孤高剣士の歩む道 (O.K.O)
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第1話 ある一人の青年の死

MHの小説を書きたい衝動に駆られ、思うがままに書いた筆者の処女作です。ちなみにMH3しか実際にしたことはありませんので、設定はモンハン3を元に書いております。
 色々と突っかかる部分もあると思いますが、暖かい目で読んでいただけると助かります。


  20XX年、一人の青年が死んだ。

 

 

 彼がこの世で生きたのは18年という短い時間であったが、その時間は一つを除き彼にとって苦痛そのものであった。まず彼には暖かい家庭という概念が存在しなかった。母親は体が弱く彼を生んだ直後に亡くなり、父親は酒と女とギャンブルにまみれ彼の面倒をろくに見たことは無く、食べ物さえ満足に与えられたことは無かった。ほかの親族は彼のことを煙たがり、父親の彼に対する態度も黙認していた。

 

 

 義務教育ということで辛うじて学校には通えていたが、彼は元々口数が少なく、更にそのような家庭で生きてきたため他人を安易に信じようとしないこともあり常に一人、まさに孤独であり、遂には小学3年時に引きこもるようになってしまった。しかし、引きこもった理由は孤独にもあったのだが、それと同時に彼の心を踊らせる一つの存在にもあった。

 

 

 MH《モンスターハンター》、このゲームソフトを知らないものはいないだろう。爆発的人気を誇ったこのゲームに非常に多くの人が惹き込まれ、彼もその例外ではなかった。

 

 

 元々他人との関わりがなく引きこもっていた彼にとって、このソロで敵《モンスター》を狩るために広大な世界を駆け回るMHの世界は魅力的であったのだ。無けなしのお金でソフトとゲーム機を買い、父親には彼がゲームをしていることを隠しつつ、彼は引きこもっていた時間を全てMHに費やした。来る日も来る日もそれに時間を費やし、彼が世間一般で言う中学生になったときには既にMHの知識を網羅していた。父親の理不尽な叱責や暴力に耐えつつ、MHの為だけに生きた。

 

 

 そんな生活が続き、彼が18になったある日、それは突然訪れた。

 

 

その日、彼は家のリビングで酔った父親の暴力にあっていた。それ自体は少なくないことであり(そんな日常はおかしいのだが)、いつものように彼は耐えに耐えていたがその日の父親はそれだけに留まらなかった。偶然父親はゲームソフトを見つけ、彼の生きた証とも言えるそれ《MH》をあろうことか故意に壊したのだ。その瞬間、彼の中で何かが切れた音がした。彼は台所にあった包丁で父親に切りかかった。しかし、ろくに運動していなかった彼は父親にかなうはずもなく、逆に腹部に深々と包丁を突き刺された。父親は何一つ罪悪感も感じていない様子で包丁が突き刺さった彼をにやけながら眺めていた。そんな父親の様子に怒りを覚えつつ、薄れていく意識の中で彼は思った。

 

 

MHのような広大な世界で自由に生きてみたかった…と。




主人公の性格を無口→口数が少ないに変更しました。


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第2話 目覚め

小説書くのって予想以上に難しいですね…。
感想で良い点、悪い点を指摘してもらえるとありがたいです。
では、第2話書いていきます。


「…………っ!」

 

その黒髪黒目の青年、霧雨 刀夜(きりさめ とうや)は目を覚ました。それと同時に強烈な頭痛に襲われる。

 

「痛っ……!確か俺は…そうだ…。アイツに、あいつに包丁でっ……!」

 

アイツ、とは刀夜の父親のことである。刀夜は1度たりとも彼を父親として見たことは無かった。それも無理もない。ろくに面倒も見られず、食べ物さえ満足に与えらず、毎日毎日叱咤叱責と暴力の雨、そして極めつけは彼の生きがいでもあったゲームソフトの破壊、刀夜が彼を父親と感じられる理由はこれっぽっちもない。そんな父親に怒りを覚えつつ、同時ある疑問が浮かんだ。

 

「確かあの時、俺は完全に腹部を刺されていたはず……。あの後病院に搬送されて一命を取り留めた……ってことはないな……」

 

刀夜を刺した時の彼の表情は、嫌でも刀夜の脳裏に焼き付いていた。刀夜はそれを思い出し、更に怒りの感情を覚える。

 

「……最悪の気分だ。だが、まずは……現状を把握しないと」

 

刀夜は湧き上がる怒りを押さえつけ、冷静に現状把握に努めようと辺りを見渡す。そうすると同時に刀夜の中でまた一つ疑問が増えた。

 

「ここは…森…なのか…?何故俺は森にいるんだ…」

 

そうなのだ、刀夜の目に入ってきたのは木々による深緑と葉の間から見える大空の景色、先程まで家にいた刀夜にとってはあるはずもない光景であった。

 

「刺されたのは夢か…?いや、あの痛みは今でもしっかり覚えている。あれは夢じゃない。…っ!そうだ!俺の腹!」

 

そう言って刀夜は着ていた白い服をめくり自分の腹部を見るが、そこには傷など何一つなかった。

 

「なぜ…、確かに俺はアイツに腹を刺されたはずだ。傷がないのはありえない。それにあの出血量…、服に血の跡もないのはおかしい…。っ!それにアイツに殴られた体中の傷もなくなっている…」

 

そうなのだ、刀夜には生前父親から受けた暴力による痛々しい傷跡が体中に残っていた、にも関わらずそういった傷跡が全くないのである。そうして思考を巡らせるうちに刀夜の頭に一つの考えが浮かんだ。

 

「………転生」

 

刀夜が世間一般で言うところの中学生の頃、1度だけそういう類の小説を読んだことがあり知識としては知っていた。その時刀夜はこんな事があればと考えもしたが、現実からかけ離れすぎていて常識的にありえないと考えた。加えてその時は(18になってもだが)MHに完全にのめり込んでいたため深く考えることはしなかった。まさか自分が転生を経験するとは考えもしなかったのだ。

 

「俺は転生したのか…。そうか、そうなのか……ククク。」

 

これを転生と捉えると色々辻褄が合う。刀夜はありえない、と感じながらも転生という解答以外にこの現象を説明し得るものを持ち合わせてはいなかった。転生、そう自覚すると同時に刀夜には喜びの感情が湧き上がった。

 

「ここならば俺はアイツの顔を見ることもなく、人に関わることなく、自由に生きられる!」

 

刀夜の前世での人生は自由とは程遠いものであった。父親による虐待、そして息苦しい外の世界、そんな世界で生きてきた刀夜にとって転生できたことは喜び以外の何者でもなかった。

 

「あんな世界なんて…。あんな世界なんてクソ喰らえだ!俺はこの世界で、自由に!1人で!やりたいことをして生きてやる!」

 

刀夜にとって人間とは信用ならないものであった。なぜなら歪んだ父親以外と接した事がなく、それに加え父親に痛めつけられていた自分を周りは認識していながら、刀夜に手を差し伸べるものが誰一人としていなかったからだ。刀夜はそれに気づいていた。刀夜が人間は自分勝手で信用ならないという考えに至るのも当然のことである。他人をあてにせず、1人で自由に生きていこうと深緑の中で固く誓ったのだった。

 

 

 




主人公は転生したことに気づいたものの、MHの世界に転生したことにはまだ気づいていません。

それと、文字数少なくてすいません。書き慣れていないのです。徐々に増やしていこうと思います。

※主人公の容姿に関して少し追加しました。


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第3話 青年の転生先

こんにちは、O.K.Oです。今回から文字数増やしていこうと思います。この小説を見てくださっている方、本当にありがとうございます。

あ、一つだけ。主人公は口数が少ない設定ですが、1人だとまあまあしゃべります。
それでは第3話ですね、頑張っていきます。


誓を立てたのは良いものの、刀夜には生きるためにしなければならないことが山積みである。彼は自分が死ぬ直前まで身につけていた所々汚れが目立つ白いTシャツと黒の長ズボンをそのまま着ており、それ以外は何も持ち合わせてはいなかった。

 

「まずは…、食糧と寝床…だな。それに、まだここがどういう世界か全くわからない。そもそも地球…なのか…?」

 

そう呟きつつ刀夜は辺りを見渡す。ただ、刀夜にとって転生先の場所はさほど重要ではなかった。ずっと狭い世界で他人に脅かされて生きてきた彼にとって、この広大な自然の中で佇む自分というのは正に自由を象徴しているようで、そのことだけで一時の満足感を得ていた。

 

「まあ、ここがどういった世界なのかはその内分かるか…、焦ってもしょうがない。周りは木だけ、判断材料が少なすぎる。」

 

そう言った刀夜にはどこか達観した様子が感じられた。彼は前世において人間の黒い部分しか見たことがなかった。毎日浴びされた理不尽な暴力、周りからの決して関わらまいとする感情、そのような環境の中で刀夜の心は冷えきっていき物事を常に冷静に、そして客観的に捉えられることができるようになっていった。そしてそういった性格が今のこの状況において彼が慌てることなく思考を巡らせることができる所以である。

 

「ここがMHの世界なら言う事なし、なんだがな…」

 

そんな冷めた心を持つ刀夜にとっての前世とはモノクロに映った味気ないものであったが、唯一MHの世界は彼の心躍るカラフルな世界であった。広大な自然のエリアでただ1人、狩りをするもよし、採取するもよし、探索するもよし、そんなMHは彼にとって自由そのものであった。実は刀夜がMHの世界にハマっていたのはそれだけではなく、他に一つ大きな理由があるのだが本人はそれに気づいていない。

 

「まあ、とりあえず移動するか」

 

その場にいても現状は好転しまいと考えた刀夜は1歩、また1歩と歩み始めた。そうして歩きつつ、刀夜は呟く。

 

「大自然の中に1人…。解放的で気分は良いが、このまま森の中で暮らしても食べて寝ての前世の生活、いや前世はMHがあっただけまだ楽しみもあったが、こっちにはまだなんの楽しみもない。折角の第2の人生だ、野生児として生きるのは勿体無い。やはり情報が欲しいな…。街か何か文明のある場所に行かなければ」

 

この世界にそもそも文明が無ければ野生児として生きていく覚悟もしていた刀夜だが、森で暮らす知識などあるはずも無く、できればその選択肢を選ばざるを得ないような状況には陥りたくなかった。1人で自由に生きていくと決めた刀夜であったが、最低限の情報は必要なため街があって欲しいと願いつつ歩き続ける。そうして歩くこと約1時間、特に周りの景色に変化もなく流石の刀夜にも焦りが生まれ始めていた。

 

「少し歩けば何かしら景色も変わるかと思ったんだが…。これは少しまずいかもしれないな…」

 

野生児として生きる選択肢が頭の中で刀夜の中で徐々に大きくなり始めていたその時であった。

 

「アッアッオーーーウ………」

 

「っ!!」

 

刀夜が歩む方向からかすかにそれは聞こえた。本当にかすかではあったが、情報を欲し歩み続けてきた刀夜がなんの変哲もない森の中での僅かな変化を漏らすはずもなかった。そして、刀夜に届いたその鳴き声に似た何かは彼にとって何度も何度も聞いたものでもあったのだ。刀夜は全速力でその声の方向へ走り始める。

 

「今のはまさか…!」

 

刀夜の脳裏にある一つの仮定が過ぎった。ただ、まだそれが真実であると断言はできない。先程まで冷静に現状を分析していた刀夜であったが、流石にその鳴き声の主を確かめられずにはいられなかった。

 

「あの鳴き声は絶対にあいつのものだ…。俺が聞き間違えるはずもない。とすると、この世界は…!この世界は…!」

 

刀夜は彼が生きてきた中で最も大きな希望を持ちつつ道無き道を走った。そうして走り続けると周りの木々が徐々に少なくなり始め、視界が開けてくる。そして木々が無くなり森から抜け出ようとしたその時、前方に刀夜が進む道はなかった。

 

「…っ!道がない!あれは崖か?!」

 

刀夜は走る速度を徐々に落とすと同時に、自分の仮定を確かめられないことに落胆する。

 

(なぜ道がない!ここさえ、ここさえ渡れば確かめられるはずなんだ!)

 

そうして崖の手前3メートル程のところまで歩んだ刀夜は膝をつき、落胆と悔しさの念に駆られる。

 

「なぜ…!なぜ…!!なぜ…!!!」

 

やり場のない気持ちを拳に込めて、地面に叩きつける。そんな時であった。

 

「アッアッオーーーーウ!!」

 

「!!」

 

その声は確かに聞こえた。それも微かではなく刀夜のすぐ近くから。まさかと思い、1歩進めば崖から落ちてしまうような所まで歩み寄った。そうして刀夜が崖の下を見下ろすと同時に刀夜が立てた仮定が真実であることが証明される。

 

「あれは…、ドスジャギィ!」

 

刀夜が立っているところから地面までおおよそ10メートルといった所であろうか、そこには刀夜が叫んだモンスター、鳥竜種の中型モンスターであるドスジャギィが大きな鳴き声でジャギィやジャギィノスを呼び寄せていた。そのモンスターたちと崖の下に広がる、ゴツゴツした岩肌の地面に奴らが食べた跡であろう白い骨が散乱した風景に既視感を覚え、刀夜は確信する。

 

(ここは孤島のエリア6…俺はMHの世界に転生したのか!?)

 

そう、刀夜は憧れであったMHの世界に転生していた。そのことは彼にとって歓喜以外の何者でもなく、これからの生活を想像して希望に胸をふくらませる。

 

「本当に…あのMHの世界に転生したのか…。ククク…、今までの人生においてこれほど嬉しいことは無い!俺は…、俺はこの世界で…!」

 

刀夜はこの時一つ勘違いをしていた。喜びの感情は、あの憧れの世界で自由に生きていけるということから湧き上がっているものと思っていたのだ。MHの世界に転生したと自覚した途端、何かしらのどす黒い感情が湧き上がってきたことに刀夜はまだ気づいていなかった、否、気づけなかった。その感情の本当の意味を彼は後々知るところとなるのだが、今はまだ知る由もない。

 

 

そんな中、刀夜はMHの世界だと自覚すると思考を巡らせる。

 

「まずここはゲームでは立ち入ることができない場所だ、何故そんなところに俺はいた…?いや、ゲームではない、今はここがリアルだ。ゲームで行くことの出来なかった場所にも行けて当然か…」

 

そう考えると同時に刀夜には笑みがこぼれた。

 

「ククク…ゲームのMHの世界から更に自由度が上がる、本当に転生できたことに感謝だな…」

 

そう喜びながら呟きつつも刀夜はあくまで冷静であった。

 

「しかし、ここはゲームではない。ゲームと同じように考えるのはやめておこう。知識は存分に使うが、油断で命を落とすなどあってはならない…。気を引き締めていこう…」

 

そう決意した矢先、刀夜は今すべきことを考える。

 

「ここがゲームのエリア外だと言ってモンスターがいない確証はない。警戒は最大限しておこう。それとこの服装をどうにかしないとな…。何より武器だ。防具はまだしも、攻撃手段が無ければこの世界では生きていけない…。あとは食べ物と寝床も必須…、どうしたものか…」

 

喜びも束の間、MHの世界で生きるためにすべきことを挙げていくが、その多さに刀夜は頭を抱える。

 

「とりあえず、このエリアにいるのは危険だな。ドスジャギィ…、素手であんなのとは戦えない」

 

刀夜の身体能力が果たしてどれほどのものかは分からないが、引きこもっていた身体が強いわけがないと判断し、ドスジャギィと遭遇しないようエリア5の方向に向かって崖沿いに歩き始めようとした、その時だった。

 

「…っ!」

 

刀夜は自分の背後、すなわち森の方向からどす黒い負のオーラを感じとった。前世において様々な負の感情に晒されていた刀夜はそういった方面の気配に敏感であり、なおかつこのような大きなオーラに気づかないわけがなかった。

 

(…?これはいったい………)

 

本来であればこの場から即刻立ち去るべきである。しかし、刀夜は何故かこの負のオーラに惹かれた。正確には、このオーラを発する<何か>に惹かれたのだ。数秒その場で佇んだ後、刀夜は1歩、また1歩とその<何か>がある方向へ歩み出す。まるで何かに取り憑かれたように、その場所へ歩を進める。そして刀夜の目にその<何か>が映り込んだ瞬間、刀夜は目を見開いた。

 

漆黒爪[終焉]、刀夜が前世のMH3プレイ時に愛用した最強最悪の太刀が凄まじい負のオーラを放ちながら1本の木に深々と突き刺さっていた。




はい、というわけで主人公、遂にMHの世界へ転生したことに気づきました。
愛用の太刀とも出会いこれからどうしていくのでしょうか。


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第4話 刀夜の武器

こんにちは、O.K.Oです。この小説を読まれる方へ、本当にありがとうございます。

では第4話、張り切ってまいりましょう。


漆黒爪[終焉]、それは人の世に仇なす魔鎌。龍の武器を扱う者はいずれ闇に魅入られ光を喰らう怪物へ身をやつす。

 

木に深々と突き刺さり負のオーラを放つその大鎌型の太刀を見て、刀夜は前世におけるゲームでの漆黒爪[終焉]の説明書きを思い出していた。

 

「光を喰らう怪物…か。ゲームにおけるこの太刀は本当に最強以外の何者でもなかった。だからこそ俺はこいつを愛用していたが、本物を見ることになるとはな…」

 

正直刀夜にとっては先程見たモンスター達でも充分衝撃的ではあったのだが、この太刀とは比べ物にもならなかった。

 

「なぜこの太刀がこんな場所にある…。こいつはアルバトリオンの素材で生産した漆黒の爪をさらに素材を費やして強化して初めてできるものだ。この孤島にあるのはおかしい…。それに、この太刀が存在するということは…」

 

刀夜の口からその続きが語られることは無かったが、つまりはこの太刀が存在するということは、その元になる素材が存在するはずであり、その素材とはアルバトリオンから取れるものである。つまりこの太刀の存在はこの世界においてアルバトリオンが実在している証拠になり得た。アルバトリオンとはMHの世界で世界最強のモンスターに位置する存在であり、その名を聞くと誰もが震え上がる程の恐怖をもたらす存在であった。そんな存在に対して刀夜はと言うと…

 

「アルバトリオン…いつか実際に戦ってみたいものだな…」

 

闘争心をむき出しにして笑みを浮かべていた。刀夜は憧れのMHにおいて幾度となくモンスターを葬ってきたが、アルバトリオンもその例外ではなかった。彼はゲーム上ではアルバトリオンでさえもソロで悠々と狩る実力を持っていた。まあゲームと現実は全く違うのではあるが…。

 

「まあそれは置いといて、この突き刺さった太刀をどうするかだな…。できれば抜いて、武器にしたいところだが…」

 

漆黒爪[終焉]は今も尚凄まじい負のオーラを放っていた。

 

「これ、抜けるのか…?」

 

そう呟きつつ刀夜は深々と木に突き刺さった大鎌にも似た太刀の柄に触れた、その時であった。

 

(久しいな、この感覚。そなたが我の新たなる主か??)

 

「……っ!」

 

強烈な頭痛共に、刀夜の頭の中に声が響いた。その声は負の感情を体現したような、不気味で暗いものであった。

 

(ほう…我の声が聞こえているのか….。………なるほどな、お主程の黒い感情があれば我を扱いきれるやもしれぬな…)

 

「お前は…誰だ…」

 

凄まじい頭痛により刀夜の意識が飛びそうになるが、なんとか持ちこたえ言葉を絞り出す。

 

(誰…という問は相応しくない。我はお主の目の前に刺さった太刀である、漆黒爪[終焉]、またの名を黛《まゆずみ》と申す。そなたの黒い感情が我を呼び寄せたのだ。我に触れたものにはこうしてそやつの脳内に語りかけることが出来る)

 

「そんなことが…可能…なのか…。それよりも…黒い感情…だと?」

 

転生という時点である程度のことには驚かないつもりであった刀夜だが、流石にこれには驚かずにはいられなかった。それと同時に刀夜は黒い感情について思考を巡らせる。他人を信じないという決意が黒い感情に当たったのかと刀夜は考えるが黛は否定する。

 

(否…、それもまた一つの黒い感情ではある。だがしかし、それだけで我は呼び寄せられんのだよ…。なるほど、自覚しておらぬか……。まあよい、どちらにせよ呼び寄せられたのだ。そなたに問いたいことが一つある)

 

何がよいのか刀夜は理解出来なかったが、この黛の話は気になるので聞くことにする。

 

「なんだ…」

 

(そなたに我を扱う覚悟はあるか?)

 

黛の声は更に凄みを増した。恐らくこの太刀を現実で扱うにはそれ相応の覚悟がいるということなのだろう。刀夜は元よりこの太刀を見て自分の武器にしようと思っていたのだ。そういうことならば刀夜の答えは既に決まっていた。

 

「覚悟…だと?そんなもの…この世界に来た直後から…できている…。漆黒爪[終焉]…いや黛…俺の武器になってくれ」

 

この答えは声として刀夜には届けなかったものの黛にとってかなりの驚きに値するものであった。

 

(((この世界…であるか。ほう…どうりで我が呼び寄せられたわけであるな。こやつなら我を、本当に扱いきれるやもしれん。なるほど、面白い…。この身を任せてみるのも一興であるか)))

 

黛は何かを理解し、そしてこの自分の柄を掴んだ青年を自身の主として選ぶことを決意した。

 

(よかろう…。良い答えである。我、黛はそなたの武器となろう。そなた、名をなんと申す)

 

未だ激しい頭痛に苛まれながら刀夜は答える。

 

「霧雨…刀夜…」

 

(我、黛は霧雨刀夜を主と選び、主の武器として役目を全うすることを誓う…)

 

そこで、刀夜の意識は途絶えた。

 

 

 

 

刀夜は目を覚ました。強烈な頭痛は今なく、視界に入ってきたのは青色に澄んだ空ではなく、橙色に染まった空であった。

 

「そうだ…!俺は確か!」

 

意識が途切れるまでの出来事を思い出し、刀夜は倒れていた体を起こす。それと同時に背中に今までには無かった重みを感じた。

 

「これは…漆黒爪!いや、黛…だったか」

 

そう、刀夜の背中には漆黒爪[終焉]改め、黛が鋭い刀身を潜め棒状になって短く畳まれ装備されていた。その時、黛の声が頭の中に響くと同時に強烈な頭痛が生じる。

 

(目覚めたか…?我が主よ)

 

「ぐあっ…!」

 

(一つ伝えておく。我が主にこうして語りかける時、主には激しい頭痛が生じる。我が人間に干渉すると脳がその負荷に耐えられなくなるのだ。それはお主も例外ではない…。それ故我が主に干渉するのは最低限に留める。我が主よ、またいずれ…)

 

そう黛が告げ終わると同時に刀夜の頭痛が収まる。

 

「厄介な太刀だな…。それに持ち主に話しかける武器なんて聞いたこともない。まあ見てろよ黛、うまくお前を扱ってやる」

 

そう刀夜が呟くと黛を背中に担ぎ直し、当初の目的であったエリア5に向けて歩み出したのであった。

 

後々刀夜はこの太刀と共にMH世界を大きく揺るがしていくのだが、この黛と刀夜の出会いが偶然であったのか、それとも必然であったのかはまだ誰にも分からない…。

 




さて、遂に主人公が武器を得ました。果たして刀夜は黛を扱いきれるのか、それとも…。

MH世界に転生してまだ1度も狩りをしていませんが、そろそろ始まる…はずです。


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第5話 黛(まゆずみ)の威力と出会い

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。
感想があればどんどん書いてもらえると嬉しいです。

さて、第5話ですね。主人公やっと戦います。


エリア6から崖伝いに歩くこと数分であろうか、エリア5に到着するまでそれほど時間はかからなかった。未だに空は夕焼けによる橙色のままであり、ゲームにおいては昼と夜しか存在しなかったため、刀夜にとってその景色は新鮮そのものであった。刀夜は崖から降りようと足場や岩の突起を探す。

 

「ここから地面まで大体5メートル程か…。エリア6ほど側面は険しくないが、気をつけて降りよう」

 

そう呟きつつ丁度降りられそうな場所を見つけ、降りようとした矢先、真下でジャギィが3体ほど細長い尻尾を地面に寝かせ休んでいる様子が見えた。

 

「エリア6にある巣の見張りといったところか…丁度いい。こいつの威力がどれほどか確かめてみるか」

 

そう言いつつ刀夜は背中に掛けた黛に手をかけ、柄の感触を確かめた。

 

「あの時は頭痛のせいで気づけなかったが、黛…予想以上にしっくりくる」

 

刀夜は抜刀攻撃をするため黛から手を離し、下のジャギィ3体に気づかれないよう慎重に崖を降り始める。そうして地面とあと2メートル程のところまで降りた刀夜は1番近くにいたジャギィに狙いを定めた。

 

「さて…ひと狩り行こうか!」

 

刀夜は真下のジャギィ1体に飛びかかり抜刀攻撃を仕掛けた。太刀を抜くと同時に、黛の畳まれていた漆黒の刀身があらわになる。突然の敵の出現、それもジャギィにとって頭上という死角からの完全な不意打ちであったため、刀夜が狙いを付けたジャギィがその攻撃に対応できるはずもなかった。

 

ザシュッ…!

 

そんな音が静かなエリア5に響く。それと同時にジャギィの身体から真っ赤な鮮血が吹き出す。

 

「ギャオゥゥ…」

 

刀夜に斬られたジャギィは呻き声のような声を小さく発し、絶命した。

 

(これは…予想以上の斬れ味だ。ゲームにおける漆黒爪の斬れ味は白、流石と言わざるを得ないな…。まるで豆腐を斬ったような感触だった…。それにこの攻撃力、ジャギィと言えど一撃とはな…)

 

それは刀夜にとって初めての狩りであり、初めて他の生命を奪った瞬間でもあったのだが刀夜はそのことに対する罪悪感を感じてはいなかった。それどころか、黛の太刀としての性能を冷静に分析していた。

仲間の1体が殺され、初めて刀夜の存在に気づいた残り2体のジャギィ達は、敵討ちをしようと刀夜に襲いかかる。

 

(太刀と言えば…やはりこれだな)

 

そんな2体が襲いかかってきても刀夜は至って冷静であった。刀夜は2体を同時に倒さんと、太刀の十八番でもある気刃斬りを繰り出す。

 

ブシュッ…!

 

その気刃斬りは見事ジャギィ2体に命中し、両者とも既に冷たい地面の上で絶命していた。刀夜は3体が死んだことを確認すると黛にべっとり着いた血を振り払い、畳んで棒状にして背中に掛けた。

 

「まさかこれ程とは…。斬れ味、攻撃力共に申し分ない。武器として最高の役割を果たしてくれたな。これはこれからも期待できそうだ、ククク…」

 

刀夜は言い知れぬ高揚感に包まれていた。予想を上回る武器の性能に笑みがほころぶ。更に、刀夜は幼い頃から無力で、されるがままの暴力を受けてきた。そんな刀夜にとって、敵に暴力を振るうという行為は大きな快感であったのだ。

実は、これが刀夜が前世でMHの世界にのめりこんだ大きな理由でもあり、また黛が言っていた黒い感情もそれと同じで、自分の敵《モンスター》を蹂躙する快感のことであった。そのことに刀夜は自覚することなく、初めての狩りを終えたのだった。

 

「さて、これからどうしようか…。そろそろ暗くなってきたな。ここで野宿して、寝ている間にモンスターの餌になるわけにはいかないし…」

 

刀夜は呟く。

 

「ベースキャンプで寝泊まりするか…?いや、今俺はハンターではない。クエスト中のハンターと鉢合わせて、ギルドに報告されると後々面倒だ…」

 

ベースキャンプとはハンターズギルドに所属するハンターが、クエスト中の疲れを癒したり、そのクエストに対する支給品がギルドから届けられる場所でもある。刀夜のようなハンターではない人間が勝手に寝泊まりしていい場所ではないのだ。だが、刀夜が懸念しているのはそういうことでは無かった。

 

「問題を起こしてハンターになれない、という自体は絶対に避けたい」

 

そう、刀夜はこの世界でハンターになるつもりであった。ハンターになればギルドからの支給品を受け取れるだけでなく、狩場への移動手段も与えてくれる。凍土や火山といった過酷な環境に1人で歩いて向かうのは、流石の刀夜も気が引けた。更に、刀夜は他人との関わり合いをできるだけ避けたがっていたが、ハンターとして生きるために情報は必須である。その情報が得られるギルドには最低限所属する必要があると考えていたのだ。

 

「だが、このままここにいるわけにもいかない。それに他に行く宛もない…。とりあえずベースキャンプに向かうか。最悪、人がいても情報くらいは得られるはずだ」

 

そうして刀夜はベースキャンプを目指し、初めての狩場となったエリア5を後にした。刀夜が去ったあと、エリア5では3体のジャギィから流れ出た鮮血が水場に流れ込み透明な水を朱色に染めて上げていたのであった…。

 

 

 

日が完全に落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。そんな中、刀夜はベースキャンプと思われる(・・・・)場所に到着した。

 

(テントやアイテム支給BOX、アイテム納品BOXがないだと…。それに…)

 

刀夜にとって想像していた光景と違い、そこには寝る場所も、アイテム関係のBOXも設置されていなかった。そしてそれ以上に気になったのは、刀夜の視線の先に彼に背を向け佇んでいる屈強な男がいたことである。

 

(いつかはこの世界の人と話す必要があるとは思っていたが…)

 

刀夜は思考を巡らせる。

 

(正直気はあまり進まない。だが、このまここから立ち去るわけにも行かないだろうな…。まあ、万が一があっても俺には黛がある…)

 

先程ジャギィ3体を黛で殺した刀夜ではあったが、流石に人間を斬ることには躊躇いがあった。黛を使うのは本当に万が一の時ではあるが、その覚悟もする必要があると刀夜は考える。そうして覚悟を決めた矢先、ふとある疑問が刀夜に浮かぶ。

 

(待て、それよりもそもそも日本語が通じるのか…?)

 

刀夜に浮かんだ疑問は最もなものであった。この世界の共通言語が日本語であるという保証はどこにもないのだ。そうして刀夜が佇んでいる内に、男が振り返り刀夜の存在に気づく。

 

「ん…?人がいたのか」

 

その言葉、日本語を聞き、先程までの刀夜の心配は杞憂に終わる。それと同時に男の容姿を見て刀夜は目を見開いた。

 

(あいつは…確かMH3に出てくるNPC、モガの村の村長の息子だったか。なるほどな、てことはモガの村が存在しているのか…?)

 

そうして刀夜は村長の息子と思わしき男に声をかける。

 

「あぁ、気にするな…。それよりも1つ聞きたいことがある。この近くに村はあるか?」

 

無愛想に質問する刀夜に、男は答える。

 

「ん?モガの村のことか?それならここからすぐ近くにあるぞ。この島唯一の村だから俺が知らない人はいなかったはずなんだが…お前さん、観光客には見えないがどこから来た?」

 

その男から敵意に似た感情は感じられず、純粋な疑問だと判断した刀夜は前もって用意していた返答を述べる。

 

「船に乗っていたがその船が事故にあって沈没…気づいたらこの島に漂流していた…」

 

刀夜の返答に男は納得する。

 

「なるほどな、どうりで見ない顔なわけだ。大変だったんだな…。お前さん、これからどうするつもりだった?」

 

「…今日はここで野宿、だろうな。その後に関しては…考えていない」

 

男は少し考えた素振りを見せ、刀夜に提案する。

 

「…なるほどな。…よし!そういうことならモガの村に来てみないか?」

 

「…いいのか?」

 

刀夜にとっては願ってもいない提案であったが、それと同時に出会ったばかりの刀夜にそんな提案をした男に不信感を抱く。そんな刀夜の様子に気づいたのか、男はこう続ける。

 

「まあもちろんタダで、って言うわけにはいかない。村で過ごす間はそれ相応に働いてもらう。実はな、ここに新しくベースキャンプを作ろうと思っていたんだが、どうにも人手が足りなくてな…」

 

男が困ったようにそう言うと、刀夜は利害関係が一致したその話に納得の表情を浮かべる。

 

「なるほどな。そういうことなら…手を貸そう」

 

その返答を聞き男は笑顔で刀夜に感謝を述べる。刀夜としては利害関係が一致しただけなので何故その男が自分に感謝の念を示したのかが分からなかった。

 

「よし!そうと決まれば!俺の名前はケイル=バーン、モガの村の村長ロイス=バーンが俺の父親だ。何かわからないことがあれば気軽に聞いてくれ」

 

(やはり村長の息子だったか…。名前までは知らなかったが)

 

「霧雨刀夜…霧雨は姓、名が刀夜だ」

 

「名が後ろなのか。トーヤは東洋系の人間か?」

 

恐らくこの世界において東洋の人がそういう名の付け方なのだろう。そう判断した刀夜はケイルに話を合わせる。

 

「まあ、そんなところだ…」

 

「そうかそうか!まあ、これからよろしくな!」

 

ケイルは笑顔で刀夜に右手を差し出す。それを見て刀夜はゆっくりと右手を差し出し、その手を掴み軽く握手する。刀夜は手を離したあと、一つケイルに伝えておく。

 

「ケイル…今のこの感じからして気づいているとは思うが、俺は人付き合いが苦手だ…。だからベースキャンプの設置やその他の仕事も全て俺一人でさせて欲しい…」

 

本音はできるだけ他人と関わりたくないからであったが、人付き合いが苦手なのは事実であるため嘘をついてはいなかった。刀夜にとって人間は信じられないものであり、1人で自由に過ごした方が何倍も有意義だと考えていた。そうしてケイルに告げると、次の彼の言葉に刀夜は驚嘆で柄にもなく固まってしまった。

 

「人付き合いが苦手なことは気にしなくていい。村のみんなは暖かくトーヤを歓迎してくれるはずだ。しかし、そうか…。実は最近ギルドから派遣された新人ハンターがいてな、彼と一緒に働いてもらおうかと思っていたんだが、どうしたものか…」

 

「何…?」

 




戦闘描写、難しいですね。色々考えていると時間がどんどん過ぎていきます。
そして転生後初の人間との対面、刀夜はどう生きていくのでしょうか。


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第6話 モガの村

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

それでは第6話、張り切って行きましょう。


歓迎、と聞き村人とあまり関わり合いたくないと感じた刀夜であったが、今気にすべき点はそこではなかった。ケイルの発言に刀夜は様々な思考を巡らせる。

 

(新人ハンターだと?この展開…MH3そのものだ。ゲームではケイルが新人ハンターにベースキャンプの設置を依頼していた。とすると、ここはMH3の世界なのか…?ここは一つ、確かめてみるか)

 

突如固まってしまった刀夜を心配したのか、ケイルが声をかける。

 

「トーヤ、急に固まっちまって大丈夫か?」

 

「なあケイル…、最近この辺りで地震が多発していないか…?」

 

ケイルは刀夜の突拍子な質問に戸惑いつつも答える。

 

「えっ?あー、地震?そんなもん起こってないが…。急にどうしたんだ?」

 

その返答に刀夜はまたも思考を巡らせる。ゲームにおけるMH3の世界では、モガの村において原因不明の地震が住民を悩ませていた。実はその地震がボスモンスターの古龍種ナバルデウスによるものであり、それをハンターが倒して村が平和になるという結末に繋がっていたのだ。

 

(なるほど…。俺というイレギュラーな存在のせいかは分からないが、全くMH3の世界と同じ、というわけでは無さそうだ…。ククク…これは良い。あの世界と全く同じだと先が読めて面白みが半減する。多少予測できない方がスリルがあって面白い)

 

刀夜は頭の中で確認を終えると、そこで思考を打ち切る。

 

「いや、こっちの話だ…」

 

「トーヤ、お前さんは不思議なやつだな…」

 

ケイルは首をかしげ呟く。そして刀夜はというと、もう一つ伝えておくべき話があることを思い出した。

 

「そうだケイル…。さっき新人ハンターと共に働く、そう言ってたよな…?」

 

「あ、あぁ…。そっちの方が効率的かと思ったんだが…」

 

「その事なんだが、ケイル…。俺はそもそもハンターではない。だから、俺はハンターのように獲物を狩る術を知らない」

 

ケイルは刀夜の発言に驚く。

 

「なに!そうなのか!?トーヤの背中にあるものを見て、てっきりハンターかと思ったんだが…。そいつはトーヤの武器じゃないのか?見たことない形状をしているが…」

 

刀夜はすぐにまた、予め用意していた説明を述べる。

 

「…武器と呼べるのかは分からない。ただの拾い物だからな…。ケイル、俺は漂流していたんだ。もし俺が武器を持っていたとしても、それは今ごろ海を漂っているだろうな…。歩いている時にたまたまこいつを見つけて、何もないよりはマシだと思って持ち歩いていただけだ…」

 

「そうか…そうだったな…。すまん、辛いことを思い出させた…」

 

「いい、気にするな…」

 

真摯に謝るケイルに対して、刀夜はどこか申し訳ない気持ちになる。

 

「悪かった…。しかし、そうか…。トーヤがハンターでないとすると、お前さんをモンスターに相対させるのは危険だな。うーむ、どうしようか…」

 

だが、この展開は刀夜の狙い通りのものであった。刀夜は一つの提案をする。

 

「…こうするのはどうだ。その新人ハンターにはモンスターの素材調達、俺はアイテム採集。分担すれば、効率もよくなるだろう…」

 

「おぉ!それはいい考えだな、トーヤ!そうしよう、2人で役割分担して働いてくれ!」

 

実際は夕暮れのジャギィ戦で自分がある程度戦えることは分かっていた。しかし、刀夜にとって見知らぬ新人ハンターとの共同作業など苦痛以外の何者でもなく、それはどうしても避けたかったのだ。刀夜は自分の思い通りの展開になったことにほくそ笑む。

 

「よーし!そうと決まれば早く村に戻ろう!周りもだいぶ暗くなってきた。行くぞ、トーヤ!」

 

そう言い、意気揚々と歩み始めたケイル。その背を追って刀夜は歩き始めたのだった。

 

 

歩くこと数10分、孤島から桟橋を通じて2人はモガの村に到着した。モガの村はMH3と同様に、海の上にあった。

 

(こういう所は同じなんだな…)

 

村人たちはまだそれぞれの仕事をしているようで多くの人の声が飛び交っている。走り回っている子供の様子も見られ、正に平和を体現したような村であった。辺りはすっかり暗くなっていたが、村の灯りは対照的であり、その光は穏やかな海面を照らしていた。

 

「あー!ケイルだー!」

 

1人子供がそう叫ぶと、村人たちが各々手を止め、ケイルに歩み寄ってくる。

 

「今日もお疲れ様〜!」

「さすが村長の息子!働き者だなぁ〜!」

「毎日毎日村のためにありがとうございます」

 

そういったケイルを労う声が彼にかけられる。ケイルもそんな村人たちの声に嬉しそうであった。

一方刀夜はというと、どこか場違いな気がして一刻も早くこの場を立ち去りたいという衝動に駆られていた。それに元々刀夜はできるだけ他人と関わり合いたくないことも相まって、寝泊まりできるとは言えモガの村に来たことに早くも後悔し始めていた。

 

(これは少し先が思いやられるな…)

 

そんな時、村人の一人がケイルの後ろにたっている刀夜の存在に気づき疑問の声を上げる。

 

「ん?ケイル、その後ろに立っている青年は誰だ?」

 

「そうだ!こいつの紹介をしないとな!みんな、こいつはトーヤ。トーヤが乗っていた船が沈没してここに漂流したらしい。少しの間この村で働きながら過ごしてもらうことにしたから、みんな仲良くしてやってほしい!」

 

ケイルがそう言い終えると、振り返り刀夜の肩を叩く。何か一言、というところだろう。刀夜は渋々挨拶する。

 

「霧雨刀夜という。少しの間、よろしく」

 

刀夜の無愛想な挨拶の後に、ケイルがフォローを入れる。

 

「トーヤは少し人付き合いが苦手らしくてな。みんな暖かく接してやってくれ」

 

そう言うと村人達が笑顔で刀夜を歓迎する。

 

「おう!これからよろしくな〜!」

「珍しい名前だな〜、東洋生まれか?!」

「また人が増えるなんて嬉しいわね〜」

 

刀夜は相変わらず無愛想な顔のままであった。暖かな歓迎は刀夜にとっても悪い気はしなかった。だが刀夜にとってはそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。そうして刀夜の紹介が終わると、ケイルは仕事に戻るよう村人達に伝える。

 

「 トーヤ、クエストカウンターの前に座っている俺の父親に挨拶してこい。一応、この村の村長だしな。挨拶が終わったら俺の所に来てくれ、トーヤの寝泊まりする場所まで案内する。あと暇がある時でいいから新人ハンターのライトにも挨拶してあげてくれ。別行動とは言え、同じモガの村で働くもの同士、顔も知らないというのはまずいだろう。トーヤのことは予め俺が説明しておく。仲良くな」

 

刀夜は面倒事が増える一方だと嘆きつつも、少しの間とは言え、この村で過ごすには必要なことだと感じたので大人しく言う通りにしようと思った。そうして刀夜は村長であるロイス=バーンの元へ向かった。

 

 

「お前さんが新しくここで過ごすことになったトーヤかの?恐らくセガレから聞いておるであろうが、わしがこのモガの村の村長、ロイス=バーンだ。よろしくのぅ…」

 

「霧雨刀夜…よろしく」

 

ロイスの容姿がMH3の村長と同じであったため、刀夜はどこか懐かしさを覚える。

 

「うんむ、お前さんの話は先程聞いておったが、人付き合いが苦手なのであったな。安心せい、ここの皆は優しいものばかりだ。何かあれば遠慮せずに相談するがよい」

 

「…ありがとう」

 

刀夜としては余計な関わりは持ちたくなかったため、それは極力避けたかったが、気づかうロイスに礼を述べる。

 

「まあ、仕事の方はしっかりな。さて、お前さんにはまだこれからすることがあるであろう。挨拶はこの辺にして、セガレの元へ行ってくるのじゃ」

 

そう言うロイスに対し刀夜は頭を下げ、ケイルの元へ向かった。その刀夜の後ろ姿を見つつロイスは考えていた。

 

(あやつの背中にあるもの、見たことのないものだ…。恐らく武器であろうが、どんな武器か想像もつかん。霧雨トーヤ、一体何者じゃろうか…)

 

その問に対する答えはいくら考えても出るはずもなく、ロイスは刀夜に対して興味を抱くのであった。

 

ケイルの元へ戻った刀夜は現在、自分が寝泊まりする部屋についての説明を受けていた。ちなみに刀夜の部屋の場所は新人ハンターが寝泊まりしている一つ上の階であった。

 

「この村にいる間はここがトーヤの部屋になる。風呂はあっちにあるからな。食事もこの部屋で取ってもらう。あとトーヤ、腹減ってるだろ?そこの机のもの、食べていいからな」

 

ベッドの横にあるテーブルの上には、湯気が出た温かな料理が並んでいた。

 

「…何から何まで感謝する。ありがとう」

 

食事と寝床、2点に関して言えば刀夜にとって本当にありがたかった。

 

「まあその分しっかり働いてもらうけどな!さあ、今日はもう疲れただろ?飯食ってゆっくり休むんだぞ。明日からはもう働いてもらうしな。じゃあ、また明日な」

 

そう言ってケイルは部屋から出て行った。刀夜は背中の黛を壁にかける。そして机の上にある料理を食べつつ、今後のことを考えていた。

 

「最初はどうなるかと思ったが…食べ物と寝床を確保出来たのは良かった。あとはこの村との関わり合いだが…極力影は薄めて依頼をこなしつつ、この世界に関する情報を集めよう。あとは、自分の狩猟スキルだな。こればかりは実際にやってみないとわからない」

 

ジャギィと戦いはしたが、一太刀で勝敗が決したため刀夜の太刀を扱う腕前がどれほどのものかは分からなかった。刀夜はジャギィにあっさりと勝てたからと言って、決して自分の狩猟スキルを高いとなどという過信はしない。

 

