遊戯王 Replica (レルクス)
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一話

「終わりだな。モンスターでお前にダイレクトアタックだ」

 

 とあるスタジアムで、一つのデュエルが行われていた。

 異様な雰囲気がある場所だった。

 その分かりやすい部分としては、観客も、審判も、そして、デュエルをしているデュエリストたちも、全員が自分を隠すかのように、仮面を付けていることだった。

 

 少年のそばには、ただ、赤の魔術師が佇むのみ。

 命令を受けた魔術師は、手に持った杖にエネルギーを集中させ、それを放出した。

 

「ぐ、ぐあああああ!!!!!」

 

 男のライフが0になるとともに、観客席がわき上がる。

 

 そして、MC――こちらも仮面を付けている――がマイクを手に叫んだ。

 

『決着うううううう!!!アノニマス・トーナメントの決勝戦。その優勝者が決定しましたあああああ!!!優勝者は、何と、この大会のすべての試合において、ライフを1たりとも減らされることなく勝ち進んできた『ネイジ』選手です!これだけではありません。チーム・トーナメント。及びタッグ・トーナメントにおいても、特殊ルールを採用し、ハンデを負ったうえでソロエントリーして優勝してきました!なんと、三連覇。三連覇達成となります!』

 

 MCが叫んだ少年の功績。

 

 ハンデを背負いながらも、1ダメージも許さぬその鉄壁にくわえて、敵を殲滅するタクティクス。

 

 前代未聞。空前絶後の快挙に、会場の歓声は鳴りやむことを忘れていた。

 

『優勝者であるネイジ選手には、優勝トロフィーと五千万円の賞金、そして、プレシャスパックBOX十箱が送られます!』

 

 表彰台に立ったネイジは、トロフィーと共に賞金五千万円と、プレシャスパックBOX十個を獲得した。

 今回、ネイジが立っているのは、アノニマス・トーナメントの『本戦』であり、一度勝てばそのたびにファイトマネーが支払われる。

 三回分の優勝を手にした彼は、そのすべてを総取りしている。

 

 そして、それを認めさせるカリスマと実績。

 

 アノニマス・トーナメント

 

 それは、決して表に出ることはない裏の大会。

 

 禁止カードの使用はさすがに許されないし、制限を守る必要はあるものの、相手に勝つことが出来るのであれば、イカサマですら許容されるクレイジーコロシアム。

 

 

 そんな狂った世界で、たった一人で、三連覇の達成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々は、彼を『グランドスラム』と呼んだ。

 

 

 ★

 

「zzz」

 

 休み時間。

 普通であれば、休む時間なのだ。

 だがしかし、がり勉をしている生徒から見ると『なんで休み時間なのに寝てるの?』みたいなことを言って着たり、言ってこなくてもそう言うことを考える時がたまにあるかもしれない。

 だが、言わせてもらおう。

 授業中に寝るというのならそれは授業放棄と取られても、まあ拡大解釈をする必要はあるが全否定はできないだろう。だって寝てるんだし。

 だが、休み時間に寝て何が悪いというのだろうか。

 だって休み時間なんだぜ。休み時間。

 寝ていたっていいじゃないか。

 

「誠一郎様。今は休み時間ではなく放課後です」

「……え、そうだっけ」

 

 ほぼ白に近い金髪を腰まで伸ばした巨乳の女子生徒が赤いメッシュを入れた黒髪の少年、遊霧誠一郎(ゆうぎりせいいちろう)に話しかける。

 誠一郎は顔を上げると、その緑色の瞳を向ける。

 こちらを見ている少女、フォルテ・シンフォニアの緑色の瞳には『この人は大丈夫なのだろうか』とでもいいたそうなものがあった。

 

「……ついでに聞いていいか。なんで俺が休み時間について考えていると思ったんだ?」

「勘です」

 

 女の勘が鋭いのはフィクションの中だけで十分だ。勘弁してくれ。

 

「それで、どうしますか?」

「帰るぞ。別にすることもないし」

「……そうですね」

 

 フォルテは二人分の荷物を持ち上げた。

 まあ荷物と言っても、授業に関してはデュエルディスクに保存されている教科書のデータだし、電子ペンもディスク内に保管されているので、結果的に体操服と、作っているものだけがいれている弁当くらいのものなので、五キロもないのだが。

 丁度誠一郎が腰を上げたところで、フォルテが前に立って歩き始める。

 廊下を歩きながら、長いなと思っていた。

 

「……しかし、なんというか、この学校はでかいな……」

「一週間では慣れませんね。学園である故に中等部と高等部が存在し、一クラス四十人で四十クラスずつ存在します。全校生徒九千六百人ですから」

「何度も聞いてるが、多いものは多いな……一万人弱だろ。予算配分が間違えていると思うんだが、そう思うのは俺だけなのか?」

「別にそうでもないと思いますよ」

 

 デュエルスクール・イーストセントラル。

 東なのか中央なのか、最初に聞いた時はよくわからない名前だと思っていたが、『東エリアに存在する中央の学校』という感じだった。

 それぞれの東西南北+中央の中でも代表の学校以外は点在しているのが現状なので、『イーストイースト』みたいなことにはならない。

 

「おい!そこのお前!」

 

 何か来た。

 見ると……たまにどこかで見たことがあるような感じの男子生徒がいた。

 分かるのは、左胸のプレートからの判断だが、中等部三年で一つ年下と言うだけの話である。

 

「なんだ?」

「俺とデュエルしろ!」

 

 ……必要な会話が丸っと省かれたような気がしたが、さすがにそれだけでは状況の把握など無理である。

 

「何故だ?」

「お前にシンフォニアさんの隣にいる権利はないんだよ!俺が勝ったら金輪際シンフォニアさんに会うんじゃない!」

「……はぁ。フォルテ。少し遊んでやれ」

「分かりました」

 

 フォルテは荷物を降ろすと、左腕に付けているデュエルディスクを起動した。

 

「な……シンフォニアさん。なんでこんな奴のために……」

「誠一郎様の命令ですから」

「バカな……」

「まあ、相手なんて双方同意なら誰でもいいだろ。フォルテに勝ったら考えてやるよ」

「くそ……バカにしやがって、火野家の力を見せてやる!」

 

 男子生徒もデュエルディスクを構えた。

 火野家……ねぇ。

 確か、火野、風間、水谷、土門の四つがイーストエリアでは強かったか。

 四つ合わせて『元素四名家』『東の支配者』などと呼ばれてるみたいだが……まあいいとしよう。

 

「シンフォニアさん。今すぐあなたをその男から解放します」

 

 中等部の男子生徒がデュエルディスクを起動すると、その上に『火野正也(ひのまさや)』と表示された。

 フォルテがデュエルディスクを構えると、その上に『フォルテ・シンフォニア』と表示される。

 

「「デュエル!」」

 

 二人の宣言と共に、双方のデュエルディスクの上に表示されていたネームタグが飛翔し、激突。

 二人の中間点の上に大きく表示された。

 

 フォルテ LP4000

 正也   LP4000

 

 先攻は……正也からだ。

 

「俺の先攻。俺は手札から、『爆炎獣ライズ』を召喚!」

 

 明らかに生命活動が行えないレベルで燃え上がっているヤツが出てきた。

 狼なのか犬なのかよくわからん。

 

 爆炎獣ライズ ATK1700 ☆4

 

「爆炎獣モンスターの共通の永続効果で、レベル1につき、攻撃力が100ポイントアップする。レベルは4。よって、攻撃力は400ポイントアップする」

 

 

 爆炎獣ライズ

 レベル4 ATK1700 DFE400 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 

 

 爆炎獣ライズ ATK1700→2100

 

 召喚を一回するだけで攻撃力2000を超えてきたか。

 まあ、それはそれとして、元々の攻撃力が1700であることを考えれば、アタッカーになる。

 共通効果と言っていたし、もともと脳筋だが。

 

「俺はカードと一枚セットして、ターンエンドです。シンフォニアさん。サレンダーしてください。傷つけたくはありません」

「そうですか。私のターン。ドロー」

 

 聞いたうえでスルーするんだ。

 

「え……」

「私は『魔光騎士ソニック』を召喚」

 

 機械の装甲を持つ白い騎士が出現する。

 あと、微量ではあるが発光している。

 

 魔光騎士ソニック ATK1500 ☆4

 

「何故、茫然としているのですか?」

「さ……サレンダーをしないのですか?」

「する必要はありません。ソニックの効果を発動。召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから『魔光具』を名の付いたカード一枚を手札に加えることが出来ます。私はデッキから『魔光具・ジュエルエンジン』を手札に加えます」

 

 

 魔光騎士ソニック

 レベル4 ATK1500 DFE1000 光属性 機械族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「魔光具」装備魔法一枚を手札に加える。

 

 

「そして私は、手札に加えた『魔光具・ジュエルエンジン』をソニックに装備させ、攻撃力を500ポイントアップさせます」

 

 怪しく光る魔石を動力とするエンジンが背中に装着された。

 

 魔光騎士ソニック ATK1500→2000

 

 

 魔光具・ジュエルエンジン

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能。

 ①:装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

 ②:装備モンスターが戦闘で破壊される場合、このカードを墓地に送ることで破壊を無効にする。

 

 

「だが、攻撃力は上がっても、ライズには……」

「いいえ、まだ私の手札には装備魔法があります。私は『魔光具・ピアースリボルバー』を発動し、ソニックに装備させます。装備したモンスターの攻撃力は300ポイントアップ」

 

 今度は赤く、銃身の長いリボルバー拳銃だ。

 

 魔光騎士ソニック ATK2000→2300

 

 

 魔光具・ピアースリボルバー

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能。

 ①:装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 ②:装備モンスターが攻撃するとき、相手はダメージステップ終了時まで罠カードを発動出来ない。

 

 

「超えてきた……」

「バトル。魔光騎士ソニックで、爆炎獣ライズを攻撃」

 

 ソニックがリボルバーを構える。

 

「させない!罠発動……な、『Error』だと!」

「無駄です。ピアースリボルバーを装備したモンスターが攻撃するとき、相手はダメージステップ終了時まで罠カードを発動出来ません」

「な……」

 

 弾丸がライズを撃ちぬいた。

 

 正也 LP4000→3800

 

「私はカードを一枚セット、ターンエンドです」

 

 正也は悔しそうにしていた。

 ただ……ある一点を見ている。

 ……ふむ、何か狙っているのか?

 

「くそ。くそ!俺のターン。ドロー!俺は魔法カード『爆炎の再来』を発動。墓地から『爆炎獣』モンスターを特殊召喚する。戻って来い。爆炎獣ライズ!」

 

 爆炎獣ライズ ATK1700→2100 ☆4

 

 

 爆炎の再来

 通常魔法

 ①:墓地の「爆炎獣」モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 ……もうちょっと後の方で使えばいいと思うんだけどな。だって、カテゴリーを指定するが、それ以外の制約はないのだから。

 そう思うのは誠一郎だけだろうか。

 

「俺の言うことを聞かないのなら、力ずくだ!火野家の力を見せてやる。俺は炎属性の爆炎獣ライズをシンボルリリース!」

 

 正也の宣言と共にライズが消滅していき、赤い結晶体を出現させた。

 そして、異空間に消えて、正方形のゲートが出現する。

 

 序数世界から、呼び出される。

 

「オーディナル召喚!現れろ。レベル6。『爆炎獣オルトロス』!」

 

 爆炎獣オルトロス ATK2200→2800 ☆6

 

 召喚された燃え上がる二つの首の番犬……やはりと言うか、生命活動ができるのかどうかは怪しかった。

 あと、ライズが犬なのか狼なのかよくわからなかったが、これで犬だと判別できた。

 

 オーディナル召喚。

 特定の属性のモンスターをリリースして召喚する。

 特殊召喚ではない。アドバンス召喚の派生なのだ。

 なお、召喚ではなくアドバンス召喚の方の派生のため、レベル4以下のモンスターが存在しない。

 そして、その最大の特徴が……

 

 正也 SP0→1

 

 今まで、モンスターにカウンターなどを乗せるカードはあった。

 しかし、このオーディナル召喚は、成功した時、チェーンブロックなどを一切つくらず、SP(シンボルポイント)をデュエリストに付与する。所有上限は存在しない。

 奈落の落とし穴に落ちるとしても、その発動前に、シンボルポイントを付与する。

 基本的にはリリースの数がそのままポイントになる。

 序数世界に生きるモンスターは、その管理システムゆえに『ポイント』を持っている。

 こちらの世界に呼び出される場合は、マスターであるデュエリストにそのポイントが付与されるのだ。

 

 なお、オーディナルモンスターそのものがポイントを使う効果を持っているかどうかは、実は別問題だ。

 

 ちなみに、ポイントは、カードの効果のコストになることが多いが、これは『プレイヤーが手に入れてため込んだエネルギー』を使っていると思わせるようなカードも多い。

 

「オーディナル召喚ですか」

 

 フォルテは若干頬を動かしたが、それ以上の変化はなかった。

 

「そう、これが火野家の力だ。効果発動。SPを一つ消費して、一ターンに一度、相手の魔法、罠を破壊する!」

 

 フォルテが伏せたカードが破壊された。

 

 

 爆炎獣オルトロス

 レベル6 ATK2200 DFE900 炎属性 獣族

 オーディナル・効果

 炎属性×1

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:シンボルポイントを一つ消費し、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 『SP1』

 

 

 正也 SP1→0

 

「これで伏せカードはない。バトルだ!爆炎獣オルトロスで、魔光騎士ソニックを攻撃!」

 

 オルトロスが走りだした。

 

「墓地から罠発動、『エネルギー・アウト』!」

「ぼ……墓地からトラップ!?」

 

 リアクション大きいな……。

 

「い、一体いつ……」

「先ほど、ご自分で破壊していましたよ。効果発動。墓地のこのカードを除外することで、一度だけ、相手モンスターの攻撃を無効にします」

 

 

 エネルギー・アウト

 通常罠

 ①:相手モンスター一体を対象にして発動。攻撃力を500ポイントダウンさせる。

 ②:このカードを墓地から除外することで、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする。この効果は、このカードの①の効果を使ったターンは使用できない。

 

 

「くそ……これでターンエンドだ」

「私のターン。ドロー」

 

 フォルテがドローした。

 そして、合計で四枚になった手札を見る。

 誠一郎の目に、フォルテの口が「つかうまでもありませんね」といったのが見えた。

 

 ただ……誠一郎は、一つ、確かめたいことがあった。

 

「フォルテ、使え」

「……わかりました」

 

 フォルテは何も聞かない。

 まあ、そんなこともよくあったので、そんな感じなのである。

 

「私は手札から魔法カード『魔光技術・アポーツコード』を発動。自分フィールドの表側表示の『魔光具』装備魔法すべてを手札に戻します」

 

 

 魔光技術・アポーツコード

 通常魔法

 ①:自分フィールドの表側表示の「魔光具」装備魔法すべてを手札に戻す。

 

 

「そして、自分フィールドに「魔光騎士」が存在することで、手札から『魔光騎士パワード』を特殊召喚」

 

 ソニックがややシャープな印象だったが、今度はかなり身長も高い。

 装備もかなり分厚いものだ。

 

 魔光騎士パワード ATK1800 ☆4

 

「パワードの効果発動。手札一枚をコストにして、デッキから「魔光具」装備魔法一枚を手札に加えることが出来ます」

 

 

 魔光騎士パワード

 レベル4 ATK1800 DFE800 光属性 機械族

 このカード名の①②の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに「魔光騎士」モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

 ②:手札一枚を捨てて発動できる。デッキから「魔光具」装備魔法一枚を手札に加える。

 

 

「私はデッキから『魔光具・コンセントレーション』を手札に加えます」

 

 準備は整った。と言うかのように、フォルテは目を閉じた。

 そして開くと、右手を天に掲げる。

 

「私は、光属性モンスターであるパワードとソニック二体をシンボルリリース。魔の光を綴る機械の兵士よ。光の意思を手に、任務を遂行せよ」

 

 二つのシンボルと共に、ゲートが展開して、モンスターが出現。

 二つの石が胸に埋め込まれた機械の兵士だった。

 

「オーディナル召喚!レベル7。『魔光騎士アクセプター』!」

 

 魔光騎士アクセプター ATK2600 ☆7

 フォルテ SP0→2

 

「お……オーディナル召喚。今までシンフォニアさんは使っていなかったはずなのに……」

「必要がなかったので。ですが、誠一郎さまの命令となれば話は別です」

「な……どうしてそんなことで……」

 

 まあ、別に聞かなかったとしても何もしないけどね。別に。

 

「私に取って、最も優先順位が高いというだけの話です。アクセプターの効果発動。SPを1消費して、デッキからカードを一枚ドローします」

 

 フォルテ SP2→1

 

 

 魔光騎士アクセプター

 レベル7 ATK2600 DFE1500 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 一ターンに一度、SPを1消費して、以下の①②のうちいずれかを発動できる。

 ①:デッキからカードを一枚ドローする。

 ②:相手に500ポイントのダメージを与える。

 『SP2』

 

 

「そして、私は手札の三枚の魔光具、ジュエルエンジン。ピアースリボルバー。コンセントレーションを、アクセプターに装備させます」

 

 アクセプターの背中にエンジンが、右手にはリボルバーが、左肩にはアンテナが装着された。

 

 魔光騎士アクセプター ATK2600→3100→3400

 

「くそ……ん?コンセントレーションは、攻撃力を上げないのか?」

「すべての魔光具に攻撃力上昇の機能が備わっている訳ではありませんよ。そして、このターンで終わりです」

「何!?」

 

 フォルテは宣言した。

 3800ある正也のライフを削り切るつもりなのだ。

 2800あるオルトロスがいるなか、どうする?

 

「バトル。魔光騎士アクセプターで、爆炎獣オルトロスを攻撃!」

「罠は……ピアースリボルバーの効果で発動出来ない……」

「その通り」

 

 正也はそれを聞きながらも、にやりと笑った。

 

「だが……手札のモンスターの効果なら別だ!俺は手札から、『爆炎獣ハウリングレオン』の効果を発動。自分フィールドの『爆炎獣』モンスターが、相手のオーディナルモンスターから攻撃を受ける時、このカードを手札から墓地に送ることで、相手モンスターの攻撃力分、自分のモンスターの攻撃力をアップする!」

 

 

 爆炎獣ハウリングレオン

 レベル3 ATK1400 DFE1000 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:自分の「爆炎獣」モンスターが、相手のオーディナルモンスターから攻撃宣言を受けた時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

 

 攻撃された時、しかもオーディナルモンスターが攻撃してきたときしか対応しないが、『オネスト』のような効果だ。

 咆哮と共に、オルトロスの攻撃力が上昇する。

 

 爆炎獣オルトロス ATK2800→6200

 

「見ろ。この圧倒的な攻撃力!どんなモンスターであっても、この攻撃力にはかなわない!」

「そういう状況を作るようにデザインされたカードを使っているのですから、そういう攻撃力になるのは当然です。コンセントレーションの効果により、装備モンスターが攻撃するとき、私への戦闘ダメージは0になり、装備モンスターは戦闘では破壊されません」

 

 

 魔光具・コンセントレーション

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能。

 ①:装備モンスターが攻撃するとき、自分への戦闘ダメージは0になり、装備モンスターは戦闘では破壊されない。

 ②:装備モンスターが相手モンスターとバトルを行ったダメージステップ終了時、そのモンスターをバトルフェイズ終了時まで除外する。

 

 

「何!?……では一体なぜ……いや、もう攻撃は終わった。これでもう攻撃は……」

「コンセントレーションの効果により、バトルを行った相手モンスターをバトルフェイズの間除外します」

 

 フォルテの説明と共に、爆炎獣オルトロスが、コンセントレーションのアンテナから発生したゲートに飲まれようとしている。

 そして、その燃え盛っている炎がゲートに向かっており、なんとなくフォルムが分かった。

 ……犬にしてはちょっとがっしりした体つきのような気もするが……。

 

「な……だが、もう攻撃が終わったことに変わりはない!」

「いえ、速攻魔法『オーディナル・セカンド・バースト』を発動します。自分フィールドのオーディナルモンスター一体を選択し、このターンのみ、二回目の攻撃が可能。そして、私のSP1につき、攻撃力が300ポイントアップします」

「バカな……」

 

 

 オーディナル・セカンド・バースト

 速攻魔法

 このカードは、自分フィールドにオーディナルモンスター以外のモンスターが存在する場合、発動できない。

 ①:自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するオーディナルモンスター1体を選択して発動する。ターン終了時まで、選択したモンスターの攻撃力は自分のシンボルポイント1につき600ポイントアップし、1度のバトルフェイズ中に2回まで攻撃する事ができる。この効果で選択したモンスターしかこのターン攻撃はできない。

 

 

 魔光騎士アクセプター ATK3400→4000

 

「攻撃力4000だと!」

「先ほどあなたはそれを超えていましたよ。アクセプターで二回目の攻撃。『ミッション・ローディング』」

 

 銃弾は今度こそ、正也を貫いた。

 

 正也 LP3800→0

 

「私の勝ちです」

「ば、バカな……こんなことは認めない!おい、お前!何で自分でデュエルしないんだ!この腰抜け!臆病者!」

 

 正也は負けを認めないというより……『誠一郎とデュエルすること』を望んでいるように見える。

 

「俺には負けていないが、敗者だろう。お前は」

「くそ……覚えてろ!」

 

 正也は捨て台詞と共に走り去っていった。

 

「さて、帰るぞ。フォルテ」

「はい」

 

 再び二人分の荷物を持ったフォルテが歩きだした。

 誠一郎は、内心溜息を吐きながら歩いていた。

 

 ★

 

「誠一郎様。なぜあの時、オーディナルモンスターを出すように指示を出したのですか?」

 

 学生寮があるイーストセントラルだが、全寮制ではないので自宅から通うこともできる。

 もちろん、近い人間だけだが、誠一郎とフォルテは近くの家で過ごしている。

 寮の部屋に置いておくにしては少々困るものがいろいろあるから、と言うのもあるが。

 

「フォルテが使わなかったとしても負けなかったのは分かっているが、オーディナルモンスターを出すことで、あえてどんな反応をするのかを見ておきたかった。二ターン目。フォルテのターン終了時、アイツはフォルテのエクストラデッキの部分を見ていたからな」

「そうですか」

「あと、あのオルトロス……あれは犬ではなく狼だ」

「……そうですか」

「これが気になっているのは、オルトロスという存在が、二つ首の犬であるという設定が存在すること。そして、あの燃え盛るようなフォルムゆえに、常に体の大きさや形を隠すことが出来るという状況だからだ」

「ということは……」

「まあ、断定は何もしないけどな」

 

 少し、面倒なことに巻き込まれたような気がする。

 誠一郎は、そう思うのだった。



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二話

 寮が存在するが、それでも自宅から通うことができる利点の一つに、『時間を必要以上に拘束されない』というものがある。

 イーストセントラルはそのあたりのルールは緩いようで、門限が存在しないようだ。

 授業までに来ていれば問題ないと言っているようなものなのだ。明らかにいろいろとおかしい。

 まあ、約一万人もの人間が泊まることができるように、超巨大ビルが六つあるくらいだからな。

 ちなみに全自動システムだ。人を雇っていたら管理など話にならない。

 寮の利用費もそこそこあるのだが、奨学金制度が充実している(スポンサーが多いとも言う)のがデュエルスクールの特徴でもある。

 とはいえ、文字通りのバカげた規模になっている理由は、ここが東とはいえ、中心に位置する学校だからだ。

 

 寮は大きいが、その点、VIPルームなど作れないので全員が同じだ。

 それを我慢できない一部の傲慢たちは学校周辺に家を持っていることもある。

 近くにあった家を一括購入した誠一郎も、一応、家では比較的自由である。

 

「ふあ~……ん。刹那。もう起きてたのか」

 

 テレビを見ていた少女のポニテがピクッと震えた。

 そして、こちらを見る。

 ダークシルバーの髪をポニーテールにしており、マフラーで口元を隠した少女だった。

 身長も低く、胸も年不相応に大きい。

 中等部二年。遊霧刹那(ゆうぎりせつな)

 誠一郎の二つ下の妹である。

 

「お兄ちゃん。おはよう」

「おはよう。何見てたんだ?」

「デュエルリーグの試合」

「ほう……誰と誰だ?」

「どっちも火野家。あ。今決着ついた」

 

 オルトロスが見えたから何となく予想はしていたがな。

 その時、リビングの扉が開いてフォルテが入ってきた。

 

「おはようございます。誠一郎様。刹那様」

「フォルテさん。おはよう」

「おはよう。フォルテ」

 

 フォルテも来たので、朝食も済ませて、その後、学校に向かった。

 フォルテは相変わらず二人分の荷物を持っており、刹那は持っていない。

 いや、小さめのデュエルディスクを持っているが、それ以外はロッカーに預けているのだ。

 

「刹那。最近はどうだ?」

「デュエルの実技は今のところ負けてない!」

 

 長い袖が若干余っているが、その状態でガッツポーズしている。

 

「そうか」

「お兄ちゃんは?」

 

 質問した刹那に、誠一郎は首をかしげる。

 

「言っていなかったか?」

「言っていませんよ。誠一郎様は、編入試験と筆記試験に合格した後、『実技単位取得試験』を受け、合格されていますから、実技においてデュエルをする必要はないのです」

「俺の実力を学校側は知っているって訳だ。だから、学校ではデュエルをする必要はない」

 

 デュエルスクールなのに学校内でデュエルをする必要がないというのも妙な話だが、事実なのだ。

 

「それって難易度高い?」

「今の刹那とフォルテでは無理だな」

「お兄ちゃんは、合格するの、苦労した?」

「いや、ぶっちゃけそんなに」

 

 誠一郎は即答した。

 刹那は頷いた。

 

「ん。納得した」

 

 それでいい。

 

「着きましたよ」

 

 丁度ついたようだ。

 まあ、近い場所に家を買ったのだから、それも当然といえば当然である。

 

「それじゃあ、私はこっちだから」

「おう。また後で」

 

 刹那は中等部二年の校舎に走って行った。

 

「……思うんだけどさ。校舎多すぎじゃね?」

「仕方がないでしょう。単位制ではありますが、クラス制度を採用しており、さらに、生徒数が多すぎますから」

 

 すごいくらいの移動手段の数が存在するし、移動教室だってあるのだ。明らかにいろいろおかしい。

 

「まあいいか。俺達も行こう」

「そうですね」

 

 時間に余裕はあるが、それでも、ゆっくりしすぎる理由もない。

 

 教室に行って、普通に過ごすだけである。

 

 ★

 

 昼休みの時間の使い方は人それぞれだ。

 いや、どんな時間であったとしても、その使い方は個人に寄るというのが普通だろう。

 そうでないと言う人達に関しては、君らを支配する環境が悪いとしか言えない。

 

 誠一郎は、基本的には寝ているか、本を読んでいる。

 因みに、その読んでいる本も鞄に入れている私物だが、それはこの際置いておこう。

 それはともかく、あまり周りには関与しない過ごし方をするタイプとも取れなくはない。

 

 そのため、いつも誠一郎とそばにいるフォルテも、本当の意味でいつも一緒にいる訳ではないのだ。

 

「フォルテ。いつもあの遊霧と一緒にいるけど、どういう関係なの?」

 

 さらに言えば、顔立ちも整っており、さらには性格も悪くはなく、さらに言えば持ってきている弁当も手作りで美味いとなれば、昼休みに友達と一緒にいることは多くなる。

 移動だけでもすごく時間のかかる学校なので、たっぷりと時間が設けられており、さらには昼食をとる時間でもある昼休みは、学生たちにとって貴重だ。

 

 とはいえ、昼休みに時間がたくさんあるというより、掃除が機械洗浄により自動化され、その掃除の時間が昼休みに追加されただけなので、授業終了時間が普通科高校と異なるわけでもないのだが。

 

「そうですね……簡単に言えば、主人とその従者。と言った関係です」

 

 赤髪ツインテールでクラスメイトの女子生徒、黛聖(まゆずみひじり)にフォルテは言った。

 別に嘘をつくような関係ではない。

 さらに言えば、カフェで話しても普通の話題だ……そう思っているのはフォルテだけかもしれないが。

 

「へぇ……メイドみたいな感じ?」

「そうですね」

 

 実際問題、フォルテは家事を引き受けている。

 誠一郎は自分でもできる(正しくは誠一郎の方ができる)のだが、フォルテからやると言いだしたので、ずっとこの関係だ。

 

「そういえば、遊霧ってフォルテに荷物を持たせてるけど、何も思わないの?」

「私から言いだしたことですから。それに、腕力と握力に関しては私の方が上ですよ」

「……そうなの?」

「これでも握力は92キロありますから」

「ブフッ!」

 

 聖が口に含んでいた缶コーヒーを吹きだした。

 

「きゅ……92キロって」

「リンゴくらいなら普通につぶせますね」

 

 そう言ってからからと笑うフォルテ。

 聖は思う。『手遅れだわ。これ』と。

 

「まあいいわ。なんかこれ以上考えても無駄な気がしてきた」

 

 ごもっともである。

 そして、次の話題に移った。

 

「……思ったんだけど、遊霧ってデュエルしてるところ見たことないけど、いつデュエルしてるの?」

「すでに試験を受けて単位を取得していますから、デュエルする必要はないのですよ」

「……羨ましいって言うか、アイツって雰囲気通りの化け物なのね。って、普段からデュエルしてないの?」

「しているところを見たことは当然ありますが、強いですよ。本当に」

 

 聖は唖然としている。

 

「ど、どれくらい?」

「そうですね。もし私たちが最強を目指しているとすれば、ラスボスでしょうね。どのような大会を優勝したとしても、誠一郎様に勝てなければ意味はありません」

「ふーむ……フォルテは勝ったことはないの?」

「ダメージを与えたことがありません」

「……それもそれでおかしくない?」

「そうなんですよね……」

 

 フォルテはデュエルしている誠一郎を思いだし、何とも言え無い表情になる。

 

「一度、デュエルしてもらえるように頼んでみよっか」

「一応聞いておきますが、聖さんのランキングは……」

「エリアDよ」

 

 ランキング。と呼ばれるものが存在している。

 スコアを積み上げていき、それによってランキングを上げていく方式だ。

 ちなみに、一万人弱いるので同じポイントの生徒もそこそこいるが、それはそれとして。

 

 一万人弱いるイーストセントラルだが、

 

 一位から十位  エリアS    1~  10位

 上位 1%   エリアA   11~  96位

 上位 5%   エリアB   97~ 480位

 上位10%   エリアC  481~ 960位

 上位25%   エリアD  961~2400位

 上位50%   エリアE 2401~4800位

 上位51%以下 エリアF 4801~9600位

 

 と言った感じでいろいろと『エリア』が分かれている。

 ちなみに、昨日戦った火野正也はエリアFだ。

 

 聖が言ったエリアDは、上位四分の一。

 なるほど。確かにすごい。

 

「それでは……結果は私と同じですね」

「むぅ……フォルテのエリアは?」

「私はBですよ」

「編入してきたばかりでもうエリアB!?」

 

 カフェでこの大声は少々まずかったかもしれないが、フォルテはそこまで気にしていなかった。

 なお、刹那は中等部から入学して今に至るが、誠一郎とフォルテは高等部から編入してこの学校に来た。

 そのため、ほとんど戦績はない。

 

「ですが、このスコアは下剋上も達成できるようにうまく作られていますよ。それに、編入組なので、少なくはないスコアを最初からもらえましたから」

「でもいくらなんでもやばいわよ。まだ編入してから三日目よ。あなた」

「そうですね」

 

 とはいえ、誠一郎のそばにいれば、そうでもないような感覚になるのはなぜなのだろうか。

 

「なので、少々勝ちすぎてしまったようで、放課後にあまりランキングデュエルを受けてくれません」

「そりゃそうよ」

 

 即答同意されてしまった。

 

「まあでも、一回、遊霧に挑んでみるのも面白いんじゃない?」

「それは否定しませんが、一人で挑むつもりなのですか?」

「うーん……まずはアイツの妹を誘いましょうか。って、妹のエリアは?」

「私と同じです」

「ちょっと化け物過ぎない?まずはその妹さんに一回挑んでからにしましょうか」

「では、放課後に呼んでみましょう」

 

 ということで、電話で誠一郎には待ってもらうことにして、刹那にはOKをもらった。

 

 ★

 

「で、俺はぶらぶらしておいてくれ。ということか」

「私の刹那様のデッキはすでにご存じでしょう。ですが、聖さんのデッキを知らないという情報アドバンテージは私も欲しいところです」

「……君らの中でどんな話が進んでいるのか知らんが、それはそれでいいとしよう。どうせ話は長くなるだろうから、俺のデッキの改善点でも考えてるよ」

「そうしてもらえると助かります。それではまた」

 

 フォルテはそう言うと、広場の方にあるデュエルコートの場所まで走って行った。

 デュエルコートは数がすさまじく、各校舎の屋上や地下にも存在し、一度に膨大な数のデュエルを円滑に進めるために設けられている。

 そこでは、いつも通り、マフラーで口元を隠した刹那と、活発な雰囲気を纏った聖がいた。

 

「さて、それでは始めましょうか。一応初めましてよね」

「うん。聖先輩と話すのは初めて」

「だよね。もしあってたら恥ずかしいところだったわ。今回のデュエルの目的は、三人であの遊霧を倒すため、まあ、こちらに有利な条件を吹っかけるけど、そのお互いのタクティクスの把握のためよ」

「うん。わかった」

 

 刹那はコクリと頷いた。

 聖も笑顔になる。

 ……とはいえ、自らの兄を倒すために協力するという言い分に快く答える刹那も刹那といえるだろう。

 それほど、壁が高いのだ。

 

「それでは始めましょう」

 

 フォルテが言うと、二人はディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

 聖  LP4000

 刹那 LP4000

 

「先攻は私からね」

「うん」

 

 聖の先攻だ。

 

「私は手札から、『凍結恐竜ステゴ』を召喚!」

 

 出現したのは、カチコチになったステゴサウルス。

 

 凍結恐竜ステゴ ATK1400 ☆3

 

「と……凍結恐竜」

「そう、私のデッキは、水属性・恐竜族の凍結恐竜よ。ステゴの効果を発動。このモンスターの召喚に成功した時、デッキから『ブリザード・エッグ』を手札に加えることが出来る」

 

 デッキから一枚出てきたので、聖はそれを手札に加えた。

 

 

 凍結恐竜ステゴ

 レベル3 ATK1300 DFE1000 水属性 恐竜族

 ①:このモンスターの召喚に成功した時、デッキから「ブリザード・エッグ」一枚を手札に加えることが出来る。

 

 

「ブリザード・エッグ。確か。永続罠だったはず」

「このカテゴリでは重要なカードよ。私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 刹那は頷いた後、ディスクを構える。

 

「私のターン。ドロー」

 

 手札を見て、すぐにどうするかを決めた。

 

「私は手札から、『MJ(モーメントジェット)ガトリング』を召喚」

 

 出現したのは、赤い塗装で、機関銃を装備したジェット機だった。

 

 MJガトリング ATK1800 ☆4

 

「ほうほう……機械族か。フォルテと一緒だね」

「機械族じゃない。こう見えて戦士族」

「……フォルテの魔光騎士は騎士なのに機械族で、刹那のMJはジェット機なのに戦士族なのね」

 

 ごもっとも。

 

「このままバトル。MJガトリングで、凍結恐竜ステゴを攻撃!」

 

 ガトリングが起動する。

 

「通さないよ。永続罠『ブリザード・エッグ』を発動。自分フィールドの『凍結恐竜』モンスターは、バトルフェイズ中、攻撃力が500ポイントアップする!」

 

 凍結恐竜ステゴ ATK1400→1900

 

 

 ブリザード・エッグ

 永続罠

 ①:お互いのバトルフェイズ中、自分フィールドの「凍結恐竜」モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

 ②:一ターンに一度、手札のレベル4以下の「凍結恐竜」モンスター一体を特殊召喚することが出来る。

 

 

 なかなか強力な効果と言えるだろう。

 500ポイントとは言え、ノーコストで上げてくれるのだからバカにはできない。

 

「でも、バトルと言うのなら、MJは負けない。ガトリングの効果発動。このモンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで元々の攻撃力になる」

 

 

 MJガトリング

 レベル4 ATK1800 DFE400 地属性 戦士族

 ①:このモンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで元々の攻撃力になる。

 

 

 凍り付いた卵から発生するエネルギーが途絶えて、ステゴの攻撃力がもとに戻る。

 

 凍結恐竜ステゴ ATK1900→1400

 

「マジで!?」

「撃ち抜け!」

 

 ステゴが破壊された。

 

 聖 LP4000→3600

 

「私はカードと二枚伏せて、ターンエンド」

「ふう、なんだかんだ言って奇襲性が強いのね。私のターン。ドロー!」

 

 聖はブリザード・エッグを見る。

 このカードがすでにフィールドにあるというのなら、怖いものはほとんどない。

 ……あくまでもほとんどだが。

 

「私はブリザード・エッグの効果発動!一ターンに一度、レベル4以下の凍結恐竜モンスターを手札から特殊召喚できる。私は『凍結恐竜プテラ』を特殊召喚!」

 

 凍結恐竜プテラ ATK1200 ☆3

 

「プテラの効果を発動、このカードの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドの『ブリザード・エッグ』一枚につき、カードを一枚ドローできる。私は一枚ドロー!」

 

 

 凍結恐竜プテラ

 レベル3 ATK1200 DFE1200 水属性 恐竜族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:このカードの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドの「ブリザード・エッグ」一枚につき、カードを一枚ドローできる。

 ②:墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地の「ブリザード・エッグ」一枚を選択して発動する。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

 

「そして私は、フィールドに表側表示の『ブリザード・エッグ』が存在することで、魔法カード『凍結の化石』を発動。デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を特殊召喚できる。『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」

 

 凍結恐竜アンキロ ATK1000 ☆4

 

「アンキロの効果で、一ターンに一度、墓地、または除外されている『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加えることができる。私は『凍結恐竜ステゴ』を手札に加える」

 

 

 凍結恐竜アンキロ

 レベル4 ATK1000 DFE1000 水属性 恐竜族

 ①:一ターンに一度、自分の墓地、または除外されている「凍結恐竜」モンスター一体を選択し、手札に加えることができる。

 ①:自分フィールドに「ブリザード・エッグ」が存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。相手モンスター一体の攻撃を無効にする。

 

 

「いくよ!私は水属性モンスターであるステゴとアンキロをシンボルリリース。今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてあらわれろ!」

 

 青のシンボルが二つ。

 

「オーディナル召喚!レベル7。『凍結恐竜ティラノ・エッジ』!」

 

 出現したのは、氷の刃を持つティラノ!

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300 ☆7

 聖 SP0→2

 

「オーディナル召喚……」

「これが私のエース!私はティラノ・エッジの効果発動!一ターンに一度、ターン終了時まで、相手モンスター一体のモンスター効果を無効にする!私のフィールドにブリザード・エッグが存在するとき、この効果に対して、相手はカードの効果を発動できない!まあ、このターンはあまり意味はないけどね」

 

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ

 レベル7 ATK2300 DFE2300 水属性 恐竜族

 オーディナル・効果

 水属性×2

 ①:一ターンに一度、相手の表側表示モンスター一体を対象にして発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの効果を無効にする。自分フィールドに表側表示の「ブリザード・エッグ」が存在する場合、相手はこの効果の発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

 『SP2』

 

 

 MJガトリングに氷の刃が突き刺さる。

 

 

「これがエース」

「バトル!ティラノ・エッジで、MJガトリングを攻撃!ブリザード・エッグが存在することで、攻撃力が500ポイントアップ!」

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→2800

 

 ティラノ・エッジの刃がガトリングを切り裂いた。

 

 刹那 LP4000→3000

 

(刹那様から1000ポイントのダメージを……いえ、わざと受けたようですね)

 

 フォルテには狙いはわかっていた。

 

「よし!」

「よしじゃない。罠カード『モーメント・リサイクル』を発動。MJモンスターが戦闘、効果で破壊されたときに発動して、そのモンスターを特殊召喚する」

 

 破壊されたが、それらが組み立てられて、再度登場した。

 

 

 モーメント・リサイクル

 通常罠

 ①:自分フィールドに表側表示で存在する「MJ」モンスターが戦闘・効果で破壊されたとき発動できる。破壊されたモンスター一体を特殊召喚する。

 

 

 MJガトリング ATK1800 ☆4

 

「うそ……まあいいわ。バトルフェイズ終了とともに、ティラノ・エッジの攻撃力が元に戻る」

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2800→2300

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

「うん。私のターン。ドロー。私のフィールドのMJモンスターである『MJガトリング』を対象にして、罠カード『モーメント・オブジェクション』を発動。同名モンスター一体をデッキから特殊召喚する」

 

 

 モーメント・オブジェクション

 通常罠

 ①:自分フィールドの「MJ」モンスター一体を対象にして発動できる。デッキから同名モンスター一体をを特殊召喚する。

 

 

「私はこの効果で、デッキから『MJガトリング』を特殊召喚する」

 

 MJガトリング ATK1800 ☆4

 

「二体になった……」

「そっちがオーディナル召喚をするのなら、私もする。私は光属性のMJガトリング二体をシンボルリリース!竜の核を宿し、刹那を超えて飛翔せよ!」

 

 戦闘機の先端に竜を模したパーツが組み込まれたモンスターが出現。

 

「オーディナル召喚!レベル7。『MJ(モーメントジェット)ギガドラゴン』。Takeoff!」

 

 MJギガドラゴン ATK2500 ☆7

 刹那 SP0→2

 

「攻撃力2500……でも、バトルフェイズなら、私のティラノ・エッジのほうが攻撃力は上になる!」

 

 聖の宣言とともに、ティラノ・エッジが咆える。

 ……なかなか空気を読めるモンスターだ。

 さらに言えば、フォルテはプテラとアンキロの効果を知っている。

 二体の効果を使えば、そもそも攻撃を無効にすることができる。

 

「無駄。SPを一つ使い、魔法カード『ゼロ・クライシス』を発動。フィールドのモンスター一体の攻撃力を0にする。私はティラノ・エッジの攻撃力を0にする」

 

 刹那 SP2→1

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→0

 

 

 ゼロ・クライシス

 通常魔法

 ①:SPを一つ消費し、モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にする。

 

 

「な、ゼロって……」

「そして、ギガドラゴンの効果発動。SPを一つ消費することで、相手フィールドの魔法、罠を二枚まで選択し、手札に戻す」

「そんな……」

 

 刹那 SP1→0

 

 悔しい表情で、聖は『ブリザード・エッグ』と、伏せていた『次元幽閉』を手札に戻した。

 

「バトル!MJギガドラゴンで、ティラノ・エッジを攻撃!ギガドラゴンがバトルするとき、そのダメージは二倍になる!」

 

 

 MJギガドラゴン

 レベル7 ATK2500 DFE2000 光属性 戦士族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 このカード名の②の効果は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:このモンスターがモンスターとバトルするを場合、相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

 ②:SPを一つ消費して発動できる。相手の魔法、罠を二枚まで選択し、手札に戻す。

 『SP2』

 

 

「うそ……」

 

 ギガドラゴンのブレスが、ティラノ・エッジを焼き尽くした。

 

 聖 LP3600→0

 

 倍のダメージ。

 なかなか馬鹿にはできないもので、フォルテもこのモンスターには悩まされたものだ。

 魔光具を使って能力を引き上げるタイプのデッキなので相性が悪いともいうが。

 

 それはともかく、聖の敗北である。

 

「いたた……なんか一気にまけちゃったなぁ……遊霧ってこれ以上に強いんでしょ?」

「うん」

 

 刹那は静かにうなずく。

 

「エリアDのなったから、強くなったと思ってたけど、まさか中等部に負けるとは……それに……」

 

 聖は刹那のある場所を見る。

 

「……?」

 

 自分の胸に視線を感じた刹那は首をかしげる。

 そして、聖は自分の胸を見る。

 まあ、別に、無いと言うわけではないが、ある。と表現できるものでもない。

 絶妙な境界線といえるだろう。

 それに比べて、この少女はどうだろう。

 

「……フィルテ。あんたのよりも大きいんじゃない?」

「……そうですね」

 

 中等部二年に負けるとは……一体どうなっているのだろうか。

 

「うん。お兄ちゃんはいろいろなことを人に教えて、それをやらせるけど、豆、もしくは豆製品に関しては独自ルートから持ってくる」

「その巨乳は豆のおかげなの!?」

 

 周りにいた女子生徒が反応する。

 

「え……でも、牛乳って……」

「牛乳はたんぱく質があるだけで、そのたんぱく質が全て胸に行くわけではない」

「ん?でも、きなこ牛乳は高評価って言うよね」

「きなこは大豆から作る」

 

 ああ。なるほど~。

 とでもいいたそうな表情をする聖。

 

「私はきなこと納豆が好きでよく食べていた」

「その結果。その胸があるのね……」

 

 目算でGに達する胸。

 はっきり言おうか。中等部二年としてはあまりにも大きい。

 

「その独自ルートって?」

「それは分からない。あと、お兄ちゃんは結構稼いでいるから、入手ルートもかなり豊富。想定不可能」

「え、稼いでるの?」

「うん」

 

 コクリと頷く刹那。

 聖はフォルテを見る。

 

「まあ、雰囲気通りの強さを持っていますからね」

「……まあいいわ。それにしても、マメかぁ……牛乳をバカみたいに飲んで母さんに生暖かい目で見られ続けていた私の苦労は一体……」

 

 ご愁傷さま。

 

「それはそれとして、移動しませんか?」

「……それもそうね」

「うん」

 

 デュエルコートから教室に移動した。

 

「さて、話を戻しましょう。誠一郎様を倒すために」

「そうね……」

「うん」

 

 少女たちは話しあう。

 その中で、ふと、聖がこんなことを言った。

 

「そう言えば、私たち以外にはいないの?アイツを倒したいって思ってる人」

「弟子が何人かいますから、狙っていると思いますよ」

「話すことはできないの?」

「いろいろな意味で忙しい。でも、そのうち会える」

 

 刹那も言う。

 

「その弟子たちって刹那よりも強いの?」

「私と同じくらい」

 

 それは……どういえばいいんだろうね。

 

「私よりも強いってことか……」

「それでも、そのうち会えますよ」

 

 そんな感じで、三人の話は進んで行く。

 

 ★

 

「ふああ……フォルテがいないタイミングを狙ってくるとは……まあ、予想内ではあるが、それにしても、裏路地に入った瞬間に襲い掛かって来るとはなぁ」

 

 イーストセントラルは校舎も多いうえに、カフェや雑貨店と言った店舗も周辺に存在する。

 とはいえ、あらかじめ都市設計の図面を引いて決めているはずなのだが、意図的に裏路地が存在するのだ。

 さらに言えば、デュエルと言うのは、実力が必要ではあるがエンターテインメントも兼ねている。

 そのため、イーストセントラルを始め、多くのデュエルスクールでは金が動くことに反対する意見は少ない。推奨はしないが、学校側が取り締まることもないのだ。

 よって、監視カメラが存在しない裏路地も存在するのである。

 大体、クラブ、部活に入った時に上級生からポイントを教わるものである。

 イーストセントラルでは、校舎内外、全てを含めると、その数は百を軽く超える。

 

「火野家……だな。一体何を考えているのやら」

 

 誠一郎のそばで腕を組んで佇む赤の魔術師を従えて、五人のデュエリストを瞬殺した誠一郎。

 

「しかし、エリアFのデュエリストが五人。火野家はオルトロスの『人工開発』に成功しているから人数が増えても安定しているが、ここまで染まってるとはな」

 

 虎の威を借りる狐、と言えばわかりやすいだろうか。

 親の七光り、とでもいうのだろうか。

 火野家は、その傾向が一番強い。

 本家に関してはプライドはあるが、元ではあるが表世界で王者になったことがあるので、それを取り戻そうとしている。

 

「火野家……か、すでに隠居した爺さんがいるが、アイツ以外はたいしたことないな」

 

 デュエルディスクをしまって、赤い魔術師を戻した。

 

「本来のイラストとは……いや、燃え上がっているからイラスト上の外見は同じだが、何か改変されているオルトロスのことを考えると……荒れるな。これは」

 

 そうつぶやくと、誠一郎は歩きだした。



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三話

「おい!お前、いい加減に、俺とデュエルしろ!」

 

 火野正也が相変わらずうるさい。

 何故ここまで戦いに来れるのかわからんのだが……。

 

「……誠一郎様。どうしますか?」

「……しゃーない。一回だけつきあってやるか」

 

 と言うことで始まった。

 実のところ、誠一郎はデュエルする必要がないのだ。

 実技単位取得試験。

 これは、イーストセントラルで最も難関の試験と言われており、在学中における実技の授業におけるデュエルの必要性をなくすほどの実力を閉める必要がある。

 基本的に実力主義である故に、こうした特権のようなものを持つものは、デュエルを拒否できる。

 あとは器の問題なのだが、基本的に、誠一郎はデュエルをしていなかった。

 

 実のところ、この試験をクリアしたことがあるのは前例がいくつかあるのだが、その該当者はいずれもデュエルをして、ランキングにも乗っている。

 だが、デュエルをしていない誠一郎は、スコアが存在しない。

 ただし、実技単位をとれるほどの実力を持つ故、『エリアゼロ』というところに位置している。

 

「フン。やっとやる気になったか」

「別に、やる気になったというより、これ以上断り続けると逆に器を問われると思ったからなんだが……とりあえずはじめようぜ」

 

 誠一郎は立ち上がって、デュエルディスクを取り出した。

 

 実は、誠一郎がデュエルするのを見るのが初めてのものも多い。

 そう言うこともあって、一体どんなデュエルをするのかを楽しみにする生徒も多い。

 いつの間にか端末を構えて動画を撮影しようとする生徒もいる。

 

 デュエルコートに移動して、お互いにデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP4000

 正也  LP4000

 

「先攻は譲ってやる」

「後攻がほしい。の間違いだろ。まあいいけどな」

 

 誠一郎はあくびをしながら、手札を見る。

 そして、カードを一枚セットした。

 

「俺はカードを一枚セット、ターンエンドだ」

「なに!?」

 

 正也だけではなく、これには他の生徒も驚いた。

 あれほど、実力があるとされていながら、先攻を与えられて、行ったことが一枚のカードのセットだけ。

 確かに、驚くのも無理はない。

 

「ほら、お前のターンだぞ」

「ば、バカにするな!俺のターン。ドロー!俺は手札の『爆炎獣マッドウルフ』の効果発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚することが出来る!」

 

 爆炎獣マッドウルフ ATK1600→2000 ☆4

 

 

 爆炎獣マッドウルフ

 レベル4 ATK1600 DFE800 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

「そして、装備魔法『デュアル・ブレイズ』を発動。マッドウルフに装備。このカードを装備したモンスターをリリースしてオーディナル召喚を行うとき、一体で二体分のオーディナル素材にできる!」

 

 

 デュアル・ブレイズ

 装備魔法

 炎属性モンスターのみ装備可能

 ①:このカードを装備したモンスターをリリースしてオーディナル召喚を行う場合、装備モンスターを、一体で二体分のオーディナル素材にできる。

 

 

「ほう……なるほどな」

「余裕ぶっていられるのも今のうちだ。俺は炎属性のマッドウルフをシンボルリリース。爆炎を身にまとう三つ首の番犬よ。燃え上がる魂で敵を滅ぼせ」

 

 マッドウルフが二つのシンボルになり、素材となる。

 

「オーディナル召喚!現れろ。レベル7『爆炎獣ケルベロス』!」

 

 爆炎獣ケルベロス ATK2500→3200 ☆7

 正也 SP0→2

 

「手札二枚で、レベル7のオーディナル召喚を行う状況を作りだし、そのままオーディナルモンスターを出してくるとはな。それに、攻撃力も3200と高いじゃないか」

「舐めるな。俺は手札から速攻魔法『ブレイズ・クロー』を発動。自分フィールドの炎属性モンスター一体の攻撃力を、ターン終了時まで800ポイントアップする」

 

 

 ブレイズ・クロー

 速攻魔法

 ①:自分フィールドの炎属性モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで800ポイントアップする。

 

 

 爆炎獣ケルベロス ATK3200→4000

 

「……他にも代用できるカードが多そうなカードだが、手に入りやすかったのか?」

「ずいぶんと余裕だな」

 

 そりゃまあ。

 

「俺にはリバースカードがあるからな」

「よほど自信があるようだな。だが、俺がモンスターを召喚する時に発動していないのだから、召喚に反応するタイプのカードではない。なら、召喚反応系のカードではないはずだ。なら、ミラーフォースのような強力なカードなのだろう」

「どうだろうな」

「ごまかしても無駄だ。俺は手札から速攻魔法『サイクロン』を発動。そのセットカードを破壊する!」

 

 正也は自信満々に『サイクロン』を発動した。

 周りでも、このサイクロンの発動には驚いているものもいるし、中には、正直、誠一郎のデュエルが期待外れだと思うものもいるだろう。

 まあ、普通に見れば、カードを一枚セットしただけでターンを終了し、その相手がサイクロンを持っていたのだ。そう考えるのも当然といえる。

 

「プレイングミスだな。手札一枚をコストにして、カウンター罠『アヌビスの裁き』を発動する」

「え……」

「知らないのか。思いだしたくないのか。どちらにせよ、手札から発動できるカウンター罠を持っていないのなら効果処理に入るぞ。まず、そのサイクロンの発動を無効にして破壊する。そして、相手モンスターを一体破壊して、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える」

 

 誠一郎はケルベロスを指さした。

 

「俺は、ケルベロスを選択。破壊して、その攻撃力、4000ポイント分のダメージを受けてもらうぞ」

「な……うわああああああ!!!!!」

 

 正也 LP4000→0

 

 決着である。

 

「な……ばかな……」

「相手のセットカードの警戒は必須だろ。それと、サイクロンを握っていたのなら、ターンの開始直後に発動するべきだった。除去カードは、自分のフィールドにカードがある時に発動するものではない」

「く……」

「俺のフィールドにモンスターはいなかった。そんな状態で、攻撃力4000のモンスターを用意できるのなら、出したいと思う気持ちは理解できなくもないが、勝負を急ぎすぎているのにも限度がある。ケルベロスの効果も知っているが、我慢強いモンスターだ。一気に勝負を決める必要もなかっただろう」

 

 

 爆炎獣ケルベロス

 レベル7 ATK2500 DFE1000 炎属性 獣族

 オーディナル・効果

 炎属性×2

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:シンボルポイントを一つ消費して発動できる。このモンスターはターン終了時まで、戦闘では破壊されない。この効果は相手ターンでも使用できる。

 『SP2』

 

 

「確かに、セットカード一枚なら、お前が言ったように、ミラフォと予測するのもいいだろう」

 

 『強制脱出装置』だと予測するのなら、最初にサイクロンを使うべきだが。

 

「召喚反応系のカードかもしれないと思っていたのなら、対応できるカード……『死者蘇生』でも手札にあったのか?」

「う……」

 

 正也が使ったカードは、『爆炎獣マッドウルフ』『デュアル・ブレイズ』『爆炎獣ケルベロス』『ブレイズ・クロー』『サイクロン』の五枚。

 ドローカードが一枚残っている。

 

 正也は手札を見る。

 確かに、そのカードは『死者蘇生』だった。

 彼がドローフェイズでドローしたカードであり、カード効果に対する耐性がないケルベロスが突破されても、次のターンで挽回できると思っていたはずだ。

 というより、思っていた。

 

「まあいずれにしても、最初にサイクロンを使わなかったのは、致命的なプレイングミスだ。せめてそれくらいはしっかり考えてから挑んで来い。フォルテ、行くぞ」

「はい」

 

 誠一郎はあくびをしながら、そのままデュエルコートを出ていった。

 

「ちなみに、誠一郎様。アヌビスの裁きの手札コストで何を墓地に送ったのですか?」

「亀」

 

 超電磁タートルだった。

 

 ★

 

 撮影した動画と言うのは、実のところ、投稿できる場所があれば誰かがはりつけているもので、珍しい誠一郎のデュエルと言うこともあって、見るものはいた。

 同じ人が何回見ているのかはわからないが、学内専用掲示板で、数十分で回覧数が一万に達するレベルだった。

 

 そして、とある、学校の会議室にて。

 

 そこでは、四つの席がある机が存在し、そのすべてが埋まっていた。

 

「ずいぶんとあっさり決まったなぁ……」

 

 そうつぶやくのは、緑色の短い髪を揺らす、端正な顔つきの男子生徒だ。

 飄々とした雰囲気であり、威厳と言うより、親しみやすさを感じる。

 風間家当主。風間浩一(かざまこういち)

 元素四名家の中で唯一。学生が当主の一族だ。

 

「フン。火野正也は分家の中でも下位の下位。あの程度の実力しかないことは分かり切っている」

 

