ハリー・ポッターと古王の帰還 (ハリムラ)
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古王

西暦500年この世は戦乱の中にあった、魔術師は手に杖を持ち互いに殺し合い、今だ魔法界を統治するものは現れない。

そんな暗い世に一人の天才が生まれた、その者の名はフランディール・ルシアーナこの話は太古の昔、魔王と呼ばれた天才が千数百年の時を越え1991年イギリスの貴族に生まれ変わる話

先ずは彼女の生きた一つ目の人生、戦乱の世について語ろう

 

 

 

 

 

 

 

~西暦500年~

「頑張ったなシェリー、女の子だそうだよ」

 

純白のベッドの上で医師や看護師に囲まれ肩で息をする美しい女性に優しく声を掛ける男性、シェリーは軽く微笑むと頷いた

 

「アル、私達の天使を見せて」

 

アルドヘルムは笑顔で頷き返し赤子をシェリーへと抱き渡した

 

「あぁ私達の天使なんてかわいいの、あなたの名はルシアーナ、フランディール・ルシアーナよどんな人にも優しくでき、導くような存在になってね」

 

シェリーはルシアーナの額に軽くキスをするとアルドヘルムは二人を抱えるように抱き合った、雪が舞う冬の出来事だった

 

 

 

 

 

~5年後~ルシアーナ5歳

 

ルシアーナは間違いなく天才だった、ルシアーナの家フランディール家はベネディクト王に仕える由緒正しい貴族の家庭だった

 

父フランディール・アルドヘルムはそのベネディクト王から千人の精鋭魔術師を預かる千人隊長をしていた、それゆえ家には多くの魔導書が置いてありさながら魔導図書館の様だった

 

ルシアーナは絵本よりも魔導書を好み自分で本を読みふけることが日々の日課に成りつつあった

たまには運動をさせた方が良いと魔剣士の父アルドヘルムが修練場に連れていけば教えたことをすべて吸収しみるみる剣の腕も上達していった

 

 

 

 

~13年後~ルシアーナ13歳

 

ルシアーナは13歳になった、父と母から受け継いだ美しい銀髪と氷のように透き通った青い瞳は見るものの心を掴んで離さなかった

最近のお気に入りは近くの森へ本を持ち木陰で涼みながら本を読むことだ、今日も何時ものようにお気に入りの魔導書を抱いて森へと向かった

 

しかし今日は森の様子がおかしかった、木々はざわめき花畑には舞い踊る蝶の姿もない…しかしルシアーナは気にしなかった、こんな日もあると軽やかな足取りで森の奥深くへ足を伸ばす

 

≪ガチャン!!!≫

 

どこからか金属がぶつかるような音が聞こえてきた、ルシアーナは興味が湧きその音のする方向へと駆け出した

 

「止めろ止めろ!!!」

 

「クソがぁ、バーンハードの魔獣サイクロプスここで止めなければベネディクト王の支配域に入られるぞ!!!」

 

そこには体長8メートル、手には金属の金棒そして全身を鎧で固めた巨大な一つ目の怪物サイクロプスがいた、回りにはベネディクト王国軍の兵士が約15人ほどでサイクロプスを囲み戦っている

ルシアーナは森の木陰からその様子を眺めていた、その時

 

≪ドガッ!≫

 

ルシアーナの隠れていた木に一人の兵士がサイクロプスに吹き飛ばされぶつかった

ルシアーナが駆け寄る、その兵士の両手はあらぬ方向へと曲がり左足は千切れかけ溢れだした鮮血で周囲に血溜まりを作り出す

そんな兵士はルシアーナを見付けると鬼のような形相で一言

 

「…逃げ…なさい」

 

その兵士はまだ15歳ほどだったと思う、兵士はそう言うと力なく地に伏した

ルシアーナは兵士の言う通り家へと逃げ帰り父へとこの事を話した

 

「良いかいルシアーナ、今ベネディクト王国は隣国のバーンハード王国と戦争をしている、そしてバーンハード王国は錬成魔法を得意とし次々新しい魔獣を造り出しこちらの国へと解き放っている、それを倒すためにルシアーナがみた人達がいるんだ、ルシアーナ、我々はその子達に生かされている事を忘れてはいけないよ」

 

ルシアーナは頷くと自室へ帰りその日は部屋を出てこなかった

二日後、ルシアーナはある決心を胸に部屋から飛び出した

 

 

 

 

~17年後~ルシアーナ17歳

 

戦争はより一層激しさを増していた、父アルドヘルムもほとんど家には帰らず戦争の指揮に駆り出されていた

母は二年ほど前から病を患っておりもう長くは無いようだ、しかし父の足手まといにはなりたくないと父が戦争から帰ることを拒んだ

 

ルシアーナはある研究に全力を注いでいた、それは不老不死の薬だ、様々な魔法薬学の本を読みその全てを頭に叩き込んだ、しかし今だ完成には至らない

だがシアーナには自信があった

 

どんなものでも絶対に完成させる、そのために持って生まれたこの完全記憶能力、そして魔法に関する天性の勘を総動員すれば作れるという自信が…

 

それから半年後、母フランディール・シェリーは息を引き取った、父アルドヘルムも急ぎ家に戻ったが死に目には会えなかった、父は戦争に勝つことがシェリーへの手向けだとまた戦場へと向かった

 

聞いた話だとその後の父の働きは凄まじかったらしい、向かうところ敵無し全戦全勝、強気な戦闘を繰返し何と自軍千名でバーンハード王国から奪われた支配域を半分以上の奪還に成功させたと

 

しかし、それから二年後、父アルドヘルムの軍はバーンハード王国軍の主力軍とぶつかり全滅、アルドヘルムは最後自爆の魔法を使い主力軍の戦力を大きく削るも名誉の戦死を遂げた

 

その後ベネディクト王から直接手紙が送られてきた、そこには父アルドヘルムの働きを認め≪大戦将軍≫の地位を授ける、尚これ以上の戦争の参加は認めないとの事だった

≪大戦将軍≫と言えばベネディクト王国の中で二番目に偉い称号だ、父は死んでなおそんな栄誉ある称号を頂いたのだ

 

戦争の参加を認めないとのいうのはこの家には最早ルシアーナしか居ないことを知り、ベネディクト王がこれ以上戦争で私達の家族を死なす訳にはいかないとくれた恩情だ、

それから私はすべての時間を不老不死の薬製作に打ち込んだ、一刻も早く完成させる為に…

 

 

 

 

 

 

~40年後~ルシアーナ40歳≪体20歳≫

 

父が死んでから21年の月日がたちルシアーナはこの広い屋敷の中で今なお研究に取り組んでいる、父が死んだ翌年私はある液体を作り出すことに成功した、それは歳を取らなくなる薬だ

 

しかしこの薬は見た目は歳を取らなくなるが体の中の細胞などは歳を刻む完全に失敗作だった…

だがその薬に改良を加え遂に私は完成させた、見た目は只の石だが不老不死を手にすることが出来る石≪賢者の石≫を

 

ルシアーナが賢者の石を使うと体の細胞はみるみる若返り本当に20歳の肉体を手に入れた、後ルシアーナがやらなければいけないことはただ一つ、今だ続いているこの魔法界の戦争を終結させること

私は強い決心を胸に新たな本を開いた…

 

 

 

 

~100年後~ルシアーナ100歳≪体20歳≫

 

ルシアーナは旅に出ていた、魔法界中の魔導書を求め只ひたすらに、各戦争地帯に赴き潜入を繰返しほぼ全ての魔導書をたった60年で読破した

 

ルシアーナは60年間の旅で一つの結論に至ったこの世界を一つにするためには強大な力が在れば良い、誰にも負けない、そして誰も勝てないそんな力がここでルシアーナの心は決まった

 

「私が魔法界を統べる王になる、誰もが争う事が無くなるそんな王に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから130年後の西暦730年、世界はただ一人の女性によって平定された彼女の名はフランディール・ルシアーナしかし人々は彼女をこう呼んだ≪魔王≫と

 

その後彼女は120年間魔法界を統治、その後は突然王の地位を降り世界を民主主義の世界へと変える事を宣言し姿を消した、ただ風の噂を聞くと四人の弟子を取り世界を回っているとの事だった

 

 

 

 

 

西暦850年

「ルシアーナ様!こんな感じですか?」

 

笑顔で魔法を放つのはゴドリック・グリフィンドール、私がある国に視察に訪れたとき死にかけていたところを助けた子供だ

 

「あぁ、上手くなったなフィンだーけど…」

 

≪ドゴオォォン!≫

 

「これぐらい出来なくてはな?」

 

ルシアーナが無詠唱で放つ魔法は白銀の閃光を放ちながら遠くの大山を一つ吹き飛ばした

グリフィンドールも負けじと練習しているがまだまだ足りなそうだ

 

「おいフィン!今日の飯炊きはお前の担当だろ!何で俺とハッフルパフとレイブンクローがやってんだよ!」

 

怒りながらグリフィンドールに近づいて来るのはサラザール・スリザリン同じく拾った子供の一人だ他の二人もヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー

 

「いやぁ、良いよ良いよ私料理好きだから~、ルシアーナ様は今日はなに食べたいですか~?」

 

「ちょっとハッフルパフ!あなたがそんなんだからフィンは調子に乗るんでしょ!それにフィンだけルシアーナ様から魔法のご指導なんてズルい!」

 

「分かった悪かったよ!すまなかったスリザリン!」

 

頭を下げるグリフィンドールに納得したのかスリザリンも直ぐに許し仲良く魔法について話している、やはり今日もハッフルパフが料理をするようだ

 

「ルシアーナ様、私も何か凄い魔法を使いたいです!」

 

キラキラと言うよりはギラギラした目でこちらを見つめてくるレイブンクロー

 

「う、う~ん、レイブンクローは手先が器用だし発想力がある、そうだ!錬成魔法を教えてあげよう、この魔法は想像力がとても重要で今となっては使える者は居ない失われた魔法だよ」

 

ルシアーナが微笑みながら教えるとレイブンクローは喜びの余り飛び付いてきた

ルシアーナの美しい銀髪が風になびきその眼には知識を求める美しい少女が映る

 

「なに!強力な魔法だと…ルシアーナ様!是非このスリザリンにもご教授を!」

 

「俺も俺も!ルシアーナ様!」

 

「えぇ~、じゃあ私も良いですかぁ~?」

 

「もぉ!私だけ教えてもらおうも思ったのに!」

 

みんなのギラギラした目が非常に怖いね

 

「分かった、ただご飯を食べてからだぞ?」

 

≪≪≪≪はーーーーい!!!!≫≫≫≫

 

その日は夜遅くまで指導をした、レイブンクローには錬成魔法を、スリザリンとグリフィンドールには攻撃魔法と防衛魔法を、ハッフルパフには植物を扱う魔法を

 

それぞれ類い稀なる才能をもつ彼等だ、いずれはこの世界を引っ張って行くような素晴らしい弟子になるだろう

 

それから私は四人を連れてある森へ訪れていた、この森はかつて魔獣と恐れられたサイクロプスやその原種たる巨人族、そしてケンタウロス等様々な種族が生きている森だ、生半可な魔法使いならば半日で骨さえ残らず消え失せるだろう

 

そんな立ち入り禁止の森をルシアーナは全力で駆け抜けた、まさに全力で…

 

「ルシアーナ様ーーー!!!!」

 

完全にルシアーナを見失った四人、四人は一つにまとまり全方向に気を張り続けた

 

「いきなりこういう事をするからな~ルシアーナ様は!」

 

「うわぁ~、ルシアーナ様ぁ~!」

 

「う、うむ…中々良い訓練に成りそうだな、流石はルシアーナ様」

 

「な、なに言ってるのよスリザリン!」

 

四人は何とか探索の呪文やサイクロプス等と戦い四日後ルシアーナの元へとたどり着いた、命からがら全員ボロボロに成りながら

 

「やぁ、みんな良くここまで来たね」

 

ツカツカとこちらに迫ってくるレイブンクロー

 

「ルシアーナ様!死ぬかと思いましたよ!」

 

「いや、生きてるから大丈夫!」

 

「全然大丈夫じゃ…所でここは?」

 

ハッとした様子で辺りを見回すレイブンクロー、何やら民族の村のようだが

するとわらぶき屋根の中から一人の男が出てきた、男?

 

「ガッハッハッハ!主は誠に面白い弟子をお持ちじゃ、ほれほれこっちに来なさい」

 

そこに現れたのは体長二メートルを越える大男、その頭には二本の角が生え筋骨隆々のその肉体は全身を赤く染め上げ黒髪は邪悪に森の魔風になびく

 

「ここは私の配下、巨鬼族≪オーガ族≫の村だ」

 

「ガッハッハッハ!昔この戦乱の世で暴れまわっておったらお主らの師匠のルシアーナ様から全滅させられての、今は全巨鬼族全員ルシアーナ様だけに忠誠を誓っている」

 

「まぁ、こいつらは半端じゃなくヤバかったけどな…」

 

「あぁそうそう、頼まれていた品は全て出来上がってございます」

 

そう言うと族長らしきオーガはひときは大きな小屋へ向かっていった

 

「こちらがルシアーナ様に頼まれていた品、十五年を費やし鍛え続けた我々が誇りをもって言える名剣です名をオーガソード、そして我らが祖先鬼神の角から作り出した杖にございます本体に鬼神の角、芯にヒュドラの首骨を、長さ41㎝硬くけして折れず曲がらず」

 

「あぁ良い出来だ…名はフランディールの剣に代えるとして杖の方はそうだな≪エンペラー≫とでも呼ぶか」

 

白銀の刀身に波打つ紅蓮の波紋、約一メートル程の反り返る刀身…まるで綿のように軽い剣だ、しかし持っていて巨鬼族が本気で打ってくれた物だと良くわかる正に超業物の品だ

 

試しに近くにあった直径二メートルはある大木を軽く撫でるように刃を当てる、剣は吸い込まれるように大木を一刀の内に切り捨てた

 

今度は杖を見る、赤い波模様が持ち手から先端まで続いている、取っ手には鬼の顔が彫られておりとても豪華かつ繊細そしてシンプルなデザインだ

 

「丁度いま使っていた杖が壊れかけてきたからな、これならば私の全力にも耐えうるだろう」

 

「凄い!ルシアーナ様俺もそんな剣が欲しいです!」

 

グリフィンドールがそんなことを言うとルシアーナは真剣な顔でこう言った

 

「良いですかグリフィンドール、コイツらは武器を作るために生きている訳ではない、そして私の弟子だからといって作らせるつもりもない…本当に欲しいのならコイツらに自分の強さを認めさせ自分に忠誠を誓わせれば良いんです、つまり私を越えればね」

 

そう言うとグリフィンドールは強く頷いた、試しにグリフィンドールがこの剣を持とうとすると

 

≪バチン!≫

 

激しい炸裂音と共に遠くの木に激突した

 

「私の魔力を感知しない限り持つことも出来ない」

 

それから私達は一年ほど村に滞在した、そして子供達が森へ修行に出たとき

 

「本当に行かれるので?」

 

「あぁ…お前たちも自由に生きろ、あと悪いが全種族に私の時代は終わった自由に生きろと伝えてくれるか?」

 

「何を仰いますか、我々巨鬼族はフランディール・ルシアーナ様に忠誠を誓っております、どこに居ようと種族の命運尽きるまで、他種族も同じ思いです」

 

ルシアーナは笑いかけると一人村を出る、最後に一つのお喋り帽子を餞別として置いていった、子供達が立派な偉人になることを祈り追跡を妨害するため全力で妨害呪文をかけて

 

 

 

西暦910年

 

「賢者の石を使わなくなってもう50年か、ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリン、それぞれ立派に人生を生きているね。

私の仕事は終わり…後はこの無駄に大きくなった魔力をこの家に閉じ込めて終わりにしよう、あなたもこんな老いぼれから離れてこの大空へ羽ばたきなさい

ただもしまた、新たな人生を歩めるならばこの魂に呼応しまた私の体へ…」

 

そう言うとルシアーナはあの生まれ育った屋敷に強力な人払いの呪文をかけた、そして魔方陣の中心にフランディールの剣を突き刺し、一人世界の移り変わりに思いを馳せながら深い眠りへと落ちた、頑張りなさい子供達。

こうして魔王≪フランディール・ルシアーナ≫はこの世を去った、ついで黒い影がその四翼をはためかせ空へと消えて行った。



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帰還

幾千の時が流れたのだろう、何だろうこのふにゃふにゃした感覚は…ん?誰だこの女は、なぜ私を覗き込むまさか巨人か!

 

「はーいアリシア、ご飯のお時間ですよ~」

 

突然口に入れられる白くて甘ったるいどろどろした何か、しかし不思議と嫌な感じがしない?

何だろう、いったい何が起きたんだ…私はフランディール・ルシアーナ、偉大なる魔王と呼ばれた魔法使いだぞ!

 

「ほらほら泣かないの~、あなたは将来ホグワーツ魔法魔術学校で立派な魔法使いになるのよ」

 

ホグワーツ?どこだそこ…魔法魔術学校だと、私がまだ知らない土地が有るとは何と言うことか

あれ…何だこのぷにぷにの腕と指は、何だ…この真ん丸とした顔は!

まさか私は生まれ変わったのか!

 

≪ドゴオォォン!≫

 

その時、突然この家に雷が落ちた、いや、雷ではない…この力そして溢れんばかりの知識、紛れもなくフランディール・ルシアーナの記憶と力!

うむ、前世でやっておいた呪文がキチンと発動したようだな

 

「何が起こったの…?」

 

なるほど、この人が今度の私の母か…悪くないじゃないか、今度は必ず助ける…誰も傷つけさせない戦争は終わったんだ

 

 

アリシア・ボスフェルト、それが今回の私の名前らしい中々可愛らしくてとても気に入った

何より驚いたのが今の世界だ私が生きていた世界は西暦910年、そして今は1980年何と1070年も私は眠っていた事になる

 

世界も戦争していたあの時代とは変わり平和で皆が笑顔になれる世界に変化していた、私の家は純血の魔法使いの家系の様だ、父は魔法省?とか言う所で闇払いとして働いており母も元々は闇払いをしていた

 

私は古代に培った魔法が使えるかを確認した、うん全然問題なし、後は体を馴染ますために練習だな

 

 

 

11年の月日が流れ私は11歳になった、今日はいよいよ父と杖を買いに行く日だ、向かう店はオリバンダー創立1598年のお店らしい、う~ん何か聞いたことあるような無いような…

 

ダイアゴン横丁と言う商店街のような場所に来ると、私は早速父を急かしオリバンダーの店へ入った、店は埃っぽいが確かに良い杖が揃っていた

 

「いらっしゃいませ、本日はどのような杖をお探しで?」

 

「うむ、娘の為の杖なのだが初めて持つため扱いやすいのを頼む」

 

…いや、絶対あなたより杖を使い続けてきた自信がある、まぁここは父の顔を立てとくか

 

「よろしくお願いします、オリバンダーさん」

 

オリバンダーに握手を求める、オリバンダーもニコニコしながら手を握り返してくる

 

「ヒィッ!」

 

突然私の手を握ったオリバンダーが飛び上がった、顔は青くなり先程までの笑顔が消え失せた

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「い、いえ…少々お待ちを」

 

そう言うとオリバンダーは店の奥から5本程杖を持ってきた

 

「さぁどうぞ」

 

「ありがとうございます、なるほど本体はひのき、芯にペガサスの尾毛か…悪くはないが少し耐久性が低いな」

 

「さ、左様で…ではこちらは?」

 

「あぁ~、本体は楠木で芯に竜の琴線かこれは量産型だな作りが雑だ」

 

「正解です」

 

それ以降も次々言い当てるアリシア、オリバンダーは最後の一本を渡す、うん、いままでの中では一番良い作りだな…どれ

 

軽く魔法を使おうとするその時

 

≪ピキ!≫

 

杖は粉々に弾けとんだ

 

「ダメだな、弱すぎる…」

 

「アリシア…お前何で杖の種類が分かるんだ、熟練の杖職人にしか分からないとされるものだぞ」

 

あ、つい癖で訂正箇所なども丁寧に教えてしまった…

 

「こ、この前丁度勉強する機会があったので~…」

 

「あの、申し訳ありませんが当店にはアリシア様の使える杖がございません、申し上げにくいのですが杖が怯えていますな…」

 

だろうな、正直いってあんな程度の杖なら昔の時代にはざらにあったむしろあれ以上の杖しか無かったと言えるだろう、何と杖作りの練度も下がったものか

 

戦わなくても良いのだ、そんなに強い杖は要らないのだろう、しかしどうする…やはり取りに行くかぁ~

 

「父上様、私は少しお手洗いに行って参ります」

 

そう言うと私はトイレへと駆け込んだ、さぁ久し振りの魔法だうまく行くか?

使った魔法は≪姿消し≫古代の魔法の一つだだ、結果は上手く行った、今は姿眩ましと言う魔法が在るようだがそれは魔法省が管理していて使うと見つかってしまう様だから使わないようにしなければ

 

取り合えず防衛魔法を張って入れないようにしておこう、私は辺りに防衛魔法を展開、これで姿眩ましを使いこの領域に入ることは出来なくなった…と言うことでどこに来たかと言うとここ、フランディール・ルシアーナ邸である

 

「うわー、昨日のことのようなのに凄く懐かしく感じる…、ちゃんと清潔の魔法も効いてるみたいね、キレイなお屋敷のまんまだ」

 

アリシアが階段を上がり元自室へ入るとそのベッドの上にはミイラのようになった元私ルシアーナの遺体がいた、その手にはキチンと≪エンペラー≫が握られている

 

「さぁ、賭けね私の魂が同じならこの杖は私を受け入れるけど違うなら…」

 

私は一呼吸置き体にフラージス≪鎧≫の呪文を付与し一気に杖に手を伸ばす、杖を握るその手はうっすらと白銀に光輝き千年の時を越え主人を迎え入れるような温かい光だった

 

続けて地下へ降りフランディールの剣を引き抜き腰に添える、これまたしっかりと主人を覚えていたようだ美しい紅蓮の鞘に白銀の刀身、波打つ紅蓮の波紋は変わらずその怪しい模様を浮かび上がらせる

 

私はまたしっかりと防衛術をかけ直し家から今度はまたダイアゴン横丁へと姿消しを行使した

≪パチン≫と言う独特のラップ音と共に先程のトイレへ現れると直ぐ様父、イーニアスの元へと向かう

 

イーニアスはホグワーツへと連れていく動物を選んでいた

 

「あぁアリシア、やっと来たか…おや?その杖と剣はどうしたんだい?」

 

「あ、えぇっとー実は…昔自分で作った物です!」

 

一瞬の沈黙、その後父はゆっくりと口を開いた

 

「そうか!何と言うことだ我が娘はここまでの天才だったとは!」

 

父はアリシアに杖を見せるように促す、私は防衛術を外し父へと杖を渡す

 

「うーむ、始めてみる形式の杖だ…しかしデザインも重さ重心共に完璧だ、十分すぎるほどの杖だなここまでのものは私も見たことが無い…」

 

それはそうだ、私の全力の魔法に耐えうる為に巨鬼族が作り上げた最強の杖だぞ、あの時代巨鬼族が作った武器となればどんななまくら刀だろうが今の値段で一本数百万円は下らない

 

「その剣は?」

 

「これも私が…」

 

これまた父に渡す、すらりと剣を抜くとふぅとため息を吐いた

 

「な、何て事だ…美しい」

 

父は私の事を天才だ何だとひたすら誉め続けている、すると二つの影が私たちの前で止まった。

 

「おや、これはイーニアス・ボスフェルト殿、ホグワーツへの買い物ですかな?」

 

そう言いながら近付いてくるのは金髪の親子おそらく父の同僚か何かだろう

 

「あぁルシウス殿か、我が娘への動物を選んでいたのです、そちらが息子さんか?」

 

見るからにやんちゃそうな子供がルシウスの隣にいる

 

「ドラコ・マルフォイと申します」

 

キチンと礼はできる様だな、私も父に挨拶を促された

 

「アリシア・ボスフェルトと申します、どうぞお見知りおきを」

 

銀色の長髪が頭を下げると同時にさらさらと流れる、その湖のように透き通った青き瞳はドラコの瞳を見つめる

 

「何とお美しい娘さんか、それに持っている杖も何と豪華にして繊細な仕事、いやはや素晴らしい娘さんをお持ちですな」

 

「ハッハッハ、自慢の娘ですよ」

 

父同士はこれから飲みに行くとどこかへ行ってしまった、夕刻には帰るから戻らなかったら家まで帰りなさいとお金を置いて

 

「そ、そうだ!我々も何か食べに行かないか?」

 

ドラコは笑顔でこちらに賛成を促す、まぁやること無いしいっか

 

「ええ、是非とも」

 

私が了承するとマルフォイがスッと腕を出してくる、中々スマートにやるじゃないか

私はごくごく自然にその腕へ私の腕を絡める

 

「では行こうか」

 

私とマルフォイは暫く行ったところの喫茶店でお茶をしながら時間を潰した

 

「そうか!アリシア殿もホグワーツへ入学するのだな、私のところにも実はもう入学許可の手紙が来ているのだ」

 

アリシアの元にはもうホグワーツからの入学案内が来ていた、どうやら魔法省に勤めている所には早めに届く様だな

 

「所でアリシア殿はどこの寮を狙っているんだ?やはり純血と言えばスリザリンか!」

 

ん?寮とは何だ?

 

「ホグワーツには様々な寮が在るのか?」

 

「何と、知らないのか仕方がない説明させてもらおう…」

 

マルフォイの話を聞いて驚愕した、何て言うことだ…ホグワーツ魔法魔術学校とはゴドリック・グリフィン、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリンの四人が作り上げた学校だったのか!

 

私はこんなにも嬉しかった事は無い、私の教え子達が今度は逆に教える立場になって学校を作るなんて…

私が感動に打ちひしがれるとマルフォイはこちらを覗込んできた

 

「あぁ、そうだな、私はどこの寮でも構わない…むしろ全部の寮を入りたい位だな!」

 

「何と向上心がある方なんだ…!そうですね是非一緒の寮になる事を祈っています」

 

こうして私達は別れ半月後に迫ったホグワーツ入学への準備を整えた、そしてとうとう入学の日、私は母とキングス・クロス駅へ来た

 

「さぁアリシア、あそこが9と4分の3番線よ、暫く会えなくなるけど元気でいるのよ…別にホグワーツで一番に何かならなくて良い、ただ楽しんできなさい」

 

私は母の胸へ飛び込み熱い抱擁を交わし汽車へと乗り込んだ、母は寂しくなるからと足早にホームを出た

 

「さてと、どこに座ろうかな…」

 

空いている席を探すため通路ををうろうろしていると一つ誰も居ないブースを見つけた

私はその席の窓側へ陣取ると隣の席に持ってきたバックを置いた、そして腰に添えたフランディールの剣を椅子へと立て掛ける

 

「フム、中々上等な椅子だな悪くない」

 

青い対面式の椅子に腰かけると少し眠くなってきてしまった、まだ発車まで時間があるし少し眠ろう

 

三十分程だろうか、電車のガタンと言う音と共に目が覚める…何だこいつら?

そこにはブースの扉からこちらを覗き込む大勢の男子生徒がいた

私は立ち上がり扉を開け質問した

 

「あの…この席に何か?」

 

「い、いや、その席は我々の指定席の筈なのだが…」

 

私は急いで扉に立て掛けられている文字を見た、確かに指定席と書いてある

 

「これは失礼した!直ぐに出ていく」

 

「いや!良いんだ…あなたのように美しい人を他の奴等と同じ席に座らせる訳にはいかない!その席は使ってくれ、丁度私にも席が見付かったとこだ!」

 

そう言うと男子生徒は足早に子分のような者達を引き連れどこかへ行ってしまった

 

「何か悪いことしたなぁ~、まぁいっか!」

 

私は部屋にシャウト≪消音≫の呪文を掛け読破し終わったホグワーツの教科書をまたダラダラと読むことにした

 

「本当に何なのこの呪文、ウィンガーディアム・レビオーサ≪浮遊せよ≫馬鹿じゃないの?真言魔法発動≪飛べ≫」

 

私が杖を取りだしフランディールの剣へそう命令すると剣は一人でブース内を飛び回った

 

「これを使えば楽なのに?」

 

これは物体に対して命令を下すことができる古代魔法だ、続けてアリシアは光球を作り出しまた部屋を飛び回らせまるで花火が咲き乱れる幻想的な部屋にした、その時突如部屋をコンコンとノックされた、部屋には不可視の呪文を掛けていたのであちらからでは私が教科書を読んでいる様にしか見えない筈だ

 

「は、はーい」

 

≪ガチャ!≫

 

「ネビルのカエル見なかった?逃げちゃ…て、何てキレイなの」

 

え!?そんな馬鹿な部屋の魔法は消した筈だなぜ彼女に見えているんだ!

 

「いや、そうでも無いわ」

 

「何言ってるの!とてもキレイよ、私こんなにも美しいものを見たのは初めて…」

 

「そ、そうかな~?良かったら隣の席に来ない?独りで寂しかったの」

 

「えぇ是非!」

 

何故彼女に見えたのか聞かねば

 

「私はアリシア・ボスフェルト、よろしくね」

 

「私はハーマイオニー・グレンジャー、ハーマイオニーって呼んで」

 

「じゃあ私はアリシアでお願い、ねぇハーマイオニーさっきは何がキレイだって言ってたの?」

 

私は意を決してハーマイオニーに訊ねた

 

「それはあなたの事よアリシア…何て可愛らしいの、この髪も銀色に染まって触っても良い?」

 

ハァァァーーービックリしたぁ~、この世にもまだ魔法の残痕でその時使われた魔法を読み取る力がある人がいるのかと思ったわ

 

「えぇ良いよ、少し前まで長髪だったのだけど邪魔だから切っちゃったの」

 

「わぁぁ、とってもサラサラね、何で切っちゃったの勿体無い」

 

「だってこれからは色々な魔法の授業があるのでしょ?焦げたりするかも知らないしね」

 

私が笑うとハーマイオニーも笑った、ここで私は一つのお願いをハーマイオニーにした

 

「ねぇハーマイオニー、私と友達になってくれない?」

 

暫く無言のハーマイオニー、しかし直ぐに

 

「勿論よアリシア!宜しくね!」

 

こうして汽車に揺られているととうとう見えてきた、湖に浮かぶお城、ホグワーツ魔法魔術学校だ。



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ホグワーツ入城

湿った空気に美しい月明かり、湖面に映る月と船のかがり火は城へと続く一筋の線となって進んでいく

 

「さぁさぁ新入生の皆さんはここにならんで、直ぐに上級生と対面ですよ」

 

パンパンと手を鳴らす年を取った魔女は私たちに伝える、それよりも先程少し事件を起こしてしまった

汽車を降りて直ぐの事、私とハーマイオニーは二人で船へと向かっていた、新入生の先導をするのは立派な髭をたくわえた大男、名前はハグリットと言うらしい

 

「おいおい嬢ちゃん、ホグワーツへの武器の持ち込みは禁止だ」

 

「待て、ホグワーツの校則には武器の持ち込みを禁じる事は書かれていない、つまり持ち込むのは何の問題も無い筈だが?」

 

私が言うとハグリットは何か口をモゴモゴさせていたが特に言い返す言葉を見つけられなかった様だ

 

こうして無事にフランディールの剣を持ち込めたわけだが…あのマクゴナガルと言う先生、明らかにこっちを睨んでいる

 

「ミス・アリシア、前に出なさい」

 

アリシアは呼ばれたからには出ざるを得ない、精々勇ましく出ていこうじゃないか

私は堂々とした足取りかつ洗練された足裁きで階段を上りマクゴナガル先生の前へ出た

 

「お呼びでしょうかマクゴナガル先生」

 

「え、えぇ…そうよ、ミス・アリシア何故あなたは腰に剣などを差しているのですか、危険ですので直ぐに外しなさい」

 

「先程も申し上げましたが校則には書かれてません、それにこの剣は大切な品なので肌身離さず持っていたいのです」

 

「そうですか、仕方がありませんね」

 

するとマクゴナガル先生はおもむろに私の剣へと手を伸ばした、あぁ~あ

 

≪バチン!≫

 

突然の炸裂にマクゴナガル先生はハグリット目掛けて吹き飛ぶ、ハグリットは飛んできたマクゴナガル先生を優しく包み込んだ

 

「後、この剣には強力な防衛術が掛かっているので無理に離そうとするとこうなります」

 

マクゴナガル先生は驚愕した表情を浮かべているが、直ぐ様立て直しまた私の前へ出た

 

「分かりました、後程校長先生と協議し結論を出します」

 

そう言うとマクゴナガル先生は私たちを連れ食堂へと続く扉を開けた

 

「アリシア!」

 

後ろから声を掛けられ振り向くとそこにはあのマルフォイが追いかけて来ていた、さっき変な眼鏡君と喧嘩していた気がするが…

 

「あぁマルフォイ、久し振り」

 

「君も元気そうで、さっきは大変だったな」

 

「まぁね、でもこの剣は離さないよ」

 

「それよりもあれが組分け帽子だよ」

 

マルフォイが指差す先には三角のトンガリ帽子が木の椅子の上に置かれている

…ちょっと待て何か見覚えあるぞ?

