クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン (オービタル)
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設定
主人公&オリジナル機体
名前 グレイス アルゼナルにおける名前。命名者はタスク。本名はコードネーム"RBL-1272"《リベロ》
性別 男性
年齢 15歳
身長 161cm
身体的特徴 銀髪の短髪、蒼眼、小麦色の肌。《覚醒時》 金髪の長髪、碧眼、白い肌。
《真・覚醒》 白金のもみあげ、寸分の狂いもない 九一分けの御髪、白い肌、蒼眼と碧眼のオッドアイ。
イメージCV:平田宏美
本作の主人公、ある無人島の構造物の地下室にあるコールドスリープカプセルから目覚め、起きた時には自分の事を含めた全ての記憶を失っていた。同じく構造物の格納庫にあったパラメイル『リベリオン』とリベリオンに搭載されているライダー支援啓発対話インターフェイスシステム『ラルス』と出会う。
基本的には明るく前向きな性格。同年代や年下の子には敬語を使う。但し、軽蔑や嫌悪感を抱く相手には威圧感で圧迫させる。気性は大人しいが高圧的な相手でも1歩も引かない等、芯は強い。感情的になる事はあまり無く、怒る時も冷静に相手を諭す様に怒る。反面、自分の問題や悩みを誰にも打ち明けず1人で抱え込む傾向がある。
だが彼には自分の正体と失われた記憶には大きな秘密がある。
その正体は、エンブリヲとディメントの手で造られたホムンクルス(人造人間)であり、五人目の降臨の子であった。兄弟に差別されながらも、セレスの思いを胸に、本当の力へと覚醒した。
機体名 リベリオン《プリミティブ・フォルム》
型番 AW-CBX012
頭頂高 7.5m
全高 7.8m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
『ラルス』CV:杉田智和
謎の構造物の格納庫に置かれていた機体。全体が銀と黒、関節部は金色、そして赤のカラーリングとクリムゾンの模様が塗られており、頭部らしき部位に、女神を模したオブジェ、顔面を覆うY字型バイザー、螺旋状のV字型のアンテナ、両手は何故か親指が左右対称になったマニュピレーターであり、小指が無く、異型の手をしている。
普段のパラメイルと変わらないが、高性能と高出力、そしてラルスの許可なく乗ると、操縦桿から100万ボルトの電流が流れることで、全く誰も乗れなかった事と、誰も操る事が出来なかった事で、唯一グレイスだけが扱えない専用機。しかし、リベリオンにはまだ見ぬ力を秘めている。
リベリオンの専用の武装であった右腕の前腕部に装備されているパルスガン兼用の折り畳み式高周波ソード『パドルデーゲン』と左肘の機動防盾『ケンプファー』は永年使われていなかったことで劣化し、修理できない状態へとなる。それの為、パラメイルのスペアパーツと圧縮ガスで重金属製のリベット弾を射出するサブマシンガン『リベットガン』を携行している。
武装 凍結バレット発射ガン
対ドラゴン用リベットガン
バイブレーションブレイド
前武装 パドルデーゲン
ケンプファー
機体名 リベリオン《アドバンスド・フォルム》
型番 AW-CBX012
頭頂高 7.5m
全高 7.8m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
戦闘時に、リベリオンの装甲の形状が分厚くなり、バーニアが追加され、さらにスラスターウィングが前進翼へとなり、防御は勿論、高機動も増力された。そして側頭部が露出展開され、そこから六連の小型ホーミングミサイルが発射される。
機体名 リベリオン《ムートロム・フォルム》
