ハイスクールD×D 2人の竜戦騎 (バグパイプ)
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プロローグ 異世界
第0話 どうしてこうなる(2017.11.19修正)


 とある次元空間、この世界では魔界や天界、神界は個々の種の共存を提唱しては平和協定を結び、平穏な日常を送っている。

 

 だが、異変があれば必要な手段を講じて諸問題に着手するだけの能力も有していた。

 

 

 

「突如現れた別次元の調査、ですか?」

 

 神界の首脳陣の急な呼び出しに辟易しながら対応する男の顔に珍妙な表情が浮かんだ。

 

「確かにうちの組織は三界との繋がりが有るし必要な人員の手配もしますが、こういうのは専門機関に任せるのが筋ではないかと」

 

「じゃが、むやみに専門家に任せて能力を失うワケにも行くまい。我々は出来うる限りの支援をする事を約束しよう」

 

 呼び出された男、司令の反論に対して首脳陣側は支援を盾にして引く気配を見せない。未開の次元空間という場所は何が有っても不思議は無く、未知の領域だけに誰もが及び腰にならざるを得ないのは自明の理だが、こうも動かぬ議論というのは面倒でしかない。この状況で出来るのは一つ一つ解きほぐすように相手を説得するしかないが。

 

「出来うる限りの支援とは?」

 

「無論、次元を超える際の手助けを始め、当面の活動資金の配慮、活動拠点に対する支援などある程度の配慮を約束しよう。無論見返りとして報告書の提出を求めるがな」

 

 良く言ったものだと司令は目を細める。だが魅力的な材料であることも承知していた。

 

「なるほど、そういう事であればこちらとしてもやぶさかでは有りません」

 

「それは上々」

 こうして異次元への調査が始まりを告げた。

 

 

 

「……というワケでテメェにお仕事だ、貧乏くじ当たる君」

 

「何が、というワケだよ、コラッ!」

 

 俺は目の前に立つ見慣れた顔の男、司令の言葉に反抗する。

 

「俺はそんな取ってつけたような名前じゃねえよ! 俺の名前は|時渡翔<<ときわたりかける>>だ」

 

 そう、俺は時渡翔。この膨大な規模の組織『スタッフ・ド・RB』の一員で、危険調査部隊に籍を置いている。主な仕事は指定された地域の初期調査、単純に言えば危険の有無を調べる調査員だ。命がけの仕事だけに死に掛けた事は数え切れないほどある。

 

「で、今回の調査はどんな規模でやるんだよ」

 

「少数精鋭、現場派遣は2名だが支援は充実させる。必要があれば現地換金用に金塊さえ用意する」

 

 仕事内容を確認する俺に対して司令は単純ながらも内容を並べ立てる。

 

 未知の世界となると調査員の規模はそこそこ大きくなるのが基本のはずだが、俺達はそんな事を気にする必要は無い。何しろ一番ひ弱な種族である人間がこの組織には1人も居ない。この俺ですら魔界に帰れば魔界の軍勢2十万の騎士を指揮する一角の将軍なのだ。

 

 だが調査費用を必要経費で前払いする用意があるという話は魅力的だ。大抵の場合は現地調達が基本で、必要経費は報告書に添えた領収書と引き換えにして取り戻すものなのだ。

 

 俺はそれを聞いて思わず口笛を吹いた。

 

「ずいぶんと豪勢にふっかけるようで。期間は未定って所か」

 

「そこは進展状況によるな。必要な手段は次元通信機で連絡してくれ。現地でのテメェの権限は部隊長……いや師団長クラスにしておくからな」

 

「大隊長無視してそこまで出すか」

 

 俺はトントン拍子で進んでいく確認作業の中、自分に与えられる権限に目を剥いて驚いた。師団長ってことは、俺の判断で大抵の事が許されてしまう。それこそ現地での犯罪行為ですら必要性を説明できれば止む無しと認めてもらえるということだ。

 

「無論、時空間を越える必要がある事項については要相談となるけどな」

 

「それで仕事開始は?」

 

「1週間後のヒトマルマルマルまでに、本部の地下に次元門を作っておくからそこから現地に行ってくれ」

 

「アイサッ!」

 

 こうして俺はワケの分からない現場の調査に向かうことになった。

 

 

 

「あっ、もう1人の調査員は後日派遣な」

「あんだとぉーっ!」




初めまして皆さん、バグパイプです。

こうして始まったハイスクールD×DのSS、楽しんで頂ければ嬉しいです。

なお、主人公の時渡翔はチートキャラですが、お笑い担当です。それでは次回もお楽しみに。


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第1話 変態は変態を呼ぶ8(2017.12.11修正)

公開宣伝していないのにも関わらず、UA 230、ありがとうございますm(__)m
という事で、本編の始まりです。


 あれから1週間が過ぎ、調査員として派遣されたこの俺は、到着したこの駒王町にて調査を開始することにした。調査するにあたって町にある図書館や本屋といった文献が見れる施設を中心に確認する。

 

 文献で分かった事としては双方共に世界観としては酷似していて主だった違いは見られない、という所だった。だが、魔界に酷似した冥界や天界があるものの、神界が存在しないのは不思議に思える。俺の居た世界では天使の世界である天界、その上に存在する神々の世界である神界という位置づけで存在しているのだが。

 

 何件目かの本屋を出た俺が得た推測は以上のことだ。

 

 そして休憩とばかりに公園へと向かった俺の目には妙なアベックが映った。男の方は高校生らしい外見で、純朴そうな浮かれ具合を見せている。だが少女の方はなぜかそれを冷笑で交わしている。しかも俺の感覚は彼女を堕天使として認識していた。

 

「天使にしては神聖が弱いな。だが神聖が混じっているとなると悪魔とは言い切れないし」

 

 俺はアベックのことが妙に気になり、後を付けるように公園へと入り込んだ。

 

 少年は少女の横を歩いているがどこか落ち着きが無くそわそわしている。反対に少女の方は僅かながらその顔に笑みを浮かべながら彼を見つめているが、どこか違う光景を見ているような目つきだ。

 

「どういうこった?」

 

 俺は物陰から二人を見つめながらもその異様な雰囲気に首をひねる。しかも異様な雰囲気を感じさせているのは彼女の体からかすかに邪気がにじみ出ている事だった。少なくても彼女の方からこの先に何かを起こすというのが見え隠れしている。

 

(規約第1条、救える命は意地でも救え)

 

 俺は心の中で組織の規約を詠唱する。俺が組織に入って最初に叩き込まれたのがRB規約というルールだ。これは組織が表立って動いてはいけないと厳しく戒められている中でも最重要事項に位置する条文であり、これがあるからこそ俺達が命と誇りをかけて仕事に従事できるお題目である。だが悪魔や天使といえど救えない命というものは存在する。その為に救える命と限定しているのだ。

 

 2人の後を追いかけているうちにどうやら公園の中ほどまで入り込んだのか、人が隠れるのに都合の良い植込みばかりが並ぶ所に来てしまった。

 

「イカン、イカンですよぉ、未成年がX指定の世界に立ち入ろうなどとは。ましてやザ・ヘンタイズの世界にイクだなんて」

 

 咎め立てる言葉とは裏腹に、俺の心は浮き足立ち、顔はにへらにへらと笑っている。植込みに隠れながらの追跡とはいえ、コレではまるで覗きのおっさんだな。

 

「えっへへ、えっへへ」

 

 おかしなリズムを刻みながら俺は植込み伝いに移動し、茂みから首を出した俺は事件現場を目の当たりにした。

 

 視線の先にあるのは仰向けに倒れている先ほどの少年、その背中からは地面に広がるように赤いものが染込んでいく。

 

「いやぁ~っ! 人が死んでるぅ~っ!」

 

 俺の悲鳴を聞いたのか少年の近くに立つ美少女が振り返った。

 

「誰っ!?」

 

「緑の妖精マリモン!」

 

 彼女の問いかけに対して、植込みから首だけを出したままの姿で俺は、ギャグの方向で答えてしまった。

 

 俺の台詞を聞いて少女はあからさまに表情を変える。まるで哀れな馬鹿を見ているような雰囲気を纏いながら。

 

「アンタ、馬鹿?」

 

「馬鹿にされた!?」

 

 俺は彼女の言葉に思わず驚きながらも植込みから抜け出そうとする。しかし何故か首や肩が枝に押さえ込まれて身動きが取れない。

 

 俺がこの場でもがいている所を見た少女は呆れた顔をそのままに、俺に対して背を向けた。

 

「馬鹿の相手なんてしたくないわ。そのまま野垂れ死んでなさい」

 

 彼女はそう言うと背中から黒い翼を広げ、俺を置き去りにするように飛翔する。だが妙なことにそれとは入れ替わるように少年のそばに辛苦の輝きを放つ魔方陣が浮かび上がり、その中から紅長髪の美少女が姿を現した。

 

「あらあら、大変なことになってるわね」




ラストに現れたのは誰か、彼女は少年をどうするのか?次回をお楽しみに。
 もちろん、期待に沿えるように頑張ります。


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第2話 寝起きの悪戯はコレ

どうもバグパイプですm(__)m

状況確認したらUA400越えの事態になってたので、続きをどうぞ。


 

「アンタは誰だ?」

 

「無駄に使える時間は無いはずよ。違うかしら?」

 

「そりゃそうだ」

 

 不意に出現した女子高校生らしい制服姿の美少女にたしなめられながらも俺は植込みから抜け出して少年を肩に担ぐ。

 

「何処に運べば良いんだ?」

 

「ここからそう遠くない所にこの子の家があるわ。そこにしましょう」

 

「なら、案内を頼む」

 

 俺は美少女の提案に賛同して道案内を依頼する。すると彼女はそれを承諾し、一路彼に家へと担ぎ込むことになった。

 

 

「それで、どうするんだ?」

 

「ここに私の駒があるから、それで転生を試してみるわ」

 

 美少女は何処からとも無くチェスの駒を取り出し、俺に見せ付けてくる。一種の魔道具なのかその駒は確かに魔力を帯びている。

 

「他種族への転生手段まであるのか。驚きだな」

 

「他種族って、これは悪魔にしか転生出来ないものよ」

 

 俺の感嘆の念に対して呆れた声を出す少女。しかし転生のための魔道具があるというのは驚きだ。俺の世界ではそんな便利グッズ、存在しないのだから。

 

「出来れば解析して生産してみたいな」

 

「どうやって作るのかは私にも分からないのよ。魔王様が作るものだから」

 

 ふむ、魔王か。この世界に魔王が居るということは俺の世界と似た魔界がある、ということか。

 

 考え始める俺の目の前で、少女は手にした駒を少年の胸の上に置く。すると駒が吸い込まれるように胸の中へを入っていった。しかしそれ以上の変化は無く、変化が現れたのは同じ駒を8個使った後だった。

 

 

 翌朝、ベッドの上、俺の横で少年が目を覚ました。

 

「うう……ん」

 

「起きたか?」

 

「えっ?」

 

 俺が声をかけた瞬間、同じベッドで寝ていた者同士がその顔を合わせ、少年が盛大に驚き転げ落ちた。

 

「だから言ったでしょ? 貴方の方がよっぽど驚くって」

 

「女とやる前によりによって男とやっちまったのか、俺!?」

 

「ふむ」

 

 俺は盛大にうろたえている少年の肩に手を置いて、軽く目を閉じた。

 

「良かった」

 

「どぉうぅええーっ!?」

 

 わざと勘違いさせる方向で言葉を漏らす俺に、少年は驚きの様をさらに激しくする。その素晴らしいほどの効果は俺が引いてしまうほど|覿面<<てきめん>>だった。

 

 しかも少年は全裸だったのが一番の要素として、ものを語っているように見える。

 

「お、俺、裸!? しかも男が隣で寝てた!?」

 

「だから言ったでしょ? 貴方の方がよっぽど驚くって」

 

 いまだに動揺している彼に対して美少女が同情するようにため息を吐いている。俺は今の少年に対して自分の声音を変えて、さらに性質の悪い追い討ちを叩き込む。

 

「今更照れないで。恥ずかしいじゃない」

 

「どうして私の声!?」

 

 俺の声音を聴いた美少女が目を剥いて猛抗議する。それもその筈、俺の口から出た声は彼女の声と酷似しているからだ。組織の仕事柄、危険調査ともなると女性の声や変装の必要に迫られることがままある。そのために訓練でこういった技術を習得させられるのである。

 

「女なら構わないのでしょう?」

 

「それとこれとは話が違うわよ。ふざけないでちょうだい!」

 

 俺の悪ふざけに彼女は激昂して怒鳴り散らす。その怒鳴り声によって少年は我に返り、俺たちに問いかけてきた。

 

「えっと、先輩? どういうことなんでしょうか、これって」

 

「御免なさいね。この事を整理するための時間をくれるかしら? 放課後に使いの者を遣すから」

 

 少年の言葉に少女は一言詫びを入れる。確かにこの混沌の中では説明など出来たモンじゃないだろう。

 

「そっ、それは構わないですけど」

 

「本当に御免なさいね」

 

「どわあぁーっ!」

 

 俺はそれに便乗し、彼女の声で詫びを入れては少年のほほに手を添える。すると彼はその行動に怖気を感じたのか即座に後ろに飛び退った。そしてそれを見た少女の右腕が即座に振り上げられた。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 ズッパァンッ!

 

 俺の後頭部に少女が手にしたハリセンが炸裂した。

 




今回のネタは大丈夫かと心配しながら、次回をお楽しみにm(__)m


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第1章 オカルト同好会
第3話 駒王学園オカルト研究部


どうもバグパイプですm(__)m
読んでくださる方が居ることはありがたいです。
では続きをどうぞ。


 夕方近くになり、俺はリアス・グレモリーとかいうあの少女が指定した駒王学園という一貫校の校門にやってきた。するとそこには学校の制服らしいブレザーを着た男子生徒と、赤いベレー帽を被った女性が談笑していた。

 

「なるほどね、意外と体格が良さそうに見えたから声を掛けたんだけど、剣術をしてるのね」

 

「ええ、そういうあなたは、その身のこなしからして何か武術を嗜んでいるのでしょうか」

 

 2人のうち、女性の顔に見覚えがあったのを思い出し、俺は声を掛けた。

 

「あんだよ、もう1人の調査員ってのはお前か?」

 

 俺のあきれた声が耳に届いたのか、彼女は振り返って俺の顔を見るや否や怒鳴りだした。

 

「何がお前かよ! あたしにはトリー・コロールって名前が有るのよ! ちゃんと名前を呼びなさい!」

 

「……えっと、そろそろ案内したいのですが、良いですか?」

 

 すでに空気となっていた少年が俺たちに確認の声を掛けてきた。その声を聞いて移動しようとした俺が転び、その後に続いた強烈なビンタの音の乱舞の詳細は後記に任せる。

 

 

 

「ちょっと、私はそんな顔の脹れ上がった人を招待した覚えは無いわよ」

 

「俺だって好きでこんな顔をしてるわけじゃねえよ」

 

 まったく、たかだか校門ですっころんだぐらいで、ここまでボコボコにすることは無いだろうが。

 

「……転びながら私の服を剥ぎ取った男の台詞とは思えないわね」

 

「ここまでされても骨に問題が無い、頑丈な自分に驚いてるよ、俺は」

 

 トリーの呆れた声に対して俺も呆れてみる。踏みつけ制裁で仕置きするかよ、おかげでたんこぶの上にアオタンが出来たじゃねえか。

 

 確かに躓いた拍子に側に居たトリーの上着の裾を左手で掴んで撥ね上げ、撥ね上げた拍子にブラのベルトに指がかかってずり上げてしまい、地面に手をつこうとばかりに突き出した右手にスカートのベルトが下着ごと引っかかって一気にずり落ちたわけだから、不幸な事故だろうが。

 

「それに、あれは不幸なラッキースケベじゃんかよ、それで許せよ」

 

「何で? あそこまで計画的犯行にしか思えない行動を、どうして不幸な偶然だと笑えるのか、あたしが訊きたいわよ」

 

 俺が冤罪だと豪語する目の前でトリーが速攻で切り捨てる。

 

「とにかく、あっちからの追加はお前って事で良いんだな?」

 

「そういう事にしといて。紙も持ってるから」

 

 トリーは俺の確認に対して証拠もあると肯定してみせる。この場で言う『紙』というのは隠語で、辞令もしくは指令書のことを指す。それに毎回振り回されているのが平社員の定め。

 

「……そちらの内緒話は終わったのかしら?」

 

「ああ、すまねえな」

 

 リアスの冷めた問い掛けに俺は悪びれる気も無い返事をする。

 

「まずは兵頭一誠君、私達はあなたを歓迎するわ、悪魔としてね」

 

 バァサッ!

 

 リアスの言葉に続くかのごとく、その場に居る一誠を除いた学生組全員がその背中から黒い皮翼を広げる。それを見た一誠は愕然とした表情で言葉を失っているが、俺達は自分達が知る形とは異なる皮翼に興味を持った

 

「悪魔がこうも露骨に人前に姿を見せるとはねえ」

 

「駄々漏れ同然の魔力は感じてはいたけど」

 

 俺はとにかく、初対面のトリーが彼女達の姿を見て驚く気配を見せないでいる。もっとも、気配察知や空間掌握のスキル持ちである彼女に正体を隠すなど出来ない事だが。

 

「あ、アンタら、あれを見て驚かないのかよ」

 

「少年、私達2人はあの程度をあの程度と語れる非日常を送っているのよ。おふざけの過ぎるホモだって見てるんだから驚かないわ」

 

 トリーはそう言ってなぜか俺に顔を向けてきた。

 

「何で俺を見る。そんでもって少年は真に受けてんじゃねえよ」

 

「冗談のつもりで言ったのに、まさかもう……」

 

 少年が絶句しているのを見て悪い予感に襲われたのか、トリーは俺につめより、胸倉を掴んできた。

 

「まっ、待て、ぐるじいぃ……」

 

 俺は息が詰まる感覚に襲われながらも必死に抵抗し、酸素を求める。俺はアンデットではないから空気は必須だ。死んでしまう。

 

「あの少年を食べちゃったの!? ウマウマしちゃったの!?」

 

「するか! 俺はホモじゃねえ!」

 




今回から出た新キャラ、トリーもチートキャラですが、翔の相棒らしくやっていきますのでよろしくお願いしますm(__)m


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第4話 一誠は下僕になりました

 どうもバグパイプですm(__)m
 第4話をどうぞ。


 

 

 

 

 俺の胸倉を掴んで問い詰めるトリーから何とか逃げ延びた俺は話を元に戻そうとリアスに話を戻す。

 

「それで、コイツを悪魔として歓迎するってのはどういう事だ?」

 

「これを見て頂戴」

 

 リアスはそう言ってテーブルの上に1枚の写真をおく。その写真に移っているのは一人の黒髪の美少女、平均より幾分は上の美貌を見せている。だがその美少女には少年と俺は見覚えが有った。

 

「夕奈ちゃん……」

 

「そう、彼女は確かに存在していたわ。堕天使としてね」

 

 リアスが衝撃を受ける一誠を見てからその内情を口にする。

 

 

「なるほどね。その殺しの現場を見た俺もついでに消そうとしたけれど、やむなく記憶の方に動いた訳だ」

 

「その存在が忘れ去られる。悪魔や天使の事が口外にならないのはそのせいだけどね」

 

 俺達を迎えに来たあの少年の言葉に俺達2人は納得する。記憶操作は短い時間なら記憶違いで片付いてしまうため、割合簡単に使われる。

 

「そして彼女はあなたを殺したのよ、あなたの持つ神器を恐れてね」

 

「神器? というと聖杯とか十字架とかのアクセサリー……」

 

「違うわ。人間にしか所有できない特別な能力を持った道具、それが神器『セイクリッド・ギア』よ」

 

 俺が漏らしてしまった疑問符を聞きつけたのかリアスは俺の疑問符に答える。

 

「そうとなると、少年の左腕に本人の力とは異なるものを感じるのは、それが由来していると言うことなのね?」

 

「ええ、そうよ」

 

 トリーの確認に対して彼女は同意する。なるほど、だが俺にはその異なるものに何らかの魂の波長を感じる。俺でも感じるくらいだから俺の倍以上優れているトリーはとっくに把握してるだろう。もしかしたらどの生物の魂かも理解しているかもしれない。

 

「さあ、一誠。その神器を見せて頂戴」

 

「えっと、あの、どうやって出せば……」

 

 イッセーはへらへらと笑いながら出し方を誰にとも無く聞いてくる。

 

「何か必殺技を出すように、意識を集中させれば良いのよ」

 

「そうだな。どっかの漫画のヒーローみたいに力をためて、その左手を前に突き出すなんてのはどうだ?」

 

 リアスは軽く笑みを浮かべながら、俺は何となく想像し易いように、それぞれの意見で諭す。

 

「なるほどねえ。それじゃあ、ドラゴン波っ!」

 

 イッセーは俺達の言葉に誘導されて左腕を前に突き出す。だがいくら待てども彼の腕に変化は見られない。

 

「……って、無理みたいっす」

 

「仕方ないわ。出せと言われて直ぐに出せる物でも無いし」

 

 いい加減に諦めたのか情けない声を出すイッセーに対してリアスは慰めるように実情を語る。そうそう威力のある武器を生成できるようでは世界のパワーバランスというものがおかしくなる。

 

 第一、神を殺せるほどの力などあってはならないとされているぐらいなのだ、体がどうなるか分かったものではない。

 

「まあ、神器とかいうのは次の楽しみにしておこうか。強くなれる要素があるということが判っただけでもイッセーにはよい収穫だろうし」

 

 俺はそう言って彼に切っ掛けを仄めかす。男なら強くなりたい願望ぐらいは誰にでもあるだろうし、それなりの小さな目標があれば挫ける事無く直ぐに次の段階へと向かって鍛えることができるはずだ。

 

「そうね、あなたは自分の力に対しては卸し立てのエンジンだから、鍛錬しないとすぐに動けなくなるわよ。そうなると誰かの下で鍛えるのが理想的だから、彼女達の仲間になったほうが安全かも知れないわよ」

 

 おっ、トリーがいい感じのフォローを入れてくれた。ありがとう。一誠もどうやら満更ではなさそうに……。

 

「学園の2大お姉さまにマスコット、良いかもしれない」

 

 一誠、顔が緩むのは判るが涎はよくないぞ。

 

 するとリアスが今度は俺達2人に視線を向けてきた。

 

「良い話の所で悪いのだけれども、今度はあなた達の番よ? 聞かせてもらえるかしら?」




 次回から翔の悪ふざけが炸裂します。次回もお楽しみにm(__)m


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第5話 とりあえず余興を

どうもバグパイプですm(__)m
資料である原作小説やアニメを熟慮してるはずですが、巧くいかなくて難産してます。
ともあれ、第5話をどうぞ。


「それで、貴方達は何者なのかしら?」

 

 リアスが俺達に疑問符を投げかけてきた。それではお約束を1つ。

 

「とりあえずナマモノ」

 

「何となく生き物よね?」

 

 俺とトリーはそれぞれ軽口で冗談を口にする。すると俺達の言葉を冗談と受け取ったのか、氷点下まっしぐらの冷たい視線を向けられてしまった。組織関係は秘匿義務の一環だからこうするしかないんだが。

 

「ちゃんと、話して貰えないかしら?」

 

「良し分かった、腹を割ってはなそう!」

 

 そう言って俺は自分のジャケットの前あわせを掴み、おもむろに広げて中からポムンッとハトを飛び立たせた。

 

「ワァーッ……」

 

 思いもしなかっただろう展開とそのオチに、俺と小柄な少女以外の全員がその場に突っ伏してしまった。

 

「……思ったほどウケてねえな」

 

「紙ふぶきが足りなかったからではないかと」

 

 ……頭に見事なタンコブをこさえながら俺が呻くと、小柄な少女がそのワケを推測してくれた。

 

「今度こそキチンと話しなさいよね」

 

「仕方ねえな」

 

 俺は腕組みして睨んでくるリアスに対して今度は、鶏を放した。

 

「コケェーッ!」

 

 スゥパァアーンッ!

 

 リアスから思い切りの良い、力のこもったハリセンの一撃をたんこぶの上から受けてしまった俺がいた。

 

「……チィッ、今度もウケなかったか」

 

「ウケるとか言う範囲を逸脱している様でしたが」

 

 小柄な少女は冷めた目つきで俺に忠告してくれる。そして手にしているハリセンで自分の肩を叩きながらリアスが問いかけてきた。

 

「今度は何を出してくれるのかしら? 手品師さん?」

 

「じゃあ、これで」

 

 俺は秘匿することを諦め、その期待に答えて自分の背中から濡れ羽色の蝙蝠羽を出した。トリーの方は純白の翼をその背中から出す。俺達の翼の形は動物の翼に酷似している。その翼を見て彼女達の衝撃の度合いが強まるのを俺は肌で感じていた。

 

「俺は悪魔種で竜戦騎の時渡翔。通り名は『陽だまりで遊ぶ破壊者』だ。ヨロシクな」

 

「私は天使『トリルエル』で竜戦騎のトリー・コロールと申します。通り名は『竜の英知を明かす者』よ、ヨロシクね」

 

「竜戦騎?」

 

 その場に居る面々が疑わしげに顔をしかめる。

 

「竜戦騎はドラゴンを1人で制圧した者が賜る称号で、ドラゴンに関した通り名を名乗る事が許されるんだよ」

 

 俺は面食らっている彼女達に出こるだけ解かりやすく説明する。

 

 ドラゴンを1人で制圧する事は無謀に等しい行為だが、成功した者は他の騎士や貴族達から羨望の眼差しを受ける。それもそのはず、俺達の世界でドラゴンは神に次ぐとさえ言われる程の最強種族で有り、少なくても1つの国を悪ふざけで滅ぼせる戦力を有している。そんな種族に1人で立ち向かい、制覇したのなら智であれ武であれ優れていることは明白となる。

 

 俺とトリーはそれぞれドラゴンを制圧し、その力を認められて竜戦騎を名乗る栄誉を賜った。ちなみに俺達の世界で竜戦騎を名乗れる者は総勢で400体。生存確認出来た者だけだと200余りしかいない。俺は武力でドラゴンを倒し、トリーは知恵でドラゴンを圧倒した。

 

「……ドラゴンを1人で倒すの? 正気を疑う話ね」

 

 俺の説明を聞いてリアスが眉唾と疑う。

 

「なんなら、試してみる?」

 

 彼女の疑念に対してトリーが挑発混じりに払拭できると公言する。

 

「そこの馬鹿でも勤まる竜戦騎の実力を知るのも一興ね」

 

 リアスはほくそ笑みながらトリーの挑発に乗ってしまった。やめておけばいらない恥はかかないものを。

 

「ということで任せたわ、カケカケ」

 

「誰だよカケカケって。それにお前がやるんじゃなかったのか?」

 

「こういう手っ取り早いことは貴方に任せると早く終わるからよ」

 

「知らねえぞ? 何が起こっても」




さてはて、翔はちゃんと戦ってくれるのか?
次回もお楽しみにm(__)m


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第6話 ちょっとしたお遊戯

どうもバグパイプですm(__)m
内容に妙な偏りが発生しているのを感じますが、やむ無しと思います。
では続きをどうぞ。


「本当に良いのか?」

 

 俺は急に話しに上がった試合に対して念のために確認を取る。

 

「構わないでしょ? 貴方のような悪魔でも務まる、竜戦騎の実力を見せてほしいのよ」

 

 リアスは俺の確認に肯定の意を示し、手を組み合わせる。どうやら竜戦騎という称号に対する侮蔑を感じる。

 

 トリーもその辺りには気づいているらしく、苛立つ気配が感じられる。見た目は穏やかなのに。

 

「要らない怪我はしない事にしてるんだけどな」

 

 苦笑を浮かべながら戦うことを俺は遠まわしに拒否する。でも内情は決して穏やかなわけが無い。馬鹿にした報いは受け取ってもらいたいものだ。

 

「えっと、俺はそういうのは」

 

「兵藤一誠か、見るだけなら別に構わないぞ? 俺達はこの場に居る中では最強だからな」

 

 一誠が情けない声を上げるのを聞いて俺は観客席を設けようとした。

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、もちろんよ。そこの少女よりは桁3つ分は上。魔力の拡縮が出来ない様じゃ、戦場には立てないわよ」

 

 一誠を安心させようと考えたのか、トリーが彼我の戦力差を口にする。その言葉を聴いたリアスは傲慢な態度と受け取ったのか、顔を引きつらせながらその口を咎めた。

 

「あら、その慢心が皮肉にならないと良いわね」

 

「安心しなさい。年相応の少女の角ばったプライド、優しく犯してあげても良くってよ? お優しいお兄さん達はその辺りはしっかり理解しているからね」

 

 トリーは彼女の青臭い台詞に対して倍返しの意趣返しをしてみせる。

 

 そうこうしている2人を差し置いて俺は静かに重力増大の魔方陣を敷き詰める。俺の魔方陣は基本的に反則なほど光らずに広範囲に敷き詰めることが出来る。半径1キロの距離なら俺の有効範囲内として処理できる。ウチの司令と副指令は1人で地球全体を覆いつくせると豪語してたが。

 

 ちなみにこの魔方陣は、基盤となる核の魔方陣の構成を組み替えるだけでさまざま効果を発揮する優れもので、小細工を仕掛けるには手頃なのだ。なお、これがさっきの鳩や鶏を収納していた腹の所の仕掛けである。

 

「あ、あれ? 何か変な感じが」

 

「手加減で重力増大を仕掛けると思ってたけど、やっぱりそうしたのね」

 

 金髪少年がよろめくのを見てトリーが俺の仕掛けに気づく。こいつが俺の甘さに感づいていたなら、一誠の足元に対魔法防御の結界を構築しているだろう。もしくは強引に自分の多重障壁の中に収容しているか。

 

「まあな、基礎鍛錬がまるでなってないからそこを指摘するつもりだったわけだけどな」

 

 俺は髪を掻き揚げながら相手の弱点を指摘する。高校生ほどの若さでたかが3Gの重力によろめく様では余りに酷い。俺達がその年の頃にはいやでも10Gの重さでしごかれたものだ。

 

「あらあら、部屋の調度品が影響を受けてないのはどういう事かしら」

 

「その程度の分別も出来ない魔力じゃ、先が思いやられるぜ」

 

 おっとりとした美少女の疑問に俺は皮肉で答える。

 

「ピンポイントで魔力を発揮させてるって事ですか。さすがに困ってしまいますわね」

 

「朱乃!」

 

 何か朱乃と呼ばれたおっとり美少女とリアスの間で打ち合わせでもしたのか、何かをたくらんでいる様相がハッキリ見て取れる。

 

 でも無駄だ。俺の悪ふざけは開陳を待ちわびている。




そろそろ場面転換をしたい所ですが、続きをお楽しみにm(__)m


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 第7話 今回の講義は終了

どうもバグパイプですm(__)m
オカルト研究部との戦いも決着です。


「では、潔く……脱いでもらいましょう」

 

「何ぃ!?」

 

「何ですってっ!?」

 

 俺の処刑宣告に一誠は期待の声で、リアスは驚愕の声でうろたえる。

 

「ちょっとカケカケ、そんなの打ち合わせには無かったわよ」

 

「打ち合わせなんて、端からしてない」

 

 そんな話は聞いてないとわめくトリーに俺は問答無用と切り捨てる。

 

 

「「えっ!?」」

 

 俺を除いた面々が目を白黒させて呆気に取られている。それもそうだろう、制服を脱がされたのに関取の肉襦袢を着ていたのだから。

 

「裸……じゃ、無い?」

 

「あらあら」

 

「これは、一体!?」

 

 ふと辺りを見る俺の目に入ってきたのは、男泣きに泣き崩れている一誠の姿だった。

 

「ちょっと、どういう事よ」

 

「青少年保護育成条例に基づき……あだっ!」

 

 リアスに問い詰められて説明を始めた俺に誰かが何かを投げつけてきた。

 

「どの口が貴方にそれを言う資格があると言えるのかしら?」

 

「乙女にこのような格好をさせるんですから、報いは受けるべきですわよ」

 

「……変態、死すべし」

 

 コロコロと可愛いポッチャリ体型にさせられている女性陣に睨まれ、俺は後退を……。

 

「逃がしてあげない」

 

 トリーが後ろから俺を羽交い絞めにして後退する退路を塞いでしまった。おおう、胸が無念に泣いている。それにトリー、俺の尻に何か当たってるぞ、当ててくるな!

 

 

「とにかく、貴方達はこの世界の住人ではなく、この世界を調査する目的で派遣された、という事なのね?」

 

「イエス・マムッ!」

 

 リアスの確認に対してぼろぼろの状態となっている俺が敬礼しながら全面肯定する。

 

「この事は魔王様に報告しなければいけないわね。異世界が存在するだなんて、とんでもない話だわ」

 

「そりゃそうだろ、異世界から侵略でもされたらどうなるか判ったもんじゃない」

 

 俺は隠し立てることをすっかり止め、ありのままに説明する。

 

「危険な世界なら即刻排除、穏やかな世界なら不干渉で日和見をする計画が立てられてる最中だ。俺達が派遣されたのは危険な世界でも十分な調査を完遂しうる戦力として立てられたからだよ。でなけりゃ、もっと上の実力者が派遣される寸法だよ」

 

「私達は最強に見られがちだけど、向こうからしたらまだまだお優しい部類だわ。向こうには次元世界1つなら片手で消滅できる危険人物が居るわけだし」

 

 俺とトリーは説明しながらも、高笑いしてくれる凶悪な実力者である司令の顔がどうしても頭に浮かんでしまう。

 

「要するに、協議できる要素を探し出すために派遣されたのが俺達というわけだ」

 

「イッセーは関係ないのね?」

 

「現地人なんだから関係ないだろ。たまたま堕天使とかいうのに殺された哀れな現地人だよ」

 

 リアスに俺と一誠の関係を問われ、正直にありのままを話す。するとトリーが横槍を打ち込んできた。

 

「そうなると貴方は彼が死ぬかもしれない場面で見殺しにしたかも知れない、って話になるわね。それは規約第1条に関わる事よ? 判ってるの?」

 

「その時は罰でも何でも受けるよ。そういうモンだ」

 

 俺は苦笑を浮かべながら軽口を叩いてみせる。これが次の面倒事の予兆だなんて知らずに。




オカルト研究部と連係することになった2人、これからどうなるか?次回をお楽しみにm(__)m


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 第8話 司令官命令が発動します

どうもバグパイプですm(__)m
オリキャラだけだと話がスラスラと書けるのは一体?
では続きをどうぞm(__)m


 俺達はあの後、リアス達と別れて夕暮れの駒王学園を後にし一路、拠点へと戻った。

 

 拠点というのも妙な感じがする一軒家で、外見的にはそこらの民家そのままである。しかし中に入れば一部ながらも最新鋭の調査機材や調査資料が積み上げられているのだ。

 

「ふうん、あちこちの図書館で現地の文献を漁り尽くしてみたのね」

 

「生活水準は初日で調査完了だ。その位は出来るだろ」

 

 俺はトリーの言葉に適当な言葉を添えて投げ返すと、リビングに向かい、その中にある大型TVの電源を入れた。次に入力端子を外部端子に切り替え、その端子の先につないでいる通信装置の電源を入れる。

 

 それらを確認してから俺は通信機の横においてあるマイクを手に取り、マイクに向かって話しかけた。

 

「あー、あー、あー、本日は晴天だった、本日は晴天だった」

 

『おうおうおう、おうおうおう、こちらは雨だった、こちらは雨だった』

 

 マイクテストのつもりで話しかけたつもりが、応答されてしまった。

 

『ようやく繋がったな。次元通信様様ってなモンか』

 

「取り掛かって数日で繋がるのも妙な話だと思いますがね」

 

 俺は相手の言葉にあきれた声を漏らす。しかしあては他所吹く風として流した。

 

『そこはともかくよお、どんな具合だ?』

 

 ……通信の相手はあの司令官だ。それだけに俺達も人目が無ければこうして砕ける。

 

「一応俺の判断でですが、現地での協力者を募りました」

 

『ほうほう、現地協力者ねえ。手ごたえはどうだ?』

 

「特に問題はなさそうですね。色々と情報が引き出せそうですよ」

 

『頭が良いのか悪いのか、情報源としては及第点の相手だな。出来るなら後、2つ3つは情報源を増やせ。色の濃い情報にこそ価値があるんだからな』

 

 俺の報告に対して司令は追加注文を付けてきた。情報源はある程度ほしいらしい。

 

「そのことだけど司令、コイツったら、私たちの事を暴露したんですよ? どうしますか?」

 

『不問だな。信頼関係の代償だろ? それで中身の濃い情報が手に入るなら、先行投資として成立する』

 

 司令はトリーの問題提起を不問に処した。

 

「でも司令」

 

『言いたいことは判るが、こちらは現地からの情報を待ちわびている節がある。大抵の事は俺の権限で不問にしてやるから仕事を果たせ』

 

 仕事を果たせ、その一言を聞いて俺達は表情を引き締める。成果重視で任務が動いている事が仄めかされた。

 

「了解です。状況次第では助っ人を頼みたいのですが」

 

 俺は今後のことを踏まえ、事前に助っ人申請をする。この現場で俺の権限は師団長レベル、部隊をも動かせる事を司令から許諾されたのだから、この申請は問題が無いはず。

 

『判った。助っ人については確実に行う。しかし人選については要望は聞くが人選はこちらの判断で行うぞ』

 

「了解です」

 

 この会話が、後に俺の頭を悩ませる事になるだなんて、この時の俺は微塵も思ってなかった。




こうして罰を逃れたカケカケ、次はどうなることか(笑)
次回は息抜きなトレーニングをするのでお楽しみにm(__)m


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第9話 日課は楽しくやりたい

どうもバグパイプですm(__)m 
今回は試験的に話を長くしてます。それではどうぞm(__)m


 次の日、俺とトリーは毎朝のトレーニングの1つ、マラソンをしに外へ出て走り始める。その道すがらで高校生らしい若者のカップルを目撃……イッセーとリアスだった。

 

「へぇ、こんな朝っぱらからランニングとかで体を鍛えているのか」

 

 俺はイッセーとリアスに併走しながら感心する。だが俺の走りは周囲が目を疑うくらいの早足で歩いているのだ。言うのもなんだが、人間がマラソンで走る速度ぐらいで良いなら、こっちは四つんばいで走っても十分に追い越せる。

 

「良くそれでついてこれるわね」

 

「その程度の速さなら四つんばいで走っても追い抜いてやるぞ」

 

「んなバカな」

 

「あら、このくらいで驚いていたら、あたし達の組み手を見た途端に卒倒するわよ」

 

 驚きの声を上げるリアスに対してトリーが追い討ちを仄めかす言葉を投げかけた。そして目的地の公園に到着したところでその言葉が現実となる。

 

 

 

 公園に到着してすぐに始まった俺達の早朝トレーニングにリアス達が目を剥いて驚く。

 

 確かにこれは驚く。何しろ小さい子供がやるあの『アルプスなんたら』をそのまま、下半身を固定させて攻防まで織り交ぜて行うのだ。上半身のバネと反射神経、下半身を固定するための踏ん張りを全て、同時進行で鍛え上げるこの訓練は俺達の組織では初歩的な訓練だ。

 

「ふむ、日頃の訓練は怠ってなかったか」

 

「この位なら当たり前に動けないと、調査員は出来ないでしょ?」

 

「ごもっともでございます」

 

 俺とトリーは軽口を交えながら拳と平手を交える。その間ですら手は止まらずにパンパンと小気味良い音を奏でる。

 

「そんなに危険なの? 調査員の仕事って」

 

 リアスは俺達の会話に違和感を覚えたのか、率直な質問を投げてきた。

 

「んっ? ああ、この世界は穏やかだから信じられないだろうけど、場所によっては命がけの任務になるから鍛えることは止められないんだよな」

 

「ええ、何回か前の任務じゃ、魔獣の群れに襲われたことがあったわよ。流石に無傷じゃ終われなかったわ」

 

「それに調査といっても千差万別、テロリストの規模を調査する仕事が来たこともあったしな」

 

 彼女の質問に対して俺達は実例を挙げて答えた。武器が有ったとしても多勢に無勢が俺達の仕事、集団を相手に勝ち逃げできるほどの技量は確保したい。

 

 俺達の話を聞いてイッセーが青ざめた表情を見せている。おそらくはその時の光景でも想像したのだろう。

 

 そうして意識が反れた次の瞬間、トリーが俺にデコピンの一撃を当てた。

 

「あだっ!」

 

 そしてトリーから地獄行きが宣告された。

 

「カケカケ~っ、タイキック!」

 

 タイキック?

 

「えええぇ~っ!」

 

俺は突如トリーから放たれた死刑宣告に目を剥いて飛び上がらんばかりに驚く。コイツの全力蹴りなら大気圏越えて電離層まで飛べる。いや、腰が物理的に抜ける。

 

「いぃやぁ~っ! いぃやぁ~っ!」

 

「カクゴシロ」

 

 嬉々としながら片言で俺をねじ伏せようとするトリーに対して俺は全てを捨てて逃げ出す。

 

 しかし悲しいかな、速度はトリーが俺の上を行くだけにこうして捕まった。

 

「いっくわよーっ!」

 

「あーっ!」

 

 パッカァーンッ!

 

 早朝のさわやかな空に、竹を割るような爽快な音と、それに反する男の凄まじい悲鳴がこだました。

 

 

 

「チクショウ……覚えてやがれ」

 

 腰の激痛から何とか立ち直った俺はトリーに向かって口を尖らせる。

本当にケツが粉砕されるかと思ったぞ、コノヤロウ。

 

 すると向こうも休憩中なのか、イッセーが俺の所に来た。

 

「あの、時渡さん、ちょっと良いすか?」

 

「んっ? どうしたんだ?」

 

 イッセーの表情が妙に真面目な所に俺は妙なものを感じ、話を聞くことにした。

 

「実は昨日の夜も堕天使に襲われまして、ギリギリの所で部長に助けられたんすよ」

 

「ふうん、その堕天使も運が悪かったな。獲物は美味しくいただくのが暗黙のルールらしいが」

 

 俺はイッセーの言葉に軽い冷やかしを入れる。しかしヤツの目は目の前を見ていない危うさが浮かんでいた。

 

「俺って、弱いっすよね、アハハ」

 

「当たり前だろ、転生したてでも生まれたてでも悪魔は悪魔、最初から強いやつは居ないモンだ」

 

「でも俺は強くなりたいんすよ」

 

 イッセーはそう言って俺に向き直る。しかしその目の残る危うい光に陰りは見えない。

 

 俺はそれを見てからため息を1つ吐き、彼を諭すことにした。

 

「イッセー、生まれたヤツは必ず2つの権利と1つの義務を背負ってる。そいつが何なのか分かるか?」

 

「えっ? いや、俺って馬鹿だから分からないっす」

 

「なら今から賢くなれ。生きる権利と幸せになる権利、そして成長する義務だ」

 

 俺は戦う術を学んだ師匠である武神の言葉を使ってイッセーを諭す。

 

 生きる権利と幸せになる権利――何かを果たす事とその喜び――を知って強くなり、それが成長する義務に繋がる。義務は放棄すれば心が死ぬ。成長する事を諦めたヤツが生きて行けるほど世界は甘くない。

 

「賢くなれって、俺に出来るわけが……」

 

「お前は今、俺が教えたことを理解し、それを他のやつに説明できるようになった。それが成長する義務だ。強くなるってのは成ろうとして成れるもんじゃない。成っちまうモンなんだよ」

 

 俺の言葉にイッセーが息を呑む。

 

「俺が強くなったのは必然だ。そしてお前もその必然の中に居る」

 

 俺は右の拳を彼の胸にトンッと押し当てる。

 

「俺の中の竜は俺の気持ちに答えて強さをくれた。じきにお前の中の竜もお前の意思を酌んで強さをくれるだろうさ」

 

「……はい! ありがとうございます!」

 

 俺の教えが少しでも理解できたのか、晴れやかな顔でイッセーが俺に感謝してきた。今はそれでいい。

 

 ……イッセーの中の竜はどこまで運命に抗って我を押し通すのか、俺としては見てみたい所では有るが、難しいだろうなと判っているし。

 

「良し、ハーレム王に俺はなる!」

 

 ……かっこよく決めた所を台無しにしやがったよ、コノヤロウ




良い話で終わらないのは仕様です。
それでは次回をお楽しみにm(__)m


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第10話 余計な仕事は増やさない

どうもバグパイプですm(__)m
10話まで頑張れたのは読んでくださる皆さんのおかげですm(__)mありがとうございます。
それではどうぞm(__)m


 イッセー達との早朝トレーニングを終え、俺達は拠点で朝食を取る。

 

「ふうん、最近はこっちも物騒なのね」

 

 トリーの呟きを耳にした俺はコイツの視線の先を眼で追う。そこには昨日、次元通信で使ったTVがあり、その画面は海外の話題を映していた。

『日本時間で昨夜未明、ウツカロック国の第4王女が行方不明になったとの知らせが入り、警察当局が全力を挙げて捜索に乗り出したとの事です。詳しい情報が入り次第……』

 

「王女様、かぁ」

 

「世が世なら、世も末ってか」

 

 他所の国の話というだけに、トリーも俺ものん気にしていた。テーブルの上にあるマーガリンの登場を待つただのトーストとミニトマトときゅうりをベースにした野菜サラダ。ホカホカと湯気を立てるコーンスープが鎮座している。

 

「俺達が関係するような話じゃないさ。食っちまえよ」

 

「そうね。調査員に出来ることはその場に居合わせないと出来ないことだらけだものね」

 

 トリーは俺に言われて納得したのかTVから視線を放して食事に取り掛かる。

 

「そういうこった。俺達は後からその事の真実を調べ上げて真実を突きつける。そういう仕事だ」

 

 俺は仕事をこなすように食事を続ける。嫌な事も好きな事も調査員をすると否でも真実を見なければならなくなる。昔からそうだったし、これからもそうだろう。

 

 食事を終え、俺達は二手に分かれた。俺は街中を散策しながら地脈の情報収集を。トリーはその情報を追時受け取りながら解析をする、という仕事だ。こうした二人三脚作業は調査範囲が広いほど効率的で、精度はやや落ちるものの、座標を指定してのものであれば十分な成果を打ち出すことが出来る。

 

 でも、地味でつまらない作業なのは仕方ない。飽きてくると襲ってくる眠気と欠伸を我慢しながら作業をしているうちに夕方になった。

 

「んっ? 妙な気配が1つ?」

 

 俺はふと気配を感じて思わず呟いてしまった。通信機が繋がったままだからもしかしたらトリーが聞き取ったかもしれない。

 

 気配の主は男の堕天使らしく、少しばかり荒々しい雰囲気と力強さが入り混じっている。その気配が今、こちらに向かっていい速さで近づいてきている。

 

「参ったな、接触は5分も無いぞ。ってあれ? トリーの気配も近づいてきてる」

 

 目を細めて危機感を感じていた俺だが、次の瞬間に同僚の気配を感じて呆気に取られてしまった。何しに来るんだろうか、と。

 

「ほう、昨日とは違う悪魔の気配を感じて来てみれば、またもやはぐれに遇えるとはなぁ」

 

 やってきた相手、トレンチコートを身に纏ったガタイの良さそうな黒翼の男が呆れた様に呟いている。

 

 だが、彼は犠牲者に早代わりしてしまった、後から来たトリーに羽交い絞めにされて。

 

「カケカケーッ、このおじ様素敵よぉ~っ! 貰っちゃって良いかしら?」

 

「なっ、何なんだ、この女は!? はっ、離れん!」

 

 男は取り付いているトリーを剥がそうと体を捻るが簡単に剥がれるほど相手は甘くない。それどころか凄く嬉しそうにしながらその抵抗をあしらっていく。

 

「ああん。服の上からでも良く分かる、この鍛えられた筋肉。それに腰のしなりも良さそうね。たまらないわぁ~っ、あ・な・た♪」

 

「なっ!? 何を言ってる!? それにそこの貴様! どうして背中を向ける!?」

 

 トリーの上気した惚気の言葉を聴いて俺と男が顔を引きつらせた。俺はそのまま、二人に背中を向けて耳を塞ぎ、全てが終わるまで全てを閉ざした。男が悲鳴を上げたり俺に何かを訴えているようだったが聞こえない、聞こえない。

 

 

 

 一通り、喧騒が収まったのを感じ取って振り返ると、そこにはスッキリと晴れやかな表情を浮かべているトリーと、女々しく泣き崩れているお尻丸出しの男の姿があった。

 

「やっちまったのか?」

 

「素敵だったわ。たまらないくらいに」

 

 怖々と確認する俺に対して、これ以上ないくらいにご機嫌な顔でトリーは答えてくれる。可哀想に、堕天使だけにむしられたか。

 

 ……って、どうしてその熱い眼差しで俺を見つめるんだ、トリー?

 

「食後のデザートに、ください」

 

「誰がくれてやるか! ボケが!」

 

 真顔でオマケを要求するトリーに俺は怒鳴り散らした。

 

 




10話記念
(登場人物紹介)

時渡翔(ときわたりかける)

 別次元では上級悪魔ながら竜戦騎とう最上級騎士の称号を持つ。性格は軽いが仲間思いの兄貴肌で知られている。

 組織スタッフ・ド・RBでは調査部隊SEEKER(シーカー)に所属。戦闘力の高さからシーカーに転属されて最前線の任務に従事している。なお、初期に所属した強襲部隊ダークネスにて磨き上げた暴虐的な実力は、シーカーの中でも屈指のものとして知られている。

 竜戦騎になったきっかけは少年時代に戦争に巻き込まれ、力を渇望する所から始まり、竜戦騎の力を求めて竜羅の業を行い、ドラゴンを剣で倒して喰らった事により覚醒を果たす。なお、喰らったドラゴンは火炎竜との事だが、その名前は本人によって秘匿されている。


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第11話 余計な知識の伝来

どうもバグパイプですm(__)m

スマホの調子が悪くて四苦八苦してますが、続きをどうぞm(__)m


「あら、2人ともどうしたのよ、こんな所で」

 

 背後から投げ込まれた聞き覚えのある少女の声を耳にして俺は振り返ると、そこにはリアスとイッセー達、グレモリー眷属が集まっていた。

 

「い、いや、不幸な堕天使の対処に困っていたところなんだ」

 

 俺はそう言って視線を哀れな堕天使に向ける。そこではいまだにシクシクと女々しく泣き崩れている彼の姿があった。……そろそろ尻を隠せよ。

 

 そんな惨めな彼の姿を見た二人は声を揃えてある名前を叫んだ。

 

「「ドーナ・シーク!?」」

 

「……その声、リアス・グレモリー!?」

 

 リアスの声を聞いて堕天使が顔を上げ、彼女を見て驚く。だが俺はそんな彼の声音を聞いて驚いた。

 

「キーが高くなってねえか?」

 

「私の槍は男を貫いてひっくり返すのよ」

 

 ……トリー、お前は本当に恐ろしいな。文字、いや漢字の如く逃げる男の下半身を貫いてひっくり返すのかよ……。

 

 俺はこの時、絶対にトリーの槍から逃げ切ってみせると心に固く誓った。女になりたくない一身で。

 

「こうなってしまっては分が悪いね。今日はこれで退散するよ」

 

 少々たどたどしくはあるが、ドーナ・シークが捨て台詞を吐いて退散した。ただ、その飛び去る姿に俺は、見てはいけない変化を見てしまった。内股で飛び上がり、翼を広げる際に連動した右手の小指が僅かに立っていたのを。

 

「それにしても、どうしてお前らはここに来たんだ?」

 

 俺は気を取り直すためにふと沸いた疑問であるリアスたちの行動を問いたずねた。

 

「実はね、この先の廃工場にはぐれ悪魔が住み着いたらしいの。その討伐のために行く所で貴方達が、と言う訳なの」

 

「それにしてもあのおっさん、あんな感じじゃなかったんだけどな」

 

 イッセーは見えなくなったドーナ・シークの影を見ながら独り言を呟いていた。

 

 彼についてはトリーが全面的に関わっているせいだ。

 

「イッセー、あいつに何かされたんなら、仇はトリーが討ったからな」

 

「そ、そうなんすか?」

 

 俺の言葉にイッセーが面食らった顔でうろたえる。

 

「そうよ。美味しそうだったから、ウマウマしちゃった」

 

「はあっ!?」

 

 トリーは目を白黒させて硬直しているイッセーから視線を外し、今度は他のグレモリー眷属に説明を始めだした。

 

「良~いっ、愛で語れる事の全ては、『愛!』その一言で押し切ることが出来るのよ。愛は正義なのよ」

 

「なぜそこで愛っ!?」

 

 トリーの飛躍が過ぎる暴言に俺は思わず突っ込む。

 

「同性愛も愛で語れる事なのよ! カケカケッ!」

 

「何が愛だよ! 縒るんじゃねえ!」

 

 俺は体の向きをそのままにしてすり足で近づいてくる妙な熱を持ったトリーに怒鳴り散らす。

 

 俺の視界の隅で、金髪少年の木場が神妙な面持ちで逡巡している姿が見えたのが気にかかった。

 

「あらあら……っ?」

 

「同性愛っ!?」

 

 ポニーテール美少女の朱乃と、リアスがある言葉、『同性愛』に反応して目を丸くした。

 

「ま、まさかトリーさん、貴方」

 

「前に言ったでしょ? 『お優しいお兄さん達は分かってる』って」」

 

 リアスからの確認にトリーが全面肯定すると、何故かリアス陣営の面々全員がその場に崩れてしまった。

 

「女性では……無かったんですね」

 

「自分が女性だなんて、私は一言も言ってないわよ」

 

「だから俺に近づくんじゃねえよ、トリー」

 

 今度は小柄な少女の小猫が確認してくるが、それにも女性ではないと答えながら、トリーは俺に近づいてくる。

 

「俺の尻はデザートじゃねえ!」

 

「デザートじゃないわ! メインディッシュよ!」

 

「余計悪いわ! コノヤロウ!」

 

 

 

 




(前回の登場人物紹介の続き)

時渡翔(ときわたりかける)

称号

 壊す舞台装置 騒乱の導火線 陽だまりで遊ぶ破壊者 冷凍のギャグ使い 貧乏クジ当たる君

保有スキル

 各種魔法 生体感知 上級変装術 格闘術 強襲型武術 竜気発動 隠遁術 各種耐性 教導技術 


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第12話 お仕事に行こう

どうもバグパイプですm(__)m
大変です。小説のストックが尽きました。もしかすると更新が数日遅れるかも知れないですm(__)m頑張りますのでよろしくお願いしますm(__)m


「そ、それで、お前達は何をしてるんだよ」

 

 トリーから何とか逃げ切った俺は、出かける途中のリアス達にその目的を問いかけた。

 

「実は大公からの依頼ではぐれ悪魔を狩りに行く所なの。この近くの廃工場なんだけれど」

 

 リアスの言葉に今度は俺達が目を白黒させる番だった。

 

「はぐれ悪魔?」

 

「ええ、そうよ」

 

「カケカケ、私ははぐれ悪魔なんての、初めてよ?」

 

「奇遇だな、俺もヴァージンだ」

 

 スパンッ!

 

 俺はトリーから振られたネタに対して素直にふざけたら、リアスにハリセンで叩かれた。

 

「なるほど。しかし、離反して犯罪を犯すならそれはそれで犯罪者ってカテゴリーにならないか?」

 

 俺はリアスにはぐれ悪魔の成り方を聞かされ、俺達の常識と食い違う点を確認する。離反は穏やかではないが、はぐれ者扱いするのも大げさに感じるのだ。

 

「貴方の言い分はもっともだけれど、孤立した時点ではぐれ認定を受けるのよ。特に悪魔の駒を有してる限りにおいては、ね」

 

「悪魔の駒があったか」

 

 俺は悪魔の駒の事に失念していたことを気づかされた。眷族という括りが悪魔の駒にも適用される以上ははぐれ認定も存在しなければならないということなのだろう。貴族社会ならではの犯罪なので平民の俺達は忘れていた。

 

「そうなると俺達の感覚では軍隊における敵前逃亡とかの括りで良いのかな?」

 

「どうかしら? 仕事中の事とは言い切れないわけだし?」

 

 トリーに感覚的なことを確認すると、肩を竦めて対応に困っていた。

 

「それで、貴方達はそれから何かあるのかしら? こちらはこれからイッセーに悪魔の戦い方を教えるのだけれど」

 

 リアスが俺達の都合を聞いてくる。確か今日の調査資料を纏めるだけだから、空いてるといえば空いてるが……。

 

「ディナーが遅くなっちまうな」

 

 ポツリと呟いた単語が悪かったのか、トリーがそこに居たのが不運だったのか、それは分からないがいやな言葉を聴かされた。

 

「ん~っ、ゴチになっちゃう」

 

 嬉々としながらトリーが俺の腰にまとわりついてきた。離れろって! あっ、お前、俺の股座に手を持ってくるな!

 

「ゴチになりたいからおごってぇん♪」

 

 そこに目ざとい小柄なハイエナも群れてきた。

 

「……ご馳走になります」

 

「なっ、搭城!? お前もかよ」

 

「そういう事なら私達も良いかしら、ねえリアス?」

 

「親睦を深めるなら賛成しても良いかもね」

 

「止めるヤツがいねぇ~っ!?」

 

 周囲の反応に俺は目を剥いて驚く。まあ、この後に夕食を食べることは確定だけど、財布の中身はそう多くはない。

 

 そしてトリーが俺に止めを注す言葉を口走ってきた

 

「子供達に奢ってあげるのも大人の甲斐性よね?」

 

「トリー、……分かったよ。無事にお前らの仕事が終わったら奢ってやるよ、ったく」

 

「やったぁーっ!」

 

 がっくりとうなだれる俺の周りでリアスたちが手を叩き合って喜ぶ。夜中に俺の部屋の金庫から金を補充するか。それはそうと。

 

「トリー、ガキに奢ってやるのが大人の甲斐性なら、お前も出せよな」

 

「やーねぇ、女にお金を出させるのぉ?」

 

「こんな時だけ女かよ」

 




(登場人物紹介)

 トリー・コロール

 別次元では安息の天使と呼ばれる天界の特別天使であり、天使の軍勢の切り札の一人。また、天界で希少種の両性具有であり、その事で周囲から孤立していたが、翔に出会った事から変化が訪れた。

 組織スタッフ・ド・RBでは技術分野からのシーカー所属で、他の部隊は未経験。しかしその知性の高さと望むものを形にしてしまう実力によって翔の右腕の地位をもぎ取った猛者である。

 竜戦騎としての実力も戦術などを主体とした頭脳戦を好み、敵の無力化を最高の喜びとする傾向が見られる。トリーが喰らったドラゴン、淡水竜については戦略を駆使して追い詰めて降伏させたという。その戦略については当人がその口で語ろうとしない。


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第13話 お仕事します

どうもバグパイプですm(__)m
小説を書く早さは変わらないですが、投稿するのに手間取って苦労してます。
では続きをどうぞm(__)m


 俺の財布が切ないため息を漏らす音を聞きながら俺は、トリーと共にリアス達が仕事をするというので見学する事にした。

 

 廃工場までの道程はそう遠いものではなく、10数分ほどで到着した。

 

「それで、イッセーに何を教えるのかな、お嬢様は」

 

 俺が口元を歪めて漏らした皮肉に、リアスはそっぽを向きながら答えてくれた。

 

「悪魔の戦い方よ。悪魔の駒、って言っても良いわ」

 

 彼女の言葉に俺達は思い当たる節があり、それを口に出した。

 

「ああ、あのイッセーを悪魔にしたあの駒のことか」

 

「その謎に迫る! ババァーン! ってヤツね」

 

 俺達がめいめいにふざけるが、リアスはそれを完全に無視してくれる。気持ちは分からなくはないが、少しは構ってほしいところではある。

 

 廃工場の敷地内に入った俺達は、その敷居をまたいだ瞬間に空気が変わった事に表情を引き締めた。明らかに感じなれた修羅場の風というものに。

 

 しかし俺とトリーは次の瞬間には表情を緩めた。修羅場の風に混ざって感じる相手の気配に、軽快すべき強さを感じない。はっきりと言えば俺達の基準で下級の魔力しか感じない。しかもそれが3つ。

 

「あの娘達、察してるかしら?」

 

「解かってないだろ。でなけりゃイッセーを外すさ。俺達だって足手まといはゴメンだぜ?」

 

 俺はトリーの確認に、持論を述べる。それはトリーも理解しているのか咎める声は無い。

 

「オイシソウナニオイガスルナ、ウマイノカナ、マズイノカナ」

 

 廃工場の中から女の声が聞こえてきた。しかしその声に化け物じみた強さは感じられない。こいつらに任せても良いかもしれない、と俺は判断した。

 

「トリー、念のため警戒。最悪は俺達で動くぞ」

 

 俺の言葉にトリーは無言でうなずく。グレモリー眷属には悪いが踊ってもらうことにするか。怪我をする要素が見られないから。

 

「はぐれ悪魔バイザー、出てきなさい。居るのは判っているのよ」

 

 リアスは凛々しく相手を挑発し、おびき出そうとする。俺達はそれを見て顔をしかめた。

 

「馬鹿か? 俺達のルールじゃ……いや、イッセーの教育のためだったな」

 

 俺は目的がイッセーへの教育だと思い出し、体の力を抜く。こういう状況の場合、スタッフ・ド・RBでは物陰に隠れながら相手の位置を特定し、出来る限り襲撃して個別撃破する。それが俺が過去に所属していた強襲部隊ダークネスでの常識だった。

 

 トリーもその辺りは理解しているのか、俺と同じ反応していた。もっとも、俺よりは納得していない雰囲気が見受けられるが。

 

「おっ、おっぱいっ!?」

 

 俺の耳をイッセーの喜声が掠める。どうやら相手は全裸だったらしい。そして相手が物陰から出て来た時にその声から嬉々としたものが消えてしまった。

 

 俺はそれに疑問を持って現場を見ると、バイザーと呼ばれたはぐれ悪魔の下半身が蛸というか、触手で構成されていた。確かに全裸は全裸だ。だが悪魔ということを失念しなければ何も惑うことは無い。

 

「まあ、あれが落ちるか追加が来るまでサボり決定だな」

 

「見殺しは良くないよ?」

 

「俺がそんなヤツに見えるのかよ」

 

「見えるけど、何とかするんでしょ?」

 

「まぁな、その気になったらこの場に居る全員を相手にしても問題ないぜ?」

 

 俺はトリーを相手に軽口を叩いてみせる。トリーだって俺を相手にするぐらいは問題にしないだろう。他は全部雑魚って言える。正直に言えばグレモリー眷族は物足りない。竜戦騎の相手にはどうしても一皮向けてもらいたいぐらい。

 

「騎士は速さの能力を上げるのよ」

 

 俺達が無駄話をしている間に場は進み、木場が相手の触手を切り飛ばしていた。

 

 速さを求められている騎士は剣でも別に構わないが、防御の面に難有りと感じる。この程度の相手なら問題は無いが、更に上の相手だと無理が出る。当面は回避能力を鍛えてもらいたい所だ。

 

 小猫の番になり、拳で殴り飛ばしていたが、力の乗せ方がなってない。我流で鍛えているのがありありと見える。問題はルークとしての堅固な防御と筋力を無駄に使っている。あれなら武器としてハンマーを使わせたいところだ。それに下半身にある重心がへその辺りにあるのが惜しい。腰骨の高さより下に置いて安定させてから体の柔らかさを使って重さを利用した戦い方をしてもらいたい。

 

 次は朱乃の番となり、魔力で発生させた雷を相手に叩きつけて相手を瀕死の状態にして見せた。

 

「魔力をなめてるのかしら。天使の光が使える様なのにそれを使わないなんて」

 

 トリーが朱乃の魔力にケチを付ける。確かに1種類の魔力を叩きつけるよりは数種類の魔力を1度に叩き付ける方が効率が良い。だが、魔力運用がてんで成ってない。

 

「主が主だから、こうなって当然だな。甘ちゃん部隊は戦場では通用しない」

 

 俺はリアスが魔力でバイザーを消し飛ばしたところを見て俺は総合的な評価を下す。高校生という若さを見ても酷すぎる。基礎からやり直し確定だ。俺達の共感が見たら激怒するレベルだ。

 

 だが、リアス達はバイザー以外の2人に気づいていない様だ。反省会確定だな。

 




(前回の登場人物紹介の続き)

トリー・コロール

称号

 奇跡の先祖返り プライドの捕食者 竜の英知を語る者 ウインナー・ドラゴン

保有スキル

 各種魔法 生体感知 上級変装術 格闘術 強襲型武術 竜気発動 隠遁術 各種耐性 教導技術 各種罠技術


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第14話 リアス達の戦いと俺達の戦い

どうもバグパイプですm(__)m
これでオカルト研究部編は終わりです(^^ゞ
次はUA2000突破記念に感謝の番外編を書きます。


「ブエァーッ!」

 

「なっ!?」

 

 リアス達は油断してたのか、物陰から現れた新手2体に対して動揺している。このままだと彼女達は怪我を免れない。

 

「あーあ、これだからお嬢様ってヤツは」

 

 俺は愚痴をこぼしてから動き出した。彼女には悪いが俺達でこの新手を処理しておく。

 

「ご苦労さん」

 

 俺は誰にとも無くそう言ってから右腕を振り下ろした。その先には新手1体が、俺の攻撃を受けて気絶する。もう1体はトリーの方ですでに気絶させていた。

 

 こう言うのもなんだが弱いな、コツら。

 

「カケカケ、こいつら、縛っとこうか?」

 

「そうだな、1本いっとく?」

 

 ドカッ!

