ハイスクールD×D×D 出来損ないの犬物語 (法螺貝)
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犬と悪魔の出会い

 夏の暑さに当てられ暴走した新人が息と熱抜きに描いてみる小説
 期待などせず読んでいただけると助かります
 作者はガチガチの初心者なので出来具合に期待すると株価が暴落するので注意です


 とある街の外れも外れ、真夜中で誰もが寝静まる丑三つ時だと言わんばかりに静かな朽ち果てた廃墟ビルに今まさに朽ちようとしている命が一つ、自分と自分のものではない血溜まりと冷たいアスファルトにその身体を預けていた。

 

 少年の姿と状態は奇妙と言うに相応しいだろう。

 

 なにせ黒い髪を掻き分けるように頭からは狼の耳が二つ生えているだけでなく日本という国では早々持ち歩けるような代物ではない刀と呼ばれる刀剣を握り締めたまま倒れているのだ。

 オマケにそんな少年の眼前には下半身が蜘蛛、上半身は人間の男性のものの三流SFにも出ないような化け物の死体、更にどこの誰かも判らなくなってしまった小さな子どもの腕や足が血溜まりの中に転がっているのだ。

 常人が目撃しようものならば胃の中身を全てぶちまけた後に恐怖と現実離れした状況に錯乱するか、その場で失神してしまうであろうほどに残酷で現実とは思えない光景がそこにある。

 

 

「ハハハ……結局輝かずじまいか」

 

 

 

 口からまだ温かみを持った血をゆっくりと垂れ流しながら少年は自分の脇腹に突き刺さった蜘蛛の足の一本を引き抜こうと試みるが既に体力の限界なのか、引き抜くことは叶わず腕は力なく地面に縫い付けられる。

 その力は刀を握っている手を開く事すら出来ず自らの死期でも悟ったかのように、あるいは年貢の納め時を自覚したとばかりに少年は血で湿った笑い声をあげて光のない天井を眺めて呟く。

 

 この世界には幻想の存在とされる悪魔・天使・堕天使が存在していた。

 

 しかし大戦によってその数を減らし、日夜睨み合いと小競り合いを繰り返している。

 

 そんな小競り合いや謀略の後始末から逃れ落ち零れ落ちたはぐれ者たちによって時に世界は迷惑をこうむるが、少年はそんな零れ落ちた者たちに戦いを挑んでは打ち勝ち生き残ってくるも今日その運の全てを使い果たした。

 

 

「知りたかったな、生まれた意味を」

 

 

 少年は幼いある日、なんでもない日常の一ページから何かにはやし立てられるように狼の耳と尻尾を身体に身につけ、念じれば一振りの刀を呼び出せる現代に舞い降りた怪物となってしまい山奥の田舎村から追い出された。

 両親からは愛しているからと捨てられ、村人からは狼男の生まれ変わりと蔑まれた。

 一日一日をどうにか生き延びながら彷徨い歩いていった山奥で修行していたとある老婆の霊能力者から奇妙な言葉を授けられる。

 

 

『その心が晴れやかになり、強さを手に入れた時……お前はその刀とお前という者の意味を知るだろうよ』

 

 

 心が晴れやかになる意味は判らない。

 

 だから強さを手に入れようと考える。

 

 傍から見ればどういう思考回路をしているのか疑われる考え方だ。

 

 自分に襲い掛かってくる怪物を切り伏せ食い殺していけば強い者になれると考えた。

 

 実に馬鹿らしい考えを真剣に肝に銘じた少年は襲ってくる者たち返り討ちにし続け、奇妙な話を聞けば駆けつけて調べ上げて、それが怪物の仕業であったなら戦って強さを証明し続けたのにいつまで経っても答えには辿り着けない日々に苛立っていった。

 自分の心が何処かずれていることにも気づかず、そんな心で挑んだ怪物はあまりにも強く相打ちという結末に持ち込むのが少年の限界となり一人ぼっちにあっけも無い人生の幕引きというもの。

 

 

「ああ暗いな」

 

 廃墟となっているビルには運悪く月明かりは入ってこない。

 

 もう四肢の感覚は無い。

 

 流れていく血の暖かさも消えてしまった。

 

 

「寒いな」

 

 

 廃墟となっているビルには暖房などない。

 

 物語にいるような死に逝く身体を抱き寄せてくれる仲間などいない。

 

 涙を流してくれる繋がりを持った人など当然いない。

 

 そんな一人ぼっちの死に様だ。

 

 明日の朝刊の隅に載ることもないだろう。

 

 誰にも覚えられず、誰の目にも触れず消えていくずっと一人ぼっちの人生。

 

 

「あぁせめて……」

 

 

 そう呟きもの言わぬ死体となった少年の身体のそばに真っ赤な光を放つ魔法陣が姿を現し、部屋を照らしつくす眩いその光が収まるとそこには一人の少女が佇んでいる。

 少女を照らすように差し込む月明かりに照らされたその姿は真っ赤な髪が燃え盛る炎のように美しく、その身体もまた少女というよりは女性と呼ぶに相応しい豊満な肉付きをしており魔性とも言える整った美貌の顔だった。

 

 ただ特徴があるとすれば肩の辺りから生えている一対のコウモリのような悪魔の羽だろう。

 

 少なくとも少女が少年と同じまっとうな人間と呼べる存在ではないのは確かだろう。

 

 そんな少女はそっと死体となった少年の身体に触れ、何かを確信したかのように頷くとスカートのポケットから一つの駒を取り出す。

 チェスの駒であるポーンを取り出すと少年の胸にそっと押し当てるとポーンの駒は少年の身体に吸い込まれて消えてしまうと少年の身体に突き刺さっていた筈の蜘蛛の足は光の粒となって消え去る。

 赤い光が淡く身体を包み込むと冷たくなったはずの身体には赤みと暖かさが戻っており、止まっていた呼吸も規則正しくしておりそれが生きている証拠としては充分だろう。

 

 

 

「こんばんは、私の下僕……私の為に生きなさい」

 

 

 

 少女は微笑みながら少年の頬に触れると血溜りの中で少年はその暖かさの所為か幸せそうに寝息を立てる。

 

 魔界の悪魔リアス・グレモリー。

 

 その下僕にして兵士(ポーン)となった耳と尻尾しかない狼男の少年。

 

 二階堂 狛(にかいどう こま)の物語の出会いであった。

 

 

□□□□□□□□

 

 

 少年と少女は高校生となった。

 

 自分と同じような境遇の仲間たちにも出会い、主君であるリアスのもとで夜は悪魔の仕事に従事しながら昼間は駒王学園の生徒として勉学に励む日々は狛にとっては幸せな日々である。

 そんな狛が二年生となったある日、物語は一人の青年と彼が宿している龍の登場とともに大きく動き出す。

 

 

「みんな新しい私の下僕となった子が来るからよろしくね」

 

「部長にもやっと新しい仲間ですか、期待出来そうですか?」

 

「ふふっそれはこれからに期待って事かしら」

 

 

 その微笑みはまだ知らない。

 

 これから迎える激動の日々が来る事など。

 

 それも戦いだけでなくとっても色濃いハーレム物語など想像もしていなかった。




 リアスと主人公しか出ない一話ってどうなんだろうか
 そして打ってみると本当に短い文章
 大丈夫なんだろうかと不安になるがゆったりやっていきます

 ルビの振り方を教えて頂き改稿


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初陣

こうして描いてみると判る
描いている人達の偉大さ
文才が羨ましい限りです


 駒王学園のオカルト研究部、旧校舎の一角に部室を持つその部活は表向きその名前の通りだが裏の顔はリアス・グレモリーと狛を含めた仲間たちの活動拠点として悪魔の仕事場として使われている。

 その面々は町外れの廃屋で好き勝手しているはぐれ悪魔を討伐するよう連絡を受け新しい仲間であり新たなポーンである兵藤一誠を引き連れ真夜中のはぐれ悪魔討伐の仕事に赴いている。

 学校でも性欲の権化三人組として有名な一誠は神器(セイクリッドギア)を宿している為に悪魔の敵対勢力の一つ堕天使によって殺害されたところをリアスに救われ、その新たな下僕としてオカルト研究部の一員となったがこれから行われる始めての実戦に少し怯え気味であった。

 

「なっなあ二階堂、はぐれ悪魔ってなんなんだ?」

 

「簡単に言えば主人が死んだとか自分の力のために主人を殺して好き勝手やってる馬鹿さ。連中は大抵自分の欲の為ならなんでもするぞ、腹ごなしと称して人殺しから知識の無い人間の召還に割り込んでとんでもない制約をしたりな」

 

「そんな奴の相手をするのか」

 

「……ちなみに今回のはぐれは美乳美女だったそうだぞエロエロ大魔神」

 

 狛の付け足しに一誠はそれまで怯えていたのが嘘のように美人を拝むという欲求に支配され別人のようにやる気と気迫を醸し出し他の面々に呆れられていた。

 下手に尻込みされるよりはマシかもしれないが命のやり取りに赴いているにも関わらず美女や乳の情報一つでやる気が爆発しているのだからグレモリー一団の仲間となったのは幸せなのかもしれない。

 

「ところでイッセー、あなたチェスは知ってる?」

 

「えっと将棋とかのボードゲームみたいなもんって事くらいしか」

 

「爵位を持った悪魔はその特性を下僕に与えるの、キングの私、クイーン、ナイト、ルーク、ビショップ、ポーンといったものをね。私たちはこれを悪魔の駒(イービルピース)と呼んでいるの」

 

「なんでわざわざそんなことを?」

 

「部室でも簡単に説明したけど悪魔はかつての戦いで数が激減してしまったの、だから上級悪魔は素質ある存在を悪魔に転生させて少数精鋭の軍団を形成している。それがいつしかチェスになぞらえるようになったの、今回イッセーは初陣だから悪魔の戦いってものを良く見ておきなさい」

 

 そうして館の中に入った面々の前に上半身裸の女性がつい先ほどまで食事中だったのか何処か腐った卵のような匂いを漂わせながら姿を現す。

 一誠は隠されていない胸に興奮しているがその乳房に光り輝く魔方陣があることに気づくだけでなく、その下半身が巨大な怪物のものであることを知ると残念と言わんばかりにため息を吐き出している。

 はぐれ悪魔はなにやら捕食者側に立っているつもりの発言を吐き散らしているがリアスたちとの実力さは明確であり、ライオンの群れを挑発し成長していない牙を見せ付ける子犬のようなものだ。

 

「さて狛はいつものように、先陣は祐斗ね」

 

「それじゃあ行くよ」

 

 表向きは学園でも屈指のイケメンとして女子から不動の人気と男子から嫉妬を集める容姿端麗・性格良しの木場祐斗はリアスのナイト、木場が腰に下げている両刃の西洋剣を構え一息に踏み込むと風を切り裂く音と共にその姿が消える。

 

「消えた!?」

 

「祐斗のナイト、特性は圧倒的な素早さよ」

 