「ある程度そういった事が分かり次第、この世界を見て回るか。ククク…本当に楽しみだ…。様々な環境下での様々なモンスターの狩猟、ゲームでも相当のめり込んだが、それが現実となると比べ物にもならないな」

 

今後のことを考え、刀夜は心を弾ませる。

 

「とりあえず、明日からはモガの村の依頼をこなして行くか。ケイルにはアイテム採集と言ったが、自分の力を測るためにも、やはり狩猟は必要だ。バレないようにだけ気をつけないとな…」

 

そうして刀夜は自身のこれからの方針を決め、料理を食べ終えた。そして今日1日の疲れを癒すため風呂に入った後ベッドに横になり、深い眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に刀夜、拠点を見つけましたね。
刀夜1人の時と他の人がいる時の文章書くペースが全然違う…。他の人の描写を入れるとどうしても時間がかかります。

それでは、7話で会いましょう。



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第7話 少年ライト=フェルマー

こんにちは、O.K.Oです。
いつもいつもありがとうございます。

どんどん増えるUAに感謝です。頑張りたいと思います。

では、第7話行ってみましょう。


モガの村には太陽が昇り、朝を迎えていた。刀夜の部屋に眩い光が指す。その光によって刀夜は目覚めた。

 

「こんなに寝たのは久しぶりだな…」

 

前世において、あまり満足な睡眠を取ることがなかった刀夜はそう呟き、すっかり疲れが取れた体を起こす。そうして壁に掛けた黛を装備し、部屋を出た。

 

「おう、トーヤか!おはよう。今日からしっかり働いてもらうからな!」

 

昨日ベースキャンプで出会った村長の息子、ケイル=バーンが刀夜に声をかける。

 

「まあ、こちらとしては寝泊まりさせて貰っている身だ…。それくらいの対価は支払わせてもらう」

 

ケイルと刀夜がそんな話をしていると、1人の少年がケイルに話しかけた。

 

「ケイルさん、おはようございます。流石に昨日は疲れたんで部屋ですぐ寝ちゃいました…。ところで、そちらの方はどなたですか?」

 

そう眠そうに問いかける少年。その体は程よい筋肉ですらっとしており、顔立ちもとても整ったものであった。

 

「おう、おはようライト。昨日はご苦労様だな!ちょうど良かった、こいつが昨日話したトーヤだ。今日からこいつにも色々手伝ってもらうから仲良くしてやってくれ」

 

ケイルがそう言うと、ライトは笑顔で刀夜に話しかける。

 

「あなたがトーヤさんでしたか!初めまして、僕はライト=フェルマーと言います。最近ギルドからこの村に派遣された、ハンターランク1の新人ハンターです。気軽にライトと呼んでください!」

 

ライトが自己紹介を終えると、ケイルが刀夜の肩を叩いた。今度はお前さんの番だ、ということなのだろう。刀夜は気が進まなかったが、こればかりはしょうがないと、いつもの無愛想な表情で口を開く。

 

「霧雨刀夜…。昨日からこの村で過ごすことになった。残念ながら(・・・・・)、俺はハンターじゃないから共に行動出来ないが、これから少しの間よろしく…」

 

刀夜は軽く皮肉をこめた言い方をしたが、ライトはそれに気づくことはなく笑顔で、よろしくお願いします!と返答するのであった。

そうしてお互い自己紹介を終え、ケイルが2人に話す。

 

「よし!んじゃ自己紹介も終えたところで、早速今日の仕事について2人に説明するとするか!まずライト、お前さんには昨日に引き続きベースキャンプで使う竜骨<小>と、新たに鳥竜種の牙を集めてもらいたい」

 

「鳥竜種の牙…。てことはジャギィの狩猟ですか…。あのモンスター、すばしっこくて苦手です…」

 

「ジャギィは動きが早く、気性も荒い。攻撃的で危険ではあるが…お前さんの腕なら大丈夫だと判断した。次にトーヤだが…」

 

2人のやり取りを聞き、刀夜は胸の内で驚いていた。

 

(ジャギィが危険…?いくら黛を持っていたとは言え、一撃だったぞ…。この世界のハンターはそれほど弱いのか?それとも新人だからか?いずれにせよ、この世界のハンターのレベルも知っていた方が良さそうだな…)

 

「おいトーヤ、急に固まって大丈夫か?まあ驚くのも無理はない。ジャギィは新人ハンターが相手するモンスターでは無いからな。つまりそれだけライトの腕がいいってことでもある」

 

「お世辞はやめてくださいケイルさん」

 

褒められたライトは満更でもなさそうである。ケイルは刀夜が固まっていた理由を完全に履き違えていたが、刀夜は訂正するのも面倒なのでそのままにしておいた。

 

「まあそれはいいとして、トーヤの仕事についてだな!トーヤにはベースキャンプ設置時に使うネンチャク草とツタの葉、それとアオキノコを何本か集めてきてほしい。アオキノコは回復薬を作るために使うんだが、こちらは無理に集めなくてもいい。それぞれの特徴は今から渡すこの本に書いてある。くれぐれも気をつけてな」

 

そう言ってケイルは刀夜に採集アイテムの特徴が書かれた本を渡す。

 

「あと、トーヤ。無いとは思うがもしも凶暴なモンスターと出会った時にそんな服装では危険だ。一応、防具としてハンターシリーズを貸し出しておく。出かける時はそいつを着て行くようにな」

 

ケイルは刀夜にハンターシリーズを渡す。刀夜としては特に必要としないものであったのだが、他に防具も持っていないこともあり、ケイルの善意を素直に受け取っておくことにした。

 

「分かった…。使わせてもらう」

 

「おう!サイズも大丈夫なはずだ!2人とも、孤島は予想以上に危険だ。これからも色々依頼するが、目利きの聞かない夜になる前に帰ってくるようにな。それと、くれぐれも無理はしないこと。危険な状況になれば仕事よりも自分の命を優先してくれよ。では、気をつけてな」

 

そう言ってケイルは二人の前から立ち去った。

今日も頑張りますか!と意気込み、狩りの準備をするため部屋に戻ったライトとは対照的に、刀夜は無表情のままハンターシリーズを着るため部屋に向かうのであった。

 

 

 

 

 

ハンターシリーズと黛を装備した刀夜は桟橋を経て孤島に到着していた。ライトが出発したのを確認してから刀夜は出発したため、現在刀夜は1人である。

 

「さて、俺が集めるべきアイテムはネンチャク草、ツタの葉、アオキノコだったか…。正直こんな本が無くても簡単に集められるとは思っていたんだがな…」

 

刀夜はケイルから貰ったアイテムの特徴がまとめられている本を眺めていた。

刀夜は前世においてゲームでMHを熟知していたため、どの場所にどのアイテムがあるかを覚えていた。そのため簡単に目的の物を集められると思っていたのだ。しかし、現在その考えは甘かったと自分の浅はかさに嫌気がさしていた。

 

「どれがどのアイテムなのかが全く分からない…。ゲームではアイテムの色や形を見る機会などなかった。実物が分からないなら採取しようもない、そんなことに今まで気づかなかったなんてな…。この本がなければ本当に危なかった。それに…」

 

そう言って刀夜は、それぞれのアイテムを採取できるポイントが書かれたページを見る。そこには刀夜が見たことのないような孤島のエリアがどっさりと記されていた。

 

「やはりゲームと現実は違うな。ゲームにおける1〜12のようなエリアも存在してはいるが、あくまでそれは孤島の一部に過ぎないというわけか。なるほど…これはますます面白くなってきた」

 

ゲームのMHの世界と似て非なるこの世界に、刀夜は更に楽しみを膨らませる。

 

「確かケイルは夜まで帰ってくるようにと言っていたな。それはつまり、夜まで孤島を自由に歩き回れるということでもある。であるならば、これから仕事は早く終わらせて、残り時間を目いっぱい散策と狩猟に費やすとしよう」

 

そうして刀夜は自由時間を少しでも多くするため、急いでアイテム採取に向かうのであった。

 

 

 

 

 

昼過ぎくらいであろうか、刀夜は依頼されたアイテムの採取を終え、現在村から支給された昼ご飯を食べていた。前世でろくに食べ物がなかったため、昨日の晩もそうであったのだが、今回の昼ご飯にも刀夜は大変満足気な様子である。採取したアイテムは防具の腰に掛かっているアイテムポーチに入っていた。そこにはちゃっかりアオキノコも入っている。

そうして最後に何かしらのモンスターの肉を食べ、刀夜は昼食を終えた。

 

「やはり俺がハンターじゃないことを考慮したのだろう、採取ポイントの周りにはほとんどモンスターいなかった。どこも比較的安全な場所だったのだろうな…。これが俺じゃなければありがたい事なのだろうが…」

 

そうなのだ、刀夜が呟いたように今日彼はモンスターと全然遭遇できていなかった。いてもアプトノスやケルビーという非常に大人しいモンスターであり、本日刀夜にはまだ1度も黛を抜く機会が訪れていなかった。だが、これからの散策を思い描いたのか刀夜に悲観した様子はなかった。

 

「まあ、これからが俺の本当の狩りだな」

 

そう言うと刀夜はうっすらと笑みを浮かべつつ、孤島の散策を開始したのであった。

 

 

 

 

 




少し主人公の強さの片鱗が見えましたかね?
いよいよ次の回から戦闘です。
展開遅くて申し訳ありません、どうしてもキャラ設定や描写に時間をかけてしまう…。
暖かく今後を見守ってください。

それではまた次話出会いましょう。


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第8話 慎重と臆病の違い

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

さて、今回は戦闘メインです。やっとモンハンらしくなってきました。
そんな第8話、張り切っていきましょう。


探索を始めて30分程であろうか。現在刀夜は岩陰に身を潜めていた。刀夜の瞳には群れるジャギィとジャギィノスの集団が映っている。

 

(ジャギィ4体にジャギィノス2体…。始めるか…)

 

刀夜は獰猛な笑みを浮かべ、タイミングを見計って黛でジャギィ1体に斬りかかる。ジャギィ達は刀夜の存在に気づいたが、時既に遅かった。刀夜の抜刀攻撃がジャギィに命中する。

 

「ギャゥ…」

 

ジャギィは弱々しい声を上げたあと絶命した。

 

(やはり一撃…。凄まじい攻撃力だな)

 

刀夜はあくまで戦闘中も冷静であったが、その表情は笑っていた。ジャギィ3匹はそれぞれ大きく鳴き声を発し、そんな様子の刀夜に飛びかかる。

 

(流石にこれは1度に捌けないな…)

 

そう感じた刀夜はジャギィの間のスペースに向かって、ゲームの動きをイメージし回避行動をとる。その動きはまさしく、ゲーム内のハンターそのもので、ジャギィらの攻撃は空を切る。そして刀夜はすぐさまスキができたジャギィ3匹を順に、縦切り、突き、切り上げにより息の根を止める。

ここで刀夜は、今まで薄々感じていた疑問に対する答えにたどり着く。

 

(俺は元々前世で引きこもっていた。にも関わらず、こんなに動けることは些か疑問であったが…なるほどな。俺はずっとゲームでハンターの動きを見ていたが、おかげでその細かい所作まで鮮明に覚えている。それを元に体を動かすことでゲームそのものの動きができたと言うわけか…。逆に…)

 

刀夜はMHの世界になかった動きでジャギィノスを斬りつけるが、その表面の皮を斬っただけであった。

 

(イメージしなければこうなる訳か…。まあ、意識的にそういうことをしない限り大丈夫だな。俺にはハンターの動きが脳内に焼き付いている。ここがMHの世界でもあることから、無意識にハンターの動きを想像して動いてしまうからな)

 

そんなことを考えつつ、ジャギィノスの攻撃をうまく回避していく。そして1匹に移動斬り、移動した先にいたもう1匹に縦切りをすると2匹とも絶命した。

 

「正直余裕だな。ジャギィノスでも一撃か…。黛の攻撃力のそこが見えない、本当にこいつはすごいな…。それに…やはり狩猟は楽しいな。ククク…」

 

刀夜がそう言って黛を背中にかけ直した直後であった。刀夜の後ろから大きな足音が聞こえる。それに気づき振り向くと、何かを探すようなドスギャギイの姿が見えた。

 

(恐らくさっきのジャギィの鳴き声が届いたんだろうな…。俺の今の防具はハンターシリーズ、武器が黛とは言え万が一のこともある。岩陰に隠れてやり過ごすか…)

 

刀夜はここでも慎重であった。岩陰に隠れ、ドスギャギィの様子を見る。そうしてドスギャギィが刀夜のいる位置から離れようとした、その時であった。

 

「ぐあっ!!」

 

突如強烈な頭痛が刀夜を襲い、その痛みに思わず大きな声を出してしまう。その声がドスギャギィに届いたのか、振り返って刀夜のいる岩に徐々に近づいてくる。そんな中、刀夜の頭には黛の声が響いていた。

 

「何故…こんな時に…!」

 

痛みに耐えながら、刀夜は黛にそう訴える。そんな刀夜に黛は答えた。

 

(本当はもう少し時を経てから干渉するつもりであったが、如何せん我が主が情けなかったのでな…)

 

「情けない…だと…?」

 

(うむ。我が主よ、はっきり言おう。我が主は我、黛という武器を差し引いて見ても目を見張る動きをしている。我の使い方、攻撃のタイミング、回避行動、それらどれを見ても百戦錬磨のハンターに引けを取らない、いやそれ以上のものであった。正直我も驚かされたのだよ…)

 

この黛の発言に刀夜は驚いていた。この世界におけるハンターもゲームと同様な動きをして狩りをしているものだと思っていたのだ。そんな刀夜の様子を気にせず、黛は続ける。

 

(それなのに何故、我が主はその力を発揮しようとしない。我が主は自らの行動を慎重だと思っているようだが、まるで違う….。臆病にも程があるというものだ)

 

「俺の…どこが臆病…なんだ…」

 

(慎重とは力が拮抗したもの、あるいは格上のものと相対する時に使う言葉である。それに対し、臆病とは圧倒的力を持つものが弱者と相対して逃げ出す時に使う言葉である。我が主にどちらかを当てはめるのだとすれば、明らかに後者であろう…。我が主よ、力を振るうのだ。そして進む道を塞ぐ敵をなぎ倒して行け、我が主にはそれが出来る)

 

黛の言葉を聞き、刀夜はハッとする。刀夜は自問自答する。

果たして自分は目の前のドスギャギィに敗北を喫するのか、否。勝利の二文字しか頭に浮かばない。何を今まで躊躇っていたのだ、現実でゲームと同じ動きができる自分に適う敵などいない。

 

「俺は…俺の道を邪魔する敵を…蹂躙する!これは…俺の物語だ!俺の自由を…誰にも邪魔させはしない…!ありがとな…黛。お前のおかげで…前に…進めそうだ」

 

(それでこそ我が主に相応しい。我としてもこれからが楽しみなのだ、期待している。では、これにて我はこれで失礼する。我が主よ、我を失望させてくれるな)

 

そうして黛の声が消えると、刀夜を襲っていた頭痛が引いていく。そして刀夜が顔を上げると、ドスギャギィが目の前に立っていた。その瞳には刀夜という獲物がしっかりと映っている。

 

「ククク…ドスジャギィ、お前は何か勘違いしているようだな。俺とお前の内どちらかが獲物だとすれば、それはお前の方だ!」

 

そう言って刀夜はドスジャギィの頭に強烈な抜刀踏み込み斬りを叩き込んだ。

ドスジャギィは、そのあまりの威力に怯み、体勢を立て直そうと1歩後ずさる。だが、そんなドスジャギィに出来たスキを刀夜が見逃すはずもなかった。

すかさず回避行動でドスジャギィとの距離を詰め、縦切り、突き、切り上げのコンボを繰り出す。

怯んでしまったドスジャギィにそれを躱すことなど出来るはずもなく、まともに刀夜の攻撃を受け、地面に倒れ込んでしまう。

刀夜はそこに追撃を加えようとすると、黛が薄く発光していることに気づいた。

 

「この光…まさか練気か!?試してみるか…」

 

そう呟くと、刀夜は薄く練気を纏った黛で強烈な気刃斬りⅠ、気刃斬りⅡ、気刃斬りⅢをお見舞する。それをまともに受けたドスジャギィはその時点でほとんど体力を奪われていたが、刀夜はそこに更なる強烈な一撃をお見舞する。

 

気刃大回転斬り。

 

MHの世界では3回の気刃斬りをした後にのみ繰り出すことが可能になる、太刀最強の技だ。その名の通り、大きく1回転しながら練気を纏った太刀を振るう攻撃である。

そんな技を受けた瀕死のドスジャギィに体力など残るはずもなく、絶命するのであった。

 

そして気刃大回転斬りを繰り出し、見事ドスジャギィを討伐した刀夜。そんな彼はと言うと黛の刀身が白く発光しているのを見て、やっぱりな、と呟き笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。自分の中では結構上手く書けたつもりです。
初めての本格的な狩猟が始まりましたね。
刀夜の強さも徐々に明らかになってきました。彼の先行きが楽しみです。

それでは次話で会いましょう。


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第9話 討伐の爪痕

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

前話でついに主人公の力が垣間見えましたね。やはり戦闘描写が難しいですが、そちらの方が書いてて楽しいですね。

それでは第9話、張り切っていきましょう。


ドスジャギィを討伐した刀夜は刀身を白く光らせる黛を見ていた。

 

MHにおける太刀という武器にはある特徴がある。

練気ゲージの存在だ。練気ゲージは通常攻撃(気刃斬り以外の攻撃)をする度に増加していき、気刃斬りをすることでそのゲージは減少していく。そして通常攻撃によりゲージが満タンになれば、一定時間ゲージが減少しなくなり、気刃斬りを連続で打てるようになる。ここで、3回気刃斬りを繰り出した後に気刃大回転斬りを繰り出すことが出来るようになるのだが、それを命中させる度に練気ゲージが無色→白→黄→赤と変化していき、それと共に武器の攻撃力が増加していくのだ。

 

そんな太刀の特徴を刀夜は思い出していた。そして刀夜は確信する。この世界における太刀もそれと同様であるということを。

 

「まさかゲームにおける太刀と仕様が同じとはな。これは更に攻撃の幅が広がる。本当にこの世界はどこまで俺を楽しませてくれるんだ、ククク…」

 

そうして初のドスジャギィ戦を終えた刀夜は、ケイルから貰ったアイテムの特徴が記載された本を見つつ、先程討伐したドスジャギィの剥ぎ取りを行い、その場を離れたのであった。

 

 

 

 

 

刀夜がドスジャギィの死体の元を離れてまもなくした頃、その場に4人のギルドから派遣された調査隊が佇んでいた。4人の目には斬殺され、素材を綺麗に剥ぎ取られたドスジャギィが映っており、その傷跡を見て驚愕の色で染まっていた。

 

「おいおい…。ドスジャギィとは言え、こんなに綺麗に斬られた死体今まで見たことあったかエルザ…」

 

1人の屈曲なハンマー使いの男が、エルザという1人の女性に話しかける。彼女は非常にすらっとしたモデルのような体型をしていたが、その背中には彼女の体型に似つかわしくない大剣が担がれていた。

 

「1度だけ…。ギルドマスターと共にリオレウス討伐に向かった時の斬り傷がこんな感じだったのを覚えているが…。これはそれ程のレベルの人物が残せるものだ」

 

「マジかよ…。うちのギルドマスターってソロでリオレウス希少種倒す化けモンだろ?それと同じ斬り傷を残すやつがなんでこんな辺境にいるんだよ」

 

少し砕けた話し方をする彼はライトボウガンを担いでいた。

 

「はぁ…プロント…。ギルドマスターに向かって、それってなんですかそれって!でも、私もさすがにこんなに綺麗な斬り傷今まで見たことがないですね…。これをやった人は相当な腕の持ち主です」

 

「んなお硬いこと気にするなよルーナ…」

 

ライトボウガンの男性がプロントであり、ルーナと呼ばれる狩猟笛を装備した女性にその言動を咎められた。

 

「2人ともその辺にしておけ…。それはともかくエルザ、この件について上への報告はどうする?[カーディナル孤島にてギルドマスターと同等の実力を持つと思われる太刀使いが、ギルドを介さずドスジャギィを討伐していた]と書くわけにはいかないだろう…」

 

ハンマー使いの男が困ったようにそう問いかける。エルザという女性は少し考えそれに答えた。

 

「確かにローウェンの言う通りだな…。正直に上へ報告すれば間違いなくギルドナイトがこの島に押しかけ、そいつを連行しようとするだろうな。報告にはドスジャギィ1体が討伐されていたとだけ書いておこう。このような辺境のドスジャギィが1体倒されたからと言ってギルドが動くとは思わないしな。それに….」

 

そう言ってエルザは不敵に微笑む。

 

「そんな強者なら、実際に会ってみたいと思うだろ?」

 

ローウェンと呼ばれたハンマー使いの男は、また始まった、と困ったように笑うが、プロント、ルーナ、そしてローウェンさえもそう思っていたので否定はしなかった。

 

「まあ、今は会うことはないだろう。ギルドに戻って報告しなければならないしな。だが、こういう者が存在するということだけ知れたのも大きな収穫だ。もしこの者が本当に強いのならば、いずれ会うことになるだろうしな」

 

「あぁ、本当に楽しみだ。それと、この近辺の村にはドスジャギィが討伐されたと報告しておく。ドスジャギィでも一般人からすれば充分な脅威だからな。それが討伐されたと知れば安心できるだろう」

 

「あぁ、分かった」

 

「了解リーダー」

 

「分かりました、エルザさん」

 

エルザの提案に残りの3人が同意する。

そしてプロントが口を開く。

 

「こんな田舎の生態調査を任されて、正直今の今まで乗り気じゃなかったんだけど…こんな面白いことに関われるなんて俺達もついてるな!」

 

「プロントと同意見なのは気に食わないがな…」

 

「本当にそうですよ…。ですが、早くその方に会ってみたいです!」

 

「俺の扱い酷くないか…?」

 

そう項垂れるプロントにエルザは苦笑いをしつつ、3人に声をかける。

 

「雑談はここまでにしよう。カーディナル孤島の生態調査はこれで終わりだ。ギルドに戻るぞ」

 

エルザがそう言うと4人はドスジャギィの死体から離れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスジャギィ討伐から数時間、現在刀夜は孤島とモガの村を繋ぐ桟橋を歩いていた。空はすでに夕焼け色に染まっており、日が沈みかけていた。

刀夜のアイテムポーチには依頼されたアイテム3種とドスジャギィから剥ぎ取った素材、それとつい先程まで採取していた有用なアイテムが数多く入っていた。

 

「今日の収穫は本当に多かった。アイテム面もそうだが、知識面においても。ドスジャギィを討伐できたことも大きい。明日以降も今日のような有意義な時間を過ごせると思うと待ち遠しいな」

 

そう心を弾ませる刀夜であったが、次の瞬間その気持ちが冷めてしまう。刀夜の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえてきたのだ。その声に刀夜は聞き覚えがあった。

 

「トーヤさーん!」

 

新人ハンターのライト=フェルマーだ。その姿を見て刀夜は桟橋を歩き続けようとしたが、ライトの手が刀夜の肩に置かれる。

ちなみに刀夜は18歳であるが、15、6歳程のライトと身長はほぼ同じであった。これは刀夜の身長が若干低い為である。

 

「トーヤさん、待ってくださいよ〜。折角帰り際に会えたんですから、一緒に帰りましょ!」

 

それを聞いて刀夜は一瞬嫌な顔をするが、すぐに元の無表情に戻す。ライトは刀夜の些細な変化に気づかなかったようだ。

 

「もうすぐ日が暮れ、夜になる…。ケイルに怒られたくはない…」

 

今回は100%嘘である。本当の理由はもちろん、1人で行動したいからである。そんな刀夜の気持ちにライトが気づくことはなく、では帰りながら話しましょ!と言って刀夜に話しかけるのであった。

 

 

 

「そんなわけでジャギィ3匹をなんとか倒せたんですよ!本当に危なかったです…」

 

今話しているのは言葉の通り、ライトがジャギィ3匹と相対し、ギリギリ討伐出来たという話だ。刀夜はそんなライトの話を聞き流しつつ、適当に相槌を打つ。

 

「あぁ…それは危なかったな…」

 

「ですよね…。それでさらに危なかったのが、なんとその場にドスジャギィが現れたんですよ!僕、大型モンスターを見たの初めてで腰抜かしちゃいそうになりました…。孤島に1匹目撃情報があるとの事で警戒していたのが良かったのか、すぐに隠れてやり過ごすことが出来ました」

 

それを聞き、刀夜はあのドスジャギィか…と口を開きそうになったが、なんとかこらえる。刀夜がそのドスジャギィを討伐したとライトが知ったらどんな面倒ごとが降り掛かってくるか分かったものではないからだ。

 

そんな話をしている内に2人はモガの村に到着する。2人とも依頼についての報告しなければならなかったのでケイルの元へと向かう。ケイルは2人の姿を見ると笑顔で迎えてくれた。

 

「おう!ライトにトーヤ、無事だったか!実は今日、珍しくハンターズギルドの調査隊がこの孤島に派遣されていたらしくてな、そこで討伐されたドスジャギィが発見されたみたいなんだ。大型モンスターがハンターによって討伐されるのは珍しいことではないんだが、なにせ見つかった場所がこの村の近くでな…。ギルドの人が報告に来てくれたんだ。まあ、2人とも無事で何よりだ!」

 

それを聞いた刀夜は内心焦った。

 

(十中八九、俺が討伐したドスジャギィだろうな…。危うく調査隊にバレるところだったというわけか。まあ、調査隊が来る頻度は少ないようだし、頭の隅に入れる程度にしておこう)

 

ライトは、僕もあんなドスジャギィを討伐できるようになりたいです!と、意気込んでいる。そんなライトにケイルは声をかける。

 

「あぁ、ライトには期待しているからな!なんせこの村に所属している唯一のハンターがお前さんなんだ。俺達もライトのサポートを全力でさせてもらう」

 

ケイルがそう言うとライトは頑張ります!と笑顔で答えた。

 

「さて、それはそうと本日の依頼は2人ともどうだった?早速報告してもらおう、まずはライトからだ!」

 

「はい、ケイルさん!今日の依頼の竜骨<小>と鳥竜種の牙ですがこの通りしっかり集めてきました!」

 

ライトはそう言うとアイテムが入った袋をケイルに渡す。

 

「おぉ!こんなにあるのか!これ、集めるのに苦労しただろう?」

 

「へへ…頑張っちゃいました」

 

「ありがとな、ライト!こいつはありがたく使わせてもらうとしよう。さて、次は刀夜だな!」

 

自分の番がきたので刀夜はネンチャク草、ツタの葉、アオキノコが入った袋を渡す。

 

「ありがとな、刀夜の方もバッチリだ!2人とも今日は疲れただろう。しっかり休んでくれ。明日も働いてもらうが、無理だと思ったら中断してもらって構わない。自分の体を第一にな」

 

そう言ってケイルは刀夜とライトが集めたアイテムを倉庫のような場所に運んでいった。ライトはと言うと、

 

「僕も今日は疲れました…。部屋に戻りますね。トーヤさんもしっかり休んで、明日もお互いに頑張りましょ!」

 

そう言って部屋に戻っていった。

残った刀夜も部屋に向かい、集めたアイテムが入った袋を部屋の端に置いて、ゆっくりと休んだのだった。

 

 

 

 

 

 




新しいキャラクターが出てきました。一応まとめておきます。

エルザ→大剣
ローウェン→ハンマー
プロント→ライトボウガン
ルーナ→狩猟笛

ただこれらのキャラに関しては登場機会がまだまだ先になりそうです。
そしてMH3に武器として狩猟笛はありませんが、こういった感じでこれから他のシリーズのものも混ぜていきます。それが吉と出るか凶と出るか…。

それではまた次話出会いましょう。



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第10話 消える事なき感情

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでくださっている皆様へ、本当にありがとうございます。お陰様で10話まで進むことが出来ました。こんなものでは終わりませんよ〜。
もし、指摘等ございましたら感想よろしくお願いします。

今回の話は主に村長と刀夜が話す回となっております。
それでは第10話、張り切っていきましょう。


モガの村に刀夜が来て2度目の朝が訪れる。刀夜は昨日と同様、太陽が昇ると同時にその光で目を覚ます。そしてまだ覚めきっていない目を開けつつ、部屋の隅に置いていたアイテム袋を眺める。

 

「アイテムを集めたはいいが、置き場に困るな…。どうしたものか…」

 

そうして今日の依頼と探索のための準備をしていると、部屋のドアからコンコンという音がする。誰かが訪ねてきたようだ。

 

「こんな時間に誰だ…。もう少しゆっくりさせて欲しいんだが…」

 

ノックの音を無視すると面倒なので刀夜は仕方なく扉を開ける。するとそこには大きな箱を持ったケイルが立っていた。

 

「おはよう刀夜、こんな朝早くに悪いな」

 

悪いと思うなら来るな、と思ったが相手は世話になっているケイルだ。刀夜は口には出さない。

 

「まあ…起きてたし大丈夫だ。何か用か?」

 

「すまん、こいつを中に入れさせてもらう」

 

そう言ってケイルは持っていた大きな箱を刀夜の部屋に置く。それを見た刀夜は先程までの不機嫌さが完全に無くなる。

 

「これは…アイテムBOXか?」

 

「おー!刀夜、よく知ってるな。なら説明は入らなさそうだな。刀夜にもこれから色々動いてもらうからぜひ使ってもらおうと思ってな」

 

そう言ってケイルはアイテムBOXの蓋をパカっと開ける。中にはアイテムポーチとは比べ物にならないほどの量が入りそうだ。それに、防具や武器を収納するスペースもある。

 

「ケイル…これは本当にありがたい。昨日色々拾ったアイテムをどうしようかと思っていたところだ」

 

「そうかそうか!それなら良かった、存分に使ってくれ」

 

そう言ってケイルは刀夜の部屋から出ようとすると、何かを思い出したのか刀夜に振り向く。

 

「あ、そうだ。昨日仕事をしてもらうと言ったが、今日はお前さんにここの施設について紹介しておこうと思う。本当は昨日できれば良かったんだが、どうしても昨日中に依頼していた素材が欲しくてな。まあ、そういう事でよろしく頼む」

 

そう言ってケイルが出ていくと、刀夜はため息をつく。

 

「施設紹介…。面倒だな、さっさと孤島に行きたかったんだが…。まあ、鍛冶屋、農場を使うためには避けて通れない。大人しく言う事聞いておこう…」

 

 

 

刀夜が外出の準備をしてから外に出ると、村長であるロイスがいたので一応挨拶しておく。

 

「おはようございます…ロイス村長…」

 

「あぁ、お前さんか。おはよう。昨日早速依頼をこなしてくれたのだな、こちらとしてもありがたい限りじゃ。して、トーヤよ。今日は何をするつもりじゃ?」

 

「今日は依頼ではなく…この村の施設紹介をしてもらえるみたいです」

 

「なるほどなるほど。分からないことがあれば何でも聞くが良い。セガレとはまた違うアドバイスをできるやも知れぬからのう…」

 

そうして村長と会話をしていると、ライトがこちらに気づき駆け寄ってくる。

 

「村長さんに、トーヤさん!おはようございます!」

 

「おはよう…」

「おうライト、おはよう。今日も元気で良いことだ」

 

刀夜はこのライトという少年ハンターが特に苦手であった。ケイル、ロイスは刀夜との距離感を見極め、刀夜の嫌がるラインを跨ぐことは一切無かった。だが、このライトという少年はそのラインを土足で遠慮することなく踏み越えてくるのだ。そのためこの少年とは極力話さないようにしていたのだが…。

 

「トーヤさん、今日はよろしくお願いしますね!」

 

「なにを…?」

 

刀夜は不快感を表しライトにそう言うが、ライトはそれに気づかない。

 

「え?ケイルさんから聞いてないんですか?今日トーヤさん、施設を見て回るんですよね?」

 

「あぁ…だからケイルを探しに行こうとしてた」

 

「なるほど、重要なところを話してなかったみたいですね…。えーっと今日はケイルさん、昨日僕達が集めた素材でベースキャンプを作りに行くみたいで…。それで僕がこの村の施設紹介をすることになったんです」

 

刀夜はそれを聞き、頭では理解しつつも納得はできていなかった。

 

「そういう事なので、トーヤさん!準備ができたらあちらまで来てください!僕そこで待ってますね!」

 

そう言ってライトが走り去っていくと、刀夜はため息をつく。そんな刀夜にロイスは声をかける。

 

「今から言うことは老人の戯れ言だと思って聞き流してくれ…。自分の内側に入り込まれたくないというお前さんの気持ちは分からんでもない。そうすればある程度の面倒事は避けられるしのう…。そんなお前さんの気持ちに気づかず接するライトにも配慮が欠けておったと言えよう」

 

ロイスは刀夜の他者への姿勢に一定の理解を示すが、しかし、とロイスは言葉を続ける。

 

「あまりに他者に排他的であると、かえって面倒事を引き起こしてしまうのだ。よくあるもので言うと、ハンターがギルドからクエストを紹介されにくくなる、といったところかの…」

 

それを聞き刀夜はピクっとするが、ロイスは続ける。

 

「それにライトはまだ人生経験の少ない少年じゃ…。人の嫌な部分に触れたことがないのだよ。それは彼の短所であり、長所でもある。彼は心優しい少年じゃ。心を許すとは言わないまでも普通に接してやってはくれんかのう…」

 

ロイスの話を聞き、少し間を置いて刀夜は口を開く。

 

「ロイス村長の言葉…この心に留めておきましょう…」

 

それを聞きロイスはそうか、と頬を緩める。

しかし、刀夜の言葉はそれで終わりではなかった。

 

「ですが、それはあくまで面倒事を避けるためです…。確かに、ロイス村長はたくさんの人生経験を経て人の嫌な部分もたくさん見てこられたのだと思います。ですが…」

 

そう言って刀夜は内に秘めていた黒い感情を一瞬解放する。ロイスがそれを感じたのは一瞬であったが、その凄まじさに気圧される。

 

「俺は常に負の感情にさらされて生きてきた…。この感情は決して消せない、いや消してはいけないものだ…」

 

そう言って刀夜は黒い感情をまた胸にしまい込む。

 

「ですが、確かに新人ハンターの彼にこの感情をぶつけるのは筋違いでしたね…。感情の制御ができないのは俺の未熟さによるものです。ですのでロイス村長のアドバイスには感謝しています、ありがとうございました」

 

そう言って刀夜はロイスに頭を下げる。

 

「では、彼も待っているので俺はこれで失礼します」

 

そう言って刀夜はライトの待つ元へ向かっていった。1人残ったロイスは冷や汗をかいていた。

 

「トーヤ…。何がお前さんをそのようにしたのだ…。なにか闇を抱えているのは感じておったが…ここまでとは…」

 

ロイスはその過去について気になったが、共に背負う覚悟がない自分が聞いてはいけないものだと思った。

 

「誰か…誰か彼を救ってほしい…。彼の過去を共に背負えるものが…」

 

そう呟くロイスの声は風の音と共に消えていったのだ…。

 

 

 

 

 

現在、刀夜はライトの元に来ていた。刀夜はロイスの先程のアドバイスより、出来るだけライトと普通に接しようとする。

 

「ライト…来たぞ。施設紹介してくれ」

 

相変わらずの素っ気ない態度だが、これが刀夜の素である。そんな刀夜にライトは気にすることなく、では始めましょうか!と言って施設紹介を始めるのであった。

 

施設とそれを管理する人物については概ねMH3の世界と変わらなかった。

食事場、武具屋、加工屋、漁港、雑貨屋、農場…その全ての施設を運営する者と顔見知りになった刀夜はそれらの施設を利用できるようになった。刀夜の会話が素っ気なく、いくつかの施設の運営者と揉め事になりそうにもなったのだが、ライトがうまく仲介してなんとかなった所もある。

そうして施設紹介を終えたあと、刀夜はライトに礼を言う。

 

「ライト…今日に関しては感謝している…。お前のおかげで、これからここの施設を使えることができる」

 

「いえいえ、自分は施設紹介をしただけですからお礼など要らないです!それに、まだあと一つすべきことが残っています!」

 

笑顔でそう言うとライトは刀夜にある提案をする。

 

「刀夜さん、ギルドに入ってみませんか?」

 

そのライトの発言に、刀夜は胸が高ぶるのを感じたのであった。

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。
ロイス村長の願いはいつか現実となるのか。それは誰にもわかりません。

それではまた次話で会いましょう。


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第11話 エリス=レッドローズ

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

ところで筆者、今日モンスターハンターワールド予約しました。発売日の一月末が待ちきれません。

まあ、それはおいといて、第11話張り切っていきましょう。


「ハンターに…なれるのか…?」

 

刀夜は胸の高ぶりを抑えつつ、ライトにそう問いかける。

 

「えぇ。というか、ハンターズギルドで手続きさえすれば誰でもなれますよ?ただ、ハンターという仕事は常に命がけです。そのため数が少ないのでギルドはいつもハンターを募集しています」

 

「では、入らせてもらう…」

 

そう即答するとライトは安心したような素振りを見せる。

 

「よかったぁ〜!刀夜さん、ありがとうございます!実はケイルさんに『これから小型モンスターの討伐依頼を頼むこともあるだろうから、刀夜にギルドに登録してもらえるか聞いといてくれ』って言われていたんですよ…」

 

それを聞き刀夜には二つの疑問が生じる。

 

「ライト…2つ聞いておきたいことがある」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「1つ目…もし俺がギルドに登録することを拒んだ場合どうするつもりだった?」

 

「僕もケイルさんに同じことを聞いたんですが、『その時はその時でまた考える』って言われましたね…」

 

ライトは苦笑しつつ答える。恐らく本当に言葉通り、その時はその時と思っていたのだろう。しかし、刀夜にとって重要な2つ目の疑問であった。

 

「なるほど…ケイルなら言いそうだな…。2つ目…今のライトの言い方からして、モンスターの狩猟はハンターしかできない…そのように聞こえたが…?」

 

「??えぇ、そうですよ。あれ?トーヤさん知らなかったんですか…?」

 

刀夜はそのような情報を聞いたことがなかったため素直に頷く。そしてハンターでない自分が葬ったモンスター達の不幸を憐れむ。しかし、ライトの次の言葉で刀夜は固まってしまう。

 

「それは危なかったですね…。ハンター以外によるモンスターの狩猟は重罪です。モンスターに攻撃を加えていいのは正当防衛時のみとなっています。それに、ハンターであってもギルドを介さない依頼時以外の狩猟は罰せられます」

 

刀夜はドスジャギィ達を倒したのは正当防衛だということにした。大型モンスターに襲われ正当防衛だと主張するのは無理がある気もするが、今はそういうことにしておくしかない。

 

「依頼時以外の狩猟も禁止…ということはハンターは自由に狩猟できないのか…?」

 

「いえ、あくまでギルドを介していなければ、という話です。自由に狩猟したい場合はギルドにてフリーハントの許可を得ると可能になります。あとは、モンスター出現エリアを横断する場合などですね。いずれにせよギルドの許可が必要です」

 

刀夜は、なるほど…と理解はしつつも納得していなかった。ギルドの許可など面倒な話である。密猟しようか…そう考える刀夜にライトの言葉が被せられる。

 

「ちなみに、これらの規則を罰した場合はギルドナイトが派遣されます。ギルドナイトとは表向きは規則違反人物の逮捕を任務とするギルドの警察のようなものですが…噂によるとギルド公認の暗殺部隊のようです…。その実力は折り紙付きであるとか…」

 

そうヒソヒソと話すライトに対し、刀夜はギルドナイト方が面倒だな。と密猟を諦め規則に従うことにした。

 

「まあ、こんなところですね!質問は以上ですか?」

 

そう問うライトに刀夜は頷く。

 

「では、早速登録に向かいましょう!あちらのクエストカウンターで登録できたはずです!ちなみにギルドからの依頼もあちらでできるので覚えておいてくださいね!」

 

そうして2人はクエストカウンターに向かった。

 

 

 

 

 

クエストカウンターに行くと、そこには刀夜が想像していたゲーム内の破天荒なギルドの看板娘(名前はアイシャ…だった気がする)ではなく、面倒くさそうにした1人の女の子が座っていた。恐らくライトと年齢は同じくらいであろう。その外見は美少女そのものであり、特徴的な赤髪が短く切りそろえられていた。ライトが彼女に話しかけると、彼女は姿勢を正す。

 

「あれ?アイシャさんはいませんか?」

 

やはり実在するのか…。そう思いつつ刀夜は2人が話す内容に耳を傾ける。

 

「先輩はギルドからの通達でリエル王都に向かわれました。変わってこの秘境(・・)に今日から配属されたエリス=レッドローズと申します。これから何卒よろしくお願いします」

 

そう言うエリスの口調は丁寧なものであったが、どこか棘のようなものが感じられる。

その中に刀夜は聞き捨てならない言葉があった。リエル王都、そんなものはMHの世界にはなかった。刀夜は後でケイルからこの世界に関する本を借りようと決める。

そんな中、ライトがこちらこそよろしく、と言うとエリスは態度を一変させる。

 

「はい、社交事例終わり!あー、もう…。お姉様の頼みとは言え、なんでこんな辺境で働くことになったかなぁ…。リエル王都に行ったアイシャ先輩について行きたい…」

 

突然敬語を崩し、そう言ってうなだれるエリスにライトは声をかける。

 

「あの…大丈夫ですか?とりあえず落ち着きましょ…」

 

「落ち着け?これほどまでに現実を見せられている私に落ち着けって?…まあそれは今はいいや。ところで、何の用です?」

 

エリスの不機嫌さは直ることなく、訪ねてきた2人にそう尋ねる。

 

「僕はライト、こちらの人はトーヤさんと言います。トーヤさんのギルド登録をお願いしたいのですが…」

 

「あー、そういうこと…。予めケイルさんから話は聞いていたけど…。あなたがこの村唯一のハンター、ライト=フェルマーね。唯一のハンターがランク1、まあこんな辺境に戦力避けないし、しょうがない気もするけど…」

 

そう言われたライトは少し反論する。

 

「今はランク1でも、いずれは強くなってみせます!そしていつか、大型モンスターもしっかり討伐してみせますよ!それとエリスさん、この村は確かに辺境に位置しているかも知れません。でも、活気に溢れ、村の人たちも優しい人ばかりです。後悔するのはまだ早いと思いますよ」

 

エリスはそんなライトの言葉を聞き、不機嫌だったのも相まってライトについきつい言葉を浴びせてしまう。

 

「………いずれ?いつか?よくそんな呑気なこと言っていられるよね。私はあなたみたいな人が嫌いなの。私は今まで色んな人を見てきた。命を落とす瀬戸際に立ったことがあればそんな言葉は出ない。まだまだあなたには経験が足りないみたいね…。それと、村に馴染む前に私は別の場所に配属される予定だから」

 

そう言われライトは悔しそうに口をつむぎ、下を向いてしまった。命を落とす瀬戸際に立ったことがない、そのエリスの言葉がライトに突き刺さっていた。

そして刀夜はというと、エリスが言ったことは最もだと感じていたので特に口を挟まなかった。それよりも自分のギルド登録がいつ出来るのかという思いで口を開く。

 

「ところで、俺のギルド登録はいつできる?」

 

「あー…ごめんなさい。あなたがそのトーヤ?今から登録について説明するけど…。あなたの友達…少し言いすぎたみたいね…」

 

そう言ってエリスはライトの方を見る。ライトにいつもの元気そうな様子はなく、下を向いて拳を握りしめていた。エリスは自分の思ったことを言ったが、少し言いすぎたと感じる。

刀夜は友達じゃない…とため息をつきライトに声をかける。しかしライトに反応はなく、このままでは話が進まないと思った刀夜は口を開いた。

 

「ライト…俺はあの女が間違っているとは思わない。実際新人のお前はまだ命の瀬戸際に立ったことがないんだろう」

 

