発するわけにもいかないと」

 

 結局、私が何かしなくても事態はたいして変わらなかったらしい。我ながらとんだ道化を演じたもんだ。

 徒労感に気が重くなり、酒が入ったのも相まって瞼が下へと引っ張られる。

 

「少し違う」

「違うの?」

「今回の件において君は、独断専行しようとしていたセバスを説得させたという扱いになっている

 もっと言えば娼館を壊滅させたことは普通に功績だ」

「……えぇ」

 

 なんというバカみたいな好意的解釈だろう。実際やりたかったのは説得ではなく後押しだったというのに。

 ところがホッとするべきか残念がるべきか、目の前の友人もどきはマタタビのことを見誤らなかった。まるでかつての彼を思わせるように。

 

「もっとも君の本意については私にも推測がついてるさ。端的に言えばいわゆる同類哀れみという奴だろう?」

 

 マタタビがあえて濁していた自覚を、デミウルゴスは最も的確で辛辣な言葉で掬い上げた。

 同類哀れみ

 何と何が、なんてのは言うまでもない。

 

「無論、君とセバスがだ。指摘されるのは至極不服だろうがね」

 

 自覚はあるし不服だ。

 

 しかし、心中を底まで見透かされて良い気がしないのはまさか私だけではあるまい。

 分かったうえでそれでも彼は、他人の心の玄関口へと躊躇なく踏み入っていく。拒絶されようとも必要なことだと分かっているから。

 彼のそんなところが私は嫌いになり切れない。

 

「今回の失態を招いた根幹であるセバスの性質、弱者への甘さと困難を一人で抱え込みたがる独善性。

 それと同じものをマタタビ君も持っているはずだ」

「…………」

 

 図星もいいところだった。

 私は甘い。敵であったはずのニグンに縋られて、情報持たせて祖国へ帰してあげちゃうくらいには。

 そして様々な重大な秘匿を独り善がりで抱え込んでしまう身勝手さなんか、下手したらセバスのソレより悪質だ。

 

 言い当てられたまらず返答できず、無言でうつむき目を細める。

 ぶっきらぼうな無言の肯定を読み取ったデミウルゴスは淡々と話を続けた。

 

「共感と同情、今回における君の動機の主たる部分がこれだ。反して君のセバスに対する言動が攻撃的だったのは同族嫌悪があったからだろう

 加えて恐らく、君のたっち・みー様へのコンプレックスもあったのではないかね? 後者については事情を図りかねるので追及はしないが」

 

 私の複雑で醜悪な乙女心が悪魔的知性によってすらすら紐解かれ、白日のもとへさらされていった。

 

「もっといえばセバスの失態を最初から眺めていたのも、あのツアレという女に――」

「……わかったから、もういいです降参します。やめてください」

 

 私はたまらず白旗を上げて恥ずかしげにうつむいた。

 デミウルゴスさんはして悪戯な笑みを浮かべ丸眼鏡を持ち上げる。

 それは在りし日のウルベルトと私のやり取りそのものであったが、あまりに二人を重ねすぎるのは間違いだ。

 ウルベルトにはなくて、デミウルゴスさんが持っているはずのもの。それが見るからに欠落していていたので不可解に思い、私は訊ねた。

 

「ねぇ、なんで本当のことを知っているのに、デミウルゴスさんは私のことを怒らないの?」

 

 もしこのことをウルベルトが知ったとしても精々『可愛いもんだ』とか何とか言って笑って済ましてしまうであろうことは容易に想像がつく。

 だが忠誠心の塊であるデミウルゴスさんなら、私の行為に嫌悪を示さないはずがない。

 

 そんな疑念に帰ってきたのは私にとって最低ともいえる回答だった。

 

「君の不問を決定したのも、他ならぬアインズ様だからだよ」

「それだとまるで、私の心の奥底をあの方にも覗かれてしまったみたいな言い方だけど?」

「何を言ってるんだい? 私程度が気付いたことに、あの方が考えが及ばないなんてわけがないじゃないか」

 そこでようやく不可解そうに眉を顰めるデミウルゴス。

 賢いくせに信仰心だけはバカみたいな盲目さだ。

 

「ソリャソーダネ」

 

