Sword Art Online For Dark Souls (心折れた男)
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終わりの残り火

初めて最近ダークソウル系列に触れ、その世界観に打ちのめされ、その後ふとネットでSAOを見た時、『これだ!』と啓蒙99の脳裏に電流が走りました。
あと、SAOのゲームでも確かありましたよね、パリィ。
何故パリィで回避や弾いた後に致命を入れないのかわからない(不死人感)

ダークソウル無印はネット知識のみ、SAOはアニメと貰ったゲームしかやったことがないのですが、精一杯頑張りたいです、はい。

【幻影
そして、呪い...】

追記 誤字修正をしてくれた方、最高にありがとうです!
心から感謝...まさかはじめのはじめからなっていたなんて...心が折れそうだ...




 

 

 

始まりは、彼の身に、忌まれる不死の印が刻まれたことだった。

 

細々とながらも、安定した人並みの幸せを営んでいる筈だった男は、その身に現れたダークリングにより、不死者となり、牢獄へと送り込まれ。

 

ある騎士に解放してもらい、檻から放たれ、自由の身となって尚、彼に、元の幸せは還ることは無かった。

 

そこは地獄。

 

否、地獄という言葉すら、もはや生温い。

 

 

不死に苛まれ、亡者と化した者達に襲われ、囲まれ、嬲られ、千切られ、引き裂かれ、貫かれ、燃やされ。

 

犬に食い千切られ、矢に射抜かれ、死した回数など、最早数十の領域では無く、常人には耐えきれない苦しみだ。

 

 

そして、その最中で見いだした希望とも言える、戦場で出来ていった仲間達も、時繰るにつれ、少しずつ、何かがおかしくなっていった。

 

ある者は裏切り、ある者には突き落とされ、ある者は...自分の求めたものの真実を知り。

 

亡者や獣といった類のみではなく、彼は、同じ人という存在にも、数え切れないほど殺されていた。

 

しかし、敵をさも平然と殺していく彼等もまた、この世界の被害者。

 

不死という概念、狂った世界の中で、人間という精神や概念は、あまりにも無力でしかない。

 

 

だが。

 

太陽を求めた者、混沌にのまれた者、友の墓を守り続けた者。陰の太陽の神となった者。

 

一人一人、彼等もまた、どんな形でも世界に抗ったのだ。

 

そんな者達を、誰が愚者と罵る資格があろうか。

 

 

そして、彼等を悔恨と悲哀の末に虐殺し、彼等の魂を食み、冒し、一時の救いを求め火継ぎの贄となった男も、そうだ。

 

不死である故に逃げ場などなく、延々と狂い、果て続けた彼は、その一瞬あるかすらもわからない、火継ぎという痛みを無限に伴う世界へと身を投じた。

 

使命という大義名分を利用するという、あまりにも分の悪すぎる賭け事。

 

知らぬ者からすれば、救済主のように謳われるほどの自己犠牲、その本来の理由は、欲しもしない力を持ち、殺し殺され続けた虐殺の不死者が行った、逃避の手段でしか無かったのだ。

 

 

 

だが、そこから先に立ちふさがる火継ぎという円環の呪いは、決して彼を手放すことは無かった。

 

 

 

世代は流れ、火継ぎの寿命が終わりに近づいた時、永久に眠れる筈だった彼は、引きずり起こされたのだ。

 

新たに火継ぎの贄とされる、火無き灰としての存在に生まれ変わって。

 

 

 

—新たな出会いもあり、その分、いやそれの何十倍もの死と別れ、悲しみに襲われる。

 

 

猛毒の沼地が広がる鬱蒼とした森の奥では、あの墓が立った場所で、嘆きながらも殺してしまった、優しい『彼』の匂いに誘われ。

 

かの深淵を歩いた存在の使命を引き継いだもの達、その首をこの手で奪い取った。

 

そうせざるを得ないとはいえ、自らの事を許す事ができず、憤怒のままに何度も不死の身体に、彼等が持つ大剣と短剣を突き刺した。

 

既に深淵の監視者は狂っていただろうが、そんなことは関係無い。

 

あの大狼を殺したその時の感触、彼の悲しみの声が記憶の底から引き出され、かつて感じた想いを、何かに叩きつけずにはいられなかったのだ。

 

 

 

かつて栄華を誇っていたある国は、事実上の滅びを迎えていた。

 

強き騎士達は、もはや傀儡となって徘徊し。

 

何度も心を救われた巨人の鍛冶屋は、惨たらしく死を迎え。

 

誓約を交わした存在は、神喰らいと呼ばれた、薪の王に貪られ。

 

 

ほとんどが灰に還った神喰らいと共に、恐らく、いやきっと、かの太陽は墜ちただろう。

 

誓約を誓ったというのにも関わらず、何をすることもできなかった自分が、何処までも悔しかった。

 

 

かつて継いだ火は、既に時が流れ過ぎて死に近く、もはやこの身を投げてすら、あまりにも弱い火にしかならないという真実に、巨人の王、深淵の監視者、双王子を殺した後に気付いたその瞬間には、哀れな王達への罪悪感に押しつぶされそうになり...

 

 

 

だが、彼の心は折れることはなかった。

 

 

使命とはいえ、自らの身勝手に、優しさを込めて従ってくれた火守女。

 

 

大切なものを調達してくれ、彼なりに無事を祈ってくれていた不死街の盗賊。

 

 

強力な武器を鍛え、朗らかな言葉で激励してくれた神代の鍛冶屋。

 

口ではあれこれと言ってはきたが、魔術のいろはを教わる時は学院の真似事だ、と言いつつも真摯だった魔術の師。

 

 

そして。

 

 

 

 

「私は、自らの意志で薪の王となった。そのことに誇りもある。だから君も、自分の意志で選びたまえよ。…それが酷い裏切りであれば、尚更ね」

 

「『彼等』も、きっとそれを望んでいるだろうさ」

 

「だから、行ってくるといい」

 

 

「君がどのような選択を取ろうと、私は君を肯定する」

 

 

 

 

 

 

——かの火継ぎは、かつて継いだ本人、そして、彼を後押しした友人達によって、終止符を打たれたのだ。

 

 

 

 

 

 

そうして、彼は遂に最期の眠りへと誘われゆく。

 

幾多もの犠牲、数々の死、そして、別れ。

 

もはや不死となる前のことは磨耗して思い出せない中、自分の友でいてくれた者達の面影を脳裏に浮かべながら、ようやく使命を終えて朽ちようとしていた。

 

 

 

—ああ、ようやく眠る事ができる。

 

不死という地獄を終えて、『死ぬ』ことができるのだ。

 

 

 

これまでの道程、それは絶望の塊だ。

 

だが、不幸だとは思っても、この世で一番だとは思わなかった。

 

 

アストラの騎士よ。

 

太陽の騎士よ。

 

 

そして、火継ぎの果てに出会った者達よ。

 

 

彼等の助けがなければ、私はきっと一亡者として、死ぬ事もない地獄に屈するのみだった—

 

 

 

自らが溶けていく微睡に身を委ねながら、最期まで、友人達に最大限の敬意と感謝を捧げていた彼。

 

 

無音と無感が支配したその時、待ち望んでいた終焉が、彼を包み込んだのだった。

 

 

 






今明かされる衝撃の真実として、プレイしたダクソ3は借り物、ブラボの方は今正に禁域の森付近をプレイ中です。

恐らくどこかダクソ、SAO共に設定が食い違ったりしているところが出てきてしまうと思いますが、よろしければガンガン指摘とかしてください。

あ、タグの方は増やしたりするかもしれません。
アンチヘイトも一つの保険として置いてあります。

では、この辺で。

【この先、篝火があるぞ】


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再び燃ゆる

本日二つ目となります。
時間軸は、第一層ボスにカチコミする前、二千人が犠牲になるゲーム開始から一ヶ月の最中です。

それでは【この先、新話があるぞ】





そこに広がるのは見渡す限りの草原。

 

吐息のように優しく薫る風に踊る野の花。

 

暖かい日差しが天から射しこみ、一帯に過ごす温厚そうな生物達に、等しく温もりを分けていく。

 

 

その光景こそ、まさに平和の象徴のようなもの。

 

この姿は、きっと邪な手が入らねば、永劫続く空間だったに違いない。

 

 

だが、今日だけは、その光景を侵す異質なものが、草原に堂々と鎮座していた。

 

 

他世界から守る為、もしくは他世界の存在から奪う為。

古来より起こる、別世界の境から零れ落ちた炎。

 

いつしか消え去るであろう朧げな灯火自身が、肉体が持っていた意思すら無視して、すぐ様自らの存在を保つ為本能的に自らの外殻を構築し、かつて身体を喪う前、その時の姿を生み出したのだ。

 

 

 

 

 

それは人型をしていて、だが服装は、古ぼけた茶の布といっても過言ではないコートで隠れ布のように覆った、月日が経ち風化すら見える、粗末な鎧を纏っている。

 

まるで、その姿は戦いに敗れ、落ちぶれた騎士のよう。

 

差し詰め、逃亡騎士とでも言えばいいだろうか。

 

 

仰向けの体勢で、肉体を手にした『何者か』。

 

 

だが、なぜか起き上がる様子もなく、かの者は、静かに草むらに身を委ね、果てなき天津を仰いでいた。

 

視線の先には、眩しく照る母の光、その光源。

 

 

——かの豪放磊落な騎士が、心より求めたモノ。

 

 

「...ああ...眩しい、眩しい...な」

 

 

小さく湧き出る水のように、優しく、そして大人びた男の声が、錆びた兜の奥から溢れていく。

 

かつての友を彷彿とさせる光が、本来の意味で、男の意識を目覚めさせたのだ。

 

 

——また、眠る事が出来なかったのだな、私は。

 

あまりにも、あまりにも早い目覚めだ。

 

 

力無く身体を惚けさせ、過去に感じた事もない優しい温もりに身を委ねながらも、意識自体を途切れさせることは、まず無い。

 

終わらぬ日々など、疾うに何度も味わっている。

 

終わりそうで終わらない、そんな絶望すら感じる感覚も、最早彼からすれば慣れきっているようだ。

 

 

何度も時代を越え、死と別れを繰り返した末の『燃え殻』、それが彼の真実なのだから。

 

 

故に、今現在の状況を、重い身体を持ち上げ、立とうとする途中にもずっと考えていた。

 

微妙な使い方ではあるが、まぁ、常に考えることの出来る能力は、汎用性のある技能だということだけは記載しておこう。

 

 

——ここは、この時代は一体何なのだろうか。

 

ここまでに晴れ渡った陽射しは、かのアノール・ロンドでも目にしたことはない。

 

そしてあの腐った世界では、こんなにも平和な景色が果たして存在していたかすら定かではないだろう。

 

 

益々理解できない、とばかりに思考につられ、首をかしげるのと共に、古い鎧が鉄の擦れる音を、のどかな空間に響かせる。

 

 

——そして、先程から左上辺りの視界に入っている、謎の形をした、透明な棒はなんだろうか。

 

どこぞのべたつく何かとは思えない、整った見た目。

 

本当に彫っているのかわからないほど、丁寧に刻まれたよくわからないいくつかの文字に、これまた謎の緑の棒。

 

正直、何一つこの時間軸の事を理解していないのではないか。

 

 

 

余談だが、彼が疑問に思う要因の一つ、謎の透明棒であるが、これは、この世界特有の『HPバー』と言われるものである。

 

そこにはレベル、HP残量、そして『その人の名前』が記載されているのだが、彼はそれらの文字を読む事が出来ない。

 

残念ながら、FP(フォーカスポイント)やスタミナのゲージ、そして誓約などと言ったものは表示されていないが。

 

 

 

いくらでも湧き出てくる癖に、全く解明することのできない疑問に脳を支配されながら、持ち物の確認をする男。

 

かの審判者の場を前に、明らかに危険が薫るというのにエスト瓶を空っけつにして突っ込むような不死人も珍しいはずである。

 

勿論彼は、その珍種には含まれておらず、手際よく懐から、何処に入るのかというほどの大量の持ち物を、獲物達には不相応な野原に散りばめた。

 

 

彼の生命線とも言えるエスト瓶、灰瓶。

 

いつかの日に不死街の頼れる盗人から少々引かれるほどに大人買いした投げナイフや火炎瓶等のトレジャー御用達の品々を無数に。

 

いくつか余らせた禊石の欠片から原盤。

 

何故かこれ以上くべられなくなったり、強化できなくなった時にしかたなく持っていたエストのかけら、不死の遺骨。

 

大切に持っていた割には最後まで使わなかった女神の祝福、秘めた祝福。

 

それに、これまた使い損ねた数々の丸薬。

 

...ある騎士から譲り受けた、至高の酒。

 

そして、静かに燃える炎のようなもの、『ソウル』。

 

いくらでも並べられる光景から、アイテムならば他にも沢山買い込んでいたり、拾っていたりしたらしい。

 

因みに、名のあるソウルを並べる時は、丁重に扱いながらも優しく置いていたのは別の話。

 

法王の魂だけは、割と杜撰であったが。

 

 

 

 

次に出てくるのは、渡ってきた時代の鍛冶屋それぞれに鍛えてもらった、秘蔵の武器の数々。

 

ただのダガーから、相手の攻撃を弾き飛ばすのに特化した短剣、一般的な鍔付き両刃、大斧。

 

本当に何処から湧いて出て来るのだろうか。

 

 

一通り出し終えた後、また謎の異空間とも言える懐に出したものをしまい、目標もなく歩き出しながらも、やはり彼の思考回路はフル回転だった。

 

 

 

——ある、全て火継ぎを終えたあの時のままだった。

 

大切にしていた彼等のソウルまで。

 

やはり解せない。

 

そもそも、ここの付近が平和ということしかわからない。

 

 

 

「訳がわからん」

 

 

 

吐き捨てるような溜息を一つしながら、彼は何処へ行くともなく、果ての見えない平原を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて時は経ち、彼にはあまりにも見慣れたあの時間に。

 

そう、夜である。

 

 

光は彼の左手にある松明のみ、他は一寸先も見えやしない真っ暗闇。

 

昼間のなごやかさはどこへやら、今は殺意が彼方此方から向けられている戦場へと早変わり。

 

 

彼からすればいつも味わっていた日常のようなものだが、やはり好ましいものではないらしい。

 

松明を持っていない右手には、静かな対抗の反射行動を示すかのように、小振りな短剣が握られていた。

 

 

名を、鎧貫き。

 

扱い易く、かつ弱々しかったロスリック時代で早期に拾い愛着のあったものである、彼の使い慣れた獲物の一つである。

 

 

「...!」

 

 

そして、その愛武器を、何も見えない暗闇に、力一杯差し込んだ。

 

 

先から獣らしい理性なき悲鳴。

 

何かに突き刺さる、小気味良い感触。

 

松明に照らされて現れたのは、果たして小振りな大きさの猪であった。

 

 

見た目なら、何処にでもいそうな獣だと独り言ちそうになるが、いつもは飛び散るモノがないことに、ほんの一瞬たってから気付く。

 

そうだ、『血』が出ない。

 

 

生命の証である、赤いソレが。

 

なおも短剣特有の連撃の手を休めず切り裂く最中。

 

見てしまった。

 

 

「!?なんだこれは...!?」

 

 

相手の傷口が、肉が裂け、割れた赤に塗れたものではない、と。

 

今までに見たことのない、白と薄赤が混じった謎でしかない敵の肉。

 

 

それはどのような時代にも見たことはなく、奇妙という他ないものだった。

 

 

だが幸いなことに、この獣自体の強さは、前に目覚めた墓所の亡者よりも弱々しいことを理解し、違和感はあるものの手早く葬る為に、敵を裂いて間もない短剣を握り込み、構え。

 

そのまま、獣の頭部に、鋭利な一突きを繰り出した。

 

 

デカデカと居座る聖堂騎士の大楯すら貫く、『貫通突き』である。

 

瀕死ともいえるふらついた獣が避けられるはずもなく、直撃、貫通。

 

感触で彼が『この敵の命は尽きた』、そう理解したその時。

 

 

敵の身体が、白竜の尻尾から出てくる剣の光もびっくりな程度に発光し——爆ぜた。

 

それも、肉片などが飛び散るグロテスクなものではなく、身体がガラスの破片のように砕け散り、やがてその欠片が空気に還ったのだ。

 

 

少々呆気に取られつつ、返り血のない短剣を懐に収めながらも、今にも彼の頭は発狂で千近いダメージを受けそうなほどに困惑。

 

 

「...なんなのだ、これは?」

 

 

明らかに現実離れし過ぎである。

 

そして、今恐らく死んだであろう生物のソウルは、びた一文すら手に入らず。

 

もはや夢でも見ているのではないか、仕方がないとはいえ、そう思いすらしていた。

 

今まで巡ってきた時代とはまた違う、現実離れ。

 

 

 

いっそ疑問に嬲られるより、頭を大槌で砕かれた方が、不死人たる彼にとっては理解し易く、幸せだっただろう。

 

 

だが、彼の受難はまだ終わらない。

 

謎の心地よい音が響いたと思うと、彼の眼の前に、解せない文字がまた刻まれた透明の板が現れたのだ!

 

...言葉すら発する気にならず、とてつもなく重い息を吐きながら、左上の透明棒と同じく無視を決め込もうとする男だった。

 

 

そんなこんな、恐らく小一時間は歩いただろうか。

 

先程と同種であろう猪達に出会えば、いつもやっていた通りに効率良く、鎧貫きを巧みに捌き身体を砕いてやり、暗闇を歩き続ける。

 

使命を背負わされていた時よりも無味乾燥な時間に、次第に彼はこう思い始めていた。

 

 

——もしや、これがどこぞの教徒達が謳っていた地獄ではないのか?

 

 

 

しかし、まさしく光のない暗闇を彷徨う最中、彼は目にした!

 

「...おお...」

 

薄くだが、燃ゆる赤い光。

 

神の時代を切り拓き、今なお多くの不死人達に愛されている、あの光が。

 

 

炎だ。

 

 

今まで人っ子一人すら見なかった真っ暗な世界で、ようやく見つけた希望の光。

 

そこにもしかすると、人らしい人がいるかもしれない。

 

いや、話せるならば獣や悪魔、鴉人の類であっても構わない。

 

 

 

次の瞬間から、彼の足取りはうってかわって軽やかであった。

 

 

 

 




ゲーム仕様を唐突に突きつけられた不死人困惑の巻。

こんな風にネタ込みですが、真面目な話にはしたいです。

HPバーなどなどが読めないというのは兎も角、装備やアイテム具現のアイテムストレージの経由無し。
勿論理由はあります。

全身の装備は、ダクソ3でファランエリアに迷わされた人ならわかる逃亡騎士。

そして、名前を出さない表記にも、理由アリ。...バレるかもしれない。

文章は恐らくモチベとかのため、3000文ちょいが多いかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。

マイペースです、すみません。




【良い奴の予感...】


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残骸

( T)<貴公...

ブラボの方でヤーナムの影にてんやわんやした作者です。
三人がかりとは姑息な手を...(銃パリィからの内臓攻撃を主軸にし、一番後々に殴りやすい呪術師を瀕死にして一体にしながら)

ちょっとこれまた理由があって、この2000人が亡くなった一ヶ月間、『あの人』は何度か、人の死を目の当たりにしていることにしています。

原作本見たことないんで、ここもまた、ボス戦で『ラストボーナスを知ってた人』が逝った時が初めての死だったのかわからず、独自解釈しかないんですよね。
悲しい。

ダクソとかの食い違いもあり得るし、オリジナル設定とかも追加するべきでしょうか。

長期連載は初めてなので、色々首を傾げます。

それでは。

【亡霊...】





 

 

 

遠い過去に、人は炎を見出した。

 

それは、自らの身を燃やし尽くす狂気だと分かっていても、本能では炎を求めずにはいられない。

 

ああ、今思えば、仄かな一時の灯りにすら、不死人達は、その温もりや眩しさ、薪の弾ける音に、確かな救いを見出していたのかもしれないが。

 

 

だが、現在この暗闇の中、焚き火を前にして虚空を見つめているのは不死人ではない。

 

至って正常な、青い服に軽装の胸当て、茶の長ズボンを着た黒髪の青年だ。

 

死地に送られる歳には思えない見た目だ、しかし現にここは『死地』である。

 

その背には柄に納められた一振りの長剣。

 

 

それだけでも、戦いを強いられていることは目に見えてわかった。

 

 

この世界における大事件が幕を開けてから、もう一ヶ月に近寄ろうとしているのにも関わらず、実際には進展など一つも無い。

 

そこにあるのは遊戯で得られる満足感など微塵たりとも存在せず...

 

 

死、死、死、死、死。

 

 

いち少年に背負わせられる荷の重さではない。

 

実際に人が死ぬ、その瞬間の悲鳴や形相、感情。

 

そんなものを何度か直で見てしまえば、それこそこのくらいの歳の少年ならば、『壊れて』しまう。

 

 

少年は、この『ゲーム』という部類の遊戯を楽しむ天性の才能に恵まれていたものの、狂気に塗れ切った現状を楽しめるはずも無い。

 

 

壊れはしなかったものの、疲れ切った表情で。

 

獣避けの火、そこに潜む虚空を見つめ続ける。

 

 

今日も、何人もの死者を出すだけの、無意味な日々なのだろうとすら思える静かな世界。

 

その存続は。

 

 

「貴公...」

 

 

一人の呼び声で終わりを告げる。

 

 

 

 

 

炎の光で浮かび上がるその姿は、茶の布切れに身を包む錆びた甲冑の男。

 

その手にあるものは松明、そして小さな短剣である。

 

 

「...なにか用か?」

 

 

多少なりとも、この事件により精神に荒みがあるのだろう少年のぶっきらぼうな返し。

 

警戒の色も見えるが、男が感じた違和感は、それでは無い。

 

 

——見た目からすれば怪しさの塊でしか無いものだが、この見た目が『警戒とやや手痛い挨拶』で済むだろうか。

 

教会の内にこの装備で入れば、明らかに見た目では浮き。

 

沼地ならばと思えば、今度はただの亡者か何かだと無視される。

 

それとも、これくらいの見た目ならば通用する時代、ということかもしれない。

 

 

一つのヒントを今の取引で得つつも、このまま警戒されっぱなしではなんのメリットもないだろう。

 

そう思った彼が、自分の主張を言葉にするスピードは冷静沈着な程に早かった。

 

 

「貴公が良ければ...私も、火に当たらせてもらえないだろうか」

 

 

言葉だけでは無く、かの黄色指から学んだ一礼も織り交ぜる。

 

信用を得るためならば、頭を下げることなど彼にとっては紙よりも軽いプライドの損失で済むのだ、躊躇う価値のある選択ですらない。

 

 

「構わない」

 

 

その甲斐あってか、睨みに近い視線を向けていた少年の表情は和らぎ、警戒の意思が薄れていく。

 

 

「助かる」

 

 

礼を述べると、鎧に身を預けていた肉体をようやく腰に下ろしてやる。

 

数時間歩き続けるのも慣れ親しんでいるとはいえ、やはり不死にもスタミナは付き物だ。

 

特大の剣を振り回し、鎧を引き摺りコロコロと前転すれば、歩くくらいしか出来ないほどに疲れもする。

 

所詮、不死人も武器の力を借りねば人の外を越えない弱者。

 

時折休息してやらねば、疲労骨折で死亡(YOU DIED)なんて事になれば笑い話にもならない。

 

 

望んでいた炎の癒し、それと共に休息を取りながら、一つ、また男は少年の頭あたりを見ながら気付いたことがあった。

 

 

——彼の頭部に、緑の、やや下に長い縦菱型の四角に、また見知らぬ文字。

 

 

またもや謎の物体を発見した男の脳裏に、先程困惑させられた疑問が持ち上がる。

 

 

——もしや、この少年に、この時代のことを聞けるのではないか。

 

言葉は通じるようだ、読むことが出来ないが言葉自体は同じだという理解し難いこともあるが、問うてみて損は無い筈だ。

 

恐らく、この少年は『良い』人間。

 

そんな気がする。

 

 

半ば断じれたのは、きっと彼が辿ってきた道のりの賜物だろう。

 

それに、一刻もはやくこの時代の事を知らねば、後々にも差し支える。

 

急を要しても、少年に問うことは、メリットの方が比較的大きかった。

 

 

「貴公...火を貸してもらって、なお願いを乞うのは烏滸がましいだろうが...聞きたいことがある」

 

「なんだ?」

 

 

一人だけの状況よりも、やはり二人居た方が精神的にも楽なのだろうか。

 

返す少年の表情は、どこか微笑みが混じっていた。

 

きっと、時期が来れば、乱入してきた人間には常に警戒を施す程に少年には才能があるのだが、まだ巻き込まれて一月前だ。

 

まだ少年自身の心は、少年の域を脱してはいない。

 

 

そう、まだ。

 

 

 

「いや、この世界は一体なんなのだろう...と疑問でね」

 

「もしや、貴公なら知っているのではないか、そう思ったのだ」

 

 

 

...自分のように堕ちないことを切に願いながらも、彼の単刀直入な致命の言葉は、地獄を生き抜いたからか包むものがなかった。

 

しかしながら、返ってきた言葉もまた。

 

 

「この世界...『ソードアート・オンライン』のことか?」

 

「ソード、アート?」

 

 

包むものがない、まさに致命返しなものだったとさ。

 

 

 

 

 

 

そこから少年から『ゲーム』の説明を受ける男。

 

事細かに、かつ手早く伝えられる過剰情報の数々に、まるで亡者の群れに呑まれるかのように混乱する。

 

 

「...ゲームを知らないのか?」

 

「あ、ああ...訳も分からないまま、気付けばこの世界に飛ばされてしまっていてな...」

 

 

訝しげに首をかしげる少年。

 

——『ナーヴなんとやら』がなければこの世界へ入れない、とは赤い目のオーブのようなものだろうか。

 

 

規格外にも程がある情報の嵐であり、いくら知識を呑める力(理力)がそこそこあれど、元の物が無ければ理解なんて出来るはずもない。

 

仕方無く、元々ある知識に当てはまりそうなものを選び、代用する事により、世界の解明を急いでいく。

 

そんな中、また一つ、現在の彼の身について、ヒントになる事が分かった。

 

 

少年から教わった通りに指をスライドすると、謎の丸が出て来て、鎧の中で怪訝な表情を作る男。

 

だが。

 

少年に見てもらいつつ、言う通りに指を使っていくと。

 

 

「...アイテムストレージとスキルが存在しない?どう言う事だ...?ステータスは万能型のレベル1と記載されているのに...?バグ...?いや、これは」

 

 

普通ならばあるはずのものが、男にはないらしい。

 

表情を混乱に包んだ少年の呟きの意味を解することは出来ないが、なんとなく大切なものが欠けている、ということだけが理解できた。

 

——今更、まともな人と比べて欠けていることなど数えきれるか。

 

そんな風に毒を自らに向かって吐き出す。

 

 

「....ん?」

 

 

その時、男の腕を少年が取り、操作することで言葉を解読してもらっていた少年の動きが止まる。

 

何事だろうかと男が問う前に、少年の方が疑問を口に出す方が早かった。

 

 

 

「なぁ...あんた、ロードランって知ってるか?」

 

 

 

兜に隠された、男の表情が、凍り付いた。

 

『何故その事を知っている』

 

そう反射的に問いかけそうになった。

 

あの忌まわしき始まり。

 

古き神が統治していた土地、それがロードランという場所だ。

 

 

ここにはその面影も無いというのに、何故『言葉を』知っているのか。

 

これまた切り込むことは容易いが、今度はしっかりと包みながら問う事にする。

 

さながら、盾を構えて隙を狙う戦法のように。

 

 

「聞いた事がある程度だが...どうして?」

 

「いや...言語の翻訳に、ロードラン語っていうのがあったんだ...俺の方には、そんな言語はなかったはずだが」

 

 

翻訳も出来るとは、便利な時代だ。

 

そんな事を呑気に思いながらも、彼の脳裏には、一つの閃きがあった。

 

 

「もしや、この左上の棒などに書いてある文字のようなものを変換できるのか?」

 

「左上の...HPバーのことか」

 

 

「勿論出来るが...ああ、そういうことか、わかったぜ」

 

 

男の考えを理解してくれたのだろう、軽く笑みを浮かべた聡い少年の手が、男の指をテキパキと操作する。

 

すると、どうだろう。

 

 

みるみるうちに見えていた透明の板や、謎の棒に刻まれた字が読めるようになっていくではないか!

 

 

「...読める、な」

 

 

左上の未知の文字は、いつの間にか、一つの名のようなものとして現れた。

 

しかし、その一言は彼をあまりにも上手く言い表している。

 

男の内心では自嘲の笑みで大爆笑でも起こしそうな程に。

 

言葉が淀む理由も、理解できて然るべきだろう...

 

 

——燃え殻。

 

これほどにも、自分の正体を的確についた言葉はあるか。

 

 

軽く心に黒いシミが湧き出るが、それに縛られていては何も始まらない。

 

永久の眠りは求めても、心を喪った亡者として生きる気は、更々無いのだから。

 

すぐに我に帰った男は、すぐ様読める言葉を流しながら眺めていき、少年の頭部にあった文字も、『キリト』と解読する。

 

 

「そうか...貴公は、キリト殿、というのか」

 

 

この世界のことを教えてくれた恩人に、目線を合わせて静かに語りかける。

 

 

「ああ」

 

 

肯定の意を示すように頷きながらも、少年——キリトからも、男の『名』が返った。

 

 

「アンタは...『cinder』...シンダーで、いいんだよな?」

 

 

男の目から見れば、『燃え殻』と表記されているのだが、キリトの翻訳では、また別の読みらしい。

 

だが、結局は同じ意味でしかない筈である。

 

ならば、否定する意味も無く。

 

 

「問題無い」

 

 

男は、『燃え殻』の名を得て、新たな生に『縛られる』事になったのだ。

 

 

 

 

 

 

夜も更け、普通の人間ならば、眠る時間となった。

 

無論警戒のために番をする存在は必須であり、その立場をキリトは自ら買って出ようとする。

 

やはり、彼は善良に値する人間だ。

 

目に狂いはなかった、と心の奥底で呟きながらも、『自分がその番をやりたい、火に当たって考えたい事がある』。

 

そういった誠の言葉を伝えると、シンダーの意思をすぐに汲み取ってくれたキリトは、無理しないように、と念押ししてから就寝。

 

 

...今意識を持って火の前にいるのは、シンダーだけなのだ。

 

番をする彼の近くには、元々中身がすっからかんだったエスト瓶、灰の瓶。

 

その両手に、『継がれ続けた焔』を宿した、螺旋を描く大剣。

 

 

優しく、かつ力強く燃え盛る焚火を目の前にして、シンダーの目は、どこか懐かしい情景を浮かべていた。

 

 

——火継ぎを否定した私が、この剣を用いる事になるとは、なんという皮肉だろう。

 

 

言葉が、想いが、意思が。

 

火の無い灰として縛られていたときの彼の心を思い出させる。

 

 

だが、ここで朽ちてしまえば、彼等の想いを無駄にすることに等しい。

 

最後まで、自らが狂い果て、亡者として呑まれてしまうまで、延々と、この運命に足掻き続けよう。

 

 

それが、『シンダー』に出来る、今現在の、最初から最後まで持ってきた、大切な使命だった。

 

 

意思を決した彼の全身からは、やがて燃ゆる炎が噴出する。

 

それは静かに。

 

しかし、絶対なる熱さを持ち。

 

 

彼が一つの『薪の王』としての証だった。

 

 

その灼熱を持って、彼は、『王たち』が持つべき剣で、焚き火を貫く。

 

 

 

今ここに、はじまりの草原で、『はじまりの篝火』は産み出される。

 

産声の如く、先程までの炎とは違う、ぬくもりの火が轟と叫ぶ。

 

そのまま突き刺された剣から手を離すと、彼の身体から燃え上がる却火もなりを潜め、また、暗闇に静寂が満ちていく。

 

 

その火をエスト瓶に詰めた後、火継ぎの剣を引き抜き、元の『あるべき』姿への焚き火に戻すと、また周囲を警戒し、番を再開するシンダー。

 

 

 

この時代に篝火を、無闇に生み出すべきではない。

 

そして、この火継ぎの剣は、『王たち』を否定し、自らの手で殺害した自分の手で持つべきだろう、と。

 

 

懐かしさや、その火を求める不死人の本能もあるが。

 

あの時代達の産物で、幸せな世界を汚染させる訳にはいかない。

 

 

不死人たる存在の彼が、誰かを友人とし、裏切られてもなお信じ続ける優しさの現れが、そこにはあった。

 

 

 

 

誰も知らない『黒』と『暗き魂』の邂逅を終えて、夜の闇は満足したのか、ここからは何も起こることなく、炎の揺らぎと共に時は過ぎ去っていく——

 

 

 

 








主人公の名が決定しました。ダクソ1のラスボスは。
『Lord of cinder』。
直訳すれば燃え殻の王。
そんな印象もあり、そして、ダクソ1の火継ぎから、3の火継ぎの終わり。
そこまでの長い、とても長い呪いを経て、『灰』、すなわち『燃え殻』となる。
変に凝った名前よりも、それがここの『彼』らしいと思ったからです。

シンダーという読みがダサい?でもこれしか思いつかなくて...