ライトはビクっとするが、刀夜は気にせず続ける。

 

「俺はハンターではないが…幾度も命の瀬戸際に立ったことがある。だからこそ言える、お前は甘い。そしてそんなお前が俺は嫌いだ…」

 

これは紛れもなく刀夜の本音である。ライトからうぐっと涙をこらえる音がする。エリスは、あぁ…追い討ちかけちゃった、とその様子を眺めていた。だが…と刀夜は続ける。

 

「誰しも初めからそういう経験をしているわけではない。多分この女は、新人であるお前に敢えてきつい言葉をかけたんだろう…。少し強くなって浮かれているお前に、現実を見せるつもりでな」

 

ライトは刀夜のその言葉でハッとしたように顔を上げる。そして少し考えたように佇んでからエリスに向けて口を開く。

 

「エリスさんの、言う通りです…。最近順調にモンスターを倒せてたので浮かれていたところがありました…。先程の軽い気持ちからの発言、反省してます…」

 

そう謝るとエリスもやり切れなくなり、口を開く。

 

「まあ、分かってくれたならいいよ…。でも、私もここに配属されて少しむしゃくしゃしていた所、あなたにきつい言葉をかけてしまった。その…ごめんなさい」

 

そう言ってお互い仲直りする2人の姿は年相応のもので微笑ましい光景であった。だが、刀夜はそこへお構い無しに口を挟む。

 

「で、俺の要件はまだか?」

 

「あー!もうちょっと待ってってば!今から契約書とか取ってくるから!」

 

そう言ってエリスは急いで奥の部屋へと向かった。そしてライトは刀夜に頭を下げる。

 

「トーヤさん、すいませんでした。あなたが声をかけてくれなければ僕はあのまま立ち直るのに時間がかかったかもしれません…」

 

「それは仮定の話だろ?まあ、俺は早くギルド登録したかっただけだからな。凹むなら家で凹んできてくれ」

 

「もう大丈夫です。刀夜さん、ありがとうございました」

 

そうして話しているところにエリスが戻ってきた。

 

「待たせてごめんなさい、今からギルドの登録について説明するね。まずギルド登録についてなんだけど…。申し訳ないけどこの場では仮登録しかできないの」

 

刀夜はそれを聞き「どういう事だ…?」とエリスを睨む。

 

「そんなに睨まないでよ…。そもそもギルド登録っていうのは大きな街のギルドでしかできないものなの。どこのクエストカウンターでもポンポンギルド登録出来ちゃったら色々問題が増えるのよ…。でも大きな街に行くことが出来ない人もいる、そこで妥協して仮登録っていう形になったの」

 

刀夜は黙って話を聞く。

 

「それで本登録と仮登録の違いなんだけど、大きな違いは3つね。どれも違反すればギルドナイトが出てくるわ。まず仮登録のハンターは大型モンスターを狩猟することを禁じられているの。まあ一流ハンターでも苦労する大型モンスターを仮登録のハンターが倒したことなんて今まで1度もないんだけどね」

 

ここにいるのだが、それは口にしない。

 

「2つ目、仮登録のハンターにはハンターランクが認定されないってこと。ハンターランクは知っていると思うけど、そのランクが上がれば上がるほど、危険度は高いけど報酬もその分高いクエストを依頼できる。仮登録のハンターが受注できる依頼はランク1のクエストのみね。そして3つ目、仮登録を希望する人は登録時にメイン武器を書かなくていいってこと」

 

1つ目と2つ目は刀夜にとって致命的なものであった。そもそも、大型モンスターを狩猟出来ないというのが痛すぎる。3つ目は刀夜にとってどうでもいい事だった。

 

「トーヤさんのメイン武器が何か知りたかったです…。ちなみに僕のメイン武器は片手剣です!今日は装備していませんが…。まあ、それはおいといてトーヤさんは仮登録で大丈夫だと思いますよ。ケイルさんも小型モンスターから剥ぎ取れる素材をメインに頼むと言っていたので」

 

「もし本登録をしたくなったなら、このカーディナル孤島から一番近い場所…アイシャ先輩がいるリエル王都のギルドに行くことね」

 

こうしてギルドの仮登録をすませつつ、刀夜は内心で2つのことを考えていた。1つ目はリエル王都にいつ行こうかということ。2つ目はこの孤島の名前がカーディナル孤島というのを初めて知り、この世界の地名を覚えなければ、という事だった…。




今回のメインはエリスとギルド登録についてでしたね。
アイシャの登場はいつになることやら…。

それではまた次話で会いましょう。


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第12話 刀夜の条件

こんにちは、O.K.Oです。
いつも読んでいただきありがとうございます。

今回少し短いです。区切れが良かったので切りましたがご了承ください。

では、第12話、張り切っていきましょう。


刀夜はその日の晩、ケイルから借りたこの世界についての本を読んでいた。その本による情報をまとめると以下のようなものである。

 

まず、この世界は主に4つの地方に分けられる。

北のアルカナ地方、東の東洋地方、西のヴェノム地方、そして南のノイス地方。ヴェノム地方-アルカナ地方-東洋地方-ノイス地方とドーナツのような円形に陸続きになっており、中央部は大きな海となっている。ヴェノム地方とノイス地方の間には海があるためそこは繋がっていない。

ノイス地方を除く3つはさらにそこから東部と西部に分けられ、それらそれぞれの計6箇所にその地域のハンターをまとめるギルド本部が存在する。そして、ノイス地方は例外として北部と南部に分けられているが、これは北部と南部の間にある大きな溝が原因である。また、ここにもギルド本部が存在するかと思いきや、南部にはそれがなく、代わりに北部にギルド本部含め全てのギルドを束ねるギルド総本部が存在する。

ギルド総本部がノイス地方北部にある理由、それはノイス地方南部にある。ノイス地方南部、そこは古龍の発生源とも呼ばれ、何故かその地域のみが過酷な環境で、他の生物が一切存在していない。そして古龍が出現すると、奴らは何故か北部へと進行してくるため、そのままにしておくと世界が滅びるような大災害を引き起こしてしまう。これを防ぐために腕利きのハンターが集まるギルド総本部をノイス地方北部に設置し、古龍が発生してもすぐさま対応できる体制を整えているのだ。

 

次にモガの村の位置だが、区域的には西のヴェノム地方のそのまた西部の端に位置するカーディナル孤島の一部である。そしてエリスが言っていたリエル王都であるが、これはヴェノム地方西部の貴族、リエル家が治める領地であり、その領地内に世界で6つの内の1つのギルド本部がある。ただし、ハンターズギルドとは国や貴族などの領地には一切含まれず、独立した団体であるため、リエル王都内にあるギルド本部も独立したものとして世間では捉えられている。

 

他にも色々情報はあったが、刀夜が必要とした情報はこれくらいであった。

 

「リエル王都、貴族の領地内にあるギルド本部…。面倒なところにギルド本部を立てたな…。だが…やはりそこに行かないとな。まあ流石に防具が一切ないというのはまずい、それに依頼もまだあるだろう。そういう問題が片付き次第、本格的な旅を始めるか」

 

そうして刀夜の今後の方針が固まるのであった。

 

 

 

 

 

それから2週間、刀夜は淡々と依頼を片付け、ライトはメキメキと実力をつけていった。ライトに至ってはベースキャンプが出来たため、毎日村の依頼とギルドのクエストで忙しそうであったが、先日ドスジャギィを討伐したとのことでランクが2に上がり、村で宴会が開かれた(なお刀夜は眠いと言って参加しなかったが)。エリスもライトの前では「まあ、これくらいやってもらわないとね」と言いつつも内心ではその成長速度に驚いていたらしい。

刀夜に関してはこの2週間、特に波風立てることなく、ひたすら小型モンスターを倒しながら今後必要になりそうなアイテムを集めていた。ゲームで調合レシピが全て頭に入っていた刀夜にとっては一見使えなさそうなアイテムも必要になることがあると分かっていたからだ。そして、ついに刀夜も村の一通りの依頼を完遂すると同時に、自分のハンターシリーズを生産できたため、リエル王都に向かう準備が整ったのであった。

 

 

 

 

 

刀夜は今日、モガの村を離れリエル王都に行くと決めたことを話すためにケイルを探していた。そして目的のケイルを見つけたが、なにやら焦っている様子である。ケイルは刀夜の姿を見つけるとすぐさま走ってきた。

 

「トーヤ!お前さんを探していたんだ!」

 

「そんなに焦ってどうした…少しは落ち着け」.

 

刀夜は嫌な予感しかしていなかった。自分に面倒事が押し付けられる、そんんな気がしてならなかった。そして刀夜のその考えは現実となって彼に降りかかる。

 

「実は…ライトがクルペッコ討伐に向かったんだ…。最近この近辺にクルペッコの目撃情報があってな。クルペッコ自体はそれほど攻撃的ではないんだが、奴は怒ると他のモンスターの泣き真似をして応援を呼ぶ。そうして呼んだモンスターは攻撃的なやつばかりで、そこの生態系を変えてしまうんだ。で、そのクルペッコなんだが…今回、よりにもよってリオレイアを呼び寄せやがった…」

 

刀夜は内心イビルジョーじゃなくて良かったなと思っていたが、ここは現実の世界、リオレイアも一般人にして見ると極めて危険なモンスターであることを思い出す。

 

「あぁ、それは大変だな。で、何故それでライトは討伐に向かったんだ」

 

「それが、リオレイアを呼び寄せたと分かったのはついさっきの事なんだ。村の住民がリオレイアが飛行しているのを見たと言っててな…」

 

「なるほどな、ドスジャギィを倒したことで次の段階のクルペッコ討伐に向かったところ、そのクルペッコが呼んだのはリオレイアでライトが危険…そういうことか?」

 

「あぁ、その通りだ…。エリスと俺もクルペッコならいい勝負ができると踏んで送り出したんだが…リオレイアとなると話は別だ。ハンターランクは1から7まであることは知っているな?」

 

刀夜はもちろん知っているので頷く。

 

「リオレイアはランク4、ランク4だぞ?そんな奴で勝てるかどうかのレベルだ。次元が違う…」

 

刀夜はそんなに勝つのが難しいのか、と人事のように考える。

 

「そこで刀夜、本当に無理なお願いだとはわかっている。だが、お前さんにライトを連れ戻してきてほしいんだ…。お前さんも立派なハンターの1人だ。恐らく、クルペッコは小型モンスターも呼び寄せているが、そいつらなら刀夜も倒すことが出来る。ライトの退路を作って共にこの村へ帰ってきてくれ…」

 

そう懇願するケイルの元へエリスが駆け寄ってきた。

 

「トーヤ!私からもお願い!ライトがクルペッコ討伐に向かったのは私のせいなの…。私が、私がライトにクルペッコ討伐を進めなければ…」

 

そう言ってエリスは目に涙をうかべる。普段エリスはしっかりしていて、思ったことを言う性格であるが、本来彼女は心優しい。目に涙を浮かべる少女は年相応であるように見えた。

泣いて助けを求める少女がいれば手を差し伸べるのが普通だろう。ただ、相手はあの刀夜である。自分にメリットが無ければ動かない。

 

「まあ、条件を飲んでもらえれば動かんでもない」

 

「できることはさせてもらう!その条件を…教えてくれ」

 

「この村では世話になったが、目的ができた…。俺はこの村を離れることにした。だからこれが俺の受ける最後の依頼にすること、そしてリエル王都までの足を用意してもらいたい」

 

ケイルとエリスは、急な刀夜の村を離れるという宣言に驚嘆し固まってしまうのだった…。

 




話がようやく進み始めました。次の話、少し気合入れて書いていきます。

ではまた次の話で会いましょう。


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第13話 ライトVSクルペッコ

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでくださり本当にありがとうございます。
UAも1000を超え、本当に嬉しい限りです。

さて、今回の話はサブタイトル通りのものとなっています。
第13話、張り切っていきましょう。


「トーヤ…お前さん、この村から離れるのか…?いや、少しの間とは聞いていたが、いきなりで驚いてしまった…」

 

そう言うケイルにエリスも続く。

 

「ほんとにいきなり過ぎない…?私、あなたのことはよく知らないけど、ライトから色々話は聞いていたの。ライトはあなたのこと、『トーヤさんは不器用なだけで絶対いい人なんだ』そう言ってたのよ?村から出るなんて知ったらライト、悲しむんじゃない…?」

 

いつの間にそんな仲良くなっていたのか、刀夜は自分がいない時に2人でそんな話をしていたということに驚いた。

 

「俺がいてもいなくても変わらない。それより俺は自分の目的を見つけた、だからこの村を出たい、それだけだ」

 

「確かに俺がトーヤにして欲しかった依頼は全てクリアしている。だが、急な話過ぎてな…」

 

ケイルは状況が状況なだけに、早く答えを出さなければならないのは分かっていたが、刀夜の条件が予測外のものであり決めかねていた。そんな時、村長であるロイスが3人に歩み寄ってくる。

 

「話は聞いておった…。セガレよ、トーヤを送り出してやれ…。今はライトの命が心配じゃ。それに、旅に出るというだけで、戻ってこないという訳では無いだろう?」

 

ロイスが刀夜にそう問いかける。

 

「まぁ、目的がこの場にあればまた来る」

 

ゲームをやっていた刀夜は、地震が無くてもナバルデウスがこの村に出現する可能性はあると考えていた。もし、ゲームと同じなら刀夜はナバルデウスと戦ってみたいと思っていたので、その時はまたこの村に来るであろう、そう考えていた。

そしてそんな刀夜の返答にロイスは笑顔になる。

 

「だそうだ、人生は長い…これが別れではないだろう。セガレ、エリス、旅を望むものの行く手は塞ぎがたいものじゃ。旅をして大きくなったトーヤを、首を長くして待つとしようではないかのう?」

 

そんなロイスの説得にケイルとエリスは黙り込む。そして2人はしばし考え「急すぎるがしょうがないか…」、「村長がそう言うなら…」そう言って2人は渋々納得した。

 

「ではトーヤ、お前さんに旅立ち前の最後の依頼をするとしよう。依頼内容は無事に2人で村に帰ってくること!」

 

「私はライトの成長を楽しみにここで働いているの。ライトを無事に連れて帰ってこなかったらただじゃすまさないからね!」

 

刀夜は2人の激励に大げさだと思いつつ、無言で頷く。そして孤島につながる桟橋を渡っていくのであった。

 

 

 

 

 

刀夜が桟橋を渡っているころ、ジャギィシリーズに身を包んだライトはクルペッコに遭遇していた。黄緑色のボディと赤い鳴き袋が特徴的なそれは川にくちばしを入れて魚を食べている。ライトは警戒心が薄れている今を好機と見て自身の武器、ソルジャーダガーに手をかける。

 

「せいやぁ!」

 

そう言ってクルペッコに切りかかる。クルペッコは突然の攻撃に対応出来ずライトの初撃を受けるが、すかさず後方に飛び、翼の風圧でライトの動きを封じる。

そして、クルペッコが地面に足をつけるとちょうどライトと向かい合う形になった。まるでこれから決闘が始まるかのように…。

先に動いたのはライトだった。ソルジャーダガーでクルペッコの弱点である赤の鳴き袋を切りつける。クルペッコはその一撃では怯まず体当たりをしてくるがライトがうまく回避してまた次の動作に移る。そうしてドスジャギィ戦で学んだ片手剣の手数で押す攻撃を器用にしつつ、距離を取って相手の攻撃を避けるヒットアンドアウェイで着々とクルペッコの体力を削っていった。対してクルペッコはクチバシでライトをついばんだり体を一回転させて攻撃するが、適度に間合いをとるライトに有効打を与えれない。

そんな攻防が繰り返され、ライトは手応えを感じ始めていた。

 

(このままいけば、クルペッコを倒せる!)

 

ライトの攻撃は見事であった。事前にクルペッコの攻撃動作を学んでいたため、その初動でどんな攻撃が来るのか見極め、適度に距離を置く。そして片手剣の素早い攻撃を繰り出し、確実にクルペッコの体力を減らす。そんなライトの作戦が見事にはまり、クルペッコもダメージの蓄積で何度か怯んでいた。ライトのクルペッコ戦は順調であった。いや、順調過ぎた…。

 

 

 

ライトは攻撃を加えていると、刃が入りにくくなってきていることに気づく。

 

(刃こぼれを起こして切れ味が悪い…。距離を取って砥石を使おう)

 

ライトの判断はハンターとして間違ったものではなかった。だが、そのタイミングが悪かった。クルペッコが突如赤い鳴き袋を膨らませる。

 

「まずいっ!!」

 

ライトはそれに気づき、完全にソルジャーダガーを研ぎきれないままクルペッコへと走る。だが、砥石を使うために距離を取ったことが仇となり、攻撃を加える前にクルペッコが鳴き真似をしてしまう。

 

「グァオゥゥゥ!」

 

ライトはその声を聞いたことがなかった。そのためクルペッコの鳴き真似が成功したことに不安を感じつつも攻撃を続行する。そして攻撃が一段落すると研ぎきれなかったソルジャーダガーを研ぐため一旦距離を取る。

しかし、そこでクルペッコの動きが急変する。怒り状態だ。距離を取ったライトに先程とは段違いのスピードでクルペッコが突っ込んでくる。ソルジャーダガーを研いでいたライトはその攻撃に対応出来ずまともにそれを喰らってしまう。

 

「がはっ…!」

 

怒り状態になると攻撃力も段違いになるためライトはその衝撃で吹っ飛ばされる。なんとか立ち上がると、立て直そうと回復薬を飲み、怒り状態のクルペッコとどう戦うか思考を巡らせる。

だが、ライトの思考を打ち切るようにそこで上空から何やら翼の音が聞こえてくる…。

 

「バサッバサッ」

 

ライトはその音の主を確かめようと空を見上げると、そこには本でしか見たことのない空の女王、リオレイアが大きな翼を広げ、この地に降りたとうとしていた。

 

「っっ!!まさか!」

 

そのまさかである。先程のクルペッコの声真似はリオレイアのものであったのだ。ライトは空の女王の存在感に圧倒され、生物としての格の違いを思い知らされる。

 

(今あんなのと戦って勝てるわけがない…!悔しいけど、引き返さなきゃ!そして村のみんなに伝えないと!)

 

しかし、時既に遅かった。リオレイアが地に降り立つと同時に、その目がライトの姿を捉える。そして口を大きく開き、強烈な咆哮を発する。ライトは耳を塞ぎ、その場に硬直してしまう。するとそこへ火打石をかき鳴らしたクルペッコが突っ込んできたのだ。

 

(この攻撃はまずい!回避しなきゃ!……っ!体が…動かない…!)

 

ライトの硬直はクルペッコが目の前にきてようやく解けた。それと同時に回避行動に移るが、間に合わなかった。クルペッコの火打石による発火攻撃がライトを襲う。

 

「ぐあっ……」

 

衝撃により後方に吹っ飛び、地面に身体が叩きつけられる。ライトは起き上がれない。咄嗟にとった回避行動のおかげで直撃は避けたものの、発火攻撃による火傷も重なってライトは相当なダメージを負っていた。先程の体当たりのダメージも残っており、まさに瀕死寸前である。

 

(か、回復…薬を…飲ま…なきゃ…。………っ!)

 

そうしてアイテムポーチに手を伸ばすと、視界の先にライトに向けて火球ブレスを放たんとするリオレイアの姿が見えた。

 

(避け…られない…)

 

リオレイアによる火球ブレスが放たれ、それがライトに向かってくる。

そして、ライトが死を覚悟したその時であった。

 

「……っ!」

 

急にライトの体が何かに引っ張られ、火球ブレスの直撃コースから外れる。そして間一髪のところで火球をかわす。

ライトが自分の体を引っ張った正体を見ようと頭を動かすと、そこには刀夜が立っていた。

 

「トーヤ…さん…」

 

そこでライトは気を失った。

 

 

 

 

 

「間一髪ってところか」

 

ライトを引っ張った張本人の刀夜は、流石に先程の攻撃は危なかったと振り返る。

 

「というか、こんな所で寝られても困るんだが…」

 

刀夜は気を失っているライトを見て、そう苦言を漏らす。とりあえず、安全な場所にライトを置いておくことにした。

そして、刀夜は戦闘態勢に入る。

 

「さて、待たせたな。クルペッコにリオレイア…」

 

目の前には怒り状態のクルペッコと空の女王リオレイア。本来の依頼内容はライトを連れて無事に帰還することであったが、元より刀夜は目の前の2頭から逃げるつもりはなかった。

 

「そろそろ大型モンスターと戦いたいと思っていたんだ。それが同時に2頭…。ククク…最高だな」

 

刀夜は仮登録のハンターである。本来であれば大型モンスターを狩猟してはいけない。だが、本登録のハンターであるライトという存在により、ライトが狩猟したことにすれば何も問題ないと思っていた。

 

「思う存分殺(や)らせてもらう!」

 

そう言って刀夜は2頭に向かって走り出した。

 

 




ライトくん、頑張ったんですがね…。
次回は刀夜が戦います。

ではまた次話で会いましょう。





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第14話 刀夜VSクルペッコ&リオレイア

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を呼んでいただきありがとうございます。

ついに刀夜のクルペッコとリオレイア戦です。
それでは第14話、張り切っていきましょう。


刀夜が斬りかかったのはクルペッコであった。怒り状態のクルペッコに対し、真正面からの攻撃は分が悪いため素早く側面に回り込む。そして、まずは一太刀、と抜刀攻撃を与える。

本来、クルペッコの側面は硬い翼があるため攻撃は弾かれるが、黛(漆黒爪[終焉])の斬れ味はゲームで言うところの白。凄まじい斬れ味を持つ黛が弾かれることはなく、刃がすらりとクルペッコの体に入っていく。

クルペッコは一瞬怯むがすぐに体勢を立て直し、火打石をかき鳴らして発火攻撃を仕掛けてくる。しかし、刀夜は常にクルペッコの動きを予想して側面に回り込み、すかさず黛で攻撃する。クルペッコの攻撃は空を切るばかりで刀夜には当たらない。

クルペッコは苛立ったのか、常に側面にいる刀夜を払い除けるように体を一回転させる。刀夜はそれさえも予測し、後方に回避して距離を取った。

 

クルペッコは小賢しい敵を自分の体から離したことでチャンスと思い、可燃性の液体を刀夜にかけようと片足をあげてその予備動作をする。そんな時、クルペッコの瞳に映ったのは邪悪な笑みを浮かべる敵の姿であった。一体何故目の前の敵は笑っているのか、そんな事がクルペッコの頭をよぎったその時であった。

 

「やはり2頭同時刈りの醍醐味は同士討ちだな」

 

笑みを浮かべながらそう呟く刀夜はブレスを発射したリオレイアと、そのブレスが直撃したクルペッコを眺めていたのであった。

 

 

 

刀夜はこの場に到着した瞬間から、最初の獲物をクルペッコと決めていた。クルペッコの状態から、ライトの攻撃によりある程度体力が削られていると分かったからだ。

2頭同時討伐クエストのセオリーはモンスター同士の攻撃をお互いに当てさせつつ、弱った方を狙い撃ちすること。ある程度体力が削られているクルペッコと元気なリオレイア、刀夜が前者を狙うのは必然であった。

獲物を決めた刀夜はクルペッコに攻撃しつつ、常に[リオレイア-クルペッコ-自分]と直線状になるように立ち回っていた。そうしてクルペッコと刀夜が戦っている間にリオレイアが刀夜に向けて火球ブレスを放ったところ、前にいたクルペッコに直撃したというわけだ。

 

 

 

そうして強烈なブレスを浴びたクルペッコがその痛みに怯んでいるところに更なる追い討ちがかかる。リオレイアが刀夜に向かって全速力で体当たりをしてきたのだ。もちろん刀夜にあたる前にクルペッコに当たり、その衝撃でクルペッコが倒れる。

刀夜はそれを好機と見て、練気が溜まり薄く発光する黛で気刃斬りを3度放ち、伝家の宝刀、気刃大回転斬りで強烈な1発を加える。だが、刀夜の攻撃はまだ終わらない。更に気刃斬り、そして気刃大回転斬りの猛攻をかける。クルペッコがなんとか立ち上がろうとするも、今度はリオレイアの体当たりによって、また倒れてしまう。

こうして完全に刀夜とリオレイアの板挟みになってしまったクルペッコは成すすべもなく生命力をとんどん削り取られ、最後は刀夜の気刃大回転斬りによって力尽きたのだった。

 

クルペッコを討伐し、残りはリオレイアのみとなった。すでに刀夜の黛は幾度とない気刃大回転斬りにより、その刀身が真っ赤に発光していた。

 

「さて、残すはお前だけだ」

 

刀夜はリオレイアにそう言い真正面から突っ込む。するとリオレイアは火球ブレスを放つ予備動作を始める。刀夜はブレスの進路上を避けるために回避行動を取り、そのままリオレイアに接近して側面に回り込み気刃斬りを放つ。リオレイアは自分の懐にいる刀夜を振り払うために体を一回転させて攻撃するが、刀夜は後方に回避する。

それからというもの、刀夜はリオレイアの真正面には立たず側面から攻撃していき、リオレイアが体を一回転させて攻撃してくると、すかさず後方へ回避行動を取り距離を取るといった攻防が繰り返される。

そんな状況にリオレイアも苛立ったのか、後ろに2歩後ずさる。

 

(っ!!サマーソルトか!)

 

その時刀夜はリオレイアの前方に立っていたため咄嗟に横移動斬りを放ちつつ左へと横に動く。それと同時にリオレイアはバク宙の要領で体を縦に一回転させて毒のある尻尾を振り上げると空中で羽ばたく。

 

(画面越しで見るのと実際に現実で見るのはやはり違うな…。)

 

一見、2歩下がるという予備動作は刀夜に恐れを成したようにも見える。だがそれは全くの見当違いであり、サマーソルトをする前のリオレイアの予備動作である。サマーソルトは予備動作が小さい上に当たると大ダメージを受け、更には毒状態なるという強力な攻撃だ。これは防具がハンターシリーズのため防御力が低い刀夜が警戒していた攻撃でもあった。

 

だが、逆に刀夜はサマーソルト以外特に警戒はしていなかった。リオレイアの攻撃は特に意識せずともゲームのイメージで体が勝手に反応していたことに加え、ここまでノーダメージ。刀夜がリオレイアを完全に上回っていることは明白である。

 

(空から降りてきたら、2回戦といくか)

 

そうしてリオレイアが地面に降り立つのを待つ。しかし、いつまでたってもリオレイアは地面に降りようとしない。

そして刀夜が早く降りてこいという意味で視線をリオレイアに向けた時だった。リオレイアは刀夜を一瞬見るとそのままどこかへ飛び去っていったのだ。

 

「っ!!あいつ、まさか逃げたのか?!」

 

そう、そのまさかである。リオレイアは賢いモンスターである。目の前の小さい敵に適わないと判断したのだ。刀夜は追いかけようと思ったが、索敵用のペイントボールを使っていなかったのでリオレイアがどこに向かったのか分からない。それに加え、傷だらけで尚且つ気を失っているライトがいたのを思い出す。

 

「依頼内容が1人で無事に生還すること…だったりしたら迷わず追いかけるんだが…。まあいい、見逃すのはワケありの今回だけだ…。これからは逃げても地の果てまで追ってやる」

 

そんなことを呟きつつ、刀夜は気を失っているライトを肩に担ぐ。元々筋肉がなかった刀夜であるが、ここ2週間、ゲームのハンターの動きを真似て黛を振ってきたのだ。自然と筋肉もそこそこついてきた。そんな刀夜はモガの村へと向かい歩いていくのであった。

 

刀夜が立ち去った戦闘場所は先程までの轟音が鳴り響いていたが、今やすっかり静寂に包まれていた。

 

 

 

 

 

そうしてモガの村に到着すると、ケイル、エリス、そして村人たちが駆け寄ってくる。最初に口を開いたのはエリスだった。

 

「ライト!ライトは大丈夫なの?!」

 

エリスは今にも泣きそうな顔で刀夜に尋ねる。刀夜は俺はどうでもいいのか、と文句を言いたくなったがエリスの問いに答える。

 

「大袈裟だ…。気を失っているだけだ…」

 

それを聞いてエリスは「よかった…よかった…」とその場で泣き崩れる。そして村人達は歓声を上げる。そしてケイルが口を開く。

 

「トーヤ!お前さんなら大丈夫だと思ってた!本当にありがとな!今日はお前さんも疲れただろう、ライトは俺が部屋まで運んでおこう」

 

刀夜に疲れは全くなかったが、重いのも嫌だったのでライトをケイルに受け渡す。そうするとケイルは刀夜を部屋まで運びに行った。

村人達は身軽になった刀夜に「よくやった!」、「本当に無事でよかったよ!」といった声をかける。そしてしばらくして立ち直ったエリスが刀夜に話しかける。

 

「無事でよかったとして、トーヤはどうやって連れ帰ってこれたの??あの傷…ライト…戦闘してたんでしょ…?」

 

「もう立ち直ったのか?」

 

「う、うるさいっ!それは今はいいの!それよりも質問に答えてよ!」

 

「せわしない奴だな…」

 

村人達としても気になるところではあった。ライトが戦闘してたのならクルペッコがリオレイアを呼んだはずである。リオレイアはランク4のハンター達がパーティーを組んでようやく安定して倒せるモンスターであり、ソロとなると5は必要だ。そんなモンスターに仮登録ハンターの刀夜がどうやって無事に帰ってきたのか。いつの間にかケイルも村人たちの中に混ざっており、刀夜の返答を待っている。

刀夜としては仮登録ハンターの自分がクルペッコを倒したと言うのは色々まずかった。そのため帰り道に考えついたことを話す。

 

「まぁ、俺が見た一部始終を話そう。俺が到着した時にはすでにクルペッコは瀕死状態で戦闘が終わろうとしていた」

 

それを聞いたエリスは口を挟む。

 

「それは流石にありえないわ…。ライトの実力からすると討伐には丸1日程かかるはずよ」

 

エリスのような言葉を刀夜は予想できていた。ドスジャギィを倒したとはいえ、ライトはまだ駆け出しのハンターであり、技術も未熟。そんな彼が短時間で狩猟したという言い分は無理があるだろうと考えていた。

 

「普通ならそうだろう…。だが、その場にはすでにリオレイアがいた。ライトはリオレイアの強力な攻撃がクルペッコに当たるように立ち回っていたのかもな…。そうして俺が到着して間もなく、クルペッコは力尽きた。それと同時にライトも張りつめていた気持ちが切れたのか、その場で気を失った」

 

それを聞いてエリスだけでなくケイル、そして村人全員が驚く。

 

「そんなのもっとありえない…。刀夜、あなた自分が何を言っているか分かってるの?その立ち回りの技術を持つのはランク5の人間でも3割、といったところね。モンスター同士で攻撃させ合うなんて相当高度な技術よ?」

 

エリスのその発言に今度は刀夜が驚く。「あの立ち回り、そんなに高度なのか…?」と疑問に思うが口には出さない。そんな刀夜の様子に気付かずエリスは続ける。

 

「恐らく、本当にたまたまリオレイアの攻撃がクルペッコに何度か当たっていたのでしょうね…。それなら納得できる…」

 

そう言って納得し始めたエリスや村人だが、今度はケイルが疑問を刀夜にぶつける。

 

「だがトーヤ、お前さんリオレイアからどう逃げ切れたんだ?お前さんなら大丈夫と思っていたがリオレイアから逃げるのは簡単ではなかったはずだ…」

 

ここもまた刀夜は予め答えを用意していた。

 

「実はクルペッコが力尽きたあと、何故かリオレイアはどこかへ飛び去っていってな…。理由は俺にも分からないがあれは本当に助かった」

 

飛び去っていったのは嘘ではない。刀夜がそう言うと、村人の1人が「そういえば、俺リオレイアがどこかに飛んでいくのを見た!」と言う。刀夜は密かにその村人に感謝する。

 

「なるほど…。そんなこともあるもんだな…。ライトとお前さんは何か持ってるのかもな、それも実力の一つだ」

 

そう言って刀夜への質問タイムは終了した。

そして刀夜を労ったあと、村人の誰かが「今日は宴だぁ!」と叫ぶと、皆それに賛同し、宴会の準備を始めた。

刀夜は「話がある」と、ケイルを引き止める。

 

「出発の件だが、少しいいか」

 

ケイルは先程まで2人の帰還に喜びの表情であったが、出発の件、と聞くと途端に寂しそうな表情になる。

 

「あぁ…そうだったな…。いつ出発する?」

 

村に残るという返答を微かに期待していたが、期待が現実になることは無い。

 

「明日の夜明けとともに出発したい。大勢に見送られるのは気が引ける」

 

あまりにも早すぎる出発にケイルは絶句する。

 

「っ!!また急なことだな…。でも、また戻ってきてくれるんだよな?」

 

「あぁ、まあ最後ではないだろう」

 

そんな刀夜の返答に満足したのか、ケイルはいつもの笑顔になる。

 

「よし!約束だ!ライトを含め、他のみんなにはトーヤが出発した後話しておこう。お前さんもその方がいいんだろ?」

 

「助かる。あと、申し訳ないが宴会も参加できそうにない。元々そういうのが苦手っていうのもあるが、出発の準備をしたい」

 

「まあ村の奴らはライトとトーヤがいなくてもどんちゃん騒ぎだろうから大丈夫だ。特にみんなお前さんのことを少しは理解している。参加を強要することはないだろうから安心してくれ」

 

「重ね重ねすまない」

 

「いいってことよ!トーヤ、お前さんも疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

 

そうして刀夜は部屋に戻り、出発の準備をした後、早めに寝床についたのであった。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回の話は予め決めていた結末でした。
納得いかない方がいれば申し訳ないです。

ではまた次話で会いましょう。


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第15話 旅路

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

今話からどんどんオリジナル設定が組み込まれていきます。MHの世界そのままがいいという方には申し訳ありません。

では、第15話張り切っていきましょう。




夜明け前、出発の準備ができた刀夜は荷物を持って穏やかな海を見ていた。波の音が静かに聞こえ、微かな潮風に当てられる。

そんな刀夜に誰かが近づいてくる。ロイスだ。

 

「セガレから聞いておったが、今から出発するのだな」

 

「あぁ…。そうか、ロイス村長に挨拶をしていなかったな。世話になったのにこんな形の挨拶になってすまない…」

 

刀夜は2週間も過ごした村の長に挨拶もせず旅立つのは申し訳ないと思ったため、素直に謝る。ロイスはそのことに特に気にした様子もなく、穏やかな口調で刀夜に語りかける。

 

「そのような事気にせんでよい。それよりも少し話す時間はあるかの?」

 

まだ出発まで少し時間があった。刀夜は挨拶もなかったことを申し訳なく思い、ロイスと少し話すことにした。

 

「あぁ、少しだけなら大丈夫だ」

 

「それはよかった。実はお前さんに聞きたいことがあってな…。クルペッコを討伐したのはトーヤ、お前さんであろう…?」

 

「昨日話した通りだ。リオレイアの攻撃とライトの攻撃でクルペッコは力尽きた」

 

どこか確信めいた様子で尋ねるロイスに対し、刀夜は頑として否定する。

 

「そうか…。ライトは先日ドスジャギィを討伐したばかりじゃ。彼にあれほどの短時間でクルペッコを討伐できたとは思えんくての…。リオレイアの攻撃があったとしてもじゃ」

 

刀夜は無言でロイスの話を聞く。そんな刀夜に対し、ロイスは真剣な表情で続ける。

 

「それに…お前さんのその武器、かなりの業物だろう?その武器ならあの短時間で倒せたことも納得できるのじゃ」

 

その言葉を聞いた瞬間刀夜が反応する。そして殺気を言葉に乗せてロイスへと問う。

 

「ロイス…何故これが業物だと分かる?」

 

刀夜の言葉にロイスはビクっとなるが、予想していた反応だと心を落ち着かせる。そして、表情を和らげ口を開く。

 

「すまん…。少々カマをかけさせてもらった、許してくれ…。お前さんのその反応で充分じゃ。もうこれ以上は問わん、無論この事を誰かに話すつもりなど毛頭ない。たとえセガレであろうともな…」

 

ロイスの言葉に刀夜は殺気を緩める。

 

「ロイス村長、2度とこのような事はしないでくれ」

 

「あぁ、誓おう…。だが、何故誰にも頼ろうとしないのじゃ…」

 

「誰も信じていないからだ」

 

刀夜の回答にロイスは呆然とする。それを尻目に刀夜は続ける。

 

「俺は誰も信じていない、それだけだ。それとロイス、これ以上の詮索は辞めろ。お前を斬りたくはない…。さて、時間だ。俺は行くとする。世話になった」

 

そうして船着き場に停泊する船に向けて刀夜は歩き出す。前回と同様の結果に終わったロイスはその場に立ち尽くすばかりであった。

 

(少しでもトーヤの気持ちを軽くさせてやりたいと思ったが、本人がそれを望んでいないとは…。彼の目は2週間前と変わらず漆黒の闇のように暗く、そして深い…。ワシにできることは彼の人生が報われることを願うしかないのか…)

 

モガの村にまだ夜明けは来ない。

 

 

 

 

 

 

 

刀夜はモガの村を出発した。

船に乗る際、ケイルが1人見送りに来ており「世話になった」と一言声をかけると「いつでもお前さんを待ってる」と送り出された。

船に乗ってしばらくすると太陽の光が地平線から漏れだし、夜明けを迎える。

 

(まずはリエル王都でギルド登録、それからは片っ端から大型モンスターを狩猟しつつその報酬で旅の金を集めていくとしよう。それと他のギルドにも回ってみたい。本格的な旅だな…。ククク…楽しみだ…)

 

 

 

そうしてカーディナル孤島から出発して3時間、刀夜はゆったりとした船旅を終えヴェノム地方西部のリエル王都がある大陸に到着した。船の船員に聞いたところ、リエル王都は今の位置から馬車で更に3時間ほどの場所にあるらしい。馬車に乗るお金はケイルからの報酬で支払うことが出来たため、刀夜は早速馬車でリエル王都へと向かうことにした。まだ朝であったこともあり、定員8人の馬車の中には刀夜と杖を持った白髪の老紳士、そして老紳士の横に座る刀夜と同じくらいの年齢の女性の合わせて3人しかいなかった。

 

(それにしても乗り心地が悪いな…。あまり道が整備されていないのもあって段差や石ころで揺れる)

 

馬車が出発して一時間ほど経ち、目の前に座っている老紳士に話しかけられる。

 

「目の前の御仁、失礼ながらその身なりを拝見させていただきましたところハンターとお見受けします。リエル王都へはギルドのご用事で?」

 

刀夜はすることもなく暇であったので老紳士の問いに返答することにする。

 

「まあ、そんなところだ…」

 

刀夜がそう答えると老紳士の隣にいた女性が口を開く。

 

「ハンター様?!あの…もしよろしければモンスターの狩猟についてお話をお聞かせ願えませんか?」

 

女性は長い青髪に青の瞳でとても整った顔立ちをしており、如何にもファンタジー感溢れる外見であった。

 

「お嬢様…。初めて会う御仁に失礼ですよ…」

 

「でも、ハンター様と会う機会なんて滅多にないですから…。ハンター様、よろしいでしょうか?」

 

そう言って女性が刀夜に頼み込む。刀夜は暇である今なら別にいいか、とも思ったが自分が仮登録のハンターであることを思い出した。

 

「期待しているところ悪いが、ハンターの中でも俺は仮登録のハンターでな。大型モンスターの狩猟経験はない」

 

女性は「そうなのですか…」と残念そうに呟く。

 

「ということは、リエル王都での目的とはギルドで本登録をするといったところですかな?」

 

「そうだな。本登録と、大型モンスターの狩猟が目的だ」

 

「では、その狩猟が終わった時は是非ともお話をお聞かせください!」

 

「その時にはもうお前とは別々の道を行っているだろ」

 

そう刀夜が言うと「そ、そうでした…」とまたも残念そうにする女性に対し、老紳士は「お嬢様に向かってお前とは…面白い方ですな」とやんわりと笑みを浮かべる。

そんなどこか和やかな雰囲気であった馬車に突如怒声が響く。

 

「おらぁ!そこの馬車止まれ!中にいる奴らは大人しく馬車から出てこい、そして金品を寄越せ!」

 

そうして男数名の高笑いが聞こえてくる。女性と老紳士は盗賊の襲来に冷や汗を浮かべている。

 

「どうしましょうヴァイス…。王都に着く前に盗賊と出くわすなんて…」

 

「これはまずいですねお嬢様…」

 

そんな2人とは対照的に刀夜は珍しいものを見たという表情である。

 

(まさかMHの世界にも盗賊が存在するとはな…。まあ、ちゃっちゃと片付けるか)

 

そうして刀夜は馬車のドアを開けると同時に、後ろから「お待ちください!」、「いけません!」という声が聞こえたが無視して外へ出る。

 

「お?一匹大人しく出てきやがった。じゃあまずはお前から金品を頂くとしようかな、ヘヘヘ…」

 

1人がそう言うと他の盗賊が下劣に笑う。そして何の構えもしていない刀夜に抵抗の意志がないと思ったのか、1人が刀夜に近づく。しかし、それと同時に彼の見ていた世界がひっくり返っていった。

 

「ボトっ」

 

そんな音が嘘のようにはっきりと聞こえた。そこで 盗賊達は仲間の1人が首を切られたことにようやく気づく。

 

「っ!!あいつ、やりやがった!!」

 

「遠慮するな、やっちまえ!!!」

 

その声で盗賊全員が四方から刀夜に襲いかかる。しかし、そんな状況でも刀夜は冷静に今の戦況を分析する。

 

(盗賊は全部で5人。今一人倒したから正確には4人だな。見たところ腕はそこまで良くないようだ。これなら俺一人で殺れる。だが、それにしても人を殺しても罪悪感が湧いてこないとは…なんとも複雑な気持ちだな…)

 

そうして刀夜はまず前方の2人に突っ込み抜刀気刃斬りを放つ。大型モンスターの硬い表面でもすっと刃が入っていく黛の斬れ味の威力は対人戦でも惜しみなく発揮されていた。黛の刀身を受けきれずまともに喰らった盗賊2人は即死する。

そして、後方から迫る2人の攻撃を流れるように回避し、1人に横移動切り、もう1人に縦切りを加え戦いは呆気なく終わった。

刀夜が一方的に盗賊を蹂躙する様子を馬車から見ていた2人は刀夜の動きに目を見開いていた。

 

「ヴァイス…あの方、一体何者なんでしょう…」

 

「あの立ち回りと太刀筋…少なくとも常人の動きではありません…。元ハンターの私ですが、見とれてしまうような動きでした…。それに、彼の武器…恐らく太刀と思われますが、見たことのないものです…」

 

驚嘆している2人の元へ刀夜が戻ってきた。何事も無かった顔で戻ってきた刀夜が開口そうそう発した言葉に2人は唖然とする。

 

「人を斬ったが…これは罪に問われるのか?」

 

リエル王都への道のりはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回新しいキャラが登場しましたね。割とキャラ設定で悩んで時間かかります…。

では、また次話で会いましょう。


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第16話 同乗者の正体

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

今話は同乗者の話です。

では、張り切っていきましょ。


刀夜が戻り、馬車が動き始めた。

女性と老紳士は刀夜の発言に一瞬固まると、吹き出して笑い始める。刀夜は至って真剣である。なんと言っても人殺しの罪に問われるとギルドどころではなくなるからだ。

 

「おい、俺は真面目に聞いている。これは罪に問われるのか?」

 

「いやいや、申し訳ない。まさか盗賊に襲われ正当防衛でそれを斬り殺したことで罪に問われる心配をする方がいらっしゃるとは…」

 

「ふふふ、面白い方ですね。その心配は入りません、むしろ有名な盗賊は賞金首となるくらいですから…。ただ、人の死を見るのはやはり気分がいいものではありませんね…」

 

刀夜はそれを聞き、安心すると同時に疑問に思ったことがあった。

 

