闇夜を裂く直死の魔眼 (蒼蠍)
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黒との邂逅

思いつきネタ。


「はあっ、はあっ!」

 

 

 1人の男が薄暗い路地裏を走る。

 この男は違法薬物の売買を中心に活動している犯罪グループのリーダーだった。裏社会の中でもグループはそれなりの規模を誇り、順調に勢力を拡大していた。

 

 

 だが、彼らは調子に乗りすぎた。

 

 

 

 

 コツ………………コツ………………コツ………………

 

 

 

 

 男の後方からブーツの足音が聞こえる。

 

「ひぃぃぃ‼︎」

 

 男にとってその音は死神の足音のように聞こえた。

 彼らは調子に乗って自分たちより格上の組織に手を出した。

 出してしまった。

 

 これはきっとその報いなのだろう。

 

「なっ!クソ!」

 

 男が逃げた先は行き止まりであった。

 

 

 

 コツ………………コツ…………

 

 

 

 そうして男が立ち止まってしまった時に、後ろで足音が止まった。

 

 男が恐る恐る音が止まった方へと振り向くと、そこには1人のナイフを持った女がいた。

 

 女の姿は、髪は黒髪で日本においては見慣れたものだったが、服装は藍色の和服の上に黒のジャンパーを羽織っているという奇妙な出で立ちをしていた。

 

 だが、それ以上に目を引いたのは女の()()()()()()()()()であった。その眼を見ていると、まるで自分の心臓を握られたような感覚に陥りそうになる。

 

 それでも男はその恐怖を抑えながら、女へと命乞いを叫ぶ。

 

「アンタの組織に手を出したことは悪かったと思っている!俺たちの支援をしてくれたヤツの名前も言うしアンタの望むものなら何でも聞く!だからどうか見逃してくれ‼︎」

 

 男は自身のプライドを捨て土下座をしながらそう言った。これが今、男ができる生き残るための最優の手段だったのだろう。

 

 

 そうして男の言葉が発されてから現実では数秒、男にとっては数時間のように感じる時間が過ぎた頃、その男の言葉に今まで無言だった女がやがて口を開いた。

 

 

 

 

「……お前らのバックについてるヤツはもう調べが付いている。オレが今最も望んでいるものは、お前の死だけだ。だから…………お前はここで死ね」

 

 

 

「なっ‼︎……!このアマがぁ‼︎」

 

 男は女の言葉に言葉を失うが、やがてフラフラと立ち上がり懐から一丁の拳銃を出した。

 

「こうなりゃやってやる!テメェが死ねぇ!」

 男は引き金に指をかけ、自分の命を奪わんとする女を狙おうとする。

 

 

 

 

 だが……

 

 

 

 

「なっ!?ぐはっ!」

 

「もう黙れよ。さっさと逝け」

 

 

 

 

 女は男が銃弾を放つよりも早く接近し、最初に銃を持つ腕に走る"線"をなぞるように切り裂き、そのまま体をステップを踏むように回転させ背中や腰を切りつけた。

 

 すると男は糸の切れた操り人形のように倒れこみ、本来ならば大怪我にはなるかもしれないが致命傷には至らないはずの箇所を切り刻まれ、絶命した。

 死んだ男の顔は自分に起こったことが理解できていないような表情を浮かべていた。

 

 

 そうして絶命した男の体から血が噴き出し、やがて小さな血溜まりとなりつつあった。

 そんな光景をなんとも思わないように男をいとも容易く殺した女は携帯を取り出してとある人物へと連絡する。

 

 

「ああ、もしもしオヤジ?任務の内容通りターゲットの殺害、及びグループのバックにいたヤツの特定を完了した。

 なあ、今回の任務はオレが行く必要あったか?拍子抜けもいいとこなんだが」

 

 

 

『まあ、そんな事を言わないでくれ。念には念を、というヤツだ。殺しでお前の右に出る者は居ないのだからな』

 

 携帯から聞こえた声は、老齢の男性と思わしきものだった。

 

 

「殺すことなんて他のメンバーだって得意だろ」

 

『"相手を殺す"事における確実性の高さを言っているのだが……まあいい、グループのバックについていた者は此方で始末しておこう。これで今回の任務は完了だ。ご苦労だったな"アスティ"よ』

 

 

 

「ハイハイ、分かったよピスコ(オヤジ)

 

 

 そう言って通話を終えたアスティと呼ばれた女

 "両儀式"は暗い路地裏へと消えてゆくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはオレの前世の話だ。

 

 高校生だったオレは休日電車で出かける際、途中の駅の階段を下りていた時に、後ろから走るように下りてきた小学生くらいの子供に背中を押され階段から転落し、打ち所が悪くて死亡したのだった。

 

 

 オレが目を覚ますとそこは真っ白な空間だった。

 わけもわからずに混乱していると、後ろからパンッ!とクラッカーの音が聞こえたので慌てて振り返ると、白いローブを被ってクラッカーを持った女が居たのでお前は誰だと問いかけると

 

 

「私は神様!この空間に住んでいるの!貴方は私のミスで死んでしまった記念すべき333人目の人だよ!これから転生させてあげるよー!なんでこんなに人数が多いのかっていうと私ドジっ子なの……だからゴメンね?」

 

 

 とぬかしやがったので、ブン殴ろうと拳を握りしめた。

 アホかコイツ!ミスし過ぎだろうが‼︎

 神がドジっ子とか最悪だわ!

 

 自称神はオレが怒っている事を察知したのか

「ホントゴメンね!その代わりこれから転生させる時に特典3つあげるってことで許してね!ただし、特典と転生させる世界はこっちがクジ引きで決めるよー!」

 

 よし殺す。絶対こいつだけは殴り殺す。

 

 一方的な話し方がまずイラつくし、内容もほとんどこちらに決定権がなかった。

 とはいえ、向こうのクジ引きで決まるとはいえ転生させてもらえるし特典も3つついているので無駄死によりはまだマシかと思い一応は納得した。

 さらに余計なことを言って来た時にすぐ殴れるように握りしめた拳は緩めることはないが。

 

 それでクジ引きの結果、オレの転生特典は

 1、両儀式(織と"式"の人格は除外)

 2、身体強化

 3、気配遮断A

 だった。

 

 オイ、完全に殺人鬼もしくは暗殺者じゃねーかという前にオレは突如できた穴に没シュート。

 

 ちょっと待て!特典言われてから転生させるの早過ぎだろうが!

 あと転生する世界どこだよ!?