 次に一誠の眼に木場が姿を現したのははぐれ悪魔の丸太のように両腕が肩から切り落とされ血飛沫と共に苦しんでいる最中に自分の背後に回っていつものようにイケメンの爽やかな笑顔を見せ付けているところであった。

 動く姿もそうだが両腕を切り捨てる場面もまるで出来の悪い映画のカットシーンをつなげたかのような流れ、更に木場の身体には返り血一つついていないこともその素早さを物語るものとして唾を思わずのみこんでしまう。

 両腕を切り落とされたことに怒り狂っているはぐれ悪魔の顔は美女と呼ぶには醜悪なものへと変化していく、口裂け女のような裂けた口には鋭い歯がビッシリと生えているだけでなく下は二枚へと変貌している。

 

「小猫」

 

「はい部長」

 

 学園の一年にしてロリ系のマスコット美女として名高い塔城小猫ははぐれ悪魔の怪物の下半身が持つ巨大な足の踏みつけを真っ向から受け止めると何事も無かったかのように跳ね除けその身体に細い腕からは想像も出来ないストレートを放つ。

 突き刺さるというのが似合うそのストレートは巨体を誇っている筈のはぐれ悪魔の身体を吹き飛ばし館の柱の一つに叩きつける、その馬鹿げた力に一誠は内心で逆らわないことを頑なに誓う。

 

「小猫はルーク、シンプルに馬鹿げた力と鉄壁の防御力よ」

 

「二階堂はビショップなんですか?」

 

「狛はあなたと同じポーンよ、ビショップは別の仕事の最中で会えないの」

 

 余裕の表れとばかりに話すリアスの背後で切り落とされたはずの腕が独立した生き物ののように脈打ったかと思えばその鋭い爪で引き裂こうとするが、運よく気づけた一誠のセイクリッドギアを纏った拳の一撃により粉みじんに吹き飛ばされる。

 一誠は殴り飛ばした自分の左腕を信じられないもののように眺める……吹き飛ばせるとは思っていたが粉々になるなど思っておらず改めて悪魔や自分に宿っている力の恐ろしさを痛感していた。

 

「ありがとうイッセー」

 

「いっいやぁ身体が勝手に動いただけですよ」

 

「朱乃、やってしまいなさい」

 

「あらあら部長に手をあげるなんて悪い子ですね?お仕置きですわよ!」

 

 学園でもリアス同様にその美貌によってお姉さまと呼び慕われるアイドルである姫島朱乃はニコヤカにその手のひらに雷を作り出すとそれはそれは楽しそうにはぐれ悪魔に叩きつけ続ける。

 強い光と共に館の中に雷の音とはぐれ悪魔のもがき苦しむ悲鳴が響き渡るが抵抗の意思が残っていると見るやいなや朱乃は更に雷撃を浴びせていく。

 

「朱乃はクイーン、他の全ての駒の特性を併せ持つ最強の駒。本人は多彩な魔法による攻撃が得意で雷撃は十八番……あとは見ての通りドSよ」

 

「うぅ俺……怖いっす」

 

「味方には慈悲深いから安心しなさい」

 

「さて狛さんの出番もとっておかないといけませんからこの位にしてあげますわ」

 

 朱乃は微笑みを崩さず雷を撃つのを止めると一誠は狛の姿がいない事に気づき周囲を見回す。

 戦いが始まってから狛の姿は見えずこれまでの攻撃の連続にも登場せずリアスに腕が迫った際にも姿を現さないことに一誠は何かあったのでは、と不安になるがそれを読んでかリアスは微笑ましそうに見つめる。

 

 

「……今回はナイトかしら」

 

 

 そうリアスが呟くとヨロヨロと最初の威勢が嘘のように弱弱しく立ち上がったはぐれ悪魔の首が胴体から離れ、首は地面を転がり怪物の身体が音をたてながら地面に横たわってしまう。

 横たわる巨体の傍に刃渡り80cmほどの刀というには少し刀身の長い刀を携えた狛が狼の耳と尻尾をピクピクと動かしながら一誠に自分の勇姿を見せ付けてやったとばかりにしたり顔を見せていた。

 

「狛は一誠と同じポーン、その特性は条件を整えることによって他の駒の特性を得られる事よ。今回はナイトだから祐斗のように近づいて気づかれる前に切り捨てたの」

 

「今まで二階堂はどこにいたんですか?それにあの姿……」

 

「ふふっ狛はずっとあなたの傍に控えていたわ、あの子の神器の能力は姿を隠せるだけでなく気配や匂いも遮断してしまう隠密行動に特化したもの。それと狛は狼男の血を引いているから悪魔の力が強くなるとああして耳を隠せなくなるのよ」

 

「くっ二階堂が女だったら犬耳美女との出会いと同僚なんて美味しい展開が出来たのに!どうしてお前は男なんだよ!?」

 

「兵藤……とりあえず先輩であり仲間に対して言う言葉ではないと思うぞ性欲の権化め」

 

 どこまでも性欲や色欲に忠実な一誠の言葉に呆れるもの、揺るがない噂どおりの姿に微笑むものと色々な反応が訪れるがリアスはそれを切り替え真剣な表情で首だけとなってもまだ息のあるはぐれ悪魔の眼前に向かう。

 

「何か言い残す事はあるかしら?」

 

「殺せ」

 

「潔さは認めてあげるわ」

 

 さよなら。

 

 その言葉と共にリアスの手のひらから放たれた魔法の一撃が首だけとなったはぐれ悪魔の生涯にあっさりと幕を引く、その風景に一誠は改めて自分が悪魔となりその世界の姿を見ているのだと自覚をする。

 今の自分では姿を捉えることも出来ない素早さや普通ならば死んでしまうような一撃もケロッと耐えてみせるだけでなく、御伽噺やゲームの中だけであったはずの魔法という圧倒的な存在が飛び交う世界。

 

 自分の夢としているハーレム王の実現は遠い。

 

 単純な力だけではない。

 

 それ以前に血が流れるだけでなく命のやり取りに踏み込むことに一誠は気づけば神器である籠手を纏った左腕の拳を握り締めていた。

 

 

「俺……やっていけるかな、ポーンだしさ」

 

「一誠君も少しずつ慣れていけば大丈夫だよ」

 

「木場」

 

「僕や塔城さんだって最初からこういった事が出来たわけじゃないし、割り切るまでに色々と苦労としたから大丈夫だよ」

 

「変態さんなら少しのご褒美があれば大丈夫そうですが」

 

「あらあら一誠さんはまっすぐな方ですしそういうのがあれば確かに頑張れそうですわね」

 

「小猫ちゃんに朱乃さんがそうしてくれるならこの兵藤一誠頑張っちゃいますよ!?」

 

 

 現金な姿を晒すと周りから嘲笑ではない、これが新しい仲間の良いところだと理解したような暖かな笑いが広がる。

 

 

「今は弱くても鍛えればポーンはプロポーションで活躍できるようになるし、兵藤の神器(セイグリッドギア)は持ち主の力を倍に出来る奴なんだ。自力さえつけばこの中の誰よりも強くなれるかも知れないぞ」

 

「そうよ一誠、日本の将棋では“歩兵のいない将棋は負け戦”とも言うようにチェスでもポーンは先陣を切ることから連携を維持する、プロポーションによる戦力変化とやれることは色々あるんだから」

 

「部長! 俺頑張ります! グレモリー一団どころか、悪魔の中でも最強のポーンになってハーレム王になって見せます!!」

 

 

 討伐も終わり、後始末もつけた帰路についた最中で一誠はふと思った事を口にする。

 

「部長、たしかポーンで八つありましたけど俺や二階堂と同じのがあと六人も出てくるって事なんですよね?」

 

「あぁそれなんだけど、実は一誠を悪魔にする時にポーンの駒は全て使ってしまったの、狛が一誠が強くなれるって言ったのもそこが大きいわね。転生する相手の地力や能力、駒に対する相性によって消費する駒の数が変化するの……ナイトでしか転生させられないのもいればビショップじゃないといけないなんてもよくあることなの」

 

「つまり一誠さんの潜在能力か何かにはポーン七つ分の価値が眠っているということですわ」

 

「期待重大だね一誠君? 立派な悪魔にならないと」

 

 弄られながらも自分の強さへの希望が見えた一誠は改めて力強く握り締めた拳を突きに向かって突き出す姿を見て狛はリアスにそっと語りかける。

 

「兵藤の奴……一個分の価値の俺と違って相当化けるかも知れませんね」

 

「魔力も少ないただの学生だったイッセーには堕天使に狙われるだけのものがあることを悪魔の駒(イービルピース)が証明したって事でもあるわ……一誠の素質かそれとも神器(セイクリッドギア)にあるのかはともかくこれからに期待ね」

 

「……とりあえずあの煩悩をなんとかすればすぐに強くなりそうな気はしますが」

 

「あらあれはあれでイッセーの良さよ、自分の煩悩や目的に忠実なのは悪魔らしくて良いものじゃない」

 

「部長に二階堂! いったい何の話をしてるんですか?」

 

「ふふっ秘密よイッセー」

 

 リアスの微笑む姿を見て改めて狛は一誠の素質に人の輪に加われる、あるいは輪の中心になってしまう力があるのだろうと考え新しい仲間のことを信頼する。

 気分の良さを表しているのか耳が良く動き尻尾が左右に振られている光景を自分の後ろで木場たちが一誠に色々と感情の読み方をレクチャーしているなど知るよしもなく、リアスの一歩後ろを狛は歩いていく。

 




うーん戦闘表現って難しいですね
あとキャラが全然喋らない
描いててこんな口調や雰囲気であっているのか?
と不安になってきます


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シスターと神父と悪魔

フリードが扱い辛くて困ります
あの口調がぁ……



 二階堂 狛(にかいどう こま)は学校では良くも悪くも目立たない程度の人間である、二年生である木場と同じクラスで親しい付き合いということで女子生徒から掛け算の素材にされている以外は本当にそんなものである。

 普段は掛けていない眼鏡をかけ授業を除けば各地の昔話・民族伝承・童話・神話などを読むことに集中し、話しかけられればそれに答えて話を合わせていかにも人畜無害そうな青年を演じる。

 放課後になればオカルト研究部員として活動し、悪魔の仕事は他の面々に比べれば目立った活躍もなく契約も平均的な数値を記録していくだけの特出したものを持たないのが狛の日常だ。

 戦いになれば神器の力で姿を消し他の面々が作った隙をついて一撃を与え、それがなければ相手の攻撃に合わせて妨害を行うというアタッカーでなければサポーターとも言いがたい立ち回り。

 そんな狛は学校帰り久々に一人で外出し最近流行の小説などの本を購入した帰り道で一誠を見つけるがその顔は目の前に広がる事態を目の当たりにして引きつった顔となり、慌てて兵藤の傍へと駆け寄る。

 

「……兵藤……お前なにやっている?」

 

「おっ二階堂か今会ったシスターのアーシアを教会に案内してるんだ」

 

「アーシアと申します、お世話になっています」

 