型番 AW-CBX012
頭頂高 7.8m
全高 8.1m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
リベリオンの重装形態であり、獅子のタテガミを思わせる三本の螺旋状の角が伸びた頭部に六つのサークルが施されたプロテクター、X字型のフルフェイス、両手足にはプロテクター、随所に施されたバーニア部などが施されており、 色が銀と黒、赤のマーキングだった筈が、銀と赤、緑のマーキングをしている。
武装は両腕に電磁波を流したり、ロケットパンチ、ビームバスターソードを展開する籠手『ガントレットアーム』を装備している。
さらに、背部にはスラスターが変形し、煙突状へとなり電磁的に弾頭を加速させ発射する運動エネルギー砲『ウィングレールキャノン』となっている。
武装 ガントレットアーム
背部ウィングレールキャノン
機体名 リベリオン《アトランティカ・フォルム》
型番 AW-CBX012
頭頂高 7.4m
全高 7.7m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
リベリオンの軽装形態。全体的にシンプルで、白銀の姿に青いラインが引かれ、装甲は小さくなり軽装へとなっており、頭部の螺旋状角が一本になっており、前へ突き出しており、スラスターウィングや肩部、腰部、脚部にバーニアが増えていた。
握り拳を作らず、菩薩のように平手で身構え太極拳を思わせる流麗な仕草が目を引くが、 左手を右胸に、右掌を前にかざす独特なファイティングポーズをする。
さらにスラスターウィングに搭載されているドライブユニット『スペリオルドライブ』を起動すると、スラスターウィングが展開され、6枚の青いエナジーウィングを放出する事で高い機動性、出力を発揮できる。
武装はパドルデーゲンからビームブレードを放出する事で、高い切れ味を増す。
そしてテティスのラグナメイルであるシュトロームを破壊し、強奪した武器『フリージング・ハルバード』を持つことで、氷のドラゴンを製成、支援攻撃することが可能。
武装 パドルデーゲン
リベットガン
フリージング・ハルバード
機体名 リベリオン《ゼムリアン・フォルム》
型番 AW-CBX012
頭頂高 7.9m
全高 8.2m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
リベリオンの特装能力形態。螺旋状の角が四つへとなり、赤と黒を青と銀を基調にしたを思わせるカラー。
下半身に伸びた直線状の青ライン、アクセントとして腹部と両サイドに赤ラインが加わっている。
上半身は騎士の甲冑に似た白銀のプロテクターで覆われており、両肩部には角のように鋭く尖った赤い突起が伸びている。
両腕部、両膝部にもプロテクターが施され、両腕部には鋭角的な突起が施されており、バイザーも両サイドにスライドされている。
10年前の大事件《リベルタス》で『ラプソディー』やヘリオス、アトラス、テティス、ファントム、そしてエンブリヲをも苦しめたとされている。
武装は螺旋状の4つの角からエメラルドに光る雷撃『ヴァルキュリー・テンペスト』を放つ事で、全包囲、識別タグを確定し、上空からエメラルドの雷撃や落雷が味方と敵を識別し、追尾や爆裂、炸裂する事ができる。
さらに偽りの世界の軌道上に浮いている衛生格納兵器『ハルマゲドン』を起動することにより、多彩な大型兵器を撃ち込んで運搬してくれる。
武装 ヴァルキュリー・テンペスト
両腕部固定武装ビームバルカン
突撃騎槍光学小銃『シュトラーレンラツィーラー』
機動防盾『リッターシルト』
機体名 フリューゲルス《プリミティブ・フォルム》
型番 EW-CBX000
頭頂高 8.1m