 

 と叫びながらオレは落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

「おおー、転生先は……名探偵コナンの世界かぁ。完全にこれ転生特典合わせると犯罪者サイドだなぁ……。これだったら主人公(コナン)に勝っちゃうかもなー」

 

 

(まあ、その世界の主人公のコナンが死んじゃったら世界が崩壊しちゃうし、そうなりそうだったらこっちも介入するんだけどねー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということがあってオレは転生したが、問題がいくつかあった。

 1つ目は両儀式という特典の影響で両儀式の姿になって性別が変わってしまったこと。

 また、両儀式になったことで直死の魔眼を持っているがゆえにまわりの風景全てに線が走っており、ずっと見続けていたら気が狂っていただろうこと。しかしそれはどうやら自分の意思でON/OFFができるらしく何とか耐えることができた。

偶に感情が怒りや悲しみで不安定になって制御しきれない時があるけど。

 

 

 だがもう1つの問題が重要だった。

 

 

 オレは何故か5歳児の姿で橋の下にいた。周りに人気はなく、親もいなかった。

 つまりオレはただ体を幼女にされそのまま転生されたため、両親なんて存在せず戸籍すらなかった。

 

 まさか二度目の人生の方がハードモードだとは思わなかった(白目)。

 そこからオレは引ったくりや置き引き、スリなど気配遮断を利用して犯罪を犯して何とか生きていった。

 

 

 そんな生活をしているある日のことだった。

 路地裏でスッた財布の中を確かめていると、1人の男が近づいて来たのである。

 

 その男は何度か見かけたことがあった。

 確かギャンブル依存症で賭け金を得るために財布を強奪するという、"財布目当て"という点においてはある意味同業者とも言える男だった。

 

 どうやらこの男は、ここ最近いいカモがおらず金に困っているようだった。おそらく少しの金でもいいから手に入れたかったのであろう。

 右手にナイフを構えた男がオレに金をよこすように脅してきた。

 

 

 だがこちらも生活に余裕はなく、はいそうですかと渡すわけにはいかず断ると男は襲いかかってきた。

 

 ここで普通であればどちらが有利か?

 考えるまでもない、体格が勝る大人に決まっている。

 その例に漏れずオレは大人と子供の体格差には勝てずに押し倒されてしまう。

 男が嬉々とした表情でナイフを振り上げた時、オレはせめてもの抵抗として男の股間を蹴り上げ、男が悶絶しているうちに手からナイフを奪った。

 

 

 その時俺は生まれて初めてこの男への殺意を抱いていたのだろう。

 

 オレは男の体へナイフを突き刺した。

そうしてナイフを引き抜くと男が痛みに悶えているのが見えたので、オレは男の体に走る線を男がまともに身動きが出来ないうちに無我夢中で切りまくった。

それこそ自分の位置から見える箇所は全てだ。

 すると男は最初は痛みによる呻き声を上げていたが、徐々にその声は小さくなっていきやがて絶命したことが分かった。

 

 男が動かなくなってから、冷静になったオレが初めて人を殺したことへの恐怖を感じていると

 

 

 

 

「中々に興味深いな君は。久々に面白いものが見れたよ」

 

 

 

 と言う声が聞こえ、そちらの方を振り向くと1人の40代くらいの紳士風の男が満足げな表情でオレを見ていた。

 オレが警戒しながら男を見ていると

 

「君はその歳で盗みを働いているようだが親はどうした?」

 と聞いてきたので

 

「オレは親も戸籍もない。生きていくために犯罪をしているだけだ」

 と返すと男は考え込むように何かブツブツと言い出したが、やがて何かを決めたのかオレに

 

 

「では私に付いてこないか?君のような人材はこんな所で腐らせるには惜しい。君もこのままだとあの男を殺した人物として逮捕まではいかないが、厄介な事になるだろう。食事や寝床などは用意されるだろうから君の理想を満たしているとは言えるがね」

 

 

 と言った。

オレは少し迷ったが少年院やら何やらに入れられるのは御免だし、この男から逃げる事も出来ないと自身の直感が告げていたので、アンタに付いていく事にすると言うと男は笑みを浮かべこう言った。

 

 

 

「宜しい!今この時から君は私の娘だ。呼び名は……済まないが今は

 "ピスコ"と名乗らせてもらおうか」

 

 

 

 あれ?この人もしかして"黒ずくめの組織"のピスコ?とすると、この世界って……名探偵コナンの世界かよ!?絶対最後捕まるだろこれ‼︎

 

 と思ったが、殺人をしたことによる過度のストレスのせいかオレはその場で倒れ込んでしまった。

 

 目を閉じる前に見たのは、突然の事にオロオロしている紳士のような雰囲気が四散した男の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

  ━━これはのちに黒ずくめの組織最凶と言われた女幹部の物語━━

 

 

 




続くかは未定です。

何故赤ではなく黒のジャンパーを着ているかというと赤が目立って
活動に支障が出るから。

男が死んだ場面やっつけ過ぎたなぁ...。


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眼に魅入られた者

続いたのである。

ピスコ、第三者の視点から前話+その後の組織の様子。

オリ設定有り。
深く考えずに読んでください。


 黒づくめの組織の幹部、ピスコはあの時のことを忘れることはないだろうと述懐する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはピスコが表の顔の自動車メーカーの会長"桝山憲三(ますやまけんぞう)"として活動していた時だった。

 

 車で出先から帰る途中に組織からの連絡が入り、運転手に聞かれると面倒なことになるので車を停めさせて、人通りの少ない路地で通話をすることにした。

 特に重要な要件ではなかったため、連絡自体は5分程度で済んだ。

 

 

 

 

 そうして通話を終えたピスコが車に戻るために歩き出そうとすると、曲がり角を曲がったところの先に1人の子供がいた。

 

 こちらから顔は見えないが、子供は壁に寄りかかりながら何やら財布から金を出して数えており、大方スッた財布の中身を確認しているのだろう、ピスコに気づいた様子はなかった。

 

 後ろ姿なので判別がつけにくかったが、長年培ってきたピスコの観察眼であの子供が女性、つまりは少女であることが分かった。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 ピスコはその少女を見て驚愕した。

 それは見る限り10歳にも満たない少女がスリを成功させていることに対してではなかった。

 

 

 

 この少女が"気配を一切悟らせずに突然現れた"からであった。

 

 

 

 狙撃手として、殺しを日常として生きてきたピスコは長年の経験により、決して周囲の警戒を怠ることはなかった。

 

 その理由は狙撃手は狙撃の性質上、背後から敵が接近した場合には後方がどうしても手薄になる為危機に陥りやすくなるという弱点を補う為にだ。

 

 故にピスコは気配に人一倍敏感であり、例え曲がり角を曲がった先にいる人間の気配でも察知することなど容易であった。

 事実、少女よりもさらに奥にいる何やら足取りが定まらない男の気配は角を曲がる前に感じ取っていた。

 

 

 だが、この少女はどうだ。

 ピスコが角を曲がった途端、まるで突然現れたかのように気配が生まれ、少女の姿が現れたのだ。

(この時少女は、スッた財布に入っていた金が思っていたよりも大金だったため、気が緩み気配遮断が解けてしまい認識された)

 

 

 

 最初は驚き、硬直していたピスコだったがやがて思考が回復すると

(いや……、そんなことがあるはずがない……。私が油断してしまっていて見落としていたのだろう。)