あ、ダクソ1主人公=ダクソ3主人公なんて説は、私なりのフロム脳によるでっち上げの塊なのでご注意を。

あとあと、文章の描写は、こってりしすぎないように、出来ればあっさりめに行こうと思ってたり。

そんなこんなで。

【隠密の予感...】


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啓発

時間があったので本日も二つお送りさせていただきます。

主人公が持っている武器やアイテム、魔術系統の数々はたしかにチートと言えるものでしょう。

バランスブレイカーもいいところです。

しかし、それを自由に振るうことは、果たして彼にとってはどのようなものなのでしょうか。

それでは。

【先生万歳!】


夜が明けた。

 

シンダーからすれば、明ける夜など、記憶が磨耗した今では覚えていない。

 

おそらく不死人になる以前の幸せだっただろう。

 

輪廻とも言える地獄を経験した『夜』の経験はあれど、すべてが晴れ渡る『朝』など、ロードランにも、ロスリックにもありはしなかった。

 

だからこそ、今誰かと共に火を囲い、新しい1日を迎えられる『普通』を、強く心より噛み締めていたのだ。

 

——ああ、しかし闇の王と呼ばれたこともある私が、光を目の当たりに出来るなど...やはり、世はままならないものだな。

 

 

ふと、『死んだ』薪を見ながら想いに耽るシンダー。

 

 

「おおい、どうしたんだシンダー」

 

 

後ろから呼び声がかかる。

 

その声、寸分たがわずキリトのもの。

 

「今のうちにレベルを上げておかないと、狩り尽くされるからな...シンダーも、まだレベル1ということだし、忙しくなるぞ」

 

 

快活に若い笑顔を浮かべるその目には、優しさと共に、闘いに向けた闘志が垣間見えた。

 

 

キリトから聞いた話では、もうしばらくしてから、この『だいいっそう』と呼ばれる場の『ボス』とやらに、集団で挑む企画が、この時代の人々で起こるらしい。

 

その為に、彼は所謂レベル上げ、というものをここの敵を討伐して行う、そんな魂胆のようだ。

 

それを聞いたシンダーは、昨日会ったばかりというハンデもあったが、また、心より、キリトに頼んだのだ。

 

 

『貴公に、暫く世話になりたい。この世界のこと、『げーむ』とやらのこと、そしてここで生きる術を学ばせて欲しいのだ』

 

『構わないぜ』

 

 

即答であった。

 

元々シンダー自身に悪意などなく、裏表の無い行動が、キリトに好意を持たせる決め手となったのだろうか。

 

それは定かでは無いが、『ボス』とやらに挑む前の仕込みとして、まず、シンダーは『ソードスキル』なるものを、学ぼうとしていた。

 

 

だが。

 

 

「...出ないな」

 

「...おかしいな」

 

 

またしても問題が起きる。

 

シンダーに『ソードスキル』の適正がないのか、はたまた『バグ』という謎の単語のせいかは不明瞭だが、彼が何度キリトの指示通りに動こうと、一切それは発生しなかったのだ。

 

 

しかしながら、それで落ち込むにはいささか早過ぎた。

 

シンダーには、自らを認める武器が、武器自身を最高に使える記憶を教え、力を最大限に貸してくれる『あの技』がある!

 

 

短剣では、目にも止まらぬ強烈な刺突を行い。

 

長剣では、構えからの一撃により、簡単に防御を跳ね飛ばす致命の切り上げとなる。

 

 

そう、その名は『戦技』だ!

 

 

キリトからHPバーの概念を学びながら気付いたのだが、技にもよるが、この戦技の方が、普通に攻撃をするよりもゲージの減りが早い。

 

つまりは、威力が高いということ。

 

武器が持つ使い方の記憶を読み取るその性質上、気力の消費は避けられないものだが、『ソードスキル』も、同じくらいの気力を要されるらしい。

 

だが、これは『ソードスキル』には入らないらしく、何頭目かの猪を、アストラの長剣による切り上げで制しているシンダーを見ながら、理解不能とばかりにキリトの頭の中に、クエスチョンマークが踊り子の剣技を踊る。

 

 

「...つまり、その『戦技』というやつが、シンダーの『ソードスキル』ってことになるのか...?」

 

「キリトに分からんのだ、私に分かるはずもなかろう...」

 

 

また別の話にはなるが、何度もキリト殿、キリト殿、と呼ばれる内に、『殿付けは慣れない、キリトで呼び捨てでいい』との申し出があったので、素直にシンダーからの呼び名は、彼の要望通りとなっていた。

 

だが、それは大して重要なことではないだろう。

 

 

「シンダーにスキルが無いから、さまざまな武器が熟練度無しで使えるのか...いや、ならそれ自体がエクストラスキルのようなものなのか...?」

 

 

彼が呟く言葉も、一通り説明を受けたからこそ理解できるものである。

 

キリトに指南を頼んだことは、シンダーにとって間違いなく幸運だったのだろう。

 

ただ、考え込む時はひたすら没頭する悪い癖はあるが。

 

...いや、それはシンダーも同じだ。

 

意外と似たり寄ったりなのかもしれない。

 

閑話休題。

 

 

 

まだまだ謎の事があるとは言え、彼は多くのことを学べた。

 

この世界での戦術。

 

パーティという概念。

 

敵が行動する傾向。

 

そして、『ソードアート・オンライン』の知識。

 

 

 

事実上のパーティと言える程に、キリトとも親交を深めたりもした。

 

フレンドリスト、といういわば友人関係の手記?のようなものにも、シンダーを含めてくれたようだ。

 

 

そして、彼の『レベル』も少しずつ、同時に上がっていく。

 

ここで気付いたのだが、元々ソウルを利用して自らを強めていた要素——彼はあずかり知らぬことだが、『生命力』『持久力』『筋力』『技術』『理力』といった能力は、全くの無になったわけでは無いらしい。

 

キリトに怪しまれない程度に、とても重量のある武器を扱ってみたのだ。

 

——無論どこから湧くとも分からない懐に、彼が興味を示したのは余談。

 

 

 

話を戻そう。

 

この世界におけるステータス上では、まず持てないような武器、と言えばまず当てはまるものがあった。

 

血に汚れた巨人が用いていた、大鉈。

 

これを振るのにすら相当の腕力を要し、初めて拾った時には持ち上げることすらできなかった代物。

 

だが、ソウルを純粋な力へとそこそこ程度に変えていた、火継ぎの終わり前のシンダーの筋力なら持つことは可能。

 

 

果たして結果は、持ち上げることもでき、武器として扱うことも充分に可能だった。

 

 

それにより、持っていた武器の数々は、満遍なく使える事が判明する。

 

また、キリトが休んでいる夜の最中、指輪、防具に魔術、呪術、奇跡のようなものも出来るかと試したが、全て可能であった。

 

 

だが、良い話には裏がつきものである。

 

この時代には魔法、などといったものが無いらしく、そんな奇跡といったものを振るえば、どんな風に見られるか。

 

まず、人目につく場には居られなくなるだろう。

 

不死人の身には慣れていることであり、それだけならばまだ済む話。

 

 

だが、問題はまだあった。

 

この世界であまり、篝火を生みたくは無いのだ。

 

あれは、地獄の世界での産物である。

 

それによるもしもの侵食を、シンダーは望まなかった。

 

特訓の最中にも出会った、何人かの人々へ、そして今の師であるキリトへ、その影響を与えたくもない。

 

その世界を知り、悩んで欲しくもない...

 

 

 

...耐久度の問題も、以前は篝火に当たればどんなものも癒えたものだが、篝火を使わないともなれば話は変わる。

 

エスト瓶の使用も、全く篝火をつけない、というわけではないものの多少は制限して使うことを強いられるし、神代の武器や、邪悪などと言った特異な武器達は、それ相応の存在の鍛冶屋でなければ修理するどころか、目の前で発狂することすらあり得る。

 

無論魔術などと言った類も連発はできない。

 

それらもまた、かつての世界の産物なのだ。

 

故に、鎧貫きやアストラの長剣などと言った、まだありふれていそうなシンプルな見た目の武器、一般的な鍛冶屋でも修理できるものを選んでいる、というわけである。

 

 

まだ少々幸いだったことは、そんな使える獲物の一部が、『愚者』としての変質をしていたことだ。

 

持つだけで魔力と集中の気力を少しずつ得られるソレは、武器の記憶を読み取ることにそれらを使う『戦技』を重要視すべきこの時代では、きっと今までにない愛武器になることだろう。

 

 

そして、まるでシンダーにしては一瞬の時間である特訓の期間は過ぎ。

 

 

一層、そこでの決戦の時は迫っていた。

 

 

 






『戦技』に関しての事は、気力...いわばFPを食われるということ以外は全くのでっち上げです。

そして、ダクソ世界でのステータスは、sao世界で低レベルの今でも、ある程度は引き継がれている、故に武器に認められてはいますが、使い込めば耐久度もダメージは受けるし、ダクソ3では神代の鍛冶屋であるアンドレイだからこそ鍛えられたソウル錬成などで作られた怪物クラスの武器を、一般的な鍛冶屋程度で修理できるとも思えず、このような付け足しもあり。

成長したリズさん程のレベルなら、あるいは...?

武器達は全て意思を持っているという八百万の神理屈も、これまたフロム脳の産物です。

...正直、ソードスキル禁止、ポーション禁止、エスト瓶制限、なんてことになったら無理ゲーですし。

ならば、戦技を活用してやろうかな、なんて考えです。

あと、お気に入りも現在で20近く、感想もいくつか頂いて感謝に絶えません。

読まれてくれる皆様、本当にありがとうございます!

では。

【強敵!】


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蛮勇

エブリたその先触れで無双を楽しんでいる作者です。

ちょっとこの話は粗いかもしれません。

アニメはほとんど覚えてない、となるとやはり台詞もかなり抜かなきゃならないですし。

非力な私を許してくれ...そして前に残したメッセージも卑劣な嘘でした、今回は『準備』のダイジェストのようなものとなります。


【用心深さ万歳!】


人々の賑わい。

 

眩しく照る太陽の下、その何もかもが、忘れ去った記憶を刺激して、焦がれるほどにまで懐かしい。

 

もっとも、シンダーが慣れ親しむこの鎧、その明らかに退廃した見た目は、この人気のある場所では、違和感が拭えることはないのだが。

 

...あるいは、そんなものを纏い慣れてしまったことも、不死人になったときの弊害である、神経の麻痺の一つなのであろうか。

 

 

あまり好ましくない視線が飛び交うシンダーの隣で居るのは、現在の師といっても過言ではない片手剣使いの少年。

 

『何故片手剣を両手持ちしないんだ』、などと考えた時期もあったが、どうやらこの世界では両手で待とうとも、武器の記憶の享受を強く受ける、その恩恵(筋力1.5倍)は、この世界では無いらしい。

 

そも、『ゲーム』の中にある武器は、『実物の武器』ではないらしく、夢のようなものだとシンダーは解釈している。

 

ならば武器の力を借りることができない、というよりも、そんな概念は存在しない、とでも言えばいいのだろうか。

 

断定できないのは、この世界の武器に、まだシンダーが触れていない、ということもあるのだが...

 

 

さて、そろそろ今現在の状況を語るとしよう。

 

やがて始まると風の便りで聞いた特定の場所の一つ。

まるでピラミッドの台を逆さにしたかのように、幾多もの段差が下は、下へと並ぶ場所。

 

彼等二人の他にも、会議開催時間に集まる人は何人か存在しているところ、やはり現状——『既に死者が大勢出ている』ということを良く思っていない人間がいた、ということか。

 

 

普通の人間ならば、死を恐れ、戦うことを放棄しても愚かとは言えないだろうに。

 

それでもと剣を取る彼等の姿は、もはやそのデメリットもあまりなくなったシンダーから見れば、どんな神代の武器よりも強靭で、美しい宝石よりも尊いものに映る。

 

 

そんな彼等が、どんな風に、強者へと挑むのか。

 

この会議というものを経て、見てみたい。

 

素直に、かつての人としての探究心。

 

心から望む、不死人だった。

 

 

 

が。

 

 

 

何やら騒がしいかと思えば、中心辺りで口論がはじまる。

 

『ベータテスター』やら、等と言った言葉とともに罵声と、何かしらの反対を叫んでいることのみがシンダーには届いたが、その内容を理解しているらしい隣のキリトの表情は、少々歪んでいた。

 

 

「貴公...何か、アレが言っていることに後ろめたい事があるのか?」

 

「!...ああ、いや...」

 

 

師であり、また年齢においては後輩となる少年は、良くも悪くも『素直』。

 

反応として、ソレは、さまざまな交渉と駆け引きを行ってきた『燃え殻』には悪手であった。

 

 

「...ふむ」

 

 

手酷い仇返しとはいえ、興味がないと言えば嘘となる。

 

しかし、交友関係を崩してまで切り込む必要があるだろうか。

 

 

「まぁ...こんな時勢だ、貴公にも何か思うところがあるのだろう」

 

 

——そう、例えば彼が、その『ベータテスター』とやらに位置するのではないか。

 

 

だが、もしそれがわかったところで、価値があるかと言えばやはり無かった。

 

少々微妙な空気を作り出しただけという結果に終わり、果たして真の悪手を取ったのは、シンダー自身だったという末路。

 

 

「すまない、余計なことを言ったな...」

 

「...大丈夫だ」

 

 

そんなこんな言っている内に、中心では、また別の展開が起こっていた。

 

反論を申し立てていた橙の髪を持つ男が、たった今乱入してきた褐色の大男に述べていた言葉を論破されたらしい。

 

少々噛み付く牙が弱ったところで、この場を仕切るリーダーらしき青髪の男が上手く諭し、中断されていた会議が幕を開ける。

 

 

...その光景のある一部。

 

リーダーを務める青年の、一瞬だけ見せた表情。

 

先程師が見せたものに似たソレ。

 

実際に会議の説明に入るまで、長く灰の目に焼き付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——敵の名前、武器の詳細、専門的な用語はキリトに問いかけながら、シンダーは着々と脳内で対処法を考える。

 

あまりに強靭な一撃でも無ければ、彼が使ってきた一つの武器の真価を発揮できるのだ。

 

それを念頭においておきつつも、会議の内容はどんどんと進歩していった。

 

 

 

 

さて、そろそろ終わりに近づいてきたところで。

 

また別のお題がリーダーの方から提供された。

 

『パーティを作ること』。

 

今現在、事実上のパーティとなっているシンダーとキリト、二人組。

 

だが、周囲では三人、四人と固まるものもおり、やや二人組だけでは心許ないかもしれない。

 

自分が死ぬのは兎も角、もしものことで師に危険が及ぶことを内心で恐れるシンダー。

 

 

さてはてどうしたものかと、キリトに相談してみようとした矢先だった。

 

 

いつの間にか、キリトは、彼の隣に座っていたマントを被った人物に話しかけているではないか。

 

体格、声質のみをとっても女性だろうと推測される人間。

 

聞こえる話をとってみれば、どうやら彼女は、今この場で一人、どうやらあぶれてしまったらしい。

 

それもどうかということで、キリトはパーティに誘ったようだ。

 

 

——恐らく、私も彼と出会っていなくて、かつここに辿り着いていれば、あぶれていただろうな。

 

ならば、私は口を出すこともなく、この場を静観すべきだろう。

 

 

 

そう決めた彼は、話がつくまで簡単に本へと目を通す作業へと移っていく。

 

理を追求するための、その行為は、『味方が一人増えた』という結果と共に、早く終えることになったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦を控えての夜。

 

キリトが、『史実で』マントの少女と、この世界での憂い、その語らいをしていれ時刻。

 

灯の止まった街道の下に、シンダーはいた。

 

だが、彼一人だけではない。

 

その前には、あの青髪の青年。

 

 

「えーと...呼んだ理由は何かな?」

 

 

そう、戦いの前日、休むべき時を削ることを謝りながらも、かの不死人は、こちらの統率者に言いたいことがある、と申し出たのだ。

 

それも、誰にも聞かれないように、一対一で。

 

 

「すまないな...貴公」

 

 

重ねて呼び立ての謝罪を申し出たところで、彼は、『彼が思っていたこと』を告げる。

 

見た通り、その推測を、何も着せず鋭く。

 

貶める為に突くのではない。

 

 

 

「もしや...と思ったのだが、貴公は『ベータテスター』というものの一員ではないか?」

 

 

 

蛮勇による死は、不死人でも無ければあまりに恐ろしいものだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が、明けた。

 

戦いは呼ぶ。

 

死を、血を、悲劇を。

 

 

それは、人の闇に塗れたかの地獄、その再現を求めるかのように。

 

 

 




ぶっちゃけキリト君とアスナさん二人組でも化け物じみてたのに、そこにもう一人手練れ、となると虐殺ショーにしか感じない。

あと、ちょっと今回描写が簡素な気もしますね...精進します。

むしろどれくらいが読みやすい、とかは微妙にわからないので...

さて、次はようやく描きたかった戦闘ですね。

ダクソでは人型なら割と致命狙いが出来た記憶がありますが、SAOの技はパリィ不可判定とかはゲームと同じ感じになるんでしょうか?

そこんとこ、少し気になったりしてますね。

【この先、強敵に注意しろ ここからが本番だ!】


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開鑿

ねんがん の せんとうびょうしゃ を なしとげるぞ !!

決戦前の夜、灰がディアベルさんに伝えた意思。

それは、一体このストーリーにどんな影響を齎すのでしょうか。

【この先、冷静さが必要だ。
そして、致命の一撃万歳!】



一つの小軍隊となった、人々を統率する青髪の男。

 

彼の背後には今正に、この悪夢を切り拓こうとする強き者達がいる。

 

剣、槍、槌、細剣、盾、大盾。

 

それら、人々が生み出した殺戮の叡智をもって、人の仇となる敵を討ち果たす為に。

 

 

その中には、勿論のことキリト、マントの少女も存在する。

 

そして、『彼等』がいつ危機に陥っても最大限のサポートができるよう、懐に『ある武器』を潜めていた。

 

今回の彼、そしてそのパーティである二人に言い渡された役目は、目の前に立ち塞がる強大な獣を打倒する事ではない。

 

いわば、主陣に騎馬が駆け、確実に大将を討ち取る為の道作りに励むための歩兵。

 

露払いである。

 

 

だが果たして、『シンダー』の役目はそれだけで済むだろうか。

 

前日の夜、本人しか知らない筈であった『真実』を聞き出し、『ベータテスター』というものの理解を最低限している彼だけは、また別の価値観で見る必要を強いられるだろう。

 

それは、何故か。

 

今はまだ、暗殺者のように影を潜めたシンダー自身にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

剣と盾を構え、倒すべき敵へと刃を向ける。

 

それは宣戦布告。

 

 

自身たちと、相手どちらかの命が潰えるまで、惨たらしい死を起こすための火蓋。

 

だが、この一手だけでは、切られることはない。

 

本当にこの地獄が始まるのは...

 

 

 

「突撃ィィィィィィッッッッ!!!!」

 

 

 

——統率者の言葉による幕上げの咆哮が鳴り響いた、今だ。

 

 

 

全ての人が、獣が、目の前の敵を討ち、殺さんと突き進み、やがて第一刀の斬撃を、殿として襲いかかる兵士の一匹に叩き込むのは、あの『ベータテスター』を批判していた男だった。

 

あの時の邪な発言とは打って変わり、勇ましく猛る一撃は、後陣の者達の士気を更に鼓舞する。

 

ここでは、口など不要。

 

誠に要されるのは、勝つ為の努力だ。

 

その為に、獣よりもより『獣』らしく。

 

 

自分に生えた牙を使い、爪で手繰り寄せ、目で見切り、その四肢を使って齧り付く。

 

恥など捨てろ、勝つ事が全てにおいて意味を持つ。

 

負ければ全てが水の泡よりも無価値な『灰』へと還るのだから。

 

 

火花が散り、怒声は上がる。

 

ところどころで鉄と硬いものが打ち合う子気味良い音楽を背景として、彼等は正に『血に酔う』。

 

人は元より獣でしかない。

 

目の前に立ち塞がる化け物と、それを打倒さんとする勇者達は、いわば同種なのだ。

 

 

ならば更に、化け物達に勇者が敵わない道理など無い!

 

 

そんな戦乱の中、その熱を本能が忘却してしまった灰の影は、死角への一撃を得意とする侍女の短剣を片手に、二つの指輪を用いて、味方にも気付かれない程に隠密とし、無音で走り、駆け、通り過ぎ様に邪魔な兵士達の肉体を少しずつ、しかし深々と裂いて回っていた。

 

その指輪とは、足音を無くしてしまう『静かな竜印の指輪』。

 

そして、回避行動時、着用者の存在を最大限まで薄くする『カーサスの乳環』だ。

 

 

しかし、武器自体を強めるものではない。

 

なのに、一瞬の出来事のみで、油断した隙をつくとはいえ相手のHPゲージを大きく削ぎ取っていく技力は、正に熟練者のソレ。

 

強力な一撃と疾風のような切り込みを持って伏せていくキリトの剣術、マントの少女の凄まじい細剣の高速攻撃のような、『姿として完成した』技のように見映えするものでは無いとは言え、確実に勝利への貢献とする裏方の役目を、彼は買って出たのだ。

 

その指輪などの、この世界では浮くような存在も、乱闘の中では表にはとても出にくい事も利用した策。

 

更に、そこの敵を足止めする役割を持つ者達の一撃を避けられそうになれば、足止めの斬撃を入れたりと。

 

勿論のこと一瞬でもパーティの二人に危機が及べば、それを影ながら敵のチャンスを悉く潰していく。

 

勝てる勝負をより損なう事ないように。

 

もしこれがいっぱしの騎士の装備ならば名折れとでも言えるが、彼は『逃亡騎士』の灰。

 

そんなプライドも、正々堂々としてやる義理も無い。

 

 

 

何十回、いや何百と切り結んだであろう彼が、また一頭と敵の死を目の当たりにしていたその時、本陣からは獣の叫びが上がる。

 

大勢の阻害防衛、攻撃が来ない安置からは絶え間無く攻撃を叩き込まれ続けたかの獣の統率者は、HPバーも残り一本、その上で既に瀕死となっていた。

 

 

——ここだ、ここが一番...危険なのだ。

 

 

シンダーは、身を以て知っている。

 

 

手負いの獣の恐ろしさを。

 

否、死に瀕した者達の執念深さを。

 

 

怪物もまた、死を恐れるがゆえに、その終わりに近づくとなれば、絶対に落ちてなるものかと必死で足掻く。

 

それが、どこまでも恐ろしい。

 

 

彼の思考の通り、倒すべき奴は吠え、彼等を絶対に殺さんと殺害の意思を剥き出しにして、高々と威圧する!

 

情報通りとでも言うべきか、かの怪物が斧とバックラーを放り捨て、全員が身を震わせ、さらに敵対の意思を強めた...その時だった。

 

 

「下がれ!俺が...」

 

 

統率者——ディアベルが、剣を構え、まさかの指揮者の突撃を図ったのだ!

 

しかし、シンダーから見えるその目には、『迷い』がある。

 

 

「...っ!俺が前に出る!」

 

 

突如宣言した言葉とは裏腹に、『本当にこれが自分にとって良い選択なのか?』。

 

そんな疑問を、『ソードスキル』の残滓を残して敵へと駆けながら抱いているような。

 

 

それで済めば、彼の一撃が想定通りに入れば、たしかに終わっていた。

 

シンダーが感じるこの違和感も、所詮杞憂で済んだだろう。

 

 

しかし、この世は、あの地獄の世界とはいかぬとは言えど、人に対して十二分に無慈悲。

 

 

怪物が背に持ち、入れ替えた武器は...振り回して切りつける事に長ける曲刀ではなかった。

 

その手にあるのは、斬りつけるのではなく、無残に叩き潰し、肉片のみへと変えることに特化した形状をした、野太刀だった。

 

 

「なっ...」

 

 

『自分が倒す目的』に盲目となっていなかった為か、ディアベルの目は、たしかに情報外の事柄を焼き付ける。

 

それに彼よりもいち早く気付いたキリトもまた、必死となり、誰かの死を避けるために強く、そして切実に叫んだ。

 

 

「ダメだ!!全力に後ろで跳べぇぇぇっっ!!」

 

 

それと同時に、確実に殺さんとばかりに跳躍した獣も、撹乱の為に何度も素早く柱と柱を蹴り、渡り、縦横無尽に跳ね回る。

 

その素早さは、まるで電光石火。

 

 

 

ディアベルの耳、目、その他を操る為の五感。

 

そして、迫り来る筈の『死』を感知した第六感の警笛。

 

それがあったからこそ、遠くの彼の言葉が、この絶望的な危機で、真に聴こえたのだろうか。

 

 

「...くっ!」

 

 

反射的にスピードを奪う要となる武器と盾を即座に投げ出し、スタミナの限り、固い地を蹴り飛ばし、その場から言葉通り全力で逃走した!

 

そしてそれと紙一重の差を空けて、死のギロチンが、いま彼がいたところへと振り下ろされ、強烈な爆風を撒き散らす!

 

 

「...!」

 

 

そこにあった武具は微塵の如く砕かれ、瞬く間に粒子へと還るほどの一撃。

 

軽く付近のものを弾き飛ばすその風圧を、空中で回避姿勢をとるディアベルが防ぐことはまず出来ず呑まれて無防備になってしまう。

 

肺の空気が全て今の攻防で奪い取られ、もはや言葉すら発することもできない大きな隙。

 

 

それを手負いの獣が逃すはずも無い!

 

 

——地面にディアベルが叩きつけられ、その瞬間に少し遅れた確実な死を彼が迎えんとする。

 

 

(ああ、ここまでか)

 

 

来たるべき終わりを前に、彼はあまりに穏やかだった。

 

 

(...きっと、LAを自分勝手に狙った末の、当たり前のことなんだろう)

 

(その油断が、この結果を生んだ)

 

 

そんな彼の前に浮かぶ走馬灯は、昨日の夜にいた、ある男が残した言葉。

 

 

 

 

 

——貴公。

 

私には貴公が狙うものも分からぬし、『ベータテスター』が具体的になんなのかなどは知らん。

 

知らん、が。

 

貴公は、今私達を束ねる『統率者』。

 

自らの保身や欲は構わん、だが——

 

 

 

 

 

(『死を恐れよ』、か)

 

 

あの時、キリトが叫んでいなければ。

 

あの時、男に彼自身が求めている真の目的に揺らぎを生まれなければ。

 

 

自身ははじめの一撃で死んでいただろう。

 

 

むしろ、この数秒生きれたのは、自分にとって最高の結果なのではないのか...

 

だが。

 

 

最期を見定めた老人のように、目を閉じるディアベル。

 

 

(今俺が死んで...βテスターへの評判は、彼等の立場はどうなるだろうか)

 

(ラストアタックボーナス。その存在が明らかになればきっと...俺が悪評を買うだけでなく...)

 

(...不甲斐ない、リーダーだったというのに、この体たらくなんて)

 

 

後悔、そして愚かな行為に走った自分を呪う。

 

 

 

(...死にたくない)

 

(俺が死んで、βテスターのみんなに迷惑をかけるなんて、絶対に嫌だ)

 

 

 

吹き飛ばされながらも身体を動かそうとするが、慣性の拘束を受けている今、助かるはずもなく。

 

 

(くそ)

 

 

ふと周囲を見てみれば、此方に駆け出す黒髪の少年...キリトが見えた。

 

ああ、遺言を残すことさえ許されず、慈悲なく、『硬いものと硬いものが擦れ合う強烈な音』と火花、そして巻き起こる土煙が巻き起こる。

 

 

 

「ディアベルはんッッ!!」

 

「ディアベルーーッ!」

 

 

 

橙髪の男...キバオウと、キリトの悲鳴が静寂を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、ほんの一瞬、弾け飛んだ土の煙幕が霧散したそこにあったのは。

 

 

 

——態勢を大きく後ろに仰け反るように崩した怪物。

 

 

 

 

 

「あ、貴方...は...」

 

 

 

 

唖然とした目で、視界にある光景を見つめるディアベル。

 

 

 

 

 

 

 

そして、短剣を払った構えで、膝をつくシンダーの姿であった。

 

 

 

 

その手に握られる武器、それは『パリングダガー』と呼ばれた、あまりに使いにくい限定された使用法に特化した短剣。

 

それの真価は切り、突く為のものではない。

 

相手の攻撃を、その特徴的な刃でもって受け流すことである。

 

その構造、驚異的な技量と筋力、それに加えてゲーム内で培ったSTRとDEXを最大限活用して、極限まで相手の究極の致命をいなし、無効化したのだ!

 

 

 

 

「...がっ、あ」

 

 

 

 

だが、あれ程の一撃を防いで、ただで済むはずがない。

 

普通ならばあれは、あまりにも強力な為に、防ぐには重すぎる一撃(ガード・パリィ不可攻撃)の筈だったものを、無理矢理に押し倒したのだ。

 

この世界でいうならば、『心意技』にすら及ぶ程の力技。

 

捨て身とも言えるその行動の負荷は、彼のHPバーを悠々と赤の範囲まで押し削り、その要となった短剣自身の刃に罅を入れるまでに傷付くのも至極当然。

 

 

 

そのせいで、最大のチャンスの今でも追撃を入れることがままならなく、膝をつくしかない。

 

このままではきっと奴に態勢を立て直され、二人とも無残に殺されるしかないだろう。

 

 

 

しかし、この場にいるのは、今剣の一撃を叩き込めるのは、戦闘不可の彼とディアベルを除いても一人いる!

 

 

そう、ディアベルを助ける為に今なお走って行く片手の剣士、キリトだ!

 

 

ディアベルが生き残る為に稼いだ数秒、そしてシンダーが全てをかけた渾身の『戦技』、パリィ。

 

それらのまぐれが合わさり、この最高の機会が訪れたのだ!

 

 

 

「今だ!キリトッ!」

 

「ああッ!」

 

 

 

たかが数日、されど数日。

 

命を預けた『友』の絆。

 

その連携。

 

視線を合わせれば、共にするべきことの一切を言葉のように語りかける。

 

声で激励すれば、その意思を相棒へと受け渡す。

 

 

互いに信じている二人の観察眼、戦術、そしてセンスが算出した戦法...此方に向かって跳躍したキリトを前に、シンダーは残った力を全て使い切り、彼を天高く舞い上げた!

 

 

 

「これで...」

 

 

 

そのまま万有引力と共に、空から兜割りの要領で——

 

 

「終わりだあああああああッ!!!」

 

 

仰け反った怪物の頭部から下半身、そして地にかけて一刀両断。

 

男二人の『致命の一撃』を前に、HPを遂に切らした怪物の肉体は、彼等が望んだ通り、美しく、かつ壮大に砕け、破裂する!

 

 

その幻想的な光景を、ゆっくり、そして、歓喜に溢れながら周囲の人々は噛み締めて行く。

 

 

 

 

 

 

「や...」

 

 

 

 

 

 

 

誰が言い始めたか、満ち足りた感動の呟きが響くのと共に、それは共鳴。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

 

 

 

ボスの空間を完全に支配する最高の想いが、今、ここの全員に希望として燃え盛っていた。

 

それは、薪の王が遺した、熱く、そして力強い残り火の灼熱のように。

 

 

 

 

 

 

——第一層ボス、イルファング・ザ・コボルド・ロード。

 

ラストアタック、キリト。

 

 

...死者、ゼロ。

 

 

 

 




ようやく一層ボスかぁ...長く苦しい戦いだった、NKT。

この物語中では、ディアベルさんが姑息な武器変えによる強襲を冷静に見極められたこと、そして最後まで諦めなかったこと、不死人の左腕の犠牲によって死を免れた為、原作よりも間違いなくキリトへのヘイトは少ないでしょう。

アスナさんの見せ場が少し減ってしまったのが少し心残り。

彼女の出番を食った訳ではないとはいえ、これは少々主人公の使い方を誤ったが、なんて...私的には満足なのですが。

あとは...今回イルシールにいる透明になる敵のように暗躍したり、強引に致死ダメージを受けながらパリィをこなした主人公ですが、見ての通り無双などとはかけ離れているので、そこはご注意を...他の方のように無双!ハーレム!合わせてチーレム!なんてイケてるものを書くための理力が無いので...

あとあと、お気に入り30にUA1000も本当にありがとうございます。

その上に感想やしおりなど、私の励みになっております...

では。

【ピンチの予感...
しかし、この先勇気が有効だ】


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決着

やった!評価が8もついたぞ!と子供のように喜びながらミコラーシュさんの、謎のオペラみたいな且<『ウワアアアアアア!!』に吹き出した今日。

僕が一番上手くエブリたそを使えるんだ!


こほん、今回はディアベルさんにスポットを当てた回になりますね。

実際、目の前で形だけ『救えた』事は、ダクソ無印から、3に到るまで幾らでもあったことでしょうけれど、今回、本当に『救えた』のかを語るものとなるでしょう。

例えば、ソラールさんの太陽虫の末路は...