最初にダンブルドア校長から注意事項などを軽く説明され直ぐに組分けが始まった、次々生徒が振り分けられ直ぐに私の番が来てしまった

 

「アリシア・ボスフェルト!」

 

マクゴナガル先生に呼ばれ私は壇上へと上がる、そして直ぐにその銀髪の髪へ帽子を被せられる

 

「緊張しているのか、大丈夫だよワシがそなたに相応しい寮を選んでしんぜよう」

 

組分け帽子はそんなことを言いながら悩んでいる、間違いないこの被り心地そしてこの声

私は静かに語りかけた

 

「お前ごときがこの私を導くだと?」

 

「む、何を言っておるか」

 

「逆に誰に口を聞いている、長く組分け帽子等ともてはやされ自分の主人を忘れたかこのお喋り帽子が」

 

アリシアは軽く魔力を帽子へと流し込む

 

「あ、あ、あ、この魔力まさか…フランディール・ルシアーナ様ぁぁぁ!!!」

 

突如大絶叫する組分け帽子

 

「うるさい黙れ」

 

私が言うと組分け帽子は一瞬で口をつぐんだ

 

「さぁて?私を導くとは偉くなったものだなぁお喋り帽子」

 

「は、はは、あなた様が去った後、私はゴドリック・グリフィンドールの所有物となりこの仕事を仰せつかりました」

 

「で、私はどこに行くべきだ?ほら言ってみろ」

 

「いえ、その、私ごときが魔王と恐れられたあなた様に指図するなど恐れ多く…」

 

「早くしろ!」

 

≪グリフィンドール!!!≫

 

「ふむ、悪くない選択だな…古き友に会えて嬉しく思うぞお喋り帽子」

 

「うあぁぁ、勿体無いお言葉でぇぇ!!!」

 

組分け帽子は泣きながら喜びを噛み締めている

 

「何だ何だ?組分け帽子が泣いている」

 

ざわつく上級生の尻目にアリシアはグリフィンドール寮の椅子へと腰かける、暫くの沈黙の後静かに拍手が巻き起こる

しかし、そんなアリシアを見つめる一つの老眼があった

 

「ほぉ、この世にもこれ程の魔力を放つ者が居るか面白い…奴がアルバス・ダンブルドアか」

 

「フランディール・ルシアーナ、何処かで聞いた名じゃ…何故今組分け帽子がその名を?」

 

その後順調に組分けは行われハーマイオニーもグリフィンドールとなった、すべての組分けが終わると宴が始まった

 

「なぁハーマイオニー、このご飯は誰が作っているんだ?」

 

私はこの余りにも美味しい料理をどこかで食べた気がした

 

「あぁ、これはヘルガ・ハッフルパフが考案した料理よ、何やら体に良いものを使って健康にも配慮したらしいわ」

 

「そうか…ハッフルパフが、美味しいな」

 

私が食事に満足しているとハーマイオニーが一人の生徒を指差した

 

「アリシア、彼があの有名なハリー・ポッターよ」

 

「ハリー・ポッター?誰だそれは?」

 

「あなた知らないの!例のあの人を唯一退けた謎の子供」

 

全く聞いたことがない例のあの人とは誰だ?だがハーマイオニーがそこまで言うならば相当の実力者なのだろう

 

「そうか、強いんだな?」

 

「ちょっとアリシア」

 

「行ってくる」

 

私は席を立つとハリー・ポッターの横へと立った、ハリーはふとこちらを見上げた

 

「え、なんだい?」

 

「私の名はアリシア・ボスフェルト、ハリー・ポッターと見受ける少し話をしないか?」

 

私が笑顔で申し出ると、ハリーも少しおどおどしながらも頷いた

 

「よし、では夜に談話室で…一人で来てくれよ?」

 

そう言うとアリシアは軽く微笑み踵を返してハーマイオニーの隣へと戻った

 

「なぁハリー、今の人誰だよ!凄い可愛かったな!」

 

「いや、知らない会ったこともないよ」

 

「ねぇアリシア、ハリー・ポッターに何を言ったの?」

 

「ん?なぁに夜に少し話さないかと言っただけだよ」

 

アリシアの妖艶な笑みは回りの男子生徒を一瞬で虜にしたと同時にハリーへの憎悪の種を植え付けた、食事が終わると生徒全員が上級生に連れられ寮へと向かった

 

「アリシア・ボスフェルト、ダンブルドア校長がお呼びです来なさい」

 

あ~あ、マクゴナガル先生からのお呼び出しだ、私はハーマイオニーに別れを告げると足早に付いていく

暫く歩くとガーゴイルの石像の脇を通り校長室へと入った

 

「ようこそミス・アリシア、入学当日にここへ呼ばれる生徒は数える程しかおらんかったよ」

 

「それは光栄ですダンブルドア校長先生」

 

ニコニコと笑いながら声掛けてくるダンブルドアにこれまた笑顔で返すアリシア

成る程、伊達にホグワーツ魔法魔術学校の校長をやっている訳では無さそうだな

 

「さぁ座りなさい、お菓子を出してあげよう」

 

成る程、一見何も構えず無防備に見えるが全神経はこっちに集中している、流石は現魔法界最強と言う称号は伊達では無いようだな

 

「はい、ありがとうございます」

 

ダンブルドアが指を鳴らすとそこにはフカフカのソファと豪華なテーブルが現れた

私がそこに座るとダンブルドアも校長の椅子から降り反対のソファに腰かけた、マクゴナガル先生は入り口の方に立っている

 

「さて何からきこうかの、それでは先ずは組分け帽子から聞こう」

 

ダンブルドアはおもむろに手の平を本棚と一緒に置かれているお喋り帽子へと向けた、するとお喋り帽子は吸い込まれる様にダンブルドアの手に収まった

 

「組分け帽子よ、お主さっきの組分けの時アリシアの事を違う名で呼んでおったの?」

 

組分け帽子は黙り込む、しかしダンブルドアの質問は変わらない

 

「組分け帽子、お主このホグワーツでの役割を忘れたか、組分け帽子はこの学校の持ち主が帽子の持ち主となる、つまりお主はワシの質問に答えねばならぬ」

 

「…その約定は今日を持って終了した」

 

低い声で答える組分け帽子

 

「ワシは表向きはグリフィンドールの持ち物、しかしその本当の持ち主は…」

 

「お喋り帽子!」

 

アリシアの言葉にまた口を閉じる組分け帽子

 

「で、ダンブルドア校長先生は私に何のようですか?」

 

アリシアの冷たい眼光がダンブルドアに突き刺さる

 

「ふむ、ワシの用事は一つだけじゃ」

 

ダンブルドアは立ち上がりテーブルに両手を付け前のめりになった

 

「お主…何者だ?」

 

その質問にはこのホグワーツ魔法魔術学校を守る守護者としての決意と信念が渦巻いていた

アリシアは姿勢を変えず足を組み手を組んで座っている、しかしその蒼眼は外すこと無くダンブルドアの瞳を見据えている

 

「それは答えられない、私はここホグワーツ魔法魔術学校に魔法を学ぶために来た学生だとしかな」

 

暫くダンブルドアと睨み合うアリシア、しかしダンブルドアは一つ溜め息をつくとニコリと笑い頷いた

 

「そうかい、あぁそうじゃ剣は預かっておくよ他の生徒が怖がるといけないからの」

 

ダンブルドアがアリシアの剣に手を伸ばした、ここで少しアリシアの悪い癖のいたずら心が出てしまった

あえて防衛術を解かずにダンブルドアへと差し出した

 

「ダンブルドア校長が取れるのならどうぞ?」

 

アリシアは笑顔で校長先生に言った、しかしマクゴナガル先生がハッとした表情をした

 

「アルバス!」

 

恐らく先程吹き飛んだのを思い出したのだろう、しかし時すでに遅し、ダンブルドアは剣を握り込んだ

 

≪パチッ…ドン!≫

 

瞬間ダンブルドアの手が一瞬弾けた、しかしマクゴナガル先生程吹き飛ぶ等の事は起こらなかった

 

ほぉ、完璧とは言えないがあの防衛術を解呪したか…流石は現最強の魔法使いと言うべきか、よし次回からはもっと強力なのにしておこう!

 

「…なんじゃ今のは」

 

「ダンブルドア校長、取れなかったので私が持ち帰ります」

 

「ちょっと待ちなさいミス・アリシア!」

 

「良いのじゃミネルバ…行きなさい」

 

私は恭しく礼をすると校長室を後にした

 

「何故ですアルバス!剣を持ちながら学校を歩くなど…」

 

マクゴナガルがダンブルドアに対して叱責するとダンブルドアは静かに言った

 

「あの防衛術はもはや失われた術じゃ、昔みた魔導書を思い出し咄嗟に反対呪文をかけたがこのワシでも全ては相殺できんかった、それにあの剣…あれは人間の持っていい代物ではない」

 

深刻な話をするダンブルドアとマクゴナガル先生達の事など露知らずこの後に控えているハリー・ポッターとの対談に心踊らせるアリシアだった

 

さぁ~てと、先ずは部屋に行こうかな…軽く汗も流したいし

アリシアはハーマイオニーと合流しお風呂へ向かった、ハーマイオニーとの話は実に面白い、自分が学んだ事の無い魔法の事や今有名な魔法使いの事そして四人の可愛い弟子達の話そんな事を話す間に私は風呂にのぼせ体が火照ってしまった、そろそろ上がるか

 

「ねぇアリシア、ハリー・ポッターと話すことがあったんじゃないの?」

 

……あっ!!!

私は急いで半袖のシャツと半ズボン形のパジャマを着て談話室へと向かった

 

「すまないポッター、遅れてしまった!」

 

まだ乾ききっていない艶めかしい銀髪、薄紅色にうっすら染まった頬と服から覗く肌に潤んだ蒼眼、ハリーは思わず目線を逸らした

 

「ん?どうしたポッター、まさか怒っているのか…?」

 

「い、いや…その」

 

暖炉の前に置かれたソファに座るハリーの横に座り近づくアリシア、ハリーはより一層目線を逸らした

 

「だったら何故視線を逸らす!」

 

アリシアが顔を近づける、その時ハリーはアリシアの華奢な両肩を掴んだ

 

「あっ…」

 

突然ハリーに捕まれたアリシアは勢い余ってソファの手掛けに押し倒される形になった

 

「アリシア…言いにくいんだけど、服が少し緩いんじゃないかな?」

 

ハリーはアリシアの胸元を指差し言った…

 

「ん?…いやぁ!!!」

 

急いでいた余り第一第二ボタンを掛けてなく胸元がはだけていた、その上パジャマは一回り大きいサイズを買っていたため…

 

「見た?」

 

「ううん!見てないよ!」

 

ハリーは首を横に振った、しかしアリシアは潤んだ瞳でハリーを見つめる

 

「…少しだけ」

 

「見たんじゃない!もぉーーー!!!」

 

アリシアは恥ずかしさに顔を薄紅色から真っ赤に染めてソファの上に足を組んで座っている

 

「あの…で何の用だったの?」

 

恥ずかしくてまだ顔を上げられないアリシアにハリーは訪ねる、アリシアはボソッと言った

 

「ハーマイオニーがね…あなたはスゴいんだって言うから、少しお話ししたいなと思っただけだよ…」

 

「…あれ?アリシアってそんなしゃべり方だった?」

 

「え…ダメかな?」

 

アリシアが膝を抱えたまま首をかしげた

 

「いや!全然イイトオモウヨ!」

 

何故か片言のハリーを見て思わず微笑むアリシア、つられてハリーも笑顔になった

 

「さてと、じゃあ話をしようハリー・ポッター」

 

アリシアが気を取り直してハリーへと投げ掛ける

 

「うん、あと僕の事はハリーって呼んで」

 

「では、私の事はアリシアと」

 

それからアリシアはハリーに様々なことを聞いた、例のあの人とは誰か、どうやって退けたのか、両親の事等

話す内に夜が更けてしまった

 

「あぁ、もう消灯時間か…」

 

「じゃあまた話そうアリシア」

 

「…そうだな、楽しかったぞハリー」

 

そう言うとアリシアは自室へと戻って行った

 

「はぁ~、何であんなに可愛いんだよ…でも何で僕なんかに、それも一人でって…もしかして!」

 

ハリーは何か期待に胸膨らませ寝室へと帰っていった

 

 

 

「う…ぅん…アリシア…?遅かったね?」

 

「あぁハーマイオニー、起こしてしまったかすまない」

 

布団の中からモゾモゾと顔を出すハーマイオニーに微笑みながら返すアリシア、ハーマイオニーはその顔を見て少し不満そうな顔をした

 

「随分楽しかったようね?」

 

「うん?フフっまぁな、実に興味深い話だったなぁ」

 

ベットに入りながら笑うアリシア、ランプも消したためもはや顔が見えないがその雰囲気から楽しいことは分かる

 

「…私との話は面白く無いのかな?」

 

「そんなわけ無いだろ?私に生まれて初めて出来た友達だぞ、ハーマイオニーと一緒にいるととても楽しいよ」

 

「そ、そっか…おやすみアリシア」

 

「あぁ、おやすみハーマイオニー」

 

二人は星空煌めく夜の闇へと溶けていった



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眠れるドラゴンをくすぐるべからず

目を開けるとやっと見慣れた天井、外はまだ日も昇らず闇が支配している 

隣のベットに視線をずらせば安らかな寝息をたてるハーマイオニーの姿があった

 

「全くまた布団が、さてと…」

 

私はハーマイオニーのずれた布団を直すとまだ冷たい床へと足を下ろし軽く身支度を整える、短い銀髪をとかし腰にフランディールの剣を差してエンペラーを胸元にしまう

 

アリシアの最近の日課である散歩、今日は禁じられた森にでも入ろうか魔法の鍛練と気分転換を兼ねた散歩は実に面白い。

前回はホグワーツの前にある大きな湖に行ってきた、中々興味深い生物や水人等懐かしい生物にも会えて嬉しい限りだった。

 

自分に不可視不音の魔法≪サイレント≫を掛ける、昔はこの魔法で何人もの暗殺者が私を殺しに来たものだ

だが今となってはこんな中級魔法も使えない…痛ましいな

 

「じゃあ行ってくるハーマイオニー」

 

ハーマイオニーが起きない小さな声で言うとアリシアは闇に消えていった

 

「あぁ…この魔力の流れそしてこの環境、ここは私の生きたあの太古の森にそっくりだ」

 

私はサイレントを解く、その瞬間森の奥から何かが走ってくる音がした、その音は次第に大きくなってくる

 

「そこの者!止まれ!」

 

あっと言う間にアリシアは囲まれた、その体は上半身は人間、下半身は馬そしてこの索敵能力…

 

「私の名はフィレンツェ、君はホグワーツの生徒だね?こんなところで何をしている?」

 

思わず笑みが溢れる

 

「あぁ…懐かしい、今度はケンタウロスか」

 

「なに?」

 

「私はアリシア・ボスフェルト、ホグワーツ魔法魔術学校のグリフィンドール生だ」

 

「そんな君が何故こんな朝早くに森へ?生徒が入るのは禁じられているだろう」

 

「フフっ、懐かしくてついな」

 

「さっきから何を言っている?ケンタウロスに会ったのは今回が初めてでは無いのか?ここに来るのも」

 

フィレンツェはそろそろ混乱してきた様だ

 

「そうだな…あぁ所で今のケンタウロス族の族長は誰だ?」

 

あの時代のケンタウロス族の王は…あぁ、確かデンホルムだったな

 

「この部族の長は私だ、しかし全ケンタウロス族の長はデンホルム七世だが何か?」

 

そうか、当たり前だが初代デンホルムは死んだか、アイツも私の配下で良く尽くしてくれたのだが…だがデンホルム一族は滅んで無かったか良かった、本当に!

 

「そうか、なぁフィレンツェ申し訳ないがデンホルム七世に手紙を届けてくれないか?」

 

私は持っていた羊皮紙に一つの紋様を印す、それをフィレンツェに渡す

 

「こ、これは!!!どこかで見たような?」

 

フィレンツェは首を傾げながらその紋様を眺めた、眠るドラゴンに巻き付く薔薇のトゲ傍らには剣が刺さっている

 

「後もう一つ聞きたいのだが、巨鬼族はまだ生き延びているか?」

 

ずっと気になっていた、私の手足となり各地方の情報を集め紛争が起きれば矛となり無類の強さを誇った巨鬼族、そんな彼らが今何をしているのか

 

「あぁ、と言うよりこの森の長は彼等だからね」

 

…と言うことは、私がアイツに渡したアレを使ったと言うことか?

私はもう一枚羊皮紙にサインを施しフィレンツェへと渡した、巨鬼族へと渡すことを頼んで

 

「じゃあ、そろそろ帰るとしよう…無理だとは思うがこの事はホグワーツに黙っていて貰えるか?」

 

「う~む、立場上厳しいと言わざるを得ないだろう」

 

「そうか、後大丈夫だとは思うがもしその紙でわからなかった場合≪魔王≫と伝えてくれるか?」

 

「よかろう、ではな」

 

そう言うとフィレンツェは森の奥へと消えていった、が、私がホグワーツへと戻るまでの間ずっとフィレンツェの気配は消えなかった、常に私の回りで警護してくれたようだな

 

私は森へとお辞儀すると城へと戻った、今日の授業は確か飛行訓練だったな

マダム・フーチの訓練は厳しいと聞く…だが本当に人は飛ぶことなど出来るのか?

以前はアイツが居たから飛ぶ必要が無かったからなぁ

 

「アリシアどこに行ってたの?」

 

「あぁハーマイオニー、ちょっとな」

 

私はハーマイオニーに朝の挨拶をして朝食へと向かった、この瞬間が私のなかで上位に来るほどの嬉しい時間だ、愛弟子の料理に舌鼓を打ちつつ昔の出来事を思い出す

 

「何て美味しいんだ…」

 

「アリシアってご飯食べるといっつも感動してるよね」

 

「何だ悪いか?」

 

「ううん、いいと思うわ」

 

二人で笑いながら朝食を済ませる、それにしてももこの階段なんとかなら無いかな~?

ロウェナ・レイブンクローが作り出した動く階段、確かに天才だとは思ったが錬成術をここまで駆使するとは…

 

私達は校庭へ出ると並べられた箒の脇に立った、目の前にはあのマルフォイが立っていた、そして他のスリザリン生は私達グリフィンドール生に対して挑発ばかりしている

 

その時、スリザリン生の一人がこちらを向いた

 

「見ろよ、マグルからの魔法使いハーマイオニーだぜ!」

 

「あぁ、何て穢らわしい!」

 

スリザリン生は皆こちらを見て笑っている、しかしこいつらは何も考えていなかった決して怒らせてはいけない人物を怒らせたことを

 

「おい貴様ら…誰を言っているんだ?」

 

この時、ホグワーツに生きる生物は全てこれから起きるであろう最悪の結末を考えた

 

「おいお前ら!何をしている!」

 

マルフォイがやっとアリシアに気が付きこちらへと向かってくる、ハーマイオニーをバカにした奴等はマルフォイに色々言われている

 

「すまないアリシア、コイツらにはしっかり言ってお…」

 

「そこを退いてもらえるかマルフォイ…そいつらはハーマイオニーを…!」

 

私の怒りは収まらない、マグル生まれなら何だ?それがどうした!貴様らは何故そうやって差別化を図る、だからあんな戦争が起こるんだ!

 

「アリシア!!!私は大丈夫だから…ね?」

 

ハーマイオニーはアリシアの手を掴むとそっと自分の方へと引き寄せた

私の怒りも次第に収まりハーマイオニーをバカにしたスリザリン生は恐怖の余り小便を漏らし失神していた

 

「ふぅ…マルフォイ、私はこのようにマグル生まれだからと他人を見下す輩を好まん、くれぐれも伝えてくれ…次はない」

 

マルフォイは真剣な顔つきで頷く、すると丁度マダム・フーチがやって来た…何でダンブルドア校長も一緒なんだ?

 

「アリシア・ボスフェルト、授業後校長室まで来なさい」

 

そして授業は始まった、しかし始まって直ぐにネビル・ロングボトムが失敗した

ネビルはフワリと浮かぶと空高くへと舞い上がった

 

「おぉ!あんなに高く上がるんだなぁ~!!!」

 

私が感激しているとネビルが急降下、こちらへと突っ込んでくる、マダム・フーチが杖を取りだし構えた…魔法を使い止めるのか!

 

…いや!逃げるのか!

私はエンペラーを取り出すと一言≪止まれ!≫

その瞬間箒は急停止ネビルは城壁へぶつかり地面へと倒れ込んだ

 

「失敗した…今の時代受け身も取れないのか」

 

フーチ先生が駆け寄ると何やら騒いでいる、どうやら手首が折れている様だ

私は近付きネビルを見る

 

「すまないネビル、私の助け方が悪かった」

 

「ううん、助けてくれてありがとうアリシア」

 

「直ぐに治してやるからな」

 

私はエンペラーをネビルの手首の上で一振りする、すると先程まで痛がっていたネビルが手首を曲げた

 

「あれ?痛くない…ありがとうアリシア!!!」

 

「どういたしまして」

 

アリシアは片方の目を閉じてネビルへと目配せする、ネビルは顔を赤くして一応フーチ先生と医務室に向かった。

 

「すごいわアリシア!一体どんな魔法?」

 

「う~ん、まぁ色々とね?」

 

古代魔法の事を軽々しく話すことは出来ない、上手く言葉をはぐらかすとネビルの落とし物を見つけた

 

「なぁハーマイオニーこれは?」

 

「あぁ、それは思い出し玉よ、自分が何かを忘れていると中の煙が赤くなるの」

 

「ほぉ、便利なものだなぁ」

 

ん?中の煙が赤くなっているぞ?何か忘れているのか?

私は思い出そうとするが何の事だろうか…飛行訓練、飛行、飛ぶ?

 

「ああぁぁぁ!!!」

 

≪何だ何だ?≫

 

≪誰だ?≫

 

≪何があった?≫

 

「ちょっとアリシア、いきなり大声出して何したの?」

 

いつも冷静でおしとやかなアリシアがいきなり大声を出すのだ、そりゃあ周りの生徒もただ事ではないと驚く

 

忘れていた、私が作り出した賢者の石を与えた奴らの事を一つ目はルシアーナ邸、二つ目は巨鬼族の村、そして最後の三つ目…

 

「…ギルバート、何で忘れていたんだ!私の大切な相棒の事を!」

 

私は授業後言われた通り校長室へと向かった、しかし廊下を歩いていて直ぐに感じた

 

「これは、居るのはダンブルドア校長だけではないな」

 

ガーゴイルの石像は横にピョンと飛び退きアリシアを校長室へと迎え入れる、階段を上がり校長室へと入るとダンブルドア校長を含む三人の男がいた

 

「校長先生、この方々は?」

 

分かりきった質問をする、馬の胴体に人間の上半身、何よりあの腕に彫られた紋章

そして燃える炎のような深紅に体を染める身長二メートルを越える大男、その頭には二本の角そして背には同じく紋章がある

 

「いやいや、ワシも困っておるのだよミス・アリシア、いきなりホグワーツにいらしたのじゃ」

 

「そんなことはどうでも良かろうアルバス、早く我らが主を出さぬか!

先祖との約定やっと果たせる…あぁルシアーナ様!!!」

 

「デンホルムの言う通りじゃ、ワシらはこの時を幾千年も待ちわびたのだ、約束は守りましたルシアーナ様…巨鬼族は永遠にあなた様の臣下ですぞぉぉぉ!!!」

 

成る程、フィレンツェが渡してくれたんだな…だからって学校まで押し掛けてくるか普通?

まぁいい、おかげで久しい顔を見れた…全く変わらない顔つきだなお前は

 

「で、何故私を呼んだのですか?」

 

ダンブルドアは真剣な顔をして語りだした

 

「のぉアリシア嬢、今からワシが話すのは途方もない仮説の話じゃが…お主フランディール・ルシアーナじゃなかろうの?」

 

…おっとぉ~!!!

ヤバイなバレてる

 

「い、嫌だなぁ先生、私がルシアーナな訳無いじゃないですか」

 

しかしダンブルドアは軽く微笑むだけで何もしゃべらない

あー、これは完璧にバレてるな

 

「何故そう思ったんですか?」

 

「そうじゃの、では答え合わせと行こうかの」

 

それからダンブルドアは語りだした、ゆっくりとこちらに歩を進めながら

 

「先ず最初におかしいと思ったのはその剣じゃ、ワシが知る守護魔法の中でも特に古く強力な術じゃった」

 

「成る程、しかしそれは私の家にある魔法を使っただけかも」

 

これまた頷くダンブルドア

 

「次に組分け帽子が言った言葉を思い出した真の持ち主と言う人をな、アレは元々ゴドリック・グリフィンドールの所持していた物ではない、ホグワーツを作り上げた四人の魔法使いの師、フランディール・ルシアーナ所有していた物だと言うことをな」

 

「それが私と何の関係が?」

 

「いやいや、君が組分けをした際に何故かは知らんが組分け帽子がその名を口にしたのじゃよ、いやぁ~不思議じゃな」

 

もうこれ確信しているだろ…後で組分け帽子はシメよう

 

「そ、そうですねぇ~」

 

「まだあるぞ、この紋章に見覚えはあるかの?」

 

ダンブルドアが手に持つ軍旗

何でこんなものが残っているんだ…これは私が使っていた軍旗じゃないか

ご丁寧に新品同様に綺麗にされちゃってまた…

 

「これはそのルシアーナが戦いのとき使ったとされる軍旗じゃ、今となってはこの紋章を知るのはごく少数となった、だが…何故か君は、この紋章を書き上げた」

 

今度はフィレンツェか、これは仕方がないことだな

 

「そうですね、確かに書いたのは私です」

 

「何故これを書けたのじゃ?それにこの紋章を何故この方々に送ったのじゃ?」

 

はぁ~、これ以上は無理だな…仕方がないか

私は一つため息を吐くと同時に魔力を解放した

 

≪ズンッ!!!≫

 

「な、何じゃ…この強大な力は」

 

「おぉ、懐かしきルシアーナ様の力だ…間違い無い!」

 

「これが…我らが主、魔王≪フランディール・ルシアーナ様≫か」

 

そこには学校指定ではない漆黒のローブを羽織るアリシアの姿があった、ローブの背には深紅で描かれたあの眠るドラゴンに巻き付く薔薇のトゲ、そして傍らにはフランディールの剣が描かれた刺繍が施されている

 

「アルバス・ダンブルドア、その洞察力とこの時代では類い稀なるその魔法術には感服したぞ」

 

アリシアが一つ指を鳴らす、すると何も無かった空間からまさに豪華絢爛な椅子、所々に散りばめられた魔石や椅子の細部まで施された彫刻はシンプルながらその彫り上げた職人たちの腕が良く現れる素晴らしい逸品が現れた

 

アリシアは座りなれたその椅子に深く腰かけると、ひじ掛けに肘を乗せ新雪のような透き通った白い足をローブから出し足を組んだ

 

「さて、このフランディール・ルシアーナを呼んだんだ…つまらない話はするなよ?」

 

うっすらと微笑を浮かべるアリシア・ボスフェルト、その表情はダンブルドアを始め巨鬼族・デューク、ケンタウロス族・デンホルム七世をも魅了した…。



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ハロウィンの悲劇

肌寒くなってきた今日この頃、布団の温もりが恋しくまた今日も二度寝をしてしまう

 

「……て」

 

ん?どこかで誰かが叫んでいる、まったく…人が気持ち良く寝ていると言うのに何て奴だ

 

「…シア」

 

シア?そいつが悪いんだな…

またアリシアはまぶたを閉じ夢の世界へ旅立とうとしたその時!

 

「アリシア!!!」

 

両肩を掴まれ起こされるアリシア、その目は何が起こったのかまだ理解していない

 

「朝だよ!!!」

 

その眼前には、身だしなみを整えローブを着たハーマイオニーの姿

 

「ん~?あぁ、おはよぉ~ハーマイオニー?」

 

まだ開ききって無いまぶたを擦り、寝ぼけて滑舌が回らないアリシアを抱き起こしお風呂場へ押し込むハーマイオニー、お風呂場の壁越しに会話を始める

 

「ねぇアリシア、今日はハロウィンで何時もよりご飯が豪華なんだって!」

 

「何だと!それは楽しみだ!早く夜にならないかなぁー」

 

シャワーを浴び終わり部屋へと出てきたアリシア、その体は熱で薄紅色に染まり何か甘い匂いを香らせる

ローブに身を包み、腰にフランディールの剣を差し胸ポケットに杖をしまう

さぁ勉学に励もう!

 

一時間目は魔法史、教えるのはカスバート・ビンズ教授この学校で唯一ゴーストが教える授業だ、この中で私アリシア・ボスフェルトや弟子四人の歴史なども教えられたが少し違う点も多く見当たる…この際しっかりと教えてやるか?

 

二時間目は薬草学、これも中々好きな教科だ、自分の知っている薬草も多くあった

逆に自分の知らない薬草等も増えており、とても興味深く聞いていてとても勉強になる教科だ、新しい薬でも作ろうか

 

三時間目は飛行訓練、ここで少し驚いたのはハリーポッターの飛行能力の高さだ

少し前、初めての飛行訓練でまるで箒を自分の手足のように扱っていた…少し羨ましいな

 

残念ながら私は余り箒を使った飛行が得意では無いことが分かった、早くアイツを見つけなければな…

ハリーポッターは最年少シーカーに選ばれ心の底から尊敬出来る

 

ここで昼食だ、一つの授業が長いためもう昼を回っている、今日はハロウィンと言うことで早くもカボチャ料理が出ていた

私はカボチャジュースにカボチャケーキを頂いた、本当に美味しいなぁ。

 

四時間目は闇の魔術に対する防衛術、これはクィレル先生が担当だ、実践で役立つかは分からない簡単な授業だが、余り皆得意では無さそうだ…ハリーポッターはそこそこの腕だな

 

五時間目は魔法薬学、スネイプ教授が教える教科でスリザリン生ばかり贔屓する少し気に食わない授業でもある。

何回かシメようかと思ったがダンブルドアと学校の関係者には手を出さない約束だからな我慢しよう…だが

 

≪パチン!≫

 

アリシアが指を鳴らと同時に何故かスネイプ教授は教壇から滑り落ちた

これぐらいは良いだろ?隣ではハリー、ロン、ハーマイオニーを筆頭にグリフィンドール生がクスクス笑ってる

 

最後の六時間目、最後の今日の授業は呪文学だ、今回は浮遊術をやるようだな

授業が進みいよいよ自分達で羽を浮かす練習が始まった、 私は案の定一発で成功した

 

しかし私と同じタイミングで 離れた席にいるハーマイオニーも成功した

流石はハーマイオニー、魔法の上手さと覚えの良さは群を抜いてるな

 

 

 

 

 

さて、やっとお楽しみの夕食時間だ!