 良かった。多分絶対、鈍いアイツは私の真意に気付いちゃいない。

 仮に気付けるくらい彼が鋭かったっとしたならば、私たちの関係性はもっと別の形になっていただろう。

 

 でも今回の件について言えば、事の本質に大差はない。だって

 

「君が不問とされた、もっと言えば赦された理由は、君自身が一番よくわかっているはずだよ。それは」

「アインズ様にとって私が特別だから、でしょ?」

 

 他人に言われるくらいならと、先んじて彼のセリフを投げやりに奪い取った。

 認めるわけにはいかない事実だ。

 だから私は、続けざまにデミウルゴスへ真実を語った。

 

「でもねデミウルゴスさん。私には本来『特別』になんてなる資格ないんです

 偶々タイミング悪くアインズ様の傷心に居合わせてしまったに過ぎなくて、でも実際はこの世界で最も相応しくないのが他ならぬ私

 だってモモンガさんは本当は、私のことが死ぬほど嫌いなんだから」

 

「……先日アインズ様に命を救われた者の言葉が、よりにもよってそれですか?」

 

◆◇◆

 

「そうですが何か、無いよね?」

 

 デミウルゴスが苛立ちのあまり強くぶつけてしまった言葉に、マタタビはさも何ともないように応対した。

 一周回って呆気にとられ、デミウルゴスをしてつい諦観のこもった呟きを零してしまう。

 

「ええまったく、かける言葉がありませんよ。本当に困ったお方だ」

 

 他人の弱みを鋭く時に悪辣に見破るマタタビが、まさかアインズ様から本当に(・・・)悪しからず思われていることを気付けないわけがない。

 彼女は気付いてなお、それをかたくなに認めようとしていないのだ。

 

 なるほど、アインズ様すら彼女相手にてこずった理由が非常によく理解できた。  

 ここまで観察した結論を言えば、マタタビとは自己嫌悪とコンプレックスの権化のような人物である。

 精神の内に根強く取りついた卑屈さが他者からのあらゆる肯定を弾いてしまうのだ。 

 

 その自己否定の要因の一つは対人コミュニケーションの不協和。思わず出てしまう攻撃性や配慮に欠けた言動にある。

 おそらくそれによってもたらされた旧クラン:ナインズ・オウン・ゴールでの悪影響が、今なおずっとマタタビの中で尾を引いているのではないだろうか。

 もしくはアインズ様やデミウルゴスも知りえない何かがあるのかもしれない。

 

 なんにしてもそのあたりを解消しなければ、アインズ様との今後の関係改善は困難であろう。

 

 資質だけで言えばアインズ様の正妻筆頭であるというのに、その道のりは万里のごとく遥か険しい。ナザリックの将来を思えばこそ、デミウルゴスとしてはマタタビの立場が落ち着いてくれなければ困るのだ。

 

 ならば手をこまねいて待っているわけにはいかない。徐々にでもマタタビをナザリックの中へと馴染ませる必要がある。

 一足飛びに事実を認めさせる試みは一先ず諦める他ないだろう。

 

「この話はとりあえず置いておこう。折角の酒場で平行線をひた走り続けるものではないからね」

「そですね。つっても話はこれくらいじゃないの?」

 

 事前に準備していたプランBだ。

 

「いやもう一つ話があるんだ。覚えているかい? アインズ様から命ぜられた任務の一つである『魔王計画』のことを」

 

 こめかみに指を当てうろ覚えを思い出すようにマタタビは答える。

 

「えーと確か、どこかの国に80レベルくらいのモンスターを送り込んで暴れさせその国家の防衛力を計測するとともに、水面下に潜んでいるプレイヤーを炙り出すってヤツでしたっけ?」

「概要はそんなところだ。それを近日この王都で計画しているんだが、マタタビ君の力を借りようと思っていてね」

「私を? いや悪いことは言わないから辞めときなさいな

 自分で言うのもアレですけど、きっと碌なことにならないと思うぜ?」

 

 帰ってきたのは想定通りの返答だ。

 デミウルゴスとて不確定要素の塊であるマタタビを計画に組み込むリスクは重々承知している。しかし高いからこそ挑戦しなくてはいけない理由がある。

 結局彼女自身の集団行動へのコンプレックスは、なんらかの成功体験を積み重ねて解消する他ないからだ。

 