【希望!
勇気万歳!】







 

 

 

 

番人の首は、ここに落ちた。

 

一層の、先への阻害となる門としての役割は、これにて終わりとなる。

 

だが、勝利を収め、最高潮となった喜びも多少静かになってきた辺り。

 

 

「なぁ...ディアベルはんは...なんで最後に一人で戦おうとしたんや?」

 

 

ぽつり、と。

 

誰でも疑問に感じるであろう事が、しばらく時を経てこの場に浸透した。

 

周囲の考えも、その疑問に満ちていく。

 

 

その理由がわかるのは、キリトに、それを行なった本人であるディアベル、ここにいる中でも一握りの察しのいいβテスターくらいだ。

 

 

よもや、表示されていないものの存在を知れるものなどいるわけがない。

 

キバオウが呟いた疑問は、キリトにもしっかりと聞こえていたようで、前にβテスターを罵った時のような渋い表情を生み出させている。

 

彼が、最後のトドメを刺す、『ラストアタック』を成し遂げた者。

 

その過程でどれだけ頑張ろうとも、トドメさえ刺せば貰えるような代物。

 

 

無論、キリトの貢献はこの小隊の中でも抜きん出ており、周囲の兵士の掃討の要、かつ彼がいなければ死んでいただろうシンダーとディアベルを救出し、更に致命の一撃を入れて倒す、という安全策と戦術、両者を兼ね備えた功績を叩き出したのだ。

 

しかし、人は汚れているものである。

 

個人しか手に入らないものを否定し、欲し、『不公平』だ、と口にする。

 

それが自分にも等しくチャンスがあったものなら、尚更だ。

 

あの時、諭される前のキバオウのように。

 

 

本音として、ラストアタックボーナスの存在を彼らに告げることが正解なのか。

 

知らぬ存ぜぬとして隠し通すことが、誠の幸福であるのか。

 

切らねば悪化、切れども悪化、まるで両手にジョーカーのカードを持つかのような厳しい状況。

 

これは欲に溺れた統率者、いや元々欲のあったかもしれないディアベル自身の愚行がもたらした『道』を塞ぐ壁なのだ。

 

 

今現在、一部を除く『部下』達からは訝しい視線を刺し込まれ、ここで問いを違えれば、まず自らの評価は下落する、それだけでなく、善良なはずのβテスター達までに悪影響が及ぶ。

 

始まりから味方内での疑惑が広がるなど、戦いにおいてはこれ以上とない下策だ。

 

それに、死ぬ事なく、またどうにもならぬ程に拗れるまで至る『史実』から辛うじて流れたこと自体、凄まじい僥倖。

 

ならば、助けられた命を無駄にすることなく、『壁』を乗り越えるべきではないか。

 

死ねばすべてが終わるのだ、だが、そのくるべき終わりを払われ、そして求めていた忌まわしいシステムの束縛から解かれた今、彼の統率者としての才覚は、最高の形で目覚めようとしていた。

 

そんな彼がとる選択は。

 

 

「俺が...この戦いに人を募った理由は確かに、一人では勝てない一層を、攻略するためだ」

 

「それは、間違いない」

 

 

より正しく、例え自身が憎まれようとも。

 

 

「けれど、俺には、もう一つの目標があったんだ」

 

「ディアベルはん...あんた、何を...」

 

 

「...ディアベル...」

 

 

その成り行きを見つめ、おそらく『そうなるだろう』という事柄を頭に浮かべるキリト。

 

そんな彼の視線を受けながらも、なお『リーダー』としてあるべき男の目は、闇を拭った輝きを持つ。

 

語る、そのかつての胸の内を。

 

 

「俺は、第一層で、きっとほとんどの人が知らないであろうシステム...その一人しか手に入らないレアアイテムを手に入れられる『ラストアタックボーナス』を、確実に手に入れるためにみんなに黙って、狙っていたんだ」

 

 

それは、今では思わぬとはいえど、裏切りの証。

 

周囲の空気はより険悪な闇が浸透していく。

 

まぁ、当然のことだろう。

 

自らの利益の為に動き、挙句死に目にすら逢ったなどといった人の醜い欲の姿など、見て不快に感じない者などいない。

 

いるならば、それは不死人や灰よりも、人として『果てた』存在だ。

 

罵声はない、しかし狼狽え、次々につぶやく音のみが、ディアベルを囲う空間を支配する。

 

 

「すまなかった」

 

「俺は、みんなに隠れて、そのラストアタックボーナスを得ようとしていたんだ」

 

 

深く、深く頭を下げる。

 

雰囲気、目、姿勢全てにおいて、今の彼の意思が、強く現れていた。

 

 

しかしながら人というものは厄介な生き物。

 

このような状況、彼がしたことは簡単に許されることではないとはいえ。

 

もし、彼の見せる誠意が本物ならば、無闇に攻撃する気にもならない。

 

 

言葉の通り、膠着の形へと陥ろうとしていた。

 

 

 

——貴公、それが貴公の誠意か。

 

 

 

それを遠くで見やりながら、ディアベルの行動を一瞬の見落としすらなく目に刻むシンダー。

 

一言たりとて発言することなく、彼の目は、『リーダー』の行く末を見守るかのように静観する。

 

 

嫌われる事を恐れて然るべき。

 

それを隠して然るべき。

 

穢らわしい自分の部分は、他人に知られないようにして然るべき。

 

 

だが、彼はその事を一切していない。

 

ならば、この先どういう風に進み、どういう風に『認められる』のか。

 

 

周囲の『人間』すら見定める事を望むかのような『残り火』が見られる光景は、果たして。

 

 

 

 

 

 

 

「ディアベル...確かにアンタがやった事は、許される事じゃあないな」

 

 

その膠着に一手を申したのは、会議の時に『βテスター』に対するキバオウの否定を諭し、論を立てた褐色の大男、エギル。

 

何を言われるのか察しているのだろうディアベルは観念しているらしく、じっとエギルの目を真摯に見つめ、言葉を受け止めようとする。

 

だが、残念だ。

 

 

「だが、ちょっと別の風に見てみりゃあいいんじゃないか?」

 

「今回アンタがリーダーを買って出なきゃ、きっと俺たちははじまりの街で燻ってるだけの末路だったろう」

 

 

「ま、ちょっとアンタに肩入れするような言葉になるかもしれんが、一層攻略の『切り口』となってくれたアンタの行動は評価してるんだ」

 

「だからよ、アンタが次から『知らない奴』なんか出ないように、『ラストアタックボーナス』の知識を広めてやれば、今回の償いになるんじゃないか、ってな」

 

 

それは、ある種の助け舟のようなものだったのだから。

 

 

 

 

 

もし、この行為が適当なリーダーを務めたものだったり、悪質な人間性ならば、『ふざけるな』の周囲の一言で切り捨てられただろう。

 

だがしかし、その前に、当のディアベルは、自身の誠意を示したのだ。

 

姿勢は模範的に、かつ彼自身の心がこれでもかと詰まった動き。

 

 

その上で周囲から一人でも事実上の『許し』を告げられれば、きっと、優しく、そして強い人達ならば。

 

 

 

「まぁ...そうやなぁ...そのラストアタックボーナスっちゅーやつも、結局ディアベルはんが持ち逃げしたって訳でもあらへんし」

 

「僕達も、ちゃんとディアベルさんが謝ってくれたのを見てるし」

 

「...うん、それで私も良いと...思う...君はどう?」

 

「俺もそれで良いと思うぜ。ラストアタックを取った俺が言うのも...その、あれだけど」

 

「いやいや、君は危なかった二人を助けたし、周りの相手をしていた上にあんな綺麗な兜割も決めてたし...」

 

 

 

この通りだ。

 

 

「ありがとう...みんな」

 

 

彼は噛み締める。

 

 

自分が今おける境遇の幸福さを。

 

そして、ここまで頼れる者達に自分がしようとした裏切りの重さを。

 

それに対する、償いの意識を。

 

 

 

 

——貴公、いやディアベル殿。

 

貴公は正しく、そして幸運だった。

 

共に戦った存在達も、また素晴らしい人々。

 

こんな強き者達が多ければ、かつて私を手助けしてくれていた太陽の騎士や、白霊のような存在も、誠に『強い』者達が主だったのだろうか...

 

 

 

 

かつての憂いに韻を踏みながら、今広げられた、ある人から見れば『茶番』、しかし別のものからは『誠意万歳!』とでも刻まれそうな光景の結末を見届けて、その優しさの残滓と化してしまった彼はとても満足そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにようやく、真の意味での『第一層の攻略』に終止符が打たれる。

 

悪意や憎悪といった邪魔者もなく、また、そのディアベルの罪をかぶるはずであった『史実』を乗り越え、それらとは別次元の感情である『希望』を轟々と心のうちに燃え盛らせた冒険者達は、また、止めた足を、大勢の人数により歩んでいく。

 

そこに待つのは、灰がどれだけ求めても、手に入ることがなかった救いか。

 

それとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない...貴方のおかげで、俺は目が覚めた...その上、命まで助けてもらって...」

 

 

話題が落ち着いた頃か、先程と遜色ない、しかし今度はかんしゃのものである深い礼を、静観していたシンダーに向けるディアベル。

 

 

「いや...ディアベル殿、貴公が道を違えなかった、それだけで私は充分だ」

 

 

小さくクスリと笑い声を零しながらも、ディアベルの誠意に答える。

 

彼に取っては、それが今回の戦いにおいて、最高クラスの憂いだったのだ。

 

その心配が杞憂になった上に、最上として返ってきた彼の機嫌はとても心地良いもの。

 

その笑みもまた、中々の会心だった。

 

 

周囲からの反応も、どことなく微笑ましい。

 

 

「...ところで」

 

「なんだ?」

 

 

「貴方が、あの強大な一撃を弾いた技...武器が光っていなかったが、あれは『ソードスキル』なのか?」

 

「いや、あれはただ相手の攻撃を捌くだけの芸当だが...ディアベル殿は知らないのか?」

 

 

不思議そうに聞くシンダーの気持ちも分からなくもない。

 

敵によれば、犇く不死人なら大体の者は当たり前のように使用する、ある意味シンダーには親しみのある、隙を作り出し活路を切り拓く技能、『パリィ』。

 

両手で特大の剣を振るわれたりでもしない限り、ほとんどの一撃に有効打となるそれは、彼が持つ盾の極々一部とはいえ魔法すら跳ね返す。

 

その代わり、失敗すれば間違いなく相手の攻撃を深々と身に刻むこととなる、最強にして最弱の、諸刃の剣なのだ。

 

 

『ソードスキル』劣等生の彼にとって、その問いは微妙に悔しい気分にさせるものだったのは内緒である。

 

 

 

 

 

「いや、俺も『パリィ』なら知っているんだが、俺はあんなものをパリィできる自信がなくてな...」

 

「それは違うぞ貴公、どんな物にも弱点がある世の摂理の通り、どういう風に力を入れ、どのように敵の力を削ぐか、それを判断すれば、人理を超える理不尽な一撃でもない限り、防御は出来ずとも受け流すことは不可能ではない」

 

 

経験者はかく語りき、地獄を乗り越えてここにいる彼の言葉の説得力は、実演も込めて更に重い。

 

 

(そうか...自分から無理矢理に攻撃を押し通すのも一つの手だが、相手の渾身の一撃をどのようにして利用するかを考えれば、ダメージを抑えて、前者より更に効率的なDPSが見込めるかも...)

 

 

二人の雑談に周囲が耳を傾け、ある者は苦笑し、ある者は目を輝かせる中、ラストアタックボーナスで得た防具の事は空の彼方にいってしまったキリトの目はかなり真剣。

 

そのスタイルもまた一つの手か、と自身の可能性を模索していく。

 

 

こんな人と人が和やかに語り合う空間もまた、シンダーがあの世界で得る事のなかった細やかな幸せの一つだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 




どんな人にもそれ相応の理由があり、狂人と言えるPoHさんも、彼なりのイカれたなりの信念がある。

一人としてのアイデンティティを確立しているキャラなら誰でも好きだよ、オレは(無銘並感想)


さて、この回が、今後のターニングポイントとなるでしょう。

キリト君が『黒の剣士』という強さを認められ、かつ不名誉な名前で呼ばれる事が無く、周囲の憎悪を一点に受けることもなく、誠に『勝利』として一層を制しました。

その上で、目の前でディアベルさんの死を背負う事もなく、それはキリト君の精神にも影響があるかもしれません。

『ビーター』という言葉も生まれる事はなく、キリト君やアスナさんの立場は『極めて技術の高い強プレイヤー』という認識になってます。

また、キバオウさんとかも、原作のようなヘイトを向ける立場で無くなってるところも違いでしょうか。


まぁ、黒の剣士呼ばわりはともかくとして、いずれ彼ならば黒衣は着る事になるでしょうが。

ステータスも良いでしょうし。

そして、ここの彼等にパリィ熟練フラグ。

捨て身のように見えながらHPをほとんど減らす事なく敵の攻撃で活路を見出し、通常の殴りも然るべきというキリト君やアスナさんのコンビとかそんなんチートやチーターや!盾蹴りも覚えたら神聖剣完封やんけ!


【よくやった!
そして、頑張れよ!】


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繋縛

UA2000にお気に入り50近く、評価も5以上が4つという閲覧者様万歳な光景に思わず目を疑った私は悪くない。

レベル60でやっとのことエブリたそを倒し、その後DLCを購入し、ルドさんには圧勝したのにマリア様にメッタクソにされた作者です。

SAOもブラボもレベルに影響されるところは大きいのでしょうか、悔しい。

そして三話付近のお話となりますが、今回黒猫団が表に出ないという異例のお話になってますね。

更に更に、今日不死人と出逢うのは、『あの情報屋』さん。

彼女との関わりのストーリー、そしておまけ込みにしたら六千近くという良からぬ文字数に。

卑劣なメッセージを...(5話で嘘メッセージを書きながら)

【この先、閉じ込めに注意しろ
心が折れそうだ...】

序盤辺りの修正。
何故語りが一人称になっているんだ...大きすぎる、修正が必要だ...



 

 

 

死は、人を恐れさせる。

 

それが、自らを『無』にさせるもの故、本能でそれを避けようと足掻くのも、また当然だ。

 

だが、それを恐れる事がなくなった人は、どうだろうか。

 

ひたすらに勝ち、進む事のみを考える狂気を孕んだ人は、果たして『人』と言えるのだろうか...?

 

 

 

 

 

 

何度目かもわからない、いつもの戦場への繰り出し。

 

今回、かの灰の存在は、一人で狩りに勤しんでいた。

 

 

キリトとはフレンドのメッセージなどで、今でも戦闘についての語り合いもするし、顔を合わせることも時折ある。

 

シンダーがレイピアを使ってでもあのような動きはできないであろう、細剣の生粋の実力者であったマントの少女については...彼自身面識が無いのでわからない。

 

 

 

獣もあれば、虫もおり、忌々しく何度も復活してくるのが頭に浮かぶような骸骨戦士までいた道中の何十層にて、彼もまた更に、この世界への馴染みを深めていっていたらしく、かつての世界よりも上がった武器捌きで、時に華麗に、時に泥臭く、時に残酷に、群がる敵を屠って行く。

 

その上、あの苦渋を舐めさせられた一層の時よりも、ステータスは段違いに上がっているのだ。

 

もうあの一撃をパリィしたとしても、ダメージを一切受けず完璧にこなした上で、致命的な一撃を叩き込むことも、内臓を強奪することだって出来るはずだ。

 

 

しかし、その場は未だかつての世界でさえ、彼の見たことのない、異様な無機質を感じるステージである。

 

青白いブロック体のようなものが、形大きさ多種多様、無造作に並べられて天井、壁、地面を埋め尽くす視界には、どこか完成された壮大さ、そして、どこまでも無限に続くような終わりのない地獄を垣間見せる、感情のない『モノ』を見る恐怖を思い起こさせた。

 

最も、後者を感じるような、真っ当な意思などシンダーには残っていないだろうが。

 

 

さて、周囲の解説もこれほどにしておこう。

 

何故ならば彼の前にはいつのまにか、数体の得体の知れない敵の軍団が、壁を成していたからだ。

 

 

かの銀騎士やロスリックの騎士を彷彿とさせる白鎧、それを岩で似せたかのように見えるゴーレムといったところの堅固そうな敵と、ボロ布を纏う、忌々しい奴隷兵士を思い出させる小振りな人型。

 

 

周囲には誰もいない、そんな状況、彼が持つ武器は。

 

不死街への道を阻んだ、大槌を持つ冷たい谷にて、ある剣士と共に事実上の追放、二度とその場へと帰ることを許されず狂気に呑まれた外征騎士、ボルドのソウルから生み出した武器である、ボルドの大槌。

 

 

 

軽々と持ち上げ、勢い良く踏み込み、瞬時に自分の身の丈よりも遥かに大きなゴーレム擬きの腹部へと、獲物を痛烈に叩きつける。

 

耳障りなほどに響き渡る轟音に違わぬ凄まじい重圧が乗った一撃、かの強固な鎧を持つ人形の装甲は、たった一振りで見るからにひしゃげ、その部分は惨たらしく凍てついた。

 

だが、それだけで彼の強靭なスタミナは多少たりとも尽きてはいない!

 

 

 

鈍い騒音は立て続けに、かつ凶暴な風を切る音を交えて。

 

 

 

凍り付いた部分を集中的にラッシュを仕掛け、付近の敵に絡まれるよりも先に、やがて土手っ腹を主軸とした身体の崩壊に耐えきれず、あえなく『木偶の坊』は無へと帰していく。

 

 

しかし倒した直後の男の隙もまたあり、そこを上手く狙った『奴隷似』の凶刃がすぐ様急所である心臓へと後ろから突き立てんとする。

 

その不意打ちなど、彼は何度その身に刻んだだろうか。

 

死して、苦しみ、喘ぎ、それを乗り越えた彼がそんなちゃちな油断などはしない。

 

一点を狙った急所突き、それを軽快なステップで回避し、そのすれ違いざま、鈍重な武器を持っていた筈の彼の両手には、赤と青に煌めく双刀が握られていた。

 

それは、前述のボルドと終始共に居て、なおかつ引き離された時さえもほんの近くに居ることを許された程の友であった、悲劇の踊り子を引き立てる美しい双つの曲剣。

 

その名も踊り子の双魔剣だ。

 

 

彼女が、その巨大な身体には似合わぬ、しなやかで切り口を掴めない、まさに舞うかのような乱撃には、灰である彼も惑わされ、何度切り刻まれたことか。

 

その刀身から記憶を最大限に引き出して、凄まじい回転からの切り払いによりる何十連撃にもいたる、彼女の疾風怒濤の剣舞を再現、その悪夢を一体の『矮小な』存在が受ければひとたまりもあるはずもない。

 

恐らく生身であれば幾重にも輪切りとかしているであろうその斬撃、終えた頃には対象も空気へと還っていた。

 

 

「...ふむ」

 

 

ウィンドウから経験値、コルなどといった報酬を受け取り、踊り子の双魔剣をお馴染み亜空間へと送りつつ、愛用武器の一つであるクレイモアを肩にかつぎ、さてはてとばかりに首をもたげながら、『目的』を探して更に奥地へとを踏み出していた。

 

残念ながら彼等モンスターという存在にはソウルはなく、魂という概念がない故に、この世界では、『ソウル』という知識とは無縁となるだろうことを理解しつつも、どうしようもなく違和感を感じるのは仕方ないことだろう。

 

 

ソウルといえばだが、先程使った二つの武器は、この世界にはない『ソウル錬成』という技術により生まれ出た曰く付きのモノである。

 

この時代において見た目や効果に異常の無いもの、それらの基準の内に入る錬成武器の使用も、難易度が上がるにつれ視野に入れ始めたらしい。

 

 

もっとも、ソレはこのような一人の時のみ、基本的にはやはり見られてもどうということはないシンプルな武器となるが。

 

 

 

話が脱線してしまったが、そもそも、『それ』を捜索しに来た理由とは、ある少女に頼まれた依頼を遂行する、という半ば押し付けのものだ。

 

 

眩しい金をベースに、活発に映える薄茶の髪、暗色のフードに、猫ともネズミともとれる、頰の3本ずつ髭のようにあるペイントが特徴的な情報屋。

 

かつて彼の友ジークバルドの鎧をくすねて、彼を巨人の下層へと突き落としたパッチを彷彿とさせる立場かもしれないが、アイテムは売っていない。

 

しかし、奈落真っ逆さまな行為はしないし、その情報精度、また巧みな会話術などと言った『裏』に通ずる技術は、彼女のアイデンティティの一つだろう。

 

だが、正直関わり合いたくない人種なのもまた確かだった。

 

そう、『だった』。

 

 

最も。

 

 

 

 

——『君が持つ武器のこと、良ければ教えてほしいナ』

 

 

『【青の騎士】さん】』

 

 

 

 

いつの間に知られたのかもわからない、別の要因も『一つ』あれど、驚異の情報に危機を感じたシンダーの行動によるものであるものから、この依頼を取り付けざるを得なかった。

 

彼女との契約である、『シンダーの武器情報の隠蔽、及び売買に触れないこと、しかし教える程度ならば構わない』という妥協の末の内容の代わりに、現在50層近くまで登りつめているにも関わらず、27層の『特定の場』の調査を交換条件にして『もらった』彼にとっては...選択肢などないようなものであったが....

 

その上で、【青の騎士】、この呼ばれ方をした彼の心に、かつて受けた痛みの楔、その傷がまた広がったこともあった。

 

そんな動揺もあり、この現状に至ったのかもしれない。

 

 

 

しかし、幻肢痛に縛られるだけでは、そこを乗り越えねば、先へは進めない、この場は別の『時代』なのだから。

 

 

やがて辿り着いた『目的の箱』を目の前にして、不要な思考を切断、剣を抜き、ロスリックのはじまりの場で相当に苦しめられた騎士の盾を用意しておく。

 

たかが低層、されど低層。

 

前の場所に戻っても敵の強さは変わらず、雑魚に囲まれてまさかの下克上なんてこともザラにあったものだ。

 

 

箱を一度蹴り飛ばし、あの憎き『貪欲者』でないか確認したのちに、いつでも武器を触れる構えのままその箱を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では何から話そうか」

 

 

今更誰も寄り付かないだろう一層、はじまりの街の路地裏にて。

 

若干不機嫌そうなシンダーの前には、彼よりも数段背の小さい、あの茶フードの少女。

 

彼女の表情はいつもの快活な笑みはなりを潜め、真剣に『挑む』者のソレである。

 

 

「まず、例の『宝箱』の件だが、あれは私が渡り歩いてきた中でも生粋のハズレだった、それも空だったぞ」

 

 

彼が開けた宝は数知れず、しかし大抵のものは、少なからず彼の役に立つものばかりであったが、その中にもどうにもならないゴミクズといった廃棄物や、読めば禁忌に触れ、狂気に堕ちる深みの点字辞書など、ろくでもないモノもいくらかあった。

 

しかしながら。

 

 

 

「その上、開けた途端に何十なんてモノじゃない敵が何処からともなく湧き出した、あまつさえアイテムの使用まで禁じられるエリアらしい」

 

「貴公の持つ『情報』通りだ、場所も地図として記載しているから持っていくといい」

 

 

 

中身が驚くほどにすっからかん、ふざけた事にその層に潜む敵種が怒涛の如く押し寄せて、あまつさえ回復、帰還に至るまでありとあらゆるアイテムを制限されたのだ。

 

しかし、彼の運はそこで尽きたわけでは無かった。

 

『この世界のアイテム』とは『別枠』に存在する、謂わばイレギュラーのアイテムまで封印されたわけでは無かったのだ!

 

 

だが、それだけで戦況が変わったかといえばそうでもなく、この状況で最高の効果を発揮する『帰還の骨片』は、篝火を求めて帰還の魔力を噴出するものである。

 

今、『この時代』には、彼の見てきた限りでは、『篝火』自体が存在していない。

 

ならば、その骨片を使えばどうなるのか...そのような死とはまた違う危険な橋を渡れる程、シンダーの精神が向こう見ずで愚かな筈もなく。

 

 

大振りな攻撃で、怯まずに連続して行動するための強靭さを、武器から引き出しながら、深手を負えばエスト瓶を飲む。

 

いつぞやの大型の敵に対する、実にわかりやすい戦法がここでは最も有効だったようだ。

 

 

しかし、エスト瓶の中、篝火の炎は少々薄らいでしまい、またいつか篝火を再度点火することを余儀無くされる可能性も出てきたが...

 

 

「ああ、確かに頂いたヨ」

 

 

「ふむふむ、成る程...うん...わかりやすいネ...さて、これで契約は成立だガ...」

 

 

目的のものを手に入れた、というのにどこか表情が暗い少女。

 

何か問題でも、そう問おうとしたシンダー、しかしその答えは彼女の口からアッサリと出てきた。

 

 

 

「今確定したとはいえ、アレは所詮噂でしかなかっタ...それを『情報』...カ」

 

 

 

プロの職人根性、というやつだろうか。

 

仕事を『正確な形で』再現できていなかったかつての一瞬が、彼女にとっては相当納得いかなかったらしい。

 

 

そこで、シンダーから見た情報屋の少女への価値観は、少々揺らぐ。

 

彼女も食わせ者であるとはいえ、良識を持ち、いまだ歪む前の『純粋な』ひとりの少女であり、彼が、『シンダー』が見惚れる美しさを持つ、健気にこの世で生きる、かつての『自分』と同じ存在だったということに、その時はじめて気付いたのだ。

 

 

 

 

 

それからしばらくして、追加の報酬とばかりに幾らかの金銭を提供してくれた情報屋の少女と別れた後に、遅れてシンダーは、少女の『通称』、そして自分の『通称』を知る事になる。

 

 

少女の別名は『鼠のアルゴ』、何故かやはりパッチを連想するのは、不可抗力であると思いたい。

 

さて、では、【青の騎士】。

 

 

何故、そんな別名がシンダーにつけられたのだろう、と、去り際にアルゴへと問うた時、帰ってきた答えは、彼の思わぬものであった。

 

 

 

 

『激しさは無いものの、冷静に、かつ確実に何度もボスレイド戦で活躍し、表に出ずラストアタックは取らないものの、そのおんぼろ鎧を着込んだ男が参戦した戦いは、必ず勝利すル』

 

『それも一層含め全てのボスレイドに参加、今までボス戦で死者が出なかったのはその男のお陰だともいウ』

 

『しかし、実際にその姿を見た者はオレっちが知る中でも数える程しかおらず、使っているスキル、そして武器も一人一人の証言が一致しなかったり、そもそも推定すら出来ないものさえある、まるで都市伝説のような存在』

 

『そして、誰が言ったか、恐ろしく沈着な行動を青に見立てて、【青の騎士】...そんな噂の騎士様、オレっちは、もしかするとアンタかも知れないって鎌かけたわけサ』

 

 

『...もっとも、アンタはその話を知らなかったらしいガ』

 

 

 

 

 

最後に付け足した、苦虫を噛み潰しつつ無理矢理作ったかのような微妙な笑みは印象に深い。

 

そして...かの【暗月の騎士】、その青霊として、ロスリックの時代では無いとき、陰の太陽に従い呼び主を守護する為に呼び出された過去の記憶。

 

 

彼にとっては、負として重い記憶の一つであった。

 

 

誰もいなくなった路地裏で孤独に、彼は暗闇に呑まれていく。

 

まるで、彼の立場を理解してくれる友は、この世に存在しないとでも嘲笑うかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——少々、話が暗くなってしまったか。

 

ならば、一つ余談を語るとしよう。

 

実は死に目に遭いかけた忌まわしい27層の扉の前に、シンダーは不死人特有の『置き土産』を残してきていた。

 

 

それは、彼が特有のサイン石で刻んだ『メッセージ』。

 

 

【この先、アイテム禁止エリアに注意しろ

そして、卑劣な罠】

 

 

後半の文面は、きっと彼の心に滲み出た、最低の宝への唾でも吐き捨ててやりたいほどの、『深く浅い』憎悪の表れなのだろう。

 

そして、この世界ではその文面、見た目は異様として映るはずなのだが、この世界は何があってもおかしくない仮想の世界。

 

それが元々設置されていたものだろうと当たり前のように受け入れる者が基本だった。

 

しかし、その文面を『この先に宝がある故のカモフラージュ』と深読みする者もいるにはいた、のだが。

 

 

 

同時期に発行されたアルゴの攻略本に乗せられていた不可侵のエリアの記事、およびその情報と一致していたことから、『このメッセージは本物』と知る事が出来た者へと変わる。

 

彼等は正しく、そして幸運だった。

 

 

 

 

 

「このメッセージ、『アタリ』だな」

 

「もし誰かが書いてくれたのだとしたら、心から感謝しないとだねー」

 

 

 

 

「誰だか知らんが、モンスターに殺されちゃ俺の手で人間を殺れねェし、こいつを書いた奴は評価してやりてぇもんだ」

 

 

 

 

「ほう、まぁアリじゃないか?」

 

 

 

 

「なぁキリト、このメッセージって...」

 

「ああ、アルゴ...情報屋の記事に書いていたのと一致する...」

 

「もう少しでこの場所に突っ込むところだった...メッセージに目を取られなかったらきっと...」

 

 

 

 

 

「ふむ、これが噂のメッセージか...こんなものは設定していなかったはずだが...まぁ、プレイヤーの協力という事でそっとしておくべきかな?しかし、そんなアイテムを作った覚えもないのだが...」

 

 

 

 

 

 

 

——などなど、数々の人達に良い評価を貰っていた。

 

そして、心のうちで誰かがそのメッセージを評価する事により、その癒しの恩恵は、書いた主であるシンダーへと還元される。

 

 

 

「...むん?」

 

 

 

HP全快の状態で訳もわからぬまま、過剰なHP回復を施された感触は、彼に間抜けな声を出させるまでに至った。

 

彼はあずかり知らぬことではあるが、そのアルゴの情報とシンダーのメッセージ、その相乗の素晴らしい効果により、約数百人程の尊い命が救われ、更にその数だけ良い評価を貰っている。

 

故に、その過剰な回復は、書いてから数え切れないほどに継続していて、四六時中その都度、どの場所でもついつい変な声を漏らすシンダーの姿が、それに慣れるまでの、暫しの間のみ見る事が出来たのは、ここだけの話だ。

 

 

 

 

 






メッセージに評価した一部の方々を見れば分かる通り、いや丸わかりなのが数人いますが、その中でも三話で亡くなった方々が、いわばアルゴの気紛れの依頼で難を逃れる事が出来ました。

その中にひろしだとか王子だとか神聖さんがいるだって?

貴公らの人間性も限界と見える。

こんな感じでアニメの道程が基本となってますが、内容や状況は割と変わってくるかもしれません。

しかし灰の人だけでは、運命なんてそうそう変わりはしないでしょう。

そんな彼と共に戦う存在の一人一人が、それを成し得る力となるのです。



さてさて、この物語の灰の人、もとい不死人さんは、クヴィンドリンちゃんさんに、恋愛感情までの域ではありませんが、純粋に忠誠を誓っていた元暗月警察です。

そして、【青の騎士】だなんて安直な名前なのは、キリトくんの黒の剣士とかと合わせようと思った結果なので許してください、ホント。



...また別の自分語りになるのですが、SAOのキャラで一番好きなのはユウキちゃんです。

SAOの触れるきっかけとなったホロウフラグメントで裏ボスとしてやり合い、戦後気に入って彼女の経歴を調べた時は打ちのめされるような気分になりました。

彼女曰く、『意味なんてなくても、生きてていいんだ』(でしたっけ?)ということですが、ユウキの存在は、『眠れる森』の人達、そしてアスナさんにとって、きっと重大な『意味』を持ってたと思う今日この頃。

そんな彼女を見てると、不意にダクソやブラボ、アーマードコアの世界の人達を思い出して、胸が苦しくなります。


【再会の予感...
そして、この先、卑怯者に注意しろ】



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『逃走者』

マリア様と人形ちゃんダブル√か、女の子らしさ全開のユウキ√に行きたい(900ダメージを受けつつ全身から血を吹き出し発狂しながら)

倒したものの、DLCでゴースの遺子に殴られ過ぎやほおずきによる啓蒙高すぎ発狂が現在起こっております。

そしてサチの声優さんが日本語の人形ちゃんだったという今明かされる衝撃の真実。

意外とサチに血の意思を持っていくとレベルを上げてくれるかも...?

重要な言葉を後に持ってくる、騙して悪いが...『sao四話』をさっぱり覚えていない。

どげんしよか。


【一網打尽!
そして、不幸の予感...】





 

森、といえば思い出す場所がある。

 

否応無く毒の沼に叩き落とされ、もがいていればいずれ、そんな哀れな獲物を襲うために虎視眈々と待ち続け、酷く喰らいつくすグール達の住処でもある森だ。

 

そして、かの深淵歩きの意思を継いで、狂気に塗れた後もなお、闇の眷属であるダークレイスと戦い続けたファランの不死隊が佇んでいた王の域でもあった。

 

あの時、命を奪う感覚と共に味わった、深淵歩きの友の悲鳴のフラッシュバックを、シンダーが忘れる事は永久に無いだろう。

 

 

しかし、この森はそんな地獄絵図ではない。

 

むしろ暗闇の中で、飴玉模様のように疎らな蛍光と、怪しげな木々の雰囲気はとても美しく、仮想のものとは思えない感触と綺麗さに見惚れてしまう幻想的、かつ儚げな世界は、もはや一枚の絵だったとしても、なんら不思議では無いだろう。

 

 

...そういえば、あの絵画世界を描いていた少女は、『暗い魂』の染料を用いて、今でも絵を描き、世界を生み出しているのだろうか。

 

果たしてあの時、彼女が慕っていた老騎士を殺し、その血を求めていたとはいえ、彼女に手渡したのは正解だったのか、今でもふと悩むことがある。

 

あまつさえ、老騎士が使っていた剣を、殺害したシンダーが使用することができるなど、どこまでの冒涜なのか?