 赤い髪をオールバックにして、外国製のオーダーメイドのスーツを着た男性だ。

 学校内であるというのに、制服ではなくスーツを着ているので、社会人としての経験があることはわかる。

 若干、ポケットに膨らみがあるのは、名刺交換の場にいたからだろう。

 右腕に付けている腕時計も、履いている革靴も高級なものである。

 端正な顔つきであり、品格を感じられるものだ。

 火野家次期当主。火野和春(ひのかずはる)

 現当主の息子である。

 

「ですが、火野家に黒星が増えていることも事実。元素四名家としては、我々も油断はできない状況ですよ」

 

 そう言うのは、水色の長い髪を揺らす女子生徒。

 面倒見のいい雰囲気と、清楚ながらも、包容力にあふれた容姿をしている。

 何故か、学校内部だが着物を着ている。

 上に立つもの特有の腹黒さはそこまで感じられないが、劣っている雰囲気はまるでない。

 胸も大きくその存在を主張している。

 名前は水谷聡子(みずたにさとこ)

 代々、子供は女性だけが産まれ、そして、女性がその当主の座についてきた一族。

 彼女は分家の出身でありながら、次期当主は確実とうわさされている才女だ。

 ただし、次期当主ではない。

 

「元素四名家は、東地区の君臨者でなければならない。このままでは、元素四名家の強さに疑いを持つものが出て来るだろう」

 

 高校生にしては重々しい声が響く。

 茶髪を短く切りそろえ、鍛え上げられた体を持つ男子生徒だ。

 風間浩一が『飄々』

 火野和春が『品格』

 水谷聡子が『包容』

 ほか三人を表すのがこれらの言葉だとすれば。

 この男、土門天理(どもんてんり)は『砦』

 

 実質、元素四名家の頂点に君臨する『土門家』の次期当主であり、現役の父を超えるとされる決闘者。

 そして、イーストセントラルの序列一位に立つ男。

 

「それにしても、この遊霧誠一郎って言う一年。今まで見たことが無いけど、こんな奴がいたなんてね。僕、初めて聞いたよ」

 

 浩一はからからと笑う。

 

「もともと、俺達の世代は『宝の世代』だとか言われていたがな……ただ、全くデータにないのも妙だ。調べたが、両親がいないことを除いて、変わった印象はない」

 

 和春は声色を変えずに帰す。

 

「私としては、距離感さえ考えておけばいいと思いますけれど」

 

 聡子はフフッと笑う。

 

「……聡子。それはどういうことだ」

 

 天理が聞くが、聡子はそれに答えようとはしない。

 

「まあ、聡子ちゃんは次期当主は確実だっていわれているのに、全くその座に興味がないくらいだからね。何か考えがあるんでしょ?」

「フン。俺にとってはどうでもいいことだ」

 

 和春は聡子のことを気にしている様子はない。

 ただ、少し、気になっていることはあるようだ。

 そして、天理はそこをつく。

 

「和春。最近、火野家の周りでこそこそと嗅ぎ回っている者たちがいることは気づいているな?」

「当然だ。火野家の中でも才能のない分家は、その力を使って威張り散らしているようだからな。俺に時間があれば直々に叩き潰してやるところだが、選民主義派の連中がミスを出しやがるから手に追えん……」

 

 一人の社会人として、そして、経営者としての一面を持つ和春は、財力と言う点においても元素四名家の中でも大きい。

 元素四名家はもともとスポンサーが多いのだが、和春は、個人資産においても高校生の域を超えている。

 ただ、それゆえにつながりが大きいのだが、大きい分、小回りが効かない部分が大きい。

 和春の資金、情報、権力、実力はどれも高いのだが、周りの連中のミスが大きいのだった。

 

 大人と赤ん坊では、できる失敗の大きさに限界がある。

 赤ん坊なら、家にあるものを壊す程度だろう。だが、それでも『破損』という名の『損害』が発生するだけであり、歴史的な価値を求めなければいくらでも取り戻せる。

 だが、大人の失敗はそうではない。

 実力主義がいつの間にか選民主義に変わることなど、歴史を見ればいくらでもあるのだが、実力主義によって獲得した利権と言うのは、人の思考を狂わせるだけの『魔力』を引き起こす『魔法』があるのだ。

 

 魔女がシンデレラにかけたように、『魔法』と、それ以上の『呪い』があることなど、考えることはない。責任を負うのは、上に立つもの達ではないからだ。

 

 そして、そんな連中の失敗は、時に、数億という規模では済まない損害になることもある。

 

 何の皮肉か、他の元素四名家はそんな火野家を反面教師にしており、人事部のもの達はすごくうるさいのが現状だ。

 

「いずれにせよ、対応するのは必要でしょうね」

「元素四名家っていっても、絶対的じゃないしね」

 

 東の支配者。

 その異名は正しい。

 実質、東エリアにおける様々な権利の根本には、元素四名家がある。

 ただ、逆に言えば……。

 

 東しか、支配できなかった。とも言える。

 

 ★

 

「誠一郎。あんた、あんなデュエルをするのね」

「聖。あんなデュエルとはどういうことだ?」

「悪い意味じゃないわよ。ただ、まさか一枚のカードだけでデュエルに勝つなんて普通じゃないわよ」

「それはそうかもしれないが、火野正也本人のタクティクスはそこまで悪いものではないからな。あとは、何処でひっくり返せばいいのか考えればいいだけだぞ」

 

 カフェで話している。

 誠一郎。フォルテ、聖、刹那の四人だ。

 

「確かに、悪いものではないですね」

 

 実際にデュエルをしたフォルテもそう評価する。

 

「エリアFとは言うが、格上にしか挑んでないから戦績はボロボロみたいだな。ただ、過去の上位エリアのデュエルのステージの観客席には、大体あいつはいる。一応、頑張れる部分は頑張ってるみたいだ」

 

 実際にデュエルをすればなんとなく分かるものだが、誠一郎の実力は他のデュエリストとは違う分類にいるので(『上位』というより《亜種》というのが自己評価)、客観的に見れる。

 火野正也。という生徒の実力は悪いものではないし、向上意欲もある。

 おそらく、相手を選べばすぐに上のエリアに行けるだろう。

 だが、そう言うことを考えないのだ。

 

「というより、アイツも、実技単位取得試験をクリアした俺と戦いたかっただけなんだろう。一昨日、俺とフォルテが一緒にいる資格がないとかいろいろ言っていたが、あれは単に挑発して俺を引っ張りだしたかっただけだ。相手を土俵に引っ張りだすのに挑発するのは有効な手段だが、語彙力がな……」

 

 あの程度の実力と言葉では、誠一郎は動かせない。

 ただし、一度デュエルした後ならば、評価を変える。

 

「お兄ちゃん。火野正也がまた挑んできたらデュエルするの?」

「そのつもりだ。アイツは、俺に負けてもまた挑んでくるだろうからな。それこそ、何度でも」

「どういうこと?」

 

 聖にはわからないか。

 

「誠一郎様は強すぎるのです。それこそ、本気にさせた相手すらほとんどいないほどですから、言ってしまえば、何度も挑戦したいと思う相手ではないのです」

「お兄ちゃんの敵であった組織は多いけど、敵であり続けた組織はいないってことでもある」

「……カード一枚で勝っちゃうもんね」

「手札コストを含めると実質二枚だが」

「そう言う問題じゃないでしょ」

 

 確かにそう言う問題ではないな。

 

「で、これからどうするんだ?」

「特に予定とかあるの?」

 

 聖の質問にほかの三人は首を横に振った。

 

「まあいいんだけど……その、あんた、そのコーヒー。いつも飲んでるの?」

「ん?ブルーアイズ・マウンテンならいつでも飲んでいるぞ。こう見えて金はあるからな」

「しかも、お兄ちゃんはその圧倒的資金を使って『大金を使う仕事』をしている」

「財力という点においてはすごいですよ」

 

 聖は『何言ってんのこいつら』とでも言いたそうな表情で固まっていたが、もう何でもありか、と驚く以上にあきれていた。

 

「一杯3000円のコーヒーをいつも。ねぇ……」

「おいしいぞ」

「もうそこまでいくと味の違いなんて分からないわよ」

 

 まあそうだろうな。

 

「もういいわ。なんかあんたたちの日常を聞いていても、こっちの常識が覆されるということだけがわかった気がする」

「そのほうがいい。お兄ちゃんに毒されると将来ろくなことにならない」

「さすがに妹に言われると傷つくんだが……」

 

 苦笑する誠一郎だが、次の瞬間には復活している。

 

「さて、どうするかな……それとも、アイツらの相手をした方がいいのか?」

 

 誠一郎は、カフェの外から中にいる誠一郎たちを見ている赤い髪の生徒達のほうを指さした。

 

「……そうですね。はっきり言って営業妨害ですし」

 

 カフェの内装もいいし、味と価格のバランスも学生向けで、テーブルの数も多く、いろいろな意味で固定客が多そうな場所だが、流石に入り口を陣取られたら話にならない。

 四人が飲んだ代金をカードではらうと、誠一郎はカフェを出た。

 

「おい、ちょっと待て」

 

 赤い髪の男子生徒三人が来た。

 一人がリーダーと言った感じかね?

 

「俺達とデュエルしてもらおうか」

「……ちなみに聞くが、何故?」

 

 聞いておきたい。

 まあ、予想はできるけど。

 

「これ以上、俺達火野家の評判を下げないためだ」

「俺達は元素四名家の中でも、いずれトップに位置する」

「お前みたいな部外者に負けた分は、きっちり清算させてもらうぜ」

 

 それはいいのだが……。

 

「全員でバトルロイヤルなのか?それとも俺がお前たち三人を勝ち抜けばいいのか?どちらでもいいぞ」

「ふざけやがって……バトルロイヤルだ」

 

 リーダーの男は青筋を立てながらも言った。

 

「誠一郎様。いいのですか?」

「別に構わんし、俺が負けると思うか?」

「お兄ちゃんが負けるのは想像できないけど……」

「ちょっと前まであんなにめんどくさそうにしてたのに、今更やりだすのも妙って話よ」

「そうだな……」

 

 誠一郎はちらっと視線を逸らす。

 そこには、隠れてこちらのタクティクスを確認しようとする火野正也の姿があった。

 

「まあ、ちょっと見せておきたいものもあるってことだ」

「……ならいいと思う」

 

 刹那がそう言った。

 刹那がいいと言えば、一応フォルテも従うので、聖も多数決で負ける。

 いや、聖は賛成の票を入れるというより、棄権していると言った方が正しいのだが。

 

 誠一郎はデュエルディスクを構えて、三人のところに行った。

 

「さあ、俺達の実力を見せてやるぜ」

「たまには他の元素四名家とも戦ってみたいけどな……序列一位から四位を元素四名家のそれぞれが居座ってるって話だったから期待しているんだが……まあ、まずは目の前の火の粉をはらうとしよう」

 

 誠一郎はデュエルディスクを起動して、カードを五枚引いた。

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 誠一郎 LP4000

 凌士(りょうじ)  LP4000

 矢吹(やぶき)  LP4000

 勇実(いさみ)  LP4000

 

「俺達のターンからだ。先ほどのデュエルは確認しているが、先攻を渡すわけにはいかない」

「このデュエルは、特殊バトルロイヤルルールが適用される」

「よって、俺達三人のターンから始まり、ラストのお前のターンからバトルフェイズが可能と言うことだ」

 

 実質的に、誠一郎VS火野家三人と言うことになるので、バトルロイヤルでもそういうルールになるのだ。

 

「俺からバトルフェイズが可能って……その一階のバトルフェイズで負けるとは思ってないんだな」

「フン。こちらは三人だ。当然だろう」

「数の暴力って言わないか?」

「物量作戦だ」

 

 さいですか。

 

「俺のターンだ。俺はマッドウルフを特殊召喚!」

 

 爆炎獣マッドウルフ ATK1600→2000 ☆4

 

「自分フィールドにいない場合は特殊召喚だったな」

「そうだ。そして、手札一枚を捨てて、フィールド魔法『爆炎倉庫リサイクルソウル』を発動」

 

 出現したのは、燃え上がっている木造の(・・・)倉庫。

 

「……いや、あれ、大丈夫なのか?」

「問題などない」

 

 さいですか。

 

「俺はマッドウルフに『デュアル・ブレイズ』を装備させて、マッドウルフをシンボルリリース。『爆炎獣ケルベロス』をオーディナル召喚!」

 

 爆炎獣ケルベロス ATK2500→3200 ☆7

 凌士 SP0→2

 

 お、来たか。

 まあ、エリアFの正也が所有していたのだからある程度予想はしていたが。

 

「そして、俺は『爆炎倉庫ウェポンソウル』の効果発動。自分フィールドに『爆炎獣』オーディナルモンスターがオーディナル召喚されるたびに、墓地の装備魔法一枚を手札に加えることが出来る。俺は墓地の『デュアル・ブレイズ』を手札に戻す。ターンエンドだ」

 

 

 爆炎倉庫ウェポンソウル

 フィールド魔法

 このカードは手札を一枚捨てて発動できる。

 このカードが自分フィールドに存在する場合、自分は他の「爆炎倉庫」と名の付くカードを発動出来ない。

 ①:自分フィールドに「爆炎獣」オーディナルモンスターがオーディナル召喚されるたびに発動できる。墓地の装備魔法一枚を選択し、手札に加える。

 ②:フィールドに表側表示で存在する「爆炎獣」モンスターは、相手のカード発動時、対象にならない。

 

 

「次は俺のターンだ。ドロー!俺はまず『爆炎倉庫ゲートソウル』を発動」

 

 またもや出現。燃え盛る木造倉庫。

 

「効果発動。一ターンに一度、手札からレベル4以下の『爆炎獣』モンスター一体を特殊召喚できる。俺は『爆炎獣ライズ』を特殊召喚!」

 

 

 爆炎倉庫ゲートソウル

 フィールド魔法

 このカードは手札を一枚捨てて発動できる。

 このカードが自分フィールドに存在する場合、自分は他の「爆炎倉庫」と名の付くカードを発動出来ない。

 ①:一ターンに一度、手札からレベル4以下の「爆炎獣」モンスター一体を特殊召喚することが出来る。

 ②:フィールドの「爆炎獣」モンスターが攻撃するとき、戦闘を行う相手モンスターは、攻撃宣言時からダメージステップ終了時まで効果を発動出来ない。 

 

 

 爆炎獣ライズ ATK1700→2100 ☆4

 

 フォルテがデュエルしていた時に出てきたモンスターだな。

 

「そして俺は、自分フィールドに『爆炎獣』モンスターが特殊召喚されたことで、手札から『爆炎獣ソニックライオ』を特殊召喚できる」

 

 爆炎獣ソニックライオ ATK1500→1900 ☆4

 

 

 

 爆炎獣ソニックライオ

 レベル4 ATK1500 DFE300 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:自分フィールドに「爆炎獣」モンスターが特殊召喚された時、手札のこのカードを特殊召喚することが出来る。

 

 

「俺は炎属性のライズとアグリケイトをシンボルリリース。『爆炎獣ケルベロス』をオーディナル召喚!」

 

 爆炎獣ケルベロス ATK2500→3200 ☆7

 矢吹 SP0→2

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 最後は勇実のターンだ。

 この男子生徒のデュエルディスクだけデザインが違うので、おそらくリーダーなのだろう。

 

「俺のターン。ドロー!俺は手札一枚をコストにして、フィールド魔法『爆炎倉庫シグナルソウル』を発動」

 

 そして発動される燃え上がる木造倉庫。

 ……何か熱くなってきた……ような気がする。

 

「シグナルソウルの効果発動。一ターンに一度、俺はライフを500回復する」

 

 勇実 LP4000→4500

 

 

 爆炎倉庫シグナルソウル

 フィールド魔法

 このカードは手札を一枚捨てて発動できる。

 このカードが自分フィールドに存在する場合、自分は他の「爆炎倉庫」と名の付くカードを発動出来ない。

 ①:一ターンに一度発動できる。自分のライフを500ポイント回復する。

 ②:フィールドの「爆炎獣」モンスターは、相手モンスター全てに続けて攻撃することができる。この効果で相手モンスター全てに攻撃したモンスターは、バトルフェイズ終了時に破壊される。

 

 

「そして、フィールドに爆炎獣が二体以上存在することで、手札から『爆炎獣アグリケイト』を守備表示で特殊召喚!」

 

 爆炎獣アグリケイト DFE300 ☆5

 

 

 爆炎獣アグリケイト

 レベル5 ATK1600 DFE300 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:フィールドに「爆炎獣」モンスターが二体以上存在する場合、手札のこのモンスターを守備表示で特殊召喚することが出来る。

 ③:1ターンに1度、自分メインフェイズ1に発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、このカード以外のフィールドの「爆炎獣」モンスターの攻撃力の合計分アップする。この効果を発動するターン、このモンスターしか攻撃できない。

 

 

「そして、アグリケイトに『デュアル・ブレイズ』を装備させ、シンボルリリース!『爆炎獣ケルベロス』をオーディナル召喚だ!」

 

 爆炎獣ケルベロス ATK2500→3200 ☆7

 勇実 SP0→2

 

「俺はこれでターンエンド。さあ、貴様のターンだ!」

 

 勇実はそう言って、誠一郎を指さす。

 そして、誠一郎は、静かにこう答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……バカだろ。お前」




レルクス「さて、一話でのあの後書きもしっかり削除した。これで何も問題はない」

誠一郎 「それを後書きで言ってどうするんだ……」

レルクス「いいんだよ。トーク番組で『編集で消しておいて』なんていっても普通にでるだろ?あれと一緒だ」

誠一郎 「そこまでいうのならいいが……」

レルクス「さて、こうして三話目になるが、続くかな。これ」

誠一郎 「今の時点でそんなことを言うのは不安材料にしかならんぞ」

レルクス「まあ、自分のペースでやるけどね!」

誠一郎 「そう言えば、オーディナル召喚で一つ気になることがある」

レルクス「なんだい?」

誠一郎 「属性が決まっているアドバンス召喚のようなもの、と言うだけなら別にいいんだが……一応、『召喚』だよな」

レルクス「そうだよ」

誠一郎 「『死皇帝の陵墓』って使えるのか?」

レルクス「使えるよ」

誠一郎 「使えるの!?」

レルクス「しかし、オーディナル召喚じゃないからね」

誠一郎 「墓を使うとアドバンス召喚にならないのと同じか……」

レルクス「だから、シンボルポイントも増えないし、蘇生も、除外からの帰還もできない」

誠一郎 「ややこしいルールだな」

レルクス「適したモンスターをリリースしないとオーディナル召喚にはならないってことだよ」

誠一郎 「『デュアル・ブレイズ』のテキストに、『二体分のリリース』じゃなくて『二体分のオーディナル素材にできる』って書かれているのもそれが影響しているのか?」

レルクス「君もデュエリストなら、社会的通例や整合性にとらわれるんじゃない!世界最高峰の難関文法、コンマイ語を扱うのなら、それくらいの覚悟は必要だ」

誠一郎 「……前回のスペクトル召喚みたいに、エクストラデッキからの特殊召喚にすれば早かったのに……」

レルクス「マスタールール4に対応できないだろ」

誠一郎 「……この小説。リンクでないのか?」

レルクス「出しません。融合だって使うかどうか未定です」

誠一郎 「……前途多難だな」

レルクス「オリジナル召喚を扱う執筆者共通の悩みだ。多分」

誠一郎 「はぁ、まあ、こんな感じだが、宜しくな。あとレルクス。もうちょっとルールブック読んだらどうだ?」

レルクス「これでも解説動画は見てるんだけどなぁ……コンマイ語って難しい」


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四話

 カフェの前で行われているデュエル。

 バトルロイヤルルールだが、実質的に三対一のため、四人目であり、三人を同時に相手をする誠一郎のターンからバトルフェイズが可能となるルールだ。

 

 厳密には、この状況で誠一郎が先攻をとった場合、まず誠一郎のターンから始まり、次に三人になり、そして二周目の誠一郎のターンから攻撃可能。という、『味方がいない立場』のデュエリストからバトルフェイズを行うことが出来る。というのがルールだ。

 というより、そうでなければただの袋叩きにしかならない。

 

 デュエリストは、デュエルで相手に自分の意見を通す権利があるが(普通に考えておかしいのだが)、それでも、ルールと言う点においては、プレイヤーである以上守らなければならない。

 なので、ここでもし上で説明した以外の状況が発生している場合、勝ったとしても権利の主張はできない。

 もちろん、それでも味方がいないデュエリストが勝ってしまったら、まあ、それはそれでいろいろヤバいという話になるのだが。

 

 

 四人目であり、三人の敵である誠一郎のターン。

 ただし、状況は圧倒的に不利だ。

 相手には攻撃力が3200に及ぶモンスターが三体。

 しかも、その三体には、戦闘破壊耐性を自らに付与する効果を持っている。

 相手ターンにも発動できるので、守備力が低い傾向にある爆炎獣のデメリットを補える。

 効果破壊に対しては無力なのだが、それでも、蘇生手段は用意しているだろう。

 

「俺がバカだと?何言ってんだテメェ」

「一つだけ聞いておきたいんだが、バトルロイヤルルールの時と、シングルルールのデュエルでは、使用するタクティクスや、選ぶカードが違うんじゃないのか?」

「フン!確かに些細な違いはあるが、お前のような奴を相手に気にするほどのものではない!」

「そうだ!火野家のデュエルは、『システム』を重視している。この圧倒的に有利な状況を、覆せるわけがない!」

 

 ……『ブラック・ホール』と『ハーピィの羽根帚』に耐えきれないことはこの際置いておくとしよう。

 

「下手にカードを出そうと無駄だ。俺達がそれぞれ発動するフィールド魔法は、爆炎獣が攻撃するときに絶大な効果を発揮する」

「フィールド魔法は相手のフィールドに影響することがないものもあるが、このフィールド魔法たちは、爆炎獣をフィールドに展開できるのであれば、問題なく適用される効果となっている」

 

 確かに、『自分フィールド』ではなく『フィールド』としかかかれていないので、相手も使用することはできる。

 そう言えば、昨日の朝に見た火野家同士のデュエルでは、フィールド魔法が発動されている様子はなかった。

 なるほど、ミラーマッチでは発動しない。または、決めることが出来るタイミングでしか発動しないというのが『システム』なのだろう。

 

「さらに、攻撃力3200が三体。確実に、俺達のターンが来れば勝つことが出来る」

「次のターンが来れば。だけどな」

 

 誠一郎はデッキトップのカードに指をかける。

 

「俺のターン。ドロー」

 

 さて、どうするかね……。

 

「さんざん説明してくれてありがとう。俺は魔法カード『死者蘇生』を発動」

「「「何!?」」」

 

 またもや、あたりが愕然とする。

 当然だろう。

 みんなが知っている通りだが、一応テキストの確認だ。

 

 

 死者蘇生

 通常魔法

 ①:自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 誰もが知る有名カードであり、蘇生カードの原点。

 一時期、禁止カードになったこともある。

 対象をとる効果ゆえに、チェーンしてカードを移動させるカード効果を発動されると不発になるが、それは多くの蘇生カードが持つ共通の弱点であり、このカードの性能が低いというわけではない。

 

 高速でカードが動くデッキではあまり関係がない場合もあるのだが、それでも、一応のお守りとしてデッキにいれるデュエリストは多いのではないだろうか。

 

 今も制限カードであり、デッキに一枚しかいれることはできない。

 

「些細な違いだが、俺に対してはシステム通りにする必要はないと言ったな。まあそれはそっちの事情だし、俺の知ったことではないが……まあいい、俺が復活させるのは、火野勇実、君の墓地にいる『爆炎獣アグリケイト』だ」

「な……俺のモンスターを……」

 

 まあ、誠一郎の墓地にモンスターはいないし、対象をとるのだから、必然的に、相手の墓地のモンスターを対象にするのは必然だ。

 

「手札から捨てて発動出来て、カードを移動させることが可能なカードはあるのか?ないのなら、そのまま効果処理に移るぞ。俺は墓地から『爆炎獣アグリケイト』を攻撃表示で特殊召喚」

 

 爆炎獣アグリケイト ATK1600→2100 ☆5

 

「ち……俺のモンスターを奪いやがって……」

「そんなことを言っている場合かな?俺はアグリケイトのモンスター効果発動。メインフェイズ1にのみ発動可能だ。このカード以外の、全ての爆炎獣の攻撃力をこのモンスターに加える」

 

 爆炎獣が雄叫びを上げると、その攻撃力を上昇させていく。

 

「攻撃力3200のモンスター三体の攻撃力を加えていく、最終的に……」

 

 爆炎獣アグリケイト ATK2100→11700

 

「バカな……攻撃力、11700だと……」

「バトルフェイズだ。勇実、君のフィールドの『爆炎倉庫シグナルソウル』の効果で、俺のアグリケイトは全モンスターに続けて攻撃できる。火野正也がしっかり握っていた『爆炎獣ハウリングレオン』は持っているか?『爆炎倉庫ゲートソウル』は、戦闘を行う相手モンスターの効果は発動不可能になるが、相手の手札のモンスターは関係ないぞ」

 

 三人の表情を確認する。

 どうやら、持ってはいないようだ。

 

「持っていないのなら、このままバトルだ。このタイミングで一応、戦闘破壊耐性を付与させることは可能だが、戦闘ダメージは発生するんだ。意味はないぞ。俺は『爆炎獣アグリケイト』で、お前たちの『爆炎獣ケルベロス』に攻撃」

 

 アグリケイトが、ケルベロスたちのところに向かって走りだし、そして、そのすべてを倒した。

 

「「「うわあああああああああ!!!!!」」」

 

 凌士 LP4000→0

 矢吹 LP4000→0

 勇実 LP4000→0

 

 決着。

 

「ば……バカな……」

「君がアグリケイトなんて使わなければ……というか、シグナルソウルもなかったら、今頃こんなことにはなっていないだろう。些細な違いだったな」

「う、うるさい!人のカードを使って勝つなど邪道だ!」

 

 いいだろ別に。それを前提とする戦術だってあるんだから。

 

「相手のカードを利用すること、使うこと、それらを否定するって言いたいのか?」

「当たり前だ。そんなこと、俺は認めない」

「それ以上は言わない方がいいぞ。デュエルモンスターズの創始者のカードを否定していることと同じだからな」

「なに……」

 

 知らないのか?まあいいけど。

 

「ま、もっとその……システムって言うのを見直すんだな。お前が思っている以上に、深いと思うぞ」

 

 誠一郎は背を向ける。

 

「それじゃあ行くぞ」

「うん」

「そうですね」

 

 聖は溜息を吐いた。

 

「また……プレイしたカードは一枚。一体どんなデッキを組んでるの?アンタ」

 

 その呟きに対しては、誠一郎はフフッと笑うだけで、答えることはなかった。

 

 ★

 

「誠一郎。強くなってるなぁ……」

 

 飛行機の中。

 誠一郎のデュエルの動画を見ている女子生徒がいた。

 

 存在感、という意味ではすごい女子生徒だ。

 

 女優を下に見れるほどの整った容姿に加えて、濡れ羽色の髪を腰まで伸ばしており、それだけで清楚な雰囲気を感じさせるが、赤いヘアピンがかわいらしさを感じさせる。

 身長は166センチと、身長が180センチある男にとってはかなり理想的といえる高さであり、胸に関して言えば黄金比という表現が正しいだろう。大きいといえば大きいが、本人の身長もあってベストなものだ。

 ブレザーにミニスカートの制服も、彼女が着るとステージ衣装のような印象がある。

 

「私も強くなってるけどね」

 

 女子生徒、小野寺彩里(おのでらあいり)は、ふふっと笑った。

 

 ★

 

「zzz……?」

 

 遊霧刹那。

 彼女は基本的に朝早く起きるほうであり、自室のベッドで一人で寝ている。

 というか、誠一郎が一括購入した家が大きいので、フォルテも自室が与えられている。

 誠一郎曰く、『女のプライベートを視野に入れないと後でひどいことになった』とのこと。

 ……文面から察するに経験談なのだが……彼のことはおいておくとしよう。

 

 さて、そんな刹那だが、その大きな胸は身長には確実にあっていないが、外見が小動物なのでなんだかんだといじられるのが日常である。

 そんな彼女も、セキュリティレベルが高いこの家では、一緒に住んでいるのは誠一郎とフォルテだけなので、基本的にいじられることはない。

 

 のだが、ここで彼女がある違和感があった。

 何かすごく動きにくいし、口で呼吸ができない。鼻ではできるが。

 

「刹那ちゃーん。久しぶりだね~」

「!!!???」

 

 耳に聞こえるのは、一年前までよく聞いていて、それでいて『もっとも聞きたくなかった声』である。

 目を開けてちらっと見る。

 刹那の瞳に映ったのは、抜群の容姿と濡れ羽色の髪を持つ、一人の女性。

 ……実は、バストサイズというと刹那のほうが若干上なのだが、それはそれとして。

 

「一年前よりも胸は大きくなってるね~。私がよくもんだ甲斐があったよ~」

 

 そういいながら、この痴女、小野寺彩里は刹那の胸を後ろから揉みしだく。

 ベッドの上で。

 ちなみに、掛布団はすでに存在しない。

 

「んんーーーーー!!!!!」

 

 よくわからないが、強力なテープが口に張られているようでしゃべることができない。

 さらに言えば、両腕を腰ごとロープでぐるぐる巻きにされており、全く使えない。

 あと、足に関しては縛られていないが、どのみち、ここまで接近(密着?)されては、そんなものは関係ない。

 

「ふふふ、この家はすべての部屋に防音設備が完備されているからね~。助けなんて呼べないよ~」

 

 揉んでいるが、この痴女、容姿完成、成績完璧、スポーツ全能と呼ばれた才能の塊だ。

 この胸をもむという行為にしても相当のテクニシャンであり、少し本気を出すだけで、じかに触らず、寝巻の上からであっても、どんな女だろうと胸だけで三分もすればドエラいことになる。

 

「んーーー!!!んんーーーー!!!!!」

 

 涙目になりながら声を出そうとするが、彩里が言ったように、この部屋は防音。

 刹那の隣の部屋がフォルテ、その隣が誠一郎の部屋なのだ。

 実のところ、緊急の呼び出しボタンくらいはあるのだが、無理。

 驚異的な身体能力を持ち、理不尽なほど五感が優れている誠一郎とはいえ、ここまで分けられているとどうにもならない。

 ……わざと来ない可能性も否定できないが。

 

「一年ぶりにあったんだもんね~。たっぷりと刹那ちゃん成分を補充して……っぶない!」

 

 急に胸をもんでいた手の感触がなくなり、刹那の後ろで『バギッ!』という音が響く。

 

「おお……フォルテちゃん。相変わらずすごい筋力だね……」

「私は腕相撲で誠一郎様に勝てますからね」

 

 化け物である。

 的を外したものの、ベッドに直撃したフォルテの拳は、さすがにベッドの上で大乱闘が発生することを考慮したものではない『寝心地』を追求したベッドにめり込んでいるようだ。

 敷布団とかそういうレベルではなく、骨組みレベルで。

 

「でも、私の武術の才能を忘れたわけじゃないよね。ちょっと関節を決めることができれば……」

「そうであっても自力で脱出できる力はありますよ」

 

 フォルテは刹那を縛っていて、何重にも巻いている縄を両手でガシッと握る。

 そして、左右に引っ張った。

 

 ブチブチブチィ!

 

「ヒイィ!」

 

 哀れな一生を終えた縄の断末魔と、本気でやばいものを見た女性の叫び(悲鳴?)が刹那の部屋に響く。

 

 そして、その縄を引きちぎった目と同じ目色で、フォルテは彩里を見た。

 どうやら、現時点、この引きちぎられた縄の価値と、彩里の価値は同じのようだ。

 

「あ、あはは……」

 

 こりゃまずいことになったなぁ……と、感じる彩里であった。

 

 ――で、そのころの誠一郎はというと……。

 

「『女』が三つ集まると『姦しい』となるが……何やってんだろうな。あいつら」

 

 左手で頬杖をついて、右手でマウスを操作しながら、通販でベッドを探していた。

 

 ★

 

「で、転校してきたというわけか」

「そういうことよ。一年ぶりね。誠一郎」

 

 リビングで話している誠一郎と彩里。

 フォルテはちょっと精神的に2000ポイントくらいのダメージを受けた刹那にディアン・ケトを二枚くらい使う程度で介護していた。

 こう見えて刹那は中学二年生。多感な時期。といっても過言ではないからな。

 第一、もともと彩里が苦手と言うこともあるが。

 

「武者修行でもしていたのか?」

「そうよ。最終的に、誠一郎を倒すために強くなってるからね」

「そうかい……」

 

 最終的に。と言っている以上、とりあえず、何かラスボスだとでも思っているのだろう。

 それがいいのか悪いのかは知らないが、『誠一郎を倒した後はどうするのか』という疑問はあるが、それを今聞くのは野暮と言うものか。

 

「で、一年間の武者修行は強くなれたのか?」

「……うーん。まだ分からない部分は多いわね。でも、何か掴めそうな気がする。って言うところまでは来たかな」

 

 そうか。

 ……その程度であるのなら、いつまでたっても誠一郎の勝つのは不可能だが……。

 

「で、久しぶりなんだし、デートしようよ」

「いいぞ」

 

 動じることを知らない誠一郎だった。

 

 ★

 

 なんか、いつの間にか荷物を全て遊霧家の一つの部屋に運び込んでいた彩里の行動力は圧巻だが、その程度なら問題がないのは誠一郎である。

 

 さて、女の子の準備には時間がかかるというのは知っているだろう。

 実際にそう言うものだと経験していなくとも、そう言うものだと思っている人も多いはずだ。

 

「でもね。素で完成されている私に、化粧もメイクも必要はないんだよ!」

「誰に説明しているんだ?彩里」

 

 服に関しては選んだようだったが、メイクはしていない。

 

「しかし……その服。何処で買ったんだ?」

 

 下は白いミニスカートだが、上は白いブラウスにレザー系でかためている。

 なんだかんだ言って、166センチで身長は高いほうなので、似会っているといえば似合っている。

 さらに言えば、彼氏である誠一郎の身長が高いので、ハイヒールでも全く問題がないのだ。

 出し惜しみはしない感じである。

 

「そこは『似合ってる』とか、そう言うことを言うべきじゃないの?」

「一年前の時点で言い飽きてたからな」

 

 すごいセリフである。

 

「まあ、とりあえず行くぞ」

「プランは決まってるの?」

「彩里の好みが変わっていないことは朝の行動で分かってるからな。まあ、このあたりの案内も含めてエスコートしてやる」

 

 伊達に余裕のある高身長のイケメンではないのだ。

 意味が分からないだろう。

 

 というわけで、彩里を連れて商店街の方に行く。

 ただ、彩里は容姿完成でスタイルも抜群だ。

 そのため、歩く人々が振り返るのだが、そこは彩里も慣れているのであまり気にしていない。

 そして、その上で、誠一郎も別に雰囲気で負けていない。

 というより、彩里と比べて身長差があり、さらに余裕がある感じなので器を感じるのだ。

 

 遠くから見ているものはいるが、話しかけて来る人はいない。

 

「カフェとか、ファッションとか、色々揃ってるのね」

「学校から近いからな。それに一万人弱いるマンモス校だし、そう言う意味で、全く客が来ないというわけではないんだろう。生徒の家族が近くに住んでいることもあるし、そして、近くに住んでいるのは教員たちも同じだ」

「……職員寮とかないの?」

「あるよ。ただ、変にプライドの高いやつがいるんだよ。だから、そう言う分の金も給料に持たせておくんだとさ。経理が泣いてた」

「ふーん」

 

 彩里はどうでもいいことだと思ったようだ。

 まあ、誠一郎としても、知っているから答えただけで、どうでもいいことだと思っていたが。

 次の瞬間、誠一郎は彩里を抱きしめて一気にジャンプした。

 

「え、何!?」

 

 彩里が驚いた次の瞬間、近くのカードショップから爆発音が響く。

 跳んだついでに誠一郎は自分の体を下にしていたので、彩里には何も影響はない。

 

「な……どういうこと?」

「強盗でも入ったのか……まあ、カードショップだからな。狙われることもあるんじゃないかな」

「警備員は何をしているのよ……」

「警備員の権限が中途半端なのがこの学校だ」

 

 ダメじゃん。と彩里が言いたそうにしていた。

 そして、彩里は立ち上がると、店を見た。

 立ち上がった誠一郎を見る。

 

「どうする?」

「そろそろ入った連中が出てくるころだろう。入り口で待っていればいい」

「なるほど」

「というのが普通なんだが、建物の中とはいっても、爆発物を持ち込むのだから、入り口から出てくるという保証はない。だって壁も爆破できるからな」

「ということは?」

「裏路地に回ったほうが実は遭遇できる」

「なるほど、行きましょう」

「仰せのままに」

 

 というわけで、行ってみることにした。

 すると……。

 

「フッフッフ。カードショップなのにガードが甘いですねぇ」

 

 白衣姿でメガネをかけた男性が白い袋を担いで爆破した穴から出てくるところだった。

 

「……不審者ね」

「彩里。白衣姿だからといって不審者扱いしたら偏見になるぞ」

「そうなの?」

「そういうときもある」

 

 誠一郎と彩里は不審者を見る。

 

「おや?あなたたちも同業者ですか?」

「どう見てもデート中のカップルだろ」

「なるほど……デュエルです。私が勝てば、その少女を渡してもらいますよ」

「こんなじゃじゃ馬がほしいなんて生粋のドMなん()アッ!」

 

 誠一郎の脇腹に彩里の鉄拳が直撃した。

 そのまま悶絶する。

 

「ちょっと黙っていなさい」

「……」

「返事は?」

「ハイ……リョウカイシマシタ」

 

 明らかにちょっと変なことになった誠一郎を放置して、彩里はデュエルディスクを構える。

 

「さて、デュエルしましょうか」

「まあ、だれが相手であろうとかまいませんよ。どのみち、あなたを倒せばいいだけのことなのですから」

「言ってくれるじゃない」

 

 絶対の自信を持つ彩里。

 さて、どうなることやら……。

 

「「デュエル!」」

 

 彩里  LP4000

 不審者 LP4000



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五話

 カードショップを襲撃した白衣の男と彩里のデュエル。

 その直前に、脇腹にきつい一撃をもらった誠一郎も、一応復活している。

 さて……どうなるのだろうか……。

 

「私の先攻です」

 

 不審者からのスタートだ。

 

「それと最初に言っておきますが、私のことは早川(はやかわ)と呼んでいただきたい。不審者などと呼ぶのは、デュエリストとしてどうなのかな?」

「「……」」

 

 いきなり何を言いだすのだろうか。

 

「まあ、いいわ。そう呼ぶことにする」

 

 偽名であろうと本名であろうとこの際関係はない。

 

「では、私は自分フィールドにモンスターが存在しないことで、手札から『ホワイトブランク・コア』を特殊召喚しましょう」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

 半透明な素材でできた球体だ。

 

「ホワイトブランク・コアの効果に寄り、『ホワイトブランク』オーディナルモンスターをオーディナル召喚する場合、一体で二体分の素材にできる」

 

 

 ホワイトブランク・コア

 レベル1 ATK0 DFE0 光属性 機械族

 ①:自分フィールドにモンスターがいない場合、このモンスターを手札から特殊召喚できる。

 ②:自分が「ホワイトブランク」オーディナルモンスターをオーディナル召喚する場合、このモンスターは、一体で二体分のオーディナル素材とすることが出来る。

 

 

「特殊召喚能力に加えて、ダブルシンボルモンスター……」

「そういうことですよ。私は光属性のホワイトブランク・コアをシンボルリリース。オーディナル召喚!現れろ、レベル8『ホワイトブランク・ドラゴン』!」

 

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000 ☆8

 早川 SP0→2

 

「それがあなたのエースカードと言うわけね」

「フフフ、私はカードを一枚セット、ターンエンドです」

「私のターン。ドロー!」

 

 彩里はカードを一枚引いて、笑みを浮かべた。

 

「私は手札から、『クロスロジック・ビースト』の効果を発動。手札一枚をコストにして特殊召喚することが出来る」

 

 現れたのは、五つの石板を身に付けた白い獣。

 

 クロスロジック・ビースト ATK1500 ☆4

 

 

 クロスロジック・ビースト

 レベル4 ATK1500 DFE1000 光属性 獣族

 ①:手札一枚をコストにして発動できる。このモンスターを手札から特殊召喚する。

 

 

「く……クロスロジック?」

「そうよ。そして私は、墓地の『クロスロジック・イーグル』の効果発動。自分フィールドにクロスロジックモンスターが存在する場合、一ターンに一度、墓地のこのカードを特殊召喚できる」

 

 クロスロジック・イーグル ATK1000 ☆4

 

 ビーストの方は白かったのに対して、イーグルの方は黒い。

 ただし、五つの石板を身に付けているデザインは同じだ。

 

「い……色が違う」

「そうよ。ビーストは光属性だけど、イーグルは闇属性だもの」

「何?」

 

 

 クロスロジック・イーグル

 レベル4 ATK1000 DFE800 闇属性 鳥獣族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドに「クロスロジック」モンスターが存在する場合に発動できる。墓地のこのカードを特殊召喚する。

 

 

「な、なんだ。自信があるようだが、そこから属性を揃えるのか?なら、そうはさせんぞ。私は永続罠『エレメント・ロック』を発動。フィールドに表側表示で存在するモンスターの属性は、そのモンスターの本来の属性としてのみ扱う」

 

 

 エレメント・ロック

 永続罠

 ①:フィールドに表側表示で存在するモンスターの属性は、そのモンスターの本来の属性としてのみ扱い、変化、重複は行われない。

 

 

「あのカード。重複ってどういうことなのかしら」

 

 彩里は分からないようなので、誠一郎が説明する。

 

「ようするに、カードの効果に寄って属性が変化しない。あとはそうだな……例を挙げるなら、フィールドにいる時だけは、『光と闇の竜』が闇属性としては扱われないってことだ」

「もともとの属性に固定するカード、と言うことね」

 

 彩里はまだ疑問があるようだ。

 それは、『何故そのようなカードを採用しているのか』ということだろう。

 誠一郎は分かっているが、あえて言わないことにした。

 

「まあいいわ。ただ、そのカードも、私のデッキに意味はないわよ」

「どういうことだ?」

「こういうことよ。私は光属性のクロスロジック・ビーストと、闇属性のクロスロジック・イーグルをシンボルリリース!」

 

 二体のクロスロジックモンスターがシンボルに変わる。

 

「なに!?」

「同じ属性をリリースすることで召喚するオーディナルモンスターしか見ていないのかしら。こういうカードもあるのよ」

 

 彩里は一枚のカードをモンスターゾーンに置く。

 

「二つの理論が混じりあい、封印されし猛獣は姿を現す。オーディナル召喚!レベル7『クロスロジック・キマイラ』!」

 

 クロスロジック・キマイラ ATK2600 ☆7

 彩里 SP0→2

 

「な……異なる属性でオーディナル召喚だと」

「オーディナル召喚は、属性を『揃える』召喚方法じゃなくて、属性を『求める』召喚方法よ。確かに、ダブルシンボルモンスターもいてそっちに意識が向きやすいけど、忘れてもらっては困るわね」

「ぐぬぬ……だが、私のホワイトブランク・ドラゴンには及ばない!」

 

 確かに。

 キマイラの攻撃力は2600なのだ。爆炎獣のように永続的な攻撃上昇能力は持っていない。

 ただまぁ……何も考えがなく出すモンスターでもないのは確かだ。

 

「甘いわよ。クロスロジック・キマイラの効果発動。SPを一つ消費して、相手モンスター一体の表示形式を変更する」

「なに……」

 

 彩里 SP2→1

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000→DFE2000

 

「残念だけど。守備力が低いモンスターではキマイラの前では壁にもならないわよ。キマイラは、貫通能力を持っている」

「な……」

 

 

 クロスロジック・キマイラ

 レベル7 ATK2600 DFE1000 光属性 獣族

 オーディナル・効果

 光属性+闇属性

 ①:シンボルポイントを一つ消費して、相手モンスター一体を対象にして発動できる。対象にしたモンスターの表示形式を変更する。

 ②:このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 『SP2』

 

 

 素材に闇属性は必要だが、ステータス的に言えばこのカードは闇属性とは全く関係がない。一応注意が必要である。

 

「バトル!クロスロジック・キマイラで、ホワイトブランク・ドラゴンを攻撃!」

 

 キマイラが飛びかかると、ドラゴンを爪でなぎ倒した。

 

「ぐ……」

 

 早川 LP4000→3400

 

「ホワイトブランク・ドラゴンの効果発動。このモンスターが破壊されるとき、墓地から『ホワイトブランク・コア』一帯を特殊召喚することができる」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

「モンスターを墓地から……私はカードを一枚セット、ターンエンドよ」

「私のターン。ドロー!」

 

 早川はカードを引くとにやりと笑った。

 

「私は魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地からホワイトブランク・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000 ☆8

 

「さらに、ホワイトブランク・コアをシンボルリリース。二体目の『ホワイトブランク・ドラゴン』をオーディナル召喚!」

 

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000 ☆8

 羽計 SP2→4

 

「二体目……」

「私は魔法カード『シンボル・フォース』を発動。自分フィールドのすべてのオーディナルモンスターは、自分のシンボルポイントの数×200ポイントアップする!」

 

 

 シンボル・フォース

 通常魔法

 ①:自分フィールドのすべてのオーディナルモンスターは、ターン終了時まで、自分のシンボルポイント一つにつき、攻撃力が800ポイントアップする。

 

 

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000→3800

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000→3800

 

「やるわね……」

「さあ、このターンのバトルフェイズで終わりです。ホワイトブランク・ドラゴンが攻撃する場合、戦闘ダメージを二倍にする!」

 

 なんでお前先攻とったんだよ……。

 そうおもった誠一郎は間違いではないはずだ。

 

 

 ホワイトブランク・ドラゴン

 レベル8 ATK3000 DFE2000 光属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:このカードがモンスターに攻撃した場合、その戦闘で相手に発生するダメージは倍になる。

 ②:このカードが破壊された場合、墓地の「ホワイトブランク・コア」一体を特殊召喚することができる。

 『SP2』

 

 

「ホワイトブランク・ドラゴンで、クロスロジック・キマイラを攻撃!」

「伏せカードは警戒しなさいよ……カウンター罠『攻撃の無力化』を発動。攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させるわ」

「む……私はターンエンドです」

 

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3800→3000

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3800→3000

 

 手札なくなったしな。もうこれ以上のことはできないだろう。

 

「私のターン。ドロー。まずは、魔法カード『シンボル・ドロー』を発動。SPを一つ消費して、デッキからカードを二枚ドローする」

 

 彩里 SP1→0

 

 

 シンボル・ドロー

 通常魔法

 ①:シンボルポイントを一つ消費して発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「そして、墓地の『クロスロジック・イーグル』を、自身の効果で特殊召喚!」

 

 クロスロジック・イーグル ATK1000 ☆4

 

「そして、自分フィールドにクロスロジックモンスターが特殊召喚されたことで、手札の『クロスロジック・ファング』を特殊召喚!」

 

 クロスロジック・ファング ATK1700 ☆4

 

 

 クロスロジック・ファング

 レベル4 ATK1700 DFE1400 光属性 獣族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:自分フィールドに「クロスロジック」モンスターが特殊召喚されたときに発動することができる。手札のこのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「いくわよ。私は光属性のクロスロジック・ファングと、闇属性のクロスロジック・イーグルをシンボルリリース!二つの理論が交わるとき、封印されし鳥は舞い上がる。オーディナル召喚!レベル7『クロスロジック・ガルーダ』!」

 

 クロスロジック・ガルーダ ATK2500 ☆7

 彩里 SP0→2

 

「二体目のオーディナルモンスター……だが、キマイラの効果を使ったとしても、倒せるモンスターは一体だけです!」

「そんなわけないでしょ。クロスロジック・ガルーダの効果発動。自分フィールドのこのカード以外の『クロスロジック』オーディナルモンスター一体を選択して、そのモンスターは、相手モンスター全てに続けて攻撃できる!」

 

 ガルーダが舞い、キマイラが咆える。

 

 

 クロスロジック・ガルーダ

 レベル7 ATK2500 DFE1800 闇属性 鳥獣族

 オーディナル・効果

 光属性+闇属性

 ①:一ターンに一度、自分フィールドのこのカード以外の「クロスロジック」オーディナルモンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 『SP2』

 

 

「ぜ、全体攻撃だと……」

「そして、クロスロジック・キマイラの効果を発動。一ターンに一度の制限はないわ。あなたのモンスターには、二体とも守備表示になってもらう!」

 

 彩里 SP2→1→0

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000→DFE2000

 ホワイトブランク・ドラゴン ATK3000→DFE2000

 

「な……」

「バトル!クロスロジック・キマイラで、ホワイトブランク・ドラゴン二体に攻撃!」

「ぐ……ま、まさかこんなあっさりと、この私が……」

 

 キマイラが雄叫びと共に、ホワイトブランク・ドラゴンに向かって突撃する。

 

「く……」

 

 キマイラの牙は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――突如現れたバリアに寄って、その攻撃を通すことはなかった。

 

「「何!?」」

「……」

 

 彩里と早川が驚いている時、誠一郎は、早川の奥に目を向けていた。

 

 そこには、『デュエル中のデュエルディスク』を構えた、癖毛のある紫色の髪の少年が歩いてきていた。

 真っ黒のジャケットが印象的だった。

 年は誠一郎たちと変わらないだろう。

 

「早川。そのあたりで演技は止めておけ」

「宗達様」

 

 早川はその少年を見ると、小物臭のする雰囲気から一転して、まさに『優秀な部下』という雰囲気を出して少年に対して道を開ける。

 

「あなた。誰?」

 

 聞いておきたかったところだが、彩里が聞いてくれた。

 

「僕か?僕は才馬宗達(さいばそうたつ)。で、こっちは……名前だけは教えているか。早川だ」

 

 名字だけ?別にいいけど。

 

「そう、で、さっきのバリアは一体どういうことなのかしら」

「僕が乱入して、罠カード『リグレット・バリア』を発動させた。『リグレットカウンター』を持たない相手モンスターが攻撃した時、手札から発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする」

「そういうことね……」

 

 

 リグレット・バリア

 通常罠

 ①:相手モンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃を無効にする。攻撃宣言をしたモンスターに「リグレットカウンター」がおかれてない場合、このカードは手札から発動できる。

 

 

 リグレットカウンター。

 それが才馬宗達と言うデュエリストにとって重要なのだろう。

 

「さて、早川。戻るぞ」

「はい」

 

 いつの間にかサングラスとスーツと言った姿になっていた早川が才馬についていく。

 

「ちょっと、デュエルはどうするのよ」

「すぐにまた会うことになる。それにしても……」

 

 才馬は彩里を見る。

 

「お前。弱いな」

「な……そう言うのならデュエルしなさいよ!」

「断る」

 

 才馬はそう言うと、指をパチンと鳴らした。

 すると、スモークが発生して、一瞬で見えなくなる。

 いや、足音は聞こえているのだが、あえて追わないことにした。

 

 煙がはれた時、当然、二人はいない。

 

「はあ……誠一郎君。どうする?」

「……さあな。カードはおいていってるから、俺としては放置でかまわん」

 

 そう、あのでかい白い袋はすでに放置されている。

 そう思った時、爆発したまま放置していた壁から強盗みたいなのが出てきていた。

 

「ハッハッハ!今回は大量だぜ!」

「「……」」

 

 何を言えばいいのかわからない。

 のだが、彩里はデュエルで発散することにしたようだ。

 

「あんたたち、私の怒りの矛先になりなさい!」

 

 無茶苦茶である。

 

(才馬宗達……か。挑んでくるにしても、共闘することになるとしても、いい方には転ばないだろうな)

 

 彩里がキマイラやガルーダを出しているのを見ながら、誠一郎はそう思った。



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六話

 気になることは後回しにすればいい。

 誠一郎の基本的な考え方はそれである。

 誰が相手になったとしても、それを正面から戦ってつぶせばいいのだ。

 と言うことで、放置している。

 

「雄一郎さん。お久しぶりです」

「ん?聡子(さとこ)か」

 

 誠一郎が廊下を歩いてどこに行こうかとふらふらしていたとき、水谷聡子が歩いて来た。

 学校の中なのだが、何故か着物姿である。

 まあ、いつも通りと言えばいつも通りなのだが。

 

「今日は彩里さんは一緒ではないのですね」

「転校初日からクラスのほとんどを支配したいとか言いだして、そのまま放置してきたからな」

 

 彩里の存在感と言うのは圧倒的であり、それでいてコミュ障と言うこともないので、必然的に人は集まりやすい。

 それに、人心掌握もそこそこできる上に、デュエルも基礎に関しては誠一郎仕込みなのでかなり強いからな。

 

「で、どうしたんだ?」

「ええ、一戦ほど、デュエルをしたいと思いまして」

 

 聡子はデュエルディスクを取り出した。

 誠一郎は溜息を吐きながら言う。

 

「今はそういう気分じゃないんだがな……」

「フフフ、気になっていることがあるのでは?」

「例えば?」

「才馬宗達。と言えばわかりますか?」

 

 そう言えば、水谷家はこう言った情報網に関しては四名家の中では一番上だったな。

 

「そうだなぁ……ただ、結果は分かり切っていると思うんだけどな。まあそれはそれとして、刹那。隠れてないで出て来い」

 

 誠一郎が言うと、曲がり角から刹那が顔をひょこっと出した。

 だが、その顔には若干の恐れがある。

 誠一郎に対してではない。聡子に対してだ。

 

「あら、刹那ちゃん。お久しぶり」

 

 包容感あふれる母親のような笑顔で刹那に手を振る聡子。

 刹那は一刻も早く逃げ出したい。という思考を隠そうともしない表情だった。

 

 そして、一目散に後ろに向かって走りだす。

 

「!?」

 

 走りだした先には……両手を広げた聡子が!

 意味が分からない。一体何があったのだろう。

 とはいえ、かなりの脚力を使って走りだした刹那は急には止まれない。

 必然的に、聡子の胸に顔面から飛び込むことになる。

 

 聡子は遠慮なく刹那を抱きしめた。

 

「んんーーーー!」

「あらあら。良い子ですね~。私の胸に飛び込んでくるなんて」

 

 別に飛び込みたかったわけではないが、まあ、追及するのは野暮と言うものだろう。

 巨乳の少女二人が百合百合しているのは悪くはない光景だからな。

 

 誠一郎は壁の花をすることにして、ほとぼりが冷めるのを待っていた。

 

 ★

 

「zzz……」

 

 近くのベンチまで連行され、結果的に聡子の膝枕ですやすやと眠っている刹那。

 無論、マフラーもポニーテールもそのままであり、寝ずらいのではないかと思わなくもないが、本人は寝ているのでいいとしよう。

 

「ふふふ。かわいいですね~」

 

 母親のような笑みを浮かべて刹那の頭をなでる聡子。

 

 実のところ、包容感あふれる雰囲気と体つきをしている聡子は、母性も強い。

 外見的にもそれは出ており、特に誠一郎たちのような母親のいない子供にとっては本能的に甘えたくなる時があるのだ。

 え、俺?俺は逆に年寄りクサいって言われるくらいだからな。別に飛び込んだりはしないよ。

 

「前よりも寝るまでが早くなっていますね」

「まあ、彩里と言うと疲れるからな」

 

 いろいろな意味で相性が悪いのだ。いろいろな意味で。

 

「……何やってんの?あんたら」

 

 聖が呆れた表情でやって来た。

 

「聖か。そうだな……なんていえばいいんだろう」

「私は刹那ちゃんの膝枕ですよ」

 

 そういいながら撫でている聡子。

 

「ん……」

 

 刹那は本当に気持ちよさそうに寝ている。

 

「……だんだん意味が分からなくなってきた」

「まあ、それが普通だ」

「あんたがいうんだ……」

 

 俺を何だと思ってるんだ?