「何故お前らはあの光景を見て取り乱さないでいられる。結構残酷な光景だったと思うんだが…。軍のものかなにかか?」

 

刀夜の疑問は最もである。盗賊とは言え目の前で人殺しが行われていたのだ。それを見て通常運転でいられる2人はどうも場慣れしているように思えた。そんな刀夜の疑問に老紳士は驚愕の表情を浮かべる。

 

「今まで素知らぬふりをしてくれていたと思っていましたが…本当にお嬢様のことをご存知ないのですか…?」

 

「知らんもんは知らん。お嬢様ってことはどこかの貴族か?」

 

刀夜がそう答えると女性は老紳士と少し相談し、口を開く。

 

「まずは助けていただきありがとうございました。そして、私の名前ですが…シーナ=リエルと言います」

 

「私はお嬢様の付き人をしておりますヴァイス=シュバイツと申します。この度は盗賊を倒してくださりありがとうございました」

 

その姓、リエルと聞き刀夜は驚嘆するが「なるほどな」と思った。

 

「それは流石に驚いたな…。だが、なるほどな…。てことはお前がリエル王都の王女といったところか。つまり立場上ああいう光景には慣れっこというわけだな。でも良かったのか?聞いておいてなんだが、王女がその正体をばらすのはまずいと思うんだが」

 

そう刀夜が尋ねるとヴァイスが口を開く。

 

「本来はそうなのですが、この度は盗賊から守ってもらった恩義もありますし、何より貴方のお人柄からして大丈夫と判断いたしました。ちなみに、正確にはお嬢様は第二王女で第一王女はお嬢様の姉君でございます」

 

刀夜にとって第一であろうが第二であろうが王女は王女である。刀夜はヴァイスに疑問を呈する。

 

「ヴァイス…もし俺がシーナを王女と知って変な行動を起こしたらどうするつもりだった?」

 

ヴァイスの隣でシーナは「な、名前呼び…」と顔を赤らめているが気にせず続ける。

 

「もしそうであれば…これで刺していたかもしれませぬな」

 

そう言ってヴァイスが杖の持ち手を引っ張ると白銀の刀身が顕になる。

 

「仕込み杖か…。まあ王女の付き人がひ弱なわけないか」

 

そう言って呟くと刀夜はあることに気づく。

 

「ちょっと待て。ならヴァイス、お前盗賊を追っ払うくらい出来ただろう」

 

「可能、ではありましたが、あくまでそれは最終手段でした…。貴方が敵の場合、こちらの手の内を見せることは死に値しますので。とは言え、貴方が真っ先に馬車から降りて盗賊の下へ向かったのと、貴方の強さは想定外でした…」

 

そう言い終えるとヴァイスは心の中で「それに…」と続ける。

 

(それに…もし貴方がその気を起こしていれば私など相手にもならなかったでしょう…)

 

対して刀夜はヴァイスに感心していた。

 

(なるほどな、つまり最初の会話も俺のことを探ってたわけか。ヴァイス…物腰柔らかそうに見えて食えない男だな)

 

そんなことを考えているとシーナが話しかけてきた。

 

「あ、あの、ハンター様のお名前はなんというのですか…?」

 

2人に名乗られ、自分も名乗らない訳にはいかない。

 

「俺の名は霧雨刀夜、霧雨が姓で刀夜が名だ。ただのしがない仮登録ハンターだ」

 

「と、トーヤ様は東洋地方の方なのですか?」

 

初対面の人に名乗る時、必ずと言っていいほど尋ねられる質問だ。シーナは刀夜に名前呼びすることを恥ずかしながら尋ねる。

 

「まあ、そんなところだ…」

 

「やはりそうなんですね!私もいつか東洋地方に行ってみたいです…」

 

刀夜も東洋地方がどのような場所か知らないが、旅の途中でいつか行ってみようと思う。

 

「それにしても…トーヤ様は私がリエル王都の王女だと知っても畏まったり、機嫌を伺ったりはしないんですね」

 

「私もその事について同様のことを考えていました。リエル王都において民はお嬢様を見ると姉君の影響なのか、皆平伏してしまうので…」

 

そんな2人の言葉を聞いて刀夜は疑問に思う。

 

「そのシーナの姉がどうとかは知らないが、何故そんなことをする必要がある?別に俺はリエル王都の民ではないしな」

 

刀夜の返答に、シーナとヴァイスはきょとんとするがすぐに可笑しそうに笑う。

 

「ふふふ…そうですね!でも、トーヤ様は不思議な人です…」

 

「本当に興味が尽きぬ方ですな」

 

刀夜は何が可笑しかったのか分からなかったが、それよりもう一つ疑問があったのでそちらを聞くことにする。

 

「それはそうと、もう一つ疑問がある。なぜリエル王都の王女が王都の外、それもヴェノム地方の西の端にいたんだ?」

 

その問いにシーナは一瞬迷った表情をする。そんなシーナを見て刀夜は内心聞いたことを後悔する。面倒事に違いないからだ。刀夜はシーナに向けて再び口を開く。

 

「あー、言いたくないことなら言わなくていい。別に俺がどうこうできる話でもないしな。それに、面倒事に巻き込まれたくもない」

 

シーナは刀夜が気を使ってそう言ったと思ったのか、「ありがとうございます…」と呟く。

そうして話をしている内にリエル王都が見えてくる。

 

「トーヤ殿、リエル王都が見えてまいりました」

 

刀夜が窓の外に目を向けると、中世の時代のような建物が視界の先に広がっていた。

 

「都市がむき出しだが大丈夫なのか?」

 

刀夜の疑問にシーナが答える。

 

「リエル王都のある場所はモンスターの生息区画ではないので大丈夫なんです!モンスターにとってもリエル王都を襲ったところで食べるものもありませんし、今までモンスターに襲われたという記録もないんですよ」

 

刀夜は「そんなものか…」と納得する。

そして、シーナとヴァイスから刀夜はギルドの詳しい場所を聞いている内に関所のような場所を通りリエル王都に到着した。

3人は馬車から降りると、高級そうな馬車が目の前に止まる。

 

「迎えが来たようです、トーヤ様、本当にありがとうございました!盗賊の件もそうですが、色々なお話も楽しかったです!これはほんのお礼です」

 

そうしてシーナは刀夜に封筒のようなものを渡す。

 

「この中にはギルド宛に私が書いた刀夜様の紹介状が入っています。これがあればギルドで本登録をする際に面倒な手続きを一切やらなくてすむんですよ」

 

笑顔でそう言うシーナに対し、「いつの間にこんなものを…」と刀夜は呟く。

 

「ふふ…。こっそり書いちゃいました。今はこれくらいしか出来ませんが、いずれまた今回のご恩は返させていただきます!なので…」

 

シーナはそう言って言葉を切り、顔を赤らめてその続きを言う。

 

「また今度、たくさんお話を聞かせてください…」

 

刀夜は鈍感ではないのでシーナに好意を持たれていることに気づいたが、それがどうしてかは分からなかった。だが、次に会うときはその好意も無くなっているだろうと思いながら返事をする。

 

「まあ、話くらいならいいだろう。この紹介状の借りもある」

 

刀夜としては盗賊を倒したことが貸しだとは思っていなかった。あくまで自分のために倒したからだ。そのため、紹介状は刀夜にとって大きな借りであった。

シーナは「や、約束です!」と言って馬車の中へ走り込んでいった。

 

「この度は本当にありがとうございました。トーヤ殿、またいずれ」

 

そう言ってヴァイスもシーナを追いかけるように馬車の中へ入っていった。1人残った刀夜は小さく呟く。

 

「まずは本登録、そしてクエストをこなす。一体どんなクエストがあるんだろうな…」

 

刀夜は様々な期待を込め、ギルドに向けて歩み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、トーヤ殿に好意をお持ちのようで」

 

馬車の中でヴァイスはシーナに話しかける。

 

「と、トーヤ様に抱いている感情はそういう類のものではなくて、ただまた次にお会いできればと思っただけです!」

 

そう慌てて否定するシーナにヴァイスは頬を緩ませる。

 

「きっとまたお会いできますよ…。それこそ例の件、トーヤ殿に頼んでみては如何でしょう?」

 

例の件、と聞いてシーナの表情は固くなる。

 

「しかし、トーヤ様を巻き込むわけには…。それに、本登録をされに行ったばかりです。実績が無い分狩猟の腕前も如何なものなのか…」

 

「そうでしたな…。今は、様子を見ることしかできませんな…」

 

そんな会話がされつつ、馬車は王宮へと向かうのだった。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

次話はギルドでのお話となります。

では、また次話で会いましょう。


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第17話 ギルド登録

こんにちは、O.K.Oです。
最近忙しくて更新遅くなりました、申し訳ありません。今後も忙しくなると更新遅くなるかもですがお許しください。

さて、今話でついに刀夜本登録です。
では第17話、張り切っていきましょう。


刀夜は「ハンターズギルド」と書かれた看板のある建物の前に立っていた。中からはガヤガヤとした声が聞こえてくる。

 

「さて、行くか」

 

そう言って刀夜は扉を開ける。中には丸テーブルが沢山あり、様々な武器を持ったハンター達がそこで依頼についての話をしていたり、モンスターについて話していたり、昼間なのに酒を飲んだりとしていた。奥の方にはクエストカウンターがあり、受付嬢たちがそれぞれテーブルを前に座っている。

 

「っ!!」

 

その中に刀夜に見覚えがあり、思わず彼女を見たことで目が合った人物がいた。MH3以降多くのMHプレイヤーにその独特のキャラで愛されたギルドの看板娘、名前がアイシャという彼女に似た人物でたる。

ゲームと同様その黒髪を真ん中分けにし、後ろでその髪を括っている彼女がカウンターに座っていた。

 

(エリスはアイシャがリエル王都のギルドにいると言っていたが…。まさかこんなにも早くあれに出会ってしまうとはな…)

 

実は刀夜は彼女が苦手であった。嫌いという意味ではなく、単純に彼女のキャラが苦手であったのだ。ゲームと彼女が同じ性格とも限らないが、刀夜は避けるように別のカウンターへ向かおうとしたその時であった。

 

「そこの方!今目が合って私を見て避けましたね?良いクエスト、ドドーンっと紹介しますよ!」

 

(やはりゲームとキャラも同じか…)

 

ため息混じりで刀夜は口を開く。

 

「いや、生憎クエストを受けに来た訳では無いからな。そういう訳でこっちの人に対応してもらう」

 

そう言って隣のカウンターに行くと、アイシャは他の人が来たのでそちらの対応をし始める。なんやかんやアイシャはあのキャラで好感を持たれているのであろう、彼女のカウンターに行くハンターが多い。

刀夜が向かったカウンターには、やれやれという感じで頭を抱えている受付嬢がいた。こちらは刀夜の見覚えのない人物である。

 

「はぁ…。アイシャ、相変わらずキャラ濃すぎだわ…。すいません、あれがあの子の素なんです、許してあげてください」

 

そう受付嬢が呟くと隣のカウンターから「余計なことを吹き込まないでくださ〜い!」と聞こえた気がしたが気にしない方向で話を続ける。

 

「いや、大丈夫だ。キャラが濃すぎるというのは同感だが…」

 

「ですよね…。……それはそうと、本日は如何されました?」

 

そう言って先程から一転、受付嬢は仕事時の表情をする。刀夜は本来の目的を話す。

 

「あぁ、ギルド本登録がしたいんだ」

 

「申し訳ございません、手続きがございますので少々お時間頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「これを渡せば登録時の手間を省けると聞いたんだが」

 

そう言って刀夜はシーナからもらった封筒を受付嬢に渡す。

 

「中身を確認いたしますので少々お待ちください」

 

そう言って封筒を開封し、中に入っていた文書に目を通すと、だんだんと受付嬢の目が大きく見開かれる。

 

「なっ!!ちょ、ちょっと…あなたこれ本物?」

 

驚きで受付嬢の口調が畏まったものからプライベートなものに変わる。

 

「口調…変わったな」

 

「え?あ…ごほん、失礼致しました。上の者に確認を取ってまいりますので少々お待ちください」

 

そう言って受付嬢は奥の部屋に入って行き、しばらくするとまたカウンターに戻ってきた。

 

「こちらの文書…本物のようですね…。シーナ様の紹介ということで手続きは省かせていただきます」

 

「それはありがたい」

 

「こちらの紙にお名前をお書き下さい」

 

そこで刀夜は前にエリスから聞いていたメイン武器の記入は必要ないのか疑問に思い、受付嬢に尋ねる。

 

「本登録時にメイン武器を書く必要があると聞いていたんだが」

 

「普通はそうですね。本登録する際は新人期間ということで1ヶ月間お時間を頂いき、ハンターの基礎知識や記入していただいたメイン武器の扱い方についての抗議を行います。それを終えて初めてクエスト受注が可能になるのですが、今回はシーナ様の紹介状の内容から必要ありません」

 

それを聞き刀夜は文書の内容が気になったがシーナに心から感謝する。

 

(本来1ヶ月の間クエストを受けられないとは…。今度シーナに会ったら礼を言っておかないとな)

 

刀夜は名前と出身地を書いた紙を渡す。

 

「キリサメ トーヤ…。東洋地方出身の方なのですね」

 

「まあそんなところだ…」

 

初対面の人に必ず問われる質問にお決まりの返事をする。

受付嬢はその後白いプレートを刀夜に渡す。

 

「こちらハンターランクプレートになります。一定のラインのクエストを完了することでランクが上がっていき、それに応じて白→黄→赤→緑→青→紫→黒と色が変化していきます。クエスト受注の際などにお見せください。受けられるクエストはソロの場合自分のランク以下のクエスト、パーティーの場合は一つ上のランクのクエストまで受けられます。再発行の際はお金を頂きますのでご注意を」

 

「他人のプレートで自分より上のランクのクエストを受けられるのか?」

 

「いえ、プレートは登録した人以外が持つと白になる仕組みになっております。なのでそういったことは出来ません」

 

(なるほどな…。ゲームでも自分のランク以下のクエストしか受けられなかった。さっさとランクを上げてくか)

 

「他に質問はございませんか?無ければこれで本登録の手続きは終了となります」

 

刀夜はランクによってどんなクエストが受けられるのか気になったがそれは受注の際に確認することにした。

 

「いや、特にない」

 

「では手続きを終了させていただきます。それでは…」

 

そう言って受付嬢は言葉を切る。刀夜は嫌な予感がした。

 

「こちら奥の方へお進み下さい、ギルドマスターがお待ちです。拒否はなさらないようお願いします」

 

「拒否すれば?」

 

「申し訳ございませんが…登録破棄とさせていただきます」

 

この時点で刀夜に拒否権はなかった。「面倒なことになったな…」そんなことを呟きつつ、刀夜は受付嬢にひきつられ奥の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

部屋に入るとそこには机を前に椅子に座った50代くらいの強面の男がいた。何かの古傷であろうか、左目は1本の切り傷により閉ざされている。刀夜が部屋に入ると男は口を開く。

 

「アリアノーラ、ご苦労だったな」

 

「グライスさん、お疲れ様です」

 

(あの受付嬢、アリアノーラというのか。それにしてもこのグライスという男、半端じゃない威圧感だな…)

 

そう思考を巡らす刀夜にグライスという男が話しかける。

 

「突然呼び出して悪かったな、俺はグライス=リンデバルド。このヴェノム地方西部のギルドマスターをしている」

 

「……俺は霧雨刀夜、先ほど本登録をしたばかり(・・・・・・・・・)の新人ハンターだ」

 

皮肉っぽく刀夜がグライスに言うと、グライスは部屋に入った時の刀夜への威圧を解き、面白そうに笑う。

 

「……ガハハ!俺の威圧をものともしないに加え、この俺に皮肉まで言うとはな。合格だ、シーナ嬢ちゃんが紹介するだけのことはある」

 

「……俺を呼んだ理由はそのためか?」

 

試されていたと思うと気分が悪くなった刀夜は不機嫌そうに話す。

 

「すまんな、気を悪くしないでくれ。まあそれも一つなんだが俺が実際にこの目でその人物を見たかったっていうのが大きいな。第2と言っても嬢ちゃんはこのリエル王都の王女だ。そんなあの子が認めたやつなんだ、この目で会ってみたいと思うのも仕方が無いだろう?」

 

そう言って不敵に笑みを浮かべるグライスに対し、アリアノーラが口を開く。

 

「グライスさん、一国の王女に対して嬢ちゃんというのはまずい気がしますが…」

 

「なーに、そんな硬いこと気にするな。嬢ちゃんは嬢ちゃんだ」

 

「で、俺はもう帰っていいのか?」

 

刀夜はこの場に用がないなら早く立ち去りたいと思っていた。だが、グライスに止められる。

 

「まあちょっと待て、真剣な話もあるんだ」

 

刀夜は頭に疑問を浮かべながらグライスの話を聞く。

 

「今回、特別にハンターランク2の黄色プレートからのスタートにしてもいい」

 

「…宜しいので?」

 

「あぁ、こいつなら大丈夫だと俺は踏んだ。それに実力ある者が下のランクで埋もれているのはギルド的にも世間的にもマイナスだしな」

 

刀夜は目を閉じ、一瞬考える素振りを見せるがすぐに目を開けて口を開く。

 

「断らせてもらう」

 

その刀夜の返答を聞き、グライスはまたも面白そうな顔をする。

 

「ほう…。理由を聞かせてもらえるか?」

 

「まず俺は金や地位が欲しいわけではない。確かに大型モンスターの狩猟はしたいが1からのスタートで学ぶべきことがある」

 

あくまで刀夜の目的はクエストとモンスター狩猟である。刀夜の中でランクはその幅を広げるためのものに過ぎない。加えて刀夜はまだこの世界に来て知らないことがたくさんあった。そのためハンターランクが低いうちにそういったものを知っていこうと思っていた。

グライスは静かに刀夜の言葉を聞いている。そんなグライスを尻目に「それと、」と刀夜は続ける。

 

「それと、実力ある者が埋もれるのはもったいない?ふざけるのも大概にしてもらいたい。本当に実力があるならスタートがランク1からでも這い上がってくる。俺はランク1からのスタートを楽しみにしているんだ。勝手に上のランクからのスタートが俺の望みだと思ってくれるな」

 

そうして刀夜が言い終えるとグライスはガハハ!と笑う。

 

「なるほどな、確かにお前の言う通りだ。やはりお前は面白いな。お前、名がトーヤだったな。その名前覚えておく」

 

そうしてグライスは言葉を続ける。

 

「そう言えばトーヤ、お前モガの村から来たんだってな」

 

そう言うとアリアノーラが驚く。

 

「えっ!てことはエリスとアイシャとは知り合い?!」

 

「アリアノーラ、お前のその驚くと口調が戻る癖は治らんのか」

 

「あ…。申し訳ございません…」

 

またもアリアノーラの口調が変わるが刀夜は気にせず答える。

 

「アイシャの方は今日が初対面だ。エリスは顔見知りってくらいだな」

 

「なるほど…。丁度アイシャとエリスが入れ替わった時期にエリスに会ったというわけですね」

 

アリアノーラは納得したような表情を浮かべる。

 

「まあ、そんな感じで俺からの話は以上だ、長くなってすまない。これから頑張ってな」

 

グライスのその言葉で刀夜は部屋から出るかと思われたが、刀夜はその場に佇んだままである。

 

「ん?どうした?もう帰ってもらって大丈夫だぞ」

 

グライスがそう言うと刀夜はようやく口を開く。

 

「最初の威圧した件はまだ許せたが、一つだけ言っておく」

 

刀夜はそう言うと強烈な殺気をグライスに放つ。

 

「っ!!」

 

「2度と俺の器を測ろうとするな…」

 

そう言って刀夜は部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

刀夜が出ていき、部屋にはグライスとアリアノーラが残っていた。自分に向けられていなかったとはいえ、側で殺気を感じたアリアノーラが額に汗を浮かべているグライスに向け口を開く。

 

「グライスさん…」

 

刀夜の言う通り、グライスはランク2からのスタートという提案で刀夜を試していた。彼が金や地位、名声に固執するのかということを。そして、刀夜がそれを断ったことでグライスの中での刀夜という人間の評価が高くなった。だが、グライスのその提案が彼を試していると気づかれたのは予想外であった。

 

「今の殺気、凄まじいものだった…。ランク2からの提案、彼を試していたのがバレてたみたいだな…。こいつはとんでもない掘り出し物を拾ったかもな」

 

グライスはギルドマスターである。そこに至るまで幾度とない死線をくぐり抜けてきた。そんな彼でも刀夜の殺気に一瞬気圧されたのだ。

 

「掘り出し物だが、それ以上に彼の実力が見えない。世の中"分からない"ことほど怖いものはない…」

 

そう言って考え込むグライスにアリアノーラが話しかける。

 

「あの、私が彼を担当するのでしょうか…」

 

アリアノーラの声はどこか不安げだ。そんな彼女の気持ちを汲み取ったのかグライスは口を開く。

 

「いや、彼の担当はアイシャにやってもらう。彼はモガの村から来たんだ、アイシャなら上手くやってくれるだろう」

 

それを聞きアリアノーラは安心すると共に苦笑いする。

 

「まあ、アイシャがそこまで考えて動いているとは思えませんけどね」

 

「それが彼女の長所でもある。常に真剣な彼女が彼の担当にうってつけだろう」

 

そう言ってグライスはアリアノーラに仕事に戻るよう促す。アリアノーラはアイシャ、いやこの場合刀夜であろうか、今後の苦労を思い心の中で手を合わせながら部屋を出ていった。

 

「彼ならもしかしたら出来るかもしれないな。それをシーナの嬢ちゃんも感じたんだろう。だが、どう扱ったものか…」

 

1人部屋にいるグライスはまた考え込む。

 

「今はまだ早い…。時期を見てエルザ達に彼の実力を測ってもらうとしよう。あいつらなら大丈夫だろう」

 

そう自分に言いきかせるようにグライスが小さく呟くと、その声は不思議と部屋の中に響くのであった。




如何でしたでしょうか?
今回は文字数多めですね。楽しんでいただけるとありがたいです。

それではまた次話で会いましょう。


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第18話 クエスト説明

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

今回はタイトル通りのものとなっております。

それでは第18話、張り切っていきましょう。


刀夜はギルドマスターであるグライスとの会話の後、クエストカウンターの前に来ていた。早速クエストを受けるためである。そしてクエストの紹介をしてもらおうとするとアリアノーラに話しかけられる。

 

「あなたには担当の受付嬢を付けることにいたしました。担当の人がいるとクエストの斡旋がされやすくなり、受けられるクエストの選択肢も増えると思います」

 

刀夜にとってそれはありがたい申し出だった。

 

「それは助かる。それで俺の担当の受付嬢がいるカウンターはどこだ?その言い方だとアリアノーラではないんだろ?」

 

刀夜がアリアノーラに尋ねると彼女は非常に言いにくそうな顔をする。アリアノーラが「それなんですが…」と呟くとよく聞き覚えのある声が飛んできた。

 

「アリア~!私が担当するモガの村から来たトーヤさんって方はどなたですか??」

 

刀夜はその声を聞き頭を抱えたくなる。アリアノーラも口調が普段のものにかわったようだ。

 

「はぁ…。アイシャ、この人よ…」

 

アリアノーラが刀夜の方を見てアイシャの問に答える。

 

「あー!あなたは確か私を見て避けた人ですね~!でも大丈夫です。いいクエストを、ドドーンと紹介しますね!」

 

「アリアノーラ、もう変更はできないのか?」

 

「もう決定いたしましたので…」

 

変更できないのは薄々気づいていたので決定したことにどうこう言っても仕方ないだろうと刀夜は納得出来ないながらも渋々受け入れる。

 

「トーヤさん、エリスは元気にしていましたか?」

 

「あぁ、俺が出る時はあの村に馴染んでいたな」

 

そう言うと「あぁ~良かったぁ!」とアイシャが安心する。

 

「エリス、最後までモガの村に行くことを嫌がってたんですよ…。でも馴染んでいるなら本当に良かったです!」

 

「はいはい、エリスの話はまたするとして、今は仕事中でしょ?」

 

アリアノーラの言葉にアイシャはハッとする。

 

「そうでした!またエリスの話聞かせてください!ではでは現在受注できるクエストはこちらになります」

 

そう言われ刀夜はいくつかの依頼が乗った紙を見せられる。

 

(やはりハンターランク1は採取クエストが多いな…。今のランクで狩猟できる大型モンスターはドスジャギィだけか…。ん?このドスジャギィの依頼書だけ紙が赤い、どういう事だ?)

 

刀夜は疑問に思ったことをアイシャに尋ねる。

 

「何故この依頼書だけ紙が赤い?」

 

「えーっとですね、これはランクアップクエストと言ってこれをクリアすると1つランクアップできます!ランク1から2へ上がるにはこのドスジャギィを狩猟できれば上がれるって寸法ですね~」

 

「2から3に上がる時もランクアップクエストをクリアしたら上がれるのか?」

 

「そうなんですが、ハンターランクが2以降はこういった青い紙の依頼書があります」

 

そう言ってアイシャは刀夜に青の依頼書を見せる。

 

「これはキークエストと言ってランク毎にいくつかのキークエストがあります。これをぜーんぶクリアして初めてそのハンターランクのランクアップクエストに挑めるわけです!」

 

(用はキークエストを全てクリアし、その後ランクアップクエストをクリアすると次のハンターランクに上がれるわけか。まあゲームとさほど変わらないな)

 

「複数のクエストを同時にやることは可能か?」

 

「それはできません…。ですので1度につき1つの依頼しかできないためキークエストを一気に片付ける!という力技はできないんですね。それにキークエストもランクアップクエストも本当に生きるか死ぬかの厳しいものでハンターさんは中々次のランクには進めません…。その証拠にランク7のハンターさんは現在3人しかいないのです!」

 

刀夜は自分もいずれその位置に上がろうと思っていたが、予想以上に厳しいのだと少し驚いた。

 

「なのでランクが上がれば上がるほど、やはり周りから尊敬の眼差しを受けるわけですよ。ちなみにランク3でもう上級ハンターのレベルです」

 

「そんな感じなのか、まあ周りの目はなんでもいい。とりあえずこの依頼を頼む」

 

そう言って刀夜は通常の白い依頼書を渡す。

 

「ほいほい、ジャギィ15体の狩猟ですね!」

 

そう言ってアイシャが刀夜を見送ろうとすると刀夜は一つ尋ねたいことがあったと思い出す。

 

「…そうだ。アイシャ、フリーハントはどうやって依頼できる?」

 

「フリーハントですか?一応ネコタクチケットの納品という依頼があり、それを納品すると依頼完了ですがこの依頼を受けるハンターさんは滅多にいませんよ?」

 

「そんなことはいい、もしその依頼で大型モンスターと遭遇して討伐した場合はどうなる?」

 

「えっと…討伐したモンスターの一部を持ってきてもらえればオッケーです」

 

「そうか、ありがとう」

 

「いえいえ!ハンターさんを手助けするのが我々の仕事ですので!」

 

刀夜は知りたい情報が得られたので素直に礼を言うとアイシャは笑顔でそう述べる。

 

「俺は依頼を片付けてくる。場所は…セントラル草原か…」

 

(他の依頼の場所も見たがセントラル草原がほとんどだった。いよいよ俺の知らないフィールドが出てきたわけだ。ドスジャギィ討伐はフィールドに慣れてからにしよう)

 

「セントラル草原はあちらの竜車に乗って行ってもらいます!ギルド専属のアイルーがニャニャっと運んでくれますよ~」

 

「アイルーがいるのか。まあそろそろ行ってくる」

 

「お帰りをお待ちしています、ネバーギブアップ!」

 

 

 

 

 

 

 

結果から言うと、特に危なげなく依頼は終了した。セントラル草原はギルドから竜車で1時間ほどの場所にあり、その名の通り緑に恵まれた場所であった。緑が多いためアプトノスやケルビといった草食のモンスターが多数存在しており、ジャギィは少しベースキャンプから歩いた場所にいた。20匹ほどの群れで動いており、刀夜は見つけると真正面からそこに突っ込んだ。ゲームのハンターの動きを完璧にものにし、この世界でその技術をそのままアウトプットできる刀夜にとってジャギィなど取るに足らない相手であり、ものの数分で辺り一体は真っ赤に染まっていた。依頼完了後はこれからのクエストのためセントラル草原の地形を日が暮れるまで調査していた。草原というだけあってそれほど複雑な地形では無さそうなフィールドであった。

 

そして現在、刀夜はリエル王都に戻っておりギルド管轄のハンター専用の宿泊場所にいた。この宿泊場所はハンターなら誰でも無料で利用できるというもので、刀夜もクエスト依頼後この部屋に荷物を置いてからセントラル草原に出発していた。

 

「やはり…ジャギィでは物足りない、足りなさすぎる」

 

そう呟く刀夜は今日受けたジャギィ討伐の依頼を振り返る。

 

「あと2、3回依頼を受けてフィールドを把握したらドスジャギィ討伐クエストを受けるとするか…。あまりに後々にしているとまた黛に臆病だとバカにされそうだ」

 

そういうことで今後の方針が決定した刀夜は部屋の中にあるアイテムボックスでアイテム整理を行ったあと眠りについた。

 

 

 

そうして刀夜は後日結局2回依頼を受けたことでフィールドの特徴を大体理解し、今はドスジャギィ討伐依頼を受けるためギルドカウンターにいるアイシャと話していた。

 

「えっ?!もう赤依頼を受注するんですか?!流石にまだ早すぎる気もしますが…」

 

「大丈夫だ、問題ない。それよりも赤依頼とはなんだ?」

 

「えっと、赤依頼とはランクアップクエストの略称ですね。ちなみにキークエストは青依頼、通常クエストは白依頼とも言います。しかし…ドスジャギィはランク1のハンターの登竜門です…。大型モンスターの狩猟は一つ間違えると死に直結する危険なもの…もう少し経験を積んでからの方がいいと思うんですが…」

 

渋るアイシャに刀夜が「ドスジャギィ討伐経験がある」と思わず言いかけた時、隣にいたアリアノーラがアイシャに話しかける。

 

「ドスジャギィ討伐、彼なら恐らく大丈夫よ。受注させてあげて」

 

「本当…?アリアがそう言うなら…。トーヤさん、ちょっぴり心配ですが無事に帰ってきてくださいね?」

 

「あぁ、こんなとこで俺は死なない。あとアリアノーラ、助かった」

 

そう言って[ドスジャギィの討伐]と書かれた赤の依頼書をアイシャに渡し、刀夜はギルドを出発した。

 

「アリア、本当に大丈夫なの??ぜーったい早すぎると思うけど…」

 

「普通ならね。でも、彼なら大丈夫。というか、遅すぎるくらいかもね…。まあ、今後彼が受けたいと言う依頼は渋らず承認してあげて」

 

「ふーむ…何かわけアリと見た!そう言うならりょーかいです!さて、お仕事お仕事っと」

 

そう言ってアイシャは自分の仕事へ戻る。

アリアノーラは刀夜がドスジャギィ討伐クエストを受けるということでギルドマスターであるグライスに報告をするため、奥の部屋へと向かう。

 

(「彼が赤依頼を受ける時は俺に報告してくれ。まだ先のことだとは思うが、よろしく頼む」って言われたから報告しに行くけど、グライスさんと言えどまさかこんなにも早くなるとは夢にも思っていなかったでしょうね…)

 

そうしてアリアノーラはグライスに刀夜がドスジャギィ討伐依頼を受けたことを伝える。グライスはその早さにやはり驚いたようであったが、すぐに行動を始めアリアノーラにギルド調査隊を出すようにと伝える。その際にグライスが何をしようとしているかアリアノーラは気づき、更に調査隊のメンバーを知り部屋を出たあと盛大にため息をつく。

 

「はぁ…。グライスさんも大胆なことを…。彼が依頼完了後にセントラル草原にギルド調査隊を派遣するなんて…。しかもこの調査隊のメンバー…。それだけ彼の実力を把握しておきたいってことね」

 

ハンターの実力は大型モンスターの死体の傷跡を見ればおおよそ予測がつくと言われている。どこに攻撃したか、傷はどれだけ深いかなど判断基準は多種多様にあるためだ。グライスはドスジャギィの死体を調査隊に調べさせ、刀夜の実力を測ろうとしているのだと思った。

 

「グライスさんも大変ね。私もこの文書を調査隊に届けないと。これから忙しくなりそうね…」

 

そう呟くアリアノーラは今回派遣されるメンバーに仕事内容を伝えに向かうのであった。




次回、刀夜とドスジャギィ戦います。

また次話で会いましょう。


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第19話 赤依頼[ドスジャギィの討伐]

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

さて、久々の大型モンスター討伐です。刀夜はどのように戦っていくのでしょうか。

それでは第19話、張り切っていきましょう。


赤依頼である[ドスジャギィの討伐]を受けた刀夜はセントラル草原にいた。一度倒したことのあるドスジャギィとはいえ刀夜に油断という文字はない。アイテムポーチにはカーディナル孤島で採取したものを調合して作った様々なアイテムが入っており、準備は万端であった。

そんな刀夜だが、現在肝心のドスジャギィが中々見つからずにいた。

 

「とりあえず、前にジャギィの群れがいたところまで来てみたが…姿も見かけないとはな。すぐに見つかると思っていたんだが…」

 

ドスジャギィは大型モンスターであり、鳴き声も大きいことから見つけるのは容易いと刀夜は考えていた。しかしそれに反して中々ドスジャギィが見つからない。

 

「やはり、奴の巣に行くしかないか」

 

実は刀夜は前回の依頼でセントラル草原に来た際にドスジャギィの巣と思わしき場所を見つけていた。そこには少なくない動物の白い骨が地面に転がっており、更にはジャギィやジャギィノスが多く存在したのだ。

その時、ジャギィ達は自分たちの巣に侵入してきた刀夜を敵とみなし襲いかかったが、逆に刀夜が1匹残らず殲滅したというのはまた別の話である。

 

「あそこにいなければ、もう宛がないな」

 

そうして歩くこと数分、巣に着いた刀夜の心配は杞憂に終わる。

視線の先には薄紫色の表皮をまとう大きな個体が寝息を立てていた。

 

(やはりここにいたか…。前に戦ったドスジャギィより大きい個体か?しかし、まさか睡眠中とはな…。道理でほかの場所で遭遇しないわけだ)

 

睡眠中のドスジャギィの周りには頭を高くしてキョロキョロしているジャギィが複数いる。恐らく見張りであろう。見張りの仕草をしているジャギィ以外にも多くのジャギィやジャギィノスがいる。

 

(見張りの奴らを合わせ雑魚が20体ほどか…問題ない。むしろ奇襲をかけられるとは運がいいな。…さて、負けることはないだろうが油断せず行こう)

 

そうして刀夜は背中の黛に手をかけ、ドスジャギィに向かって走り出す。突如出現した刀夜にジャギィ達は戸惑いながらも襲撃を知らせる鳴き声を発する。その声でドスジャギィはゆっくりと目を覚ますが、その瞬間にドスジャギィに激痛が走る。刀夜の抜刀攻撃が命中したのだ。刀夜はすかさず追撃を加えようと試みるが、周りにいたジャギィやジャギィノス達が刀夜の前に立ちはだかり、追撃はそちらに加わる。攻撃を受けたものは絶命したが、ドスジャギィはその時間で態勢を立て直し、攻撃態勢に移る。刀夜は内心舌打ちする。

 

(ちっ…こいつらボスを守ろうとしているのか。おかげで初撃しか与えられなかった。少し面倒だが、ドスジャギィよりも先に周りのヤツらから片付けるか…)

 

作戦変更した刀夜はドスジャギィの攻撃をかわしつつ、周りのジャギィやジャギィノスに次々と斬りかかる。そして刀夜の攻撃によりジャギィやジャギィノスの鮮血が吹き出し、それを吸い取るように黛の練気が溜まっていく。

 

(そろそろか…)

 

ちょうど10体目を倒した直後、黛の刀身が発光し始める。練気が溜まったのだ。ドスジャギィは半分ほどになった自分の味方を増やすため上体を上げて「アッアッオーウ!!」と大きな鳴き声を発して味方を呼び寄せる。すると大量にジャギィやジャギィノスが現れ、その数は相当なものになった。

 

(目算で30体…。こいつ、巣にいる見方全部を呼び寄せやがったな)

 

ドスジャギィは普段3~5体ほどしか呼び寄せない。しかし、今回の戦闘場所は自分の巣であり、加えて敵は凄まじいスピードで味方を斬り殺していくのだ。ドスジャギィも生きるためにそれだけ必死なのである。

 

(だが、数が増えたところで俺には関係ない。黛の練気も溜まった。ここから一気に決めさせてもらう)

 

そうして刀夜は急にドスジャギィ達に背を向け、退路のない岩壁のコーナーへと走る。ドスジャギィ達がそれを見逃すはずもなく、刀夜を囲んであたかもドスジャギィ達が刀夜を追い込んだような図になる。そうしてドスジャギィ達が刀夜に一斉に攻撃を加えようとしたその時であった。

 

「お前ら、何勝った気でいるんだ?……俺がここに来たのは、お前ら全員まとめて、斬るためだ…」

 

そう言って刀夜は次々と向かってきたジャギィやジャギィノスに気刃斬りを繰り出す。それも1度ではなく3度。刀夜に真正面から突っ込んだ大量のジャギィやジャギィノスが避けられるはずもなく、かと言ってその凄まじい斬れ味にジャギィ達が耐えられるはずもなく、5~6体ほどが絶命する。

そして刀夜の攻撃はまだ終わらない。

 

「残った雑魚ども…まだこれで終わりじゃないからな…」

 

そう言って刀夜は黛で強力な気刃大回転斬りを繰り出した。気刃大回転斬りは攻撃力もさる事ながら、その攻撃範囲もかなり広い。これ程広範囲に攻撃できるのは近接武器すべてにおいて見てもこの技のみであろう。

そうして気刃大回転斬りはジャギィやジャギィノス達の生命力を容赦なく奪っていく。気刃斬りからの気刃大回転斬りのコンボは凶悪である。攻撃範囲、威力共に申し分なく、更に気刃大回転斬り後には黛の攻撃力も上昇するのだ。刀夜の猛攻が続き、遂にはその場に立っているのは刀夜とドスジャギィのみになった。

 

「残るは…お前だけだ」

 

そう言って刀夜は微笑する。刀夜の右手にある黛の刀身は、ジャギィ達の血によるものでもあるが、それに加え、黛自身の発光により真っ赤に染まっている。ドスジャギィは自分の部下達を殺された怒りからか、先程とは別物のスピードで体当たりをしてくる。

 

「スピードは中々のものだが、当たらなければ意味は無い」

 

そう言って刀夜は回避行動を取らず、横移動斬りにより、ドスジャギィの攻撃を避けると同時にうまく攻撃を加える。

ドスジャギィは刀夜に命中しなかった体当たりの勢いで一瞬体の自由が効かなくなる。そしてその一瞬を刀夜は見逃さない。

真っ赤に発光した黛の柄を両手で握り、ドスジャギィの頭部に強烈な気刃斬りを加える。するとドスジャギィはあまりの痛みに体を仰け反らせつつ後ずさる。よく見るとドスジャギィの頭部にあるエリマキが所々破れている。頭部破壊だ。

 

(部位破壊か、今が絶好のチャンスだなっ!)

