ケイオスオーダー 異世界英雄のホーリーグレイル!! (グレン×グレン)
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炎上汚染都市 冬木
プロローグ アーチャー「いや、なんで俺が選ばれたんだよ」


アザゼル杯編は原作の進行がある程度進まないとなかなかかけないけどどうしよう?









需要があるかはわからないけど、ちょっと別作品を書いてみよう!!


 

 人類の未来を観測し、そして守護する機関。それが、人理継続保証機関、フィニス・カルデア。

 

 そのカルデアが観測した結果、人類が絶滅することが確定。その人類絶滅の原因を探るべく、異常が発生した2004年の冬木へとレイシフトすることになったカルデアだが、しかし謎の爆破事故が起き、殆どのメンバーが危篤状態になった。

 

 そんな中、デミ・サーヴァントと化したマシュ・キリエライトの協力もあって何とか転移したオルガマリーとその他一名は、燃え盛る冬木の中で骸骨兵を退け、戦力確保の為に英霊召喚に踏み切っていた。

 

「―告げる。汝が身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うなら応えよ」

 

 マスターとなる少女が願うは、マシュと共に自分とオルガマリーを守ってくれるサーヴァント。

 

 なんでも、本来は触媒となる物を必要とするのだが、ない場合はマスターその物が触媒となるのだという。

 

 自分と同じ性質のサーヴァントなら、まあ悪党ということはないだろう。

 

 それに賭けて、彼女はサーヴァントを召喚した。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よー」

 

 いや本当だから、頼りになる英霊来てくださいお願いします!! なんなら一夜を共にしますんで!!」

 

「先輩! やから全部口に出てます!! 全開放です!!」

 

「貴方いきなり何言ってるのよ! そ、そんなイヤらしいこといけないんだからね!!」

 

 顔を真っ赤にするオルガマリーのツッコミと共に、召喚の輝きは一層強さを増す。

 

 そして、そこから人の姿をした魔力の塊が出現した。

 

「ぜひお願いします! ……と言いたいところだが、そんなことをすると嫁達に怒られそうなんでな、やめておくか」

 

 その言葉と共に姿を現したのは、赤茶色の髪をした少女にも見える少年。

 

 学生服と思わしき男性の服を着ているから男だと分かるが、少女と言われれば信じてしまいそうなのがその少年だった。

 

 少年は苦笑すると、少女達の手を取ると口づけを交わす。

 

「……キザな男ね。どこのドンファンかしら?」

 

「残念ながらアメリカ人だ。真名リチャード・ジョーダン・ガトリング。今回は霊基が足りないので、疑似サーヴァントとして召喚させてもらった」

 

 そう言うと、リチャードはすぐに振り返ると右手にガトリングガンを展開する。

 

 リチャード・ジョーダン・ガトリング。彼の名前に聞き覚えはなくとも、この兵器の名前を知っているものは多いだろう。

 

 多砲身連装機関砲《ガトリングガン》。彼はその開発者である。

 

 ならば、ガトリングガンを武器にする英霊となることは想定の範囲内だが、それにしても片手持ちのガトリングガンとは聞いたことがない。

 

 だが、それに対する質問を行う余裕を、彼は与えなかった。

 

「どうやら召喚の影響で、敵がゴロゴロ集まってきたようだ。こいつでの戦闘は混戦には向いていないし、悪いが先に行ってくれ、マスター達!!」

 

「し、仕方がないわね。マシュ、それにそこのダメマスター! 足を引っ張らないうちに下がるわよ!!」

 

「分かりました、所長。マスター、行きましょう!」

 

「え、あ、うん! 分かったけど無事でいてねアーチャー!!」

 

 少女達が走り去る中、アーチャーは三枚のカードを確認する。

 

「……流石に試作品だから三枚ともスカか。だが、俺の術式を併用すれば………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして少女達は諸悪の根源と対峙する。

 

 実は少女だったアーサー王を倒したマシュ達は、拍手の音を聞いて顔を向ける。

 

 そこにいたのは、カルデアのメンバーであったはずのレフ・ライノール。

 

 彼はそこでその本性をさらけ出す。

 

 彼こそが、人理焼却の実行犯の一人。2015年担当を名乗る者。

 

 そして、彼はそこで更に衝撃の事実をさらけ出す。

 

 既に、オルガマリーは死亡していると。

 

 そして聖杯の力によって見せつけるのは、真っ赤に燃えるカルデアス。

 

 そして、レフはオルガマリーをそのカルデアスへと投げつける。

 

 カルデアスは高密度の情報集積体。人間や人間の霊魂風情が触れてただで済むようなものではない。

 

 そう、ゆえに彼女の結末は決定した。

 

「……いや、いやよ、誰か助けて! だってまだ何もしてない! 生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!」

 

 心からの本音の叫びに、レフは満足げな笑みを浮かべ、マシュ達は苦苦しくも何もできない現状を呪う。

 

 そこにいるのはただの少女の本音の叫び。だからこそ、相容れないがお互いがその感情を浮かべるのだ。

 

 そして、其のままオルガマリーはカルデアスに―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、一目見て分かってる。君が本来なら耐えられないような苦労をしょい込んで頑張ってきたことぐらいはな」

 

 その言葉が響き渡ると同時、オルガマリーの姿は掻き消えた。

 

「………なんだと!?」

 

 あり得ない。そう言外に込められた声を上げながら、レフは周りを見渡す。

 

 そして、マシュとマスターもまた慌てて周りを見渡す。

 

 その声には、覚えがあった。

 

 召喚してそうそう、周りの敵を引き受けて別れたはずのサーヴァント。

 

 リチャード・ジョーダン・ガトリングに、そんな魔法じみた行為を行う逸話はないはずだ。

 

 だから信じられない表情で声のした方向に振り向いて、しかしきちんと彼は奇跡を生み出していた。

 

「だから俺が認めよう。君は少なくとも頑張り屋さんだ。……大丈夫、助けに来たぜ?」

 

「………あれ?」

 

 そこには、確かにリチャード・ジョーダン・ガトリングを名乗ったアーチャーと、何が起こったのか全く分かっていないオルガマリーの姿があった。

 

「………誰だ、貴様は」

 

 その姿を見て、レフはこれまでにないほどに苛立たしげな表情を浮かべる。

 

「初めまして昆布野郎。俺はアーチャーのサーヴァント、リチャード・ジョーダン・ガトリング。ああ、姿が日系なのは疑似サーヴァントだからで―」

 

「ふざけるな!! そんな馬鹿なことが起きるわけがない!! あり得ない、あり得ないぞ!!」

 

 レフは目を血走らせて絶叫する。

 

 しかし、マシュにもマスターにもオルガマリーにも、カルデアの者達にも何が何だか分かってない。

 

 何故、レフがそこまで驚いているのか。

 

「貴様達は気づいていないのか!? なんだその愚鈍さは!! そいつは、そいつは………」

 

 体中から汗を流しながら、レフはアーチャーを指さして絶叫した。

 

「……神だ! それも、この世界の者ではない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正解だ、クソ野郎。

 

「別に、嘘はついてないぜ?」

 

 俺は、アーチャーはそうはっきり言った。

 

 ああ、嘘は欠片もついてない。

 

「人を騙すコツは真実を含ませることだ。俺がアーチャーのサーヴァントなのも、疑似サーヴァントなのも、リチャード・ジョーダン・ガトリングなのも本当だ。そして、お前の言ったこともほぼ正解だ」

 

 ああ、俺が彼女達に説明したことはなにも嘘をついていたわけではない。

 

「悪いな。聖杯からの情報から推測して、カルデアに内通者がいるのは推定できたから、確信するまで一部の情報を隠してたんだ」

 

 ああ、なにせ俺がサーヴァントとしてこの世界に呼ばれることが既に非常事態だ。

 

 触媒が触媒とはいえ普通ならあり得ない。とはいえ流石にこの世界にサーヴァントとして顕現するには知名度が足りない。

 

 そこで、俺の武装に目を付けたリチャードと取引して、彼の霊格を借り受けた。

 

 だから俺はリチャードの疑似サーヴァントなのではなく、リチャードが依り代の疑似サーヴァントといえるだろう。

 

「俺はこの世界に縁があるが、同時にこの世界の者ではない。そして元人間であり神になったものであり、そして―」

 

 俺は、オルガマリーを引き寄せると、にやりと笑った。

 

「……悪魔だ。それも可愛い女の子が大好物のな」

 

「か、可愛いって!?」

 

 お、可愛い反応。

 

「ふざけるな! なんだそれは! なんなんだそれは!! ええい、貴様はいったい何者だ!!」

 

 そんなに怒鳴るなよ腐れ外道。少しぐらい話してやる。

 

「俺の名前は宮白兵夜。とある世界で第三次世界大戦を根源到達の為の下準備として引き起こした馬鹿野郎を倒した、異形達の英雄さ」




一応連載ですが、更新期間はかなり気まぐれになると思います。


……っていうか需要あるのかこれ? 場合によってはエタったほうがいいか?


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疑似サーヴァント アーチャー ステータス

こそこそ隠す必要もないので、兵夜のサーヴァントステータスを表記します


◎疑似サーヴァント アーチャー

 

真名 リチャード・ジョーダン・ガトリング(宮白兵夜)

 

中立:悪

 

筋力D 耐久EX(D) 敏捷D 魔力B 幸運C 宝具EX

 

クラス別スキル

 対魔力:B

 魔術詠唱が三節までの魔術を無効化する。

 大魔術・儀礼魔術をもってしても傷つけるのは難しい。

 

 単独行動:A

 マスター無しでも行動できる能力。

 このランクなら、一週間までなら活動可能。

 

保有スキル

 道具作成:EX

 魔力の篭ったアイテムを作成可能。

 アーチャーは基本的に宝具化したガトリングガンしか製作することができないが、依り代となった宮白兵夜が様々な異界魔法技術や鍛冶神の力を持っていることもあり、宝具クラスの装備を作成可能。

 

 合成神魔:EX

 依り代である宮白兵夜のスキル。元から持っていた様々な技量と改造手術、多重神格ゆえに能力が複合している。それゆえに専科百般・自己改造・神格の複合スキルとしての特性を持つ。

 様々なスキルをEからAランクで発現可能。

 因みに、本来医術スキルは心得がある程度なのでDランクなのだが、リチャードが医師免許保持者であったことからBランクで運用できる。

 

 戦闘続行:EX

 様々な肉体改造で獲得した生存能力。

 アーチャーは心臓に限定するが、小規模な破損なら致命傷にならない。但し戦闘能力はだいぶ低下する。これによりステータスの耐久がEXとなっている。

 

 渡り鳥の籠手:E~A

 兵夜が保有する義手。

 装甲輸送飛行艇ラージホークと繋がっており、その格納庫に格納されている各種物資を転送可能。王の財宝の劣化版といえる。

 因みに、ライダーで召喚された場合はラージホーク込みで宝具として運用できるのだが、リチャードと融合する形でアーチャーとして呼ばれた彼では中のものを呼び出すことしかできない。

 

宝具

 死者減らす願いの連装砲(ガトリング・ファーザー)

 対軍宝具 ランクEX レンジ:1~50 最大補足:1900人

 彼が作り上げ、彼自身の名が知られなくても誰もが知っている兵器の概念を結晶化させたもの。

 自由自在にガトリング砲を作り出し、それを扱うことができる。真名開放で彼が作り上げた19のガトリングガンの概念を具現化し、自由自在に操作して銃撃可能。また、その能力は彼がガトリングガンを開発した根底にある「一人で百人分の働きをする兵器があれば死者の数は減る」という思想により、一丁一丁が最大補足を百人にするという服地効果を持つ。

 本来なら旧式のガトリングガンしか生み出すことができないが、依り代である宮白兵夜の力によって、彼が主武装の一つとしていたイーヴィルバレトと呼ばれるガトリングガンを自由に操作できる。ランクがEXなのはこれによる副産物であり本来はCランク宝具。リチャードはこれを狙って彼を依り代にした節がある。

 

 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)

 対人宝具 ランクEX レンジ:1 最大補足:一人

 宮白兵夜としての奥の手、彼のいる世界でのオリュンポス最強の神ハーデスの足を材料にした義足の能力開放。他の能力を犠牲にして、無理やりこれを持ち込んだほどの奥の手。

 主神クラスの神々の力を瞬間増幅して放つ一撃。其の破壊力は対人宝具としては最強クラスであり、対城宝具の一撃を相殺することで、自分(とすぐ後ろ)を守ることも理論上は可能。

 アーチャーのサーヴァントのくせして、接近戦にこそ真の切り札があるという初見殺し。瞬間最大出力ならば文字通り最高神クラスであり、まともなサーヴァントなら一瞬で吹き飛ぶ最終兵器。




ステータスがかなり低いですが、これは知名度と霊格の問題によるものです。本来のサーヴァントとして召喚された場合、カタログスペックだけなら一流クラスにまで高められます。

そんなむちゃくちゃな条件でありながら、召喚された触媒とは一体……。

それは、結構短期間で明かされる予定です。


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レフ「想定外にもほどがあるが、こんなものどうやって想定しろというのだ……っ!」

はい、この話で何が触媒だったのかがすぐにわかります。


「異世界の英雄……だと?」

 

「ああ。お前達が人理を焼却した結果だろう。奇跡的に縁のあった俺が引っ掛かり、こうして疑似サーヴァントとして召喚されたというわけだ」

 

 狼狽する昆布野郎を、俺は心底愉快そうにあざ笑う。

 

 まったく。イレギュラーすぎてフィフスを倒した後の記憶が曖昧だ。

 

 神秘は世界の影響をもろに受ける。英霊の座に近しいものがあっても不思議ではないが、それは決して英霊の座そのものではない。

 

 たぶん、令呪を使っても俺の記憶は一年先を思い出せるかどうかも怪しい。それ位の存在だ。

 

 だが、それがこの緊急事態に彼女を助ける結果になった。

 

 念のために仮契約をしておいて正解だった。

 

「……よく頑張った、()()()()。こんな非常時にサーヴァントの助けがあったとはいえ、ここまで粘れたのは素直に褒めるさ」

 

「ふえ!? 私、名乗ってないんだけど!?」

 

「名乗らなくても知っている。まあ、それはまた後程」

 

 俺はすぐにイーヴィルバレトを構えると、速やかに躊躇することなく弾幕をぶっ放す。

 

 その弾丸はもろに昆布野郎に当たるが、しかし昆布野郎は意にも介さない。

 

「甘い、甘いぞ!! その程度で私は殺せない!! 殺せるものか!!」

 

「いや、十分だ」

 

 そして次の瞬間、ゴーレムが昆布野郎に体当たりをした。

 

「ぬぉ!?」

 

 馬鹿め。真正面から挑むと思ったか。

 

 伏兵は戦術の基本だ、体に刻み込んでおけ。

 

 そして、ゴーレムは昆布野郎の手から離れた聖杯を確保すると、其のまま走ってこっちにGO!

 

「良し! そこのデミサーヴァント! そのまま聖杯を守っとけ!! こっちはこっちで何とかする!!」

 

「わかりました! 先輩を守るぐらい真剣に守ります!!」

 

 よろしい!

 

「……さて、まあ、人理の焼却クラスの緊急事態を完成された冬木式聖杯程度でどうにかできるとは思ってないが、アンタに渡すのも見逃せんな」

 

「チッ! ここにきて最大級のイレギュラーが来るとは想定外だ!」

 

 心底舌打ちする昆布野郎だが、怒りが一周回って冷静になったのか、表情を平均値に戻した。

 

「まあいい、私の仕事は既に完遂している。次の仕事もあるのでね、君達の末路を楽しむのはここまでにしておこう。このまま時空の歪みに飲み込まれるがいい」

 

「三流の負け惜しみだな。……後でもっと吠え面を掻かせてやるから覚悟しろ」

 

 金色の粒子になって消滅する昆布野郎を、俺はあえて見逃す。

 

 どうも奴は俺とは別の意味で規格外の存在のようだ。戦力を確保しきれていない現状ではうかつに仕掛けられないだろう。

 

 そして、天井がパラパラと崩れ始める。

 

「あれ? これ、なんかまずくないか?」

 

『特異点が消失しかかってるんだ! すぐにレイシフトする、それまで持ち堪えてくれ!!』

 

「先輩! つかまっていてください」

 

「うん! ほら、所長も早く!!」

 

 と、デミ・サーヴァントと立花が手を伸ばすが、オルガマリーはその手を取らない。

 

「……無理よ。第三魔法もなしに人間の魂は世界に残存できない。よしんば残ったとしても、それはただの残留思念だわ」

 

 静かに肩を落として、オルガマリーはそのまま崩れ落ちそうになる。

 

 まったく、見てられないな。

 

「いや、確信はないがまだ手はある」

 

「無理よ。聖杯はただの魔力リソースよ? そんなもので死者の蘇生はできない」

 

「いやいや、それができるかもしれないんだなぁ」

 

 ああ、確かにこの世界では死者の蘇生は困難極まるだろう。

 

 だが、しかし手がないわけではない。

 

「……俺の世界の聖遺物としての聖杯は、千年以上前に滅びた存在を完全に復活させるというとんでもない真似が出来た」

 

「それはすごいわね。でも、それを持ってるの?」

 

「いやまったく。俺は所有者じゃないし、デメリットが激しいからそういう用途の使用も禁止されてる。……だが」

 

 俺はすぐに宝玉を転送する。

 

「何度も何度も復活されても面倒なんで、倒した後に魂を別口で封印する方法を編み出した。実際、肉体をバラバラにされた龍の魂は何百年も前に封じ込められて、しかしいまだ現存してる実例もある」

 

 ああ、その辺に関しては間違いないさ。

 

 なにせ俺の親友がその魂を宿した籠手を持ってるからな。

 

 そして、そういうわけだからやりようはある。

 

「土壇場だが、そいつに君の魂を封じ込める。神秘は世界によって変動するから確証性はないが、聖杯の魔力リソースを使えば何とかなるはずだ」

 

「………嘘でしょ」

 

「確実性は薄いが、試してみる価値はある。……それで、どうする?」

 

 余計なお世話ならしない。俺も、出会ったばかりの女にそこまで感情移入できるような善人じゃない。

 

 だが、あんな叫びをぶちかましておいて、いやだとは言わないだろう。

 

「いいわ。やって頂戴」

 

 成功するかわからない恐怖からプルプル震えながら、しかしオルガマリーははっきりとそう言った。

 

「レフは絶対に許さない。あの男はこの手で張り倒すわ。そのうえで、人理焼却を持ち直して、今度こそ誰であろうと私を認めさせてやるわ!!」

 

「その意気だ。気合を入れろ、オルガマリー!!」

 

 さて、俺も本気で気合を入れるとするか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。どうやら俺の知っているこの世界のはずの世界線と、この世界線は微妙にずれが発生しているようだな」

 

「みたいだね。っていうか聖杯戦争が五回も開催って信じられないよ」

 

「聖堂教会からしてみれば、本腰を入れたくはないがさりとて見逃せないという厄介な代物だったということだろう。おかげで魔術師は得をしたわけだ。……もっとも、戦争の細かい内容自体は詳しくないんだが」

 

「だろうね。秘匿が原則の神秘だと、そういうのは隠すのが基本だろうし。……それにしても、このメンバーだけでやれって酷くないかい?」

 

「仕方ないだろう? 魔術師なんて生き物がこの事態を知れば、残存リリースをすべて根源到達に回しかねない。他のメンツにしたって、このストレスのかかる環境で冷静でいられるかとなると不安視できる。俺がフォローするにも限度がある。特に食い物とかな」

 

「うんうん。それに関しては心から感謝してるよ。ああ、インスタントとはいえどお汁粉は美味しいねー。疲れた心に染み渡るよ」

 

 そんな声を聴きながら、オルガマリーは目を開けた。

 

 どういうことだろう? 宝玉に魂を封印するというのは成功したのかもしれないが、何故か五体の感覚が微妙にある。

 

 そう、微妙なのだ。

 

 自分が体を持ってた時と比べると、どうも微妙に鈍いというかなんというか。

 

「あれ、私……」

 

「あ、起きたねマリー」

 

 見れば、医療スタッフだったロマニ・アーキマンが顔をほころばせながらも微妙な表情を浮かべる。

 

 そしてアーチャーの方も、苦笑を浮かべていた。

 

「オルガマリー。良い話と悪い話があるんだが、どっちから聞きたい?」

 

「……悪い方にして。持ち上げて落とされるのは心の底から嫌だわ」

 

 とりあえず、落ちるところまで落ちてから這い上がりたい。

 

 そういうと、アーチャーは苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「残念だが、マジでレフ・ライノールの言ったとおりだ。俺達で人理を救済するしかない」

 

「………でしょうね」

 

 あの大爆発だ。そのダメージは非常に大きいだろうし、被害者も甚大だろう。

 

 ましてや、他が文字通り全滅しているなどという状況下、ストレスは非常に莫大のはずだ。限界にきて発狂してしまい、それが他の人物に伝染する可能性を考慮するべきだろう。人数は最小限で行くべきだ。

 

 さらに、魔術師のマスターを復活させたとしてもまともに人理救済を狙うかどうか。

 

 下手をすれば根源到達の好機とみなし、人理救済派を殺しに来かねない。

 

 もしこのサーヴァントが瀕死の重症者を救う能力があったとしても、そんなことはしない方がいいのだろう。

 

「そして良い方だ。……君の体の方はどうにかなった」

 

 そんな感情も、一瞬で吹き飛ぶ情報だった。

 

「……説明しよう!! カルデアの技術顧問、ダ・ウィンチちゃんだよ♪」

 

 乱入してくるのはカルデアきっての問題児。

 

 生前は男だったのに、美を追及しているからその到達点であるモナ・リザになる。……などと抜かして女の躰で参上してきたキャスターのサーヴァント、レオナルド・ダ・ウィンチだ。

 

 だが、その技術力は間違いなく一級品。つまり、今の自分は―

 

「……封印に使った宝玉をコアにした、人形の躰ということね」

 

「その通り! そこの兵夜君から提供してもらったアイテムを併用して、限りなく人間に近い躰の、しかしサーヴァントとすら戦えるだろう躰を用意させてもらったよ!!」

 

 何か不穏な予感を感じさせるが、しかしまあ悪くない話だ。

 

「ええ、ショックはショックだけど構わないわ。……そしてロマニ? 状況はどうなっているの?」

 

「はい所長。現在、カルデアスは冬木以上の特異点の反応を七つほど確認しております。おそらくそれが人理焼却の原因です」

 

 ロマニの言葉に、オルガマリーはすぐに状況を理解した。

 

 つまり、その七つには冬木よりも強大な聖杯が存在するということだ。

 

 敵の強大さがいやというほどよくわかるが、しかしもこれは覚悟を決めねばならないだろう。

 

「ええいいわ。こうなったらやってやろうじゃない。……アーチャー、貴方にも働いてもらうわよ!!」

 

「仰せのままに。俺も流石にこれは黙っていられないんでね」

 

 ステータスは低い部類だが、しかし彼がただものでないのはこれまでの戦いで見て取れた。

 

 こうなれば期待する他ないだろう。

 

 戦力はごくわずかで敵は強大だが、人類どころか人理が滅びるとなれば、座して待つわけにはいかない。

 

 何より、自分を認めてくれるものがここにいる。

 

 ならば、もうやる他ないだろう。

 

「やるわよロマニ! そしてレオナルド!!」

 

 オルガマリー・アムニスフィアは、気を引き締め治すと立ち上がる。

 

 ……そして、勢いよく天井に頭を激突させた。

 

「きゃんっ!? な、何この体、動き易過ぎるんだけど!?」

 

「ああ、すまん。俺の提供した材料の所為だ」

 

 墜落したオルガマリーを支えた兵夜は、視線を逸らしながらポリポリと頬をかいた。

 

「君の体の材料に使ったのは、エクスカリバーだ」

 

「‥‥‥‥はい?」

 

 その言葉に、オルガマリーはぽかんとした。

 

 エクスカリバー? エクスカリバーというと、星が鍛えた神造兵器?

 

「ああ、神々の技術は使われているが、あくまで俺達の世界のエクスカリバーだ。神々の激戦の末に七つにへし折れてそれを別々の剣に鍛造し直して数百年ぐらい後にさらに一本の剣に打ち直したんだが、七本の時に核に使われていた部分以外を手に入れてな。それを材料に神代の魔術師や堕天使の長の力を借りて対サーヴァント用の前衛装備にしたんだ」

 

「そっちのエクスカリバーも興味深い。対人装備の範疇を出ないが、汎用性においては規格外だ。オリジナルは普通にA+ランク以上はあるだろうね」

 

 レオナルドが言うのならば、それはすごいのだろう。

 

 だが、剣一本を材料にしてどうやったらこんなことに?

 

「あの世界……便宜上D×Dとでも呼ぼうか。D×Dのエクスカリバーは七つの能力を持っているんだが、その一つに形状変化があってな? それで人形の体を人間風に加工してるんだ」

 

「気が利いてるのは素直に感謝するけど、そんなものを私に使っていいの?」

 

「ああ。……アーチャーとして召喚された所為か、俺の宝具扱いされてないからまともに使えなかった。聖剣因子が吹っ飛んだらしい」

 

 はあ、と兵夜はため息をついた。

 

 それをなんというか精神が追い付けていないのかやけに冷静に見つめながら、オルガマリーはその問題点を聞く。

 

 それに答えたのは、ダ・ウィンチの方だった。

 

「そもそもその剣はサーヴァントとの前衛戦闘を主眼として開発された装備でね。下位から中堅のサーヴァントならまともに戦えるだけの戦闘能力を与えてくれるものだ。しかもアップデートでさらに上の存在も足止め可能」

 

「つまり、今の所長はサーヴァントにも匹敵する存在になっているわけです」

 

 ロマニの最後の言葉に、オルガマリーは深呼吸して頭の中で咀嚼する。

 

 そして五秒後。

 

「……なによそれぇええええええええ!!!」

 

 当然の絶叫であった。

 




……藤丸ではなく近平。これさえ見れば、訓練されたケイオスワールド読者ならわかると思いますが、とりあえず説明を。

……ようは、兵夜の前世の妹の平行存在なのです。そりゃ血縁なんだから召喚されるさ!









そしてオルガマリーは何とか生存。いや、死亡したけど現存。

実際魂を封印する技術はD×Dにはあるので、それを使って保存し、あとは操作できるからだを用意したということです。

兵夜はアーチャーとして呼ばれているのでかなりの数の能力を失っています。その一つが聖剣因子。これが原因で兵夜は偽聖剣を使えないので、ならいっそのこと材料として供出しました。おかげでかなり人間に近い外見をしていますが、しかしそこは対サーヴァント用装備。

これからオルガマリーは特異点で前衛アタッカー役をやらされるという悪夢が待っています。

ごめんねオルガ! でも命を助けたうえで頼れるアーチャーを上げたから許してくれ


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宮白兵夜 マテリアル

兵夜のマテリアルです


 

☆キャラクター詳細

 とある世界で国家滅亡級の危機を幾度となく救った異形社会の英雄。そして、もとはこの世界(に限りなく近い平行世界)の魔術使い。

 宮白兵夜は異世界での名前で、こちらの世界での名前は近平戻という。

 

☆絆レベルを1にすると開放

 当人の素質はある一点を除けば実は平凡。

 だが、人生二週目という状況が彼に幼少期からの自発的英才教育を行わせ、そしてある出会いによりブースターが入ったことで何事にもそこそこ優秀というレベルになる。更にある一年間で悪魔になったり神になったり人体改造を三桁は行ったりで、本来ならばもっとステータスが高い。

 

☆絆レベルを2にすると開放

 ただし、あの世界でしか英雄でないため知名度補正が足りず、それを武装の一つに興味を惹かれた幻霊リチャード・ジョーダン・ガトリングに協力を持ちかけられて彼と融合する形で召喚された。

 その影響は宝具や一部スキルに現れているが、本質的には兵夜である。

 

☆絆レベルを3にすると開放

 実は、ランサー以外のすべてのクラスに対応している。

 セイバーの場合は主武装を宝具として運用でき、ライダーの場合は異世界技術でできた飛行艇を運用可能。キャスターの場合は固有結界を発動したり英霊メディアの力を上乗せしたりできる。

 

☆絆レベルを4にすると開放

 そういう意味ではアーチャーとしての召喚は割と問題があるが、しかしバーサーカーやアサシンほどではない。

 頭を使うタイプの兵夜ではバーサーカーは弱体化があまりに酷く、アサシンの場合は人間時代の側面が強く出るため弱体化がかなり酷いのである。

 

☆絆レベルを5にすると開放

 ぶっちゃけ性格は悪いが、堅気に危害を加えるタイプではないため、善性のマスターの方が相性がいい。

 いざという時は汚れ仕事を引き受ける覚悟をしながらも、できる限りはマスターの意向に沿ってくれる。対人交渉に長けていることから大抵のマスターとはそこそこの距離感で対応してくれるだろう。

 更にその上の領域に行けるかは、実はクセの強すぎるこの人格を受け入れることができるかに限っている。

 

☆炎上汚染都市 冬木をクリアすると開放

 実はマスターの実の兄でもある。触媒無しで召喚したのがまさかの大触媒。

 だけどこれはマスターの望外の幸運だろう。

 ランサーの適性があるもう一人の兵夜を引き当てれば、彼は人理焼却を利用しようと企みかねないのだから……。

 

☆サーヴァント関係

 ★メディア

 極力関わろうとしないが、同時に全幅の信頼を寄せている。出てきた場合、立花には頼るように言っておくことだろう。

 彼女はあくまで本人であると同時に別人。その自制を心から行っている。

 

 ★アーサー王

 いや、鎧にできるこっちのもどうだけど、本領がビーム砲ってそれこそどうよ。デュランダル砲よりひどい。

 

 ★ガウェイン・モードレッド・ジークフリート

 ……こっちの世界の剣は何かが間違ってる!

 

 ★ランスロット

 ビーム砲を剣技として昇華させるだなんて!

 あんたこそ剣士だ!

 

 ★百の貌のハサン

 味方として召喚され次第、ダ・ウィンチちゃんとメディアとパラケラススを探しに行った。

 なんでも「すぐにでも作ってほしいアイテムがある。技術の一部しか確保できてないからあんたらの力が必要なんだ」とのこと。




ケイオスワールドのキャラクターを出すかどうかは微妙。……いい依り代が思い浮かばないんだ。

出すとするならば幻霊を利用しないとまずいけど、原作の展開も考慮すると何が出てくるかわからないからなかなか選べない!! さてどうしようか。


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立花「お兄ちゃんは多いけど、事故死したお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだよ!!」

 

「……そして、わたしにはレイシフト適性ができたわけね?」

 

「材料の偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)の影響ですね。あれは兵夜くんの装備ですから、今の所長は半分は兵夜君の装備扱いになります」

 

「そういうわけで、あまり離れると悪影響が出るかもしれない。所長には悪いけど、これからは立花くんと一緒に聖杯探索に参加してもらうからね」

 

 そんなことを会話しながら、オルガマリー達は立花のいた部屋へと入ってくる。

 

 そこは、レイシフトを行うための中央管制室。つまりは、特異点へとレイシフトを行う準備ができたということだ。

 

「あ、アーチャーさんだ!」

 

「ああ、立花か。元気だったか?」

 

 兵夜は立花の頭を撫でながら、苦笑する。

 

「そういえば兵夜さん。大変気になることなのですが、どうしてマスターの名前が分かったんですかっ?」

 

 マシュがなぜか頬を膨らませながらそう尋ねるが、兵夜はちょっと苦笑を浮かべる。

 

「……今から言う話に嘘はないけど、果たして信じてもらえるかどうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 便宜上兵夜がD×Dと名付けた異世界は、この世界からすれば文字通り異常といっても過言ではない世界だった。

 

 なにせ、神秘の減衰によってこの世界から消えている神や幻想種が、普通に地球で過ごすことができる世界なのだから。

 

 そして何より、聖堂教会が信仰する聖書に記されし神が、死んでいるということだ。

 

 それが遠因となり、天使率いる教会、悪魔と堕天使が睨み合う冥界は和平を結ぶ。そしてその和平の波は他の宗教や神話体系にも及んでいった。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 このヤハウェの死はバランスの崩壊やら渦の発生やら様々な現象を巻き起こしたらしい。

 

 その渦は、死者の魂を記憶を持ったまま転生させるというイレギュラーを巻き起こした。

 

 その名は転生者。その数は少ないが、世界に悪影響を防ぐ為に神秘を人間達に秘匿する……などという考えがあまり根付いていないもの達だらけだったことから、第三次世界大戦及びそこからくる様々な異能技術の頻発が生まれた。

 

 文字通り世界を塗り替えたその戦い。敵味方共に転生者は何人も参加し、主力の一つとして激戦を潜り抜けた。

 

 そして、その元凶ともいえるフィフス・エリクシルとそれを討ち滅ぼした宮白兵夜は共に転生者である。

 

 その多大な功績、そして悪魔となって一年足らずで最上級にまで手が届いたサクセスストーリー。そして悪魔の政争を立ち回った政治センスが評価され、彼は英霊の座に至った。

 

 そんな彼だが、転生者であるからにはもちろん前世の名前や人生が存在する。

 

 聖杯戦争を生み出した御三家の分家。音楽を聴きながら歩いてたら車に気づかず事故死した阿呆。

 

 その前世の名を、近平(もどり)という。

 

 そして、近平家は魔術師の家系では珍しく子だくさんな家系だった。

 

 その三女。名を近平立花という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんだったの!? 馬鹿なお兄ちゃんだったの!?」

 

「確かにそうだけどバカバカ連呼しないでくれない!? あと厳密には別人!!」

 

 実の妹(厳密には別人)の容赦ない言葉を受け、兵夜は心からツッコミを入れた。

 

 厳密には別人だが死別した兄との再会に対して、もう少し何かこういうことはないのだろうか。

 

「お兄ちゃんは馬鹿だなぁってみんなでお通夜の時も苦笑いだったよ。お馬鹿すぎて素直に悲しめなかった私達の身にもなってくれない?」

 

「かつて家族に悔やんだ自分を殴ってやりたい」

 

 レイシフト前に食事としてサンドイッチを食べながら、兵夜と立花は兄妹の団欒を始めていた。

 

「うぅ……っ。距離感が近くてなにかもやもやします。川で加湿器を使ってるかのようなもやもやです」

 

「例えがよく分からないわよ、マシュ」

 

 そんなマシュにツッコミを入れながら。オルガマリーはため息をついた。

 

「それにしても、信じられないほどに世界はいっぱいあるということね。まさかそんな世界があったなんて」

 

 はあ、と感心の息をつくオルガマリーは、兵夜を見ながら少しだけぼけっとした。

 

「だけど、そんな存在が味方に付いてくれたのは僥倖だわ。不幸中の幸いというものね」

 

「……どうしましたか、所長?」

 

「え? いえ、何でもないわよ!」

 

 マシュに聞かれて顔を少し赤くしながらオルガマリーは否定する。

 

 とはいえ、何を否定されたのか少しよく分からず、マシュは首を傾げた。

 

「さて、食事をしながら聞いてくれ。今回の特異点のことだ」

 

 と、ロマニは会話を中断させ、意識を自分へと向けさせる。

 

 今回の特異点は15世紀のフランス。

 

 時期とすれば、百年戦争の真っただ中である。

 

 とはいえこの時期は戦争は休戦状態。本来なら平和……とは言わなくても比較的リスクは少ない世界だ。

 

 しかし、特異点とされている以上油断はできない。

 

 極端な話、フランスは人類史にとって重要度の高い場所だ。

 

 フランス革命の影響は現代において大きく、その下地が崩れてしまえば、抑止力をもってしても修正は困難。

 

 ゆえに、決して見逃すことはできない場所なのである。

 

 そして、その原因となるのはおそらく聖杯だろう。

 

 莫大な魔力を持ち、願いをかなえる願望機としての性質を持つ聖杯。

 

 それを悪用すれば、歴史を変えることも決して不可能ではないだろう。

 

「……とはいえ、冬木式の聖杯で歴史を変えるのは不可能だと、俺の知り合いが結論を出してたんだがな」

 

「つまり、冬木の聖杯戦争で使われた以上の性能の聖杯をレフは手にしたってことね」

 

 兵夜の疑念に、チョコレートを食べながらオルガマリーは即答する。

 

「少なくとも、現代から過去に聖杯を送り込んでさらに歴史を改ざんするだけの聖杯をレフは手にしていたと考えるべきよ。……それも、おそらくあと七つも」

 

「だろうね。そして、それに対抗する為にはそれこそ聖杯が必要だ。今の僕達では勝ち目がない」

 

 ロマンもため息をついて現状の厳しさを語る。お汁粉を食べながら。

 

 それを見ながら、立花は首を傾げた。

 

「質問! そのお菓子どこから持ってきたの?」

 

 心底疑問である。

 

 カルデアは標高6000メートルの山脈にある施設だ。

 

 そんなところでこんな無駄遣いできるほどの嗜好品があるとは思えなかった。っていうか運ぶのにも一苦労だろう。

 

 そんな立花に、兵夜はにやりと笑うと片手を振るった。

 

 すると、そこに出てくるのは缶ジュースだ。それも日本の。

 

「これが俺の能力の一つだ。義手の機能で、ある飛行艇にある格納庫の中身を自由に呼び出せるのさ」

 

「お兄ちゃん、義手だったの!?」

 

 思わぬ事実に、立花は目を見開く。

 

 これほどまでに完成度の高い義手など、立花は目にしたことが全くない。

 

「精度の高い義手ですね。ダ・ウィンチちゃんの作成品にも匹敵します」

 

「まあ、これも異世界技術の一つさ。……ライダークラスで召喚されたのならラージホークも呼び出せるんだが、アーチャークラスではできることは少なくてなぁ」

 

「でもおかげで助かるよ。……やっぱりこの環境だと嗜好品はたくさん持ち込めなくてね。これだけあれば職員のストレスもだいぶ発散できるよ」

 

 ロマニはほっと一息つく。

 

 食事や飲酒はストレス発散に効果的だ。

 

 そして、わずか数十人で人類滅亡を通り越した人理滅亡の危機に対抗するなど、過激すぎるストレスの元だろう。

 

 過酷すぎる状況に、ストレス発散の娯楽は必要不可欠だ。

 

「なら、俺もごっそり放出したかいがあるってもんだ。……現地でも嗜好品の類を集めてくるから、まあ期待せず待ってろ」

 

「確かに、大昔の技術じゃそこが知れてるからねぇ」

 

 兵夜もロマニも苦笑するが、しかし資材の供給が容易になる兵夜の存在は非常に力になった。

 

 彼が提供してくれた大量のゴーレムにより雑務をすることがなくなったのも効果的だろう。掃除洗濯などの雑務にまで時間をかけていたら、残りのスタッフのストレスは尋常じゃなくなっているはずだ。

 

 最初の召喚で彼を呼び出せたのは望外の幸運だろう。単純戦闘能力とは別の意味で彼は力となっている。

 

「よし! じゃあそろそろレイシフトを始めようか!」

 

「そうね。デザート込みで食事も終わったし、あとは人理を修復するのみね」

 

 ダ・ウィンチの言葉にオルガマリーは頷くと、そして立ち上がった。

 

「……各員! カルデア局長、オルガマリー・アムニスフィアの名において命じます!」

 

 その言葉に、全員が真剣な表情を向ける。

 

「これより私達は人理修復の為、特異点へと向かうわ。……辛い戦いになるでしょうけど、私達のサポート、任せるわよ!!」

 

「もちろんです所長。そちらも、現地での人理修復の方が大変でしょうが、よろしくお願いします」

 

「現地で危険な目に遭わない分、私達は比較的気が楽だよ。サポートぐらいは任せたまえ」

 

 ロマニとダ・ウィンチの言葉に、オルガマリーは少しひきつった表情を浮かべるがすぐに振り返った。

 

「気合を入れなさい、立花。あと、頼りにしてるわよ、兵夜、マシュ!」

 

「了解です!」

 

「もちろんです、所長」

 

「仕事はきちんとするともさ」

 

 そして、人理修復の旅が始まる。

 

 

 

 




もう隠してもいいことないので全部話した兵夜。そうでもしないと納得してくれそうになかったし。

そして便利な四次元ポケット持ちの宮えもん。カルデアにお菓子という娯楽を大量衣提供しました。

実際、食事はストレス解消には効果的なので、人心掌握術の心得もある兵夜としては速攻で動くべき事案です。冷静に考えてカルデアのこの現状はいつ最悪の事態に発展してもおかしくない。


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ロマン「……来歴を聞いたけど、僕この世界の出身で本当によかったよ!! え? 同じぐらいやばいのがいるって? そんなー!?」

題名はメタ発言です。

あと今回比較的短め


 

 

 

その前に、サーヴァントを召喚することにした。

 

「正直、いくらカルデアのサポートがあるといっても立花くんの負担は大きいと思うんだけど」

 

「いや、そのサーヴァントに頼みたいのはカルデアの防衛だ」

 

 ロマンに兵夜はそう答える。

 

「俺達が危険視されたら、間違いなく奴らはカルデアを探して攻撃を仕掛けてくるだろう。レイシフトで戻るまでの時間を残す為にも、こちら側にサーヴァントを残した方が得策だ」

 

「言われてみればそうね。レフはカルデアのことは熟知してるもの。サーヴァントの一人ぐらいいないとすぐに壊滅するわ……」

 

 自分の体が吹き飛んだ爆発のことを思い出して、オルガマリーが体を震わせる。

 

 しかし確かに脅威として認定されるべきだろう。

 

 なにせ、相手は人理を焼却した規格外の化け物。攻勢に転じるだけでなく、防衛も考慮するべきだった。

 

「そういうわけだ立花。サーヴァントの召喚を頼む」

 

「オーケーお兄ちゃん! そういうわけでレッツゴー!!」

 

 なんかすごく不真面目な印象だが、しかし立花としては真剣である。

 

 そして、魔力が充満しサーヴァントが召喚される。

 

 魔力が形となり、そして人となったその姿は―

 

「初めまして! 私がキャスターのサーヴァント、マザー・ハーロット―」

 

「帰れ!!」

 

 開口一番、兵夜は速攻で声を荒げた。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 長い髪を持つ、スタイルのいい美女。

 

 しかし、彼女は人間ではない。

 

 祖は、天界を堕落させた悪魔。

 

 祖は、終末の獣の末裔。

 

 祖は、淫乱たる者達の頂点。

 

 祖は、悪魔の長の正統たる後継者にして、それに相応しき実力者。

 

 祖は、魔王すら滅ぼす赤き龍を打ち倒す剛の者。

 

 兵夜にとっての難敵の1人、エルトリア・レヴィアタンだった。

 

「全員下がれ!! 全裸にされた上で犯されるぞ!!」

 

「……まあ、その反応が正当でしょうね」

 

 その兵夜の過激な反応に、マザー・ハーロットは納得したかのようにため息をついた。

 

「安心して。ギリギリのところで人格の主導権は私が握ったから。おかげで私個人のスキルは殆ど使えないけど、エルトリア・レヴィアタンの意識は「食べちゃいたいなぁ」という欲求不満だけで収まってるから」

 

「立花! 令呪を使って再確認するんだ!!」

 

 兵夜は本気で慌てながら立花に令呪の発動を促した。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっとまって兵夜君! 流石に令呪を使うのはちょっと……」

 

「仮にもカルデアの召喚に応えてくれたサーヴァントよ? そこまでしなくてもいいと思うけど……」

 

 ロマニどころかオルガマリーもまた止めに入るほどだが、しかし兵夜は落ち着かない。

 

 当然といえば当然だろう。なにせ相手はエルトリア・レヴィアタンである。

 

 子供も見ている生中継の中全裸になり、相手を裸にするアーティファクトを使い、そして天界で乱交パーティを開いた。

 

「エルトリア・レヴィアタンは世界中を変態にする為に、手始めにキリスト教の天国で乱交パーティを開く業の者だぞ!! 変態達から力を借りて元気玉ぶちかます女など危険すぎて安心できるか!!」

 

「わぁ、ビッチさで座に登録だなんてちょっと緩くないかな!?」

 

 速攻で全員が納得した。

 

 ロマンの反応が大体皆の感想だろう。

 

 如何に変態とはいえ、まさかここまでとは誰も思わなかったはずだ。

 

 そして令呪の強制力で再確認して、何とか安心できた。

 

「しかし、マザー・ハーロットって神霊クラスでしょう? いくらカルデアでもそこまでできるわけがないわよ?」

 

「厳密に言えば、私は当時のキリスト教達にマザー・ハーロット扱いされただけの聖娼だけどね。だから依り代を求めたんだけど、まさかこんなのだったなんて……っ!!」

 

 感心するんだか呆れるのだか分らないオルガマリーに、ハーロットはため息をついた。

 

 それはそうだろう。マザー・ハーロットの押し付けをされたとはいえ、彼女自身はまあ普通なのだ。

 

 キリスト教徒がちょっと不幸な目に遭うのを見てスカッとするだけの悪性はあるが、さりとて自分と無関係の人間がむざむざ殺されるのを見て平気でいられるほど悪性でもない。

 

 だが、まさか依り代がまさにマザー・ハーロットを名乗るに足る存在だとは想定外だっただろう。っていうか想定できるわけがない。

 

「おかげで、スキルそのものは依り代でだいぶ。宝具を使うとエルトリアが表面化して暴走しそうだし、これは使えないわね」

 

「……ねえ兵夜。この子、使えるの?」

 

「エルトリアの戦闘能力が並のサーヴァント以上なのは確約しよう。仮にの悪魔の長の末裔だ。足止めぐらいはできるだろう」

 

 不安げなオルガマリーの視線を受けながら、兵夜は太鼓判を押す。

 

 なにせ彼女は強敵だ。今の自分では決して勝てない存在だ。

 

 だが、それは裏を返せば戦闘能力の高さがシャレにならないということだ。

 

 サーヴァントとして召喚されたということで必然的に分割されているが、しかしそれでもその能力は圧倒的。

 

 間違いなく、最低限の守りは完了した。

 

「では、改めてレイシフトの準備をしようか」

 

「そうだねドクター。頑張るよ!!」

 

 と、気合を入れる立花の隣で、ハーロットはすぐさまもらい受けた一室に布を巻いてきた。

 

 そしてそこに書いてきたのは「性欲発散、受け入れます!!」

 

「……ハーロットくん、君は何をしているんだい? いや、聖娼も立派な娼婦だから当然といえば当然だけど」

 

「ごめんなさい。エルトリアが「せめて来るものは拒まず!!」と強い念押しを―」

 

 ……カルデアに娼館が誕生し始めていた。

 

「ねえ兵夜。あれは止めなくていいの?」

 

「ストレス発散にエロは重要だろう。従軍慰安婦何て概念が生まれるぐらい、過酷なストレスには娯楽が必要不可欠だからな」

 

 オルガマリーにそう答える兵夜は、安心の意味で息をついた。

 

 あのエルトリアが黙って禁欲生活をするわけがないと思っていたが、しかし娼館の設立ぐらいなら目をつぶるべきだろう。

 

 下手に禁欲生活をさせて、エルトリアの側面が暴走したら目も当てられない。エルトリア・レヴィアタンは極めて強敵なのだ。魔王の末裔として恥じない実力者なのだ。実力派

 

 それに、ストレス発散の為の施設ができるのは良い事だ。兵夜はそういう事には寛容である。

 

 第一―

 

「この物資に困る状況で、ただ飯ぐらいを置くわけにはいかない。趣味と実益を兼ねた貢献をしてくれるのなら、それに越したことはないだろう」

 

「………あなたも、使うの?」

 

「さて、嫁の許可なき娼館の使用は不倫になるかどうかが問題だな」

 

 言葉はきちんと濁していた。

 

 その言葉に、なんとなく安心したのは誰だったのだろうか。

 




兵夜としては、唯一の不穏分子を人理焼却の下手人が潰しに来るのは当然想定してしかるべきこと。ゆえに防衛戦力を確保するのは当然中の当然。

……なんだけど、どうしてこうなった。



以前どっかでアンリと同様パターンで召喚されたマザー・ハーロットネタがあったのです。なのでその方向性で最もぴったりなエルトリアは早期に思いつきました。真面目な話性的なストレス発散はこの緊急事態だからこそ必要だと思うのです。

ちなみに、彼女の見せ場はきちんと予定しております。ある特定の存在にたいしていえば、天敵です。


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マザー・ハーロット 詳細

 

◇マザー・ハーロット(エルトリア・レヴィアタン)

 クラス:キャスター

 混沌:中庸

 筋力C 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具EX

【クラス別スキル】

 陣地作成:D++

 魔術師にとって有利な工房を作成する能力。

 キャスターは工房を作成することはできないが、エロいことをする為の環境を整えることに関しては天才的

 

 道具作成:D++

 魔力の籠った道具を作成する能力

 道具を購入する側なのでランクは低いが、エロ関係の道具に関してはその並々ならぬ熱意によってAランククラスのものを生産できる

 

【保有スキル】

 終末の獣:A

 マザー・ハーロットではなくエルトリアの保有しているスキル。

 彼女は魔術を使うことなく魔力を運用できる生命体であり、その中でも最高峰である四大魔王直系の子孫である。

 サーヴァントとなったことでだいぶ落ちているが、純正魔力の攻撃であるためあらゆる対魔力スキルを無効化可能。

 

 変化:C

 マザー・ハーロットではなくエルトリアの保有しているスキル。

 姿形を変化させることができる。

 高位の悪魔である彼女は、その気になればスタイル自由自在。下記のスキルもあって性的魅力にあふれまくっている。

 

 魔術:C

 基礎的な魔術を習得。本来このレベルではキャスターには選ばれないのだが、上記のスキルによって底上げがされた結果キャスターの資格を得た。ちなみに戦闘向けの魔術ではない。

 

 黄金律(体):B

 金が付いて回る宿命ではなく、肉体の黄金比。

 マザー・ハーロット扱いされる聖娼として、必然的に優れた美貌を持つ。

 

【宝具】

 偉大なる裸王降臨(ザ・グレート・ハーロット)

 対心宝具 ランクEX レンジ:1~99 最大補足:1000人

 マザー・ハーロットの伝承と、エルトリアの奥義が複合された宝具。

 真名開放とともに範囲内すべての存在の色欲及びそれに由来する能力を集める存在へと変じ、それによって自己を強化する。

 霊格も併せて強化されるため、その存在はビーストクラスにまで変化。その結果単独顕現スキルを疑似的に保有するため、この宝具は効果に比べれば破格といってもいいほど燃費がいい。

 欠点としては莫大な色欲を持つものたちの力を借りなければ強化率は低いため魔力を無駄に消費する結果になること。この力は破格の変態たちの力を借りることが前提であるため、普通に発動してもランクの範囲内でパワーアップする程度である。10が11に変わったところでそれがどうしたレベル。

 ……裏を返せば、色欲そのものが力となっているレベルのど変態が対象になった場合、そのものと同等クラスにまで戦闘能力を引き上げることが可能なのである。

 

☆キャラクター詳細

 疑似サーヴァントだが、依り代の方が圧倒的に強いという特例。

 ただし、人格面においては大いに苦戦しているが意地と根性と覚悟でサーヴァントの方がメインを張る。理由は後述。

 

☆絆レベルを1にすると開放

 マザー・ハーロットは神霊クラスなので本来は召喚されない。その為、そう扱われた存在が選ばれる傾向がある。この手の事象は神霊クラスを無理やり召喚しようとした時に起きた前例があるらしい。

 今回選ばれたのは魔術の心得のあった聖娼なのだが、それでは足りないと思った結果、たまたまこっちから挨拶をかけてきた存在と融合することを選ぶ。

 ………選んじゃったのである。

 

☆絆レベルを2にすると開放

 エルトリア・レヴィアタンは世界をエロに染め上げることを願いとするテロリストである。

 ただし、その本質は悪ではない。

 エロこそこの世で最も素晴らしいものだと信じている彼女は、基本的に善意で全世界の人々をエロくしようとしているのだ。

 

☆絆レベルを3にすると開放

 その色欲はとどまるところを知らず、おっぱいに対する強い愛で世界を救った男である兵藤一誠すら、一時はエロで上回ったほど。

 そのエロスは一歩間違えれば獣の一角になりかねないほどの存在である。人類愛一歩手前にして人類悪一歩手前である。

 

☆絆レベルを4にすると開放

 彼女は向こうの座で反英霊として登録されている。

 それは、彼女の思想に基づき色欲を大罪とする聖書の教えの本拠地ともいえる天国でエロの良さを広めようと淫行を同胞達と共に働き、数多くの天使を堕天させた、天界史上最大クラスの危機を生み出したことが原因。この女いい加減にしろ……と言いたいが、これにより教会の戦士達のクーデターが土壇場で中止された為、ある意味結果オーライ。やりづらいな、オイ。

 

☆絆レベルを5にすると開放

 融合したマザー・ハーロットが全力で抑制に全振りした結果、彼女は積極的に人々の前で淫行をしようとしない。人格の主導権は何とか握ってくれました。

 ただし、カルデアに娼館ルームを作って基本はそこで待機している。兵夜はそれを「職員の性欲発散は重要」ということで時々監視するが黙認している。ちなみに利用するのは不倫になるかどうか真剣に悩んでいる。

 

☆—―――――――をクリアすると開放。

 そんな彼女が呼ばれたのは実は似て異なる「検閲」。

 彼女のその特性はサーヴァントとなることで、単独である「検閲」を撃破しかねないほどにまで強大化する。まさしく天敵といえる存在となりえるからである。その絶対相性、ティアマトに対するキングハサンすら歯牙にもかけない。

 

★因縁キャラ

 

☆■■■■■■

 エロを極限まで高めた同士だが、根本的なところで相いれない為、召喚されたら監視役を積極的に引き受けてくれる。そしてサーヴァントの状態では彼女は絶対にキャスターには勝てない。その確実性じゃんけんにおけるパーとチョキの関係に近い。

 そもそもあの女の経験人数=すごさというのが根本的にアマチュアの証。質をガン無視してできるわけがないのよぉんお馬鹿! と、一からエロについてしつけ治そうとしている。

 ……あれ? エルトリア表に出てね?

 

☆フェルグス・マック・ロイ

 常連さん。自分と単独で張り合えるものは滅多にいない為、非常に好印象

 ……キャスターさん、エルトリア抑えきれてないですぜ?

 

☆未経験な人達

 エロを知らないなんて何て可愛そうな人達……と淫行をしたくてしたくて堪らない衝動に駆られているが、ハーロットの方が気合と根性で抑えている為時々意図的にパンチラする程度。

 

☆アンリ・マユ

 ある意味同類である為、微妙に親近感がある

 

☆疑似サーヴァントの大半

 ……羨ましい、依り代の問題児度が比較すると圧倒的に低くて心底羨ましい

 

☆宮白兵夜

 ごめんなさぁい。夫がいないからスワッピングプレイができないぉん

 ……この後NTR耐性がない兵夜がハーイデースりました。




なんかごめん。こいつが真っ先に思い浮かんだんだ。

一応カルデアのシステム上人理修復に賛同しなければ召喚されないので、問題は比較的ないです。エロを信奉するエルトリアは、エロを亡ぼすことを良しとしないのです。









……訓練された型月ファンなら、この能力で誰に対して圧倒的ない意匠がいいのかわかるでしょう。その時の出番をぜひお待ちください。









………そこまで、かけるといいなぁ


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邪龍百年聖剣戦争 オルレアン
ジャンヌ「あれはまさかイングランドの新兵器!? ……え? アメリカ合衆国?」


はい、邪龍百年戦争オルレアンのスタートです。


 

 レイシフトは無事に完了した。

 

 そして、いきなり異常を発見した。

 

「……な、なによあれ! あれが、人理焼却の原因!?」

 

「うっわー。なんか綺麗だけど……やばいよね、あれ」

 

 いきなりオルガマリーは冷や汗を流し(無駄に多機能な自動人形である)、立花も頬を引きつらせる。

 

 しかし、それを見ながら兵夜は冷静だった。

 

「……攻撃の余波で次元に裂け目ができる光景を何度も見た所為か、我ながら冷静だな」

 

「まるでリアクション芸ができない芸人みたいです、兵夜さん」

 

『え、なに? どうしたの四人とも?』

 

 ロマニは全く状況を把握できていなかったが、さてこれをどう説明したらいいものか。

 

「マシュ! すぐに映像をロマニのところに送りなさい! 間違いなくあれが異常の原因の一つよ!!」

 

「はい! 宅急便もびっくりの速度で送ります!!」

 

『あ、うん、こっちにも見えたね……ってなんじゃこりゃぁああああ!!』

 

 ロマニの驚愕も当然だろう。

 

 フランスの空に、巨大な光の帯が生まれていた。

 

 おそらく高度は成層圏にも到達しているだろう。そんな光の帯が、地上から見てもすぐにわかるぐらいはっきりと見えている。

 

「ロマニ、すぐにレオナルドを呼んで解析させなさい。……こんな事象が起こっていれば歴史に残ってなければおかしいわ。間違いなく、未来消失に関わってる」

 

『了解です。それはこっちでやりますので、所長達は現地の調査に専念してください』

 

 速やかにオルガマリーは指示を出し、そしてすぐに周囲を確認する。

 

「とにかく、特異点になっているほどの事態なら、間違いなく何か異変が起きているはず。人里を探して話を聞くわよ」

 

「OK。そういうことならまず探そうか」

 

 すぐに支持を出すオルガマリーにどこか安心したような笑顔を浮かべて、兵夜はすぐに空を飛ぶ。

 

 悪魔というのは伊達ではない。空中飛行程度なら簡単にできる。

 

 さらに自身のスキルを使って遠身を行い―

 

「オルガ、いきなりだが特異点の理由に一歩近づいたぞ」

 

「え? そんなに目立つの?」

 

「なに? ピラミッドでもあったとか?」

 

 オルガマリーと立花が首をかしげる中、兵夜はすぐに降りると装甲車を呼び出してドアを開ける。

 

「……砦がワイバーンに襲われている。急がないと全滅するな、あれは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界、ワイバーンとか幻想種はその殆どが世界の裏側に行っている時期のはずだ。

 

 少なくとも、群れをなして現れていたら間違いなく大騒ぎになる。そんなもん魔術教会も聖堂教会も隠匿できないだろう。

 

 うん、間違いなくこれがフランスの人理を無茶苦茶にしている原因の一つだ。

 

「ちっ! 派手にやってやがるな!」

 

 混乱を避ける為にある程度近づいてから車から降り、そしてすぐに駆け付ける。

 

「マシュ! 助けに行くよ!!」

 

「あ、はい! って先輩待ってください!!」

 

 急いで立花は宝石を片手にワイバーンに先制攻撃を叩き込む。

 

 顔面に莫大な魔力を叩き付けられ、ワイバーンの一体が弾き飛ばされる。

 

 そして、すぐにワイバーン達の敵意はこちらに向いた。

 

「ああもう立花! 確かに良いことしてるけど、もうちょっと慎重にしなさい!!」

 

「仕方がありません、所長。それが先輩の良いところですから」

 

『特異点だから死人が何人出ても問題はないんだけどね。あまり無茶はしないでくれよ』

 

 なるほど、立花達にはそういうことにしているわけか。

 

 それでも動く辺り、魔術師には全く向いていないお人好しだな、あいつは。

 

 まあいい。死人は少ない方が歴史の修正力も上手く働くだろう。

 

 ……ここは手早く片付ける!!