 

「そう言えば、イーストセントラルの序列三位の水谷聡子よね」

「ええ。そうですよ」

「……強いの?」

「それはもう。強いですよ」

「やってみれば分かるぞ」

 

 聖は溜息を吐きながらデュエルディスクを取り出す。

 

「それなら、一戦だけ」

「いいでしょう」

 

 丁度、刹那が起きたようだ。

 そして、状況を把握したようだ。

 

「フフフ。刹那ちゃん。私の膝枕は気持ちよかったですか?」

「……うん」

 

 顔を真っ赤にしながら答える刹那。

 まあ、この年になって……みたいな感じだろう。

 ベンチから聡子は微笑みながら立ち上がり、聖の反対側に立つ。

 

 お互いにデュエルディスクを構えて、位置についた。

 

「水谷家のデュエルはある程度情報を集めてるけど、デュエル出来るっていうのなら、そっちの方がいいからね」

「ふふふ。かかってきなさい」

 

 気合を入れる聖に対して、その微笑みを崩さない聡子。

 まあ、その自信もわからないわけではないがな。

 

「「デュエル!」」

 

 聖  LP4000

 聡子 LP4000

 

 先攻は聖。

 

「私のターン。手札から魔法カード『トレード・セット』を発動。手札二枚を捨てて、その後、カードを二枚ドローする」

 

 手札交換からのスタートか……。

 

 

 トレード・セット

 通常魔法

 ①:手札を二枚捨てて発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「そして、墓地の『凍結恐竜プテラ』の効果を発動。墓地から除外して、墓地の『ブリザード・エッグ』を一枚発動できる」

 

 聖たちのフィールドにブリザード・エッグが出現した。

 

「墓地に送ってそのまま発動ですか……なかなかやりますね」

 

 聡子は余裕を崩さないというより、褒めている感じはする。

 ただ、なんだろうな。すごく……母親的な目線である。

 

「む……私はブリザード・エッグの効果で、一ターンに一度、手札の凍結恐竜モンスターを特殊召喚できる。私は『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」

 

 凍結恐竜アンキロ ATK1000 ☆4

 

「そして私は、水属性の凍結恐竜アンキロをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させて盾となれ!」

 

 アンキロがシンボルになる。

 

「オーディナル召喚!レベル5『凍結恐竜フルガード・ステゴ』!」

 

 凍結恐竜フルガード・ステゴ ATK2000 ☆5

 聖 SP0→1

 

「一ターン目からオーディナル召喚ですね……それで、どうします?」

「私はカードを一枚セットして、ターンエンドよ。さあ、見せてくれるかしら。序列三位の実力」

「いいですよ。私のターン。ドロー」

 

 デッキからカードを引いても、笑みは変わらない。

 優しい表情だ。

 

(聖……それだと、このターンで負けるぞ)

 

 悪くはないフィールドを整えた聖と、微笑んでいる聡子をみて、誠一郎はそう思う。

 

「私は、自分フィールドにモンスターが存在しないことで、魔法カード『包容の鍵』を発動し、それにチェーンして、手札の『トレランスリキッド・リバイブ』をコストにして、速攻魔法『トレランス・ドロー』を発動し、さらに、チェーンして速攻魔法『サモン・チェーン』を発動しますよ」

 

 一気に三枚のカードを発動する聡子。

 

「え……」

「何もなければ処理に入ります。まず、サモン・チェーンの効果に寄り私はこのターン。三回まで召喚を可能にします。そして、トレランス・ドローの効果によって、デッキからカードを二枚ドローして、包容の鍵の効果で、デッキからレベル4以下の『トレランスリキッド』モンスター一体を特殊召喚できます。私は二体目の『トレランスリキッド・リバイブ』を特殊召喚」

 

 トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2

 

 水っぽい小さなモンスターだ。スライムと言っても別に不思議ではない感じがする。

 

 

 包容の鍵

 ①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合発動できる。デッキからレベル4以下の「トレランスリキッド」モンスター一体を特殊召喚する。

 

 

 トレランス・ドロー

 速攻魔法

 ①:「トレランスリキッド」モンスター一体を手札から捨てて発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「トレランスリキッド……」

「水谷家が代々受け継いできたモンスターたちです」

 

 聡子は四枚ある手札のうち、一枚を手に取った。

 

「私は水属性のトレランスリキッド・リバイブをシンボルリリース。揺蕩(たゆた)う水よ、今その姿を激流にひそませ、呼び覚ませ」

 

 激流が吹き荒れる。

 

「オーディナル召喚。レベル6『トレランスリキッド・ドラゴン』」

 

 トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6

 聡子 SP0→1

 

「!」

 

 一気にフルガード・ステゴの攻撃力を上回るカードを出してきたからだろう。聖が警戒している。

 

「遅いですよ。墓地の『トレランスリキッド・リバイブ』二体の効果を発動。自分がオーディナル召喚に成功した場合、墓地のこのモンスターを特殊召喚することが出来ます。この効果で特殊召喚されたこの子たちは、フィールドを離れる時に除外されます」

 

 トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2

 トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2

 

 

 トレランスリキッド・リバイブ

 レベル2 ATK300 DFE0 水属性 水族

 ①:自分がオーディナル召喚に成功した場合に発動できる。墓地のこのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「待って……あと二回召喚を……」

「その通り、私はこの子たちを、それぞれシンボルリリース。あと二体のトレランスリキッド・ドラゴンをオーディナル召喚しましょう」

 

 トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6

 トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6

 聡子 SP1→2→3

 

「一ターンに……オーディナル召喚を三回……」

「まずは『サイクロン』でセットカードを破壊します。トレランスリキッド・ドラゴンの効果を発動。一ターンに一度、SPを一つ消費して、相手モンスター一体の効果をターン終了時まで封じるか、相手の墓地のカードを除外するか、相手の魔法、罠を破壊するか、そのどれかを選ぶことが出来ます」

「く……」

「当然、三体いますから、三回使えますよ。フルガード・ステゴの効果を無効にして、墓地のアンキロを除外、そして、ブリザード・エッグを破壊します」

 

 

 トレランスリキッド・ドラゴン 

 レベル6 ATK2400 DFE1800 水属性 水族

 オーディナル・効果

 水属性×1

 ①:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して、以下の効果から一つを選択して発動できる。

 ●相手モンスター一体の対象にして、硬貨をターン終了時まで無効にする。

 ●相手の墓地のカードを一枚対象にして除外する。

 ●相手フィールドのの魔法、罠を一枚選択して破壊する。

 『SP1』

 

 

「うう……」

「フルガード・ステゴには、シンボルポイントを使って、攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる効果がありますが、これで関係はなくなりました」

 

 

 凍結恐竜フルガード・ステゴ

 レベル5 ATK2000 DFE2000 水属性 恐竜族

 水属性×1

 ①:相手モンスターの攻撃宣言時、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了する。

 『SP1』

 

 

「バトルフェイズ。私のトレランスリキッド・ドラゴン三体で、一斉攻撃」

 

 ドラゴンたちがブレスを放出する。

 

「き、きゃああああああああ!」

 

 聖 LP4000→3600→1200→0

 

(……予想通りになったか。まあ、エリアSだからなぁ。これくらいの差があるのは当然といえば当然なんだが……まあ、聡子も強くなってるし、そういうもんかね?)

 

「うぅ……まさか瞬殺されるなんて……」

「カード一枚で勝利する俺よりはマシだろ」

「まあそうだけど……」

 

 聖がうなだれている時に、聡子は聖のところにやってきて頭をポンポンと叩く。

 

「フフ。まだまだこれからですから、頑張ってくださいね」

 

 ポンポンと叩いた後にそのまま撫でる聡子。

 聖は全く抵抗していなかった。

 誠一郎はチラッと刹那を見ると、羨ましそうな表情だった。

 

「あ。そうでした。誠一郎さん。データは送信しておきますね」

 

 聡子はとりだしたスマホを操作すると、誠一郎の方にデータが送られてきた。

 

「……ぶっちゃけ、デュエルは余興だったのか」

「エリアDのデュエリストなら、普通はドラゴンを三体も出してはいませんよ」

「でも全く歯が立たなかったし……」

「それはいいのですよ。これから頑張ればいいのです」

 

 聡子は微笑んだまま刹那の方を見る。

 

「刹那ちゃん。聡子お母さんに撫でてほしいのですか?」

「……」

 

 刹那はプイッと顔を逸らした。

 が、まあ、バレバレである。

 というか、聡子も自分のことをお姉さんとは言わない。お母さんと言うのだ。この天性とも言える母性である。

 

 ★

 

 で、結局。

 

「zzz……」

「zzz……」

 

 刹那も聖も、二人とも聡子の膝枕で寝てしまった。

 誠一郎が座っているとスペースが足りないので誠一郎は立ち上がったが。

 

「なんていうんだろうな。この状況」

「私はみんなのお母さんですからね」

 

 水谷聡子個人としての話だが、いろんな孤児院にも寄付をしているし、たまに遊びに行くこともあるようだ。

 子供の扱い方と言うものが分かっているのだろう。

 誠一郎は溜息を吐きながら送られたデータを見ていた。

 

「才馬宗達……ふむ、最終学歴は中卒だが、高校には通うことすら考えていなかった感じか。忠臣が二人いて、色々嗅ぎ回っている見たいだな」

 

 彼もまた、誠一郎たちのように、とある組織を追っているようだ。

 

「私たちと彼がおっている組織ですが、火野家の周り……いえ、最近は元素四名家すべてに入ってきています。組織の名前は『リアリティ・テーゼ』のようですね」

「よくそこまで調べているな……」

「ですが、目的までは分かりません。ですが、とあるカードの研究をしている。と言うことは分かっています」

「とあるカード?」

 

 特定のカードについて、戦術的観点から調べている組織は多いが……。

 

「オーディナルモンスターであることは分かっているのですが、逆に言うと、それ以外は掴むことができませんでした。そうですね。情報規制がうまいというより、副産物が多すぎる。と言う方が正しいでしょうか。全体像の把握がかなり困難です」

「……リアリティ・テーゼを相手にする時に、聡子が『自分のデッキ』を使うかどうかだがな……」

「フフフ。それはどうでしょうね」

 

 他の四名家、特に風間家の当主をはじめとした、イーストセントラルで上位の四人はそうだと思うが、自分のデッキと言うものを持っている。

 使用するカテゴリが同じだったとしても、当主としてのデッキと、個人のデッキは大きく異なるのだ。

 まあ、風評とか体裁の話である。

 

「俺が本気を出せるくらいには強いといいんだがな……」

「本気で戦ったことがあるのですか?」

「あるぞ。負けたがな」

 

 誠一郎のその言葉に、聡子は驚愕を隠していなかった。

 

「あなたに勝ったのですか?」

「接戦だったと思うが、紙一重で負けた」

 

 誠一郎は思いだす。

 とある事故である場所に行って、そこであった、黒の魔術師と、巨神兵と、天空竜と、翼神竜を操る、王を。

 誠一郎自身も、自分のそばにいる紅の魔術師も、本気だったし、全力だったが、勝つことはできなかった。

 一回しかデュエルしていないし、今やるとどうなるのかは知らないし興味もないが、あのデュエルは楽しかった。

 

「ま、聡子がどんなに調べてもわからないことだし、俺もしゃべる気はない。話を戻すぞ」

「……まあいいでしょう。あなたに勝ったデュエリストも気になりますが、今はそれを調べる時間を割くのは得策ではないでしょうから」

 

 それに、聡子も、本音の部分を言えば、本気で情報を隠す誠一郎を相手にしたくはないのだ。

 

「聡子。一応聞いておくが、どうなると思う?」

「荒れるでしょうね。ですが、水谷家の人間としても、水谷聡子という一人のデュエリストとしても、この幸せそうな寝顔を護れるように努めるだけです」

「……そうか。まあ、一番後ろには俺がいるんだ。何かあれば頼ればいい」

「最初からそのつもりです」

 

 何の悪びれもなくそういう聡子に対して、誠一郎は苦笑した。



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七話

「遺跡探検?」

「うん。これ見て」

 

 彩里が隣のクラスでおそらくクラスメイトをほとんど支配したであろう次の日。

 誠一郎はとあるポスターを彩里から渡されていた。

 そこには『遺跡探検ツアー』という内容でいろいろかかれていた。

 

「……何で遺跡?」

「何か面白そうじゃない?」

 

 誠一郎はポスターを見てツアーの場所を確認する。

 

「『黄金色の遺跡』ねぇ……見たところ普通っぽい感じだけどな」

 

 ポスターの中央にはその遺跡の入り口らしいものがあるが、得に変わった様子はない。

 

「でも面白そうじゃない。何か出るかもしれないわよ?」

「いや……でも、第七十二回って書かれてるぞ。流石に何もでないと思うが……」

「まあまあいいじゃん。デートだと思ってね」

「なんで彼女とのデートスポットが遺跡になるんだか……」

 

 とはいえ、彩里が何かを言いだしてそれを止めようと思った時はあまり止まらないのだ。

 

「お兄ちゃん。どこかに行くの?」

 

 刹那が二階から降りてきた。

 

「ああ。これ」

 

 刹那にポスターを見せる。

 

「……これ、この『アトラミッション』って言う会社がかなりの予算を投入してるって聞いた」

 

 刹那が会社名のところを指さしていった。

 彩里が笑顔になる。

 

「ほら。かなり予算を投入してるってことは、何かあるってことだよ」

「……」

 

 何でこの年になって遺跡探検なんてすることに……バラエティ番組でチラ見するくらいでいいと思うんだけどなぁ……まあ、届かない願いだ。

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「わかったわかった。行くとしよう」

 

 と言うわけで、遺跡探検に行くことになった。

 

 ★

 

「何で私まで……」

 

 集合場所にて、聖が沈んでいるが、ごめんな。突っ込み役が少ないから君を呼んだんだよ。

 

「彩里様は突発的にいろいろ言いだしますからね。敵にまわすと面倒ですが、上司にすると苦労が増えるタイプですから」

 

 フォルテは溜息を吐きながら聖に言う。

 

「じゃあ私たちが上司になるしかないってこと?」

「あんな迷惑娘を部下にしても胃潰瘍になるだけです。制御できるのは誠一郎様くらいのものですから」

「あんたたち、私のことを一体何だと思っているの?」

 

 かなり批判をくらっている彩里が反論するが、まあ、君もあまりごちゃごちゃといえる立場ではないよ。

 

「そこそこ人が集まってる」

 

 刹那があたりを見渡しながらつぶやく。

 確かにまあ、そこそこと言ったところだな。

 誠一郎たち五人を含めて三十人と言ったところだ。

 このメンバーに対してどれくらいの予算がつぎ込まれているのかは知らないが、さて、何がいるのやら。

 

「……宗達」

 

 才馬宗達と早川、あと、一人の女性がいた。

 宗達は二日前と同じ格好。早川もスーツ姿だ。女性は……だれだ?背が高く、黒髪を後ろにまとめていて、スーツ姿だが……。

 

 誠一郎の視線に気が付いたのだろうか、宗達がこちらを見た。

 

「あ。宗達!」

 

 彩里が叫ぶとともに、宗達の方に歩いていった。

 それを見た宗達は若干面倒そうな顔になった。

 

「君か……」

「あなた。ここで私とデュエルしなさい。まだツアーまで時間はあるからね」

 

 そう言ってデュエルディスクを構える彩里。

 だが、宗達はデュエルディスクを構えようとすらしない。

 

「別に今君とする理由はないと思うが……」

「弱いって言われてそのままじゃ、私の気がすまないからね」

 

 面倒そうなことになる前に止めるとしようか。

 

「彩里。ここでは我慢しろ。ていうか、安心しろ。彩里が宗達に勝てないって言う意見だが、それは俺も同じだからな」

 

 誠一郎はそういいながら彩里の隣に立つ。

 宗達は誠一郎を見る。

 若干誠一郎の方が背が高いので、誠一郎の方が見下ろす形になるが、宗達は気にしていないようだ。

 

「で、二日ぶりだな。そっちは早川だったよな。女性の方は誰だ?」

花沢(はなざわ)。僕の部下だ」

 

 そう言うと、花沢と呼ばれた女性は軽く頭を下げる。

 

「僕に優秀な部下が二人いるということは、『君も聞いているだろう』」

 

 試そうと思ってはいないようだが、さて、これはこれで面倒な性格だな。

 

「水谷家のネットワークを把握してるってことか」

「当然だ」

 

 即答か。

 これは……敵対する必要はないようだが、仲間にしても苦労が増えそうな感じだな。

 

「誠一郎。私が勝てないってどういうこと?」

「言葉通りだ」

「じゃあ誠一郎は勝てるの?」

「俺が負けると思うか?」

「……思ってはいないけど」

 

 彩里は不満げに言う。

 

「そうだな。僕も、君と敵対はしたくはない。こちらが何かを計画したとしても、勝利条件として君が重要なポジションに立った場合。おそらく僕は手も足も出ないからね」

「よくわかっているじゃないか」

「アノニマス・トーナメントの完全優勝者を相手にするには、それ相応の代償が必要になるのさ」

「別にイカサマをしてきてもかまわないけどな」

 

 そうであっても、上から叩き潰してやるけど。

 

「で、そっちは何か狙いがあるのか?」

「一応あるが……期待はしていない」

「そんな遺跡探検に合わない服装で来てるのに何も収穫がなかったらちょっと悲しいことになると思うけどな」

「僕もそう思ったんだが、この格好は譲れないんだそうだ」

 

 誠一郎は二人のスーツ姿の部下を見るが、二人は頷くだけだった。

 

「……まあ、モチベーションの問題もあるし、俺が追及しても仕方がない話だけどな。で、リアリティ・テーゼは来ると思うか?」

「おそらくな。ただ、君たちも、早川が二日前に使ったカードは覚えておくことだ。ホワイトブランクは、彼らの研究所から奪ったものだからな」

「覚えておこう」

 

 聡子からの情報提供に、ホワイトブランクの情報はなかった。

 情報の収集方法が異なるからだろう。まあ、それを今言っても仕方がないが。

 

「彩里。行くぞ。そろそろ時間だ」

「……わかった」

 

 不満そうにしているが、誠一郎には結果的に勝てないのは分かっているからだろう。

 時間が迫っているのも事実だし、戻ることにしたようだ。

 

 ツアーガイドのお姉さんがやってきて、説明を始めている。

 

 さて、俺はどうするべきなのかねぇ。

 

 ★

 

 黄金色の遺跡。

 歴史的に言うと四千年くらい前に作られたものらしく、発見されたのは十年ほど前である。

 目的としてどういったものが存在するのかがよく分かっていないのだが、まあ、基本的に行き当たりばったりで行動する誠一郎としては何があっても別に問題がないと思っているのだが。

 

「かなり整備されているわね」

「ああ。思った以上にな」

 

 ある程度回った後に自由時間が設けられて、三時間ほど回ることが出来る。

 もちろん、その間にいろいろなところを見ることが出来るのだ。

 

「思った以上に通りやすい」

 

 刹那も、はじめは歩きにくい場所を通ると思っていたようで、問題はなさそうだ。

 

「それにしても、遺跡と言っても写真とか取り放題って言うのがすごいわね」

「おそらく、計画されている回数が多いので、隠すことに意味が無いのでしょう」

「……まあ、写真を撮ることじゃなくて、実際に来ることが必要だからって言うのもあるだろうな」

 

 聖とフォルテの言い分に対して、誠一郎は呟く。

 彩里は疑問に思ったようだ。

 

「どういうこと?」

「まあ、そのうちわかる」

 

 あえて言わない。

 というか、言葉で説明できるレベルの話ではない。

 

「立ち入り禁止の場所がそこそこ多い」

 

 刹那が通路になっていない部分を見て呟いた。

 フォルテと聖もそう考えていたようである。

 

「そうですね。なんといいますか、肝心のものを見せないようにして案内されているような。そんな気がします」

「迂回するようなルートも多かったしね」

 

 誠一郎も考えてはいたが、あえて言わなかった。

 というか、言う必要はなかった。

 

「ん?」

 

 ちょっと広い場所に来たとき、宗達たちがいた。

 

「宗達。何をしているんだ?」

「いや、あの壁画を見ていた」

 

 宗達が指差す先には、何も描かれていない石板が三つ存在していた。

 

「?……何も描かれてないみたいだけど」

 

 聖は首をかしげる。

 

「誠一郎、あなたは何か分かる?」

 

 彩里が見てくる。

 誠一郎は、本来は首を縦に振るべきなのだが、あえて首を横に振った。

 

「いや、わからん」

 

 その返答に対して、宗達はわずかに頬を動かしたが、すぐに表情を戻した。

 

 その時だった。

 

「おい、ここであってるよな」

「ああ。そのはずだぜ」

 

 緑色の髪の少年と茶髪の少年が部屋に入ってきた。

 確か、ツアーの参加者だったはずだ。

 

「……ここに何かがあるのかを知っているのか?」

 

 宗達が入ってきた二人に対して問いかける。

 二人は驚いた要だった。

 

「おい、ここは何もなかったんじゃないのか」

「知るかよ」

 

 ……なるほど。そう言う感じか。

 

「どうやら、ここに何があるのかを知っているようだな。情報提供を願いたいのだが」

 

 宗達は表情を変えずに問いかける。

 二人は何も言わない。

 

「まあ、何もないにしても、僕たちは自由時間中ずっと、ここにい座るだけだがな」

 

 宗達は挑発するように言う。

 二人はあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「どうする?」

「向こうもわかっているんだ。つぶせばいい」

 

 二人はデュエルディスクを構えた。

 

「ふむ……タッグデュエルと言うことか」

「ああ。そっちも二人は出てもらうぜ」

 

 要するに、一人に対して挑むのではなく、二人に対して挑むのが彼らにとっては一番戦いやすいということだろう。

 

「どうする?」

「別に誰が言ってもかまわんが……俺が出るとしよう」

 

 この二人が強いとは思っていない。

 ただ……二人が持っているカード。ホワイトブランクに関していうと、よくわからないカードパワーだ。

 

「なら。僕と君だな」

 

 誠一郎と宗達はデュエルディスクを構えようとした時だった。

 

「フフフ。いけませんよ。あなた達二人では絶対に勝てません」

 

 奥から、彼らの上司であろう人間が入ってきた。

 サングラスを付けているので素顔は分からないが、あのデッキ。少々まずいことになりそうだ。

 

「は、ハーベリア様」

「どうしてこちらに……」

 

 二人が驚いているようだが、さて……。

 

「さて、デュエルですが……あなたとすることにしましょうか。どうやら、あなた達の中で一番強いようですからね」

 

 ハーベリアは誠一郎を指さした。

 

「そして、あなた達はあの少年を相手にしなさい。私とあなた達であの二人を倒せば、私たちに勝てるものがいないことを証明できますからね」

「「はい」」

 

 宗達の方を指さして、ハーベリアは少年二人に指示を出す。

 

「なるほど、実力を見抜くくらいはできるということか」

「それくらいは事前調査で十分わかりますよ」

 

 そうかい。

 

「なら、さっさと始めよう」

 

 宗達が誠一郎から離れる。

 すると、少年二人も宗達を追ってきた。

 

「さて、僕らも始めよう」

 

 見たところ、風間家と土門家の人間だ。

 水野家にも入りこんでいると思うが、なるほど、どうやらそう言うことらしい。

 

 ★

 

「さて、デュエル開始だ」

 

 宗達は少年二人を前にしてデュエルディスクを構える。

 

「俺達の本気のデッキで相手をしてやるぜ」

「ああ。ぶっ潰してやる」

 

 二人もデュエルディスクを構える。

 

「「「デュエル!」」」

 

 宗達    LP4000

 幸也&明人 LP4000

 

「俺の先攻だ」

 

 タッグフォースルールで、緑色の髪の少年。幸也からだ。

 

「俺は手札から、『サスペンション・サイクロン』を召喚!」

 

 動き続ける台風が出現する。

 

 サスペンション・サイクロン ATK1800 ☆4

 

「そして、カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

 ふむ……攻撃力1800のモンスター一体に、伏せカードが一枚か……。

 

「僕のターン。ドロー」

 

 宗達は六枚の手札を見て、何をするかを決めた。

 

「僕は手札から、魔法カード『リグレット・スカウト』を発動。相手モンスター一体にリグレットカウンターを一つ置く。サスペンション・サイクロンにおかせてもらおう」

 

 一つのカウンターがサスペンション・サイクロンに向かって飛んでいく。

 

「お前がリグレットカウンターを使うデッキだということは知っているぜ。俺はサスペンション・サイクロンの効果を発動。ターン終了時まで、このモンスターを除外できる!」

 

 

 サスペンション・サイクロン

 レベル4 ATK1800 DFE1000 風属性 雷族

 ①:自分フィールドに表側表示で存在するこのカードをエンドフェイズまで除外することができる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:相手ターン中、このカードの効果でこのカードがフィールドに戻った時、デッキからカードを一枚ドローすることが出来る。

 

 

「これで、お前のカードの効果は不発になる」

「それはそうだが、詳しく調べている訳ではないようだ。墓地のリグレット・スカウトの効果を発動。相手フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して、『リグレット・トークン』一体を守備表示で特殊召喚できる。そして、そのトークンにカウンターを一つ置く」

「な……」

 

 

 リグレット・スカウト

 通常魔法

 ①:相手モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターにリグレットカウンターを一つ置く。

 ②:相手フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。相手フィールドに「リグレットトークン」(悪魔族・闇・星1・攻0/守0)一体を守備表示で特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したトークンにリグレットカウンターを一つ置く。

 

 

 リグレットトークン DFE0 ☆1 RC(リグレットカウンター)0→1

 

「そして、手札のこのモンスターは、相手モンスターがリグレットカウンターを持っている時、手札から特殊召喚できる。僕は『リグレット・ナイト』と『リグレット・バロネット』を特殊召喚」

 

 リグレット・ナイト   ATK1600 ☆4

 リグレット・バロネット ATK1700 ☆4

 

 

 リグレット・ナイト

 レベル4 ATK1600 DFE1200 闇属性 戦士族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:相手フィールドにリグレットカウンターがおかれているモンスターが存在する場合、手札のこのモンスターを特殊召喚することが出来る。

 ②:このモンスターがリグレットカウンターを持つモンスターと戦闘を行う場合、このモンスターの攻撃力は、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を同じになる。

 

 

 リグレット・バロネット

 レベル4 ATK1700 DFE1100 闇属性 戦士族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:相手フィールドに「リグレットカウンター」がおかれているモンスターが存在する場合、手札のこのモンスターを特殊召喚することが出来る。

 ②:このモンスターが「リグレットカウンター」を持つモンスターと戦闘を行う場合、そのモンスターが持つリグレットカウンター一つにつき、攻撃力が300ポイントアップする。

 

 

「く……こうもモンスターを並べてくるとは……」

 

 警戒しているようだが、このターンはこれ以上動くつもりはない。

 

「バトルフェイズ、リグレット・バロネットで、リグレットトークンを攻撃」

 

 トークンを切り裂いた。

 

「く……」

「そして、リグレット・ナイトでダイレクトアタック」

 

 幸也&明人 LP4000→2400

 

 伏せカードは攻撃反応系ではないのか。

 

「僕はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「ち……サスペンション・サイクロンは、自身の効果でフィールドに戻って来る。そして、一枚ドロー!」

 

 サスペンション・サイクロン DFE1000 ☆4

 

 次は茶髪の少年、明人のターンだ。

 

「俺のターン。ドロー!どうやら、モンスターを並べた割には、オーディナルモンスターを持っていなかったようだな。俺は『防御精霊ファイター』を召喚!このモンスターは召喚した後守備表示になる」

 

 防御精霊ファイター ATK1000→DFE2000 ☆4

 

「ファイターが表側表示で存在する限り、俺のモンスターは戦闘では破壊されない!」

 

 

 防御精霊ファイター

 レベル4 ATK1000 DFE2000 地属性 天使族

 ①:このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。

 ②:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドのモンスターは戦闘で破壊されない。

 

 

 地属性・天使族のデッキ。

 別の種類を並べていくことで強固なものにするというものだったか。

 防御精霊同士ではなく、他のモンスターにも耐性が付与されるのがすぐれているところだろう。

 

「そして、俺は魔法カード『二重召喚』を発動。このターン。俺は二回の召喚ができる。俺は地属性のファイターをシンボルリリース。護り続ける大地の精霊、今現世に降臨せよ」

 

 新たな天使が出現する。

 

「オーディナル召喚!レベル6『防御精霊カリキュレーター』!」

 

 防御精霊カリキュレーター ATK1500→DFE2500 ☆6

 幸也&明人 SP0→1

 

 オーディナル召喚と同時に守備表示に変わっている。

 そう言う効果を持っているのか。

 

「そして、カリキュレーターの効果発動。SPを一つ消費することで、墓地の『防御精霊』モンスター一体を装備、そのモンスターの効果を得る。俺が選択するのはファイターだ」

 

 幸也&明人 SP1→0

 

 

 防御精霊カリキュレーター

 レベル6 ATK1500 DFE2500 地属性 天使族

 オーディナル・効果

 地属性×1

 ①:このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。

 ②:シンボルポイントを一つ消費して、自分の墓地の「防御精霊」モンスター一体を対象に発動できる。そのモンスターを装備して、その効果を得る。

 『SP1』

 

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「罠カード発動。『重力解除』だ。全てのモンスターの表示形式を変更する」

「「何!?」」

 

 宗達の罠カードに寄って、全てのモンスターの表示形式が変更される。

 

 リグレット・ナイト     ATK1600→DFE1200

 リグレット・バロネット   ATK1700→DFE1100

 サスペンション・サイクロン DFE1000→ATK1800

 防御精霊カリキュレーター  DFE2500→ATK1500

 

「僕のターンだな。ドロー」

 

 さて、どうするかな。

 まず動いたのは幸也だった。

 

「俺は、罠カード『サスペンション・サモン』を発動。このカードの効果に寄って、相手ターンでもサスペンションモンスターを召喚できる」

 

 

 サスペンション・サモン

 通常罠

 ①:手札から「サスペンション」モンスター一体を召喚する。

 

 

「俺は、風属性モンスターであるサスペンション・サイクロンをシンボルリリース!自由奔放な風よ。破壊し続ける暴風雨となりて荒れ狂え」

 

 サイクロンが、暴風雨に。

 

「オーディナル召喚!レベル6『サスペンション・ストーム』!」

 

 サスペンション・ストーム ATK2400 ☆6

 幸也&明人 SP0→1

 

「よし、これで問題はないぜ」

「……」

 

 何を持って『問題ない』と判断しているのかはわからないが、とりあえず、気にするのはあの暴風雨だけで言いだろう。

 

「そっちがそこまでオーディナルモンスターを見せてくるんだ。僕も見せるとしよう」

「来るか……」

 

 一枚のカードを掲げる。

 

「僕は、闇属性のリグレット・ナイトとリグレット・バロネットをシンボルリリース。後悔に呑まれる黒竜よ。今その姿を現し、罪の渦巻く世界で猛威を振るえ!」

 

 黒竜が降臨する。

 

「オーディナル召喚!レベル8『有罪眼の後悔竜(ギルディアイズ・リグレット・ドラゴン)』!」

 

 有罪眼の後悔竜 ATK3000 ☆8

 宗達 SP0→2

 

「な……なんだ。このモンスターは……」

「リグレットモンスターで、レベル8のオーディナルモンスターなど、見たことが無い!」

 

 出現したオーディナルモンスターに二人が驚いているが、もちろん、そんなことは気にしていない。

 

「ギルティアイズの効果発動。一ターンに一度、相手モンスター全てにリグレットカウンターを一つ置く。『リグレット・フォース』!」

 

 ギルティアイズがエネルギーをため込んで行く。

 

「させるか!サスペンション・ストームの効果発動。エンドフェイズまでこのモンスターを除外する!」

「無駄だ。速攻魔法『ディメンション・クラック』を発動。発動ターン中、相手フィールドのカードは除外されない」

「何……」

 

 

 サスペンション・ストーム

 レベル4 ATK2400 DFE1300 風属性 雷族

 ①:自分フィールドに表側表示で存在するこのカードをエンドフェイズまで除外することができる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:相手ターン中、このカードの効果でこのカードがフィールドに戻った時、デッキから「サスペンション」カード一枚を手札に加えることが出来る。

 『SP1』

 

 

 ディメンション・クラック

 速攻魔法

 ①:発動ターン中、相手のカードは除外されない。

 

 

「これで、ギルティアイズから逃げられない」

 

 サスペンション・ストーム RC0→1

 防御精霊カリキュレーター RC0→1

 

「そして魔法カード『リグレット・タックス』を発動。相手フィールドのリグレットカウンターを持つモンスターは全て、持っているカウンター一つにつき、攻撃力が300ポイントダウンする!」

 

 サスペンション・ストーム ATK2400→2100

 防御精霊カリキュレーター ATK1500→1200

 

「そして、ギルティアイズは、相手フィールドのリグレットカウンターを持つすべてに、一度ずつ攻撃できる」

 

 

 有罪眼の後悔竜(ギルティアイズ・リグレット・ドラゴン)

 レベル8 ATK3000 DFE2500 闇属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 闇属性×2

 ①:一ターンに一度、相手の表側表示のモンスター全てにリグレットカウンターを一つ置く。

 ②:このカードは、相手フィールドのリグレットカウンターを持つモンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 『SP2』

 

 

「バカな!」

「嘘だろ!」

 

 ギルティアイズが雄叫びを上げる。

 

「バトルだ!有罪眼の後悔竜で、貴様たちのモンスターに攻撃。『壊滅のリグレット・ストリーム』!」

 

 ギルティアイズがブレスを放出し、敵モンスターを焼き尽くした。

 

「「うわああああああああ!!!!!」」

 

 幸也&明人 LP2400→0

 

「ふう、勝ったか」

 

 宗達はそう言うと、誠一郎の方を見た。

 

「ふああ……ん?宗達。遅かったじゃないか」

 

 そこには、余裕の表情で相手のLPを消し飛ばした誠一郎がいた。

 その隣には、紅の魔術師が静かに腕を組んでいた。



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八話

 ハーベリアがデュエルディスクを構える。

 

「さて、始めましょうか」

「ずいぶんと自信があるようだな」

「フフフ。それはこちらのセリフです」

 

 ほう、そう言うのなら見せてほしいものだ。

 誠一郎もデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎   LP4000

 ハーベリア LP4000

 

「私の先攻。私は『ホワイトブランク・コア』を特殊召喚!」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

「あのモンスター。やっぱり使って来るのはホワイトブランクモンスターなのね」

 

 彩里が呟いている。

 フォルテもうなずいた。

 

「ですが、誠一郎様ですから、何も問題はないでしょう」

「うん。お兄ちゃんなら大丈夫」

「というか、私はこのあたりで止めておいてもいいと思うけどね。あまり動きすぎるとワンカードキルされるし……」

 

 なかなかの評価である。

 ハーベリアは余裕そうだ。

 

「ずいぶんと信用されているようですね。まあいいでしょう。私は光属性のホワイトブランク・コアをシンボルリリース!」

 

 コアが二つのシンボルになる。

 

「オーディナル召喚!レベル8『ホワイトブランク・フェニックス』!」

 

 現れたのは、半透明な体を持つ不死鳥。

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000 ☆8

 ハーベリア SP0→2

 

「更に私は手札一枚をコストに、手札の『マッドネス・ホログラム』の効果を発動。このカードは相手フィールドに特殊召喚するモンスターです」

 

 ハーベリアが一枚のカードを手に取ると、誠一郎のフィールドに特殊召喚された。

 

 マッドネス・ホログラム ATK2000 ☆4

 

「フフフ。そのモンスターは戦闘で破壊された時、コントローラーに1000ポイントのダメージを与えます」

 

 

 マッドネス・ホログラム

 レベル4 ATK2000 DFE1000 闇属性 悪魔族

 ①:このモンスターは通常召喚できない。

 ②:手札を一枚捨てて発動できる。このカードを手札から相手フィールドに特殊召喚する。

 ③:このカードが戦闘によって破壊された時、コントローラーは1000ポイントのダメージを受ける。

 

 

「……なぜ、先攻一ターン目で出してくるんだ?」

「このカードを使うためですよ。私は魔法カード『ネーム・ネットワーク』を発動。相手モンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のモンスターを自分のデッキから一枚墓地に送り、そのモンスターの攻撃力分、自分フィールドのモンスター一体の攻撃力を上げることが出来るのです」

 

 

 ネーム・ネットワーク

 通常魔法

 ①:相手モンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のモンスターを自分のデッキから一枚墓地に送る。そのモンスターの攻撃力分、自分フィールドのモンスター一体の攻撃力をアップする。

 

 

 なるほど、送りつけるカードを使って狙ったコンボと言うことか。

 通常、モンスターカードとなると、どんなデッキにも入る定番なモンスターと言うのは少ないし、それに、それがフィールドにいるかどうかなど狙えるものではない。

 

「私はマッドネス・ホログラムを墓地に送り、ホワイトブランク・フェニックスの攻撃力を2000ポイントアップさせます」

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000→5000

 

「攻撃力5000……」

「フフフ。私の最高のコンボはいかがでしょうか。私はこれでターンエンドです」

「そうか」

 

 手札の消費枚数は多いが、確かに、攻撃力5000と言うのは脅威だ。

 とはいっても、誠一郎は途中から、自分の手札の一番左のカードしか見ていなかったが。

 

「伏せカードはなしか……まあ、手札もないしな。俺のターン。ドロー!」

 

 ドローしたカードを見る。

 

(なんだ、そろそろ暴れたいのか?まあ、仕方がないか)

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「どうやら、この状況を打開するカードは引けなかったようですね」

 

 誠一郎は手札の一番左のカードを墓地に送りながらモンスター一体を場に出す。

 

「黙っていろ。俺は手札の『星王兵リンク』の効果を発動。手札を一枚捨てて特殊召喚することが出来る。来るんだ。星王兵リンク!」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

 現れたのは、星々をかたどったアクセサリーを付けた漆黒の兵士だ。

 

「星王兵……」

「お兄ちゃん。本気のデッキなんだ」

「それにしても、兄妹揃って戦士族デッキなのね……」

 

 そう言われるとそうだな。まあ、多分刹那が誠一郎の真似をしようとでもしたのだろう。別にそれは構わないし否定もない。

 

「フフフ。そんなモンスターでは私のホワイトブランク・フェニックスには遠く及びません。ところで、そのモンスターは手札一枚をコストに特殊召喚ですか。一体何のカードを捨てたのですか?」

「『強制転移』だ」

 

 誠一郎は事実を淡々と告げる。

 

「ほう、強制転移……な、なんだと!?」

 

 ハーベリアは驚愕している。

 そして、聖は首をかしげる。

 

「どういうこと?」

 

 答えたのは彩里だ。

 

「ハーベリアは、伏せカードも手札もない。マッドネス・ホログラムの特殊召喚コストで墓地に捨てたカードは分からないけど、そこまで相手の行動を止めることができるカードは多くないから、誠一郎はこのターンは比較的自由に動けるし、攻撃しようと思ったら、多分、普通に通せる」

 

 続けるのはフォルテ。

 

「強制転移は、お互いにモンスター一体を選択し、そのコントロールを交換するカード。星王兵リンクを特殊召喚しなかった場合、誠一郎様のフィールドにはマッドネス・ホログラム一体のみ、ハーベリアのフィールドにはホワイトブランク・フェニックス一体だけですから、お互いにそのモンスターを選択するしかありません」

 

 最後に刹那。

 

「その後、そのままバトルフェイズに入って、ホワイトブランク・フェニックスでマッドネス・ホログラムに攻撃すれば、3000ポイントのバトルダメージが相手に発生する。その後、マッドネス・ホログラムのデメリット効果があれば……」

 

 聖もわかったようだ。

 

「戦闘で破壊された時に、コントローラーに1000ポイントのダメージを与える……ちょ……ちょっと待って、それじゃあ」

 

 彩里は頷いて答える。

 

「誠一郎はこのターン。たった一枚。『強制転移』を発動するだけで勝っていた」

 

 聖は背筋が凍った。

 もちろん。カードの効果をしっかりと把握したし、理解も出来た。

 だが、聖は誠一郎のデュエルを見ているが、そのすべては、たった一枚のカードを使って勝つというワンカード・キルだった。

 今回も、やろうと思えば可能だったのである。

 

 異常としか言いようがない。

 たった一枚でデュエルに勝つ。

 すごいといえるだろう。すさまじいとしか言いようがない。

 

 『強制転移』というカード自体も、コントロール変更カードによくある一時的なものではなく、永続的にコントロールを変更できる優秀なカードだ。もちろん、使い方にもよるが。

 だが、そのカード一枚で、デュエルに勝てるかどうかとなると、そう言うものでは全くない。

 むしろ、奪ったモンスターを別のことに利用することを普通は考える。

 

「もちろん、ハーベリアがマッドネス・ホログラムを誠一郎のフィールドに特殊召喚していなかった場合、この状況にはなってない。ただ……聖の言う通りだったわね。動きすぎるとワンカード・キルされるって言ってたわよね。ホワイトブランク・コアで止めておくのは問題はあるけど、フェニックスで本来は止めておくべきだった。それは間違いはない」

 

 もともとおかしいのだが、状況を素早く理解するというより、この状況が整えば、聖だって強制転移を使っているだろう。聖のデッキに入れていないが。

 

「動きすぎると、誠一郎の前だと自殺行為になるってことなのね……」

 

 思えば、火野正也は一ターンで攻撃力4000というモンスターを呼んできたし、後のバトルロイヤルルールのデュエルでは、相手が三人で、さらに、たった一つのミスがあったものの、普通なら容易に突破できるものではない。

 

 ワンカード・キル。

 一枚のカードのみを使用して勝つというものだが、この戦術は、相手の実力が高くないと機能しないのだ。

 一ターンで、手札がなくなってしまうとしても、攻撃力5000のモンスターを出せるというのは、カードパワーに任せていたとはいえ、『強い』といえるだろう。

 

 意味が分からない。

 相手が強ければ強いほど、楽に勝つデュエリストなど。

 

「ただ、ここまで考えておいてなんだけど、誠一郎は今回、強制転移を捨てた。これは事実よ」

「ですが、一体どうしてそのようなことを……」

「多分、お兄ちゃんも最初は、強制転移で勝つつもりだったと思う」

「あり得るわね。だとしたら、ドローカードで気分が変わったのかも」

 

 誠一郎はいろいろと考えているのを聞いていた。

 が……。

 

「なあ、続けていいか?」

 

 誠一郎は一応聞いた。

 彩里は無言でうなずく。

 誠一郎もうなずくと、ハーベリアの方を見る。

 ハーベリアは誠一郎を睨んで言う。

 

「あなたは、一体何を考えているのですか?」

「まあ、ただの私情だし、お前が気にすることではない。それより、見せてやる。俺は闇属性のマッドネス・ホログラムと、星王兵リンクをシンボルリリース」

 

 二体が黒いシンボルとなる。

 

「黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ」

 

 現れる。

 

「オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 紅の賢者が。

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

「く……クリムゾン・ワイズマン」

 

 聖は、ワイズマンの異様な雰囲気にのまれている。

 そしてそれは、慣れているはずの三人も同じだ。

 

「これが誠一郎のエースモンスターよ」

「そして、最初から共に戦い続けてきた相棒でもあります」

「お兄ちゃんがクリムゾン・ワイズマンを使うからこそ、最強」

 

 さて、続けよう。

 

「さて、さっさと倒すとしよう」

「フン!オーディナル召喚をしたところ悪いが、私のモンスターの攻撃力は、貴様のモンスターの攻撃力の倍!一体どうやって倒すというのだ?」

「見たところ効果に対する破壊耐性はなさそうなんだが……上から叩き潰そう」

「何!?」

「俺は魔法カード『フォース』を発動して、フェニックスの攻撃力の半分を奪い、クリムゾン・ワイズマンの攻撃力に加える」

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK5000→2500

 クリムゾン・ワイズマン     ATK2500→5000

 

「攻撃力が一瞬で逆転した……」

「そして、魔法カード『星王の継承』を発動。墓地のレベル4以下の星王兵モンスター一体を除外して、自分フィールドのオーディナルモンスター一体は、そのモンスターの攻撃力分、ターン終了時まで攻撃力がアップする。リンクを除外して、攻撃力を1700ポイントアップ!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK5000→6700

 

 

 星王の継承

 ①:墓地のレベル4以下の「星王兵」モンスター一体を除外し、自分フィールドのオーディナルモンスター一体を対象にして発動できる。ターン終了時まで、選択したオーディナルモンスターの攻撃力は、除外したモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

「ば……バカな」

「ワイズマンのポテンシャルを活かすデュエルを全くしていないんだが……まあいいか」

「わ、私には本気を出すまでもないと?」

「違うな。本気を出す相手は、お前じゃないって言うだけの話だ」

 

 そして、誠一郎は指示を出す。

 

「バトル!クリムゾン・ワイズマンで、ホワイトブランク・フェニックスを攻撃!『クリムゾン・ビジョン』!」

 

 ワイズマンが杖を構えると、その先に魔力で出来たエネルギー弾を生成し、そのままフェニックスに向けて射出した。

 

「う。うわああああああああ!!!!!」

 

 ハーベリア LP4000→0

 

「……なんか、回り道しても一瞬だったわね」

「誠一郎だからこれくらいは当然ね」

「うん。お兄ちゃんはめんどくさがり屋だから、基本はワンターンキル」

「結局、フェニックスの効果は何だったのでしょうかね……」

 

 そう言えば見ていないな。

 次の機会だ。

 で、近くでドラゴンがブレスを放出して、相手を二人ぶっ飛ばした。

 

「ふああ……ん?宗達。遅かったじゃないか」

「……悪かったな」

 

 まあ、いいけどな。

 

 ハーベリアが起きた。

 

「く……こうなったら……撤収!」

 

 普通に背を向けて走りだした。

 ずっこけそうになるが、あえて誠一郎は何もしない。

 

「あなた達も早く逃げるのです!」

「「は、はい!ってええええええ!?」」

 

 彼らが驚いたのは、彼らに迫る影があったからだ。

 そしてそれは……。

 

「刹那ってローラースケート上手すぎ……」

 

 聖が呆然としているが、彼女が言っている通り、すごいスピードで、手錠を持った刹那がローラースケートのシューズを履いて突撃していたからだ。

 

「く……」

 

 ハーベリアがカードシューター……主に印刷されていない不良品見たいなカードを射出するための専用銃を取り出す。

 

「フォルテ」

「はい」

 

 誠一郎はフォルテに指示を出すと、フォルテは正拳突きを遺跡の地面に叩きこんだ。

 

 すると、グラッと揺れた。

 

「「「うおっ!?」」」

 

 逃走中の三人が驚く。

 まあ、そうだよな。ワンパンチで遺跡を揺らせるなんて聞いたことが無い。

 だがな。今回なんて別に気にするほどのものじゃないぞ。雪山でやった時は雪崩が来たからな。人間やめてる……。

 

 そしてさらにすごいのは、容赦なく揺らしたのに、刹那が何も問題なく進んでいたことだ。

 

「ちょっと、安定感凄すぎでしょ」

「刹那はバランス感覚も修正速度もすごいからな。一日中バランスボールの上で生活出来るぞ」

「ヤバ過ぎ!」

 

 だが、ハーベリアは最後の意地なのか、刹那に向けて銃口を向ける。

 

「くらえ!」

 

 カード射出。

 

「はぁ……仕方がないわね……シッ!」

 

 聖がポケットに手を突っ込むと、白紙のカードを出した。

 そしてそれをそのまま手首のスナップだけで飛ばす。

 飛ばされたカードは、先に射出されたはずのカードに直撃した。

 

 うお、すげぇ……忍者かよ。

 

「聖、あんたもすごい特技があるのね」

「宴会芸にしかならないけどね」

 

 さらに三枚飛ばして、三人とも構えた銃の精密な部分をぶっ壊して、そのまま銃が使い物にならなくなった。

 なんの障壁もなくなった刹那が、流れるように手錠で三人を拘束する。

 

「さて、宗達。尋問は任せるぞ」

「了解した。しかし……何なんだお前たちは」

「知らんな」

 

 あえて、それに答えるのは止めにしておいた誠一郎であった。



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九話

 結局、遺跡には何もなかった。と言うことにした。

 

「でまあ、あー……うん。そんな感じなんだけどさ」

「どうしたのですか?そんな苦い表情をして」

「いや、なんで宗達が聡子の膝枕で寝ているのかってことを聞きたいんだよ。俺は」

 

 遺跡から帰って来た次の日。

 誠一郎は聡子と話していた。

 宗達のこともちょっと話しておいた方がいいと思ったからである。

 で、近くにいるので来てほしいということで行ってみると、小さな公園のベンチに聡子が座っていた。

 そこまでなら誠一郎としても何も言う必要はないのだが、聡子の膝枕で宗達が寝ているとなればいろいろ言いたいことがあるのも当然である。

 

 しかし、公園のベンチで着物姿で座っているというのもなかなか聞かない話である。

 ていうか、聡子の着物姿以外の格好を誠一郎は知らないわけだが。

 

「zzz……」

 

 すやすやと眠っている宗達。

 昨日まで見せていた隙の無い雰囲気も、聡子の母性の前には防御力はゼロだったようだ。

 

「遠い親戚なのですよ。時々あっていますから」

「まあ、そういう仲だということにしておくとして……しかし、どっちも諜報部隊を持っていて、内容のジャンルに差があると思っていたが、それはこういうことだったのか」

「そうですね。常にアンテナを立てているのが私で、宗達君は深いところまで潜りこんでいます。優秀な部下が二人いますが、基本は宗達君が動いていますからね」

 

 そういいながら宗達の頭をなでる聡子。

 宗達は気持ちよさそうな表情になった。

 

「こうしてみると、宗達も普通の高校生だな……」

 

 学校には通っていないようだが。

 

「あら、誠一郎さんは違うのですか?」

「知らん」

 

 だって気にしないし。

 

「で、リアリティ・テーゼの目的は分かったのか?」

「ええ……どうやら、『神のカード』というものを研究している要です」

「神のカード?」

「はい。六体の神と、それらを束ねる何かが存在する。ということは分かりました」

「ふむ……」

「黄金色の遺跡ですが、あの遺跡に存在する『普通なら白紙にしか見えない三つの石板』には、そのうちの一体の力を三分割して封印している。という研究結果の要です」

「神の力ねぇ……」

 

 まあ、まだよくわからない部分もあるが、それは言っても仕方がないか。

 

「誠一郎さんは何か知りませんか?」

「分からん。が、それ以上に気になるのは、その神のカードを研究するうえで、ホワイトブランクモンスターが開発することが出来た。ということだが……」

「確かに、そこから切り崩していくのもいいですね」

「で、ハーベリアは?」

「宗達君から身柄は預かりましたが、水谷家の本家からいろいろと横やりが入って、今は私にも手を出せない状態になりました」

 

 ……。

 

「とはいえ、宗達君によると、ハーベリアは末端の研究員と言うことらしいですね。だからこそ、私に法に送ってきたということもあります」

「用済みってことか」

「簡単に言うとそうですね」

「ま、何か分かったら教えてくれ。ヤバくなったら俺が無理矢理に介入する」

「それはそれで助かりますが……」

 

 ん?何か気になることがあるのか?

 ……ああ。そう言うことか。

 

「一応言っておくが、世界って言うのはイーストセントラルだけじゃないからな?」

「……!」

 

 誠一郎の言い分で、聡子は自分が持っていた疑問を解決させたようだ。

 

「そんじゃまた」

「ええ。そうですね」

 

 誠一郎は公園を後にした。

 

 ★

 

 さて、朝っぱらから会っていた誠一郎だが、授業があるのは確かなことで……。

 

「ん?今日はイベントがあるのか?」

「デュエリストの養成学校だから、そういったイベントに関しては豊富なのよ」

 

 誠一郎は基本的に自分に関係のないスケジュールには目もくれない。

 というか、興味がわく精神年齢ではない。

 付け加えるなら、興味を持っても大概意味が無い。

 

「高等部一年生は、全員が中等部二年とデュエルする見たい。まあ、私たちにとっては、中等部を相手にすることで、高等部に上がったばかりで若干調子に乗っている生徒を引き締める部分もあるだろうし、中等部にとっては、高等部の生徒の実力を実感することが必要になるってことだと思うよ」

「ふむ……なるほど」

 

 聖の説明で理解した。

 

「誠一郎様はどうするのですか?」

「さあ、具体的にどういうイベントなのかは知らないからな……」

 

 何をやるのかわからない。

 

「……まあ、午後になればわかるだろう」

 

 かなり軽く考えている誠一郎だった。

 

 ★

 

 基本的には聖が説明した感じの通りだ。

 イーストセントラルはデュエリスト養成学校で、かなりの実力者が毎年輩出されている。

 プロと言っても、首都圏で活動するものと地方で活動するものの二種類に分かれるのだが、まあ、中等部二年と言う年齢も、高等部一年と言う年齢も、それ相応に多感な時期なので、こう言った部分は必要なのだそうだ。

 

 それぞれのクラスで割り当てられ、一応ランダムで選出される見たいなのだが……。

 

「……なんで、お兄ちゃんと……」

 

 第四実習室。

 そこに、それぞれのクラスがランダムに選ばれてマッチングが行われる。

 中等部二年からランダムで選ばれたのは遊霧刹那。

 そして……高等部一年から選ばれたのは、遊霧誠一郎。

 まさかの兄妹対決だった。

 しかも、それはそれなりにギャラリーがいる中で。

 

「まあ、安心しろ。刹那のプレイングを温かく見守ってやるから」

「これから対戦相手としてデュエルするんですよね」

 

 後ろからフォルテのツッコミが入るが、誠一郎は気にしない。

 

「おかしい、絶対に誰かたくらんだ人がいる」

 

 刹那がきょろきょろとあたりを見渡す。

 すると……こちらに向かって手を振っている聡子が目に入った。

 

「……むうううううう!」

 

 何を言えばいいのかわからなくて結局意味の分からない唸り声を出す刹那。

 もちろん、小動物の雰囲気MAXの刹那がそんなことをしても地団太を踏む小学生のようなものなので、高等部一年の生徒は温かい目で見ている。

 ちなみに、聡子は奔放な性格だ。中等部からこんな感じでイベントとなるといろんなところに出はいりしているので、いることそのものに驚いている人間はいない。

 

「誠一郎。手加減してやれよ~」

「分かってるって」

 

 誠一郎はクラスメイトからそんなことを言われる始末。

 もちろん、誠一郎は刹那とデュエルをしてもダメージを追うほどの実力ではないので笑って返す。

 

「刹那ちゃん!ここは一発お兄さんをぶっ飛ばしてやりなさい!」

「………………………………………無理!」

 

 クラスメイトの物騒な声援に対して、かなり長い時間を空けた後、開き直る刹那。

 

「さて、そろそろ始めようか。安心しろ。ワンカードキルはしないからな」

「むううううう!!!!!」

 

 今度は両手をグーにして唸り声なのか咆哮なのか判別できない声を出す刹那。

 だが、もうあとはデュエルするしかないと思ったのだろう。

 デュエルディスクを構える。

 誠一郎もデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP4000

 刹那  LP4000

 

「先攻と後攻。どっちがいい?」

「先攻!」

 

 デュエルモンスターズのルール上、後攻の方がドロー出来る分動ける枚数は多いのだが、逆に先攻を譲りたいかと言われるとそういう相手ではない。

 刹那はどちらがいいのかを聞かれることを恥ずかしがることもなく、即座に先攻を選択した。

 

「おう、いいぞ」

「私のターン。私は手札から、『MJ(モーメントジェット)ライフル』を召喚」

 

 実習室で跳び始めるライフル搭載の戦闘機。

 

 MJライフル ATK1700 ☆4

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「なら、俺のターン。ドロー。俺は手札一枚を捨てて、『星王兵リンク』を特殊召喚」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

 ギャラリーがざわめき始める。

 思えば、誰かが見ているデュエルで、誠一郎が自分のモンスターを召喚したのは初めてなのだ。

 

「そして、墓地の『星王兵テーゼ』の効果発動。自分フィールドに星王兵モンスターが存在する時、墓地から特殊召喚できる。まあ、この効果で復活したテーゼは、フィールドを離れる時除外されるけどな」

 

 星王兵テーゼ ATK1600 ☆4

 

 

 星王兵テーゼ

 レベル4 ATK1600 DFE1300 闇属性 戦士族

 ①:自分メインフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は自分フィールドに「星王兵」モンスターが存在する場合に発動と処理ができる。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「リンクと……星王兵モンスター……」

「覚えてるよな。リンクと、自分フィールドの星王兵モンスターであるテーゼを守備表示にすることで、リンクの効果を発動。デッキから、レベル8以下のオーディナルモンスター一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは、『クリムゾン・ワイズマン』だ」

「!」

 

 

 星王兵リンク

 レベル4 ATK1700 DFE1000 闇属性 戦士族

 「星王兵リンク」は自分フィールドに一枚しか存在できない。

 ①:手札を一枚捨てて発動できる。手札のこのカードを特殊召喚する。

 ②:このカードと、このカード以外の自分フィールドの「星王兵」モンスター一体を守備表示にして発動できる。デッキからレベル8以下のオーディナルモンスター一体を選択して手札に加える。

 

 

「そして、闇属性のリンクとテーゼをシンボルリリース。黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

「い……いきなりワイズマンが……」

「これくらいは俺を相手にするなら普通だぞ。バトルだ。クリムゾン・ワイズマンで、MJライフルを攻撃」

「MJライフルは、戦闘を行うとき、相手フィールドの魔法、罠の効果は無効になるけど……」

 

 

 MJライフル

 レベル4 ATK1700 DFE800 光属性 戦士族

 ①:このモンスターが戦闘を行う場合、相手フィールドの魔法、罠の効果は無効化される。

 

 

「当然、意味はない。『クリムゾン・ビジョン』!」

 

 刹那 LP4000→3300

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!……まずは罠カード『モーメント・ホログラム』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない時、墓地の『MJ』モンスター一体を除外して、同名モンスター二体を、効果を無効にして特殊召喚する」

 

 MJライフル ATK1700 ☆4

 MJライフル ATK1700 ☆4

 

「そして、光属性のライフル二体をシンボルリリース!さらなる進化を得て、刹那の中で飛び立て!オーディナル召喚!レベル8『MJテラドラゴン』TAKEOFF!」

 

 MJテラドラゴン ATK2800 ☆8

 刹那 SP0→2

 

「オーディナル召喚……ま、遊んでやるからかかってこい」

「むうううううう……!」

 

 やはりというかなんというか、誠一郎は余裕を崩すことはない。

 そして、ふとここで刹那は何かの視線を感じる。

 

(……?)