全高 9.2m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
CV:小山 力也
大破したリベリオンに変わって、月面基地『モーント・ウィガー』に封印されていた最初のラグナメイル。
その正体はかつて終末大戦が起こる前、凍てつく氷の大地の地下遺跡に眠っていた機体。この先のオーバーテクノロジーと失われたロストテクノロジー、そして未知のアンノウンテクノロジーの技術構造になっている。
各関節部が中空状態で浮遊したアンノウンテクノロジー、プロテクトやアーマー、全ての材質が『超硬耐熱合金NT1』でできたロストテクノロジー装甲『人口ダイアモンドミラーコーティング』で出来ている。オーバーテクノロジーは装甲表面にを利用した超電磁シールドを展開して実弾兵器やビーム兵器をも防御できる。
元々エンブリヲが乗るはずであったが、彼はフリューゲルスに乗れなかった。理由はグレイスの持つ“数多の苦難を克服し、『知恵』”、“強き意志を共に成長し『力』”、“フリューゲルスの試練と支配に打ち勝ちし『勇気』”、“大切な人を護りし『愛』”、“皆は一人の為に、一人は皆の為に導きし『希望』”を持っていなかったが、500年の時を経てグレイスがその鍵を持ち、フリューゲルスを再起動させた。最初のラグナメイルを使えるのは、グレイスだけである。
【プラズマメーサーキャノン】
フリューゲルスのソリッドアイから放たれる彩色ビーム砲。通常のメーサーキャノンの5倍の破壊力を持つ。
【プラズマ・フェイズ・バルカン】
全ての十指に内蔵されている位相変調エネルギー兵器をバルカン兵器にした対空、対人兵器。マニュピュレーター掌に内蔵されている【ビームバルカン】やビームアンテナから放たれるビームバルカンと両サイドの【頭部バルカン】と組み合わせれば、効果は絶大。
【フリューゲルスキャノン】
フリューゲルスの尾部と言うより、蛇のように動く尻尾の先端部に搭載されている砲身。さらに砲身下部にはアンノウンテクノロジーを使った模様が描かれているビームの刃【テイルブレード】を展開することで、ラグナメイルの装甲を一刀両断や人工筋肉よる絞め殺しが可能。
【ギガ・スマッシャー】
口部に内蔵されている高出力荷電粒子砲。火力はビームライフルの3倍であり、非常に高い威力・射程・照射時間を誇る。何百年前にこの兵器を使ったことで、街というより、国一つが消滅し、社会から消えた事もあったとされている。
【プライマルブラスター】
シン・ギデオンが作り上げたフリューゲルスの専用武装。通常のビームライフル【フレイム・オブ・ミカエル】よりも高出力を誇るライフル。
【ビームサーベル】
マニピュレーター内蔵バルカン砲から放たれるカミソリ状のビーム刃。色は黄色でかなりの出力を出しており、装甲を容易く切り裂く程の斬れ味を持つ。
【フリューゲルスシールド】
大破したリベリオンを溶鋼し、リベリオンのシステムを組み込んだフリューゲルス専用機動防盾。ビームバルカン及びビームサーベルの使用が妨げられる事はない。また、前方をスライド展開する事で、中腹部からレギルスビットを展開する散布口が露出する。
【リベリオンビット】
無線式の誘導兵器で、シールドの散布口から多数射出する事が可能。リベリオンと同様に小型の球状ビームをビットとしてコントロールし、敵機の装甲を易々と破壊する事が可能。さらに、リベリオンビットの形状を球状から槍状へ変化する事で、敵の装甲を貫通させたり、ホーミングビームを放つ事が出来る。
【ブリッツェン・プルーマ】
スラスターウィングに2門ずつ、形4門固定装備された高出力ビーム砲。“ブリッツェン・プルーマ”はドイツ語とラテン語で「閃光の羽」を意味している。
【ハルマゲドンキャノン】