 屈託の無い笑顔を向けるシスターに背を向けるように狛は一誠の肩に腕をまわしシスターのアーシア・アルジェントには聞こえない小さな声で慌てて警告する。

 

 教会は敵対勢力の天使の縄張り、シスターを初めとした加護を受けた存在は天敵であるので迂闊に近寄るのは自殺行為そのものにして教会に踏み込もうものならば天使と悪魔の領土問題に発展しかねない。

 

 一歩間違えば戦争の引き金になりかねない行為。

 

 幾ら善意や知らなかったからとはいえ適当なところで切り上げるべきである。

 

「あの……どうしました?」

 

「あぁシスターさん! 俺たちこれから急な呼び出しで部活に出ないといけなくなったんでここらでお別れしていいかな!?」

 

「はい、もう教会の見える位置まで送っていただけましたから。もしまたお時間があったらぜひともお礼をさせてくださいね!」

 

 アーシアは二人が自分の大敵である悪魔とは気づいていないのだろう、それは人を魅力する優しい雰囲気を纏った笑顔と言葉で立ち去っていく二人を見送る。

 ふと一誠が振り返ると自分たちの姿が見えなくなるまでアーシアは手を振っており、天敵とは言えその優しさに心を締め付けられながらどこか強張った笑顔で一誠も手を振って答えた。

 

 当然のことながらこの後の部活にて一誠はリアスからコッテリと絞られた。

 

 知らなかったとはいえシスターに接触し教会まで送り届けようとしたのだ。

 

 下手すればリアス・グレモリーの軍団員の一個人の責任では終われない、下手をすれば難癖をつけた天使や悪魔祓い(エクソシスト)が暴れだしかねない状態へと片足を突っ込んでいたのだ。

 もっと酷いものであれば一誠の命は光の槍によって消滅していたかも知れない、部下に対して慈悲深いリアスにとっても一誠の優しさの美徳を今回ばかりは許すわけにはいかなかった。

 その叱りと怒りは鬼気迫るもので、そこにある心配の強さを感じ取っただけに一誠の落ち込みようは強いものだった。

 

「仕方ないよ一誠君、これも悪魔の勉強だと思って飽きらめることだよ」

 

「あの子、アーシアは本当に優しい子だったんだよ」

 

「それは知らなかったからこその優しさ、もし俺たちが悪魔って知っていたら問答無用で聖水を浴びせられて大火傷してただろうな」

 

「……種族って面倒だな」

 

 悪魔となって日の浅い一誠にとってそうした人種とはまた違った超えられないであろう壁は理解しがたいものだが、純粋な悪魔であるリアス……何かしらの理由で種族というものに良い感情を抱いていないリアス一団にとってはむしろ気にしない一誠の姿はとても新鮮なあり方に見えた。

 結局その日の一誠は夜中の仕事にも身が入らず、また契約を取り損ねてしまい翌日の仕事には狛がサポーターとして同行することになった。

 

 

□□□□□

 

 

 月も満月となり夜道も明るい真夜中の道を一誠と狛の二人は今回の契約相手となるであろう相手の家に向かって歩いていた。

 正確に言えば一誠は自転車に乗っているが狛は自らの脚力だけでそれに随伴しており傍から見れば相当な陸上選手の夜中の特訓にも見て取れる光景である。

 では何故こうして普通に移動しているのかといえば兵藤一誠の魔力が少なすぎる余り悪魔らしい登場方法である魔方陣からの登場が出来ないので、一誠は自転車で目的地に向かい狛は訓練になると思い走って向かっているからだ。

 

「しかし小猫ちゃんは人気だよなぁ、前もダブってたけどまただよ」

 

「……まぁ何かあるんだろうな」

 

「どうせ小猫ちゃんのロリロリな体系が目当てなんだろうに! もし小猫ちゃんに何かあったら俺がぶっ飛ばしてやる!」

 

「そういう言葉はもう少し自力をつけて強くなってから言わないと、塔城さんより弱いと説得力ないぞ」

 

 刀のように鋭い言い返しと確信を突く一撃に思わず一誠はスピードを落としてしまうが、何か妄想したのかすぐに勢いを取り戻すと気合をいれた漕ぎ出しでスピードを取り戻し目的地に向かう。

 

 

「すみませーん! 呼び出された悪魔なんですけど……」

 

 

 入り口から礼儀正しく進入する悪魔など前代未聞だろうが、一誠にとってはこの入り方が悪魔としての召還された場合なのだ。

本人も慣れたものとばかりにドアを叩くが反応はなく、ふとドアノブに手をかけると鍵は掛かっておらず二人はとりあえず依頼者の自宅にお邪魔することになるが狛の鼻が嗅ぎ慣れた匂いに感づき神器の刀を取り出し鞘から抜く。

 慌てる一誠に対して小さな声で「血と死体の匂い」と告げると一誠も神器の篭手を装備してゆっくりと廊下を歩き靴下を濡らす湿った何かを踏んだことで確信し、決意を固めた矢先に惨たらしい人間の死体を見つける。

 

 身体は逆さの十字架となるように両手足に太い釘が打ち込まれている。

 

 全身を切り刻まれた身体からは内臓が零れ落ちてきている。

 

 もはや猟奇殺人としか言いようのない姿に一誠は胃袋の中にあるものを全て吐き出し、それを気にすることもなく狛の鼻は憎たらしい存在の匂いとその気分の上機嫌さを物語る鼻歌を耳で捉えていた。

 

死体の貼り付けられた部屋のソファーにそれはいた。

 

 

「エクソシストとは言え猟奇的だな?」

 

「クソの悪魔と契約するクソなんだからこれくらいは良いじゃないか! てかクソの分際で説教しようなんざ虫唾がはしりますねえ? あっ俺の名前はフリード・セルゼン、とある悪魔祓いの組織に所属している末端でございます。まっそっちは名乗らなくてようござんす、これから殺される奴の名前なんて覚えるメモリは一メモリもないでござんすよ!」

 

「人間が人間を殺すのかよ! お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのかよ!」

 

「あぁ!! 人間が人間殺すなんぞ珍しくないざんしょ? さっきも言ったけどクソの悪魔が説教なんざすんじゃないって言ったでしょうが!?」

 

 

 フリードと名乗った青年は右手にハンドガンを左手に柄だけのものを取り出す、柄だけのそれはどこぞのロボットのサーベルと言うべきかあるいは星の戦士が持つサーベルのような光の刀身を作り出す。

 それは悪魔にとって天敵以外の何物でもない天使などが持つ光の力、踏み込み斬りかかられるが狛は神器の刀に魔力を通わせある種の力場を纏わせ光の力と反発させつば競り合いによって動きを止める。

 好機と見た一誠が狛の身体を盾に回り込み左腕が殴りかかろうとするがフリードは顔を狛に合わせたまま腕だけで素早く銃口を合わせ引き金を引く。

 銃声はしない、エクソシスト特製の光の魔力を弾丸にしたその銃弾は音もなく一誠の左足のふとももを射抜き、一誠にとってはかつて自分を殺した光の痛みが傷口から全身を駆け抜け苦痛に顔を歪ませる。

 

「兵藤!」

 

「うひょう直撃ですか!? これはこれは雑魚ちゃんで俺は悲しい悲しい悲しくて泣いちゃうぞ!」

 

 駆け抜ける激痛に一誠は動けない、狛はフリードとつば競り合いをしている状態に加えて一誠はフリードの向こう側で駆けつけるよりも早く引き金は引かれ銃弾はその身体を貫くだろう。

 狛の神器でつば競り合いの状況下から姿を消すことで困惑させられるかも知れないがそれでも引き金を引くのに割り込むことは出来ない、加えて部屋の広さからも姿を消したとして出来ることがない。

 不意打ちするにも距離を作れない、一誠が集中砲火を浴びることになる……一誠の現状でエクソシストとの一騎打ちは死に追い込むようなもの、隠れることが不利に働く現状に歯噛みする。

 

 

「やめてください!」

 

 

 聞きなれた声、アーシアの叫びによって三人が静止する。

 

 いち早く動き出した狛は身体の中にある力を高め人ではない証である耳と尻尾を出すとフリードの剣を打ち払い二の太刀で首を切り飛ばそうとするが射撃によって軌道を逸らされてしまう。

 仕留められなかったことを舌打ちしながらそのまま脇を駆け抜けた狛は未だ動けそうにない一誠を庇うように前に立ち構えをとり、フリードはアーシアの隣に立ち銃口は二人に向ける。

 アーシアは傍にある死体にもそうだが狛の耳や尻尾を見て人間ではない存在であることに驚いている……一誠はそんな表情を見て申し訳ないと言わんばかりに顔をそらしているがそれがアーシアの考えを肯定してしまっていた。

 

「イッセーさん……悪魔だったんですか?」

 

「……ごめんアーシア、ちょっと訳ありなんだ」

 

「なになに? 悪魔とシスターの禁じられた出会いって訳かな? でも残念無念、俺たちは相容れない存在! さっさとぶち殺して仕事終わらせましょうねぇ!」

 

 狛が一誠を庇って動けないことを承知で一方的になぶれる未来に快感でも感じているのかフリードの顔は実に下種な笑顔を描き、狛は踏み込めるように構えを変え差し違えてでも一太刀を浴びせんとする。

 

 だがそんな両者の間にアーシアが割って入る。

 

 小さく弱い背中にも関わらずその姿は子を守る母親のような、決意を固めているからこそ見せる強い姿にフリードだけでなく狛も驚く。

 

 

「……フリード神父、お願いです! この人達を見逃してください!」

 

 

「「はぁ!?!?」」

 

 

 シスターが悪魔を庇うなんて行為に思わずフリードと狛の驚きの行為が重なるが、一誠はどこか納得したかのようにそう言ってのけたアーシアの姿に微笑んでいる。

 だが仮にも教会の一員でありエクソシストであるフリードは悪魔を庇い悪魔にも良き人がいると自分の考えを持って説き伏せようとするアーシアに対して今までにない怒りを見せた。

 もっともそれは教会に習った悪魔を絶対悪と見る教えからくるものなのか、それとも単に自分の目の前の獲物を取られていることに対する戦闘狂としての本能から来るものなのかは判らない。

 

「悪魔にだって一誠さんのようないい人がいます!」

 

「あぁいるわけ無いでしょうが馬鹿ですか!? 言っとくけどあの頭のネジの緩んだ堕天使が大事にしろって言ってなかったら殺してますよ君!!」

 

 

 その怒りは銃の十把でアーシアを殴り飛ばすという行為に派生した。

 

 庇われたことへの感謝の念を持っていた一誠は容赦なくアーシアを殴り飛ばしたことへの怒りが全身を駆け抜ける光の痛みをねじ伏せ僅かな魔力を倍増した左腕の渾身の一撃をフリードへと放つ。

 

「そんな一撃が当たるとでも思ったですかばぁかぁぁぁ!」

 

 狛が影となっていたはずの気づき辛い筈の一撃は歴戦のフリードの前には悲しくも空を切るだけに留まる。

 フリードはカウンターとばかりに光剣を振りかざし、一誠の制服の襟を掴んで狛は距離を取ろうとする両者の間に入り込むようにグレモリー家の家紋が記された魔法陣が現れ眩い光を表す。