 と、ピスコは突如少女が現れたという事態を自分の油断による見落としによるものだと考えて平静を取り戻した。

 

 

 それもそうだ。仮にあの少女が気配を絶っていたと言うならそれはもはや人の域を逸脱している。

 この平和ボケしている日本においてそのような隠形をやってのける者がいる、それも幼い少女が、などと言われて信じることなど到底不可能だろう。

 

 

 

 

 だがそのピスコの考えは、次に起こった展開で少女のとった行動によって改めさせられたのだった。

 

 

 

 

 ピスコが頭の中で思考していると、先ほど認識していた男が少女に襲いかかっていく。

 

 男にいとも簡単に押し倒された少女を見て、ピスコはなんの感慨もなく

(ああ、やはり先ほどのアレは私の油断によるもの。偶然起きたことだったのだろうな)

 と思っていると、少女は男から奪ったナイフで男を刺したのであった。

 

 

 ここまではピスコも起こりうる可能性として考えていたため特に驚くことはなかった。

 (例え相手が子供であろうともそういった偶然から来る出来事も、起こらないとは一概には否定できないからだ)

 

 だがこの後に起こった事態は、様々なことを経験したピスコですらも目にしたことがなかったことだった。

 

 

 

 少女はナイフを一旦引き抜くと、腹あたりの傷口を抑えて悶えている男の体をがむしゃらに切りつけた。

少女はただひたすらにナイフを振るっている為、最初に男が受けた傷以外はそこまで深い傷にはならないだろう。

 

そうしていると男は身体中の痛みを我慢し少女の腕を掴もうとしているのがピスコからは見えた。

 

恐らくこれで再度有利な立場が逆転するであろうと見切りをつけたが、男の様子が何処かおかしいとピスコは感じた。

男は呻き声を漏らしていたが、その声がどんどん小さくなっているのだ。

見るからに呼吸が整った訳ではないだろう。では何故.....?

 

そう考えたのもつかの間、男が突然倒れ込んだのだった。

 

 

「なっ⁉︎」

 

 

 これには今までに数え切れないほどの人間を殺してきたピスコも目を見張った。

 

 

 あの少女のナイフでの傷はどう見ても死に至るようなものではなかったのは明瞭だった。

 それにナイフが刺さった箇所も出血はしているものの、出血死に陥るような傷の深さではなかった。

 

 

 

(一体どうなっている⁉︎あの切り傷でどうやって⁉︎)

 

 

 

 この未知の光景をピスコは何が起きたか理解することはできなかった。

 

 何せ心臓や脳を狙ったものでない攻撃で人間が死ぬだろうか?

出血死の可能性もなく、男は死んだ時、ぷっつりと糸が切れた操り人形のように死んだのである。

銃で撃ったとしてもあんな死に方はしないだろう。

 

 ナイフに何か仕込まれていた?

 いや、ナイフは見る限りシンプルな作りをしている為、何か仕込むことは不可能だろう。

 それにあのナイフは男の所持していたものであったが、見た限り男が細工など手の込んだことなどしない人物であるように思えた。

 

 となるとあの少女に"何か"が……?

 

 

 そう疑問を胸に抱えつつ、ピスコは平然を装って少女に声をかけた。

 この時ピスコはこの少女を逃してはいけない。自分の命令に従う都合の良い傀儡にしよう、と考えていた。

 

 相手の少女はナイフを持ち、どうやってかはわからないが相手を即死させる術がある可能性がある。

 普通であればそんな相手を相手取るのは無謀と言っていい行為だった。

 

 

 だがピスコは長年の経験から、眼前の少女が男に簡単に押し倒されていたことから身体能力は己の脅威になるものではなく、仮に襲ってきてもその駆け出す速度は年相応だろうとあたりをつけた。

 

 また、ピスコとてナイフを主武装とする敵を相手取ったことは何回もあり、接近戦での立ち回りは心得ていた。

 故に少女と敵対することになったとしても、対処法さえ立てておけば恐れることはない。そうピスコは判断して動いたのだった。

 

 

(さて、事態はどちらに転ぶか?なるべく対立を避け、平和的にいければ良いのだが)

 などと考えていると、声をかけられた少女はやがて此方に振り向いた。

 

 

 そうしてピスコは振り向いた少女の顔を目にした途端

 

 

  心を奪われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 少女の顔は幼いながらも中性的な顔立ちをしており、黒髪がその顔立ちによく似合っていた。

 

 だがそれ以上に少女の眼にピスコは引き込まれた。

 

 日本人であるはずの彼女の眼は黒色ではなく、赤青いものだった。

 虹彩に異常が有るのか?

 いや、それはあり得ないだろう。

 

 少女の眼は、まるで夜明けを迎える空のように徐々に色が深い青色から薄い水色に移り変わっていたのだ。

 

 それは明らかに普通の人間の眼ではなかった。

 事実、少女の眼を見ていると首に死神の鎌を添えられたような錯覚に陥る。

 

 だがピスコには少女の眼を見て恐怖を感じたものの、違う感情が胸の内で渦巻いていた。

 

 

 "美しい"と思ったのだ。

 

 

 先程までに考えていた少女を利用するという考えはいつの間にか消え去っており、今はあの少女を手に入れたいと思っていた。

 

 

 これはある種の一目惚れだったのかもしれない。

 それほどまでに少女の眼にピスコは惹かれていたのだ。

 加えて先程の不可解な出来事だ。

 少女をみすみす見逃すわけにはいかなかったのである。

 

 

 ピスコは逸る気持ちを抑えつつ、少女を賞賛して自分についてこないかと誘いをかけた。

 

 少女は少し悩んだようであったが、やがて自分の娘となることを選んだ時、ピスコは思わず声をあげて喜びそうになる。が、そんな姿を見せるわけにもいかずに必死に喜びを堪えた。

 

 

 だが、次の瞬間少女が倒れた時には肝を冷やした。

 

 少女の容態を確認し、呼吸はしているので命には別状がないことが分かったが、少女を抱き抱えたピスコは足早に車に戻った。

 ピスコは運んできた少女に驚く運転手に、裏でつながりのある病院に向かわせた。

 

 そうして少女の運命が定まったのであった。

 

 

 

 それから数年後……

 

 

  "ピスコが少女を養子にして、組織に入れた"

 このことに組織の幹部は驚きを隠せなかった。

 

 何せ"あのお方"の部下として長年仕えてきて、幹部の中でも別格であるあのピスコが、年端もいかぬ何処の娘かも分からない少女を養子にしたのだ。

 あまつさえその少女を組織に入れ、"アスティ"というコードネームまで与えたのだ。

 そんなことをするなどピスコが一体何を考えているのか理解できなかった。

 

 ピスコは"アイリッシュ"というピスコの古い友人の息子の育て親をしていた。

 アイリッシュを育てていた理由は亡き友人との友情からくるものだろうと考えることが出来る。

 