 

「さて、片付けるか」

 

 リチャード。お前の力を借り受ける。

 

 魔力を流すと同時に、産まれるのは合計19丁のイーヴィルバレト。

 

 これが、リチャード・ジョーダン・ガトリングの宝具。

 

 彼が発案し、そして直接的に製造に関わったガトリングの生産及び使用。それを俺との融合により、イーヴィルバレトに変換して運用する。

 

 それは、戦争の死者を減らす為の発明。

 

 たった一人で百人分の働きをすることができれば、死者の数は結果的に減るだろうという祈り。

 

 戦争を根絶するのではなく、戦争による死者を減らすという現実的な祈り。

 

 今の時代のガトリングの運用が彼の願いに乗ったものなのかは、彼は語らなかった。

 

 だが、それは間違いなく歴史を変えた号砲だ。

 

「乱れ撃つ! 死者減らす願いの連装砲(ガトリング・ファーザー)!!」

 

 放たれる一斉射撃が、骸骨兵やワイバーンをことごとくハチの巣にする。

 

 よし、この調子なら八割は減らせる。

 

「マシュは立花の護衛に回れ!! オルガ! お前は残りを頼む!!」

 

「わ、わかってるけどどうすればいいのよ!」

 

 あ、そういえば具体的な戦闘トレーニングはさせていなかった。

 

「……はいこれ」

 

 俺はすぐに巨大なメイスを呼び出すと、それをオルガに渡す。

 

「これ、なに?」

 

「勢い良く振り回してワイバーンを叩き落せばいい。簡単だろ?」

 

「……………うそでしょ?」

 

 ミンチになっていくワイバーンを見ながら、オルガは顔を真っ青にしながらため息をついた。

 

 うん、でも仕事はちゃんとやってくれた。

 

 ありがとな、オルガ。

 

 とはいえ、この調子だとフランス兵に犠牲者が出てきそうだな。

 

 できれば死者はいない方がいいんだが、さてどうしたものか……。

 

「兵達よ! 水をかぶりなさい!!」

 

 その時、良く通る声が響いた。

 

 そこにいるのは、強い意志を目から放つ少女。

 

「彼らの炎を一瞬ですが防げます! ……さあ、武器を取って戦ってください! どうかお願いします!!」

 

 槍突きの旗をぶん回してワイバーンを吹っ飛ばすその姿は、間違いなく常人ではない。

 

 立花はその姿を見て、何かに気づいたようだ。

 

「ドクター! あの人まさか……」

 

『ああ、サーヴァントだ。しかし反応が弱いんだけど、どういうことだろう』

 

 状況はよくわからんが、しかし味方ということでいいだろう。

 

「そこのサーヴァント! こちらと連携する気はあるか!!」

 

「……あなたもサーヴァントですね? 助かります!」

 

 よし、このままぶちかます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何とかワイバーンの群れを撃退することができた。

 

 さすがに竜種なだけあっててこずったが、まあサーヴァントが複数名いればなんとかなるか。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「いいえ。むしろお礼は私が言う方です」

 

 と、マシュとそのサーヴァントがにこやかに言う中、さてどうしたものか。

 

「……兵夜。どうやらちょっとまずいことになってるわよ?」

 

「どうした、オルガ」

 

 なんだ? いや、見ればわかるか。

 

 周りの兵士たちが皆彼女をみておびえている。それも、かなりやばいレベルで恐慌状態だ。

 

「貴女は……いや、お前は……!」

 

 震える声でビビりながら、兵士たちは一目散に砦に向かって駆け出した。

 

「逃げろぉおおおお!!! 魔女が出たぞぉおおおおお!!!!」

 

 うわぁ見事な逃げっぷり。なんだなんだ?

 

「……魔女、フランス……まさか貴女、ジャンヌ・ダルク?」

 

 オルガがすぐに何かに思い立ったのか、そう声をかける。

 

 その言葉に、サーヴァントは辛そうな表情を浮かべながら頷いた。

 

「はい。私はルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクです」

 

「ジャンヌ・ダルク? 確か聖女って呼ばれてる?」

 

 立花が首をかしげてそう呟くが、しかしこの時代では果たしてどうなるか。

 

「……いや、彼女が聖女として認定されたのは数百年後だ。それまでは、魔女として処刑されたままだ」

 

 なるほど、それで魔女か。

 

 だが、それでも当時のフランスからしてみれば救世主とは言わんまでも希望の光だったはずだ。

 

 それが、いったいなんで魔女扱いされてるんだ?

 

「……とりあえず、場所を変えましょう。ここでは兵士達の心を追い詰めてしまいます」

 

「そうだね、ついて行こうか」

 

 ジャンヌの提案に、立花は速攻で乗った。

 

 ふむ、確かにそうした方がよさそうだ。

 

「……仕方がないわね。兵夜、車を出して頂戴。ロマニは当時の地図を探して近辺の村を探しなさい」

 

『了解です所長。さて、すぐにでも村を探さないとね……っと』

 

 ああ、確かにこのままだと砦の兵士がプッツンして仕掛けてきかねないな。

 

 犠牲者は出さずに済むなら出さない方がいい。ここは素直に退散するか。

 

 とはいえ、魔女か。

 

 いくら見捨てたとはいえ、フランス人までもが彼女を魔女呼ばわり。

 

「オルガ。俺が知っている聖杯戦争では、こんなケースがあった」

 

「何かしら?」

 

「双子の魔術師が同一のサーヴァントを別側面で召喚したという事例だ。例えば二重人格で有名なジキルとハイドなら、まさに二人を分割して召喚するということも可能だろう」

 

「コロンブスとかローランとかはなりそうね。あとは護国の王と吸血鬼のモデルのヴラド三世とかかしら」

 

 すぐにどういうことかを理解してくれたようだろう。

 

 そう。創作物において復讐者となったジャンヌ・ダルクなど良くある話だ。

 

 それを置いても、ジャンヌ・ダルクは実は苛烈で夜襲などの当時のノンマナー行為を積極的に行っていたという話がある。

 

 もし、俺達の目の前にいるジャンヌ・ダルクが聖女としての側面を引き出したものだとするならば……。

 

「復讐者としての側面が、今回の特異点の原因、なのかしらね」

 



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兵夜「案外それが一番大変なんだよなぁ」

 

 それはともかく車で移動しながら、俺達は会話を続けることにする。

 

「これが未来では馬車の代わりに使われているのですね! あなた達は本当に未来から来たのですか」

 

「自動車っていうんだ。覚えておくといい、ジャンヌ・ダルク」

 

 流石に自動車は興味深いか。未知すぎるから怯えるかもと思ったが、そんなことはなくて安心した。

 

 そして聖女っぽくて安心した。

 

 良かった、人質作戦何てして、変態に裸にされたジャンヌ・ダルクの末裔なんていなかったんだ!

 

「それに保存食がこんなに美味しいだなんて! 時代の発展は素晴らしいものです」

 

「それは良いんだけれど食べすぎないでよね。こっちも補充の当てがないんだから」

 

 あと乾パン喰いすぎです。健啖家なんだねジャンヌ。

 

 オルガマリーがツッコミを入れるほどの状況だ。これはまた面倒なことになったといえるだろう。

 

「それで、ジャンヌ? 貴女はサーヴァントでいいんだよね?」

 

 立花が代表して質問すると、ジャンヌは少し躊躇いがちにそれに頷いた。

 

 なんでも、ルーラーとして召喚されたのは良いのだがそのクラススキルの大半を始めとして色々と不具合があるらしい。

 

「どういうこと?」

 

「そうね。おそらくだけど彼女は抑止力として召喚されたのよ。だけど聖杯の影響で本領を発揮できていないということね」

 

 オルガマリーの推測はいい線言っているだろう。

 

 だが、そうだとするのならば人理焼却の黒幕はマジで得体が知れない。

 

 神秘は世界で変動するから単純に比較はできないが、少なく見積もってもオーフィスやグレートレッド、トライヘキサを想定するべきかもしれん。

 

 ……勝てる気がしない。

 

 そんな感想は言っても逆効果なので黙りながら、俺はジャンヌの話を聞いた。

 

 そんな聖杯からの知識もろくにないジャンヌだが、しかし有益な情報を持っていた。

 

 シャルル七世を殺害し、オルレアンで大虐殺を行った魔女がいる。

 

 しかも、そいつはジャンヌ・ダルクとうり二つだったらしい。

 

「どう思いますか、ドクター? これでは同じ時代に同じサーヴァントが二人もいることになりますが」

 

「理論上はおかしなことなど何もないがな」

 

 マシュの疑問に、俺はあっさりと答える。

 

「そうね。サーヴァントは英霊本人ではなく座の英霊のコピー体。理屈の上では何人も召喚できるわ」

 

「クラス適性が七つ以上あれば、理屈の上ではたった一人の英霊で冬木式の聖杯戦争ができるわけだ。俺もエクストラクラスのアヴェンジャーを含めれば七つあるから一人で冬木式の聖杯戦争ができる」

 

 すぐに把握してくれたオルガの説明を補足しながら、俺はすぐに想定する。

 

 ジャンヌ・ダルクの逸話は俺だって触りぐらいは知っている。

 

 百年戦争でフランスを盛り返した聖女にして、悲劇的な結末を辿り火刑に処された魔女。

 

 常識的に考えれば、復讐心の一つぐらい持っていたっておかしくないんだ。

 

 ルーラーの適性があるのと同様に、アヴェンジャーの適性があったとしてもおかしくない。

 

 とはいえ、これでこの特異点での人理崩壊の原因は特定だ。

 

「国王は死ぬわ国家があり得ないぐらい化物に襲われるわ、そんなことになれば国家機能はマヒするな。フランスはこのままだと滅びることになる」

 

『それ非常にまずいね。フランスは歴史で最初に人間の自由と平等を謳った国家だ。それがなくなれば追随する国もなくなり、文明の発展は一気に鈍足化する』

 

「下手をすれば、2015年にもなって中世と同様の生活をすることになるわけね。魔術師としては都合がいいけど、それ以外のすべての人間にとって大打撃だわ」

 

 俺、ロマニ、オルガの順にすぐに大体の事情が理解できた。

 

 これは人理崩壊も当然だ。フランスという国が将来腐敗したからこそ、人間は人民の平等という価値観を獲得することができた。

 

 フランス人に自分はフランス人だという認識を与えた功績を持つジャンヌには悪いが、そういう負の側面もまた人類の歴史の積み重ねなのだ。

 

 それが、台無しになる……!

 

「なんとか、しないとね」

 

 立花がマジ顔で決意を新たにするのも当然だろう。

 

 まったく。一番簡単な特異点でこの影響度か。割とマジで大変だな。

 

 いっそのことフランス革命で起きれば良かったのにとも思う。いや、マジでどうしたもんか。

 

「……あの、さっきから声だけが聞こえるんですが、何かの魔術ですか?」

 

「科学……錬金術の発展形と、魔術の複合です。ちなみに声の主はロマニ・アーキマン。渾名はDr.ロマンと言います」

 

「ロマン……なるほど、夢見がちな人なんですね」

 

 邪気はないのだろうがとても裏を感じさせる感想だ。

 

『なんでだろう。聖女様の言葉なのに褒められてる気がしない!』

 

 ロマン、空気を弛緩させてくれてありがとう。

 

 残念だがお前はそんなキャラだ。俺はそういうキャラには詳しいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人類の歴史そのものが焼却されている。そしてその原因の一つがこのフランスだなんて」

 

 だいたいの説明を聞いたジャンヌが、半ば呆然とする。

 

 当然だろう。聖杯からの知識がない状況では、この混乱も仕方がない。

 

 しかもその原因の一つがもう一人の自分なんだ。ショックを受けるのは当然ともいえる。

 

 しかも15世紀のフランスにワイバーンの群れを送り込むなどという真似すらやってのけた。

 

 ああ、これは間違いなく精神的にきついだろう。

 

 しかし、龍種の群れをこの神秘の減衰しているはずの時代に大量に送り込む。間違いなく聖杯であり人理焼却の原因だ。

 

「ジャンヌ・ダルク。もし魔女の方のジャンヌをどうにかすることを考えているのなら、共闘してほしい」

 

「それはありがたいことですが、よろしいのですか?」

 

 ジャンヌは気づかわし気に見てくれるが、しかしこれは十中八九人理焼却案件だ。

 

「こちらとしてはぜひ協力してほしいわ。現地に詳しいものの協力は必要だもの。……この一件、魔術師の歴史にも残されてないのだから間違いなく人理焼却の原因だわ」

 

 オルガの言う通りだ。

 

 間違いなく、この緊急事態を解決することが聖杯探索の成功に繋がっている。

 

 ……しかしワイバーンとはいえ龍種の大量召喚か。これは冬木式の聖杯でも困難だろう。

 

 単純な魔力リソースとしては、冬木式の聖杯より強力だろう。

 

「正式なサーヴァントが味方に付いてくれるというのならば、心強いです。ぜひご協力させてください」

 

「……疑似サーヴァントとデミ・サーヴァントなんだけどな」

 

 正式なサーヴァントであるダ・ウィンチちゃんを連れてくるべきだったか。

 

 とはいえサーヴァントクラスが四人もいるのなら大抵の問題は解決できるだろう。

 

 問題は―

 

「でも、魔女扱いされるのは大丈夫?」

 

 立花が先手を打ってそれを聞く。

 

「……もちろん、誤認されるのは悲しいですが、火刑に処されて数日しか経っていない私が現れて虐殺を行ったというのなら、恐れられるのは無理もありません」

 

 確かに、明らかにホラー以外の何物でもない。

 

「……ですが、大丈夫です。イングランドを刺激する心配もない以上、魔女である私を倒すことに集中できますから」

 

「強いのね。流石は歴史に残る聖女だわ」

 

 どこか自嘲気味に、オルガがそう賞賛する。

 

「い、いえ。その、私を聖女と呼ぶのはやめてもらえないでしょうか」

 

 いや、そんな謙遜はしなくていいぞ、ジャンヌ・ダルク。

 

「無理を言うな。君は正真正銘バチカンに認められた聖女だ。少なくとも、正しい人理ではそうなっている」

 

 それを聖女と認識するなと言われても、難しいことだろう。

 

 それに、別に聖女だからといって過度にかしこまる気は欠片もない。

 

「そうだよ。それに、私達もう戦友でしょ?」

 

 と、立花はニコニコしながらジャンヌ・ダルクの手を取った。

 

 ……こいつの物怖じのしなさ、イッセーを感じさせるな。

 

 まさか俺の妹がイッセーに近しいことができるとは。これは、嬉しいというべきか照れくさいというべきか。

 

「まあ、とにもかくにも今は情報収集だな」

 

「そうですね。目的はシンプルですが達成は困難。しばらくは斥候に徹しませんと」

 

『……流石ジャンヌ・ダルクと兵夜君だ。群での戦いに慣れているね』

 

 まあな。

 

「しかし、いくら修復されればなかったことになるとはいえ、このまま人々が被害を受けるのを見過ごすのは忍びないですね……」

 

「うん。見過ごしたくないよ」

 

 マシュと立花はちょっと思うところがあるみたいだ。そして、実際はもっと酷いわけだ。

 

 だが、ここは堪えてくれないと困る。

 

「気持ちはわかるが、しかし無謀だ。間違いなく軍団級の戦力を相手に、無策で挑むわけにはいかないさ」

 

「そうよ。まずは魔女の方のジャンヌ・ダルクがどんなサーヴァントなのかぐらいは調べないと。……ルーラーのサーヴァントなら、広範囲の知覚ができるって聞いたけど」

 

 オルガの視線がジャンヌ・ダルクに向くが、ジャンヌ・ダルクは静かに首を振った。

 

「申し訳ありません。ルーラーとしての感知機能も与えられてないんです。……通常のサーヴァントと同じぐらいの距離でなければ無理そうです」

 

「……向こうのジャンヌが正式なルーラーだったら最悪だね」

 

 立花。気持ちはわかるが今言わないでほしかった。

 

「とにかく明日の朝には大きめの街に行こう。立花とオルガは少し眠っておくといい」

 

「もちろん。でも、ジャンヌは大丈夫?」

 

「私は大丈夫です。一応基本的にはサーヴァントですから」

 

「……睡眠薬でも処方してもらうべきだったかしら。でも、今の私の体に効くかしら……?」

 

 そんなことを言いながら、立花とオルガを俺達は寝かせる。

 

 できればマシュにも寝てほしいが、しかし流石に限度はあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立花は即座に眠り、オルガも少ししたらすぐに眠ってくれた。

 

 立花は結構平然としているが、オルガは結構疲れているな。まあ、生まれて初めて見た龍種が、寄りにもよって大軍とかトラウマになってもおかしくないか。

 

 運転しながら、俺はマシュとジャンヌの話を聞いていた。

 

 なんでも、ジャンヌはサーヴァントとしての状態がおかしいらしい。

 

 過去も未来もないはずの英霊の記録に接続できない、サーヴァントの新米みたいな者。そう彼女は言った。

 

 だから思われているような戦力として期待できるか怪しいと不安になるが、それに関しては心配ない。

 

 なにせ、マシュだってデミ・サーヴァントだからな。俺も疑似サーヴァントだ。

 

 しかも、マシュは自分に宿っているのがどんなサーヴァントなのかも知らないイレギュラー。俺は俺で世界の神秘のずれか、まだ生きている頃の情報すら引き出せない体たらく。

 

 そういう意味では全員半端もの。恥ずかしがることなどありはしない。

 

「それに、先輩は強いから闘っているのではないと思います。あの人は、当たり前に、当たり前のことをしているんだと思います」

 

「ふむ、確かに一理あるが、それはちょっと違うぞ、マシュ」

 

 ああ、それはちょっと違う。

 

「当たり前に当たり前のことをやる。それは当たり前のようでいて実は意外と難しい。……ああ、俺の妹は強い奴じゃないかもしれないが、すごい奴だ」

 

 俺は、それをよく知っている。

 

 人として当たり前のことを、どんな時でもきちんとできる。

 

 それは、実はすごく大変なことなのだ。

 

「だから、そんなマスターを持てた俺達はマスター運には恵まれている方だ。……敵より、俺達の方が有利だな」

 

「「はい」」

 

 しかし、人理の救済を当たり前のことか。

 

 この子も、意外と大した傑物なのかもしれないな。

 



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兵夜「挑発に乗ってくださいお願いします!! いや、ほんと乗ってくれないと妹が大変なんです!!」

はい、ついにジャンヌ・オルタが登場します。


 

 取り合えず、ジャンヌの案内で俺たちはラ・シャリテという町に向かっていた。

 

 ロマニがすぐに連絡を入れてきた。

 

 なんでも、サーヴァントの反応が五つもあると。

 

 ……嫌な予感がして飛ばしてきたが、しかしもう手遅れだ。

 

 町は完璧に廃墟で、あたりには肉が焦げる臭いやら焼けた脂の匂いが充満していた。

 

「……ロマニ、手遅れだな?」

 

『ああ。そこに生体反応は君たちだけだ』

 

 チッ。

 

「……これは、ひどいわね」

 

「ごめん。ちょっと吐きそう」

 

 オルガも立花もかなりきつそうだ。

 

 無理もない。こんな悲惨な光景、初見でショックを受けない方がどうかしている。

 

「マシュ。大丈夫か?」

 

「はい。私は……」

 

「OK。大丈夫じゃないな」

 

 無理をするな。これは初心者にはきつすぎる。

 

「魔力がこもりすぎている以上、リビングデッドになる可能性もある。ジャンヌ・ダルク。異教式で悪いが鎮魂の儀式をするから、それまでの間、三人を連れて離れていてくれ」

 

「…………これをやったのが、本当に私なのですね」

 

 ぽつりと、ジャンヌ・ダルクはつぶやいた。

 

「待ってください。それは―」

 

「いえ、それはわかるんです。でも、どれほど人を憎めば、このような所業をおこなえるのでしょう」

 

 さてな。

 

 だが、このジャンヌ・ダルクが生前に感じた憎悪は、それほどまでのものだったと仮定するのが妥当な案だろう。

 

 だが、それがこのジャンヌにはわからない。

 

 おそらく、このジャンヌは聖女としての側面が強く引き出されているのだろう。

 

 それが、世界が魔女であるジャンヌに行った必死の抵抗―

 

『―待った! さっきのサーヴァントが反転した!! 五騎全員が一気にそっちに向かってきている!!』

 

 なんだと!?

 

「チッ!! 全員走れ!! 今のままだとさすがにきつい!!」

 

「うそでしょ!? サーヴァントの数でも負けてるのに、そのうえワイバーンまで相手にするなんて―」

 

 オルガが顔を真っ青にさせるが、しかしそんなことをしている暇はない。

 

「急げ!! このままだと追いつかれるぞ!!」

 

『三十六計逃げるにしかずだ! こんなの誰だって逃げる!!』

 

 俺とロマニが声を荒げるが、しかし動かないものが一人いた。

 

 ジャンヌ・ダルクは、まっすぐに空を見つめると声を出す。

 

「……皆さんは逃げてください。私は、ここに残ります」

 

「待ってください! 気持ちはわかりますが、ここは逃げないと!」

 

「駄目です。せめて、せめて真意を問いたださなければ……!」

 

 まずいな、この光景を自分が作ったのが原因か、ちょっと気があれているようだ。

 

 それともこれが聖女の性か? どちらにしても、これは言っても聞いてくれなさそうだ。

 

「……マシュ、立花とオルガを連れて先に車に行け。騎乗スキルは機能しているだろう?」

 

「は、はい。ですが兵夜さんは―」

 

「ここでジャンヌ・ダルクを失うわけにはいかない。安心しろ、策はある」

 

 ああ、まったく。

 

 流石は人理焼却に対抗する聖杯探索だ。初手からサーヴァント五騎とかハードだなおい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに現れたのは、ワイバーンの上に乗る五騎のサーヴァント。

 

 様々な時代の英霊なのか、西洋風の服装だということ以外は統一性がない。

 

 そして、そんな中一人だけよくわかる人物がいた。

 

 肌は青白く、髪はくすんでいる。まるで黒く染め上げられた彼女を見ているようだ。

 

「―っ」

 

 当然、ジャンヌ・ダルクもそれを理解している。だから目を見開いている。

 

「何てことかしら。こんなことがあり得るなんて」

 

 そして、俺の隣ではなく視線の先にいるジャンヌ・ダルクは嗤った。

 

「だれか! 冷たい水を持ってないかしら? 今すぐ頭からかぶらないと、本気でおかしくなりそうだわ!!」

 

 その姿を見て、俺はまあ想定通りだったので比較的冷静だった。

 

「……ジルがいたら、この羽虫を見せてあげたいわ!! ああ、こんな哀れな小娘に、この国はすがっていただなんて!!」

 

「貴方は、いったい誰ですか!!」

 

 たまらず声を張り上げるジャンヌ・ダルクに、ジャンヌ・ダルクは嘲笑を浮かべる。

 

「貴女がそれを言うのですか? そんなもの、蘇ったジャンヌ・ダルクに決まっているじゃないですか!!」

 

 そして、其のまま頬をさらに吊り上げる。

 

「ねえ、もう一人の()。馬鹿馬鹿しい聖女様?」

 

 やはり、彼女の裏側面か!!

 

「……馬鹿馬鹿しい。私達が聖女などであるものか。それより、なぜこの街を襲ったのです!」

 

「そんなもの、間違いを訂正するために決まっているでしょう?」

 

 即答だった。

 

「なるほど、ジャンヌ・ダルクが聖女なのが間違いだと認められたのなら、偽の聖女に救われたフランスもまた間違いだということか」

 

「あら、物分かりのいい異国のサーヴァントね。ええそう、そうです。この国は間違いです」

 

 ジャンヌ・ダルクの裏側面……ええい長い! これからジャンヌ・オルタと呼称しよう。

 

 ジャンヌ・オルタの目的とは明白だ。

 

 自分を間違いだというのならば、フランスの救済もまた間違い。

 

 だから燃やす。だから壊す。だから殺す。

 

 老若男女の区別なく、物理的にフランスを亡ぼす問うわけか。

 

「馬鹿な私。裏切り、唾を吐いた人間たちの国を救うために、私の邪魔をするなんて」

 

 ジャンヌ・オルタはジャンヌ・ダルクを蔑むと、そして俺をも鋭くにらみつける。

 

「貴方もそんな馬鹿な私に見切りをつけてこちらについたら? 死を得て成長した私と、死んでなお憎しみを見ないふりする聖人気取りの聖処女よりましだと思いませんか?」

 

『いや、サーヴァントは成長しないから、霊格アップとかのほうが―』

 

「―そこの蠅、あまりうるさいと燃やすわよ?」

 

『うわぁ!! コンソールが燃え出したぁ!!』

 

 にらんだだけで通信先の相手を呪うってどうよ?

 

 たぶんジャンヌ・オルタの宝具何だろうが、何気に万能だな。

 

 火刑の逸話と憎悪の融合と思われるが、さてさてどうしたもんか。

 

「まあいいわ。あるべき憎悪もあるべき報復もしないというのなら、それはもう私じゃない。……バーサーク・ランサー、始末しなさい」

 

 その言葉とともに、一人の男がワイバーンから飛び降りる。

 

 ……中世の貴族を思わせる、長い髪の男。

 

 なんだろう、俺はこいつを知っている。

 

「では、血をいただいていいかな? 余をそのようなものにしたのは貴女なのだ。それぐらいは許してくれてもいいと思うのだが」

 

「かまいません。弱い者いじめも飽きたでしょう? サーヴァントという強者を喰らい、そして存分に嗤いなさい」

 

「よろしい。では食事の時間としよう!!」

 

『まずい! あのサーヴァントたち、黒ジャンヌを除いて全員狂化スキルをつけられてる!! サーヴァントのクラスを強制的に二重属性にするなんてありえない!!』

 

 なるほど。悪性のサーヴァントを召喚するのではなく、強制的に気狂いにしているというわけか。

 

 そんな真似まで使えるとか、やはり聖杯を使っているようだな。

 

 ああ、それがわかれば十分だ。

 

「……マシュ!!」

 

「はい、兵夜さん!!」

 

 俺が声を上げるとともに、装甲車が飛び出した。

 

「ふん、やはり伏兵がいましたか―」

 

 ジャンヌ・オルタがそう言いながら戦闘態勢を取るが、俺はそれより早く即座に行動した。

 

「―え?」

 

 まずはジャンヌ・ダルクを装甲車に投げ飛ばす。

 

 彼女は現地のサポート役として適任だ。ここで消滅されるわけにはいかない。

 

 そしてマシュとオルガはやられたらそれで終わりだ。俺のようにカルデアに戻って再召喚……とはいかない。

 

 立花は当然却下。あいつただの魔術使いだし。

 

 と、いうわけで―

 

「―死者減らす願いの連装砲(ガトリング・ファーザー)!!」

 

 俺は即座にガトリングガンを展開すると斉射。

 

 さらに、今回は対竜用の弾丸を使用する。

 

 不意打ちでぶっ放された弾丸の嵐に、サーヴァントは対応できたがワイバーンは対処できなかった。

 

 あらゆる異能を組み込んで開発された特注品の装甲車。サーヴァントの足でもそう簡単においつけられるものではない。

 

 そして、今の攻撃で向こうも思い知ったはずだ。

 

 俺を無視して背中を見せれば、ハチの巣にされると。

 

「……この、羽虫が!!」

 

「腹立たしいわね。男の血と臓物には興味がないのだけれど」

 

「ハッ! ざまあみろと言いたいけど、さすがにちょっとイラつくわね」

 

「同感だ。このフランスにこんな無粋なものを持ち込むとはね」

 

「……なるほど、どうやら貴様は余と同様に殲滅戦を得意とするサーヴァントらしい」

 

 五者五葉に構えながら俺をにらむが、しかしまだ冷静なようだ。

 

 仕方がない、少し挑発するか。

 

「……ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ羽虫がやかましいな。旧式のロートル風情がよくもまあほざく。古きをもって力とするなら、神代のサーヴァントを連れて来い」

 

 あえて悪意満々に込めたその言葉に、狂化を施されたサーヴァントは敵意を増大化させる。

 

 よし、これで当分ターゲットは俺に集中するな。

 

 さて、それじゃぁ。

 

「あまりなめてくれるなよ、小国同士の争い程度の英霊風情が。こちとら文字通り世界単位で命運かけた激戦を生き残った最新の英霊だぞ」

 

 光の剣を形成し、そして楯を呼び出して素早く構える。

 

 さて、それではせいぜい時間を稼いでから逃げるとしますか。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう。……五対一だがそれで充分。くぐった修羅場のスケールの違いを思い知るがいい!!」

 




もちろん挑発目的です。さすがに倒せるなどと欠片も思ってません。

ですが、文字通り世界をかけた戦いを潜り抜けた兵夜からしてみれば、良くてせいぜい数国程度のスケールの相手にそう簡単に遅れを取るわけにいかないのも事実。

何より、この程度で臆していて、あの乳乳帝の相方は名乗れませんから。


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立花「すいません! うちの家系うっかりが多いんです!」 ロマニ「ああ、そういえばそうだったね!」

再びメタ題です。


 

「ちょ、ちょちょちょマシュ!! マシュ止まって!!」

 

 立花は慌ててマシュを止めようとするが、しかしオルガマリーがそれを止める。

 

「落ち着きなさい立花!! 兵夜はやられてもカルデアに帰還されるだけ。ダメージが大きいから即時の復帰は難しいでしょうけど、それでも消滅するわけじゃないわ!!」

 

「だけどお兄ちゃんが!!」

 

「そうです! このままでは兵夜さんが!!」

 

 ジャンヌも扉を開けようとするが、サーヴァントとして完璧な状態でないことが災いなのか幸いなのか、オルガマリーの力でも取り押さえられていた。

 

 とはいえ、マシュとしても気が気でない。

 

 最初の作戦では、強引に包囲をくぐった後で撤退戦に移行する話だった。兵夜も装甲車に飛び乗る手はずだったのだ。

 

 それが、ふたを開けてみれば兵夜が独断で足止めに残っている。はっきり言って自分でも止まってないのが不思議だった。

 

 と、いうより騎乗スキルがあるといえど運転なんて初めてなので色々と成れてないことが大きい。このままだと事故を起こしてしまいそうだ。

 

『言っとくけど戻ったら駄目だからね! 君達は倒されたらそれで終わりなんだ。こういう時の消耗戦は、カルデアの正規サーヴァントである彼の役目だ』

 

「そんな!! お兄ちゃんを見捨てるなんて!!」

 

「そもそもこうなったのは私の所為です! 殿を務めるのなら私が!!」

 

 立花もジャンヌも納得できていないが、しかしロマニの声は緊張感があふれていた。

 

『それに、あの場に残しておくわけにはいかない。……新たにサーヴァントの反応が三人出てきた。これはかなり危険だ』

 

 その言葉に、立花は背筋が凍りそうになる。

 

 ただでさえサーヴァントがマシュも入れれば八人も一堂に会したイレギュラー。その上で更に二騎も追加など、悪夢でしかない。

 

 そんな状況に、再会するはずがなかったのに再会できた兄を置いていくことに、立花は強い罪悪感を感じ―

 

『それに、もしかしたら無事逃げ帰ってくるかもしれないよ?』

 

 ロマニの声に、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌ・オルタは心底からイラついていた。

 

 目の前にいるのはサーヴァントは、ルーラークラスのクラス特性である程度把握している。

 

 ……もっと早く正確に把握するべきだった。心底後悔した。

 

 ステータスそのものはそこまで高くない。EXも実際はD相当であり、ステータスは高くてBだった。

 

 宝具がEXなのは驚異的だが、それも雑魚散らしに特化した宝具と蹴り技。ならば武器の間合いで挑めば十分対応できる。

 

 そう、その間合いこそが問題なのだ。

 

「ああ、言い忘れていたがこういう礼装もあるんだ」

 

 その言葉と共に、地面が急激に隆起する。

 

 それにより武器の間合いを取り辛くなったのが原因で、一気に状況は彼に有利になった。

 

 少しずつ後退しながらの、ガトリングガンによる牽制に終始するアーチャーは、非常に強敵だった。

 

 廃墟という障害物の多い環境での戦闘はむしろこちらにとって有利だと判断したが、それは完璧に誤りだった。

 

 時に瓦礫を足場にし、時に手で猿のように駆け上がる。

 

 敏捷ランクだDだとはとても思えないような軽快な機動。そこに大量のガトリングガンによる牽制。

 

 接近戦主体の英霊は接近できず、遠距離戦が可能なサーヴァントもこの弾幕の中では狙いが定まらない。

 

 吸血鬼の特性で霧となれるヴラド三世も、また接近を困難としていた。

 

 その特性は単純明快。目の前のアーチャーは、躊躇することなくガーリックオイルを頭からかぶったからだ。

 

 吸血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)。攻勢に広まった吸血鬼ドラキュラのイメージを具現化する、ヴラド三世の宝具。

 

 死徒ととしての吸血種ではなく、のちの口伝によるドラキュラ像を自身に付与するその宝具は、霧と化すことにより弾幕を交わすというメリットを生んでいるが、それ以上にデメリットが大きすぎた。

 

 その為吸血鬼の伝承で出ている弱点も影響を受ける為、これにより接近しずらいという悪影響が生まれてしまった。

 

 そのくせ、あの男は聖水らしきものを魔術で操作して防御を行っている。

 

 如何に魔術を無効化しても、聖水そのものをかぶってはヴラド三世にはダメージが大きい。これによりヴラド三世も杭による遠距離戦を強いられるが、しかし乱戦状態では広範囲攻撃はできない。

 

 完膚なきまでにアーチャーの目論見にはまったようだ。あの男、最初から徹底的に時間稼ぎに徹するつもりだろう。

 

「なるほど。確かに未来で英霊になるということは、過去の戦争や戦いなどの資料が豊富だということ。……過去使われた策をかき集めることで、対抗手段を構築することもたやすいというわけですか」

 

 認めよう。どうやら彼は強くはなくてもしぶといサーヴァントだ。

 

 これが闘争を愛し、強敵との殺し合いを好む英雄ならば喚起するのだろうが、ジャンヌ・オルタはそうではない。

 

 彼女がしたいのは戦争ではなく報復。すなわちフランスの蹂躙である。

 

 多少手応えがあるのはかまわないが、しかし物には限度がある。これは硬すぎて中々呑み込めない。

 

「……ったく、うざいわねコイツ」

 

 舌打ちを一つし、ジャンヌは戦い方を変えることにする。

 

 サーヴァントとマスターのパスで情報が筒抜けになりそうだが、しかしこのままこいつの好きにさせるのも気に食わない。

 

「……喜びなさい、あなた向きの相手です。……狩りの時間ですよ、バーサーク・アーチャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思ったより何とかなった!!

 

 対吸血鬼用の装備はルーマニアの一件でため込んだままにしていて正解だった。おかげでもろに一人抑え込んだよ。

 

 どうやら、ヴラド三世はサーヴァントとしての側面が強く出てくるタイプらしい。

 

 体から杭を射出してくるが、一発当たった程度ではそこまで酷い事にはなってない。ルーマニアでマリウスが使用した時よりもダメージは軽い。

 

 偽聖剣もない時に、劣化再現しているマリウスの時よりもだ。

 

「なるほど。吸血鬼のウラド三世ではこれが限界か。悪いな、俺は吸血鬼対策は万全なんだ」

 

「……ほう? 貴様は私の別の側面を相手にしたことがあるのか。それは羨ましい話だ」

 

 吸血鬼が使用してきたことについては黙っておくとしよう。

 

 流石にちょっと可哀想だ。

 

「まったくもう。男の血はあまり好みではないのに、更に殺すのにも手こずるなんて嫌な話だわ」

 

「こちらとしては無駄な殺しをせずに済んでありがたいが、しかし倒せないというのはもどかしいな」

 

「その程度で済んで羨ましいわ。こっち何てなんか知らないけど倒したくても倒しちゃいけないような気がしてモヤモヤしてんのよ」

 

 サーヴァント達が次々に言葉を放つが、まあこの場合は得意気にするべきか。

 

 とはいえ、どうやら約一名を除いてまともならこんなことしないようなサーヴァントだ。……できれば一人ぐらい楽にしてやりたいが。

 

 確実にそれができる攻撃の間合いに、相手は入ってくれない。どうやらあの黒ジャンヌはルーラーとしての能力をある程度持っているようだ。

 

 これは、まずいな。

 

 奥の手の存在を既に感知されている以上、向こうのうかつな接近戦闘は挑まないはずだ。

 

 色んな意味で一人ぐらい倒したいところなんだが、これだとできない―

 

 と思った瞬間、魔力反応が発動する。

 

 服に搭載されている自動防御機能が発動したが、しかし抑えきれず矢が背中に刺さった。

 

「……忘れてた、聖杯戦争は七騎で行う戦争だった」

 

 ジャンヌ二人にサーヴァント四騎。これで数は六。

 

 まだ一人残っている可能性は、考慮するべきだったか!

 

「来なくそ!!」

 

 俺は反撃の弾丸を即座に放つが、すでに視界にはその姿はない。

 

 と思った瞬間、さらに矢が腕に突き刺さった。

 

 ええいまたか! まさか何人もいるとでもいうのか!?

 

「残念だったわね、この女男! いくらすばしっこくても、それ以上に俊敏に動ける奴がいれば、アンタを倒すことは不可能じゃないのよ!!」

 

 ふむ、ということは、いま攻撃しているのは一人だけか。

 

 何人もいるわけじゃないのは幸運だが、しかしだからといって事態は好転しない。

 

「……立花! そろそろ潮時だ!! 令呪を使って俺を転送してくれ!!」

 

 これ以上はまずい。そろそろ逃げ時だ。

 

―え? 令呪ってそんなことできるの?

 

―できるにきまってるだろう。説明聞いてなかったのか?

 

 まったく。令呪の絶対強制を舐めてもらっては困る。

 

 やろうと思えば自決を命じることもできるんだ。それがあるからこそ、俺はわざわざここまで一人で足止めなんてしてるんだろうが。

 

『いや、冬木ならともかく、カルデアの令呪はそこまで強力じゃないよ? さすがにこの距離を転送するのは不可能だよ?』

 

 ………………………………………

 

「あ、ゴメンうっかり」

 

『ええええええええええ!? そんなうっかりってぇええええええええ!?』

 

『あなた何うっかりしてるの!? 馬鹿なの!?』

 

『ゴメンお兄ちゃんは本家の色濃くてぇええええええ!!!』

 

「こんなバカにここまで引っ掻き回されてたっての? うそでしょ……っ」

 

 上から順番にロマニ・オルガ・立花・オルタである。

 

 いや、ホントすいませんね。どうせ俺はうっかりですよ。

 

 だがこれはさすがにまずいな。

 

 実はさっきのツッコミの合間も容赦なく狙撃が飛んできており、動きにくい。

 

 このままだと確実に死ぬ。いや、消滅してもカルデアに帰還することになるだろうから大丈夫だろうけど、それはともかくとしてこれはまずい。

 

 ま、まさかうっかりが原因で特異点の修復が不可能になるとかさすがにまずい!!

 

「……立花。駄目なお兄ちゃんで、ごめんな」

 

『知ってたよ、バカぁ!!』

 

 うん、そうだよね。こっちでも死因同じだったよね……。

 

「皆さん? このふざけた男は念入りに殺しましょう。遊びなく、全力で、心臓と頭をぶち抜きなさい」

 

 サーヴァント六騎がかりは、流石に死んだぁああああああ!!

 

 ―その瞬間、俺と敵の間にガラスの薔薇が突き刺さった。

 

「―何?」

 

『兵夜君! 今君の近くに、サーヴァントが二騎更に追加だ!! ……戻ったらお酒の準備をしておくよ……』

 

「いや、ロマニ。……どうやらやけ酒の準備はまだ早いようだぞ?」

 

 このタイミングで、なぜ邪魔をするかのように行動をする?

 

 理由として最有力なのは―

 

 この薔薇を投げ込んだのは、ジャンヌ・オルタの味方ではない。

 

「―この街のありさまも、その戦い方も、思想も主義も優雅ではありません」

 

 カツ、カツ、カツ、と靴音が鳴り響く

 

 それはまるで戦場に似つかわしくない音。そう、まるで舞踏会に参加するお姫様のような音だ。

 

 その音に視線を向ければ、そこには道化師のような男を引き連れた、ドレス姿の少女がいた。

 

「善であれ悪であれ、人間はもっと軽やかにあるべきものなのに、血と憎悪でその身を縛ろうとするなんて」

 

 そう嘆くドレスの少女に、ジャンヌ・オルタ達は身構える。

 

「……サーヴァント、ですか」

 

 警戒する様子から見て、これはジャンヌ・オルタの想定外であることは分かる。

 

「……あー、お嬢さん? これは味方ってことでいいのかな?」

 

「ええ、そうよ。正義の味方として名乗りを上げるだなんて、すごく喜ばしいわ!」

 

 なんか緊張感がないんだけど、これは余裕なのか油断なのか。

 

 だが、敵サーヴァントの方は意外と動揺している者がいた。

 

「貴女は、マリー・アントワネット!?」

 

 敵のセイバーが度肝を抜かれるが、マリー・アントワネットって戦闘関係の逸話あったっけ?

 

 あれ? もしかしてあまり状況変わってない?

 

「あの、マリー・アントワネット王妃? あの、アブないですから下がった方が……」

 

「あら、私の名前を呼んでくださるなんて嬉しいわ。……でも、それは聞けません」

 

 いや、どう考えても前線戦闘型のサーヴァントじゃないよね!?

 

 だが、この状況下で気丈にもマリー・アントワネットはまっすぐジャンヌ・オルタを見据えていた。

 

「わたしがその名前である限り、愚かだろうと私は私の役割を演じます」

 

「……ハッ! 革命を防げなかった愚鈍な王妃様がよく吠えるわね」

 

 ジャンヌ・オルタはあざ笑うと、そのまま炎を巻き上がらせる。

 

「何もわからず首を落とされた王妃様に、私の憎しみが理解できるとでも? よくもまあそこまでおごれますね」

 

「なら、ぜひ教えてくださる?」

 

 敵意を強く見せつけながら睨み付けるが、マリー・アントワネットはしかし一歩も引かない。

 

「……なんですって?」

 

「教えてほしいの。憧れの聖女であるジャンヌ・ダルクが何故八つ当たりをしているのか。理由も、真意も何もかも、分からないのなら分かるようにするのが私の流儀ですから」

 

 そして、ビシリと指を突き付ける。

 

「そして、貴方を体ごと手に入れるわ!!」

 

「『まさかの百合発言!?』」

 

 俺とロマニのツッコミがシンクロする。

 

「……あ、失敗失敗。今のは「わたしの足元跪かせてやる!!」って意味ですからね?」

 

『ぼくの中のマリー・アントワネット像が、音を立てて崩れていく……』

 

 ロマニ、スマンがそんなことはどうでもいい。

 

「―ハッ! とんだ茶番ね。ならあんた達は私の敵ってことでいいわけね?」

 

 おお、ジャンヌ・オルタがすごい口調になった。

 

 これ、もしかして味方が増えただけで状況悪化してないか?

 

「サーヴァント。全員総出であの連中を始末しなさい!!」

 

 やっぱり怒ってるな、コレ。

 

「あの、王妃? これどうしますか?」

 

「そうですわね。ここは戦場ですし、語らいはこの辺りにするべきでしょう。―まずは彼女が殺めた人々への鎮魂が必要不可欠」

 

 いや、そんなことをしている余裕は欠片もないんだけど。

 

 だが、しかしそこでさっきまで黙っていた男が一歩前に出た。

 

「そういうことなら任せたまえ。宝具死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

 その男が指揮棒を一振りした瞬間、荘厳な音楽が鳴り響く。

 

 あ、これ俺でも聞いたことある。

 

 ってことはこの男は、モーツァルトか!!

 

 そしてその音楽が重圧を作り出したのか、ジャンヌ・オルタ軍勢の動きが目に見えて悪くなった。

 

「それでは皆様、オ・ルヴォヴァール!」

 

「さて、それじゃあ逃げるよ! 君も来るんだ!!」

 

「言われなくても!! それと俺の仲間のところに走ってくれ!! 誘導頼む、ロマニ!!」

 

 このチャンスを逃がす他はない。

 

 いったん撤収!! その後、作戦会議を開いてから反撃開始だ!!

 




はい、恒例のうっかりです!!

カルデアの令呪は冬木のそれよりレベルが低いことは訓練されたFGOファンなら知っての通り。しかし兵夜はうっかり聖杯戦争でのレベルを想定していました。おかげでいきなり敗退するところでした。

因みに、五対一でここまで善戦できたのは偏に相性ゆえ。

多重ガトリングによる超高密度の制圧射撃と、アーチャーとアザゼルの合作による装備によって相手の特異な間合いに追い込まれなかったこと。あととっさにマリウスとの戦闘で吸血鬼対策をぶちかましたことで、それを打開しかねなかったヴラド三世の接近を阻害したことがあの長時間戦闘を可能としました。

そうでなければさすがに持たないです。なにせ今の兵夜には知名度補正が足りないですから。


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マリー「あら、未来のお食事は美味しいのね! ……え? これ庶民の食事なの?」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「兵夜さん!!」

 

「兵夜!!」

 

 街から距離を取ったところで、装甲車から三人が飛び出してきた。

 

「ああ、心配かけてすまなかった―」

 

「喰らいなさい!!」

 

 ぐぁあああ魔力弾!?

 

「貴方馬鹿なの!? あなたが消滅すると私にも悪影響があるんだけど!?」

 

「あ、忘れてた」

 

 さらに攻撃が入った。

 

「待て待て待て待て! 偽聖剣を体に使っている以上、お前のフィジカルスペックはサーヴァント換算でBランクは―」

 

「誰か! 効果的な関節技を教えなさい!!」

 

『了解です所長。さて、こういう時こそネットの力だ、ネットアイドルマギ・マリの力を―』

 

「借りるな止めろぉおおおお!!!」

 

 お前何してくれてんの!?

 

『流石に今回は君が悪いよ。……ハーロットにエルトリアの側面を出させて聞いたよ? 君、ことあるごとにうっかりでピンチになってるじゃないか。しかも激戦に限ってすごい頻度で』

 

「失礼な。大抵何とかリカバリーしてるぞ」

 

「そういう問題じゃないのよ!! そんな奴を軍師に据えたらこっちが大ピンチじゃない!! 誰よこんな奴を軍師に据えるような奴!!」

 

「仕方がないだろ!! 基本的に馬鹿正直か脳筋だから狡い策略できるの俺だけなんだから!!」

 

 オルガがあまりに酷いこと言ってるので、流石に文句を言わせてもらう。

 

 これでも策でも評価されてるんだぞ!

 

「誰によ!!」

 

「マスコミの評論家にだよ!!」

 

「なんでマスコミに魔術師が評価されてんのよ!!」

 

 仕方ないだろ、異形社会はそういうの意外とやってるんだから。

 

「……そろそろ話してもいいかな? っていうか、彼らの追撃を気にするべきなんだろうけど」

 

 む? モーツァルトの言う通りだ。

 

『それなら大丈夫。今のところ反応はロストしてるから小休止しても大丈夫だよ。あともうちょっとで近くの霊脈が見つかるから、それまでマリーはお仕置きしているといいさ』

 

「あら? 私?」

 

「いえ、所長の名前はオルガマリーと言いまして、愛称がマリーなんです」

 

 そういえばあなたもマリーだったよね、王妃。そして説明ありがとうマシュ。

 

 だけど、今は俺を助けてくれないかな?

 

「さあ覚悟しなさい!! この体の使い方を貴方の体で調べさせてもらうわ!!」

 

「やっちゃえ所長!! 令呪で動きを封じ込めます!!」

 

 貴重な令呪を無駄遣いするなぁああああ!!! 三回しか使えないんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしく、マリーさん!」

 

「はい! 初めまして、マリーさんですっ」

 

 いつの間にやら仲良くなっているようで何よりだ。

 

「とりあえず、食事の時間ですお嬢様達」

 

 まったく。罰ゲームとして料理当番なのは別にいいんだが、なに会話を勝手に進めてるかな。

 

「それで、マリーさん? 大体の状況は理解してくれたかな?」

 

「ええ、よくわかりました。……つまり、こっちのジャンヌはいい子だってことね!」

 

 うん、それは確かにわかってほしい情報だけどそうじゃない。

 

「しかし、マスターのいないサーヴァントねぇ……?」

 

 俺は正直首をかしげる。

 

 ルーラーであるジャンヌはいい。ルーラーはそもそも聖杯が召喚するサーヴァントだからだ。

 

 ジャンヌがマスターになっているバーサーク・サーヴァントもまあいいだろう。聖杯を持っているんだから、それ位はしたっておかしくない。

 

 だが、マリー・アントワネットとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはおかしいだろう。

 

 聞けば、マリー・アントワネットはライダーで、モーツァルトはキャスターだ。

 

 芸術家がキャスターなのはツッコミどころがあるような気もするがまあいいとして、マリー・アントワネットってそんな机上の逸話あったっけ?

 

「そもそも、僕は英雄という実感が全くない。悪魔の奏でる音に興味があったから魔術をたしなんでいただけなんだけどね。それでもこれが異常なのはよくわかる」

 

 ああ、それに関しては同感だ、モーツァルト。

 

 マスター無しで召喚されたサーヴァントが、少なくともここに二騎存在する。これは間違いなく異常だろう。

 

 ジャンヌ・ダルクは良いんだ。能力をほぼ発揮できていないとはいえ、ルーラーなんだから。

 

 だが、単独行動スキルを持っているわけでもないマリー・アントワネットとモーツァルトが召喚されているのはどういうことやら。

 

「……これは、推論ですが」

 

 と、ジャンヌが口を開いた。

 

「この聖杯戦争は、そもそも最初から聖杯を手にしている者がいるという時点で前提が崩壊しています。……それに対する聖杯の反発ではないでしょうか?」

 

 ……なるほど。

 

 本来聖杯を獲得する為の戦争が起きる前から勝者が発生した為に発生する反発作用か。

 

「……確かに。冬木式の聖杯にはサーヴァントが全部同一陣営で召喚された場合、対抗策としてさらに七騎サーヴァントが召喚されるシステムになっている。それと同様のことが起きたと考えるべきだろうな」

 

『なるほど、抑止力も仕事してると考えるべきだね。……ということは』

 

 ああ、その通りだロマニ。

 

 オルガもまた勘付いたようだ。その表情に光が灯る。

 

「……味方となるサーヴァントが、この時代にいるということかしら?」

 

「第三勢力になるって可能性は否定できないけどね

だが、探すのは悪くない」

 

 アマデウス(当人がそう呼べというのでそう呼ぶ)の意見ももっともだが、しかし確かに悪くない。

 

 少なくとも、協力してくれる可能性があるのならそれを頼るべきだろう。

 

「ドクター。そっちで探せない?」

 

『OK、やってみるよ。……流石にルーラーの感知には劣るけど、並のサーヴァントの感知能力よりかはできるはずだ』

 

 確かにな。だが……

 

「しかし、それでも足りない」

 

 ああ、足りない。

 

「足りないとは、どういうことですか? 兵夜さん」

 

「文字通りだよ。敵の戦力はワイバーン。相当に数が揃っていれば、サーヴァントでも脅威になるレベルの化け物だ」

 

 そう、数による圧殺は文字通り脅威だ。

 

 圧倒的な対軍宝具があるならばまだしも、それがない俺達の現状では、数の暴力は押し切られかねない。

 

 これがただの人間なら、まあその気になればやりようはあるだろう。ただの人間相手なら、千人や二千人いてもサーヴァントなら倒せる。

 

 だが、ワイバーンは流石に危険だ。

 

 サーヴァントがサーヴァントの足止めに終始して、そのうえでワイバーンによってじわじわ削る戦術を取られれば、流石にまずい。

 

「ことオレとアマデウスは警戒されるだろうからな。散々暴れたし」

 

「ああ、確かに絶対サーヴァントをぶつけられるだろうね。それも可能なら何人も」

 

 俺はあのアーチャーとは戦いたくないなぁ。なんというかロボットアニメによくある戦艦対主人公機の戦いになりそうだ。

 

 正真正銘のサーヴァントをなめてかかっていた。あいつ等英雄派の幹部クラスを超えている。

 

 俺も神になって能力が上昇したけれど、それでも対応しきれないとか厄介だろう。

 

「……それに対抗する為には、こちらも大量の数が必要だ」

 

「それは、フランスの騎士団と協力するということですか?」

 

 ああ、そういうことだよジャンヌ・ダルク。

 

「もちろん、ただ彼らを投入するわけじゃない。それでは犠牲者が多すぎる」

 

 ああ、犠牲者はできるだけ少ない方がいい。無理をしない範囲で少人数にしたいところだ。

 

 ゆえに、俺たちはそれ相応の対策をとる必要がある。

 

「……だから、そっちの交渉は俺がやろう。オルガ、できれば手伝ってくれないか?」

 

「え、ええ!? 私!?」

 

 いや、他に適任がいないだろう。

 

「サーヴァントの捜索の方に人員を割くべきだからな。とはいえついさっきのとおりうっかりしたら大変だし、できればサポート役を1人つけるべきだと痛感した」

 

 で、その場合もっとも適任なのは俺と密接にリンクしているオルガだ。

 

「協力してくれオルガ。割と切実に肩を並べる相棒がほしい」

 

「そ、そんなこと言われても困るわよ……」

 

 オルガはそういうと項垂れる。

 

「体が吹き飛んだことで、アムニスフィアの魔術刻印も失われたもの。今の私の魔術じゃあサーヴァントにダメージを与えるなんて困難だし、この体だって戦闘で動かせるほど慣れてるわけじゃないし……」

 

「それは移動しながら教えるさ。俺にも責任の一端はあるしな」

 

『そうそう。レオナルドの仕込んだ礼装の説明もきちんとさせないといけないしね。……そして、悪いけど団欒の時間は終了だ』

 

 と、ロマニの声のトーンががくんと下がる。

 

『サーヴァントの反応を確認した。それも、ワイバーンを大量に引き連れてそっちに向かっているよ』

 



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マルタ(あいまいな表情で沈黙している)

 

 ワイバーンや骸骨兵を引き連れ、彼女はそこに立っていた。

 

 ……この魂に刻まれた血を求める本能が、今すぐにでも総力を挙げて叩き潰せと叫ぶ。

 

 それを深呼吸一つである程度収める。

 

 バーサーク・ライダー、マルタは鋼の自制心で自分を押さえつけながら、森を見据える。

 

「……ったく。手間をかかせてくれるわね。探すのに手間取ったじゃない」

 

 冷静に考えればすぐにわかる。

 

 この時代では珍しい車輪の跡。それも、馬車とも全く異なる独特の跡に気が付けば、それまでの苦労は何だったのかという気持ちになる。

 

 ぶっちゃけその鬱憤も併せて暴れだしたいが、しかし耐える。

 

 聖女には聖女の意地がある。彼女は迷える子羊を導くものであり、決して血と殺戮に酔いしれる者ではない。

 

 あの女には色々と同情するところはあるが、それはそれとして殴り飛ばしたいっていうか一発殴らせろやと言いたい。

 

 まあ、絶対服従状態なので、どうしようもないのだが。

 

「とはいえ、複数のサーヴァントが出てくるというのなら僥倖。抑止力というのも仕事をしているようね」

 

 これは好都合だ。

 

 聖女に虐殺させるような連中の言うことを素直に聞く義理はない。

 

 既にこっそり手は打ったが、それでも限度というものはある。しかしそれもあの男とその仲間がお眼鏡に適うのならば問題ない。

 

 それも含めて試すにはいい機会だ。少なくとも、あの自らの相棒を倒せないようでは、あの邪龍をどうにかすることなど不可能なのだから。

 

 そう、自分は狂化の影響で制御が利かなくなって暴走しているだけ。それに関してはあの壊れた聖女の失態だ。

 

 獲物を見つけて、その凶暴性を抑えきれず命令を無視して突貫した。しかも余計な嗜虐性を発揮して戦力を逐次投入という愚策まで行って。

 

 そこまでしてやってやられるようなら、それは期待するような相手ではないということだ。

 

「さて、それじゃあタラスク、付き合ってもらうわよ」

 

 自嘲と嗜虐の笑みを浮かべながら、マルタはまずワイバーンを半分ほどけしかけようとして―

 

「隙ありぃいいいい!!!」

 

 森から、大量の弾丸が放たれた。

 

刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

 とっさに防御を行うが、しかしそれが原因で指示が遅れた。

 

 攻撃を行う直前というタイミングでのカウンターにより、戦力の多くが一気に削られる。

 

 そして、さらに状況は一変した。

 

 森の向こう側から、百を超える数の骸骨の兵士が湧き出てきたのだ。

 

 それも、自分達が死体などを使って製造した骸骨兵よりも遥かに強力。竜の牙を使って作り出された高性能は竜牙兵だ。

 

「はぁっ!? 向こうからくるとか何考えてるのよ!?」

 

 人がせっかく戦力を逐次投入という愚策を行ってやろうというのに、向こうから突撃とか台無しである。

 

「そりゃもう、囲まれたら終わりだからな!!」

 

 そして、そいつが現れた。

 

 あの廃墟でこちらを徹底的におちょくってくれたあのアーチャーが、盾と光の槍を持って突進してくる。

 

 なるほど。あの男は戦術というものを多少は理解している。

 

 こちらが包囲殲滅をかけてくると勘違いして、される前に先手を打ったということだろう。

 

「その手の杖から聖職者関係の英霊とお見受けする!! せめてもの情けだ、聖四文字の神が作りし力によって討たれるがいい!!」

 

 何故か蝙蝠の翼のようなものを生やして滑空してくるその男は、躊躇することなく攻撃を叩き込む。

 

 とっさに杖でガードするが、しかしそこからさらに蹴りが叩き込まれて、杖を弾き飛ばされる。

 

「速攻でカタをつけさせてもらう!!」

 

「ハッ! なめんじゃないわよ!!」

 

 そのまま止めとして振り下ろされる槍を、マルタは裏拳で弾き飛ばした。

 

 そしてさらに一歩踏み込んで懐へと潜り込む。

 

 あの黒聖女からこの男の危険性は聞かされている。

 

 何より警戒するべきは蹴り。その一撃はあの邪龍ですらただでは済まないだろう。

 

 だがそれがどうした?

