ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者 (影龍 零)
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プロローグ
一年前の出来事 序


皆さんこんにちは、影龍 零です。
ロクアカ読んでいるときに、セラが生きてたらという展開と
オリキャラ入れたら面白いんじゃね?という思いで書きました。

因みにオリ主は僕と友人で設定したので御了承下さい。

それでは、スタート!


「クッソ、キリがねぇ!!」紫色の髪の青年が叫んだ。

 

「早くグレン兄とセラ姉のところ行かねぇと、急ぐぞ!!」茶髪の青年が天使を破壊しながら叫ぶ。

 

「言われなくても!【力の支配】筋力強化、対象者、俺とタクス!行くぞ!」

紫色の髪の青年、ノラと茶髪の青年、タクスは迫り来る天使を破壊しながら、ひたすらに義兄である

グレン=レーダスと同僚のセラ=シルヴァースのもとに向かっていた。

 

 

「あーもう!ジャティスの野郎何考えてんだ?」

 

「それはあいつを捕まえてからだ、あと少しでグレン兄達んとこつくぞ。」

 

「わーったよ、ここを真っ直ぐいけ・・・ば・・・」

ノラが硬直した。

「どうしたん・・・な・・・」

それを見たタクスは不思議に思い、ノラが見ているほうに目を向けて絶句した。

「「セラ姉!!?」」

 

 

彼らの見る先には、血だまりの中で倒れているセラがいた。

ノラとタクスはすぐさま駆け寄った。

 

 

「まだ息はあるな、〈地に落ちし雫よ・結晶となり・我の手元へ〉」

白魔術【ブラッド・キープ】で血液を固体化したタクスはそれをポケットにしまった。

 

 

「よし、【力の支配】生命力増加、維持、対象者、セラ姉。」

 

「ノラ、どうする?【リヴァイバー】はここじゃできないぞ。」

 

「決まってる、セリカのところだ。セリカなら絶対治せる。タクス、俺がセラ姉運ぶから

道を作ってくれ。」

 

「あいよ、任された。最短ルートで行くぞ!」

 

「OK!セラ姉は死なせない!じゃなきゃ・・・」

 

「「グレン兄とセラ姉の結婚式が観れなくなる!」」

 

ここに人がいたら間違いなくずっこけるであろう。

だがそんなことは全く気にしない二人である、

現在進行形で育ての親のセリカ=アルフォネアの自宅に向かっていた。

 

 

□□□□

 

 

 

「とりゃりゃりゃりゃりゃーーーーーー!!!」

 

「この先を確か北西だ!そうすればーーーよしっ!見えたぞ!!」

 

タクスが大木を双剣(・・)で切りながら進み、ノラが指示を出す、

そうして進んで約1分ほど経過したところでセリカの家が見えた。

 

ノラは筋力強化を解除し、タクスは事前に詠唱していた

黒魔【ゲイル・ブロウ】をノラと自分が着地する直前で発動。

ふわりと着地したタクスはすぐさま玄関のドアを開け、セリカを探した。

 

「おーい!セリカーー!どこだーーー!」

 

ノラも家に入り、セリカを探す。

 

「セリカーー!いるんなら返事しろーー!」

 

すると、二階の奥から探していたセリカ本人が出てきた。

 

「ったく、そんなにデカい声出さなくても聞こえてるぞ~。」

 

そしてノラとタクスのところに来た。

 

「んで、どうしたん───ッ」

 

セリカはセラの様態を見て、二人が来た理由を察知した。

 

「何があった?」

 

「詳しいことは後で話す、すぐに【リヴァイバー】の準備を。」

 

「今は時間が惜しい、セリカ俺らは何をすればいい?」

 

「それじゃあノラは引き続き【力の支配】を、

タクスは私と【リヴァイバー】の準備をしてくれ。」

 

「「了解!」」

 

急いでセラをベッドに寝かし、セリカとタクスは【リヴァイバー】発動の魔法陣を描く。

その間ノラは【力の支配】でセラの生命力を維持し続けた。

 

「セリカ、あとどんくらいかかる?」

 

「もうすぐ・・・よしできたぞ。タクス、ノラにマナを送れ。

ノラがもう直ぐマナ切れになる。」

 

「分かった。」

 

タクスがノラにマナを送り【力の支配】を継続させる。

 

「よーし、そんじゃ始めるぞ~。〈治れ〉!」

 

たった一言、それだけで魔術が発動した。

みるみるうちにセラの顔に生気が戻っていく。

 

「タクス、お前セラの血液固体化してるんだろ?

入れるから液体に戻せ。ほら、ビンならあるぞ。」

 

「ハイハイ、〈結晶よ・元の雫へ・回帰せよ〉」

 

白魔【リムーブ・クリスタル】をタクスが唱えるとビンに入った結晶が液体に戻った。

それをセリカに渡すと、セリカはそれをまだ開いている傷口に流し込んだ。

やがて全ての傷が塞がると、セラは静かな寝息をたて始めた。

 

「もう大丈夫だ。目を覚ますのがいつかは分からんがな。」

 

「いや、十分だよ。ありがとう。」

 

「そうそう、やっぱセリカはすげぇぜ。」

 

「ハッハッハ、褒めても何もでないぞ?しっかし随分と必死だったな、

それだけセラが大事なのか?」

 

セリカが顔をにやけながら言う。

 

「ああ、それはね・・・」

 

「セラ姉が死ぬと・・・」

 

「「グレン兄とセラ姉の結婚式が観れなくなっちゃうから!」」

 

ノラとタクスが声を合わせて言うと、セリカは驚きつつ上機嫌な声になった。

 

「ほほう、ってことは私にも孫ができるのか~w いや~楽しみだな~w」

 

ふと、ノラが思ったことを口にした。

 

「そういや、グレン兄が帰って来たらセラ姉どうすんの?

多分グレン兄はセラ姉が死んだと思っているよ?」

 

「えっ、そうなのか?」

 

セリカが問うと、ノラが言った。

 

「俺らはグレン兄とセラ姉が心配になって駆けつけたんだ、

そしたらセラ姉だけ倒れていてグレン兄はいなかった。

グレン兄はセラ姉が死んだと勘違いしたまま行ったんだと思う。」

 

「うむ~そうか、どうするかね~?」

 

セリカとノラが思案していると、タクスが言った。

 

「セリカ、セリカの部屋でセラ姉を休ませれば?

流石に俺らやグレン兄の部屋じゃマズいし。」

 

「それもそうだな、じゃあグレンには黙っていよう。」

 

「なんで?」

 

「パニック起こしたらメンドクサイから。」

 

「「あ~・・・」」

 

 

 

 

──とそんなわけで、セラをセリカの寝室に移してそのまま寝かせた。

ノラとタクスは特務分室に戻り成果を報告、その際にグレンが特務分室を去ったこと、

グレンがジャティスを討ち取ったことを聞かされた。

 

任務が終わったということで、殉職したメンバーの葬儀は後日行われることとなり、

二人は帰路に着いた。




いやあ展開作るのむずい。
次はセラが目を覚ますところからです。
ではまた。


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一年前の出来事 本

どうも、影龍 零です。

セラは原作でも出番が回想シーンでしかないため、書くのは大変でした。

セラは生存させるべきだったと思う人は俺だけじゃあ無いはず。

ではどうぞ。


「うーん…」

 

私が目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。

 

「あれ・・・ここは・・・?私は確か・・・」

 

──死んだはず、そう言おうとした時、声がかかった。

 

「おはよう、良く眠れたか?」

 

振り返って見ると、綺麗な女の人がいた。

というよりその人は──

 

「セリカ・・・さん?どうして・・・」

 

「どうしてって、ここはそもそも私の家だぞ?

まあ、居候が3人いるがな。」

 

セリカさんは笑いながら言った。

でも、疑問がいくつもあった。

 

「あの、セリカさん、私は何でここにいるんですか?

それに何で私は生きているんですか?」

 

「分かった分かった。順番に話すから落ち着いて聞けよ。」

 

それからセリカさんは、私が死にかけていたこと、

そこをノラ君とタクス君が助けてくれたこと、

グレン君が特務分室を辞めたことなどを教えてくれた。

 

「そんなことが・・・セリカさん、私はどのくらい眠っていたんですか?」

 

「丸2日だ、傷なんかは完治してるが血が少し足りなくてね。

血が元の量に戻るまで時間がかかったのさ。」

 

「丸2日かぁ、ちょっと恥ずかしいです・・・」

 

「まあ気にすんな、2日前のお前は死にかけだったんだ。

意志に関係なく体が休みたがるのは当然のことだろう?」

 

「それもそうですね。」

 

そうだ、今は生きていることに感謝しなきゃ。

まだ私の夢を叶えてないし、なによりグレン君にも会いたいなぁ~。

 

「お?セラ、そんなにグレンのやつに会いたいか?」

 

「えっ、な、何で分かったんですか!?」

 

「そりゃあ顔見れば全部分かるぞ?ったくグレンのやつ、

こいつならお前が守りたいのも納得だわな!」

 

アッハッハと笑うセリカさん。

なんだか恥ずかしいな~…

──そういえば、グレン君はどこにいるんだろう?

 

「あの、セリカさん。その・・・グレン君はどこにいるんですか?」

 

「グレンか?あいつなら今頃二階で眠っているだろうよ。」

 

「え・・・?」

 

グレン君がここにいる?えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?

まさか、私が寝ているところ見られたり・・・

もしそうなら、うぅ~恥ずかしいよ~…

 

「まあまあそう慌てんな、グレンにはお前がいることは黙っている。

ノラとタクスと話し合って決めたことだしな。

あ、言い忘れてたがノラとタクスもここに住んでいるぞ。

あいつらはグレンの義弟だしな。あとでちゃんとお礼言っとけよ~。」

 

そういえばグレン君も言ってたっけ、

 

──【ノラとタクスは俺の義弟(おとうと)なんだ。あいつらの固有魔術(オリジナル)

マジで凄えんだぜ?流石俺の義弟達だな!】──

 

ふふっ、あの二人のこと話すときのグレン君の目は本当に輝いていたなぁ~。

また二人とも話す機会があるし──

 

「「ただいま~~」」

 

「お、噂をすればなんとやらだな。」

 

「セリカ~、セラ姉は・・・あっ、目が覚めたんだね。おはよう、セラ姉。」

 

「ふふっ、おはようタクス君。ノラ君は?」

 

「ああ、ノラならコーヒーと紅茶淹れに行ったよ。」

 

「へー、ノラ君って紅茶とか淹れられるんだ。」

 

「あいつの淹れるコーヒーと紅茶は格別だぜ?

セラ姉もビックリすると思うな。」

 

「それは楽しみだな~。」

 

「皆~、コーヒーと紅茶出来たぞ~。」

 

「お、きたきた。俺コーヒーな。」

 

「私は紅茶だな。」

 

「じゃあ私も紅茶で。」

 

「ハイハイ、今配るから待ってろ。」

 

「いい香りだね、この紅茶。」

 

「だろ、良い茶葉があったからそれを使ったんだ。

コーヒーも結構レアな豆だぜ?あ、菓子もあるから食べてみてくれ。

今回は自信作だ、シェフの俺が保証する!」

 

「それじゃお言葉に甘えて、」

 

「「「いただきます!」」」

 

「どうぞ召し上がれ。」

 

「うーん、美味しい!ノラ君って料理はいつもやるの?」

 

「うん、全員分の料理はいつも俺が担当しているよ、

掃除はタクスが上手いからタクスが担当。

セリカはそれ以外の家事をやってるんだ。」

 

「あれ?グレン君は?」

 

「グレン兄は・・・」

 

「グレンのやつなら毎日食っちゃ寝ばっかしてるぞ。

義弟達はちゃんと家事をやってるっていうのに・・・」

 

「ええぇ!グレン君ってばもう!」

 

自分のことは自分でしないと!本当に世話が焼けるな~。

 

「それはそうとセラ、お前に相談がある。」

 

「なんですか?セリカさん。」

 

 

 

 

 

「お前・・・ここに住まないか?」

 

「え、いいんですか!?」

 

「ああ、ノラとタクスも賛成しているしな。

グレンの意見は別にいいだろということで黙っている。

でも家事とかはしてもらうぞ?セラがいれば私も楽だしな!」

 

「はっはい、頑張ります!」

 

グレン君と一緒か~、よしっ私がしっかりしなくちゃね!

 

「セラ姉嬉しそうだな~」

 

「それぐらいグレン兄と一緒に暮らせるのが嬉しいんだろ。」

 

「あ、分かっちゃう?」

 

「「そりゃあな!」」

 

「アッハッハッハ!まあよろしく頼むぞ?」

 

 

~二階~

 

「Zzz・・・んあ?セラの声が聞こえた気が・・・

まあ気のせいか。Zzz・・・」

 

 

 

 

~1週間後~

 

「お~、随分家事が早く出来るようになったな。」

 

「そ、そうですか?」

 

「うんうん!洗濯とかこの家で一番早いと思うよ?」

 

「料理も店で出せるレベルだし・・・

今度セラ姉の故郷の味教えてくんない?」

 

「うん、いいよ。それにしても二人は最初から手伝いとかしてたの?」

 

「いいや、こいつらも最初はグレンみたいなやつだったぞ?」

 

「え?じゃあなんで今は手伝いをしてるんですか?」

 

「ああ、それはだな・・・」

 

 

 

 

 

~2年前~

 

「オイ、ノラにタクス。いい加減部屋ぐらい片付けてくれ。」

 

「まあいいじゃないセリカ、俺達とセリカの仲なんだし。」

 

「そうだよ。何も俺らがやんなくたって困るわけでも・・・」

 

「〈()摂理(せつり)円環(えんかん)へと帰還(きかん)せよ・五素(ごそ)五素(ごそ)に・(ぞう)(ことわり)(つむ)(えん)乖離(かいり)せよ〉」

 

セリカが呪文を口早に唱えると、ノラとタクスの間を光の波動が駆け抜け、

壁やらなんやらを消し飛ばした。

 

「へ・ん・じ・は・?」

 

「「すいませんでした!真面目に家事するので勘弁してください!!」」

 

二人はセリカの問いかけ(脅し)に土下座で謝りながら承諾した。

 

 

 

「・・・とまあこんなことがあったんだ。」

 

「あ、あはは・・・それなら誰でもしそうですね。」

 

「だろ?我ながら素晴らしい考えだ!」

 

「「俺らにとっちゃ最悪の脅しだったよ!!!」」

 

 

「それについてはドンマイだよ二人共?」

 

「いやいやセラ姉、下手すりゃ俺ら天国行きだったんだぜ?」

 

「それはお前らが100%悪い。ちゃんとしていれば

私もあれをぶっ放そうとは思わなかったしな。」

 

「うっ・・・納得いかないけど反論も出来ない!」

 

「さて、話は変わるがセラ、そろそろグレンのやつに

会ってもいいんじゃないか?」

 

「それもそうですね。家事も一通りこなせるようになったし。」

 

これはセラがセリカに

「グレン君に会う前に家事を一通り覚えたい。」

と言ったからである。

 

セリカやその場にいたノラとタクスは内心笑いながら、

というかセリカは大笑いしながらOKを出した。

 

 

ちなみになぜグレンにバレていないかというと、

セリカが即興で作った白魔【セルフ・インビンシブル】で

セラの姿をグレンのみ見えなくさせたからだ。

なのでグレン以外には見える。

 

 

「じゃあ今夜はセラの歓迎パーティーだな。」

 

「ハイハイ、俺は食材でも買ってくるかな。」

 

「あ、俺も行く行く!夕方ぐらいには帰るね~。」

 

「いや時間指定すんなよ・・・」

 

「まあまあいいじゃないか、それにノラって

一度出掛けると4時間は帰ってこねーじゃん。」

 

「それは食材買ったり、生活用品の補充したり、

絡んできた不良を完膚なきまでに叩き潰したりしてるからだ。」

 

「うん最後のは絶対いらないだろ!」

 

──などと話しながらノラとタクスは出掛けて行った。

 

「ったくノラは・・・。

ああセラ、グレンの部屋は二階の隅にあるからな。

じゃ、私も装飾品買ってくるかな~。」

 

セリカも後を追うように出掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆行っちゃった・・・」

 

セラはセリカからもらった家の間取り図を既に覚えていたので、

グレンの部屋がどこなのかは言われなくても分かっていた。

分かっていたのだが・・・

 

(やっぱり緊張するなぁ~)

 

(でもグレン君にまた会えるんだよね・・・それが今はとても嬉しい)

 

(よしっ!思い切っていこう!)

 

 

セラは意を決し、グレンのいる部屋へと向かった。




原作何度見てもセラはグレンの最高のパートナーだと思う!!!(つд`)


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一年前の出来事 結

どうも、影龍 零です。

今回でプロローグは終わりです。

次から本編に突入ということになるかな。



ではどうぞ。


グレンはこの家に居候してからは、自分の義弟であるノラとタクス、

更に家主のセリカに家事を全部任せ、自分は惰眠と食事を貪ることに集中していた。

 

端から見たらダメ人間のお手本のようであろう。

 

そんなグレンは現在進行形で夢を見ていた。

 

 

□□□□

 

【ねえグレン君、戦っていて怖いと思ったことってある?】

 

【ん?何だ突然に。セラはどうなんだ?】

 

【私はやっぱり怖いなぁ。もし死んじゃったら、大切な人にもう会えなくなったらって

思うと怖くなるかな。グレン君は?】

 

【俺か?そりゃあ怖いさ。もし死んじまったらもう何も出来ないんだしな。

それに大切な人を守れなかったらって思うと余計にな。】

 

それはとある日の特務分室。グレンとセラが隣合って座り、会話をしていた時だった。

 

 

【やっぱり?でも私はまだ死にたくない、夢を叶えるまで死ねないって思うと

頑張れる気がするんだ。】

 

【オイオイ白犬、そうやってフラグを立てるな。お前はいつも他人を優先するんだから、

たまには自分の命も大事にしろ。】

 

【あはは、グレン君優しいね。】

 

【バッ・・・そんなんじゃねーよ、普通のことだろ?】

 

【でもそれを真っ直ぐ伝えられるんだもん、やっぱり優しいよグレン君は。】

 

【はあ、白犬にはかなわねえな。】

 

【む~、だから私は犬じゃないって!この髪も白じゃ無くて銀髪だよ!】

 

 

たわいの無い、だけどグレンにとっては大切な思い出。

 

 

□□□□

 

 

「ん・・・夢か・・・ふぁ~あ。」

 

 

(もうセラは戻ってこない・・・なのにまたあの頃の夢か・・・)

 

 

「今は・・・うわマジか、もう昼じゃねーか。目も覚めちまったしどうするか・・・」

 

グレンが何をしようか考えていると、(まあ寝るかぼーっとしてるかしか考えてなかったが)

コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

 

(誰だ?ノラとタクスならノックせずにドア蹴っ飛ばして入ってくるし・・・、

ああセリカが昼飯持ってきてくれたのか。ありがたい限りだぜ。)

 

本当にダメ人間の見本のような考え方である。

 

「いいぞ~入ってきて~。」

 

グレンが気怠げに応えると、ノックした人物が入ってきた。

 

「お~セリカ、いつもありが・・・・・・え?」

 

何故グレンが絶句したのか。答えは簡単である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、かな?グレン君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──死んだと思っていたセラが目の前にいたのだから。

 

 

 

□□□□

 

 

「お前・・・・・・本当に・・・セラ・・なのか・・・?」

 

「うん。そうだよ、グレン君。心配かけちゃった・・・かな?」

 

頬を掻きながらいう銀髪の人物は、自分のせいで命を落としたはずの

セラ=シルヴァースだった。

 

「お前はあのとき・・・」

 

「うん、死んだと思った。でもノラ君とタクス君、それにセリカさんが助けてくれたんだ。

特にノラ君とタクス君は頑張っていたってセリカさんが言ってたな~。

「死なせてたまるかーー!!」って必死だったんだって。」

 

「あいつら・・・ったく、余計なお世話だっつうのに・・・。」

 

(でもまあ、今はありがとうだな。ノラ、タクス。)

 

「グレン君、どうしたの?」

 

「いや、なんでもねーよ。・・・ただあいつらに感謝しとこうかなって思っただけだ。」

 

後半の部分は誰も聞き取れないぐらい小さな声で言った。

 

「そういえば白犬、あの事件のことは聞いたのか?」

 

「だから犬じゃないってば! まあでも少しならあの2人に聞いたかな。」

 

「そうか……ジャティスの野郎は俺が倒したが・・かなりの特務分室の

メンバーが死んじまったらしい。葬儀は後日行うんだとよ。」

 

「そっか・・・、じゃあ私も葬儀行こうかな。お世話になった人もいるし。

グレン君もいくんだよ?」

 

「え~・・・ダルいんだけど・・・」

 

「駄目だよグレン君!いくら辞めたからって昔の仲間でしょ!?

ならせめて弔ってあげなきゃ!」

 

「あー、わーったよ。行きゃいんだろ行きゃ。」

 

「よろしい。あ、それとグレン君、私今この家に住んでるんだ。」

 

「お~そうなのか・・・ってええ!白犬お前ここに住んでんのか!?」

 

「だから犬じゃないってば!・・・もう、話戻すけど一週間前からここにいるよ。

セリカさんもいいって言ってくれたし。」

 

「まじか、俺のときはかなり嫌そうだったのにあんにゃろー!

・・・ってえ?一週間前?俺お前のこと見てないぞ?」

 

「ああ、それはセリカさんが【面白そうだから】って言って

グレン君だけ私が見えなくなる魔術かけたからだよ。」

 

「ったくセリカのヤロー、面白そうだからって面倒なことしやがって。」

 

「あはは・・・・・・まあ私が頼んだことなんだけどね。」

 

「ん?なんか言ったか白犬。」

 

「ううん、何も・・・ってまた犬って言った!」

 

「いいだろ別に。」

 

「もう・・・」

 

 

「そういやセラ・・・」

 

「うん?なにグレン君。」

 

 

 

 

「・・・・・・すまなかった。」

 

グレンは頭を下げながら言った。

 

「え、なんで急に・・・」

 

「俺はあのときお前を救えなかった!救いたくても俺の力不足で・・・

俺は・・・皆の力をかりなきゃ・・・なんにも・・・」

 

 

 

「・・・大丈夫だよ、グレン君。」

 

セラは微笑みながら言った。

 

「確かにグレン君は皆に助けられたと思う。・・・でもグレン君はあのとき

私を助けようとしてくれた、それがとても嬉しかったんだよ?

・・・だから自分を責めないで、私はあなたに救われたんだから。」

 

「セラ・・・そうか、そうだよな。いろいろ吹っ切れたよ。

まあ~その、なんだ、・・・ありがとな。」

 

「ふふっ、どういたしまして。」

 

 

「「「たっだいま~~~!!!」」」

 

 

「あ、皆帰ってきたね。」

 

「そうだな。んじゃあ俺らも下行くか。」

 

グレンとセラは並んで階段を降りていった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「お~グレン兄にセラ姉、今準備してっから待ってて。

あ、グレン兄は手伝え!」

 

「ええ~~なんで俺は手伝わなきゃなんねーんだよ。」

 

「セリカは飾り付けしてるし、ノラは料理してるしで

俺しか掃除できるやついないからだよ!」

 

「ったくしゃーねーな。あとでなんか奢ってくれんならやってもいいぞ?」

 

グレンがそういった瞬間、グレンは背筋が凍るような感覚に襲われた。

振り返ってみるとそこには──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄・目・だ・よ・?グレン君?」

 

 

 

 

──黒いオーラを出したセラがいた。

 

「すすすすみませんでしたーー!!!」

 

グレンは神速で土下座をした。

その姿にセラはため息をつく。

 

「弟の頼みは引き受けるのが兄なんじゃないの、グレン君?」

 

「はい!やらせていただきます!」

 

「さっすがセラ姉!俺達が出来ないことを平然とやってのける!

そこに痺れる!憧れるぅ!」

 

「タクス君も口じゃなくて手を動かす!」

 

「ヘーイ、ああセラ姉は待ってて。」

 

「え?」

 

「おーい、料理出来たぞ~~~。」

 

「こっちも飾り付け終わったぞ~~~。」

 

「お、じゃあ俺も終わりにすっか。」

 

「え、俺やる意味なかったんじゃね?」

 

「サーナンノコトカワカラナイナー」

 

 

 

□□□

 

 

 

三人がダイニングにいくと、そこには色とりどりで豪華な料理が並んでいた。

 

「いや~疲れた。」

 

「凄い!これ全部ノラ君が作ったの?」

 

「もちろん、材料運ぶのはさすがにきつかったけどな・・・」

 

「お疲れ~ノラ。ほれ、コーヒー。」

 

「サンキューグレン兄。」

 

ノラがグレンから渡されたコーヒーを啜ると「ふぅ」と息をついた。

 

「グレン兄、料理運ぶの手伝え。セラ姉も頼む。マジで疲れた。」

 

「「了解」」

 

するとセリカがやってきた。

 

「お~うまそうな料理だな~。あ、グレンとセラもきたか。」

 

「うぃっすセリカ、いままで何してたんだ?」

 

「私か?ここの飾り付けをしてたんだ、なかなか細かい作業で目が疲れたな~。」

 

「お疲れ様ですセリカさん。でもなんで飾り付けなんてしてたんですか?」

 

セラが問うとセリカが笑いながらノラとタクスを呼んだ。

 

「おーい、そろそろ始めるぞ~。」

 

「「了~解~」」

 

「グレン、お前も手伝え。拒否ったら飯抜きな。」

 

「ひでぇ!!?」

 

セリカはグレン、ノラ、タクスを集めて何か囁いた。

セラはそれを首を傾げながら見ていた。

すると、セラを除く全員がクラッカーを持った。

 

次の瞬間、一斉にクラッカーが引かれ、パパパパン!っと音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ようこそセラ!!そしてよろしく!!」」」」

 

 

セラは数秒ポカーンとしていたが、すぐに気持ちを落ち着かせて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!ありがとう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──と、満面の笑みで言った。

 

 

そこからはどんちゃん騒ぎだった。

パーティーが始まってから二時間ほど経つと料理も無くなり、セリカは仕事をしに、

ノラとタクスは洗い物を済ませた後に自室へそれぞれ戻っていった。

その場に残ったグレンとセラはしばらくの間コーヒーを啜っていたが

やがてセラが口を開いた。

 

「今日は楽しかったねグレン君。」

 

「ああ、そうだな。あんな馬鹿騒ぎすんのは久しぶりかな。」

 

「でもノラ君とタクス君に激辛料理を食べさせたのは駄目だよ?」

 

「そりゃあいつらが勝手に人の料理を盗み食いしたからだろ!?」

 

「だからって家にある香辛料全部使うのはやり過ぎだよ!!」

 

セラと話しながらグレンは安心感に包まれていた。

ーーああ、またこの時間がくるとは思わなかったーー

 

 

「どうしたの?グレン君。」

 

「いんや、なんでもねーよ。ただ、久しぶりに楽しかったからな。

・・・セラも生きていてくれたしな。」

 

「グレン君・・・」

 

 

 

 

「まだ言ってなかったな。」

 

「何を?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お帰り、セラ。」

 

 

 

 

「──うん。ただいま、グレン君。」

 

微笑むセラの頬にはうっすらと涙が伝っていた。




ちなみに原作に添っていくのでご了承くださいな。

でもセラは生存してますよ。
グレンも原作通りのスタートなのであしからず。

ではまた。


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魔術学院テロリスト編
ロクでもない奴とその義弟達 


どうも、 影龍 零です。

やっと本編突入出来た~・・・

セラをどこで講師としてだすか悩んだ結果、こんな形になりました。

ちなみにセラは帝国宮廷魔導士団を辞めています。

理由はグレンが辞めたことを知ったから、という設定です(メタイ・・・)

ではどうぞ。


「俺さ、つぐつぐ思うんだよ。働いたら負けだな~って。」

 

清々しい笑顔でそういうグレンに向かいに座ったセリカは

紅茶のカップを置くと

 

「ふっ、そうか。死ねよ穀潰し。」

 

と笑顔でさらりと毒を吐いた。

 

「あっはっは!セリカは厳しいなぁ。・・・あ、ノラ、おかわり。」

 

そういうとグレンは洗い物をしている紫髪の青年、ノラにズイと空の容器を差し出した。

 

「・・・いや自分でやってくれよグレン兄。ただでさえ洗い物多いんだから。」

 

「あ~すまんすまん。あ、今日のスープはちょっと塩気が強かったぞ?

俺はもっと薄味のほうがいいね。」

 

「・・・ちゃんと分量チェックして作ってんだから文句言わないでくれ。」

 

一方銀髪の女性、セラと茶髪の青年、タクスはチェスで対戦していた。

 

「うーん、この盤面なら・・・ここか。」

 

カコッ!

 

「それじゃあ私はここ。」

 

カコッ!

 

「そこなら・・・ここ!」

 

カコッ!

 

「ふふっ、かかったねタクス君。」

 

「え?それってどういう・・・」

 

「私はここね。」

 

カコッ!

 

「んな・・・。ここしか置けない・・・。」

 

カコッ!

 

「それじゃあここで。」

 

カコッ!

 

「はい!チェックメイトだよタクス君。」

 

「え、マジかよ!?・・・あ、本当だ。」

 

数十分の攻防の末、セラが勝利を収めた。

 

「くっそ~!セラ姉強いな~。」

 

「私これでも一族を仕切ったことは何回かあるよ?

だから覚えていたみたい。」

 

「なるほど、やっぱ実体験ある人は違うな~。」

 

「まあでもタクス君も強かったよ?

何回も私追い詰められたし。」

 

「そりゃあ光栄なことで。」

 

そしてグレン達はというと・・・

 

「なぁグレン、そろそろ仕事探さないか?

はっきり言って今のお前の生活は時間の無駄遣いだぞ?」

 

「大丈夫、今の俺は昔よりもずっと輝いているし

今の自分のほうがずっと好きだ!」

 

「何とどう比較したら引きこもりの無駄メシ喰らいの生活の方が

輝いてることになるんだ。もう死ね、頼むから。」

 

親指を立て笑顔で答えるグレンにセリカは深底呆れていた。

 

「まったくお前は・・・昔のよしみで面倒見てやっている私や皆に

申し訳ないとでも思わないのか?」

 

「ふっ、何を水臭い。俺とお前らの仲だろ?」

 

「《()摂理(せつり)円環(えんかん)へと帰還(きかん)せよ・五素(ごそ)五素(ごそ)に・(ぞう)(ことわり)を・・・」

 

流石にキレたらしい。セリカは据わった目で何やら物騒な呪文を唱え始める。

その途端、グレンを除く三人(ノラ、タクス、セラ)はそそくさと逃げていった。

 

「ちょ!?それ、【イクスティンクション・レイ】の呪文じゃねえか!?ま、待て!?

それだけはやめて!?粉々になっちゃう!?嫌アァァァーーッ!?」

 

それを見たグレンは高速で壁まで後ずさり、声を裏返して悲鳴を上げた。

セリカはそんな情けないグレンを前に、手を下すのもアホらしいとばかりに

起動しかけの魔術を解除した。

 

「ハァ・・・、まぁとにかく、そろそろお前も前に進むべきだとわかっているんじゃないのか?」

 

「つってもなぁ・・・今さら働くとして・・・一体俺何すりゃいいんだ?」

 

「そう言うと思って、もう仕事を見つけてある。今、アルザーノ帝国魔術学院の講師枠が

空いていてな、そこでお前に非常勤講師を務めてもらおうと思う。」

 

「ちょっと待て、なんで俺なんだよ?他にも暇人教授がいるんだろ?

そいつらにやらせりゃいーじゃねーか?」

 

「え!グレン君講師やるの!?いいじゃん!グレン君きっと似合うよ!」

 

「へー、まあ頑張ってよグレン兄。」

 

「・・・そうそう、グレン兄教えるの結構上手いし。」

 

「いやいやお前ら、俺が魔術のことを大っ嫌いなこと知ってんだろ?

それに俺には誰かを教える資格なんてないさ・・・」

 

「そりゃそうだよな。だってお前教員免許持ってないし。」

 

「やめてよね、人がせっかく渋く決めてんのに現実を突きつけんの。」

 

セリカの的確なツッコミにグレンは唇を尖らせ抗議する。

 

「グレン君・・・やっぱりあの事件の時に・・・」

 

「安心してよセラ姉、グレン兄はセラ姉のせいだなんて思ってないさ。」

 

「・・・ただこの楽な生活を手放したくないだけだぞ絶対。」

 

「とにかく俺はもう、絶対!二度と魔術なんかに関わらないからな!

へーんだ!魔術講師やるくらいなら道端で物乞いやってる方がマシ--」

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を(つむ)(えん)乖離(かいり)せよ》」

 

セリカが口早に呪文を紡いだ刹那、グレンの傍らを光の波動が駆け抜けた。

グレンが機械じみた動作で顔を向けると、滑らかな切断面を持つ円形の大穴がごっそりと空いていた。

 

「次は外さん・・・・・・《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を・・・・・・」

 

「ま、ママぁああああああああああぁーーッ!?」

 

 

こうして、半ば強制的にグレンの再就職先は決まったのであった。

 

 

「ああ、言い忘れていたがノラにタクス、お前たちも学園に通うことになったからよろしく。」

 

「「は?」」

 

「ん?どうした。」

 

「「いやなんで俺らまで行くことになってんだよ!」」

 

「いや~お前たちって学院に入る前の年に帝国宮廷魔導士団に入っただろ?

だから学院生活を送らせてあげようと思ってな。ちなみに拒否権はない。」

 

「え~、俺ら別に学院の授業受けなくてもよくない?」

 

「・・・それに学院に行くこと自体めんどくさいんだけど・・・」

 

「まあまあそう言うな。既にお前たちの所属するクラスは決めてある。

といってもグレンが担当するクラスだがな。」

 

「ハァ・・・わかったよ。行きゃいいんでしょ行きゃあ。」

 

「お?素直で助かったよ。ちなみに拒否ったらグレンと同様のことをするつもりだったが。」

 

「「マジで助かった・・・」」

 

二人は冷や汗をかきながら安堵した。

 

 

「あの~セリカさん。私も行きたいんですが・・・」

 

「安心しろセラ。そう言うと思ってお前も非常勤講師をしてもらうことにした。」

 

「えっ、本当ですか!?」

 

「ああ。だが・・・事務の仕事を主にしてもらうぞ?何せ教授たちがそうしろとうるさかったからな・・・」

 

「そっかぁ・・・でも頑張ります!」

 

(少なくともグレン君には会えるし・・・ね)

 

 

 

 

こうしてグレンとセラが非常勤講師、ノラとタクスが転校生として

アルザーノ帝国魔術学院に入ることになった。




今さらですがSAOの一番くじキターー!!(≧∇≦)b
速攻で買いに行こうと思います!

あと少しで今年も終わりですね~
クリスマスはリア充撲滅委員会が最も活発になる時期・・・

まあ私はリア充と撲滅委員会のやりとりを眺める側ですがね
(面倒事に巻き込まれたくないから・・・)

ではまた。


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非常勤講師と編入生

どうも、影龍 零です。

ヤバい書きすぎて文字数一万超えた・・・

自分でもここまで書いたことに驚いています。
あと補足ですが、オリ主1がノラでオリ主2がタクスです。
設定とかは後で書きます。


ではどうぞ!


ここはアルザーノ帝国魔術学院。

常に時代の最先端の魔術を習うことのできる場所だ。

学院の生徒は皆学習欲と熱意に満ちており、講師もそれに応えるため、「遅刻」することなど到底ないし、むしろ有り得ないはずなのだ。

 

「・・・・・・遅い!」

 

魔術学院東館校舎二階の最奥、魔術学士二年次生二組の教室。

正面の黒板と教壇を木製の長机が半円状に取り囲む座席、

その最前列の席に腰かけるシスティーナ=フィーベルは苛立ちながら吐き捨てた。

純銀を溶かし流したような銀髪のロングヘアと、やや吊り気味な翠玉(すいぎょく)色の瞳が特徴的な年の頃十五、六くらいの少女である。

 

だが今は苛立ちと怒りに身を震わせていた。

 

「どういうことなのよ!もうとっくに授業時間半分も過ぎてるじゃない!?」

 

「確かにちょっと変だよね・・・何かあったのかな?」

 

そう言って首を傾げるのは、彼女の親友であるルミア=ティンジェル。

綿毛のように柔らかなミディアムの金髪と、大きな青玉色の瞳が特徴的な、システィーナと同い年くらいの少女である。

彼女はシスティーナとは対照的に物腰柔らかな雰囲気に包まれていた。

しかし表情は困惑気味だった。

二人が辺りを見渡してみると、一向に姿を見せない講師と編入生に、同クラスの学友達も訝しむようにざわめき立っている。

 

 

『今日はこのクラスに、ヒューイ先生の後任を務める非常勤講師と編入生がやってくる』

 

一から七まである魔術師の位階、その最高位、第七階梯(セプテンデ)に至った大陸屈指の魔術師であるセリカ=アルフォネア教授が直々にクラスに赴いてそう発表したホームルームから早一時間。

セリカが構築した『まあ、なかなか優秀な奴らだよ』という前評判は早くも崩れそうだった。

 

「アルフォネア教授が推すんだから期待してみれば・・・これはダメそうね」

 

「そ、そんな、評価するのはまだ早いんじゃないかな?」

 

「甘いわよルミア。どんな理由でも遅刻は本人の意識が低い証拠よ。

これは生徒の代表として一言言わないとね」

 

と、そのときだ。

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

「へー、ここが教室かー、うわ机長っ!」

 

「・・・結構生徒いるな・・・・・・イジりがいがありそうだ(ボソッ)」

 

「三人とも、私は行くから頑張ってね!」

 

どうやら噂の非常勤講師と編入生がやってきたらしい。

一人はすぐどこかに行き、一人は不穏なことを口走っていた。

 

「やっと来たわね!ちょっと貴方たち、一体どういうことなの!?

貴方たちにはこの学園の講師と学生としての自覚は──」

 

早速説教をくれてやろうとシスティーナが振り返って・・・・・・硬直した。

 

「あ、あ、あああ、貴方たちは──ッ!?」

 

 

 

「・・・・・・違います。人違いです」

 

「右に同じく」

 

「以下同文」

 

「人違いなわけないでしょ!?貴方たちみたいな人がそうそういてたまるもんですかっ!」

 

「こらこら、お嬢さん。人に指差しちゃいけないってご両親に習わなかったかい?」

 

三人のうち講師であろう男が表情は紳士のそれのまま、システィーナに応じる。

 

「ていうか、貴方、なんでこんな派手に遅刻してるの!?」

 

「そんなの・・・・・・遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、時間にはまだ余裕があることがわかってほっとして、ちょっと公園で休んでいたら本格的な居眠りになったからに決まっているだろう?」

 

「なんか想像以上にダメな理由だった!?じゃ、じゃあ貴方たちは!?」

 

「俺らはグレン兄が寝てる横でどっちが昼飯奢るかを賭けてチェスで勝負してたら・・・」

 

「・・・なんか凄い接戦になって、脇目も振らずに対局していたらこんな時間になっていた」

 

「こっちもダメな理由だった!?」

 

「・・・因みに俺が勝った」

 

「「「どうでもいい!」」」

 

紫髪の青年の発言に皆が一斉に突っこむ。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約1ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせていただきます」

 

黒髪の青年、グレンが気だるげに言う。

 

「俺はタクス=リベルディオ!今日からお世話になるぜ、よろしく(^_^)ノ」

 

茶髪の青年、タクスがマイペースに言う。

 

「・・・俺はノラ=ルイカス、まあよろしく・・・ふぁ・・・・・」

 

紫髪の青年、ノラが欠伸混じりに言う。

 

「挨拶はいいから早く始めてくれませんか?」

 

システィーナは苛立ちを隠そうともせず、冷ややかに言い放った。

 

「あー、まあそうだな、仕事だしやるか~・・・あふ」

 

欠伸を噛み殺してグレンがチョークを握る。

 

「んじゃ俺らも座るか」

 

「・・・そうだな、あそこが空いてるな」

 

ノラとタクスの二人はマイペースを崩さずにルミアとシスティーナの隣に腰掛けた。

 

「あ、よろしくね。私はルミア=ティンジェル。こっちは親友のシスティーナ=フィーベル」

 

「・・・よろしく」

 

「おう、よろしく!」

 

「よろしく」

 

グレンがチョークを手にとり、黒板のほうに向く。

途端に生徒達(二人を除いて)が気を引き締め、グレンの挙動に注目する。

 

(さて、お手並み拝見させてもらうわ、期待の非常勤講師さん?)

 

システィーナを筆頭に生徒達(二人を除いて)が注目している最中、グレンは文字を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『自習』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え・・・・・・」」」

 

 

 

 

「え~、本日の一限目は自習にしま~す」

 

唖然とする生徒をよそに、グレンはさも当然とばかりに言う。

 

「・・・眠いから」

 

最悪な理由を呟いて、教卓に突っ伏しいびきをたてはじめる。

すると、ノラとタクスが何かを取り出したかと思うとーー

 

「ここかな」

 

パチンッ!

 

「・・・ここだな」

 

パチンッ!

 

ーーここぞとばかりにオセロを始めた。

そして。

 

「ちょおっと待てぇええええーーーーッ!?」

 

システィーナは分厚い教科書片手に猛然とグレンへ突進していった。

 

 

 

□□□□

 

 

そこからのグレンの授業は最低最悪という言葉が最も良く合うものだった。

まず、聞いていて内容が理解できず、説明にすらなっていない。

時々黒板に文字を書くが、どうやっても判読不能な文字ばかり。

これなら自分で教科書を開いて独学する方がマシだ、と思う生徒がほとんどだった。

 

ノラとタクスはそんなのどうでもいいと言わんばかりに、既にオセロで五十回目の対局をしていた。

今の成績は、どちらも二十四勝二十四敗一分けである。

 

「あの・・・・・・先生・・・・・・質問があるんですけど・・・」

 

そんな中、少し気弱そうな少女、リンがおずおずと手を上げる。

 

「ん、なんだ?言ってみな」

 

「ええと・・・先ほど先生が紹介した五十六ページ三行目に載っているルーン語の呪文の一例なんですが・・・これの共通語訳がわからないんですけど・・・」

 

「ふっ、俺もわからん」

 

「えっ?」

 

「すまんが自分で調べてくれ」

 

リンが呆然とする中、システィーナが我慢ならないといった様子で抗議した。

 

「待ってください、先生。生徒の質問に対してその反応は少々いかがなものかと」

 

「いや、わかんないものをどうやって教えりゃいいんだよ?」

 

「質問に答えられなければ、後日調べて次回の授業で答えてあげるのが講師の務めだと思いますが?」

 

「お~いシスティーナ、そんなん自分で調べたほうが早くね?」

 

オセロをしながらタクスが言う。

 

「私はそういうことを言いたいんじゃないの!私が言いたいのは──」

 

「あ・・・もしかしてお前らルーン語辞書の引き方知らねーの?そんじゃあ仕方ねぇ・・・

あ~余計な仕事増えちまった・・・」

 

「ぐ・・・辞書の引き方くらい知ってます!もう結構です!」

 

どこまでもやる気のないグレンに肩を怒らせるシスティーナ。

かくして、グレン最初の授業は時間を浪費するだけの無駄なものに終わった。

 

 

その後の錬金術実験は担当する講師が人事不動になったことにより中止。

そういうわけでグレン、ノラ、タクスは食堂へと足を運んでいた。

 

「クッソ・・・まだ痛ぇ・・・ここまでやるか・・・?普通・・・」

 

「そんなん自分のせいだろ?入る前になんで確認しなかったのかむしろ聞きたい」

 

「・・・まあグレン兄のことだ、どうせ『めんどくさい』とかなんとかでしなかったんだろ」

 

「ちくしょう・・・義弟たちに考え丸わかりかよ・・・」

 

と、グレンたちが歩いていると、後ろから声がかかった。

 

「あ、グレン君ーー!ノラ君にタクス君ーー!」

 

振り返ってみると、セラがこちらに向かって走ってきていた。

 

「お、おうセラ・・・お前も飯か?」

 

「うん、そうだよ・・・ってどうしたの!?傷だらけだよ!?」

 

「・・・あ~セラ姉、心配すんな。グレン兄の自業自得だから」

 

「え?それってどういう・・・」

 

ノラの言葉に首を傾げるセラにタクスが事情を説明する。

話を聞いているうちに、セラは段々とジト目でグレンを見つめはじめ、

少しばかり黒いオーラを発し始めた。

グレンはそれを見て冷や汗を流している。

 

「ハァ・・・・・・グレン君?」

 

「は、はい!」

 

「帰ったらお話があります」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

グレンは流れる動作で土下座をかました。

それを見てセラはため息をついた後、

 

「よろしい。それじゃあ早く食堂に行こう!」

 

と、笑顔で歩きはじめ、グレン、ノラ、タクスはその後をついていく。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

一同が食堂につくと、中は随分と賑わっていた。

理由は、ここの食堂は安くて美味しい料理が食べられると評判がいいからだ。

 

 

「・・・タクス、約束守れよ?」

 

「わかってるよノラ・・・。負けたんだからちゃんと奢るよ・・・」

 

 

「あ~、ここで飯食うのも久しぶりだな~」

 

「私はここで食べたことないけど、凄い人の数だね。それにいい香り」

 

「まあ俺がここにいたときもかなり人気だったしな」

 

 

 

グレンはカウンター越しに料理を注文する。

 

「あー、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。ライ麦パン。全部、大盛りで」

 

「俺も同じもので普通盛り」

 

「・・・じゃあ俺も」

 

「それじゃ私も」

 

数分後、料理ができるとグレンとセラが革財布からセルト銅貨を取り出し、支払いをしようとすると、

ノラが待ったをかけた。

 

「・・・二人共、今日はタクスが皆の分奢ってくれるから大丈夫だ」

 

「は?」

 

「おぉ~、タクス悪いな。ごちそうさま」

 

「ありがとね、タクス君」

 

「お、おう・・・任せてよ・・・」

 

タクスがノラを見ると、ノラは必死に笑いを噛み殺していた。

 

(ノラ、お前~~・・・!!)

 

(・・・フッ!してやったりww)

 

 

まぁタクスもノラも帝国宮廷魔導士団としての収入があるので、別に奢ることくらい大したことではなかったが、今日持ってきた小遣いの八割がとんだタクスからしたらキツい出費だろう。

 

そんなこんなで一同が席を探していると、前方の席が四人分空いていた。

 

席に向かうと、見慣れた顔が二つ程見えた。

耳を立ててみると、二人は魔導考古学議論の真っ最中(一方的な)だった。

 

「失礼」

 

グレンを先頭に四人が座ると、銀髪の少女がこちらに気づいた。

 

 

「──ッ!? あ、あ、貴方達は──」

 

「違います。人違いです」

 

「右に同じく」

 

「以下同文」

 

「あ、はじめまして」

 

セラ以外は華麗にスルーし、食事を始めた。

 

「あ、はい。はじめまして」

 

「もしかして、貴方がもう一人の非常勤講師ですか?」

 

「うん、そうだよ。私はセラ=シルヴァース。今は事務の仕事をやってるんだ。よろしくね?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

セラとルミアが楽しそうに喋っているのをシスティーナが口をパクパクしながら見ていると、

 

「そういえば、さっき二人が話していたのってあの『メルガリウスの天空城』だよね?

俺らもその話に混ざってもいいか?」

 

「え、ええいいわよ」

 

「サンキュー。ノラも聞こうぜ、面白そうだし」

 

「・・・いや、俺はパスで」

 

「あー、そう?グレン兄は?」

 

「俺は食事を楽しみたいのでパス」

 

「じゃあ俺とセラ姉にもその話聞かせて」

 

「わかったわ。まずこのフォーゼル先生の論文の欠点が───」

 

と、タクス、セラ、ルミア、システィーナの四人が魔導考古学議論を始めとする談笑に花を咲かせ、

ノラとグレンはその様子を見ながら昼食をとっていた。

ノラは食事中、自分の料理に何が生かせるか考え、グレンは早く引きこもりに戻りたいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日、帰宅したグレンがセラに小一時間ほど説教をくらったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

しかし、授業はまた別の話。

やはりグレンにはやる気が無く、最初は要点などを黒板に書き説明もしていたが、

そのうち教科書の内容を丸写ししだし、さらにはちぎったページを黒板に貼り付け、

最終的には黒板に教科書を釘で打ちつけ始めた。

 

ノラはその間ひたすらに睡眠をとって疲れを癒やし、タクスは釣り竿やヨーヨー、トランプといったものを魔導器として作っていた。用途があるのかは生徒達にはわからなかったらしいが。

 

とうとうシスティーナの怒りが頂点に達したらしい。

 

「いい加減にしてくださいッ!」

 

「ん?お望み通りいい加減にやってるだろ?」

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

そのままイザコザが続き、システィーナは左手の手袋をグレンに投げつけた。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

「お前・・・マジか?」

 

「シ、システィ駄目!早く手袋を拾って!」

 

ルミアが駆け寄って焦りながら言う。

 

「・・・何が望みだ?」

 

「その野放図の態度を改めて、真面目に授業をしてください」

 

「そうか、じゃあ俺が勝ったらお前は俺に対する説教禁止だ」

 

「わかりました、受けて立ちます」

 

「じゃあこの決闘は【ショック・ボルト】以外の魔術禁止とする。いいな?」

 

そして二人を始め、クラスの生徒達が決闘を見ようと校庭に向かった。

 

 

──しかし、ノラは睡眠を続け、タクスはまた何か魔導器を作っていた。

不思議に思ったルミアは二人のそばに行き、声をかけた。

 

「二人は決闘見に行かないの?」

 

すると聞こえたのかノラがムクリと起き上がった。

 

「・・・いや、別に興味ない。そもそも結果なんてわかっているからいいよ」

 

「俺もノラと同じ意見だな。まあすぐにわかると思うよ?俺らが言ってること」

 

「そうなのかな。じゃあ私は行くね」

 

ルミアは軽く手を振ってから教室をあとにした。

 

 

「うーん、もう少しこいつを足して・・・それからここにこれを入れて混ぜて・・・」

 

「Zzz・・・」

 

二人はそのまま各々のすることに没頭した。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

結果からいうと、決闘はグレンの惨敗に終わった。

最初の三本勝負が四十七本勝負にまで及び、その全てがシスティーナの圧勝。

理由はグレンが三節詠唱までしかできないからである。

そしてグレンは決闘の前にした約束を完全に無視し、何度もコケながら去っていった。

ルミア以外の生徒がグレンに失望し、酷評していた頃。

 

「ノラ、やっぱりグレン兄負けたっぽいぞ」

 

「・・・予想通りだな」

 

「グレン君、一節詠唱ができないからね」

 

ノラとタクス、そしていつの間にか教室にいたセラがその光景を見て話していた。

 

「にしても、あいつらかなり魔術を神聖視しているな。まるで宗教の信者だ」

 

「・・・こんなもの、神聖でもなんでもないのにな」

 

「確かに凄いものだとは私も思うことあるけど、あそこまで特別扱いすることはないかな」

 

「多分だけど、またグレン兄とシスティーナが衝突すると思う」

 

「・・・タクスのそういう予感ってだいたい当たるんだよな~」

 

「うんうん、帝国宮廷時代もすごい数当たって皆かなり驚いていたよ。

それに、その予感が当たるかどうかで賭け事していた人もいたぐらいだし」

 

「え?何それ初耳なんだけど」

 

「・・・グレン兄が始めた。それで荒稼ぎしてるとこ何回も見た」

 

「よし、あとで殴る」

 

「それじゃ、私は戻るね」

 

セラはそういうと教室から出ていった。

 

(・・・そういやあのルミア?ってやつだけ周りと違う反応していたな・・・)

 

ノラは一人、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

決闘から三日後、グレンは相変わらずのやる気のなさ。

生徒達はそんなグレンを無視し、自習をしている。

ノラとタクスも相変わらず睡眠をとったり、魔導器の調整をしていた。

 

 

「あ、あの・・・・・・先生。今の説明に質問があるんですけど・・・・・・」

 

「あ~なんだ?言ってみ?」

 

「え、えっと・・・・・・今、先生が触れた呪文の訳がよくわからないんですけど・・・」

 

 

「無駄よ、リン。その男に何を聞いたって無駄だわ」

 

「え・・・?」

 

「この男は魔術の崇高さを全く理解していないし、むしろ馬鹿にしてる。

そんな男に教わることなんて何も無いわ」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「大丈夫よ、私が代わりに教えてあげる」

 

システィーナがリンの背中を押しながら戻ろうとすると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術って・・・そんな偉大なもんかね」

 

グレンがそんなことをぼやいた。

 

 

 

クラスの空気が張り詰めた。

 

ノラとタクスもこの時は自分たちの義兄を見た。

 

 

それをシスティーナが黙っているはずがない。

 

「ふん、何を言うかと思えば。魔術は偉大で崇高なものに決まっているでしょう?