500年前に造られた超大型軌道上衛星兵器。スレイヴメイル『ネメシス』と分離した事で、機体での手動で撃たなければならないが、ネメシスと合体し、第二形態である【ハルマゲドンランチャー】、第三形態はリミッターを解除したフリューゲルスとネメシスとハルマゲドンキャノンと合体する事で、ハルマゲドンキャノンが変形し、連装型大出力エネルギービーム砲『メテオ・イレイザー』となる。
さらに、フリューゲルスの【収斂時空砲“ディスコード・フェイザー”】及び、ギガ・スマッシャー、そして胸部装甲が両サイドスライドされ、中心部の球状コアに内蔵された超威力の究極兵器『ソドム』とネメシスに搭載されている絶対兵器『ゴモラ』と絶対兵器『収斂時空砲“ディスコード・フェイザー”』を遥かに上回る超次元兵器『ゴッド・オブ・フェイザー』が放たれ、黒く巨大なエネルギーの球体が発生。触れたものを跡形もなく消滅させる。
この時球体内部の空気すら消滅するため、球体の縮小・消滅後は真空となった圏内に周辺の空気が流入し、第二次、第三次影響圏内に強烈な突風が発生。広範囲に甚大な被害を及ぼしてしまう。 効果範囲は最大で半径300kmだが、リミッターを設定すれば効果範囲や起爆時間の調整が可能。
だがリミッターのセーフティを解除すれば、地球は愚か、太陽系が消滅する事にもなる。
次元兵器ではあるが、起爆時には爆発、熱反応、放射能は発生せず、第三次影響圏終了後は後遺症は一切ない「究極のクリーン兵器」とも言える。
武装
『プラズマメーサーキャノン』
『プラズマ・フェイズ・バルカン』
『フリューゲルスキャノン』“テイルブレード”
『頭部ビームバルカン』“頭部バルカン”
『ギガ・スマッシャー』
『プライマルブラスター』
『フリューゲルスシールド』
『ブリッツェン・プルーマ』
『二連装式ミサイルランチャー』
『ハルマゲドンキャノン』
機体名 ネメシス
型番 EW-LQX514
頭頂高 7.8m(ハルマゲドンとの合体時は2倍)
全高 8.1m(ハルマゲドンとの合体時は4倍)
重量 Unidentify
推力 Unidentify
CV:郷里大輔
500年前の終末大戦に使われた軌道上衛星兵器『ハルマゲドン』を守備する対話インターフェイス搭載スレイヴメイル。ハルマゲドンとは、人口オリハルコンクロム合金による電磁加速で、特殊弾頭である『超硬度ブルーダイアモンド合金』で出来た運動エネルギー弾(KEP)通称“ロンギヌス”を超高速で発射する上位機構の長距離電磁投射砲(レールガン)を内蔵されており、軌道上から射出、そして星の引力に吸い寄せられ、着弾と同時に大地を破り、半径100kmにも及ぶ津波と地震が起こる。
フリューゲルスとは旧知であり、二機が合体する事で、コックピット内が広くなると同時に、コックピット内のバイク式の後ろに座席式が追加され気密性も高く、また全天周モニターも広範囲に応用している。
武装
『デブリスィーパー』
『ビームライフル』
『ビームウィップ』
『フェザーミサイル』
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人物紹介
タスク
CV:宮野真守
本作のサブ主人公であり、ヴィルキスの騎士。孤島で使命を放棄して静かに暮らしていたが、グレイスやアンジュと出会い、使命を果たそうと努力している。しかし意思はないもののアンジュに対してスケベの行動をしてしまう、かなりのラッキースケベな体質を持っている。
パラメイルの操縦技術はかなりの腕前である、身体能力と戦闘能力は原作通りです。
アンジュ
CV:水樹奈々
ヒロインであり原作通りの少女、元皇女である彼女はノーマあると実の兄、ジュリオに暴露されて皇女の座から転落して一兵士となりアルゼナルへと来る。