 

 どこからだ?と思っていたが、それはすぐにわかった。

 それは……今対峙している、クリムゾン・ワイズマンだ。

 なんか頑張る娘を見る父親のような雰囲気で刹那を見ている。

 

「絶対にダメージを与えるもん!」

「勝つとは言わないんだな」

「無理!」

 

 誠一郎の妹だからだろう。開き直るのがすごく早い。

 

 思わずほっこりするデュエルイベント。

 大した駆け引きは、まだあるようには見えない。

 ただし、それでも誠一郎は微笑んでいる。



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十話

 遊霧誠一郎 LP4000 手札3 SP2

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500

 伏せカード1

 

 遊霧刹那 LP3300 手札2 SP2

 MJテラドラゴン ATK2800

 伏せカード1

 

 

 オーディナル召喚をした刹那だが、盤面的にどちらが優勢なのか、と言われると、どっちもどっちといえるだろう。

 モンスターの数は同じ、伏せカードの数も同じなのだ。

 とはいえ、ここからできることはそう多くはない。

 

「私はSPを一つ消費して『シンボル・ドロー』を発動。デッキからカードを二枚ドローする」

 

 刹那 SP2→1

 

「そして、バトルフェイズ!テラドラゴンで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃!テラドラゴンがバトルする時、相手は罠カードを使えない」

 

 

 MJ(モーメントジェット)テラドラゴン

 レベル8 ATK2800 DFE2000 光属性 戦士族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 このカード名の②の効果は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:このモンスターが戦闘を行う場合、ダメージステップ終了時まで相手の罠カードの効果は無効化される。

 ②:SPを一つ消費して発動できる。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター一体を手札に加える。

 『SP2』

 

 

「そして速攻魔法『オーディナル・セカンド・バースト』を発動!私のSP一つにつき600ポイント攻撃力をアップさせて、さらに、対象モンスターは二回の攻撃ができる!」

 

 MJテラドラゴン ATK2800→3400

 

 テラドラゴンがレーザー砲を放射する。

 

「残念ながら、通らないんだなこれが。速攻魔法『オーディナル・コネクト』を発動。ライフを1000ポイント払って発動し、自分フィールドのオーディナルモンスター一体は、ターン終了時まで攻撃力が1000ポイントアップ。さらに、対象モンスターが相手モンスターを破壊した場合、デッキからカードを一枚ドロー出来る」

 

 

 オーディナル・コネクト

 速攻魔法

 ①:ライフを1000払い、自分フィールドのオーディナルモンスター一体を対象にして発動できる。対象モンスターの攻撃力はターン終了時まで1000ポイントアップして、対象モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、デッキからカードを一枚ドローする。

 

 

「刹那も知っていると思うが、俺はクリムゾン・ワイズマンの効果に寄って、俺が魔法カードの発動に寄ってはらうライフコストは不要になる」

 

 

 クリムゾン・ワイズマン

 レベル7 ATK2500 DFE2000 闇属性 魔法使い族

 オーディナル・効果

 闇属性×2

 ①:このカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、自分は魔法カードを発動するために払うLPが必要なくなる。

 『SP2』

 

 

 この瞬間に、いろいろなことを考えたものがいるはずだ。

 遊霧誠一郎のエースモンスターの効果は、『魔力倹約術』と同じであると。

 

「むう……」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→3500

 

 わずかに、クリムゾン・ワイズマンの方が上。

 賢者の反撃に寄って、テラドラゴンは破壊された。

 

 刹那 LP3300→3200

 

「オーディナル・コネクトが適用されたモンスターが相手モンスターをバトルで破壊したことで、一枚ドローする」

 

 デッキから一枚ドローした。

 だが、刹那もこれでは終わらない。

 

「罠発動『オーディナル・ストリング』!自分の墓地のオーディナルモンスター一体を、特殊召喚する。私は『MJテラドラゴン』を復活!」

 

 MJテラドラゴン ATK2800 ☆8

 

 

 オーディナル・ストリング

 通常罠

 ①:自分の墓地のオーディナルモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

「そして、テラドラゴンの効果を発動。SPを一つ消費して、デッキからレベル4以下の戦士族モンスター一体を手札に加える。私は『プロテクト・ナイト』を手札に加える」

 

 刹那 SP1→0

 

「そして、カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 

 さてと、まあ、いつも通りに行くか。

 

「俺は自分フィールドにオーディナルモンスターが存在することで、手札の『星王兵チェイサー』を特殊召喚する」

 

 星王兵チェイサー ATK1600 ☆4

 

「チェイサーの効果発動。手札一枚を除外することで、墓地の星王兵モンスターを特殊召喚できる。俺は『星王兵リンク』を特殊召喚する」

 

 

 星王兵チェイサー

 レベル4 ATK1600 DFE100 闇属性 戦士族

 このカード名の①②の効果は、それぞれ一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにオーディナルモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる。

 ②:手札一枚を除外して発動できる。墓地の「星王兵」モンスター一体を特殊召喚する。

 

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「リンクとチェイサーを守備表示にして、リンクの効果を発動。デッキのオーディナルモンスター『双星王ダークステラ』を手札に加える」

「!」

 

 星王兵リンク   ATK1700→DFE1000

 星王兵チェイサー ATK1600→DFE 100

 

 誠一郎が手札に加えたカードを見て、刹那は表情を変える。

 

「俺は闇属性のリンクをシンボルリリース。今、星々の輝きを得て、闇に染まり、生誕せよ」

 

 星が光り、そして、竜に変わる。

 

「オーディナル召喚、レベル6『双星王ダークステラ』!」

 

 双星王ダークステラ ATK2400 ☆6

 誠一郎 SP2→3

 

「そして、ライフコスト半分をクリムゾン・ワイズマンの効果で踏み倒して、魔法カード『序数の魔導卓』を発動。デッキからレベル7以下のオーディナルモンスター一体を手札に加えて、さらに、このターン、俺は通常召喚に加えて1度だけモンスター1体をオーディナル召喚できる」

「!」

 

 

 序数の魔導卓

 通常魔法

 ①:ライフを半分払って発動できる。デッキからレベル7以下のオーディナルモンスター一体を手札に加えて、このターン自分は通常召喚に加えて1度だけモンスター1体をオーディナル召喚できる。

 

 

「俺はオーディナルモンスター一体を手札に加えて……闇属性のチェイサーをシンボルリリース。今、星々の輝きを得て、時に染まり、顕現せよ」

 

 もうひとつ、星が現れ、竜になる。

 

「オーディナル召喚。レベル6『双星王クロノステラ』!」

 

 双星王クロノステラ ATK2400 ☆6

 誠一郎 SP3→4

 

「お、オーディナルモンスターが三体……」

「ワンカードキルをしないときは、これくらいは普通だったろ。刹那ほどの実力を持っている相手なら尚更な」

「……!」

 

 誠一郎も、刹那の実力は評価している。

 ただ、刹那の実力では、誠一郎としても油断するくらいがちょうどいいことも確かだ。

 もちろん、変な妥協はしないのだが、それでも、誠一郎は強いのである。

 刹那の兄は、本当の強者なのだ。

 

 それと同時に、刹那は確信する。

 このデュエルは、このターンで終わりだ。

 前のターンに手札に加えた防御カードは、手札にある。

 だが、『手札にいることが分かっているカード』が、誠一郎に通用するはずもないのだ。

 

「クロノステラの効果発動。SPを一つ消費して、相手モンスター一体の攻撃力を700ポイントダウンさせる」

「!」

 

 クロノステラのブレスが放出されると、テラドラゴンが錆びていく。

 

 誠一郎 SP4→3

 MJテラドラゴン ATK2800→2100

 

 

 双星王クロノステラ

 レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 闇属性×1

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費して発動できる。相手モンスター一体の攻撃力を、ターン終了時まで700ポイントダウンさせる。

 ②:「双星王ダークステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、相手スタンバイフェイズに発動する。自分のSPを一つ増やす。

 『SP1』

 

 

「そして、ダークステラの効果発動。SPを一つ消費して、相手フィールドの、セットされているカード一枚を破壊する。そして、カードを一枚ドロー」

 

 誠一郎 SP3→2

 

 双星王ダークステラ

 レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 闇属性×1

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費して発動できる。相手フィールドのセットされているカード一枚を破壊し、デッキからカードを一枚ドローする。

 ②:「双星王クロノステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、自分スタンバイフェイズに発動する。デッキからカードを一枚ドローする。

 『SP1』

 

 

 刹那のフィールドの伏せていたカードが破壊された。

 

「バトルだ。双星王ダークステラで、MJテラドラゴンを攻撃」

「む……手札の『プロテクト・ナイト』の効果を発動。相手モンスターの攻撃宣言時に、手札のこのカードを墓地に送って発動。攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる」

 

 

 プロテクト・ナイト

 レベル3 ATK1300 DFE800 光属性 戦士族

 ①:相手モンスターの攻撃宣言時、手札のこのカードを墓地に送って発動できる。その攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる。

 

 

「無駄だ。あることが分かっている防御札は、俺には通用しない。発動コストであるライフ1500ポイントを踏み倒して、速攻魔法『序数賢者の記述』を発動。バトルフェイズ中、相手モンスターの効果はすべて無効になる」

「!」

 

 

 序数賢者の記述

 速攻魔法

 ①:ライフを1500ポイント払って発動できる。このターンのバトルフェイズ中、相手が発動するモンスター効果はすべて無効になる。

 

 

「攻撃続行だ」

「!」

 

 刹那 LP3200→2900

 

「そして、双星王クロノステラと、クリムゾン・ワイズマンで、ダイレクトアタック。俺の勝ちだ。刹那」

「む……むぅ」

 

 刹那 LP2900→500→0

 

 勝利したのは誠一郎。

 刹那とて、この勝敗は変わらないと思っていた。

 そして、ライフを1たりとも削られることなく刹那に勝っている誠一郎を見るのも、言ってしまえばいつも通りのことだ。

 

 やろうと思えば、今回も一枚のカードで勝っているかもしれない。

 それをしなかった理由は分からないが……。

 

「さて、今日はまだデュエルがあるんだろ?」

「!」

 

 そう、イベントとはいっても、たった一階しかデュエルがないというわけではない。

 

 そして、ここでも、魔王聡子の権力が発揮されており……。

 

 まあ、なんというか、中等部二年の生徒達に取っては、ご愁傷さま。としか言え無い雰囲気になっていた。

 

 

 ちなみに、後で聡子は刹那のところに行ったのだが、刹那は何を思ったのか、軽く二時間くらい口もきかなかったのでへこんでいた。



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十一話

「誠一郎。これを見なさい」

「……」

 

 とある日の放課後。

 彩里が見せてきたのは、近くの遊園地の優待券だった。しかも五枚。

 運営している会社が『フレイムブレイズ㈱』となっている。

 確か、元素四名家の火野和春が運営しているところだったか。

 

「どうやって手に入れたんだ?」

「とじ込みハガキよ」

 

 運だけは良いな。俺の彼女は。

 

「……ちょっと待って。この優待券に書かれてる日付。大きなイベントがある日じゃない?ここ最近休園してたけど、その間に大改造してるって聞いたことがあるよ」

 

 聖が思いだしたように言う。

 ……別に文句を言いたいわけではないが、そこまでの改造をしてしまうと、デッキを持っていないと何も楽しめない可能性があるのだが……。

 

「そうですね。確か、アトラクションを利用した特殊デュエルが行われると聞いています」

「コースターや観覧車でデュエルするってデモ映像があった」

 

 フォルテと刹那も興味はあったようだ。知らないのは誠一郎だけである。

 ていうか……コースターはともかく、観覧車でどうやってデュエルするんだ?

 

「と言うわけで、明日、休日だから行きましょう。私は明日着る服を選んでくるからね。それじゃ!」

 

 彩里はパッパと家に帰って行った。

 ……というか、今集まっているメンバーで帰る家が違うのは聖だけなのだが。

 

「それにしても、優待券とかよく当たるわね……」

「彩里はあんな感じの懸賞はよく当てるからな」

「む。確かによく当たる」

「当選確率は97・2%ですね」

「高すぎ!」

 

 なんでだろうな。才能に恵まれているのは分かるが、運にも恵まれているんだよなぁ。

 というか、そこまで正確な数値を出せるほど懸賞を出しまくっているのは逆に問題があるような気がする。

 

「それにしても張り切ってるわね……」

「特殊ルールのデュエルが気になっているんだろうな。ていうか五人分も当ててくるとは……」

 

 一体何がどうなっているのやら……。

 

「お兄ちゃんの財力を考えれば、別に優待券がなくても問題はないと思う」

「まあ、実際はそうなんだがな」

 

 アノニマス・トーナメントで暴れたからな。

 しかも、カードの価値と言うのはかなり流動するものだ。

 デュエルモンスターズが政界や財界に匹敵するのが現代の社会であり、株のトレーダーの知識があれば荒稼ぎするのはたやすい。

 

「それにしても、アトラクションを利用した特殊ルールですか……誠一郎様なら問題はありませんよね」

「ないだろうな。ライフが1あれば相手を叩きつぶすことはできるからな。土俵に上がればこっちのものだ」

 

 なかなか理不尽な話である。

 

「サイドデッキもいろいろ考えておく必要があるわね……ところで、誠一郎は彩里とはどうするの?変なところに入りそうな雰囲気よ。彩里って」

「どうする。というのがどういうことなのかよくわからんが、どうせレディーファーストだとか言いだすからな。お化け屋敷にでも放りこんでおけばいい」

 

 クズである。

 

「誠一郎様……それは後でひどい目に合いますよ」

「お兄ちゃん。似たようなことをして服や鞄を買いに行かされて諭吉が何人もいなくなったのに……」

 

 学ばないのではない。面白いと思ったことをするのが誠一郎クオリティだ。

 まあ、それはそれとして、楽しむことは大切だろう。

 

「……それはそれとして、リニューアルイベントもいろいろあるみたいだな」

 

 誠一郎が呟いた時、タブレットで情報を確認していた刹那が固まる。

 

「刹那。どうした?」

「リニューアルイベントで、アイドルデュエリストの御堂天音(みどうあまね)が来るって書かれてる」

「誰だ?」

 

 誠一郎が疑問を口にした瞬間、聖、フォルテ、刹那から「何言ってんのこいつ」見たいな視線を受けた。

 

「……え、有名人?」

「そうよ。御堂天音って言ったら、プロデュエリストとしての一面も持つアイドルデュエリストよ」

「女性でも見惚れる整ったルックスとスタイル。さらには、その圧倒的に清楚な印象と、見た目に合わないすさまじいスタミナで有名です」

「クリスマスでは、御堂天音のスペシャルライブで八時間のモンスターイベントが開催されたこともあるって聞いた」

 

 ……何かごめんなさい。

 

 しかし、アイドルデュエリストか……。

 強いデュエルなのか。見せるデュエルなのか。それとも、両方なのか……。

 

 見たことが無いものを見せてくれることを、ただ、誠一郎は期待する。

 

 ★

 

「ふああ……」

 

 用事がない場合、誠一郎はカードショップに行く。

 カードを買うわけではない。シングルで発売されているカードを見るのだ。

 レアカードやらなんやら、いろいろと持っているのだが、それだけでは確認で着ていない部分もあるし、カード情報がまとめられているサイトもあるにはあるが、店では値段も一緒にタグに記載されているし、何より、在庫数が分かるので、ある程度のカードの流動性が分かる。

 カードのネットトレードで稼いでいる部分があるので、軽視できない情報なのだ。

 

 イーストセントラルから少し離れたカードショップだが、実のところ、特定のカードショップにしか置かれていないものがあるので、それが目当てと言うこともある。

 

「……お、今日は順番待ちは無しか」

 

 デュエルマシンがあるのだ。

 コンピュータ対戦やら、ランダムでマッチングされるデュエリストと対戦できる。

 

 これ、戦績に応じて、カードショップの運営会社の系列店の専用ポイントやクーポンがもらえる。

 デュエルディスクに管理データをインストールしておくだけでいいのだ。

 

 ちなみに、難易度的に理不尽といえるのはコンピュータ対戦の方だ。

 CPUが組んだデッキであり、最高難易度に設定した場合、生半可なデュエリストだとワンキルされるレベルである。

 というか、カードを手に入れる必要がなくデジタルなので、デッキの構成もかなりヤバい。

 

 のだが……。

 

「ふああ……いつも通りだな」

 

 デュエルマシンの難易度がどれほど高かったとしても、初手エクゾでもされない限り、『自前のデッキを使えるのであれば』問題など何一つない。

 コンピュータで効果を処理するので、一々カード効果を口で説明する必要もないしな。

 

「ん。勝った」

 

 一回百円だが、確実に百円以上の価値になっているのは間違いない。

 一応人気のゲーム媒体なので、いつもは順番待ちが発生する。

 あと、最高難易度のコンピュータ対戦に勝利すると、もらえるポイントにボーナスが発生するのだが、これは一日に一度だけだ。

 まあ、よくこの店に繰る理由の一つが『デイリーボーナスを拾うため』とも言えるので、あながち間違いではないが。

 

 まあ、一回勝てば、もうそれ以上する理由はない。

 

「……で、何か用か?」

 

 デュエル中、後ろから見られていることを感じとっていたので、誠一郎は振り向いた。

 パーカーを着て、フードと帽子を被って、さらにサングラスをかけた少女だった。

 特徴的な薄紫色の髪を隠すことがあまりで着ていないようだが、まあ、それはいいとして。

 

「……なんでもない」

「別に見ていたとしてもマナー違反だとは言わんぞ。さっき見せた程度のアドバンテージならくれてやるくらいがちょうどいいからな」

「!」

 

 ちょっと煽ってみると頬が動いた。

 が、すぐに戻った。

 

「……なるほど、ここで暴れるにはいかない事情があるみたいだな」

 

 アノニマス・トーナメントでも、似たような雰囲気を出すデュエリストは多かった。

 誠一郎は、隠したいと思う感情には敏感である。

 まあ、だからこそ煽ってみたのだが。

 

「それと……使っているデッキに迷いがあるような雰囲気だが、それだと、優秀にはなれても、自分がほしい強さは手に入らないぞ」

「……」

 

 少女は、奥歯をギリッとならしたが、何も言わずに店を出ていった。

 その背中を見ながら、誠一郎は呟く。

 

「あの声……どこかで聞いたことがあるような……ないような……まあいいか」

 

 誠一郎は、すぐに他のことに興味が移っていた。

 

 ★

 

「というわけで、行くわよ!」

 

 彩里は謎の張り切り具合である。

 全体的に黒で揃えた感じである。

 あと、いつも以上にキューティクルがすごくて若干浮いてる。

 

「かなり気合を入れたな」

 

 ジャケットにジーンズと言う、なんとも原石的な感じがするファッションで来た誠一郎が呟くが、高身長でイケメンなので実のところ彼もかなり目立つ。

 

「……」

 

 全体的にガーリッシュ系でまとめてきて、いつも通りのポニテマフラーの刹那が何も言わない。

 

「なんか、すごいことになってるわね……」

 

 ノースリープのシャツとジャケット、そしてホットパンツで活発な雰囲気のはずの聖だが、彩里のオーラには何か思うところがあるようだ。

 

「前日を使って服を選んだ時はいつもこんな感じですからね……」

 

 清楚系、といっていい服で来たフォルテだが、まあ、胸もそうだがお尻もいい彼女なので、ちょっと年上に感じる。

 

「で、どうやって行くんだ?」

「誠一郎って免許持ってる?」

「バイクの免許は持っているが、さすがの俺も自動車の免許は持っていないぞ」

「ふむ……電車で行きましょうか」

 

 このメンツと恰好で電車に乗るのか!?

 

 アホかこの女。という雰囲気になったが、タクシーを拾うのもどうかと思ったので、もう電車で行くことにした。

 思いっきり目立ったけど。

 

 

 

 というわけで到着した。

 『バスタード・ドリーム』という遊園地だ。

 日本語訳だと『雑種な夢』だろうか……まあ、そのあたりはおいておくとして、若干赤っぽい雰囲気があるものの、かなり雑多な感じがする。

 

 優待券を、腕に付けておくブレスレットに交換してもらって、全員右手首に付けた。

 

「さて、どうする?」

「イベントまでは自由行動でいいと思うけど。私は行きたいところがあるし、全員、趣味は別々だからね」

「彩里がそういう時って大体集合時間に間に合わないんだがな……」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 聖は同情するような視線を向けてくる。

 

「とはいっても、行きたいところが別なのは事実か」

「というわけで、イベントがある十八時までは自由行動ってことで、解散!」

 

 言うが早いか、彩里は走り去っていった。

 

「……俺達も自由行動にするか」

「まあ、いいわ。優待券があるから割引は効いてるし、それじゃ」

 

 聖は買い物コーナーに向かって歩いていった。

 おい、アトラクションは?

 

「それでは、私も気になるところがあるので」

 

 フォルテは『スクリーミングエリア』というところに歩いていった。

 スクリーミングの意味が分からないって?『絶叫』である。

 

 誠一郎は残った刹那の方を見る。

 刹那は誠一郎をじっと見る。

 

「……一緒に行きたいところがあるのか?」

「……二人でしか入れないところがある」

 

 そうか。そういうことか。

 特に何も言わずに、二人でそこに歩いていった。

 ちなみに、地図を全く見ていないので、誠一郎にはどこに何があるのかさっぱりわからない。

 

 歩くこと数分。

 アトラクションの名前は『カップル・メリーゴーランド』とのこと。

 よくわからん。普通一人で乗るもんだろ。

 ……それはそれなりに長い列があったのだが、優待端末を見せると普通に通してくれる。

 

「ほう、そこそこ人が集まって一度に行われるのか……」

 

 レーンがいくつか存在するので、時間がかかるといえばかかるのだが、それでも、それ相応に客を回せるようになっているようだ。

 

 で……。

 

「何だこの馬……」

 

 馬のような乗り物があった。

 どうやらそれに乗るらしい。

 

「この年になってメリーゴーランドに乗るとは思っていなかったが……まあいいか」

 

 刹那は別の乗り物だ。

 ……ペンギン?

 刹那。ペンギンに乗ってるぞ。

 

「……っ!」

 

 すごく恥ずかしいようだ。

 ていうか、恥ずかしがるくらいならメリーゴーランドなど選ばなければよかったのに。

 と思ったら、説明が聞こえてくる。

 

『それでは皆さん。このたび、カップル・メリーゴーランドにご来場いただき、ありがとうございます』

 

 どうも。

 

『このアトラクションでは、一人一人がそれぞれ、動物の乗り物に乗っていただき、進んでもらいます。ゆっくり進みますからお子さんでも安心してください』

 

 さいで。

 

『そして、ご一緒に入場したカップルの方とチームを組んで、タッグデュエルを行っていただきます。デュエルは一度だけですが、勝利したチームには豪華な景品が送られます!』

 

 あ、デュエルは一回だけなんだ。

 豪華景品……まあ、あったとしてもカードかクーポンが妥当だろう。

 

『そして、このメリーゴーランドでは、乗り物にはそれぞれ、別のスキルが用意されており、『スキルカード発動』と宣言することで、一度のデュエルで一度だけ使用することが出来ます。スキルの確認ボタンでいつでも確認できますので、うまく活用してくださいね!ちなみにスペルスピード2です』

 

 乗り物ごとに違うスキルか。

 ……あ、『スキル確認ボタン』と言うものがある。

 押してみた。

 

『スキル:デッキのカードを一枚ランダムに墓地に送る』

 

 使い物にならんな。

 せめて手札ならまだ何とか行けるのだが……。

 

『なお、今日はリニューアルオープンでお客様も多いので、恐れ入りますが、初期ライフを2000にさせていただきます』

 

 それ、ターンが回ってこないパターンもあり得ると思うんだけど。

 

『それでは、カップルで頑張ってください!スタートです!』

 

 それと同時に、ペンギンの乗り物がうぃーんと隣に動いてきて、二体同時に進みだした。

 乗り口は暗かったが、出口を抜けるとそれはそれなりに煌びやかなステージが広がっている。

 

「で、刹那。このアトラクションに挑戦したのはどういうことだ?」

「……遊園地。来るの久しぶりだから」

「……そうか」

 

 あえて何も言わん。

 と思っていると、別のレーンから二人組が来た。

 ……おい、どっちも小学校低学年じゃねえか。

 まあ、大丈夫か。背の高い誠一郎が隣にいれば、刹那は小学生に見えるからな。

 ええと、向こうは、男の子がドラゴン(動物?)で、女の子の方はハムスターだ。

 

「あ~。高校生の兄ちゃんがおうまさんにのってる~」

「あはは。おもしろーい」

「……」

 

 ……いや、怒るところではないか。

 だが、デュエルで語らせてもらおう。

 刹那もデュエルディスクを構える。

 

「よーし。頑張るぞ!」

「おー!」

 

 向こうの二人は無邪気だな。

 愛と恋と恋愛の違いもわからん子供だからな……。

 刹那もこういう時代があったな……。

 

 それはそれとして、全員がデュエルディスクを構える。

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 誠一郎&刹那 LP2000

 努武(つとむ)雛子(ひなこ)  LP2000

 

「先攻は僕だ!」

 

 男の子、努武からだ。

 ターンは、努武→刹那→雛子→誠一郎である。

 さて、小学生のデュエルを見せてもらおう。

 

「僕は手札から、『勇気の剣士』を召喚!」

 

 勇気の剣士 ATK1700 ☆4

 

 出てきたのは茶色を基調とする剣士。若干おっさん的な感じ。

 通常モンスターだ。

 テキストはこんな感じ。

 

 

 勇気の剣士

 レベル4 ATK1700 DFE1400 地属性 戦士族

 通常

 世界の困難に立ち上がった剣士。

 勇気の一撃「ブレイブ・セイバー」で敵を切りさけ!

 

 

「僕はこれで、ターンエンド!」

 

 どうだ!と言わんばかりに胸を張る努武。

 ……刹那にもあったなぁ。通常モンスター棒立ちフィールド。

 

「私のターン。ドロー」

 

 刹那も思いだしているのだろう。

 こんな時代があったなぁ。と言うフィールドだ。

 

「私は、『MJガトリング』を召喚!」

 

 MJガトリング ATK1800 ☆4

 

 戦闘を行うとき、相手モンスターの攻撃力が、ダメージステップ終了時までそのモンスターの元々の攻撃力で固定される。

 攻撃力が10000を超えた『究極封印神エクゾディオス』だろうと『偉大魔獣ガーゼット』だろうと、戦闘中なら上から叩き潰す変態だが、通常モンスターなら普通に相手するものだ。

 

「バトル!MJガトリングで、勇気の剣士を攻撃!」

 

 ガトリングが銃口を剣士に向ける。

 まあ、ダメージは100なのだ。我慢してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スキルカード発動!相手モンスター一体の攻撃を無効にして、そのモンスターを破壊する!」

「……え?」

「……ん?」

 

 MJガトリング。爆☆砕!

 

「うおお!ガトリングが吹きとんだ!」

 

 しまった。完璧に忘れていた。

 このデュエルはスキルと呼ばれるものがある。

 そして言っていたではないか。

 全て『スペルスピード2』だと。

 言ってしまえば、相手ターンでも発動できるものしか存在しないのだ。

 

 っていうか、なんで『炸裂装甲』なんだよ。おかしいだろ!

 こっちなんて『デッキからランダムに一枚墓地に送る』なんて効果だぞ。

 差がありすぎるって!

 

 ……ん?スキル確認スイッチのちょっとしたに何か書かれてる。

 

『このアトラクションは小学生向けのものです。中学生以上の方が参加する場合、スキルの強さが落ちますのでご了承下さい』

 

 ああ悪かったな!確認しなかったこっちが悪かったよ!

 ……いや、それでも差がありすぎませんかね。

 ていうか、カップル云々言ってたのに小学生向けなんだな。

 まあ……そのあたりのことは置いておくとして。

 

 刹那は何かのショックを受けたようだ。

 

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 モンスターは出なかった。

 まあ、この際それはいいか。

 多分オーディナルモンスターを一体くらい握っているだろうし、これ以上の展開は別に望まん。

 

「よし、うまく言った!」

「初等部のタッグチャンピオンの実力。見せてあげるんだから!」

 

 そうか。まあ頑張れ。

 世界の広さを教えてあげるから。

 

「私のターン。ドロー!」

 

 次は雛子のターン。

 

「私は手札から『ハーピィの羽根帚』を発動!」

「罠カード『黄泉の工場』を発動。墓地の機械族モンスター一体を、攻撃力を500ポイントアップさせて特殊召喚する」

 

 

 黄泉の工場

 通常罠

 ①:墓地の機械族モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせて自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

 MJガトリング ATK1800→2300 ☆4

 

 ガトリングの蘇生に成功した。

 

「む……私は『勇気の女剣士』を召喚!」

 

 出てきたのは、勇気の剣士と同じ配色の女剣士、若干オバハン。

 

 勇気の女剣士 ATK1900 ☆4

 

 

 勇気の女剣士

 レベル4 ATK1900 DFE1000 地属性 戦士族

 このカードは「勇気の剣士」モンスターとしても扱う。

 ①:このカードが相手のカード効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動する。自分フィールドの、このカード以外の「勇気の剣士」モンスターにその対象を変更する。

 

 

 しかも夫(?)よりも強い。

 なんていうか……かかあ天下だなぁ。

 あの、もしかして、あのタッグチーム。実は女の子の方が主導権を持ってたりする?

 

「まだまだ!私は『二重召喚』を発動して、召喚権を増やす!そして、地属性の『勇気』モンスターである勇気の剣士と、勇気の女剣士をシンボルリリース。夫妻合体!」

 

 女の子がそんな問題発言して大丈夫なのだろうか。

 夫妻がシンボルに変わる。

 ドラゴンとハムスターの乗り物のそばで、ゲートが開いた。

 

「オーディナル召喚!レベル7『勇気の愛剣士』!」

 

 ぴっちりしたうえにフルフェイスの全身甲冑を着ているので夫なのか妻なのかわからんモンスターが出現した。

 剣士と言うより騎士である。

 

 勇気の愛剣士 ATK2600 ☆7

 努武&雛子 SP0→2

 

「勇気の愛剣士の効果発動。一ターンに一度、SPを一つ消費することで、相手フィールドのモンスター一体の攻撃力を、元々の攻撃力の半分にする!『パワー・オブ・ラブ』!」

 

 

 勇気の愛剣士

 レベル7 ATK2600 DFE1200 地属性 魔法使い族

 オーディナル・効果

 地属性×2 「勇気」モンスター

 このモンスターのカード名は「勇気の剣士」としても扱う。

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費し、相手の表側表示のモンスター一体を対象にして発動する。そのモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで元々の攻撃力の半分にする。

 『SP2』

 

 

 努武&雛子 SP2→1

 MJガトリング ATK2300→900

 

「……」

「……」

 

 愛の……力?

 ガトリングは力が落ちたというより、げんなりしたような雰囲気だが。

 

「そして、装備魔法『勇気の一撃』を発動!『勇気の剣士』モンスターが、相手モンスターと戦闘を行って相手に与える戦闘ダメージを二倍にする!」

 

 

 勇気の一撃

 装備魔法

 「勇気の剣士」モンスターのみ装備可能

 ①:装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、装備モンスターが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

 

 

 ほう。なるほどな。

 ハーフライフデュエルでは、確かにこう言うカードはかなり強い。

 

「バトルよ!勇気の愛剣士で、MJガトリングを攻撃。これで私たちの勝ちよ!」

 

 愛剣士がガトリングを切り裂いた。

 ……が。

 

「クリクリ~」

「!」

 

 雛子が突然聞こえた声に驚く。

 と思ったら、毛むくじゃらの悪魔が愛剣士の前でふよふよしていた。

 

「く……クリボー」

 

 努武が驚愕するとともに、誠一郎は楽しそうに笑う。

 

「残念だったな。クリボーの効果を使って、戦闘ダメージを0にしたのさ」

 

 雛子と努武がデュエルディスクを確認する。

 すると、そこにはしっかりとクリボーの効果が発動していたことを示すアイコンが存在した。

 いくら一撃で相手を倒せる準備を整えたとしても、肝心の戦闘ダメージを与えることができなければ意味が無いのだ。

 最後まで気を抜くべきではないのだ。

 

「むううう。私はこれでターンエンドよ」

「なら、俺のターンだ。ドロー!」

 

 さて、もういいだろう。

 

「おい君たち。カード一枚で勝つ戦術を知ってるか?」

「ど、どういうことですか?」

「カード一枚で勝つなんて……そ、そんなこと不可能よ」

 

 まあ、普通ならな。

 だが、アノニマス・トーナメントでグランドスラムを達成した誠一郎は、残念ながら、普通ではない。

 

「見せてやるよ。魔法カード『優しいフリした恋人』を発動。自分フィールドにカードが存在せず、相手フィールドに存在するモンスター一体の攻撃力が、自分のライフよりも多い場合に発動できる。相手フィールドのモンスター一体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える」

「「そんな……」」

 

 

 優しいフリした恋人

 通常魔法

 ①:自分フィールドにカードが存在せず、相手フィールドに存在するモンスター一体の攻撃力が、自分のライフよりも多い場合に発動できる。相手フィールドのモンスター一体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。

 

 

「この効果に寄って、『勇気の愛剣士』を破壊して、その攻撃力分のダメージを与える」

「そんな……私のスキルは罠カードの効果を無効にできるけど……魔法カードの効果には対応してない……」

「というわけで、2600ポイントのダメージを受けてもらう!」

 

 勇気の愛剣士が爆発する。

 

「うわああああ!」

「きゃああああ!」

 

 努武&雛子 LP2000→0

 

 まあ、こんな感じで勝利である。

 

「ま、こんなもんだ。相手が強ければ強いほど、俺は楽に勝てるんだよ」

「そ……そんなデュエリスト。聞いたことないわよ」

「そんなデュエリストがいたなんて……」

 

 さすがにこんな奇天烈なデュエリストは他にはいないだろう。

 まあ、今回はライフが少ないからこそ成立したものでもあるが。

 

 いろいろ驚いているうちに、ゴールについたのでそこで降りた。

 景品を後で受け取ることになるが、その前に、デュエルディスクを操作して、二枚のカードを取り出す。

 二人に渡した。

 

「これは……」

「お前たちにやるよ」

「え……でも……」

「いいって、そのカードを渡せる性格をしているからな」

「むぅ……まあいいわ。ただでもらえるものはもらっておきましょう」

 

 雛子はたくましいな。

 誠一郎は刹那が待っているところに歩いていこうとした。

 

「あ、あの……」

 

 努武が誠一郎に何か聞きたいことがあるようだ。

 

「どうした?」

「あの……どうやったら、強くなれるんですか?」

 

 ……ふむ。

 誠一郎の片鱗に触れて何か感じたのだろうか。

 

「強くなるための方法なんて様々だ。この場で語れる程度のアドバイスで人が劇的に強くなるなら、苦労なんてしない」

「……それはそうですよね」

「ただ、一つだけ言えることはある。デュエルは楽しいものだってことを忘れないことだ。人は何かが嫌だと思った時、そこから抜け出そうと考え始める。だから、楽しいものだってことを忘れなければ、少なくとも、強くなるためのチャンスはいくらでもつかめるさ」

 

 誠一郎が言えるのは。ここまで。

 ここから先は、個人で考えることだ。

 まず、つかめるチャンスを掴むことから始めるべきだ。

 チャンスを活かせるかどうかではない。

 それは、チャンスを活かす方法を知っているものが近くにいる者が考えることだ。

 まずは、チャンスを掴むことからである。

 

「ま、楽しくやれよ」

 

 誠一郎はそういいながら、刹那のところに向かっていった。

 

 スタッフから景品としてクーポンをもらうまで、刹那は、努武と雛子を見ていた。

 

「何か思うことがあったのか?」

「……私も、あんなときがあったなって」

「そうだな。俺も、刹那には同じアドバイスをした記憶がある」

 

 刹那がチャンスをつかめているのかどうかは、刹那が考えることだがな。

 

「……さて、他はどうしているのかね……」

 

 面倒なことになっていないといいんだがな。と思いながら、誠一郎は溜息を吐いた。



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十二話

「聖はこのあたりに来たはずだが……」

 

 メリーゴーランドに乗った後、刹那は逃げるようにどこかに行ってしまったので、一番近い売店エリアに歩いてきた誠一郎。

 リニューアルオープンと言うことで来場客も多いので、売店の方も客は多い。

 

「……多いのは火属性関係のモンスターのマスコットだな……」

 

 爆炎獣をデフォルメしたようなものが多いのだが……燃えてるヤツが多いためだろう。ほとんど違いがない。

 さすがに、首の数が多いオルトロスやケルベロスは分かるのだが、後のモンスターはポーズに違いがあるだけで特に変わった印象はないのだ。

 

「何か食べていくか……」

 

 自由行動と言いきった以上、時間になるまで全員が集まることはないだろう。

 軽く何か食べていくくらいなら別に大丈夫のはずだ。多分だが。

 まだ土産などを買うタイミングではないので、軽食店のところに行く。

 

 いろいろあるが、炎をイメージさせたいのか、熱いものや赤いものが多い。

 誠一郎はそこまで食の好みにうるさくはないが……あ、激辛チャレンジの店がある。大丈夫なのか?

 

「……なんか、ボールが跳ねる音が聞こえるな。向こうからか」

 

 サッカーボールやバスケットボールが跳ねる音が聞こえる。

 行ってみると、スポーツコーナーがあった。

 小さなものではあるが、ギャラリーもそこそこ楽しんでいるようだ。

 

「バスケットボールのギャラリーが多いな」

 

 誰か有名人でも来てるのか?

 行ってみると……。

 

「聖が暴れてる……」

 

 ロングシュートをはじめ、横に跳びながらのサーカスシュート、背面シュート、さらには、ゴールを見ずにドリブル中に急にシュートしても入る。

 物を投げることに関しての正確さはすさまじいと思っていたが、なんというか……化け物だ。

 誠一郎もそれなりに本気でやればできなくはないが、聖のような自然さを出しながら入れるのは不可能である。

 

「あ。コートの端から高弾道でいれた。緑○かよ。髪、赤いのに」

 

 しかも、利き腕関係ないのだ。右手でやっても左手でやっても普通に入る。君デュエリストとして大成できなくてもバスケット選手にになれるよ。絶対にマークが2、3人はつくから。

 ……あ、二人マークしてても、軽いミスディレクションを利用してぶち抜いた。

 マークしてても無駄か。

 ……でもボールを持っていなかったら?

 あ、スカイダイレクトで入れやがった。あいつどこのバスケ漫画から出てきたんだ?

 スコアには三桁の数字が刻まれている。聖がいれると同時にどんどん増えていくので、稼ぎまくった感じか。

 あ、バスケットコートのそばにある看板に何か書いてある。

 

『チーム戦!勝利したチームメンバー全員に、スコア2点につき100円の商品券をプレゼント!

 ※挑戦権は一人一度のみ』

 

 スコアが三桁を超えている時点で聖のチームは5000円分が確定している。ということか。

 そしてなるブザー。

 相手チームの燃え尽きた表情が印象的だった。

 

「フッフッフ。稼いだ稼いだ。あ、誠一郎。来てたんだ」

「ああ……暴れてたな。聖」

「この商品券、優待券の割引と重複して使えるからね。無駄遣いしたくなかったから、ちょうどいいのがあって助かった」

 

 理不尽な才能を言うのはこういうときに運営側に損害を与えるものだ。

 まあそれはそれとして。

 

「あ。次はあれにする」

「ん?」

 

 野球ボールを的に当てて、落とした枚数で景品が決まるゲームだ。

 的は九つ。

 簡単に言うなら。

 

 1 2 3

 4 5 6

 7 8 9

 

 ↑こんな感じで並んでいるヤツだ。

 

「箱に入った十個のボールを使うんだな」

「九つ全部落とせばボックスでパックをもらえるみたいね」

 

 なかなかの報酬だ。

 下にもいろいろ書いてあるが、カードパックだったり商品券だったりと、会場の中で完結するタイプのものが多い。

 一番下。オリジナルパッケージのポケットティッシュだ。一応、記念にはなるだろう。

 

「途中で棄権することもできるみたいだな」

「ボールを残して途中棄権もできるみたいね。箱にボールを入れた状態でスタッフに渡せば、追加報酬もあると」

 

 そっちはリニューアルオープンの特例報酬らしい。

 このゲームはワンプレイ500円で、ボール一個で50円のキャッシュバックだ。

 このサービスが利用できるのは一人一回である。

 

「ふむふむ……投球エリアの外で地面に落ちたボールは箱に入れることはできない……か」

「おそらく、センサーで管理しているんだろう。丸くなっている投球エリアだが、ワイヤーのようなものがあるからな」

「なるほどね……」

 

 そういって黒い笑みを浮かべる聖。

 ニコニコ笑っている受付のお姉さんに五百円玉を渡して、ボール十個を入れた箱を受け取る。

 そして、箱を投球エリア内において、一つを手に取る。

 

「目標は?」

「当然、全部取るわよ」

 

 聖はボールを地面に当てて跳ね具合を確認している。

 ……なぜ?

 と思ったら、聖はボールを全力投球。

 数字の的『8』に当たって、的が落ちる。

 さすがだ。

 と思ったら、ボールがその間との奥にあった壁に激突。

 そのまま『5』を貫通しながら戻ってきて、聖の手に戻ってきた。

 

 聖は誠一郎の方を向いて。言う。

 

「これって一球目よね」

 

 ひどい……これはひど過ぎる。

 

「……」

 

 誠一郎は絶句するとともに、受付のお姉さんの方を見る。

 お姉さんはマニュアルのようなものをとりだして開いた。

 だが……すぐに止まる。

 目次の時点で、何を見ればいいのかよくわからないからだろう。

 気持ちは分かるが……。

 そして、困惑しながらも言う。

 

「一応……問題はないと思います。ルール違反ではないですから」

 

 とりあえず、ルールブックにもかかれていない奇天烈な方法だということは理解した。

 

 結局、ボールを一つも投球エリアの外の地面に落とすことなく、聖は手に持った野球ボールで全ての的をぶち抜いた。

 受付のお姉さんはよくわからないものを見るような表情を隠しながらも笑顔で対応してくれた。

 パックのボックスと五百円。

 それなりの損失になっただろう。ご愁傷さま。

 

「ふふふ。儲かったわね」

「何言ってんだか……」

 

 誠一郎としてはもう何を言えばいいのかわからない感じだったが、追及しても仕方のないことだ。

 

「あ。あそこ、スペシャルパックがある。ちょっと買ってくるね」

 

 聖は屋台に並んでいたパックを買いに行った。

 だが……。

 

 そのパックを掴んだのは、聖だけではなかった。

 全く同じタイミングで、パックを掴んだ男がいる。

 

「……む?」

 

 それは……綿あめを片手で頬張る火野正也だった。

 

「……ちょっと!これは私が先に目を付けていたんだからね!」

「五月蝿い!こういうのは早いもの勝ちだろう!」

 

 ワーワーキャーキャーと騒ぎ出す二人。

 おい、バイトの店員がおろおろしてるじゃないか。

 

「おい。お前ら、とりあえずデュエルで決めろ」

 

 優待端末を見えるようにして、とりあえず金をはらっておく誠一郎。

 一パック1300円(税込)……税別でも1200円くらいか。五枚入りだよな。何だこのぼったくりは。

 

 まあそれはいい。あとでこいつらに払わせるだけだ。

 

「……お前は、遊霧誠一郎!一体なぜここに……」

「そりゃ、彼女が優待券を当てたからだが……」

「彼女?……ああ。あの『クロスロジック』を使っている人か」

 

 彩里はルックスもスタイルも完成しているので、少なくとも話題には上がる。

 ただ、正哉にはその雰囲気がない。

 正也は、そういうのに呑まれるタイプではないようだ。

 

「まあそれはいい。誠一郎。ここでデュエルだ!」

「その前にパックをどうするか決めろよ……」

「む……そうか……」

 

 正也は聖を見る。

 

「デュエルで決めるぞ!」

「何よ。レディーファーストって言葉知らないの?」

「それはお化け屋敷の前で言うことだ!」

 

 何と、誠一郎と同じ考え方をしている正也。

 聖はどういえばいいの変わらない表情になったが、デュエルの腕に自信がないわけではない。イーストセントラルではエリアDだが、弱いデュエリストではないのだ。

 

「近くに広場があるからな。そこで決めろ」

 

 さすがに露天の目の前でやるのはマナー違反だ。

 正論で勝負して二人を移動させる。

 二人がデュエルディスクを構えて、離れて立った。

 

「さて、一応ルールだ。デュエルは一回だ。手札事故は認めない。で、勝った方がこのパックを購入する権利を得る。と言うことだ。代わりにはらっているだけなのでしっかり金を出すように」

 

 そういうことに関しては、良い言い方をすれば真面目、悪い言い方をすれあケチな誠一郎。

 

「かまわん」

「上等よ」

 

 二人がカードを五枚引いた。

 

「「デュエル!」」

 

 聖  LP4000

 正也 LP4000

 

「私の先攻よ。手札二枚を捨てて、手札から魔法カード『トレード・セット』を発動。カードを二枚ドローする」

 

 この流れは……。

 

「そして、墓地の『凍結恐竜プテラ』の効果を発動。墓地から除外して、墓地の『ブリザード・エッグ』を一枚発動できる。そして、私はブリザード・エッグの効果で、一ターンに一度、手札の凍結恐竜モンスターを特殊召喚できる。私は『凍結恐竜ディメノコドン』を特殊召喚!」

 

 凍結恐竜ディメノコドン ATK1300 ☆4

 

「ディメノコドンの効果によって、このモンスターをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターの攻撃力は、300ポイントアップするわよ」

 

 

 凍結恐竜ディメノコドン

 レベル4 ATK1300 DFE0 水属性 恐竜族

 ①:このカードをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 ②;自分フィールドの「凍結恐竜」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外する。

 

 

「そして私は、水属性の凍結恐竜ディメノコドンをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させて刃となれ!」

 

 アンキロがシンボルになる。

 

「オーディナル召喚!レベル5『凍結恐竜セイバー・プテラ』!」

 

 凍結恐竜セイバー・プテラ ATK2200→2500 ☆5

 聖 SP0→1

 

「モンスター効果発動。オーディナル召喚に成功した時、デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加える。私は『凍結恐竜ティラノ・エッジ』を手札に加える」

 

 ほう……。

 

 

 凍結恐竜セイバー・プテラ

 レベル5 ATK2200 DFE1800 水属性 恐竜族

 水属性×1

 ①:このモンスターのオーディナル召喚に成功した時、デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加えることができる。

 『SP1』

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンドよ」

「俺のターンだ。ドロー!」

 

 聖が残した手札は二枚。

 一枚はオーディナルモンスターだ。

 セイバー・プテラを破壊すれば、デュエルの流れを一気に切り替えることが出来る。

 そう考えて、正也はカードを発動する。

 

「俺は手札を一枚捨てて、フィールド魔法『爆炎倉庫ゲートソウル』を発動する。カード効果で、手札のレベル4以下の爆炎獣を特殊召喚だ。『爆炎獣ライオドール』を特殊召喚!」

 

 爆炎獣ライオドール ATK1600→2000 ☆4

 

「そして、装備魔法『デュアル・ブレイズ』を装備、これにより、ライオドール一体で二体分のオーディナル素材にすることが出来る」

「こ……こんな簡単に……」

「俺は炎属性のライオドールをシンボルリリース!溶岩に紛れる豹よ。現世に現れ、瞳に映る獲物を滅せよ!」

 

 現れる。

 

「オーディアル召喚!レベル7『爆炎獣マグマレオパルド』!」

 

 爆炎獣マグマレオパルド ATK2300→3000 ☆7

 正也 SP0→2

 

「一気に出してきた……」

「マグマレオパルドのモンスター効果。一ターンに一度、相手に800ポイントのダメージを与える!」

 

 マグマレオパルドが雄叫びを上げると、聖を襲う。

 

「く……」

 

 聖 LP4000→3200

 

 

 爆炎獣マグマレオパルド

 レベル7 ATK2300 DFE1200 炎属性 獣族

 オーディナル・効果

 炎属性×2

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:一ターンに一度発動できる。相手に800ポイントのダメージを与える。

 『SP2』

 

 

 800ポイントのダメージ。

 多いといえば多いし、少ないといえば少ない数字だが、五回受けたら終了と考えるとバカにはできない数字だ。

 

「バトルフェイズ!マグマレオパルドで、セイバー・プテラを攻撃!」

 

 マグマレオパルドが飛びかかる。

 

「フィールド魔法、爆炎倉庫ゲートソウルの効果により、爆炎獣の攻撃時、相手はカードの効果の発動はできない!」

(マズい。そうなると、ブリザード・エッグの効果で攻撃力が上がらない)

 

 聖は冷や汗を流す。 

 

 セイバー・プテラとマグマレオパルドが激突する。

 だが……どちらのモンスターも破壊されなかった。

 

「「え……」」

 

 聖も正也も、状況を理解していないようだ。

 誠一郎は溜息を吐きながら、解説する。

 

「知らんのか?ブリザード・エッグの効果は、バトルフェイズに入った時点ですでに適用される。バトルフェイズに入る宣言と、モンスターの攻撃宣言の間に、既に攻撃力上昇がついているんだよ」

 

 凍結恐竜セイバー・プテラ ATK2500→3000

 

 誠一郎としては、何故知らなかったのかが不思議だが。

 ブリザード・エッグの効果は攻撃宣言時ではなく、バトルフェイズの『スタートステップ』の時点で発動する『永続効果』である。

 

「聖の墓地にあったディメノコドンの効果は俺も知っているが、墓地にある時に除外することで、凍結恐竜を破壊から守ることが出来る効果だ」

「ちょっと待て、ゲートソウルの効果で、効果の発動は……」

 

 勘違いするデュエリストがたまにいるんだが……。

 

「これは『発動』ではなく『適用』だ。ゲートソウルの『発動できない』という制限を突破して効果を使える。さらに言えば、ディメノコドンの効果は強制的に発動されるから、特に宣言しなくともデュエルディスクが効果を勝手に処理するんだ」

「え……あ、そうなの?」

 

 発動と適用は違うのだ。『復活の福音』にも言えるけどな。あれの適用効果は強制ではないが。

 

「対して、マグマレオパルドが破壊されなかった理由だが、ライオドールをリリースしてオーディナル召喚された爆炎獣モンスターは、一ターンに一度、戦闘で破壊されない。という効果が付与される。合ってるな?」

「あ……ああ、そうだ」

 

 

 爆炎獣ライオドール

 レベル4 ATK1600 DFE1200 炎属性 獣族

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:このモンスターを素材としてオーディナル召喚された「爆炎獣」オーディナルモンスターは、一ターンに一度、戦闘では破壊されない。

 

 

「結果として、セイバー・プテラの破壊はディメノコドンが墓地から除外されることで身代わりになり、マグマレオパルドの破壊は、ライオドールに付与された効果に寄って破壊されなかった。分かったか?」

「「分かった」」

「よろしい。デュエル続行だ」

 

 正也は頷いた後、手札のカードを発動する。

 

「俺のバトルフェイズを終了だ」

 

 凍結恐竜セイバー・プテラ ATK3000→2500

 

「そして、魔法カード『ブレイズ・インパクト』を発動。フィールドで一番攻撃力の高いモンスターが自分フィールドに存在する場合、メインフェイズ2に発動できるカードだ。相手モンスター一体を手札に戻す」

 

 

 ブレイズ・インパクト

 通常魔法

 ①:メインフェイズ2のみ、フィールドで一番攻撃力の高いモンスターが自分フィールドに存在する場合に発動できる。相手モンスター一体を手札に戻す。

 ②:自分のスタンバイフェイズ開始時、このカードを除外して発動できる。カードを一枚ドローする。

 

 

 爆炎がセイバー・プテラを包んで手札に戻す。

 

「なんか。一歩遅いカードを使うのね……」

「だが、このカードは悪くはないぞ」

「そうなの?」

 

 聖が誠一郎を見る。

 

「……ポイントとしては、対象をとらずに手札に戻すことだ。『対象にできない』と『破壊されない』という、二大耐性とも言える永続効果を突破できる」

 

 破壊耐性や対象耐性を持つモンスターはそれなりに存在するが、そのどちらに対しても効果が及ぶというのはなかなかすさまじいことだ。

 メインフェイズ2にしか発動出来ない。という効果がなければ、禁止カードになっていてもおかしくはない性能である。

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

 手札が尽きた。

 まあ、ブレイズ・インパクトでドローは可能だが。

 

「私のターン。ドロー!まずは、SPを一つ消費して魔法カード『シンボル・ドロー』を発動。デッキからカードを二枚ドロー!」

 

 聖 SP1→0

 

 手札を入れ替えたか。

 

「そして、通常罠『凍結連携』を発動。手札のオーディナルモンスター一体をデッキに戻して、カードをドローした後、デッキからレベル4以下の凍結恐竜モンスター一体を守備表示で特殊召喚する。私は『凍結恐竜セイバー・プテラ』をデッキに戻して、カードを一枚ドロー。そして、デッキから『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」

 

 

 凍結連携

 通常罠

 ①:手札のオーディナルモンスター一体をデッキに戻して発動できる。デッキからカードを一枚ドローし、デッキからレベル4以下の「凍結恐竜」モンスター一体を選択し、守備表示で特殊召喚する。

 

 

 凍結恐竜アンキロ DFE1000 ☆4

 

「アンキロの効果で、一ターンに一度、墓地、または除外されている凍結恐竜を手札に加えることが出来る。私は『凍結恐竜ディメノコドン』を手札に加えて、『ブリザード・エッグ』の効果で特殊召喚!」

 

 凍結恐竜ディメノコドン ATK1300 ☆4

 

「そして、水属性のアンキロとディメノコドンをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてあらわれろ!」

 

 青のシンボルが二つ。

 

「オーディナル召喚!レベル7。『凍結恐竜ティラノ・エッジ』!」

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300 ☆7

 聖 SP0→2

 

「オーディナル召喚……」

 

 これが聖のエースモンスターか。

 

「私はティラノ・エッジの効果発動。相手モンスター一体の効果を無効にする!」

 

 ティラノ・エッジの刃が飛んでいって、マグマレオパルドの効果が無効になる。

 それと同時に、共通効果が無効になる。

 

 爆炎獣マグマレオパルド ATK3000→2300

 

「このままだと攻撃力は同じだけど、ブリザード・エッグの効果で、ティラノ・エッジの攻撃力は500ポイントアップする」

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→2800

 

「バトル!ティラノ・エッジで、マグマレオパルドを攻撃!これで破壊出来る!」

 

 聖のその言葉に、誠一郎は溜息を吐く。

 

「く……」

 

 正也も汗を流している。

 が……まあ、知っている人は知っていると思うが、破壊されることはなかった。

 

「「え?」」

 

 正也 LP4000→3500

 

 そして、二人ともわかっていない。

 

「……君たち。もしかして、マグマレオパルドがなぜ破壊されない?と考えているんじゃないだろうな」

「そうよ!私のティラノ・エッジの効果で、モンスター効果は無効になっているのよ!」

 

 集まっているギャラリーも、『あのデュエルディスク。壊れているんじゃないか?』とか言いだすやつまでいるが、誠一郎は溜息を吐きながら説明する。

 

「はぁ……ティラノ・エッジの効果で、相手モンスターの効果を無効にしたとしても、ライオドールのような効果は無効にはならないんだ」

「え?」

 

 周りも誠一郎に対して、『何言ってんだこいつ』見たいな目を向けてきている。

 

「君たち。『付与された効果』がどういった感じで扱われるのか知らないのか?」

「え?付与?」

「現在、マグマレオパルドが持っている破壊耐性は、『ライオドールによって付与された効果』であって、マグマレオパルド自身の効果ではない。だから、効果を無効にされても、ライオドールに寄って付与された効果は残るんだ」

「……なんで?」

「なんで?もクソもない。そういうルールだ」

 

 耐性を付与する効果を持つカードはそこそこ多いのだが、表側表示のカードの『永続効果』に寄って付与され、さらに、付与していたその表側表示のカードの効果が無効になることで、フィールドに付与されていた効果がなくなる。と言うシーンがデュエルでは多い。

 例としては『ワイド夫人』あたりか?