もっとも、貴方みたいな人には理解出来ないでしょうけど」

 

普段のグレンとの会話ならここで終わっていただろう。

だが───

 

 

 

 

 

 

 

「どこが偉大でどこが崇高なんだ?」

 

 

 

 

 

 

────この日はなぜか食い下がった。

 

 

 

「え・・・・・・ッ」

 

「どこが偉大でどこが崇高なのか、それを聞いている」

 

想定外の反応にシスティーナは戸惑う。

しかし、呼吸を整えてから自信を持って返答する。

 

「魔術はこの世界の心理を追求する学問よ」

 

「・・・・・・ほう?」

 

「この世界の起源、構造、法則。魔術はそれを解き明かし、自分と世界がなんのために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、人がより高次元の存在へと至る道を探す手段なの。

それはいわば、神に近づく行為。だからこそ、魔術は偉大で崇高なのよ」

 

システィーナは会心の返答だと思った。

だからこそ、グレンの言葉は不意打ちだった。

 

 

「それって何の役に立つんだ?」

 

「え?」

 

「だから、世界の心理を解き明かしてそれが何の役に立つんだ?」

 

「だ、だから、より高次元の存在に──」

 

「より高次元の存在ってなんだ?神様か?」

 

「・・・・・・それは」

 

 

グレンはさらに追撃する。

 

「例えば医術は人を病から救うよな?冶金技術は人に鉄をもたらしたし、農耕技術で人は餓死せずにすむ。建築技術のお陰で快適に暮らせる。でも魔術だけ何の役にも立ってないよな?」

 

 

グレンの言葉は事実だった。

魔術は基本的に秘匿される術であり、普通の人から悪魔の術と言われても仕方ないものだった。

 

「魔術は・・・人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ。

人と世界の本当の意味を探し求める・・・・・・」

 

「でも何の役にも立たないなら実際、ただの趣味だろ。単なる自己満足の一種、違うか?」

 

システィーナは圧倒的に言い負かされていることに歯噛みした。

その悔しさに震えていると・・・・・・

 

「悪かった、嘘だよ。魔術は立派に人の役に立っているさ」

 

「・・・・・・え?」

 

 

システィーナはもちろん、クラス中が目を丸くした。

 

一方、ノラとタクスは──

 

 

(グレン兄・・・やっぱあの時のことを・・・)

 

(・・・まあ、分からなくもないけどな)

 

(・・・そんだけショックがデカいんだ、特に自分の大切な人ならな・・・)

 

 

そう小声で話していた。

 

 

「ああ、魔術は凄ぇ役に立つさ・・・・・・人殺しのな!」

 

深い憎悪に満ちた顔で紡がれたその言葉に、生徒達は凍りついた。

 

 

「剣が一人殺している内に魔術は何十人と殺せる。戦術で統一された一個師団を魔術師の一個小隊は戦術ごと焼き尽くす。ほら、立派に役に立つだろ?」

 

 

「ふざけないでッ!魔術はそんなんじゃない!魔術は──」

 

 

「お前、この国の現状を見ろよ。魔導大国なんていわれちゃいるが他国から見てその意味は何だ?帝国宮廷魔導士団なんて物騒な連中に莫大な国家予算が注ぎ込まれるのはなぜだ?」

 

「そ、それは──」

 

「決闘にルールがあるのはなぜだ?二百年前の『魔導大戦』、四十年前の『奉神戦争』で何をやらかした?外道魔術師の犯罪件数とおぞましい内容を知っているか?」

 

「──ッ!」

 

「ほら見ろよ、魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。何故かって?他でもない人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術だからだ!」

 

 

(流石に極論じゃないか?)

 

(だけど間違ってもない。皆表の部分しか見ようとしないからこうなるんだ)

 

ノラとタクスはそう受け答えする。

 

 

「全くお前らの気が知れねーよ。こんな下らない術勉強するならもっとマシな──ッ」

 

 

 

パアンッ!と乾いた音が響いた。

システィーナがグレンの頬を叩いたのだ。

 

 

 

「いっ・・・・・・てめっ!?」

 

グレンはシスティーナに文句を言おうとし、言葉を失った。

システィーナは涙をポロポロとこぼしていた。

 

 

「違う・・・・・・魔術は・・・・そんなんじゃ・・・・・ない・・・もの・・・。

なんで・・・・そんなに・・・酷いことばっかりいうの・・・・・・?

・・・・・・大っ嫌いっ!貴方なんか!」

 

そう言い捨てて、システィーナは教室を出ていった。

 

 

「──ち」

 

グレンは頭をかきながら舌打ちする。

 

「あー、なんかやる気出ねーから、今日の授業は自習にするわ」

 

そう言ってグレンも教室を後にした。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

クラスは騒然としていた。

それもそうだろう。皆システィーナに似た考え方だった故にグレンの主張を認めようとしない。

 

 

「何なんだよ、あの講師は」

 

「あそこまで魔術を愚弄するなんて・・・」

 

「魔術師の風上にも置けませんわ」

 

と、つらつらとグレンを否定していると、ガタッと音がした。────ノラだ。

 

 

「・・・お前らさ・・・いつまでわがまま言ってんだよ。子供じゃあるまいし」

 

 

「「「は・・・?」」」

 

 

「・・・大体、グレン兄の言い分は事実だろ?

なのにそれを認めようとしない、これをわがままといわずに何て言うんだ?」

 

「そ、それでもあんなに魔術を貶すことはどうなんだよ!」

 

するとタクスも魔導器の調整を止めた。

 

「確かにグレン兄のは極論かもしんないけど、お前らのも極論だぜ?」

 

「え・・・」

 

タクスは続ける。

 

「お前らは魔術を神聖視し過ぎなんだよ。事実に目も向けずに表の綺麗な部分だけ見てる。

グレン兄は事実である裏だけを言ったんだ。それに対してお前らは・・・偉大だの崇高だの、宗教の信者と同じ考え方だって分かっているのか?」

 

クラス中が沈黙する。

 

「・・・まあ、俺らが言いたいのは、立派な魔術師目指しているなら表ばっかり見るなってことだ」

 

ノラはそう締めくくって教室を出ていき、タクスは魔導器を片付けて後に続いた。

 

 

 

□□□□

 

 

夕日が煌めく黄昏時、グレンは屋上にいた。

あの後グレンは授業に顔を出さず、ずっとここにいたのである。

 

 

「・・・やっぱここにいたか、グレン兄」

 

「ん~?何だ、ノラか」

 

「私もいるよ?」

 

「白犬もか。何だよ?」

 

「また犬って・・・まあいいか。グレン君、ノラ君から聞いたよ?システィーナちゃんを論破したって。

いくら何でもやり過ぎだよ。いくら魔術が嫌いだからって」

 

「むぐ・・・」

 

やはりセラにはかなわない。グレンはそう思った。

 

「あれ?タクスはいねーのか?」

 

「・・・あいつならシスティーナ?を慰めに行ってる」

 

「立派だねぇ・・・」

 

 

「あれ?ねぇ二人共、あれ何だろう?」

 

セラが西館の窓一つを指差す。

そこは魔術実験室だった。もう今の時間帯なら誰も使わないはずだ。

 

「・・・《彼方(かなた)此方(こなた)へ・怜悧(れいり)なる我が(まなこ)は・万里を見張るかす》」

 

ノラがグレンとじゃんけんして負けたので、皆を代表して遠見の魔術ーー

黒魔【アキュレイト・スコープ】で実験室を覗いた。

 

 

「・・・ん~と・・・・・・金髪の女子が一人いるな・・・ルミア・・・だったっけ?そいつがいるぞ」

 

「マジ?どれどれ・・・・・・_(._.)_、お?流転の五芒・・・・・・、魔力円環陣をやってるな」

 

「本当?じゃあ行こうよ」

 

「「え」」

 

「私も見たけどお世辞にも上手とは言い難いし、グレン君が小さい頃よくやったって笑いながら──」

 

 

「まてセラ、それ以上言わないでくれ。超恥ずかしいから」

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

ばんッ!

 

突然ドアが乱暴に開けられ、ルミアは飛び上がった。

 

「ノ、ノラ君!?グレン先生にセラ先生も!?」

 

「・・・何してんだ?ここは一人で使っちゃダメなんじゃなかったか?」

 

「じ、実は私、最近法陣の授業について行けなくて・・・でも今システィもいなくて・・・どうしても法陣を復習しておきたくて・・・・・・」

 

「・・・ここに忍び込んだと」

 

「えへへ・・・ちょっと事務室に忍び込んで・・・・・・」

 

ペロッと小さく舌を出して、ルミアは手に持った鍵を見せた。

 

「・・・・・・ルミアちゃんって結構やんちゃなんだね」

 

セラが苦笑しながら言う。

 

「ごめんなさい、すぐに片づけます!後でどんなお叱りも受けますから!」

 

片づけ始めようとするルミアの腕をグレンが掴む。

 

「いーよ、最後までやっちゃいな。ほとんど完成してんじゃねーか」

 

「でも上手くいかなくて・・・・・・どの道諦める予定だったんです・・・・・・」

 

法陣を見ながらルミアは溜め息をつく。

 

「どうしてだろう・・・手順は合ってるはずなのに・・・」

 

「・・・ん?これって水銀が足りてないだけじゃん」

 

「え?」

 

ノラは棚にあった壺を取り、法陣を形作っているラインに水銀を垂らした。

垂らし終えると、今度はグレンが卓越した手さばきで綻びを修繕していく。

 

「お前達は目に見えないものに対しては神経質になるくせに、目に見えるものに対しては疎かになる。

魔術を神聖視し過ぎている証拠だ」

 

「あ、できたみたいだよ。それじゃもう一回起動してみて、ちゃんと五節でやってね?」

 

「は、はい」

 

ルミアは法陣の前に立ち、深呼吸をして、詠うように涼やかな声で呪文を唱えた。

 

 

 

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・(ことわり)の円環にて・(みち)()せ》」

 

やがて鈴のような音を立てながら法陣が光り、七色の光と銀が織り成す幻想的な光景が広がった。

それはもう、ただ単純に美しく、神秘的だった。

 

 

「うわぁ・・・・綺麗・・・・・」

 

 

「うん・・・・本当に・・・・・」

 

 

ルミアとセラがその光景に目を奪われていた。

 

 

「ここまで感動するもんかね?」

 

「・・・俺に言われても困るんだが・・・・」

 

一方のグレンとノラは冷たく一瞥している。

 

 

「ありがとうございます、先生。ノラ君もありがとね?」

 

「別に、こんなの普通だろ」

 

「感謝の言葉はちゃんと受け取る!」

 

「わーったわーった」

 

グレンを注意するセラを見て、ルミアはまた笑った。

ふと、ノラに声をかける。

 

「そういえばノラ君」

 

「・・・ん?なんだ?」

 

「これから帰るんだよね?」

 

「・・・まあそうだけど」

 

「じゃあ途中まで一緒に帰ってもいい?」

 

「・・・俺は知らん。ルミアの好きなようにすれば」

 

「う、うんわかった!じゃあすぐ片付けるからちょっと待ってて!」

 

朗らかに笑うルミアの無邪気な様子に、ノラはやれやれと肩をすくめた。

 

 

 

 

□□□□

 

フェジテの空に浮かぶ幻の城、夕暮れの緋色に美しく染まり、その荘厳なる姿をより一層映えさせている。

 

「うわぁ、グレン君!あれ見て!」

 

「うっせ、そんなはしゃぐな。ガキじゃあるまいし」

 

子供のように嬉しそうなセラを面倒くさそうに宥めるグレン。

ノラとルミアはその姿を後ろから見ていた。

 

「まるで夫婦だね、あの二人」

 

「・・・そりゃそうだろ。昔っから仲良いんだから」

 

「おーい!何か言ったかーー!」

 

「「いいや(え)何もーー!」

 

声が重なったことに驚いたのか、ルミアは目を丸くしてノラを見る。

ノラは首を傾げただけだったが。

 

 

「先生って・・・本当は魔術が好きなんだよね?」

 

不意にルミアがそう口走る。

 

「・・・何でそう思うんだ?」

 

「だって・・・法陣を直しているとき、先生凄く楽しそうだったから」

 

「・・・ふーん・・・・・」

 

ノラはどうでもいいと言わんばかりに空を見る。

 

「・・・まあ、認めないだろうけど」

 

「ふふ、そうかもね」

 

ルミアはただ微笑むだけ。

 

 

 

「・・・・・・私ね、三年くらい前に家の都合で追放されて、システィの家に引き取られたんだ」

 

「・・・・・ほう?」

 

ノラは面白そうだと思ったのか、食い入るように聞く。

 

「しばらくした頃、悪い魔術師達に捕まって殺されかけたことがあって・・・・・・」

 

「・・・すげぇハードだなその出来事。・・・で、続きは?」

 

「そのときはもう本当にだめだと諦めて・・・・・・でも、別の魔術師達が助けてくれたの」

 

「・・・なんだそりゃ、ご都合展開過ぎだろ。小説じゃあるまいし」

 

「あの時はその人たちが怖くてたまらなかった。でも、私はあの人たちに命を救われた。

だから、いつかその人たちに会えたら、ちゃんとお礼を言いたい」

 

聞き終えるとノラは含み笑い(どころではなかったが)を始めた。

 

「・・・ぷっ・・・・くっくっく・・・それ小説でも売れないぞ・・・」

 

「でも、事実は小説よりも奇なりって言うでしょ?」

 

「・・・そりゃねーよ」

 

それからは会話なく歩いた。

 

そうしてしばらく経って、十字路についた。

 

「あ、私こっちだから。システィの屋敷に下宿しているから」

 

「・・・おう、またな」

 

「気をつけろよ?」

 

「またね、ルミアちゃん」

 

「はい!あ、それとグレン先生、明日システィに謝ってくださいね?」

 

ルミアがグレンのほうを向いて言う。

 

「システィにとって魔術は、今は亡きお爺様との絆を感じられるとても大切なものなんです。偉大な魔術師だったお爺様をシスティは大好きで、ずっと尊敬していて・・・・・・いつかお爺様に負けない立派な魔術師になる・・・・・・それが、亡くなったお爺様との約束なんです」

 

「・・・・・・そうか。そりゃ流石に悪いことしたな」

 

そう言いながら、グレンは気まずそうに頭をかく。

セラはまたお説教しなきゃと決心した。

 

 

「それじゃさようなら!」

 

ルミアは言って走り去った。

 

 

「んじゃ、俺らも帰りますか」

 

「そうだね。グレン君、ちゃんと明日謝るんだよ?」

 

「わかっとるわ!俺はガキか!」

 

 

三人はそんな他愛のない会話をしながら、帰路についた。




タクスがシスティーナを慰めているシーンは次回の最初で出します。

理由は面d・・・・ゲフンゲフン、文字数が足りないと思ったから


ではまた


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ダメ講師、覚醒

どうも、影龍 零です。

前に言ったようにタクスとシスティーナの場面から始まります。
別に甘くはないと思うのでご了承ください・・・

ノラ「・・・んなこと言ってるけど甘くしようとしていたこと知ってるぞ」

作者「な、何故それを!?」

タクス「書いてる時の表情が真剣だったしなぁ~」

作者「うぐ・・・はい、もっと上手くできるように精進致します」

ノラ「期待はしていないが、まあ頑張れ」

作者「サラッと酷くない!?」

タクス「んじゃ、始まり始まり~」


それはシスティーナとグレン、ノラ、タクスが教室から出て暫くした頃。

 

 

タクスとノラはどっちがシスティーナのところに行くかコイントスで決めようとしていた。

グレンの代わりに慰めに行くべきでは、というタクスの案である。

しかしタクスはノラに押し付けようとして、ノラはタクスに押し付けようとしていた。

散々揉めた結果、こういう形にしたのだ。

 

 

 

「・・・タクス、お前はどっちにする?」

 

「俺は表だ」

 

「・・・じゃ、俺は裏で」

 

ノラがコインをピンッ!と弾く。

コインはクルクルと宙を舞い、ノラの手の甲に落ちた。

 

 

「出た目は・・・・・・

 

 

 

         ・・・・・・表だな」

 

 

「マジかよ」

 

「・・・大マジだ。言い訳言わずに行ってこい」

 

タクスはハァ、と溜め息をつく。

 

「わかったよ。じゃあ行ってくる。

あ、そうそう─

 

 

 

 

        ──別に(・・)これ(・・)使って(・・・)()いいよな(・・・・)?」

 

 

 

そう言うとタクスは一拍置き、目を閉じる。

次の瞬間、目を開いたと思うと、タクスは湯気のようなものに包まれた。

 

 

 

これはタクスとノラのみが使える固有魔術(オリジナル)

 

 

その名も【念】

 

 

マナをオーラとして用いることで、様々なことに使うことの出来る便利なもの。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

タクスはそう言い残して走っていった。

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

今タクスは【念】の一種である【円】を使っていた。

オーラをドームの形状にして、その範囲に入った者を知らせてくれるものである。

 

 

これを使いつつ、タクスは学院中を探した。

 

 

(うーん・・・なかなか見つかんないな)

 

次はどこに行こうか考えていると、「円」に反応があった。

 

 

(ここでかかったってことは・・・校庭の近くか!)

 

 

直ぐにタクスは方向を変え、校庭に向かった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

校庭の林に近い木の下で、システィーナは泣いていた。

 

 

 

「ぐすっ・・・・・・ひっぐ・・・魔術は・・・・・・人殺しの技術なんかじゃないのに・・・」

 

 

 

 

「ふ~~。ここにいたか、システィーナ」

 

システィーナが声がした方を向くと、茶髪の青年がマイペースを崩さない調子で立っていた。

 

 

「・・・・・・何よ。わざわざ冷やかしに来たの?」

 

「まさか。泣いてる奴をからかう気なんざさらさらねーよ」

 

 

だったら何故、システィーナはそう思っていると、

 

 

「グレン兄の主張に納得いかないんだろ?」

 

タクスがシスティーナの思っていることを言い当てた。

 

「まあ、こう言っちゃ悪いが・・・グレン兄の言ってることは間違っていない」

 

「じゃあ何で来たのよ!そんなことくらいわかってる!貴方までそうやって──」

 

 

「ただ」

 

激情に駆られて言うシスティーナに対して、タクスは冷静に言う。

 

 

「お前の思う魔術も間違っちゃいない」

 

「・・・・・・え?」

 

 

きょとんとしているシスティーナに、タクスはさらに言う。

 

 

「グレン兄の主張は間違っちゃいないが極論だ。お前やクラスの奴らの主張もだけどな」

 

「それって・・・つまり・・・どうゆう・・・?」

 

「要は魔術も使う人次第で変わるんだよ。グレン兄は諸事情でああなったけど・・・・・・お前は表を見過ぎってところかな。・・・あ、別に責めているわけじゃねーぞ?」

 

システィーナが頬を膨らませていたのでタクスは慌て弁明する。

 

「それに・・・お前にとっての魔術は、誰かとの大切なものなんじゃないか?」

 

この言葉にシスティーナは目を見開いた。

そして、俯きながら言う。

 

「・・・そうよ。私にとっての魔術は、お爺様との大切な思い出なの」

 

システィーナは自分と祖父の最期の会話を話し始めた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

『ごらん、わしの可愛いシスティーナ。あれが『メルガリウスの天空城』だよ』

 

それはシスティーナが幼い頃。

 

『皆がわしのことを偉大な功績を残した魔術師だと煽てるが・・・なんてことはない。

わしはたった一歩だけ、あの城に足を踏み入れたかった。

あの荘厳なる全容を一目見たかった。

あの神秘の謎を解き明かしたかった。ただそれだけなのだよ』

 

祖父は、この話をするときはいつも夢見る少年のようだった。

しかし、このときはどこか寂しそうだった。

 

『──お爺様は夢を諦めてしまったの?』

 

システィーナはそう聞いた。

 

『・・・残念ながら、この世にはままならんことがあるのだよ・・・・・・』

 

祖父はシスティーナの頭を優しく撫でた。

 

『本当に・・・残念なことじゃ・・・・』

 

その日から、システィーナは祖父の夢を継いだ。

 

『──だったら私がやる!私が、お爺様以上に立派な魔術師になって『メルガリウスの天空城』の謎を解いて見せるわ!』

 

 

 

□□□□

 

 

 

「・・・・・そんなことがあったのか」

 

感心するように言うタクスを見ながらシスティーナは頷く。

 

「だから私はもっと魔術を勉強して、あの城の謎を解き明かしたい。なのに──」

 

「グレン兄に魔術を全否定されたと」

 

システィーナは再び頷く。

 

「・・・俺はお前の夢、スゲーと思うけどな」

 

「え?」

 

「だってお前、自分の爺さんとの約束だろそれ?そこまで大切にしてるんだからさ、スゲーよお前」

 

その目は嘘偽りない目だった。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「どういたしまして。あ、そうだ!また聞かせてくれよ、『メルガリウスの天空城』のやつ」

 

タクスの言ったことにシスティーナはきょとんとする。

 

「お前の話聞いてたら興味でてきてさ、もっと聞かせてくれ」

 

それは夢見る少年のようでシスティーナはクスリと笑みをこぼす。

 

「ん?どうした?」

 

「ううん、何でもない。それじゃ聞かせてあげる」

 

二人はそれから、時間も忘れ、笑いながら語り合った。

 

 

 

□□□□

 

 

 

夕方になり、二人はやっと話し込んだことを自覚した。

 

「うわ、もうこんな時間か。そろそろ帰んねーとセリカとセラ姉に何言われるか・・・」

 

「・・・・・・タクス」

 

焦るタクスにシスティーナが声をかける。

 

「ん、なんだ?」

 

「今日はありがと」

 

いきなりお礼を言われたせいか、タクスはきょとんとする。

ーーが、すぐに笑いながら応える。

 

「どういたしまして。さーてと!帰りますか」

 

「そうね。ルミアも心配しそうだし」

 

二人は立ち上がって帰路についた。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「それじゃ、私はこっちだから」

 

「おう、気をつけてな~」

 

タクスがそう返すと、システィーナはまた笑いながら

 

「わかってるわよ。あんたのほうこそ、転ばないようにね!」

 

そう返した。

 

「わかったよ、んじゃな!」

 

タクスは帰っていくシスティーナにそう叫んでから、再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、セリカとグレンに思いっきりからかわれたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・昨日はすまんかった」

 

「・・・は、はあ」

 

次の日、突然グレンがシスティーナの下に歩み寄り、誰も予想していなかった言葉を発した。

 

「まぁ、その、なんだ・・・・・・俺は魔術が大嫌いだが・・・・その、やり過ぎたっつーか、大人げねえっつーか、その・・・・・まぁ、結局、なんだ、あれだ、・・・・・・悪かった」

 

 

グレンはしかめっ面で気まずそうに目をそらしながら謝っている。

その後、話は終わりと言わんばかりに教壇に登る。

 

しかし、クラスの大半は戸惑ったままだ。

それもそうだろう、なにしろまだ授業開始時間前なのにグレンがいるのだから。

今まで遅刻の常習犯が突然こうなったら誰だって驚く。

 

 

「なんだよ・・・・・?何が起きてるんだよ・・・・・?」

 

「なぁ、カイ?ありゃ一体どうゆう風の吹き回しなんだ?」

 

「お、俺が知るかよ・・・・・・」

 

 

 

「それじゃ、授業を始める」

 

今度はどよめきがクラスを支配した。

 

「さて・・・・・と。これが呪文学の教科書だっけ?」

 

グレンが教科書をパラパラとめくっていく。

やがて露骨な溜め息をこぼし、教科書を閉じた。

 

すると、珍しくグレンのほうを向いているノラとタクスに目配せをした。

二人は意図がわかったらしく、タクスは窓を開け、ノラは指を構えた。

グレンはズカズカと歩み寄り・・・

 

 

 

「そぉい!」

 

窓の外に教科書を放り投げた。

ノラはその教科書に狙いを定め・・・

 

 

「・・・《そりゃ》」

 

気だるげな声で【ショック・ボルト】を放った。

生徒達は驚くものの、グレンの奇行に溜め息をつき、各々自習を始めようとした。

 

 

「さて、授業を始める訳だが・・・・・・」

 

再びグレンは教壇に立ち───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らって本当に馬鹿だよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なんかとんでもない暴言を吐いた。

 

 

この言葉に生徒達はピクッと反応する。

ノラとタクスは面白いのかプルプル震えている。

 

 

「この十一日間お前らを見てきたけど、お前らって魔術のことなぁ~んにもわかっちゃいないんだな。

そうじゃなきゃ、魔術式の書き取りとか共通語訳の質問とかしないもんな」

 

 

生徒達が羽ペンを持ったまま硬直する。

 

 

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

 

システィーナに続く成績をもつギイブル=ウィズダンがそう言うと、同調するようにクスクスと侮蔑のこもった笑いがクラスから響いてくる。

 

 

「それを言われると正直耳が痛い。何しろ俺は生まれつき魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスが致命的なまでになくてね。だが今【ショック・ボルト】『程度』とか言った奴、やっぱ馬鹿だわ。

やーい、自分で証明してやんの」

 

 

あっという間に苛立ちが蔓延していく。

 

 

 

 

「じゃ、今日はその【ショック・ボルト】について話そうか。これくらいがちょうどいいだろ」

 

これには生徒達も不満を漏らす。

 

「今さらそんな初等呪文を説明されても・・・・・・」

 

「とっくの昔に究めているのですが?」

 

グレンはそれを完全無視して黒板にルーン語で呪文を書いていく。

 

「はいはーい、これが魔術式でーす。皆さんもご存じの通り、これを言えば魔術が発動しまーす。

・・・・・・んで、これが【ショック・ボルト】の基本的な詠唱呪文だ」

 

グレンは黒板の呪文を唱えた。

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」

 

放たれた魔術はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、黒板にぶつかった。

 

「まあ、魔力操作に長けた奴なら《雷精の紫電よ》の一節でも事足りるのはご存じの通り。じゃ、問題な」

 

 

グレンはチョークで呪文の節を切った。

 

 

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》

 

 

「さ~て、こうして四節に区切るとどうなる?」

 

クラスを長い沈黙が支配した。

 

 

「その呪文はまともに起動しませんよ。必ずなんらかの形で失敗しますね」

 

やがてギイブルが頬づきしながら答えるが──

 

 

「んなこたぁわかってんだよバーカ。俺が聞いてるのはその失敗がどういう形で現れるかって話だよ」

 

 

「な──」

 

──嘲笑を含んだ返事が返ってきた。

 

「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ!答えはランダムで──」

 

 

「おいおい、こんな簡単な術式でランダムなわけないだろ?お前らこの術究めたんじゃないのかよ?」

 

負けじとウェンディが吠えるが、グレンはまたもや嘲笑しながらあしらう。

 

 

「これは酷い、全滅か?・・・・・・んじゃあノラ、これの答え言ってみろ」

 

指されたノラはいつの間にか寝ていたが、ムクリと起き上がった。

 

 

「・・・ん?これは右に曲がる」

 

当然といった調子だ。

 

 

「正解。やっぱ簡単か」

 

グレンが四節の呪文を唱えると、ノラが言った通りになった。

 

 

「さらに五節に区切ると・・・・・・これはタクス、お前が答えろ」

 

 

「射程が三分の一くらいになる」

 

「正解だ」

 

 

これも宣言通りになった。

 

 

「さらに一部を消すと・・・・・・」

 

 

「「出力がものすごく落ちる、だろ?」」

 

「大正解」

 

グレンは生徒の一人に呪文を撃ったが、当の本人は何も感じなかったらしく、目を白黒させている。

 

 

「まあ、究めたっつーならこれくらいはできないとな?」

 

腹立たしいどや顔を決めながら指先でチョークを回すグレン。

 

「要するに、魔術式ってのは超高度な自己暗示っつーことだ。お前らはよく魔術は世界の心理を求めて~なんて言うがそりゃ間違いだ。魔術はな、人の心を突き詰めるもんなんだよ。」

 

グレンがそう言うが皆信じられないようだ。

 

「グレン兄~、皆信じてないっぽいからなんか例でも出せば?」

 

「あ~・・・確かにタクスの言うとおりだな・・・・・・おい、白猫」

 

 

「し、白猫って私のことですか!?私には、システィーナって名前が───」

 

 

「タクスがお前のこと好きだって言ってたぞ」

 

唐突にタクスを利用してとんでもない発言をしだした。

 

 

「・・・・・・な、なななな、何を言って───ッ!?」

 

システィーナが顔を真っ赤にする。

 

 

「はい、注目ー。白猫の顔が真っ赤になりましたねー?見事に言葉ごときが意識に影響を与えましたねー?比較的制御のしやすい表層意識ですらこうなるんだから理性のきかない深層意識なんて───ぐわぁ!?ちょ、この馬鹿!教科書投げんなってごわぁ!?な、なんでタクスまでぉおぶはぁ!?」

 

「馬鹿はアンタよッ!この馬鹿馬鹿馬鹿ーーッ!」

 

「確かに例出せばとは言ったけどなんで俺使うんだよ!!」

 

 

「・・・ぷっ、アッハハハハハハハ!!」

 

 

一連の出来事を見てノラは大爆笑。

他の生徒は呆れ顔で眺めていた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「・・・・・まぁ、やっぱり魔術にも文法と公式みたいなのがあるんだよ。これを知らなきゃ上位の文法公式は理解不能、なんていう基盤があるんだ。ま、俺が説明することができるようになれば・・・そうだな・・・」

 

グレンは少し考え込んで。

 

「《まぁ・とにかく・痺れろ》」

 

変なルーン語を唱えた。

 

 

すると【ショック・ボルト】が起動した。

生徒達は目を丸くする。

 

「あら?思ったより威力弱いな・・・まぁいっか、こんな風に即興でこんくらいなら改変できるようになると思うぞ?大抵威力落ちるからお勧めしないが。・・・おいノラとタクス、お前らもやってみろ」

 

 

「・・・え~~・・・んじゃあ・・・《とりあえず・教科書・飛んでけ》」

 

ノラがそう言うと今度は黒魔【ゲイル・ブロウ】が起動した。

 

「じゃ俺は・・・《指先に・ちっちゃな火を・つけろ》」

 

今度はタクスが黒魔【ファイア・トーチ】を起動した。

 

 

生徒達はその姿に言葉がでない。

そして、三人を見る目が変わっていく。

 

 

「つーわけで、今日はお前らに【ショック・ボルト】を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやる。興味ない奴は寝てな」

 

 

しかし、今眠気を抱いている生徒は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

ダメ講師、グレン覚醒。

 

 

その知らせは瞬く間に学院中に広まり、他のクラスの生徒達もグレンの授業に潜り込んで参加するようになり、十日経つ頃には立ち見する生徒に加え、他の講師までもがいるようになった。

 

そして、生徒達がすっかり帰宅した放課後。

 

 

グレン、ノラ、タクス、セラの四人は屋上で夕焼け色に染まる景色を眺めていた。

 

 

「すごかったよグレン君!あんなにたくさんの人が授業見に来るなんて!」

 

「やれば出来んじゃんグレン兄。最初っからやっとけば良かったんじゃね~の?」

 

「うるせ、俺が魔術嫌いなの知ってるくせに何言ってんだよ」

 

「・・・男のツンデレは需要ねーぞグレン兄。つーかキモい」

 

上から、セラ、タクス、グレン、ノラの順だ。

皆ワイワイと話しているため、誰ももう景色を見ていない。

 

 

「おー、おー、黄昏ちゃってまぁ、青春してるね~四人共?」

 

 

後ろから冷やかすような声がかかり、四人は首を回して振り返る。

 

「いつからそこにいたんだよ?セリカ」

 

そこにはセリカが淑女然と佇んでいた。

 

 

「さあ、いつからだろうな?先生からデキの悪~い生徒達に質問だ。当ててみな」

 

 

「アホか。魔力の波動もなければ」

 

「・・・世界法則の変動もなし」

 

「ってことはたった今」

 

「忍び足で来た、ですよね」

 

グレン、ノラ、タクス、セラの順で即答する。

 

 

「おお、正解だ。こんな馬鹿馬鹿しいオチが皆わかんないんだよな~」

 

セリカはそれを聞いて満足そうに微笑む。

 

「元気が出たようで良かったよ、グレン」

 

「はぁ?」

 

「前までは死んで一カ月経った魚の目だったが、今は死んで一日経った魚の目をしている」

 

「・・・・・・悪かったよ」

 

グレンはふてくされながらぼやいた。

 

 

「そっちの三人はどうだ?楽しいか?」

 

 

「楽しいかな」

 

タクスがマイペースに言う。

 

「・・・普通」

 

眠たげにノラが言う。

 

「私も楽しいかな」

 

セラが微笑んで言う。

 

 

「おお、そうか。そう言ってくれると、保護者冥利に尽きるね~」

 

「はいはいそうですか。つーかお前、明日からの学会の準備で忙しいんだろ?」

 

「な~に、大丈夫だ。お前たちも明日からの授業頑張れよ?」

 

「は?明日から学院は休みのはずだろ?」

 

想定外のことを言われ、グレンは焦る。

 

「なんだ、聞いていないのか?お前のクラスだけ例外だぞ」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「えっとセリカさん、どうしてですか?」

 

驚いている三人に代わり、セラが質問する。

 

「ああ、グレンのクラスの前担任・・・ヒューイ=ルイセンが突然失踪してな。

グレンのクラスだけ授業が遅れているんだ。だから休みを使って補習を行うって訳だ」

 

「あ~なる程・・・・・・ん?ちょっと待って下さい、そのヒューイって人は一身上の都合で退職したんじゃなかったんですか?」

 

「それは一般生徒向けの話だ。そもそも正式に退職したなら代わりの講師をすぐに見つけるだろう?」

 

「それもそうですね・・・」

 

「そりゃきな臭い話だな・・・」

 

いつの間にか隣にいるグレンにセラはびっくりする。

 

「もう!いるならいるって言ってよ!」

 

「そんなの俺の自由だろ?」

 

そんな光景を一瞥しながらノラとタクスはセリカのほうを向く。

 

「・・・とにかく、留守中は気をつければいいんだろ?」

 

「まあ、いざとなったらなんとかするよ」

 

「ああ、よろしく頼むぞ」

 

 

と、その時。

 

「あ、やっぱりここにいた!先生!」

 

扉のほうに目をやると、いつもの二人組が走ってきていた。

 

「あ、アルフォネア教授!セラ先生も!」

 

「どうした?グレンになんか用か?」

 

「はい。実は私達、図書館で板書の写し合いをしていたんですけど、どうしてもシスティがグレン先生に聞きたいことがあるって・・・」

 

「ちょ、ちょっとルミア!?それは言わないって約束でしょ!?」

 

 

「ほーう?そうかそうか。このグレン=レーダス大先生様にご教授願いたいのか?」

 

「だからあんたにだけは聞きたくなかったのよ!」

 

「グレン君、仮にも講師なんだからそんな態度はダメだよ?」

 

腹立たしいどや顔を決めるグレンをセラは呆れ顔で注意する。

 

「・・・んで、どこが聞きたいんだ?」

 

「え?ノラ君わかるの?」

 

「・・・グレン兄ができることは俺もタクスもセラ姉もできるからな」

 

「そうなんだ。じゃあお願いするね?」

 

「・・・はいはい」

 

どこまでも気だるげなノラとそんな彼を見ながら微笑むルミア。

 

「・・・う~ん、これって俺デジャヴ?」

 

眼前で繰り広げられる光景にタクスはそう考えずにはいられなかった。

 

 

セリカは皆の邪魔をしないようにと、静かにその場を後にした。




いい感じに終わったぞ・・・

次回から襲撃事件に入ります。

タクス「戦闘描写上手く書けよ?」

作者「プレッシャーをかけないでいただきたいのだが・・・」

ノラ「ちなみに俺とタクスはどっちが戦闘描写が多い?」

作者「そ、それは・・・あ、次回もお楽しみに!では!(^.^/)))~~~bye!!」


ノラ「・・・逃げたな」

タクス「逃げたね」


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襲撃 前編

どうも、影龍 零です。

今回から襲撃編に入ります。
ちなみに今回はタクスパートです。ノラパートは次回書きます。

ハンターハンターを読んだりアニメで見たりした方はわかると思いますが、今回はとあるキャラが使っていた武器が出てきます。

何かは本編を見れば分かります。

ではどうぞ。


「うおぉぉぉぉぉッ!遅刻遅刻ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

ものすごい速度で足を動かしているのは、言わずもがなグレンだ。

 

「おい白犬!なんで起こしてくれなかったんだよ!?」

 

グレンは隣を走る銀髪の女性に向かって叫ぶ。

 

「何度も起こそうとしたよ!でもグレン君が全く起きなかったからじゃない!!」

 

セラは心外だとばかりに叫び返す。

 

「あー、もう!とにかく急ぐぞ!」

 

 

 

二人は表通りを突っ切り、路地裏を利用して近道を通り抜け、表通りに戻ってきた。

そして十字路に着いたとき、違和感に気づく。

 

 

 

「誰もいない・・・?」

 

「グレン君、これ人払いの結界だよ。魔力痕跡がいろんな場所にある」

 

セラの言う通り、十字路を中心とした一帯に結界が張られていた。

グレンとセラは一年ぶりであろう感覚を研ぎ澄まし、周囲に注意を向けた。

 

 

 

「・・・そこに隠れている奴、何の用だ?」

 

グレンが静かな威圧と共に視線を十字路の一角に向ける。

すると、ブラウンの髪の小男がでてきた。

 

「ほう・・・わかりましたか。たかだか第三階梯(トレデ)の三流魔術師だと聞いていましたが・・・見事ですね」

 

「あっそう、俺ら急いでるからそこどいてくれねぇか?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。なぜならあなた方の行き先は───

 

 

                     ───あの世に変更されたのですから!」

 

 

「「──ッ!?」」

 

 

振り上げられた男の右腕に短剣に絡みつく蛇の紋章が彫られているのが見え、二人は息を詰まらす。

 

 

その一瞬の隙を突き、小男が呪文を詠唱し始めた

 

 

 

「《穢れよ・爛れよ・──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・遅い!」

 

システィーナは懐中時計を見ながらプルプルと震えながら唸っている。

授業時間はすでに二十五分も過ぎている。

 

「あいつったら・・・最近は凄くいい授業してくれていたから、ちょっと見直していたのにすぐこれなんだから、もう!」

 

「でも、珍しいよね?最近グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 

そんな二人の会話にノラとタクスが応える。

 

「あ~、昨日から人型全自動目覚まし時計が帝都に出掛けているからなぁ」

 

「それってアルフォネア教授のこと?」

 

ルミアの問いに二人は首肯して返す。

 

「セラ姉が頑張って起こそうとしていたけど全く起きる気配なかったし」

 

「いや、なんであんた達は起こそうとしなかったのよ!?」

 

「「面倒くさいからに決まってんだろ?」」

 

二人の返事にシスティーナは頭を抱える。

 

「まあ、責任とって探してくるよ。ノラも来いよ」

 

「え~面倒くさい「授業サボれるぞ?」よし、行くか」

 

「ちょっとタクス!今なんかサボれるとか言ってなかった!?」

 

「聞き間違いだろ?」

 

そんなこんなで二人は教室を出て行った。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「全く・・・あの二人はどこまでもマイペースなんだから・・・」

 

「でもいいんじゃない?そこが二人の良いところというかなんというか」

 

「ルミアってよくあの三人をフォローするわよね。特にノラとあいつ」

 

あいつとは勿論グレンである。

 

「それを言うならシスティだってよくタクス君とよく話してるじゃない」

 

「そ、それは・・・タクスがよく『メルガリウスの天空城』とかの話をもってくるから・・・」

 

言いよどむシスティーナを見てルミアは笑みをこぼす。

 

「貴女もノラと話しているとき凄く嬉しそうにするくせに・・・」

 

それを聞いてルミアは若干顔が赤くなる。

 

「な、なんでそのことを・・・?」

 

「見ればわかるわよそのくらい。何年一緒に暮らしていると思ってるの?」

 

「あ、あはは・・・」

 

みるみるうちにルミアの顔が赤くなる。

このことを聞いていた男子数名は、ノラに対する憤怒の炎を燃やしていたが、ノラは知る由もないだろう。

 

 

 

すると、ドアが突然開かれた。

一瞬グレンが来たのかと思ったが、違う。

入って来たのはチンピラ風の男とダークコートの男だった。

 

「いやー皆勉強ゴクローサマ!頑張れ若人!」

 

クラスにざわめきが起こる。

なにせ知らない二人組がやってきたのだ、誰だって驚くだろう。

 

そんな中、システィーナは立ち上がり、二人の男に向かって叫ぶ。

 

「ちょっと貴方達、一体何者なんですか?ここは関係者以外立ち入り禁止の筈ですよ?」

 

「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ!まあいっか。俺らはテロリストって奴だ。女王陛下に喧嘩を売るコワーイお兄さん達ってわけ」

 

「・・・は?」

 

「ここには守備兵さんをぶっ殺して、結界をぶっ壊して入ってきたの。オーケー?」

 

「・・・つまり、貴方達は侵入者ということですか?」

 

「うーん、まあそうだな」

 

「なら気絶させて警備官に引き渡します!《雷精の──」

 

「《ズドン》」

 

瞬間、チンピラ風の男の指先が光り、システィーナのすぐ横を閃光が通り過ぎた。

 

 

システィーナが恐る恐る振り返ると、後ろの机に小さな穴が開いていた。

 

 

 

「ぐ、軍用魔術・・・・・・ッ?」

 

チンピラ男の放ったのは黒魔【ライトニング・ピアス】

【ショック・ボルト】に似ているが恐るべき貫通力と比べ物にならない電圧を誇る。

 

 

 

 

 

 

 

「次刃向かったら・・・ぶっ殺すから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・いないな・・・」

 

「もうちょっと【円】の範囲広げるか」

 

「よし、そうしよう」

 

ノラとタクスは【円】を使いながら学院中を歩いていた。

今は一通り探したので教室の方向に向かいつつ、グレンとセラを探していた。

 

 

「にしてもいないな、グレン兄とセラ姉」

 

「なんかあったのかは知らんけど────おいタクス、止まれ」

 

 

突然タクスの前を歩いていたノラが警戒する。

 

 

「ん?なんかあったのか?」

 

「その気楽さどうにかしろ・・・まあいい───

 

 

                  ───外道魔術師が侵入したっぽいぞ」

 

「・・・マジか。ちょっと様子見るか」

 

タクスも警戒し、【円】の形を変えて教室の方向に伸ばした。

 

 

 

「・・・・・外道魔術師は二人組みたいだ。ルミアとシスティーナの反応がそいつらの近くにある。恐らく二人の内のどっちかを狙った侵入だろう」

 

タクスが冷静に分析している間、ノラはそれを聞きつつ対策を練っていた。

 

「あっ、二人が教室から出てくる!ひとまず隠れよう」

 

 

タクスは考え中のノラを引きずって廊下の曲がり角に身を潜めた。

その際に二人は【絶】を発動。

 

これはオーラを消して、完全に気配を消すもの。疲労回復にもなる。

 

 

 

「えっと・・・ダークコートの奴がルミアを連れて転移塔の方に、チンピラ風の奴がシスティーナを連れて魔術実験室の方に行ったぞ」

 

「オーケー。大体作戦は出来たぞ」

 

「流石だな。で、どんなの?」

 

「まず二手に別れよう。お前はチンピラ風の方に行ってくれ。俺はあのコート野郎の方に行く。恐らくグレン兄はお前の方に来ると思うぞ。距離的に近いからな」

 

「ふむふむ、グレン兄は寝坊+何らかの足止めで遅刻したということか・・・セラ姉も足止めくらってるだろうな」

 

「違いない」

 

真剣身を帯びた顔で二人は頷く。

 

 

「じゃ、行くか。ちょうど魔導器を試したかったし、いいタイミングだよ」

 

「若干皮肉混じってるだろ。まあ俺も魔導器試せるし、良しとするか」

 

「じゃあ・・・」

 

「「作戦開始!」」

 

 

二人はそれぞれの場所に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、十字路には人だかりが出来ていた。

 

「あれは・・・酷いな。警備官はまだこないのか?」

 

「おい、どうなっているんだ?アイツ生きてるのか?」

 

「いや・・・わかんねえ・・・でもこのまま死んだほうが本人にとってはマシだろうな・・・・・・」

 

「うぅ・・・な、なんてえげつないんだ・・・・・・」

 

「だめだ・・・酷い・・・酷すぎる・・・・・・うっ・・・直視に耐えられない・・・・・・」

 

「クソッ・・・悪魔だ・・・・まさしく悪魔の所業だ・・・・・・ッ」

 

 

人だかりの中心には、

 

全身をボコボコに殴られまくられた挙げ句、素っ裸にひん剥かれた上に、亀甲縛りに縛りあげられ、露骨な悪意に満ちた恥ずかしい落書きが満遍なく施され、尻に花が突き刺さり、股関に『極小』と書かれた紙を貼られ気絶している小男(・・)の姿があった。男の周囲には男のものであろう髪が無惨に散らばっていた。

 

 

 

□□□□

 

 

 

「ち──何が起きてやがる!?クソッタレが!」

 

「この守衛、息をしていないよ・・・多分侵入者達に殺されたんだと思う」

 

倒れていた守衛を調べていたセラがそうグレンに告げると、グレンは地面を叩いた。

 

「一応学院の関係者の俺達が入れないってことは・・・結界の設定が変更されてやがる。ったく誰だこんな面倒なことしやがったアホは!」

 

「グレン君、あの紋章を見たでしょ?絶対天の智恵研究会・・・外道魔術師の集まりだよ」

 

 

天の智恵研究会───簡単に言うと、宗教過激派組織の魔術師版のようなもの。

先ほど小男が振り上げた際に二人が見た紋章は、この組織に入っているということを示している。

 

 

グレンとセラはその男を返り討ちにし、気絶させた後、白魔【スリープ・サウンド】の呪文でさらに深く眠らせ、黒魔【マジック・ロープ】で手足を縛り、黒魔【スペル・シール】の付呪(エンチャント)で魔術起動を封じるという過剰な無力化を行った。

ちなみになぜ髪が散らばっているかというと、セラが黒魔【エア・ブレード】を使って男を吹っ飛ばした際に髪が巻き込まれたからである。

 

 

「だとするとあいつ等のいる教室は占拠されたと見ていいな・・・まあ、ノラとタクスなら大丈夫だと思うが・・・」

 

「でも万が一ってこともあるでしょ?なら急がなきゃ!」

 

「落ち着け白犬。俺が見てくるからお前は教室に行ってあいつ等を救出してくれ」

 

「う、うん分かった!グレン君も無茶しないでね・・・?」

 

「おう、任せとけ」

 

かくしてグレンとセラも学院内に突入した。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

タクスはシスティーナとチンピラ男を見つけるべく、魔術実験室を探していた。

 

 

 

「さーて、魔術実験室は・・・ここか!」

 

 

タクスは勢いを緩めずにそのまま跳躍し、ドアノブに右足をかけ、左足で思い切り空中を踏み、回転をつけてドアをこじ開けた。

 

 

「そりゃーーーー!!!」

 

 

タクスがドアを蹴っ飛ばすと、チンピラ男が今にもシスティーナを襲おうとしていた。

タクスとチンピラ男の目が合う。

 

 

「・・・・あ、すいませんでした。ごゆっくり~」

 

「助けなさいよ!?」

 

システィーナは思わず突っ込んだ。

 

「な、なんだテメェは!?どっから出てきやがった!?」

 

「いや、さっきドアから入ってきたでしょ?何言ってんの?」

 

全く緊張感のない会話にシスティーナは呆れるが、すぐにタクスに向かって叫ぶ。

 

「だめタクス!逃げて!」

 

「いや、助けにきてなんで帰んなきゃいけないんだよ?」

 

「いいから!貴方じゃこの男には───」

 

 

「もうおせぇよ!《ズドン》!」

 

システィーナとタクスが言い合っている内にチンピラ男──ジンがもう魔術を完成させていた。

 

ジンの指先から放たれた閃光がタクスの頭を────

 

                        ────貫くことはなかった。

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

「おいおい、俺はこっちだぜ?」

 

タクスはいつの間にか棚の近くにいた。

 

 

「な・・・ッ。クソッ!《ズドン》!《ズドン》!」

 