 

 トリーと俺のやり取りを聞いてたのか、リアスが何故か背後から俺を蹴ってきた。

 

「ふざけないで真面目にやりなさい!」

 

 リアスが俺の軽口を怒鳴りつけて叱る。すると相手の一人が意識を取り戻したのか、体を起こして頭を左右に振っている。

 

「あらあら、起きちゃったわね」

 

「おし、気合入れてやるとしよう」

 

 俺はそう言ってどこからともなく黒い筒に挿まれた金色の棒を取り出し、それを頭上に掲げた。

 

「むうんっ! フィジィカルぅん」

 

 俺は呪文の詠唱をしている最中に膝を後ろから押され、踏ん張る力を失った。膝カックン喰らったっ! 膝カックン喰らったっ!

 

「さすがにそれはNGよ、カケカケ」

 

 俺の背中でトリーの声が俺にダメ出しをしてくる。このギャグはダメですか!? ダメなんですか!?

 

「まじめにやらないと流石に、ねえ……」

 

 トリーの後ろを見る視線にあせりの色を見た俺はそろりと後ろに視線を向ける。すると腕組みをして睨みつけてくるリアスと、半目の覚めた視線を向けてくる小猫の姿がそこにあった。

 

 ……世間様は俺に冷たい!

 

 とにかくトリーからダメ出しされてしまった俺は、真面目に戦うことに……しない、こりない、省みないが俺のセイギ。

 

 俺は懐から荒縄を取り出し、立ち上がろうとしている相手に向かって突撃を敢行する。

 

 相手が立ち上がり、襲い繰る俺に気づいたがすでに遅い。俺は相手の足を掬い上げ、浮き上がった両足を手際よく開脚縛りに縛り上げ、あまったロープで両腕を相手のへその高さで縛り上げた。足のロープと腕のロープは股の間を通して繋がっているため、下手にもがくと股が大変なことになる仕組みだ。

 

「どうだっ!」

 

「バカッ!」

 

 俺が自分のセイギに誇らしさを感じている所をトリーが足蹴にしてきた。

 

 そうこうして俺達は相手2人を縛り上げ、リアスに引き渡す。まあ、大人にしか見せられない姿なのは勘弁してもらうことにしたわけだが。

 

「まったく、貴方達は……」

 

「そんなに褒めなくても♪」

 

「褒めてないわよ」

 

「褒めてくれても良いですよ?」

 

「しつこい」

 

 呆れ果てて頭を抱えているリアスに俺は賞賛を求めるのだが、当然の様に却下されてしまった。

 

「何はともあれ、これでご飯ですね」

 

 小猫が食事に行けるという状況に何かを浮かれている雰囲気をまとって呟く。

 

 そうだった。俺はこれからこいつらにメシを奢らなければならなかった。でもこういう日常が在っても良いかも知れない。

 

 夜の10時を過ぎてなお、開いている飯屋を探す事が頭から離れてなければ。

 




(小説のメモ帳)

 スタッフ・ド・RB

 翔達が所属してる部隊を傘下に収める特別組織の表向きの名称。その実、表沙汰に出来ない問題に裏から介入し、極秘裏に処理することを主な任務としている。

 1部隊の最低人数は作戦内容に依存するが基本は6人体制で、入隊してから必須技能を問答無用に習得させられる所は鬼畜であり、鬼さえも泣き出すとさえ言われている。

 必須技能は調理師免許・衛生管理士免許・自動車免許・キャタピラ限定免許・危険物取り扱い免許・医師免許など。必要があれば後から追加で所得させられる。因みに必須技能習得は司令官命令であり、逃げ出す事が出来ない。


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番外編第1章 飯は愛情とぬくもりを
番外編 第1章 第1話 おかしな仕事を請けたな


どうもバグパイプですm(__)m
連投ですが、UA2000突破記念の番外編をどうぞm(__)m


 

 廃工場での戦闘を終えて、俺達はリアス達の勧めでとある大衆食堂に入った。

 

「いらっしゃい」

 

 店の中は従業員の姿しか無く、客の姿が見当たらなかった。

 

 テーブルの数は3つにカウンター席、まあ、これなら全員が席に座れるな。

 

「それにしてもお疲れ様だな、お前らは」

 

 俺はイッセー達にねぎらいの言葉を投げかける。

 

「いえ、それよりもお2人の強さに驚かされました」

 

 俺の言葉に木場が謙遜する。確かにはぐれ悪魔1体に余力程度とはいえ、全員でかかって倒すのは良いが、無駄や無理が多すぎるのは問題だ。

 

「片手間であれだと、先が思いやられるぞ。搭城は技術面が甘い上に能力に頼りすぎてる。木場は早さにかまけて防御と連携に弱い所がある。姫島は魔力の収束が全然出来てない。グレモリーはぜんぜんダメだな。魔力も少なければ制御も出来てない。それで実戦に出たら問答無用に囮か捨て駒にされるぞ」

 

 俺は先ほどの戦闘での問題点を指摘する。どこをどう学べばこんな偏った能力部隊が出来上がるのか。

 

「一番の問題は戦略が力任せでごり押しなのが、問題よね」

 

 トリーが俺の言葉を継いで問題点を指摘する。彼女達は耳の痛い話なだけに苦笑を浮かべることしか出来ていなかった。

 

 これだけの問題を抱えているとなると、俺達がどれだけ恵まれた組織で訓練されたのかが分かってしまう。何しろ訓練期間は一切の出動を許されず、また緊急出動も無い。あるのは一流の専任講師の下での訓練だけである。そしてその講師の認可を得て初めて部隊に配置され、任務に従事するわけである。

 

 だが、配属先の部隊で伸びるだろう別の能力が露見した場合、その部隊での任務に従事しながらも能力を伸ばすための訓練に駆り出されるのだ。俺はそうやって今の調査部隊に転属させられた。

 

「まあ、小難しい話は明日でも良いだろ。まずは食事だ」

 

 俺は皆を見てからそう言って店のメニューに視線を移す。大衆食堂だけあってそれなりにいいメニューがある。

 

「へえ、コロッケがあるのか」

 

「アジのフライがあるねえ」

 

 俺とトリーはメニューの中の一品を見てにんまりと笑ってしまう。

 

 だが問題がそこで発生してしまった。俺達ではなく、店の側に。

 

「アタタタタ……」

 

 不意に店の年配女性がカウンターの奥で呻きながらその場に蹲ってしまった。それを見た俺とトリーは他の従業員の横をすり抜けて彼女のそばに取り付いた。

 

「トリー、彼女の様態を」

 

「治療場所に移送を」

 

 トリーの支持に俺は年配女性の腕を取り、出来る限り丁寧に持ち上げる。トリーは年配女性の腰に手を添え、病状を確認し始める。

 

「神経および臓器に異常なし。筋肉に若干の伸張と硬直を確認。魔法での治療を要する。認可を求む」

 

「治療を認可。最善まで確実に果たせ」

 

「了解」

 

 俺の許可を受けてトリーが治療体制を整える。その間、高校生のグレモリー眷属はその光景を呆然と見続けることしか出来なかった。

 

「ふう、これで一安心だな。しかし、食事をどうする? 居酒屋かファミレスぐらいしか開いてないだろうが、そこに行くか?」

 

「うええぇ~っ!」

 

「……我慢出来ねえか」

 

 俺はこの騒ぎで夕食がパーになったのを受けて店を変えようか相談したが、何人かがうめき声を上げたため、呆れてしまった。俺とトリーの方は仕事の関係で3食なんて抜いても平然と仕事が出来る。

 

 まあ、俺も料理は出来ないわけじゃないが、司令官ほど料理が上手いわけじゃない。もっとも司令官に勝てる料理人が居たら見てみたい。あの特級料理士とパテシィエのふざけた化け物に勝てる勇者を。

 

「しゃぁ~ねえ」

 

 俺は残っている従業員に確認を取る事にした。

 

「ところで、料理の出来るやつは居るのか?」

 

「いえ、おかみさんしか居なくて」

 

「なら、厨房は借りれるか?」

 

 俺はそう言って自分の財布から適当に10万円を抜き出してチラつかせる。すると相手は目の色を変えて反応した。

 

「はい、大丈夫です」

 

「迷惑料込みで受け取ってくれ」

 

 俺は従業員に10万を握らせ、交渉を終わらせた。これで俺はこの厨房を借りて料理が出来るわけだ。トリーは年配女性にかかりきりで動けないから、俺をとめるやつは居ない。

 

「あっ、あれ? 何か」

 

 目を白黒させて狼狽するグレモリー陣営に対して俺は懐から2枚の紙を取り出し、それを突きつけてやった。

 

「喜べ、俺がお前らの胃袋を満たすことになった調理士の時渡だ。なお衛生面に関してはこの俺、衛生管理士の時渡が許可を出した」

 

「えええぇぇ~っ!?」

 

 俺の出した紙、調理師免許と衛生管理士免許にその場がざわめいた。

 



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番外編 第1章 第2話 男子は厨房に入る

どうもバグパイプですm(__)m
翔とトリーが調子に乗ってます(。>д<)
それではどうぞm(__)m


「ちょっと、それってどういうことよ!」

 

 リアスが俺の出した免許2枚に抗議の声を上げた。だが俺の資格に死角は無い。

 

「どういうことって言われてもな。この店の調理士が倒れて料理が出せない以上はここでは飯が食えない。だがここに調理士免許を持ったヤツが居て、衛生管理士免許を持ったヤツが衛生管理を果たすならその限りではないわけだ」

 

 俺の説得にリアスが歯軋りをし、他の面々は開いた口が塞がらない。

 

「その気になっているからこの店のメニューは全部作れる」

 

「じゃ、じゃあ、野菜炒めとナポリタンを頼みます」

 

「注文入りまぁ~す♪」

 

 料理の腕を誇るとイッセーが注文を出してきたので、思わずリアスの声で応じてしまった。

 

「また私の声!?」

 

「あらあら、良いじゃないですか」

 

「今度は私の声なのね」

 

 俺はカウンターに入ると茶々を入れるために声をかけた。その声質に今度は朱乃が感心する。

 

 さあ、スタッフ・ド・RBの真価を披露しよう。

 

 厨房に入った俺は、大型冷蔵庫から野菜炒め用の野菜に豚の細切れ肉とナポリタンに使うベーコンを取り出す。野菜を一通り水で洗ってから包丁立ての中から野菜包丁を抜き取って野菜を切り刻んでいく。

 

「えっと炒め鍋は、っと結構深いな」

 

 俺は炒め鍋の深さが片手の幅分であるのを見て感心する。それだけ深ければ麻婆豆腐が作りやすいし、あんかけも作りやすい。チャーハンを作るには少し浅いが、中華鍋だと重いから仕方ないかもしれない。

 

 

 

 一方、客席の方では厨房を心配そうに見つめる面々の姿があった。

 

「大丈夫、でしょうか?」

 

「……自信満々だったから大丈夫かと」

 

 木場の心配そうな声に小猫が大丈夫と呟く。すると年配女性を見ていたはずのトリーが奥から戻ってきた。

 

「あれ? カケカケの姿が無いけど、どうしたの?」

 

「あっ、トリーさん。時渡さんなら今、厨房に居ますよ」

 

 トリーの疑問符に対してイッセーが厨房を指差す。

 

「あっ、居るわね。『貴方のスマイル』ください」

 

「うっふん♪」

 

 こっちはまじめに料理を作ってるんだ、お前の悪ふざけに付き合う暇など無い。トリーを黙らせるために俺は口元に笑みを浮かべてウインクして見せた。それ1つでトリー達が

たやすく轟沈した。

 

 俺はトリーが出してきた注文を即断で攻略すると、炒め鍋に油を少し入れてコンロに火をつけた。業務用コンロだけあって火力調節は面倒だが、何とでもなるだろう。

 

 野菜に火が通るのを見て、豚の細切れ肉を投入し、ジャカジャカと鍋を回す。すると鍋から野菜と肉のかぐわしい、食欲に訴えてくる香りが立ち上げる。そこで俺は僅かな焦げ目を付けるために炒め鍋を置き、コンロの向かい側に鎮座する大型炊飯器に茶碗を持って移動した。

 

「それでトリーさん、お店の人はどうなりました?」

 

「腰痛の方はほぼ全快。ただし経過観察をクリアしないと店には出せないわよ」

 

 店の年配女性の容態を朱乃が心配するが、トリーは問題ない所まで回復させていた。

 

 だが小猫達は別の所を心配していた様である。

 

「……なかなかの機敏な動きです」

 

「料理が上手かどうかはとにかく、料理する事には慣れているようね」

 

 小猫とリアスが客席で俺の背中を見ながら寸評をこぼす。

 

「確かに僕から見ても時渡さんの動きは理に適ってるし、手際も良さそうだね」

 

 グレモリー眷属の料理男子こと木場が俺の動きに感心している。だが厨房が狭いためにこの動きで我慢しているだけだ。この倍以上広ければ俺の動きは格段の良さを打ち出せる自信がある。

 

 そして俺はイッセーの注文を作り終えて客席へとそれらを運ばせた。

 

「さあ喰え」

 

「おっ、おう……」

 

 俺が食事を促すと何故かイッセーは息を呑む。

 

「他のやつらはどうするんだ?」

 

「イッセーが食べ始めてからにするわ」

 

 俺が注文を他の奴等にも促すと、イッセーの反応を見てからにすると言ってきた。だがイッセーが最初の一口を味わったところでそれは後悔の呻きに変わった。

 

「うおっ! すっげぇうめえ!」

 

「カケカケ、面倒だからオムライスにして」

 

「オーライ」

 

 トリーが俺に注文を投げかける。その上で余計な注文も投げてきた。

 

「オムライスの上にケチャップで、『愛してる』って書いてね」

 

「おしっ、カタカナで書いてやる」

 

「怖っ!」

 



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番外編 第1章 第3話 美味しいだけなら組織は要らない

どうもバグパイプですm(__)m今回は連投の前編です。それではどうぞm(__)m


 イッセーが美味い美味いと喰い続ける姿にリアスは驚き、彼に話しかけた。

 

「ねえイッセー、そんなに美味しいの?」

 

「美味いなんてモンじゃないですよ、部長!」

 

 不安げに質問するリアスにイッセーが信じてくれと声を挙げる。

 

 もちろん、ただ美味しいだけならスタッフ・ド・RBは切り捨てる。組織がほしいのは料理人ではなく部隊の隊員だから。

 

「一口頂戴、イッセー」

 

 リアスは一言断ってからその箸で野菜炒めをつまみ、口にする。野菜炒めを口にした途端、彼女の体が硬直した。

 

「えっ!? これってどういう事!?」

 

「俺は言っただろ、その気になっているからこの店のメニューは全部作れるって」

 

 そう、俺はこの店のメニューの全てをこの店の味で再現してみせる実力を持っている。組織の変装術は完全に変装対象になることを至上としているのだ、これが出来るからこそ俺は最前線の調査員として一目置かれている。

 

 その裏で孤独に泣き、プライドや個性がボロボロに崩壊する経験を何度も味合わされたものだが。

 

「この店のご飯、食べたことが無いのよね?」

 

「調理器具が独占で使われているなら、そこから味付けの情報を読み取れる。最悪、店にある煮物の鍋から細かい味付けを読み解くことが出来るぞ」

 

 調理器具からは対象の癖からさじ加減や火加減、挙句に何を得意としているのかさえも手に取るように解かる。それこそ器具は使われてこそ器具に育つ、俺はそれを読み取って使う者へと変装するだけだ。

 

 俺はリアスの確認に答えてから厨房に戻り、今度はオムライスの材料を冷蔵庫から取り出し、調理を始めた。

 

 唖然としている面々に、トリーは軽いことを口走った。

 

「何言ってるのよ、その気になったら小猫ちゃんにだって化けちゃうんでしょ? カケカケ~っ」

 

「おうっ! 身体測定されたってバレない自信があるぜ、ってうおっ!?」

 

 俺がトリーの冗談にしっかりと乗っかったらテーブル席の方から椅子が投げ込まれた。

 

「……変態、死すべし」

 

 俺の身長と小猫の身長では頭ひとつ分以上の差があるのに、それをどうするかはとにかく、彼女のスリーサイズさえ再現してみせると豪語した俺に鉄槌が下った。

 

「あはははは、何て言えば良いのか……分からなくなるね」

 

 木場は笑顔を浮かべながらも内心の困惑を素直に口にする。

 

 そんな楽しい、有意義なひと時の中で働いているのは俺1人。自分からした事とはいえ、何とも言えない感じがする。

 

 そんなこんなのうちにオムライスの中身であるチキンライスが完成し、それをくるむための卵焼きを作る作業に入る。この店ではオムライスは普通の卵焼きで作り、それにくるむらしい。何処だかの店だと半熟卵焼きを作ってそれを乗せる様になっているんだそうだが。

 

 一方、客席の方はというと、トリーを中心にして話題が俺とトリーの出会いになっていた。何を期待しているんだ? 連中は。

 

「そうね、私がカケカケと出会ったのは訓練所だったかな。あの時は胸もここまで大きくなかったけど」

 

「そう言って自分の胸を持ち上げないでください。……って何ですか、その手は」

 

「胸って揉めば大きくなるのよ? 胸の中に女性ホルモンの元があってね、それを刺激すると女性ホルモンの分泌が促されて、それと一緒に乳化ホルモンの分泌が促されるって訳なの」

 

 トリーが小猫に胸が大きくなる構図を医学的に説明していた。

 

「いやらしい話の様でいて、色気なんて何も無いのね」

 

「当然よ。産婦人科ではお乳の出を良くする為に揉むんだけど、貴方はそこに色気を感じるのかしら?」

 

 リアスが僅かに感心しているところに、トリーが追い討ちを掛ける。話が医学的な代物になっているせいか、イッセーと木場が妙に居た堪れない雰囲気をにじませている。

 

「それに乳化ホルモンが出るって言っても妊娠しない限りはお乳が出ない仕組みになってるから、実質は乳腺発達の下準備ってことになるわけ、分かった? 小猫ちゃん」

 

「……トリーさんに医者の知識があるのが驚きです」

 

 そろそろ客席に行かないと2人の男の子が困ることになりそうだ。

 

 俺は作り上げた卵焼きの中に先ほど作り上げたチキンライスを乗せてくるむ。そして皿にそれを移してから仕上げのケチャップと盛り付けにはいる。当然、リクエストの『アイシテル』は宣言どおりにやりました。

 

「おしっ、オムライスが上がったぞ」

 

「マジでやっちゃったよ、カケカケのヤツ」

 

 俺の自信作、『アイシテル』オムライスを目の前にしてトリーの顔が引きつる。

 

「それで、何か面白そうな話をしてたみたいだが、どういう話なんだ?」

 

「貴方達2人がどうしてコンビを組むようになったのか、って話です」

 

「んっ? ああ、それか」

 

 俺は木場から話を振られて少しばかり考えてしまった。俺はとにかく、トリーにとっては少し辛い話だからかもしれない。あいつはあの1件が元で男を辞めたから。

 

 そして俺がダークネスという部隊に配属させられた事件でもあるからだ。あの服役中の凶悪犯罪者がひしめく強襲部隊『ダークネス』に。

 

「トリー、話をしても良いのか?」

 

 俺は念のため、トリーに許可を取る。するとあいつは諦めたような表情を浮かべて許可を出してくれた。

 

「分かった。辛かったら席を離れろよ?」

 

「大丈夫よ、あれから5年だもの」

 

 トリーはそう言って自分の目の前にあるオムライスに取り掛かった。

 

 俺は無意識に、左肩に残っている大きな切り傷を右手で触っていた。

 

「トリーから許可が出たから、話すとしようか。俺とトリーの出会いっていうのを」

 



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番外編第1章 第4話 重い話ですがあれで良かったはずだ

どうもバグパイプですm(__)m
連投後編です。それではどうぞm(__)m


「俺とトリーが出会ったのは5年前の組織の訓練所だった。最初はお互いに気にも留めなかったな、天使と悪魔だから」

 

 トリーのヤツが俺にこだわる様になったのは確かにあの時の事件だった。訓練所での事件。

 

 

 

 5年前の当時、すでに竜戦騎の俺は基礎訓練課程を終え、あと数ヶ月で部隊に配置されるところに来ていた。だがその頃、変り種という名目で一人の天使が訓練所に姿を現した。身なりは男、だが男にしてはやや発達している大胸筋が目を引く天使だった。

 

 だが天使はその当時の訓練所では一人しか居なかったためか、孤立するのも早かった。他には俺を含めて数人の悪魔が訓練所で生活しているのだ。

 

 そしてある日、訓練所で事件が起きた。

 

「何をするのですか! 止めてください!」

 

「うるせえな! テメェみてえな坊やが本物の男かどうか調べてやろうってんだよ!」

 

 強姦といえばそれまでだが、加害者被害者共に、男だったのが妙な話だ。その時俺はたまたまトイレを済ませた後の、偶然に通りかかっただけだった。

 

「何をしてるんだ?」

 

 現場を見てしまった俺はその場に居合わせた面々に向かって間抜けな質問を投げてしまった。そして襲っている男が丁寧にも答えてくれた。

 

「決まってるだろうが、こいつが野郎かどうか確かめようってんだ。テメェはすっこんでろやぁ!」

 

 男が俺に向かって恫喝するが、そんなものが当時から竜戦騎だった俺に効く訳がない。俺は冷めた目つきで男に確認した。

 

「分かってるのかよ、そいつは犯罪だぞ?」

 

「犯罪が怖くてこの組織に入れるかよ。それにこの組織に入ればほとんどの事がお目溢しだって聞いたぜ?」

 

 組織の上層部が関係機関との密接な繋がりを作ってきてるという話は俺も聞いている。その為にある部隊では非合法の作戦の実行を担っているという噺さえあると言うほどだ。

男はそれに目を付けて潜り込もうとしているらしい。

 

 俺はその言葉を聴いて、俺の良心がこれからやることの全てを許してくれた。

 

 俺の右手が男の肩を掴んで引き剥がした、男のその体から。

 

 次に右ひざを男の腹に当て、そのまま力任せに蹴り飛ばそうとして失敗、男の横腹を大きくえぐった。

 

「へっ?」

 

「もろいな。ちゃんと鍛えてるのかよ」

 

 男が自分の体に起きたことが信じられないのか呆気にとられ、呆然としている。

 

 俺の脳裏にはあの時の、幼い頃の、目の前の戦火に対して泣くことしか出来なかった俺が浮かんでいた。そう、力なきものは虐げられる、そんな悔しい時代を。

 

「てっ、てててっ、てめぇ!?」

 

「黙ってろよ、ボケが」

 

 男が俺の攻撃力の酷さに声を挙げようとしたところを、許さずに開かれたその顎を右手で毟り取った。

 

 そして更に蹂躙しようと腕を上げたとき、背後から腕を掴まれた。

 

「はい、そこまでだ」

 

 その当時は相手が誰なのか分からなかったが、後から聞いた話では司令が他の者からの通報で現場に駆けつけ、俺を取り押さえたとの事だった。

 

「そんな事が……」

 

「あの事件の爪痕なのか、トリーは男の外見を捨てて強さを求めだして、竜戦騎の事を自力で調べ上げて修行した。俺は本来なら特殊部隊レッドベレーに配属のはずが、逮捕されて収監、そして司法庁所属の刑務所から強制労働の形で強襲部隊ダークネスに配属された。あの当時の顛末は以上だな」

 

 俺は戦慄するリアスを無視して話を終わらせた。

 

「でもそれだとおかしな事が幾つか有るわよ。どうして強制労働先が強襲部隊ダークネスなのか、トリーさんの事を助けるために戦ったのに何故捕まったのか」

 

「リアスの言い分も分かるが、ウチの副司令が元司法庁の関係者で、その伝からの司法取引だそうだ。俺が捕まったのは過剰防衛、つまりはやりすぎたって事だよ」

 

 俺はリアスの疑問に答え、チラリとトリーを見る。あいつはこの話を聞いているはずだが、心を閉ざして聞き流しているようだった。

 

「あっ、後、トリーさんを襲った連中はどうなったのよ」

 

「そいつらは司令官の権限で司法庁に強制送還。何でも組織に来る前に執行猶予付きの判決が出てたって話だ。副司令からの情報だから確かだよ」

 

「……ということはその方達も貴方と同じダークネスに?」

 

「いや、ダークネスの隊長が引取りを拒否したんだと。下種な愚か者に貸してやる軒は無いとか何とか」

 

「じゃあ、それだけの実力があるなら、そのダークネスでも主力だったんじゃないの?」

 

「まさか! 俺は主力どころか下っ端レベルの強さだったぜ。素手で相手を殺せない、潰せないヤツはまだまだ甘いって事でさ」

 

 俺はリアスの確認に答えながら、ダークネスの隊長の言葉が脳裏に浮かんでは消える。『誇りなき男どもと貴様を同列と扱う愚はどうしても我慢ならん』『強くある事が強さではない、己は己、と誇り高くある事こそが強さなのだ』と、あの厳しい眼差しが俺に教えてくれた。

 

「凄い方だったんですね、その方は」

 

「犯罪史上に名を刻んだ一大犯罪国家の国王だったって話だしな。俺には雲の上のお方だよ」

 

 俺の言葉に、話を振った木場の口がひくついたままだった。

 

「まぁ、ダークネスの連中はとにかく、司令達については何かの機会に会う事があるかも知れないな」

 

 俺はそう言って大まかに話を切り上げた。

 

「あっと、注文がまだのヤツ、喰えるときに喰うのが強くなる基本だぞ」

 

「あんな話の後でご飯なんて食べられないわよ! 鬼っ!」

 




これで番外編第1章は終了ですm(__)m
次回もお楽しみにm(__)m


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第2章 旧校舎のディアボロス
第15話 召喚されて来てみれば


どうもバグパイプです(^^ゞ新章突入しますのでよろしくお願いしますm(__)m


 

 

 リアス達に夕食を奢ったその数日後、何故か俺とトリーはオカルト研究部部室に呼び出された。

 

「なぜ、俺達はここに居るのだろうか」

 

「依頼が来たから」

 

 俺は隣に居るトリーに現状を確認する。するとこいつは端的な言葉で答えてくれた。

 

「依頼内容は?」

 

「自分達をある程度の強さまで鍛えてほしい、という話よ」

 

「期間、報酬などの詳細は?」

 

「会った時に詰めるとの事よ」

 

 俺がほいほいと問いかけるとトリーがほいほいと答えてくれる。俺の知らない事ばかりを。

 

「それでどうやってここに入れたんだ? 学園の警備はそこそこ厳しいはずだが」

 

「依頼人経由でこの学校の生徒会長だったかな? その人から臨時教員の資格をもらってきました、2人分ほどね」

 

 マジデスカ!?

 

 俺のあずかり知らない所で事態が強制進行している、その事に俺は驚きを隠せない。

 

「そういう事をして破綻したらどうする気だよ、そいつらは」

 

「記憶操作もすでに済んでるって話だったから、問題は起きないんじゃないの」

 

「記憶操作!? 俺達の世界じゃ余程の事が無ければしない事を良くもまあ……」

 

 俺はトリーの言い訳を聞きながらも、精神操作による弊害を気にしてしまう。記憶の矛盾を都合良く書き換えてしまうのが人間とはいえ、余りにかけ離れた事象だと記憶混濁を起こして倒れるぞ。

 

 俺は余りにもあんまりな事態に考えることを放棄し、依頼人の到着を待つことにした。ここが校長室や理事長室では無く、ましてや職員室でもない以上、依頼人が誰なのかは判明している。

 

 そして部室のドアが開き、依頼人のご登場と相成った。

 

「ゴメンなさい、お待たせしちゃったかしら?」

 

「いいえぇ、問題はないわよぉ」

 

「また私の声?」

 

 部室に入ってきたのが遅刻を詫びるリアスだと分かった俺はすかさず彼女の声で問題ないと切り返す。

 

「それで早速で悪いのだけど依頼の話をして頂戴」

 

「「私の声真似でそれを言うの?」」

 

 俺はトリーの声でリアスの口調を真似て話を切り出すと、2人は見事な合唱で突っ込んでくれた。

 

 

 

「依頼の内容としては基本的には以上で、報酬は1週間で5万、仲間が増えればその分も上乗せで対応するわ。それでどうかしら?」

 

 リアスは依頼に対する報酬を賃金という形で提示してきた。期限が作れない仕事となる以上、賃金制になるのは已む無しと言った所だろう。それにしても悪くは無い話だ。

 

 ここで俺の昔の通り名、『騒乱の導火線』発動。そんでもってこっそりレコーダーのスイッチを入れる。

 

「オーケィ、話は分かった。確認として聞くが、何時始めるんだ?」

 

「貴方達の都合に合わせるわ。こちらより自由が利かないでしょ?」

 

「まぁね。次に時間帯は放課後って所か?」

 

「ええ、それで問題ないわ」

 

「それで場所はこの部室の周辺で構わないか?」

 

「ええ、構わないわ」

 

「訓練用に俺達が結界を張ることになるが?」

 

「ええ、構わないわ」

 

「そっちは水着だな?」

 

「ええ、構わないわ」

 

 リアスは俺の矢継ぎ早の確認にリアスが鵜呑みする様に次々と承諾していく。そう、きわどいことまで。

 

「よし、言質は採った! お前等は水着着用で!」

 

「……って何時そんな話になったのよ!」

 

「ちゃんと言質は押さえた。証拠はこれだ!」

 

 俺は当惑するリアスに、隠していたレコーダーを出して、先ほどの会話を再生して見せた。その中にはしっかりと俺の声で『水着だな?』と訊く声とリアスの声で『構わないわ』という承諾の声が録音されていた。

 

「いやああああぁぁぁーっ!」

 

 見事な騒乱が打ちあがりました。

 

 リアスの絶叫が部室を揺るがし、部室の扉が開かれると同時に他の面々がなだれ込んできた。

 

「部長! どうしたんですか!」

 

「部長……って、時渡さんにトリーさん?」

 

 木場はリアスに駆け寄るがイッセーは俺達に気づいた。

 

「よう、イッセー。楽しい契約が締結したところなんだよ」

 

「どういう事だよ?」

 

 俺の楽しげな声にイッセーは警戒し、その手で拳を握る。しかし俺は騒乱の導火線、紐はまだ燃え尽きていない

 

「俺達がお前らの鍛錬をする話になった。リアス達は水着着用のことと相成った」

 

「うおおぉぉーっ! すっげぇーっ!」

 

「たゆんたゆん、いくぞ!」

 

「サイコーです! 時渡さん!」

 

 俺とイッセーが興奮冷めやらぬ中で固い握手を交わす。そして俺達はしっかりと意気投合したまま……。

 

 バッゴーンッ!

 

 部室の壁へと一緒に殴り飛ばされた。

 

「……変態、死すべし」

 

 小猫の拳によって。

 



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第16話 交渉は難航中

どうもバグパイプですm(__)m
遅れてすみませんですm(__)mそれではどうぞm(__)m


「えらい目にあったぜ」

 

「それはこっちの台詞よ」

 

 部室の壁から抜け出し、体の具合を確認する俺をリアスが睨みつける。もちろんあの後、レコーダーが壊されてしまったために水着着用の件はご破算となった。

 

「水着を着ないなら、動きやすさ重視で体操着というのはどうかしら?」

 

「それが妥協点って所かしら?」

 

 トリーの提案にリアスはそれが落とし所かも知れないと呟く。俺は体操着がかか何なのか分からないために、悔しさで涙も出ない。

 

 ああ、俺の騒乱の導火線は燃え尽きた……。

 

「それにしてもよう、臨時教員でこの学園に入り込める様になるだなんてな。一言欲しかったぜ」

 

 俺は一言ぼやきながら、懐から1枚の紙、中高教員資格免許を取り出す。

 

「へっ?」

 

 リアスはこの紙を見て目が点になっていた。

 

「カケカケ! いつの間に取ったのよそれっ! 私、取ってないわよ!」

 

「3年前の初調査で臨時から正規に取り直したんだよ」

 

 俺はわめき立てるトリーに言い訳してから手にした紙を懐に戻す。

 

「どうしてこの方はこうも持ってないと思うものをポンポンと出すのでしょうか」

 

 小猫は蔑む目つきで俺を睨む。その遥か後ろではイッセーが絶望の沼地に沈んでいる。

 

「じゃあこれで機嫌を直せ」

 

「それは?」

 

 俺が懐から取り出したのは1本の羊羹、市販品に比べて倍ぐらい太く、長さも1.5倍とふざけた1品である。

 

「俺の手作り羊羹だが」

 

「頂きます」

 

 得体の知れない男の手作り菓子でも小猫はすぐに飛びつく。何しろ数日前に俺はグレモリー陣営に俺の保有技能である『調理師免許』と『衛生管理士免許』を見せて納得させた事が起因しているのだが。

 

「皆の分も渡すぞ」

 

「当然です」

 

 俺は小猫にそう言って羊羹の入った風呂敷包みを手渡す。

 

 それを見てトリーはぽそっと人聞きの悪いことを呟いた。

 

「カケカケは、小猫の餌付けに成功した。特殊技能『懐柔』のレベルが上がった」

 

「人聞きの悪いゲームをしてる気分だな」

 

 俺は思わず嫌気が注し、愚痴を零してしまった。

 

「でもさ、懐柔……しちゃったんでしょ?」

 

「悔しいですが、懐柔されてしまいました」

 

 俺の愚痴にトリーは自分が正しいと食い下がり、そこに小猫が賛同する。だが小猫の視線は手元の羊羹に注がれたままである。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 スパンッ! スパンッ!

 

 リアスによる教育的指導にて話が元に戻った。だが俺とトリーが叩かれたのはどういうことだろうか。

 

「それで、貴方が提示する条件は以上なのね」

 

「他の部分についてはその場その場で折り合いを付ければ良いだろ。最初から全部に折り合いを付けられるほど手立てを揃えてるわけじゃないしな」

 

 リアスの確認に俺は仕方ないと肩をすくめる。

 

「そうね、スポーツインストラクターとしてもこれがせいぜいでしょ」

 

 トリーも現時点での条件を大筋を認める。

 

 ここで決まった条件は

 

 1.契約は基本的に週給1人につき5万、部員が増えた際にはその分を加算する。

 

 2.契約期間は特に定めないが特別な事情が生じた際には話し合いにて今後を決める。

 

 3.時間と場所は放課後の部室となる。場所を変える際も話し合いで取り決める事。

 

 4.必要となる器具は安全性を考慮したものをコーチ側が持ち込むこと。そして安全性を双方で合意したものだけを使用する事。

 

 という事でまとまった訳だ。

 

「後はこちら側は体育着着用で参加するわけね」

 

「ちくしょう、覚えてやがったよ」

 

 リアスの追加事項に俺は血涙を流す。期待してたんだよ、お前らの水着姿を。

 




(小説のメモ帳)

 特殊部隊レッドベレー

 組織スタッフ・ド・RBの本体であり中心部隊。中枢幹部6人が所属し、組織のほとんどをこの部隊が統括している。また司令、副司令がこの部隊に在籍している。主な任務は組織維持の為の資金繰りや組織統括となる。

 強襲部隊ダークネス

 司法庁との司法取引による凶悪犯に対する強制労働の場としての意味合いを持つ部隊。主な任務は紛争地帯においての停戦もしくは終戦への襲撃活動。その為か組織内でも圧倒的な損耗率を打ち出している。

 調査部隊シーカー

 多岐に渡る調査を一手に引き受け、依頼に関する事前調査をもこなす先遣部隊。依頼人からの情報だけで現地に派遣され、調査するためダークネスに近い実力者を保有している。また組織内での地位はレッドベレーに次ぐ高地位に座している。


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第17話 それは帰り際のすったもんだ

どうもバグパイプですm(__)m
何とか出筆速度を取り戻しましたo(^-^o)(o^-^)o
それではどうぞm(__)m


 ひとまずながら契約できるほどに話が纏まった事で俺達は肩の荷が下りた。

 

「それじゃあ、今日の所はこれで引っ込むとするか」

 

「そうだね。名残惜しいけど」

 

 俺がトリーに声をかけようとアイツの姿を探すと、アイツは部室のソファーで小猫を膝の上に乗せて楽しんでいた。

 

「本当に名残惜しそうだな、テメェ」

 

「いやん♪ 浮気はシテナイワヨ」

 

「早くこの人を何とかしてください」

 

 俺が見てるとトリーに抱きしめられている小猫が救いの手を求めて俺に訴えかけてくる。

 

「トリー、そろそろ仕事に戻らないと今日の分の報告書が纏まらないぞ」

 

「そうなったらカケカケが何とかして」

 

「良し分かった。トリーの分は『ゴメンして』と書いて送ってやる」

 

「イヤァーッ! それはいやぁーっ!」

 

 トリーが誤魔化しを俺に頼んでくるが俺はそれを許さない。

 

「ほら、さっさと帰るぞ」

 

「ぶーう」

 

 俺に促されてトリーは未練と文句たらたらに席を立つ。

 

「あらあら、もうお帰りですか?」

 

「悪いな、長居できるほど暇って訳じゃないんだ」

 

「そうだったわね、調査部隊……だったわよね」

 

 俺が長居出来ないと言うと、リアスが思い出したように俺達の事情を口にする。

 

「調査は進んでるの?」

 

「ある程度は、な。出来るならここの、他の世界にも調査の手を出したいが、まだそこまでは進んでない」

 

 俺はリアスの質問に対して言葉を濁した。調査というのはいつの時代でもされる側には問題となるものだ。しかし無ければ現実が明かせないのも問題なのだが。

 

「まあ、今日の予定はこの交渉だけだから予定がある者は帰っても良いわよ」

 

 リアスは俺の言葉に納得したのか、それ以上のことを追及せずに部員に対して予定を明かす。するとイッセーが右手を上げてきた。

 

「すんません部長、俺、ちょっと予定があるんでお先っす」

 

「なら、俺達と帰るか? また堕天使に襲われるとも限らないからな」

 

「そうっすね、お願いできますか?」

 

 イッセーが帰宅するというので俺は途中まで一緒しないかと誘う。すると俺の案にイッセーが賛同する。

 

 どうやら先日の悪夢を忘れているようだ。馬鹿というのは本当だったんだな、イッセー。

 

 俺が哀れみの目でイッセーを見ていると何かに気づいたのか、リアスが俺に問い詰めてきた。

 

「時渡さん、イッセーを無事に帰すんでしょうね?」

 

 どういう意味で無事に帰すと訊くのか、俺はそれを考え込んでしまう。

 

 まさか俺がイッセーを襲うとでも思っているのか? いや、トリーが襲うという考えも無くはない。

 

 俺が黙って考え込んでいるのを見てリアスが口を尖らせてきた。

 

「時渡さん、ちゃんと答えて頂戴!」

 

「ちゃんとイッセーのドーテーは守ってやる」

 

「どういう意味で!?」

 

「あの痴女に遇わない様に心がける」

 

「あの痴女って誰!?」

 

「レイナーレ」

 

 俺は言い訳として用意していた要注意人物レイナーレを挙げると、リアスは目をぱちくりさせながら理解を示した。こう言うのもなんだが、レイナーレのあのボンデージ衣装は危険だ。イッセーが妙な方向に目覚めかねない。

 

「ドーナシークの1件でイッセーが生きてるのがバレたんだ、警戒するに越した事は無いだろ」

 

「そ、そうだったわね。貴方達のせいで忘れていたわ」

 

「というわけで行こうか、イッセー」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 俺はリアスを説き伏せるとイッセーとトリーを連れて部室を後にした。もっとも、一旦別れて校門の所で落ち合う事になったのだが。

 

 

 

「今日はすんません」

 

「何、構わないさ。俺も堕天使には遇いたくない感じでね」

 

 道すがらにイッセーが頭を下げてきたことに対して俺は構わないと言って緊張をほぐす。

 

「私としては、その堕天使ってのを見てみたいんだけどね。私達の世界には居なかったから」

 

「ええっ!? 居ないんすか?」

 

「ああ、天界から堕落して魔界に来る所はあるが、それで堕天使と呼ばれはしないんだよ。悪魔って呼ばれているし、そいつらは魔界宮廷の方に入って貴族様をしてるからな、俺達には縁がないもんだ」

 

 俺はイッセーに対してこちらの堕落事情を説明する。

 

「えっ、えっと、じゃあ、俺みたいな転生悪魔ってのも?」

 

「居るわけないだろ。人間ヨロシクえっちらおっちらと作ってるんだよ」

 

 イッセーが質問する転生悪魔の存在について俺は明確に否定する。俺達異世界人にとってこれこそが最大の謎と言って過言ではない。もっとも、それと並び立つ大きな謎としてある存在の生死が問われているのだが。

 

 と、3人で話しながら歩いているところで不意に誰かの気配を察知した。距離的には遠くて判別できないが、間違いなく誰かが近づいてきている。

 

「トリー」

 

「分かってるわよ。この先の道、20メートル先に堕天使が居るわ」

 

「ええっ!」

 

 俺達の会話にイッセーが驚き、前方を凝視する。だが彼の目ではまだ見えないだろう事は窺い知れる。

 

「おおっ! あんな所にゴスロリ美少女!」

 

 ……イッセーのスケベ心は時として己の限界を平気で凌駕するらしい。

 



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第18話 貴方はそれでも堕天使ですか?

どうもバグパイプですm(__)m
お気に入りが11人も居るo(^-^o)(o^-^)o感謝です。ありがとうございますm(__)m
それではどうぞm(__)m


「何だよ、アンタら」

 

 目の前のゴスロリ少女が見た目を裏切る口調で俺に問いかけてくる。なんだろう、この胸に去来するむなしい切なさは。

 

「アタシが至高の堕天使を目指してるミッテルト様だって判って言ってるのかよ」

 

「何だろう、物凄い残念臭が漂っている」

 

「主にお許しいただけるのなら、彼女に情操教育を施して、正しい道に導きたいわね」

 

 ミッテルトと名乗るゴスロリ堕天使に対して俺とトリーは残念なものを見る目で彼女を見てしまう。彼女の言う『至高』という単語にトリーが僅かに反応していたのが気に掛かるが。

 

「そんなことしてて大丈夫かよ?」

 

「大丈夫だイッセー、俺達があんなのに遅れをとるとでも思うか」

 

 俺は一誠の動揺を鎮めるために確認を取る。だがそこにトリーが居たら話が反れる。

 

「ええ、遅れをとって背後から羽交い絞めにしてえっちらおっちら……まぁヤラシイ」

 

「あのなあ、俺ならあのくらいは押さえ込めるんだよ」

 

「そう、押さえ込んで上からたっぷりとえっちらおっちら……まぁヤラシイ」

 

 トリーは自分の口元を押さえてニタニタ笑っている。

 

「アンタら、アタシを無視して何駄弁ってんだよ! むかつく!」

 

 俺とトリーの夫婦漫才に御立腹の様で、ミッテルトがじたばたとわめきだした。

 

「だいたい何なんだよ、もうっ! あのドーナシークが散歩から帰ってきたら変になってるし」

 

「ドーナシークっ!?」

 

 ミッテルトの言うドーナシークという単語に俺達は反応し、思わず問いかけてしまった。

 

「ソイツが、どうかしたのか?」

 

「どうかしたかも何もさ、帰ってくるなりファッション雑誌を読みふけってるしさ。挙句にあの渋い格好が好みだったおっさんがさわやかな中性ファッションを決め込むようになっちまったんだよ! アンタ等、何か知らな……いっ!?」

 

 俺達を問い詰めようと顔を向けてきたミッテルトが、トリーが手にしてる大きな化粧カバンとハンガーに吊るされた一着のゴスロリ服を見て仰天した。

 

「……ゴスロリの真髄が分かっていない様ね、お嬢ちゃん。ちょっとお兄さんに任せてみない?」

 

「……ぜっ、全力で、遠慮しちゃう……かな?」

 

 圧倒的な黒いオーラを放つトリーに臆し、ミッテルトがじりじりとたじろぐ。

 

 ファッションセンスに一言あるトリーが未完成のゴスロリを見逃すのも妙な話ではある。俺としてはあれはあれで良いと思うのだが、あいつには許せないものが有るようだ。

 

「何なんだよ、この展開」

 

「イッセー、この先は専門業界だ、俺達スケベが居る世界じゃない」

 

 俺はうろたえているイッセーに、世界が違うと言って引き止めた。あそこは、間違いなく俺達の居る世界じゃない。

 

「たぁーすけてぇーっ!」

 

「お~っほっほっほっ! この程度のセンスでゴスロリ服を着こなしたつもりだなんて大した至高ねぇ! お兄さんが本格派の至高の頂を教えてあげるわ! 感謝なさい!」

 

 トリーの目がギラギラと輝き、ミッテルトを竦みあがらせる。強さに目覚めたトリーがここまで豹変するとは、俺でも予測出来なかった。何が遭ってこうなってしまったのか。

 

「ひいいぃーっ!」

 

 ミッテルトの悲鳴とトリーの汗が飛び散る中、俺達2人はそれを見守ることしか出来なかった。

 

 あっ、ミッテルトが服を脱がされて下着姿になった。

 

 次の瞬間には黒地に銀糸がふんだんかつ上品に使われたゴスロリ服が被せられた。しかもその足には所々に赤いバラのあしらわれた黒の網タイツが履かせられ、赤いエナメルパンプスが履かせられた。

 

 そしてミッテルトの顔をしっかりとナチュラルメイクで仕上げていく。しかし口紅は濃いルージュを決め込んでいる。

 

「……フッ」

 

 トリーが小さな吐息と共にその動きを落とした時、その場に立っていたのは先ほどとは雲泥の上品さを放つミッテルトだった。

 

 トリーの顔は恐ろしいほどの満足感と達成感に包まれてて神々しかった。

 

「これが、貴方の届かなかった至高の片鱗よ。いかがかしら?」

 

 そこらの一流モデルが泣いて逃げ出すほどの美に包まれ、ミッテルトはその口から声も出せずに居る。トリーの変装術は一級品とは聞かされていたけど、同僚の俺でも驚きを隠せない。

 

 トリーを評価した人物? その人は一流デザイナーですよ? トリーのセンスに打ちのめされて廃業したけど。

 

「……すっ、すっげーっすっ!」

 

 その顔に満面の笑みと興奮を浮かべながらミッテルトが喜びに打ち震えている。

 

 俺は思わずイッセーにポツリと内心を漏らしてしまった。

 

「……イッセー、堕天使の事、トリーに押し付けても良いかもしれないな」

 

「……そっすね」

 

 イッセーも俺に賛同してくれた。

 



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第19話 あいつらをどう鍛えましょうか(2018.02.10修正)

どうもバグパイプですm(__)m
すみません、UAやお気に入りが増えたり、感想が頂けたりと喜んでます。
感謝して書き上げましたので、続きをお楽しみくださいm(__)m


『どわぁははははぁ~っ!』

 

 イッセーと分かれて拠点に戻った俺達は、報告とばかりに通信機をつけ、出てきた司令に報告したら笑われた。報告書の部分は削除しての報告だが。

 

『さすがはドラゴンのプライドをへし折った『プライドの捕食者』だけの事はあるな! 堕天使を返り討ちにするなんざ、屁でもねえか!』

 

「俺は言葉もねえよ」

 

 トリーの昔の称号を出しての司令の褒め言葉に俺はぐうの音も出ない。昔からこうだったのかよ、あいつは。

 

『それで話を変えるが、そっちの協力者達をテメェ等で鍛えるのか?』

 

「そういう依頼が来たもんで」

 

 俺は成り行きという形で引き受けることになったと明言し、後日承諾のような許可を取ろうとした。しかしそれは空振りというか、無言の承諾とばかりにスルーされてしまった。

 

『なるほど、体の方は出来てるのか?』

 

 司令は俺達がリアス達を鍛えることになった事について事前情報を求めてくる。相手が高校生ということを加味しても俺達が比較対象では比べ物にはならない。それ故に俺としては言葉に詰まった。

 

 少しだけ間を置いてしまったが、何とか言い訳めいたものが頭に浮かんできたので話を続けることにした。

 

「その辺は比べるほども無いですよ。柔軟と基礎から組まないと厳しいですね」

 

『だろうな』

 

 俺の報告に司令がうなずき、小難しい表情を浮かべだす。だが次の瞬間、俺達の度肝を抜くことを抜かした。

 

『良しっ! 伝説の鬼ごっこで行こうぜ!』

 

「「伝説の鬼ごっこっ!?」」

 

 司令の言葉に俺達2人は仰天して椅子から転げ落ちた。

 

 組織流、伝説の鬼ごっこ……それは鬼は苦労するが逃げる方は大変な縛りを受けて逃げる。逃げる側の縛りはただ1つ『鬼に背中を見せてはいけない』というだけ。背中を見せた場合や捕まった時には容赦なきお仕置きが待っている。

 

『あれならスタミナが嫌でも付くだろ。それと冷静な判断力と空間把握能力もだな。……そうだ!、お仕置きはタイキックで行こうぜ!』

 

「それは鬼だろ、絶対」

 

 俺は満面の笑みを浮かべる司令の背後に、そこはかとなく漂う鬼畜な雰囲気から嫌なものを感じてしまう。本当に鍛える事をちゃんと考えているのか、コノヤロウは。

 

『それと出来れば高速思考か並列思考を鍛えたい所だな。それが有る無しで戦い方が大幅に変わるからな。後は柔軟性だが、こればかりは時間が掛かるし、掛けないと後々で面倒な事になるからな、十分に注意してくれ』

 

 司令の言う事に俺は思わず考えてしまう。確かに高速思考と並列思考のどちらかを持たせれば、それは当人が戦場を生き抜くための大きな武器になる。

 

 また、柔軟性については防御にも関わる回避力に直結する能力だ。柔軟な身体はそれだけでも外部からの衝撃を軽減する効果があるほどだ。

 

「なるほど。分かりました、その様にします」

 

『まあ、無理はしないようにしろよ。報告書が遅れるくらい多少は目を瞑るさ』

 

「本当っ!?」

 

 司令の報告書遅延の件に話が及ぶとトリーが声を挙げた。そのせいなのか気のせいか、スピーカーから微かに笑いを堪えている様な声が漏れ聞こえてきた気がする。

 

『ああ、その位は我慢するし、我慢させるさ。でもな……』

 

 トリーの言葉に司令は同意すると、やおらに両手を組み合わせ、体を少し前かがみに傾けた。

 

『司令さんは何でも知っている。トリーさんが報告書を代筆させようとしていたことも、知っている』

 

 ドォキィーンッ!

 

 司令のおもねる様な視線に晒され、トリーの背筋が跳ね上がる。

 

 だが、次の台詞で俺の背筋も跳ね上がった。

 

『司令さんは何でも知っている。その代筆で時渡さんが『ゴメンして』と書こうとしていた事も、知っている』

 

 ドォキィーンッ!

 

『分かったらさっさと報告書をまとめろ。面倒ごとを増やすな』

 

 俺達の狼狽を他所に、司令は話をまとめに掛かった。

 

「了解です。でもどうして……」

 

 俺はなぜ分かったのかを訊こうとすると、画面の横から副司令の黒い髪が顔を覗かせた。副司令は結構不在がちの方で知られているが今日、そこに居るとは思わなかった。

 

『それは昔、それをやった俺達そのまんまだったからだよ。顔つきまで同じだったのは笑えたけどね』

 

『あっ! 馬鹿っ! テメェ!』

 

 ……朱に交われば赤くなる、それはこの事を言うのだろうか。

 

 妙な所が同類だったことに愕然としながらも、俺は画面の向こう側でドタバタを繰り広げている上司2人をそのままに、通信を終えてスイッチを切った。

 

 今日の報告書は、徹夜作業になるな……。

 



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第20話 ただならぬ旧校舎

どうもバグパイプですm(__)m

本編も20話まで続きました。皆さんのおかげですm(__)m
それではどうぞm(__)m


 次の日の午後、俺は調査の仕事をトリーに任せてオカルト研究部の部室に来た。

 

「こうして見ると、珍妙な部屋だよな、ここ」

 

「部外者が何様のつもり?」

 

 俺の独り言を耳ざとく聞きつけたのか、その顔に引きつった笑みを浮かべているリアスが俺の後ろに立っていた。俺はまだ部室のドアを開けただけなんだが。

 

「昨日のの話の返事を持ってきた相手に、とんだご挨拶だな」

 

「そういう貴方は色好い返事を持って来たとでも言うのかしら?」

 

 おどけて見せる俺に対してリアスは答えを求めてくる。

 

「ああ、仕事は明日からということで引き受けることになった。ちゃんとウチの司令から許可を得てきたぜ」

 

「そう、それは喜ばしいことね」

 

 俺の快諾にリアスは固い表情をほころばせる。そこで俺は懐からパウンドケーキの包みを取り出した。

 

「ということでお近づきの印にパウンドケーキを焼いてきた。皆で食べてくれ」

 

「あら、気が利くのね」

 

「気が利くから、こんな所にまで気が回るんだ」

 

 俺はリアスのお世辞を合いの手に、懐から紅茶の缶を取り出す。午前中に現地フランスまで飛んで買い付けてきた本場物だ。

 

「フィレンツェ・オレンジペコの上物を用意してみた」

 

「……本当に気が利くのね」

 

 あっ、リアスのこめかみに何か浮いてる。

 

 俺は紅茶の缶をリアスに手渡してその場を立ち去ろうと建物の出口へと足を向けた。

 

「あら、ゆっくりして行かないの?」

 

「トリーに現場仕事を任せてるんでね、俺は拠点に戻って書類仕事さ」

 

「あら、それは残念ね」

 

 つれない返事の俺に対して残念そうに呟くリアス。だが俺はこの時、今まで感じられなかった微かな悪魔の気配を感じた。弱々しく、か細い感じの僅かな気配を。

 

「なあ、グレモリー」

 

「何かしら?」

 

「この建物の中に居るのは俺達だけじゃないだろ?」

 

 俺は建物の奥の方に視線を向けながらリアスにその存在を確認する。

 

 リアスはそんな俺に対して感心した表情を見せた。

 

「あら、気づいたのね」

 

「流石に、とは言えないな。ここまで微弱だと俺には察知するだけでも一苦労だ」

 

 俺は肩をすくめて自虐してみせる。それにこの気配ってのはどうも結界か何かに包まれているのか、俺には追いかける事が出来ない。トリーでも苦労するだろう事は予想できる。

 

「そうなのかしら? 貴方なら簡単に出来そうに思えるのだけれど」

 

「そこまで有能なら今頃組織の幹部様をやってるよ」

 

 リアスの不思議そうな顔を受けつつ俺は自分の能力の限界を口にする。そう、司令ならどこまで暴露するのか解かったものではない。副司令なら種族とかまでは解析できると思う。

 

「まあ、私に言えるのはここには誰かが住んでいる、それだけよ。それ以上は事情を汲んで頂戴」

 

「分かってるさ。言える時を静かに待つとしよう」

 

 多少後ろ髪を引かれはするが、俺は多くを聞かずに時を待つことにした。彼女自身、主としてのジレンマがあるのだろう。

 

 楽しみを後回しにすることにした俺はそのまま拠点への岐路に向かって歩き出した。

 

 

 

 ……そして今、俺は目に付いた遠くの黒い翼のボディコン女を見て後悔している。夕方は逢魔が時と言って魔に出会う時間帯だと誰かが言ってたが、堕天使に会うだなんて誰も言ってない。

 

 あの時、もう少しでもいや、部室でグレモリー眷族を待ってお茶をしてから帰る、という選択肢を選んでも良かったのではないかと。いや、これは未練だ。そう、未練でしかない。

 

 うむ分かった。これから夕飯のための買い物へと商店街へ行こうじゃないか……でも商店街はあの道の先の十字路を越えないと行けない。良し、ここ最近で通いなれた喫茶店にでも……、商店街の中だった。仕方ないからスーパーへ買い物……って、スーパーもあの十字路を右に曲がらないと行けなかった。

 

 あの女に遭遇したくない一心で頭を捻るが、答えはガンガン潰れていく。

 

 俺の願望むなしく、相手は俺の存在に気づいたのか距離をつめてやってきた。

 

「そこの貴方、ドーナシークとミッテルトという名前に聞き覚えは無いかしら?」

 

「覚えはありません、知りませんとも全くで」

 

 俺は相手の質問に全力で否定して逃げようとする。でも相手は逃げしてくれる気配を素振りも見せない。

 

「あら、知っていそうな口ぶりじゃないのさ。お姉さんと、ちょっとそこまで付き合わない?」

 

「えっちらおっちら突き合う趣味は無いので、他所を当たって下さい」

 

 こういう時のトリーさん、貴方は一体何処ですか!?

 



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第21話 堕天使しつこい

どうもバグパイプですm(__)m
今回はちょっと迷いましたが、何とか書き上げました。それではどうぞm(__)m


「ふぅん……こんな所に居たの」

 

 少々自意識過剰な雰囲気が見える瑠璃色長髪の女堕天使が目の前までやってきた。

 

「貴方がミッテルトとドーナシークをあんなにしたヤツかしら?」

 

「あんなにしたヤツは別に居ます。他を当たってください」

 

 俺はしれっと相手の問いかけをはぐらかして歩き出す。しかしその歩みを光の槍で遮ってくれた。

 

「通すと思って?」

 

「通るだけさ」

 

 咎める堕天使に対して俺は其の光の槍を片手で掴み、そのままへし折る。手ごたえは指ぐらいの太さの枝を折ったような感じだった。

 

「なっ!」

 

「じゃあな」

 

 俺は驚く相手を放置して帰ろうと歩き出す。

 

「帰りがけなんだ、邪魔しないでくれよ」

 

「このカラワーナ様を無視するだなんで、つれないわね」

 

 カラワーナはそう言って両手に光の槍を出現させ、それを握り締める。

 

 そこで俺は背後、数キロ地点から高速で接近してくる覚えの有る気配を感じ取った。そう、あのトリーさんだ。

 

「カァ~ケカケ~ッ!」

 

 だが、声が聞こえてきた後、数メートルの所で気配が止まった。俺はそれを不思議に思い、振り返ると先日に触発されたのか、エレガント重視のゴシックファッションで滞空しているトリーの姿があった。

 

「ゴメン、そいつの相手してて。私は帰るから」

 

 俺はあいつの言動と格好に卒倒してしまった。

 

「堕天使担当のお前は何処行ったっ!」

 

「いつから私の担当になったの!?」

 

「堕天使相手にブイブイブイ言わせてたお前はどこ行ったっ!」

 

「コンバインは一回だけよ!?」

 

「オラオラ言い放ってたお前は何処行ったんだよ!」

 

「幽霊なんて背負った覚えはないわよ!」

 

 思わず掛け合い漫才してしまう俺達だが、往年のコンビだけあって息はピッタリだ。

 

「私を無視してんじゃないわよ!」

 

 すっかり取り残されていたカラワーナが光の槍を投げつけてくる。しかし俺達はそれを難なく避けてしまう。俺達の高速機動は軍隊式で、そのまま両側の塀に取り付いては遮蔽物となる電柱の影へと取り付く。

 

 そして2人一組の織り成す阿吽の呼吸が発動した。

 

 トリーが電柱と塀の間から魔力弾を牽制に打ち出し、俺が電柱に手をかけて電柱の前に躍り出る。

 

 カラワーナが打ち出された魔力弾をその手で弾くと同時に俺は電柱を踏み台にしてロケットダイブで彼女を押し倒し、その場で組み敷いた。

 

「ぐっ!」

 

「マウント・ポジション♪」

 

「やっちゃえ~っ♪」

 

「なっ、何を……あひゃはははは!」

 

 俺の下でカラワーナがもがきだすが、俺がそれを別の意味へと切り替えさせた。たっぷりと笑えるようにくすぐってやるから、笑ってくれ。

 

 

 

「ふ、むなしい戦いだった」

 

「そうね、悲しい戦いだったわ」

 

 数分後、俺達は仁王立ちで勝利のむなしさを実感していた。その足元のカラワーナはというと、顔面崩壊も凄まじく、無様な屍と化していた。

 

「副司令なら、強制絶頂で瞬時に無力化してただろうけど、俺はこれが限界」

 

「そうよね、あの方は排除となると手加減をなくすから」

 

 俺達は敵性勢力の無力化に対する考え方の違いを話し合い、互いにため息を漏らす。

 

 えっ?カラワーナの事ですか? そのまま放置です。だって関わりたくないから、2人とも。

 

 俺達はそのまま気絶したカラワーナを放置して拠点へと帰っていった。そして……。

 

『どわははははは! ボディコン女をくすぐって気絶させてから放置だなんて、すげえ下種だな! お前等、気をつけろよ? 後々でその女に後ろから刺されないようにな』

 

 報告の際に、通信機越しに司令に笑われた。もちろん、おまけも付いてきた。

 

『トリー、お前の調査資料についてはもう少し纏め直せ。このままでは依頼人に報告しづらいだろ。せめて竜脈と地形地図の詳細を添付しろよ』

 

「すみません」

 

『次に時渡、報告書の中に参照の文献を載せるのは良いが、その文献を見れるのはそっち側でだけだろ。せめて文章の抜粋を載せて検証させてくれよな』

 

「すみません」

 

 俺達は報告書の不備を謝罪した。

 



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第22話 イッセーさんはお仕事中

どうもバグパイプですm(__)m
20話を数えた記念のギャグ回を前後編でお楽しみ下さい。
まずは前編をどうぞm(__)m


「じゃあ、俺は帰ってから依頼の方に行って来ます」

 

 イッセーはそう言って部室を出て行こうとする。たまたま休憩にと部室に立ち寄っていた俺達はそんな彼の依頼という言葉に興味が走った。

 

「依頼だぁ~っ?」

 

 俺はレロレロと舌を揺らしながらおどろどろしく彼に近づく。

 

「どんなおしごとぉ~っ♪」

 

 トリーも俺の後に付いて嬉々としながらお化けヨロシク、イッセーを脅かしに掛かる。

 

「イッセー、確か前回の依頼主のことよね、それって」

 

「あっ、はい。そうっす」

 

 イッセーはリアスの質問に何故か冷や汗をかきながら答える。

 

 彼の肯定にリアスはなにやら黒い笑みを浮かべ、俺達にお誘いの言葉を投げかけた。

 

「イッセーの邪魔をしない、というのなら今回は彼に同行しても良いわよ? どうかしら」

 

 

 

「悪魔さん、いらっしゃいませだにょお~っ♪」

 

「「どえあああぁああ~っ!」」

 

 俺とトリーは玄関ドアを開けて出てきた巨漢に驚き、思わず飛びのいてしまった。

 

「トロルかっ!? オーガなのかっ!?」

 

「ギガントマキアがこっちで起きてるのねっ!? うかつだったわ!」

 

 俺達2人はすぐさま立ち上がり、それぞれ迎撃体制を整える。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! この人は俺の依頼人なんすから」

 

「「依頼人!?」」

 

 イッセーが大慌てで俺達を制する中、俺達は思わず疑問符を打ち上げた。

 

 

 

「ミルたんは、ミルたんなんだにょ、よろしくなにょ」

 

「よっ、よろしく」

 

 俺は自己紹介をしてくる巨漢に挨拶する。トリーはというと、ミルたんの存在が未だに受け入れられず、部屋の隅で蹲っている。それだから未だに師団長権限が貰えないんだよ。

 

「それで今回の依頼と言うのは何でしょうか?」

 

 イッセーは臆する事無く依頼人であるミルたんに話を聞く。

 

 中々どうして様になってるな、いっせー。しかし見事な筋肉だるまから依頼を受ける普通の高校生というのは絵面的にどうかと思う。

 

「あの後、ミルたんも考えたんだにょ。魔法少女になる方法を」

 

 俺の耳は聞くはずの無い言葉を聴いてしまったようだ。

 

「魔法少女になりたい!?」

 

「あっ、ああ、ミルたんはそういう人なんすよ」

 

 俺の驚愕にイッセーが口添えしてくる。何てことだ、それは世界がお前を惜しむぞ、絶対に。

 

 世界なんて片手で取れそうなほどに発達させた筋肉を捨てるというのか、この愚かな生き物は。

 

「悪魔さんでも出来ないのにミルたんなんかじゃ無理だったにょ」

 

 そら、そうだろうな。俺達だって男を魔法少女にする方法なんて持ってないし、知りもしない。魔法や科学分野でデタラメをやらかす副司令ならもしかしたらとは思うけど。

 

「魔法の世界に行くという選択肢は取らなかったの?」

 

「それはもうやってみたにょ」

 

「やったのかよ!」

 

 トリーが放った魔法世界行きは試したかという質問に試したとの返事が来て、俺の度肝を抜いた。どこにその魔法世界があるんだ!?