私はハーマイオニーを誘おうと教室を出てすぐの中庭で待っている

 

「あ!ハーマイオニー…?」

 

ハーマイオニーを見つけ手を上げて合図した、だがそれに気付かず顔を伏せたまま走り去ってしまった

 

何だ…?腹でも痛いのか?

 

私は一人で大広間へと向かった、何時もと同じ席に座り目の前に置かれた料理を凝視するアリシア、しかし料理には食べた形跡は無い

 

「早くハーマイオニー来ないかな…お腹が減ってしょうがない」

 

アリシアは大広間にハーマイオニーが居ないことを確認して来るまで料理を我慢していた、しかし机に置かれた料理の豊潤な香りはそんな我慢を露知らず食欲を沸かせる

 

「い、急いでくれハーマイオニー…私はもう限界のようだ!」

 

その時、突然大広間の扉が激しく開かれ闇の魔術に対する防衛術を教えるクィレル先生が入ってきた、その顔は血が引いており真っ青になっている

 

「トロールが!!!地下室に…お伝えしま…」

 

そこまで言うと力尽きたように倒れこんだ

そんなことはどうでも良い!トロール何ぞ何匹来ようが関係ない!早くこのカボチャパイにかぶり付く…その方が大切だ!

 

しかし周りはアリシアの心境とは裏腹に、阿鼻叫喚の渦に包まれた…中には泣き出す生徒もいる

 

「静まれーーーーー!!!!」

 

ダンブルドア校長の怒声がそんな渦を切り裂いた

 

よし、良いぞダンブルドア校長、早くトロールを潰してこい、そして早くこのパイを食べさせてくれ!

 

「監督生は皆を連れて寮へ、先生方は私と地下室へ」

 

おいおいダンブルドアちょっと待て!!!

私のご馳走はどうなる!まだ食べていないんだぞ!

 

アリシアがダンブルドアを睨むと、チラリとこちらを見たが直ぐに視線を逸らした

 

あのジーさん…まさかこのままお開きとは言わないだろうな?

 

仕方がなく監督生に付いていく事にした、が途中であることに気が付く

 

「グリフィンドール!しっかり付いてきて、はぐれないように」

 

「あの…先程からハーマイオニーの姿が見えなくて、私探してきます!」

 

監督生にそう言うとアリシアはハーマイオニーを探しに向かった、と言ってももう場所は分かっている

 

今までは使う必要が無かったが緊急時と言うことで≪広域探索呪文≫を使った

一階の女子トイレにハーマイオニーの魔力を感じる…しかしそんなに腹が痛いのか?それに不味いなこの大きさ、トロールが地下室から上がって来た。

 

私は急いで女子トイレへと向かう、しかしそこにまた二つの魔力を関知した

 

「この普通とは違う魔力はハリー、そして実に平凡な魔力はロンか?」

 

彼らは何故女子トイレに向かってるんだ?

しかし好都合だ、何とか私が着くまで持ちこたえてくれ!

 

私が女子トイレに着いたとき目にしたのはトロールに足を掴まれ逆さまになったハリー、そして洗面台の下で怯えたハーマイオニーの姿だった

 

「巨人に成り損ねた半端者が!私の友に何をする!!!」

 

フランディールの剣を抜きトロール目掛け駆け出した、トロールが暴れたせいで水道管は引き千切れ床は水浸しになっている

 

私の弟子たちの学舎を壊しよって!お前は決して許さない

 

アリシアはトロール目掛けてフランディールの剣を振り抜いた

 

≪ドシャ!!≫

 

重い音と共に激しい水飛沫が上がり、辺りの水はトロールより流れ出た血によって真っ赤に染まる

 

≪グオオォォォォ!!!≫

 

自分の切り落とされた左腕を見つめ叫ぶトロール、直ぐに近くに転がる棍棒を手にしてアリシアの頭上へと振り下ろす

 

「作られた巨人トロール、流石の闘争本能だな…」

 

アリシアはまるで指揮をするようにエンペラーを動かす

 

「真語魔法発動≪止まれ≫」

 

同時にトロールの棍棒が上空で停止する、空振りしたトロールはその勢いのまま前のめりに倒れ込む

 

ゆっくりとした足取りで起き上がろうとするトロールの眼前に立ち、頭を踏みつける

 

「さぁ、終わりだ…」

 

エンペラーをトロールの頭に添え氷のような冷たい声で言った

 

「対魔獣魔法≪皇帝の槍≫」

 

淡い光がエンペラーから放たれたと思った瞬間、トロールは頭に大きな風穴を開け水が溢れる床へ崩れ落ちた

傷口からは止めどない鮮血が流れ続けていた

 

「ふぅ、大丈夫かハーマイオニー?」

 

後ろを振り向くアリシアの胸にハーマイオニーは飛び込んできた、よっぽど怖かったのだろう何時も気丈なハーマイオニーがこんなに感情を露にしたのだ

 

「大丈夫だハーマイオニー、あなたは私が守ってあげる…だから大丈夫」

 

優しいアリシアの声に落ち着きを取り戻し離れるハーマイオニー、そして直ぐ側にはハリーとロンがこちらを向いて呆然としている

 

「ハリー、ロン、今回は助かった礼を言う」

 

ハーマイオニーの手を握りながらハリーとロンに頭を下げる、二人は首を横に振りなにもしていないと言っていたが今回は紛れもなくハリーとロンのお陰だ、大切な友達を失わずにすんだ

 

直ぐに廊下の方が慌ただしくなった、先生方がトロールを追ってここにたどり着いたのだ…

 

「まぁ、何てことです…誰か説明なさい」

 

マクゴナガル先生は慌てた様子で私達に説明を求めハーマイオニーが一歩前に出て弁解を始めようとした、しかし弁解が始まることは無かった

 

「少し待てハーマイオニー、これは我々の責任ではない」

 

辺りにいた先生方は女子トイレ内に集まり中には生徒も数人入り口に隠れながらこちらの様子を伺っている、アリシアは冷静な口調と態度で話を続けた

 

「マクゴナガル先生、先ずはトロールがホグワーツにどうやって入り込んだかを考えてください。

難攻不落、あのグリンゴッズの金庫よりも安全だと言われているホグワーツですよ?

そこにこんなに足が遅く体が大きい、そして何より知能も低いトロールが入り込んだんです、これがそんなに軽い事件では無いことは確かな筈です。」

 

口ごもるマクゴナガル先生、辺りの先生方もこの異常事態に気付いてきた様だ

しかしマクゴナガル先生は直ぐに反論を上げた

 

「それに関しては既に調査を進めています、何より避難指示があった生徒がこの場に居ることが問題なのです!」

 

これぐらいの反論を受けることは勿論想定内だった、この事に関してもアリシアはゆっくりの語る

 

「では、なぜ各寮ごとに先生を付けなかったんですか…もしもトロールと生徒が鉢合わせたらどうするつもりだったんですか

それに監督生に寮生の人数確認もさせず、私やハリー、ロンが気が付かなければ最悪ハーマイオニーは…その上トロールは包囲網から逃しこんな内部への侵入を許す始末だ…」

 

アリシアに確信を突かれとうとう黙り混むマクゴナガル先生

 

「先生方にはどこからトロールが入り込んだか、そして二度とこのようなことが起こらない様に再発防止に勤めて頂きたい、では」

 

「お待ちなさい!」

 

両脇に並んだ先生方の前を通りすぎようとするアリシアへマクゴナガル先生が声を掛けた

 

「…アリシア・ボスフェルト、ハーマイオニー・グレンジャーを助けた勇気を認めグリフィンドールに15点を与えます、同じくハリー・ポッターとロン・ウィーズリーにも5点ずつ与えるものとします」

 

先生の目を見て礼儀正しく礼をすると踵を返し寮へと戻った

 

「まったく教師陣は一体何を考えているだ…まぁハーマイオニーが無事で良かった」

 

教師に対する不満と安堵の言葉を口にする、しかしアリシアは「明日はハリーのクディッチ初試合だから休もう」とだけ言ってハーマイオニーと部屋へ戻った

 

「ねぇアリシア、今日は助けに来てくれてありがとう」

 

「ん?何だそんなことか、当たり前だろ…と、友達なんだから」

 

照れ隠しに布団に潜ってしまう、それから二人はゆっくりと意識を闇に落として行った

 

 

 

 

 

さぁ、今日はハリーのクディッチ初試合だ、今日は授業も無くその寮生は自分の寮を応援することだけに集中できる

 

ハーマイオニーと共に朝食を食べようと大広間に向かうとハリーとロンが向かい合って座っている、私とハーマイオニーはハリーの両脇に座った

 

「おはようハリー、今日はクディッチの初戦だな相手はスリザリンか?」

 

アリシアが訊ねるとハリーはうつ向いたまま頷いた、視線の先には少ししか手をつけていない料理がある。

成る程、緊張してご飯も喉を通らないと言ったところか…仕方がない

 

ハリーの皿に手を伸ばすと、スプーンで料理を掬いハリーの口元へ運ぶ

 

「えっ!アリシア、これはなに…?」

 

「何って、誰かに食べさせて貰った方が喉を通ることがあるだろ?ほら、諦めて口をひらけ、折角の料理が冷めてしまう」

 

同時に辺りの生徒が慌ただしくなる、中には鬼の形相でこちらを睨む者や咳をしてまるで風邪を引いているようにしている生徒もいる

殆どは男子生徒だが中には数人の女子生徒もいる

 

恐る恐る口を開くとスプーンが口に入り料理を置いて出ていく、何故だろうかとても美味しく感じる…

 

「さぁ、一杯食べるんだ」

 

次々送られてくるスプーンを平らげるハリー、とうとう何時も以上に食べてしまった

 

「では、私とハーマイオニーは応援席に行くとしよう、ハリー応援しているぞ」

 

ハリーの餌付けと自分の食事を済ませたアリシアはそれだけ言うと席を立ち去っていった

アリシアとハーマイオニーが居なくなった大広間にいた全男子生徒の混乱は、トロールの騒動とも肩を並べる程であった…

 

≪≪≪アリシア様に応援されているんだ!負けたら承知しないぞハリー!!!≫≫≫

 

男子生徒の総意を受け、決して負けることが出来ないと心に誓うハリー・ポッターだった

 

そんな事とは露知らずアリシアとハーマイオニーはクディッチの会場へと向かっていた、道中の出店で売っていたオヤツを買い用意は万全だ

 

会場にはホグワーツから徒歩15分ほどで着いた、話しながら歩くと直ぐに着いてしまうな

競技場は全長約150メートル、こんなに広い競技場内から胡桃大のスニッチを探さなければいけないとは…めんどくさい

 

「あ!アリシア始まるよ!」

 

ハーマイオニーは選手入り口を指差した、同時にハリー達グリフィンドールチームとスリザリンチームが入場した

 

コートの中央にはマダム・フーチ先生が達球を空へと解き放つ、さぁクディッチの始まりだ!!




次話は少し遅くなるかもしれません…。


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勘違いと里帰り

空気は肌寒くなり冬の訪れを感じる、空は大気中の不純物が少なく澄みわたる

しかしそんな空を暴れ玉が縦横無尽に駆け抜ける

 

「おぉっと!またまたグリフィンドール10ポイント獲得!今年のグリフィンドールも強い!」

 

司会の声が会場全部に響き渡る、観客席で自寮グリフィンドールを応援するアリシアとハーマイオニーも初めて間近で見るクディッチと言うことも相まってつい気持ちが昂る

 

「良いぞグリフィンドール!」

 

「頑張って!」

 

グリフィンドールの息の合ったチームプレーには無駄がなく、スポーツマンシップに乗っ取った正々堂々たる戦いをしこのままグリフィンドールの圧勝かと思われていた時、スリザリンチームが動いた

 

スリザリンチームのリーダーがグリフィンドールチームのリーダー、オリバー・ウッドにブラッジャーを打ち返したのだ

ウッドは止めることができず直撃、地面へと落ちていく、続けてスリザリンの二組からプレスを受けたグリフィンドールチームの女性が観客席の基礎に激突、またも地面へと倒れ込んだ

 

「おい!ハーマイオニー、あれは良いのか!」

 

「ちょっ!アリシア何で乗り込もうとしてるのよ!」

 

観客席を立ち上がり今にも競技場に乱入する勢いだ、アリシアのローブの裾を掴みそれを阻止するハーマイオニー

 

そんな間にもスリザリンチームの猛攻は続き、ゴールキーパーの居なくなったグリフィンドールは成すすべなくスリザリンに連続得点を許していた

 

「ま、まずいぞハーマイオニー!とうとう追い付かれた、それにこのままでは追い越されるのも時間の問題だぞ!」

 

「えぇ、これはもうスニッチを取るしか…」

 

アリシアとハーマイオニーは息を会わせたわけではないがついハリーを見てしまった、しかしそれは結果として良かったのかも知れない

 

自分の主人であるハリーを今にも振り落とそうとする箒、練習で上手く扱えていたのはグリフィンドール生ならば誰もが知っている事だ…それなのに何故?

結果は分かっていた

 

「誰かが呪文を掛けている!」

 

「おぉ!ハーマイオニーもそう思うか」

 

その通り、あの箒には今まさに何者かから呪文による攻撃を受けている、ハーマイオニーは早くも犯人探しを始めた

 

グリフィンドールに敵対するチーム、スリザリンに的を絞り探索していくと思いの外早く見つかったようだ

 

「スネイプよ!箒に呪文を掛けてる!!!」

 

双眼鏡を覗きながら叫ぶハーマイオニー、私もハーマイオニーから双眼鏡を貸してもらい覗き込む

成る程、確かに何か呪文を掛けているな…待てよ、あれは?

 

「ハーマイオニー!スネイプ先生では…ハグリット、ハーマイオニーはどこへ?」

 

先程まで隣にいた筈のハーマイオニーの姿が無い、どこへ行った?

 

「ハーマイオニーなら目の色変えて向こうの方へ走っていったぞ」

 

遅かったか!確かにスネイプ先生は呪文を掛けていた

しかしあの口の動き、あれは暴走の呪文では無くそれを防ぐための反対呪文だ…

 

こうしている間にもハーマイオニーは勘違いをしてスネイプ先生に何かするだろう、もしもその影響でスネイプ先生の反対呪文が切れたとしたら、ハリーは間違いなく落下して重症を負う

 

「真言魔法発動≪箒よ従え!≫」

 

動きが止まった…一先ず安心だろう、アリシアが胸を撫で下ろしたその時

 

≪ドンッ!≫

 

突如また箒が暴れだした、今度は先程よりも大きな揺れを伴っている

 

「ほぉ、私の指示を受けて直も抗おうと言うのか…面白い!」

 

開いていたその手のひらをゆっくりと閉じる、しかしその閉じる手を阻もうと箒の呪文はその強さを増していく

アリシアはうっすらと笑みを浮かべながら手に力を込める

 

ふむ、中々の魔力と忍耐力だな…私の真言魔法に抗うのは勿論の事

この無駄の無い力の使い方、非常に洗練されているのを感じる、素晴らしい限りだ…だが!

 

≪パァン!!!≫

 

「…私を誰だと思っている?」

 

アリシアが手を握り込むのと同時にスネイプ先生の居た観客席で火が上がった

 

「まったく、ハーマイオニーは無茶をするなぁ」

 

暫くしてハーマイオニーが帰ってきた、その表情はどこか満足げだったのは忘れるとしよう

 

それからの戦いは一瞬だった、ハリーがスニッチを発見そしてなんと口でのダイナミックキャッチをし試合終了、グリフィンドールの勝利で幕を閉じた

 

 

 

「成る程、つまりハーマイオニー、ハリー、ロンの三人で入ることを禁じられている部屋に入りその奥にあった扉を解錠の呪文で無理矢理開けて不法侵入、中に居た番犬に追い返されたと」

 

「ま、まぁそうだけど…何より!スネイプが番犬の守る部屋の奥にある何かを狙っているの!」

 

アリシアに食いかかっているのはハーマイオニー、どうやら今回の箒暴走事件でスネイプが何かを狙っていると確信したらしい

 

「分かった分かった、それで?どうするんだ?」

 

「それに関しては大丈夫、ハグリットが口を滑らせてヒントは掴んだわ」

 

あぁ…何て口が軽い男なのだろうか、何なら体重も軽くなればいいのに

 

「で?そのヒントとは?」

 

「ニコラス・フラメル、そう言っていたけど…誰だったか忘れちゃったのよね」

 

頭を抱えるハーマイオニーを見ながら、アリシアは頭の中に入っている知識の扉を開いた

 

ニコラス・フラメルか、何かの本で読んだなぁ…どこでだ?

あれは確か、家の図書棚………あ!!!

 

「思い出したぞ、ニコラス・フラメル、確かこの世で二人目の賢者の石の錬成者の名前だ!」

 

ハーマイオニーもアリシアの回答に思い出したようで手を叩いた、直ぐにハーマイオニーは結論を決めた

 

「スネイプが狙っているのは賢者の石よ!何に使うのかは分からないけど…そうよ」

 

いや…だからスネイプは呪文を掛けてないし、それに逆にハリーを守ってたんだぞ?

 

ハーマイオニーは、呪文を掛けて居たのはスネイプだと思っているため最早スネイプ以外は目に入っていない様子だ…

しかし、私が≪呪文を掛けてたのはスネイプ先生ではない!別の人だ!≫

だなんて言えないからなぁ

 

私が出した結論は

 

「そうだね、じゃあそう言うことで、ハリーとロンに話して対策たてようか?」

 

十中八九、スネイプ先生は犯人では無いけど…確かにこれには何か裏が有る、それにニコラス・フラメルの賢者の石

調べていけば必ず真犯人に突き当たるだろう、何かあれば私が全力で助ける…何としても

 

私とハーマイオニーは、急いでハリー達の待つ談話室へ向かいこの事を話した

二人もどこか納得した様子で頷いていた…何か仲間外れな感じがするような…。

 

間もなく訪れるクリスマス、ハリーとロンは家に帰らずにホグワーツでクリスマスを過ごすらしい

私は色々とやることがあるため、一時帰宅することにした

 

「元気でなハリー、ロン、くれぐれも先走った行動は控えてくれよ?」

 

ハリーとロンに一応釘を刺しておき、私とハーマイオニーは汽車へ乗り込んだ

汽車の中では二人で過去の偉人について語り合ったり、将来はどんな魔法使いになりたいか等、とても楽しい時間を過ごした

 

キングズクロス駅に着くいた、私は母が迎えに来ていたためハーマイオニーより少し早く汽車を後にした、ハーマイオニーの両親はまだ少し掛かるらしい

何なら挨拶しておきたかったのだが…

 

「じゃあ、また新学期に良いクリスマスをハーマイオニー」

 

「えぇ、アリシアも良いクリスマスを」

 

ハーマイオニーと別れ、9と4分の3番線を潜り人間界へと出る

 

「アリシアちゃーーーん!!!」

 

≪グフッ!!≫

 

同時に受ける腹部への衝撃、思わず咳き込んでしまう

今、私の腹部に強烈なタックルをかましてくれたのが私の母、シーニャ・ボスフェルト

 

私と同じ銀髪に見るからに明るいその顔は、父のハートを射止めた魔性の顔だ、身長はそんなに高くない、精々165センチ程でまぁ普通の身長と言った所だ

 

こんな明るく元気で活発な母だが、こう見えて元聖マンゴ魔法疾患傷害病院の院長を勤めていた

この病院は、ホグワーツでもトップクラスの生徒しか入れないような病院だ、患者さんを守るための防衛術は勿論、薬草学と解呪治療を合わせた新しい治療法で世界最高峰の病院設備を誇っている

 

母は私がお腹に出来てから、子育てに集中したいとこの病院の院長職を降りて私を育ててくれた、今は特別顧問兼名誉会長として週に4日ほど診察に訪れている

 

「母よ!いつも言っているが出会い頭にタックルをかまして来るのは止めてくれ、息が止まりそうになる!」

 

「えぇー、家族のスキンシップは大事よ?それにもし息が止まっても、お母さんが生き返らせるから大丈夫よ!」

 

こちらに笑顔でグーサインをしてくる母、何だ?だから安心して死ねと?

 

「ふぅ…まぁ良い、早く家に帰ろう」

 

「もぉ~、アリシアちゃんたらホームシックだったのね、大丈夫よ!直ぐにお家に着くから」

 

「断じて違う!!!」

 

そんなことをしていると母は空に向けて何かスイッチのようなものを押した、同時に私たちの前に一台のスポーツカータイプの車が現れた、見た目的にはランボルギーニに似ている

 

「あれ、また車変えたの?前のフェラーリは?」

 

「アリシアちゃん、女たるもの切り替えは大切なのよ…」

 

「また壊したな…で?これはいくらだったの?」

 

「んー、一億八千万円位かな?」

 

…だろうな、最大級の拡大呪文に特注製の防魔加工、透明機能に浮遊呪文、追加料金がえげつない金額になっている

 

まぁ、母にしてみればニ~三ヶ月の給料分だと思うからそんなに苦には感じないらしい

 

母は車に乗り込むと、どこからともなくサングラスを取りだし掛けた

車をうんてんするときはいつもサングラスを掛けている、曰くサングラスを掛けた方が気分が乗るらしい

 

母に催促され車に乗り込む、車高が低く視界に違和感を感じるが…まぁ慣れるだろう、母が鍵を捻りエンジンを吹かす、ブオォンと言う激しいエンジン音と共に、車は走り出した

 

暫く走り町を出ると、マグルから見えないように透明機能をONにした、車が透明になったことを確認すると車は宙を浮き先程よりもスピードを上げた、しかし体には思いの外Gは掛からず、実に快適な空中散歩だ

 

「フンフンフーン…、ねぇアリシアちゃん、あなたの学校での成績表が送られてきたわよ!!!」

 

母は嬉しそうに話した

 

「学年一位だなんて凄いじゃない!もぉお母さん誇らしいわ!お父さんに至っては、防腐の呪文が掛かった特注の額縁に入れて泣いて喜んでいたわ」

 

「そ、そうか、喜んでくれたなら嬉しいな」

 

「それと、ダンブルドア校長からお手紙を頂いたわ、娘さんはとても優秀で素晴らしい生徒ですって書いてたのよ、私達とても嬉しくて…」

 

「あぁ~母よ、もうじき家ではないか?」

 

そろそろ返すのに疲れてきた頃にようやく家が見えてきた、ベン・ネビス山の頂上付近に築かれた城のような建物、ここがボスフェルト家の居城≪テオボルト城≫だ

 

先祖が魔法戦争時代に建てたと言われる城で、切り立った崖に建造されており、(正しい)ルートからでなくては見ることも侵入することも不可能、戦争中一度も落城しなかった難攻不落の城だ

 

ボスフェルト家の者には城は自らの姿を現す、専用の車庫に車を駐車して降りる

たった半年程だったがとても懐かしく感じる、私は自室で着替えるため母と別れた

 

「はぁー…」

 

フカフカを通り越し最早フワッフワに整えられた布団に倒れ込んだ

布団の上に猫のように丸くなる、暫くゴロゴロとして久しぶりの感触を確かめる

 

堪能した後は衣装タンスに向かい部屋着の純白のワンピースに着替えた、さぁご飯だ

 

≪コンッコンッ!≫

 

突如部屋の扉をノックされる

 

「お嬢様…アレクシアです」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

ガチャッと言う音と同時に部屋に入ってきたのは、紺色のメイド服を着た赤髪の美少女だった

その肌は髪の赤色と裏腹に透き通り決め細やかな肌が見るものを魅了する美しさ、その顔は大人びていながらだるそうに暗い瞳をしていた

 

「おいおいアレクシア、また暗い顔して」

 

「すいません、生まれつきこんな顔です…」

 

この子はアレクシア、私が7歳の頃にこのベン・ネビス山の森に迷い混んできた少女、たまたまここテオボルト城に辿り着いた奇跡の少女だ

 

父はこの城の場所がバレるのを防ぐため、忘却術を掛けて人里に下ろすと言ったが私がこの少女の心を覗いた所、見るもおぞましい過去を歩んできたのを知った

 

両親は人さらいに殺され、幼かったこの子は奴隷として売り飛ばされる直前だった、しかし人さらいの一人に興味本意で狼少女にされたのだ

 

撃たれても死なない、斬られても死なない、そんな拷問の日々を送っていた丁度満月の日

何時もは、頑丈に固定されている筈の鎖を係りの男が忘れたのだ

少女は夜に変身して暴れまわった、20人いた人さらいの内16人を殺しこの森に迷い混んだのだ

 

これらの事から、少女をマグルの世界に帰すことは出来ないと知った

そこで考え付いたのが私の専属護衛メイドだ、狼女としての戦闘力、そして他のメイド、執事による徹底した作法指導により完璧なメイドに仕上げられたのだった

 

勿論、少女に私のメイドになる意志を確認した

 

「私…化け物ですよ?」

 

「いいや、お前は化け物なんかじゃ無い、本当の化け物は自分の暇を潰すためお前をその姿にした者達だ」

 

「私…あなた様を噛み殺すかも…理性が無くなるんです」

 

「フフっ、お前ごときに殺されるアリシア・ボスフェルトではない」

 

「良いんですか?」

 

「あぁ、この世界に絶望したお前に私が光を与えよう、私と来るか?」

 

その時少女の前に差し出された手は、固く閉ざされていた心を容易くこじ開けた

 

「はい、如何なる事があろうと、私があなた様をお守り致します」

 

少女はアリシアの手の甲に口づけをすると、まだ馴れない笑顔を見せた、しかしその顔は数分前の顔に比べると多少明るく見えた

 

それからの少女は凄かった、魔法と剣術、肉弾戦ではボクシングやテコンドー、システマ、果ては日本のAIKIDO等を習った

周りから少し休めと言われても口癖は≪あと少し≫、そしてとうとうボスフェルト家の魔導書を全て読破してしまった

 

そして私はアレクシアにある薬を投与するのと同時に一つ命令を下した…

 

 

 

 

 

「さてアレクシア、私がホグワーツに命令していた事はどこまで進んでいる?」

 

まぁたった半年で出来る問題ではない、35%程なら上々だろう

 

「はい、仰せ遣いました通りにベン・ネビス山並びにイギリス全土の森の内約85%の制圧、従属化に成功しています」

 

…何だと、たった半年でイギリス全土の森ほぼ全ての奴等を従属化したのか

 

私がホグワーツに立つ前にアレクシアに命令していたことは一つ、≪イギリス全土の狼男、狼女の従属化を進めろ≫

狼男は満月になると理性を忘れ、近くに居る魔法使いだけでなく、マグル、魔法生物等を殺す

その被害で常に父は頭を悩ませていた

 

ならば私が解決してあげよう、アレクシアに投与した薬は二つ≪抗銀薬≫と≪真理の涙≫だ

 

一つ目の≪抗銀薬≫は、元々私が作り出した金属アレルギー等を無くすために作った薬品だったが、思いの外副作用が強く普通の人間には耐えられなかった

 

そのため薄めて使わなければいけない劇薬、利点としては一度使えば効果は一生涯続くと言う事が上げられる

これによりアレクシアは銀の弾丸を撃ち込まれようがびくともしない体になった

 

二つ目の≪真理の涙≫、これも私が前世で作り出した薬品だがこれに関しては本当に奇跡的に出来た物だ、調合だけで約一年、精製にまた一年それでようやく小瓶一本分、調合の材料も危険な物が多く賢者の石の次に難しかった薬品と言える

 

これを飲むことでどんなに心が乱される事や幻覚呪文、服従の呪文、等精神に掛かる障害を全て取り除く

その影響でアレクシアは満月でなくても好きに変身出来るし、暴走し我を忘れることはなくなった

 

これが出来るまで、アレクシアは満月の日は地下牢に閉じ込められていた(まぁ私は隠れて会っていたが)これを作って飲ませた事でその心配も無くなった

 

「流石だなアレクシア」

 

「いえ、奴等は仲間の声には反応するので多いときは4匹とか仕留められて楽でした」

 

狼男は仲間の声に反応し、その声の主を倒すことで群れを大きくして森の奥深くでコロニーを形成している

アレクシアはその村に潜入してリーダーを倒し更に支配域を増やしていた

 

奴等は本能には逆らえない、例え暴走し我を忘れたとしてもその群れのリーダーが人間に危害を加えるなと命じれば危害を加える事はない、逆に守れと命じればその命を捨てる覚悟で守るだろう

 

「で?今の総数は?」

 

「はい、男340匹女170匹占めて510匹となります」

 

おぉ、中々の総数だな

今はその内100匹程この城と森を巡回しているらしい

 

「アリシアちゃーーん、ご飯よー!」

 

「あぁ、アレクシア行くぞ」

 

アリシアの差し出す手はあの日と変わらず、アレクシアの前に差し出される

その眩しいまでの笑顔はアレクシアの心を常に真っ直ぐ導く

 

「はい…どこまでもお供しますアリシア様」

 

 

「いや、行くのは食堂だが…」

 

「良いんです!いきましょ」

 

二人は母の待つ食堂へと向かった。




外国円だと分かりにくいため、金額を日本円に変えさせていただいています
ご了承下さい。


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扇動と始動

暗く、太陽の光さえも届かない、冷たい冬の風はただでさえ寒い洞窟をより一層寒くする

しかし、洞窟内の熱気は最高潮に達していた

 

「ウオォォォォ!!!」

 

「ルシアーナ様ー!!!」

 

「おい!今はアリシア様とおっしゃるらしいぞ!」

 

≪アリシア様ーーー!!!≫

 

 

 

 

ここはフランディール・ルシアーナが生前、全魔法界に対し宣戦布告した反撃の城≪フランディール城≫、洞窟の中に作られたこの城は、一度も見付かること無く世界を平定した名城

あの時代、この城は魔王が住む不可視にして不落の城≪魔王城≫と呼ばれていた

 

 

 

 

 

 

アリシアはコツンコツンと石で出来た階段を上がっている、後ろからは巨鬼族・族長・デューク、ケンタウロス族・族長・デンホルム七世、人狼族・族長・アレクシアが二歩ほど遅れてやってくる

その服は黒に統一され、背中に背負うローブには紛れもなくフランディール・ルシアーナの紋章が描かれていた

 

デュークはその長い黒ひげを弄びながらニコニコと嬉しそうにアリシアの後を歩いている、デンホルムもその威厳溢れる四肢で誇らしそうに後に続く

アレクシアも当たり前と言わんばかりに、何時もは見せないような笑顔で赤髪を揺らしている

 

当人のアリシアは、少しめんどくさそうにダラダラと、しかししっかりとした足取りで長い階段を登りきった

目の前には赤と黒で彩られた絢爛豪華な造りの扉がある

 

「ガァハハ!行きましょうぞルシアーナ様!!!」

 

「だからデューク様、ルシアーナ様じゃなくてアリシア様です、次間違えたら首から上を咬みきりますよ?」

 

「これだから力馬鹿の巨鬼族は、高貴に気高く、アリシア様の軍の将軍としての責任を感じて行動したまえ」

 

「これはすまんかったアレクシア殿、アリシア様も申し訳御座いませぬ

じゃがデンホルム!お主に馬鹿呼ばわりされる覚えは無いわ!」

 

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い、何度でも言ってやろうぞ馬鹿力の巨鬼族が」

 

「なんじゃとデンホルム!!!」

 

「殺る気かデューク!」

 

デュークは背に背負っていた異常なほどに大きい深紅の大太刀に手を掛けた、同じくデンホルムも馬の腹に備えていた青蒼の大強弓を握り締める

 

地が震える程の両者の気迫に並みのものならば気絶するほどだろう

 

「止めんか!」

 

アリシアが言うと同時に雷光が二人目掛けて飛来する

デンホルムは素早く矢をつがえ撃ち抜く、デュークもその大太刀を異常すぎるスピードで引き抜き切り裂いた

 

