やはり俺の青春ラブコメにウサギがいるのは間違っている。 (獲る知己)
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不思議の国の少女はアリスですか?いいえ、ウサギです。

 これは独りの不思議の国の少女の物語。

 

 不思議な不思議な女の子。不思議の国からやってきた。

 不思議な少女は変わった子、子供の時からなんでも1人でやってきた。

 

 勉強なんてつまらない。運動なんて退屈だ。だって全部できるから。

 1を聞けば10わかる。10をきけば100わかる。大人にわからなくても少女はなんでも知っていた。だって少女は不思議な子。不思議の国からやってきた。

 かけっこだっていつも一番。どんな運動も少女はなんでできるから。張り合う相手がいないから退屈すぎていやになる。

 

 少女は不思議な不思議な子。不思議の国からやってきた。

 

 世界はつまらないし退屈だ。不思議の国がこいしくなった。でも、少女は不思議の国に帰れない。

 だってウサギがいないから。白い毛皮に時計を持ったウサギさん。不思議の国の案内人。

 少女はじっと待っていた。不思議の国からウサギが来るのを。でもでもウサギはやってこない。不思議の国には帰れない。

 

 不思議な不思議な不思議な子。不思議の国には帰れない。

 

 少女はもう待ちきれない。ウサギさんが来ないなら自分がウサギになればいい。

 長い耳はないけれど、自分で作ってつければいい。

 不思議の国の時計がない。だから少女は時計を作る。世界を変える不思議な時計。

 これさえあればつまらない世界を変えられる。

 おもしろおかしい不思議な国にこの世界を変えてしまう。

 

 少女は不思議な不思議な子。不思議の国を作り出す。

 

 

 かくれんぼ。

 日本にいる子供なら少なからずこの遊びをしたことだろう。ルールはいたって簡単だ。1人が鬼となり、隠れ逃げる子供を追いかけまわし食べてしまう。食べられた子供は新しい鬼に……違う。これは青鬼だ。

 

 まぁいまさら基本的なルールなんて誰でも知ってるだろ。

 ただ、この遊びには隠された裏のルールがある。これを破ると最悪事件に発展し警察が動くことになる。そこまでいかなくても人間関係に亀裂を生むには十分な要因となるだろう。

 かくれんぼの裏ルールそれは、かくれんぼは全員が見つかるまでゲームを終わらない。もしくはゲームを終える時には隠れてる人に声をかける。

 

 これが絶対に守らなければいけない裏ルール。

 このルールを守らず、自分たちだけで好き勝手に帰ってしまうと残された隠れてる奴がいつまでも隠れ続けるはめになる。

 

 そう、まさに夕暮れの公園で1人涙目になってる僕のように!!

 

「……誰もいない」

 

 僕は公園の時計を見る。時計の針は5と6の間。6に近い部分にあった。

 近所の公園で同じクラスの皆とかくれんぼを初めたのが4時くらい。

 僕はずっと隠れていたがすでに公園には誰もいない。

 

 どうやらうちのクラスにはかくれんぼの裏ルールを知ってる奴がいないようだ。まったくもって仕方ない。みんな小学生だし社会のルールを知らないのも仕方ない。そう、仕方ないのだ。

 

「ぐすん」

 

 そして、小学生の僕が涙ぐむのも仕方ない事だ。そう仕方ない。

 ……お家かえろ。

 

 とぼとぼと重い足取りで公園の出口まで向かう。

 

「~~~~っ」

 

 するとしげみの中からなにかが飛び出してきた。ポケモンか!?

 

「あああもうやだやだやだやだ!!!なんで束さんがこんな思いしなきゃいけないんだよ!!天才の束さんがっ有象無象のクソジジイ共に馬鹿にされなきゃいけになんだ―――!?!?!?」

 

 違った。なんか騒いでる女の人だ。

 僕知ってるよ。これはひすてりっく?をおこしてるんだ。前にテレビでやってた。

 

 こういう人には近づいたら駄目だとお空の向こうでおばあちゃんが言ってる。普通にピンピンしてるけどね、おばあちゃん。

 

 僕は静かに抜き足差し足しながらそこから立ち去ろうとした。

 

「あ”あ”ん!何見てんだよガキんちょ!」

 

「ひゃあ!?」

 

 が、モンスターひすてりっくに見つかってしまう。

 僕は逃げ出した。

 

「おいこら、人の顔見て何逃げてんだよ」

 

 回り込まれてしまった。にげばがない!?

 というかおかしい。この人今まで僕の後ろにいたのになんで今は前にいる!?

 

「ガキんちょお前もあれか?束さんを馬鹿にするのか??夢見がちな女だのって束さんを否定するのか!?あ”ん!」

 

 何を言ってるのかわからないけど、なんとなくお仕事で徹夜明けのお母さんか、お酒を飲みすぎた時のお母さんに似てる。

 つまり、意味もなく理不尽に絡んでくる。

 こういう時お母さんはよくわからない難しい話を延々として気が済んだら僕を抱きしめて寝てる。ものすごい力で。たまに窒息しかける。

 

 よくわからないと僕がいえば、話が長くなるしやたら絡んでくるのでお母さんが気が済むまでなすが儘になることが多い。

 

「なな、なにもいってないでしゅ!」

 

 すごい噛んだけどさっしてほしい。

 

「はあ?何ってるかわかんないんだけど!」

 

「な、なにもいってないです…」

 

「ッチ。もっとしっかり話してよね。これだからガキんちょは嫌いなんだよ」

 

 よくわからないけど、なんとなく理不尽であることはわかる。というか嫌いなら絡んでこないでほしい。

 

「まぁいいや。束さんこんなガキんちょに構ってる暇ないし」

 

 ぷりぷりと怒りながら、ひすてりっくはどうやら僕を開放する気になったらしい。よかった。

 

「それじゃ、騒いだらのど乾いたからなんか買ってきて」

 

「え?」

 

 希望は消えた。

 ひすてりっくは小銭をほうりなげ公園のじどう販売機を指さす。

 ……つまり、買ってこいと。

 

「あ、言っておくけど甘いやつね。もし苦いの買って来たら頭の中に電極ぶっさすよ」

 

「すぐ買ってきます!!」

 

 やべえ。やべえよこいつ。

 普通小学生相手にそんな脅し方するか。

 命の危険をさっした僕はダッシュで自販機まで走った。

 何を買うか凄い迷う。主に下手なものを買って来たら僕の安全はほしょうされない。

 さんざん迷った挙句に僕が選んだのは僕が大好きなジュースだった。

 

「か、買ってきました」

 

「おう、まったくもっと早くしてよね」

 

「……」

 

 こいつジャイアンかよ。買ってっ来てもらって文句言うとかなにさまだ!もし家の親父がそんなことしたら3日は飯抜きにされるんだぞ!

 なんて思っても口には出さない。

 だって怖いもん。

 

 ひすてりっくはまだ小声で文句をいいながら、ジュースのふたを開けて飲み始めた。

 僕しってる。こういう女をねんちゃくしつなタイプっていうんだ。

 ひすてりっくのねんちゃく女と知り合いになってしまったのか、僕は……。

 

「ぶ――!?クソ甘っ!」

 

 地味に凹んでる僕の顔にねんちゃく女は飲んでいたジュースを吐きかけた。

 ……うん。今日は最悪の日だな。

 僕のほっぺにジュース以外の水が流れた。それは少ししょっぱい水だった。



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やはり彼と恩師は大抵変わらない。

ここから原作始まります。
今のところ俺ガイルの登場人物ですけどこれからいろいろ増える予定です。








 桜吹雪が舞う4月。海のにおいと春の木漏れ日が交差して、とある物語が始まりそうな快晴かな。

 ついこの間まで中坊だった少年少女にとって高校生活が始まった日にこの天気は実に幸先がいいように思える。

 俺を除いて。

 例えるなら海底の底。海のにおいはプランクトンの死臭に代わり、木漏れ日どころか太陽の光すら見えない。見える光はチョウチンアンコウが獲物を呼び寄せ捕食するためのちょうちんだけ。

 今の俺の心情は大体こんな感じだ。

 

「比企谷なんだこれは?」

 

 そういいながら眉を八の字に曲げているのは国語教師にして俺のクラスの担任である平塚静先生だ。

 長い黒髪にスーツの上から白衣を着た美人である。男子高校生なら年上の美人に詰め寄られるのは憧れるシュチュだが、この俺に限りそんな浮ついた展開はない。

 

「……はぁ、『新しい高校生活に向けて』という作文です」

 

「そうだな。これは今日うちのクラスで出した課題の作文で、ついでに言えばお前の作文だな」

 

 平塚先生の手に持っている作文には確かに俺の名前『比企谷八幡』と書かれている。

 ちなみに同姓同名の可能性とか俺に限りほぼほぼ皆無。逆に俺以外の八幡さんがいたらあってみたい気もあるけどやっぱいいや。話す事もないし。

 

「では君はそんな作文の書き出しをなんて書いた?」

 

「『今の世の中、男に未来はない』でしたっけ」

 

 平塚先生に促されるままに読み上げた文章。

 あれだな、レポートとか小説は最初の1文で言いたいことをまとめるかインパクトが重要って言うし、そういう意味ではパーフェクトな書き出しと言えなくもない。うん。たぶん言えないな。

 

「何か問題ありますか?」

 

「むしろ君は何の問題もないと思うのかね?」

 

 質問を質問で返すのはよくない。抗議しようとしたがやっぱりやめた。

 なやまし気なため息の後、髪をかき上げる先生はもとが美人なだけあって絵になる。

 特にそのギロリとした目つきとか日本古来の絵とかに出そう。タイトルは般若。

 うん。凄いお怒りですね。抗議したら食われる!?