 

「未知が満ち溢れているぜ、この世界は」

 

 困った時の司令、という選択肢を取らせてもらえないかな。

 

「カケカケ、それって旨く言えてないから」

 

 トリーにギャグのダメ出しをされてしまった。

 

「それで今回の以来は魔法少女関係ですか?」

 

「そうなんだにょ♪ 魔法少女に関係した文献を一緒に調べてほしいにょ」

 

 イッセーの再確認に対して文献調査の依頼だとミルたんは公言する。

 

 ……あれ、今更に気づいたんだけど、俺達は肝心な知識に偏りを感じた。

 

「なあ、トリー、俺達の世界で知る魔法少女ってのはさ」

 

 俺はそう言って上半身だけでボクシングの構えを取る。それを見たトリーも俺と同じ認識なのか黙ってうなずいていた。

 

「すまねえ、そっちの云々の前に知識のすり合わせを頼む」

 

 俺は想定外の緊急事態と判断し、イッセー達に魔法少女に関する知識の照合を求めた。俺のカンが正しければ、どちらかの知識が見当はずれな状態のはずだ。いや、もしかしたら俺達の知識の方が拙いかも知れない。

 

「何を言ってるんすか?」

 

「そうだにょ、確かに間違いがあったら大変なんだにょ。ちゃんと合わせるんだにょ」

 

 イッセーの疑問符を押しのけ、ミルたんは俺達に賛同してくれた。

 

 そして俺達とミルたんたちとの知識の照会が始まった。その時はまだ俺の魔法少女の知識は間違いどころか極論だとは露ほどにも思ってなかった。俺の知ってる魔法少女は拳が……えっ? 違う?

 




次回は最初から爆笑の危険性がありますので、お気をつけ下さいm(__)m

腹筋が切れても保障出来ませんですm(__)m


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第23話 魔法少女としての定義

どうもバグパイプですm(__)m
爆笑必死だろう後編です。
それではどうぞm(__)m


「それではまず魔法少女の基本部分のおさらいを始めます。とりあえず魔法生物が出てきます、魔法の国とかから」

 

 イッセーの切り出しに俺が俺は呆気に取られた。俺の知る魔法少女は少女の居る世界に危機が迫る所からなんだけど。

 

「そんで魔法少女は魔法のステッキとか、魔法の小道具で変身するんだけど」

 

 イッセーは切り出しとして自分の知る魔法少女の変身関係を口にする。

 

「その辺りは俺達と同じだな」

 

 俺とトリーはその認識が同じものと分かり安堵する。しかし、大問題はその後だった。

 

「男が魔法で魔法少女ぬの服を着せられたりするなんてのがあるのは知ってるけどな」

 

「「えっ!?」」

 

 俺の言葉に目を剥いて引いてるイッセーとミルたんの姿があった。

 

 世界観がズレた!?

 

「そこで引くって何!? まさか『魔法のメリケンサック』や『魔法の粉砕バット』で敵を滅多打ちにする展開はないのか!?」

 

「マジでそんなのあるんすか?」

 

 俺の訴えに対してイッセーが愕然とした態度で問い返す。ヤバい! のっけからちぐはぐした!

 

「ってことは何か! 必殺技の『幻の右』とか『ヤクザキック』とか言うのもないのか!」

 

「何処の武闘派なんですかそれ!」

 

 俺の言葉にイッセーが猛烈な否定を掛けてくれる。

 

 ああ、ダメだ。俺の知ってる魔法少女はここには居ねえ……。

 

 俺は思わずがっくりと項垂れてしまう。俺の持つ魔法少女の知識の伝道者は副司令なんだけど。恨むぞ、副司令。

 

「こ、ここまで違うのは大変なんだにょ! 魔法少女をちゃんと学んでほしいにょ!」

 

 俺と自分達の魔法少女感が余りにも違うことに危機感を覚えたのか、ミルたんによって急遽、魔法少女勉強会という名のブルーレイ鑑賞会が催された。

 

「何なの? このカオスな空間は」

 

 魔法少女勉強会に入り込めないトリーはその場に置いてけぼりにされている。

 

「さ、さあ……」

 

 イッセーもトリーと同じ立場に甘んじて話し相手になっていた。

 

 物語は序盤、魔法生物によって魔法の存在を明かされ、魔法少女としての運命を知らされる少女の所に入った。

 

「俺の知るものだと、魔法のステッキがうねうね動いては、詐欺同然の方法で主人公の女の子を魔法少女にするんだが」

 

「何処の世界の魔法協会すか、それ」

 

 呟く俺に対して突っ込むイッセーだが、俺はそれを無視して画面を見つめる。しして魔法のステッキを渡された少女は、魔法生物に言われるがままに変身を始める。

 

「ふむ、変身シーンでは星がきらめいたりシャボン玉が飛んだりとあざと可愛いが強調されてるな」

 

「これが魔法少女の変身なんだにょ」

 

「俺の知る変身シーンは炎がうなるわ、雷が轟くわの大迫力なんだが」

 

「何処の日朝なんすか」

 

 イッセーが俺の呟きを聞いて突っ込みを入れてくる。

 

 変身を終えた少女は襲い来る敵に魔法のステッキを振りかざし、そこからビームを打ち放つ。

 

「魔法少女はこんな風に敵を倒すんだにょ」

 

「この手の類だと、槍ぐらい長い杖を腰ダメに構えて、容赦ない砲撃で打ち落とすんだけどな」

 

「どこの魔砲少女っすか、それ」

 

 

 

 なんだかんだと言い合いながら、物語を一本見終えて、俺の中に新たな魔法少女感が生まれた。なるほど、可愛いは正義なんだな。

 

「ありがとう! これで俺の世界観に新しい1ページが刻まれた」

 

「本当に良かったにょ」

 

「本当に良かったっす!」

 

 俺達3人は、魔法少女に付いてその知識を深めたことを喜び、固い握手を交わした。

 

 

 

 そして深夜……。

 

 

『……ボツ……』

 

 通信機越しに報告書を後ろに放り投げる嫌そうな顔の司令の姿が、僅か3秒だけ流れた。

 

 同時刻、イッセーの報告に頭を抱えるリアスの姿が在ったらしいが、俺は知らない。

 

 そしてこの件は黒歴史として、闇に葬られた。チクショウ……。

 



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第24話 グレモリー陣営を鍛えます

どうもバグパイプですm(__)m
やってきました、グレモリー陣営初訓練。
翔とトリーがやっていきます。


 翌日、土曜日という事で俺とトリーはリアス達グレモリー陣営の訓練を始めることにした。契約上のことだし。

 

「というわけで、第1回、グレモリー陣営を訓練でしごきましょう! コスコス!」

 

 バァカンッ!

 

 トリーからアッパーによる俺という打ち上げ花火が上げられた。

 

「……綺麗にえぐられたわね、時渡さん」

 

 リアスが冷や汗を掻きながら戦慄している。

 

「トリーっ! 俺の顎が割れたらどうするんだよ!」

 

「腹筋が割れてるんだから、そのついでに割れてよ」

 

 俺の猛抗議に対してトリーは真っ向から打ち返してくる。

 

「さて、今回は皆の事を知るために、特別ルールの鬼ごっこをします。鬼は私とカケカケで固定しますけど、その鬼に背中を見られない、捕まらないの2つを、制限時間1時間守って逃げ切ってください。もし逃げ切れたらご褒美があるわよ。でも捕まったりしたら……タイキック♪ 後、捕まったら大変な事になるから頑張って逃げてね♪」

 

 トリーはリアス達に向き直り、今回の内容とルールを説明する。特にタイキックという言葉が出た時、イッセー達の顔に恐怖が映し出された。

 

「場所はこの学園の校庭のみ、張り切ってGO!」

 

 トリーから問答無用の処刑宣告が下された。グレモリー陣営のお尻は生き残る事が出来るだろうか。周囲への迷惑を考慮して俺の方で校庭を結界で包み込んでおいた。

 

 

 

「カケカケ~ッ♪ どう攻めるぅ~っ?」

 

「踊りながら行ってみるか?」

 

 トリーと俺はクスクス笑いながら追いかける手段を検討する。

 

「注し当たって俺はリアスを追いかけたい。お嬢様を追いかける事はこの仕事への本気度を見せるいい機会だからな」

 

「鬼を気絶させて逃げ切る算段なら、最初に潰しておかないとね。思い出すわ~っ、訓練所時代を」

 

「あの時に俺達のやったことを、連中も全部やるかな?」

 

「よっぽどの策士が居なかったら、絶対にやるわよ」

 

 俺達は訓練所時代にやった鬼ごっこ攻略法を思い出しながらニヤニヤと笑ってしまう。

 

 建物を背にして逃げることや、木の上に隠れてやり過ごすぐらいは俺達も当たり前のようにやって、鬼に捕まったものだ。

 

 それ以上に恐ろしい事、それは逃げるヤツの位置が鬼に丸分かりで逃げ切れない事だ。鬼をやる連中は全員気配探知が出来る教官であり、当然足の早さも上だ。そこに気づかない限り、1時間も逃げるなど不可能だ。俺達の時もそうだった様に。

 

 

 

 場所は変わって校庭の西側の林の中では、リアス以下グレモリー眷族が集まって作戦会議をしていた。

 

「良いわね、何が何でもこの1時間を逃げ切るわよ」

 

「ルールが捕まらない事と背中を見せない事だけなら手立てはあるでしょうし」

 

 リアスと朱乃は鬼ごっこに対して勝負事と決め付けているようだ。

 

「ですが、あの2人が私達より強い以上、出来ることは少ないです」

 

 小猫は冷静に状況を考えている。

 

「そうだね、兵藤君はあのお仕置きに耐えられる自信はある?」

 

「俺はまったくねえよ。時渡さんがふっとんじまったタイキックだぞ?」

 

 木場がイッセーを心配するが、彼はあのタイキックに耐えられるわけが無い。

 

 ……リアス達の作戦会議の様子は、その声も含めて俺達2人に筒抜けだった。どうしてかというと、すでに彼女達の上にいるから。

 

 どんなに広大な敷地を誇っても、俺達は直線距離なら1キロを20秒も掛けずに走りきる。これは俺達が教官たちを相手にした鬼ごっこの初期の状態そのままだ。

 

 俺はトリーに視線を向け、二本指を立てて下を指差す。するとあいつはそれに頷き、親指を立てた。

 

 今の内容は、『トリーにイッセーと木場を任せる』『了解』だ。これだけで全てが通じるのはコンビを組み続けた成果なのだろう。

 

 それでは、狩りの時間だ。

 

 

 

「さあ、皆! 行くわよ!」

 

 リアスはそう意気込んで後ろを向くと、可愛らしく自分の両ほほに両手の人差し指をくっ付けてニッコリと笑う俺の顔を直視してしまった。

 

「きぃやああああぁぁ~っ!」

 

 リアスの悲鳴を合図に、グレモリー眷族がその場で散っていく。だがその時にトリーが木場を掴んだ。

 

「しまったっ!」

 

「ゲット♪」

 

 ズバンッ!

 

 捕獲から電光石火の早業でトリーが木場の尻にタイキックを打ち込む。捕まえてからタイキックまで1秒も掛からなかったぞ、アイツ。

 

 木場がその場で捕まったという衝撃はグレモリー陣営を恐怖に貶めた。

 

「木場がやられちまった!」

 

「そんなっ!」

 

 イッセーの言葉に他のグレモリー陣営に衝撃が走る。そして木場はというと、地面に倒れ、トリーに介抱……。

 

「トリー、服を脱がすのは良いけど、パンツはダメだぞ~っ」

 

「王子様ルックに仕立てて良いぃ~?」

 

 トリーが木場を着せ替え人形にしていた。たぶん、その格好にしたら校庭のど真ん中に放置する気なのだろう。

 

 そのお仕置きを目の当たりにしたグレモリー眷属はもはや言葉も無い。

 

 だがこれは、開始から僅か3分で起きた出来事。グレモリー陣営はこれから残りの1時間近くを逃げ延びなければならない。

 



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第25話 グレモリー陣営、苦戦してます

どうもバグパイプですm(__)m
遅れてすみませんですm(__)m
しかし、やれることをやりました。それではどうぞm(__)m


 木場という尊い仲間を失って逃げ延びたリアス達4人、しかしまだ逃走時間は残り55分と残酷なまでに長い。

 

「祐斗が捕まるなんて!」

 

「逃げないとマズいっすよ、部長!」

 

 うろたえているリアスにイッセーが声を掛ける。

 

「トリー、俺は追っかけるけど……おおうっ!?」

 

 振り返って声を掛けようとした時、そこには貴族さながらな王子様ルックの木場と、大作を作り上げた満足感に歓喜しているトリーの姿があった。

 

「うん、満足♪」

 

 ファッションが絡むと恐ろしい事をするやつだよ、コイツは。白をベースに水色の線を入れて、金糸銀糸で刺繍が施されてやがる。コスプレなら白馬を要求されそうだな、これは。

 

 

 

 とりあえず、朱乃はというと。

 

「林の近くに戻れば居なくなってますわよね」

 

 1度探した場所はしばらく探さない。その法則を利用して安全地帯に避難したつもりでいる様だ。俺はそれを再び木の上から見つめている。

 

 そしてソロソロと気配を消しながら近づいて、コソッと彼女の耳元でささやいてあげた。

 

「復習は、大事なのであ~る」

 

「ひっ!?」

 

 朱乃は悲鳴を上げて飛び退くが、その着地地点に俺が居て彼女をお姫様抱っこでお迎えしてあげる。

 

「姫島ゲェ~トォ」

 

 

「いやああああぁぁぁ~っ!」

 

 

 

「今の声は朱乃!?」

 

 リアスは林の方を見ながら朱乃の悲鳴を聞きつける。

 

「……やはり2人は難敵です」

 

 そばに居る小猫が俺達2人を問題視してくれる。だがその視線の先、校庭の中央にはお尻を高く上げて突っ伏している木場の姿がある。しかもそこへタイキック処理済の朱乃を抱えながら歩いていく俺と、鼻歌交じりでその後を付いて歩くアンミラ制服を抱えたトリーの姿もあった。

 

「くぅ~っ、あの2人……」

 

「部長、ここは危険です」

 

 朱乃を確保されて悔しがるリアスを小猫が引っ張る。

 

 この時点で時間は10分を経過したところだった。

 

 

 

 それでイッセーの方はというと。

 

「参ったな。部長達とはぐれちまった」

 

 体育館そばまで猛ダッシュを敢行して逃げたイッセーが途方にくれていた。

 

 イッセー担当のトリーは今、確保した朱乃の着せ替えをしているために、俺が狩りに来ている。そう、今の俺は彼の来そうな所に先回りしていた。コスプレという単語にひらめきを得て、今の俺は女子高生に変装している。

 

 おし、目標は100メートル先。ヤツは気づいてない。レッツ・ゴーッ!

 

「せんぱぁ~い」

 

 とすっ。

 

 俺は小走りに近づいていき、そのままイッセーの胸元へと飛び込んだ。

 

「なんだよ、いきなぁアーっ!?」

 

「イッセーをゲェ~トッ」

 

 女子高生の俺が顔を上げ、イッセーに俺だと認識させると目が飛び出そうなほどに驚いていた。

 

 

 

 イッセーにお仕置きのタイキックをねじ込み、彼を抱えてから俺はトリーの居る校庭の真ん中へと向かった。

 

「トリーっ……って、おおうっ!?」

 

 俺が見た光景は、ビザールの香しい香り漂う女王様と化した、気絶したままの朱乃と、自分の仕事に半信半疑なのか首をかしげたままのトリーがそこに居た。

 

「トリー、アンミラはどうしたんだよ!」

 

「あっ、カケカケ。魂って恐ろしいわ」

 

 俺の言葉にトリーは戦慄を覚えた表情で俺に訴えてきた。

 

「はぁ? どういうこった?」

 

「この子が中から訴えてくるのよ、このビザールだって」

 

「はぁ? お前、やらかしすぎて茹ったのかよ」

 

 トリーが自分のした事の正当性を訴えてくるが、俺にはいまいち理解できない。遺伝子がどうとか、ビザールがどうだの言われても、ファッションの世界は他所の畑ですから。

 

「……カリエル様のあの言葉が今になって理解できたわ。『その者にとって真に合致する物は、神でさえ否定できない』って言葉が。私のファッションセンスはまだ到達してないのね」

 

 トリーは独り言で自分はまた極致に至っていないと呟く。あいつが口にしていた『カリエル』という名前には俺は覚えが無い。拠点に帰ったら誰かに訊くとしよう。

 

「まあ、とにかく、イッセーを確保したから頼む」

 

「オーケェイ。この坊やはどうしましょう」

 

 俺は気絶したままのイッセーをトリーに預け、その味付けの一切を任せる。

 

 この時点で18分が経過したところだ。イッセーに意外と時間を掛けたもんだな、反省事項か。

 

 俺はこの後に控えているリアスと小猫の捕獲に意識を向け、トリーに話しかけようとした。

 

「じゃあ、俺わあぁぁ~っ!」

 

 俺が見たものは、胸に大きなおっぱいを抱える赤いドラゴンの着ぐるみと、そこに押し込まれているイッセーの姿だった。驚きすぎて心臓が痛いぞ。

 



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第26話 グレモリー陣営全滅しました

どうもバグパイプですm(__)m
ようやく鬼ごっこが終わりです。
次回は待望の聖女が降臨しますのでよろしくお願いしますm(__)m
それではどうぞm(__)m


「ちょっと待てよトリーっ!」

 

「んっ?」

 

「さっきの凄い話だなぁ、の後にこれはねえだろ!

 

「私だって嫌よ! こんなファッションのフの字も無い着ぐるみなんてのは!」

 

 ボケるのはとにかくとしても、おっぱい大好きドラゴン、いやおっぱいドラゴンは酷いと思うぞ。

 

「どういうことなんだよ、これは」

 

「イッセーの魂がこの構図を押したのよ。私のせいじゃないわ!」

 

 トリーが珍しくその顔に汗を浮かべながら取り乱している。理解の域を超えると思考がおかしくなるらしいな。

 

「わ、分かった。分かったから。それを早く済ませて次に掛かろう」

 

「……うん」

 

 マズイ! ここまで素直な状態のトリーは本当に危険だ。この事はコイツから忘れさせよう。

 

 だが、これがイッセーの力の源への接触だったかも知れない。それを知るのは後の話。

 

 

 

「まさかイッセーまで捕まるなんて思わなかったわ」

 

 リアスは親指の爪を噛みながら不測の事態に頭を悩ませる。

 

 今、リアスは校門側、校庭の端にいる。細かいところまでは見えないが、トリーによってイッセー達がオモチャにされている光景を目の当たりにしてしまったところだ。

 

「あの先輩は自業自得です。それよりもまだ40分も残ってます」

 

 リアスと行動を共にしている小猫は校舎の時計を見ながら残り時間をリアスに告げる。

 

 万能選手相手に何処まで逃げられるのか、未知数の事態に直面して主としての質を問われたリアスは、困惑の渦中に沈んでいた。

 

 そしてそんな2人を俺は校庭から見つめていた。

 

「さっさと終わらせて反省会をするのが優しさか?」

 

「そうかもね」

 

 俺の呟きにトリーがあいまいに答える。別に答えを求めていた言葉ではないからこれで良い。

 

 リアスと小猫の位置をしっかりと確認してから俺はおもむろに変装を始める。体中の関節をゴキゴキ言わせて体格を小柄にし、余った皮膚を胸元に寄せたり分散させたりして少女体型を作る。そして変装用の化粧を施してカツラを被れば小猫の出来上がり。

 

「……カケカケ、貴方の人知を超えた変装術にも磨きが掛かったわね」

 

「はい、日頃の修練の賜物です」

 

 トリーの賞賛に俺は小猫の声で答える。そして一気に小猫との距離をつめて接近した。

 

「えっ?」

 

 思わぬ接近だったのか、呆気に取られた小猫に対して俺はそのまま彼女の腕に腕を絡め、そのままコブラツイストへと移行した。

 

「……これはうかつでした」

 

 小猫の口を腕で隠しながら俺が呟く。その声でリアスがパニックに陥った。

 

「こ、小猫!?」

 

「はい、つっかまえたぁ♪」

 

 現場の硬直を利用してトリーがリアスを後ろから抱きしめる。その加減は恋人締めだった、と俺が気づいた次の瞬間。

 

 ズバンッ!

 

 トリーによるタイキックがリアスの尻を襲った。

 

 

 

「これで今回の訓練は終了するけど、おのおのしっかりと反省して次への努力を始めること」

 

 残り時間を30分も残し、伝説の鬼ごっこは終わりを迎え、皆は部室に戻った。

 

 当然ながらお仕置きのあの後、小猫は猫耳制服アイドル風に仕立てられ、リアスは紅ビキニ戦士風に仕立てられてしまった。

 

「……なんて屈辱!」

 

「これはコスプレと思えは問題ではないかと」

 

 リアスは思いっきり歯噛みして悔しがり、小猫は幾分甘んじで耐えている様であった。

 

 そしてその後ろでは、生きてて良かったとため息を漏らすトリーのとろけた姿があった。

 

 もちろん、グレモリー眷属一同はタイキックの痛みのせいで椅子に座れず、テーブルん突っ伏す形で休憩している。おかげで俺が紅茶を入れる羽目になってしまった。

 

 タイキックはやられると背骨や膝にまで響くんだよなぁ。力が入らないから痛みが中々引かないし。

 

「これでリアスは自分の甘さが仲間を殺すと分かっただろう。この先、主としてやっていくなら無駄な甘さはやめるか控えるべきだ」

 

「正論だけに反論も出来ないわね」

 

「お前がそうしなければ姫島たちが報われないんだよ。犠牲者を作れとは言わないが、犠牲を無駄にするなとだけは言うぞ」

 

 俺はリアスに向かって部下の使い方の1つを説く。

 

「……先輩、その格好はどう考えてもセクハラです」

 

 小猫は隣に居るイッセーの着ぐるみを睨みながら呟く。

 

「ですよねーっ」

 

 イッセーは力なく答える。まあ、おっぱいドラゴンは酷いよな。

 

 でもこれでリアス達グレモリー陣営の基礎鍛錬の方向性は見えてきたから良しとしておくか。

 

「……今日は素敵な一日だったわ、最高♪」

 

 トリー、今日の仕事は終わりにして良いから、こっちの世界に戻ってこい。

 



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第27話 聖女が町にやってきた

どうもバグパイプですm(__)m
お約束の聖女です(^^ゞ
それではどうぞm(__)m


「こんな所にシスター、いや格好からして修練女か」

 

 まだ春の陽気が続く4月の中のある休日、俺とイッセーは街中で尻餅をついている少女を見つけた。背格好から修行中のシスターだと理解する。

 

「あっと、大丈夫すか?」

 

 イッセーはそう言って彼女に手を差し伸べる。そして助け起こされた彼女は彼に礼を言った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「イッセー、この近くに教会でもあるのか?」

 

「えっ? まあ、町の外れの所に確かあったと思うんすけど」

 

 俺の問いかけにイッセーは素直に答えた。これで彼女が彼に頼って何らかの繋がりを作れるだろう。俺の経験談だが、女の一人も作れない奴がハーレムを目指すなら、シスターの慈悲深さから経験を重ねていくのが確実に女性の対処の仕方を覚えやすいという。

 

 俺達の会話を聞いて少女は両手を合わせ、表情を明るく輝かせた。

 

「教会の場所を知ってるんですか? 実は道に迷ってしまいまして……」

 

 

 

「……はい、この町の教会に赴任したアーシア・アルジェントと申します」

 

「そうか。俺は時渡翔、この町には仕事で最近着たばかりでね」

 

「俺は兵藤一誠、イッセーと呼んでくれ」

 

 教会まで彼女を案内する道すがら、自己紹介を交えて会話と楽しむことにした。

 

「時渡さんとイッセーさんですか、よろしくお願いします」

 

「俺の方は仕事で会う機会が少ないから、イッセーを頼ると良い。頼りなさそうに見えて中々のヤツさ。有望株として押さえておきな」

 

「どういう意味すか、翔さん」

 

 俺が親切心を出してイッセーをアーシアという少女に押し売りする。そのセールス文句を聞いて彼が俺に向かって抗議の声を上げてきた。

 

「シスターは男が嫁にしたい職業の1つとして知られている。俺の知り合いに言わせると、健気で癒しの強いキャラクターは押さえておきたいステータスの1つなんだそうだ」

 

 俺はそんなイッセーに、彼女の魅力を職業で物語る。

 

 その言葉を聴いてアーシアはイッセーに質問した。

 

「ステータスって、そうなんですか?」

 

「あはははは」

 

「笑ってごまかそうとはヨロシクナイナ」

 

 ごまかしの笑いを浮かべるイッセーに対して軽い説得をした俺は、標的をアーシアに切り替えた。

 

「それでアーシアはイッセーを押さえると、特典としていざという時に頼りになるお兄さんが手に入る」

 

「そうなんですか! 凄いです!」

 

 俺の言葉にアーシアが嬉々としてはしゃぐ。だが俺の目はそのはしゃぎ方に影を見つけてしまった。その影は過去に周囲から阻害された者にしか浮かべられない切ないものだが、それを可憐な彼女が浮かべるというのは少々切ない。

 

 また、同じ影をイッセーが浮かべるようになったから、そっちも何とかしたいものだが。

 

 そんなこんなと会話をしながら歩いていくと、遠くにあった教会が目に見えて近くに見えるところまでこれた。

 

 だが、人の手で使われているという雰囲気がまったくしない。廃棄されて久しい感じがしないのも不気味では有る。

 

 ぬう、こういう所にうら若い乙女を押し込むとは教会連中も罪深いものだ。俺の拠点に入れてやる方がまだマシだ。イッセーの家でも良さそうだな。

 

「あのお礼をしたいので、中でお茶でも……」

 

「すまないな、俺達は用事があるんだ。お茶はまたの機会にさせてもらうよ」

 

 俺はイッセーの身体が妙に震えたのを見てアーシアの誘いを遠慮する。その代わりとなる言葉を言っておかないと。

 

「その代わり、何かあったら俺達に言うと良い。これが連絡先だ。ここに連絡すれば、イッセーが飛んで来て願い事を叶えてくれるぞ」

 

「本当ですか!?」

 

 俺の言葉に心の底から喜ぶアーシアの姿が微笑ましかった。

 

 

 アーシアと別れて岐路に付く俺達。ふとイッセーが俺に問いかけてきた。

 

「時渡さん、何で俺なんすか? 時渡さんならアーシアのこと……」

 

「言うなよ。俺は所詮、他所の世界の住人だ。同じ世界のお前の方がまだ前を向いていられる」

 

 イッセーは俺の返答を聞いて忘れていたことを思い出したのか、それに気づいた表情をあらわにする。

 

「それにお前を押したのもあいつのためだ。受け止めてやれよ」

 

「時渡さん……」

 

「それに、ハーレム王がこの程度に臆してどうする? あの少女にビビる様ではまだまだだな」

 

「そりゃ無いっすよ」

 

 イッセーが俺に指摘に情けない声を挙げるが、彼の心の傷はあの時のまま、癒えていないのが分かった。

司令とかに相談したら本人の問題と言い切られるのが目に見えてるし、困ったものだ。

 

 そして翌日、俺とイッセーはリアスにめちゃくちゃ怒られた。

 



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第28話 白装束の黒い神父

どうもバグパイプですm(__)m
今回はあの若い神父が初登場しますm(__)m
それではどうぞm(__)m


 休日を明けて俺とトリーはオカルト研究部部室のドアをノックしてから開けると、イッセーが直立不動の姿勢でリアスから説教を受けていた。

 

「良い? イッセー、教会は天使の領域なのよ。もしもの事が遇ったらどうするの?」

 

「すみません、部長」

 

「今後、二度と教会に近づいてはダメよ。分かったわね」

 

「了解です、部長」

 

「……近づくなら、私のおっぱいにしなさい」

 

「はい、部長……って、えっ!?」

 

 リアスがイッセーに教会に近づかないことを約束させた後を、俺が引き継いでリアスのおっぱいに近づけるように約束させてやったら、彼は呆気に取られ、リアスが逆上しだした。

 

 ズッパンッ! ズッパンッ! ズッパンッ!

 

 俺は逆上したリアスのハリセンで滅多打ちの刑に処された。

 

「ゆっ、油断も隙も無いわね。まったく」

 

「だからってここまで滅多打ちにするか!?」

 

 肩で息をしているリアスに俺はボロボロにされたことを抗議する。

 

「あらあら」

 

「……今のは時渡さんが悪いです」

 

 朱乃と小猫は苦笑しながらも俺を非難してくれる。

 

 まったく酷いもんだ。しかもハリセンは下ろしたての新品だしよ。前回よりも大きくなってやがるし。

 

「チクショウ、女連中の俺を見る目が前より酷くなってやがる」

 

 俺はチラリとトリーを見る。

 

「トリー、俺を慰めてくれ」

 

「じゃあ、お尻の初めましてプリーズ」

 

「帰れ」

 

 俺は本気の目で俺の尻を求めるトリーに対して、容赦なく一言で切り捨てる。すると部室の隅にアイツは駆け込み、その場で壁に向かって座り込んでしまった。

 

「私は本気で良いヤツなのにぃ」

 

「俺のケツを求めなければ、本気で良いヤツだと思うよ」

 

 壁に向かって拗ねているトリーだが、ここのケジメはしっかり付けないといけない。

 

「とにかくトレーニングの時間だ。準備しないとな」

 

 俺はそう言っていそいそと上着の袖をまくり、ポケットから万年筆を取り出す。

 

 トリーが何故か俺のその動作に感づき、ピクンと反応する。だが俺はそれに構わないことにした。

 

 袖まくりで判った方は居ますか? 居たら皆さん、ご一緒に。

 

「まぁーくぅりーっ! ぱわぁあぁーっ!?」

 

 万年筆を上に高々と掲げて叫んだ所で、腰骨に下から衝撃がズドンときた。

 

「それもダメだと私は言い切る」

 

「……トリーィー。てぇんめぇ~っ」

 

 俺がギャグに走るのをトリーは容赦ない手段でねじ伏せた。片足を上げてプラプラさせている所からして玉蹴りか。

 

 トリーの仕打ちでしばらく動けない俺は皆の監督をするという名目で休まされていた。実質的な指導はトリーの独断と偏見で行われている。そして俺は手当てと称されてえらい扱いを受けていた。腰がえらく重くて仕方が無い。

 

「トリー……、この包帯、取ってくれよう」

 

「オムツみたいで面白いからヤダ」

 

 

 

 今日の練習が終わり、岐路へと付く俺達だが、目の前に白い神父姿の若造が通りかかった。金髪で妙に鼻に付く表情を浮かべるその若造は、俺を見るなり妙なことを口走ってきた。

 

「おんやぁ? こんな時間に悪魔さんですかぁ? 逢魔ヶ刻に悪魔に会うなんて、俺様ってば不幸ちゃんですかぁ?」

 

 神父の格好で並べ立てる言葉ではない台詞を口にする相手に、俺は冷めてしまう。悪いが頭の悪いヤツを相手にしたくない。

 

 だが、トリーは妙な反応を見せていた。

 

「ねえ、坊や。貴方の体から人間の血の匂いがして困るのだけど?」

 

 へっ? アイツから血の匂いが?

 

 俺はすぐに嗅覚を発動させてあたりの匂いの選別を始める。すると微かだが確かにトリーの言うとおり、血の匂いが鼻に届いた。

 

「そうですかぁ? 俺様ってばここ最近はお利口さんにしてるんすけどねえ。悪魔に取り付かれた人間も居なかったわけだしさぁ」

 

 ……なるほど、相手は自分から暴露したとおり、悪魔祓い師ということか。でも力はそう高い方には見えない。武器とかを巧みに操ることで仕事をこなしている風だ。身のこなしも明らかに施設で訓練を受けた特化型の歩き方と重心の位置だ。

 

 懐か腰ダメに銃を持ってる雰囲気だ。だが懐にあるとしたら利き腕の肩が僅かに上がるものだが、それが無い。

 

「何、ダンマリ決め込んでくれちゃってるんですか、ダアホがっ!」

 

 俺に向かって激高した顔を見せながら飛び跳ねるように突進してくる相手に、俺はしっかりと相手の目を見据えて対処を始める。

 

 リズムはロックかパンクの辺り。身体能力は間違いなく身体強化の中距離戦闘型。挙句にトリッキーでかく乱する戦術、と。

 

 俺は相手の一挙動からある程度の情報を読み取ると、懐からロープを取り出し、縛り上げる手段に打って出た。

 

「はぁん! そのロープで縄跳びですかぁ?」

 

「そうだよ、縄でトンでくれ」

 

 俺は相手が自分の懐に手をいれるのを見ながらロープの端を握り締め、もう片方の端を相手に投げつけた。

 

「シューティングッ!」

 

「なっ、何ですかぁ!?」

 

「……簀巻きっ!」

 

 ロープの半分以上が相手の身体を通り過ぎたのを見て俺はそのロープを引っ張る。するとロープは相手の身体に巻きつき始め、しっかりとあてを拘束していく。

 

「げえぇっ!」

 

 ロープが相手を締め終える頃には見事な芋虫がそこに転がっていた。

 

「副司令ほど複雑なのは出来ないけど、出来ないよりはマシか」

 

 俺は今の技の出来に納得すると、近づこうと歩き出す。しかし相手は縛られたまま飛び跳ねて塀の上へと飛び乗った。

 

「まさか俺様がこうもやられるなんてな。決めた! テメェは俺様の獲物に認定。フォーリンラブで殺してやるから待ってろよぉ~っ!」

 

 神父はそう言って俺に向かって啖呵を切ると飛び跳ねながら逃げていった。

 

 俺達は相手のおぞましい捨て台詞のおかげで追いかける事が出来なかった。

 



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第29話 危機が静かに忍び寄る

どうもバグパイプですm(__)m
物語は1巻の半分くらいまで来ました。
そして今回から緊急事態へと加速して行きますのでよろしくお願いしますm(__)m
それではどうぞm(__)m


 翌日、俺とトリーはオカルト研究部部室に行き、昨日に遭遇した若い神父の件で情報を求めることにした。

 

「……貴方はどうしてこうも騒ぎを持ち込んでくるのよ」

 

「持ち込みOKにした覚えはねぇんだけどよ、相手が勝手に持ってくるんだ、摘んでくれってさ」

 

「何処のお店よ、それ」

 

 呆れ顔のリアスに対して困った顔で肩を竦めて見せる俺。

 

「あらあら、困ったお話ですわね」

 

「朱乃、他人事の様に言わないでちょうだい」

 

 困った顔を見せながら紅茶を入れてくる朱乃に対してリアスが口を尖らせる。

 

「……それで時渡さんは相手の様に、摘む物を持ってきてはいないのですか?」

 

「……妙に鼻の利く子猫ですね。尊敬します」

 

「私の声と口調を真似しないでください」

 

 俺はお菓子を遠まわしにねだってくる小猫に対してその声を真似しながら懐からチーズケーキを1ホール取り出す。

 

「お見事です」

 

 無表情のようで微かに頬を上気させている小猫に、俺はほほえましいものを感じてしまう。

 

「物騒な神父が出てきた以上は何らかの問題に発展する可能性が出てきたわけだが、そっちの方で何か情報を掴んでないか?」

 

「教会にシスターと神父、何かが行われようとしているのは確かだけど、それだけじゃあ何とも言えないわ。もう少し情報がほしいけど」

 

 俺の問いかけに対してリアスは情報不足を悔やんでいる。この程度で指揮官とは先が思いやられる。

 

 俺はトリーに話を振ることにした。

 

「トリー、現状から推測の範囲で構わない。何か予測できるものは無いか?」

 

「あのねえ、堕天使が先回りでこの町に入り込んでること、忘れてないかしら?」

 

 流石トリー。その一言でパズルのピースが大幅に組み合わさった。

 

「そうか! 堕天使が二人を呼び寄せて大掛かりな儀式を計画しているという事か」

 

「そういうことよ。後、神器がなんらかの関係を持っているのは間違いないけど、その辺りは要調査ね」

 

 現状を理解した俺にトリーはパズルの残りのピースとして神器の存在を提示してくる。確かに堕天使達は至高の堕天使を目指していると公言していたから、それが関係しているのは明白だ。ただどんな神器がどう関係しているのかが不明と言ったところだろう。

 

「そうね、イッセーが神器のおかげで殺されたことを考えると、また神器を巡ってイッセーが狙われることも考えられるわ」

 

「えっ、マジっすか!?」

 

「だから心配なのよ」

 

 リアスはそう言ってイッセーを引き寄せてその胸に抱きしめる。

 

「私は私の大事な下僕が害されることが堪えられないわ」

 

「部長……」

 

 リアスの大きい母性に顔を埋め、どう答えていいのか分からないイッセーはたどたどしく呟く。

 

「そこを何とかするためにも基礎鍛錬は急務なんだろ。現状ではイッセーと木場、搭城のスリーマンセルを完成させなければ互角な戦い方までしか出来ないからな」

 

「そうね。時渡さん、悪いのだけれど今日の訓練は」

 

「分かっているさ。俺達だってこの件で調査したい事が見つかったんだ。ここの鍛錬に期待するよ」

 

 俺はリアスが言い難そうにしているのを見て自分達も用事が出来たと伝えておく。妙に心がざわついて落ち着かないぐらいだからな。

 

 正直な話、これ以上あの巨乳に顔を埋めてとろけているイッセーを見ていると茶々を入れたくて仕方が無いのだ。いや、突っ込みとしてゲンコツも有りか。

 

 

 オカルト研究部からの帰り道、俺達は話を整理するために公園に立ち寄った。

 

「ほらよ」

 

「サンキュ♪」

 

 俺は俺の奢りの紅茶の缶をトリーに放り、アイツはそれを受け取る。

 

「それで、さっき言いそびれていた事が有るんだろ?」

 

「さっすがカケカケ、冴えてるぅ」

 

「茶々はいらねえよ」

 

「はいはい。確かに至高の堕天使になりたいなら神器に手を出すのは必然ね。人間にしか渡されない絶大な道具なら、どんなものでもお宝よ」

 

 トリーはそう言って紅茶の缶のプルトップを起こし、口をつける。

 

「だがそこで問題だ。イッセーは悪魔として転生しているが、神器を保有したままだ」

 

「でもそこに別の神器を持った誰かさんがやってきたらどうかしら?」

 

「そういう方向もあったか」

 

「あらゆる可能性を予測して調査する、それが私達シーカーのはずよ? 違うかしら」

 

 トリーが俺に思わせぶりな視線を向けてくる。恋人同士ならここからキスの1つにでももって行きそうな場面だ。

 

 ガサッ……

 

 俺達は近くの植込みから音が鳴るのを耳にしてその方向に振り向く。

 

「あ、アンタら……」

 

 そこには植込みから這い出たばかりの、ボロボロで満身創痍なミッテルトと、血だらけになって気絶しているカラワーナ、そして右腕を失っているドーナシークが居た。

 

「た……たすかっ……たっす……」

 

 ミッテルトはそう言って倒れると、その場で意識を失った。

 

 何がどうなってやがる!

 

 俺は悪い方向へと駆け抜けていく事態に怒りをかみ締めることしか出来なかった。

 



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第30話 堕天使合流

どうもバグパイプですm(__)m 
ミッテルト達は助かるのか?翔達は助けることができるのか?
それではどうぞm(__)m


 俺達は傷だらけの三人を何とか抱え込むと、拠点へと瞬間移動で一気に飛んだ。

 

「状況は最悪だ。ありったけの治療を施すぞ」

 

「了解。点滴を揃えてからドーナシークを先頭に順次治療するわ」

 

 俺の言葉にトリーが治療の順番を即決し、点滴用の指示架を物置から引っ張り出す。

 

「念のため上位治癒の術式を出してくれ。ドーナシークの腕は一旦塞いで後から再生する」

 

「了解。カラワーナは止血後、すぐに縫合に入るわ」

 

 にわかに慌しく、戦場の様相を見せる拠点で俺達は必死の思いで三人を治療していく。

 

 魔力で傷を塞ぎたいが回復に魔力を注がないと危険なほどの重態だ。傷は針で縫い上げるしかない。

 

 ドーナシークは俺が、トリーは残りの二人を担当し、賢明の処置を施していく。ドーナシークの怪我は欠損だけでなく、複雑骨折まで見つかった。

 

「どうやったらここまでの怪我をするんだ。限界まで抗生物質を入れないと」

 

「ホントにどうして、カラワーナの小腸に破裂が見つかったわ」

 

 俺達は本部への連絡も忘れて治療に没頭する。全ての治療に区切りが付いたのは、時計の針が深夜を通り過ぎた頃だった。

 

 

 

 翌日、俺を起こしたのは通信機の呼び出し音だった。

 

 俺はだるい身体を起こして通信機のスイッチを入れて回線を開く。

 

『どわはは、はああっ!?』

 

 開口一番に笑う司令だが、その口が驚きで開いたままになっていた。そりゃそうだろう。今のリビングは患者が3人して簡易ベッドの上で寝ているし、トリーはソファに突っ伏すように寝ているし。俺に至っては髪もぼさぼさ、寝ぼけ眼で応対している有様だ。

 

『こいつはどういう事態だよ!』

 

「すみません司令、昨夜に負傷者の緊急手術をしたものでして」

 

 俺は驚く司令に対して、昨日の出来事を説明する。

 

『なるほどな、欠損まで出たか。良し分かった。必要な治療薬の補充と追加を医療部隊ドックから引っ張り出して送ってやる。欠損部位の治療に付いては効果の出てる細胞構築剤を用意するから、そっちで肝細胞のマッピングとボーン構成をやってくれ。そのための機材は……ああ、そっちには無いだろうからこっちから送る』

 

 流石は司令。必要な物資を問答無用に羅列して送りつけると断言してくれた。

 

 医療部隊ドック、医療に関する研究開発から末期患者の手術まであらゆる医療分野の根底に潜んでいると言う部隊で、トリーは調査能力に秀でてなければそこに送られる運命だったとか。

 

『それで当面は凌げるのか? 必要なら人員も今のうちに送るぞ?』

 

「当面? ですか?」

 

『ああ、今回の転送はそこの患者のせいで大規模転送になるんだ。それこそトラック1つで済めばいいぐらいに』

 

「絶対に嘘だ」

 

『再生治療に必要な培養槽は人一人が楽に入る大きさになるんだが?』

 

「ごめんなさい」

 

『とにかく救える命を救った、それは誇っていいぞ。なに、ウチは慈善団体だ、治療費なんざお人好し保険価格でも儲かるぐらいだ』

 

「そんな慈善団体、何処にもねえよ

 

『新薬の臨床実験と新薬の特許を転がしてると言っても?』

 

 

「ごめんなさい」

 

 俺は司令の言うことにいちいち突っ込んでみせるが、見事な返り討ちで打ち落とされてしまう。

 

『まあ、他に言える事は……』

 

 画面の向こうの司令が言葉を続けずになぜか指で俺の後ろを指差す。

 

 不思議に思った俺は後ろを振り返ると、簡易ベッドの上で身体を起こすミッテルトの姿があった。

 

「ミッテルト、寝てないとダメだろ」

 

 俺はミッテルトに駆け寄り、その肩を押してベッドに寝かせる。

 

「……すまないっす。ウチ等のことに巻き込んだみたいで」

 

『そこのお嬢さん、詳しい話を聞かせてもらえるかい?』

 

 司令はミッテルトが何か事情を抱えていると見たのか、話してほしいと言ってきた。

 

「実は何日か前にレイナーレが1人の男を拾ってきてからおかしくなったっす。男はうちらより強くて全然歯が立たなかったっす。そして神器の事を聞いた男は、その持ち主から神器を抜き出せと言ってレイナーレをその気にさせたっすよ」

 

「なるほど、その男に付いては要注意か」

 

『なにはともあれ、これだけは言わせてくれ』

 

 司令は俺達を遮って何かを言おうとその表情を引き締めた。

 

『そこに居る二人を、ウチの二人に渡すまで助けてくれてありがとう。君のおかげで助かる命を救うことが出来た』

 

 司令がそう言って深々と頭を下げる。それを見たミッテルトは堪えきれずに大粒の涙を浮かべては枕元をぬらしていく。

 

 組織が理念として掲げる命の保護、魂の救出を彼女がしたことに司令は頭を下げて感謝していた。

 



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第31話 堕天使を勧誘します

どうもバグパイプですm(__)m
何とか助かったミッテルト達。命の危機とシリアスも無事に峠を越えました。
それではどうぞm(__)m


 司令は下げていた頭を上げ、これからのことを話し始めた。

 

『それで、君はこれからどうする?話からして君達は少なくても元の仲間の所には帰れないだろ』

 

「それどころか勝手な行動を起こしたことで、帰ったら拘束されて牢屋行きっす」

 

『なら時渡、ほとぼりが冷めるまでそこの3人を治療と称して保護しろ。怪我人を放り出す医者はいねえからな』

 

「俺は医者じゃねえ」

 

『ならお前の持ってる医師免許は紙切れか?』

 

 ふふん、と鼻を鳴らして勝ち誇る司令。だが俺は逆転劇の台本を持っている。今こそその台本どおりの展開に持ち込む時だ。

 

「司令、そっちの世界で取った医師免許はこっちの世界では紙切れですよ。スーパー何たら扱いです」

 

『ぐはあっ!』

 

 思わなかった反撃だったのか、司令はその場でもんどりうって倒れこむ。

 

 何をどう言おうが、この世界での登録記録が存在しない以上、こちらの世界ではあちらで所得したどんな免許も資格も嘘に代わる。これが異次元という世界の持つ絶対法則だ。

 

『時渡、今のは良い切り返しだったぜ。見事だ』

 

 テーブルを支えにして何とか立ち上がろうと司令は頑張っている。だが俺はそこに止めを打ち込みたくて仕方が無い。

 

「司令、オマケですけど、こっちの世界じゃスタッフ・ド・RBは影も形も無いって話なんですから。おかげで拠点の購入に詐欺をやるハメになりましたよ」

 

『おふぅ……』

 

 俺はこちらの世界に組織が存在しない可能性を示唆すると、司令は再び苦悶の表情を浮かべて画面から消える。

 

 良し、司令は轟沈した。

 

 俺はその勝利をかみ締めるべく、サムズアップを出して満面の笑みを浮かべる。

 

「なんかウチの総督に似てる気がするっす、あの司令って人」

 

「あんなのが何人も居たら面倒だろ。適当に間引いてゴミに出せよ」

 

「新芽じゃないんすから」

 

 ミッテルトは俺が司令を雑に扱うことに顔を引きつらせていた。

 

「……んんっ、なに?」

 

 こんな時にようやくトリーが目を覚ました。仕方ないか、患者を2人も抱えての処置だったから疲れてたんだろう。

 

「オハヨウゴザイマス」

 

 パァーンッ!

 

 俺が優しく、トリーの顔のそばで寝起きの挨拶をしてやると、あいつは顔を赤らめてそばに在った金属のトレイを引っつかんで俺の顔を横殴りに引っぱたきやがった。

 

 司令を轟沈させた俺が、轟沈しました。

 

 

 

「……ん~っ、ご飯作るぅ~っ」

 

 まだ寝ぼけているのか間延びした声でトリーがそう言うと、台所へと向かう。

 

「寝ぼけて指、切るんじゃねえぞ?」

 

「ウインナーの中に有ったらゴメンして」

 

 俺の注意に対してトリーがとぼけたことを抜かしてくる。それだけの事が言えるなら心配はないか。

 

「いつもこんな感じの朝を迎えるんすか?」

 

 引きつった笑みを浮かべるミッテルトだが、こんな朝はハッキリ言って珍しい。

 

「いつもはもっとマシなんだ」

 

『そうだな。皆、調理師免許を持ってるから、指を切る阿呆は居ない』

 

 通信機から司令の声が聞こえたので見てみると、回線が未だに開きっぱなしだった。

 

『もののついでな話だが、ミッテルトか。ウチの組織で働かないか?』

 

「えっ?」

 

『どうせ君達を保護するんだ、ついでに働いてもらえると助かるんだ。無論、働いた分の給金は出すし、当面は訓練部隊チック所属で時渡の部下だ』

 

 司令は俺を無視してミッテルトを勧誘する。訓練部隊は確か名前だけのぺ-パー部隊だったな。なぜそれをするのか、少し考えたら答えが出てきた。これからそれを確認する。

 

「司令、引渡しが面倒なんですが」

 

『俺も手続きが面倒くさいから渡さなくて済むようにしてるところだ』

 

「やっぱりか、コノヤロウ」

 

 司令の、面倒ごとから逃げきる姿勢に俺は呆れた。

 

『それと話にあった男の件だが、調書を取ってくれ。こっちの方でちょっとした事が起きて、副司令が神界に出張ってるんだ。そいつと関係が有るかも知れねえ』

 

「了解です。何か分かったら通信してください」

 

『良し分かった。お前のおねしょが分かったら連絡するぞ。どわははは!』

 

 ブツンッ!

 

 俺は司令に悪ふざけに激怒して、通信を強制終了させる。するとそれを見ていたミッテルトが大わらわに慌て出した。

 

「いっ、いいんすか? 上司なのに」

 

「いいんだ。副司令から悪さが過ぎるなら諌めて構わないと言われてるんだ」

 

 俺は副司令から言われている通り、聞くに堪えない話を強制的に打ち切っただけだ。

 

 それから俺はふとしたことを思い出し、リアスにメールで連絡を入れた。『重態の堕天使を拾ったので、悪いが1週間分の鍛錬はそっちで頼む』と。

 




(小説のメモ帳)

 医療部隊ドック

 医療に関するさまざまな分野で影から貢献する部隊。新薬の開発や難易度の高い手術の執刀、果ては精神疾患に対する高度な治療まで暗躍する分野は際限が無い。隊員によっては危険物取り扱い免許甲種を持つ者も居る。また放射線取扱い主任者免状を持つ隊員も少なからず居る。

 訓練部隊チック

 この部隊は訓練所に入所できない事情を持つ隊員候補が所属する部隊であり、いわゆる間に合わせの所属先である。なおチックは英語で『ひよこ』という意味を持つ。当然、環境を整えてから部隊ごと訓練所に送られる


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第32話 事態は深刻なようです

どうもバグパイプですm(__)m
話が山場を迎えました。
あと少しで新章に移ります。
それではどうぞm(__)m


 通信を終えて朝食を取った後、俺達はドーナシークとカラワーナの生命維持装置を確認してから休憩に入った。朝御飯が食べられない2人なだけに栄養剤の点滴も用意する。

 

「生命維持装置に栄養剤の点滴まであるだなんて、どういう仕事をしてるんすか、あんた等は」

 

「生態調査?」

 

「お笑い芸人?」

 

 ミッテルトの質問に俺達は顔を見合わせながら答える。

 

「何で疑問形なんすか!?」

 

「いや、まあ、何となく?」

 

 俺は思わずその場を濁しに掛かる。

 

「はぁ、もうイイっす」

 

 ミッテルトは追求を諦めたのか、大きなため息をついて肩を落とす。

 

 本来ならこの後、仕事として調査に出かけるのだがあいにくと患者を放り出して仕事に出れるほど酷い男ではない。

 

「一応、峠は越えたんすよね?」

 

「まぁ、命の危機というのは大げさだけどな。後の問題は本人達の問題だ」

 

 俺は命の他にある1つの危機を仄めかす。戦うものにとって死は2つある。肉体的な死と、戦う事から逃げる精神的な死だ。

 

「その辺りはおいおい考えるとして、一先ずは何とかなったでしょ?」

 

 トリーが俺達の話に割り込んでくる。

 

 トリーが俺を背中から抱きしめるように腕を回してくる。その光景にミッテルトが見とれている。

 

「はあぁ、なかなか絵になるっすねえ」

 

「だろ? これで下が付いて無けりゃあ最高なんだけどな、付いてるんだよ」

 

「えっ!?」

 

 あっ、やっぱり硬直したか。

 

 ミッテルトはトリーが女だと思い込んでいたらしく、真実を知って愕然としている。

 

 そんな所に、俺の携帯電話にチャリィ~ンッという音と共にメールが届く。メールは本部からで、増援物資は1時間後に届くとの事だった。

 

「トリー、追加の物資が1時間後に届くから、届いたら再生培養を始めるぞ」

 

「了解♪」

 

 追加物資が届くという知らせに俺達2人は浮かれ始めたところに、

 

 ピィーッ、ピィーッ、ピィーッ!

 

 不意に通信機から受信コールが鳴り響いた。俺はそれを受けて通信回線を開く。

 

「はい、時渡です」

 

『時渡か? 不味い事が見つかった。神界からの緊急呼び出しで聞いたんだが、魔界からの流刑囚がお前等の次元に来てるそうだ』

 

 通信に出てきたのは副司令で、早口に事の次第をまくし立てる。

 

『流刑囚は数日前から潜伏して何か起こすかもしれない。詳しい資料はデータでそっちに送る』

 

「誰が居るって言うんですか、副司令」

 

『そいつは『罪悪の爪痕』ゾル・ヅェベルだ。奈落からの流刑だそうだ』

 

「ゾルですって!?」

 

 副司令の言葉にトリーが目を剥いた。

 

 ゾル・ヅェベル、魔界において魔界貴族50人殺害の罪状で司法庁の1つ『奈落』に収監されて流刑、次元の狭間へ追放された囚人である。また、その際の余罪調査には裏でトリーが借り出されたのは機密事項である。

 

 なお、流刑は魔界では死刑と同等に重く、流刑囚は単独で一国を脅かすほどの能力を有すると言われている。

 

『気をつけてくれ、神界のアガスティア様もお前達とゾルが衝突する可能性を示唆した。増援を送りたいが転送システムの調整が長引いてる状態だ』

 

 副司令は増援を口にするが、派遣のための転送装置の調整が難航しているとも言う。また、神界でも数少ない予知能力者の1人、アガスティアが問題との衝突を示唆したことも。

 

『調整後に即実動は不安だが、それでも予測日終日に間に合うかどうかだ』

 

「それはマズいですね。俺達も事態を警戒しますけど、空振ってほしい所ですよ」

 

『念のため、司令がお前達にオーバーランク決戦装備の許可を出した。気休めだがそれで凌いでくれ』

 

 不幸中の幸い、俺達の竜鎧の装着許可が下りていた。俺達竜戦騎にとって竜鎧という鎧はまさに皮膚、体内を暴れまわる竜気を制御するための安全弁だ。それ故に竜の頭蓋骨が鎧の一部として使われているのだ。

 

 しかしそれを気休めと言ってきた事で俺達は事態の深刻さを思い知らされた。

 

 だが幸いはまだ続くようだ。

 

『それともう1つ、転送する助っ人は強襲部隊ダークネスの幹部以上を最低でも1人は送る。これは俺の権限での決定事項だ。安心してくれ』

 

 俺は副司令の言葉に涙が出そうになった。ダークネスの幹部といえば、神に近い戦闘能力を有する消滅刑を待つ囚人にして、スタッフ・ド・RBの頂点と誇る最強戦力だ。その幹部の人数は6名、その上にそれらを束ねるダークネスの隊長が存在する。

 

 俺の知る限り、戦場で司令達以外で頼れるのはダークネスの幹部達しか居ない。その頼みの綱が1人でも必ず来てくれるというのだから副司令様々だ。

 

『状況は深刻だが、悲観するほどじゃないことを留意してくれ』

 

「了解しました」

 

 通信を終え、俺達は今の状況の整理を始めた。

 

「じゃあ、一旦整理するぞ」

 

 俺はそう言って情報の整理を始めた。

 

「まず問題なのはゾルとかいう危険人物がこの世界に来ている。もしかしたらレイナーレとか言う堕天使と合流した可能性がある訳だ」

 

「でもその分の埋め合わせとして追加の物資やミッテルトたちの離反、そして」

 

「ダークネスからの増援だ」

 

 状況は悪い方へと転がっているのは否めないが、悲観しないで済むだけの要素も存在している。副司令が権限を発動させてまで増援を出すということはそれだけ心配しているということだ。

 



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第33話 戦う準備と覚悟を始めろ

どうもバグパイプです。
UAも5000を数えるくらいに(^^;)(;^^)
ありがとうございますm(__)m
それではどうぞm(__)m


 主だった物を整理した俺達は楽観視は出来ないものの、最悪を免れた気配を感じていた。

 

「次に対処すべきはドーナシークとカラワーナの治療だな。必要な物資はそろそろ着てもいいはずだ」

 

 俺は時計を見て一時間近くが経過しているのを確認し、物資の搬入をトリーに任せる。物資さえ届けばドーナシークの欠損した右腕の再生が出来る。カラワーナの回復も細胞構築剤によって劇的に上がるはずだ。

 

 だがそこで俺は1つ忘れていたことを思い出した。

 

「そうだ、本部からデータが来るんだったな。パソコンパソコン」

 

 俺は通信機の横においているノートパソコンを取り出し、ネット回線を繋ぐ。するとメールが1件来ていると画面に表示されたのでそのメールをダウンロードした。

 

「何をしてるんすか?」

 

「んっ、データのダウンロード。ゾルって男のデータが無けりゃ、警戒する相手が分からないからな」

 

 ダウンロードが終わったのか、画面の表示がダウンロード中からデータ内容の表示に切り替わった。

 

 そしてデータの中に有ったゾルの手配画像を見た瞬間、ミッテルトを中心にその場の空気が凍りついた。

 

「……なっ!? こっ、コレってアイツじゃないすか!」

 

「アイツ?」

 

「レイナーレが連れて来たヤツッスよ!」

 

 ミッテルトが騒いでいるところからして嘘を言っているとは思えない。だとすると、何が目的でゾルはレイナーレに接近したのか。

 

「本当なのか?」

 

「間違いないっす! この左肩の刺青、まったく同じっす!」

 

 俺はミッテルトが指差すゾルの左肩に注目し、刺青の形を確認する。

 

「……逆さにした両刃のナイフに、その後ろで槍が交差してる? そして下の方にはツタか? 植物がうねってるな」

 

 この形と物の配置からして、何らかの傭兵部隊か、兵隊のマークなのは読み取れる。もう少しこの画像から情報がほしいところだが。

 

「あの、カケカケさん? で良いんすか?」

 

「はい、カケカケさんですよ。何でしょう」

 

 不意にカケカケと言い出すから思わず営業スマイルを出してしまった。

 

「その刺青で何か分かるんすか?」

 

「その筋の傭兵や特殊部隊隊員なんかは、プロ意識を持つ意味でこうした刺青を彫る風習があるね。どこかの部族では戦士と認められた証としてこういう紋章を彫るなんて事もあるわけだ」

 

「ということはソイツがどこかに所属していた過去がある、ってわけっすか!?」

 

 俺の説明を聞いてミッテルトが戦闘経験の有無を察したようだ。

 

「それを調べるために見ていたわけだ。槍もナイフも特徴が無いから難しいか?」

 

 俺はそれ以上の詮索をやめ、本題の資料を見ることにした。

 

「ふむ、エイメリカの特殊部隊出身で元中佐、そこからアフリクに渡って現地の政治的活動家の団体に身を寄せてた……と」

 

「活動家の団体っすかぁ~っ、世界は広いっすね」

 

「これ、テロリストって事だぞ?」

 

 ゾルの経歴に感心していたミッテルトに俺は真実を突きつけると、彼女は開いた口が塞がらなかった。

 

「テロリストとしての活動は……と、特に明記されてないか。うまく隠れたな。相当な腕利きだって事がこれで確定したな」

 

 俺はゾルの経歴を見て内心で頭を抱えてしまう。元特殊部隊隊員が仕事を求めるとしたら、半分近くは傭兵かテロリストとなるらしい。またアフリクの政治的活動家の団体はほぼ全部が武装団体と言っていいぐらい、その国の政治は悪い。まあ、悪魔だから仕方ない話だが。

 

「テロリストって事はマジヤバな話じゃないすか!」

 

「だから本部が増援を送るって言ってるんだ。それもウチでトップクラスの猛者を選んで」

 

「トップクラスって言っても……」

 

「元死神職から元大臣、元女詐欺師に現役格闘家、女傭兵と挙句には元犯罪国家国王まで何でもござれな逸材ぞろいだ。最悪を回避するだけの切り札はあるさ」

 

 俺はミッテルトの心配する声に対して明るい話題を提供する。そう、ダークネスは派手にやりすぎたために犯罪者に落ちぶれた集団なのだ。

 

「……どういう組織なんすか、アンタんトコは」

 

「楽しい事が大好きな何でも屋」

 

 ジト目で見据えてくるミッテルトの質問に俺は簡潔に答えてみる。

 

「はぁ、これでニューハーフまでいるんすから恐ろしいっす」

 

「ああ、アイツは新性類じゃなくて両性類な」

 

「えっ?」

 

「それと同時に天使だ、あれで」

 

「……言葉もないっすよ」

 

 あんなのが現役天使だと知らされて、ミッテルトは自分が何なのか分からなくなってきたらしい。

 

「堕天したから堕天使なんすけど、何で堕天したんすかねえ、アタシ」

 

 堕落して堕天した事についてミッテルトが自己嫌悪し始める。本人にしか分からないような話だから俺には何とも言えないけどな。

 

「アンタ等と一緒に居たら、天使に戻れるっすかねえ」

 

「天界が受け入れてくれるなら戻れるだろうが、無理だな」

 

「そうっすよね」

 

「……俺達の世界なら今のお前でも天界に戻れるぞ、その翼も真っ白になって」

 

 俺は、俺達の世界の天界が今では平和協定によって門は開きっぱなし、天使の黒い翼もその原因である堕天因子の除去方法を確立させている事をもらす。

 

 余りにも世界の違う言葉にミッテルトが呆気に取られている。うん、その顔も可愛い。彼女ぐらいの美貌なら可愛い方が俺は好きだ。

 

「……へっ?」

 

「司令と交渉して今回の件が終わったら手立てを打てないか話しておく。ああ見えてウチの連中は大抵が擁護派だ、幸せに出来るなら手を尽くしてくれる」

 

 実際、俺も司令達によって犯罪者としての生活を終わらせることが出来たから、ミッテルト達の事もやってくれるだろう。

 

 いや、司令と副司令なら大見得切って絶対にやってみせる。だって堕天因子の存在を推測したのが司令で、それを確証して特効薬を作ったのがその当時に乗せられたという副司令だから。




(登場人物紹介)

 司令

 スタッフ・ド・RBの頂点に君臨する悪魔。面白いことには目が無い快楽主義者だが、その一方で他人の不幸にズカズカと入り込んでちゃぶ台返しと逆転劇をする困った男。しかも竜戦騎。

称号

魔界の百戦将軍 五大竜を抱きしめる勇気 絶望を駆逐するする理不尽

 副司令

 スタッフ・ド・RBのNO,2にして司令の左腕。組織の影働きの首魁でもある元死神職。目の前の不幸に対して容赦の無い男。しかも竜戦騎。

称号

冥府の審判者 邪竜を喰らいし者 絶望を粉砕する暴力


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第34話 命と意地と覚悟

どうもバグパイプですm(__)m
遅れてすみませんですm(__)m
これでこの章は終わり、次の章に移ります。
それではどうぞm(__)m


 

 

 ミッテルトと些細な話に花を咲かせている所に、物資を取りに行っていたトリーが荷物を抱えて戻ってきた。

 

「ただいま、荷物を持ってきたよ。持ってこれないのは下に置きっぱなしだけど」

 

 トリーはそう言ってテーブルの上に荷物を置く。下というのはこの拠点の地下、転送装置の置いてある部屋だ。俺が何気に学校の教室ぐらいの空間へと広げてしまったが、ことのほか便利になった。

 

「悪いな」

 

「良いわよ、カケカケの初めましてを貰えるなら」

 

「うせろボケ」

 

 トリーの軽口に対して俺は笑顔で即座に切り捨てる。まだ俺のケツを諦めないのか、トリー。

 

「とっ、トリーさん、そっちの世界じゃ、堕天使が天界に帰れるってホントっすか?」

 

「本当です。平和協定はそれを可能にしてくれました。でなきゃ私は魔界から天界に帰れないわよ」

 

「……マジでカケカケさんの言うとおり天使だったんすね」

 

 トリーの返答を聞いてミッテルトは愕然としている。しかしその一方で自分達にも希望がある事を認識した様だ。

 

 

 

 そして色々とあって午後、俺達は昼食を取った後、立体パズルを組んでます。……って、聞こえが悪い? 確かにドーナシークの欠損した腕を再生させるための、肝細胞を着床させるためのボーンを組んでいるところですよ。

 

「何か面白そうっすね」

 

「手を出すなよ。変な風に組み上がったらドーナシークが泣くぞ」

 

 俺は手を出したそうにしているミッテルトに手出し厳禁と注意する。

 

「これが俺の腕になるのか?」

 

「こいつはそのベースだ。こいつに肝細胞をつけて培養して腕を作る。お前の細胞で作るから拒絶反応は少ないぞ」

 

 ドーナシークが不思議そうに見つめているが俺は説明を添えて納得させる。

 

 ん? イマイチ反応が悪い。

 

「分かったよ、お前の手の甲にお尻作ってやるから」

 

「作るな」

 

「悪かったよ、この指の先の所に胸のポッチを作っておくから指を咥えて待ってろよ」

 

 スパンッ!

