Adalの戦士、かの地に立つ。 (KOGA Ash)
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1. 始まり

輝く太陽に照らされて俺は朝のトレーニングを終える。

何度見たかも分からないAdalの塔は、いつものように陰鬱かつ神秘的な姿を見せていた。

 

かつての大災害を受けても倒れなかったその塔は、まだ人が居た頃の都市の様子を残す数少ない建物の一つだ。

地中に埋まっている鉱石を加工し魔術的効果を付与できたAdalの民は、一時期は大帝国と呼ばれるまでに発展した。

 

しかしある時大地が裂け、家々は崩れ噴出した猛毒の煙によって人々は死に絶えたという。

GuidesたちはそのAdalの民の数少ない生き残りだそうだ。

この俺から餓えと空腹を無くし、死を絶対の物としない力をくれたこのマスクも、彼らの力で作りだされたらしい。

 

毎朝トレーニングを終えるたびにいつも考えるのは、俺は何故鍛練を続けているのかということだ。

Absolverは世界の均衡を保つ為に産み出された、Menter達はそう言っていた。

しかし世界を揺るがすような異変などは大災害以来一度も起きていない。

張りつめるような緊張感も無いままに俺は毎日の修行を続けている。

 

まだProspectですら無かった頃の俺は、こんな難しい事を考えるようなヤツじゃなかった。

Adalの首都から遠く離れた村で漁師として働きながら、

半年に一回の祭りで行われる決闘の為にいつも路地裏でケンカをし続ける毎日を送っていた俺は、こんな毎日がずっと続いていくのだと思っていた。

実際それで満足だったし、それ以上の生活を求めるような欲はあまり無かった。

 

ある時長老からAdalの崩壊とGuidesによる戦士募集の知らせを聞いた時も、決闘で一番の成績だったというだけで選ばれて、俺自身すぐに帰って来れるだろうと思って特に深く考えず承諾した。

しかし着いてからは修行修行の日々、いつ帰れるのかと思いながらも試練を突破して、Absolverになってからも未だ帰れず、まだ俺は鍛練を続けている。

 

昔を思い出し少し寂しい気持ちになっている間に、日はもう頭上高く昇っていた。

突っ立っててもただ無意味に時間が過ぎていくだけ。

とりあえずBridgeに戻ろうとした、その時。

目の前を何か金色の粒子が舞っている事に気付いた。

既視感を感じつつも足元を見ると、足首から先が無くなっていた。

消失はどんどん進んでいく。

腰辺りまで来たときにやっと既視感の正体を思い出す。

 

Absolverとして認められた時、Adalの塔で同じ事を体験したのだった。

何故俺がまたMenter達に呼ばれるのか、疑問も晴れないままに俺は転移した。



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2. 大穴

3話から向こうへ行く事になります、展開とかもっと学ばないと・・・。


浮遊感が終わり足が地面につく感覚を確認してから、俺は目を開ける。

 

「来たか、Absolverよ。」

 

目の前に立っていたのはやはりMenterだった。

Guidesとの橋渡し役であり、Absolverの助言者。

 

「Absolverニルン、ここに。」

 

一応Adalの兵の敬礼をしておくが、不慣れな俺は上手く出来なかった。

 

「敬礼などよい、お前はSchoolのMenterなのだから。」

「一応Menterなだけです、教えるのはクロッソがやってます。」

「それでも君は闘技ではとても上位にいるだろう?」

「お褒めいただけるなら光栄です。」

「チンピラのようだと言われているようだが君の技はとてもよく磨かれているよ。さぁ、ついてきなさい。」

 

そう言ってMenterは背後のゲートへと消えていく。

後に続いてゲートをくぐると、そこはAdalの塔の1階だった。

 

「さて、ニルンよ。君を呼んだのはある任務を授けるためだ。」

「任務・・・ですか。」

「そう、任務だ。これを見なさい。」

 

そう言ってMenterは魔術刻印のされた石を放り投げた。

石は空中で不可解な起動をとり、突然砕け散った。

その瞬間、強烈な光が俺を襲った。

思わず目を瞑り、体が硬直する。

恐る恐る目を開けると、そこにはさっきまで無かった物があった。

穴だ。

黄色い光を放ちながら不規則に変形する大穴がそこにあった。

 