 

 そも、格闘戦で竜をぶちのめしたのはこちらとて同じことである。

 

「ハレルヤ!!」

 

 腹部に膝蹴りを叩き込み、宙に浮き上がった相手を拳で叩き落す。

 

 この間僅か1秒。

 

 サーヴァントの動きとはいえ、それこそ格闘特化のサーヴァントですら打倒するような豪腕であった。

 

「こんなもんなの? 散々大口叩いた割には、意外と大したことないのね?」

 

「……俺の周りの聖女は、ツッコミどころが多いのだらけだなオイ」

 

 即座に立ち上がって距離を取ろうとするので、遠慮なくその頭を掴んで引き寄せる。

 

 色々挑発された鬱憤晴らしも兼ねて、狂化を発散する為にももう何発が殴っておこうかとしたが、しかしすぐに手を放して上へと投げ飛ばす。

 

 その直後、カウンターで魔力弾が十発ほど叩き込まれた。

 

「……まあ、サーヴァントがいるなら魔術師もいるわよね」

 

「流石は聖職者のサーヴァント。対魔力が高いわね」

 

 そこには、何やら動きに違和感のある女が一人。

 

 どうやら、体の何割かを交換しているらしい。高位の魔術師がそういったことを可能とするとは聞いたことがある。

 

 とはいえ、性能欲しさに意図的に健全な体を交換したというのなら、それは主の教えに生きる者として少々不快だ。

 

 そう考えたことが悪かったのだろう。気づけば、距離を詰めて懐へと潜り込んでいた。

 

 しかも、ボディブローを叩き込んでいた。

 

「あ、ゴメン」

 

「……っ!」

 

 衝撃で宙に浮いた女性に追撃を放とうとするが、それより早く空中で蹴りが叩き込まれる。

 

 人の蹴り飛ばし方を全く理解していない動きだったが、しかし割と衝撃は強い。

 

 どうやら体中交換しているらしい。サーヴァントでも通用する高性能だ。

 

「魔術師ってのはそういうのばかりなの? 色々と嫌な気分ね」

 

「仕方ないでしょ! 体全部吹き飛んじゃったんだから!!」

 

 反論は無視して、蹴り足を掴んで投げ飛ばす。

 

 これで二人目。さて、次は―

 

「はぁぁあああああ!!!」

 

 直後、巨大な楯を構えた少女が、楯に身を隠しながら突進してきた。

 

 直撃すれば骨の一本ぐらいへし折れてもおかしくないが、しかしこの程度で自分を倒せると思ってもらっては甘い。

 

 こちとら竜を説教(物理)した女だ。勢い任せの攻撃など効果がない。

 

「甘いわよ!」

 

 さらりとかわしてそのままカウンターを決めようとし―

 

「先輩今です!!」

 

「うりゃぁああああ!!!」

 

 その背中に紐で括り付けられていた、マスターらしき少女がアーチャーの持っていた武器を発射した。

 

 その想定外の攻撃にとっさに回避を選択するが、しかし圧倒的な弾丸の量ゆえに何発がかすめてしまう。

 

「へぇ? 意外と根性あるマスターじゃない!!」

 

「マシュとお兄ちゃんにだけ任せるわけにはいかないもんね! ど、どどどどどうだこのヤンキー!!」

 

 震えながらも啖呵を切れるとは中々肝の据わった魔術師だ。認めてやろう。

 

 しかしそれはそれとして人を不良扱いとはいい度胸だ。しっかり説法(物理)をしてやろうではないか。

 

「だけど、この程度で私を倒せると思ってもらっちゃぁ―っ!?」

 

 反撃を行おうとしたその瞬間、体から一気に力が抜ける。

 

「しまった! この弾丸、まさか特注品―」

 

「その通りだ」

 

 ザッ……と、そこに先程のアーチャーが現れる。

 

「英霊に対抗する為の特注品。2015年の通貨価格にして一発数十億円もする希少素材と術式を使って開発されたが、精製コストと生成時間が掛かり過ぎ、加えて英霊相手に当てるのが困難ということでお蔵入りした高級品。……だが、リチャードの幻霊を宿す俺なら、一斉射分なら時間さえあれば用意できる」

 

 あばらが折れたのか動きはぎこちないが、しかし彼はしっかりとその両足で立っていた。

 

「所属組織の都合的に、聖女を蹴り飛ばすのは避けたいんだが、狂気に囚われた聖女を開放するのも仕事の内か」

 

「ハッ! 未来の悪魔みたいなやつが何言ってるんだが。それとも何? 未来じゃあ悪魔は改宗したっての?」

 

 気を遣わせないように言った言葉だったが、しかし相手は苦笑した。

 

「いや、俺の世界は悪魔と天使は和平を結んでな。お互いに気を使いながらやっていこうという話になったんだよ」

 

「………………は?」

 

 思わず唖然としたその瞬間、彼の右足が自分の腹部に押し当てられる。

 

「一応言っとくが真実だ。安心しろ、悪魔の現トップは下手な枢機卿より善人だ」

 

「……笑えない話ねぇ。機会があったら問い詰めないと」

 

「かの熾天使ミカエル相手に聖女風情が問い詰めとかすごいな」

 

 お互いに苦笑が飛ぶが、しかし遠慮をするつもりはない。

 

 何せ自分は狂気を抑えるのも大変なのだ。そんな危険な手合いを入れても、獅子身中の虫にしかならない。

 

 そんなこと認められるほど、自分は甘ちゃんではないつもりだ。

 

「最後に一つ言っておくわ。あの魔女の切り札である竜は最悪よ。勝ちたいなら、リヨンに行きなさい」

 

「礼を言っておこう。だが、あいにくドラゴン退治は得意でな。意外と必要ないかもしれないぜ?」

 

「……あんただとあり得そうなのが本気で怖いわ」

 

 次の瞬間、あえて狂気に身を任せてマルタは拳を討ち放そうとする。

 

 しかし、それより一瞬早く彼の義足が真の力を開放した。

 

 そしてその瞬間、その足の全容をマルタは理解し、苦笑する。

 

 ―私を裁くのがギリシャの神って。主も流石にお怒りということかしらね。

 

 そんな皮肉な感想とともに、マルタの意識は吹き飛んだ。

 



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兵夜「パンツで動かないなんて、このファーブニルはりっぱなファーブニルだ!」 ロマニ「ファヴニールの基準がおかしくなってるよ!?」

 

 そんなこんなで、俺達は二手に分かれて作戦を決行する。

 

 マルタの意見をうのみにするわけにはいかないかもしれないが、しかし仮にも聖女のプライドがあった彼女が、意味もなく嘘を言うとは思えない。

 

 つまり、本当に現状に相応しいサーヴァントがいるということだ。

 

 その竜とやらがどういうものかはわからないが、しかし警戒しておくに越したことはないだろう。

 

 と、いうわけで立花達はそっちに送らせた。

 

 サーヴァント四騎係なら流石に警戒するだろうし、こっちに関しては安心していいだろう。

 

 そして、俺とオルガはジル・ド・レェ元帥を探して行動している。

 

 とりあえずは彼の領地に向かう予定だったのだが―

 

「何? 彼が今のフランス軍をまとめ上げているのか?」

 

『ええ、街の人に聞いたから間違いないわ。それと、リヨンの話もきちんと聞いたの』

 

 マリー・アントワネット王妃がその人徳で聞き出した情報によると、どうやらリヨンは既に滅ぼされたらしい。

 

 だが、滅ぼされるまでは一人の戦士によって比較的安全な町だったらしい。

 

 ワイバーンの群れを単独で屠れるような戦士など、この時代ではサーヴァントぐらいだろう。しかも相当の対軍特化だ。

 

「……話を聞く限り、龍殺しの伝承をもつ英霊だと思うわ。それも竜を張り倒した聖女マルタが言うほどだもの。おそらく今回のサーヴァントでも指折りでしょうね」

 

 オルガが想推測する中、素早く資料をまとめていた。

 

 流石にフランス語を丁寧に書くのには慣れてないので、すごく助かる。俺も紙を調達したかいがあった。

 

『しかし、本当に大丈夫なのですか? ジルが今の魔女と呼ばれた私を受け入れるとは思えません』

 

『確かに心配ですね。ジル・ド・レェ元帥は彼女の火刑を機に心を病んで猟奇殺人に走ったといわれるほどの信奉者。既に味方になっていないのなら、反動ですごいことになってそうです』

 

 ジャンヌ・ダルクとマシュが不安げな顔をするが、しかししないわけにもいかないだろう。

 

 敵が聖杯を使って甚大な数のワイバーンや骸骨兵を用意している以上、こちらも相応の戦力を確保する必要がある。

 

 人間の兵士でも、相当の武器があれば骸骨兵の群れ程度ならどうとでもなるのだ。

 

 そして、俺はその気になればそれぐらいは準備できるのだ。

 

「まあ、そこに関してはダメでもともと。成功すれば大儲けって話だ。……その辺に関してはこっちでやってるから、そっちはそのリヨンの戦士を探すことに集中しておけ」

 

『はい。……ですが、どうすれば私はあんなことをできるのでしょうか』

 

 ジャンヌ・ダルクも色々と塞ぎ込んでいるな。

 

 ……ふむ、あえて例え話をしてみるか。

 

「ふむ、あえて偽物だという前提で話すなら、できないこともないだろう」

 

『え? そうなのお兄ちゃん?』

 

 立花が首をかしげるが、しかしこれは可能不可能でいえば可能だ。

 

「サーヴァントの力をそれ以外の存在に宿すのは、既に俺の世界ではテロリストが実用化していた。劣化再現ではあるが、聖杯をブースターとして使えば可能不可能でいえば可能だろう」

 

 まあ、アレだけそっくりだと別側面の召喚を考えた方が妥当なんだが……それにしたって性格が違いすぎる。

 

 このジャンヌは苛烈な側面はあるが基本的に丁寧だが、しかしあの黒ジャンヌはかなりヤンキー属性が強い。

 

 偽物でないにしても、意図的に何らかの歪みを付け加えられた可能性はあるだろう。

 

「ジャンヌ・ダルクの信奉者が、復讐者としてのジャンヌを聖杯に求めて、それがアンタを歪める形で召喚した可能性はある。だから深く考えるな」

 

『そっか! じゃ、あのジャンヌは偽物ってことだね! よかったねジャンヌ!!』

 

『立花さん、ありがとうございます。……ですが、それはそれでその聖杯の持ち主のことを考えると複雑ですね』

 

 とはいえ、少しは気が晴れたようだ。それはそれで何より。

 

 ……ん? 偽物?

 

「………オルガ、そもそも聖杯は願望機だよな?」

 

「何よいきなり。少なくとも、莫大な魔力リソースでありそれを利用して願いを叶えることはできるわよ」

 

『そうだね。しかも冬木の聖杯より魔力の総量では上回るだろう。とはいえ、願望機としてはワイバーンを量産してそれでフランスを蹂躙する為の戦力にするだなんて迂遠だとは思うよ』

 

 ロマニがデータを解析しながらオルガに同意し、そして補足する。

 

『これは推測だけど、おそらくレフがこの時代に送り込んだ聖杯は、魔力リソースに重点がふられてるんじゃないかな? 人理焼却の要としての機能が中心で、願望機としては二流なのかもしれない』

 

「全然嬉しくないがな。其れってつまり、そんなものを独自開発できるほど敵の技術が優れてるってことだろうに」

 

 だが、これで少し推測ができた。

 

「サーヴァントの中には、剣士という概念や冬将軍というある種の逸話が形になったものもある。もしかしたら、あのジャンヌは「ジャンヌ・ダルクが蘇ったら復讐するはずだ」という民衆の思想が固まったものなのかもしれない」

 

『……またそれは、二流の演劇というかなんというか』

 

 芸術家としては言いたいことがあるのか、アマデウスが嫌そうな顔をする。

 

 とはいえ、俺としてはむしろそっちの方が自然だと思うのだが。

 

 怒って当然のことで怒らないのは、美徳にしても欠点と紙一重だしなぁ。

 

「まあ、それはともかく。そろそろ一仕事だ。……オルガ、気合を入れるぞ」

 

「ええ、それじゃあ通信を切るわよ」

 

 オルガも俺も、流石にちょっと緊張してきた。

 

 なにせ、国家らが一仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よもや、ストレートに通してくれるとは思いませんでした、ジル・ド・レィ元帥閣下」

 

 まさか、ちょっと話をしただけで通してくれるとは思わなかった。

 

「いえ、今は我々も色々と立て込んでおりましたので。それに、貴方方のお話は聞いておりますよ?」

 

 そう穏やかな口調で告げる元帥は、しかしすごく疲れている雰囲気だった。

 

 のちに猟奇殺人に耽溺するとは思えないようで、しかし思えてしまう。それほどまでに苦悩がにじんでいる。

 

「あのワイバーンを使役する者は、ジャンヌ・ダルクと伺いましたが……」

 

「私は当人を見ていないので何とも。ですが、彼女を見たことのあるものがそういうのでしたら、少なくとも酷似しているのでしょうね」

 

 最初っから疑ってかかってはいないが、現実に存在する証言を無視するわけではないようだ。

 

 しかし―

 

「それで、貴方方はいったい何者ですか?」

 

「……警戒しているというのなら、なぜあなたは私達をこんなところへ通したというの?」

 

 オルガが震えそうになるのを片手を握って抑えながら、そう真正面から見据えて尋ねる。

 

 まあ、そこかしこに兵の気配がする上、隠してすらいないからなぁ。

 

「簡単なことです。話に聞くそこのあなた方の力では、外の兵士では無駄死にするだけです。ことそこのあなたの持ち込んだ兵器とも呪術とも思える者は、数多くの敵を蹂躙することに特化しているでしょうから、数で押し切るのは愚策でしょうしね」

 

「流石はフランスの元帥。いい戦略眼をしている」

 

 人づてに聞いた話だけで、ガトリングガンの特性を理解するとは恐ろしい。

 

 これが、英霊の座に登録されるほどの軍師の慧眼か。

 

「小規模な大砲を連続で打つことで、広範囲の敵を一斉に攻撃する。現代の戦術の基本では、とても勝ち目がない。もしそれがあるとするならば―」

 

「―狭いところに誘導して、全方位から精鋭による集中攻撃、というわけね。自分から囮を引き受けるなんて……っ」

 

 その度胸に、オルガは何か羨ましそうなものを見ながら声を震わせる。

 

 だが、しかし―

 

「まあ落ち着きなさい。誰か、水と食べ物を持ってきなさい」

 

 元帥は、しかし冷静だった。

 

「よろしいのですか、元帥?」

 

「かまいません。この期に及んでもさっきも敵意も感じられない。どうやら、彼らは竜を率いる戦士達とは異なるようです。……責任は私が取ります。今は何よりも情報が欲しい」

 

 ……正気か、この元帥。

 

「胆力があるというのか、それとも正気を失っていると心配するべきか。……大丈夫ですか、元帥」

 

「正気ですか。そんなもの、聖女をフランスが裏切った時点で無くしてしまったかもしれません」

 

 そう自虐的に笑いながら、元帥は正面から俺達を見据える。

 

「竜とそれを率いる狂戦士達が現れてから、しかし同時に何人もの強大な龍に対抗する戦士達もまた現れたという報告があります。察するに、貴方達はその対抗する戦士の側なのではないでしょうか? そうだとするならば、話に聞く時代を先取りしすぎたあの大砲の発展形も頷ける」

 

 ……なるほど、確かに慧眼だ。

 

「兵夜、貴方は下がってなさい。……ここは、私が動くべき時よ」

 

 オルガは一歩前に出ると、優雅に一礼した。

 

「挨拶が遅れました。……私の名前はオルガマリー・アムニスフィア。……この事態を解決する為に、遠い地より来たものです」

 

「なるほど。では、この事件に対して筋の通った説明ができるということでよろしいですかな?」

 

 ……ここからが正念場か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人理焼却、そして、その根幹の一つがこのフランスにあるというのか」

 

「いや、ちょっと信じるのが速すぎないか?」

 

 ここで虚言を弄してもいつかバレると思ったので、あえてオルガは真実のみを語った。

 

 とはいえ、これは信じすぎでないだろうか?

 

「いえ、あのがとりんぐがんという兵器は実に理に適っていますが、今の時代の鍛冶ではどうやっても作れないでしょうしね。ましてや現代の戦術では発想にすら至らないでしょう」

 

 そう告げると、元帥は疲れたような、それでいて聖人を思わせる笑みを浮かべた。

 

「数百年以上たった後の未来の物と考えた方が、すんなりと納得できるのですよ」

 

「納得が速くて助かるわ。でも……」

 

 オルガが躊躇ったのはジャンヌのことだろう。

 

「復讐の魔女としてのジャンヌと、フランスを思う聖女としてのジャンヌですか。……正直、信じがたいですね」

 

「やはり、サーヴァントのシステムは流石に信じがたいですか」

 

 まあ、ある意味聖書の教えとは合わないからな。思うところはあるのだろう。

 

「いえ、異教徒の思想であることはこの際問題ではありません。……そこ、確かに魔女の所業ではありますが、今は優先順位をわきまえなさい。よしんば挑んでも無駄死にするだけです」

 

 鞘走りそうになる戦士を抑えながら、元帥は俺達に再び顔を向ける。

 

「……信じられないのは、ジャンヌに魔女の側面があったことです。しかし願望機によって人格を歪められているのなら、納得がいく」

 

「そ、そうですか?」

 

 ぶっちゃけ俺としては、ジャンヌの内心の憎悪が形になったものだとばかり思っていたのだが。

 

 偽物うんぬんも立花とジャンヌの気を紛らわせる為の過程で、可能性は低いと思っていた。

 

「正直に言えば、ジャンヌ・ダルクという聖女は正気を疑うような人物でした。……ああ、悪い意味ではありませんよ? 彼女はよく私に目潰しをしていましたが、それも私が興奮して我を失ったことが原因ですので」

 

「やっぱり過激ね」

 

「まあ、後世でも過激派側だったといわれてるしなぁ」

 

 しかし目潰しってなんだよオイ。

 

「正直に言えば、あの方はきっと復讐する権利があるが行使しないでしょう。……ですが、フランスの信奉者は話が別です」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

「誰もがあのお方のように生きられるわけではない。それどころか、復讐を選ばないことを不思議に思う者達の方が多いでしょう。……私ですら、フランスは彼女の憎悪に燃やされるべきではないかと思うのだから。神が本当に実在するのか信じられなくなっているのだから」

 

 元帥……。

 

 後の世で、猟奇殺人鬼として名を遺した男。

 

 一説には、その原因はジャンヌ・ダルクが火刑に処されたショックだという話もあったが、まさにそういうことか。

 

「元帥閣下。お気持ちは少しはわかりますが―」

 

「ははは。ご安心くださいアムニスフィア嬢。私はまだ冷静です。少なくとも、彼女が愛したフランスを守らんとする心は健在ですので」

 

 そう力なく笑う元帥は、俺達を見ると表情を真剣なモノへと変化させる。

 

「それでは、まずはあなた方が我々に何を求めているのかをお尋ねしたい」

 

「それは―」

 

 俺がそう言おうとしたその瞬間―

 

『漸く繋がった! 二人とも、大変だ!!』

 

「……これが、科学というものの力ですかな」

 

 冷静でありがとうございます元帥閣下!!

 

「ロマニ!! このタイミングで通信しないでよ!! 元帥がその名に相応しい慧眼の持ち主でなければ会談破綻してたわよ!?」

 

『ご、ごめんなさい所長!! で、でも大変なんです!!』

 

 なんだ? また立花達がバーサーク・サーヴァントと接敵したか?

 

『立花くん達が敵に襲われました! それも、一神話体系で最強クラスの竜種、ファヴニールです!!』

 

 わーい大ピンチだ!?

 

「お、落ち着けみんな! パンツを用意するんだ、脱ぎたて!!」

 

『それでどうにかなる相手じゃないよ!? 相手はエルトリアじゃないよ!?』

 

「こっちのはそれでどうにかなるんだよ、頭の痛いことにな!!」

 

 そうか、この世界のファヴニールはパンツじゃ説得できないか。

 

 いいことだね!!

 

 ……いや、良くないな。説得の余地がない!!

 




この作品、こんな感じで兵夜&オルガマリーが立花&マシュとは別行動することが多くなります。

それはともかく、ガトリングガンは次代を先取りしすぎた平気ですね。この時代に持ち込まれても誰もが持てあますこと必然。









そして兵夜もたいがいD×Dに毒されていることが発覚。すべてはパンツが悪いんや……


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ロマニ「時の流れって残酷だよね……」

 

 慌てて陣から外に出てみれば、いつの間にやらこっちに近づいてきていた。

 

『兵夜君、今ジャンヌがそっちに連絡をしに行こうとしているけど―』

 

「ややこしくなるから来るなと伝えろ!! 俺達で動く!!」

 

 ええい、まだ準備ができていないというのに!!

 

「元帥! ここは俺達が受け持つから、その間に兵を引かせてくれ!!」

 

「よろしいのですか? いかにあなたといえどあの数は苦戦するのでは―」

 

「ここであなた方の兵力が激減されては困る!! ここはこちらで引き受けるから、何とか全員無事に凌いでくれ!!」

 

 俺は即座に宝具を展開すると、一気にぶちかます。

 

 単独行動スキルがあるのが幸いだ。一時的にだが、立花の負担を気にせずに撃ちまくれる。

 

「まったく、これはこの軍隊もまとめて滅ぼすつもりなんじゃ―」

 

「―兵夜伏せて!!」

 

 いきなり、オルガに俺は押し倒された。

 

「ま、待つんだオルガ! 俺は不倫はしな―」

 

 そう言いかけた次の瞬間、目の前で扉の閉まる音がした。

 

「……あら、残念」

 

 そこにいたのは、バーサーク・サーヴァントの1人。確かアサシン。

 

 そして、そこにあるのは乙女の姿をした鉄の像。

 

 間違いない。奴の真名は―

 

「お前、エリザベート・バートリーだったのか」

 

 血の伯爵夫人と呼ばれ、アイアン・メイデンで血を搾り取ったとされる殺人鬼。

 

 優れた領主でありながら、不老の願望に取りつかれた結果血を浴びて若返るという幻想に取りつかれた狂気の女。

 

 武闘派のサーヴァントとは到底言えないが、なりふり構わなさすぎだろう!!

 

「カーミラ、と呼んで頂戴。真名もそれで登録されているわ」

 

 そういうなり、カーミラはアイアンメイデンをハンマーのように俺達に落とした。

 

 俺はそれをオルガを抱えて回避。

 

 危ない! なんつー戦闘方法を!!

 

 しかし、こいつを相手しながらワイバーンを仕留める余裕は欠片もないぞ!?

 

 と思ったその瞬間、魔力弾らしきものが放たれる。

 

 それを撃ち落としながら、俺はさてどうしたものかと考える。

 

 ここはオルガに任せるのが妥当な決断だが、しかしオルガの戦闘能力で対応できるとも思えない。

 

 いや、単純なスペックなら十分対抗可能なんだ。だが、それをオルガが使いこなせるかというと話は別。

 

 魔術刻印を失ったことで、オルガの魔術師としての能力は大幅に落ちているから遠距離攻撃は補助としか使用できない。やるとするならば偽聖剣を利用した接近戦闘だ。

 

 だが、オルガに体術の心得はないはずだ。

 

 とても、サーヴァントとの前衛戦闘なんて任せられるわけが―

 

「……下がってください!!」

 

 その言葉と共に、旗が俺達の間に突き立った。

 

「あら、来たわねジャンヌ・ダルク」

 

 その言葉と共に、ジャンヌが俺達の間に割って入った。

 

「下がりなさい!! ここは私が引き受けます、見知らぬ方々!!」

 

 その言葉に、俺は彼女が言いたいことを理解した。

 

「ああ、よくわからんが感謝する!!」

 

 そう返し、俺はオルガを引っ張るとすぐに距離をとる。

 

「な、何をやってるのよ兵夜! すぐにジャ―」

 

―オルガ、よく聞け。

 

 ジャンヌを援護しろ、と言いかけたオルガを、俺は念話で黙らせる。

 

―ジャンヌは俺達が自分の仲間と悟らせない為にあんな言い方をしたんだ。

 

―え?

 

―魔女ジャンヌの恨みや敵意が強い今の兵士達に、俺とお前がジャンヌと繋がりがあると知られるのはまずい。下手をすれば今回の交渉が台無しになる可能性がある。

 

 俺がわかりやすく説明し、オルガもすぐにどういうことか理解したようだ。

 

 ああ、やっぱりお前は聡明だ。そして魔術師としての心構えもできている。

 

 これが立花やマシュなら、またちょっと時間が掛かっただろう。

 

 だが―

 

「おい、なんで魔女が竜達と戦ってるんだ?」

 

「知るかよ。俺にとっちゃ家族の仇だ。勝手に殺し合ってりゃいい」

 

 ……あまり、気持ちのいいものではないな。これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして、敵も立花達も撤退していった。

 

 とはいえ、あまり気持ちのいいものではなかったがな。

 

 だから気になって、通信で質問してみた。

 

「ジャンヌ。あれだけ言われて怒りを覚えなかったのか?」

 

 これに関しては、負の感情を覚えることだけは悪いことではないだろう。

 

 いくらそっくりさんどころか同一人物が暴れているとは言って、命がけで助けている人物にあんなことを言われては、思うところはあるはずだ。

 

 だが、ジャンヌは静かに首を振った。

 

『確かに、普通なら絶望に堕ちるところです。……ですが、同時に喜ばしいことです』

 

 思わず唖然としそうになるが、しかしジャンヌは告げる。

 

『私に対する怒りで、絶望の淵に立たされている彼らに生きる希望が出てくるのなら、それはそれでいいかとも思うのです』

 

「お前、正気か?」

 

『バーサーク・アサシンにも同じことを言われました。ですが、それは生前から言われていることですので』

 

 そう言って苦笑する彼女を見て、俺はアーシアちゃんを思い出す。

 

 彼女もまた、教えを捨ててもおかしくないほどの扱いを受けたのにも関わらず、誰も恨もうとしなかった。

 

 なるほど、これこそが聖女メンタルというやつか。

 

 いや、アーシアちゃんは聖女の名を撤回されていたな。あ、ジャンヌも自分が聖女だとは思ってなかったか。ある意味似てるな。

 

「アンタと気の合いそうな子を知ってるよ。その子も聖女と呼ばれていたんだ」

 

『そうですか? できればぜひ会いたかったです』

 

「ここは世界が違うからなぁ。じゃ、またあとで」

 

 そう言って、俺は通信を切った。

 

 あまり長話していると、誰かに聞かれかねない。

 

 この時代は、魔女を裁く魔女裁判も普通に存在していたはずだ。そんなところで奇妙なことを何度も繰り返していれば、魔女扱いされかねない。

 

 今奴らと戦うには、彼らの力が重要なのだ。このチャンスを不意にするわけにはいかない。

 

 そして、俺はもっと気にするべきところを気にしようか。

 

「……オルガ、どうした?」

 

 今の通信の間、オルガはずっと黙っていた。

 

 それが気になって、俺は聞いてみた。

 

 ……正直、オルガはメンタル面で弱いところがある。

 

 冷静な状況下なら間違いなく頼りになる。ロードの名を持つアムニスフィアの後継者なだけあり、刻印抜きでも優れた魔術師であり、またカルデアの来歴ゆえに科学に対してもそこそこ理解がある。そして頭の回転も悪くない。

 

 だが、割とメンタルが弱いところがある。

 

 別に彼女が格段弱いというわけじゃない。だが、あまりにもカルデアの重圧は強すぎたのだろう。

 

 そこに依存といってもいいほどに信頼していた昆布野郎の裏切りのせいでいろいろと追い詰められている。むしろ、よくもまあ今回の状況に力になれるほど頑張れていると褒めてやりたいほどだ。

 

「私は、彼女みたいにはなれそうにないわね」

 

 そう、オルガは漏らした。

 

「学問の成り立ち、宗教という発明、航海技術の獲得、そして情報伝達技術への着手に宇宙開発。星の開拓といえる偉業は数あるわ」

 

 ああ、確かにそのすべては偉大なものだ。

 

 そのどれかが欠けていれば、人類は未だに中世の暮らしを続けていただろう。

 

 人理定礎の一つともいえるそれは、下手をすれば特異点の一つに設定されているかもしれない。それほどまでに影響力が大きい。

 

「そんな数多くある星の開拓……。だけど、カルデアはそれらすべてを上回る偉業、文明そのものを守る神の一手を担っているわ」

 

 確かに、もはやそれはアラヤの抑止力の代行だ。

 

 いや、もしかすればアラヤの抑止力がカルデアを動かしているのかもしれない。そう思わせるほどに優れた偉業だろう。

 

「この天体を、地球を価値あるものと証明し続けることこそがアニムスフィアの絶対厳守、それなのに―!!」

 

 オルガは、いつの間にかプルプルと震えていた。

 

「それを担う私は、格下を行う者たちよりも弱い……!」

 

 オルガは、涙すら浮かべて自分の無力を呪う。

 

「サーヴァントに負けるのはいい。だけど、肉の体を失った私は、サーヴァントの依り代にもなれない。今回の説得だって、結局元帥が聡明なだけじゃない……っ!!!」

 

 う~ん。確かにそうなんだが、これはフォローしておくべきだろうか。

 

「カルデアだって、作ったのはお父様であって私じゃない。私は、結局何もできてないじゃない!!」

 

 オルガ、いやそれは―

 

「それは違いますぞ、マドモワゼル」

 

 そこに、元帥が現れた。

 

「夕食の準備が整いました。大したものは用意できませんが、何もないよりはいいでしょう」

 

「ああ、すまない元帥。いただくよ」

 

 うわ、ちょっとまずいところ見せただろうか……。

 

「それと、お嬢さん。ジャンヌを褒めていただく形になったのはありがたいですが、しかしそんなに卑下なさいますな」

 

 そういうと、元帥はオルガに肩に手を置いた。

 

「貴女が未来から来たのなら知っているかもしれませんが、ジャンヌとて完璧であったわけではありません」

 

 元帥は、まるで娘を見る父親のような瞳でオルガの目をのぞき込む。

 

「この時代の農家の出身なので当然ですが、生前は文字の読み書きがろくにできませんでした。私としては名前が書ければ最低限のことはできたと思いますが、後にそれが仇となって火刑に処されたのですから、これは致命的な欠陥でしょう」

 

「た、確かにそういう話は聞いたことがあるけど―」

 

「それに、なんというかどんな時でも思い切りが良すぎまして、夜襲や奇襲をよくしたがりましたね。騎士たちはその辺りが不満だったのですが、絶対に自分を曲げたりしなかったのですよ。いわば城塞です」

 

 何それ。妥協は人生を生きるコツだよ。

 

「思えば、それらの不満が重なった結果が、ジャンヌを見捨てる愚行へと繋がったのかもしれません。何事にもその原因があるということでしょう」

 

 そう悲しげに告げる元帥は、しかしあえて笑みを浮かべてオルガの肩に手を置く。

 

「誰にだって悪徳があれば美徳はあります。あなたにも貴女の美徳があるでしょう? 悪徳を自制するように努力して、美徳を生かすように専念すれば、結果はおのずとついてまいります。どうかそれをお忘れめさるな」

 

「元帥……」

 

 オルガマリーが見上げる中、元帥は立ち上がると陣へと戻っていく。

 

「さあ、先ずは夕食をいただきましょう。これからが忙しいですよ?」

 

 ぽかんとするオルガマリーに、俺は肩に手を置いた。

 

「オルガ、オレだって、完璧超人じゃない」

 

「貴方、割と何でもできるじゃない」

 

「そりゃそういう風に体をいじくってるからな。そうでもしなければ追いつけなかっただけさ」

 

 俺の才能はそこまであるわけじゃない。

 

 人生二週目というある意味やる気を持ちやすい状況と、大企業の幹部の子供という環境的優遇の二つを最大限に生かした。しかしそれでも平均以上はいけてもトップクラスには届かない。

 

 ゆえに、個人能力を専門家の到着までの繋ぎとして運用する方針で、コネ重視の将来を模索していた。

 

 だが、トラブルが自分からやってきて、挙句の果てに極めて強力と来ては、そんなことは言ってられない。サーヴァントのマスターになったのならなおさらだ。

 

 幸運なことに、俺の場合は師と相棒が優れた技術者だった。

 

 だから、徹底的に体を改造するという手段が取れた。其れだけだ。

 

「人からは良く正気を疑われる精神性ゆえかもしれないが、しかしそれだけだよ」

 

「確かに、並の魔術師でもできないような境地ね……」

 

 オルガははっきりと呆れるが、しかしまあそういうことだ。

 

「なんだかんだで、お前がカルデアを引っ張ったから俺達は人理焼却に対抗できる。……だから落ち込むな」

 

 うん、実際頼りになる人物だしな。

 

「ほら、晩飯食べに行くぞ? ……不味くても文句言うなよ? この時代の戦闘糧食だなんて……あれだし」

 

「そうね。もてなしの食事に文句をつけるのはアムニスフィアの品位にもとるわ」

 

 よし、少しは元気が出てきたようで何よりだ。

 



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アタランテ「出番! 出番らしい出番が来たぞ!!」 兵夜「メタ題名だからって何してもいいわけじゃねえよ!!」

 

 いいお知らせと悪い知らせができた。

 

 悪い知らせは、マリー王妃が脱落した。

 

 街の人々を逃がすために殿を務めたからだ。邪龍の群れとジャンヌ・オルタ含めたサーヴァント複数を同時に相手をすれば、おそらくもう無理だろう。

 

 アマデウスも流石に答えたのか、少し一人になっているらしい。

 

 だが、いい知らせもきちんとある。

 

 ジークフリートの呪いが解呪された。それも、サーヴァントが三騎も味方になってくれた。

 

 なんか癖のある人物がいるようだが、そこはこの際スルーする。

 

「……それで、そろそろ反撃を行うんだったな」

 

『はい。そちらは大丈夫でしょうか? ……大丈夫ですか?』

 

 思わず二度聞くぐらいに俺の惨状がひどい。

 

 具体的に体中がズタボロである。

 

 サーヴァントだからさっさと回復するが、それにしてもちょっと無茶しすぎたか。

 

「何分、神格の使用は負担が大きくてな。しかしとりあえず対ドラゴン装備は間に合った」

 

 対幻想種用の装備を大量に用意した。あと、ガトリングガンの弾丸の応用で対竜用の鏃をかなり確保することに成功した。止めに油も大量に。

 

 オルガにもサポートを頼んだが、その負担が大きいのか今は休んでいる。

 

「さて、それでマシュはほかに聞きたいことがあるんじゃないのか? 提示報告なら、ロマニを経由すれば十分だろう」

 

『……すごいですね、兵夜さんは』

 

 まあ、これでも対人交渉に主眼を置いていたからな。

 

『アマデウスさんの話がとても気になりまして、それで少し誰かに相談してみようと思いました』

 

 なんでも、別行動をしている最中にアマデウスがなかなかの話を聞いていた。

 

 アマデウスは人間は汚いものだといった。美しいものしか愛せないのではなく、美しいものだって愛せると。

 

 アマデウスは言った。人間は好きなものを自分で選べると。

 

 アマデウスは言った。人間は何かを好きになる義務があり、それが責任だと。

 

 アマデウスは言った。輝くような悪人も、吐き気を催す聖人もいると。

 

 アマデウスは言った。世界によってつくられ、世界を拡張し成長させる。それが人間になるということだと。

 

「ふむ、さすがは歴史に名を残した音楽家。なかなか独自の持論を持ってるな」

 

『兵夜さんは、そういう生き方をしているんですか?』

 

「さてな。俺は今や悪魔で神だし。あとついでに龍属性も」

 

 おかげで対竜装備の開発には激痛が伴った。

 

 だが、含蓄のある言葉だ。

 

「正直よくわからんところもあるが、わかるところについてはオレなりの解釈を伝えよう」

 

 そう、俺の行動原理は、極論するとたった一つに集約される。

 

 大親友に、胸を張れる自分でいること。

 

 ただそれだけだ。そう、ただそれだけ。

 

 俺があの激戦を潜り抜けたのは、それを守ろうとしただけに過ぎない。

 

 そうでなければ、俺はとっくの昔に滅びていただろう。もしくは、今の自分が見たら嘆くほどに落ちぶれていたか。

 

『そんなに立派な方なんですね』

 

「いや、実は女の敵だ」

 

 バッサリと、俺ははっきり言った。

 

「実はその野郎はドスケベでな、学生時代は覗きの常習犯でよく女子に追い回されていた。……よく退学処分や補導にならなかったと感心しているさ」

 

 俺、そっちのフォローはしてこなかったつもりなんだけど。

 

『え? でも彼に胸を張るためにあなたはそれだけの人物になれたと―』

 

「つまり、それがアマデウスの言いたかったことの一つだよ」

 

 吐き気の催す聖人もいれば、輝くような悪人もいる。

 

 人の側面は一つじゃない。ヴラド三世がサーヴァントとして二種類……あるいはそれ以上の形で具現化するように。そもそも一部の英霊に複数のクラスの適性があるように。

 

「駄目なところもあればいいところもある。人っていうのはそういうものだ。俺はあいつのダメなところはどうしようもないって思っているが、いいところは本心から素晴らしい輝きだと思っている」

 

『難しいんですね、人間というのは』

 

「ああ、人が一生かけても理解できないものだ」

 

 だが、だからこそ素晴らしい。

 

 人間は汚いものだというのは、確かにその通りだ。

 

「七つの大罪って言葉は知ってるか?」

 

『はい。キリスト教が定めた七つの悪徳のことですよね?』

 

 そう。七つの死にいたる罪。罪の源となるもの。

 

 すなわち、傲慢、暴食、色欲、怠惰、憤怒、嫉妬、強欲。

 

「そういうのがわざわざ定義されるってのは、すなわち人がそういうのを抱きやすい生き物だからだ」

 

 人とは楽に生きたい生き物だ。

 

 科学の発展は物事を効率的にするためだが、裏を返せば効率的とは楽に生きることとニアイコールだ。

 

 そして、人は科学をいまさら手放せない。中にはそうしない人々もいるが、それはごく一部だ。

 

「清廉潔白な存在が尊ばれるのは、それを行うことが困難だからだ。悪人が大量に発生するのは、そっちの方が楽だからだ。その時点で、人間が汚いっていうのは真実の側面を持っている」

 

 どっかのゲームでこんな言葉があった。

 

 正しいことは痛いのだ。

 

 ゆえに、当たり前のことという正しいことは、本来やりづらいものなのだ。

 

「その一点をもって、立花は傑物だ。当たり前のことを当たり前にできる、それはすなわち褒め称えられるべきことだからな」

 

『私は、当たり前のことはできて当然のことだと思っていました』

 

「平時はな。だが、それが自分の身が危険な時やつらく苦しい時までできるかといえばまた別だ」

 

 誰だって自分の身が一番かわいい。それが本能だ。

 

 そんな中、誰かに手を差し伸べられるものが褒め称えられるのは、それを行うことが困難であることの裏返しだ。

 

「だから、キミが死にかけていた時に訳も分からないのに助けようとした立花は素晴らしい人物だ。この俺の妹だということが信じられなくなるぐらいに、すごい奴だ」

 

『それに対しては、アマデウスさんも言ってました。人間的なことについてなら、彼女は理想的な先輩だからと』

 

「なるほど、やはりあの男は一味違う」

 

 人間観察には優れているようだ。確かにあいつは聖人でも悪人でもない。

 

 人間、なんだろう。

 

「マシュ。これから君が特異点で出会う人間は、立花みたいに立派な奴ばかりじゃない。英霊のようなすごい奴でもない。そういう、人間の醜さを直視することになるだろう」

 

 残念なことに、人間は悪に傾きやすい生き物だ。これは自然の摂理だ。

 

 すべての生き物は、それが本当にそうかは置いておいて効率的に行きたがる生き物だ。

 

 ゆえに人間は悪の誘惑に抗いがたい。あるべき責任を追わないことも悪なのだから、すなわち悪はたいてい楽なのだ。

 

 そんな中、自分がやるべきことをまっすぐ立ち向かえている立花たちカルデアの生き残りは、正しい人間だ。

 

 だが、そんな者たちばかりじゃない。そうじゃないものが大多数だ。

 

 そして一番楽な特異点でこのありさまなら、きっとこれからの特異点はもっと過酷な環境だろう。

 

 そんな中、正しくあろうとする者たちばかりじゃないはずだ。

 

 だが―

 

「それでもマシュ。そんな中でも正しく生きれるものはきっといる」

 

 そう、立花のように。

 

「それを、忘れないでほしい」

 

『よくわかりません。わかりませんが……』

 

 マシュにはまだ難しい話だったか。

 

『ですが、気に留めておくようにします』

 

 うん、いまはそれでいい。

 

 いざとなれば俺がフォローすればいいからな。

 

 だから、頑張って生きていこう。マシュ・キリエライト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、決戦は始まった。

 

 すでに立花たちは別方向から激戦を始めているはずだ。

 

 そして、俺たちもまた戦闘を開始している。

 

 すでに雑魚の骸骨兵はごっそり減らした。あとはワイバーンだけだ。

 

「槍兵隊は翼竜の動きを止めることに集中しなさい!! 弓兵は狙撃に集中! 一体ずつ確実に仕留めるのです!!」

 

「騎兵部隊は骸骨兵をかく乱しろ!! その後、騎士たちで削っていくのです!!」

 

 元帥が、兵士たちに的確に指示を与える。

 

 幸い、骸骨兵たちもワイバーンも割と本能的な動きだ。

 

 装備の面で対抗が可能になった今、あとは確実に一体ずつ仕留めればいい。

 

「ロマニ! 立花とマシュは?」

 

『いまファヴニールと交戦中! 龍殺しの英雄二人がいるからね! だいぶうまく戦ってるよ!!』

 

 よし、そっちはあいつらに任せるとしようか。

 

 そして、向こうにサーヴァントが集中しているからかこちらも結構快進撃だ。

 

「撃て!! ここがフランスを守れるかどうかの瀬戸際だ!! 全砲弾を打ち切るつもりで撃ちまくれ!!」

 

 放たれる砲弾は骸骨兵を駆逐する。

 

 性格に狙いをつけて放たれる矢が、槍兵によって動きを止められたワイバーンを貫く。

 

 異教とはいえ神々の加護が与えられた装備が、聖杯によって生み出されし怪物たちを屠っていく。

 

「恐れることなど決してない!! 人間であるならば、ここでその命を捨てるのだ!! そう、恐れることなど何もない―」

 

 その視線が、一瞬だけ立花たちのいる方向へと向かい、そして元帥は声を張り上げた。

 

「―聖女がついている!!」

 

『『『『『『『『『『ぉおおおおおおおお!!!』』』』』』』』』』

 

 ああ、これなら大丈夫だ。ワイバーンと骸骨兵はどうとでもなる。

 

 俺たちが相手をするべき相手は……。

 

「殺してやる……殺してやるぞ……!! 誰もかれも、この弓によって死ぬがいい!!」

 

「来たよ来たよサーヴァントが」

 

 はあ、やっぱり一人ぐらい送り込んでくるだろうとは思っていた。

 

 しかも、寄りにもよって俺を倒しやすいサーヴァントじゃねえか。

 

 これは、少しばかり厄介と考えるべきだろう。

 

 だがしかし、俺たちも負けるわけにはいかない。

 

 人理を救うために、そして何より立花が生きる未来を創るために―

 

「さて、お兄ちゃんは大変なんだ! 狂った弓兵ごときに負けるわけにはいかないな!!」

 

 ―気合を入れるとしますかね!!

 




兵夜、神代の英霊と激突。

原作オルレアンでは不遇の極みだったアタランテも、主人公と真っ向勝負という出番に恵まれたね! 褒めていいのだよ?









それはともかくマシュを不安視する兵夜。実際不安ではあります。

七つの特異点は、人の輝いているが基本というかふつうでした。これが原因でマシュの人間に対するハードルが無自覚に上がっている節があると、個人的に思っております。本当の意味で汚い人間に出会う機会が、運がいいのか悪いのか極端に少ない。

アマデウスの言葉を借りるのであれば、輝くような悪人と出会う機会は多かったですが、逆に正しい意味で聖人でなくても吐き気を催す存在があまりいないのがネックです。いわばロンドンをみたジークに近い精神状態ではないかと思っております。

幕間の物語の都合で大丈夫だと思っていたロマンもあれですし、もしかしたらマジでマシュ・オルタとかがありそうで怖い。今後のイベントとかは条件が一気に未来に進むみたいですし、そういうことがないとはどうしても言い切れない。

兵夜はマシュの事情についてはほとんど把握していませんが、しかし一種の世間知らずというか対人経験値が低いことは勘付いていますので、一応釘を刺しておきました。


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兵夜「よーしよしよし、よく頑張った!」オルガマリー「私はペットか!!」

考察動画を見たら、自分は致命的な失態をぶちかましたのかもしれないと焦っている真っ最中です。

詳しくは活動報告とそこのアドレスのニコ動でどうぞ


 兵夜とバーサーク・アーチャーの戦闘は、実のところバーサーク・アーチャーの方が有利だった。

 

 なにせ彼女の真名はアタランテ。ギリシャの神話に伝わる最高峰の狩人の一人だ。

 

 ジャンヌ・オルタは見事に皮肉を叩き付けた。

 

 彼の挑発の通りに、神代の英霊をぶつけてきたのだ。

 

 この場における最新対最古の戦いは、最古の方が優勢だった。

 

 彼女はギリシャの狩人の中でも最高峰。そして、兵夜との相性が抜群にいい。

 

 なにせ彼女の敏捷性は、弓兵の中でも最高峰。しかもただ速いのではなく俊敏であり、放たれる弾丸の雨を器用に躱して攻撃を叩き込んでいる。

 

 また、あらゆる障害物を飛び越えて移動できるアルカディア越えと先手を取らせて確認してから先回りする追い込みの美学を持つ彼女にとって、弾幕と策で勝負する兵夜はやりやすい相手だ。

 

 例え神代にモノと見まごうばかりの礼装をもって障害物を作ろうと、彼女にとってしてみれば楽に対応できるもの。

 

 例え策をもってして、それを先回りして攻撃する。

 

 バーサーク・サーヴァントの中で珍しい龍に由来しないサーヴァントでありながら、そうであるがゆえに龍に対して相性のいい兵夜と相性がいい。

 

 いうなれば、最新鋭の戦闘機とハリネズミの如く武装した古き戦艦の戦い。

 

 まともにやり合えばアタランテの方が遥かに有利だった。

 

「ええいちょこまかと!! 少しは当たれよこの雌犬!!」

 

「狗ではない、獅子だ。とはいえ、今はまさに狂犬だがな!!」

 

 ゆえに、アタランテは躊躇なく弓を放つ。

 

 それを兵夜は楯を使って防ぐ。

 

 この戦いで兵夜がここまで粘れるのは、ひとえに一対一の戦いだったからだ。

 

 ゆえにイーヴィルバレトの弾幕を収束させることができ、それゆえにアタランテといえどかなりの接近を許さない。

 

 そして兵夜はアタランテに集中することができるので、神の権能すら使うことによって彼女の位置を見逃さない。

 

 それが、攻撃が放たれることを即座に把握し、そして楯で防ぐまでの時間をかけることに成功していた。

 

 さらにこの盾も特注品。

 

 異世界の神の技術の模造品、人造神器であるこの盾は内側から外の様子を透かして見ることができる。

 

 おかげで視界が狭まらず、どこに向かって矢が飛んでくるのかを把握しやすかった。

 

 とはいえ、このままでいえばジリ貧。向こうは一発も当たってないのに対して、こちらは少しずつだがかすめている。

 

 塵も積もれば山となる。このままでは、どちらが先に倒れるかはほぼ確実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵夜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆえに、その均衡を逆転させるのはお互いにあらず。

 

 明確な、第三者の存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルガ!?」

 

 あの馬鹿! なんでここに来た!?

 

 このサーヴァント、どう考えても神代のサーヴァントだ。

 

 おそらく敵陣営でも強者側。しかもおそらく俺と最も相性がいいタイプだ。

 

 そんな奴相手にフォローをしている余裕は欠片もないぞ!!

 

「下がれオルガ!! 俺も流石にフォローしてる余裕が―」

 

「それは呑めないわ!」

 

 あっさり切り捨てないで!?

 

「私はカルデアの長! 私は人理存続の責任者なのよ!!」

 

 放たれる攻撃を何発も喰らいながら、しかしオルガは顧みない。

 

「その私が、人理の救済を前に何もしないだなんてできるわけがないでしょう!!」

 

 ああ、この子頭いいけど意外とお馬鹿だ。

 

 こんなところで、ド根性を見せなくてもいいだろうに。

 

「だから私は逃げません。今この場に戦う力を持っている以上、人理救済から目を背けるわけにはいかないわ!!」

 

 なるほど、どうやら一皮剥けたようだ。

 

 なら、この際頼るとしますかね!!

 

「オルガ! 戦闘中だがよく聞いてくれ!!」

 

 二人掛かりで攻撃を叩き込むが、しかし相手もさるもの全然当たってくれない。

 

 だが、やりようはある。

 

「お前の体として俺が提供した偽聖剣は、七つの機能を持っている」

 

「七つも? またすごいわね」

 

「その件についてはまた後で。とにかく、その剣の機能の一つに敏捷性強化がある。……他はいい、それを引き出すことに専念しろ!!」

 

「わかったわ。解析するから少しだけ時間を稼いで!!」

 

「任せろ!!」

 

 ならばこちらも出し惜しみはしない。

 

「貴様は好ましくない。なんというか鼻につく」

 

「原始人には科学の匂いはお気に召さないか? 悪いがこれが俺の戦い方でね!!」

 

 武装を変更。盾を放し、展開するのは特注品のグレネードランチャー。

 

 さらに、遠慮なく光の槍も大量展開。

 

―立花、少し魔力を浪費するが我慢しろ

 

―うぇええええええ!?

 

 悪いが全力で行くぞ。遠慮は欠片もしない!!

 

 喰らうがいい、最新科学武装フルバースト。

 

「一斉射撃!!」

 

「……ふん、甘い」

 

 しかし、それすらアーチャーは見事に躱す。

 

 器用に身をひねり、グレネードすら軌道を見極めてさらりと滑るように最小限の動きでかわし―

 

「かかったな」

 

 直後、グレネードが爆発した。

 

 魔力感応式の特注の近接信管だ。効くだろう。

 

 そして、その一瞬が勝負を分ける。

 

「舐めるな。この程度で英霊は―」

 

「―そうでしょうね」

 

 その一瞬、動きが止まれば十分だった。

 

 ああ、オルガ。

 

 お前はやっぱり優秀だ。頼りになるよ。

 

「馬鹿な!? この私の速さについてくるだと!?」

 

「一瞬だけならね!!」

 

 オルガはすぐに組み付いて、アーチャーの動きを封じ込める。

 

 とはいえ体術の心得など欠片もないオルガでは、十秒停めれたら十分だろう。

 

 だが、それさえあれば十分だ。

 

「砕け散れ、狂える弓兵。お前の慟哭はこれで終わる」

 

 その一瞬で俺は間合いに飛び込み、遠慮なく切り札を開放する。

 

冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)!!」

 

 最大火力で、俺は彼女の霊核をぶち抜いた。

 

「……まったく、とんだ茶番だった」

 

 そんな苦笑と共に、バーサーク・アーチャーは消滅した。

 

 すぐに周囲を確認するが、既にこの辺りはフランス軍の方が優勢だった。

 

 とりあえず、呼吸を整えるだけの時間はあるのだろう。

 

「し、死ぬかと思ったわよ……っ」

 

 その所為か、オルガは息をつきながらへたり込んでいた。

 

「……お疲れ、オルガ」

 

 俺は苦笑して、その手を差し伸べる。

 

「……ええ、これが終わったらシャワーを浴びたくて仕方がないわ」

 

 その手を握り返しながら、オルガは苦笑を浮かべた。

 




意趣返しがもろに聞いた兵夜。バーサーク・サーヴァントの中では、最も相性が悪い相手でした。

それを打倒できたのは、ひとえにオルガマリーの奮戦あってこそ。さあ皆さん、徹底的に褒め倒してあげましょう


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兵夜「無理、だよな」 ジル「ええ、無理ですとも」

今回の題名、かなりシリアスです


「お二人とも、ご無事ですな!?」

 

 進撃を続ける中、俺たちは元帥と合流した。

 

「ええ、こっちにいるサーヴァントは倒したわ。後は向こうがジャンヌ・オルタを打ち倒せれば―」

 

「なら、貴方方はオルレアンの城へと赴いてください」

 

 オルガの言葉を遮るように、元帥は告げる。

 

「遠見の兵が確認しました。二人の聖女が戦闘を繰り広げ、城へと移動したとのことです」

 

「ジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタか!」

 

 どうやらいつの間にか大詰めになっていたらしいな、オイ。

 

 とはいえ、ここをほおっておいていいものか。

 

「この戦いは、どんな形であれフランスの裏切りが根幹にあるもの。願望機という異常があれど、我々が清算しなければならないものです」

 

 元帥は、そう言いながら聖人の如き笑みを浮かべた。

 

「お行きなさい。例外は例外が相手をするべきことでしょう。フランスの罪はフランスが相手をします」

 

「元帥……」

 

 オルガは何かを言いかけるが、しかしすぐにそれを振り切った。

 

「行くわよ兵夜! ここですべての決着をつけます!!」

 

「了解だ、オルガ。……ここは任せたぞ、元帥!!」

 

 俺達は、一気に城に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の中では、色々と激戦が繰り広げられていた。

 

 これまでとは全く異なるタイプの化け物が埋めつくす中、俺はガトリングガン片手に突っ込んでいった。

 

「嫌だ気持ち悪いなんていうかぶよぶよしていやぁああああ!!!」

 

 あと、オルガが色々と悲鳴を上げていたが我慢してくれ。

 

 カルデアに戻ったら温泉の素あげるから頑張って!!

 

「……あら? 異国の服装をした方々がいらっしゃいますわね」

 

「もしかして子イヌの仲間? 服装がなんか似てるけど」

 

 あら、ここにもサーヴァントが。

 

「近平立花とマシュ・キリエライトのことを言っているならその通りだ!! あいつらは?」

 

「子イヌなら魔女を追っかけて行ったわ!」

 

「ですが、サーヴァントの一人が逃げ出してそちらに行きました」

 

 ええい、なんてことだ。

 

「行くわよ兵夜! このままにしては置けないわ」

 

「わかってる。急ぐぞオルガ!!」

 

 俺はこの場を二人に任せて全力疾走する。

 

「あ、こら! 何おいてってるのよー!!」

 

「ああ、旦那様(ますたー)をお助けするのはこの清姫のお役目ですのに……」

 

 すいませんなんか不安げなキーワードがいくつか聞こえたんですが!!

 

「気にしちゃだめよ兵夜! きっと気にしたら負けだわ!!」

 

「頑張れ立花!」

 

 俺達はとにかく全力で突撃をかます。

 

 そして、そこで見た者は……。

 

「おお、ジャンヌ!! 痛々しい姿に!!」

 

「ジル……」

 

 既に致命傷を負ったジャンヌ・オルタと、ついさっき見たような顔の男がいた。

 

「元帥……っ!」

 

 その姿で正体を察したオルガが息をのむ。

 

 ああ、そうか。

 

 竜の魔女がサーヴァントを呼ぶのなら、彼こそがもっとも適任だっただろう。

 

 とはいえ、これは流石に今の俺達にはきついのだが。

 

「ジャンヌよ、貴方は少し疲れただけです。目を閉じてお休み下さい」

 

 ジャンヌ・オルタを心から労りながら、ジル・ド・レェはオルタを床へと横たえる。

 

「目覚めた時にはすべて終わっております。このジルめにお任せ下さい」

 

「……そうね。ええ、貴方が言うのなら―」

 

 そう言い残し、ジャンヌ・オルタは消滅する。

 

 そして、消え去ったそこにあったのは―

 

「―あれは、まさか?」

 

 偽眼がそのやばさを感知する。

 

 間違いない。あの莫大な魔力は、聖杯だ。

 

 その光景を見て、ジャンヌは悲しそうに目を伏せた。

 

「―やはり、そうだったのですね」

 

「そういう、ことか」

 

 俺も、ついにすべてを理解した。

 

 おいおいまさかと思ったが本当にそうだったよ。

 

 何この聖女メンタル。ちょっと畏怖すら感じるんですけど!!