 

 ともかく、付与された効果は無効にはならない。

 

 ギャラリーも気が付いてきたようだ。

 中には携帯端末で確認しているものもいる。

 

「……まって、それじゃあ、戦闘では破壊できないってこと?」

「とはいっても無敵感はゼロだがな」

 

 一ターンに一度だけだし、一度裏側守備表示にすれば効果も消える。

 まあ、知っていればいいだけのことだ。

 

(刹那は授業で聞いていたと言っていたが……それについては今は言わない方がいいか)

 

 デュエルモンスターズのルールはそこそこ難しい。

 気を付けよう。間違えるとジャッジされるぞ。

 

「むう……まあいいわ。カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2800→2300

 爆炎獣マグマレオパルド  ATK2300→3000

 

「俺のターン。ドロー!スタンバイフェイズ開始時、墓地の『ブレイズ・インパクト』を除外して、皿に一枚ドロー。まずはマグマレオパルドのモンスター効果。800ポイントのダメージだ」

「くっ……」

 

 聖 LP3200→2400

 

 若干危険な感じになっているような気がするな。聖。

 

「そして、手札から『サイクロン』を発動!『ブリザード・エッグ』を破壊する!」

「手札を一枚コストに『アヌビスの裁き』を発動!やっぱり学習してないみたいね」

「頭が足りないのはお前の方だ。カウンター罠『爆炎の海域』発動!相手の魔法・罠カードの発動を無効にする。本来ならライフコスト1500が必要になるが、爆炎獣オーディナルモンスターが自分フィールドにいる時、コストは不要となる」

「な……」

 

 

 爆炎の海域

 カウンター罠

 このカードを発動するとき、自分フィールドに「爆炎獣」オーディナルモンスターが存在する場合、ライフを支払う必要がなくなる。

 ①:1500ポイントのライフをはらって発動できる。相手が発動した魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する。

 

 

 アヌビスの裁きが無効となったため、サイクロンの効果でブリザード・エッグが破壊される。

 

「バトルだ!マグマレオパルドで、ティラノ・エッジを攻撃!」

「む……」

 

 聖 LP2400→1700

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 

 聖は二枚の手札を見る。

 

「私は、私のSPを全て消費して、魔法カード『序数世界の大洪水』を発動!」

 

 聖 SP2→0

 

「このカードの発動時に消費したSPの数、自分フィールドに、水属性の『洪水トークン』を特殊召喚できる。私は、二体の『洪水トークン』を特殊召喚!」

 

 洪水トークン ATK0 ☆1

 洪水トークン ATK0 ☆1

 

 

 序数世界の大洪水

 通常魔法

 「序数世界の大洪水」はデュエル中に一度しか発動出来ない

 ①:シンボルポイントを全て消費して発動できる。消費したシンボルポイント一つにつき、自分フィールドに「洪水トークン」(水族・水・星1・攻/守0)を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンは、他のカードの効果に寄って水属性以外の属性として扱うことはできない。

 

 

「トークンを出してリリースを……」

「その通り!。私は水属性の洪水トークン二体をシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてすべてを砕け!」

 

 青のシンボルが二つ。

 

「オーディナル召喚!レベル8。『凍結恐竜ブラキオ・バスター』!」

 

 凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK2700 ☆8

 聖 SP0→2

 

「ぶ……ブラキオサウルスか……」

「効果発動!オーディナル召喚成功時、デッキ、または墓地の『ブリザード・エッグ』一枚を発動する!」

「破壊したのにもう戻って来るのか……」

 

 

 凍結恐竜ブラキオ・バスター

 レベル8 ATK2700 DFE2000 水属性 恐竜族

 オーディナル・効果

 水属性×2

 「凍結恐竜ブラキオ・バスター」の②の効果は、一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:このモンスターのオーディナル召喚成功時、デッキ、または墓地の「ブリザード・エッグ」一枚を選択して、発動することが出来る。

 ②:シンボルポイントを二つ消費し、相手の表側表示のモンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを破壊する。その後、このカードが表側表示で存在する限り、破壊したモンスターの列に存在する相手のメインモンスターゾーンは使用できない。

 『SP2』

 

 

「SPを二つ使って、相手モンスター一体を破壊する!そして、破壊したモンスターゾーンの使用を禁ずる!」

 

 聖 SP2→0

 

「何!?」

「ブラキオ・バスターは、相手を粉砕するだけなんてことはしないわよ。そのゾーンごと踏み抜く!」

 

 ブラキオ・バスターがマグマレオパルドを踏みつけると、マグマレオパルドが破壊されると同時に、マグマレオパルドが立っていた真ん中のモンスターゾーンがベキベキになった。

 

「まさか、フィールドごと踏み抜くとは……」

「唖然としている暇はないわよ!バトルフェイズ!まずはブリザード・エッグの効果で攻撃力が上がる!」

 

 凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK2700→3200

 

「そして、ブラキオ・バスターでダイレクトアタック!」

「罠カード『爆炎獣のDNA』を発動!相手モンスターのダイレクトアタックを受ける時、攻撃を無効にして、デッキから『爆炎獣』と名の付いたレベル1モンスターを二体まで、攻撃表示で特殊召喚できる!俺はデッキから『爆炎獣リトルタイガー』を二体、特殊召喚だ!」

 

 爆炎獣リトルタイガー ATK500→600 ☆1

 爆炎獣リトルタイガー ATK500→600 ☆1

 

 

 爆炎獣のDNA

 通常罠

 ①:相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にして、デッキからレベル1の「爆炎獣」モンスター二体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

「む……私はターンエンド」

 

 凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK3200→2700

 

「俺のターン。ドロー!……よし、俺の勝ちだ!」

「え……」

「行くぞ。これが俺のエースモンスターだ。俺は炎属性の爆炎獣リトルタイガー二体をシンボルリリース!熱き道を行く獣たちよ、今その激情を糧として、凍える炎で焼き尽くせ!」

 

 リリースされた赤いシンボルは、青く変わる。

 

「な……」

「オーディナル召喚!レベル8『爆炎獣コキュートスレオン』!」

 

 現れたのは、水色の毛並みの大きなライオン。

 

 爆炎獣コキュートスレオン ATK2500→3300 ☆8

 正也 SP2→4

 

「な……なに?そのモンスター」

「俺のエースモンスター。爆炎獣コキュートスレオンだ。効果発動!SPを一つ使って、相手フィールドの全ての表側表示のカード効果を無効にする!」

「な……」

 

 正也 SP4→3

 

 ブラキオ・バスターとブリザード・エッグが、水色の炎の鎖で封じられる。

 

「そしてさらなる効果!SPを二つ消費して、自分の墓地の『爆炎獣』オーディナルモンスター一体を除外し、ターン終了時まで攻撃力を1000ポイントアップする。マグマレオパルドを除外!」

 

 正也 SP3→1

 

 爆炎獣コキュートスレオン

 レベル8 ATK2500 DFE900 水属性 獣族

 オーディナル・効果

 炎属性×2

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。ターン終了時まで相手フィールドの表側表示のカードの効果はすべて無効になる。

 ③:一ターンに一度、シンボルポイントを二つ消費して発動できる。自分の墓地の「爆炎獣」オーディナルモンスター一体を除外して、ターン終了時まで攻撃力を1000ポイントアップする。

 『SP2』

 

 

 爆炎獣コキュートスレオン ATK3300→4300

 

「そんな……」

「バトルだ!コキュートスレオンで、ブラキオ・バスターを攻撃!」

 

 コキュートスレオンの咆哮で、ブラキオ・バスターは砕け散る。

 ……サイズに違いがありすぎるからだろうか。

 

 聖 LP1700→0

 

「俺の勝ちだ!」

 

 そういって手を突き上げる正也。

 強くなっているな。

 

「これでそのパックは俺の物だ!」

「そうだな。だがその前にまず、金を払え」

 

 立て替えていただけだ。おごるつもりは毛頭ない。

 そうだった。とばかりに財布をとりだして1300円をとりだす正也。

 そのあたりは素直に出すんだな。

 

「またな。誠一郎。今度は俺とデュエルだ!」

「今からでもいいぞ」

「情報アドバンテージを与えたうえでデュエルしても負けるだけだ。次の機会にする」

 

 そういうと正也は歩いていった。

 溜息を吐くと、誠一郎は聖のところに行った。

 珍しく沈んでいる。

 

「はぁ……火野正也かぁ……エリアFって言ってたのに、強かったわね」

「そうだな。だがアイツは……デュエルを楽しんでいる。まあ、その割にルールをしっかり分かっていないようだがな。それは聖も同じだが」

「うぐ……」

「デュエルディスクが処理するからと言って、それに任せっきりにしていたら、いつか足元をすくわれるぞ。ルールを利用した戦術っていうのは、それなりにあるからな」

「……そうね。それをわかっていたら、使うカードももうちょっと考えるかも」

 

 そういうものだ。

 

「それにしても、あのオーディナルモンスター。一体どういうこと?」

「コキュートスレオンのことか?」

「うん。私、見たことが無いもん。リリースするモンスターと、召喚されるオーディナルモンスターの属性が違うなんて……」

「彩里が言っていたが、オーディナル召喚って言うのは、属性を揃えるんじゃなくて、求める召喚方法だ。そういうものがあると思うだけでいいと思うぞ」

「そんなものかな……」

 

 そういうものだ。

 

「まあ、気にすることはないさ」

「……誠一郎なら、負けてなかったよね」

「俺が負けるところを想定できるか?」

「……無理」

「なら、それでいいだろ」

 

 自分が後ろにいることで、安心する人間がいる。

 誠一郎と言うデュエリストは、そうありたいと思う。

 ただ、それだけだ。



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十三話

「フォルテはどこだ」

 

 軽食を済ませてスクリーミング・エリアに来た誠一郎。

 ほぼ銀に近い金髪を探しているのだが、全然見つからない。

 

 というか、このあたり、悲鳴が多くてちょっと怖い。

 

 あ、電話来た。

 

「フォルテからだ」

 

 出てみることにした。

 

「どうしたんだ?フォルテ」

『誠一郎様。今、時間はありますか?』

「あるぞ」

『では、『ギフト・オブ・フィア』というアトラクションで会いましょう』

 

 そういって通話を終了するフォルテ。

 

「『ギフト・オブ・フィア』……日本語訳にすると『恐怖の贈り物』か?一体何をさせる気なんだろうか……」

 

 何か悪いことしたかな。と思いながら誠一郎は向かうことにした。

 

 ★

 

 お化け屋敷の前でフォルテは待っていた。

 

「フォルテ」

「誠一郎様」

 

 こちらに気が付いたようだ。

 

「で……このお化け屋敷がそのアトラクションなのか?」

「はい」

 

 ……えぇ。

 

「一体何をするんだ?このお化け屋敷で」

「入りましょう」

 

 話を聞いてくれなかった。

 『魔界発現世行きデスガイド』のコスプレをした女性スタッフが説明してくれた。

 

 それによると……一応、一対一のシングルデュエルらしい。

 のだが……。

 

「デュエル開始時、デッキから手札を五枚引いた後、お互いに、こちらのカードを発動して下さい」

 

 そういって女性スタッフからカードを渡される。

 

 

 ギフト・オブ・フィア

 フィールド魔法

 このカードはデュエル開始前に発動する。

 このカードはフィールドの離れない。

 ①:ターン終了時、SPを任意の数消費して発動できる。(最大三つまで)

 消費したSPによって、以下の効果を適用する。

 ●1つ:相手はデッキからカードを一枚ドローする。その後、ホラーギミック・レベル1を起動する。

 ●2つ:相手はデッキからカードを一枚ドローする。その後、ホラーギミック・レベル2を発動する。

 ●3つ:相手はデッキからカードを一枚ドローする。その後、ホラーギミック・レベル3を発動する。

 

 

 下手すれば友情が壊れそうなカードである。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ。そちらのカードは記念のプレゼントですので、持って帰って大丈夫です」

 

 ……。

 

「誠一郎様。行きましょう」

「ああ……」

 

 デュエルルームはそれなりにあるようだ。

 一つの部屋に入って、お互いにデュエルディスクを構えて立つ。

 

「なるほど、俺にホラーを見せて精神攻撃をするという作戦だな」

「はい、正攻法では勝てないので、奇策を用いることにしました」

「いいだろう。それでも勝てないということを教えてやる」

 

 カードを五枚引く。

 そして……。

 

「「フィールド魔法、『ギフト・オブ・フィア』を発動!」」

 

 ちょっと空気が重苦しくなった程度だ。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎  LP4000

 フォルテ LP4000

 

「私の先攻。私は自分フィールドにモンスターが存在しないことで、魔法カード『魔光技術・プロトタイプサモン』を発動。デッキからレベル4以下の『魔光騎士』モンスター一体を特殊召喚します。私は『魔光騎士ソニック』を特殊召喚!」

 

 

 魔光技術・プロトタイプサモン

 通常魔法

 ①自分フィールドにモンスターが存在しない場合発動できる。デッキからレベル4以下の「魔光騎士」モンスター一体を選択し特殊召喚する。

 

 

 魔光騎士ソニック ATK1500 ☆4

 

「魔光騎士ソニックの召喚・特殊召喚成功時、デッキから『魔光具』を一枚手札に加えることが出来ます。私は『魔光具・プロテクトマグネット』を手札に加えます」

 

 ほう。安定したスタートだ。

 

「私は光属性の魔光騎士ソニックをシンボルリリース!魔の光を綴る機械の兵士よ。光の意思を手に、我が盾となれ!」

 

 ソニックがシンボルになる。

 

「オーディナル召喚!レベル5『魔光騎士ペンタゴン』!」

 

 五角形の盾を構えたモンスターが出現する。

 

 魔光騎士ペンタゴン ATK2300 ☆5

 フォルテ SP0→1

 

「私はペンタゴンに『魔光具・プロテクトマグネット』を装備させます」

 

 磁石が肩に装着される。

 

「私はカードを一枚セットしてターンエンドです。そして、ギフト・オブ・フィアの効果を、SPを一つ消費して発動!」

「デッキからカードを一枚ドローする」

 

 フォルテ SP1→0

 

 発動を宣言した瞬間、部屋全体が暗くなった。

 まったく見えない。

 

 と思って数秒後、いきなり誠一郎の頭にぬれた何かが落ちてきた。

 

「うおおおっ!」

 

 いきなりのなにかにすごく驚く誠一郎。

 と思ったら、電球がパッとついた。

 

「はぁ、はぁ、一体何が……あ」

 

 誠一郎の右下にはぬれた『雑巾』があった。

 フォルテの方を見ると……笑ってやがる。

 肩を震わせて爆笑するのを我慢している。

 

「ぐぬぬ……俺のターン。ドロー!」

 

 こうなれば仕方がない。こっちだってやり返してやる!

 

「俺は手札一枚をコストにして、『星王兵リンク』を特殊召喚!」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして、魔法カード『星王の転生』を発動。墓地の『星王』モンスターを除外して、同じ攻撃力の星王兵モンスターをデッキから特殊召喚する。俺は墓地に送った『星王兵ディメンション』を除外して、攻撃力1000ポイントの『星王兵ゲイザー』をデッキから特殊召喚!」

 

 

 星王の転生

 通常魔法

 ①:墓地の「星王兵」モンスターを除外して発動できる。デッキから、除外したモンスターと同じ攻撃力の「星王兵」モンスター一体を特殊召喚する。

 

 

 星王兵ゲイザー ATK1000 ☆3

 

「そして、除外されたディメンションの効果発動。一ターンに一度、このカードが除外された場合、デッキから『星王』カード一枚を手札に加える。俺は『星王兵フォース』を手札に加える」

 

 

 星王兵ディメンション

 レベル3 ATK1000 DFE1300 闇属性 戦士族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:このカードが除外された場合に発動できる。デッキから「星王」カード一枚を手札に加える。

 

 

「リンクの効果に寄り、リンクとゲイザーを守備表示にして、デッキから『クリムゾン・ワイズマン』を手札に加える。そして、ゲイザーの効果発動。このカードの表示形式が変更したターン中に一度発動できる。デッキからカードを一枚ドロー!」

 

 

 星王兵ゲイザー

 レベル3 ATK1000 DFE1000 闇属性 戦士族

 ①:このカードの表示形式が変更したターン中に一度発動できる。デッキからカードを一枚ドローする。

 

 

「そして、闇属性のリンクとゲイザーをシンボルリリース!黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

「バトルだ!クリムゾン・ワイズマンで、魔光騎士ペンタゴンを攻撃!『クリムゾン・ビジョン』!」

「『魔光具・プロテクトマグネット』を装備した『魔光騎士』モンスターが攻撃対象になった場合、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にできますが……」

「だが、俺がサーチしたカードの効果を忘れたわけじゃないだろう。手札の『星王兵フォース』を墓地に送り、効果発動。星王兵モンスターをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターが攻撃する攻撃宣言時に発動し、ダメージステップ終了時まで、相手の魔法、罠の効果をすべて無効にする!ペンタゴンに装備された魔光具は破壊されないが、効果を無効にすることは可能だ」

 

 

 魔光具・プロテクトマグネット

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能

 ①:一ターンに一度、このカードを装備したモンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にする。

 

 

 星王兵フォース

 レベル3 ATK900 DFE1200 闇属性 戦士族

 ①:「星王兵」モンスターをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターの攻撃宣言時、手札のこのカードを墓地に送って発動できる。ダメージステップ終了時まで、相手フィールドに存在する魔法、罠の効果はすべて無効になる。

 

 

 魔光騎士ペンタゴン

 レベル5 ATK2300 DFE1500 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:このカードが装備した「魔光具」装備魔法はカードの効果では破壊されない。

 『SP1』

 

 

「む……」

 

 フォルテ LP4000→3800

 

 フォルテは少々、妙だと思った。

 それなりの状況を整えた誠一郎だが、残っている手札は五枚。

 フォルテがドローさせた部分はあるが、それでも、これ以上のカードを使用する様子がない。

 と言うことは……。

 

「……」

 

 速いところ、ターンを終了させたいのだろう。

 だがしかし!

 

「罠発動。『シンボル・ドレイン』!自分フィールドに存在するオーディナルモンスターが戦闘で破壊されたターンのバトルフェイズ中に発動可能です。相手のSPを0にして、その分、私のSPを増やします」

「あ……」

 

 

 シンボル・ドレイン

 通常魔法

 ①:自分フィールドのオーディナルモンスターが戦闘によって破壊されたターンのバトルフェイズ中に発動できる。相手のSPを0にして、変化した数値分、自分のSPを増やす。

 

 

 誠一郎  SP2→0

 フォルテ SP0→2

 

「……」

 

 絶句する誠一郎。

 あと、クリムゾン・ワイズマンまで誠一郎を白い目で見てきた。

 

「……俺はカードを二枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー。まずはSPを一つ消費して、魔法カード『シンボル・ドロー』を発動。デッキからカードを二枚ドローします」

 

 フォルテ SP2→1

 

 フォルテは四枚の手札を見る。

 

「そして、魔法カード『魔光技術・パワーキューブ』を発動。墓地の『魔光騎士』オーディナルモンスター一体を除外して、デッキからレベル2の『魔光騎士』を二体、特殊召喚します。私は墓地のペンタゴンを除外、デッキから『魔光騎士コントロール』と『魔光騎士ターゲット』を特殊召喚」

 

 魔光騎士コントロール ATK700 ☆2

 魔光騎士ターゲット  ATK600 ☆2

 

 

 魔光技術・パワーキューブ

 通常魔法

 ①:自分の墓地の「魔光騎士」オーディナルモンスター一体を除外して、デッキからレベル2の「魔光騎士」モンスター二体を特殊召喚する。

 

 

「魔光騎士コントロールの効果発動。このモンスターが『魔光技術』魔法カードの効果で特殊召喚された場合、デッキから一枚ドロー出来ます。そして、魔光騎士ターゲットの効果発動。コントロールと同じ条件で、デッキから『魔光具』を一枚手札に加えることが出来ます。私は『魔光具・ドラゴエンジン』を手札に加えます」

 

 

 魔光騎士コントロール

 レベル2 ATK700 DFE600 光属性 機械族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:このカードが「魔光技術」魔法カードの効果で特殊召喚された場合に発動できる。デッキからカードを一枚ドローする。

 

 

 魔光騎士ターゲット

 レベル2 ATK600 DFE700 光属性 機械族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:このカードが「魔光技術」魔法カードの効果で特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「魔光具」装備魔法一枚を手札に加える。

 

 

 二体来たか……。

 

「私は光属性のコントロールとターゲットをシンボルリリース!魔の光を綴る機械の兵士よ。光の意思を手に、任務を遂行せよ。オーディナル召喚!レベル7。『魔光騎士アクセプター』!」

 

 魔光騎士アクセプター ATK2600 ☆7

 フォルテ SP1→3

 

「アクセプターの効果に寄り、SPを一つ消費して一枚ドロー」

 

 フォルテ SP3→2

 

「そして、手札の装備魔法、『魔光具・ドラゴエンジン』『魔光具・プラズマカノン』を装備させます」

 

 竜の紋章が付いたバックパックのようなものが背中に装着され、さらに、大きなレールカノンが右肩に装備された。

 

「ドラゴエンジンの効果に寄り、攻撃力が500ポイントアップ。プラズマカノンの効果で、攻撃力は400ポイントアップします」

 

 魔光騎士アクセプター ATK2600→3100→3500

 

「バトル!魔光騎士アクセプターで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃!ドラゴエンジンの効果に寄り、装備モンスターは相手の魔法カードの効果を受けません。プラズマカノンの効果で、戦闘ダメージは倍になります」

 

 

 魔光具・ドラゴエンジン

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能

 ①:装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、相手の魔法カードの効果を受けない。

 

 

 魔光具・プラズマカノン

 装備魔法

 「魔光騎士」モンスターのみ装備可能

 ①:装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップし、戦闘で相手に与えるダメージは倍になる。

 

 

「クリムゾン・ワイズマンの効果が、魔法カードの発動コストを踏み倒す効果だから、罠カードはそこまで投入されていないと思ったわけか。プラズマカノンはサーチしたカードじゃないからほぼおまけで来たというわけだな」

「……その通りです」

「なら甘い。1000ポイントのライフをコストをワイズマンの効果で踏み倒して、速攻魔法『序数賢者の演算』を発動。クリムゾン・ワイズマンを対象にして、このターンの戦闘破壊耐性を付与、さらに、対象モンスターの戦闘によって発生する俺のダメージは0になる」

 

 

 序数賢者の演算

 速攻魔法

 ①:1000ポイントのライフをはらい、自分フィールドのオーディナルモンスター一体を対象にして発動できる。ターン終了時まで対象モンスターは戦闘では破壊されず、そのモンスターの戦闘で発生する自分へのダメージが0になる。

 ②:このカードの①の効果を発動したターン終了時、相手フィールドの表側表示のモンスター一体を選択して破壊する。

 

 

「フォルテはこのカードを知ってるな」

「そうですね」

「ならどうする?」

「私は魔法カード『魔光技術・アポーツコード』を発動して魔光具を回収、そして、『月の書』を発動して、アクセプターを裏側守備表示にします」

 

 アクセプターがセット状態になった。

 

「私はこれで、ターンエンドです」

「『序数賢者の演算』は強制効果だが、対象モンスターがいないから不発だ」

「ですが……SPを二つ消費して、ギフト・オブ・フィアの効果を発動します!」

 

 フォルテ SP2→0

 

「嫌がらせをするつもりだったか?だが、それも無駄だ。永続罠『ミスタイプ・リザルト』を発動。お互いのフィールドに同名カードが表側表示で存在する場合、そのカードの効果は無効になる」

 

 

 ミスタイプ・リザルト

 永続罠

 ①・お互いのフィールドに同名カードが存在する場合、そのカードの効果は無効になる。

 

 

「そ……そんな」

「こんなフィールド魔法一枚で俺に嫌がらせができると思ったのか?確かに特殊だが、カードなら怖くはないぞ……おい、ワイズマン、何だその目は」

 

 ワイズマンが「何言ってんだタコ」とでもいいたそうな目で誠一郎を見ている。

 

「まあいい。俺のターン。ドロー。アクセプターの守備力は1500だったな。俺は『星王兵リンク』を召喚」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして、魔法カード『一騎加勢』を発動。クリムゾン・ワイズマンの攻撃力を1500ポイントアップする」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→4000

 

「バトル。リンクでセットモンスターを攻撃して、ワイズマンでダイレクトアタックだ。残念だが、特殊とはいっても、所詮はこんなもんだ。もっとしっかりカードを選べよ。フォルテ」

「……はい」

 

 フォルテ LP2800→0

 

 ★

 

「ところで、誠一郎様。実際問題、そのカードをどうするのですか?

「彩里にはあまり見せたくはないカードなんだよな……記念にもらったけどどうしたものか……」

 

 実際問題、どうしたものかと思っていた。

 

「……さて、どうするか……ん?」

 

 誠一郎がフォルテを見ると、フォルテは観覧車を見ていた。

 別に特殊なデュエルは関係ない。普通の観覧車である。

 

「乗るか?観覧車」

「……はい」

 

 早速行ってみる。

 デュエルの方に人が行っているのだろう。そこまで人はいなかった。

 

「すごいな。一番高いところで150メートルもあるのか……通りでどこからでも見れるはずだ」

「そうですね……」

 

 向かい合って座って、外を見る。

 

「もうそろそろ暗くなってるからなのか?若干夜景っぽくなってるな」

「遠くの町もきれいですね」

「まあ、遠くの街がきれいなのは、夜勤のサラリーマンが頑張ってる証拠だから、綺麗じゃないって言うと失礼になる気がするけどな」

「……」

 

 フォルテが妙なものを見るような目でこちらを見る。

 で、色々諦めたようだった。

 

「ほんの二年前までは、こんなものが見れるとは思っていませんでしたね」

「だろうなぁ」

 

 フォルテが遊霧家に来た経緯を思いだしながら、誠一郎は同意する。

 

「まあ、それはいいだろ。いろいろ思うことはあるだろうが、何があろうと、俺がいるんだからな」

「そうですね。始めてデュエルをした時から、私は1たりともダメージを与えたことがありません」

「逆に1だけダメージを与えるのってすごく難しいけどな」

「……できるんですか?」

「別に不可能じゃない。そうだな。まどろっこしい計算を除けば、どんどんライフをはらう効果を使っていって、後半は『ライフ半分』をコストにするカードを使っていけば、ライフは必ず1で止まる。あとは、『自分のライフポイントの数値が攻撃力になるモンスター』に『財宝への隠し通路』を使えばいい」

 

 ※現実的(?)な例を挙げると、『SNo.39 希望皇ホープONE』の効果を使って(この時点で相手に効果ダメージあるけどノーカン)、10→5→3→2とハーフコストで払っていき、後は『機皇帝グランエル∞』で……無理がある!

 

「面白い方法ですね。やろうとは思いませんが……」

「メンドイし、自分のライフが風前の灯火だがな」

「モンスターの攻撃力を半分にし続ける方がやりやすいと思いますが……」

「攻撃力半分って次のターンにまで続かないパターンが多いからな。専用デッキ作る必要があるし、作っても成功しないし、出来たとしても上からたたかれるもんな。デュエルディスクのライフゲージの写真を撮り損ねた時のあの絶望感はすごいぞ」

「……実体験なのですか?」

「うん」

 

 誠一郎だってそう言うくだらないことをやっていた時代は当然ある。

 あの時の『3999』を誠一郎は忘れない。

 

「まあそれはいいや……」

「そうですね」

 

 はっきり言ってどうでもいいことも確かである。

 

「それにしても、最近は平和だと思っていたんだが、いきなり『リアリティ・テーゼ』とか訳の分からん連中がポッと出てきたからな……」

「私も驚きました」

「まあ、こういうのは後手に回るしかないからな。回ったうえで迷惑だったら叩くだけだが」

「誠一郎様は、何時もそうではありませんか」

「そうだったかな……そうだな。うん」

 

 大体そうだ。

 最後まで待った方が、相手は一番強い。

 だから、変なところで手だししない。

 誠一郎は何時もそうだ。

 後悔したことはない。

 公開させることができるほどの敵はいなかった。

 リアリティ・テーゼは、どうだろうかね……。

 

 窓の外を見ながら、誠一郎は微笑んだ。

 

「……なあ、なんか変な音していないか?」

「気のせいだと思いますが」

 

 だといいけど。

 観覧車を降りる。

 すると、近くになったタワーっぽいモニュメントにひびが入っているのが見えた。

 そこそこ大きいものだが……。

 

「あ、やばい」

 

 誠一郎がそういった瞬間、タワーの柱が折れてこちらに倒れてきた。

 

「危ない!」

 

 スタッフが叫んだ。

 高さは五メートル以上はあるかなり大きいオブジェクトだ。直撃すればデュエリストでも(?)やばいことになる。

 が。

 

 ズ……。

 

 という音とともに、フォルテが倒れてきた柱を片手で受け止める。

 左腕の盛り上がった筋肉を見て誠一郎は悲鳴を上げそうになったが、さすがにそれはやめた。

 フォルテはちょっとだけ腕を引く。

 そして、さらに力を入れた。

 

「「「「!?」」」」

 

 力を入れられて、倒れてきた柱は垂直に戻される。

 フォルテは両手をぱんぱんとたたいて、誠一郎のほうを見た。

 

「……?どうかしたのですか?」

「まるでさっきの行動が日常茶飯事であるかのように言わないでほしい」

 

 周りでも驚いている。

 何が起こっているのか思考停止しているものもいれば、プラスチック製だと思って無理やり納得した者もいる。

 わかっているのは、ここにいると騒ぎになるということだ。

 

「離れるぞ」

「はい」

 

 特に不思議そうな印象もなくフォルテはついてくる。

 誠一郎は、どこで育て方を間違えたのかと頭を悩ませた。



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十四話

彩里(あのバカ)はどこだ」

 

 逃げるようにモニュメントから離れて、その後、彩里を探しに来た誠一郎だが、さすがに、何処に行ったのかさっぱり予想もつかない彼女を発見するのは骨が折れる。

 とはいっても、ある程度好みは分かっているので予想はできるのだが、それにしたって限度があるのだ。

 

「ん?電光掲示板が……」

 

 何か表示されている。

 

【本日のメイントーナメントの決勝戦のカードが決定しました。対戦カードは『小野寺彩里』選手VS『才馬宗達』選手です!】

 

「行ってみるか……」

 

 場所をマップで調べて、そして行ってみることにした。

 専用のスタジアムみたいなものがあった。

 

「へぇ、この後のリニューアルイベントも、この会場でやるのか」

 

 ずいぶんといろいろ金をかけたような感じだ。

 まあ、誠一郎には関係のない話だが。

 

 入ると、ほとんどの掲示板で二人のデュエルの予告があった。

 観客席に行くと、観客の数が多くてかなりぎゅうぎゅうである。

 優待券を持っていると一応専用席が用意されるみたいなので、それを利用させてもらった。

 ちなみに、この優待券、オークションに出せば五十万からスタートできるくらいすごいらしい。

 五枚も手に入れた彩里はすごいやつなのか罪深いやつなのかよくわからないが、その議論は後にすることにした。

 

「おお、もうそろそろ始まるんだな」

 

 誠一郎がそうつぶやくと、二人が出てきた。

 青と赤のゾーンに分かれており、青には宗達が、赤には彩里が座っている。

 

「それにしても、あれほど戦いたいといっていたが、まさかこんなところで戦うことになるとは思っていなかっただろうな……」

 

 最初に宗達が煽ってから、デュエルはかなりお預けだった。

 ここでどうなるのかが気になる。

 

 ……ちなみに、地獄耳で理不尽な感覚神経を持っている誠一郎は、かなり高いところにある優待観客席からでも二人の会話が聞こえる。

 

「やっと戦えるわね」

「……気にしていたのか」

「当然じゃない。あれほど煽られて何も言わないような人だと思ってたの?」

「それは最初から思っていなかったが……あとはカードで語ることにしよう」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「どうなることやら……まあ、ある程度予想はしているんだがなぁ」

 

 どちらが勝ったとしても、あとで誠一郎が面倒なことになるのは予測できている。

 気にするだけ無駄だ。

 

 ナレーションが簡単に説明した後、二人はカードを五枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

 宗達 LP4000

 彩里 LP4000

 

 先攻は……彩里か。

 

「私の先攻。手札の『クロスロジック・レオパルド』の効果発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる!」

 

 クロスロジック・レオパルド ATK1000 ☆3

 

 

 クロスロジック・レオパルド

 レベル3 ATK1000 DFE1000 光属性 獣族

 ①:自分フィールドにモンスターがいない場合、このモンスターを手札から特殊召喚できる。

 

 

「クロスロジックか……」

「そうよ。さらに、フィールドにクロスロジックモンスターが存在することで、『クロスロジック・クロウ』を特殊召喚!」

 

 

 クロスロジック・クロウ ATK800 ☆3

 

 

 クロスロジック・クロウ

 レベル3 ATK800 DFE800 闇属性 鳥獣族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドに「クロスロジック」モンスターが存在する場合に発動できる。手札のこのカードを特殊召喚する。

 

 

「そろった。というわけか」

「その通り!私は光属性のレオパルドと、闇属性のクロウをシンボルリリース!二つの理論が混じりあい、封印されし獣は姿を現す。オーディナル召喚!レベル7『クロスロジック・デュオウルフ』!」

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK2700 ☆7

 彩里 SP0→2

 

 属性が違うモンスターでオーディナル召喚というのは、実際問題、あまり見られないものだ。

 というより、属性を統一するカテゴリが多く存在することも確かなので、こういったモンスターは使われないことのほうが多い。

 観客の中にも、それを喜ぶ者たちはいる。

 

「デュオウルフの効果発動、SPを一つ消費して、デッキからレベル4以下のクロスロジックモンスター一体を手札に加えることができる。私は『クロスロジック・イーグル』を手札に加える」

 

 

 クロスロジック・デュオウルフ

 レベル7 ATK2700 DFE1000 光属性 獣族

 オーディナル・効果

 光属性+闇属性

 ①:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。デッキからレベル4以下の「クロスロジック」モンスター一体を手札に加える。

 ②:フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、 代わりに自分の手札から存在する「クロスロジック」モンスターカード1枚を墓地に送ることができる。

 『SP2』

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド!」

「僕のターンだ。ドロー!」

 

 宗達は手札のカードを見るが、表情は特に変わらない。

 

「僕は魔法カード『リグレット・コール』を発動。デッキから『リグレット』モンスター一体を手札に加えることができる。僕は『リグレット・バロン』を手札に加える。そして、『リグレット・バロン』がデッキから手札に加わった場合、フィールドに特殊召喚できる」

 

 リグレット・バロン ATK2100 ☆5

 

 

 リグレット・バロン

 レベル5 ATK2000 DFE1500 闇属性 戦士族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:このカードがドローフェイズ以外でデッキから手札に加わった場合、特殊召喚することができる。

 ②:このカードが①の効果で特殊召喚された場合、相手モンスター全てにリグレットカウンターを一つ置くことができる。

 

 

「そして、バロンが自身の効果で特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター全てにリグレットカウンターを一つ置くことができる」

 

 クロスロジック・デュオウルフ RC0→1

 

「さっそくカウンターが……」

「そして、リグレット・バロンをリリースして、『リグレット・ヴィスカウント』をアドバンス召喚」

 

 リグレット・ヴィスカウント ATK2500 ☆7

 

「れ、レベル7のモンスターをリリース一体で……」

「ヴィスカウントは、このカードよりもレベルの低いリグレットモンスターをリリースする場合、リリース一体でアドバンス召喚できる」

 

 珍しいな。

 召喚権を使うオーディナル召喚のために、素材モンスターを特殊召喚することでフィールドにそろえるギミックを多くのデュエリストは持っている。

 なので、アドバンス召喚を補助するカードをいうのはあまり採用されないのだ。

 まあ、逆にいうと、全く使われないわけではないのだが。

 

「そして、ヴィスカウントの効果、一ターンに一度、相手フィールドに存在するリグレットカウンターがのったモンスター一体を対象にして発動。そのモンスターの攻撃力を半分にする」

 

 

 リグレット・ヴィスカウント

 レベル7 ATK2500 DFE1100 闇属性 戦士族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:このカードは、このカードよりもレベルの低い「リグレット」モンスター一体をリリースして召喚することが出来る。

 ②:一ターンに一度、リグレットカウンターが乗った相手モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力をターン終了時まで半分にする。

 

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK2700→1350

 

「な……」

「バトルだ。リグレット・ヴィスカウントで、クロスロジック・デュオウルフを攻撃!」

 

 ヴィスカウントがデュオウルフに斬りかかる。

 だが、棒立ちする彩里ではない。

 

「罠カード『オーディナル・バレット』を発動!自分フィールドのオーディナルモンスター一体を守備表示にすることで、相手に800のダメージを与える!」

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK1350→DFE1000

 

「ふむ……」

 

 

 オーディナル・バレット

 通常罠

 ①:自分フィールドのオーディナルモンスター一体を守備表示にして発動できる。相手に800ポイントのダメージを与える。

 

 

 宗達 LP4000→3200

 

「だが、攻撃は続行だ」

「クロスロジック・デュオウルフが破壊されるとき、そのかわりに手札の『クロスロジック』モンスターを墓地に送ることが出来る!」

 

 彩里は『クロスロジック・イーグル』を墓地に送る。

 デュオウルフは耐えきった。

 

「ふむ、僕はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK1350→2700

 

「私のターン。ドロー!」

 

 彩里はドローしたカードを見てにやりと笑う。

 

「『クロスロジック・イーグル』は、一ターンに一度、自分フィールドにクロスロジックモンスターがいる時、特殊召喚できる」

 

 クロスロジック・イーグル ATK1000 ☆4

 

「そして、デュオウルフの効果発動。SPを一つ使って、デッキからレベル4以下の『クロスロジック』モンスターを手札に加える。私は『クロスロジック・カウ』を手札に加える」

 

 彩里 SP1→0

 

「そして、自分フィールドに、闇属性の『クロスロジック』モンスターが存在することで、手札の『クロスロジック・カウ』を特殊召喚!」

 

 クロスロジック・カウ ATK1300 ☆4

 

 

 クロスロジック・カウ

 レベル4 ATK1300 DFE1800 光属性 獣族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに闇属性の「クロスロジック」モンスターが存在する場合、このモンスターを手札から特殊召喚できる。

 

 

「そして、光属性のクロスロジック・カウと、闇属性のクロスロジック・イーグルをシンボルリリース!二つの理論が交わるとき、封印されし翼は羽音を鳴らす。オーディナル召喚!レベル7『クロスロジック・カオスキメラ』!」

 

 クロスロジック・カオスキメラ ATK2400 ☆7

 彩里 SP0→2

 

「二体目のオーディナルモンスターか……」

「そうよ、効果発動!自分フィールドのクロスロジックモンスターは、SP一つにつき、攻撃力が200ポイントアップする!」

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK2700→3100

 クロスロジック・カオスキメラ ATK2400→2800

 

 

 クロスロジック・カオスキメラ

 レベル7 ATK2400 DFE1500 闇属性 鳥獣族

 オーディナル・効果

 光属性+闇属性

 ①:自分フィールドに表側表示で存在する「クロスロジック」モンスターは全て、攻撃力が400ポイントアップする。

 『SP2』

 

 

「バトル!クロスロジック・デュオウルフで、ヴィスカウントを攻撃!」

「いや、バトルフェイズ開始時に、手札の『リグレット・バトラー』を墓地に送り、効果を発動。相手フィールドに存在する、リグレットカウンターがおかれているモンスターのカウンターの数を一つ増やす」

 

 クロスロジック・デュオウルフ RC1→2

 

 

 リグレット・バトラー

 レベル3 ATK100 DFE100 闇属性 悪魔族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:このカードを墓地に送って発動する。相手フィールドに存在するリグレットカウンターを持つすべてのモンスターにおかれているリグレットカウンターの数を一つ増やす。

 

 

「関係ないわ。攻撃続行!」

「実は関係がある。罠カード『リグレット・バリア・フォース』を発動。リグレットカウンターが2つ以上ある相手モンスターが攻撃してきたとき、その攻撃を無効にして、500ポイントのダメージ、そしてバトルフェイズを終了させる」

「む……」

 

 彩里 LP4000→3500

 

 リグレット・バリア・フォース

 通常罠

 ①:リグレットカウンターが二つ以上置かれている相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にして、相手に500ポイントのダメージを与えて、バトルフェイズを終了する。

 

 

「……カードを一枚セットして、ターンエンド」

「僕のターンだ。ドロー」

 

 宗達はドローしたカードを見て、呟く。

 三枚の手札でいろいろ考えているようだ。

 

「ふむ……」

「何か考え事でも?」

「そうだな……君のことを過剰評価していたようだ」

「なっ……」

 

 宗達は案にこういっているのだ。

 『想定していたよりもたいしたことはない』と。

 

「どういうこと?」

「君本人が持っている才能、そして、誠一郎が傍にいるという条件を考慮して考えると、たいしたことはないように思う。確かに悪くはない。だが、思ったほどのものではない」

「例えるならどういうことよ」

 

 例えてみろと言われて、宗達は少し考えた後、言う。

 

「ポーカーでいうと、2と3のツーペアのような感じだな。ツーペアという点においては悪くはないが、2や3では、相手がツーペア以上の役を出してきたときに対抗できなくなる可能性がある」

「……」

「強者を相手にする時に何か癖のようなものがあるように見える。『倒そう』と言うより、『少しでもダメージを与えよう』という戦術になっている感じがしなくもない。誠一郎を見ていればそうなるかもしれないが、それにしても……いいものではないな」

「……!」

「しゃべるのは終わりだ。ヴィスカウントの効果に寄り、デュオウルフの攻撃力を半分にする」

「そう簡単に何度もうまくいくとは思わないでほしいわね。罠発動『リファインド・パフ』!クロスロジックモンスターを対象とする効果を無効にして、カードを一枚ドローする」

 

 

 リファインド・パフ

 通常罠

 ①:自分フィールドの「クロスロジック」モンスターが、相手のカード効果の対象になった時、発動できる。その効果を無効にして、デッキからカードを一枚ドローする。

 

 

「これで、攻撃力は半分にならない」

「想定内だ。君のフィールドにリグレットカウンターがあるモンスターを存在することで、手札の『リグレット・バロネット』を特殊召喚」

 

 リグレット・バロネット ATK1700 ☆4

 

「そして、闇属性のヴィスカウントとバロネットをシンボルリリース。後悔に呑まれる黒竜よ。今その姿を現し、罪の渦巻く世界で猛威を振るえ!オーディナル召喚!レベル8『有罪眼の後悔竜(ギルディアイズ・リグレット・ドラゴン)』!」

 

 有罪眼の後悔竜 ATK3000 ☆8

 宗達 SP0→2

 

「宗達のエースモンスター……」

「そうだ。効果発動。相手フィールドのモンスター全てに、リグレットカウンターを一つずつ置く。『リグレットフォース』!」

 

 クロスロジック・デュオウルフ RC2→3

 クロスロジック・カオスキメラ RC0→1

 

「そして、魔法カード『リグレット・ドロー』を発動。相手フィールドに存在するリグレットカウンター二つにつき一枚。カードをドローする。君のフィールドにあるカウンターは四つ。カードを二枚ドロー」

 

 

 リグレット・ドロー

 通常魔法

 ①:相手フィールドにリグレットカウンターが二つ以上存在する場合のみ発動できる。相手フィールドに存在するリグレットカウンター二つにつき一枚。カードをドローする。

 

 

「そして魔法カード『リグレット・タックス』を発動。相手フィールドのリグレットカウンターを持つモンスターは全て、持っているカウンター一つにつき、攻撃力が300ポイントダウンする!」

 

 

 クロスロジック・デュオウルフ ATK2700→2100

 クロスロジック・カオスキメラ ATK2400→2100

 

 

 リグレット・タックス

 通常魔法

 ①:このカードの発動時に相手フィールドに存在するリグレットカウンターを持つモンスターは全て、ターン終了時までそのカードにおかれているリグレットカウンター一つにつき、攻撃力を300ポイントダウンする。

 

 

「そんな……」

「僕のモンスターの特性をしっかりと理解していないようだが、僕と戦うときに、リグレットカウンターを持つモンスターをフィールドに残すべきではないぞ」

 

 それと同時に、黒竜が咆える。

 

「有罪眼の後悔竜は、リグレットカウンターを持つすべてのモンスターに一度ずつ攻撃できる。バトルだ!『有罪眼の後悔竜』で、デュオウルフとカオスキメラを攻撃。『壊滅のリグレット・ストリーム』!」

 

 ドラゴンの攻撃は、二体の猛獣を焼き尽くす。

 

「きゃあああああああ!」

 

 彩里 LP3500→1600→0

 

 勝者、才馬宗達。

 

『決まりました!優勝者は、才馬宗達選手です!景品として、才馬宗達選手には、スペシャルパックBOXが送られ――』

 

 誠一郎は、それ以上のナレーションの言葉を聞いていなかった。

 

 ★

 

 廊下を歩いていると、宗達が反対側から歩いてきた。

 

「誠一郎」

「宗達。久しぶりだな。さっきのデュエルは見ていたぞ」

「そうか……で、何か?」

「俺からは特に何もないけどな」

「ふむ」

 

 彩里のことで何科を誠一郎が言うと思ったようだが、別に気にしてはいない。

 何かを彩里が言ってくるのなら誠一郎はそれ相応に答えるが、あれはあれでプライドが高いので、何かを言ってくることはないだろう。

 

 それに、それ以上に重要なこともある。

 誠一郎が気になっているのは、『宗達がここにいる』と言うことそのものだ。

 

「一応聞いておくが、お前がここにいるってことは、『リアリティ・テーゼ』が動いているってことか?」

「何かにかかわっているのは確かだ、火野家が運営する大きな事業には火野和春がかかわっていることが多いんだが、この遊園地のリニューアルオープンは、本来はもう少し先だったらしい。それを前倒しにする明確な理由は、僕が調べた限りではなかった」

「何か事情があるってことか」

「聡子姉さんから聞いて言うと思うけど、僕は基本的に現地に入って調べるタイプだ。その一環で適当にアトラクションに入ったら……」

「あんな舞台でデュエルすることになったと」

「そんな感じ」

 

 しっかりするところはしっかりしているが、たまにボケが入るな。コイツ。

 人のこと言え無いか。

 

「宗達はどうなると思う?今日だけで言うと」

「そもそも、このような場所で本人が動くことはない。何かと、まず『実験』をしたがる連中だからな」

「覚えておこう」

 

 誠一郎は歩き始める。

 誠一郎の背に向かって、宗達は言う。

 

「いざという時は、君に任せていいのか?」

「ああ、そうすればいい」

 

 それ以上は、お互いに何も言わなかった。



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十五話

「はぁ……」

「どうしたんだ?彩里」

「……なんでもない」

 

 リニューアルイベントが行われる少し前。

 十八時に集合した。

 彩里もしっかり戻ってきている。いつもは遅れるけど。

 で、その彩里は沈んでいた。

 

「ま、何かあったんでしょ。自信家の彩里がここまでへこんでるんだし」

「彩里様は少しでも何か思った通りに行かないとすぐに拗ねますからね」

「……彩里さん。元気出して」

 

 よくわからぬ空気が流れている気がした。

 とはいっても、誠一郎は何かを聞かれない限りは答えないようにしている。

 それは昔からだ。

 第一、彩里は思ったことは全部言うタイプの人間なのだ。

 宗達に負けた程度でここまでへこむとは思っていなかったのである。

 

「ちょっと負けただけよ」

「!」

 

 彩里の言葉にもっとも反応したのはフォルテだ。

 聖は『ふーん』と興味のなさそうな顔をして、刹那は得に表情を変えた様子はない。

 おそらく、フォルテとしても、彩里が負ける様子は想像できないのだ。

 誠一郎、彩里、フォルテ、聖、刹那を強さの順番で並べると……

 

 誠一郎>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>彩里>>>>>フォルテ>>刹那≧聖

 

 と言った感じである。

 え、何、俺がインフレしすぎだって?知らんな。

 それはそれとして、彩里はフォルテと比べてもかなり強いのだ。

 その彩里が負けた。

 それは、フォルテにとっては大きいことなのである。

 

「まあいいわ。次は私が勝つ」

「彩里様はそれくらいがちょうどいいと思います」

 

 フォルテは呆れたように言う。

 実際問題。今まで彩里を倒せるデュエリストは誠一郎しかいなかったのだ。

 それは要するに、一位にはなれないが、それでも、三位以下になることもないという妙なものだが。

 いずれにせよ、目標と言うのは多い方がいい。

 彩里は、目標が少ないうえに、自らを目標とする人間に答えることはない。

 それくらいがちょうどいいのである。

 

「そう言えば、もうそろそろリニューアルイベントがあるけど、行かなくて席って取れるの?」

「優待券があるから席が取れないということはない」

「……これってどれくらいの値段なの?」

「知らん」

 

 少なくとも、一日限りの優待券に支払うにしてはおかしい金額になると思うが、それ以上のことは知らないし、別に知ろうとも思わない。

 とりあえず分かっているのは、今、この優待券を使うことが出来るということだ。

 それで十分である。

 

「そろそろ行くか」

 

 ★

 

 先ほど彩里が戦った場所。

 ……とは別に、もうひとつステージがある。

 中央にあるステージではデュエルが行われるが、壁際にある側面ステージでは、こうした歌手などのイベントが行われるのだ。

 

「……すごい人の数」

御堂天音(みどうあまね)のスペシャルライブだもん。そりゃ人も来るわよ」

「そうですね。チケットをオークションに出せば、それだけで数十万の値段がついた記録もあるほどです」

「チケットの転売って規制されるだろ」

「出した瞬間に止まらなくなるのよ。いろんな意味でね」

 

 あふれんばかりの人の数。

 それがもっとも適しているだろう。

 はっきり言って壁際のステージが遠いのだが、それを言うのは野暮と言うものだろうか。

 

「これほど人が集まるのか……」

「アンタ。本当に御堂天音のこと全然知らないのね」

「まあ、誠一郎様にとっては、トップアイドルであっても『ただの女』ですから」

「お兄ちゃんは『かわいいだけの女の人』って見慣れてる」

「そうね。誠一郎はたまにラスベガスでデュエルしたりするけど、どれほど美女が来ても無表情だから」

「……」

 

 聖が絶句する。

 誠一郎も、『お前ら、俺のことをそういうふうに見てたの?』と言いたそうな目で見た。

 もちろん、当の三人は知らんふりである。

 

「まあ、楽しみにできるっていうのは良いことだがな」

 

 誠一郎は結局、そうつぶやいた。

 

「あ。もうそろそろ始まるわよ」

 

 彩里が言うと、天井の電気が消えた。

 それと同時に、あたりが一気に静まり返る。

 

 そして……。

 

『『『ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』

 

 圧倒的なエネルギーを持つ歓声とともに、ステージにスポットライトが当たる。

 

 そこにいたのは、黒いステージ衣装を着た、薄紫色の髪を持つ美少女。

 

 物静かな雰囲気だが、誠一郎には見える『内に秘めた感情』がある。

 

 暗い印象を持つ色が多いが、それでも、彼女本人が持つ魅力はあふれていた。

 

 暗くなった空も、彼女を照らすスポットライトも、彼女の登場によって沸き起こる歓声も、魅力を引き立てる二は十分だった。

 

「~♪」

 

 そして、歌姫は綴る。連ねる。

 

 手に持ったマイクで、内に秘めた感情を届ける。

 

 やや静かで、暗い印象があるものの、それでも、清楚な雰囲気にあっており、彼女の魅力はさらにその輝きを増した。

 

 太陽のような明るさはない。

 

 氷のような冷たさもない。

 

 熱い魂が宿る、水面下の激情の歌。

 

 

 

 

 ――だからこそ、というのだろうか。

 しかし、と続けるべきなのか。

 

「――――♪」

 

『『『ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』

 

 歌が終わって、その熱狂の渦が巻き起こる中。

 自分の隣にいる少女たちが、その魅力に心をわしづかみにされている中。

 

 彼女本人の心ではないその言葉の羅列は、誠一郎の心には、届くものがなかった。

 

 ★

 

 歌姫の一つの歌が終わるたびに、熱狂の渦が途絶えることはない。

 

「……ありがとうございます。それでは、次の曲……に続ける前に、スペシャルサプライズです!」

 

 その言葉に、会場が静まり返る。

 

 サプライズの言葉通り、予定にはなかったものだ。

 

 彼女の言葉を聞こうと、会場のすべてが静まり返る。

 

「皆さんの中から一人、今、ここで、私とデュエルをしたいと思います!」

 

 その言葉に。

 再度、会場は熱狂に包まれる。

 

「すごいわね。御堂天音と言えば、デュエリストとしてもかなりの腕前なのよ」

「面白いですね」

「こんな近くで見られるなんて」

「……♪」

 

 全員が嬉しそうにしている。

 

「それでは、ランダムで選ばれます。スポットライトの先に、ご注目!」

 

 天音が指を鳴らす。

 スポットライトが光って……。

 

「……誠一郎」

 

 彩里がぽつりとつぶやく。

 スポットライトは確かに、誠一郎。

 いや、誠一郎が持つデュエルディスクに照準を合わせていた。

 

「面倒なことになったもんだ」

 

 誠一郎は溜息を吐きそうになったが、こらえる。

 スポットライトが当てられている誠一郎を、多くの観客が見ているのだ。

 ここで下手なことはできない。

 

「それでは、代表のデュエリストに拍手!」

 

 天音の言葉で、拍手が巻き起こる。

 まあ、中には自分がやりたかったと思うものもいるだろうが、それは置いておこう。

 

 スポットライトに照らされた道を、誠一郎は歩いていく。

 

 当然、視線の数はすごい。

 

 が、この程度で緊張するほど、誠一郎はやわではない。

 

 だが、ここで特殊な視線を感じる。

 ちょっとだけ視線を向ける。

 聡子が見える。いつも通りの着物姿だ。

 

(あ、笑ってやがる。一枚かんでるな。アイツ)

 

 何をさせたいのかは知らんが、やりたいようにやれということだろう。

 仕方がない。

 やりたいようにやるか。

 

 ステージに上がって、天音の近くに行く。

 若干驚いたような顔を一瞬だけしていたが、すぐに表情を戻した。

 

「だいじょうぶ?」

「……ああ」

 

 一応と言うことで聞いてきたようだ。

 

「さて、それでは、改めてお名前を聞かせてください」

「遊霧誠一郎だ」

 

 ここで宗達の名前でも使っておこうか。とか一瞬考えたが、八つ当たりにしては遠回りなのでやめておくことにした。

 

「はい。それでは、楽しいデュエルをしましょう」

 

 すると、ステージの中央から一つのデュエルディスクが出て来る。

 天音はそれを手に取って、左腕に付けた。

 

「始めましょうか。誠一郎君」

「そうだな」

 

 お互いにデュエルディスクを起動して、そして、シャッフルされたデッキから五枚のカードをドローする。

 誠一郎は、天音の左耳を見る。

 そこに付けられているイヤホンだが、今はあえて気にしないことにした。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP4000

 天音  LP4000

 

「先攻はあなたからだよ」

「そうか」

 

 まあ、そう言うのなら問題はない。

 

「ちょっとだけ派手に行くか。俺は『増援』を発動して、デッキから『星王兵リンク』を手札に加える。そして、手札一枚をコストにして、『星王兵リンク』を特殊召喚」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして。墓地の『星王兵クラッカー』の効果発動。デュエル中に一度、デッキトップを一枚墓地に送ることで、墓地のこのモンスターを特殊召喚!」

 

 星王兵クラッカー ATK500 ☆2

 

 

 星王兵クラッカー

 レベル2 ATK500 DFE300 闇属性 戦士族

 このカード名の効果はデュエル中に一度しか使用できない。

 ①:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「そして、星王兵リンクの効果発動。このカードと、もう一体の星王兵モンスターを守備表示にすることで、デッキからレベル8以下のオーディナルモンスター一体を手札に加える。俺は『双星王ケイオステラ』を手札に加える」

 

 星王兵リンク   ATK1700→DFE1000

 星王兵クラッカー ATK 500→DFE 300

 

 さて、そろそろやるか。

 

「そして、闇属性のクラッカーをシンボルリリース!今、星々の輝きを得て、混沌に染まり、顕現せよ。オーディナル召喚、レベル6『双星王ケイオステラ』!」

 

 双星王ケイオステラ ATK2400 ☆6

 誠一郎 SP0→1

 