 

刀夜は怯んだドスジャギィに更に気刃斬りを加え攻撃の手を休めない。そこから戦いは一方的になった。刀夜の猛攻はドスジャギィに攻撃のターンを与えず、どんどん体力を削っていく。そうして数分後。

 

「これで終わりだ」

 

刀夜が気刃大回転斬りをして黛を背中に直したところで「キャオッ…」という声が聞こえ、ドスジャギィはピクリともしなくなった。

 

「赤依頼、ドスジャギィの討伐、完了」

 

その声で、戦いは終わりを迎えた。

 

「…返り血でベトベトだな。早く帰って風呂に入ろう」

 

そう言って刀夜はドスジャギィの剥ぎ取りを行った後、ベースキャンプの方向へと歩み出すのであった。

ドスジャギィの巣であった場所は、今や斬殺された死体で溢れかえっており、まさに血の海となり果てていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

刀夜がドスジャギィを討伐して数時間、セントラル草原は夕暮れを迎え、辺りは燈色に染まっていた。

そして、そのセントラル草原にはドスジャギィの巣であった場所の方へと向かう4人のギルド調査隊の姿が見られる。

 

「ギルドマスター直々の依頼と聞いて何事かと思ったが、ドスジャギィの巣の調査…。俺らが向かう必要があるのか?」

 

「だよなローウェン。この前もカーディナル孤島の調査をさせられたばっかなのに…。俺、有休希望!」

 

「プロント、文句ばっかり言わないの!これも仕事なんだから」

 

「んな事言ったってよ…。でも、カーディナル孤島の調査は面白かったよなぁ。確かあの時もドスジャギィだったよな?」

 

「そうだね…。あれは本当に凄かった…」

 

今回派遣されたメンバーは前回、カーディナル孤島に派遣されたメンバーと同じである。大剣のエルザ、ハンマーのローウェン、ライトボウガンのプロント、狩猟笛のルーナ、4人が4人とも、その時の衝撃はまだ残っている。

 

「確かに凄まじかったな。だが、その人物は未だ謎のままだ。エルザが妹に頼み込んでまで探っているが収穫なしとはな…」

 

ローウェンがそう呟くとプロントが反応する。

 

「え?!エルザさんの妹さんにも手伝って貰ってるんですか?!確か、エリスさん、でしたっけ?」

 

「プロント、この話前にしたよ…。話聞いてなさすぎ…」

 

やれやれという感じでルーナが呟く。

そして、エルザも口を開く。

 

「私もここまで情報が得られないと思っていなかった。カーディナル孤島にある人間の生活区域はモガの村だけだ。そこに例の剣士がいると踏んでいたんだが…。エリスによるとそこにいたハンターは2人、1人はランク2になったばかりの新人ハンターらしい」

 

「ランク2ってことは、そいつが例の剣士じゃないんですか?ドスジャギィ討伐をしたはずでしょうし」

 

プロントがエルザに最もな質問をする。

 

「…プロントがまともだ」

 

「プロント今日どうしたの?」

 

「だから俺の扱い酷すぎるって…」

 

そうして項垂れるプロントを気にせず、エルザは答える。

 

「いや、その新人ハンターは片手剣の使い手らしい」

 

その答えに3人は納得し、今度はローウェンが口を開く。

 

「あれは太刀による傷跡だもんな。では、もう一人のハンターはどうなんだ?」

 

「いや、そちらはもっとありえない。何しろ、仮登録のハンターらしくてな。ちなみにその仮登録のハンターは本登録をするためにリエル王都にいるそうだ」

 

「なるほどな。仮登録のハンターがあれほどの傷跡を残したとは思えないな」

 

「そういう事だ。今もエリスに探ってもらっているが、手がかりは掴めていないのが現状だ」

 

「迷宮入りってことですか…。中々難しいですね…」

 

「ルーナの言う通りだが、前にも言ったようにあれほどの実力者だ。いずれ頭角を表すだろうな」

 

ローウェンがルーナにそう言う。

そんな話をしていると、プロントが急に真剣な表情になる。

 

「お喋りタイムはここまでみたいだ…。この先から血の匂いがする…。それも、1匹2匹の血の量じゃねぇ…。半端ねぇ量だ」

 

プロントは視覚と嗅覚が優れており、それを活かして危険を察知するのが

大変得意であった。普段は4人の中でいじられ役であるが、こういう場合には絶対の信頼を置かれている。

 

「みんな、気を抜くな。行くぞ」

 

エルザがそう言うと3人は頷いて、ドスジャギィの巣へと向かうのであった。

 

 




如何でしたでしょうか?
何か感想等あればよろしくお願いします。

次回はギルド調査隊の視点から始まります。
それではまた次話で会いましょう。


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第20話 討伐後の様々な動き

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

今回は刀夜のドスジャギィ討伐について、様々な視点から描いております。

それでは第20話、張り切っていきましょう。


「っ!!なんだこれは…」

 

エルザが驚きのあまり本音を漏らす。他の3人も目の前に広がる後継に唖然としている。

 

「え、えげつねぇ…。自然災害レベルの惨劇だな…」

 

「な、何体いるんでしょう…」

 

プロントとルーナがポツリと呟く。

 

「パッと見たところ、30…いや、40体程だな…。それにジャギィやジャギィノスだけじゃない。ドスジャギィの死体もあるぞ…」

 

ルーナの疑問にローウェンが答え、そのまま続ける。

 

「死後3時間というところか…。エルザ、調査対象の人物は確か、今日[ドスジャギィの討伐]を受注したんだよな…?」

 

「あぁ…そのように聞いている。恐らく、あれはそのランク1のハンターが討伐したドスジャギィだろう…」

 

エルザのその答えにプロントが声を荒らげる。

 

「っ!!そんなのありえない!上級ハンターでもそんな短時間では無理だ!ドスジャギィに加え、こんな数のジャギィやジャギィノス、ましてやランク1のハンターが…ありえないだろ…」

 

興奮気味のプロントをルーナがなだめるように話しかける。

 

「落ち着いてプロント…。ですが、私も信じられません…。他の上級ハンターが通りかかったということはないんですか?」

 

「それはない…。今日セントラル草原での依頼を受注したのは全てランク1か2のハンターだったらしい。ましてドスジャギィの討伐を受注したのは1人だけだったそうだ…」

 

「嘘だろ…」

 

プロントが驚愕でその場に固まる。

 

「恐らく、性能の良い高級な防具を身につけていたんだろう…。これ程の数だ、無傷では倒せまい…。防御力が高ければジャギィやジャギィノスの攻撃であれば防げる。そのままゴリ押したってとこだろう…。その新人ハンターが貴族であるとしたらありえる話だ……っ!!」

 

ローウェンがそう話しつつ、ドスジャギィの死体に近づき、その傷跡を見たところでその表情は、更に驚愕の表情で染まる。

 

「エルザ、プロント、ルーナ!!これを見ろ!」

 

ローウェンのその声で3人はドスジャギィの死体へと駆け寄る。その傷跡を見て、驚きのあまり、3人は心中にこみ上がる感情を表現出来ないでいる。

しかし、プロントとルーナが「マジかよ…」、「信じられません…」と声をあげる中、エルザはどこか嬉しそうに微笑んでいるようにも見えた。

 

「やっと…見つけた」

 

「あぁ…。他のジャギィやジャギィノスの傷も同じだ。この斬り傷、間違いない。俺たちが探していたカーディナル孤島のやつと同じだ。だが…太刀筋は恐らく同じだろうが、今回のものはあの時よりも深い…」

 

「っ!ほ、本当ですね…。前よりも、強くなっているんですか…」

 

エルザは所持していた資料を腰につけたアイテムポーチから取り出し、受注者の名前を確認する。

 

「この人物がカーディナル孤島での、そして今回のクエスト受注者なのか…」

 

エルザの手にある資料には、クエスト受注者の欄に<キリサメ トーヤ>という文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ、暗くなってきた頃、刀夜は依頼完了の報告も終え、現在ハンター専用の宿泊場所にいた。

返り血で全身真っ赤に染まったまま、依頼完了の報告をアイシャにするためにギルドへ行ったところ、「トーヤさん、大丈夫ですか?!というか、どんだけ赤いんですか!リオレウスもびっくりです!」と意味不明なツッコミが飛んできた。

そうして、それがドスジャギィらの血であることを説明し、ドスジャギィの皮を渡して無事討伐したことも伝えると「え…まだ一日も経ってないですよ…。そんなに早く終わっちゃったんですか…?」と驚かれた。刀夜にとって、この世界でのモンスター狩猟時間の基準など知ったことではなかった。前世では50分という短い時間で狩猟しなければならなかったのだ。

 

(まあ、あんなモンスター達をたった50分で狩猟しようというハンターが化け物なだけか…)

 

この世でドスジャギィをものの数分で討伐した、自分はどうなるのかは考えないことにした。

そんなこんなで刀夜は無事、ハンターランク2へと昇格した。

刀夜は宿舎で明日以降のことを考える。

 

「明日からランク2の依頼を受けられる訳か。早いところ上のランクに上がって受けられる依頼を増やしたいところだな…」

 

そう呟く刀夜の手には、ハンターランク2の証である黄色のプレートが握られている。

 

「ランク2からはキークエストもあると言っていた…。どうやって攻略していこうか…。ククク、やはり、クエストは楽しいな」

 

刀夜はそう言って微笑する。今後どのような依頼があり、どのようにモンスターと戦っていくのか、それを考えただけで心が踊る。

 

「明日はジャギィシリーズも作っておきたい。アイシャに聞いて武具屋に行かないとな…。ククク、自分で集めた素材で武具を作る、モンハンの醍醐味だな」

 

明日のことを考え、寝床につく刀夜であった。

 

 

 

 

 

時は遡り、刀夜の依頼完了報告を受けたアイシャがアリアノーラにその件を伝えようとしている。今日アリアノーラは受付嬢ではなく、別室で書類に埋もれ、その処理で身を粉にしていた。

 

「はぁ…量多すぎ…。これなら受付でハンターの相手してる方がマシだわ…」

 

アリアノーラの容姿は整っている。ハンターの中には野蛮な輩も当然いる訳で、毎日のようにアリアノーラはそういったハンターに口説かれていた。勿論アリアノーラはいつもの仕事対応で上手くかわしているが。

 

「あぁー!終わらない!もう嫌だぁー!」

 

そう言って、仕事を放棄しようか考えた時、扉がガチャと鳴って開く。

 

「アリア~!トーヤさんが帰ってきたよ~!すごく早いよね、リオレウスといい勝負!」

 

自分のことをアリアと呼ぶ人物は限られている。その中で、このようなキャラの濃い人物は1人しか思い浮かばない。

 

「はぁ…アイシャ、相変わらずだね…。急にどしたの?」

 

アリアノーラは疲れた様子でアイシャに問いかける。

 

「だから、トーヤさんが帰ってきたんだって!」

 

「あー、そういうこと…。彼、あの殺気からして実力あると思ったんだけど…。まだドスジャギィは早かったかな」

 

どこか残念な様子でアリアノーラは呟く。ランク1のハンターが初めてドスジャギィの討伐をする際、丸1日かかるのが当たり前である。こんなに早く帰ってきたのは、ドスジャギィに敗北したからであろうとアリアノーラは自分の中で結論づけた。しかし、次のアイシャの言葉で、その結論が早くも間違いであることがら証明される。

 

「一体どうやってあんなに早くドスジャギィを討伐したんだろう…」

 

「っ?!アイシャ、今…なんて言った…?」

 

「ん?だからどうやってあんなに早くドスジャギィを討伐したのかなって」

 

「えっ?!待って待って、彼ドスジャギィを討伐してきたの?!こんな短時間で?!まだ半日も経ってないじゃない!」

 

「アリア、ちょっと落ち着いて…。私も驚いたけど、これが証拠」

 

そう言ってアイシャは刀夜から渡されたドスジャギィの皮をアリアノーラに見せる。それを見たアリアノーラは更に驚愕の表情に染まる。

 

(間違いない…ドスジャギィの皮だ…。でも、信じられない…。この状況に頭がついていかないわ…)

 

アリアノーラは混乱している。

 

「アイシャ、彼が誰かから素材をもらって、それをあなたに見せたってことはない?」

 

依頼関係での素材やアイテムの受け渡しは重罪である。なによりハンターの間では、その行為は他のハンターを侮辱する最低最悪の行為とみなされている。そのため今まで素材やアイテムの受け渡しが行われた例はなかった。そんな行為を疑うほどまでにアリアノーラにとっては信じ難いことであったのだ。

 

「……それは絶対ないよ。トーヤさん、ギルドに入ってきた時ドスジャギィやジャギィ、ジャギィノスの返り血でリオレウスみたいに全身真っ赤だったし、なにより素材嬢度はハンターさんの間では最悪の行為。アリア、それを疑うのはトーヤさんに失礼、いや、侮辱に値するからね?」

 

真剣にそう述べるアイシャにアリアノーラは冷静になる。

 

「そ、そうよね…。ごめん、少し冷静じゃなかったわ…」

 

アリアノーラがそう謝るとアイシャは表情を緩める。

 

「分かってくれたらいいよ。でも、私もあの早さには驚いたよ…」

 

アイシャの普段の濃いキャラは素であるが、いざという時ほどしっかりしている。前世で多くのMHプレイヤーに好感を持たれた要因として、この部分が大きいだろう。

冷静になったアリアノーラはようやく状況を飲み込めるようになってきた。

 

(グライスさんが「トーヤが出発して半日ほどしてから調査隊を出すように」と言っていたけど、あれでさえ早いと思ってたのに…。それを上回ってくるなんてね…。彼の実力、本物みたいね…)

 

そしてアリアノーラは刀夜が帰ってきたことで優先すべき仕事が出来たことを思い出す。

 

「よし!そういう事なら私、やることが出来たから!アイシャ、悪いけどこの処理頼むね!」

 

そう言ってアリアノーラは部屋から出て、このギルドの2階にある、調査隊が仕事をする部屋へと向かう。

部屋を出る際後ろから「アリア、マジですか…」という声が聞こえたが、アイシャには後でご飯を奢ることで許してもらおうと考えるのであった。




如何でしたでしょうか?

ギルドの建物の構造を説明し忘れていたのでこの場で説明しておこうと思います。

1階→クエストカウンター、その奥に色々な部屋が諸々あります(ちなみにギルドマスターの部屋はこちらではありません)
2階→ギルド調査隊の仕事部屋
3階→ギルドナイトの仕事部屋
4階→会議室
5階→ギルドマスターの部屋

こんな感じです。頭に入れておくとイメージしやすいかもしれません。

では、また次話で会いましょう。


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第21話 武具屋

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

この小説に関して、こうした方がいい、ここが良かった等ございましたら、感想よろしくお願いします。

では第21話、張り切っていきましょう。


「武具屋はどこにある?」

 

早朝、刀夜はギルドで、アリアノーラに武具屋の場所を聞いていた。

アイシャはというと、今日はギルドで働いていないらしい。昨日アリアノーラに押し付けられた仕事で夜遅くまで働いていたらしく、今日は臨時休暇を貰ったそうだ。

 

「武具屋ならここを出て右手に行っていただき、一つ目の角の所にあります。ですが、こんなに朝早くから行っても、武具屋は空いていませんよ?」

 

アリアノーラの言葉には、どこか棘があるような気がした。彼女の目元には若干クマができている。実は彼女も別件で、遅くまで働いていたのだが、そんなことは刀夜の知ったことではない。気にせず刀夜は続ける。

 

「そうか…まあ場所の確認だけしたかった。空いてなくてもいい。それと、アイテムを買えるような施設はないのか?」

 

刀夜は今まで、カーディナル孤島で採取したアイテムを手に狩猟していた。薬草とアオキノコを調合して作った回復薬が代表的だが、そもそも、刀夜はこれまでモンスターの攻撃を受けていないので、使う機会はなかったが…。

それでもこれからの狩猟では必要になってくるであろうものである。今まで通り、調合して、すべてのアイテムを賄う、というのは些か難しいと感じたのだ。

 

「そう言えば、トーヤさんはリエル王都、初めてだったんですね。なら、ハンターがよく利用する施設の場所を示した地図をお渡ししておきます」

 

「どうぞ」と、アリアノーラに渡された地図を受け取る。

 

「これは助かる」

 

地図を見ると、そこにはギルド、武具屋、雑貨屋、それに闘技場といった場所が記されていた。

 

「俺の用はそれだけだ。それじゃあな」

 

そう言って、刀夜は自分の用が済んだので、ギルドカウンターから離れようとした時である。

 

「ちょ、ちょっと待って!1つ、お聞きしてもよろしいでしょうか…?」

 

アリアノーラの口調が変わった。刀夜は地図を受け取った礼もあり、話を聞くことにする。

 

「なんだ?」

 

「……ドスジャギィ、本当に昨日、討伐されたんですか…?」

 

「当たり前だろ」と刀夜は内心で思いつつ、意味不明な質問をするアリアノーラに返答する。

 

「質問の意味がよく分からないが、俺が昨日討伐した。何ならドスジャギィの素材を見せようか?」

 

そう言って、アイテムポーチに入っていた、ドスジャギィの爪をアリアノーラに見せる。

 

「ありがとうございます…。申し訳ありません」

 

アリアノーラは、刀夜を疑ったことに対して謝ったのだが、当の本人は謝られたことに疑問の様子である。

 

「何に謝っているのかは知らんが…聞きたいことはそれだけか?」

 

「あと一つだけ…。こちらは質問ではありません。トーヤさん、あなたに会いたいとおっしゃっている方達がいるそうです」

 

「断る」

 

即答である。面倒事に違いないと思ったからだ。

あまりの早さにアリアノーラは唖然とするが、彼女は彼女でここでは引き下がれず、言葉を続ける。

 

「と、とりあえず、話を聞いていただけませんか?トーヤさんにとっても良い機会だと思います」

 

自分に利点がある、その言葉で刀夜はとりあえず話を聞くことにする。

刀夜が無言になったことで、話は聞いてくれるだろうと思ったアリアノーラは口を開く。

 

「その方達はハンターランク5のハンターでありながら、ギルドの調査隊としても活動しています。"豪炎"のエルザ、"衝撃"のローウェン、"必中"のプロント、"吹弾''のルーナ、ご存知ありませんか?」

 

「残念ながらご存知ないな。生憎、そういう知識に関しては疎いんでな」

 

恐らく有名なハンターなのだろうが、刀夜は他のハンター事情など、気にしたことがなかった。

 

「そうですか…かなり有名な方達なのですが…。まあ、それは置いといて、その方達があなたに会いたいと仰っているのです。トーヤさんにとっても有益な情報を得られるかもしれませんよ?」

 

有益な情報、その一言で刀夜の心は揺れ動く。

 

(それは、ぜひとも聞いておきたい…。ランク5のハンターか、確かに多くの情報を持っていそうだ…。特に面倒事を押し付けられた訳でもないしな。会うだけ会っとくか)

 

「会うだけなんだな?面倒事とかはごめんだぞ」

 

「はい。会いたい、その一言だけお聞きしております。了承していただけますか?」

 

「それだけならいいだろう」

 

そう言って刀夜は了承する。

 

「分かりました。では、夕方このギルドへとお越し下さい。……話している内に時間も経ちましたね。私からの要件は以上となります。トーヤさん、ありがとうございました」

 

「面倒事が無ければそれでいい」

 

「心に留めておきます。そろそろ武具屋も空いているでしょう。行ってらっしゃいませ」

 

そう言ってアリアノーラは刀夜を見送る。刀夜は素材を持って武具屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

ギルドでのアリアノーラとのやり取りを終え、刀夜は現在、武具屋の前に来ていた。店からは微かに鉄の匂いが漂っており、カンカン、という音が聞こえる。恐らく、もう店は空いているのだろう。

刀夜は扉を開ける。中に入ると店の壁には沢山の防具や武器が並んでいた。どれもゲームで見たことがあり、序盤で使うような物ばかりであった。それだけで刀夜の心は弾んだが、今回来たのは、これらを買うためではない。刀夜は店の奥にあるカウンターへと向かう。

カウンターには誰もおらず、奥からはカンカンという音が聞こえる。奥で仕事をしているのだろうと思った刀夜は、口を開く。

 

「誰かいるか?防具の生産を頼みたいんだが」

 

すると奥から、油で顔を汚した大男が現れる。身長は、2mにも達するほどであろう。身につけていた軍手とゴーグルを取り、大男は口を開く。

 

「いらっしゃい。こんな時間にハンターが来るなんて珍しいな。まあ、それはいい。防具の生産だったか?」

 

「あぁ、ジャギィシリーズを作って欲しい。素材、これで足りるか?」

 

刀夜は大男に、ゲームにおいて、ジャギィシリーズを作るために必要な分の素材を渡す。

 

「おぉ、足りるとも。ピッタリだ」

 

刀夜は「やはりそうか…」と呟く。

 

(この前のハンターシリーズもそうだったが、ゲームと必要な素材は同じなのか。今後も意識しておこう)

 

そうして刀夜はこの世界のお金、ゼニーも渡す。お金に関しては、依頼報酬で幾らか貰ったので、しっかり支払うことができた。

 

「では、これで頼む。いつ頃できそうだ?」

 

「明日には出来てるぜ。毎度あり」

 

刀夜は一瞬、黛についても強化できるか聞いてみようと思ったが、なんと言っても、周りの反応から判断する限り、一般的に知られていない武器のようだ。それに、アルバトリオンの素材を使った武器を見せるのは、あまり良くない気がしたのでやめておいた。

そうして刀夜が武具屋を後にしようとして、大男に背を向けた時である。大男は刀夜の背中にある、黛がたまたま目に入ったのだ。それを見て、大男は声を上げる。

 

「ちょっと待て!その背中にある武器、見せてくれねぇか?」

 

刀夜はピクっとして立ち止まる。

 

「…急にどうした?」

 

「いや、俺は長年この武具屋をやっているが、そんな武器は見たことなくてな…。どういう武器か、気になったんだ。少しだけ、見せてくれねぇか…?」

 

刀夜は悩む素振りを見せる。見せて欲しい、と言われて刀夜は、大男に面と向かって断る理由を持ち合わせてはいない。「アルバトリオンの素材を元にした武器です」とは口が裂けても言えないからだ。かと言って、黛は意志を持った太刀であり、それを扱うには、それ相応の覚悟が必要であるとのことだ。手に持たせるのはまずい気がした。

 

「見せるだけならいい…。が、触らせることは出来ない。それが条件だ」

 

「あぁ、十分だ」

 

大男の返答を聞き、刀夜は背中の黛を引き抜く。すると同時に、漆黒の刀身が顕になる。

 

「これで満足か?」

 

黛を見て、大男は驚愕で目を丸くする。

 

「っ!!お前…そいつぁ相当な業物だろ…?」

 

「…見ただけで分かるのか?」

 

刀夜は人目見て、黛を業物と言い当てる大男を感心している。

 

「長年武具屋をやってきたんだ、それくらいはどうってことないさ…。それにしても、それ程の物は今まで見たことがない…。ジャギィシリーズを欲しがるようなハンターが、何故そんな業物を持っているかは知らんが…大切にしろよ」

 

「あぁ…こいつは、俺の愛刀だからな」

 

そう言って刀夜は黛を背中に直す。余計な詮索はしてこないようで、刀夜にとってはありがたかった。

 

「お前、名前は?」

 

大男に名前を教える義理はなかったが、この大男なら教えても悪い気はしなかった。

 

「…トーヤだ」

 

姓を言うと、また東洋の下りがありそうだったため、名前だけを伝える。

 

「トーヤか、覚えておこう。俺の名はアイアンだ。武具に関しては任せておけ。生産、強化をしたい時はここに来るといい」

 

「よろしくな」とアイアンが言うと、刀夜は軽く頷いて武具屋を後にするのであった。

 

 

刀夜は武具屋を出てから、今まであまり見れていなかったリエル王都をぶらぶらとしていた。

アリアノーラからもらった、地図を手元に様々な施設を見て回る。

施設を見終わると、昼ごはんを食べ、今度は宛もなくリエル王都内を歩く。

前世において、自由に外を見て回る、という経験がなかった刀夜にとって、リエル王都の散歩は新鮮そのものであった。

 

「自由、か…。案外暇なもんだな。だが、心が落ち着く…」

 

青空の下で独り、笑い声や雑談、店の呼び込みなどでザワザワとしている、中世風の街並みを歩く。

傍から見れば、孤独なようにも見える。だが、今はその孤独が刀夜にとって、心地よかった。

何も気負うことなく、何にも怯えることなく、ただひたすらに暇を持て余す。そんな時間は刀夜にとって、かけがえのないものであるように思えた。

 

「モンスターの狩猟中も楽しいが、これはこれで、また違った楽しみがある…。前世では考えられないような生活だな…。本当に、転生できて良かった…」

 

そんなことを呟きつつ、ただただ刀夜は歩く。

そうしている内に、あっという間に時間は過ぎ去っていき、そろそろギルドに向かわなければならない時間になろうとしていた。

 

「さて、そろそろギルドに向かうか。ランク5のハンターか…。どんな情報が得られるだろうか…。ククク…楽しみだ」

 

小さな自由を存分に楽しんだ刀夜は、ギルドへと向かうのであった。




如何でしたでしょうか?
今回は少しほっこりとした感じも入れてみました。

それでは、また次話で会いましょう。


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第22話 対面

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。

今回、長くなってしまったので2話に分けました。

それでは第22話、張り切っていきましょう。


「おい、まだ来ないのか?」

 

「仕事で少し遅れるとの連絡は頂きましたが…私もそれしか知らないもので…。申し訳ございません…。もう少しだけ、お待ちください…」

 

外は夕方、ではなく、太陽が沈みまもなく夜を迎えようとしていた。

現在、刀夜はギルドカウンターにて、アリアノーラを問い詰めている。問い詰めている内容は勿論、刀夜に会いたいと言ってきた4人が、いまだ現れていないことであった。

自分が会いたい、と言ったならまだしも、向こうが望んで刀夜をギルドに呼び寄せたのだ。それで約束の時間に遅れてくるというのは、刀夜にとっても不愉快極まりないものであった。

そうして待つこと1時間ほど、今までなんとかアリアノーラが刀夜を引き止めていたが、刀夜は明日の朝が早いこともあり、帰ることにした。

 

「悪いが明日も早いんでな。これ以上は待てない。帰らせてもらう」

 

「ちょ、ちょっと待って!もう来るから、だからもうちょっとだけ!」

 

口調が普段のものになっていることなど気にもせず、アリアノーラは刀夜を必死で引き止めようとする。

だか、そんなアリアノーラを意にも介さず、刀夜が出口へと歩を進めようとした、その時であった。

「ギィ…」と扉が開き、外からギルドの中に4人が入ってくる。丸テーブルで酒を飲んだり、雑談をしていたハンター達はその4人を見て驚きの声を上げる。

 

「おい!あれ、"豪炎"のパーティーじゃねぇか?!」

 

「マジかよ…。''必中''に''吹弾"、''衝撃''までいるのか…。最近見ないから死んだとまで俺は聞いていたが…」

 

「バカやろう!ランク5だぞ?全員リオレイアをソロで倒す、化け物みたいな実力持ってんだ、そう簡単に死ぬかよ!」

 

「"豪炎"の背中にある大剣…。あれ、炎剣リオレウスか?それに、他の3人の装備もよく見るとえげつない…。あれ全部本物かよ…」

 

4人を見て、ギルド内はザワザワし始める。

そんな中、刀夜はというと、1人静かに思考を巡らせていた。

 

(あれが俺に会いたいと言ってきた奴らか…。4人が4人とも、俺の見たことがある武器だな。ただ、どれもゲームでは、下位の素材で強化できるものばかりだ。この世界にはG級はさておき、下位と上位の区別もないということか?それとも…)

 

MHをプレイしたことがある人にとっては周知の事実であろうが、ゲームにおいては、ハンターランクによって下から順に、下位、上位、そしてゲームによっては更に、G級に分けられる。

ゲームでは、下位クエストと上位クエストで、狩猟するモンスターの種類はさほど変わらない。下位クエストには下位クエストのリオレウス、上位クエストには上位クエストのリオレウスがいる、といった感じである。

しかし、下位と上位のクエストでは難易度がまるで違う。下位と上位では、そのモンスターの強さが段違いなのだ。

その代わり、上位のモンスターからは希少で高価な素材が入手でき、武具を更に強化できるようになる。武具の幅が広がるのだ。

そんな下位と上位の違いであるが、この世界にはその区別がないのだろうか、と刀夜は疑問に思う。しかし、答えがすぐに出るとは思わなかったため、そこでその思考を打ち切り、別のことを考える。

 

(にしても、ランク5で下位の装備なのか…。益々黛の事は、人前では話せなくなったな)

 

そんなことを考えていると、燃えるような赤い長髪の女性が、アリアノーラのカウンター前にいた刀夜に話しかける。

 

「お取り込み中すまない。こちらの受付嬢に少々急用があってな…。少し変わって頂けないだろうか?」

 

刀夜は急用、と言われおそらく自分のことだろうと思ったが、少々目立ちすぎる彼女らと、この場で話し合うのは気が引けた。そのため余計なことは言わないことにした。

 

「あぁ、大丈夫だ。今帰ろうとしてたところだからな。では俺はこれで失礼する」

 

そう言って立ち去ろうとした刀夜であったが、アリアノーラはそれを見逃してはくれなかった。

 

「トーヤさん、待ってください!」

 

トーヤ、と聞いて明らかに4人がピクリと反応する。口を開いたのはプロントであった。

 

「おいおい、トーヤってまさか…。アリアちゃん、このちんちくりんが、あのキリサメトーヤなのか?」

 

最近筋力がついてきたと言っても、元々引きこもりであった刀夜の体格は、お世辞にもがっちりしたものとは言えなかった。それに刀夜の身長は160cmほどであり、ルーナとあまり変わらないくらいであった。ちなみに、エルザの身長は170cm弱という高身長である。

 

「ちょっとプロント!失礼すぎ!」

 

ルーナがプロントの発言に非難の声を上げる。

刀夜はというと、前世で自分に対する罵詈雑言には慣れたものであったため、特に気にした様子はない。

そんなことよりも刀夜は、勝手に揉めないでくれ、とため息を付いている。

 

「プロントさん、アリアノーラです。それと、ここでは少々目立ちます。奥の部屋でお話を致しましょう。トーヤさん、よろしいでしょうか?」

 

アリアノーラはそう言って、刀夜に確認を取る。

 

「色々言いたいことはあるが…。ここでは目立つというのは同感だ。とりあえず、この場から離れたい」

 

そう言う刀夜にプロントは何か言いたげであったが、アリアノーラに制止される。

 

「プロントさん、言いたいことは奥の部屋で言ってください」

 

「…分かったよ」

 

アリアノーラは刀夜を含めた5人を奥へと誘導する。刀夜はというと、アリアノーラの気遣いに少し感謝していた。あの場で話し合うとなると目立ちすぎるため、刀夜にとってはストレスでしかなかった。

そうしてアリアノーラを含めた6人が部屋の中へと入る。その部屋は、刀夜がギルドマスターであるグライスと会った場所であったが、グライスはいないようだ。疑問に思う刀夜に答えるように、アリアノーラが口を開く。

 

「この部屋は応接室となっております。ギルドマスターの部屋はこの建物の5階でございます」

 

「なるほど、そういうことか…」

 

刀夜が納得すると、アリアノーラは「では私はこれで」と言って部屋から出ていった。部屋にいるのは5人となり、まずエルザが刀夜に話しかける。

 

「君が、キリサメトーヤだったのか…」

 

「あぁ、俺はお前らが誰だか知らんがな」

 

その言葉にプロントが噛み付く。

 

「おい…。さっきからなんだよ、その感じ。お世辞にも好感が持てるとは言えねぇよな」

 

「プロント、喧嘩腰で話すのはやめなよ…。すいません…」

 

「俺は気にしてない。別に好感を持ってもらおうなんて思ってないしな。それに、約束の時間に遅れるような奴らに好感が湧くわけないだろう」

 

「っ!!…そういう所が気に食わねぇって言ってんだよ…」

 

そんなやり取りを見かねたローウェンが口を開く。

 

「プロント、その辺にしておけ。彼の言うことは正論も正論、どう考えてもこちらが悪い」

 

ローウェンがそう言うと、プロントは「ちっ…」と舌打ちすると、口を閉じた。そうして今度はエルザが口を開く。

 

「遅れてしまい本当に申し訳ない。少々仕事が長引いてしまってな…。どうか許して欲しい…」

 

エルザの謝罪の言葉にローウェンとルーナも頭を下げる。プロントはふてぶてしいままであった。刀夜は、このままでは話が進まないため話題を切り替えることにする。

 

「まあ、別に気にしてない。それよりも、お前らのこと、ランク5のハンターってこと以外何も知らないんだが」

 

「本当に俺たちのこと、何も知らないのかよ…」

 

小さく呟くプロントを尻目に、ローウェンが口を開く。

 

「すまない、自己紹介から始めようか。俺の名前はローウェン=マクスウェル、ハンマーを主に使っている。武器も防具もウラガンキンのものだ。そして、こいつはプロント=テック、ライトボウガンの使い手だ。こいつはリオレイアの装備だ」

 

ローウェンがプロントの紹介も同時にする。プロントはまだ機嫌が悪いようだ。

 

「私はルーナ=フルーレ、狩猟笛を使わせていただいてます。装備はティガレックスのものです。よろしくお願いします」

 

笑顔でルーナは自己紹介する。不機嫌そうなプロントとは対象的な印象である。

 

「最後に私だな。私はエルザ=レッドローズ、このパーティーのリーダーをしている。この通り、大剣を使っている。装備はリオレウスのものだ。改めて遅刻にせよ、うちのプロントにせよ、数々の非礼を謝罪させてくれ。すまなかった」

 

エルザの言葉でプロントがまた噛みつきそうになったが、ローウェンが制止している。

 

(っ!!レッドローズ…。確か、エリスの姓もレッドローズだったな…。後で少し聞いておくか)

 

そんなことを考えていると、周りには話を聞いていないと思われたのであろう。プロントが口を開く。

 

「おい、お前なんとか言えよ」

 

「あぁ、すまない。別に聞いていなかった訳では無い。少し考え事をしていただけだ」

 

素直に謝罪する刀夜にエルザが話しかける。

 

「すまない、君の紹介もしてもらえないだろうか?」

 

「そうだったな…。俺の名前は霧雨 刀夜、武器はこの太刀を使っている。この通り、防具はハンターシリーズの駆け出しハンターだ。何故お前らのようなランク5のハンターが俺に会いたがったのか、今でも謎に思っている」

 

「「「「っ!!」」」」

 

4人が4人とも、刀夜の自己紹介に驚いている。そして、ローウェンとルーナが刀夜に疑問をぶつける。

 

「ま、待て…。ドスジャギィ討伐の時も、防具はハンターシリーズだったのか…?」

 

「そ、それに、よく見ると背中の武器…。太刀だとは思っていましたが、見たことのないものです…」

 

ルーナの反応は予想していたものだが、ローウェンの質問は刀夜に疑問が浮かぶものであった。

 

「ルーナ、だったか…。お前の質問には正確な答えを返しかねる。ただ、俺の愛刀、とだけ言っておく」

 

「そ、そうですか…」とルーナは無理やり納得する。刀夜は「そして…」と続ける。

 

「そして…ローウェンの質問だが…。俺から質問だ。何故、俺がドスジャギィを討伐したことを知っている?」

 

その刀夜の疑問にエルザが口を開く。

 

「その質問には私が答えよう。私たちはランク5のハンターであると同時に、ギルドに勧誘され、調査隊としても活動している」

 

その情報はアリアノーラから聞いていたため、刀夜は頷く。

 

「で、今回はセントラル草原の調査を任されていた。そこで凄まじいドスジャギィの死体を発見してな…。ハンターの実力は、モンスターの死体を見ておおよそ予測はつく。今回君に会いたいと言ったのは、あのような実力を持つものを実際に見てみたい、という個人的な興味だ」

 

刀夜は「なるほど…」と言いつつも、頭の中では違うことを考えていた。

 

(それは迂闊だったな…。前に黛にも言われたが、恐らく俺のゲームと同じ動きは、この世界ではかなり上位のものに位置するのだろう…。これで変に目をつけられるのも困るな…。まあ、過ぎたことを後悔してもしょうがないが…)

 

そこで刀夜は思考を打ち切り、口を開く。

 

「なるほどな。だが、買い被りすぎだ。ローウェンの質問だが、確かに俺はハンターシリーズでドスジャギィを討伐した。でも、それは運が良かっただけだ」

 

そこでプロントが声を荒らげる。

 

「ふざけるのも大概にしとけ!ドスジャギィだけならともかく、あれほどのジャギィやジャギィノスがいて、ハンターシリーズの防御力で、大きな怪我もせず帰ってこれるわけがねぇ!」

 

「プロント、落ち着いて…」

 

そこでローウェンが、何かに気づいたように口を開く。

 

「待てプロント…。つまり、攻撃に当たらず(・・・・・・・)、彼は奴らを討伐したということか…?」

 

「そ、そんなまさか!」

 

そう言って4人は刀夜の方を見る。刀夜はというと、今にもため息を付きそうであった。

 

(待て待て待て…。そんなに、この世界における俺の動きはおかしいのか?ゲームだとそれくらいの技術を持ったプレイヤーは山ほどいたぞ…。しかし、そうだとしたら、相当面倒だな…。だが、もはや言い逃れも出来そうにもない…。はぁ…やはり来なければよかったな。いや、時間の問題でもあったか…)

 

そんなことを考えつつ、刀夜は白状する。

 

「確かに、攻撃は受けていないな」

 

「「「「っ!!」」」」

 

刀夜のその言葉に4人は唖然とする。そしてプロントがまたも声を荒らげる。

 

「そんなの…信じられるかよ!バカバカしすぎるな!俺はもう帰らせてもらう!」

 

「ちょっとプロント!」

 

そう言ってプロントが刀夜の横を通り過ぎる時、「俺はお前を認めない…」と一言言って、部屋を出て行った。

 

「騒がしいやつだな」

 

「本当にすまない…。普段はああじゃないんだ…」

 

「大丈夫だ。気にしてない。だが、この事はあまり他言して欲しくない。俺は面倒事が嫌いでな、1人でやりたいように生きたいんだ」

 

謝罪するエルザに刀夜はそう返す。

 

「あぁ…ギルドにもこの事は伝えないでおく。だが…正直なところ、私も信じられないな…」

 

「別に信じてもらう必要も無い」

 

そう言い切る刀夜にエルザと他2人も無言になる。

そして少ししてから、エルザが口を開く。

 

「しかし、カーディナル孤島でも調査した時に、同じような傷跡のドスジャギィの死体を見たことがあるんだが、傷跡を見たところ、あれも君がやったものだろう?」

 

「っ!!…あぁ、そうか。傷跡で分かるんだったな…」

 

内心で「まずいな…」と思う刀夜を安心させるように、ルーナが言葉をかける。

 

「その件に関しては大丈夫ですよ。ギルドにはうまく報告しておきましたから」

 

「本当か?それは助かる。ありがとな」

 

刀夜は3人に感謝の言葉を述べる。それにより少し場が和んだが、次の刀夜の発言で、再び場が驚きに包まれることになる。

 

「そう言えば、エルザは姓がレッドローズだったな。エリスの姉か何かか?」

 

「い、妹を知っているのか?!」

 

「やはり血縁関係だったか」

 

「そうだ…。エリスはれっきとした私の妹だ。それよりも、何故トーヤがエリスを知っている?!」

 

刀夜は「雲行きが怪しくなってきたな…」と思いつつ、正直に答える。

 

「何故?そりゃ知っているだろう。なんせ、エリスには俺が仮登録(・・・)の時期に世話になったからな」

 

「「「っ!!」」」

 

再び3人は驚きに包まれるのであった。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
続きは少しお待ちください。

それではまた次話で会いましょう。


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第23話 会談

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んで頂き本当にありがとうございます。

それでは第23話、張り切って行きましょう。


「ま、待て…。今、仮登録と言ったか?」

 

 

「あぁ、そうだが…。お前らは仮登録だった俺が、ドスジャギィを倒したことを、うまく誤魔化してくれたんだろう?俺はモガの村にいた頃、仮登録のハンターだった。エルザがエリスの姉なら、その情報がすでに回っていると思っていたんだが…違うのか?」

 

3人は、途端に無言になる。エルザ達は、自分たちの認識のずれを今この場で確認したのだ。

実は彼女ら、モガの村にはハンターが3人存在すると思っていた。新人ハンター、仮登録のハンター、そして、ドスジャギィを討伐したハンター…。その3人が3人とも、別人だと考えていた。彼女らは新人ハンターがドスジャギィに、あのような傷跡を残せるはずがないと思っていたのだ。ましてや、仮登録のハンターがその張本人だとは夢にも思っていなかった。

そのため、2人の人物とは別の、どこか得体の知れないハンターが討伐したと思い込んでいた。今回の対面は、その得体の知れないハンターが、どのような人物か確認することが、真の目的でもあったのだ。

そして、今回のドスジャギィの件、「キリサメ トーヤ」の名前を見て彼女らがピンと来なかったのにも訳がある。

エリスの報告では、仮登録のハンターの名前が書いていなかったのだ。恐らく、仮登録のハンターがドスジャギィを討伐出来るわけがないという彼女の判断で、切り捨てられた情報だったのであろう。

このような事が重なり合い、事実が発覚したのが、今この場になったというわけである。

 

「仮登録のハンターが、ドスジャギィ討伐…。信じられないです…」

 

ルーナが小さくそう呟く。他の2人もその発言に同意するように、小さく頷いている。だが、考えれば考えるほど、<仮登録のハンターがドスジャギィを討伐できるはずがない>という常識を外せば、辻褄が合ってしまうのだ。3人は信じざるを得なかった。

そんな様子の3人とは別に、刀夜は1人頭を悩ませていた。

 

(余計なことを言わなければよかったな…。まあ、エリスとエルザが繋がっていたんだ。遅かれ早かれ、バレていただろうがな…)

 

そんなことを考える刀夜に向け、エルザは口を開く。

 

「ま、まあ、いずれにしても、この件も内密にしておこう…。ギルドナイトに知られると、それこそ厄介だろうしな…」

 

刀夜はそこで、一つの疑問をぶつける。

 

「それはありがたいが…何故、そこまで俺を庇う?隠蔽工作が罪に問われないわけではないだろう?俺を庇う行為、それは、お前らに何の得がある」

 

刀夜がそう言うと、エルザは笑みを浮かべ、口を開く。

 

「そうだな…。我々は調査隊ではあるが、それ以前に、トーヤと同じ、1人のハンターだ。ハンターの中には野蛮な奴らもいるが、基本はハンターの味方でいたいと思っている。トーヤは無愛想だが、根は悪くなさそうだしな。まあ、それだけじゃないんだがな…」

 

最後の部分は小さく発せられたので、刀夜がそれを聞き取ることはなかった。

刀夜にとっては理解に苦しむ解答であったが、そういうことなら、と納得する。

そして、話が一区切りしたところで、刀夜は明日の準備をしなければないことを思い出す。

 

「さて、俺は明日早い。そろそろ帰らせてもらう」

 

「そうか…。そう言えば、結構な時間が経ったな…」

 

エルザが名残惜しそうにしているが、刀夜は気にしない。

 

「最後に一つ、いいか?」

 

立ち去る前に、刀夜は一つ聞いておきたいことがあった。

 

「あぁ、俺らが答えられる問題なら答えよう」

 

「"上位"、"下位"、この言葉に聞き覚えはないか?」

 

「じょういとかい?ですか、聞いたことありませんね…」

 

「私もそのような言葉は耳にしたことがない」

 

「俺もないな。すまん」

 

「いや、大丈夫だ。その答えだけで、充分だ。じゃあな、俺は帰る」

 

(ランク5と聞いたから、上位種のモンスターの素材がどんなものか、実際に見られると思っていたが…。どうも、この世界に上位と下位の概念は無さそうだな。というより、そもそも上位種が存在していない可能性が高い。少し、残念ではあるがな…。まあ、それだけ知れただけでも充分だ。それに、カーディナル孤島のドスジャギィという、後ろめたい問題もどうにかなったしな。充分な収穫だったと言えるだろう)

 

そんなことを考えつつ、刀夜は宿舎へと戻っていく。

実は、刀夜のこの推測は珍しく外れているのだが、それを知ることになるのは、まだ先の話である。

刀夜が出ていき、部屋にいるのはエルザ、ローウェン、ルーナの三人だけとなった。エルザがローウェンに話しかける。

 

「ローウェン、どう思う?」

 

エルザがそう問うと、ローウェンは思案顔で答える。

 

「難しいかもな…。彼は、恐らく1人での行動を望んでいる…」

 

ローウェンの言葉に、ルーナが反応する。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!このパーティーに彼を入れるつもりですか?!もう上限の4人ですよ!」

 

ルーナの慌て様に、エルザが苦笑しながら口を開く。

 

「ルーナ、何を勘違いしているんだ…。そんなことは百も承知だ、我々のパーティーに入れるとは一言も言ってないだろう」

 

エルザがそう言うと、ルーナは「す、すいません…」と顔を真っ赤にさせて口を閉じる。エルザはやれやれという感じで言葉を続ける。

 

「問題はそこじゃない。ランク2から3に上がるための赤依頼だ。あれは確か、パーティーでの受注が必要だったろう?」

 

「あっ!そう言えばそうでした!」

 

ルーナがエルザの言葉に、思い出したように反応する。

 

「そうだ、だから彼にとっては予想外の関門になるだろう。だが、話を聞く限りだが、実力は申し分ないだろう。それこそ、ランク5の壁を超えるかもしれないくらいにはな…」

 

「彼は、それほどの実力者なんでしょうか…。ランク6以降は本当に高い壁です…。確か、現在のランク7のハンターは3人、ランク6のハンターは7人、だったでしょうか?」

 

ルーナの問にエルザが答える。

 

「そうだな、ランク6と7、つまり紫と黒プレート所持者は化け物だろう。私もここのギルドマスターしか実際に見たことはないが、本当に凄かった…。対して、私たちのような、ランク5の青プレート所持者は100人ほどいるだろう。青と紫の差は歴然、それにランク5の中でも優劣がある…」

 

エルザの言葉にローウェンが続く。

 

「あぁ、俺とルーナ、プロントもランク5とは言え、下の層に属するだろうな…。エルザでさえ、上の層にはいない…」

 

「そう、ですね…」

 

ルーナがどこか落ち込んだように小さく呟く。そんな空気を切るように、エルザが口を開く。

 

「まあ、私たちも更に上を目指すとして、トーヤはそれほどの技術があるかもしれない、という事だ。だが、話を聞く限り、という条件がつく。いずれパーティーを組んで、実際に見てみたいものだ…」

 

「そうだな。そんな機会が訪れると信じよう…」

 

そんな話をしていると、部屋にアリアノーラが入ってきた。

 

「トーヤさんが出ていかれたので参りましたが、お話中でしたか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「そうですか。プロントさんは、しばし前に不機嫌な様子で出ていかれましたが、よろしいのでしょうか?」

 

ローウェンがアリアノーラに答える。

 

「あいつなら大丈夫だ。恐らく部屋に戻ったんだろう。俺らもそろそろ戻るとするか」

 

ローウェンがそう言うと、3人は部屋から出ようとする。しかし、エルザがアリアノーラに呼び止められる。

 

「エルザさん、申し訳ありませんが、グライスさんが五階の部屋でお待ちです」

 

エルザはため息をつく。

 

「はぁ…分かった。2人とも、先に戻ってくれ」

 

「分かりました。一体どうしたんでしょう…」

 

「大方、この話し合いのことを聞かれるんだろう。ギルドマスターもトーヤに興味を持っていたみたいだしな…」

 

「た、大変ですね…。分かりました、お先に失礼します」

 

「エルザ、お疲れ様」

 

そう言って2人は部屋から出ていく。

 

「では、エルザさん、五階へと向かってください」

 

「あぁ、本当はもう帰りたいんだがな…」

 

そう言ってエルザは1人、ギルドマスターの部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

ギルドマスターの部屋で、エルザはグライスと会っていた。

 

「エルザ、ご苦労だったな」

 

「お疲れ様です、ギルドマスター」

 

「グライスと呼んでくれていいと言っただろう…」

 

「そういう訳にはいきません。あなたは尊敬すべき人ですから」

 

「相変わらず、固いな…」

 

そう言ってグライスは人差し指で頬をかく。

 

「それはそうと、お前を呼び出した理由は分かるな?キリサメトーヤのことだ」

 

グライスがそう問いかけると、エルザは小さく頷く。

そうして、実際に刀夜と対面して思ったことをグライスに伝えていく。その中で、約束通り刀夜に不利になる情報は伝えなかった。

エルザが話し合えると、グライスは口を開く。

 

「なるほどな…。やはりドスジャギィを1日足らずで討伐したか」

 

「はい、死体から見て、その傷跡も凄まじいものでした」

 

「……エルザ、本当にそれだけか?」

 

「っ!」

 

グライスは、少しばかりエルザを威圧するように問いかける。

エルザはその威圧を感じ、冷や汗を浮かべるがそれ以上の情報は伝えない。

 

「………はい、以上です…」

 

エルザがそう答えると、グライスは威圧を解く。

 

「そうか…。まあ、彼にとって不利になる情報なら言わなくてもいい。エルザ、隠し事はもう少し上手くしろよ」

 

「………」

 

どうやら、グライスにはお見通しであったようだ。

 

「まあ、それはもういい。エルザ、彼の今後を見ておいてくれ。彼は恐らく、今後間違いなく大きなことを成すだろう。彼なら、これからの(・・・・・)ランク制度でも、上へと登り詰めるかもしれん…。それが我々にとって、良いのか悪いのか、どっちに転ぶかはわからないがな…」

 

グライスの発言に、エルザは疑問を呈する。聞き覚えのない言葉があったからだ。

 

「これからの、ランク制度ですか…?何か変更されるのでしょうか?」

 

エルザの疑問にグライスは答える。

 

「ん?まだ言ってなかったか?実は先日、ギルド総本部から連絡があってな。前々から話には上がっていたんだが、ランク制度を近々変更することにしたそうだ」

 

「そんな重要なこと…初耳です…」

 

「…では今言った」

 

「詳しい説明をお願いします」

 

悪びれる様子のないグライスに、どこか恨めしそうにエルザが説明を求める。

 

「悪かったって…。それで、その話だが…。ここ数年、同じモンスターでも強さが全く別物の[凶暴種]が現れ始めただろう?」

 

エルザはコクリと頷き、口を開く。

 

「[凶暴種]は体力、攻撃力、防御力、そのどれを取って見ても通常の個体とは全くの別物です。例えドスジャギィといえど、[凶暴種]であればその強さは通常のリオレウスにも遅れを取りません…」

 

「そうだな、特に[凶暴種]のリオレウスはエルザにとっても因縁深い相手だろう」

 

「………」

 

エルザは固く拳を握っている。

 

「でだ。これまで、その[凶暴種]をある程度倒せるかどうかがランク6に上がる条件だったわけだが…今回改正するランク制度では、そこが重視されている。[凶暴種]のクエストを受けることが出来るものと、そうでないものに完全に分割しようというわけだ。そこで、前者を"上位"ハンター、後者を"下位"ハンターと称することになった」

 

「っ!!」

 

グライスの言葉にエルザは衝撃を受ける。

 

「ん?どうしたエルザ」

 

「……じ、実は先程、トーヤと話している時に、彼に尋ねられたんです…。『"上位"と"下位"、この言葉に聞き覚えはあるか?』と…」

 

「っ!!な、なんだと…」

 

エルザの言葉で、グライスも衝撃を受ける。

 

「トーヤが意味していたのは、何か別のものだったかもしれませんが…」

 

グライスは思案顔で思考を巡らす、

 

「あぁ…その可能性も、ないとは言い切れんな…。…これは今ここで議論しても答えは出ないだろう。エルザ、トーヤの動向を見ておいてくれ。ランク制度に関してはまた正式な発表があるだろう」

 

「…分かりました。では、私はこれで」

 

そう言ってエルザが部屋を出ていく。

 

「彼に関しての情報を集めるつもりが、更にその謎が深まってしまうとはな…。新たなランク制度のこともある、どう転がるか、全く読めないな…」

 

こうしてエルザとグライスの会談は終わりを迎えるのであった。




如何でしたでしょうか?