 

「い、いやですけどね。今の女尊男卑の風潮じゃあながち間違ってないですよ」

 

 女尊男卑。

 女性の社会進出や家庭内で父親の威厳が低下したことなどに伴い起きた社会現象の総称。ではなく。

 そういった歴史で繰り返されてきた変化とは全く違う。とても歪な形で発生した社会現象の事である。

 

 10年前に起きたとある事件と、そこで登場するとある発明品が主な要因で発生し世界全土で広まった風潮。

 名前の通り女性優位の社会体系で亭主関白の逆のようなものだ。ただ、問題なのがこの風潮が広まった事による弊害。

 

「痴漢なんかの冤罪事件は年々増えてますし、性別だけで相手を見下し無下に扱う連中も目に余ります。そんな世の中で男に希望なんてあると思いますか」

 

 女性の権限が高くなるにつれ男女感の差別は逆転し広がり、増長した連中が何かと問題を起こすことが多くなっている。もっとも、その問題自体がうやむやにされたり男が一方的に悪いと言われたりすること自体が本当の問題なんだけどね。

 

「確かにそれも、重要な問題だが。それとは関係なく君の作文は問題だらけだ特にこの最後」

 

 俺の作文の最後は余った余白を贅沢に使った大文字で書きなぐられている。

 これが俺の考える今の社会を乗り切るベストアンサー。字の大きさは自信の大きさでもあるのだ。

 そんなまとめの文の何が問題なのかと首をかしげた。

 

「『社会に出るより家に入った方が安全。俺は将来専業主夫になる!』なんでこんな締めになるんだ!」

 

「なんやかんやでお家が一番安全じゃないですか」

 

「引きこもりか!それに普通こういう作文はこれからの抱負とかを書くものだ。それとも将来は自宅警備員にでもなるつもりか!」

 

「いや、だから専業主夫に……なんでもありません」

 

 言葉の途中で凄い目力で睨まれた。

 ふぇぇ…怖いよ…。

 

「比企谷。なんだこの舐めた作文は?言い訳なら聞いてるぞ」

 

 圧のある声で問い詰める平塚先生。たぶん更木さんちの霊圧くらいのプレッシャーがかかってる。

 なにそれもう人間じゃない。

 

「ひ、ひゃ、俺はちゃんとこれからの抱負だって書いてますよ。大体それならそうとあらかじめ説明してくれればその通りに書きます。これは先生の出題ミスですよ」

 

「小僧、屁理屈をこねるな」

 

「いや小僧って……確かに先生の年齢からすれば俺は小僧ですけど」

 

 ひゅんという音と共に先生の右手は俺の頬をかすめる。

 目にも止まらないグーパンチだ。

 

「次は当てるぞ」

 

 あ、これマジだ。

 額に冷や汗が流れる。

 

「すいません。書き直します」

 

 このまま話を続けていれば俺の身の安全が保障されない。謝罪と反省の意を表す言葉を選択。

 そうそうにこの場を立ち去るべく、行動を開始する。

 次の行動は先生のゴーがでれば職員室からダッシュで逃げ出すだ。

 

「はぁ、確かに君達(・・)の置かれた立場は色々複雑だ」

 

 ……あー、これはなんかお話モードに入ったな。

 このパターンだとまだ話は続くだろう。ダッシュで逃げ出すことができない。

 しかも平塚先生の話し方からさっきまでのお怒りモードではなく教師モードの話だな。

 

この学園(・・・・)で君が生活を送るのは不便もあるし、周りからの目もあるだろう。でもな、なってしまった物は仕方ない。せめても前向きに学園生活を送る気にはなれないか」

 

「はあ……」

 

 俺の気のない返事に苦笑いを浮かべる先生。それから胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。

 百円ライターなのが残念だが、それでもかっこいい仕草だ。

 

 将来俺も煙草を吸い、酒を飲み、平日の昼間からゴロゴロしてる大人になろう。ただの駄目な大人だな。

 

「君は部活してるのか?」

 

「まだ勧誘期間中ですし。まぁ、やる気はないですが」

 

「…友達はいないよな」

 

 この教師俺に友達がいない事を前提で聞いてやがる。

 

「ま、まだ学校生活始まって日もたってませんし」

 

「これから先できる予定でもあるのか」

 

「お、俺は平等を重んじてるんで特別とか、特に親しい人間を作らない主義なんです。そ、それにここじゃ俺と話が合うやつとかいなさそうですし」

 

「つまりいないし、作る気もないし、作ろうとしても作れないと」

 

「た、端的に言えば……」

 

 俺がそう答えると先生はやけにやる気の満ちた顔になる。

 

「そうか!いないか!やはり私の見立て通りだな。きみの腐った目を見ればすぐにわかったぞ!」

 

 なら聞くな。むしろ積極的に聞かないでくれませんかね。デリケートって言葉ご存知ですか。

 

「……彼女とかいるのか?」

 

 遠慮がちに聞いてきたが、とかってなんだよ。どうせいねえだろって思ってるだろ。

 

「き、清く正しい高校生活を送るうえで」

 

「そうか」

 

 話の途中でなんか納得された。

 潤んだ瞳でこちらを見てる事からあまりいい納得ではない事が予想できる。

 おい、やめろ。生暖かくて優し気な瞳で俺を見るな。人の優しさは時にどんな凶器よりも凶悪なんだぞ!

 

 平塚先生はティッシュで涙をぬぐいついでに鼻をかんで何事かを思案したのち煙を吐き出す。もう少し自重しろよ。一応生徒の前だぞ。

 

「よし作文は書き直せ」

 

「はい」

 

 妥当なところだ。

 仕方ないので先生が望む当たり障りのない、僕の夢はパイロットかプロ野球選手的な内容の文章を書こう。

 ここまでは想定内。でも、ここからさきが俺の予想を大きく超えるものだった。

 

「だが、君のその腐った考えはこれからの学園生活、ゆくゆくは社会生活に大きな障害が出ると判断した。よって君には奉仕活動を命じる」

 

 少年のような瞳で喜々としてそう言いだす先生。

 たぶん将来の夢はパイロットか野球選手とかなんだろうな。

 いやいや、現実逃避してる場合じゃない。

 なんだよ社会生活に障害が出るって、それに奉仕活動とどうつながるんだよそれ。そんな抗議や疑問が頭をよぎるが一旦落ち着こう。

 

「奉仕活動って…具体的に何をすればいいんですか」

 

 恐る恐る尋ねる。もうね、死刑宣告される犯罪者の気分。それでも俺はやってない。

 

「ついてきたまえ」

 

 小綺麗に整頓された机の上の灰が滲んだ灰皿に煙草を押し付けると、先生は颯爽と出口に向かい歩き出す。

 質問の答えがない上の提案に俺が固まっていると先生は急に振り向いた。

 

「早くきたまえ」

 

 きりりとした眉に睨みつけられ急いで先生の後を追う。

 どうせならキリリン氏に睨まれたかった。千葉県民的に。

 



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彼を取り巻く世界は間違っているだろうか。

久々の投稿です。
時間が経ちましたがすべてはメカエリちゃんのせいです!
いやー今回のハロウィンも楽しかった。





 どこに行くのかもわからずフラフラと後をついていく俺の姿はまさにゾンビか不審者の様で、すれ違った女生徒は平塚先生に笑顔で挨拶した後に俺を見て悲鳴を上げる。そんな流れが続いた結果先生の隣にいる。

 女性の後ろを3歩下がって歩く主義の良夫としては不満だ。別に悲鳴をあげられたことが不満なんじゃないと一応明記しておく。クソヤロウめ。 

 

 夕日が登り始めるころに窓の外を飛び回る黒い影を見つけた。

 校舎と離れた前衛的な建物が特徴的な特別棟の周りを上下左右に飛び回る。

 

「ISか。物珍しいかね?」

 

 隣にいる俺が立ち止まったのに気付いた先生がなんとなしに聞いてくる。

 

「まぁそれなりに……見る機会は少ないですから」

 

「君としては、あまり興味はないのかね」

 

 そっけない態度の俺に複雑な笑みを向ける先生は空を飛び回る影を目で追いかける。

 そのうち、動きがまだまだとブツブツと酷評してるがこれも一種の職業病なのかね。これだから社畜にはなりたくないものだ。

 

「普通の人並みには興味ありますよ。ライダーも戦隊ものもロボも好きですし」

 

 なんならその後やるプリティーなキュアキュア的な番組も毎週見てるほどだ。児童向けと言うがあれはいいものだ。

 最終回とか見ると今でも泣けてくる。

 そんな兄の姿を見た妹が冷たい目で見てくるから2重で泣ける。

 

「君の場合はISに対して人並み以上に興味をもってもらわないと困るんだがな……」

 

 困ると言いながら愉快そうに笑ってるところを見ると困窮するほどには困ってないらしい。

 

 さて、ここで1つさっきから名前の出てるISの事を話そう。

 今から約10年ほど前に、とある事件が発生し世界は一時大変な騒ぎになった。その原因と言えるのが後にISと言われるマルチパワードスーツである。要するに装甲が少ないロボだ。

 

 確か正式名所がイン、イン、インデックス・ストラトス……だったけ?なんか魔術と科学が交差しそうな名前だな。

 

 このISは元々宇宙開発用に作られたというが、最高時速は音速を超え、強固な守りはミサイルをも防ぎ、デブリを排除するという触れ込みの武装の数々は完全に戦闘用。

 当時現存した通常兵器の中では、まさに最強と言えた。

 