「オーディナル召喚……」

「まだだ。墓地の『ADチェンジャー』を除外して、リンクの表示形式を変更」

 

 星王兵リンク DFE1000→ATK1700

 

「まさか……」

「リンクは『王』には手出しできない。永続魔法『双星王の勅命』を発動。一ターンに一度、フィールドに『双星王』オーディナルモンスターが存在する場合、デッキからレベル3以下の『星王兵』モンスター一体を特殊召喚できる。俺はデッキから『星王兵ゲイザー』を特殊召喚」

 

 

 双星王の勅命

 永続魔法

 このカード名の①の効果は、このカードを発動したターン中のみ発動でき、「双星王の勅命」はフィールドに一枚しか存在できない。

 ①:一ターンに一度、自分フィールドに表側表示の「双星王」オーディナルモンスターが存在する場合のみ発動できる。デッキからレベル3以下の「星王兵」モンスター一体を特殊召喚する。

 ②:自分フィールドの「双星王」オーディナルモンスターが存在する場合、自分は通常召喚に加えて1度だけモンスター1体をオーディナル召喚できる。

 

 

 星王兵ゲイザー ATK1000 ☆3

 

「そして、リンクの効果をもう一度発動、リンクとゲイザーを守備表示にして、デッキから『双星王イビルステラ』を手札に加える」

 

 星王兵リンク  ATK1700→DFE1000

 星王兵ゲイザー ATK1000→DFE1000

 

「ゲイザーの表示形式が変更したターン。俺はカードを一枚ドロー出来る。そして、双星王の勅命の効果に寄り、俺の場に双星王が存在する場合、もう一度オーディナル召喚ができる」

「な……」

「俺は闇属性のゲイザーをシンボルリリース!今、星々の輝きを得て、邪悪に染まり、生誕せよ。オーディナル召喚、レベル6『双星王イビルステラ』!」

 

 双星王イビルステラ ATK2400 ☆6

 誠一郎 SP1→2

 

「一ターンに、オーディナル召喚を二回」

「パフォーマンスとしては十分だろ。魔法カード『星王の宝札』を発動。自分フィールド、または手札の『星王』モンスター一体を墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローする。俺はリンクを墓地に送り、二枚ドロー」

 

 

 星王の宝札

 通常魔法

 ①:自分の手札、またはフィールドの「星王」モンスター一体を墓地に送って発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

 攻撃力2400のオーディナルモンスターが二体。

 そして、セットカードが一枚。

 まだ手札は三枚残っている。

 

「なるほど。私のターン。ドロー!」

 

 天音は勢いよくドローした。

 

「ケイオステラの効果、相手ターンのスタンバイフェイズ。俺はSPを一つ増やす」

 

 誠一郎 SP2→3

 

「放っておいたらやばいってことか……」

 

 誠一郎は、一瞬だけ、天音の動きが止まった気がした。

 が、天音はすぐに動く。

 そこに至る表情の変化の仕方は、誠一郎は見覚えがあるものだった。

 

「私は手札から魔法カード『ラスター・ゲート』を発動。手札からレベル3以下の『フェイクラスター』モンスター二体を特殊召喚することができる。私は手札から『フェイクラスター・ルビー』と『フェイクラスター・アクアマリン』を特殊召喚!」

 

 

 ラスター・ゲート

 通常魔法

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:手札のレベル3以下の「フェイクラスター」モンスター二体を選択して特殊召喚する。

 

 

 フェイクラスター・ルビー    ATK1400 ☆3

 フェイクラスター・アクアマリン ATK1400 ☆3

 

 出現したのは、宝石の名を冠する二体のドラゴン。

 

「ルビーの効果発動。このモンスターの特殊召喚に成功した時、デッキからカードを一枚ドロー!」

 

 

 フェイクラスター・ルビー

 レベル3 ATK1400 DFE300 光属性 ドラゴン族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。

 

 

 特殊召喚しただけでドローか。『聖鳥クレイン』と違って、リクルーターに対応する攻撃力と言うのも評価にはなる。

 

「そして、アクアマリンの効果、一ターンに一度、フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで半分にする!『アクア・インパクト』!」

 

 双星王ケイオステラ       ATK2400→1200

 双星王イビルステラ       ATK2400→1200

 フェイクラスター・ルビー    ATK1400→ 700

 フェイクラスター・アクアマリン ATK1400→ 700

 

 

 フェイクラスター・アクアマリン

 レベル3 ATK1400 DFE300 光属性 ドラゴン族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:メインフェイズ1に発動できる。フィールドに表側表示で存在するモンスター全ての攻撃力を、ターン終了時まで半分にする。

 

 

「そう来たか……」

「そして私は、光属性のルビーとアクアマリンをシンボルリリース!」

 

 二つの宝石の名を持つドラゴンがシンボルに変わる。

 

「双玉の竜。魂の咆哮を綴り、その力、我が手に宿れ。オーディナル召喚!レベル7『フェイクラスター・アメジスト』!」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2500 ☆7

 天音 SP0→2

 

「アメジストは、相手モンスター全てに一度ずつ攻撃できる」

 

 

 フェイクラスター・アメジスト

 レベル7 ATK2500 DFE1500 光属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:このカードは相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 ②:このモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、バトルフェイズ終了時、破壊したモンスター一体につき一枚。カードをドローする。

 ③:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドの他のモンスターは攻撃できない。

 『SP2』

 

 

「アメジストは、このカード以外の攻撃を封じる代わりに、相手モンスター全てに攻撃できる!バトル!アメジストで、ケイオステラとイビルステラを攻撃!」

「発動SPを一つ消費して、ケイオステラの効果発動。このターン。俺のフィールドの『双星王』モンスターは、戦闘では破壊されない」

「でも、ダメージは受けてもらうわ」

 

 

 双星王ケイオステラ

 レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 闇属性×1

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費して発動できる。このターン。自分フィールドの「双星王」モンスターは戦闘では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:「双星王イビルステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、相手スタンバイフェイズに発動する。自分のSPを一つ増やす。

 『SP1』

 

 

 誠一郎 SP3→2

 誠一郎 LP4000→2700→1400

 

 一気に減らされていくライフ。

 そして、その光景に最も驚愕したのは、彩里たちだ。

 

「……誠一郎。さっきの攻撃、防御出来なかったのかしら」

「いえ、それはないと思います」

「お兄ちゃんのフィールドにいるイビルステラが存在する時、手札一枚を捨てて、ダメージが発生するたびにそれを無効にできる」

 

 

 双星王イビルステラ

 レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 闇属性×1

 ①:自分が戦闘、及び効果でダメージを受ける場合、手札を一枚墓地に送ることでそのダメージを無効にすることが出来る。

 ②:「双星王ケイオステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、自分スタンバイフェイズに発動する。デッキからカードを一枚ドローする。

 『SP1』

 

 

「この前見せた双星王とは違って防御的な効果ね……でも、それなら……」

「手札が三枚ある誠一郎は、ダメージを受けることはなかった。何を考えているのかしら……」

 

 何が起こっているのかわからない。

 ただ、不気味だ。

 とはいえ、彩里たちに何かができるわけではない。

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド」

「アクアマリンの効果が終了。俺のモンスターの攻撃力はもと通りになる」

 

 双星王ケイオステラ ATK1200→2400

 双星王イビルステラ ATK1200→2400

 

「そして、俺のターン。ドロー!スタンバイフェイズ。イビルステラの効果に寄り、ケイオステラが存在することで一枚ドローする」

 

 ドローしたカードを見て、することは決まった。

 

「俺は魔法カード『魔導契約の扉』を発動。俺は手札のこの魔法カードを君に渡す」

 

 一枚のカードを渡した。

 それを見た天音は表情を一瞬だけ変えたが、すぐに戻した。

 

「そして、デッキからレベル7か8の闇属性モンスター……レベル8の『星王兵ジェネシスグラム』を手札に加える」

 

 さてと……。

 

「俺は二体の双星王をリリース。手札の『星王兵ジェネシスグラム』をアドバンス召喚!」

 

 二体の王が姿を消すと、将軍のようなモンスターが出現する。

 

 星王兵ジェネシスグラム ATK2800 ☆8

 

「アドバンス召喚……」

「ジェネシスグラムの効果発動。SPを一つ消費して、相手フィールドの魔法、罠一枚を破壊出来る」

 

 

 星王兵ジェネシスグラム

 レベル8 ATK2800 DFE1400 闇属性 戦士族

 ①:一ターンに一度、墓地の星王兵モンスター一体を守備表示で特殊召喚することが出来る。

 ②:一ターンに一度、SPを一つ消費して、相手フィールドの魔法、罠一枚を対象にして発動できる。そのカードを破壊する。

 

 

 誠一郎 SP2→1

 

 破壊したのは『次元幽閉』だった。

 

「普通の効果モンスターが、SPを使うなんて……」

「勘違いしているようだが、SPを持つのはデュエリストの方だ。オーディナルモンスターは、極論、その供給源にすぎん。バトルだ!ジェネシスグラムで、フェイクラスター・アメジストを攻撃!」

 

 天音 LP4000→3700

 

「俺はカードを一枚セット、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 

 これで天音の手札は四枚。

 そして、そのうち一枚は、誠一郎のカードだ。

 

 天音の視線。

 それは、誠一郎が渡したカードに注がれている。

 何か、迷っているような感じだ。

 

「『ハーピィの羽根帚』を発動。あなたの魔法、罠を全て破壊する」

「……」

 

 誠一郎は何もしない。

 

「『死者蘇生』を発動。墓地のアメジストを特殊召喚!」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2500 ☆7

 

 蘇生したか。

 まあ、それはいい。

 さて、どう来るかな。

 残っているのは、誠一郎が渡した手札と、もう一枚のカードのみ。

 

「わ……私は、『手札抹殺』を発動。手札をすべて捨てて、その枚数分、カードをドローする!」

 

 誠一郎は、ニヤッと自分が笑ったのを自覚した。

 誠一郎も、手札をすべて捨てて、その枚数分ドローする。

 天音も一枚捨てて一枚ドロー。

 安堵したような表情になる。

 

「SPを一つ消費して、『ゼロ・クライシス』を発動。ジェネシスグラムの攻撃力を0にする!」

 

 天音 SP2→1

 星王兵ジェネシスグラム ATK2800→0

 

「バトル!フェイクラスター・アメジストで、ジェネシスグラムを攻撃!」

 

 アメジストがブレスを放出して、ジェネシスグラムを粉砕する。

 

 誠一郎 LP1400→0

 

 勝者、御堂天音。

 

 次の瞬間、会場が拍手と熱狂に包まれる。

 まあ、中には盛り上げるためのサクラもいるだろうが、それはいいとして、誠一郎は楽しい気分だった。

 天音がこっちに歩いて来る。

 そして、誠一郎が渡したカードをこちらに渡してくる。

 

「ありがとうございました。それでは、このカードはお返しします」

「おう」

 

 そのカードを受け取る。

 カードを確認する。

 確かに、渡したカードだ。

 

 

 リピート エフォーツ・アンド・ライズ

 通常魔法

 ①:自分フィールドにオーディナルモンスターが特殊召喚されたターンのみ発動できる。相手フィールドのモンスター一体を破壊し、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える。このカードの発動に対して、相手は魔法、罠の効果を発動出来ず、このカードを発動するターン。自分はバトルフェイズを行えない。

 

 

「良く使わなかったな。俺の墓地のこれを読んでいたのか?」

 

 誠一郎は墓地からカードを一枚取り出して、それを見せる。

 逆に、驚いたのは天音の方だった。

 

 

 クオリア・ルーラー

 レベル1 ATK100 DFE100 地属性 戦士族

 ①:自分のモンスターを破壊する効果を相手が使用した場合、このカードを手札、または墓地から除外することで、その破壊を無効にして、相手モンスター一体を破壊する。この効果を発動するターン。相手に発生するすべてのダメージは半分になる。

 

 

「もし、天音が俺の魔法カードを使っていたら、逆に破壊されていたのはアメジストの方だった。何やら迷って(・・・・・・)いたようだが(・・・・・・)、良い読みだったぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 天音は笑顔で、客席の方を向く。

 

「それでは皆さん。素晴らしいデュエルをしてくれた誠一郎さんに、もう一度盛大な拍手をお願いします!」

 

 再び拍手が起こった。

 天音のプレイングセンス。そしてデュエリストとしての勘に高評価を出すものもいるだろう。

 

 客席に戻ってきた誠一郎に対して、彩里は何も言わず、フォルテは頭を抱えて、刹那はジーッと誠一郎を見て、聖は得に何もわかっていなかったようだ。

 

「誠一郎。あんた。なんであの魔法カードを渡したの?」

「いや、ちょっと試しただけだ」

 

 そういって微笑む誠一郎。

 

 その後も歌い続ける天音を見ながら、誠一郎はどうするべきかと考える。

 

「……?」

 

 誠一郎は、返されたカードに添えられた紙を見る。

 小さな紙片だ。

 そこに、11個の数字がある。

 

(素直じゃないか)

 

 少し、評価を上げた誠一郎だった。



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十六話

「ふああ……ん?」

 

 遊園地から電車で帰ってきて、風呂に入って部屋に戻った後、誠一郎はスマホが鳴っているのに気が付いた。

 番号を確認する。

 ちょっとだけ、頬が緩んだ。

 

「はいもしもし」

『あ、誠一郎君』

 

 聞こえてきたのは、御堂天音の声。

 

「どうした?」

『私とあってほしいの。ただ、私の方で時間が取れないから、一週間後でいいかな』

 

 誠一郎はカレンダーを見る。

 一週間後に予定はなかった。

 

「ああ。いいぞ」

『わかった。ありがと。それじゃあ、一週間後に会おうね』

 

 そう言うと、電話が終了。

 

「……仕方がないか」

 

 別のところに電話をかける。

 

「……あ、界介(かいすけ)。俺だ、ちょっと命令(たのみ)がある。え、ルビがおかしいって?俺とお前の仲だろ。ちょっと調べてほしいことがある。いろいろあるし、一度しか言わんぞ。え、すでに録音済み?用意周到だなお前。まあいいか、それじゃあいうぞ。まず――」

 

 誠一郎は様々な指示を出して、電話を切った。

 

「……自分で言ってから言うのも何だが、面倒だな」

 

 そう言って、溜息を吐いた。

 

 ★

 

 一週間後。

 

「彩里の奴。いろいろわかっていたような顔だったな。逆に聖が意味が分かっていなかったみたいで苦労したが……まあいいか」

 

 この一週間の自分の周辺のようすを思いだして苦労した誠一郎だが、溜息を吐いて気持ちを切り替えた。

 

「待ち合わせはここだったはずだが……」

 

 きょろきょろとあたりを見渡す誠一郎。

 その視界の端に、パーカーを着て、フードを被った少女が写る。

 

「お、来たな……あ、時間ジャストに来るタイプなのか」

 

 腕時計を見てそう思った誠一郎。

 天音はこちらに気が付いたようで、走ってきた。

 フードをかぶっていて、帽子もかぶっている。

 サングラスは付けていないが、ほぼ、あの日と同じだった。

 

「一週間ぶりだな。で、何時もその格好なのか?」

「お気に入りだから」

「そうか……まあそれならいいや。で、どうするんだ?いつ、どこで、その二つしか聞いていないから、どうするのかさっぱりわからんのだが……」

「ちょっと……遊びに行こっか」

 

 笑顔でそう言う天音。

 誠一郎は頷いた。

 

「まあ、そうしたいというのならそうしよう」

「ちかくに私オススメのファミレスがあるんだ。まずはそこに行こう」

 

 誠一郎の手を引っ張って、歩きだす天音。

 誠一郎は、溜息を吐くのを我慢しているような、そんな顔だった。

 

 ★

 

 ファミレスに入った誠一郎と天音は、一番奥の席をとった。

 座って、店員が水を二人分持ってくる。

 

「好きなものを頼んでいいよ。これでも稼いでるから」

「その上で言っても、俺の方が個人資産は多いと思うんだが……」

「じゃあ、君の奢りね」

「いいだろう」

「え……本当にいいの?」

「ああ」

 

 ファミレスで払う程度の金額でケチる金銭感覚を持っていない。

 彩里たちにその話をすれば『そりゃそうだ。一杯三千円のコーヒーを普通に飲むんだもん』と言いだすだろう。

 誠一郎はカツカレーを頼んで、天音はハンバーグランチを頼んだ。

 

「……誠一郎君は、私のこと。どこまで気が付いてるの?」

「デュエルの話か?」

「うん」

 

 あの日のデュエルを見る限りは……。

 

「……左耳のイヤホン。あれに、カメラもついてたな。舞台裏のスタッフから指示をされていたんだろう」

「そうだよ」

 

 天音は即座に肯定した。

 

「どうしてわかったの?」

「俺が先攻のターンを終えた後のスタンバイフェイズだな。ケイオステラの効果が発動した後だ。表情の雲り方が、俺が知っている奴に似ていた。そいつも、イヤホンを使って、裏から指示を受けてデュエルをしていたよ」

「そっか……」

「まあそもそもの話、君がやっているデュエルは、そもそも、君がやりたいデュエルではない。使っているカードも、君のプレイングも、君本来のものではないだろう」

 

 淡々と誠一郎は続ける。

 

「なんで、そんなことまで分かるの?」

「分かるくらい凄い場所にいただけだ。それと……少し調べれば分かった。『フェイクラスター』だが、あれは全て君のカードではなく、君の事務所から渡されたレンタルデッキだろう」

「その通り」

 

 フェイクラスターは、天音が所属する事務所『シルバーオフィス』が考案したカテゴリデッキだ。

 デュエルモンスターズを運営する会社がデザインカードではないが、カードパワーがしっかりと考えられたものであれば、そういったカードを作ることもできる。

 最近はそう言う流れも多く、『フェイクラスター』の販売権をシルバーオフィスは持っているのだ。

 アイドルとして知名度の高い天音が使い、そして勝っていれば、知名度も上がる。

 

「あと、あの舞台だな。君がデュエルサプライズを行うとき、それらは、かなり大きなステージでのみ行われている。まあ、君がかかわるステージで極端に小さいものもそうそうないが、あれに寄って、デュエリストの判断を鈍らせることが目的なんだろう」

「そうだね。聞き耳を立てていたら、そんな話も聞いたよ。でも、誠一郎君には通用しなかったみたいだけどね」

「あの程度で鈍るものではないからな」

 

 本当の意味で、数千人程度の観客の目で鈍るような精神をしていない。

 

「クールだって、私は言われる。でも、本当はそうじゃない。こんな、稽古中に跳び出して、男に会いに行くようなやんちゃ娘だもん」

「やんちゃ……ねぇ。俺からすればかわいいもんだが」

 

 天音の言い分を聞いて、そう思う誠一郎。

 小野寺彩里という女の付きあっている誠一郎からすると、アイドルとはいえ、その程度(・・・・)といえるレベルのものだった。

 確かに、スキャンダルになる可能性があったりとか、そういう話はあるだろう。

 だが、それは男の方のレベルに寄るのだ。それはいまはいいが。

 

「誠一郎君って、苦労人だったりする?」

「強者って言うのは苦労人だろう。頼られる存在ではあるが、それと同時に、応えなければならないからな」

 

 強者ゆえの有名税程度ならば、はらうことに文句はない。

 だが、明らかに釣りあってないものを、人は求めるものなのだ。

 

「誠一郎君のこと。私はちょっと調べてみたよ。イーストセントラルで、すでに実技単位取得してるんだってね」

「ああ……ていうか、そのデータって一般公開されていないはずなんだが……」

「シルバーオフィスは、そこそこ大きいんだよ」

「君が膨らましただけだろう」

「まあ、そうともいうね」

 

 シルバーオフィスの収益のうちのほとんどを占めているのが、天音の仕事だ。

 それを考えるとすさまじい。

 たった一人の少女の舞台で、多くの人間が給料を得て生活しているのだ。これ以上に妙な話もない。

 とはいえ、イーストセントラルの権力もそれなりにあるが、別に誠一郎の情報がトップシークレットと言うわけではないし、誠一郎本人も、『イーストセントラルが言いふらすのは止めてほしいが、それ以外の団体が言いふらすのならそれには関与しなくていい』と言ったのだ。

 アノニマス・トーナメントに関しては、まあ、情報を取り扱うことを専門としている人間にはばれている節があるが、今のところ、気になるものはない。

 

「事務所の人達、喜んでたよ。修学仮定終了間際のものならともかく、早期における実技単位取得試験は、デュエルスクールは難関だって噂だったから」

「俺からすればたいしたものではないがな。それほどのデュエリストを倒せるデッキだって宣伝できる。みたいなことを言ってるんだろう」

「うん。でもね。私にもわかった。あのデュエル。誠一郎君はわざと負けたんだよね」

「ああ」

 

 勝つのはたやすい。

 負けるのも簡単だ。

 シナリオを綴る権利を、誠一郎は常に持っている。

 

「私はあの時、誠一郎君から渡されたカードを使うように、何度も言われた」

「だろうな。そういう顔だった」

「でも、私は使わなかった。雑誌ではあの駆け引きを褒めているところもある。でも、実は違う」

 

 あのカード。

 発動条件やデメリットがいろいろあって曲者だが、それはともかくとして、名前。

 

『リピート エフォーツ・アンド・ライズ』

 

 訳すると、『繰り返す 努力と嘘』

 

「『使わなかった』わけではなく、『使いたくなかった』ということだろう」

「あんな名前のカードがあるっていうのも驚いたけど、私はあれを使いたくなかった。使えば、今まで、それをしてきたことを肯定しているみたいだったから」

 

 本当に自分を出さず、本当のカードすら使えず、ただ戦ってきた操り人形。

 天音はおそらく、自分がそんな人間だと思っているのだ。

 

 だが、ちょうど料理が運ばれてきた。

 話はひとまず終わりだ。

 

「たべよっか」

「ああ」

 

 ★

 

 様々なところに行った。

 観光に適したスポットを回った。

 花畑が作られていたり、よくわからんオブジェクトを見て説明を見て苦笑したりした。

 ゲーセンに入った。

 クレーンゲームでとったり、音ゲーで二人で無双したり、エアホッケーで天音を遠慮なく叩きつぶしたり。

 

 その中で天音が見せる笑顔は、本人らしいというか、自然なものがあった。

 

「楽しいね。誠一郎君」

「そうだな……」

 

 テンションが高いというより、スタミナのある天音のテンポは速くはないのだが、落ちない。

 誠一郎も筋力だとかそう言った部分はある方だが、天音のそれには及ばない。

 誠一郎は全体的にポテンシャルがあるだけで、いい変えるなら『器用貧乏レベル100』みたいな感じなのであって、『全能』ではない。

 

「私ね。スタミナはある方なんだ。だから、普通の人だと一緒に遊ぶだけでも最後まで続かないんだよね。だから、今日は楽しかった」

「……だろうな」

 

 誠一郎は、『デュエルトライアスロン』という、なんと走ったり自転車を漕いだりしながら(さすがに泳ぎません)デュエルするというクレイジーイベントに参加したことがある。

 体力があるわりにみんなのデッキは速攻デッキと言うある種の願望があるが、誠一郎は完走した。

 

 ちなみに、女の話は話題が多いうえにすぐに変わるので、長いというより終わりようがないというのが誠一郎の見解だが、天音の場合はそれが講堂にも出て来るのだ。

 ネタが多いのは、暇にならないということなのだ。良い意味でも悪い意味でも。

 そういうわけなので、相手する男は疲れるのだ。

 

「……ロケとかみんな疲れるだろうな。これ」

「よく言われるよ」

 

 変に自由行動が多いロケなら、講堂の制限が少ない天音の本領発揮である。

 そうなれば、カメラマンもディレクターも『ちょっと待てやこのガキ!』と内心思いながらついていかざるを得ないだろう。

 

「こんなふうに楽しんだのは久しぶりだね。普段は自由時間なんてないようなものだから」

「アイドルは大変だな……」

「スタミナがあるのは事実なんだけどね。まあ、色々振り回すのは、私からのちょっとした意趣返しだよ」

「タチが悪い……」

 

 まあ、その程度ならいいのか?良くは知らんが。

 

「誠一郎君は、デュエルするのがつらいって思ったこと。ある?」

「いや全く」

「……ないんだ」

「デュエルは楽しいものだからな。それに、両親もいないし、妹もいるから、何かないと話にならん。まあ幸い、才能はあったからな」

 

 それに……才能も努力も、上から叩き潰せるものを、誠一郎は持っている。

 だから、つらいと思ったことはない。

 やめようと思ったことはない。

 

「俺には、絶対に変わらないエースカードがある。だから、そいつを軸にして研究して、そして強くなった。天音にはないのか?」

「私は……」

 

 天音がそれを言おうとした時だった。

 

「天音!」

 

 空気を割くような勢いで、天音の名前を呼ぶ声が響いた。

 見ると、そこにはスーツ姿の男性がいた。

 

「き……木戸さん」

「天音。レッスンを抜け出して何をしていたんだ!」

 

 プロデューサーかな?

 それにしても……この目。

 よく見るものではあるが……誠一郎が好きなものじゃないな。

 

「俺が誘った。ということでいいか?」

「せ、誠一郎君……」

 

 誠一郎は怯えもせず、緊張することもなく、淡々という。

 

「君はあの時の対戦相手か……分かっているのか?天音はトップアイドルなんだ。こんなところを見られたら、スキャンダルになるんだぞ!」

「そう思うのならもうちょっと小声で喋ろって……」

 

 溜息を吐く誠一郎。

 

「私がいいたいのはそういうことではない。どう責任をとるつもりなのかと聞いているんだ!」

「取れなくもないぞ」

「何?」

「アイドルが男とあっていた。だが……俺ほどの実力者にあっていたんだ。別にそれくらいなら問題はないだろ。むしろ、最強のデュエリストと、トップクラスのアイドル兼デュエリストがあっていたんだ。雑誌としても、悪くはない記事にできる」

「一週間前に、天音に負けた貴様が何を……」

「そうだな。だが、あれは負けてやっただけだ。俺がどれくらい強いのかは……これを見てみろ」

 

 誠一郎はそう言って、スマホをとあるページを開く。

 飛び入り参加可能なデュエルの大会。

 その中でも、トップクラスと言われるほどのものがずらりと並んでいる。

 その結果を記載したサイトだ。

 誠一郎は、そのすべてで優勝している。

 

 その数、一週間で三十個以上。

 

「な……なんだこのでたらめな数字は」

 

 界介に電話していたのは、飛び入り参加可能で、さらにハイレベルと言われている大会。

 まあ、実力的に考えればある意味で『荒らし』と言われても仕方がないが、これ以上するつもりはないし、必要はない。

 実力を示すには、これくらいやっていれば十分。

 

「ついでに言うと……あんたらがイヤホンを使って指示を出していたっていうことだが、実のところ、二年以上前からネットに乗っているぞ」

「な……」

 

 気が付かないわけがない。そんなに甘くはない。

 だが、ネットの中では、天音は被害者だ。

 天音のブログだが、古いものを掘り起こせば、間接的にそれが分かる記述がある。

 

「もう一度、試してみるか?」

 

 誠一郎はデュエルディスクを構える。

 木戸は顔をしかめたが、デュエリストとしての本能があるのだろう。デュエルディスクを構える。

 誠一郎はポケットからビデオカメラをとりだして、それを天音に渡した。

 

「これもってちょっと離れて撮っていろ」

「え、あ、うん」

 

 状況はよくわかっていなかったようだが、天音は離れると、取り始めた。

 

「俺が負けたら……そうだな。ま、しばらくテレビにも出てやるさ。お前らの事務所『シルバーオフィス』の好きにしろよ」

「フン!既に録画中だ。声質はとったぞ。それにしても、ずいぶんと自信があるんだ」

「もちろん」

「なら、ハンデがあっても言いだろう?」

「今すぐにできるものならいいぞ」

「なら……ライフは1で、ハンドレスでスタートしろ」

「いいだろう」

 

 誠一郎は即答する。

 天音の口から驚愕が漏れた。

 が、カメラは持ったままだ。

 

 木戸も頬をピクッと動かしたが、カードを五枚引いた。

 

「まあ、俺が勝っても、何もなしでいいや。俺が勝つのは当然だからな」

「ふざけるな。フェイクラスターは私が考案したデッキだ。叩き潰してやろう」

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP   1

 木戸  LP4000

 

「貴様の先攻だ」

「なるほどな。ま、俺はこのままターンエンドだ」

 

 両手をポケットに突っ込んで、そう言った。

 ハンドレススタート。要するに手札がないのだ。できることはほとんど(・・・・)ない。

 

「私のターン。ドロー!私は手札から魔法カード『ラスター・ゲート』を発動。手札からレベル3以下の『フェイクラスター』モンスター二体を特殊召喚することができる。私は手札から『フェイクラスター・エメラルド』と『フェイクラスター・トパーズ』を特殊召喚!」

 

 フェイクラスター・エメラルド ATK1000 ☆3

 フェイクラスター・トパーズ  ATK1000 ☆3

 

「エメラルドの効果発動。一ターンに一度、デッキからレベル4以下のフェイクラスターモンスター一体を選択し、守備表示で特殊召喚することが出来る。私はフェイクラスター・ルビーを特殊召喚!」

 

 フェイクラスター・ルビー DFE300 ☆3

 

 

 フェイクラスター・エメラルド

 レベル3 ATK1000 DFE800 光属性 ドラゴン族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:一ターンに一度、デッキからレベル4以下の「フェイクラスター」モンスター一体を守備表示で特殊召喚することが出来る。

 

 

「そして、私は光属性のエメラルドとトパーズをシンボルリリース。『フェイクラスター・アメジスト』をオーディナル召喚!」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2500→2800 ☆7

 

 攻撃力が上がっている……。

 

「トパーズを素材にしてオーディナル召喚されたオーディナルモンスターは、攻撃力が300ポイントアップする」

「なるほどね」

 

 

 フェイクラスター・トパーズ

 レベル3 ATK1000 DFE800 光属性 ドラゴン族

 ①:このモンスターを素材にしてオーディナル召喚されたオーディナルモンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

「そして、魔法カード『ラスター・シフト』を発動。フェイクラスターモンスター一体をリリースすることで、他のモンスター一体の攻撃力を、リリースしたモンスターの数値分アップする」

 

 

 ラスター・シフト

 通常魔法

 ①:自分フィールドの「フェイクラスター」モンスター一体と、他のフィールドのモンスター一体を対象にして発動できる。対象にした「フェイクラスター」モンスター一体をリリースして、ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力分、もう一体のモンスターの攻撃力をアップする。

 

 

「私はルビーをリリース。アメジストの攻撃力を上げる」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2800→4200

 

「フン!次のターンのドローに賭けようと思っていたのでしょう。ですが、次のターンはありません。バトル!フェイクラスター・アメジストで、ダイレクトアタック!」

 

 フェイクラスター・アメジストがブレスを放出してくる。

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「デッキから罠発動。『あざ笑う運命』!」

「な……デッキから罠だと!?」

「わざわざあんなハンデを付けて、それを即座に良いって言ったんだ。それくらいの警戒はしてほしいもんだ」

 

 誠一郎はMではない。

 

「自分フィールド、手札、墓地にカードがなく、相手モンスターの直接攻撃宣言時、ライフを半分払うことで、このカードはデッキから発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にして、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

 

 あざ笑う運命

 通常罠

 ①:このカードをデッキに戻す。

 ②:自分フィールド、手札、墓地にカードがなく、相手モンスターの直接攻撃宣言時、ライフを半分払うことで、このカードはデッキから発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にして、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 

 ちなみに、ライフを半分支払うことになるが、誠一郎のライフは1で、デュエルモンスターズのルール上、1を半分支払うと0・5になり、四捨五入されて1に戻る。

 

「そんなカードが……」

 

 木戸は驚愕している。

 

「俺はあんたがハンデを突き付けた時、カードのことを何も調べてないんだなって思ったよ。強いデッキを作れたと思って油断したか?デュエリスト失格だな。そんなデッキを自分が所属していたアイドルに押し付けるのは、脅迫以外の何物でもないぞ」

 

 運命をあざ笑う声が響いて、アメジストが放ったブレスは反射する。

 そして、木戸を貫いた。

 

 木戸 LP4000→0

 

「ば、バカな。この私が……」

「お前なんて、カード一枚で倒せる。そのデッキであろうとな。カードのことを調べずにカードを作ったやつのデッキが、強いわけないだろ」

 

 誠一郎は天音が持っていたビデオカメラをとり上げて、録画を終了する。

 そして、その録画データを、界介に送っておいた。

 

「誠一郎君」

「ま、こんなもんだ」

 

 ハンデなんて関係はない。

 というより、最近は犯罪者集団が違法ツールを使って、ハンデを押し付けたうえで一方的に蹂躙するような状況がたまにある。

 そのような特殊な状況に対応するために、防犯ブザーならぬ『防犯カード』がデザインされているのだ。

 ある意味、アイドル事務所なら、そう言った存在の対処は考えておくべきで、それらが全く考慮されていないというのは、この世界(デュエルモンスターズ)では自殺行為である。

 刹那やフォルテ、彩里や聖にも、メインデッキやサイドデッキとは言わないが、すぐにデッキに投入できる状況を作っておくように言ってある。

 

 この『あざ笑う運命』と言うカードも、そう言うカードの一枚だ。あまり防犯とは関係のないネーミングセンスだが。

 

「わ、私は認めない!」

「別にいいが、ならもう一回やるか?普通にやってもいいぞ」

「上等だ。絶対に許さん!」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……三十分後。

 

「クリムゾン・ワイズマンで直接攻撃。なあ、もう二十連敗しているぞ。そろそろ弱い者いじめもかわいそうになってきたからやめておきたいんだが……」

 

 木戸のライフは0になった。

 

「な、なぜ勝てないんだ……」

「ていうかダメージすら与えられてないけどな。もう俺は帰るよ。あ、ちなみに、全てのデュエルを録画、投稿しておいた。あの手この手を変えてデュエルしていたから、もう、フェイクラスターは通用しないぞ」

「何!?」

 

 木戸がスマホで確認している。

 おそらく、そう言ったものを確認しているのだろう。

 

「ば……バカな……」

「じゃあな。次からカードを作る時は、もうちょっと頭をひねって作れよ」

 

 天音を引っ張って誠一郎は離れていった。

 

 ★

 

「誠一郎君」

「どうした?」

「どうして、あんなに強いの?」

「俺もわからん。強くなろうと思ったきっかけは、俺だって覚えていない。ただ、自分のためだったような気はしないわけでもない」

「自分のため?」

「そうだ」

 

 刹那のためでも、彩里のためでも、フォルテのためでもなかった。

 ただ、自分のためだったことは覚えている。

 

「私も自分のためにカードを選んだら、強くなれるかな」

「俺よりは弱いだろうけどな」

「まあ……ね」

 

 天音は苦笑する。

 ……ん?

 

(お前が自己主張するのは珍しいな)

 

 誠一郎は、ポケットから一枚のカードを出した。

 

「取り合えずこれをやるから、考えてみろ」

 

 天音に渡す。

 

「お、オーディナルモンスターのシークレットレア。いいの?」

「構わんよ。それじゃあな」

 

 誠一郎は帰って行った。

 で、路地を曲がったところで、電話をかける。

 

「あ、界介。俺だ。ちょっとシルバーオフィスで面倒なことになるかもしれないから、天音の援護をよろしく。ん?なんてお前にばかり頼むのかって?貸しが百を超えているんだ。ため込んでいるんだからちょっとは清算しろ」

 

 そう言って電話を切る誠一郎だった。



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十七話

今回はデュエルはないです。


「あーあ、シルバーオフィス。ネットで叩かれまくってるぞ」

「そうなのか?界介」

 

 とある喫茶店。

 誠一郎は、金髪を短く切りそろえて、黒いスーツを着崩したようないでたちの少年、呉島界介(くれしまかいすけ)と話していた。

 

「当然だろ。まあ、原因の八割はお前だけどな」

「ほう」

「お前があのアリーナのデュエルで負けたからな。それが一部の人間にとっては衝撃的だったが、ある一点、クリムゾン・ワイズマンを出していなかったということもあるし、天音のことを知っていた人間もいたから、察することはできたって感じだ」

 

 あえて出していなかった。

 そもそも、らしくない。と言うべきだっただろう。

 星王兵リンクの効果を使ってサーチし、さらに『魔導契約の扉』まで使ったのに、一度もクリムゾン・ワイズマンをサーチしなかった。

 クリムゾン・ワイズマンに合わせたカードをそれなりに投入しているのが誠一郎のデッキである。

 そう考えると、あのデュエルは不自然なものだった。

 

「ま、一部のバカが暴走したって言う部分もあるな。表の方では、お前はそこまで評価が高いというわけではない。というより、功績は大きいんだが、秘匿されやすい情報に該当する場合が多すぎて、あまり出回っていないっていうのが正確なところか」

 

 イーストセントラルにおける実技単位取得にしろ、アノニマス・トーナメントにしても、いずれにせよ、そう出回るものではない。

 まあその上で、誠一郎は余裕の表情だった。

 

「暴走って言うのが何なのかって言うと、お前があのデュエルに負けたことで、御堂天音と言うデュエリストの評価が急上昇したんだ。まあ、あまりわかってないバカが多かったんだが……おかげで、この一週間は寄付金の額が莫大なものになったみたいだな」

「まあ、わざとやったとはいっても、俺に勝ったんだ。その事実は変わらないからな」

「それに、お前があの場所にいたのは、ある意味偶然だ。まあ、お前の彼女が懸賞で当てたんだろうが……要するに、お前がデュエルするということすら、裏社会の方では想定外だった」

 

 偶然だった。

 そして、想定外だった。

 ただ、それだけ。

 

「よくわかってるじゃないか」

「……で、一週間たって、あの動画が出回った。しかも、『フェイクラスターの考案者』として、カードデザイナーとしてもいろいろなところから引っ張りだこになるかもって時の話だったからな」

「ひっくり返っただろうな」

「あの動画の中で、お前は途中、何度も降りようとしたが、木戸は何度もお前に挑んだ。一度でも勝てば、可能性はあると思ったんだろう。だが、お前はそう言うデュエリストじゃないからな」

 

 界介は溜息を吐きながらコーヒーを口に含んだ。

 

「御堂天音のイヤホンの話は昔からあった話だ。それに加えて、莫大な寄付金をはらった後でこの状況になったんだ。まあ、ブチ切れた連中の気持ちも、投資家としては分からんわけじゃないがな……」

 

 界介は溜息を吐いた。

 誠一郎は微笑んだままだ。

 

「御堂天音に対して脅迫していたのではないか。と言う話だが、実際にあったらしい。ま、あそこまで歌って踊れるアイドルはなかなかいねえし、デュエルの方でも強いことをアピールすれば、儲けることが出来ると思ったんだろうぜ。『持つべきものは力』っていうのは分かっていたみたいだが、『上には上がいる』っていうのをわかってなかった。ある意味当然の結果だろ」

 

 何故、今までこうなっていなかったのか、と言う疑問はあるが……。

 

「で、誠一郎。お前から見て、フェイクラスターは、完成度としてはどうだ?」

「……そうだな。別に良くも悪くもない。御堂天音が使っているから、ということで過剰評価されているだけで、言っては何だが、普通だったぞ」

「まあ、お前ならそう言う評価を出すだろうな」

 

 使い方に寄るだろう。

 一枚のカードでどこまで出来るのか。デッキの中でカード同士がどういう関係なのか、それを考えれば、見えて来るものはあるのだが、もう遅い。

 

「シルバーオフィスはもう終わりかもな」

「界介から見てもそう思うのか?」

「御堂天音がいたから支援していたところも多いからな。あのステージにいたのなら分かるだろうが、おっそろしい金額が動くんだよ。だから、投資家や銀行がバンバン金を出していたんだ。そんな中でこの醜態だぞ。しかも、思いっきり情報が拡散してるし」

「御堂天音に依存していたか。脅迫するんじゃなくてうまく転がしておけばよかったのに」

「だな。変に感情的になることもないわけじゃないし、お前みたいに精神年齢が高いわけでもないからな。経験があるやつにとっては扱いやすいだろうぜ」

 

 うまく扱った結果としてアイドルの方が調子に乗るのならそれはそれでまた考える必要はあるが、今回の場合はそう言うものではない。

 

「御堂天音も、やろうと思えば、アイドルをやめて、新たにシンガーソングライターとしてやっていける。もともと、歌って踊る以外はあまりできていないっていうのは分かってるからな」

「そう言うものか?」

「そんなもんだ」

 

 世の中と言うのは、いろいろと分かっているものである。

 

「一部の人間は、お前と天音の再戦を望んでる」

「ほう」

「御堂天音が新しくデッキを作ったんだ。それを使った快進撃だぞ。もちろん、イヤホンもなし」

「だろうな」

「とっくの昔に、シルバーオフィスじゃ扱いきれないじゃじゃ馬になってんだよ」

「じゃじゃ馬か。俺からすればまだまだ子供だがな」

「体力的についていけなかっただろ」

「なんでしってんの?」

「宗達から聞いた」

 

 アイツ……。

 

「本当にマジで強いぞ。今度は本当に、お前にダメージくらいなら与えられるんじゃないか?」

「ま、それはないだろうな」

 

 誠一郎はコーヒーを飲みほした。

 そして、席を立つ。

 

「マッチングの方は好きにしろ。よほど出鱈目な時間じゃなかったら出てやる」

「いいのか?」

「その代わり、ちゃんと調節して置けよ」

「俺がやるのか!?」

「お前から送られていた大会、調べたら裏でデュエルくじが展開されている大会ばっかり選んでだろ。それがお前に対する人件費だ」

「いや、あの、莫大すぎるんだが……」

「知らんな」

 

 誠一郎は自分が飲んだ分の代金として千円札を三枚置いた後、喫茶店を出ていった。

 

「……やっぱ中途半端なアイドル事務所の相手にした後にアイツを相手にするのはダメだな。難易度が違いすぎて調子が狂うったらありゃしない」

 

 界介は誠一郎がおいていった三千円と伝票をもってカウンターに行った。

 

 ★

 

「誠一郎。また御堂天音とはデュエルするの?」

 

 お茶漬けを作りながら、彩里が誠一郎に聞いた。

 誠一郎はテレビを見ていたが、彩里の方を見る。

 

「……そうだな。ま、頼まれたらやるだろう」

「なんだかんだ言ってかかわるのね……誠一郎と一緒にいるとちょっとレベルの高い知り合いが増えるから面白いわ」

「いいのやら悪いのやら……」

 

 彩里としては、いろいろなものを見せてくれる誠一郎のことはすごいと思っている。

 誰かのことをすごいと思ったことはあまりない彩里だが、測り切れない実力を持つ誠一郎のことは想定不可能だった。

 

「お茶漬け出来たわよ」

「ああ」

「……そう言えば、刹那ちゃん。起きるの遅いわね」

「そう言えば確かに……」

 

 いつもならもう起きているんだが。

 

「腹時計は性格だから降りてくると思うけどな」

 

 ご飯を作ったら自然に降りてくるのだ。何故か知らないが。

 

 

 

 さて、その頃の刹那だが……。

 

「刹那ちゃん。聡子お母さんの胸の中でいっぱい寝てくださいね」

 

 どこから侵入したのか、聡子がベッドで一緒に寝ていた。

 なお、聡子は若干浴衣に近い服装である。

 

「うぅん……ママぁ」

 

 すっかり甘えた様子で聡子を抱きしめる刹那。

 そのかわいらしい仕草に、聡子はよだれを流していた。

 それでいいのか。聡子よ。

 

「……あら?」

 

 聡子は抱きしめている時に気が付いた。

 

「グスッ……うぅん……」

 

 刹那が泣いているのだ。

 どんな夢を見ているのかはわからないが、うなされているようには見えない。

 ただ、泣いている。

 

「大丈夫ですよ。聡子お母さんがついていますからね」

 

 宝物を扱うように抱きしめる。

 そして――

 

「むぅ…………………………………む?」

 

 ――刹那の言葉に、意識が宿った。

 寝ぼけ眼でボーっと聡子を見る。

 そして、その格好を見る。

 抱きしめている自分の腕、そこから、自分の格好を悟った。

 さらに、布団の中にいる。

 ……理解した。

 

「……え」

 

 刹那の顔が戸惑いにあふれて、そして青くなった。

 聡子は宝物を扱うように抱きしめていたが、こうなればもう手加減はしない。

 思いっきりギューッと抱きしめる。

 

「むーーーー!むむーーーー!!」

 

 じたばたと暴れる刹那。

 だが、小さな筋肉が鍛えられており、バランス感覚がケタ違いの刹那も、そこまでたいした筋力があるわけではない。

 聡子は諜報部員。いろいろと鍛えることも多いのだ。

 結果的に、確実に分配が聡子に上がる。

 

「フフフ。刹那ちゃん。私色に染まってもいいんですよっぶない!」

 

 急に聡子の感触が離れると、ズガン!という音とともに、鉄拳が聡子がいた場所に振りおろされる。

 刹那は顔を上げる。

 無表情のフォルテがいた。

 どこにいたのかはわからないし、いつ入って来たのかはわからないが、とにかく、助かったといえるだろう。

 多分。

 

「何しているのですか?聡子さん」

 

 フォルテは拳をバキバキ言わせながら聡子の方を見る。

 

「いいではないですか。刹那ちゃんは可愛いですからね。孤児院にいる五歳くらいの女の子のようです」

「むぅーーーーー!もう十四歳だもん!」

 

 両手を突き上げて怒る刹那。

 だが、残念。怒ることが先天的に苦手な人間が多少怒ったところで対して怖くないのが世界と言うものだ。

 聡子は、姉とかそう言った部分を超えて母性を感じさせる雰囲気を持つ女。

 この程度の怒りなど笑ってスルーできる。

 

「でも、気持ちよかったでしょう」

 

 正座をしてポンポンと自分の膝を叩く聡子。

 母性もあるだろう。すごく気持ちがよさそうだ。

 ヒップが大きいフォルテも太股はまあそれなりにあるのだが、彼女の本質は『清楚な姉』であって『母』ではない。

 刹那に取って、彩里のような人間がそばにいるので姉と言う存在はもうお腹いっぱいである。

 だが、すでに両親はいない刹那にとって、誠一郎は父性属性を持っているので父親がいないことは我慢できても、母親代わりはいないのだ。

 

「む……むぅ……」

 

 聡子の気持ちよさそうな太股を見て気持ちが揺れる刹那。

 

「もうすぐ朝食です。彩里様がお茶漬けを作っていますから。早く食べに行きましょう」

「……」

 

 刹那はフォルテの方を見る。

 そしてその後、聡子の方を見る。

 聡子は微笑んだままだ。

 

 どちらが勝ったのか。

 

 グゥー……。

 

 刹那の腹の虫が鳴った。

 次の瞬間、聡子にはもう目もくれず、スタッと立ち上がり、トコトコ扉に向かって歩いていった。

 

「ちょ……刹那ちゃん!?」

 

 聡子はここまで無視されるのは初めてである。

 食欲が勝つのか。いや、まあ、朝食を食べるタイミングなのだから別に変と言うわけではないが、いろいろおかしいと言わせてもらいたい。

 だが、刹那は聡子の悲痛な叫びに振り向くことすらなかった。

 『母』としてはいいが、あまり『女』としては好きではないのだ。まる。

 

 

 ――で。

 

「誠一郎。なにしてるの?」

「刹那の新しいベッドを通販で購入しているんだ。また壊したみたいだからな」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

 ★

 

 当然といえば当然だが、学校内でも御堂天音のファンはいるし、シルバーオフィスに対していやな感情を持っているものもいる。

 

「で、どうしたの和春。そんなイライラした表情をして」

 

 イーストセントラルに存在する場所。

 序列一位から四位までを独占する元素四名家の円卓会議室。

 そこで、風間浩一。火野和春。水谷聡子。土門天理がそろっていた。

 そして、和春はイライラしたような表情だった。

 

「一週間前のデュエルは覚えているか?」

「あの遊霧誠一郎と御堂天音のデュエルでしょ?あれはこっちでも有名だよね。天理はどう思う?」

「私の方でも聞いた。まあ、デュエルを見れば分かるが、エースモンスターすら出していないものだったからな」

「わかる人にはわかるでしょうね」

 

 聡子はフフッと笑う。

 和春は「その話だ」と最初に付けて、言い始める。

 

「あの後、シルバーオフィスに莫大な投資があったようだ。まあ、イーストセントラルで数件しか前例のない、早期における実技単位取得者だからな。俺や天理ですらまだ持っていないものを持ってるんだ。ある意味、その闘志に意味があると思ったんだろう」

「問題なのは、ちょっと前に膨大に流れた動画だよね。フェイクラスターの評価が地に落ちたでしょ」

「そこなんだが……あのステージにおけるデュエルがなければ、ここまでの損失はないとか周辺企業が言いだしたんだ。で、そのとばっちりが俺に来てんだよ」

「ハッハッハ!傑作!」

 

 浩一は笑う。

 天理も肩をすくめる。

 火野和春は、元素四名家であると同時に実業家でもある。

 当然、大きな案件であるあのステージにもかかわっていた。

 シルバーオフィスは御堂天音が所属し、そして動いてきた事務所で、その契約費用は莫大である。

 和春はシルバーオフィスと契約して金を出したのはいい。

 実際、ステージは盛り上がり、さらに、誠一郎の『一ターンにおける連続サーチと二回のオーディナル召喚』と『【魔導契約の扉】を利用した頭脳戦』と言う部分が評価されている。

 結果として、御堂天音のデュエリストとしての勘とか、と言う言った部分は評価された。

 

 操り人形ではない歌姫の実力を、感じ取ったからだ。

 

「とはいえ、御堂天音のそれからの実力の伸び方もすさまじい」

「そうだね。ただ、オーディナルモンスターのシークレットレアが飛び出してくるとは思ってなかったけど」

「シルバーオフィスの株の暴落と共に、御堂天音個人の方はかなり動いています」

「うむ。原因は言うまでもないがな」

 

 遊霧誠一郎。

 突如現れたデュエリストだ。

 いや、情報部隊のものからすれば、どんな大会に出場していたのかはわかる。

 だが、その大会に出場する前。

 その段階のことは分かっていないのだ。

 

「さて、どうなるのかな。僕としては、もっと暴れてほしいけどね。最近はこういう祭りはなかったからさ」

「勘弁しやがれ。こっちは実業家だ。いろいろと支障が出る」

「すでに手遅れな気がしますけど……」

「ただ、他にもいろいろと動いているものがいる。かかわるべきなのか、それとも放置するべきなのか、議論する時間はあった方がいいだろう。もうそろそろ、イーストセントラルのイベントが開催される。御堂天音も、おそらく自分からかかわってくる可能性があるからな」

 

 イーストセントラルにおけるイベント。

 火野和春が考案する『特殊なフィールド魔法による特殊ルールにデュエル』を行うことでイベントを行うというものだ。

 今までは単純にデュエルするだけだったが、一対一のシングルデュエルではなく、乱戦となるバトルロイヤル戦が行われることになっている。

 一応、御堂天音も出て来ることになっている。

 

「そこで、デュエルをするのだろう。遊霧誠一郎VS御堂天音の対戦カードで」

「その予定みたいだね。和春が交渉に行ったんだよね」

「御堂天音本人が出てきた。かなり乗り気だったぞ」

「楽しみですね。ところで、本人が出てきた。と言いましたが、シルバーオフィスのスタッフは?」

「どこの誰かは良く知らん投資家が株を買いまくって、それを利用して自前の人間をシルバーオフィスにいれていた。あのステージとは全然違うスタッフばかりいて驚いたぞ」

 

 株は暴落した。

 だが、シルバーオフィスと言う『御堂天音が入っていた箱』を突如失うのはいろいろとリスクが高いのだ。

 誰がその箱の面倒を見るのか、と言う話もあったが、ある意味で解決したようなものである。

 

「結果的に、シルバーオフィスは続いて、御堂天音はそこに所属、そして、新しくは言ってくるわけか。まあ、御堂天音のあのスタミナは自前だし、新しいスタッフが振り回されるのが目に見えるね!」

 

 浩一はとても楽しそうである。

 とはいえ、楽しみなのは四人ともだ。

 

「これからは準備段階に入ることになる。ただ、デュエルの腕を落とさないようにな」

 

 天理がそう言って、この場は終了した。



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十八話

「え、この学校って学園祭あったの?」

「学園祭とはちょっと違う見たいね。と言うより、エリアSの中でも資産を持っている人が勝手に開いているイベントみたいなものだから、祭りと言うよりはイベントのようなものよ」

「へぇ……」

「みんなが期待してる誠一郎様と御堂天音のデュエルが行われるということで、入場者もかなりのものになると推測されています」

 

 ……え。

 

「俺その話聞いてないんだけど」

「でも、みんなそう言ってるわよ」

「お兄ちゃんも、デュエルすることに関しては問題ないと思う」

「まあ、負けることはないさ」

 

 自分が渡したカードを全面的にエースカードにしてくるとは思わなかったが。

 とはいえ、別に悪い状況ではないだろう。

 

 すでにフェイクラスターは使っていないらしい。

 まあ、使っていたとしてもいなかったとしても、それは天音次第だが。

 

「それにしても、御堂天音とのデュエルが衝撃的だったのか知らんが、なんか話しかけられるようになったんだよな……」

 

 トップアイドルの称号は伊達ではない。

 誠一郎は、そんな御堂天音を変えた人物として有名になっていた。

 変にかかわるだけならいいのだが、御堂天音にかかわりすぎたといえるだろう。

 有名税くらいなら払うつもりだったが、ちょっと過剰課税な気がする。

 

「学校内でもすでに有名だもんね」

「お兄ちゃんに勝てば御堂天音とお近づきになれるんじゃないかって、御堂天音ファンのクラスメイトが言ってた」

「勝てるわけないでしょ……」

 

 単に、強いのだ。誠一郎と言う男は。

 確かに、本当の意味で(・・・・・・)誠一郎の勝ったとすれば、表社会、裏社会かかわらず、文字通り湯水のように金を使うことが出来るだろう。

 その実力が知れ渡っている(匿名大会だったので知られているのは本来おかしいのだが)裏社会では、今でも誠一郎をとりこもうと計画を練っている人間がいるのだ。

 

「そう言えば、誠一郎って負けたことあるの?あのステージ以外で」

 

 聖が聞いて来る。

 

「ああ。あるぞ」

「え、あるの!?」

 

 聖は驚いた。

 

「ああ。思いっきりやって、そして負けた。多分、お互いに本気だったと思うけどな」

「はぁ……一体誰?」

「いや、多分、二度と会えない人だからな。その出会えた状況も、かなり特殊なものだったし」

「すごい人がいるんだね」

「だな。ただ、エースは魔法使い族だったよ」

「誠一郎と同じだね」

「そうだな」

 

 全力だった。紙一重だった。

 それでも、負けたのは誠一郎だ。

 

「ま、それについて話すのは別の機会だ」

「お兄ちゃんはあまり話したがらない」

 

 こればかりはな……。

 

「それにしても、イベントねぇ……遊園地に行ったときみたいな感じか?」

「このイベント限定のフィールド魔法が全校生徒に配られる予定のようです」

「バトルロイヤルルールになるのかね?まあ、モンスターの展開に支障がないのなら問題はないけど」

 

 最大限、様々なカードの組み合わせに刺さらないように作るだろう。

 

「それにしても、学生が試算を出して、学校の平日を使ってイベントを開くとは……」

「すさまじい計画ですよね。教育委員会とかどうなったのでしょう」

「デュエルで倒したんだろ」

「それもそう」

 

 まあ、そう言う感じなのだ。こればかりは何を言っても仕方がない。

 

(どうなるのかね……)

 

 ★

 

 放課後、誠一郎は正門に行くと界介が待っていた。

 

「界介。どうかしたのか?」

「まあ、ある程度話は聞いていると思うが、いろいろと話しておこうと思ってな……」

「それはいいが……」

 

 誠一郎は彩里、フォルテ、刹那、聖の方を見る。

 聖は界介と会うのは初めてだからだろう。「だれ?」と言う顔をしていた。

 

「ああ、黛聖(まゆずみひじり)だったか?初めましてだな。俺は呉島界介。投資家だ」

「知っての通り、黛聖よ。投資家って……私と同い年に見えるけど」

「実際同い年だ。最終学歴は中卒だが」

「うるせえな」

 

 高校に言っていないからな。この男。

 

「デュエルは強いの?」

「デュエリストとしては、誠一郎の弟子の一人だ」

「マジで?」

「マジだ。こう言う業界でも、デュエルが弱いと舐められるからな」

 

 界介は頭をガリガリとかいた。

 

「実際どれくらい強いの?」

「私より上で、彩里様より弱いくらいでしょうね」

 

 フォルテがそう言った。

 

「まあ要するに、俺と比べるとたいしたことないってことだ」

「それ言ったらダメだろ」

 