 

「……勘の鋭い方々ですな。特にそこのサーヴァントは、貴方がいればジャンヌはあのような目に合わずに済んだかもしれません」

 

 ジル・ド・レェは聖人のような微笑を浮かべながら、聖杯を手に取って立ち上がった。

 

「え、え? お兄ちゃん、何に気づいたの?」

 

「聖杯を与えられたのは、あいつだということだ」

 

 まだよくわかっていない立花に、俺は端的に結論を先に言う。

 

 ああ、そういうことだ。

 

 聖杯の持ち主は竜の魔女じゃない。

 

 竜の魔女こそが、聖杯だったんだ。

 

「やはり素晴らしい慧眼だ。そう、竜の魔女は我が願望です」

 

 ジル・ド・レェは堂々と認め、俺達に告げた。

 

「願望? どういうことですか? 彼女はジャンヌさんの別側面では―」

 

「いえ、違いますよマシュ。……今度こそ断言できます。彼女は私ではありえません」

 

 マシュに対して、ジャンヌははっきりとそう言い切った。

 

 不安も懸念も何もなく、今度こそ完膚なきまでにまっすぐに。

 

「彼女は私の別側面でもなければ、そもそもサーヴァントですらない。そう、貴方の願いそのものなんですね、ジル」

 

 ジャンヌの視線を受け、ジル・ド・レェは静かに頷いた。

 

「最初は、貴女をよみがえらせようとしたのです。それはもう、心から願ったのですよ、当然です」

 

 ジル・ド・レィは真相を語り始める。

 

 聖杯を与えられたこの特異点の下手人である彼は、ジャンヌの復活を心から願った。

 

 本来ならば、それはサーヴァントの召喚という形で叶えられただろう。反動も含めて十体以上のサーヴァントを召喚したのだ。出来なかったら、それこそ嘘である。

 

 だが、聖杯はそれを叶えなかった。

 

 願望機としての性能がありながら、サーヴァントを召喚する力がありながら、しかしそれは不可能だと聖杯は告げたのだ。

 

「ですが、私の願いなどそれ以外にございません。ええ、それこそ天に誓って断言できますとも」

 

 だから―

 

「ゆえに、作り上げることにしたのです。私が信じる私が焦がれた貴女を!! そして、作り上げました」

 

 そう、それがジャンヌ・ダルク・オルタ。

 

 別側面ではない、正真正銘のファンアートジャンヌ・ダルク。

 

「……大丈夫なの、貴方。正気?」

 

「ほほほ。お嬢さん、良い事を教えてあげましょう。……そんなもの、ジャンヌが火刑に処されたとき捨て去りましたとも」

 

 質問に即答で返され、オルガは食いしばるように痛みに耐える。

 

 自分を聖人のように聡し慰めた元帥が、将来こうなり果てるとなれば、そりゃそうだろう。

 

 その悲壮なまでの在り方に、誰もが何かを言い返したくて言い返せない。

 

 だが、一歩ジャンヌは前に出た。

 

「ジル。それは当然です」

 

「ほう?」

 

 かつての盟友を前にして、ジャンヌは微笑を浮かべた。

 

「私は裏切られました。嘲弄されました。人は、私が最期を無念で迎えたと思うでしょう」

 

 少しだけ痛ましげにしながらも、しかしジャンヌの言葉は揺らがない。

 

「ですが、あなた達がいる祖国を恨むはずが、憎むはずがないじゃありませんか。私は、竜の魔女になどなるはずがありません」

 

 そう、はっきりと告げた。

 

「………やはり、貴女以上の聖女など私の中には存在いたしませんな」

 

 ジル・ド・レィのその言葉に、俺たちは静かに頷いてしまった。

 

 ああ、そうだろう。

 

 誰もが悲惨だというだろう。誰もが無念だと思うだろう。誰もが恨み言を想像するだろう。

 

 だが、しかし彼女はそうしなかった。

 

 愛するものたちがいる国だから。そんな理由で、人を恨まずに組まず最期を迎えたのだ。

 

 だから、聖杯はジル・ド・レェの願いを叶える事ができなかった。

 

 何故ならジル・ド・レェはフランスへの復讐を前提としてジャンヌを召喚しようとしたのだから。

 

 聖杯の力をもってしても、歪めることができない以上、それはかなえることができない。

 

 まさに鋼の聖女。いやオリハルコンだ。

 

 元帥の言ったとおりだ。この人間城塞ある意味頑固すぎる!!

 

「まさに聖女の名に相応しいその優しい言葉。ですがジャンヌ?」

 

 そう、彼女は鋼の精神の持ち主だ。

 

 心の強さでいうのならば、この場の誰よりも上回っている。少なくとも俺を上回っている。

 

「覚えておくといいでしょう。例え、貴女が祖国を欠片たりとも憎まずとも―」

 

「―お前が、許せるわけがないよな」

 

 俺は、先手を打ってそう告げた。

 

 ああ、そうだ。そうなんだ。

 

「できるわけないよな。なによりも大事だった人を、そんな人によって救われた国が、無残にも裏切って残酷な死を与えたなんて、耐えられるわけがない。()()()()()だ」

 

 ジャンヌの前でいうことではないが、そんなこと言えるわけがない。

 

 たとえ、罪のない子供すら殺してしまう行為だとしても。

 

 たとえ、当人が恨んでないとしても―

 

「―ジャンヌ・ダルク。これは貴女の罪だ」

 

「―っ」

 

 できるわけがない。

 

 そんなことは、普通の人間には無理なんだ。

 

「この暴走を見抜けないのは、まごうことなくあなたの罪だ」

 

「いえ、それは違いますぞ少年よ」

 

 俺の言葉に、ジル・ド・レィは静かに首を振った。

 

「これは単に、私がジャンヌの信頼に応えられなかっただけのこと。そう、貴女が憎まず恨まずとも―」

 

 そして―

 

「―私が、私がフランスを憎まずにはいられない!! すべてを裏切ったこの国を亡ぼそうと誓ったのだ!!」

 

 その言葉とともにに、巨大な化け物が生まれようとする。

 

「ジル……」

 

「貴女は赦すだろう。しかし、私は赦さない!! 神とて、王とて、国家とてぇ!!」

 

 とっさに俺はガトリングガンを放つが、しかし生成速度の方が早すぎる……!!

 

「滅ぼして見せる。滅して見せる。それこそが聖杯に託した我が願望!!」

 

 そして城すら砕き、巨大なイソギンチャクのような魔獣が姿を現す。

 

「我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクぅううううう!!!」

 

「……座にきちんと持ち帰るといい、ジャンヌ・ダルク」

 

 その姿に、俺は鋭い視線をジャンヌに向ける。

 

「誰もがあなたのように強く生きれるわけじゃない。それがわからなかったからこそ、この特異点の元凶が彼になったんだ」

 

 そう、ジル・ド・レェは悪鬼として名を遺す。

 

 聖女を失った悲しみから、正気を失い邪悪として名を遺す。

 

 その原因は、ひとえに聖女の火刑にこそあったのだから。

 

「…………そう、ですね。確かにその通りだ」

 

 その言葉を、ジャンヌは静かに受け止めた。

 

「貴方が恨むのは道理で、聖杯で力を得た貴方が、国を亡ぼそうとするのも、悲しいくらいに道理だ」

 

 ジャンヌはその罪をしっかりと受け止め。

 

「―だから、受け止めなきゃね?」

 

 ……その手を、立花はしっかりと握った。

 

「立花……」

 

「大切な人だから、その人が道を間違えそうになったら、止めなきゃだめだよね?」

 

「……はい。そうです」

 

 その手をしっかりと握り返して、ジャンヌはまっすぐ前を見る。

 

「私は―止めます。聖杯戦争における裁定者、ルーラーとして」

 

 その旗を掲げて、ジャンヌ・ダルクはまっすぐに敵を見据える。

 

 己の道と相いれない、かつての同胞を倒すために。

 

「貴方の道を阻みます、ジル・ド・レェ……!!」

 

「ならば、今の私達は不倶戴天!」

 

 堂々と声を張り上げ、ジル・ド・レェはそれを迎え撃つ。

 

「決着をつけよう、ジャンヌ・ダルク!!」

 

「望むところです、ジル!!」

 



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ダ・ヴィンチ「それは、星の輝きのレンタル」 兵夜「せめて借用って言え!!」

オルレアン編最終決戦。

モノづくりの天才って、一人いるだけでデウス・エクス・マキナにできるから困る。


 

 生まれる化け物から距離を取りながら、俺達は警戒心を全開にしてラスボスを睨み付ける。

 

 あれがキャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェの奥の手か!!

 

「マスター、聖杯を確認しました! どうしますか?」

 

「決まってるよ」

 

 立花はマシュの言葉を受け、躊躇することなく腕を書掲げる。

 

 その手の甲に刻まれし令呪を全力で開放する。

 

「全力全開! 気合を入れて!!」

 

「はい。これより全力で聖杯を回収します!」

 

「カルデアの使命の第一歩。ここで決めるわよ、皆!!」

 

「了解だオルガマリー・アムニスフィア所長。仕事はきちんとしておかないとな!!」

 

 ああ、そういうわけで聖杯を回収する為にもここでジル・ド・レェを撃破し。

 

「舐めるなよ匹夫どもがぁあああああ!!!」

 

 そのとたん、巨大怪獣の触手が音速超過で振り下ろされた。

 

「全員後退!!」

 

 俺は躊躇することなく立花を抱えると全力で交代する。

 

 大口叩いたけどこんなのどうしろってんだぁあああああ!!!

 

 遠慮なく光の槍を連続で叩き込むけど、すぐに再生するから焼け石に水だ。

 

 あんなもん、高ランクの対軍宝具でも倒しきれんぞ!!

 

「ダ・ヴィンチちゃん! なんか方法はないか!」

 

『僕は!?』

 

 この状況下でオペレーターに何を頼むというんだ、ロマ二!

 

 しかし、今のままではどうしようもない。

 

 再生能力が莫大なあのデカブツ。まともにやり合っては勝ち目がない。

 

『OKOK。その辺に関しては私に策がある』

 

 おお、頼りになるなダ・ヴィンチちゃん。

 

『君からもらった資材の一つを、こんなこともあろうかと所長に組み込んでおいた。それを使えばあの化け物だろうと倒せるはずだ』

 

 ……ん?

 

「ダ・ヴィンチちゃん。例のあれは試作型だったはずなんだが」

 

『ああ、だから私が再調整を施しておいた。数分持てばいい方だが、一時的に完璧な状態で英霊の力を行使できるはずだ』

 

 何を作ってるんだこの天才。

 

 流石大天才。アザゼルと性質似ているだけあって仕事はするんだよなぁ。

 

「あのねえ! 私の体に変なものを仕込まないでくれる!? それで何を仕込んだのよ!」

 

『はっはっは。それが天才というものだからね! とにかくそれなら一撃で勝負がつく。そうでなければ負けてもおかしくない。さあ、どうする?』

 

 ふむ、これ、選択肢ないよな?

 

「……や、やるしかないんでしょう? やるしか!」

 

 震える声で、オルガマリーはしかし立ち上がる。

 

 だが、それを見逃すほどジル・ド・レェは甘くなかった。

 

「させんぞぉおおおおおお!!」

 

 うわあ、でかさに見合わないすごい速度で触手が振り下ろされる。

 

「え、、うううう嘘でしょうぅ!?」

 

 いかん! 思わぬ展開にオルガが硬直した。

 

 あんなの喰らったら流石に持たない―

 

「宝具、仮想展開!!」

 

 その直撃する一瞬で、マシュが宝具を展開する。

 

 生み出される守護の力が、触手の攻撃をしっかりと受け止める。

 

 最強の聖剣と呼ばれるほどの代物すら、条件付き展開で受け止めたその防護結界。

 

 しかし、それすら圧倒的な質量という暴力で押し切らんとする。

 

 だが、それを俺はあえて無視する。

 

「……大丈夫だ、オルガ」

 

 そっと、俺はオルガの肩に手を置いた。

 

「兵夜……」

 

「ダ・ヴィンチちゃんに渡したのは、三大勢力の技術者が束になっても追加生産できない超高性能な一品だ。瞬間的とはいえ、それを強化したアイツを信じろ。それに―」

 

 そう、それに。

 

「いざとなったら俺が何とかしてやる。だから、気を張るな、オルガ」

 

 義足を壊れた幻想すれば、まあ何とかなるだろう。

 

「―――信じてるわよ、兵夜」

 

 その言葉と共に、システムが解放される。

 

 正真正銘これが最後の一撃だ。

 

 ジル・ド・レェ。

 

 お前の恨みは道理であり、お前がフランスを恨むのも道理だろう。

 

 そしてその恨みのままに凶行を繰り返して処刑される。それが正しい歴史なんだ。

 

 ……それを、変えてやることはできない。

 

 だから、この一撃をもって手向けとする。

 

―これは、生きる為の戦いである

 

―これは、己より強大なモノとの戦いである

 

―これは、人道に背かぬ戦いである。

 

―これは、精霊との戦いではない

 

―これは、邪悪との戦いである

 

―これは、世界を救う戦いである

 

約束された(エクス)―」

 

 さあ、受け取るがいい、特異点の元凶よー

 

「―勝利の剣(カリバー)!!」

 

 この一撃が手向けの華だ!!。

 

 放たれるのは星の輝き。

 

 神霊クラスの魔術行使は、全盛期の天竜ですらそうは出せないほどの破壊力をもって化生を切り捨てる。

 

 ほんの僅かにずれたことで、ジル・ド・レェは弾き飛ばされるが、もう俺達のすることは何もない。

 

「……後はお前のやることだ。自分の不始末は自分でつけて来い」

 

 俺は、そういうとすぐに後ろを振り返る。

 

 今更逆転は不可能だ。これ以上オレがここにいる理由はないだろう。

 

 残存するワイバーンを始末して、被害の発生を少しぐらい抑えておくか。

 

 そう思いながら走っていると、外から元帥が駆けつけてきた。

 

「―あの怪物と輝きは一体!?」

 

「―気にするな、もう終わった。……ジャンヌ・ダルクが待っている」

 

 俺はそう言って、元帥の背中を押す。

 

 ……一瞬、このまま背中から刺すべきかとも思ったが、しかし思いとどまる。

 

 そして、俺はワイバーンを始末するべく駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、四人とも!! お疲れ様!!」

 

 笑顔でロマニが迎えるのを見て、俺達はとりあえずの第一歩をクリアしたことを実感する。

 

 物資の補給の当てはない。人員もごく僅か。

 

 挙句の果てにレイシフトも未だ実験段階。サーヴァントはサーヴァントで色々問題あり。マスターにいたっては三流。

 

 よくぞ、これで特異点を解決することができた。

 

「本当によくやってくれた。カルデアのスタッフ全員を代表して礼を言うよ」

 

「それは違うさ、ロマニ。……優秀なカルデアのスタッフが後ろからサポートしてくれるからこそだ」

 

「はい。それに、現地ではたくさんの方々に助けられましたから」

 

 俺もマシュも謙遜抜きでそういうし、それにそれだけではない。

 

「さて、まだ第一歩だがそれでも特異点の解決だ。……ここは少し豪華な食事で祝うとしようか」

 

「おや? まだまだ特異点の解析などもしなければいけないというのに食料を大放出していいのかい?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんにはそういわれるが、俺もそこまで馬鹿ではない。

 

「安心しろ。こんなこともあろうかと、オルレアン奪還作戦の数日前にイノシシを四頭ほど狩っておいた。……熟成もだいぶ進んだだろうし、生姜焼きにでもするか」

 

 確か生姜はあったはずだ。

 

 記念すべき特異点解決第一弾だ。少しぐらいは奮発しないとな。

 

「オルガ、イノシシ運ぶの手伝ってくれ。一人じゃ手が足りない」

 

「それ、所長にやらせることじゃないわよ」

 

 そういいながらも、オルガは素直にイノシシを持ってくれる。

 

 そして先に退出すること約一分。俺は足を止めると振り返った。

 

 そして、それにオルガも驚かない。

 

「……わざわざ猪を出すなんておかしいと思ったのよ。それで、何のよ―」

 

 言い終える前に、俺はオルガを抱き寄せた。

 

「………な、ちょ、ちょっと! あなた奥さんいるんでしょう!?」

 

「いいから、胸位貸してやる」

 

 俺は、そっとオルガの頭をなでる。

 

 ……数秒後、オルガは俺の胸に頭を寄りかからせた。

 

「余計な気遣いよ。……ジル・ド・レェはのちに悪魔として歴史に名を遺す。そんなことは知っているわ」

 

「ああ」

 

「そして、人理修復と守護を担う私達が、歴史を変えるわけにはいかない。……あの人を殺すなんて選択肢は、私達にはないわ」

 

「ああ」

 

 だけど、元帥と呼んでしまうわけだ。

 

「………これが、人理を守るということの責務なのかしらね」

 

「ああ、つらいな」

 

 俺は、そっと慰めるようにオルガの頭をなでる。

 

「オルガ。……俺は弱い」

 

「サーヴァント五騎相手に足止めするような奴が何言ってるのよ」

 

「心の問題だ。俺はある男に胸を張るという決意に依存することで、こうしてやっていけるからな」

 

 裏を返せば、依存する対象がいるからこそ無理ができる。

 

 要は思いっきりもたれかかって行動しているのだ。己の中に主柱がない。

 

「だから、俺はちょっとやそっと依存される程度のことで文句を言ったりはしない」

 

 ぽんぽんと、俺はオルガの背中をたたく。

 

「当分は俺を頼れ。安心しろ。俺はこれでも魔術教会に匹敵するレベルで昇格の門が狭い悪魔社会で、十台で最上級にまで手が届いた男だぜ?」

 

「………そう。なら、少しだけこうさせて」

 

 オルガは、そういって、俺の胸に顔をうずめる。

 

「いい人だったわよね、元帥」

 

「ああ、聖女の右腕に違わない人物だった」

 

 それから十分ぐらいで、オルガは普段通りになった。

 

 とはいえ、これはかなり精神的にきつい内容だ。

 

 これから、大変なことになりそうだ




大海魔を呼び出すジル・ド・レェを終わらせるのは、いつだって星の聖剣である。

というわけで、約束されし勝利の剣、発動。英霊召喚システムなどを保有するカルデアの技術顧問であるダ・ヴィンチちゃんなら、幻想兵装の応用発展も不可能ではないと思い仕込みました。

平行世界のエクスカリバーのガワを触媒として、一時的に約束された勝利の剣を発動させる切り札です。カルデアからの外部供給減があるからこその離れ業でした。









そして、オルガマリーは少し成長して少しダメージを。そのどちらもジル・ド・レェがもたらしたものだというのが皮肉です。

とはいえ、兵夜としても思うところはありまくりですね。……もしイッセーがジャンヌと同じような末路をたどればどうなりかねないかまざまざと見せつけられたのですから。



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永続狂気聖槍帝国 セプテム
立花「お兄ちゃんって、起源「イレギュラー」とかかなにか?」


別名「まさかとは思うけどケイオスワールド見たことない人の為の、ケイオスワールドにおける聖杯戦争解説編」


「ねえねえお兄ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 と、俺は立花にそんなことを言われた。

 

「なんだよ? 言っとくが俺は魔術師としては二流だから、聖杯の調査などには関わってないぞ?」

 

「いや、そっちじゃなくてさ」

 

 と、立花は渡されたジュースを飲みながら聞いてきた。

 

「参考に聞きたいんだけど、お兄ちゃんが参加した聖杯戦争はどんな感じだったの?」

 

 ああ、その話か。

 

 確かに、今後の事態を考慮するのならば、聖杯戦争の経験者の言葉はアドバイスになるかもしれない。

 

 なにせ聖杯戦争そのものがレアケースだ。俺が居た世界線でも60年周期でしか開催されてないし、この世界ではどうも一回しか起きてないようだ。

 

 まあ、魔術師は己の魔術を秘匿するのが基本だ。それも英霊召喚クラスの大魔術など、秘中の秘といってもいい。

 

 どっかの誰かが大聖杯を発見して、そいつがその情報を一部でもばらまくなんてド級の阿呆か俺の想像の外を超える思考をもつ者で無ければあり得ないだろう。

 

 ゆえに、参考にするべきだという考えは分かるが……。

 

「言ってもいいが、たぶん全く役に立たないと思うぞ?」

 

「なんでさ? だって世界規模の聖杯戦争だったんでしょう? 特異点一つ一つは一つの地方なんだし、規模が小さいなら何とかなるんじゃいの?」

 

「はっはっは。立花さんや。あの世界舐めてるぞ?」

 

 ああ、まったくもってそんなことはない。

 

「そもそも、あの聖杯戦争において通常の聖杯戦争の常識は全く当てはまらん」

 

 そう、そうなのだ。

 

 何故なら、前提条件として聖杯戦争のセオリーのいくつかが完全崩壊しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花。まず前提条件として、聖杯戦争でのマスターのセオリーを教えておこう」

 

「うん」

 

 素直に頷く立花に、俺は聖杯戦争最大のセオリーを言い切る。

 

「マスターの役目は基本後方支援。むしろこれしかできないと言ってもいい」

 

 なにせ、この世界で人間とサーヴァントの戦闘能力は次元が違うレベルでかけ離れている。

 

 文字通りサーヴァントは一騎当千。加えて霊体であるため通常攻撃が通用しないという最大の利点があり、さらに基本七クラスの内過半数が魔術に対する耐性を保有している。

 

 つまり、まともな手段で対抗するには一人で軍事勢力の派遣したそこそこの規模の部隊を、魔術以外の神秘で撃退できることが必要となる。

 

 そんなものは死徒でも困難だ。そんなことができる連中など、一つの世代に十人もいればいい方だろう。

 

 とにもかくにもそんなレベルの例外を保有していることが前提条件となっている以上、聖杯戦争にそんな輩が参戦していることなどレアケースに近い。間違いなく異常事態だ。

 

 だが、あの世界ではそうではない。

 

 ぶっちゃけ、サーヴァントは優れた戦力ではあっても規格外の戦力ではない。

 

 神滅具や禁手の持ち主ならば、少なくとも勝負の土俵に到達することはできるだろう。それはすなわち一つの世代につき十三人は対抗できる人間がいることになる。実際は半分ぐらい人外という異常事態だが。

 

 そして、それに人間が対抗できる方法も存在している。

 

 というより、高位の神器や人造神器はそれ自体が下位の宝具に匹敵する代物だ。この時点でサーヴァントに対抗できる切り札を人間はかなりの数が持っている計算になる。そしてそれと同等クラスの戦闘技法は腐るほどある。

 

 そして人外の存在がゴロゴロいる。神や魔王クラスは、間違いなく並のサーヴァントなら一蹴できる。格が違うのだ。

 

「………何その世紀末。怖いよ」

 

「そうだろうそうだろう。だが、こんなものでは終わらない」

 

 そう、ここからだ。

 

 まあ、そういうわけで最大の問題点を単純に言えば―

 

 俺の経験した聖杯戦争、サーヴァントは殆どサポート役である。

 

 っていうか、フィフスにしろ曹操にしろヴァーリにしろレイナーレにしろカテレアにしろ、ドーピングなどの後天的要素も含めてだが、サーヴァント(相方)より基本的に強い。

 

 俺はガチンコで戦えば不利なところがあるが、そもそも俺の相方は最上級のサーヴァントである。間違いなく格においてあの聖杯戦争中ぶっちぎりトップを引き抜いている。反英霊なのが玉に瑕だが、それはともかく唯一まともな英霊の領域である。

 

 ぶっちゃけ、他の連中はあの聖杯戦争が特例だからサーヴァントとして召喚できた存在だと思う。

 

 まあとにかく、聖杯戦争に参加しているサーヴァントの内、その殆どはマスターの方が強いのだ。

 

 実際、殆どのサーヴァントは直接戦闘はマスターに任せ、サポートに回っていることの方が多かった。

 

 例外はセイバーぐらいだが、これはレイヴンが典型的な魔術師だった為戦闘能力が低いの例外だろう。いや、例外なのはあの聖杯戦争なのだが。

 

 最弱のランサーを引き当てた曹操は、最強の神滅具持ちなので当然。歴代最強の白龍皇たるヴァーリ駆るライダーはもちろん当たり前。キャスターは闘う者ではなく作る者なので、単純戦闘能力ならばドーピングしてないカテレアにも劣るだろう。バーサーカーは割と凶悪な部類だが、条件を満たさなければあのレイナーレと戦って勝てるとは思えない。アサシンにいたってはフィフスが前衛を自分ですることを前提にしていた節があるので論外。俺もフル装備ならアーチャーとまともに戦えるだろう。

 

 また、スタイルそのものが通常の聖杯戦争では戦いにならないものも多い。

 

 他にセイバーが召喚されなければ効果を発揮することができず、よしんばできても英霊になるほどの存在が劣化版に劣るわけがないのでセイバーは弱い。

 

 ランサーは論外。あいつは特殊能力以外は見る物がない。普通に英雄派の幹部なら禁手使えば勝てるだろう。

 

 キャスターはさっきも言ったが本人が直接闘う部類ではない。だからこそ敵の中でも特に厄介なのだが。

 

 バーサーカーは敵が大量であるという、七タッグによるバトルロイヤルでは真価を発揮できないサーヴァントなので、これも除外。

 

 アサシンはおそらくハサン・サッバーハでも直接戦闘能力は低い部類だ。諜報組織としてはともかく、前衛戦力としてはかなり弱い。そもそもフィフスはド付き合いは自分がやるというあの世界だからこそできる戦略をとっていたようなので当然だ。

 

 ライダーは防衛線なら効果を発揮できるが、そうでなければそこまで強い部類ではないだろう。というよりアレはヴァーリが強すぎる。

 

 たぶん普通に総当たり戦をすれば、一番勝率がでかいのはアーチャーだ。そしてそのアーチャーですら、前衛は俺達が対応した。

 

 このように、この聖杯戦争、セオリーであるサーヴァントが主力という常識をぶん投げている。はっきり言ってレイヴン以外はサーヴァントをサポートに回しているのだ。

 

 繰り返すが、普通は聖杯戦争においてまずマスターは後方支援しかできない。それがこの世界の前提条件であり、それほどまでの格の差があるのだ。

 

 なにせ英霊は人から生まれた上位存在。信仰によって数万人分の魂の質を持つ、正真正銘人間を超えた者だ。

 

 これをぶん投げるにはそれこそ規格外の力が必要。それが、この世界における常識である。

 

 だが、あの世界なら話は違う。

 

 神秘は世界によって変動する。それが、アザゼルが立てた仮説だ。

 

 実際神代の英霊なら、サーヴァントのクラスに下げられた状態の自分よりも強いことがあってもおかしくない。それほどまでに当時の神秘はチートだったことだろう。

 

 だが、神秘がどんどん減っていっている現代では、魔術師の戦闘能力はごっそり減っている。

 

 一応魔法世界式の魔法は発動できたし、D×Dの魔法は魔力を使わないので成功したが、それでも出力は堕ちている。まあ、これは研究用なので俺はメインで使わないからいいだろう。教えて魔術師が暴走したらそれこそ人理が崩壊する。

 

 まあ、それでも対抗できるのは最上級クラスだ。それほどまでの格の差がある。

 

 ……いかに俺の気が狂っているか分かってもらえた事だろう。最上級の環境で最上級の施術者がいて最高の材料を用意できたからといって、サーヴァントとガチバトルができるレベルまで肉体を改造するなど正気の沙汰ではない。例え魔術師であろうと、やれと言われたら九割ぐらいは断るだろうし、残りの奴の九割も躊躇するだろう。我ながら狂っているな。

 

「………お兄ちゃん、ちょっと正気?」

 

「自分でも狂気度高いのは自覚してる。だがそれが必要だったことも理解してくれ」

 

 まあ、そういうわけなので役に立たん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最大のセオリーであるマスターとサーヴァントの方向性が最初から破綻しているのだ。こんなもん特例すぎてこの世界に当てはめれんわ。

 

 そして、そこから先も問題だ。

 

 なにせ、この聖杯戦争は本当に戦争だ。

 

 一騎当千の戦力によるぶつかり合いだから戦争……などという意味合いではなく、本当に戦争だ。

 

 いわゆる対テロ戦争だ。禍の団というテロリストと、三大勢力を中心とした現政権側の戦争だ。

 

 サーヴァントの数は一対六。これで現政権側が勝てたということが、サーヴァントの戦力が直接的な戦力の差にならないことの証明でもある。

 

 まあ、それこそ人理定礎クラスで世界の在り方を変えることになったので、これは試合に勝って勝負に負けた形だろう。痛み分けというかダブルノックアウトというか。

 

 その所為で、本来聖杯戦争で勝率の低いサーヴァントが大暴れするという珍事が起きた。

 

 言うまでもなくキャスターである。

 

 作る存在であるキャスターは、戦闘能力そのものは低い。宝具クラスを作成できるとはいえ、それを扱うものの技量が低いのでまともな勝負は不可能だろう。

 

 だが、それを可能とする者達があまりにも多すぎた。

 

 マスターであるカテレアを炉心にした人型機動兵器はもちろんのこと、アサシンなどを母体としたサーヴァントの力を宿した戦闘要員。そして魔王剣ルレアベ。

 

 材料が豊富だったこともあって大量に用意したキャスターの存在は、禍の団にとって貴重な要因だっただろう。少なくとも、あいつがいなければアサシン軍団による大被害は発生しなかったと断言できる。

 

 また、あまりにも規模がでかすぎるがゆえに諜報組織であるアサシンが大活躍。この大量のアサシンによって弱みを握られた者達が大量に内通者になり、情報戦という領分で大苦戦を強いられた。

 

 このように、通常の聖杯戦争では扱いづらいサーヴァントこそが本命といっても過言ではない大活躍をぶちかましている。もうイレギュラーだらけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、俺達の聖杯戦争は参考にしちゃいけない。特例はセオリーにはならないからな」

 

「うん、聞けば聞くほど凄いことになってるね……」

 

 立花も思わず苦笑い。

 

 ああ、まったくもって酷い話だ!!

 

「まあ、そういうわけだから参考にしない方がいい。間違ってもお前がサーヴァントとガチ勝負しようとか考えるなよ?」

 

「しないしない。できることを頑張るよ」

 

 立花はそう言って笑うが、しかし心配だ。

 

 なにせ、俺の妹だからなぁ。

 

「大丈夫だよ。無理しなきゃいけないし無茶なこともしてるけど、それでもできることからしてかなきゃ絶対失敗するもん。そういうことをしていかないとね?」

 

 だといいんだがな。

 

 頼むから、普通のマスターの範囲内で行動してくれよな?

 




書けば書くほどイレギュラーまみれ

そして本題にご注目ください。……今回から、本格的にイレギュラーが出てきますよ?


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マシュ「なぜか他人の気がしません」兵夜「メタすぎる!!」

サーヴァント召喚回第二弾!

そして、ついに奴が出てくるぞ!!


 

「……さて、どうしたものか」

 

 俺は、実に悩んでいた。

 

 当然だろう。

 

 カルデアはあまりにも足りない。

 

 人材が足りない。情報が足りない。戦力が足りない。物資も足りない。

 

 何より人の数が足りないのは致命的だ。

 

 なにせ下手に人数を増やしても自滅の可能性が増えるだけというのがきつい。この極めて過酷な環境は、あまりにマイナスだ。

 

 特にマスター適性の連中は軒並みアウト。殆ど一般人か魔術師脳である以上、この状況下で復活させてもどうなるかなど火を見るより明らか。

 

 よくぞ奇跡的に素晴らしい人材だけが残ってくれた。レフの奴、もしかして意図的に残したんじゃないか? 陰の功労者だな。

 

 とはいえ、それでもストレスを減らすべきなのは間違いない、間違いない。

 

 その為に日々の掃除を率先して行い、破損している箇所を修復し、ゴーレムに簡単な仕事を命じているが……限度がある。

 

 他のメンバーを労働させるという手は使えない。なにせ特異点の解析などに裂くべき人員だからだ。

 

 もはやカルデアは掃除の手が足りず、どんどん汚くなっている。

 

 これでは残存メンバーのストレスが溜まってしまう。どうにかしなければいけない。

 

 そう、必要なのだ。

 

 人手が!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、ぜひ召喚してもらいたいサーヴァントがいる」

 

「誰なのお兄ちゃん」

 

 召喚スペースに待機しながら、俺は立花に祈祷をしていた。

 

 いや、すいませんオレのストレスが割と限界に達しそうなんです。

 

 この広大なカルデアを清掃するには、とてもじゃないが人員が足りない。

 

 ゴーレムも掃除関係の作業用何て趣味の産物だからあまり作ってないんですごめんなさい。

 

 そういうわけで、ぜひ呼んでほしい存在がいる。

 

 今回追加で召喚できるサーヴァントは二騎。今のカルデアの施設ではこれが限界だ。

 

 ゆえに、なんとしても召喚してもらわなければ困るのだ。

 

「お前に召喚してもらいたいのは、19人存在する歴代のハサン・サッバーハの1人。(あざな)を百貌」

 

「すごいねその人。変装の達人なの?」

 

 ふ、そんなもんじゃないぜ立花。

 

「いや、生前は多重人格を利用して様々な専門技能を習得した存在なんだが、それがサーヴァント化したことでより洗練されてな」

 

 具体的には。

 

「百人弱に分裂してるんだ」

 

「それ、一体一体は弱くない?」

 

 何を言っている?

 

「いいか立花。フランスでの戦いで分かったが、特異点には味方のサーヴァントも何人もいる」

 

 そう、それはどういうことか。

 

「ぶっちゃけ、戦力としてのサーヴァントは現地で賄えるということだ」

 

「すごい他力本願だね」

 

 ふ、なんとでもいうがいい。

 

 できないことは無理にするのではなく、人に頼むのが俺のやり方だ。必要とあれば男の沽券すらある程度投げ捨てるぞ、俺は。

 

 あの最終決戦も、数十億を超える女性の力を借りて勝利したようなものだ。少しぐらい頼っても罰は当たらん。

 

「それにアサシンとしての気配遮断は普通に備えている。百人弱の精鋭偵察部隊とか、もうそれだけで驚異だ。情報を制する者は世界を制すんだぞ?」

 

「いや、お兄ちゃんが何考えてるか当て様か?」

 

 立花は、ジト目で俺を見る。

 

「百人も増えれば雑用担当が増えて負担が減るとか思ってるんでしょ?」

 

「当然だ」

 

 即答で俺は返答した。

 

「だから可能性を上げる為に、奴らと戦った俺がここにいるんだろうが。まあ、英霊にまで昇華されて人理救済を是とする存在なら、誰が来ても何かしら役に立つだろう」

 

 ああ、そういう意味ではカルデアの召喚システムは非常に役に立つ。

 

 なにせ人理が焼却されていることが前提としてわかった状態で召喚されるからな。ただの人間よりもストレス耐性はあるだろう。

 

 そしてあいつ等ができる連中なのは既に把握済み。心から役に立つと断言できる。

 

 できれば掃除と料理のできる人格を募集しています。

 

 さあ、そういうことでレッツトライ!!

 

「と、とにかく召喚ー!」

 

 立花が召喚を行い、そして輝きが発生する。

 

「―あ、先輩! ドクターが呼んでます―」

 

 その瞬間、まさにマシュが入ってきた。

 

 そして輝きが収まった。

 

「Arrrrrrrrrr!!」

 

「よりにもよってバーサーカー!?」

 

 俺は心から絶叫した。

 

 理性を剥奪することによって戦闘能力を向上させるサーヴァント。

 

 その最大のメリットはサーヴァントの人格を無視して、戦闘兵器として運用できるということだ。まさにジル・ド・レェが運用した方法である。

 

 ……なのだが、割と理性的に狂っているバーサーカーの存在が確認された為、意外とギャンブル性が強いことが発覚した。

 

 とりあえず立花の貞操がいろんな意味で危険なので、蛇はこれないようにこっそりいじくっているがさてどうしたものか。

 

 っていうか、制御できるのか?

 

「あ、新しいサーヴァントの方ですね。デミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです。よろしくお願いしますランスロットさん」

 

 と、マシュがお辞儀するが相手は割と理性がないタイプのバーサーカーなんだけど……。

 

「Helloooooooo!」

 

「「返事した!?」」

 

 あれ? なんかすごく理性的?

 

 もしかして言語能力が悪化しているだけで、理性はあるのか?

 

「そ、掃除はできるか!? 掃除はできるか!?」

 

「Arrrrr?」

 

 駄目か!

 

 その光景を見ながら、マシュに向かってぽつりとつぶやく。

 

「なんか、マシュに懐いてるね、このサーヴァント?」

 

「そ、そうですか?」

 

 思わぬ展開にマシュが少し戸惑うが、しかしまあ、戦力としては使えるだろう。

 

 正統派のバーサーカーで、しかも懐いている相手がいるというのはまさに僥倖だ。これならだいぶ安全だろう。

 

 っていうか、なんでランスロットってわかったんだ?

 

「ああ、フランスで戦ったの。なんかジャンヌをアーサー王と勘違いしたんだって」

 

 ああ、アーサー王が女だったというのは聞いていた。

 

 聞いているが、狂化しているからって残念な奴だな、オイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を取り直して第二回!!」

 

 これが最後! なんとしても家事の得意なサーヴァントを召喚してもらわなければ困る。

 

 俺のストレスが限界なんだ。頼む、百貌とは言わないから、家事のできるサーヴァントカモン!!

 

「全力で引き当てろ、立花! この広大なカルデアの家事を担当する英霊こそ、人理救済に必要不可欠!!」

 

「よくわかりませんが、世界の危機を救った兵夜さんが言うならそうなんですね」

 

 理解が速くて助かるぞマシュ。

 

 そう、人理修復は間違いなく過酷なストレスが溜まる環境。それ以外のストレス要因は極力除去すべきである。

 

 ゆえに、食事や掃除は必要不可欠。不味い食事や汚い環境は、ストレスが溜まることが多いからだ。

 

 だが、カルデアは致命的なレベルで人員不足。これはあまりにも危険度が高い。

 

 フェニックスの涙で凍結されたマスターを治癒するのも、リスクがでかすぎて危険すぎる。

 

 ゆえに、なんとしてサーヴァントが必要なのだ。

 

 こと人員の数を一気に解決してくれる百貌は想定しうる限り最も望ましいサーヴァントだが、この際家事が得意なら文句は言わん。

 

 さあ来い! そんなサーヴァント!!

 

 そして、その輝きはかなり強くなる。

 

「こいこいこいこい!!」

 

「Arrrrrrrrr!!!」

 

 よくわからんが応援してくれるということにしよう。

 

 さあ、どうなる!?

 

 そして、輝きが収まる中、その人影は俺を見るなりこう言った。

 

「お、巻き込まれてたのはお前か宮白! こりゃ好都合だ」

 

「あ、アザゼルぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またか。また兵夜君の世界からの疑似サーヴァントかい?」

 

「おう! 英霊召喚儀式の研究がてら、ちょっとした応用でな!!」

 

 ロマニにそういうアザゼルは、来て早々俺から酒をせしめながらそう答える。

 

「まったく。何やら変な反応があったから色々と調べてみてたんだが、人理焼却とか予想をぶち抜いてるな。下手したら俺達の世界にも悪影響が出てくるぞ、オイ」

 

 そんなことを言いながら愚痴を言いつつ、アザゼルはモニターを見る。

 

 そこには、大量のプログラムが浮かんでいた。

 

「はっはっは。しかしカルデアのシステムは画期的だろう? この世紀の大天才、ダ・ヴィンチちゃんが結構設計しているからね。あとレフも私ほどではないが天才だったし」

 

「ああ、中々興味深い技術がいっぱいだな。コレ、持ち帰れねえもんかねぇ」

 

 アザゼルが言うとなればそりゃもうすごいことだろう。

 

 この男の技術者としての技量は文句なしに高レベルだ。なにせ堕天使という種族そのものが技術力なら各種神話勢力を踏まえても最高峰だ。

 

 そう、そして―

 

「―なら、これ出来るよな?」

 

「ん? なんだいこれ?」

 

「改良ポイント」

 

 ―アザゼルとダ・ヴィンチちゃんは技術者として方向性が違うから、こういう連携では非常に好都合だ。

 

 一瞬むっとしたダ・ヴィンチちゃんだが、渡された紙に書かれた内容を流し読みした瞬間、目の色を変えた。

 

「……ほほう。これは確かに言われてみればその通りだ」

 

「だろう? 俺は一から技術を作るより、あるもんを基にする方が得意でな」

 

 そう、それこそアザエルの技術者としての方向性。

 

 あるものを研究し、そこから発展形を開発することこそアザゼルの技術者としての在り方だ。

 

 すなわち発明家としてはエジソンタイプ。技術をよりよくすることに向いている。

 

 実際、アザゼルが開発した人造神器は、一部を除いて通常の神器よりも安定性などの方が重視されてるからな。

 

 まあ、そういうわけで―

 

「この俺が来たからには安心しろ。カルデアのシステムの効率を、一割はアップさせてやる。安心しな、プログラムに関しては三日でやってやる」

 

「それは面白い。このダ・ヴィンチちゃんとあのレフによって作られた様々な技術、即座に改良できるのならしてみるといいよ」

 

「はっはっは! 年季の違いってやつを見せてやるぜ!!」

 

 さて、天災同士が巡り会ってしまった。

 

 これ、間違いなく俺達が振り回される展開なんだろうなぁ。

 

「……立花、ロマニ」

 

 俺は、特に被害者になるであろう者達二人の肩に手を置いた。

 

「……ごめんなさい」

 

「「どういう意味!?」」

 

 すぐにわかる。そう、すぐにな。

 




お父さん登場。しゃべらないのでセリフを考える必要のないいいキャラです。

そしてアザゼルも登場! 活動報告で出てきたキャラを利用しました。

とにもかくにもアザゼルの勝ちはこの状況では莫大です。奴の技術者系統は元からあるものを利用するタイプなので、すなわち状況改善に特化するタイプ。

戦闘に関しても実は強いのですが、ある事情から使いたくても使えないタイプです。理由はまあ……活動報告を見ればわかるかと


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立花「おしえて、アザゼル先生!」 兵夜「やめとけ、実験台にされるぞ」

そしてついにローマへと向かいます!!


 

 そんなこんなで三日後。

 

 俺達は、ついに新たなる特異点の場所の精査に成功した。

 

 その間俺は何とかカルデアを一通り掃除することに成功した。不眠で活動できるサーヴァントだからこそできることだといっておこう。

 

 ………次に召喚するチャンスがあれば、今度は家事の道具を持って行って触媒に使おう。

 

「それはともかく!! 次はどこだロマニ」

 

「ああ、次は一世紀のローマだよ。かつてのヨーロッパの超大国だね」

 

 なるほど、確かにローマはかなり影響力がある場所だ。

 

 なにせ―

 

「世界最大の宗教であるキリスト教の聖人、イエス・キリストを処刑した国家。……その後の伝承も踏まえれば、間違いなく特異点になるだけのものだが、流石にまずくないか?」

 

 基本善良である立花やマシュに、イエス・キリストを処刑させろ……とかまずくないだろうか?

 

 ここにいる人もヨーロッパ系が多いだろうし、すなわちキリスト教徒も多いだろう。

 

 これは、精神的にきついはずだが―

 

「いや、幸い年代は数十年後の西暦60年。ネロ・クラウディウスの時代だね」

 

 そうか、それはよかった。

 

「ローマ! ねえロマニ、私も行ってみたいな! ネロ帝とは話が合うと思うんだよ!」

 

「おお、その時代のローマか! 俺、ネロとは戦ったことあるぜ?」

 

 と、天災二人が騒ぎ出すがあんたらはカルデアの修復とか色々あるだろうが。

 

 ん? 待て?

 

「アザゼル先生。ネロ皇帝と会ったことがあるんですか?」

 

 すっかりアザゼルに馴染んだマシュが訪ねる。

 

 それに対して、アザゼルはあっさりと頷いた。

 

「ああ、ほら、ブディカとか聞いたことねえか?」

 

 ブディカっていうと……?

 

「女王ブーディカ。ちょうどこの年代にローマに反乱を起こした女王だね。ほら、英語じゃ勝利はビクトリーっていうでしょ? それの語源」

 

 解説ありがとう。そうか、そんな人物なのか。

 

「当時は通信技術も未発達だったからね。現地担当のスエトニウスの圧政をきっかけとして、彼女達が起こした反乱はローマの歴史でも有数の反乱だよ。ネロ帝も監督不行き届きの責任はあるといえ、いい迷惑だったろう」

 

 うんうんと、ダ・ヴィンチちゃんが頷くが、アザゼルは少し首を振る。

 

「いや、実はこっちの世界では色々と事情が違ってな。ぶっちゃけ三大勢力の代理戦争だったな」

 

「先生質問でーす! 代理戦争っていっても、当時のローマはキリスト教を迫害してたって聞いてますけどー?」

 

「はっはっは。確かに教会や天界の連中は関わってねえが、三大勢力にはもう一つあるだろ?」

 

 と、立花の質問に答えるように、アザゼルはホワイトボードを取り出す。

 

「当時、ヨーロッパには神滅具……聖書の神が作った神すら殺せる兵器があってな。それが俺らの世界のブディカとネロに宿されたことで、三大勢力はそれを確保しようと躍起になったのさ。……結局はブディカが死んじまったことでお流れになったが、ヤンチャしてた当時の俺らは色々と大暴れしてたもんさ」

 

 そういや、当時は色々とやってたみたいだな。

 

 しかし、そうだったのか。

 

「それで? お前らはどうしてたんだよ」

 

「ああ。真っ先にブディカに接触してパトロンになったぜ? 最も、悪魔や天使やらの介入を防ぐので手いっぱいだったがな……」

 

 少し思うところがあるのか、アザゼルは少し遠い目になった。

 

「いや、思い出すとホントよく和平できたな。俺らも数千年かければ成長できるってことかねぇ」

 

「和平する気のない連中が、ことごとく離反してくれたおかげもあるがな。そいつらで勝手にぶつかって共倒れになってくれれば言うことなしなんだが」

 

「うっわぁ、お兄ちゃん黒い」

 

 否定はしないさ。

 

「話を戻すよ。まあ、何分大昔だから正確なところはわからないけど、同じように女王ブーディカに聖杯が援助している可能性もあるか」

 

 ロマニが解析を続けながら、そう推測する。

 

 確かに、当時のローマの弾圧は相当酷かったらしいからなぁ。

 

 とはいえ、ブーディカの報復は関与のしようがない民間人にも徹底して及んだらしいし、流石に見過ごせんか。

 

 歴史を変えるわけにはいかないが、歴史を変えるほどの所業には積極的に介入できるのは良いことだ。

 

「それで? 今のところは聖杯の位置とかは?」

 

「残念だけどそこまでは。とはいえ、フランスの時も考慮すれば、人理を歪める要因が持っている可能性は大きいね」

 

 俺はロマニと話しながら、さらに作戦を詰めていく。

 

「転移場所は首都ローマを予定している。とはいえ、あまり正確に転移できるかはわからないから油断は禁物」

 

「ああ。それに、俺達の格好だと怪しまれるからな。できれば当時の服を用意できればいいが……」

 

「流石にそこまでは困難だね。現地で何とか調達してほしい」

 

 つっても当時は服なんて高級品だろうに。盗めと?

 

 しかし、ローマは大国だから物資もそこそこあるだろう。

 

 何とか調達できれば今後がかなり楽になるはずだ。

 

 そんなことを話し合っていると、立花が手を再び上げる。

 

「あ、でも味方のサーヴァントもいるんだよね? だったら彼らの協力とか取れないかな?」

 

「それはわかるが、敵のサーヴァントの可能性もあるから油断は禁物だ」

 

 ロマニの言う通り。敵もまたサーヴァントである以上、うかつに接触するのはかえって危険の可能性もある。

 

 そういえばその辺考えてなかったな。まずはサーヴァントより現地の人々の話を聞く方が先決か。

 

「ドクター。カルデアの方で、サーヴァントが敵か味方か判別する方法はありませんか?」

 

 マシュがそう聞くが、しかし難しいだろう。

 

 当然、ロマニとアザゼルも難しい顔をする。

 

「発想としては良いと思うけど、何分精神的なものだからね。……七割方敵だと判断できたなら伝えるけど、やはり現地の君たちの目で判断する方が正確だと思うよ」

 

「ああ。反動として召喚されたサーヴァントが、人理焼却側につくという可能性もあるしな。こっちのサーヴァントの人格がわからねえ以上、判断は難しいぜ」

 

「……そうですね。倫理的に無理のある願いなのはわかってました。それでも―」

 

「危ない可能性は、下げた方がいいもんね」

 

 と、立花がマシュに頷いた。

 

「所長やお兄ちゃん、マシュはともかく私は人間だからねー。危ないことになると足引っぱっちゃうから」

 

「いえ、先輩は問題ありません。私が全力で守りますから!!」

 

 おやおや、微笑ましい。

 

「いつも無茶をさせてすまないね、皆。僕もできる限りバックアップするから頑張ってくれ」

 

 ロマニがそう言いながらオペレータ席に座り、そして準備は整った。

 

「それでは、ランスロットさん。レイシフト先ではよろしくお願いします」

 

「Arrrrrr……」

 

 なんか、飼い主と忠犬みたいな感じになってるな。

 

 そういえば、鎧も似たような感じだし、もしかしてマシュに憑依したサーヴァントって……円卓関係?

 

「それじゃあ、行くわよ」

 

 そして、それまで黙っていたオルガが口を開く。

 

「私達から見れば昔も昔。奴隷制が顕在していた場所だけど、其の辺りについては口出ししてはだめよ。……未来を変えることは、カルデアには赦されてないんだから」

 

 オルガ……。やっぱり元帥のことが尾を引いているな。

 

「あまり無理するなよ。ま、俺は技術者系のサーヴァントして召喚されたから戦闘能力はかなり落ちてるから任せるしかないんだけどな!!」

 

「そこ、開き直らない!!」

 

 アザゼルに速攻でツッコミが飛ばす。

 

 あ、オルガの調子がいつもに近づいた。

 

 こういう遠慮なく張り倒せるところも、ある意味この状況では好都合か。

 

 ……さて、行くか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランスでも見ましたけど、これが、自然なんですね……」

 

「ん? レイシフトで緊張した?」

 

 ローマに到着して、取り合えず俺達は辺りを見渡す。

 

 特に、なんというかマシュが圧倒されているというかなんというか。

 

「ああ、マシュは色々あって自然には慣れてないのよ。あまり気にしないで」

 

 と、オルガに言われるが、また少し様子がおかしい。

 

 ……そういえば、サーヴァントの憑依じゃなくデミ・サーヴァントなんだよな、マシュは。

 

 ……ロマニやダ・ヴィンチちゃんがいるから大丈夫かと思ったが、やはり魔術師の組織だということか。

 

「まあ、個人の意見を無理やり通せるわけないよな、二代目となると」

 

「……ありがとう。いつも気を使ってもらって悪いわね」

 

 まあ、その辺については気にするな。

 

 死んだところを無理やり生かしている責任というものがある。それ位のアフターサービスはさせてもらうさ。

 

「ま、適度に依存してくれ」

 

「ええ、ちょっと頼りにさせてもらうわ」

 

 まったく、この子は色々と背負わされすぎだろう。

 

 ちょっと本気で同情するぜ。

 

「フォー……ンキュ、キュ?」

 

 と、そこに小動物の鳴き声が一つ。

 

 って、フォウ?

 

「フォウさん!?」

 

「今、マシュの胸から出てこなかった!? ずるい!!」

 

「前から思ってたんだが、立花、お前レズか?」

 

 っていうか、何時の間に潜り込んだ、この小動物。

 

「失敬な。私はバイだ!!」

 

「あ、そう」

 

 論点はそこではないが、流石俺の妹……性癖的にクセが。

 

 さて、それはともかくとしてどうしたものか。

 

「まあ、一回戻るのもあれだし連れていくしかないか」

 

「そうね。立花、しっかり捕まえておきなさい」

 

「はい所長! わーふわふわー」

 

 確かにモフモフしたら楽しそうだ。

 

「まあ、狭い場所より広い場所の方がいいか」

 

「それについては同意なのです」

 

 俺も苦笑するが、それにマシュが同意する。

 

「戦いは怖いですが、外の世界を知るのはとても楽しいですので」

 

「そうね。マシュにはいい経験じゃないかしら」

 

 そうオルガも微笑するが、しかし上を見上げるとため息をついた。

 

「……あれがなければ、もっと良かったんでしょうけど」

 

 そこにあるのは巨大な光帯。

 

 フランスでもあったアレが、ここでもしっかり存在していた。

 

 やはりあれは人理焼却に関わっているようだ。この調子なら、七つの特異点全てに存在していると考えていいだろう。

 

「ドクターの話だと、確かアメリカ大陸と同じぐらい大きいんだっけ? 誰が作ったんだろうねぇ」

 

「ああ、こんなことができるの、サーヴァント級の化け物がゴロゴロしているD×Dでもいるかどうか。……マジでトリプルシックスがほしいな」

 

 正攻法じゃ勝てる自信がないぞ。どうしたもんか。

 

 まあ今はまだそんなことを考えている余裕も中。

 

「……そもそもロマニ? 首都ローマどころか街の姿形も見えない丘陵地帯なんだけど」

 

『あれ? そうですか? ……おっかしいなぁ、そこは首都ローマ郊外にあたる場所だ』

 

 ふむ、やはり転移座標がずれているのか。

 

「まさかと思うけど、時代までずれてないでしょうね?」

 

『それは大丈夫です。ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスが統治する時代ですよ』

 

 ふむ、ネロ・クラウディウスか。

 

 確か、キリスト教を弾圧した所為で暴君と呼ばれていた人物だな。

 

 とはいえ、当時のキリスト教徒はかなり悪質なことをやっていたという話もあるし、宗教問題は根深いということでスルーしようか。

 

『しかしどうして首都がずれたんだ? 千年に皇太后アグリッピナを毒殺したとはいえ、今はまだネロ危急の時代ではないんだけどな』

 

「単純に考えれば、それこそまさにローマの人理崩壊の危機だということだろうがな」

 

 首都が移動するほどの事態が発生していると考えるべきか。

 

「さて、とりあえず全員周囲を確認。何かあったらすぐに教えて……」

 

 そこまで言いかけて、俺ははたと気が付いた。

 

 そういえば、なんだか向こうが騒がしい。

 

「多人数戦闘のものと思われます。丘の向こうのようですね」

 

「Arrrrrrrrr!」

 

 マシュもそれに気づき、ランスロットはマシュを庇う様に一歩前に出る。

 

『いやいやおかしい! この当時に首都ローマの近辺で戦争があったなんて話は聞いたことがない』

 

「つまり修復案件だね! 見に行こう!」

 

 立花が素早く判断すると、一歩前に踏み出そうとする。

 

「いや、あなたが一番安全確保しなといけないから」

 

 とっさにオルガが首根っこを引っ掴んで、俺達が前に出る。

 

 そこに映ったのは―

 

「「うぉおおおおおおおおおお!!!」」

 

 赤と黄金の意匠で身を包んだ者達同士による、激戦だった。

 

 しかし、誰が見ても分かるぐらいお互いの戦力差が大きい。

 

 通常、戦力差が三倍もあったら決着があっさりつくのが戦争の常識だったりする。

 

 そんな中、戦場での流れが拮抗している理由は、たった一人の少女の存在によるものだった。

 

「……ロマニ、妙に無双している奴がいるんだが、サーヴァントか?」

 

『いや、反応はないね。驚くべきことに、アレはただの人間だ』

 

「そうか。まあ、そういうこともあるだろう」

 

 何事も例外というのはよくあることだ。そういうものだ。

 

「神代から大して離れていない時代なら、生身でサーヴァントクラスの戦闘能力が発揮できるものがいる可能性もあるだろう。俺の業界なんて、純粋な人間としての技術だけでサーヴァントどころか神すら倒せる化け物がいてなぁ」

 

 あのふんどし、ちゃんと封印されてるんだろうか。

 

「言ってる場合じゃないでしょう! ロマニ、どっちがレフの味方かわかる?」

 

『無茶を言わないでくれマリー! ……あ、でもサーヴァントの反応を確認、数の多い方に参加してる!!』

 

 なるほど、つまりはそいつが最強戦力か。

 

「方角的には数の少ない方がローマ側にいるな。おそらく、そっちが被害者の側だろう」

 

 この時期のローマの首都が蹂躙されれば、人理に悪影響が出る可能性が高い。

 

 つまり、この場合の選択肢は―

 

「マスター命令! みんな、数の少ない方に味方するよ!!」

 

 ああ、立花も十分状況把握ができてるようで何よりだ。

 

「OKOK。其れじゃあ行くぞ!!」

 

 さて、それでは勢いよく介入するとしますかね。

 



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兵夜「単独行動も俺の本領だ」オルガマリー「付き合わされる方の身にもなってよ」

 

 さて、とりあえずガトリングガンの乱射で、敵の軍勢は散り散りになった。

 

 まさに一騎当千。ガトリングガンの面目躍如だ。

 

 なにせ機関銃は戦争の歴史を変えた産物。密集体形の意味を極限まで薄くし、戦場の在り方を一変させた存在。その先駆けこそガトリングガン。

 

 それはリチャードの思惑と外れた方向だったろうが、ある意味で星の開拓者スキルを持っていてもおかしくない非常に高レベルな能力だ。

 

 ゆえに、まさしくそんな陣形を中心とする手合いなど、物の数ではない。

 

 露払いという意味なら、全サーヴァントを見渡してもかなり上位に入る自信がある。

 

 なにせ道具作成スキルの応用で弾丸を容易に生成できる為、燃費がいい。

 

 とはいえあまり乱用しては疲れることも多いし、適当に息を抜きながらするべきではあるわけだが。

 

「オルガ、とりあえず今のうちに戦闘に慣れておこう」

 

「え、ええ。わかってるわ」

 

 ああ、言ってはなんだがただの人間。それも鉄製の槍や剣、弓矢で装備した兵などオルガの敵ではない。

 

 彼女の躰は聖剣製。それを突破するには、せめて艦載兵器か対艦兵器ぐらいは持ってきてもらわないと困る。神秘でやるにしてもサーヴァントの宝具クラスがほしいところだ。

 

「いいか、オルガ。偽聖剣は特にあるエクスカリバーの能力をメインに運用することで戦闘をおこない、そしてそれがお前の体をここまで人間に近く作り上げることに成功している」

 

 そう、それが最大の理由だ。

 

 そもそも、剣を体にするだなんて無茶を実行に移せたのは、それが機能しているからに他ならない。

 

「名を、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。まずはそいつに慣れるところから始めよう」

 

「そ、そうだけど……。この数を私がやれっていうの!?」

 

 かなり数がいるので若干ビビリ気味のオルガだが、しかし安心しろ。

 

 偽聖剣をそんなどこにでもある槍や剣で貫ける奴なんて、それこそサーヴァントになってなければおかしい化け物クラスだ。

 

 そんな奴は、出てきた瞬間にわかる。持っている気迫の類が違うからな。

 

 そういうわけで、今のうちに本格的にオルガの戦闘訓練を行っておかないと。

 

「まずは自分の体を変化させるイメージから始めてみろ。なんていうか……毛をはやすとかうおわぁ!?」

 

 いきなりケリが飛んできたので、とっさに俺は伏せてかわした。

 

「……女にムダ毛をはやせですって? そう、死にたいのね?」

 

「待て待て待て待て。俺がカルデアに帰還するとオルガにも負担がかかるから―」

 

「うっかり判断をミスして単独行動して、私をピンチにした人がよくほざくわねぇ?」

 

 う、すいません。

 

 髪の毛を伸ばすとか髪の毛を操作するとかそんな感じでいうべきだった。いかん、ジョークのつもりだったんだが想像以上にきつかったようだ。

 

 でも人間要素の強い獣人とか萌えるよね! 手とか足とかが獣状態とか可愛いと思う!!