「あぁ~、やはりお二人には無駄ですね分かりました」

 

魔法の発生源はアレクシアだった

 

「まったく馬鹿者め、今から新しい門出だと言うのに争う者共が居るか、アレクシアも今の出力は危ないぞ!この二人ですら並みの怪我ではすまなかったぞ」

 

「「「済みませんでした」」」

 

「まぁ良い、では行こうか」

 

軽く笑みを浮かべながらアリシアは両手で扉を開けた、同時に洞窟内を歓声と喜声が包み込む

バルコニーに出たアリシア達は前に出て洞窟内を見渡した、下には埋め尽くすほどの種族が集まっており熱気はスゴいものだ

 

「わぁー、凄いですねアリシア様」

 

「うむ、昔のアリシア様こんなものではなかったぞ」

 

「くそ、私が後千年早く生まれておれば」

 

唯一アリシアの前世の頃を知っているデュークがどや顔でデンホルムとアレクシアに昔話をしている

私は拡声の呪文を使い声を張った

 

「静まれ!」

 

怒声が洞窟内の騒音を蹴散らす、静まり返った空間にアリシアは語りだした

 

「皆のもの!よくぞ集まってくれた、私が元フランディール・ルシアーナ、お前達の王であったものだ!」

 

また歓声が巻き起こる

 

「しかし、今は私が生きていたあの戦乱の世ではない、私が皆に生前言った通り、お前達は最早私の家臣ではない!好きに生き好きに死んでいく、そんな人生を歩んで欲しい」

 

ざわめく洞窟内、俺達は見捨てられたのか?そんな声が所々から聞こえてくる

 

「しかし、私は一つ残念なことがある!それはこの世界の身分格差だ、ケンタウロスと巨人族は魔法使いからは半獣等と呼ばれ忌み嫌われ、巨鬼族は森を守っているのにかかわらず森の支配者等と呼ばれる

人狼族も自分達の意思とは裏腹に人を襲ってしまう、そんな自分が一番嫌いだと分かっている、それなのに助けて貰えないこの世界が私は間違っていると思う」

 

アリシアの発言に先程まで騒いでいた種族も静かに聞き入って居る

 

「そこで私は新しく一つの組織を作ることにした、それが」

 

アリシアがエンペラーを洞窟の天井にかざす、天井は巨大なスクリーンのように一つの組織名とフランディール家の紋章を写し出した

 

「…特別魔獣管理省」

 

「その通り、 特別魔獣管理省、略して特魔省だ」

 

聞きなれない言葉、そして組織名に何かざわつき始めるのを尻目にアリシアはなおも話を続けた

 

「この組織ではここにいる種族は勿論、他の魔法生物を守り育み、人との共存を目指す、私はお前達を蔑んだり侮ったりはしない

もしも、この世界に不満を持ち確変を求めるならば今一度私の元に集え…お前達に未来を見せてやる」

 

静まり返る洞窟、バルコニーで手を天井に向けてかざすアリシア、その姿は光も松明しかない暗い洞窟の中を照らす太陽の様だった

 

「…アリシア様」

 

「アリシア様!!!」

 

「ウオォォォォ!!!我らが王が帰られた!アリシア・ボスフェルト様!」

 

巨鬼族は民族武器である大太刀を地面に叩きつけ音を鳴らす、巨人族は棍棒で地を叩く、ケンタウロスもその四足を弾ませ、人狼族はアリシア目掛けて遠吠えをする

 

「ここに私、アリシア・ボスフェルトを代表とする特別魔獣管理省を設立する!」

 

その後代表補佐として三種族、巨鬼族のデューク、ケンタウロス族のデンホルム、人狼族のアレクシアが就任、認証を受け幕を閉じた

 

最初の指令としてケンタウロス族に≪抗銀薬≫≪真理の涙≫の素材となる物の確保を、巨鬼族に各薬品の製錬に取り組んでもらい、人狼族、巨人族には勢力の拡大と賛同種族の確保を頼んだ

 

薬品の素材と錬成方法さえ教えれば何でも作る事が出来る巨鬼族は本当に助けになる、約1200名の巨鬼族が一斉に薬品の製作に取りかかった

 

人狼族はその持ち前の速さと体力に身を任せ、世界各国に散る同士にフランディールが舞い戻った事と、特魔省への賛同を求めに駆けてくれた

 

巨人族とアレクシアは引き続きイギリスに散る人狼の確保に向かった、我々の本部はここフランディール城として同士達の編成はデンホルムがやってくれるとの事だった

 

私も何かやろうと思い手を出した所デンホルムが、直ぐに休暇が終わるので家族との時間を大切にしてください

と言ってくれたので何かあれば直ぐに使いを寄越す事と言って、私は言葉に甘え家に戻った

 

「ご苦労だった」

 

家に姿消しを使い帰ると、目の前にはアリシアにそっくりの少女が立っていた

少女はアリシアにお辞儀をするとフワフワと霧のように消えた

創造魔法、昔ロウェナ・レイブンクローに教えた魔法の最上位魔法だ

まぁあの学校を見る限り、ロウェナもここの極地辿り着いた様だ

 

何より、これで母の事を少し騙していた訳だが…

私は階段を下りてリビングでロッキングチェアに腰掛けTVを見ていた

 

「母よ、今日のご飯は何だと言ったかな?」

 

「へぇ?お昼ご飯食べたばっかりじゃない」

 

…しまった

 

「そ、そうだったなぁ…母の料理はとても美味しいから何度も食べたいから」

 

その時母の座っていたロッキングチェアが止まった

 

「今…何て?」

 

「だから、母の料理は美味しいから」

 

スッとイスから立ち上がると母は何も言わずにキッチンへ向かった

 

「んんんッッッ!もおぉぉ~~、ちょっと待っててねアリシアちゃん、今すぐ作るからぁ!!!」

 

コンロに火を入れ、フライパンに向かい様々な食材を放り込み豪快なフライパン捌きを見せている

 

私はまた一つ、フランディール城から持ってきた魔導書を読み返した

 

「あぁ、だったらここをこうすれば…うん、10%は短縮出来るな」

 

暫くして母は息を切らしながら料理をテーブルに並べてくれた…迷惑を掛けたな母よ

その料理はとても美味しく、一切手抜きをしていないことが分かる

 

後一週間でクリスマス休暇も終わる…さぁ、学校の始まりだ!!!



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眠れるドラゴンをくすぐるべからずパート2

日の光が届かない暗い暗い森の中、一つの物体が目を覚ました

 

「~~!~~様!」

 

それは近くにあった巨木を握り抱き寄せた、絶対に離さない様に、二度と逃がさない様に大事に大事に抱き寄せた

 

「…夢…懐かしい、永遠に戻らない…主との思い出…」

 

それは鋭い瞳から一粒の涙を流し、また夢の中で会える大切な人との思い出に寄り添った

 

 

 

 

 

 

 

 

父はとても大きかった、その翼は風を掴み、その鋭い爪は城壁をも切り裂いた

父の役目は宝物庫の番人だ、この部屋に入る者を一人残らず焼き、殺し噛み殺す

 

母は純白の翼を持っていた、父とは違いフワフワの翼は、子供の私を容易く包み込み夢の中へ招き寄せた

私の翼も母の様にフワフワの毛並みだったが、色は父に似て漆黒に染まっていた

 

その爪も鋭く、触れば何者をも切り裂く刃となっていた、私は幸せだった

何も困ることも無く、父と母は無限に湧く愛を私だけに注いでいてくれた

 

しかしそんな時間は容易く崩れ落ちた

バンッ!と言う音と同時に開く宝物庫の扉、父は悠然と立ち上がり侵入者を睨む

そいつらは容赦無く父に向かってきた、何時もと変わらず獄炎の焔を浴びせかけ、灰塵へと化す

ただ何時もと違ったのは一つだけ、数だ

 

父の火炎袋は度重なる戦闘で最早火を出すことさえ困難になっていた、私たちの住んでいた城は何千何万と言う武装した兵士に囲まれ次々に宝物庫へ侵入してくる

 

もう何十分経っただろうか、偉大だった父の堅牢な体には幾千もの槍や剣が突き刺さり、絶えず弾幕のような破壊魔法に晒され見る影も無かった

そしてとうとう父は黄金の上に倒れ込んだ、何人もの人間が父の上に乗り容赦無く武器を降り下ろす、その度に父の体からは血が飛び散り、微かに巨体を震わせる

 

母は飛び出し、父を助ける事より私を守るため近付いて来る兵士を相手取っていた

次第に母の美しかった翼も血にまみれ、爪も殆んど折れてしまった

 

 

遂に母も倒れた、一斉に人間が母の体によじ登り蒼い瞳や、焔を吐くための喉を切り裂いた

羽をバタつかせ抵抗すれば、羽を根元から引き裂いた

 

今まさに、巨大な斧で首を斬られそうになっている母はこちらを向くと一声叫んだ

人間には只の死にかけの断末魔、咆哮に聞こえたかも知れないが、私には確かに聞こえた

 

≪逃げなさい!!!生き抜きなさい!!!≫

 

私はまだ未熟な羽をはためかせ壁に開いた穴から外へ飛び出した、見たこともない空は蒼く、先程までの地獄からは考えられないほど美しかった

 

ふと後ろを振り返ってしまった、そこには首を切り落とされた母の骸と,体を切り刻まれ解体されている父の姿があった、私は思わず気が狂いそうになった

しかし、母と父の顔は何故かは分からないが安堵の表情を浮かべていた

 

私は父と母に誓いこの地獄のような世界を生き抜く、そう決意した

それからと言うもの私は世界中を飛び回った、今で言うところの中国、日本、アメリカ、ロシア、イギリス、エジプト、オーストラリア、その頃はどこも戦争や魔獣が暴れており、平穏な日などは無かった

常に周りに気を張って生活し、自分よりも大きな魔獣を狩らなければ為らない時もあった

 

その度に私は戦い、勝利し喰らって来た

こんな生活を何百年も続けている内に感覚が狂って来たのだろう、私はより強い者を求め世界を渡り歩いた

 

和の国と呼ばれていた日本にそれぞれ東西南北の守護を司る聖獣が居ると聞けば訪れ、戦い喰らった

オーストラリアに魔獣が出ればそこへ赴き喰らった

 

あぁ満ちない、喉が渇いた…より強い者を…より大きい者を

私が行き着いたのは、あの父と母のいた城の宝物庫だった、城は最早錆びれ瓦礫の様になっていた、宝物庫の壁に大穴を開けそこから侵入した

先ず目に入ったのは巨大なナニかの頭蓋骨だった、傍らにはその体で在ろう骨が丸く横たわっていた

 

視線を更に宝物庫の入り口付近にずらすと、この骨よりも大きな物体が有った

どちらの骨にも牙や爪、角などは無く、無理に取られた形跡だけが残されていた

 

「父よ、母よ、私は……」

 

父と母の骸の脇で私は何年も何十年も待った、何故かは分からない何故ここで私は待っているのか、何を待っているのか

しかし、私は知りたかったのだ、母が…父が死に際何故笑ったのかを

 

≪バン!≫

 

「ここがあの滅びた王国の最重要宝物庫か…ん?」

 

私は直感した…やっと、答えが来た

 

「何者だ…」

 

「ほぉ、人語を話す程のドラゴンは最近は見なかったが…我が名はフランディール・ルシアーナ、この世を支配する王だ」

 

「フランディール・ルシアーナ…この世を支配だと?笑わせるわ」

 

何だ、この女の雰囲気…こいつ本当に人間か?

 

「フフッ…確かにな、我ながら馬鹿なことを言っていると思っている

だがな、生憎私には不可能と言う言葉を知らんのだ」

 

笑顔でそんな夢物語を語る女、その目には一切の迷いや疑問など無かった

まるで、当たり前…決定された事を話すようだった

 

「…何を根拠にそんな事を言える」

 

「根拠何て無いさ…ただ私にはそれが出来る力がある」

 

「我よりも力無き女が、戯言ばかり抜かすな!」

 

「ん?誰が誰より力が無いって?」

 

少し空気がピリついた

しかし私は何が在ろうと負ける筈はない、世界各地に居る魔獣、聖獣を喰らい尽くし、その力を体に宿した私が

 

その考えは甘かった、魔力を解放した彼女は気高く、恐ろしく、何よりも美しかった

私は持ちうる全ての力を以て挑んだ、炎は防がれ、牙は折られ爪も意味を為さなかった

 

終始笑顔な彼女に吊られ、満身創痍の私にも思わず笑みが出てしまう

勝負は空が暗くなり月が天に昇りきった時終わりを迎えた。

 

「ハァ、ハァ、全く…何て頑丈な奴なんだ」

 

「私の牙は折られ、爪は無意味、ここまでだ…」

 

血にまみれた巨体を床に投げ捨て、首をルシアーナに伸ばす

さぁ、一思いに止めを差してくれ

目を瞑り、これから起こるであろう死に向き合うドラゴン、ルシアーナは杖をドラゴンの首へ付けると呪文を唱えた

 

「守癒魔法≪極癒光≫」

 

杖から出た淡い光はドラゴンの体を包み込み、全身に負った傷を治していった

数分経つと、全身に及んでいた傷は跡形もなく消えていた、同時に何かが頭の中に流れ込んでくる

 

 

「逃げなさい!!!生き抜きなさい!!!」

 

これは母との最後の思い出、母は飛び立つ私を見て聞こえない程小さな声でこう言った

≪あなただけでも、飛んで良かった≫

また情景が代わる、今度は私が生まれた当時の様だ

 

「ねぇあなた、この子はあの大きな空も、美しい海も、恵み溢れる森も知らずに、この宝物庫で生きていくのよね」

 

「あぁ、この子の世界はこの宝物庫の中だけなんだ…飛ばせてあげたいなぁ」

 

「えぇ、この大空をめい一杯飛んで行って欲しいわ」

 

「もしも、この子が外に飛び立つ機会があれば、送り出そう、この子なら大丈夫ドラゴンの誇りを胸に生き抜くだろう」

 

そこまで言うと私は現実に引き戻された

そこには、先程まで戦っていた女が立っていた

 

「さっきのは何だ?」

 

「霊気魔法だ、この部屋に残る魔力の残気からここで何があったのか、何を伝えたかったのかを教えてくれる魔法、お前も何か見たな?」

 

「私は…」

 

「どうだ?私と来ないか?私がお前の道しるべとなろう、お前が間違った方向へ進めば必ず私が道を正してやる、代わりにお前の力を貸せ、この世を平定するためにはお前のように強い者が必要だ」

 

こいつは何を言っているんだ…先程までの殺しあっていた私に付いてこいだと?

 

「だが、良いのか?」

 

「何がだ?」

 

「私はドラゴンだ」

 

「だからどうした?」

 

女は私の頭を鷲掴むと顔を近付けた

 

「私はお前が欲しいんだ!来るか?来ないか?ハッキリしろ!」

 

こいつには恐らく偏見なんて物は無いんだろう、こいつと回る世界もまた面白そうだな

 

「ならば私はお前の翼と為ろう、どこへでも連れてってやる、地獄の底まで行ってやろうぞ!」

 

父よ母よ、私はこいつの足となり翼と成ります、共に世界を変えるため…私は飛び立とうと思います

 

「よし!ではお前の名はギルバート、王の横に立つものだ!」

 

それから何かよく分からない石を飲まされ、ルシアーナ様と私は世界中を飛び回った、盗賊団のアジトを壊滅させ、フランディール城等と名前を付け、そこを反逆の城として同士を集めた

巨鬼族、ケンタウロス族、吸血鬼族、人狼族、巨人族、ドラゴン族…

 

 

 

 

「報告します!敵方総数約30万、自軍約2万、圧倒的に敵方の有利です!」

 

「報告ご苦労!デューク!デンホルム!サレバス!さぁどうする?」

 

デュークが一歩前へ出た

「な~にを仰いますか、我ら三名でその大差埋めて見せましょう」

 

「吾が輩のみで十分だがな」

 

デンホルムの一声にまたデュークが突っ掛かっている、次いで巨人族のサレバスが口を開いた

 

「うぁー、今日も相手の方が多い~、ルシアーナ様~もう行ってええか?」

 

おっとりとした口調からは考えられないほど好戦的な男だ全く

私は手を空にかざした

 

「先ずは開戦の合図と行こう!ギルバート!!!」

 

手を敵陣に向けた瞬間、自軍後方から一つの巨大な影が敵陣に向け飛び立った、次いでドラゴン部隊が後を追う

 

「我が名はギルバート!フランディール・ルシアーナ様に使える者!さぁひれ伏すが良い!」

 

ギルバートはその巨大な口を広げ紅蓮の炎を吐き出した、赤い炎は敵兵の魔法城壁を容易く打ち崩し、容赦無く焼き払う、次いでドラドラゴン部隊も火炎を吐き始めた

 

「おぉおぉ、ギルバート殿が暴れて居られる…味方ならこれ程頼もしい方は居られぬが敵ならば…全く恐ろしいものよ」

 

デュークは身震いさせている

私はスラリと刀を抜くと敵陣を差した

 

「ギルバートに遅れを取るな!全軍突撃!!!」

 

 

 

 

 

全ての戦争が終わり、ルシアーナ様は世界を平定させた

その後は弟子たちを連れて世界を回った、寝ているときにくすぐられたのは本当に腹が立った

思わず全力で咆哮して弟子たちを全員泣かせてしまった、あの時はルシアーナ様に槍の雨を降らされたな…

 

デュークの村に寄ったとき私はルシアーナ様に、ここに弟子たちは置いていくと聞かされたが反対はしなかった、これ以上ルシアーナ様と居ると強くなりすぎる、世界は平和になった、過ぎた力は争いの元に成る

 

私はルシアーナ様を背にのせ今度は二人っきりで旅をした、まるで同士集めに明け暮れた昔に戻った様で楽しかった

しかしまた別れの時が近付いていた、ルシアーナ様は年中霧が掛かる土地に家を立て、念入りに阻害呪文や防衛呪文、不可視の呪文を掛けた、ルシアーナ様が全力で掛けた魔法だ、突破できる者は居なかった

 

寝たきりになったルシアーナ様の横で私は何度も進言した、賢者の石を飲んで下さいと、しかしそれは全て拒否された

ならば私も共に死ぬと、首を切り裂いた事もあったが直ぐに治ってしまった

 

何でこんなにも強くなりすぎてしまったのだろう、体に取り込まれた賢者の石は細胞全てに行き届き、最早不老不死の体と成ってしまった

 

何も恨むことは無い、恨む筈はない、共にこの方と歩めたのだから、ただ…

 

「私も連れていって下さい…ルシアーナ様」

 

「駄目だ、ここからの旅は私だけの物…お前には苦労を掛けたなこんな老いぼれからは離れ、この大空を飛びなさい、後、申し訳無いんだけど」

 

「何ですか!私に出来ることなら何でも仰って下さい」

 

「この世界の均衡を保つため、これからも世界を見守ってくれないかしら…貴方にしか頼めない」

 

ギルバートはその金の瞳に大粒の涙を浮かべ頷いた

 

「さぁ、そろそろ私は新しい旅に出掛けるとしようか…世話に為ったなギルバート、最後にお前の飛翔を見せてくれないか?国崩しと恐れられた我が愛竜の飛翔を…」

 

ギルバートは涙を堪え、その四枚の翼をはためかせた、普通のドラゴンよりも二枚多いその黒翼はドラゴン特有の鱗ではなく、フワフワの羽で出来ていた、それが炎や魔法を受け流すギルバートしか持たない世界一の翼だ

 

「幾千もの国を崩した魔竜ギルバートの飛翔、ご覧ください!」

 

ギルバートが空に向け、黒い彗星の様に舞い上がった、ルシアーナはそれを見るとゆっくりと息を引き取った、ギルバートはルシアーナが天に昇るのを阻止するが如くその獄炎を空へと撒き散らし咆哮した

二度とは戻らない唯一無二の主への餞として

 

 

 

 

~現代~

「さぁ、我が主との命のため、今日も行こう」

 

≪バチン!≫

 

この音は…姿くらまし?いや、もっと古い懐かしい音だ

姿消し

 

「どこへ行こうと言うんだ?ギルバート」

 

全身の毛が逆立つ…こいつはヤバイ 、森が暗く相手の顔は見えない、しかしこれだけは分かるこの者は私が戦った生物でもトップクラスに入る分類だ

だが、私は敗けるわけには行かない、こいつが世界の均衡を破ると言うなら…全力をもって叩き潰す

 

羽を広げ四肢で確りと地をつかむ、前傾姿勢になり如何なる状況にも堪えられる様に集中力を高める

ゆっくりと近付いてくるその影

 

そして突如放たれる金色の白色の閃光、ギルバートはその場で動かず右手で打ち払う

バチン!と言う破裂音と共に右手には強烈な衝撃が襲う、ギルバートは身を翻し、鋭利な尻尾で辺りの木々共々敵を凪ぎ払う、敵は跳躍し空へと逃れる、それを見逃さず獄炎を浴びせる

 

「クッ!極防魔法≪国守の盾≫」

 

白色の魔方陣が敵の身を包み込み私の業火に耐えている、何て奴だ

しかし私も元は国崩しと異名をとった者、並みの防衛術などは容易く打ち砕いてやろう

 

更に強くなる業火、ゆっくりとしかし確実に削り取られる敵の盾

 

「…第一戦術魔法≪覇国の太陽≫」

 

突如敵の頭上に現れた巨大な太陽、その熱量は今私の使っている炎に匹敵した

私は敵への火炎を中断、空の太陽への掃射を始めた

 

「グウゥゥ…覇国の太陽、これは最早失われた太古の魔法、扱えるものは彼の偉大なる王≪フランディール・ルシアーナ≫様のみ何故お主が使える!!!」

 

敵はふと笑顔を見せると更に勢いを増した

 

「グオォォォ!!!我はフランディール・ルシアーナ様が使い竜…ギルバート!こんな物で…崩れるものか!!!」

 

ギルバートの炎の勢いが増し、一気に太陽を破壊した

 

「フフッ…流石はギルバート、我が全力の魔法にも耐えるとは」

 

敵はゆっくりとこちらに歩いてくる、その話口調や動作…見覚えがある

何よりこの魔力

 

「お前は…何者だ…?」

 

頭まで被っていたフードを取る、そこにはあの方と同じ銀髪の少女がいた

少女はギルバートに駆け寄るとそのフワフワの毛のなかに体を埋めた

 

「私を忘れたのかギルバート、そうだな…約束は守っていてくれたか?」

 

「約束?」

 

「世界の均衡を保つ、私が死ぬ前にお願いしただろう?」

 

同時に金瞳にに涙が溢れる、戻られた…我が主が

 

「ルシアーナ様ぁぁぁーーー!!!!」

 

猫の様に丸まりその頭を擦り付けて来るギルバート、長きに渡り私との約束を守り続けてくれた忠竜だ

 

「なぁギルバート、また私と来ないか?今回の戦いも大きいぞ?」

 

ギルバートの答えは決まっていた

 

「勿論です!何者が相手だろうと、この国崩し魔竜≪ギルバート≫が必ずや打ち破って見せましょう!」

 

私は改めてギルバートと主従契約を交じわせフランディール城へと向かった

久し振りのギルバートの背は、あの頃と変わらずフワフワで夢心地だった

ギルバートの顔もまた、夢では無いかと何度も確認し満面の笑みで大空を駆けていた。



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国崩しホグワーツへ

更新が遅れて申し訳有りません!
一先ずアイデアが湧いてきたので更新していきたいと思います!
これからも宜しくお願いします!


 カタンコトン、一定のリズムを刻みながら進む汽車はやはりどうにも眠気を誘う

 正面には新学期の教科を勉強するハーマイオニーの姿、やはり勤勉だな。

 

「ねぇアリシア、何度も聞いて悪いんだけどそれ…本当にネズミ?」

 

 ハーマイオニーが指差す先には、アリシアの為に飲み物や食べ物などを上手に尻尾で絡めとり渡すネズミと言うよりも大型犬に近い生命体

 その体毛は明らかに毛ではなく羽毛だ、それに翼が四枚ある…ネズミ要素どこに行ったの?

 

「あ…当たり前だ!よく見ろ四本足だろう、それに歯は尖っているし、尻尾もあるだろ!」

 

「いや…アリシア、それは無理が…」

 

 視線をアリシアの方へ向ける、いや…こっちを見つめられても

 黒い自称〈ネズミ〉が悲しそうな目で私を見る

 

「……。」

 

「いや…だから無理が…」

 

「……。」

 

「だから無理が…」

 

「無理が…」

 

「……。」

 

「ハーマイオニー、ギルバートはネズミだよな?」

 

「…ウン、ギルバートハネズミダヨ」

 

 そうか…どうやら私はネズミの事を勘違いしていたみたいだ、あれがネズミ。

 いや、あれこそがネズミだったんだ!

 

 ハーマイオニーを洗脳しつつ、私とギルバートはホグワーツへ辿り着いた。

 

「よっしゃよっしゃ、よく帰ってきた子ども達!さぁ馬車に乗れ」

 

 大きな体に大きな手を叩きながら私たちを先導するのは、半巨人のハグリット。その目には帰ってきた子ども達を慈しむ優しい光が灯っていた、しかしその優しい表情は一瞬で砕け散った。

 

 ハグリットは、私を見付けると凄まじい勢いで駆けてきた。

 思わず何か攻撃系統の呪文で攻撃しようか悩んでしまう、しかし私とハーマイオニー、そしてギルバートの前に来ると歩調をゆっくりとした。

 

「おぉ!アリシア、そいつが新種の魔法生物の≪飛びネズミ≫か?」

 

 ハグリットは手をワナワナと震わせながらこっちに近付いてくる、その目は子供のように輝いていた。

 

「えぇ、自宅のあるベン・ネビス山でたまたま見付けた〈火を吐き、空を飛ぶ〉ごく普通のネズミですよ、まぁ新種だったらしいのですが」

 

 私が愛想笑いをしていると、ハグリットは真剣な顔付きでゆっくりと静かにこちらに歩み寄って来る。

 どうやら無類の動物好きハグリットは、ギルバートへのタッチを狙っている様だ

 

 当人のギルバートは私の横で翼の毛繕いをしている、長いこと電車に揺られていたので少し乱れている

 

 ハスキー犬の様な鋭い目付きで一心不乱に整える、もっとゆっくりやった方が良いのでは?と思わなくもない。

 

 一歩、また一歩とゆっくり、静かに近付いてくる。ギルバートの事だから気が付いているのだろう、フワフワの耳は確りとハグリットの方を向いている

 

「アリシア、ワシが触っても良いか?その…」

 

「ギルバートです、えぇ大丈夫ですよ…でも敵意の無いことを伝えてからにしてください」

 

「よっしゃ、んじゃさわらせて貰うぞ!」

 

 ハグリットは、腰に指してあった傘を床に置き反対の鉈も地面に置いた。

 ゆっくり近付き、手を伸ばすその時!

 

 ギルバートは四枚の翼を広げ威嚇する、あまりの迫力に少し下がるハグリット。

 暫く両者微動だにしない、先に動いたのはギルバートだった、一枚の翼でハグリットの上着を指す…上着を脱げと?

 

「おぉ、そうだな!上着に何か隠してるかもしれんからな!ギルバートは賢いなぁ」

 

 ハグリットは喜んで服を脱いだ、続いて翼は靴を指した、これまたハグリットは確かにと脱ぎ始める。

 こう言ったことが何度か続き、とうとうハグリットが来ている服は下着とポロシャツのみとなった。

 

「こ、こ、こ、これでええか…へ、へ、ヘックション!!」

 

 冬真っ盛りのこの時期に外でこの薄着、そこまでして触りたいのか…分かる気がする。

 ギルバートも納得したのか自らハグリットの元に歩み寄った、そしてその大きな拳に頭を押し付けた。

 

「おぉ…おおおぉぉぉぉ!!!!!うおぉぉぉん…」

 

 余りの感動に涙を流す、同時にギルバートに触ると言う難問をやりきったと言う達成感もあったのだろう、拳を強く握り頭上にかざしていた。

 何だか大会で優勝した選手みたいだな…

 

 私とハーマイオニー、ギルバートは最後の馬車に乗り込んだ、後方ではまだ薄着で片手を天にかざす大男がいた…服を着なさい。

 

 馬車に揺られる事20分、荘厳なるホグワーツ城が見えてきた。

 所で何でハグリットがギルバートの事を知っていたのか、それはギルバートと再会してすぐの事だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルバートの背に乗り取り敢えず自宅へ向かっていた、と言うのも。

 ギルバートが暮らしていた森はイギリスの外れ、まさにイギリス最後の秘境と言うべき場所にあり自宅間での距離が少し遠かったのだ。

 

 久し振りにギルバートの乗り心地を楽しめたのは行幸ではあったが…

 家の近くの森に降りると私はギルバートに変質呪文を掛けた、体長10メートルを越える巨大なドラゴンがいきなり家に来たら母も父も驚いてしまうからな。

 

 しかし問題があった、変質呪文を掛けギルバートを小さくして行ったが約1メートル程になったとたんにそれ以上小さくならなくなったのだ。

 私が全力で掛けたが無理だった、暫く何故か考え私は結論に至った

 

 それは魔力保有率の多さだった、通常ドラゴンはその体格にあった膨大な量の魔力を持っている。それを無理矢理体を小さくしたせいで、体内の魔力と私が掛けた魔法が反発し合い体の小型化を妨げたの。

 

 これ以上小さくすると、ギルバートに何らかの影響が出てくると思い私は小型化を断念した。

 ギルバートも、このままではアリシアとホグワーツに行けないと分かり耳を垂れ下げている。

 

 どうにかホグワーツに連れ込めないか…?

 ホグワーツに持ち込めるのはネズミとカエル、フクロウと猫だ。

 フクロウはどうだ?いや待て、フクロウだと棲みかはフクロウ小屋になってしまう、そんな寒いところに私のギルバートを置き去りに出来るか!

 なら猫か?うん、悪くない…悪くないが羽毛の猫?猫を馬鹿にするな!

 カエルは、、、あり得ないな

 ネズミか…まぁ

 

「ネズミ…ネズミだギルバート!!!」

 

「いえ、私はドラゴンですが?」

 

 アリシアはニコニコしながらある行動を取り始めた、先ずは家に帰る事にした

 ギルバートも後に続いてパタパタと後に続く、家に着くと父が帰っていた

 

「おぉ!我が愛しき愛娘よ!」

 

 手を広げながら私にハグをする、私も応じ父と広間へ向かう

 

「そうだ、母上から聞きました、闇払い局局長就任おめでとうございます父上」

 

 そう、父は私がホグワーツに行って直ぐにイギリス魔法界闇払い局の局長に就任したのだ。

 父は私から見ても確かに優秀な魔法使いだ、だが何よりも優れているのはその人望と言えるだろう。自分の力を知りながら尚も傲らず自身の魔法に磨きをかけてきた、そんな周りから慕われる父だからこそ今回の就任なのだろう。

 

「おぉ、ありがとうアリシア…だが何故か最近人狼関係の事件が無くなったんだ、不思議だな」

 

「そ、それは父上の真面目さが招いた奇跡でしょう、流石は父上だ!」

 

 父はそうか?と首をかしげたが、直ぐにそうだな!と豪快に笑っていた。

 それから私は父に森で面白い〈ネズミ〉を見付けた旨を伝え父に見せた、勿論それはギルバートである。

 

「ほぉ…これは立派なドラゴ…」

 

「ネズミです」

 

 父が禁句を言う前に口止めする

 

「いやアリシア、これはどう見てもドラ」

 

「ネズミです父上」

 

「…アリシア」

 

「ネズミですよね…父上?」

 

 私が微笑みながら父に訪ねる、父は少し困惑していた様だったが暫くすると折れた。

 

「おぉ!なんとも立派なネズミなんだ!これをネズミと言わずしてなんと言う!」

 

「ですよね!では新種の〈ネズミ〉として魔法省に登録お願い致します、出来ればホグワーツに間に合う様に!」

 

 父の顔がひきつる

 

「あ、アリシア、父にも予定が…」

 

「出来ますよね父上?あぁ父上が了承してくだされば、私もまた勉学に一層熱心に取り組みまた学年一位の成績を取るのも難しくないのになぁ。

 そうすれば私の尊敬する父と同じ職場に入ることも可能なのになぁ、あぁ残念だ…」

 

「…また学年一位を取れるのかい?」

 

 父は私の言葉に揺らぎ始めた

 

「えぇ、造作もないこと」

 

「私の事を尊敬しているのかい?」

 

「それはもう、父上程に尊敬できる人は居ますまい」

 

「私と働きたいのか?」

 

「当たり前です!父上と働けたらどんなに幸せか…」

 

 最早アリシアの声は父にしてみれば天使の声に聞こえただろう、愛しの愛娘が私の事を尊敬し私と共に働きたいと言っているのだ。新種のドラゴンをネズミと間違えるなんてよく有ることじゃないか!