 界介はげんなりした。

 

「お前だな。シルバーオフィスに人材を送りこんだのは」

 

 振り向くと、元素四名家の一人、火野和春が歩いてきた。

 学校内だが、スーツを着こなしている。

 相変わらず、厳格な感じだった。

 

「……火野家の次期当主か」

「そうだ。誠一郎が強いのはそれとして、あまり弟子は見ないからな」

 

 そういいながらデュエルディスクを構える。

 界介は溜息を吐いた。

 

「まあいいか」

 

 界介もデュエルディスクを取り出した。

 

「界介、最近忙しいのにデュエルちゃんとやってるのか?」

「まあ、なまっているのは確かだが……お前の弟子と言う立場としては、これくらいの奴が相手じゃないとな」

 

 和春が頬をピクッと動かした。

 

「ほう。俺が準備運動だというのか?」

「ああ。その通りだ」

 

 界介はデュエルディスクを構える。

 

「ねえ。誠一郎。実際どうなの?」

 

 聖が聞いて来る。

 

「……そうだな。まあ、見ていれば分かる。それに、最近デュエルで来ていなくてなまってるのは火野和春も同じだ。取り決めで、あまり他の元素四名家とはデュエル出来ないからな。思いっきりやるのなら、界介くらいのデュエリストを相手にする方がいい」

「まあそれでも……界介より、本気でブチ切れた刹那ちゃんの方が強いんだけどね」

「!?」

 

 刹那が『え!?』という表情で彩里を見る。

 フォルテも遠い目をする。

 

「そうですね。私と彩里様の二人が借りでも止められませんでした……」

「一体どんな化け物なのよ……」

「むーーーーー!!!!!」

 

 散々な評価に唸り声を上げる刹那。

 そしてそれをほほえましい表情で見ている誠一郎。

 

「まあ、今はデュエルを見よう。投資家と実業家のデュエルって言うのも気になるしな」

 

 二人がちょうど準備を終えたところだ。

 

「「デュエル!」」

 

 界介 LP4000

 和春 LP4000

 

「俺の先攻だ」

 

 先攻は界介。

 

「俺は手札から永続魔法『シンボルバンク』を発動。このカードを発動時の処理として、相手はSPを2つ増やす。そして、このカードに『インテレストカウンター』を一つ置く」

 

 和春      SP0→2

 シンボルバンク IC(インテレストカウンター)0→1

 

 発動した永続魔法から、シンボルポイントが二つ出てきて、和春のデュエルディスクに入った。

 

「インテレスト……『利子』か」

「そういうことだ。相手は自分ターン中、自分が持っているシンボルポイントを任意の数使って、使ったポイント一つにつき、このカードのインテレストカウンターを一つ取り除くことが出来る」

「ほう……もし残っていたら?」

「俺のターンのスタンバイフェイズ時、このカードに乗っているカウンター一つにつき、俺はシンボルポイントを一つ増やせる」

 

 

 シンボルバンク

 永続魔法

 「シンボルバンク」は自分フィールドに一枚しか存在できない。

 ①:このカードの発動時の処理として、相手プレイヤーはシンボルポイントを2つ増やし、このカードにインテレストカウンターを一つ置く。

 ②:相手はメインフェイズ中に、シンボルポイントを任意の数消費することで、ポイント一つにつき、このカードのインテレストカウンターを一つ取り除くことが出来る。

 ③:自分のスタンバイフェイズ時、このカードに乗っているカウンター一つにつき、自分はシンボルポイントを一つ増やす。

 

 

 利子。とはよく言ったものだ。

 

「で、俺はカードを二枚セットして、ターンエンドだ」

「モンスターを出さないのか?」

「俺のデッキに、オーディナルモンスター以外のモンスターカードは入っていないよ」

 

 聖が驚いた。

 

「モンスターなしで展開するデッキなの?」

「展開って言うのかね……まあ、見ていれば分かる」

 

 和春は面白そうだ。と言いたそうな表情でカードを引く。

 

「俺のターン。ドロー!自分フィールドにモンスターが存在しないことで、『爆炎獣マッドウルフ』は特殊召喚できる」

 

 爆炎獣マッドウルフ ATK1600→2000 ☆4

 

「レベル×100の攻撃力を自前で確保してくるモンスターか……」

「ああ。それが爆炎獣たちの共通効果だ。そして、手札一枚をコストに、フィールド魔法『爆炎倉庫ウェポンソウル』を発動」

 

 燃え盛る木造の建物が出現した。

 

「なあ。思いっきり燃えてるけど、あれ、大丈夫なの?」

「問題はない。装備魔法『デュアル・ブレイズ』をマッドウルフに装備、チェーンして速攻魔法『爆炎の壺』を発動。さらにチェーンして『サモンチェーン』を発動だ」

「そう来たか……」

「サモンチェーンの効果で、俺はこのターン。通常召喚回数が三回になる。爆炎の壺の効果で、墓地の爆炎獣を除外して二枚ドローだ。俺は『爆炎獣フレアウルフ』を除外して二枚ドロー。デュアル・ブレイズの効果で、マッドウルフは二体分のオーディナル素材にできる」

 

 

 爆炎の壺

 速攻魔法

 ①:自分の墓地の「爆炎獣」モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを除外し、デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「ウェポンソウルとデュアル・ブレイズ、そしてサモン・チェーン……まさか……」

 

 フォルテは気が付いている。

 そして、それは全員がそうだ。

 

「俺は炎属性の爆炎獣マッドウルフをシンボルリリース。『爆炎獣コロナフェンリル』をオーディナル召喚!」

 

 爆炎獣コロナフェンリル ATK2200→3000 ☆8

 和春 SP2→4

 

「いきなり来たな……」

「ウェポンソウルの効果に寄り、墓地から『デュアル・ブレイズ』を回収。そして、除外されているフレアウルフの効果。自分フィールドにオーディナルモンスターが存在する時、除外されているこのカードを特殊召喚できる」

 

 爆炎獣フレアウルフ ATK1000→1300 ☆3

 

 

 爆炎獣フレアウルフ

 レベル3 ATK1000 DFE1000 炎属性 獣族

 このカード名の②の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:自分フィールドにオーディナルモンスターが存在する場合に発動できる。除外されているこのカードを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

「そして、『シンボル・ドロー』を発動。SPを一つ使って二枚ドロー。さらに、コロナフェンリルの効果発動。SPを二つ使い、デッキから『爆炎獣』オーディナルモンスター一体を手札に加えることが出来る」

 

 和春 SP4→3→1

 

「サーチか……」

 

 

 爆炎獣コロナフェンリル

 レベル8 ATK2200 DFE1000 炎属性 獣族

 オーディナル・効果

 炎属性×2

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。

 ②:一ターンに一度、シンボルポイントを二つ消費して発動できる。デッキから「爆炎獣」オーディナルモンスター一体を手札に加える。

 『SP2』

 

 

「俺はデッキから『爆炎獣ケルベロス』を手札に加える。そして、フレアウルフに『デュアル・ブレイズ』を装備。そして、炎属性のフレアウルフをシンボルリリース。『爆炎獣ケルベロス』をオーディナル召喚!」

 

 爆炎獣ケルベロス ATK2500→3200 ☆7

 和春 SP1→3

 

「オーディナル召喚の成功により、墓地の『デュアル・ブレイズ』を回収。そして、魔法カード『爆炎獣連携』を発動。自分フィールドに、爆炎獣オーディナルモンスターが存在する場合、一体につき一枚ドロー出来る」

「またドローカードか」

 

 

 爆炎獣連携

 通常魔法

 「爆炎獣連携」は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドに「爆炎獣」オーディナルモンスターが存在する場合発動できる。自分フィールドの「爆炎獣」オーディナルモンスター一体につき、カードを一枚ドローする。

 

 

「魔法カード『エクスプロージョン・ロッド』を発動。自分フィールドの『爆炎倉庫』を一枚墓地に送ることで、デッキから爆炎獣モンスター一体を手札に加える」

 

 次の瞬間、ウェポンソウルが吹き飛んだ。

 

 

 エクスプロージョン・ロッド

 通常魔法

 ①:自分フィールドに存在する「爆炎倉庫」カード一枚を墓地に送って発動できる。デッキから「爆炎獣」モンスター一体を手札に加える。

 

 

「俺が手札に加えるのは、『爆炎獣マグマレオパルド』だ。そして、手札の魔法カード一枚を墓地に送り、魔法カード『ブレイズ・コネクト』を発動。自分フィールドに存在する『爆炎獣』オーディナルモンスター一体につき、『爆炎獣トークン』一体を特殊召喚する。俺は『デュアル・ブレイズ』をコストに、二体のトークンを特殊召喚!」

 

 

 ブレイズ・コネクト

 通常魔法

 ①:自分フィールドに存在する「爆炎獣」オーディナルモンスター一体につき、自分フィールドに「爆炎獣トークン」(炎族・炎・星1・攻0/守0)を一体特殊召喚する。

 

 

 爆炎獣トークン ATK0 ☆1

 爆炎獣トークン ATK0 ☆1

 

「そして、炎属性の爆炎獣トークン二体でシンボルリリース。『膜炎獣マグマレオパルド』をオーディナル召喚!」

 

 爆炎獣マグマレオパルド ATK2300→3000 ☆7

 和春 SP3→5

 

「一ターンに、レベル7以上のオーディナルモンスターを三回も召喚するとは……」

 

 残っている手札は一枚。

 だが、ここまでの連携を生み出せるカードを手札に引き込む運も持っている。

 

「マグマレオパルドの効果。一ターンに一度、800ポイントのダメージを受けてもらう」

「チッ……」

 

 界介 LP4000→3200

 

「バトルフェイズ!爆炎獣ケルベロスで、ダイレクトアタック!」

 

 ケルベロスの攻撃力は3200。

 当然、この攻撃が通ればデュエルは終了する。

 

「罠発動『ブロック・インテレスト』を発動。相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にして、相手フィールドのオーディナルモンスター一体につき、自分フィールドの『シンボルバンク』に、インテレストカウンターを一つ置く」

 

 

 ブロック・インテレスト

 通常罠

 このカード名のカードは一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にして、相手フィールドのオーディナルモンスター一体につき、自分フィールドに存在する「シンボルバンク」一枚に、インテレストカウンターを一つ置く。

 

 

 シンボルバンク IC1→4

 

「だが、まだ攻撃できるモンスターが……」

「永続罠『債務主導権』を発動。自分フィールドに存在する『シンボルバンク』にインテレストカウンターが存在するとき、相手モンスターは攻撃できない」

 

 

 債務主導権

 永続罠

 ①:自分フィールドに存在する「シンボルバンク」にインテレストカウンターが存在する場合、相手モンスターは攻撃できない。

 ②:自分フィールドに「シンボルバンク」が存在しない場合、フィールド上のこのカードは破壊される。

 ②:このカードを墓地から除外して発動できる。デッキから「シンボルバンク」を一枚手札に加える。

 

 

「なるほどな……」

「で、どうする?」

 

 和春は自分の手札の見た。

 

「カードを一枚セット、ターンエンドだ」

「へぇ……なるほどな。俺のターン。ドロー!スタンバイフェイズ、シンボルバンクに乗っているカウンター一つにつき、俺はSPが増える」

 

 界介 SP0→4

 

 さて、どうする?界介。

 

「俺は『シンボル・ドロー』を発動。SPを一つ消費して二枚ドロー」

 

 界介 SP4→3

 

「そして魔法カード『シンボル・テクノロジー』を発動。自分のSPを全て消費して、消費した数一体につき『シンボルトークン』を特殊召喚する」

 

 

 シンボル・テクノロジー

 通常魔法

 「シンボル・テクノロジー」は一ターンに一度しか使用できず、このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外でモンスターを特殊召喚できない。

 ①:自分のシンボルポイントを全て消費して発動できる。消費した数一つにつき、自分フィールドに「シンボルトークン」(魔法使い族・光・星4・攻2000/守0)一体を特殊召喚する。

 

 

 界介 SP3→0

 シンボルトークン ATK2000 ☆4

 シンボルトークン ATK2000 ☆4

 シンボルトークン ATK2000 ☆4

 

 

「攻撃力2000のトークンだと……」

「そう言うことだ。まあ、その攻撃力はあまり意味はないけどな」

「何?」

「魔法カード『トークン・カラーズ・チェンジ』を発動。自分フィールドに存在するトークンを全て、炎、水、風、地、いずれかの属性を宣言し、俺が宣言した属性にする。俺は地属性を選択」

 

 

 トークン・エレメント・チェンジ

 通常魔法

 ①:炎、水、風、地属性の内一つを宣言して発動できる。自分フィールドに存在するすべてのトークンは、宣言した属性になる。

 

 

 シンボルトークン 光→地

 シンボルトークン 光→地

 シンボルトークン 光→地

 

「全てだと?」

「そうだ。俺は地属性のシンボルトークン三体をシンボルリリース!」

 

 三体のトークンがシンボルに変わる。

 

「竜の力を得た岩石よ。地の底に湧き上がる怒りを宿し、愚か者が立つ大樹を砕け!」

 

 空間がひび割れていく。

 

「オーディナル召喚!レベル10『鎧王龍リソスフェア・ドラゴン』!」

 

 鎧王龍リソスフェア・ドラゴン ATK3000 ☆10

 界介 SP0→3

 

「レベル10のオーディナルモンスター……」

「俺の四枚の切り札。その一枚さ。リソスフェア・ドラゴンの効果発動。SPをすべて使うことで、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 

 鎧王龍リソスフェア・ドラゴン

 レベル10 ATK3000 DFE2000 地属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 地属性×3

 ①:一ターンに一度、シンボルポイントを全て消費して発動できる。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。この時、相手モンスターの「効果では破壊されない」効果は適用されない。

 ②:このカードが破壊される場合、代わりにシンボルポイントを一つ消費することが出来る。

 『SP3』

 

 

 界介 SP3→0

 

 三体のオーディナルモンスターにブレスが向かっていき。そして破壊した。

 

「く……罠発動『オーディナル・リボーン』!自分のオーディナルモンスターが破壊されたターン中に発動できる。SPを消費することで、一つにつき一体、墓地のオーディナルモンスターを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 

 オーディナル・リボーン

 通常罠

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分のオーディナルモンスターが破壊されたターン中に発動できる。SPを任意の数消費することで、一つにつき一体、墓地のオーディナルモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 和春 SP5→2

 爆炎獣コロナフェンリル ATK2200→3000 ☆8

 爆炎獣ケルベロス    ATK2500→3200 ☆7

 爆炎獣マグマレオパルド ATK2300→3000 ☆7

 

「もう戻って来るのか……」

「どうする?」

「ふーむ……カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「俺のターン。ドロー!」

 

 和春はドローしたカードを見て、苦々しい顔をした。

 

「……降参だ」

「何?」

「このデュエル。降参する」

 

 和春 LP4000→0

 

 お互いに、戦闘ダメージを受けなかったデュエル。

 だが、和春は、ドローしたカード一枚で、敗北を認めた。

 

「……まあ、何か事情があるっていうのなら構わないさ」

 

 モンスターたちも消えて、デュエルは終了だ。

 和春は何も言わずに戻って行った。

 

「最後。一体何を引いたんだろう……」

「……さあな」

 

 誠一郎には一応。心当たりがあった。

 だが、それは今言うべきではないだろう。

 元素四名家の、呪いのようなものだから。

 

「で、界介、何かあるんだろ?」

「ああ。それじゃあ、近くの喫茶店にでも行こうぜ」

 

 界介も、追及するべきでは無いことは理解している。

 だからこそ、何も言わない。

 聖は気になっているようだが……まあ、裏と言うものを一番知らない人間だ。仕方がないだろう。

 

 イベントは近い。

 誠一郎としても、アドリブは多少聞くが、自分だけが台本を持っていないというのは嫌だった。



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十九話

「イベントっていうのが盛り上がるものだとは知っているが、ここまですごいことになるとはな……」

 

 ちょっと前に遊園地に行ったばかりなのだが、それに匹敵するレベル。といっても過言ではないだろう。

 まあ多分、その原因は今持っている『フィールド魔法』にある。

 

 誠一郎はそのカードをとりだした。

 

 

 モンスター・フェスティバル

 フィールド魔法

 このカードはこのカード以外のカードの効果を受けない。

 ①:自分メインフェイズ中、SPを任意の数消費して発動できる。その数一つにつき、プレイヤーはFP(フェスティバルポイント)を1ポイント得る。

 ②:このカードの①の効果で得たポイントは、デュエルが終了しても記録される。

 ③:相手プレイヤーのライフを0にした場合、自分のFPを一つ増やす。

 

 

 全校生徒、及び、この学校に来場している人全員に、このカードが渡されている。

 なお、このFPと言うものだが、今日行われているイベント中の出し物に対してクーポンとして使える。

 FPだけで何かを買う。というシステムにはなっていないが、それでも、人が熱狂するには十分なものだ。

 自身のあるデュエリストは、このシステムに乗っかってデュエルをしている。

 

 で、なぜ誠一郎が一人で歩いているのか。

 その理由はただ一つ。

 

【遊霧誠一郎・FP216】

 

 やりすぎたからだ。

 誠一郎と御堂天音のデュエルのうわさが思った以上に流れているのだ。

 ていうか意図的に流している奴が確実にいる。

 有名税と言うのは本当にあるもので、挑んでくるのだ。

 片手間に倒せるので連続で相手していたのだ。

 で、いつの間にかこうなった。

 

「あ、これ美味いな」

 

 ポイントはたくさんあるが、使えるのは今日だけだ。

 使えるタイミングで使っておかないともったいない。

 まあ、金はそれなりに持っているので、無駄遣いは多少あっても問題はないのだが、だからといって、と言う話である。

 買ってみた焼きそばがうまかったので驚いた。

 

「店のほとんどは火野和春とつながっているはずだが……それなりに良い料理人もいるみたいだな」

 

 金がある上に、アノニマス・トーナメントは控室もいろいろな意味ですさまじい場所だった。

 そんな場所に長い期間いた誠一郎は、いろいろな意味で舌が肥えている。

 

「とはいえ、学生がこのフィールド魔法と連動したことをするって言うのも変な話か」

 

 火野和春が当日に配ったものだが、それだけでは無理な話である。

 

「校舎の中も外もお祭りだなぁ……」

 

 誠一郎は、そうは言いながらも楽しんでいた。

 

 ★

 

 ぶっちゃけ、フィールド魔法に寄るクーポンというのがどれほどの影響を持つのか、と言うことを確認するイベントだったこともあるだろう。

 夜になるまでいろいろと小出ししていたが、やはり、生徒も客も、気になっているのは御堂天音なのだ。

 

「そろそろ私のステージだけど、誠一郎君は待機しててね」

「勿論だ」

 

 イーストセントラルには大きなデュエルアリーナが存在する。

 そこで、天音は歌うことになっている。

 観客席は満杯で、これ以上はいるといろいろと面倒なことになる。

 そのため、カメラで中継して情報を流しているのだが、生で見たい。と言う人が多いのだろう。

 トップアイドルの宿命と言えば宿命である。

 

「それじゃあ、私は言ってくるね」

「ああ」

 

 天音は、そういってステージに向かった。

 

 

 

 御堂天音。というと、清楚なイメージを持っている人は多い。

 

 しかし、それらは、本当の彼女ではない。

 

 だからこそ、新生シルバーオフィスとなった事務所に所属する御堂天音は、輝いている。

 

 隠してきて、今になってさらけ出して、周りを全て振り回す迷惑さ。

 だが、その迷惑さを輝く笑顔で許してもらおうとするあざとさ。

 

 今までのイメージとは違うが、それでも、彼女本人が出ている。

 

 今までは、ステージに身を寄せていた。

 台本通りのものだった。

 

 だが、これからは違う。

 自分を出して、そして、輝くための歌。

 

 あの時のステージでは感じられなかった彼女自身が詰まっていて、誠一郎も、悪くは思わなかった。

 

 

 ……だからだろう。

 前の時代を作っていたシルバーオフィスが、それを否定し、壊そうとしたのは、ある意味、必然だったのかもしれない。

 

 ★

 

 ボルテージが最高に達した時のことだった。

 誠一郎は、表現できない不安を抱えていたが、すぐに跳び出せるように準備をしていた。

 それが功をなした。

 

 アリーナの天井が突如爆発し、ステージに降り注ぐ破片から天音を守ることが出来た。

 

「せ、誠一郎君」

「まさかこんなことをしてくるとはな……」

 

 若干着飾ったような衣装を着ている誠一郎。

 

 見ている人にはわかる強者としてのオーラ。

 そして、とても落ち着いているが、こちらを対等な存在として考えていないかのようなその雰囲気。

 黒衣装を見に包んで、ゴールドアクセサリーで装飾されている。

 はっきり言って『魔王』である。

 

 混乱したような雰囲気がアリーナに包まれる。

 当然だ、サプライズとしてはあまりにも危険だ。

 緊急事態であることは明白。

 アリーナから逃げようとしている人も多い。

 

 まあ、野次馬根性で踏みとどまっている人も多いのだが。

 

「出て来いよ」

 

 溜息を吐きながら誠一郎はそう言った。

 誠一郎はヘッドマイクを付けているので、その音声は大勢に届いている。

 すると、一人の男性が姿を現した。

 

「き……木戸さん」

 

 元シルバーオフィス所属、『フェイクラスター』を考案した男。

 そんじゃそこらのアイドル事務所に左遷されたと聞いているが……。

 

「天音。久しぶりだな」

「どうしてこんなことを……」

「決まっているだろう。お前を取り戻すためだ」

 

 即答する木戸。

 ただし、その目は血走っている。

 正気であるかどうかはともかく、本人だけが原因ではない何かがあったのは間違いない。

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「判断を間違えていた挙句、事務所から追い出されて、取り返すために爆弾なんて仕掛けたら、言い分なんて通るわけないだろ」

「五月蝿い!もとはと言えば貴様の仕業だ!」

「違うな。俺がいる時に、俺が嫌いなことをわざわざやったお前の仕業だ」

 

 自分が関係ないところで起こっていることを、誠一郎もネチネチ言ったりはしない。

 人間と言うのは常に、気が付かない第三者だ。

 どんな正義を持っていようと、助けられるのは、手を広げて、そしてつかめる場所にいる者だけである。

 

「遊霧誠一郎。私とデュエルだ」

「邪魔したうえにまだそんなことを言うのか……」

「どうした。怖いのか?」

「いや、弱い者いじめが好きじゃないだけだ」

「どこまでもバカにしやがって」

 

 木戸はデュエルディスクを構える。

 ……あのデュエルディスク。『ホワイトブランク』を使っていた『リアリティ・テーゼ』と同じだ。

 

「なるほど、カードをもらっていい気になっている訳か」

「私だけではありませんよ」

 

 木戸がそう言うと、サングラスをかけて白衣を着た男性が出てきた。

 

「お前、ハーベリアか」

 

 遺跡探検の時に倒して、そして捕まえたはずだが……。

 

「そうですよ。私も、雪辱を晴らすためにやって来たわけです」

「そうか、なら攻めて言葉遣いを間違えないようにな。雪辱は果たすものだ」

 

 誠一郎はデュエルディスクを取り出す。

 

「どこまでもバカにしてきますね」

 

 ハーベリアがデュエルディスクを構える。

 さて、二人同時に相手してもいいのだが……。

 

「まって、私もする」

 

 天音がデュエルディスクを取り出した。

 

「いいのか?」

「もちろん。それに、私のステージの邪魔をしたんだから、そのツケは払ってもらわないとね」

 

 楽しそうな表情で誠一郎を見る天音。

 誠一郎は溜息を吐きたくなったが、もういいと思うことにした。

 

「タッグデュエルですか……いいでしょう。受けてあげます」

 

 木戸が若干安堵したような表情になったのは気のせいではあるまい。

 何十連敗としたあのデュエルをまだ忘れることができないのだ。

 だからこそ、実力で劣っている天音を巻き込んでデュエルをするということなのだろう。

 

 四人がステージに並んだ。

 

 その雰囲気に、観客も活気を取り戻す。

 確かに、サプライズと言うよりハプニングだ。

 だが、それ以上に、この状況(シチュエーション)は『良い』のだ。

 デュエリストなのだ。もう言葉はいい。

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 誠一郎&天音    LP4000

 木戸 &ハーベリア LP4000

 

「先攻は私です」

 

 ターンの順番は、木戸→誠一郎→ハーベリア→天音の順番である。

 まあ、向こうのデュエルディスクが勝手に決めたことなのだがな。

 

「私の先攻。私は『ホワイトブランク・コア』を特殊召喚!」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

 現れたのは、半透明なコア。

 

「フェイクラスターはどうしたんだ?」

「フン!あんなもの、シルバーオフィスを有名にさせるために考えたものに過ぎない。私はこの力を手に入れたことで、さらなる高みに達したのだ!」

 

 その力を使っているお前の隣にいる奴。以前ワンキルしたはずなんだがな。

 

「ホワイトブランクモンスターをオーディナル召喚する場合。このモンスターは、一体で二体分の素材にできる。私は光属性の『ホワイトブランク・コア』をシンボルリリース!」

 

 形成されていくのは……馬。

 

「オーディナル召喚。レベル8『ホワイトブランク・ホース』!」

 

 ホワイトブランク・ホース ATK3000 ☆8

 木戸&ハーベリア SP0→2

 

「攻撃力3000のモンスター……」

「私はカードを一枚セット。ターンエンドだ。さあ、かかって来るがいい。叩き潰してやる」

 

 木戸……あんなにビビってたのに変わったな。

 

「俺のターン。ドロー!」

 

 手札を見る。

 なるほど。お前たちはそうしたいわけか。

 

「あの人のようにはいかせないぞ。私は永続罠『マジシャンズ・ギアス・フィールド』を発動。フィールドに存在する魔法使い族モンスターは、効果が無効にされ、攻撃は不可能になる」

 

 

 マジシャンズ・ギアス・フィールド

 永続罠

 ①:このカードがフィールドで表側表示で存在する限り、フィールド上の魔法使い族モンスターの効果は無効化され、攻撃できない。

 

 

「魔法使い族メタカード。俺の『クリムゾン・ワイズマン』がずいぶんと嫌いのようだな」

「五月蝿い!さっさとターンを終了しろ!」

「そう言うわけにもいかんな。とは言え……今の俺の役目は、歌姫のエスコートだ。魔法カード『増援』を発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター。『星王兵リンク』を手札に加える。そして、手札を一枚コストにして、リンクを特殊召喚」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして、墓地に送った『星王兵テーゼ』の効果だ。自分フィールドに星王兵モンスターがいる時、特殊召喚できる」

 

 星王兵テーゼ ATK1600 ☆4

 

「リンクの効果により、二体の星王兵を守備表示にして、デッキからレベル8以下のオーディナルモンスターをサーチする。俺は『エスコート・バトラー』を手札に加える」

 

 星王兵リンク ATK1700→DFE1000

 星王兵テーゼ ATK1600→DFE1300

 

「闇属性のリンクとテーゼをシンボルリリース。オーディナル召喚。レベル7『エスコート・バトラー』!」

 

 エスコート・バトラー ATK2800 ☆7

 誠一郎&天音 SP0→2

 

 現れたのは、燕尾服を着た若い男。

 

「……クリムゾン・ワイズマンではないのか?」

 

 それを出すとこのターンで倒しちゃうんだよね。

 

「俺は魔法カード『ディメンション・ライズ』を発動。このターン中に除外された自分のモンスター一体を選択し、そのモンスターの攻撃力の半分を、このターン終了時まで自分フィールドのオーディナルモンスターに加える」

「な……一体いつ……」

「自分の効果で特殊召喚したテーゼは、フィールドを離れる時除外されるんだ」

 

 エスコート・バトラー ATK2800→3600

 

「バトル。エスコート・バトラーで、ホワイトブランク・ホースを攻撃!」

 

 バトラーはナイフをとりだすと、ホースに接近して切り刻み、破壊する。

 

 木戸&ハーベリア LP4000→3400

 

「く……ホワイトブランク・ホースの効果に寄り、このモンスターが破壊された時、墓地のコアを特殊召喚することが出来る!」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

 ドラゴンと変わらない効果だな。

 

「俺はカードを二枚セットしてターンエンド。バトラーの攻撃力はもとに戻る」

 

 エスコート・バトラー ATK3600→2800

 

「私のターン。ドロー!」

 

 ハーベリアのターンだ。

 

「当然、私のデッキも『ホワイトブランク』デッキです。私はホワイトブランク・コアをシンボルリリース。オーディナル召喚!『ホワイトブランク・フェニックス』!」

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000 ☆8

 木戸&ハーベリア SP2→4

 

「フェニックスの効果を発動。SPを一つ使い、墓地のホワイトブランクモンスターを特殊召喚することが出来るのです。私は『ホワイトブランク・ホース』を特殊召喚!」

 

 ホワイトブランク・ホース ATK3000 ☆8

 木戸&ハーベリア SP4→3

 

 

 ホワイトブランク・フェニックス

 レベル8 ATK3000 DFE2000 光属性 鳥獣族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費し、自分の墓地の「ホワイトブランク」モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 ②:このカードが破壊された場合、墓地の「ホワイトブランク・コア」一体を特殊召喚することができる。

 『SP2』

 

 

 

「蘇生効果だったのか……」

 

 あの時は一撃で倒したから効果が分からなかったのだが、これで分かった。

 

「そして、ホワイトブランク・ホースの効果を発動。SPを一つ使い、相手フィールドのモンスター一体の攻撃力を半分にする!」

 

 木戸&ハーベリア SP3→2

 エスコート・バトラー ATK2800→1400

 

 

 ホワイトブランク・ホース

 レベル8 ATK3000 DFE2000 光属性 獣族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:一ターンに一度、SPを一つ消費し、相手モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:このカードが破壊された場合、墓地の「ホワイトブランク・コア」一体を特殊召喚することができる。

 『SP2』

 

 

「なお、この効果は相手ターンでも発動できる。さらに、攻撃力の変動は永続的なものです」

「なるほどな……」

 

 やたらと殺意のある効果だ。

 

「バトル!ホワイトブランク・ホースで、エスコート・バトラーを攻撃!」

「罠発動『クロノス・ゲート』!手札一枚をコストにして、バトルフェイズを強制的に終了する」

 

 

 クロノス・ゲート

 通常罠

 ①:お互いのバトルフェイズ中、手札一枚を捨てて発動できる。バトルフェイズを終了する。このカードがカード効果にチェーンしていた場合、そのチェーンブロックに存在するすべてのカード効果は無効になる。

 

 

「く……私はカードを一枚セット。これでターンエンドです」

 

 そうか……。

 

「私のターン。ドロー!」

 

 天音は勢いよくカードをドローする。

 そして、笑顔になった。

 

「誠一郎君」

「なんだ?」

「思いっきり行ってもいいよね」

「エスコートと尻拭いは任せろ」

 

 デュエルする時に負けてやる気はない。

 だが、今くらいは良いだろう。

 彩里からの入れ知恵だがな。

 

「このスタンバイフェイズ。『エスコート・バトラー』のモンスター効果発動」

 

 バトラーは一礼すると、その姿を消した。 

 

「スタンバイフェイズにエスコート・バトラーをリリースすることで、相手フィールドのセットカード一枚を破壊し、さらに、墓地にある通常魔法一枚を手札に加えることが出来る。天音」

 

 

 エスコート・バトラー

 レベル7 ATK2800 DFE1000 闇属性 悪魔族

 オーディナル・効果

 闇属性×2

 ①:自分のスタンバイフェイズ時、このカードをリリースして発動できる。相手フィールドのセットカード一枚を破壊し、自分の墓地から通常魔法カード一枚を手札に加える。

 『SP2』

 

 

 誠一郎は、『クロノス・ゲート』のコストで墓地に送っておいたカードを天音に渡す。

 

「ありがとう。誠一郎君。私はこの魔法カード『ペイシェンス・リミット』を発動!オーディナルモンスターが墓地に送られたターン中のみ発動が可能。このターン。相手フィールドのモンスターの効果は無効になる!」

「く……」

 

 

 ペイシェンス・リミット

 通常魔法

 ①:フィールド上のオーディナルモンスターが自分の墓地に送られたターン中のみ発動できる。このターン終了時まで、相手フィールドのモンスターの効果は無効になる。

 

 

 これで、ホワイトブランク・ホースの効果で攻撃力が半分になることはない。

 

「私は手札から永続魔法『シュプレヒコール・アドミッション』を発動。発動時の処理として、このカードの効果で、デッキから『シュプレヒコール』モンスター二体を特殊召喚できる。手札の『シュプレヒコール・アクター』と『シュプレヒコール・アクトレス』を特殊召喚!」

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK1600 ☆4

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1500 ☆4

 

 

 シュプレヒコール・アドミッション

 永続魔法

 「シュプレヒコール」永続魔法は、自分フィールドに一枚しか存在できない。

 ①:このカードの発動時の処理として、デッキからレベル4以下の「シュプレヒコール」モンスターを二体選んで特殊召喚する。この効果の発動後、自分はターン終了時までモンスターを特殊召喚できない。

 ②:相手ターン終了時、フィールドのこのカードを墓地に送って発動する。デッキから「シュプレヒコール」カード一枚を手札に加える。

 

 

「さらに、『二重召喚』を発動して、『シュプレヒコール・チャイルド』を二体、通常召喚!」

 

 シュプレヒコール・チャイルド ATK1200 ☆4

 シュプレヒコール・チャイルド ATK1200 ☆4

 

「そしてチャイルドの効果を発動。このカード以外の『シュプレヒコール』モンスターの効果をすべて無効にして、私のフィールドにいる全てのシュプレヒコールモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで500ポイントアップする!」

「な……」

 

 

 シュプレヒコール・チャイルド

 レベル4 ATK1200 DFE1000 風属性 悪魔族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにいる、このカード以外の「シュプレヒコール」モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にして発動する。自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスターは全て、ターン終了時まで攻撃力が500ポイントアップする。

 

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK1600→2100

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1500→2000

 シュプレヒコール・チャイルド ATK1200→1700

 シュプレヒコール・チャイルド ATK1200→1700

 

「ですが、まだ私たちのモンスターには及びませんよ」

「それはどうかな?」

「何?」

 

 ここだな。

 

「俺は罠カード『シンボル・ソング』を発動。このカードの発動後、モンスターの特殊召喚はできなくなるが、俺が持つSP一つにつき、自分フィールドのモンスター全ての攻撃力を300ポイントアップさせて、相手フィールドに存在するモンスターの攻撃力を300さげる」

 

 

 シンボル・ソング

 通常罠

 ①:自分のシンボルポイント一つにつき、自分フィールドのモンスター全ての攻撃力を300ポイントアップさせて、相手フィールドに存在するモンスターの攻撃力を300さげる。このカードの発動後、自分はモンスターを特殊召喚することはできない。

 

 

 シュプレヒコール・アクター   ATK2100→2700

 シュプレヒコール・アクトレス  ATK2000→2600

 シュプレヒコール・チャイルド  ATK1700→2300

 シュプレヒコール・チャイルド  ATK1700→2300

 

 ホワイトブランク・ホース    ATK3000→2400

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000→2400

 

「バカな……」

「まだいくよ。私は手札から、『D.D.クロウ』の効果を使って、あなた達の墓地の『ホワイトブランク・コア』を除外する」

 

 準備完了。

 

「一斉攻撃」

 

 四人の役者が動きだして、不死鳥と馬と倒して、そして、敵を倒す。

 

 一つの舞台が、その場で完成していた。

 

 ★

 

「みんな!ちょっとハプニングがあったけど、私たちはまだまだいけるよ!」

 

 警備員が突入してきて、デュエルに負けてぐったりした木戸とハーベリアを連行していった。

 だが、一回のデュエルがあっただけだ。

 

「というわけで、誠一郎君。もう一回、デュエルしよう」

「いいだろう」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」



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二十話

 誠一郎 LP4000

 天音  LP4000

 

 ステージで始まった一つのデュエル。

 一人の少年が道を作り、一人の少女が成長して生まれたステージで始まる。

 先攻は、天音だった。

 

「私の先攻。手札から魔法カード、『開幕の二重奏』を発動。自分のフィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから『シュプレヒコール』永続魔法一枚を手札に加えることが出来る。私は『シュプレヒコール・アドミッション』を手札に加えて、発動。この二人をデッキから特殊召喚する」

 

 

 開幕の二重奏

 通常魔法

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから「シュプレヒコール」永続魔法一枚を手札に加える。

 

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK1600 ☆4

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1500 ☆4

 

「そして私は、アクターの効果を発動。アクター以外のシュプレヒコールモンスター全ての効果を無効にすることで、次の私のスタンバイフェイズまで、私のシュプレヒコールモンスターは戦闘では破壊されない」

 

 

 シュプレヒコール・アクター

 レベル4 ATK1600 DFE1000 風属性 悪魔族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにいる、このカード以外の「シュプレヒコール」モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にして発動する。自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスターは全て、次の自分のスタンバイフェイズまで、戦闘では破壊されない。

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンドだよ」

「俺のターン。ドロー!」

 

 誠一郎は手札を見て、『いつも通りだな』と感じた。

 どうやら誠一郎のデッキは、このデュエルが面倒だとは思っていないようだ。

 

「俺は『増援』を使って、『星王兵リンク』を手札に加える。手札を一枚コストにして、特殊召喚だ」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして魔法カード『星王の錬成術』を発動。自分フィールドに星王兵モンスターが存在する場合に発動。『星王トークン』を一体特殊召喚だ」

 

 星王トークン ATK0 ☆1

 

 

 星王の錬成術

 通常魔法

 ①:自分フィールドに「星王兵」モンスターが存在する場合に発動できる。自分フィールドに「星王トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。

 

 

「そして、リンクと星王トークンを守備表示にすることで、リンクの効果を発動。『クリムゾン・ワイズマン』を手札に加える」

 

 星王兵リンク ATK1700→DFE1000

 星王トークン ATK   0→DFE   0

 

「やっぱり、星王兵リンクは驚異的だね」

「そう言うデッキなんだよ。俺は闇属性の星王兵リンクと、星王トークンをシンボルリリース。黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

 現れる紅の賢者。

 その瞳には、どれほどの成長をしたのか、それをテストする者の色があった。

 

「クリムゾン・ワイズマンが存在する限り、魔法カードの発動におけるライフコストは不要だ。1000ポイントのライフコストを踏み倒して、魔法カード『序数賢者の秘術』をクリムゾン・ワイズマンを対象にして発動。このターン。対象モンスターが相手モンスターとバトルして、その戦闘で相手モンスターが破壊されなかったダメージステップ終了時、そのモンスターを除外する」

「!」

 

 

 序数賢者の秘術

 通常魔法

 ①:ライフを1000ポイント払い、自分フィールドのモンスター一体を対象にして発動できる。このターン。そのモンスターの攻撃によって相手モンスターが破壊されなかったダメージステップ終了時に発動できる。その相手モンスターを除外する。

 

 

「そして、ライフコスト1500を踏み倒して、魔法カード『序数賢者の心得』をクリムゾン・ワイズマンを他称にして発動。このターン。対象モンスターは相手モンスター全てに攻撃することが可能になり。戦闘で相手にダメージを与えるたびに、カードを一枚ドロー出来る」

「うそ……」

 

 

 序数賢者の心得

 通常魔法

 ①:ライフを1500ポイント払い、自分フィールドのモンスター一体を対象にして発動できる。このターン。そのモンスターはバトルフェイズ時、相手モンスター全てに攻撃でき、戦闘によって相手に戦闘ダメージを与えるたびに、カードを一枚ドロー出来る。

 

 

「バトルフェイズ。クリムゾン・ワイズマンで、アクターとアクトレスを攻撃」

 

 天音 LP4000→3100→2100

 

「秘術の効果で二体は除外され、心得の効果で二枚ドローだ」

「このバトルフェイズ終了時、罠カード『シュプレヒコール・アンコール』を発動。バトルフェイズ中にフィールドを離れたシュプレヒコールモンスターの数まで、デッキから別名のシュプレヒコールモンスターを特殊召喚できる!」

 

 

 シュプレヒコール・アンコール

 通常罠

 ①:相手バトルフェイズ終了時のみ発動できる。このバトルフェイズで自分フィールドを離れた「シュプレヒコール」モンスターの数まで、デッキから別名の「シュプレヒコール」モンスターを特殊召喚できる。

 

 

「フィールドを離れたのは二体。私はデッキから、それぞれ二人目のアクターとアクトレスを特殊召喚!」

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK1600 ☆4

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1500 ☆4

 

「……なるほど、俺はカードを二枚セット。ターンエンドだ」

「ターン終了時、アドミッションの効果が発動。このカードを墓地に送り、デッキから『シュプレヒコール・マーチ』を手札に加える。そして、私のターン。ドロー!」

 

 ドローしたカードを見て、天音は表情を変えた。

 

「永続魔法『シュプレヒコール・マーチ』を発動。このカードが表側表示で存在する限り、私のフィールドのシュプレヒコールモンスターは、攻撃力が400ポイントアップする」

 

 

 シュプレヒコール・マーチ

 永続魔法

 「シュプレヒコール」永続魔法は、自分フィールドに一枚しか存在できない。

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。

 ②:相手ターン終了時、フィールドのこのカードを墓地に送って発動する。デッキから「シュプレヒコール」カード一枚を手札に加える。

 

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK1600→2000

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1500→1900

 

「そして、アクトレスの効果。アクトレス以外のシュプレヒコールモンスターの効果を無効にすることで、相手モンスター一体の攻撃力は、シュプレヒコールモンスター一体につき、ターン終了時まで攻撃力が300ポイントダウンする」

 

 

 シュプレヒコール・アクトレス

 レベル4 ATK1500 DFE1000 風属性 悪魔族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにいる、このカード以外の「シュプレヒコール」モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にして発動する。相手モンスター一体を選択し、ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力を、自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスター一体につき300ポイントダウンさせる。

 

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→1900

 

「なるほどな……」

「バトル!シュプレヒコール・アクターで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃!」

「甘いな。ライフコスト500を踏み倒して、速攻魔法『崩壊した神秘』を発動。相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、フィールドのモンスターの攻撃力は全て、このバトル中、全て元々の攻撃力となる」

「む……」

 

 

 崩壊した神秘

 速攻魔法

 ①:相手モンスターの攻撃宣言時、ライフを500はらって発動できる。ダメージステップ終了時まで、フィールドのモンスターの攻撃力は、元々の攻撃力となる。

 

 

 シュプレヒコール・アクター  ATK2000→1600

 シュプレヒコール・アクトレス ATK1900→1500

 クリムゾン・ワイズマン    ATK1900→2500

 

「反撃しろ。ワイズマン」

 

 天音 LP2100→1200

 

 ライフがかなり減っている天音。

 だが、微笑んでいる。

 

「やっぱり、誠一郎君は、この程度じゃ通用しないか」

「そうだな。なら、どうする?」

「全力で行くだけだよ。私は速攻魔法『唱和の才覚』を発動。戦闘で破壊されたシュプレヒコールモンスターを一体、私のフィールドに特殊召喚する」

 

 シュプレヒコール・アクター ATK1600 ☆4

 

「そして、特殊召喚したモンスターを含めて素材にすることで、オーディナル召喚を行うよ」

「バトルフェイズ中のオーディナル召喚か」

 

 

 昭和の才覚

 速攻魔法

 ①:このターン中に戦闘で破壊された「シュプレヒコール」モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを墓地から特殊召喚して、そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターをリリースして、オーディナル召喚を行う。

 

 

「私は、風属性のアクターとアクトレスをシンボルリリース。心の底から求める真実の夢。風の竜の背中に乗せて、今、響け!」

 

 シンボルが光り輝き、ドラゴンが姿を現す。

 

「オーディナル召喚!レベル8『シュプレヒコール・ドリームドラゴン』!」

 

 シュプレヒコール・ドリームドラゴン ATK3000 ☆8

 天音 SP0→2

 

「……なるほど、このタイミングで出してくるか」

 

 強くなれるわけだ。

 そして、コイツも、天音を選ぶわけだ。

 

「ドリームドラゴンの効果発動。自分の墓地とフィールドから、永続魔法を任意の数除外することで、二つにつき一つ。私のSPを増やす。墓地のアドミッションと、フィールドのマーチを除外して、SPを一つ増やすよ」

 

 天音 SP2→3

 

「そして、ドリームドラゴンの追加効果は、私のSPの数で決まるよ」

 

 シュプレヒコール・ドリームドラゴン

 レベル8 ATK3000 DFE2000 風属性 ドラゴン族

 オーディナル・効果

 風属性×2

 ①:このモンスターのオーディナル召喚に成功した時、自分のフィールドと墓地から永続魔法を任意の数選択して発動できる。選択したカードを除外し、その数二枚につき、SPを一つ増やす。

 ②:自分のSPの数によって、以下の効果を得る。

 ●一つ以上:このモンスターは効果では破壊されない。

 ●三つ以上:自分フィールドのモンスターは、相手の魔法カードの効果を受けない。

 ●五つ以上:このカードがモンスターゾーンで表側表示で存在する限り、相手フィールドのモンスターの効果は無効になる。

 『SP2』

 

 

「それにより、今のドリームドラゴンは、効果では破壊されず、相手の魔法カードの効果を受けない!」

「強固と言えば強固な耐性だ」

「バトル!シュプレヒコール・ドリームドラゴンで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃」

 

 ドリームドラゴンがブレスを構える。

 そしてそれを命じた天音の顔だが……。

 

「通らないことは分かっているみたいだな」

「まだだけどね。でも、いつか、誠一郎君を超えて見せるから」

「楽しみにしておこう。ライフ半分のコストを踏み倒して、速攻魔法『オーディナル・オーバーヒート』を発動。自分フィールドのオーディナルモンスター一体を攻撃力を倍にする。ターン終了時に破壊されるがな」

 

 

 オーディナル・オーバーヒート

 速攻魔法

 ①:ライフを半分払い、自分フィールドのオーディナルモンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力は倍になり、ターン終了時に破壊される。

 

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→5000

 

「クリムゾン・ワイズマンの反撃。『オーバーロード・クリムゾン・ビジョン』!」

 

 圧倒的なエネルギーを集約させる杖を振って、ドリームドラゴンを倒した。

 

 天音 LP1200→0

 

 勝者。遊霧誠一郎。

 

 ★

 

「強かったよ。誠一郎君」

「当然だ」

 

 誠一郎はフッと笑った。

 

「あと、残すところ、このステージでの歌は一つだけなんだ。だから……一緒に歌ってくれる?」

「いいだろう」

 

 ちらほらと、本人が連絡してきていたからな。

 それくらいなら。構わない。

 

 誠一郎は、トップアイドル、御堂天音とともに、綴った。



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二十一話

 いろいろな意味で日常に戻った誠一郎たちだが、それでも、やることは多かった。

 

「俺個人のやることが増えたな……」

「お兄ちゃん。今回で散々暴れたもんね」

「しかも、デュエルするとなれば基本的に手は抜きませんからね……」

 

 ここ数日でかなり目立った誠一郎。

 実力があるのは確かだし、大会荒らしまでやったのだ。

 しかも、明らかに手を抜いていたことが分かるステージでのデュエルを除けばすべてパーフェクトである。

 いろいろなところから呼ばれるのも確かだし、スポンサー契約を済ませておきたいという会社も多い。

 言ってしまえば内定が確定しているといえる。

 

「しかも、その影響が私たちにもあるのよね……」

 

 彩里がそうつぶやいた。

 誠一郎の妹である刹那、従者であるフォルテ、交際中の彩里も例外ではない。

 誠一郎の実力の一端を持つと言われているのだ。

 とはいえ、やろうと思えば、誠一郎が持つ精霊力を詰め込んだデッキを作ることも可能であり、それを使うだけでもそんじゃそこらの奴には負けない。とは言え、癖の強い感じになるのは避けられないが。

 

「それにしても、天音ちゃんも強くなったね」

 

 彩里はタブレットに映る天音の記事を見ている。

 誠一郎に敗れた天音だが、そこからの戦績は良かった。

 ステージの回数も多くなったそうだが、誠一郎と回ったような自由時間も多くなったらしい。

 振り回されるスタッフには合掌である。

 

「そうだな」

 

 誠一郎はその記事を見て、人はカードで変われるものだと思った。

 

「さて、そろそろ行く時間だな」

 

 誠一郎は立ち上がると、全員が立ち上がって、学校に向かって歩きだした。

 

 ★

 

 放課後。

 誠一郎にもいろいろと人脈はある。

 今日は、その中の一つに寄っていた。

 

 学校から少々離れたところにある研究所。

 出入り口には二人の警備員が立っているが、誠一郎を見ると、即座に道を開ける。

 研究所の所長の知り合いであり、さらに言えば、資金的に言ってもスポンサーである誠一郎を止める理由はないし、仮に暴れたとしても誠一郎を止めることなどできないので、即座に開けるのだ。

 受付に行って、女性に確認する。

 

(あきら)は今はどこにいるんだ」

「第三研究室にいます」

「わかった」

「こちらがパスになります」

 

 それだけで会話終了。

 誠一郎はカードを受け取って、研究所の中を歩く。

 途中で白衣を着た研究員が歩いているが、誠一郎を見ると軽く礼をしている。

 

 誠一郎の影響力と言うのは、大きいところでは本当に大きいのである。

 

 第三研究室と書かれたドアの前に立つと、パスを当てて開錠した。

 自動で開いていく扉の向こうには、様々な計測器がおかれている。

 

 そして、三台並んでいるディスプレイの前で、ボサボサの黒髪と白衣が特徴の少年が唸っていた。

 

「晶。来たぞ」

「……………………………ん?」

 

 かなり長い沈黙があったが、少年はこちらを向いた。

 目の下に隈がある顔で、最近あまり寝ていないのがよく分かる。

 かなり痩せているが、いつも通りだ。

 

「ああ。誠一郎か。と言うことは前から二週間たっているんだな」

「相変わらずお前の時間の認識方法はいかれてるな……」

「ほとんどの工程に『待つ』と言うことを要求される実験が多いものでね」

 

 川下晶(かわしもあきら)

 今いる研究所の研究員の一人で、デュエリストとしては、誠一郎の弟子の一人。

 現在は、ノースセントラルに通っている。

 いや、在籍しているだけでほとんど通っていないか。

 

「で、分かったことはあるか?」

「リアリティ・テーゼが狙っているカードのことだったな。資料はそこにまとめてる」

 

 そういって晶が指差した先には、大量のお菓子の袋があった。

 

「……」

 

 誠一郎はその山を崩していくと、ファイルが出てきた。

 しかもファイルも大量にあった。

 

「……」

 

 誠一郎は少しイライラしていた。

 そのファイルも、何も目印がない。

 全て無地なのだ。どうやって見分けろというのだろうか。

 中身を確認しながら開いていき、三つ目が該当書類だった。

 

「お前、これ、いつ作ったんだ?」

「……さあ?」

 

 時間の感覚が違う奴に対して『いつ』という質問をした誠一郎もある意味で間違っている気がしたが、この男も大概である。

 

「……『神のカード』か」

「具体的には、『抜け殻の神の再生』と言ったところだろうね」

 

 五枚存在するらしい『神のカード』は、そのすべてが、三つの強力な効果を持っている。

 

「三種類の強力な効果を分割して封印しているのが、このデュエルスクールエリアの役割のようだ。リアリティ・テーゼはそれを狙っていて、それぞれに存在するデュエルモンスターズの名家がそれを防ごうと動いている。というのが、『裏』での動きらしい」

「晶はどう思っているんだ?」

「どんなカードだったとしても君は倒してしまうんだ。調べても無駄」

 

 それを言うと物語が終わってしまう。

 

「……」

「ただ、リアリティ・テーゼは君を回避して動く可能性もあるだろうし、止める意味はあるだろうね」

「まあ。言いたいことはよくわかった」

 

 誠一郎は近くの椅子に座った。

 

「そう言えば、晶はどれくらいデュエルしてるんだ?」

「腕が錆びない程度に」

「要するに上達はしていないのか……」

「それよりも研究だからね」

 

 晶の言い分に、誠一郎は溜息を吐いた。

 

「まあいいや。だが、デュエルを一回だけやろうぜ」

「ん?ああ、そうだね」

 

 晶は近くのアタッシュケースからデュエルディスクを取り出した。

 

 近くにおいている。と言うことは、最近触っている。ということだ。

 晶はそういう人間である。

 誠一郎は少しうれしくなった。

 

 

 晶は、研究所『DEラボ』の中では主任研究員として多くのプロジェクトに参加しているが、デュエルの回数は少ない。

 研究員の中でも、デュエルを見たいと言う人間は多かったようだ。

 

「あまりギャラリーが多いのは好きじゃないんだけど……まあいっか」

 

 だるそうにデュエルディスクを構える晶。

 相変わらずだが、それでも、デュエルの腕は下がっていないだろう。こいつはコイツでプライドが高いのだ。

 

 誠一郎もデュエルディスクを構える。

 

「さて、師匠。一戦やろうか」

「ああ」

 

 お互いにカードを五枚引いた。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP4000

 晶   LP4000

 

「先攻と後攻。どちらがいい?」

「師匠に先攻を渡したくないなぁ。僕のターンからだ」

 

 晶は一枚のカードを手に取った。

 

「まずはフィールド魔法『バクテリアラボ』を発動」

 

 デュエルコートが、一転して研究所のような雰囲気になる。

 

「ほう……」

「発動時の処理として、デッキから『バクテリアコロニー』一体を特殊召喚できる」

 

 

 バクテリアラボ

 フィールド魔法

 ①:このカードの発動時の処理として、デッキから「バクテリアコロニー」一体を特殊召喚する。

 ②:自分スタンバイフェイズ時に発動する。デッキから「細菌兵装」カード、または「覚醒水」カード一枚を手札に加える。

 ③:一ターンに一度、自分の墓地、または装備カード扱いになっている「バクテリアコロニー」一体を、自分フィールドに特殊召喚することが出来る。この効果は、このカードの①の効果を使ったターンに発動出来ない。

 

 バクテリアコロニー DFE0 ☆1

 

 出現したのは、水色に集まる細菌たち。

 見た感じ強そうではないし、実際に強くはないが、ここからの汎用性が真骨頂。

 晶のデッキのキーカードである。

 レベル1で、攻守0の通常モンスターだが、サポートカードが豊富だ。

 

 

 バクテリアコロニー

 レベル1 ATK0 DFE0 水属性 水族

 小さな細菌たちの集合体。

 集まっても小さな力しかないが、水に溶け込んだり、機械に侵入することで、その力を発揮する。

 

 

「カードを一枚セットして、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 

 さてと……。

 

「俺は手札一枚を捨てて、『星王兵リンク』を特殊召喚」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

「そして、墓地の『星王兵テーゼ』の効果発動。自分フィールドに星王兵モンスターが存在する時、墓地から特殊召喚できる。まあ、この効果で復活したテーゼは、フィールドを離れる時除外されるけどな」

 

 星王兵テーゼ ATK1600 ☆4

 

「リンクとテーゼを守備表示にすることで、リンクの効果を発動。デッキから、レベル8以下のオーディナルモンスター一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは、『クリムゾン・ワイズマン』だ」

 

 晶の表情が変わった。

 さすがに、誠一郎のエースを警戒しないわけではない。

 

「そして、闇属性のリンクとテーゼをシンボルリリース。黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

「さて、晶。どこまで食らいつけるか試してやる。魔法カード『序数賢者のナイフスキル』を発動。ライフを1000ポイント払う必要があるが、それを踏み倒して、相手モンスター一体を破壊する」

 

 

 序数賢者のナイフスキル

 通常魔法

 ①:1000ポイントのライフをはらい、相手モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

 

「通さないさ。罠モンスター『細菌兵装シャワーユニット』を発動。バクテリアコロニーを装備しつつ。このモンスターを守備表示で特殊召喚する」

 

 細菌兵装シャワーユニット DFE2000 ☆4

 

 シャワーが付いた箱が出現し、バクテリアコロニーが入って行く。

 すると、起動し始めた。

 

「これで、ナイフスキルの効果は不発になる。そして、シャワーユニットがバクテリアコロニーを装備している時、相手フィールドのレベル5以上のモンスターは攻撃できない」

 

 

 細菌兵装シャワーユニット

 永続罠

 ①:自分フィールドの「バクテリアコロニー」を一体を対象として発動できる。このカードは発動後、効果モンスター(機械族・地属性・星4・攻0/守2000)となり、モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚する。その後、対象の表側表示モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードは罠カードとしても扱う。

 ②:このモンスターが「バクテリアコロニー」を装備している時、相手フィールドのレベル5以上のモンスターは攻撃できない。

 

 

「2000のライフコストを踏み倒して、魔法カード『序数賢者の慧眼』を発動。デッキからカードを二枚ドローして、その二枚が、モンスター、魔法、罠の三種類で見て同じ種類のカードだった場合、ターン終了時まで、自分フィールドのオーディナルモンスターは相手のカード効果を受けない」