 光が収まった先にいるのはリアスを初めとしたグレモリー一団全員であり、転移と同時に木場が踏み込み剣の突きを喉元目掛けて放つがフリードはこれすらも手馴れたように光剣で防いでみせる。

 

「おろおろ! 悪魔の団体さん登場ですかぁ!? 獲物が増えて俺としては嬉しい限りですねぇ、出来るならそこの雑魚ちゃんと色々と混じった臭いのする犬っころの死体を提供したかったですがねぇ!」

 

「私の部下を可愛がってくれたようね、あなたのような悪魔どころか普通の人間にも害悪になりかねない存在はここで消しておこうかしら?」

 

 部下を傷つけられた怒りからか底冷えするような声と漏れ出す魔力に対してもフリードはまったくたじろぐどころかむしろ獲物が増えたことにたいして意気揚々それは嬉しそうに興奮していた。

 木場と狛が剣を構え、小猫がソファーを持ち上げ投げる姿勢をとるが朱乃が感じ取った気配によって戦いは終わってしまう。

 

 

「部長、複数の堕天使が近づいています。このままだと」

 

「朱乃すぐに転移の準備をして、ここから離脱するわ」

 

「部長! あの子を、アーシアを!」

 

「転移出来るのは私の眷属だけ、あの子は諦めなさいイッセー」

 

 

 再び魔方陣が姿を現し、その光が強まっていく。

 手を伸ばす一誠に対してアーシアは変わらない優しい笑顔を向けていた、その姿に同じように庇われた狛は誰であろうと関係なく笑顔と優しさを示し、自分の中にある信念を貫いているその姿に心を痛める。

 姿を消して奇襲する余裕があれば、もう少し部屋が広く姿を消せるだけのものがあれば、一誠や自分にフリードを退けるだけの力があれば目の前の優しく強い笑顔を守れたかも知れない。

 

 

「部長! アーシアを助けに行かせてください!」

 

 

「あの子は堕天使の下僕、私たちは悪魔……相容れない存在。それに彼女を救うために戦うのは堕天使という陣営と私たち悪魔という陣営の問題になるわ、それはもうイッセーだけの問題じゃなくなる」

 

 

 部室に戻った一誠はあくまでもアーシア救出を叫んだ。

 

 だがアーシアが堕天使たちの『はぐれエクソシスト』という組織の一員であることが判った以上それは陣営と組織同士の問題へと派生してしまう、そうなければ問題は一誠だけでなく全員に降りかかるのだ。

 その現実に一誠はただ項垂れるしかなかった……堕天使を蹴散らす実力もなければその末端を自称するフリードにすら勝てない、そして巨大な組織と仲間の命という天秤が作り出す現実に一誠は立ち止まる。

 

 答えを出せない拳は無力な自分を許せないとばかりに握り締められている。

 

誰にも聞こえないような小さな声で一誠は呟いた。

 

 

「……弱いなぁ」

 

 

 耳で聞き取れたその言葉に狛は何も言えない、一誠のように必ず助けたいという意思を持っている訳ではない。

 むしろリアスの連れ添った部下としてはリアスの意見に賛同している、たとえ助けたとしてもアーシアに拒絶されるかもしれない、助けたとしてアーシアを受け入れてくれる場所があるとも限らない。

 でも同じ仲間である一誠の心構えを買いたい、同じように庇われた身としてアーシアが自分たちを拒絶するようなガチガチの信仰者ではなく柔軟で誠実な人柄であると思っているからこそ助けてやりたいと考えている。

 

 

 “悪魔にも良い人はいる”

 

 

 その言葉が狛の中に疼く。

 

 だがそれを言葉にしない弱さを、立場の曖昧さを、仁義や恩義から逃げ出すのを責め立てるように疼きは残り続けた。

 

 しかし事態は大きく動き出す。

 

 今一度アーシアを助け出すという強い意志を固めた一誠の一言と共に。

 




色々とはしょってしまったが大丈夫だろうか……
一誠の視点を省くとレイナーレの出番がなくなる
どうにかしないといけないけどどうするべきか
下手に綺麗になぞると原作コピーになりかねませんし
難しいです


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決戦! 教会の戦い

うん、なんか端折ると色々と酷くなってしまいました
レイナーレはヘヴン状態・リアス部長は判らずや
イッセーは暴走気味とすみません


 一誠は再びアーシアと出会ったこと、彼女から聞いた神器(セイクリッドギア)によって聖女と祭り上げられるも悪魔を癒したことによって魔女と断じられ異端とされ『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』に身を寄せるしかなかったこと。

 『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』という癒しの力を堕天使……自分を殺したレイナールが儀式的な何かに求めていること、その堕天使に破れアーシアの意思によって再び生かされたこと。

 

 なによりも、友達になのに守れなかったこと。

 

 リアスにあった事の次第を伝えるその顔は後悔と悔しさと怒りが見て取れるほどに辛そうであり、握り締められている拳は今にも血が垂れ落ちださんばかりに強く……強く握り締められている。

 

 

「……それでもあの子の事は諦めなさい、あの子が神側の人間である以上私たちは敵同士なの、ずっと昔から相容れないもので隙を見せれば殺される。もうあなたは生き返れないうえにグレモリーの悪魔となったことを自覚しなさい!」

 

 

 それでも納得出来ないと言い寄る一誠にリアスは平手打ちでもって、堕天使と戦うことや組織を相手することになるであろう責任が一個人のものでは済まされない、他の面々にも波及することを説明しなおも諭す。

 だが一誠はそれでも引き下がらない、グレモリー眷属を抜け出してでもアーシアという友人を助けるために単身赴くとまで啖呵を切ってみせるその姿勢にリアスは更に行くことを見つめられない。

 

「……一誠君も頑なだね」

 

「兵藤の良さってやつなんだろう」

 

 リアスは自分の眷属にはどこまでも慈悲深い、悪い言い方をすれば過保護とも甘いとも言える部分があり今でも眷属である一誠が堕天使に戦いを挑むという自殺行為を止めようと懸命になっている。

 だがそれすら上回るのが一誠の我欲への強さ、アーシアを助けるためならば眷属であることすら捨ててでも、勝てるとも判らない戦いに赴こうとする信念はもはや悪魔というよりも英雄やヒーローのようである。

 少なくとも木場や狛はやりとりから一誠の性欲の奥底にあるリアスとはまた違った慈愛の精神を見ている、決して譲れないものとして一誠の中にあるそれは強い意志の輝きを灯しているかのようであった。

 

 だからだろうか、朱乃が何か思い立ったかのようにリアスに語りかける。

 

 リアス本人は語りかけられた内容に対してか、何やら渋い顔をして考え込むと共にチラリと一誠の後ろで茶菓子をつまんでいる小猫たちを見る。

 何が言いたいのか理解しているのか三人は頷き、その態度にリアスは覚悟を決めたとばかりに小さくため息を吐き出す。

 

「私と朱乃は少し出てきるわ」

 

「部長! まだ話は……」

 

「イッセー、プロモーションの条件を詳しく話してなかったけど、ルールは知ってるわよね?」

 

「えっ! えっと、将棋でいうところの成りですけど、敵地に乗り込むとポーンを他の駒と交換して扱える……でした」

 

「そう正確に言えば『キングである私が敵地と認めた場所』でなければならない、そして今のあなたではクイーンへの変化は耐えられないでしょうけどルークやナイトになら成れるでしょうね」

 

 話の急転換について行けていない一誠にリアスは畳み掛けるように話を続ける。

 

 

「いいイッセー神器(セイクリッドギア)は想いで動くの、強く強く想えばそれだけ応える。そして兵士(ポーン)でも(キング)は討ち取れる……むしろ戦術の中にはそういったものが存在するくらいよ、戦局に楔を打ち込むのが兵士の役目でありどんな駒よりも可能性を秘めているのを覚えておきなさい」

 

 

 そう言い残すとリアスと朱乃は魔方陣によって何処かへと飛んでいく、取り残された一誠は改めて覚悟を決めたとばかりに深呼吸をして部室を立ち去ろうとする。

 

「やっぱり行くんだね、アーシアって子を助けに?」

 

「……あぁ、友達を助けに行くんだ。約束したんだよ、友達になるって」

 

「勇猛果敢を通り越して無謀だぞ? 新兵一人で堕天使とエクソシストの群れを相手に出来るとでも思ってるのか」

 

「それでもだ、最悪でもアーシアだけでも逃がす」

 

「覚悟は立派だけど無謀だ」

 

「じゃあどうしろってんだよ!?」

 

 押し問答に対してさすがに苛立ちの募った一誠は二人に怒鳴ってしまう。

 そんな一誠とは対照的に木場は握りこぶしを胸にドンと当て、狛は神器である刀を取り出して峰を肩に当てて実に楽しそうに微笑んでいる。

 

「僕らもついていくよ。部長には悪いけどやっぱり君の意見を尊重したい、なによりも個人的に堕天使だとか神父だとかは好きじゃないんだ……憎いくらいに好きじゃないんだ」

 

「それに連中はグレモリーの縄張りで好き勝手やってるんだ、縄張りを荒らされて簡単に引き下がるなんてこっちの腹の虫が治まらない。特にあのフリードって腐れ神父には一太刀浴びせないと気がすまん」

 

「……悪い」

 

「それに部長が言ってじゃないか『プロポーションの条件は自分が敵地と認めた場所』だって、あれは遠まわしに敵地を『教会』と認めたから行ってきなさいっていう部長なりの許可なんだよ?」

 

「……部長には敵わないな」

 

 そんな男三人のやりとりを聞いていた小猫が茶菓子とお茶を楽しむのをやめてスッと立ち上がる。

 

「……三人では心配です」

 

「えっ、小猫ちゃんも来てくれるの!?」

 

「……心配ですから」

 

「ありがとう小猫ちゃん! 俺、猛烈に感動してるよ! もう楽しみでしょうがなかった写真集とかが手に入ったとき以上に感動してるよ!」

 

 小猫がついてくると判った一誠の喜びようは男二人の顔を引きつらせる。

 

「あ……えっと、僕たちもついていくよ?」

 

「止めとけ木場さん、聞こえてないだろうから」

 

 改めて一誠の煩悩がもたらすパワーに触れた二人はこれから死地に赴こうとしているとは思えないハイテンションの一誠に突っ込む気力すら失う。

 

 

「よし! 待ってろアーシア! 四人で助けに行くからな!!」

 

 

 アーシアを助けに行くという気概にあふれている一誠だが、他の三人は決してそうではない……むしろアーシアを助けに行くというよりも死地に向かう一誠を援護し最悪の場合は一誠を連れて逃げるのが仕事だ。

 狛は主君であるリアス・グレモリーの縄張りで好き勝手している連中が気に食わないから斬りに、木場は過去に神父と揉め事を抱えておりその胸のうちに巣食う怒りや憎しみをぶつける為に、小猫は本当に仲間である三人の身を案じているからついていくのであってアーシアというシスターにはあまり興味などない。