ジンは魔術を連発するが、タクスは瞬時に移動するためかすりもしない。

 

 

「どういうことだ!なんなんだよそのデタラメな速さは!?」

 

「えっ?知りたいの?しゃーねーな・・・・・・これは俺の固有魔術だ。お前の魔力容量(キャパシィ)、魔力の操作技術、身体能力・・・その他もろもろが優れていればいるほど、俺のあらゆる能力が向上する。それが俺の固有魔術───────【叛逆(はんぎゃく)(やいば)】」

 

「お、固有魔術だと!?テメェ、もうその域に至っているっていうのか!?」

 

 

その話を聞いて、システィーナは顔を驚愕の色に染めていた。

なにせ相手が強ければ強いほど自分も強くなるのだ。しかも自分の素の能力に上乗せである。

まさに下剋上を具現化したような固有魔術だった。

 

「そんじゃ、そろそろ始めようぜ」

 

「舐めやがって・・・・・・死ねクソガキ!《ズド──」

 

ジンがタクスに指先を向けた瞬間、タクスが爆発的に動いた。

そのままジンの懐に入り込み、鳩尾に掌底を打ち込む。

 

「ごはッ!?」

 

たまらずジンは肺の空気を全て吐き出す。

その隙を突いてタクスは背後にまわり、ジンの口に小さな赤い球体を入れて──

 

 

「ムグッ!?」

 

ジンの頭と顎を掴んで無理やりそれを噛ませた。

ジンはしばらく咀嚼していたが、カッと目を見開くと───

 

 

 

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!辛い辛い辛い!」

 

 

 

───悶絶し始めた。

 

 

「どう?俺特製の【極辛ボール】。因みにそれ食べたら二日は舌が麻痺してろくに喋れないよ?」

 

「く、くしょう!まだ辛しゃが残ってりゅ・・・」

 

 

若干ふざけている感じがするが、効果は抜群らしい。

その間にタクスはシスティーナを縛っている【マジック・ロープ】を解呪(ディスペル)した。

 

 

「よーし。そんじゃ次の実験だ」

 

タクスはポケットからヨーヨーを取り出し、ヒュンヒュンと音が出るほどの速さで回す。

そして頭上を一周する感覚でジンに繰り出した。

 

 

「うわっと!」

 

ジンは咄嗟にしゃがんで避けるが───後ろにあった棚は粉砕された。

 

 

 

「なッ!何で出来てんだそのヨーヨー!」

 

「んー?これ?これも俺特製のヨーヨー。重さは三十キロくらいあっから───」

 

 

 

タクスは瞬時に背後にまわり───

 

 

 

「────くらったら、効くぜ!!」

 

 

 

思い切りヨーヨーをジンに飛ばした。

放たれたヨーヨーはジンの左肘を正確に捉え、メキッという嫌な音と共に骨を粉砕した。

 

「ぎゃあああぁぁッ!?」

 

 

「どうした?まだ俺ノーダメなんだけど?」

 

ヨーヨーを回しながら腹立たしいどや顔を決めてジンを挑発している。

システィーナはこんなところはグレンに似ているなと思わざるを得なかった。

 

 

 

「テ、テメェ・・・・・・だがもう舌は治ったぜぇ?自己治癒力をあらかじめ強化していたからなぁ・・・」

 

 

「あっそ。逆に想定内でホッとしたよ」

 

「あん?どうゆうことだ?」

 

「今にわかるさ」

 

タクスは回していたヨーヨーを操って──

 

 

「そらよ!」

 

──ジンの顔の右側めがけてヨーヨーを飛ばした。

 

 

 

「うわっと!」

 

だがジンは右を向いてそれを紙一重でかわした。

 

 

「へッ!今度こそくらえ!《ズド───」

 

 

ジンはタクスに指を向けて【ライトニング・ピアス】を撃とうと詠唱するが────

 

 

 

 

ゴッ!!という衝撃が後頭部に走り、それは中断された。

 

 

「────ガ・・・ハッ・・・・・・」

 

 

たまらずジンは倒れ込んだ。

 

 

 

「あーゴメンゴメン。ヨーヨー2個(・・)あるって言うの忘れてたわ」

 

 

 

 

タクスの左手をみると、確かにヨーヨーの糸であろうものが結ばれている。

 

ヨーヨーをジンに向けて飛ばす際、タクスは左手でポケットからヨーヨーを素早く取り出し、そのまま左手を背中にまわしてヨーヨーをジンの死角めがけて飛ばしたのだ。

しかし、これはかなりの命中精度が要求されるため、ノラやグレンも成功した試しがない。

そんな荒技をタクスは見事一発でやってのけた。

 

 

 

 

「さーて、実験も上手くいったし、あとはアンタを気絶させれば───」

 

 

タクスがヨーヨーを持ちながら近づいた瞬間。

 

 

 

 

「誰がするか!《ズドン》!」

 

突然ジンが起き上がり、あろうことかシスティーナめがけて魔術を撃とうとした。

 

 

「え・・・?」

 

咄嗟のことで身動きがとれなかったシスティーナは思わず目を瞑った。

 

 

 

しかし、いつまで経っても衝撃はやってこない。

恐る恐る目を開けてみると─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~、危ねぇ危ねぇ。ま、遅れてくるのがヒーローのお約束だしな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを手に持って佇むグレンの姿があった。

 

 

 

「お、おい!なんだ!?魔術が起動しねぇぞ!?」

 

 

「そりゃそうだろ。俺が封じたんだからな」

 

そう言ってグレンは手に持っているものをひらひらと動かす。

 

「愚者の・・・・・・アルカナ・タロー?」

 

「これは俺特製の魔導器だ。俺はこのカードに書かれている魔術式を読み取ることで俺を中心とする一定範囲の魔術起動を完全封殺することが出来る。それが俺の固有魔術─────

 

 

 

                          ─────【愚者の世界】」

 

 

「固有魔術だと!?テメェもその域まで達してんのか!?」

 

 

「でもグレン兄、それ使ったらグレン兄も魔術使えなくなるじゃん」

 

「「は?」」

 

「おーい、それ言うなよタクス~」

 

「あ~、ゴメンゴメン!ちょっと口がすべっちまってな?」

 

 

そんな緊張感ゼロの会話にジンとシスティーナは目を点にする。

 

 

 

 

 

「んじゃタクス、頼むわ」

 

「りょーかい、っと!」

 

 

その一瞬の隙を突いて、タクスは手に持ったヨーヨーを二つともジンの頭に飛ばした。

 

 

 

「は・・・?・・・・・・ごぷぁ!?」

 

咄嗟のことに反応出来ず、もろにくらったジンはそのまま気を失った。

 

 

システィーナは鼻血を出しながら気絶しているジンに少しだけ同情した。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「これでよしっと」

 

「ふぅ~、完全無力化完了だ」

 

あの後、グレンとタクスは【愚者の世界】の効果が切れた後に【マジック・ロープ】でジンの手足を縛り、【スペル・シール】を付呪(エンチャント)して魔術を封じ、【スリープ・サウンド】を重ねがけした。

 

それから全裸にひん()いて、亀甲縛りに縛り上げ、全身に見るも無惨な落書きを書き込み、置いてあった花を尻と帽子に差し込み、最後に股関へ『不能(ふのう)』と書いた紙を貼った。

 

 

「全く、魔術師の捕虜はこれだから大変なんだ」

 

「いや、それでもそこまですることに何の意味があるんですか!」

 

「「ん~、特にない」」

 

二人の返答に思わずシスティーナは頭を抱える。

 

 

「そうだ白猫。今どうゆう状況なんだ?」

 

「あ、はい!えーっと・・・・・・」

 

 

システィーナはテロリストたちが急に入ってきたこと、ルミアが目的らしいということ、クラスの皆が教室で捕らわれていることを伝えた。

 

 

「うーん、まず教室は白犬が向かっているから大丈夫だな」

 

「ルミアのところにはノラが向かってる。まあテロリストには遭遇するだろうけど・・・」

 

 

するとグレンのポケットから甲高い共鳴音が響いた。

グレンはポケットから半割りの宝石を出して耳に当てた。

 

「てめぇ、セリカ!?一体何してたんだ!遅ぇぞ馬鹿!」

 

『すまんな。ちょうど講演中で着信を切っていたんだよ』

 

宝石からセリカの声が聞こえてくる。

 

 

「こっちはそれどころじゃねーんだぞ!」

 

『・・・何かあったのか?』

 

「ああ、学院がテロリスト共に襲撃された。結界は掌握され、生徒は人質。人質はセラが救出に向かっているけど、生徒が一人連れて行かれた。下手人は天の智恵研究会だ」

 

『あのロクでなし共が出っ張ってるとはな・・・』

 

 

「でもここまで鮮やかにセキュリティを掌握されたということは・・・学院内に裏切り者がいる」

 

『そこまで用意周到なら転送用魔法陣は破壊されているだろう。私も出来るだけ対応を急ぐ。一旦切るぞ・・・・・・死ぬなよ?』

 

「こんなとこで死んでたまるか」

 

 

グレンはそういうと宝石をポケットにしまった。

 

 

「先生・・・助けは来そうですか?」

 

「今の会話で来ると思うか?」

 

 

システィーナは肩を落として俯いたが、すぐに何か決心した顔になり、踵を返した。

 

「おいシスティーナ、どこ行くんだ?」

 

すぐにタクスがシスティーナの腕を掴んで止める。

 

「ルミアを助けに行くわ」

 

「よせ、お前が行っても無駄死にするだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも・・・私・・・悔しくて・・・・・・」

 

我慢できなかったのかシスティーナはポロポロと涙を零し始めた。

 

「先生の言うとおりだった!魔術なんてロクなものじゃなかった!魔術のせいでルミアが・・・ルミアが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣くなよシスティーナ」

 

「・・・・・・え?」

 

タクスはシスティーナの頭に手を乗せながら言った。

 

「それにルミアなら大丈夫だ。だってノラがいるんだからな!」

 

自信ありげに言うタクスにシスティーナが首を傾げていると、グレンもどこか納得するような顔になった。

 

 

「あ~、確かにアイツなら大丈夫だろうな。むしろ不安要素が見当たらない」

 

「そ、そんなにすごいの?ノラって」

 

「まあ、アイツが負けたとこ見たことないし───」

 

 

タクスが喋っている途中、突然魔法陣が展開され、中から剣や盾で武装した骸骨が無数に出てきた。

 

 

「先生、これは・・・・・・」

 

「ちぃ!竜の牙で錬成されたボーン・ゴーレムじゃねーか!?随分と大盤振る舞いだなぁ!?おい!」

 

 

召喚【コール・ファミリア】で遠隔連続召喚(リモート・シリアル・サモン)された竜の牙製のゴーレム。これをやってのけている魔術師は問答無用で超一流であろう。

しかも竜の牙製なので、三属性耐性や身体能力が高い。

 

 

 

「てかなんだこのふざけた数の多重起動(マルチ・タクス)は!?人間業じゃねーぞ!?」

 

 

「んなこと言ってる場合じゃねーぞグレン兄!さっさと脱出してセラ姉と合流すんぞ!」

 

タクスはヨーヨーを取り出して前列のゴーレム達にめがけて飛ばす。

頭部を正確に狙った一撃はたちまちゴーレム達を粉砕した。

 

「《その剣に光あれ》!」

 

咄嗟にシスティーナがグレンに向けて黒魔【ウェポン・エンチャント】を唱えた。

 

「ナイスだ白猫!」

 

グレンは目の前のゴーレムに拳を浴びせる。

三発ほどで頭部を砕いた。

 

 

「《大いなる風よ》!」

 

続いてシスティーナが黒魔【ゲイル・ブロウ】で扉を塞いでいたゴーレム達を扉ごと吹き飛ばす。

 

「今だ!走れ!!」

 

すぐさま三人は実験室から走り出す。

休まずに廊下を走りつづける。

途中、何か柔らかいものを切るような音が聞こえたが、三人は速度を緩めず振り切るように走った。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「確かこっちが近道だ!急ぐぞ!」

 

ゴーレムをヨーヨーで粉砕しながらタクスが叫ぶ。

グレンも拳で次々にゴーレムを倒していく。

そうして走りつづけること数分。三人は教室にたどり着いた。

 

「おーい!白犬!開けてくれー!」

 

グレンが叫ぶとセラが出てきた。

 

「グレン君、大丈夫!?タクス君にシスティーナちゃんも!」

 

「なんとか三人共無事だ。今ノラがルミアのところに向かってる」

 

グレンがそう答えるとセラはホッと胸をなで下ろす。

 

「一応扉をバリケードにでもしておこう。まだ外道魔術師がいるかもしれないしな」

 

「うん、わかった。生徒達は皆無事だよ。拘束されていただけみたい」

 

「そうか、良かった」

 

 

グレンとセラの会話を聞いていたシスティーナはタクスにそっと話し掛ける。

 

「先生達ってなんかこういうことに手慣れてる感じだけど・・・何か知らない?」

 

「まあ・・・時が来たら話してくれるよ。それまで待ってくれ」

 

タクスの声はどこか哀愁が漂っていた。





正解はキルアのヨーヨーでした!
えっ?重さが違う?そこは五十キロなくても十分かなと思って変えました。

次回はノラとレイクが戦います。

【イクスティンクション・レイ】はノラとレイクを戦わせるために撃たせませんでした。
システィーナの【ストーム・ウォール】も同様な理由です。


ではまた。


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襲撃 後編

どうも、影龍 零です。

今回はノラパートですね、因みにノラも誰かが使っている武器を使います。

ハンターハンターまた休載・・・頼むから作者仕事してくれぇ!!
まだ大陸に上陸すらしてないのに・・・
早く再開してくれることを祈ります。


ではどうぞ。


グレン達が教室に到着する少し前。

ノラはルミアを救出するべく全速力で走って────

 

 

「・・・あーあ。なんでこんなにボーン・ゴーレムがいんだよ・・・ったく」

 

 

────おらず、絶賛歩いてボーン・ゴーレムを相手にしていた。

 

 

 

「【練】」

 

これは自身のオーラを高める業。

これを殺気として用いることもある。

 

 

「・・・ふっ!」

 

そのままノラはオーラを拳6割、体4割の割合で振り分け、ゴーレムに攻撃する。

右ストレート2閃、回し蹴り一発で三体を破壊。

続いて切りかかってきたゴーレムをいなしてそのまま背負い投げの感覚で地面に叩きつける。

後ろから迫ってきたゴーレムの頭部を裏拳で壊し、振り向きざまに蹴りを放つ。

 

5分と掛からずにゴーレム達を殲滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんか手応えがないな~・・・・・」

 

ノラが身体を軽くほぐしていると、念のため使っていた【円】に反応があった。

振り返ってみると、ルミアを連れて行ったダークコートの男がこちらに向かって歩いてきていた。

男の周りには剣が五本浮遊している。

 

 

普通の魔術師なら最大まで警戒するだろう。

だがノラは警戒もせず、むしろ楽しそうに口角を上げていた。

 

 

「・・・なに?今度はあんたが相手してくれるの?」

 

 

「ふむ・・・まさか学生がこうもボーン・ゴーレムを圧倒するとはな。これは誤算だった」

 

 

 

(・・・浮いてる剣は恐らく手練れの剣士の業を記憶しているんだろう・・・そして自動で動くはず)

 

ますます口角を上げるノラを男は表情を変えずに見る。

 

「・・・これからやるんだし、名前でも名乗ってくれよ」

 

「ほう・・・では冥土の手向けに教えてやる。俺はレイク=フォーエンハイム」

 

「・・・俺はノラ=ルイカス。・・・じゃあ、とっとと始めようぜ?」

 

「言われなくても!」

 

レイクが指を鳴らすと、五本の剣がノラめがけて殺到した。

 

 

だが、ノラはその場から動こうとせず、トランプを一枚取り出した。

 

 

「無駄だ。どんな魔導器かは知らんが、そんなものでは──」

 

 

「・・・剣は止められないってか?」

 

 

ノラはトランプを構えると、凄まじい速さで剣を叩き落とした。

右上、左下、背後、正面、その全ての方向からの攻撃を寸分違わず正確にトランプで迎撃する。

 

「何・・・ッ!?」

 

レイクはその光景にただ絶句するしかない。

一方ノラは満足そうにトランプを見ていた。

 

「なんだ、そのトランプは?」

 

 

「・・・これはお前の言うとおり魔導器だ。ちょっとした工夫を加えてそこらへんの金属よりは硬くなってるよ」

 

 

レイクはそれを聞いても未だにあの光景が信じられなかった。

レイクの周りに浮いていた剣は付呪(エンチャント)によって魔術は効かず、並大抵の金属では防ぐことも出来ないものになっている。

ましてや叩き落とすことなど不可能だった。

 

 

「・・・わからないって顔か。教えてやるよ。これは俺の固有魔術。俺はあらゆる力を自在に操れるんだよ。重力、身体能力、耐久力、さらには生命力(・・・)でさえも。それが俺の固有魔術───

 

                         ───【力の支配】」

 

 

聞けばとてもシンプルな固有魔術だが、それ故に恐るべき固有魔術だ。

あらゆる力を操作できる。つまり、相手が何をしようとも全くノラにとって脅威にならないことを示している。

 

 

「貴様・・・それで本当に学生か?」

 

 

「・・・さぁね?あんたのご想像にお任せするよ」

 

そしてトランプを三枚投げつける。

レイクはすぐさま剣を引き戻してクロスさせ、防御の体勢をとる。

 

今度はトランプをはじくことに成功したが、ノラは相変わらず飄々と構えている。

 

 

「では、《吠えよ炎獅子》」

 

レイクは黒魔【ブレイズ・バースト】を放つ。

炎で形作られた獅子がノラを飲み込む。

しかし、ノラに大したダメージは見受けられない。

 

あの一瞬でノラは威力と火力を本来の十分の一まで抑えたのだ。

だが、そのままレイクが終わる訳もない。

ノラめがけて再び剣を放つ。

 

炎から出てきたノラに剣が迫る。

 

ノラは動揺もせずに一言放つ。

 

 

 

「【堅】」

 

 

これはオーラによる防御力を向上させる業。

全身を包む為、綻びが無いことも利点である。

 

そしておもむろに右手を突き出し、剣を掴んだ。

 

「ちっ・・・これでも決め手にならんか」

 

「・・・これはこれは、かなり強い付呪(エンチャント)がされているな・・・でも剣が弱い。これじゃあ俺は突破出来ないぞ?」

 

 

あくまで楽しそうに喋るノラにレイクは少しばかり戦慄した。

普通魔術師同士の戦いは、喜怒哀楽を押し殺し、冷静に自分や相手、状況を分析するものだ。

 

ノラはそんなことを微塵も考えず、娯楽の一種と言わんばかりに楽しそうにしている。

戦闘狂のように聞こえるが違う。

戦いでは無く、他のことを楽しんでいるように見えて仕方ないのだ。

 

 

「・・・つーかあんたの剣、二本くらい手動なんじゃない?」

 

図星だった。

レイクが操る剣の内、三本は自動で動くが、残り二本はレイクが操作していた。

それを少しの戦闘で見抜いたのだ。

全く恐ろしい奴である。

 

 

「だが、それが分かったとして何になる?」

 

「・・・?あんたを倒すには十分過ぎる情報だが?」

 

そう言うとノラはトランプを取り出し、ばらまくようにレイクへ飛ばした。

レイクも負けじと瞬時に剣を操作し、トランプをはじいていく。

 

しかし、十枚ほどはじいたところで変化が訪れる。

 

剣にひびが入り始めた。

 

「何・・・ッ」

 

しかし、トランプはまだまだある。

はじくごとに亀裂が入る。

レイクははじく内にノラの狙いを見抜いた。

 

 

 

一枚一枚がとても硬いのではない。

だんだんとトランプが硬くなっていたのだ。

 

(物量でその変化をごまかしたのか・・・・・・ならば!)

 

「《吠えよ炎獅子》」

 

 

レイクは黒魔【ブレイズ・バースト】でトランプを焼き払い、そのまま剣を飛ばす。

炎とトランプで視界が遮られているが、流石に剣を止める為のトランプや魔術は無いと踏んだレイクの戦略。

 

 

 

 

 

 

 

 

それらが全て、ノラの思惑通りだと知らずに。

 

 

 

ノラはレイクが【ブレイズ・バースト】を使った瞬間、【陰】を発動。

これは【絶】の応用業でオーラを限りなく見にくくさせる業。

 

トランプが炎獅子に飲まれる直前に【力の支配】で身体能力と瞬発力を強化、その後タクスと独学で覚えた暗殺術の一つ【暗歩】でレイクの背後に音も無く忍び寄る。

そして【力の支配】で強化した手刀をレイクの心臓めがけて突き刺した。

 

 

 

その結果──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ────────レイクはなす術もなく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・聞いたことがある」

 

 

「・・・・・・ん?」

 

どこか納得した声で喋るレイクにノラは首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝国宮廷魔導士団に凄腕の二人組がいると。どんな術かは知らんが、一人はどんな魔術を使っても倒れず、もう一人はどんな魔術もことごとく避けてしまう」

 

 

ノラは黙って聞いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるときは数で囲んだが意味を成さず全員が殺され、あるときは暗殺しようとしたが失敗し殺され、またあるときは人質を取ったが瞬く間に解放されて外道魔術師達は殺された。確かコードネームは《皇帝》と《塔》。ペアネームは・・・・・・《叛逆者》」

 

 

 

 

 

 

「・・・これ以上喋るな」

 

 

ザシュッ!

 

ノラはレイクの首をトランプで切り裂いた。

レイクはその場に倒れ、それっきり動かなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・さてと・・・後はルミアの救出だったか?じゃあ急ぐとしますかね・・・」

 

ノラは【力の支配】で筋力と持久力、走力を強化。

そして【円】を維持しつつ、走り出した。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ここは転送塔に続いている並木道。

そこには石を積み上げたようなガーディアン・ゴーレムが無数に徘徊し、白亜の塔に近づけさせまいとしていた。

 

そう、数分前は(・・・・)

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

それはノラは並木道に辿り着いたとき。

ノラの眼前にはガーディアン・ゴーレムが無数に徘徊していた。

 

 

「・・・はぁ・・・面倒な事は嫌なんだよねぇ~。しゃーない、ちょっと改変するか・・・」

 

 

ノラはおもむろに右手を突き出し、ゆっくりと呪文を唱え始める。

 

 

 

「《炎獅子は(いかづち)を纏い・風と共に嵐となりて駆け抜ける・狩る者を狩り・堅き者を砕き・己が爪痕を刻め》」

 

 

紅蓮の獅子に霆が迸り、周りを風が渦巻いている。

ノラは黒魔【ブレイズ・バースト】、【ライトニング・ピアス】、【ゲイル・ブロウ】を混ぜ合わせ、改変させたのだ。

 

 

名付けるなら黒魔改【テンペスト・エレメンタル】

 

そして【力の支配】で威力を底上げする。

 

 

 

「・・・そら行け!!」

 

 

ノラが言った瞬間、獅子はゴーレム達めがけて飛びかかる。

瞬く間に獅子はゴーレム達を飲み込み、一体残らず灰燼にした。

 

 

「・・・よし・・・じゃあ最後の仕上げと行くか」

 

ノラはそのまま白亜の塔を駆け上った。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ノラは階段を凄まじい速さで駆け上がる。

よそ者が見たら強風が吹いているのではと思うレベルだ。

 

その速度もあってか、僅かな時間で最上階────転送法陣のある部屋にたどり着いた。

 

 

 

「・・・・・・ふっ!!」

 

 

跳躍して扉を蹴破り、そのまま突入する。

 

 

 

「・・・さてと・・・任務(ミッション)もこれで終わりにするぞ?」

 

「・・・・・・その声は、ノラ君!?」

 

 

見ると起動済みの転送法陣の上にルミアがうずくまっている。

その様子から魔術は封じられているらしい。

 

 

 

「・・・よう、ルミア。数十分ぶりくらい?」

 

 

軽くルミアにそう返し、もう一人の人物に語りかける。

 

 

 

 

「・・・単刀直入に聞くが・・・あんたが黒幕か?────ヒューイ=ルイセン先生?」

 

 

「ほう、私の名前を知っているとは・・・君は編入生ではなかったかい?」

 

 

 

そう冷静に返すヒューイの足元にも法陣が展開されている。

しかし、ルミアのような転送法陣ではなく、なぜかルミアの法陣と連結している。

ヒューイの法陣の術式を読み取ったノラは呆れた顔をする。

 

 

 

 

「・・・白魔儀【サクリファイス】、換魂(かんこん)の儀式ねぇ・・・・・・」

 

「はい」

 

ヒューイは穏やかに微笑んだ。

 

「・・・お前も相当狂ってるな。どーせこの学院を爆破しようとでもしてんだろ?

 

 

 

                ───────自分を爆弾にして」

 

 

それを聞いたルミアは信じられないと言った顔になる。

 

 

「お願いですヒューイ先生!もうこんなことはやめてください!」

 

「・・・無駄だルミア。こいつは変なとこで覚悟を決めてやがる」

 

 

 

「お察しの通り・・・ですがノラ君、もう二分ほどでルミアさんは転送され、同時に僕を中心に大爆発が起こります。逃げるなら今のうちですが・・・」

 

ヒューイがノラに語りかけた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・逃げる?俺が?」

 

ノラは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

一瞬、ルミアもヒューイも怯んだ。

 

 

ノラは構わず続ける。

 

 

 

「・・・こんな法陣、三十秒あれば十分だ。これ解いたら一発殴ってやるから覚悟しとけよ?」

 

 

「・・・わかりました。覚悟しておきます」

 

 

それを聞いたノラはルミアの下へと歩み寄った。

 

 

 

 

「ノ、ノラ君!あなただけでもいいから逃げて!私は大丈夫だから!」

 

ルミアが泣きながら訴えてくるが、ノラは一切耳を貸そうとしない。

 

 

「・・・大丈夫なわけないだろう?そんな泣き顔で言われても説得力無い」

 

「で、でも・・・」

 

 

まだ何かを言おうとするルミアを見て、ノラは溜め息をこぼす。

 

 

「・・・ハイハイ、すぐ終わるから安心しろ。それともあれか?もう学院には飽きたのか?」

 

 

「え・・・・・・」

 

「・・・そんじゃ仕方ないな。だってもう皆といる時間に飽き「そんなことない!!」・・・ん?」

 

 

ふとルミアを見ると、ルミアは涙を流しながら怒っている。

 

 

「私だってもっと皆といたいよ!連れて行かれたくないよ!だから!」

 

 

 

「・・・だから?」

 

 

 

 

「助けて・・・!」

 

 

「・・・了解した」

 

 

ルミアの答えに満足したのか、ノラは笑みを浮かべ、法陣に向き直る。

そしてしゃがみ込んで親指を器用に使い、人差し指に傷を付ける。

 

「《原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ》」

 

黒魔【ブラッド・キャタライズ】を唱え、自身の血を簡単な魔力触媒とする。

そして法陣に直接血文字を書き込んでいく。

 

 

「《終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし》・・・」

 

書き終わったと同時に、黒魔儀【イレイズ】───解呪の呪文を唱える。

すると、金属音と共に法陣の全ての層(・・・・)が砕け散った。

 

 

「え・・・な、なんで・・・・・・?」

 

ルミアはわからないと言った様子だ。

 

 

普通、【イレイズ】で解呪できるのは一回につき一つ。

しかし、ノラはたった一回で全ての層を解呪してしまった。

 

 

ヒューイも疑問に思ったのか、ノラに話しかける。

 

 

「・・・どうやったんですか?」

 

 

「・・・俺の固有魔術【力の支配】、これで俺はあらゆる力を操作できる。それを使って法陣の維持力と抵抗力を下げ、【イレイズ】の効力を五倍ぐらいに引き上げたんだ」

 

 

ヒューイもルミアも唖然とする。

魔術の常識を覆せる、規格外の固有魔術。

最早ただの学生ではないことは明白だった。

 

 

「なるほど、僕の完敗ですね・・・・・・ですが、最後に一つだけよろしいでしょうか?」

 

 

「・・・なんだ」

 

「僕はどうすれば良かったんでしょうか?組織の言いなりになって死ぬべきだったのか・・・・・それとも組織に逆らって死ぬべきだったのか。こうなった今でも僕にはわからないんです」

 

 

「・・・んなこと知るか。そもそもの話、お前が組織に流されてる時点でダメだったんだよ」

 

「・・・確かにそうですね。自分で道を選ばなかった自分が少しばかり恨めしい」

 

 

「・・・そうかい。じゃ、歯ぁ食いしばれよ」

 

そしてノラはヒューイの頬を思いっきり殴った。

その威力でヒューイは吹き飛ばされ、床を派手に転がって動かなくなった。

 

 

 

「・・・ふぅ、疲れた。今日は早く帰りたい、こっから授業とかはマジで嫌だぞ・・・」

 

 

どこまでも自分のペースを崩さないノラを見て、ルミアはたまらず笑みをこぼす。

 

「・・・ん?どうしたルミア?」

 

「ううん、気にしないで」

 

「・・・あ、そう?じゃあさっさと帰るぞ。早くしないと何言われるかわかったもんじゃない」

 

 

そう言ってノラはさっさと来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「ノラ君、あなたは本当は優しいんだよね?」

 

 

ルミアは一人歩きながら呟く。

 

 

「私が諦めそうな時に言った言葉。それって諦めるなって意味だよね?」

 

 

どこか嬉しそうなその口調。

 

 

「あなたは素っ気なく言ったのかもしれない。でも、私は嬉しかった。ここにいたいよって、言いたいことが言えたことに、あなたにその勇気を貰えたことに」

 

 

どこか懐かしそうに言う言葉。

 

 

「今はまだ無理かもしれないけど・・・・・・いつかちゃんと、お礼が言いたい。だから、私も頑張るね?」

 

 

 

誰の耳にも届かない、しかし確かな少女の思い。

ルミアはその思いを心にしまい、皆が待っているであろう教室へと向かった。

 

その足は、どこか軽やかだった。




ノラが使っていたのはヒソカのトランプでした!

次回はエピローグみたいなものですね。


SAO三期10月放送だ!ヤッター!ヾ(o´∀`o)ノ
ユージオとアリスの動く姿を見れるとは感無量!

特にユージオは最高のキャラだと思います!
・・・今のうちにタオルでも準備しておこう。

ではまた。


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事件後

どうも。影龍 零です。

今回はかなり短めです。
なにせエピローグみたいなものなので。


ではどうぞ。


アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。

 

二人の非常勤講師と二人の生徒の活躍によって最悪の結末を回避したこの事件は、敵組織のこともあり、社会的不安が考慮され内密に処理された。

徹底した情報統制の結果、事件の本当の顛末を知る者はごく一部の講師・教授陣と当事者である生徒のみとなった。

 

だが、出所不明な噂が囁かれたことも事実。

 

かつて女王陛下の懐刀として暗躍していた伝説の魔術師殺しと、その相棒の風使いや、かつて存在を抹消された廃棄王女、今もなお暗躍する凄腕魔術師の二人組が関わっている・・・・・・といったもの。

 

 

しかし人は飽きる生き物、1ヶ月もすればそんな噂は誰も話さなくなった。

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

1ヶ月経ったある日の午後。

 

 

 

 

「しっかし、まあ、ルミアが三年前病死したはずの、エルミアナ王女とはね・・・・・・」

 

「しかも異能者という筋書き持ち」

 

「・・・そりゃ王家も追放せざるを得ない訳だな」

 

「でも可哀想だよね・・・実の母親に捨てられるなんて・・・・・・」

 

 

上からグレン、タクス、ノラ、セラの順で事件を振り返っていた。

 

事件後、グレン、セラ、ノラ、タクス、システィーナの五人は、事件解決の功労者として帝国政府の上層部からルミアの素性を聞かされた。

 

異能者だったルミアが様々な政治的理由によって、帝国王室から放逐されたということ。

帝国の未来のため、ルミアの素性を隠し通さなければならないということ。

そして、グレン、セラ、ノラ、タクス、システィーナの五人は、事情を知る者としてルミアの秘密を守るために協力することを要請された。

 

 

「全く、まーた面倒な事を押し付けられたもんだ」

 

「でもシスティーナちゃんもルミアちゃんに対する態度は変わってないよ?」

 

「まあ、それが親友ってやつなんじゃねーの?」

 

「・・・それに全部前のように戻ったしな」

 

グレン、セラ、タクス、ノラの順でそんな会話をしていた、その時。

 

 

「しかし、意外だな」

 

不意に背後から声がかかる。

四人が振り返るとどこか上機嫌なセリカがいた。

 

 

「セラはともかく、お前が本当に講師になるなんて言い出すなんてな。一体どうゆう風の吹き回しだ?」

 

 

 

グレンは少し照れくさそうに頬をかく。

 

 

「あ~、その、なんだ。もう自分の人生の失敗を魔術のせいにするのはやめたんだよ。もう少し前向きに生きていくのもいいだろってさ」

 

「・・・・・・ふうん?」

 

「それに・・・・・・」

 

グレンが何か言いかけたその時。

 

 

「あっ!先生!」

 

「・・・・・・先生ってば!」

 

 

見慣れた女子生徒二人がこちらに走ってくるのが見えた。

 

 

「・・・・・・見てみたくなったんだよ。あいつらが将来、何をやってくれるのか。講師続けるには充分な理由さ。暇つぶしにはちょうど良いだろ?」

 

それを聞いてセリカは子供を見守る母親のような微笑を浮かべた。

 

セラはそんなグレンを見て目尻に涙を浮かべていたが、それを知っているのは近くにいたノラとタクスだけ。

 

 

「・・・そうか。頑張れよ?」

 

「・・・まあ、それなりにな?」

 

互いに笑みを交わしあう。

 

 

「先生!先ほどの錬金術の授業、あれはなんなんですか!?」

 

「そうだよグレン君!一体何考えてるの!?」

 

 

「えーと?下級元素配列変換法を利用した『金にとてもよく似た別の何かを錬成する方法』か?何か手順に不備でもあったか?」

 

「グレン兄、『錬成したその金モドキをアホな悪徳商人を騙くらかして売りつける方法』のことじゃないか?」

 

「あー、あれか?別にあの手順も間違ってねぇぞ?実際、俺とノラはそれで小遣い稼ぎを────」

 

「・・・うんうん、あれ結構良い小遣い稼ぎになるんだぜ?」

 

「間 違 っ て ま す !大問題ですよ!だってそれ、犯罪じゃないですか!?」

 

「馬鹿め。道端の石ころが金に変わる・・・そして一枚の金貨に変わった。これこそ『錬金術』の神髄だろ?」

 

「屁理屈並べても犯罪は犯罪だからね!ていうかノラ君もやっちゃ駄目だよ!?」

 

「・・・えー。だって結構儲かるんだよ?こんな良い小遣い稼ぎ他にないだろ?」

 

「お金はちゃんと働いて稼いで!」

 

そこにルミアが割って入ってくる。

 

「まぁまぁ、システィにセラ先生。きっとグレン先生は皆を楽しませるためにあんな冗談を言ったんだよ・・・・・・そうでしょ?先生」

 

そこにタクスも割って入ってくる。

 

「グレン兄、後で俺にも教えてくんない?」

 

「ちょっとタクス!どさくさに紛れてなに言ってるの!?」

 

「何って小遣い稼ぎの方法を───」

 

「「だからそれ犯罪だって言ってるでしょう!?」」

 

「おいおい白猫に白犬。こんな言葉知らないのか?」

 

 

 

「「「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!」」」

 

 

 

ぷちん。

三人の言い草にシスティーナとセラがキレた。

 

 

「話が変わりますけど先生。私の父って魔導省の官僚なんです。ここフェジテ支部で魔術関連品の流通を取り仕切る魔導監察官をやっています」

 

「は?何だ突然?」

 

「ところで、金取引に関する書類って十年くらい残るんですけど、知ってました?」

 

「・・・・・・え?そうなの?」

 

「ちょっと、お父様に、この町で起こった、とある条件に引っかかる金取引をここ十年分くらい徹底的に調べ直すように進言しておきますね?」

 

 

朗らかに笑うシスティーナを前にグレンは脂汗を浮かべる。

 

 

「え?いや、あの・・・・その・・・ちょ・・・・・ごめんなさい、許してください・・・」

 

「あ、ノラ君とタクス君?ど こ に 行 く の か な ?」

 

「・・・いやぁ別に、ちょっと用事を・・・・・・」

 

「そうそう!早く行かないと・・・・・・」

 

「後でセリカさんにこってり絞られてね?」

 

 

「逃げるぞノラ!タクス!」

 

「「応!」」

 

 

そう言って三人は猛スピードで走り去って行く。

 

 

「あ、こらー!待ちなさーい!!」

 

「三人共ちゃんと反省しなさい!!」

 

システィーナとセラがその後を追っていく。

 

 

 

 

ルミアとセリカはそんな学院の定番になった光景を、笑みを浮かべながら眺めていた。





次回からやっと二巻目突入・・・長かった。
これ書いてるときSAOとオーバーロード、ロクアカの曲をガンガンに聞いてましたね(笑)

アニソンはよく聞きますが、どれもいい曲なのでついつい聴き入っちゃいます。


ではまた。


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魔術競技祭編
魔術競技祭 競技決め


どうも、影龍 零です。

最近バンドリにハマったはいいものの、EXPERTが全くクリアできません。
泣きたい。

そろそろデート・ア・ライブも投稿しないと不味いなぁ・・・
読み切ってないラノベもあるし、徐々に消化しないと。


ではどうぞ。


放課後のアルザーノ帝国魔術学院。

その中の一クラスは今、びっくりするほど盛り下がっていた。

 

「『飛行競争』に出たい方いませんかー?」

 

壇上のシスティーナが皆に呼びかけるが、誰も応じない。

 

 

「・・・じゃあ『変身』の競技に出たい人ー?」

 

しかし誰も応じない。

クラスメイト達のほとんどが俯いたまま顔を上げようとしない。

 

 

「困ったなぁ・・・来週は魔術競技祭なのに全く決まらない・・・・・・」

 

そう言いながら頭をかくシスティーナを見て、ルミアは穏やかながらに良く通る声で皆に語りかける。

 

 

「ねぇ、皆。せっかくグレン先生が今回の競技祭は『お前たちの好きにしろ』って言ってくれたんだし、思い切って頑張ってみない?」

 

それでも皆返事をしない、それどころかほとんどの人は目を合わせようとしない。

 

 

「・・・無駄だよ二人共」

 

そう言って席を立った眼鏡の少年はギイブル。

このクラスでシスティーナに次ぐ優等生だ。

 

 

「皆気後れしてるんだよ。他のクラスは例年通り、クラスの成績上位陣が出場するに決まってるんだ。最初から負けるのがわかっている戦いは誰だってしたくない・・・・・・そうだろ?」

 

「・・・・・・でも、せっかくの機会なんだし」

 

「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭にはあの女王陛下が賓客として御尊来になるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないのさ」

 

 

ギイブルは嫌みな物言いながらも、クラスの心情を突いていた。

 

「それよりもシスティーナ。そろそろ真面目に決めないかい?」

 

 

「・・・・・・私は今も真面目に決めてるんだけど」

 

「ははっ、冗談上手いね。足手まとい達にお情けで出番を与えようとしているのに?」

 

 

 

 

さらにギイブルは持論を展開していく。

競技祭に出場する資格の有無。

競技祭の種目を成績上位者でさっさと埋めたほうがいい。

競技祭は絶好のアピールの場所であり、成績上位者にこそ、機会が多く与えられるべきだ。

楽しさよりも勝つことを重視したほうがいい。

そして、それがクラスの為でもある、と。

 

 

「ギイブル・・・・・・あなた、いい加減に────」

 

 

とうとう我慢出来なくなったシスティーナが怒声をあげようとしたとき。

ドタタタタ──と廊下を走る音が迫ってくると思えば・・・・・・次の瞬間、ばぁん!と派手に扉が開かれた。

 

 

「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様になぁーーーーッ!!」

 

クラスの皆が目を向けると、人差し指を前に突き出し、不自然なほど胸をそらして、全身を捻り、流し目で見得を切るという謎めいたポーズをしたグレンがいた。

 

 

「・・・・・・ややこしいのが来た」

 

呆然とするクラスメイトの中でシスティーナは頭を抱えた。

 

 

「喧嘩は止めるんだ、お前達。争いは何も生まない。それに─────」

 

きらきら輝くような爽やかな笑みを浮かべて続ける。

 

 

「俺達は優勝という目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

 

「グレン兄、キモいぞ」

 

クラス全員を代表するようにノラが言った。

 

 

「おいノラ、キモいとはなんだキモいとは」

 

「いや、余りにも合ってなくて」

 

「・・・・・・サラッと酷くね?」

 

 

すると、開かれた扉からセラが入ってきた。

彼女は事件後、グレンと一緒に正式な講師になり、グレンのクラスの副担任として勤めることになったのだ。

 

「もう!グレン君いきなり飛び出すからびっくりしたよ・・・」

 

「なんかあったの?」

 

近くにいたタクスがセラに聞くと、セラはノラとタクスに事情を説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

それは十数分前の学院長室に遡る。

 

 

 

「───と、いうわけで。給料の前借り、もしくはお小遣いをプリーズ」

 

 

「《ふざけんな・この・馬鹿野郎》ーーーー!!」

 

突如、紅炎の渦と衝撃が走り、爆砕音が響く。

セリカの爆裂呪文がグレンを容赦なく襲ったのだ。

 

 

「ごほっ!?がほごほげほっ!?なにすんだよテメェ!?」

 

「やかましい!重大な相談だと聞いて来てみればそんなことか!?」

 

 

「お、落ち着いてくださいセリカさん!グレン君も!」

 

取っ組み合いを始めたセリカとグレンをセラが慌てて止めに入る。

 

「あー、つまりグレン君は生活費・・・主に食費としてのお金が必要なのかな?」

 

「さっすが学院長!話がわかる!とにかく俺、今月結構ヤバイんっすよ!このままいくと明日から半強制的な減量(ダイエット)をする羽目に・・・・・」

 

 

「しかし、昨日給料日だった筈じゃろ?一体何にそんな使ったのかな?」

 

 

その問いに、グレンは憂いを湛えた表情で窓際に歩み寄り、外の景色を眺め始めた。

 

「何に使ったかですか──────それはもちろん、未来に投資したんですよ」

 

「未来に投資?」

 

「ええ、明日という無限の可能性のため、そしてより多くの希望を掴むために────」

 

 

そんな風に語るグレンを見て、セリカがボソリと呟く。

 

 

「要するにギャンブルでスッたのか。本当に救えないなお前」

 

「やめてよね、せっかく人が格好良くキメてるのに水を差すの」

 

 

身も蓋もないセリカの物言いに、グレンは口を尖らせて抗議する。

 

 

「だからギャンブルは駄目だってあれほど言ったのに。グレン君買い物するとか言ってすぐ居なくなるんだもん。帰ったら帰ってきたでこの世の終わりみたいな顔してたし・・・」

 

セラは頭を抱えながら話す。

なんかもう、ダメ人間の見本と言ってもいいぐらいだった。

 

 

「──というわけで、助けてくださいお二方」

 

「しかしなぁ・・・規則は規則なわけで、給料の先払いはできんのだよ」

 

望みを絶たれたグレンは両手で頭を抱え、溜め息をこぼす。

そんな様子を苦笑いしながら見ていた学院長は、一つの提案をする。

 

「給料の先払いはできんが、特別賞与ならだせる可能性があるぞ。グレン君」

 

 

「特別賞与ですと!?」

 

 

一瞬で学院長の前に馳せ参じ、グレンはその話に食いついた。

 

 

「それは一体、何なんですか!?」

 

「来週、学院で開催される『魔術競技祭』じゃよ」

 

「ま、『魔術競技祭』・・・・・・それは一体・・・?」

 

 

「うむ。アルザーノ帝国魔術学院で年に三回行われる、生徒同士の魔術の競い合いじゃ。総合的に最も優秀な成績を収めたクラスの講師には、恒例として特別賞与が出ることになっている。グレン君のクラスが勝った場合、グレン君だけでなく、セラ君にも特別賞与は与えられるぞ」

 

 

「まじっすか!?そんな素晴らしいイベントがあったなんて・・・くっ!もっと早く教えてくれれば!」

 

 

一人盛り上がるグレンをセリカは冷ややかな呆れ顔で、セラは苦笑しながら見ている。

 

「ええい!こうしちゃいられん!あいつらが残っていればいいが────さらば!!」

 

 

 

そのままグレンは踵を返し、慌ただしく学院長室を出て行った。

 

 

「あっ!グレン君、どこ行くの!?もう・・・・・・セリカさん、学院長、それでは!」

 

 

セラはグレンを追うように学院長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「────というわけなんだよ」

 

 

「あー、つまり・・・」

 

 

「・・・金に困ってるから生徒利用して特別賞与ゲットしたいってこと?」

 

 

セラの説明を聞き終えたノラとタクスは、グレンのろくでなしっぷりに呆れていた。

 

 

そんな三人をよそに、グレンは次々に種目に出る生徒を決めている。

 

 

「まず、一番配点の高い『決闘戦』──これには、白猫、ギイブル、そして・・・カッシュだ」

 

 

クラスの誰もが(三人を除いて)首を傾げる。

普通、『決闘戦』は成績上位者で固める筈だ。

このクラスなら、上から順にシスティーナ、ギイブル、ウェンディとなる。

しかし、グレンはウェンディよりも成績を下回るカッシュを指名した。

教室を困惑が支配するが、それを無視してグレンは続ける。

 

 

 

「次・・・『暗号早解き』。これはウェンディ一択だな。『飛行競争』・・・ロッドとカイが適任だろ。『精神防御』は・・・こりゃルミア以外あり得んわ。それから『探知&開錠競争』は───『グランツィア』は───」

 

 

指名されていくうちに、生徒達はグレンが四十ニ人全員を、何らかの競技に出場させるつもりだと気付いた。

だが、勝ちにいくなら成績上位者を使い回したほうがいい。

未だに困惑は拭われていなかった。

 

 

 

「『変身』はリンに頼むとして・・・・・・『タッグロワイヤル』・・・これはノラとタクスだな。よし、これで全部埋まったな。何か質問は?」

 

 

結果、生徒の中であぶれた者は誰一人としていなかった。

 

 

(わたくし)は納得いきませんわ!どうして私が『決闘戦』から外れていますの!?」

 

いかにもお嬢様然としたツインテールの少女、ウェンディが荒々しく抗議する。

 

 

「あー、確かにお前は成績は優秀だが・・・ちょっとどん臭ぇトコあるからなー。たまに呪文噛むし」

 

 

「なッ───!?」

 

「その代わり『暗号早解き』、これはお前の独壇場だろ?お前の【リード・ランゲージ】は文句無しのピカイチだからな。ぜひ点数を稼いでくれ」

 

 

「ま、まぁ・・・それでしたら・・・・・・言い方がちょっと癪ですけど・・・・・・」

 

文句も反論もできず、すごすごとウェンディは引き下がった。

 

他にも自分が競技に選ばれた理由がわからない生徒が手を挙げる。

それをグレンはセラ、ノラ、タクスに協力してもらい、的確に返していく。

 

 

「そりゃあ【レビテート・フライ】も結局は【グラビティ・コントロール】と同じ重力操作の呪文だし、エネルギーなんかを操るんだから根底は一緒なんだよ。だからカイならいけると思うぞ?」

 

 

「テレサちゃんはこの間、錬金術実験で誰かが落としかけたフラスコを咄嗟に【サイ・テレキネシス】で拾ったでしょ?テレサちゃんは、自分が思っているよりも念動系の白魔術、特に遠隔操作の魔術と相性がいいんだよ」

 

 

「・・・『グランツィア』は個人の力よりもチームワークの方が重要だ。お前らいつも一緒にいるんだし、一番いいんじゃないか?同調詠唱(シンクロ)も上手いみたいだし」

 

 

───と、そんな感じで生徒の質問に答えていく。

 

グレンだけでなく、セラ、ノラ、タクスも皆の尖っている長所を見抜いている。

システィーナはその光景に驚きつつも、黒板に書かれた名前を見ていた。

 

基本的には、各生徒の長所を最大限生かせるようにし、得意分野ではなくとも、各々の長所からの応用が効くように良く考えられている。

 

生徒の得意不得意を熟知していなければ到底叶わない編成だ。

セラはともかく、普段自分の生徒に興味がなさそうなグレンや、授業を真面目に受けず別のことをしているノラとタクスも、一応ちゃんと見ていたらしい。

 

 

(先生って、基本ダメ人間だけど・・・たまにはこういうこともあるからなぁ・・・・・・)

 

システィーナはどこか微笑ましい笑みを浮かべていた。

 

 

「───さて、他に質問は?」

 

 

グレンが辺りを見渡すが、もはや反論は一つも出ていない。

 

しかし、グレンは死活問題があるため、なんとしてでも特別賞与を貰わなきゃいけない。

そうしなければ餓死は免れない。

 

 

(ふっ・・・あざといとか言うことなかれ、勝利以外に価値は有らず、勝てば官軍なのさ・・・・・・まぁ本当は白猫とかを使い回したいけど・・・流石に反則だろうなぁ・・・・・・)

 

 

グレンがそんなことを考えていると────

 

 

「やれやれ・・・・・・先生、いい加減にしてくれませんかね?」

 

ギイブルがゆらりと席から立ち上がった。

 

「何が全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないじゃないですか」

 

 

「ほう?ギイブル。ということは、俺の考えた以上に勝てる編成が出来るのか?よし、言ってみてくれ」

 

「・・・・・あの、先生。本気でいってるんですか?」

 

苛立ちを隠そうともせず、ギイブルが吐き捨てるように言う。

 

 

「そんなの決まっているじゃないですか!全種目を成績上位者で固めるんですよ!それが毎年の恒例で、他の全クラスがやっていることじゃないですか!」

 

 

すると、グレンはポカンとした顔になったが、すぐに後ろに振り向き悪どい笑みを浮かべた。

どうやら思いっきり成績上位者を使い回すらしい。

そしてグレンがギイブルの意見に賛成しようとした、その時だ。

 

 

「ギイブル、それじゃ最後の方で消耗しきってダメだろ。効率や個々の全力を考えるならこれがベストだ」

 

 

タクスが不意に反論し始めた。

タクスはグレンの事情を知っている。

なのにこんなことを言うのは、単に彼が祭り好きだからだ。

祭りは楽しむもの。そんな考えを持つ彼は、たとえ義兄が餓死の危機だとしても、楽しむことを優先する。

 

 

「いくら成績が上でも限界ってのはある。全種目で使い回すなら個々で全力を出した方がよっぽど勝つ確率は高い。それに、今回は女王陛下も来るんだろ?成績上位者だけの競技祭なんて一番つまらない、それこそ陛下がガッカリするぞ?」

 

 

(ちょっ!?タクス止めろ!俺の餓死がかかってんだぞ!?皆も納得しないで!?)