「これが何かわかるかね、ニルン。」

「いや・・・全く。」

 

生まれてこのかたこんな物は見たこと無いし、少し恐怖すら感じていた。

 

「これは、ここではない何処かに続いている。」

「ここではない何処か・・・外の大陸とかですか?」

「違う、この世界ですら無いのだ。」

「はぁ・・・童話のようですね。」

 

故郷の家の近所に住んでいた肉屋の奥さんが娘に読み聞かせていた童話が確かそんなような物語だった。

ウサギを追いかけて穴に吸い込まれて・・・どうなったんだっけか。

 

「なぜ何処かに繋がっていると分かったのですか?」

「それはこの本に記されている。」

 

そう言ってMenterは懐から一冊の本を取り出した。

 

「これはAdalの国家魔術研究所が記した研究結果だ、主に石による魔術を研究していた。」

 

Menterは本を開き、奇妙な紋様が描かれている所で手を止めた。

 

「見なさい、ここだ。」

 

そこにはこう書かれていた。

 

研究結果 「門」について

4080周期 燈の月 第2週 紅の日

 

以前から研究されていた石の異常動作について一定の成果が出たため此処に記す。

我々は石に検知の刻印を施し異常動作の場で起動した。

その結果、黄色い光を放つ魔術穴が出来上がった。

我々はAbsolverの一人に出来うる限りの防御魔術を施し、30分の調査を命じた。

その結果、次の事が分かった。

・穴の向こうはAdalの地ではない。

・天体の配置がこちらとは全く違う。

・未知の敵対的生物が生息している。

 

よってこの穴は別の世界へと繋がる物だと考える。

我々はこの穴を「門」と名付け安全のため一度閉じた。

研究継続の許可を求む。

 

危険性を考慮し、継続不認可とする。

Adal 政務官

 

「・・・こんなことが。」

「Adalの魔術研究はとても進んでいた、不思議では無いだろう。」

「・・・もしかしてこの穴も。」

「そう、この文に書いてあった「門」はこれと考えて間違いないだろう。」

 

改めて穴・・・「門」に目を向けると、何故か奇妙な恐怖を感じた。

小さい頃に初めて鮫を見たときのようなその感覚は、俺の腹に重くのし掛かってきた。

 

「さて、ここからが本題だ。」

 

Menterが俺と向き合い、そう言った。

 

「今回の任務とはこの「門」の向こうへ赴き、なるべく詳細に調査し、帰還することだ。」

「・・・。」

 

声も出なかった。

嫌な予感はしたがまさかここまでとは。

 

「向こうには危険な事が沢山あるのだろう、だから君を呼んだのだ。」

「・・・何で俺が選ばれたんですか。」

「それは、君の戦闘スタイルと強さ、それに生存能力からだ。」

「俺の・・・戦闘スタイル?Khalt Methodの事ですか?」

「あぁ、そうだ。他の流派は対人間に強い物だ、しかし向こうに居るのが人間だけとは限らないだろう。だからこそ、単純な威力に優れ防御に優れたKhalt Methodが、そしてその中で第一位の君が選ばれたのだ。」

 

何とも言えない気分だ。

誉められるのは嬉しいが結果がどうにも嬉しくない。

 

「・・・どうだ、やってくれるか。」

 

そう言ったMenterの顔は真剣だった。

 

「・・・分かりました。」

「そうか・・・ありがとう。では早速準備に入ろう。」

 

そう言ってMenterは足元の箱から鉄製のベルトを取り出した。

ベルトには四角い鉄製の固定具、それにこれまた鉄製の丸い入れ物が付いていた。

 

「全て白紙の本に、万年筆だ。インクは魔術刻印の入った石で作り出される。あとは自分で復活が出来るように回帰の石をやろう。」

「回帰の石って・・・宝物じゃありませんでしたっけ。」

「よい、Guidesの許可は得ている。」

 

ベルトを着けると、暖かい何かが俺を包んだ。

 

「さぁ、行ってこい。そして必ず帰るのだ。」

「・・・はい、行ってきます。クロッソ達にもよろしくお願いします。」

「あぁ、私から言っておこう。」

 

まだ少しの不安は残るが、決めた以上は完遂するつもりだ。

俺はMenterに頭を下げてから、「門」へと飛び込んだ。

 

 

 



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