 

 

 序数賢者の慧眼

 通常魔法

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:2000ポイントのライフをはらって発動できる。デッキからカードを二枚ドローし、カードの種類(モンスター、魔法、罠)が同じだった場合、ターン終了時まで自分フィールドのオーディナルモンスターは相手のカードを効果を受けない。

 

 

「二枚ドロー。俺がドローしたのは『序数のバリア -オーディナルフォース-』と『序数賢者の領域』。どちらも罠カードだ。これで、俺のワイズマンは、シャワーユニットの効果を受けない」

「な……」

「クリムゾン・ワイズマンで、シャワーユニットを攻撃。『クリムゾン・ビジョン』!」

 

 ワイズマンの攻撃で、シャワーユニットが破壊される。

 

「俺はカードを二枚セット、ターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー!スタンバイフェイズ。『バクテリアラボ』の効果が発動。デッキから『覚醒水ブレイジウム』を手札に加える」

「ほう……」

「そしてメインフェイズ、バクテリアラボの効果で、墓地のバクテリアコロニーを特殊召喚」

 

 バクテリアコロニー DFE0 ☆1

 

「そして魔法カード『覚醒水ブレイジウム』を発動。自分フィールドのバクテリアコロニーは、炎属性になる。そしてこのターン。炎属性のバクテリアコロニーオーディナルモンスターを、デッキからオーディナル召喚できる」

「バクテリアコロニーの真骨頂だな」

 

 

 覚醒水ブレイジウム

 通常魔法

 「覚醒水」と名の付いたカードは一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドの、全ての「バクテリアコロニー」の属性は炎属性になり、この効果を使ったターン終了時まで、デッキのオーディナルモンスターをオーディナル召喚できる。

 

 

「僕は炎属性のバクテリアコロニーをシンボルリリース。オーディナル召喚!レベル5『バクテリアコロニー・ブレイズ』!」

 

 バクテリアコロニー・ブレイズ ATK0 ☆5

 晶 SP0→1

 

「ブレイズの効果発動。相手モンスター一体を対象にして、そのモンスターを攻撃力と同じにする」

 

 バクテリアコロニー・ブレイズ ATK0→2500

 

 

 バクテリアコロニー・ブレイズ

 レベル5 ATK0 DFE0 炎属性 水族

 オーディナル・効果

 炎属性×1

 このカードは「覚醒水」魔法カードが発動されていないターン中、オーディナル召喚はできない。

 ①:このモンスターは戦闘では破壊されない。

 ②:一ターンに一度、相手モンスター一体を対象にして発動できる。このカードの攻撃力は、そのモンスターの攻撃力と同じになる。

 『SP1』

 

 

「なるほどな。バクテリアコロニーオーディナルモンスターは、戦闘で破壊されない共通効果を持っている。だが、分かっているよな」

「さすがの僕も、伏せカードを警戒しないわけではない。魔法カード『ハーピィの羽根箒』を発動。魔法、罠を全て破壊する」

「やるなぁ……」

 

 全て破壊された。

 

「バトル。バクテリアコロニー・ブレイズで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃」

「……だが、その程度では俺のワイズマンは越えられない。墓地の『序数賢者の領域』の効果を発動。墓地のこのカードを除外することで、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘、効果では破壊されない」

 

 

 序数賢者の領域

 永続罠

 ①:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘では破壊されない。

 ②;墓地のこのカードを除外して発動できる。ターン終了時まで、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘、効果では破壊されない。

 

 

 ブレイズは燃え上がった何かを放出するだけで終わった。

 お互いに戦闘で破壊されないのだから当然である。

 

「僕はカードを一枚セットして、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー……一応言っておくが、このターンで終わるぞ」

「!」

 

 晶が気を引き締める。

 だが……。

 

「俺を相手に気を抜かない方がいいのは、今に始まったことじゃないんだがな。SPを1つ使って『ゼロ・クライシス』を発動。ブレイズの攻撃力を0にする」

「しまった……」

 

 バクテリアコロニー・ブレイズ ATK2500→0

 

「そして、『一騎加勢』『サイクロン』を使い、攻撃力を上げて、セットカードを破壊する」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→4000

 

「あっけなかったな。クリムゾン・ワイズマンで、バクテリアコロニー・ブレイズを攻撃、『クリムゾン・ビジョン』!」

 

 晶 LP4000→0

 

 一ターン長くなっただけ、ほぼワンショットキルだ。

 

「なんか。あっさり負けちゃったな」

 

 晶はうなだれているが、誠一郎のデュエルはシンプルなものだ。

 ただし、マストカウンターは決まっているが、仮に止めたとしても反撃してくるのが誠一郎と言う男である。

 

「まだまだ精進することだな」

「……わかったよ。師匠」

 

 晶は溜息を吐いて、誠一郎は微笑んでいた。



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二十二話

「地下デュエルでホライトブランクを見つけた?」

『そう言う報告が多いみたいだぜ。どうするんだ?誠一郎』

 

 どこに投資するかの情報を集めていた時、界介が発見して、誠一郎に電話してきた。

 別に、誠一郎もすべてが分かるというわけではないし、判断ができるというものでもないのだが、それでも、一応報告してくる人間はそれなりにいる。

 界介はその一人だ。

 というより、弟子たちがそれに該当するのだが、一応言うと、まじめな方である。

 

「手に入れることはできるか?」

『それなりに金を積めば手に入れることはできるだろうけど、ホワイトブランクって、リアリティ・テーゼが作ったもんだろ?流通枚数もかなり少ないはずだ。コレクターなら一部の連中は持ってるかもしれないが、可能性は低いぞ』

「だよなぁ……わかった。まあ、そっちでも続けて情報だけは集めておいてくれ」

『わかった』

 

 通話終了。

 誠一郎は界介から相談されたないように疑問を持った。

 

「……流通し始めた……いや、まだ地下デュエルだけだから、表に出すつもりはないが、リアリティ・テーゼから離れたことは間違いないか」

 

 こういうときは……と言った表情で、誠一郎は電話番号を打ち込む。

 誠一郎は連絡先が非常に多いのだ。

 いちいちリストから探すのは面倒なので、番号の方を覚えているのである。はっきり言って頭がおかしい。

 コールは一回でつながった。

 

『はいはーい。せいちんが電話してくるなんて珍しいねぇ』

 

 陽気な感じの少女の声が聞こえた。

 

「……相変わらず元気みたいだな。葉月」

『もっちろーん!で、売人(ディーラー)である私に対して電話してきたんだし、何かご注文はあるのかな?』

「ホワイトブランクだ」

『……なるほどね』

 

 電話の向こうの声に真剣さが宿る。

 

「持ってるか?」

『もちろん。そういったカードも取り揃えてるよ。ただ、在庫は少ないんだよね』

「デッキ一つ分ならいくらするんだ?」

『うっは……すごく攻めるね。どうせあっくんにでも預けるんでしょ?』

「よくわかってるじゃないか」

 

 ホワイトブランクについてはまだ謎が多い。

 研究者である晶なら、預けておけば何か分かる可能性もある。

 

『ふーむ……分かった。後でせいちんに郵便で請求書を送るよ。今すぐには金額を出せないからね』

「まあ、それならそれでかまわんが……あ、アイツ切りやがった」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「なんだろう。言い値で買うって感じになってしまったな」

 

 次の日、請求書が郵便で来たわけだが……。

 予想の三倍くらいの金額であった。

 具体的な数字は言わない。

 ただ、誠一郎が肩をすくめた。とだけ言っておこう。

 

 ★

 

「で、手に入れたカードがそれと」

 

 晶が呆れた様子で誠一郎を見る。

 

「そうだ」

 

 誠一郎は、再びDEラボを訪れていた。

 そして、先日手に入れたデッキを渡す。

 晶はそれを一枚ずつ確認した。

 

「何か分かるか?」

「まず第一に言えるのは、『薄い』ということかな」

「薄い?」

「多くのカード……特にオーディナルモンスターがそうなんだけど、情報的にというか、いろいろな意味で重さがあるはずなんだけど、これらのカードはすごく薄い」

「ふむ……」

 

 ホワイトブランクを使ったデュエルを思い出す。

 なんというか……。

 

「コアがないとあまり動けない感じだな」

「そのコアのカードも、あくまでシステムの一部であって、別に重さがそこまであるわけじゃない」

「結果的に抜け殻になったのか?」

「いや、抜け殻くらいならなりそうな材料を集めて作ったようなものだね」

 

 晶がデッキを返してきたので、誠一郎は受け取る。

 

「それであんな感じのデュエルになるのか……完成したらどうなるんだろうな」

「それはわからない。ただ、僕は興味がないからね」

 

 晶は再び、自分が見ていた試験管を観察し始めた。

 そして、数秒後に熟睡した。

 

「……」

 

 誠一郎は思考を放棄して、その場を後にした。

 

 ★

 

「結局、よくわからん」

「だめじゃん……」

 

 家に帰ると彩里があきれていたが、別に否定はしない。

 

「誠一郎様。これからどうするのですか?」

「実はまだ決めてないんだよな……」

 

 誠一郎は基本的に後手に回るタイプだ。

 

「お兄ちゃんってやっぱりノープラン……」

 

 刹那が何か残念なものを見るような視線を向けてくるが、誠一郎はそんなことは気にしない

 

「ふむ、特に決まっていないのなら、あれをするべきだね」

 

 彩里はとても笑顔だ。

 

「……あれってなんだ?」

「それはね。強化合宿だよ!」

 

 手作りっぽいパンフレットを取り出しながら彩里が言う。

 

「……強化合宿?」

「そうよ。これからとても強いモンスターを相手にする可能性がある。それなら、専門のプランを組んで、それで挑むほうがいいよ」

 

 誠一郎は基本情報を確認する。

 

「場所が南の孤島なんだな」

「そうよ。イーストセントラルから少し離れて考えるのが一番だからね」

 

 学校の近くだと学校のことがどうしても思い浮かぶからな。そういうものなのだろう。

 ……彩里にとっては。

 

「で、本音は?」

「ビーチに広がる砂浜、そこに行けば水着は必需品。そうなれば、刹那ちゃんのビキニ姿を合法的にいじれるのよ!」

 

 本人を目の前にしてなんてことを。

 

「賛成します!」

 

 そして湧いて出てくる聡子。

 元素四名家だというのにこれはひどい。

 

「むうううううう!絶対に行かないもん!」

 

 プイっと顔をそむける刹那。

 

(……知ーらねっと)

 

 誠一郎は安定の報知であった。ひどい兄貴である。




 次回、僕の欲望が爆発する!
 ……あ、R-18にはしないので大丈夫です。はい。


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二十三話

「海だああああああ!……あれ、みんな乗ってくれないの?」

 

 海で大はしゃぎする天音。

 その姿は紫のビキニである。

 

「俺は海ではしゃぐ性格じゃないしな」

「私は海は慣れてるわよ」

「はしゃぐほど私は子供ではないので」

「大声出すの無理です」

「思ったより疲れるわよ。それ」

「楽しいとは私も思いますけど」

「僕はそんなことで一々テンションなど上げない」

 

 誠一郎、彩里、フォルテ、刹那、聖、聡子、宗達の七人からフルボッコにされる天音。

 ちなみに、女性陣は全員ビキニで、彩里は黒、フォルテは黄色、刹那は白、聖は赤、聡子は水色だ。

 どうでもいいが、誠一郎は赤のボクサーパンツのようなもので、宗達は黒のラッシュガードである。

 

「みんなしてそんなこと言わなくていいじゃん……」

 

 急にいじける天音である。

 まあ、なんだ。美少女が海で戯れるというのも悪くはないものだ。

 

(久しぶりに来たな。ここ)

 

 誠一郎は、ここに来るまでの経緯を思い出していた。

 

 彩里が海に行きたいと言いだして、皆予定がなかったので行くことになった。

 刹那が最後まで反対していたが、彩里が賛成で、誠一郎とフォルテは棄権。

 だが、ここで彩里は、聡子に電話したのだ。

 当然のことながら、聡子は賛成。

 

 刹那は誠一郎とフォルテの懐柔を始めたが、はっきり言ってこう言うときの彩里は手に負えないのでスルー。

 結果的に行くことになった。

 

 海に行く。と言ったものの、実質は強化合宿。

 その話を聞いた宗達が話に入ってきて、どこから聞きつけたのか天音が参加。

 誠一郎はツッコミ役を求めて聖を説得。今に至るということだ。

 

 ちなみに、砂浜はとてもきれいで、海も透明度が高くリゾート地にすごく適しているが、誠一郎の私有地である。

 

「刹那ちゃん。サンオイル塗ってあげるよ」

「嫌!」

 

 彩里がギラギラした目で刹那を見る。

 ダッシュで海に逃げようと走りだす刹那だが、簡単に捕まった。

 スポーツ全能の彩里に対して、単にバランス感覚がいいだけの刹那では抵抗など不可能である。

 

「んっ!ちょっ。変なところ触らないで!」

「ムフフフ……ここまで無防備な刹那ちゃんは普段は見ないからねぇグフフフ」

 

 女子が出してはいけないような黒い笑みと声で刹那の体をまさぐり始める刹那。

 

「あっ!……うんっ!」

 

 敏感なところを触られるたびに喘ぎ声を出す刹那。

 

「フフフ、もう私も我慢できません!」

 

 聡子も参加。

 

「い、いやあああ!」

 

 刹那の悲鳴が響く。

 だが安心したまえ、ここは誠一郎の私有地、関係者以外は誰もいないのだ。

 

「一体何がしたいんだあのバカは」

「ラッシュガードなんて着て一番ガードが堅いお前が言ってもなぁ」

 

 興味がないとばかりに、表情を変えず波を見る宗達に対して、誠一郎は呟く。

 

「あ、なんか天音も混ざり始めた」

「いじると面白いからじゃないの?」

 

 聖が溜息を吐きながらそう呟く。

 見方がいないのはいつも通りだが、まあ、小動物的な雰囲気で生まれてしまった刹那の運命である。

 

「平和ですね」

「フォルテ、この状況でそれを言える君の神経、太すぎるだろ」

 

 何かを悟ったような、そんな顔をフォルテはしていた。

 

 ★

 

 海と言うのは発想力があれば意外と遊べるもので、単純に泳ぐのはもちろん、砂浜で城や空母(!?)を作ったり、ボードがあればサーフィンも行ける。

 なお、泳ぐのは当然とばかりに誠一郎が一番。二番が彩里だった。

 まあ、このあたりは安定である。と言うか化け物である。

 

 あと……胸って浮くのだ。

 刹那は泳げないが、溺れないのだ。

 バストサイズだけで言えばこの中で一番すごいのである。

 

 ちなみに宗達も泳げなかった。意外とクールにこなしそうな雰囲気があったのだが、そんなことはなかった。

 

「ひっく……ぐすっ……」

 

 シャワーも浴びていろいろながした後、別荘に入った誠一郎たち。

 なのだが、刹那だけは部屋の隅の方で泣いていた。

 いじられ過ぎて精神にダメージがあったのだ。

 フォルテが『ダメージ・ワクチンΩMAX』を使うような感じで慰めている。ディアン・ケトでは足りません。

 

「で、そもそもの目的は合宿だからね。デュエルするんでしょ?」

「そうなるな」

 

 あくまでもそうなのだ。それをしないと単に遊びに来ただけになってしまう。

 そうなると、泳ぐのが苦手で、合宿だから付いてきた宗達が怒りだすだろう。

 

「で、誰と誰がする?」

「くじで決めよう!」

 

 どこから取り出したのか、彩里が割り箸をとりだした。

 八本ある。

 

「赤く塗っている箸が二本だけあるから、その二人がデュエルする。これでいいかな」

 

 全員が頷いた。

 というわけで……。

 

「あたった」

「む……」

 

 宗達と刹那というカナヅチコンビが引いた。

 

「……まあ、引いたんだし、二人でやってみなよ」

 

 と言うわけで、デュエルコートに移動する。

 

 ★

 

 別荘の近くにはデュエルアリーナが存在する。

 それはそれなりに広いもので、なんでこんなものを立てたのか自分でも思いだせないが、とりあえずあるのだ。

 

「ちょっと待て、なぜギャラリーが多いんだ」

「当たり前だろ。この広さの施設を俺達だけで回せるわけないだろうが……」

 

 多くの使用人がいるのだ。

 彼らの仕事は、誠一郎が保有するリゾート地を転々として、何時でも使用可能な状態にしておくことである。

 意外と使用回数が多いのだ。弟子たちがそれなりにいるので。

 

「まあいい。いつも通りデュエルするだけだ」

「負けないもん!」

 

 クールな様子でデュエルディスクを構える宗達に対して、両手を腰に当てて「ふんす」と言った雰囲気の刹那。

 客席からは本当に小動物でも見るかのような、そんな空気が充満する。

 誠一郎は『ヤベエよだれ出てきた』というのを誰かが言ったような気がしたが、あえて聞き流すことにした。

 

 そうしている間に、二人がデッキからカードを五枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

 刹那 LP4000

 宗達 LP4000

 

 先攻は刹那。

 

「私の先攻。手札から『MJ(モーメントジェット)メタル』を召喚!」

 

 盾をとりつけた戦闘機が出現する。

 

 MJメタル ATK1900 ☆4

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド!」

「僕のターン。ドロー」

 

 宗達は一瞬だけ伏せカードを警戒するそぶりを見せたが、すぐにカードを使い始める。

 

「僕は手札から魔法カード『リグレット・トレード』を発動。手札の『リグレット』モンスター一体をコストに、デッキからカードを二枚ドローする」

 

 

 リグレット・トレード

 通常魔法

 ①:手札の「リグレット」モンスター一体を捨てて発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「そして、墓地に送った『リグレット・カウント』の効果。自分フィールドにカードがない時、500ポイントのライフをはらうことで特殊召喚できる」

 

 宗達 LP4000→3500

 リグレット・カウント ATK2400 ☆7

 

「そして、カウントが自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキから、このカードよりも低いレベルのリグレットモンスターを手札に加えることが出来る。僕は『リグレット・バロン』を手札に加える。そして、リグレット・バロンがドローフェイズ以外で手札に加わった場合、特殊召喚して、相手フィールドのモンスター全てにリグレットカウンターを置くことが出来る」

 

 リグレット・バロン ATK2000

 MJバリア RC0→1

 

 

 リグレット・カウント

 レベル7 ATK2400 DFE1500 闇属性 戦士族

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、500ポイントのライフをはらって発動できる。墓地のこのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れる場合、除外される。

 ②:このカードが、このカードの①の効果に寄って特殊召喚に成功した時発動できる。デッキから、このカードよりもレベルが低い「リグレット」モンスター一体を手札に加える。

 

 

「む……」

 

 ここまで、実質的に手札消費はゼロだ。

 だが、宗達の場には、攻撃力2400の2000のモンスターがいる。

 しかも、リグレットカウンターもしっかりおいている。

 

 観客席では誠一郎たちが唸っていた。

 

「……あのカウントってカード、強いな」

「そうね。墓地にさえ送れば、自身の特殊召喚とサーチを行える。それでいて、もともとサーチカードと相性抜群のバロンもいる。それなりに強力なデッキね」

 

 誠一郎の呟きに対して、彩里が頷く。

 パワーカード。と言えるだろう。

 自分フィールドにモンスターがいないことを条件とするモンスターはそれなりに多いが、カウントはその中でも汎用性が高い。

 

 宗達はバトルフェイズに入ることにしたようだ。

 

「バトルフェイズ。リグレット・カウントで、MJメタルを攻撃!」

「MJメタルが攻撃表示の時、戦闘では破壊されない!」

 

 

 MJメタル

 レベル4 ATK1900 DFE200 光属性 戦士族

 ①:このモンスターが攻撃表示の時、戦闘では破壊されない。

 

 

「だが、ダメージは受けてもらう。そして、バロンも攻撃だ」

「む……」

 

 刹那 LP4000→3500→3400

 

 戦闘破壊耐性。

 それはそれなりにダメージを抑えることができるものだ。

 

「……僕はカードを一枚セット。ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 

 刹那はドローしたカードを見て頷いた。

 いいカードを引いたようである。

 

「罠カード『モーメント・オブジェクション』を発動。フィールドにいるMJと同名モンスターをデッキから特殊召喚する!」

 

 もう一体のメタルが飛んできた。

 

 MJメタル ATK1900 ☆4

 

「来るか」

「私は光属性のメタル二体をシンボルリリース。竜の核を宿し、刹那を超えて飛翔せよ!オーディナル召喚!レベル7。『MJ《モーメントジェット》ギガドラゴン』。Takeoff!」

 

 MJギガドラゴン ATK2500 ☆7

 刹那 SP0→2

 

「ギガドラゴンか」

「効果発動。SPを一つ使って、相手フィールドの魔法、罠を二枚まで選択して手札に戻す!」

 

 宗達のセットカードが手札に戻る。

 

「そして、バトル!MJギガドラゴンで、リグレット・カウントを攻撃!モンスターとのバトルを行うとき、相手に与える戦闘ダメージは倍になる!」

 

 宗達 LP3500→3300

 

「……」

「私はこれで、ターンエンド!」

 

 『フフン』と言いたそうに胸を張る刹那。

 大きな胸が揺れるが、やはりそこは刹那。色っぽさは薄く、小動物っぽさしかない。

 

「……なんというか、君が大人になる日は遠いんだな。と僕は思う」

「むううううううう!」

 

 両手を突き上げて怒りを表す刹那。

 だが……確かに、遠いようだ。

 

「僕のターン。ドロー。僕は闇属性のリグレット・バロンをシンボルリリース」

「え!?」

 

 刹那が驚く。

 刹那の頭の中では、宗達が使うオーディナルモンスターは、あのドラゴンしかいなかったのだ。

 

「何を驚いている。確かに、ギルティアイズは僕のエースモンスターだが、他にオーディナルモンスターが入っていないとは一言も言っていない」

「む……」

「小さな想定外はたくさんあるものだ覚えておくといい。後悔におぼれる魔の貴族よ、自責の(つるぎ)を振るい、活路を開け」

 

 シンボルが騎士になる。

 

「オーディナル召喚、レベル6『リグレット・ニアガード』!」

 

 リグレット・ニアガード ATK2500 ☆6

 宗達 SP0→1

 

「レベル6のリグレットモンスター……」

「ほう、初見で考え着いたみたいだな。君が考えた通り、このモンスターはリグレット・カウントの効果でサーチ出来る。覚えておくといい。あと、ニアガードの効果により、僕のフィールドのリグレットモンスターは、戦闘では破壊されない」

「!」

 

 

 リグレット・ニアガード

 レベル6 ATK2500 DFE1000 闇属性 戦士族

 オーディナル・効果

 闇属性×1

 ①:このモンスターがフィールドに存在する限り、自分フィールドの「リグレット」モンスターは戦闘では破壊されない。

 『SP1』

 

 

「バトルフェイズ。リグレット・ニアガードで、ギガドラゴンを攻撃」

 

 攻撃力は同じだが、破壊されるのはギガドラゴンだけだ。

 

「む、むぅ……」

「僕はカードを一枚セットしてターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 

 刹那は若干焦っているようだ。

 とはいえ、宗達は強いからなぁ……。

 

「私は手札から『モーメント・ロンギング』を発動。墓地の『MJ』オーディナルモンスターをデッキに戻すことで、自分フィールドに、墓地のMJ同名モンスターを二体特殊召喚できる」

 

 

 モーメント・ロンギング

 通常魔法

 「モーメント・ロンギング」は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:自分の墓地の「MJ」オーディナルモンスター一体をデッキに戻して発動できる。墓地の「MJ」同名モンスター二体を特殊召喚する。

 

 

 MJメタル ATK1900 ☆4

 MJメタル ATK1900 ☆4

 

「そして、光属性『MJ』であるメタル二体をシンボルリリース!限界を超えて、刹那の中を貫け!オーディナル召喚!レベル9『MJペタドラゴン』!Takeoff!」

 

 MJペタドラゴン ATK3000 ☆9

 刹那 SP1→3

 

「レベル9のオーディナルモンスター……」

「効果発動。SPを二つ使うことで、ターン終了時まで、相手フィールドのカードの効果は無効になる」

 

 刹那 SP3→1

 

 ペタドラゴンが音波を発生させ始める。

 

「罠発動。『リグレット・エンハンス』を発動。自分フィールドにリグレットモンスターが存在する場合に発動。相手が発動したモンスター効果を無効にする」

 

 

 リグレット・エンハンス

 通常罠

 ①:自分フィールドに「リグレット」モンスターが存在し、相手モンスターの効果が発動した場合に発動できる。その効果を無効にする。

 

 

 表になった罠カードからレーザーが放出されるが、ペタドラゴンの音波は止まらない。

 

「どうなっている?」

「ペタドラゴンの効果は、『無効にならない』」

 

 この瞬間、観客席のほうでも驚くものは多かった。

 

「無効にならない起動効果ですか……」

「急に来たら驚異的じゃん……」

 

 フォルテと聖が嫌そうな顔をする。

 二人とも、永続罠、装備魔法など、表になっているカード効果をうまく使って戦うタイプだ。こういうのは苦手だろう。

 

「強いモンスターを手に入れましたね……」

「私も初めて聞いたよ。無効にならない効果はそれなりにあるけど、起動効果っていうのは……」

 

 聡子と天音も驚いているようだ。

 ただ、聡子は微笑んでいる。

 どちらかというと自分の娘ががんばっているのを見守っているような雰囲気だ。

 

「バトル。ペタドラゴンで、リグレット・ニアガードを攻撃!」

 

 宗達 LP3300→2700

 

「よし、これでターンエンド!」

 

 そういって笑顔になる刹那。

 宗達はそれを見て微笑んだ。

 

「誠一郎の妹としてしか見ていなかったが、その力は、どうやらそれだけではないようだ」

「え?」

「僕のターン。ドロー。『異次元からの埋葬』を発動し、除外されている『リグレット・カウント』を墓地に戻す。そして、効果発動だ。ライフを払って特殊召喚し、デッキからバロンを特殊召喚。ペタドラゴンにはカウンターを置かせてもらう」

 

 宗達 LP2700→2200

 リグレット・カウント ATK2400 ☆7

 リグレット・バロン ATK2000

 MJペタドラゴン RC0→1

 

「闇属性のカウントとバロンをシンボルリリース」

「む!?」

「正直、君に出すことになるとは思っていなかったんだが、コイツも、君と戦いたくて仕方がないらしい。行くぞ。後悔に呑まれる黒竜よ。今その姿を現し、罪の渦巻く世界で猛威を振るえ!オーディナル召喚!レベル8『有罪眼の後悔竜(ギルディアイズ・リグレット・ドラゴン)』!」

 

 有罪眼の後悔竜 ATK3000 ☆8

 宗達 SP1→3

 

「ぎ……ギルティアイズ……」

「効果発動。相手モンスター全てにリグレット・カウンターを置く」

 

 MJペタドラゴン RC1→2

 

「そして、魔法カード『リグレット・ライズ』を発動。相手フィールドに存在するリグレット・カウンターをすべて取り除くことで、その数一つにつき、自分フィールドのリグレットモンスター一体の攻撃力を300ポイントアップさせる」

 

 MJペタドラゴン RC2→0

 有罪眼の後悔竜 ATK3000→3600

 

「そして魔法カード『ゼロ・クライシス』を発動。SPを使って、相手モンスター一体の攻撃力を0にする」

 

 宗達 SP3→2

 MJペタドラゴン ATK3000→0

 

「バトルフェイズ。ギルティアイズで、ペタドラゴンを攻撃。『壊滅のリグレット・ストリーム』!」

「きゃあああああ!」

 

 刹那 LP3500→0

 

 刹那のLPが吹き飛んだ。

 

「む、むうううう!」

「……周りが小動物という理由が本当に分かった気がする」

 

 唸り声をあげる刹那だが、なんともまあ……うん。がんばれ。と言いたくなるのだった。



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二十四話

 リゾート地におけるデュエル合宿。

 とは言うものの、はっちゃけたりふざけたり、たまにはまじめにやったり、刹那をいじったり、色々だ。

 

 リゾート地を維持しているのは誠一郎の関係者と言うこともあり、スタッフもデュエリストとして実力が低いわけではない。

 ちなみに、スタッフは国籍も年齢も関係ない。誠一郎がいろいろなところから引っ張ってきた者達だからだ。

 明らかに義務教育を受けている年齢なのにリゾート地に長いこと居るような話し方をする子もいるが、聖以外は大体事情を察しているし、知らない聖も聞くような性格ではない。別に隠すようなことでもないのだが。

 

 それはそれとして、様々なデュエル評論家が書いた書籍も大量に保管されているので、そう言ったテキストと持ってきたノートを広げて、自分のデッキはもちろん、そのデッキを使ううえで警戒すべき戦術を考察。

 さらに、誠一郎が表と裏を回って集めてきたカードを使ってデッキを考えたりもする。

 

 スタッフも、それぞれの役割としてかなり精錬されている。

 料理はおいしいし、布団はいつでも新品同然にきれいでフカフカ。

 たまにはデュエルから離れてトランプやUNO。ゲームセンターのような場所やカラオケボックスだってある。

 そして何故か設置されている公式で使えそうな本格ゴルフ場をはじめとしたスポーツ施設。ラスベガスの高級カジノにおかれていそうなギャンブルセットなど……まあ、それぞれの専用スタッフがいるうえに、接待プレイもできる。

 とはいえ、長年やっているスタッフたちも、誠一郎と彩里を相手にするとガチでやってもストレート負けするわけだが。

 ちなみに刹那は大体スタッフに負ける。

 

 自由行動もそれなりの時間があった。

 デュエルディスクを装着していれば迷子になることはない。本人が道が分からなくとも、他のスタッフは当然地図の見方くらいは分かる。

 ちなみに迷うのはいいとしても帰ってこられないのは刹那くらいである。

 

 あまりにも広すぎて、全員に専属運転手が付くほどだ。

 ちなみに、専属運転手とは言うが他にもいろいろできるので普段は別のことをしている。

 

 

 とまあそんな感じで、『一体どんだけ金持ってんの?』と言いたくなるような状況だが、充実しているのは事実。

 

 

 ちなみに、一番成長しているのは誠一郎である。

 努力することに長けた才能の持ち主でもあるからだ。

 というか、現時点の強さで言っても、ハイパームテキゲーマーみたいな感じなのだ。どうやって勝てばいいんだコイツ。

 

 ★

 

「……さて、もうそろそろ帰る時間だな。最後に何かやっておくか」

 

 集合写真もしっかり取って、満喫した誠一郎たち。

 

「それなら、私と誠一郎でデュエルしよう」

 

 彩里がそう言った。

 それと同時に、それ以外の全員が驚いた。

 彩里はこの合宿中、一度も誠一郎とデュエルをしていなかったからだ。

 ほかのメンバーが、『するかどうか』と言う話をしていたことはあったのだが、彩里に関してはその話すらなかったのである。

 

 何か意味があるのかと思っていたが、追及しなかった。

 

「ああ。いいぞ」

 

 誠一郎は、即答でそれに答える。

 大体、挑戦に対して断ることを知らないのである。

 

 まあ、そんなこんなでデュエルコートに移動する誠一郎たち。

 誠一郎と彩里が並んで立つ。

 

「さて、始めるか」

「そうね」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「宗達。一度あなたは彼女に勝っていますが、あなたから見てどう思いますか?」

「……」

 

 宗達に向かって聡子が聞いているが、宗達は何も言おうとしない。

 いろいろな意味で、『見ていれば分かる』と言いたいのだろう。

 聡子もそれを察したので、いいと思うことにした。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP4000

 彩里  LP4000

 

「で、先攻と後攻。どっちにする?」

「私は……後攻を選択する」

 

 その言葉に、ギャラリーのすべてが驚いた。

 

 デュエルにおいて先攻をとるか後攻をとるか。

 デッキに寄って異なる。

 

 彩里のデッキは『クロスロジック』

 展開しやすい光属性モンスターと闇属性モンスターをうまくフィールドに出して、その二体を使ってオーディナルモンスターを出していくデッキ。

 

 誠一郎のデッキは、本当にあえて言うと『星王賢者』

 『星王兵リンク』を軸として、対応する『双星王』をフィールドに並べることで布陣を作る『星王』と、魔法の発動コストを無視する『クリムゾン・ワイズマン』をだして、ライフコストを払うが強力な効果を持つ魔法カードを使って殲滅する『序数賢者』の混合デッキと言えるだろう。

 

 どちらのデッキも、先攻であっても後攻であってもそれなりに動くデッキだ。

 というより、それらを気にしないデッキと言える。

 そのような状態で後攻を選んだ。

 要するに、手札の確保と、最初のバトルフェイズを譲りたくない。ということだろう。

 

 だが、誠一郎は反対しない。

 

「なら、俺の先攻。『星王兵アークゲート』を召喚」

 

 星王兵アークゲート ATK0 ☆1

 

「アークゲートの召喚に成功した時、手札に二枚捨てることで、デッキからレベル4の『星王兵』モンスターを守備表示で特殊召喚できる。俺は『星王兵リンク』を守備表示で特殊召喚」

 

 星王兵リンク DFE1000 ☆4

 

 

 星王兵アークゲート

 レベル1 ATK0 DFE0 闇属性 戦士族

 「星王兵アークゲート」は自分フィールドに一枚しか存在できない。

 ①:このモンスターの召喚に成功した時、手札を二枚捨てて発動できる。デッキからレベル4の「星王兵」モンスター一体を守備表示で特殊召喚する。

 

 

「墓地の『ADチェンジャー』を除外して効果発動。リンクを攻撃表示に変更」

 

 星王兵リンク DFE1000→ATK1700

 

「そして、リンクの効果で、リンクとアークゲートを守備表示に変更。デッキから『クリムゾン・ワイズマン』を手札に加える」

 

 星王兵リンク    ATK1700→DFE1000

 星王兵アークゲート ATK   0→DFE   0

 

「自分フィールドのモンスターが全て守備表示の時、墓地の『オーディナル・サモニウム』の効果発動。このカードを墓地から除外して、このターン、俺は通常の召喚に加えてオーディナル召喚を一度だけ行える」

 

 

 オーディナル・サモニウム

 レベル3 ATK1000 DFE1000 光属性 雷族

 ①:自分メインフェイズ時、自分フィールドのモンスターが全て守備表示の場合、このカードを墓地から除外して発動できる。このターン、自分は通常の召喚に加えて、一度だけオーディナル召喚できる。

 

 

「そして、闇属性のリンクとアークゲートをシンボルリリース。黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

 出現する紅の賢者。

 このモンスターを超えない限り、彩里に勝機はない。

 

「そして永続魔法。『序数賢者の聖域』を発動。俺が『序数賢者』と名の付いた魔法カードを発動した場合、デッキから『序数賢者』と名の付いた魔法カード一枚をセットすることが出来る」

 

 

 序数賢者の聖域

 永続魔法

 このカードは、自分フィールドにレベル7以上の魔法使い族オーディナルモンスターが存在しない場合、手札から発動出来ない。

 このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動できない。

 ①:自分が「序数賢者」魔法カードを発動した場合に発動する。デッキから「序数賢者」魔法カード一枚をセットする。

 

 

「……少々まずいわね」

 

 永続魔法が発動された瞬間、彩里が呟いた。

 聖が首をひねる。

 

「どういうこと?」

 

 答えたのは刹那。

 

「あのカードの効果のタイミングは『場合』の『強制』。発動タイミングを逃すことが無い」

「なるほどね。必ずサーチができるわけか」

 

 天音もその脅威を認識する。

 だが、宗達は彩里が言った意図を正確に理解していた。

 

「それだけではない。場合の強制と言う以上、『必ず優先的にチェーンが組まれる』ということでもある。言いかえるなら、『一ターンに一度、誠一郎が発動する『序数賢者』魔法カード』の発動に対してチェーンを組めないということになる」

「ということは……」

「当然、いかなるカウンターカードも発動出来ないということになります。聖域の効果に対して効果を発動することは可能でも、本来こちらが無効にしたい効果に対しては、私たちは無力です」

 

 気が付いてきた聖に対してフォルテが補足する。

 

「あまり、初手にひかれたくないカードではありますね……」

 

 聡子はニコニコしながらもどうしたものかを考えているようだ。

 

「続けるぞ。俺はライフコスト1500を踏み倒し、魔法カード『序数賢者の壺』を発動して、その効果に対して聖域の効果を発動する。聖域の効果で、デッキから二枚目の『序数賢者の壺』をセットだ。壺の効果で、デッキからカードを二枚ドローする」

 

 

 序数賢者の壺

 「序数賢者の壺」は一ターンに一度しか発動出来ない。

 ①:ライフポイントを1500払って発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。

 

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 

 伏せカードが二枚。

 クリムゾン・ワイズマンがフィールドにいる状況で、これ以上にヤバいこともあまりないだろう。

 それはそれとして、彩里のターンだ。

 

「手札の『クロスロジック・レオパルド』の効果発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる!」

 

 クロスロジック・レオパルド ATK1000 ☆3

 

「さらに、フィールドにクロスロジックモンスターが存在することで、『クロスロジック・クロウ』を特殊召喚!」

 

 クロスロジック・クロウ ATK800 ☆3

 

 ここまでならいつも通りだ。

 だが、今回の彩里は違うだろう。

 

「私は、光属性のレオパルドをシンボルリリース!」

 

 レオパルドが光のシンボルに変わる。

 それと同時に、驚くものが多かった。

 今まで彩里は、属性の違う二体のモンスターを使ってオーディナル召喚していたからだ。

 一体のモンスターをリリースして行う召喚を、彼らは知らない。

 

「オーディナル召喚、レベル6『クロスロジック・ペインレオン』!」

 

 クロスロジック・ペインレオン ATK2000 ☆6

 彩里 SP0→1

 

「そして、クロスロジック・レオンの効果。SPを一つ使い、自分フィールドの闇属性モンスター一体を墓地に送ることで、デッキのレベル6以下の闇属性『クロスロジック』オーディナルモンスター一体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる」

 

 

 クロスロジック・ペインレオン

 レベル6 ATK2000 DFE800 光属性 獣族

 オーディナル・効果

 光属性×1 「クロスロジック」モンスター

 ①:このモンスターのオーディナル召喚成功時に発動できる。シンボルポイントを一つ消費し、自分フィールドの闇属性モンスター一体を墓地に送ることで、デッキからレベル6以下、闇属性、「クロスロジック」オーディナルモンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚することが出来る。

 『SP1』

 

 

「クロスロジック・クロウを墓地に送り、現れなさい。『クロスロジック・スカークロウ』!」

 

 クロスロジック・スカークロウ ATK1000 ☆6

 彩里 SP1→0

 

「なるほどな。スカークロウはペインレオンの対になる効果を持っているわけか」

「そういうこと。私は『理論証明』を発動。自分フィールドに、異なる属性を持つ『クロスロジック』モンスターが二体いる時に発動できる。カードを二枚ドローして、さらに、通常の召喚に加えてオーディナル召喚ができる!」

 

 

 理論証明

 通常魔法

 「理論証明」はデュエル中に一度しか発動出来ない。

 ①:自分フィールドに、属性の異なる「クロスロジック」モンスターが二体以上存在する場合に発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。このカードを発動後からターン終了時まで、通常の召喚に加えて一度だけオーディナル召喚を行うことができる。

 

 

「私は光属性のペインレオンと、闇属性のスカークロウをシンボルリリース!」

 

 二体のモンスターがシンボルに変わる。

 

「二つの理論が交わりて、さらなる理論の開拓を果たす。全てを貫く雄叫びよ。今、轟け!」

 

 降臨するのは――

 

「オーディナル召喚!レベル10『クロスロジック・オーバードラゴン』!」

 

 クロスロジック・オーバードラゴン ATK3200 ☆10

 彩里 SP0→3

 

「レベル10のオーディナルモンスター」

「素材二体で、増えたポイントが三つだと……」

 

 驚愕するものも多い。

 それほど、インパクトのあるモンスターだ。

 しかし……。

 

「なるほどな。それが今の彩里の切り札って訳か」

「そうよ」

「ただ……この合宿の末に手に入れたものじゃないな」

「!」

 

 彩里は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 そこまでばれているとは思っていなかった要である。

 

「まあいいわ。それより誠一郎。良いのかしら、オーバードラゴンのオーディナル召喚に成功した時点で、相手はこのターン。発動した魔法カードの効果が無効になるわよ?」

「別に構わん」

 

 本来なら、誠一郎のようなデッキを使っていれば驚愕するような状況だ。

 だが、誠一郎は悲観した様子はない。

 

「これくらいじゃ驚かないか」

「勿論だ」

 

 誠一郎は余裕を崩さない。

 というより、崩したところを見たことが無い。

 それは同時に、本気になったところを見たことが無いという意味でもあるが。

 

「なら……オーバードラゴンの効果発動。SPを一つ使って、相手モンスター一体を破壊する!」

 

 彩里 SP3→2

 

 オーバードラゴンがブレスを放出し、クリムゾン・ワイズマンへと向かう。

 だが、誠一郎も、ワイズマンも、慌てた様子はなかった。

 

「罠カード『ウィザーズ・バリア』を発動。このターン終了時まで、俺のフィールドの魔法使い族モンスター一体は、戦闘・効果では一度だけ破壊されない」

 

 バリアが出現して、クリムゾン・ワイズマンは護られた。

 

「む……ならバトルフェイズ、オーバードラゴンで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃!」

 

 オーバードラゴンがサイドブレスを放出する。

 

「それも通らない。ウィザーズ・バリアを墓地から除外することで、俺に発生するダメージを一度だけ0にできる」

「む……」

「一枚で二度おいしいのさ」

 

 

 ウィザーズ・バリア

 通常罠

 ①:自分フィールドに魔法使い族モンスター一体を対象にして発動できる。このターン終了時まで、一ターンに一度、対象にしたモンスターは戦闘・効果では破壊されない。

 ②:自分がダメージを受ける時、代わりにこのカードを墓地から除外することが出来る。この効果は、このカードの①の効果でオーディナルモンスターを対象にした場合のみ、墓地に送られたターンでも発動できる。

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 

 誠一郎はオーバードラゴンを見る。

 おそらく、久しぶりに誠一郎たちに顔を見せた段階で所有していたであろうドラゴンだ。

 

(あの段階でこのドラゴンを持っていたとすれば……今の彩里は……)

 

 そしてその上で、誠一郎は判断する。

 微笑んだ。

 

「セットしておいた『序数賢者の壺』を発動だ。デッキからカードを二枚ドローする」

 

 インチキ効果も甚だしいが、クリムゾン・ワイズマン。もしくは『魔力倹約術』がなければ使うのは確実にためらわされる効果だ。

 星王というデッキを使っていたとしても、なかなか使いたいと思うカードでは本来ないだろう。

 

「それにしても……帰って来た段階で、その力を手に入れていたわけか」

「あ。そこまで分かるのね」

「彩里のことだからな。さて、悪いがそろそろ決めようか」

「!」

 

 誠一郎が宣言するファイナルターン。

 これ以上に、恐れるものはない。

 

「2000ポイントのコストを踏み倒して、魔法カード『序数賢者の黒魔術』を発動し、それにチェーンして『序数賢者の聖域』の効果を発動。チェーン処理で、デッキから『序数賢者のナイフスキル』をセットして、黒魔術の効果で、魔法・罠を破壊する」

「な……」

「まだだ。手札から『星王次元』を発動。墓地から星王兵を二体除外することで、相手モンスター一体の効果を無効にする。墓地のアークゲートとリンクを除外、オーバードラゴンの効果を無効にする」

 

 この段階で、完全に無力化されたといっても過言ではない。

 

「オーバードラゴンだが……彩里のことだ。破壊耐性はあっても、対象をとらないという効果を持つモンスターは入りにくいだろうからな」

「む……」

 

 『破壊されない』『対象に取れない』

 デュエルモンスターズにおける二大耐性と言っても過言ではない。

 無論、その上に『効果を受けない』だとか、局所的に機能する『リリースできない』と言ったモンスターもいるが、数を考えると微妙だ。

 

 両立するモンスターはそこまで多くはいない。

 だからこそ、どちらを持っているのかを見極める必要がある。

 カードは選ばれるものであると同時に、デュエリストが選ぶものである。

 彩里のことを良く知っている誠一郎は、その読みを外さない。

 

「ナイフスキルを発動。オーバードラゴンを破壊する」

 

 簡単に破壊されるドラゴン。

 魔術師というより、暗殺者と言えるべきものだ。

 派手と言うものではない。

 ただ、鮮やかなものだ。

 

「『一騎加勢』で攻撃力を上昇させる。バトルだ。ワイズマンで、ダイレクトアタック」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500→4000

 彩里 LP4000→0

 

 ワイズマンの魔術で散っていく彩里のライフ。

 どこまでも効率化された誠一郎のデュエルに対抗できるのは、まだまだ先の話だ。



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二十五話

 合宿から帰って来た誠一郎たち。

 それぞれ、思うところがあったり、何か知らダメージがあったり(刹那)、いろいろ思うデュエル合宿だっただろうが、それでも充実していたことは間違いないだろう。

 

「……うそでしょ。すごいじゃん。これ」

 

 合宿終了後、天音は高揚感に浸っていた。

 

 合宿に行く前にも、誠一郎と関わり、そうして彼を取り巻くインフレした環境に身を置いた。

 もちろん、彼女に持実力はあるし、何より努力も積み重ねている。

 

 合宿のために無理矢理スケジュールを開けた彼女だが、そこから帰って来た彼女の実力は圧倒的だ。

 デッキを急遽変更したということもあって、デッキその物に対する知識や知恵が不足していた部分があった天音。

 だが、今の彼女はそれを理解している。

 彼女のデュエルはエンターテインメント要素が求められる場所が多い。

 

 彼女は歌って踊れるが、エンターテインメント的な要素はそちらに極振りしており、デュエルにおいては圧倒することでごまかしていた。

 挑んでくるデュエリストの実力が高くなってきたこともあるにはあるだろう。

 それ故に、彼女には余裕が足りなくなってきていた。

 

 だが、誠一郎から与えらえたオーディナルモンスターに加えて、本来彼女が持つ努力に対する姿勢。

 結果的に、『エンターテインメント要素のあるデュエル』の余裕ができるようになっていた。

 

「最近だと、必要経費のためじゃなくて、演出のためにダメージを負うことも多くなってきた」

 

 圧倒的。と言うのは引かれるものだが、アイドルとしてはイメージ的によくはない。

 さらに言えば、相手にも見せ場を作ることが求められることもある。

 決して舐めているわけではない。

 それをしたときにどんなひどい目にあうのかを知っている。

 

 だが、それでもである。

 

 合宿で得た力は、彼女にとっては大きなものだったのだ。

 

 そう。

 彼女は、『満足』してしまっているのである。

 

「あれ?フォルテだ」

 

 天音は現在休憩中だ。

 オフではない。というより……スタミナだけで言えば誠一郎を凌駕する天音に休日など不要なのだ。給料がインフレする理由はこんなところにある。

 当然、トップアイドルである彼女は変装中。

 スーパーの中に入っていくフォルテが見えたのだ。

 

「一体何を買いに入ったんだろ」

 

 自分でつぶやいておいて、食料品以外を買うためにスーパーに入るだろうかと思いなおす天音。

 ただ、気になるのだ。

 フォルテは、『誠一郎様の方が料理もできる』と言っていたし、どちらかと言うと彩里が料理をしているイメージがあった。

 買いだしはフォルテなのだろうか。

 

(ちょっと見てみよっと)

 

 フォルテが何を買っているのか見てみることにした。

 ほぼ銀に近い金髪であるフォルテは目立つ。

 スーパーに入るとすぐに発見出来た。

 

(……カレー粉とお茶漬け?)

 

 籠の中に放り込むフォルテに迷いはない。

 

(……ケチャップとマヨネーズとサラダ油とアボカド?あとポテトチップス)

 

 ちなみにポテトチップスは『ゲイボルグニール味』と書かれていた。

 どんな味だ。ていうかなんで混ぜた。

 

(……なんていうか、何かを買いに来たって言うより、『在庫補充』って感じね。ポテチはちょっと意味わからないけど)

 

 流石の天音もよく分からないものに手は出さない。

 ゲテモノはそもそも無理。

 と言うより、普段から高いものを普通に食べているのだ。収入を舐めてはいけない。

 

 なんだかんだ言って、普通ならカートを使うであろう重量になっているのだが、フォルテは気にしない。

 腕力が人間をやめているフォルテにとってこの程度は朝飯前だ。今は午後六時だが。

 

 会計を済ませて出てきたフォルテ。

 

(さすがにまっすぐ帰るわよね……)

「先ほどからどうしたのですか?天音」

「え?」

 

 どうやら、普通に気がついていたようだ。

 

「あー……今は休憩時間なんだけど、スーパーに入って行くフォルテが見えたから、ちょっと気になってね」

「そうですか。ただ、私はよくこのスーパーに来ますよ」

「誠一郎の収入もすごいんだし、もっと高いものを食べてると思ってたけど……」

「基本的に家では普通のものを食べますよ。外では値段を気にしませんが」

 

 男前である。

 

「それはそれとして……テレビで見ていますよ。あなたのデュエル」

「あ、そうなんだ」

 

 見せるデュエルができるほど強くなった。

 それがフォルテに伝わっていると、天音は思った。

 

「今のままだと、確かに負けることはほとんどありませんが、いつか負けますよ」

「え?」

 

 褒められると思っていた。

 認められたと思っていた。

 だが、フォルテから言われたのはそうではなかった。

 

「……私が弱いってこと?」

「弱くはありません。向上心が無いわけではありません。ただし、満足している。納得している。それが悪いということですよ」

「満足……」

「デュエリストは、四十枚のデッキの中に数々の経験や信念を詰め込み、それを魂とします。魂を磨き上げることを止めたデュエリストは、強くなれませんよ」

「!」

 

 デッキはデュエリストの魂。

 それはある意味、デュエリストであるならば当然。

 改造だとかいろいろ言うが、その作業は『魂を磨く』ということ。

 

「ただし、カードが変わっているかどうか、という判断をするわけではありません。今を客観的に見ることも必要です」

 

 別に、カードが変わっていないからと言って成長していないというつもりは毛頭ない。

 コピーデッキを使う場合を除いて、毎日毎日使うカードが変わるなどと言うことになれば、それはそれで必死過ぎて笑えない状況だ。

 

「ただし……自分より弱いと思ったデュエリストに対して余裕を持つために、あの合宿があったわけではありませんよ」

「……!」

 

 天音はギリッと歯を鳴らす。

 

 見ると、いつの間にか、フォルテはデュエルディスクを構えていた。

 

「あとはデュエルで語るってこと?」

「デュエリストですからね。口で言うことはほぼ全て言いましたから」

 

 それを聞いて、天音もデュエルディスクを構える。

 そして、お互いのカードを五枚引いた。

 

「「デュエル!」」

 

 天音   LP4000

 フォルテ LP4000

 

「私の先攻」

 

 先攻は天音。

 

「私は手札から永続魔法『シュプレヒコール・アドミッション』を発動。発動時の処理として、このカードの効果で、デッキから『シュプレヒコール』モンスター二体を特殊召喚できる。手札の『シュプレヒコール・ヒーラー』と『シュプレヒコール・ヒーロー』を特殊召喚!」

 

 シュプレヒコール・ヒーラー ATK1500 ☆4

 シュプレヒコール・ヒーロー ATK1500 ☆4

 

 出現する悪役と英雄。

 

「ヒーロー以外のシュプレヒコールモンスターの効果をターン終了時まで無効にして、効果発動。次の私のターンのスタンバイフェイズまで、シュプレヒコールモンスターは効果では破壊されない」

 

 

 シュプレヒコール・ヒーロー

 レベル4 ATK1500 DFE1000 風属性 悪魔族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにいる、このカード以外の「シュプレヒコール」モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にして発動する。自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスターは全て、次の自分のスタンバイフェイズまで、戦闘では破壊されない。

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 

 フォルテはドローしたカードを見て、戦術を決めた。

 

「私は手札から『魔光技術・プロトタイプサモン』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから『魔光騎士』モンスターを特殊召喚することができます」

「む……」

「私はデッキから、『魔光騎士ソニック』を特殊召喚します。そして、このモンスターは召喚、特殊召喚成功時、デッキから『魔光具』装備魔法一枚を手札に加えることができる。私は『魔光具・ジュエルエンジン』を手札に加えます」

 

 魔光騎士ソニック ATK1500 ☆4

 

「そして、自分フィールドに魔光騎士が存在するとき、手札のこのモンスターは特殊召喚できます。『魔光騎士パワード』!」

 

 魔光騎士パワード ATK1800 ☆4

 

「パワードは、手札一枚を捨てることで、デッキから『魔光具』を手札に加えることができます。手札一枚をコストに、デッキから『魔光具・ピアースリボルバー』を手札に」

 

 次々と展開するフォルテ。

 だが、まだ終わらない。

 

「私は『魔光技術・パワーキューブ』を発動。魔光騎士オーディナルモンスターを墓地から除外して、デッキからレベル2の魔光騎士を特殊召喚します。私は墓地の『魔光騎士インベーダー』を除外して、デッキからこの二体を特殊召喚」

 

 魔光騎士コントロール ATK700 ☆2

 魔光騎士ターゲット  ATK600 ☆2

 

「オーディナルモンスターをコストに……」

「別に珍しいわけではありませんよ。私はコントロールの効果でカードを一枚ドロー。ターゲットの効果で、デッキから『魔光具・カオスブラスター』を手札に加えます」

 

 手札が減らない。

 

「そして、インベーダーの効果。このモンスターが除外された場合、デッキからレベル7か8の魔光騎士オーディナルモンスター一体を手札に加えることができます」

 

 

 魔光騎士ペンタゴン

 レベル5 ATK2000 DFE1200 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。ターン終了時まで、攻撃力を500ポイントアップする。

 ②:このモンスターが除外された場合に発動できる。デッキからレベル7・8の魔光騎士オーディナルモンスター一体を手札に加えることができる。

 『SP1』

 

 

「私はデッキから『魔光騎士デリートアクセプター』を手札に。そして、光属性、魔光騎士モンスターのコントロールとターゲットをシンボルリリース!」

 

 二体のモンスターがシンボルに代わる。

 

「光を綴る遂行者よ。消去されし過去を求め、姿を現せ!オーディナル召喚!レベル8『魔光騎士デリートアクセプター』!」

 

 魔光騎士デリートアクセプター ATK3000 ☆8

 フォルテ SP0→2

 

「な……こ、ここまで……」

「二体のモンスターの召喚に効果破壊耐性。たしかに、悪いものではないでしょう。ですが……それはただの油断です。私は手札から、ジュエルエンジン。ピアースリボルバー。カオスブラスター。三つの装備魔法を発動します」

 

 魔光騎士デリートアクセプター ATK3000→3500→3800

 

「カオスブラスターは、攻撃を上げないの?」

「その通り。効果はいずれわかります。私はデリートアクセプターのモンスター効果を発動。SPを二つ使うことで、自分フィールドの、レベル4以下の魔光騎士モンスター二体を、このカードを装備カードとします」

 

 フォルテ SP2→0

 

 ソニックとパワードが装備魔法に代わる。

 

「そして、デリートアクセプターは、自らが装備する魔光具の数で追加効果を得ます」

「え……」

「一つ以上で相手の効果では破壊されなくなり、三つ以上で全体攻撃効果。五つあれば、このモンスターと、このモンスターが装備しているカードは、効果に対する完全耐性を得ます」

「な!?」

 

 

 魔光騎士デリートアクセプター

 レベル7 ATK3000 DFE1800 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2 魔光騎士

 ①:一ターンに一度、SPを二つ消費し、自分フィールドのレベル4以下の「魔光騎士」モンスター二体を対象にして発動できる。そのモンスターを装備する。

 ②:このカードは、このカードが装備している装備魔法の数により、以下の効果を得る。

  ●一枚以上:このカードは相手の効果では破壊されない。

  ●三枚以上:このモンスターは、相手モンスターすべてに攻撃できる。

  ●五つ以上:このカード及び、このカードが装備しているカードは、相手のカードの効果を受けない。

 

 

「バトル。デリートアクセプターで、二人に攻撃」

 

 二人の役者はいとも簡単に破壊される。

 

 天音 LP4000→1700→0

 

「……負けた」

「本来ならここまではしませんよ。ただ、思っていたのではないですか?あの合宿にいた私たちが、自分と変わらない成長しかしていないと」

「!」

「私が見た限り、一番成長していなかったのはあなたでしたよ。これからは、もっと強くなるために努力したほうが身のためです」

 

 そういうと、フォルテは買い物袋を持って帰って行った。

 

 ★

 

 近くのビルの屋上。

 

「慢心か……昔の自分にでも重ねたか?フォルテ」

 

 誠一郎は、微笑みながらそうつぶやいた。



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