 

 ……ミッテルトとトリーにスリッパで叩かれました。

 

 俺は叩かれた頭を押さえながら、堕天使3人に向かって話を始めた。

 

「さて、こんな事態を前にしてそっちはどうする?」

 

「どうするか……、か」

 

 ドーナシークはため息混じりに呟き、顔を伏せて思案を始める。

 

「アンタの世界の傭兵ってんなら、あたし等にとってはバケモンすよね」

 

 ミッテルトは早くも諦め口調で呟いている。

 

 だが、カラワーナは俺達を強い眼差しで見つめていた。

 

「もし、貴方達が私たちに力を貸してくれるなら、何とか出来るんでしょ?」

 

 俺はそれを聞いて三人の顔を見据える。どうやら何か覚悟のようなものを秘めた強い目をしている。

 

 

 

 

『それで、何を言ってるか分かってるのかな? 貧乏くじ当たる君』

 

 俺は通信機越しに司令から直々に、正気を疑われている。あれから俺は三人の説得に折れ、こうして回線を開いてしまったわけだ。

 

「全部を理解した上で言ってますよ、司令。ですから」

 

『みなまで言うな。分かってるならそれで良い。面倒を見るって事で良いんだな?』

 

 俺の言い訳を遮って理解を示す司令に、俺は内心で感謝する。俺の後ろに居るあの3人も喜んでいるようだし。

 

『ふう、現地での部隊員として登用出来ないか、ときたか。そいつ等に叩き上げをやるのか?』

 

「やるしかないでしょう。俺達に近い実力を求めてるのが今回の仕事なんですし」

 

『だが今回の事件を前にすると、それだけじゃあ弱すぎるぜ。即席で竜羅の行をやるしかねえな』

 

「竜羅の行、ですか」

 

 俺は久々に聞く単語、竜羅の行に息を呑む。この言葉を聴いたのは俺が竜戦騎になる前だけだ。いわゆる単身で1匹のドラゴンを倒す試練。

 

『そうだ、そいつ等にそれぞれ一匹のドラゴンを倒せるようにしろ。それが出来なきゃこの事件に付いては待機組に回す』

 

「拒否権は無いですよね?」

 

『あるか、そんなモン』

 

 慈悲を求める俺の声を司令は容赦なく切り捨てる。こうして堕天使3人組は仲良くそれぞれドラゴンを倒す試練を受ける羽目になった。

 

『とにかく竜羅の行の見定め役として補佐官をそっちに送るからよろしくな。作戦開始は明日のマルキュウマルマル、そちらに補佐官が到着すると同時に決行する』

 

「了解です。明日のマルキュウマルマルに補佐官の到着と同時に作戦開始します」

 

 司令の命令伝達に対して俺が復唱し、敬礼を持って締結する。これでこの件が正式に作戦行動として組み込まれた。

 

 それと同時に彼等の運命がコレで見えなくなったのは言うまでも無い話だ。強く生きるんだよ、三人とも。




(小説のメモ帳)

 竜羅の行

 竜戦騎になるための最終段階におかれている危険な荒行。その内容は1人でドラゴンを倒すことだが、ドラゴンは最強生物として君臨している種族であり、無傷で達成できた者は未だ1人もいない。翔でさえ右肩と左足の骨折、出血過多の重傷を負ったほど、危険なものである


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第3章 廃教会のイントルーダー
第35話 勝利呼ぶ福音


どうもバグパイプですm(__)m
新章突入という事でドーナシーク達はどうなるのか?
ギャグを入れる隙間はあるか?
それではどうぞm(__)mの


 ドーナシーク達を鍛える事が決まってから次の日、9時に開始のゴングを鳴らす者が転送装置から降り立った。

 

「ふう、初めて転送装置を使ったけど、悪くは無いね。転移みたいでさ」

 

 どこか男の子の雰囲気を残す可愛い女性が転送装置から出てくる。彼女こそ組織のNO,3にして組織の良心と噂されている補佐官だ。

 

「ようこそ補佐官、こちらの拠点へ」

 

「うん、久しぶりだね。時渡君」

 

 補佐官は俺との挨拶を交わすとそのまま話を切り出してきた。

 

「それで状況の進展は何かあった?」

 

「あちら側は特に。こちら側ではゾルはこの町の教会に潜伏していることが分かってます。それとギリギリですが再生以外の回復が完了しました」

 

 俺は補佐官の要求する情報を残さず明け渡す。すると少しだけ間を置いて彼女は言葉を漏らしてきた。

 

「うん、思っていたよりも悪くはなっていないね。ゾルが戦力を整えだしたのはマズいけど、こっちも戦力を整える機会に恵まれたし」

 

 補佐官はそう言って現状に大きな不安が無いことを示唆してきた。確かにゾルとレイナーレの合流は問題だが、こちら側はその他のドーナシーク達3人が合流してきたのだ。心配は有っても不安は無い。

 

「それで竜羅の行についてだけど、その前に指導を入れたいんだよね」

 

「……へっ?」

 

 補佐官の唐突な言葉に俺は目が点になる。

 

「どういう事ですか?」

 

「だから行をする前段階として竜騎士と竜戦士の証を揃えないとダメなんだよ。幸いここには竜戦騎2人が居るし、ボクは竜巫女だから間に合わせも出来るよ」

 

 間抜け顔を晒す俺に対して竜羅の行をする下準備の必要性と、指導者の確保を補佐官が語る。何でも竜騎士、竜戦士の指導は竜戦騎や竜巫女でなければならないと決められているとの事だ。

 

 だがその中に聞き流してはいけない単語を俺は聞いてしまった。

 

「……補佐官が竜巫女……ですか?」

 

「……その様子だと、簡単にしか言われてなかったみたいだね。司令は昔から言葉が足りないって言われてるのに直す気が無いんだから」

 

 

 

 そんなこんなで俺達はドーナシーク達を連れて地下へとやってきた。

 

「地下に培養槽を置いてあるのは幸いだったね。これで片腕の彼を鍛えられる。あとの2人はボクとトリーさんで鍛えれば大丈夫だよ」

 

 竜羅の行をする前の鍛錬に指導者として補佐官からトリーが名指しされた。その事にトリーが面食らっている。

 

「わ、私ですか?」

 

「3人が堕天使というのなら、僕達天使が指導するもんじゃないかな? それに悪魔の時渡君には悪魔である協力者との連携を取ってもらいたいし」

 

 補佐官は指導者の人員配置は適材適所と言って決め込んでいた。しかも拒否権は微塵も無いらしい。

 

「というわけで、貴方方3人にはそれぞれの方法で2つの称号を獲得してもらいます。貴方達が強くなりたいと息巻いた事は知っています。ボク達は貴方方が諦めない限り、必ず獲得させますので逃げ出すことを諦めてくださいね」

 

 ニッコリと、清々しく可愛い笑顔で逃亡は許さんと豪語する補佐官に、3人が自分達の将来を悲観したような表情を浮かべている。

 

 うわ~っ、鬼が居やがるぜ。

 

 こうして始まった称号獲得の鍛錬だが、ドーナシークは培養槽の中に沈められて身体の鍛錬と欠損した腕の培養をさせられている。その近くではカラワーナが補佐官から竜気の指導を受けている。そして幾分離れた場所ではミッテルトがトリーを相手に組み手をさせられていた。

 

「はい、へその辺りに力を入れて、そこから湧き上ってくる力を胸の所まで持ってくる」

 

「かなり難しいわね、これ」

 

「ホラホラ、防御が弱いわよ、ちゃんとカバーしないと」

 

「うわうわ、追いつかないっすよ」

 

 鍛錬風景の中で何もしてない俺、完全にのけ者してます。仕方が無いから自分の仕事をしてきますか。

 

 

 

 ということで俺は放課後のオカルト研究部部室に来ています。お土産代わりにカステラを用意して。

 

「あれから連絡が無かったのはそういうことなのね?」

 

「まあね。ゴタゴタしてた故の連絡ミスだよ」

 

 俺はリアスに事の顛末を報告し、現状の情報交換をしている。リアスの側の変化としてはどうやらあの神父と一戦交えたらしく、イッセーが酷く落ち込んでいる。

 

 イッセーが落ち込んでいるのはアーシアを連れて帰れなかったことらしいが。

 

「あの黒い神父がねえ。そうなるとアーシアの身の危険は途方も無いな。しかし、神器を抜き出すなんて事が出来るのか?」

 

 俺は新たに湧き出た疑問、神器を人間の身体から抜き出す、という事について言及した。それが出来るということは、俺達竜戦騎の身体から鎧を抜き出す事が出来るという事になるかも知れない。

 

「堕天使の方が神器についての研究が進んでいるのよ。堕天使の総督がそっちの方に詳しいらしくてね」

 

「だとなると、もしかして有能すぎて愉快な性格してないか? その総督サマは」

 

 俺はリアスの話を聞いて思わず脳裏をよぎったあの2人と似ている感じがしたので思わず訊いてみた。すると彼女はその事には首を傾げた。

 

「さあ、私は逢った事が無いから知らないわ。朱乃なら知ってそうだけれど、教えてくれないのよ」

 

「ふうん、まあ、本気で聞きたかったわけじゃねえから忘れてくれ」

 

 何というか、状況としてはじわじわと悪い方向へ向かっているのは分かるが、止める手立てが思いつかない。少なくても鍵となるだろうアーシアの身の安全の確保を考えるべきだろうが、下手に動けば時期が早まって戦力不足に陥りかねない。最悪のまま少し泳がせて状況の変化を待つべきか。

 

 俺は彼我の戦力差と互いの手札を読みつつ次の一手を推考するどうやらイッセーとアーシアが鍵となっている事だけは判るのに、妙に動けないという困った事態に陥っているようだ。

 

 

 




(登場人物紹介)

 補佐官

 スタッフ・ド・RBの幹部の1人で座天使。司令と副司令の暴走をそばで食い止める所から『組織の最後の砦』とか『組織の良心』と呼ばれている。また竜巫女と呼ばれる極僅かな者しかなれない職業にも従事している。

称号

 組織の良心 組織の最後の砦 慈愛を体現する者 秩序を語る粉砕バット


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第36話 意地は何もかも貫く

どうもバグパイプですm(__)m遅れてすみませんですm(__)m
ドーナシーク達はどうなるのか?次回が楽しみですが、とにかく、どうぞm(__)m


 俺はリアス達から得た情報を拠点に持ち帰り、補佐官に説明する。すると彼女は少し渋い表情を浮かべだした。

 

「困ったね」

 

「どういうことですか?」

 

「少なくても相手は土地勘のある味方を手に入れた。これはさしてアドバンテージを持っているわけじゃないけど、知識はかなりのアドバンテージになるよ。神器を取り出す方法を持っている、その詳細が判らない限りは切り札に近い存在感を持ってるよね」

 

 補佐官はそう言いつつ、なぜか右手にピコットハンマーを持ち出す。

 

「それにレイナーレって堕天使も気になるね……って、気を乱さないの!」

 

 補佐官はそばでウンウン唸っているカラワーナの頭をピコッと叩いた。

 

「イタッ!」

 

「見て無くても気は感じ取れるんだよ。気を乱せば爆発力が調整しきれないから暴走するぞ」

 

「補佐官、それで指導になるのかよ」

 

「んっ? 痛めつけるのが指導ならオリハルコンバットを出すけど?」

 

 俺の出した注意に対して補佐官はきょとんとした表情でとんでもないことを言い出した。

 

「ボクが『秩序を語る粉砕バット』の名を欲しいままにしてた事を、知らない時渡君じゃ、無いよね?」

 

 ニッコリと笑いながら俺を脅迫してくる補佐官。言われてみれば確かに、司令と副司令が悪ふざけをしだすと必ずバット片手に追い掛け回す補佐官の姿があった様な。

 

 ……時々、俺もその中に居ました、追われる側に巻き込まれて。

 

「何はともあれ、彼女達は見事なものよ。普通なら1週間は掛かる気の練り上げをこの短時間で半分以上こなしたんだから」

 

「それは貴方の指導が優れているから」

 

「潜在能力の質も良くないとこんなに上手くは行かないよ」

 

 カラワーナは謙遜するが、補佐官はそんな事は無いと言葉を添える。

 

「とりあえず、カラワーナさんはこのまま続けるとして、ドーナシークさんだね」

 

 補佐官はそう言ってドーナシークが眠る培養層へと向かう。培養層の中では確かにオーナシークが眠っているのだが、心なしか髪の色が少し灰色がかっているような気がする。

 

「うん、思ったとおりだね。理論上では堕天因子は身体全体に拡散している。だから体内比率を変化させるだけで因子が薄れるわけだ」

 

 スタッフ・ド・RBが独自に入手している堕天因子の情報を参考に補佐官が独自の推論でドーナシークを実験台にして堕天因子の除去を進めていた。まさかそんなことをしていたとは露知らず、ましてやその結果がこうして現れていることなど知りもし無かった俺は、ただ呆然としていることしか出来なかった。

 

「出来れば堕天因子を完全除去したいけど、それは無理な話しだし、無力化も出来ないからこうして少しずつ減らすことしか出来ないか」

 

「それでも画期的なことよ!」

 

 カラワーナは補佐官に理論に衝撃を覚え、うろたえる。

 

 だがその時、上のリビングで通信機から呼び出し音が鳴り響いた。

 

 何故かその時、補佐官の背中が飛び跳ねたのは気のせいだろうか?

 

 俺はすぐにリビングへと向かい、その足で通信機を立ち上げて通信回線を開いた。

 

『そこに補佐官が居るだろ!? 出しやがれドちくしょう!』

 

 通信に出たのは副司令で、物凄い剣幕で補佐官を出せと騒ぎ立てる。

 

「何が遭ったんですか、副司令」

 

『時渡、本当にすまない。前回にダークネスの応援が遅れるって言っただろう、それが本当になってしまった』

 

 はい? 応援の到着が遅くなるのが本当になった?

 

 俺は副司令の言葉が理解できず、間抜けな顔を晒してしまった。

 

『司令の差し金で補佐官が勝手に転移したもんだから、本当に転送装置の回路が焼きついて交換する羽目になった』

 

「えっと、要約すると副司令の指示は前回のままということですか?」

 

 俺は事態がいまいち飲み込めず、一先ずの所を口にする。

 

「そうだな、その形になるが、追加でそこの補佐官をこき使ってくれ。修理代は補佐官の給料から天引きすることを伝えてくれ』

 

「了解です」

 

『こんな事が無ければ数日で新型の基盤のテストまで持っていって強化までこぎつけたのによう。お前のせいだよ! そこのリビングの入り口に隠れている補佐官!』

 

 ビクゥッ!

 

 リビングの入り口で大きく影が跳ねるのが見えた。

 

『お前のせいでテスト期間が作れるかどうか判らなくなっただろうが! 反省しろドちくしょう!」

 

 補佐官の姿を発見してしまったがために怒りを再燃させてしまった副司令。そして画面の隅に見てしまった、何故か血まみれのハリセンとそれを頭に刺して倒れている司令の姿を。

 

 さ、殺人事件発生!?

 

「どうし……なっ! 何だ、そこのヤツは!」

 

 驚き叫ぶ声からしてドーナシークが俺の後ろに立って、画面の向こうで倒れている司令の姿を見てしまった。しかし画面の向こうの副司令はまったく動じていない。

 

「んっ? ああ、コイツならこの程度じゃ殺せない。どうやったらコイツを殺せるか時渡は知らないか?」

 

「俺が知りたいですよ」

 

 元死神職の副司令が殺せない相手の殺し方なんて俺は知らないぞ。




(小説のメモ帳)

竜巫女

 竜羅の行など竜戦騎に関わるまつりごとに必ず出てくるといわれている巫女で竜戦騎の長役でもある、竜戦騎が大戦に出陣する際には後方支援を担う。現在では竜羅の森に居るシャンスバティともう1人のみが竜巫女として存在している


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第37話 加速する事態

どうもバグパイプですm(__)m遅れてすみませんですm(__)m
鍋料理ギャグができましたo(^-^o)(o^-^)o
それではどうぞm(__)m


 あの騒動によって話が中断し、俺達は通信を終えて夕食を作ることにした。

 

「というわけで、補佐官、夕食をお願いします」

 

「はい?」

 

 俺の頼みを補佐官は首をかしげてすっとぼける。

 

「副司令権限で貴方をこき使えという命令がきてるんですよ。諦めてください」

 

「ガヒィ~ン!」

 

「あ、あの、お手伝いしましょうか?」

 

「うにゅ、アリガト」

 

 しょげる補佐官を見かねたのかカラワーナが手伝いを申し出る。

 

 この程度で済むんだから副司令もまだ優しいところだ。司令相手なら副司令が何をするか分からない。あの時ですら丁寧にボコボコにしてたんだから。

 

「おや、どうしたんすか? 妙な空気になってるすけど」

 

 リビングにようやくというか、ミッテルトとトリーがやってきた。

 

「なんか補佐官がえらくしょげてたんだけど、カケカケは何か知らない?」

 

「ん? ああ、副司令から強引な転送を処罰されてな。こっちでこき使ってくれってさ」

 

 トリーの質問に俺が補佐官の待遇で答えると、トリーが硬直してしまった。

 

「ど、どうしたんだよ、お前」

 

「天使の奇跡が……コレはソレじゃ無いのよ」

 

 俺が近づいて肩をゆすると、トリーが独り言をボソボソとしゃべりだす。天使の奇跡って何だよ。

 

「あの方に台所を握らせちゃダメよ! って、今、台所に行ったのよね!?」

 

「トリー、どうしたんだよお前!」

 

「とにかくあの方を台所から離さないと私達の危機よ!」

 

「女の手料理、男なら憧れるもんだろ」

 

「そんなんじゃないのよ、ああん、もうっ!」

 

 俺はトリーをなだめようとするがトリーはそうじゃないと慌てている。何がコイツをそうまでさせるのか、何か興味が沸いてきた。

 

 慌てるトリーを押さえ込みながら数分後、補佐官が土鍋を手に持って戻ってきた。

 

「出来たよ~っ」

 

「ちいぃっ、手遅れか! 私はこれから出かけるから夕食はいらないわ」

 

 トリーはそう言って何も持たずに猛ダッシュで逃走する。なんてヤローだよ、女の手料理を前にして逃げるなんざ。

 

 俺は妙に腑に落ちないものを感じながらリビングへと向かう補佐官の後を追いかけた。

 

 あれ? 手伝ったカラワーナは何処だ?

 

 俺はこの時、トリーが大慌てで遁走した理由を後で思い知るなど微塵も考えていなかった。まして視覚と味覚の同時多発テロを味わうなどとは。

 

 リビングのテーブルの上には鍋を中心に夕食のセットが広げられていた。俺に補佐官にドーナシークにミッテルトと……カラワーナの分が無いな。

 

「補佐官、カラワーナの分が無いんですけど」

 

 俺が補佐官に不足分のことを言うと、なぜか彼女はそっぽを向いた。

 

「大丈夫だよ、後で用意するから」

 

「なぜ、こっちを見て話さないんですか補佐官」

 

 この補佐官の行動で俺は彼女が何かを隠していることだけは分かった。しかし何を隠しているのかまでは理解できなかった。

 

 そして俺達全員が席に座り、鍋をつつく事になった。俺はネギが好き。

 

 鍋からネギを取って口に放り込む。ドーナシークもネギを取っていた。

 

「あんむ……むうっ!?」

 

 口の中に広がる、ネギから広がる豆腐のような淡白な味わい……っ!?

 

「なんだよこのネギ、豆腐みたいな味がするぞ」

 

「何だと!? こっちのネギはエビのまろやかな味がするんだが」

 

 何ですと!?

 

「こ、この春菊、お肉の味がするっすぅ~っ!」

 

 ミッテルトが春菊を口からはみ出させながら意外な味をわめきだす。

 

 どんな仕掛けだ!? この鍋にどんな仕掛けが施されているんだ!?

 

 俺達3人は鍋が展開する味と中身の総入れ替え戦に、我が目と味覚を翻弄されてしまった。食材はおそらく俺が昨日買い込んでおいた冷蔵庫のもの、鍋だって俺が初日に買っておいた普通の土鍋、

 

「水か!? 水がおかしいのか!?」

 

「台所に飲料水の保存は無いから、ただの水道水のはずだ」

 

「料理に魔力は感じられないっすよ」

 

 俺達はこの騒動の原因を知るべく対策会議を始めるが答えが出てこない。

 

「補佐官、何をしたんですか!? 吐いて下さい」

 

「吐くも何も、普通に料理しただけだよ、野菜を切って鍋に入れて煮込んだだけ」

 

 それでどうしてこうなる!?

 

 のん気な顔で答える補佐官に俺達3人がその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 俺達はそれから、補佐官に対して台所禁止令を発布し、騒動が二度と起きないように対策を練った。そうトリーが言っていた『天使の奇跡』が起きないようにと願って。

 

 ちなみに鍋から大根を取り出して保管しているのは俺だけの秘密。

 



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第38話 余波は持ち込んだ以上に広がった

どうもバグパイプですm(__)m連投ですm(__)m
鍋料理ギャグ2回目をやりました。それではどうぞm(__)m


 

 

「まさかドーナシークたちがレイナーレから離反してそっちに匿われているなんてねえ」

 

 翌日の放課後、俺はリアスとの情報交換をするためにオカルト研究部部室に来ていた。……例のブツを持って。

 

「まあ、連中もこの件に付いては味方してくれることになってるから問題にはしないでくれよ」

 

「そうね、敵の戦力が大幅に変更してしまったのは仕方ないけれど、見方が増えるのはありがたいわ」

 

「まあ、この話はまた後で聞くとして、ウチの上司が煮込んだ大根があるんだ。摘んでくれよ」

 

 そういってあの結界の中から俺は例のブツ、昨日の大根が入ったタッパを取り出して蓋を掛ける。一応、隠れて電子レンジで温めたからホクホク感が増している。

 

「あら、やさしいのね。皆でいただきましょう」

 

 リアスの言葉にグレモリー眷属の皆が笑みを浮かべる。

 

 すまねえ、俺と一緒に堕ちてくれ。俺は今、リアス達が味わうだろう違和感を知っているがために笑いを堪えるのに必死だ。

 

 朱乃が皆にお箸とお皿を配り、イッセー以外の面々が大根を四等分してから……。

 

「いただきます……」

 

 頂きますと言って大根を口にした面々に異様な沈黙が流れていく。早速その味と見た目の違和感に気づいた様だ。

 

「……ねえ、これって大根よね?」

 

「はい、おとといに近所のスーパーで買った1本98円のただの大根です。昨日、ウチの上司である天使が煮込みました」

 

 俺はリアスの詰問に対して白々しく答える。恐ろしいのはこれからですよ、皆さん。

 

「どうして大根からこんにゃくの味がするのよ!」

 

 リアスの怒鳴り声に、グレモリー眷属が別の意味で噴出し、絶句した。

 

「部長、本当にこんにゃくの味ですか? 僕はしいたけの味がしたんですけど」

 

「えっ!?」

 

「俺はシラタキの味っす」

 

「私ははんぺんの味ですわ」

 

「……私は昆布味と渋い味です」

 

 全員が全員、違う味を口々に言い出してきた。そうか、そういう味になったか。

 

「時渡さん、どういうことなのか説明してくださるかしら」

 

 皆の反応を見てリアスが俺を諸悪の根源と決め付けて睨む。背中には黒々としたオーラが立ち上っている。

 

「説明も何も、ウチの上司が煮込んだだけの大根です。昨日の鍋の具材でした、以上です」

 

「それがどうやったらこんなバラバラな味付けが出来るのよ!」

 

 俺の説明に理解が利かないリアスが激高する。しかし『天使の奇跡』はここからが正念場、ではなく真骨頂である。その程度で終わるのは二流の職人、ウチの職人は一流をも超える脅威の職人だ。

 

「ま、まあ、食べられない味じゃないから構わないけど」

 

 リアスは肩を落としながらそう言って2切れ目の大根を口にする。しかし彼女の知っている味が口の中に広がらなかったのか、目を白黒させて言葉を失っていた。

 

 くぅわっ! ギィラッ!

 

 そして箸をテーブルに置くと、俺に詰め寄って胸倉を掴んできた。さっき以上にオーラが濃密だ。だが予想の範疇だっただけに俺の動揺は少なかった。

 

「これはどういう事なの!?」

 

「1つのタッパに入れてきたんだけど」

 

「何で1切れ目はこんにゃくの味だった大根が、どうして2切れ目で春菊の味になるのよ!」

 

 リアスの放言にその場の面々に衝撃が走った。そしてグレモリー眷属の背筋が凍りついた。

 

 恐い、恐いぞ『天使の奇跡』

 

 ありえない味の変化に味覚と視覚が結びつかず、思考回路が崩壊していく。そんな状態に彼女達は陥っていた。

 

 しかし、何にだって例外はあるものだ。

 

「あれ、俺のだけシラタキのままっすよ」

 

 丸のままかじりついていたイッセーだけが味の変化の難を逃れていた。そうか、切り分けないと変化しないのか、1つ勉強になった。

 

 ……命拾いしやがった、コノヤロウ。

 

 だが三途の川は渡らない事を許さない。渡し守がキチンと仕事をしてくれる。

 

「イッセー、その大根を切り分けて食べてみなさい」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 イッセーはリアスの命令に素直に応じて目の前の食べかけの大根を切り分ける。食べかけだから味は変わらないと信じて疑わないその態度に俺は敬意を表しよう。

 

 そしてイッセーは地獄に落ちた。

 

「……何じゃこりゃあっ!?」

 

「どうしたのイッセーっ!」

 

「さっきまでシラタキだった味が、つみれになっちまった」

 

 イッセーはシラタキの味だった大根の味の変化に戸惑いを隠しきれない。

 

 そして俺は全員から問い詰められる事態に陥った。

 

「仲間内で恐れられている『天使の奇跡』を味わってもらおうと」

 

「「「「「ギルティ!」」」」」

 

 今日の俺はここで終わった。

 



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第39話 黒い神父と白い聖女と

どうもバグパイプですm(__)m
この話でトリーが天使の奇跡から逃げて何してたか、それが判明するかも知れないですf(^^;
それではどうぞm(__)m


 オカルト研究部部室から方法の体で逃げ帰る俺は、途中であの教会が気になり、そこへ足を向けることにした。念のために仲間に連絡してはみたが。

 

「頑張ってね」

 

 補佐官のこの一言で片付けられてしまったのだ。

 

「誰か来てくれれば心強かったんだけどな」

 

 俺は愚痴を零すが来ない者は仕方が無い。まあ堕天使3人の鍛錬があるから来れないのは分かっていたが。

 

「確かこの辺りで合ってたはず」

 

 俺はイッセーと一緒にアーシアを送った時の記憶を頼りに廃教会へ向かう。廃教会というのは、あの後俺が1人で聞き込み調査をしたところ、あの教会はだいぶ前に廃教会になっているという事をスーパーに来た主婦3人から聞いたのだ。

 

 しかし廃教会に女子高生ぐらいのシスターが1人赴任した、しかも後であの黒い神父もその教会に来ているとしたら、もしかして……。

 

「18金、いや18禁でお縛り、いやお芝居な展開が待っているのか?」

 

 思わず脳裏にシスター服のはだけたアーシアが縄で縛られて俯いている姿を想像してしまった。だが同時に副司令がそこに怒り出す姿も想像してしまった。

 

「……あの方は緊縛に厳しいから、縛り方がなってないって怒るんだろうな」

 

 そう、縄で縛られているアーシアが可哀想だと言わずにアーシアを縛る縄が可哀想だと言いかねない。

 

 俺は想像の中に入り込んでいた為か、周囲の変化に気づくのが遅れてしまった。

 

「おや、こんな所に何か御用ですかな?」

 

 背後から俺に声を掛けてくる何者かが現れた。俺はそれに気づかされて我に返った。

 

「えっ、ああ、ただの散歩ですよ」

 

「そうでしたか、失礼。この辺りには教会がある程度なので、人が近づく事があまり無いものでしてね、気になったのですよ」

 

 俺が振り返ると男は気さくな笑みを浮かべる。強面ながらなかなかのイケメンである。俺よりも身長が高く、肩幅もがっしりしている。ちょっとしたプロレスラーと言ってもソレで通りそうな感じだ。

 

「そうでしたか。失礼ですが貴方はその教会の関係者なのですか?」

 

「ええ、あの教会には最近赴任したばかりの若輩者ですよ」

 

 買い物帰りなのか、男の手には食材の入ったビニール袋が提げられている。宗教の宗派によっては戒律で食材に制限があるらしいが、肉のパックがあるので彼等の宗教ではそういった制限は無いようだ。

 

「そうでしたか。ご苦労様です」

 

「その言葉遣いは違いますよ、目上の者に対してはお疲れ様です、となるのですよ」

 

「あ、ゾルさん、お帰りなさいませ」

 

「あーっ! テメェはあの時の!」

 

 いつの間にか教会の入り口近くまで来ていたらしく、教会の方からアーシア達の声が聞こえて来た。しかも後からフリードの声が続いてきた。

 

「おや、2人とも、彼とは知り合いなのかね」

 

「はい、教会に赴任する時に案内してもらいました」

 

「あんだと! コイツは悪魔なんですぜ!」

 

 アーシアの屈託の無い笑顔とは裏腹にフリードは敵意剥き出しで俺を威嚇してくる。

 

 だがゾルと呼ばれた男はそれを諌めだした。

 

「フリード神父、そういう貴賎は良くないぞ。悪魔だからというのは偏見だ。この私とて悪魔なのだからね」

 

 気さくな笑みを浮かべながら口を尖らせるゾルだが、俺の目にはその瞳が笑っていないことを見つけていた。

 

「それに今の君では彼には勝てない。それだけの技量差が有ることも判らない様では修行が足りないようだね」

 

「くっそぉ……」

 

 フリードはゾルに咎められて悔しがる。

 

 

「ところで君、積もる話がありそうだ。食事でもどうかね」

 

 唐突ながらの食事の誘うに俺は戸惑った。敵と分かっていながらの話だとすれば恐ろしい事この上ない。

 

「それは良いですね、あの時のお礼もかねていかがですか? 時渡さん」

 

 アーシアが無邪気に誘ってくれるが、敵の罠としか思えない事態だ。本来なら逃げるべき話である。

 

 俺は少し考えた後、ポケットの中に常時忍ばせている録音機の録音ボタンを手探りでオンにし、拠点への通信もオンにすると彼等に返事をした。

 

「いいでしょう、お誘い、喜んでお受けします」

 

「それはありがたい。楽しんでいってください」

 

 俺の返答にゾルは笑みを浮かべて歓迎してくれる。アーシアも花が咲いたような笑顔を浮かべるが、フリードは不満げにしている。

 

 何はともあれ、俺はこれから敵地潜入の作戦行動に突入することになってしまった。

 

「ご安心を。貴方に危害を加えるつもりなど有りませんから。……ゴミくず同然のテメェが俺様に勝てるかよ」

 

 2人に聞こえないように配慮された小さな声でゾルが俺に話しかけてきた。その声音に俺は背筋に薄ら寒いものを感じてしまった。

 

 マズイ、相手にならない。

 

 俺は本能が逃げ出そうと身体を動かしてくるのを必死で抑えることしかできない。確かにゾルの戦闘力は推測でも俺が10人は居ないと勝ち目が見えない。今、この場でそれが分かってしまった。

 

「そうですね、アーシアさん。済みませんがお食事の用意をお願いできますか? 私たちは食堂の方へ向かいますので」

 

 ゾルに食事の用意を頼まれたアーシアは気軽にはい、と返事をして教会の中へと消える。それを目でしっかりと確かめたゾルは俺に向かって唐突な質問を投げてきた。

 

「おい、テメェ、昨日の大騒ぎを知ってるか?」

 

「はあっ!?」

 

「はあっ!? じゃねえ! 昨日の夜中、強姦魔共が集団で警察に保護されたって話だ!」

 

 保護ですか!? 強姦は犯罪だから逮捕じゃないのか!?

 



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第40話 何故か怒られてしまう

どうもバグパイプです(^^ゞ今回は初登場する重要キャラが妙なカギを握りますので、それではどうぞm(__)m


「何も知らねえとは言わせねえぞ! 連中の証言じゃあ、結構な背丈の女に脅されたって話なんだぞ!」

 

「俺は何も知らねえよ。確か夜にトリーが出かけたことぐらいしか外出したヤツはいねえし」

 

 事の奇天烈さに驚いている俺に向かって畳み掛けてくるゾルだが、俺は知っていることを単刀直入に説明する。

 

 すると確信を得たのか彼は俺に向かって一言言い放った。

 

「ほれ、ぼろが出やがった。そいつが公園で強姦魔を狩ってやがったんだろうが」

 

「すっげ~、楽しそうなことをしてやがったんすねえ」

 

「アホか、おかげで俺らは今日、懺悔に来やがった強姦魔共から愚痴を聞かされたり、説法を長々と語る羽目になったんじゃねえか」

 

 うらやましそうにしているフリードに対してゾルが呆れ果てる。

 

 うわ~っ、職務怠慢だぁ~っ。神父に変装してるんだからソレらしい仕事しろよ。

 

「本当にテメェは何も知らねえのかよ、新聞やTVぐらい見やがれ。情報収拾は行動する為の基本だろうが」

 

 ……犯罪者に情報の大切さを説かれてしまいました。調査部隊所属なのに。

 

 目の前で展開されていく理不尽な寸劇に俺は涙も出なかった。

 

「それで俺に何の用で教会に招き入れるんだよ」

 

「ちょっとした昔話と世間話ってヤツだ。俺様は昔、ジャクラウスに居たモンでな」

 

 教会に入ろうとするゾルが、俺の質問に答える。ジャクラウスって言えば確か魔界で大きく騒がれた犯罪帝国だったか?

 

「そこで頭をやってたお方がドデカイ組織の中で部隊長をしてるってな話を小耳に挟んじまってよお」

 

 ……えっとお……?

 

「テメェ、ダークネスって部隊の隊長を知らねえのか?」

 

 ……隊長……何処まで有名人なんですか、アンタは。

 

 俺はダークネスの隊長が元犯罪者だとは知っていたが、元犯罪者からそういうものを尋ねられるとは思ってなかった為に反応が遅れてしまった。

 

 そして俺達は教会の中に入り、食堂らしい大きな部屋に到着した。

 

 それなりの人数が着ける簡素なテーブルに木製の椅子。周囲の壁には申し訳程度の調度品が並んでいるのを見ると、ここはやはり教会なんだなと思ってしまう。

 

「適当に座れ。フリード、茶ぐらい出せや」

 

「テメェで出しやがれってんだ、くそが」

 

 ゾルの慇懃無礼な命令に対して毒を吐きながらフリードが入ってきたドアとは別のドアへと消えていく。

 

 そして紅茶セットとポットを持ってきた。テーブルの上にカップなどを並べ、ティーポットの蓋を開けると、お湯の入ってるだろうポットの蓋を操作した。

 

 パッコン♪

 

 ポットの注ぎ口を開放する金属音が鳴り響き、フリードがティーポットにお湯を注ぎだす。

 

「さてと」

 

 ゾルは一息ついてから俺に話しかけてきた。

 

「それであの方は元気なのか?」

 

「えっと、元気ですね。自分をまい進するぐらいに、それと戦災孤児の女の子を引き取って育ててますよ」

 

「ほう? あのお方がか」

 

「不思議なモンですが、良い子に育ってますよ」

 

「当たり前だ。あの誇り高い姿をそばで見ていれば当然そうなる。それにあの方は仲間と認めた者を見捨てはしない、厳しくあっても愚かな育て方はしない、そういうお方だ」

 

「……って事は、野獣と呼ばれてる俺もまた?」

 

「あの方にとっては仲間だ。あの方がその気になって声を挙げれば、魔界の犯罪者や服役囚、総勢5000万が一様に集結する。号令一報あらば容赦なく三界を戦乱に貶める事さえ出来る一騎当千の猛者が、未だにその声を待っているんだ」

 

「聞かなきゃ良かったよ、その言葉」

 

「そいつはおもしれえ事を聞いちまったもんだ。是非とも狩ってみてぇっすねえ」

 

 フリードは俺達の話を聞いて隊長を倒してみたいと吹き出す。だがそれはゾルに止められた。

 

「止めておけ、俺に勝てない限り、あのお方はテメェなんざ一発で消し飛ばすぞ?」

 

「うそぉ~ん」

 

「本当だ、俺でも全然相手にならないぐらいだからな」

 

 ゾルの制止に驚くフリードだが、俺の添えた台詞で言葉を失ってしまった。

 

 ゾルは改めて俺に向き直り、質問を続けてきた。

 

「それと、五暴星は元気にやってるのか?」

 

「ああ、入れ替わり立ち代りで隊長のそばに居る。何が遭っても問題は無いくらいに」

 

「だろうな、そうでなけりゃあ連中じゃねえよ」

 

 どうやらゾルは俺よりもダークネスの主要メンバーの事をご存知らしい。

 

「ジャクラウスの落日、そこに俺様が居れば戦況は少しでも違ってたかも知れねえ。だが俺はそこに居る事ができなかった。あの時、まだ子供だったらしいある2人が戦場をおかしくしたって噂話があるんだよ」

 

「何処の馬鹿げた小僧なんでしょうねえ」

 

 俺は何となくで想像付いてしまったが、あえて知らぬ振りを決め込む。

 

「お前が毎日連絡してるんじゃねえのか? テメェんトコの組織のトップ2人だろうが」

 

 ……やっぱり……。

 

 俺は何処までも付きまとってくれる噂の主である司令と副司令を恨んでしまった。子供の頃から何かにつけて二人でつるみ、騒動を平然と起こしては功績を積み立てていく、馬鹿げた2人組を。

 

 そして俺はそんな理不尽なお小言を1人で受けていた。

 



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第41話 そして進展していく

どうもバグパイプですm(__)m遅くなってすみませんですm(__)m
それではどうぞm(__)m


 話を続けていたゾルがふと、壁につけられた大時計を見て呟いた。

 

「そろそろ出来る頃だな」

 

 その声の後に続くかのように、ドアが開かれ、中から料理の皿を乗せたお盆を手にしたアーシアが現れた。

 

「皆さん、お食事が出来ました」

 

「ほぅ、これは美味しそうですね」

 

 変わり身早っ!

 

 アーシアが出てきた事で、先ほどまでのゾルの不敵な態度がなりを潜め、人当たりの良い神父が姿を現す。俺はその変わり身の早さに舌を巻いた。

 

「アーシアさん、運が良かったですね。こうして恩人に遭えるということは」

 

「普段の行いってやつかねぇ、ケケッ」

 

 無言は落ち着かないのか、ゾルがアーシアに話題を振り、フリードが相槌を打つ。するとアーシアは少し照れた表情を見せてきた。

 

「そうですね。主の思し召しだと思います」

 

 アーシアがそう言った時、ドアからのん気な声をあげて女性が入ってきた。

 

「あーお腹空いたわ、アーシア、今日の夕飯は何なの?」

 

 ドアを開けて入ってきた女性は、忘れもしない俺を馬鹿扱いした女、レイナーレだった。

 

「「あ~ッ!!」」

 

 俺とレイナーレは異口同音に叫び、驚きを露にする。だが、ゾルがそれを制した。

 

「騒がしいですよ、2人とも」

 

「すみません」

 

「悪かったわよ」

 

 俺とレイナーレはそれぞれ謝罪し、レイナーレは空いてる席に着く。

 

 

 

 まあ、なんやかんやありましてお食事会は賑やかな内に終わって俺は帰路に付いてます。

 

 詳細を述べよ、って? やだな、レイナーレと俺の口ゲンカから始まってアーシアがオロオロしだし、挙句にフリードが煽ってきたものだからゾルが『いい加減にしなさい』と一喝してお開きでございます。

 

 

 という成り行きを経てこうして帰路に付いているわけだ。

 

 そして何事も無く拠点に戻った俺は玄関を開けて『ただいま』と声を掛ける。そして俺はそこで動きが止まった。

 

 玄関の先に人1人が楽に入れる段ボール箱があり、その中でつぶらな瞳を向けて座っているトリーの姿があったからだ。しかもご丁寧にダンボール箱の外側には『ご飯下さい』と文字が書かれている。

 

「……何の嫌がらせだ?」

 

「言う事は無いのかしら?」

 

 俺が何の真似か問い詰めると、トリーは言葉を要求してくる。

 

「……夕飯前に、連絡しなくてゴメンなさい」

 

「よろしい」

 

 俺が連絡を忘れたことを謝罪するとトリーはあっさりと許してくれた。しかしそこで疑問が残る。

 

「誰が夕飯を作ったんだ?」

 

「私に決まってるでしょ。補佐官に作らせないんだから、鍛錬で疲れている3人に作らせるわけにも行かないし」

 

 トリーはそう言っていそいそと段ボール箱を片付け始める。入ったまま持ち上げ、トテトテと歩き出す。

 

「せめて折りたたんで運べよ、手を抜かずに」

 

「いいじゃない。呆れた事をしてきた貴方への罰よ」

 

「それで、あの電話は皆で聞いてたのか?」

 

「一応、補佐官にも聞いてもらったわ。ダークネスの隊長どころか隊員の事まで知りすぎているところからして、ジャクラウスの元構成員じゃないか、だって」

 

「ジャクラウスの元構成員?」

 

「多すぎて名簿なんて作られてないって話だけどね。ダークネスの方に聞けば、名前だけでも知ってるやつが出るかもしれないって」

 

 トリーの話ではどうやらゾルはジャクラウスというダークネスの隊長が結成した犯罪組織の末端構成員らしいという。トリーがゾルの身辺調査を知ったのが組織が作られた後のことだから、その前に崩壊したジャクラウスのことを知らなくても無理はない。俺だって隊長からゾルのことを聞いたことは一度だって無いのだから。

 

「それでどうする? ダークネスに連絡を入れるか?」

 

「別に要らないわよ。事態が好転する要素なんて無いんだから」

 

 俺の問いかけに対してトリーは不要と答えてきた。まあ、数年の空白があるのなら、情報を聞くのも今更かも知れない。

 

「補佐官の話じゃ、そんな事しなくても連中だったら捕獲か処理のどっちかしかしない、ってさ」

 

「問題にならねえか、それ」

 

「そういう仕事が回されるんでしょ? ダークネスって部隊は」

 

 俺が顔をしかめるとトリーは肩を竦めてやるせない表情を浮かべる。そういうしているうちにリビングへと到着した。

 

「あ、時渡君、お帰りなさい」

 

 洗い物を終えた後なのか、エプロンで手を拭いている補佐官が俺に声をかけてきた。

 

「電話の内容は聞かせてもらったよ。それで僕から言える事は、相手はすでに居ない悪魔である以上、作戦に大きな変更は無い。これは副司令の決断だよ」

 

 補佐官は俺に向かって作戦の変更は無いといってきた。要するにゾルの事に私情を挟むなと釘を刺したのだろう。

 

「そうですか、了解です」

 

 俺は補佐官に対して敬礼をして状況を飲み込む。

 

「こう言うのも何だけどね、あのゾルってヤツ、本音を隠してたよ。ダークネスを恨んでるのは間違いないね」

 

「えっ? そんな素振りは無かったですよ」

 

「甘いね。言葉の節々のニュアンスが違ってた。少なくても親友を語る口調じゃあ無いね。それにジャクラウスの落日、それを知ってるって事は間違いなくジャクラウスの末端構成員で最後の日に参戦できなかったヤツだよ」

 

 補佐官の話に俺は目が点になった。

 

「詳しくは司令と副司令が知ってるんだけど、あの当時で流刑処分は居なかった。ダークネスの隊長達が消滅刑を選んで嘆願したことで、最高でも終身刑で収まっているって事。だからゾルは何らかの状況でジャクラウスの落日には参戦していなかった。それが結論だね」

 

「ジャクラウスを追放された可能性が高い、って事ですか?」

 

「勿論。副司令の話だと、当時の構成員の刑罰は最低でも100年の懲役刑、当時から執行しててもまだ60年以上残ってる計算だって」

 

「でもダークネスで刑期を短縮してる可能性は」

 

「無いよ。だってまだ組織設立から1度もダークネスからの除隊手続きは来てないよ。その手の書類は全部ボクを通すことになってるからね」

 

 補佐官はゾルがダークネスを通じて社会復帰した可能性を残らず潰してくれた。彼女は組織設立からの古株であり、司令達とは長い付き合いだという。

 

 ゾルは一体何を考えているんだ?

 



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第42話 雛は小鳥になった

どうもバグパイプですm(__)m
最近は多忙で遅れてすみませんですm(__)m
それではどうぞm(__)m


 俺がゾルのことで悩んでいるところに、例の3人組が姿を現した。

 

「あれ、カケカケさん、帰ってきてたんすか」

 

「朝帰りしたかったんだけどな、相手が未成年だから出来なかったんだよ」

 

 俺はミッテルトに対して軽くうそぶいて見せる。ただの食事会だ、朝帰りも何も無い。

 

「やったよ! アタシはやったんだよ! 見てみてよ!」

 

 ミッテルトが見順の左胸を指差しながらはしゃいでいる。その指差した先を見るとそこには、輪郭線の無い、トライバルタトゥーの様に見えるが、間違いなく竜を模した紋章が描かれていた。長袖Tシャツの上からうっすらとだが、間違いなく見える。

 

「竜戦士になれたのかよ、お前」

 

「へへ~ん! 見たか!」

 

「本当なら培養槽まで使って鍛え上げる予定だったのにさ、その娘はやってのけたのよ」

 

近づいて来るトリーの声が聞こえたので見上げると、ミッテルトの後ろにトリーが立っていた。

 

 実は組織の鍛え方では培養槽を利用し、電気信号を利用した筋肉鍛錬法を利用し、鍛えた筋肉をなじませるための組み手をこなすことで竜戦士に鍛える計画を立てていたのだが、それが良い意味で頓挫した。

 

「他のやつ等も意外と根性を見せてくれたわよ?」

 

 トリーの言葉に俺は思わずトリーの後ろを見てみる。すると見事に自分の右腕を取り戻したドーナシークがそこに居た。

 

「ドーナシーク! その腕!」

 

「うむ、驚くほどの再生力だ。歴戦の傷は無いが、間違いなく自分の腕が蘇った」

 

 よほどの事なのか、静かながらも興奮の隠しきれない様子でドーナシークが何度も自分の右腕を撫でる。無理も無いだろう、あの切断面を塞いだところで魔力を使っても再生は不可能と、俺は見ていただけに脅威的だ。

 

「私の方も見なさい」

 

 ドーナシークの腕をまじまじと見ていた俺にカラワーナの声が降りかかった。見上げるとカラワーナがうっすらと竜の文様が線となって浮き出ている左胸の所を自分で指差していた。

 

「この状態は竜騎士か」

 

「そうなのよ! 私はやったのよ!」

 

 小さくガッツポーズしながらカラワーナが喜びを露にする。よほど嬉しかったんだなと見ていて微笑ましい。

 

 俺は補佐官に視線を移し、次の事を尋ねた。

 

「それで補佐官、次の工程はどうしますか?」

 

「そうだね。カラワーナは培養槽で調整をして、ミッテルトは竜気の修行、ドーナシークは身体の具合を確かめながら身体強化の続き、だね」

 

「それで今回は間に合うんですか?」

 

「うん、無理」

 

 俺は補佐官の修行状況を聞いて、この問題に対処できるかを尋ねると彼女は無理だと答えてきた。

 

「正直に時間が足りない、って所だよ。良くてミッテルトだけが竜戦騎になれるけど、最悪カラワーナが竜騎士、ドーナシークが竜戦士になった所で実戦だろうね」

 

 要するに、ミッテルトだけが竜戦騎になれるかどうかといったところなのだろう。戦力としては難しいところだ。

 

「ずいぶんと竜戦騎にこだわるな。それだけの強さを持っているのか?」

 

「ドーナシーク、それは当然だよ。何たって1騎で国を落とし、2騎で世界を落とし、3騎で星を落とすと謳われた竜戦騎だからね。本部も間に合わなかった場合は後々でボクを派遣する計画を立てるって言ってたよ」

 

 ドーナシークの疑問に補佐官がハッキリと断言する。彼等にとっては下級の堕天使が持っている力とは到底思えないのだろう。だが竜戦騎は根底から考え方が違う。

 

 全ての魂はその中に竜が棲み、その力の解放を待ち望んでいる。竜戦騎はその竜を食い、力と変えて災いに抗うのだ。

 

 そう、災いに……。

 

「それで補佐官、その低身長には抗えないんですか?」

 

「ムカッ!」

 

 ズドン!

 

 俺が補佐官の身長の低さを遠まわしに災難というと、即座に金蹴りが飛んできた。天使で145も無いのは切ないのではと思っていたのに。

 

「うるさい、うるさい、バカァッ!」

 

「お、う、げ、お、お……」

 

 正面からの直撃に俺は呻き、その場に崩れ落ちる。補佐官はそんな俺を捨て置いてリビングを出て行った。

 

「……後で謝るんすよ?」

 

「お、おふこーすぅ……」

 

 俺は廊下と俺を交互に見やるミッテルトの言葉に賛同する。

 

「ちゃんと謝っとかないと、怖い旦那さんが出てきちゃうからね」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 トリーの台詞に俺達4人が硬直した。

 

「あれ、補佐官って人妻だよ? 聞いてない?」

 

「「「「聞いてないよぉ~っ!」」」」

 

 俺達はトリーのはてなマークに向かって絶叫してしまった。

 

 旦那って、誰の女なんだよ、補佐官!

 

 ピィーッ、ピィーッ、ピィーッ!

 

 俺が疑問に思って悩んでいる時に通信機から呼び出し音が鳴った。

 

「はい、時渡です」

 

『呼ばれてないのにジャ、ジャ~ンッ! って呼んでた?』

 

 通信回線を開くと指令が顔を出す。

 

「呼んでません」

 

『呼べよぉ~ッ!』

 

 俺がきっぱりと否定すると司令がなれなれしい声で訴えてきた。

 

 まったく司令は何の用で通信してきたのか……。

 

『とにかく妻の泣く声が聞こえたので、旦那の登場だ』

 

 司令はそう言って指を揃えた左手の甲を俺達に向けて見せ付けてきた。その薬指には金色のリングが嵌められている。ただ、金というには妙に違和感のある色彩を放つ金属で作られたリングだった。

 

 俺達はそのリングを見て絶句した。

 

『君の誠意を見せてくれるね? 時渡君』

 

 俺は言われるがままに土下座した。

 



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第43話 イッセーとアーシア

 どうもバグパイプですm(__)m
 クリスマスでも多忙なもので、申し訳ないですf(^^;
それではどうぞm(__)m


 

 

『オマケはとにかく、通信したのは続報を渡すためだ。』

 

 司令は襟を正すと仕事モードへと切り替わる。

 

『ゾルの事に付いては7大司法庁の完全一致を以って死刑に変更となった。その際の執行官はダークネスの隊長となる。それと見届け役としてポーラが任命された』

 

「隊長がこっちに来るんですか!?」

 

 俺は聞き間違いかと、思わず聞き返してしまった。

 

『ああ、司法庁の1つ、冥府がダークネスの隊長を指名した。そして彼もそれを引き受けた』

 

「本来、そういう事は死神職の誰かに回らないんですか?」

 

『回したくても適任のヤツが機材の修理中で動けないんだよ』

 

 司令は現状を忌々しそうに吐いて顔をしかめる。ああ、そうか。

 

「副司令はまだ修理の最中ですか」

 

『基盤のテストまで2日掛かるってぼやいてやがった。それとそっちの3人組、テメェ等の中の誰でも良い、1人が竜戦騎になった所で実戦配備だ。覚悟だけはしておいてくれ』

 

 司令の言葉に3人の表情も引き締まる。

 

『そうそう、テメェ等の給料は本件に関しては手取りで一律200万だ。後は依頼が無い限りは毎月100万の手取り給金で雇用契約を結ぶぞ』

 

「マジっすか!?」

 

 見習い手当てに報酬金を上乗せした給料って所か。

 

 俺は驚く3人を尻目に簡単な給料計算をする。

 

『それと今回竜戦騎になれなかったとしても、後日竜戦騎にしてやるから諦めるな。テメェ等が組織の中で最弱過ぎるのは不本意だからな』

 

「……組織内最弱……なのか」

 

 ドーナシークは自分達の置かれた立場に愕然としているが、それでも組織は能力弱者を見捨てはしない。

 

『嘆くな。俺達はテメェ等を即戦力に仕立てるだけの用意をしてるところだ。本来なら資格を取らせてから鍛えるんだがな』

 

 司令はそう言って落ち込むドーナシークを慰める。まあ、確かに組織に入った当初は誰でも戦力外扱いだったのは認めるし、司令達だって本気で鍛え上げるわけだが。

 

『それに考えてみろ。お前等をお人好し思考でスカウトするか? 今後も見据えずにスカウトする馬鹿はウチには居ねえ』

 

「そうですね」

 

 確かにそうだよな、と思い、俺は言葉を続けてきた司令に賛同してしまった。

 

「ここまで言っても信じられないなら、後は補佐官に身の上話でも聞け。アイツがウチで一番の出世株だ」

 

 ……うそ……。

 

 俺達全員は司令の言葉が一気に信頼をなくす瞬間を目の当たりにした。でも天使で竜巫女という職種に付いているのは彼女1人だけだし、司令の言っていることに嘘はないのかもしれない。

 

「……料理はヘタなのに?」

 

「あれでも昔に比べて進化した方なんだ」

 

「……進歩じゃねえのかよ」

 

 補佐官の料理ヘタが進化の軌跡と知らされ、俺は愕然となった。

 

『さてと、つまらねえ話はここまでにして、これから装備を整えて出動せよ、場所は報告にあった兵藤一誠の気配を辿れ! 事は一刻を争う!』

 

 唐突に放たれた出動指令に俺とトリーはその場で敬礼をして受け止めた。

 

「了解です。トリーはすぐにイッセーの気配を探せ。他の三人は装備を渡す」

 

 俺の指示を受けてトリーはすぐに動き出す。また3人もリビングを出ようとする俺の後ろに付いてきた。

 

 

 

 地下で簡単な装備である防刃ジャケットと赤いベレー帽を被って俺たち5人はトリーの案内のもと、イッセーの居る場所へと向かった。そこは1軒の民家で外から見た限りでは何の変化も無いが、明らかに異常を物語る不穏な気配が肌に突き刺さってきた。

 

「うわ~っ、なんすか、この気配」

 

「どうやら悪魔祓いが居るようだな」

 

 顔を引きつらせているミッテルトに俺は悪魔祓い師の存在を示唆する。

 

「あのイッセーの気配があるけど、少し弱ってるわね」

 

「ふむ、あの時の小僧か」

 

 トリーの呟きにドーナシークが彼を懐かしむ。

 

 そして俺が警戒しながら玄関のドアを開けると、中から血の匂いが漂ってきた。

 

「あんれぇ~っ、お客さんですかぁ~っ?」

 

 人をあざ笑うようなふざけた口調が俺たちの耳を掠める。どうやらフリードが居る様だ。

 

「と、時渡さん!?」

 

 それとあのアーシアってシスターもそこに居た。見ればイッセーが太ももを銃か何かで撃たれ、血を流している。

 

「何をしている」

 

「この家の家主は悪魔召喚をしようとしてたんすよ、だから悪魔祓いのお仕事をしたわけでぇ~す」

 

 俺の問いかけにフリードは舌を出しながらふざけるように答える。

 

「そしてこれから、そこの悪魔をぶっ殺すんだよ!」

 

「やめてください! イッセーさんは……」

 

 フリードの殺害宣言に対してアーシアが止めに入る。

 

 割り込んできたアーシアの真剣な眼差しを見たフリードは、次に俺を見つめてきた。

 

「あ~っ、ったくっ、ケチがついたもんザンスねえ。次から次に」

 

 忌々しげにため息をついたフリードの声に合わせた様に、俺達の近くの地面で魔方陣が紅の光を放ちながら浮かび上がった。

 



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第44話 忌々しい撤退

 遅れはせながら、明けましておめでとうございますm(__)mバグパイプです。

今年もよろしくお願いしますm(__)m




 紅色の魔方陣が現れ、そこからグレモリー陣営の面々が姿を現した。

 

「イッセー、大丈夫?」

 

 リアスがイッセーを見つけては彼を心配する。

 

「怪我はしてるが問題ない。撤退した方が良さそうだぜ?」

 

 俺はリアスに向かって撤退を示唆する。この状況では事によっては相手側の切り札、ゾルとレイナーレが出てくるはずだ。こいつ等には悪いが逃げてもらった方が俺達側にすれば助かる。

 

「ええ、その方が良さそうね。イッセーの怪我が心配だわ」

 

「ほう、フリード達の帰りが遅いと来てみれば、面白い顔に遭うものだな」

 

 俺の背後から別の声と2二分の気配が届く。とっさに振り向くとそこにはレイナーレを抱き上げたゾルの姿があった。

 

「悪魔祓いとしての仕事をしてたとはな、勤勉なもんだ」

 

「ボス!