 アイリッシュは最初のうちは自分より年下のアスティのことを邪険に扱っていたものの、同じ育て親を持つものとして共に行動する機会が増えた結果、関係は改善された。

 

 

 話は戻るが、アスティの育ての親になった理由はアイリッシュの時と同じなのだろう。

 そう考えた1人の幹部がピスコにその娘の親は誰なのかと聞けば

 

「知らぬよ。もとよりあの娘は孤児であった」

 

 と返したので、その線は消えた。

 ならば何故組織に入れたと聞くと

 

「なあに、いずれ分かるさ」

 

 と言うので、渋々アスティにせめて使い物になるように訓練を開始すると、彼女の驚くべき身体能力が判明したのであった。

 

 射撃の腕は突出したものではなかったが、走力、跳躍力、身軽さや反射神経などは6歳という年齢にも関わらず成人男性に匹敵するものであった。

更には気配の消し方が並外れていたのだ。

 また、ナイフを得物としての戦闘訓練では、指導をしていた組員を幼いながらも圧倒していた。

 

 このことから、少女が成長した場合更に強くなるということが予想できた。

 また、プロの暗殺者顔負けの気配断ちによる暗殺、諜報活動なども期待できる。

 

 そうしたことが分かった訓練の結果を聞いたピスコは大いに喜んでアスティに偽造した戸籍を与えたのであった。

 言うなれば少女が"表"で生きることができるようになったという事だ。

 その反面この行為は将来この少女が組織を離反した場合には"表"で生活することができてしまい、組織に縛り付けることが難しくなるというリスクが含まれているものであり、本来"裏の人間"は決してすることのないことだった。

 

 だがそんなことも気にならないほどに、この時ピスコはアスティにかなり入れ込んでいた。

 計り知れない才能を秘めた少女への期待は、いつの間にか父親が娘に向ける親愛の情に変わっていたのかもしれない。

 ピスコは独身であったため、そのような父性に目覚めたのは無理のない話であったのだろう。

 

 

 

 

 そうして組織の内での立ち位置をアスティは確保したのである。

 このことからアスティが組織の幹部のうちの一人と目されることになるのに、そう時間が掛かることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ設定:ピスコがアイリッシュを育てている経緯


ピスコの思考
中々使えそうだし操り人形にしたろ!→あの眼を持った少女が欲しい!→私の娘は世界一ィィ!

自分で描いててピスコがロリコンに見えた。


今後の展開ですが、ピスコとアイリッシュをできるだけ生存させるのは決まっているのですが、テキーラとカルバドスを生存させるか迷っています。
飽くまで生存させるだけで、頻繁に出て来る訳ではないですが
黒づくめの組織の戦力が減らずにコナン、FBI側がハードモードになるだけです。

そこで活動報告でアンケートを取りたいと思っていますのでよろしくお願い致します。
詳しくはアンケートにて!



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バタフライ効果

アンケートの結果、生存ルートを望む方が多かったので、そちらに決定しました。
アンケートへのご協力、並びに誤字報告ありがとうございました!

今回の話キャラ崩壊注意。


 ーとある広大な射撃場にてー

 

 

 

 「どうだ我が娘よ!齢60を超えてなお射撃の腕を上げるこの私は!」

 

 そう男は高々と誇るように声を上げた。

 

 

 一人の女の方へ向いている男の後方にある人型の的には複数の穴が空いていた。

 穴の周りがやや焼け焦げている事からそれは銃弾で空けられたものだということが分かる。

 

 

 この男は300m離れた人型の的の、人間で言うところの心臓がある位置を寸分違わずに撃ち抜いていた。しかも懐から銃を取り出してから1秒も経たない間に発砲したものである。

 その速さは実に0.65秒。

 この男の年を考慮するとそれはとてつもない技であるだろう。

 

 そんな短い間に撃った銃弾が的確に心臓を撃ち抜いているという事実から、この男が恐るべき射撃の腕を持っていることが分かる。

 

 

 

 その様な射撃を見せて誇る様な声で言葉をかける男に対して、声をかけられた男の言う娘こと"アスティ"はというと

 

 

「あー、はいはい。オヤジは凄いと思うよ、うん。ホント」

 

 と何処か棒読みな声色でそう返した。

 

 

 それもそうだろう。

 アスティがその様な平坦な反応をするのは撃ち抜かれた的の横を見れば分かる。

 そこには四つの同じ形の的があり、それぞれ眉間、肩、腹部、膝を撃ち抜かれていた。

 

 つまりはアスティはこの早撃ちを既に4回見せられており、今ので5回目であった。

 初めの1回目にはアスティも感嘆の声をあげたものの、何回も見れば流石に見飽きてしまうのも仕方ないだろう。

 

 

 だがそんなアスティの様子に気付いていないのか、そう言葉を返された"ピスコ"は益々気を良くしていく。

 

「そうだろうそうだろう!私の腕は衰えることなどない!ふははははは‼︎まさか還暦を迎えてからこの様な早撃ちを身につけてしまうとはな!私もまだまだ捨てたものではないぞ!」

 

 そう言って高笑いをするピスコにアスティは苦笑いを零す。

 

 

「幾ら腕が衰えてなくても、それなりに年食ってんだから無理すんなってオヤジ」

 

 アスティは年甲斐もなくテンションがハイになっている68歳の父親にそう言って気遣いの言葉をかけながら、何故自分たちが射撃場にいるのか思い返していた。

 

 

 

 

 元々ピスコは原作では暗闇の中、銃身にハンカチをかけた状態からシャンデリアの鎖を撃ち抜くという離れ業からかなりの射撃の腕を持つことが分かるが、ピスコの言葉から今までは早撃ちは身につけてはいなかったことが分かるだろう。

 

 では何故ピスコはこの様に早撃ちを身につけたかというと、

 当時アスティに入れ込んでいたピスコであったが、我が娘が努力を積み重ね、幼い身でありながら大の男が行うような訓練をしている姿に触発され、還暦を迎えている身であるにも関わらず一念発起。

 今の自分に胡座をかいていたピスコは自らの射撃技術を一から鍛え直した。

 

 その時行なった訓練は、ピスコが若い頃に行なっていたものよりも過酷なものであった。

 初めのうちは体がついていかずに悲鳴をあげていたものだった。

 

 だが娘が頑張っているのに自分も頑張らずして何が父親かという無駄に硬い意志で訓練を続行。

 あのお方にも掛け合って実働部隊での任務も引き受けて、実戦経験を積んで狙撃の腕を磨いた。

 

 

 これが俗に言う「ジジイ無理すんな」である。(年寄りの冷や水)

 

 

 

 だがその結果己を見つめ直して訓練に明け暮れたピスコは、かつての自分の全盛期を超える射撃の腕を得たのであった。

 そして思わぬ副産物として、その過程であの様な早撃ちを身につけたのであった。

 

 