この世界での[凶暴種]とはいわゆる上位種のことです。

それではまた次話出会いましょう。


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第24話 お試し狩猟

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

少々最近忙しく、割と久々の更新になりました。申し訳ありません。

それでは第24話、張り切っていきましょう。


刀夜は現在セントラル草原にて、四輪の荷車を引っ張りながら、とあるモンスターを探索していた。その身には、薄紫色のジャギィシリーズが装備されている。

なかなか目的のモンスターを見つけられず、刀夜はいらいらし始めていた。

 

「……他の依頼を受ければ良かったな。だが、折角の新しい防具だ。大型モンスターの討伐依頼を受けたくなるのはMHプレイヤーの性だろう…」

 

何故このような現状に至ったのか、ここまでの経緯を説明すると次のようになる。

昨日のエルザ達との対面は事無く終わり、ジャギィシリーズを受け取るために、刀夜は今朝、武具屋のアイアンの元へ向かった。早い時間帯に受け取りに行ったにも関わらず、防具はすでに完成していた。「優秀なんだな」とアイアンに褒め言葉のつもりで投げかけると、「上には上がいる」とさらりと受け流された。

そうして防具を受け取ると、刀夜は早速クエストを受注するためにギルドへと向かった。ギルドカウンターには担当のアイシャがいた。今日は出勤していたようだった。

アイシャが刀夜に紹介したクエストは、アイテムの採取依頼や小型モンスター討伐依頼がほとんどであった。その中に青い紙の依頼、いわゆるキークエストである青依頼が3枚ほどあったが、大型モンスターの討伐依頼は2枚だけであった。1枚はクルペッコの討伐である。

刀夜は防具を新しく変えたばかりで、大型モンスターと戦うことでその性能を把握しておきたかった。そこでクルペッコをもう1度討伐してもよかったのだが、同じ依頼を2回受けるのはあまり気乗りしなかった。そういう訳でもう一つの大型モンスター討伐の青依頼をアイシャに渡した。受け取った時、アイシャは一瞬顔をしかめたが、以前アリアノーラに言われたことを思い出し、「お帰りお待ちしてまーす!」と元気に刀夜を送り出した。

そうして無事に依頼を受け、現状に至るわけであるが…。

 

「見つからない…。というか、セントラル草原が広過ぎる…。この荷車の持ち運びも疲れてきたな…」

 

目的のモンスターを探索し始め、2時間が過ぎようとしていた。刀夜にとってゲームで経験したことのないフィールドのため、どこにどのモンスターが生息しているのか全く見当もつかなかった。

刀夜が運ぶ荷車には、なにやら大きな樽2つと小さい樽が1つ入っている。

 

「そう言えば…奴は川辺で魚を取っていることが多いと聞いたことがあるな…。闇雲に探しても埒が明かない、川辺で探すとするか」

 

そう言って刀夜は作戦を変える。

そうして探すことおよそ10分、刀夜の考えが見事に的中し、目的のモンスターを発見する。それと同時に、静かに荷車を岩陰に隠す。

 

「……見つけたぞ、アオアシラ…」

 

アオアシラ、ギルドでは別名「青熊獣」とも呼ばれている。その名の通り、青い毛皮を身にまとった、熊によく似たモンスターである。温暖湿潤な地域の山や森林に生息しており、下半身や腹は柔らかい毛皮で覆われていて、頭や背中は堅い甲殻で守られている。

食欲旺盛な性格で、ゲームではしばしば川辺で魚を捕食している所が目撃されている。刀夜はそれを思い出し、川辺を散策したのであった。

視線の先のアオアシラは現在食事中のようだ。

前脚に生えた大きな鋭い爪に、時々太陽の光が当たってキラキラと反射し、腕の甲殻から生えた鋭い突起物から、川の水が滴り落ちている。

魚を食べようと開けた口には、何本もの鋭い牙が生えていた。

 

「食事中とは、都合が良い。いつも通り、奇襲をかけるか…」

 

どこからどう見ても凶暴そうなモンスターであったが、ここでも刀夜は平常運転である。初めてのアオアシラとの遭遇にも、全く動じてはいなかった。

そうして、アオアシラの側面から後方に移動しようとした瞬間である。ギロっとアオアシラの目が動き、四足歩行で周囲を警戒し始めたのだ。

刀夜は小さく舌打ちする。

 

「ちっ…野生の勘というやつか…。ただの脳筋モンスターと思っていたんだがな…。まあいい、作戦変更だ」

 

刀夜は、周囲を警戒するアオアシラの後方に回り込むのを諦め、堂々と前方から突っ込む。

アオアシラは、目の前から自分のテリトリーに入ってきた標的を見て、後ろ足だけで立ち上がり、刀夜を威嚇するように唸り声を上げる。すると目の前の敵が急に立ち止まり、何か(・・)を投げてきた。アオアシラがそれに気づいた瞬間、それはピカっと光り、アオアシラの視界は真っ白に染まる。

 

「こういうモンスターにはやはり、まず閃光玉を投げるのが定石だろう?」

 

そう、刀夜が投げたのは自らが調合して作った閃光玉だった。モガの村でこういった狩猟に役立つアイテムは一通り作成しており、ようやくそのアイテムを使う時がきたのだ。

アオアシラは視界がいきなり真っ白に染まったことで混乱する。刀夜はそんなアオアシラの後方に回り込み、黛に手をかける。

 

「まずは一撃。さて、いつまで耐えられるかな…?」

 

「ブシュ」っとアオアシラに一撃を加えると、鮮血が吹き出す。アオアシラは何も見えていない。正体不明の一撃に更に混乱し、前脚をただただ振り回す。

だが、それが刀夜に当たることは無かった。その動きに合わせ、刀夜は後方に回り込んでいたからだ。

 

「閃光玉で視界を潰されたモンスターは近接型の攻撃を主に使う。普通ならそこで接近戦はナンセンスなところだが…生憎お前らの動きは何百回とも見てきたんでな」

 

アオアシラの動きに合わせ、攻撃を加えていく。刀夜の動きには全く無駄がなかった。攻撃を加えアオアシラの攻撃を回避する。一見単純に聞こえる作業だが、命のやり取りをしているにも関わらず、ここまで冷静に行動できるのは、刀夜がモンスターの動きを熟知し、それに対応できるという確信が持てているからであった。

 

「そろそろ視力が回復してきたか…」

 

時間にしておよそ数十秒、アオアシラは閃光玉の光をまともに受けたが、視力はすでに回復し始めていた。

だが、刀夜にとってその数十秒という時間は、十分すぎる時間であった。

黛の刀身が薄く発光し始める。

 

「さて、ペースを上げていこうか」

 

刀夜はアオアシラに対して微かに笑みを浮かべる。そんな刀夜の様子に腹が立ったのか、アオアシラは白い息を吐き、唸り声を上げ始める。怒り状態だ。

アオアシラは二足歩行のまま一歩後退し、両前脚を振り上げてバタバタし始める。

 

「連続引っ掻きか…」

 

そう、これはアオアシラの攻撃の一つ、連続引っ掻きの予備動作である。刀夜は黛を背中に一旦直し、アオアシラの攻撃に備える。すると次の瞬間、刀夜を狙って右前脚が振り下ろされる。

しかし、その動きはゲームで何百回と見てきたものである。刀夜は落ち着いて、右方向へ回避する。

 

「あと3回…」

 

刀夜がそう呟くと同時に、アオアシラが今度は左前脚を振り下ろしてくる。これも刀夜は無駄のない動きで左方向へと回避する。

 

「あと2回」

 

またまたアオアシラは右前脚で刀夜に攻撃を加えようとする。だが、同じ要領で刀夜が回避したことで、アオアシラの右前脚が空を切る。

 

「ラスト…」

 

刀夜はそう呟き、左方向へと回避する。耳元ではアオアシラの左前脚が通り過ぎる音がした。そこで、アオアシラの連続引っ掻きは一通り終わったようだ。刀夜は回避後アオアシラの後方に回り込み、黛に手をかける。

 

「さて、今度はこっちの番だな。いつまでもつかな…?」

 

そう言うと、刀夜はアオアシラの尻を目掛けて、薄く発光する黛で抜刀気刃斬りを繰り出す。アオアシラの尻は肉質が柔らかく、このモンスターの弱点なのだ。加えて、黛は斬れ味白の武器である。その刃がスっと入っていく。

アオアシラはあまりの痛みに悲鳴を上げる。だが、当然刀夜の攻撃がそこで終わるはずもなく、更なる追撃がアオアシラに浴びせられる。気刃斬りの連続攻撃だ。

 

「アオアシラの尻の肉質は柔らかく、斬撃属性共通の弱点だ…。まんま、頭隠して尻隠さずだな」

 

刀夜がフィニッシュの気刃大回転斬りを繰り出そうとするのと同時に、アオアシラが反時計回りに、右前脚を振り上げながら凄まじいスピードで刀夜の向きに振り返ろうとする。

 

「回転引っ掻きか…。気刃斬りの最中であれば厄介ではあったが…フィニッシュだ」

 

そう呟くと刀夜はアオアシラの動きに合わせ、反時計回りに気刃大回転斬りを繰り出して立ち回る。

アオアシラの回転引っ掻きは不発に終わり、加えて刀夜の強烈な一撃を受けた。その威力に耐えきれず、アオアシラは地面に倒れ込む。

 

「倒れ込んだら、絶好の的だろう?」

 

そこで、勝敗は決した。

刀夜はアオアシラに対して気刃斬りのラッシュをかける。それと同時に、黛の刀身の色がどんどん変化していく。

アオアシラが立ち上がって距離を取ろうとしても、刀夜はそれを許さない。鬼神のごとく追い打ちをかけ、アオアシラに逃げ出すことも許さなかった。

刀夜のされるがままに体力を削られていくアオアシラは、とうとう瀕死状態まで追い込まれる。

だか、何故かそこで刀夜は手を緩めた。そこでアオアシラは刀夜に背を向け、足を引きずりながら逃げていく。

刀夜は追撃を加えず、代わりに赤いボールのようなものをアオアシラに投げつけた。アオアシラはそれを意にも介さず、息を荒らげながら刀夜の視界から消えていった。

 

「さて、アオアシラはもうそろそろ討伐できるだろうが…強敵とやりあう前に、アイテムの使い方を覚えておかないとな…。お?アオアシラが逃げた方向から何か匂いがするな…。なるほど、匂いでモンスターの位置が判断できるわけか」

 

刀夜がアオアシラに投げつけたものはペイントボールであった。ペイントボールはモンスターの位置を知るためにしばしば使用される。しかし、ゲームでペイントボールを使用すると地図上にモンスターの位置が表れたが、この世界ではどのようにモンスターの位置を把握できるのか、刀夜は知らなかった。そのため、この機会に試しておきたかったのだ。

それともう一つ、刀夜がアオアシラを逃がしたのには訳があった。

 

「やつは恐らく、自分の巣で睡眠状態になるだろう。大タル爆弾の威力、試しておかないとな…」

 

刀夜は不敵に微笑み、予め岩陰に隠しておいた荷車を引っ張って、アオアシラに当てたペイントボールの匂いを頼りに歩き始めた。

 

--ペイントボールの匂いを辿って歩くことおよそ10分、アオアシラは割と近場にいた。刀夜の視線の先には、いびきをかいて寝ている青い熊がいた。

 

「さて、とうとうこいつを使う時が来たか…。誤爆するとさすがに無傷ではすまないだろうな…」

 

刀夜は荷車から大きい樽を2つ、慎重に運び出してアオアシラの目の前に置く。

 

「こんなもの、無防備で喰らえば一溜りもないだろうな…。だからといってこいつに同情する訳でもないが…」

 

そう言って刀夜は最後に、荷車から黄色い小さな樽を取り出す。

 

「こいつを置く場所には気を使うな…。ある程度、大タル爆弾から離れたところに置かないと、まず初めに小タル爆弾の当たり判定が入ってしまうかもしれないしな」

 

ゲームでは、睡眠状態のモンスターに爆弾を使うと、初撃のみその威力が3倍に跳ね上がるというものがあった(武器攻撃は2倍)。そのため、小タル爆弾で大タル爆弾を爆発させる際、小タル爆弾をモンスターの近くに置くとあまり威力が上乗せされないのだ。

刀夜はゲームでの知識を使い、アオアシラとある程度距離をおいて小タル爆弾を置いた。

 

「さて、あとは点火するだけだ。確か、付属のマッチみたいなもので導火線に火を付けるんだったな…」

 

刀夜は小タル爆弾の導火線に火を付けると、走ってアオアシラの後方に回り込む。爆弾がある位置と対角の場所に着くと同時に、小さな爆発音が聞こえる。

そして、その直後。セントラル草原に「ドカァァァァアン」と轟音が鳴り響く。爆発の熱風が刀夜にも微かに届いてきた。

 

「おぉ、こりゃまた凄まじいな…」

 

アオアシラは大タル爆弾の爆発と同時に、目を覚ますが小さな呻き声を上げ、再び地面に倒れると、ピクリとも動かなくなった。

 

「かなり体力を削っていたみたいだな。追撃は必要ないか…。それにしても、大タル爆弾でこの威力だ、大タル爆弾Gはもっと期待できそうだ」

 

刀夜はそう言うと、微かに笑みを浮かべ大タル爆弾によって顔が焼けたアオアシラを見つつ、剥ぎ取りをし始めるのであった。

 

 

 

 

 

--アオアシラ討伐を終え、刀夜は依頼完了の報告をするためギルドへと向かった。ギルドの中に入ると、いつもは丸テーブルでガヤガヤとしている風景が飛び込んでくるのだが、今回は何故か、たくさんの人がクエスト掲示板の前にたむろしていた。

刀夜は特にそれに対して気にもせず、いつも通りアイシャがいるカウンターへと歩を進める。アイシャのカウンターの横では、アリアノーラが作業をしている。

 

「アオアシラ、討伐してきた」

 

刀夜はそう言うとアオアシラから剥ぎ取った、青熊獣の毛を渡す。

 

「な、なんとまあ…。アオアシラも1日で討伐ですか…。トーヤさんなら大丈夫とは思っていましたが…。まあ、お疲れ様でした!こちらクエスト報酬になりまーす!」

 

刀夜が報酬を受け取ったところで、アリアノーラがアイシャのカウンターに歩み寄ってくる。

 

「トーヤさん、少々お時間…よろしいでしょうか?」

 

なにやら神妙な顔つきでアリアノーラが刀夜に話しかける。

 

「アリア、そんな怖い顔して、どうしたの?」

 

「少し、トーヤさんに用があるの。急用でね」

 

刀夜は嫌な予感がした。

 

「お誘いのところ申し訳ないが、俺は帰る」

 

そこで、刀夜は出口へと向かおうとするが、次のアリアノーラの言葉で踏み出そうとした足を止める。

 

「……ギルドマスターの部屋にて、グライスさん…。そして、シーナ様の使者がお待ちです」

 

その言葉を聞き、刀夜は大きくため息をついたのであった。

 

 




如何でしたでしょうか?
やはり、モンスターの狩猟場面が書いていて楽しいです。

では、また次話出会いましょう。


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第25話 土砂竜の狩猟依頼

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

第25話、張り切っていきましょう。


「シーナの使者だと?」

 

「はい。シーナ様の付き人である、ヴァイス=シュバイツ様がお待ちになられています」

 

「……ヴァイスが来ているのか…」

 

「ご存知なので?」

 

「まあ、少しな」

 

シーナの使者、と聞いて刀夜はここから立ち去るに立ち去れなくなった。なんせ、刀夜がギルド本登録をすぐに出来たのは、他でもないシーナのお陰である。そんなシーナの使者、それも顔見知りのヴァイスが来ていると聞き、無下にもできないと感じていたのだ。

ただ、そのヴァイスが来ている、という点で刀夜は悪い予感がしていた。

 

(俺と世間話をしたいからヴァイスをギルドまで寄越した、ってことはないだろうな…。十中八九、面倒事だろう)

 

このギルドはリエル王都内の領地ではなく、あくまで独立した場所である。そんな場所に、リエル王都の王女に仕える使者がここまでやってきたのだ。おまけに、刀夜ご指名の用事である。面倒事があると疑うのは必然であった。

 

(だが、シーナには前に世話になっている。さすがに恩を仇で返す程、俺も落ちぶれてはいない…)

 

「全く気は乗らないが…分かった。その部屋まで案内してくれ」

 

刀夜の言葉にアリアノーラは驚く。

 

「何かいいことでもあったんですか…?トーヤさんなら、帰ると即答しそうな内容なのに…」

 

「…ただ、借りた恩を借りっぱなしにできないと思っただけだ」

 

「なるほど…。分かりました、こちらです」

 

アリアノーラの先導で、刀夜はギルドマスターの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

「おぉ。トーヤ、来てくれたか!」

 

「トーヤ殿、お久しぶりです」

 

刀夜とアリアノーラが部屋に入ると、グライスは意外そうに、ヴァイスは柔らかな物腰で口を開いた。

 

「あぁ、10日ぶりか…?」

 

「その節はありがとうございました」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。紹介状の件は助かった」

 

部屋の奥には一人机、そしてその前には面会用のためと思われる机があり、刀夜から見て左側の椅子にグライスとヴァイスが座っている。

 

「もう少し、説得するのに時間がかかると思っていたが…案外すんなり了承してくれたんだな」

 

「グライス、勘違いしてくれるなよ。俺が了承したのは、シーナとヴァイスには前に世話になったからだ」

 

「ガハハ!やはりお前は相変わらずだな!」

 

刀夜の言葉にグライスは豪快に笑う。

 

「トーヤ様、こちらの席に」

 

アリアノーラはグライスとヴァイスが座っている対面の席に着くよう促す。アリアノーラは扉の近くで立ったままでいるようだ。そうして刀夜が席に座ると、まずはヴァイスが口を開いた。

 

「トーヤ殿、この度は突然の面会、お受け頂きありがとうございます」

 

「まあ、世話になったからな。その点は気にするな。それよりも…今回ヴァイスがここに来た理由だ。わざわざ世間話をするためにシーナがお前を寄越したのではないだろう?」

 

刀夜がそう切り出すと、ヴァイスは少しばかり顔をしかめる。そんなヴァイスの様子を見て、グライスが口を開く。

 

「その件なんだが…。トーヤ、さっき下のクエスト掲示板の前に、人だかりが出来ていなかったか?」

 

「あぁ、そう言えば人がたむろしていたな…。何か珍しいクエストでも貼ってあったのか?」

 

「それ何だが…実は、厄介な依頼が申し込まれてしまってな」

 

「…厄介な依頼?」

 

そこでヴァイスが改めて口を開く。

 

「ここから先は私がお話致します。実は、それはシーナ様の姉君にあたるリエル王都第一王女、フローラ様がこのギルドに依頼したものです」

 

刀夜は「ほぅ…」と小さく呟く。

 

「第一王女直々の依頼なのか…。どういう依頼なんだ?」

 

「''土砂竜''ボルボロスの捕獲です」

 

「ボルボロスか…」

 

ボルボロス--乾燥した砂漠地帯に生息する、冠のように発達した頭殻が特徴的なモンスターである。種は獣竜種に属し、その体は小柄だが、見た目に反したパワーと素早さを持ち合わせている。ゲームでは割と序盤に依頼受注が可能になるが、ボルボロスの強さは序盤の大型モンスターの中では郡を抜いている。実際、刀夜も最初の頃は苦戦したモンスターであった。だが…。

 

「なぜ、ボルボロスが厄介な依頼なんだ?王女様の依頼といっても、高ランクのハンターを駆り出して捕獲すれば済む話だろう」

 

刀夜の指摘は最もである。しかし、グライスとヴァイスは首を横に振る。

 

「本来ならそうしたいところなんだが…」

 

そう言ってグライスがアリアノーラを見ると、アリアノーラは1枚の紙をグライスに渡す。

 

「それは?」

 

「ボルボロス捕獲の依頼書のコピーだ。これの一番下の欄を見てほしい」

 

紙を渡された刀夜は、グライスの言うとおりに目線を下げていく。するとそこには驚くべき記述があった。

 

「この条件…」

 

依頼書の備考欄には、<特殊条件:ランク3以下(・・・・・・)のハンターがこのクエストを受注すること>との記載があった。

 

「本来、ボルボロスの捕獲はランク4でようやく受注できるクエストなんだ。それをこんな形で依頼してくるとは、思ってもいなかった」

 

「どういう事だ?まるで、クエストをクリアさせたくない、そう言っているような内容だな」

 

そこでヴァイスが首を縦に振る。

 

「…トーヤ殿、その通りでございます」

 

「……どういう事だ?」

 

まさかのヴァイスの肯定に刀夜は少しばかり驚く。

 

「このヴェノム地方西部は現状、ほぼリエル家が治めている領地であるのはトーヤ殿はご存知ですか?」

 

「待て…ヴェノム地方西部全域がリエルの家の領地なのか?俺が読んだ本には、リエルの治める地はこの王都のみ、そう書いていたぞ」

 

刀夜が本で得た知識によると、リエル家というのはあくまで1つの貴族であり、王都内のみがリエル家の領地であったはずだ。刀夜が疑問をぶつけるとグライスが口を開く。

 

「トーヤが読んだのは、恐らく少し古い文献だったみたいだな。ここ数年でリエル家は数々の貴族を配下に置き、その勢力を伸ばしている。その力はヴェノム地方西部全域に届くほどだ。そのため、ヴェノム地方西部はリエル国とも呼ばれている」

 

「なるほどな…」

 

「そうは言ったものの…トーヤ殿と会った時のように、王都外にシーナ様がお出になることは滅多にないのですがね…」

 

ヴァイスは、刀夜がカーディナル孤島から渡ってきた直後の、馬車の中でのやり取りについて口にする。

 

「あぁ…。まあその件は話しにくいのなら話さなくていいと言っただろ」

 

刀夜は馬車内でシーナに、何故王女が王都外にいるのかを尋ねたところ、彼女が答えにくそうにしていたことを思い出す。

しかし、そこでヴァイスは首を横に振る。

 

「いいえ、そちらの方も今回の件に関わっているのでお話せねばなりません」

 

「どういう事だ…?」

 

まさかの所で話が通じていたことに刀夜は驚く。

 

「実はあの時、シーナ様と私はノイス地方北部のギルド総本部を訪れた帰り道でした」

 

「……」

 

刀夜は黙ってヴァイスの話を聞いている。

 

「私共が総本部を訪れたのは、他でもないフローラ様のご命令によるものです。その内容は端的に述べますと、『ヴェノム地方西部のギルド施設を解体しろ』というものでした…」

 

「ほぅ…。それはまた随分と大胆な要求だな」

 

「本来、ギルドの存在理由は2つだ。1つはアイテム採取やモンスターの狩猟依頼。そしてもう1つはリエル国のような、強大な国や組織を監視することだ」

 

(なるほどな…。前世で言うところの三権分立みたいなところか…。権力を持つ組織を暴走させたいためのギルド、そんな役割もあったとはな…)

 

ただただ依頼を斡旋する組織ではなく、そういう役割を担っていたギルドという組織に刀夜は感心する。

 

「それでリエル国も権力を暴走しかねないか監視していた訳だが…。その監視役である俺たちギルドの撤廃を求めてきたんだ。そんな内容をいきなり突きつけられて、総本部が受け入れる訳がない」

 

「はい、その通りでございます。シーナ様も勿論反対しておられました」

 

そこで刀夜に疑問が浮かぶ。

 

「ん?なら何故ヴァイスとシーナが、その反対するギルド撤廃の案件を総本部に伝えに行ったんだ?シーナは反対していたんだろう?断ればよかったんじゃないのか?」

 

そこでヴァイスの表情が深刻なものに変わる。どうやら訳ありだったようだ。

 

「それは不可能でございました。リエル家の人間でギルド擁護派だったのはシーナ様だけであったのです。フローラ様、現国王含め他の皆様はギルド排斥を推進されておられました。今回の件、フローラ様には『断れば第二王女の権限を剥奪する』とまで言われていたのでございます」

 

「それで排斥派に周りを固められて断るに断れなくなったと?」

 

「はい、その通りでございます。加えて、フローラ様はシーナ様をノイス地方へ向かわせている間にギルド団体排斥計画を進められていたようです。唯一の擁護派のシーナ様がいなくなった事で、排斥派は随分と自由に動いたようで…」

 

「……なるほど、そういうことか。つまり、シーナをわざとノイス地方へ仕向けていることで、準備を整えたってことか」

 

「はい…。そして恐らく、今回の依頼はギルド排斥計画の一つでしょう。フローラ様は強力なモンスターをいち早く見つけては、ギルドにその狩猟を申し込み、期限内に達成出来なければギルドの不手際として大々的に非難されるおつもりです。グライス様、改めて誠に申し訳ありません」

 

そう言ってヴァイスはグライスに頭を下げる。

 

「あなたが謝る必要はない。嬢ちゃんもヴァイスも、ギルドを庇ってくれたんだろう?その気持ちだけで十分だ。前々からリエルの人間がギルドを煙たがっていたのは知っていた。対処が遅れた俺たちギルドの不手際だ」

 

「本当に申し訳ありません…。本来、フローラ様含めリエルの人間は、欲深い性格ではありませんでした。しかし、ある時を境にフローラ様は変わられました。ギルド排斥の旨を国王やほかの人間に伝え、その魅力を語られたのです。それからというもの、内部の雰囲気は変わっていきました…。何がフローラ様をあそこまで変えたのか…」

 

刀夜はそこであることを考えていた。

 

(こんな展開の小説を見たことがあるな…。こういう場合は必ず、第三者の介入がお決まりだ…。だが、別に確証もあるわけでもないし、何しろ自ら面倒事に突っ込む必要は無い。それよりも…)

 

「で、ボルボロスの件だが」

 

刀夜の声にヴァイスとグライスはハッとする。

 

「あぁ、すまん。随分と遠回りしていたな」

 

「申し訳ありませんトーヤ殿…。聞き苦しい話、お聞き頂きありがとうございました」

 

グライスとヴァイスはそう謝罪を入れる。そしてグライスは深刻な表情を解き、笑顔で刀夜に口を開く。

 

「という訳でトーヤ、お前にはこのボルボロスの依頼を受注してほしいんだ」

 

「今の重たい話をした後で受ける訳がないでしょ!」

 

思わず、といった感じでツッコミを入れたアリアノーラがハッとする。グライスはやれやれという感じでアリアノーラを見る。

 

「アリアノーラ、それは分からんだろう。それと、口調に気をつけろ?」

 

「失礼致しました…。ですがグライスさ」

 

「受ける」

 

「ほら、言わんこっちゃない…。だからそういう説明は入らない…って、えぇ?!」

 

まさかの刀夜の即答に、アリアノーラはプライベート口調全開である。

 

「あなた、この依頼受けるの?!」

 

「そう言っただろう、うるさいぞツッコミ嬢」

 

「何その名前?!私にはアリアノーラっていう名前があるの!変なあだ名つけないでくれる?!」

 

いつもの冷静沈着な仕事仕様の雰囲気は何処にもなく、アリアノーラの素顔がボロボロと表れる。

 

「アリアノーラ、今は仕事中だ。その変にしておけ」

 

テンションがおかしな方向に向き始めたアリアノーラを諭すように、グライスの言葉には少しの凄みが含まれていた。

 

「も、申し訳ありません…」

 

「まあ、俺もさすがに即答は驚いたがな…。トーヤ、本当にこの依頼を受けてくれるのか?」

 

グライスも刀夜の答えに半信半疑である。そんな彼に刀夜が口を開く。

 

「受ける、そう言っただろう。何度も言わせるな」

 

「その答えはありがたい限りなんだが…理由を聞かせてもらえるか?」

 

「トーヤ殿、失礼を承知ながら私もその理由、聞かせていただけますでしょうか?」

 

「わ、私も気になるところです…」

 

何故刀夜が依頼を承諾したのか、三人が三人ともその理由が気になった。

 

「別に俺にとって、リエル王国がどうだとか、ギルドがどうだとかはどうでもいい。リエル王国が無くなろうが、ギルドが無くなろうが俺の今後にはさほど影響ないしな」

 

「なら、嬢ちゃんとヴァイスへの恩返しか?」

 

「違う。確かに2人には世話になったが、そこまでする義理はない」

 

刀夜の発言にヴァイスはなんとも言えない表情をする。

 

「では、どういう理由なんだ?」

 

グライスは刀夜に答えを求める。

 

「……俺はハンターだ。ハンターが大型モンスターの狩猟を求めて何が悪い?」

 

刀夜の答えに3人はポカンとするが、刀夜は気にせず続ける。

 

「狩ったことのない強敵を求めるのは当たり前だろう。ボルボロス戦は俺にとって楽しみ以外の何者でもない」

 

そう話す刀夜から、3人は刀夜の抑えきれていない闘争心剥き出しの感を感じ取っていた。それは敵意にも、殺意にも取れるものであり、グライスでさえも冷や汗をかいている。

 

「ボルボロスの捕獲、喜んで受注する」

 

そうして刀夜の次の依頼が決まったのであった。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
やはり対話の回は時間がかかります。

ではまた次話で会いましょう。


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第26話 突っかかり

こんにちは、O.K.Oです。
いつもいつも読んでいただきありがとうございます。

私情(半分はモンハンワールド)が忙しく、久方ぶりの更新になりました。
モンハンワールドもかなり楽しいですね。武器の動きなど、取り入れていけたらなぁと思ってます。

では、第26話、張り切っていきましょう。


「そう…ですか…。トーヤ様は依頼を受けて下さったのですね…」

 

「またトーヤ殿に御恩ができましたな…」

 

刀夜がボルボロスの依頼を承諾した後、ヴァイスは王宮へと戻り、事の経緯をシーナに報告していた。

そしてその報告を受け、それはシーナが望んだ展開であるにも関わらず、彼女はどこか釈然としない様子であった。ヴァイスはそんなシーナを見て、決して咎めたりはしなかった。

事が事なだけに、今回の依頼は、ギルド存続のためには必ず達成して貰う必要があった。刀夜にはその実力があるとシーナが判断したのだ。そして、恐らくその判断は間違っていないであろうとヴァイスは考える。ランク3までのハンターでボルボロスを捕獲できる実力を持つのは、恐らく刀夜のみであろう。

しかし、ヴァイスから見て、シーナが刀夜に好意を抱いていることは明らかである。そんな相手、それもランク2の彼にボルボロスの捕獲を頼んだのだ。いくら刀夜に実力があると分かっていても、相手はあの土砂竜。無傷で依頼を完遂できるとは考えにくい。そんな依頼を、好意を抱く人に任せるということは、シーナにとって身を切るように辛い決断だったであろうとヴァイスは推測していた。

 

「大丈夫…ですよね…」

 

シーナのどこかすがるような言葉に、ヴァイスは返答する。

 

「彼なら大丈夫です。きっとまた会えます」

 

「……」

 

どこにも確証がない、気休め程度の言葉だとヴァイスは思った。そして、シーナもそれを分かっていたが、同時に無事を願うことしかできないと彼女も分かっていた。それだけに、彼女は自分の無力さを恨んだ。

 

「私たちは本当に、無力ですね…。他の人にこうして頼まなければどうにも出来ないなんて…」

 

「我々ができること、それを今は致しましょう」

 

「そうですね…。お姉様を説得してきます」

 

そうしてシーナは何度目とも分からないフローラの説得へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

ヴァイス、グライスとの話し合いの翌日、刀夜はボルボロス捕獲の依頼を受注するためクエストカウンターに来ていた。

いつも通り、アイシャのカウンターに向かうと、そこにはすでに他のハンターがいた。

 

(先客か、でかい図体だな…)

 

刀夜は静かに自分の順番が来るのを待っていた。しかし、いつまで経っても刀夜に順番が回ってこない。何やら揉めているようだったが、刀夜の知ったことではない。刀夜がアイシャに声をかけようとした、その時である。

 

「あ?!だからなんで俺達が依頼を受けられねぇんだよ!!」

 

前のハンターが拳を机に叩きつけ、アイシャに怒鳴り始めた。

 

「ですから、この依頼の受注者はもう決まっていると言ったでしょう」

 

腕っぷしが強そうな相手にアイシャは慣れた様子で対応する。こういうところは、さすが受付嬢といったところか。しかし、それでも大柄の男の怒りは収まらないのか、なお怒鳴り散らし続ける。

 

「ランク3のハンターでこの依頼を受けるなら、俺達が一番相応しいだろうが!」

 

「しかし、順番は順番です」

 

「だったらそいつをここに連れてこいやおらぁ!どんなやつか俺が直々に見定めてやるからよぉ!!」

 

「はぁ……困ったものですね……。ん?」

 

アイシャは後ろに並んでいる刀夜の存在に気づいた。刀夜はと言うと、いつまで待たせるんだ、と言いたげな視線をアイシャに送っていたが、彼女がこちらを見た瞬間嫌な予感が沸き起こった。

 

「……取り込み中みたいだな。また後で来る」

 

「あ、トーヤさーん!良いところに!」

 

アイシャの言葉で大柄の男が振り返る。しかし、男は刀夜の風貌を見て興味を無くしたのか、すぐにアイシャに向き直った。

 

「あ??人が話してる時に余所見ってのはないんじゃねぇか??それよりも、早くそいつを連れて来いっつってんだよ!!」

 

男の言葉を聞いて、アイシャは何やら得意げな表情を浮かべている。刀夜は本気で嫌な予感がした。そして、「頼むから余計なことは喋らないでくれ」という視線をアイシャに送ったが、その努力虚しくアイシャは口を開いてしまう。

 

「ふふ〜ん、連れてくるまでもなかったようです!あなたの後ろの人が、その依頼を受けるハンターさんです!!」

 

アイシャは見事なまでに言い切り、完璧なドヤ顔を決めている。刀夜はというと、いつもの無表情は変わらなかったが、額にはかなりの血管が浮き出ていた。

アイシャの言葉で場は一瞬静寂に包まれたが、すぐに男と、周りで聞き耳を立てていたハンターたちの笑い声で溢れかえった。

 

「ぷっ……ギャハハハハハっ!!おいおいアイシャちゃん、いつもだが今回は本当に面白い冗談かましてくれたな!こんなちっこいやつがボルボロスの捕獲だって?無理ありすぎるだろうが!ギャハハハ、やっべぇ涙出てきた……」

 

男の言葉に周囲のハンターたちも大笑いしている。笑い声で騒がしくなったところでアリアノーラが出てきた。

 

「一体何事です……か……」

 

騒ぎを収めようと出てきたアリアノーラであるが、真っ先に刀夜の表情を見た瞬間顔が青ざめた。周囲は気がついていなかったが、刀夜からは微かな殺気が放たれていたからだ。男はアリアノーラが出てきたことに気づくと、彼女に話しかけた。

 

「お、アリアちゃんか?丁度いいところに。ギャハハハハ……あー笑いが止まんねーわ。おいおい、こんなちびっ子がボルボロスの捕獲依頼受けるってマジか?」

 

どうやらアリアノーラの表情に男は気づいていないようだ。アリアノーラはこのままではまずいと思った。彼女は刀夜の殺気を抑えるためにその場しのぎの嘘をつくことにした。

 

「何があったかは知りませんが、現在そちらの依頼はギルド上層部にて、本当に適切な依頼か精査されています」

 

「え?!アリア?!」

 

アリアノーラは静かに、アイシャに「黙って」と声をかけ、アイシャは口を紡ぐ。アリアノーラが一瞬刀夜を見ると、少し殺気が収まっていたので話を続けた。

 

「本来、ボルボロス捕獲はランク4以上の方が受注出来るものです。我々ギルドはそちらの依頼を危険と判断し、取り下げておりました」

 

刀夜の殺気が収まる。男は笑うのをやめ、アリアノーラに問いかけた。

 

「なるほどな〜。でも、アイシャちゃんは先に申し込んだ人がいるって言ってたが、それは嘘か?」

 

アリアノーラはアイシャを見た。「言いました……」と小さく呟く彼女にアリアノーラは頭を悩ませる。また刀夜の殺気が感じられた。

 

「恐らく、アイシャが勘違いしたのでしょう。依頼が取り下げられることは滅多にありませんので、彼女がすでに受注者がいると判断したのは不思議ではありません」

 

アリアノーラが言い切ると、場が再び笑いに包まれた。

 

「なんだ、アイシャちゃんのいつもの早とちりかよ。はぁ〜笑った笑った。まあおかしいとは思ったんだよ、こんなやつがボルボロスなんて」

 

アリアノーラが恐る恐る刀夜を見るが、殺気はもうなかった。アリアノーラは安堵の息をつく。

 

「まあ、もしその依頼が出てきたら俺達が受けるからな?ランク3で受けるってなりゃ俺達が一番相応しい。正直受けたい依頼を受けられないってのは尺だが、アイシャちゃんの冗談に免じて今日のところは許してやるよ」

 

そう言って男はカウンターから振り返り、刀夜の方を見る。

 

「お前も、そんなちっこい体でハンターなんかやめとけやめとけ。ぷっ……あ〜、思い出すだけで面白いわ」

 

そう言って男は周囲に座っていた男二人を引き連れ立ち去っていった。男が立ち去ると、アイシャのカウンターの出来事で笑っていた他のハンターたちも各自のすべきことに戻っていく。そして、刀夜かゆっくりとした足取りでカウンターに歩を進めた。

 

「トーヤさん、本当に申し訳ありませんでした。しかし、こうするしか場を沈める方法が……」

 

刀夜はアリアノーラが言葉を言い切る前に口を挟む。

 

「ツッコミ嬢、お前は良くやってくれた。問題はアイシャ、お前だ」

 

刀夜の指摘にアイシャが体をビクッとさせる。

 

「でも、誰が依頼者かって聞かれた時に後ろにトーヤさんがいたので、実際に受注者を見たらあのハンターさんも納得するかと思ったんです……」

 

アイシャの様子にアリアノーラはやれやれという感じで声をかける。

 

「あのねアイシャ、確かに受注者が誰か、というところは公表できるけど、あんな感じのやつにそれを言うと揉め事が起きるのは必然でしょ……」

 

「それにだ、俺は揉め事も騒ぎも嫌いだ。無駄に目立たせようとするな」

 

二人がそう言うと、アイシャは「すいませんでした……」と謝罪を述べた。さすがに萎れたアイシャを見て、刀夜もこれ以上は攻めないことにした

 

「まあそれはもういい、次はないようにしてくれ。それよりも俺は例の依頼だ。アイシャ、受注手続きをしてくれ」

 

「は、はい!んじゃ気を取り直して、行ってみましょう〜!」

 

「ちょっとアイシャ、一応あの依頼は受注できない体にしたんだから、もう少し目立たないように!」

 

刀夜の許しを得たアイシャの切り替えは早かった。またいつも通りのおかしなテンションに戻った彼女を見て、アリアノーラは「はぁ……相変わらずね……」と呟いた。

 

(しかしボルボロスの、捕獲か……。うっかり討伐しないようにしないとな)

 

刀夜の頭の中は、ボルボロス攻略のことでいっぱいであった。

 

 

 

 

 

 

 

「今日のアイシャの冗談はマジで面白かったな」

 

リエル国の街で先程ギルドから出てきた3人組が歩いていた。アイシャに突っかかっていたリーダー格の男が残りの二人に話しかける。

 

「ですよね、俺も思わず笑っちまいやした!」

 

「俺なんて今でも……ギャハハハ!」

 

街中で、決して行儀の良いとは言えない笑い声が響く。そんな中、思いついたようにリーダー格の男が口を開いた。

 

「俺、あいつのいいあだ名思いついたわ。……なんてどうだ」

 

「あ、兄貴天才ですわ!」

 

「そりゃいい、傑作だ、ギャハハハハ!周りにもどんどん広めていきましょ!」

 

「あぁ、しばらく振りのいいおもちゃができそうだ……」

 

そうして3人は下衆な笑みを浮かべるのであった。

 




刀夜対ボルボロスを楽しみにされていた方、戦闘は次の回となります。もう少しお待ちくださいませ。

それではまた次話で会いましょう。


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第27話 刀夜VSボルボロス、そしてお供

こんにちは、O.K.Oです。
ようやくボルボロス戦です。新たな展開もあるのでお楽しみを。

それでは第27話、張り切って行きましょう。


「本当に大丈夫ニャのか?」

 

「……急にどうした。竜車の送迎のしすぎで疲れたか?」

 

「ニャニャ、これくらいへっちゃらニャ。それよりも、ご主人はまだハンターランク2と聞いたのニャ」

 

現在刀夜はギルドの竜車でボルボロスの捕獲のためセントラル草原に向かっており、竜車を運搬するアイルーと話していた。話す、と言っても刀夜はいつも通りの最低限の受け答えしかしていなかったが。

 

「ランク2でボルボロスの捕獲に挑むやつなんて前代未聞なのニャ。お供も連れてないのに本当によく受けようと思ったのニャ」

 

人事のように話すアイルーにあまり構っていなかった刀夜であったが、“お供”という言葉は刀夜の興味を少し引いた。

 

「お供アイルーが存在するのか?それにしては誰もお供を引き連れていなかったが」

 

刀夜の言葉にアイルーは悩んだような声を上げる。

 

「ニャ〜。そうかご主人まだランク2だもんニャ。知らないのも無理ニャいニャ。簡単に言うと、ギルドにお供申請をしてアイルーに認められたハンターだけお供をつれることが出来るのニャ。まあ僕達アイルーも1匹1匹、ハンターに求める実力が高いから中々お供を連れているハンターはいないのニャ」

 

「そうか……。だが、それにしてもお供を連れているハンターは1人も見たことがないが」

 

「そりゃそうニャ。ハンターが依頼を受注してギルドがお供を派遣するからニャ。ただ、お供が望めばハンターと共に生活できるニャ。まあギルドの生活が快適すぎて、そんなことするやつは中々いないけどニャ〜」

 

「なるほどな」と刀夜は小さく呟く。アイルー達は意外とドライな性格のようだ。とは言ったものの、刀夜はお供をあまり引き連れたいとは思わなかった。刀夜は個人での狩りを楽しみたいのだ。

そんな話をしていると竜車が止まった。どうやら狩場のキャンプに到着したようだ。

 

「さて、着いたニャ。まあ程々に頑張るニャ、無理と思ったらすぐにクエストリタイアするニャ。あまり死に急ぎ過ぎないようにニャ」

 

刀夜はその言葉に何も反応を見せず、竜車を降りる。そして青の支給品ボックスから必要なアイテムを取り、ボルボロスの捕獲へと向かった。

 

 

 

 

 

セントラル草原は西部と東部で若干環境が違う。西部は緑に恵まれており、比較的性格が穏やかなモンスターが多い。対して東部は砂漠とは言わないまでも、地球で言うところのサバナ気候に似ている。乾燥し、昼と夜の寒暖差が大きいため生物があまり存在しないことから、モンスターの生存競争が激しく気性の荒いモンスターが多い。ボルボロスはそんな東部に生息するモンスターである。僅かな降水量によりできた泥の地帯を縄張りとし、冠状の頭殻が特徴的なモンスターだ。全身は泥を纏った堅い甲殻で何重にも覆われており、やわなものであれば容易く斬撃を弾く。

刀夜はボルボロスの特性を思い出しつつ、それが出現しそうなポイントを探索する。クーラードリンクを飲むことで冷却効果を得ていたが、照りつける太陽の暑さが尋常ではないことが分かる。

 

「ちっ、こんなにも暑いのか……。やはり実際に体験してみないと分からないもんだな。クーラードリンクが切れる前にさっさと終わらせよう」

 

軽く愚痴をこぼしつつ探索を続ける刀夜であったが、何かを発見する。刀夜の視線の先には1匹の、紫色のアイルーの姿が映っていた。

 

(野生のメラルー、いやアイルーか……?体表が紫のアイルーなんているのか?それに、1匹しかいないのか……?)