 

 

「そうよ!それこそ陛下に顔向け出来ないじゃない!全員で優勝するからこそ意味があるのよ!」

 

(白猫も同調しないで頼むから・・・・・・)

 

しかし、グレンの思いに反してクラスはシスティーナ追従モードに入っていた。

グレンは縋るようにギイブルを見るが─────

 

 

「・・・・・・まぁ、いい。それがクラスの総意なら、好きにすればいいさ」

 

ギイブルは冷笑しながら席に着いた。

 

 

もうグレンに退路は存在しなかった。

 

 

「ま、せっかく先生がやる気出して考えてくれたみたいだし、精一杯頑張ってあげるから、期待しててね?先生?」

 

「お、おう・・・・任せたぞ・・・・・・」

 

もう引きつった笑みを浮かべるしかないグレンと、珍しくご機嫌なシスティーナ。

 

 

「なんか・・・噛み合ってないような気がするなぁ・・・なんでだろう?」

 

「あはは・・・頑張ってね?グレン君」

 

「まぁ、グレン兄なら生き延びるだろ。生きることに関してはしぶといし」

 

 

二人の様子を、ルミアとセラは苦笑いしながら見ていた。

ノラは他人事のように気にも止めていなかったが。




アキバ行ったときに、つなこ画集を買ったんですが・・・最高でしたよ、はい。
二亜と六喰と澪さえいれば文句無しだったけど・・・あと全員の反転体も。

『タッグロワイヤル』はオリジナルです。
競技内容は後でわかりますのでご安心を・・・

ではまた。



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練習と賭け

どうも、影龍 零です。

ちょっとばかし文豪ストレイドックスにはまってしまい、Amazonで観まくっています。
個人的には【月下獣】と【羅生門】が好きですね。

今回は魔術競技祭の練習での出来事ですが、途中からグレンとセラが主になっているのでご了承ください。

ではどうぞ。


魔術競技祭前の一週間。

この期間は、授業は午前で切り上げ、午後からは競技の練習をしても良いことになっている。

 

しかし、練習をサボって余裕そうに寝ている者がいた。

言わずもがな、ノラとタクスである。

 

二人はクラスメートの練習風景をぼんやりと眺めている。

 

呪文を唱えて空を飛ぶ練習をする生徒。

 

念動系の遠隔操作呪文でキャッチボールをする生徒。

 

攻性呪文(アサルト・スペル)を唱え、植樹に向かって電光を放つ練習をしている生徒。

 

中庭の向こう側では、システィーナとルミアがベンチに腰掛けて呪文書を広げ、数人の生徒達とあれこれ話しながら、羊皮紙に術式を書き連ねている。

時折、セラに術式について質問しているらしく、セラは羊皮紙を指差しながら答えている。

 

「随分熱血だなぁ・・・」

 

「セラ姉もどこか嬉しそうだしな。グレン兄はやつれてるけど」

 

 

タクスの言う通りグレン兄は日に日にやつれている。

理由は単純、金欠かつセリカが食事をグレンにだけ出そうとしないからだ。

そのため、グレンはシロッテの小枝や食べられる野草、木の実を食べて飢えを凌いでいた。

 

 

「ねぇ二人共、サボっていないで練習したら?」

 

目をやると、システィーナが手を腰にあてながら覗き込んでいた。

後ろにはルミアとセラもいる。

 

 

「え~、だって面倒くさいじゃん。たまには寝かしてくれよ」

 

「あなた達はいつも寝てるでしょ!?」

 

 

タクスの反論にシスティーナが突っ込む。

 

 

「でも皆頑張っているんだよ?」

 

「・・・大丈夫。第一、俺らがタッグで負ける筈ないし」

 

 

ルミアが説得しようとするが、ノラは大丈夫といい再び寝転んだ。

 

「でも『タッグロワイヤル』って新しくできた競技だし、二人の内どっちかが落ちたら負けなんだよ?それに配点もそれなりに高いし・・・」

 

 

ノラとタクスが出場する競技、『タッグロワイヤル』は二人一組のチームでバトルロワイヤルを行うものだ。

使える魔術は自分が使える魔術であれば、軍用魔術以外使うことが出来る。

ただし、二人の内どちらかがステージから落ちると二人共敗退となるペナルティーがある。

 

つまり、二人のコンビネーション能力が重要になる競技だ。

 

「システィーナちゃん、ルミアちゃん、二人のコンビネーションは抜群だから安心して?でも二人共、絶対固有魔術(オリジナル)は使っちゃダメだよ?」

 

「「りょ、了解」」

 

若干の威圧感を含んだ声でセラが釘を刺すと、ノラとタクスは気圧されながらも頷いた。

そこへグレンが様子を見にやってきた。

 

「お~い、お前らちゃんと練習してるか~?・・・・(ボソッ)勝ってくれないとマジで俺餓死しちゃうから!」

 

最後の方は誰にも聞き取れない声で言っていたが、やはりグレンは必死らしい。

まぁ100%自分が悪いのだが。

 

 

「先生、どこに行っていたんですか?」

 

「ああ、【コール・ファミリア】で他のクラスを偵察していたんだが・・・やっぱりどこのクラスも成績上位者で全種目固めていやがった・・・」

 

「まぁ去年もそうでしたし・・・」

 

「ちくしょう、ずるいだろ・・・優秀な奴ばっか使うなんて、どいつもこいつも勝ちゃそれでいいのかよ!?勝利よりも大切なものってあるだろ、くそぅ!」

 

 

(さっきまで自分も同じことやろうとしてたくせに・・・)

 

(それを言うのは藪ってもんだろ?)

 

自分達の兄に呆れることしか出来ない二人。

 

 

「グレン君、今更編成を変える、なんてこと考えてないよね?」

 

「な、な、何言ってんだよ白犬!?お、俺はそんなこと、これっっぽっちも考えてないからな!?」

 

セラの指摘にあからさまに動揺するグレン、どうやら図星だったらしい。

 

「あー!また私のこと白犬って言った!」

 

「うるせぇな、いいだろ別に。犬っぽいんだし」

 

「もうっ!私は犬じゃないよ!それにさっきの様子だと、編成を変えようとしてたみたいだけど?」

 

ギクッ!とグレンは肩を震わせ────

 

 

 

 

「撤収!」

 

 

「こらーー!逃げるなーー!」

 

 

      ───背を向けて逃げ出した。

 

 

 

 

「あの二人ホント夫婦みたい何だけど」

 

「大体いつもあんな感じだよ。この後どうなるかも」

 

「え?それってどういう──」

 

システィーナがタクスに質問しようとすると、

 

 

 

「《大いなる風よ》────ッ!」

 

「おぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

セラが放った【ゲイル・ブロウ】がグレンを空へ吹き飛ばした。

 

 

「「(゜Д゜;)・・・・・・」」

 

「・・・これがいつものグレン兄とセラ姉だよ」

 

唖然とするシスティーナとルミアにノラが眠気混じりに言う。

このとき、グレンには男子生徒から凄まじい嫉妬がこもった視線が送られていたが、本人は知るよしもない。

 

 

 

 

「いっつつ・・・もうちょい手加減してください白犬さん」

 

「ご、ゴメンね?」

 

地面に落ちてからしばらくした後、グレンは痛みと共に起き上がった。

セラもやり過ぎだと思ったらしく、グレンに謝りながら手当てをしている。

男子生徒からの嫉妬の視線が更に強まったのは言うまでもない。

 

「大丈夫かグレン兄?」

 

「これが大丈夫に見えるなら病院行け・・・」

 

「別にグレン兄は体頑丈なんだし大丈夫だろ。さっきも受け身をとってたし」

 

「ノラの辞書には心配という言葉はないのか・・・?」

 

「んなもんある訳ないだろ?」

 

これ見よがしにノラはグレンをからかう。

タクスは一応心配していた。

 

 

その時。

 

 

 

「さっきから勝手なことばかり・・・・・・いい加減にしろよお前ら!」

 

突然、激しい怒声が周囲に響いた。

 

「・・・なんだ?」

 

四人が声の方向に向くと、グレンのクラスの生徒達と他のクラスの生徒達が、中庭で言い争っていた。

 

「・・・おーい、何があった?」

 

ため息交じりにグレンがその場所に向かい、その後を三人がついて行く。

件の生徒達はまさに一触即発の雰囲気だった。

 

「あ、先生!こいつら、後からやってきたくせに勝手なことばかり言って───」

 

グレンのクラスの生徒、カッシュが興奮気味にまくし立てる。

 

「うるさい!お前ら二組の連中、大勢でごちゃごちゃ群れて目障りなんだよ!これから俺達が練習するんだから、どっか行けよ!」

 

他のクラスの生徒も興奮気味に言葉を吐き捨てた。

 

「なんだと─────ッ」

 

「はいはい、とりあえず落ち着いて」

 

セラが取っ組み合いを始めた二人の肩を掴んで宥めると同時にグレンが首根っこを掴んで、左右に強引に引き剥がした。

 

 

「あがが・・・く、首が・・・痛たた・・・・・・」

 

「うおお・・・い、息が・・・く、苦し・・・・・・」

 

「もう少し、譲り合いの心を持ったほうがいいんじゃない?両方とも」

 

大人しくなったのを見てグレンは手を離し、セラが生徒達を注意する。

 

「えーと?そっちのお前ら・・・・・・その襟章は一組だな。お前らもここで練習か?」

 

「え・・・あ、はい。そうです・・・その・・・・ハーレイ先生の指示で場所を・・・・・・」

 

腕力だけで比較的大柄な生徒を制したグレンに萎縮したらしく、一組の生徒達は殊勝に応じる。

 

 

「確かに場所取りすぎだね・・・ゴメンね。もう少し端に寄らせるから、それでいい?」

 

「あ、はい!場所を空けてくれるなら、それで・・・・・・」

 

なんとなく丸く収まりそうな雰囲気だったが────

 

 

 

「何をしている、クライス!さっさと場所を取っておけと言っただろう!まだ空かないのか!?」

 

怒鳴り声と共に二十代半ばの男性がやってくる。

学院の講師職の証である梟のローブを羽織った、神経質そうな男だ。

その男の名前は────

 

 

「あ、ハーレム先輩じゃないっすか。ちーっす」

 

「ハーレイだ!ハーレイ=アストレイだ!貴様舐めてるのか!?」

 

 

気楽に名前を間違えながら挨拶するグレンに、ハーレイは物凄い形相で詰め寄ってくる。

 

 

「・・・で?そのハー・・・なんとか先輩のクラスも今から練習っすか?」

 

「・・・貴様、そこまで覚えたくないか、私の名前」

 

 

ぴきぴきとこめかみに青筋をたて、拳を震わせながらハーレイは話を続ける。

 

「ふん、まぁいい。競技祭の練習と言ったな?当然だ、今年も私のクラスが優勝をいただく。私が指導する以上、優勝以外は許さん!今年は────」

 

 

「・・・そこまで勲章って大事っすか?ユーレイ先生?」

 

「ハーレイだ!ハーレイ=アストレイだ、ノラ=ルイカス!私が話している途中で話の腰を折るな!」

 

「そんなにピリピリしているとストレス溜まりますよ?」

 

「やかましい!誰のせいだ!誰の!」

 

 

ノラの道化じみた態度に、ハーレイは忌々しそうに舌打ちをした。

 

「それよりも聞いたぞ?グレン=レーダス。貴様は今回の競技祭、クラス全員を何らかの競技に出場させるつもりだとな?」

 

「え?あぁ、はい。そうなっちゃたみたいっすね・・・・・・不本意ですけど」

 

「はっ!戦う前から勝負を捨てたか?負けた時の言い訳作りか?それとも私が指導するクラスに恐れをなしたか?」

 

グレンが困ったように頭をかいていると。

 

「あの~、話が脱線してますよ?これ場所取りの話ですよね?」

 

セラがこの状況を打破しようとし、ハーレイとグレンの間に割り込んだ。

 

 

「ちっ・・・まぁ、いい。さっさと場所を空けろ」

 

「あー、はいはい。あの木の辺りまでで充分ですかね?」

 

セラに乗るようにグレンが練習用の面積を考慮して、場所割りを提案するが───

 

 

 

「何を言ってる?お前達二組のクラスは全員、とっととこの中庭から出ていけと言っているんだ」

 

そんなハーレイの一方的な言葉に、その場にいた二組の生徒達が凍りついた。

流石にグレンも渋面になり、セラは憤慨しながら抗議する。

 

 

「それは流石に横暴ですよ!こっちも真剣に練習しているのに!」

 

「何が横暴なものか」

 

ハーレイが吐き捨てるように言い放つ。

 

「もし、貴様達にやる気があるのであれば、練習のために公平に場所を分けてやってもいいだろう。だが、貴様達にはやる気が全くないではないか!なにしろ、そのような成績下位者達・・・足手まとい共を使っているくらいなんだからな!」

 

「な──ッ!?」

 

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で群れ集まって場所を独占するなど迷惑千万だ!わかったならとっとと失せろ!」

 

余りに酷い言い草にセラが言い返そうとした時。

 

 

「お言葉ですがね、先輩。うちはこれはこれで最強の布陣なんすよ。無論、優勝を狙っていますよ?全員でね。主力とか足手まといなんて関係ない。一人は皆のために、皆は一人のために、だ。その一体感が最強の戦術なんすよ?わかりますかね?」

 

グレンが不敵な笑みを浮かべ、ひとしきり悪役のように哄笑し始めた。

 

 

「くっ・・・そんな非合理的な精神論が通用するとでも・・・・・・ッ!?」

 

そんなハーレイの反論を、グレンは真っ向から切り捨てる。

 

「給料三カ月分だ」

 

「な、何ィ・・・・・・ッ!?」

 

「俺達のクラスが優勝するのに、俺の給料三カ月分だ」

 

 

なんとグレンはハーレイに対して賭けを持ち込んだ。

 

 

「グレン兄・・・馬鹿なのか?」

 

「ムカついたから後先考えずに強がったんだろ・・・多分ギャンブルでもこんな感じだったんじゃね?」

 

自分達の兄にタクスは呆れ、ノラはなんとなく理由を察していた。

 

その後、ハーレイが見事に賭けに乗り、生徒達のやる気が上がった。

しかしグレンは自分の発言に猛烈に後悔し、内心泣きつつも威風堂々とした態度を取り続けた。




次はいよいよ魔術競技祭本番!
ノラとタクスのコンビネーションも見れるのであしからず。

【叛逆者】の名前にふさわしい活躍を見せれるように頑張ります。



ではまた。


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魔術競技祭 開幕!

どうも、影龍 零です。

今回の話はジャスト8000文字だったので驚き。

そして宣言通り、ノラとタクスの競技に入れました。
拙い駄文ですが、御容赦お願いです(土下座)

ではどうぞ!



グレンとハーレイの賭けから数日後。

 

ついに魔術競技祭が開催された。

講師達は女王陛下から直々に渡される勲章を狙っているが、グレンは違った。

グレンは優勝して特別賞与を貰わないと、餓死が確定してしまう。

そのため、勲章などどうでもよく、特別賞与のみが狙いだった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

二人で一チームを作り、設定されたコースを一周ごとにバトンタッチしながら何十周も回る競技『飛行競争』。

 

そのラストスパートで、予想外な展開が起きていた。

 

 

『そして差し掛かった最終コーナーッ!二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁぁぁ──ぬ、抜いたーーッ!?そ、そしてそのままゴォォォルーーーーッ!?なんとぉぉぉ!?『飛行競争』は二組が三位!あの二組が三位だぁーーーッ!こんな展開、誰が予想したァァァァァァ!?』

 

 

グレン率いる二組のロッドとカイが予想を上回る三位という大健闘をした。

当の本人達も、空を飛びながらハイタッチを交わしていた。

 

 

「・・・うそーん」

 

「グレン兄、自分で教えていたくせになんで驚いてるのさ」

 

 

目を点にして呆然とするグレンにタクスが思わず突っ込む。

 

 

 

「・・・この『飛行競争』・・・途中から脱落していったヤツらが多かったのをみると、どうやら去年は短距離戦だったらしいな。グレン兄はペース配分だけを教えていたから、漁夫の利みたいな形でこんな結果になったんだろう。このことを読んでいたんだな?グレン兄」

 

ノラは冷静に分析してグレンに話を振る。

 

「と、当然だ。俺はこうなることを、学院の『飛行競争』に対する認識から読み切っていた・・・なにしろ、今回は【レビテート・フライ】を使って一周五キロのコースを二十周する競技だ。一周だけなら瞬間的な速さが見られるが───」

 

 

「───後になっていくにつれて、他のクラスがペース配分を間違えて自滅するのを待てば、簡単に上位に入ることが出来る、でしょ?」

 

「そういうことだ、セラ。ふっ、楽な采配だったぜ・・・」

 

 

このことは競技が終わった後に気づいたことなのだが、グレンは最初から知っていたように振る舞った。格好悪いことこの上ない。

 

 

 

□□□□

 

 

 

それからも、グレンのクラスは快進撃を続けた。

 

 

『あ、中てたーーーッ!?二組選手セシル君、三百メトラ先の空飛ぶ円盤を見事、【ショック・ボルト】で打ち抜いたーーーッ!?『魔術狙撃』のセシル君、これで四位以内は確定!これは盛大な番狂わせだぁぁぁぁぁ!』

 

「や、やった・・・動く的に狙いをつけるんじゃなくて、動く的が狙っている空間にくるまで待ってろってグレン先生の言うとおりだ・・・・これなら・・・・・・ッ!」

 

 

成績が平凡な生徒達は予想外の活躍を見せ────

 

 

『さぁ、最後の問題が魔術によって空に投射されていく──これは・・・おおっと!?まさかの竜言語だぁあああーーッ!?これはえげつない!さっきの第二級神性言語や前期古代語も大概だったが、これはそれ以上!さぁ、各クラス代表者、【リード・ランゲージ】で解読にかかるが、これは流石に無理────」

 

「わかりましたわッ!」

 

『おおっと!?最初にベルを鳴らしたのは二組のウェンディ選手!先ほどから絶好調でしたが、まさかこれすらも解いてしまうのかーーーッ!?』

 

「『騎士は勇気を宗とし、真実のみを語る』ですわ!メイロスの詩の一節ですわね!」

 

『いったーーッ!?正解のファンファーレが盛大に咲いたぁーーーッ!?ウェンディ選手、『暗号解読』圧勝ーーッ!文句無しの一位だぁぁぁぁぁーーッ!』

 

「ふふん、この分野で負けるわけにはいきませんわ。とはいえ・・・もし、神話級の言語が出たら、いきなり共通語に翻訳するのではなく、一旦新古代語あたりに読みかえろっていう先生のアドバイスには感謝しないといけませんわね・・・・・・」

 

 

成績上位者は安定して好成績を収め続ける。

 

自分達でもできる、戦える。そんな二組の生徒の士気の高さに加え、使い回される他クラスの成績上位者は魔力を温存しなければいけないのに対し、グレンのクラスの生徒達はその競技だけに全魔力を尽くせるという構造的有利が働いていた。

 

さらに、過去に生きるか死ぬかの軍生活が長かったグレンとセラは、表向き精神論を掲げていたが、勝つという一点に関してはどこまでもシビアな戦術を指導していたことも、他クラスとの地力の差を埋める要因となっていた。

 

 

 

そして、午前の部も残り二つの競技を残すのみとなった。

 

競技『精神防御』、グレンのクラスからはルミアが選手として出場。

しかし、他クラスはこの意味がよくわかっていない。

なにしろ『精神防御』は、精神作用系の呪文を白魔【マインド・アップ】と呼ばれる自己精神強化の術で耐え、最後の一人になるまで続けるという敗者脱落方式である。

また、この競技は徐々に精神汚染呪文の威力が上がっていき、脱落者はほとんどが保健室で寝込むことになる。酷い場合は三日はうなされることもある。

 

 

よって、この競技はルミアのような女子生徒には向いていない。

しかしルミアは恐れるどころか意気込んでいる。

その様子を見た五組の生徒、ジャイルが噛みつくような声をかけた。

 

「おい、そこの女」

 

ルミアが目を向けると、ジャイルがこちらを睨んでいた。

 

「悪いことは言わねえよ。今すぐにでも棄権しな」

 

「!」

 

「この競技はお前みたいなヤワな奴じゃ務まらねえ・・・医務室で精神浄化されたくないなら、とっととすっこんでろ」

 

震え上がってしまうような恫喝と共に、射抜くような視線を向ける。

 

「あはは・・・確か、五組のジャイル君だよね?私のこと、心配してくれてるの?ふふ、優しいんだ」

 

「・・・あぁ?」

 

全く予想外の反応に、逆にジャイルが毒気が抜かれた。

 

「大丈夫だよ。クラスの皆も一生懸命頑張ってるんだもの。私だって頑張らなきゃ」

 

「ちっ・・・ああ、そうかい。後悔しねえこったな」

 

「それに・・・ジャイル君の五組は確か、二位だったよね?」

 

「・・・くだらねえ。それがどうした?」

 

「私のクラスは今三位だから・・・もし、私がジャイル君に勝ったら・・・順位、入れ替わっちゃうね?」

 

ルミアが人差し指を口元に当て、いたずらっぽくウインクする。

 

「・・・面白え」

 

ジャイルはウサギを見つけた狼のように、獰猛に笑った。

 

 

 

□□□□

 

 

 

『あー、あー、音響術式テス、テス。えー、そろそろ時間になりましたので、これより『精神防御』を始めたいと思いまーす!』

 

響き渡る実況の声に、観客は歓声をあげる。

 

『ではでは、今年もこの方にお出まし願いましょう!はい!学院の魔術教授、精神作用系魔術の権威!第六階梯(セーデ)、ツェスト男爵です!』

 

すると、突然どろんと煙が巻き起こり、燕尾服にシルクハット、髭といった伊達姿の中年男性が現れた。

 

「ふっ、紳士淑女の皆さん、ご機嫌よう。ツェスト=ル=ノワールです。

さて、早速競技を開始しよう。生徒諸君、今年はどこまで私の華麗なる魔術に耐えられるかな・・・?」

 

ごくり、と参加者数名が唾を飲んだ。

 

『それでは第一ラウンド、スタート!』

 

「ふむ、まずは小手調べに恒例の【スリープ・サウンド】から始めるとしよう・・・行くぞ!」

 

 

こうして、『精神防御』の競技が始まった。

 

「《身体に憩いを・心に安らぎを・その瞼は落ちよ》」

 

「《我が御霊(みたま)よ・悪しき意志より・我が識守りたまえ》」

 

ツェストの白魔【スリープ・サウンド】に生徒達は対抗呪文(カウンター・スペル)として、白魔【マインド・アップ】で対抗する。

 

『ね、寝たーーーッ!?いきなり脱落したのは、一組のハーレイ先生の生徒だぁああああーーッ!?ちょっ、これ完全に捨て駒だーーーッ!やる気無さ過ぎでしょハーレイ先生!?』

 

「うーむ、私としてはもうちょっと耐えて欲しかったのだがね・・・・・・」

 

『まぁ、去年の覇者、ジャイル君がいますからねー、きっと主力温存作戦でしょう。彼の優勝は決まっているようなものですから。というわけで、実況の僕としては、紅一点、ルミアちゃんがどこまで残れるか・・・これが見所だと思うんですけど、どうです?』

 

「ふっ、そうだな。可憐な少女がどこまで私の精神操作呪文に耐えてくれるか、いたいけな少女の心をどのように汚染し尽くしてやるか、実に楽しみだ・・・ふひ・・・ふひひ・・・・・・」

 

男爵が気持ち悪い笑みを浮かべながら、ルミアを一瞥する。

 

『うわぁ・・・ここで男爵、まさかの嫌な性癖大暴露・・・ていうか、男爵ってまさかそういう変態的な人だったんですか?』

 

「何を言うか!私は断じて変態ではない!私はただ、喪心しちゃったり、心が病んじゃったり、混乱しちゃったり、恐慌を起こしちゃったりした女の子の姿に、魂が打ち据えるような興奮を覚えるだけだッ!」

 

 

「「「『へ、変態だァアアアアアアアーーーーッ!?』」」」

 

 

あいつ、クビにしよう。

そんなリック学院長の決意は誰も知らない。

 

 

『ツェスト男爵の白魔【コンフュージョン・マインド】がきまったーーーーッ!?うわぁ、やばい!?八組の生徒耐えられなかったぁあああーーッ!?』

 

「あばばばばばばばば・・・暑い!暑い!」

 

「ぎゃぁあああーーーッ!?ちょっと君!男子生徒に脱がれても私はちっとも嬉しくないのだが!?どうせならルミア君────」

 

『おい、やめろ!ちったぁ欲望隠せよ、この馬鹿男爵!救護班、早く八組の生徒連れてって!大至急!』

 

 

「次は白魔【マリオネット・ワーク】だ!皆を私の操り人形にしてせんじよう!さぁ、踊れ!」

 

『ぷっ!だっははははーーッ!耐えきれなかった十組の生徒が踊り出したーーッ!ていうか男にセクシーダンス踊らせんな、馬鹿男爵!キモいんだよッ!』

 

「・・・ちっ」

 

『ちょっ、男爵、あんた何ルミアちゃんの方見て舌打ちしてんの!?いい加減にしろよ、この変態エロ親父ッ!?』

 

 

 

その後も『精神防御』は続いていく。

 

 

「だ、男爵・・・俺、実は男爵のことがずっと好きで・・・・・・」

 

「ぎゃぁあああーーッ!?嫌ぁあああーーッ!?じ、蕁麻疹がぁあああ!?」

 

『く、腐ったぁあああーーッ!?男爵の下心全開の白魔【チャーム・マインド】!ド裏目だぁあああーーッ!?ていうか、ホント誰かなんとかしろよ!この変態犯罪貴族!救護班はとりあえず精神浄化!ついでに男爵の頭も浄化したれ!早く!』

 

 

「今度は白魔【ファンタズマル・フォース】で、名状し難き冒涜的な何かの幻影を見せてしんぜよう!我が秘奥が魅せる宇宙的脅威!存分におののくがよい!」

 

「ぁあああああああああーッ!嫌だぁああああああああーッ!?」

 

「うわぁああああああああーッ!やめろぉお!?それだけはやめろぉおおおおおーッ!?」

 

「ああ、窓に!?窓にィーーッ!?」

 

『正気を失い、狂気にのたうつ選手達!ちょっ、やり過ぎでしょ男爵!?救護班!精神浄化急いで!ていうか毎年思うんだけど、何でこの競技禁止になんないの!?』

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

観戦者は最初は冷めた目で見ていたが、段々と盛り上がりを見せていた。

なぜなら、早々に脱落すると思われていたルミアが、ジャイルと同じように平然として立っていたからだ。

 

彼女の親友であるシスティーナも、これには驚きを隠せない。

 

「う、うそ・・・・・・」

 

そんな様子を横目で眺めつつ、ノラは眠たげに言った。

 

「・・・白魔【マインド・アップ】は素の精神力を上げるだけ。つまり、元々肝が据わっている奴ほど効果は大きい。そういうところを見ると、ルミアは精神力じゃこのクラス一だ」

 

「あの子が・・・・・・?」

 

ああ、とノラが頷く。

 

「・・・あいつはある意味、異常な人種だ。常人とは心構えがまったく違う。それこそ、何時でも死ねるというぐらい・・・な」

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

一方のフィールドでは、この予想外の展開に男爵も困惑気味だった。

 

「むぅ、なんと・・・ジャイル君はともかく、ルミア君がここまで粘るとは正直予想外だったよ・・・・・・ちっ」

 

『・・・あの、男爵?なんで微妙に悔しそうなんですかね?』

 

「さて、そろそろ白魔【マインド・ブレイク】に移るとしよう」

 

『とうとう来ました!第二十七ラウンドからは【マインド・ブレイク】!この呪文はあらゆる思考力を一時的に破壊する、精神操作系の白魔術では最も高度で危険な呪文の一つ!最悪相手を廃人に追いやってしまうこともある恐ろしい呪文だぁああああああ!』

 

「──いざ行くぞ!」

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

結果から言うと、ルミアの優勝になった。

あれから勝負は第三十一ラウンドまで続き、グレンがルミアの状態を見て棄権を宣言。

一時的にブーイングが起こるが、ジャイルが既に立ったまま気絶していたことが判明し、ルミアの勝利となったのだ。

 

 

 

そして、午前の部最後の競技『タッグロワイヤル』が始まろうとしていた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

『えー、それでは只今より新競技、『タッグロワイヤル』を始めたいと思います!』

 

司会者の宣言に歓声をあげる観戦者達。

出場選手達も初めて行われる競技に緊張していた────二人を除いて。

 

 

「・・・たかだか二人一組でバトルロワイヤルするだけなのに・・・・・ここまで緊張するか?」

 

「まぁ仕方ないんじゃね?こういうの普段やらないんだから」

 

 

ノラの疑問にタクスが的確に返す。

その表情は、これから試合をする者とは思えないほどリラックスしている。

そんな二人の様子を他クラスは疑問に思った。

理由は単純で、『タッグロワイヤル』ではどちらかが落ちたら失格なのでどうしても緊張してしまう。

しかし、ノラとタクスは一切そんな様子を見せない。

 

 

「まぁ、少しばかりは楽しめると思うな」

 

「・・・むしろそうじゃないと困る」

 

 

タクスとノラのその発言(ノラはあからさまな嘲笑を含めた)に、他クラスの選手や観戦者はブーイングを飛ばす。

それを二人は気にもとめない。

この時点で、他クラスの選手は最初に倒す標的をノラとタクスに定めた。

これが最大の悪手になったことも知らずに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ!まもなく試合が始まりますが、二組以外の選手どうした!?かなり鋭い視線でノラ選手とタクス選手を見ているぞ!?』

 

司会者の言うとおり、真っ先に二人を脱落させようと選手達は目を光らせている。

当の本人達はどこ吹く風、それどころか会話をしていた。

 

 

『では、『バトルロワイヤル』!制限時間はありません!最後の一組になる為頑張ってください!それでは・・・・・・スタート!!』

 

 

司会者の開始宣言と同時に、選手達は一斉に呪文を唱え始めた。

 

 

「「「《雷精の紫電よ》ーー!」」」

 

「「「《大いなる風よ》ーー!」」」

 

「「「《白き冬の嵐よ》ーー!」」」

 

 

狙いはもちろん、ノラとタクス。

次々と魔術が殺到する中、ノラとタクスは動いた。

二人はぎりぎりまで魔術を引きつけた後、爆ぜるようにノラは右、タクスは左に駆け出した。

 

他クラスの選手はしめたとばかりに二人を落とそうと呪文を唱え始めるが────

 

 

 

 

「《水流よ》──《氷結よ》──」

 

 

───ノラの方が圧倒的に早く呪文を完成させ、黒魔改【アナクルーズ・モズ】と黒魔改【エーテル・ブリザード】を放つ。

 

先に唱えた【アナクルーズ・モズ】から水が放たれ、競技場を水浸しにする。

そこを【エーテル・ブリザード】からの吹雪が即席の氷塊を無数に生み出す。

瞬く間に競技場は、氷塊が囲む密林と化した。

 

 

 

「《大地の砂塵よ》───《虚空の残響よ》───」

 

 

そこをタクスが黒魔改【サンド・トラップ】を唱え競技場の石盤の一部を砂塵に変え、黒魔【スタン・ボール】を撃ち、土煙を発生させる。

 

 

「な、何だ!?」

 

「くっそ!何も見えない!」

 

「ここは固まった方が──あぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

困惑していた選手達は最後に聞こえた悲鳴に身を強張らせた。

すぐさま周囲を警戒するが、氷塊と土煙で視界が塞がれているため襲撃が予測出来ない。

 

 

「あ!居たぞ!《雷精の紫電よ》ーー!」

 

選手の一人が人影を見つけ、そこ目掛けて【ショック・ボルト】を放つ。

 

「ちょっ、待て俺はちが、ぎゃぁぁあああああ!」

 

「くそッ!誰が味方で誰が敵かわかんねぇ!」

 

「でもそれはあいつ等だって────」

 

 

「同じじゃあないんだよなぁ?」

 

 

選手達が困惑していると、不意に後ろから声がかかる。

咄嗟に呪文を唱えようとするが────

 

 

「《風よ》──《吹け(ツヴァイ)》、《吹け(ドライ)》」

 

 

タクスの【ゲイル・ブロウ】の連続起動(ラピッド・ファイア)に吹き飛ばされる。

 

「《吹っ飛べ》」

 

そこを、まるで読んでいたかのようにノラが【スタン・ボール】を放ち、選手達を気絶させる。

 

「《大いなる風よ》ーーーッ!」

 

ふと、誰かが唱えた【ゲイル・ブロウ】が土煙は吹き飛ばし、視界が元どおりになった。

だが状況は変わらない。

未だ氷塊の密林は健在しており、視界に制限がかかる。

そのせいでノラとタクスがどこから襲いかかってくるか予測できない。

かといって何もしないと瞬く間に魔術の餌食となる。

 

これらの理由で、選手達は間接的に動きを封じ込められている。

 

 

「やっぱノラとタクスのコンビは強すぎだな・・・」

 

試合を見ながら、グレンは改めて自分の弟達のコンビネーションに舌を巻いた。

ノラとタクスはどんなに不利な状況でも、あらゆる手段で自分達のペースに持って行く。

また、ノラは氷系や水系の魔術を、タクスは電撃や錬金術といった魔術を得意としているため、相手の動きを制限する術に長けていた。

加えて二人は帝国宮廷魔導士団特務分室に所属しているため、戦闘経験も豊富だ。

 

もはや、二人と選手達の差は歴然だった。

 

『ノラ選手とタクス選手に翻弄されつづける選手達!応戦する者もいますが全く意味がない!これはまさに、二人の独壇場だぁぁぁああああ!?』

 

 

 

「そろそろ全員落とすか!」

 

タクスがそう宣言し、ノラが笑みを浮かべ頷く。

他クラスの選手達は、身を守れると思ったのか氷塊の後ろに隠れ始めた。

しかし、二人は気にもとめない。

ゆっくりと呪文を唱えていく。

 

 

「《白き夜の吹雪よ・───」

 

「──黒き夜の雷精よ・───」

 

 

二人は交互に一つの呪文の節を唱え始めた。

これを好機と思ったのか、他クラスの選手が次々に魔術を唱える。

 

 

「「「《虚空の残響よ》ーーーッ!」」」

 

「「「《白き冬の嵐よ》ーーーッ!」」」

 

「「「《雷精の紫電よ》ーーーッ!」」」

 

 

魔術が二人に殺到するが、二人はそれを悉くかわしていく。

 

 

「──紫電を纏う嵐となって・───」

 

「──すべからく敵を討て》!」

 

 

唱え終わった瞬間、二人を中心に電気を纏った吹雪が吹き荒れる。

そして、渦巻くように広がっていき、他クラスの選手に襲い掛かった。

 

「《大気の壁よ》ーー!」

 

「《光の障壁よ》ーー!」

 

反応出来なかった選手が次々と気を失ったり、場外に吹き飛ばされたりしたが、一部の選手は黒魔【フォース・シールド】や黒魔【エア・スクリーン】で対処する。

吹雪によって視界が悪いが、吹き飛ばされることもない。

全員を落とすのなんてやはり無理だったんだ、誰もがそう思っていた。

 

しかし、その考えは吹雪が止んだ後、驚愕と共に吹き飛んだ。

なぜならステージの石盤一枚が自分達目掛けて飛んできたからだ。

選手達は慌てて魔術を唱え始めるが、

 

 

 

 

 

 

「《そらよっと》」

 

タクスの気の抜けた声と同時に石盤が形を変え、無数の球体となって選手達を襲い、一人残らず場外に叩き出した。

 

 

 

 

 

 

『決まったぁぁぁああああああ!?ノラ選手とタクス選手、他クラスの選手達を圧倒し、文句なしの一位だぁぁぁぁーーーーッ!?』

 

 

司会者の言葉と共に歓声が巻き起こった。

 

ノラとタクスは興味なさげに右手をヒラヒラ振るだけ。

 

 

 

しかし、何故最後の方で石盤が襲い掛かってきたのか。

 

実は吹雪が巻き起こっている時、操作していたのはノラだけで、タクスはステージの石盤を錬金術で模倣し、それを【ゲイル・ブロウ】の即興改変で四方に飛ばしたのだ。

その際に、必ず相手は魔術を使うか避けるため、タクスは黒魔【アース・チェンジ】でそのどちらの選択肢でも対処出来ないように無数の球体に変化させたのである。

 

 

 

これで二組の順位は一位に限りなく迫る点数で二位となり、魔術競技祭午前の部は終了した。




【アナクルーズ・モズ】
かなりの量の水を出す改変呪文


【エーテル・ブリザード】
加減次第で霊体も凍らせられる改変呪文


【サンド・トラップ】
岩石類や鉱物を砂状に変える改変呪文


【アース・チェンジ】
岩石類のみ好きなように形状を変化できる改変呪文


【フリーズ・ボルト】
電撃と吹雪が同時に襲い掛かる複合改変呪文


次からは若干ノラパートになります。

もう少し早く書けるようになりたい・・・


できるだけ早く書けるように頑張ります。

ではまた。




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ルミア×ト×アリシア

どうも、影龍 零です。

今回は前半ほのぼの、後半微シリアスありといった感じですかね?
自分でもよくわかりません。

ラストエンブリオがやっと最新刊でてかなり舞い上がったり、最近投稿し始めた『ありふれ』のほうに集中したりしてかなり遅れました。




ではどうぞ。


午前の部が終了し、生徒達はぞろぞろと各自昼食をとるために解散となった。

 

 

ノラとタクスが弁当を食べようと蓋を開けようとした時、ふと後ろから声がかかった。

 

「ノラ君~!タクス君~!」

 

二人が振り向くと、システィーナとルミアが弁当を持ちながらこちらに走ってきていた。

 

 

「どうした?なんかようか?」

 

「えっと、どうせなら皆で食べようかなぁって・・・・・・だめかな?」

 

ルミアが小首を傾げながら言う。

 

 

「・・・別に一向に構わない。ちょうど俺らも食べようとしてたところだったし」

 

ノラがそう言うと、ルミアは嬉しそうに近くに座った。

 

「システィーナはどうすんの?」

 

「べ、別に私はルミアに誘われたから仕方なく来てるだけで・・・」

 

タクスが聞くと、システィーナはそっぽを向いてゴニョゴニョ言っている。

 

「ふーん、まぁとりあえず座って食べようぜ?すぐに昼休み終わっちまうぞ」

 

タクスがシスティーナにそう促すと、システィーナは恥ずかしそうにルミアの隣に座った。

そして、バスケットを開けて中にあるサンドイッチをタクスに差し出した。

 

 

「・・・あげる」

 

タクスは一瞬キョトンとするが、

 

「お、マジで?サンキューな」

 

嬉しそうにそれを受け取り、美味しそうにほうばった。

 

 

「うん、旨い!システィーナって料理上手なんだな」

 

「なっ・・・と、当然でしょう!?料理は女の子として必須技能なんだから!」

 

頬を赤らめながら言うシスティーナにタクスは笑いながら、

 

「まぁ、確かにそうだな。にしてもこれ、その辺の店超えてるんじゃないか?」

 

タクスの率直な意見にシスティーナはボンッ!と顔を赤くする。

 

「ん?どうした?」

 

「・・・・・・なんでもない」

 

一方のルミアはノラの色鮮やかな弁当に驚嘆していた。

 

「うわぁ・・・すごい、これ全部ノラ君が作ったの?」

 

「ん?あぁそうだな。タクスやセラ姉の分も俺が作った」

 

「へぇ~、すごく美味しそうだね。一口貰ってもいいかな?」

 

「別にいいぞ、てか食べたそうに見てただろ?」

 

「あはは・・・バレてたかな?美味しそうだったからつい・・・」

 

「まぁ、味は保障するよ。なんせ料理には自信あるんでね」

 

「それじゃあお言葉に甘えて・・・」

 

 

そんな二組の空間に男子達は嫉妬や羨望、殺意のこもった視線をノラとタクス(特にノラ)に浴びせていたが、二人は知る由もない。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!・・・っと、そういえばグレン兄どこ行ったんだ?」

 

十数分後、弁当が空になった頃にタクスがノラに聞く。

 

「・・・どうせどっかで寝てるんじゃないか?タクス探してこいよ」

 

「えっ、ノラが行けよ」

 

 

そんなやりとりの後、二人はじゃんけんを始めた。

数十回のあいこの末、ノラが負けた。

 

「くそッ、めんどくせぇ・・・」

 

「いいから早く行ってこい。敗者は従うもんだろ?」

 

「あ、それなら私も行くよ。二人の方が探しやすいし。システィもタクス君もいいでしょ?」

 

「私は別にいいわよ」

 

「右に同じく」

 

「・・・サンキュー、ルミア。んじゃさっさと行くぞ」

 

 

そうしてノラとルミアはグレンを探しに行った。

 

 

 

 

「そういえばタクス、グレン先生は何でやつれていたの?」

 

「あ~・・・まぁ要約して言うなら完全にグレン兄の責任だな」

 

「と、いうと?」

 

「諸事情により一週間はまともな食事にありつけてないのですよ、はい」

 

「えっ、それってかなりヤバいんじゃ・・・」

 

「大丈夫、少なくとも今日の昼飯はまともな食事にありつけると思う」

 

タクスの確信めいた言葉にシスティーナは首を傾げて思案するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、どうしたもんかね・・・」

 

グレンはフラフラとやつれた顔で、空腹を耐えながら敷地内をさまよっていた。

シロッテの枝や木の実でも流石に限界というものはある。

今日もセリカは食事を出してくれず、朝から水と枝しか食べていない。

ノラもタクスも自分の弁当しか作らないので、たかることも出来ない。

最悪、今日餓死してもおかしくなかった。

 

一週間前、学院敷地内の北部に広がる通称『迷いの森』の入り口付近でシロッテの木を見つけたグレンは、昼食の時間になるといつもここに足を運び、シロッテの枝をかじって飢えを凌いでいた。

 

 

「とは言ってもなぁ・・・」

 

シロッテの枝を持ってベンチにぐったり腰掛けながら、シロッテの枝をかじる。

 

 

「なんかこう・・・人間としてどんどん落ちぶれていってる気がする・・・・ちくしょう・・・・もうギャンブルなんて二度としねぇぞ・・・・・・ぐすん」

 

 

自分の失態を今更悔やみ、涙が溜まった淀んだ目でグレンは枝を噛みしめていた。

 

 

 

「へへっ・・・今日はなんだか、妙に目にゴミが入りやがる・・・・・・」

 

 

目元を拭うグレンの腹が盛大に鳴った、その時だった。

 

 

「あっ、ここにいた!グレン君ーーーーッ!!」

 

声の方向に顔を向けると、セラが何かを大事そうに抱えながらこちらに駆け寄ってきていた。

 

 

「・・・・・・セラか、どうした?」

 

「もう、探したんだよ?せっかくこれ持ってきたのに・・・・・・」

 

「そういやそれ、何が入ってるんだ?」

 

 

グレンはセラの持っているバスケットを指差す。

 

「最近グレン君ずっとお腹空いていたでしょ?だからお弁当作ってきたんだけど、良かったら食べる?」

 

 

「ありがとうございます女神様!喜んで謹んで、頂戴いたしますぅーーーーーッ!!!」

 

グレンは凄い速さでセラから弁当をひったくると、中を見て感動していた。

そこには色とりどりのサンドイッチ、鶏肉の照り焼き、チーズサラダといった料理が所狭しと入っている。

見た目もかなり美味しそうだが、今のグレンにはこれらが最高級の宮廷料理に見えていた。

すぐさまグレンは料理にかぶりつく。

トマトのサッパリとした酸味が、レタスの瑞々しいシャキシャキ感が、鶏肉のジューシーな肉汁が、チーズのコクと風味がグレンの舌と腹を満たす。

グレンは今、猛烈に感動していた

 

 

「ぅおおおおお!?生きてるって、なんて素晴らしいんだぁあああああーーーーッ!!!?」

 

「大袈裟だなぁ、グレン君は」

 

隣で号泣しながら弁当を食べるグレンに、セラはニッコリ微笑んでいる。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「ふぅ~、食った食った。ごちそうさん」

 

「お粗末様でした。それで、食べた感想は?」

 

「旨い」

 

セラの問いにグレンは即答する。

 

「シンプルだけど丁寧に作られてた。それに───」

 

「それに?」

 

「なんとなく、昔セラが作ってくれた料理の味がした」

 

「あ、覚えていてくれたんだぁ・・・ふふっ、嬉しいなぁ」

 

「う、うっせー白犬」

 

「あー!?また私のこと犬って言ったーーッ!?」

 

「別にいいだろ、そんくらい」

 

「よくありません~!」

 

セラが頬を膨らませながら怒り、グレンはそれをいつも通りにあしらう。

そんな微笑ましい光景を遠くから見る二人がいた。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「・・・あれならグレン兄は大丈夫そうだな」

 

「セラ先生もいるし、私達は出ていかない方がよさそうだね」

 

「んじゃ戻るとしますかね・・・」

 

ノラとルミアが隠れていた茂みから出て、きた道を戻ろうとした時。

 

 

 

 

「そこの貴方はノラ、ですよね?・・・少し、よろしいですか?」

 

 

立ち上がった二人の背後から女性の声がかかる。

ノラは気だるそうに振り向く。

 

 

「はいはい、なんでしょーか。用件は手短に願いたいんd────って、ハイ?」

 

ノラは声をかけてきた女性を見て硬直する。

 

 

 

 

 

「え?なんで女王陛下がここにいらっしゃってるんですか!?」

 

 

 

 

 

そこにいたのは他でもない、アルザーノ帝国女王陛下アリシア七世その人であった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーか、なんで護衛も無しにこんなところまで一人で来てんすか!?あ、さっきの無礼な発言は取り消してください申し訳ございませんでしたーーーー!!」

 

 

いくらノラでも流石に女王陛下の前では傍若無人な態度はとれず、その場に恭しく平伏する。

 

「そんな、お顔を上げてくださいな、ノラ。今日の私は帝国女王アリシア七世ではありません。帝国の一市民、アリシアなのですから。さぁ、ほら、立って」

 

「・・・では、御言葉に甘えて」

 

 

それを聞くとノラはスッと立ち上がった。

相変わらず切り替えが早いんだかわからない。

 

 

「ところで、なんか用でもあったんですか?」

 

ノラはすすっ・・・とルミアに目を向ける。

アリシアも同じように視線を横にずらす。

 

その視線の先には、呆然と立ち尽くしているルミアがあった。

 

 

「・・・・お久しぶりですね、エルミアナ」

 

 

そんなルミアに、アリシアは優しく語りかける。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

ルミアは無言でアリシアの首元を見る。

その首に翠玉色のネックレスがかかっているのを見ると、何故か目を伏せる。

その様子を、ノラは見逃さなかった。

 

 

「元気でしたか?あらあら、久方見ないうちに随分と背が伸びましたね。うふふ、それに随分と綺麗になったわ。まるで若い頃の私みたい、なぁんて♪」

 

「・・・・ぁ・・・・・ぅ・・・・・・・」

 

「フィーベル家の皆様との生活はどうですか?何か不自由はありませんか?食事はちゃんと食べていますか?育ち盛りなんだから無理な減量とかしちゃだめですよ?それと、いくら忙しくても、お風呂にはちゃんと入らないとだめよ?貴女は嫁入り前の娘なのですから、きちんとしておかないと・・・・・・」

 

「・・・・・・ぁ・・・・そ、その・・・・・・」

 

硬直するルミアをよそに、アリシアは本当に嬉しそうに言葉を連ねていく。

ノラは珍しくジッと二人を見据えていた。

 

 

「あぁ、夢みたい・・・またこうして貴女と言葉を交わすことが出来るなんて・・・・・・」

 

そして、感極まったアリシアは、ルミアに触れようと手を伸ばす。

だが──────

 

 

 

 

 

 

「・・・お言葉ですが、陛下」

 

 

 

 

 

ルミアは逃げるように片膝をついて平伏する。

 

「!」

 

「陛下は・・・その、失礼ですが人違いをなされております」

 

ぼそりと呟いたルミアの言葉に、アリシアは凍り付いた。

 

「私はルミア。ルミア=ティンジェルと申します。恐れ多くも陛下は私を、三年前御崩御なされたエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と混同されております。日頃の政務でお疲れかと存じ上げます。どうかご自愛なされますよう・・・・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

慇懃に紡がれるルミアの言葉に、アリシアは気まずそうに押し黙る。

 

 

「・・・・そう、ですね」

 

そして、アリシアは寂しそうな微笑みを浮かべながら、目を伏せる。

 

「あの子は・・・エルミアナは三年前、流行病にかかって亡くなったのでしたね・・・・あらあら、私はどうしてこんな勘違いをしてしまったのでしょう?ふふ、歳は取りたくないものですね・・・・・・」

 

 

アリシアの哀愁漂う言葉を、ノラは黙って聞くばかり。

ルミアは淡々と言葉を続ける。

 

「勘違いとはいえ、このような卑賤な赤い血の民草に過ぎぬ我が身に、ご気さくにお声をかけていただき、陛下の広く慈愛溢れる御心には感謝の言葉もありません・・・・・・」

 

「いえいえ、こちらこそ。不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」

 

 

しばらくの間、沈黙が場を支配し、アリシアは何かを言おうとしては、諦めたように口を閉ざすことを繰り返した。

 

そして───

 

 

「・・・・・・そろそろ、時間ですね」

 

未練を振り切るように、アリシアはノラへ振り返った。

 

 

「ノラ。エル───ルミアを、どうかよろしくお願いしますね?」

 

 

「・・・わかりました」

 

ノラはそれ以降何も言わず、静かに去っていくアリシアの背中を見つめていた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「・・・・あれで、本当に良かったのか?」

 

アリシアが中庭から見えなくなった後、ノラはルミアの方を向いて言う。

 

「陛下が私を捨てた理由・・・わかるんだ。王室のために必要だったことも、どうしてもやらなければならなかったことも・・・・・多分、私はどこか心の中で陛下に怒っているんだと思う。それでも・・・あの人を母と再び呼びたい、抱きしめてもらいたい・・・・・・そんな思いも確かにある・・・・・・ズルいよね?」

 

 

「理屈じゃないからな、俺にはそういうことがよく分からん。失礼かもしんないが、経験したこともないしな」

 

 

「でも、あの人を母って呼んだら、私を引き取って本当の両親みたいに私を愛してくれていたシスティのお母様やお父様を裏切ってしまうみたいで・・・・・・」

 

 

そう言って目を伏せるルミア。

 

 

「俺はいつも先のことを読んでから動く。その方が面倒事を回避出来るしな」

 

ノラはそんなルミアを見つめてから、素っ気なく言う。

 

 

「でも俺だって偶には先を読まないこともある。その方が面白いってこともあるが・・・・・先を読んでそれにこだわらないようにするための方が大きいかな。たった一つ答え見ただけでその先が決まるのは絶対にない・・・断言する」

 

 

「そう・・・なの・・・・・・?」

 

 

ノラは頷いて続ける。

 

 

「要はチェスだ。一つのパターンじゃなくて何パターンも考慮して行動したり、思い切って何も考えずに打ってみたりする・・・・・人生も似たようなもんだ。進めば進むほど、大量の選択肢が迫ってくる。そこで選ぶ前から後悔するよりかは、選んでから後悔した方が幾分かマシだ」

 

 

ノラはそう言って遠くをぼんやりと見つめる。

その頭の中には、とある過去が映っていた。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

【ノラ・・・・・・タクス・・・・・・!早く・・・行け・・・・・・ッ!もう・・・ここはもたない・・・・・・】

 

 

【えっ・・・ど、どうして・・・】

 

 

【三人で逃げよう!そうすれば・・・・・】

 

 

【それは─────無理・・・・・・かな・・・・─────私は、長く──ない・・・・・・からな・・・】

 

 

ごうごうと燃え盛る炎の中、幼きノラとタクスは、血にまみれた妙齢の女性の近くで絶句していた。

女性の身体からは、誰が見ても致命傷と確信する量の血が流れていた。

恐らくもって一分もないだろう。

 

 

 

【気に──するな・・・・・お前らには・・・・・・未来が・・・ある・・・・・ゴホッ・・・】

 

女性は吐血しながらも続ける。

 

【願い・・・・・とは・・・言っては・・・・何だが、どうか───お前らが・・・・・せめて・・・──────ッ  ──────】

 

 

女性は何かを言った後、最期の力で魔術を使って二人を遠くへ転送した。

二人が最後に見たのは、血にまみれながらも微笑みを崩さずに目を閉じた女性の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノラは意識を戻すと続けた。

 

 

「だからこそ、一度でいいから本音をぶつけたほうがいい。向き合わずに逃げるよりは・・・な」

 

 

あの日、とあるキッカケで起きた事件。

それと今のルミアが重なったのか、ノラはそう告げる。

 

 

 

「私、怖いんだ・・・・・またあの人が私に冷たくするんじゃないか、あの冷たい目を向けてくるんじゃないかって・・・・・・」

 

 

「不安がったって何か変わるわけないだろ?」

 

「そう・・・だね・・・・・」

 

意を決した様子でルミアは顔をあげる。

 

 

「一緒についてきてくれる?」

 

「・・・断るって言ったら極悪人だしな。了解」

 

 

ルミアとノラは並行して歩き始めた。

二人の間に流れる穏やかな時間。

 

 

だが、前方の異変にノラはいち早く気づいた。

 

「・・・・・王室親衛隊?なんでこんなところにフル装備で来てんだ?」

 

 

ノラの視線の先には、王室親衛隊の騎士五人がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

騎士達は二人の前で止まると、二人を囲むように散らばる。

 

 

「ルミア=ティンジェル・・・だな?」

 

騎士のうち隊長らしき者が低い声で問いかけてくる。

 

 

「え・・・あ、はい、そうですけど・・・・・・」

 

ルミアが戸惑いながらも答えた瞬間。

騎士達が一斉に抜剣し、細剣の切っ先をルミアに突きつけた。

それと同時にノラは【念】を発動し、騎士に問いかける。

 

 

 

「・・・何してんだ?」

 

 

「傾聴せよ。我らは女王の意志の代行者である」

 

隊長らしき騎士はノラを一瞥した後、朗々と宣言する。

 

 

「ルミア=ティンジェル。恐れ多くもアリシア七世女王陛下を密かに亡き者にせんと画策し、国家転覆を企てた罪、もはや弁明の余地なし!よって貴殿を不敬罪および国家反逆罪によって、発見次第、その場で即、手討ちとせよ。これは女王陛下の勅命である!」






ノラとタクスの過去・・・一体なんなのでしょう?