 

「アリシア…父に任せなさい!!!」

 

 そう言うと、父は母のランボールギーニを借り魔法省へと爆走していった。

 新種の申請受理証が届いたの直ぐ次の日だった、そこには≪新種魔法生物・飛びネズミ≫と書かれていた、父は一体何をしたのかそれは誰にも分からない。

 

 

 

 こうして私は、無事何の問題もなく正規の方法でギルバートをホグワーツに連れ込めたのだった。

 しかしどうにもならない人が一人いる…あぁやっぱりな

 

 馬車から降りると、ニコニコした顔のダンブルドア校長が私を出迎えてくれた。その優しげな顔には「またやってくれたな!!!」と言う内心が隠れているのを見抜くのは、そう難しくはなかった。

 

「お帰りアリシア嬢、早速で悪いんじゃが校長室に来てくれるかの?」

 

 変わらず笑顔を崩さないダンブルドア校長、まぁ私が連れてきた魔法生物だ、警戒しない方がおかしいか…

 

「もしも、嫌だと言ったら?」

 

 途端に顔つきが強張る、同時にダンブルドア校長が手を懐に入れる。

 少し沈黙が流れる、が直ぐに私は笑顔で

 

「冗談ですよ、直ぐに向かいましょう」

 

 そう言うとダンブルドアはまた優しい表情に戻り、私の前を歩いく、しかし少し違和感を覚えた。

 

「所で何故マクゴナガル先生が?」

 

 私が少し棘の有る口調でダンブルドアに問う、マクゴナガル先生はこちらを向き返ると

 

「私が居て何か不都合でも?」

 

 私の視線を弾き返す様に、マクゴナガルはこちらを見返しできたて。そうこうしている内に校長室に辿り着いた、私達は階段を登り校長室に置かれた椅子に座った。

 

「それで、お話とは何でしょうか?」

 

 丁寧に笑顔を交じらせながらダンブルドア校長に訊ねる。ここにマクゴナガル先生が居ると言うことは、まさかダンブルドア校長が約束を破ったのか?

 

「アリシア嬢、マクゴナガル先生は全て知っておる。故に何時も通りに話してくれて構わんよ」

 

「…そうですか」

 

 フンッ、まさかダンブルドア校長があの約束を破るとはな…まぁ良い、私にとって何の問題もない。

 

「では何時も通りの口調で言わせて貰うぞダンブルドア校長」

 

 マクゴナガル先生はアリシア、口調の変化に驚いた様だったが直ぐに何時も通りの冷静沈着な顔つきに戻る。

 

「して、何故約束を破った?」

 

 ダンブルドアは少しも迷うことなく口を開いた

 

「勿論お主への防御策じゃよ、今の段階ではもしもワシがお主に何かされたとしたら防ぐ者が居なくなってしまうからの」

 

「ほぅ、隠さずに有りのままを話すか…何故だ?」

 

「ホグワーツを治めるものとして恥ずかしい限りじゃが、お主に隠し事をしても正直隠し通せる気がせんのじゃよ。それにもしも、後々バレワシ達の敵に回られたらこれ程恐ろしい者はない。なら正々堂々といってしまった方が良いと思っての」

 

 ダンブルドアは軽く笑みを乗せながら流暢に話した、まぁ大体予想通りだった。しかし約束を破ったのだからそれ相応のペナルティを課させて貰う。

 

「まぁ話したことを隠さずに言ったのは正解だったな、しかし約束を破った事には変わり無い」

 

「そうじゃの、何かしらのペナルティはあまんじて受けよう」

 

 私は笑顔でペナルティを課していった

 

 一つ、ギルバートの飼育の許可

 一つ、ギルバートへのご飯の用意

 一つ、部屋の改造許可

 

 以上の三つの条件を提示した、ダンブルドアは少し悩んではいたが生徒に見つからない様にご飯の用意をさせてくれるなら良いと許可を貰った。これにより私の部屋はまさに無法地帯と成ったのだ!

 

 私はダンブルドアとマクゴナガル先生を残し部屋を後にした、ギルバートの飼育許可を得たのだからこれ以上の詮索は無意味だからだ。

 

 

「アルバス…彼女が本当にフランディール・ルシアーナなのですね」

 

「その通りじゃミネルバ、しかし…殺されんでよかったのぉ~」

 

 椅子にもたれ掛かり魔王との会談の疲れを癒すように校長室の天井を扇いだ、全く…彼女との会談は命が幾らあっても足りなりないわい。

 

 そんなことも露知らず、アリシアの足取りは軽く部屋へと戻っていった。




今回はコメディー要素をちりばめて見ました、前回が少しシリアスだったので和んで頂けたら幸いでした。


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魔獣の末裔我が名は…

久しぶりの投稿です


「…で後はここを…出来た!」

 

 ホグワーツ、グリフィンドール女性寮の一室。今ここで過去ホグワーツで起こった事の無い程、大きな事件が巻き起こっていた。

 

「ね、ねぇアリシア…忘れているみたいだから一応言っておくけど、ここの部屋一応私も居るんですけど?」

 

 頭にねじった白い布を巻き付け、裾が広がり足首で縮まって居る服を身につけて魔方陣の製作に取り組むアリシア。彼女曰く、東洋の国日本のDAIKUと言う人達のユニフォームらしい。

 

「そんなことは分かっているぞハーマイオニー、だからわざわざ部屋に拡張呪文の掛かったテントを置いているんじゃないか?」

 

「そ、そうね」

 

 ハーマイオニーは考えるのを止めた…扉から出ていくハーマイオニーの背には悲壮感が漂っていた。

 

「しかしこれを作っておいて良かったな…」

 

 今私が取り出した物は、目的地とこの場所を繋ぐ夢の扉≪イリュージョンドア≫。いちいち何かの指示を出すとき≪姿消し≫を使って外に出るのは正直めんどくさい、ならいっその事こことフランディール城を繋げてしまえば?と思ったって製作しておいたのだ。

 

「確か姿をくらますキャビネット棚と言うものがあった筈だな、現代の者達が作れて私が作れない訳が無い」

 

 現段階で私、ギルバート、アレクシア、デューク、デンホルムの五人の魔力に反応するようにしておいた。

 一応設置して動作確認したが問題はなく動きフランディール城の外にある練武場の直ぐ側に出た、扉を開けた瞬間デンホルムの魔矢をデュークが大太刀で切り裂いていた。

 

 私を見つけるとデューク、デンホルム、審判をしていたアレクシアがこちらへ向かって駆けてくる、余りの怖さに爆撃魔法を三発ほど見舞い扉を閉めた

 

「主よ何かありましたか?」

 

「い、いや少し鬼退治をしたくなっただけだ、後うまも」

 

「そうですか…」

 

 ギルバートも何となく察して視線を扉の見えない向こう側に向けた、恐らく起こっているであろう爆撃に思いを馳せながら。

 

「さてと、一先ずテントの設置とイリュージョンドアの設置は完了だな、ギルバートの部屋はテントの中になるから確認しておきなさい」

 

「おぉ!私にも部屋を用意して頂けるとは!」

 

 ギルバートはフワフワの尻尾を振りながらテントの中へ入っていった、中は40メートル四方は在ろうかと言うほど大きく、ギルバートが変身を解いてもくつろぐ事が出来る広さだった。

 

「これは良いですな!主よ感謝します」

 

 床にはフカフカの絨毯を敷き詰め、脇には体を持たれかける丈夫な壁を設置しておいた。

 

「気に入ってくれたようで良かった、ではそろそろ向かうとするか?」

 

 私はギルバートを連れて大広間へ向かう、これからクリスマス休暇空けの全校集会があるのだ。私はローブに袖を通し部屋を後にする、暫く歩くと中庭でたそがれていたハーマイオニーを見付け一緒に向かった。

 

「全く…あなたはどこまで行くのか…」

 

 ブツブツと何か言っている気がするが、気にしない方向で。直ぐに大広間に着いた、どうやら私達が最後のようだな…

 私はあえて両手で重厚な大扉を開け放った

 

「おぉ、やっと来たか皆が待っておる早く席へ」

 

 ダンブルドア校長が正面の台の上から話し掛けてきた、ハーマイオニーは足早に席へと向かう。私とギルバートもその後に続くが、決して遅い速度ではないのに周りの生徒の目線はゆっくりとスローモーションの様に見えた。

 

「あれが学年一位のアリシア・ボスフェルトか…美しいな」

 

「流石はアリシアお姉様、輝いていらっしゃる…」

 

「あぁ…アリシア、また美しくなったな」

 

「見ろよあの使い魔、何て魔法生物だ?ドラゴンじゃないだろうな」

 

「何でも飛びネズミって言うらしいぞ」

 

 何か周りが騒がしいが気にせず椅子に座る、何故かダンブルドアが苦笑いだが…何かしたか?

 直ぐに校長先生の話が始まった、今回も何時もとは変わらない校内での所注意とクリスマス休暇の思いで話だった。

 

 しかし少し変わっていたのは、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が行った三階のあの部屋だった。やはり生徒が行かないよう、恐ろしい脅し文句を言って話を締めた。

 

 私とハーマイオニーは、全校集会後にハリー、ロンと合流した。ここで面白い話を聞いた

 

「クィレル先生とスネイプ先生が争ってた?」

 

 ハーマイオニーは興味深そうに話を聞いていた、何でもハリーが誰かから送られてきた〈透明マント〉なる物で賢者の石について調べるため禁書の棚に行った際、下手をしてフィルチに見付かり逃げたさきで争ってたらしい。

 

「これでますますスネイプが怪しくなってきたわ!」

 

「今夜ハグリットの小屋に行こう、スネイプに見つからない様に」

 

「こ、今夜?見付かったらどうするんだ?」

 

 ハリーの言葉に少しどもるロン、しかし直ぐに諦め首を縦に振った。

 

「アリシアも来るよね?」

 

 ハーマイオニーが私に訊ねてきた、しかし私はどうしてもやらなければならないことが有る。

 

「すまない、私は今回はパスだ…やらなければならないことがある」

 

 あからさまにハリーは残念そうな顔をして居る、ハグリットの小屋は離れているとは言え学校の敷地内だ、そこまで危険は無いだろう。

 私とハーマイオニーは別れ各自今夜に備えての準備に取り掛かった

 

 さて、私が今夜何をするかと言うと…下見だ!

 確かにスネイプ先生は怪しい、しかし私はどうしてもスネイプ先生が悪い人には見えないのだ。むしろ影からハリーを守っている存在ではないかとすら思えてくる、だが残念ながらハリー達はスネイプ先生が賢者の石を狙う者だと確信している。

 

 このままでは最悪、自分達で賢者の石を守ろうなんて考えを持つかもしれない。だから先にあの部屋に隠されている賢者の石、並びにトラップを理解しておこう(危なかったら壊しておこう)と言う訳だ。

 

「んー、まぁ必要なものはこの巾着袋に入れておこうかな」

 

 私は手早く必需品等を拡張呪文が施されている巾着に放り込む、そんなこんなしている内に夜になってしまった。

 ハリー達は一足先にハグリットの元へ向かったらしい、私もギルバートを連れ禁じられた部屋に向かう。

 

「主よ、この先に獣の匂いが有ります」

 

 そこはハリー達が言っていた三頭犬がいた扉の前だった、もしもハリー達が再びこの扉の前にたったとするなら。前回の恐怖や自身の身の安全を考え部屋に踏み込むのを躊躇うだろう…しかし

 

「ふむ、では行こうか?」

 

 この人は違う、恐れ?初めて聞く言葉だ、恐怖?そんなものは過去に腐るほどに体験した、私の道を立ちはだかるものは何であろうと容赦はしない。

 

 アリシアは一つの恐れも抱かず木製の明らかに年期の入った扉を開いた、視界をおおったのは黒い毛に覆われた三頭犬、ゆっくりとアリシアの方を向くと伏せていた足をゆっくりと持ち上げ天井ギリギリの高さまで立ち上がった。

 

「成る程、確かに頭が三つに別れている。面白いな…」

 

 そんな寝ぼけた感想を呟くと同時に三頭犬はアリシアに襲い掛かってきた、しかしそれが三頭犬の最後の光景となる、次の瞬間には先程まで捉えていた自分よりも明らかに小さき存在であると感じていた者の足元に頭を垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はフラッフィー、偉大なる地獄の番犬≪ケルベロス≫の末裔である。

 私の真価は何かを護るときに発揮される、私は生まれて直ぐにここホグワーツに連れてこられた。どうやら何かを守るのに私の力が必要だと言う、私を育てたのは森番のハグリットと言う男だ。

 

 こいつは中々良い奴だ、餌は一日五食キチンと用意するし私にもブラシをかける。今はここ隠し扉の守護をしているため中々会えないがまぁ仕方がないな。

 しかしこの所侵入者が多い、今日もまた通路より今まで嗅いだことの無い匂いを持つものが近付いて来ている。

 

 扉が開いた、うん?只の少女じゃないか…そう言えば、ダンブルドアとハグリットから学生が来た場合は追い返す程度にしてくれと言われていたなぁ~

 

 めんどくさいが一吠えすれば逃げ帰るだろう、私は何時もの様に噛み付く振りと同時に大声で吠えてやるつもりで一気に近付いた。

 …それが悪かった。後一メートルでぶつかる距離で私は顔を止めた、いや…止めざるを得なかった。

 

「犬が私の道を阻むか!」

 

 少女の肉体から溢れでる止めどない魔力が私に死を予感させた、ケルベロスの末裔たる私の全細胞が今までに無いほどの警告を発した。

 

 同時に私は感じたのだ、彼女こそが魔を治める方なのだと。逆らってはいけない、逆らうことさえ許されない絶対の強者。そんな目の前に居る純粋な恐怖が私にはどこか懐かしく彼女を受け入させたのだ。

 

「身の程は弁えている様ですなアリシア様」

 

「おい犬、頭を上げよ」

 

 アリシアに頭を上げる許可を得たフラッフィーはオズオズと頭を上げる、アリシアの後ろにはギルバートが待機し何か行動を起こせば直ぐ様消し炭になるだろう、フラッフィーも後の生物が自身の敵う生物ではないと本能的に察した。

 

「多少高位の獣の様だな、まぁ察して神獣の子孫と言った所か、人語は理解できる様だが…まだ話せないようだな」

 

 アリシアが呟くと同時にギルバートも同意した

 

「はい、恐らくケルベロスかフェンリルの末裔かと存じます、中々に骨のある者達でしたな…」

 

 ギルバートは遠くを見ながら舌舐めずりをしている、一体≪骨のある≫とはどのような意味で骨があったのか…まぁ聞かないで置こう。

 

 そんなギルバートを見て余計に恐怖し三頭犬は耳を垂れ下げ尻尾も力なく地面に沿っていた、体は小刻みに震えている。

 

「干渉魔法」

 

 アリシアがフラッフィーの頭に手を乗せて唱える、それと同時に淡い白銀の光が溢れる。光はフラッフィーの頭に溶け込むようにやがて消えた

 

「さぁ、話してみろ」

 

 フラッフィーは体内に満ちる今までとは比べ物に成らないほどの力を感じた、体が熱く今にも燃え上がりそうな程だった。

 

「こ、これは?」

 

「ふむ、問題無さそうだな…。お前のような神獣や精霊、聖獣に魔獣等この世の獣の上位種に当たる者達は自身の成長と共に魔力が増え、人語を理解するようになる。それが進むとやがて自身も人語を話すようになるのだ」

 

「そう、我のようにな」

 

 ギルバートは胸を張りふんぞり返っている

 

「だがお前はまだほんの少し成長が足りなかった、その為私の魔力をお前の体内に流し入れ眠っていた魔力を無理矢理叩き起こしたのだ。

 今はその魔力が体内を駆け巡り血が熱くたぎり最高の気分だと思う、しかしこれから暫く体調が急激に悪くなるだろう」

 

 フラッフィーは少しビクッと体を震わせた

 

「な、何故でしょうか…?」

 

「当たり前だろう?普通は自身の成長と共に学び培う魔力を無理矢理叩き起こしたのだ、その魔力に耐えうる体を急速に作り直す必要がある、その時の激痛と言ったらなぁ~」

 

 ギルバートは溜め息混じりにニヤニヤと言った

 

「しかしだ、その先にあるのは今までとは違う森羅を操る力の奔流だ…まぁ我までとは言わぬが彼のケルベロスの末裔と言えばそれ相応の力を持つことが出来るだろう」

 

「そ、そうですか…しかし何故私にそれほどのお力を下さったのですか?」

 

 アリシアはフッと顔を綻ばせると一言

 

「お前が欲しい、それだけだが?」

 

 フラッフィーは明らかに口を開けて呆けている、ギルバートはやはりかとこれまたやれやれといった表情をしている。

 

「私は今、特別魔獣管理省と言う組織の長をやっている。お前のような人外、魔獣等様々な人々から嫌われる生物の保護と権利を主張する組織だ。

 今は少しでも力が欲しい、もしもお前が自分自身で自由を手にしたいと言うのなら…」

 

 アリシアはふてぶてしくもフラッフィーを見下ろし、手を出した。

 

「私と来い、さすればお前にも光をやろう」

 

「まぁ…この方の隣の座は我ギルバートで埋まっているがな」

 

 何なんだ…この方は、私の言葉なんて一切無視じゃないか。何て理不尽、なんと言う横暴…

 しかし、何て言う充実感なんだ。私の先祖の血が騒ぐ、この人が…この方こそが私の生涯を込めて仕えるべき方なのだと

 

「…こんなまだまだ若造な私ですが、微力ながらあなた様の夢に生涯を掛け助力させて頂きます」

 

 フラッフィーは三頭を下げ手をアリシアの前へ差し出した、アリシアもその手を取り直ちに主従契約を交わし部屋には白銀の光が溢れ、一人と二匹を包み込んだ。




危険生物はどんどん受け入れます
特別魔獣管理省


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散歩と強兵

 コッコッと軽やかな足取りで、元堅牢な石畳を歩く二つの影があった。

 しかし、その影が通りすぎる頃にはその丈夫さのみが取り柄の石畳は、引き裂かれ、爆散し付き従う魔獣の業火に焼かれた。

 それでもなおその者は歩みを止めない、と言うよりもより一層魔法の激しさを増していた。

 

「ギルバート!左の壁から魔術反応!」

 

「ハッ!」

 

 アリシアの言葉に直ぐ様反応するのはギルバート、その凶悪な口内からは、何千℃にも熱せられた爆炎が壁を叩きガラス状になり崩れ落ちた。

 

「それにしても楽しいなギルバート!」

 

 壁から飛び出してきた数多の矢をフランディールの剣で切り落とす、同時に一歩後ろに下がると先程までいた場所に落とし天井がめり込む。吊るされていた鎖を切り離し、安全を確保後乗り越え先に進む。

 

「そうですなぁ~、しかしどれもこれも危険な罠ばかりですお気をつけを!」

 

「お前誰に言っている、私はアリシア・ボスフェルトだぞ!」

 

 

 フラッフィーとの主従契約を終えた後アリシアとギルバートは隠し扉へ降りた…いや落ちた、一瞬の浮遊感と共に急降下する

 

「フンッ、やはり阻害呪文が施されているな…こんなことが出来るのはダンブルドア位のものだろう、ギルバート!」

 

 垂直に自由落下しながらアリシアがそう言うと、先に降りていたギルバートが羽を広げアリシアを柔らかな羽毛で衝撃ごと包み込んだ。

 

 眼下に広がるのは、フラッフィーのいた部屋より少し大きめな部屋、そこには吸魔の蔓がまるで森のように張り巡らされていた、この魔法植物はその蔓に触った生物を絡めとり、容赦なく絞め殺す魔法界でも上位に食い込むほどの危険植物だ、しかし今回は相手が悪かった。

 

「ギルバート…突っ込め」

 

 その言葉と同時に一途の恐怖や抵抗もなく、ギルバートは四翼をはためかせ視界を埋め尽くす蔓の森へ突貫した。

 蔓がその黒翼にぶつかったその瞬間

 

≪ドッ!≫

 

 鈍い音が発せられたと同時に上下左右から吸魔の蔓が隙間なく襲ってくる、あっという間にギルバートとその背に乗ったアリシアを覆い尽くし緑の繭を形成した。

 

 しかし、そんな繭も国崩しの魔獣を押さえ付ける事は出来なかった、緑だった外皮が次第に茶色になり黒になる、次の瞬間には一角から深紅の獄炎が噴き出した。

 

「おいギルバート、お主なまっているのでは無いだろうな」

 

「何をおっしゃいますか、まだ体の大きさに慣れず捕まっただけにございます」

 

 そう言うとギルバートはその四翼を大きく広げ吸魔の蔓を引きちぎった、一度羽ばたけば蔓が千切れ二度羽ばたけば蔓が吹き飛ぶ。

 

「では行きますか」

 

 追加で迫ってきた蔓を前足で切り裂き、後ろから迫る蔓は尻尾を高速で振ることで真空波を作り出しバラバラに砕け散る。アリシアはまるで他人事の様に、その背に胡座をかき事の終焉を待った

 ギルバートもそろそろ面倒になってきたのか、終わらせに掛かった。

 

「滅びよ…」

 

 その呟きと同時に口内で熱せられた高熱の炎を噴いた、部屋内が深紅に染まり一気に室温を上げ始める。そんな中、アリシアは自身の体の周りに薄い空気の膜を張り、何事も無いように平然と過ごしている。

 

 約十秒もすれば部屋内には消し炭となった吸魔の蔓が散乱していた、ギルバートはフンッと鼻から煙を吐くと満足げに眼下の光景を望んだ。

 

「さぁ、終わったみたいだし次いくか?」

 

「ハッ!お待たせいたしました」

 

 それからは高速で飛び回り襲ってくる数百の蜂の群れの中から一つの鍵鳥を探しだす試練〈ギルバートが焼き付くして為多少壊れたかも〉や、石鎧を着た石像兵士をアリシアが爆撃魔法で木っ端微塵に吹き飛ばした。

 そして今まさに凶悪な罠が仕掛けられた迷路を突破したのだ

 

「フゥー、もうじき最終試練と言った所か?」

 

 アリシアの頭の中には、広域探索呪文により広大なこの施設の全体図が手に取る様に映し出されていた。その結果目の前にある扉の先が行き止まりになると共に、巨大な魔力の反応を捉えていた。

 

「行くぞギルバート」

 

「仰せのままに主よ」

 

 ギルバートが器用に扉を開けると目の前の部屋に一つの大きな鏡が置いてある、それ以外は何もない、ただポツンと一つの大鏡が置いてあるだけだ。

 ギルバートがゆっくりとした足取りでその大鏡に近付き覗きこんだ。

 

「ムゥ、何か魔力の流れを感じますが私しか写りませんなぁ」

 

 そこにはギルバートの姿のみ写し出されていた

 

「どれ、私も…」

 

「そこまでじゃアリシア穣」

 

 背後から萎びた声音が聞こえてきた…ハァー、タイミングが悪いなぁ

 アリシアが振り返る、そこには立派な白髭をたくわえた老人アルバス・ダンブルドアが立っていた。

 

「これはダンブルドア校長、こんなところで会うとは奇遇ですね」

 

「そうじゃの、まっこと奇遇じゃ…してアリシア嬢はここで何をしておったのかな?」

 

「…なぁーに、少し面白そうな扉を見付けたから道すがら迷宮攻略をしていただけですよ」

 

 二人と一匹、互いに一騎当千の強者のみが立つことを許されたこの場、冷たい部屋内に沈黙が流れれば少し熱を持ってきた様なピリピリとした雰囲気が流れた。

 

「フッ…何もしませんよ」

 

 私はそういってダンブルドアの脇を通りすぎる、後に付いてギルバートも来た。

 地上に上がる道すがら危険な罠を全て安全な罠に変えておいた、これでハーマイオニーも安全だろう。

 

 

 

「全く…あの罠の数々を突破するとはのぉ~」

 

 うっすらと額に流れる冷や汗を拭き取り、ダンブルドアもアリシアの後を追った。

 

 

 

「なぁギルバート、デューク、アレクシア、デンホルムのことをどう思う?」

 

「どう思うとは?主に忠誠を誓いそれに見会うだけの力も持つ、とても素晴らしい誇りに思える配下の者だと思いますが…」

 

「そうではない、あの三人の力だ、現時点では三人とも最高幹部としているが…やはり昔に比べるとデューク以外の者達は力が足りないと感じてしまうのだ」

 

 少し微笑を浮かべながらうつ向くアリシア。

 

「可笑しなものだな…力の…暴力の要らない世を作るためにより強い力を求める、なぁギルバート、私は正しく生きられているのか?」

 

 ギルバートは羽をバタつかせながら。

 

「当たり前です!主は我々人外の為にその力を振るわれている…今も昔も我々の王はあなたでありあなただから我々は王と崇めるのです!ですから…そんな気弱な事を言わないで下され」

 

 少し寂しそうにギルバートはアリシアの顔を覗き込んだ、アリシアはギルバートの頭を優しく撫でるとスッと背筋を伸ばした。

 

「フフフッ、ギルバートは厳しいなぁ…では遅れずに付いてこい、私の隣に立つものとしての義務だからな?」

 

 イタズラっぽく笑うアリシア、ギルバートはブンブンと尻尾を左右に振る。

 

「お任せください!」

 

 二人で少し歩くとピタッとアリシアの歩みが止まった

 

「…そうだ、ギルバート良いことを思い付いたぞ!」

 

「主がそう言うと絶対に良い予感がしないのですが」

 

 ニヤッとするとアリシアはギルバートにあることを命じた。

 

 

 

「あぁ~ぁ、やっぱり良いことでは無かったな…」

 

 ファントムゲートをアリシアとギルバートが潜る、フランディール城内に入り開発室と情報管制室へと向かう。

 開発室ではデュークが白衣に身を包みながら緻密な作業を行っていた、でかい図体であんなに繊細な作業をされると凄いギャップだ。

 

 情報管制室ではデンホルムが配下のケンタウロスとアレクシアから送られてくる各国の魔法省や魔法生物の生息状況、そして私達特別魔獣管理省の部隊構成を行っている。

 

 私はデンホルム、デューク を会議室へと呼んだ。

 

「おぉ!戻られたかアリシア様!丁度報告したいことが御座いましてなぁ~!!!」

 

「アリシア様、ただいまアレクシア殿は人狼部隊を率いて戦力拡大にイギリスを駆け回ってございます、もうじきイギリスの狼男、狼女の全隷属化が完了するかと」

 

 全員が円卓の豪華絢爛な椅子に腰かけると話が始まった

 

「ほぉ、それは行幸、して我が配下となった者達には然るべき待遇をしているのだろうな?」

 

「勿論でございます、家族があればここフランディール城の中に家を建て住んで貰っています、もしも独身な者達もアパートを建てましたのでそこに住んでおります」

 

「そうか、自ら希望する者は軍隊へ、志望しない者達は農業や産業でここを支えて貰ってくれ」

 

「御心のままに」

 

「デューク、〈抗銀薬〉〈真理の涙〉の製造はどうなっている?短縮化を成功させて見せると息巻いておったよな?」

 

 内心私が短縮化をやってないからと言ってこやつが短縮化に成功すると言う可能性は30%と見積もっていたが…

 

「ガッハッハッ!!勿論成功しましたぞ!まぁ〈抗銀薬〉の場合は材料の収集が手間なだけで調合はそれほど難しくは有りませんでしたな」

 

 うそ…だろ?一応あの抗銀薬でさえ相当高度な調合技術が必要だと思っていたのだが…流石は巨鬼族だな恐ろしい

 

「〈真理の涙〉の方はどうだ?」

 

 するとデュークの真っ赤な顔が裂けるのではと言うほどにやけた

 

「よくぞ聞いてくださいました!このデューク遂にやり遂げましたぞ!」

 

 そう言うとデュークは足元に置いてあった巨大な瓶を円卓に乗せる、中には金色の淡い光を放つ液体が入っていた。

 

「デューク、それは?」

 

「ハッ!これこそ〈真理の涙〉の量産品でございます!真理の涙は、各材料自体の魔力量が多く全ての材料の魔力結合が難しいため、時間を掛けてゆっくりと調合させていました、しかし私はそこをどうにか改善すればもっと早く調合、量産が出来るのでは?と考え調合に取り組みました!」

 

「お、おぉ、そうか…」

 

「ここからが面白いのです!ですので私は~~~……」

 

 

 

 

 …1時間後…

 

 

 

 

「と言うことで、秘薬〈真理の涙〉の量産に成功したのです!」

 

「や、やっと終わった…」

 

「話が長いぞデューク!アリシア様がお疲れではないか!」

 

 デンホルムが私の身を案じて発言してくれた

 

「何より副作用に付いて話しておらんではないか!」

 

 なん…だと、まだあったのか、、、

 

「副作用があるのか、して、どんなものだ?」

 

「いやぁ~、副作用と言うほどの物では無いのですがのぉ~」

 

「あれを副作用と言わずしてなんと言う…」

 

 デンホルムが呆れている…これは覚悟しておいた方が良さそうだな。

 私はデンホルムとデュークに連れられ洞窟の奥に作られた巨大闘技場に向かった…そして絶望した

 

「オラァーー!!!終わりか貴様ら!次は誰が俺の相手をしてくれるんだあぁん!」

 

「てめぇ、これで俺を倒したつもりでいるのか!ちっとも効いてねぇよバァカ!」

 

「あぁもう、弱いやつが何人来ても仕方ねぇ!全員いっぺんに掛かってこいや!」

 

「上等だこら!」

 

 …なにこの戦闘狂集団、300人ほどの人狼がバトルロワイヤル方式に戦闘を繰り返している。

 一人一人の顔はみんな満面の笑みを浮かべており、控えめに言ってヤバイ、正直に言って恐怖だ。

 

「おい見ろ!アリシア様だぞ!」

 

「アリシア様!アリシア様!」

 

「アリシア様万歳!!!」

 

 大半の人狼が私を見付けると膝ま付き声を上げていた

 

「…おいデューク、説明しろ」

 

 私の記憶が正しければ彼らは人狼化の前ならとても律儀な温厚な性格な者達ばかりだと思ったのだが…

 

「えっと~、何と言いますかなぁ…彼らが満月の日に人狼に変わるのは自分の中に流れる獣としての本能があふれでてしまうからです、人間の時に自分の中の本能を理性で全て押さえ込みそれが満月の日に増幅して押さえられなくなるから変身するのです」

 

「だから?」

 

「だったら平常時から多少の本能を出しておけば、満月の日に変身することもなく、自分の望むときに変身できるのではと思い…これが結果です」

 

「ハァー…デューク、お前と言うやつは!」

 

「お待ちくださいアリシア様!!!」

 

 私がデュークを叱ろうとした瞬間、眼下の闘技場から声が飛んできた。

 発言者は人狼族の青年だった

 

「恐れながら発言の許可を頂きたく!!!」

 

「許そう、面を上げよ」

 

「ハッ!人狼部隊フランディール城守備軍所属、ギンザと申します!恐れ多くもデューク様を叱らないことをお願い申し上げます」

 

 その青年の目は真っ直ぐに私の方を見つめていた

 

「何故だ?少なくともお前達の性格を変えるような事をしたのはこちらの落ち度だ」

 

「しかし、私達は今の自分がとても楽しく生きられるのです!以前は時おり訪れる破壊衝動に抗うため仲間でもそれこそ親子でさえ深く関わりを持つことが出来ませんでした」

 

「…だが」

 

「それに、確かに戦闘を行うことに抵抗や最早楽しさすら感じますが…我々は人狼、戦闘や狩りをすることを至高とする種族です、ましてやそれが理性を保つ事が出来るようになった事に感謝はすれど怒ることなどある筈が御座いません!」

 

 少しうるうるしているデュークは置いておくとして…う~む

 

「…分かった、デューク良くやってくれた」

 

「ハッ!ありがたきお言葉!」

 

 片膝を付き頭を下げるデューク、私は肩を叩き立たせた

 

「してどれ程の量の薬がどれ位で作れるのだ?」

 

「そうですなぁ、一人当たり小瓶一本ですので…約500本が一ヶ月程で出来ますな」

 

 …本当にヤバイな巨鬼族

 

「よ、よし、では余ったものはケンタウロスや巨鬼族にも飲ませてやれ…勿論任意でだぞ?」

 

「ハッ!承知しました」

 

 ふぅ~、さて本題に行くか

 

「時にデンホルム、我が組織と軍の総数を知りたい」

 

「ハッ!