 

アイルーは大人しく臆病な気性であるが、非常に仲間思いのモンスターである。常に群生しており、外敵から仲間に攻撃が加わると危険を顧みずそれに攻撃する。しかし、刀夜は1匹で生活する、それも紫色のアイルーなどは聞いたことなかった。そのため視界の先の紫アイルーが異質な存在に映った。関心事が多くない刀夜であったが、この時ばかりは何故かその存在が気になった。

 

(少し、話しかけてみるか……)

 

刀夜は紫アイルーに向かって歩を進める。紫アイルーはどこか虚無感に包まれたように孤独にポツンと立っており、その様子が更に刀夜の興味を引いた。刀夜は紫アイルーに話しかける。

 

「おい、そこに突っ立って何をしている?仲間はどうした?」

 

素っ気なく刀夜が問いかけると、紫アイルーは刀夜の方に振り返りもせず、小さな声でポツリと呟くように答えた。

 

「仲間?そんなのはもういないニャ……。もう生きる意味もないニャ……」

 

(生きる意味もない、か……)

 

刀夜は何故このアイルーに興味が引かれたのか察した。紫アイルーの様子に昔の自分を重ね合わせていたのだ。刀夜も前世ではずっと1人、なんの目的も無く、ただ生きるという行為をしていただけであった。1人という孤独感、そしてすべてを悟ったような虚無感、それらはすべて嫌という程刀夜が味わってきたものだった。

刀夜は知っている。それらを振り払い、吹っ切れるためには何かしらの生きる目的が必要だということを。刀夜の場合はモンスターハンターというゲームだった。文面だけ見るとちっぽけなものかもしれないが、画面の中の壮大な仮想世界が刀夜の心の隙間を埋めてくれていた。なんでもいいのだ、何か夢中になれるものがあればそれが生きる目的になる。そして、その目的が奪われることで生きる意味も失うということも刀夜は分かっていた。

 

「お前は何を奪われた?」

 

刀夜は静かに問いかける。紫アイルーの体がピクリとする。そしてこちらに振り返り、その口が開かれる。

 

「その格好、ただのハンターが何を言うニャ……。知ったような口をきくニャ!!」

 

紫アイルーが刀夜の問に激昴する。刀夜は口を開かない様子だが、紫アイルーはなお怒声を響かせる。

 

「お前に何が分かるのニャ!何を奪われた?そうやって同情してくる奴が1番ムカつくニャ!!早く僕の視界から消えて呑気にモンスターでも狩ってろニャ!!」

 

そう言って紫アイルーは立ち去ろうとする。そんなアイルーに向け、刀夜は小さく呟いた。

 

「同情とは違うな」

 

紫アイルーの足が止まる。刀夜は構わず続ける。

 

「同情は上辺だけの思いやり、いや憐れみだ。同情は相手の境遇に陥ったことのないやつがする、言わば偽善のようなものだな。俺のはそれとは違う」

 

「じゃあ、何だって言うニャ!」

 

紫アイルーは振り返り、大声で叫んだ。それとは対照的に静かな口調で刀夜は話す。

 

「俺のは共感だ。俺はお前と似たような感情を持ったことがある。だから、お前の気持ち、重みを持ってやれると言っているんだ。正直俺は他人なんてどうでもいい。だが、何故か俺はこのままお前を放ってはおけない」

 

それを言い終えると刀夜の瞳には、ポカンとした紫アイルーの姿が映っていた。

刀夜自身、このアイルーのことを放っておけない理由には気づいてはいない。ただ言葉通り、何故か放っておけなかったのだ。

しかし、紫アイルーは首を左右に振ると、また声を荒らげる。

 

「お前がいたところで、僕のこれはどうにもならないニャ!お前は黄色プレートのひよっこハンター、そんな奴にあの化け物はどうしようもできないニャ!それに小柄なお前が強大なあれを倒す?冗談はやめてくれニャ!」

 

その時、大きな地響きが2人の側に近づいてきた。地響きの方向に振り向くと、刀夜は口角を上げ不気味な笑みを浮かべ、紫アイルーはどこか諦めたような表情を浮かべた。二人の視線の先には、こちらに向かって突進してきているボルボロスの姿が見えた。

 

「丁度いいニャ……。これですべておしまいニャ」

 

ボルボロスの突進を避けようとせず、命を絶とうとしている紫アイルー、その様子を見た刀夜は1発蹴りを入れた。

 

「ニャふっ……!」

 

「何勝手に死のうとしてるんだ、アホ猫が」

 

そうして刀夜も間一髪のところでボルボロスの突進を回避する。ボルボロスが通り過ぎ、近くにあった蟻塚に真正面から突っ込んでいった。その衝撃は凄まじく、ボルボロスが気絶状態となる。

 

「何するニャ!」

 

刀夜の蹴りを喰らって吹っ飛ばされた紫アイルーが立ち上がり、文句を口にする。

 

「だから、そう死に急ぐなアホ猫。体の大きさに比例して脳みそも小さいんだな」

 

「な……この僕を侮辱しているのかニャ!!それに、アホはお前だニャ!お前みたいなやつがボルボロスに勝てる訳がないニャ!僕は放っておいて、さっさと逃げれば「もし俺が……」何ニャ?」

 

紫アイルーに口を挟むように、刀夜は言葉を発した。

 

「もし俺が、こいつを狩猟できれば、お前は俺についてこい」

 

「……ニャハハハハ!」

 

刀夜の言葉に紫アイルーが大笑いし始める。

 

「お前がこの、ボルボロスを倒すニャ?そんなの無理に決まっているニャ!アホはどっちの……ニャニャ……」

 

その瞬間、紫アイルーは全身にこれまで味わったことのないような悪寒を感じた。刀夜から強烈な殺気が放たれたのだ。

 

「黙って見てろ」

 

刀夜は一言そう言うと、背中に滞納していた黛を抜く。丁度ボルボロスも気絶状態から回復したようだ。緊張状態が走る中々、紫アイルーは刀夜の出で立ちを凝視していた。

 

(あ、あの武器はなんだニャ……。それにあいつ、まるで人が変わったようニャ……)

 

ゴクリ、と紫アイルーが生唾を飲み込む。そして刀夜が走り出した。

 

「さて、ボルボロス。命の取り合いを始めようか」

 

まずは刀夜の一太刀、踏み込み斬りがボルボロスの横っ腹に命中する。続けて突き、斬り上げとコンボを決めた。ボルボロスは自分の懐に入ってきた刀夜を振り払おうと、巨体を一回転させる。刀夜は後方に回避……するのではなく、ボルボロスの後ろ足に飛び込んだ。

 

「あ、危ないニャ……!」

 

自らダメージを追うような行為に紫アイルーは思わず叫ぶ。しかし、刀夜はダメージを受けるどころか、ボルボロスの動きに合わせ更に懐に入り込むことで攻撃から逃れていた。黛の刀身が柔らかい肉質のボルボロスの腹部を抉る。

 

(そろそろか……)

 

黛の刀身が薄く発光し始める。

 

「う、嘘ニャ……。もう錬気が溜まったのかニャ……」

 

紫アイルーが驚きで目をぱちくりさせる。そう、刀夜の錬気を溜まるスピードは尋常ではないのだ。通常、太刀は錬気が溜まるまでゲージが減少し続ける。そのため、通常太刀使いのハンターはモンスターの攻撃に警戒するあまり、攻撃を当てる間隔がどうしても開いてしまい、錬気が中々溜まらないのだ。しかし、刀夜はモンスターの攻撃所作、ダメージ範囲などを熟知している。これにより距離を取る場面も攻撃に転ずることが出来るのだ。

 

「気刃斬り……っ!」

 

刀夜が気刃斬りを繰り出そうと瞬間、ボルボロスが体を振り始めた。

 

「泥振りまきニャ!」

 

ボルボロスが纏っていた泥の塊が刀夜に降りかかる。

 

「くっ……!」

 

ボルボロスの泥は粘り気が強く、当たってしまうと中々抜け出せなくなってしまう。泥自体のダメージは少ないが、行動が遅くなり致命的な隙が出来てしまうのだ。刀夜は気刃斬りの構えをやめ、泥に当たらないよう回避に徹する。

刀夜がボルボロスから距離を取ると、ボルボロスは突進の予備動作をし始めた。

 

「さすがにずっと攻撃出来るわけもないか……」

 

刀夜はボルボロスの突進進路から逃れるため、緊急回避を行う。その直後、ボルボロスの巨体が刀夜の体スレスレの所を駆け抜けて行った。

 

「あいつ、予知能力でもあるのかニャ……。全くランク2の動きじゃないニャ……」

 

紫アイルーはボルボロスと刀夜の攻防を呆然と眺めるばかりである。

 

「さて、次はこっちの番だな」

 

刀夜はそう言うと、気刃斬りをボルボロスの腹部ではなく、冠状の頭殻にぶつける。通常ならこの部位に斬撃はタブーであるが、黛の斬れ味段階は白。斬撃は弾かれることなくボルボロスに襲いかかった。そして気刃大回転斬りを繰り出し、ボルボロスを怯ませることに成功する。

 

「あ、あのボルボロスの頭殻に斬撃が通ったニャ?!半端ない斬れ味ニャ……」

 

紫アイルーは刀夜の動き、そして黛の威力に魅了され始めていた。いや、既にこの時魅了されていた。

刀夜がそのまま気刃大回転斬りを3度、ボルボロスの頭殻に加えると頭殻が破壊された。斬撃によるボルボロスの頭部部位破壊、ランク2のハンター、いや剣士のハンターができる所業ではない。

 

(こ、こいつの実力の底が知れないニャ……。こいつなら、もしかすれば……)

 

そうしてそのまま刀夜の猛攻が続き、ボルボロスはついに足を引きずり始める。

 

「そろそろか……」

 

刀夜は黛を背中に直すと、あらかじめ用意していたシビレ罠を地面に設置する。そしてボルボロスが見事罠にハマった。

 

「これで……依頼完了っ!」

 

シビレ罠にハマり身動きが取れないボルボロスに、刀夜は捕獲用麻酔玉を投げつけた。すると先程まで罠から逃げようともがいていたボルボロスの動きが止まり、寝息をたて始めた。

 

「少し疲れたが、まだまだ詰まる訳ないよな」

 

こうして刀夜は、ボルボロスの捕獲をクリアした。

 

「ん?あのアホ猫はどこに行った?」

 

捕獲を終え、刀夜は辺りを見回す。すると刀夜の後ろに紫アイルーが立っていた。

 

「お前、いや……えっと……」

 

「刀夜だ」

 

「と、トーヤ!ごめんなさいニャ……。正直トーヤの実力がこれ程とは思ってもいなかったニャ……」

 

「まあ、まだランク2だしな。で、どうする?俺について来るのか?」

 

刀夜は素直に謝罪する紫アイルーに問いかける。紫アイルーはどもりながらもゆっくりと答え始めた。

 

「と、トーヤの実力はすごいことは分かったニャ……。でも、本当に僕と一緒にあいつを狩ってくれるのかニャ……?」

 

刀夜は静かに紫アイルーの言葉を聞いている。紫アイルーは続ける。

 

「僕の仲間がリオレウス希少種、それも今までのような通常個体ではなく、本当にでかいやつに殺されたニャ……。僕はあいつを倒したい、でも1人では決して無理ニャ……。でも、あいつは本当に許せないニャ」

 

「それで?」

 

「と、トーヤは僕と一緒に狩ってくれるのかニャ……?り、リオレウス希少種、それも普通の個体じゃないニャ……。そんな化け物を相手にしてくれるのかニャ……?」

 

刀夜は沈黙を保ったままである。そんな刀夜の様子を見て、紫アイルーは諦めたような表情をする。

 

「やっぱりそうだよニャ……。そんな化け物の相手なんて誰も……「いいなそれ」え……?」

 

紫アイルーはキョトンとする。

 

「リオレウス希少種、それも恐らく上位種か……。そんなやつが存在するのか」

 

「あ、あのトーヤ……?」

 

刀夜は口角をつりあげ、殺気を纏っている。予想と違う刀夜の反応に紫アイルーは困惑する。

 

「おい、アホ猫。お前、名前は?」

 

「え、えっとヨンだニャ……」

 

「ヨン、俺がお前の復讐の手伝いをしてやる。俺がお前の共感者だ。今日からお前は俺のお供としてついてこい」

 

「え……相手はリオレウス希少種だニャ?」

 

「それ、最高だろ。強いモンスターを狩れるんだ、これ程楽しいことはない」

 

そうして刀夜は歩き出した。

 

「おい、ヨン。行くぞ。お供のくせに手を焼かすな」

 

ヨンは呆然と立ち尽くしていたが、刀夜の言葉でハッとする。

 

「は、はいニャ!お供ヨン、今日から頑張るニャ!」

 

そう答えるヨンの表情は満面の笑みであった。その笑顔は砂原を照らす太陽にも負けないほど輝いていた。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

刀夜お供ができました。
それではまた次話出会いましょう。


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第28話 狩らざる者

こんにちは、O.K.Oです。
いつもこの小説を読んでいただきありがとうございます。

それでは第28話、張り切って行きましょう。


「そうか……もうクエストをクリアしたか」

 

刀夜がボルボロスの捕獲を終えた日の夜、グライスはアリアノーラから依頼完了の報告を受けていた。

 

「あまり、驚かないのですね……」

 

「いや、内心は驚いている。が、彼なら充分ありえる話だと思っただけだ。ただ、少し困ったな……」

 

グライスが悩むような素振りを見せる。アリアノーラは本当に驚いているのかと疑問に感じつつも、意味ありげに呟くグライスに問いかける。

 

「何か、問題でも?フローラ様が依頼された無理難題を処理できたのですから良かったのでは?」

 

「あぁ、その点に関しては本当に良かったと思っている。問題は、彼の実力の底が全く見えないということだ」

 

「なるほど……」とアリアノーラは納得する。そう、グライスは今回の依頼を通して2つの目的があった。1つはリエル国の問題解決を進展させること、そしてもう1つが刀夜の実力を測ることである。前者のみが目的であれば良かったが、グライスの本当の狙いは後者であった。もし、刀夜が依頼を失敗すればそれはそれで、また手を打てばいい話であり、刀夜の実力も大体は推し量れる。しかし、グライスは刀夜がボルボロスの捕獲を完了してくる可能性も充分にあると思っていた。ただ、1日でクリアしてくるとは思ってもいなかったのだ。それに加え、グライスはもう1つ、刀夜の実力を測りかねている理由があった。

 

「まさか、お供アイルーまで連れ帰ってくるとはな。それもめったに要望のない、ハンターの付き人になることを望むとは……」

 

「そうですね……私も最初にあのアイルーを見た時は驚きました。なんと言ってもアイルーは本当に実力あるハンターにしか懐きませんから……」

 

『今日からこいつをお供として連れるから登録しといてくれ。名前はヨンだ』

 

『お願いするニャ!それと、生活も刀夜とするからよろしくニャ』

 

アリアノーラは刀夜が以来完了報告をするためにギルドに来たシーンを思い出す。

 

「ボルボロスの捕獲、ただでさえ驚いたのにお供まで……。もう驚かないようにしようって思ってたのになぁ……」

 

「おい、仕事中だぞ」

 

「あ、すいません……」

 

思わず、といった感じでプライベート口調が出たアリアノーラをグライスが注意する。

ちなみに刀夜が太刀によりボルボロスの頭部部位破壊を行ったことは報告されていない。捕獲したボルボロスを運搬したメンバーは、まさか斬撃により頭部を破壊したとは思わなかったのだ。そのため刀夜の武器がハンマーであると勘違いし、報告するまでもないと判断したためグライスの耳にその事実が伝わることはなかった。

 

「気持ちは分からんでもないがな。まあ、トーヤの実力に関していはいずれ嫌でも分かるようになる。なんせ新たなランク制度が施行されることが決まったからな」

 

その言葉にアリアノーラが反応する。

 

「つ、遂にですか……。内容は聞いていますが、リエル家のギルド潰し対策も目的に含まれているとは言え、ハンター達は納得するのでしょうか……」

 

「なーに、本物の実力があるやつは文句など言わないさ。その実力に見合ったランクを勝ち取るだろうな。それにこうでもしないと[凶暴種]、いや今の呼び名は[上位種]だったか、とやり合えるハンターが分からねぇ」

 

「[上位種]、ですか……。突如現れた、現存種よりも一回り体長が大きく、かつ強さも比べ物にならない個体……。一体どれほどのハンターが太刀打ち出来るでしょうか……」

 

様々なクエストに精通しているアリアノーラは[上位種]の強さが半端ではないことを充分に理解している。それゆえに今後の人材不足を懸念した。

 

「だから、それを見極めるためのランク制度でもあるんだ。いずれにせよ、俺たちはやれることをするだけだ。忙しくなるぞ、やることは山のようにある。アリア、お前も覚悟しておけよ」

 

「うっ、分かってますよグライスさん……」

 

不敵に微笑むグライスに、アリアノーラは今後のことを考えると苦笑いしかできない。

 

「まあまずは、依頼完了の件をフローラとシーナの嬢ちゃんに伝えないとな」

 

そう言ってグライスはアリアノーラに通達を命じるのであった。

 

 

 

 

 

「ヴァイスです」

 

夜がすっかり老けた中、リエル王都宮殿内の一室の扉をノックする音が小さく響いていた。一瞬間が空いて扉の奥から「どうぞ」という声が聞こえると、ヴァイスは扉の中へと入る。

 

「ふぁぁ……ヴァイス、こんな時間にどうしたのです?」

 

あくび混じりの声の主は、寝間着を着たシーナである。眠そうにしているシーナに申し訳ないと思いつつ、ヴァイスがシーナの部屋を訪れた理由を話す。

 

「お嬢様、先程ギルドからこのような文書が届きました。お嬢様が今一番知りたかった内容が書かれています」

 

「!?ヴァイス、それを貸してください!」

 

ヴァイスの言葉を聞いてシーナは眠気が一気に吹き飛んだ。シーナはヴァイスが持つ文書を受け取ると封を切り、記載された内容に目を通す。その目には段々と雫が浮かんできた。

 

「と、トーヤ様……よかったぁ……」

 

「えぇ、本当に良かったです……。それに、依頼の方もしっかりとクリアしてくれました」

 

ヴァイスはそう言うと満面の笑みを浮かべた。シーナもほっとした様子である。

 

「しかし、彼の実力は本当に凄まじいものだと再度実感する内容ですな。こんなにも早く、ボルボロスを捕獲するとは……それを見た時は本当に驚いたものです」

 

「ふふっ……さすがトーヤ様です。また御恩ができてしまいました」

 

感心するヴァイスと、何故か得意げに話すシーナである。二人は和やかムードに包まれていたが、ヴァイスは急に表情を暗くする。

 

「しかし、これでフローラ様が諦めるとは思えません……」

 

「そうですね……。説得も、これまで以上にまるで耳を貸していただけませんでした」

 

「これからが本当の勝負ですぞ、お嬢様」

 

「はい……」

 

シーナは小さく拳を固く握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

「ほう……あの無理難題、ギルドはクリアしたか……」

 

現在ギルドから届いた文書に目を通しているのは、他でもないリエル国第一王女、フローラ=リエルである。フローラはリエル王都にある宮殿の自室にてその文書を読んでいた。その容姿は可愛い、というよりは美しいと形容するべきであろうか、その長い青の横髪が目を通す文書にサラサラと当たっている。まさに王女、というような厳格な雰囲気が彼女からは感じ取られ、現在はややつり目気味のくっきりとした青眼を細めていた。

 

「うちの愚妹が何かしたのか……ふん、まあいい。予定は少し狂ったが、このような場合の対処も“あれ”はしてたしな。しかし、それにしてもこいつが今回依頼をクリアしたやつか……」

 

フローラは文書に記載されていた、依頼達成者の欄に目を移す。

 

「キリサメトーヤ……ただで済むとは思うな。シーナもだ、妹であろうが、これはリエルの未来のため。どんな者であろうが邪魔するものは排除するまでだ」

 

そう言うとフローラは文書を破り捨て、自室を後にした。

 

 

 

 

 

「ここもずいぶん久々に来るな……。ヨン、大型モンスターを狩る準備はいいか?」

 

「はいニャ!トーヤとの連携もかなり取れるようになってきたし、早々殺られたりしないニャ!」

 

ボルボロスの捕獲から2週間、現在刀夜とヨンは久々にギルドを訪れていた。何故このような期間、ギルドを訪れていなかったかというと刀夜はあることを行っていたのだ。

 

「あれだけしごいたからな。出来てもらわないと困る」

 

「うっ……地味にプレッシャーをかけないで欲しいニャ……」

 

そう、刀夜はヨンを連れてセントラル草原にてヨンのトレーニングを行っていた。まあトレーニング、とは言ったものの実質はヨンとの連携の取り方、回復のタイミングなどの確認事項がほとんどであったが。ヨンは刀夜が思っていた以上に戦闘ができたのだ。しかし、連携や回復のタイミングなどはからっきしダメであった。これはヨンがハンターと組んだことがなかった、という理由もあるのだが、それ以上に刀夜の狩りが自由すぎることに原因があった。そのためヨンが刀夜の戦闘に合わせて連携を行うという訓練をしたのだが、これが中々上手くいかない。ヨンは刀夜に何度も怒られ涙目になりながらも、2週間という時間をかけてようやく形になってきたのであった。

 

「まあ合わなければ、またしごき直すだけだ。そう気を重くするな」

 

「それが気が重くなる理由ニャ……」

 

刀夜はヨンの小さな呟きを尻目に、ギルドの中に入る。ギルド内はかなり混雑しており、クエストを受けにカウンターに並んでいる者、武器を調整している者、丸テーブルで酒を飲んでいる者と様々である。

 

(さて、ヨンにとっては初めての大型モンスター狩猟だが……まあそこまで気にかけることもないだろう。適当に目に入ったクエストを受けるか)

 

この辺りは刀夜らしいと言えば刀夜らしいところである。そんな取り留めもないことを考える刀夜であったが、ある1人の男が声を上げる。

 

「お、兄貴!あれノンハントじゃないですか?!」

 

男の声により、様々なハンターの視線が刀夜に向けられる。周囲は「あれがノンハントか」、「くくっ、確かにゲダンの奴が言ってた通り弱そうな奴だ」とほとんどが刀夜を侮蔑するような言葉を口ずさむ。

 

(あ?なんだこいつら。まあこういう時は……無視だな)

 

関わっては面倒だと無視することにした刀夜とは裏腹に、横の紫の猫はビクッと反応してしまう。

 

「ニャニャ?!なんでみんなトーヤを見ているニャ?!」

 

(……はぁ、このアホ猫が。これは帰ったら“指導”が必要だな)

 

そんな意味を効かせ刀夜はヨンに殺気混じりの視線をぶつける。

 

「な……これはヤバイのニャ……」

 

ヨンが額から汗をダラダラと流す。そんなやり取りをしていた2人に、1人の大柄な男が歩み寄ってくる。その後ろで先程声を上げた男と、もう1人が大柄な男の脇を固めて歩いてきた。

 

「よぉノンハント、久しぶりだな」

 

刀夜は面倒なことになりそうだ、とため息をつく。

 

「なんだお前ら?一応確認だが、ノンハントってのは俺のことか?」

 

刀夜がぶっきらぼうに問いかけると、大柄な男の後ろの2人が声を出す。

 

「お前、兄貴に向かってよくそんな口がきけるな!」

 

「ギャハハハ!とんだ怖いもの知らずもいたもんだ!」

 

大柄の男は黙っておけ、という意味を込めたのだろうか、そんな2人を右手で制し、口を閉じさせる。そしてグイッと刀夜の前に詰め寄った。

 

「おいお前、ノンハント、“狩らざる者”の癖してこのゲダンにそんな口きくとはいい度胸してるじゃねぇか」

 

ゲダン、という大柄な男を見て刀夜は記憶を辿る。

 

(あー、こいつは確か、ボルボロスの依頼を受ける時にアイシャに絡んでた奴か)

 

刀夜はなぜ自分に絡んでくるのか不思議に思いつつ、1歩も引かない様子で口を開く。

 

「ノンハント、なぜ俺がそんな不本意なあだ名で呼ばれているかは知らんが俺は忙しいんだ。それに、俺のプレートを見てみろ」

 

そう言って刀夜がゲダンに自分のハンタープレートを見せようとするが、そこで刀夜は自分のプレートが黄色ではなく、星一つが描かれていることに気づく。

 

(ん??こんなプレートを俺は持ってたか……?)

 

全く見たことのない柄のプレートに刀夜は若干困惑する。そんな中、ゲダンを含めた3人が爆笑し始める。

 

「お前、それ星1プレートじゃねぇか!ギャハハハ!おいおい、あれだけ威勢良く吠えておきながら、やっぱりノンハントじゃねぇか、こりゃ傑作だ!」

 

ゲダンが大声でそう言うと、同じフロアのハンターの大半がまた大笑いし始める。刀夜は周りの様子を全く意に介さず、思考を巡らせる。

 

(出し間違いか……?いや、でも他にプレートなんて持ってないしな)

 

「ギャハハハ!……おいノンハント、また無視か?」

 

そんな刀夜の様子を見て気に食わなかったのか、にやけたゲダンが拳を刀夜のみぞおち目掛け振るってくる。しかし、その拳は刀夜に当たる前に阻まれる。

 

「トーヤに手を出すニャ!」

 

刀夜の前ではヨンがどんぐりスコップを手に、ゲダンの拳をガードしていた。ゲダンは自分の攻撃が防がれたことにイライラしたのか、若干声が荒くなる。

 

「あ?なんだこの猫は?」

 

そう言って今度は蹴りの動作をするゲダンに、刀夜とヨンは一旦距離を取る。

 

「お前、一体なんの真似だ?」

 

「なんだそのアイルーは?まあ、それはいい。いや、なんだ、お前のその態度のでかさは先輩として指導してやらねぇとと思ってな……」

 

拳をポキポキ鳴らし近づいてくるゲダンに、刀夜は抜刀斬りの構えをする。

 

(斬っとくか……?)

 

そうして抜刀斬りを繰り出そうとした時である

 

「そこまでだ!」

 

1人の女性の声が響いた。刀夜が振り返るとそこには、燃えるような赤髪をたなびかせた、エルザ=レッドローズとそのパーティーメンバーが立っていた。




少々胸糞回だったかもしれません。

次回で新たなランク制度の全貌解禁です。それではまた会いましょう。


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第29話 ランク制度改定

こんにちは、O.K.Oです。
いつもいつもこの小説を読んで頂きありがとうございます。

それでは第29話、張り切って行きましょう。


「ちっ……“豪炎”のパーティーか……。ノンハント、運が良かったな。今日はこれくらいにしといてやる。行くぞ」

 

ゲダンは舌打ちしつつ、拳を収める。そして、2人を引き連れ出口に向かう途中、刀夜とのすれ違いざまに小さく刀夜に話しかけた。

 

「今度たっぷり可愛がってやる」

 

そしてバタン、とギルドの扉の出口が閉まる音がした。エルザ達の登場と、ゲダン達がギルドから出ていったことにより周囲のハンター達も興味を失ったのか各々の作業に戻っていった。

エルザが刀夜を心配したような声をかける。

 

「大丈夫だったか?」

 

「あぁ、何ともない。それと助かった」

 

(もう少しでこのフロア一体が奴の血で染まるところだったからな。余計な騒ぎは勘弁だ)

 

「その様子なら大丈夫そうで何よりだ。割り込んで良かった」

 

エルザと刀夜の懸念していた内容には若干のズレがあるようだが、エルザがそれに気づくことはなかった。

そしてエルザの隣にいるローウェンもまた口を開く。

 

「無事で何よりだ。あいつは“荒れくれもの”のゲダンと言ってな、気性の荒さが問題視されているやつなんだ」

 

「荒れくれもの、か。そのまんまだな。なぜギルドはあんな奴を野放しにしているんだ」

 

刀夜の疑問にルーナが答える。

 

「それが、厄介なことに実力はそこそこあるんですよ……。こちらのギルドは現在人手不足でして、できるだけハンターを処罰するのも避けたいという状況なんです……」

 

「なるほどな」と刀夜は呟く。そんな中ルーナがヨンの存在に気づいた。

 

「こ、このアイルー……」

 

「ん?なんニャ?」

 

「あぁ、そいつは俺の……」

 

何かを言いかけたルーナ、そんな彼女に刀夜は説明を入れようとするが、彼女の大声で、続く言葉がかき消される。

 

「かわいいぃぃぃ!」

 

「んニャァ?!」

 

突如ルーナがヨンに抱きついた。

 

「おいおいまたか……」「おいルーナ……」

 

ローウェンとプロントが頭を抱える。どうやら前科ありのようだ。

 

「これは一体どういうことだ?」

 

「どうもこうも、早くこいつから離してニャ!」

 

ルーナの腕の中で暴れるヨンを尻目に刀夜は説明を求める。その疑問にエルザが答えた。

 

「実はルーナは無類のアイルー好きでな……こうなるともう誰にも止められない」

「いや、諦めないで欲しいニャ!」

 

ヨンが刀夜に助けを求める視線を送るが、ゲダンの件もあるため刀夜はそのままにしておいた。

 

「エルザさん、次のクエストの時のお供はこの子にしましょ!君名前は何て言うの?あっ……!」

 

するとそこでヨンがルーナの腕から抜け出し、刀夜の足の後ろに隠れる。

 

「ニャー!僕はトーヤのお供だニャ!他のハンターと組むつもりはないニャ!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

ヨンの発言に、4人は驚きで目を見開く。そしてエルザが恐る恐る、刀夜に尋ねた。

 

「トーヤさん……そのアイルーはトーヤの専用お供なのですか……?」

 

「あぁ、さっきも言いかけたが、一応俺のお供だ」

 

「一応って何ニャ!……まあそうニャ、僕はトーヤのお供のヨンだニャ」

 

刀夜の言いようにヨンが抗議の声を上げるが途中で無駄と判断したのか、ヨンが自己紹介する。

 

(トーヤに専用お供がいるのか……。一体彼の実力はどれほど……)

 

そう、この世界において専用のお供が存在する、ということはそのハンターがかなりの実力者であることを示す。何せアイルーは、実力ある強者にのみ、そのハンターのお供になることを望むからだ。それなりの実力があれば(それでもかなりの腕が必要ではあるが)ギルドへの申請により、ギルドに所属する派遣お供を連れて狩猟を行えるが、専用お供となると話は180度変わってくる。

 

「……」

 

先程からあまり会話に参加しようとしないプロントが刀夜に睨むような視線をぶつけている。刀夜は、こいつは苦手だ、と心の中で思いつつ口を開こうとするが、先にプロントが言葉を発した。プロントの瞳には刀夜が持つハンタープレートが映っていた。

 

「……おい、お前それ星1プレートじゃねぇか」

 

プロントの発言により他の3人も刀夜が持つプレートに視線を集める。3人はそのプレートを見て驚くばかりである。

 

「やっぱりお前、これまでの狩猟実績は……」

 

「おいプロント、その先は口にするな。それに、彼はお供持ち、お前の考えていることがあるわけない」

 

何かしら言いかけたプロントに、ローウェンが待ったをかける。そんな中、エルザが刀夜に尋ねる。

 

「トーヤ、何故お前ほどのハンターがまだ星1なんだ?何か理由があるのか?」

 

「星1ってこのプレートのことか?俺はこんなプレートを持っていた覚えはない。俺のプレートは黄色のやつだ」

 

刀夜にとってもよく分からない状況であった。刀夜は正直にそう答えると、しばしの静寂が4人を包んだ。

 

(あ?何かまずいことでも言ったか……?)

 

「な、なぁトーヤ。お前まさか、ランク制度の改定をまだ知らないのか……?」

 

ローウェンが恐る恐るといった様子で刀夜に尋ねる。

 

「ランク制度が改定……?俺はこの2週間、セントラル草原でヨンといたんでな。そんなことがあったのか?」

 

「そうか、そういうことか。なるほどな……」

 

エルザは刀夜の回答に唖然としつつも、納得したように小さく呟く。

 

「トーやさん、実はちょうど2週間前に新たなランク制度が制定されたんです。急な出来事でしたし、ここを離れていたトーヤさんが知らないのも無理ないとは思うのですが……」

 

そこでルーナは意味ありげに言葉を区切る。

 

「ですが……?」

 

疑問に思う刀夜に、ローウェンが続けた。

 

「それに伴って旧ランク制度に基づくランクが取り消されたんだ。つまり、全ハンターが新制度においては星1の最低ランクからスタートしたってことだ。それはもう2週間前はハンター達が大騒ぎしてな……」

 

「なるほどな。それで街にいればその騒ぎに気づくはずが、俺は例外だったと。しかしよくそれをハンター達は受け入れたな」

 

「ギルドは『実力あるハンターを再度見極めるため』、の一点張りでな。まあ、ギルドの言い分は俺達もよく理解している。なんて言ったって今回の改定には半端なハンターをふるい落とすという目的があるからな」

 

そこでエルザが口を挟む。

 

「いずれにせよ、まだ改定内容について知らないなら早くカウンターに問い合せた方がいい。このままだと受けるクエストも受けられなくなるからな。あと、私達もこれで失礼する。仕事が山ほどあってな……」

 

そう言えばエルザ達はギルドの調査隊のメンバーでもあったんだな、と刀夜は思い出しつつ、エルザの言葉にコクリと頷きクエストカウンターへと向かった。

 

 

 

 

 

「あ、トーヤさん!!今までどこをほっつき歩いていたんですか!」

 

アイシャが担当するクエストカウンターに向かった刀夜であるが、アイシャが刀夜を見つけるなり非難の声を浴びせる。

 

「それは俺の勝手だろう」

 

「そうかもしれませんが、こんのくっそ忙しい時に限って現れなくなるんですから。え?心配?少しだけですがしてましたよ、ほんの少しだけ」

 

「誰もそんなことは聞いていない」

 

久方ぶりのアイシャはいつも通りの調子である。そんな中ヨンがアイシャに話しかける。

 

「アイシャ、久しぶりニャ〜」

 

「お!ヨンちゃんではないですか!お供申請以来かな?いやー、相変わらず愛らしいご様子で」

 

「ん、その節は世話になったニャ!」

 

「はぁ〜、可愛すぎますね。トーヤさんにもこの素直さを見習って……ってなんでもありませ〜ん」

 

アイシャは刀夜の放つ殺気を感じたため言葉を区切る。

 

「それはそうとトーヤさん!本日の重要案件ですが、ランク制度改定についてはさすがにもう耳に入っていますよね?」

 

刀夜は静かに頷く。先程エルザから聞いて知ったばかりであるが、それを言うとアイシャがうるさくなりそうなので黙っておくことにした。

 

「了解です!アリアー!刀夜さん来たよー!」

 

アイシャがそう呼びかけると、奥からアリアノーラが出てきた。

 

「やっと来ましたか……。ったく遅すぎるのよ……」

 

「なんか言ったか?」

 

「い、いえ!ではこれから新たなランク制度についての詳細をお話させていただきます!」

 

アリアノーラは誰にも聞こえないように悪態をついたつもりであったが、刀夜の耳に届いてしまったようだ。刀夜が殺気混じりに威圧すると、アリアノーラは焦った様子ですぐに話題を変えた。

アリアノーラの説明によると、新たなランク制度は以下の通りである。

1つ目、旧ランク制度廃止に伴い全ハンターのランクをリセットすること。これに関しては刀夜はエルザ達から話を聞いていなかったので別段驚きはなかった。

2つ目、ランク分けに際し、旧ランク制度の白、黄、赤、緑、青、紫、黒と色による7段階制を撤廃し、1から10の星の数による10段階性への移行。これはハンターの実力を細かく吟味し、各々に見合った手腕のクエストを受注させるためのものだそうだ。刀夜のプレートが黄色から星1つに変わっていたのはこのためだ。

3つ目、これが一番刀夜にとっては驚くべき改定であり、それと同時に嬉しい改定でもあった。上位、下位の段階分けである。星1〜5のハンターを下位ハンター、星6〜10のハンターを上位ハンターという位置づけにする制度が採用された。そして、下位ハンターは上位クエストを受けることが出来ないということも話された。

この3点が新たなランク制度の概要である。

 

「ちなみに、下位と上位では狩猟対象の大型モンスターの種別は変わりません。しかし、そのモンスターの大きさ、凶暴性などは全くの別物です。上位に上がった際にはこれらの点を留意した上で狩猟をお願いします。それと、上位のクエストは依頼数があまり多くありません。これは上位モンスターの個体数がそもそも少ないことによります。ですので、上位クエストを受けることになる際はお早めの受注をお願いします」

 

「……なるほどな」

 

(これは益々楽しくなってきたな……。恐らく、直近で倒したボルボロスは下位のモンスターだろう。そしてヨンの言っていたリオレウス希少種は……ククク……)

 

「んー、僕には関係ないけど、まあトーヤは頑張るニャ」

 

「……あぁ、そうだな。ん、ちょっと待て」

 

最近はクエストの手応えをあまり感じられず、退屈しかけていた刀夜であったが、まだまだ上があると知り喜びを隠せない。様々な思考を巡らし自分の世界に入りそうになっていたが、ヨンの言葉で意識が引き戻される。それと同時に、刀夜の中で一つの疑問が生まれた。

 

「ランクが一度リセットされたのは分かった。が、またランク1からクエストを受ける必要があるのか?それはめんどくさすぎるぞ」

 

刀夜がそう言うと、アリアノーラは表情を曇らせる。

 

「そこなんですが……最初にクリアした依頼のランクで認定しています。

なので、いきなり上位クエストを受けることも可能ですが……まあおすすめはできません。こちらとしてもある程度提示するクエストは限定しています」

 

「なるほど、それなら納得だ。それじゃあ早速、受注可能なクエストを見せてくれ」

 

そう言うと、アリアノーラは言いにくそうに口を開く。

 

「実は……トーヤさんが次に受けてもらうクエストは既に指定されています……」

 

「何?どういうことだ?」

 

刀夜は非常に嫌な予感がした。気のせいであって欲しかったが、こういう時の予感は大体当たっていた。それは今回も例外ではない。

 

「本当に言い難いのですが……リエル国第一王女、フローラ=リエル様からトーヤさんに、指名依頼が入っています」

 

「……なに?」

 

アリアノーラの言葉に刀夜は驚きとため息しか出ないのであった。




やはり上位と下位があってのモンハンですよね。

それではまた次話で会いましょう。


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第30話 護衛依頼

こんにちは、O.K.Oです。
いつもこの小説を読んでいただきありがとうございます。お陰様でこの小説も30話まで連載できております。今後も引き続き、よろしくお願いします。

今回は指名依頼の内容についての話です。
それでは第30話、張り切って行きましょう。


「一応聞いておくが、指名依頼とは?」

 

「指名依頼はその名の通り、依頼者が直接受注ハンターの指定をした依頼のことです。通常は納品依頼などで状態の良い素材を納品すると、依頼者が再度そのハンターにお願いしたいという場合に使われることが多いのですが……」

 

「なるほどな……。なら何故、面識が全くのない俺に、それも第一王女から指名が入るんだ?」

 

刀夜が淡々と問うと、アリアノーラが顔を引きつらせながら答える。

 

「私共にも詳しいことは分かりません……が、恐らく以前のボルボロス捕獲の件でトーヤさんの事が知られたのかと……」

 

「……」

 

(単純に実力が買われたのか、それとも……)

 

「その依頼、断ることは?」

 

アリアノーラは申し訳なさそうに、というよりは額に汗を浮かべながら顔を強ばらせて口を開く。

 

「非常に申し訳ないのですが……断れば恐らく、フローラ様が黙っていないでしょう。そして、我々ギルドも……」

 

「ちっ……面倒な……」

 

舌打ちしながら刀夜がそう呟く。

 

「トーヤ、依頼内容を聞いてから色々判断してもいいんじゃないニャ?」

 

「……まあそうだな。ツッコミ嬢、依頼内容は?」

 

「だからツッコミ嬢じゃ……いや、なんでもありません……。フローラ様が依頼されたのは、トーヤさんご存知のリエル国第二王女、シーナ=リエル様の護衛依頼です」

 

アリアノーラはいつもの調子で喋りそうになったが、刀夜の機嫌を更に損なうことを恐れ、質問に答えた。

 