 

 あくまでも身内である一誠の為に赴く。

 

 それが三人の暗黙の了解であり、身内の為に血を流すグレモリー眷属の結束であった。

 

 

□□□□

 

 

 満月がとても輝いている真夜中、堕天使やエクソシストたちが潜んでいるであろう教会の聖堂に三人は一気に足を踏み入れる。

 聖堂に飾られている彫像は頭部だけ破壊されており、実に冒涜的な風景を演出しておりそしてそこには以前一誠と狛を殺そうとしたフリードが右手に光の剣と左手に銃を携え、待ってましたと言わんばかりに不気味な笑顔を見せていた。

 

 

「いやぁこう見えて俺って強いからさ一回で悪魔なんて殺してきたんでざんす、だから二度も同じ顔に会うなんて有り得ないんですよ? それがセオリーでしたのにもうお前のせいでそれが爆発四散! だからとっととくたばれよクソ悪魔がぁぁぁ!!」

 

 

 喜怒哀楽の感情をコロコロと見せたフリードは言いたいことを言い切ると引き金を引き、堕天使の光の力によって作られた光弾を四人に向けて乱射するが、四人は一斉に散り攻撃をかわすと反撃に移る。

 小猫が教会の長椅子を持ち上げフリードに向かって投げ飛ばすが光の剣によってあっさりとそれは真っ二つに両断されてしまうが椅子投げの目的は一瞬でも視界を塞ぐことにある。

 フリードの注意が逸れたのを感じ取った狛は姿を消し、木場は騎士(ナイト)のスピードを生かして放たれる弾丸の迎撃を掻い潜ると一気に肉薄しフリードと剣劇を繰り広げる。

 

「うわぉやるじゃんクソ悪魔ぁ!」

 

「君も中々やるみたいだ……少し本気を出そうか」

 

 剣劇の最中に木場の持っている剣の刀身の色が変化していく、月光を反射していた銀色から光の全てを取り込んでしまうような黒い刀身へと変化した剣が今一度フリードの光剣とつば競り合いを起こす。

 だが光剣の光は木場の黒剣に吸い取られ刀身の光が見る見るうちに弱まっていく、その様子にフリードの顔に驚愕と怒りがにじみ出る。

 

光喰剣(ホーリーイレイザー)という光を食う魔剣さ」

 

「てめぇも神器持ちか!?」

 

 見る見る光を食われ刀身を失った光剣と銃口が木場に向けられているこの瞬間を好機と捉えた一誠はプロポーションによって戦車(ルーク)の力を発動させフリードに向かって全力で駆け出す。

 

「うぉぉぉぉ! セイグリッドギア!」

 

『Boost!!』

 

「しゃらくせぇ!」

 

 一誠の動きに気づき木場から距離を取りながら銃口を素早く合わせるもその銃身に一振りの刀が食い込む。

 

 

「やっぱり不意打ちはこうでないとなぁ!」

 

 

 楽しそうに声と共に銃が切り落とされ、攻撃手段を失い不意打ちによって動きの止まったフリードの頬に戦車(ルーク)によって基礎能力が爆発的に強化され、更に倍プッシュといわんばかりに神器(セイクリッドギア)によって強化された拳が突き刺さる。

 その一撃はフリードの身体を空中できりもみ回転させながら吹き飛ばし聖堂に飾られている銅像の身体に叩きつけるが一誠の拳は硬い何かに阻まれた感触を感じ取っていた。

その答え示すかのようにフリードは立ち上がるとボロボロになった光剣の柄をその場に投げ捨てる。

 

「……浅い、普通に斬るべきだったか?」

 

「ふっざけんなよょょ! クソがァァァ!! 殺す、絶対に殺す切り刻んでやるよクソ悪まがぁ!」

 

「そういう台詞は囲まれたこの状況でもまだ言えるのかな? こっちにはまだ光剣対策の武器があるのに?」

 

 木場の言葉にフリードは周囲を見回し囲まれていることに気づくとあっさりと態度を豹変させると懐から閃光弾を取り出すとためらいなく起爆させ四人の目を眩ませるとさっさと逃げ出す。

 その素早さは狛の鼻と耳を使った探知による追撃を光剣を投擲することで掻い潜り、そのまま逃げ切ってしまうほどに素早さで狛は追撃を諦め地面に落ちた柄だけのものを懐にしまう。

 

「逃げられたね、ほんと長生きしそうだよ彼」

 

「ご丁寧に一誠を狙って剣を投げてきやがった、面倒な奴に逃げられた」

 

「あんな奴とは二度と戦いたくないぜ……そんなことよりアーシアを探さないと!」

 

 何かを嗅ぎつけた小猫が聖堂の机を引き剥がすとその下には地下室へと繋がっているであろう隠し階段が姿を現す。

 

 

「……この先に色々いるみたいです」

 

 

 その言葉に一同は改めて気合を入れなおすと道なりに地下へと足を踏み入れその先の巨大な地下聖堂へとたどり着く。

 そこには大量のエクソシストたちが壁となっており、その壁の先には十字架に貼り付けられたアーシアが弱弱しい姿を晒し、一同の到着を歓迎している堕天使が露出の多いボンテージを身に纏っている。

 

 

「レイナーレぇ!!」

 

 

 アーシアの傍に立っている女の堕天使こそ、一誠を殺し、いまこうしてアーシアを苦しめている騒動の元凶である堕天使レイナーレ。

 その手には強くそしてどこか優しさを感じる光を発する光玉が握られており、アーシアの息遣いは遠目から見ても弱弱しさが見て取れ顔色も真っ青になっていた。

 

「二人とも一誠君を行かせるよ!」

 

「判りました」

 

「行け兵藤! 道は切り開いてやる!」

 

 光剣を携えた無数のエクソシストが襲い掛かってくるが木場の光喰剣(ホーリーイレイザー)によって剣を無力化された所に小猫の怪力による一撃を浴びせられ瞬く間に地面に倒れふしていく。

 フリードが異質な強さを持っていただけであり他のエクソシストの強さは大したものではない、アーシア目掛けて一直線に駆けていく一誠を攻撃しようとする相手を優先的に狛は切り伏せ突き殺す。

 

 

「これこそ私の求めていた力! 堕天使を癒すことの出来る唯一の堕天使として私の地位は、力は約束されたようなもの! あぁアザゼル様、シェムハザ様の愛を……寵愛を一身に受けることが出来る選ばれた堕天使になったのよ! 今まで私を馬鹿にした奴らを見返す力を得たのよ!」

 

 

 レイナールは自分の傍でアーシアを助けている一誠など眼にも入っていない、手に入れた力に酔いしれている。

 

「アーシア、助けに来たぞ!」

 

「……イッセー……さん?」

 

 弱弱しい声に慌てている一誠に対してレイナーレは心底楽しそうに告げていく。

 

「あぁ無駄よ、神器は魂と強く結びついているから抜かれたら死んでしまうのよ? まぁ上を騙してまで手に入れた力だもの返す気はないわ、無論証拠となる貴方達にもここで消えてもらうわよ」

 

「……夕麻ちゃん、大切にしようと思ったんだ。初めての彼女だから、こんな俺を好きになってくれたと思ったから」

 

「女を知らない初々しい子をからかうのって本当に楽しかったわ、ちょっと困った振りをしたら慌てて懸命に何かしようとするんですもの……本当につまらなかったわ。夕麻って名前も夕暮れにあなたを殺そうと思ったからよ? いっせーくん?」

 

 一誠は怒りに震えた。

 

 腸の底から煮えくり返る怒りに身体が熱を帯びる。

 

 その熱に当てられるように心臓は高鳴り、左腕へと力が流れ込む。

 

 

「一誠君! その子を抱えては無理だ、僕らが殿を受け持つから下がるんだ!」

 

 

 その言葉に一誠が動くのは早かった、レイナーレが光の槍を構えていたのも要因だがそれでも木場の言葉は熱を帯びた一誠の頭にもスッと入り込んできたからだ。

 

 

「悪い! これが終わったら……何か奢るからな!」

 

 

 アーシアを抱きかかえたまま一誠は一目散に入ってきた入り口から地上に向けて駆け抜けていく、倍加された力の恩恵と三人が道を切り開いたのもあり瞬く間に地下聖堂から脱出する。

 有象無象のエクソシストを叩き伏せた三人は改めて眼前で自分たちを見下しているレイナーレに集中する。

 

「随分と外道な堕天使だ……そんなに愛情が欲しいなら一誠君を切り捨てるべきじゃないと思うけど?」

 

「はっ! あんな乳臭くてどうしようもないのなんてこちらから願い下げよ、近づいたのも上から危険視する声があったから始末するためだったけど……どうやら上の思い過ごしのようね」

 

「ならアザゼルやシェムハザの目ってのは節穴だな、アレは化けるぞ……お前に対する怒りでな」

 

 敵意のぶつけ合い、挑発のしあいである。

 だが自分たちのトップを馬鹿にされたとあってか、それとも個人的な固執からかレイナーレの顔は怒りで歪み狂っていく。

 

 

「天界でも一・二を争う欠陥神器……クトネシリカとそれによって英雄にも悪魔にも八百万とか言う有象無象の神もどきにも成れない出来損ないの混ぜ物風情が……あの方たちを汚すなぁ!!」

 

 

「ほぉ詳しいのか、コイツに?」

 

 

「はっ! かつての大戦で中身を失い英雄を失って以来どうにもならない回収する価値も無い欠陥品よ……悪魔の脳みそは随分と劣っているみたいね」

 

 

 自分の人生を狂わせた存在が少しだけ判った……だから狛は笑う。

 

 

 

「ならその欠陥品に切り刻まれて尋問される屈辱を味わえ! 堕天使ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 獰猛な笑みを浮かべながらレイナーレと木場・小猫・狛の三人が激突する。

 

 地下聖堂は瞬く間に悪魔と堕天使の戦場と化す。

 

 光を喰う剣により光は弱まり姿を消す刀による不意打ちとと純粋な怪力がレイナーレの身体を傷つける。

 だがそれをレイナーレは奪った『聖母の微笑み(トワイライトヒーリング)』による回復で帳消しにしていく。

 戦いはレイナーレが放った大量の光の槍による爆撃による噴煙で三人が姿を消すまで続いた……そう、決着は一誠につけさせるように言われているから。

 




さて四話にして狛の神器の名前が明かせました
英雄になろうとしている仮面の民族あたりが切りかかってきそうな設定ですが
お許しください


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赤龍帝の目覚め

レイナーレ
アンチヘイトの犠牲となってくれ
本当に描くのって難しい


 一誠は教会の聖堂まで逃げ延びていた。

 だがその足は地下から伝わる爆音と衝撃によって立ち止まり、抱き上げているアーシアの身体から伝わる冷たさに気づき慌てて長椅子に寝かせつける。

 死んでいるとは思えないとても穏やかな顔に一誠は信じないとばかりに震える手で触れ、改めて自分の目の前にあった命が物言わぬ肉の塊となったことを突きつけられ内側から怒りが膨れだす。