 

 

「...ままならんな」

 

 

浸るべき『幻想』の光を踏み躙り、地獄へと自身を投げ出したのは、誰だ。

 

そう、それは自分自身が選んだ選択。

 

 

「シンダー?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

そして、今は黒のコートを纏った『黒の剣士』と、この35層で彷徨っているだろう一人の少女を救い出す為に歩みを進めていることもまた、その選択がもたらしたことなのだろう。

 

 

時も、この戦いが始まってからかなり経た。

 

シンダーの知らない情報、もとい年代と日にちであるが、現在は2023年の8月辺りとなっている。

 

故にまだ『史実』でこの場を訪れた時よりもキリトのレベルは数段劣る50付近だ。

 

 

最も、格段にレベルを上げられていない理由は最近まで所属していたというギルドにあったと聞く。

 

彼が食事の肴にと教えてくれた内容によると、なんと最近、本気で戦ってしまったことにより20ほどサバを読んでいたレベルがバレてしまい、そこから、そのギルドのリーダーの、『攻略組レベルのキリトをこのギルドで腐らせる訳にはいかない』、そんな意味合いの言葉と共に退団を勧められたらしい。

 

聞くだけではレベル差を疎まれたりしたのか、と疑念を抱く聞き手だが、なんと今でも普通に、そのギルドの人達とレベル上げや食事など、行動を共にする友人としての付き合いを続けているそうで。

 

それを語るキリトの面持ちも、初対面の時とは比べ物にならないほど楽しそうなもの。

 

つい、彼の表情も、見えずともたしかに微笑みが浮かんでしまった。

 

 

 

『ふ、貴公らしいな』

 

『?どういうことだよシンダー』

 

『褒めているのだよ、キリト』

 

 

 

友と一緒に、この死に狂いの場から少しでも離れられることならば、本当に良いことなのだろう。

 

彼くらいの若人であれば、そのように遊ぶのもまた一つの生き方なのだから。

 

 

だが、今回彼に渡ってきた依頼は急遽のもの。

 

それを早期、かつ確実に成功させるには、スキルという概念が存在していないシンダーは、高レベルの『索敵』を持つキリトが必要だと踏んだわけだ。

 

戦わぬ事を喜ぶのに、その戦場へと誘って赴かせる事には悔恨の意も無くはない。

 

しかし、救える者は出来る限り救いたい、そんな『暗き魂』らしからぬ真っ直ぐな気持ちに、また純粋な青年であるキリトは応えてしまった、というわけである。

 

 

 

先程『渡ってきた依頼』と言ったものの、勿論普通ならばそんなものは来るはずも無い、更にシンダーは巷で噂の【青の騎士】その人という、彼を知る者すら珍しい程の希薄な存在感しか街にはないのだから。

 

なら、何故そんな彼に依頼がこの度舞い込んできてしまったのか。

 

その理由は、数ヶ月前に話した情報屋にあった...

 

 

アルゴの依頼を完遂してから、彼女に『依頼請け負い』の称号と共にこの姿の事を広められてしまったらしいのだ。

 

勿論彼も抗議を申し立てに、アルゴの足取りを知るもの(主に黒の剣士)から聞き出し、理由を問い詰めたのだが。

 

 

なんとまぁ、どういうことだろう。

 

あの犬も食わぬ(実は犬には最高に弱いのだが...)彼女が、シンダーの姿を見るやいなや、凄まじい速度で飛びついてきて、何度も何度も、とても申し訳なさそうに深い謝罪を繰り返したのだから。

 

それによると、なんとうとうとしていた最中、間違えて一部の冊子に、彼女が気分で残していた冗談混じりのメモの文章を打ち込んでしまった、なんて言うではないか!

 

そこにシンダーの件もあったらしく、誤情報は本当に十程度そこらの少数の人にしか知らないものらしいが、やはりそれを押し通すことなく全て回収して回り、その上でしっかり謝罪もする姿は。

 

 

 

 

——パッチにも見習わせたい誠実さだ、ノーカウントなんて言わないところは特に、な。

 

 

 

『しっかり』とシンダーの好感度を掴み取りつつ、それを許す寛大さを彼に与えたのだ。

 

まぁ、彼もまさかそんな都市伝説のような自分に、その十数人が来るなんて思わなかったようだが...結果は、見ての通りである。

 

 

 

今日、35層の街の真昼間、あちらの世界では、食べる必要もなかった不死人の性に縛られていた為にありつけもしなかった美味しい食事にのほほんと興じていたのだが。

 

 

『僕は...僕はロザリアさんの言葉で、とんでもないことをしてしまったかもしれないんだ...!依頼請け負い人の中でもレベルが一番高い貴方にしか出来ないことなんです...!お願いします、お願いします...!』

 

 

とまぁこんな風に、やらねば命すら捨てかねない必死さに、つい彼の良心が依頼を受けてしまい、今に至った。

 

 

 

「どうだ?」

 

「...フェザーリドラの痕跡と一緒に、あまり大きくない人の靴跡が一人分あるから、それを今辿ってる」

 

「想定距離はどれくらいかは分かるか?」

 

「これだけじゃどうにもならないな...」

 

 

 

現在、キリトの索敵をフル活用してもらい、その被害者の捜索に当たってもらっているのだが、どうも芳しく無い。

 

そもそも、依頼される前に一悶着あった時から、既に数時間は過ぎているのだ。

 

もしかすると、もうその被害者の命が尽きているかもしれない。

 

そんな焦燥に、二人はどこか駆られ始めていた。

 

 

ここに来てからも十分程度は経過している為、気長に行くしかないとはいえやはり仕方ないことだろう。

 

 

と、その時。

 

彼等が望んでいた痕跡が、ありがたいことに『被害者』から溢れることになった。

 

 

「いやああぁぁぁぁぁ!!」

 

「!?まさか!」

 

 

シンダーが良からぬ想定を頭に浮かべるのと同時に、キリトがその悲鳴の方向へと駆け出し、シンダーも遅れを取ることのないよう地を颯爽と蹴り出して行く。

 

木々の隙間を華麗に2人共縫いつつ、更に立ち塞がるモンスターは、キリトの袈裟斬り、シンダーの物差し竿による超広範囲の切り伏せで一瞬のうちに命を散らしていった。

 

彼等の邪魔をした存在自体が悪いのだ、この層の敵など2人の敵ですら無い。

 

その余裕もあり、全速力で走りながら、口早にキリトの索敵スキルが伝えた情報を語ってゆく。

 

 

「シンダー!まずい!フェザーリドラの反応が消えた!その上に、女の子がモンスター4体に囲まれている!」

 

「...厄介と言わざるを得ないな、それは」

 

 

軽く舌打ちしながら、今現状何を使えば最善か、物干し竿をしまいながらも考える。

 

ずっと、長く、そして短い時間で。

 

 

「私が一瞬有象無象共の足止めをする...その一瞬で、その敵達を全滅できるか?」

 

 

考え出したその言葉に、余裕綽々とばかりに不敵な笑みを浮かべるキリト。

 

 

その会合が終わった、まさにその時、木々だらけの視界が開け、敵の姿を視認。

 

姿形を確認するよりも早く、また敵がこちらを悟るよりも、更に速く。

 

 

「シッ!」

 

 

シンダーが右手を横薙ぎに払った瞬間、彼の籠手に纏われた手の隙間から、4本の鋭い光が飛び出した。

 

疾風怒濤の俊足で、その光は一本ずつ、しかも人型モンスター達の足の関節へと綺麗に直撃、そのまま足の重要な間接の骨ごと刺さるだけではなく串刺しにした!

 

ぐらり、とよろめくモンスター達。

 

ああ、しかし最後に彼等が見たものは、自分に不意打ちをしかけたボロ布の鎧を纏う男ではなく。

 

 

「遅いッ!」

 

 

隼のように地をかけ、その勢いと共に剣を横に構えて一回転、その遠心力を乗せて横に薙ぎ払い、自分達の命をまとめて切り捨てた黒の剣士のみだった。

 

砕け散る怪物達を見届け、剣をしまいながら悔しそうに歯嚙みをするキリト。

 

 

「ごめん...君の友達、守れなかった...っ」

 

「えっ...あ、あ...ああ...」

 

 

死の恐怖に縛られて放心していた少女だったが、キリトの言葉で思い出した、思い出してしまった。

 

自身の友が、彼女を庇って死んでしまったこと。

 

そして、それは彼女自身の意地と傲慢による、最悪の自業自得だということに。

 

 

痛みと後悔、悲哀。

 

それらが全て合わさったかのような少女の悲鳴は、キリトの背後に佇むシンダーの耳にも、嫌という程に聴こえていた。

 

 

 

 

 

 

——『何故だ、何故だ!どうして私が...私が彼を殺さねばならなかったんだ!どうすればよかったのだ私は!』

 

『誰か、誰でもいい!私を殺してくれ!もう嫌だ!彼を殺して、彼自身の『魂』を自分のものとする私が憎い!私はもう生きていたくない!』

 

『もう嫌だ...殺すのも、殺されるのも...辛いんだ...』

 

『私は...死にたい...』

 

 

 

 

 

 

 

彼の友を殺したその時の記憶が、自身の絶望の声が、少女の友の助けに間に合うことが出来なかった自身を苛む。

 

『まだ救えなかったわけ』ではないとはいえ、彼女を傷付けてしまったのは自身の責任の一つでもある...

 

 

「キリト、そろそろ...」

 

「ああ、勿論だ」

 

 

彼女の泣き声をこれ以上聴くのは忍びない、そして、更なる記憶の苦しみを味わうのも。

 

そんな彼の促しに頷くキリトは、『救い』の事を、少々泣き声が収まってきた少女に語りかける。

 

 

 

 

 

 

 





いやぁ、レベルが史実よりも足りない分、最高の致命が無ければキリト君の一刀両断で全滅は少々きつそう、もしくはできないことを忘れかけていました。

故に灰の人特有のピンポイント直球投げナイフを利用することに。

因みに4本投げのことですが、確かカーサスの地下墓の曲剣戦士も最大三本でした。

ちょっと主人公を強くし過ぎですかね...?


そして、前のメッセージの『卑怯者』、今回は卑劣なメッセージじゃなくてほんとの事です、ほんとの事ですとも。

大人は嘘つきではないのです。

さてはて、10話にいくかいかないかでこうも読者の方がいらっしゃるとは、もう感涙しそうな程です。

他の方のチーレムとかの箸休め程度に見られると、そこそこの違った楽しみがあるかもしれません。

...にしても、ハーレムにチーレム、あれを書ける人って凄いと思いません?

女の子の『かわいい!』って感じのところとか...


【闇の予感...
そして、この先、癒しが必要だ】


追記:あっさりディアベル兄貴と黒猫団の方々、そして他数百人が生存してるんですけど、これ原作ブレイクとかそこらのタグがいるんですかね?

まだその時ではない的なことは...ない?ない...今現在でも普通に生きてるということになりますしなぁ...


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種火

ほわああああ評価とかが赤になってるしUAは3000こしてるしお気に入りが70とかになってるううううう(900バーン発狂)

作者です、なんだかすごいことになってきちゃったぞ。

なんか言葉も喜びで出なくて前書きすることが飛びました。

今回アホみたいに長いです、以上!

非力な私を以下略。


【悲しみ...
そして、ヒント】






 

 

 

——さて。

 

美味な食事に舌鼓を打ちつつも、一人孤立した席で彼の推測は始められていた。

 

時は少女を救い出し、そしてその少女に、キリトが彼女の友を助ける為の手段を教授している時。

 

つまりは、つい先程あった茶髪のお姫様と、黒の王子様の救出劇のその後、更けてきている夜の最中、ということだ。

 

 

そして、この喫茶店は、彼女らが泊まる宿屋も同時に経営していて、その個室が並ぶ場所のすぐ下の階にある場所である。

 

かのカタリナ騎士から頂戴した至高の一杯には敵わずとも、ここの一杯は簡素な味わいで食事に疲れた舌をリフレッシュし、更なる食卓の彩りへの布石として、シンダーを楽しませてくれた。

 

 

しかし、その至福の時間を中断してまで、何を考えるというのか。

 

 

——妙だ。

 

依頼主の男から聞いた時よりも、状況は深刻であるにも関わらず、まるで彼女は勿論、彼女の友が殺される事は仕組まれていたかのようではないか。

 

 

 

つい我慢出来ず、皿にいくつか残してあったシンプルなサンドイッチを兜の下からかぶりつきつつ、少女から聞かせてもらった一連の流れというピースで、この状況を当て嵌まる。

 

 

 

——回復役を分配しなかったリーダー役の『ロザリア』という女性の行動は、明らかに『少女が死んでもいい』と割り切った為のことと見える。

 

疎み、嫉みといった事が原因か?

 

ならば、何故そんな少女を煽る手などを使って死の場へと赴かせようとしていたのか。

 

それに、真っ当な存在が、そんなことを思いつくものだろうか。

 

 

 

情報が欲しい、更なる情報が。

 

元々、不死人というのは探究心の塊のようなものだ。

 

知りたいから欲し、その為に命を棄てることなど平時である、狂気の類い。

 

 

恥など持って探求するものなど無惨に狂うか死ぬのがその世の常時。

 

思った時は即刻即断。

 

それが、シンダーが持つ、一つの考えだ。

 

 

彼の数少ないフレンドリストの記載者。

 

このタイミングでうってつけである情報屋は、『友』ではないが故にこちらから打って出る事はできない。

 

キリトは彼女と親しいらしいが、今は少女に説明中である。

 

途中に割り込むのも申し訳ないし、それになぜか彼は、あの少女に肩入れしている節が強く見えていた。

 

話を聞く限り、どうやら彼女は妹に似ているとか。

 

そんなものに乱入してやる程、『今の』彼は無粋でもなく。

 

選択肢のうちにも入らない...

 

 

 

ならばどうするのか、その答えは、別の登録者にあった。

 

彼ならば、知っているのではないか。

 

 

はじまりのボスレイドの流れを生み出した先達者であり、また、その統率者であろうとした存在。

 

今では、一攻略組のギルドで、良きギルドリーダーとしてその才能を振るっているという。

 

 

普通ならば、最早シンダーのような傭兵紛いのフリーが近付けるような立場ではないらしいのだが、メッセージでならば、なんの干渉も受けない付き合いが出来る。

 

時代は変わったな、などと思いながらも、その恩恵を十二分に使い熟す彼の『汎用性』は、やはりあの世界譲りだろうか。

 

 

『貴公、突然で悪いが、聞きたい事がある』

 

 

そんな何の変哲も無いメッセージを送ってから早数分。

 

 

『俺でよければなんでも聞いて欲しい』

 

 

好意的な返信には勿論訳がある。

 

どうも、彼の助言、そして割り込みでのパリィなどの件からか、彼の事を命の恩人だと思ってくれているようだ。

 

『恩人』、その言葉は、何度も命を助け、そして散らした者達の姿を見ているシンダーにとっては、凄まじく重圧のある言葉でもある。

 

その強さ、立場が変われど尊敬に近い感情を向けられていると言うだけでもさっせると言うものだ。

 

その好意を今度は裏切るまい、そう新たに誓いながらも、メッセージでの情報のやりとりが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魂だけは、もう誰にも穢させぬ...!ましてや、貴公のような人皮の獣にはな!』

 

 

 

 

——私には、彼の言いたい事が分からなかった。

 

虐殺、虐殺、虐殺。

 

その繰り返しで、きっと最初の火の炉の前、仲間たちと語らうまでは、かつての記憶を思い出しでもしない限り、人として大切なものが抜け落ちていたのだ。

 

 

 

 

 

『貴公!何故、魂までも求める!?獣には、肉体だけで充分だろう!?』

 

 

 

 

 

敵対する存在の魂を略奪し、自身の肉体へと転換する事など、もはや歯牙にもかけぬ程に、狂気的なものへと、そう『獣』。

 

私の場合は、肉体などでは無い、魂のみを欲する『獣』だったのだ。

 

故に、その道を阻害する彼の言葉の意味を解することなど断じてない。

 

そう、所詮は獣。

 

言葉も解せぬ狂人なのだから。

 

 

 

 

 

『彼女は...ロザリアは!もう既に苦しんだ!なのに...貴公は、貴公という【化け物】は...!』

 

 

 

 

 

だから、彼を殺した。

 

彼が蘇る気も無くなるほどに、何度も何度も切り、打ち、焼き、凍て付かせ。

 

 

 

 

 

『貴公のような...貴公のような、『化け物』なぞに...』

 

 

 

 

 

それは、この時代を訪れる前の出来事。

 

全ては『生まれ変わりの母』の為に動き、彼女のソウルを、いずれ強奪するであろうかつての私から守る為に逃げ、そして『怪物』に殺された。

 

一人の、『人間』の遺した言葉。

 

 

この時代までに、その彼女の名前に縛られる事になるとは、きっとそれは、『人でなし』に堕ちかけていた『シンダー』でなかった時の、火の無い灰への罰だったのだろうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアベルから聞いた情報をまとめよう。

 

『ロザリアは、善良な存在を表す緑のカーソルの持ち主であるが、それはあくまで彼女を隠すフェイクである』。

 

『そして、彼女自身は普通の人々から盗人の行為を繰り返すギルドのリーダー』である、と。

 

 

合点がいった、それならば、この女性が少女への悪意ある行動を行なった行なった後に、なにかしらの罪悪感による行動を取らなかったのも頷ける。

 

 

 

『助かった、この礼はいつか返させてもらう』

 

『俺の方こそ、こんなことでよければいつでも呼んでくれ』

 

 

 

完結のメッセージを送って、冷めてしまったサンドイッチを頬張りつつ、情報を元に考えはじめるシンダー。

 

自らを知れば百戦危うからず、そしてその上で敵を知れば、更に危機に対しての準備は万全だ。

 

 

——何故、彼女はあの少女を放置したか。

 

『苛立つ』から死地に送るような煽りを選んだ、死ねばそれはそれでよし。

 

生き延びるのも、自分の範囲から消えれば何でも良い。

 

 

解せないのはここからだ。

 

 

そんなリーダー格をする者が、簡単に範囲内の人間に、依頼という名の密告など、易々と通してやるだろうか。

 

 

彼女にとって、死んでもどうでもいいような存在であるにも関わらず、何故賭けとはいえ、出が悪ければ少女の命が助かるような真似を選んだのか。

 

 

それだけが...推測などは有っても、締めくくりには至らない。

 

 

「ふむ...」

 

 

さてはて、とシンダーが思考を一旦中止、クールダウンしようとしていた最中に、それは起きた。

 

 

 

 

『誰だッ!』

 

「む」

 

 

 

二階の寝室が揃う部屋から聞こえる怒声、それは最早聴き慣れた黒の剣士のもの。

 

そして、階段からドタドタと聴こえる激しい足音。

 

 

よもや、夜も更けて、のんびり食っている彼くらいしか一階にいないような時間に、こんな駆け下りてくるなど極々珍しいもの。

 

自慢の集中力を利用し、兜の奥から覗くシンダーの眼球が、一階に降り、彼など眼中にないかのようにそのまま走り抜けていく『人物』を、たしかに捉えた。

 

 

かの『鷹の目』から学んだ弓の射手の眼光は、全身に姿を隠すフードを纏っているため、完全に暴くとまではいかないが、誘惑の色気を孕んだ赤髪の女性であることをいとも容易く看破する。

 

その人物のカーソルは、緑。

 

表情も、なかなかどうしてニヒルな笑み。

 

 

なんともその風貌、もとい第一印象のすべてが、少女やディアベルから聞いた『ロザリア』の情報と合致する。

 

 

何故ここまで来たのか、そこまではわからない。

 

だが、その笑みの理由は、シンダーの長年の経験から即座に判断されていた。

 

 

アレは、なにか悪どい事を企んでいる時の小悪党がよく浮かべるものだ。

 

しかし、その表情に油断が垣間見えるところからは、どうやらその格はパッチには数段劣るようだが。

 

 

 

あの敵を追い、そして殺害すれば、罰を与えられるのかも知れない。

 

 

 

...果たして。

 

彼女を殺してしまえば、全てが丸く収まるのだろうか。

 

自身が罰を与えようなど、それ故に命を奪おうなど、傲慢ではないのか。

 

 

 

『生まれ変わりの母』の為に全てを尽くした男、レオナール。

 

彼の最後の嘆き。

 

そして、彼の懐の中で静かに燃える、『母』のソウル。

 

結局は何にも使う気にならなかったソレは、狂気的な母性と温もりを持って、シンダーの過去の考えを、この時改めへと導こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトと少女...シリカが向かう先は、47層の花園。

 

そこの最奥に、少女の友を救う為の『慈愛』がある。

 

多種多様な花が舞い散り、目を極楽への世界に誘うその場は、正に幻想の世界。

 

森の美しさが『陰』とするならば、ここはその通りの『陽』としての美しさが視界と言う名のキャンパスを、色鮮やかに塗り切られた場所だ。

 

 

「えっと、あの...し、シンダーさん!よ、よろしくお願いします!」

 

「ああ、宜しく頼む。貴公の友の助けに間に合わなかった借り、ここで返上させてもらう覚悟だ」

 

「いえ...でも、キリトさんにシンダーさん、二人がいればきっと大丈夫です!」

 

 

少々暗くなった表情から、空元気の如く太陽のように眩しく笑うシリカの存在は、シンダーにとって、消えかけた灰に灯す小さな、しかししっかりとした種火のように輝かしかった。

 

 

 

 

 

「シンダー!そっちを頼む!」

 

 

 

ここの辺りの敵は、花に化けた、頭からかぶりついてくる気色の悪いナメクジがデカブツになったかのようなグロテスクな怪物達が主。

 

その触手を一刀両断、そのまま懐へと潜り込み刺突を与えたキリト。

 

しかし、敵は一匹だけではない。

 

二匹、三匹、四匹...数え切れぬほどの敵に囲まれているのだ。

 

 

「了解した!シリカ嬢は安全地帯に!」

 

「は、はい!」

 

 

手にした鬼切、そして姥断。

 

その真髄はただ早く切る事だけではなく、舞い踊るかのように空中を駆け、奇襲の如く敵の首を引き裂くことにある。

 

だが、この場面では、この武器から学び扱う行動はソレではない。

 

 

敵から放たれる触手の威力を殺し、それを足場に、剣から学んだ確かな空中移動を利用して怪物の頭部へと辿り着き。

 

 

「シッ!」

 

 

顔面を何十にも乱舞として切り裂き、手早く敵の命を刈り取る事。

 

敵が形を無くして砕け散る前に、そのぬめりのある嫌な『地面』を蹴って、更なる敵に縋り付き、同じように嵐の如く裂きまくる。

 

 

今のキリトが一太刀で敵を討ち取る強者ならば、彼は敵を撹乱し、確実に死角から殺しにかかる外道の暗殺者だ。

 

 

 

しかし、そんな彼でも。

 

 

「きゃあああああ!?!?見ないでくださいぃぃ!!?」

 

「ごめんっ!出来るだけ見ないようにするから!」

 

 

まさかキリトの渡した強靭な装備のせいで、逆さまに触手で釣り上げられたシリカの下着が見えてしまう状況となり。

 

 

「...見ました?」

 

「見てない...見てない」

 

 

きっと見てしまったのだろう、キリトが顔を手で隠しながらも震えた声で言っている姿、その光景は予想だにしないものだった。

 

余談だが、その事件が起こったのはシンダーが敵の頭部を切り刻みながら渡り歩いている最中であり、彼がシリカの『ソレ』を見ることはなかった...つまり。

 

 

言い方は悪いが...『役得』の恩恵を得られたのは、キリトだけだったということである。

 

 

 

 

まぁ、もっとも。

 

 

 

——この先に、きっと奴等はいるだろう。

 

私はどうすればいいのか。

 

殺すことが正しいのか、やってきた通りに。

 

それとも...

 

 

 

彼には『情事』に視点を向けられるほどの余裕が無かったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の予感は当たり前のように的中した。

シリカの友を救える雫、それを得た帰り道に、奴等は当たり前のように待ち伏せていたのだ。

 

付近の木々から、隠れていた彼女の仲間であろう男達が湧き出てくるのをみて、かつての亡者地獄を思い出しつつ辟易するシンダー。

 

シリカを庇ったキリトは語る、彼女自身が、『裏技』を通して自身のみ緑カーソルを維持している悪徳ギルドのリーダーだと言うことに。

 

そして、彼は宣言した。

 

このギルドの者達を投獄する事が、彼がかつてに受けた依頼の一つなのだ、と。

 

 

 

さて、キリト、シリカ、そしてシンダーの前に立ち塞がる数人の男と、主格の女は逃してくれる気もないようで。

 

数で押せばいい、そして緑カーソルの者が、この世界の人々に『一定環境の外』以外でダメージを与えれば即刻橙化する、それを普通ならば恐れるであろうことを見越した、たしかに『良い手』なのだろう。

 

 

「さっさとレアアイテムをよこすかそれとも死ね!」

 

 

実に分かりやすい言葉である。

 

勝ち目が見えている者の余裕、それがきっと、これを叫ぶ男の心に優位性を与えているのだろう。

 

彼等が、この美しい花園のキャンパスにこびりつく事は、最早違和感などではない、不快でしか無いのだ。

 

 

颯爽と何人かに分かれ、キリトに雪崩れ込み切り掛かる男達だったが。

 

 

切れども、切れども、黒の剣士に直撃どころか掠ることすら無い。

 

 

彼自身のHPを犠牲に強烈なDPSを叩き出すそのスタイルは曲がる事なく、その上でシンダーから学んだ『相手の攻撃を利用する』動きを完璧に学び、多人数の攻撃であろうと、いとも容易く合間を縫って躱し、弾き、同士討ちさえも思うがまま。

 

 

キリトへのダメージは0であるにも関わらず、同士討ちのみでの愚かな消耗戦は、全員平均がHP黄色の域になるまで続いた。

 

哀れな事だ、レベル差もあるだろうが、徹底的に『学ぶ』天才と、外道に落ちただけで『学ばない』人間では、格が違う。

 

 

彼等大人が、外道のみでなく、そもそもの鍛錬があればきっと他の手段を講じれただろうに。

 

子供ではなく、既にかの黒の剣士は、この世界の戦いにおいては、ほぼ全ての構えが一流であったのだ。

 

ただの略奪者では、手も出せない程に。

 

 

 

 

これでは拉致があかないと判断した短剣を持つある一人が、狙いを変え、今はシリカを守るシンダーへと刃を向ける。

 

確かに、見た目では落ちぶれた騎士程度にしか見えない姿だ。

 

汚らしい姿は、情けなく逃げ延びた弱者とすら思わせるかも知れない。

 

しかしシンダー、もとい『不死人の末路』の技量や経験が、それを否定する。

 

英断だと思えば、彼を狙った行動は『蛮勇』でしかなかったのだ。

 

 

 

 

「なぁ、シリカ嬢...こっちを見るな、キリトの方を見続けろ」

 

「絶対、絶対にだ」

 

 

 

 

その言葉を反射的に受け取り、彼女が目を逸らした瞬間、無理矢理筋肉を引き千切ったかのような、生々しい両断の音が、空間に響き渡った。

 

 

 

血は、無い。

 

だが、草むらの中へと静かに落ちていったのは、果たしてシンダーに襲いかかった男の、武器を持つ方の手首から先。

 

 

「あ...?」

 

「なっ...」

 

 

 

茫然自失となるのも仕方ないだろう、突如としてシンダーの手に『大振りの何か』が握られたと思った瞬間、自身の利き手首から先の感覚が無くなったのだから。

 

別の場所で戦っていたキリトですら、その行動に目を奪われた。

 

それは、余りにも早く、余りにも残虐な一太刀で、綺麗に両断されたのではなく、『砕き、折り、言葉の通り引き千切る』打撃に近い一撃。

 

 

どこまでも因果と言うべきか、彼の手に握られていた武器の名は、『処刑人の大剣』であった。

 

そして、今までにこの時代で誰にも見せた事がない、『闇』の側面。

 

 

 

「な...あ、あんた...そんな事すりゃ、オレンジになるのをわかって...」

 

 

 

あまりにも手慣れ過ぎた一撃に言い淀み、心から恐れた。

 

そんな彼女を、この時だけは誰も否定しないだろう。

 

 

「だからどうした?」

 

「略奪に来ているのだ、まさか『死ぬ覚悟』も無いとは言うまい?」

 

 

あまりにも当たり前のように、サラリと言ってのけるシンダーの目は、『灰』の時よりも更に冷たい。

 

それで射抜かれれば、一瞬にも心の臓を凍てつかれそうな程に。

 

 

 

「...!」

 

 

 

——歯向かえば、そこできっと『殺される』。

 

そう思わせるだけの強烈な威圧感があった。

 

その上で、彼女のことを『敵』でもない、ただの『被処刑者』としか見ていない恐ろしさ。

 

それは、射られている彼女にしか理解できず、また、理解する事すら悍ましいモノ。

 

 

心の剣が折れる音が、彼女の内側で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諸悪の女性を殺さなかったことが、果たして正しかったのだろうか。

 

牢獄に送られていく彼女らを見ながらも、かつてのことを自答する。

 

答えがわからない、聞く事すらもできない、幼子のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わった後の花園で、右から順にシリカ、キリト、シンダー。

 

その三人が座り込み、一段落したのちの話し合いをしている。

 

美しい世界で、やはりシンダーの姿は明らかなる異端であった。

 

 

 

「なぁ、シンダー」

 

「なんだ?」

 

 

 

転移結晶で送ったのがシンダーであった為に、まだ緑のカーソルのままであるキリトが、少し言いづらそうな顔でこぼしていく。

 

 

 

「転移結晶で送る事をアンタが請け負った事も、そして、敵対したあの男の腕を切ったのも、全て早く終わらせるだったんじゃないか?ロザリアを『恐れさせる為』に...」

 

 

 

対するシンダーは、無言。

 

 

 

「そして、シリカにその光景を見せようとしなかったのも、彼女の為を思ってのこと...俺がオレンジになる事も庇ったんじゃないかって、少し思ったんだ」

 

「さてな」

 

 

 

答える気はないようで、そっぽを向いた先にはたまたまシリカ。

 

気まずそうな笑みを作る彼女であったが、それでも健気に、少々暗めのシンダーへと笑いかけた。

 

だが、その笑顔は無理矢理作ったものではなく、想像した何かが面白くてつい笑ってしまっているような。

 

そんな雰囲気のもの。

 

 

「えっと、シンダーさん」

 

「...どうした、シリカ嬢」

 

「あの...ですね」

 

 

 

 

「私達の為に頑張ってくれて、キリトさんがオレンジプレイヤーになることを庇ってくれてありがとうございます...なんだけど...なんだか、ちょっとシンダーさんが、お父さんみたいに思えちゃって...それも、ちょっと頑固そうな」

 

 

 

 

重苦しい雰囲気が、吹き飛んだ。

 

 

 

「...シリカ嬢?」

 

「えっ、いやその悪く思ったなら謝ります!ごめんなさい!」

 

「いや、そうではなくてだな...」

 

 

 

キョトンとしたのちに、なんとも言えない面持ちを仮面の下に浮かべつつ抗議にならない抗議を行おうとするシンダーだったが、ふとキリトの方を見ていれば、思い切り吹き出しているではないか。

 

 

 

「うっ...くっ...シンダーが父さんって...」

 

「キリト...何を笑っているのだ」

 

「だってさ...っははは...駄目だ、我慢できないって...」

 

 

 

なんだか無性に苛立たしい、それは先程の戦いに感じた負の感情ではなく、どこかこそばゆいような。

 

一仕事終えたのに、何か微妙な気分で終える1日。

 

 

 

彼の内で、『過去の記憶』、その痛みは和らげられたとは言え、忘れることは断じてない。

 

きっとそれを受け入れ、共に歩める日まで、ずっと彼は苦しむに違いない。

 

 

だが、今の少々の談話の幸せに甘んじるくらい、構わないではないか。

 

どこか、花畑の中で不貞腐れるシンダーの姿は、先程までは全く馴染んでいなかったのにも関わらず、美しい花びら達が受け入れ、三人共に一つの絵として彩られた光景となっていた。

 

 

享受できた人としての喜びを感じつつ。

 

かつて自身が『生まれ変わりの母』、そして理解者達に行った行為を今なお振り返る事になりながら。

 

この時代で、きっと無垢であった『灰』は変わるのだろう。

 

 

 

その火の無い燭台に、真なる『暗い魂』が灯らぬことを願うばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 








なんとなく、不死が『死ねる』ことは、ゲールマンおじいちゃんのように救いなのかどうか、ってことがよくわからなくなったりします。

その過程がどうあろうと、永久に縛られる地獄から抜けられるならば、本当に幸せなのでしょうか...それは、史実で、『死』というものから、デスゲームを脱したサチも。

昨日ゲールマンおじいちゃんとやりあったのですが、そのBGMの悲しいこと、そして覚醒からの歌詞は、おじいちゃんの独白を綴るモノ、聴いておじいちゃんを殺すまでの瞬間、その歌詞を知った時、涙が止まりませんでした...これが、あの人への最大の恩返しだったのでしょうか....