 そんなオーバースペックが本当に宇宙開発に使われる訳もなく世界はISを初め兵器と位置づけ、その強力さに恐れを抱きISによる戦争行為の一切を禁じする『アラスカ条約』の締結により今ではスポーツ競技の一種として一般に認知されてる。

 

 ジャンルで言うとボクシングや格闘技に剣道や戦車道と同じだ。なお、最も近いのが戦車道(アニメ)。

 

「君や世の男性からしたら女尊男卑の元凶だろ。憎い…とまでは行かなくても複雑なんじゃないのか?」

 

 先生の質問は皮肉や嫌味の一種ではない。真剣な顔を見ればそれくらいわかる。

 単純に疑問に思ったから聞いたのだろう。自分より目下の物に何かを聞くというのは目上の者にとって中々しづらい。

 必要な事でも教えを乞うというのは大人にとって恥ずべき行為なのだと思う人間は多い。それに対し先生のように疑問を疑問として終わらせない人は、なんというか賢く見える。

 

 だから、虚や取り繕いは必要ない。

 どこかのショーエネ主義者ではないが、必要ない事ならやらなくてもいいだろう。

 

「別にそんな事思いませんよ。最強の兵器でも最新のスポーツでも要は道具。恨むとすればそれを使う人間ですよ。この世の不条理は大体人間の責任です」

 

「なんとも捻くれた回答だな。君はもう少し素直になってもいいんだぞ」

 

 俺の答えに一瞬キョトンと目を丸くさせた先生は、やれやれといった笑みを作る。

 

「俺ほど素直な人間もいませんよ。社会に出たくないし、働きたくない。やる気と根気もありません」

 

「はぁ…」

 

 疑問も解消され満足したのか先生は歩みを再開させる。最後のため息がどういう意味なのかは知らない。例え言葉にしなくてもこのクズと、目が雄弁に語っていたが知らない。

 分かっていてもわからなくていい事も結構あるのだ。

 

 あと、補足として。

 アラスカ条約により軍事運用ができなくなったISだが、その本質は人が操縦するロボットな訳で練度が高ければ性能も上がるし逆もしかり。

 が、軍人が大手を振って訓練するのは色々と決めごとがありめんどくさいのだという。だからと言って民間の好きに特訓させるには問題が多い。

 そもそもIS自体500機に満たない数を世界中に分配してるのだから1つの国が保有する絶対数は少ない。

 

 そんなこんなでIS操縦者を育成する教育機関が必要となり、名聞上軍隊が存在せず戦争の参加を禁じてる日本に白羽の矢が立った。面倒事を押し付けたともいう。

 

 国が主催として育成と技術向上を目的に教育機関を設立した。しかも、そこで出た成果は日本国が独占保有する事は禁じされ、世界に発信しなければいけないという理不尽な規定付きで。

 逆に各国の技術流失を避けるため、どの組織も国家も学園並びに生徒、職員、その家族に干渉する事も禁じられている。

 

 そんな世界の思惑と面倒事の集大成こそ、『特殊国立高等IS育成学園』通称IS学園だ。

 某夢の国と同様に海の上に建てられたこの学園は名前にはついていないがれっきとした女子高だった。

 今年の受験シーズンに1人のアホな男性受験生がISに触れ起動させてしまい、その後行われた適性試験により2番目の男がISを起動させるまではな。

 ちなみにその2番目の被害者が俺こと比企谷八幡である。

 ほんと、どうしてこうなったのか……。

 

「まぁ君たちにとっては無理やり入学させられた上に他の生徒は全員女子で気苦労もあるだろう。でもな、なってしまった物はどうしようもないんだ。前向きとは言わんが少しくらいやる気を出したまえ」

 

 ちなみに俺は地元千葉の総武校の入学がすでに決まっていた。

 

「夢や目標がないやる気は空回りするだけですよ」

 

「ないなら作りたまえ。友達や恋人はいなくてもそれくらいできるだろ」

 

「冗談がお上手ですね」

 

 乾いた笑みで一蹴してやったが学校の先生とはめんどくさい物で、生徒にやたら夢だのを押し付けてくるものだ。

 こんな会話もこれから何回か訪れるだろうから気にしないでおく。

 なんとなくこの先生は諦めが悪い気がする。俺ですら諦めてる俺の事を気にするとか本当にお疲れ様です。

 おそらく成果は見込めませんがやることに意味があるんだと僕は思いました。なんで作文風?

 

「ついたぞ」

 

 声を掛けられ、気づいたら教室の前まで来ていた。

 位置的に本校舎からかなり離れた角部屋で、プレートには何も書かれていない。俺が小首をかしげてる間に先生はずかずかと教室の中に入っていった。

 

 教室の中は乱雑に積まれた段ボールが多くあり、教材や資料が散乱してる。

 扉を開けると異世界の食堂に通じていたり、見目麗しい美少女なんていなかった。一目でわかる物置とされた空き教室だ。

 

「……埃っぽいですね」

 

「しばらく誰も使ってなかったからな。では比企谷、これから奉仕活動の内容を説明する」

 

 中を歩くだけで積もった埃が宙に舞う。

 そんな中先生はカーテンを開き窓を開け外から入る夕日の光をバックに振り返る。

 

 その瞬間。俺の脳内を電流が走り、今までの人生で起こったあらゆる事が再生される。これぞまさに走馬燈!

 て、違う違う。もっとあれ、推理漫画とかである感じのピーン見たいな奴。

 

 人気が少なく、いくら騒いでも誰かが駆けつける見込みがない離れの空き教室。夕日のコントラストを生み出し淡い雰囲気を演出するシュチュエーション。そこに寝ても覚めてもエロい事しか考えていない思春期真っただ中の男子高校生と、妙齢の綺麗な独身女教師。

 

 こんな条件が揃えば起きる事なんてトラブルがダークネスするしかない。思春期男子ならそう考える。そいつらみんな罰として廊下に立ってなさい。

 

 現実でそんなイベントは起きないし、俺の青春にラブコメなんて発生しない。きっと俺の所のラブコメの神様は怠け者なのだ。

 

「この教室の資料等を新しくできた資料室に運んでもらう」

 

 ですよねー。

 はいはいわかってましたよ。肉体労働ですよね。こんちくしょう。

 

 先生から言い渡された言葉はまさに俺を絶望の淵えと突き落とす悪魔のささやきだった。

 俺の嫌いなものは数ある。騒がしいリア充も嫌いだし人前でいちゃつく恋人も嫌いだし俺が認知してるアベックはみんな破局すればいいのにと常日頃から思っている。

 

 そんな俺が一番嫌いなものは、報酬のない肉体労働だ。ちなみに次に報酬のある肉体労働が嫌い。ということで全力でお断りする方向で脳内会議が決定した。

 

「あの、すいません実は俺、持病のヘル、ヘル、ヘルクレスなんすよ」

 

「ギリシャの大英雄なら問題はないな。ちなみに君が言いたいのはヘルニアな」

 

 痛恨のミス。やはりよく知らない知識をおおっぴろげにすると痛い目を見るだけか。

 ちなみに、後に調べたがヘラクレスのラテン読みがヘルクレスなんだそうだ。よくそんなこと知ってたなこの現国教師。

 

「……埃っぽい部屋に入ると咳が出るんです。ごほっごほっ」

 

 最近の教育機関はアレルギーとかにやたら弱い。イメージ的には初級魔法で倒せるスライムレベル。

 病気ってる感じを出せば嫌な仕事からは大概逃げられる。

 

「入学時に受けた健康診断の結果、喘息やアレルギーのない健康体。実によろしい」

 

 平塚先生は手に付けたブレスレット型の端末で俺の健康診断の結果を表示した。いやー俺のプライバシー!

 くっ、バイト先の店長レベルの認知度ならともかく親や教師レベルの認知度ならこの手は効果ほとんどない。クソ!店長ごめんなさい!

 

「そう嫌な顔をするな。やることをやったらこの教室を好きに使っても構わないぞ」

 

 露骨な表情で死んだ顔をしてる俺にしょうがない奴だと言わんばかりの目を向けてくる。

 

「好きにつかっていい?」

 

「ああ、そもそもこの教室は職員室からも他の学年の教室からも離れすぎている。今までは物置程度にしか使ってこなかったが、それも新しく資料室ができたから使いみちがないんだ。そこで、提案だ」

 

 俺は先生の話を真剣に聞く。

 腰に手を当てウインクする姿に年を考えろと言いそうになるが堪えておく。大事な話のようだし、言ったら殺されそうだし。

 

「君は当初、寮の調整ができるまで自宅通学と聞いていたはずだが今日の昼頃に政府の方から通達が来て護衛や防犯上の都合で今日から寮生活をしてもらう」

 

「え、初耳なんですけど」

 

「伝えるのを今の今まで忘れてた。すまん」

 

 おいコラ、結構重要な事だろそれ。

 

「しかし、何事も急すぎてな。都合が付かず君は上級生と同室になってしまった。もちろん相手は女生徒だ」

 

「ぇ……ちょっと、それ」

 

 さらに重要な事を言われ、戸惑いながらも聞き返そうとするが、先生は聞く耳持たず話を次々に進めていく。人の話を聞いてくれ先生!