 

「済みませんが、後をお願いします。時渡さん」

 

 リアスが頷き、朱乃が俺達に詫びてくる。

 

「構わねえ、行け」

 

「くそっ、アーシア!」

 

 イッセーはアーシアを残して置けないとばかりに腕を伸ばすが、結界の拒絶反応が起こったのか、アーシアの手をイッセーの手に走った電流が弾いてしまう。

 

「い、イッセーさん!」

 

「アーシアッ! アーシアーッ!」

 

 リアス達は転送用の結界を使ってこの場から離脱する。それを確認した俺は肩を下ろした。

 

「ふう、ようやく消えたか」

 

「あんれぇ? もしかしてあの悪魔達ってアンタには邪魔だったぁ?」

 

 フリードは首をかしげながら皮肉をこめているような素振りで確かめてくる。

 

 否定する理由も何もないのでしれっと答えることにした。

 

「そうだよ。足手まといを庇ってまで怪我したいだなんてのは、マゾだけだろ?」

 

「あっ、そういう事を言っちゃうんすか? 大した悪魔っすね」

 

 俺の返答に感心でもしたのか、口笛でも吹きそうな調子でフリードが軽口を叩く。

 

「悪魔だから足手まといは要らねえ。欲しいのは背中を任せられる戦友だけだな」

 

 俺はニヤリと不適に笑ってみせる。

 

「カァ~ッ! しびれちゃいますねぇ。カッコイイし、憧れるぅ!」

 

 俺の台詞に拍手しながら賞賛して食えるフリードだが、その目が笑っていないところを見ると口先だけの様だ。

 

「で、どうするんだ? 野暮が入ったから仕切りなおすか?」

 

 俺はやる気の削がれた現状に対して区切りをつけるために仕切り直しを申し出てみた。個人的にはこのままお流れに持って行きたい所だが。

 

「それもイイっすけどぉ~っ、俺様的にはこのままヤッちゃいたいきぶんなんすよねえ♪」

 

 ……やはり状況は止まる事を知らないらしい。

 

 だが予定外は立て続けに起こるものだと誰かが云っていた。そして逸れは起こるべくして起きてくれた、嫌な形で。

 

「……そう言うなよ、連中が勝てない戦いをすると思うか?」

 

 上から聞こえて来た男の声に俺達は一斉に上を見上げる。その視線の先にあるのはレイナーレを横抱きに抱えて滞空するゾルの姿だった。

 

「ボスにあねさん!」

 

「逃げるなら今のうちだぜ? 負け犬」

 

 フリードが喜ぶ中、ゾルが俺達に遁走をそそのかしてきた。

 

 あの台詞を前にして逃げ出せる者が居るのか。3人に視線を向けると皆同様に歯軋りをしてゾルを睨みつけている。トリーにいたっては持っていなかったはずの剣を鞘から抜き払い、切りかかる寸前の所まで来ていた。

 

 だが、この場で全員が掛かってもゾル一人を倒すどころか、手傷さえ負わせることは出来ないだろう。堕天使トリオが足かせになって俺とトリーが実力を発揮できずに。そうなれば俺は隊長失格の烙印を押され、部隊は解体の憂き目を見る。

 

 出来るか!

 

 俺は歯を食いしばり、ゾルを睨んでから辛い選択をした。

 

「……撤退するぞ」

 

「マジッすか!?」

 

 撤退命令を下す俺にミッテルトが目を見開く。他の二人もわめきだす中、トリーが俺に問いかけてきた。

 

「全部を考えてのことなの?」

 

「……全部を考えてだ」

 

 俺はトリーの質問に端的に答える。するとあいつは理解してくれたのか3人をまとめだした。

 

「さあ、撤退するわよ。アーシアちゃんならまだ大丈夫だろうから」

 

「しかし!」

 

「隊長命令なのよ」

 

 食い下がる3人にトリーが切り札を出して黙らせる。みんなの不満は分かっているが、俺は皆を守る決断をしなければならない。

 

「賢い指揮官だな、無策は命を落とすからな」

 

 ゾルは俺の指揮に対して目を細める。だが俺たちを嘲笑することは忘れてくれない。

 

「すまないアーシア」

 

「いいんです。これが最善だと思います」

 

 俺はアーシアに詫びを入れると彼女はその瞳の涙を堪えて頷いた。

 

 そして俺達は苦渋の撤退をした。

 



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第45話 胸をよぎる思いは

どうも、バグパイプです(^^ゞ
話を分かりやすくするための連投です。
それではどうぞ。


「カケカケさん、逃げるってこんなに胸がムカムカするモンなんすかねえ」

 

 不意にミッテルトが俺に話しかけてきた。その内容と堅い口調が今まで聴いたことが無かったものだった。

 

「アタシは今まで逃げ出す事に何も感じてなかったんすよ。なのに、今じゃあイライラしてたまんないんすよ」

 

 ミッテルトが顔を伏せたまま呟くのを見て、トリーがその胸に彼女をもたれさせる。

 

「逃げ出す悔しさを知ると、自分を許せなくなるのよ」

 

「……分かったっす……」

 

 トリーにもたれたまま、ミッテルトは彼女の言葉をかみ締めるように受け止める。

 

「だから我々は強くならなければ成らないのか?」

 

「逃げることで守れる命があるなら別だが、俺達は守るために勝たなきゃならないんだよ」

 

「そうなのね」

 

 ドーナシークの確認に対して俺は答え、カラワーナが賛同する。

 

「補佐官は、この辛さを知ってるのかしら」

 

「知ってるよ。あっちの世界で神を何柱も相手にしたんだそうだ」

 

 組織に初期から所属している隊員たちは全員、強さ弱さを知っている。だからこそ負けない様にと強くなった。そしてダークネスもまた、自分達が血に塗れる事で救える命があると信じて戦場に躍り出る。

 

「……アタシ、決めたっすよ」

 

「ミッテルト?」

 

「明日1日で竜騎士になるっす。そして絶対に竜戦騎ってのになってやるっすよ」

 

「そうだな。時渡、帰ったらすぐに私を鍛えてくれないか。出遅れている私が竜戦騎になるには今からでなければ出来ない気がするのだ」

 

 ドーナシークもミッテルトに触発されたのか、これから鍛錬をしろと言ってくる。その瞳に濁りはまったく見られない。

 

「私も混ぜてもらいたいわね。のけ者なんてゴメンだわ」

 

 カラワーナもそうなのか、やる気を見せてきた。

 

 なら、俺の言うことは1つしかない。それにやることも見えてきた。

 

「……分かった。部隊長として命令する。お前等3人、翌朝までに証を揃えろ! ドーナシーク、厳しくても泣き言は聞かねえぞ!」

 

「望むところだ!」

 

 俺の命令以下、3人の叩き上げが本腰を入れて始まる瞬間だった。

 

 

 

 深夜にもかかわらず、補佐官は叩き起こされた事に文句を言わず、地下室でミッテルトの竜気鍛錬に全力を注ぎ、トリーはカラワーナの、俺はドーナシークの格闘訓練に全力を傾けた。

 

 そして朝日が昇り始める直前にドーナシークは竜戦士の証を手に入れ、ミッテルトは竜騎士の証を手に入れた。

 

「じゃあミッテルト、これから竜羅の行を行います。中は樹海で、どこに竜は潜んでいるのか分からないけど、行を果たすことだけを考えるように」

 

「分かったっす」

 

 何も持たぬまま、竜羅の行でのみ開かれるという竜羅の門をくぐるミッテルトに補佐官は声を掛ける。だが彼女の顔に迷いは無く、やり遂げる覇気に満ちていた。

 

 そして朝日が昇り、カラワーナが竜戦士の証も手に入れた。

 

「それじゃあ、行って来るわね」

 

「無事に行を果たしなさい。皆が待っているから」

 

 ミッテルトが入っていった門に、今度はカラワーナが入っていく。

 

 それから遅れること1時間、ついにドーナシークが証を揃えた。

 

「これで私も竜戦騎に!」

 

「竜羅の行を終わらせてからだ」

 

 はしゃぎだすドーナシークをなだめてから俺は補佐官に彼を任せる。

 

「……やれやれ、やっと、肩の荷が下りたか」

 

「お疲れ様、カケカケ」

 

 背後から掛けられた声に振り向くと、そこにはコーヒーの入ったカップを両手に持つトリーの姿があった。

 

「ああ、トリーもお疲れさん」

 

 俺はトリーの労をねぎらい、カップを受け取る。

 

「連中、どうだろうね」

 

「心配か? トリー」

 

「まあね。私の弟子のようなものだから」

 

 トリーはカップを両手で持ちながら不安げな表情を浮かべている。だが俺は不安は無い。あの瞳は必ず事を成し遂げると決めた戦う者の眼差しだからだ。だから不安は無い。

 

「そうだね、君達の弟子なんだよ、あの3人は」

 

 補佐官もいつの間にか近くに来ていた。いつもの格好ではなく、竜巫女の正装と云われる朱袴の白振袖である。頭の飾りが凄すぎて重そうに見えるのは間違いなさそうだ。金とプラチナを格子状に編みこんだ烏帽子に珊瑚をつけて竜の角を模している。それが頭3個分の長さを誇るところは凄まじい。

 

「門の所に居なくて良いんですか?」

 

「門なら持ってきてるよ。そこに」

 

 補佐官が指差す先には、転送装置の横に別の場所で出していたはずの門が置かれていた。

 

「後は3人がドラゴンを倒して出てくるのを待つだけ。誰がどんなドラゴンを倒したかは竜巫女にしか分からないけどね」

 

「連中、武器を持たずに入っていったけど……俺の時と同じか?」

 

「そうだね。ドラゴンが武器を渡して正々堂々と勝負するだろうね」

 

 俺がふと気づいたことを呟くと、補佐官は武器のことを口にする。

 

「帰ってくるのを待つのも、もどかしいものね」

 

「だけど彼等は帰ってくるよ。勝利は常に欲して足掻き、成した者にのみ与えられる、魔界の格言だよ」

 

 補佐官は魔界の格言を出して不安を拭い去ろうとする。彼女もまた、不安なのだろう。

 

 嫌な予感がしないでもないが、俺は3人を信じると決めた。だから隊長として3人を待つ。

 



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第46話 グレモリー眷属が騒ぐ

どうもバグパイプです(^^ゞ

やっとギャグに持ち込めました(笑)
それではどうぞm(__)m


 俺はリビングの時計を何気なく目にすると、時計の針は2時を指していた。

 

「そろそろ学園の方に行ってくる」

 

「そっか、あのイッセーって子がどう動くか分からないモンね」

 

 俺が出かけると言って席を立つとトリーが気がかりなことを口にする。

 

「ああ、1人で飛び出さないように釘を刺してくるよ」

 

 俺はトリーの言葉に苦笑を浮かべると、何故か補佐官が俺に妙な袋を握らせてきた。

 

「頑張ってね」

 

 ……袋の中身はトンカチと釘だった。

 

 

 

「それで、コレは何の騒ぎなの?」

 

 リアス達グレモリー陣営が集うオカルト研究部部室では、俺が暴れているイッセーを部室の壁に釘付けにしている所をリアスに咎められてしまった。

 

「イッセーもイッセーよ、アーシアのことは諦めなさいと言ったでしょ?」

 

「だけど部長!」

 

「教会は敵の陣地なのよ? 分かってるの?」

 

 イッセーを説き伏せるリアスの口調に、若干の変化が有ったのを俺か聞き逃さなかった。なぜ、『敵の陣地』と強調したのか、それが分からない。

 

「面倒事が多くて大変だな」

 

「お互い様でしょ、違うかしら?」

 

 俺が皮肉混じりに呟くとリアスは目を細めて俺を見つめてくる。俺はそんな彼女に悪ふざけを敢行する。

 

「その胸を締め付けているものを取り除ければ良いんだけどな」

 

「気持ちだけ受け取っておくわ」

 

 俺の気遣いにリアスは苦笑を浮かべて礼を述べる。でも俺は別の形で礼を受け取っていた。

 

 それから俺はそそくさと彼女のそばを離れ、イッセーの横に立つ。そして俺は受け取った『彼女の胸を締め付けている物』を広げてイッセーに向けた。

 

「わぁお! おっきいね!」

 

「「ぶっ!?」」

 

「きぃやあぁぁーっ!」

 

 俺の広げたものを見たイッセーと木場が盛大に吹き出し、リアスが慌てだす。そう、リアスの胸を締め付けているブラを戴いてきました。いやぁ、見事なシルクの紅色のブラジャーですよ。それにハーフカップブラですか、眼福ですねえ。

 

 リアスのブラジャーに喜んでいる俺の後ろに、まがまがしいほどの黒い気配が立ち上るのを感じ、俺は恐る恐る振り返ると、怒気に満ち溢れたリアスがそこに立っていた。しかも右手に黒い霧のような球体を掲げ持っている。

 

「貴方を苦しめてる、腰のものを消し飛ばしてあげましょうか?」

 

「それについては苦しんでないし! 自家発電でも処理できるんで間に合ってます!」

 

 俺は恐怖を覚えながらもリアスの問いかけに答えて後ずさりする。えっと、助けての……小猫はお供え物を忘れたからソッポ向いてるし、朱乃はリアスの味方で、木場はリアスの部下で、イッセーは壁に貼り付け状態で……孤立無援!?

 

 そんな俺を知ってか知らずか、リアスがおもむろに振りかぶる。

 

「さあ! 消し飛びなさい!」

 

「消し飛ばすモンが違うだろ!」

 

 俺はとっさの判断で逃げ出し、リアスが俺を追いかけてくる。あの黒い球体の当たった壁や床がごっそりとえぐれているのを見る限り、あの球体は消滅の魔力球っといった所か。だがただ投げつけるだけでは、避けてくださいと言ってるようなものだ。

 

 そんな逃走劇を繰り広げている最中、俺は横から不意を衝いてきたとび蹴りからの2段蹴りによって部室の壁に激突させられた。

 

「どべべっ!?」

 

「……変態、死すべし……食べ物の恨みも添えました」

 

 飛び蹴りの主は小猫だった。だから2段蹴りなんだね。

 

 

 

 

「……まったく、油断も隙もあったモンじゃないわ」

 

 あれから見事なまでにズタボロにされた俺は、部室の隅に放置されている。そんな俺を見ても怒りが収まらないのか、リアスは怒りを露にしながら愚痴を吐き散らす。

 

「いつものイッセーじゃないから、いつもの調子に戻してやろうとしたのにコレかよ」

 

「当たり前でしょ!」

 

 理性を欠いたイッセーを普段どおりに戻す手段が悪い、とリアスが口を尖らせる。そうか、ブラジャーという手段では悪かったのか。

 

 俺が別の手段を講じようと計画している所に、ジッっと睨みつけてくる小猫の姿が俺の視界に入ってきた。

 

「な、なんだよ」

 

「……その雰囲気は何か悪巧みを考えている時の時渡さん、そのままですから、警戒してます」

 

 ひでえっ!

 



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第47話 グレモリー眷属、まだ騒いでます

どうもバグパイプですm(__)m
遅くなってスミマセンm(__)mそれではどうぞm(__)m


「まったく、どうして貴方はそう、ろくな事をしないのかしら」

 

 右肩のストラップの位置を外から直しながらリアスが愚痴をもらす。先ほどのブラジャーは当然彼女の手に戻りました。彼女の胸に戻ったって言うのが正解なのかはとにかくとして。

 

「悪魔とはいえ、悪魔の駒が在る以上、離反はご法度なんだろ?」

 

「ええ、はぐれ悪魔に認定されて処罰の対象になるわね」

 

 俺の何気ない言葉にリアスがその先を口走る。ということは、先ほどの『敵の陣地』と言い張ったのには訳があるということだ。

 

「じゃあ、悪魔の駒、ポーンには何か特別な仕掛けがあるのか?」

 

「あら、鼻が利くのね。ポーンには『エクスプロージョン』という力があるわ。相手の陣地に入った時、他の駒に成り代わることが出来る、そんなシステムがあるのよ」

 

 ……やはり、そんな機能が隠れていたわけだ。俺はこれでイッセーが押さえつけられているわけを理解した。

 

 後は必要な手駒を揃えて、相手を出し抜く方法を考えれば良いわけだ。

 

 俺がそう思った矢先にリアスが小猫と木場に声をかけた。

 

「小猫に祐斗、貴方達2人でイッセーが変な事をしないように見張りなさい」

 

「……はい」

 

「分かりました、部長」

 

 2人はそれぞれ了承の返事をする。ということはこいつ等含めて3人を表に立たせるということか。そうなると相手の戦力がどう推移してるかで作戦が変わってくるわけだ。

 

 でもなあ、正直言ってこの3人は戦力的に不安しかないんだよな。ゾルをどうにか足止めできなければ、こいつ等で勝つのは難しい。良くて辛勝、悪くて全滅の上で連中に逃亡される。切り札は未だに目覚めないイッセーの神器……。

 

「……時渡さん、どうしたんですか?」

 

「えっ?」

 

 いつの間にか小猫が俺の前に立っていた。

 

「何か考え事をしていたようですが」

 

「うん、さっきのお詫びとしてイッセーをどう梱包したらいいか悩んでた」

 

 そう言うと、何故か朱乃の目が妖しく光った。どういうことだと俺は即座に彼女の目を見据えて読心術を行使する。

 

 朱乃の頭の中に浮かんでいたのは、ロープで縛られて呻くイッセーの姿……だったが、その後のムチ攻めがおかしい。

 

「……姫島、躾だからと安易にムチで叩くことを考えちまうのは仕方ないが、ありきたりな長いムチより乗馬鞭で叩く方が初心者向きだぞ。いっそのこと、卓球のラケットみたいなパドルで叩くか?」

 

「えっ?」

 

「なっ!」

 

 俺の忠告に対して朱乃は困惑し、リアスは耳ざとく聞きつけて驚き、彼女を睨みつけた。

 

「どういうことなの!? 朱乃!」

 

「あっ、あらあら」

 

 リアスに問い詰められて朱乃は困った表情を浮かべる。しかしそこに付け入る隙を俺は見出してしまった。

 

「姫島、どうせなら編み上げブーツも素晴らしい女王様ルックで決めて見せてくれよ。要望はレザーのビスチェにホットパンツだ」

 

「ワイルドで素敵ですわね♪」

 

 俺は親指を立てて要望を並べると、朱乃の顔に満面の笑みが浮かんだ。

 

 すると今度は俺に向かってリアスが問い詰めに来てくれた。

 

「貴方は貴方でどういうつもりよ!」

 

「18禁には行かないでくれとごねてみました」

 

 俺は睨みつけてくるリアスから視線を逸らしながら必死の弁解を始める。しかし彼女はそれを許してくれない。

 

「バカなこと言わないで! イッセーは私の眷属なのよ! 何で朱乃がそんなことをするのよ!」

 

 俺は彼女が無意識に口走っただろうその一言を聞きつけ、ガッチリと脇を固めることに決めた、今決めた。

 

「良し分かった! グレモリーに合いそうな女王様ルックを用意やる! だが俺じゃあ無理だからトリーが要るな! 電話で呼びつけるから待っててくれ!」

 

 俺はまくし立てるように大げさに言い切っては懐から携帯電話を取り出す。するとリアスが目を白黒させて慌てだす。

 

「なっ!? ななっ、何言ってるのよ! 勘違いしないで頂戴!」

 

「何を勘違いしろって言うんだ、イッセーを躾けるのは主の役目とお前が示した。なら俺はその環境を整えてやるってんだよ」

 

「だからそれが勘違いだって言ってるでしょ!」

 

 俺のまくし立てる言動にリアスが大慌てで否定して見せるが、やる気になった俺を止めるには弱すぎる。

 

「お前等だって主がイッセーを躾けるところを見てみたいだろ?」

 

 俺は賛同を得るために小猫や朱乃達に話しかける。

 

「そうですわね、今後の参考になればと」

 

「私としては、兵藤先輩が部長にどうお仕置きされるのか見てみたいです」

 

 よし、朱乃と小猫の賛同は得た!

 

「僕はやりすぎは良くないと思うんだけど」

 

 木場は少しだけ言い難そうにしている。だがこのオカルト研究部は女性の権力が強いと決まっているから論外扱いだ。

 

 だがそこに待ったを掛ける者が居る。もちろんリアスだが。

 

「時渡さん、取引をしましょう」

 

「する理由無い!」

 

「お願いだから聞いて頂戴」

 

「聞く理由無い!」

 

「相手が居ないかもしれないでしょ」

 

「相手も携帯だから出ない理由無い!」

 

 リアスの説得攻撃を俺は残らず即答で切り捨てた。だってリアスの女王様ルック、見たいんだモン!

 



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第48話 トリーさんは欲望に忠実

どうもバグパイプですm(__)m

本編50話が見えてきました。ここまで頑張れたのは読者の皆さんのおかげです。ありがとうございますm(__)m
それではどうぞm(__)m


トリーSIDE

 

 所でトリーと副官の居る拠点ではどうなっているかと言うと。

 

「私が本隊候補ですか!?」

 

「まだ本決まりじゃないんだけどさ、カリエルがファッション系の後任として育ててみたいって言ってるから、来年か再来年にはその方向になるよ。副司令が肩入れしてきたし」

 

 私ってば栄光の階段を上ってるの? 組織のトップ3が目を掛けてくれてるなんて知らなかったわ。

 

「レッドベレーはきつい職場だけど、隙を見てカリエルがデザイナーとしてのノウハウを伝授するって話は確定事項だからさ、考えてみてよ」

 

「それはもう!」

 

 カリエル様は天使の最上位職という熾天使で、一流のファッションデザイナーだから憧れてたけれど、そのおそばで直伝を受けられるなんて光栄だわ。

 

 思いがけない出世話を聞かされて舞い上がる私に、無常にも携帯電話が鳴りだした。

 

「はいもしもし?」

 

『トリー、今すぐオカルト研究部まで来てくれ! グレモリーの女王様ルックを一丁、頼みたいんだ!』

 

 電話の相手はカケカケだった。しかもリアスって小娘の衣装を作れと来た。しかもその電話越しには彼女らしい少女の悲鳴や制止の声も聞こえてくる。

 

「ヤダ」

 

『のおぉぉ~っ!』

 

『よっしぃっ!』

 

 私が即答で拒否すると電話越しに愕然とする男の声と歓喜する少女の声が聞こえてきた。

 

 何、馬鹿やってるのよ。

 

『お前! 惜しくねえのかよ! デザインの新境地が見えるかも知れねえ話だろ!』

 

「その程度じゃ、動きたくないわ」

 

『グレモリーの身体、触りたいほうだあぁーっ!』

 

 バキィッ!

 

『……変態、死すべし』

 

 ……ホント、何馬鹿やってるのよ。

 

 ほら、正面に座っている補佐官もこめかみを押さえてるし。

 

『下着まで手がけちまえば、乙女の秘密をのぞおぉーん!』

 

 バキィッ!

 

『変態は死ぬまで治らない』

 

 間違いなく、カケカケが小猫ちゃんの鉄拳制裁を受けてるのね。嘆かわしいわ。

 

「トリーさん」

 

 不意に補佐官が私に声を掛けてきた。

 

「何ですか?」

 

「行ってきなよ。まだ本隊からあの隊長さんが転送されてきてないし、ドーナシークさん達もまだ戻ってきてないから」

 

「なるほど、時間稼ぎですか」

 

 補佐官の説明を聞いて私は自分の役割を理解したわ。確かに組織からの応援部隊が到着してない以上、あのアーシアちゃんを巡って坊や達が動くだろうから足止めをしろって訳なのね。

 

「了解です。直ちに作戦を展開します」

 

 私は敬礼をして作戦行動に移ることを公言する。補佐官もそれに頷いて了承してくれた。

 

「もしもし? カケカケ? 今からそっちに行くわよ」

 

 私は携帯電話に意識を戻してオカルト研究部に参上する旨を伝えた。

 

『おーしっ! バッチコイッ!』

 

 カケカケが応答してくれた次の瞬間、ズバンッ! と気持ち良い衝撃音が携帯電話越しに鳴り響き、カケカケの悲鳴が轟いた。

 

『あ~っ!』

 

 その音は、サンドバッグに全力の蹴りを打ち込んだ時にしか聞こえない、あの衝撃音だったわ、間違いなく。

 

「ちょっと、何ッ! 何が起きたのよ!」

 

『……お電話変わりました。お2人の見様見真似をしました。後悔はありません』

 

 電話口に出たのは小猫ちゃん、しかも私達の見様見真似というからにはあのタイキック以外には考えられないわね。それ以外にあれだけの音を出す大技を彼女達に見せた覚えが無いもの。

 

 ……って、それは大変!

 

「カケカケ! お尻は無事なの!?」

 

『……俺のおケツは今日、死にました』

 

 やっぱり、タイキックだったのね!

 

「すぐに行くからそれまで頑張りなさい! カケカケのお尻は私のものなのよ!」

 

『どさくさに紛れて何抜かしてやがる!』

 

 私の言葉にカケカケが激怒してる。でもコレだけは絶対に譲れない! 私の欲望だもの!

 

 我にふと返ると、補佐官が何気ない素振りで白湯を飲んでいた。しかも少しだけ頬を赤くしながら。

 

「……補佐官……今の……」

 

 余りの気まずい空気に、私は電話を切って思わず補佐官に声を掛けてしまった。すると、彼女は凄く優しい微笑をその顔に浮かべながら、語りかけてきた。

 

「……天使でもさ、欲望ぐらいはあるからね、……ドンマイ」

 

 ……凄く神々しい微笑で諭されてしまいました。

 



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第49話 組織に関するその昔

どうもバグパイプです(^^ゞ
イベント前のワンクッションです。
次回はファッションショーをやりますので、ティッシュを用意してお待ち下さい。
えっ?勿論、鼻血拭き用ですが( ̄▽ ̄;)


補佐官SIDE

 

「ふう……」

 

 とにかくトリーさんが時渡君の所に急行したことで、この拠点にはボク1人になってしまった。でも、寂しいという感じはない。

 

 でも、こういう騒がしい中の何気ない静寂のひと時がウチの部隊なんだなって思う。今じゃ司令として堂々としていないといけないアイツも、副司令と技術者としててんてこ舞いを続けてるアイツも、最初の時はこのぐらい騒がしかったな。

 

 ……今でもすっごく騒がしいけどさ。

 

 ピィー、ピィー、ピィー

 

 不意にリビングに設置されている通信機が異世界にある組織からの呼び出しを告げてきた。ボクはその音を聞いてすぐに通信回線を開いた。

 

『どわはははっ、ってお前だけかよ、ラヴィ』

 

「お前だけかよは酷いぞ、竜」

 

 ボクは通信機に出た司令に対して昔のように名前で呼び合う。そう、司令の名前はまかつりゅうこと魔蠍竜、ボクはラヴィ・スレイリー・魔蠍。

 

『時渡達はどうした?』

 

「あの子達は例の協力者達の所だよ。それでどういう話かな?」

 

 ボクは竜の疑問に答えてから通信の内容に話を切り替える。

 

『ああ、例の転送の件だけどな、準備は出来た。今からそっちに送るから待っててくれ』

 

「了解。でも、案内役が居ないからすぐには動けないよ?」

 

『構いやしねえ。どうせ本件の作戦時間は夜と相場が決まってるんだからよ』

 

 ボクがすぐには作戦行動が出来ないことを告げると竜は構わないと切り捨てた。そういう所は昔とちっとも変わっていない。

 

「それに、ボクは竜羅の行をしてる最中だから、ここから動けないんだぞ?」

 

『そうだったな。あの3人組、使えそうか?』

 

「駆け出しとしてなら使えるぐらいにはなったと思うよ。隊員としてはまだ使えないけど」

 

『そいつは僥倖。竜戦騎の実力でウチの隊員をやれるのは少ないからな。何しろ目立つ存在の竜戦騎じゃ、どう騒がれることやら』

 

 竜はそうぼやいてはため息を付く。

 

「確かにそうだよね。最初は竜と、副司令の貞だけで立ち上げたレッドベレーが、いつの間にか表向きは人材派遣会社スタッフ・ド・RBになってさ」

 

 あの副司令、さそりさだよしこと蠍貞義のあだ名を口にしながらボクは昔を振り返る。それからどうしてそうなったのか分からないけど、唯一神とかいう神様の頂点と全ての世界の存亡を掛けて戦って、気がつけばボクは遠い遠い、異世界の土地にまで来てる。

 

『その挙句に英雄様にまで上り詰めちまった、てか? 俺も皆も苦労したモンだ』

 

 彼の言葉を聴いて、ボクは次に出るだろう台詞を口走ってみた。

 

「『だが後悔は無い!』」

 

 互いに合唱してしまった台詞に、思わず笑いがこみ上げてしまう。

 

「あっはははっ」

 

『……やっぱり笑い合える世界は最高だな』

 

「戦った甲斐はあったね」

 

『まあな。いろんな連中にほだされて傷だらけになってでも勝ち取ったこの世界だ、満足してるぜ?』

 

 竜はニヤリと不敵な笑みを浮かべて豪語してみせる。やっぱり彼はこうでないとダメだね。

 

「それでさ、隊長の到着はいつになるの?」

 

『転送装置の改修が終わったからもうすぐだな』

 

 竜が言うや否や、地下の方から何か音が聞こえてきた。どうやら転送装置が人員の到着を知らせているみたい。

 

「到着したみたいだよ」

 

『なら行って来い。回線はこのままでいいぜ。どうせ、アイツと打ち合わせだ』

 

「オーライ」

 

 ボクは竜が迎えに行けと言うので席を立ち、地下へと向かった。

 

 

 

 地下に到着した僕が見たのは、がっしりとした体格を持つ初老の男と、そのそばに寄り添う中学生ぐらいの年齢の金髪少女だった。

 

「ほう、補佐官が出迎えとはな。どうやら人員が足りぬ様だな」

 

「仕方ないですよ、お父さん。開設してからまだ1月も経ってない調査拠点なんだから」

 

 初老の男がお父さんと呼ぶ少女にたしなめられている。でもこの2人は間違いなく義理でも親子なのだ。

 

「ようこそ、異世界の調査拠点へ」

 

「うむ。悪いが通信装置の場所まで案内を頼む」

 

「はいはい」

 

 ボクはやってきたばかりの2人を連れてリビングへと案内することにした。

 

 

 

『おう、無事に着いたみてぇだな』

 

「転送中に消えれば冥府の阿呆どももせいせいする、か」

 

 リビングに到着した僕達を通信機越しに迎えた竜に、隊長が毒を吐く。

 

『そう言うなよ、そこのポーラちゃんが可哀想だぜ?』

 

「貴様に言われるのも小癪な話よ」

 

「お父さん! これから大事な打ち合わせなんでしょ!」

 

 顔を合わせると何気に始まる2人の皮肉にポーラと呼ばれた少女が咎める。

 

「ほら、竜さんもそんな事言わないの! 私達はゾルって悪魔を倒すことが目的なんですよね?」

 

『ああ、でもよ……良いのか? テメェの昔の手下だろ?』

 

 話を切り出した竜は何故か隊長を心配する。危惧すべき相手に同情でもしてるんだろうか。

 

「構わん。ゾルはジャクラウス時代に切り捨てた愚物。手に掛けても思うものなど無い」

 

『なら結構。そこはテメェの勝手だからな、俺は関知しねえ』

 

「なら、話はそこまで、となるな」

 

 2人はそう言って話を終わらせてしまった。普通なら装備とか注意事項とかを話し合うモンなんだけど。

 

「えっと……」

 

『心配するなよ、ポーラちゃん。俺達は昔からこれだけで打ち合わせを終わらせてきたんだからな』

 

「うむ。面倒なところは全て最初の仕事の時に済ませたのでな」

 

 2人は基本的な打ち合わせを最初の時に終わらせたと断言する。最初って確か何年も前の話だよね?

 

 それ以前に相手の居場所とかの話はどうなんだよ!

 

『相手の位置とかは案内役として最初に竜戦騎になったヤツにやらせろ。治療が必要ならラヴィの総合治癒で十分だろ』

 

「それはそうだけどさ」

 

『なら状況が変化するまで待機だ。時渡達が戦闘介入するには時間だってあるだろ』

 

 全部を成り行きに任せるつもりか、不良司令官は。

 

「でもさ、ゾルってヤツのことは」

 

『悪いが司法庁で処刑を打ち出した。俺達はそれに従うしか無い』

 

「それが妥当ではあるな。ヤツがのうのうと犯罪美学を汚す様を、これ以上は見過ごせん」

 

 言葉こそ違うけど、さっきの打ち合わせそのままの会話がそこにあった。

 

 こうしてボク達は待機状態に突入した。

 



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第50話 リアスのファッションショー開催

どうもバグパイプです(^^ゞ
やって来ました本編50話!
というわけでお楽しみ下さいm(__)m
なお、1話で終わってくれませんでした。


「カケカケ!」

 

 トリーはオカルト研究部の部室のドアを豪快に開き、押し入ろうとしてコケた。

 

 その先にある光景は、恥ずかしながらソファの上で、お尻丸出しでシップを貼って寝転んでる俺の姿があったからだろう。それにしても良く、こんな大きなシップが有ったな。ちょっとしたフェイスタオルぐらいはあるぞ?

 

 

 

「イッセーが独断で、アーシアさんを助けに行こうとするんでそれを止めてたらいつの間にか、リアスさんがお仕置きする話になってたと」

 

 トリーが事の顛末を俺から聞いて確認してくる。

 

「それでカケカケがそれに乗っかってリアスさんのお仕置き衣装を私に発注したいわけなのね?」

 

 事の顛末の残りを確認し、今に至る所を理解したのか、トリーはため息を吐いて落ち着く。

 

「一応、小型ミシンと裁縫道具一式と素材を持ってきてるけど」

 

「報酬をよこせ、ってか? 必要経費と1着に付き達成報酬として5万、ってのはどうだ?」

 

「オーケイ、呑みましょう」

 

 俺達は報酬の件も素直に交わして仕事に移ることになった。

 

「おーい、部屋の隅でいじけてるグレモリー、ファッションショーの時間だぞーっ!」

 

 

 

 こうしてああしてなんとして、オカルト研究部の部室が速やかにファッションショーの特設会場へと変貌を遂げた頃、トリーの仕事もひと段落したのか俺の隣で解説モードを決め込んでいた。

 

 ……何? 作成中はどうしたんだって? 青少年保護育成条例によって張り倒されて簀巻きにされてしまったので、画像も音声も拾えませんでした。弩チクショウ!

 

「……では、エントリーナンバー1番、基本にして究極、オーソドックスな『クイーン』です」

 

 進行役の小猫がカンペを手にしながら説明すると、シャワー室を舞台袖にしたステージにリアスの姿が現れた。客席の間を延びるランウェイが、空間の都合で作れなかったのが悔やまれます。

 

 膝上までの編み上げレザーブーツに編み上げのロングレザーグローブ、そして一体型に仕立てられたレザーのボディスーツ……って、下着まで手がけたか!? そのボディスーツを上から下へ真っ二つにする勢いで編み上げロープが編みこまれている。全てが黒いレザーで統一されている所に威厳と気品が垣間見える。

 

「どうですか部長」

 

「凄く恥ずかしいわよ」

 

 リアスに感想を求める小猫に、彼女は泣き言を吐いて見せた。羞恥に震える所はいただけないが、目力が強いだけあってそう悪くは無かった。欲を言えばもっと堂々として欲しいところだが。

 

 イッセーと木場、朱乃は呆然と見とれては言葉を失っている。

 

 2分ほどステージ上でポーズを取らせてはリアスを舞台袖に押し込んだ小猫が次の説明に移る。

 

「ではエントリーナンバー2番、紅が紅に染め上げる、赤い暴力の『タイラント』です」

 

 ステージに出てきたリアスの衣装は真紅のエナメルもまぶしい丈の短い上着にホットパンツ、膝下までのロングブーツに手首を覆い隠すミドルグローブと、先ほどの静かな威厳と比べてこちらは激しいほどの威圧感をにじませている。しかも縫い目をわざと作って模様に生かしてやがる。

 

 んんっ!? 上着を着ているにしてはやけに大きくおっぱいが揺れている。もしや! これが世に聞くノーブラとかいうヤツか! その暴れる様はまさに暴帝!

 

「それで部長」

 

「さっきよりも恥ずかしいわよ! 何でブラが無いの!? 少し動いただけで見えちゃうじゃない!」

 

 リアスの羞恥心丸出しの感想にイッセーが鼻血を吹いて倒れる。朱乃はそんなリアスを恍惚気に見つめていたのが不思議に感じるが。

 

 不思議といえば、さっきから解説が何も言わねえな。

 

 俺は不思議に思って隣を見ると、トリーはうっとりと自分の作品に見とれていた。

 

「んん~っ♪ イイわぁ~っ♪」

 

 お~い、トリー、早く戻って仕事しろ~っ。

 

 と、俺は自分の背後から漂ってくる妙な空気を感じ取った。なんというかこう、どよどよと淀んでいて、汲み取ってくださいって言いたげな雰囲気が、俺に警告音を響かせる。

 

 しまった! この空気の中でトリーを起こせばどうなるか、分かったモンじゃねえ!

 

 俺が自分の失態に気づいた時にはすでに遅く、取り返しの付かない騒乱の導火線に火が点いた。

 

「朱乃ちゃんも作りたいのかしら?

 でもそうなると小猫ちゃんを抜きにするなんてトリーさんには出来ないわよ?」

 

「それは困ってしまいますわね」

 

「……ではこうしましょう」

 

 困り顔の朱乃にステージから降りてきた小猫が合図を出し、トリーも交えて俺をじっと見つめてきた。凄く物欲しげなつぶらな瞳で。

 

「「「じぃ~っ」」」

 

「ば、馬鹿野郎、俺はこの時点で10万以上の報酬を出す羽目になってんだぞ! お前等までやらかしたら1月分の給料が飛んじまうだろうが!」

 

「トリーさんは知っている。カケカケの給料が基本給100万の、師団長手当て80万の、出張手当50万の……」

 

「それ以上、言うんじゃねえ!」

 

 トリーが俺の給料の内訳を語りだしたので大慌てでそれを止めるが、嬉しそうにヤツは暴露していく。

 

「……危険手当が400万だよね♪」

 

「「「「おぉ~っ!?」」」」

 

 最後の項目を打ち出したトリーの言葉に、皆の衝撃が声となって漏れる。調査部隊シーカーに掛かればこのぐらい朝飯前で暴露できる、それがこうして実証されてしまった。

 

 



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第51話 グレモリー陣営のファッションショー?

どうもバグパイプですm(__)m
ここ最近の多忙に追われ、投稿が遅れてすみませんですm(__)m
それではどうぞm(__)m


「時渡さんの給料が豪勢だと説明されましたので改めて」

 

 小猫がひと段落をつけるように呟くと、皆が相談でもしたかのごとく息を合わせてきた。

 

「「「じぃ~っ」」」

 

 そんな物を強請る目で俺を見るんじゃねえよ!

 

 俺は思わず声なき声で叫んでしまった。しかし、トリーの手元が妙に動いているのを見つけてしまった。

 

 両手は何かを摘んでいながらも左右に広げるように形を取っている。エキスパンダーなら手は握るよな?

 

 もしや、伸ばせって事か。だが伸ばすにしても変にこの場を断れば場がしらけて出撃しかねないか。

 

「……わ~たよ、出してやろうじゃねえか! そん代わり……」

 

 俺はそう言ってトリーを睨む。するとアイツはウインクで答えてきた。

 

「稲妻な本気を見るのです」

 

「ちょと待ていっ!」

 

「任せなさい! 私の総力を結集してあげるわ!」

 

 トリーが俺に向かって任せなさいと豪語する。報酬が一気に跳ね上がった反動だろうか、ヤツのやる気に火が点いたらしい。

 

 

 

 そして、再び俺が簀巻きに巻かれてしまった。スポンサー様を何だと思ってやがるんだ!

 

 

 

「えっと、というわけで、これからグレモリー陣営のファッションショーを開催します司会進行はこの僕、木場が務めます」

 

 ステージ上で木場が少しばかりしどろもどろに言葉を並べてみせる。その向かい側の齧り付きの観客席では、俺とイッセーが椅子に縛られた形で座らされていた。

 

「ガッデム!」

 

「時渡さんよりもこうしているわけには行かないってのに」

 

 俺とイッセーは涙を流しながら歯を食いしばっている。しかし救いの手は何ひとつ無い。

 

 ……仕方ない、少し冷静にさせるか。

 

「イッセー、お前は作戦も無しに乗り込む気なのか?」

 

「えっ!?」

 

 俺が話しかけるとイッセーが驚いた表情で俺を見つめてくる。

 

「ただ押しかけてアーシアを取り返す、それがどれだけ難しいか考えたか?」

 

「そ、それは……」

 

「そんなお前の無茶を見かねて一芝居打ってるんだ、理解しろよな」

 

「……そうなんすか?」

 

「だから段取りが大事だと俺とトリーが示した。特攻隊長だって、無策で突っ込みはしねえ、端的でも作戦を立てて動く」

 

 俺は自分の実体験を下に作戦の必要性をイッセーに説き伏せる。ダークネスは昔から突撃を得意としているが、それでも作戦会議だけは決して疎かにはしなかった。むしろ突っ走ろうとする俺が何度もねじ伏せられて椅子に座らされたぐらいだ。

 

 増して作戦を聞かなければ迷わず待機命令で監禁されたほどだ。そう、待機とは名ばかりの、大型犬の檻に押し込められての監禁だ。檻の名札に『ポチ』や『パトラッシュ』だの、『舐め犬』と書かれていたのを見た時は長ランとえらく太いボンタン着こんで泣いたもんだ。

 

 俺の経験談交じりの説得を聞いたイッセーの表情は何とも言えないものだったが、それでも言いたいことは伝わったのか、先ほどまであった強情さはなりを潜めた様だった。

 

「今はとにかく、心のゆとりを取り戻すのが先決だ。今を楽しめ」

 

「はい!」

 

 俺のアドバイスにイッセーが返事をする。これでとりあえず、最悪の難関を1つクリアできたな。

 

 俺はそう確信してステージへと視線を戻すと、木場が説明を始めていた。

 

「大丈夫ですか、はい。それでは参ります。エントリーナンバー1番、前面に押し立てた愛くるしさをご堪能ください、『ハムスター』をどうぞ!」

 

「あーははははっ! スゲェ!」

 

 木場の前振りを受けてステージに姿を現した小猫を見て俺達は笑いが止められなかった。

 

 反則級だろ! だってチョコンと顔の出るタイプのハムスターの着ぐるみで、しかも無表情の様で居て羞恥に震える様は愛情さえ感じてしまう!

 

 トップバッターのプレッシャーをこんな形で台無しにするトリーの妙技! 恐れ入るぜ!

 

「トリーッ! 女王様のファッションショーじゃなかったのかよ!」

 

「そんな前提、3人が入った時点で崩壊したわよ、ご不満かしら?」

 

「んなことはねえ! 「グッジョブ!」」

 

 舞台袖から顔を出すトリーに俺とイッセーは満面の笑みで賞賛する。

 

「トリー! この光景をぜひ写真に! 心に留めとくだけなんて勿体無いぜ!」

 

「カケカケは甘いわ! 映像で撮らない馬鹿は居ないのよ!」

 

 トリーは俺の要求を蹴飛ばし、リモコン片手に映像を確保していると明かしてきた。

 

「でかした! コピーをプリーズ!」

 

「メイキングもつけたげるわ!」

 

 トリーがノリノリで俺の要望に答えると豪語した時、あいつの手の中のリモコンがハムスターの手で握りつぶされた。

 

「……変態、死すべし」

 



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第52話 グレモリー眷属に暴走を

どうもバグパイプですm(__)m
最近、飼う事になった金魚の世話が大変でして。病気持ち(エラ蓋捲れのコメットやら肉コブの育って無いオランダとか)を引き受けるか?
とにかく、それではどうぞm(__)m


 せっかくの小猫の愛くるしいハムスター姿を後世に残せるチャンスを小猫本人に壊された……訳がないのだ。やつが壊したのはダミーのリモコン、本体である記録装置が壊されない限りは着実に記録は保存されていく。しかもリモコンとは無関係である。

 

「トリー、次に行けるのか?」

 

 俺はそれを確認するためにトリーに声を掛ける。するとあいつははっきりと断言して見せた。

 

「バッチリ!」

 

 アイツはどうやら組織御用達の監視装置を使っているらしい。

 

 組織御用達の監視装置、それは聞くに堪えない恐るべき機能を携えた装置である。何しろ動力装置が外部からの伝送装置で随時補充され、副司令の最高傑作と言われているETCジャマー、別名エトセトラジャマーによってあらゆる探知システムを騙しきり、挙句には電波変換した映像と音声を拠点にあるパソコンへと送信しているのだ。それ故に使用権限を持つ部署がレッドベレーとシーカーだけとなっている。

 

 その映像の中継装置は俺たちが常日頃に持ち歩いている認識章に埋め込まれた通信機、スカイナビであることは極秘事項である。またスカイナビの電源供給元は次元空間内に設置された次元衛星と抜かりは無い。

 

「えっと、それではエントリーナンバー2番、黄色と黒で隔てる危険地帯、虎縞模様でシャットアウト。『トラ・ロープ』です……って、うわぁっ!」

 

「「ぶぅっ!?」」

 

 木場の説明から一転、ステージに躍り出た朱乃の衣装に俺とイッセーが盛大に吹き出した。

 

 いや、吹き出すだろ! 黄色と黒のストライプがまぶしい、しかも前後はへその位置まで開いたスリングショットもどきの大胆カット水着の朱乃の姿はまさに爆裂! 前々から大きいとは思っていたが、あれは間違いなく男を狂わせる危険地帯だ!

 

「ウフフ、兵藤君には刺激が強すぎるかしら?」

 

 朱乃はそう言って腕を組み、自分の乳房を持ち上げて誇示する。

 

 止めるんだ朱乃! イッセーのHPがボーダーラインだ!

 

「しっかりしろ! イッセーッ!」

 

 鼻血の出しすぎで生死の境をさまよい出したイッセーに俺は声を掛ける。

 

「ま……だ、死ねませんよ、時渡さん。俺はハーレムを……」

 

「そうだぞ! まだハーレムのはの字もなして無いんだろ! アーシアだって入れるハラなんだろ!」

 

 アーシアならあれ以上をしてくれるかも知れないだろ! あの純粋培養なら! 無垢で純粋なあの娘なら!

 

 俺が慌ててイッセーに気付けを施している最中、舞台袖からリアスが飛び出てきた。それも衣装の一部らしい下着姿で。

 

「「ぶうっ!」」

 

 俺とイッセーはそれを見て鼻血を再び吹き上げる。紅色のビスチェにえぐいほどの角度で切り込まれたタンガ、そこに黒のガーターベルトときては欲情しない方が難しい。零れそうとか言う以前にポッチが見えそうで見えないんだぞ! パンティーよりストッキングを目立たせるなんて犯罪同然だろ!

 

 そしてリアスは朱乃に対して抗議の声を挙げた。

 

「朱乃! 私のイッセーに何してるのよ」

 

「あらあら、可愛い後輩とのコミュニケーションですわ」

 

 ああ、俺は今、ランパブに居るのか? イッセー、これがお前の目指すもの片鱗だぞ? 生きてるって素晴らしいだろ?

 

「……時渡さん、俺……もう死んでも良いっす……」

 

 イッセーが力の無い声で言葉を漏らす。何か遠い目をしているのが妙に怖い感じがするんだが。

 

 彼の言葉を真に受けたのかリアスが彼をその胸に抱きしめながら、意識混濁から掬い上げようと声を張り上げる。

 

「死んではダメよイッセー、貴方は主である私のために生きるのよ」

 

「そうだイッセー! コレはまだファッションショーの序盤なんだぞ」

 

「そうですわよぉ、兵藤君。ファッションショーは始まったばかりなんですよ」

 

 俺はリアスの意見に賛同しながらイッセーに覚醒を促す。しかしいつの間にか朱乃とリアスの二人で彼を胸に抱きしめている所からして、彼が抜け出すのは至難の技かも知れない。

 

 彼には悪いが少しばかり捻っておくかと考え、俺はイッセーに向かって鬼のような一言を囁いた。

 

「究極のファッションとして、イチジクの葉っぱ一枚だけという『葉っぱ隊』というものがあるそうだ」

 

「ぶふぅ!?」

 

 俺は嫉妬でもしたのか思わず彼に止めを刺してしまう。うむ、生死判定にまで持ち込めた。

 

「い、イッセーッ!」

 

 リアスが大量の鼻血を拭いて気絶するイッセーを見て絶叫する。

 

 混乱を収めるために更なる混乱を投げ込む荒業があるのは聞いていたけど、コレは凄いな。やってみて初めてその凄まじい効果が良く分かる。

 

「時渡さん、何のつもりなの!?」

 

「は、裸は……ファッションじゃねえ」

 

 俺に詰め寄っては首を締め上げながら問い詰めてくる、鬼の形相のリアスに俺は思わずファッションを語ってしまう。

 

 だがそこに、舞台袖からトリーが駆け寄ってきた。

 

「カケカケは私のよ! あんな小娘よりカケカケはこっち!」

 

 トリーはどさくさに紛れて自分をアピールしてくる。しかも俺の頭を胸元に引き寄せてしっかり抱きしめてきた。

 

 お、おうっ! おっぱいの感触が顔に! 頬にこりっとしたモンがあたるぅ!

 ついでに腹にゴリッとしたモンが……。

 

 ゴリッとしたモン!?

 

「いやあぁ~っ! ブツ、当てないでぇ~っ!」

 



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第53話 グレモリー眷属、出陣!?

遅くなってスミマセンm(__)mバグパイプです。

スマホが型落ちしたせいか、コピペが巧く機能しないので遅くなってしまいました。

それではどうぞm(__)m


 

 俺は腰にすがり付いてくる嫌な感触を振り払おうとじたばたもがく。しかしトリーのヤツは俺の両足が縛られているのを良いことに、その足で挟んでは腰を押し付けてくる。

 

 いやあっ! ブツがグリグリと当たってるう~っ!

 

「不潔です」

 

「俺、襲われてる側!」

 

 舞台袖からこそこそと覗き見しながらボゾリと呟く小猫に俺は被害者だと訴える。

 

 そんな時に俺とトリーの携帯電話から唐突に受信音が鳴り響いた。

 

ブゥーワッ、ブゥーワッ! ブゥーワッ、ブゥーワッ!

 

 俺は縛られているために電話に出られないが、トリーが自分のポケットから電話を取り出して応対する。

 

「はい、トリーです……」

 

『コール・アラート、コール・アラート』

 

 電話の主は女性の声で、そう言い出してきた。その言葉にトリーの顔からおふざけの色が瞬時に消えた。

 

 このコール・サインは緊急指令を告げるもので、優先順位は2番目に高い。

 

「レシーブ、状況知らせ」

 

『現在、町外れの地点から異様な魔力変動を感知。至急現場に向かえ。至急現場に向かえ、トス』

 

 トリーが指令受諾して詳細を確認する。どうやら例の教会らしい。もっともそうなる話は事前に聞いていたわけだが。

 

 この場をお開きにするにはもったいない。そう、物凄くもったいない。小猫や朱乃、リアスの衣装だって出番待ちがあるはずなんだ。

 

『位置はスカイナビにあり。状況を開始せよ、スパイク』

 

「支援の進展知らせ、レシーブ」

 

『荷物は到着、荷札待ち、オーバー』

 

「了解、オーバー」

 

 トリーは拠点側との連絡を終え、携帯電話をポケットに戻す。そしておもむろに懐に手を入れて認識章を取り出した。なお、通信の仕方はバレーボールを参考に構築されている。その方がスムーズにやり取りできるからだ。

 

 ……イッセー、どうしてそこで鼻の下が伸びる? こっちを見る暇なんか無いだろ。

 

「カケカケ、拠点から出動要請が来たわよ」

 

 トリーは俺に声を掛けてから認識章を自分の耳に当てる。すると認識章の周りを縁取る黒いゴムが変形し、耳当てとなってそこに固定された。そして更に前に向かって透明な板がせり出し、片目を覆うように広がって見せた。

 

「スカイナビ、起動」

 

 トリーの声に合わせて目を覆うカバーに文字が浮かび上がり、それから文字が点滅するように切り替わっていく。その変化に伴ってトリーの指が耳を覆う認識章をコンコンと叩き、画面を変化させていく。

 

 ……あっと、見とれている場合じゃなかったな。でも縄が邪魔で動けない。仕方が無いから引きちぎるか。

 

 俺は全身を縛る縄を解くために両腕を広げて縄を引きちぎり、自由を取り戻す。

 

「ウソッ!?」

 

 リアスがそれを目撃し、目を白黒させているが、知ったことじゃない。俺は自分の認識章を取り出し、スカイナビを起動する。

 

「スカイナビ、起動」

 

 俺の音声を受けて俺の認識章が起動する。おなじみである初期動作を表示した後、俺の左目に情報更新完了の文字が浮かんでは消える。

 

「マップはどうする?」

 

「衛星から直で読みましょ。拠点からのデータが使えるはずだし」

 

 俺の確認に対してトリーは何気なく答える。スカイナビを通す情報は全て次元衛星に集約され、隊員が共有できるように工夫されているのだから愚問だったようだ。

 

 そうこうと打ち合わせをする俺達に対して、グレモリー側は木場がイッセーの縄を解き、他の面々が着替えをしに舞台袖に戻っていた。

 

 そんな光景を見てしまった俺は思わず男泣きを始めてしまった。

 

「くうぅ~っ、現役女子高生でブラずらファイヤーする夢がぁ……」

 

 ズパァンッ!

 

 俺が妄想を零したところに、リアスからの猛烈なハリセンの一撃が叩き込まれた。

 

「何バカな事言ってるの! 古いアニメじゃないんだから、女の子の胸からビームなんて出ないわよ!」

 

「違う! 昔のアニメはおっぱいミサイルだ!」

 

 ズバンッ!

 

 リアスの反論に思わず俺が訂正を入れると、リアスがキレて俺の頭をハリセンで叩いた。

 

 後日判明する情報だが、アガスティアの話ではリアスはそう遠くない、1年以内にビームをその胸から発射するらしい予言が出たとの事だった。

 

 リアス達が制服に着替えたのを見て俺とトリーは別の意味で安堵する。何しろ今、彼女達が着ている制服は普段彼女達が着ているものでは無く、トリーがこっそりとすり替えたトリー特製の防護制服である。大抵の神聖な力を無効化する対聖性を誇り、1度だけなら天罰さえも無効化するという強力な魔法が施されているのだ。その魔法の有効性はあの指令が自ら実証してくれた、最高神ゼウスに喧嘩を売る暴挙で。

 

「えっと場所は……マップ・リンク」

 

 トリーは問題である魔力発生源を示すマップを表示させ、場所を確認する。俺も逸れに倣って確認すると、その場所に覚えがあった。

 

 その場所は、アーシアの居る廃教会だった。

 

「魔力発生源があの教会か、まずいな」

 

 俺が目を細めて顔をしかめると、その声を聞いていたのかイッセーが今日g宅に震えだした。

 

「なっ! まさかアーシアが!」

 

「急ぐとしようか、イッセー」

 

 俺はイッセーに近づき、彼の肩を叩く。トリーはその間にスカイナビを操作しては現場への最短ルートを割り出していた。

 

 そんな俺達の前でリアスは木場と小猫に指示を出していた。

 

「祐斗に小猫、イッセーがバカな真似をしないように見張って頂戴」

 

「「はい、部長」」

 

 俺はその会話を聞いて間抜けな顔を晒してしまう。だがリアスはそんな俺を一言で切り捨てた。

 

「教会は敵の領域なのよ? そんな所に下僕を送り出すバカな主は居ないわ」

 

「ナルホドね」

 

 リアスの言葉に改めて呆れてみせる。そしてイッセーに視線を向けると横に居るはずのイッセーがいつの間にか厳しい顔で部室の入り口へと駆け出していた。

 

「チッ! 行くぞトリー」

 

「オーケイ!」

 

 俺の声でトリーもイッセーの後を追いかけ始めた。そして木場と小猫も俺達に続く。

 

 部室に残ったリアスは朱乃に声をかけた。

 

「朱乃、ちょっと出かけるから付いて来なさい」

 

「はい部長」

 

 2人は別行動を取るようだ。何処に行くのかはまったく分からないが。

 




(小説のメモ帳)

ブラずらファイヤー

 おもむろにブラジャーを擦り上げ、もしくは擦り下ろしておっぱいをもろ出しにする荒業。それを見た男が鼻血を吹き出す様から名づけられたとされる。


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第4章 窮地のドラグナイト
第54話 キョウカイへ突撃


長い間更新出来ずスミマセンm(__)mバグパイプです。
 なんとか書き上げましたので、よろしくお願いしますm(__)m
 それではどうぞ


 教会へと出撃した俺達は先行するイッセーにすぐに追いついた。もっとも、普通の悪魔の倍以上は足が速い俺達だ、一般の域を抜け出せないイッセーに追いつくぐらいは訳が無い。

 

「おしっ、追いついた」

 

「とっ、時渡さん!?」

 

 後ろから俺に肩を叩かれ、イッセーはその足を止めて振り向いた。

 

 よし、ここで一丁煽るか。

 

「急がないとアーシアが!」

 

「ああ、そうだ。急がないと教会の神聖な儀式と称して『ヌッチョンヌチョンのれろれろばぁ~』」

 

「アーシアーッ!」

 

 ゴチンッ!

 

 俺がイッセーの言葉を遮ってほざいた戯言に、彼はべそを書きながらうろたえる。その三文芝居を見たトリーが、そのまま俺に鉄拳制裁を課してくれた。

 

「いってぇーだろ、トリーっ!」

 

「こんな時にふざけないの!」

 

「違う! 本気と書いてマジと読む!」

 

 ズバン!

 

 俺が真顔で反論したら、トリーが速射でタイキックを打ち込んでくれた、この俺に。

 

 そんな俺達に廃教会の前で木場と小猫が先回りで待っていた。これだから土地勘のあるヤツは……。

 

「……えっと、これは」

 

「……また変態な事ですか?」

 

 2人の視線の先、イッセーとトリーから少し離れた所で、お尻を突き出して倒れている俺の姿に、2人が引いていた。おケツが痛くて痙攣が止まらねえ。

 

 木場達はリアスの命令で合流したが、話によるとイッセーの動きを止める気は無く、むしろ支援する方向で動くとのことだった。

 

「……という事なんだよ」

 

「なるほど」

 

 イッセーは木場の言葉に納得し、理解した素振りを見せる。

 

「そうなるとあのグレモリーが言っていた『敵地』って言葉も納得だな」

 

 まあ、イッセーの訓練の成果を見るにはうってつけと言えなくもないか。俺とトリーの2人は過剰戦力だし、木場と小猫でイッセーのフォローは十分こなせるだろう。

 

 ゾルを相手にしなければ。

 

 そう、問題はゾルなのだ。こう言うのもなんだが元犯罪者の殺人鬼はかなり危険だ。聞いた話では一流の賞金稼ぎでも尻込みするほど分が悪いらしい。

 

 ダークネスの幹部以上なら1人1人の戦闘力が桁外れなだけに問題はないらしいが、それでも周囲への影響が馬鹿に出来ないと言う。確かに子供のケンカに核弾頭を持ち込むような状況になるのだから、それはそれで問題ではある。

 

 とにかく、どうやってゾルと俺達2人が戦う様に仕向けるか、だな。

 

「……時渡さん」

 

「何だ、嗚腹(おなか)ぺコペ子」

 

 ゴキャッ!

 

 俺に声をかけてきた小猫に対して悪ふざけの名前呼び捨てを放ったら、激怒の鉄拳が放たれました。見事な左ストレートです。

 

「……話があるのです」

 

「どんな話だ、甘味喰う子」

 

 ドスッ!

 

 今度はコンパクトなモーションでわき腹をえぐられました。

 

「……とても大事な話です」

 

「聞かせてもらおうか、甘味喰い別腹」

 

 キィーンッ!