 

「と、とにかく! 偽聖剣は基本として擬態で鎧状にしたうえで、それによって柔軟に動かしたり、ブレードをはやして戦闘するのが基本のスタイルだ」

 

 そう、偽聖剣が対サーヴァント用として優れているのはそれがあるからといっても過言ではない。

 

 これにより非常に動きやすい全身鎧という、中々作れない代物を最高水準で作ることに成功した。

 

 むろん他のエクスカリバーも有効活用している。特に俺と相性が良かったのは祝福だしな。

 

 だが、偽聖剣を鎧として機能させていたのは偏に擬態に他ならない。

 

 オルガの体を形成するのにも、それを重視して調整し直している。まずはそれを使いこなすことから始めなければならないのだ。

 

「……じゃあ、先ずは爪を伸ばすとか」

 

「爪を伸ばす……ねぇ」

 

 いうが早いか、オルガの爪が少し伸びる。

 

 やっぱり彼女は優秀だ。やりやすい方法を教えればすぐに習得してくれる。

 

 「じゃあ、それでちょっとローマ兵の武器を破壊してみろ」

 

「ええ!? いや、魔術師が人殺しを躊躇するようじゃ話にならないけど……。生身で死体を作るのはちょっと―」

 

 まあ、確かにそれは抵抗があるだろう。

 

 だが安心しろ。

 

「別に人を殺せって言ってるわけじゃない。まずは武器を破壊するところから始めればいい」

 

 そう。その程度でいい。

 

「殺し合いはあくまでサーヴァントの領分だ。マスター側のオルガは、サポートができればそれでいい」

 

「いえ、私は魔術師としての心構えの話をしてるのであって……」

 

 そんなことを言っていると、兵士が一人突進してきた。

 

「し、死なばもろともぉおおおおお!!!」

 

「今は話し合いの真っ最中よ!!」

 

 ……オルガ、お前の今の躰で全力キックは常人だと即死ものだから気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、こちらの方は大体片付いたか。

 

 オルガも少しずつだが戦闘に慣れているし、この調子なら立花の護衛ぐらいは行けるだろう。

 

 俺が雑魚を散らしてマシュが守り、オルガが抜けてきた手合いを潰す。この三段構えなら、立花をカバーすることはできるはずだ。

 

 この際、攻勢は召喚されたサーヴァントに任せるという手もある。俺達はその辺りをフォローする方向に行った方がいいだろう。

 

『お兄ちゃん! こっちも片付いたけど大変だよ!!』

 

 なんだぁ? いったい。

 

「落ち着きなさい立花。それで、いったい何があったの?」

 

『ネロ皇帝が女の子だった! それもすごくかわいい!!』

 

 え? 女?

 

 ネロって男じゃなかったっけか? あれ? 女?

 

『そんでもてサーヴァントと戦ったよ! カリギュラだってさ』

 

「カリギュラ……というと」

 

「ええ、ネロ帝の叔父よ」

 

 ふむふむ。これはおかしい。

 

 この年代でカリギュラ帝が生きているわけがない。だからサーヴァントなのはわかっている。

 

 だが、カリギュラはローマの皇帝だ。なぜそれがローマを襲う?

 

 ふむ、これは少し厄介なことになってきているぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、首都ローマに迎え入れられた俺たちは、ローマの現状を知ることになる。

 

 連合ローマ帝国。そう名乗る軍勢によって、今ローマは襲われているというのだ。

 

 むろん、そんな内戦など歴史には記されていない。当然のことだが人理焼却案件だろう。

 

 詳しい情報は斥候が戻ってこない為全く持って判明されていないが、その皇帝は間違いなくサーヴァントだろう。

 

 この時代において、高位の魔術師ともなれば現代のロードクラスでも手に余りかねない化け物のはずだ。それをたやすく倒せる存在などサーヴァントぐらいしかこの世界にないだろう。

 

 つまり、マジモノの可能性がある。

 

 だからこそ、短期間でこれだけの国を侵略することができたのだろう。

 

 歴代皇帝の中でもカリスマ性のある者達を中心にすれば、人心掌握という点においては有効だろう。

 

 しかし、船頭多くして船山に登るという言葉がある。

 

 如何にローマ皇帝を大量に投入してカリスマ性を物量攻撃しようとも、それぞれに政策があり理念があり方針があるはず。

 

 そんなもん、内部分裂してもおかしくない。

 

 しかし、連合ローマ帝国は一丸となってローマ帝国を蹂躙している。

 

 これを可能とするならば―

 

「敵将の中には、歴代ローマ皇帝を圧倒するほどのカリスマ性を持った存在がいるということか」

 

 いったい誰だ?

 

 世界征服一歩手前とも言われたアレクサンドロス大王か? モンゴル帝国の長、チンギス・ハンか? それともドイツを立て直したアドルフ・ヒトラーか?

 

 それとも、のちの世の世界最強の大国、アメリカ合衆国の大統領?

 

 今の段階では情報がないからまったくわからんが、しかしこれは厄介だ。

 

 フランスはフランスで面倒だったが、しかしこれはこれで大変だぞ。

 

「……どう思う、ロマン」

 

『間違いなくサーヴァントによる攻撃だね。この時代では死んでいるはずのカリギュラ帝がいるのなら、まさにそうだとしか言いようがない』

 

「ふむ、姿なき魔術師殿もそういうか。やはりそういうことなのだろうな」

 

 ネロ帝はそう沈みながら言う。

 

 しかしサーヴァントが相手というのならば、ローマ帝国といえど苦戦は必須だ。

 

 そして国家クラスの組織が相手というのならば、俺達では数が足りない。

 

 さらに、その組織は高確率で聖杯を保有している可能性がある。

 

 そういうわけで。

 

「ぜひよろしくね! ネロ皇帝!」

 

「快諾してくれるとは有り難い!! 貴公達のうち一名に総督の位を与えるぞ! 先刻の働きへの報奨ももちろんだ」

 

 とまあ、速攻で同盟が成立した。

 

 現役の国家の支援が受けられるのなら、それに越したことはない。

 

 それに立花やマシュとしても、ローマを助ける行為そのものが精神的にプラスだろう。

 

「ありがとうございます。皇帝陛下。では、総督の座は兵夜に―」

 

「いや、それは立花に与えてやってくれ」

 

 オルガの言葉をさえぎって、俺は立花に総督の座を提供する。

 

「む? それはかまわぬが、よいのか?」

 

「それでいいの?」

 

 ネロ帝もオルガも首をかしげるが、しかしこれが一番優先だ。

 

「総督クラスともなれば、護衛の兵士をつけやすくなる。それに、俺は単独行動の方が優勢だしな」

 

 そう、最優先するべきは立花の安全。

 

 立花は俺達の中で唯一のただの人間。戦闘能力も生存能力も低い。

 

 護衛をつけるには、相応の地位につけるのが一番だ。

 

 ちなみに俺は結構現場で動く方が得意なので問題ない。実戦で指揮するというならば、小規模部隊が限界だろう。

 

 まあそういうわけなので、必要な戦力はそこまでだ。

 

「そういうわけで、オルガはフランスと同じく俺と一緒に行動な」

 

「……ああ、だから私に総督の立場を渡さないのね」

 

 想定できていたのか、オルガはそういうとため息をついた。

 

 ああ、悪いが俺とお前は一蓮托生。この際一緒に行動してもらう。

 

「行動するとは言っているが、どうするつもりだ?」

 

「ああ、そんなことは決まっているだろう」

 

 皇帝ネロに対して、俺はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「首都の場所を探すに決まっているだろう? 俺達だけなら逃げられるからな」

 



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兵夜「お前、やっぱりすごいよなぁ」アザゼル「年長者は敬いな、若者」

 

「それで、どうやって首都の位置を探るの?」

 

「それについては簡単だ」

 

 オルガと共に野営しながら、俺達は作戦を詰める。

 

「冷静に考えればわかることだと思うが、そもそもこの時代の技術水準では機動力が現代に比べて圧倒的に劣る」

 

「そうね。普通の斥候じゃあ、せいぜいがただの馬。サーヴァントの足なら簡単に追いつけるわね」

 

 その通り、斥候が全滅したのもそこにあるのだろう。

 

 おそらく英霊が自ら駆けつけてぶっ倒している。斥候なら兵力は少ないはずだし、そうなってもおかしくない。

 

 しかし、それは裏を返せば―

 

「機動力に長けていれば、離脱することは不可能ではないということだ」

 

 そういうわけで、俺が呼び出したのは装甲車。

 

 もちろん、オフロードも可能な軍用車だ。

 

 これで移動しながら、俺達がより広い範囲を偵察する。

 

「運転は俺がやるから、オルガは双眼鏡なり視力強化なり、とにかく都市を探してくれ」

 

「結局こうなるのね……」

 

『まあ、こんな大ごと楽に済ませられるわけねえしなぁ。仕方ねえだろ』

 

 と、通信から返答が来る。

 

 来たのだが……。

 

「アザゼル。なんでお前が通信に出てんだ?」

 

 ロマニどうした。

 

「まったくよ。ローマ(ここ)に来るまであなたは私の体になにしたか忘れたの? 覚えてないなら帰ってきた後殺すわよ?」

 

 オルガから殺意のオーラがだだ漏れしている。

 

 アザゼル。確かにオルガの躰は特注品だから作成者の一人であるお前の調整は可能なら必要だと思い許したが……。

 

「アザゼル。お前、オルガになにをした?」

 

『別に何もしてねえよ。調整するついでにこの特例でできることを試してみようと思い外側から操作を―』

 

「ダウト。オルガ、後でシメていいぞ」

 

 だから何やってんだこいつは。

 

「まったくね。この駄目サーヴァント! とにかくロマニを出しなさい!! ロマニをどうしたのよ?」

 

『ロマニの奴なら今は寝てるよ。そりゃあいつだって仮眠ぐらいするだろ?』

 

 アザゼルの言うことは正論だったが、しかし本当か?

 

 俺はいぶかしんだが、すぐに答えが飛んできた。

 

『あのねえ。当身を入れて気絶させるのは、寝てるとは言わないわよ? 気絶っていうのよ』

 

「……ハーロットはそう言ってるけど何してるのよ!!」

 

 速攻でオルガからツッコミが飛んでくるが当然だ。

 

 お前は味方に何をしてるんだこの馬鹿野郎。

 

「アザゼル! 確かにロマニはお前と同じで日常生活では扱いが悪くなるタイプのキャラだが、ただの人間に何してんだ!!」

 

 医療スタッフなのに一生懸命オペレータまでしているロマニになんてことを!! なんてことを!!

 

 俺もオルガも心から怒るが、しかしアザゼルは通信の向こう側でため息をついた。

 

『そりゃこっちのセリフだよ。……お前ら、気づいてなかったのか?』

 

「「なにが?」」

 

 同時に首をかしげるが、速攻で飛んできたのはかなり辛辣な言葉だった。

 

『あの馬鹿野郎、薬物投与で無理やり思考速度を強化してやがった。たぶんフランスの時もそれで無理やり睡眠とか誤魔化してお前らをサポートしてたんだろうな』

 

 その言葉に、俺は一瞬思考が空になる。

 

 確かに、通信が繋がっている時は常にロマニが出ていたが、まさかあの野郎、四六時中自分が見てたのか!?

 

「た、確かにレイシフト中の私達は不安定な存在だから、常に観測を怠るわけにはいかないけど、他のスタッフだっているでしょう!?」

 

『だから、そいつらが休んでる分まで不眠不休だったって言ってんだよ。……やっぱり黙ってたな、あの野郎』

 

 オルガにそう答えたアザゼルは、通信越しで再びため息をついた。

 

「あの馬鹿……っ。なんで所長の私にも黙ってそんな無茶を―」

 

『お前に、精神的な負担を掛けたくなかったんだろうな。……ロマニの奴も肉体的にかなり無茶してるが、お前も相当無茶してるだろうしな』

 

 アザゼルはそう前置きしてから、口調を優し気なものに変える。

 

『まあ、カルデアの方は心配すんな。この俺とダ・ヴィンチがいる以上、システムの方の再調整はだいぶ進んでいるからよ。現場は現場で大変だろうが、そこは兵夜に丸投げしとけ』

 

「冗談じゃないわ。私はカルデアの所長として、責務から逃げ出すわけには―」

 

『そこが間違いだって言ってんだよ』

 

 オルガが反論しかけるが、アザゼルはそれを遮った。

 

『まだ30にもなってねえ小娘を、こんな大事業の責任者にさせるなんてどうかしてる。……ここは最年長の俺にもっと頼っとけ。宮白も中身は三十代だしな』

 

 その言葉は優し気で、あいつの地が見える。

 

 ああ、そうだろう。

 

 いきなり父親が死んでこんな大事業の跡を継がされた。それだけで、どれだけオルガの心に負担があったかなんて想像に難しくない。

 

 レフに依存するのも当然だ。そうでもしなければ耐えられねえ。

 

『お前は確かに魔術師としては天才なんだろうが、こっち方面じゃあ苦労しただろ? ダ・ヴィンチは天才だが個人主義だろうし、ロマニは優秀だが超人じゃねえしな。兵夜から聞いてるが、魔術師ってのは外道が多いんだろ? そんな中、よくもまあカルデアを運営できてたなって褒めてやるよ』

 

 その言葉に、オルガは何も言えなかった。

 

 それを理解しながら、アザゼルはさらに続ける。

 

『……よく頑張った。あとの難しいところは俺らに任せな。お前は現場に集中してな』

 

「………ふ、ふん。わかったわよ。数千年生きている経験には価値があることぐらい魔術師ならわかるし、今回は参考にしておいてあげるわ」

 

 オルガ、顔真っ赤だぞ?

 

「と、とにかく! ロマニは普通にベッドに寝かしておきなさい! あなたのことだから、下手をすればその辺の床に転がしてそうで心配だわ」

 

『そこまで鬼じゃねえよ。適当に毛布をかけといたからな』

 

 アザゼル。それ誤差の範疇内。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで最低限の情報さえ手に入ればいいと思ったが、しかしラッキーな出来事が起きた。

 

「言われた通りね。確かにこの時代において最高峰の大都市があるわよ」

 

 双眼鏡を覗いたオルガがそれを確認する。

 

 こっちがあてもなく長距離行軍をしている間に、ガリアを攻め落とした立花達が有益な情報を獲得したのだ。

 

 すなわち、連合ローマ帝国の首都の場所。

 

 なんでも女神に散々振り回された挙句、再びカリギュラと戦った結果らしい。よくわからん。

 

 とはいえ、その情報が正しいかどうかを調べる為に俺達は移動を開始。そしてそれは実際に正しかったわけだ。

 

「さて、それじゃあすぐに帰還するぞ」

 

「いいの? もう少し情報を調べてからでも―」

 

 オルガの言うことも理解できるが、しかし今回はそこまでしなくていいだろう。

 

 なにせサーヴァントの巣窟であることは想像できる。

 

 ならば、長居は禁物だ。ばれて集中攻撃を喰らえばひとたまりもない。

 

 敏捷に長けたランサーや、騎乗物を使うライダーに発見されれば、俺達ですら勘付かれる可能性がある。

 

 そういうわけで場所が確認できた以上、もうここに用はない。

 

 即座に俺達は撤退を開始した。

 

「……そういえば、アザゼル」

 

 移動中暇なので、俺は通信越しにアザゼルと会話する。

 

『なんだ? 今、マシュ達はローマ側のサーヴァントの援護に行って帰還したところだが』

 

 そうか、あっちはあっちで大活躍のようだ。

 

「それは重畳。それで、まあいわゆる世間話の類だ。……アザゼルは、ネロ皇帝をどう思っている?」

 

 なんとなく、気になった。

 

 ネロ・クラウディウスは暴君と言われることになる。

 

 それに関してはキリスト教に対する弾圧が原因だが、それも歴史によれば火事場泥棒などを起こしていたことを理由によるものらしいし、ましてやキリスト教徒はキリスト教徒で、当時は問題行動が多かったらしい。

 

 俺から見た皇帝ネロは何というかワンコ系な印象があるのだが、アザゼルからは果たしてどう見えているのか。

 

『そうだな。確かに、いずれ追いやられることになるだろう人物ではあるな』

 

 アザエルは、はっきりと言った。

 

『カリスマはある。愛もある。政治センスも優秀だ。だが、致命的な欠陥がある』

 

「致命的? この短期間にそこまで見抜けるの?」

 

 オルガも首を傾げるし、俺もよくわからん。

 

 それは一体どういうことなのだろうか。

 

『簡単なことだ。アイツの愛は周りを振り回しすぎる』

 

「お前は追放されてないだろうに」

 

 鏡を見ろ。

 

 教え子を遠慮なく実験台にし、挙句の果てに組織の金を使ってゲーム創るような奴が、周りを振り回してないってのか、ああん?

 

『……問題は支配される民の方だよ』

 

 アザゼルは、苦い顔を浮かべてそう言った。

 

 ふむ、特に市民から嫌われているようにも見えなかったが。

 

 だが、アザゼルの意見は違ったようだ。

 

『宮白ならわかると思うが、指導者という者の適性は、支配される民にも大きく左右される。いわば需要と供給、それがかみ合っているかどうかってやつだ』

 

 まあ、それはわかるが……。

 

『民が望んでいるのは繁栄と存続だ。だが、ネロは繁栄は望んでいても存続を強く望んでいるかは怪しい』

 

 アザゼルは、そう言った。

 

 平和になればあとは種の存続と繁栄。アザゼルはそう言ったのだ。

 

 それはつまり―

 

『アイツの愛情はすべて焼き尽くすような節がある。美しく燃え尽きるのなら、それもまたありと考えているだろう。……それが、何かをきっかけに噴き出るのが、この世界のネロの衰退の原因なのかもな』

 

 怖いことを言うなよ。

 

「……例えそうだとしても、それを私達が諌める事は許されないわ」

 

 オルガは、そう言った。

 

「人理を守る私達が、自分達の手で人理を潰していいはずがない。……今の話、立花達にはしちゃ駄目よ?」

 

『わかってるようるせえなぁ。俺だってそれぐらいはわかってるっつの』

 

 明らかにめんどくさそうにアザゼルはぼやくが、しかしすぐに反応が変わる。

 

 ん? なんだなんだ?

 

『宮白、オルガマリー! サーヴァントが後ろから接近してるぞ!!』

 

「「っ!?」」

 

 俺はとっさにアクセルを全力にして加速する。

 

 連合ローマ帝国内部にいるサーヴァントだなんて、高確率で敵に決まっている!!

 

「飛ばすぞオルガ、舌を噛むなよ!!」

 

「え、え、ちょっとぉ!?」

 

 ビビって俺にしがみつくオルガだが、しかし普通に席に座っているようが安全なんだが。

 

 まあいい。ニトロまでブッ込んでの最高速度。

 

 ライダーのサーヴァントでもない限り追いつけるはずがない……と願いたいなぁ!!

 




アザゼル大活躍。

そして兵夜側も現代文明を最大限に使用して首都を発見するが、しかし敵にも発見される。

さて、次の話でついに題名の意味が出てきますぜ?


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???「異世界だろうがネロはネロ」兵夜「し、辛辣……ぐふぅあっ!?」

ようやくこの作品でのオリジナル要素を出せる!!


























本格的に…………出せるっ!!!


 

「皆の者、急ぐぞ!! 我らが同胞を救うのだ!!」

 

 規格外の速度で走るオフロードカーの車上で、ネロはそう啖呵を切った。

 

 啖呵を切ったが、しかし立花は何も言えない。

 

「堕ちる落ちる落ちる揺れる揺れる揺れる!!」

 

「先輩落ち着いてください! ここは私が支えますから」

 

 舗装もされてない荒野を、F1マシンもかくやの速度で全速力で進めば当然非常に揺れる。

 

 既に頭を天井にぶつけること三回。こぶができていた。

 

 そんな環境で堂々と車上に入れるネロはいったい何者なのか。実は竜の血を引いているとか何かじゃないだろうか?

 

 そんな疑問がふと浮かぶが、しかしすぐに頭を振って吹き飛ばす。

 

 何よりも気を付けるべきは、そこではないのだから。

 

「急ごう、お兄ちゃんを助けないと!!」

 

『ああ、急いでくれ! そろそろ追いつかれる!!』

 

 ロマニが焦った声を告げるほどにまで事態は急を要していた。

 

 帰還していた遠征軍を救助したは良いが、すぐに緊急事態が勃発した。

 

 連合ローマ帝国の首都を発見して帰還していた兵夜とオルガマリーが敵に追撃されているというのだ。

 

 そのクラスはランサー。驚くべきことに、科学と神秘を複合させて産まれた最新鋭の装甲車を相手に、走って距離を縮めてきていた。

 

 このままでは間合いに入りかねないところまで来ているらしく、非常に危険だ。

 

 ゆえに、緊急用に兵夜が立花に残してくれていた軍用バギーを使って移動しているのだが、それでも距離を詰めるには時間が足りない。

 

 そこで、ランスロットの力を借りたのだ。

 

 ランスロットの宝具、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 

 無手の状態で其の場にあるものを武器としたり、相手の武器を奪って事態を打開した逸話に由来する能力。

 

 その効果は、彼が武器と認識するものを触れた時点で自分の宝具にすること。

 

 これによって宝具と化したバギーは、荒野を桁違いの速度で移動するという偉業を成し遂げた。

 

 そして、視界にボロボロの装甲車が見える。

 

「あった! あれだよ、ネロ!!」

 

「うむ! ならばあとは助けるのみ―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで光の刺突剣。

 

 刃渡りは少なく見積もっても数十メートル。

 

 それが、装甲車を見事に貫いていた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

 立花が悲鳴を上げる中、装甲車が爆発する。

 

 その爆炎を突き破って、オルガマリーが姿を現した。

 

 そして、その背には兵夜が担がれていた。

 

『マリー!? 君、まさかそんなことができる度胸があったなんて!』

 

「後で覚えてなさいロマニ! それより!!」

 

 地面に激突と形容した方がいいような着地を行いながら、オルガマリーは顔を青くする。

 

「兵夜が大変なの! 攻撃は避けたはずなのにいきなり気絶して―」

 

「Arrrrrr!」

 

 オルガマリーの言葉を遮って、ランスロットが前に出る。

 

 そして、彼が兵夜に貸し与えられた剣と槍が激突した。

 

「―ふむ。ここで殺せればよかったのだが、どうやらこちらが不利のようだな」

 

 素早く飛び退ったそのサーヴァントは、赤い髪をなびかせながら息をついた。

 

 その赤い髪を見て、立花達は一人のサーヴァントを連想する。

 

「……ブーディカ?」

 

 あり得ない。

 

 顔つきも、気配も、その佇まいも何もかもが違う。

 

 似ているのは、赤い髪という共通点ぐらいだろう。それ位しか似ているものがない。

 

 だが、しかし何故か彼女を想起させる。

 

 そして、それ以上に危機感が身を焦がす。

 

 それを生み出すのは、そのサーヴァントが手に持っている獲物だった。

 

 まるで黄昏とでもいうべき槍。蛇の頭部を串刺しにしているような意匠を持つその槍はとても恐るべき気配がする。

 

 しいて例えるならば、星の聖剣が近いだろう。

 

 冬木にて自分達を追い込み、フランスにて自分達の勝利の一手となったその聖剣を思い起こさせる。そんな、槍だった。

 

「貴様、何者だ。余のローマを蹂躙する、連合ローマ帝国のサーヴァントとやらか!」

 

 ネロがその剣の切っ先を突き付ける中、そのサーヴァントは心底愉しそうな顔をした。

 

「……その通り。私はローマを滅ぼす者だ。ローマ同士が滅ぼし合うのを見るのは楽しかったが、しかしそれ以上に自分で滅ぼすのはやっぱり楽しいな」

 

 彼女から放たれる気配に、全員が息を飲む。

 

 それに、立花はとてもよく覚えがあった。

 

「……恨んでるの? ローマを」

 

 そう、それはジル・ド・レェが放つ気配によく似ている。

 

 憎悪。其の二文字以外で形容できない気配が、彼女からネロに向かって放たれていた。

 

「ネロが女だろうが何だろうが関係ない。私にとって重要なのは、ローマが滅びるというその最大の事実のみ」

 

 ニタリ、と頬を吊り上げながら、そのサーヴァントは槍の切っ先を突き付ける。

 

「連合が正統を蹂躙し尽くしてからアイツを殺してやろうと思ったが、私が先に貴様を殺して統合させるのもいい気分だ」

 

「アイツ? それが、連合ローマ帝国のトップか!」

 

「先輩、気を付けてください。どうも彼女、その連合ローマ帝国すら滅ぼす気に思えます!」

 

 立花をカバーできる位置に待機しながら、マシュはそんなサーヴァントの言葉に首を傾げる。

 

 連合ローマ帝国のサーヴァントでありながら、彼女は連合ローマ帝国すら滅ぼそうとしている節がある。

 

 それが何故かが分からない。

 

 そう、彼女達では分からない。

 

 だが、すぐにその答えはこの場にいない者から教えられる。

 

『……この反応は、なるほどな。全員、その槍を兵夜に近づけさせるな!』

 

 アザゼルの声が激しく飛ぶ中、そのサーヴァントは懐かしいものを見たかのような表情を浮かべる。

 

『何なんだいアザゼル? 確かにこの反応、星の聖剣に匹敵もしくは上回る反応だけど―』

 

『上回るのは兵夜を相手にした時だ! とにかく兵夜とその槍は相性が悪い!!』

 

 ロマニの言葉を遮りながら、アザゼルが大声を飛ばす。

 

 その声を聴いて、サーヴァントはその表情から険の色を大きく減らす。

 

 代わりに浮かべるのは苦笑。

 

 痛快な皮肉をぶつけられたかのように、彼女は苦笑を浮かべていた。

 

「久しいな、アザゼル。まさか、こんな形で私たちが再会するなどとはな」

 

 そう言葉を継げると、彼女は後ろへと飛び退る。

 

 同時に、その姿が薄くなっていく。

 

「霊体化!? ドクター、すぐに追跡を―」

 

「その必要はない。私は連合の首都で貴様らを待とう」

 

 マシュの言葉を遮り、その女性は笑みを浮かべる。

 

「気が変わった。奴と貴様を潰し合わせてから、その勝者を私が殺す。この方がよっぽど面白そうだ」

 

「それを、なんで態々言うのさ!」

 

 立花はそれが分からない。

 

 それを知ってしまえば、必ず警戒される。

 

 尋常な勝負という柄とも思えなかった。そう思えるぐらい、彼女は手段を選んでいない。

 

 その問いに、その女性は笑みを浮かべた

 

「なに、恩人との再会を恵んでくれた者に対するせめてもの礼儀だ。もっとも、邪魔をするなら殺すがね」

 

 その言葉を最後に、サーヴァントは姿を消す。

 

「……消えた。叔父上のように、逃げたのか?」

 

『その様だね。それでアザゼル。……彼女は何者だい? そして、槍を兵夜君に近づけさせないようにした理由は?』

 

 困惑するネロに応えながら、ロマニは多少緊張した口調でアザゼルに質問が飛んだ。

 

 沈黙は僅かに数秒。

 

『あの槍は、黄昏の光にて眠れ蛇よ(トゥルー・ロンギヌス・サマエル)つってな。……ある女が覚醒させた、聖槍の究極系さ』

 

 アザゼルが語るのは、もう一つの歴史。

 

『こことは異なるもう一つの地球。そのローマとロンディウムの戦いは、イエス・キリストに連なる聖槍と聖杯の戦いだった』

 

 彼が語る歴史を、立花達は知っている。

 

 それは、出発前にアザゼルに聞いた戦いだった。

 

『聖杯を手にした皇帝は、その力を使って龍の力を兵士に付与、それによる質で敵を蹂躙した。その怒りが、あの女に龍殺しの力を覚醒させたんだ』

 

 そう、彼は確かに言っていた。

 

 彼の世界の皇帝ネロは、聖杯を保有していたと。

 

 そして、聖槍を保有していたのは。

 

『―奴の名前はブディカ。その皇帝と争った、聖槍ロンギヌスの保有者だ』

 




ようやく聖槍が登場しました。









いや、皆さん考えてください。ここで曹操が出てきてもリアリティというなの創作物における説得力がない。そして型月世界でのロンギヌスは出てきそうで出てこないから出すのはためらわれるでしょう?









前からやってみたかったことの一つ、「ぼくがかんがえたろんぎぬすのばらんすぶれいかー」を出すにはどうすればいいかと考えながら、FGOを見てふと思い至ったのです。

あ、そうだ!! この流れなら神滅具持ちのサーヴァントを一杯出せるぞ!! ………とね!!


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兵夜「ケイオスシリーズの力を見せてやる!!」

 

 ………ヤベ、コレ何日か眠り続けてるぐらいの睡眠時間だ。

 

 薄目を開けて確認すると、そこには一応誰もいなかった。

 

 ふむ。これはまあ、一応起き上がるべきだろう。

 

「………ったく。想定してしかるべきだったか」

 

 上半身を起こしながら、俺は想定ミスを素直に認めることにする。

 

 冬木での戦いで、俺はレフから聖杯を奪い取るという大技を成し遂げた。

 

 成し遂げたが、どうやらそれで奴に警戒心と高評価を与えてしまったらしい。

 

 警戒心は、もちろん俺たち異世界の存在に対する警戒心。

 

 アザゼルのように勘付いている連中はいないだろうが、しかしいつか人理焼却によるどでかい影響を受けた地球を見つける可能性がある。そうなれば必然的に外側の大量の異世界に警戒心を抱かれる可能性が発生する。

 

 そして高評価は、必然的に俺の暴れっぷりだ。

 

 どうやら向こうも、異世界の能力を優れたものだと認めたらしい。

 

 おそらく今回の特異点ではそのテストを行っているのだろう。

 

 それが、あの聖槍使いだ。

 

 くそ、いまだに全身が微妙に痛い。ただでさえ聖槍は俺の天敵だが、それにしたって効果ありすぎだろう。俺、避けたよな?

 

「……起きたようね」

 

 その声に視線を向ければ、そこにはほっとした顔のオルガの姿があった。

 

「悪い、心配かけた」

 

「まったくね。……既にマシュ達は連合ローマ帝国の首都に向かってるわ」

 

 そういうと、オルガは俺の服を投げつける。

 

「さっさと行くわよ。早くしないと、戦闘が始まるわ」

 

「だな」

 

 先に行けばいいのにだなんてことは言わない。

 

 依存していいといったのは俺なのだ。それぐらいは許さなければならないだろう。

 

「で? 状況はどうなってる?」

 

「其の辺りについては、アザゼルが説明してくれたわ」

 

 ざっと説明を聞いたが、しかしまあ、やはりというかなんというか。

 

 このローマに縁のある聖槍の持ち主としてブディカを召喚。ローマを滅ぼす為に行動を行っているということか。

 

 ……これは、俺が動くしかないだろう。

 

「じゃあ急ぐか。……ブディカの相手の代わり位は、俺がするしかないだろう」

 

 流石にブディカの存在はイレギュラー中のイレギュラーだ。そのバランス調整位はしなければならないだろう。

 

「行こうかオルガ。俺にも仕事というものがある」

 

「待って」

 

 速足で移動するその瞬間、首根っこを掴まれた。

 

 ぐへあ!

 

「な、なにをするオルガ……」

 

 なんでだ。なんでだオルガ。

 

 早く俺が行かなければ、連合ローマ首都攻防戦が勃発するぞ。

 

 そうなれば連合ローマ帝国の首都にいるブディカが、ブーディカのいるローマ帝国との戦闘が勃発するぞ。ややこしいな。

 

 だが、オルガは静かに首を振った。

 

「その前に行くべきところがあるわ。私は、そこに貴方を連れて行く為にここに残ってたのよ」

 

「あ? この一大事にサーヴァントを置いていく必要性がある場所って、いったいどこだよ?」

 

 特異点の修復を決める大一番の直前だぞ? 時間がないのは想定できる。

 

 すぐにでも車を使う必要性に迫られているのにも関わらず、いったいどこに移動しろと?

 

「エドナ火山よ。そこで、アザゼルとダ・ヴィンチが切り札を用意してくれているわ」

 

 おお、マジでか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立花達は、今目の前で激戦を繰り広げていた。

 

 連合ローマ帝国首都にて、遂に連合ローマ帝国のトップを目視する。

 

 それは、帝国になる前のローマを作り上げた存在。ロムルスである。

 

 その事実に流石のネロも心が折れかかるが、しかし立て直した。

 

 なぜならば、連合ローマ帝国の首都には笑いがない。

 

 それは、認められ無い。

 

 その意思があるから、立花ははっきりと言い切った。

 

「其のままでいいよ! さあ、始めようか!!」

 

「……うむ! そうだな、最後の激励に感謝するぞ!!」

 

 そして、戦闘が勃発する中、それを俯瞰する者がいた。

 

「さて、そろそろネロとロムルスが戦闘を開始する頃合いか」

 

 ブディカは、聖槍を持ちながらその光景を俯瞰する。

 

 既に進入路を確保した立花達は、ロムルスのいる城の内部へと潜入している。

 

 それを理解して、ブディカは来るべき決戦の為に自身も城の中に入ろうとして―

 

「―いや、悪いがそれは許さない。……イレギュラー(あんた)の相手はイレギュラー()がする」

 

 その言葉と共に、光の矢が大量に降り注ぐ。

 

 それを槍を回転させて弾き飛ばしながら、ブディカは鋭い視線を投げかける。

 

「……貴様か。私の邪魔をする気か?」

 

「……するともさ。ローマであってもローマでないこの国に、お前の恨みつらみをぶつけさせるわけにはいかないからな」

 

 宮白兵夜は決してブディカの蹂躙を認めない。

 

 何故ならば、彼は正当性のない報復を決して認めない。

 

 この世界において、ロンディニウムの蹂躙はネロの過失ではあれど落ち度ではない。

 

 そして、その当事者であるブーディカ自身が、ローマを守ることを選んでいる。

 

 ブディカである彼女であろうと、異世界といっても過言ではないほどにずれているこの世界で、ローマに復讐するのは筋違いだ。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう。……お前の復讐は、ここでついえる」

 

 その瞬間、双方から極光が放出された。

 




反撃の策は既にあります。ケイオスワールドのシリーズを読んでいる方なら、よくわかる方法です。


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オルガ・立花「「レフざまぁ!!」」 レフ「ギリィ!!」

はい、長らくお待たせいたしました。

流石に中途半端はまずいですよね、中途半端は


 

「立花、マシュ!! 無事ね?」

 

 駆け込んだオルガマリーは、その光景を見た。

 

「心せよ。世界は、永遠でなくてはならない……」

 

 ネロの剣が、ロムルスを貫いている光景を。

 

「あ、所長」

 

「どうやら、ロムルスは倒せたようね」

 

 とりあえず、障害の一つを乗り越えることには成功したようだとオルガマリーは理解した。

 

「……おお、オルガマリーか」

 

 自らの手で祖を倒したことに思うところがあるのか、ネロは少し弱った様子だった。

 

 しかし、すぐにその感情を押し込めると、剣を掲げる。

 

「いいところに来た。これでローマはあるべき姿へと戻ることだろう。本陣を見つけた貴様や兵夜にも報奨を出さねばなるまいて」

 

「それはありがたいのですが、聖杯と宮廷魔術師はどちらに?」

 

 報奨を今にも出さんばかりのネロを抑えながら、オルガマリーは周囲を警戒する。

 

「むぅ? 神祖は討ったのだ。最早連合ローマ帝国は終わりではないか?」

 

「いえ。その神祖をこの世に呼び戻したのは聖杯によるもの。そしておそらく、くだんの宮廷魔術師こそが呼び出した元凶です。彼を討たねば、今度は異なる時代の異なる覇王を呼び出してローマを再び蹂躙することでしょう」

 

 そう。ロムルスはおそらく元凶ではない。

 

 元凶が呼び出した、担ぐ為の神輿だ。

 

 人理焼却を起こす特異点を生み出す要因、聖杯。それの持ち主こそが、真の意味での元凶だ。

 

 その宮廷魔術師こそが、真の意味での元凶のはずなのだ。

 

 それがレフかどうかはこの際どうでもいい。しかし、聖杯の持ち主から聖杯を奪還しなければ、結局は鼬ごっこなのだ。

 

「ロマニ。この近くに聖杯の反応はないの? この機に聖杯を確保しなければ、結局は同じことの繰り返しよ!」

 

『待ってくれマリー。今すぐに捜索を―』

 

「いや待て。……サーヴァントではなさそうだが、すぐ近くに誰かいるぞ」

 

 荊軻が、ロマニの声を遮って声を飛ばす。

 

 そして、その視線の先に彼はいた。

 

「……いやはや。まさか所詮サーヴァントとはいえ、神に至った者まで倒すとはね。これもまた、あのイレギュラーの存在が原因か」

 

 シルクハットを被った、癖毛の長髪。

 

 その姿を見て、立花も、マシュも、そしてオルガマリーもその表情を鋭くする。

 

「……久しぶりね、レフ」

 

「そうだねオルガ。……君みたいな屑が、まさかサーヴァントにすら届く剣を持つように……いや、剣そのものになるとはね。心の底から吐き気がする」

 

 鋭い視線をぶつける、かつての上司と腹心。

 

 人理存続の為の初レイシフトのタイミングで爆発事件を起こし、そしてオルガマリーの体を吹き飛ばした張本人。

 

 レフ・ライノール・フラウロスが、黄金の盃を持ちながら、不快げな表情を浮かべる。

 

「だが、所詮はサーヴァント数騎程度の戦力だ。聖杯の力には勝てないだろうね」

 

「……なるほど、貴様が件の宮廷魔術師か。そして、その手に持っている杯が聖杯とやらだな?」

 

「はい。あれが聖杯です。形状は、前回目にした物と同一のようですが……」

 

 ネロとマシュもまた深く身構える中、オルガマリーは一歩前に出る。

 

 だが、それは冬木での盲目的な信頼とは違う。

 

 明確な敵意を持って、オルガマリーはレフと対峙していた。

 

「かつてカルデアの所長である私を爆殺した時と同じね。……王の危機をあえて見逃すとは、宮廷魔術師失格じゃないかしら?」

 

『というより、それが素なんじゃないかい? カルデアに居た時より生き生きとしているよ』

 

 不快感を隠さないオルガマリーと、一周回って呆れているロマニの声に対しても、レフはその傲岸不遜な態度を崩さない。

 

 それどころか、むしろ当然といわんばかりに胸を張っていた。

 

「ふん。私が真に使えるのは我らが王ただ一人だ。……神祖とはいえ所詮はコピーのサーヴァント如きに、私が敬意を払う理由はないさ」

 

「確かにね。それが正しい現代の魔術師の認識よね……」

 

 レフの言葉に、オルガマリーはあえて肯定する。

 

 サーヴァントとは、厳密に言えば英霊そのものではない。

 

 英霊の座に存在する英霊のコピーがその正体。それも、側面を抽出した部分的な存在だ。

 

 もとより使い魔としての契約を受け入れ、絶対命令権すら保有している存在。根っからの魔術師なら自分よりも下に見るのが当然だ。

 

 仮に英霊そのものに敬意を向ける者がいようとも、劣化コピーでしかないサーヴァントに向けるそれは本人の自画像や銅像に向ける者と大差ない。本質的に人やそれ以上のものとして扱うことなどナンセンス。それが魔術師らしい認識だった。

 

 だから、オルガマリーはそうしない自分に苦笑する事こそあれレフのその態度に激昂する事はない。

 

 それは、魔術師というものを理解している立花もまた同様だ。

 

 同様ではあるが、しかしそれも含めて目の前の男に対する苛立ちは強かった。

 

「無駄口は後だよ。……観念して聖杯を渡せ、レフ・ライノール!!」

 

 兵夜に提供されてカルデアで生産中の魔力パレットを構えながら、立花はレフに指を突き付ける。

 

 ……ちなみに、ガンドの発射準備も完了していた。返答次第では速攻でぶっ放す気が満々である。

 

「はっはっは。いっぱしの口を利くようになったじゃないか、お嬢さん。フランスでの大活躍がそうさせるのかな?」

 

 その言葉は、既にフランスの特異点が完了しているという事に他ならない。

 

 そして、笑みを浮かべているレフだが、その口調には苛立ちがにじんでいた。

 

「まったく、その所為で私は大目玉だよ! 子供の使いすらできないのかと追い返されて、こんなところで小間使いだ」

 

「そりゃ良かった。さっさとお返しが出来て嬉しいよ」

 

「同感ね。私の体のお礼が出来る事に感謝するわ」

 

 レフの愚痴に、立花もオルガマリーもざまぁみろと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 だが、その言葉にはもう一つの意味が隠されている。

 

 それに真っ先に気づいたのは、アザゼルだった。

 

『なるほどな。お前は正真正銘2016年担当。しょせん使いっ走りに過ぎないてことか』

 

「……口が滑ったな、まあ、どうということはないが」

 

 その聞いたことのない声に、レフの反応が更に変わる。

 

「どうやら、レオナルド・ダ・ヴィンチとは違った方向での知恵袋を召喚したようだな。……後方支援にサーヴァントを召喚するとは、こちら側ではあまりない発想だ。……あの男の入れ知恵か?」

 

「いや、お兄ちゃんは家政婦を召喚しようとしてた」

 

『アイツ馬鹿じゃねえの!?』

 

 思わずポロリと事実をこぼした立花の発言により、アザゼルはツッコミを飛ばした。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 サーヴァントの戦闘能力は、並の上級悪魔を凌駕する存在だ。少なくともアザゼルの知るサーヴァントは、何らかの形で並の上級悪魔を超える兵夜達を苦しめるか肩を並べるかしている。

 

 そんなもんを家政婦として使う事を目的として召喚するなど、アホでしかない。

 

 なぜ聖杯戦争というものを熟知している兵夜が、イレギュラーだらけの聖杯戦争しか知らないアザゼルにすらツッコミを入れられる真似をしているのか。

 

 立花としてもツッコミを全力で入れたい気分だ。バカなのかあの男は。

 

 こと苛立たしくなるのは、そんな男にコケにされたレフである。

 

 聖杯を握る手にも力が籠り始めており、顔にも青筋が浮かんでいた。

 

「そんな馬鹿に聖杯を奪われた所為で、私がどれだけ主に怒られた事か! 聖杯を相応しき愚者に与え、その顛末を見物する個人的な愉しみも台無しだ」

 

「それは良かったわね。裏切りの罰には全く足りないけれど」

 

 ざまあみさらせと言わんばかりに、オルガマリーは心底からの嘲弄の視線を向ける。

 

 更にそれに便乗するように、通信からも追撃が行われる。

 

『なるほどな。つまりこの時代を狂わせるのには、それを行うヤツが必要だったってわけか』

 

『フランスでは元帥がそうだったけど、裏を返せばこの時代にはそんな人物がいなかったって事だね』

 

 アザゼルとロマニが、レフの言葉の裏の真実を速やかに暴く。

 

「そ、そうです! 神祖ロムルスは人類の未来をネロさんに託しました。つまり―」

 

『―この時代に、君達に協力したがる裏切り者はいなかったという事だね、レフ教授!』

 

 マシュの言葉を繋げ、ロマニから痛恨の言葉が届く。

 

 その言葉に、レフは心底苛立たし気にしながら頷いた。

 

「まったくだ。……だが、人間などというカスや、その慣れの果ての残像でしかないサーヴァントになど初めから期待していない。君もだよ立花くん」

 

 歯をむき出しにして嘲笑しながら、レフは人類最後のマスターを見据える。

 

 その目に浮かぶのは、嘲りだけでなく嫌悪と憐憫すら含まれている。

 

「凡百のサーヴァントをかき集めた程度で、このレフ・ライノールはおろか、我が王を阻む事など夢物語だ」

 

「あら? 兵夜にあっさり聖杯を奪われたのは誰だったかしら? あなたぐらいなら阻めそうだけれど?」

 

 カウンター気味に痛烈な皮肉を放つオルガマリーだが、しかしレフももう動じない。

 

「だからこそ、こちらもそれ相応の対抗策を用意したよ。……向こうの世界のヤハウェも酔狂だ。自分すら殺せるような道具を、自分を信仰しない者に与えるなど愚かの極みだ」

 

 にんまりと笑みを浮かべるレフの言葉に、全員がある人物を思い浮かべる。

 

 それは、赤い髪を持つ聖槍の担い手。

 

『なるほどな。確かに、奴ほどローマの滅亡を願っている女はそういない。その怨念を使って召喚したということか』

 

「……あの、平行世界のブーディカとやらか」

 

「その通り。こんなことなら、最初から彼女に聖杯を与えておけば良かったと反省しているとも。それならあの忌々しい男も楽に殺せただろうに」

 

 アザエルとネロの追及に、レフは全く動じずには堂々と肯定する。

 

 竜を殺す力を宿した、神殺しの聖槍。

 

 悪魔にして神にして龍種である兵夜にとって、この上ないほどに天敵である。

 

 聖槍の使い手は、その時点でサーヴァントにとっても脅威となる。その上それが英霊へと昇華し、サーヴァントとして呼ばれている。更に、とどめとしてその担い手の至った力は龍殺し。

 

 怨敵ともいえる兵夜殺しに、この上なく特化したブディカの力。こと最強の神滅具である聖槍の歴代保有者であろうとも、対兵夜に最も適しているのは間違いなくブディカだった。

 

 レフが知らない歴代最高峰の担い手である曹操ですら、その一点では勝ち目がないだろう。それ以上の効果を発揮できるであろうモノも、平行世界を含めても規格外の狂気を持つ一人のみ。そして彼もまた龍殺しを持っているからこそできる所業である。

 

 ゆえに、レフはブディカが兵夜を殺す事だけは確信している。

 

 才能、装備、バックアップ、果ては相性と全てが上回っている。ましてやその実力もレフ自身がしっかり認識して兵夜をしのぐと確信したのだ。これで勝てなければもはや何らかの意思が介入しているとしか思えない。

 

 ゆえに、レフはそれ以外の雑兵を潰すつもりでここに来ている。

 

「霊長類最高峰程度では、私は倒せない。さあ、我が王の寵愛を受けた私自らが、貴様ら下等な人間の駆除を行ってやろう」

 

 その言葉とともに、レフの気配は大きく変わる。

 

 サーヴァントのそれを軽く上回る圧力。

 

 その気配に、立花もマシュもオルガマリーもネロも、サーヴァントである荊軻すら震えた。

 

 それは、間違いなく恐怖の感情。

 

 圧倒的な実力差を持つ存在に対する、本能的な恐怖心が呼び起こされていた。

 

『全員気をつけて! サーヴァント複数分のシャレにならない魔力反応が突然発生したよ!?』

 

『っていうか、流れから言ってレフってやつがなんかしたんだろうな。……どうなってる? 全身鎧か? 巨大化か?』

 

「……そんなものだったらまだましだったわよ」

 

 震える声で、オルガマリーは吐き捨てる。

 

 そこにあるのは肉の柱とでも形容するべき代物。

 

 ジル・ド・レェが召喚した海魔ですら、これに比べればまだ可愛いと形容できただろう。

 

『この反応は、サーヴァントでも幻想種でもない! 伝説上の、本当の『悪魔』反応だ!』

 

「まったく優秀だなロマニ・アーキマン!」

 

 狼狽するロマニの言葉を肯定しながら、レフだったものは嗤う。

 

 まるで、その醜怪な肉の塊が心底誇らしいといわんばかりだった。

 

「この醜さが貴様達を滅ぼす!! そう、私こそレフ・ライノール・フラウロス!! 七十二柱の魔神が一柱! これが、王の寵愛そのものである!!」

 




今後の連載をどうしたものかと考え中。









第二部があれですからね。兵夜たちを残存させることが困難なので、さてさてどうしたものか。








兵夜はゴルドルフと仲良くなれそうなんですけどねぇ。アイツの性格なら「ありもしないベストを探してる間にポンと出てきたモアベター!!」とすさまじい勢いで絶賛するでしょうし、そのうえでその周りの警戒を怠るという痛恨のうっかりをぶちかますので、ん部に関していえばつつがなく進められるでしょうし。


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兵夜「これが、改造の力だ!!」 レフ「貴様、それでも正義の味方の味方か!?」

魔人柱出現!


さて、其の間兵夜は何をしているでしょうか?


 いくつもの目玉が規則性をもって並ぶ、漆黒の肉の柱。

 

 その吐き気を催す醜怪さに、本当に立花は胃から消化物を戻しそうになる。

 

 だが、それ以上に悲しみとも怒りともに憑かぬ感情が浮かび上がった。

 

「ふざけるな! そんな醜い化け物になるのが愛なわけあるか! あんたも、そんなものになってまで何がしたいんだ!!」

 

 パレットを取りこぼしながらも、しかし立花は気丈に問い質す。

 

 人間であったはずのものが、人間を辞めてまで人類どころかその歴史まで滅ぼした。

 

 その理由が全く持って分からない。理解したくもないが知らなければならない。

 

 だが、その返答は嘲笑だった。

 

「ハハハハハ! 目的はとうに済んでいると言ったはずだ! 君が言うべき言葉はこうだよ、立花くん!!」

 

「何だよ?」

 

「……いったいどんな理念で滅ぼしたのか、だよ!」

 

 心底から馬鹿にした口調でそう言い切り、そして攻撃を行う。

 

 その目が立花を見て輝くのと、その間にマシュが割って入るのは同時。

 

 そしてその瞬間、衝撃が響き渡った。

 

「ぅう!」

 

「マシュ!?」

 

「……もっとも、私には言う義理も権利もないわけだがね」

 

 その言葉とともに、瞳がぎょろぎょろと動きながら攻撃の衝撃を放つ。

 

 それをネロも荊軻も回避するが、しかし目の数が多いこともあって、接近できない。

 

 加えて、その攻撃力は高密度。一撃でももらえばサーヴァントといえど一撃で吹き飛びかねないほどだった。

 

『チッ! 一発一発の攻撃力が並の宝具の真名開放に匹敵してやがる! あの野郎、どんな絡繰りで化けやがった!?』

 

『っていうか七十二柱だって? だとすれば、彼の言う王とは―』

 

 通信越しからそのデータに警戒心をむき出しにするアザゼルと反して、ロマニは明らかに狼狽していた。

 

 とはいえそれも仕方がないだろう。

 

 七十二柱の魔神を従える存在。そんな存在、魔術の世界に生きる者ならばすぐに分かる。

 

「……魔術王、ソロモンが人理焼却の犯人だとでもいうの?」

 

 あり得ない、とは言い切れない。

 

 少なくとも、サーヴァントを如きと言い切れるような存在など、人類史に名を遺す英霊の中でも規格外の存在でなければならないだろう。

 

 かのソロモンならば、これだけの存在を呼び出す事が出来ても不思議ではない。

 

「流石にそれぐらいはオルガなら知っているか! だが、不用意に王の名を口にすると呪われるぞ?」

 

『どこのスリザリンの後継者だよ。とはいえ、こいつはまずいな』

 

 センサーを最大動員しながら、アザゼルはぼやく。

 

 この魔神柱とでも形容するべき存在は、シャレにならない規格外の存在だ。

 

 もしこの柱がD×Dに現れれば、まさに神クラスの猛威として暴れまわったことだろう。

 

 通常の聖杯戦争ならば、召喚されたサーヴァントが全員総動員して戦わねばならないほどの脅威だった。

 

 視界に映った場所を爆破する能力。更にサーヴァントすら害する広範囲に展開する謎の煙。極めつけに目玉の数が多すぎる所為で死角を突く事も困難。

 

 柱という形をとっているがゆえに動かないのは好都合だが、拠点防衛を通り越した拠点そのものによる防衛陣地は、この上なく強大だった。

 

『チッ! コイツぁ流石に想定外だ! 神クラスはこの世界には維持できないんじゃなかったのか!?』

 

 観測機器越しに状況を把握するアザゼルも、流石にこれには焦りの色を隠せない。

 

 神クラスのポテンシャルを秘めている兵夜は、そうでない側面を人間の幻霊で強化することによって、英霊として召喚している。アザゼルにしても技術者の側面を抽出することで召喚可能な状態にまでレベルを下げているのだ。

 

 そんな中、神クラスの化け物が目の前で暴れている。

 

 この事実には、アザゼルとて流石に驚愕する他ない。

 

 アザエルや兵夜の弱体化はカルデアの召喚システムの影響もあるが、しかしそれにしても敵の召喚技術の高さが分かるというものだ。

 

『とはいえそんなコードネームを与えられてるってことは、比較的上位の使いっパシリってことらしいな。……ちょうどいい、ぶっ倒したらそのまま生け捕りにするか、最低でも生体サンプルを回収しとけ。俺が解析する』

 

「何を言ってるのよ! そんな簡単に対応できるわけがないでしょう」

 

 他人事の気配がにじみ出て、オルガマリーはアザゼルに叱責の声を飛ばす。

 

 サーヴァント級二人、デミ・サーヴァント一騎に正規サーヴァント二騎がいる状況下で、しかし優勢なのはレフの方。

 

 生半可なサーヴァントを遥かに凌駕するその戦闘能力。本当に神霊がいたとしても、手こずる事受けあいの存在だ。

 

 そんな化け物相手に人が必死に戦ている時に、通信越しにのんきな事を言われてしまったのだ。久々にヒステリーを起こしたくなる。

 

 だが、そんな悲鳴じみた怒声にも、アザゼルはどこ吹く風だった。

 

『安心しろよ。……もう終わる』

 

 その言葉と同時に、確かに全て終わった。

 

冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)

 

 その言葉とともに、魔神柱が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん……だと!?」

 

 破裂する魔神柱が崩壊し、そしてレフの姿があらわになる。

 

 そして、それをなした影は即座に振り向くと、聖槍の一撃を光の棍で防いだ。

 

「……よぅ、無事かお前ら」

 

そう答えながら足を下したのは、ボロボロになっている兵夜の姿だ。

 

 全身に切り傷が生まれているが、しかし致命傷は回避しているのか、動きに違和感は発生していない。

 

 そして、何よりも目立っているのは、背中から生える翼だった。

 

 まるで鴉のような黒い翼が、兵夜の背中から生えていた。

 

 それはおかしいことだ、

 

 兵夜は人間から悪魔に変質したものだ。それゆえに、生えるのは蝙蝠のような悪魔の翼である。

 

 なのに、今兵夜から生えているのはそれとはまったく異なる鳥のような翼だ。

 

「兵夜、貴方……なにしたの?」

 

「ああ、ちょっと神器を弄らせてもらった」

 

 口から流れる血をぬぐいながら、兵夜はしかし笑みを浮かべる。

 

『ハーロットの肉体ベースが魔王レヴィアタンの末裔だったんでな。魔王血族の血を材料にして作られる神器のドーピング剤を、ダ・ヴィンチと一緒にちょっと改造しておいたんだよ』

 

『何分消滅するサーヴァントに肉体を薬剤の形で残すのは困難極まったから数は少ないけど、まさかドンピシャで必要な事態に陥るとはねぇ』

 

 はっはっはと笑い合う天才二人をBGMに、新たな乱入者が現れる。

 

「どういうことだ! なぜ私の聖槍が効かない!?」

 

 信じられないものを見るような眼で、ブディカが兵夜を睨み付ける。

 

「神であり、悪魔であり、そして龍である貴様が、我が聖槍の一撃に耐えられるわけがない! なぜそれだけ喰らって平然と戦えるのだ!!」

 

「知れたこと。……今の俺は堕天使だからな」

 

 黒い堕天使の翼を広げながら、兵夜はそう勝ち誇る。

 

「俺の通常神器、天使の鎧(エンジェル・アームズ)の亜種禁手、完全たる堕天使への覚醒(フォーリン・エンジェル・プロモーション)! 一時的な措置なうえに能力も低下するが、天敵が天敵でなくなるという事は、それだけの価値があるという事だ」

 

 平然とそんなことを語る兵夜に、その場にいる全員が目を見開いて……ドンビキした。

 

「貴様、正気か?」

 

「失礼な。そんなもん保有しているかどうかは自分でも疑問に思っている」

 

 レフをあっさりと一蹴し、兵夜は鋭い視線をレフに向ける。

 

「さて、それじゃあそろそろ終わりにしようか。聖杯を渡したうえで全部白状するっていうなら、殺すのだけは勘弁してやってもいいが……」

 

「舐めてもらっては困る。万が一の事態を想定した動きは、私にだってできるのだよ」

 

 その言葉とともに、聖杯から新たなる魔力が放出される。

 

「これは! 新しいサーヴァント!?」

 

「ふはははは! その通りだ。そして、こいつを倒すことは貴様らにはできん!!」

 

 驚愕するマシュを嘲笑するレフの声とともに、そのサーヴァントは姿を現す。

 

 全身に刻印が刻まれた、浅黒い肌の少女。

 

 だが、その佇まいは自然体のようでいて隙が無く、放たれる気配は明らかに強大。

 

 それは、下手をするとロムルスすら上回っているのではないかと思わせるほどの高い出力を発揮していた。

 

「私の勝ちだ。このセイバーは破壊の大王にして純然たる戦闘王。星が遣わした文明の破壊者そのものなのだから。根底に破壊を刻み込まれているこれを、貴様らがどうやって止めるというのだ? ローマがこれに滅ぼされるのは、運命以外の何物でもなのだから」

 

 そう高らかに告げるレフの言葉は、勝利の確信に満ちていた。

 

 それはすなわち、サーヴァント複数体分の力を保有している自分よりも、ローマを滅ぼす事においては優れているという事の証明。

 

『……なるほど、フン族の王、大王アッティラか。東西ローマ帝国を滅ぼしたとまで言われるそいつなら、対ローマ特攻ぐらいは持ってるかもな』

 

「中々の知恵袋を持っているようじゃないか。だが、この場からどうすることもできないのならば意味はない」

 

 アザゼルの推測を暗に肯定しながらも、しかしレフは動揺の色を見せない。

 

 それほどまでに、勝てるという確信があるからこその発言だった。

 

 よほど勝てるという確信があるからか、非常に饒舌にまでなっている。

 

「貴様ら人間の文明では、こいつを倒すことなどできはしない。なぜなら、こいつは文字通りの文明の天敵なのだか―」

 

「―黙れ」

 

 そのレフのセリフは、体ごと文字通り一刀両断された。

 

 後ろに立っていたアッティラが、三色に輝く剣を鞭のように振るい、レフを切り捨てたのだ。

 

 あまりの事態に、全員が動きを一瞬止めてしまう。

 

 ……そして、その隙が致命的だった。

 

「これが、聖杯か」

 

 そう、彼女は聖杯を手に取ってしまう。

 

 そして、挙句の果てに聖杯がアルテラの体の中に吸収されていく。

 

「―私は、フンヌの戦士である」

 

 そして、静かにアルテラは告げる。

 

「そして、大王である」

 

 放たれるのは、敵意とはまた異なる気配。

 

「この西方世界を亡ぼす、破壊の大王」

 

 殺意とも、また違う感覚の気配。

 

「お前達は言う。……私は、神の懲罰なのだと。神の鞭なのだと」

 

 そしてその次の瞬間、莫大な魔力が放たれた。

 




切り札:別の禁手の確保

とまあ、こんな感じで切り抜けました。弱体化は免れませんが、天敵オブ天敵がいる状況下では、弱点を突かれないというのは大幅にのし上がります。








そしてセプテム編の山場、VSアルテラ……は立花たちの役目です。








兵夜は、ここまでして対策を万全にしたあの女の始末がまっています。


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兵夜「そっちは任せたぜ、妹よ」 立花「それ死亡フラグぅ!?」

アルテラと聖杯の組み合わせにより大被害発生。さてさて、兵夜たちは大丈夫か?