 人狼族620名、巨鬼族1250名、ケンタウロス族2300名、小鬼族120名、巨人族45名、キメラ1匹、グリフィン4匹、天馬が4種類各2匹ずつ、トロール20名、ヒッポグリフ30匹、不死鳥2名、ユニコーン30匹、三頭犬1匹締めて4431名になります」

 

「戦闘員は?」

 

「人狼500名、巨鬼族1100名、ケンタウロス2000名、小鬼族20名、巨人族20名、キメラ1匹、グリフィン2匹、天馬8匹、トロール10名、ヒッポグリフ10匹、不死鳥2匹、ユニコーン10匹、三頭犬1匹締めて3684名になります」

 

「フム、悪くは無いな…だが少なすぎるな、丁度良いな今いる者達全員に言っておく!」

 

 アリシアは闘技場にいる人狼族の他に闘技を観戦していた各種族に声を張った

 

「我々は!これからこの世界の全ての人外生物の安全と平穏を勝ち取り守るために戦う、しかしこの世界は広大だ、全ての森、山、川、空を守るには絶対的に人が足りない、そして各々の力も足りない!」

 

 話を始めると次第に私が来たことを聞いた者達も集まり始め、とうとう全員集合した。

 

「勿論強制するつもりは無い!しかし我々の領土そして仲間を守るための力を欲するものには…力を与えよう」

 

 私が手を上へ掲げた、同時にフランディール城の上から何かが飛び立った。

 それは漆黒の四翼をはためかせ闘技場の上を旋回する、闘技場に集まった者や私の話を聞いていた者達はみな空を指差し呟く

 

「あれが…フランディール・ルシアーナ様の最強の矛、国崩し魔龍王〈ギルバート〉様か…」

 

「これより毎日夕方よりここ≪ドーマの森≫を使い訓練を実施する!教官は≪国崩しギルバート≫≪紅鬼神デューク≫に任命する!!!」

 

 遠くから〈聞いてませんぞぉぉぉぉ~~~!!!〉と言う声が聞こえた気がするが…気のせいか?

 

「巨鬼族、巨人族、小鬼族は急ピッチで各種設備の建設に取り掛かれ!

 この特別強化訓練は毎日行う物とする、参加するものはこの紙に署名せよ、名前が分からずとも手を当て名前を唱えると勝手に記録されるから案ずるな!」

 

 そう言うと私は服を翻し静かになった闘技場を後にしようとした、しかし

 

「お待ちくださいアリシア様!!!」

 

 歩みを止めたのはデンホルムだった

 

「なぜ私は教官に選ばれないのでしょうか?確かに特魔省の運営など忙しくはありますが…」

 

 私は即答した

 

「お前が弱いからだデンホルム7世よ」

 

 デンホルムは明らかに絶句していた、それはそうだろう…自分が忙しいから選ばれなかったと思っていたのに理由は弱いから

 

「わ、私が弱い…ですと?」

 

 ひきつった顔でデンホルムは訊ねてきた

 

「そうだデンホルム7世、正直に言おうお前はデュークの足元にも及ばない、ましてやギルバートとやれば一秒も持たないだろう」

 

 これは本当に思っていた事だ、確かに初代デンホルムは強かった、デュークと戦っても半分くらいの確率で勝っていただろう。

 だからこそデュークもデンホルムを親友、相棒、そしてライバルとしていたのだ、今のデュークが本気で戦えるのは私、ギルバート位の者だ。

 

 確かにデンホルム7世は他のケンタウロスに比べれば格段に強い、しかしトロールに100匹に囲まれれば倒される程に弱い、デュークなら一刀の元に切り伏せるだろう。

 

「な、ならば私はデュークに決闘を申し込みます!これに勝てば私を教官にして頂きたい」

 

「う~む、デュークよどうする?」

 

「いやぁ~ワシとしては教官なんて柄では無いのですがなぁ~それに…決闘となればワシは手加減出来んぞ小童が!!!」

 

 突如デュークの体から深紅の光が沸き立つ、肌は何時にもましてや深紅に染まり体の筋肉は戦闘を待ちきれず今にも動き出しそうだ。

 

「…っ、私は誇り高きケンタウロス族!巨鬼族族長デューク!貴様に決闘を申し込む!」

 

「クックハハハハッ!!!良いだろう、巨鬼族族長〈紅鬼神デューク〉その決闘を受け入れよう!判定はギルバート殿お願い出来ますかな?」

 

「良いだろう、決着は動けなくなる又は降参のみとする、相手を殺傷するような行為は禁止とする良いな?」

 

 両者頷き合う

 

「だがデューク、お前が勝ったら何を求める?」

 

「そうですなぁ~、やはりワシよりも弱いものにデュークと呼ばれるのは腹が立つ…先生、又は師匠と呼んで貰おうかの?」

 

 デュークはもう既にデンホルムを育てる気満々の様だ

 

「そんなこといくらでも呼んでやるわ!」

 

 ギルバートが決闘の約束事項と報酬を取り決めその日は別れた、決闘は明日の夕方…どちらが勝つのかは決まっているがな。



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決着そして師弟

夜もふけてきた頃私はグリフィンドール寮の自分の部屋でハーマイオニーを待っていた。

 

「…遅い、ハーマイオニーは一体どこで何をしているんだ!」

 

そんなことをギルバートに愚痴っていると突然部屋の扉が開かれた。同時にハーマイオニーが私の胸元に飛び込んできた

 

「ま、まてハーマイオニー!私にそんな趣味は…!」

 

「少し…怖かったのアリシア」

 

小刻みに震えるハーマイオニーを見て私はただ事ではないと感じて事情を聞いた。

 

「成る程、その男〈ヴォルデモート〉とやらが生き長らえる為にユニコーンの生き血を飲んでいたと、そしてそのケンタウロスが来なければハリーも危険な所だった、そう言うことだな?」

 

ハーマイオニーは静かに頷いた、ユニコーンが一体殺されたか…ただでさえ生体数が減ってきているのに…これは許されないな。

 

「それで?」

 

「取りあえず今は先生方が賢者の石を守っているし…あの三頭犬もいることだし」

 

つまりは動かないと、だがあのハグリットがどこからドラゴンを手にいれたのか…それにドラゴンの卵の報酬は何だったのか、嫌な予感がするな。

 

「そう言えばアリシアの用事は終わったの?」

 

「ん?あぁ、少しは楽しめたな」

 

「…そう、嫌な予感がするから聞かないでおくわ」

 

それから二人で雑談を交わしその日は眠りについた、ハーマイオニーはいつもアリシアの傍にいる在るものが居ないことに気付く事無く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ギルバート…

 

「全く、我が主は龍使いが荒いわ…フランディール城から帰って少しゆっくり出来ると思ったら今度はドラゴンの生息域を調べてこいとは…」

 

そう愚痴を溢すギルバートの顔には一切の面倒と言う感情はなく、主に頼られていると言う誇りと自信がみなぎっていた。

別に言葉で行けと言われた訳ではない、ハーマイオニーとか言う主の友人の言葉にあった、ドラゴンと聞いて私は気配を極力低くして部屋を後にした。

主も戦力の拡大と魔法生物の生息域の情報は欲しい筈だ。

 

「お任せ下され我が主よ、千年前のドラゴン部隊の再編成私が成し遂げて見せますぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…デンホルム七世…

 

フランディール城内、デンホルムは自室で問答を繰り返していた

 

「私が弱い?ケンタウロス族の王にしてアリシア様の参謀、私は…本当にお役に立てているのだろうか?」

 

デンホルムは初代デンホルムより受け継がれてきた武器、青蒼の大強弓≪パラディン≫この弓の弦を引けるものがケンタウロス族の王、族長と認められる

 

「明日の決闘、負けられぬ…アリシア様に私の強さを示すのだ!」

 

明日の決闘に向け≪パラディン≫の手入れを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…デューク…

「ガッハッハッァ!!このワシに決闘を申し込むとは!あのデンホルムの小倅も豪気なやつじゃのぉ!!!」

 

そう言いながら満面の笑みで紅大太刀≪デスタクト≫を豪快に振り回す、しかしその太刀筋は美しく一切の無駄が無い、洗練され最早達人の域を超越していた。

 

「じゃが心配じゃのぉ…ワシは戦闘になると手加減出んぞぉ~、まぁその時はギルバート殿が止めてくれるじゃろ!ワシは戦闘を楽しもう!ガッハッハッァ!!!」

 

この男に敗北の二文字は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…アレクシア…

 

イギリス某山脈、アレクシア人狼軍・将軍アレクシア天幕内

 

「アレクシア様!前方の山脈にはぐれ人狼を発見しました!!!」

 

一人の黒装束を着た兵がアレクシアへ報告に来た、アレクシアは目の前に広げられた山脈の見取り図に印を書き込んでいた。

 

「コロニーはどれ程の規模ですか?」

 

「ハッ!第1斥候隊10名が追跡中であります、現段階で70~90規模と見られております」

 

70~90名ですか…今まで20~35名規模だったですけど多いですね、さすがはイギリス最大のコロニーですねぇ。

 

「我が軍の総数は?」

 

「ハッ!人狼部隊が300名、ケンタウロス族が200名、巨鬼族が100名、総数600名になります」

 

成る程、約6倍ですか…まぁ負ける事は無さそうですね。

 

「斥候部隊に伝令、私たちに戦闘の意思は無いことと我々にはあなた方を救う手立てが有ることを伝えてください」

 

直ぐ様伝令に伝えるため人狼が天幕から出ていった、私はまた地図に向かいにらめっこを始めた

 

「…何だか嫌な予感がしますね」

 

各々が考えを巡らせその夜はふけていった…

 

「これより!特魔省・大幹部≪紅鬼神デューク≫特魔省・大幹部≪デンホルム七世≫の決闘を執り行う!」

 

私は闘技場に集まった者達に声を張った、空にはグリフィンやキメラ、天馬が超高速鬼ごっこをして駆け回っている

 

「これは!今日から行われる特別強化訓練の教官を決めるものである!立会人は我が腹心≪国崩しギルバート≫が務める」

 

ギルバートはゆっくりと闘技場に舞い降りてきた、その体にはちらりほらりと返り血や擦り傷が付いていた

 

「どうしたんだギルバート?」

 

「いやぁ、久しぶりに遊んでしまいました」

 

「支障は無いだろうな?」

 

「お任せ下され」

 

そう言い闘技場の中心に進み出た

 

「両者中央に!!!」

 

ギルバートの掛け声と共にデュークとデンホルムは大円闘技場の中央へ向かった、両者の手には〈デスタクト〉と〈パラディン〉 が握られていた。

 

「おぉおぉ、逃げずに来たかデンホルム」

 

「貴様ごときに何を恐れるか…、貴様をここで倒し私が特魔軍最強という事を教えてやるわ」

 

「若いのぉ、恐れを知らず自身の限界も知らん…故に弱い」

 

「まだ言うか!もう良い、これより先は武勇によって決しよう」

 

そういうとデンホルムはギルバートにお辞儀をすると一番闘技場を見渡せる高座に座る私に礼をして自身の待機地に戻った、デュークもやれやれと言った仕草をしつつも私とギルバートに礼をし戻って行った。

 

「それでは両者正々堂々と、アリシア様の大幹部として恥じない戦いを期待する…始め!!!」

 

ギルバートの咆哮と共にデンホルムは闘技場の縁に沿うようにその四足で駆け出した

 

「我らがケンタウロス族の大強弓撃ち抜けぬ物は無し!!!」

 

デンホルムが弦を絞る、どこからともなく弓には青白い矢がつがえられているた

 

「全てを凍らせ撃ち砕け!〈氷結魔法・アイシングアロー〉」

 

限界まで絞られた矢は放たれると同時にデュークへと向かった、正に高速、目にも留まらぬ速さでデュークに迫る、しかしこの男に一寸の焦りも無かった。

 

「パキィィン…」

 

突如響く甲高い破壊音、デュークの背後、闘技場の障壁には真ん中から綺麗に斬られた矢が二本突き刺さりそこを中心に氷を張っていた。

 

「…な!」

 

「なんじゃいこの腑抜けた矢は…」

 

「フッ!多少は楽しませてくれるようだな!流石はデュー…グハァ!」

 

何か言ったと同時に吹き飛ばされる、その体はデュークと反対障壁にめり込んだ。

 

「ん?何か言ったか?」

 

デュークの飛び蹴りがデンホルムの腹部に炸裂し、吹き飛んだのだ、当のデンホルムは何が起こったのか訳が分からないと言った顔をする。

 

「何だ…一体何が」

 

しかしデンホルムも諦めない、再び闘技場を駆け出す、デュークは先程デンホルムを蹴り飛ばしたため闘技場のほぼ中央に位置する、今度はデュークの周りを周り高速の早撃ちを繰り出した。

 

「オオォォォ!!!」

 

上下左右、全方位から放たれた蒼矢はデュークを包み込む様に肉迫する

 

「洒落臭いわぁぁぁ!!!」

 

〈デスタクト〉を抜き放つとデュークは一振りで全ての矢を撃ち落とす、闘技場に落ちる蒼矢からはまた氷が張った。

 

「なっ!…そんな馬鹿な…」

 

「のぉデンホルム七世よ、お主まだパラディンの力を引き出しておらんな?」

 

「なっ…何を言うか!この大青蒼パラディンは私を主と認めその力を私に与えてくれる!」

 

「あぁ〜、それがもうだめなんじゃよ、力は武器に与えられるものじゃない、武器と共に磨くものだ…お主にはそれが足りんわ」

 

瞬間デュークの体が赤紅色の光を放ち始めた

 

「良いか?これが武器を自身の力にすると言う事だ…鬼神流・魔鬼!」

 

横一文字に振られた剣すじはデンホルムの頭上を通過、客席へと迫った

 

「ギルバート!!!」

 

「御意!!!強鱗化〈バニッシュ〉!!!」

 

私の声に反応し、剣筋の前に躍り出たギルバート、その体は何時ものフワフワな羽毛と変わり鈍く黒光りしていた、その真紅の剣筋をギルバートの強健な鉤爪が受け止め押し返す。

 

「…第三戦術魔法〈神犯の槍〉」

 

アリシアが椅子から立ち上がり空に手をかざす、直ぐにそれはやってきた、眩い黄金の閃光がギルバートが抑えていた真紅の剣筋にぶち当たり消えた、真紅と黄金の光が辺りを埋め尽くした。

 

「そこまで!勝者デューク!!!」

 

私の宣言で一気に会場が湧き上がった、中には自分の族長が負けた事で涙するケンタウロスまでいた。

 

「おいデューク!紅鬼神化するなら先に言え、危なく客席まで届く所だったぞ」

 

アリシアの言葉にデュークは笑顔で

 

「ガッハッハ!!!その割には余裕で止めなさったではないか、いやはやまだまだ修行が足りませんな」

 

「いや、悪くはない攻撃だったぞ…まだ私の体を傷付けるには至らなかった様だがな」

 

まるで埃を払うかの様な仕草をしながらギルバートは呟いた

 

「…さて」

 

私は闘技場の隅でうなだれているデンホルムの元へ向かった

 

「あ、アリシア様…私は…」

 

私の顔を見て何と言えば良いのか分からず口ごもる、しかしこいつは何を恥じているのかが分からない

 

「デンホルム七世よ、お前はまだ若い…あのデューク、あいつも昔はよく私に向かってきたものだ、まぁその度にコテンパンに返り討ちにしてやったがな。

良いか?負けた事を恥じるな、恥じている暇があるなら次の戦いに備え自らを高めろ、自分を知ることが出来ないものはそれ以上の高みは無い、逆に自分を知るものは高みに上がる」

 

「はい…私は自身の強さに驕りを持っていた様です、これからはより精進しあなた様の横に立てる存在になれるよう邁進して参ります!!!」

 

決意と言う名の炎がその目には宿っていた…が

 

「ほぉ、我が主の横に立つ存在を目指すか…つまりこの我を負かすそう言うことと捉えて良いな?」

 

私の背後からヌゥと出てきたのは私の腹心にして右腕ギルバート

 

「うっ…い、いずれは…」

 

「おぉいデンホルム七世、ギルバート殿にはワシも勝った事が無い…ワシに勝てんのに滅多なことは言わんほうが良いぞい」

 

「…え?」

 

「そう言えばギルバート、お前が怪我するとはどんな奴とやり合ったんだ?」

 

私は決闘前にギルバートが怪我していたのを思い出した

 

「あぁ、あれはただ単にこの決闘に間に合いそうになかったので岩山の二、三個をぶち抜いて飛んできたのでその時に、流石に強鱗化するわけにもいかずスピード重視で来たので」

 

あぁ〜つまり防御無しの生身で数個岩山を吹き飛ばして擦り傷を負ったと…デンホルム頑張れ

 

「さて、では約束を守って貰おうかの」

 

「フッ、ここまでやられたんだ認めざるを得まい…これからよろしく頼む〈師匠〉」

 

「おぉ、なんじゃ新鮮で良いもんじゃのう!!!ガッハッハ!!!」

 

デンホルムはその日のうちにデュークから連れられ森へ向かった、これから特訓だと言っていた、デュークの特訓とはキツそうだな

 

私は夕方の特別訓練に間に合うように帰るよう指示しホグワーツへと戻った。

 

森の方からデンホルムの悲痛の叫びが聞こえたのは気のせいにしておこう、多分気のせいだろう…。



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攻略と決着

「ホグワーツの学年末試験は怖いって聞いてたけど、意外と面白かったわね」

 

 ハーマイオニーは何時もの調子でそんな事を呟いている、その言葉にロンが反発する

 

「まぁまぁ、だがロンもそれなりに勉強したんだ、大丈夫だろう?」

 

 私はロンをフォローする、まぁねと言った表情のロンその時ハリーは頭を抑え始めた。

 

「どうしたハリー?」

 

 ロンがたずねるとハリーは何かを思い出したと言った表情になる

 

「そうだ!話が上手すぎるよ!」

 

 そういう言うとハリーはハグリッドの小屋へ駆け出した、私とギルバート、ハーマイオニー、ロンも続いて駆け出す、小屋の前ではハグリッドがオカリナを吹いていた。

 

 ハリーがドラゴンの卵を手に入れた方法を問い詰めるとハグリッドは最も最悪な答えを出してきた

 

「フラッフィーの対処法を教えたって言うことか…」

 

「急いでダンブルドア先生に教えなきゃ!」

 

 マグゴナガル先生の執務室へ向かいダンブルドア先生に伝えたいことがあると告げる、しかし帰ってきた返答はダンブルドア校長はロンドンへ向かったと言うものだった

 

「そんな…どうするのハリー?」

 

 ハーマイオニーの問いにハリーは

 

「僕たちでスネイプから賢者の石を守るんだ」

 

 その瞳には決意と勇気が溢れていた、私たちは今夜あの部屋に忍び込む事を決意した、ロンは少し渋っていたが最後はなんとか折れた。

 

 

 

 

 

 

 

「アリ…、アリシ…、アリシア!」

 

「ん?う…ん?あぁハーマイオニーか…どうした?」

 

 人が気持ちよく寝てたと言うのに…ん?何か忘れてる様な?

 

「逆になんで気持ちよく寝てるのよ!ほら早く着替えて!」

 

 あぁ、そうだ賢者の石を守りに行くのか…後5分

 

「二度寝しないで!!!」

 

 ハーマイオニーに物理的に叩き起こされ私は恋しそうに私を見る布団に別れを告げて、人の気も知らず惰眠を貪るギルバートの首に特製の縄をかけ引きずり出した。

 

「お前だけ寝ることは許さんぞ…貴様も道連れだ」

 

 床に爪を立て必至に自分の寝床に戻ろうとするギルバートをズルズルと引きずって行く

 

「後生です!後5分、5分だけで良いので…本当に!本当に!!!あぁー!布団ヨォォ!!!」

 

 ギルバートの悲痛の叫びを他所に私の歩みは止まらない、誰も邪魔するな…私の眠りを妨げた罪は大きいぞ

 アリシアとギルバートの瞳には殺意と布団を取り上げたスナイプへの憎悪が宿っていた。

 

「コロス…5秒でコロス…スネイプウゥゥゥゥ…」

 

「国崩しと呼ばれた我の眠りを妨げるとは…塵一つ残さず消し去ってくれるわ…」

 

「…あんた達を見てると変な安心感があるわ」

 

 スネイプ先生…さようなら

 そんな事を心の中で念じながら談話室へと向かう、途中階段でハリー、ロンに会ったがアリシアとギルバートの機嫌がすこぶる悪い事に直ぐに気付き終始恐怖していた。

 

 そして等々最初の犠牲者が出てしまった、階段を降り切ると談話室の椅子に一人の少年が座っていた

 

「ね、ネビル…」

 

「き、君たちまた抜け出す気なんだね!」

 

 …ネビル早くそこを退くんだ!急げ!ハリーは心の中で叫んだ。

 

「そこを退いてネビル」

 

「い、行かせないぞ!またグリフィンドールの点が下がっちゃう」

 

 そんな事はどうでもいいのネビル!早く退けて!まだ間に合う、お願いだから!!あれが来る前に…ハーマイオニーも心の中で叫ぶ。

 

「頼むよネビル…命を大事にしてくれ」

 

「ぼ、僕戦うぞ!」

 

 もう…手遅れだ、ロンの諦めた同時にそれは現れた

 

「ホォ、ネビル・ロングボトム…このアリシア・ボスフェルトと戦うというのか…つまり…命はいらんのだな???」

 

 全身の細胞が危険信号を発する、この言葉に間違いはない…コロサレル!!!

 

「私の道を…阻むな!!!」

 

 引き絞られた人差し指が親指のトリガーを離れ打ち出される、最強の魔法使いによるデコピン…ネビルの意識は一瞬にして断ち切られた。

 

「さぁ…行こう…」

 

「「「ア、ハイ」」」

 

 三人は心に誓った、アリシアとギルバートの眠りを妨げちゃいけない

 

 フラッフィーの部屋の前に来るとアリシアは何の躊躇もなく扉を開けた、ハリーは思わずアリシアのローブを掴み引き寄せる、恐らくフラッフィーが襲いかかって来ると思ったのだろう。

 

 そんな事は起こるわけもなく、扉の先にいたのは項べを垂れる三頭犬フラッフィーの姿だった、アリシアの透き通る様な肌を抱きしめるハリー、次の瞬間にはネビルと同じようにデコピンをくらい壁にめり込んでいた、しかしその顔は満ち足りた表情をしている。

 

 フラッフィーはアリシアを見ると足元の扉を開けた

 

「フラッフィーよ、我々以外でこの扉に入ったものはいたか?」

 

 私がたずねるとフラッフィーは申し訳無さそうに

 

「申し訳ございません、肉体変換の副作用でたった今目が覚めたので…」

 

 後ろの三人はフラッフィーが喋ると思ってなかったのか顎が外れるほど驚いている

 

「そうか、まぁ良い…貴様は引き続き体を休めていろ」

 

「ちょっ…アリシア!こいつにはここを見張ってて貰わなきゃダメだろ、後からスネイプが来るかも知れないし」

 

 復帰したハリーが叫ぶ、そしてハリーの言葉にフラッフィーは少しイラついているようだ

 

「良いんだ、フラッフィーは今体が満足に動かない、体力を回復してもらうのが優先だ」

 

「でも結局はこの扉を守る〈怪物〉なんだろ、なら…」

 

 そのハリーの言葉にフラッフィーとアリシアが反応した

 

「貴様…誰に命令している!我は誇り高きケルベロスの末裔にしてアリシア様の下僕、貴様のような軟弱者に命令される覚えはないわ!!!」

 

 フラッフィーの怒気を混じらせた咆哮にハリーは思わず腰を抜かせた

 

「ハリー、お前は何か勘違いをしているな?私はフラッフィーを怪物等とは一度も思った事はない…貴様が〈私のフラッフィー〉をどう思おうが勝手だが、私の前で侮辱する事は許さんぞ」

 

 そこにはいつも優しい笑みを浮かべるアリシアではなく、大切な物を傷付けられ怒るアリシアの姿があった

 

 ハリーはごめんと謝りフラッフィーにも頭を下げた、アリシアはまた何時ものような笑顔に戻り次から気を付けろと言ってハリーの頭を撫でた…あまり身長は変わらないのに

 

「早く入ろう、そして早く終わらせよう」

 

「…あなた、どんだけ布団に戻りたいのよ」

 

 ハーマイオニーはため息交じりにそう言って私の後に続いた、ハリーとロンも少し遅れたが降りてきた、いや、落ちてきた

 

「「「イヤァァァーーー!!!」」」

 

 三人がダイナミック滑り台で悪魔の罠へ落ちてきた、ハリーとロンは驚きのあまり男女みたいな声を出していた

 

「うわっなんだよこれ!」

 

「動かないで!これは悪魔の罠よ!動くと早く死んでしまうわ」

 

 流石はハーマイオニー、悪魔の罠の対象法も知っていたか…悪魔の罠は動くものを締め上げる性質を持つ、逆に動かない者には何の興味も示さないから逃げられるという訳だ。

 

 私とギルバートに続いてハーマイオニーが降りてきた、ハリーもハーマイオニーの説得に従い抵抗を止め直ぐに下へ降りてきた…ロンは無駄な抵抗を続けているようだな。

 

 呆れたハーマイオニーが太陽の光で蔓を蹴散らした、取り敢えずロンは蹴って置いた

 

「さぁ先に進みましょう」

 

 ハーマイオニーは先を急ごうとする、しかし私は考えた…これはチャンスだ

 

「ハーマイオニー、私とギルバートはここで待っているよ」

 

「…え?」

 

「いやなに、後からスネイプが来たら逃げるに逃げられないだろ?ここで私がスネイプを食い止めればその分ゆっくり賢者の石を探せるだろ?」

 

 …違う、そんな理由じゃない、そろそろ限界だ…

 

「で、でももしも先にスネイプがいたらどうするんだ?」

 

「そんな事に怯えて賢者の石を守りきれるのか?ハリーお前の決意はそんなものだったのか?」

 

 めんどくさい…

 

「いや!僕は賢者の石を守り切ってみせる、そうしなければいけないんだ」

 

「そうか、なら行けここから先には私が誰も通さん」

 

「うん!アリシアも気をつけてね!」

 

「フッ、誰に言っている…早く行け」

 

「じゃあ…必ずまた!」

 

 三人の足音が遠ざかって行く…さぁ寝よう!!!

 空間呪文を発動、しまっていたスペアの布団を出し床に清掃呪文をかけ入り口には最上級の結界呪文を掛けた、これでギルバートとかデューク以外は入れない。

 

「約束は果たしたぞ…ハリー!!!」

 

 そしてアリシアとギルバートは意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 タッタッタッタ…薄暗い石畳の道を駆け抜ける三人の影、ハリーは気が気ではなかった、僕達新入生の中でもズバ抜けて優秀なアリシアが後ろを守ってくれるとは言えスネイプが来たら突破されるのも時間の問題だろう。

 そんな危険な場所を請け負ってくれたアリシアに、感謝と申し訳なさでいっぱいだった

 

「早く見つけてアリシアを安心させなきゃ…こっちは三人だ、スネイプ先生がいても逃げるだけなら何とかなる」

 

 アリシアの方にスネイプがいかないことを祈りながらハリーは最初の扉を開けた

 

「…鍵鳥だ!」

 

 

 

 

 

 

 ハリー達が第二の試練に差し掛かった頃、アリシアは…夢の中だった、ギルバートは代わりに結界が破壊されるとは思えないが交代で見張っていた。

 

 ちなみに前に一度来た時ここの部屋には数匹のネズミを放って置いた、そのネズミと視覚を共有しハーマイオニー達の動向を監視していた、勿論危険になったら助けに行くが極力自分の力で解決して欲しいものだ。

 

「おぉ、あのハリーとか言う小僧もなかなかやりおるのぉ…おっ!取った」

 

 静かに盛り上がるギルバート、その目には鍵を取り次の試練へ進む様が見えた

 

「主よ、第二の試練が終わりましたぞ!」

 

「なんだと…もう終わりか」

 

 ギルバートと見張りを交換しネズミと視覚を共有する、ほぉたしかに突破したようだな、次はチェスか…確かロンが中々の腕前だったような?

 

 そこからは多少白熱した、ロンがナイトとして魔法使いのチェスを操り一進一退の攻防を繰り広げる

 

「ん?この盤面…少しマズイかも知れんな」

 

 あまりチェスは得意ではないがこれはわたしにも分かる、ロンめナイトをとらせてハリーでチェックメイトするつもりか?