 

「そうなってくると君はまさに四六時中女子と接する事になる。普通の男子高校生なら喜ばしいシュチュエーションかもしれないが、君の場合それは単なる地獄だろ」

 

「そう思うならどうにかしてくださいよ」

 

「政府と学園上層部の決定だ。私にはどうすることもできんよ」 

 

「……」

 

 あっけらかんと言われてしまうとそれ以上言葉が出ない。俺自身もそういった大人の事情とやらでここにいるわけだし。

 先生の立場的にも、俺と先生の関係性的にもそれ以上異論を唱える意味も価値もない。フレンドリーすぎて忘れそうになるがこの先生とはほぼほぼ今日が初対面だ。

 俺が逆の立場ならそんな面倒な生徒なんかとっくに見捨ててる。そう思うと平塚先生は面倒見がいいのかもしれない。

 

 しかし、駄目と分かっていても苦言は呈する。黙っていては何も変わらないし、ネットに書き込むだけでは炎上はできても物事は変わらない。まずは実行する事が社会復帰の第一歩と知るがいいニートども。

 

「上の連中は公序良俗とか倫理観とかわかんないんですか」

 

「いつも苦労するのは現場の人間さ。上は現場の苦労をわかっちゃくれないよ。社会に出ればよくあることさ」

 

「うわー社会出たくない」

 

 お互いに哀愁の漂う背中を晒しながら夕日に向かってバカヤロウと叫びたくなる。俺が成人したらこの先生とはいい酒が飲めそうだ。

 

「あと、もう1人の男子生徒と同室にする意見もあったが色々な要因が重なり没になった」

 

「なんですか要因て」

 

「詳しくは言えんが、揃っているところに爆弾でも放り込まれると取り返しがつかないが1人1人ならどちらかは助かる的な感じだな」

 

 いきなり物騒な話が飛び出してきた。

 よくよく考えると、俺達の存在(男性操縦者)は女尊男卑を信仰してる奴らにとっては邪魔以外の何者でもないのだ。

 生きてるより、死んでくれた方が喜ぶ連中も中にはいるってことか。

 うん。もう、おもてでたくない。引きこもりたい。

 

「防犯面で寮は安全のはずだが一応の対策だ。ただ、身の安全が保障されても精神の方がケアできなくては学校として申し訳が立たない。そこで放課後だけでも君が1人になれるようにこの教室を提供する」

 

 なるほど、ここに来て先生の言いたいことが大体わかった。授業も寮でも女子と接するとなると俺のHPはガンガン削れることだろう。

 

 思い出すのは中学時代の移動教室。目の前を歩く女子が消しゴムを落とし親切心で拾って渡したら相手はいきなり泣き出した。

 何事かとその子の友達が俺に問い詰めるが訳が分からない俺は知らないの一点張り。女子がある程度落ち着いて女子の友達が事情を聴くと女子は目を赤くはらせ言った。

 

『ひ、ひ、ヒキタニに…消しゴム触られたっ』

 

 うん。理不尽すぎる。

 その後待ち受ける謝れコールに俺の心が折られたのは言うに及ばない。

 

 普通の時でこれなら、こんな環境じゃ1週間で引きこもりの不登校になるのは目に見えている。せめてもの心の平穏を保つためにも先生の提案は魅力的だ。

 

「名目上は部活動とでも言っておくし顧問は私が勤める、先生方には話を通しておく。まぁ何事もただ与えられるだけじゃ有難みがないからな。そのための措置として奉仕活動を行う」

 

 そう言うと先生は俺の事をじっと見つめて何も話さなくなった。

 あとは、返事次第。そういうことだろう。

 

 俺は頭をガシガシとかき上げ大きなため息を吐き先生に向き直る。

 

「わかりましたよ。甘んじてその罰受けますよ」

 

「うむ、よろしい」

 

 今までの真剣な雰囲気から明るい笑顔に変わる先生。窓から差し込む夕日に照らされその笑顔はまさに輝いている。

 ほんの、そう、ほんの一瞬ではあるが、その笑顔に見惚れていたのは、気の迷いだろう。



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彼は最強と出会う。

皆様お待たせしました。諸事情により更新できませんしたが、ようやく帰ってこれました。
これからもよろしくお願いします。






 先生と別れてそのまま帰宅と行きたいが、残念ながら今日から俺はマイホームには帰れない。

 べつに勘当されたわけではい。それはもっと将来的に起こるイベントだ。起こることが決定してるのかよ。

 

 IS学園は世界中からISを学ぶ生徒が集まる学校でほとんどが日本人だが、少ない数の外人がいるのも事実だ。そのため公平と協調性を高めるために全寮制となっている。

 で、これは当たり前の事だが、俺みたいなイレギュラーさえいなければ生徒はすべて女。もちろんその寮も女子寮だ。

 そう女子寮だ。大切な事だから2回言っておく。

 

 平均的な男子高校生は女子という名の付く密室にやたら夢を抱く。女子更衣室しかり女子寮しかりな。でも、だからといってそこに侵入すれば変態で犯罪者だし覗きなんてする度胸がある奴はめったにいない。でも禁止されてるからこそいらぬ想像を膨らませるのも事実だ。

 

 それを踏まえて考えてほしい。公然的に女子寮に入る事を許された男子高校生はどうすればいい?

 

 ヤッホーと手を上げ喜ぶ?堂々と寮に入っていく?誰にも見つからないようにこっそり侵入する?

 

 正解は、寮の前にただ立っている。

 ……うん、いやだって女子寮だぜ。友達いない歴=彼女いない歴=人生のぼっちな俺が断りもなく、たとえ断っていたとしても女子寮に入っていくなんて難易度が高すぎる。

 そんじょそこらのリア充だって狼狽えるレベルだよ。

 

 それが許されるのはイケメン、運動部、性格のいい3拍子揃ったリア充の王様リア王かラノベ主人公くらいなものだ。

 ちなみにラノベ主人公は、その後女子の部屋に踏み込み着替えやふろ上がりに出くわすまでがセット。

 

 結局かれこれ1時間くらい寮の前にいるが未だに踏み出す勇気はない。これはあれか、最悪野宿を念頭に入れておいた方がいいかもしれない。

 

「おい不審者、何をしてる」

 

「ふふ、不審者じゃないでしゅ!?」

 

 寝袋とテントどちらを用意するかと悩んでいると後ろから女性に声をかけられた。反射で答えてしまったためものすごく噛んだ。

 そんな俺を見た女性の目がいたたまれない。やめてそんな目で見ないで!

 

「その反応はどう見ても不審者にしかみえないぞ」

 

 女性は呆れたようにこちらを見下すように腕を組む。

 見た目20代前半くらいで黒いスーツ姿からしてたぶん教師だと思われる。

 平塚先生とは対照的にスカートタイプのスーツで、ツリ目の印象が強く性格がきつそうだ。

 

「……不審者ではないです。一応この学園の生徒です」

 

 教師に不審者とされ逮捕される事態は避けたい。主に俺の学校生活と人生のために。

 なので、しっかりと言い直し念のため生徒手帳を見せる。

 

「そんな事はわかっている。この学園の教師でお前たちを知らない者はいない」

 

 その言葉で緊張がほぐれ肩が下がった。

 やっべー職質された経験は結構あるけど今回は本当に危なかった。だって、女子寮をずっと見てる男とかほぼほぼ犯罪者だもん。自分の事だけど。

 

 一息つき、よくよく目の前の先生を見てみるとどこかで見た事があるような気がした。

 こんな性格のきつそうな美人と1度会えば忘れないと思うが、記憶違いでもない。なんだろうか?

 

「私は1年1組の担任をしてる織斑千冬だ」

 

 首をかしげる俺の様子の俺に先生は簡単な自己紹介をしてくれる。その名前を聞いた時にテレビのニュース番組が頭をよぎる。

 

 第1回IS世界大会モンド・グロッソ優勝者 日本代表選手、織斑千冬。

 

 数年前に行われたISの世界大会。そこで優勝した選手の名前だ。

 日本では女武将と呼ばれていたが、開催地の北欧では神話に出てくる戦乙女の名前に肖り『ブリュンヒルデ』と呼ばれていた。

 確か、連覇を期待された2回大会の準決勝で原因不明の欠場をした後、現役を引退したと聞いていたがIS学園にいたとは初めて知った。

 

 頭の中の動揺が表に出て唖然と有名人を見ていると、先生はため息をついた。

 

「……はぁーうちの馬鹿者だけかと思ったら最近の奴は自己紹介1つまともにできんのか」

 

 そこで思い出したが、俺はまだ自分の事をこの人に行ってなかった。

 でも、生徒手帳を出した時に名前くらい目に入ったと思うし、何より。

 

「いや、俺の事知ってるって言ってませんでした?」

 

 先生は言っていた。お前たちを知らない教師はいないと。それも当たり前だ。女しか動かせないISを動かし、強制的に連れて来られたが男性操縦者というイレギュラーまたの名前を厄介者の事を知らない先生はいないだろう。

 お互いがお互いを知っているなら自己紹介の意味があるとは思えない。

 

「その馬鹿者が誰か知りませんが、相手が自分の事を知ってるなら省略しても問題ないでしょ。無駄を省くことは、今の情報化社会に求められる事だと思います」

 

 思っていることを理屈に乗せて先生に便宜する。

 

「例え相手が自分の事を知っていても初対面ならまず自己紹介するのが普通だ」

 

 仕様美やマナー的な問題か。

 例え無駄でもそれをやる。それが大人の世界の常識で、俺のような社会に出てない子供にはわからない悪習だ。

 例えば名刺交換がそういう例だろう。ここまで情報化社会が進んだなら紙媒体の名刺より端末にデータとして名刺を入れていたほうが凄いエコだと思う。

 

「ですが最近は個人情報をしっかりと守らないとすぐ流出しますよ」

 

「それはそうだが…自己紹介くらい問題ないだろ。むしろ、学校生活を進めるためにも大切な事だ。友達を作るにしても大切な事だ」

 