 

 再三に渡ってふざけたら急所蹴りを喰らいました。

 

「私たちは部長から先輩の手助けを頼まれました、協力してくれませんか?」

 

 小猫の話ではイッセーがアーシアを救出する際の人員として木場と小猫が派遣されたと言う。確かにイッセーだけだったら敗走確定だからこの援軍は見えていた。もっとも、俺たちが居ればイッセーの敗走はないが。

 

「ならグレモリーに言っとけ。自分を囮にして、姫島を使ってコソコソ隠し撮りするなって」

 

 俺は思わずこの間の鬼ごっこの最中にあった隠し撮りの件を出した。ちょうどリアスを捕まえる直前に別方向からの視線を感じ、シャッターが切られる瞬間に『瞬速』を使って小細工をしたワケだが。

 

 小猫はそれを聞いて開いた口が塞がらなくなったのか呆然としている。

 

「いろんな衣装で悪ふざけをしたから俺もトリーも満足してたけどな」

 

「……なぜ隠し撮りがバレたのですか?」

 

「俺達は1キロ圏内なら気配察知で判る。撮影者が姫島だったのはすぐに判ったしな」

 

 俺は隠し撮りの犯人を簡潔に特定してみせる。あの鬼ごっこの時、リアスを捕まえる瞬間で隠し撮りが出来るのは木場か朱乃しかいないが、木場が動けるわけでもなく、必然的に朱乃が撮影するしかないわけだ。女の方が痛みに対する耐性は強いしな。しかも手加減してたし。

 

 ……もっとも、そのせいで終わる時に、トリーがあっちの世界に逃げ込んでしばらく戻ってこなかったのは困った話だったが。

 

 やっぱり、あの衣装で白鳥の湖はダメージがデカ過ぎた様だ。ダチョウみたいな立派な首、付けたモンなぁ。

 



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第55話 極秘任務の結果は

どうもバグパイプですm(__)m
ちょっとした緩衝材にと、上げました。
それではどうぞm(__)m


 リアスSIDE

 

 私と朱乃は部室を出た後、大きな茶封筒をカバンに入れて魔界に来ていた。

 

 その理由は、時渡さん達2人の調査をし、魔界にとって有益かどうかを判断するための資料を魔王様に届けるため。でも、どうして魔王様は撮った写真を残らず掲載せよと言ったのかしら。

 

 魔王様の執務室の前についた私と朱乃は、ドアをノックして応答を待った。

 

「ふむ、入りたまえ」

 

 扉の向こう側から招き入れる声が聞こえ、私達は扉を開けて入室した。

 

「失礼します、魔王様」

 

「やあ、良く来たね。リアス」

 

 室内に入る私達を、大きな事務机の所から人当たりの良さそうな好青年が迎える。

 

 この青年が私の実の兄にして魔王の一角ルシファーを名乗ることを許された悪魔『サーゼクス・ルシファー』である。

 

「しかし驚いたよ、まさか異世界からの来訪者が君達と接触していたなんてね」

 

「私の下僕候補と接触していたところから始まった縁ではあるのだけれど」

 

 動揺しているだなんて口先だけとしか言えないほどのさわやさかを見せつける兄とどうしたものかと扱いに困っている私の構図が、妙におかしいのか朱乃がクスクスと笑っている。

 

「魔王様、これが例の報告書です」

 

 私は手にしている茶封筒をそのままお兄様に手渡す。それを受け取ったお兄様は礼を言って封筒から中の報告書を取り出した。

 

「こうして彼等の事を調査できるとは思っても見なかったよ。さすがに僕でも接触できるかどうかまでは分からなかったからね……ぶっ!」

 

 お兄様はそう言って報告書のページをめくり、吹いた。

 

 1枚めくった先にある写真と言うと……確か大仏の頭の被り物を被って中腰になって何かを植えてるモノマネの写真だったわね。顔を上げながらだから笑ってしまうのだけれど。

 

 そして次のページに移るとお兄様は頬を引きつらせていたわ。恐らくそこにはネグリジェ姿でボディビルのポーズを取る男の姿の写真があるはずよ、あの大仏様の被り物を被った男の写真が。

 

「……これが異世界の悪魔と天使なのかい?」

 

 お兄様は手渡した資料を眺めながらも複雑な表情をその顔に浮かべていた。私も気持ち的に困っていたから同じ顔をしていたかもしれないわ。

 

「この写真の格好、少しばかりセンスを疑ってしまうのは僕だけかな?」

 

「いいえ、私も困っているのですけど」

 

 お兄様が困った表情で数枚の写真を指差す。そこに映し出されているものは……『大きなガチョウの首』を腰につけたバレエの『プリマドンナ』の衣装を身にまとって『白鳥の湖』を踊るあの2人の姿だった。最後の写真なんて両膝を曲げて両腕で輪を作るポーズなのに、その手がガチョウの首の根元を支えているのだから頭が痛いわ。しかも何気に大仏様と観音様の被り物をしてるし……。

 

 いえ、それ以前にいつの間にそんな小細工をしたのかがまるで分からなかったわ。

 

 内心で頭を抱える私の前ではお兄様が顎に拳を添えて思案している。どうもこれらの写真から何かを読み取ろうとしているのは解かるのだけれど。

 

「リアス、これはどうやら思っている以上の実力者と見て掛かるべきだろうね」

 

「そんなっ!?」

 

「この写真では解かりにくいだろうけど、写真に収める時点で衣服を着替えてポーズまで決めてしまう、隠し撮りであるにも拘らずそれだけの時間を強奪し得る気配察知能力、衣装を手早く着替えるほどの淀みない敏捷性、まして相手に自分達の素性を形として残させない、もしくは愚物として扱わせようとする徹底した隠蔽工作、中々どうして馬鹿に出来ない高水準の能力を持ち合わせているじゃないか」

 

「ですが……」

 

「君の認識さえも出し抜いてこの格好をしてみせる、その能力の高さを君は見間違いと切り捨てられるのかい? やはり写真を全て載せるように言っておいて正解だったね」

 

 お兄様の言葉に私は言葉を失ってしまったわ。うかつにも程があるほどこの写真は事実を語っている。私の認識を凌駕する情報がこの写真の中に隠れていたなんて。

 

「とにかく、この件については僕の方からも調査の手を入れることにしよう。少なくてもリアスの手に余りそうな案件だと分かったからね」

 

 お兄様の思いがけない言葉に絶句してしまった。自分から依頼してきた仕事を取り上げると言うのは酷いわ。でも任せられないと見えてしまったのでしょうね。

 

「魔王様、宜しいでしょうか?」

 

「何だい? 姫島君」

 

 不意に私の横から朱乃が発言権を求めた。それを見てお兄様が許可を出す。

 

「今、この件から外されてしまっては支障が出てしまいますわ。現場判断で動ける余地を戴けませんでしょうか?」

 

 朱乃から出た要望にお兄様は思案に入り込む。私としては恥ずかしながらこのことは考えも点かなかったわ。後で褒めないといけないわね。

 

「ふむ……、確かに彼等が突然に敵対行動を取る可能性がないとは言えなかったね。この件での不測の事態に関しての現場の判断をリアス、君に任せようか。ある程度の損害も言ってもらえれば報告書と交換で補填する用意をとりなしてあげるよ」

 

 ヤッタわ! お兄様はこの件を保留に近い形にしてくれたわ。これで上級悪魔としての私の立場を保てるわ。

 

「事はどうであれ、魔界としても彼等をどう扱うべきか迷っているんだ。情報は大いに越したことはないけど、危険に晒すわけにも行かないだろう。それは分かってくれるね?」

 

「ええ、寛大なお心に感謝いたします」

 

「なら、早く君の下僕達の所に行ってあげなさい。何かしているんだろ?」

 

「はい、分かりましたわ、お兄様」

 



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第56話 扉は開けたらしめましょう

遅れてしまってスミマセンm(__)mバグパイプです。
場面はカケカケにもどりますよ(;^_^A
なお、まだやるヤツです(^^;)(;^^)
それではどうぞm(__)m


 翔SIDE

 

「それでは共闘する、と言うことで良いですね?」

 

「はひぃ……」

 

 小猫によってズタボロにされた俺は彼女の同意を求める声に何とか返事をする。

 

「俺が女の子になったらどうすんだよ」

 

「決まってるでしょ? アタシがお尻の初めましてを貰ってあげるのよ」

 

「ブレねえなテメェは!」

 

 抗議の声を挙げた俺に対して言うに事欠いて『お尻』と抜かすトリーに俺は呆れてしまった。でも俺はめげない。

 

 そして俺は、教会の扉に手を掛け……る前に小細工として例の収納空間から肌色の丸いもの二つを付けたイヤーカフを取り出しておもむろにそれを被った。いや、ウチの赤毛の謎電波がソレを被れと命令したから……。

 

「……パフパフ♪」

 

 俺が被ったものを見てイッセーが愕然とし、他の面々がとても嫌そうに引きつった顔を見せるが知った事じゃない。そして俺はまじめな顔で扉に手を掛けて引き開けた。

 

「「……」」

 

 その扉の向こうで俺はフリードと目が合った。彼は俺の被り物に呆気に取られたのか動けずに居る。

 

 凄く気まずい空気が漂う中、俺は思わずフリードの瞼に指を掛け、なぞる様にしてその瞼を下ろしてやった。

 

「……おやすみなさい」

 

 そして静かに扉を閉めては後ろを向いて胸を撫で下ろした。

 

「ビックリしたなぁ……」

 

「俺はアンタの行動にビックリだよ!」

 

 安堵している俺に意外すぎたのかイッセーが猛抗議をしてきた。そんなに突拍子の無い行動だったのか、俺の行動は。

 

 俺が不思議がっていると教会の扉が中から開かれ、息を荒げたフリードが姿を見せた。

 

「チクショウ! 扉を開けたらパイオツなんざ、意外すぎて俺様ってば何も出来なかったじゃねえかよ!」

 

 フリードが俺の奇行に対して反応できなかったことを抗議してくる。この程度のことで動けなくなる様では、災害時には個々の判断で作戦展開を強いられる部隊の班長にすらなれない。司令官特製のストレステストで潰されるからな、絶対に。

 

 俺のストレステストの時は試験部屋を出た瞬間に、指令自ら頭にタオルを載せて全裸に桶で股間を隠しながらいそいそとどこかに出かけていく姿を見せられた。あの後、補佐官に連れられて地下へと連行されていく司令官の姿が印象的だった。

 

「そうか? 良くあることだろ?」

 

「あるわけねえだろ!」

 

 俺の慰めの言葉に対してフリードとイッセーが合唱する。まぁ、そうそうある事じゃないのは確かだ。

 

「それで、アーシアはどこにいるんだ? フリード」

 

「そいつを俺様が言うと思うのかよ」

 

 俺が不敵な笑みを浮かべると、相手も不敵に笑い出す。だがこの程度は想定済みで俺とトリーには関係ない。それどころかこの教会の地下に大勢の人間の気が溢れているのを感知している。無論魔力の波動はその気の端に集中しているのも掌握済みだ。ただ、感じ取れる魔力に神聖なものと邪悪なものがあり、微妙に区分されているのが気にかかる。

 

 しかしこれをこいつに訊いた所で判らないだろう。堕天使の魔法と言われたらそこで手詰まりとなる。

 

「時間が惜しいわ。先を急ぎましょ」

 

 俺の気持ちを察してか、トリーが先行する事を提案してきた。

 

「よし、頼む」

 

 俺はとっさの判断でトリーにフリードの相手を任せた。トリーは待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべると、神父に対して向き直る。

 

「なんだぁ? そっちの姉ちゃんが相手をするってかぁ?」

 

「……何をする気ですか?」

 

 場の空気が変わったの感じたのか小猫が顔を顰める。そんな彼女を俺がたしなめる。

 

「お前等の知らない秒殺が始まるんだ、黙って見てろよ」

 

「ぎぃいやあああああー!」

 

 俺が小猫の疑問に答えた瞬間、フリードの悲鳴が室内に弾けた。見ればフリードが床に倒され、トリーが彼の両足を掴んで右の素足で彼の股間を猛烈にストンピングしている。

 

 まあ、いわゆる『電気アンマ』だ。

 

 そんな熾烈な光景にイッセー達は開いた口がふさがらず、間抜けな顔を晒していた。そして僅か5秒でフリードがビクンッと身体を大きく震わせてから沈黙する。男の生理現象を熟知したその攻撃に耐えられる男は居ないだろうことは明白だからやむなしか。

 

 トリーはその手に勝利を勝ち取り、その肩にウインナードラゴンの肩書きを手に入れた。命名は俺。

 

「カケカケ、制圧完了したわよ」

 

「相変わらず良い手際だな、さすがはウインナードラゴン」

 

 俺は速攻で制圧しきったトリーの労をねぎらう。まさかこんなに早く制圧するとは思っても見なかった。5秒でダウンをもぎ取るなどドコの世紀末救世主なのか。

 

「赤毛の謎電波から極意を教わったのよ。つま先の加減を変えつつも踵は獲物を決して外さない、ってね」

 

「赤毛の謎電波、恐るべし」

 



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第57話 地下祭壇への階段

お久しぶりです、バグパイプですm(__)m

ようやっと空き時間が作れました。
それではよろしくお願いしますm(__)m


「フリードを倒したわけだし、さっさと先を急ぐぞ」

 

 俺が手を叩いて皆に向かって先を促す。そこにトリーが何かに気づいたのか辺りを見回していた。すでに靴まで履き直してやんの。

 

「どうしたんだよ、トリー」

 

「ん、あの金髪の姿が消えてるのよ」

 

 トリーの指摘を聞いて俺は「まさか」と嗤いながら辺りに目配せする。すると確かにフリードの姿が消えていた。ほんのちょっと目を離しただけだってのにしぶといヤツだ。

 

 まったく……あの間抜けな姿を写真に撮って笑い者にする予定だったのに。

 

「いつの間に復活したんだ?」

 

「復活って言うよりは起きたって所でしょ? 簡単に痛みが抜けるわけ無いんだしさ」

 

 俺の疑問符にトリーが肩を竦めて答える。でも目覚めたなら……何に目覚めたんだ?

 

「……あ、あそこです」

 

 小猫が上を見上げながら声を挙げて指差す。その指差す先には股間を押さえて呻くフリードの姿があった。すぐそばに小窓が在るからそこから逃げ出す算段か。

 

「へっへーん! お前等みたいな連中なんか相手にしてられっかよぉ!」

 

「あ~ら、相手してあげてるのはさ、……コッチ♪」

 

「あふんっ♪」

 

 窓のふちでいきがるフリードだったが、いつの間に寄ったのか横から彼の股間を撫で回すトリーが居た。女の手だろうが男の手だろうが、あんな所をなぞられたら大抵の男は縮こまるわな。あそこから落ちなかった彼を誉めてあげたい。

 

「て、てんめぇ……」

 

「俺様ちゃんには早かったのかしら?」

 

 さあ、どうするフリード! 相手は払魔弾の効かない天使様だ! しかもスピードは互いの得意分野ときてるぞ! 

 

「……しかも相手は色々な意味でウインナードラゴンだぁ!」

 

「……不潔です」

 

 解説の俺の横から、小猫の突込みがきました。いつの間にか声を出してたんだ俺?

 

「さあ、さあ、さあ! 惨めな姿を晒してみせなさい!」

 

「いやあぁぁぁ~っ!」

 

 薄暗い廃教会の中に、再びフリードの悲鳴が轟いた。しかも今度は流石のフリードも宙吊り状態にされて『オスを蹂躙』と書いて『タマタマさんフミフミ』と読む荒業の餌食です。為す術を残らず奪い去っての電気アンマは鬼畜の所業!

 

「イカレたヤツを相手にしてるのに、トリーさんの方がイカレてる様にしか見えないのは気のせいか?」

 

「なんて言えば良いのか流石に判らないね」

 

「……不潔すぎます」

 

 学生さんたちには刺激の強い案件ですまねえ。

 

 ……と、そうこうしている間に向こうは決着をつけちまったか。見ればトリーがむなしそうな、けだるい吐息を吐いては右手にぶら下げているフリードを見下ろしていた。

 

 場所が場所だけにおもいっきりGOチン。

 

「ご苦労さん」

 

「ええ」

 

 トリーは俺のねぎらいの言葉に頷いてからふと木場に視線を投げたのか、あいつは彼の存在に反応していた。

 

「あら、ゴメンなさいね木場君。獲物を横取りしちゃって」

 

「いえ、構いませんよ」

 

 トリーは木場に謝罪を投げながら俺たちの所に降り立つ。木場はその言葉を複雑な表情で受け止めながら手を振った。

 

 そして今度こそ邪魔はないと判断して聖堂の祭壇へと近づいた。するとその祭壇の床に、祭壇自体を動かしたとしか思えない傷跡が床にあるのを見つけた。

 

「おい、トリー」

 

「構造はそう難しくは出来ないから、たぶんここに造ってるはずよ」

 

 トリーは俺の呼びかけに答えながら辺りを見回し、宣教台へと近づいていく。宣教台に辿りつくとトリーはすぐにあちこちを見つめ、不審な所を探していく。すると目を見開いては宣教台の下のほうにもぐりこんで何かを動かした。

 

 ガコンッ! ズズズズズッ!

 

 何らかの機械が作動したのか、祭壇構えに動き出し、そこから地下へと続く階段が現れた。

 

「こんな所に隠し階段かよ」

 

 イッセーは俺がお約束だよなと軽口混じりに現れた階段を見て驚いている。そこから漏れ出る異様な空気が俺達に危険を叫んで止まない。

 

「この先にアーシアが……」

 

「行こうぜ。どうせ罠なんてないだろ」

 

 息を呑むイッセーの背中を叩き、俺は先を促す。皆で教会の地下へと足を進めた。

 

 皆で地下へと続く階段を下りながら俺はこれからのことを説明する事にした。

 

「取り合えずだけどな、地下に入ったら俺とトリーは別行動を執る」

 

「何でだよ!」

 

「魔力増大の原因を突き止めて処理しないとお前等が大変だろ? 少なくても俺達は魔法陣の解析と改造、破壊はお手の物だ」

 

 俺は突っかかってくるイッセーに対して懇切丁寧に事情を説明する。すると横から木場が理解を示してきた。

 

「なるほど、確かに結界をどうにか出来るならそれに越したことはないですね。神器を抜き出す為のものだとしても、人の命が懸かっているだけに何とか無力化したいですから」

 

「理解が得られて嬉しいぜ」

 

 俺は木場に対して笑みを向ける。そう俺は完全に油断してた。

 

「それにさ、お姫様には助けに来た王子様が誰なのか、判り易い方が良いでしょ?」

 

「あっ、お前っ!」

 

 トリーが話に乗っかって言わなくて良い事を口外にする。俺としてはアーシアをイッセーに押し付けた方が後々の面倒がなくて楽だと思ってたりなんかして。

 

「そんでもって貸しを作っておくと後で何をさせようかって凄く楽しみなんでしょ?」

 

「うんっ!」

 

 後に何が待ち受けているかを忘れたまま、俺はトリーの明るい声に思わず頷いてしまった。それが俺に襲い来る報復の前兆だと判らないままに。

 



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第58話 その頃の拠点では

どうも、バグパイプですm(__)m

今回は拠点の状況をお送りします。もう少しでレイナーレ編も山場を迎えるだけにギャクをどうねじ込むか悩みます。

それではどうぞよろしくお願いします。


 SIDEセヴェス隊長

 

 翔達が作戦行動を執り、例の3人組が竜羅の行とやらに赴いている間、拠点待機組であるワシらは茶を飲んで寛ぐしかない状況である。

 

 だが、そんな所に竜羅の行を司る門が不意に輝き、その扉を開け放った。

 

「グギィッ⁉」

 

 その門から放り出されてきたのはレースをふんだんにあしらわれていたであろう黒のフリルドレスを着た小娘だった。そのドレスも見るも無残なものだが、当の本人ですらそれを超えるむごたらしさである。何しろ五体満足には帰還できなかったのだから。

 

「ヤバッ、手当」

 

「さっさと治してやれ。死ぬぞ」

 

 補佐官が血相を変える傍でワシは冷淡に症状を観察する。その負傷姿は憚られる物言いだが滑稽という他無いほど凄惨で重体、致命傷を避けているとはいえ裂傷が無数にある。一目で瀕死の状態の良い見本と化しておる。

 

「『グレイテストヒール』」

 

 補佐官が最上級に位置する治癒魔法を行使する。この魔法は四肢欠損どころか致命傷すらも一瞬の内に完治し、不足した体液の全てを補完する便利なものである。だがその分大量の魔力を消費するが、彼女の事だから魔力補充用の魔法石か回復薬を持っておるだろう。

 

「こ、これで、大丈夫だよね……?」

 

「これで回復せなんだらそれまでの者、組織には必要あるまい」

 

「ちょっ、お父さん」

 

 小娘の心配をする補佐官に対して無情の言葉を吐くワシに対してポーラが抗議の声を上げてきおった。グレイテストヒールの悪い所は意識の弱いときに施すとごく稀にだが、患者がその衰弱した意識を吹き飛ばされてそのまま死亡するという報告がある。使う者が少ないだけあってか目を瞑れるほどの症例ではあるため組織としても重大視しておらんが。

 

 娘の抗議も分からんではないがこの者を信じられんのは、はなはだ迷惑なものであるな。

 

「戦いに身を置く者がそうそう死ぬことなどあるまい。それにそやつは認められたようなのでな」

 

 ワシはそう言って小娘の首元に視線を向ける。そこには紅色の結晶柱、竜血晶が革紐によって首と繋がれていた。この竜血晶こそが己の竜に認められた証であり、竜戦騎曰く『竜を喰った』証明でもあるという。

 

 補佐官はそれを見て頬を緩めて見つめている。娘は初めて見るそれを物珍しげに見つめていた。それもそのはず、魔界の総数6兆以上とも言われる中で竜戦騎はわずか300名ほどなのだ。竜戦騎しか持っていない竜血晶を間近で見る機会などそうそうあるはずが無いのだ。

 

「さて、そろそろ起こさねば騒ぎに出遅れるというものだな」

 

 ワシは独り言を口にしてから小娘の肩をゆすってみた。

気絶しておる者を起こすのは危険な事に思われるが、グレイテストヒールによる超回復の恩恵で精神状態も回復しておるから心配など無い。

 

「ん……んん……」

 

 まったく、手間のかかる小娘だ。ダークネスに所属しておらんから手荒くも出来ん。ダークネスの隊員ならば問答無用で蹴り起こすものを。

 

 かすかなうめき声と共に小娘が身動ぎをする。そして瞬きをするように目を開き意識を取り戻した。

 

「ん……ここ……は?」

 

「あ、起きたんだね。これで大丈夫」

 

 覚醒した小娘の横から補佐官が安堵の声を漏らす。久しぶりだったのか不安げにしておったか。

 

「えっと、ここは拠点のリビングで……記憶とか大丈夫かな?」

 

「記憶って……み、見える! 目が見えてんぞ! 無くした手もある!」

 

 凄惨だった窮地を脱した反動を小娘は全身を振るわせて確認している。あれだけの大けがをあざ笑う様にかき消すのだから、神の奇跡とでも錯覚しておるやもしれんな。

 

「ミッテルト、自分の事分かるかな?」

 

「ん? ああ、分かるよ。補佐官だっけ? どうもドラゴンと戦う前までの記憶ってぇのがあやふやでさぁ」

 

 ミッテルトと呼ばれた小娘が補佐官の問いかけに気落ちした様子を見せている。

 

「まあ、確かに送り出す前の口調と、今の口調はかなり違うのは間違いないかな」

 

「色々と遭ったしなあ、ちょっちヤバくね?」

 

 ぬうっ! 小娘の口走っておる言語は何語だ!

 

 ワシの目の前で補佐官と小娘が会話を続けておるのだが、どうも端々の言葉が理解出来ん。魔界言語や天界言語、魔人言語とも違うが、かといって人間界のどの言語とも一致せん。日本語に近い事だけは分かるのだが。

 

「まあ、多分だけどあの時の精神的なショックから来てた記憶の混濁から立ち直ったと見て間違いないと思うよ」

 

「あの時……って、ああ、あん時か。そうなってたかも。あん時はヤバすぎたし」

 

 凝視する事しか出来んワシの目の前で2人の会話が続く。まあ補佐官は若者寄りの気質だけに言語の違いにも比較的対応出来るのだろう。

 

 だがワシには解からん!

 

「何はともあれ、道案内役は素奴で構わんのだな?」

 

「えっ? あ、うん、そうだね。そういう事で」

 

 ワシは結論を急ぐように言葉を選び、それを補佐官に確認する。彼女はそれは間違いではないと肯定した。

 

「じゃ、ミッテルト」

 

「あん?」

 

 不意に名を呼ばれ、ミッテルトが呆然としておると、補佐官が行の締めくくりを始めた。

 

「貴方は竜に認められ、晴れて竜戦騎となりました。『翡翠竜が呼び覚ます烈風』の2つ名を胸に、竜を貶める事のない様に貴方の戦いを続けなさい。すべては貴方が胸に秘めた決意のままに」

 

「アザースッ!」

 

 だから貴様は何語を吐いておるのだ!

 

 ワシは小娘が口走る言葉が理解できずに内心で頭を抱えてしまう。だがこれで翔の所に行けるというもの。

 

「ようやくか」

 



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第59話 隊長とミッテルトとリアス

どうもすみません、バグパイプですm(__)m

引き続き、隊長さん視点で話は動きます。
隊長さん達は無事にカケカケの所にたどり着く事が出来るだろうか?

それでは、どうぞ



「それじゃあ、早速で悪いんだけどさ、時渡君達の所、廃教会だっけ? そこにあの2人を案内してほしいんだ」

 

 補佐官は話の締め括りとばかりに出動要請をかける。それを聞いてミッテルトは敬礼で答えた。

 

「わっかりました!」

 

 そして我々は簡単に身支度を整えるとそのまま外に出た。

 

「さて小娘、竜戦騎になったのだから竜鎧の慣らし運転をしておけ」

 

「竜鎧? ……ああ、今その事が頭ん中に来たっす」

 

 ワシの言葉を聞いて首をかしげる小娘であったがすぐに理解を示し、行動を始めた。

 

 首に下げている竜血晶を指で摘まむ様に手に取るとその革紐を引きちぎり、高々と天に掲げて叫んだ。

 

「ドラゴン・フージョン!」

 

 叫ぶと同時にその指で竜血晶をへし折ると、その結晶が破片となって漂い始め、それが竜の形を成していく。幻影の竜はその羽ばたきでから烈風を生み出しながらミッテルトの体を包み込む。破片は細かく砕け散り、風に乗るとそのまま彼女の体に纏わりついてアンダーウェアと化す。

 

 風が勢いを増し、彼女の体の周りを駆け巡ると白地の塊が生えるように突き出し、腕や足腰を覆い、背中を包むように被さった後、胸を上下に挟むように白い塊が当てられていく。しかもその白い塊は各所を覆った後、鎧の各パーツへと変化した。そして竜は上から彼女を飲み込むようにその顎内に収めるとその鎧下を隠す様に竜の頭蓋骨へと変化して鎧の前身となって当てられる。なお、下顎は4っつに分離してそれぞれ両腕の外側に配置された。

 

 最後に頭全体を覆う兜がミッテルトの頭をその中に収め、フェイスガードが閉まるとミッテルトの竜気が翡翠色の線となって鎧の表面を撫で走り、竜鎧装着が完了した。

 

「うわーっ、すげえすげえ! マジモンの鎧じゃね? これめちゃくちゃウケるわ」

 

自分の身を覆う竜鎧をしげしげと眺めたり、こぶしで鎧を叩いたりしてその感触を確かめるミッテルトだが、鎧を打ち鳴らすその音に金属特有の高音は響かなかった。

 

「およ?」

 

「無理もあるまい。竜鎧は金属で造られたものではないぞ? だがその強度はかなりの物、竜の鱗に匹敵するとさえ言われておるからな」

 

 小娘の疑問符にワシはそれとなく答える。竜鎧の素材は主に骨と同じ物が使われているという。しかも鎧としての性能を発揮する部分は積層型の結界だとか。おまけに各所に小さな竜玉を埋め込んで結界の維持や補助を請け負っているというのだから呆れて物も言えん。

 

「なんで……って、カケカケさんの上司なんすよね」

 

「無論だ。直接では無いがな」

 

 ワシはそう言って小娘の言葉を肯定する。

 

 ふと、そう遠くない所から不意に悪魔の気配が2つ湧き出したのを察知した。ポーラに目配せをすると娘もそれを知ってか無言で頷いて見せた。

 

「……悪魔の気配がするっすねえ」

 

「とるに足らん小物だが、目障りとなれば話は別となるな」

 

 ワシはミッテルトの言葉に意外なものを見て口元が緩んでしまう。この小娘はこちらの住人であったか。

 

 だが件の気配が姿を現した時、軽く身構えていた我らは拍子抜けした。

 

「あれ、リアス・グレモリーじゃん」

 

「ん?」

 

 鎧小娘、ミッテルトが2人組を見て素っ頓狂な声を上げ、2人組の方は呆れた声を上げる。

 

「知っておるのか?」

 

「この町を取り仕切ってる元締めってトコっす」

 

 ミッテルトはワシの質問に対してフェイスガードを跳ね上げて答えてくれる。フェイスガードの下から出てきた顔を見て2人組が目を白黒させおった。

 

「ええっ!? ミッテルト?」

 

「あ、あらあら」

 

「驚いておる所を済まんが、時渡達が気になるのでな、急いでくれ」

 

 ワシは硬直した現場を急かす為に声を上げ、皆を促す。

 

「分かってるっす。こっちっすよ」

 

 ミッテルトは逸早く我に返り、我々の先導を買って出た。ほかの面々もそれに従って走り出す。

 

「ミッテルトが居るって事は、こちらのお2人は」

 

「ウチの隊長……、カケカケさんの上司連中ってワケでさ」

 

 不意に来たリアス・グレモリーとかいう小娘の確認の声をミッテルトが引き継ぐように答える。もはや宵の口と言って良い時間だが、制服姿で辺りをうろつくというのは感心せぬ話だ。

 

「ならちょうど良いわ。私達も廃教会に用があるの。案内しなさい」

 

どうやら紅髪の小娘はワシらと共に行くらしい。そういえば確か補佐官がグレモリー眷属と時渡達が行動しておると言っておったな。

 

「来たければ来るが良い」

 

 ワシは好きにしろとばかりに背を向ける。

 

「痛い目を見て泣く様ならば捨て置くぞ」

 

「自分の面倒ぐらいは見れるわよ」

 

 紅髪が憎まれ口を叩き、その横の黒髪の小娘が困った表情を浮かべる。

 

「小娘、案内を続けてくれ」

 

「ういっす」

 

 ワシの声にミッテルトが呼応し、廃教会とやらへ向かって歩を進める。

 

「朱乃、どうやら私達が想像しているよりも大きな事が起きているみたいね」

 

「うふふ、その様ですわね」

 

 ワシの後ろで2人が何を話しておるのか杳として知れんが、気にするほどでもあるまい。

 



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第60話 突入! 魔法儀式

長らくお待たせしてスミマセンm(__)mバグパイプです。

日常部分は書きやすかったのにこれはマズイと頑張ってますのでよろしくお願いいたします。

それでは、どうぞm(__)m


SIDE時渡

 

 イッセー達に先行して地下に潜入した俺とトリーは柱の影から周囲を確認する。

 

「儀式をしてるみたいだけど、作法は悪魔形式なのかしら?」

 

「形式だけに、あそこで俺が殴られたのも形式か?」

 

 独り言のように呟くトリーに対して俺はその下で腫れ上がった左頬を指差しながら訴える。そんな俺に対してアイツは即座に否定してきた。

 

「形式? 違うわよ。お約束」

 

「ぬぐうっ!」

 

 その答えに俺は歯を食いしばってしまった。ここで騒げば俺達2人の潜入が発覚してしまう。

 

「アーシアっ!」

 

 突然、祭場でイッセーの悲鳴のような叫び声が響き、俺達は思わず彼の姿に視線を移した。彼は祭場の奥を見据えているのか、その顔には激昂が見て取れる。

 

 そんな彼の視線の先にあるのは、魔法陣の上に立てられた十字架に拘束されている下着姿のアーシアだった。シスター服が普段着だったのかスカートが無いから純白が眩しい眩しい。

 

「マズいな」

 

「そうね。魔法陣が下に敷かれてるなんて」

 

 俺の苦悶にトリーが頷く。俺達は今、この部屋を壁伝いに進んだ中ほどの所にいる。だがその魔方陣に妙な細工が施されていることに俺達は気づいた。

 

「……積層?」

 

「違うわ。2重型魔法陣だわ。下のはとにかく、上のヤツは魔界式の魔力タンク」

 

「ゲッ!?」

 

 指摘するトリーの口から出た名称に俺は呻いてしまった。

 

 悪魔にとって魔力とはいわゆる普段の食事や飲み物から得られるエネルギーのようなもので、有るに越した事は無いが、魔力タンクを必要とはしない。ならどうして魔力タンクを設置するのかというとズバリ、不足するほど大量の魔力を必要とする術式に回すためである。

 

 アーシアの事も心配だが、この先の展開も心配になる。己の魔力量を超える魔力を酷使するだけの魔法をすればどうなるか、組織で良く叩き込まれたほど驚異的な災害を引き起こす。ましてそれを1個人が行使する事態となれば、ウチの上層部が黙っていない。

 

 ……って、ちょっと待て。

 

「どうして魔法陣の種類が読めたんだよ」

 

「私達の世界の魔法公式で組まれているのよ、あの魔力タンクの魔法陣」

 

 ふと沸いた疑問に対してトリーが即座に答えてくれた。確かに俺達の世界の魔法なら魔法公式を解析できるわけだが。だが異様なことが判明した。その事が起きた場合の結果は恐ろしい事に繋がるかも知れない予測まで起ってしまう。応援部隊はまだ来ないのかよ……。

 

「どういうこった?」

 

「ゾルのお手製って事なんでしょ? それ以外に何があるのよ」

 

「ごもっともなこって」

 

 俺はトリーの指摘に納得し、問題へと意識を戻す。

 

「磔プレイって、需要あるのか?」

 

「さあ? 副司令に聞いたら? そっちに詳しいって話だし」

 

「司令じゃねえんだ」

 

 俺の疑問符にトリーが相談相手を見繕ってくれる。妙な肩透かしを食らった気分で俺が皮肉を漏らすと、アイツはハッキリとは言わなかったが意味深な事を抜かしてきた。

 

「だってさ、サーフェスエッチ系は司令で間違いないんだけど、ディープとかダークエッチ系は副司令の方が専門らしいのよ」

 

「だからあんな捕縛術なのか」

 

 トリーの言葉に俺は妙な納得を覚えてしまった。

 

「あるSMクラブの女王様にムチの極意を教えて『先生』って呼ばれてるとか」

 

「マジかソレ?」

 

「一説によると、とある国の裏モノAVに拷問官として出演したとか」

 

 業が深えぞ、副司令! ……あれ? 何かダークネスでも同じ話を聞いた覚えが……。

 

「それってまさか、ダークネスの女幹部の誰だかも一緒になって拷問官の仕事したって話じゃねえか?」

 

「よく知ってるわね、その通りよ」

 

 ……って、こっちの話が気になりすぎて儀式の方に集中できねえ!

 

「にしてもあの磔……、どうして十字架なんだ?」

 

 俺は意識を戻そうとばかりに目を向けた、祭壇の十字架に磔にされたアーシアに……いや、彼女が磔になっている十字架が気になりました。ゴメンナサイ。

 

「教会だからでしょ?」

 

「いや、あの手のやり方なら開脚型でやらねえと……いたせねえだろ?」

 

 スパンッ!

 

 俺の面白くない文句にトリーが俺の頭をハリセンで叩く。そこに輪を掛けて文句を言ってきた。

 

「青少年保護育成条例はどうしたの?」

 

「家出しやがったんだよ」

 

「夜遊びだなんて、不良ね」

 

「非行に走るんじゃねえかとヒヤヒヤしてるんだ」

 

「その出先の駅前で立ちんぼな売り娘に出会ってエキベンとか言うの、食べちゃうのかしら?」

 

「う~む、若いから過ちの一つや二つ……」

 

「それでお土産まで持ってくるのかしら?」

 

 お父さんは出来ちゃった婚は許しません! ……て、ツッコミ入れたら即終了!?

 



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第61話 『翡翠竜が呼び覚ます烈風』の目覚め

お久しぶりですm(__)mバグパイプです。

長々とお待たせしてスミマセンですm(__)m
ストーリーを書いている最中に、ワンクッションを入れないといけない事態が発生して遅れました。
その代わりミッテルトが目立ってます。

それでは、どうぞm(__)m



 

SIDE セヴェス隊長

 

 教会の門に到着した我々は、敷地内に妙な魔力を感じ取り、周囲に気を配った。

 

「隊長、周囲に召喚魔法の気配があります」

 

「構わん。この場に居る者だけで十分、過剰戦力だ」

 

 ワシは娘の言葉に詮無い事を零してしまう。この場に居る者で最弱である新米の竜戦騎の小娘だけでも過剰戦力として扱えるほど潤沢な戦力を用意しているのだから。

 

「出来れば後から来る足手まといに押し付けたい程だがな」

 

「アッハハッ! そいつは酷くね?」

 

ワシの物言いに小娘が口を挟んでくるが知った事ではない。むしろ肩代わりしてやろうと言っておるのだがな。

 

「だけどさ、目の前のアレ、何とかしないとヤバくね?」

 

「貴様だけでも奴等には過剰戦力なのだが?」

 

 教会の入り口付近の土が盛り上がってはそこから続々とはい出てくる、土気色の物体だった者ども……いわゆるゾンビが湧き出している。教会の敷地に土葬は無いだろうが、召喚術のために問答無用の様相だ。

 

「隊長」

 

 ポーラが『仕事』と察してかワシを隊長と呼ぶ。無論答えは一つしかないが。

 

「皆まで言うな。アレがただのゾンビならばこの土地にはおらん。召喚を介した何らかの強化を受けておるな」

 

 即座に敵勢力を見極め、どういなすかを考える。小娘にやらせてみるのも一興か。だが敵勢力は見事に30を数えるほどに増えた。たかが召喚ゾンビ、されど召喚ゾンビ。いわゆる伝染病の様に伝播するアンデッド化の現象だけはバカには出来ん。親となるゾンビ次第ではあるがその伝染速度は戦慄を覚えるほど早く、わずか10秒もあれば必ず感染しているとさえ言われている。それ故に組織でも警戒して十分な対策を講じておるわけだが。

 

「ポーラは下がっておれ。お前ではまだ相手に出来ん」

 

「はい!」

 

 ワシはポーラに下がるよう指示を出すと、自分も下がろうとする腰抜けな小娘に視線を移した。貴様の方が我が娘より勝ち目があるというものを……。

 

「それで貴様はどこに行くのだ?」

 

「ウエッ!? えっと、ちょっち……用事が」

 

「見え透いた嘘を吐くでない。貴様の用事はワシらを時渡の所に連れていく事、それだけのはずだ」

 

 まったく、愚かにも程があるものだ。まだ調整段階だからと傍観する気か。

 

「多くは言わぬ、『全て仕留めろ』。出来ぬとは言わせん」

 

「……へ? えっ?」

 

 ワシの言葉に小娘はその目を白黒させおる。だが次の瞬間、その目が大きく見開かれた。

 

「……マジで、できるみたい」

 

「分かったらさっさと済ませろ」

 

 小娘は自分の事ながら半信半疑に首をひねり、ワシの言葉に従う素振りを見せていく。たかだかゾンビの30体なぞ、片手間で捻れん様では先が思いやられるというもの。ワシの出る幕ではないのだが。

 

「はぁーっ!」

 

 右手を横薙ぎに振りかざして光の槍を出す小娘だが、その槍が何十本と出現し、それぞれが獲物を貫かんと駆け抜けていく。小手調べ程度ならこの方が気楽か、それとも使い慣れた手立てなのかか解からんが、その技だけでゾンビ共をもの言わぬ肉塊へと変えていった。

 

「……嘘くせぇ……スッゲェ嘘くせぇ」

 

「目前の戦果に嘘も無かろう」

 

 ワシは小娘の愕然とした呟きに呆れながらも後始末として腕を一振りさせる。するとその場に崩れた肉塊全てが塵と化して消えていく。

 

 その光景にミッテルトがジト目でワシを睨んできおった。

 

「アッタシの手柄ぁ~っ」

 

「その程度で手柄を喚いてどうするのだ? 大事の前の些事だ。気になるなら時渡に話をしておくとしよう」

 

 ワシは小娘を黙らせては背後の、道路の方からようやく追いついた2つの気配に目を細める。

 

「ふむ、夜はまだ入りという事か」

 

 ワシは独り言ちてはこの先に視線を向ける事にした。すると地下があるのか、下の方から駆け上がってくる魔の気配が感知できた。

 

 ただ、その傍にある、か細い人の気配が気にかかってならんが。

 

「むぅ、妙な気配があるな」

 

「隊長、行きましょう」

 

 ポーラも気配を悟ったのかワシに進言してくる。だがその行く先を消し飛ばしたはずのゾンビ共がふさいできた。

 

 召喚の魔法陣ごと消し飛ばしたはずが他にも残っておったというのか、面倒な。

 

 しかし、そこに自分のチャンスを見たのか小娘が嬉々としながら叫びおった。

 

「おっしゃあ! あたしの出番!」

 

 彼女はそう言って胸部装甲の下に両腕を潜らせ、そのまま持ち上げてる。彼女のその顔が胸部装甲に隠れ、竜の頭蓋骨がそこに形成された。しかも閉じた口からは光が瞬きながら大きくなっていく。

 

「ぬぅおっ!?」

 

「あったれーっ!」

 

 閉じた竜の口が開き、光の奔流がワシらの居る先、ゾンビ共に向かって迸る。当たればただでは済まん一撃にワシ等は飛び退いて躱す。反応の遅れたゾンビ共はその奔流の中に飲み込まれては建物の影となって消え失せ、光の奔流は建物を半壊させてようやく蛍火を残しながら消えていった。

 

「よっしゃあ! アタシの勝ちぃっ!」

 

「何のつもりだ! 馬鹿者がっ!」

 

 よりによって竜撃砲(ドラゴニック・キャノン)を撃ち込んできたミッテルトに向かってワシは怒鳴りつける。

 

「まだ調整段階だからこの程度で済んだが、本来ならば核弾頭の一撃さえ超越する威力なのだぞ! 解かっておるのか!」

 

 ワシの怒鳴り声を浴び、ミッテルトが事の重大さをようやく思い知ったのか茫然となっておった。

 

「……へっ?」

 

 まったく冗談では無い、本来の威力で放っておったならば教会はおろか目の前5キロは更地に成り果て、挙句にはその5キロ四方で窓ガラスの破砕と家屋の倒壊、挙句には何百人の死者が出る大惨事確定だ。損害賠償だけで何本の金が吹き飛ぶのか。

 

「教会が倒壊するならまだしも、影も形もなく消えるなど教会の持ち主が頭を抱えるわ! 馬鹿者が!」

 

「司令の時は、確か賠償金だけで億単位まで要ってたって隊長は言って無かった……かな?」

 

「うむ、正確には3億7千万だな。たしか全体的な賠償額は22兆円だったが、あの時に魔界の無人島5島が巻き添えで沈んだ。極地災害指定で範囲はざっと1万キロほどか、半径で」

 

「……へっ?」

 

「放射能汚染では無いが、生き残りをかき集めて集団疎開させ、暴動が起きない様にとダークネスのほとんどを動員しての厳戒態勢を強いられたのは辟易したわい」

 

「魔界戦役の最中だからって酷くは言われてないって聞いたけど、もしかして」

 

 ワシとポーラで竜撃砲の威力とその甚大な被害を語った所で、事態を理解したのかミッテルトの顔から血の気が引いていく。

 

「その22兆円を出したのが副司令だ。その後にけじめと称して司令との一騎打ちをやっておったな。どんな花火大会さえも霞むほどに激しい光の祭典であった。夜空を彩る無数の火炎砲撃にそれを両断する剣閃、張った先から粉砕されゆく障壁の数あまた……」

 

「アンタ等の組織のトップ、頭おかしくない!?」

 

 ワシらの話についていけず、ミッテルトが喚きだした。しかし言うのもなんだがあの2人は昔から全く変わっていない。

 

「問題ないぞ。他の者が十分にまともだからな。本当におかしい奴ならばそれだけの被害を出せば雲隠れして逃げおおせるというもの」

 

「ま、まあ、この話は別の機会にして、時渡さんと合流しないと」

 

 ワシらの話を遮ってポーラが先を急いで教会の扉へと動いた。

 

 そして教会の扉を開け放った時、ワシらは目の当たりにした光景によって毒気を抜かれてしまった。




(小説のメモ帳)

竜撃砲(ドラゴニック・キャノン)

 竜戦騎が有する必殺技の一つで、個々の持つ竜鎧に付属している竜の頭蓋骨を組み上げて砲門とし、砲門から竜気を発射する。ドラゴン特有のドラゴン・ブレスを疑似的に放つ技だけにその威力は驚異的であり、「一騎で国を滅ぼす」という格言はこれが由来している。


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第62話 十字架のアーシア

長くお待たせしてスミマセンm(__)mバグパイプです。

ようやく形になったので投稿です。
カケカケ、やっぱりお前はお前だったんだな。Σ( ̄ロ ̄lll)

それではどうぞm(__)m


SIDE時渡

 

「おいっ! 魔方陣はまだ解除できねえのかよ」

 

「無理よ! 実働してて止められないのよ」

 

 苛立つ俺に対してトリーが観念しろと言いたげに愚痴を漏らす。

 

 俺達の方はというと、上の魔法陣について停止は成功したが、切り離しにまでは至っていない。先に下の魔法陣を停止しないと下の魔法陣からの切り離しが出来ない事が分かったからだ。魔法陣の解析には面倒だが魔力の波形パターンから公式を組み上げ、そこから解析に移行している。魔方陣に使用されている言語が分からない限りこの方法が実績もある分確実だが。

 

 俺の耳に、入り口の方から明らかに戦闘状態に入ったことを伝える騒乱が響き渡る。そっとに視線を向けると木場と小猫の2人でイッセーのための道を作り出しているところだった。小猫は相変わらずの拳や蹴り、木場はいつの間にか剣を手に信者たちと火花を散らせる。

 

「兵頭君、僕たちにかまわずアーシアさんを!」

 

 木場がイッセーを先に行かせようと道をこじ開ける。見ると反対側は小猫がこじ開けていた。

 

「すまねえっ!」

 

 イッセーはそう言って2人の間を走り、階段を駆け上る。しかしその足取りがやけに遅く感じられる。レイナーレの方は儀式も終わりの頃だと言いたげに満面の笑みを浮かべる。

 

「テメェ! アーシアに何をした!」

 

 イッセーが祭壇上のレイナーレに向かって怒鳴りつける。だがそのニヤケ面を崩す事なく彼女は語り出した。

 

「あら、今頃来たの? でも、もう手遅れよ」

 

 レイナーレがイッセーの姿をその目に捉えるが動じた様子は無い。むしろこれから何かが始まるのだと言わんばかりの余裕さえ見せている。その言葉に動揺が隠せずに焦るイッセー。しかしその焦りはこちらも同様だった。

 

 文字どころか公式の配置さえも見た事ない物なのかトリーの額に汗がじっとりとにじみ、頬を伝ってその滴を落とす。マズい展開だ。このままだとレイナーレの思うがままに進んでしまう。

 

 俺がそう思ったその瞬間、十字架に変化が現れ、下の方からなぞるように光の線が走り出す。そして俺達がその光に愕然としている中、アーシアの胸の辺りから何やら緑色に光る光の玉が出てきた。レイナーレはすかさずその光の玉に手を伸ばし手中に収める。

 

「うふふ、これさえあれば私は至高の存在になれるわ。あのお方に近づくことも」

 

 あの方? 

 

 レイナーレが口にした『あのお方』という存在が気になる俺だが、それを解明する術がない。この場は宿題が増えたと考える事しかできない。

 

 どうやらレイナーレの言うあのお方の詮索はここまでの様だ。彼女もこの騒ぎを聞きつけ意識をそちらに向けたらしく、恍惚気な雰囲気が霧散していた。

 

「アーシアに何をしたんだよ! 答えろよレイナーレ!」

 

「せっかく、ここまで来たんだからご褒美をあげなくちゃね」

 

 レイナーレがそう言うとアーシアを拘束している光の拘束具が外れ、彼女の身体がゆっくりと落ちていく。それを見たイッセーが即座に駆け寄り、その腕で落ちてきた彼女を受け止めた。しかし落ちてきた彼女のその目はうつろで、焦点が定まっていないどころの話では無かった。

 

「アーシア! アーシアァ!」

 

「……イ……イッセー……さん……」

 

 イッセーの呼びかけに答えるアーシアだが、意識が朦朧としているのか口調が覚束なく掠れている。命の火も消えかけている様な儚さに俺は歯ぎしりをしてしまう。

 

「兵藤君、早く!」

 

 イッセーがアーシアを受け止めたのを見たのか、木場が彼に向けて脱出を示唆する。木場からの声に呼応し、彼は意識の無いアーシアを抱き上げては祭壇の階段を駆け下りる。 

 

 木場達は信者達の群れを抑え込みながら道を開けてイッセーの脱出を容易にする。小猫との連携も取れているためか十分な道幅の中を彼がアーシアを抱きかかえながら通り過ぎた。

 

 そんなイッセーの背中を睨むレイナーレだったが、不意にその形相を崩し、天井に目を向けた。

 

「どうせ、行き先なんて1つよね」

 

 どうやらイッセーを追いかける気だ、と俺は気付いてアイツの所へと飛び掛かった。

 

 だがタッチの差なのか、指先が何かに触れたのを感じながらも彼女を止める事が出来なかった。

 

「チィッ! ……んっ?」

 

 いずこかへと消えるレイナーレを捕まえられずに歯ぎしりしたが、俺は手の中にある布に気づいた。黒い色で素材は……ワカラン。でも、黒ビキニってのだけは解かる。なんたって内側の素材が肌着のような触り心地だからな。

 

「こいつは! ステキビキニッ!」

 

 ドカッ!

 

 ボケたその場でトリーに蹴り飛ばされた。どうやら上下の魔法陣分離まで成功したらしい。

 



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第63話 にじむ悲痛と握らせる意地

お疲れ様です。バグパイプですm(__)m

やっと形に出来たので投稿です。
それではどうぞ。


 地下を抜け出し、再び礼拝堂へと戻ったイッセーは、すぐに適当な長椅子にアーシアを下ろし、そこに寝かせた。

 

「…アーシア」

 

 ポツリと呟くイッセーの声に答える声は何もなく、静寂な空気が辺りを漂う。

 

 そんな所に赤く輝く魔法陣が浮かび上がる。その輝きを尻目に捉えた彼はその場で振り返った。

 

「……フッ、無様ね」

 

 魔方陣を介してその場に現れたレイナーレは、その場で硬直してしまった彼を鼻であざ笑う。フッと出る嘲笑に対して彼が出したのは声ではなく、

 

「ブウゥーッ!」

 

 鼻血だった。

 

 いや、今の彼女は肘までの黒いロンググローブに黒のロングブーツ、と傍から見て誰もが我が目を疑うハレンチファッションである。彼が鼻血を吹かなかったらこのどんな展開にもつれ込むのだろうかと凝視してしまうほどに。

 

 イッセーが吹いたのを見て異変に気付いたのかレイナーレは首を傾げ、視線を真下へとおろした。

 

 ……カアアァァァーッ!

 

 今の彼女は彼が吹くほどに魅惑的でその場に居る誰よりも身軽で、装備に不安しか感じられない姿だ。若々しい青少年には未知の世界で、スケベ男にはたまらない暴力だろう。

 

 そんな光景を、目の当たりにする者達が2人以外に居る。あの10の目である。

 

「あの小娘は何なのだ? 気が知れんな」

 

「隊長、他所で何かあったんじゃないかと」

 

「そーっすね、レイナーレがあんな馬鹿なカッコ、するわけねえし」

 

「堕天使ってまともな奴はいないのかしら?」

 

「あらあら」

 

 礼拝堂入り口で言いたい放題、軽蔑し放題であった。

 

 

 しかしそれでも現場は動く。

 

 イッセーは衝撃から立ち直り、レイナーレに顔を向けようとするが直視できないでいる。彼女の方も羞恥ゆえの赤面状態のままコソコソと例の服を着こむ。

 

「レッ、レイナーレ! アーシアの魂を返せ!」

 

 イッセーはアーシアが生き返るために必要となる魂、彼女のセイクリッド・ギアを求めて叫ぶ。しかし相手はそれをあざ笑った。

 

「アッハハハッ! コレを返すわけ無いでしょ? あのお方に認められるために必要なものなんだからさぁ!」

 

 イッセーは放った要求を一笑に付され愕然とする。彼はそれに逆上し、殴りかかろうと走り出すがそれを彼女がとっさに出した光の槍を彼の足に打ち込むことで抑え込んでしまった。

 

 そして彼女は目に留まった彼の左腕の小手をみて笑い出した。

 

「何よそれ! どんな神器かと思えばそれって『トワイス・クリティカル』じゃない! 危険なものだと言われて警戒してたのがバカみたいじゃない!」

 

 レイナーレの嘲笑に混じって聞こえた『トワイス・クリティカル』という単語に隊長とポーラが疑問符を浮かべる。

 

「「『トワイス・クリティカル?』」」

 

「神器の一つで威力を倍加させるだけの下級神器の事よ。でもあれって……」

 

 2人の疑問符に答える形で呟いたリアスだったが、その顔には腑に落ちない別のものが見えているようだった。

 

 彼女の嘲笑にイッセーは力無く顔を伏せてしまう。しかしその口元では何かを呟いているようだった。

 

「神様……悪魔だからこの場合は魔王様か、一発で良いからこいつをぶん殴らせてください!」

 

「小僧! 貴様に意地があるのならグダグダ言わずに殴り飛ばすが良い!」

 

 イッセーの呟きを耳にしたのか隊長は怒号を放つ。いかに弱者と言えど意地を燃え立たせる者がその口で弱音を吐くのが彼には許しがたい事のようだ。その後ろでは止めようとするリアス達をポーラがその手で押しとめている。

 

 その言葉にレイナーレは目を細め、苛立ちを顔に表す。

 

「なんですってぇ?」

 

「獲るに足らん愚物だろうが、貴様の慰めにはなるやも知れんぞ?」

 

 隊長はそれだけを言うと不敵な笑みをその顔に浮かべる。その貌は初老の男が浮かべるものには見えず、悪代官の雰囲気さえ漂って見える。

 

「そこにおらぬ奴に頼るより、己の意地が吠えるままに拳をねじ込む事だ! 己の意地を見せつけてみせい!」

 

「おおうっ!」



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第64話 若い竜の覚醒と本当の戦場

お久しぶりですm(__)m

何とか物語の山場にたどり着けました。

レイナーレのくだりは次回になるかと。

それではどうぞよろしくお願いします。小説のメモち


 隊長の声に引かれてイッセーが咆哮を上げた時、その左手に真紅の輝きが解き放たれた。

 

『Boost!!』

 

「なっ!?」

 

「何っ!?」

 

 イッセーとレイナーレが驚く中、イッセーの手を覆う真紅の手甲から放たれた閃光だった。先程まで感じられたか細い気配が消え、誰が見ても何かを秘めたものだと判る。

 

「なっ、何なのそれ! そんなの私知らない!」

 

 レイナーレはイッセーの小手が輝きを抱え込んだままその唸り猛る様に先程とは違う驚愕の体を漏らす。

 

「いっけえぇーっ!」

 

 イッセーの咆哮と共に繰り出された一撃がレイナーレの頬を捕らえ、蹴散らす様に殴り飛ばした。その勢いは素晴らしく、彼女の顔を歪めただけでなく、そのまま遥か彼方まで飛ばしてしまった。

 

 憎い相手を殴り飛ばしたイッセーがその手ごたえを感じている、そのわずかな隙に殺意が襲い掛かった。間に合わない、と彼女たちが感じたその瞬間を初老の男が割り込み、その腕で襲撃者の狂刃を受け止めてしまった。

 

「小僧、見事であったが、戦場で気を抜くのはまだまだ未熟だな」

 

「なんだとッ!?」

 

 襲撃者は目を剥きながら飛び退り、手の中にある己の牙を敵へと向ける。だがその敵は怯むどころかある筈の掌の傷も無い状態で腕組みをしようと右手を下ろした。

 

「ワシの下に来た時よりも汚らしい犯罪に手を染めておる様だな? 貴様にはまっとうな道を薦めたはずだが」

 

 隊長は腕組みをしたままチラリと襲撃者を尻目に捉える。相手もまた構えた剣を下ろしては彼を尻目に捉える。襲撃者は2人から距離を測りながら横にすり足で動く。

 

「セヴェス様が後れを取るなど無いとは思ってたが」

 

 ゾルが口を開いた時、彼の右袖が袖口から肘まで割け、右肩は横の所から血しぶきが軽く吹いた。

 

「……手加減、ですかい?」

 

「頭を撫でる気でいたが、ワシも歳を負ったようだな」

 

 ゾルの一方的な殺気が襲う二人の会話に、他の面々がその目を白黒させている。ゾルの動きが見えていなかったのはとにかくとしても隊長が簡単に捉えて反撃の手を入れるその手も見えなかった様だ。

 

 ゾルの忌々しそうな愚痴に言葉を返す隊長の右腕が再び音を超えて動く。しかしそこに風を切る音は無く、空気の動きさえ捉えられない。その腕が彼を掴んで床へと投げるように叩きつける。その反動を察知して距離を取ろうとするが、それでもなお捉えて叩き付ける。

 

 魔力を行使しているのかとリアスと朱乃が目を凝らしているがそれも無駄に終わる。隊長は今、純粋に腕力だけでゾルを床に叩きつけているだけなのだ。相手が向かってくればそれを受け止め、相手が離れるなら手を伸ばしてつかみ取って叩きつける。相手の武器など知った事ではない。刃がその身に立たないのだから。

 

「……何てデタラメなんだよ」

 

「この身体はワシの研鑽の集大成にして意地の塊というもの。己の思う強さが此処までの器を欲したのだ、如何な愚か者とて鍛えれば鍛えただけの物を言わしめる」

 

 イッセーを守りながらもその拳を振るう初老の姿に少年は意外なものを感じたかのように動けずにいる。

 

「だが、ワシは獣を集めていたつもりだったが、奴のようなケダモノまで寄ってきた。それをしっかり目を向けなかったゆえの手抜かりが、甚だ不愉快ではあるな」

 

 隊長の独白が流れる中、リアスと朱乃は別の動きを見せ始める。だがそこに、地下から俺とトリー、木場と小猫が上がってきた。

 

「部長、いつの間に来たんですか?」

 

「ちょうど良かったわ。悪いんだけどレイナーレがあの子の一撃で遠くに吹き飛ばされたみたいなのよ」

 

 話しかけてくる木場に対して簡単に事を語るリアスだが、小猫がそれを遮って動き出した。

 

「分かりました。行ってきます」

 

「オッと俺も行くぜ」

 

 俺はその場で走り出した小猫に遅れまいと即座に走り出す。この程度の追跡などそう難しくは無い。堕天使の気配はすでに把握済みでその気配を辿るだけだからな。

 

 どうせ飛ばされたレイナーレの回収だ、ただ担いで運ぶなんてのは面白くないだろう。




小説のメモ帳

アガスティア

組織の理事の1人にして世界の記録と予知を司る星見の1人。能力は神に匹敵する程に凶悪な因果修正能力を持ち、その能力で小さいながらも災害を幾つも未然に防ぎきっている。


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第65話 一つの決着ともう一つの騒動

お久しぶりですm(__)m バグパイプです。

レイナーレの扱いでカケカケがやってくれました。
この伏線も前もって用意してました。
それではどうぞ。


 イッセーに飛ばされたレイナーレの回収と来たが、俺と小猫は特に苦労はしなかった。何しろ微弱ながらも気配を察知できるし周囲の林にはこの騒ぎのおかげで動物という動物が消えうせてるのだから。

 

「ふむ、あっちの方角だな」

 

「早く行きましょう」

 

 俺は気配を確認しながら進むが、小猫の方が足早に先行してくれる。まさか匂いでもたどってるのか? それとも熱源サーチとか?

 

こっちは微かな息継ぎの音を何とか聞きつけてるってのに。

 

 そうこうしながらも何とかレイナーレの所に辿り着く。距離にして約500メートルそこらか。

 

「……しぶといですね」

 

 身体を引くつかせながらも呻くレイナーレを足元に、小猫が目を細めて忌々しげに呟く。俺はそれを見て苦笑しか浮かべる事が出来なかったのは仕方ない話。

 

「得てしてこういった女はしぶといもんだ。さて俺は運びやすいようにするとしますかね」

 

 俺は懐から例によってロープを取り出し、『運びやすいように』レイナーレを縛り上げていく。ただ、そんな俺の行動を見つめる小猫の気配がどんどんおぞましさをにじませていくのを肌で感じながら。

 

「両手首と両足首をそれぞれまとめてから2本のロープで繋ぎましてと。そんで胴体の所を結わいてから2本のロープを胸元までもっていってそれぞれの縄で片方ずつを巻いてって首の横から後ろのロープに結び付けると」

 

 結構な所まで進めると、小猫から感じる強烈な闘争本能、暴風なんてのが生易しく聞こえるほど荒れ狂ってねえか?

 

 最後のロープを結び終え、レイナーレが運びやすい形になったの見た俺は、額の汗ぬぐって心からの笑みを浮かべた。あっと、猿轡も噛ませておかないと。

 

「うむ! 満足!」

 

 バカァーンッ!

 

 自画自賛する俺に小猫はもろ手を挙げて答えてくれた。その手は俺の顎をジャストミートするように。

 

 肩に担ぐより肩掛け鞄にしてやった恩を仇で返しやがるか! この小娘は!

 

 顎がガクガクする感じなのをこらえながらも睨んでやったが彼女はそっぽを向いて目を合わせようとしない。

 

「早くそれを持っていきましょう」

 

「分かったよ」

 

 俺は小猫の声に応えてレイナーレを手足をまとめているロープを握り、肩にかける。

 

「むひうっ!」

 

 見てくれは三日月形ポシェットを想像してもらえるとありがたいが、その実は縛られているレイナーレにとって気が気ではない極悪な緊縛術である。なぜ緊縛術なのかが理解できてしまうほどに。

 

 なお、懸架式緊縛術は緊縛術において全てが上級に位置する。なぜなら長時間の緊縛は被爆者の全てを著しく消耗させるため、その責任を縛った者が負わなければならない。当然緊急時に対応するためのナイフと鋏は必携で。

 

「ではすぐに行きましょう」

 

 小猫はそう言って歩き出す。まあ、レイナーレを担ぐのは俺でも問題……。

 

「良し行こう! 今すぐ行こう!」

 

「むむうっ!?」

 

 俺が賛同する声を上げると、それを聞いたレイナーレが目を剥いて呻きだす。これから楽しい楽しい地獄の行軍(デスマーチ)だ、悪路がお前の覚悟と身体とおっぱいを揺らしていくぞ。天国と地獄を往ったり来たりだ、スキップだって踏んじゃうぞ。



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第66話 3つの幹部バッジ

どうも、お久しぶりのバグパイプです。

今回は拠点から外野陣をお送りします。
何しろ今後にかかわるパートがあるもので(^^;

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。


SIDE 補佐官

 

 出動からもう2時間以上過ぎてる今、ボクの仕事は停滞の最中で紅茶も何倍飲んだか分からない。

 

 そんな所に向こうの世界から通信が入ってきた。

 

「どわはって、まだお前だけなのか?」

 

「あ、竜」

 

 モニターに映し出された相手を見て僕は呆ける。

 

「まだ残りの奴らは行の最中かよ、遅いとは言わねえけどよ、早くはならねえのか?」

 

「無理だよ。相手はドラゴンだよ?半日だって早すぎるぐらいだモン」

 

 竜の催促にボクは当然のように否定する。言うのもなんだけど、竜自身行を終えるのに2日もかかったんだよ?

 

「あっ、そうそう最短記録が更新されたよ。ミッテルトが半日で攻略したって」

 

 ボクが半日で攻略したミッテルトの事を話すと司令は信じられないと言いたげな表情でその場を離れた。

 

その入れ替わりで入ってきたのは副司令だった。ただ、お疲れモードが物凄く良く分かる動きをしてた。

 

「ふぅ、何とか終わった。補佐官、世知辛い母乳を20ガロン頼む」

 

 ドボッ!

 

 副指令の注文がその口から出てきた所でその背後から金づちが奇麗に彼の脳天をえぐりこむ。

 

「俺の女に何を注文してやがるんだよ、このクソが」

 

 さすが僕の旦那様、いざとなると凄く頼りになるよね。たとえ相手が身内でも容赦ない鉄拳制裁は確定事項なんだね。

 

「まったく、余計な仕事までさせられた俺にねぎらいの一つもないのかよ」

 

「余計な仕事?」

 

「隊長の注文でダークネスの幹部バッジを3つも用意させられたんだよ、シリアルナンバーは7から9で」

 

 副司令は肩を竦めて見せる。その頭に刺さったままの金づちを取ってくれないかな、怖いんだよ?

 

「そのまま持って行ったとはいえ、向こうで幹部を選ぶにしては数が余るんだが、果たして誰に渡すのやら」

 

「ゾルの件のドタバタで3人も増えたから、そっちじゃないかな?」

 

「そうなのか?」

 

 副司令は確か転送装置の修理にかかりきりであの3人組の話は聞いてないはず。でも僕を怒ってた時とか3人の治療後とかで見たとは思うんだけど。

 

「何か見覚えの無いのが居るのは気付いていたが、それが新人とは」

 

「おう、向こうの住人だろうからそのまま時渡の下に就ける予定だ。こっちの折衝もそこそこ進んだしな」

 

 首を傾げる副司令に対して司令は親指を立てて笑みを浮かべる。新発見の別次元に対しての調査が粗方済んだから本腰を入れた探査と本格的な活動拠点の設置計画が始まるのかな?

 

 新発見の次元に対する調査を本格化させるにはどうしても活動拠点となる基地が必要になる。また、その場所にある次元だけが未発見というだけでその近辺にも別次元が無いとは言い切れない。その為にも基地を新設して

探査へと任務を切り替えなければならなくなるわけだけど。

 

「人員はどうなんだ? 不足があるなら増援を出さないとマズいだろ」

 

「とりあえずもう1人、ベテランを増援に出す。それと事務要員が2人は出したいところだぁな」

 

「調査の件はそれでしばらくは何とかなるかも知れないが、人員不足は否めないな。現地雇用の方も考えるか」

 

 2人はそう言って人員増加の件を煮詰める。

 

「あとはダークネス側で出せねえか隊長に相談だ」

 

「ダークネスの人員は消耗品扱いだったな。服役中の凶悪犯だけに」

 

「規模としては3個小隊18人ほどか、結構面倒くさい話だな」

 

 人員確保計画に関して煮詰める2人だけど内容が内容だけに頭の痛い事になってるみたい。

 

 でも何とかしちゃうのが司令だし、過去にもしてみせたから心配はしてないよ?




(小説のメモ帳)

 ダークネスの幹部バッジ

 このバッジは所属部隊を現すものだがダークネスだけは幹部専用のバッジが存在する。また、このバッジを持つダークネス隊員は他のダークネス隊員たちより畏怖の念で羨望を浴びている。

 なお、このバッジを持つダークネスの隊員はシリアルナンバー0001から現状は0006までとなり、隊長は0000となる。また、シリアルナンバーは表からは見えないが組織に所属する者は誰がどのシリアルナンバーを持っているかを把握している。


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第67話 任務は他愛なく終わる

お久しぶりです、バグパイプです。

 ここ最近のWindows10が頻繁にアップデートを繰り返す為なのかTEXT
ソフトがめちゃくちゃにされてます。旧版で書いた文章が新版で文字化けする。
 そのくだりでストレスがマッハでかっとんでカケカケのギャグとデッドヒートを繰り広げて困ってます。

 ようやくレイナーレ事件も終わりが見えてきたのでカケカケ側もしっかりとした組織構成を構築しないといけないと画策しています。

 それではどうぞ。


 SIDE 時渡

 

そんなこんなでレイナーレを回収した俺と小猫は再び協会の中へと足を踏み入れた。

 

 えっ? 帰路の話はどこ行ったのかって? 例の青少年育成条例にタコ殴りにされてどこかに行っちまった。凄かったんだぞ、ビックビク跳ねるレイナーレの尻えくぼ! うっすらと浮かぶ桜色と小さな玉の汗!