 アスティとしては自身がオヤジと呼んで敬愛するピスコが強くなることは嬉しかったが、それなりに歳をとっているピスコが無理をして倒れるのではないかと気が気ではなかった。

 とはいえそれは要らぬ心配となってよかったと思っている。

 

 そうして原作よりも強くなったピスコであったが、アスティには一つの懸念材料があった。

 それはピスコの宮野夫妻、及びその娘の長女宮野明美とのちの"シェリー"というコードネームを与えられる次女の宮野志保との親交についてであった。

 

 

 アスティはピスコが自分を育てつつ、自己の研鑽に励んでいるのを見て

「宮野夫妻らとは会っているのだろうか」

 と疑問に感じたのである。

 

 自分が見る限りでは子育て、射撃訓練、任務しか行っておらず、あとは表の自動車メーカーの会長としての仕事に明け暮れていて、とても宮野夫妻らと会う時間はないように見えた。

 

 ピスコと宮野夫妻は親交があり、原作でもその影響でシェリーこと灰原哀を見た瞬間に宮野志保であると気付いた。

 そこからシェリーを監禁し、逃げられてしまった後にジンに殺されたのだ。

 

 つまり原作通りにピスコが哀に気付くかどうかは幼少の頃のシェリー(宮野志保)と面識があり、なおかつ宮野夫妻が作っていた薬

 "APTX4869"を知っている事がカギとなってくる。

 

 なのにピスコが宮野夫妻と会っているようには見られなかったので、それとなく組織には科学者がいると聞いたが、その人とは会った事があるかを聞いて見るとピスコは

 

「ふむ、長女の明美ちゃんは小さい頃に会ったことはある。次女が産まれたことも聞いたがそちらとは忙しかったので会ったことはない。

 数年後アスティを拾ってからは宮野夫妻とも久しく会っていないな。そういえば何か薬を作っているとは言っていたが詳しいことは分からずじまいだ」

 

 と答えたため、この時点でアスティは前世の原作知識は役に立たないと判断した。

 これからの展開がどうなるかを予測するのは不可能であるだろう。

 あの時はどうしたものかと頭を悩ませたがそこは無理やり割り切るしかなかった。

 

(オレというイレギュラーが存在することで原作にズレが出てるな。

 このズレが果たして吉と出るか凶と出るか...。)

 

 

 アスティはそう心の中で呟くと目の前のピスコに意識を戻した。

 

 

「心配には及ばんよ。年老いてなお進化を続ける私に寄る年波なぞ恐るるに足らん‼︎」

 

 ピスコはアスティの忠言に対してそのように返して、また新たな的へ銃弾を放つ為に勢い良く向き直ろうとしたが............

 

 

 

 ゴキッ!

 

 

「あっ........。」

 

 

 射撃場に鈍い音が響き渡った。

 

 

 そうしてアスティがその音の発生元に目を向けると...........

 

 

「ぬおぉぉぉっ!?こ、腰がっ!腰がァァァ...!」

 

 

 己がオヤジと慕うピスコが無惨な姿で、腰を抑えながら倒れ込んでいた。

 

 

「はぁ.....。」

 

 アスティは額に手を当てながらため息をつくと、助け起こすために呻くピスコの元に駆け寄った。

 

「よっ...と。大丈夫かオヤジ?」

「はぁ...はぁ...、すまんな....。腰をヤッてしまった様だ...」

「だから無理すんなって言ったんだよ。まったく、こんな姿他の幹部に見られたら笑われ者になるし人目のつかないとこまで連れてくぞ」

「ああ...頼む。グッ、中々にキツいものだなぎっくり腰というのは...。」

「これに懲りたら少しは自重してくれ」

「うむ...、分かった...。」

 

 ピスコが老人とはいえしっかりとした男の体であるため流石に女のアスティには背負うことは出来ないので、ピスコに肩を貸しながらゆっくりと出口の方に歩いて行くことにした。

 ピスコを心配したアスティがこの様なことが起こらないようにするために注意しながら通路に入ると

 

「ん?ピスコとアスティじゃねぇか。ピスコに肩貸してどうしたんだ?」

 

 と声を掛けられたため声がした方を見ると、そこにはピスコの義理の息子でありアスティの義兄に当たる特徴的な眉毛を持った男"アイリッシュ"がいた。

 

「ああ、アニキか。オヤジが腰ヤッちゃって、一応病院に連れて行く前に冷やしといた方がいいと思ったからそこの医療室につれてこうかとしてたんだ」

「腰を?まあ、経緯は気になるが医療室に行くことを優先した方がいいか。俺が背負ってやるよ」

「いいのかアニキ?」

「普通に体格差考えて俺が運んだ方がいいだろ。ほら、おぶさってくれピスコ」

 

 確かにがっしりとした体格のアイリッシュの方が、細い体のアスティよりも適任と言えるだろう。

 

「世話をかける...。」

「このくらい気にすんなよ」

 

 アイリッシュに背負われたピスコが申し訳なさそうに言ったが、アイリッシュはそう返して医療室に運んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医療室にてピスコの腰を冷やしたアイリッシュとアスティは、ピスコを以前アスティが倒れた際に世話になった病院に連れて行った後、病院の外で話し込んでいた。

 

「次の定例会議は俺とピスコは任務の都合上出れねぇことになった」

「うげぇ、嘘だろ?"ベルモット"の視線から逃れるための盾がいなくなるとか...。」

 

 アイリッシュの言葉を聞いて、アスティは嫌そうに顔を歪めた。

 

「おい待て、盾って俺のことか?」

「アニキのことに決まってんだろ」

「どんだけベルモットが嫌いなんだよ」

「あんな粘着質な目で見られたら誰だって落ち着かないだろ。

 それに()()()()()()で本気で殺したくなんだよ」

「まあ確かにあの女は信用できねぇし、あん時のことには俺も怒りは抱いているがな」

 

 そうアイリッシュは言葉を一旦区切り、また口を開く。

 

「だが今は耐えてくれ。他の奴らからすればお前が一方的に手を掛けたように見えるだろう。おそらくボスにもだ」

ベルモット(あいつ)はボスのお気に入りだから......、だろ?」

「そういうこった。奴がお前にちょっかいかけても経緯が経緯だけに下手にボスにも言えねぇからな。奴が不利になる証拠を見つけねぇ限りどうしようもねぇ」

 

 アイリッシュはそう吐き捨て、言葉を続ける。

 

「流石に"カルバドス"の一件だけじゃ無理だ。ベルモットとの関連性はないと判断されるだろうよ」

「薄々そんなことだろうとは思ってたよ」

 

(原作が始まってベルモットが独断で動いて、ボスに疑念を持たれるまで待つしかないか...)