 はいでたー。教師特有のそんな事じゃ友達できないぞ!攻撃。

 子供にとって友達という存在がいかに大事かという事を分かってる教師が一番に人質にとる常套句だ。

 この一言で大体の奴らは反抗する気力を失う。

 しかし、残念な事に目の前にいるのは友達を作れる気配がない真正のぼっち。そう俺だ!……威張れることではないな。

 

「クラスメイトなんていう信用性が皆無の他人の集まりこそ警戒するべきだと思いますよ。その場のノリと勢いでどんな悪事も正当化するのが得意ですから」

 

 イジメの画像や動画をネットやツイッターで流す奴とか前はいたし。最近は画像や動画を加工し身バレが起きないようにしてから投稿するので尚に質が悪い。

 何よりただの他人より少し近いくらいの他人が一番怖いのだ。

 

「……もういい。お前はなんだ、人間不信かなにかか?」

 

「ただのぼっちです」

 

 怪訝な表情の先生の問いにそう答えると、なんだか先生は疲れたように肩を落とした。

 逆にさっきまで肩を落としてた俺は胸を張る。これぞ勝者と敗者の図。でもたぶん俺の方が負けてると思う。社会的に。

 

「ところでさっきから何をしてる。もうすぐ門限だ自室にいけ」

 

 ふと先生が腕時計を見ながらそう言ってくる。そういえばそうだった。

 野良猫を追い払うようにしっしと手を振る先生をしり目に一歩も動けない。未だに女子寮に入っていく勇気は出ない。

 

「あーまぁはい……」

 

 なので曖昧な返事で視線を明後日の方に移すが、ジーと先生は俺の方を見ている。

 

「そういえば、さっきから寮にいる生徒から絶えず苦情…というより通報が後を絶たない」

 

 動く気配のない俺に先生は唐突に話題を振る。それも随分と物騒な。

 

「通報ですか?」

 

「なんでも寮の前に、女子に未練を残したモテない男の幽霊が現れたらしい」

 

 幽霊と聞いて俺の妖怪アンテナ(アホ毛)が反応する。いや、いろいろ間違ってる。それにその幽霊ってもしかして。

 

「夕暮れ時に女子寮の前に何をするでもなく佇んで恨めしそうな顔をしているらしい。特徴は猫背で死んだ魚のような目をしているとかなんとか……」

 

 さっきとは違った意味合いでジーとこちらを見る先生。冷や汗が背中を伝い、どうにか視線を外す俺。

 そんなやり取りがしばらく続いたが先に折れたのは俺の方だった。

 

「なんか……すいません」

 

「とりあえずついてこい。これ以上ここに居られても学校の7不思議が新しく生まれるだけだ。部屋まで連行する」

 

 はっきり連行っていっちゃたよこの人。せめて護衛とまではいかなくても護送くらいは言ってほしかった。

 

「私は1組の担任以外にもこの寮の寮長もしてる。問題行動を起こせば私が力ずくで黙らせるのでそのつもりでいろ。それとこんなアホらしい騒ぎを2度も起こすようだとそれも処罰の対象なので心得るように」

 

「……はい」

 

 有無を言わさない鋭い眼光に肯定以外の選択肢はなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 築10年もしていない寮は見た目も中身もとにかく綺麗で豪華だ。インテリアに拘った機能性を重視したシックなデザインとか、専門的な事はわからんが高いホテルとほぼ同じだろう。

 すげえ金掛かってそう。

 

「寮には大浴場もあるが、まだ男子生徒の使用は許可されてない。室内にはユニットバスがあるのでそこで済ませるように。それと、門限は絶対厳守。門限外の外出も禁止なので時間には気を付けろ」

 

 織斑先生の後をついて寮の中を進む最中、施設の説明と規則の説明を軽くされる。自宅と比べると自由はないが、まぁ当たり前の内容だ。

 IS学園の女子寮と想像するとなんか不当な扱いをされることも覚悟していたが、それなりに配慮されてるらしい。

 

「ほかに何か質問があれば聞いておけ。規則に関する説明は生徒手帳に記載されてるからそこを見ろ。今思いつかないなら後日同室の者から聞くように」

 

「はい。そういえば俺の同室って先輩だって聞いたんですが…」

 

 この1点さえ配慮されていれば俺は最大級の評価をIS学園にしたのに本当に残念だ。女子と同室とか夢が膨らむなー。悪夢がな。

 

「ああ、楯無だな。2年の学年首席で生徒会長を務める生徒だ」

 

 楯無という変わった苗字だと思ったが、比企谷が言うなよと自己ツッコミを入れる。というか聞いてた話よりエリートじゃね?

 なんかもう想像だけで金髪巻き毛か黒髪長髪のお嬢様系エリートを想像してしまう。

 どっちにしろ俺と仲良くする気はなさそうだ。

 

「よく俺…というか男と同室なんて了承しましたね」

 

「……まぁ本人も積極的にとは言わないが、快く引き受けてくれた」

 

 中々含みのある言い方だ。これ絶対快く引く受けてないパターンじゃん。その証拠にさっきまで目を合わして話してた織斑先生と目が合わない。

 

「普段おどけた言動をするが、根は真面目だし成績もよく教師からの覚えもいい。彼女なら間違いは起こらない、はずだ」

 

 なんかフォローしようとしてるのか歯切れの悪い会話をする先生だが、全然フォローになってない。

 クラスの人気者が誰もやりたくない仕事を本当は嫌だが笑顔で引き受けるイメージが沸々とわいてくる。心なしか先生も不安がよぎる表情だ。

 悪い事なんて1つもしてないのに罪悪感で胸が苦しい。

 これはあれだな、犠牲になった盾無さんのためにもできるだけコミュニケーションを取らずひっそりと生活しよう。

 そこにいるのに分からない。席に座っていても忘れられる。ステルスヒッキーの独壇場っす!

 

「実力も申し分ない。殺害予告なんてアホな事をする連中に万が一にも後れを取ることは無い。心配することは無い」

 

 不戦の契りならぬ不干渉の契りを心に決めた俺の耳に聞き捨てならぬ言葉が届いた。

 

「……え、殺害予告って何ですか?」

 

「ん?担任から聞いてないのか」

 

 冗談かなんかだと思った、というか思いたかったけど織斑先生の「しまった!?」みたいな反応でそれが否定された。

 まさか、平塚先生の言ってた爆弾云々の話か、詳しく言えない一応の対策の話か。

 

「一応防犯上とか安全のためとか言われましたが……」

 

 自分でも顔が引きつっているのが分かる。

 

「…まぁいいか。殺害予告と言ってもそのほとんどは幼稚な悪戯の類だ」

 

 話を聞くと、宛先不明の手紙やネットへの書き込みなど足が付きにくい嫌がらせのような物が数件あるらしい。

 まるでアイドルかなんかだな。アイ活とかプロデューサーさんとかやるのかな。誰得だよ。武内P押には人気でそうだけど。だから、誰得だよ。

 こんな血なまぐさいアイドル活動死んでも嫌だよ。むしろ死ぬから嫌だよ。

 

「99%質の悪いイタズラだ。そもそもIS学園の警備を突破するなんて国の特殊部隊でもない限り不可能だしな。が、頭の固い上の連中は残りの可能性を危惧して急遽お前たちの寮生活を押し切った。念には念を入れて部屋を別れさせたりと指示付きでな」

 

 とても迷惑そうな顔の織斑先生は、何を思い出したのか知らんが若干イラついてる様子だ。事件は会議室で起きてるんじゃない現場は大変なんだよ!とか今にも言い出しそう。

 

「もう1人は私がすぐに対応できるよう寮長室から近い場所に、比企谷は離れた場所なのでいざという時後手に回るので、学園内でも随一の実力を持つ生徒と同室に決まったわけだ」

 

「いざという時ですか…」

 

「さっきも言ったがそんな心配しないでも大丈夫だ。どうせ何も起こらん。起こすとすればお前が節度を守らない行動に出た時だ」

 

 最後の最後に私の手を煩わせるなと釘を刺された。

 心配しないでもそんな時はない。

 

 この説明を聞き改めて自分の置かれた状況の危うさを実感したが、それと同時に同室になる少女の事で抱く罪悪感が薄れた。

 要するに、盾無さんは学園から頼まれた任務で俺と同室になったという事だ。そういう事ならお互い必要以上の関わりを持たずに平穏無事な生活を送れるかもしれない。

 

「ついたぞ」

 

 気づけば先生はある部屋の前で立ち止まる。

 先生に促され扉の前に立つ。このままノックをして扉を開ければ恐らく中にはくだんの盾無さんがいる。

 そこでふと思う。平均的な男子高校生は女子という名の付く密室にやたら夢を抱くと――

 

「……さっさと入れ」

 

「ええ、まぁ、その……はい」

 

 いつまでもドアノブを回さない俺に苛立った先生が促すが、それでも手は動かない。

 すいませんヘタレました。だって寮の部屋とはいえ女の子の部屋に入るのって男には凄い勇気が必要なんですよ。まじで。

 寮の前にいた時よりもさらに時間を費やしようやくノックができるレベルだ。

 

「わかった。今回限り、特別に入室まで同行してやる」

 

 業を煮やした先生が俺を押しのけ扉を開く。なんとも情けないがここはご厚意に甘えよう。

 逆にこれを逃したら織斑先生のご厚意を受けることはないだろうし。押しのけた先生の目はこれ以上迷惑かけんなとありありと訴えかけてる。

 

「はーいおかえりなさい。ご飯にする、お風呂にする、それとも、わ、た―――」

 

「何をしてる楯無」

 

 俺は扉の影に追いやられ部屋の中を見れないが、なぜだかどこぞで聞いたようなセリフが明るい声に乗せて流れてきた。

 逆に織斑先生の声は氷点下並みに冷えていた。

 

「え!?なんで織斑先生が――」

 

 声の途中で扉を閉めた織斑先生がこちらに顔を向けた。その表情は出会って初めて見る無表情だった。イラついた顔より断然怖い。

 

「おい比企谷。少しそこで待ってろ」

 

 あまりの迫力にだまって何度もうなずく。

 そんな俺の様子に満足がいったのか、静かに扉を開け中に入っていく織斑先生。

 

「ちょ、まっ、にゃあああああああああああああああああああああああ!?」

 

 数分後甲高い悲鳴が寮の中に木霊した。




部屋での出来事。

千冬「盾無なんだその恰好は?」

楯無「ち、違うんです!誤解なんです。ほ、ほらエプロンの下はちゃんと水着が――」

千冬「そういう問題じゃない!節度を守る立場のお前が何をしている!!」

 青色の頭をわしづかみにし、力を籠める。千冬のアイアンクロウ。

盾無「ちょ、まっ、にゃああああああああああああああああああああ!?」


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「絶望的に君は綺麗で」ってどんだけ綺麗なんだろうか?