 

「あらあら残念ね? まぁ安心しなさい、この子の神器(セイグリッドギア)は私がしっかりと使ってあげるわ」

 

「……レイナーレ」

 

 全身に切り傷を負ったレイナーレは自分に怒りの形相をしている一誠を相手にしても余裕とばかりに長椅子に腰掛けている。

 両手から淡い光が放たれるとそれはレイナーレの身体に刻まれた傷をその痕すら残さず治療していく、一誠はアーシアからかつて悪魔すら癒す力を持っている話を聞いているからこそその光に対する怒りが更に膨れ上がる。

 アーシアの優しさと強さを表しているかのようなそれを『聖母の微笑(トワイライトヒーリング)』の光が目の前の外道によって使われていることが心底許せない。

 

 だがそれ以上に許せないのは。

 

 こんな相手に今も淡い恋と優しさに対する期待を捨てきれない自分自身であった。

 

 

【結局そうだ】

 

 

「本当に素晴らしい【力】よこれは、これさえあれば私の堕天使内での地位は約束されたようなもの。アザゼル様たちの【力】になれるの、癒しによって私は絶対的な【愛】を手に入れられるのよ!」

 

「違う! それはアーシアのだ! アーシアのあの優しさを表しているものだ、お前のような自分の為ならば一番欲しいものを平然と切り捨てられるような奴に微笑みがくだってたまるか!!」

 

「はっ? これは【誰でも癒せる力】なのよ? 人間なんて存在が持つには勿体ない代物を私が使ってあげるだけなのにどうしてそんなに怒っているのかしら……そもそもその子を迫害した原因はこの【力】なにね」

 

「……アーシアは後悔なんて、たとえ悪魔でもその【力】で救えたことを誇りにしてたんだよ。アーシアは宗教にある【隣人への愛】を貫いただけなんだ! もし狂ってるならそれは助けてくれなかった神様ってやつだ!」

 

 レイナーレと話せば話すほどに血流が力強く、身体を内側から焼き焦がさんばかりに熱く熱を帯びていく。

 目の前にいる堕天使は【愛】が欲しいのでなく【力】の対価として支払われる力に対する【愛のようなもの】が欲しいだけなのだと、アーシアのような本当の優しさから生まれるものを欲していないと。

 自分が守りたいと思った、思わせてくれたあの【愛】を求めていない……レイナーレが欲しいのは【見下す為の力】というものでしかないことを。

 

 

【力を求めて愛を否定する】

 

 

 左手に纏う篭手になけなしの魔力が流れ込む、機械的な音声ともに力が倍増されたことを告げられ一誠は拳を振るうがレイナーレは自慢の黒い翼を羽ばたかせその一撃を軽々とかわす。

 

 

「そうねぇ! もし神が【隣人への愛】を貫いてくださったのなら私の祈りにも答えてくれた! アザゼル様たちは私に答えてくれた、本当の【愛】を私に与えてくれたでしょうね! でもね……そんなものは無かったから今の私があるのよ!」

 

「寂しかったなら、悲しかったなら、辛かったなら……一言助けてって言えば良かったんだ! そうすれば俺だってアーシアだって、きっと何処かの誰かが答えて手を差し伸べてくれたんだ! 神様や力のある奴じゃなくても、手を差し伸べてくれた!」

 

「【力のない愛】がまさに今のあなたよ! 助けたいとか助けられるとかほざいておきながら目の前の少女一人助けられない、私への想いも貫けない吐き気のする絵空事に染まった存在なのよ! そんな奴に差し伸べられた手なんてね……救われるどころかもっと強い苦しみに陥るだけなのよ!」

 

 

 レイナーレの光の槍が一誠の両足を貫く、光の力が全身を内側から焼き焦がし耐え難い苦痛が駆け抜けるにも関わらず一誠はその槍を強引に引き抜く。

 風穴となった傷口から血が流れ出す、だが光による痛みと怒りによる熱さが意識を繋ぎとめていく……その間にも一誠の篭手からは力を倍化した機械的な音声が流れているがレイナーレは気にも留めない。

 

 

【救えないから守れないから】

 

 

「……アーシアは救ってくれなかった神様は駄目か、悪魔だから魔王様に祈るべきなのか? 頼みきいてくれますか?」

 

「光の痛みで壊れたのかしら? 直してあげても良いわよ私の慈悲というのでね」

 

 

【両立しなければならなのに出来ない】

 

 

「後は何も残らなくて良いから、こいつを……一発ぶん殴らせてください!!」

 

 

 それは強い想い、弱いからこそ生まれるどこまでもどこまでも強い想いが燃料とばかりに神器(セイグリッドギア)へと流れ込む。

 

 

【答えてやろう、その想いに】

 

 

 想いに答えるように篭手に変化が生まれる、手の甲を多い肘まであったそれは鋭い竜の爪を模したようなものによって一誠の手を完全に覆いつくし、特徴的な宝玉が一回りも二回りも大きくなる。

 宝玉に何かの紋章が描かれたかと思うと機械的な音声と共に貯めこまれた魔力が爆発し一誠の身体を駆け抜ける。

 一誠には自然とそれが何なのか理解できた、本能とも言えるがもっと異なる何かが親切にも教えてくれているような、そんな力が一誠の全身を駆け抜けていきレイナーレはそれに怯えた。

 

 その爆発的な高まりは上級悪魔も凌ぐほど。

 

 下級悪魔と、取るに足らない相手と見下していた相手の力が自分を軽々と凌駕している状況に対してレイナーレはある意味で冷静に、そして本能が訴えるままに逃走を選択した。

 今一度その背中の翼を羽ばたかせ逃げ出すレイナーレだったが、逃げ出すにはもはや手遅れの状態だった。

 

「逃がすかよ!」

 

 悪魔の羽を生やした一誠はレイナーレの予想を遥かに上回る速度で跳ぶとそのまま片腕をへし折らんばかりの握力で掴んでいた。

 そして一誠の眼は人間の目ではなく動物……トカゲや蛇が持つ特徴的な瞳孔に変化すると共に赤い紅い光が微かに灯り、人ではない何かの力が宿っていることを明確に示していた。

 

「わたしは! 私は至高のだ」

 

「吹っ飛べ! くそ天使ぃぃぃ!!」

 

 恐怖に歪むその顔に渾身の一撃が突き刺さった。

 断末魔と共に吹き飛ばされた細い身体はステンドグラスを突き破って教会の外へと放り出される。

 

 

「ざまぁみろ」

 

 

 やり遂げた事への安堵からか一気に力が抜ける一誠を何処からともなく現れた、正確に言えば物陰から一連の流れを鑑賞していた木場が肩を貸す。

 

「おせぇよイケメン王子」

 

「部長からよっぽどのことが無い限り手助け無用と言われててね、悪いけどずっと見守らせてもらってたんだよ。考えもなく撃ち込んでくれたから隠れるのには困らなかったし二人は二人の世界に突入してたし」

 

「部長が?」

 

「あなたなら勝てると信じていたからよ? それに私と朱乃もすることが思ったより早く片付いたから観戦させてもらってたけど、ふふ……やっぱりあなたを下僕にして正解だったわイッセー」

 

 いつのまにか聖堂に入ってきているリアスに驚くまもなく、小猫が外に吹き飛ばされたレイナーレを引きずって持ってくるとリアスの眼前に放り投げる姿に更に一誠は驚かされる。

 一誠の一撃がよほど堪えているのかまともな抵抗も見せないレイナーレをリアスは冷めた眼で見下す、以前はぐれ悪魔を討伐した時のような冷たく威圧感を感じさせるそれはリアスがこの場の支配者であることを示した。

 

「こんばんは堕天使レイナーレ、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期頭首でありこの子たちのキングよ」

 

「グレモリー家の娘か……だが今回の計画には私以外の堕天使も参加」

 

「残念だけど挨拶に来てくれたお友達は無礼が過ぎるから手打ちにされてもらったわ、ついでに言えば貴方達の上司から『そんな奴はいない、いたとしても堕天使を騙る不届き者だろうから気にしないくていい』とのわざわざお達しよ」

 

 その言葉が意味するものは他ならない、その為だけに全てを投げ打ったはずにも関わらず、結末はレイナーレへの死を意味するものだった。

 寵愛を得るどころか好き勝手動いたことによってより強い失意を買ったあげく悪魔とのいざこざを避けるために存在すら否定された……愛と間逆のものを手に入れた結末にもはや抵抗する気力すら根こそぎ奪われてしまった。

 落胆するレイナーレを横目にリアスは一誠の変化した篭手を見て、一誠が手に入れた力の正体に気づく。

 

「十三種類の神滅具(ロンギヌス)の一つ、神や魔王にも単身で匹敵した存在の力を宿し一時的には超えると謳われた龍の力【赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)】、イッセーのあの時の強さも納得ね」

 

「そんな……まさか……」

 

「十秒ごとに倍加していく所為で揮わないものだから慢心によって何とか勝利にこぎつけられたようなものだけれど、イッセーが兵士(ポーン)をあれだけ吸収した存在ってのもこれで納得出来たわ」

 

「これってそんなに凄いのか?」

 

「……レベル100・200・400・800と十秒ごとに倍加されてみろ、一分もすれば地力の六倍の力になる。これが千や万の単位だと洒落にならないだろう兵藤」

 

 狛の言葉に一誠は息を呑む、自分の地力が弱いからこんなものだが鍛え上げられたものであればあるほどに強大な存在となれる力が宿ったことに改めて一誠は左腕を見つめなおす。

 

 

「助けてイッセー君」

 

 

 声がしたと思い視線を向けた先にいるのは人間であった頃の一誠に接触して時の姿である夕麻の姿でレイナーレは一誠に救いを求める……一誠からプレゼントされたブレスレットを見せ救いを懇願する。

 堕天使の使命で仕方なかったと、本心では今でもあの時のままであると、だから助けて欲しいと嘆願する姿をリアスは哀れみ木場や小猫は心配そうに一誠を見つめ、狛はクトネシリカを構えた。

 

 

「……ごめん夕麻ちゃん、君の言うとおり今の俺じゃあ助けたってくる苦しめるだけだ」

 

「そんな! 私を見捨てるの!? 手を差し伸べてくれるって言ったじゃない!」

 

「こんな俺を好きなってくれてありがとう、こんな弱い俺で……ごめん」

 

 

『大好き“だった”』

 

 

 涙をこらえながらの言葉にレイナーレは自分から伸ばした手を戻していく、自分でもどうして涙が出るのか判らないほどにレイナーレの眼から涙が零れ落ち腕のブレスレットを見つめた。

 

 そこにあるのは後悔か、懺悔かなど本人にすら判らない。

 

 

(あんな馬鹿な笑顔に本気で応えればなんて、本当に焼きがまわったわ)

 

 

 馬鹿らしくスケベでも一途な男の【愛】なら最初から欲しいものは手に入っていた……選り好みしその為に力を求めた果ての馬鹿馬鹿しい結末をレイナーレは静かに受け入れることにした。