 それは単に彼女とナザリックとの関係性を強く結びつけるだけではなく、彼女自身が持つ高い能力をナザリックにとって有益に活用するためにも必要なことである。

 

「謙遜することはないだろう。八本指の隠し娼館への対処は実に素晴らしい手際だった」

 

 実はマタタビの暗躍にデミウルゴスが気付けた理由というのが、今回のために王国に張り巡らせていた情報網にある。

 

 部下から隠し娼館がもぬけの殻になっていると報告を受け自ら現場に出向き、あまりの痕跡の無さから〈清潔〉の魔法が行使されたのではないかと予想した。

 なので魔術師組合での売り上げ記録を覗き、〈清潔〉のスクロールを大量購入した人物がマタタビであることから、ようやく特定に至ったわけであった。

 

 特定が遅れた決め手は何といっても、施設制圧と後処理にかかった時間があまりにも短すぎることだった。

 デミウルゴスの推測が正しければ10分もかかっていない計算になるはずである。

 

 そしてそんな彼女の優秀さが人格的問題で役立たずに陥る様は、デミウルゴスとしてもあまりにも見ていられなかった。

 

「もちろん君が不安に思う気持ちもよくわかるが、そのあたりは私の方でしっかりフォローを入れるつもりだよ」

「うーんでもなぁ、いろいろ申し訳ねぇですし……」

 

 無論、全霊を尽くした補助役になることだろう。

 そんな予想図を思い浮かべたマタタビも気乗りしなさそうな暗い顔をする。

 だからここでもう一押しだ。

 

「ところでマタタビ君、娼館から移送した物資やニンゲン共は今どうなっているんだい?」

 

「え? あぁ、王都の中古物件でテキトーな倉庫を購入して全部突っ込みましたよ。物資の方はとても現場で整理できる量じゃなかったので、倉庫の方で影分身たちに整理させました

 人間については負傷者も多いしその他色々厄介だったので、時間停止の結界に放り込んで凍結封印させてます。こっちの方はちょっと処理に困ってて……」

 

 なるほど手際は優れているがやはり甘い。詰めも人格も。

 デミウルゴスからしてみれば、取るに足らないニンゲンに慈悲を与える思考はさっぱり理解が及ばない。娼館の経営者を生け捕るならまだしも使い道があるが、何の価値も無くおそらく本人すら生を望むまい被害者女性達をあえて生かしてどうするつもりなのか。

 

 もっともマタタビに付け入るスキとなった彼女達は今のデミウルゴスにとって有益と言えた。

 

「物資の方と八本指の従業員については私が引き取ろう

 そして女性たちの方だったら、今ちょうど適任の引き取り手がいるんだ」

「誰です?」

「セバスだよ」

「うげぇ」

 

 その名を出した途端にしかめっ面で嫌悪を示すマタタビ。

 デミウルゴスの考えを察したためであろう。

 

「見ただろう? あのツアレという女の、セバスに対する異常と言える依存具合を。苦境的人生経験を味わったものが人格者に救済されると自然ああなる。

 実はかねてよりNPCによる生殖実験を予定していたんだが、彼女のおかげでその手間も省けそうだと安心したところだったんだ。

 しかし欲を言えば、モルモットは多いに越したことはない」

「けっ、確かにこの上ない適任ですね。でも……」

 

 マタタビがセバスを直接頼れるわけがないのだ。

 

「だから交換条件だよマタタビ君。君がゲヘナに参加してくれるなら、女性たちの引き取りを私の方(・・・)からセバスに頼んであげよう

 逆に君が断るというのなら、女性たちはアインズ様から直接嘆願して私が引き取ることにする。今ちょうど新設した牧場(・・・・・・)で人手が足りなくてね」

 

 退路をふさがれた子猫は虚勢で悪魔を睨みつけ、やがてうなだれるように負けを惜しんだ。

 

「……いいよわかった。どうなっても知らないからね?」




 このSSのゲヘナはかなりマイルドな内容にアレンジする予定です。そもそもの目的が原作と微妙に異なりますので色々とご注意を。







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