「護衛依頼……?それもシーナのか?」

 

刀夜にとって聞き慣れない言葉である。それもそのはず、単純にゲームの世界ではプレイヤーが受注できる護衛依頼がなかったからだ。

 

「はい、通常護衛依頼は大規模なキャラバン、すなわちハンターのアイテムなどの物資を補給してくださる商隊の移動時に依頼されるものなのですが、今回は特例ということで」

 

「王族のシーナが何の護衛もなしに移動するのはまずいってことか。だが、リエルは国なんだろ?軍か何かあるんじゃないのか?」

 

「おっしゃる通りですが、国の軍はなんと言いますか、その……モンスターとの戦闘専門では……」

 

(なるほどな、対人戦専門なわけか。恐らく、他国との戦争が起こった時のための軍なんだろうな)

 

言いよどむアリアノーラに刀夜は自分の中で推測をつける。この刀夜の推測通り、リエル国の軍隊は他国との戦争時の戦闘要員として駆り出されるための兵士だ。モンスター専門ではない。しかし、そうなると刀夜の中で疑問が1つ浮かんだ。

 

「なら、リエルはなぜギルドをこの国から撤廃しようとしている?国の軍はモンスターと戦えないんだろ?」

 

「そこなのですが、フローラ様はギルド撤廃後、ギルドに代わるリエル国直轄の新たな団体を作るつもりだとか……」

 

(つまり独裁政治を目指してるわけか……。勝手なやつだな)

 

「それはそうと、依頼の詳細を教えてくれニャ」

 

話が逸れ始めた2人に痺れを切らしたのか、ヨンが口を挟んだ。

 

「あぁ、そうだったな。ツッコミ嬢、依頼の詳細を教えてくれ」

 

「はぁ……もういいです、それでいいです……。こちらに依頼内容が記載されています」

 

アリアノーラがため息がちになりつつ、刀夜に資料を渡す。刀夜が資料を受け取ると、ヨンも刀夜の肩に乗って2人は資料を読み始めた。

 

「北のアルカナ地方まで行くのか……。このネーヴェ国ってところまで護衛すればいいのか?」

 

「そうです。フローラ様曰く、ネーヴェ国との外交を密にするためとのことでシーナ様をリエル国大使として送られるそうです……。まあそのあたり詳しく分かりませんが、それよりもトーヤさんはネーヴェ国をご存知ないのですか?」

 

「あぁ、生憎世界情勢には疎いんでな」

 

「では、いい機会です。ネーヴェ国についても少しお話しておきますね」

 

--ネーヴェ国、それはこの世界における4つの地方の内、最も北に位置するアルカナ地方西部を治める国である。このアルカナ地方は豪雪地帯として有名で、ネーヴェ国は別名『雪の国』とも呼ばれている。ハンターの狩猟環境としては厳しいもので、ニクス凍土と呼ばれる狩場があるがホットドリンクが無ければ狩猟は愚か、歩くことさえままならない場所である。しかし、ニクス凍土にはセントラル草原には生息しないような珍しいモンスターや、珍しいアイテムの宝庫でもあるため多くの中級〜上級ハンターがそこを狩場として訪れるためネーヴェ国はハンター達で賑わう国である。また余談であるが近年、アルカナ地方東部に隣接するサルザーン帝国との政治的関係が緊迫しており、両国緊張状態にある。

以上が刀夜がアリアノーラから受けたネーヴェ国の説明だ。

 

(凍土があるのか……。ギギネブラ、ベリオロスもいそうな場所だな……ククク……)

 

「あのトーヤ、一応なんだけどニャ……」

 

「ん?なんだ?」

 

凍土、と聞き様々なモンスターとの戦闘を期待し想像を膨らませる刀夜に、ヨンから声が掛かる。

 

「資料にも書いてあるけど、この護衛は帰りもセットになってるから凍土で狩猟はできないと思うのニャ……」

 

「……そうなのかツッコミ嬢?」

 

ヨンの言葉に刀夜は一気に現実に引き戻される。

 

「あ、いえその……一応ニクス凍土はランク星4から7までのハンター推奨狩場となっておりまして……」

 

「そんなことは聞いていない。凍土で狩猟出来る時間は、ないのか?」

 

躊躇いガチに、それも少しずれたことを話すアリアノーラに、刀夜は瞬時に釘を刺す。

 

「こ、今回は外交についての対話ということなので、すぐに戻るということはないと思います……。恐らく1週間ほどあちらに滞在することになるかと……」

 

「ほう……。1週間もあれば十分だ」

 

「でも……護衛依頼を受けている僕達は他の依頼を受けることができないんじゃないかニャ?それに、ランクが星1なのに受けることが出来るニャ?」

 

不敵に微笑む刀夜に、ヨンがそう告げると刀夜は真顔に戻った。

 

「いえ、複数の依頼受注は可能ですが、その分依頼失敗時は重い処分が下ることもままあります。ギルドとしては、もう1つの依頼に気を取られすぎたために、依頼をクリア出来なかったのではないか、ということですね。それとランクに関してですが、今回の護衛依頼後に、依頼中に対峙したモンスターや討伐したモンスターにより総合的に判断してランクを上げさせていただきます。つまり護衛依頼依頼中、ニクス凍土で受けていただいた依頼も護衛中に討伐したモンスターと見なし、考慮させていただきますが……さすがに冗談ですよね?」

 

「……つまり、受注可能なわけだな。ククク……」

 

「え、本当に行くのかニャ?寒いところは苦手ニャ……」

 

ヨンはそう言うと自分の腕を両前足でこする動作をする。それはルーナがこの場に入れば間違いなく暴走し出すような、非常に愛くるしい動作であるが刀夜は意にも介さない。

 

「はぁ……戦闘狂とはこのことを言うんですかね……。まあ、それはいいです。出発は2週間後を予定していますが、もう受注確定ということでよろしいですね?」

 

「あぁ、それで構わないが……パーティーメンバーは8人なのか?」

 

ニクス凍土の話を聞き、刀夜の中で護衛依頼受注は決定事項となった。そんな中、刀夜は自分の持つ護衛依頼書類の受注人数欄を見て疑問を呈する。

 

「はい。今回は護衛依頼、4人では少ないと判断したためです。パーティーメンバーは4人まで、というジンクスもありますが、このような大掛かりな依頼においてはその制限が外されます。ちなみにトーヤさん以外のメンバーは既に確定しています」

 

「なるほどな……。で、その肝心のメンバーはどういうやつらなんだ?」

 

刀夜の問にアリアノーラは意外そうな表情を浮かべる。

 

「と、トーヤさんもメンバーは気にするんですね……」

 

「当たり前だ。足を引っ張るような奴らでは困るだろ」

 

「そ、そうですね……。メンバーは良い意味でも悪い意味でも、トーヤさんの既に知る人達です」

 

「良い意味でも悪い意味でも?」

 

「そうです。良い意味というのは、エルザさんのパーティーがこの依頼に参加されます」

 

(エルザ達がいるのか……。まあ、元ランク5だけあって実力は申し分なさそうだな。プロントだけ少し気にはなるが)

 

刀夜は自分に色々と突っかかってくるプロントが気にかかったが、それ以上でもそれ以下でもなかったため思考を打ち切る。

 

「で、悪い意味のメンバーは?」

 

「えー……私も苦手なのですが、先程のゲダンさんの3人パーティーが受注されてます……」

 

「……」

 

(あいつらがいるのか……。面倒事にならなければいいが……まあエルザ達にあいつらの対処を任せればいいし、いざとなれば……)

 

刀夜は背中に装備中の黛に意識を寄せる。

 

「まあ、うまくやってください。依頼内容についてはこれくらいですかね。そちらの資料に進行路などは記載されております、比較的安全な行路を取っていますが万が一、大型モンスターと遭遇した時は撃退、もしくは討伐をお願いします」

 

「分かった。出発は2週間後だったな?」

 

「はい、それまでに護衛依頼の準備等、お願いします」

 

「じゃあトーヤ!それまでにまた連携を強化しようニャ!」

 

「あぁ、そうだな。そろそろ行くか」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

そう言って刀夜とヨンはセントラル草原に向かうためクエストカウンターを後にした。1人カウンターに佇むアリアノーラは思考を巡らせる。

 

(お供ができたことで、彼も少しずつ変わってきたわね……。他人を気にするようになるなんて以前の彼では考えられない。まあ相変わらずの戦闘狂だけど。それよりも……)

 

アリアノーラは護衛依頼に関しての資料を見る。

 

(あの第1王女は何を狙っているの?エルザさんのパーティーもいることだし大丈夫だとは思うけど……何か嫌な予感がする)

 

「アリアー!終わったなら手伝って!カムバーック!」

 

「あ、はいはい今行く!」

 

アリアノーラの不安は拭いきれぬままであった。その不安が現実となるのか、はたまた余計な心配で終わるのかは今は誰にもわからない。




次回から護衛依頼に入ります。
それではまた次話で会いましょう。


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第31話 出発

こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただきありがとうございます。

お陰様でお気に入り登録数が100件突破しました。
こんな駄文に付き合っていただきありがとうございます。
今後も応援よろしくお願いします。

では第31話、張り切って行きましょう。


「トーヤ、起きるニャ!」

 

早朝、ハンターの宿舎の一室に何度目とも分からないヨンの声が響き渡った。刀夜は不機嫌そうに体を起こすとまたベッドに横になった。

 

「ん……あ?なんだヨン、こんな朝早くに。俺はまだ眠いんだ……。次大声出したら剥製に……」

 

「今日が護衛依頼初日だニャ〜!」

 

「っ!!」

 

ヨンのその言葉に、刀夜の先程までのダラっとした動きが俊敏なものに変わる。刀夜は自らが被っていた掛け布団を放り投げ、急いで準備を始めた。

 

「アホ猫、なぜもっと早くに起こさない」

 

「だからさっきから起こしてたニャ!起きなかったのはトーヤニャ!」

 

「この部屋に紫色のアイルーの剥製が1つ出来るな」

 

「理不尽すぎるニャ!」

 

刀夜は依頼に関しては完璧主義である。クエストリタイアやクエスト失敗は許せない質で、遅刻もその部類に入る。そのため現在、刀夜を支配していたのは焦り以外の何者でもなかった。

刀夜は必要なアイテムを荷物にまとめ、防具であるジャギィシリーズで身を包む。

 

(そろそろジャギィシリーズの防具だけでは心許ないかもな……)

 

ゲームにおいて、ジャギィシリーズのスキルは攻撃力UP【小】、まんぷく、気絶半減の3つでこれらのスキルは初心者の内は非常に重宝される。しかし、それはあくまで序盤だけで、ジャギィシリーズの防御力はそれほど高くなく、いずれは倉庫でホコリをかぶることになる防具なのだ。加えて刀夜はゲームでは発動していたジャギィシリーズのスキルを未だ実感出来てはいない。攻撃力UP【小】は黛の元々の攻撃力が高すぎて比較のしようがなく、まんぷくは携帯食料を食べるほど狩場に長居したこともなく、気絶半減に関しては、そもそも気絶するような強力な攻撃を受けたことがないからだ。

これらの理由から刀夜は、ゲームでは防具を装備することで発生していたスキルの存在を疑問に思い、先日武具屋のアイアンの元を訪れた。その時の内容を刀夜は思い返す。

 

-----------------------

 

「防具を装備することで得られる防御力以外の恩恵だって?」

 

「あぁ、少し気になってな」

 

「おいおい、そんなことも知らず防具を装備してたのか?折角の業物が泣いてるぜ」

 

「ならやはり、スキルが発動するのか?」

 

「あったり前だ、ちゃんと知ってるじゃねぇか。ちなみにそのジャギィシリーズのスキルは……」

 

「攻撃力UP【小】、まんぷく、気絶半減……か?」

 

「そこまで分かってて何故聞いたんだ……まあ、その通りだ。ハンターにとって有用なスキルが3つも付いてくるんだ、便利な防具だろ?」

 

「……あぁ、重宝している……」

 

-----------------------

 

(今はまだスキルの有用性を実感出来てはいないが、強力な防具になれば……)

 

「トーヤ!何ぼーっとしているニャ!早くするニャ!」

 

「あぁ……ってさっきからうるさいぞアホ猫」

 

「ニャ〜!さっきからなんで僕が怒られてるニャ!」

 

思考を打ち切られた刀夜は、理不尽な苛立ちをぶつけるとヨンは自らの頭部をわしゃわしゃとする。

そんなこんなしている内に、護衛依頼の準備が完了した。

 

「さて、行くか。ヨン、早く行くぞ」

 

「なんか釈然としないニャ……」

 

こうして2人は早足で宿舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、どんなメンバーが護衛仲間かと思いきや、ヴェノム地方では(・・・・・・・・)かの有名な“豪炎”のパーティーではないですか。護衛依頼中はお手柔らかに……へへへ……」

 

「ちっ、ゲダンのパーティーが一緒かよ……」

 

「よせ。言わせておけばいいんだ」

 

「そうだよ、それにプロントここ最近むしゃくしゃしっ放しだよ?少し落ち着いて」

 

現在、リエル王都宮殿前には護衛依頼を受注したエルザのパーティーとゲダンのパーティーが集まっていた。

ゲダンが、やってきたエルザのパーティーに挑発的に話すと、プロントが苛立った様子で舌打ちし、眉間に皺を寄せてゲダンを睨みつける。それをなだめるように、ローウェンとルーナが割って入った。

 

「あぁ、悪いなルーナ……。こいつといい、あのキリサメトーヤといい、最近ちょっと気分が優れねぇことが多いみてぇだ……」

 

ルーナの指摘にプロントが少し気分を落ち着かせる。

 

「“荒くれもの”、その辺にしておけ。あまり侮辱するようであれば私も黙ってはいない」

 

「おぉ、それは失敬失敬。侮辱に聞こえたなら謝るぜ」

 

威嚇の意味も含めたエルザの言葉にゲダンがおどけたように話す。その様子も腹立たしいものではあったが、エルザは無視して話題を変える。

 

「それにしても、今ここにいる護衛受注者は私達のパーティーと、“荒くれもの”のパーティーの7人か……。あと1人、ソロのハンターがいるはずだが……」

 

すると突如宮殿の門が開き、宮殿の中から大きな竜車が3台ほど縦並びで出てきた。すると竜車はエルザたちの前で止まり、一番前の竜車から銀色のプレートに身をまとった軍の兵士らしき人々、そして最後に一風変わった、黄土色の重厚な装甲に身を包んだハンターらしき人物が現れる。その肩には特徴的なねじれた角が顕になっており、ここにあらんと主張するばかりに天を向いている。またその背中には、肩からむき出しとなっているねじれた角を、荒削りにしたような大剣が装備されている。

 

(あれは……っ!)

 

エルザたちはその人物の風貌に驚きつつ、各々が装備していた武器を自らの脇に置き、片膝をついた。

 

「おはようございます、ハンターの皆々様。少し早いですが出発前の紹介とさせていただきます。頭をお上げください」

 

その言葉と同時に、ハンターは被っていたヘルムを脱ぎ、7人は直立する。

 

「この度はリエル国第2王女、シーナ=リエル様の護衛依頼を受注していただきありがとうございました。私、シーナ様の付き人をしておりますヴァイス=シュバイツと申します。そしてこちらに控えておりますのは私の指揮する、シーナ様の近衛兵共でございます」

 

そう話すハンターらしき人物、ヴァイスの口調は外装とは異なり、穏やかなものである。

ヴァイスが自己紹介する中、直立するプロントが隣のルーナに小さく話しかける。

 

「おいおいマジかよ……ありゃ“堕ちた剣雄”じゃねぇか」

 

「しっ、プロント、今はやめて。私もびっくりしたけど……」

 

「相変わらずお硬ぇことで……」

 

プロントがいつもの調子を戻しつつルーナにちょっかいを出す。

 

(あの堅固なディアブロスシリーズと背中の大剣、クオーラルホーン……本物のヴァイス=シュバイツなのか……。噂通り、本当に王家に仕えていたとは……)

 

ヴァイスの姿を見て、エルザはそんな風に思考を巡らせる。

それとは別に、ヴァイスはエルザたちを一人一人見るが、人数が1人足りていないことに気づいた。

 

「最後にシーナ様のご挨拶を……と言いたいところですが、お1人この場にいらっしゃらないようですね」

 

その表情は怒り、というよりもどこか困惑しているようである。ヴァイスは自分の近くにいた近衛兵に耳打ちし、近衛兵はシーナがいると思われる竜者に、何かを伝えに行く。

そこにゲダンが痺れを切らしたのか、苛立ち気味に口を開いた。

 

「あぁ〜!そんな奴は放っておいて、このメンバーでとっとと行こうぜ!ソロのやつなんてどうせ大したことないだろ」

 

「兄貴、違ぇねぇ」

 

「ギャハハハ!そうそう、ソロってことは役立たずのグズだろうな!」

 

「まあ、そう焦らず……。まだ集合時間にはなっておりませんので」

 

「おいおい、王宮の人間が随分と寛容じゃねぇか……」

 

ヴァイスの姿勢にゲダンは疑問の姿勢を示す。ゲダンが疑問に思ったのも無理はない。何せ今回の依頼はリエル国王族の護衛である。王族が現れたのにも関わらず、受注者が姿を見せないというのはありえない話であった。

そして役立たず、とは言わないまでもエルザ達も同意見であった。

 

(あいつらの言うことも一理ある……。どこに王族の依頼に遅れそうになるハンターがいるんだ。それに最近、ハンターは特別な事情がない限り、パーティーを組んで依頼をこなすことが多い。特にこのような重要な依頼においてはソロで受注することはあまり考えられない。ただ1人を除いては……)

 

「“豪炎”殿、そう怖い顔をなさらないでください」

 

「あ、いや、申し訳ございません。少し考え事をしておりました……。それと私のことはエルザとお呼びください。二つ名で呼ばれることはあまり好きではないので……」

 

「なるほど、分かりました。ではエルザ殿、貴殿は今しがた、何故王族がたった1人のハンターのために時間を割いているのか?そう考えておりましたな?」

 

「……」

 

ヴァイスの指摘にエルザは口を閉ざす。

 

「沈黙は肯定と受け取ります。まあ、王族がそのように思われているのも……」

 

「っ!いえ!決してそういう意味では!」

 

エルザが慌てて訂正する。場合によっては不敬罪とも取られかねない言動だからだ。

 

「いえいえ、そのようなイメージがあるのも仕方の無いことです。これもリエル家が成してきた事、それ故の意見なのですから」

 

「……」

 

またもエルザは口を閉ざす。ヴァイスはそれを見て咎めるでもなく、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「そうは言っても、エルザ殿の考えも分かります。確かにただのソロハンターなら、こう待つこともありませんでした」

 

「それはどういう……」

 

「来ましたな」

 

ヴァイスは続くエルザの言葉を切り、視線をエルザから外した。ヴァイスの言葉で7人のハンター全員が後ろを振り向いた。そこに居たのは……。

 

「ふぅ、ギリギリ間に合ったな」

 

「はぁはぁ……ギリギリすぎるニャ!次からもっと早く起きるニャ!」

 

刀夜とヨンが肩で息をしながら、3台の竜者が待機する集合場所に到着した。

 

 

 

 

 

「まさかトーヤがこのクエストを第1王女の指名依頼で受注していたとは……驚かしてくれる」

 

竜者の中でそう話すのは、ウラガンキンの防具、ガンキンシリーズを身にまとい、下位武器のハンマーの中では強力な攻撃力を誇るグレンナックルを装備したローウェンだ。

現在、3つの竜者はネーヴェ国へ向かうべく、セントラル草原を走っていた。1つ目の竜者にはヴァイス含めた王宮の近衛兵が、2つ目の竜者にはシーナとその侍女たちが、そして3つ目の竜者に刀夜含めた8人のハンターが乗車している。

3つ目の竜者にいる刀夜現在は窓枠に肘を起き、静かに仮眠を取っていた。ヨンも隣でぐっすりと眠っている。窓の外では草原の草を食べるアプトノスの群れがいた。

 

「それだけじゃない。第2王女様のあの様子……トーヤと一体何があったんだ……」

 

ローウェンの言葉に刀夜は反応を示さない。

エルザたちは出発前の、シーナの挨拶のシーンを思い出す。

 

-----------------------

 

「来ましたな……って、おいおい、まさかあいつが護衛依頼の受注者か?!」

 

「そのまさかでございます。それに、トーヤ殿はこの依頼におけるフローラ様の指名依頼者でございます」

 

「はぁぁぁ?!」

 

ヴァイスの暴露に、ゲダンは信じられない、といったように唖然とした表情になる。

 

「どういうことだよ……あいつが第1王女の指名したハンターなんて」

 

「相変わらずヨンちゃん可愛い……って、ちょっと、プロント落ち着いて」

 

刀夜の登場に敵意を露わにするプロントを、ヨンを見て自分の世界に入りかけたルーナがなだめる。

 

「しかし、まさかトーヤが護衛のメンバーとは……」

 

「あぁ、私も驚いている。が、ようやく彼の実力を見れる機会が訪れたな」

 

「お、そうか、そいつは楽しみだな……」

 

ローウェンとエルザの視線の先には、見知ったように刀夜に話しかけるヴァイスの姿が映っていた。

ヴァイスは少し刀夜と話すと、近衛兵にシーナのいる竜者へ伝令に向かわせた。

 

「では、出発前の挨拶をシーナ様にしていただきます。シーナ様、どうぞ」

 

ヴァイスのその声で竜者の扉が開かれる。すると竜者からは、動きやすい軽装備に身を包んだシーナが現れた。

ハンター達が片膝をつこうとするも、シーナによって止められる。

 

「皆様、どうぞそのままでお願いします。私がリエル国第2王女のシーナ=リエルです。この度は私のためにこのような依頼を受注して下さり、本当にありがとうございます。全員が無事に、今回の長旅を終えることを願います」

 

シーナはそう言うと一礼し、相変わらずの無表情である刀夜に視線を合わせる。

 

「トーヤ様も、不甲斐なく思いますがこの度もお願いします」

 

「は?!」

 

驚きの声を思わずあげたのはゲダンだ。刀夜以外の他のハンター達も驚きで唖然としている。

シーナは一言そう述べるとそのまま竜者に戻って行った。

 

「なんでノンハント、お前みたいなやつが王女と知り合いみたいになってんだ、クソが……」

 

「何か問題でもあるのか」

 

「ノンハント、ちと調子に乗りすぎだよなぁ。やっぱり1度痛い目見とくべきだ」

 

ゲダンが刀夜に足を進めようとする。しかし、そこにヴァイスが割って入った。

 

「揉め事はよろしくありません。それと、今から出発するのでハンターの皆様はあの3番目の竜者にお乗り下さい」

 

ゲダンは不服そうに、舌打ちしながら乱暴に竜者の中に入っていく。それに続いてエルザ達、そして最後に刀夜が入り竜者が出発した。

 

-----------------------

 

「いずれにせよ、この依頼はいい機会だな……」

 

ローウェンはそう小さく呟いた。

そんな中、エルザが機嫌の悪いプロントに小声で話しかける。

 

「プロント、お前がトーヤのことを認めていないのは分かった。だが、嫌でもこの依頼で彼の実力が判明するだろう。そこで……もし、その彼の実力が本物であったら、彼に謝罪するんだ」

 

「あぁリーダー、謝罪でも何でもしてやるよ……」

 

そこからは竜者の中に静かな時間が流れる。時折ゲダンがパーティーメンバーに苛立ったように呟いたり、ルーナがヨンの寝ている姿を見て悶えていたりはしたが、その他は特にモンスターが襲ってくるでもなく、順調な時間が過ぎ去っていった。

しかし、その平和な時間は唐突に終わりを告げる。

 

バサッ……バサッ……。

 

(……ん?何か来るか……?)

 

仮眠を取っていた刀夜が意識を覚醒させる。ほんの僅かではあるが、翼が羽ばたく音が聞こえたのだ。

そしてその音を察知したのは刀夜だけではなかった。

 

「みんな起きろ……。何か近くにいやがる」

 

「兄貴……何かいますぜ」

 

危険察知能力の長けたプロント、そしてゲダンのパーティーの1人もモンスターの接近に気がついたようだ。

第3竜者内のハンター達は各々戦闘の準備をする。

 

「おいアホ猫、お前も起きろ」

 

「んニャ?!」

 

刀夜がヨンの頭部に強烈なチョップを加える。ヨンは体と毛並みをビクッとさせて飛び起きた。

 

「あー、ヨンちゃんに抱きつきたい……」

 

「ルーナ、ほんとアイルー好きなのな……」

 

自分の頭部を優しく摩るヨンにルーナも反応する。プロントもやれやれといった様子だ。

 

「トーヤ、もう少し優しく起こしてくれニャ……」

 

「知るか……近くに何かいるぞ」

 

「お、戦闘かニャ……」

 

恨み言を呟くヨンであったが、刀夜の言葉に真剣な表情を浮かべる。

そんな中、竜者が突然停止した。

 

「みんな、出るぞ……」

 

エルザの言葉でハンター各々が竜者の外に出る。第1竜者からもヴァイスが出てきていた。

 

「ハンターの皆様、この度最初の大型モンスターでございます」

 

「音の正体はあいつか……また厄介な」

 

皆の視線の先には、鮮やかなボディをした鳥竜種、“彩鳥”クルペッコが映っている。

 

「クルペッコなんざぁ、楽勝だ。俺が相手してやる」

 

「待て“荒くれもの”。クルペッコの様子がおかしい」

 

そう言ってゲダンが皆の前から1歩踏み出そうとするとエルザがストップをかける。

 

「あぁ?おいおい、“豪炎”のエルザがクルペッコ相手に尻込みしてんのか?」

 

「ゲダン、うちのリーダーの言葉は素直に聞いとくべきだぜ。死にたくなけりゃあな」

 

プロントはそう言うと、強引にゲダンに自分のライトボウガンのスコープを覗かせる。

 

「っ!!」

 

(あのクルペッコ、目が充血しているのか……?それにあの体……)

 

「怒り状態にあの返り血……どうやら、他の人物と戦闘した跡のようですね」

 

返り血によりところどころ赤色に染まった、息を荒らげたクルペッコが上空から降り立った。

 

 




感想、評価等もよろしくお願いします。


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第32話 交戦

こんにちは、O.K.Oです。
毎度ながら、こちらの小説を読んでいただきありがとうございます。

久しぶりの投稿です。大変長らくお待たせいたしまして申し訳ありません。
こんな駄文にお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
申し訳ついでに、最近ウィズブラッドというオリジナル作品も投稿しておりますので、興味がある方はぜひぜひお読みください。

それでは久々の第32話、張り切っていきましょう。


「ちっ……前のやつがドジ踏んだみてぇだなぁおい」

 

「兄貴、あれに突っ込むのはまずいですぜ」

 

「あぁ、怒り状態は流石に笑えねぇ……」

 

ゲダンと、そのパーティーメンバー2人もクルペッコの状態を見て慎重になる。

そんな中、ガチャリ、と竜者の扉が開いた。

 

「ヴァイス、いかが致しました?」

 

出てきたのは軽装備に身を包んだシーナである。シーナの背中には片手剣が装備されていた。

 

「あれです、お嬢様」

 

ヴァイスはそう言って、クルペッコの方角に指を差す。

 

「クルペッコ、ですか……。実際に見たのは初めてです。大型モンスターとはあれほどのものなのですか……。迂回して進むことは出来るのですか?」

 

「残念ながら、移動中に発見される方が厄介です。ここは戦闘は避けられないかと……」

 

「そ、そうですか……」

 

実は、シーナが大型モンスターと対峙したのは今回で初めてである。彼女は眼前に映るクルペッコに不安と恐怖を覚える。

そんな彼女に気を利かせたのか、エルザが声をかける。

 

「シーナ様、安心してください。我々が対処いたしますので」

 

そう言うと、エルザは背中に装備している炎剣リオレウスに手をかける。

 

「なぁに、確かにクルペッコは厄介な相手だが、鳴き真似をさせなければ本体はどうってことない。ここは俺たちにおまかせを」

 

エルザに続き、ローウェン、プロント、ルーナも臨戦態勢だ。

 

「そ、そうですね、ここはお願いします」

 

(俺も殺り合いたかったが、出番はなさそうか……)

 

刀夜には目の前の大型モンスターを狩りたいという、純粋な狩猟衝動が湧き上がっていたがエルザ達が出るとのことで慎む。

 

「ヨン、見学の時間だ」

 

「あれ?トーヤなら自分が行くとか言いそうなのに、珍しいこともあるもんだニャ」

 

「うるさいアホ猫、俺も空気は読む」

 

「一体どの口が言うのニャ……」

 

そんな軽口を言い合っていると、ゲダンがトーヤの肩を横暴に掴んだ。

 

「……あ?なんだ?」

 

「ノンハントの癖して何が見学だ、調子に乗りすぎだ。ただのビビって戦えないチキンだろうが。王女の前じゃなきゃぶっ殺してるところだぜ?」

 

そう言って、ゲダンは肩を掴んだ右腕の力を徐々に強くしていく。しかし、そんな中刀夜はピクリともしない。

 

(あ……?余裕ぶっこいてんじゃねぇぞクソが!)

 

ゲダンはそんな刀夜の様子に怒りが最高点に達し、自らの装備する、荒れくれの大剣に手をかけようとする。

 

「お前こそ、シーナの前で良かったな」

 

しかし、そんなゲダンの行動は、刀夜が発した濃密な殺気によって押し込められる。

 

「お前が同じ依頼者でなきゃ、この辺りに血溜まりが出来たのにな」

 

「お、お前……」

 

「そこまでにしてください、御二方」

 

正に一触即発の雰囲気に、ヴァイスが釘を指した。

 

「トーヤ殿、その殺気は懐にお納めくだされ。貴方に非は無いが、それ(・・)は些か強力すぎます」

 

ヴァイスの指摘に刀夜は辺りを見回すと、全員冷や汗を浮かべていた。刀夜は殺気をゲダンにしか向けていないが、刀夜の雰囲気に周りは悪寒がしていたのだ。刀夜は先程までの殺気をすぐさま収めた。

 

「そしてゲダン殿、貴方は少しトーヤ殿に突っかかり過ぎでございます」

 

「……ちっ。だがあいつは……」

 

「それほどまでに刀夜殿が気に食わないのであれば、私に1つ提案がございます」

 

「提案……?」

 

ゲダンは怒りを落ち着け、ヴァイスの続く言葉を待つ。

 

「貴方はトーヤ殿にハンターとしての手腕がない、そう決めつけているように思えます。そうですね?」

 

「あぁ……弱いやつが調子に乗るのを見てると虫唾が走るんだよ……」

 

ギロり、とゲダンが刀夜を睨む。

 

「分かりました、では良い機会です」

 

そう言うとヴァイスは刀夜の方に振り返った。

 

「刀夜殿、あのクルペッコ、貴方1人で退けて頂けますか?」

 

「はぁ?!」

 

「いやいや、無理だろ流石に」

 

「ギャハハハ、無理無理違ぇねぇ」

 

ゲダンとその一行は出来るはずない、そう主張する一方でエルザのパーティーは違った反応を見せる。

 

「トーヤがクルペッコと戦闘か……」

 

「トーヤさんの狩猟、興味ありですね……」

 

エルザとルーナが呟く。

 

「プロント、これは良い機会じゃないか?彼の実力を見極めるための」

 

「……」

 

ローウェンが小声でプロントに話しかけるが、プロントは反応を示さない。だが、彼の瞳にははっきりと、霧雨刀夜の姿が映っている。

 

「え?!トーヤ様1人で戦うのですか?!それは、危険では……」

 

「お嬢様、これは必要なことかと思います。ハンターの皆々様には個々で依頼を受けてもらっているわけではありません。お互いがお互いの技量、性格、癖、そういったものを把握する必要があるかと思います。また、こんな所で刀夜殿の実力に気付かず仲違いするのであれば、1度こういう機会を設けるべきかと」

 

「そ、それはそうですが……」

 

シーナは刀夜の身を案じるが、ヴァイスの意見も最もなので中々踏ん切りがつかないでいた。

そして、当の刀夜はと言うと……。

 

「ほう……俺があのクルペッコを殺っていいのか?」

 

「トーヤ、顔が怖いニャ……。まあいつもの事だけど……ふぎゃ!」

 

刀夜は毎度の事ながら、一言多いヨンにきつい1発を彼の頭部にお見舞する。

 

「い、痛いニャ……」

 

「な、涙目のヨンちゃんも可愛い……」

 

瞳に大きな雫をたまらせた猫にゾッコンのルーナも通常運転である。

こうしてクルペッコを前に全く緊張感のない面々であるが、そこにプロントが苛立たしげに言葉を挟んだ。

 

「おい、お前本当に分かってんの?クルペッコ相手に1人で戦うんだぞ?もっと緊張感とか持ったらどうだ」

 

「まあ、クルペッコだしな」

 

刀夜の返答にプロントの苛立ちはさらに高まるが、王女の前ということもありぐっとこらえた。

 

「ちっ……そうかい、それじゃあせいぜい頑張るんだな……助けを求められても、知らねぇからな」

 

そう言うとプロントは刀夜から視線を逸らした。

 

「ほ、ほんとにお1人で戦うのですか?!ヴァイスやエルザさん達もいるのに……」

 

シーナが心配の声を上げるが、それをゲダンが不敵な笑みを浮かべつつ口を開く。

 

「まあまあ王女様、本人がやる気いっぱいなんだ。俺たちはここで見ておきましょうよ。もちろん、邪魔なんか野暮なことはせずにな……ククク……」

 

(せいぜいもって5分、お前はここでジ・エンドだ)

 

「さあさあ、クルペッコもお待ちかねだぞノンハント。早く行ってこいよ。腰抜けて体が動かないとかそういうオチじゃないだろうな」

 

「ギャハハハ!ビビりすぎだろ!」

 

「まあ、兄貴でもソロは苦戦する相手だ。そうなるのも仕方ねぇよなぁおい」

 

そうしてゲダン達が刀夜を侮辱するが刀夜はそれを無視し、無言でクルペッコの方へ歩を進める。

そんな刀夜を気遣ったのか、エルザが刀夜に声をかける。

 

「トーヤ、あいつらの言うことは無視していい。本当に危ない状況になれば我々で助けに入るから安心して……?!」

 

しかし、その言葉が最後まで続くことはなかった。

 

「と、トーヤ……?」

 

エルザは刀夜が纏うオーラの変化に気づき、戸惑いを見せる。

そんなエルザを意に介した様子もなく、刀夜は静かに歩み続ける。そうしてポツリと小さく、しかしはっきりと言葉を漏らした。

 

「狩猟の時間だ」

 

その言葉を機に、刀夜は全速力で走り始める。

 

「トーヤ様!!」

 

シーナが刀夜の名前を叫ぶが、その声は刀夜の存在に気づいたクルペッコの鳴き声により掻き消される。

クルペッコは素早く体を反転させ、刀夜の方に体を向ける。

 

「怒り状態だけあって動きが素早い、が……ふっ!」

 

刀夜はクルペッコの左前脚に飛び込み、その緑色の表皮に黛を振り下ろした。

 

「グギャァ?!」

 

「生憎と、何度も見てきた動きなんでな」

 

刀夜の抜刀斬りにより、クルペッコ戦の幕が開かれた。

 

-----------------------

 

「な、なんだよあの動きは……」

 

戦闘開始からまもなくして、眼前に繰り広げられる光景に、思わずといった様子でプロントが言葉を漏らした。

ヨンを除く他の面々もプロントと同じく、 目を見開いて刀夜の戦闘を凝視している。

 

「ヴァイス、その……ハンターの方々は、皆トーヤ様のような感じなのでしょうか……?」

 

「いえ……決してそのようなことはありません。彼の動きは異常です……。私も驚いておりますが、これほどとは……」

 

シーナの質問は言葉足らずなものであったが、ヴァイスも彼女と同じ気持ちであった。

 

「す、すげぇ……っ!ぐふっ!」

 

刀夜の今しがた繰り出した気刃斬りを見て思わず感嘆したゲダンの子分であったが、その頬に強烈な痛みが走る。

 

「クソ野郎が!何言ってやがる!一体どういうカラクリだぁ?!ノンハントがあんな動き出来るわけねぇだろうがぁ!!」

 

「そ、そうですよね兄貴……」

 

「あぁ、そうに違ぇねぇ!そんなことがあってたまるか!」

 

子分2人がゲダンの意見に賛同したような態度をとる。

そんな3人をヴァイスはどこかかわいそうなものを見る目で見ていた。

 

(あの者達は愚かだ……。あの動きを見てもトーヤ殿を罵るとは……。それにしても……)

 

ヴァイスは視線を切り、刀夜の方向へと向ける。

 

(トーヤ殿の動きを見る限り、まだ全力ではないように見える……。まさか彼は、あの3人にも引けを取らない人材ではないのだろうか……)

 

ヴァイスは頭の中に、以前に1度だけ会ったことのある面々を思い浮かべた。

 

(彼ならもしや……)

 

そんな中、プロントはローウェンに対し言葉を投げかけていた。

 

「ローウェン、どう思う……?」

 

「……彼の洗練された動き、その技術はエルザにも匹敵、いやそれ以上かもしれん……」

 

「……」

 

ローウェンの回答にプロントはゴクリと唾を飲み込む。

一方そのエルザはというと、刀夜の戦闘を見てまた別の感想を抱いていた。

 

「エルザさん、トーヤさんの動き、凄いですね……」

 

「……ん、あ、あぁ……。そうだな、そうなんだが……」

 

エルザの釈然としない回答にルーナ、ローウェン、そしてプロントは首をかしげた。

 

「なにか引っかかっているようだな」

 

ローウェンの言葉に、エルザは少し考えたような素振りを見せ口を開く。

 

「あぁ。確かに、彼の動きは素晴らしいものだと思う。だが、あれほどの動きと技術を持ち合わせながら、なぜ今まで表舞台で注目されなかったのかと思ってな……」

 

「そ、それもそうですね……」

 

「それにだ」

 

エルザの瞳には、クルペッコの硬い火打石をものともしない黛が映っている。現在も黛は火打石に斬撃を通し、赤い鮮血を辺りに散りばめていた。

 

「トーヤのあの武器、やはり見たことがない。私も全ての武器を把握している訳では無いが、あれほどの斬れ味と攻撃力だ。世間で有名になっててもおかしくない程の業物なのに、何故誰も知らない」

 

エルザのその言葉に、他3人もハッとしたような表情を浮かべる。

 

「た、確かに……!以前尋ねた時もはぐらかされましたし、トーヤさんの武器について誰も知らなかったですよね……」

 

「え、みんな知らなかったのかよ……。てっきりリーダーは把握してるかと思ったわ……」

 

「まあ、プロントはボウガン以外興味ないもんね」

 

「うっせ」

 

ルーナの指摘にプロントは投げやりに返事する。

そして、プロントはヨンに視線を移す。

 

「お前は何かあの武器について聞かされたり……っておい……」

 

そんなヨンはというと、大きな欠伸をして今にも寝てしまいそうな様子であった。

 

「ん……なにか呼んだかニャ……」

 

「抱きしめても良いですか」

 

「ルーナ、ちょっと黙っててくれ。アイルー、お前は主人の戦闘に参加しなくていいのかよ。一応、あいつのお供だろ?」

 

ルーナはヨンのお眠な状態にご満悦の様子だ。

プロントはルーナを軽くあしらいヨンに問いかけると、ヨンはもう一度大きな欠伸をしてその瞳に大きな雫を貯めつつ答える。

 

「ふうぁ……、まあ今回はトーヤ1人でクルペッコを狩るって言ってたからいいのニャ。それに、クルペッコなんかにトーヤは遅れをとったりしないのニャ」

 

「そ、そんなもんなのか……。あ、それはそうと武器だ武器!あいつの武器について何か知っていることはないのか?」

 

「ん?あートーヤの武器については僕も知らないのニャ。あんまり他言したくなさそうな感じだったし、トーヤが自分から話してくれるのを待ってる感じだニャ。まあ色々トーヤについて気になるかもしれないけど、あまり追求はしない方がいいと思うニャ」

 

「そ、そうか……。あー!余計に気になるじゃん!」

 

ヨンでさえ知らないトーヤの素性、その秘密の核心に迫りたくなるプロントであったが、追求はなんとかこらえた。

 

「プロント、お前えらく彼に対して寛容になったな……」

 

刀夜に対しての態度がどこか軟化したプロントにローウェンがそう指摘すると、プロントは気恥ずかしそうに人差し指で頬をかいた。

 

「……あれだけの実力見せられたんだ。あいつはハンターとして強い。そこは認める……。今回は俺が悪かった……」

 

「え、あのプロントが反省してる?!あのプロントが?!」

 

「あー!ルーナうるせぇ!だが、あのツンって感じの態度は気に入らねぇ!今回は俺が悪かったが、そこは変わらねぇからな!」

 

「ふふっ……私としてもプロントが反省してくれて何よりだ、このまま毎回彼に突っかかるようなら困るからな」

 

「リーダーもかよ!」

 

そうして和やかな雰囲気になるエルザ一行に、ヴァイスが話しかける。

 

「皆々様、和やかな雰囲気に申し訳ありませんが、少し助太刀すべき時があるかもしれませんのでご準備を」

 

そんなヴァイスの申し出に、4人はすぐに真剣な表情になり一瞬考えたような間を置くが、瞬時にその理由を把握する。

 

「そういうことか……」

 

「クルペッコの鳴き真似、ですね……」

 

「はい、その通りでございます。もしクルペッコがその素振りを見せた時はすぐに駆けつけられるよう」

 

クルペッコの鳴き真似は、ハンターがクルペッコ戦で最も警戒する技である。それもそのはず、クルペッコは鳴き真似により他の強力な大型モンスターを呼び寄せ、場を混乱させるのだ。呼び寄せるモンスターは多種多様であるが、中にはリオレウスやリオレイア、そしてイビルジョーまで呼び寄せる場合があり、上級ハンターでさえ、それら別の大型モンスターによって命を落としてしまうことがある。

そんな厄介な鳴き真似であるが、それを防ぐには、鳴き真似の動作中にクルペッコの喉の真っ赤に膨らんだ鳴き袋に、一定ダメージを与える必要がある。しかし、この鳴き真似の動作は短時間で行われるため、その鳴き袋に一定ダメージを与えられないことの方が多いのだ。

そのためヴァイスはエルザ達に助太刀の準備をするよう呼びかけたのであるが、そこにヨンが言葉を挟んだ。

 

「んー、その必要はないんじゃないかニャー」

 

なんともやる気のない、間延びした猫声がヴァイス含めた5人の耳に入る。

 

「いやいや、あいつ1人で鳴き真似を防ぐことまで手が回るとは思えない……って言っている間に!」

 

クルペッコの方向に視線を向けると、まさに鳴き真似の予備動作を行っているところであった。

 

「厄介な!プロント、徹甲榴弾で狙って……っ?!」

 

エルザは迅速な対応でプロントに射撃を要求するが、目前の光景に唖然とする。

 

「はぁ……だから言ってるニャ。トーヤにとってクルペッコは役不足だニャ」

 

皆の視線の先には、鳴き真似をするはずのクルペッコの巨体が、地に倒れ込む姿が映っていた。

 

「まさか……予備動作の間に鳴き袋を攻撃するのではなく、本体自体に大ダメージを与えて怯ませたのか……」

 

「な、なんて奴だ……」

 

「トーヤ殿、想像の上のまた上を行きますな……」

 

皆が驚愕する中、ヨンは口を開く。

 

「本人の前では言わないけど、ハンターとしての技術、攻撃、回避、危険察知、それらどれをとってもトーヤは化け物だニャ」

 

そうして、刀夜は気刃斬りにより倒れ込んだクルペッコにさらなる追い打ちをかけ、ものの数十分でクルペッコの討伐を完了したのであった。

 




如何でしたでしょうか?
久しぶりの投稿で文章の表現が稚拙になっていないかが心配です……。


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