 だから指にはめ込んだ神器を取り出すと一誠に投げ渡す、淡い光に照らされても決して顔を見られないように下を向いたままに。

 

 

「せいぜいその弱い手を差し伸べて相手を苦しめなさい」

 

「約束するよ、俺は強くなって大切なものをもう無くさないって」

 

 

 一誠が背を向ける。

 

 

「……さぁやりなさい」

 

「……本当に馬鹿な人ね」

 

 

 リアスの魔力がレイナーレという堕天使を跡形もなく消し飛ばす、ブレスレットどころかその黒い羽すら一枚たりとも残っていない。

 

「部長……すみません、あんな事まで言った俺の為に」

 

「誰も責めないわ、それにまだ彼女には助かる見込みがあるわ。前代未聞だし彼女にとっては苦痛になるかも知れないけど、堕天使の置き土産のおかげで少しだけ見込みが残っているわ」

 

 リアスはスカートからチェスの駒である僧侶(ビショップ)を取り出す、一誠にそうしたように悪魔に転生させる形でアーシアを蘇生させようとしているのだ。

 

「悪魔すら癒す回復能力は魅力的だもの逃がしたくないわ、あの堕天使が最後に神器(セイクリッドギア)に彼女から抽出したであろう精気などが残っているからあとは彼女の生命力次第」

 

「大丈夫です、もし何かあってもアーシアを説得してみせます」

 

「それでこそ私の下僕よ。やはりあなたを引き込んで正解だったわ」

 

 リアスが駒を使うとアーシアの顔に精気が宿ったかのように赤みが戻っていき最後にはゆっくりと目を開き、蘇生に成功したことに喜びのあまり抱きつかれ驚いている。

 

 

 

「帰ろう、アーシア」

 

 

 この日グレモリー一団にシスターでありながら悪魔というなんとも異色な仲間が加わり、その日々はますます賑やかなものへとなっていく。

 

 

 

□□□□

 

 レイナーレの事件から数日後、狛はある人物の呼び出しによって大きな屋敷の一室へとやってきていた。

 室内には一つ一つが馬鹿げた値段がついているであろう調度品や家具の類が並び、出されている紅茶と茶請けのケーキもおそらく常人が聞けば泡が吹き出るような値段がついているだろう。

 

「いつもすまないな狛」

 

「サーゼクス様にそのようなお言葉を使わせたとあっては奥様から睨まれてしまいます、どうかおやめくださいませ」

 

「まったく君は固いな、今回は執務中の呼び出しではないんだ……楽にしてくれ」

 

 狛が現れた青年に頭を下げる、なぜなら目の前の青年こそリアスの実兄にして先の大戦で戦死した魔王ルシファーの名前を引き継いだ現魔界の頂点に君臨する魔王サーゼクス・ルシファーその人。

 普通ならば実妹の兵士といえど簡単に会えない人物が執務の合間にまで会いに来ている姿は他の悪魔が見れば驚きで固まってしまうだろう。

 

 

「それで、新しいリアスの下僕についてと近況について教えてもらえるかな?」

 

 

 何よりも妹の近況を確認するためだけに呼び寄せるなどと知れば、それこそ驚きのあまり何人の悪魔が倒れるだろうか判らない。

 主君の近況を報告するためとはいえ、魔王との謁見と報告というものは狛にとって心臓に悪いものでいつまでたっても慣れないものであった。

 

 

「……さてでは君に仕事を任せようか」

 

「仕事でしょうか?」

 

「言っておくがいつものような煎餅などの茶請けをこっそり仕入れるのではない。リアスの婚約者が動き出した、それに合わせて赤龍帝の少年を少しでも強くしろ」

 

 

 リアスの婚約者。

 サーゼクスからは不機嫌のオーラが魔力となって噴出しており狛はその威圧感から全身から脂汗が噴出してしまう。

 

「それと君の神器(セイグリッドギア)についてだが、名前さえ判ればこちらのものだ。情報が集まり次第手紙を送らせよう」

 

「……申し訳ございません」

 

「構わないさ、リアスの事や隠密調査と無理を言っているのはこちら側だ」

 

 何かが引き金となったかのように、あるいはドラゴンの力が引き寄せているのか厄介な騒動がゆっくりとリアス達に忍び寄る。

 

 不死鳥の炎が騒動の油に火を灯さんと羽ばたき始めていた。




描いていたらサーゼクスがシスコン気味に
どうしよう
そして一巻終了! 次はライザー編
気張っていきます


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フェニックスの襲来

なんかライザーが悪く書けない
言ってる事は血を残す義務をしようとしてるだけに
描くのって難しいです


 

 一誠とアーシアが悪魔となってから年月の経過は早いもので一ヶ月が経過したが、日をおう毎にリアスからは元気がなくなり朱乃を初めとした眷属たちは自分に出来ることを行っていた。

 ようやく空が青み出す時間帯の街を一誠は半ば強引にも狛に引き連れられる形でマラソンを行っている。

 

「最近部長の元気ないよな」

 

「……そうだな」

 

「幾ら俺の神器は自力が重要だからって急に特訓はさせられるし、朱乃さんもどこかイラついているけどさ……何かあったんじゃないのか?」

 

 一誠の問い掛けに狛はこの一ヶ月強引な特訓に文句一つなく付き合い続けた一誠に対して言ってもよいかと考える……同じ眷属として信頼しているが伝えた場合一誠が何をしでかすか分からない。

 少なくとも最悪とよべることにはならないだろうが、それでも悪魔の階級というものに疎いことに加えて内容が内容なだけに伝えてしまえばやる気に影響が出るかも知れないと狛は事を伏せてきた。

 

「……兵藤、純粋な悪魔の大半が大戦で戦死して数が減ったのは知ってるな?」

 

「その数を補う為に俺たちみたいな兵士を作ってるんだよな、でもそれが部長の元気とかとどう関係してるんだよ」

 

「魔界そのものが純血悪魔を増やすために婚約や結婚を急いでいるんだ、小競り合いによって純血悪魔が死んでお家断絶という話まであるくらいだ……んでリアス部長の婚約話が結婚になったんだ」

 

「はっ? 部長が結婚!?!?」

 

 突然の結婚という話題に一誠は驚きのあまり周囲の鳥が飛び立ってしまうほどの大声をあげてしまい慌てて狛に口を塞がれると周囲の住人が起きだす前にその場から全力で逃げ出す。

 悪魔の力を全力で使った脚力で十分ほど駆け抜けた二人はペースを元に戻すと再びゆっくりとマラソンを再開するが、興奮している一誠は狛に対して質問を怒涛の勢いで投げかけていく。

 

「本当ならリアス部長が大学を卒業するまでは待つという約束だったんだが、どうも小競り合いによる事件などがグレモリー家の旦那様を刺激してしまったみたいでな。形だけでも結婚し万が一に備えたいという考えが暴走してしまっているようだ」

 

「でも部長は嫌なんだろ? なら」

 

「“グレモリー家の”跡取りはリアス部長しかいない……リアス部長に何かあった場合にそなえて婿養子を迎え入れ、何かあったとしたら別の家に婿養子に嫁がれたリアス部長の兄上の子供を養子に迎え入れる」

 

「なんだよそれ、それじゃあ部長は単なる予備とか家の為の保険みたいな扱いじゃないか!?」

 

「……それが今の冥界の貴族階級なんだ、ましてや悪魔は出生率が凄まじく悪いからな。旦那様も娘に欲望を押し付ける形になっても家庭と子供を持って家を守って欲しいと考えているんだ」

 

「それでも、部長があんな悲しそうな顔してて家庭なんて……悪魔の貴族事情とかよく判らないけどよ! 家族ってのはもっと笑顔があって喧嘩していくもんだろ、そうじゃないと生まれてきた子供がかわいそうだろ」

 

 その言葉に狛は自然と笑いがこぼれてしまう。

 親に捨てられてしまった狛だが一誠の言っている家族の姿については少しは理解できる身だ、その姿が貴族社会から見ればおかしなものでも一誠の優しさというものが端的に現れている。

 どうしようもないスケベだがリアスのように相手に対する慈愛を持っておりその優しさからくる意思の強さがアーシアを救ってみせ、最強の一角とされる力を発言させたと考えればやはりリアスの見る眼は間違っていない。

 

「やっぱり兵藤はいい奴だよ」

 

「でも部長の結婚話を破談させるにはどうすりゃあいいんだ?」

 

「そこはサーゼクス様、リアス部長の兄上よりちょっとした策を授けられているさ。レーティングゲームに持ち込んでこっちが勝てばいい」

 

「チェスに見立てた勝負で?」

 

「レーティングゲームは娯楽の一面以外にもお家騒動に用いられる事が多い」

 

「つまり俺たちがレーティングゲームに勝って部長が相手に結婚を待つか、破談にしてまうってことか!?」

 

 話の要領を得た一誠は自分の左手をマジマジと眺め、何かを決意するとマラソンのペースをあげていくその背中を見ながら狛は一歩後ろからついていく。

 『部長のおっぱいは譲らない』といったスケベ心満開な言葉を気合入れに使っている事は無視して狛は更にペースをあげていく一誠についていく、予定の距離を走り終えると一誠は自宅でアーシアと母親の手料理を食べる為に帰る。

 狛はそのままもう少しだけ走るとリアスから用意されているマンションの自室に戻ると制服を着込み授業に必要な道具を納めたカバンを担いで朝の日常に向かう、ただしそのカバンの中にサーゼクスから渡された様々な書類の束があるのは仲間たちにも内緒のことであった。

 

 

□□□□

 

 

 一誠とアーシアが授業を終えたその日の部室は物々しい雰囲気であった。

 リアスは苛立ち、朱乃は笑顔だがそれも何処か硬く、小猫はいつものように何か食べ物をつまんでおらず、木場は椅子に腰掛けたまま精神統一をしている。

 狛は銀色の髪とメイド服が特徴的な女性と何やら込み入った話をしており部室に二人が入ってきた事によって話を中断するが、また後ほど詳しく話しをする約束をしているのが一誠には聞こえた。

 

「えっと部長、こちらの方は?」

 

「はじめまして、グレモリー家に仕えるものでグレイフィアと申します。以後お見知りおきを」

 

「リアス部長の兄上の女王(クイーン)にして、最強と名高いお方だ、変な色目を使うと本人からだけでなく兄上からも地獄を見るのすら優しく思えるお仕置きが飛んでくるから気をつけろ」

 

 メイド服を纏っているだけでなく名乗りも簡素であったため本当にただのグレモリー家から派遣されたメイドとしか思っていなかった一誠は、グレイフィアの持つ刃物のような雰囲気と大人の色気に鼻のしたを伸ばしかけるも狛の一言でこれを正した。

 かなり強めの警告が気に食わなかったのかグレイフィアは狛を睨みつけるが狛本人は何処吹く風とばかりに顔を逸らすと何も言わずリアスの傍に控える。

 いつもと違う雰囲気にアーシアは困惑してしまっており、一誠もどうすれば良いのか判らない、小猫と木場が助け舟とばかりに二人に椅子に腰掛けるように呼びかけるがそれも意味を無くす。