今年もお願いします。




 絶望的に~。

 こんな切り出し口の会話は結構ある。しかし、そのどれも本当に絶望したと言える状況な事は極めてまれだ。例えば「あの髪型絶望的に似合ってないよね!」とか、散髪した次の日にクラスの女子がクスクス話された時とか俺が、どこぞの糸色さん家の望君なら3カメまで使って大々的に絶望したと叫んでる。

 ただ、所詮そんな程度ともいえる。

 本当の絶望を知った人間はむしろ、絶望したなどと言葉に発する必要もないだろう。

 巨人に壁を破壊され母親を食べられた少年も、絶望的な状況で口にしたのは駆逐してやるだったし。

 要するに現代社会で絶望的に~というやつの大体は余裕があるという事だ。

 

「……絶望的にわからん」

 

 では問題です。顔面蒼白で教科書を眺めてる目の濁った俺の呟きに余裕はあるでしょうか?

 はい、ないです。正解。もう本当にヤバい。まじで絶望的だ。

 

 IS学園2日目は、通常授業を行ったがその内容はあまりにもレベルが高かった。通常の授業でも進学校の特進クラス並みに難しいのに、専門用語のパレードがレッツパーリィーしてるIS関係の授業は何を言ってるのかすら分からない。

 

 もし、クラスの風景をオフィスビルにでも変えれば、意識高い系が集まった会社の会議だとしても通用する。

 そんな高度な授業を、虫食い状況の知識を詰め込んだだけのほぼ裏口入学の俺に分かれと言っても土台無理な話なのだ。

 

 ちなみにほぼ裏口入学とは、男性操縦者のIS学園入学はすでに決定事項だが、形式上形だけでもテストを受けさせられた。

 平均的な高校入試の試験に+してISに乗り教師と模擬線形式で戦い、ものの見事に敗北した。

 詳細な結果は提示されていないが、恐らくテストで0点でも名前さえ書いていれば合格したであろう試験をほぼ裏口と言わずして何という。

 

 そんなわけで、正規の入試をクリアしここにいる周りの連中と俺ではその基礎学力に大きな差が生まれるのも致し方ない事だ。

 だからと言ってそこで仕方ないと割り切れるほど図太い神経を持ち合わせていない俺は、周りがさも当然の如く授業を理解していたことにショックを受けているのである。

 

「このクラスのクラス代表を決めるぞ」

 

 項垂れてる俺を他所に、帰りのホームルームで平塚先生は事務的にそういった。

 

「クラス代表ってなんですか?」

 

 名前を憶えていないがクラスメイトAが先生に質問する。

 

「名前の通りこのクラスの代表で主な仕事は学級委員のようなものだ」

 

 先生の説明に対するクラスの反応は冷ややかだ。まぁ、学級委員なんて先生にはパシリ扱いされクラスではうざいだうるさいだの言われる損な役回りだ。誰も自分からクラスの奴隷なんかになりたいとは思うまい。

 

「それに加えクラス代表はクラス事の試合に優先的に出場できる」

 

 ざわりと教室が色めき立つ。

 ISは国家が厳重に管理しており、一部の例外以外は私的な使用を禁止されている。そのためIS学園でも授業以外でISの使用は数日目から届け出をしないといけない。

 が、試合に出るという事はその分他の連中より多くISを使うことができるという事だ。操縦者志望の奴なら、多少のリスクを払っても大きなリターンがあるだろう。

 

「一番早い行事だと、クラス代表戦だな。1年のクラス代表がトーナメントを行う新全試合だ。毎年優勝したクラスには豪華特典が付くぞ」

 

 豪華特典と聞き好意的なざわつきは増す。単純だがご褒美があれば人間誰だってやる気は増す。

 俺の場合、負けた時の残念だったねという周囲の遠回しな非難の声を想像しやりたくないと強く思うけど。

 

「クラス代表戦だって!私やってみようかな~」

 

「うんうん何事も挑戦だしね~」

 

「だね!ほんとそれ!」

 

 あちらこちらでされる会話に、この分だと俺が押し付けられることは無いだろうと安心する。

 心に余裕が生まれたことで周囲をより観察する。

 すでにいくつかのグループが形成され、さらにそのグループに順位が生まれる。しかし、まだ盤石ではないようで2,3個あるグループがカースト最上位を目指ししのぎを削り合ってるようだ。 

 

「せんせー特典ってなんですか?」

 

「ん?確か去年はデザートただ券1年分とかだったな。今年も同じか、それなりに期待しててもいいぞ」

 

「「「キャア――――――!」」」

 

 先ほどぶりのクラスメイトAの質問。2,3個あるグループの中心人物のようで彼女の周りでは多くの女子が騒いでる。

 

「クラス代表は委員長の仕事もあるんだからそれも忘れるなよ」

 

「はーい!」

 

 クラス内のカースト争いは、Aのグループがやや優勢のようだ。さっきから発言してるのは彼女の周りの連中だけだし。他は、コソコソと仲間内でしか聞こえない程度の声だ。

 

 まぁ、クラス代表になるつもりもないしクラスカースト万年最底辺の俺には関係ない話か。 

 そんな中、俺と同じ、いや全く別なんだろうが一応ここは同じと表現するが、この話に我関せず全くの無関心な奴が俺の隣にいる。

 

 騒がしい周りとまるで格別されたような静寂。いっそ絵画の中とでもいった方が正しいような雰囲気をかもしだす人物。

 黒くしなやかな髪は日本人特有のものだと分かるが、彼女は日本人離れした美少女だ。

 麗人にして隣人。

 

 そんな彼女は白を基調とした制服に動かない表情で手元の本を見ている。

 

「……」

 

「…何かしら?そんなに見られると不快なのだけど」

 

 !

 どうやら、俺が見すぎていたようで視線に気が付いた彼女に苦言を呈された。

 

「ああ…悪い。あんたは盛り上がらないんだなと思って」

 

「貴方にあんた呼ばわりされるいわれはないわ」

 

 方のいい眉を曲げる彼女に完全に失敗したと思った。

 端から初対面の女子とうまく会話する技術なんて持ち合わせていないが、これは酷い。

 しかし、言い訳をするなら名前の知らない相手をどう呼べばいいのかわからないのだ。

 

「……生憎とそちらさんの名前を知らないんでね。不快だったら謝るよ」

 

「昨日の自己紹介の時に言ったはずだけど残念ね。貴方の頭は」

 

「…倒置法を悪口に使うのやめてくれません?」

 

 頭の中で言い訳してすいませんでしたと土下座する。そういえば昨日したね自己紹介。俺は全く覚えていないけど。

 完全に非が俺にあるのでなんとなく敬語を使う。

 

「雪ノ下雪乃よ」

 

 めんどくさそうにそう名乗る雪ノ下。

 その視線には2度手間させるなこの無能が!と不機嫌さ増しましだ。

 

「あ、ああ、俺は――」

 

「知っているわ。悪い意味で有名だから」

 

 名乗られたら名乗るのが礼儀と俺も自己紹介しようとしたら雪ノ下にさえぎられた。

 というか悪い意味ってなんだよ。俺の有名な話なんてクラスの女子に告って翌日にはなぜかクラス中が知ってるみたいな事しかないぞ。

 悪い意味であってるな。たぶん雪ノ下が言いたいのはこれじゃないだろうけど。

 

「悪い意味も何もそこまで目立つことをした覚えはないが」

 

「本気で言っているのなら正気を疑うわ。2人目の男性操縦者さん」

 

 ああそれか。

 確かに、女にしか使えないはずのISを動かした俺は悪い意味で有名なんだな。

 特に女性人権団体や、女尊男卑の奴とかには。

 

「貴方達の事は全クラスの人間が知ってるはずよ。下手をすれば全世界の人間も男性操縦者の事くらい知ってるんじゃないかしら?」

 

「普通にいい迷惑だな」

 

 流石にないと思うが雪ノ下のいう事も完全に否定する事が出来ない。オンリーワンがナンバーワンのぼっちがいきなりワールドクラスの知名度になるとかどうすればいいのかわからん。

 もう迷惑以外の何者でもないだろう。俺も迷惑だし、俺の事を取り扱わなきゃいけない政府も迷惑だし、右往左往してる世間の人も迷惑してる事だろう。

 自分の事だが、誰も得する奴がいないな。

 