さて、サチといえばあれです、人形ちゃんと同じくマリア様とも同じCVでしたね。


27階層で宝箱を開ける前に突然サチが不死人や狩人、悪魔狩り特有の異次元の懐から出した落葉をガチャンしながら


「アイテム禁止エリア漁りとは感心しないな」

「だが、分かるよ。宝箱の中身の秘密(罠や貪欲者的な意味で)は、甘いものだ」

「だからこそ、恐ろしい仕掛けや罠が必要なのさ」

「愚かな好奇を、忘れるようなね」


なんて言い出して皆を(命ごと)止めにかかる...無いな、没。

訳がわからん。


【この先、嘘つきがあるぞ】


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夢現

お気に入り数もUAも評価もすげえ!私の作品とは到底おもえねえ!な作者です。

二週目レベル150にしたらDLCのマリア様とかゴースのお子さんとかあっさり倒せて笑った、トゥメルイルまでの悪名高き燃えるワンちゃんとアメンさん、フンフンおじさんに比べれば可愛いもの(マリア様は言うまでもなく可愛い、内臓攻撃の優しさも可愛い)でしたとも。

マリア様に分身とかを与えてたらもしかしてサリヴァーン・改になってたのだろうか、考えるだけでおぞましい。

そしてメルゴーの乳母さんに火力を与えてもサリヴァーン・改になりそう。

そもそもサリヴァーンさんがクヴィンドリンたんを喰わせた(意味深)という汚い手を使った割に氷の魔術をポイ捨てしたインファイターということで無駄に強いのがなんとも。


あとはヤーナムの夜明けを見ればプラチナトロフィー、お絵描きも小説もしたいし走り抜けたいところ、止まるんじゃねぇぞ...

でも聖杯で自分が手助けになれるのが嬉しくて鐘を鳴らすのがやめられない止まらない、アメン君番犬君、首を洗って待っていろ!(ホストが死亡するのを静観しながら)



この話の展開は早いかもしれませんが、灰の人特有の武具厨精神とかだったら、『防具だけ壊れた』なーんて真実にすぐ辿り着きそうな気がするんです。

一応シンダーさんは万能型なステータスなのですが、しっかり理力も振ってあるので、人並み外れたキチガイ脳の持ち主みたいなもんですし...

でも天然じみた抜けてるところがあったりする、この物語のダクソ主人公としての彼だからこそ、無敵や無双、最強には絶対に至らないジレンマ。

そっちの方が可愛げがあったりして私は好きです(迫真)


あとは...SAO知らない人には『は?』ってなるところもあるかも...?

非力な私を許してくれ


【この先、幻影に注意しろ
そして、装備破壊の予感...】






 

 

 

 

日々は、余りにも暖かい。

 

確かに多少なりとも血に塗れているであろう、埃臭いところもあるだろうが、誰かと共に『生きている』、そんな感触を少しでも味わえる。

 

それが、どれだけ彼にとっては眩しく、そして尊いものであったか。

 

 

戦いが始まれば、どちらかが死ぬまで永遠に続くというのに、このような平穏を享受することが、果たして許されるのだろうか...?

 

 

 

 

 

 

太陽の光が燦々と照る街、その郊外で『あの』見た目で温もりを謳歌する彼。

 

それは、まるで燃える炎を燻らせた灰のようで、何故か微笑ましさすら感じる。

 

 

さて、現在彼は、フリーランスといってもいい立場の強者だ。

 

戦いに誘われれば、基本誰の為であろうと少々の賃金で請け合い、もしくは無償で。

 

その名もそこそこに売れ、その上で、対レイドボスの時ならば『気持ちどころかほとんどがナイト』になっている男のギルドから直々の依頼や、腕試しとばかりにキリトに誘われたりした時など、戦歴も多岐に渡りつつ、成功率も凄まじい。

 

ただ倒せ、というだけならば、彼の真価としては尚更だ。

 

しかしこんな生活を数ヶ月続けていたものだから、不明瞭であった『青の騎士』としての形は『シンダー』という一人の人物へと一転し、悲しいかな、依頼までして口止めをしたのにも関わらず、『いくつものスキルを使いこなすオールラウンダー』という称号の傭兵として名を与えられてしまった。

 

やはりこの灰、無駄に人ができているからか、どこか抜けている...

 

恐ろしい冷徹さで敵を仕留め、確実に成功へと漕ぎ着ける、なんて言われた『青の騎士』の本性は、どこでも寝れるタマネギ騎士のように穏やかなものなのである。

 

そんなうとうととした中、彼は見る。

 

 

かつての夢を。

 

遠い昔、近い昔。

 

彼を『想ってくれた』者達の残滓を。

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿弟子が...全く、もう教えることもないというに、まだ私に用があるのか?...ふふ、妙な奴だな、お前は』

 

 

忌々しくも懐かしいロードラン生活で出逢った、呪術の師であるローブの女性、イザリスのクラーナ。

 

全て必要なことを学んだ後も無理を言って引き止め、結局は、火継ぎの糧となるその時まで、呪術の事で語り合った事は今でもなお記憶に新しい。

 

罵りながらも、彼女の言葉は優しく、かつシンダーの為を『想って』いたのだろう。

 

 

『なぁ...これが最後なのだろうな、きっと語るのは』

 

『お前はずっと、ずっと妙な奴だったよ...褒めているのさ』

 

『お前という弟子は...きっと、『アイツ』にも勝るとも劣らないだろうさ』

 

『だから、行ってくるといい』

 

 

『...ああ、きっとお前にはどうでもいいことだろうが、教えられることもない、せめてもの餞別として聞いていけ』

 

『お前と会えて、本当に私は幸せだったよ』

 

『一師としても、また呪術を語らう友としても...『私』としても...最期までお前の事は忘れない』

 

『想いが果てる事は、無いだろうさ』

 

 

別れる時に見送ってくれた微笑みは、『逃走しようとしていた』彼にとっては、痛みを大いに伴うものであった、が。

 

それを忘れる事は、決して無いだろう。

 

 

 

——とても、とても強い人だった。

 

彼女の名を、ロスリックの書物で見た時には驚きと同時に、彼女を裏切った末路なのではないか、と涙したりもした。

 

それでも、彼女はずっと、私の呪術の礎となってくれた師。

 

 

 

 

 

 

 

もう一人、瞼の裏で妖しい笑みを浮かべた人は、罪の都で囚われていた黒衣の女性、カルラ。

 

 

 

『貴公が、かのイザリスの魔女、クラーナの『もう一人の弟子』本人だと?面白い事を言うものだな...』

 

 

 

自身を忌み子と呼びながらも、教えられた『闇』の呪術は扱いが難しく、かつ有能なもので有り、それを使いこなす事が『人の闇を屈する』事なのではないか。

 

そんなことを語り明かしたことも、つい最近の出来事のようで。

 

それは、『初めての師」に抱いた想いに近かっただろうか。

 

 

 

『元々、貴公は様々な見たこともない呪術を操っていたが...もはや、貴公ほどに魔術、呪術、奇跡を収めたものなど、誰もいるまいよ』

 

『馬鹿弟子がここまでも理を極めるとは、罪の都で出逢った時には思わなかったよ...正直な』

 

 

『ふ...仕返しだよ、時折二人きりで聖書を読ませようとしてくる仕打ちのね』

 

 

『別れまで、ずっと貴公はそうだったな...全く、惚けているのか、それとも本性なのか最期まで判別がつかなかったよ』

 

『だが...そういう貴公のところが、私は好きだったよ』

 

『愛しい程に、な』

 

 

 

夢現に見える美しくも、あまりに儚い笑み。

 

して、忌まれた呪術を操る彼女に、全くの偏見を持たず従者とした彼は、その世界ではあまりに『異常』だったのだろう。

 

 

 

そんな彼女達が、今のシンダーの自堕落な姿を見たらどう思うだろう。

 

苦笑するか、叱咤されるか、それとも...

 

 

——元来彼は殺し殺される気質ではない、故にこのような生き方こそ、『シンダー』にとっては至福なのだ。

 

 

きっと、今現在のような平穏が続いていたのなら、静かに一生を過ごしていたような。

 

 

だが、平穏は続かないのが世の定め。

 

いつの日も、忌むべきソレは唐突にやってくる。

 

 

彼をそこに誘ったのは、眠れる姫ならぬ騎士を呼び起こす音と共に伝えられた、一つのメッセージ。

 

 

 

「...事件...?」

 

 

 

呼び出しの相手はキリト、そしてその内容は。

 

よくわからないが、人がダメージを受けない場所で、何故か死人が出た、というものであった。

 

知識が欲しい故、彼の手...否、頭を貸して欲しい、という事らしいが。

 

 

はて、と首を傾げるシンダー。

 

 

——ダメージがないなら、人が死ぬなんて事有り得ないのではないのか?

 

 

誰もが思いそうなことを、当たり前のように寝惚けた頭で考える。

 

さて、本当にこの一件に対して、彼の『理力』は有効打となってくれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

さて、シンダーの未だにうとうとした思考が麻痺をしている最中に 呼び出された時、それは、果たして『フードを被った女性』が逃げ果せた後。

 

 

夜もそろそろ更け、街明かりも輝きを見せる頃、いくつか並ぶ街中のベンチの一つで、仲睦まじく肩を並べて座り、美味しそうにサンドイッチを食べている白と黒。

 

これを見た時、大層シンダーは驚いたそうな。

 

 

 

——貴公、前にあの少女といい雰囲気だろう、と思っていたら...

 

なんとも豪胆というか、人泣かせというか...

 

...黙っているくらいはした方がいいのだろうか?

 

 

 

彼自身も、『美女や美少女』に出逢ったことはあり、語らったこともあり、闇霊化して襲いかかられ、逆に白や青となって守りに来てくれたことも、などなど、とやかくキリトに言えるような立場でもないのだが。

 

 

 

 

 

 

さて、本題に入るとしようか。

 

ことの事件の大筋は話される事はなく、(完全な部外者なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが)二人から『鎧を着た男性と、普通に服を着た女性が死なないエリアでしっかり破片を残して死んだ』という矛盾した疑問点のみ口頭で改めて伝えられる。

 

大体の事情をキリトからおさらいとばかりに聞き、疑問点とも言える『死なない場所で死んだ』という一件について三人で知識を共有する中で、これまた一つの驚くことに気付くシンダー。

 

 

 

「...貴公が、一層の卓越した細剣の技術を持つ、マントを着た人物その人であったか...」

 

「おひさしぶり...になるんですかね?貴方は、あのボスの攻撃からディアベルさんを守った人ですね」

 

 

「私は、アスナといいます...この事件を手伝ってもらえると聞きました、ご協力、ありがとうございます」

 

「私でやれることならば、いくらでも力を貸そう」

 

 

 

丁寧な挨拶が終わったところで、また再度悩み出す三人。

 

このまま延々と続くかもしれない、そんな数分、もしくは数十分。

 

 

ずっと二人寄り添いベンチに座る少年少女、その横にはあからさまに怪しい見た目の鎧の男。

 

明らかに似合わぬ男が、ふとしたように言葉を零した。

 

 

 

「なぁ、キリト、そしてアスナ嬢」

 

「ん?」

 

「なんでしょう?」

 

 

 

何も知らない観点から見た言葉。

 

無知は罪である、しかしあらゆる観点から見つめ、その知識を『知る』者に送るならば、それは『三本の矢』の一員となる価値を持つ。

 

 

 

「その死なない場所では、人はダメージを受けないのだったな?」

 

「あぁ...それがどうしたんだ?」

 

 

「話によれば、その装飾の槍が、男の腹を貫いていたようだが...」

 

 

 

武器、防具に関してはことさら現実味のあり、かつ生々しく知る彼だからこそ、一目で気付く違和感。

 

 

 

「人は死なねば破片となって砕けない、なのに確かに砕けた、と」

 

 

「死なない場でも物は壊れるのだから、『それが砕けた』、とでも思わなければ辻褄が合わないのだが...私が、この時代の知識に至らぬ故だろうか」

 

 

「例えばその槍で、鎧が壊れたのだとしたら...所詮戯言のような妄想だが」

 

 

 

 

(この時代...?)

 

 

一瞬、シンダーの呟きの一つに異質な言葉を見つけ、眉間に皺を寄せるアスナ。

 

時代も何も、今は今でしかないのでは。

 

そんな風に思う彼女の思考は正しい。

 

 

しかし、今現状考えるべき事はソレではないのだ。

 

 

「人じゃなくて、別のものが『死んだ』...いや、壊れた...?」

 

 

何かに少しずつ目覚めていくかのように、そして言葉の奔流を一本にまとめていく作業をこなしていくキリトの苦悩の声は、次第に明るいものへと変わってゆく。

 

 

「む?」

 

「キリト君?」

 

 

 

勝ち誇る笑みを浮かべ、彼の手にぐっと握られる強気な拳。

 

 

 

 

「アスナ、シンダー...わかったかもしれない、この事件の謎が」

 

「そうか...死んだ、じゃなくて壊れた、か...なんだ、こんなことなんで気付かなかったんだ...死ぬことを制限される場で、『死んだ』なんてデュエルででも無い限り、起こるわけないじゃないか」

 

 

「...よくわからんが、多少は力になれたようだな?」

 

 

腕組みをし、はてと呟きつつ問われるも、余裕綽々とばかりに親指を立て、グッドなポーズ。

 

 

「多少なんてもんじゃない!助かったぜ!」

 

「そうか」

 

 

『何を抜かしてるんだ』なんて反応を食らわずホッとするシンダーであったが。

 

しかし、彼の心の奥底では、何か『妙』なものが渦巻いていた。

 

 

 

——確かにこれで私の役目は果たした。

 

だが...嫌な予感がする、それもかなりの良からぬモノのような。

 

 

しばらくして、彼等と別れた後も、その違和感は拭えることなく。

 

ふと、先程の記憶を辿れば思い当たるところが一つ。

 

 

『19層』、アスナがキリトに告げていた、問題の解決場。

 

 

宿屋で、安眠を貪ろうにも違和感のまま眠れるほど、かの太陽の騎士のように豪放磊落な男ではない。

 

むしろ不安の全てを潰そうとする方であるシンダーは、彼曰く『凄まじい技術の塊でできたエレベーター』である転移門へと歩みを進めていた。

 

 

自身の勘に赴くままに、ある武器を携えながら。

 

それは、深淵に対峙し、その剣を向けた原初の騎士が携えた武器。

 

 

今の彼の内に潜む勘が反応する『深淵』に対してとも言える現在、それはあまりにも因縁と言える剣であった。

 

 

 

 

 

 







描写を重くしすぎると見ていて疲れるし、軽くしすぎると印象が残らなくて物足りない、難しい!


今回の前半は私の女の子に対しての性癖が露呈しましたね...

デモンズならユーリアさん、ダクソ1ならしっしょー、3ならカルラちゃん、ブラボならマリア様。 とアデラインちゃん日本語ver.(小声)

創作も年甲斐もなくやってたりするのですが、絵柄もキャラも性格も、そんな風に近くなるのが困りモノ。


でも好き、愛してるんだ君達を(cv主任&ヴァルトールニキ)

さてはて、次回は墓場、不安な匂いが漂う中、キリトくんとアスナさんが求めている『真実』は近づきます。

しかしそこに忍び寄る『存在』は、とても恐ろしいモノのようです...


??????『真実それが何ものかなど、決して知りたくはなかったのだよ...
ヒイッ、ヒイッヒイッヒイッ…』


【この先、不意打ちがあるぞ
そして、呪い...】


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真実

カルラさんちゃん慰みものにされてた説、ありゃどうなのか。

どちらにせよ私は彼女が堪らなく好きだよ。

いやぁ、ご愛好本当にありがとうございます皆様、今回は、『この物語』のキリト君が、はじまりで既に病みを見せていたのか、その『真実』を。

そして、『灰として、不死人であったころの』シンダーの一片の『真実』が、この話に出てくることでしょう。


【卑怯者の予感...
立ち止まるな!】






 

 

 

深夜の時間帯、19層には一寸先すらも透視し難い、濃い霧が立ち込める。

 

一帯は墓場、墓場、墓場...深みの聖堂外の墓場地帯を彷彿とさせるその場に巣食う敵達も、骸骨戦士といったものが多々。

 

聖堂やカーサスの地下墓に住み着く二刀や大剣の墓守達とは、その骸骨戦士の技量が圧倒的に違い、比べ物にならないほど戦いやすくもあるが、何分数の多さが厄介だ。

 

しかし、その場に立ち込める暗い悪『霧』が晴れた時。

 

そこに待つものは、きっと美しい平等な太陽の輝きなのだろう...

 

 

 

 

 

シンダーが19層に辿り着いたのは、キリト、アスナが『真実』の一片に直面する少し前、そこへと向かって歩みを進めている時だ。

 

普通ならば杞憂と切り捨ててもいい今回の件。

 

それ程の技術と強さを二人は兼ね備えているのだから。

 

 

だが、生憎と今日は『普通』ではない。

 

悍ましい何か、それも、この霧中の平穏で一際異彩に感じる、狂った殺気。

 

 

面としてなくても感じられる五感と六感の鋭さは、本当の戦いをもがく程に経た彼だからこそなのだが。

 

慣れている彼の中ですら、ここまでに狂気を孕んだ存在は有数であり。

 

 

更にシンダーの足運びは俊足に、しかし足取りは重く。

 

彼も知っていた、否、知識としては知らなくとも、『不死人』の枠を外れた温情を持つ彼の本能が知っていた。

 

 

もし、その時が来れば『殺さねば』、他の者達が死ぬ。

 

それは、記憶も残らないかつての最果て、あったのかどうかも定かではない夢の奥地に見た、どこかの神殿で、数々の人を切り殺したショーテル使いの暗殺者のように。

 

少しずつ、少しずつ。

 

 

恐れるのは自身の身ではなく、キリトやアスナ、シリカ、ディアベルといった友人達が、そんな者達の手によって無念の死を遂げること。

 

それだけが、『光』を得た、得てしまった為に臆病となった彼にとって最も恐ろしかったのだ。

 

 

亡者を、獣を、神を、そして悪魔を屠りて末路を憂う。

 

それこそ、彼の方が狂気の怪物であろう、と。

 

 

しかし、彼は怪物にはなりきれない、望まずして生まれた忌みの英雄なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、事の本末、真実の一片を知った黒の剣士は対峙する。

 

目的の人では断じてない。

 

 

『あるもの』を巡っておきてしまった、人のサガともいえる、醜く、そして悲しい事件に関わる人物達でもなく。

 

 

重々しい一撃を手慣れた剣捌きでいなし、弾き飛ばすと、そのまま無防備な状態で惚けた、『要人の二人』を背へとし、暗闇の夢中であるにもかかわらず、先を見据えて剣を構える。

 

そして、その隣には『閃光』の名を持つ茶髪の少女、アスナ。

 

 

彼等は強い。

 

そして、史実とは違えどキリトの『黒の剣士』としての名は、基本ソロ、時々パーティもできる屈指の強者としての名となり、敵対するならば名に違わず恐れるはずだ。

 

勝ち目の薄い殺害を、『奴等』は好まない筈。

 

 

「ラフィン・コフィン...!」

 

 

戦気を強烈に強めるキリト。

 

殺気をぶつけられて平然とするような気狂いでは断じてない、純粋な好青年である故に、絶対に守ろうとする姿勢。

 

 

どこまでも清々しく、澄んでいる剣捌き。

 

 

このまま、きっと黒の剣士と、閃光の少女に引くだろうと思われるこの展開で。

 

 

 

「来ると思ってたぜ...久し振りだな、オイ...」

 

 

 

 

キリトに先制の一撃を弾かれた男が、サッと霧の内側へと紛れ込んだのと共に。

 

 

奴は、現れた。

 

後のラフィン・コフィンの大騒動の、そしてこの組織の全ての元凶。

 

 

表情がほとんど読めない紺色のフードを見に纏い、膝上までの丈のポンチョを着た、頰に傷のある背高の男。

 

黒手袋に覆われる手には、まるで鉈のような『剣』。

 

 

その武器の本質を。

 

そして、それを振るう男の正体を、キリトは知っている。

 

目を見開き、剣の切っ先を震わせ、理解してなお寒気のする存在。

 

「PoH...!?」

 

「初めて会ったのはいつだったかなぁ...随分と名を上げたもんじゃねぇかよ?ええ?黒の剣士さんよぉ」

 

 

「キリト君、この人の事を知ってるの!?」

 

 

その男から放たれる異様なオーラに守勢の構えを取りつつ、キリトへと問い掛けをする。

 

苦渋に塗れた面持ちで答えるキリトの胸の内は、さまざまなドス黒いものが渦を巻いていた。

 

 

「...こいつは...レッドギルド『ラフィン・コフィン』のリーダーその人だ...!」

 

「!?な、なんでそんな人間がこんなところに...」

 

 

 

本当に、本当に嬉しそうに彼の驚愕に歪む顔を見て喜びの表情を見せる、PoHと呼ばれたフードの男。

 

彼の頭部に位置するアイコンの色は、『オレンジ』。

 

 

 

「いやぁ、探したぜ...お前が出張って来たって聞いて、きっと此処に来るって予想した俺は間違っちゃいなかったよ...」

 

「まぁ、来なきゃこんなチンケな殺人依頼なんて俺が来る価値も無かったんだがな」

 

 

 

そこにあるのは狂気というのにも生温い、壊れた人格者のあるがままの姿。

 

そう、シンダーの勘が騒々しく警笛を鳴らしていた存在は、『この男』だったのだ。

 

だが、今回の『感動の再会』の意味は、ただの面合わせに留まらない。

 

彼に震えを生じた意味は、また別の場所にある。

 

それは、『史実』にない、『暗い魂』の物語が邂逅するパラレルワールドとして書き換えられる際に、歪みとして生じてしまった、はじまりの街での痛々しい記憶。

 

死、死、死、その最中に見た、そして、そうなりたくないと少年として、人としてあるべき恐れにより起こしてしまった、悪魔の世界の破片の現れ。

 

 

 

 

「いやぁ、お前ならそうするって分かっててもなぁ、やっぱりいざ目にしてみるとお前もイカれてるよなぁ」

 

「性懲りも無く素直に人助けってかぁ?お笑いだぜ、一層で既に人を殺してるってのに今度は人を守る為だって?」

 

 

 

「お前も俺達と同じで、所詮PKをする『殺人者』に過ぎないってのになぁ!」

 

 

 

 

 

 

その欠片はいつか、普通の果物の内側に、腐敗した果物を潜ませておけば全てが腐ってしまうかのように。

 

純粋で真っ直ぐな好青年を、心というものの内部から汚染する。

 

 

これが、キリトが一層の焚き火で当たっていた時に疲れ切った顔をしていた真の理由。

 

 

 

『史実』で殺人ギルド『ラフィン・コフィン』の殲滅作戦が起こり、はじめての殺人を起こすよりも何ヶ月も前から、彼はその狂気に苛まれ続けてきたのだ。

 

『史実』よりも強く、そして更に注意深い。

 

そして、誰かを守る為の強さを求める。

 

自らのスタイルを歪めてまで強さを求めた彼は、ただ強くあるためにそうしたのか?

 

 

否、しかしその理由は...あまりに酷い、真実の過去であった。

 

 

「キリト君が...人を殺した?」

 

 

 

 

あまりに予想外のことを言われ、困惑するアスナの気持ちも当たり前。

 

傍目、そして関わった者は更に、彼の本質が善に連なるということを理解できる筈。

 

そんな彼が殺人などと、あまりに奇想天外な妄言のレベル。

 

優しく、そして強く、彼女自身に気軽な雰囲気で接してくれたキリトを信頼していた彼女の頭の中は、今世紀最大といっても過言ではない混乱に達していた。

 

 

「あ、あんたも人殺しなのか...」

 

 

怯え竦んでいた守られる側の存在も、その相手が敵ならば恐れるのもまた当然。

 

一度死ねばそれっきり、騙して悪いがで許されるようなものではない。

 

遊戯であるが、一歩外れれば死の遊戯なのだ。

 

終わりを前にして、もう何も信じられない男の目は、すっかり曇ってしまっていた。

 

 

 

「違う!俺はアイツとは...!人殺しなんかじゃない!」

 

 

 

悩み、なんとか押し留めた蓋を、PoHが最悪の形で引き剥がす。

 

痛みよりも、苦しみの方がきっと大きいに違いない。

 

 

自身を悔い、嘆きもがく今のキリトの姿は、大きな隙。

 

 

 

 

 

 

今の状況で動かないほど、彼と出会えて最高の喜びを見せた、狂気の殺意を持ったPoHの望みが、生易しいはずもなく。

 

 

ただ、向かうべくして起こる喜びの光景を目前に、絶対に一撃が入るそのタイミング、暗霧に隠れて切りかかる。

 

 

 

 

「...な、しまっ」

 

 

 

 

ああ、彼は人として、『獣』として不純物が多過ぎたのだ。

 

歪みに震え、自身の罪悪感に囚われる...そんな良心の持ち主だからこそ、にっくき奴に気に入られてしまったのだろう。

 

 

そんな少年の言葉など続かない、さぁ惨殺の時だ。

 

 

あまりにも一瞬、閃光の少女の反応速度をもってしても助けるには至らない。

 

そして、既に刃の切っ先はキリトの首元へと吸い寄せられて——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があああああああッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

なかった。

 

確実に人ならば殺せる一撃の横から割ってきた、咆哮と共に放たれた唐突な重打。

 

 

「うぉっ...!?」

 

 

メキリ、という鈍い音と共に、悪魔のギロチンはあらぬ方向へと弾き飛ばされ、付近の木へと向かい、『もしキリトに刃が入っていれば』のIfを物語るかのように、その幹を、皮肉にも美しく両断した。

 

しかしPoHもまた、恐るべき技量の持ち主。

 

止まることない愛剣の遠心力に振り回されかけるも、そのまま地面へと、慣性を利用した一撃で食い込ませることで自身の不意の隙を極力潰す。

 

 

しかし、『横槍』は止まらない。

 

 

鉄の擦れる金属音を残して、霧の中の2m近い人影が、両手で『大剣』を持ち、なんと。

 

 

「ぐるぁぁぁぁッ!!」

 

 

獣、それも狼が獲物に食らいつくかのような凶暴な吠え声を敵対者にぶつけながら、前方へと鋭く跳躍、なんという技術か、そのまま剣を縦に、そして兜割のように振り下ろしながら回転。

 

何百と回転するわけでないとはいえ、まさにその光景は、PoHがギロチンを扱うならば、これはさながら円状に回転する鋸の如く。

 

とっさに愛剣で防御を試みるPoH、しかしその一つ一つの刃が恐ろしく重く、その上息どころか瞬く間ですら、次の刃が、獣のように食らいついてくるのだ。

 

 

「ちぃ!」

 

 

舌打ちしながら、この現状があまりにも不味いことを予想する。

 

そのうちこのままで自身が起こることは、彼にとっては芳しく無いのだ。

 

その判断を下したPoHの一手は、彼しか出来ないような『押し通し』。

 

無理矢理に筋力でごり押し、愛剣を傾け、自身の斜め後ろへといなした!

 

 

 

しかし『人影』もまたさることながら、避けられたと見るに直ぐにその回転を中断、地面を縦に引き裂きながらも強引に中断すると、一瞬霧の中にその姿を隠す。

 

それもほんの一瞬、消えたかと思えば、その中からはねとぶようにPoHの元へ、左手にある一本の短剣を突き刺さんとくらいかかる!

 

 

矢継ぎ早の乱撃にスタミナを奪われたPoH、しかしかの有名な殺人ギルドの主がこの程度で折れるならば務まりはしない。

 

確実に避け、その上で回避の勢いと共に愛剣の叩きつけを放てるように、むしろ前方へと駆け出したのだ!

 

 

彼の目論見は見事成功、短剣は深々と、相手の喉笛ではなく地面へと食らいついた。

 

 

「余計な横槍いれてんじゃねぇよ!雑魚がぁッ!!」

 

 

苛立ちと共に怒声を吐き出し、狙いの剛腕からなる振り下ろしが決まるか、そう付近の誰もが思ったその時!

 

 

霧に隠された、人影の右手の『特大』の剣が強烈な火花を立てる!

 

なんと避けられた勢いのままに、彼は全身を駒のように回転させ、その遠心力と共に特大剣で薙ぎ払いを行なったのだ!

 

 

(...!こ、コイツ...!?)

 

 

殺害、一撃の全てが致命的な強力さを持ち、かつ急所を常に狙い続け、その上に、今の短剣の一打の正体を知る。

 

 

(わざと!わざとコイツは俺に避けさせやがった!これを狙うためだけに!)

 

 

まんまと罠にはまったと知ったPoHのバックステップの速さは、しがみつくかのような俊敏さで薙ぎ払いの範囲から逃げ去るが、それでも人影が振るう狼の爪牙の猛撃は止むことなどない。

 

何度も、何度も。

 

回避された先を見越しているかのような連続の大回転。

 

 

それは、まさしく『殺す為』、それ以外の何も求めぬ程の獰猛さ。

 

その上で、どんな場面に至ろうと、機転を繰り出し、『敵対者の死』への一手へ向かう余裕すら可能にする『冷静さ』に、とてつもなく早い武器の入れ替え、そして使い熟し。

 

 

 

ようやくその嵐が一時的に止み、安全策なのだろう、離れた高い木の枝に着地するPoH。

 

だが、彼の口元は憎らしげな笑みではなく。

 

キリトに出逢った時と同じ程に、幸せと喜悦に満ちた満面の笑みを浮かべていた!

 

 

そんな彼が、目線を霧の中、揺らぐ影の中より出でる『男』へと言葉を投げかける。

 

 

 

 

 

「く...くくく...クハハハハ!本当に今日はツイてるぜ!こんな奴に出逢えるなんてリアルでも滅多にありゃあしねぇだろうよ!」

 

「まさか、まさかテメェがこんなところにお出ましになるとはなぁ!」

 

 

「ボロ雑巾な見た目だと思いきゃ、テメェの振るう剣は!」

 

 

「キリトよりも!いや、もしかすると俺よりも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人として腐った、よっぽどの人殺しだ!【青の騎士】ィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地を踏む。

 

ゆっくりと。

 

しかし、しっかりと。

 

 

 

「貴公のような狂人は珍しいよ、私ですらも滅多にお目にかかれないほどに」

 

 

 

いつのまにか彼の両手には、肩に担ぐようにして、燃える炎のような装飾が刃のない方の剣身に施された、大きく湾曲した、大曲剣『流刑人の大刀』。

 

元の持ち主、ファランの番人の一人が持っていた武器の一つ、そして、元の持ち主の罪過の証。

 

それを引き継ぎ、目の前にいる『怪物』を裁かんと、刃先に纏わり付いた赤黒い血が、霧の少し晴れた隙間から煌めく月夜の光を反射する。

 

その美しくも狂った青白い閃きは、『裁き』を冠する剣のように。

 

 

 

「なぁ、狂人を殺すのはキリトらのような子供の役目ではない」

 

 

「そういう、あまりにも穢れた『罪過』を背負うのは——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちのように穢れた狂人である、私のような人物が担うべきだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、振るおう。

 

かつての人が行なった通りに。

 

残虐で、理不尽な。

 

 

 

 

 

さぁ、『処刑』の時だ。

 

 

 

 

 








今明かされる衝撃の真じ、2ゥ!

キリト君が一話で既に病み落ちしかけてた理由の一つが大量の死、ということでしたが、六割ほどは『人を殺した』でした!

...ああ、勿論彼が普通の人を殺すわけないじゃないですか。

それはもう、『ラフィン・コフィン殲滅戦』の時でもない限りは。

キリトくんが嫌いかと問われるかもしれませんが、むしろ私はかっこよくて好きです。

あとPoHさんもクレイジーサイコホモですけど好きです。

キリトくんは純粋なさわやかなイケメンさで好き、PoHさんは本当にイカれてるんだな、って思えて好きと、これまた私の守備範囲(not意味深)が知れてしまいますね。


さてはて、ようやくこの物語という風にきめられたシンダーお父さん。

今回振るったのは『ファラン』に由縁のある武器三種。

前方へと垂直に回転切りを、狼のような勢いで行う、深淵歩きアルトリウスゆかりの銀剣、狼騎士の大剣。

二刀流として使う奇妙な形をした短剣と特大剣で構成された、短剣を軸に、駒のようにして踊るように左右に薙ぎ払い、最後に縦へ斬り下ろすファランの大剣、これは一話に出てましたね。

そして、ファランの城壁を守りやがる人型の敵であるファランの番人が振り回す武器の一つ、特大最重量の流刑人の大刀。


放浪者で、傭兵みたいなもんで、かつ『処刑』、『SAOの深淵』を狩る、となればこれらの武器しかあり得ないでしょう。

鎌?なに?聞こえない


さて...かなり顕著にオリジナルとは異なってきた物語。

六話時点で最高にサイコホモ状態のPoHさんを前に、シンダーは打倒できるのか!