 

「今はどうしようもねぇ以上このあたりで話は終わりだ。そろそろピスコを迎えに戻るぞ」

「はいはい、分かったよアニキ」

 

 ーそう言って歩きだす二人は姿形は全く似ていなかったが、まるで本物の年の離れた兄妹のようであった。

 

 

 

 

 

 

 ーその頃ー

 

 

「俺だ。これから組織との関わりがある宮野明美に接触を試みる」

『ーーーーー』

「問題ない。ああ、では手筈通りに潜入調査を開始する」

 

 

 そうして徐々に歯車は回り出す。

 

 

 

  ー原作開始まで後3年ー

 

 

 

 




タイトル通りのバタフライエフェクトで一部キャラ強化+シェリー監禁シーン消滅。
そして組織は決して一枚岩ではない。

アンケートでキュラソー忘れてた...。あの人記憶失わなかったら組織側のままだったから出そうか、映画キャラのため存在しないことにするか迷い中。


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生じる不和

感想欄、活動報告にて応援の言葉を掛けてくださった方々、ありがとうございます!
オリ設定・原作との相違点有り


 そこは組織が持つ複数のアジトのうちの1つだった。

 その内部のとある広い部屋には複数の人間が存在しており、その者たちは一人のサングラスを掛けた男の言葉を聞いていた。

 

「これは上からの指令だ」

 そう言葉を言い放ったのは組織の幹部の1人"ウォッカ"だ。

 

「今から今回集まった要件を話す。最初に"キャンティ"、"コルン"、近頃組織に武器を卸していた会社の裏での取引が表に漏れる可能性がある。今はまだ与太話として認識されているが、組織の情報が流れるかもしれねぇ。お前らはそこの会社の社長及び役員を()って有耶無耶にしとけ」

 

 ターゲットである取引に関わっている社長達の家と車で出社する時間とルートは調べがついている。任務は車での移動中に狙撃で仕留めて情報が漏れる前に消す、といった内容だ。

 

 

「はいよ!久しぶりに殺しがいのある任務になりそうだ!」

「殺し、放題」

 ウォッカの言葉を聞き、キャンティと呼ばれた目元に蝶の模様がある女と、野球帽を被った男コルンが喜色満面といった様子で物騒なことを口にする。

 

 この2人はかなりの狙撃の腕前を持つのだが、どうも"殺し"を楽しんでいる節がある。

 今の所任務に支障は出ていないものの、特に短気なキャンティは注意力に欠けており咎められるような行動が少しあった。

 

 

「おい、お前ら。これは任務だ。遊びじゃねぇんだぞ」

 とウォッカが浮ついている二人にクギを刺すが、まともに聞いていないのが分かる。だがウォッカから少し離れた所には組織の幹部の一人"ジン"がいる。今はジンは煙草を吸っており、此方を見ていないものの、自身が兄貴と慕うジンを待たせるわけにはいかず、諦めて話を続ける事にした。

 

 

「それとは別に"ベルモット"、お前は社内に忍び込んで取引のデータを盗んでこい。データの中には武器の保管場所も入っている。万が一の事態に備え、3人で決行日の段取りを合わせろ。決行日は3日後だ」

「了解したわ」

 

「ハァ⁉︎何でアタイらがこんな女と組まなきゃならないのさ!アタイらは勝手にやらせて貰うよ!」

「同意。俺、ベルモット、組みたくない」

 

 だがウォッカのその言葉を聞いた二人はその言葉に表情を一変させて拒絶の意を示してベルモットを睨みつけたのであった。

 

 

 この二人がベルモットを嫌う理由は大きく分けて二つ存在した。

 

 一つはベルモットが"あのお方"(ボス)のお気に入りであることをいいことに、他のメンバーに対して何処か見下した態度を取っていることだ。また、時々組織の意に反する行動をすることがあった。

 そのせいで作戦を変更しなければならなくなり、必要以上の労力を要した。

 このことではベルモットは二人以外の面々からも反感を買っていた。

 

 そして、二つ目の理由。

 主にこちらがスナイパー二人がベルモットを嫌っている理由だ。

 それは、スナイパー仲間である組織の幹部"カルバドス"についてのことだった。

 カルバドスはベルモットに対して想いを寄せており、ベルモットはその想いをいいように扱い、カルバドスを言いなりにしていたのだ。

 同じスナイパーとして仲間意識が強かった2人はそのことを快く感じてはいなかった。

 

 

 だが今はもうそれは無い。

 

 カルバドスはある日からベルモットへの思いが無くなり、洗脳とも言えた盲目の恋から目を覚ましたのであった。カルバドスが蜘蛛の巣(ベルモット)から抜け出したことを聞いた時は、驚きと喜びを覚えたものだ。

 だが2人は自分達がベルモットへ思いを寄せるのだけはやめておけ、と考え直すように言ったが効果が無かったのにどうして心変わりしたのかが気になっていた。それをカルバドスに尋ねても何かに怯える様に震え出し、まともに聞くことが出来なかったのが更に疑心を掻き立てていた。

 いつかその事を話してくれる日が来るのだろうか、と今は思うしか無いとキャンティとコルンは考えるしかない。

 

 

 そういった理由から嫌っているスナイパー2人の熱烈なブーイングを受けたベルモットは全くなんとも無いようだった。

「あらあら、嫌われちゃったわね」

「はぁ?何寝ぼけたことぬかしてんだい」

「お前、好きになる訳、無い。なるぐらいなら、自害、選ぶ」

 

 スナイパー組の反応に茶化すような言葉にキャンティが食ってかかるように嘲った。その言葉にベルモットは肩を竦めつつ、そのやりとりを静観していたアスティに横目で何故か意味有りげな視線を送ったのだった。そんなベルモットの視線にアスティは嫌そうな顔をしつつも口を開くことはなかったが。

 

「おい、シカトこいてんじゃないよ!」

 ここでベルモットが自分を見ていないことに気付いたキャンティがベルモットにキレた。

「あら、失礼。余りにも五月蝿いから何処かの狂犬かと思っていたわ」

「なんだって⁉︎いいよ、アンタの顔面に一発ぶち込んでやる!」

「確かに貴女は銃の扱いには慣れているだろうけど、それはスナイパーとしてのライフルを使った遠距離からの射撃。ハンドガンなんて貴女使いこなせないでしょ?」

「そう思うんならアンタ自身で確かめてみるかい⁉︎」

 

 そうしてキャンティとベルモットの間には険悪な雰囲気が満ち始める。

 一方コルンはというと、2人が言い争いを始めたあたりから女の争いに巻き込まれるのは御免だと引っ込んでいた。

 

 そんな2人に対して

「おい、落ち着けお前ら!流石にそこまでだ!」

 と、ここで"スコッチ"が制止の言葉をかける。

「此処に集まったのはいがみ合いに来たんじゃないだろう!」

 そんなスコッチの言葉に続いてウォッカも事態の収束を図って声を上げる。

「ああ、その通りだ!お前ら決まりを忘れたのか⁉︎組織の幹部が他のメンバーを殺していいのはそいつが取り返しのつかねぇヘマやらかした時か、どっかのスパイだと判明した時だけだ!そうじゃねえと処罰の対象だ‼︎」