「自分で何もしてないのに名前だけが知れ渡るなんて質の悪い嫌がらせだろ」

 

「意外ね。男の子は承認欲求が強いのかと思ったけれど」

 

 本当に意外と思っているのかすまし顔の雪ノ下からは伺えない。

 

「で、雪ノ下は周りみたいに騒がないのか。女子ってデザートとか好きだろ」

 

 この話は俺の精神的に辛いので話題を変えた。

 

「くだらないわ。食べ物1つでここまで高揚できる彼女たちが不思議ね。そもそも食べたいなら買えばいいじゃない」

 

「マリーアントワネットの生まれ変わりかよ」

 

 いや、言ってることは正しいよ。でもね、学生の身としては金銭的に少しでも得ができるならそれに越したことは無い。

 そこまで話して、雪ノ下はもしかしてかなりいいとこのお嬢様じゃないだろうかと予想した。話し方や座ってるだけなのに品が出てるところとか、ちょっとズレた金銭感覚とかそれっぽい。

 

「そういう貴方も随分ときもちわるいじゃない」

 

「…もしかしてだが、気落ちしてるって言いたいのか?間違ってるぞ。それじゃあ、ただの悪口だ」

 

「あら、間違いなんてあるのかしら?」

 

 コテンと首をかしげる雪ノ下に不覚にも可愛いと思ってしまったが、言ってる事は全然可愛くない。

 

「ただの悪口かよ…」

 

 なぜ俺は、昨日今日であったばかりの美少女に言葉攻めをくらっているのか。

 俺にそういった性癖があればはぁはぁ言ってるだろうが、いたってノーマルの俺は「はぁ…」ため息が出るばかりだ。

 

「将来的な事を考えて操縦者になりたいならクラス代表はいい経験なんだろうけど、俺の場合今後の身の振り方が分からないんでな」

 

「あら、でも試合に勝てばクラスの人気者になれてちやほやされるわよ」

 

 どことなく馬鹿にしたように言う雪ノ下にイラっとする。

 

「俺がちやほやされる人間に見えるか?」

 

「見えないわね」

 

 自分で言っておいてだが、即答で肯定されるのもムカつくな。

 実際問題、クラス代表になっても俺が勝つ可能性は低いだろう。なんせ周りは俺より入念に準備をして入試をクリアしたエリート達なんだから。

 男という理由だけでここにいる俺とは根底が違いすぎる。

 

「そもそも、んなのなりたくねえよ。むしろこれ以上悪目立ちすれば違う意味で人気者にされるだろ」

 

 パシリとか虐めの標的なんてなりたくないし。

 

「…意外だわ。普通以下の男子高校生なら女性へのアピールのために躍起になると思ったのだけど」

 

 今度は本気で意外に思ったのか雪ノ下の切れ長の瞳は大きく開く。

 そんな表情の変化を意外と思ったがそれよりも。

 

「いまさらりと劣等扱いしなかったか」

 

「ごめんなさい。言い過ぎたわ。普通未満というのが正しい表現ね」

 

「よく言いすぎったてことか?」

 

 なんでこいつはナチュラルに人を罵倒するのだろうか。あれか、ルイズ的なツンデレか。今のところ一切デレはないけど。ツンツンしすぎてそろそろ俺のハートが張り裂けそうなんだけど。

 ここはあれだ、完全に人を下に見てる雪ノ下にもの申さなければいけない。

 ペットを飼うときもそうだが、一度順位付けされるととことん下に見られるしな。家の飼い猫のカマクラなんて俺が歩こうとした方向にわざわざ来て踏ん反りかえてるし。完全に下に見られてるな俺。

 

「…俺はな自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだぞ?入学テストの文系科目は学年3位!顔だっていいほうだ!友達と彼女がいない以外は基本高スペックなんだぞ!」

 

 どうだと言わんばかりに胸を張る俺をしり目に、雪ノ下はため息をつき可哀そうな物を見る目で俺を見た。

 

「最後にとんでもない欠点が垣間見えたのだけど。そんな事を自信満々に言えるなんてある意味凄いわ。変な人。もはや気持ち悪くさえあるわ」

 

「うるせえ。お前に言われたくねえよ変な女」

 

 すると雪ノ下は髪をなびかせると勝者の微笑みで俺に言ってくる。

 

「それで、実技以外のテストすべてで学年1位の私に何を言いたいのかしら?3位風情の貴方が?」

 

「ふ、ふん!人の価値はテストの点だけで測れるものじゃないんだぞ」

 

「貴方から話を振っておいてその言い草。恥ずかしくないの?」

 

 的確に急所を突いてくる雪ノ下。なんなのこいつ暗殺者かなんかなの?後ろに立つと殴ってきたり、ヌルフフとか変な笑い声しちゃうの。

 しかし舐めるなよ。すでに舐められまくってるけど、こんなことで音を上げるほど俺はチョロくない!

 

「はっ!生憎とこの程度で羞恥を感じるほど軟な環境で育ってないんでな」

 

「そうね。貴方に羞恥心があるのならそもそも人前に姿を現せないはずだものね」

 

 ごめんなさいね。と本気ですまなさそうにする雪ノ下。

 

「いやいやいや、自分で言うのもなんだが顔は整ってる方だろ。妹とからも常々『お兄ちゃんずっとしゃべらなければいいのに……』と言われるほどだ。むしろ顔だけはいいと言っていい」

 

 俺と妹のハートフルな日常会話を教えてやる。すると雪ノ下は頭が痛いのか眉間を押さえた。

 

「羞恥心どころか喜怒哀楽を感じる感性すら乏しいのね。それともその目の腐敗が脳まで腐らしているのかしら。妹さんも貴方がお兄さんでさぞ大変だろうに」

 

「見てもいない人の妹を勝手に心配すんな。元気でやってるよ……たぶん」

 

「そこは自信を持ちなさいよ。それとも貴方がいないから元気なのかしら」

 

 呆れた顔でアメリカ人のようなジェスチャーをする雪ノ下。

 このアマなんてこと言いやがる。本人がいないところで俺達の兄妹仲を引き裂こうとするなんて。

 

「違えよ…。違うよね?」

 

「……会ったこともないのに貴方の妹さんの事が分かるわけないでしょ。頭大丈夫、じゃないようね。顔も悪いわ」

 

「顔色だろ悪いのは。そろそろ俺の両親に謝れよ」

 

 眉を下げシュンとする雪ノ下。おっと、少し言い過ぎたか。そういえば妹にもよく俺の言葉は加減を知らないから気を付けろと言われた。

 

「ごめんなさい。酷な事を言ってしまったわ。つらいのはきっとご両親でしょうに」

 

 少し反省したのが馬鹿らしくなるほど動じてねえなこいつ。

 

「よしわかった。俺が悪かった。俺の顔が悪かった」

 

 そしてついに諦めた。

 このまま言い合いを続けても分が悪い。

 でも決して負けたわけじゃない。戦略的撤退だ。だからその勝ち誇った顔をやめろ。

 

「おーい、そこの2人。そろそろ教室しめるからさっさと出ろ」

 

 扉から顔を出す平塚先生に気づき辺りを見回せば俺と雪ノ下以外誰もいない。いつの間に。

 

 ガタリと椅子を引く音が聞こえ隣を見ればすでに、荷物を整えた雪ノ下が鞄片手に立っていた。いつの間に。

 そしてそのまま、平塚先生に会釈をするとさっさと教室を後にした。その時チラリと俺の方を見たが、見ただけでさよなら、お疲れの一言もなく颯爽と帰っていった。

 

 挨拶の1つもないなと独りポツンと、取り残された俺が思っていると平塚先生が不機嫌な顔で仁王立ちしていた。

 やばい早く俺も出ないと。

 急いで帰り支度をする俺は今日の事を振り返り盛大なため息をつく。学園生活2日目で、早くも授業についていけず打ちのめされ、今日初めて話した顔だけは可愛い女子に散々罵倒を浴びせられた厄日だ。

 精神的にかなりのダメージを受けた。

 

 女子との会話ってもっと心弾むものじゃないのかよ。これじゃあ独りで壁に話しかけた方がまだましだ。口答えしないし、なんでも素直に聞いてくれるし。

 

 この先に盛大な不安を覚え、教室を後にする俺の背中には残業明けのサラリーマンレベルの哀愁が漂っていた。

 

「はぁ…ほんと絶望的に疲れた」

 

 誰だよ絶望的って言うやつが余裕があるとか言ったやつ。あ、俺か。



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長い一日はまだ終わらない。

 雪ノ下が去ったあと疲れた体を引きずって帰ろうとしたが扉の前に腕くみしながら待ち構えていた平塚先生に捕まった。

 

「どこへ行く?」

 

「いえ、もう遅いし帰ろうと…」

 

「ほう、昨日の今日で部活をさぼろうとするとはいい度胸だな」

 

 指をコキコキ鳴らしながら笑う先生は怖かった。

 有無も言えず連行された空き教室で昨日の続きを再開する。まぁ、昨日は結局何もしてないので再開というか開始だけど。

 

「あのですね、本来部活って生徒の自主性を重んじて自由参加するものじゃないですか?」

 

 強制されてするそれはもはや労働だ。そんな意図の抗議を上げるが平塚先生はどこ吹く風とでも言うように淡々と作業を続けていた。

 意外にも先生は掃除を手伝ってくれている。

 

「残念だが、学校とは社会に適用できる人間を作るための訓練の場だ。社会に出れば自主性や自由なんて言葉だけの強制される毎日が待っている。今のうちに強制されることに慣れておきたまえ」

 