 

 

 あまりに莫大な魔力の奔流に、俺は近くにいたオルガを連れて即座に全力後退。

 

「マシュは立花を守れ! こっちはこっちで何とかする!!」

 

「は、はい! 宝具、仮想展開……!!」

 

 星の聖剣の全力を受け止めたマシュの宝具なら、立花をカバーするぐらいなら何の問題もないはず。

 

 問題はこっちだ。射線から逃れたとはいえ、果たして間に合うか―!!

 

「おお! これぞまさしく圧政者の輝き! 圧政者よ、汝を抱擁せん!! それこそ……愛!!」

 

 なんかデカブツが俺達を通り過ぎて行ったので、思わず盾にしました。

 

 ……のちに味方のサーヴァントだと聞いて、流石に悪いと思ったのはここだけの話だ。

 

 だが、それでもその奔流は莫大で、俺達は勢いよく吹っ飛んだ。

 

「きゃぁあああああああああああああああ!?」

 

「しっかり掴まっていろ、オルガ!!」

 

 オルガをしっかりと抱きしめながら、俺は奔流を何とかしのぐ。

 

 そして力の波動が消え、振り向いた俺達の目には酷い破壊の痕跡が残されていた。

 

 ……連合ローマ帝国首都が、灰燼と帰している。

 

 相手の射線上にあった都市の部分は跡形もない。

 

 なんだこの火力は、マジで星の聖剣に匹敵する火力じゃねえか!!

 

「アザゼル! 立花とマシュは!?」

 

 星の聖剣の全力すら防げるんだから大丈夫だとは思うが、しかし流石に心配だ。

 

 俺が現界に支障をきたしていない以上大丈夫だとは思うが、しかしこれは―っ

 

『安心しろ。マシュも立花もランスロットもネロも無事だ。……ブーディカがギリギリで間に合ってな、相乗効果で何とかしのぎ切った』

 

 その言葉に、俺は安堵の息を漏らす。

 

「……そう、よかったぁ」

 

 オルガも一安心したのか、地面にへたり込んだ。

 

 ああ、どうやら何とか無事なようで何よりだ。

 

 だが、通信越しのアザゼルの声はかなり緊張感が漂っていた。

 

『残念だが事態は深刻だ。……召喚されたサーヴァント、アルテラは現在首都ローマの方向に向かって進軍中だ。あの女、徒歩でローマを潰しに行きやがった』

 

 おいおいおいおい。流石にまずいぞ。

 

 これだけの疲弊状態で首都が壊滅すれば、ローマ帝国は確実に終了だ。

 

 これならまだネロを殺された方がましじゃねえか!

 

「仕方がない。すぐにでも追わないとまずいな」

 

『ああ。……と、言いたいがそっちは立花に任せろ』

 

 なんだと? とは思ったが、すぐにどういうことか理解する。

 

 足音が、聞こえた。

 

 そこにいるのは、ぼろぼろになった赤い髪の女。

 

 ブディカが、そこに立っていた。

 

 攻撃の余波でこちらに吹き飛ばされたらしい。つまりは、死に体だ。

 

 しかし、それでも彼女の目からは憎悪の炎が残っていた。

 

「……どけ。ローマを蹂躙するのは、私のやる事だ」

 

「いや、そういうわけにはいかないな」

 

 まったく。面倒な事になったもんだ。

 

「立花、聞こえるか?」

 

『うん! なにかなお兄ちゃん?』

 

 元気そうな声で何よりだ。

 

 だから、ちょっと無茶振りしよう。

 

「スマンが野暮用だ。……アッティラは任せる」

 

『……OK。そっちは任せたよ』

 

 ああ、察しのいい妹で助かるぜ。

 

 俺は通信を切ると、静かにブディカを見据える。

 

 彼女のローマに対する恨みは正当で、彼女はローマに復讐する権利があるのかもしれない。

 

 だが、それは俺達の世界のローマであって、このローマじゃない。

 

 この世界のブーディカがローマを救う事を選んでいる以上、彼女の行動は余計なお世話に過ぎない。

 

 それを、見過ごすわけにはいかないさ。

 

 元より、彼女は俺の世界の住人。俺が来た事で向こうの警戒心を強めてしまったというのなら、その責任は俺が果たす他ない。

 

「……さあ、聖杯戦争を始めよう。……お前の八つ当たりはここで終わる」

 

「終わらんさ。我が復讐はこれから真なる意味で始まるのだから!」

 

 そして、俺のローマにおける最後の戦いが始まった。

 




セプテム編の最終章スタートです。

神殺しの聖槍vs神喰いの神魔。果たして勝利の女神はどちらの神を倒すものに!!


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兵夜「……恨みつらみというのは何でこうややこしいことを引き起こすのやら」

 

 放たれるのは聖なる輝きに満ちた数十もの光の閃光。

 

 同時に放たれていると錯覚しそうになるほどの連続攻撃を、しかし俺は見切って躱す。

 

 これまでの戦いにおいても、ブディカは本気で俺を殺そうとしかけてきた。

 

 しかし、俺はこうして無事だった。

 

 本来ならばおかしな話だ、聖槍であるというだけで、本来の俺にとっては天敵以外の何物でもない。それに龍殺しが追加など、もはや笑うことしかできないレベルだ。

 

 かすめるどころか近くにあるだけで致命傷を追いかけない。

 

 最初の一撃で、俺は消滅していなければおかしかった。

 

 だが、俺は生きている。

 

 その理由を、俺はよく理解している。

 

 そう、これだけの猛攻をしのげているのも、それが理由だ。

 

「お前、奴より弱いな」

 

「……っ」

 

 挑発でも何でもない事実としての発言に、ブディカの眉がつりあがる。

 

 だが、事実だ。

 

 三国志の英傑、曹操の名を名乗る男がいた。

 

 自分がどこまで行けるかという、ある意味多くの人が一度は持つであろう願いを、本当に挑戦した男だ。

 

 そのやり方がテロ行為である辺り問題児というかなんというかだが、それはともかく。

 

 奴は、間違いなく歴代でも最強候補の聖槍の担い手だ。

 

 そして俺は、その担い手の理想形とすら言われる戦い方をもってしてここまで来た。

 

 目の前の女が、正真正銘の英雄であったとしても。

 

 彼女が、俺の天敵たりうる禁手に目覚めていたとしても。

 

 奴より格下の聖槍使いに負けているようで、あいつの隣に立てるかよ!!

 

 忘れるな宮白兵夜。俺は兵藤一誠の隣に並び立つと決めたんだろう。歴代最優にして最強の赤龍帝に並び立つ、神喰いの神魔になると決めただろう。

 

 だからこそ、正気の常人なら絶対にしない量の改造手術を受けたはずだ。それだけの決意と覚悟と本気と気合と根性をもって、不条理な才能の差を塗り替えたんだろう。

 

 その俺が、この程度の輩に負けるなど納得できるか!!。

 

「来い、三下! 悪いがお前より強い聖槍使いを潜り抜けた俺が、対策万全の状態で負けるわけにはいかないんだよ!!」

 

「ほざくなよ、小僧!!」

 

 攻撃の密度も速度も上昇するが、しかしそれを俺は意地で防ぐ。

 

 薙ぎ払いも突きも振り下ろしも、全ていなす。

 

 だが、その程度で俺は負けん。

 

 戦士としてのお前の力量は曹操より下。その時点で、負けてやる理由はなくなった。

 

 何より、移動中に聞いたブーディカの話を思い出す。

 

 彼女は、本来なら連合ローマの側に立ってローマを滅ぼしてもおかしくなかった。

 

 だが、しかしそれでも人理を守る為、ローマに住まう民を守る為に戦う事を決意した。

 

 そう、彼女はそう決意したのだ。

 

 ならば―

 

「アンタの恨みは向こうで晴らせ! ここはローマを守ろうとする勝利の女王が戦う場所だ!!」

 

「ほざくな! その程度で止まるような復讐ならば、大国を敵になどするものか!!」

 

 渾身の攻撃を、しかし執念の一撃が弾き飛ばす。

 

 それだけの高密度の攻撃を、彼女はしっかりと放っていた。

 

 なるほど、これが英霊の座に届くほどの聖槍の担い手の渾身か。

 

 だが、それでも!

 

「負けてやるわけには、いかないんだよ!!」

 

 俺もまた、負けられない理由がある。

 

 だから、そう簡単にこの場を譲るわけにはいかない!

 

 渾身の力を込めた聖槍が振り下ろされんとする中、オレもまた義足を開放する。

 

 おそらくこれが最後の攻防。

 

 さあ、決着をつけようか!!

 

「撃ち抜け、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)!」

 

「蹴り落とせ、冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)

 

 そして攻撃が同時に放たれる。

 

 瞬時に最高速に到達する攻撃は、しかし聖槍の方が早い。

 

 ……まずいな。

 

 だが、せめて消滅する前に追撃不能の一撃は叩き込む!!

 

 届くか、いや―

 

―届かせる!!

 

 そして、攻撃は交差し―

 

「―兵夜!!」

 

 俺は、失念していた。

 

 ここには、もう一人いた。

 

 そう、オルガマリー・アムニスフィアという、心強い少女がいたのだ。

 

 彼女の裾から鎖が放たれ、聖槍に直撃し軌道を逸らす。

 

 そして、俺の一撃はブディカを貫いた。

 

「………かはっ」

 

 口から血を吐き、ブディカは数歩後退する。

 

「まさか、サーヴァントでもない小娘にしてやられるとはな」

 

 自虐の感情が込められた視線を向けられ、しかしオルガマリーは息を呑みながらもその目を見返す。

 

「私は、人理を守るカルデアの所長です。人理焼却を、黙って見過ごすことなんてできないわ」

 

 一応言っておくが、肩が震えてるぞ。

 

 しかし、今のは擬態の力か。

 

 肉体の一部を変化させて、自分の武器として運用したんだな。うん、成長してる。

 

 まあ、服の内側からなのは乙女心なのだろう。何も言わないでおくのが吉か。

 

「……無念だ。あまねくローマに滅びをもたらす事こそ、我が願いだというのに」

 

「はっ! 元凶であるスエトニウスはおろか、皇帝ネロすら死んでいる現代のローマにまで危害を加えようとかアホか。そんなことは俺が許さん」

 

 悪いが、俺は正当性のない復讐には不寛容だ。

 

 復讐するなら相手を選んで。邪魔しているわけでもないのに、無関係な連中を巻き込む事は認めない。

 

 そう。正当性のない報復でイッセーは体を失った。

 

 それを心から怒る俺が、同じことをするわけにはいかないのだから。

 

「ゆえに何度でも召喚されるがいい。俺の目の黒いうちは、そんなふざけた八つ当たりはやらせんと覚えておけ」

 

「……ハッ! なら精々この人理焼却を阻止して見せるがいい」

 

 その言葉に、口から血をこぼしながらもブディカはしかしを歯を剥いた。

 

 好きにするがいい。自分も好きにさせてもらう。

 

 邪魔をするなら今度こそ殺すのみと、視線がそれを語っていた。

 

「もっとも、貴様如きに奴らを倒す事など、できるわけがないだろうがな!」

 

 その言葉とともに、ブディカは消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何とか帰還した。

 

「おかえり、みんな! そしてお疲れ様!」

 

 ロマニが笑顔で迎えるが、さて、どうしたものか。

 

「オルガ、とりあえずロマニをどう〆る?」

 

「さて、とりあえず簀巻きにして宙づりは基本かしら?」

 

「いきなり怖いよ!? 僕何かした!?」

 

 俺とオルガの鋭い視線に悲鳴を上げるロマニだが、これに関してはお前が悪い。

 

「まったく。人のことは言えんが、お前不眠不休が必要な行動はサーヴァント(アザゼル)に任せとけよ。何やってんだこの馬鹿」

 

 はあ、と心底ため息をつく。

 

 薬物投与なぞ軽く百回はしている俺だが、かといって寿命を削るような真似はしていない。

 

 投与している薬物は、基本的に動物実験位は終わっているものだ。最低限の安全性は確保している。

 

 将来的に軍用の強化人間の強化用に使われてもおかしくないような代物だ。後遺症などもちゃんと考慮したうえで強化している。

 

 まったく。不眠不休で行動できるサーヴァントがいる状況で、人間が不眠不休など笑い話にもならん。

 

「ロマニ? 一応言っておくけど、所長は私だから。無茶なまねをするなら、ちゃんと私に言ってからにしなさい」

 

「ひぃバレてる!? だ、誰が気が付いたんだい!?」

 

 オルガがロマニに説教する中、俺はため息をつくとシャワーを浴びに行く。

 

 なんというか疲れた。いろいろ汚れた気分だし、霊体化してシャットアウトするより気分的にはシャワーだろう。

 

「よう宮白。お疲れさん」

 

「アザゼルか。後方支援は助かった」

 

 と、途中でアザゼルと顔を合わせる。

 

「ロマニの監視はこれからもよろしく頼む。あの手のタイプは言われても躊躇なく行動する臭いがするからな」

 

「同感だ。これからしっかり目を光らせとかねえとな」

 

 やれやれと肩をすくめるアザゼルだが、アンタはアンタで苦労背負うだろうに。

 

「しっかし、五の動乱の時もそうだったが、こっちでも肝心なところは立花やマシュ(子ども)に頼り切りとはな。まったく、大人としちゃぁ情けないぜ」

 

「そういうな。ここでは俺らは異邦人。その辺りはちゃんと考慮しておかないとな」

 

 ああ、まったくもって情けないといえば情けない話だ。

 

 人類存続を可能とするかどうかの瀬戸際の、その大事な命運を立花とマシュだなんて子供二人に任せる羽目になってるんだからな。

 

 オルガだってまだまだ子供だし、そういう意味だと色々あれだ。

 

 ここは、俺達が全力でカバーしないとな。

 

「ま、後方支援も立派な貢献だ。前線は俺が動くから、そっちは技術的な方向でサポート頼むぜ」

 

 俺はそう告げるが、しかしアザゼルは首を振る。

 

「いや、そうも言ってられないだろうな。こと元凶に関してはまだ手付かずだしよ」

 

 ああ、レフの奴はくたばってたもんな。

 

 アイツがことの中枢に近いところにいたのは事実だ。せめてレイヴンがいれば、死体からでも情報を抜き出せたかもしれないが……。

 

「まあ、特異点を解決していけば、否が応でも向こうから出てくるだろう」

 

「だな。いくつもの問題を並列作業で解決するより、先ずは数を減らしていく方が重要か」

 

 俺とアザゼルは、そう認識を一致させるととりあえず分かれる。

 

 だが、人理焼却か。

 

 そんな前代未聞の所業に対して、抑止力は何をしてるんだか。

 

 まったく。これは流石にやばすぎるだろう。

 

 ……七分の二を解決したとはいえ、これはもっと気を付けないといけないな。

 

 オルガと立花とマシュの未来、きちんと作ってあげなくちゃな。

 




セプテム編、終了。









さて、次はオケアノス編……の前に、最近再配信されたzero編に行きます。

本来ならゲーティアの介入がない小規模な特異点ですが、今回はそうはいきません。ゲーティアはさすがに兵夜をイレギュラーと認識していますので、警戒心はかなり強いのです。


異聞第四次聖杯戦争は、最終決戦あたりでかなりハードになりますので、お楽しみください。


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二章初登場サーヴァント 説明

メッセージで要望があったこともあり、ネタバレにならない範囲でアザゼルの情報もだしています。


◇???(アザゼル)

 クラス:キャスター

 中立:中庸

筋力E 耐久D 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具A+

【クラス別スキル】

 陣地作成:C+

 魔術師に有利な工房を作り出すスキル。

 科学的にも神秘的にも優秀な「研究施設」を作り上げることが可能。これによりカルデアを魔改造している。

 

 道具作成:A+

 科学的にも神秘的にも優れたアイテムを作成することが可能。

 人型ロボットからUFO。龍を宿した宝具クラスの代物まで自由自在。薬なども作れる万能の天才。

 

【保有スキル】

 カリスマ:B

 集団を統率する才能。

 一国クラスの組織を率いるなら破格の才能なのだが、当人の性格に割と問題がある為、効果にムラがあるのでこのランク。つまり平均値がB。

 

 堕天の極光:A+

 天使から落ちた存在として、光に類似した神秘的エネルギーを運用する。

 最高クラスの堕天使であるアザゼルは、当然の如くこのスキルを高ランクで保有。生半可な宝具を凌駕するほどの火力を保有する。

 

 魔性の知慧:A+

 天賦の才といえる頭脳に、非常に長い年月による蓄積が加わった無数の知識。

 英霊が独自に所有するものを除いた数多くのスキルを、C~Aランクの習熟度で発揮可能。また、それを時間とムラはあれど、あらゆる存在に授けることも理論上は可能。キャスターがよく運用するのは概念改良による技術の洗練。

 

 

 星の開拓者:EX

 人類史においてターニングポイントとなった英雄に与えらえる特殊スキル。

 これに関してのみアザゼルではなく、疑似サーヴァントとしてのスキル。

 

【宝具】

 ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ブディカ

 クラス:アヴェンジャー

 中立:悪

 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具B++

【クラス別スキル】

 復讐者:B+

 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

 ローマ由来の存在に限ればその効果は大幅に向上する。

 忘却補正:B++

 人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、クリティカル効果を強化させる。

 ローマ側の存在に対しては常にクリティカル補正が発生すると言っても過言ではない。

 自己回復(魔力):C

 復讐が果たされるまでその魔力は延々とわき続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。

【保有スキル】

 戦闘続行:B+

 復讐を果たすまでは死ねないという執念。瀕死の傷でも戦闘を可能歳、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 ローマ由来の英霊からの攻撃の場合、決定的な致命傷を受けても数ターンなら活動可能。

 カリスマ:C+

 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

 ローマに由来する者達との戦闘の場合、その効果は呪いの域となる。

【宝具】

 黄昏の光にて眠れ蛇よ(トゥルー・ロンギヌス・サマエル)

 対龍宝具 ランクEX レンジ:2~3 最大補足:一人

 黄昏の聖槍の亜種禁手。黄昏の聖槍に龍殺しの特性を追加させる。

 聖杯により龍の特性を宿したローマ兵を倒す為に覚醒した能力。それほどまでに、彼女のローマに対する憎しみは深い。




まあ、こんなもんです。はい。


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異聞第四聖杯戦争 冬木
兵夜「ふと気づくと、そこは数か月後でした」 新入り1「カルデアに来たらサーヴァントが眠っていたので驚いた」 新入り2「っていうか異世界の英雄がサーヴァントとか何でもありね」


そういうわけでzero編です。


 

 そして目を覚ました時、俺はそれが異常だということに気が付いた。

 

 サーヴァントは基本的に睡眠を必要としない。つまり寝る意味がない。

 

 そしてカルデアは広大だ。掃除の手間と必用時間は大量にある。必然的に眠っている暇などない。

 

 故に気が付いた。

 

 ………俺、気絶してた!?

 

「あら、起きたのね」

 

「なるほど、起きたようだ」

 

 そして見慣れない奴が二人ぐらいいるんだけど!?

 

 露出度の高いロリッ娘と、なんかホムンクルスっぽい色の薄い少年。

 

 何だこの取り合わせは!? 何事だ!?

 

「お、ようやくお目覚めか。おはようさん、宮白」

 

 と、そこにアザゼルが入ってきた。

 

「アザゼル。これはどういうことだ!?」

 

「簡潔に説明すると、ブディカとやり合った時の影響で、お前気絶してた」

 

 そして一体なんでこんなことになった!?

 

「色々大変だったんだぜ? 魔法少女の世界と繋がったり、立花が平行世界の更にその裏側に意識を逆召喚されたり」

 

 意味が分からん!?

 

 え、どういう事だ? 何が起きたんだ?

 

 誰か教えてくれ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……簡潔にまとめよう」

 

 俺はとりあえず、起きた事を知ったオルガに殴り飛ばされ、立花に泣きつかれ、マシュとロマニに心配された。

 

 あと色々とカルデアが汚れていたので掃除しようとしたが、それは止められた。

 

 で、話をまとめると。

 

 俺が気絶している間、カルデアは他の特異点を探す事に集中。立花は訓練を積みながら、次の準備をしていた。

 

 ブディカの禁手は俺の霊核にかなり損傷を与えていたらしい。既に数か月ぐらい経っている。

 

 で、その間に色々とトラブルが発生したようだ。

 

 一つは異世界との接触。

 

 この世界線とは似ているようで決定的に異なる世界及び、魔法少女の世界的なものと接触。同じく迷い込んだ者と共に、事態を解決したらしい。

 

 お人好しだな。この状況下で余裕もないだろうに。

 

 ……まあ、そういう事が出来る奴が得するべきだとは思う。後々のフォローはきちんとしておこう。

 

 そしてもう一つは、立花が平行世界に召喚された事。

 

 厳密には平行世界のかつ世界の裏側。そこに意識だけ逆召喚されたらしい。

 

 なんでも冬木の大聖杯がとある魔術師の集まりに奪われ、それが遠因となって世界各地で劣化型聖杯戦争が頻発している世界だとか。

 

 で、紆余曲折あって人類不老不死化を巡って大聖杯争奪戦が繰り広げられ、事態を解決する為に邪龍ファヴニールへと変化させて世界の裏側に大聖杯を持っていく事になったとか。

 

 うん、わけ分からん。

 

 まあいい。とりあえず重要視するべきは一つだ。

 

「……パンツに執着心が出てきたらすまん。俺達との接触による感染だろう」

 

「……アザゼルにも同じ事を言われたんだが、どういう事だ?」

 

 スマンが言いたくない。

 

「なによ。あなた達のいた世界じゃ、ファヴニールって変態なの?」

 

「………」

 

「沈黙って、逆に雄弁よね」

 

 小学生に同情された。

 

「まあいい。其れで一応自己紹介だ。俺は立花の血の繋がらない兄貴である、リチャード・ジョーダン・ガトリングのサーヴァント、宮白兵夜」

 

「クロエ・フォン・アインツベルンよ。ちょっとした来歴の応用で、分身をサーヴァントとして召喚させたわ。よろしくね」

 

「ジークだ。……同じく分身をサーヴァント化させている。よろしく頼む」

 

 ……またすごいのが出たな。

 

 俺やアザゼル達もそうだが、どんどんイレギュラーになってきてないか。カルデア。

 

「……正しい意味でのサーヴァントがランスロットしかいないのって、どうなのかしら?」

 

 あ、オルガが頭抱えてる。

 

 まあ、カルデアに今いるサーヴァントって、正統派というか本来の意味でのサーヴァントがランスロットしかいないからな。

 

 正体不明のサーヴァントを宿したデミ・サーヴァントのマシュ。異世界の存在を宿した疑似サーヴァントである俺とアザゼルとハーロット。そしてサーヴァントというかなんというかなクロとジーク。

 

 ……カルデアのサーヴァント、俺が関わった聖杯戦争のサーヴァント以上にとんでもないのが多いな。色物だらけだな、オイ。

 

 まあ、そっちの方がイレギュラー過ぎて、人理焼却の下手人も迎撃がしにくいと思うんだが―

 

『はーい。みんなの頼れるダ・ヴィンチちゃんだよ~。緊急事態が勃発したので、サーヴァントとマスターは全員集合~。これはロマニも言ってるからねー』

 

 ……考えてる暇もないってか。

 

 まあ、普通に考えれば特異点の座標が判明したという事だろう。

 

 さて、今度の特異点は何処に出て来るのかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、緊急事態だ」

 

 ロマニがいつになく真剣な表情というか、困った顔をしていた。

 

「……どうした、ロマニ」

 

 特異点が発見されたのは良いが、それが異常事態ってことか?

 

「ドクター。今度は何? まさか第二次世界大戦が核戦争になったとか―」

 

 立花。怖い事考えないでくれないか?

 

 それも人類滅亡だからな? 俺達だけだとどうしようもないからな?

 

「いや、そうじゃないんだ。ただちょっと面倒な事になってね」

 

 困り顔のロマンに代わって、アザゼルがコンソールを操作する。

 

 そして映った特異点は、おかしなものだった。

 

 ……特異点F。俺が召喚された特異点だ。

 

 あそこは崩壊したはずだが、どういう事だ?

 

「場所は冬木なんだが、時代が特異点Fから更に十年ほどさかのぼっている。その辺についてまず意見を聞きたい」

 

 ……ああ、そういう事か。

 

「なんとなくだが、それについては想定ができる」

 

「ん? ジークも知ってるのか?」

 

 意外な人選だな。

 

「いや、直接世界線が関わっているわけじゃない。ただ、おそらくこの世界線よりは俺のいた世界線が近いだろう」

 

「なるほど確かに」

 

 そういえばこっちよりは近いだろうな。

 

「あん? お前ら何か知ってるのかよ?」

 

「知ってるも何も、おそらくそれ、第四次聖杯戦争だ」

 

 たぶん前にも言っていたと思うがな。

 

 聖杯戦争は本来、冬木で60年周期に行われていたものだ。

 

 おそらく時期的には第四次聖杯戦争。俺が生きていた時に知っている聖杯戦争で、最も近い時代のものだ。

 

「聖杯戦争はそもそも、御三家が冬木市で行っていたものだ。それも聖堂教会と協力体制を取って、秘匿を厳重に行なわれていた」

 

「まあ、第四次は割と大変だったらしいな。殺人鬼がキャスター召喚してF-15Jが二機もなくなったとか、余波によるものと思われる大火災が起きて数百人が死んだとか」

 

 聞けば聞くほど一般市民にとって厄ネタだな。

 

 ちょっと一般人に危害を加えないようにする努力をしてくれないかねぇ、マジで。

 

「……そういえばフィフスが嫌な事言ってたな。冬木の聖杯はアインツベルンがポカしてとんでもないものになったとか」

 

「ふむ。なら俺の世界線との分岐はそれだな。俺の世界線ではルーラーを自陣営で召喚しようとして、ある程度成功した程度で済んでいる。実際、俺の世界の大聖杯はちゃんと機能していたからな」

 

「あのさぁ、二人だけで話し合わないでくれない?」

 

 冬木の連続聖杯戦争談義で盛り上がりかけて、クロエに注意されてしまった。

 

 小学生に注意されるとはちょっとショックだが、それはまあいい。

 

 とにかくそういう事だとすると―

 

「冬木の大聖杯がバグを起している可能性を念頭に置くべきだな。……とりあえず、現場に行って調べるしかないだろう」

 

「宮白の言う通りだな。ちょうどいい、規模は七つの特異点より小さいみたいだし、新入りを連れて行ってこい。全員西暦二千年前後の連中だから溶け込みやすいだろ」

 

 アザゼルの言う通りかもしれないが、ちょっと油断しすぎじゃねえか?

 

 大聖杯って、なんだかんだで人が作り出した中だと最高峰の魔術儀式なんだが。

 

 ま、実際七つの特異点で召喚されたサーヴァントは数多いからな。冬木の聖杯戦争とは比べ物にならないのは事実だ。

 

 新入りのテストもかねて調べてみるのが一番か。……二千年代前後の奴らなら、まあ適合するだろう。

 

「了解です、アザゼル先生。……そういう事なので、ランスロットさんは今回はカルデアの護衛をお願いします」

 

「実際魔法少女絡みだと襲撃されたからね! 護衛よろしく!!」

 

「Aruuuu……」

 

 マシュと立花に頼まれて、ランスロットは頷いた。

 

 しかしなんか困っている感じがする。……冬木に心当たりでもあるのか? 円卓の騎士が?

 

 まあいい。とにかく今回は規模は比較的小さめだろう。

 

 ……マシュに俺、ジークにクロ。そしてオルガも戦力として使える。

 

 供給ポイントである立花の容量が心配だが、それでも比較的容易になるはずだと思いたい。

 

「とりあえずクロエに服持ってきてくれ。その格好だと目立つからな。……いや、子供服はないだろうから俺が縫ってくる」

 

「お前、裁縫まで出来るのか。凄いな」

 

 アザゼルに呆れられるが、裁縫ぐらい家庭科でやるだろうに。

 

「いや、あなたが何考えてるか分からないけど、たぶん的外れな事を考えてるわよ?」

 

 悪かったなクロ。時々ずれるのは自覚はあるんだが、どうにもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきり言おう、俺は第四次聖杯戦争の勝敗をよく知らない。

 

 そして、この特異点が何故特異点になったのかについて、うっかり想定するのを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とどめに、俺は思った以上に敵側に警戒されていたらしい。



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とあるサーヴァント「お久しぶりだね、宮白兵夜KUN!!」 兵夜「ふぇっくし!! ……誰か噂でもしてるのか?」

来るぜぇ! 奴がくるぜぇ!!


 

「……うわっちゃぁ。二人ほどはぐれになっちゃったよ。これは上に怒られるかな?」

 

 闇の中、魔術師はそう額に手を当てて自分の失敗を悟ってしまう。

 

 だがしかし、魔術王には手加減をしてもらわないと困るというものだ。こんなものは想定できるわけがない。

 

 彼女の、来歴から結晶化したがゆえに想定しづらい宝具。しかもそれを別のサーヴァントが運用する。

 

 こんなものは想定できるわけがない。自分だからこそ訳が分かるが、他の者なら状況を理解する事すらできないだろう。というより、自分ですらよく分かっていない。

 

「……見た感じ、宝具のコピー能力かNA? 贋作者者の逸話のある英雄なら手にできそうだけど、それが何であの魔女と関わってるのかNA?」

 

 疑問符を巡らせるが、しかしそれは分からない。

 

 さっさと捕まえて情報を解析するのが一番だとは思うが、しかしそれも今は難しい。

 

 自分は戦闘を得手とする者ではない。本質的に制作者であり、サポートタイプだ。

 

 ある意味だからこそ選ばれたのだ。この愉快痛快で、前代未聞の聖杯戦争に。あの神喰いに対抗する戦力として、自分のようなものを嫌うはずの人理焼却者が選ぶしかないと判断するほどに。

 

 しかしまあ、彼にとっても自分の存在はイレギュラーだろう。

 

 奴は規格外の化け物だ。そして、自分はイレギュラーだ。

 

 どちらが勝つのかは分からないが、きっと楽しい戦いになるだろう。

 

「じゃあ、先ずはこれを使ってと。あとカウンターシステムはこれだったかなぁ~っと」

 

 焼却犯から切り札を貰っているが、然しそれは極めて低レベルな代物でしかない。この大聖杯を運用しながら出なければ、目立った成果は出せないだろう。

 

 ようはテストなのだ。自分が戦力として使えるかどうか。そしてあの神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)に対抗する為の戦力として使えるかどうか。

 

 精々遊ばせてもらうとしよう。サーヴァントとして、ちゃんと言うことはきちんと守ったうえで遊ぶ気だ。

 

 とは言え、どうやらカルデアもこの特異点に気づいたらしい。間違いなく出てくるだろう。

 

 ……よし。こうしよう。

 

 徹底的に精神的に、宮白兵夜にダメージを与える事から始めよう。

 

 なにせこちらは愉快犯の魔術師だ。相手の精神を抉り取る事にかけてはトップクラスという自負がある。

 

 そして、あの男の弱みはよく理解している。

 

 なんだかんだで身内に甘い。優先順位こそ決定しているが、しかしなら一番上も呼べばいいだけだ。

 

 第一特異点で行われた細工と、この世全ての悪があれば、それ位はできる。

 

「じゃあ、負けた借りは返さないとね♪」

 

 それまでは自由に動かしておこうと判断し、そのイレギュラーは嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異聞第四次聖杯戦争、ここに開幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、いつもの事だがレイシフトは成功だな。

 

「さて、出てきたは良いけどどこから動けばいいかしら」

 

 冬木の街を見渡しながら、オルガはそう言って困り顔になった。

 

 一応俺達も強化されてる。その証拠に、オルガの右手には令呪が浮かんでいる。

 

 俺とオルガは双方向で命を相互で補完し合っている状態。それゆえにできた反則手段で、オルガは俺のマスターということになっている。

 

 ちなみに、立花との念話に関しても問題ない。その辺りに関してはラージホークに格納していたアーチャー製の礼装で解決した。

 

「それにしても平和な町ですね。とても特異点Fのような、大災害が起きるとは思えません」

 

 マシュがどこか笑みを浮かべながらそういう。

 

 まあ、魔術的な観点を飛ばせば、冬木は平々凡々とした地方都市だからな。

 

 日本という国は世界でも有数の平和で治安がいい国だ。そうマシュが思うのも、当然といえば当然だ。

 

 だが、魔術師の殺し合いというのはこっそり隠れて行われるもの。

 

 この裏で、既に血で血を洗う殺し合いが勃発していたとしてもおかしくない。

 

 俺はともかく、一般人側で生活していた立花もその辺は緩いからな。その辺は分からないかもしれないな。

 

「気をつけなさい、マシュ。魔術師というのはアサシンのように世間の目を盗んで行動を起こす者よ」

 

「そうね。基本的に陰気なのが魔術師よね」

 

 オルガに対してクロがそう茶化すが、しかし言われた対象のマシュはちょっと恥じ入った。

 

「す、すいません。少々油断をしていました」

 

「気にしなくていい。お互いまだまだ素人が多いんだ。皆でフォローすればいいだけだろう」

 

「フォロー取られた!? ジーク酷い!?」

 

 立花がマスターとしての立場をサーヴァントに取られて絶叫する。

 

 うん、緊張感がないな。

 

 ここは年長者として、一言告げるべきか?

 

「はいはいお気楽モードはそこまで。一応言っとくが、聖杯戦争中の現場なんて、魔術師や聖堂教会がピリピリしてるんだから、もう少し気をつけろよな?」

 

 マジで気を付けないとまずいからな。

 

 なにせ俺達はイレギュラー。下手に運営スタッフに勘付かれれば、真っ先に排除の対象になりかねない。

 

 なにせ俺達、外見は英雄になんて見えないからな。しかも、サーヴァントのクラスがイレギュラーだったり重複してたりで厄介だ。気づかれたらややこしい事になるのは確実。

 

 どうもカルデアとの通信も悪いのか、ロマニやアザゼルからの通信も届かない。

 

 もうちょっと緊張感を持って行動するべきなんだが―

 

「―その通りだ。良い事を言ったな、そこの少じょ……少年」

 

「―だが君も油断してるぞ? まずレイシフトとやらを行う前に指摘しておくべき事柄だ」

 

 ―その言葉に、俺達は一斉に振り返った。

 

 そこにいたのは赤い服を着た二人のサーヴァント。

 

 一人は黒い肌に白い髪の、どっかクロに雰囲気が似てる男。もう一人は、どっかで見たことがあるような、黒い長髪の男。

 

 ……ヤバイ、どっちもサーヴァントだ。

 

「お、お兄ちゃんヤバイ!! その二人、特異点で戦ったサーヴァント!!」

 

 え、マジか立花。

 

 チッ! ってことは人理焼却の犯人が召喚したのか―

 

 臨戦態勢に入る俺達だが、しかしそれより早く黒髪の方が手で制した。

 

「待て。確かに私の方は特異点の記憶があるが、ここで君達と事を構える気はない」

 

 なに?

 

「我々としてもこの聖杯戦争で無用な被害者を出すのには思うところがあってね。今ははぐれサーヴァント同士、共闘をしていたところだったのだよ」

 

 白髪の方もそう言ってくるが、しかし信用していいものかどうか。

 

「……どうする? マスターの負担もある、あまりサーヴァントと契約するべきではないが―」

 

 ジークの意見ももっともだ。オルガはマスター適正などがないので、一蓮托生の俺以外との契約はできない。立花も魔術師としてはへっぽこなので、カルデアのサポートが十全じゃないこの状況下でいくつものサーヴァントの運用は―

 

「なら、強引に代価を払うしかないな」

 

 おい、何のつもりだ黒毛。

 

 なんかしでかしそうなので警戒するが、黒髪は眉間にしわを寄せながらため息をついた。

 

「ミス・アニムスフィア。君ほどの魔術師が相手のテリトリーの入っている事に気づかないのは情けない。私が知っている君なら、今頃勘付いているはずなのだがね」

 

「え? ……しまった!?」

 

 どうしたオルガ!

 

「この辺り一帯、魔術結界が張られているわ!! あなた何かしたの!?」

 

 なんだと?

 

 レイシフトのタイミングで、既に相手の魔術工房に入ってしまったのか?

 

 ついていないのにもほどがあるだろうが。幸先悪いにも限度がある。

 

 だが、黒髪の方は首を横に振った。

 

「いや違う。私は疑似サーヴァントだがその能力でね。移動式の魔術工房のようなものだとでも思ってくれればいい。……アーチャー、右だ」

 

「承知した」

 

 その言葉とともに、白髪の方の手に黒鍵という代行者の装備が生まれる。

 

 武器精製能力か、俺と同じ格納能力持ちか?

 

 俺が警戒するなら、その男は何もないところにそれを投げて―

 

「―ガッ!?」

 

 そして、ナイフを投げようとしていたサーヴァントの眉間に突き立った。

 

 あれはアサシン!? しかもハサン・サッバーハの系譜か!

 

「貴様、どうやって……」

 

「気配遮断スキルを見破ったかについては、先ほど展開した奇門遁甲によるものだ」

 

 と、黒髪はさらりと告げた。

 

「態々消耗覚悟で展開してたのは当然だ。貴様らがいる事は知っていたからな」

 

 知っていた?

 

 俺達が疑問に思う中、黒髪は葉巻を一回吸うと、紫煙と共にペラペラしゃべってくれる。

 

「お前達が百人近い数に分裂していて、アーチャーにやられたと見せかけて共同戦線のサポート役をやっている事は最初から知っている。ならばレイシフトなどという派手な事態を感知する位はすぐに読める」

 

「だから接触を図ったのさ。……ここでカルデアの者達が殺されるのは避けたかったのでね」

 

 その言葉ともに、白髪の方が矢を放ってアサシンに止めを刺す。

 

 っていうかちょっと待て。今黒髪の方はなんて言った?

 

 分裂能力? 百人近く?

 

 俺は心当たりが多すぎた。

 

「……百貌のハサンか!?」

 

「え? それってお兄ちゃんが呼びたがってたアサシンの?」

 

 ああ、その通りだ立花。

 

 ええい。またしても奴が敵なのか。ついてないな。

 

 高ランクの気配遮断スキルを保有するアサシンが百人近く。工房に籠もりでもしない限り、ターゲットにされて逃げ切るのは不可能に近い。

 

 しかも聖杯戦争で勢力同士がチームを組むとか面倒極まりない。確か、遠坂と教会が手を組んでいたとか聞いていたからその辺りか。

 

 またしても奴が敵とは、これは動きづらいと考えるべきだな。

 

「安心したまえ、私と契約すれば、そちらのマスターに常時ついて奇門遁甲でカバーする事を約束しよう。次いでにいうと、こちらのアーチャーは冬木の出身だから土地勘がある」

 

 いやまて。黒人一歩手前の色黒のこいつが日本出身だと?

 

 いや、どっちにしても敵が百貌のハサンだというなら、行動がしにくいことは確実だ。このままだと行動が難しい。

 

 と、言う事は―

 

「さて。あまり時間がないので手早く済ませたい。……共闘するかね?」

 

 黒髪の方が、厭味ったらしい笑みを浮かべてきた。

 

 この野郎。この状況下で断る事のデメリットがでかすぎる事を知ってて言ってるな。

 

「……立花。断りようがない。最低でも助けられた借りは返すべきだ」

 

「お兄ちゃんが言うなら、まあ大丈夫かな?」

 

 いや立花。大丈夫かどうかはお兄ちゃん分からない。

 

 とは言え、態々俺達を助けてまでやりたいことがあるのは確実だ。警戒は必須だが共闘の余地はあるのだろう。

 

「……仕方がないわ。オルガマリー・アニムスフィアの名において共闘を許可します。ただし、真名と能力はきちんと名乗ること」

 

 確かに、共闘するのなら最低限の情報共有は必要だな。

 

 流石はアニムスフィア。オルガ凄い。

 

「無論だ。それ位のことはさせてもらう」

 

 そして、その赤ずくめどもはついに名乗った。

 

「諸葛亮孔明の疑似サーヴァント。ロード・エルメロイ二世。二世ときちんとつけてもらいたい」

 

「アーチャーのサーヴァント。エミヤだ」

 

 ……一人は超大物だった。

 

 

 

 




まあ、明言してないけどこの作品を読むような輩は当然正体に気が付くかと思いますな。


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兵夜「……御三家に連なるものとしてなんかすいません」

 

 

 

 

 ロード・エルメロイ二世。

 

 俺の世界線において超有名な魔術師だ。魔術の世界では知らない方がおかしいレベルの超天才である。

 

 超天才とは言ったが、厳密にいえば魔術師として天才ってわけじゃない。

 

 元々魔術回路も刻印もお粗末で、魔術教会学部長であるロードの座も、あくまで代行だ。当人もそれを自覚しているのか、ロードを受け継ぐ際に「二世」をつけることを条件にしたほど。

 

 で、何が天才なのかというと講師としての手腕だ。

 

 指導能力において他の追随を許さない。教え子はどいつもこいつも大成して、時計塔最高の「王冠」に至るだろうと言われるものすらいる。

 

 そういえば第四次聖杯戦争に参加して、生き残ったという武勇も持っているらしい。

 

 魔術教会の講師の大半が資料閲覧の代償と割り切って適当にやっているいる中、講師として真剣に取り組んでいる事の差もあっただろう。しかしそれを含めても、教育者としては規格外のレベルだと断言できる。

 

 そして、なんでもエミヤとかいうサーヴァントは準教え子に近い立場らしい。

 

 で、この二人は第四次聖杯戦争に関わっていた事があるそうだ。

 

 それらの縁もあり、特異点化したこの冬木にはぐれとして召喚されたのではないかと推測していた。

 

「ちなみに今のサーヴァントは、監督役の息子が召喚したサーヴァントだ。奴は令呪が浮かんだ事をきっかけに、聖堂教会と懇意でかつ根源到達という教会にとって「無駄なこと」に聖杯を使ってくれる現遠坂家当主に聖杯を使わせる為に聖杯戦争に参加したのだ」

 

「もっとも、第五次では悪逆を楽しむ非道の極みとして暗躍。この世全ての悪(アンリマユ)が生まれるのを祝福するとか言っていた破綻者だった。なぜ実の父親も凛の父も見抜けなかったのか……」

 

「それは仕方がないさエミヤ。色々と調べてみたが、双方ともに視野が狭い。確固たる信念を持って努力を欠かさなかった高潔な人格ゆえに、そういう手合いが身内にいる事は想定の埒外だったのだろう」

 

「なるほど。巡り合わせの悪さもあの悪辣さの要因か。まったく、凛にしろ言峰にしろ、なぜあの種から生まれるのかが疑問だな」

 

 すいません赤服コンビ。俺達に分からない会話をしないでくれ。

 

「あのロード・エルメロイにエミヤ先輩。それはどういった……」

 

「二世を忘れないでくれ」

 

 マシュの言葉に対する意見がまずそれなのか、二世。

 

「気にしないでくれ。似たような苦労を分かち合った者同士の愚痴みたいなものだ」

 

 エミヤはそう言うと、周囲を警戒しながら走り続ける。

 

 敏捷がEランクの者もいる中、俺たちは人に気づかれないように走っていた。因みに立花は俺が背負っている。オルガは体が特別製なのでむしろ速い方だから問題ない。

 

「さて、私は第四次にかかわったといっても、終局の戦いで発生した大火災の被害者というだけでね。養父はがっつりかかわっていたが、あいにく第四次については全く語ってくれなかった」

 

 エミヤがそう言ってため息をついた。

 

 なんか、クロが同情の視線を向けてるんだが。何か心当たりでもあるのか?

 

「そういうわけで、状況を把握しているのは私だけだ。できる限り指示に従ってくれると嬉しい」

 

 了解だ二世。

 

 で、俺達はどうすればいいんだ?

 

「そもそも、今第四次聖杯戦争はどういう状況になっているんだ? 俺達はそこから分からない」

 

「そこは安心してくれ。現段階ではサーヴァントが全員召喚されて冬木に集合したばかりだ。さっきのアサシンの一人が敗退を偽装する為に、アーチャーに殺されただけだよ」

 

 ジークの質問に、二世は即答する。

 

 補足説明としてアーチャーの真名と能力が語られたが、ちょっととんでもないな。

 

 英雄王ギルガメッシュ。古きに神秘が宿る魔術世界において、記録上最古の英雄。これだけでも相当の能力を発揮しそうだ。

 

 加えて英雄たちの宝具の原点を保有し、それを弾丸として弾幕でぶっ放す豪快かつ頭の悪くて隙のない戦法。下手に本気にさせると弱点となる宝具と即座に使用して攻撃。とどめに全サーヴァント中最大火力である乖離剣。

 

 その武器を投げつけるだけの戦闘スタイルと高い単独行動スキルにより、マスターの負担もごく僅か。件の乖離剣さえ使わなければ、桁違いの単独行動と合わさって、魔力の消耗は並のサーヴァントを下回るらしい。

 

 欠点は唯我独尊を地でいくものすごい我儘な性格。世界の全ては俺のものといわんばかりの俺様で、どうも当時の遠坂のマスターも裏切られて殺されたらしい。

 

 まあ、原典でも全盛期はかなりあれな人物だったらしいしな。遠坂のマスターはカタログスペックだけで判断しすぎだろう。

 

「私も何度かやり合ったことがあるが、よほど現世が気に食わなかったらしく、受肉した事もあったのか、人類の間引きに聖杯を使おうとしていたよ。……ウルクの民なら乗り越えられると豪語していたが、神代はどれだけ厳しい世界だったのやら」

 

 エミヤがため息をつくが、俺はどう判断すればいいんだ?

 

「人類の間引きをコトミネと組んだサーヴァントが行うか。世界線が違うとこうも大きな変化が生まれるとは、驚きだ」

 

 ジークさんや。お前のところの言峰さんは何をやらかしたんだ。

 

「それはともかく、今私達はなんで埠頭なんかに向かってるのかしら?」

 

「簡単だよレディ。このままだと、そこで五騎のサーヴァントが睨み合いを行う大波乱が起こるからさ」

 

 クロの質問に、二世がそう答える。

 

「しかもその結果が原因で、冬木ハイアットシティホテルがセイバーのマスターに爆破解体される。幸い私の世界線では死亡者はいなかったが、少々無視できる被害ではないからな」

 

「……爺さん」

 

 二世の説明に、エミヤが目元を手で覆ってため息をついた。あとクロの目も死んでる。

 

 ふむ、お前の祖父が参加していた事はとりあえず分かった。其れもアインツベルンと関わっている事もよく分かった。

 

 そういえばそんな事を聞いた事があるな。イレギュラーの召喚だから少し記憶が混乱してるか、俺?

 

「一歩間違えればサーヴァントがどれだけ脱落する分からん状況だ。とにかく急ぐが……」

 

 そこで、二世は俺達に視線を向ける。

 

「余り状況を混乱させたくない。悪いが、別行動を要請したいのだがいいかね?」

 

 ふむ、ではロードの采配とやらを拝見するとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そもそも、この冬木の聖杯にとっての願望機は、設計段階で盛り込んでなかった想定外の副産物でしかない』

 

 埠頭の倉庫街で、俺達は分散して二世の話を通信で聞いている。

 

 この人、本当に冬木の聖杯戦争についてかなり調べたらしい。分家とは言え遠坂に連なる俺よりも詳しく知っていた。

 

『本来は七騎の英霊を生贄にし、その英霊が座に帰還する勢いを利用して、世界に穴を開けて根源に至る道を作る事が目的だ。……願望機としての機能はあるが、それはその生贄となる英霊を召喚する魔術師を呼ぶ為の餌にすぎん』

 

 本当に詳しいなこの人。御三家は秘匿していた情報だろうに、どっからそこまで情報を集めたんだ?

 

『しかし第三次において、御三家の一つであるアインツベルンが勝つ為に反則を敢行。ものの見事に裏目に出て失敗したのだが、その所為でこの世全ての悪(アンリ・マユ)に聖杯が汚染された』

 

 フィフスが言ってたのはそれの事か。

 

 しかし、アンリマユか。確かどこかの宗教の悪神だったな。

 

 神霊の召喚は大聖杯でも不可能なはずなんだが、アインツベルンは馬鹿なんじゃないだろうか。

 

『なるほど。俺の世界では他のサーヴァントの真名を把握でき令呪も使えるルーラーを召喚していた。やはりそこが違いだったか』

 

『どちらにしても反則技か。アインツベルンはやはり度し難い』

 

 ジークの言葉に、エミヤがため息をついた。

 

『ごめんなさいね。色々とアレな家なのよ、アインツベルンって』

 

 クロ。気持ちは分かるが、お前もアインツベルンだからな?

 

『質問! そのあんりまゆって何?』

 

 と、そのある意味重要なキーワードに、二世やエミヤと一緒にいる立花が質問する。

 

『詳しい説明は後だが、とりあえず大聖杯の機能に「全力で大惨事を起こして叶える」という前提条件が付いたと考えてくれればいい。大惨事を生むという過程の末に結果的に願いを叶えるのが、この時代の冬木の大聖杯だ』

 

『具体的に言うと、「世界一の金持ちになりたい」と願えば願った者より金を持っている者を全員呪い殺して願った者を世界一の金持ちにするといった形だ』

 

 二世及び補足説明のエミヤの言葉に、全員あれな感じになったのは言うまでもない。

 

 そりゃそうだ。ろくでもないというか、どうしようもないというか。

 

 おい本家。なんで60年間もそんなバグに気づかなかった。

 

『更に情けない話を教えてやろう。このバグ、第四次の段階では間桐が懸念していただけらしい。遠坂に至っては情報継承が断絶し、第五次の段階では本来の目的すら伝わっていなかったようだ』

 

 ……いや、分家の俺達でも根源到達の方法だということぐらいは知っているんだが。本家は聞けよ。

 

 うっかりか。本家のうっかりは俺を凌駕するというのか。それはそれでどうなんだオイ。

 

 俺はまだマシと喜ぶべきか。本家は酷過ぎると嘆くべきか。

 

『お兄ちゃんより酷いうっかりだね』

 

『先輩、兵夜さん聞いてます』

 

 マシュのツッコミに涙が出そうになった。

 

 マシュ。立花の言葉だけなら「俺以外のお兄ちゃん」でいいわけで来たんだ。無自覚に逃げ道を塞がないでくれ。

 

『まあいい。マシュは私達の護衛で、エミヤがセイバーの相手だ。クロはエミヤの動きをきちんと見て、それ以外は全周警戒。……特に狙撃に注意するように』

 

 二世の指示に、俺達は頷いた。

 

 ……冬木の大聖杯には、緊急用のシステムがある。

 

 最初に呼び出された七騎のサーヴァント全てが一つの勢力になった場合、カウンターウェポンとしてもう七騎が召喚されるというものだ。

 

 ただし、これが発動した場合冬木の令脈は枯れ果てる可能性が大きい。非常事態になるため、御三家も大慌てすることだ。まさに最終手段というわけだな。

 

 ゆえに大量のサーヴァントがチームで行動していると認識されれば、監督役の教会はまず俺達を集中砲火で叩き潰すように促す可能性がある。そうなると、総力戦になって脱落者多数。結果として大聖杯が起動する危険性があった。

 

 故に俺達はこっそり行動して、件のアインツベルンのマスターの狙撃対策。ただしクロだけはエミヤの戦い方を見学するように言われている。

 

 ……どうもクロの戦闘能力は、サーヴァントの力を置換して運用しているらしい。特殊な来歴で一種の分身らしく、カルデアに来たのは分身の分身だとか。

 

 で、どうもエミヤがその置換されたサーヴァントらしいので、今後の戦力強化として見ておけということらしい。

 

 俺が視線を立花達の方に向けると、そこにものすごい美人がいた。

 

 姫様に匹敵する美人。髪は白く眼は赤い。どうやらホムンクルスらしい。

 

 確か、二世の話ではアインツベルンの作戦は囮作戦。

 

 ……エミヤの補足説明を受けながらだと、どうも当時のセイバーのマスターは相当ひねくれていたらしい。

 

 正統派の英雄を「兵士を死地へと誘う死神」とでも言わんばかりに嫌悪。騎士道や武士道を死者を増やす欺瞞と憎み、卑怯卑劣な戦法で戦う事を徹底していた。

 

 ……どうもそれが最終戦にまでもつれ込んだらしいんだが、どうすればそこまで出来たのかが驚きだ。能力だけは高かったんだろうな。

 

 なんでそんなタイプのマスターに、ブリテンの騎士王アーサー王……もとい、アルトリアを選んだのかが分からん。アインツベルンの判断の可能性が高いらしいが、色々とあれじゃないのか?

 

 とにかくそういうわけで、そのマスターはセイバーに何も言わずに囮として利用。セイバーに意識が向いている隙に敵マスターを暗殺することをモットーとしていたらしい。

 

 一言言おう。馬鹿だろ、そいつ。

 

 戦術論や戦略論は人によって違うだろうが、タッグを組う相手との連携や意思疎通は必要な分だけ行うべきだ。折り合いはつけないと何が起こるか分かったもんじゃない。

 

 件の汚染された聖杯を破壊する時にも、何も言わずに令呪で強引に破壊させたらしいし、何考えてんだオイ。

 

 本当によく最終決戦までもつれ込んだものだ。空中分裂して殺し合いになってもおかしくないだろうに。

 

 まあ、というわけで二世はこの時点でそのアインツベルンのマスターが狙撃を行う準備をしていると判断。狙撃戦を得意とする―わりに接近戦でセイバーと戦う気満々なんだが―なエミヤが候補地点を算出して、俺とオルガとジークが警戒する形だ。

 

 同時にアサシンに勘付かれる可能性もあるので、最有力地点の監視には一番場慣れしている俺が待機しているんだが……。

 

「……二世。百貌を一人確認したんだが、第二候補地点にまた別の輩がいるぞ」

 

 なんか妙なのがいた。

 

 どうも感覚的にはサーヴァントだ。だが、どうにもおかしい。

 

 最低限伝えられていたこの第四次でのサーヴァントのどれとも格好が似ても似つかない。

 

 というより、あいつが腰につけてるの、中折れ式の銃とコンバットナイフだな。明らかに二世の知っているサーヴァントとは別口だぞ?