 

 正確にはジンだけが怪しい動きのある組織のメンバーの殺害を証拠が不十分でも可能性があれば許可されている。これはジンがボスより直々に"始末役"を任されているからだ。

 

 

 "始末役"は組織にとって不要と判断された者を殺害する役割を担っていて、担当する者はボスより任命される。"始末役"の者が怪しいと思った人物は相手が組織の内で重要な役割を担っていた場合を除けば独断で手を下すことが出来る。

 

 だがこの役は狙われる側の者も元々組織に属していただけあって殺しの腕は確かなため、殺す側が返り討ちにあって殺されるといったことが実際に過去に数回起きていて、担当しようとする者は少ない。

 それに幾ら殺すことに慣れているからといって昨日まで味方だった者を躊躇いなく殺すことが出来るくらい非情な人物が少ないことも一因だろう。

 なので"始末役"はボスに高い忠誠心を持つ者に限られる。となるとボスに絶対の忠誠を誓っているジンが"始末役"を任せられているのは当然と言えるだろう。

 

 

 ウォッカから止めるように言われた2人であったが

「煩い!アタイも我慢の限界なんだよ!引っ込んでな!」

「この狂犬は黙らせておいた方が組織のためになるわ」

 そんな言葉でこの2人は止まることはなく、状況は寧ろ悪化していった。

 

「もういいよ、脳漿撒き散らして派手に死にな!」

「あら?無様な死に様を晒す事になるのは貴女よ?」

 

 カチャッ

 そして遂に2人はそれぞれの持つ銃を構え、あわや殺し合いが始まろうかという時だった。

 

 

 

 ドォン!

 

 

 一発の銃声が響き渡り、天井に当たって跳ね返った銃弾が音を立てて転がった。

 その一発により、さっきまでの騒ぎは嘘の様に静まり返る。

 

 そうして皆の視線は銃弾を放った男、ジンに自然と集まっていく。

 やがてジンは天井へ銃を向けていた腕を下ろすと、おもむろに話す。

「...テメェらの意見なんざ聞いてねぇ。命令されたことをやりゃいいんだ」

 

 そう吐き捨てたジンはキャンティとコルンに目を向ける。

「テメェらがどうしてもベルモットと組みたくねぇってんなら勝手にやりゃあいいぜ。ミスったら俺が消すだけだ。いいな?」

「あ、ああ!こっちはこっちでやらせてもらうよ」

「......!.......!(コクコク)」

「そうか。ベルモット、テメェも異存はねぇな?」

「ええ、構わないわ」

「ならこれで問題ねぇよな」

 そうして事態を鎮めたジンはこの場の仕切りを担当していたウォッカに顔を向けた。

 

「ウォッカ、テメェにわざわざ任せてんだ、このぐらいしっかり仕切りやがれ」

「す、すいやせん兄貴‼︎今後こんな事が起きねぇ様にしやす!」

「うだうだぬかしてる暇があんならさっさと任務を伝えろ」

「へ、へい!分かりやした!」

 ジンに叱責されたウォッカは他のメンバー達の方に向き直り、改めて話の続きを話し始める。

 

「ゴホンゴホンッ!で、では続きだ。アスティと"キュラソー"、お前らはベルモットが盗んで来たデータにある武器の保管場所に後日、武器を掻っ攫いに行け。運搬用のトラックは此方で手配する」

 

 そう言ってウォッカはアスティと、隅の方で先程の騒ぎでも沈黙を保っていた青と透明なオッドアイが特徴のキュラソーに伝達する。

「.....了解」

「はいはい、分かったよ」

 命令を受けたキュラソーは端的に返し、アスティは気怠げに返事をする。

(別にオレじゃなくてもいいだろコレ。しかもキュラソーか....。コイツ何処か距離があるから取っ付き難いんだよなぁ....)

 

 

「ッ⁉︎」

(武器の強奪だと⁉︎)

「どうしたスコッチ?」

 スコッチの反応が気になったウォッカが問いかける。

 

「い、いや。何でもない」

(この任務が成功してしまって、こいつらが強奪した武器がもし取引していた物よりも大量だった場合!さらなる組織の勢力拡大に繋がりかねない!阻むべきか見逃すべきか....!"バーボン"のは別口の要件で数日は連絡が取れねぇ....!)

 

「そうか、ならいいが....。スコッチ、お前は"テキーラ"と組んで新しい取引先を探せ。テキーラの奴は今日ここには来てねぇから後で都合つけとけ」

「ん?....ああ、了解した....。」

(アスティとキュラソーについての情報も今は少ない!クソッ!どうすりゃいい⁉︎)

 

 

「...........。」

 

 

 

 

「後は....、これは本来なら伝える必要がねぇが少し前に宮野明美が組織に引き入れた男"諸星...「やめろ、あの野郎の名前なんざ聞きたくねぇ」...兄貴⁉︎」

 ある人物の名が出た途端機嫌が悪くなったジンは嫌悪の言葉を吐き捨てると、急に部屋から出て言った。

 

「ちょっ!待ってくだせえ兄貴!あー、....今日はこれで会議は終わりだ!」

 そうウォッカは言うと、先に部屋を出て行ってしまったジンを足早に追いかけていった。

 

 

 

 

「何だったんだい、今の?」

 突然の出来事に残されたメンバーのうちの1人であるキャンティは疑問を抱く。

 

「前に組織に入った"諸星大"って男が狙撃の腕を買われて早くも幹部に昇格するのを打診されてるんだとさ」

「ふーん、あの女が入れた奴かい。どうもジンの様子を見ると随分と嫌ってるようだね」

「昇格を打診してんの"ラム"だからな。ジンのやつラムの事よく思ってないみたいだし信用できないんだろ」

(あとジンがそいつ自身の事が気に食わないんだろうけどな)

「なるほど、そういうことかい。........あっ!そういえば!」

 アスティの言葉に納得していたキャンティは何かを思い出すと、コルンの方に目を向けた。

 

「おい、コルン!アンタなんでさっき最後の方になったら黙ってたのさ!」

「黙って、無い(モゴモゴ)」

 キャンティが怒っているのは最初の方は自分と同じく好き勝手にベルモットに言っていたのに、最後にはいつの間にか素知らぬ顔で傍観者になっていたことについてだ。

 

「嘘つけ!あん時、........ん?アンタ何を口の中に入れてんだい?」

「飴。アスティ、から、貰った」

「はぁ⁉︎仮にも裏の人間が、同じ裏の人間から手渡されたモン食ってんじゃないよ!アスティ!アンタも紛らわしい真似を........、って居ないし!」

 餌付けされていたコルンを怒鳴りつけたキャンティは、アスティを探すがもうそこにはアスティの姿はなかった。

 

「どうやらベルモットも出て行ったらしいな。俺も退出させてもらう」

(さっきの強奪任務(問題)について考えなきゃならないしな....!)