【覚悟はできたか?
この先、勝利の時間だ】




さて。

デモンズの破片を感じた方は何人いるだろうか。

実はちょっとだけ散りばめていたりします。

理由?はて....


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評価に0とかじゃなくてなんとも微妙な2が叩きつけられてるんですけど、どういうところを直すべきなのだろうか、と少々首を傾げている作者です。

キャラの扱いがひどいなんつっても作風だし、ダークソウルがクロスしたらしたで、どっか原作からは良くも悪くも捻じ曲がるのは仕方ない鬱ゲーな気がするから、人を選ぶ作品ってことなのかなぁ...なんか少し悲しいです...

勿論、そこは不快な描写があるようならば謝罪しますし極力改善しますが、そこは笑いありというよりフロム作品漬けの非力な私を許してくれとしか言いようがないのがなんとも...

今回はいつもの半分程度の短さでお送りします。


追記:感想で『わからない!わかりにくい!』との言葉を頂いたので追記修正したら結局3000文くらいになりました。

さっさと書こうとした私の卑劣な行為を許してくれ...



【仲間の予感...】





 

もはや目の前の数センチしか見えない程の濃霧と化した19層の空間で、重剣と重剣が重なり、弾け、何度も火花が散る。

 

その度に剣は疼くのだ。

 

もっと、もっと荒れ狂え、かつて彼自身が行なっていた虐殺の如く、目の前の敵を惨殺しろ、と。

 

 

この霧の内では、どんな動きですらも死角としかならない程に暗く、また敵の姿も捉えることなどできない。

 

故に、敵の剣の動き、いわば風を切る、土を踏む、息をする、などといった、視覚をおまけとしか作用する価値がなくなり、他の五感を活用しなければまともな戦いすら出来ない、そんな戦場へと変わり果てていた。

 

 

しかし、かたや暗殺に塗れた陰の者、かたやありとあらゆる場所で死に、殺してきた陰の者。

 

 

そんな薄汚れた世界の住人である二人しか、今ここでまともに戦うことができない程の悪場なのだ。

 

 

キリトも、アスナも。

 

この二人は『純粋に最高峰の戦いの才能』に秀でてはいるが、『暗い部分』としての戦いの経験は全くといっていいほどなく、手を出すことができない。

 

 

そんな霧中、PoHの付き添い、かつキリトに先制の一撃を防がれたフードの男の姿は付近にはなく、どこかに『隠れた』ようで、今どこにいるのかすら定かではなかった。

 

 

 

「貴公...貴公は殺人を楽しんでいるわけではないな」

 

 

 

やがて剣舞は語る。

 

『PoH』と呼ばれる男の本質、その一欠片。

 

 

 

「貴公が楽しむのはもっと非道なもの、そう見える」

 

 

「なにごちゃごちゃ言ってんだ、避けねぇとてめぇが死ぬぜ!?」

 

 

 

言葉すら不要。

 

また新たに暗闇の中、種火が付近へと撒き散らされる。

 

蛍のように美しくも、人々を焼き払う却火のように禍々しいそれが連続で照る空間で、なおも、流刑人の呪われた刃は求めるのだ。

 

 

『いつものように斬り殺せ、いつものように叩き伏せろ、いつものように...』

 

 

否定する、そうでもなければ、手に届く範囲にある『光』を喪いそうだから。

 

不死人としての本能に振り回されるのではなく、『シンダー』としての理性のまま、『敵』を殺す。

 

 

そうでなければ、彼が生まれ変わった意味などありはしない。

 

かつての同じ事をすれば、それは『不死人』、『灰』としての行為の繰り返しでしかない。

 

 

火継ぎの再現を、命の延長のように行った忌むべき『王狩り』の時のように。

 

 

 

「貴公の剣は...剣筋は歪んでるよ」

 

 

「正真正銘の狂人だ」

 

「だからどうした?」

 

 

 

鼻で笑い飛ばす男の光景は、やはり歪んでいるのと共に、壊れ、狂気に呑まれた者の、亡者化した不死人よりも変質したもの。

 

産まれながら持った狂気というより、植え付けられて歪み、それが自身の『誠』として曲解し、本当に自分の感覚として纏わり付いてしまったと言った方がいいのだろう。

 

 

 

「てめぇも他人にとやかく言えるほど『まとも』じゃあねぇだろうがぁ!」

 

 

 

壊れた笑みを浮かべながら、全身全霊での振り下ろしの構え。

 

 

楽しいのだろう、PoHとシンダーは似ている、そんな者と出逢い、こうして殺しあう刺激が純粋に。

 

 

どちらも世の狂気に縛られ、殺人の人生に縛られた者。

 

 

そこからの派生が、彼ら二人の道を別っただけだ。

 

世界さえ同じなら、シンダーはPoHの殺人者の同僚に、PoHは闇霊としてシンダーに襲いかかったりとしたのかもしれない。

 

 

しかし、そんなことは彼にとって、シンダーにとっては最も忌むべき現実。

 

 

化け物、悪魔狩り、殺人者。

 

 

「貴公ほどでもないッ!」

 

 

故に否定する、その宣告の剣を、先ほどの『狼の剣技』を逸らされた時のように、見事な傾け方による受け流し。

 

 

「ぬおっ...てめぇ!」

 

「眠れよ貴公、いずれ私もそっちへ行く」

 

 

絶好の機会としてのこの一瞬。

 

それを見越して断罪を振り被る彼の斬りおろし、どうしようとも避けられるものではない。

 

 

 

だからこそなのだろう、この時、見えない霧の中で、『隠れていた人物』が姿を見せたのは。

 

そのまま、男はのけぞったPoHの背後からとびだした。

 

目は決死の意思を示しており、その手に持つ短剣から、きっとそのまま、現在決まると油断しているように彼からは見えたらしいシンダーの懐に入り、刺し殺すつもりなのだろう。

 

 

もしくは、それを恐れたシンダーの剣が止まることにより、PoHの来るべき死を防ごうとしたのか。

 

 

 

しかし、シンダーの目は彼の事など眼中にない。

 

ただ、目の前の『自身』の断罪を前にして、たかが一つの、自分の『死』など、恐るるに足りぬ有象無象。

 

 

歯牙にもかけず男を無視し、ただ、かつての自分に似た『男』を切り捨てることにより過去への決別...いや、それは逃げなのかもしれない。

 

だが、だからといって今更剣を下ろさぬ理由もなく。

 

 

 

祈るように瞑目し、それは絶対に決まるという彼の余裕の表れ。

 

 

 

目覚めを、この悪夢から。

 

夜明けとしよう、この一太刀で。

 

 

死ではなく、目覚めの餞として、シンダーは心より、自身に似て非なる狂人へと終わりのギロチンを振り下ろした。

 

 

 

「こんなところで終わりとは、ついてねぇ、ほんとについてねぇよなぁ」

 

 

 

それを前にし、PoHは『嗤う』。

 

その剣を恐れていないかのように。

 

 

何故かその表情は嘲笑に満ち、先の見えぬ霧に呑まれた手には、武器は持っていないらしい。

 

彼なりの、最後の置き土産の光景とでも言うのだろうか。

 

 

だが、そんなところで避ける事など叶うはずもない。

 

 

ざっくり、と。

 

肉に入る感触が、彼の手に渡る。

 

 

 

 

HPバーはそのまま赤から0へと行き...正真正銘の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、可哀想になぁ...」

 

 

 

しかし、果たしてPoHの笑みは、情けない負け犬の置き土産のようなものでしかないのだろうか。

 

否、否。

 

狂人の足掻きは、人の道理など関係なく。

 

ただ本能の赴くまま進み、非道を行うことに一片の憂いもありはしない。

 

 

 

 

シンダーが確実に仕留めた獲物を看取る為か、静かに目を開けた光景は。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「なんで...PoH...さん」

 

 

 

PoHを助けようとしていたフードの青年が、首を掴まれて彼の盾にされ、頭から下半身にかけて、一文字の袈裟斬りの傷を残して死ぬ瞬間だった。

 

表情は絶望と驚愕、そしてあまりにも色濃い悲哀に満ちており。

 

 

砕け散るその数秒、ずっと、ずっとその面持ちを続けていた。

 

 

 

「...な」

 

「...ひどい」

 

 

 

固唾を飲んで見守っていた正気な人間である黒と白の目から見ても、それはあまりにも酷いもので。

 

 

 

「...貴公...貴公は...」

 

 

 

剣を振るった彼の背は震えた。

 

斬り殺したものの表情と遺言を聞き届けながらも、怒りに狂いそうに。

 

 

「てめぇが殺したんだろ?」

 

 

 

だが、彼は嘲笑う。

 

今の瞬く惨劇の中、霧に全身をやつして既に逃走を図ったPoHの声だけが、この悪『霧』の主であるかのよう。

 

 

 

「まだ誰一人殺してねぇうちの新人君をあんな残酷に殺すなんて、なにが【青の騎士】だ、てめぇの方がうちよりも血濡れだろうが」

 

「夢に酔うのはいいことだがよ、『黒の剣士』なんてメじゃねぇ、てめぇがきっとこのゲームの中で一番狂ってるだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

「哀れだよ、『ドン・キホーテ』」

 

 

 

 

 

 

 

妄想を信じて生き、最後には正気に戻ったと言うある狂人の逸話、それがシンダーだと嘲り、そのまま笑い声と共に霧散して行くPoH。

 

 

「貴公は...そういう男なのだな」

 

 

ようやく理解したとばかりに、舞い散る死の破片が纏う霧の中、悲鳴のように叫んだ。

 

 

 

「貴公は!貴公は絶対に許されぬ!私と同じ、ロードランかぶれの狂人めがッ!」

 

 

 

霧は散れど、そこにあるのは眩しく暖かい光にあらず。

 

その温もりは、今の彼には、かつての自身を『殺せ』と囁きかける、呪いの種火のようにしか感じられなかった...

 

 

 

 




PoHさんがこんなところで死ぬ訳がないなんて今明かされる衝撃の真実のレベルですらないよね...

さてはて、後書きに書くようなことは...特に今回は無し。

次は、黒と白の男女が求めた『真実』を得ることにはなりますが、史実ではこのまま二人は手を繋いで幸せに終了エンドだった六話とはかけ離れたものとなるでしょう。

アスナさんはキリトくんの闇を目にし、どういった答えを返すのか。

まぁキャラアンチをしないって決めた時点で結果はスケスケだぜ


少々シリアスが染み込んでくるので、ほのぼの要素が薄くなったらすまない。


【この先、悲しみがあるぞ
そして、希望】


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『人』

評価とかお気に入りとか、感想とかUAとか、やっぱり万人ウケしないと思う私の文章で、実は昨日書くのをやめかけた考えもありました。

だが奴は弾けた。

どんな悪評を叩きつけられようと、少しでも楽しんでくれる人がいる限り、私は好き勝手に弾けちまおうと!

低評価は『アナトリアの傭兵のはじめあたりの評価』のツンデレだとおもいました!(啓蒙99)

まぁ、ここが読みにくいなどなどは最高にありがたい鞭なのですが、合わないから低評価的なのは半ば意識の隅に追いやるかもしれません。

全員が喜ぶような巧い人では作者はありません、ということを承知してくださいな。


【希望万歳!】





 

 

 

いつの夜も明けるが理。

 

時は巡る、それは人の想いも同じ。

 

闇に溶ければ日に当てられることもあり、その周期はランダムであっても、絶対に明けぬ夜はない。

 

 

だが、あれほど立ち込めていた濃霧が完全に『霧散』し、照らされた19層の世界は、あまりにも、あまりにもドス黒かった。

 

続けば明けぬ夜はない、しかし夜のまま切り捨ててしまえば二度と先は来ないのだ。

 

 

辿り着いた『真実』、その一件が終わった後のキリトの心中は、あまりにもドス黒い血の絵の具で塗りつぶされているかのように黒ずんでいた。

 

たかがアイテムごときで、たかが奥さんの本来の気質が見えてきただけで殺した。

 

そう、『たかが』。

 

 

きっと、彼の過去に『不本意な殺害』というあるべきのない闇が刻まれていなければ、それを告げた、『今回の事件の黒幕』に哀れみの視線を送りでもしたのだろう。

 

だが、『この』彼はそれが許せなかった。

 

 

「なんで...たかがアイテム如きで、少し奥さんの性格が見えてきたくらいで大切な人を殺したんだ!?」

 

 

人の命の尊さを、『史実』よりも強く、そして重く捉えている彼の否定の叫びは、あまりに悲痛なもので。

 

レアアイテムをこよなく愛し、ゲームを最高までに楽しみ尽くす才能のある『キリト』ではなく、一人の人間である『桐ヶ谷和人』として、彼は心より憤怒したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...すまなかった、キリト...私がもっと早くに来ていれば」

 

「...シンダーのせいじゃ、ない」

 

 

晴れた空、輝く太陽の光はこの時ばかりは、汚らしい『真実』を強引に明かす愚者のスポットでしかない。

 

全ての者において、『真実』は幸せなものではなく、人によれば、知る必要も知られる必要もないものだってあるのだから。

 

 

 

その例が、端正な顔付きを歪め、苦渋に満ちた思いで言葉を吐き出すキリトだった。

 

 

そして、更にまた一人、生きる人間を殺したシンダーもそう。

 

最後の声が、感触が、表情が。

 

彼の良心をドス黒く侵していく。

 

 

重く、あまりにも凍り付いた空気。

 

 

 

 

「ねぇ、キリトくん」

 

 

 

 

優しく微笑んだアスナが、その『暗雲』に孔を穿った。

 

 

 

「ごはん、食べない?良ければシンダーさんも」

 

 

 

片腕に釣れる程度の大きさのバスケットを持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは...」

 

「む、むぅ...?」

 

「ど、どう...?美味しい...?」

 

 

 

あまり背景は良くないものの、取り敢えずアスナの提供してくれたブルーシートの上に三人共に腰を下ろし、彼女がバスケットから出したそれはサンドイッチ。

 

一口で半分くらい齧れる程の一般的なものであり、少々重苦しい空気の中、さぁどんなものかと二人で頬張ってみた(シンダーは冑と首の間の隙間を広げ、器用に食んだ...こんな微妙な技量の使い方は技能全振りの人からは誠に遺憾であろう)のだ。

 

無風の空間、優しげな栗色の髪を揺らし、不安げに首を傾げて両者を交互に見つめるアスナ。

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

「...う、旨い...そこらの喫茶店やレストランなんてもんじゃないぞ...」

 

 

「こ...れは...あまりに、あまりに美味だ...これほどの食べ物があったのか...」

 

 

 

 

 

 

キリトはその美味に舌を巻くどころか目を大きく見開き。

 

シンダーはといえば、冑の中では、太陽虫に洗脳されてしまった友を見てしまった時並みの、まるで全身にモーンの怒りを叩きつけられたかのような衝撃を受けていた。

 

 

——こんなものがあるならば、不死人の不幸は疎まれるだけではない。

 

これでは、不死人があまりにも憐れではないか...!

 

 

 

自身の友や、他の不死人への憐れみに思わず一筋の男泣きをする程に。

 

彼女の想いは杞憂を通り過ごし、必然の成功の前の憂いのレベル。

 

 

 

「そ、そんなに美味しかった...?」

 

 

 

照れ臭そうに横髪を指でクルクルと巻きほどき、ほんのりと頰を赤らめた『シェフ』はなんとも愛くるしい。

 

しかしそれに目がいかない『獣』二人は、やはりなんともいうべきか、どこか鈍感なのだろう。

 

 

 

「美味しいなんてもんじゃない!店で売られてもおかしくない、むしろ店売りなんかよりよっぽど旨い!!」

 

「アスナ嬢!私は長く生きて来たがここまで食事が素晴らしいことだとは思わなんだ!貴公と早く出会っていれば食の観点が逆転したと言ってもおかしくはないぞ!」

 

 

 

あの重苦しい空気はどこへ行ったのか、アスナに許可を取ったのちに、どこかの狩人様が見れば、狩るべきか狩るべきでないか困惑する程に本能に素直となって、バスケットにあるサンドイッチを食らう彼等二人は、無垢な少年のようで。

 

 

 

「...フフッ、キリトくんもシンダーさんも、子供みたい」

 

 

 

作ったものを美味しく食べてもらえる料理人としての嬉しさもあってか、心より少女らしい笑顔を、太陽の光を浴びつつ浮かべながら呟く姿は、どこか母親のようですらあり。

 

また、一少女として、どこまでも可憐な姿でもあった。

 

 

 

 

「...むぐ?」

 

「...ほむ?」

 

 

 

 

...食事とは、これほどまでに盲目のベールを纏わせるものだったか...?

 

しかし幸せそうに貪る姿、貴公らは獣ではない、あれは...やはり人だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリトくん、その...ね、良ければ教えてくれないかな?」

 

「...わかった、シンダーにも聞いて欲しいんだけど、構わないか?」

 

 

お腹が膨れて落ち着き、至福の時間を過ごした後。

 

冷静さも戻った少年は語りだす。

 

 

霧は晴れ、明けた夜の太陽の光を持って、『真実』は明かされる。

 

 

それは、苦く辛い、そして、キリトのような少年が背負うべきではない重荷の告白であった。

 

 

 

 

 

 

——俺がまだ、このデスゲームの宣告をされてから数日経つか経たないかって時。

 

仲間もいなかったし、知り合いも一人しかいなくて同行も断られて、たしかに一人では戦えたし、βテストの経験もあったから進み方も、効率的にレベルを上げる方法も、安定して野宿する場所もわかってたけど...それでも、やっぱり不安だった。

 

それで、俺が少しずつレベルを上げていて、また一日夜を迎えようなんて思ってた日に、『アイツ』がやってきた。

 

 

 

名前も知らない、フードや手袋とかで肌の色や顔すら分からなかった奴だった。

 

そんな奴が夜に、急に声をかけてきて...それから先、振り向いたら、そいつが剣で殺しにきて。

 

 

咄嗟に俺は、相手の武器を持つ方の手を背の剣で切りつけて、武器を弾いた...あまりにも急な事で、何が何だかわからなかったけれど、殺す気なんてなかったし、やりたくなかったからそうした。

 

 

けれど...あいつは、懐から短剣を今度は取り出して...ずっと、ずっと追ってきた...何をしようと此方を殺す気、顔は分からなかったけどなんとなくそう思った。

 

 

今の俺ならば絶対に冷静でいただろうし、足を切るなりして逃げ果せるくらいなら当たり前のようにできたと思う。

 

けど...あの時は、単純に怖かった。

 

死ぬ事も怖かったし、この先どうなるのかわからないって不安で一杯で。

 

 

そこで自分のうちで何かが切れて...気付いたら、相手の心臓を剣で刺していたんだ。

 

 

終わった後も、何が何だか分からなくなって、レベルを上げることができる気分でもなくて、しばらくはずっと焚火の前で食事以外は居ていた...そこに、シンダーがやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「あとはシンダーが知ってる通りで...数日の中でようやくまともな人に出会えて、ホッとしたんだ」

 

 

ちらりとシンダーの方を見つめ、幸薄い笑みを浮かべるキリト。

 

 

「...俺の話はこれで終わりだ、聞いてくれてありがとうな、アスナも、シンダーも」

 

「...ごめんね、無理矢理言わせるようなことをして」

 

「いや、いつか言う時が来たかもしれないし、大丈夫だよ」

 

 

申し訳なさそうに顔を伏せるアスナをキリトは優しく諭す。

 

そんな中、シンダーの心の中は、あまりにも渋いものだった。

 

 

——一人きりとはいえ、わざわざそこまでキリトを殺すメリットがあったのだろうか。

 

キリトが嘘をつくはずもない、どうも『キナ臭い』。

 

まるで、誰かがその苦しみを『背負わせようと』、もしくはそれを『見たくて』?

 

...所詮は推測の域を出ることはない、か。

 

しかし、『人を殺した』感触は忘れられるものでもない...

 

 

 

 

 

思考を打ち切り、シンダーは憂いの面持ちを見せるキリトの目を見据える。

 

それは、彼の経験談からの一言。

 

 

 

そして、彼が唯一現在、キリトにかけられる心よりの言葉だった。

 

 

 

「キリト、貴公は強く、そして善人だ」

 

「な、なんだ急に...?」

 

 

 

鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべるキリト。

 

 

 

「だからこそ、人を殺したことは貴公にとって重いものだろう」

 

 

「...故にな、キリト、貴公に頼みたいことがある」

 

 

 

言葉を頭で紡ぎ、精一杯に考えて、不死人として、あまりにも人の『魂』を喰らった彼が言うのはあまりにも『哀れ』なのかもしれない言葉。

 

だが、今の彼は『不死人』ではなく、キリトの友人の一人である『シンダー』として、対等な立場として願いを届ける。

 

 

 

 

「貴公が殺めてしまった命、その分だけ大切に生きてくれ」

 

 

 

「貴公を襲った者が殺した命の分もまた然り」

 

 

 

 

 

「貴公は...これまで通り、『キリト』として生きて欲しい」

 

 

 

 

「決して自身の命を軽んずることがないように、な」

 

 

 

 

 

それは、果たして彼が、不死人になる前、喪ってしまった願いで。

 

結局今の自身に刻まれていたことは、そんなものがあった、という証拠のみで、どんなものかも覚えていない。

 

そんな成し得なかった願い、そして信念を。

 

きっと彼なら、善人に位置し、最高の強さを兼ね備えた彼しか成し得ることができないであろう難問を。

 

 

 

「...」

 

 

 

突然の言葉に瞬く間、惚けていたキリトだったが、彼は聡い。

 

疑問もなく、彼の表情に強い意志が芽生えた。

 

 

 

「...ああ、約束する」

 

 

 

きっと、彼ならば、キリトならば。

 

一つの不死人へと変わり果てた『落魄れ』の願いを叶えてくれるに違いない。

 

 

 

「...私も手伝うよ、キリトくん」

 

「...ありがとう、アスナ」

 

 

 

彼には、強さも、彼を受け入れてくれる仲間もいるのだから。

 

 

 

 

名もなき『不死人』ではなく、本当の意味で、『シンダー』という一人の人間の産声が、誰にも聞こえることなく晴れ晴れとした、光り輝く早朝の世界へと響き渡って行く。

 

 

キリトの友人として、キリトへ『不死人』だった頃の願いを託して、ようやく『不死人だった頃の彼』は、死ぬことが出来たのだ。

 

 

『かつての自分の意思』を持つ、『青の騎士』シンダーとして。

 

これから先、逃げてきた過去を、忌むべき自身の行動を、不死の印を、少しずつ受け入れていくに違いない。

 

 

 

 

キリトとアスナが暖かい笑顔を交わし、それをどことなく居辛い空気を察して退散していくシンダー。

 

 

二人の青春、一人の新たな新生を祝う、かの男が求めた強く煌めく太陽は、祝福を願うかのごとく微笑んでいた。

 

 

 

 

それが仮想のものだとしても、きっと彼等には『本物』の光なのだ。

 

 

 

 







ユウキのスカートめくりry

失礼しました。

アスナさんは美人かわいいです。


【この先、うっかりに注意しろ】


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『火(想い)継ぎ』

しゅごい...UA1万にお気に入り200が目の前...ほおずきちゃんに頭破裂させられるんじゃ〜

取り乱しました、作者です。

妖王オスロエスさんの没ボイスで、思わずリアル『キヒイイイイイ』を上げてしまいました。

なんだあの狂気じみた設定は、明らかに食って腹の中じゃない...こんなの絶対おかしいよ、どう見てもブラッドボーン世界だよ...(おめめぐるぐる)



さて、ほのぼのを求めている閲覧者様の為(自分の為)に今日は、ブラックな部分を切り離した閑話を図りました。

良からぬほのぼのをはじめようじゃないか!




【一休み...】





 

 

 

キリトの『真実』が暴かれたあの一件は幕を下ろした。

 

幸いだったことは、彼の過去を聞いた二人は口が固く、『良い』人間であったからだろうか。

 

結局告げられた後も、友人関係になんの支障もはいることはなく。

 

最近の『いつも通り』に、三人は新たな一日を過ごしている。

 

 

 

 

その中でも、『人』として生まれ変わったとも言えるシンダーその人に、この日もフォーカスを当ててみよう。

 

 

 

天気は晴天、ある層の洋風な街並み、その中でも質素でこじんまりとした一つの店に彼は居た。

 

その中の大きさも勿論小さく、客が座れる席はたった三つ程度。

 

しかし、木製のものが基本だったりと昔懐かしい香りが漂う、不思議と懐古の心を呼び起こす不思議な場所。

 

 

 

 

「...ああ...生きているとは素晴らしいことだ」

 

 

 

そんな場所で、彼が行なっていることは...『食事』。

 

どうも、元々この世界に送られてから食事の経験があまりなく割ととっていたらしいのだが、前述の件で、ある閃光の料理を貪った時、この行為の素晴らしさに目覚めてしまったらしいのだ。

 

 

目の前にある、シンプルなミートソースパスタを食みながら溢れてくる食への感謝、そして今この時を謳歌できる幸せ。

 

 

 

「...もし、鎧の人...そんなに何か苦労したのかい?」

 

 

 

こんな風に、店を盛る料理人とも話せることが、小さな店の良い点の一つでもある。

 

この料理人はいわゆる『NPC』ではない正真正銘の人らしく、彼が作るパスタの全てが一流。

 

 

 

麺の歯ごたえ、舌触り、そして本来が持つ麺の味が。

 

どんな味わいに仕立て上げられても突出して煌めくことなく、全体的な味の良さを引き立て、食した人の胃袋を掴むのだ。

 

 

 

「いや、店主の作る料理があまりにも旨くてな...確かに苦労もしたが、ここで食べられるだけでその甲斐があったというものだよ」

 

「はは、嬉しいことを言ってくれるな」

 

 

 

知る人のみぞ知る名店として、一部の人に知られるこの店舗は本当に通でもなければ知っている場所ではない。

 

値も手頃、そして味も最高質のパスタ専門店。

 

やけくそとばかりに舞い込む【青の騎士】宛の依頼に辟易しながらも、しっかり一人一人こなしていた最中、そのほんの一部からこの場所のことを聞いたのだ。

 

 

 

そして行ってみれば、この魅了。

 

何十、何百、何千、何万、何億。

 

そんなソウルですら放り捨ててでも食べたくなるこの幸福。

 

 

 

 

そこまで自身の何かを喜ばせるものを前にして、彼の瞼の裏には、かつての地獄で見出した光が渦巻いていた。

 

 

 

 

——こんな食べ物を、一緒に卓を囲んで食べてみたかったよ。

 

我が友太陽の騎士ソラール、カタリナ騎士ジークバルド。

 

不死の『偽りの』使命など関係なく、ただ一人の人間として、友として居たかった。

 

 

 

そして、私の二人の師であるクラーナとカルラ、私自身の味方でいてくれた者達。

 

彼等とも、永く友として...

 

 

 

 

 

 

『お前、【裏切る】んだろ?』

 

『お前だけにしかできない選択なら、勝手にすりゃ良いさ』

 

『まぁ、無理矢理俺に【竜】を押し付けやがったお前がどんな選択をしても、俺は受け入れてやるよ』

 

『それが敗者の役割ってもんだろ...なんだ、そんな顔をするなよ、勝者さんよ』

 

『...ハッハッハッ...』

 

 

 

 

 

『あの事』を根に持っているのか、少々不貞腐れた感じに、しかし背中を1人の友として押してくれたホークウッド。

 

 

 

 

『よう、今日もまた武器を鍛えに来たのかい?』

 

『...そうか、最期の、か』

 

『あんたはずっと戦って来たんだろう?アノール・ロンドの『あいつ』が生きていた頃からさ...俺はあんたの言ったことを信じてるぜ』

 

『俺は鍛える事しか出来ねぇからな...あんたが絶対に終えられるよう武器を鍛えてやる事しか、な』

 

『じゃあ...絶対に無事でいろよ、じゃないと俺が鍛えた武器達も、ここであんたの選択を待ってる奴らの気持ちも無駄になるからな』

 

 

 

 

最後の最後まで、私の武器達を、神造の領域に達するまで鍛え上げてくれたアンドレイ。

 

 

 

 

『なぁ...あんた、ロスリック城へ儂を行かせなかった理由は、儂を気遣ってのことじゃないのか?』

 

『これでも盗人として名の知れたもんだ、なんとなく感じはしてたさ』

 

『...もしかすると、あんたの言っていた『繰り返し』ってのも強ち間違いじゃないのかも、なんてな』

 

『...無事でいてくれよ、あんた』

 

『儂が五体満足なのに、あんたがおっちんじまったら協力者としての、儂の面子が立たんからな』

 

『前に渡したあの女への指輪が、儂が集めて来た盗品の数々が...あんたを守ってくれると信じてるよ...イヒヒ』

 

 

 

 

『ロスリックで起こる惨劇』を知っていたが為に引き止め、残念そうではあったが従い、最後まで見送ってくれたグレイラット。

 

 

 

 

『英雄様...私が英雄様にお聞かせした物語は、貴方のお役に立ちましたか?』

 

『そうですか...良かったです』

 

『火守女の一人としても、英雄様に仕えられて、私は本当に幸せでした』

 

『英雄様がどんな選択をしようと、私はもう、かつて暗闇で私を蝕んだ虫などにも負けはしません』

 

『...英雄様、ここに帰って来られることはなけれど、貴方の偉大な使命の成功を、ここでずっと祈っております』

 

 

 

 

イーゴンから託され、彼女が願っていた火防女へ辿り着き、夢を叶えてなお私に仕えてくれたイリーナ。

 

 

 

 

『...まったく、最後の最後でようやく、か』

 

『お前はすごい男だよ、あれだけの魔術を全て修め、その上で俺も知らない呪術や奇跡さえも、世にあるもの全てではないかというほども学んじまった...』

 

『...デタラメな男だ、お前のような奴が竜の学院にいたら酷く疎まれるだけじゃあすまないだろうな』

 

『...お前には感謝してる、学院の真似事も...まぁなんだ、楽しかったぜ』

 

『俺がお前に伝えた、その魔術の数々が、お前の力になってくれるだろうよ...選択をするその時もな』

 

『さぁもう行け...なぁ、無事でいろよ』

 

 

 

 

 

ぶっきらぼうで、いつも教えてくれる最中に竜の二相を出そうとするのは勘弁願いたかったが、それでもただの火の無い灰に、自身の知る魔術の術を施してくれたオーベック。

 

 

 

 

 

 

 

『私は貴方の火防女』

 

『貴方の望む全てに従います』

 

 

 

『しかし、今から私がいう言葉は、火防女ではなく、【私】の言葉として...お聞きになっていただけませんか?』

 

 

 

 

『貴方が全てを裏切ろうとも、【私】は貴方と共に...暗闇の中、王たちが継いだ、『新たな』残り火が宿るその日まで、そしてそれからも居ることを願っています』

 

『貴方と片時も共に、それが【私】の意思...それを恐れるならば、今、ここで私を殺してください』

 

『...微かな光を齎す瞳よりも、惹かれるものが火防女としての私を裏切るでしょう』

 

 

 

 

『...これから先、もし貴方の心が変わったら、貴方の手で【私】を殺してください』

 

『でなければ...きっと、【私】は裏切るでしょう...貴方以外の全てを、火防女としての私の一切、瞳がもたらす禁忌の光さえも棄てて』

 

 

 

『無事に...その【終わり】の時を【私】はずっと待っています...貴方が、ロードランの古き神達を殺し、はじまりの種火を看取るその時まで...』

 

 

 

 

 

...最後まで私を想ってくれていたのに、結局はこの形で裏切ってしまった火防女。

 

 

 

 

 

彼等に、今の腑抜けた私を見られれば、どんな反応をされるだろうか。

 

 

 

彼等との対談を思い出すだけでも、少しだけ微笑みが漏れる。

 

ずっと友として、師としていてくれた皆のことをどうして忘れられようか...こんな旨いものを共に食えれば...

 

 

そして、『彼女』、いや『彼女達』の想いを受け入れず、逃げた私もまた...

 

 

 

 

 

一口、一口とパスタを口に入れるだけで湧き上がる、かつての友人達への想い。

 

 

 

 

 

——あのロスリックの時、火継ぎをやめ、新たな「火」が見出された結果がこの時代なのならば、私が選択したことは間違ってなかったのだろう。

 

もし未だ不死として歩むものがいたのなら、彼等は幸せにやっていけるだろうか。

 

 

もしもだ、それで単なる禁忌しか生まなかったのならば。

 

きっと私は気が狂い、亡者、それ以下に成り下がる。

 

 

 

自身だけこの幸せを享受するなど、あまりにも憐れではないか。

 

全てから逃げようとした私だけが、その枷から逃げられただなんて、あまりにも、皮肉ではないか...