次回は原作改変をかなりすると思います、多分。
そしてだんだんと二章がノラ回になっている・・・

まあこうでもしないとこれから先が組めないので・・・



ではまた。


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四人の逃走劇

どうも、影龍 零です。

ここ最近リアルが忙しくって全然時間取れませんでした。

明日ロクアカ12巻が発売されますが・・・この小説まだ2巻なんだよなぁ・・・
夏休み使ってなんとか6巻くらいは終わらせられたらと思います。

ではどうぞ


「おいおい、裁判も取り調べも無しに勝手に決めるな。第一女王陛下がそんな命令を出すわけないだろ?」

 

騎士のあまりの言い分に、ノラが突っかかる。

 

 

 

「部外者に開示義務は無いな。これは高度に政治的な問題なのだ」

 

「ここに立ち会ってる時点で俺は充分関係者だ。いつから王室親衛隊は一般市民に仇なす盗賊になったんだ?お前らこそ帝国の恥曝しだ」

 

騎士の一方的な態度にノラは嘲笑を交えて返す。

 

「貴様・・・それ以上言うなら、反逆者に協力したとして貴様も不敬罪でこの場で処分するが?」

 

「はっ!弱い奴ほどよく吠えるってのはこのことだな。やれるもんならやってみろ」

 

ノラが挑発の言葉を口走った瞬間、五閃の銀光に風が唸った。

気付けば、目にも留まらぬ早業で五振りの剣がノラの喉元に四方から突きつけられていた。

 

 

 

「虚勢はよく無いな。この間合いでお前に何が出来る?そもそも我らは対魔術装備に身を固めている。

我々には、お前達お得意の三属攻性呪文(アサルト・スペル)も精神汚染呪文もそう簡単には通らん。それでもやるのか?我ら五人の精鋭と?」

 

 

だが、ノラは不適な笑みを崩さない。

 

「・・・何が可笑しい?」

 

「お前に何が出来る?ってか?お前らこそちゃんと自分の剣を確かめろ」

 

 

ノラがそう言った瞬間、喉元に突きつけられていた剣の切っ先が全て砕けた。

 

「「「「「何・・・!?」」」」」

 

 

見ると、ノラは一枚のトランプを手に持っていた。

あの刹那の瞬間に、ノラは全ての剣先をトランプで正確に迎撃していた。

 

しかもノラのトランプは魔力遮断物質かつ、最高位の硬度である真銀(ミスリル)が組み込まれているため、そんじょそこらの剣では傷一つ付かない。

だが、そんなことが騎士達にわかる筈もない。

騎士達が目の前で起きたことに動揺を隠しきれないでいると。

 

 

 

 

「ノラ!ルミア!目ぇ瞑れ!」

 

 

背後から聞き慣れた声がかかり、ノラとルミアは反射的に目を瞑った。

その数秒後、ノラの頭上で眩い光が炸裂する。

騎士達は反応が遅れ、目を手で覆いながら地面に倒れ伏した。

ノラが目を開けると、そこには見知った人物がいた。

 

 

 

 

「サンキューグレン兄、セラ姉。助かった」

 

「まったく・・・ノラ君はいつも無茶するんだから。誰かさんみたいに」

 

「おい白犬、それってもしかしなくても俺のことか?」

 

 

先程までルミアと共に食事風景を観察、もとい眺めていた対象であるグレンとセラがそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

ノラは自己強化を行って騎士達を引きずって集め、ロープで縛った。

 

 

「一応ロープで木に括り付けて・・・っと、よし、ちょっとは時間稼げるだろ」

 

「いや、仲間が来たら真っ先に誤解されるだろーが。それに巻き込まれるのはいy────」

 

「グレン君!あっちから騎士達が来たよ!」

 

グレンの言葉を遮ってセラが叫ぶ。

見ると五、六人程の騎士達がこちらに向かって走って来ていた。

 

 

「み、見ろ!同士達が殺られているぞ!」

 

「おのれ、大罪人に与する不届き者め!我らが剣の錆にしてくれるッ!」

 

「志半ばで倒れた同胞の無念、必ず晴らしてみせるッ!」

 

見事なまでに勘違いされ、騎士達が妙に殺気立つ。

もう交渉の余地は欠片もなかった。

次々と抜剣していく騎士達を見て、グレンは青ざめる。

 

 

「ほらぁぁぁぁぁ!?だから止めろって言ったんだよぉぉぉぉッ!?」

 

「グレン君落ち着いて!ノラ君早く何とかしないと!」

 

「わかってるよっ・・・・・・と!!」

 

「きゃッ!?」

 

ノラはルミアをお姫様抱っこの要領で抱え、グレンとセラは学院を囲む鉄柵に向かって走り出す。

ノラもそれに続き、矢継ぎ早に詠唱する。

 

「「「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷(さげん)に傾くべし》!」」」

 

すると、人の脚力では有り得ない高さまで、四人の体が空へと舞い上がった。

黒魔【グラビティ・コントロール】。三人は重力操作の呪文で自らの身体にかかる重力を弱め、体を羽のように軽くしたのだ。

 

そのまま学院を抜け出し、着地と同時に三人は全速力で街中へと逃げ込んだ。

 

「に、逃げたぞーーーッ!?」

 

「追えぇーーッ!逆賊共を逃がすなぁーーーーッ!!」

 

背後からそんな声が聞こえるが、気にしている余裕は無い。

三人は脇目も振らず、ただ走りつづけた。

 

 

「あいつら親衛隊じゃなくて盗賊かなんかにジョブチェンジしたほうがいいんじゃね!?」

 

「うるせぇ!全部ノラの責任だろーが!?だから働きたく無かったんだよ!ええい、引きこもり万歳ィーーーーッ!?」

 

「二人共いいから走って!追いつかれちゃうから!」

 

激流のように後ろに流れていく光景の中、三人の叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

グレンを筆頭に、四人はフェジテの街を走り回り、一般住宅街のある西区の路地裏まで至った。

王室親衛隊との命懸けの鬼ごっこは、四人に軍配が上がったらしい。

 

 

「なんとか撒いたな・・・あ~、疲れた」

 

「ノラ・・・テメェ巻き込まれた俺らのこともちったあ考えてくれ!」

 

ルミアを下ろしたノラの言葉にグレンは苛立ちMAXで不満を漏らす。

 

 

「ルミアちゃん、大丈夫?」

 

「は、はい。でも・・・ノラ君だけじゃなく先生達も巻き込んでしまって・・・」

 

「そのことは気にしなくてもいいよ。というより、ノラ君とルミアちゃんを見て真っ先に動いたのグレン君だったし」

 

 

セラの一言にルミアは目を見開いた。

あれほど道中でも不満ばかり言っていたグレンが、実はセラよりも先に行動し、窮地を救ってくれたのだ。

セラは未だに口論を続けている二人を一瞥して続ける。

 

「でもまぁ・・・見ての通り、グレン君は素直じゃないからね。一種の照れ隠しだよ、あれは」

 

「そうなんですか・・・ふふっ」

 

セラの話を聞くうちに、ルミアは思わず笑みをこぼす。

ノラとグレンはとうとう、口論から体術勝負へと移っていた。

流石に見かねたセラが、二人の間に割って入る。

 

 

「はいはい、二人共そこまで!喧嘩よりも目の前のことに集中して!」

 

「「だってノラが(グレン兄が)」」

 

「わ・か・っ・た・ら・へ・ん・じ・は・?」

 

 

「「はい!すいませんでした!」」

 

 

尚続けようとした二人は、セラの怖い、端から見れば美しい笑顔を向けられ、すぐさま姿勢を正して返事をした。

セラのこの部分は若干セリカに影響を受けた故なのかもしれない、ノラとグレンはそう強く思った。

 

 

「よ、よし。じゃあまずどうやって陛下に会うかだが・・・」

 

「グレン君って通信機持ってたよね?それでセリカさんに連絡して助けて貰えれば?」

 

「おぉ、その手があったか!んじゃ早速・・・」

 

グレンがポケットから半割れの宝石を取り出し、呪文を唱えて起動させた。

金属の共鳴音のようなものが鳴り、そして。

 

 

『・・・・・グレンか』

 

宝石ごしにセリカが出た。

 

「お、セリカか!よーしよし!今回は一発で出てきてくれたな。突然なんだが、頼みがある。今俺らは非常に不味い事態に巻き込まれちまってな。それで────」

 

 

グレンが事情を説明しようとしたとき。

 

『私は何も出来ない』

 

セリカから予想外の言葉が返ってきた。

 

「は?お、おいセリカ。俺はまだ何も──」

 

『もう一度言うぞ、グレン。私は何も出来ないし(・・・・・・・)何も言えない(・・・・・・)

 

グレンは文句を言おうとしたが、セリカの様子がどうもおかしいことに気づく。

まるで、少しでも関わったら最悪の事態になることを危惧しているような様子だ。

 

「・・・おい、お前は事件をどれだけ知ってる」

 

『あらかた知っている。そしてグレン、お前だけだ』

 

「は?」

 

『お前だけがこの状況を打破出来る・・・・・・お前だけ(・・・・)がな』

 

「・・・・あ~、クソッ!訳わからんが取りあえず俺が行けばいいんだな!?」

 

『そうだ、そうすれば親衛隊くらいはなんとかしてやる。切るぞ』

 

そう告げた後、セリカは一方的に通信を切ってしまった。

グレンはポケットに通信機をしまうと、頭をかきながら後ろを向いた。

 

「どうだった?」

 

「何でか知らんが、セリカは何も出来ないらしい」

 

「と、なると・・・なんかセリカが関わると不味い事態になる制約(ギアス)でもあるのか?」

 

「多分そうだ。それに、俺だけが状況を打破出来るんだと」

 

「グレン兄が状況を打破する鍵ねぇ・・・・・・なんかあったか?」

 

 

グレンとノラが頭を悩ませていると、セラが思い出したような顔つきになった。

 

「グレン君、もしかしてセリカさんが言ってるのって【固有魔術(オリジナル)】のことじゃない?」

 

それを聞いてグレンは納得すると同時に、なぜセリカが何も出来ないのかがなんとなくわかった。

 

 

「俺の【愚者の世界】は魔術起動の完全封殺・・・ってことは、セリカがなんかしたらヤバいことが起きるのか!」

 

「それで、そのヤバいことが多分・・・・・・」

 

「『女王陛下の死』、そしてその魔術の解除条件がおそらく『ルミアの死』だろうな。そうでもなきゃ、ルミアを襲う理由にならない」

 

 

グレンとセラが一通り事件の内容を予想し、ノラはそれを聞いて作戦を考えていた、その時。

 

「「「──ッ!?」」」

 

突然、背筋が凍るような感覚に襲われた。

弾かれるように振り向くと、建物の上に二人の男女がいた。

二人組は明らかに三人を見下ろしている。

 

二人は黒を基調としたスーツと外套に身を包んでおり、外套には要所要所に金属板やリベット、護りの刻印ルーンで補強されている。

一目で魔術戦用のローブだということがわかった。

 

「アルベルトにリィエル?なんでこんなとこに?」

 

ノラが二人の存在を認知した瞬間。

伸び放題の青髪を後ろ髪だけ雑にくくり、印象的な瑠璃色の瞳を眠たげに細めた小柄な少女────リィエルが弾かれたように屋根を蹴り、建物の壁を駆け下りた。

着地の瞬間、何らかの呪文を早口で唱えながら両手を地面につく。

 

すると魔力の紫電がほとばしり、リィエルの手に十字架型の大剣(クロス・クレイモア)が瞬時に出現。

その代わりに近くの石畳がごっそりと消えた。

 

そして剣を担ぐように構え、四人の内、グレンに向かって弾丸のように突貫する───

 

 

「ちぃ!?錬金術──【形質変化法】と【元素配列変換】を応用した御自慢の超高速武器錬成かよ!?」

 

グレンが慌てて迎え撃つ態勢をとろうとした瞬間。

 

「《風の息吹よ》!」

 

グレンの隣から凄まじい突風が吹き荒れ、リィエルのスピードを奪い取った。

隣を見ると、セラが右手を突き出した状態でいた。

 

リィエルが突貫してきた時、セラは黒魔【ゲイル・ブロウ】の威力向上と効果持続を中心とした即興改変を行い、グレンの危機を救ったのだ。

それを好機と直感したグレンは爆ぜるように動き、事前に唱えた黒魔【ウェポン・エンチャント】で強化した拳でリィエルの持つ大剣を砕いた。

 

その瞬間、グレンはリィエルの後ろを見て焦燥感が掻き立てられた。

 

(不味い・・・ッ!?アルベルトが後ろにいること忘れてた・・・・・・ッ!?)

 

鷹のような鋭い目でこちらの様子を窺う、藍色がかった黒髪の青年───アルベルトだ。

彼は魔術狙撃の名手であり、魔術戦においても敵のみを正確無比に狙撃する神業を持っている。

さらに一度の詠唱で二度の魔術を起動する二重起動(ダブル・キャスト)と呼ばれる超高等技法も習得している。

 

 

帝国宮廷魔導士団特務分室、執行官ナンバー17『星』のアルベルト。

同じく、執行官ナンバー『戦車』のリィエル。

 

魔術起動を完全封殺する【愚者の世界】の効果範囲外からの狙撃を得意とするアルベルト。

【愚者の世界】の意味が無い肉弾戦を得意とするリィエル。

 

この二人はまさしくグレンの天敵だった。一人ならば(・・・・・)

 

 

(こっちには【力の支配】を持つノラがいる・・・ッ!それにセラも!二人ならアルベルト相手でも問題ない・・・これなら大丈夫だ)

 

風の魔術を得意とするセラと、あらゆる力を操れる【力の支配】のノラはリィエルとアルベルトの長所を潰すことが出来る。

グレンがそう確信してリィエルの突貫を受け流していると、アルベルトがゆっくりと指を向けて構えているのが見えた。

 

(バーカ、お前の得意な魔術狙撃もノラの【力の支配】の前じゃあ無力だ!そのくらい分かれ!)

 

確信じみた笑みを浮かべるグレンをよそに、アルベルトの指から黒魔【ライトニング・ピアス】が放たれる。

 

超高速の稲妻の力線が、真っ直ぐにこちらへと向かって飛んできて────

 

 

 

「きゃん!?」

 

 

 

リィエルの後頭部に突き刺さった。

そのまま地面に倒れ伏し、リィエルはぴくぴくと痙攣している。

 

「・・・・・・え?」

 

不意に訪れた静寂に、グレンは疑問を隠せない。

一方のセラは苦笑いを、ノラは痙攣しているリィエルをツンツンとつついている。

ルミアは未だに状況が飲み込めず、混乱していた。

その一同の前に、屋根伝いに駆け下りてきたアルベルトが軽く着地する。

 

 

「久しぶりだな、グレン、セラ」

 

「あ、あぁ・・・」

 

「久しぶりだね、アルベルト君」

 

 

若干咎めるような冷たい声色で挨拶してくる元・同僚にグレンは困惑する。

セラはそうでもないような様子で返事を返した。

 

「場所を変える。俺について来い」

 

アルベルトはリィエルを引きずりながら奥へと歩いていく。

それにセラとノラは何の躊躇いもなくついて行く。

困惑気味のグレンと未だに状況が飲み込めないルミアは、顔を見合わせた後、大人しくついて行った。





魔女の旅々にスライム倒して三百年、このすばにデート・ア・ライブ、ロクアカに大魔王と買いたい本や買った本が多すぎて読み切れません。助けて(泣)

皆様も買いすぎには気をつけて下さい。

ではまた


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状況整理と作戦

どうも、影龍 零です。

ちょっと今回は急ピッチで話が進みます。
そしてあの人の改変魔術が出ますよ~~~

まぁ原作読んでいる方は何となくわかると思いますが。



ではどうぞ。


「このお馬鹿!一体お前、何考えてんだ!?」

 

「・・・・痛い」

 

路地裏の、さらに奥へと進んだ場所でグレンはリィエルのこめかみをグリグリしながらリィエルに説教する。

 

 

「俺が現役時代の時にお預けになった勝負の決着つけたかっただとぉ!?時と場合と状況をよく考えろ、ドアホ!この脳筋!お陰で死ぬ所だったわ!」

 

「・・・むぅ」

 

受けた【ライトニング・ピアス】が相当手加減されていたことや、生来の頑丈さもあり、すっかり回復したリィエルが感情の起伏が乏しい表情を、ほんの少ししょんぼりさせていた。

 

「せ、先生・・・その方達は・・・・・・?」

 

ルミアは少し離れた場所で、不安と恐怖の表情をしたまま、アルベルト達を見ている。

 

 

「あー、こいつらは俺と白犬の帝国軍時代の元・同僚だ。今のノラとタクスの同僚でもある。信頼出来る連中だから安心───」

 

「───出来るはずがないね、絶対」

 

 

グレンとノラの解説を聞くルミアの少し遠くでは、セラがリィエルにお説教をしていた。

 

 

「リィエルちゃん、いくら決闘の決着をつけたいからっていきなり切りかかるのは止めよう?」

 

「どうして?決着は早めにつけた方が絶対にいいはず」

 

「それは任務の時の話であって、こういう時は切りかかっちゃいけないんだよ」

 

「・・・そうなの?」

 

「そう、だから切りかかっちゃ駄目」

 

「わかった。次からは挨拶してから切りかかる」

 

「そういうことじゃないんだけどなぁ・・・・・・」

 

 

・・・若干お説教の効果が無いような気もするが。

 

 

「・・・話の続き、いいか?事態はとても深刻なんだがな」

 

「す、すまん。頼む」

 

アルベルトの態度は久方ぶりに再会した仲間に向けるものとしては、どこか冷ややかだ。

 

その後のアルベルト話を要約すると、以下の通りになる。

 

・王室親衛隊はルミアの始末を独断で行っている。

 

・陛下は貴賓室にいるが、親衛隊が周りにおり突破は至難。

 

・元執行官ナンバー21『世界』のセリカは陛下の傍らにいるが、行動の素振り無し。

 

それらに加え、先程グレン達が気づいた解決の鍵を元に作戦を考えていると、

 

「もういい。考えても仕方ないことはある」

 

突然リィエルが間に割ってきた。

 

「いや、お前はもうちょっと考えような?」

 

「だから私は状況を打破する作戦を考えた。グレンにセラ、ノラがいるならもっと高度な作戦が可能」

 

「ほう?言ってみろ」

 

「まず、私が正面から敵に突っ込む。次にグレンが敵に正面から突っ込む。同じようにアルベルト、セラ、ノラの順で突っ込む・・・・・・どう?」

 

「おい脳筋、それ作戦じゃねーから。ただお前が得意な突貫を全員でしてどうすんだよ」

 

「痛い」

 

ノラはリィエルの頭を鷲掴みにし、思いっきり力を込める。

 

「お前たちが居なくなった後の俺の苦労、少しは分かったか?」

 

「「うん、ごめん(なさい)。本当に」」

 

アルベルトの言葉には、どこか確実に棘があった。

そしてリィエルにお仕置きをしたノラが口を開いた。

 

「皆、作戦が出来た。これから言うからそれに従ってくれ」

 

「お前ってほんと頭の回転速いよなぁ・・・」

 

「で?その内容は何だ。早く教えろ」

 

「分かった分かった、そんじゃまずは────」

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・遅いなぁ」

 

熱気と観客の盛り上がりの中、システィーナは不安げに呟いた。

午後の部が始まってかなりの時間が経っているのにも関わらず、ルミアとノラ、グレン、セラが帰って来ていないからだ。

現在の二組の順位は四位。

ここで地力の差が出始めている。

一位を狙うにはかなり厳しい状況だ。

 

段々と二組の生徒達の士気も下がり、不味い状況だ。

タクスがそれを見てどうしようかと思っていると、不意に金属の共鳴音がポケットから響いた。

 

「誰?セリカか?それとも────」

 

『俺だ、タクス。ちょっとメンドイ事態に巻き込まれているんだよ。だから手短かに話すぞ』

 

「───ノラか。で、その内容って何?」

 

なんとなく状況を察し、声色が真剣身を帯びる。

 

『ルミアが狙われている。どうにか女王陛下に近づくために、何としてでも二組を勝たせろ。そうすれば上手くいく』

 

「大雑把な内容だなぁ、りょーかい。んじゃ切るぞ」

 

そう言ってタクスは通信を切った。

自分の席であるシスティーナの隣に戻って来た後、システィーナが話しかける。

 

「ねぇタクス、先生達はどこにいるか知らない?」

 

「なんか野暮用があるってさっき通信がきたぞ」

 

「まったく・・・こういう時に野暮用だなんて・・・」

 

システィーナが愚痴を零していると、背後から覚えのある気配がし、二人は振り返った。

 

「やっと帰って来たの!?遅いですよ先せ────って、あれ?」

 

四人が帰って来たのかと思ったが、そこにいたのは見知らぬ男女だった。

長髪に鷹のように鋭い目つきの青年。

帝国では珍しい青髪で、感情と表情が死滅したような少女。

システィーナはどこか違和感を拭いきれなかったが、タクスはそんなことを気にも止めず話しかける。

 

「あれ、なんでアルベルトとリィエルがいるんだ?」

 

「えっ?タクス知り合いなの?」

 

タクスはその問いに頷いてから続ける。

 

「この二人はグレン兄とセラ姉の昔の友人だよ」

 

「そうだ。グレンに魔術競技祭の後、旧友を深めようとこの学院に招待されてな。この通り、正式な入院許可証もある」

 

そう言ってアルベルトが懐から、学院の校章である梟の紋が銀で箔押しされたカードを取り出した。

 

「だが、奴とセラは少々厄介事に取り組んでいるそうだ。そこで、唐突で戸惑うだろうが、グレンとセラに頼まれた。俺が代わりにお前たちの指揮を執る、と───」

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「監督を代われって・・・優勝してくれって、なんで?」

 

システィーナを筆頭に、タクスを除いた二組の生徒全員が、アルベルトの物言いに動揺していると、アルベルトの隣にいた小柄な少女がシスティーナの前に出て、手を取った。

 

「お願い・・・信じて」

 

システィーナは少女の瞳を深く覗き込んだ。

一方のタクスは何か察したような神妙な表情をしている。

システィーナとタクスは、青年と少女を交互にみた後、目配せをして頷いた。

 

「・・・・わかったわ。私たちの監督をお願いするわ、アルベルトさん」

 

そんなシスティーナにクラスの困惑した視線が集まる。

 

「大丈夫よ。この人達は多分信用出来るわ。それに誰が指揮を執ろうが、私たちのやることは変わらないでしょう?」

 

そりゃそうだ、と生徒達が顔を見合わせる。

そしてタクスが続きを言う。

 

 

「それにさぁ、俺達がグレン兄達抜きで負けてみ?グレン兄は絶対、『ぎゃははは!お前らって俺がいないと全っ然ダメダメなんだなぁ~~!ゴメンねぇ、途中でボクが抜けちゃって~~!』とか言って爆笑するぞ?」

 

 

むかっ。いらっ。かちんっ。

 

「言いそう・・・・・・」

 

「うざいですわ、とてつもなくうざいですわ・・・・・・」

 

「あのバカ講師にそんなこと言われるのだけは断じて我慢ならないな・・・・・・」

 

「ああ、もう、くそっ!考えただけで腹立つ!わかったよ、やってやるよ!」

 

一発でクラスの闘争心に火ではなく炎が付いた。

それほどグレンに馬鹿にされるのが嫌らしい。

 

タクスが必死で笑いを堪えている隣で、システィーナは意味有り気な視線をアルベルトに向けていた。

 

「さて、お手並み拝見させて貰おうかしら?ア ル ベ ル ト さん?」

 

挑発気味のシスティーナの物言いに青年はしかめ面で頭を掻いた。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

ノラが考えた作戦というのは、以下の通りだ。

 

・ルミアは異能者なので、絶対にそれは知られてはならない。

 

・その条件の下、女王陛下に近づくには、まず二組が優勝する必要がある。

 

・優勝すれば、女王陛下が一人で表彰台に立ち、担当講師が勲章を賜る。

 

・その時は親衛隊の連中も徹底的なマークを外さざるを得ない。

 

「タクスにさっき連絡して、士気を上げるように伝えといた。そこで確実に女王陛下に近づくために、グレン兄とルミア、アルベルトとリィエルが【セルフ・イリュージョン】ですり替わる。俺とセラ姉は──────」

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

そこから二組は息を吹き返し、リンが『変身』の競技で、アルフ、ビックス、シーサーの三人が『グランツィア』で一位を取り、他の生徒も『使い魔操作』、『探査&解錠』で結果を出し、三位にまで上り詰めた。

 

そして、最後の競技である『決闘戦』が始まろうとしていた。

 

「ねぇ、タクス」

 

タクスがうとうとしていた所にシスティーナが声を掛けた。

どこか不安げな彼女に、タクスは眠たげに目を擦りながら返す。

 

「んぁ、何?」

 

「あの・・・私ちょっと改変魔術を使いたいんだけど、何かいい案とかない?」

 

「うーん・・・そうだな・・・・・・」

 

少し考える仕草をした後、タクスは口を開いた。

 

「システィーナ、お前は一番風系魔術の扱いに長けている。『魔術戦』で使うなら攻撃特化より防御特化に改変して、お前の今の技量を考えると三節詠唱が一番安定するな」

 

 

そうつらつらと分析し最適な選択をするタクスに、システィーナは目を丸くする。

 

「ベースにする魔術は【ゲイル・ブロウ】でいいだろ。威力は・・・・・・そうだな、前のゴーレムを足止め出来るぐらいにすれば強力だ。後はシスティーナの技量次第でどうとでもなる」

 

「うーん、わかったわ。じゃあ目の前にゴーレムがいると思って改変すればいいのかしら?」

 

「その通り。お前って魔術の腕前はピカイチだしな・・・・・・お、そろそろだな。じゃあ、頑張ってこいよ!」

 

「勿論!任せといて!」

 

そうハイタッチをしながら笑顔で会話する二人。

それを見ている二組の男子は嫉妬と怒りの視線を、女子は暖かい視線をそれぞれ送っていたのだが、二人は知る由も無い。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

『決闘戦』は三人一組でチームを組み、一人ずつ出て闘う決闘方式の競技だ。

二組は順調に駒を進め、遂に一組との決勝戦に入った。

 

 

先鋒のカッシュは持ち前の運動神経で互角に渡り合ったが、後一歩という所で行動不能にされ惜敗。

 

続く中堅のギィブルは時間が経つに連れて徐々に優勢となり、召喚【コール・ファミリア】で呼び出されたアース・エレメンタルで相手を捉え、勝利。

 

そして大将戦、システィーナ対ハインケルの試合となった。

 

大将戦とだけあり、魔術が幾度と無く飛び交う激戦となった。

 

ハインケルが【ショック・ボルト】を撃てば、システィーナが【トライ・バニッシュ】で打ち消す。

システィーナの【ゲイル・ブロウ】をハインケルが【エア・スクリーン】で防御、

ハインケルが【ファイア・ウォール】の炎を【トライ・レジスト】でシスティーナがいなし、

【ディスペル・フォース】をハインケルが発動しようとすれば、システィーナが【フラッシュ・ライト】で詠唱を中断させる。

 

 

 

 

そんな魔術の応酬が続き、遂に終わりが訪れた。

先の事件で、命のやり取りをする本物の魔術戦を経験したシスティーナに一日(いちじつ)の長があったらしい。

 

互いに手の内の呪文を尽くし、魔力が底を尽きかけた時。

システィーナはタクスからのアドバイスを参考に、改変を高速で行った。

 

(敵を前に一歩も引かなかったルミアみたいな強さを・・・グレン先生やセラ先生、ノラやタクスみたいな強さを・・・)

 

『焦らず、自分のペースで。そうすりゃあ、システィーナの技量は絶対だ。自分を信じろ』

 

(今度は私が───皆を助けられるように!)

 

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》────ッ!」

 

その瞬間、呪文が完成。

システィーナの両手から、爆発的な突風が広範囲に吹き荒れる指向性の嵐となって、ハインケルに襲いかかった。

 

名付けるならば、黒魔()【ストーム・ウォール】。

 

 

「な、何だ!?この呪文は─────!?」

 

まったく見覚え無い魔術に反応が遅れ、辛うじて【エア・スクリーン】を張ったが、広範囲を埋め尽くす風の壁に動きを封じられ─────その一瞬の焦りを、システィーナは見逃さなかった。

 

 

「そこッ!《大いなる風よ》────!」

 

駄目押しとばかりに放った【ゲイル・ブロウ】は、【ストーム・ウォール】の威力が上乗せされ、【エア・スクリーン】の守りを打ち破り──────

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁ────!?」

 

ハインケルを場外へと弾き飛ばした。

 

 

 

『き、決まったあぁぁぁぁぁ!?場外、場外だぁぁぁぁぁ!?なんというどんでん返し!二組が一組を下し、見事優勝だぁぁぁぁぁ────!?』

 

会場は総立ちで、溢れんばかりの拍手と大歓声を送っていた。

 

優勝への立役者であるシスティーナは、友人達に胴上げをされていた。

ふと見ると、少し離れた場所でタクスがいたずらっ子が浮かべるような笑みと共にサムズアップしていた。

 

システィーナはそれに、花のような笑顔で返した。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

そして、魔術競技祭閉会式。

式は着々と進んでいき、女王陛下が勲章を賜るときに、会場がざわめいた。

 

生徒達の間を縫って出てきたのはグレンではなく、アリシアの知る人物だった。

 

「・・・あら?アルベルトとリィエル・・・・・・?」

 

「・・・・・・来たか」

 

戸惑うアリシアをよそに、セリカがぽつりとそんなことを零す。

 

「なぁ、オッサン」

 

厳めしい面構えのアルベルトが突然、アリシアの傍らにいる親衛隊隊長、ゼーロスに、似合わない砕け口調で言い放った。

 

「いい加減、馬鹿騒ぎも終いにしようぜ?」

 

そして、アルベルトらしき男がぼそりと呪文を唱えると、男女の周囲がグニャリと歪み────

 

 

───グレンとルミアが突然現れた。




多分次回で二巻が終わります。

夏休み中にいけるとこまで進めたいなぁ~~。
もう一つの方も平行しているので大変ですが。


ではまた


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事件解決とその後

どうも、影龍 零です。

前回言った通り、二巻は今回で終わりです。

これを書いている時、文豪ストレイドックスの黒の時代を連想していました。
見た人や知っている人は多分わかると思います。


ではどうぞ


「ば、馬鹿な!?貴様等は今、街中にいるはず────」

 

「【セルフ・イリュージョン】で俺の仲間とすり替わったんだよ。こんな簡単な手に引っかかるなんて、部下の再教育した方がいいんじゃねーの?」

 

「くっ!親衛隊!賊共を早く捕らえろ!」

 

親衛隊隊長であるゼーロスがそう叫ぶと、我先にと親衛隊が殺到してくる。

 

「───《すっこんでろ》」

 

そうセリカが言った瞬間、無数の光がドーム状になり、親衛隊を次々と弾き飛ばす。

締め出された親衛隊はドンドンとドームを叩きながら何かを言っているが、グレン達の方には届かない。

どうやら音も遮断する断絶結界らしい。

グレンがセリカを見ると、セリカはニヤリと笑い左手を突き出した。

そこには光で構築された五芒星法陣が浮かび、鈴鳴りのような音を出しながら駆動している───

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

(やっぱり・・・・・・)

 

(さっすがノラだな~)

 

 

周囲の誰もが目の前で繰り広げられている光景に困惑と混乱が隠せない中、タクスとシスティーナはこの展開を予測していたようだった。

 

黒魔【セルフ・イリュージョン】は変身したように見せかける幻影を見せる魔術。

それによって声と姿を変え接触してきたグレンとルミアが頑なに正体を隠して接してきたことで、ルミアの素性を知るシスティーナとノラから作戦を聞いたタクスは異常事態が起きていると容易に想像出来た。

 

(それに・・・・私があの子の手を間違える筈が無い・・・・・・)

 

リィエルに変身していたルミアがシスティーナの手を握った瞬間、彼女はその想像に確信を得たのだ。

そして、彼女は『助けて』でもなく、『関わるな』でもなく、ただ『信じて』と言ったのだ。

ならば、『信じる』。

それが彼女の親友を自負する自分の友情の形だった。

しかし、ここである一つの疑問が新たに浮上する。

 

 

(そういえば、セラ先生とノラはどこに行ったんだろう・・・・・・?)

 

そう、どこを見てもセラとノラの姿が見当たらないのだ。

彼らは髪色が特徴的なので、ちょっと見渡せばすぐに気づく。

 

タクスの方を見ると、意味有りげな笑みを浮かべていた。

システィーナはそれに疑問を隠せなかったが、それをさて置いて、結界の向こう側にいる二人を遠巻きに眺めていた。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「セリカ殿・・・・貴様、この期に及んで裏切るつもりか!?」

 

ゼーロスが結界を忌々しそうに見ながらセリカに吠えかかる。

当のセリカは飄々とした態度で沈黙を貫いている。

 

「くそっ・・・なんてことだ・・・・・・」

 

ゼーロスは憤怒と焦燥をない交ぜにしながら歯噛みしていたが、すぐにその表情が変わった。

ゼーロスの後ろには、親衛隊の装備を纏った部下が二人、結界の中にいたのだ。

しかし、グレンとルミアの表情には一切の変化が無い、いや、グレンは何かを確信したような笑みだった。

 

 

「よしっ!早くその賊共を討ち取れ!そうしなければ陛下が──────」

 

 

ゼーロスは後ろを振り向かずに二人の兵士に指示を飛ばし、自らも剣を抜こうとしたが、すぐにそれが叶わなくなった。

 

二人の兵士の内一人が凄まじい速さで自分に近寄り、自分の首元にトランプのようなカードを突きつけてきたからだ。

 

 

「なっ・・・何をするのだ貴様ッ!?自分のしていることが────」

 

「動くと切るぞ?」

 

その言葉通り、少しカードがゼーロスの首に食い込んだ。

もう一人の兵士とはいうと、ゼーロスには目もくれずに女王陛下へと近寄り─────

 

 

 

「陛下、ちょっと失礼しますね?」

 

 

兵士二人の周囲がグニャリと曲がり、ゼーロスにカードを突きつけていた兵士がノラの姿に、アリシアに近づいていた兵士がセラの姿へと変わった。

 

「え・・・?ノラとセラ・・・・・・?」

 

二人の登場に更に困惑するアリシアを横目にセラはアリシアの背後に周り────

 

 

アリシアの首に着いていたネックレスを外した。

 

「な、貴様!何てことを───────────ッ!?」

 

ゼーロスが絶叫する。

 

 

・・・・・・しかし、何も変化らしき変化は起きない。

ノラは頃合いとばかりにゼーロスに突きつけていたカードを放す。

解放されたゼーロスはアリシアの方に駆け寄る。

 

「陛下!御無事ですか!?」

 

「・・・はい、大丈夫ですよ」

 

アリシアは微笑みと共にゼーロスへ返事をする。

 

「私はもう大丈夫。・・・大丈夫ですから。だから・・・もういいんです」

 

呆気にとられるゼーロスをよそに、セラは翠緑のネックレスを見やりながらセリカに問う。

 

 

「条件起動型の呪い(カース)・・・このネックレスは呪殺具だったんですね?」

 

にっと口の端を上げるセリカ。

 

「とある条件が成立すると発動する・・・これは魔術史上で最も使われてきた手。多分だけど、起動条件は『勝手に装備を外す』、『装備してから一定時間経過する』、『呪い(カース)の情報を新しい第三者に開示する』の三つで解呪条件は・・・『ルミアちゃんの殺害』」

 

それをグレンが引き継ぎ、続ける。

 

「つまり、ルミアを狙う何者かが、陛下の命を人質に仕組んだ事件だったということだ。どうだ?当たらずとも遠からずってとこだろ?」

 

呪い(カース)の条件に多少差異があるが・・・ふむ、大方そんなとこだ。ご名答」

 

ようやく言葉を発したセリカが、くっくと含み笑いを浮かべる。

 

「ところでオッサン、まーだ状況飲み込めてないみたいだけど?」

 

グレンのいう通り、ゼーロスは未だ困惑気味だ。

 

「貴様・・・一体、何をした・・・・・・?なぜ、呪い(カース)が発動しなかった・・・・・・?」

 

グレンはその問いに、右手に持った一枚のカードを見せて答えた。

 

「・・・アルカナ・・・・・・?・・・・『愚者』の・・・・・・?」

 

「こいつは俺特製の魔導器。愚者の絵柄に変換した魔術式を読み取ることで、俺は俺を中心とした一定範囲の魔術起動を完全封殺出来る」

 

「魔術の起動を封殺・・・・・・?」

 

そこでゼーロスは何かに気づいたように目を見開き、真っ直ぐグレンを見つめる。

 

「う、噂で聞いたことがある・・・宮廷魔導士団の・・・まさか、貴公があの・・・・・」

 

「さぁな?俺には何のことかサッパリ?」

 

グレンはゼーロスに背を向け、困ったように頭をかく。

そこには結界から締め出された観客や生徒、騎士達が困惑からどよめいている姿があった。

 

「さぁて、どう説明すっかね・・・収集つくんか?これ」

 

事後処理の方法に、グレンは頭を悩ませられることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻の南地区裏道にて、ひっそりと人影が歩いていた。

 

「まさか、失敗するとは思いませんでしたわ・・・・・・」

 

その言葉とは裏腹にどこか楽しそうな口調。

 

「せっかく女王陛下を人質にセリカ=アルフォネアという規格外の動きを封じたというのに・・・流石は第7階梯(セプテンデ)、なかなかの狸ですわね。それにグレン=レーダスにセラ=シルヴァース・・・まったく、とんだジョーカーがいたものですわ」

 

くつくつ楽しそうに笑いながら歩いていた女が、ふと足を止める。

 

「なるほど・・・どうやら帝国もボンクラばかりでは無いようですね・・・・・・」

 

いつの間にか、女の前方に二人、後方に二人、人影が現れていた。

 

「・・・俺達に与えられた任務は二つ。一つは最近、過激な動向が目立つ王室親衛隊の監視。そしてもう一つは・・・女王陛下側近の内偵調査」

 

前方の二人の片割れが淡々と告げる。

 

「最近、俺達の行動がどうも読まれているように思えた。まさか一番可能性が低いと思われていた貴女だったとはな。女王陛下付き侍女長兼秘書官・・・いや、天の智恵研究会の外道魔術師、エレノア=シャーレット」

 

その瞬間、辺りが更に暗くなる。

 

「おかしいと思ったわ、何せあまりにも(・・・・・)経歴が(・・・)綺麗すぎる(・・・・・・)んだもの。

アルベルトさんと遠見の魔術で見たら、親衛隊が暴走したのは貴女がゼーロスとセリカに接触してからだったし。あまりにも辻褄が合う」

 

後方の二人の内、所々紅色の髪が混じった青髪の少女が続け、エレノアを睨みつける。

 

「そんなに睨まないでくださいません?執行官ナンバー8、『剛毅』のエルシア=インフォードさん?」

 

そう言われた少女───エルシアは尚も睨み続ける。

アルベルトはエルシアを横目に見ながらエレノアに問いかける。

 

「答えろ、天の智恵研究会。貴様等の目的は一体、何だ?ルミアが本当にエルミアナ王女だと言うなら・・・・以前の学院襲撃事件、そして今回の騒動・・・・・常に事件の中心に王女がいることになる。しかも以前は誘拐、今回は殺害と一貫性が無い。一体、何を企んでいる?」

 

「・・・・・・『禁忌教典(アカシックレコード)』、そのための王女とでも言っておきましょうか」

 

「なんだその厨二臭い名前?考えた奴の気が知れるね」

 

陶酔したように語るエレノアに水を差すようなセリフを吐くタクス。

彼は何となく事件の裏を読み、会場をこっそりと抜け出して三人と合流したのだ。

 

「あらあら・・・これは『叛逆者』のタクス様ではありませんの。貴方までいるとは流石に分が悪いですわね・・・・・・ここは一つ、逃げの一手を打たせて貰いますわ」

 

するとアルベルトの隣に佇んでいたリィエルが、もう我慢ならんとばかりに大剣を振りかぶる。

 

「逃がさない、斬る!」

 

凄まじい速さでエレノアに突貫し、背後からエリシアも同様に突貫する。

アルベルトとタクスは、何らかの呪文を唱え始めた。

エレノアも舞うような身振りで呪文を唱え──────

 

人知れずの裏道で、魔術の衝突が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時が流れ、外はもう太陽が沈みかけ、空は暗くなっている。

そんなフェジテの道をノラ、ルミアの二人が歩いていた。

グレンがハーレイとの賭けに勝ち、加えて特別賞与を貰ったことで調子に乗り、打ち上げをやろうということになったため、その店に向かっているのだ。

 

「いや~、グレン兄も太っ腹になったもんだな」

 

「あはは、それに事件も丸く収まったし良かったね」

 

事件の結果はゼーロスの懲戒処分のみとなり、それも陛下を守るためだったため情状酌量の余地があるとのこと。

また、黒幕が侍女長兼秘書官のエレノアだったことがグレン、セラ、ノラに伝えられた。

アルベルト、リィエル、エリシア、タクスが追ったのだが逃げられてしまったとのこと。

グレンとセラも緊急の職員会議に駆り出されたりとなかなかに慌ただしく時間が過ぎていった。

 

「そういえばルミア、あの後陛下と話したのか?」

 

思い出したようにノラが言う。

 

 

「・・・・うん、お母さん(・・・・)といろんなことが話せたよ。これも全部、先生やノラ君達のお陰だよ」

 

「そうかい?俺らは単に仕事をやっただけなんだけど」

 

「そんなこと無いよ。ノラ君達はあの時も私を助けてくれた────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃の私には、母親が私の世界の全てだった。

だから母親に捨てられた私は、世界の全てに嫌われた、そんな風にさえ思った。

 

「お母さん・・・やだよ・・・いい子にする・・・・いい子にするから・・・・・だから・・・捨てないで・・・・・・嫌いにならないで・・・・・・・」

 

恐る恐る周囲を見渡し、誰か私の味方になってくれる人を探す。

だけど私の目に飛び込んできたのは─────

 

 

「ひぃ──ッ!?」

 

 

死体だった。

血まみれになった、私を攫った悪い魔法使いの人達の死体だった。

きっと自分もこの人達みたいに殺される、世界にそう言われてるようで怖かった。

 

「ぁ、あ、あ、あぁぁぁ───!?」

 

怖い、怖い、怖い。

感情が振り切れる。

母親に捨てられたことも、攫われた恐怖も、死体の気持ち悪さも。

 

「もう嫌ッ!なんで、どうして私ばっかりこんな目に!?」

 

私は一人で泣き叫んでいた。

すると突然、私の身体が誰かに持ち上げられた。

そしてその人は私を抱えたまま、草むらのような場所に身を隠した。

紫色の髪、蒼の瞳、紺色の外套、そんな格好の人が暗く冷え切った目で私を見ていた。

 

その人は私を攫った悪い魔法使い達を殺した四人の内の一人だった。

その人の周りにいた悪い魔法使い達は皆、次々と足の力が抜けたように倒れ、一方的に怖い魔法で殺されていった。

 

そのときに私は悟った、ああ、次は私が殺される番なんだ。

 

 

「い、いやぁぁああああッ!?やだ、助けて!?誰か助けて!?」

 

「ちょっとストップ、俺らは味方だ。そんな大声だすな」

 

「嘘ッ!私に味方なんているわけないもん!この世界で私に味方してくれる人なんているわけない!お母さんだって、お母さんだって私を見捨てたのに───むぐッ!?」

 

その人は咄嗟に私の口を塞ぎ、茂みの中に身を伏せ、私も一緒に伏せられた。

私はジタバタともがいたけど、上から押さえつけられていたのでビクともしない。

 

「頼むから騒がないでくれ。まだ敵がいるかもしれないから、グレン兄達がくるまで待ってくれ」

 

真摯に見つめてくるその人に、私は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

でもまだ恐怖が消えたわけではなく、震えていた。

それを察知したのか、その人は口を開いた。

 

 

 

 

「怖いのは十分わかった、だけどもう少しだけ我慢してくれ。そうしてくれたら、俺はお前の味方になってやる。約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時の約束で、あの時の私は救われたんだ」

 

「・・・・・俺は単に任務の支障を考えただけなんだけど」

 

「ふふっ、ズルいなぁノラ君は」

 

「生憎、ずる賢さには自信があるもんでね」

 

ノラのそんな言葉にも、ルミアはただ笑って返す。

そうこうしている内に打ち上げをしている店に着いた。

 

「おーおー、賑やかなことだなぁ」

 

ノラがクラスメートの張っちゃ気振りに感心していると、グレンが肩を落としているのが見えた。

それをセラが慰めている。

ノラは近くに転がっていたボトルを拾い、眺める。

どうやら、リュ=サフィーレという貴族御用達のとても高いワインを誰かが飲んでしまったらしい。

本数を数えていると、タクスが近づいてきた。

 

「あー、ノラ。このワインの合計代金がグレン兄の給料と特別賞与をパーにするレベルだから落ち込んでるんだよ」

 

「・・・誰かが葡萄ジュースと思って呑んだのか?」

 

「そうらし─────」

 

「先生~~ッ!」

 

「うぉ!?」

 

誰かがグレンに抱きついたらしい。

ノラとタクスが視線を向けると、顔が赤くなりふらついた足取りのシスティーナがグレンに抱きついていた。

 

「わらし~、今日ぉ~、先生ぇのこと見直しちゃった~ッ」

 

「おい!止めろ白猫!つーか酒臭い!犯人お前か!?」

 

「先生が~、思った以上にぃ~、わらしたちのこと見てくれててぇ~、またルミアのことぉ~、助けてくれたみたいでぇ~」

 

だいぶ出来上がっている。

 

「・・・・・・ねぇ?グレン君?」

 

「ちょ、ちょっと助けて白犬・・・・・・」

 

助けを求めてグレンがセラを見ると、セラは一見惚れてしまうような、しかしこめかみに青筋を立て目がまったく笑っていない笑顔を浮かべていた。

 

「あ、あの・・・セラさん?ちょっと助けて頂いても・・・・・・」

 

「アトデオセッキョウダカラネ?ニゲチャダメダヨ?」

 

「ひぃぃぃぃ──────ッ!?」

 