 グッ

 無意識の内にスコッチの手が握り締められて拳に力が入る。

「ケッ.....、ベルモットのヤツめ.....!仕方ない、アタイらもそろそろ行くとするか」

「........(コクッ)」

 

 

 

 

 

「...........。」

 そんな解散ムードになりつつある中で、キュラソーは壁にもたれかかったままスコッチの様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 因みに何故アスティが飴玉を渡したかというと、その飴玉の味がアスティが嫌いな味だったからちょうど近くにいたコルンにあげただけ、というただの気まぐれ。特に深い意味は無かったりする。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 アジトから少し離れた場所をアスティは歩いていたが、急に立ち止まっておもむろに後ろに振り返るや否や言葉を放った。

 

「前のアレ、お前が仕組んだ事だったんだろ?」

 

 

 

「ふふっ、何がかしら?」

 

 その言葉に返事をしたのはアスティの後ろから歩いてきたベルモットであった。

 何処か白々しいようなベルモットの様子に構わずにアスティは言葉を続ける。

 

「カルバドスにオレを狙撃させたのは、お前だろって言ってんだよ」

 

 先日アスティは、指定されたポイントでの抹殺任務を終え、帰還しようとした矢先に狙撃されたのだ。とはいえ、カルバドスには気の迷いがあったのか普段よりも殺気が滲み出ていたので、アスティは気付く事ができ銃弾をぶった切った。

 後に真っ二つにした銃弾をアイリッシュに照合して貰ったらカルバドスが愛用しているレミントンから撃たれたものだと判明し、そこでベルモットの関与が疑われた。ベルモットの関与が浮上したことを知り激怒してベルモットへと突撃しようとしたピスコをアイリッシュと共に必死に引き止めたのはちょっとした余談である。

 

「カルバドスがオレを殺そうとする理由はお前が原因としか考えられない。お前、見たんだろ?オレの"眼"を」

 

 恐らくアスティがピスコから気配を察する方法を教わった頃より前の、幼少の頃にアスティの眼を見たのだろう。あの時は殺しに未だ恐怖を抱いており、相手を念入りに殺すために魔眼を使用した事が何回かあった。知る機会があるとすればその時だろう。

 

「ええ、そうよ。あのピスコがわざわざ組織に入れるほどの存在なんて気になって調べようと思うのも仕方ないじゃない?あの時は貴女がまだ子供で良かったわ。任務を遂行しているところを観察、だなんて事、今の貴女には気づかれちゃうもの」

「急によく絡んで来るようになったと思ってたがやっぱりかよ。カルバドスがオレの指定されたポイントを知ってた訳は?」

「私が調べたターゲットを殺すための絶好のポイントだもの。貴女が来るかは賭けだったけれどね」

「よくもまあ、そんな事するな」

 

 アスティは素直に驚いた。

 実行部隊はアスティ以外にも多数の構成員がいる。誰が任務を受けるかは分かるはずかない。そんな中でアスティ1人を目当てに待ち伏せなんて大した根性だという他ないだろう。

 

「あんな宝石よりも素敵な眼を見て、指を咥えてピスコの物にさせておくわけにはいかないわ。私は貴女を気に入ったしね。まあ今回は貴女が全然靡いてくれないから小手調べを兼ねて強行手段に出てみたのだけれど...」

(まさか銃弾を切断するとはね.....。それにカルバドスにも恐怖心を覚えさせるなんて......。アスティ以外なら使い物にはなるけど、もう要らないわねあんな男)

「いきなり狙撃は段階飛ばしすぎだと思うけどな」

 ベルモットにそう返したアスティはその軽い調子の言葉とは裏腹に今の状況に気が気ではなかった。

 

 ピスコとアイリッシュには自分の眼の事を魔術的要素が絡む事は言っていないが、それでも自分には"死の線"が見え、それをなぞれば大凡のものは殺せると打ち明けている。2人はこの事を知っても受け入れて誰かに話す事はないと約束してくれた。

 そのおかげで今の所、組織でのアスティへの認識は"気配の断ち方に長けている組織では珍しく刃物を主武装にする暗殺が得意な幹部"で通っていた。

 

 だが、この目の前の女は違う。ピスコとアイリッシュは"家族"という関わりもあってのこともあり秘密を黙ってくれているが、ベルモットには秘密を黙る理由はない。ベルモットだけでも知られたらマズいのに、最悪ベルモットを経由してボスまでに知られてしまえば捕まって即解剖、ということもあり得、最悪組織と敵対も想定される。そうすればピスコとアイリッシュを巻き込んでしまう可能性がある。それだけは絶対に避けねばならない。

 

 

 そんなアスティの焦りを読み取ったのかベルモットは嗤う。その笑みは何処か狂気がかっていたような気がした。

 

「大丈夫よ?貴女の眼の事は決して言いふらしたりはしないわ」

「....どういった了見だそれは?」

「さっき言ったじゃない。()()()()()って。」

「はぁ....?」

 "気に入った"という言葉の意味があまり理解できずにアスティは疑問の声をあげる。

 

「私は今まで地位も名誉も金も、全て手に入れてきた。自分の欲しい物は何でも手に入れられた。手駒()だろうが宝石だろうが全て。だけど....貴女は違う。私が金をチラつかせても、手駒に命令しても手に入れられなかった......。初めての感覚だったわ....。つまり私が言いたいのはね?貴女を私の物にするのにそんな無粋なことはしないってことよ」

「どうだか。お前の言葉をそうやすやすと信じろと?」

「信じるか信じないかは貴女の自由よ」

 ベルモットはそう言うとウィンクをして立ち去っていった。ベルモットの後ろ姿は徐々に小さくなっていき、やがて見えなくなった。

 

 

 そうしてアスティは溜息をつく。

「はぁ....、面倒な奴に目をつけられたなぁ....。」

(何とかしてコナン(主人公)に押し付けないと、このままじゃオレの精神が持たねえ.....。あいつみたいな何考えてるか分かんねぇヤツを相手にするのは苦手なんだよ)

 その時のアスティは疲れきった様子であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"風見"か?ああ、俺だ」

『-------------?』

「いきなりで悪いが緊急の要件だ」

『--!-------------?』

「バーボンとして潜入している"零"は別件で動けないんだ。これは俺の判断だ。俺も危険になるだろうが」

『----------!------!---------⁉︎』

「ああ、分かってる。だがこれは今後の捜査に関わることなんだ」

『------。---------!』

「すまないな。これから俺が言う用件はーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ベルモットがスコッチとの面識がありましたが、多分これからもこの様な小さな(?)原作崩壊があります。

キュラソーの性格ですが、映画では記憶を失う前はかなり凶暴な性格でしたが今作では記憶を失った後の性格をベースにしていきたいと思います。
ぶっちゃけそうしないと作者の中でキュラソーの性格が凶暴なままだとキャンティとほぼ同じイメージになってしまっていて、作者の文章力ではややこしいことになるので......。切実に文才が欲しい.....。


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