 予想は的中、ロンの乗るナイトはクイーンに粉々に破壊された、死んではいないと思うがロンも地面に投げ出される、ハリーのチェックメイトの言葉で活動停止する石像

 

「はぁー…行くか」

 

 ギルバートも渋々起きてきた、ハリーとハーマイオニーはそのまま次の部屋へ向かうようだ

 私とギルバートがその部屋に着いたのはハリーとハーマイオニーの去った数分後だった。

 

「おいロン、大丈夫か?」

 

 思いの外怪我は大きかった、両腕は間違いなく折れているな…、足は…うん軽い打ち身、後は全身に打撲か

 

「う…ん?あぁアリシアか…痛てて」

 

「動くな、守癒魔法≪極癒光≫」

 

 アリシアの腕の中にいるロンを淡い優しい光が包む、全身にあった擦り傷や骨折はまるで逆再生のように戻って行く

 

「ふぅ、どうだ痛くないか?」

 

 ロンは軽く腕を振ったりして確かめる

 

「うん、大丈夫みたい!ありがとうアリシア!!!」

 

「フフッ、どういたしまして…後済まないんだがそろそろ退けて貰えるかな?」

 

 ロンはハッとした自分の現状に気が付いたようだ、ホグワーツの誰もが憧れるアリシア・ボスフェルトに膝枕され介抱された、これがもしホグワーツの男子生徒に見られたら揃って血の涙を流すだろう。

 

「ご、ゴメン!!!」

 

 アリシアの膝から飛び起きると全力で土下座してくる

 

「いやいや気にするな、さて私は先に進む…ロンはダンブルドア校長にこの事を伝えるようフクロウ便を飛ばしてもらってくれ」

 

「いや!僕も一緒に…」

 

「どうやらこの先に今回の騒動の黒幕がいるようだ…これから先は危険になるだろう」

 

「だったら尚更僕も」

 

 食い下がるロンに微笑み優しく告げた

 

「だからこそロンに頼んでるんだ、このままではみんなやられるかも知れない、しかしロンがダンブルドア校長を呼んでくれれば助かる確率が大きく向上するだろう、私はハリーとハーマイオニーと共に敵の足止めをする、その間にダンブルドア校長ならこれるだろう」

 

「じゃあ僕が代わりに足止めをするよ!」

 

「すまないがロンの魔法ではこの先には着いてこれないだろう…だから、頼むロン」

 

 アリシアの頼みにロンはどうするべきか悩んでいた、そして結論を出す

 

「分かった、無茶はしないでねアリシア」

 

「フン、誰に言っている」

 

 かも軽くふざけたように言うとロンは、はにかみながらも、上へと戻っていった、悪魔の罠は燃やしハシゴをかけて置いたので多分楽に帰れるだろう。

 

「さぁ行くか」

 

 私とギルバートは次の部屋へ入った、同時にハーマイオニーも部屋を出るためこっちに向かってきた。

 

「どうしたハーマイオニー?」

 

「あぁ、アリシア来たのね!私はこれからダンブルドア校長にフクロウ便を送りに行くところよ!」

 

「それならロンに頼んだぞ、ハリーはどうした?」

 

「最後の部屋に向かったわ」

 

「そうか、私はハリーをサポートに行く、ハーマイオニーは上に戻ってロンのサポートをしてくれ怪我は治したいがまだ全快では無いだろう」

 

「分かったわ…アリシアも気をつけてね」

 

「あぁ」

 

 ハーマイオニーのいた部屋を通り抜けハリーがいる部屋へ向かう、入る前に視覚を共有しておこう

 部屋の中を確認するため中にいるネズミと視覚を共有する

 

「おっとマズイな!」

 

 そこには首を絞められているハリーの姿があった、絞めている人物は…クィレル先生だ

 

「そこまでにして貰おうクィレル先生!重力変換!」

 

 さっきまでハリーの首を絞めていたクィレルは突然天井へ〈落ちた〉クィレルの手は焼けただれパラパラと崩れ落ち始めている

 

「おぉ、ハリーがやったのか?」

 

ん?あの魔法痕は…

 

「あ、アリシア…逃げろ」

 

 ハリーは何とかクィレルからアリシアを逃がすために立つ、天井に立ち上がるクィレルはまだ砂化が進んでいない肩から腕を切り落とした

 

「…反転」

 

 またクィレルが床に落ちて来た

 

「ガハッ!!!またか!」

 

「ハリー、その魔法は強力だが消耗が激しい、もう立つのも限界だろう?私に任せて寝ておけ」

 

 私が指を鳴らすとハリーは地に伏した

 

「さて、クィレル先生…いや、ヴォルデモートと呼んだ方が良いか?」

 

 軽く嘲るとヴォルデモートも動いた

 

「貴様、何者だ…先ほどの浮遊魔法、魔法省の闇払いか!」

 

 いや、浮遊魔法じゃないんだが…

 

「お初にお目にかかる、我が名はアリシア・ボスフェルトべつに闇払いとかでは無い…が、お前はここで死ね」

 

「主よ、どちらが悪者か分かりません」

 

 ギルバートのツッコミを軽く受け流しヴォルデモートへ目を向ける

 

「アリシア・ボスフェルトだと?聞いたことのない名だ…それに私を殺すと言うのか…片腹痛いわ!」

 

 突如クィレルの杖から緑の閃光が煌めくいた、ほぉ、死の呪文〈アバダ・ケダブラ〉か…最初から殺しに来るという心意気は悪くないな

 

「極防魔法〈国守の盾〉」

 

 アリシアの前に巨大な黄金の魔法陣障壁が現れる、緑の閃光と黄金の障壁がぶつかる、激しい炸裂音と共に魔煙が辺りを包み込んだ

 

「フハハハハ!ちょっと高度な魔法が使えるからと言って、たった一人でこの私に闘いを挑むとは!若さとは怖いものよ!」

 

「本当に面白いな…」

 

 一瞬にして室内の煙が吹き飛ぶ、同時にアリシアの前に広が黄金の魔法陣障壁、その輝きは衰えず傷一つ付いていない

 

「で?次は何だ?」

 

「い、一撃防いだ程度で調子に乗るなよ!インペリオ」

 

 フン今度は服従の呪文か

 

「断る!」

 

 また黄金の魔法陣に阻まれる

 

「な、何故だ!インカーセラス!レダクト!ボンバーダ・マキシマ!」

 

 今度は魔法の乱れ撃ちか、激しい閃光が隙間なく黄金の魔法陣を叩く…尚も健在な黄金の盾

 

「な、何だ…何なんだ貴様は!!!」

 

「だからアリシア・ボスフェルト、魔法使いだ」

 

「何故私の魔法が効かんのだ!」

 

 あまりにも不可思議な現象、当たればどんな生き物でも死ぬ筈の死の呪文、如何なるものでも破壊する完全粉砕呪文ボンバーダ・マキシマそれをことごとく阻む鉄壁にして不落の魔法陣

 

「じゃあ逆に聞こう、お前は城や要塞を崩すのに対人の武器を使うか?普通攻城兵器を使うだろ?城壁に鉄砲撃ったくらいで揺らぐわけがない」

 

 ヴォルデモートの顔に明らかな疑問の表情が張り付いている

 

「分からん…一体お前は…これではまるで…」

 

「さぁそろそろ終わりにするか?」

 

 アリシアは懐から真紅と漆黒に染まった杖《エンペラー》を取り出す、持ち手の鬼の彫刻から二色の螺旋が杖の先端まで刻まれている、杖をヴォルデモートへ向け魔力を高める。

 

「無駄だぞ、この依り代を壊した所で私は何度でも蘇る!」

 

「そうか、ならせめて苦痛に悶え蘇るが良い、第二戦術魔法〈極氷の世界〉」

 

 エンペラーから放たれた蒼白色の閃光は一直線にヴォルデモートへ迫った、ほぼ同時にヴォルデモートの杖からも緑の閃光が放たれる、二人の丁度中間で閃光は衝突した

 

「ウガァァァァ!!!小娘がぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

「ほら出力を上げて行くぞ?」

 

 アリシアの閃光は徐々に激しさを増していく、ヴォルデモートも負けじと踏ん張るが遂に壁へ押し込められた

 

「パチン」

 

 無情にもアリシアの指が鳴らされる、同時に後ろの石壁がヴォルデモートの足をまるで人の手のように掴んだ

 

「なっ…!」

 

 ヴォルデモートの集中が途切れた

 

「さぁ終わりだ」

 

 眼前を覆い尽くす蒼白の閃光、ヴォルデモートは為すすべなくその身に受けた

 

「な、何だこの魔法は!体が…寒い」

 

 極氷の世界、受けた相手の体内の水分を瞬間的に凍らせる広範囲殲滅魔法だ、ただし今回はゆっくりとか凍るように調整をしたが…

 

「寒い…寒い寒い寒いぃぃ!!!」

 

 ヴォルデモートの体はゆっくりと凍っていた、両足が凍り胴体が凍るそして等々頭部が凍り始めていた

 

「おのれぇぇぇ、殺してやる!お前の一族全て根絶やしにしてやる!アリシア・ボスフェルトォォォォ!!!」

 

「そうか、ギルバート」

 

「御意」

 

 特にやることが無かったので私の後ろでハリーを守っていたギルバート、収縮呪文を解除して元の大きさへ戻る。

 

「我が獄炎にて消え去れ」

 

「な…ドラゴ…あぁぁぁぁ!熱いぃぃ…化け…物」

 

 ギルバートの炎を受け一瞬で消し炭になった、熱いと感じる暇は無かったと思うんだがな?

 

「さぁ、帰るかギルバート」

 

 ギルバートの背にハリーを背負わせ、入ってきた扉に手をかける

 

 〈バンッ!〉

 

 おぉ、勝手に開いた!

 まぁそんな訳もなく白いひげをたくわえた老人、アルバス・ダンブルドアがいた

 

「おぉアリシア嬢、君が出てきたという事は…」

 

「えぇ、奴は塵一つ残さず消し去りましたけど?」

 

「そ、そうか…」

 

 少し苦笑いを浮かべるダンブルドアの視線はギルバートの背にいたハリーへ移った

 

「ハリーは?」

 

「あぁ、私も驚いた、まさか今の時代に愛の守護魔法を使う者がいたとはな」

 

「愛の守護魔法じゃと?そうか…リリーだな」

 

 リリー、ハリーの母親か…殺されたと言っていたが、つまり死因は…

 

「強い母親ですね」

 

「そうじゃのぉ、リリーはそう言う生徒じゃった」

 

「あぁそうそう、これ賢者の石です」

 

 私はポケットから無造作に賢者の石を取り出すとダンブルドアに投げ渡す

 

「おっと…君は要らんかったのか?」

 

「そんな粗悪品を使う位なら自分で作りますよ…」

 

 そう言って私とギルバートはハリーをダンブルドアに任せ上階へと去った

 

 

 

 

「そ、そうか…粗悪品か…」

 

 誰もいなくなった部屋の中でダンブルドアのため息だけが響き渡った。



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運命の歯車

気持ちの良い朝の光を全身に浴びて私は目を覚ました、今日は終業式、楽しかったホグワーツ一年生が終わる。

あの事件の翌日ハリーは目を覚ましたらしい、直ぐに見舞いに行き皆んな無事なことを伝えると心の底から安堵していた。

 

「アリシア、僕が倒れた後君が僕を助けてくれたの?」

 

私は、ダンブルドア校長が直ぐに来てくれたと伝えて病室を出た、途中ダンブルドア校長とあった為口裏合わせをして置いたのは秘密だ。

どうやら校長はハリーに力のことを話したらしい、愛の守護魔法、自分の命と引き換えに使うことが出来る正に最強の魔法だろう。

 

それからは残された学校生活を楽しく過ごした、ロンはテスト返却の際今にも死にそうな顔をしていたが結果は合格、ポロポロと涙を流していた。

 

ハリー、ロン、ハーマイオニーはスネイプ先生が教える魔法薬学の授業の時は、少し気まずくて集中できなかったようだ、勿論私はそんな事気にせず発言していたが。

そしてそれから数日が流れとうとう終業式が始まった、最初は上級生が入場して行く、最後が一年生だ

 

「何だ?上級生が騒がしいな…」

 

何やら最初に入って行った上級生達が声を上げている、私達も何か分からず入って行ってその理由に気付いた

 

「…スリザリンか」

 

食堂内の天井に浮かぶ蛇が象徴の緑の旗、ニヤニヤとこちらを蔑んだ目で見てくるスリザリン生の者達、中にはこちらを見て大笑いしている者もいる。

 

「くそッ、なんなんだアイツらの態度は」

 

グリフィンドール生も少しピリついて来ている、しかし私はそんな中全く違う事を考えていた。

 

…はぁー、あの子達互いに切磋琢磨して成長しなさいとは言ったけどわざわざ生徒同士がいがみ合うような仕組みを作らなくてもねぇ。

 

恐らくこの仕組みを作ったであろう四人の弟子たちを思い深いため息をついた。

 

「しかし…確かにスリザリン生の態度は不快が過ぎるな」

 

流石の私もあの態度は気にくわないな、時間が経つにつれスリザリン生の態度はより一層酷いものへと変化して行った

 

「ハーマイオニー、一回だけなら良いんじゃ無いか?な?一回で終わらせるから…」

 

そう呟くアリシアを必死のディフェンスで抑え込むハーマイオニー、今にも魔杖エンペラーを振り下ろそうとするその手に縋り付き、アリシアを宥め続けてる。

 

「もう少し!もう少しだからぁぁぁ!アリシアァァァ!!!」

 

「何なのだアイツらは!離せハーマイオニー!うがぁぁぁ!!!」

 

アリシアの昂りが限界に達するその瞬間、ダンブルドアが声を張った。

 

「それでは、今年一番優秀だった寮の発表を行おうかの第4位…」

 

それからはダラダラと発表が続いた、スリザリン生はグリフィンドールが最下位だった事でよりテンションが上がっているようだ。

 

そしてなんと言っても、スリザリンが一位だった事でスリザリンのボルテージは最高潮に達した。

 

「ハッハッハッ!やはりスリザリンの方が優秀だった様だな!」

 

それがスリザリン生の総意だった、いや、一人だけマルフォイだけは何の意見にも賛同していなかった。

 

そんなスリザリン生の鼻を折る出来事がダンブルドアから発せられた、そう、今回の賢者の石騒動だ。

今回の騒動をこれ幸いと、ハリー、ロン、ハーマイオニー、この私に立ち向かって来たネビル・ロングボトム、そして私を全てグリフィンドールの加点対象にしたのだ。結果グリフィンドールがスリザリンを追い越し逆転勝利、まんまとタヌキ親父に騙されたのだった。

 

食事の際にこちらに視線を送って来たが知らんぷりをしておいた、代わりにハリーが何か反応していたがそれは知らん。

 

終業式も終わり私は一つやらなければいけない事がある、フラッフィーの移動だ。私はフラッフィーのいる隠し扉へ向かった。

 

「フラッフィーよ用意は出来たか?」

 

扉を開けるとそこには黒い犬が尻尾を振り待っていた。

その体は前の様に大きくは無くせいぜい3メートル程に小さくなっている、しかしその体は身体中の無駄を省いた様に引き締まり、頭には2本づつ湾曲した角が生えていた。

 

「ほぅ、中々良い成長をした様だな」

 

「うむ、以前の様に魔力を抑えるために大きかった体も上手くコントロールしておるな、アリシア様コヤツは私の配下に加えても?」

 

ギルバートも満足する様な進化の様だな

 

「アリシア様、私は成長し以前の様に傲慢な殻は破り捨てまして御座います、新参者の私ですがお願いしたいことがありまして…」

 

フラッフィーは少しもじもじしたようにこちらを見て来る

 

「何だ?言ってみろ」

 

「ハッ!恐れながら新しい名前を頂きたく!」

 

どうやらこの私の配下に加わるため、以前の様に弱い自分と決別の意味を込めて、私に名を付けて欲しいとの事らしい。

 

「ふむ、まぁ良いだろう」

 

私はエンペラーを一振りした、同時にフラッフィーの首には銀と金で飾られた豪華な首輪が嵌められる。

その首輪には《歩千》と彫られている

 

「おぉ、ありがとうございますアリシア様、して、この文字は?」

 

「これは東洋の島国、日本の文字で漢字と言う、元は中国から伝わった物だが」

 

実はアリシアは日本が結構好きなのである、部屋にはかの有名な富嶽三十六景の絵巻や五重塔の模型もある程だ。

 

「これは《ポチ》と読む、私と千の道を共に歩め」

 

アリシアの覇道を共に歩め、歩千は頭を床に着くほど下げて名を受け取った。

さて、次はとうとうハグリッドだな、まぁ荒れるって事だけは分かるが…。

 

 

 

 

 

「ダメだ!俺のフラッフィーを持って行くことは許さんぞ!」

 

案の定荒れた

 

「そこを何とかしてくれないかハグリッド?私と歩千はもう離れられる様な関係じゃ無いんだ」

 

「ダメだダメだダメだ!!!フ、フラッフィーは俺が小せぇ頃から大事に大事に育てたんだ!

ダンブルドア校長の頼みだったからこそあんな部屋に入れたが、本当は俺は大事なフラッフィーをあんな薄暗い部屋に入れたくなんか無かったんだ!」

 

「でもなぁー…」

 

ハグリッドの攻略に攻めあぐねる、どんな城や敵さえも瞬時に攻め落として来た私を困らせるとは、ハグリッド侮れん。

そんな事を考えていると、私のローブから何かが飛び出した

 

「あ、おいフィー」

 

それはまだ小さなヒッポグリフの子供だった、私の配下に入りたいと飛んで来たヒッポグリフの群れにいた子供だったが、羽を怪我しており私が引き取ったのだ。

親のヒッポグリフはもう昔に魔獣狩にあってこの世を去っていた。

 

「あ、アリシア、それはヒッポグリフじゃねぇか!」

 

ヒッポグリフのフィーはハグリッドのヒゲに飛びつき中へ潜って行った、どうやらあのヒゲが気に入ったらしい。

 

「何だお前、あ、おいグフフ、止めろ」

 

ハグリッドもフィーと戯れている

 

 

…30分後…

 

「アリシア、もし、もしもだけどこのヒッポグリフをワシに預けてくれるならフラッフィーはお前に任せる、その方がフラッフィーも幸せそうだしな」

 

「分かった、フィーお前もそれで良いのだな?」

 

フィーは羽をパタパタとしてハグリッドの周りを飛び回る

 

「よし、ではハグリッド、フィーを宜しく頼んだぞ、もしもフィーに何かあったら私は決して許さんからな」

 

ハグリッドはドンッと自分の胸を叩き任せとけ!と言ってフィーとの遊びを再開させた。

 

「では行くぞ歩千」

 

歩千は一吠えすると私の後に続いて来る、決して後ろは振り向かない、私の主人はアリシア様だけだと言う意思を込めて。

 

「フラッフィー!幸せになるんだぞ」

 

ハグリッドの言葉に背を向けただひたすらに歩む、この人、アリシア様の後ろを。

それから歩千にギルバートと同じく収縮呪文を掛け、手のりサイズのティーカップケルベロスに変えた。

ギルバートは全力で掛けて超大型犬サイズなのだから、歩千の成長が楽しみだ。

 

それからは電車に揺られ地元ロンドンに到着した。ハーマイオニーとは休みの間に会う事を約束し、その場を離れた。

私とギルバートは駅を抜け路地裏へ入った、今日は大事な手術があるから迎えには来られないらしい。

 

だったらギルバートに乗って帰れば直ぐに着くなーと思ったのが理由だった、それがこんな事になるとは。

 

 

 

 

 

俺の名前は紫藤 涼、室ヶ丘中学の二年生だ。

今日は修学旅行、今は亡き僕の父と母が出会った国イギリス・ロンドンに来ている。

 

俺は少しだけ、ほんの少しだけだがこの旅行を楽しみにしていた、父の付けていた日記にある母との思い出の場所、それらを見て回る事で父と母の事を思い出すことが出来るからだ。

 

「さてと、案の定スラれたな〜」

 

さて困った地図の入ったバッグを引ったくられた、友人には個人行動すると言って来たから誰も居ない、ついでに財布もバックの中だった。

 

「あー、これは困ったぞ」

 

取り敢えずどこか有名な場所に行ってみよう、誰かしら同級生がいるかも知れないし。

 

 

 

 

…20分後…

 

「そりゃそうだよな、地図も無くて知らない国を歩けばこうなるよな」

 

完全に道に迷った…。

おかしいなぁ〜、大通りを歩いてた筈なのにいつの間にか路地裏にいる、ここまで来ると自分の方向音痴加減を褒めたくすらなる。

 

「…!…?…!!!」

 

ん…?誰かの話し声が聞こえる。

こんな薄暗い路地裏にいる奴なんて絶対ロクでも無い奴に決まってる、ここは…三十六計逃げるに如かず!!!

 

俺は全力で反対方向に走った、そして前に明るい開けている場所を見つけた

 

「よし、助かった!」

 

先ほどまで薄暗いところにいたためか、激しく目が眩む。

 

「〜〜?」

 

何だ?誰か居たのか?

何か声を掛けられた気がする、日本語じゃないのは仕方がないがやはり分からないな。

 

「あー、えくすきゅーずみー、あいどんとすぴーく、えっとーいんぐりっしゅ」

 

「〜?〜〜!!」

 

目が慣れて来た、その声の主を見る。

太陽の光を反射しキラキラと光る銀髪、青く美しい瞳、触ればその瞬間に溶けてしまいそうな程白い肌、そして桜の様な薄紅色の唇は妖艶さを感じさせた。

 

「…美しい」

 

率直な感想が漏れてしまう、この人は何だ?神か天使か?

 

「ん?何だ日本人か…道理で英語も中国語も通じないわけだ」

 

突然聞き慣れた言葉が聞こえた、その声音は透き通り声だけで天にも登る聖歌にすら聞こえてくる。

 

「どうした?迷ってしまったのか?」

 

天使に声を掛けられた、明らかに年下の子にこんなにドキドキするなんて…。

 

「おい!」

 

「へ?あ、うん!そうなんだ!」

 

「そうか、確かにこの辺りは道が入り組んでいるからな」

 

少女は少し思案した顔になりつつ僕に手を差し伸べた。

 

「え?」

 

「道に迷ったなら仲間の元に連れて行ってやろう、それが日本人のココロイキだろ?」

 

悪戯っぽく笑うと彼女の表情はただ俺の心を撃ち抜いた、それからの事は良く覚えて居ない、きっと俺は相当惚けた顔で彼女と共に同級生に会ったのだろう。

 

同級生曰く、俺を同級生に預けると足早に去って行ったらしい。

 

「でもよー、なんなのあの子メッチャ可愛くね?」

 

「そうだよな、おいリョーあんな子とどこで会ったんだよ!」

 

同級生達からのからかいを他所にただ彼女の事を思い出す。

あぁ、もう一度会いたい、それだけが頭を駆け巡る。

 

その時彼女と出てきた路地の入り口に光るものが見えた、近づいて見るとそれはチェーンに繋がれた学生証だった。

 

「ボグワーツ魔法魔術学校

一年 グリフィンドール寮

アリシア・ボスフェルト」

 

「おいリョー!何見てんの?」

 

同級生の一人が横から覗き込む

 

「うわ!何て書いてんのかサッパリ読めねーわ」

 

え?何て書いてあるのか読めない?

俺はもう一度学生証を見る、そこには文字化けし始めている学生証の姿があった。

 

俺は急いで住所と必要事項をメモ帳に書き出した、書き終わると同時に学生証に書かれている文字は読めなくなってしまった。

 

「アリシア・ボスフェルト」

 

メモ帳に書かれた名前と住所を見て俺はある決意をした。

 

 

 

 

 

…その頃…

 

「あれ?おかしいぞ学生証がない」

 

「どこかに落とされたのでは?」

 

「多分な…まぁ認識阻害呪文が施されているから、マグルに拾われてもゴミにしか見えんだろ」

 

「そうですな」

 

ギルバートとアリシアはボスフェルト家の居城《テオボルト城》へと帰っていった。



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休暇

本当に久しぶりの投稿です。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません。

まぁ何はともより…お待たせしました再開します。


 薄暗い岩肌むき出しの巨大洞窟、ゆらゆらと揺れる蝋燭の灯りが辺りを怪しく照らし出す。辺りを見回せば所々隕石でも落ちて来たかのようなクレーターが広がり、洞窟の中心には真紅の鬼が地に伏せていた。

 

「デューク!お前まさか鈍っているのではないか?」

 

 銀髪と漆黒のローブを翻しその鬼に罵声を浴びせるのは〈魔王〉アリシア・ボスフェルト、久方ぶりの特魔省の自由組手でデュークから試合を挑まれたアリシアが完膚なきまでに返り討ちにしたのだ。

 

「グガァー!また負けましたか!」

 

「お主は死合いになると熱くなりすぎる癖がある、相変わらず変わらんなデュークよ」

 

 騒ぎ続けるデューク、それに冷静に先ほどの死合いでの改善点を上げているギルバート。

 デュークもギルバートから指摘された所を真剣に聞いていた。

 

「…あのデューク師匠をこうもアッサリと倒されるとは」

 

 そう呟くのはデュークの弟子となったデンホルム七世だった、その手に持つ弓は青蒼の大強弓〈パラディン〉ではなく、見るからに重そうな黒樫の弓を持っている。

 

「イタタタ…おぉデンホルムよ、今の死合いをどう感じた?」

 

 ギルバートの指導を終えたデュークが帰って来て床に座っていたデンホルムの横にドスンと音を立て座った、デンホルムはデュークへ飲み物を手渡し口を開いた。

 

「正直な所何も分かりませんでした、師匠の大太刀がアリシア様を斬ったと思った次の瞬間吹き飛んでいるのは師匠でした」

 

「ムフフフフ…そうか分からなかったか、あれはアリシア様がルシアーナ様だった頃からの極防魔法〈国守の盾〉自身の魔力を魔法陣に変換し、その魔法陣に様々な特効を付与するまさに絶対防御じゃ」

 

 デュークはニヤニヤしながら嬉しそうに説明している、しかし師匠の一撃をも楽に防ぐ魔法障壁だ、どんな奴ならあれを破壊出来るって言うんだ…。

 

「いや〜昔のルシアーナ様の敵は苦労はするがあの障壁を破壊してくる化け物ばかりだったからなぁー、結局最後はルシアーナ様とギルバート殿のお二人が決着をつけられておったわい」

 

 デュークは千年前の魔法大戦の事を思い出し一人頷いていた。

 

「じゃあ師匠なんか手も足も出ないんじゃ…」

 

「あん?なんじゃと?」

 

 デンホルムが聞こえないようにコッソリ言った独り言に目ざとく反応したデューク

 

「ハァーいいかデンホルムよ、戦いとは障壁で決着が着くものではない。相手の虚を突き崩すも兵法、そして戦術じゃ、確かにあの時代はこのワシも素の力では敵わん敵が山のようにいた。

 しかしそんな強者にも勝つ術はある、まぁこれからゆっくりと学んで行くんじゃな」

 

 そう言うとデュークはアリシアとギルバートに頭を下げ練武場を後にした

 

「…強者に勝つ…術か」

 

「次!デンホルム対ギルバート」

 

 アリシア様からの死の宣告にデンホルムはふらりと立ち上がった、目の前には子龍化したギルバート殿がいた、そうか私にはそれで十分だと言う事ですか…。

 

 デンホルムはゆっくりと練武場の中央へ歩く、まるで今から処刑される死刑囚の様に…

 

「始め!」

 

「ギャァァァァァァァァ………」

 

 …ギルバートは容赦しなかった。

 

 

 〜訓練後〜

 

「ギルバート、デンホルムはどう見えた?」

 

 訓練での汗を流すためシャワールームに来ていたアリシア、扉の前ではギルバートがタオルを尻尾に乗せ座っている。

 

「そうですなぁ、魔力の循環と消費は格段に効率化が進んでいると感じました」

 

「フフフッ、デュークが直々に教えているんだ当たり前だろう」

 

「しかしあのデュークが弟子を取るとは驚きましたなぁ」

 

「デュークと初代デンホルムは良きライバルだったからな、その子孫が貧弱なのは奴自身が許さんのだろう」

 

 アリシアにちょいちょいと尻尾を引っ張られギルバートはタオルを渡す、アリシアはそのタオルでお湯に濡れた体を拭きながら続けた

 

「だがアレクシアはどこへ行ったんだ?」

 

「それが、イギリスの最大コロニーを吸収しに行った後から連絡が途絶えたとの事でした」

 

 ふむ、この時代にアレクシア程のものをどうにかできる猛者なんて居たのか?

 

「して、救助はどうなっている?」

 

「連絡が途絶えて直ぐデュークが捜索隊を連れ向かったそうですが、コロニーは見つかったものの既に焼け焦げもぬけの殻だったそうです」

 

 ふむ…アレクシアはどこへ消えた?野良の人狼達がアレクシアを捕えて何かメリットはあるか?

 

「分かった、明日にでもその地に赴いて情報収集でもするか」

 

「そうですな、デュークの奴が変な気を使ってアリシア様に報告を遅らせたのが何より悪い」

 

「まぁアイツの事だ、私に教え子の学校を堪能させたいとか考えての事だろう」

 

「しかしですなぁ〜」

 

「くどいぞギルバート、それとも何か?私にはアレクシア一匹所か何百もの同胞も見つけられないと言っているのか?」

 

 ニヤリと笑うアリシアにギルバートは最早何も言わなかった、この方が見付けると言って見つからなかった物は無かったな。

 グリフィンドールの消しゴムとかスリザリンの拾ってきた蛇とかハッフルパフの指輪とかレイブンクローの本とか…ん?本当に大丈夫だろうか?

 

 シャワールームから出たアリシアはそのままバスローブを巻いて母の作った料理に舌鼓を打ち、父の仕事での愚痴を聞き夜が更けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 〜アレクシアサイド〜

 時間は巻き戻りアレクシア失踪日

「アレクシア様!前方の山脈にはぐれ人狼を発見しました!!!」

 

 一人の黒装束を着た兵がアレクシアへ報告に来た、アレクシアは目の前に広げられた山脈の見取り図に印を書き込んでいた。

 

「コロニーはどれ程の規模ですか?」

 

「ハッ!第1斥候隊10名が追跡中であります、現段階で70~90規模と見られております」

 

 70~90名ですか…今まで20~35名規模だったですけど多いですね、さすがはイギリス最大のコロニーですねぇ。

 

「我が軍の総数は?」

 

「ハッ!人狼部隊が300名、ケンタウロス族が200名、巨鬼族が100名、総数600名になります」

 

 成る程、約6倍ですか…まぁ負ける事は無さそうですね。

 

「斥候部隊に伝令、私たちに戦闘の意思は無いことと我々にはあなた方を救う手立てが有ることを伝えてください」

 

 直ぐ様伝令に伝えるため人狼が天幕から出ていった、私はまた地図に向かいにらめっこを始めた

 

「…何だか嫌な予感がしますね」

 

 そんな思いを抱いていた時、それはやって来た。

 

 ドッゴオォォォォォ!!!

 

 突然アレクシアのいた天幕が激しく揺れた、急いで外に出たアレクシアが見たものは燃え盛るはぐれ人狼達のコロニーだった。

 

「何事ですか!」

 

「ただ今はぐれ人狼のコロニーが何者かに襲撃を受けました!敵の数は未定!恐ろしく統率の取れた動きで未だ敵の把握をしきれておりません!」

 

 アレクシアが吠える、するとすぐ側に控えていた副官《ギンザ》が答えた

 

「今すぐ救助に向かいます!全兵に変身を許可する、これより特魔省《アレクシア》の名の下に命令を変更!第一目標をはぐれ人狼救出、第二目標索敵並びに敵対の意思を確認後排除する!」

 

「「「ハッ!!!」」」

 

「散れ!」

 

 アレクシアの号令のもと全兵士がファイブオンセットで動き出す。

 

「ギンザ、あなたを前線の指揮を任せます、動きがあり次第自分の判断で動きなさい」

 

「いえ、私にはアレクシア様の護衛という任務が…」

 

「行きなさいギンザ、あなたは守るより攻める方が好きなのは知っています」

 

 柔らかなアレクシアの笑顔にギンザは鼓動が早くなるのを感じていた

 

「ならば直ぐに鎮圧して戻って参ります、アレクシア様は後方にてご覧ください」

 

 ギンザはアレクシアの前で片膝をつき、右手を自身の胸へと軽く添え最敬礼を送るった。

 アレクシアが頷くと漆黒の影が燃え盛るコロニーへ消えて行った。

 

「それにしてもこのタイミングで襲撃とは、全く…嫌な予感というものは当たりますね」

 

 燃え盛るコロニーを見ながらアレクシアはため息を吐き…

 同時に赤槍がアレクシアの心臓を貫いた。



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じゃじゃ馬姫

「あぁ…乾く、乾いた…喧騒、血飛沫、断末魔、悲鳴、死臭、阿鼻叫喚の世界」

 

革張りの王座にふてぶてしく座り黒髪の少女は一人呟く、いや…辺りには死んだ様な瞳で俯き、膝を折り動かない黒いローブに身を包んだ者たちがいた。

 

「なぜ…何故なのですか我が王よ、我が絶対の王、あなたの為に私はこの身を捧げてきた、あなたの為なら日に焼かれようとも喜んであなたの隣を歩く。

あの黒トカゲや弱い赤鬼、木偶の坊に青馬よりもあなたを慕っている…なのに、なのになのになのになのになのになのに!