 

セラの圧倒的な威圧感の前に、グレンはすっかり縮こまってしまった。

 

そしてシスティーナはグレンの元を離れ─────

 

 

「タクス~~~ッ!」

 

ノラの近くにいたタクスに抱きついてきた。

 

「えっ!?ちょ、システィーナ!?」

 

「むぅぅ~~ッ!システィーナじゃやだ!システィって呼んで!」

 

タクスが驚いていると、システィーナが駄々をこね始めた。

 

「・・・はい?何故いきなりそんなことを?」

 

「うぅぅ~~・・・タクスはわらしのことシスティって呼んでくれないの?」

 

ウルウルと涙目+上目遣いで見てくるシスティーナにタクスは「うっ・・・」と言葉を詰まらせる。

ノラは知らん顔で料理を食べ始め、男子達は嫉妬と殺意の視線を籠めていた。

 

「・・・・・あ~、わかったよ・・・・・・システィ?」

 

「うふふ~~ッ、タクスがシスティって呼んでくれた~~~!」

 

システィーナは顔をスリスリとタクスにこすりつける。

タクスは諦めたように溜め息を着いた。

 

「タクスのお陰でぇ~~・・・わらし頑張れたんだよぉ~~?・・・わらしって偉いぃ~?」

 

「あ~ハイハイ、偉いですよ偉い」

 

タクスは適当に返事をすることにした。

 

「うふふ!私偉い!タクスにぃ・・・・・私をぉ~~・・・・娶る権利をあげるわぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・はい?今、なんと?」

 

「もう~・・・恥ずかしいこと言わせないでよぉ~~、もう!バカ!あははははははははッ!」

 

ドン、とタクスを突き飛ばそうとして、その勢いで逆にシスティーナが体勢を崩す。

 

「おっと危ない」

 

タクスは咄嗟にシスティーナの手を握り、自分の方に引き寄せた。

周りの女子からは黄色い声があがり、男子からはより一層嫉妬と殺意が向けられた。

システィーナは引き寄せられた勢いのまま再度タクスに抱きつき、気持ちよさそうにしている。

 

(システィがマジの猫に見える・・・・・)

 

タクスにはシスティーナに猫耳と尻尾が生えている幻覚さえ見えた。

このまま放置しても仕方ないので、タクスはルミアと相談し、彼女の面倒を見ることにした。

そのときルミアが暖かい目で二人を見ていたが、タクスは気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらはグレンとセラ。

現在グレンはやけ酒を呑んでいる。

 

「クッソ・・・白猫のお陰で俺の今日の成果が全部パーだぜチクショウ・・・・・・」

 

「まぁまぁグレン君、今回は私が半分払ってあげるから。元気だして?」

 

「くッ・・・セラ、俺には今お前が天使に見えるぜ・・・・・・!」

 

「お、大げさだなぁ~~」

 

そう言いつつも、セラはまんざらでも無い様子だ。

セラはグレンの隣に座り、グレンのやけ酒に付き合うことにした。

 

「どう?そのお酒美味しい?」

 

「・・・不味い」

 

ふてくされたグレンの様子にセラは苦笑いで応じる。

グレンの空けている酒は言うほど不味くは無い一品なのだが、気分的な問題なのだろう。

 

「ちょっと私も飲んでいい?味に興味あるんだ」

 

「・・・いいぞ、ほれ」

 

グレンは店のマスターが追加でだしてくれた空のグラスに酒を注ぎ、セラへと渡す。

 

「・・・懐かしいね。宮廷魔導士時代に仕事終わり、よくこうやって皆で飲んでいたよね」

 

「・・・ああ、そうだな。あん時は俺もまだ酒に慣れてなくて大変だったぜ」

 

グラスを持ちながら昔の思い出に浸る二人。

ゆったりとした時間が二人の間に流れていく。

 

「ねぇグレン君、乾杯でもしない?」

 

「いいぜ。それじゃあ───」

 

 

 

「魔術競技祭優勝と、」

 

「講師への正式着任に、」

 

 

 

「「乾杯」」

 

 

二人はチリン、と静かにグラスを打ち合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノラとルミアは二人でカウンターに座り、ノラはコーヒー、ルミアは紅茶を飲んでいた。

 

「今日はありがとう、ノラ君」

 

「何が?俺特に感謝されるようなことした覚え無いぞ?」

 

すっとぼけたように言うノラだが、ルミアは笑みを崩さない。

ノラはカップを持ち、コーヒーを飲む。

 

 

「あの時は女王陛下、お前の母親に泣いて頼まれたんだよ────」

 

 

 

 

 

───『娘を助けてください。私がこんなことを言える立場ではないのはわかっています。貴方達にこんな危険な役を押しつけるではないこともわかっています。それでも、娘を助けてください』────

 

 

 

「俺らはそれを遂行しただけ。ただそれだけだ」

 

「それでも」

 

ルミアは思い出したように言うノラの横顔を見つめて、言った。

 

「あの時の約束で、私は救われた。そして今回も───」

 

ノラは何も返さない。

 

 

 

やがて、ルミアはそっと身を寄せ、ノラの肩に自分の頭を乗せた。

 

 

「どうした、ルミア?」

 

カップを置き、寄りかかってくるルミアをノラは不思議そうに見つめる。

 

「今夜だけ」

 

ぽつり、と。

静かに目を閉じたルミアが、囁くように言った。

 

「今夜だけ・・・こうして、甘えさせて・・・・ノラ君・・・・・・」

 

「・・・・・・了解」

 

 

揺れるランプの炎が二人に流れる時間を、より一層安らかなものにしていた。

 

 

こうして、静かな夜は、緩やかにふけていった─────




後半は甘い感じにしようと努力してみたところ、結果的に長くなりました。
次回から三巻、四巻に入ります。

因みに今回出てきたエリシア=インフォードはオリキャラではありません。
誰なのか、三巻四巻で徐々にわかると思います。
原作読んでいる方はなんとなく察しがつくと思いますが。


ではまた


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幕間その1
授業参観 前編


どうも、影龍 零です。


本当に申し訳ありません!(土下座)
リアルが思った以上に忙しくなってしまい、全然書けませんでした・・・・・・

もうちょっと時間確保出来るように頑張ります



ではどうぞ


放課後のアルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の教室で。

 

「────てなわけで、明日の午後は以前から通達していた通り、お前らの親御さん達を招いての授業参観だ」

 

グレンのやる気ない宣言に、クラス中の生徒(主に男子)からうぇぇえええっ、と声が上がった。

 

「そう嫌そうな顔すんなよ、俺だって嫌なんだから・・・・・・あ、先に言っとくが、俺、明日熱出して休むかも・・・・・・今朝からなんか体調がどうにもおかしくてなぁ・・・・・・」

 

「あ、右に同じく」

 

「以下同文」

 

「き、汚ぇーーーーッ!」

 

「なんて教師だ・・・・・・」

 

「つかノラとタクスもどさくさに紛れて休もうとすんじゃねぇよ!」

 

もう放課後のホームルームの雰囲気はぶち壊され、授業参観が嫌な生徒の不満ぶちまけ大会と化していた。

 

 

「はぁ~~」

 

「どうしたの?システィ。具合でも悪い?」

 

「もしそうなら保健室までついていくよ?」

 

ため息をつくシスティーナに、ルミアとセラが心配そうに声をかける。

 

「ううん、そうじゃなくて・・・セラ先生も子供扱いしないでいいですから・・・・」

 

「あはは・・・ごめんね?」

 

セラが苦笑と共に謝ってくる。

 

「それで、どうしたの?」

 

「いや、私とルミアには関係無い話だなぁって・・・・・授業参観」

 

少し寂しげな笑みを浮かべながらセラに応じる。

 

「私たちの両親って魔導省の高級官僚なんです。仕事の関係で帝都とフェジテを行ったり来たりで・・・・最近、家にもほとんどいないんですよ」

 

「お義父様とお義母様はとても忙しいから・・・・」

 

ルミアは血の繋がりも無い赤の他人だが、諸事情でシスティーナと同じ家に住み、家族同然の扱いを受けている。

 

「明日も当然のように留守だし・・・だから関係のない話だなぁって」

 

ため息を一つ零す。

 

「やっぱり寂しい?」

 

「うーん、どうなんだろ・・・・・」

 

システィーナはそう言って寂しげに笑う。

 

「確かにお父様とお母様が学院に来るのは気恥ずかしいし・・・・・でも、私達が普段何をやっているのか、全く見てもらえないっていうのも・・・・・複雑な気分」

 

「あはは、そうかも」

 

ルミアもつられて苦笑い。

 

「うーん、私には何も出来ないからなぁ・・・・・・」

 

セラは二人の話を聞いて思案顔だ。

そして何か考えでたのか、二人に向き直る。

 

「でも、自分の娘のことなんだから、無理をしてでも駆けつけてくれるかもしれないよ?」

 

「いや、それは流石に・・・・・・無いと言い切れない自分がいる」

 

「え?」

 

システィーナのそんな言葉にセラは思わず聞き返す。

 

「でもお父様は人間としても魔術師としても厳格な人で・・・」

 

システィーナとルミアが視線を黒板前の壇上に向け、つられてセラも視線を向ける。

 

「大体、なんで俺がお前らに授業やってるところを親御さん達に見せなきゃならねーんだよ!?それじゃまるで俺が教師みたいじゃねーか!?」

 

「「「教師だろ!?」」」

 

そこではグレンが、女子生徒のドン引き視線を集めながら、男子生徒相手に喧々囂々騒いでいる。

次に三人は右隣の席を見る。

そこではノラとタクスが絶賛熟睡中だった。

一度男子生徒の一人が二人を冗談混じりに無理やり起こしたのだが、その際の二人の凄まじい負のオーラと睨みですっかり萎縮し、それを見ていた生徒達は『あの二人は絶対起こしちゃいけない』という暗黙のルールを即座に立てた。

なので起こしたくても起こすことが出来ない。

 

「もし先生とノラとタクスを見たら・・・・・・きっとクビにしろ、退学させろって大騒ぎですよ?」

 

「うぅ・・・そうかも・・・・・・」

 

義理の父の人柄を思い浮かべながらルミアも同意する。

 

「フィーベル家は元々ここ一帯の地主で、多くの土地を魔術学院の敷地として貸し出しているから・・・・学院内においては相当の発言権があるわけで・・・お父様がその気になれば・・・・・」

 

「「本当に先生(グレン君)達をやめさせられちゃうね・・・・・・」」

 

ルミアとセラが困ったような表情で呻く。

 

「でしょう?だからお父様とお母様が授業参観に来れないのは、ある意味良かったのよ」

 

自身を納得させるように、システィーナは言った。

 

「ふふ、結構心配性なんだね、システィーナちゃんは」

 

「なッ・・・・・・!?」

 

セラの意味ありげな笑みにシスティーナは頬を赤らめる。

 

「べ、別に私はグレン先生達がクビになっても構わないけど・・・・その・・・セラ先生もルミアも先生達の事気に入っているから嫌だろうし・・・・・私もタクスと論文について話すのは嫌いじゃないし・・・・・・」

 

しどろもどろになりつつ、誰かに言うわけでもないのに言い募るシスティーナにセラとルミアは暖かい視線と笑顔を向ける。

 

「そろそろ収拾つかなくなりそうだし、止めに入ろっか」

 

「そ、そうですね!」

 

セラが笑いながら出してくれた助け船に、システィーナは颯爽と乗り込む。

セラはノラとタクスの方に近づき、システィーナはいつものように席を立ち、壇上で大騒ぎしているグレンの方へと向き直り─────

 

 

「いい加減にしてください、先生!────」

 

このクラスでは最早お馴染みとなった説教を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ホームルームを終え、フィーベル家の敷地へと入っていくシスティーナとルミア。

そして玄関の扉を開いて、エントランスホールへ。

 

「ただいまー」

 

普段は誰も返す者がいない形式上の挨拶。

そのはずなのだが─────

 

 

 

「あら、おかえりなさい。二人とも」

 

 

 

その日のエントランスホールには、亜麻色の髪の淑女が佇んでいた。

 

「・・・・・えっ!?お、お母様!?」

 

システィーナほどの娘がいるとはとても思えないくらい若々しい美貌の母───フィリアナが、優しい笑みを浮かべてシスティーナ達を出迎えていた。

 

「お義母様、どうしてここに?この時期は仕事が忙しくて、帝都に出張しっぱなしのはずじゃ・・・・・?」

 

システィーナ同様、ルミアも目を丸くしてフィリアナを見る。

 

「ふふ、それはね────」

 

と、その時。

 

 

 

「ぉおおおおおおお──────ッ!」

 

 

ドタタタ─────ッ!と奥の階段を駆け下りてくる者がいた。

 

「二人共、やっと帰ったかぁああああああ────ッ!」

 

 

その何者か──齢四十弱の銀髪の紳士が、鬼気迫る表情で猛然と駆け寄ってきて────

 

 

「お父さん、お前たちにとっても会いたかったぞぉおおおおおおお────ッ!」

 

 

 

「きゃ!?」

 

 

両手を広げて飛びかかってきた紳士に、システィーナとルミアは反射的に左右にサッと身を引いて────

 

 

「ぉおわぁああああぁぎゃぁああああああああぁ───────ッ!?」

 

 

紳士が広げた両手を空を抱き、飛んだ勢いで開けっ放しの玄関を飛び抜け、ゴロンゴロンと派手に中庭を転がった後、沈黙した。

 

 

「あらあら、貴方ったら・・・本当に仕方のない人ね」

 

フィリアナは、中庭で尻を天に向けて伸びている紳士───夫であるレナード=フィーベルの姿を見て、柔らかく微笑んだ。

 

そしてシスティーナとルミアの二人を促す。

 

「事情は・・・そうね、夕食のときにでも話しましょうか。ふふっ、今日は私が久しぶりに腕を振るおうかしら?」

 

「う、うん・・・・・」

 

「わ、わかりました、お義母様・・・・・」

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「えぇぇえええーーーーーッ!?」

 

フィーベル家の食堂で一家団欒の一時の中、システィーナの素っ頓狂な叫びが響き渡った。

 

「お父様達が授業参観に来るですって!?確か今月は、ずっと仕事が詰まってて忙しいって・・・・・・」

 

 

「ふふっ、実はね、この人ったら貴女達二人の授業参観に行くために、強引に休暇をとってきちゃったのよ」

 

 

どうやら学院側からの通知が魔導省に届き、娘のことになると親バカになるレナードはいても立ってもいられなくなり、かなり重要な国政機関の仕事を投げ出して帰ってきたらしい。

 

あくまで紳士然と笑うレナード。

 

「いやー、お父さん、明日は張り切ってシスティーナとルミアの雄志を、この目に焼き付けちゃうぞーーッ!」

 

(・・・・・・この国、大丈夫なのかしら?)

 

割と本気でそう思うシスティーナ。

 

「え、えーと、お父様?楽しみにしてくれていたところ、悪いんだけど・・・・・・」

 

こめかみを押さえながら進言するシスティーナ。

 

 

「その・・・・やっぱりお父様もお母様も忙しいでしょう?だから、私達のために時間を割いてもらわなくても・・・・・・」

 

「そうですよ、二人が私達のためにわざわざご足労を煩わせることはないです。私達は大丈夫ですから、どうか二人はお仕事に専念されて・・・・・・」

 

「な───」

 

その瞬間、レナードは奈落の底に突き落とされたかのごとき表情となり────

 

 

 

「どうしようフィリアナぁああああああーーーーッ!?反抗期が、娘達に反抗期が来ちゃったぁああああああーーーーッ!?もう駄目だ!この国は滅びるぅーーーーーッ!?」

 

明日にも世界が滅びるとばかりにレナードが取り乱し始め────

 

 

「ふふ、貴方ったら」

 

いつの間にか、レナードの背後に立ったフィリアナが、赤子を抱きしめるように、錯乱しているレナードの首にその細腕を絡め────

 

 

 

 

こきゃ。かくん。

 

 

 

 

一瞬でレナードを締め落とし、沈黙させた。

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

フィーベル邸では割と見慣れた光景に、あぁ二人共本当に帰ってきたんだなと、強い確信を抱くシスティーナとルミアであった。

 

それから二人はフィリアナからねだるような笑みを向けられ、強く否定出来ずにいた。

しかし脳裏に浮かぶのは、グレンのすっとぼけた顔とセラの微笑む顔、ノラとタクスの寝顔。

セラはともかく、三人がいつもの態度をレナードの前で見せたならば本気でクビと退学にされかねない。

本来ならば、レナードは魔導省きっての切れ者で、自分にも他人にも厳しい人物なのだ。

おおらかなフィリアナとは違い、レナードと三人を合わせるのは絶対に不味い。

 

冗談抜きで、フィーベル家現当主のもつ力は大きい。

 

システィーナが脂汗を流しながら必死に考えていると。

 

 

「ふふ、よかった。これで、やっと噂のグレン先生とセラ先生、ノラ君とタクス君にお会いできるわ」

 

 

今まさに考えていた四人の名前が話題に上がったのを聞いて、システィーナは飛び上がらんとばかりの勢いで立ち上がった。

 

「ごほごほっ!な、なんでお母様が先生達のこと知ってるの!?」

 

「なんでって・・・・いつも貴女達が私達にくれる近況報告の手紙に毎回、お世話になってるグレン先生とセラ先生のことが書かれていたじゃない?」

 

「え、えええーーーーッ!?」

 

「それにシスティの手紙にはタクス君のことが、ルミアの手紙にはノラ君のことがいつも書かれていたわよ?」

 

 

システィーナはそれを聞いて即座に思い出す。

確かにグレンとセラ、ノラとタクスのことを書いた記憶はあるが、毎回書いているとは自分達ですら気づかなかった。

 

 

「ふふっ、システィもルミアも、随分と四人の方々がお気に入りのようね?どんな人なのか、今から会うのがとても楽しみだわ」

 

「はい、お義母様。とってもいい人達ですよ、ね?システィ」

 

「わ、私は別に・・・・その・・・・・・」

 

 

しどろもどろになりながらも、システィーナはなんとか落ち着こうと飲み物を口に含む。

 

 

「ね、二人共。もしかして二人には好きな人がいるの?例えば・・・ノラ君とタクス君とか」

 

 

 

そこにフィリアナが爆弾発言を落とした。

 

 

「ぶーーーーーーーーッ!?げほっ、げほごほっ!?お、お、お母様、一体何を言って────ッ!?」

 

 

「あら?貴女達はもう立派な淑女よ。恋の一つや二つ、経験しても可笑しくないわ」

 

 

咽せながらも同様にしまくるシスティーナとは対照的に、フィリアナは屈託無く笑う。

 

 

「それに恋は少女を美しく成長させるわ。久々に見た貴女達がとても綺麗だったから、もしかしたら・・・なぁんて勘ぐっていたのだけど・・・・・本当はどうなのかしら?」

 

頬杖の上に浮かべる微笑は悪戯猫のようであり、どこか小悪魔的だった。

 

「それは秘密です、お義母様。ご想像にお任せしますね?」

 

ルミアは人差し指を立てて唇を抑え、悪戯っぽくウインクする。

 

「ごごごご誤解ですお母様!?私がタ、タクスに、こ、恋、とか・・・・・・あり得ないですッ!?」

 

システィーナは顔を真っ赤にしながら、手と首をぶんぶんと振って、遮二無二否定する。

 

 

「うーん、本当はどうなのかしら?気になるわぁ・・・・・・」

 

娘二人の愛らしい様子に、フィリアナは楽しそうに破顔して─────

 

 

「・・・・こ、恋・・・・だとぉ・・・・・・ッ!?」

 

 

ようやく復活したレナードが、ぶるぶる震えながら顔を上げた。

 

「ダメダメダメッ!恋愛なんて、お前達には早過ぎますッ!お父さん、そんなの絶対認めませんッ!」

 

「だ、だから違うって言ってるでしょ!?変な勘ぐりは止めて下さい!」

 

「くっそぉ!?私の可愛い娘を誑かしやがってぇぇぇーーーーッ!?許さんッ!そいつらの家はどこだ!?燃やしてや─────」

 

 

「ほら、貴方、落ち着いて」

 

 

 

こきゃ、かくん。

 

 

 

 

すぐさまフィリアナがレナードを一瞬で締め落とす。

 

 

その後、フィリアナとレナード若い頃の話や、レナードが暴走しかけたこともあったが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

次の日、午前中の授業の休み時間にて。

 

システィーナとルミアは中庭に件の四人を呼び出し、昨日のフィーベル邸での出来事を説明していた。

 

 

「何つーか、スゲェ親父さんだな」

 

「子煩悩と言うより親バカ、なのかな?」

 

この二人には気を付けて、とシスティーナから渡されたレナードとフィリアナの写真画を眺めながら、グレン、ノラ、タクスの三人は呆れ顔を隠せずにいた。

セラも苦笑いをせずにはいられない程である。

 

 

「お父様は普段、自分にも他人にも厳しい人なんですけど・・・私達の事になると嘘のように親バカになるというか・・・・・・」

 

「よくお前みたいな真面目一辺倒の堅物が生まれたな?白猫」

 

「こらっ、グレン君もそんな事言わない!」

 

 

セラがグレンを注意するが、システィーナは反論らしい反論も出来ず、溜め息をつく。

 

「とにかくです!今日の午後からの授業参観は本当に気をつけてくださいね!?前にも言いましたけど、この学院におけるフィーベル家の発言力はとても大きいんです!」

 

「下手すりゃグレン兄はクビにされる可能性大だな」

 

「別にそれでも良いんだけどなぁ・・・・・」

 

「えっ?」

 

その言葉で、システィーナはグレンが魔術が大嫌いと言っていたのを思いだした。

この騒動に便乗して学院を去ることだって十分に考えられる。

 

しかし、ここでノラが横槍を差してきた。

 

 

「グレン兄、もし今回の授業参観に便乗してクビになったら、今度こそセリカに消し飛ばされるぞ?」

 

「よーっし!僕全力で頑張っちゃおうかなぁーー!?」

 

グレンは冷や汗を垂らしながら大声で言う。

セラとルミアは苦笑い、タクスとシスティーナは呆れ顔だ。

 

「まぁ、以前の俺ならそれでも嫌だったろうが・・・しゃーねぇ、今日だけ真面目に講師ぶってみるか・・・・・・」

 

続くグレンの言葉により、授業参観での方針が決まった。

 

無論、日頃授業態度がすこぶる悪いノラとタクスも授業参観だけは眠らずに臨むことを確約させられた。

理由は、

 

「嫌な予感がする」

 

というタクスの言葉だ。

こういう時のタクスの予感はかなりの確率で的中する。

そのことをタクス含めた全員が理解しているため、仕方ない様子で確約したのだ。

 

システィーナから気をつけるべきポイントを言われ、少しグレンとシスティーナの間でイザコザがあったが、兎にも角にも授業参観を乗り切る手段が整ったのだった。

 

 





次回後編やります。



デート・ア・ライブ三期が一月から放送とは・・・・七罪は個人的に好きなキャラなのでどんな声になるかとても楽しみです!
転スラも結構面白くてビックリ


ではまた


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授業参観 後編

どうも、影龍 零です。

今年最後の投稿です!

ではどうぞ


そして、授業参観の時間が訪れた。

 

教室には生徒達に加え、保護者達も後ろのスペースに立って待っていた。

グレンとセラを待つ間、生徒達は保護者達と談笑しており、保護者同士で談笑している所もチラホラ。

 

ちなみにレナードとフィリアナも来ており、レナードの紳士然とした雰囲気に保護者も生徒も一目置いていたのだが・・・・・システィーナとルミアの二人を見た瞬間、年甲斐なく大はしゃぎし始めた為、フィリアナに締め落とされ、今は教室の隅でグッタリとしていた。

 

周囲の生徒達からクスクスと生暖かい笑いを貰い、システィーナは恥ずかしくてしょうがなかった。

ノラとタクスは普段なら寝ているのだが、システィーナとルミアの説得に了承して今回は大人しく座って待っていた。

その時である。

 

教室前方の扉が開き、グレンとセラが入ってきて───

 

 

「ようこそ、保護者の皆さん。僕がこのクラスの担当講師、グレン=レーダスです。以後、お見知りおきを」

 

「同じく、副担当講師のセラ=シルヴァースです。本日はよろしくお願いしますね」

 

壇上に立ったグレンとセラの姿に、生徒達は唖然とした。

 

いつもの雑な頭髪は整髪用の香油でしっかりと撫で整えられ、目元には銀縁の丸眼鏡、ローブをかっちりと着こなし、言葉遣いも立ち振る舞いも洗練された───若き賢者のような姿のグレン。

 

南原風に仕立て直された魔導士礼服に羽根飾り、きめ細かな柔肌に朱い顔料で伝統の民族紋様を描いた───異国の美しき精霊姫のような姿のセラ。

 

 

「おお!あの堂々とした若者と綺麗なお嬢さんがこのクラスの・・・・・」

 

「まだ若いのに立派なもんじゃ・・・・・」

 

いかにも知的な好青年と清楚なお嬢様ぶりに、何も知らない保護者達から感嘆の吐息が漏れるが───

 

 

「──ぶふっ!?」

 

「ぷっ・・・せ、先生・・・・・ッ!そ、それはズルい・・・・よ・・・・・・ッ!」

 

「だ、ダメだ・・・・お腹痛い・・・・・・ッ!」

 

「先生の衣装、どこかの民族のやつかな・・・・・?」

 

「ヤバい・・・・超綺麗なんだけど・・・・・・」

 

「良いなぁ・・・私も着てみたいなぁ・・・・・・」

 

 

クラス中から、そんな噛み殺した震え声と惚けた声が、微かに聞こえてくる。

ノラとタクスに関しては────

 

「ちょっと待って・・・・ヤバい、腹痛い・・・・・・ッ!」

 

「耐えられる自信無い・・・・ッ!てかもう腹痛すぎて・・・・・・ッ!」

 

 

涙目でなんとか笑いを噛み殺そうと頑張っている。

しかし、自分達の義兄の余りの変貌ぶりが応えたのか、交互に腕を全力で抓ったり、足を思いっきり踏んだりして我慢している。

しかも保護者達にバレないように音を極力抑えてだ。

 

 

その時。

 

(ちくしょー、お前らぁ・・・・・・ッ!?)

 

(アハハ・・・・・・)

 

引きつる頬を必死に抑えながら、グレンは心の中でそう呻く。

セラはグレンの心中を察したらしく苦笑いを心の中で浮かべる。

見ればシスティーナまで周りの生徒達と一緒に笑いを堪えていた。

 

(つーか、白猫ッ!お前まで笑ってんじゃねーよ!?お前がこうしろって言ったんじゃねーかぁ!?)

 

(ノラ君もタクス君も笑いすぎじゃないかな・・・・皆、私の格好ってそんなに変かなぁ・・・・・・?)

 

グレンは叫びたいのを必死に堪え、セラは自分の格好に好奇の視線が向けられていることに戸惑っている。

実際は見惚れているだけなのだがセラは初めて向けられたものの為、気付いていない。

すると・・・・・・

 

 

ばしゃっ!

 

 

そんな奇妙な音が教室に響いた。

 

 

「「「・・・・・・ん?」」」

 

「え・・・・・・?」

 

 

音のした方にグレンとセラ、音が気になったノラとタクスが目を向けると─────

 

 

「げ!?」

 

「え!?」

 

「は!?」

 

「い!?」

 

 

そこには何故か、学院教授でありグレンとノラ、タクスの魔術の師匠であり育ての親、さらにセラが居候している屋敷の主でもある女性─────セリカが立っていた。

 

セリカは風景を撮像する射影機のようなものを教室の隅に設置し、そのかたわらで四人に向かって得意げにサムズアップしていた。

 

 

((((って、なんでお前(あなた)まで参加してるんだよ(ですか)セリカ(さ)ぁあああ(ん)ーーーーッ!?))))

 

 

四人の胸中など露知らず、セリカはグレンとセラの姿をジッと見つめ・・・・やがて肩を小刻みに震わせ───

 

「・・・・ぷっ!くすくす・・・あははっ!あっはっはっはははははははははははーーーーーッ!」

 

 

保護者達の訝しげな視線も気にせず、腹を抱えて大笑いしだした。

 

 

(帰れよッ!?)

 

(止めてくださいッ!?)

 

 

グレンとセラはそう叫びたいのを堪えながら、拳を思いっきり握る。

その光景を見せられたノラとタクスも。

 

 

(勘弁してくんない!?)

 

(目立つから止めて!?)

 

 

頭を抱えたいのを必死に我慢して座っている。

そして────

 

 

「ふん、人目も憚らず大笑いとは・・・・・・まったく、非常識な輩もいたもんだ」

 

いつの間にか復活したレナードが、笑い転げているセリカを冷ややかに一瞥していた。

 

(・・・あのオッサンが白猫の・・・・・さっき写像画で見た・・・・・・)

 

(結構厳格そうな人だなぁ・・・・・さっきの行動からは信じられないけど)

 

「あの金髪の女性、誰の保護者か知らんが・・・・保護監督されている者はロクな奴じゃあるまい・・・・・その顔を一目見てみたいものだ!」

 

いきなり自身の心証評価が下がったことで頭が痛くなってくる三人。

しかし、なんとか引きつる頬を抑えて、グレンは一同に向き直り、ノラとタクスはグレンに注目する。

 

この後、グレンは慣れない敬語口調で舌を思いっきり噛み、生徒達はまた笑いを堪える羽目になった。

ノラとタクスは言わずもがな、今度はセラまでも後ろで手を組んで腕をつねり、笑わないようにしていた。

 

いつ爆発するかわからない爆弾を抱えて、授業参観が幕を上げるのだった。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

今回は前半に座学、後半に実践系の授業という内容になっている。

現在、運動とエネルギーを操る黒魔術の理論を学ぶ『黒魔術学』の真っ最中だ。

生徒達はいつも通り授業に集中し、保護者は教室の後方で授業を見学している。

そして、グレンとセラ、ノラとタクスの四人が感じた嫌な予感が的中する─────

 

「ねぇねぇ皆さん、今の先生の解説聞きました?」

 

グレンが魔術理論を解説し、セラが黒板にそれを板書する最中、ことあるごとにセリカが周囲の保護者に嬉々として話しかける。

 

「なんて見事な解説なのでしょうか、板書している方もとても分かり易く書いてくれている。いやぁ、まだ若いのに、あの講師達は魔術への造詣があそこまで深いなんて凄いことだと思いませんかね?私は思いますね、うん、実に大した若者だ」

 

そう白々しく、困惑する保護者達にのたまっている。

 

───うぜぇ、帰れよ。

───恥ずかしいのでやめてください。

壇上にいるグレンとセラはそう言いたげに頬を引きつらせかけ、必死に堪える。

 

 

「ぐぬぬぬ、おのれ・・・・・・」

 

一方のレナードは、グレン達が予想以上に優れた授業をするのに焦れたらしい。

 

 

「先生、質問があります!」

 

そんなことを言って、レナードは手を挙げる。

───なんでや。

グレンはそう言いたげに頬を引きつらせかけ、堪える。

 

「グレン先生は今、三属呪文が根本的に同じだと言ったが、おかしくはないか?今の説明では導力ベクトルは根源素(オリジン)中の電素(エトロン)の振動方向と流動方向の二つしかないぞ?どうやってその二つで三属の呪文を構成するのだ?」

 

「えぇ、それを今から説明するところでした。三番目のベクトルは・・・実は電素の振動現象の停滞方向なのです」

 

「ぬ・・・・・」

 

「つまり、電素の振動運動には振動加速運動と停滞運動の二つがあるのです。これがそれぞれ、炎熱と冷気の二属エネルギーとなるのです」

 

「ちっ、知ってたか・・・・若造め・・・・・・」

 

忌々しそうに引き下がるレナード。

 

(ちょっ・・・・お父様・・・それ、あからさま過ぎるでしょ・・・・大人げない・・・・・・)

 

頭を抱えるシスティーナ。

 

「因みに補足しますと、この二つのエネルギーを調節して1:1の比率で複合すると、水ができます。

ただし、この複合呪文は実例がとても少ないので、挑戦するには難易度がかなり高いですけどね」

 

このグレンの補足は知らなかったらしく、保護者達から「おお・・・・・・ッ!」と感嘆の声があがる。

そして・・・・・・

 

「やれやれ、授業の邪魔とは、誰の保護者か知らんが恥ずかしい奴だな」

 

レナードの意図をなんとなく察したセリカが青筋を浮かべながら、挑発的な態度をとる。

 

「しかも話を最後まで聞かずに早とちりとは・・・・お前のような大人に保護監督される奴は、さぞ恥ずかしいだろうよ」

 

「なんだと!?私はあの子達にとって、胸を張って誇れる理想の父親だ!あの子達が私を恥ずかしいと思っているはずが無い!」

 

 

 

(ごめん、お父様。スッゴく恥ずかしい・・・・・・)

 

(ごめんなさい、お義父様。流石に擁護できないです・・・・・・)

 

心の中で突っ込む二人の娘達。

 

「大体、恥ずかしさを問うなら貴女のような女に言われたくないわ!なんだ、射影機まで持ち出して!

誰の保護者か知らんが、さぞ恥ずかしく思っていることだろう!」

 

「何を馬鹿な。私はあの子達にとって理想の母親だよ。あの子達が私を恥ずかしく思うなんて、有り得ないね」

 

 

 

(いや、恥ずかしいから。割とマジで帰れ)

 

(すみません、本当に恥ずかしいです)

 

(・・・なぜあれで恥ずかしく思えないと思う)

 

(恥ずかしいからマジで勘弁して)

 

心の中で突っ込む四人。

ちゃっかりセラも突っ込んでいるが、気にしてはいけない。

 

「ぐぬぬぬ・・・・・」

 

「ふん!」

 

視線で二人は火花を散らす。

 

 

それからレナードは何かとうるさく突っかかり、セリカは射影機でドン引きしている保護者を余所に四人の姿を撮りまくっていた。

グレンとセラは胃がキリキリ痛むのを必死に我慢して他人の振りを続ける。

ノラとタクスは座っているだけにも関わらず、グッタリと机に突っ伏したい欲求に駆られた。

 

 

そして、そんなセリカを見たレナードは────

 

「ちっ・・・誰の保護者か与り知らぬが・・・・我が子の晴れ舞台を形に残したいという思いは本物ということか・・・・・・ッ!」

 

レナードのセリカを見る目が、長年の好敵手を見るような目に変わっていき・・・・・・

 

「ふっ」

 

セリカは何故か挑発的な笑みを浮かべ・・・・・・

 

「くそ、負けてたまるかぁぁあああああああーーーーーーッ!!」

 

レナードがどこからともなく大きな射影機を取り出し─────

 

 

(((なんでそこで張り合っちゃうわけぇぇええええええーーーーーーッ!?)))

 

「ちょ───それだけは止めてお父様ぁあああああああーーーーーーッ!?」

 

グレン、ノラ、タクスの三人が頭を抱え、システィーナが顔を真っ赤にして叫んだところで────

 

 

 

こきゃ。かくん。

 

 

フィリアナがニコニコしながら、夫を締め落としていた。

 

 

「ふふ、続けて」

 

「アッハイ」

 

にこやかに笑うフィリアナの異様な迫力に気圧されて、グレンはすごすご授業へと戻っていった。

ノラとタクスはフィリアナの鮮やかな早技に戦慄を隠せず。

 

「・・・システィ、お前の母親、どんな魔術使ったのあれ」

 

「・・・あれはお母様の単純な力よ」

 

システィーナに詳細を聞いてさらに驚愕した。

セラはというと────

 

 

(うーん、システィーナちゃんのお母様だよね?あれ私も教えてもらおう)

 

 

なにやら不穏なことを考えていた。

そんなこんなで、前半の授業は終了した。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

後半。

実践系───魔術を使用した戦闘経験を積む『魔術戦教練』授業が始まる。

 

生徒達と保護者は、学院の敷地北東部の魔術競技場に足を運んでいた。

今回は『荒地』の設定なので、足場の悪い地帯が荒涼と広がっていた。

 

グレンとセラが簡潔に目的を講釈した後、かたわらに立つ人型ゴーレム四体のうち一体の肩を、グレンがポンと叩く。

 

「本日は戦闘訓練用の、このゴーレム相手に魔術を使用しての戦闘訓練をしましょう」

 

「グレンく・・・グレン先生にゴーレムの強さを聞きたい人がいると思いますが、今回は初めてのゴーレムとの戦闘ということで、戦闘レベル2でやってみましょう」

 

 

「「「「「ぇぇええええええーーーッ!?まさかの戦闘レベル2~~~ッ!?」」」」」

 

 

水を指すようなセラの発言に、主に血気盛んな男子生徒達から不満げな声があがる。

保護者の前でいいとこを見せたいのだろう。

 

 

「レベル2は喧嘩慣れした町の不良程です。不満かもしれませんが、正式な訓練積んだ者と一般人では訳が違います」

 

セラは真剣な表情で生徒達に語る。

 

「戦闘レベル3・・・これは帝国軍一般兵の平均と言われています。不良とは文字通り次元が違います。私見では対処できそうな生徒達もいるようですが・・・・・・」

 

セラはノラ、タクス、システィーナ、ギィブル、ウェンディ、カッシュらの顔をちらりと見る。

 

 

「今回はレベル2で『戦闘』というものを実際に経験してください。敵意を持って襲ってくる相手の恐ろしさや手強さ・・・・・帝国軍の体感している難しさを実感できるでしょう」

 

 

セラの説明が一段落した後、グレンが戦闘レベル2の設定を施している時だった。

 

 

「こらぁあああーーーッ!?ゴーレムを使った戦闘訓練だとぉ!?それ危なくないのか!?」

 

レナードがまた騒ぎ出した。

最早何度目かわからないグレンはため息を吐いた。

そして、小声でセラ、ノラ、タクスに話しかける。

 

「白犬、ノラ、タクス、ちょっと見ててくれ。俺はあのモンペに説明してくる」

 

「了解。システィーナとルミアも連れてけば説得し易いと思うぞ」

 

「そうだな・・・じゃあ白猫とルミアを呼んでくれ。白犬、あいつ等頼むわ」

 

 

そう言ってグレンは保護者の方へ向かい、ノラはルミアとシスティーナを呼びに言った。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「私も娘も魔術師だ!怪我をするようなことをさせるなとまでは言わん!だが本当に大丈夫なのか!?もしシスティとルミアに何かあったら私、泣くぞ!?」

 

「だから大丈夫だって、先生が何度も説明しているじゃない・・・・・・」

 

グレンとレナードのやり取りで、システィーナはうんざりしながらため息をついた。

レナードは娘の大切さ故か、グレンの説明に首を縦に振ろうとしない。

娘達が一緒に説得しているが、なかなかそれでも是としない。

 

 

その時だ。

 

「せ、先生!大変です!」

 

小柄な女子生徒───リンがグレンに駆け寄って来た。

 

「どうかしましたか?リン」

 

「そ、その・・・・ロッド君とカイ君が勝手にゴーレムを弄り始めて・・・・なんか設定を変えるとか言って・・・・・・ッ!」

 

「?白い・・・セラ先生がいるはずでは?」

 

「それが・・・・ゴーレム四体全部を弄って、その対処に追われて・・・・・・ッ!」

 

「なんだと!?」

 

 

グレンが血相を変えた瞬間。

 

「「うわぁぁああああーーーーーーーッ!?」」

 

男子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。

振り返ると、訓練用ゴーレムが腕を振り回して、ロッドとカイを吹き飛ばしていた。

 

「【風よ】!」

 

セラは素早く黒魔【ゲイル・ブロウ】を唱え、そのゴーレムを吹き飛ばす。

 

「よっこいせ!」

 

タクスはもう一体のゴーレムの攻撃をしゃがんでかわし、そのまま足を払払って態勢を崩し、腕を掴んで投げ飛ばす。

しかし、まだ人手が足りない。

逃げようとする二人に襲い掛かろうと、別のゴーレムが腕を振り上げ───

 

 

「馬鹿野郎ぉぉおおおおおおーーーーーッ!?」

 

硬直する生徒達や保護者よりも早く、グレンが動いた。

シュバッ!と空気を裂く音が唸り─────

がぁん!と甲高い音が鳴り響いた。

 

見ると、ゴーレムが仰け反っている。

 

「え!?」

 

システィーナが目を見張る。

グレンが手近の石を投げ、ゴーレムの頭部に当てたのだ。

そのままグレンは猛然とゴーレムへ駆け出し、生徒達とゴーレムの間に割って入った。

 

「お前ら下がれ!ノラはあっちの奴を頼む!」

 

「・・・言われなくてもわかってる!」

 

ノラは残るもう一体の方へ駆けつけているのを見て、生徒達はようやくわたわたと逃げ出す。

 

 

「お前の相手はこっちだ!このデクノボーが!」

 

『ゴォオオオオオーーーーーーッ!』

 

グレンを新たな標的と定めたのか、ゴーレムは物凄い速度で向かってくる。

対するグレンは、眼鏡を捨て───

 

「しぃ───ッ!」

 

鋭いステップと軽捷な左ジャブで正確無比にゴーレムの顔面を突いて、足を止め───

 

「────シャ!」

 

続く閃光のような右ストレートで、骨が砕けるような音と共にゴーレムが吹き飛び、そのまま動かなくなった。

 

 

一方のノラは。

 

「全く面倒くさいことに───ッ!」

 

暗殺術の【暗歩】で音も無くゴーレムの背後へ回り込み───

 

「よいせっ──と!」

 

頭部と首に腕を回して態勢を崩し、バックドロップの要領で地面に叩きつけた。

 

「皆、大丈夫!?」

 

法医呪文(ヒーラー・スペル)が得意なルミアが駆け寄る。

既に全部のゴーレムは動きを止め、ロッドやカイも無事のようだ。

 

 

(ほっ・・・良かった・・・・・・!?)

 

胸をなで下ろすシスティーナだが、すぐに不味いと察する。

グレンが魔術師らしからぬ対応をとったのだ。

急場なので仕方ないかも知れないが、レナードへは余りに不味い対応だった。

 

グレンは気にもとめず、騒ぎの元の二人を普段の粗野な口調で説教し、ローブを千切って応急措置をしていた。

レナードの顔が徐々に赤くなるのを見て、システィーナは焦りまくる。

保護者と生徒数名に付き添われてロッドとカイが医務室に行った所で・・・・・・

 

 

「あの・・・先生・・・・・・あれ」

 

ルミアが後方を指差す。

グレン達が見ると、余りの豹変振りに呆然とした保護者達がいた。

 

「・・・・・・えーと」

 

 

グレンが気まずそうに言い訳を言おうとしていると。

 

「・・・・・・グレンと言ったな」

 

鬼のような形相のレナードが詰め寄ってきた。

 

「それが貴様の本性か」

 

「あー、いや、その・・・僕、こう見えて結構普段は真面目なんですよ?」

 

「やかましい!男が言い訳するんじゃない!大体、貴様が魔術師らしからぬ対応をとるから───ッ!」

 

 

慌てて説明しようとシスティーナとルミアが口を開きかけ、

 

 

「おかげでうちのシスティとルミアの活躍が見れなかったじゃないか!?」

 

「「「・・・・・・は?」」」

 

 

意味不明な言葉に揃って目を点にした。

なんでも、ゴーレム相手に立ち向かう娘達が見たかったらしい。

セリカは相も変わらず、保護者達に弟子自慢をしていた。

 

そして。

 

「ふん・・・貴様には色々言いたいことはあるが・・・・・・」

 

レナードはグレンを値踏みするようにジッと見つめ。

 

「まぁ、いい目をしている」

 

思わぬ言葉をグレンにかけた。

その後、空気だったセラも含めて、娘達の欠点を言い、上手く指導してやってくれと言い、そのまま引き下がった。

 

同じく空気だったノラとタクスには、変に敵意を乗せた視線を送っていたが。

 

 

こうして、波乱の授業参観は幕を下ろしたのだった。





皆さんもお体に気をつけて下さい!

それでは、良いお年を!!


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遠征学修旅行編
編入生?