 

悪魔の仕事用に作られた魔法陣が独りでに強く輝きだす。

 

 しかしその紋章はグレモリー家の紋章とは異なる紋章を描き出していた。

 

 魔方陣から炎が噴出すがその炎は腕の一振りによって消し去られる。

 

 リアスの顔は苛立ちに満ち溢れ、朱乃ですらその顔から笑顔がなくなり、木場と狛は光に対して鞘から抜いてこそないが各々の得物に手をかけている。

 臨戦態勢と言わんばかりの一同を見た一誠はアーシアを庇うように光から離れ、そこから姿を現す一人の二十代前半のホストというのが似合いそうな男が狛から聞いたリアスの婚約者であることを悟った。

 

 

「愛しのリアス、迎えにきたぜ」

 

 

「帰ってライザー、私は結婚しないと言わなかったかしら?」

 

 

 リアスの間髪入れない返答など聞こえていないとばかりにライザーと呼ばれた男……リアスの婚約者であるライザー・フェニックスはリアスの腕を強引に手にとるがそれも強引に振り払われる。

 そしてリアスとライザーの間に敵対者に対する笑顔を浮かべた朱乃とクトネシリカの柄を逆手で握った狛が耳と尻尾を出した状態で割り込む。

 木場と小猫も距離こそとっているが何かあれば動ける姿勢をとっているにも関わらずライザーは小さく肩を上下させると勝手知りたるとばかりに部室の椅子に腰掛ける、それは座ったとしても現状を捌けるという力に対する信頼があるからこその行動だ。

 身体からは僅かだが熱気が放たれており部室の温度は敵対姿勢を見せているグレモリー一団の冷たさとライザーの放つ熱気が拮抗しているような状態であり、一誠とアーシアはなんとも言いがたい居心地の悪さに更に困惑してしまう。

 

 

「これは君のワガママが通るような事じゃないのは知ってるだろ、ここのところ増えだした小競り合いでお家断絶や嫡子を失った家は少なくはない、俺たちはただでさえ少なくなってしまった七十二柱の名を背負ったものとしての責務がある。君の結婚に対する考えは悪魔貴族としての責務に対して逃げているだけだ、人間社会だろうと悪魔だろうとお家の為に血を流すのは間違っているのか?」

 

「私は婿養子も迎え入れるつもりだし結婚に対する考えだって判っている、でも次期当主として……いずれ母となる身として生涯と家を託せる相手は自分の眼で決めるわ。数の少ない純血悪魔であり古い格式あるからこそ私は自分の中にある血を任せられる相手を選びたいの、そもそも大学卒業まで結婚の話は待つという約束を破ったのはそちら側でなくて?」

 

「それについてはお父上も納得されているからこその早まったんじゃないか、気に食わないが転生悪魔が顔を利かせだし小競り合いで失われていく現状はそれだけの状態を作り出しているんだよリアス」

 

 

 話は平行線を辿っている。

 だが話が長引けば長引くほどにライザーの身体から発せられる熱気が強まっていく、それはライザーの機嫌が悪化していることを端的に表していることを意味していた。

 

 

「リアス、俺もフェニックスの名前を背負っている男としてこれ泥を塗られるのは耐え難いんだよ、ただでさえ地上は穢れているというのに一端の兵士気取りで立ちふさがってる犬っころは特に酷く臭う! 出来損ないや腐ったものよりも遥かに苛立つ宿敵の匂いと同胞の血が入り混じった胸糞悪い臭いが特に鼻につくんだよぉ!!」

 

 

 ライザーの身体から炎が噴出す、それは鳥の翼を形作りその名前に偽りのないフェニックスとしての姿と上級悪魔としての強大な力を部室内に広め一同が一触即発の姿勢となってしまう。

 自分の兵士を馬鹿にされたばかりか実力行使に躍り出ようとしているライザーに対してリアスの怒りは凄まじく既に身体から赤い魔力が噴出しておりいつでも全力の一撃を放てる状態となっていた。

 

 

「皆様おちついてください、これ以上はサーゼクス様の名誉を守る為に私も黙ってはいられなくなります」

 

 

 グレイフィアからライザーの熱気やリアスの魔力など取る足らない、比べることすらおこがましいと思えるような強大な力と共に放たれた一言に二人は放ちかけた力を納めて今一度席に腰掛ける。

 その様子を見た一誠は改めて悪魔における最強という言葉の大きさを身を持って思い知らされた……それは本能が有無を言わせずひれ伏すことを選び取るような圧倒的なそれ、父親や母親のような逆らいがたいものと相対するようなものだった。

 そしてグレイフィアがゲームの進行役となることを条件に両者の間でレーティングゲームよる解決が承諾される。

 

「ところでリアス、君の手駒はたったそれだけか?」

 

「だとしたら?」

 

「おいおい冗談はよしてくれ? 君の下僕じゃ『雷の巫女』くらいしか俺のかわいい下僕に対抗できないんじゃないかな」

 

 ライザーが指を鳴らすと再び魔方陣が輝きだし十五人もの女性・少女が姿を現す、それはチェスで用いることの出来る最大の数であること、リアスの7人に対して単純な戦力差が二倍であることを意味していた。

 そして一誠は目の前のライザーがハーレムを実現していることに対して感動の涙が流れ出し流石のライザーも突然の号泣に顔を引くつかせながらリアスに理由を尋ね、ハーレムを夢見ている事に対してのものと聞き見下すような笑顔を浮かべる。

 それどころか一誠に見せ付けるように下僕の一人と熱烈なキスをし始め、その様子にリアスは冷めた視線を送るなどグレモリー一団はライザーの行動を少なくともいい方向には捉えていない。

 

 

「部長と結婚するのにそうやって下僕といちゃついてるんじゃあ! 部長は振り向いてくれねぇよ焼き鳥野郎! ハーレムと一個人の愛情とはまったくの別物だっての判ってるのかよ!」

 

 

 ライザーの行為が少なくともリアスには好意的に捉えられていないと言いたいであろう一誠の言葉に他ならぬリアス達が驚かれ、アーシアにいたっては熱がないか調べだそうとする始末にまで発展する。

 誇り高いフェニックスであることを焼き鳥とまで侮辱されたライザーであったが自分を完全に無視して熱だ、風邪だ、天変地異の前触れだ、と騒いでいる姿に怒気が失せてしまう。

 ライザーの眷属たちも慌てて風邪薬の在り処を探し、体温計や氷の支度を進め魔方陣の描かれたカーペットで一人の人間を簀巻きにしている風景に対して何を言えば良いのか判らず困惑するしかない。

 

「……リアス、君や君の下僕たちはレーティングゲームは初陣だろう」

 

「あっ! えぇそうよ」

 

「対するこちらは百戦錬磨だ初陣相手に準備期間も与えず勝ったところで功績にもならない、それにいざとなって初陣だからと難癖つけられるのも癪だ。会場の準備も兼ねて十日後というのはどうだろう?」

 

「……ハンデのつもりかしら?」

 

「理由はさっき言った通りだ、それに感情だけで勝てるほどゲームは甘くない。本当に勝ちたいと思っているからこそ相手の温情に縋るべきだろう? こっちとしては十日の間に結婚式のことを考えておきたい」

 

 自分が負けるなど微塵も思っていない百戦錬磨を自称出来るだけの経験と実績をつんだからこそ持つ重い言葉がリアスにのしかかかる、レーティングゲームに関してはライザーが何歩も先を行く先輩なのだから当然といえば当然である。

 

「それとそこで簀巻きにされる奴!」

 

「なんだ!」

 

「デカイ口を叩いたからにはやってみせろ、お前の一撃はリアスの一撃になるんだ」

 

 敵に塩を送るような行為だが少なくともそこにはリアスを想ってのものがあることは一誠には理解できた、無論それ以上に負けなどありえないという自信から来るものがあるのも理解できた。

 簀巻きにされカッコのつかない状態であるが自分の立ち振る舞いや活躍はそのままリアスの評価に繋がってしまう、無様であればあるほどにリアスの眼が節穴だと、先見の才のない無能者という烙印を押されてしまう。

 簀巻きにされ額に氷嚢を押し当てられたなんとも情けない格好ながら一誠は左手を強く握り締め決意を固めていく、少なくともレイナーレの時よりは一ヶ月の特訓によって強くなっているはずなのだ。

 

 

『もうなくさない』

 

 

 今はなき初恋相手との約束を胸に一誠は自分の拳からリアスを守りぬくことを誓い……

 

 

「……部長、これ解いてください」

 

 

 とりあえず簀巻きにされた状態からの脱出から始めることにした。

 木場が慌てて保健室から体温計を借り出し体温を測り安全と健康が確認されたうえで解放されるのだが一誠が解放されるまでとても時間を要した。

 またその騒動の間にグレイフィアと狛は静かに部屋から退出し、リアスたちには聞こえない小さな声で密談をしている。

 

「やはり臭いますか」

 

「……失礼ながら消しきれない部分はありますね」

 

「姫島さんのように上手く混ざれば良かったんですが、どうも神様の血潮というのは俺を生きたいようにしてくれないようです」

 

「ですがその力が使えれば少なくともゲームは有利に進むでしょう、無論負荷について考えながら二倍以上の戦力差を埋めるのは至難の業でしょうが……サーゼクス様はなんとか出来るとお考えのようです」

 

「きっとどうにかするのは俺ではなく兵藤でしょうね。赤龍帝以上に面白い奴ですよ」

 

 狛の体内に流れる八百万の血潮は強く強く脈打っておりそれは一度死んだ身でありながら悪魔の力が上書きしきれないほどに強いもので、完全な転生悪魔とは呼べない不完全な代物となった。

 それが原因となって反発する二つの血が拒絶反応を起こし臭いとなって現れてしまっているのだ……狼にとって臭いは武器である以上に天敵として存在する、狩りで位置がバレてしまっては元も子もない。

 神器では臭いだけでなく姿まで隠してしまう、洗剤や芳香剤でごまかしているがそれもまた狼として在り得ない姿である、狛はそうした意味でも出来損ないかつ不完全で歪な存在なのだ。

 上級悪魔であればあるほどにその臭いに対する鼻が利き、そして嫌悪感を露にするのはもはや本能の部分にある相容れないものへの敵対心そのものといっても良い部分であったがそれでもグレモリー家は狛を受け入れた。

 

 

「サーゼクス様からの資料もあります、あとは俺たち次第です」

 

「ではリアス様の幸せの為に尽力してください……あとあの子やサーゼクス様に頼まれたからと言ってあまりポトチやぽちぽち焼きをあげないでください」

 

「……尽力します」

 

 

 グレイフィアからの冷たい視線に対して狛は冷や汗を噴出しながら答える。

 魔王とその部下にして妻の命令の板ばさみになりながらも狛もまた対決に向けて準備を始める。

 




会話だけで一話飛んでしまった
修行……とばすかな


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