 この教師言うに事欠いて夢も希望もないブラックな現実を示しやがった。夢とか希望とかへったくれぐらいにか思ってない俺でももう少し言いようがあるだろ。

 こんな調子で教師として生徒の事を理解できるのか一抹の不安を感じる。

 

「それに、君の場合強制されなければ参加すらせずいつの間にか帰宅部になっているはずだ」

 

「……」

 

 何も言い返せない。明らかな図星だ。

 ちくしょうこの先生生徒の事をちゃんと理解してやがる。いい先生だなこんちくしょう。

 

 俺と平塚先生が黙々と掃除を続けていると、先生は今思い出したように口を開く。

 

「そういえば授業の方はどうだ?随分苦戦してるみたいだったが」

 

「どうも何もレベルは高いですが普通科目はそれなりにできますよ。数学は捨ててますから心配いりません」

 

「初日から5教科の1つを捨てるな…」

 

 お互い背中を向けて作業してるので顔は見えないが平塚先生はたぶんあきれ顔になっている。

 そうは言われても昔から数学とだけは相性が悪いので仕方ない。最低赤点取らなきゃいいやくらいにしか思ってないし。

 

「俺は得意な分野を伸ばすことに重きを置いてるんですよ。1を10にするより10を100にした方が圧倒的にいいじゃないですか」

 

「苦手を克服し乗り越えるのが古来よりある少年漫画の習わしだ。君のそれはただの逃避だ」

 

 なぜに少年漫画?と疑問に思うが、なんとなくニュアンスだけは伝わった。

 残念ながら平塚先生と俺の教育方針には大きな隔たりがあるようだ。そういえばどことなくこの先生からは時代遅れの熱血先生に憧れてる雰囲気がある。

 本人がそうとは言ってない。

 

「と、話がそれたな。そっちの科目は自分で頑張りたまえ。私が聞きたいのはIS関連のほうだ」

 

 チラリと後ろを振り返ると先生と目があった。その視線はさっきまでの軽口と変わって真剣だ。

 ……本当にこの先生はよく見ている。

 

「本来ISに無関係の学校に行く予定だった君たちに与えられた時間は非常に少なかった。逆にISとは最新鋭の技術の塊で、一朝一夕で学習できるものとは思っていないよ」

 

 どこか申し訳なさそうにそういう先生の瞳はどこまでも真摯だ。

 周りが分かる事が分からない焦りや、疎外感。ぼっちに慣れ親しんだ俺でさえ無意識に感じていたそれをこの先生は気にしてくれているのだ。

 

「……まぁ、正直よくわからないことだらけですね」

 

「ふむ、具体的にはどこら辺が分からないんだ?」

 

「わからない所が、分からないくらいには」

 

「それはまた重症だな……」

 

 誰かが気にしてくれる、気遣ってくれる。それは普通好意的な事なのだろうが、ぼっちにとってそんな気遣いや優しさは大体の場合毒になる。

 接触不慮の敏感肌には薬であっても聞きすぎて毒に転ずる。

 

 真剣に何か考え事をしてる先生を他所に我ながらめんどくさい性格をしていると自分に呆れる。

 

「では、私の方で要点をまとめたプリントを何枚か渡そう。寮に帰ったらそれを重点的に学習したまえ」

 

「それは……先生の負担になるんじゃないですか?」

 

 驚きのあまりそう問いかけると、先生は優し気に微笑んだ。普段の釣りあがった表情のギャップに一瞬ドキリと心臓が高鳴る。

 

「なに、それで君が壊滅的な点数を叩きだすと他の連中からグチグチと嫌味を言われるんでね。私の心理的ストレスを少なくするためなら嫌々でも多少の面倒は仕方ないさ」

 

「理由が最低ですね!?」

 

 優しさと思ったらただの保身だ。さっきまで感じてた気持ちのギャップに柄にもなく声を張り上げてしまった。

 優しいには優しいが自分に優しい人だ。

 

「何を言うか。嫌で面倒で仕方ないが、君が更生するようにこうして付き合ってやってるんだ。これも一種の師弟愛だよ」

 

「これが愛かよ。これが愛なら俺は愛なんていらない。というか更生ってなんですか。いつから俺は非行に走った若者になったんですか」

 

 確かに夜道を歩いてると警察に職質をよくされるけど。まだ犯罪は犯していない。

 ……まだって自分で言っちゃたよ。

 

「この2日君を見ていると随分性格が捻くれているだろ。捻くれ過ぎて護廷十三隊を裏切ってオールバックにしてそうじゃないか。十刃とか作るなよ」

 

 この人どんだけ漫画好きなんだよ。

 

「もっと素直になった方が人生楽しいぞ。君の場合、普通の幸せとか難しそうだし今ぐらいはおもしろ可笑しく生きた方がお得だ」

 

「楽しいだけが人生じゃないですよ。悲劇があるから物語はおもしろいんです。魔法少女の出る作品が全部ハッピーエンドならまどマギは存在してません。あとさらっと俺のこれからの人生を悲観しないでもらえます?」

 

 これでも将来に希望をもって生きてますから。ちなみに将来の夢は専業主夫。社会にでるのだるいし誰かに養ってもらいたい。今のところ相手はいないけどね。

 

「そうはいっても、君の立場上今後活躍したらそれを面白く思わない連中に誹謗中傷され、逆に何も成果を上げられないとやはり男はダメだと貶され、とばっちりを受けたほかの男から恨まれることになる」

 

 先生の懇切丁寧な説明を聞き頭を殴られたような痛みが走る。

 

「べ、べべ別にそんなの気にしてませんし。そもそも、本当に何もしなかったら俺の事なんてすぐに忘れ去られますよ!」

 

「堂々と情けない事を言うな…」

 

 先生は呆れてるようだが、知った事ではない。

 舐めるなよこちとら自己主張しても忘れられるか無視されるぼっち道を突き進んだエリートだ。忘却の彼方へとんずらこくのは得意中の得意分野だ。

 

「君がいくらそのつもりでも周りがそうはさせてくれないさ。クラス代表の候補に君が推薦されたのがいい証拠だ」

 

「いやいやそんなこと……ん?」

 

 先生の言葉を否定しようと口を開けるが、聞き捨てならない言葉に思考が止まった。

 

「え?誰が、なにですって?」

 

「なんださっきのホームルームを聞いていなかったのか」

 

 雪ノ下と口論していていつの間にかホームルームは終わっていた。確かに初めの方しか聞いていなかった。

 

「そういえば雪ノ下と随分仲良く話していたな。周りに誰もいなくなったのに気づかないほどに……ッチ」

 

「どこをどう見たらあれが仲良く見えるんですか。今、舌打ちしませんでした?」

 

 なぜかいきなり機嫌が悪くなった平塚先生だが、今はそんな事どうでもいい。

 問題は俺がクラス代表の候補になったとかそういう話だ。

 話の続きを促すため無言で先生を見ていると、平塚先生は懐から煙草の箱を取り出しふちを叩いた。

 飛び出た煙草を口にくわえライターで火をつける。

 教室でいいのかと疑問に思うが、先生の仕草があまりにも似合っていてそんな疑問はすぐに吹き飛んだ。

 なぜか美人がするとどんな親父臭い仕草でも似あって見えるから不思議だ。

 

「君が雪ノ下と話す事に夢中になっている間、君に推薦がいくつか入った。推薦理由はせっかくの男性操縦者がいるんだから広告塔として使おうといった内容だ。クラス代表は1週間後までに決めればいいので今日は解散にしたが、あの分だと多数決になれば君で決定するだろうな」

 

 おのれ数の暴力。俺が絶対太刀打ちできない攻撃を仕掛けてきやがる。

 

「そんな理由で決めていいんすか」

 

「いいも何も生徒の自主性を重んじてるんでな」

 

 おいコラさっきと言ってる事違うだろ。

 

「本人の自主性がともなってないんですけど」

 

「自主性とは強制の中に芽生える思い違いだ。諦めろ」

 

「あんた無茶苦茶だな!」

 

 この俺をもってしても苦言を呈する暴挙だよ。そんな遠い目で窓の外を見てもだめだぞこのクソ教師。

 

「もっと他にいるでしょ。実力的に強い奴がなるのが普通でしょ」

 

「確かにもっともだが、入学したての君たちはほとんどISに乗った事もない初心者だ。1組や4組みたいに専用機持ちがいるならともかくな」

 

 専用機持ち。つまりは楯無さんみたいなのが他のクラスにはいるという事か。

 あれ?これってすげえ不利じゃね?

 

「あの、その専用機持ちって自分専用の機体を使うんですか?」

 

 学園に保管されてる数機の量産型を使いまわすのがほとんどだと説明されたが、その例外が各国から自分専用の機体を預けられた専用機持ちだ。

 それは各国の技術を集めた最新機であり、量産型とは性能が大きく異なる。

 

 俺の質問という名の確認に先生は頷くことで返事をした。

 

「……それってすげえ不公平なんじゃ」

 

「世の中とは不公平で不平等なものだよ。ちなみにクラスでこの話をしたところ立候補者はいなくなり推薦者だけが残った」

 

「完全な外れくじ……」

 

 要するにあれか、どうせ負けるんだし自分じゃなければ誰でもいい。誰でもいいなら男の俺が恥をかいた方がむしろお得じゃね?みたいな思惑があるのか。

 俺の高校生活がさっそく詰んでる件。

 

「7日後に立候補者がいないなら多数決を行う予定だ。覚悟くらいはしておきたまえ」

 

 そういったきり平塚先生は煙草をポケット灰皿の中に入れると作業を再開した。

 結局それっきり先生と話すことは無く、挨拶をして俺は寮に戻った。



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