どうも、影龍 零です。

だいぶ間が空きましたすいません(土下座

ようやく三巻・四巻突入です
ではどうぞ


よく晴れた早朝のこと。

ノラとタクスは寝不足げに半開きになっている目を擦りながら、ある待ち合わせ場所へと向かっていた。

二人は帝国宮廷魔導士団特務分室のメンバーであり、学生でもある。

特務分室は常に人員不足、様々な任務に駆り出される。

昨日は溜まりに溜まっていた任務の報告書を作成しなければならず、下校後すぐに特務分室へ飛んでいき膨大な量の報告書を作成していた。

ひたすら机にかじりついて作業を行い、終わった時には既に日付をまたいでいたのだ。

 

しかし、学院をサボったりしたらセリカに何をされるか分からない。

なので体に鞭を打って出てきた。

でも眠いものは眠いらしく、二人は二、三回程歩きながら眠っていた。

 

「あー・・・眠い。報告書書くだけなのに『終わるまで返さない』とか、どんなブラック労働だよ・・・」

 

「・・・言うなタクス、あそこで逃げ出したらアルベルトに何されたか・・・考えたくも無い」

 

「それでも期限に余裕あるものとか他人の報告書までやらせるか!?『学生も兼任しているんだ、このくらい出来るだろう?』って、俺らは其処まで体力も忍耐もねーよッ!これじゃあ幾ら授業中寝ても寝不足がとれない・・・」

 

膝をついてうなだれるタクスに周囲の視線が痛いほど刺さる。

さらっと授業はサボると言っている辺り、まだ余裕があるのだろう。

そんなこんなで歩く二人は漸く目的の場所に到着。

 

 

 

「あ、タクスにノラ、遅いわよー!五分遅刻!」

 

先に来て待っていたであろう二人の同級生にしてクラスメート────システィーナが腰に手を当てて立っており、その隣ではルミアが微笑みながら手を上品に振っている。

端から見たら男女構わず振り向き、二度見するくらい美しい容姿を持つ少女達と待ち合わせしている男子二名。

学院の男子が見たら舌打ち&嫉妬の目線&血涙案件だが、ノラもタクスもそんなことは頭の片隅にも持ち合わせていない。

 

 

「んー?きっちり待ち合わせ通りの時間の筈なんだけど・・・・・」

 

「・・・・お前一回膝突いて道のド真ん中でうなだれただろうが。それで遅れたんだよ」

 

「え、マジ?」

 

ノラはタクスの返答に溜め息をつき、割と強めの蹴りをスネにお見舞いした。

咄嗟のことにすぐに後ろに飛び退いたタクスだが、僅かに間に合わず爪先がスネにクリーンヒット。

 

「痛って!?なにすんだノラ!」

 

「理由は自分の行いを振り返れ」

 

「お前だってガン飛ばしてきた不良っぽい奴らに付いて行ってボッコボコにしてたじゃんか!人のこと言えねーだろ!?」

 

「・・・あれは不可抗力だ」

 

クルッと背を向けたノラにタクスのジト目が突き刺さる。

しかし、何故か視線の数が多い。

振り向くとシスティーナまでジト目で睨んでいた。

 

「ノラ・・・あなた何してるのよ?タクスよりもよっぽど遅刻する理由じゃない?」

 

「あ、あはは・・・・」

 

ルミアは苦笑いを漏らして見守っている。

 

魔術競技祭の後、四人はこうして毎日のように一緒に登下校している。

理由は登校する方向と時間がよく一致するので、どうせなら一緒に登校しようという結果になった────これは建て前で、実際はルミアの護衛である。

 

ルミアは『異能』によって追放された王族、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女その人だ。

『天の智慧研究会』によって二度も命、もとい身柄を狙われた事実から、牽制の意味も含めて登下校の時に近くで見張っている。

これは今のようにノラとタクスだけの時もあるし、グレンとセラだけの時もある。

四人全員がいる時もあるため、時たま大御所帯になる。

ちなみに今日は────

 

 

 

「おー、お前ら。朝っぱらから仲が良いことで・・・」

 

「ふふっ、なんだか初々しいね?」

 

 

 

グレンとセラが歩いてきた。

今日はどうやら四人全員で護衛らしい。

二人は数歩後ろについて、四人と共に歩き出した。

この様子を見た事情を知らない講師達や生徒達から根も葉も無い噂を囁かれている。

ルミア、システィーナ、セラの三人は麗しい見た目であり、普段から側にいるノラ、タクス、グレンは好く者からは好かれ、嫌う者からはとことん嫌われる。

最も、三人は露ほども気にしていないが。

 

 

「そういえば、先生。今日は編入生がくるんですよね?」

 

「ああ、仲良くしてやってくれよ?」

 

「でも珍しいですよね、こんな時期に編入生だなんて・・・・・」

 

 

実はグレンとセラはリック学院長から誰が編入されるか知っている。

その人物は二人の元同僚である、帝国宮廷魔導士団特務分室のメンバー、ルミアの護衛として派遣されるとのこと。

ノラとタクスは知らない。

何故ならその日、二人は任務の為学院を休んでいたからだ。

なので、誰が来るのか予想し合って賭けをしている。

と、その時。

 

何かが物凄い勢いでこちらに走ってくるのが見えた。

ノラが訝しげに目を凝らすと、青髪に学院の制服を身にまとった女子生徒らしき人物だった。

これだけなら、遅刻か何かで慌てているのだろうと思える。

 

 

両手で大剣を担ぎながらでなければの話だが。

 

 

あまりに突然のことで、システィーナとルミアは硬直してしまう。

システィーナは秘密でグレンとセラに頼み込んで、魔術戦の特訓をしてもらっている。

だが、唐突な出来事と大剣の凶悪な輝きを目の当たりにした為か、どうしても身体が動かない。

 

スピードを全く緩めずに件の少女は迫ってくる。

少女を確認したノラとタクスはさり気なく二人を引っ張って横に移動させる。

この後の顛末を予想出来たからだ。

 

青髪の少女はダンッ!っと一際大きく地面を蹴って跳躍。

 

そのままシスティーナとルミアの頭上を飛び越え────

 

 

「えっ?」

 

 

「どぉぉわぁああああああーーーッ!?」

 

 

後方にいたグレン目掛けて大剣を振り下ろしてきた。

間一髪、グレンはそれを真剣白刃取りで受け止めることに成功。

思わずセラも目をパチクリさせる。

 

 

「な、な、なにしやがるんだテメェェエエエエエーーーーーッ!?」

 

涙目で膝をガクブルさせながら、グレンは青髪の少女に吠えかかった。

 

「・・・・会いたかった。グレン」

 

ぼそっと、大剣を振り下ろした少女は眠たげに細められた目で、そんなことを告げる。

 

 

「やかましい!質問に答えやがれリィエル!なんでいきなり切りかかってきやがった!?」

 

「挨拶」

 

「挨拶だとぅ!?テメェ、挨拶という言葉を辞書で百万回くらい調べてきやがれ!」

 

 

すると少女──リィエルが不思議そうに首を傾げる。

それを見たセラがリィエルに近づき声をかける。

 

「リィエルちゃん、それってアルベルト君から教わったの?」

 

「ん、そう。久方の戦友にはこうしろって」

 

「アイツの仕業かッ!?くっそぉアルベルトのやつ、そこまで俺が嫌いか!?覚えてやがれチクショー!?」

 

「痛い、止めてー」

 

喚きながらリィエルにヘッドロックをグリグリかます。

曖昧に笑いながらグレンの肩をセラは叩く。

 

どうにも刺客とかそういう雰囲気では無いようだった。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

ルミアが近づいてグレンにリィエルのことを尋ねてきたので、これ幸いと説明した。

要約すると、

 

・リィエルが噂の編入生。

 

・本当は帝国政府が派遣してきたルミアの護衛。

 

ルミアがリィエルに近づいて挨拶すると、

 

「・・・・・ん。任せて」

 

少しばかり胸を張って、無表情で告げる。

 

「グレンは私が守る」

 

「え?」

 

「・・・・・は?」

 

意味不明なことを当然のように言い放ったリィエルに、システィーナとルミアは目を点にし────

 

 

「俺じゃねぇぇえええええーーーッ!?俺を守ってどうすんだ、このドアホッ!?」

 

「あはは・・・・・」

 

こめかみを拳でぐりぐり抉るグレン。

相変わらずの感じにセラは乾いた笑みを浮かべるしか無い。

 

「あのなぁ!お前が守るのは俺じゃなくてこいつだ!この金髪の可愛い可愛いルミアちゃんな!?オーケイッ!?」

 

「・・・・なんで?」

 

「なんでじゃねぇよ!?作戦説明受けなかったのか、お前!?」

 

「?よくわからないけど・・・私はルミア?よりもグレンを守りたい」

 

「リィエルちゃん・・・・その要望は通らないと思うよ?」

 

心身の苦労が倍どころか四倍になるかもしれなくなることで、グレンは肩を落としてうなだれる。

と、リィエルが思い出したようにノラとタクスに近づいてきた。

 

「どした?俺らに用?」

 

「これを渡せってアルベルトに言われた」

 

そう言って渡してきたのは一通の手紙だった。

疑問を抱きつつもそれを開け、中身を読む。

 

 

『ノラ、タクス。

 リィエルを護衛として派遣したが、これは囮だ。

 杜撰な護衛がつくことで、襲撃も杜撰なものになることを期待したが故の人選だ。

 本命の護衛は俺とエルシアになっている──といっても、遠くからの監視程度だが。

 読んだ後は速やかにこの手紙は燃やせ。

 後でグレンとセラにもこの内容を話してくれると助かる。

 

 

  追記  リィエルには気をつけろ。                     』

 

 

 

ノラとタクスは顔を見合わせ、政府の考えに納得がいった様子で頷いた。

基本、リィエルは魔術師らしからぬ接近戦を得意とする。

しかし、普段の行いから猪突猛進、ナチュラルボーン破壊神、一緒に任務につきたくない同僚万年ナンバーワン、‘作戦なんて要らない、だってリィエルがいるから’などだいぶ不名誉な渾名が幾つもつけられた事実も有する問題児だ。

そんな杜撰という言葉を具現化したような者が護衛につけば、襲撃もこれまでと対処方法が違ってくるという期待の話にも頷ける。

 

「そういやリィエル、お前はこれ読んだのか?」

 

タクスが顔を上げて尋ねると、リィエルは不思議そうに首を傾げた。

 

「・・・それ?」

 

「・・・いや、これ以外何があるんだよ・・・」

 

「なんかエルシアに読んじゃダメって言われた。だから読んでない」

 

「あー、うん、なる程・・・・」

 

返答の内容にタクスが少し濁した言葉になってしまう。

 

「・・・・・?どうしたの?」

 

「うんにゃ、別に何もないぞ~」

 

すぐ手をヒラヒラと振って話題を終わらせる。

リィエルの事情は特務分室のメンバーなら例外なく知っている為、リィエルに教えるようなことはしない。

それがリィエルにとってどう影響するかわからないから。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

「つーわけで、今日からお前らの学友になるリィエル=レイフォードだ。まあ、仲良くしてやってくれ」

 

場所が変わり、教室にリィエルを伴い紹介すると、おお、と声が上がった。

特に男子は色めき立っている。

 

リィエルの容姿は年齢以上に童顔かつ小柄で、どこか幼く見える。

髪は珍しい淡青色、瑠璃色の瞳は眠たげに細められ感情の色は一切ない。

しかし端麗な相貌と無駄な身じろぎがないことから、『人形』という評価がとても良く似合う。

 

案の定、男子生徒を中心にクラスがざわめく。

確かに黙っていればリィエルは文句無しの美少女だ。

・・・あくまで黙っていればだが。

 

「んじゃ、リィエル。なんか自己紹介宜しく」

 

グレンがリィエルに自己紹介を催促するが。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

リィエルは沈黙を貫き通したまま。

 

「・・・リィエルちゃん、何か自分を紹介出来ることを話して欲しいな?」

 

「・・・どうして?私のことを紹介してどうするの?」

 

「えっとね、こういう時はお決まりみたいな感じなんだ」

 

「・・・・・そう。わかった」

 

微かに頷いたリィエルが向き直って口を開く。

 

 

「・・・・・・リィエル=レイフォード」

 

 

一言呟いてペコリと頭を下げる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

再び場を支配する沈黙。

 

 

「・・・えっと、リィエルちゃん。もしかして、終わり?」

 

セラの確認に頷いて返すリィエル。

流石に見ていられない、そう思ったセラはリィエルに何か囁いた。

 

 

 

「・・・・将来、帝国軍への入隊を目指して学院にやってきた。出身地は・・・ええと、イテリア地方・・・。年齢は多分、十五。趣味は・・・読書?」

 

取り繕い感が漂う自己紹介だが、そこまで変でもないお陰かクラスは納得した雰囲気に包まれた。

 

(サンキュー、白犬。助かった)

 

心の中でサムズアップをセラに送るグレン。

そのままの流れで話を進めようとする。

 

 

「よ~しお前ら、リィエルと仲良くしろよ?では早速授業を・・・・・」

 

「一つだけ、よろしいでしょうか?」

 

ツインテールのお嬢様、ウェンディが手を挙げる。

 

(わたくし)、リィエルさんに質問がありますわ。発言よろしくって?」

 

「・・・・ん。なんでも聞いて」

 

即座に返答するリィエル。

 

「差し障りなければ教えていただきたいのですけれど、貴女、イテリア地方から来たって仰いましたが、御家族の方はどうされていますの?」

 

 

自己紹介に対する質問としては、ごく普通のものだ。

しかし、その言葉にグレンとセラは目を微かに見開き、リィエルとノラ、タクスは眉を少し動かす。

 

「「!」」

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・家族?」

 

少し間を空ける。

 

 

「・・・・兄が、いたけど・・・・・・」

 

 

「まぁ、お兄様が。ふふっ、貴女のお兄様は今どのような事を?」

 

ウェンディが微笑みながらリィエルに問いかける。

だが何故か、リィエルは虚を突かれたような表情になって硬直し───

 

 

「・・・兄の、名前は・・・・・・」

 

こめかみに手を当て、迷うように唇を動かそうとして・・・・・・

 

「名、前・・・・兄の、名前、は・・・・・・」

 

それでもリィエルは、どこか苦しげに俯いて、名前を言い淀む。

 

 

「すまん。こいつには今、身寄りが居なくてな。家族の質問だけは避けてやってくれ」

 

珍しく深刻な表情のグレンが待ったをかける。

隣のセラも悲しげな表情だ。

 

 

「えっ!?そんな・・・・でも、確かに『いる』じゃなく『いた』と・・・・・も、申し訳御座いませんわ、リィエルさん。私ったら何も知らなくって・・・決してそんなつもりは・・・・・・」

 

 

恐縮した様子で、ウェンディが謝罪する。

 

 

「・・・・大丈夫、問題無い」

 

 

どこか納得いかないような、戸惑っているような表情が見え隠れしているが、リィエルはポツリとそう呟いた。

 

 

「じゃ、じゃあさ!」

 

 

クラスの雰囲気を吹き飛ばそうと、勇者が手を挙げた。

クラスの兄貴分、カッシュである。

 

 

「リィエルちゃんとグレン先生って、どういう関係なんですか?なんか知り合いっぽいし、すげぇ親しそうだし、是非とも教えて貰いたいなぁ?」

 

この質問にクラスがまた喧騒に包まれ始める。

クラス全員の胸中(特に男子)を代弁した質問。

 

「・・・・わたしとグレンの関係?」

 

 

リィエルが首を傾げる中、グレンはどう切り抜けるか知恵を絞っている。

 

(うーん、ここはだいぶベタだが、遠い親戚で押し通すか?)

 

内心焦っているグレンをよそに、リィエルは口を開き────

 

 

 

「グレンは私のすべて。私はグレンの為に生きると決めた」

 

 

 

衝撃な爆弾発言を落っことした。

 

 

 

「「「「きゃああああああーーーーーッ!!大胆ーーーッ!!!」」」」

 

 

「「「「もう失恋だぁあああああーーーーーーーッ!!!?」」」」

 

 

 

 

女子生徒の黄色い声と男子生徒の悲鳴が上がり、教室はものの見事に大混乱。

 

 

「ちょっ!?何言っちゃってくれてんのぉぉぉおおおおーーーッ!?」

 

 

 

「先生と生徒の禁断の関係よ~~ッ!きゃーっ!きゃーっ!」

 

「せ、先生とあろう者が・・・これは問題!問題ですわーーっ!」

 

「先生・・・生徒とデキているのは、倫理的に如何なものかと」

 

「ちくしょう、先生よぉ・・・アンタのことはなんだかんだで尊敬してたが・・・・キレちまったよ・・・・久々になぁ・・・・表出ろやぁああああああーーーーーッ!?(号泣)」

 

「夜道、背中に気をつけろやぁああああああーーーーーッ!?(号泣)」

 

 

 

生徒達は各々の想像の翼を盛大に羽ばたかせ、言いたい放題の大騒ぎ。

 

 

「だぁああ、クソッ!お前ら少し落ち着け!これはリィエルが勝手に言ったことで、これっぽっちも本当じゃあ──────!?」

 

 

グレンは弁明しようと声を張り上げた途端、隣から凄まじい悪寒と殺気が向けられて固まる。

恐る恐る、それこそ油切れかけの機械のように首を回し、そちらを見ると────

 

 

 

「・・・うふふふふふふふふフフフフフフ、ネェ、グレンクン?」

 

 

 

目が全く笑っておらずハイライトが消え、周囲が凍てつくような冷気を出しながら笑みを浮かべているセラがこちらを見ていた。

 

 

 

「えっ、あ、あの・・・セラ、さん?これは、貴女もご存知の通りの筈で・・・・・・」

 

「ダイジョウブダヨ?イタミハイッシュンダカラ、ネ?」

 

「ひぃぃいいいいいーーーーーッ!?ノラーッ!?タクスーッ!?ヘルプミーーーッ!?」

 

「ちょっ、こっちくんなグレン兄!」

 

「セラ姉の背後に風神が見えるのだが・・・・・」

 

 

周囲に風を吹き荒らしながら迫ってくるセラ、彼女に共鳴しているのか、背後の風神も恐ろしく笑っている。

グレンが助けを求めて義弟達向けてダッシュ、義弟達は全力で逃亡。

 

 

事の発端のリィエルは修羅場と化した教室で不思議そうに首を傾げたという・・・・・・




できるだけ早く投稿したいです。

ではまた


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カオスな日常

どうも、影龍 零です。

すぐ投稿すると言って約3ヶ月開けて申し訳ございません(土下座

リアルで中間テスト→すぐに模試と期末テストがほぼ同時期に→時間が無くなった、という訳です。
もうちょっと期間を開けても良くない!?

では、どうぞ


その後、魔術の実践授業の為、競技場でゴーレムへ【ショック・ボルト】を当てるテスト的なものを行っていた。

 

六点満点中、システィーナ、ギイブルは満点、ウェンディは最後にくしゃみをしてしまい五点、ルミアは三点、カッシュは惜しい所までいったが0点・・・・・・といった具合だ。

皆が皆とまでは言わないが、点数よりも楽しそうな表情で魔術を撃っている。

グレンとセラはそれぞれ男子生徒、女子生徒の採点と簡単なアドバイスをしている。

 

そんなこんなで後三人、ノラ、タクス、そしてリィエルを残すのみとなった。

ゴーレムの的の取り替えが完了したらしく、生徒が腕を振って合図をしていた。

 

 

 

 

「んじゃ、ノラ。お前の番だぞ」

 

グレンがノラの方を向くと、そこに立っていた筈のノラがいない。

首を傾げ、キョロキョロと辺りを見渡すと、件の人物はいた。

 

 

「・・・・・・Zzz」

 

 

木陰で木に寄りかかり、寝息をたてているノラが。

 

 

「「「「「・・・・・・・」」」」」

 

 

授業そっちのけで昼寝に移行する光景を目の当たりにし、タクスとリィエルを除いた全員が無言になる。

グレンはタクスに向き直り、目で「行け」の合図を送る。

行くのが面倒くさいのか、タクスは近くにあった小石を拾い、ノラへぶん投げた。

石は素晴らしい速度で真っ直ぐに飛んでいき─────

 

 

バシッ!!

 

 

顔面に当たる三秒前辺りでノラが目を覚まし、裏拳で石をはたき落とした。

 

 

「「「「「・・・・・・(゜Д゜;(゜o゜;」」」」」

 

 

驚異の反応速度に生徒は呆然とするばかり。

そんなことを気にせずにノラは寝ぼけ眼をこすりながらゆっくりと歩いてくる。

 

立ち位置に着くと、だるそうに的を指差し────

 

 

「《唸れ雷精》」

 

 

指先から放たれた紫電が、ゴーレムの額部分の的を真っ直ぐに射抜く。

しかし、これだけでは止まらなかった。

【ショック・ボルト】は何か物体に当たれば数秒後には霧散するが、これは違った。

なんと紫電が霧散せず、蛇のようにうねりながら右肩の的に這うように向かっていき、そのまま的を射抜いた。

そのまま右足、左足、左肩と順番に的を射抜いた後、紫電は霧散した。

 

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 

ノラの予想外の高等技術にグレンとセラも無言になるしかない。

名付けるなら、黒魔改【スネーク・ボルト】

 

「なんだ、あの魔術・・・・・・」

 

「あれって元は【ショック・ボルト】だよね・・・・・・」

 

「しかも三節じゃなく一節詠唱であの精度・・・・・・」

 

圧倒的な技量差に生徒達も困惑気味。

ノラはそれら一切を気にせず、木陰に戻って眠り始めた。

 

 

「・・・次、タクス」

 

「あいよ~~~」

 

手をヒラヒラさせながら立ち位置へ立つ。

魔術競技祭でノラと共に活躍したタクス、先ほどのノラの技量を見た生徒達は期待のこもった眼差しを向けている。

 

「タクスもあの位の技量なのかな・・・・・」

 

「競技祭でも活躍してたし、そうじゃね?」

 

「でも万が一って可能性も・・・・・」

 

中には若干おっかなびっくりの声もあるが。

皆と同じく右手で指差すだろうと思っていたが、タクスは違った。

 

「・・・・タクスの奴、ノラに触発されたな、ありゃあ」

 

「あはは、二人っていつも競い合っていたもんね」

 

グレンとセラの視線の先には、両手の人差し指を銃の形にして的に向けているタクスの姿があった。

不適な笑みをうっすらと浮かべながら、術式を唱える。

 

 

「《 《弾けろ雷精》 》!」

 

 

両手から放たれた紫電が真っ直ぐに両肩へと向かう。

これは二反響唱(ダブル・キャスト)と呼ばれる高等技術で、主に軍の宮廷魔導士が用いる。

セリカは三反響唱(トリプル・キャスト)という二反響唱以上の超高等技術ができるが、今はおいておこう。

 

さて、両肩に向かっていく二閃の紫電だが、こちらも驚きの動きを見せる。

 

紫電が一瞬少し膨張したと思った矢先、それぞれの紫電が弾けたように三つに分かれた。

合計六つの紫電が六つの的に向かっていき、六発全てが的に吸い込まれるように命中。

その後はノラと同じように霧散した。

これに名付けるなら、黒魔改【バウンド・ボルト】

 

「よし、六分の六~」

 

独り喜ぶタクスを余所にクラスは再び呆然となる。

いきなり、しかも二連続で超がつくだろう高等技術を見せられては驚かないほうが無理な話だ。

 

「・・・あの二人、こんなに凄い技量だったなんて・・・・・・」

 

「そうだね・・・私も少し驚いちゃった」

 

システィーナとルミアもびっくりした様子で見ている。

 

「こんな凄いの見せられて負けたままじゃいられないわ!私ももっと腕を磨かないと・・・」

 

「あ、じゃあシスティ。セラ先生に教えて貰えばいいんじゃない?あの人もグレン先生と同じぐらい授業上手だし、とってもわかりやすいから」

 

「そうね・・・放課後にちょっと頼んでみるわ」

 

そう話していると、ウェンディやテレサ、リンにカッシュ、ギィブルといった面々がやってきた。

 

「お二人とも、(わたくし)たちもついていってよろしいかしら?」

 

「私達も上達したいですし・・・ウェンディは恥ずかしいでしょうから皆で行った方がいいと思いますわ」

 

「ちょっとテレサ!?私はそんなこと思ってませんわよ!?」

 

「あ、あの・・・私も、その・・・・もっと上手に・・・・・なりたいし・・・セラ先生のことも・・・知れたらなぁって・・・・・・」

 

「俺もリンちゃんとおんなじかなー、セラ先生ってどことなく不思議な雰囲気で綺麗だし」

 

「僕は単純に魔術師としてのスキルを上げる為だ、それ以外無い」

 

 

セラはグレンに勝るとも劣らない授業を行い、かつグレンのようなひねくれたロクでなしではなく物腰が柔らかでお姉さん気質な性格の為、生徒と講師、老若男女問わず人気がある。

そんなセラの下へ質問しに来る生徒達は後を絶たない。

邪な考えで近づこうとする者もいるが、男子生徒がほとんどの為、大抵セラの下に行く前に誰かさんにボッコボコにされてしまう。

一部の女子生徒には陰で‘‘お姉様’’とも呼ばれているが、それは関係ない話である。

 

魔術師とはエゴと自尊心、プライドの塊。

超高等技術を目の当たりにして燃えない者はいない(グレンは例外)。

 

 

ましてシスティーナは前述の通り、グレンとセラに特訓を受けている身だ。

目の前に現れた壁に立ち向かわずにはいられない。

と言っても彼女が教えを請う理由は一点、‘‘ルミアを守る’’こと。

もっと腕を磨けば、件のテロ未遂事件の二の舞にはなるまいと思って熱心に取り組んでいる。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「んじゃ最後、リィエル」

 

「・・・・・ん」

 

グレンの呼び声に僅かに頷き、リィエルが位置に立つ。

予めセラがリィエルにルールを何度も説明していた為、彼女もなんとなくだが理解しているらしい。

 

「さて・・・お手並み拝見と行きますかね」

 

「リィエルちゃんはどのくらい当たるかな・・・・・・?」

 

「いや、案外、凄い使い手かもよ?あの子、常にクールで集中力高そうだし・・・・」

 

「そういえば、帝国軍への入隊を目指しているとか言ってたな・・・・・」

 

 

リィエルの立ち振る舞いにクラス中が見守っている。

タクスといつの間にか起きていたノラも興味深々な様子で動向を見ている。

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」

 

 

どこか杓子定規な動きで前方を指差し───指先から紫電が放たれる。

そのまま的を撃ち抜く────所か、ゴーレムそのものを大きく右に外してすっ飛んだ。

 

 

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

 

 

流石に全員に微妙な空気が流れる。

その後もあっちこっちに紫電が吹っ飛び、とうとう後一回を残すのみとなった。

此処まで来ると、クラスの視線は値踏みするものから小さい子供を見るような優しい視線に変わる。

 

「リィエルちゃん、リラックスリラックス〜」

 

「少し固くなり過ぎですわ。もう少ししなやかに……」

 

「頑張れ〜、あと一発残ってるぞ〜」

 

「ハハッ、よかったねカッシュ。君とタメが張れそうだよ?」

 

「・・・そんなに俺が嫌いか?ギィブル」

 

 

クラスからの声援の中。

ノラとタクスもリィエルの有り様は予想外だったらしい。

苦笑顔と呆れ顔が見て取れた。

 

 

「まさか、リィエルがあそこまで魔術制御がヘタクソとはね~~」

 

「・・・・まぁ、あいつが近接戦闘以外している所見たことないしな」

 

 

「・・・・・・ん?」

 

ふと、リィエルが不服そうな表情を浮かべていることにグレンが気づいた。

 

「どうした?リィエル」

 

グレンが呼びかけると、首を傾げながら振り返った。

 

「・・・ねぇ、グレン、セラ。これって【ショック・ボルト】じゃなきゃ駄目?」

 

「駄目じゃ無いけど・・・他の攻性呪文(アサルト・スペル)じゃ届かないよ?」

 

「この距離を効率的に狙える学生用呪文が【ショック・ボルト】くらいしかないっつーのが理由だ」

 

よくわからない質問にセラが答え、グレンが付け足す。

 

「つまり、呪文自体は何でもいい?」

 

「まぁ、軍用魔術以外なら・・・・」

 

「大丈夫。私の得意な魔術」

 

 

再びリィエルは二百メトラ先のゴーレムに向き直る。

クラスの生暖かい声援を受けながら、その呪文を唱える。

 

「《万象に希う(こいねがう)•我が腕手(かいな)に•十字の剣を》」

 

ばちん、と。

身を屈めてリィエルが地面に触れた箇所から紫電が走る。

次の瞬間────

 

 

「「「「な、なんだぁああああああーーーーーッ!!?」」」」

 

 

リィエルの両手には長大な十字架型の大剣(クロス・クレイモア)が握られ────十字架型の窪みが足下に出来上がっていた。

 

 

「お、おいリィエル・・・・お前、まさか・・・・・・」

 

 

なんとなくこの後の展開が見えたグレンが声をかけるも───

 

 

「いいいいやぁあああああーーーーーーッ!」

 

 

大剣を頭上に大きく振りかぶったリィエルは、乾坤一擲(けんこんいってき)の気合いの声と共に、たんっと跳躍し、そのまま全身のバネをフル活用し──投擲。

身の丈を超える長剣が、びゅごぉと空気を引き裂く音と共に嵐のごとき縦回転でゴーレムの胴体に一瞬で迫り、

 

 

ドガンッ!!と盛大な破砕音を立て、ゴーレムをバラバラに砕ききった。

勿論、六つの的も木っ端微塵になっている。

 

 

「・・・・・ん。六分の六」

 

「・・・・・・・・・」

 

もうグレンは空を仰ぐ他なかった。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

衝撃的な光景をクラスメートに見せつけたリィエル。

となれば、距離を置きたがる者がワラワラ出てくるのは必然であろう。

 

「・・・・あのバカ」

 

現在リィエルは一人ポツンと席に座っていた。

今現在のリィエルの印象は、一言で言うと『ヤバイやつ』。

まぁ、あの光景を見せつけられたら、そういう印象を持つのも無理は無い。

 

「おい…お前…なにかリィエルちゃんに話しかけろよ……」

 

「で、でもよぉ…あの子なんか、怖くね?」

 

「そもそも…なんなんだあの力…本当に人間なのか……?」

 

クラスメートも、リィエルの人形のような雰囲気に垣間見えた圧倒的能力に怖気付き、どうにも話しかけづらい。

少し離れた場所でその光景を見ていたグレンは、予想通りすぎる展開にため息をつきながら思案していた。

 

(ったくリィエルのやつ…初っ端から大ボケかましやがって…)

 

あれでは護衛云々どころか、クラスから孤立してしまうだろう。

 

(しゃーない、俺が食堂にでも連れてくか…白犬とノラとタクスも連れてきゃ問題もねーだろうし…)

 

と、グレンがリィエルの元へ行こうと歩き出すと、ぐいっと腕が引っ張られた。

振り向くとセラが両手でグレンの右腕を掴んでいた。

 

「グレン君、気にしなくても大丈夫そうだよ?」

 

微笑みながらリィエルの席を指差すセラを訝しげに見つめた後、グレンが向き直すと_______

 

 

「ご機嫌よう、リィエル」

 

ルミアがリィエルに声をかけていた。

後ろにはシスティーナもいる。

身じろぎ一つすることなく、眼球だけ動かしてルミアをちらりとリィエルは見上げる。

人によっては怖がるかもしれないが、ルミアは視線を軽く受け流して微笑みながら言った。

 

「もうお昼休みになったけど・・・リィエルはご飯どうするの?」

 

「・・・・ご飯?」

 

リィエルは首を傾げるだけで動く様子は無い。

 

「必要無い。私は三日間何も食べなくても平気」

 

「えっ!?それは駄目だよ、体にも悪いし…何より、任務に支障が出ちゃうよ?」

 

「…一理ある」

 

最後の言葉は周りに聞こえないように小声だったが、リィエルにも伝わったらしい。

ふむ、と考える仕草をするリィエル。

本当に考えているのかは甚だ疑問なとこであるけれど……

 

「でも、何を食べればいい?ここに来る前に支給された食糧は全部食べた。」

 

ここでいう食糧とは、宮廷魔道士が任務につく際に支給される携帯食糧のことだ。

イメージで言うと、カロリー◯イトに近い。

しかし、これは穀物や芋を練り混ぜてブロック状に固めたものなので正直なところ、とても不味い。

 

(そういや魔道士時代、リィエルはよくあのクソ不味いやつを齧ってたが…あいつ、それ以外のもの食ったことねぇのか?)

 

グレンも記憶を思い起こしてみるが、いかんせんリィエルがそれ以外を食べている情景が浮かんでこない。

会話は続く。

 

「うーん、じゃあ一緒に食堂に行かない?美味しい料理が沢山あるよ」

 

「…食堂?」

 

無表情を崩さないリィエルだが、どうやら迷っているらしい。

そこに傍観していたシスティーナが助け船を出す。

 

「迷っているなら、取り敢えず行ってみたらどう?そこから悩んでも大丈夫だし」

 

「……」

 

リィエルはグレンとセラの方を向く、どうすればいいか、と目線を送っているらしい。

セラが笑みを浮かべて頷き、グレンが行けと顎を向ける。

そうすると頷きを返し、ルミアとシスティーナに向き直った。

 

「……行く」

 

ルミアが嬉しそうに微笑み、システィーナがやれやれと首を振って呆れ顔。

そして三人は教室を出て食堂へと足を運んだ。

 

 

 




ありふれのアニメ見ましたけど・・・勿体ない、あのストーリーの端折り具合は。
夏休みなので溜まった分を消化したいですね。

10月のアニメはSAOとFGO、そしてアサシンズプライドが楽しみ。
個人的にはアサシンズプライドが一番期待大!

ではまた

更新頑張ります・・・(泣)


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遠征と過去

どうも、影龍 零です。、

この小説のUAが一万を突破しました!
こんな駄文を読んでくれる読者には感謝しかありません。
投稿ペースは不定期ですが、これからも頑張るぞ!

ではどうぞ


私は未だに夢を見る…

 

それはあの日、忘れたくても忘れられないあの日。

私達兄妹の運命が分かれたあの日___________

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「兄さん、後少しだから……もう少しで、救助が来るから…だから…頑張って……」

 

あの日、私は兄と共に逃げていた。

吐息さえ凍り、骨から凍てつく極寒の凍気。

生命の存在を否定する氷点下の世界。

樹木の梢も、下生えも、地肌さえ純白に染まった、冷酷なまでに美しい白銀の世界。

 

「□□□□……僕はもう、いい…君だけでも、逃げてくれ……」

 

「そんなこと、言わないでよ…!約束したじゃない…二人で静かな場所で、暮らそう…って…!」

 

血を流し続ける兄に肩を貸しながら、ひたすら前に進む。

__私は、ある組織の『掃除屋』、所謂暗殺者だった。

身寄りのない私達を引き取り、都合のいいように利用してきた。

組織にとって邪魔になる人物をひたすらに屠る日々。

訓練と称して殺し合い、友人を切り捨てたことも数え切れない程ある。

私はその日々を過ごす中、段々と自分が自分じゃなくなるのではという恐怖に陥った。

そこで私達は、もう一人と共に帝国への亡命を計画、軍との連絡を取り脱出を図ろうとした。

 

 

だが、そのもう一人が土壇場で裏切り、組織にそのことをバラした。

そいつの攻撃から私を庇って兄は致命傷を負った。

私は強制的に積み上げらされた暗殺技術を使い、兄を連れて逃げ出した。

途中追っ手との戦闘になったがなんとか振り切り、今に至る。

 

 

「大丈夫、大丈夫だから…帝国軍の人達が向かっている筈だから…そうすれば、兄さんの傷も…きっと……」

 

懸命に兄に話しかけ、元気付けようとするが、兄は荒く浅い呼吸を続けるだけ。

_____薄々気づいていた。

恐らく兄も察しているのだろう。

例え帝国に亡命出来ても、もう自分は助からない、と。

 

更に、複数の足音が聞こえる。

弾かれるように振り返ると、同じ『掃除屋』…組織の飼い犬たちが迫ってきていた。

 

「嘘…まだあんなに追っ手が……ッ!?」

 

すぐに剣を錬成して対抗しようと屈んだその時だった。

 

「《傾け大地よ》…《縛れ銀腕》…」

 

兄が何かしらの呪文を口にし、私が立っていた地面の表面が滑らかになって傾いた。

これなら滑って撒ける、その思いを私は抱いた。

 

でも兄は違ったんだ。

逃げる人に自分を含めていなかった。

 

地面に触れようとしていた私の両腕を、鉄製のロープが縛りつけた。

狼狽えたその一瞬を兄は逃さなかった。

 

「きゃッ!?」

 

兄は思い切り私の背中を押して私を転ばせた。

慌てて振り返ると、追っ手の方を向いて立っている兄の姿があった。

 

「□□□□……君は、僕が守る…だから…ここで、お別れ、だよ…」

 

何を言ってるのか。

どうしてそんな顔をしているのか。

 

 

「...え、い、いや...」

 

 

そう考える間にも、私の体は坂道にそってどんどん滑っていく。

言葉を理解した時、私は絶叫した。

 

 

「……いやぁぁぁぁぁッ!!!!?嫌!嫌だよ!兄さん!待って!兄さん!!」

 

私が叫んでも、兄はそこを動こうとしない。

最期に兄さんは私に微笑んで、前を向き直す。

止まろうとしてもそれまでの疲労が一気に押し寄せ、上手く身体が動かない。

 

 

 

そして追っ手の刃が兄を捉え______________

 

 

 

□□□□

 

 

 

「ウェェェエエエエ〜〜〜……」

 

現在二組は船の上。

学院恒例行事の一つである、『遠征学修』に向かう最中だ。

二年次生には必修単位の一つで、研究所に実際に赴いて魔術研究に関する講義を受けることを目的としたものだが_________講義と研究所見学以外は自由時間も多く、『旅行』の性質も少なからず含んでいる。

 

グレン達のクラスの遠征先は『白金魔導研究所』。

サイネリアという人気のリゾート地の山奥にあるため、一旦船でサイネリアに向かい一泊した後、徒歩で向かうことになっているのだが……激しい船酔いを起こしたグレンによって折角の景色が台無し寸前だ。

 

「ハァ〜…グレン君、ちゃんと船酔いの対策はしないと!はい、セリカさんに貰った薬」

 

「す、すまねぇ白犬……つか人間は地を歩くもんだろ……?こんな海の上で漂う事自体間違ってんだろ………」

 

セラに肩を貸してもらい、いそいそと部屋へと入っていく。

教師どころか年上の威厳さえカケラ程も無い後ろ姿は、流石の生徒達も哀れみの視線を送った。

 

「先生なんだからもっと模範になるような振る舞いってものがあるでしょ……」

 

「これは先生もどうしようも無いんじゃないかな〜……」

 

呆れた様子を隠そうともしないシスティーナに苦笑しながらもフォローするルミアだが、最後の部分は自信無さげに呟いている。

クラスメイトは誰一人として船酔いがいないせいか、グレンはさらに哀れな視線を被っている。

最もセラに介抱されながらグッタリと寝ている本人からは応答がない。

目元に何か輝くものがあったが気のせいだろう。きっと。

 

 

そんな義兄の姿を義弟達はというと……

 

「ここにナイトを」

 

「…ここにルーク」

 

「じゃあここにポーンを…」

 

「……ではクイーンをここに」

 

目もくれずに持ってきたチェスに夢中だった。

戦局はノラが若干のリードを保っている。

タクスは防戦しつつ隙を狙っている状態だ。

 

「ちょっと、先生は貴方達の義兄なんでしょ?心配とかしないの?」

 

「ん?グレン兄は大丈夫だろ、船酔いくらい。…あ、ここにビショップ」

 

「……ビショップをここに」

 

「あの姿を見てそう思う貴方達もよっぽどね」

 

システィーナがちらりと目線を向けると、グッタリと寝ている状態のノラがいた。

実を言うとタクスは船酔いなどには滅法強く、逆にノラは滅法弱い。

特にノラはグレンがダウンするより前にダウンしている。

本人曰く、『昔セリカに酒を飲まされてダウンした時に似ている感覚』とのこと。

 

「……水をくれ。少し不味い」

 

「じゃあ私持ってくるね」

 

ルミアが水を取りに部屋を出て行ったすれ違いにリィエルがやってきた。

だが、どうにもおかしい。

具体的に言うと、何か大きな容器を担いでいる。

 

「…質問してもいいか、リィエル」

 

「ん」

 

「……その担いでいるものは何だ」

 

「…これは水」

 

その言葉を聞いたノラはどうにかして身体を起こそうとするが、酷い船酔いで全く力が入らない。

 

「…ノラ、飲んで」

 

「……出来るなら、遠慮したいんだが…」

 

「…じゃあ、飲ませる」

 

「おいやめろ人には限界というものがあってそんな量の水を飲むなんてことはできむぐぅぉ!?」

 

問答無用と言わんばかりに注ぎ口を突っ込む。

容器内の水が滝のように流れ込むのをノラは必死に飲み込んでいくが、どう足掻いても流れ込む方が速い。

 

「ちょ、ちょっとリィエル!?このままだとノラが溺れる!」

 

「…?でも水を欲しがってた」

 

「誰もそんな量頼むわけねーだろ!?えぇい、システィ!止めるぞ!」

 

「わ、わかったわ!」

 

いくらなんでも死因が「水の飲み過ぎで溺れた」とかなったらシャレにならない。

容器を突っ込んでいるリィエルを羽交い締めにしている間に、システィーナが容器を引っこ抜くと、ノラが水でパンパンに膨らんだ頰をなんとか保っている。

飲み込もうにも動いたら溢れ出そうな程だ。

 

「…どうするの?それ」

 

(少しずつなんとかして飲む)←手話

 

手話で伝えた後、慎重に喉を馴らしながら飲み込んでいく。

この時手を口に当て零れないように必死で押さえていたことをここに記しておく。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

なんやかんやあってサイネリア島にやっとの事で到着した二組(因みにあの後ルミアが戻ってきたのだが、巨大な容器に入った飲みかけと思われる水と息が荒いノラを見て事情を察し、リィエルに優しく注意していた。肝が据わっているルミアに改めて驚かされた三人だった。)。

 

だがグレンはまだ気分が悪いらしく、少し離れた場所で潮風に当たっていた。

そのお陰かは定かではないが、真っ青だった顔色もだいぶ良くなっていた。

 

 

「全く、あの揺れさえなきゃいいのに・・・造るなら完璧を目指せよ・・・それが職人魂ってもんじゃねーのか・・・?」

 

相も変わらず軽口は減らない、聞いた職人は拳を握りしめること請け合いだ。

ふと視線を海に戻すと、心地よい風と共にさざ波の音が聞こえ、視界に澄み渡ったコバルトブルーの海面が広がってくる。

穢れが一切見当たらないその光景に、グレンも少しばかり目を見開く。

 

(資料とかで見てはいたが・・まぁすげぇ綺麗なこった)

 

 

「おーい、グレン君~~」

 

名を呼ばれたので振り返ってみると、セラが誰かを連れてこちらに来ていた。

 

藍色がかった長い黒髪を後ろでひっつめ、目元に色付きメガネ、シルクハットにステッキといった如何にもな軟派師の青年と、同じ色で長い髪を後ろで綺麗にくくり、耳に銀色のイヤリング、手袋にバッグとお淑やかさを漂わせる少女が後ろをついてきていた。

 

 

「おやおや~、兄ちゃんがこのお姉さんが言ってた人~~?」

 

「兄さん、そういうのいいから」

 

「おぉう、妹はやっぱり堅物だねぇ・・・」

 

軽薄な態度で話しかけてくる青年を少女がバッサリと切り捨てる。

目の前で繰り広げられるやり取りを見て、グレンはセラが何故連れてきたのか理解し、ため息。

 

 

「あ!なんだよそのため息!酷いだろ!」

 

「それはもういいっつーの。・・・なんか用か?アルベルト(・・・・・)エルシア(・・・・)

 

「「・・・・・・」」

 

すると、今までの雰囲気が一変。

二人は自然と背筋を伸ばし、シルクハットや色眼鏡、カツラを捨て、くくっていた髪をほどく。

場の空気が、数度下がった感覚に陥り、鷹のような鋭い怜悧な双眸と、物静かだがどこか遠くを眺める双眸がグレンとセラを射抜く。

 

帝国宮廷魔導士団時代の戦友、特務分室執行者ナンバー17、『星』のアルベルト、執行者ナンバー8、『剛毅』のエルシアその人だった。

 

「・・・久しいな、グレン、セラ。先の魔術競技祭───────王室親衛隊暴走の一件以来か」

 

「私はタクスとしか会ってないから久しぶりですね、元気そうでなによりです」

 

相変わらずアルベルトの口調は他者を強烈に拒絶するような凄みだ。

対してエルシアは旧友との再会を喜んでいる。

対照的な口調の二人には、慣れない者は反応に困るだろう。

だが──────

 

「・・・・どうした?」

 

「・・・いや、任務となるなら社交界の紳士から軽薄な軟派師、町の札付きチンピラまで完璧に演じ切るお前と、お前がその術を直々に叩き込んだのがエルシアだとは知っていたが・・・」

 

「何というか・・・改めて見ると、演技と素でこんなに違うんだなぁって思って・・・・」

 

「ふん。惰弱な。精神修行が足りん」

 

「そうですよ。グレンさんもセラさんもずっと見てきたんですし、今更です」

 

アルベルトとエルシアは、二人の言葉を切って捨てた。

その気になれば役者として十二分に食っていける術だが、今はそのことを問い詰める時ではない。

 

 

「・・・で?俺らに何の用だ?ノラとタクスから手紙で任務内容は把握してるぞ。わざわざ接触しに来た理由は?」

 

グレンの問いに、アルベルトは暫し重苦しい沈黙を保ち・・・・

 

「・・・あの手紙でも言ったが、リィエルには気を付けろ」

 

「・・・はぁ?」

 

確かに手紙にもそう書かれていたが、グレンには何を意味しているのかまるでわからなかった。

だが、彼女は違ったらしい。

 

「・・・・アルベルト君。それってあの時のこと(・・・・・・)?」

 

セラの言葉に無言の肯定を示す。

その様子にグレンは少しばかり眉を吊り上げた。

 

 

「・・・・・・それはもう昔のことだぜ、アルベルト。今のリィエルは、リィエルだ。何人もの外道魔術師を屠ってきた、特務分室エースの一人。それ以外の何者でも—————」

 

「そう思い込みたいだけなのではないか?言っておくが—―――――俺は今でも、あいつを処分するか、封印すべきだと思っている」

 

「・・・おい、いくらお前でもそれ以上言ったらただじゃおかねぇぞ?」

 

危険な雰囲気を孕んだ言葉に、周囲の空気が凍りつく。

暫くグレンとアルベルトの間で、苛烈な視線がぶつかり合う。

 

「二人とも、エルシアちゃんの前でそれは止めないと。あの時を今蒸し返してもどうしようもない、そうでしょ?」

 

凛としたセラの声に振り返ると、エルシアがどこか悔やむように顔を俯かせていた。

 

「・・・ふん、相変わらず甘いな」

 

永遠に思える数秒の後、先に折れたのはアルベルトだった。

 

「警告はしたぞ。あとはお前が、いざという時の判断を誤らないよう祈るだけだ」

 

「ごめんなさい、二人とも・・・私を気にしてくれて」

 

そうした後、地面に捨てていた小道具を身に着け—―――――――

 

「それじゃ、兄ちゃん姉ちゃん!あ~ばよっ!」

 

「それでは失礼致します」

 

「・・・・・うん、見事すぎる演技。呆れを通り越して尊敬するわ」

 

「あはは・・・またね?」

 

 

二人の完璧な演技に、二人とも眩暈がしたのだった。




アサシンズプライドとFGOのアニメがスタートしましたが、どちらも神アニメだと確信。
デートアライブの再放送もBSでやっていたので満足、なんですけど・・・
どうせならSAOと時間ずらして欲しかった。
お陰でSAOはリアタイを諦める羽目になりました。

少しオリ主の出番が少なかったですが、次回からは多くなります。

ではまた。


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夜、男(馬鹿)どもの戦い(笑)

どうも、影龍 零です。

遅れましたすみません(土下座)
そして今年最後の投稿間に合いました・・・

因みにコミケ初めて行ってきたんですが、Fateのボードゲームやラーマxシータのサークル本、デートアライブグッズといい収穫でした。
でも二日目に行きたかった(泣)


では、どうぞ。


その後全員が合流し、今回の遠征学修中に寝泊まりする旅籠に向かった。

道中、何故遠征学習の行き先を、軍事魔導研究所ではなく白金魔導研究所にしたのかとグレンは聞かれた。

同数だった希望調査にグレンは最後の一押しとばかりにセラの票も含め白金魔導研究所に入れたのだ。(セラに無断で入れたのでジト目で見られた。ノラとタクスは面白がって別々に投票)

 

すると、いつになく真剣な顔でこう答えた。

 

「美少女達の水着姿あらゆるものに優先する。当然だろう?」

 

周囲の男子生徒(ノラ、タクス、ギィブル、セシルを除く)は感嘆の声を漏らす。

馬鹿もここまでくると蔑みを通り越して尊敬できるものだ。

女子生徒は現に呆れかえっている(ルミアは苦笑いだが)。

 

「・・・アホみてぇな事言ってないで早く旅籠にいこう、グレン兄」

 

求道者のような男子生徒を物ともせず、気だるげにノラが声を掛ける。

まだ、顔は病人のように白い。

彼は己の睡眠時間の確保を最優先したいらしい。

 

「あー、わかったわかった。だから現実に引き戻すのやめてよね」

 

と、何か気付いたのかグレンは辺りをキョロキョロ見回す。

 

「おいノラ、タクスと白犬はどこ行った?」

 

するとノラは黙って前方を指さしたので、全員が視線をそちらに向けると_____________

 

 

「おーい!みんなも早く〜!」

 

「ちょっと待ってセラ姉!【疾風脚】レベルで速い!」

 

 

何の魔術も無しに素晴らしい速さで先頭を行くセラと、それを追いかけるタクスの姿があった。

詳細は後々語るが、彼女はとある一族の止ん事無き身分で、美しい景色などを見るのが好きだった。

案外、彼女が一番楽しんでいるのかもしれない。

グレンとノラは呆れ顔で、他の生徒達は生暖かい目で見つつ、その後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ夜も更けてきた時間帯。

生徒達も船旅の疲れを癒やす為、速攻で睡眠をとると誰しもが考えるものだろう。

だがお生憎、そんな生徒の方がいたら珍しいものだ。

現に男子生徒のギィブルとセシルだけが、しっかり夢の中に入っている。

 

ではそれ以外はどうか?