 

 どんだけ凄かったのか細かい所はタコ殴りにされたせいで忘れちまった。スッゲエ悔しい。

 

 そして俺達はリアス達が待つ教会内へと戻ってきた。

 

「ちぃ~すっ、宅急便です」

 

「そんな顔の腫れた宅急便が来るなんて聞いてないわ」

 

 リアスの返答を聞いて俺の頭に既視感が芽生える。二度ある事だからサンドバッグ?

 

「部長、この変態を何とかしてください」

 

「オーケィ、小猫。すぐに始末するわ」

 

 ヒュッ! バシュン!

 

 俺は二人の会話から直感で危険を察知し、その場を横っ飛びに回避した。すると俺の居た所に妙な黒い靄のような球が投げ込まれてはその周辺が無残にもえぐれてやがる!

 

 ……なんか着弾点がえぐれるって何やらかしてんだよ。

 

「何てことしやがんだグレモリー! こっちにレイナーレが居るって……」

 

 文句の一つでも行ってやろうと口を開いた俺だが、肩から下げてるレイナーレを思い出して台詞を切り替えた。決してリアスが赤面してるからとかいうわけでは無いんだ。

 

「グレモリー! 注文の受け取り拒否してんじゃねえぞ!」

 

「そんな破廉恥なもの、注文してないわよ!」

 

「丁寧な梱包に迅速な配達は誠実なサービスだろうが!」

 

 ガコンッ!

 

「……ウチの馬鹿者がたわ言を吐いた事を済まんと思う」

 

 俺がレイナーレの事を喚いた瞬間、いつの間に背後に回ったのか隊長の一撃を受けて床に埋められてしまった。

 

「え、ええ、謝罪を受け取らせてもらうわ」

 

「それは幸いであるな」

 

 そう言って隊長は本来の目的であるゾルの始末へと動いた。俺達の任務に対して彼がすでに虫の息であったとしても、任務上成しえていなければ任務は完了しない。四肢の全てがあらぬ方向を向いていて、背骨が衝撃的な角度に曲がっていても任務を達成するためならば心を鬼にして無視しなければならない。

 

「さてと、ゾル、……残す言葉はあるか?」

 

 冷淡な声音を向ける隊長に対して満身創痍で戦う事も出来なそうな彼は、その中指を立てて反抗して見せる。

 

「……うっせえ、……くそったれ……」

 

「ならば、終えるが良い」

 

隊長はゾルの吐き捨てた言葉を受けてその右拳を大きく振り上げた。その拳は妙な事に蛍日を纏いだし、その光に妙な安堵感を覚えさせられた時、一気にゾルの頭に穿たれた。

 

「イグジステンツ・ヌゥエッ!」

 

 隊長の放った一撃がゾルを包みこんではある筈の物理効果、跳ね飛ばされぬままに吸い込まれていく。まるで光に溶け込んで混ざり合う様に。

 

 イグジステンス・ヌゥエ『存在・ゼロ』、ゼロの術式の一つで対象の存在、魂さえも消去する技であり魔法ではない。どういう理屈で発動しているのかは俺にもわからない。少なくても魔力がひと欠片も感じられない所は魔法や魔術の類では無い事はわかるんだけど。

 

「ポーラ、確認をせよ」

 

「あ、はい。……対象の完全消去を確認しました」

 

 隊長が振り返ってポーラに声を掛けるとすぐに彼女は探査の魔法を使って周囲を確認し、任務完遂を口にする。意外とあっけない様な感じだったな。




(小説のメモ帳)

セロの術式 

 子の術式は武術という枠に収まるどころか森羅万象にさえその影響を及ぼすと言われた近畿の武術であり、その発動原理さえも謎とされている。
 最大の特徴は口伝でのみ伝承されてきたというためか目撃証言以外の手掛かりが一切なく、術式を復活させた隊長ことセヴェス・ヘルメサイヤの功績は計り知れない。
 また、この術式の持つ熾烈な威力のせいか、七大地獄王も手出しが出来ず、消滅刑にするが強制労働による減刑という形に落とすしかなかったという。


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第68話 傷は深く痛みはつらく

新年,明けましておめでとうございます。バグパイプです。

ようやくレイナーレ編のめどが立ったのに隊長さんは爆弾を仕掛けてくれます。カケカケ、お前の明日はどっちに行くんだ?

それではお楽しみください。


「それで後はそこの痴れ者の始末か」

 

 隊長はそう言って無様に転がされているレイナーレに視線を向ける。彼女の格好はここに戻って来た時のまま、あの縛り方で縛られては転がされている。しかも動くとマズいのか身動き一つとれない有様で。

 

 そんな彼女の前にリアスが近づく、顔をそむけたままで。直視できねえかぁ、恥ずかしくて。

 

「ごきげんよう、レイナーレ」

 

「あ、アンタ……グレモリー家の」

 

「そんな事はどうでも良いわ。良くも私の可愛い下僕に酷い事をしてくれたわね。その罪を償う気はあるのかしら?」

 

 憤怒をにじませながらも気丈に相手を見下ろしている彼女に、レイナーレは自分の逃げ道を探して視線を巡らせる。悪党は誰でもああいう事をするらしい、一部の胆の座った連中を除いて。

 

 そこでレイナーレと俺の視線が交差した。

 

「ねっ、ねぇっ、アンタの組織ってば命を大事にしてるんじゃないの?」

 

 レイナーレが縋る様に俺に向かって言葉を捲し立てる。どうやらゾルあたりから組織の事を聞いていたのかも知れないが、その場での問いかけに対して口を開いたのは隊長だった。無論、隊長は悪の生き様に美学を求める求道者だから当然の反応を示した。

 

「時渡、このような者を子飼いにしておったのか? 貴様が子飼いにしておるヒヨコ共が泣いておるぞ?」

 

 ……そいつとあの三羽烏を同列にしないでやってくださいよ、隊長。アイツってば泣いてるんじゃねえ?

 

「隊長、そんな風に言っちゃダメですよ」

 

 おお、そうだポーラさん! もっと言ってやってくれ! ポーラさんのその台詞に俺ってば泣いちまいそうだぜ。

 

「時渡さんが女の人に対して乱暴な事をしてさらに子飼いにするようなロクデナシの変態……じゃないですよね?」

 

 ……世界中の俺、大号泣。

 

 俺では埒が明かないと判ったのかレイナーレは次へと視線を移す。その視線の先に捉えたのは、疲弊しきっているイッセーだった。

 

 マズい! 今のイッセーにレイナーレは……、

 

 ブウゥーッ!!

 

 ……目の毒だった。誰もあの縄を解いてないから胸なんかパッツンパッツンの、腰なんかくびれくびれのムチンムチンボディだもんな。思春期ど真ん中の奴にはたまんねえか?

 

「イッ、イッセー!」

 

 グレモリー眷属の面々が心配そうに声を掛けるがその中にリアスの声は無く、またレイナーレの声も無かった。ミッテルトを含む俺達の方はいざという時のために待機してる。

 

「い、イッセー君、あの時の言葉はそんなつもりは無かったのよ! それにあなたの事が好きなのよ!」

 

 先程とはうって変わって少女らしい声音で彼に訴えかける彼女だが、彼のその耳には届くどころかその声を聞かない様に顔をしかめていた。

 

 ……鼻血をボタボタと垂らしながら。

 

 そして口元を押さえながらイッセーが彼女に背を向けると、ボソリと一言を漏らした、「部長、もう限界です。頼みます」とだけ。

 その言葉で処理を請われたリアスはその手に魔力を集め始める。それを見たレイナーレは必死の形相でその場を逃げ出そうともがく。しかしその縛られた体は歩行に適さないその上で転がる事さえも無謀だった。

 

「ぐっ、この……」

 

 何とかしようとしているレイナーレに対して彼女の為に俺達組織の連中は腕を伸ばして応援してやる。どうせやる事なんてみんな同じだ。

 

 ……親指を下に向けた拳を突き出して。

 



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第69話 哀れなカラスの末路と大仕事

どうも、バグパイプです。

いよいよレイナーレ編も終わりが見えてきただけにギャグが増える増える。

そして隊長が一目置かれている理由も出ます。隊長はこれで組織のトップ陣を揺るがしてます。

それではどうぞ。


「そういえば、先程の礼がまだであったな小僧、ワシの名はセヴェス・ヘルメサイヤという。貴様の名を聞かせてはくれぬか?」

 

 隊長がイッセーに対して礼儀を尽くそうと名乗り、名を問いかける。彼はそれを聞いていつものノリで名を明かした。雰囲気を変えるにはお約束に近いものだがその効果はてきめんだった。

 

 レイナーレ? あっちで羽が数本舞っているのは見たけれどあとは知らん。

 

「ふむ、イッセーか。良い名だ。先程の気概の礼の前にこれを受け取るが良い」

 

 隊長はその貌に好々爺とした笑みを浮かべ懐の内ポケットから金色のバッジを取り出して彼に差し出す。そのバッジを見て俺は我が目を疑った。

 

「なっ! ダークネスの幹部バッジ!?」

 

 ダークネスの幹部にしか許されない特別なバッジでシリアルナンバーによって序列さえ決められているあのバッジが、なぜかイッセーの手に渡された。

 

「えっ、これを俺に?」

 

「なかなかの意地であった。そしてこれは無様な部下のしでかして事への詫びとして受け取って欲しい」

 

 手の中にあるバッジの価値が分からずに戸惑うイッセーに、今度はふがいない部下に代わっての詫びを口にする。

 

 そのふがいない部下って俺だよな絶対に。

 

 そう結論付ける俺の目の前でなぜか隊長が横たわったままのアーシアの所へと歩み寄る。

 

「この娘もこのような死に様では浮かばれぬというもの。無為な死に様に添えられる華などあるまい」

 

 隊長はそう言葉を漏らしながらアーシアの傍に立ち、正拳突きをするような構えを取り出した。

 

 だがそこに待ったの手がかかった。グレモリー陣営の主、リアスだ。

 

「待ってちょうだい! アーシアを復活させられるかもしれない手があるわ!」

 

「貴様の言う、かも知れぬ手立てに用など無い!」

 

 隊長はその待ったを一喝で退ける。……て、あれ? それじゃどうやって?

 

「た、隊長! それってまさか!」

 

 俺の横から不意にポーラさんが声を上げる。しかし彼はその声に耳を貸さず、静かに腰を落とし、構える。その構えは間違いなく拳の一撃を打ち込む構えだ。

 

「ヴァーアンスタァントン・ヌォエ!」

 

 隊長が構えた拳を咆哮と共に鋭く打ち出し、大気を震わせた。あの言葉はドイツ語で事象ゼロ、事象破壊を意味してたはずだ。という事はまさか……。

 

 老体の打ち出す拳とは思えない鋭さを秘めたその一撃は、周囲の光景をガラス細工のように別の物を写した世界に代わり、その光景を一気に破砕してしまった。

 

 その破片が粉雪のように降り、溶けるように消えていく。その先に見えるものは、目を白黒させながらも理解が利かずに呆けているアーシアの姿だった。しかもボロボロになっていた筈の下着どころかあの修道衣の姿で。

 

「……ぬぅ、久方ぶりゆえに加減を違えたか」

 

 加減って何だよ、隊長!

 

 隊長が自分の拳を見つめながらポツリとこぼした言葉に思わず内心で突っ込んでしまう。加減の違いでいろんなモンを無かった事にするなよ。せめて俺の失態を巻き込んで無かった事にしてくれ。




(小説のメモ帳)

事象ゼロ(ヴァーアンスタァントン・ヌォエ)

 ゼロの術式という、魔力や神気、体力などに依存しない特殊な呪術で、術式の掌握を必須とするがその術式自体が複雑怪奇であり難解を極める。

 だがその術式の深層さえも理解したものは、神の領域に至り、森羅万象はもとより時空さえも意のままに歪めるという。

 その術式の一つがこの「事象ゼロ」であり、過去に起きてしまった事象を無かった事にしてしまう迷惑にも程がある術式である。

 この術式のせいで副司令が司法庁勤務時代に死者の魂を運ぶ仕事に失敗し、始末書を書かされてしまったのはここだけの話。


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第70話 大団円と行くはずが

 どうも、お久しぶりです。バグパイプです。

 ようやく後始末へと動けるようになったカケカケ達ですが、前途は多難だと言っておきます。

 伏線は回収するものだと誰かが言っていた。そして新たな伏線を張る事を忘れてはならないと。




「……あの、どうしてここに皆さんが居るのですか?」

 アーシアは今の状況が把握できていないのか理解しようと口を開く。それに対してイッセーがその目に涙を浮かべながら抱きつきその腕の中に抱きしめる。その後ろでは肩の力が抜けたような表情でグレモリー眷属が集まっていく。

 

 そうか、とりあえずでも終わったんだな。

 

 ……そう思っていた時期が俺にありました。

 

「ではこうなった顛末とやらを、始末書に書いて提出してもらおうか? 時渡よ」

 

 ほえ?

 

「貴様は確かイッセー達の護衛という任務を受けて学園とかいう施設に向かった、と聞いておるのだが?」

 

 ……あっ。

 

「そしてそこの娘が死んでおった事の申し開きも聞かねばならんと見えるが?」

 

 ……おうっ、隊長から唐突に三段論法ならぬ三段蹴りが来やがった。しかも逃げ場なんてありゃしねえ!

 

 内心でオタオタしている俺に対して隊長が不意に態度を変えた。

 

「だが、貴様はダークネス所属ではないからな、追及は他の奴らに任せるとしよう。さし当ってはあの者共の事だが」

 

「現状やむなしと判断して拠点にて身なりを整えさせます」

 

 思いがけない変化球に戸惑いながらも俺がそう言うと、リアスから提案の声が上がった。

 

「それなら学園に拠ってちょうだい。部室に制服の予備があるわ」

 

「ならばそうしよう」

 

 彼女の言葉に頷いた隊長は何を考えたのか懐からペンダント加工をされた封印球を取り出し、その中から黒コートを取り出してはイッセーに投げ渡した。

 

「その娘に掛けてやれ」

 

「あっ、はい、ありがとうございます」

 

 イッセーは彼から受け取っては素直にそれをアーシアにかけてやる。そういえば彼女が落ち着くにはもう少し暖かい格好の方が良かったのかな、と俺がそれに気づいた時、小脇から何か突かれてる感触が来た。

 

 振り返った俺が見たのはいつだかの衣装とそれを作った張本人のトリーの姿だった。その手にある衣装の色はライトブラウンと白のツートンカラー。

 

 俺はその衣装の持ち主に視線を向けると、胸元を押さえて俯いている小猫の姿があった。

 

「これは、少し……」

 

「塔城、こいつを着とけ」

 

 俺は困っている小猫に対して持っていた衣装を投げ渡した。

 

 あのハムスターの着ぐるみを。

 

「あっ、ひゃひゃひゃひゃはひはひはっ!」

 

 俺は生涯、いや絶対に忘れる事が出来ないだろう物を見た。小猫の口が三角になり目が半目になったのを、ブツを受け取るその手がわなわなと震えるその様を!

 

 そして小猫の目が次の瞬間には殺意を漲らせ、ブツを放り捨てて俺に拳を振り上げたのを!

 

「ぎぃやぁああああああーっ!」

 

「天罰です」

 

 

 

 

 

「あっ、そういえばこれってどうやって脱ぐのさ」

 

 完全に放置されていたミッテルトが、自分の鎧を指差しながら俺達に問いかける。俺はそれを聞いてサクッと答えた。

 

「竜気を止めれば剥がれて消えるぞ」

 

「んな馬鹿な!」

 

 疑問に答える俺に疑惑の目を向ける彼女だが、同じ竜戦騎の言葉を疑う余地などあるわけが無い。

 

 俺の言葉に納得できたのかどうか疑わしいが、ミッテルトは眉を顰めながらも竜気を止めようと意識を集中させる。すると新緑のような色彩を放っていた彼女の鎧が透明になりながらポロポロと零れていく様に剥がれ落ちて行く。

 

 そして剥がれ落ちた鎧は床にぶつかった衝撃で粉砕され跡形も無くなってしまった。



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第71話 後始末は続くよ

 お久しぶりです、バグパイプです。

 戦いが終わったカケカケ達一行、日常へと戻るわけですがどう戻るんだろうか。また、アーシアはまだ人間のままでWす。誤解のない様に。

 それではどうぞ。


 竜鎧が剥がれ落ちた後のミッテルトの姿は、元のゴスロリ衣装そのままだった。それを見て俺とイッセーの2人が息を揃えて「くぅ~っ」と呻いた。

 

 いや俺は知ってたけどさ! 期待するじゃん! 竜鎧の装着シーンを知ってたらさ! あの下がマッパって!

 

 それに竜鎧のウエストアーマーを見たらスカートは穿いてないって解かるじゃんか! ミッテルトの服ってばワンピース型だからスカートを穿いてなけりゃあ上も着てねえ事になるよな!

 

 えっ? 下着の存在を忘れるな? しまったぁーっ!

 

 俺とイッセーは熟考の果てにたどり着いた結論の前に崩れ落ちた。そんな所を見ていたミッテルトが隊長に向かって一言漏らす。

 

「ウチの上司の変態ぶりがチョベリバな件」

 

「教師にあるまじき変態ぶりね」

 

 彼女の台詞にリアスが乗りかかる。

 

「流石にそこまでの行動は職員会議の議題になるんじゃないのかしらと」

 

 朱乃からの圧力が一番ひどい件。

 

 あまりのひどさに隊長に助けを求めようと視線を向けた時、彼の表情が何やら真剣身を帯びていて、うかつには声がかけづらい雰囲気をにじませていた。どうも何かを探っているような雰囲気さえある。

 

「……うむ、これはどうしたものか」

 

 隊長の視線の先にあるのは古ぼけたマリア像。その先には十字架が見えるが、何が隊長の気にかかっているのか全く分からない。

 

 傍に居るポーラさんも首を傾げている所からして彼女にも判っていない様だ。

 

 隊長は何かを理解したのか軽くうなずいてからその場を離れようとみんなに一声かける。

 

「ではここでの用が済んだのならば、さっさと引き上げるぞ」

 

「何かあったんですか? 隊長」

 

「それについては後にしろ」

 

 隊長は俺の問いかけには答えず退去を指示した。それから彼はなぜかアーシアへと近づいていく。彼女の方はというと目を閉じて手を組み合わせて静かにしている。

 

「娘よ、つまらん話を聞くのだが良いか? 答えにくければ答えんでも構わぬ」

 

「……えっと、何でしょうか?」

 

 アーシアは隊長の言葉に首を傾げる。

 

「敬虔な信徒の様だがその祈りは神とやらに届いたか?」

 

「……それは私には判りません。でもお祈りを止めるつもりもありません」

 

「その先に貴様の望まぬ試練しか無いとしてもか」

 

「そうする事しか主に感謝する方法を知りません。だからお祈りは止めません」

 

 隊長の問いに答えるアーシアの瞳には迷いが無く、愚直なほどの強い信念を感じさせる輝きが宿っている。それを見て彼は自分の懐に手を入れて、新たなバッジを一つ取り出した。そのバッジの裏には0008の刻印が穿たれたものを。

 

「命を落としてなお、神とやらへの祈りを止めぬその意地には閉口するが、それが貴様の意地ならば続けるが良い。そのための一助にこれを受け取るが良い」

 

 隊長はそう言ってアーシアの手にバッジを握らせる。こうしてアーシアもイッセーに続くダークネス幹部にスカウトされた様だ、騙される形で。

 

だが、彼女はそれを押し返そうと腕を伸ばす。

 

「こ、こんな高そうなもの、戴くわけには」

 

「構わん、これによって貴様にとっての己の意地を貫くための手助けとなるであろう」

 

「そうなんですか?」

 

「力は求めなければ身につかぬ、だが簡単には付かぬのも力というもの。貴様に必要となる力が見えてくることを期待する」

 

 隊長の説得にアーシアは何を感じ取ったのか手にしたバッジを胸元に抱きしめる。

 

「……これでイッセーに続いてアーシアまでダークネス幹部かよ」

 

 俺は目の前を通り過ぎていった幹部バッジに未練を感じて涙が止まらねえ。幹部候補の俺を飛び越えて新たな幹部が誕生しやがったよ、畜生。



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第72話 大団円は夢だった

どうもお疲れ様です、バグパイプです。

思ったより早く出来たので投稿です。

ドーナシークとカラワーナは次のお話で。

 それではどうぞ。


「ムッ、ワシとしたことが失態であったな。ワシの名はセヴェス・ヘルメサイヤという。そなたの名を聞いても良いか?」

 

「あっ、はい。私はアーシア・アルジェントって言います。よろしくお願いします」

 

 隊長の自己紹介にアーシアは赤面しながらも答える。怖がることは無いぞアーシア、隊長が怖いのは見た目だけだ、多分。

 

 バッジの事はとりあえずとして、夜も遅いという事でリアスの案内の元、駒王学園を経由して拠点に戻ってきた。

 

 無論、汚れた体のままのリアス達を隊長の封印球から出した黒のボンネットバスに乗せてきたわけだ。

 

 ……田舎の山奥でしか見なかったような黒塗りのボンネットバスなんて渋い趣味をしているなとは俺だけの感想だ。

 

そして部室のシャワーだけでは手狭だろうと組織側の配慮で拠点へとオカルト研究部一同をご招待した。

 

「なかなかのものね、住宅街にあるから手狭なものを想像していたのだけれど」

 

「そうかいそうかい、これでもそこそこ広くしたもんだけどな」

 

 俺は拠点に入ってきてはジロジロと周囲を眺めるリアスに対して皮肉めいた口調で応える。組織の拠点は支部長がその魔力を使って空間構築し、必要に応じて拡張してくのが基本だ。その辺りの仕込みは魔道具を敷地内に埋め込んで空間魔法の発動を補助している。お陰で部屋は作り放題だ。

 

 だがそんな余計な事をトリーが口にしてきた。

 

「その気になれば部屋なんていくらでも増やせるわよ」

 

 そんなトリーの軽口に反応したのが若干名。

 

「時渡さん、ここに部室を作りたいのだけれど」

 

「部室は学校の敷地内に作るモンだボケが!」

 

「グレモリー眷属の休憩室というのはどうでしょうか?」

 

「眷属が一人もいないのに休憩室かよ、寝ぼけんな!」

 

「娯楽室を作って欲しいのですが」

 

「組織の建てモンだ、娯楽室を作る気はねえ!」

 

 リアスに朱乃、小猫が要求してくるのを速射砲で撃ち落とす。まったく、イッセーとアーシアがまだ着任したわけじゃねえから作れるわけがねえってのに。

 

「ほれ、さっさと女性陣は風呂に行けよ。トリー、案内してやれよな」

 

「はいはぁ~い」

 

「いや、待て!」

 

 言った俺が言うのもなんだが行こうとするトリーを思わず止めた。ヤツはふたなりだったんだよ、忘れてたよ。

 

 気付いちまったんだよ、うら若き乙女たちにトリーのあのブツを見せていいモンか、と。女たちの風呂に浮かぶのはおっぱいの方が良いに決まってる、と。

 

「ミッテルト、お前が一緒に行ってやってくれ、頼む」

 

「う、うっす」

 

 湯船に浮かぶおっぱいの群れが脳裏をかすめるが、それを振り切ってミッテルトに頼んだ。多分血涙が流れてたかもしれねえ。

 



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第73話 大事の前の一休み

 お久しぶりです、バグパイプです。

 今回はようやく出番(?)の来たカラワーナとドーナ・シークの2人ですが、台詞がありません。

 ここでもまだ笑いの風が吹くカケカケ達ですが温かい目で見てやってください。
 それではどうぞ。


 一先ずオカ研の女性陣とポーラさんをミッテルトの案内でお風呂場へと押し込んだ俺は次にイッセーと木場、トリーと隊長を連れてリビングへと移動した

 

 移動したリビングには屍と化したドーナシークとカラワーナが、ソファに座ってお茶を飲んでいる補佐官の姿があった。

 

「あら、皆さん、お帰りなさい」

 

 愕然としている俺達に気づいたのか、にこやかに笑みを浮かべながら終えR達に顔を向けてくる。床に倒れている二人を無視して。

 

「え、えっと、2人は……?」

 

「大丈夫です。先程治癒魔法で完全回復しましたので」

 

「気絶してるのはどういう事っすか?」

 

「こっちの言う事を聞かずに出動しようとしていたので、お仕置きしました。大丈夫ですよ、神気過多で倒れているだけですから」

 

 状況が把握できない俺に補佐官は平然とした顔で事の次第を口にする。まあ、簡単に言って強い気に当てられて気絶したって所だそうだ。幸いというか何と言うか、堕天使だから神聖な力を突き付けられても命に別条はない。めまいや立ち眩みの同類版が彼らに起きたわけだ。

 

 周囲に目を向けると、イッセーと木場の顔色が少し悪い。残留神気に当てられたか?

 

「とりあえずもう少し中和してください。こっちの2人がキツイみたいなんで」

 

 俺がそう言って処理を頼むと、補佐官はすぐに右手を振って室内の気を魔素寄りに切り替える。この辺りの調整は凄いのに、料理の調整はてんでダメなのが不思議だ。

 

「んおっ、何か楽になった?」

 

「変だね、さっきまで辛かったのに」

 

 身体が急に楽になったことに対して不思議がる2人にたいして補佐官が謝罪の言葉を傾けた。

 

「ごめんなさいね。足元の二人が無理やりに出動するって言ってきかなかったから神気を使って止めてたのだけれど」

 

 気分が楽になったのか妙に不思議がる2人に対して補佐官が謝罪の言葉を口にする。元凶なんで一言言いたいが、お偉いさんなので言わずに置いている。

 

「とりあえず、お茶を飲んで一息ついてくださいね」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 補佐官がスッと急須からお茶らしい緑色のお湯を湯飲みに注いでは2人に差し出す。イッセーと木場はそれを受け取ろうと手を伸ばしながら礼を口にした。

 

 イッセーのその言葉で俺はふとした事に気づき、慌てて二人を制止した。俺の鼻が微かな香りを嗅ぎつけたせいもあるのかも知れないが。

 

「待てお前ら!」

 

「えっ? 何すか?」

 

「えっと?」

 

 疑問符を飛ばしながらも俺の言う通りに湯呑を取る手を止めた。戸惑いを露にしている時点でコイツ等、忘れてやがるあの時の惨劇を。

 

「いつぞやの、部室の大根」

 

「「!?」」

 

 俺の言葉に二人が言葉を失い、顔色を悪くしていく。その様はまるで試験前のイッセーそのまんまだろう。それを見て補佐官が何に気づいたのか、ニッコリと笑みを浮かべながら俺に問いかけてきた。

 

「それは、どの様な意味なのでしょうか? 時渡さん、お訊きしても?」

 

「い、いや、何て言うかかんていうか」

 

 ヤベェ! ロンギヌスの槍がこっちを向いてやがる!

 

 俺がしどろもどろになって言い訳を始めようとしたが巧い言い訳なんざ思いつかねえ。言い訳のアイデアどころか頭から出てくるのは冷や汗だけだ。

 

 だが背後から救いの拳が俺の後頭部に叩きこまれた。

 

「何をしておるのだ、貴様等は」

 

 その声に振り向くと、隊長が仏頂面で立っていた。その貌には普段のような雰囲気があからさまに漂っているが、分かる奴には解かる。背後霊のごとく浮かび上がっている半透明の仁王像二体が。

 

「下らん話は他所でやれ。取るに足らん話は語るで無い」

 

 隊長はそう言ってからテーブルに着き、おもむろに目の前の湯呑を……って、まさか!

 

 俺が目を剥いて驚いている間に隊長は手にした湯呑の中身を一口で飲み干してしまった。露骨にあっためてはいけない香りを放つ爽快系の緑茶を。

 

「……うむ、これはそう悪いものは無いが温めて飲む物の類ではないな。次からは氷を入れて冷やす事を勧めておくぞ?」

 

 ……最強を語る男は胃袋までも最強らしい。



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第74話 大事は高らかにあざ笑う

お久しぶりです。バグパイプです。

秋が急にやってきて驚いてますが、一先ず元気です。

さてカケカケ達が順番に風呂で汚れを落とすという事になりましたが、その前に一波乱が起きてます。

それではその続きからどうぞ。


 隊長の感想のおかげなのか俺に振ってきた拳骨の痛みを忘れちまった俺は、涼しい顔の彼に思わず問いかけてしまった。

 

「た、隊長? その、大丈夫なんすか?」

 

「構うな、些末な事よ」

 

「些末って、だってメロン味っすよ? そのお茶」

 

 俺の言葉にイッセーと木場とトリーが我が目を疑うように目を見開いていた。しかしその微かな香りを否定できる者が居ない。

 

 そして目の前に居る隊長の脅威に勝てる者も居ない。

 

「なら一献付き合うが良い」

 

「ゲッ!」

 

 隊長の誘いと書いて強迫と読む。って現実逃避してる場合じゃねえ! 何とか逃げないとマズい!

 

 思わずイッセー達に視線を向けて、奴らは未成年って一献と言っても酒じゃねえよ! ただのお茶って、ただのお茶じゃ無かったよ!

 

 俺がワタワタと狼狽えているところに、オカ研の女性陣とミッテルトとポーラさんがやってきた。

 

「ふう、シャワーを使わせてもらったわよ? 時間が時間だからって急いで済ませたのだけれど」

 

「……あの大きな乾燥機は反則です」

 

 リアスの言葉に続いて文句を並べる小猫。彼女たちの姿は一様にバスローブ姿である。替えの服とかが面倒な時の応急処置として脱衣所には大型の洗濯乾燥機と様々なサイズのバスローブを用意してある。ちなみにそれらは組織の備品扱いとなっている。

 

 そして今、風呂上がりのリアスがテーブルの上の湯呑に目を向けた。1つは隊長が空けたものの、もう1つは手つかずのままであった。

 

「あら、湯上りの飲み物なんて気が利いているわね」

 

 目ざとく飲み物を見つけたリアスに、俺達はあっと声を上げるのが精いっぱいで止める手も伸ばせられない。そして手にした彼女は湯呑に口を着けた次の瞬間、俺に毒霧攻撃を浴びせてきやがった。

 

「プゥッ!」

 

「ぐあっ!」

 

「なによこれ! 酷い味だわ」

 

「だからって俺に攻撃してんじゃねえよ!」

 

 毒霧攻撃なんざしやがって! 反則取ってやろうか?

 

 だが、そんな俺達を他所に隊長たちは粛々と動いてた。

 

「イッセー達男共は風呂に行け。ワシは時渡を引きずって行く」

 

「仕方ないから後にするわよ」

 

 トリーは学生陣に先を譲り、まだ待つ事を決めたようだ。正直な話、組織側の連絡はトリーが居なくても俺と他の幹部が居れば問題は無い。最低でも支部長権限持ちの俺と補佐官と隊長の三人が居れば本件の詳細まで報告し、必要事項の全てを余す事無く決断できる訳だ。

 

 まあ向こう側、本部で誰が出てくるかが問題になるだけだけどな。良くて司令、悪くても幹部級の誰かが出るのは間違いないけど。

 

 そんでとりあえず男性陣は入浴となる。洗濯物はどうなんだって? ウチの拠点には将来を見据えて大きな洗濯機と乾燥機のセットを丸々5セットも用意してますが何か? 広さを無視するな? ウチは空間魔法で内部調整できる拠点ですが何か?



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第75話 風呂上がりの反省猿

お久しぶりです、バグパイプです。

カケカケ達男性陣が風呂から戻って何をしでかすのか。

ろくでもない事ですが、それではどうぞ。


「ふぃ~いっ、上がったぜ~っ」

 

 リビングに戻った俺はそう言ってどっかりとソファに腰を下ろす。入浴シーンはどこだって? 男の入浴シーンに何を求めてる?

 

「……あの風呂のデカさは何なんだよ」

 

「イッセー君、もう色々と諦めようよ」

 

 あの風呂場の広さに呆れながら突っ込もうとするイッセーを木場が諦めさせる。まぁ、一戸建ての家の中で銭湯なみの広い風呂場を見たら誰でも卒倒するよな。壁に富士山を描いてるし、洗面器は銭湯御用達のあの黄色い洗面器だ。

 

 ただし手は抜かない。風呂の椅子に足拭きマットまで例の黄色いヤツで統一だ。石鹸箱まで欠かしはしない。惜しむらくはシャンプーボトルが例のヤツで揃えられなかった事だ。本部にも問い合わせたが製造元が製造していないとの返答だった。

 

 本部に作れと言ったら説教2時間コースを食らった。もちろん製作自体却下で。

 

 そこまで思い出した俺は、ふと自分の片手落ちに気づき、思わず膝をついてしまった。

 

「くうぅーっ!」

 

「えっ!? な、何っ?」

 

「……コーヒー牛乳……」

 

 崩れ落ちた俺に周囲が戸惑う中、俺は気付いてしまった。周りの喧騒に気づかなくなるぐらいの失態に。そう、風呂上がりのコーヒー牛乳、それもビン牛乳を忘れていたという失態に。

 

 風呂上がりの火照った体が求める水分に、良く冷えたコーヒー牛乳を流し込むことで得られるあの冷たいのど越し、腰に手を当てて胸を張って呷る事で感じる確かな爽快感。

 

 これぞ湯上り! なのに!

 

「……そこの馬鹿者に構うで無いぞ」

 

 隊長の冷たい一言で俺は終わった。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

 リビングで俺達が出るのを待っていたトリーが腰を上げて風呂場へと向かう。

 

 それを見た隊長が俺と補佐官に目配せをしてきた。俺はそれに頷いたが、補佐官が少し迷う様に視線を泳がせている。

 

「どうしたのだ?」

 

「……あの子達の事はどうするの? 協力者と言っても組織の外の子達なのでしょう?」

 

 不思議がる隊長に対して補佐官は腕組みをする様に頬杖を突きながら答える。確かに通信関係を現地の者達に見せて良いのかという話か。確かに考えてしまう話だよな。拠点に入れたとしてもそこまでの譲歩をして良いのかと。

 

「構わん。ここに入れた事自体が特例なのだ。どうすれば入れるというのだ?」

 

「そ、そうだったわね」

 

 隊長の返答に対して補佐官は失念していたと漏らす。俺には何がそうなのかが良く分からない。まあ、俺に解かるのはリアス達は関係者であっても部外者だという事だな。

 

「そこまで気になるのならば聞くのも良かろう」

 

 隊長はそう言って親指でモニターを指差す。誰に訊くのかは言わずとも知れたものだけど。

 

 オカ研連中はミッテルトが出したジュースで一息ついている。風呂上がりの水分補給は大事という事で補佐官の指示で出していたらしい。自重してもらえて嬉しいです。

 

 ふと気づくと隊長の視線が俺に向いてた。

 

「時渡、奴等に組織の事をどこまで聞かせたのだ?」

 

「あ、はい、知られても障りないだろう表層部分だけですが。実力関係はすべて濁してます」

 

 俺が隊長の質問に対して無難な返答をすると相手は肩を下ろす。もっともどんな事を言ってもデタラメ過ぎて信じてもらえなかったという話なんだけど。

 

「であろうな。そこの小娘が余計な事をせなんだら、問題とならぬものを」

 

 隊長の視線は間違いなくミッテルトを睨んでいる。何でも『やらかした』らしい事は教えてくれたんだけど、詳細は聞けてない。おそらく最終調整の後で何かをしでかしたとしか考えられない。何しろ最終調整を終えない限り竜戦騎の本来の実力が出せないし実力を支えられるほどの強度も無い。竜鎧を維持するために竜気を結構持っていかれるためにスタミナ切れも早い。ないない尽くしで戦えないのだ。

 

 なのに最終調整が終わるとすぐに戦えるのが俺には解せない。



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第76話 人事異動の馬鹿者達

変な多忙のおかげで連投の、バグパイプです。

ようやく本部と交信する事にしたカケカケですが、新たな騒ぎが待ってました。

それでは、どうぞ。


 何だかんだとひと悶着したものの、やむなく本部と通信を繋ぐことになった。オカ研連中の目の前で。

 

「貴方たちの上司が出るのかしらね」

 

「腰を抜かしても知らねえぞ」

 

 気持ち期待感を寄せているリアスを尻目に俺は忠告を入れてから通信機の電源を入れる。そしてモニターに指令の姿が映し出された瞬間、例の高笑いが巻き起こった。

 

『どわはははははっ! 時渡! お前のおね……』

 

 ブチッ

 

「時渡、奴にはワシからも制裁を入れておく」

 

 隊長はこの光景に思う所があったのか、鉄拳制裁を約束してくれた。ぜひそうして下さい、あのアムトラックを正面から撃ち抜いた最強の右拳で!

 

 俺は隊長に感謝しつつ、改めて電源を入れる。

 

『どわはははぁ~ん!』

 

 今度の司令は高笑いの最中に膝から崩れ落ちて画面から消えた。そのすぐ後ろには副司令が立っている。

 

「すまないな時渡、緊急事態の為に無駄な時間を置くことが出来ないんだが構わないか?」

 

「あっ、助かります」

 

 俺は副司令が応対してくれることに感謝し、事の次第を進める事にした。

 

「今現在で、こちら側ではお前達の件で問題が発生している。そこを踏まえて早急に人事異動の話があるのと、そこの三人を含めてお前達の着任式をしなければならないという話がある」

 

 副司令が話を簡単に説明すると、隊長が変更点を口にしてきた。

 

「それだけではなくここの二人も頼む。ダークネスの幹部候補だ」

 

「……アレがソレか、分かった。その件も含めて話を進めておく。それで人事異動の件だが時渡、お前はシーカーからダークネスに原隊復帰、並びに異世界への本格的な調査のために設置される異世界支部の支部長に任命する」

 

 少しばかり苦々しい表情を見せた副司令が、次に発した言葉は俺の人事異動だった。それも昇進という形の。

 

「……へ?」

 

「お偉方の満場一致でそれが決定した。着任式の日取りも決まっているから関係者は全員参加してもらう」

 

 俺の戸惑いを無視していろんなモンが決められているらしく彼は淡々と語って行く。

 

「それでトリーの件だが、お前は隊長達と共に戻ってこい」

 

「へっ? トリーのヤツなら風呂……」

 

「ええ~っ!」

 

 この場に居ないはずの奴が声を上げる。だが副司令はその声に耳を貸さない。

 

「この命令は天界のお偉方の指示だ。お前の存在自体がこの件に引っかかったんだ、一度戻してやり過ごさないとシーカーにすら居られなくなるぞ」

 

「ディザブルお願い、しないでプリーズ」

 

「それはできない相談だ」

 

 トリーの懇願を一切切り捨てた彼に対してトリーは、何故か俺に視線を向けては不意に動き出す。そしてその手で実力行使に出やがった。

 

 ……むぎゅ……。

 

「やい副指令! カケカケの息子さんズを預かった、返してほしくば……」

 

「いらん」

 

 俺のタマタマを棒ごと握りながら脅迫を始めたトリーに対して副司令は話を遮ってバッサリと切り捨てる。

 

「時渡を玉無しにするつもりか?」

 

「じゃあ、間を取って半玉セール」

 

 半玉セールって何だよおい! 俺の人権! ……って、俺悪魔だったよ!



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第77話 事の次第はトントン拍子

お久しぶりです、バグパイプです。

こちらの事情で遅くなりましたが投稿しました。

それではどうぞ。


 俺を盾にして脅迫するトリーだったが、副指令相手では荷が勝ち過ぎたようで話になってなかった。

 

「お前は重要な事を忘れているからそんな脅迫をしたようだが、時渡を人質にした時点でお前の負けは決まっていたぞ?」

 

 副司令の指摘にトリーは首を傾げるが、言葉の続きを聞かされて己の失態に気づかされた。

 

「そっちに補佐官が居るんだ、竜戦騎の時渡が生きていれば首だけになってもいくらでも再生可能だ」

 

「あっ……」

 

「それにお前が殺害でもすれば天界の警察機構が喜んでお前の捕縛にやってきて、先祖返り擁護派がここぞとばかりに監禁するだろ? 一生檻の中でも不思議はないぞ」

 

 ……そんな恐ろしい結果が待ってるなんて思ってなかったのかトリーは青ざめた表情で狼狽え始める。殺害までは考えていなかったとしてもヘタうちゃ警察が出てきて逮捕されるよな。しかも当人は先祖返りの特殊な例だから、待ってましたと先祖返りを囲い込む算段を立ててやってくるか。

 

「分かったらさっさと開放して後々の話を詰めさせろ。こっちは後々の予定が支えているんだよ。これ以上迷惑かけるな」

 

「仕事が支えているってどういう事なのかしら?」

 

「お前には関係ない話だ。そこの金髪の少女」

 

 話題変更の際に不意に声を上げたリアスを遮って副司令は少女に視線を向ける。

 

「アーシア・アルジェントさん、だったかな?」

 

「あっ、はい、アーシアって言います」

 

「ウチの部下が不甲斐ないばかりに辛い思いをさせてしまった事を詫びさせてほしい。申し訳なかった」

 

 副司令はそう言ってアーシアに頭を下げる。その際に頭頂部がハゲ始めてたのはここだけの笑い話。

 

「いっ、いえ、そんな」

 

「ウム、すまなく思うからというわけでは無いが、ダークネスにスカウトしたのだが」

 

「なるほど、ダークネスならそちらの世界でも庇護下におけるし、万が一の際にもフォローが届くか」

 

 隊長と副司令の間で何か密約めいた話が通じたらしく、互いに納得していた。

 

「それに、不幸になる原因は己の力不足も少なからずある。ダークネス特有の社会に揉まれて強くなるのが手っ取り早いか」

 

「うむ、不幸を撥ね退けるだけの力を持たねば生涯不幸のままとなる。よしんば庇護下に置かれたとしてもそれはそれ、憐みの付きまとう無礼しか無い」

 

 二人の会話を聞いて俺は思わず、ダークネスの女性幹部の高笑いが悪寒と共に背筋を駆け抜けた。ちなみに女性幹部の1人は女詐欺師で伯爵家を巨額の収賄罪で滅亡させ、侯爵家2つをありもしない反逆罪で断絶させた。もう1人の女性は戦場を渡り歩いた女傭兵で、いくつかの国で戦犯者として指名手配されていた。

 

 もっともダークネスは元犯罪集団、服役囚の集まりだからごもっともな話だけど、ダークネスの良心はポーラさんだけなんだよな。

 

「ダークネスだからと特別にするのは難しいが、それなりに便宜は図るから安心してほしい」

 

 副司令がアーシアに対して話をまとめると彼女の顔に安堵の笑みがこぼれる。一先ずアーシアの件はこれで大丈夫なのかもしれない。

 

「それでは次にそこのやんちゃな少年、兵頭一誠だったかな?」

 

「あっ、はい、イッセーって呼んでください」

 

「ふむ、ではイッセー、君が時渡の最初の接触者とみなしているわけだが、その際に救助の手が間に合わずに亡くなった事は済まないと思う。君もまた隊長のスカウトを受けてダークネスに参入したと見るが、構わないかな?」

 

「あ、はい。そうなります」

 

「なるほど。一先ず、君とアーシアは未成年の上に学生というだけにダークネスでは幹部候補という形で所属。現状では特別な指示が無い場合は待機状態で日常を過ごす形になる。給料その他については書類にまとめておく。後日になるが二人にはそれぞれ渡る様に手配する。なお、先程の合意で君たちはダークネスの隊員となった事を隊長と自分である副司令が認める。基本的な動きはこちらの命令が無い限りは束縛する事は無い。ただし組織の名を貶める行為に関して何らかの沙汰が下る事は頭の片隅に置いておくように」

 

 副司令はそう言って一区切りをつけると俺に視線を向けてきた。

 

「でないとそこの時渡のように、延々と恥を晒し歩くようになるぞ」

 

 ひでぇ、ひでぇよ副指令。



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第78話 夜明けは遠くなりけり

どうもお疲れ様です。バグパイプです。

一方的な副司令に対してリアスが逆襲できる目はあるか、気になる所ですね。

それではどうぞ。


 ひどい口を叩かれた俺を他所に副司令は話をまとめ始める。

 

「とりあえずの所は以上か。ひとまず明日にでも細かい話が出来る様にこちらでも詰めていく。イッセーとアーシア、それとドーナシークにカラワーナとミッテルトは待機任務に入ってもらう。時渡も待機任務にて連絡待ち。隊長とポラリス、補佐官とトリーの4名は今日明日中に本部に帰還するように」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 副司令が話をまとめた所でリアスが声を荒げる。それを見た彼はやれやれとばかりに彼女に視線を向けた。

 

「んっ? ……ああ、そうか。君に話すべき事が有ったか」

 

「そうよ! この私を……」

 

 今更思い出したかのように呟く副司令に対してリアスは眉根を寄せながら忌々し気に言葉を吐き出すのだが、それを彼に止められてしまった。

 

「我々と対話が出来るだけの権限を持っているのか? もしそうなら所属機関と役職名を述べてもらいたい。まさかそこら辺の小娘が海外を越えて異世界の代表権限を貸与されている我々と対話が出来るとでも思っていたのか?」

 

「えっ?」

 

「もし仮に貴族様とかいう肩書を持ちだされても、国際法で許されているかどうかすら怪しいので遠慮願いたい」

 

 副司令は呆気に取られている彼女に対して有無を言わせぬままに言いたい放題を並べていく。

 

「なら……」

 

「イッセーとアーシア達の件なら現地に居るスカウト権限を持つ隊長や時渡が勧誘し、2人はそれを受けた。自分はそれを組織の責任者として最終確認しただけに過ぎない。グレーゾーンの範疇だな」

 

 副司令は彼女の反論を即座に見抜き、そのまま言葉でねじ伏せる。現地人の雇用などよくある話だ。会社としても企業としても多くの人材を派遣するよりは少数を派遣して現地人を雇用する方が会社を大きくしやすい。人材育成が課題になるがその辺りは同時進行で進めるだけなのだから。

 

 そんな副司令のあんまりな台詞にリアスが膝を着く。言い負かされるとは思ってなかったのだろう、不憫な。ほんのちょっと考えれば詐欺の手口と分かる話だが小娘程度ではまだまだか。隊長と副司令は胡散臭そうな目で副司令を見ているぐらいだからな。

 

「話はそれで以上か? そろそろ小娘どもを家に帰さねば明日に障るやもしれん。時渡にトリー、素奴等をワシの車で送ってこい」

 

「了解です」

 

 完全に話し合いが終わったと見て隊長が俺達を名指しで命令する。俺は特に反対する理由が無いので素直に受け取る。

 

 何か忘れてる気がしないでもないんだけどな?

 

 

 

 

 

 この俺時渡が隊長のボンネットバスを転がしてリアス達を送り出したところで司令と副司令、補佐官にポーラさんにあの三羽烏による裏の会議が始まった。

 

「それで隊長、テメェの口から報告が聞きてぇ」

 

「司令に話すほどでもあるまい。次元衛星で盗み見ておったの知れておる」

 

 司令の問いかけに隊長が彼を一瞥し、憎まれ口を叩く。この抗論自体は初期からのもので未だに続いている。

 

「現場の生の声ってのは大事だと思うぜ?」

 

 そういえば、いつの間に指令は復活したのだろうか。その場に居ないから答えは聞けない。

 

「敢えて言うのであれば、廃教会でガラクタを見た。それが全てだが?」

 

 彼の言葉に副司令は頷き問題が何なのかを理解した様子を見せる。こう言うのもなんだが、この現代では敬虔な信徒による神秘の体現というものが厳しくなっている。その理由は杳として知れないのだが。彼らは理解している様に見える。司令は彼の言葉を聞いて溜息を吐くとその目を細めて彼を睨みつける。

 

「……そうか、そいつは参ったな。こっちのヤツでそこのフォローが利けば手土産になるかもしれねぇが、そうも行かねえだろ」

 

「次元が異なればシステムの形も異なるだろうし、問題はソフトやサードパーティが流用可能かどうかだ。こればかりはどうにかしてやれればとは思っているが」

 

 副司令はシステムという何かに対して何らかの懸念を口にする。プログラム言語については人間界限定だが互換は効く。だが悪魔の居る世界や天使の居る世界に関しては調査が手付かずのままだ。

 

 だがこの時点で彼らが重大な事を背景に議論しているのを知る者はドーナシーク達3人の中には居なかった。




(小説のメモ帳)

異世界間外交特権、この権限を貸与されて初めて外交使節官として活動できるようになる権限。組織は幹部連中全員がその権限を受けているし、貸与しているお方もただならぬ方々である。自分たちの世界を貶める事をすればいかに些細な事でも即座に死罪と断ぜられるという怖い権限でもある。


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第79話 真実を語る口は閉ざされて

どうも、バグパイプです。

今回は、意外とドーナシークに出番を当ててみました。

それではどうぞ。


 司令と副司令、隊長の議論の中、ドーナシークが挙手した。

 

「すまんがシステムとはどういったものなのか、説明してほしいのだが」

 

「そいつは無理だ。すでにかん口令が敷かれているし、俺達が話し合えるのも知ってるお仲間ってだけだ」

 

「なっ!?」

 

 ドーナシークは司令の放った忠告に絶句し、目を白黒させる。

 

「悪いが事はお前らどころか、人間全体を含む天使連中全体の大問題だ。お前らが知らない以上はお前らの昔のお偉いさんがひた隠しにしてたって事だ。俺達だってうかつには言えねえ話だ」

 

 司令はそう言ってドーナシークの疑問を遮る。だが彼の方では今の情報だけで何かに辿り着こうとしているらしく、顔を伏せてしまった。

 

 それを察した副司令が彼の口を閉ざすように促した。彼を見るその瞳はなぜか鋭く仄暗い。

 

「ドーナシーク、悪いが気付いても口にはしないように。出来るなら俺達は君を失いたくない。大事な仲間だからな」

 

「……ふむ、承知した。なら私の考えは合っているのかね?」

 

 ドーナシークは副司令の言葉を理解したのか素直に納得し、事の次第を確認してきた。その事に対して彼は少しだけ考える素振りを見せると仕方ないとばかりに事を明かした。

 

「君の思考はグレーゾーンを語っているがそこまでなら、イエスだ」

 

「その先は……かん口令か」

 

「そうだ」

 

 ドーナシークの追及に対して副司令はわきまえろとばかりに鋭く答える。かん口令を破るわけにはいかないからここが潮時だ、と分からせるためかもしれない。

 

「ならば推論は真実に届いた。私とて伊達に堕天使では無いのだよ」

 

「なら黙れ。俺も伊達や酔狂で死神職だった訳じゃ無い……」

 

 二人は互いにそう言って睨み合い、相手をけん制する。だがドーナシークには悪いが相手が悪すぎた。ドーナシークとてそれなりに実力者ではあるだろうが潜った修羅場は明らかに副司令が格段に上だ。

 

 僅かな睨み合いの時間をおいて、何らかの異変に気付いたのか隊長が迷惑そうに口を開いた。

 

「副司令、そこまでにしておけ」

 

「……かはっ! なっ、何が起きた!?」

 

「魂を掴まれたのだ、分かっておるか?」

 

 自分の身に何が起きたと戸惑う彼に隊長が簡潔に諭す。その言葉を聞いて3人の顔に驚愕の色が浮かんだ。ドーナシークに至っては自分の胸板を慌てて擦っている程だ。

 

「バカな! 画面越しでこのような!」

 

「そっ、そーだよ! いくらなんでも!」

 

 ドーナシークが狼狽え、ミッテルトが吠えても隊長は顔色一つ変えない。何しろどこの世界に画面越しに命どころか魂さえ掌で弄ぶ、能力の逸脱者が存在するなど誰にも判らない。出来るはずのない事……その筈なのだ。だがその逸脱した能力の先駆者は全てを承知の上かその瞳を閉じる。

 

「莫迦……な、か。誰もがそう思うのであろうな。だがヤツはその不可能を成す『絶望を粉砕する暴力』、神々共が一目置く程には恐れられておる」

 

 隊長はそう語っては口元を歪める。その笑みとも思えないものに3人は身震いを覚え、血の気の引く思いに駆られる。

 

「それで副司令、この任は以上であるか?」

 

「報告が以上なら解任するよ。感謝する」

 

「フン、言葉だけは聞いておこう」

 

 隊長は労を労う副司令に対して傲慢不遜な態度で言葉を返す。だが彼はその事には何も言わず、ミッテルトに顔を向け、怖気立つ様な何かを隠した硬い笑みを浮かべた。

 

「では次に、ミッテルトはオシオキの時間だったね」

 

「……へっ?」



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第80話 心残りを抱えて夜明けが近づく

お疲れ様です、バグパイプです。

ミッテルトへのオシオキなんですがワンクッションがどうしても出てしまったので次回へと持ち越しで、すみません。

 それではどうぞ。


第80話 心残りを抱えて夜明けが近づく

 

 話題がドーナシークからミッテルトへと移そうと副司令が顔を向けた時、彼の横から別の声が上がった。

 

「ちょいと済まねえが、問題がある」

 

 その声の主はなぜか片膝を押さえている。もっともあの膝カックンだけで気絶などありえないから先程復帰するまでは何らかの追撃で沈んでいたのだろう。

 

 司令はおもむろに補佐官に視線を向け、心配そうな表情で言伝を口にした。

 

「補佐官、済まねえが時渡が帰ってきたら伝言を頼む。内容はイッセーが意外とマズイ。メンタルケアを配慮してくれ、ってな」

 

「具体的にはどういったものを……?」

 

「スケベ小僧にはスケベが大事なんじゃねえのか?」

 

 補佐官の目の前で司令がとんでもない暴言を並べてくれる。

 

 ……明日からエッチィのが何割増しに出来るか、計算しても良いですか? 出来るならウッキウキでソロバンを弾いちゃうよ?

 

 だが、そんな事を補佐官が絶対に許さない。あのポンコツぶりでも天使だから絶対に許さない。

 

「……もう一度、言って戴けますでしょうか?」

 

 見とれてしまうほどの優しい笑みをその貌に浮かべながら、補佐官は画面越しの司令に対して優しく確認を取る。その身体からこれでもかと言わんばかりの金色のオーラを彼に向けて叩き付けながら。

 

 だが隊長がそこに割り込み、話を片付けてしまった。

 

「司令、時渡にはワシからも話がある。ワシに任せるが良い」

 

「……お、おおぅ……、た、頼むぜ……」

 

 隊長の言葉に指令はこの件を彼に任せると、再び画面の下へと消えていく。あの攻撃が向こうに届くのかよ、おっかねえな。

 

「隊長?」

 

「急くで無い。どうせなら向こうで締め上げるべきではないか? ヤツが殺せるやもしれぬ」

 

 どこか不満げに隊長を見ていた補佐官が、彼の言葉一つでポンッ、と柏手を打つ。

 

 そしてようやく訪れる、ミッテルトへの対処。彼女の行動も次元衛星の方から観測されているためか、司令達にはリアルタイムで確認済みなのだそうだ。

 

「そういう事でミッテルト、分かっているね?」

 

「ちょっち、わ、わかんないかなぁ~っ」

 

「なら竜気を回してみろ」

 

 副司令の意外な指示にミッテルトは訝し気になりながらも自分の身体に竜騎を流す。その瞬間、彼女の身体にとんでもない激痛が爆発した。

 

「声も出ないだろうな。竜気が竜撃砲の一撃で乱れてるからな。俺もやった事のある事だから気付けたが」

 

「……なら、やらせんじゃねえぇ……」

 

「オシオキの一環だからな。補佐官、細かい所はそっちに任せるが、粗々やっておくぞ?」

 

 痛みに呻くミッテルトを無視して副司令と補佐官で彼女の治療の話が進んでいく。

 

 竜撃砲の反動、簡単に症状を説明すると、竜撃砲を撃つ際に起こる振動が肉体の方ではなく、気やオーラの流れの方に出てしまうもので、普通はある程度体を鍛えて耐性を付けるから、このように治療を必要とすることは稀である。

 

 ちなみに治療方法は意外と酷い。絵面が酷い。



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第81話 俺は何を見せられているんだ

お疲れ様です、バグパイプです。

あらあら組んでいたのでとにかく投稿します。気になっている方々もいらっしゃるようなので。

それではどうぞ<(__)>


 グレモリー眷属を隊長のボンネットバスで帰りの送迎を果たし、拠点へと戻った俺とトリーは、リビングの惨状に開いた口が塞がらず、向けた目も反らせないでいた。

 

 め、目の前で起きている事を、あ、ありのままに言うぜ。

 

 ただいまと帰ってきた俺達を迎えた光景は、カラワーナとドーナ・シークがソファに座ったまま動けずにいて、隊長と補佐官が苦虫を噛み潰している様な表情を浮かべているんだ。でもみんな一様にあるものから顔を背けているんだよ。

 

 そしてその視線の向けられていない中心、テーブルの上には下着姿のミッテルトが膝立ちからの土下座姿勢でショーツを少し摺り下ろしている。簡単にはお尻丸出しながらも大事な所は隠れているという、どういう事情があったのか問い詰めたくなる体勢だ。

 

 だが良い脇パイがあるぞ、言い値で買えるか?

 

 そこまで観察して俺はふとした事を思い出した。俺の横にはトリーが居た事を。ケツを見たらどう動くか分からない奴を!

 

 だがその予想に反してトリーは平然としたまま動かない。

 

「へっ? トリー?」

 

「カケカケ、お尻はね……前立腺をイジめる以外は締まりが命なのよ!」

 

「俺に力説すんじゃねえ!」

 

 俺は言い様の無い事をほざくトリーに一言怒鳴った時、真後ろに怖気立つ気配を感じて慌てて振り向いた。そこに立っていたのは優しい笑みを湛えたままどす黒いオーラを放つ補佐官の姿だった。

 

「トリーさん、少しヨロシイデスカ?」

 

「は、ハイ……」

 

 補佐官の声掛けに彼女は即座に顔面蒼白になりながら返事をして連行されていく。

 

 そんな光景を他所に、テーブルの上のミッテルトとは別に、テーブルの横でペコペコと土下座を繰り返す半透明な人影が一つ。

 

「毎回思うが仙骨から竜気を流して調整する方が早いのはどういう事なんだろうか」

 

「ゴメンナサイゴメンナサイ、ゴメンナサイゴメンナサイ」

 

「ふっ、副司令にミッテルトぉ!」

 

 モニターの向こうでは副司令が小難しい顔で左手の指をチョイチョイと動かして何かをしている。そしてさっきの半透明はミッテルトが土下座をしているものだった。もしかして幽霊?

 

「アタシが悪かったからもうやめてくださいオネガイデスカラ」

 

「悪いが俺の思っていた以上に竜脈の損傷が激しいからしっかりと治しておかないとマズいんだ。諦めてくれ」

 

「だからってこのポーズは地獄ッス、あんまりッス」

 

「しっかりと治さないと後々後遺症で動かなくなる部分が出るぞ?」

 

「あの何とかヒールってヤツでチョチョイじゃねえのかよぉ~っ」

 

「残念だが肉体ではなく心霊的な損耗だから治癒魔法の類は効かないんだ」

 

「こっちに居る補佐官でも出来なくないんすか!?」

 

「残念だが彼女では繊細な部分にまでは治療を施せない。諦める事だな」

 

「でもでもおケツ丸出しはあんまりっすよぉ~っ」

 

「なら勝手をした事を反省する事だ、馬鹿者が」

 

 ミッテルトの申し立てを副司令が切り捨てながら治療しているのか、凄い絵面になっている。



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第82話 遅れて来た栄誉

どうもお久しぶりです、バグパイプです。

ようやくカケカケもそれなりに評価される時が来ました。もちろん副司令の治療も進行中です。

それではどうぞ。


 俺は今も治療中のミッテルトとその施術士副司令を放置することにした。そして俺は一先ず預かっていた車にキーを隊長に返す事にした。

 

「隊長、車のカギです」

 

「うむ、奴等を送ってきたようだな」

 

 俺の手からカギを受け取りながら隊長が頷く。

 

「さて時渡よ、此度の任務、中断となったが良く果たした。異世界と言う過酷な調査任務を果たした功績を認め、正式に渡しておこう。受け取るが良い」

 

 隊長はイッセー達の時の様に真剣な眼差しを俺に向けながら懐からバッジを取り出し、俺に差し出してきた。そのバッジに刻まれているシリアルナンバー0009、現在最下位の幹部になるが間違いなくダークネスの幹部の証だった。

 

「正式には後日の式典を待つ事になるが、構わんな?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一度は消えた憧れのダークネスの幹部、手にしたバッジが重く感じる。受け取る手が震えてしょうがない。

 

 犯罪者連中にとって隊長の息が掛かっていると判る幹部の座は一種のステータスとして知られている。簡単に言えば一目置かれる存在になったことを意味するのだ。何しろ隊長は生きた伝説、数少ない重犯罪者だ、敵に回すなど危険すぎて生きていけなくなる。また幹部さえも揃いも揃って危険人物扱いされている。男の幹部の一人は片手間で百人を殴り殺した、他の幹部も国家転覆を何回も繰り広げた知能犯だという。犯罪歴一つとってもその危険性が窺い知れるというヤバい連中だ。しかしそれが犯罪者連中に一目置かれている理由であり、身の安全と尊敬されることが大っぴらに保障される事になる。

 

 だが、隊長は感激している俺の間隙を縫って不意打ちを入れてきた。

 

「式典ののちに歓迎会と称した余興の場を設けた。余程の事が無ければ幹部全員が首を揃える故に、楽しみにせよ」

 

「……へっ?」

 

 隊長の言葉に俺は思わず固まってしまう。脳裏をよぎるダークネスでの日々、あのキラウェアばりの活火山へのふざけた軽装ハイキング、新鮮なマグロを求めて海賊船の縄張りへと手漕ぎボートで遠洋漁業。対聖属性の獲得のためにとあの『子供用』のビニールプールに聖油(点火付きで)を満たしてはその中に突き落とされたり。全部幹部連中の仕業だ、生きてることが素晴らしいと実感させられた出来事の数々だ。人間では死亡確定だから真似をしてはいけない。

 

 ポーラさんが幹部入りするまで続いていたからポーラさんが神に見えるんだよ。彼女が居なかったら今も続いていただろうなと。あの幹部連中を抑えられるポーラさんも凄いモンだと思うんだけど。

 

 い、いや良い方向に考えるんだ。憧れた幹部入り、しかも支部長になった上にトリーとは別行動、ケツを心配しないで済む安心の日常、代えがたい幸せな日々じゃねえか!ライフリ……じゃなくてライフフリーなんだぁ!

 

「それと時渡、司令からの伝言だ。『イッセーの奴が意外とマズイ、メンタルケアを頼む』と言っておった。注意せよ。奴はアレでも組織の司令だ、バカには出来ん」

 

 ……やっぱり、司令でも解っちまうか。

 

 画面越しの司令が放ったという指示に俺は思わず右目を細める。しかし副司令が指摘しねえってのは……。

 

『良いではないか、良いではないか』

 

「あ~れぇ~」

 

 こっちで忙しいからか、ってお前らナニやってるんだよ!