 

 しかも構えているのはスナイパーライフルだな。其れも魔改造されてるぞ。

 

『……なるほど。どうやら私たち以外にもはぐれ、もしくはイレギュラーがいるようだな。二人纏めて派手に攻撃してくれ』

 

「いいのか?」

 

 派手に動くとセイバーにも勘付かれると思うんだが。

 

『かまわん。どちらにしてもセイバーを撃破するわけにはいかない。第三者の存在を伝えれば、警戒して撤退を選択肢に入れてくれるかもしれない。聖杯の担い手はともかくあの騎士王ならその危険性は分かるだろう』

 

 了解。では的確にかつ派手にいこう。

 

 イレギュラーはとりあえず撤退でいい。アサシンは数十分の二ぐらいならまあ撃破しても問題ないだろう。

 

 と、言うことで

 

『……全員。これからミサイルを二発発射する。驚いて大声を出すなよ?』

 

『『え?』』

 

 クロとジークが首を傾げるが、俺は無視してミサイルを発射した。

 

 一つは百貌の一人に直撃コース。もう一つは謎のサーヴァントの近くに当たるコース。

 

 そして、見事に狙い通りに大爆発。

 

 俺は消滅を確認せずに即座に隠れる。

 

『アイリスフィール・フォン・アインツベルン。どうやら他の勢力がかち合ってしまったらしい。混戦になる前に痛み分けにするのが得策だと思うが、如何に』

 

 そして二世が即座に今回の戦いを水入りにする事を提案する。

 

 さて、初戦も初戦のこの状況下で、大混戦になる事を望むとは思えないが、どうするアインツベルン。

 

『こちら立花。セイバーの意見を聞いて、アインツベルンの人は撤退したよー』

 

 了解だ、立花。

 

 どうやらサーヴァントと囮役のお姉さんの相性はいいらしい。

 

 なるほど、そのお姉さんとの相性がいいからこそ、最終戦まで持ち込む事が出来たという事か。

 

 問題はマスターの野郎だな。……立花には常に二世とマシュをつけておくべきか。

 

 二世が最初に「自分が常にいる」といった理由は、アサシンだけじゃないな。

 

 おそらくそっちのマスターの方を警戒している。話を聞く限り、正攻法とか堂々とした戦いを避けるどころか嫌っている節があるからな。まず間違いなくマスター狙いに拘るだろう。

 

 その辺のボディガードを率先して引き受けた形か。これはかなり恩を売られたようなものだ。

 

 さて、それじゃあ―

 

『では、俺達も撤退するのか?』

 

 ジークの意見も分かる。

 

 なにせ俺達も詳細が知られるわけにはいかないからな。中途半端に知られれれば、誤解を招いて大混戦になりかねない。

 

 この聖杯戦争のサーヴァント全てを結託させるわけにはいかない。そうなれば緊急用の予備システムが発動して、余計な混乱が発生する。

 

 だから、急いで離脱して情報収集される事を避けるのも十分な手ではあるんだが、二世の判断は違ったようだ。

 

『いやまだだ。イレギュラーはあったが、今回の目的はもう一つある。……もう奇門遁甲は解除している、こちらに来れるだろう、ランサー?』

 

 ……そういえば、ランサーがセイバーを誘導してここで戦う事になったのが乱戦の初っ端だったらしいな。

 

 で、そこにどんどんサーヴァントが乱入していって七分の五が集うのがこの真の初戦だったらしい。

 

 さて、確認すると、そこにものすごいイケメンの男が現れる。

 

 色違いの槍を一対持っているな。あと泣き黒子がチャームポイントだ。

 

 槍の二つ持ちとかすごいな。俺は聞いた事がないんだが、いったい誰だ?

 

 相当機嫌が悪そうで、しかもこっちを警戒しているな。

 

 まあ、セイバーに挑戦しようとしたところを妨害されて、しかもセイバーを撤退させられたんだ。

 

 いろんな意味で邪魔をしているからな。不機嫌になるのは当然か。

 

『落ち着かれよ、フィオナ騎士団の一番槍。我々はアーチボルト陣営の敵ではない』

 

 フィオナ騎士団の一番槍。で、槍二本持ちか。

 

 確か、ディルムッド・オディナとかいう女難の権化がそんな立場だったような。

 

 あ、ランサーの方も驚いているな。いきなり真名が知られるなんて驚きだろうから、当然といえば当然か。

 

『ふむ、どうやらただものではないようだ。ランサーの真名だけでなく、私がマスターであることまで気づくとはね』

 

 魔術で声を飛ばしているな。其れも魔術迷彩も非常に高度に展開している。

 

 そしてアーチボルト。なるほど、先代のロード・エルメロイか。

 

 そういえば、第四次聖杯戦争で敗退したのが二世が任命された理由の一つだったな。

 

『何処からか声が?』

 

『落ち着きなさいマシュ。もう場所も分かってるし、倒そうと思ったら倒せるわ』

 

 マシュを落ち着かせるようにクロがそう言う。

 

 ……熱源感知の科学的アプローチで俺も場所は分かったが、なんでこの高度な魔術迷彩を科学的アプローチ抜きでわかったんだ。

 

『よく分かったな。俺は分からなかったんだが』

 

 ジークも同感だったらしい。その言葉に、クロの得意気な様子が通信越しでも分かる。

 

『これでも私も聖杯の特性があるもの。私は自分の魔力で出来る事なら、過程を飛ばして結果だけ再現できるのよ。……サーヴァントを現代の魔術師がどうにかしようなんて甘いのよ』

 

 ……なんだその反則能力。っていうか聖杯ってどういうことだよ。

 

 いや、そんな事より今は話を聞きながら警戒しないとな。

 

 あのアサシンはとりあえず撤退したか。既に場所を移動しているとはいえ、反撃をしてくる可能性は大きい。マジで警戒しておかないとな。

 

 さて、本来のロード・エルメロイ。政争にも慣れてるだろうし、そう簡単にはいかないだろう。

 

 どうなることやら……。

 



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二世「さて、後々殺されないかどうかが心配だ」兵夜「何言う気だ、あんた」

そんなこんなで話は進むよー!


 

 とりあえず、二世がケイネスとかいうロード・エルメロイに「末席のライネスの名代」と適当ぶっこいて「キャスターについて話せるから、明日会談を行いたい」と言って話をつけて解散となった。

 

 で、俺達は終夜営業の飯屋で飯を食いながら、詳しく話を聞いている。

 

 時計塔のロードが一人にして神童のまま成功街道を進んだエリートオブエリート。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。サーヴァントはフィニアンサイクルの悲劇の英雄、ディルムッド・オディナ。

 

 なんでも実戦武功を求めており、魔術的には辺境の日本で、時計塔の固定枠が一つしかない事から「評判倒れ」と認識し、一族殆ど「舐めプで優勝確定だろ、プゲラwww」と意気揚々と出陣したらしい。

 

 実際、この第四次聖杯戦争に参加したマスターの中で、「魔術師」として勝てるのは誰一人としていない、ある意味で最高レベルのマスターだ。時計塔においても最高峰の神童であり、真正面からの性能なら、アサシンが相手でも八十分の一なら勝ち目があるというポテンシャル。とどめに魔力パスを婚約者に分割譲渡する事で、よほどの事がない限り自分は全力で戦えるという反則一歩手前の所業。

 

 これが魔術師同士の決闘に近い戦いなら、エミヤが知る第五次のマスターでも勝てるのは二人ぐらいとかいう反則レベルのスペックだった。2人もいるとか多いとか思ったのは内緒だ。

 

 しかし、最悪な事にこの聖杯戦争、イレギュラーだらけ。

 

 唯一の正統派魔術師である遠坂時臣は監督役とグル。アサシンのマスターは代行者であり、対魔術師戦にも相応の心得がある。セイバーのマスターは「魔術師殺し」の異名を持つ、全ての才能を「魔術師を型にはめて殺す」事に捧げたと言ってもいい天敵で、前にも言ったが正攻法くそくらえがモットー。と、半分のマスターがそもそもまともに戦ってくれないこと確実。

 

 ライダーのマスターについては「勝てないのが分かってるのでサーヴァントの後方支援に徹するつもりだが、現実はライダーの宝具に同乗しているのでまあどっちにしても無理」とのことだ。バーサーカーのマスターはアーチャーのマスターに拘りまくっていて、戦えば確実に勝てるが戦う事はほぼなし。キャスターのマスターはそもそも魔術の心得すらないので、勝っても何の自慢にもならない。

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。……ついてないにもほどがあるだろう。

 

「リスクなど大してない評判だおれの子供だまし。だからこそ、まだ持っていない武功のハクとしてはもってこいだろう。アーチボルト家はそう判断して、勝って当然の雑事と切って捨てていたよ。……それが婚約者及びサーヴァントも含めて無残な最期を遂げ、泣きっ面にハチで魔術刻印すら大破するという結果で、アーチボルト家は徹底的に没落したのさ」

 

「……すまない。爺さんが本当に済まない」

 

 苦笑交じりの二世の説明に、エミヤが頭を抱えてうめいていた。

 

「ごめん。聞いてて頭痛くなってきた」

 

 クロも頭を抱えていた。あの、その魔術師殺しとかいうの、お知り合い? 

 

「時計塔のロードが考えて実現した方法を独自に編み出すとは、やはり彼も魔術師として優秀だったんだなぁ」

 

「ジークさん。お知り合いに優秀な方がいたんですか?」

 

「一応言っておくが、実現したのは相棒だが俺もアイディア自体は思いついて実行したぞ」

 

 ジークとマシュで会話が弾む中、俺もまた意見を言う。

 

 俺だって思いついたからな。技術的な面はメディア(アーチャー)に頼りきりだが、バックアップを最大限に生かして滅茶苦茶大規模な形で実現したからな。

 

 それに比べれば婚約者に肩代わりさせる程度などたかが知れている。ロードも落ちた者だ。

 

 ……と言いたいが、神代の天才魔術師と比べるのは流石に酷いな。落ち着け俺。

 

「話を戻すが、この戦い、趣味で開発して時計塔でも賞賛されまくっている魔術礼装を大量に持ち込むは、ハイアットホテルの最上階を丸ごと貸し切って、魔術的に要塞にするわ、とどめにサーヴァントの魔力パス分割など、これが魔術師同士の儀礼的な勝負なら、他の全勢力を敵に回しても勝てそうなレベルの大人げなさでケイネス卿は勝負に挑んだ」

 

「第五次の化け物揃いのサーヴァント達でも苦戦しただろう。サーヴァントの能力も含めて、まともにやり合って勝てるのはバーサーカー陣営ぐらいだろうな。あとはキャスターか。あのマスターは初見殺しの極みでサーヴァントですら苦戦する化け物だからな」

 

 二世によって語られる滅茶苦茶なレベルの準備態勢に、エミヤが素直に関心するやら呆れるやら。

 

 まあ、確かにこれが魔術師同士の「試合」なら、勝負は確実に決まっていただろう。それぐらい、大きく差がある。負ける方が難しい。

 

 ただし、そうはいかなかった。

 

 さっきも言ったが、今回の聖杯戦争でまともに勝負する気の奴がゼロに近い。

 

 更に、最初に用意した本命のサーヴァントの触媒は、時計塔のずさんな管理でウェイバーとやらの手に渡り、その前に色々とけなされてイラついていたウェイバーはそれを盗んで聖杯戦争に参加するという躓き。

 

 それでもめげずにディルムッド・オディナを召喚して参加するが、またまたいうがまともに勝負する気の奴がゼロに近かった。

 

 工房はホテルごと爆破解体されるわ、魔術刻印と魔術回路と肉体はズタズタにされるわ、とどめに婚約者ごと酷い殺され方をするわと散々な目に合う。

 

 優勝できないどころか死亡、挙句の果てに魔術刻印すら破壊され、アーチボルト家は大混乱。その隙に逃げ出したり持ち逃げしたりした連中が出た所為で見事に没落。二世が立て直しを図るまでに、ものすごいレベルの借金を背負うなど、権威は地に落ちた。

 

「二世。うちの養父が本当に申し訳ない」

 

「私も色んな意味で謝るわ。いや、本当にごめんなさい」

 

「ふむ、エミヤはともかくクロが何で謝るのかが分からないが……まあ、私があの触媒を奪ってなければ、もっとまともな結果に落ち着いていたと思うのでそこまで気にするな」

 

 いやどうだろう。

 

 なんというか、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトってのはどうも色々と隙が大きいところがあるからな。

 

 上記のマスターのトンデモ……イレギュラー……アレッぷりからして、多分どう転んでもそのケイネス卿は酷い目にあった気がする。

 

 おそらく俺達の世界の聖杯戦争に関わっていたとしても、あまりいい目には合わなかっただろう。……マスター主力のサーヴァントサポートが基本のあの聖杯戦争は参考にならないとは思うが。

 

「そ、それでロード・エルメロイ二世。これからどうするのかしら? こっちとしてもサークルの設置が上手くいかなくて、大変なのだけれど」

 

 オルガの意見ももっともだ。

 

 はっきり言って、遠坂の霊地管理はかなり上手い。その所為で、サークルの設置が全然できない。

 

 これではカルデアからの支援が受けられないだろう。これは中々面倒だぞ?

 

「そこは私に任せてくれ。これでも遠坂の霊地管理を手伝ったことがあってね。比較的修復がたやすく、然し時間がかかるように要石を破壊しておこう」

 

 エミヤがさらりと、ものすごく見覚えのある短剣をどこからともなく取り出しながら自信満々に言い切った。

 

「大丈夫なの?」

 

「安心してくれ。遠坂家のうっかりについて、私は二世より慣れている。そのうっかりを適格についてサークル設置を本日中に成功させてやろう」

 

 立花の自信満々に答えるエミヤだが、お前はどんな経験があるんだよ。

 

「……この土地の管理者は間違いなく激怒案件だと思うのだけれど」

 

 オルガが微妙に引くのも分かる。

 

 霊地の管理者としては激怒案件だ。しかもかなり屈辱的な壊し方するっぽいんだが。

 

「もっと徹底的にやってもいいぞ。その次の代には良い課題になるだろう」

 

「現当主の娘は私の恩人なのでね。たとえ無意味でも、余計な被害は最小限に抑えたい。貴方と同じだよ、二世」

 

「……そこを突かれると何も言えんな」

 

 二世とエミヤの間で、またよく分からん会話が出てくるな。

 

 まあ、協力体制に嘘はないし、彼らの協力がなければ色々と面倒になっていただろうから、俺は文句はないんだが。

 

「ああ、それなら俺もやっておきたいことがある。オルガと一緒に別行動でいいか?」

 

「……読めたわ。物資補給ね」

 

 いい加減相方歴が長くなってきたオルガがすぐに察してくれる。だけどため息はつかないでほしい。ガッデム。

 

 まあな。西暦二千年前後の特異点なんてそうはない。

 

 このチャンスを逃さず、菓子類酒類医薬品類をかき集める。

 

 金に関しては俺が持っている貴金属類を換金済みだ。問題ない。

 

 とにもかくにもこのチャンスは貴重だからな。特異点解決はエルメロイ二世の手腕があればかなり有利だし、昼間は物資補給に専念したい。

 

「……そちらも大変だな。まあ、クロとジークには別の件で頼みたいことがあるのでそちらを了承してくれるのなら構わない」

 

 なんだ? まだなんかあるのか?

 

「何かしら? っていうか、一応私達のマスターは立花なんだけど」

 

「内容次第でOK出すよー」

 

 ちょっと文句を言いたげなクロを手で制しながら、立花が話を進める。

 

 そして、二世は眉間にしわを寄せると苛立たしげな表情を浮かべる。

 

「この聖杯戦争、最大のダークホースなのがキャスターだった」

 

 そうして語る内容は、こういうのになれてないマシュと立花が食欲をなくすのに十分だった。オルガもものすごく傷ついた。

 

 今回のキャスターのサーヴァント。オルレアンでやり合ったキャスターのサーヴァントであるジル元帥だ。

 

 しかもマスターも問題。追跡調査などで判明したことだが、先祖に魔術に関わった者がいただけの連続殺人鬼。どうも残っていた文献を参考に儀式殺人を行い、たまたまサーヴァントを召喚してしまったらしい。

 

 そもそも冬木の聖杯は、七人のサーヴァントが揃わなかった場合、冬木市内にいる適正持ちをマスターに選ぶ機能がある。

 

 今回は儀式殺人と噛み合った結果、そうなってしまったというわけだ。

 

 これがまあものの見事に暴走したらしい。

 

「キャスターのサーヴァントはセイバーのことをジャンヌ・ダルクと誤認したそうで、セイバーを「正気」に戻すべき儀式的殺人を敢行したらしい。最終的に奴は大海魔を召喚し、運営スタッフが大規模な隠ぺい工作をする必要になったほどの大騒ぎをぶちかましてくれたよ。……思い出したらまた吐き気が」

 

 相当スプラッタだったらしいな。まあ、キャスター状態の元帥なら納得だが。

 

 しかもその殺人鬼も、当時警察が事件と認識していないことすらやってのけたらしい。相当スペックが高い。そこに魔術師のサポートまで加わったら……手が付けられないわけだ。

 

「霊脈が安定するかケイネス卿の協力が得られるかすればその時点で叩き潰すが、それまでの犠牲を無視するのも寝ざめが悪い。君達二人には奴が放った海魔の始末を頼む」

 

「それ、子供にやらせること? ま、別にいいけど」

 

「俺も同感だ。罪もない人達が犠牲になるのは心苦しい。マスターは?」

 

「そういうことなら文句なし! っていうか、私達も協力した方がいいかな?」

 

「いや、君達にはケイネス卿との会談までの準備を行ってほしい。……ライネスの名を貶めるわけにもいかないからな。それなりのドレスコードをしておかなければ」

 

 なるほどな。五割ぐらい一般市民の立花だと、その辺の礼儀作法が致命的だろう。マシュもそういうのは慣れてない。

 

 しかし逆に、人柄的にはこの中でも最高峰だ。マシュも戦闘態勢に入ってなければデミサーヴァントだとは思われないだろうし、上手くスルーすることができれば行ける。

 

「それなら私が動きましょうか? これでもロードの家系の一人だもの、それなりに立ち回れる自信はあるわよ」

 

「いや、レディはぜひ露払いを頼みたい。先にキャスターの魔術工房の場所を伝えるので、こちらが突入すると同時に逃げ道を塞いでくれ」

 

 なるほど、確かにそれは重要だろう。

 

 キャスターの魔術工房に突入して、結局いませんでしたじゃ話にならないからな。その辺の監視役は必要か。

 

「因みにパスは繋げておくが、冷静さをきちんと保っておいてくれ。あとで一発ぐらいなら殴られてやるから、頼むから落ち着いてくれ」

 

 ……嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもって俺達が向かった先は、下水道だった。

 

 より厳密にいえば、雨水を流したりする排水路。そこがキャスターの工房らしい。

 

「……ずさん極まりない。だが、一周回って一流の魔術師なら「魔術師がこんな悪手撃つわけがない」と無視しそうな方法だ」

 

「他の参加者が気づかなかったというのも納得ね。魔術的な隠匿がずさんすぎて、逆に気づけないわ」

 

 俺もオルガも一周回って感心した。

 

 魔術的な隠ぺいは致命的なぐらいない。調べた限り、魔術的なトラップもろくにない。海魔が番犬のようにいるようなもんだ。

 

 だが立地に関しては優秀だ。流石は元帥と褒めるべきか。

 

「さて、そろそろ会談が始まる頃だな。できれば急いでほしいが」

 

 ジークは剣を構えて突入準備は万全だ。

 

『会談、始まりそうよ』

 

 念のため狙撃ポジションに待機してたクロがそう言ったので、俺達はレイラインを繋いで会話を盗聴する事にする。

 

『……昨晩電話で問い合わせた。ライネスの名代などと根も葉もない嘘をよくもついてくれたな』

 

 速攻でばれてるぞ二世。

 

 完全に臨戦態勢なのが声でも分かる。この調子だと、ランサーの方も戦闘準備が万端何だろうな。

 

 一応立花にはサーヴァントが二人もついているわけだが、キャスターである二世はサーヴァント戦では不利だろうし、マシュもまだまだ力に振り回されているところがある。

 

 ちょっとでも刺激を間違えれば、敵のホームで三騎士とぶつかることになるわけだ。どうすんだ一体。

 

 それにあの後聞かされたが、ランサー・セイバー・ライダーは可能な限り脱落を防ぐ方針のはずだ。

 

 キャスターの元帥とアーチャーのギルガメッシュは意思の疎通すら困難なのでほぼ却下。アサシンである百貌のハサンもアーチャーと組んでるのでほぼ無理。

 

 バーサーカーであるなんと驚くべきランスロットはグレーゾーン。なんでもバーサーカーはセイバーに襲い掛かりたがっているため共闘が難しく、マスターの方も色んな意味で崖っぷちで、交渉が難しい可能性があるそうだ。間桐の当主が無茶苦茶な改造をしていたり、遠坂時臣に恨み節があったりでまともな精神状態じゃないとのこと。

 

 そういえばエミヤがなんか微妙な顔をしていたな。なんかあるのか?

 

 まあ、それに関しては後回しにするとして、どうしたものか。

 

『そのうえで会談を受け入れるということは、キャスターの件を理解してくださったようで何よりです』

 

『その通りだ。なぜ聖堂教会の動向を事前に知ることができたのか、そこが気になってね』

 

 ……確か、今日の昼に監督役からキャスターの討伐が指示されたんだったな。合図は来てた。

 

 神秘の秘匿的にも人道的にも完全にアウトな行動をしているキャスターを優先的に討伐。成功報酬として、教会が確保している預託令呪を、討伐に尽力したマスターに一人一画。

 

 令呪はサーヴァントの首輪として使えるだけでなく、ブースターとしても使える。マスターの役割とはすなわち魔力供給と現代に対するオブザーバー、そして令呪によるブースターが役割といってもいい。マスター同士での戦闘は横やりの可能性もあるから、できる限り避けるべきだ。

 

 その実、二世曰く「ほっとくわけにもいかないがアーチャーが全く乗り気でなく、アサシンを使うと前提が崩れるので何とか他の勢力でキツネ狩りに持っていきたい」というからめ手だそうだ。……聖堂教会の代行者共も魔術師って連中の基本も、まあ、極論すると人でなしが素質の一つだからそれはまあスルーするしかないんだが、魔術師は本当に度し難い。

 

 まあ、魔術師の悲願ともいえる根源到達と、仮にも聖杯と名のつけられた存在の悪用を防ぐという大義名分の前には多少の一般人の犠牲は目をつむる問題だろうな。あいつ等、基本的に俺より性根が腐ってるからなぁ。

 

「それに比べると、オルガの親父さんは驚くべき善人だな。……時計塔のロードにまでなった魔術師が、よりにもよって人類存続の為に科学迄取り入れた一大プロジェクトをぶちかますんだからな」

 

 俺は素直に感心する他ない。

 

 時計塔のロードという魔術至上主義に陥りかねない存在が、科学と魔術の融合を積極的に使用するという時点で驚きだ。

 

 それに魔術師という生き物は、人類があと一年で滅びるなんてことになっても「残り時間で意地でも根源に到達してやる!!」という結論になるだろう。人類存続の為に全リソースを分の悪い賭けに費やすなんて発想にはなりにくい。

 

 そういう意味でも、オルガの親父さんは立派な人だったんだなぁ。

 

 俺は心からそう褒めるが、何故かオルガは視線を逸らした。

 

「……そんなに立派なものじゃないわよ」

 

「そうか? 人類存続の為に積極的に行動するなんて、魔術師だと至りにくい考えだろうに」

 

 人間性の立派さは魔術師のステータスとしてはあれだが、それでも褒められるべきことではあると思うんだが。

 

 だが、何故かオルガは視線を逸らしたままだ。

 

「そんなことないのよ。あの人は、やっぱり根本的には魔術師だったもの」

 

 ……これは、あまり深入りしない方がいい展開だな。

 

 少なくとも、今の俺達の関係で話す内容じゃないんだろう。そこまで踏み込めるような関係じゃないってことだ。

 

 とりあえず、今回は気にしないでおくことにした方がよさそうだな。

 

 俺はそう判断して、会談の方に意識を向ける。

 

 俺が別の事に考えを向けていた時には、既に二世がカルデアのシステムやレイシフトについて説明していた。

 

『なるほど。それだけのことをすることで、時間遡行を行うことに成功したわけか。編み出したものは辣腕だが、然し凄腕だな』

 

「……まあ、その通りよ。カルデアこそ人類が新たに生み出した星の開拓だもの。これこそアニムスフィアの―」

 

 そこまで言いかけて、オルガは突然言葉を切った。

 

 まるで、言うべきことが何もなくなったかのように、固まっている。

 

「……あれ?」

 

 顔色が青く、汗もかいている。

 

 なんだ? 精神攻撃の類でも受けたか?

 

「オルガ? おい、どうし―」

 

 俺が声を掛けようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃が、俺達に襲い掛かった。

 




……まあ、この流れなら訓練された読者は当然何の衝撃が襲い掛かるかは明白であるといわざるを得ない!!


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オルガマリー(無言で投げ技の練習をしている)孔明(無言で受け身の練習をしている)

オルガマリーに理不尽な衝撃が襲う!!


 

 その衝撃とは、二世が放った言葉だった。

 

『そう。その偉大なる人理保証機関カルデアを生み出した者こそ―』

 

 あ、ごめん二世。ちょっと継承したオルガがどうも様子がおかしくて―

 

『―ケイネス・エルメロイ・アーチボルト! あなたです!!』

 

「はぁあああああああああっ!?」

 

 オルガが絶叫を上げて、勢いよくハイアットホテルの方向に振り向いた。

 

 おい。首がごきってなったんだが。いくら人体を模倣してるだけとはいえ、大丈夫か? 痛覚も再現してるんだぞ?

 

「え? ちょ、ちょっとまって!? そんな事ないわよね? これはお父様が生み出した機関よね? 断じてあんな水銀オデコなんかじゃないわよね!? そうだと言ってよ今すぐに!?」

 

「オルガ深呼吸!! 俺は詳しいこと知らないけど、確かそうだったはずだから落ち着け!!」

 

『マリー深呼吸!! そこに関しては断言できるから安心して!! 僕もその辺しっかり関わってるから!! 金策集めから関わってるから!!』

 

 俺とロマニが一生懸命なだめるが、オルガはパニック状態で過呼吸まで併発している。マジでやばい。

 

「ジーク! 警戒よろしく!! 俺はオルガを落ち着かせるから!! えっと、鎮静剤鎮静剤……」

 

「わ、分かった。……ダーニックもやりそうだな」

 

 ジーク!! おまえも衝撃に反応して変なこと考えるな!!

 

 っていうか大声出しすぎたな。これ、キャスター陣営に勘付かれてなければいいんだが。とりあえず消音魔術を展開しておこう。

 

 この辺りは声が反響するからな。もっと早く展開するべきだった。うっかりしてたな久々に。

 

「ひょ、兵夜、ロマニ!? 違うわよね? 私、なんか記憶が曖昧になってるみたいなんだけど、アニムスフィアはアーチボルトの配下になったりしてないわよね?」

 

『大丈夫です所長。先代所長は一生懸命頑張って、他のロード達に勘付かれないようにお金を集めてカルデアを作りました。僕がここにいるのもそのおかげなんですから、落ち着いてください』

 

 く、詳しい事は聞かないが、お前も色々大変だったんだな、ロマニ。

 

 そういうわけだオルガ。大丈夫だから深呼吸深呼吸。

 

『まあ、あり得ぬ話ではないなー!!』

 

「そんなわけないでしょう!!」

 

 おい当代エルメロイ。それでいいのかあんたは。

 

 これが政争を潜り抜けてきたであろう、時計塔のロードなのか? ポンコツ臭が現れてるぞ!!

 

 オルガをなだめるのに必死だったけれど、「悲観主義者のアトラス院と組むなどありえない」とか言ってなかったかあんた!!

 

『いや、流石に時計塔での派閥争いに新たな切り口が必要だとは思っていたのだよ。そっかー。大人げなくそういった研究にも本気出しちゃうかー私ー』

 

『そしてそれも、ソフィアリ家の経済援助があってこそです。貴方とソラウ嬢の仲睦まじい夫婦生活があったからこそ、莫大な資金を賄う事ができたのですよ』

 

『うん。すごくお金がかかるのはそうなんだけど、それでもまだ足りないからね? それもこれもマリスビリーの博打を打つ根性があってこそだから、安心していいよマリー』

 

「そうよね? そうよねロマニ!? 私、なんか調子がおかしいけど、そういった方向で認知症を発症したわけじゃないわよね?」

 

 ああもう、グダグダ。

 

『はっはっはー。研究ばかりしてきた私が夫としてどこまでできるか不安だったのだが安心したよ。そっかーそっち方面でも私は天才かー』

 

『私も鼻が高いです! 我が主は危なっかしいところこそあれど、大事をなせる器だと信じておりました!!』

 

 ランサー。馬鹿にしてる風にも聞こえるんだがそれでいいのか?

 

 いやまあ、それはともかく……どうしようか、この状況。

 

 何だろう。緊張感あふれる腹の探り合いかと思ったら、なんか一気にギャグ時空になってきたぞ?

 

『まあ安心したまえ。先代の人格を理解している二世からしてみれば、乗せどころがたやすい相手であるのもこの選択の一つだからな』

 

 と、エミヤがそう言ってくる。

 

『そうなのかい? まあ、一番だましやすそうって感想になるんだけど』

 

『当然だとも。挫折を知らないエリートで、しかも乗せどころがよく分かっている相手。仮にもロードとして政争すら潜り抜けた二世ならば、乗せれない方がどうかしている』

 

 と、ロマニにそう告げるエミヤは、しかしすぐに真剣な口調になる。

 

『とにかくそういう事だ。交渉が上手く言った以上、我々の仕事は敵の離脱の阻止。侵入ルート以外のルートを塞いで、万が一にでもキャスター及びそのマスターの逃亡を阻止する事だ』

 

 まあ、それはそうだな。

 

 ……連続殺人鬼を堅気がいる街に投げ込むなんてマネは心が痛む。出来る事ならここで終わらせたい。

 

 上手くいけば高性能の令呪を更に一画手にする事も出来るわけだ、このチャンスは逃せない……な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後。

 

『よし、敵サーヴァントの撃破に成功。これで一安心だ』

 

「マシュと立花にご苦労様と伝えておいて。……仕事が無くて良かったわ」

 

 と、ロマニの連絡にオルガがため息をつく。

 

 まあ、心労が溜まりまくっているから当然といえば当然か。

 

 ……ほんと、お疲れ様。

 

『とりあえずケイネス卿は令呪を確保しに向かったよ。後は僕達で敵のマスターを何とかすればそれでよしだね』

 

「確かにな。なるべく生け捕りにして、余罪を吐かせる方向で行くべきかねぇ」

 

 なんでも警察が犯罪と立件出来ていない事もあるしな。そういうフォローもしておくべきかもしれん。

 

「確かにそうだな。……快楽殺人なんてものは、流石に俺も許容できない。ここで捕まえるべきだ」

 

「そうね。逃走ルートは確保してるし、このままお仕置きしちゃおうかしら」

 

 と、ジークとクロも納得のようだ。

 

 まあ、ここはそうするのが一番だな。

 

 と、そんなことをしていたら、話に聞いていた通りの奴が現れた。

 

「……あれ~。お兄さん達、こんなところで何してんのかな?」

 

 フレンドリーにしているうえに、殺気をまるで感じない。

 

 ……なるほどポテンシャルは高いな。活動の仕方次第では、現代の連続殺人鬼として座に名を残せたかもしれない。

 

 だが、来ると分かっているなら何の問題もない。と、いうわけで―

 

「とりあえず寝てろ」

 

「はうぉ!?」

 

 俺は遠慮なくボディブローを叩き込んで悶絶させると、即座に魔術の行使を開始する。

 

「……さて、警察に出頭させて自白させるのは良いな。……薬物でも飲ませとけば多少のごまかしはできるか」

 

「確か日本の法律って、明らかに違法な事されてる状態だと証拠にできないとかなかったかしら?」

 

「捜査資料にはできるから、その資料を基に証拠を発見できれば問題ない。俺が何度もやってきた常とう手段だから安心しろ」

 

「別の意味で安心できないわね」

 

 と、クロのサポートを受けながら手早く処理をしていると、立花達が追い付いてきた。

 

「あ、お兄ちゃんもう終わったの?」

 

「まあ、断定された暗殺者なんてこんなもんだ」

 

 まあ、今回は好都合な展開だったからな。

 

 之が強くてニューゲーム。逆行SSのごときチートっぷりだ。

 

 だがしかし、ここからが大変だろうな。

 

 なにせ今回の件で色々と遠坂陣営が干渉してくる可能性が出てきやがったからな。あまりにスピーディなこの事態、どう考えても俺らの関与を疑うだろう。

 

 ……俺達全員で挑んでも苦戦する可能性をしさされている英雄王ギルガメッシュ。そいつの興を引くかもしれん。

 

 これは、そろそろ警戒を玄にした方がいいかも―

 

「……全員、臨戦態勢を取れ!」

 

 その時、二世の声が響く。

 

 なんだこの警戒具合。また例の如くアサシンでも来たか?

 

 既に五回ぐらい襲撃があるが、はっきり言ってこっちも既に警戒というか突っかかってくるのが分かってるからそこまで怖くないのが現状だ。

 

 なにせ数十分の一だからな。フィフスもパラケもいないから幻想兵装が使われる事もないし、そういう意味ではサーヴァント級の戦力があつまっている現状ではそこまで怖くない。

 

 唯一の危険因子である立花の襲撃は二世が警戒しているし、そういう意味では現状だとだいぶ安心できる敵なんだが―

 

「……厄介な術を使うな。感知系の宝具か何かか?」

 

 ……なんか、明らかに雰囲気の違うヤツが出てきやがった。

 

 赤いフードを被って顔を隠したヤツだ。

 

 っていうかコイツ……。

 

「おい二世。コイツ倉庫街で仕掛けてきたサーヴァントだぞ」

 

 そうだ、こいつあの時の倉庫街にいたヤツだ。

 

 あの場所で二番目の狙撃ポジションに陣取ていた、謎のサーヴァント。

 

 それが、なんでこんなところに―

 

「……要調査対象だったが、まさかのこのこ出てくるとはな。貴様には聞きたい事がいくつもあった」

 

「私達が言うことでもないが、この聖杯戦争に置けるイレギュラー要素が出てくるとはな。これは好都合だ」

 

 二世もエミヤも警戒する中、相手側のサーヴァントもため息をついた。

 

「それはこちらのセリフだ。もののついででキャスターのマスターを始末しようかと思ったら、先客がいたとはな。やはり慣れない事はするものじゃない」

 

 そう言いながら、謎のサーヴァントは銃とナイフを構える。

 

「……一応穏便に話ができるのなら、それに越した事はなかったのだが」

 

「会話は無用だ。僕は人倫の外側に使役されるもの。人に使役される英雄とは分かり合えないだろう。このまま逃がしてくれるというのなら何もしないけどね」

 

 取りつく暇なしとはこのことだな。

 

「どうする二世。こうなったらとりあえずボコして話を聞くしかなさそうだが」

 

「それしかあるまい。我々以外のイレギュラーである以上、こいつは十中八九この特異点のカギを握っている。……とは言え、この立地では数が生かせんな」

 

 確かに。この立地は数の利を生かしづらい。

 

 しかも俺とジークは宝具の特性も発揮しづらい。マシュも獲物がでかすぎるから狭い立地ではあれだろう。

 

 となるとエミヤとクロの2人が一番なんだが―

 

「……ん?」

 

 なんか、妙な音が聞こえてきたぞ?

 

 なんというか、雷撃と馬車みたいな―

 

『みんな! 君達の方向に向かって新たなサーヴァントが接近中だ! 宝具を使って強引に接近してきてる!!』

 

 マジかロマニ!? 今度は何だ!?

 

 この最速で仕掛けてきた俺達と殆ど同じタイミングで、仕掛けてくるサーヴァントなんているわけが―

 

「……あ」

 

 ……おい、二世。まさかアンタ迄うっかりか?

 

 誰が、誰が来た!?

 

「アラララァアアアアアアアアイッ!!」

 

 んだぁああああああああああ!?

 

 ぎ、牛車ぁあああああ!?

 




はい、イレギュラー登場のおり、本章最大の想定通りに動いてくれない人が乱入しました。


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二世(真っ白になって沈黙している)一同(沈痛な面持ち)

はい、そういうわけでzeroの清涼剤が登場です



 それは、傍若無人を言葉にしたかのような男だった。

 

 見ただけで俺は全てを理解した。そう、俺はこんな奴の目を知っている。

 

 ……魔法少女が絡んだ時のセラフォルー様や、なんか思いついた時のアザゼルのような奴だ。具体的に言うと、人の迷惑考えずに完全に自分のペースで行動している状態の奴。

 

 しかも流れからしてこいつライダーだよ。

 

 ……なんだろう、話が分かるってのが不安なんだが。

 

 話聞いて、自分のペースに強引に持っていきそうな気がするんだが。

 

「こ、このタイミングで……っ」

 

 しかも二世が今までにない表情であれになってやがる。

 

 なんだ、なんだなんだ!?

 

「……おぉう?」

 

 と、牛車越しにこちらを覗き込んだサーヴァントっぽい大男が、首をかしげる。

 

「これはあれだな。やはり戦端は開かれていたようだぞ、坊主」

 

「……あっれ~? 一番乗りだと思ったんだけどなぁ」

 

 と、ひょっこり顔をのぞかせながらサーヴァントにそう返すのは―――――

 

「「「「「「「……っ」」」」」」」

 

 俺たちは、軍師に視線を向ける。

 

 そして、サーヴァントのマスターに視線を向ける。

 

 そして、すべてを大体察した。

 

 ああ、そういやそうだ。

 

 二世は聖杯戦争を無傷で切り抜けたことで評価が上がったという話があるんだから、マスターとして参戦してないとおかしいんだよな、コレ。

 

 ライダーが安全牌だと断言したのはあれか、よく知っているからか。

 

 ということはセイバー陣営ともそれなりに交流があったということでいいのか、コレ。

 

「な、なんか状況がすごくややこしいことに!」

 

 立花がそう絶叫するのも無理はねえ。

 

 これ、本当に絶叫したくなるぐらいカオスになりかねねえぞ。

 

「に、二世、ここは―」

 

 とりあえず指示を仰ごうとしてオルガが振り返り―

 

「なぁにが一番乗りだ、このたわけ!!」

 

 ―それより早く二世の罵倒が射出された。

 

「う、うわぁ!? なんだよいきなり!!」

 

 ホントいきなりである。

 

 あのすいません軍師。ちょっと現状は交渉する方が重要なのですが……。

 

「この戯けが、まさかと思うが「川の残留魔力をしらべて痕跡を探す」などという三流以下の方法でも見つけられるような場所を、ほかの連中が見つけていないなどと本気で思っているのか、ぁあん!?」

 

 ……どうやってここ見つけたんかと思ったら、そんな初歩の初歩をあえて使ったのかぁ。

 

「着眼点は悪くないな」

 

「そこは同意見だ」

 

「そ、そうかしら。下策も下策な気がするんだけれど……」

 

 俺とエミヤが思わず納得するなか、オルガはよくわかっていないのかちょっと首をかしげる。

 

「そんな事をしなくても、もっとうまく探せる方法はある気もするのだけれど」

 

「いや、物事に対処する方法というものは、状況によって最適が変わるものだ。例えば食べ物を温めるにしても電子レンジがいちばんに思われがちだが、携帯性を考慮するべき戦闘糧食の場合は水で反応する薬品を使う方が効果的なことは多い」

 

「そう言う意味じゃあ、そこ迄的外れでもないだろ。この工房は一流の方法だと逆にコストも手間もかかるからな。ローコストで発見できたことは褒められてしかるべきだと思うが」

 

 と、エミヤも俺もはっきり褒める。

 

 いや、ホント真面目な話。魔術師としてのすごさを競う大会じゃないんだから、一番すごい魔術を使うっていう考えは切り離すべきである。

 

「同じ結果を出したのならば、大規模発電施設を湯水のごとく使っている我々よりも、彼の方が圧倒的に安上がりだ。コストパフォーマンスという観点から言って、彼が圧勝しているな」

 

「だよな。俺ら無駄で踏みまくってるよなしな」

 

「兵夜もエミヤも、こんな稚拙は方法をわざわざ褒めるな!!」

 

 二世の怒声が俺らにまで叩きつけられた。

 

 そしてなんていうかものすごく苛立たしいものを見るかのような勢いで、指を突き付ける。

 

「第一この小僧は、一から十まで幸運に助けられただけの小童にすぎん。……特にエミヤ! 貴様十年前の若造が同じように評価されて冷静でいられるのか、あぁ!?」

 

「失礼した。口をつぐませてもらう」

 

 エミヤが裏切った!?

 

「いや、実力を過信してなくても無理無茶無謀をぶちかますあいつはある意味まだましだ。コイツはたまたま結果が伴ったというだけで自らの実力を過信する当たり始末に負えんのだ、始末に!!」

 

「……それは違う。あの未熟者とは異なり、彼は自ら命を懸ける覚悟もあり、そのうえで自分の命を大事に思う人として当然の感覚も持ち合わせている。あの未熟者の欠陥品の下位互換あつかいは甚だ不愉快だ」

 

 と、思ったら喧嘩始めた!?

 

「ええい、封印指定確実の異能を持ち合わせ、世界との契約とは言え英霊の座に迎え入れられたものが何をほざくか……」

 

「何を言う、かの諸葛亮孔明に選ばれ、数多くの優秀な魔術師を世に送り出してきたあなたに比べれば、奴などへっぽこ依然というもので……」

 

 なんか口げんかが加速していく!?

 

「ど、どうしましょう!? 二世さんとエミヤさんが、なにか私達ではよくわからない次元の口争いを!!」

 

「……なんだろう、黒歴史的な、アレ?」

 

「自発的に黒歴史を語って、相手の株を上げていくスタイルの喧嘩なんて初めて見たわね」

 

 マシュに立花にクロもどうしたもんかと困っている。

 

 ……とりあえず話を進めよう。

 

「あ~。スマンがここにいたキャスターのサーヴァントは俺たちが倒したんで、残念ながらお引き取り願えると助かる」

 

「は? いや、目の前にキャスターのサーヴァントがいるみたいなんだけど………んん!?」

 

 ライダーのマスターがそう言いかけ、よく目を凝らす。

 

 そしてその瞬間、後ろに下がって牛車から落ちかけた。

 

「ぅうううううわぁ!?」

 

「これ坊主。落ちるところではないか」

 

 と、サーヴァントに支えられるが、まったく気にしていない。

 

「きゃ、キャスターが二人にアーチャーが三人!? しかもエクストラクラスが一人ぃ!?」

 

 ……あ、気づかれた。

 

「お、お、お、お前ら一体何なんだよ!? キャスターのやつが反則技でも使ったのか!?」

 

 やばい、どうしよう。

 

「シャラップ!! そもそも我々が聖杯に呼ばれたサーヴァントでないことに気づけ!! あと件のサーヴァントは本当に仕留めてるんだよ!!」

 

 口論中の二世が再び罵声を吐くスタイルに変化した。

 

 つってもそんなこと信じろと言われてもかなり難しいわけで―

 

「みたいだのぉ。是では報酬とかいうのはあきらめた方がよさそうだ」

 

 と、ライダーがあっさりとみて発現した。

 

「な、なんでわかるんだよ?」

 

「そりゃぁあ、坊主。こいつらがこの工房とかいうのを障害物あつかいしとるからだよ」

 

 そういうと、ライダーはこのあたりを見回した。

 

「この化け物共がキャスターの用意した番犬なら、キャスターの一向に襲い掛かる必要がない。そもそも制御すら失って居る感じで、余らの妨害をする形でもなかった。こりゃすでに工房の主はくたばっておって、意気揚々と凱旋するところだと考えた方が正しいだろうて」

 

 そういいながら、「ちがうか?」といわんばかりに視線を向けられて二世は何処か得意げになった。

 

「なるほど。やはりあなたは話が分かるようだ」

 

「因みに、そこに倒れている男がキャスターのマスターだ。魔術の適性があっただけの連続猟奇殺人鬼だそうだよ」

 

 と、エミヤが謎のサーヴァントの存在ですっかり忘れていたキャスターのマスターを縛っていた。

 

 いつの間に……。

 

「分かったかね、そこのへっぽこ魔術師。貴様は基本何もできないのだから、偉大なサーヴァントの言葉を少しは鵜呑みにするぐらいでちょうどいいと知るがいい」

 

 そしてその隙を逃さず二世がライダーのマスターをなじり始め―

 

「とりあえずそこのしかめっ面よ」

 

 そこにライダーが割って入った。

 

「な、なにかね?」

 

「さっきから余のマスターにあたりがきついが、それはつまり……」

 

 そしてその瞬間―

 

「―この征服王イスカンダルと矛を交える気があるとみてよいか、ん?」

 

 すごい密度の戦意がたたきつけられた。

 

「「「……っ!?」」」

 

 オルガや立花やマシュが気圧され、俺とエミヤがとっさに前に出る。

 

 おい、二世! どうするんだオイ!? これどう考えてもあんたのディスりのせいだぞ!!

 

「な、なんでそうなる!? 貴方とてどちらの言い分に理があるかの判断はわかるだろうに!」

 

「それはそれだ。仮にもこの坊主は余のマスターである。それも、敵サーヴァントの根城を見つけ出すという戦果をあげたばかりのな」

 

 そういいながらライダーは自分のマスターの背中をばんとたたき―

 

「そいつに喧嘩を売るというのなら、そりゃサーヴァントとして黙って見過ごすわけにもいかん。違うか?」

 

 ………。

 

「二世。ド正論きたぞコレ」

 

「どうすんのよ。これ、戦うことになりそうなんだけど」

 

 俺もクロもどうしたもんかとなるが、二世が全く役に立っていない。

 

「……な……ぁ……」

 

 二世は、真っ白になっている!!

 

 仕方ない。ここは助け舟を出すか。

 

「あ~、二世? とりあえず俺たちの方針は、「ライダー陣営との戦闘は可能な限り回避」だったはずだよな?」

 

 そういいながら俺はとりあえず一歩前に出る。

 

 俺の人材選別感が告げている。このオッサン、予定調和とかあまり好きじゃないタイプだ。

 

 波乱万丈な人生こそを好む。イッセーよりヴァーリと組んだ方が相性がいいタイプだな。

 

 つまり、したでに出すぎて貢物を出してくるとさらに状況が悪化しかねない。

 

「すまんが、俺たちもいろいろ都合があってな。今の段階ではあんたらと戦闘することができないんだ。見逃してくれると助かるんだが……」

 

 さて、できるか……?

 

「何だ、つまらん。ちったぁ骨のあるやつだと思ったのだがな」

 

 何とでもいうがいい。リスクしか生まない戦闘を行うほど、こっちは戦闘狂ではないのだよ。

 

「あ……が……」

 

 そして二世、もうアンタ黙れ。

 

「なんだよ逃げるのか? やーい腰抜けー」

 

「こら調子に乗るな」

 

 あ、ライダーのマスターがデコピンで吹っ飛ばされた。

 

「なんて儚い生き物……」

 

「フォ~ウ」

 

 立花とフォウの悲しげな声が、排水溝にこだましていった。

 




まあここは原作とそう変えられませんから、こんな感じです


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兵夜「アベックの振りアベックの振り」オルガマリー「あ、アベックって!? あわわわわ……」

 

「……ええい! マスターのいさかいにサーヴァントが介入するとは、モンペなのか!!」

 

「いや、あんだけ相方がいちゃもんつけられちゃ割って入りたくなるのは人情だろ」

 

 散々ディスってたからな。あんた。

 

「しかしどうする? 第三の保護対象であるライダー陣営と行動を共にできなかったのはまずいんじゃないか?」

 

「気にしなくていい! どうせあいつらは聖杯戦争が動かなけりゃ、部屋でせんべい食いながらビデオ見てるだけだ!! ギルガメッシュが相手でなければ充分勝てる!!」

 

 ジークにそう言い放ちながら、二世は葉巻をぷかぷか吹かせながらストレスを溜めている。

 

「まあ、誰しも未熟な自分を見せつけられるのは苛立たしいものだ。それが誇りに思う存在に庇われたともなれば、ストレスを溜めてしまうのは当然というものだ」

 

 うんうんと頷きながら、エミヤはとりあえずの陣地で手早く調理を済ませていた。

 

「とにかく今日はもう休むぞ。明日になればサークルも安定化して通信が可能になる」

 

 と、言いながら出されるのは日本の郷土料理の数々。

 

 だし巻き卵。筑前煮。炊き込みご飯。わかめと豆腐の味噌汁。

 

「今日のところは食べて休むぞ。食は栄養補給とストレス発散を同時に行える便利なものだ。時間があるのならしっかりしたものを食べるべきだな」

 

 おお、マジで美味そう。

 

「エミヤありがとー! いっただきまぁっす!!」

 

「ありがとうございます、エミヤ先輩」

 

「ありがたく頂かせてもらうわ」

 

 と、生身組が食べ始め、サーヴァント組も食事を開始する。

 

 ……かなり美味いな。食材は元より、調理の仕方も丁寧だ。

 

 こいつ料亭でも経営してたのか? 俺も飯屋開けると言われるぐらいには腕があるが、その上を行くな。

 

「まあいい。それはともかく、当分の間は自由時間だ」

 

 と、冷静さを取り戻した二世がそう言った。

 

「ここから会談までは特にする事がない。兵夜とミス・アニムスフィアは資材確保に動く事になるのだろうが、それ以外は休息をとっていたまえ」

 

「え、大丈夫なの?」

 

 立花が首を傾げるが、しかし二世は断言した。

 

「白昼堂々戦闘を仕掛けるほど、聖杯戦争の参加者は愚者ではない。人気のないところに行かないようにして、サーヴァントを常につけていれば大丈夫だ。まあ、気分転換以上のことをされても困るわけだがね」

 

 まあ確かに。

 

 之が聖杯戦争である以上、不用意に神秘の秘匿を破る意味はないからな。護衛をきちんとつけていれば、致命傷にはならないだろう。

 

「了解です。じゃあマシュ、買い物に行こ?」

 

「え、私がですか!?」

 

 思わぬ展開にマシュがたじろぐ。

 

 まあ、聖杯戦争のど真ん中で買い物ってのもあれかもしれんが―

 

「クロもついて行ったらどうだ? 私服はろくになかったからな。金は俺が出す」

 

「あらいいの? だったらちょっとぐらい高い物でも買ってみようかしら」

 

 クロをそそのかしてみると、すぐに乗っかってくれたようだ。

 

「え、ですが、私は先輩のサーヴァントですし、おしゃれというのはあまり分からないところが―」

 

「かまわないわ。こういうのは経験も必要だもの」

 

 と、戸惑うマシュにオルガまで後押し。

 

「しょ、所長まで?」

 

「貴女ももうちょっと女のたしなみを覚えるべきだわ。人理焼却中にそんな機会は滅多にないのだから、少し覚えてきなさい」

 

 そういうと、オルガは食事を終えて立ち上がる。

 

「面倒な業務は大人(こちら)で終わらせます。ジーク、貴方も適度に休息を取っておくといいわ」

 

「そうだな。なら、俺も少し散歩ぐらいするとしよう」

 

 まあ、こんな休息期間があっても罰は当たらないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで欲しかった物を全て買い込む事には成功した。

 

 嗜好品の類をごっそり集める事が出来たのは好都合だ。当面の人理修復案件において、ストレス発散の類はだいぶマシになるだろう。

 

「……さて、あと四時間ぐらいでロード・エルメロイとの会談だったわね」

 

「だな。ロードが予定通り令呪を確保したとは思うが、そろそろ合流するべきかね」

 

 と、合流ポイントで俺達はぼやいていた。

 

 現段階では俺達と言う大戦力と連携を取り、令呪の数でも凌いでいるランサー陣営が一歩リードってタイミングだ。

 

 突っかかってくるからこのタイミングを逃すわけにはいかないんだが、さてどうなるか―

 

「……あ」

 

「どうしたの?」

 

 俺がやばいものを見つけて顔をしかめると、オルガがそれに気づいて首を傾げる。

 

 そして俺は、オルガを抱き寄せた。

 

「え、え、ちょっと―」

 

「セイバーとアインツベルンの姫さんだ。顔は知られてないだろうが勘付かれるな」

 

 と、とりあえず羽目を外しているアベックみたいな感じでごまかす方向で行かせてもらう。

 

 速やかに使い魔で確認するが、どうやら誤解してくれたようで、場所を移そうとしてくれている。

 

 よしよし。念の為に周辺も確認しながら、俺はそのままどっか行ってくれと願う。

 

 まだそっちと揉めるわけにはいかないんだ。このまま平和的に終わってくれ―

 

「あ゛」

 

「今度は何?」

 

 オルガに怪訝な表情を向けられるが、そんなことを気にしている余裕は欠片も消えた。

 

 俺は即座に得物を展開すると、そのままセイバー陣営へと駆け出す。

 

 ったく。この状況下でマジ面倒なことになりやがったな、オイ!!

 

「セイバー! 彼女を庇え!!」

 

 俺は声を放つと同時に、宝具を開放して一斉に攻撃を放つ。

 

 そしてその瞬間、その弾幕を掻い潜りながら赤フードのサーヴァントが姿を現した。

 

「チッ。余計なことを」

 

「悪いな。今ここでセイバーに脱落されては困るんでな」

 

 俺はそう憎まれ口を叩きながら、軽く舌打ちする。

 

 まずいな。今の弾幕を回避する際、あのサーヴァントは動きが急激に早くなっていた。

 

 どういう理屈かは知らないが、ぱっと見時間操作系の宝具か何かか?

 

「……なに、これ? 聖杯の招きによる召喚じゃないサーヴァントが、2人も!?」

 

 しかもアインツベルンのお姉さんには俺らの異常性がもろばれのようだ。

 

 割とまずい展開だが、しかしここでセイバー陣営がやられることはできる限り避けないとまずい。

 

「おいセイバー。お前はその……マスターから目を離すな!! 前衛はこちらで引き受ける!!」

 

「……事情は分からないが、マスターを助けてくれた借りは返さないといけませんね。いいでしょう、信用します」

 

 手っ取り早くて助かるぜ!!

 

「……アサシンのサーヴァント、いったいどうやって召喚したのかは分からないけど、今の段階で私を殺せば、聖杯は現出しなくなるわよ」

 

 アインツベルンのお姉さんはそう警告するが、しかし目の前のアサシンだったっぽいサーヴァントは意にも介していない。

 

 そう、ちょっとぐらい動揺してもいいだろうに、まったくそういった感じがない。

 

 ……まさかと思うが、人理焼却側が用意したサーヴァントって可能性は―

 

「好都合だ。そも、僕の目的はお前だけだ」

 

 ―ないな。完璧。

 

 人理焼却の可能性である聖杯を意図的にぶち壊すわけがない。どうやらこれは別件らしい。

 

 と、いうことはこいつこそがこの冬木が特異点になった理由に関わっている可能性が高いというわけで―

 

「なら色んな意味で相手をするしかないようだな」

 

 ……仕方がない。どうやらここは俺が出張るしかないようだ。

 

「セイバーはそちらのアインツベルンをカバーしてな。あとは伏兵が一人でも居れば良かったんだが、流石にそこまでは無理強いか」

 

「……そういうブラフは良い。あれだけの集団なのだから、一人ぐらい潜んでいると考えるべきだろうしね」

 

 そりゃどうも。引っかかるほど間抜けじゃねえか。

 

 だがまあ。

 

「貴様には聞きたいことがいくつもある。しっかり全部吐いてもらう!!」

 

「そうはいかない。人倫の枠に囚われた者とは相容れないし、言っても理解はできまい」

 

 そうかい。

 

 なら力づくで話を聞き出すだけだ……っ!!

 




そんなこんなで兵夜VSエミヤ(アサシン)。ガトリングガンとサブマシンガン。弾幕が舞い踊る戦闘はどちらに傾くのか!!


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謎のアサシン「……まさか―サーヴァントになってからこれが破られるとは」兵夜「まさかサーヴァントになってからこれを使うことになるとは」

VSサーヴァント戦。

稀代の魔術師に教えを受けた魔術使いVS人生を捧げて鍛え上げた、稀代の魔術師殺し、ファイッ!!


 

 放たれる機関銃の弾丸を俺は全力で回避。反撃として三門ほどイーヴィルバレトを展開すると攻撃を叩き込む。

 

 それを相手は高速移動で回避。〇トリックスみたいな躱し方してるんじゃねえよ。

 

 明らかに瞬間瞬間で動きが速くなりすぎている。おそらく速度強化系のスキルか宝具を持っていると考えるべきだな。

 

 そして明らかに怪しいのはその武装構成。

 

 ナイフとキャリコとかいうサブマシンガンを中心にして戦闘する英雄なんて聞いた事がない。

 

 キャリコって使い勝手の悪いサブマシンガンだったはずだ。それをメインウェポンにして、歴史に名を遺すような活動をした英雄なんていたか?

 

 ……考えられるとすれば俺や二世と同じ疑似サーヴァント。しかし目的が読めない。

 

 アインツベルンの女を狙う理由がよく分からん。其れも、聖杯の現出を阻止したいようだが、どこで知った?

 

 この時代の連中だと、間桐が勘付いている程度だって話じゃなかったのか?

 

 と思ったらナイフが飛んできたので俺はそれを回避する。

 

 そして気づいた瞬間には、敵アサシンは一丁の銃を構えていた。

 

 中折れ式の大型拳銃。其れも銃身からして魔術的な加工が施されていると思しき弾丸だ。

 

 ………おそらくあれが奴の最大火力か。

 

 俺は慢心する事なく装甲版を出すと、それを更に魔術で強化して受けの耐性に回る。

 

 回避してもいいが流れ弾で被害が出てもあれだしな。ここは受け止める方向で―

 

 その瞬間、意識が一瞬飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見た瞬間、アイリスフィールは一体何が起きたのか分からなかった。

 

 攻撃を防禦したはずの謎のサーヴァントの体が裂け、鮮血がほとばしる。

 

 そのまま崩れ落ちるそのサーヴァントを半ば無視して、赤フードのアサシンはこちらに銃火器らしき物を向ける。

 

「これで終わりだ。君に罪はないが、君の死こそが事態解決の最短過程だ。悪く思うな」

 

「私を忘れるな!!」

 

 しかしセイバーの攻撃を受け止める必要に迫られた為、アサシンは攻撃を中断する。

 

「面倒だな、騎士様とかいうのは正直嫌いなんだ。騎士道武士道誇りに矜持と、戦争を酷くする事しかしない」

 

「……私が言えた義理ではないが、誇り高く騎士達の規範を侮辱するのはいただけませんね」

 

 睨み合うセイバーとアサシンは膠着状態に陥るが、しかしそこに変化があった。

 

 というより、いわゆるホラー映画のような展開だった。

 

「……おい、なにしてくれてんだこの返り血フード」

 

 その言葉と共に、ボロボロになっていた助けてくれたサーヴァントが幽鬼のように立ち上がる。

 

 そしてそのまま、遠慮なく回し蹴りを叩き込んだ。

 

「何だと!? 全身の筋肉と魔術回路を寸断されて、何で動ける?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術を経由して魔術回路を攻撃する類の装備のようだな。……生憎その手の攻撃を考慮した防御礼装を試作していてな」

 

 アーチャーありがとう!! こんなところで役に立ったぜ!!