それは今からお答えしよう──────

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

旅籠では男子生徒と女子生徒が別館と本館で分けられており、行き来するには中庭の回廊を通る。

だが、ここにいる勇者(馬鹿ども)は違った。

 

「・・・これより作戦を開始する」

 

中庭の茂みでカッシュが宣言した。

 

「回廊は流石に使えない・・・・・・誰かに見つかる可能性が高すぎる」

 

カッシュの後ろに控えたロッドやカイなど他数名の男子生徒がコクコクと頷く。

 

「よって、我々は裏手の雑木林から回り込み、木をよじ登って窓から侵入しなければならない。ルートや部屋割りは既に調査済みだから安心しろ」

 

「い、いつの間に・・・・」

 

「さ、流石カッシュ、抜かりないぜ・・・・・」

 

感嘆の表情を集めるカッシュ。

 

「で、でもグレン先生とセラ先生が巡回している可能性は・・・・?」

 

「それも大丈夫だ。一部協力的な女子生徒にそれとなく探りを入れてもらった。これからの三十分間、先生達が裏手の雑木林を巡回する可能性は限りなくゼロだ」

 

「スゲェ・・・・か、完璧過ぎる・・・・・ッ!?」

 

「あ、兄貴と呼ばせてくれ・・・・」

 

「ふっ、まだだ。感謝するにはまだ早すぎるぜ、皆・・・・・・」

 

カッシュが不敵に笑う。

 

「全ては女の子達の部屋に忍び込み、夢の一夜を過ごしてからだ・・・そうだろう?」

 

「そ、そうだった・・・俺・・・リィエルちゃんと徹夜で双六するんだ・・・・」

 

「な!?ずるいぞ、カイ!俺も交ぜてくれ!」

 

「シーサー、俺はルミアちゃんとトランプで遊ぶぞッ!」

 

「ああ、ビックス。僕はこの機会にリンちゃんと、たくさんお話しするんだッ!」

 

「ウェンディ様に『この無礼者!』って罵倒されたい・・・・王様ゲームで奴隷のごとくパシられたい・・・・」

 

「システィーナは・・・・別にいいや。多分、説教うっさいし」

 

「「「「うんうん」」」」

 

「さぁ、いくぞッ!心の準備はいいか、皆!?楽園は目の前にあるぞッ!」

 

「「「「おうッ!」」」」

 

息巻きながら、カッシュを先頭に男子生徒達は行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

彼らの気迫は素晴らしいものだった。

『楽園』に行く為に行動する彼等は、隠密部隊もかくやという気配遮断とスニーキングを披露していた。

 

例え動機が不純だとしても、この技術は賞賛されて然るべきだろう。

だがまぁ、彼等はまだまだ学生。

このことがバレていない筈もなく───────────

 

 

 

 

「な、なぜアンタらがこんな所に──────グレン先生!?タクス!?」

 

 

どーん、と腕を組んで仁王立ちしているグレンと、頭の後ろで腕を組んで木に寄りかかっているタクスがいた。

 

 

「甘い・・・甘いぜ?お前ら。チョコレートに生クリームと蜂蜜かけて、砂糖まぶしたくらいに甘すぎる・・・・お前らの浅知恵なぞ、この俺には最初からお見通しだぜ・・・・・なにせ─────」

 

 

グレンは威風堂々と生徒達を睥睨し、不敵な笑みと共に言った。

 

 

「俺がお前らだったら、絶対このルート、このタイミングで、今晩、女の子達に会いに行くからなぁーーーーッ!?」

 

「ですよねーー」

 

 

何の後ろめたさもないグレンの宣言に、カッシュはため息をついた。

 

 

「ま、そんなわけで・・・だ。部屋に戻れ、お前ら。一応、規則なんでな」

 

「・・・・・・」

 

「なーに、心配すんな。んなコトいちいち学院側に報告なんかしねーよ。見なかったことにしてやるよ。だから——————」

 

 

くるりと背を向けヒラヒラと掌を振るグレン、その時だ。

 

 

「それは出来ないぜ、先生・・・・・・」

 

 

固い意志の灯ったカッシュの言葉に注目が集まる。

 

 

「男には退けない時がある・・・・俺達にとっては『今』がそうなんだ・・・・・」

 

 

言葉を聞いたグレンの表情がみるみる真剣なものになっていく。

 

 

「そうか・・・・お前ら、『覚悟』を決めた人間、なんだな・・・・・」

 

 

場に緊張が走る。タクスはため息をつく。

 

 

「残念だな。ならば、俺は教師としてお前らを実力で排除しなければならない・・・・・・」

 

「先生——————ッ!」

 

 

拳を握り拳闘の構えを取ったグレンに、カッシュは必死で呼び掛ける。

 

 

「アンタは俺達側の人間だったはずだッ!アンタは俺達が『楽園』を目指す理由を——————学院のどんな大人達よりも理解してくれているはずだッ!なのになぜッ!?なぜ、俺達が戦わなければならないんだーーーーッ!?」

 

 

カッシュの魂の叫びはグレンの心をえぐる。

 

 

「馬鹿野郎!わかってる・・・・そんなことはわかってるッ!そんなうらやまけしからんイベント、むしろ俺が率先して乗り込んでいきたいわッ!?だがな——————」

 

 

ずがん、と。

かたわらの木を殴ったグレンの頬を、堪えられない涙が落ちてくる・・・・

 

 

「駄目なんだ・・・・俺はもうお前達側に戻れないんだ・・・そんなことが知れ渡ったりでもしたら、白犬に・・・・セラに何されるかわかったもんじゃねぇ・・・・・・最近アイツの背後にちょくちょく風神が見えるんだよ・・・・これ以上いったら鬼神が見えるかもしれねぇと思うと、夜も眠れないんだ・・・・・」

 

 

ぐしっと涙を拭うグレンの背中は余りにも哀愁が漂っていた。

 

 

「・・・・そうですか。なら、タクス」

 

 

カッシュに呼ばれ、タクスが身を起こす。

 

 

「どうしてお前はそっち側についたんだ・・・・?この夢は男なら・・・お前ならわかるはずだろ!?どうして!?」

 

 

今の今までだんまりだったタクスがようやく、口を開いた。

 

 

「そりゃ、俺はセラ姉に頼まれたからな・・・・有無を言わさない圧で」

 

 

タクスは遠くをみながら言った。

 

 

「俺とノラが寝ようとした矢先にセラ姉呼んできて・・・勿論断ろうとしたさ、寝たかったからな。そしたら俺らがやらかした事をつらつら挙げて・・・・直感したよ、『断ったら終わる』ってな」

 

 

そう言ってタクスが向き直る。

 

 

「だから、俺らは一秒でもお前らを早く排除して睡眠をとりたいんだ・・・・・ッ!」

 

 

見るとタクスの目元には隈が浮かんでいた。

 

 

「なら、ノラはどこに?」

 

「アイツなら今頃、上でお前ら狙ってんじゃね?」

 

 

次の瞬間、一条の閃光が夜空を掛けた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「・・・・ふざけんなよこっちは早く寝たいのになんでこんな事に当たらなきゃいけない船酔い患者にする仕打ちじゃねぇどれだけ俺の睡眠を奪えば気が済むんだ・・・・・・」

 

 

ブツブツ怨み言を吐きながら【ショック・ボルト】を連発していくのはそう、ノラだ。

彼の視線の先では大混戦が繰り広げられている。

 

 

「ふはははは!どうしたどうした!?こんなんじゃいつまで経っても当たらないぞぉおお!?」

 

「く、くそぉ!全然当たらない!?」

 

「ちょこまかと・・・・ッ!?」

 

「ま、待て!固まったらまた【ショック・ボルト】が飛んで——————」

 

「こっちだこっち、捕まえてみな!」

 

 

グレンが林の隙間を縫うように駆け回りながら跳んで、転がって、その勢いで跳ねて、タクスが木の上を自由に動き回って、宙返りして、ターザンのように飛び移って、カッシュ達の呪文を避け続けている。

そして二人に注意が向いているところを、ノラが【ショック・ボルト】の即興改変で次々に男子生徒を撃ち取っていく。

 

 

「あ、アルフぅうううううッ!?しっかりしろ、アルフぅうううううッ!?」

 

「か、・・・・カッシュ・・・・お、俺はもう・・・・・」

 

「馬鹿野郎!傷は浅いぞ!?目指すんだろう、『楽園』をッ!?こんなところでくたばっている場合じゃないだろうッ!?」

 

「た、頼む・・・・カッシュ・・・・『楽園』を・・・・俺達が追い求めた『楽園』を・・・・・ッ!俺の屍を越えて・・・・俺の分まで・・・・『楽園』を・・・・、見て、・・・・、来・・・・、・・・・・・」

 

「アルフぅうううううぅわぁあああああああーーーーッ!俺は一体———なんのために戦っているんだぁあああああああーーーーッ!?」

 

 

ぐったりとしたアルフを抱き起こしたカッシュの慟哭が、林間に響き渡り・・・・・・・

 

 

 

 

「【ショック・ボルト】で死ぬわけないでしょ。十分もすれば目を覚ますわ」

 

 

旅籠本館の屋上テラスから、頬杖をつきながら冷ややかなジト目で、眼下の熱い光景を見下ろす者がいた。

システィーナである。ゆったりとしたネグリジェに身を包み、風呂上がりの肌にはほんのりと湯気が立っている。

 

 

「・・・なんだ、きたのかルミア、システィーナ、リィエル」

 

「何が起きてるの?システィ、ノラ君」

 

「おバカ達とおバカ達が、くだらないことでじゃれ合ってるわ」

 

 

同じくテラスに来ていたルミアが眼下で起きていることに疑問を持つ。

 

 

「それにしても・・・先生とタクス・・・・無駄に見事な立ち回りだわ。ただでさえ魔術師同士での少数対多数は不利だっていうのに・・・こんな時だけ本気なんだから・・・・」

 

「あはは・・・ノラ君も【ショック・ボルト】の何度も即興改変をしてるのに全然疲れてないし・・・・三人らしいね・・・・・」

 

「・・・俺は<ただ><早く><寝たいだけだ>」

 

 

そう言いながら【ショック・ボルト】を立て続けに放ち、男子生徒の意識を刈り取っていく。

 

 

「・・・やっと終わったか」

 

 

そう言って座っていた場所から降り、眠たげに目を擦っていた。

そんなノラを呆れながら見ていたシスティーナは、ふと、リィエルが眼下の光景を背伸びしながら見ているのに気がついた。

 

 

「あー、リィエル?その・・・乱暴したら駄目よ?カッシュ達のアレは・・・・なんていうか・・・・先生の敵とか、そんなんじゃなくて・・・・・遊んでいるだけっていうか・・・・・・」

 

 

この間ハーレイに切りかかった事件を思い出し、システィーナは内心慌てていた。

 

 

「・・・ん、大丈夫。何もしない」

 

 

だが、リィエルは意外にもそんな返答をした。

 

 

「だって、カッシュ達からは嫌な感じがしないから」

 

 

どうやらリィエルは誰彼構わず突っ込んでいくわけではないらしい。

恐らく人一倍感情の機敏に敏感なのだろう。

 

 

「あんなに楽しそうなグレン・・・初めて見た・・・・」

 

 

ぽつり、とリィエルが呟いた。

 

 

「そうなの?学院だといつもあんな感じよ?」

 

「昔は・・・もっと暗かった」

 

「・・・・・リィエル?」

 

「セラも、ノラもタクスも前より楽しそう・・・・・」

 

「え・・・・?」

 

「セラがそばにいて支えていたけど・・・グレンは暗かった・・・だから、わたしがそばにいて守ろうって・・・・そう思っていたのに・・・・・・」

 

 

いつもより無感動なリィエルの表情からは、システィーナは何も読み取れそうにない。

そういう機敏に聡いルミアはこちらの変化に気づかず、ニコニコと光景を見ている。

現在、グレンとタクスが男子生徒を台車に乗せ退散しようとしているところだった。

 

 

「・・・んじゃ、俺はこれで・・・・・やっと眠れる」

 

 

そう言ってノラはテラスから飛び降りていった。

 

 

「え、ちょ、ノラ!?ここ屋上よ!?」

 

 

システィーナはギョッとするが、既にノラはいなかった。その時だった。

 

 

「あらあら、こんなところにいたんですの?お三方。探しましたわよ」

 

 

屋上テラスに通じる扉が開き、ウェンディが姿を見せた。

 

 

「あ、ウェンディ。どうしたの?」

 

 

ルミアが眼下の光景から目を逸らし、ウェンディを振り返る。

 

 

「ええ、これから私達の部屋に集まって、皆でカード・ゲームにでも興じませんかと思いまして、セラ先生に皆さんを集めて頂いている間に、貴女達を探していたのですわ」

 

 

そして、ウェンディはリィエルをちらりとリィエルを見て、微笑んだ。

 

 

「その・・・・リィエル。貴女も私達と一緒に、カード・ゲームに興じませんこと?」

 

 

最初のギクシャクした雰囲気は、すっかりなりを潜めていた。

 

 

「かーど?遊ぶの?・・・・わたしも?」

 

 

リィエルのその眠たげな双眸が、興味深そうに瞬いていた。

 

 

「ええ、そうですわ」

 

「・・・・・ん。わかった。なんかよくわからないけど・・・・・・遊ぶ」

 

「ふふ、それではご一緒に参りましょう?」

 

 

ウェンディが優雅に踵を返し、リィエルがそれに続く。

 

 

「良かったね・・・・リィエル、もうすっかりクラスの皆と打ち解けたね?」

 

「え?あ・・・うん・・・・そう、みたいね・・・・・・」

 

 

嬉しそうなルミアに、どこか曖昧に返すシスティーナ。

 

 

「あれ?ルミアちゃんにシスティーナちゃん、もう皆集まっているよ~~」

 

 

声がした方を見ると、セラが手を振りながら二人を呼んでいた。

 

 

「はーい。ほら、行こう?システィ?」

 

「・・・うん」

 

 

ルミアに続いて、システィーナも屋上を後にする。

 

 

(うん・・・気のせいよね・・・・気のせい・・・・・わりとすんなり上手くいってるから、そう思うだけ・・・・・・よね?)

 

 

先ほど感じた、一抹の不安。

正体不明のそれが杞憂である、とシスティーナは努めて考えないようにするのだった




来年のHF最終章に、FGO第六特異点と映画が楽しみですね!


それでは皆様、良いお年を!


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楽しいひと時。そして・・・・

どうも。影龍 零です。


『デート・ア・ライブ』の最終巻を4月10日に読んで感動しつつ、言い表せない喪失感と満足感を感じていました。
私にとって始まりの一冊だった『デート』の完結はさみしかったですが、同時に一番の『感動』を味わうことが出来ました。


では、どうぞ。


男たちの信念をかけた______もとい、馬鹿らしい乱闘から明けた翌日。

 

青い空、燦々と照りつける太陽、汚れなき白い砂浜。

清らかに千差万別に変化する波の色。

 

そんなサイネリア島ビーチに、グレン率いる二組の生徒達の姿があった。

 

「え、『楽園(エデン)』はここにあったのか・・・・・・ッ!?」

 

「焦らずとも『楽園(エデン)』は自ずと俺達の前に現れる・・・全て先生の言う通りでした・・・」

 

「ごめんなさい・・・先生・・・・俺達が間違ってました・・・・・」

 

「・・・くだらないこと言ってる暇があるなら少しこっちも手伝え、コラ」

 

カッシュを筆頭とした男子生徒達が女子生徒達の水着姿を拝んで感涙の涙を流している中、白と青の紋様が描かれた海パンと黒いビーチサンダルを履き、夜色のパーカーを羽織ったノラがBBQの準備を片手間にしつつ釘を刺した。

 

「いや、いいじゃねぇかこのくらい。海の醍醐味の一つだと俺は思うぞ」

 

「・・・泳ぎもせず、砂浜でも騒がず、ただ水着姿を拝むその思考は俺には理解できない」

 

「ノラって結構堅物なんだな・・・・」

 

途中からやって来たグレンの反論を一蹴する物言いにロッドが思わずそう零す。

グレンの格好はいつものシャツにズボンにクラバット、ローブをだらしなく肩に引っ掛けている。

 

「ところで、タクスはどこにいるんだ?さっきから見当たらないが・・・」

 

グレンが辺りをキョロキョロと見回すが、愚弟その2(タクス)の姿はない。

 

「・・・アイツならBBQで使う食材を獲りに行ってる」

 

「食材?魚とかか?」

 

黙って頷くノラにグレンはどうでも良さげにうんうんと首肯するが、内心では________________

 

(よっしゃぁぁぁぁぁああああ!昼はセラが作ってくれているとは言え、家じゃセリカがいるせいでマトモに食えてねぇ・・・・ここで何とか食い溜めしとかねぇと・・・・!?)

 

________羨ましくもちょっと同情する事情があった。

グレンはセラのお陰もあってか学院内でのミスはそこまで多くもないが、それでも減給処分をくらうことがあり、セリカも

 

『就職したんだから食費ぐらいは払え。下宿代をとらないだけ有り難いと思うんだな』

 

と、取り付く島もない。

 

「ま、BBQも夏の風物詩だしいいんじゃねーの?俺は昨日の傷が痛いから寝る」

 

ノラとタクスの加勢もあり二、三時間ほどで生徒達を鎮圧することが出来たが、それでも幽鬼のように起き上がって向かってくる男子を相手取るのは中々に大変なものだ。

固有魔術(オリジナル)の【愚者の世界】を使えばすぐにでも鎮圧自体は出来たが、帝国軍時代の魔術を使わない辺り、グレンの人の良さがにじみでているのだろう。

 

「あはは・・・すんません」

 

「ったく、本気できやがって・・・たかが【ショック・ボルト】なのに恐怖を感じたぞ?」

 

怨み言に何の反論も浮かばないようだ。

 

「まぁ、いい。今日一日は自由時間だ・・・昼になったら起こしてくれ・・・ふぁ・・・・」

 

「わかりました!先生!」

 

男子生徒が勢い良く海へとかけていく。

だが、ギィブルだけは制服姿でヤシの木の木陰で読書している。

 

「せっかくの自由時間だってのにお前は・・・もうちっと肩の力抜けよ・・・・」

 

「・・・・・・ふん、余計なお世話です」

 

ギィブルはそのまま教科書に没頭してしまった。

 

「やれやれ」

 

「・・・おい手伝ってくれグレン兄」

 

とやかくは言わず、グレンも眠りに入ろうとする。

愚弟その1(ノラ)が何か言っているが、気にも留めない。

その時だ。

 

「先生~」

 

「ん?」

 

誰かが駆け寄ってくる気配。

誰なのかは声で分かる二人だったが、一応確認する。

やって来たのは、手を振りながら駆け寄ってくるルミアと、リィエルの手を引きながらこれまたやって来るシスティーナ、そしてこちらに気付いて駆け寄ってくるセラ。

いつものメンバーだった。

 

「・・・海で泳いでいたんじゃないのか?」

 

「うん!でも泳ぎ疲れちゃったから戻って来たんだ~。それはそうとノラ君、この水着どうかな?」

 

くるりとノラの前でルミアが回ってみせる。

青と白のストライプ柄のビキニが、優美な曲線を描くボディラインをさらに美しく、艶かしくみせる。

そして童顔なこともあり、そのアンバランスさが得も言われぬ魅力を醸し出している。

 

「・・・まぁ、よく似合ってるんじゃないか?」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

相も変わらず無表情に答えるだけのノラだが、それでも嬉しそうに笑うルミア。

その反面、システィーナはどこか残念そうにしている。

 

「・・・安心しろ。タクスならもうすぐ来るぞ」

 

「んなっ!?わ、私はそんな事思ってなんて______」

 

「俺がどうかしたか?」

 

「わきゃあ!?!?」

 

慌てて振り返ると、魚や貝、海老が入った網を複数抱えたタクスがいた。

黒を基調とし黄色の線が入ったラッシュガードに、ノラと同じ海パンを履いている。

どうやら食材を獲り終わって戻って来たようだ。

 

「ん?システィ、その水着・・・」

 

「な、何よ・・・」

 

身体を腕で抱くように隠し、身じろぎするシスティーナ。

腰に巻かれた花柄のパレオがお洒落な、セパレートの水着が、彼女の控えめなカーブのラインが清楚な、スレンダーなその肢体を彩る。

ルミアに負けず劣らずの魅力だ。

 

「へぇ、似合ってるじゃん!スッゲー可愛い」

 

「う、うるさいわね!別にあなたに見せるために買った訳じゃ____」

 

ストレートなタクスの賛美に、システィーナは頭がショートしたように顔を真っ赤にさせていた。

その光景をグレンは、口の中が甘くなる感覚を覚えながら眺めていた。

と、肩をつんつんとつつかれる。

振り返ってみると、不機嫌そうに頬を膨らませたセラがいた。

雄大な草原を彷彿とさせる、ライトグリーンのパレオの水着姿。

彼女の精霊のような容姿も相まって、上品な美しさを放っている。

グレンは自分の顔が図らずも赤くなるのを感じた。

 

「あ~・・・その、なんだ・・・・・似合ってるぞ。・・・スゲェ可愛い」

 

「っっっ!?!?あ、ありがと・・・・・」

 

少々ぶっきらぼうながらも褒めるグレンと、ほんのり頬を赤らめてもじもじするセラ。

どちらかというとこっちの方が砂糖を吐きそうになる。

現にシスティーナとルミアは口の中が妙に甘く感じている。

ノラとタクス?見慣れてるからどうもしてない。

すると、リィエルがグレンに一歩歩み寄り、意味ありげに凝視してきた。

今のリィエルは濃紺のワンピース水着、有り体に言えば水泳教練用の水着だ。

 

 

「ん?どうしたリィエル」

 

「………」

 

「…いや、言わなきゃ分かんねーよ」

 

何も言わずに胸を張るだけなので、グレンはいまいち意図が読み取れない。

 

「………なんでもない」

 

悲しげに引き下がったリィエルを見て首を傾げるグレンだが、複数の視線を感じたので振り返ると、セラとシスティーナがジト目で、ルミアが

苦笑気味に見ていた。

 

「え、何?俺なんかした?」

 

グレンが問いかけるが、女性陣は何も言わない。

やがて視線に耐えられなくなったのか、グレンはせきばらい咳払いと共に話を逸らすことにした。

 

「んんっ!で?お前らどうした?向こうで遊んでたんじゃないか?」

 

「あ、はい。今からビーチバレーをやろうと思うんですけど、先生達もどうですか?」

 

「ビーチバレーねぇ~・・・」

 

グレンは如何にも面倒な様子だが。

 

「マジ?やろうやろう!ノラもいこうぜ!」

 

「・・・いや、俺は「固いこと言ってないで行くぞー!」ちょ、おい首締まる首締まる!!」

 

「おいタクス待って!俺結構身体痛いんだけどなー!?だから「別に大丈夫だろ!」やめ、離せーーッ!?」

 

タクスが意気揚々とノラとグレンの首根っこを掴んでかけていった。

その光景に三人は顔を見合わせて、すぐに呆れ顔、もしくは苦笑を漏らした。

 

「・・・・・?」

 

リィエルは相も変わらず首を傾げるだけだったが。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

ビーチバレーを明らかにやる気がない、そういう言動だったグレンだったが。

 

 

「どぉおおりゃぁぁああああああーーーーーッ!?!?」

 

めっちゃノリノリで楽しんでいた。

グレンの気合いと共に放たれたスパイクが、相手コートに弾丸の如く迫る。

瞬間、弾かれたようにタクスが着地点を予想、スライディングの要領でボールを拾う。

 

「リィエル!」

 

そのボールをシスティーナが上手い具合に天高くトス。

やる気なさげにリィエルが飛び上がり____

 

「えい」

 

気が抜ける声と裏腹に、ドゴムッ!とボールがひしゃげる鈍い音。

放たれたボールは盛大な砂柱をあげ、グレン陣営のコートにめり込んでいた。

 

「・・・どうしろって?」

 

「うーん、リィエルちゃんがここまで強いなんてね・・・」

 

顔を引きつらせるグレン。

セラも眼前の光景故か冷や汗がでる。

 

「よっしゃあ得点!やれば出来るなリィエル!」

 

「ええ!この調子なら勝てるわ!」

 

グレン陣営のお通夜状態とは裏腹に、タクス陣営はリィエルを中心にして大はしゃぎだ。

 

「くそッ!あんなハエ叩きみたいな動作で、どうやってあんな力が・・・・ッ!?」

 

乗り気でなかった筈のギィブルも、試合を重ねるうちにのめりこんだらしい。

悔しそうに舌打ちする。

 

「・・・先生方!僕が全力でボールを拾うから、いい加減に決めてくださいッ!!この体たらくで、本当に僕らの恩師ですかッ!?」

 

「・・・へっ、言うじゃねぇか」

 

「うん、頑張ろう!」

 

魔術師の性か、やはり勝負事には熱くなるのだろう。

これは誰であっても例外はない。

 

「勝負は、これからだ」

 

グレンが再開の合図と共に、サーブをあげた。

 

 

□□□

 

 

「よし!決めろリィエル!」

 

「えい」

 

絶妙な高さに打ち上げられたトスから放たれるリィエルの殺人スパイク。

 

 

「く_________《見えざる手よ》_____ッ!!」

 

一直線に迫る砲弾に対し、ギィブルは全力で白魔【サイ・エレキネシス】を唱える。

 

さて、リィエルの放つ殺人スパイクは、生半可な呪文を唱えても簡単にぶち抜いてしまう。

しかしながら、よく観察すると、リィエルはコートのど真ん中だけを狙っている。

ならば最初からそこに注意して呪文を用意する。

 

 

 

「「「「な、何ぃいいいーーーーッ!?」」」」

 

 

見事、ギィブルの呪文がスパイクを捉えた。

初めてリィエルのスパイクが防がれたため、システィーナとリィエルの反応が遅れ____

 

 

「頼んだぜ、セラ!!」

 

 

その隙を突き、グレンが素早くトスを上げ_________

 

 

「はぁああああーーーーーッ!!!」

 

 

セラが渾身のスパイクを叩き込んだ。

 

しかし、唯一タクスは反応した。

セラの目線から着地点を予測し、全力で横っ飛びでボールに飛びつく。

 

 

「もらった____」

 

 

タクスだけでなく、観戦していた生徒達もそう思った。

が。

 

タクスの腕が届く間際、ボールが突然右に軌道を変え_____

 

 

「な______ッ!?」

 

 

タクスのレシーブを避け、そのままコートに着地した。

 

「・・・グレン兄チーム一点」

 

「「「「「おぉぉおおおおおおおーーーーーーッ!?!?」」」」」

 

予想外の連携とセラの神業に、外野から歓声が湧き上がる。

セラはリィエルのスパイクを捉えたとしても、タクスは動揺せず反応してくると確信していた。

なのでスパイクの時、手首のスナップを使ってボールに横回転を加え、ギリギリで右に軌道を変えるように打ったのだ。

勿論、聞くだけなら簡単そうだが、相手がボールをレシーブするタイミングギリギリを狙うため、並大抵の運動神経と力加減では不可能に近い。加えて回転にかける力を瞬時に調整しなければならない条件を考えると、帝国軍時代の経験と彼女自身の抜群の魔力操作のセンス故に成せた業といえるだろう。

 

「よっっしゃ一点!ナイスだセラ!」

 

「ふん、僕のアシストもあるんです。このくらい当然でしょう」

 

「グレン君もギィブル君もナイスアシストだったよ!」

 

一気に息を吹き返したグレン陣営に対し、タクス陣営は驚きを隠せない。

 

「セラ先生、ここまで運動神経いいなんて・・・」

 

「・・・ん、セラは凄く速いし、凄く動ける」

 

「まぁ、そうじゃなきゃ帝国軍時代のサポート技術の説明がつかないからね~」

 

最後のタクスの言葉は歓声でかき消されているため、リィエルとシスティーナにしか聞こえていない。

 

「でも、まだまだ俺らが有利だ!このまま逃げ切ろう!」

 

「そうね!勝負はこれからよ!」

 

タクスとシスティーナが気合いを入れ直している中、リィエルは首を傾げるだけだったが。

 

「・・・ん。よくわからないけど、頑張る」

 

少し、表情にやる気が表れていた。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

白熱したビーチバレーの後のビーチ。

波のさざめきしか聞こえない夜の海は淡い月光に照らされ、ダークブルーにきらめいている。波で生まれる泡が光を写し、もう一つの星空のごとく海を彩っている。白銀の月が空に浮かぶ今の景色は、いっそ暴力的なまでに美しく、幻想的だ。

そんな海の近くの木から、息をする音が聞こえる。

 

「Zzz・・・」

 

ノラだ。

たまには違う場所で寝るのも悪くないと思い、こっそりと抜け出してきたのだ。

なぜ木の上にしようと決めたのかは知る由もない。

 

「こんなとこでなんで寝てんだ?普段ならハンモックでもかけるのに」

 

「・・・・・・あぁ、タクス」

 

ノラが体を起こすと、少し高い位置の枝に腰掛けるタクスがいた。

よく見ると釣り竿を担いでいる。これから海辺に行くのだろう。

 

「・・・別に、樹に直で寝るのも悪くないものだ。それに─────」

 

言葉を切って浜辺に目を向ける。

そこには────

 

 

「あははっ!」

 

「や、やったわねーーーっ!?」

 

「・・・・・ん。それ」

 

 

ザバァァアアン!!

 

 

「「わぷっ!?」」

 

 

同じく一目を盗んでやって来たのだろう・・・ルミア、システィーナ、リィエルの三人娘が、水かけっこに興じていた。

子犬と子猫が戯れるような、姦しく無邪気な笑い声。

銀色に輝く水飛沫も合わさって、水の精霊が舞っているといわれてもなんら不思議ではない。

 

 

そして、その近くの木陰では。

 

 

「・・・・すぅ」

 

 

頬を上気させ_____恐らく酔ったのだろう____眠るセラに、

 

 

「・・・・・どうすりゃいいんだこれ」

 

 

セラが自分に寄りかかって寝ているためか、身動きがとれないグレンがいた。

彼も頬が赤いが、それはどうやら酒だけの影響ではないようだ。

静かに寝息をたてるセラの銀髪に反射した月光が、どこか儚い印象をつける。

心なしかはわからないが、彼女の寝顔には嬉しそうな笑みを浮かんでいた。

 

 

 

 

「____こんな景色があるんだ、ずっといい眠りがとれる」

 

 

僅かに口を綻ばせ、その光景を見つめる。

タクスは彼の後ろ姿と共にその光景を暫く眺めていたが、やがて立ち上がると隣の木に飛び移った。

 

「確かにいい景色だな~。いっそ詩人みたいに詩でも作れば?」

 

「・・・俺にそんな芸術が出来るとでも?」

 

「ハハッ、違いない」

 

 

そう言ってタクスは行こうとするが、何か思い出したように振り返る。

 

「そうだそうだ、ノラ。星を見てると(・・・・・・)力がでてくるな(・・・・・・・)?」

 

「・・・・ああ、そうだな」

 

ノラの返答に笑みを浮かべて、今度こそタクスは去っていった。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

「・・・少し寝すぎたな、さっさと戻ろう」

 

あの後また眠りについたノラだが、目を覚ますとすっかり夜も更けてしまい、急いで旅籠に戻って来たようだ。

自室に戻ってまた寝よう・・・そう考えている彼の耳に、今の時間帯に似つかわしくない声が届いてきた。

 

 

 

「うるさいうるさいうるさい!」

 

「みんな・・・・嫌い・・・・大っ嫌い!」

 

 

何事かと首をかしげると同時に、傍らを物凄い勢いで駆け抜けていくリィエルの姿があった。

少しその背中を見た後、振り返ると、手を伸ばし呆然としている義兄がいた。

 

「・・・また不器用に中途半端な言葉かけたなグレン兄」

 

「あぁ・・・ノラか」

 

少し悔しそうな声音が響く。『正義の魔法使い』を夢見て『現実』と『事実』に押しつぶされたグレンには、今のリィエルに思う所があったのだろう。

リィエルは見た目以上に幼い、そのことを失念していた。

 

深いため息をつき、肩をガックリと落とす義兄の姿は、ノラに改めて『手紙』の意味を考えさせられた。





次回から三・四巻の展開が本格的になりそうです。
では、また。












_____最高の『戦争』と『物語』を、ありがとう。


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過去と歪み

 本っっ当にお待たせしました.
 影龍 零です.
 色々と変化がありましたが,なんとか落ち着いたので投稿いたします.
 それではどうぞ.


□□□

 

 

 

 

あの日以来、私は特務分室でお世話になることになった。

なんでも人員不足で、私の腕を買いたいのだとか。

室長には今でも感謝している、今の同僚や友人といえる人達に出会えたのは、室長のお陰でもあるから。

勿論、あの時私を見つけ助けてくれたグレンさんとセラさんにも。

兄が死んだと知って取り乱していた、地獄のような日々で色褪せた私の視界に色を付けてくれたのは二人だ。

 

こんなロクでなしの私にも、守ろうと思える場所が、人達が出来た。

 

 

でも、____________私の中の感情が、憎悪が、今でもなお燻っている。

____________申し訳なさと後悔が、絶えず私に襲い掛かる。

 

 

もし『奴』に出会ったら、私は全霊をもって復讐を成す。

 

けれど、彼女は?

 

彼女が真実を知ったとき、私は彼女に何が出来るの・・・・?

彼女に、どう顔向けをすれば、いいの?

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「・・・い、おい、エルシア」

 

 

隣からの冷たく突き放すような声で、私は現実に戻った。

 

 

「は、はい。何か確認事項ですか?」

 

「そうだが、いつまでも思考に耽るのは関心せん。いつ狙われるかわかったものではない」

 

「・・・・すみません、気が抜けてました」

 

 

猛禽類を思わせる目つきのアルベルトさんは、私の謝罪に対し何も言わず黙々と人気のない道を歩く。

 

 

「私情は極力挟むな。慣れていると慢心しては肝心なときしくじる・・・変装を教えたときにも告げたはずだが?」

 

「・・・はい、『成りきる以上に成り切れ』ですね」

 

かつて変装に関するあれこれを叩き込まれた私は、グレンさん曰く『その道でも食っていける』そうだ。

無論そんなつもりは毛頭ない。

私はただ、今の場所を守りたい。

 

それでも・・・それでも、こう思わずにはいられない。

 

「・・・ここにもし、兄さんが生きていたら・・・」

 

独り言のつもりが、言ったそばから込み上げる感情。いや、もう激情とも呼べるかもしれない。

少し心を落ち着かせよう。そう思い、アルベルトさんに話しかけた。

 

 

 

「今回の任務は、『天の智慧研究会』が絡んでいるんですよね?」

 

「ああ。外部の協力者もいるとの垂れ込みだ。そして・・・」

 

一旦、言葉を切り、私の方を向く。

 

「過去の事件とも関係がある」

 

「・・・・・・ッ!」

 

 

その言葉で、私は確信をもった。

落ち着かせようとした心に再びの激情が灯るのを感じた。

この任務、必ず『奴』が絡んでいる。私が追い続けた、復讐の根源。

そして____

 

 

 

 

_______私のせいで生まれてしまった、彼女にも関係がある。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

遠征学修、研究所見学の日。

 

目的地である白金魔導研究所は、サイネリア島のほぼ中心に位置している。

観光客も多いこの島なのでもちろん道路にも舗装があるが、フェジテのようにしっかり整備されているわけでもないし、獣道のままの場所だってある。

 

そんな道を学院の生徒たちのほとんどは歩いたことが無いわけで・・・・

 

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー、うぅ・・・」

 

「ぜぇ・・・・・ぜえ・・・・・」

 

「う・・・、ふぅー、ふぅー・・・」

 

 

こんな感じでグロッキー状態に早変わりしてしまった。

魔術師の学校なので体力よりは魔力、判断力や技能を優先する学生は当然ながら多い。

そうなれば、この結果は至極当たり前のようにもみえる。

 

もちろん、例外はいる。

 

「おいおい、まだ研究所までは遠いぞ~。へばるのは着いてからな~」

 

「もうちょっとしたら着くから頑張ってー!」

 

言葉の内容は違くとも軍生活が長かったグレンとセラ。

先頭をセラ、殿をグレンが請け負いそれぞれ鼓舞しながら進む。

 

 

「大丈夫か?俺はまだ余裕あるし、荷物持つよ」

 

「あ、ありがとう・・・流石、カッシュ君は、冒険家、志望だね・・・・・・」

 

 

田舎からやって来ただけあって体力に自信があるカッシュ。

 

 

「何もこんな秘境染みた場所に建てなくてもいいんじゃねーか・・?」

 

「・・・静かな場所だ、人間不信なんだろう・・・・」

 

「いや、お前じゃあるまいし_______待って、無言で指ささないで。怖いから」

 

現役の宮廷魔導士のノラとタクス。

相も変わらずふざけているようにみえる。その裏、ノラは昨晩走り去ったリィエルとその要因であろうグレンについて考えていた。

 

(グレン兄がやらかすのはいつものことだけど、昨日のあれは‘何か’違う。地雷をピンポイントで踏み抜いたような・・・)

 

他人の地雷は何気なく踏むことも少なくない。グレンという最も身近な例を参考にノラは原因を探ってみる。

 

 

(リィエルの素性を考えたらまぁ・・・なんとなく見えてくるか)

ちらりとさり気なく、リィエルを視界に入れる。

 

 

「・・・・・・・・」

 

そして、今朝から一言も発しないリィエルだ。

というよりも、今朝はリィエルが部屋に居らず、総出で捜す大騒ぎになったのだ。

出発前に見つかったのでよかったのだが________

 

 

「・・・・・・・」

 

表情は変わらず眠たげなのに、雰囲気がおかしい___もっと言えばどこか思い詰めている節がある。

 

 

「ねぇ、リィエル・・・大丈夫?今朝もだけど、何か悩み事でもあるの?」

 

システィーナが心配そうに声をかけるが、それでもリィエルは無言を貫く。

やがて獣道が険しくなっていき、足を取られそうになる根や石が増えてきた。

周りの生徒やグレン達は気を配りながら進んでいたので問題もなかったが、一心不乱に進むだけのリィエルが辿る結末は火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「…ッ!?」

 

 

何も発さずにズンズン進んでいたのが祟り、足下に張っていた根に気づかず足を取られてしまった。

本来なら絶対にしないであろうミス。

これには昔から彼女を知っている者も目を疑っていた。

 

「大丈夫、リィエル?ここは足場が悪いから…無理しないで、ね?」

 

システィーナと一緒に近くを歩いていたルミアが心配を顔に出して手を差し伸べる。

リィエルはその手に対し________

 

パチンッ!!

 

払い除ける形で応えた。

 

「うるさい……」

 

怒りの籠った、そして何処か思い詰めた声を震わす。

無表情のリィエルがここまで感情を滲ませるのはそうそうないことだ。

 

「うるさいうるさいうるさい!!!関わらないで!近寄らないで!」

 

子供が駄々をこねる、その表現が的確であろう。

一方的に喚き立て、ルミアに背を向けて再びズンズンと進んでいく。

 

「私はあなたたちなんか……大っ嫌い!!!!」

 

呆然と立ち尽くす二人。

 

「…なんなの!?リィエル、貴方さっきから……!!」

 

いち早く立ち直ったシスティーナは一言抗議しようと、背中を追おうとし、腕を掴まれた。

ルミアだ。

 

「システィ、待って。私は大丈夫だから」

 

「でも、あんな言い方って…」

 

そう言うものの、ルミアの悲しそうな顔を見るとやはり納得がいかない。

だが、ここで食い下がっても意味はない。

そう自分言い聞かせてシスティーナも矛を収めた。

 

パァンッ!!

 

突然、乾いた音が鳴り響いた。

 

「……リィエル」

 

見ると、セラがリィエルに近づき、手を振り切っていた。

リィエルの頬が赤くなっているのを見ると、叩いたようだ。

 

「…いくら貴女でも、怒るよ」

 

そう言うセラの表情には、確かに怒りの感情が見て取れる。

母親が子を叱る時の怒りだ。

いきなり打たれたことにリィエルは驚愕を露わにし_____

 

「……ッ!!!」

 

下を向きながら走って行ってしまった。

この一幕にただ生徒達は困惑するばかり。

昨日まで特に仲の良かったシスティーナとルミアとの衝突、そして昔からの知り合いらしいセラの突然の叱咤だ、困惑するなという方が無理な相談かもしれないが。

 

 

「・・・あー、お前らすまん。昨晩、俺が余計なことを口走っちまって・・・・あいつを不安定にさせちまった」

 

いきなりぶっきらぼうな、でもどこか申し訳なさをにじませた声がかけられる。

振り返ると今まで殿を務めていたグレンだった。

 

 

「もう!グレン君もわかってるでしょ!?リィエルがまだ・・・子どもだって」

 

「・・・・・・」

 

生徒に聞こえない距離と声で話すセラも、押し黙って聞いているグレンもここにいない彼女のことを案じていた。

突発的な癇癪は今までにないことではあったが,素性を知っている分思うところがあるのだろう.

 

「・・・とりあえず,目的地までに考えよう。ここで止まってもどうにかなるわけでもないだろ?」

 

パンパンと手を叩き,催促するのはノラ.

他生徒,特にシスティーナは納得いかない顔をしながらも,先へと進んでいく.

 

一瞥した後,リィエルのなんとも言えない不安定さを思い返すと,ここから先の多難も予感できる.

しかし,今は何をしても逆効果になり得る.

 

「・・・タクス,アルベルトにも伝えておこう.今までの危うさとは違う」

 

「了解・・・嫌な予感は当たるもんなのがなぁ」

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 2時間は経過しただろうか,一行は僻地にそびえ立つ神殿のごとき研究所を目の当たりにしていた.

 滝を背に,敷き詰められた敷石と水生の樹木が太陽の光にあてられ神秘さを露にする様相.

 結婚式場や王族の宮殿と間違われても納得のいく情景に,一行は疲れも忘れて魅入られていた.

 

 「わぁ・・・遺跡みたいだね,グレン君」

 

 「あ,あぁ・・・なんつーか,研究所っつわれても信じられねぇ建物だな・・・」

 

 目を輝かせるセラに相槌を打ちつつも,グレンも内心圧倒されていた.

 

 「・・・ついたぞ,リィエル.どうだ,お前もこれにみとれたか?」

 

 「・・・・話しかけないで」

 

 「・・・了解」

 

 「気まずくなるな,こっちまで気まずくなるでしょーが」

 

 どうにもリィエルは穏やかではない.ノラの声掛けも冷たく端的に返し,やはり近づくなと暗に示しているかのようだ.

 情景と雰囲気のギャップにもどかしさを感じ始めるとき,

 

 

 「ようこそ,アルザーノ帝国魔術学院の皆様」

 

 四,五十の齢だろうか,頭の天辺が禿げ上がり,残った髪や髭に白が混じり始めた,好々爺然とした初老の男が姿を現した.

 

 「遠路はるばるおいでくださりご苦労様です.私はバークス=ブラウモン.この白金魔導研究所の所長を務めさせていただいております.本日はどうぞよろしくお願い致しますぞ」

 

 朗らかな笑みをたたえながら所長__バークスが歓迎した.




 時間を作りながらちょくちょく進めて参ります.
 ではまた.


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Project 命について

どうも、影龍 零です。
ここから展開は加速します。

ではどうぞ


 「おっと,これはご丁寧なこって」

 

 グレンも背筋を伸ばしつつバークスに向き直る.

 

 「アルザーノ帝国魔術学院,二年次二組の担任グレン=レーダスだ.んで,こっちが副担任の白_セラ=シルヴァース」

 

 「セラ=シルヴァースです.『遠征学修』の突然の行き先変更,快く受け入れていただきありがとうございます」

 

 いつもの呼び方を飲み込んでの紹介にセラはお辞儀を交えつつ,社交辞令的挨拶を済ませる.

 

 「いえいえ,あなた方は帝国の未来を担う卵達,そんな方々の糧となるなら光栄というものです」

 

 「そいつはまぁ,人格者なこって」

 

 「それでは参りましょう,私としましても研究の息抜きになりますので」

 

 バークスはどうやら自ら案内を買って出てくれるらしい.一学院に対しては破格の待遇にグレンは恐縮する.

 

 「こんなヒヨッコ共にわざわざそこまでしてくれるとは・・・いやホントありがとうございます」

 

 敬語にしては少しがさつではあるが,やはり相応の驚きだ.クラスの面々も好奇心が如実に感じ取れる.

 それはシスティーナとて同じだった.

 

 「ねぇルミア,聞いた?最新の魔術研究が見られるなんて,今回は凄い学修になりそうね!」

 

 彼女と打って変わって,ルミアはどこか不安げだった.

 

 「・・・どうしたのルミア?なにかあった?」

 

 「・・・あ,ううん!なんでもないよ?驚いちゃっただけだから.バークスさんっていい人だよね?」

 

 「そうね,ここまで人格者な生粋の魔術研究者なのはそういないんじゃない?」

 

 

 システィーナの言葉にルミアは自分を納得させようとする.

 バークスが自分に向けてきた氷のような視線,まるで人を見る目ではなかったあの視線は気のせいなんだ…と.

 

 

 

□□□□

 

 

 

 バークス引率のもと,『水の神殿』にふさわしい形容の研究所を一行は進んでいく.

 水と植物,樹木が示す生命力に包まれた内部に,術式が走る黒石のモノリスが見事な調和を生み出している.

 

 「ここでの研究は白金術…白魔術と錬金術の複合.文字通り生命そのものの研究です.新鮮な生命マナが常に必要となるため,このような構図となっているのですよ.少々歩きにくいですが,そこはご愛嬌」

 

 薬草改良種,鉱物生命体,肉体構造の解析機関,合成魔獣(キメラ)の研究,魂の情報に関する研究.

 分野に関わらず,本来見ることさえままならない魔術研究の前線を目の当たりにして,生徒たちも言葉を失い圧倒されるばかりだ.

 

 「おーおー,現場でも見たことないなこの薬草」

 

 「・・・研究中の改良種だから当然だろうが」

 

 「この塊俺のヨーヨーで殴ったらどうなるかな?」

 

 「・・・そんじょそこらの鉱物なら砕く代物だろあれ」

 

 「こんな構造してるんだっけ?」

 

 「・・・今度見てみるか」

 

 「合成魔獣はいつぶり?」

 

 「・・・少なくとも3年前」

 

 「これは___」

 

 「そこのお二方,気持ちは察しますがどうかもう少し丁寧に扱っていただきたいのですが・・・」

 

 ___圧倒されるどころか叩き出されてもおかしくない二人もいたが.

 

 薬草をつつき,鉱物生命体が心なしか震え,物騒な問答を交わす様子は研究者からグーパンされてもなんら不思議ではない.バークスも額がヒクついているのを隠しながらもにこやかに諫めている.

 

 「いやいや壊そうとは思ってないんで心配しなくても大丈痛いッ!?」

 

 「すんませんウチのバカ二人が!後できつくシバイときますんで!」

 

 「二人とも頭下げる!!」

 

 すぐさま拳骨を一発ずつ叩き込みグレンが謝罪.セラも二人の頭を掴んで下げさせる.

 

 「いえいえ,幸い支障も無さそうですし気にしないで下さい」

 

 言葉と裏腹に薄らと冷や汗がみえるバークス.周囲で研究に没頭している研究者からの視線もどこか棘がある.

 

 「まったくあの二人は・・・」

 

 「あ、あはは・・」

 

 良くも悪くも普段通りの二人に呆れと苦笑を隠せないクラスメイト.

 

 「でも、凄いわねルミア.ちょっとここの研究に揺らいじゃうかも・・・」

 

 「う、うん.でも・・・」

 

 圧巻されているシスティーナにルミアがそっと耳打ちする.

 

 「人が命を好き勝手に弄って、本当にいいのかなって・・・ちょっと気が引けちゃって」

 

 確かに生命の神秘を感じられる研究ではある.

 だが同時に、自然にある生命を人の都合に合わせて改造する、一歩間違えれば狂気の実験になり得る面を持ち合わせているのだ.

 かつて使用されたとされる殺戮用の鉱物生命体、合成魔獣の発明、『出来損ない』と烙印を押された魔造生命体(ホムンクルス)の標本、最早原型をとどめない『ナニカ』のなれ果て…

 背徳と傲慢、冒涜が起こす結末の一端を見れば、ルミアの言葉に重みを感じるのも無理はない.

 

 「知を求めすぎずに、何のためにやっているか・・・それを考えなきゃね」

 

 「そうね・・・吞まれないように気を付けなきゃ、ね」

 

 神秘を求めて歩みを続けるか、支配の快楽に溺れ外道に堕ちるか、それは己を律する一点で区別できるものではない.

 

 「でもやっぱり・・・ここでも『あの研究』はやってないのね・・・・まぁ、当然っちゃ当然なんだけど・・・・」

 

 重苦しい雰囲気を変えるためにか、システィーナが新しく話題をふる.

 

 「『あの研究』?システィ、それって何?」

 

 「えっとね・・・かつて帝国が一大魔術プロジェクトとして掲げた死者の蘇生・復活の研究があったの.確か名前は____」

 

 「・・・『Project: Revive Life(プロジェクト リバイヴライフ)』」

 

 声の方に振り返ると、好々爺然としたバークスが笑みを浮かべていた.

 

 「いやはや、その名前を学生の方々から聞けるとは・・・勉学に励んでいらっしゃるようで」

 

 「あ・・・い、いえ!たまたま知っていただけです!すみません、失礼なことを」

 

 恐縮するシスティーナに疑問を感じたのか、ルミアがバークスに質問する.

 

 「あの・・・バークスさん.『Project: Revive Life(プロジェクト リバイヴライフ)』というのは・・・どういうものなんですか?死者の蘇生・復活は確か・・・」

 

 「理論的に不可能.死の絶対不可逆性ですな、マーヴェルのコスモゾーン理論による応用系の」

 

 笑みを浮かべてバークスが答える.

 

 「肉体の『マテリアル体』、精神の『アストラル体』、霊魂の『エーテル体』の三要素、これらは死と同時にそれぞれの円環に戻ります.中でも『アストラル体』は意識の海、『エーテル体』は次の生命への輪廻に加えられる以上、死者蘇生は不可能.この理論を覆そうとした死者蘇生計画、通称__」

 

 

 「・・・死者蘇生という一種の神の所業に近い代物が『Project: Revive Life(プロジェクト リバイヴライフ)』だ」

 

 

 全く気配を感じさせずにシスティーナとルミアの背後で声を発する不審__ノラ。

 普段の素振りと口調で本物度が増しているな、全く・・・

 

 「ちょっと、驚かさないでよ!それにバークスさんの話を遮ってまで・・・」

 

 「・・・あぁ、悪い。続けてくれ」

 

 「いえいえ、お気になさらず。勉学に励む若者が多く、私としても嬉しい限りですよ」

 

 「・・・まぁ、これくらいはな。それに、神に近いとは言うが、本物とは言い難い代物だ」

 

 「それってどういうこと?」

 

 意味深な物言いが気にかかったらしく、ルミアがノラに問いかける。

 

 「・・・この術式は『本人』を遺伝情報、霊魂、精神体の観点からそれぞれコピーし、合成。その後用意した肉体に入力する。復活といえば聞こえがいいが、でてくるのは『本人に限りなく近い他人』だ」

 

 「それは・・・確かに復活とは言えないかも・・・・」

 

 「ふむ、少々穿っている気も否めませんが、そうですな。ですがそれと同等以上に、死別した人が戻ってくる・・・その有用性からも討論が盛んに行われました」

 

 死別した自身に限りなく近い他人、自分と親しい人々が『それ』を『本人』として接する____奇妙な薄ら寒さを感じ、ルミアは無意識にたじろいでしまう。

 

 「不安に思うのも無理はないでしょう、一時は聖エリサレス教会も出張ってくる有様でしたからな。ですがご安心を。このプロジェクトは失敗に終わりました。なぜなら、『ルーン』の機能限界に研究中ぶつかってしまったので。結果、嘘のように呆気なく破棄される運びとなったのです」

 

 「機能限界、ですか?」

 

 「それってどういうことですか?術式の構築技術の問題とか、そういうことですか?」

 

 ルミアに加え、システィーナも不思議に思い問うてくる。

 

 「・・・『ルーン』は原初の音に近い言語として作られた。だから特殊な発声術が必要。それに「深層意識で理解できる、とはいえ天使言語や龍言語よりも杜撰な代物だ」・・・グレン兄」

 

 「悪ぃな、割ってはいって。まぁ、さっきの三要素を『ルーン』じゃどうやったって合成出来なかったんだよ。それに、もっと酷い問題があった。そうだよな、バークスさん?」

 

 「左様。三要素のうち、霊魂の代替品となる『アルター・エーテル』の生成・・・これには複数人の霊魂を抽出し、加工・精製するしか方法が無かったのです」

 

 「それって・・・つまり・・・」

 

 「ああ、複数の他人を犠牲に一人を蘇らせる。そんなことは、人道的に絶対許されないもんだ」

 

 「いやはや、美味しいところは持っていかれましたな。それに付随するように問題が噴出され、プロジェクトは封印されたのです」

 

 捕捉しつつも好々爺然と、バークスは話を締めくくった。

 図らずも重苦しくなってしまった空気を払拭するためか、ルミアは質問を投げかけた.

 

 「でも・・・もし成功させられるとしたら、何が必要なんでしょうか?」

 

 「ほう、絶対不可の烙印をもつ『Project: Revive Life』に挑みますか?」

 

 「い、いえ、そういうことではなくて・・・興味本位の話なんですけど・・・・」

 

 「いえいえ、若人の観点は羨ましいものですよ。ふむ・・・原初の音にもっと近い言語を使う、もしくは『固有魔術』を使えば、あるいは・・・といったところでしょうか」

 

 「・・・前提からして無理難題の極みだな」

 

 バークスの言葉に無表情でノラが苦言を呈す。

 感情をもっとだしてほしいが、まぁ、問題ないだろう。

 

 「ははは、それがこのプロジェクトの問題点ですからな。・・・さて、お話はこれまで。まだまだ部屋を紹介しきれておりません、次の部屋へ参りましょう・・・・」

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 神秘の数々に魅せられ、瞬く間に時間は進んでいく。

 興奮冷めやらぬまま、疲労を忘れて議論に花を咲かせつつ帰路についた一行。

 

 「・・・ん?」

 

 そんな中、自室に足を運んでいたノラの視界に駆ける青髪がちらつく。

 常人離れしたスピードで路地裏へ消えていく背中は、間違いなくリィエルだ。

 

 「・・・グレン兄がやらかしたか?セラ姉は「ノラ君!リィエル見なかった!?」・・・セラ姉」

 

 事態を考えている最中、セラが焦った様子で駆けてきた。

 

 「さっきルミアちゃんとまた何かあったみたいで・・・グレン君が追いかけていったんだけど・・・ノラ君とタクス君は見てないかと思って」

 

 「・・・今路地裏に駆けこんでいったけど、もう任務どころじゃないな」

 

 どうやらリィエルの癇癪がまたおきたようだ。

 

 「・・・タクスなら「釣り行ってくるわ!」とか言って海にいったぞ。俺も詳しくは知らん」

 

 「そう・・・分かった、ありがとう。ノラ君はここで待ってて。私も捜してくる」

 

 そう言い残し、セラは突風のように去っていった。

 

 

 「・・・まぁ、少しは捜すか」

 

 身体からオーラを放出し『円』を作り、それとなく探ってみるが、やはり近辺にはいないようだ。

 リィエルの癇癪をみるのは初めてではないにしても、今回のそれは少々異常の毛色すらある。

 

 「・・・流石にアルベルトに報告するか」

 

 常に携帯させられている通信用魔石を取り出し、アルベルトに通話を試みる。

 

 

 「・・・・・・繋がらない?アイツが5秒以内に出ないことあるか?」

 

 

 訝しく思った途端、不意に魔石が鳴り出す。

 

 

 「・・・アルベ『ノラ、エルシアを追え』・・・は?」

 

 『説明は後だ、リィエルの近くにいるはずだ、急げ』

 

 「・・・おい、何を___切りやがって」

 

 急激に情報と状況が供給、変化する。

 _____そこに加えられる要素は、不意の強襲がセオリーであろう。

 

 

 

 

 

 「Aaaaahaaaaaa____!」

 

 

 「!?」

 

 人外の絶叫が響きわたる。

 『円』の感知通り上を向くと、夜闇の中でもわかる『異常』が見て取れた。

 

 顔であろう箇所は上下逆さに、苦悶の表情を口元の縫い目で無理やり笑みにみせる醜悪性。

 『羽』に仕立て上げられた無数の腕は明らかに継ぎ接ぎで、統一性は全くない。

 胸と足に逆さ十字が突き立てられ、手の甲にはどす黒い魔石が埋め込まれている。

 絶叫は己の姿への絶望か、はたまた激痛への咆哮か。

 

 生命を冒涜しきる怪物が今、混迷を加速させる。




もっとペースを上げていきたいところ

ではまた。


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