少しばかり風当りはきついが何度も二度も助けてくれたタスクに恋心を抱く。
ティア
CV:能登麻美子
タスクが住んでいた孤島の隣の島に倒れていた少女、本当の名前がグレイスと同じコードネームで付けられている。しかし、彼女の本来在るべき姿は、この世に存在してはならない人魚であって、他の皆には秘密にしている。サリアとはコスプレ親友。
サリア
CV:喜多村英梨
原作通りの少女、アンジュがヴィルキスに搭乗をするのにもの凄く嫉妬を抱いていて、認めてはいるもののやはり自分の物だと思い込んでいる。
指揮官としては高いが、親友であるティアとコスプレ好きになのが玉に傷…。
ヒルダ
CV:田村ゆかり
原作通りの少女、男勝りの性格で当初はグレイスとアンジュを認めてはいないものの、世界を変える件でアンジュを含めグレイスも少々認め始めている。
ヴィヴィアン
CV:桑島法子
原作通りの元気な少女、好奇心が高く。ジュン達にも明るく振る舞う。
アンジュが遭難した時もエルシャと共にアンジュの捜索に参加している。
エルシャ
CV:小清水亜美
原作通りの少女、第一中隊の中でも男勝りが多い中で、皆や子供にやさしく母親的な存在。
料理が好きで、彼女が食事をする時はいつも美味しい料理が出る。
ロザリー
CV:石原夏織
原作通りの少女、根性はあるもののヘタレ。
当時はアンジュを含めグレイスも共に懲らしめようとしたが、グレイスのあまりの強さに、あっさりと負けるのであった。
クリス
CV:小倉唯
原作通りの少女、薄暗い雰囲気を出す様な感じに見えるが、一度怒るとずっと引きずるタイプ。
しかし実はかなりの寂しがりやで、裏切られるのが怖い為か誰かに頼ろうとする。
モモカ・荻野目
CV:上坂すみれ
アンジュの筆頭侍女、働くのが大好きなお世話好き少女でアンジュがノーマであった事をずっと隠し続けてきた、勿論アンジュが皇国を追放されてもその忠誠心は全く変わらずアンジュの事を思い続けてアルゼナルに来たほど。
ココ
CV:辻あゆみ
第一中隊の隊員、初出撃時にアンジュが逃走の際、共に行こうとした時にグレイスがドラゴンの攻撃から守り何とか生き残る。
パラメイルにはショルダーガトリングの武装を装備している。
ミランダ
CV:茅原実里
第一中隊の隊員、ココと同期で共に戦い、何とか生き残っている。
パラメイルの武装はミサイルランチャーとしている。
エグナント【大樹のエグナント】
CV:三宅裕司
10年前のリベルタスと言う事件で、孤児であったタスクを育てた老師。別名は【ハデ・キュクロプス】と言う試作生物兵器第一号。人間体は翡翠の和装と白髪のお爺さんだが、巨獣体は全身が苔と樹木で覆われた巨人へとなり、草木を操ることや、森や花との会話ができる。
トーマ【岩壁のトーマ】
CV:内匠靖明
エグナントと共にタスクを育てた男性。【キルテ・アイラーヴァタ】と言う試作生物兵器第ニ号と呼ばれている。人間体はのんびり屋だが、怒らせると猛牛の様に暴走する。巨獣体は全身に岩へとなり、牛の顔を持っている。あらゆる大地や岩石を操ることができる。
ダスト【湧水のダスト】
CV:浅沼晋太郎
エグナントと共にタスクを育てた青年。【トゥレス・エーギル】と言う試作生物兵器第三号と呼ばれている。人間体は穏やかな顔をした昼行燈であり、怒らせると指から触手を出して、対象物を治療することができる。巨獣体は巻貝の貝殻で覆われている蛸であり、触手からサイコ・ハイドロ砲を放つ事ができる。
アツマ【紅蓮のアツマ】
CV:岸尾大輔
エグナントと共にタスクを育てた青年。【アルバヘテ・スルト】と言う試作生物兵器第四号と呼ばれている。人間体はやんちゃな雰囲気に似合わず面倒見のいい性格である。巨獣体は溶岩を垂れ流す巨神で、両手から炎の剣を放出して、対象を斬り払う。