 

 最も試作品だったからダメージがないわけじゃないが、治癒可能な範囲内だ。是なら戦える。

 

「セイバー! この攻撃をされたらそこのアインツベルンは防げない。お前は護衛に集中しろ!!」

 

 さて、それじゃあ第二ラウンドと行きますか―

 

「……どうやらこれ以上は面倒な事になりそうだ。一旦退くか」

 

 ―と思ったら、速攻でアサシンは離脱していった。

 

 ……割り切りが早いな。ちょっとつんのめったが、これは―

 

「無事か兵夜!」

 

「ひょ、ひょうや! 二世とエミヤを連れて来たわよ!!」

 

「ふむ。どうやらこちらに気づいて即座に離脱したか」

 

 なるほど、こっちが増援を引き連れてきた事を察知したってわけか。

 

「……あの時のサーヴァント。聖杯の力もなしにこれだけの数をどうやって……!?」

 

 アインツベルンのお姉さんが狼狽しているが、しかし二世が手で制す。

 

「待ちたまえアインツベルン。我々は君達と矛を構えるつもりはない」

 

 ……先日、一戦交えたばかりな気がするんだが。

 

「波止場の戦いについては、止むに止まれぬ仕儀あってのこと。少なくとも、現段階でセイバーに脱落されるとこちらも困るのだ」

 

「確かに、その通りですね」

 

 と、二世の言葉にセイバーが同意を示す。

 

「波止場の戦いにおいても追撃をせず、その他にも戦力がいたにも関わらず挟撃を行わなかった。聖杯戦争での勝利を狙っているなら、これは不自然です」

 

「……つまり、どういう事なのかしら?」

 

 アインツベルンの姉ちゃんの言葉に、セイバーも少し首を傾げる。

 

「それはわかりませんが、自らの勝ち筋をあえて遠ざけている手緩さがあります。……できれば、敵か味方かをはっきりしてもらいたいところですが」

 

「なに。敵味方の区別など、情勢次第でいかようにも転ぶものだ。ましてやバトルロイヤル形式の戦いなら尚更だろう」

 

 と、エミヤが微妙に皮肉を持ってして告げる。

 

 そして肩をすくめた。

 

「まあ、私達は聖杯争奪戦そのものとは別の目的で動いていてね、我々の目的の為には、そこのセイバーが無事でいる事が必要条件だと言っておこうか。……これぐらいが限度かね?」

 

「そうだな。偽りなく語れる事実は、今のところそのあたりが限界だろう」

 

 エミヤの確認に二世がそう頷いて、あちら側もよく分からないなりにある程度は事情を組んでもらったようだ。

 

 とは言え微妙な展開にはなっているのも事実。さて、どうしたものか……。

 

「ならば、ここではっきりと確約しましょう」

 

 と、そこでオルガが前に出る。

 

「私はアニムスフィアの魔術師です。魔術教会天体科の名において、セイバーの消滅を阻止する為に可能な限り尽力する事を誓いましょう。どうしてもというのなら、魔術的な制約を掛けてくれても構わないわ」

 

「アニムスフィア! 時計塔のロードの一つが、何でエルメロイが参加している聖杯戦争に?」

 

「それについては諸事情あるので言えないわね。ごめんなさい」

 

 さて、これでどうなる? 後々ややこしい事になりそうなんだが……。

 

「いいわ。明確にアインツベルンの障害とならない限り、今後は手出しを控えましょう」

 

 おお、色よい返事。

 

「よろしいのですか、アイリ?」

 

「ええ。我々としても、優先して打倒するべき相手はほかにいるわ。助けてもらった借りもあるもの」

 

 よし、これでセイバー陣営は当分警戒しなくてもよさそうだ。

 

 まあ、あのアサシンがこのお姉さんを狙っている以上、一定の注意はしておくべきなんだがな。

 

「さて、それでは失礼する前に一つ」

 

 と、そこで二世が疑問を口にした。

 

「どうもあのアサシン、こちら側の目的に密接に関わっている節がある。君を狙ってきたようだが、心当たりはあるかね?」

 

 その言葉に、お姉さんは困り顔をする。

 

「いいえ全く。ただ……」

 

 ただ?

 

 その後、アインツベルンはすごく困り顔をして、苦笑を浮かべた。

 

「あの人を一目見た時、初めて会ったのに因縁深い人のような気がしたのよ」

 

 ……何それ。運命の赤い糸?

 

「まるで彼に私が殺される為だけにこの場に居合わせたかのような……」

 

 そりゃまた、なんというか難儀な感覚だな。

 

 アインツベルンが送り込んだんだから優秀な魔術師ではあるんだろうし、何らかの未来予知でもしたのだろうか?

 

 ……しかしまあ、本当にあれだな。

 

 あのサーヴァント、おそらくこの特異点のカギを握っている存在だろう。

 

 できる限り早急に、決着をつける必要があるな、これは。

 




と、いうわけで何とかしのぎ切りました。

いえ、魔術回路そのものの攻撃を防ぐための礼装とかは一応発想はありまして、出番があれば出したかったんですよねぇ。来るとわかっていればメディアなら作れそうだし、ケイオスワールド関係ならアザゼルとアジュカがいるから、どんなのが出てきても驚けないです。

そんなわけで、出す機会に恵まれたので出してみました!!


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立花「どうにかなんないのかなぁ」兵夜「どうしたもんかなぁ」

おそらく今回の将で一番の鬱展開ではあります。


 

「お、おのれ……なんだこの天敵……っ」

 

 そう言いながら消滅していくアサシン(八十分の一)。

 

 うむ、二世との相性最悪だな。

 

 工房ごと移動していると言ってもいい孔明の宝具。これではどうあがいてもサーヴァントとの戦闘が免れないのが致命的だ。

 

 諜報組織や対人戦では圧倒的とはいえ、単体での戦闘能力はサーヴァントの中でも桁違いに低い部類である百貌のハサン。気配遮断が効果的に発動しない以上、勝ちの目は薄いか。

 

 せめてギルガメッシュとやらから宝具を借りてこれれば話は変わるんだが、そんな事をしてくれる輩ではなさそうだしな。

 

 しかし聖杯戦争の参加者としてもセカンドオーナーとしても俺達という特大のイレギュラーを見逃す事はあり得ない。必然的に監視を付ける試みはする他ない。かと言って他のサーヴァントの監視を外すのも困難。

 

 と、いうわけで戦力の逐次投入という愚策を行う他ないというわけだ。出てきた側から仕留められているから、情報を共有するのも困難という致命的状況だしな。

 

 そろそろ自棄を起こすなり腹をくくるなりして一斉投入を仕掛けてこないかと不安になるが、まあその前にもう一段界は進めておきたいな。

 

「さて、それではあと一時間ちょっとでケイネス師との会談だ。それまでに何か説明し忘れたりした事はないかね?」

 

 と、もう食後の運動的な感覚になったのか、平然とそう聞いてくる二世。

 

 しかしまあ、とりあえず問題はいくつかあるが―

 

「あ、じゃあ質問があるんだけど」

 

「ふむ、何かあったかね?」

 

 立花が手を上げるが、その表情がちょっと曇っている。

 

「……間桐のマスターが不調だっていうけどさ、あれ、そんなレベルでもないんじゃない?」

 

「おい、なんでそんな具体的に知ってる」

 

 立花、お前どうした?

 

「やめておいた方がいい」

 

 と、エミヤがそうはっきりと言い切った。

 

 なんだ? いったい何があった?

 

「大方、倒れこんでいる間桐のマスターとでも会ったのだろう?」

 

「はい。帰りに路地裏でうずくまっている方を見かけたのですが……」

 

 と、マシュが更に補足説明する。

 

「大方見過ごせず介抱して、ついでに家まで送り、とどめに窓にいた子供を見つけてしまったといったところか」

 

 そして、それを遮る様にエミヤがそう聞いてきた。

 

「あら、よく分かったわね」

 

「分かるともさ。その辺りについては二世と共に情報共有をしているからな」

 

 クロにそう答えながら、エミヤは間桐邸のある方向に視線を向ける。

 

 そして、はっきりと言い切った。

 

「遠坂時臣とやらも度し難いな。魔術師とは業が深い生き物なのは分かっているが、よくもまああの男から凛や桜のようなものが生まれるのか」

 

 そして、視線を立花達に向ける。

 

「最初に言っておくぞ。これを打開するのは現状では不可能だ。聞いて後悔しても私は責任を取らないからな」

 

 そう前置きをして、エミヤと二世は説明を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠坂時臣。この男は魔術師としては間違いなく敬意を向けられるべき存在だ。

 

 アインツベルンや間桐に比べれば代がが浅く、当人の資質も平凡。はっきり言えば、魔術刻印を除いた魔術師としての才能で言えば、決して才児などとは言えないものだった。

 

 しかし、遠坂時臣はそれを並の魔術師を遥かに超える努力で補ってきた傑物である。

 

 如何なる時も優雅たれという格言がある遠坂家だが、彼ほどそれを体現した者もそうはいない。

 

 優雅に浮かんでいると思われる白鳥が、水面下では激しく足を動かしているように、彼は努力を行い、そしてそれを賢しげに見せたりしない。

 

 成果が十必要ならば、二十の努力を行う。理屈で言えば簡単だが、誰もが出来る事ではない。それを彼はやってのけた。

 

 その努力によって積み重ねられた厚みは余裕を生む。うっかり癖を持つ遠坂であるからこそ、余裕は必要だった。

 

 今回の聖杯戦争で言えば、サーヴァント二騎という盤石の態勢で挑んだ事がそうなのだろう。普通に考えれば勝算が倍に跳ね上がる所業なうえ、監督役との連携をとるという反則の所業だ。普通なら勝てる。

 

 そして努力によって高められた実力も断じて低くない。ロードであるケイネスとまともに渡り合えるだけの技量を、才にかける身でありながら得てきた実力は伊達ではないのだ。

 

 更に、その精神性も魔術師としては褒め称えられるべきだろう。

 

 殆どの魔術師は根源到達を目標としながらも、その実半ば諦めている。

 

 後代に任せればいいやと思い、権力争いや金稼ぎに集中している者も多い中、真剣に根源到達を目指して行動している遠坂時臣は、俗物根性からはかけ離れているだろう。ある意味時計塔の古狸共に爪の垢を煎じて飲めと言いたくなるぐらいの人物ではある。

 

 そして、遠坂時臣は親としてもそこそこ出来ている人物だ。

 

 多くの魔術師は胎盤もしくは種馬として伴侶を見る。他のステータスも気にするだろうが、しかし人間性を考慮しない者は多い。

 

 例えば二世の教え子の中には、女の子の残りがをクンカクンカする奇行を恒常的に行う、あほ極まりない奴がいた。

 

 普通に考えればドンビキ確実。イッセーと別ベクトルで変態である。

 

 この手の手合いは普通はもてない。イッセーの場合モテてるのは、本質を見る機会に恵まれているからだ。あいつラック値高いな。

 

 しかし魔術師達の子女は割りとそいつを狙っている奴が多いそうだ。

 

 それは本質を見ているからではない。そいつが名門の家系でかつイケメンだからだ。

 

 魔術師の業の深さを知らしめるエピソードだ。

 

 そして魔術師は基本的に長子にしか魔術を継承しない。

 

 神秘は独占することで価値を保つからだ。この辺、技術を広める事で発展する科学とは方向性が違う。

 

 根本的に魔術師というのは、魔術刻印と研究成果を託す為に子供を育てる者だ。まさに非人間性の極みだろう。件のその辺体魔術師の家系も、特異な魔術を後継者が発狂してでも強引に受け継がせたりしていたらしい。

 

 だが、そんな中で遠坂時臣は二子を設けたうえで真剣に愛情を注いでいたらしい。

 

 双方ともに魔術の優れた才能を持ってしまい、片方にしか魔術を受け継がせられない事を悩んでいたらしい。

 

 優れた魔術の才能は、魔術の心得がないと所有者に害を生んでしまう。そしてその良く吸えばモルモットとかホルマリン漬けとかだ。

 

 普通の魔術師なら、別に深く気にしない事だろう。度し難い魔術師の性だ。

 

 そういう意味では遠坂時臣は親としても立派だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、遠坂時臣は人間としてはそこ迄ではなかった。

 

 根本的に魔術師として最右翼なのが原因なのだろう。魔術を至高と思っているがゆえに、それ以外を深層心理で見下していると言ってもいい。

 

 故に、彼は次女を養子に差し出した。

 

 そこに関しては間桐との盟約があった事もある。

 

 貴族といて生きている遠坂時臣なら、後継者でない子供を大が途絶えかけている家系の跡継ぎにするというのもそこまで酷い話ではない。中世貴族ではよくある話だ。魔術師の価値観と近いから、まあその観点で言えば酷い話ではない。

 

 しかし、ここで遠坂時臣の致命的な欠陥が働いた。

 

 遠坂時臣は誇り高く、それ以外の生き方を理解できない者だ。彼的な凡俗の幸せを否定はしないが、魔術の家に生まれてそちらを優先する神経は理解の外側にあるそうだ。

 

 そして、聖杯戦争を作り出した御三家としての誇りを持つ彼は、無意識に他の御三家にもそれを求めてしまったのだろう。

 

 間桐家は人体改造なども行う為、その次女の魔術特性に関してもそこそこどうにかできると踏んでいたらしい。

 

 だが、最悪な事に間桐家はものの見事に致命的だった。

 

 間桐家のマスターである間桐雁夜は、少々問題のある性格をしているが、根本的に普通人側だった。

 

 魔術師の精神性を毛嫌いしており、魔術の才能もそこまで高いわけではなかった事もあって、家を出ている。

 

 遠坂時臣からしてみればそれは誇り高き魔術師として問題外であり、今更聖杯戦争のマスターになった事に関してマジギレ案件のようだ。

 

 そして、遠坂時臣のような人種は考えもしない。

 

 家出するほどにまで嫌悪させるほどの間桐の魔術がどういうものか。

 

 いや、遠坂時臣なら間桐の魔術すら受け入れた可能性もあるだろう。

 

 それほどまでに彼は魔術師である事を誇っている。故に分からない。

 

 一般人の思考にとって、間桐の魔術がどういうものになっているのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっちゃけ蟲姦で人体改造するのが基本らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 質の悪い事に、骨の髄まで魔術師ならば受け容れる可能性はある。ここ迄なら。

 

 ただし、更に質の悪い事が発生する。

 

 間桐臓硯とかいうその魔術師、性根が腐り切っているらしい。

 

 昔は立派な性根を持っていたとかいう情報も出てきているのだが、長生きし過ぎて老害と化したのか、完全な不死を求めるだけの外道となり果てたそうだ。

 

 ゆえに求めるのは有用な魔術を行使できる胎盤。その為の調整のみをその少女に行っていたらしい。

 

 優秀な間桐の魔術()使()()を生み出す為の胎盤。その為命の安全だけは保障していたが、しかし魔術師としての教育は欠片も行われていなかった。

 

 そして始末に負えない事に、産まれた時から骨の髄まで魔術師だった遠坂時臣はそれが当たり前だと思っているし、次女なので教えるわけにはいかないとその辺の情操教育してなかったそうだ。

 

 結果、間桐桜、旧姓遠坂桜は心を病んだ。

 

 元から魔術を行使する才能はあっても魔術師としての才能はなかったのだろう。もし遠坂時臣のような精神性ならば、それなりに誇りをもって行動していたのかもしれない。

 

 まあともかく、そういうわけでこの頃の彼女は酷い事になっていた。

 

 ……詳しい情報は分かっていないが、間桐雁夜はそれに異議を唱え、聖杯を取る事を条件に彼女を救う事を要求したらしい。

 

 だがなんというか、その後寿命と引き換えの人体改造とかで色々と迷走したらしい。

 

 結果として時臣絶対ぶっ殺す病人が誕生したわけだ。

 

 なんというか間桐家は恨み節優先な思考回路があるらしい、とはエミヤの弁だ。

 

 なんでも間桐関係者と関わり合いが多いが、ボスがボスだからかある意味歪んでいる奴が多いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言っておくが立花。この問題に関しては現状我々では手が出せん」

 

 残酷な事を二世は言った。

 

 が、これに関しては反論できない。

 

「確かに、虚数属性なんてどうしようもないもんね」

 

 立花もそれが分かっているから、悔し気だ。

 

 ああ、そうなんだ。

 

 間桐桜の魔術特性は「虚数」。これが使える魔術師は非常に限られる。というより、絶滅危惧種レベルだ。

 

 そういう意味では間桐という魔術体形に送る事は遠坂時臣は渡りに船だろう。人体改造など魔術師なら程度はともかくしているようなもんだし、其の中でも間桐ならまだましな事ができると思い込んだのだろう。

 

 故に、桜という子を助けるには、この時代でその問題を解決できる家を用意しなければならない。

 

 そして、それは少なくとも近平家では不可能だ。

 

 魔術師としていい加減な近平家では、とても保護する事はできないだろう。魔術教会も虚数属性などという貴重なサンプルを見逃すとは思えない。

 

 かと言って、遠坂家にそれ以外のあてがあるかも怪しい。下手に内情を説明し足りしても、それで好転する可能性は低い。

 

 かと言ってカルデアで保護するのも困難だ。レイシフトの適性はレアスキル。余程の事がない限り、そんなご都合主義があるとも思えない。

 

「酷過ぎます。どうにかならないのですか、所長」

 

 マシュの表情を見るとこっちも胸が痛むが、しかしオルガは首を横に振る。

 

「……難しいわね。それに不愉快だけど魔術の世界では普通にあり得る事。この時代ならお父様もご存命でしょうけど、流石に動いてくれるとは思えないわ」

 

「同感だな。ケイネス師を焚き付けるのも困難だろう。多少は同情してくれるかもしれんが、流石にメリットが薄すぎる」

 

 二世までこう言ってしまっては、これは不可能に近い。

 

「そうだな。間桐から引き離すだけならできるかもしれないが、その後が困難だ。冬木(ここ)の聖杯を使う事ができるのなら願望機を使う事でごまかせるだろうが、望み薄だしな」

 

 つまり詰んでいる。故に手を出せない。

 

「……時間をかければどうにかできるかもしれんが、流石にそこまでする余裕はこちらにはない。正直心苦しいが、手の打ちようがないというわけだ」

 

 と、エミヤもそう告げる。

 

 マジで心苦しそうだが、しかしそれでもどうしようもない。

 

「不幸中の幸い、間桐臓硯は胎盤としては彼女を丁重に扱っている。彼はそれなりに権威を持っているから、その点についてだけは何とかなるが―」

 

「いや、それも危険かもしれない」

 

 と、ジークがなんか不安な事を言ってきたんだが。

 

「俺のいた世界では、間桐は魔術師として完全に没落していたそうだ。なんでも第三次聖杯戦争でダーニックに大聖杯を奪われた事が原因で間桐の長が酷い事になったらしいんだが―」

 

「それ、マジでやばくない?」

 

 立花が冷や汗を流すのも無理はない。

 

 もしそうなったら、その桜って子の安全を保障する奴がいなくなるのと同じだ。

 

 そして俺達の場合、聖杯そのものをどうにかする事も視野に入れないとけないかもしれないのだ。

 

 下手すると、間桐が終わるぞ。

 

 さて、どうしたものか―

 

「……質の悪い話になってきたが、今はそれよりもする事がある」

 

 と、二世が声を上げる。

 

「私事ではあるが、できない可能性が高い事案より、できる可能性が高い事案を優先するのが合理的だ。……どちらにせよ意味ない事柄だが、まあ、情報提供の駄賃と思って割り切ってくれ」

 

 まあ、そうなんだよなぁ……。

 

 ……残酷な話だが、この特異点の状況を考えればあれは使えないし……な。

 




桜の件については、この特異点では本当に難しい状況ではあります。

得意店内で解決するのなら、まず間違いなく後ろ盾になる家が必要不可欠。其れもそこそこの権威が無ければ力づくでどうにかされかねないという致命的な難易度です。


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二世「これが策士の妙技というものだ」兵夜「詐欺師の間違いだろ」

はい、そういうわけでケイネス陣営には退場していただきます。


 

 で、その駄賃とやらだ。

 

 二世曰く、蝙蝠のように動くのには限度がある。

 

 ランサー陣営とほぼ同盟状態で、一応敵対関係にあるセイバー陣営と不可侵を結んでしまった。

 

 このままだといずれ破綻する事は確実。と、いうわけで―

 

『単刀直入に言います。万能の願望機をめぐる魔術師とサーヴァントによる戦争などまったくの虚構。全てはアーチボルト家の不倶戴天の敵、民主主義派のトランベリオ一派による陰謀なのです!!』

 

『な、んだ、と……ぉ!?』

 

 ……出まかせをまたでっち上げたよ。

 

「時計塔の派閥争いの泥沼っぷりは知ってるけど、一地方の魔術儀式でそこまでできるか?」

 

「むしろ、この頃の遠坂家は性格的にも貴族主義派な気がするんだけど……」

 

 俺とオルガはそう言って、ため息をついた。

 

「大人って面倒くさいことが多いのねぇ」

 

「みたいだな。俺もよくわからないことが多いが」

 

 と、クロとジークが何ともいえない表情になっている。

 

 っていうか、どう誤魔化す気なんだ、オイ。

 

『冷静に考えていただきたい。万能の願望機を奪い合うなどという大仰な魔術儀式、それを時計塔から遠く離れた場所で開催するあげく、時計塔からの参加枠が一つしかないなど、おかしいとは思いませんか?』

 

『う、うむ。だからこそリスクもろくにない遊興だろうと見越して参加したのだが』

 

 まあ、この辺に関しては撒き餌だろう。御三家の優秀さを褒めるべきか。

 

 実際願望機は本命ではないからな。それに時計塔の重鎮達から重視されたら、まず間違いなく正体がばれて奪取すらありうる。故に何とかごまかす必要があるわけだ。

 

「つっても時計塔の陰謀を絡ませる余地あるの?」

 

「なに。あの手の手合いは割と誤魔化し易いから安心したまえ」

 

 と、エミヤが立花に断言したとおりに話は進んでいく。

 

『だ、だがこれだけの魔術儀式となればそれ相応の手間がかかる。それに、少なくとも過去数回は聖杯戦争は実際に起こっていたはずだ!! それも英霊の召喚を虚構で用意するなど、手間がかかるなどという話ではないぞ!?』

 

『そこが肝なのです。実際に過去三度、聖杯戦争は起きていたからこそ、ロードの目をも誤魔化せると踏んだトランベリオが、台無しになった聖杯戦争に困り果てている御三家を買収したのですよ』

 

 ……すごい展開になってきたぞ?

 

『そも、この聖杯は召喚された後に敗退したサーヴァントを無色の魔力に変え、それをアインツベルンが持ち込んだ小聖杯で方向性を与える事で願いを叶える事が出来る……という副産物を餌にマスターをおびき寄せ、全ての英霊を贄にして根源への扉を開く為に創られた魔術儀式です。これに関してはかのシュバインオーグ卿が立ち会ったものなので、確かに第三次聖杯戦争までは起きました』

 

 よし。ここはタイミングがいいから、俺自ら詐欺に引っかからないコツを教えておこう。

 

「全員覚えておけ。嘘の中に真実をある程度混ぜるのが詐欺のコツだ」

 

 此処に関しては嘘偽りがないから困る。

 

『ですが、第三次聖杯戦争の際にアインツベルンが愚行を行った結果、聖杯は使い物にならなくなっているのです』

 

『愚行だと?』

 

『はい。アインツベルンは連敗に業を煮やし、悪神の召喚を試みました。これに関しては無謀極まりなく、実際召喚されたのはその悪神扱いする事で「自分達は悪くない」という言い訳を欲した辺境の村の狂気の被害者であるただの青年が呼び出され、当然のごとく勝ち目のない戦いに敗北しました。……が』

 

 なんだろう。話術が上手すぎて俺迄のめりこみ始めてきたぞ?

 

『悪であれという願いを注ぎ込まれるだけの存在だったその青年は、元々何もなさなかったがゆえに無色の魔力の塊になっても「悪であれ」という願いを向けられたのです。その為願望機には「悪であれ」という願いが前提条件となっており、この地の聖杯はどのような願いも誰にとっても得しない形で叶える「負の願望機」となり果てました』

 

『愚かな。自分達の作り出した物の限界を超えようとした結果自滅するとは。かのアインツベルンともあろうものが情けない』

 

 ロード・エルメロイは嘆くが、しかし更に残念な事実がある。

 

 そもそも気づいていない連中が多すぎるのだ。元凶のアインツベルンとお膝元の遠坂は気づけと言いたい。間桐の耄碌ジジイが優秀だとしか思えなかった。

 

 で、これがどうやって時計塔の争いになるんだ?

 

『これに目を付けたのがトランベリオ。研究『功績』ではなく実戦『武勲』を求めているケイネス卿にうってつけの絶妙な塩梅に偽装を行い、時計塔からロード・エルメロイがいない空白の期間を作り暗躍。そしてあわよくば世界に大災害を引き起こした大罪人として、貴方を封印指定にさせようとする悪辣な計略なのです!!』

 

『ありうる!! あのトランベリオならありうる!!』

 

「信じました! 完全に信じ込んでいます!!」

 

「あのオジサン、詐欺に引っかかりやすいタイプじゃないかしら?」

 

 マシュが声を荒げ、クロの呆れた声が届く。

 

 これはあれだな、酷いな、うん。

 

『しかもアインツベルンは失態をロードの首で回復しようと、魔術師を殺す事だけに魔術の才能を傾けた、悪辣非道な魔術使いを雇い入れ、最高峰のサーヴァントを投入しました。遠坂に至っては教会とのコネクションを総動員し、魔術師を嫌う教会との連携すら組む始末! 挙句の果てに間桐は、この機を利用して忌み嫌う相手を苦しめる為だけに口八丁で騙して参加させるという腐敗ぶりなのです!!』

 

『御三家めぇ!! そこまで零落したか!!』

 

「……流石に手心を加えてほしいのだが」

 

「まあ、この失態は弁明しづらいわね」

 

 エミヤとオルガが手で目元を覆ってしまったよ。

 

『しかし、なぜそれを最初に言ってくれなかったのかね?』

 

『先も言いましたが、レイシフトはあまりにピーキーな代物。我々は御身が罠にはめられるという事実のみを利用してこの時代に飛びましたが、抑止力の発動を避けつつ御身を助ける為に情報を開示するには、その証拠をこの時代で獲得する必要がありました』

 

『ど、どうやってかね?』

 

『我々カルデアはサーヴァントを召喚するシステムを持っております。それによって召喚されたサーヴァントの宝具をもってして、この地の霊脈を少しずつ破壊していったのです。賢明な遠坂は致命的な事態になる前に降参して全てを白状しました』

 

「……霊脈壊したのってそのため?」

 

「いや、アドリブだ」

 

 立花が上げた評価をエミヤが修正する。

 

 いや、このアドリブを適格に利用してリアリティを高めた二世を褒めるべきか?

 

 霊脈ぶっ壊したのは事実だから、この辺に関しても真実味が出てくるというものだ。

 

『先ほども言いましたが、アインツベルンや遠坂は更なる報酬をトランベリオからもぎ取る為にあなたの首を狙っております。いかな御身といえど、魔術師同士の試合と誤認した状態で卑劣な不意打ちをうければその身に危険が及びます。どうかここはご自愛して、トランベリオの陰謀を砕くことに終始なさってください』

 

 ……まあ、実際二世のいた世界線では死んでるからな、ケイネス卿。

 

 しかも散々な死に方でアーチボルトは没落。そういう意味では確かに「やめとけ」と言いたくなるだろう。

 

 ま、とはいえこれが効果があるかどうかといえば―

 

『なんということだ……私は、あの愚者共に踊らされていたと……』

 

 ―いや、効果は確かにあるんだが。

 

『とは言え、キャスターを倒したお手並みは実に見事でした。ソラウ嬢も改めて貴方に惚れ直したのではないかと』

 

『そ、そうかね?』

 

 精神的フォローも忘れない。たった一人の孔明である。

 

『はい、私は女性関係には詳しいのです』

 

「そうなの?」

 

「時計塔で抱かれたい男トップランカーの座に輝いたことはあるな」

 

「結構気難しそうだけど、もてるのね、彼」

 

 なんで俺は、立花とクロにこんなことを説明しなけりゃいけないんだろう。

 

『あれはそう、今まで興味がなかった男の頼れる一面を見て、ギャップ萌えで好悪の感情が反転した……という感じでしょう』

 

『なんという……! いや、その前提は何という!?』

 

 二世酷い。あとケイネス卿、それは孔明の罠だ。

 

『ま、まあいい。結果は素晴らしいものなのだからな!!』

 

 気を取り直してかなり嬉しそうなケイネス卿。

 

 ああ、これはべた惚れらしい。生粋の魔術師でここまで女絡みでべた惚れっていうのも珍しいな。

 

 だがしかし。俺達は聞き逃していなかった。そう、この会話から見える残酷な真実を。

 

「……好きの反対は無関心とは、よく言ったものだな」

 

 エミヤがぽつりと漏らした言葉に、俺達の多くは目元を覆った。

 

「戦国時代とか、政略結婚も意外とお互いの相性を見極めてたりしてたらしいんだけどな」

 

「まあ、魔術師同士の政略結婚だもの。片方がべた惚れなだけでも奇跡でしょう」

 

 憐れみを込めた俺の言葉に、オルガが残酷な言葉を継げる。

 

 まあ、後継者でない魔術師の子供など、先代側からしてみれば都合がいい駒でしかないということなのだろう。そう言う意味では同情する。

 

『ともあれそういうことです。一刻を争う状況ですので、どうか急ぎロンドンへと帰国なさってください。この聖杯戦争でアーチボルト家は致命的な没落を引き起こし、アーチボルト家は多額の負債を背負うことになるのです!! 我らが家門はおろか、貴族主義の存亡すらかかわっております!!』

 

『小癪なトランベリオめ!! 眼にもの見せてくれるわ!! ソラウ、急ぎ身支度を!!』

 

 ここに、ケイネス陣営の離脱が決定した。

 

 エルメロイの家柄に汚泥が付着する可能性は一気に激減。これで時計塔の政治バランスは大きく変わるだろう。

 

 だが、ランサーどうする?

 

『新たなる戦場は海のかなたですか。主よ、このディルムッドもぜひお供させていただきます!! 新たなる主に忠誠を誓うことこそ我が望み。主の赴く戦場こそが私の槍の振るいどころです!!』

 

 なんかノリノリなんだが。

 

 二世。どうする?

 

『おお、それは心強い。サーヴァントまで同行するとなれば、きっと()()()()()()()()になられます!!』

 

「伝家の宝刀が抜かれたわね」

 

「必殺の一撃ね」

 

 もはや半目のクロとオルガの言葉が響く。

 

 ケイネス卿が婚約者であるソラウ嬢にべた惚れなのはもう聞いている。割とこれまでの会話でも「婚約者大好き!!」がにじみ出ていた。色恋沙汰には俺も一家言があるからよく分かる。

 

 だがソラウ嬢そのものはその辺どうでもいい感じらしい。まさに二世が言っていた通りに「興味がない」ってわけだ。

 

 そしてそんなところに超イケメンで魅了スキル持ちのディルムッド・オディナ。はい、誰もが分かる計算式です。

 

 確実に。確実に。間違いなく確実に。ディルムッド・オディナは人生の破滅の歴史を繰り返そうとしていた。

 

 そういう意味で言うのなら、ランサーにとってはついていくことが致命傷になりかねないだろう。トラウマ確定だ、これは。

 

 だがしかし。そんな事はケイネス卿だって薄々分かっているだろう。

 

 だから―

 

『ランサーよ。四画全ての礼呪をもってして命令する。貴様はこの冬木にてライネスの名代とともに聖杯戦争を継続し勝利せよ!!』

 

 ―はい、こうなりました。

 

「……全令呪を一気に使うか。ダーニックにも並ぶ決断だな」

 

「多分だけど、そのダーニックって人は一緒にされたくないと思うわよ?」

 

 感心するジークにクロがツッコミを入れる。

 

 それはともかく、念話越しでややこしくなっていた。

 

『な、なぜですか主よ!?』

 

『愚か者。いかに戯れで参陣した戦とはいえ、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが呼び出したサーヴァントが戦を中途退場などエルメロイの沽券に係わる』

 

 よくもまあ口から即座に本音を隠した出まかせを言えるものだ。

 

 腐っても魔術教会の政争を潜り抜けたわけではないということか。即興演説の一つや二つはこなせるわけだな。

 

『貴様はこの聖杯戦争に勝利するために呼び出された存在。ならばその役目を全うせよ!!』

 

『流石はロード・エルメロイ!! 我らアーチボルト家の誇りの在り方を心得ていらっしゃる!!』

 

 さらに勢いよく持ち上げて言ったな、うん。

 

『フン。諸君らには置き土産に我がサーヴァントを託す。ライネスの名代というのであれば、我らエルメロイをたばかった御三家共の鼻を明かし、ついでに害悪しかまき散らさん聖杯とやらもどうにかして見せよ』

 

「前衛戦力確保成功。これで俺たちの戦力はサーヴァント七騎。普通に考えれば勝ち確定だな」

 

「ええ。英雄応ギルガメッシュの火力はサーヴァント五騎分。相性のいいランスロットと連携すれば、勝機は十分にあるわ」

 

 俺とオルガがもう次に意識を向けたその時だった。

 

『……時に、一つ聞きたいことがある』

 

 ……ん?

 

『貴様は私が書斎に恋文を残していたといったな?』

 

『はい。それが何か?』

 

 そう言えば、二世はそんなこと言ってたな。

 

 で、それが?

 

『この私がそのような失態をするとはとても思えん。……思うに、その書斎は主が終ぞ帰らなかったのではないかね?』

 

 ………。

 

「正直、少し馬鹿にしていたけど見直したわ」

 

 オルガがそう漏らす中、念話は少しだけ沈黙が響いていた。

 

『……御慧眼、感服するばかりです』

 

『ふむ、その一点においてだけは、心から礼を言っておこう』

 

 その言葉に、二世は何を思ったのか。

 

『もったいなきお言葉です。偉大なるエルメロイ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』

 

 感慨深いその言葉が、すべてを語っている。

 

『御身の才能は時計塔の誇る至宝です。どうか、これからはご自愛召さるようお願い申し上げます』

 

 その言葉は、たぶん二世にとっての文句のつけようのない報酬だったのだろう。

 




とまあ、ここは原作通りケイネス陣営は無傷どころか最低限の成果を上げて退場。

そして中盤の山場、英雄応ギルガメッシュ戦へのカウントダウンが始まります。


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兵夜「聖杯戦争なんだと思ってるんだ!?」 二世「そういう奴だからあきらめろ」

そんなこんなで今回は短め。


 

「……なんと!? そ、そのような事が!?」

 

 とりあえず事情をディルムッドに説明した。

 

 あんまりにもあんまりな本来の歴史に、正直ちょっとショックを受けていたようだ。

 

「すまない。養父が本当にすまない。だがセイバーはろくに知らなかったはずだから彼女を責めるのだけはやめてくれ」

 

「エミヤ。声が似てるからってジークフリートにならなくてもいいから」

 

 心底申し訳なさそうなエミヤの肩に、立花がぽんと手を置いた。

 

 まあ、養父があんまりにもあんまりな倒し方してるからな。流石に思うところがあるのだろう。

 

 まあ、これで戦力はだいぶ整った。

 

 ランサーは現代最高峰の魔術師の令呪によって、「聖杯戦争を継続中、莫大な魔力を得る」という効果を得てしまったようだ。最高峰の魔術師が令呪を四個も使うとこんなこともできるということだ。

 

 まあ、そういう意味ではランサー陣営はこれ以上ない結末を迎える事が出来たわけだが―

 

『二世。一ついいかい?』

 

「なにかね、ロマニ・アーキマン」

 

 通信を入れてきたロマニにそう返す二世だが、特に疑問符は浮かべていない感じだった。

 

 まあ、それに関してはよく分かる。

 

『釈迦に説法だしあえて聞くのも野暮だけど、これが完全に虚偽でしかない事を、君は理解しているのかな?』

 

 ………。

 

「ど、どういう事ですか、ドクター」

 

「簡単よ、マシュ。カルデアはタイムマシンなんて代物じゃないわ」

 

 それに答えるのはオルガだった。

 

「そもそも私達はこの時間における未来人じゃないわ。人理焼却の要たる特異点ならともかく、この特異点はバグのようなもの。修正されれば時間軸に何の影響もなく消える幻想みたいなもの。どういう事か分かるかしら?」

 

「と、申されますと?」

 

 ディルムッドが小首を傾げる中、ロマニが残酷な言葉を告げる。

 

『出現の原因が解消されれば、実際の歴史に何の影響も残さず消えるって事さ。少なくともこの特異点で起きた出来事は、どの平行世界にも影響を与える事はない』

 

「……」

 

「分かっているとも。我々がどれだけ骨を折ろうと、この特異点を利用した歴史改変など出来るわけがない」

 

 二世の沈黙を遮って、エミヤがそう告げる。

 

「そもそも過去改変などというものは、自分達が積み重ねてきた歩みに対する裏切りだ。起きた事をなかった事にするなどというのは、間違いなくろくでなしがする事だよ」

 

 そういうエミヤの表情は苦苦しい。

 

 何だろうな。実感籠っているというかなんというか。

 

「かといって、実際にそれを行う千載一遇の好機があってそれをしないのは中々出来ない事だ。少なくとも私は、私が引き起こす大罪を阻止する機会に恵まれてそれを投げ捨てる事が出来るかといえば自信がない」

 

 そう自虐するエミヤは、しかしすぐに皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「そう言う意味ではこの特異点は私にとって好都合だ。自己満足だけで誰一人として影響しない。偽善の極みではあるが、私のようなものにはちょうどいい」

 

「流石に私はそこ迄割り切れないがね」

 

 と、二世はエミヤに苦笑を浮かべる。

 

『まあ、ほかにも言いたいことはあるけどね。できる限り穏便勝つ円満に解決しようとしているみたいだけど、そこまで徹底しなくてももっと単純かつ簡潔に解決する方法があるとは思う』

 

「正論だ。私も対価となる情報が無ければ君達にこんな手間を掛けさせる事はしなかっただろう」

 

 ロマニの意見に、二世は否定を一切しない。

 

 だが、その表情に後悔だけはなかった。

 

「だがまあ、傍目には徒労にしか見えないこの行いは、私にとっては大きな意味がある事だ」

 

 二世……。

 

「実際には救えないにしても、今この場で出来る最善を成し遂げる。同じ間違いを二度も看過しない。そんな弱さを許す事は、私の心には出来なかっただけの話だ」

 

「……いいんじゃないかな」

 

 その二世の言葉に、立花は笑顔を浮かべる。

 

「確かに何の意味もない事かもしれないけど、それでも無駄じゃないと思うよ? 少なくとも、私はこういうやり方の方が満足できる」

 

「確かに、それは良い事だ」

 

 俺もその辺に関しては同感だ。

 

「そもそも二世がいなけりゃ、俺達は特異点解決の足掛かりすら作れなかった。それをもたらしてくれただけで十分すぎる対価だしな。その足踏みよりはましな流れではある。それ位の我がままは許されるだろ」

 

「そこまで言うほどではないがね。これは単純に、自分の無力さを二度も痛感しないように立ち回っているだけさ」

 

 俺のフォローに二世は苦笑する。

 

 そして、エミヤも苦笑を浮かべていた。

 

「そう言う事だ。自己満足しか残さないただの徒労だが、だからこそ、私達は自分を裏切らなくて済む。そういう意味では好都合な機会ではあるだろう?」

 

「……いいでしょう。貴重な情報提供と行動指針の提供の対価としては許容範囲内と、所長権限で判断します」

 

 と、オルガがそう言い切った。

 

「どうせ立花やマシュのメンタル維持を考慮すれば、許容範囲内のリスクで被害を防げるのは問題ないわ。」

 

「ありがとうございます、所長。良くない事が黙って見過ごすのは、何かが間違っていると思いますから」

 

 マシュがオルガにそう言いながら、しかし少し表情を陰らせる。

 

「そう言う意味では、桜さんという人をどうにか出来ないのは心苦しいですが……」

 

「これに関してはどうしようもない。レイシフトで連れて帰るにしても、彼女のレイシフト適正がどれほどか分からないのでは逆に彼女を苦しませるだけなのだから」

 

 エミヤがその肩に手を置いて慰めながら、そして皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「そも、あの英雄王を相手にするのだから、奮戦空しく敗北という可能性もある。今はそれを乗り越える事に注力したまえ。畳む事の出来ない風呂敷を広げるなど、誰にとっても迷惑なのだから」

 

「シビアな意見ねぇ」

 

「ま、勝算のない希望論なんて語る余裕はないからな」

 

 ため息をつくクロに、俺はそう答えるしかない。

 

 半端に希望を持たせて突き落とすよりかはマシ……と誤魔化すしかないわけだ。

 

 ……ああ、流石に、このレベルの特異点でアイツを呼ぶなんて一発限りの切り札を使うわけにはいかないからな。

 

『OK。僕はこの件についてもう何も言わない。人間らしいしね』

 

 と、ロマニも納得したようだ。

 

『んじゃ話を戻すが、次はどうするんだ、孔明さんよ?』

 

 と、アザゼルが久しぶりに会話に参加する。

 

 確かに、ここ迄はトラブルもあったがおおむね順調だ。

 

 ランサー陣営の安全は確保して、セイバー陣営との不可侵も十分可能だろう。

 

「そして好都合な事に、ケイネス師に頼んでバーサーカー陣営との同盟を結ぶ事にも成功した。……この好機を逃す手はない」

 

 ……と、いうことは―

 

「……そして使い魔も相手の行動を察知する事が出来た。そろそろ最大の難敵たる英雄王ギルガメッシュにご退場願おう」

 

 どうやら、ここが大一番らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、人里離れた森の中で、俺達は間桐家のマスターと合流した。

 

「あ、さっきぶりです」

 

 と、立花がそう手を上げるが、その表情は微妙に引きつっている。

 

 ……気持ちは分かる。

 

 目の前の間桐家のマスター。間桐雁夜は、まともな人間なら目を背けたくなるような惨状だった。

 

 最早ホラー映画に出てくる怪人だ。魔術に詳しいものならば、相当弄っている事が誰が見ても分かる。

 

「君は、あの時の……? この聖杯戦争のマスターじゃないって言ってなかったか?」

 

「勘違いをしないでもらいたい。ケイネス卿はとある事情から聖杯戦争から離脱した。私達はとある事情でこの聖杯戦争に絡んだ事件の解決を行っており、その過程で遠坂と敵対関係にあるものだ」

 

 と、即座に二世がフォローを入れる。

 

「少なくとも私達は聖杯を求めていない。そして、この同盟においての条件は必ず守ると約束しよう」

 

「……時臣の奴をぎゃふんと言わせる手伝いをしてくれるって言ったな。……どうやってだ?」

 

 どうも、根幹的には普通の人らしい。怪訝そうな表情を浮かべてるが、納得に傾いている。

 

「単純な事だ。君のサーヴァントは遠坂時臣のサーヴァント相手に有利に立ち回れるサーヴァント。その君達と協力して最大の難敵であるギルガメッシュ王を倒す事が出来るのならこちらにとっても好都合だからな」

 

「……まあ、そこの子達は魔術師とは思えないぐらい良い子達だからな。治療してくれた借りは返したかったんだ」

 

 ……ふむ、割とまともな人間……なのか?

 

 まあ、これだけの過酷な人体改造を悪意をもって短期間に行われたんだ。精神が歪んでもおかしくない。

 

 聖人君子というわけでもなさそうだし、しかし無理だと言ったらそのまま逝ってしまいそうだからなぁ……。

 

「というか二世。此処って確かアインツベルンが陣地用に購入した土地だよな? 結界とか大丈夫なのか?」

 

 発見されて対城宝具による狙撃とか勘弁なんだが。

 

 俺が言外にそういうと、二世は苦笑した。

 

「安心しろ。ついさっき確認したが、ライダーが雑に破壊している。我々はその破壊跡を歩いていけば迷うことなくアインツベルンの居城につく」

 

「いや、アインツベルンがなんで時臣のサーヴァントと関係してるんだ?」

 

 雁夜がそう言うが、二世は肩をすくめた。

 

「ああ、聞いて驚くな」

 

 ………なんだ?

 

「―ライダーがアーチャーを誘ってセイバー陣営の本拠地で飲み会をしようとしてるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まじか。

 

 

 

 




ちょっとこの作品やケイオスワールド2、そしてまだ見ぬ新作のネタとしても使う募集を活動報告でしています。ぜひ拝見して応募していただけると嬉しいです。


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ギルガメッシュ「なんという茶番だ! 時臣に知らせたらショックで酒がうまくなりそうだ!」 兵夜「自分のマスターにどんなうらみがあるんだコイツ?」

久しぶりにこっちを投稿します。

さて、それではいったいどうなることやら―



 

 

 

 

「まあ、二世の読みが外れたとしても、今度はセイバー陣営相手に「アーチャーぶちのめすから邪魔しないで」とでもいえばいいか」

 

「確かにな。少なくともライダー陣営はいるようだし、二勢力に英雄王を討つまでの不可侵を頼み込むことはできるだろう」

 

 俺とエミヤは一番後ろで歩きながら、そうぼやいた。

 

 なんでも、二世の読みが正しければここでセイバー・ライダー・アーチャーの三人が飲み会をしているらしい。

 

 なんでもライダーが「聖杯にふさわしい奴を決めるなら、誰が一番王にふさわしいかで決めればいいだろう」とかほざいたとか。

 

「しかしまあ、正直に言うと英雄王も征服王も俺の好みにあいそうにないな。ぶっちゃけ騎士王が一番納得しそうだ」

 

「だろうな。君や私は守護する側だ。弱肉強食を良しとする覇道の王とはそりが合わないだろう」

 

「そりゃそうだ」

 

 少なくとも、話に聞く限りギルガメッシュ王とうちのところの四大魔王とは政治方針は合わないだろう。

 

 四大魔王と英雄王の壮絶な死闘が思い浮かぶが、この際それは置いておく。

 

 人類を間引きして勢い余って滅ぼす可能性もあるギルガメッシュ王と、悪魔は愚かあらゆる種族において「滅びていいものなどいない」とするサーゼクス様は相いれない。三大勢力の和平とか、くだんのギルガメッシュは失笑しそうだ。

 

 だって……。

 

サーゼクス・ルシファー(俺たちの王様)は、桜ちゃんのことを聞いたら助けられないか考えそうだからな」

 

「絶対助けに行く、とは言わないのかね?」

 

「世の中そう簡単にいかないってことは嫌というほど知ってる人だからな。老害のせいで百年以上苦労してるんでな」

 

 ああ、だから必ず助けろとは言わないだろう。

 

 しかし、事情を知ったら助けられないか考えてしまう人ではあるだろうな。

 

「しかしまあ、君たちのマスターは苦労するだろうな」

 

「まあな。……人理焼却とか前代未聞すぎる。マジでオーフィスの援護がほしい」

 

「そうではない」

 

 なんだよ?

 

「救う、というのは存外に大変なことだ。そも、他者による救いなど救いとはいいがたいところがある」

 

 ふむ。

 

「よしんば救いになるとしても、ただ救い上げればいいというわけではない。極論迄単純にすれば、最後まで責任を負わねばなるまい」

 

 ……。

 

「人理の救済ともなれば、それは非常に大きなものだ。言っては何だが、かなり平凡な側面がある彼女には荷が重いかもしれないと思うと少々かわいそうでな」

 

「……そこまで深く考える必要はないと思うがな」

 

 うん、ちょっと反論させてもらおう。

 

「なんだと?」

 

 まあ、こいつの持論にも一理はあるだろう。

 

 だが、そう簡単にうなづくわけにもいかない。

 

「人理の救済はひとまず置くが、人ひとり救うのは意外と簡単だよ。さりげない一言だけで心から救われることなんてざらにある」

 

 ああ、俺がそうして救われたたちだからな。これは言うしかない。

 

「当人が救おうとか考えてない一言でも、人は救われる。心から救われる。……あんたはちょっと重く考えすぎだよ、人を救うってのは、難しいこともあるが同時に簡単でもある。ケースバイケースだ」

 

「ふむ、あまり頷きがたい価値観だな」

 

 まあ、見てきたものも違うだろうからな。

 

「まあいい。今はこの第四次聖杯戦争をどうにかすることに注力するべきか」

 

「同意見だ。合わないなら合わないで適度な距離の取り方というものがあるしな」

 

 さて、それでどうしたものか―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に飲み会をしています! あ、あの長い取ってのついた木のコップは何でしょうか?」

 

「……はい、完全に間違った日本文化いただきましたー」

 

 マシュの言葉に立花の視線が柄杓に向いて、なんとなく事情を察したらしい。

 

「一応言っとくがそこの方々。それは飲み会用の食器ではない筈なんだが」

 

 俺は一応そういうが、問題はそこでもなかった。

 

 ああ、確かにものの見事にいるよ、セイバーもライダーもアーチャーも。

 

 ライダーのマスターとセイバー陣営のホムンクルスはいるが、遠坂時臣と思しき男は確認できない。

 

 とはいえ、あれが遠坂時臣のサーヴァントであることは確定的に明らか。二世情報だ。

 

 と、いうわけで……。

 

「ほぉ。こりゃまた……」

 

「げ、あの時の根暗男!」

 

「貴方方は……。それに、そのサーヴァントはバーサーカー?」

 

「バーサーカーと手を組んだの? いったいどうして?」

 

 ライダーにウェイバーくんにセイバーにアインツベルンがそれぞれに言葉をかけるが、しかしそれを無視する男が一人。

 

「……あの成金趣味みたいなやつが、時臣のサーヴァントか……っ」

 

「何の用だ、虫食い風情が。その哀れみしか誘わん体たらくで、(オレ)に不遜な目を向けるか」

 

 いきなり飛び出していきかねない雁夜の殺意満々の視線を受けて、金ぴかの鎧に身を包んだサーヴァントが不機嫌そうににらみつけてくる。

 

 ……ただものではないってのがよくわかった。間違いなく我が強いタイプだ。

 

 しかも殺気も極大。ちょっと刺激したら即座にこっちを()()してきそうな奴だな。

 

 禍の団の首魁共とは一味違うが、かといってこの流れで交渉ができるかとなると……確かにやばい。

 

「安心したまえミセスアインツベルン。以前も言ったがわれわれはそちらと事を構えるつもりはない。……ただしアーチャーのサーヴァントには消えてもらうがね」

 

 と、二世がさらに火種を投入。

 

 それを聞いて、ギルガメッシュは静かに立ち上がった。

 

「混じり物風情がよく増える。……時臣とは違った意味で学ばぬ魔術師どもが。……その愚行、命をもって贖ってもらおうか……っ」

 

 なんだ? 一瞬マシュをみて、なんか意味深なこと言ってきたぞ?

 

 デミ・サーヴァントのことを言っているのか?

 

 しかしこれ待たなんとやら、ライダー迄立ち上がってきた。

 

「待て待て金ぴか。この宴をぶち壊してるのなら、あれは我々全員の敵ではないか?」

 

「いやそっちに手を出す気はないんだけど」

 

 俺はとりあえずそういうんだが、しかしライダーは何言ってんだって顔をしている。

 

「何を言うか。王の宴を邪魔しに来て、なにもされんと思っとるのか、お前ら」

 

「あ、すまん。うちの王様は事情次第で許してくれるから甘く見てたわ」

 

 うん、サーゼクス様とか事情を聞いたら許してくれそう。

 

 と、それはともかく、なぜかアーチャーはライダーに鋭い視線を向ける。

 

「ならん。我が法を犯した賊は我が怒りによって裁定する。英雄王たる我が王威。立ち入ることは貴様でも許さんぞ、ライダー」

 

「と、こうなるわけだ。あの三人はそれぞれ王故の意地というものがある。ことアーチャーはそのあたりが高いのでね、この場の共闘の可能性はほぼない」

 

 と、訳知り顔で二世がそう言ってきた。

 

『……戦力過剰の逆行モノってこんな感じだよねぇ』

 

 ロマニがしみじみとなんか感慨深げに言っているがスルー。

 

 それはそれとして乱戦になる可能性はあるんだが……。

 

「なるほどな。それは余が口を刺し挟める筋合いではないな。……坊主、ここは観戦と行くぞ」

 

 と、ライダーはあっさり納得すると酒飲み始めた。

 

 ……ビール片手に野球観戦するオッサンかよ。

 

 まあいい。とりあえずライダーはこの戦闘にかかわってこないと。

 

 問題はセイバー側だが……。

 

「余所でやって欲しいのはやまやまだけれど、こちらに矛先が向かない限りは手出しする理由はないわね」

 

 困り顔だがこっちも今すぐ攻撃してくるわけではないようだ。一安心だ。

 

「よし! これで交戦協定成立だ! セイバーとライダーは無視してかまわん!!」

 

「ああ! 殺し潰せ、バーサーカー!!」

 

「Arrrrrrrrrr!!!」

 

 雁夜の指示をうけ、バーサーカーが突進する。

 

「狂犬ごときが。誰の許しを得て俺に牙を向けるか!」

 

 その瞬間、ギルガメッシュの背後で金色の輝きが幾重にも浮かぶ。

 

 そこから出てくるのは、莫大な神秘が込められた法権の数々。

 

 一つ一つが最低でもCランク以上の宝具に匹敵する。しかもどうも、いくつかはただ強力なだけじゃなく特殊効果の類もありそうだ。

 

 なるほど、あれを射出するのがギルガメッシュの得意戦術ということか。確かにこれはキツイ。

 

 高ランクの宝具を湯水のごとく撃ってくるんだ。並のサーヴァントなら即座に返り討ちになってもおかしくない。

 

 が―

 

「悪いが英雄王。貴様の王道はこの特異点には不要のものだ、とくと立ち去るがいい」

 

「っていうかあの金ぴか、大人になった方が質悪いとか最悪じゃない?」

 

 その大半にほぼ同じ宝剣が叩きつけられ、その全てが弾き飛ばされる。

 

 ……確かにバーサーカーは第四次聖杯戦争においてギルガメッシュの天敵だ。

 

 だがしかし、今この場にいるサーヴァントに限定すれば、同レベルの天敵が二人いる。

 

 即興で贋作を作り出す英雄、エミヤ。そして、そのエミヤの力を聖杯としての特性である意味で上回る存在、クロエ・フォン・アインツベルン。

 

 一人ではギルガメッシュの本気の攻撃密度には苦戦するが、二人掛かりならその労力は大きく低下する。幸運なことに二人ともアーチャーなので、単独行動スキルゆえに立花の負担も小さい。

 

 と、いうわけで圧倒的な弾幕は出掛かりから吹き飛ばす。

 

 そして一気に接近するバーサーカーが、はじかれて宙を舞う宝剣を奪い取り、接近戦を仕掛ける。

 

 その特性により放たれたギルガメッシュの宝剣をそのまま武器として運用できるという利点。これは間違いなく明確に有利な攻撃だ。

 

 しかし、それをもってしても英雄応ギルガメッシュはなお強敵。

 

 振るわれたその斬撃は、空中で張られた魔力障壁に受け止められる。

 

 それをなすのはギルガメッシュが手に持っていた杖。

 

「……よかろう。どうやらこの聖杯戦争、とんだ茶番だったようだ」

 

 苛立たし気にそう言い放つその目は、俺たちにむけられる。

 

「凡俗の雑種ごときが英霊を何騎も従えるとはな。とはいえ、その大半は事実上の紛い物というのは皮肉ということか」

 

 ……疑似サーヴァントの俺と二世。デミ・サーヴァントのマシュ。サーヴァントシステムを利用しているとはいえ、厳密にいえばサーヴァントではないクロとジーク。エミヤも守護者であることを考えると、聖杯戦争のサーヴァントとしては微妙か。

 

 しかしそれだけではないな。何をもってして茶番と断じた?

 

 小規模特異点である以上、この聖杯戦争がある意味で茶番なのは確かに事実だ。だが、それを見切ったというのか?

 

 俺が気になるが、しかしそんなことを赦してくれる相手でもないようだ。

 

「よいぞ? 道化の戯れというのならば、俺も少しは羽目を外そうではないか。……この茶番を彩って見せよ、雑種共!!」

 

 そしてその言葉と共に、戦闘はさらに激化する。

 




千里眼使ってマシュ辺りの事情を大体把握したギルガメッシュ。生み出した連中の評価がダダ下がりです。

流石にコラボイベントでのギルガメッシュはポカが多かった気もするので、この作品では強敵度もストーリーにおける重要度も桁違いに上がっています。バトルはかなり白熱するので、お楽しみに!!



それとは別に、兵夜とアーチャーでちょっと会話を。

以前どっかで「兵夜とアーチャーは反りが合わない」と書いたと思いますが、理由は此処ですね。救われた経験ゆえに生まれる人を救うことに対するスタンスの違い。

当人が深く考えてない言葉で心から救われた兵夜からすれば、人助けのスタンスとしてはエミヤとはそりが合わないというわけです。なんというか「人に任せられるところは任せても人を救うことはできる」的な感じですね。


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