私を側に置いては下さらなかったのは何故!!!!!!!!」

 

突如として地面から紫炎が吹き出しす、黒ローブ達は僅かに体を震わせる。

紫炎は王座から這う様に床に広がる、何人かの黒ローブが炎に包まれた、声にもならない断末魔をあげ瞬間灰に変わった。

 

「あぁ、足りない、足りない足りない!!!!!!!」

 

瞬間、紫炎が王座の後ろに描かれた肖像画に触れ、それをほんのすこし焦がした。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、熱くありませんでしたか?お怪我はございませんか?申し訳ありません、私の命にて償わせていただきますうぅぅぅぅ!!!」

 

紫炎の消えた肖像画に縋り付きひたすらに謝罪を繰り返す、肖像画は何も言わずただ微笑むだけ

 

「あぁ、私は何てことを、私の王を燃やすとは…」

 

少女は腰に携えた黒刀を抜くと躊躇わず腕を切り落とした、飛び散る血飛沫が雨の様に降り注ぐ。

少女が自身の血で赤く染まった頃部屋の大扉が開いた。

 

「…はぁ、今度はどうしましたお嬢様?」

 

「グレイ、私…炎で王の写し身を焦がして…もう死ぬしかないわよね」

 

黒いタキシードに身を包んだ男グレイはチラリと巨大な肖像画を見た。

あぁ〜…縁の方は確かにほんの少し焦げている、しかし大事な御身には焦げ跡どころか傷一つない。

 

「ご覧下さいお嬢様、王の身には塵一つ付いておりません…むしろ王の猛々しいオーラが下の焦げ跡から滲み出る様ではありませんか!」

 

「…本当?」

 

潤んだ瞳でこちらを見上げてくる小さき少女

 

「えぇ!私はこちらの肖像画の方が断然凛々しく!力強く!何より美しく見えます!」

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫です!」

 

「王はお怒りにはならない?」

 

「きっとなりません!」

 

「そっかぁー」

 

「そうですとも!」

 

少女は愛すべき王の肖像画に身を委ねた

 

「…王に…会いたいなぁ」

 

「そうですな、彼の君は突然いなくなられましたね」

 

「もう一度だけで良い、あの方に触れられなくても良い…ゴーストでも構わない、あの人のお姿をもう一度だけでも…」

 

少女は肖像画に頭を押し付け涙を流す、グレイはそれをただ眺めることしか出来なかった。

何年も何十年も何百年も見続けていた、そして今日もただ少女を見ることしか出来なかった。

 

「…クソッ」

 

自分の不甲斐なさが嫌になってくる、主人が悲しんでいるのに気休めしか言えない…。

主人が探す彼の君の痕跡を死に物狂いで探したが、私ごときでは霧に閉ざされた森に入る事すら叶わなかった。

いや、例え入る事が出来たとしても彼の君を守る魔竜ギルバート殿に阻まれ御目通りは叶わないだろう

 

「何故にお姿を隠されたのですか、ルシアーナ様!」

 

《ッッッッツ!!!!!!!》

 

突如グレイの体を何か目に見えない巨大で鋭い物が貫いた、いや実際には起こってはいないが、そう錯覚するほどの衝撃が走ったのだ。

 

「こ…これは…」

 

グレイは思わず部屋のバルコニーへ出た、遥か西…何かは分からないが巨大な魔法が行使されている。

夜の闇に閉ざされることのないその真紅の瞳でも、見通す事の出来ないほど遠くから感じる果てしないプレッシャー

グレイはそれを見に染みて味わった事がある。

 

「…カッカッカッ」

 

後ろから聞こえてくる一定のリズム、黒髪の少女がヒールを響かせグレイの隣へ来たのだ。

その表情は恍惚として久しく見ていない妖艶な笑みをはらんでいた。

 

「黒トカゲが暴れているわねぇ〜、それも本気の様よ…」

 

「黒トカゲ…国崩し《ギルバート》ですか!!」

 

巨大な四翼の翼を持つ今は亡きルシアーナ様の愛竜にして、魔法界の均衡を保つ者。

太古のドラゴン狩りで絶滅したとされる龍王種の最後の生き残り。

 

「あやつが本気を出すとなれば、巨人族の長《凶棍のサレバス》巨鬼族の長《紅鬼神デューク》とケンタウロス族の長《神弦者デンホルム》の二人、後は…我が主人、吸血鬼族の姫長《喑血姫ティーナ》様位では?」

 

「フンッ、私とただの木偶の坊のサレバスを同率にしないで欲しいわね!アイツなんて魔法耐性が高くて馬鹿力なだけでしょ!

それにデュークとデンホルムなんて二人でじゃないと何も出来ない只の雑魚だしね」

 

あれ?確かサレバス殿とは引き分けている筈では…デューク殿とデンホルム殿には確かに勝ち越していた気はするが…?

 

「あ?なんか言った?」

 

グルンと勢いよくこちらを振り向くティーナ様に、より早いスピードで首を横に振る。

 

「まぁ良いわ、あのトカゲが本気を出すと言ったら数は絞られるし…」

 

ティーナは未だ床に伏せる何人もの黒ローブ達に向かい、高らかに命令を下した。

 

「さぁ、私の可愛い下僕たち…西へ向かいトカゲが何と争っていたのかを調べて来なさい」

 

その命令と共に跪いていた黒ローブ達は一斉に部屋の窓から外へ飛び出した、先程紫炎に焼かれていた者も何人か立ち上がり後を追う。

 

「黒い翼はためかせ、夜の貴人は空で舞う…赤い血潮をその身に浴びて、我が望むは世の混沌」

 

ティーナはグレイが用意したバルコニーでの夜を過ごした、ワイングラスに注がれた赤い液体をクルクルと回し、乾いた喉へ流し込み明るく煌めく月を見ていた。

 

ワイングラスに注いだ後、月を見ながらグレイはひたすらに我慢していた……いや!窓からじゃなくて扉から出てけよ!!!

 

 

 

〜数週間後〜

 

「ティーナ様、朝です起きて下さい」

 

グレイは朝早くティーナの寝室へ向かった、ティーナを起こすのもグレイの大切な(命懸けの)仕事なのだ。

グレイがノブに手を掛けた瞬間、激しい衝撃と共に扉もろとも吹き飛ばされる。

 

「〜ッ!まだ眠いのー!」

 

ガラガラと崩れた壁と扉の間から這い出るグレイ、そこには何百年何百回と繰り返されたからこそ立てるプロの姿があった。

 

「眠くてもダメです、だから昨日夜更かししないように言ったんじゃないですか!」

 

「だって昨日の夜は眠く無かったんだもん…」

 

「いいから起きて下さい!」

 

グレイが部屋に入った瞬間、目の前を覆い尽くす紫の閃光。

 

「ック!」

 

咄嗟に左へ飛び避けた。

しかし、そこにはこちらに逃げる事を予見したかの様な設置型魔法陣が…

 

「…死んじゃえ〜〜」

 

「死ぬかボケェ!!!!!!!」

 

魔法陣を踏む瞬間、グレイは足は全力の魔力操作を行った。

起爆と同時に爆発した威力と同等の魔力で相殺する。

 

「ちぇ、また死ななかったか…」

 

グレイは激しい土煙の中から、ゆっくりとした足取りで出てきた。

 

「…ティーナ様、毎回申し上げていますが何故私を殺そうとするのですか?」

 

「だから〜、ひ・ま・つ・ぶ・し!」

 

黒髪の少女はベットの上で少し傾げながらウインクを飛ばす、グレイの深い溜息と共に今日もつまらない1日が始まる。

 

「ねぇグレイ、今日の予定は?」

 

「はい、先ずお昼に東方妖魔連合の方々との会食があります。その後夕方から領地内の視察を行い、帰城後書類の整理等がございます」

 

どこから取り出したのか分からない黒いメモ帳を片手に、グレイはスラスラとスケジュールを読み上げた。

 

「ふぅ、今日も来るの妖魔連の奴等…」

 

「奴等も必死なのでしょう、ギルバート殿の逆鱗に触れ一度は壊滅まで追い込まれてましたから」

 

「あれはアイツらが悪いわ、事もあろうにフランディール様の御身が眠られているという森へ兵を差し向けるなんて暴挙を行なったのだから」

 

「そうですね、奴等としても彼の君が持っていた奇跡の数々がどうしても欲しいのでしょう。」

 

そう、彼の君が恐れられて来たもう一つの理由。

天才という言葉では片付けられないほどの魔道具開発能力、それさえ手に入れられれば今の世界など根本から変えることのできるほどの力。

 

「はぁ、私が王の力を妖魔連如きに渡すはずが無いとは思わないのかしらねぇ?」

 

「東方では人外と魔法省の戦いが続き、その被害は妖魔連の方が甚大との事ですから。

何かしらの反抗策が欲しい、と言うのが願いでしょう」

 

「そんなたわいも無い戦いに我が王の力を使おうとは、いっそ私が滅ぼしてやろうかしら‥?」

 

ティーナは眠そうに瞼を擦りながら不穏な事を口走る。

まぁ、そんな事をしようものなら、国崩し殿が黙っている筈が無いため未だ実行には移していないが‥。

ギルバート殿の役目は魔法界の均衡を保つ事、東方の戦いに干渉するのは自然の摂理に反する。

彼らは自分達でこの戦争を止めねばならない、それが出来ず戦火を広げようものなら本当に国崩しが動くだろう。

 

「まぁいいわ、所で黒トカゲが何と争ったかは分かったの?」

 

ティーナは興味を失ったのか、最近の習慣になっている質問をして来た。

 

「はい、放った影達の報告では彼の君がいらっしゃるとされた霧の森から国崩し殿が消えたとの事です。

同時に辺りは地面がガラス化する程の破壊痕があったと、それと同じ場所から銀色の髪が何本か見つけられ、争ったのはこの銀髪の方かと推測されております。」

 

瞬間、グレイの背筋が凍った。

ティーナが怪しい笑みを浮かべている。

 

「へぇ〜、黒トカゲと争った謎の銀髪

それと同時に姿を消した黒トカゲ‥‥、何か面白そうな事が起こっているわね」

 

あぁ、これは悪い癖が出ているな‥

 

「あと、あくまでも情報に過ぎませんがイギリスの方ではぐれ人狼のコロニーが目に見えて少なくなっていると。

それと同じく、人狼の暴走事件が激減しているとも聞きます」

 

「ん?はぐれ人狼の激減?仲間同士での殺し合いでもしているのかしら‥」

 

私も最初はそう思った、だが

 

「人狼のいなくなったコロニーを確認した所、人狼族以外に多くの足跡を発見しました」

 

ティーナの顔が思案に入った、1分程だろうか俯いていた顔を唐突に上げた。

その顔は自分でも疑問に思っているような雰囲気だ。

 

「‥でもそんな事、誰かがいる?あいつらを纏められるような者が?

情報が足りないわね‥。

グレイ今残ってる中で、最大規模のコロニーはどこ?」

 

「は、おそらく惑わしの森に住む者達のコロニーかと思われますが‥?」

 

その答えを聞き、姫は楽しそうに微笑んだ。

 

「よし!じゃあ今夜そこへ行くわよ、誰が何の目的で人狼を狩っているのか確かめないとね!」

 

やはりこうなったか‥。

目の前で、ニコニコと楽しそうに微笑み続けている主人を見て、グレイは頭を抱えた。

 

「もしも、魔法界に仇なす存在ならば、暗血姫ティーナの名において滅ぼさなくちゃね!」

 

貴方はストレス発散したいだけだろ!

忠実な執事は、そんな気持ちをそっと胸の奥に仕舞い込んだ。

まだ見ぬ人狼襲撃者達に襲い掛かる不幸を確信しながら。



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王たる者

 静かな夜だった。

 

 辺りは漆黒に包まれ、微かに聞こえる風の音が私を安心させる。

 

「あの方に会ったのもこんな夜だったな‥。」

 

 あの頃の私は1人だった、生まれついて同胞達と大きくかけ離れた力を持っていた。

 周りよりも力が強く、大人達が悩むことも私には何故そんなことも分からないのか?逆に分からなかった。

 襲われる同胞を助け、知識の無い者には知識を与えた。

 彼らは私を姫と呼び始め、同胞達だけの国が出来た。

 しかし、何時しか一部の同胞は私を恐れ始め、あの日に全てが壊れた。

 

 私は何時もの様に、侍女となった者達から寝酒を貰い趣味の読書をし、疲れて来た為眠りにつこうかと、ベットに入り夢の中に落ちかけた時、それは起こった。

 

《バアァァァン!!!》

 

 突然の爆発音、私は何事かと飛び起きた。

 窓の外を見ると、剣や槍、杖を掲げた謎の集団が私達の城に雪崩れ込んでくる様が見えた。

 

《バンッ!!》

 

 寝室の扉が開かれた、目の前には血だらけの者が息を切らしながらこちらへ歩いてくるのが分かった。

 

「グ、グレイ‥?」

 

 それは何時もの黒のタキシードに身を包み、黒髪をオールバックに纏める眼鏡の紳士ではなかった。

 

「‥ひ‥姫さま、お逃げ下さい、反乱です。

 敵は我々の兵を大きく‥上回る軍勢、流石の姫さまでも勝ち目はございません」

 身体中に傷を負い胸元は更に大きく切り裂かれていた、髪は所々焼け、トレードマークのメガネは無いボロボロの従者。

 

「な、何で‥?

 そんな、みんなで仲良くしてたじゃ無い‥、何が‥どうして‥?」

 

「‥どうやら複数の氏族が秘密裏に同盟を組んでいた様です、城内部にも内通者がおり、さらに施された防衛魔法を無力化されました。

 奴らの狙いは、姫さまの真相たる血かと‥グアッ!!!」

 

 突然グレイの腹部から鋭利な槍が突き出した。

 同時に、何人もの兵士が部屋に雪崩れ込む。

 グレイを刺した男が槍を引き抜き、私の前へ出てきて吼えた。

 

「真祖ティーナ!貴方の時代は終わったのだ!!

 この国は大きくなった、どこの国にも負けない吸血鬼の為の国となった。

 しかし、貴方は人間を襲うな、誰とも争うな等と腑抜けた事ばかりをおっしゃる、我等は吸血鬼、夜を支配する王だ!

 誰と争おうとを負ける道理など有りはせぬ!」

 

 よく顔を見れば、私達の国の近衛隊長だった。

 彼はニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべながら、未だ尚吼え続けている。

 私の頭は真っ白になり、何も入ってはこない、ただ一つだけ分かったことがある。

 

「私は‥裏切られたのね‥。」

 

 ポツリと幼い少女の声がやけに部屋に響いた。

 

「グッ‥グオォォォォーー!!!!」

 

 死に体になっていたグレイが起き上がり、真紅の光を近衛隊長へ浴びせる、直ぐ様身を翻し、近くにいた兵士4人を吹き飛ばす。

 

「グレイ!!」

 

 ティーナは瞳に喜色を滲ませた。

 しかし、グレイは振り向かず静かに何時もの調子でティーナへ語り掛けた。

 

「姫さま、私を暗い夜から暖かな火が灯る夜へ導いて下さったのは貴方です。

 貴方は何も間違っておりません、私が貴方の頑張りを見ていました。

 後悔しないでください、ご自身をお責めにならないで下さい。」

 

 ゆっくりとした口調だが、力強くティーナへ語りかける。

 

「死に損ないが!貴様一人に何ができると言うのか!

 いつも邪魔ばかりしおって!」

 

「確かに私では貴方には勝てないでしょう、正直立っているのもキツイところではあります。

 しかし、執事とは‥主人を守り!支え!時に導き!

 いかなる時に置いても主人の道を妨げる者を許さない!!!!」

 

 グレイの背から黒い羽根が生え、それがティーナの姿を正面から隠す。

 ゆっくりと後ろを振り向き、小さな主人と同じ目線になる為跪き、主人の顔を見て優しく微笑む。

 

「ティーナ様、我が愛しき主人よ、ここは執事の仕事です。

 私の仕事を取らないで頂けますか?」

 

 何時ものふざけている様な口調で、そう話すとグレイは立ち上がり近衛隊長へと向き直った。

 髪を手早く自身の血でオールバックに纏め、焦げたタキシードの襟を正す。

 

「何人たりともここを通ることは許されません。

 我が主の目通り叶いたくば、私の屍超えてゆけ!!」

 

「グレイ!ダメだよ!

 死んじゃう、私は大丈夫だから!」

 

「貴方はいつもお優しい、今回だけはそのご命令はお聞きすることは出来ません、ご理解下さい。

 さぁ、姫様は行ってください。

 私は少し‥掃除が残っておりますので、また‥お会いしましょう。」

 

 グレイは手早く主人を抱くと、失礼しますと一言言い割れた窓から漆黒が支配する外へ投げた。

 ティーナは翼を広げ、飛び上がり、後ろを振り返る。

 

 そこには崩壊していく、炎に包まれ崩壊していく自身の城が見えた。

 一つの部屋では、未だ、時折真紅の閃光が迸っていた。

 

 ティーナは溢れ出る涙をそのままに、未だ漆黒の夜空へ飛び立った。

 暫く、城の崩壊の音と共に魔力の波動を感じていたが、城が見えなくなる頃、その気配は消えて行った‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは地獄だった、近くの町に潜り込んだ時は魔導板にティーナの顔がお尋ね者として載っていた。

 長くはいれないと町を転々とし、獣の血で生き延びた。

 2ヶ月は経っただろうか、とうとう限界が来た。

 森の中で一歩も動けなくなった。

 ティーナは分かってしまった、ここで終わりなんだと、死にかけの獲物の匂いを嗅ぎ付けたのか、辺りには獣の気配がして来ている。

 周りを囲み、ゆっくりと輪を縮めて来ているのがわかる。

 

「グレイ‥ごめんね‥。」

 

 獣の姿が見えた、地面に倒れ伏す少女を見て、獣達は唸りをあげ、飛び掛かった。

 少女はゆっくりと目を閉じ、その時を待った‥が、訪れなかった。

 

「大丈夫か?」

 

 目を恐る恐る開ける、そこには神がいた。

 月の光に反射する美しい銀髪、見る物を魅了する吸い込まんばかりの青い瞳。

 

「‥だ、れ?」

 

「ふむ、至極当然の質問だな、我が名はフランディール•ルシアーナ世界の王だ」

 

「世界の‥王?」

 

「うむ!まぁまだなってはあらぬがな‥。」

 

 軽く微笑み、自信満々に言ったその瞳は当然の事を言っただけだと物語る。

 その時、森の奥から果てしないプレッシャーを感じる。

 

「何か‥、来る」

 

 震える声でティーナが呟くと、ソレは姿を現した。

 フワフワとした漆黒の二対の翼とは裏腹は凶悪な爪、口元からは他の様なものが垂れ、その口には3メートルはあろうかと言う巨大な魔牛が力無く咥えられていた。

 

「龍王種‥」

 

「ほぉ‥、知っているか」

 

 昔にグレイから聞いたことがある、遥か昔龍が多く存在した時代にその中でも抜けた力を持った種があったと。

 それが龍王種。

 

「だけど、もう絶滅したんじゃ‥」

 

「絶滅したのではない、一匹を除いて絶滅させたのだ」

 

 黒龍は大地が震える様な声で、そう告げた。

 

「この私と同格というのがどんなものか試したくてな、まぁそれなりには楽しめたわ」

 

 その言葉を最後にティーナの意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたのは、美味しそうな匂いを感じてだった。

 

 木製の簡易なベットから身を起こすと、キッチンの様な所で料理をするあの女性が見えた。

 

「やぁ、起きたんだな、もう少しで食事ができるからまだ寝ていなさい。」

 

 こちらに気づいた女性、ルシアーナ様はそう言って鼻歌混じりに料理を作ってくれた。

 

「さぁ、大したものではないが食べてくれ!」

 

 ‥うん、確かに大したものではなかった。

 

「い、頂きます‥。」

 

 スープを口に運ぶ、普通のごくありふれたスープの味がした。

 何故だか涙が止まらなかった。

 

「何があったかは無理に聞こうとは思わない、ただあの状況でよく頑張ったな」

 優しく頭を撫でるルシアーナ様、それだけで私の心は軽くなった気がした。

それから2.3日して、不思議と私はあったことを話してしまった。

安心してしまったのだろうか、不用心にも全て‥。

話ししている間、ルシアーナ様はただ無言で話を聞いてくれた。

時折頷き、話終わった私を優しく抱きしめた。

 

「ありがとう、辛いことを話させてしまったな」

 

 また涙が出て来た、グレイと離れ2ヶ月半、彼はどうなったのか、城の民たちは無事なのか、ずっと考えて来た思いが溢れて来たのだ。

 

「お前はどうしたい?復讐したいか?裏切った者達へ制裁という名の死を与えるか?」

 

 ティーナは瞳に力を宿した。

 

「そんな事は思わないです。

ただ‥私の、大切な人達を救いたい‥」

 

 ルシアーナ様はゆっくりと頷いた。

 

「ギルバート、全軍に招集の通達をしろ!仲間を救いにいくぞ!」

 

「ハッ!!」

 

 状況をよく飲み込めてない私を他所に、ルシアーナ様は微笑んだ。

 

「お前の望み聞き届けた、後は私に任せなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは早かった、2日と立たずに目の前には数万の多種族が集結した。

森林の王巨鬼族、森の護人ケンタウロス族、怪力無双巨人族

数々の強者たちが続々と集ったのだ。

 

「一体何が起こってるの?」

 

 チンケな森のボロボロな小屋を囲むその軍勢はただ静かに、命令を待っていた。

ティーナが自分の後ろを見ると、黒いローブに見たことのない紋章を付けたルシアーナ様がいた。

軽くティーナの頭を撫でると、しっかりとした足取りで小屋を出て行った。

同時に、軍勢が跪く。

 

「みな、よく集まってくれた。」

 

()()()()()()()()()()()

 

 森が震える。

強力な種族が一人の魔法使いの前に跪く、異様な光景だった。

ルシアーナだけは堂々とした足取りで中央に佇む。

 

「我らの仲間が、苦しんでいる。

私は助けに行くことを決めた!異論はあるか!!」

 

()()()()()()()()()()()

 

「全軍出撃!!!!」

 

 ルシアーナ様の号令と共にドラゴン族が空へと舞い上がる。大地を揺らし、すべての種族が私の城へと足を進めた。

 

「ティーナ、お前も来い!共に救うぞ!」

 

 私は震えた、この人はなんて明るいのだろう。私は差し出された手を取り共に、彼方へと向かった。

 

 風が吹き荒れる夜、戦いはギルバートの宣戦布告にて始まった。突如空に現れた、巨大な黒龍は布告と同時に巨炎を持って敵に大きな被害を与えた。

 

 クーデターを起こしたのは近衛隊長だった様だ、修復したばかりの城門を、力ずくで粉砕した巨人族の後を、巨鬼族が我先にと殺到する。

驚異的な回復力を持つ吸血鬼だったが、圧倒的な破壊力を誇るフランディール軍にはなすすべなく崩壊した、そう思われたとき。

 

「軍を引けーーーーーい!!!!」

 

 篝火の灯された城のベランダには、近衛隊長がボロボロになった、赤い何かを掴んで叫んだ。

 

「フランディール•ルシアーナ殿とお見受けする!何ゆえ我が国を侵略した!まぁ何となく理由は分かっておるが!」

 

「分かっているなら是非もない!即刻武装を解除し、投降せよ!さすれば命は助けよう!」

 

「フンッ!そこの元王の甘言に騙され軍を率いるなど、かの有名な強王とは思えぬな!」

 

「投稿するつもりがないというなら、攻め滅ぼすのみよ!」

 

 ルシアーナ様が再度軍を進めようとしたそのとき

 

「これが何がわかるか!?」

 

 近衛隊長は赤い何かに剣を突き刺した。

 

「グァ‥!」

 

 小さいながら確かな声が聞こえた。

 ‥グレイ。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ティーナは我を忘れ飛び出した。

しかし、そんな私の腕をルシアーナ様は掴んだ。

 

「離して!!グレイが!!グレイがぁぁ‥!!!」

 

「静まれ馬鹿者が!!王たる者何事にも動じてはならない!それが血を分けた家族であろうとも王は王たらねばならない!それが宿命だ!」

 

「離せぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 ティーナの魔力が高まるが、ルシアーナは軽くそれを散らした。

 

「お前が熱くなってどうする、それが狙いと気づけ馬鹿者め、私は何と言った、お前の願いを聞き届けたのは誰だ!私を誰だと思っている!」

 

 そう話し、ルシアーナ様は私の目をしっかりと見つめた。

 

「私はフランディール•ルシアーナ、お前の願いを聞き届けた、それは何があろうとも誰が相手でも違えぬ‥」

 

 そっと頭を撫で、私に言った。

 

「デンホルムよ!私の言葉を嘘にするなよ!」

 

「お任せください我が王よ、我が蒼弓にて必ずや‥‥!」

 

 ゆっくりと歩みを進めるケンタウロス族の長、腹部にある巨大な弓を引き絞る。

 

「嘘、まさか‥ここから?」

 

 ざっと見ても700メートルはある、しかも相手は30メートルはあるベランダの上、周囲は嵐、こんな悪条件で狙撃など‥。

 

「青蒼の大強弓《パラディン》よ、その力を王に示せ!」

 デンホルムが持つ弓が蒼い光を放つ

 

「蒼雷魔法《雷雪》」

 

 静かに放たれた矢はその挙動とは裏腹に周囲に轟音を響かせた。

 

 ガアァァァァァン!!!!

 

 放たれた矢は城を中部を覆う防衛障壁に衝突、しかしそれを容易く貫き近衛隊長の喉元へ突き刺した。

 

「ばか‥なぁ‥‥」

 

 近衛隊長はビクビクと痙攣し、動きを止めた。

 

「殺ったのか?」

 

 ルシアーナ様の言葉にデンホルムは

 

「いえ、峰打ちでございます」

 

 と、恭しく跪き答えた

峰打ちって‥刺さってるんだけど‥。

 

「よくやったデンホルム、褒美を使わす」

 

「なれば、これからもお側に置いて下さりますれば、何よりの褒美でございます。」

 

「うむ、頼むぞ」

 

「ありがたき幸せ!」

 

「さて、ティーナ、忠臣を迎えに行くぞ」

 

 なんて凄い人なんだろう、私も、こんな方になりたい。

「はい!!!」

 

 ルシアーナの後を追い、私は城へと向かった、途中の城下町ではティーナの顔を見た民たちが歓喜をの声を上げていた。

 

「ティーナ様万歳!ルシアーナ様万歳!魔王様に栄光あれ!!!」

 

 民たちはティーナの帰りを待っていてくれた様だ、聞こえて来た話によると、何度も民たちの暴動が起こり、この国は回らなくなっていた様だ。

 

 私にまだ居場所はあったのだ。

 

 ベランダへと駆けると、そこには横たわったグレイがいた

 

「グレイ!!!」

 

 私はそっと抱き上げる、最後にあった時より全身に傷が増えていた、吸血鬼なら回復力でも癒しきれない肌の傷、どれほどの苦痛を味わったのだろう。

 

「ごめんね‥ごめんねグレイ‥私が、弱いばかりに‥。」

 

 そう言い、涙を流す私。

すると頭に何かを感じた。

 

「ティ‥ナ‥様、ご無事‥で、何よりです、また‥お会いできて、良かった」

 

 グレイは血まみれの顔で優しく微笑んだ。

 

「また‥泣いて‥おられるのですね、‥お一人にして‥申し訳ございませんでした‥」

 

「ううん!ルシアーナ様が!皆さんが助けてくれたから!」

 

 グレイはティーナに抱かれたまま、頭だけ動かし周りを見た。

 

「動くな、今癒してやる守癒魔法≪極癒光≫」

 

 温かな光に包まれ、グレイの傷は治って行った。

 しかし、ルシアーナの魔法をして、深い呪い傷は残ってしまった。

 

「これは‥!ありがとうございます。貴方様は?」

 

「我が名はフランディール•ルシアーナ、この世の王だ」

 

 グレイは立ち上がり、魔法を使い服と身なりを直ぐ様整えた。

 

「私は、こちらにいらっしゃいますティーナ様の執事のグレイと申します。この度は我が主人へのご助力感謝申し上げます。」

 

 美しい礼と共に感謝を述べるグレイ。

 しかし、周りは少しピリついた雰囲気を醸し出した。

 

「我らが王の前で立って礼をするなど不快なり‥」

 

 デンホルムは蒼弓に手を伸ばす。

 

「控えろデンホルム!」

 

 ギルバートは自身の王の意を読み取り、デンホルムへ吼えた。

 

「それで良い」

 

 ルシアーナも満足そうに頷く。

 

「さて、今回の戦だが、成功の報酬を決めていなかったなティーナ‥」

 

「ふぇっ‥あ、そうですよね‥申し訳ありません、勿論です‥お望みとあらば私の命でも‥」

 

「馬鹿者が!何度言わせる王たる者周りに常に気を張れ!王同士の話だ、お前が死ねばその民はどうなる!」

 

 また、怒られた‥

しかし、その通りだった。

 

「申し訳ございません‥」

 

「それに後ろを見てみろ、お前の番犬が今にも飛び掛かって来そうだぞ?」

 

「え?」

 

 後ろにはいつもと同じ様な顔をしながら、魔力を爆発させているグレイの姿があった。

 

「失礼しました。」

 

 スッと魔力を引っ込めると、いつも通りの表情へと変わった。

 

「フフッ、我を前にその魔力を出せるなど中々の忠臣ではないか、見事だ!」

 

 この人はなんで、殺気を当てられて喜んでいるのだろう‥?

 

「で、報酬の件だが‥私達と同盟を結ばないか?吸血姫ティーナ殿」

 

「同盟‥ですか?」

 

「その通り!我々は‥‥〜」

 

 それから私と、ルシアーナ様は未来について語り合った。

これからどんな国を作りたいのか、その為になすべき事、障害について。

 

「分かりました、吸血姫ティーナの名において、ルシアーナ様の夢を共に追わせていただきます!」

 

 こうして、私達吸血鬼族と、ルシアーナ軍は同盟を結んだ。

 

「そう言えば、お前の国の名は何なのだ?それだけはまだ聞いていなかったな‥‥。」

 

「あ、そう言えば‥私たちの国は‥黒夜国《ナイトメア》です!」

 

 そこから私とルシアーナ様は何度も共に戦った。

ルシアーナ様から魔法を教わり、持ち前の才能を遺憾なく発揮しギルバート《黒トカゲ》には後一歩の所まで迫った事もある。

 

 そして、少しでもルシアーナ様に近づく為口調も似せてみたり、態度も似せたりした、笑った体力バカとデンホルム、デュークとは大喧嘩した。

 

 それから、グレイは私に親しげに話しかける様になった‥時々口が悪くなる‥。

 腹いせに、寝起きに様々な罠を張るようにしたりもしてやった。

とても充実し、楽しく忙しい毎日だった。

 

 等々、ルシアーナ様は世界の魔法界を統一され、望んだ世界になった、私はイギリス魔法界を陰から支える国として君臨し続けた、我らが王、ルシアーナ様な為に。

 

 しかし、突然ルシアーナ様は姿を消された。

私に、あとは頼むと言われ‥‥どこに行くのか勿論尋ねた‥しかし帰って来たのは、

 

「私の時代は終わりだ‥」

 

 そう言って、いつもと変わらない微笑みを浮かべ、消えてしまった。

黒トカゲの全力飛行されれば私に追う術は無かった、それから私はルシアーナ様の影を追う様になった。

 周りをルシアーナ様の肖像画で飾り、ルシアーナ様が使われたペンを集め、ルシアーナ様の御髪を探し出し、ルシアーナ様の読んだ本を擦り切れるほど読み漁り、ルシアーナ様の歩かれた場所を巡り、ルシアーナ様のルシアーナ様のルシアーナ様のルシアーナ様のルシアーナ様のルシアーナ様の‥‥〜〜!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今日、私の支えるべきイギリス魔法界の秩序を乱す者が現れた。

 さぁ、私とルシアーナ様の思い出の場所を汚す者に、血の制裁を加えよう。

 

「吸血鬼族の姫長《喑血姫ティーナ》その役目果たさせて貰う、散れ!」

 ティーナの後ろで控える者達は、直ぐ様闇夜へ消えていった。

 その内の一人の首には何かで貫かれた様な深い傷があった‥。



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