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第83話 夜が明けて目も覚めて

 どうも、お久しぶりです、バグパイプです。

副司令とミッテルトはあの後を致せるのかどうか、展開にも巻きを入れないとマズいし……。

 それではどうぞ。


 あれから夜が明けて早朝、俺達異世界組は仮眠のような短時間睡眠を経て朝食を口にする。

 

 あの後どうなったのかって? 簡単にざっくりと言うと、『青少年保護育成条例』ってしつこい?

 

 冗談はさておき、本当にあの後補佐官の怒突き回しと書いて指摘と読むで一気に仕事が動き、式典については今度の日曜日に行う事になり、関係者各位は当日に本部へと移動することになった。

 

 副司令とミッテルトの件に関して、天使としてはあの『えっちらおっちら』は大変宜しくないというわけで処されてしまわれたわけです、ハイ。

 

 なお、隊長と補佐官、トリーとポーラさんは朝食前に本部に戻った。その際のトリーの眼に浮かんだ禍々しい光に俺の背筋が怖気立ったのはここだけの話。

 

 ……ヤツは何を企んだ?

 

 

 

 

 そして学業を終えて放課後、俺と3人組はグレモリー眷属の居る旧校舎のオカ研部室にお邪魔している。

 

「……そう、昨夜でそれだけの進展があったのね」

 

 リアスは俺の報告を聞いてこめかみを抑えて呻く。すると話を横で聞いていたイッセーから声が上がった。

 

「ってことは、その式典ってのに俺とアーシアは出なきゃマズいんすよね?」

 

「ああ、司令直々のお達しだからな。欠席は出来ねえぞ?」

 

「でも服とかはどうしたら」

 

「必要な服は向こうで揃える。私服も問題なら向こうで用立ててくれるぜ?」

 

 アーシアの不安げな貌に対して俺は率直に答える。制服自体向こうで集うする事になってるんだ、私服の一つや二つ、オマケでやってくれるさ。何しろアチラさんには本職のファッションデザイナーが居るし、細かい金具を作り上げる彫金師もいる。

 

 ……蚊帳の外に放り出したリアスの気持ちまで察してくれるかどうか分からないけどな。

 

「今度の日曜ですか、仕事が無ければ問題は無いですね」

 

 木場は独り言のように自分の予定を確認し、多分大丈夫だと伝えてくる。小猫や朱乃も同様なのか多くは語らない。

 

 そこで口を出してきたのは、グレモリー眷属の主ことリアスであった。

 

「ところで、その式典とかいうものに、部外者は立ち入れないのかしら?」

 

「そいつは遠慮してほしい所だけどな、お前さんらの席はあるぜ? 本部の連中がお呼び立てなんだよ」

 

 俺はそう言って明け方に届いた招待状のデータを人数分出力して封入した封筒をテーブルの上に置いて見せる。リアスはそれの一つを手に取り、検める。招待状としては問題の無い形式の物だから問題は無いはずだ。

 

「着て行くものに困ったら制服で構わないとさ、司令の配慮だよ」

 

「その事については感謝するわ」

 

 リアスは司令の配慮に感謝の言葉を漏らすが、そこで引っ込む俺じゃない。俺は確かにお前に渡した服があると。

 

「どうせならグレモリー眷属の主だか王らしく、『タイラント』で行こうぜ!」

 

 ズパァンッ!

 

 懐の封印球から、前に製作した衣装を手にした途端に俺はハリセンの一撃をこの口で受け止めさせられた。

 

「あ、あんなハレンチな衣装で行けるわけないでしょう!?」

 

 リアスは顔を真っ赤に染め上げながら烈火のごとく大声で拒絶した。主の威厳ばっちりだと思うんだけどな、真紅のレザーのボンデージ。アレならどこに出しても恥ずかしくない女王様だぜ。上が前開きベストでバッチリ開いてるけどな。

 

 この時、意外な奴が意外な言葉を口にした。

 

「あらあら、その様な格好でも宜しいのですか?」

 

 あれ? 朱乃? お前止めないの?

 

 俺の気持ちとは裏腹に、彼女の貌は喜色をはらんでいて妙な印象を感じる。お前まさか、いやレザーファッションは朱乃様に用意したものは無かったよな? あれ、まさか『トラ・ロープ』で行っちゃうの? 




(小説のメモ帳)

 組織の式典

 組織では大きな節目となる事が起きた際、事の当事者たち及び上層部が式典を行う事になっている。その際には来賓として名代を含む神界と天界及び魔界の代表が集まり、司会は副司令が執り行う事となっている。
 ただし内容が全て厳粛な中で行われるものだとは決められていない。


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第84話 オカ研御一行をご招待

どうも、バグパイプです。

二つ目の投稿になります。さてはてカケカケ一行は次元門をくぐって組織の本部へとやってきました。そんなわけで新たな出会いが訪れます。

 それではどうぞ。


 あれからどうして何として、という事で時間が過ぎて式典当日の日曜になり、俺達とリアス達は無事に合流を果たす事が出来た。合流場所にオカ研部室を指定したのが良かったな。

 

「まあ、ウチの連中の事だ色々とあるもんだからいう事で」

 

 そして俺達は今、次元門を潜り抜けて組織の本部にある、講堂横の控室の一つに来ている。ちなみにイッセーとアーシア、例の堕天使三人組は別室にてお着換えの最中だ。

 

「こんな所に来て何をするつもりなのかしら?」

 

 リアスが開口一番に胡散臭そうな目で俺達をにらむ。まあ、説明らしい説明も無しに連れて来たからこの反応はごもっともで。逃げられると困るから拉致するように連れて来たわけだし。しかのその後、イッセーとアーシアは別室待機という事で引き離されてしまったから不満も募るというもの。

 

 俺自身本当は待機組なのだが、リアス達への対応にとこうして待機解除となっている。その代わり俺の私服な黒服とダークネスの制服である黒コートを着させられているわけだが。

 

 ちなみに黒コート以外は自由と指定されている為、裸サスペンダーと黒のホットパンツにサイハイブーツと黒コートという強者も居る。男だとは言わない、そいつはワイセツ物陳列罪で捕まったヤツだし。露出狂というだけでは重犯罪者には成れないからどんな余罪を持っているのか知らない。

 

「まぁ、何かの式典があるって事は分かってるけどな」

 

 俺は皮肉めいた口ぶりでそう言うと不意にドアが開けられ、そこから例の三人組が入ってきた。

 

「控室はここか」

 

「結構広いじゃない」

 

「お~っ、しゃれてんねえ!」

 

 3人組は控室の意外な広さに気を良くして少しながらも浮かれた様子を見せる。ここでそんなに浮かれていると講堂に入った途端に言葉を失うぞ?

 

 そんな光景を見てると続いて入り口からおずおずとためらいがちにアーシアが入ってきた。

 

「あ、あのぅ、控室はここでよろしかったのですか?」

 

「おう、ここだ。入ってくれ」

 

「あっ、ここで良かったんすね」

 

 アーシアを招き入れたらイッセーもついてきた。

 

 これで式典に必要な人員はそろったと思うんだけど、そういえばトリーの人事はどうなったのやら。少なくても本部に引き上げという形しか聞いてないから配置転換は無いと思うんだけど。

 

「そういやぁさぁ、廊下で何人かとすれ違ったんだけど、みんな人の好さげな感じだったよ? ウチらを変な目で見ないし」

 

「変な目で見るも何も、そんな事をしたらアレが出る」

 

 ミッテルトの言葉に俺はあの存在を匂わせる。あの赤毛の悪魔を。

 

 その時、この部屋のドアを開けて入ってきたのは、赤毛の悪魔どころの話じゃない連中だった。

 

「おう!っ、昇進祝いに駆けつけてやったぜ!」

 

「少しは静かに出来ないのですか、リバーサル」

 

 右手を挙げて入ってきたリバーサルと呼ばれた角刈り男に金髪の奇麗な優男が彼を咎める。

 

「いいじゃんかよ、バゼルザーク。部下の祝いの席だぜ?」

 

「原隊復帰と同時なのだから、部下も無いでしょう?」

 

「マクレノリスの言う通りさね。新たな幹部を歓迎してやるのが筋じゃ無いのかい?」

 

 年齢不詳の美魔女とその隣の大柄な筋肉女性が二人をたしなめる。美魔女の方は間違いなくミスコンを総なめにしそうな美貌を湛え、筋肉女性は頭に二本の角が生えている。

 

 2人ほど足りないが、ダークネスの幹部のお越しだ。




(小説のメモ帳)

〇バゼルザーク・アイスマン

 デュラハン族の某国防衛大臣にして国家転覆罪の元重罪者。神魔大戦での功績によって恩赦が認められ、今ではマクレノリスを妻にダークネス幹部を続けている隊長の右腕。『冷酷の衝撃』とは彼の二つ名であり、魔界全土とセヴェスと共に震え上がらせた男。

〇リバーサル・ジョシュア

 奈落という司法庁の一つに所属していた賞金稼ぎ。だがセヴェスに会ってからは人が変わったようにあ悪事に手を伸ばしている。バゼルザークとは兄弟分として弟の立ち位置で従っている。



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第85話 幹部達から洗礼

お久しぶりです、バグパイプです。
ダークネスの先輩幹部が現れて時渡達はどうなる事やら。

それではどうぞ。


「ガキ共はキッチリ拉致ってきやがったかぁ!」

 

「何言ってんすかリバーサル先輩!」

 

 俺は角刈り頭の口の悪いダークネス幹部の一人とにらみ合いを始める。ちなみにこの先輩は元司法庁所属の賞金稼ぎで『奈落の包丁職人』と聞けば犯罪者は誰もが震えあがる捕獲達成率の高い男だった。

 

 隊長の熱弁に絆されて道を踏み外したというと聞こえが良さそうなモンだけど、賞金稼ぎが賞金首になったのは笑えない話だ。

 

 そんな睨み合いの俺達をやんわりとバゼルザーク先輩が止めに来た。

 

「リバーサル、悪いがその程度に。今回の主役を最初からボロボロにしては式典に支障が出る」

 

「アアンッ!? いや、そうだったぜ、俺が悪かったよ」

 

「聞いてくれて何よりだ」

 

 彼はそう言ってリバーサルを制止すると俺に向かって不穏な一言を放ってきた。かくいうこの男も隊長の熱弁によって道を外し、ある国の防衛大臣という椅子を蹴り飛ばして隊長の右腕に収まった男なのだ。犯罪国家ジャクラウスの元宰相、『冷酷の衝撃』の貫禄はいまだに健在で。

 

「後ほどの余興、楽しみにさせて貰うぞ? 事務仕事で鈍っている者達が居るのでね」

 

 ……やる気、いや殺る気満々でやんの。

 

 俺が呆れている所に、今度は筋肉女があの3人組を見据えていた。

 

「……ちったぁ、やりそうな腕っぷしだねぇ、期待はさせてもらうよ。アタイの名はジャベリン・トマホークってんだ」

 

「お手やらかに頼む」

 

 筋肉女性、ジャベリンと3人組の代表としてドーナ・シークが握手を交わす。その時、革ジャンの皮がこすれるような音が聞こえてきた。見れば二人の顔には凄みの利いた笑みが浮かんでいる。この女は俺達3人が幹部入りするまでは幹部の末席に甘んじていた女傭兵で、ツルハシを武器に渡り歩いた戦場は数知れずという異色の戦闘スタイルの持ち主である。なお、戦場では自軍をことごとく勝利に導いた事より『破滅の道標』と呼ばれて恐れられている。

 

「良いねえ、この手ごたえ、簡単にはくたばんねえよな?」

 

「これほどの筋力か、出来るだけ歯向かって見せようでは無いか」

 

 あちらは仲がよろしいようで。同じ仲が良いでもあっちとは大違いだ。

 

 俺の視線の先には今しがた来たのだろうポーラさんとアーシアが再会を喜び合ってはしゃぐ姿があった。

 

「お久しぶりですぅ~っ」

 

「お久しぶりです、アーシアさん。お元気そうで何よりです」

 

「はい、今日はよろしくお願いしますね」

 

「はい、こちらこそ」

 

 ウンウン、アーシアとポーラさんのツーショットは絵になるねえ。両手を握り合っちゃって飛び跳ねそうな勢いだ。こうしてみてると姉妹の様にしか見えなくなるんだよな、同じ金髪同士だから。

 

 ここにきて俺は足りない幹部の姿が見たくなり、バゼルザーク先輩に話しかけた。ダークネスの全幹部を把握しているのはこの先輩だけだから。

 

「バゼルザーク先輩、あの、残りの1人はどこに居るんすか?」

 

「ザクトベリガなら会場設置のスタッフとともに設営に従事している。隊長が指揮を執っているから逃げ様も無いだろう」

 

 彼からの返答を聞いて俺はすぐに理解した。また悪乗りをやらかしたんだ、と。ダークネス幹部で悪ふざけをする奴となるとなぜかザクトベリガただ1人となる。何しろ性格が司令にそっくりなんだこれが。唯一の救いがスケベ根性に走らない所ぐらいで。

 

「じゃあ、先輩たちが来たって事は」

 

「そろそろ会場入りしても構わないだろうと呼びに来た」



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第86話 式典はつつがなく

どうも、今日の二回目のバグパイプです。

会場が用意できたようでこれから会場に踏み込む時渡達には何が待ち受けているのか。

それではどうぞ。


 幹部に言われて行動へと足を踏み入れた俺達を迎えたのは、壇上にある華々しい花瓶の花と青紫の緞帳、そこそこの数のパイプ椅子そして舞台の反対側にある、どうやって用意したのかさっぱり分からない採石場だった。特撮物のお約束の戦場で知れたヤツ。

 

 この行動の不可思議さに言葉も無いグレモリー御一行であった。顔も引きつってることだし。

 

「それで時渡達ダークネスの面々は舞台手前の左、こちらから見て右手に席があるからそこに座ってもらう。席順としては舞台側から時渡、イッセーにアーシアと三人組となる」

 

 バゼルザークによって俺達は組織側の連中は席に座らされる。一方のリアス達来客はそこから少し離れた所に席が用意され、そこに座る事になった。バゼルザーク達ダークネス幹部は彼女達の後ろの席に座るらしい。

 

「まあ、式典と言っても大した時間も無いだろう。表向きの理由付けと言ったところなのでな」

 

「ところでバゼルザークさん、こういう事をする辺り、規模としてはどうなのかしら?」

 

「ノーコメントだ」

 

 リアスはなぜか組織に対する追及を口にするが、バゼルザークが答えるわけが無い。ちゃんと返答するだけマシかもしれない。あのジャベリンだったら即座に鼻で嘲笑うだけだもんな。

 

 そして俺達が入ってきた入り口から続々と関係者が入ってきてはそれぞれ決まった席へと座る。無論司令や副司令、隊長達の姿もあるし、見覚えの無い来賓らしい方々の姿もある。

 

 そしてトリーも姿を現し、副司令が舞台傍の式台に立ち、式典が始まった。

 

「只今より『特殊部隊レッドベレー、異世界支部創立』式典を執り行う。なお、部隊右側に居られる各界代表には日頃よりの感謝の意を申し上げ、ご挨拶を省略させていただきます」

 

 お偉方かよ! っていうかそんな方々に挨拶もさせねえのか! 普通なら挨拶を賜るモンだろ!

 

 俺達とグレモリー陣営は卒倒したものの、何だかんだと式次第とかいうやつに則って俺達が舞台に上がっては辞令交付を受けたり、司令の手でイッセー達に隊員の証である赤いベレー帽をかぶせて貰ったりしたわけだが。

 

「次、トリー・コロール隊員」

 

 副司令からトリーが呼ばれ、アイツが壇上に上がる。そして辞令が読み上げられた時、俺達の度肝を抜いた。

 

「トリー・コロール殿、貴君に対し諸般の事情によりシーカー所属からダークネスへの派遣の異動を命じる。。なお、創設する異世界支部との連絡員としての任を帯びるものとする」

 

 何ですとぉーっ!

 

 あの野郎、やりやがった! シーカーの椅子を蹴ってでも俺に付きまとう方法をもぎ取りやがった!

 

俺のショックを知らぬ素振りでアイツは辞令を受け取る。それも晴れやかに。あの時泣き喚いていたのが嘘くさく感じるほどに。

 

 トリーが壇上から降りたところで壇上に残っている司令から声が上がった。

 

「今、新たに隊員となった者達に告げる。そのベレー帽は我らが組織が、例え血に塗れ絶望の大地に立つ事になっても、救うべきもの達の為に持てる力を揮う事を明かしたものである! 願わくば救うべき命を全て救う事が出来る事を祈る、以上だ」

 

 司令が言葉を終えた時、そこにあったのは拍手という音の津波では無く、一糸乱れぬ敬礼という敬意の姿だった。

 

 俺としては前にも聞いたけど、やはり重い一言だ。



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第87話 やがて場は余興に流れる

お久しぶりです、バグパイプです。

異世界支部の設立に着任式も終えた彼らに、これから何が始まるのでしょうか?

それではどうぞ。


 挨拶を終えた司令が壇上から降りて舞台袖に消えると、そこでは補佐官が待っていた。

 

「お疲れ様です、司令」

 

 司令はその声に「まぁな」と返すと目を細める。

 

「あの餓鬼どもにどこまで響いたか分からねえ。フォローに行かねえとマズそうだ」

 

「ダークネスの幹部達に任せても良いのではないですか?」

 

「ボケッ! アッチの幹部連中は軒並み余興に行くんだ、イッセーとアーシアのフォローはどうすんだ? 肝心の副司令は余興で使う結界の方に全力をむけるとかほざいてるしよぉ。頼りのバゼルザークとマクレノリスはどっちも余興に行きやがるし」

 

「隊長とポーラちゃんに任せて大丈夫ですよ」

 

 司令の心配事に対して助っ人として2人に任せようと補佐官が提言する。確かに面倒見の良い2人なら問題は無いだろう。だがダークネス幹部のバゼルザークとマクレノリスの方が元詐欺師だけに得意分野なのだからどうにもやりきれない。

 

 

 

 舞台から降りた司令を確認した副司令が次の式次第へと移る事を口にした。

 

「それではこれより、会食及び余興を始めさせていただきたいと思います」

 

 会食? 余興?

 

 俺は副司令の言葉に首を傾げていると、後ろから俺の腕を引っ張る誰かの腕を感じた。力こぶが2つ、いや3つも感じるだと!?

 

「おっし、行くぜぃ」

 

 振り返った先に見えた顔はジャベリン先輩だった。力こぶで知れた上腕二頭筋と肘の近くにある太い前腕の筋肉と、まさかの大胸筋が俺を包んで離さねえ。

 

 これが筋肉の三角地帯(マッスル・トライアングル)かよ! 全然動かねえぞ! しかもおっぱいがある筈なのに硬くて動けやしねえ!

 

「手加減も要らねえってのは大盤振舞だよなぁ?」

 

「なんですと!?」

 

 余興がある事しか隊長から聞いてねえよ!

 

 俺はジャベリン先輩が嬉々として吐いたセリフを聞き、逃げないと死ぬと察知してジタバタもがいた。

 

「微笑ましい光景じゃない」

 

「仲が良くてうらやましいですわ」

 

 リアスに朱乃! ボケてないで助けろ!

 

 俺が目配せでリアス達に助けを求めたら、小猫が冷静な目で親指を下に向けてきた、『地獄に落ちろ』と。

 

「てめぇ! 俺に恨みでもあんのかよ!」

 

「……恨みしかありません」

 

「俺がどんだけ菓子を持って行ってやったと思ってんだ!」

 

「ハムスターの着ぐるみが台無しにしました」

 

「ウサちゃんの着ぐるみの方が良かったのか!」

 

 ビュンッ!

 

 俺の言葉を合図代わりにパイプ椅子が俺に投げ込まれた。動けねえから取れねえ、と思ってたらジャベリン先輩が片手で受け止めてしまった。

 

「あぶねえな。こっちが先約なんだぜ? まけとけよな」

 

「……恨みはこっちが先約です」

 

「ソイツも込みでヤッてやっからよぉ」

 

「……お願いします」

 

「『お願いします』じゃねえよ!」

 

 小猫は相手の言葉を理解して頭を下げる。そんな彼女に俺は怒鳴りつけた。

 

 一瞬で手のひら返しやがって! マジでボコされちまうじゃねえかよ、俺が!

 

 そして俺は首を締め上げられたまま地獄への道を拉致られていく。



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第88話 ダークネス幹部としての能力

お疲れ様です、バグパイプです。

さて余興が始まろうと、いやカケカケの公開処刑か?

もちろん忘れてはいけないイベントがありまして、そこの消化分です。

それではどうぞ。


 俺はジャベリンの胸に抱かれたまま採石場の光景へと運ばれようとしていたと言えば聞こえは良いが、その実筋肉ゴリゴリの大女に拉致られているというのが正しい構図だ。

 

 だがそこに呼び読める声が俺達に届いた。

 

「待てジャベリン! 時渡を今暫しワシに渡せ」

 

「ハッ!」

 

 隊長の待ったの声にジャベリン先輩が即座に反応し、俺を放してその場に片膝を着く。そんな俺達の所に辿り着いた彼はそのまま俺の頭を無造作にわし掴みにした。

 

「はえ?」

 

「では行くぞ」

 

「へっ? 行く? 行くって?」

 

 理解の利かない俺に対して隊長は問答無用とばかりに俺の頭を掴む手に意識を集中させた。

 

「ぬぅんっ!」

 

 ギリィィィィッ!

 

「あぎぃやあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 あっ、頭が! 頭が!

 

 俺の頭が割れるかと思った次の瞬間、俺の頭の中に膨大な量の何かが押し込まれてきた。まるで口の中に大量の食い物を詰め込まれたような感じだ。しかし苦しいとか何か嫌なものは一切感じない。押し込まれた物が何なのか、僅かながらも不思議と理解できた気がする。

 

「これで良い。ジャベリン、連れて行け」

 

「ハッ!」

 

 用事が済んだのか、隊長が俺の頭から手を放してジャベリン先輩に後を任せる。呆気に取られている俺は再び地獄への道程を引きずられて行った。

 

「……何なんだよ、あれ」

 

「気にするでない。すぐに貴様等にも施す」

 

 イッセーが呆気に取られている所に、騒動の主の隊長が到着した。その後ろからは目を丸くしながらも駆け寄ろうと走る司令の姿があった。

 

「へ? 施す?」

 

「何を……ですか?」

 

 イッセーとアーシアの2人は揃って首を傾げるが、そこをそのまま、2人の頭を先程の俺の様に掴んで意識を集中させた。

 

「ぬぅんっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 2人が悲鳴を上げて頭を抱えた時、そこに司令が到着した。その光景を見て何を察したのか、彼は肩を落とし、隊長に確認する。

 

「……もうやったのか」

 

「ダークネスの幹部として必要な能力なのでな、早く施すに越した事は無い」

 

 司令の呟きに隊長が当然と答えるとその場に居るトリーと3人組に向かってヤツの後を追いかけろと口にする。その声を聞いて呆気に取られていた面々もすぐに我に返って俺を追いかけ始めた。

 

 だがこの時、アーシアとイッセーの呟いた言葉が何を物語るのかは誰一人として気づけなかった。司令の方はドーナシーク達の背中を見送っていて、隊長は自分の手の感触を確かめていたためだろう。

 

「……すっごく大きな木が……見えましたぁ……」

 

「……お、オッパイ……」



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第89話 ダークネス幹部との戦いに備えろ

お久しぶりです、バグパイプです。

さて、カケカケは地獄への道を引きずられて採石場へと行きつくわけですが、果たしてどうなるのか。

 それではどうぞ。


 イッセーとアーシアが呻いている頃、俺達は採石場へと放り込まれ、後から来た副司令によって防護結界が張られてしまった。コレデオレタチデラレナイ。

 

 しかも採石場の奥には4人の人影が見える。言うのも酷いが新米竜戦騎3人と中堅前の竜戦騎2人対魔王クラスの実力者5人。勝ち目ください、持ってる勝ち目だけじゃ勝てないの。

 

 

 

「……などとほざきながら戦いには備えるであろうな」

 

「何故か見てきた様に言うのね」

 

 隊長が修羅場前の俺達を推測していると横からリアスが呆れた口調を漏らす。

 

「それで2人は大丈夫なのかしら?」

 

「それは問題ない。過去に数人に施したが後遺症も何も無い。ただ幹部として必要な知識を与えただけの事だ」

 

 隊長は彼女の心配を素知らぬ顔で事情を説明する。そもそもダークネスは凶悪犯罪者の集団であり一般人は少ない。だがそんな中で幹部を務めるとなればただならぬ実力が必要とされてしまう。犯罪国家ジャクラウス時代からの伝統と言っても過言ではない特別措置である。

 

 敵が外にも中にも居るダークネス幹部ならではの、誰にも負けないと吼える牙。

 

 

 

「……ふぅ、何とか取れて来たみたいだ」

 

 俺は隊長から受けたアイアンクローの痛みが消えたのを確認して一息つく。ただあの時、何かが見えた気がしたけど、それが何なのかは分からない。あの隊長の事だから何らかの意味ぐらいはあると思うけど。

 

 とにかく相手が全力と言ってるんだからこっちも全力を整えなければ。

 

「全員、竜鎧を使え! 使わないと死ぬぞ!」

 

「お、おう……」

 

 俺の放った忠告にドーナシーク達がしり込みする。だが命が掛かるとあっては逃げ様も無く、おとなしく竜鎧を装着した。だがそこに見た光景は、ミッテルト同様に色彩を帯びた竜鎧を纏うドーナシークとカラワーナの姿だった。いつの間にも何も、式典の話の後の準備期間があったからそこで最終調整をしたのは明白だろう。

 

 ドーナシークは暗い灰色を基調とした硬質な外見で、竜の頭蓋骨は右肩に添えられている。カラワーナの方も右肩に竜の頭蓋骨があるものの全体的な色合いは透明感のある海青色だった。

 

 そして俺も竜鎧を纏うために懐から竜血晶を取り出し、地面に叩き付けた。すると竜血晶が割れた所から猛烈に炎が噴き出し、俺を瞬時に飲み込む。そして全身の鎧が体から浮き上がる様に出てきた所で上に登っていた炎が渦を巻き、炎の竜と化すと俺に向かって横から襲い掛かってくる。それをそのまま迎えると、竜の頭が右肩に収まって肩アーマーとなる。そして顎の部分は左腕に収まって小盾となった。もちろん全身の基本色はダークレッドに黒の線だ。

 

 トリーの方も俺とは違ってミッテルトのような装着シーンで前に竜の頭蓋骨が張り付いている状態だ。下顎は見事な盾として左腕を覆っている。

 

 これで、こっちの戦闘準備は整った。不安しか無いのが心残りだけど。

 

「あとは開始の合図とともに竜撃砲の一斉掃射だ。やれるな?」

 

 俺の声にみんながやってみせると答える。その声は覇気に満ちているのが心強い。

 

 そして運命の合図がその場に響いた。

 

 ズドーンという地響きと共に。



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第90話 早速……負けました

お久しぶりです、バグパイプです。

運命の合図の後カケカケはどうなったのか?

それではどうぞ。


 俺達は、只今絶賛頭だけがズタボロで地面に転がってます。要約すると、開幕ブッ破の暇も無く唐突に、俺達があの幹部達の目の前に現れてそのままワンハンドでわしづかみにされて地面にねじ伏せられました。

 

 俺が理解出来たのは吸い込まれるような風の動きを感じた後、問答無用に頭を掴まれて下に叩き付けられた挙句、頭が地面に埋まる音が耳に届いた事だけ。ちなみに体感時間でわずか1秒。

 

 真面目に何が起きた?

 

「開幕直後の一斉砲撃など、浅知恵にも程があるというものを」

 

「へっ、悔しけりゃあもっとマシな手を考えるこったな」

 

 目の前で静かに佇むバゼルザーク先輩とケタケタ嘲笑うリバーサル先輩に俺は何が起きたのかを理解した。実際にバゼルザーク先輩から緊急集合でやられた事が有るのを今思い出した。

 

 今回の敗北はズバリ『ディスタンス・ゼロ』。バゼルザーク先輩の持つゼロの術式の一つ、距離消失によって間合いを完全に縮められて全力攻撃を浴びた様だ。まさかそんな大人げない攻撃で来るとは。

 

「こ、これがダークネスの……幹部の実力か……」

 

 ドーナシークが顔をしかめながらも立ち上がろうと膝を立てる。だが以外にも頭を打ち付けられた痛手は抜ききれない様子で体が震えている。

 

「なんか、実力差がチョーヤバ過ぎるんだけどぉ?」

 

 ミッテルトが問題点を指摘するが応える者はいない。だが、相手側から返答が着た。

 

「当たり前だ! こちとら日頃から下の連中が首をよこせと群がってくるんだ、返り討ちにしてやらねえと可哀想だろ」

 

 と説明してくれるリバーサル先輩。この方ってば律儀なんだよな、見てくれに似合わず。彼の言う首というのは間違いなくシリアルナンバー入りのバッジ、幹部の座だ。そういう下剋上を隊長が是とした為に設立当初の1年間は陰でコソコソ戦闘中だったとか。

 

 そしてその言葉で俺達はいつもの癖が出てしまった。

 

「ちょっと、奥様、聞きました?」

 

「まぁ、怖い」

 

 俺とトリ―の夫婦漫才。もちろん先輩はこれにも応えてくれました。

 

「おっし、次の獲物はテメェら2人だ」

 

 

 

 

「……ちょっと、今、何が起きたの?」

 

 採石場の外、会場に居るリアスが瞬きしながら今見た光景に我が目を疑っている。無理もない話、自分が攻めて距離を縮める事が道理だが、目の前で起きた何もせずに相手を目の前に引き寄せる方法は誰も知らないというもの。そして他の四人が出現場所を心得ていたかの如く、敵の頭を即座に掴んで地面にねじ伏せるなどどう出来るのか。

 

「見ての通り、奴らが一瞬で幹部の餌食になっただけの事、騒ぐでない」

 

「えっと、お父さん……普通の方にはさっぱり分からないと思うんだけど」

 

 短絡的に説明する隊長に、思わず突っ込んでしまうポラリスが居た。しかしそれだけでも状況はある程度理解できてしまうもので、グレモリー眷属側の反応は一様に恐怖を感じていた。

 

「まさかあの距離を瞬時に詰める方法が有るだなんて」

 

「正直にビックリです」

 

 木場と小猫は幹部の手腕に驚き、冷静に観察しようとしている。この戦いで得るものがあれば幸いだけど。

 

「あら、もう次が始るようですわよ」

 

 朱乃はそう言って採石場を指差すと、その指の先では改めて戦闘態勢を整えた面々の姿があった。

 

 

 

 一先ず言えるのはあのディスタンス・ゼロは暫くは撃てないとかの条件があるだろう術式のはずだ、という事。そうなれば間合い次第で十分な攻撃の機会があるはずだ。

 

 そうでないと俺達が戦えない。

 

 という事で第2回作戦会議だ。



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第91話 作戦会議が進まない

お久しぶりです、バグパイプです。

時渡達の戦いがひと段落してどうしたら良いのかと幕間です。

それではどうぞ。


「あれでは戦いなんてものでは無いぞ。どうするのだ」

 

 作戦会議の開始一番にドーナシークが問い詰めてくる。確かに彼の言う通り、あんなモンがホイホイと気安く使われたら俺達が攻撃できない。でも司令の話では亜光速にまで到達できるなら勝ち目はあると言ってたけど、んなモン無理。

 

「あの攻撃の対処はバラバラに動き回る。それしかねえな」

 

「私もそう思うな。あれでターゲットロックも出来るとなればデタラメが過ぎるだろう」

 

 俺の言葉に彼も賛同する。だが現実は酷いぐらい熾烈なのだ。幹部と下っ端の差は天地以上に違うと。

 

 ……言えねえ。その気になれば視界に入る全てをロックオンだなんて。

 

「あのビックリ技がまだたくさんあるだなんて酷い話だわ」

 

「使う術式に基準みたいな物が有れば傾向として読めるんだけどね」

 

 カラワーナの零す愚痴にトリーが相乗りする。そして何でアイツは俺を見る?

 

「な、なんだよ」

 

「あの幹部相手に勝てたら、お尻頂戴!」

 

「あのなぁ……」

 

「負けたら腹いせに、ぶっ挿す!」

 

「待ちやがれコラ!」

 

 どっちでも挿すなんざ何の罰ゲームだよオイ!

 

 

 

 

 

「……第二試合とか言って、なかなか始まらないわね」

 

「先程の術式を恐れての二の足であろう。止む無い事ではあるな」

 

 リアスの悶じりとした空気に対して隊長がその懸念事項を口にする。無理やり敵の間合いに放り込まれた相手がどうやって動くのかが注目すべき点だが、本人たちとしては気が気では無い事なのだ、先程のような無様だけは晒せないと策を巡らせるしかない。

 

「しかし、あの手を使われてはどう対処すれば良いのか」

 

「少なくても攻撃に動くのは得策ではない。小僧とて素早さには長けていてもあの一瞬を掴まれては動けまい?」

 

 木場の不安に対して隊長は言いにくい事をズケズケと言い、選択肢を狭めていく。手っ取り早い攻略法は音速で動き、その際に生じる衝撃波で術式を吹き飛ばすぐらいだ。しかしそうなるとその際に生じてしまう音の壁の切り抜け方となるが、竜鎧があれば無視して突破できるだろうと思う。やった事ないけど。

 

 あれこれと思案し続けている木場に対して司令が後ろから皿を差し出してきた。

 

「アレだコレだと悩んだところで始まらねえ。要は相手の視線からどう逃げおおせるかがカギなんだ」

 

「えっ?」

 

「要は相手が自分を認識できないように動く、それが出来るのかは別だけどな」

 

 司令はそう言ってリアス達に持ってきた皿を手渡す。その上に乗せられていたのは見た目も鮮やかな料理の一部だった。それも手づかみで食べられるようにクラッカーサイズに纏められたものを。

 

「あら、ありがとう」

 

 リアスが礼を言うと、皿を受け取ったのは朱乃だった。

 

「それで、この戦いは余興と呼ぶには少しばかり派手な気がするのだけれど?」

 

 リアスはそう言ってから思わせぶりな視線を司令に向ける。すると彼はそれもそうだとばかりにあっさりと白状して見せる。

 

「ああ、あれはオシオキの最中だ。何しろやり過ぎたからな。他の連中に示しが付かねえ。カラワーナに関してはとばっちりな連帯責任だけどな」

 

 司令は簡単な説明を交えながら答える。その間に何かに気づいたように視線を上に向けた後、イッセーとアーシアに話しかけた。

 

「おい、イッセーにアーシア、お前らに支給品を渡すぞ」

 

 司令はそう言って上着の右ポケットからイッセーに、左ポケットからアーシアに、それぞれ丸い黒水晶、時渡達が持っているものと同様の物と書類のような紙を手渡す。

 

「えっと、これは?」

 

「そいつは紙に書いてある。絶対に無くすなよ? 無くせば国家予算規模の強盗が起きるかも知れないからな」

 

「そ、そんな大変なものを……」

 

「個人負担を減らす最大の技術の結晶だ。それにそいつが有るお陰で余計な手荷物を持たずに済む。使わない手は無いだろう」

 

 声を震わせて怯えるアーシアに司令は重要な物だと説き伏せる。確かに封印球は個人装備はもとより私物の一切合切を収納できる優れものだ。お陰で俺の取りっぱなし無修正のビデオコレクションも極秘のままで狩られていない。ありがたやありがたや。



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第92話 余興という名のオシオキに

お疲れ様です、バグパイプです。

時渡達の第2戦、彼等は活躍できるのか。

それではどうぞ。


 イッセー達がアワアワと渡された物に狼狽えている一方で、俺達採石場組は作戦会議を終了させた。正確には個々の判断で動け、としか言えなかった。

 

「ヒッデェ作戦だよ。何様?」

 

「仕方ないだろ」

 

 ミッテルトの嘲笑に俺は独り言ちる。

 

「作戦の立て様が無いんだからよう」

 

「それで良く支部長に任命されたわね」

 

 困る俺に対して今度はカラワーナが呆れかえる。分かっていても視線が痛い。だがそこに話題を変えようとドーナシークが提案を出してきた。

 

「月並みな作戦ではあるが、相手の弱点となる弱者を集中的に攻撃する方法が有るが……」

 

「連中で1番弱いのはあのゴリラマッチョな凄腕女傭兵、ジャベリン先輩だ。あれでも百以上もの紛争を潜り抜けて勝ち抜いてきた猛者だそうだ」

 

 俺の一言でこの場に静寂が訪れた。古株幹部の中で一番弱いと言ったら、序列一番下の彼女しか居ないんだよ。後の連中はゼロの術式の手数を幾つも持ってるし。ジャベリン先輩だけだよ、面倒くさがってまともに術式を使わないのは。

 

 驚愕していた中からいち早く我に返ったトリーが俺の胸ぐらを掴んで喚きだした。

 

「それを早く言えよ!」

 

「「「言われても無理!」」」

 

 アイツの言葉を即座に三羽烏が否定する。何しろ一番の弱者がよりによって数多の戦場を潜り抜けた傭兵さんだなんて冗談にも程がある。

 

「止むを得ん、とにかくて身近な相手を集中攻撃で個別撃破を狙うしか無いか」

 

 ドーナシークは肩を落としながら最後の手段とばかりの攻撃方法を提案してくる。基本とはいえ必勝の公式だからな、この手のやり方は。

 

「仕方ないわね。時渡さんとトリーさんが狙われてるみたいだから、そこを囮にして三人で単騎撃破を狙いましょう」

 

「異議なし」

 

 カラワーナが言葉を繋ぐとミッテルトがそれに賛成する。

 

「囮は引き受けるから、全力でやっちゃってよね」

 

 仕方ないと言いたげにトリーが折れると、三人は一斉に頷く。

 

 そして無情なゴングの音が……。

 

 ……俺達の受けた強引なパワーボムの激痛と共に消えていく。

 

 俺達の活躍の場は何処さいった!?

 

「ケッ! トロくせぇ動きしてっから埋められちまうんだろうが」

 

 埋めた本人のリバーサル先輩が親指で自分の首を掻き切る真似をする。アンタが速すぎるんだよ!

 

「ハッ、これでもジャクラウスの幹部だった俺等だ。テメェ等クソガキ共に負けるワケがねぇんだよ」

 

「まぁ、リバーサルにおいしい所を持って行かれたのは癪だけどさぁ、元賞金稼ぎだしィ、私より上の幹部だから仕方無いわよねぇ」

 

 色気のある声音でマクレノリス先輩がクスクスと嘲笑してくる。相当魅惑的な笑みを見せるんだけど、この先輩ってば人妻、いや旦那が居るんだよな。職場内結婚というか同期のさく……は違うか。

 

 いや待て、ジャクラウスの幹部だったって事は……まさかバッキバキの悪のエリート集団って事か!? いやいや、ポーラさんはダークネスが出来た後からの幹部入りだから生粋の筈が無い。でもあの幹部五人はマジで凶悪集団じゃねえかよ。



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第93話 外野はそろそろ飽きて来たかも

どうも、バグパイプです。

カケカケの戦闘がワンパターン化していて外野陣の見る目が冷たくなってきてるようで。

それではどうぞ。


 何だかんだと言いながらも埋められた俺達に対して、外野の目は厳しかった。

 

「まさか時渡さん達は弱いのでしょうか?」

 

「そんなはずはないわ」

 

 アーシアの心配そうな呟きに対してリアスが真っ向から否定する。だが悲しいかな、三人組を以てしてもダークネスの幹部達には勝てるはずなど無い。あのゾルに歯が立たなかったのだから、その遥か上を行く幹部達に勝てる道理など無い。

 

「だが踏み越えた戦場の数と質はこちらが格段に上だ。何しろ魔軍2万と死神300人を相手に引くこともせぬ猛獣、格とやらが違うというもの」

 

 隊長は自分の部下をそう評して誇らしげに口元を歪める。自分の国の危機でも他人事のように済ませるのだろうか。

 

「その時には私もその中に居たな、魔軍側の騎士としてだが」

 

 隊長の言葉に司令が小言を付け足す。そういえば2人の因縁はあの決戦で1度途切れたとか言っていた様な。

 

「ならばあの時に決着を付けにリバーサルに挑むか?奴なら飢えておるぞ?」

 

「冗談なら止めてくれ。司令の立場はホイホイ投げ出せるもんじゃないんだ」

 

 それならと挑発的な視線を向ける隊長に司令は自分の立場でものを言う。

 

 それを見てリアスは思わず近くに居るポーラに問いかけた。

 

「ねえ、あの2人って仲が悪いのかしら?」

 

「良くは……ないですね。刑事さんと泥棒さんのような仲ですから」

 

 ポーラさんは少し言い難そうにしながらもハッキリと肯定する。司令と隊長が初めて顔を合わせたのは組織の結成時らしいが、ジャクラウスという犯罪帝国の瓦解には司令が絡んでいたとか副司令がその時の捕縛者とも言われている。何でも魔界皇帝陛下という魔界の頂点に君臨している皇帝陛下が勅命で『生死を問わず打ち倒せ』とか言ったとか何とか。

 

「そういえばそれで思い出したのだけれど、あなたたちの世界に堕天使は居ないって時渡さんが言っていたのにトリーさんは知っていた様な事を言ってたわね」

 

「それは単純に堕天使が表向きには存在しない事にされているからなんです。なんでも神に堕とされた事を恨んでいる様で、元の地位に帰る事を望んでいるとも言われています」

 

 リアスが不意に話題を変えたことに対してわずかに眉を顰めながら彼女は返答する。

 

 確かに堕天使と陰口を叩かれている連中は秘かに天界を目指し、元の地位――熾天使や能天使など――に戻ろうと侵略を画策していたと聞く。そんな最中にあの神魔大戦とかいう全世界を巻き込んだ大戦が勃発して隊長や司令達が襲撃者である邪神達を迎え撃つ事態となり、かなりの深手を負ったとされている。

 

 そんな大戦があったおかげでどさくさに紛れて天界の門を開けっぱなしにしたり軽犯罪者で功労のあった者が軒並み釈放されたりと組織にも痛手はあった。何しろ仕事の無い元軽犯罪者、仕事を与えるべく副司令が会社を立ち上げて連中をごっそりと雇い入れたから、運転資金が心許無い事。当時の苦労が偲ばれる。

 

「……そうなの」

 

「でもそれをウチの司令さん達が台無しにしちゃったから、元の地位に戻っても困惑したままだそうです」

 

「……そうなの?」

 

 聞いていたリアスと説明するポーラさんの温度差が激しく乖離しているとしか言えない空気がそこにあった。

 

「連中とて止むを得まい。いざ自分の地位に戻ってみれば組織図が様変わりして高い地位にいた筈がそうでも無かった椅子に座らされたのだからな」

 

「降格……では無い様ね」

 

「椅子の高さや職務に問題は無い。だがその椅子が横並び、職場の椅子に替えられたのだ、頭も痛むというものだな」

隊長の妙に引っ掛かりのある言葉にリアスは目を細める。だが語られていく事実は彼女の理解を超えるものだった。



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第94話 アーシアが取る決断

どうも、バグパイプです。

2話連続で投稿となります。

それではどうぞ。


「とにかく堕天使の件については全てが天界に戻り、天使に返り咲いたという事だ」

 

「そうとうデタラメな話に聞こえるわ」

 

「小娘の勝手だが我々は事実を語っただけに過ぎん」

 

 隊長はそう言ってリアスの疑いをこれ以上晴らす気は無いと口を閉じる。

 

 そんな中で他所ではとんでもない会話が繰り広げられていた。アーシアを中心に据えて。

 

「アーシアさん、今までは辛い人生の中を過ごしていたと聞いています。それでも信仰を捨てなかった事を主はお喜びの事だと思われます」

 

「い、いえ、そんな、私は……」

 

 補佐官が口にする称賛の声にアーシアは恥ずかしそうにうつむく。

 

「ですが主も貴女の信仰に対して報いる事が出来ない事を嘆いている事でしょう」

 

「そうでしょうか……」

 

「大丈夫です。これから先の運命は、より良き道が待ち侘びている事をお約束します」

 

「そうですか……へっ?」

 

「大丈夫です、貴女に良き未来が訪れる事はこの『勝利の女神』の私が保障します」

 

 補佐官からの予期出来ない保証話にアーシアの目が丸くなる。

 

 そして補佐官の頭に司令の拳が落ちてきた。

 

「テメェは何を保障してやがんだよ! 勝手な事をするなと神界のお偉いさんにどやされてたんじゃねえのか!?」

 

 司令は簡単に補佐官に釘を刺すと、改めてアーシアに向き直る。

 

「さて、本題はアーシア・アルジェント、君の今後についてだが、少々困った事になっていてね」

 

「どういうことですか? 私に出来る事が有れば」

 

「むしろ君にしか出来ない事なんだよ。君がこの先時渡達とつかず離れずの関係を続けていくと命に係わる事が多く発生する。おそらくだがそちらのお嬢さんとも関わると同様の事が起きるだろう」

 

「そうですね。部長は冥界の貴族なので」

 

 司令の言葉に小猫が短絡的に語る。アーシアが人間である以上、悪魔や天使の戦いに関わるのは肉体的にも危険な事である。

 

 だがそこに司令は救済案を口にする。

 

「そのため、君の身の安全の向上目的で我々は3つの道を用意した。1つは人間のまま身体強化術を施して超人にする道、2つ目はエンジェリウム細胞を植え付けて強制的に天使へと進化させる道、3つめはデモニクス細胞を植え付けて悪魔へと進化させる道だ。多分3つ目の道はお嬢さんの方を優先する形になりそうだけどね」

 

 司令はそう言ってアーシアに選択肢を委ねる。するとリアスは軽く頷いてから話を進めた。

 

「そうね、悪魔になるのなら、こちらに優先権があるわ」

 

「もっとも我々側の悪魔は、不確定要素が有るから進めて良い話とは言い難いのも事実だ。天使にしても同様に……な」

 

 2人はそう言ってから再びアーシアに向きなおる。

 

「こちらはどの選択肢を選んでも、『ダークネスの幹部、アーシア』を受け入れる事になっている。無論そちらのお嬢さんの眷属となっても一向に構わない」

 

「アーシアの神器の能力は誰もが欲しがるものだけど、私達の力になって欲しい気持ちもあるわ」

 

 2人の言葉にアーシアは言葉を失いながらも決断に喘ぐ。しかし彼女はしっかりと目を見開き、自分の決断を口にした。

 

「……私は……イッセーさんと一緒に居られたらと思います」

 

 か細いながらも芯のこもった声で選択するアーシアにリアスは笑みをこぼし、司令は苦笑を漏らす。

 

「えっと……」

 

「構わないと言った筈だ。イッセーと同じ扱いになるだけだ」

 

 司令はアーシアの伺うような視線を受けて自嘲気味な笑みを浮かべる。



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第95話 そして全てが報われる……筈なのに

どうも、お疲れ様です。バグパイプです。

いよいよこの話も終わりが見え始めました。レイナーレ編の次としてライザー編の用意も始めている所ですが、話が大変な事になっています。

 一先ず、それではどうぞ。


 アーシアが自分の眷属になると聞いたリアスは、懐から大事そうにチェスの駒を一つ取り出す。

 

「この悪魔の駒を使えばアーシアはイッセー達と同じ悪魔に生まれ変わるわ」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、イッセーはポーンの駒と相性が良かったのだけれど、アーシアはビショップの駒と相性が良さそうね」

 

 リアスはそう言って手にした駒をちらつかせる。その手にある駒はチェスのビショップと呼ばれる駒に似ている。役割としては魔法使いとかいう所か。

 

 あの時、アーシア復活の鍵かも知れないと取り出した時が懐かしい。

 

 まあ、アーシアの事はリアスに任せて一方、俺こと時渡達採石場の面々はと言うと……。

 

 ……再三にわたって埋められました。今度は地面から足が生えてるような形で。あの探偵さん、来てくれるのか?

 

「こんぐらいで良いだろ? さすがに連中の体力がマズいだろ」

 

 リバーサル先輩がバゼルザーク先輩に泣きを入れてくれる。俺達ボロボロなんで勘弁してください。

 

「止むなしか。限界までが要望なのだが」

 

 相手の言葉にバゼルザーク先輩も仕方ないと止めてくれるようだ。

 

「副司令に結界を解いてもらうとしよう。他の者は時渡達の回収を」

 

「おっしゃ!」

 

 バゼルザークの指示で他の幹部達が地面に埋まった俺達をダイコンか何かの様に引きぬく。その一方でバゼルザークがハンドサインで結界の外に居る副司令に指示を出す。するとそれに呼応して現場の空気が少し軽くなった。

 

「どれほどの差が有るというのか……それさえも分からんとは」

 

 ドーナシークが歯がゆい思いをにじませているが、彼を持ち上げているジャベリン先輩には届かない。

 

「チキショーッ! こんなん罰ゲームじゃんかよぉーッ!」

 

「……まあ、諦めろや」

 

 カラワーナとミッテルトを両肩に乗せて運ぶザクトベリガは一言で彼女を黙らせる。

 

「くうぅ~っ、カケカケのおケツゥ~ッ」

 

「『プライドの捕食者』が無策に動いてどうするの? 戦略は必須なのよ」

 

 マクレノリス先輩の肩の上で唇を噛み締めているトリーに彼女は忠告を並べる。

 

 そして俺は……。

 

「ちったあ、頭を冷やしやがれ」

 

「頭に血が上るうぅ……」

 

 両足を担がれたまま逆さの状態で運ばれている。

 

 そして俺達は荷物同然に司令達の所まで運ばれた。そこで副司令が合流し、イッセーに目を向けた。

 

「君があのハーレム王を目指してるとか言うイッセーか。私は副司令の蠍だ。よろしく」

 

 彼の言葉にイッセーは愕然とする。しかし彼はそれに構う事無く事を進めてしまう。イッセーがまともかも知れないと思っていた人物像もすぐに崩壊する。

 

「君がハーレムというものを目指すと言うなら、『48の達人技』と『52の陥落技』を教えた方が良いか?」

 

「ドコの超人レスラーの師匠だよ!」



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第96話 賑やかに終わるのが組織流

お疲れ様です、バグパイプです。

ようやくアーシアの運命が原作に戻り、安心してますがまだ片付いてない予定が有る組織の面々です。どう始末するのやら。

それでは、どうぞ。


「こう言うのもなんだが、女の扱いを覚えるのは悪い話では無いんだ。それに今のお前では体力筋力が足りてない。そこを補うだけの物ぐらいは有った方が良いだろう」

 

「おう! 間違いはねえな!」

 

 副司令の忠告に司令が笑顔で賛同する。やはり司令の差し金か。だがそれを語った副司令はなぜか不思議そうな顔で視線を辺りに巡らせる。

 

 視線の止まった先に居たのは、朱乃だった。

 

「あら副司令さん、ごきげんよう」

 

「ふむ、君は……なるほど」

 

 何を確信したのか、副司令は挨拶をする朱乃に対して軽く頷くと、右手を差し出した。

 

「その道の先達として挨拶は受け取ろう。君が歩き始めた道はかなり特殊で誰もが助言できるものでは無いが、自分はその助言ができるだけの経験を持っている」

 

「あらあら、それは……素晴らしい事ですわね……」

 

 俺の目の前で固い握手を交わす二人に、言い様の無い黒い何かが蠢いているのが見える。若干、イッセーのヤツが顔を引きつらせてドン引きしてるが仕方ないと思う。俺だってあの空気には当てられたくない。

 

 そして、一堂に会した面々の中を、隊長が巨悪な宣戦布告を始めた。

 

「さて、皆が揃った所で此度の成すべき事を成そうと思う」

 

「何だ?」

 

「貴様を狩る事だ、司令!」

 

 不思議がる司令に対しておもむろに右拳を振り上げ、それを容赦なく彼に叩き付ける。しかしその拳を彼は寸での所で避け切り、痛手を負う事は無かった。

 

「何なんだよ、おいっ!」

 

「猛獣どもよ、殺れ」

 

「ハッ!」

 

 慌てる司令を他所に、隊長は優秀過ぎる猛者である幹部達に号令をかける。その号令を聞いた途端に幹部達から獰猛過ぎるほどの黒い衝動が解き放たれた。

 

 バゼルザークが司令を手繰り寄せた瞬間には彼はそのままの勢いで相手を殴り、襲い来るリバーサルの手に握られた一対の刺身包丁の殺意を察知して躱してはローリングソバットで蹴り飛ばし、目を狙っていたのか飛んできた毒針を首を傾げて躱すと地面を蹴ってマクレノリスに向かっていく。だがそこをザクトベリガに防がれて横からのクロ―攻撃を後ろへ飛び退く。するとそこへ駈け込んで待ち構えていたジャベリンが手にしている鶴嘴を大上段から振り下ろすが、それでも彼は横っ飛びで逃げ切った。

 

 この攻防が僅か3秒で起きた事だとは誰も信じられないだろう。見ている俺でも信じられないぐらいだから。

 

「クッソッ! マジで殺しに来てやがる! しかもリバーサル以外全力だろ!?」

 

 司令は僅かに息を乱しながらも今の攻防で幹部達の狙いが何かを察知したらしい。あの秒殺の連携を生き残るだけでも大したものなのに、狙いまで見切るのは素直に凄いと思う。

 

「何を血迷っておる。殺しに行かねば仕置きにすらなるまい」

 

 隊長は司令の愚痴を否定すると、右拳を固めて戦場に介入しようと突撃する。それを見た彼は顔をしかめて妙な言葉を口ずさんだ。

 

「……god speed live」

 

 司令がボソリと呟いた瞬間に爆発音が響き、俺達が爆風に晒されるところをとっさに展開された副司令の防壁で難を逃れられた。

 

「副司令さん、今のは?」

 

「音速の壁だよ。戦闘機で良く有るだろ? 飛行機雲の始まりの部分がソレだぞ」

 

 衝撃波によって生じた白い霧を見たのか、木場が副司令に問いかけるとすぐに返事が来た。もっともあの2人が戦っている世界は音速どころでは無いが、防護壁無しでは観戦もままならない危険地帯なのは言うまでもない。

 

 地上でそれをやられると、周りはたまったモンじゃねえんだけどな。衝撃波で水蒸気爆発が起きるんだからよ。

 

「なかなか当たらぬものだな、当たる気にはならんか?」

 

「一撃がくそ重いってのに当たりに行くわけねえだろが!」

 

「重く考えるものでもあるまい、気軽に当たるが良いわ!」

 

「焚火じゃねえんだぞ! 気軽に言うな!」

 

 現場は現場で喧しいながらもガンガンと拳が猛威を振るっていく。高速機動も霞んでしまう超高速領域での肉弾戦に、見物客の口が開いたまま閉じる気配が見られない。

 

「……今、戦闘中なのは誰なのさ?」

 

「分かるか? 隊長と司令が亜光速で遣り合ってる最中だぜ? 音速なんて最初の2秒で越えちまいやんの」

 

「見えてないのに分かるか! アホォ!」

 

 俺の説明にミッテルトが喚き散らした。



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第96話 次の獲物は奴である

お疲れ様です、バグパイプです。

時渡達のオシオキを終えた幹部達。隊長の号令の下で牙を向ける獲物は。

なお、現在の第一部を終わらせた後、番外編を差し込んでからの第二部開始となります。

それでは、どうぞ。


「こう言うのもなんだが、女の扱いを覚えるのは悪い話では無いんだ。それに今のお前では体力筋力が足りてない。そこを補うだけの物ぐらいは有った方が良いだろう」

 

「おう! 間違いはねえな!」

 

 副司令の忠告に司令が笑顔で賛同する。やはり司令の差し金か。だがそれを語った副司令はなぜか不思議そうな顔で視線を辺りに巡らせる。

 

 視線の止まった先に居たのは、朱乃だった。

 

「あら副司令さん、ごきげんよう」

 

「ふむ、君は……なるほど」

 

 何を確信したのか、副司令は挨拶をする朱乃に対して軽く頷くと、右手を差し出した。

 

「その道の先達として挨拶は受け取ろう。君が本能で得ただろう物について、時渡を介せば私の方で相談には乗れると思う」

 

「あらあら、それは……素晴らしい事ですわね……」

 

 俺の目の前で固い握手を交わす二人に、言い様の無い黒い何かが蠢いているのが見える。若干、イッセーのヤツが顔を引きつらせてドン引きしてるが仕方ないと思う。俺だってあの空気には当てられたくない。

 

 そして、一堂に会した面々の中を、隊長が巨悪な宣戦布告を始めた。

 

「さて、皆が揃った所で此度の成すべき事を成そうと思う」

 

「何だ?」

 

「貴様を狩る事だ、司令!」

 

 不思議がる司令に対しておもむろに右拳を振り上げ、それを容赦なく彼に叩き付ける。しかしその拳を彼は寸での所で避け切り、痛手を負う事は無かった。

 

「何なんだよ、おいっ!」

 

「猛獣どもよ、殺れ」

 

「ハッ!」

 

 慌てる司令を他所に、隊長は優秀過ぎる猛者である幹部達に号令をかける。その号令を聞いた途端に幹部達から獰猛過ぎるほどの黒い衝動が解き放たれた。

 

 バゼルザークが司令を手繰り寄せた瞬間に彼はそのままの勢いで相手を殴り、襲い来るリバーサルの手に握られた一対の刺身包丁の殺意を察知して躱してはローリングソバットで蹴り飛ばし、目を狙っていたのか飛んできた毒針を首を傾げて躱すと地面を蹴ってマクレノリスに向かっていく。だがそこをザクトベリガに防がれて横からのクロ―攻撃を後ろへ飛び退く。するとそこへ駈け込んで待ち構えていたジャベリンが手にしている鶴嘴を大上段から振り下ろすが、それでも彼は横っ飛びで逃げ切った。

 

 この攻防が僅か3秒で起きた事だとは誰も信じられないだろう。見ている俺でも信じられないぐらいだから。

 

「クッソッ! マジで殺しに来てやがる! しかもリバーサル以外全力だろ!?」

 

 司令は僅かに息を乱しながらも今の攻防で幹部達の狙いが何かを察知したらしい。あの秒殺の連携を生き残るだけでも大したものなのに、狙いまで見切るのは素直に凄いと思う。

 

「何を血迷っておる。殺しに行かねば仕置きにすらなるまい」

 

 隊長は司令の愚痴を否定すると、右拳を固めて戦場に介入しようと突撃する。それを見た彼は顔をしかめて妙な言葉を口ずさんだ。

 

「……god speed live」

 

 司令がボソリと呟いた瞬間に爆発音が響き、俺達が爆風に晒されるところをとっさに展開された副司令の防壁で難を逃れられた。

 

「副司令さん、今のは?」

 

「音速の壁だよ。戦闘機で良く有るだろ? 飛行機雲の始まりの部分がソレだぞ」

 

 衝撃波によって生じた白い霧を見たのか、木場が副司令に問いかけるとすぐに返事が来た。もっともあの2人が戦っている世界は音速どころでは無いが、防護壁無しでは観戦もままならない危険地帯なのは言うまでもない。

 

 地上でそれをやられると、周りはたまったモンじゃねえんだけどな。衝撃波で水蒸気爆発が起きるんだからよ。

 

「なかなか当たらぬものだな、当たる気にはならんか?」

 

「一撃がくそ重いってのに当たりに行くわけねえだろが!」

 

「重く考えるものでもあるまい、気軽に当たれい!」

 

「焚火じゃねえだろ! 気軽に言うな!」

 

 現場は現場で喧しいながらもガンガンと拳が猛威を振るっていく。高速機動も霞んでしまう超高速領域での肉弾戦に、見物客の口が開いたまま閉じる気配が見られない。

 

「……今、戦闘中なのは誰なのさ?」

 

「分かるか? 隊長と司令が亜光速で遣り合ってる最中だぜ? 音速なんて最初の2秒で越えちまいやんの」

 

「見えてないのに分かるか! アホォ!」

 

 俺の説明にミッテルトが喚き散らした。



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第97話 痛む傷は何の痕か

お疲れ様です、バグパイプです。

レイナーレ編はもうそろそろ終わる筈なのに、回収し切れていない事に気づいて頭を抱えている今日この頃です。

それでは、どうぞ。


「普通、亜光速なんて見えるモンじゃねーダロ!」

 

 ミッテルトが自分の右肩を押さえながら俺に怒りをぶちまける。まあ、亜光速の戦闘は普通の戦い方じゃないから見える奴なんて限られるよな。

 

「私でさえ集中力を切らすと見失う程だからな、気配が追えるだけ何とかなってはいるが」

 

「見えるだけでもスゲーよ」

 

 3人の中でも戦闘力の高い方だろうドーナシークでも司令達の動きが追い切れないらしい。かく言う俺は最初の音速突入で既に見失ってる。しかも気配は途切れ途切れで追い切れないと来てる。簡単に言えばドロップフレーム状態だ。亜光速で動く物体のコマ落ちとなると何十メートルも離れてるから追いかけるのにも苦労する。

 

 副司令は目で2人の動きを追いかけているのか、その目はせわしなく動いている。音速でも意外と距離が無いと追い切れないのに凄いもんだ。

 

「司令の動きが幾分悪いのは見えているが、どういう事だ?」

 

「動きが悪いんですか?」

 

 副司令の独り言を耳にして俺は思わず問いかけた。見れば彼の表情が険しい。現場の2人の戦闘スタイルを言うと、司令は結構素早い動きで翻弄するテクニカルスプリンター、隊長は容赦ない圧力と腕力ですべてをねじ伏せるヘビーパワードだから司令が攻撃に走らないと互角には戦い切れない筈だと思う。

 

「ああ、司令は防戦一辺倒に傾いている。隊長が攻め込んでいるのは十分に判るんだけどな」

 

「司令が防戦?」

 

「もっとも、実力を発揮するのはマズイとは思うが」

 

 副司令の呟いた妙な言葉に俺も顔を顰めてしまう。そんな時に他所から賑やかな声が耳に届いた。視線を向けると、アーシアを中心にして喜びの声が上がっている様だった。

 

 だが、リアスの表情が妙に曇っているのが気にかかる。アーシアが自分の眷属になったのだからと喜んでると思ったけど。それにイッセーのはしゃぎっぷりがオーバーな気がしないでもない。

 

「副司令、ちょっとスンマセン」

 

 俺は傍に居る副司令に席を外す事を伝えると、彼も付いて行くと言ってきた。2人の事が気になっただけなんだけどな。

 

「お前の事だ、変に気遣うかもしれないからな」

 

「スンマセン」

 

 俺は思わず謝ってしまった。リアスのヤツが何を思い詰めているのかは分からないが、副司令はその辺のエキスパートだから何とかなるだろう。ありがたい話に感謝してます。

 

「あの少女の微妙な表情は結構見た事が有るからな、あまり放置できない表情だ」

 

「してその結末は?」

 

「私を殺して貴方も死ぬぅ!」

 

「逆じゃねえのかよ!」

 

「……即座に突っ込める分、問題はなさそうだな」

 

 副司令はそう言ってその貌に苦笑を浮かべる。俺を試したのかと言いたいが、それよりも別のベクトルで気になった。

 

「……慣れないギャグは大変っすね」

 

「……ああ、まったくだ」

 

 俺達は今、虚無ってる。どう反応したものか困ってるんだよ。

 

「イッセーの方も妙な空気だから、何とかするか」

 

 副司令は場の空気を振り切る様に話を切り替える。ただ、その時の目つきが妙に鋭かったのが俺には異様なものに見えた。この場の重い空気に耐えられなかったのかはともかくとして。



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