 

 

 

 

 

...しかし食器をつかむ手は止まらない。

 

食器の使い方すら忘却していた彼だが、『記憶を教授してもらえる』と判明した途端に凄まじい熟練度で食器を使い始めた姿は、前の料理人もたまげるような変貌だったのはここだけの話。

 

 

 

 

さて、楽しい時間も過ぎ去るのは早いもの。

 

傭兵紛いのお仕事でたっぷりと知らず知らずに儲けた(基本的に彼の稼ぎは高くはないが、別段食事など必要としない為か彼には空腹ステータスがなく、ほとんど使わずに少々の賃金という塵が山を成した故、たっぷりである)『コル』を使い、何十皿も呆気なく食べ終えて。

 

 

一瞬の満足をしたシンダーは、お店から立ち去り、今日も身体の内に眠る、真の『火継ぎの王』の焔の揺れるまま、気が向くまま放浪していく。

 

彼は与り知らぬことではあるが、歩き始めてから数時間程度、偶然にも辿り着く先は、48層。

 

 

 

そして...彼の知らない『鍛冶屋』へと誘う道。

 

 

惹きつけられたのは、かつて、結局渡せず拾ったままであった『種火』達が、自身の使用を求めてのものなのか。

 

それは、今を生きる人々を温かい目で見守るシンダー、その後しかわからないのだった。

 

 

 

 

 





騙して悪いが、ダクソ部分は独自解釈の塊でな。

ホークウッドニートさんは『神々のしがらみ』から逃れるために竜になりたかったのかな?と。

イリーナさんは火防女としてかつての暗闇を克服してくれたと思ってるし、オーベックおじさん...お兄さんはツンデレ、グレイラットおじちゃんは灰を気遣ってくれるいいおじちゃん。

かぼたんは一途可愛いやったー!重そうだけどそれがまたそそるぅー!



そんな感じで、かつての言葉を思い出すシンダーさんの食事回が書きたかった。


ああ、一応この時辺りできっと『あのお二人』は猛吹雪の中睦まじく青春の歩みを謳歌してるんじゃないでしょうか。

最も黒の剣士ニキは女泣かせに定評がありますから、彼にとって青春かはいざ知らず。



人食いお姉さん「女泣かせなんて悪い人!肉断ち包丁持って闇霊してやろうかしら!」

????の末裔「フン!フン!」




【この先、ヒントに注意しろ】


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道中

ブラボでDLC共にプラチナトロフィーだー!わーい!

失礼しました、月曜も入れて四連休の間、ずっとブラボとペンタブ、そして『可愛い女の子がヒュージミサイル積んでるよ!』とホイホイ誘われて昨日始めたアズールレーンに時間を取られていました。

マジで核爆弾積んでるとはたまげたがな!

名前変えの機構は白髪ちゃんに白栗の名前をね、ぜひ...



さて、そろそろ、『この平穏な時代を汚したくない』ということで色々縛っているシンダーの想いなどそっちのけでSAOの『史実』への切れ込みが更に深まってきます。

ところで...皆さんは月光の大剣、聖剣、『MOONLIGHT』はお好きですか?


私はダクソ3の時点で好きで、ブラボではルドさんのも相待って焦がれるほどに好きです。


【この先、不幸があるぞ】






 

 

 

 

古き良き時代、人は今よりも更に木材などの自然素材で出来たものを愛好し、環境と共に生きる小さな村の人々は、様々な職で静かに生を営んでいた。

 

また、川などの水を引いて、その推進を利用した水車などの利用もあり、灯台などといった今でも通用するアナログなものも存在していたことから、古来の人々達のたゆまぬ努力の末に生み出された智慧の果てはやはり今の人々にも残るものがあるのだ。

 

そんなかつての風を感じさせるこの層、48層では。

 

ある一人の鍛冶屋が、その職を営んでいる。

 

 

そこそこ名も知れており、その技能も並外れて優秀で、『史実』では魔剣の域に達するとも言われる『エリュシデータ』、それに匹敵する程の極限の一振りを鍛えた者。

 

そして、黒剣と『闇を祓う者』の名を持つ翠と白を基色にした、美しい剣が一種の『二刀流』の対剣と知られていく...

 

 

 

 

のだが。

 

今この時に語るべき文面ではないだろう、何故ならそれはまだ生まれていない極限の剣なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

種火は燃える。

 

自身で、主の武器を鍛えさせろ、と。

 

それが、産まれた後に遺された、神造に匹敵する武器の数々を生み出してきた自身の役目なのだ。

 

 

その為ならば、例え魔剣など一振りで打ち砕く、神殺しの一本を成そうではないか。

 

 

主人の敵を討ち、主人の身を護り、主人と共に在る。

 

燃え殻の王よ、我等が新生させて変質した武器を取り、主の赴くままに歩み続けろ。

 

 

我等はただ鍛えるのみ。

 

神代の鍛冶屋のように我等を使うものがいれば、主だけではなく、主の友と共に行く『火』を、誠に闇を祓うはじまりの一振りを授けよう。

 

 

 

 

 

 

永らく主人を見てきた『火』達は、ずっと、ずっと。

 

はじまりを継ぎ、闇の王となり、そして神の時代を終わらせる今に至るまで。

 

 

見守ってきていたのだ、その物語を。

 

 

 

 

 

 

『暗い魂』の果て、そしてその先を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——酷いじゃないか...何故、ここまで私に苦難を押し付けるのだろう。

 

たしかに私は神の時代を終わらせた、だからとは言え、こんな仕打ちはあんまりではないか...

 

 

 

 

 

 

 

しかし、懐でソウルの如く燃え盛る種火達の気持ちなど更々知らないシンダーの面持ちはあまりに複雑なもので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらふらと放浪し、凄まじく優秀な鍛冶屋が居ると依頼の便りに聞いたところへ辿り着いたシンダーだが、なんと悲しいかな、その店の入り口であろう扉の前には、『臨時休業』とでかでかと刻まれた木製の吊り看板が立てられているではないか。

 

 

 

この場所ではどんな武器と巡り会えるのか、そしてこの時代の武器は自身にどんなことを語ってくれるのか。

 

 

 

 

そんなことが今日一番の楽しみであった彼の肩はがくりと落ち、今にも『心が折れそうだ』と嘆きたい程に気落ちしている。

 

純粋故に、最高の楽しみを奪われてしまえば彼の心が受ける悲哀もまた一塩というものである...

 

 

ああ、しかしこの『ゲーム』を見守る女神がシンダーに微笑んだのか。

 

なんと看板の隅っこに、追加で小さなメモ用紙らしい紙がピンで貼り付けられており、そこに書かれていた言葉は、彼にほんの一握りの希望を抱かせた。

 

 

 

 

『出張先 氷雪地帯55層』

 

 

 

 

 

もしかすれば、そこに行けば対面できるかもしれない...

 

武器だけでなく、それを『鍛える者』にも勿論彼は興味がある。

 

 

かつて彼の武器を鍛えた者達は、全員彼の友となってくれた素晴らしい鍛冶屋ばかりだった。

 

ならば、それを見極めてこそ武器にも興味が湧く、というものである

 

 

彼の人を見る目は人一倍、いや人『三倍』。

 

 

また、『依頼されれば』攻略組にも匹敵、勝るとはいえ普段はのんびりと気ままに平穏を謳歌している彼がまだこの層に行ったことがない、ということもあり。

 

 

 

 

 

——氷雪地帯55層、たまらぬ文面で誘うものだ、絶景の香りが匂い立つな...

 

ああ、こうまで素晴らしい光景が立ち並ぶこの時代...困ったな、えづくじゃあないか...ふふふ...

 

 

 

 

 

...こんな風に、『灰の人』が好奇心が旺盛と言われる所以、人によっては好奇心の気狂いとまで評されるソレは、平穏な方面とはいえシンダーにも等しく存在している。

 

例え、それが終末の世界に遺された猛毒の残滓だとしても、覇王を下した先に待っていた、深々と降り積もる静かな雪とオーロラ煌めく空が彩る古い城の姿や、壮麗な月を眺められるところなどは、地獄にあるものとは思えない『彼の光』で。

 

篝火の焔と同じで、あまりに美しいもの...そんな些細なものが心を病みかけていた彼を癒したのだ。

 

 

最も、『食』など様々なものに心奪われる事が多い『時代』に目覚めたからこその幸せなのだろうが...狂気にも似た好奇心、とまで揶揄されぬ程度のものなのがせめてもの救いだろう。

 

 

その足取りは軽快、しかし見た目は怪しいボロ布と化したコートを纏ったボロ鎧。

 

そんな不釣り合いな姿形で、まだ見ぬ武器鍛ち(うち)手に想いを馳せながら、48層の平穏な村を、のんびりと歩んでいくシンダー。

 

 

 

 

 

 

 

——内に燃ゆる『焔』は、少しずつ、その熱量を増していく。

 

あるはずのなかった『この世界の歪みの侵食』に歓喜しているのか、それとも警戒しているのか。

 

 

だが、普通ならば燃ゆる筈のない『この時代の外』の却火の揺れ。

 

そして、それを宿すシンダーにすらわからない微かな振幅は、何を語るのだろう。

 

 

 

 

55層に潜む『モノ』。

 

 

 

答えはそこにある。

 

良くも悪くも、きっと彼が触れればわかるものであろう...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ...暗い...何も聴こえぬ、何も感じぬ...』

 

『ただ全てが『灰』の色にしか...』

 

 

 

『我が(ソウル)は...何処だ...』

 

『不死の鱗もないこの姿では、もう...』

 

 

『...返せ、返せ...』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、『あまりに惨たらしい』真実だとしても。

 

 

 

 

 







結晶、いいですよね。
ソウルの結晶槍は好きです(魔法剣士並感)


一体誰がこんな魔術を生み出したんでしょうね。

もしいるとするなら、きっと真っ白でカッコいいドラゴンとか...ないかなーあったら嬉しいなー。


【光の予感...
そして、悲しみ】


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【『 』に侵入されました】

綾波ちゃんとケッコンしてホワイトグリントと名前をつけようとしたら長すぎる!だからストレイドの名をつけて可愛がる作者です。




今回ちょこっとわかりにくいところがあったらすみません。

ダクソ知ってる人しかわからないーなんてことは出来るだけやめておきたいのですが。


でも『竜狩り』おじさんとかは名前だけ言ってもわからないしなぁ...

一体一体強い癖に二体で挑んできて、一体になったら巨大化するとかもうわけわかんないよね。




【狂った闇霊 に侵入されました】





【この先、闇霊に注意しろ】







 

 

 

 

 

 

とめどなく振るわれた猛吹雪の後に残された白と蒼の山脈、その道の一つ。

 

輝かしい氷の結晶は、幾重にも並び立った剣山の如く咲き誇り、それは太陽の光を反射して、まるで純粋な水晶のように、いや、それ以上にも美しく煌く。

 

どこまでも澄んだ蒼、何にも穢されていない白だけが満ちた自然の神威の表れ。

 

そんな御大層な言い方をしても違和感を感じないほどに、この空間は完成されていた。

 

 

 

「ああ...これは...」

 

 

 

 

イルシールに慣れ、銀騎士達に氷の刃でズタズタにされたからか寒さに驚異的な耐性を持っていたシンダー。

 

恐ろしくもある自然の牙を物ともせず余裕ある心持ちだった彼は、視点を曇らせる寒さのない純度100%の光景を目にして、身体を震わせ感嘆した。

 

 

 

この世にあるまじき神々しさ。

 

心が震える、あまりに現実離れした『完成』の自然が魅せるあまりの眩しさ。

 

 

 

その上、空では生きる者達の要とも言える太陽が天を彩り、その光が氷の地を反射して更に美しさを増している。

 

そこに映り込む『仄かに焔を身体に纏った亡霊の燃え殻』の姿は、その幻想的な景色をぶち壊すかといえばそうでもない。

 

 

 

 

『この』自然は受け入れるのだ。

 

食物連鎖に甘んずる生物達を。

 

愚者であった人間も。

 

 

 

 

そして、人間から成った不死人さえも、抱擁を持って。

 

 

 

 

 

そんな大自然の太っ腹に感謝しつつ、彼はその場を謳歌する。

 

きっと何事もなく、単なる『人として』イルシールの美しい白銀世界を楽しめることがあの世で叶っていたのならば、こうして闊歩しながら、見るもの全てに感激を覚えていただろう純粋無垢な男だ。

 

 

 

 

 

——願わくば、こんな場で永遠を過ごしたいものだ。

 

 

 

 

 

老いてなお、好奇心の対象には幼い。

 

なんとも見た目に不釣り合いだが、それが『シンダー』という人間なのだから。

 

 

 

 

 

...だが、内に燃ゆる焔は、それを否定する。

 

 

 

いつしか彼の手には、穂先に広い刃を持つ得意な槍、パルチザンが握られていた。

 

 

内側に眠る『王達の焔』が彼に語ったのだ。

 

 

先程までは気付かぬほどに弱々しい内側だけの発火だったのが、今では全身から燻る薄煙と火の粉がそれを彼に告げる。

 

 

 

 

『奴等が来る、あの世界の者達が』

 

『近い、きっとお前を襲うだろう』

 

『討て、死してなお足掻け、この火が尽きぬように』

 

 

 

 

 

恐れも、驚きもしてはいない。

 

他ならぬ火継ぎを殺した自身が来たのだ、他の奴らが訪れることになんの驚きがあろうか。

 

 

故に、何度も闇霊に襲われた時のように武器を持ち。

 

当たり前のように『殺す』心構えを組み。

 

 

 

訪れる者を、自然が作る氷の刃が乱れ咲くこの場で。

 

逃げも隠れもせず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ...感じる、我の片割れを』

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、だが『歪み』は許さない。

 

彼が放浪者という肩書きのみで存在することを。

 

 

『彼方からの訪問者』、それはあまりにもシンダーの予想を逸脱していた。

 

 

 

『彼』の羽ばたきで起こる『虚しい風』に自然は悲鳴をあげて救いをのべることを諦め、太陽の光さえも、『彼』の中身のない心には日が射すことは決してなく。

 

過去に、自身だけが『不死の根源』を持たぬ劣等として生まれた時の感覚により探求し、そして果てに狂った心は、ただただ無。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『感じる...我の全てを』

 

 

 

 

 

 

 

否定する。

 

『灰』の今まで成してきたことの存在意義を。

 

 

 

『彼』は、ただ自分が『竜』に、『不死の竜』になりたかっただけだ。

 

自身がなるべくしてあった筈の種族の一員として、それを模索していただけだ。

 

 

——『シンダー』は勿論、『あの世界』、『この時代』の人々と同じように、幸せになりたかっただけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『返せ、我の存在を...返せ、返せ、返せ返せ返せ返せェェェェェェェッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝かしい蒼の天津を、猛々しく、そしてあまりにも虚ろな咆哮が切り裂いた。

 

 

 

『彼』は、人には理解できぬ言葉とともに叫ぶ。

 

探求の果てにソウルさえ奪われて、心など無い機械人形の如く、『灰』の持つ『自身の魂』を求める。

 

 

遠い天津から墜ちるように急降下し、『灰』を殺さんばかりに自身の持てる武器を構えて唸り突撃していき。

 

 

 

 

 

 

最後に残った『意味』すら自分から奪うのか?

 

裏切りの果てに得たものが、結局は無意味な破滅だったというのか?

 

 

認めぬ、認められぬ。

 

 

全てを捨ててなお同胞に嘲笑われた『【ウロコ】の無い』弱者のままなど。

 

 

 

 

 

 

——だからこそ、『否定』するのだ。

 

 

自身を手にかけた一人の男が、『あの焔』を持ち続けることを。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な」

 

 

 

「貴公は...ずっと以前に、ロードランで...」

 

 

 

「何故生きている...いや、何故ソウルも無しに身体を動かしている!?」

 

 

 

 

 

 

それが独り言にしかならないと理解していても、シンダーの疑問の叫びは止まることは無い。

 

 

 

 

「....!」

 

 

 

 

『彼』の名を呼んだ瞬間、強烈な暴風と共に、咲き誇っていた氷達が舞い散るように砕け、その『花弁』を狂ったように風に舞わせる。

 

砕けた氷の煙が晴れ、ようやく中が見えるようになった時そこにあるのは、パルチザンではなく、神代の雷をその穂先に漲らせる、『竜狩り』が遺した聖ともいえる槍を持つ落魄れた騎士の姿と。

 

 

 

まるで御伽噺の妖精が持つかのような、青から緑、赤紫色にまで至るグラデーションを根近くの羽から先までに描く翼を六つ、美しくも恐ろしい身体の背に生やし。

 

『求めたもの』がない代わりに、その純白の肌の所々に『原始』の結晶を纏う。

 

猛々しく、しかし光の無い眼球で『灰』を見据える存在が。

 

 

 

 

 

 

ああ、『求めて狂い、なお手に入れられなかったモノ』——『ウロコ』を持たぬ不幸で、呪われた竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その名はシース。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——『あの世界』のあまりに遠い過去に、いつしか『はじまりの火』が起こり、そこから『王のソウル』を見出され、それを自身のものとした王、グウィンとその従者達は、その世界の支配者であった『竜』を倒すべく剣を持った。

 

 

竜達は殺しても殺しても死なず、しかしグウィン王達もまた強く、その戦いは長きに渡り。

 

 

その時、竜の中で唯一『ウロコ』を持たなかった『白竜シース』が、自身の一族を裏切り、秘宝であった『原始結晶』を奪ってグウィン側へと寝返ったのだ。

 

 

 

白竜は、竜達の不死を知っていた。

 

自分だけが持っておらず、竜達が当たり前のように持っているもの。

 

 

 

 

それが、『ウロコ』だったのだ。

 

無限に湧き続ける究極の生命の源であり、支配者足らんとする力の根源である、竜の力の秘密。

 

 

それを知ったグウィン王達は、竜達の『ウロコ』を裂き、剥ぎ、千切り、奪いて竜達を滅ぼし勝利したのだ。

 

 

 

 

その功績を称えられ、シースは公爵の名を得て、自身の『ウロコ』を得るために探求し、そして...その果てに、結局は。

 

 

 

 

何を成し得ることもなく、至るまでに多数の生物を犠牲にしてすら彼が求めた『ウロコ』を手に入れること叶わず。

 

せめてもの、とでもいうべきか。

 

全身に原始を纏うも、結局は、『偽りの使命』に縛られたシンダーにその魂を奪われ、無へと帰した。

 

 

 

筈だったのだ。

 

 

 

 

それを打倒した者の前に、以前よりも更に狂気に呑まれた白竜が、今ここにいる。

 

『結晶』の魔法を操る創始者であり、一人の探求者であり、そしてただ幸せを求めるふつうの『竜』の心を持っていた存在が。

 

 

 

その爪を、吐息を、尾を、足を、牙を。

 

全ての武器を用いてシンダーから、奪われた魂を取り返そうと、狂乱となりて求めている。

 

 

 

 

故に、『侵食』の事など考える暇すら与えられなかった。

 

ただの武器では、あまりにも分が悪い。

 

 

ならば、かの『竜狩り』が用いた武器を...

 

かつて自身が屠った強き者の刃を持って。

 

 

 

 

何故現れたのか。

 

何故『時代を渡って』来られたのか。

 

そして、ソウルも無い筈なのに動き続ける狂気の謎は。

 

 

 

結局どうしようもなく持ち合わせたその魂を返そうとしたところで、きっと殺されてしまうだけ、そう思わせるほどの猛き殺意がシンダーの思考の余地を奪っていく。

 

 

ただ、戦い殺すしか無いのだ。

 

 

 

今も昔も変わらない、血に濡れた過去のように。

 

 

 

咆哮が周囲の大気を震わせ、砕け散った『花弁』達の原子を震わせる。

 

太陽の元に降り立ち、無垢な結晶を纏う白竜の姿はあまりにも神々しく、そしてどこまでも禍々しい。

 

 

だが、それにかの不死人は折れることは無く。

 

 

 

 

 

 

 

「言葉は不要か...いや、元からそうだったな、貴公は」

 

 

 

 

 

 

 

彼が構えた槍の穂先から、神代の稲妻が吠えた。

 

新たに狩るべき竜を前にし、持ち主の狩りの成就を約束する。

 

 

持ち主が変わっても、この槍はずっとその意思は変わらない。

 

いつの世も竜を狩るために自身は在り、その刃は悪も善もなく眼前の敵を屠る為。

 

 

ならば、持ち主の違いなど歯牙にかけることでもなく、ただ『彼』は、シンダーの勝利を求めるのみ。

 

 

 

それに応えるべく、シースが齎す、一度発露すれば直後に命を奪われる呪いの耐性を身体に纏う為に。

 

 

 

製造された過程は不明とはいえ、持ち主が受ける呪いを弾く『呪い咬みの指輪』と。

 

 

失われた伝承に存在する、あらゆる異常への守りを堅固とする血の赤を刻まれた『血の盾』を構えて。

 

 

 

 

 

 

「行こうか、一度静かになってもらわねば、どうにもならん」

 

 

 

 

竜殺しの稲妻が迸る穂先を、距離で言えば20メートルほどに離れた竜の顔へと突きつけ。

 

 

それが、幕切りだった。

 

 

鋭いシースの爪の一撃と、瞬く間に迫りよったシンダーの稲妻の一突きが交差し、猛烈な爆風を吹き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はまだシンダーにはわかるまい、かの白竜には。

 

 

 

 

 

『カーソルやHPゲージといったこの時代特有のモノが無い』ということが。

 

 

 

 

 

 

その違和感に気付くのは。

 

 

竜の返り血を、昔のように全身に浴びるその時に、ようやくであった。

 

 

 

 

 

 

 









闇霊なのに白とはこれいかに。

光の黒竜ギーラ「えっ」


白竜から月光の剣が出てくるのはわかる。

光の黒竜ギーラ「えっえっ」



そんなことより、私シースさんが裏切ったのって、『不死じゃない故に死にたく無い』から裏切ったか、ウロコがないことで散々馬鹿にされてたとかで嫌気がさしてたとかあると思うんですよね

貴公らはどう思います?



【絶望の予感...】


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覚醒

ランク49になっても赤城さんが出ない...3-4はロスリック時代やヤーナムにも負けない魔境だぜ...聖杯結晶...うっ頭が。

さて、戦闘シーンは今回短め?いや元々短め...?

まぁいい、そんなことはいいんだ、重要なことじゃない。


いつのまにか感想を頂ける方まで見ていただいていて、誠に感謝の意に絶えません。

今回の作品は、SAO成分が薄いのでお許しいただきたい。

ダクソからの方々も、独自解釈の塊なので、突っ込まれることは心しております。


さて、今回も小満足していってね!



【宇宙は空にある
そして、憐れな亡者】






 

 

 

 

 

 

肉が裂ける感覚は、時に人を滾らせ、心躍らせる快感を与えてなおその殺意を強める。

 

裂いた肉が敵のものであれ、自身のものであれ。

 

痛み、撒き散らされる血液、むせる鉄の薫りと、ドス黒い濁った感情の発露。

 

 

 

 

この時代に『当てはめられてから』シンダーが長らく感じられていなかった、忌々しくも身体は求めていた戦いの本能が、欲求が次々と芽吹き、あまりに醜い花を咲かせていく。

 

 

散らされた氷の花弁達の真逆にすら及ぶだろう、彼の『灰』の本能の奥底に陣取る花々の禍々しさは、白竜の返り血を浴びせられて、枯れかけていた身体を震わせる。

 

 

 

 

 

忌まわしい快感を奥に押しとどめる理性を削りながらも、シンダーが振るう竜狩りの一撃は極めて鋭い。

 

 

それは返しに振るわれた白竜の爪の先へとぶつかり合い、真紅の血液と火花が舞い散って。

 

 

稲妻は白竜の肉と骨を内側から食い破り、余波はシンダーの血肉に千切れんばかりの衝撃を叩きつけ。

 

 

 

 

 

「...流石」

 

 

 

 

 

一つの決め手を外したと解した彼の跳躍手段の確保は早く、前にも使った鬼切と姥断に切り替えると、すぐ様武器の記憶を元手にふわりと飛び立つ。

 

 

その直後に白竜の尾から成る薙ぎ払いで、彼がいた場の地面が、雪と氷を粉々にしながら掘り抉られた。

 

 

 

狂うように荒れながらも、攻撃は至極冷静で、確実に殺しに来ている。

 

それは、曲がりなりにも『竜』である威厳とも言える恐ろしさであった。

 

 

 

 

憐れなものだ、これが白竜の末路と言うならば。

 

どこまでも、一片たりとも救われないではないか。

 

 

 

勝利の先にある白竜の魂の強奪に飢えた、四肢の一撃はあまりにも重く、穂先の一閃にすら及ぶほどに鋭い。

 

だが、これの根元が過去の否定など、あまりに『存在』が報われないではないか。

 

 

 

 

 

 

 

薙ぎ払いを回避したシンダーに隙は無く、無防備である空中に浮いた状態、老いた茶の布を燃ゆる太陽の光の下に翻しながら、鋭く白竜の背後を取り、一番上の翼を右から左に、まずは利き手に最早時が経ち『姥断か鬼切か判別の付かなくなった片割れ』を逆手持ち、横一文字に引き裂く。

 

血飛沫が噴き上がり、白竜の悲鳴を他所にもう片方の翼も、残りのもう一本の刀を回転しながら引き裂いて、まるで幽鬼の如くゆらりと、そして返り血に塗れた亡霊のような姿で輝く地面へと降り立った。

 

荒れた白竜の攻撃を全て避けることはままならず、回避したはずの布はところどころ避け、砕け散った鎧の部分も垣間見えるが、シンダーの致命的なカウンターは成功と言える。

 

 

 

 

 

 

しかし白竜も流石は『竜』、二つの翼を引き裂かれてなお怯みの姿は見えず。

 

喉元は膨れ、頭部は天を仰ぎ。

 

 

 

 

 

 

あと数瞬の後に何が起こるかを予見した彼の次の武器は、『ロンドールの白い影』という『暗殺者』が好んで使用した暗器、『傀儡の鉤爪』。

 

左手で使えば武器を弾く恩恵を、右手で使えば身軽なステップを踏む手段を教えてくれるこの武器を持った方向は、果たして右手。

 

 

 

 

 

まるで、かの黒の剣士にも勝るとも劣らない連続の地面蹴りは、白竜の視界から忽然と消え去ったかのように速く、そして隠密の動きを見せる。

 

名も知られず、いつのまにか敵の命を刈り取る腕利きどころか神がかった暗殺者の如く。

 

気づかぬままに白竜は、誰もいない氷の地面に、彼の代名詞とも言える結晶の吐息を吐き出した。

 

 

そのブレスは、まさしく呪怨の結晶に満ちている。

 

 

巻き込まれれば精神の須くを破壊し、肉体の機能を喪わせ、命ごと奪い尽くしてしまうほどの強烈な呪いが篭っているのだ。

 

見た目には純白の煌めきが無造作に光り輝く聖なる吐息、しかし中身はといえば、口に出すことすら悍ましい怨念の塊。

 

 

 

その圧もさるもので、近くにある氷の柱は、無慈悲な暴風にたまらず砕け散り、その無垢な剛圧の一員と化してしまった。

 

 

しかしシンダーの身は、多少ボロ切れに結晶を纏うだけで済み、白竜の視界にはあらず。

 

 

油断したのだろう、少し警戒の溶けたその背を。

 

 

助走をつけ蹴り飛ばすことにより上へと勢いよく飛び立ち、瞬く間に白竜の頭部へとたどり着いたシンダー。

 

その背後の陰に気付いた時は既に遅し。

 

 

 

 

彼の両手には、既に、別の武器が。

 

数々の混沌のデーモン達と対峙し、皆殺しにしてきた黒騎士の振るう強力無比な特大剣、『黒騎士の大剣』が握られていて。

 

 

首筋辺りに、その剣の切っ先は突き刺された。

 

 

 

 

悲鳴どころではない、急所を貫徹された竜の叫びは悲痛に満ちている。

 

だがこの程度では白竜は終わらない、よくて『少し弱った』くらいだ。

 

 

それを知っているシンダーの思考は、さらなる猛攻のプランを叩き出す。

 

 

 

突き刺したまま、なんとほぼ垂直の背中を駆け下りて、吹き出す真っ赤な体液に塗れながら深く一筋の切れ込みをいれてしまったのだ。

 

 

 

こんなことをされては白竜も敵わない。

 

狂えど生物が持つ痛覚の警笛にこてんぱんにのめされ、もんどりうって地面にうつ伏せとなる形で倒れ臥す。

 

 

 

 

だが、弱々しく嗎を立てるも、しかし目から滲み出る戦意は尽きることが無い。

 

爪は未だ血を求めて地面を穿ち、残った四つの翼は砕けた氷を吹き飛ばし、尾は今にも敵を打たんと風切り唸る。

 

 

 

 

 

 

 

一方、血が纏わり付いた黒騎士の大剣を懐にしまって地面に降り立ったシンダーは、心の奥で一息ついていた。

 

 

 

 

 

——白竜シース、やはり貴公は恐ろしい存在だ...

 

 

 

 

 

 

 

 

いつのまにか彼がつけていた呪い咬みの指輪は、ドス黒い怨念に悲鳴をあげて軋み、血の盾も若干に薄暗く変色している。

 

 

 

それは、前よりも遥かに呪いの質が増し、ただシースに近付いただけでもその地獄をその身で受けねばならない、ということを証明していた。

 

 

さらなる証拠として、ブレスの結晶が残るだけでも鎧の布、その端々は更に暗色へと変わり果てていて。

 

あともう少しで、保護の効果を貫いて呪いがシンダーの身に届きそうだった、故に彼は手早く勝負を決めねばならなかった故、これ程までに無茶苦茶な突撃を行ったのだ。

 

 

 

結果は成功とはいえ、血の盾は兎も角、この呪い咬みの指輪は使い物にならないだろう。

 

普通のものより質のいい(+値の高い)同種の指輪を拾っていたことが功を奏したか、などと今までの輪廻に感謝せねばならないとは中々の皮肉である。

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

 

 

 

 

自身の後始末が終わった彼は、壊れた指輪を懐に収めつつ、また別のものを右手の内に収めていた。

 

籠手の隙間からは輝く程に生命力を感じる光が漏れ、その『炎』の心の内が見えるようだ。

 

 

光を浴びた途端、白竜の眼の色が変わり、先程暴れ狂っていた時以上に『飢えた』叫びをあげて、動けぬ身体で悶え始める。

 

 

 

 

 

 

「...返そうか、ずっと借りていたものを」

 

 

 

 

 

 

もはや言うまでもなくお分かりだろう、その手の中にあるのは彼のソウル。

 

憐れで、愚かな『竜』擬きの残り香。

 

 

 

ゆっくり、しかし威風堂々と武器や盾すら持たずに、吠える白竜の頭部へと歩んでいくシンダー。

 

するとどうだろう。

 

 

光が近づいていくのと共に、御伽噺に出て来る『勇者を待つ正義のドラゴン』のように、静かに待ちながらかつ理性に満ちた眼で、近づく『仇』を見つめているではないか。

 

元々の『白竜シース』という心が戻っていっているのでは、と錯覚するほどに、その歪んだ暗闇しかなかったはずの眼に、限り無く澄んだ、誇り高き光が宿っていく。

 

 

 

 

ああ、狂っていたはずの白竜が、堂々と『その時』を待っている、などと誰が信じられようか。

 

 

 

 

 

 

だが、この淡い氷と、白竜の翼を通して七変化する太陽の煌めきと。

 

仄かに香る黒い血潮の香りの中で。

 

 

他の誰にも見られることが無く。

 

他の誰にも邪魔されることも無く。

 

 

 

 

 

 

「...貴公がやったことは知っているさ、それも許されることが無いほどの事だ」

 

 

 

 

 

 

本当に近く、掌を太陽に向ける形でソウルの受け皿を作った右手を突き出し、白竜の顔へと近づけるシンダー。

 

 

 

 

 

 

「だが、かつて『借りたもの』は返すべきだろう...」

 

 

「貴公のソウルも、それを求めているようだからな...」

 

 

 

 

 

 

その途端、まるで命を持ったかのように焔は彼の掌を離れ、ゆらりゆらりと、『抜け殻』へと入り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「借りは返したぞ———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——シース公爵」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その『名』を告げた時。

 

 

 

 

 

たしかに白竜は動けない傷を負っていた筈なのに。

 

稲妻で肉を焦がされ、骨は砕かれ、刃でところどころ深々と引き裂かれていた筈なのに。

 

そして、『あの時』も、『先程』も狂える化け物であった筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「公爵、か」

 

 

 

「懐かしい名だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンダーに陰が出来るほどの巨体を持ち上げ、立ち上がり。

 

 

その眼には、『竜』としての威厳を本来の意味で待ち合わせた『支配者』の猛りながらも冷静で、王者の風格を持つ光を差し込み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、人の子よ...我を今、二度...いや、『数える事すら億劫になるほどに』討ち破った子よ」

 

 

 

「かのグウィンの『火』の欠片を持つに相応しい貴公」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理性的に、静かで、心を落ち着かせる堂々とした声で。

 

深手を負い、今にも燃え尽きそうな命であることを感じさせないその偉大な姿は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感謝する、貴公のおかげで、我は『我』へと戻ることができた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、我が名は白竜シース」

 

 

 

 

 

「探求の竜であり、かつてはじまりの火を継いだ王、グウィンの同胞となった者なり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——まさしく、かつて『闇の世界』の支配者であった存在であった。

 

 

 

 

 







行動はイカれてても話せる時はシースさんは話せたという妄想。

ソウルを返せば甦るのはロザリア姉さんより。



喋り方とかは捏造でしかありません。

もしかすると『なんでや!なんでワイのウロコ見殺しにしたんや!』とか言うかもしれませんが根本的な解決になってません。





ここだけの話ですが、きっとこの時間中は『あの二人』はドラゴンさんに『騙して悪いが』されてる頃でしょうとも、ええ。




ああ...あとは。


この作品のキリトくんとアスナさんは、たしかに仲の良い二人ではあるのですが『史実ほどに親密ではありません』。

つまりそういうことで。




【悲しみの予感...】



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死してなお鱗は輝く

失踪したか、と思わせるほどに消えていた事、失礼しました。

貴方方には、ここで見ていただきます。

理由は、お分かりですね?

私がシースの末路で悩みすぎた、自身で蒔いた種だ、刈らせてもらうぞ...!


ということで遅れてすみませんでした、すごく悩んでました。

赤賀掘ってたとか、ブラボしてたとかそんな事実はありません。



では、また一つ、火という名の想いを継ぐとしましょうか、



【この先、真実があるぞ
そして、憐れな男】







 

 

 

 

 

 

今の白竜は、自身の『意思』の一部と共に肉体が灰へと還り、切り離された『魂』が操っている。

 

 

肉体とは飾り物であり、『存在』の本質はソウルにあり。

 

それが喪われなければ、肉体は何度でも粒子からいつか構成され、『魂』の意思がその身体に引き継がれる。

 

記憶など些細なもので、本質が変わらなければ、『存在』は『存在』たらしめられるのだ。

 

 

 

だが。

 

その『魂』が、ソウルを自在に喰らい、自身の物とする『不死人』に奪われたままなら?

 

 

核が無ければ、肉体が作られるはずもなく、もし出来たとしても、それはただの操り人形以下の、何の役にも立たない肉の器でしか無い。

 

その身体は、『本質のない存在』であり、≠『存在』として捉えてもらってもいいだろう。

 

 

簡単な話、先程シンダーと剣を交えた『白竜』は『白竜シース』という一頭の存在とは『別の物』であり、考えや思考もどこまで似通っていても別物。

 

何故そんな『擬似品』が生まれたか、など今問うても答えなどが見つかるはずもない。

 

 

一先ず置いておいて、何故『白竜シース』は、『何度も自身を殺したシンダー』を知っているのか、そして、当然のように白竜へとソウルを返して呼びかけたのか、この二つが疑問に浮かぶはずだ。

 

先程も述べた通り、『魂』とは『存在』の中核であり、いくら同じ身体に同じ名前等といったものを与えても、『魂』が別物ならば、同じ存在に成り替わることはできない。

 

 

これを基にして、考えてみれば、『魂』自身が『存在』と言ってもいい、ということだ。

 

 

つまり。

 

 

『白竜シース』は実際に『何度も自身を殺したシンダー』を見てきている。

 

ずっと足掻いて、もがき苦しみ、助けを求めても全く救われなかった憐れな男の事を、彼の懐の中で、『魂』の状態で。

 

それを見ていた白竜の心の内は定かではなく、また正気だったかも不明瞭ではあるが、ここで語るべきことではないだろう。

 

 

 

 

後者の方の疑問へ行こう。

 

 

 

まず前提の知識として、『魂』を肉体に還せば、基本的に肉体の機能は戻り、再度『魂』に肉体の操縦権が戻る、という知識がいる。

 

例えば、『このゲーム』で意識体だけを縛り付けているシステムの一つの機能として、『ゲーム状で作り出された仮想の肉体』に『意識体という名前の魂』を入れている故、思考の通りに身体を幻想の世界でも動かすことができる...といえば理解しやすいだろうか。

 

 

 

『あのロスリック時代』、穢れた教会で、自身の手で『魂』を還した経験があったシンダーだからこそ知っていた『魂と肉体』の知識である。

 

故に、当たり前のように歩み寄って『借りを返し』、呼び掛けたのだ。

 

 

 

これを知らねば、きっと白竜の瀕死体など放置するか、もしくはトドメをくれてやるか。

 

そんなところが、『不死人』の関の山だ。

 

 

 

 

 

 

 

さて...語るべき前提を記述したところで、そろそろ、氷の世界で『真の白竜』と対面した不死人へと視点を戻すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

剣を取ることのない『会話』として対峙するシンダーは、『一礼』のジェスチャーを行なったのちに、白竜へと言葉を語りかける。

 

 

 

 

「言葉が通じる状態では、公爵とは初対面と言えばいいのだろうか」

 

 

 

 

なんとも皮肉が混じった一言目である。

 

 

 

 

「なに、『偽りの使命』に揺られていない貴公とも初対面ということになるのでな、好きに解釈すればよい」

 

 

 

 

返しの言葉も、売りに買い、と言えばいいのかやはり刺々しい。

 

だが、『あの世界』では会話すら成り立っていなかったのだ。

 

 

そう思えば、まだまともに近い『対峙』と思うべきであろう。

 

 

 

白竜の言う『偽りの使命』とは、シンダーが『不死人』となってから、牢獄で助け出された時に、エスト瓶と共に、ある騎士に託された『ある鐘を鳴らす』という遺志のこと。

 

それはただ行って鳴らす、というシンプルなものではあるが、そこまでの道程は、決して真っ当な世界ではなかった。

 

 

彼の悲惨な死の物語はかつて語った通りだが、そこへ行くまでも勿論『物語』の一片で、数え切れない死を経てなお辿り着けない、血に塗れた地獄の凱旋道だったのだ。

 

 

しかし、結局彼はやり遂げ、その先にまで至り、そこに潜む『不死人の構造』を突き止めた故、たしかに『使命のゆりかご』から逃れた、とも言えるだろうか。

 

その先で、更なる絶望にまみえることになるとは、この時の『不死人』は想定すらしていなかっただろうが...

 

 

 

 

 

「...公爵は、自身がしたことをどう思っているのだ?」

 

「...『結晶』の研究の事か?それともかのグウィンへとついた事か?」

 

 

「ふむ...どちらも、だ」

 

 

 

次に不死人が問い詰めるのは、かつて彼が『ウロコ』を得るために、竜種の秘宝であった『原始結晶』の研究をし続け、その実験の犠牲に幾多もの被害を産んだことについて。

 

そして、ついでに白竜が溢したものを拾い、自身が竜を過去に裏切った、という真偽のわからない逸話についてだ。

 

 

なんとも雄々しく佇まう白竜の眼が、どこか哀愁を帯びて、彼の原始結晶よりも遥かに眩しく煌めく太陽へと射られる。

 

 

 

 

「...後者の方から話そうか」

 

 

 

 

血を止め処なく流し、近付きつつある白竜は、まったくその事を感じさせない姿で『勇者』を見下ろし続けるのは、果たして何の理由があるのだろうか。

 

それ故か、口元からドス黒い液体を漏らさせながらも、白竜の語りを遮る事は無い。

 

 

 

 

 

「我は、唯一『ウロコ』の無い存在だった」

 

 

 

 

 

「竜は不死でなくてはならぬ、竜は支配者たる最上の強さを持たねばならぬ、それを齎す『ウロコ』を持たぬ者など、誇り高い竜種たちの中で存在が許されるはずもなく」

 

 

 

 

 

 

「裏切る、寝返る、義理などと言った大層なものでもない」

 

 

 

 

 

 

 

この事を語り行く白竜の眼が、次第に哀愁から、どこまでも達観している、もしくは『諦めている』かのように虚しい光を帯びていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜種達にとって、我は『竜』ではなく」

 

 

 

「元より、彼等と我の関係は、育ての親などすら与えられない『赤の他人』でしかなかった」

 

 

 

「それも、存在するだけで不愉快、かつ恥晒しである『膿』として、な」

 

 

 

 

 

 

 

自嘲気味に疑問の一つの回答を出した白竜。

 

 

包み隠している部分などさらさら感じられず、最早隠す必要すらない、と投げやりになっているようにも感じられる。

 

死を迎える前の置き土産にでもするつもりなのだろうか...

 

 

 

 

 

「それでは、前者を答えようか...『ウロコ』を求めた我の研究についてだろう?」

 

「もっとも、貴公は我が使っていた魔術を知っている筈だがな」

 

 

 

「...公爵、私が欲しいのは研究の結果ではない、それに到るまでに犠牲にした者達のこと、だ」

 

 

 

 

 

 

珍しく、いつもは流されるままに生きてきたシンダーが、彼自身の意思を強く押し出した問いかけの刃を抜いた。

 

 

確かに学べるだけの魔術や奇跡、呪術を操ることが出来るとはいえ、そんなことは彼にとって『どうでもいい』こと。

 

そこに当てはまらず、問いたいことは、『犠牲にしたことについてどう思うか』、この一点だけなのだ。

 

 

 

 

 

 

「...我は、確かに様々なモノを、命を生み出した」

 

 

「実験などの為に、確かに他の命を脅かし、手を加えたこともある」

 

 

「そも、まともな理性でよく覚えているのは、公爵の名をグウィン王に頂戴し、研究に触れてしばらく程度と、貴公に殺され、『我の記憶の一部』である『魂』となった時から先だがな...」

 

 

 

 

やはり、どこか自嘲的な呟き。

 

 

他の者達に対しての『劣等感』、そして『羨み』が。

 

そして孤独が、かの主を殺した、と。

 

 

誰にも知られぬ『怪物』の呟き曰くであるが、それが正しいことは、白竜のこの様子で察する事はできる。

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが」

 

 

 

 

 

どこか虚ろであった憂いの眼の内側に、純で、まるで『王』のような強い意思の焔を宿して、問いの主へと目線を向ける。

 

 

 

 

 

「我は、理性を取り戻してここにいる今でも、手にかけた命の数々を尊重するとはいえ——」

 

 

「自身の行為に後悔することは決してない、絶対にな」

 

 

 

 

 

『白竜は結局【悪】だったのか』、そう考えかけたシンダーであるが、次の白竜の言葉を聞いて、フォースの衝撃で崖から闇霊に突き落とされた時のような衝撃を受けることになる。

 

 

 

 

 

 

「確かに結局は、その研究は『ウロコ』を得る為には意味を成さなかった」

 

 

「だが、我が生み出した結晶の魔術が、貴公の力の一角となっているように、無駄ではなかった...そうも思える...いや、そう思いたいのだ」

 

 

 

 

 

「でなければ、喪われた命が無駄ならば」

 

 

「...それこそ、狂った後の我が殺めた者達が憐れだから、な」

 

 

 

 

「それが偽善で、あまりに身勝手な逃げでしかない、というのは、解していても、なお...我は【ウロコ】の研究の末を、否定せぬ」

 

 

「我は『悪』だ、だが、これらの行動が果たして正しかったのか、誤っているのかなど最早誰にも分かるはずがない」

 

 

「故に、それを行った我だけでも...彼等のことは、忘れるわけにはいかぬ...目前に迫る、最期の時までな」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな『死が近づいているのを予見しているか』とも思える白竜の言葉に気付けば、既に白竜の声に生気が無く、身体の部分も、『まるで消えてなくなる』かのように炭化していっているではないか。

 

ただ、肉体が滅ぶのでは無く、『完全に、普通の生物のように全てが朽ちる』ように。

 

『魂』さえも、虚空へと。

 

 

 

 

 

「公爵...貴公は——」

 

 

 

脳裏を過ぎった想像に、言わずにはいられなかったシンダーが口を開きかけるが、それを直様白竜は両断する。

 

 

 

 

「所詮『あの地』で朽ちた身だ、こんな場で正気を取り戻し、貴公と語り合えただけでも僥倖だったのだろう」

 

 

「死にゆくものになど、貴公は構っている暇もあるまい...」

 

 

 

 

ボロボロと崩れていく白竜の肉体は、赤黒い血肉すら真っ白の灰へとこぼれ落ち、その崩壊も既に、あの美しかった翼が全て朽ちきるにまで至る。

 

そう、これは逃れられない、しかし、ようやく訪れた『白竜シース』の、長い夜の夢の終わりなのだと。

 

 

 

 

「...公爵」

 

「...すまぬな、貴公には、我等の重荷をあまりにも背負わせすぎた...」

 

 

 

下半身が灰へと還り、上半身が倒れこむような姿となり、地に崩れ落ちる姿は、あまりにも惨たらしく、ただ『幸せになりたかった』者の最期には、不釣り合いだと願いたくなるほどに憐れだった。

 

 

 

 

「我を何度も打ち倒し、かのグウィンが遺した焔を継いだ不死人よ...貴公には、謝罪をしても謝りきれぬ」

 

 

「だからこそ、最後に貴公へ...詫びにもならぬが、持って言って欲しいものがある」

 

 

 

 

還り行く白竜の上半身、もはや白竜の姿は、首から先しか残っていないというほどにまで消え去ってしまっているが、シースの眼は未だシンダーを見つめている。

 

狂気の晴れた、純粋な『白竜シース』という存在の眼で。

 

 

 

 

「我には、もうきっと『魂』をも残せぬ...感じるのだ、自身が消えていくのを...もう、何も感じられぬ、何も見えぬ」

 

「貴公はまだそこにいるのかすらも...いるのならば...『魂』の代わりに残すものを、貴公へと託したい」

 

 

 

 

「我の『ウロコ』を...最期まで、我と共にいてくれた、『導き』を」

 

 

 

 

 

喉元が消え、白竜の声が途切れるように消えるが、なお白竜の口元は何かを語る。

 

それは、シンダーには読み取れぬもので。

 

 

 

 

 

 

『 』

 

 

 

 

 

 

 

 

本当の終わりに何かをつぶやき。

 

 

白竜の姿は、存在していた証拠は。

 

凍える氷河のひと吹きで、唯一の証拠である灰は、完全に消え去ってしまった。

 

 

赤く濡れた騎士のコートが揺れる程度の小さな力で、かの白竜の存在が消え去るなど...誰が想像しただろうか。

 

 

 

 

しかし、『白竜シース』が、つい先程立っていたところには。

 

二つの、拳ほどの大きさのある小さな青白い結晶が、付近にある氷の花々などとは比べ物にならないほど煌めきながら佇んでいた。

 

 

 

眩しく煌めくその光は、まるで晴れた闇夜で一人照る、優しく暖かい月夜の光のようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死して何かを遺すこともなく朽ちるのではなく。

 

 

彼は、白竜は、最期に『自身の導き』を遺した。

 

 

 

 

そして、自身が編み出した魔術の全てを。

 

自身の秘宝とも言える、『原始結晶』の塊を二つ。

 

 

 

 

それは、白竜が遺した答え。

 

最期に正気へと帰り、託すことができた『遺思』は、まるで暗く忍び寄る『暗黒の闇』を祓うかのごとく、幻想的な氷の大地で、静かに光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








展開が少し早いかな...なんて今見直して思うが、さっくり楽しんでもらいたく、かつ箸休め程度だし是非もないよね!なんてご冗談は混沌炎当てましょうね。


さてさて、シースは不死人に、二つの原始結晶を、自身の『ウロコ』を託して、ソウルすら残さずに死んで言ったわけですが。



思えば、彼もあの世界の被害者といっても過言ではないかもしれません。

やったことは悪に見えても、裏を返せば、ということもあります...白竜君もまた、完全な悪とは言えないのではないか、と言いたかった。

サリヴァーンさんは許さんぞ、神を打ち倒したという功績だけは褒めてやるけれどグウィンドリンちゃんさんを騙して悪いがしたのは許さん、許さん



【すごいなにかの予感...
そして、良い奴万歳!】



そういえば、この作品での『主人公』と、キリト君の強さですが。

純粋に、なんの小細工もなく真正面からやり合えば、きっとキリト君は互角以上となるでしょう。

スタミナが一瞬で削れてシールドブレイクスタブされる姿が目に見えてます。


ですが、不死人は真正面からやりあってなんかやる事なく何が何でも相手を殺すマン。

それを含めれば、『主人公』が互角以上となります。


というか、どっちが強いだのってあんま好きじゃないんですよね。

それこそ原作潰して無双とかってsaoを知ってる方からしても『貴様は...saoの名を貶めた...!』って言われても仕方ないですし。

え、もう言われてる?



こほん、ですから。

原作で改変したところを利用してダクソ風味の暗さを作りつつ、たまにはほのぼの、といきたいと思っております。


その方が筆者も楽しいだろ!?ハハハッ!


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自然の脅威

作者です。

テスト期間というのは憎たらしい。

構想は湧いてるけど文字にする時間を取らせてくれないのである。


...ところで。

今saoってどこまで行ってらっしゃるのか。

私ALOで知識が止まってんですよね。



【この先、罠に注意しろ】






 

 

 

 

どんな物も、表の一枚だけで出来ているわけではない。

 

この世の森羅万象には、あるべくして表裏が存在する。

 

それは、形としての表裏のみならず、概念としての『表裏』。

 

 

人の想いは虚空に塗り潰されて沈むかと思えば、生きる『意味』を取り戻して昇り。

 

那由多の果てから降り注ぐ万物の母の光もまた、眩しく照る時と、悲しみに沈み光を直接齎すことのない時がある。

 

 

 

それらと同じように、この凍てつく大地も、先程までの見るからに眩しい白銀の輝きと、それを更に煌めかせる粉雪の反射ではなく。

 

静かに美しい月光を、咲き乱れた氷の刃の刃先で淡く光らせ、しんしんと舞い落ちる柔らかい雪たちが安穏の時間を与えてくれる、まさに癒し、先ほどの激戦の証拠を残さぬほどの美麗な空間となっていた。

 

 

 

 

 

 

そんな薄ぼけた暗闇に純白が吹雪く空間の中、微かに照らされる薄く蒼い光がぽつりと鎮座していた。

 

そこにいるのは、結局目当ての人物を見つけられず遭難紛いの迷子とかしてしまったシンダー。

 

光の発生源は、彼の手の中に握られる、一欠片の『結晶』のようだ。

 

 

 

 

——どうにもならぬ、地図も無ければ土地勘もない....

 

 

 

 

けれども、道に迷って放浪、土地勘のないところへ行くことを余儀なくされてその先で死ぬなんて手酷い地獄の道のりは最早悲しいかな、慣れてしまった事柄である。

 

夜とはいえ、清廉な月光がこの場を満たしているが為に、視界には不自由しないこともまた、シンダーが迷子になってなお動揺する色が見えないことの理由となっているのだ。

 

薄暗い地下、襲いくる岩石、巧妙に仕掛けられた即死の仕掛け、這い寄る鼠と骨に、異世界からの侵入者(闇霊)

 

途方も無い痛みと心の傷を伴う道のりを経た彼からすれば、ここは美しい死地程度の感覚でしか無い。

 

 

 

襲いくる敵もまた、先ほど振るった竜狩りの槍といった神代の武器を使う必要などない程に強靭でないものばかり——とはいえ、『史実』でキリト達を襲う氷竜とはまだ出逢ってはいないし、白竜シースのレベルのものが雑魚として無闇矢鱈に現れてもらっては、それこそ『心が折れて』この世界の人々が全滅、なんてことも無きにしも非ずであるが。

 

 

 

さて、しんと静まり返ったこの空間、彼方此方にシンダーの姿を鏡のように映しだす水晶の野畑がここを埋め尽くしているのだが、どうも妙である。

 

いち早くその違和感に気付いた歴戦の戦士の五感は鋭い。

 

 

 

——妙だ...何故、ここまで静まり返っていて、『付近の水晶が、何者かが暴れた跡のように砕け散らされて』いるのだろうか。

 

それも、並みの暴れ方ではない。

 

白竜シース程、もしくはそれ以上の大きさを持つ何かが、その巨体を活かして力を振るいでもしない限り、見渡す限り私の周囲の氷柱が砕け、抉られることなどないだろう。

 

おまけに、これが起こってからどうも、数日すら立っていないらしい。

 

砕けた跡が新し過ぎるのだ。

 

 

 

どんな姿の輩がこんなことをやらかしたのかは勿論不明、そして多少視界に不利があるこの状況、結晶を持たぬ方の手に、手頃な振りやすさを持つ、カーサスの地下墓のスケルトンが所持していたものを強奪したファルシオンを持つ。

 

そして、先程シースが上空から強襲してきたことで不意を突かれた経験があってか、対空の方面へと警戒を尖らせる。

 

周囲の生気、生物が発する音の全てを、全て持てるだけの集中を研ぎ澄ます。

 

 

凍える自然の息吹を当たり前のものとし、それに対しての反応を遮断し、これ以外のものへの感性を絞った。

 

 

 

 

 

 

これが、彼の今日最も不運な出来事を起こそうとは。

 

 

 

「...む」

 

 

 

 

——...足元が、無い?

 

いや、正確には『先程まで踏んでいた地面の感覚が』無い。

 

 

 

 

 

 

 

不死人とは言えど、嫌な予感を感じれば冷や汗だって出るし、寒気だってする。

 

理解した、理解してしまった。

 

 

 

 

 

——まさか。

 

 

 

 

自分の身に降り掛かる、最高最悪の瞬間の出来事を。

 

 

 

なんということだろう。

 

上空と音の感覚を研ぎ澄ませていたばかりに、『歩く先の地面がない、ぽっかりと口を開いた大穴』がある、という子供でもわかる事実にすら気付かず、歩みを進めてしまったのだ。

 

 

 

ここから先は...まぁ、語るまでもあるまい。

 

 

 

 

「...これが、初の落下か」

 

 

 

重力は非情である。

 

彼が叫ぶ間も無く、奈落へと灰の身体を引き摺り込んで行くのだから。

 

 

不死人が恐れるものの一つは、『即死に至るもの』。

 

その中の一種が、この『落下死』である。

 

 

 

 

 

「ぬわあああああああ!!!!」

 

 

 

 

ようやく叫び声を出せる彼であったが、無論飛べたり、浮遊できるはずもない。

 

 

こんな暗闇の静寂を劈く断末魔と共に、深淵へと溶けていく逃亡騎士の姿は、どこかの喜劇のように滑稽なものだった。

 

シンダーからすれば、『じょ、冗談じゃ...』とでも言いたいものだろうが...

 

 

 

 

ここで不死人の物語は、呆気のない形で幕を閉じることになる...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!」

 

「のわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

奈落の奥底で、三人の悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕を閉じると言ったが...騙して悪いが、まだまだ続きは見えないほどあるんでな、進んでもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ギャグテイストに軽めの文を。

落下死した数など今更数えきれるか!

地味にsaoゲーム版でも落下死はした、コワイ!


【アイテムの予感...】


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冷たい谷底の48層

よく来てくれた

騙して悪いが、新話でな

見てもらおう



まさか長々と試験に縛られるとは...だからこそ、作者は新話書きを求めるのさね...



【二人組万歳!】






 

 

 

 

 

 

 

 

 

誤っての転落。

 

それは、実際に起こる事故としては、不名誉ではあるがそこそこポピュラーなものであり、高さによっては即死に値するケースもある。

 

その脅威は大概の生物ににとって等しく恐ろしいもので、これまでに数々の不死人や灰、狩人ですら不意に落下し、予想外の敵地へとほっぽり出されたり、果ても見えない奈落へ消え去ったりと、とことん酷い目に遭わされてきた...

 

 

 

そして、この時も。

 

 

 

大穴の底にある雪の地面を人型に陥没させ、大きく騒音を立てながら落下死...とまではいかず、なんとか多少のダメージで済んだものの、『別の人を巻き込んで』雪に埋まったシンダーも、その恐怖と被害をしみじみと感じさせられていた。

 

 

そこまで深く陥没した訳ではなく、きっと数メートルにも満たない、頑張れば復帰できる程度にしか埋まっていないのだが。

 

 

 

 

 

「お、重い...」

 

 

 

 

 

憐れなのは、降ってきたオンボロ騎士の下敷きにされてしまった『別の人』。

 

実は『別の人』は、この大穴の底に、シンダーが知るよしも無いが落下してどうしようかと、もう一人の同伴者と策を練っている最中で、そんなタイミングで人が重力に振り回されて上から降ってきたのだから、彼こそ一番の貧乏籤である。

 

 

 

 

「す、すまぬ...貴公...まだ生きているか?」

 

 

「あぁ...結構ダメージは食らったみたいだけど、なんとか...」

 

 

 

 

いくら古びていてもシンダーが纏うのはやはり鎧、その全体重を押し付けられて苦しそうに呻く『黒髪黒コートの少年』のhpバーは、瀕死とまでは行かなくとも黄色の危険区域にまで落ち込んでいる。

 

とあるロボが全てを破壊したり、虐殺したりする硬派な『遊戯』には、自身の機体の重量や加速の勢い、脚部の部品によって威力が変わる『ブーストチャージ』なる蹴り技があるらしいが、この少年に突如向けられた『隕石』は、それを人間が出せる程度に抑えて、重量と加速を最大限にかけた一撃だと思って貰えばいい。

 

『強者』とは言え、そんな一撃を食らってしまえば大きく体力を削られてしまうものだ。

 

残念ながら、少年がどんな表情をしているかなどは、うつ伏せに彼がなっているために見えないが。

 

 

 

 

「だ、大丈夫!?」

 

 

「な、なんとか...リズこそ大丈夫か...?」

 

 

「うん、私は何も無いけど...落ちて来た人も無事!?」

 

 

 

「私は問題ない...が」

 

 

 

 

 

声が聞こえた天井を見上げてみれば、そこにピンク色の髪をした、顔に雀斑のある勝気そうな少女が顔を覗かせる。

 

 

下敷きにされてしまっている少年を心配していたのか、初めは不安に染まった色合いを見せていたが、無事でホッとしたのか、いつのまにかその面持ちを引っ込めていた。

 

 

 

 

「今すぐに貴公の背から退く故、しばし耐えてくれ...本当にすまない」

 

「そして、上にいるお嬢さん...少し穴から退いていただけないか?」

 

 

 

「え?うん、わかった」

 

 

 

 

まさか下の人物を足蹴にし、跳躍して脱出なんていう非道な行為など、一応は人間性を保つ彼にできるはずもなく。

 

 

 

 

そんなハンデを持ってどうやってここから出るのか、彼が入れ替えた武器は、先に使った暗殺者のモノとは違う、手甲に纏うことでがん『かぎ爪』。

 

特別な技巧を加えられたわけでも無い、ただの爪と侮るなかれ。

 

傷口を搔き開く、言葉通りの『鉤爪』の形状をし、神代の鍛冶屋に鍛え上げられた爪は鋼鉄の鎧さえも容易く引き裂き、大量の出血を強いる優れ物であり。

 

おまけにとても軽量な代物で、扱いは難しいものの、慣れれば軽快に空を舞い、強襲の形で敵の頭部に食らい付いて致命的な手傷を与えることさえ可能なのだ。

 

 

 

しかし今回使用した理由は殺しのそれではなく、『鬼切と姥断』のような軽やかに空を舞える武器の情報に、見事に『現状況に』もってこいの形状を必要としたから。

 

 

 

あまり強く、かつ下の青年を踏まないように地を蹴って飛び立ち、なんと彼はそのまま両手に付けた爪を、雪と土が混じり、ほどよく硬質な大地へと突き刺した。

 

つまり、彼は強靭で絶対に折れないと信じる爪の鋭さと粘り強さを信じ、それを壁に刺していくことにより食い付き、ロッククライミングを行おうというのだ。

 

 

 

元々深い穴でもなく、慣れた手付きでザクザクの登っていき爪にダメージが破損へ至る前に、迅速に穴から飛び出す事に成功した。

 

その横で、少々表情を驚愕に歪める少女は、一体彼のどこに驚きを覚えたのだろうか...

 

 

 

 

「貴公!脱出はできるか!?」

 

 

 

 

さて、抜けて来た穴を覗き込んで、残してしまった被害者に申し訳無さそうに呼びかけるシンダー。

 

そこまで深くないとはいえ、彼の手を伸ばして届く距離では断じて無い。

 

 

 

どうしたものかと考えるシンダーだったが。

 

 

 

 

「俺は大丈夫!このくらいなら『跳べる』!」

 

 

 

 

なんと、『跳べる』と告げた雪と土まみれの黒髪の少年。

 

覗き込んで少しでも悩んだシンダーから思えば、あまりにも予想外な答えである。

 

 

 

人で、少なくとも何メートルも道具なしで飛べるなんて夢にも思わない。

 

 

まさか、あり得ないと思うのが普通ではあるが。

 

 

 

 

「了承した、私は離れていよう」

 

 

 

 

シンダーは信じたのだ。

 

心から、その声の主を、あり得ないような絵空事をやってみせると言うことを。

 

 

 

付け加えるが、彼は天然は入っているのは否めないが、幾多もの人を見てきたがために、人を見る目は決して愚かでは無い、むしろ鋭過ぎるほどに目敏いとも言える。

 

そんなシンダーが、冗談のような言葉を信じたのだ。

 

 

そう、それは。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

強く地を蹴る音、穴から飛び出す黒い影、勢い余り更に数メートル空へと飛び出す黒コートの少年。

 

固唾を見守っていた少女が唖然とするのも仕方ないその出来事が。

 

 

 

当然のように声の主がやってのけることを指し示していた。

 

 

追加で記述しておくが、少年は何か道具を使ったり、壁を足場にして走ってきたわけでは無い。

 

純粋な跳躍力のみで、一直線に穴の底から飛び出したのだ。

 

 

 

この世界にも素晴らしい人材がいるものだ、なんてひとりごちそうになるシンダーだったが、黒コートをふわりとはためかせて地面に降り立った彼の素顔を見て、『成る程な』、なんて心の中で呟いた。

 

 

一方で、シンダーのほうに向き直った少年もまた、少々驚いた表情を作っている。

 

 

 

 

 

「貴公だったのか...本当にすまない事をしたな」

 

 

「いやもういいって、俺よりも、本当にシンダーは大丈夫なんだな?というかなんで血みたいなものがこびり付いてるんだ?」

 

 

「ああ...いや、まぁこれはな...」

 

 

 

 

なんとも、不思議な偶然も続くものだ。

 

たまたま鍛冶屋を求めてこんなところに来てみれば白竜に襲われ、そして落ちた先に知人...キリトと再会するとは。

 

 

削れたhpを、持参していたのだろうポーションを、中々豪快にラッパ飲みして癒していくキリト。

 

 

 

 

 

「その鎧の人...シンダー...さんは...キリトの知り合い?」

 

「ああ、一層からの付き合いだ、怪しい奴じゃ...ない、多分」

 

 

 

「貴公多分とは何だ、多分とは」

 

 

 

 

 

 

連続して困惑する事が続いていた——突然人が降ってきて仲間が地面に没したり、その穴から『まだ血濡れ』の古ぼけた鎧の男が飛び出して来たり、弾けるようにその仲間が跳ね上がって来たり——からか、ついていけないように困惑しながらキリトに問う少女。

 

そういえば、彼女はキリトに『リズ』、と呼ばれていたか。

 

 

 

 

 

——キリトと歳が近そうな少女...まさか、な...

 

こう何度も何度も、明らかに別の女性と睦まじくしている程『天然の人たらし』では無いとは思うが....

 

 

 

 

 

長らく付き合っていれば、その人の気質は割とわかるものだ。

 

例えばシンダーなら、あからさまに怪しい見た目に渋めの大人びた声立ちで付近の人を引かせてしまうが、その実経験して来た地獄も相俟って、簡潔に言えば人が良い人物である。

 

 

そして、今回妙ちきりんな察しをシンダーがしてしまったキリトの気質の所以とは、即ち『人が良すぎる、善意の塊の天然の人誑しに成り得る』という所。

 

ハッキリ言ってしまえば、異性の壁など云々はしっかり弁えているものの、何故かとことん女性から向けられる好意を感じる部分が鈍なのだ。

 

その上で、この『人が良い』気質を彼なりに分け隔たりなくするものだから、惚れた相手なら更にのめり込んでいってしまうし、まだ惚れていなくても、いつか恋心を持ってしまえば中々難しい『一人しか選ばれない』戦地行きとなってしまう。

 

敵の殺気、感情、行動などの『読み合い』に対する察知能力や見聞力は人並み外れる強者というのに、やはり人間は、生まれながら何か欠点を持っているのが当然なのだろうか。

 

キリトの名誉のために追記しておくが、決して、好んで女性を誘惑して弄ぶ『人誑し』というわけでは無い。

 

むしろ彼に限ってそんな卑劣な事は絶対にしないと断言出来る。

 

 

ただ、『天然』でやっているというまた違った問題なのである....

 

 

 

 

化け物と対峙した時の殺し合いにならば嫌という程慣れてはいるが、異性同士の関係云々にはめっきり疎いし、そもそも不死人と成り果てた時、既にシンダーは...

 

 

なんとも頭痛のする状態になってきた。

 

面倒が嫌いな人ならば、是が非でも逃走したい状況に違いない。

 

 

 

 

 

 

こんな状況でもなければ、かの灰は見逃したりはしない。

 

自身の手中にあるはずの、淡い導きの光を早速喪ってしまっていることに。

 

 

 

 

そして、黒の剣士の懐で、蒼と翡翠の煌めきが薄く、しかししっかりと噛み合っていっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たるべき『鍛つ』モノが現れたことに、シンダーの持ち合わせる火種達は喜ばしそうに焔の熱気を昂らせる。

 

 

 

 

 

 

 

——白竜を導いてきた、微かな希望を見守ってきた慈愛の月光が闇を祓う時まで、刻は迫って行く...

 

 

 

 

 

 







この作品特有のドジっ子な不死人。

ソウルも落とすから仕方ない。



【弱点は、逃走】


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