オボロ【鍛鉄のオボロ】
CV:ルー大柴
エグナントと共にタスクを育てた男性。【ハムシュテ・ジャービル】と言う試作生物兵器第五号と呼ばれている。人間体は身体中に多くの傷と大きな黒鷲の入れ墨をしているせいか、タスクから怖い人と思われている。巨獣体では、全身が鋼鉄で覆われた人馬であり、両手に巨大な双剣を装備している。
ナナリー【深緑のナナリー】
CV:井上喜久子
エグナントと共にタスクを育てた女性。【シディシュテ・シェーシャ】と言う試作生物兵器第六号と呼ばれている。人間体は色気のあるナイスバディの女性であり、おっとりしている。巨獣体は大きな葉が手の代わりになっている大蛇であり、弦の鞭や太陽の日光を浴びると、傷が癒える。
メタリカ【隆岩のメタリカ】
CV:茜屋日海夏
エグナントと共にタスクを育てた少女。【ショバテ・セルケト】と言う試作生物兵器第七号と呼ばれている。人間体は黒髪のツインテールと眼鏡を掛けており、アルゼナル特装小隊の狙撃班を担当している。巨獣体は結晶の甲殻を持つ蠍で、尻尾の先端から鋭い結晶体を放ち、相手を狙撃する。姉のセシルに胸のことで悩まされている。
ガリィ【淡水のガリィ】
CV:村瀬廸与
エグナントと共にタスクを育てた女性。【ショモンテ・ナハル】と言う試作生物兵器第八号と呼ばれている。人間体はメイド服の様な青い服を身にまとい、バレリーナのように立ち振る舞うが、その可愛らしい姿に反して、毒舌な口調で話す事になる。巨獣体は鋼鉄の鎧を身に纏ったヒトデであり、各部から触手やハイドロ砲を展開することができる。
セシル【業火のセシル】
CV:米澤円
エグナントと共にタスクを育てた少女。【ティシハテ・ミスラ】と言う試作生物兵器第八号と呼ばれている。メタリカの姉であり、天然な少女。『爆』を持つ豊満で立派なあれを持っており、アルゼナル特装小隊では工作班を担当している。巨獣体では空を自由自在に飛び、翼のオプションから、炸裂弾を放つ事ができる。
ミカ【精金のミカ】
CV:井澤詩織
エグナントと共にタスクを育てた少女。【アセルテ・アルカナ】と言う試作生物兵器第十号と呼ばれている。
見た目は幼女だが、両手の爪が毒が塗られており、二日間の苦痛と悪夢に魘されるが、本人は悪気ではないと思っている。巨獣体ではオボロと同じ、重金属の鎧を身にまとっており、その姿はまるで拷問に使われる『鉄の処女』であり、中から刃を付けた鎖が出てきて、対象を引きずり込み、内部の針で対象を刺し殺す。
アカリ・ヤマツ
CV:悠木碧
アルゼナルに派遣された科学者で、ジャスミンの実姉。訳あってジャスミンより歳が若くなり、メイよりも歳が3つ離れたマッドサイエンティストでもある。その正体はサラマンディーネと10人のヴィルキスの戦士達と共にエンブリヲとDr.ディメントを倒す為に作られた反抗組織のリーダーでもあり、モーント・ウィガーの管理者、機動特装戦艦『リュミエール』の艦長も務めている。
ヒョウマ【神羅のヒョウマ】
CV:神谷浩史
エグナントと共にタスクを育てた青年。【アセルテ・セレステ・リヴァイアサン】と言う試作生物兵器第十三号と呼ばれている。銀髪の長髪、純白の肌、そして左目に傷、右胸に火傷の跡がある。ティアの実兄で、同じ人魚。10年前のリベルタスで姉のセレスを助けれなかったリベロ…後のグレイスを目の敵にしている。
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人物紹介&機体紹介&クロスオーバーキャラ
ヘリオス《コードネーム"HLS-0248"》
CV:泰勇気
グレイス《リベロ》の一番目の兄であり、風を司る降臨の子《アドベント・オブ・チルドレン》。性格は冷酷であり、自分達を作った父親であるエンブリヲに強い忠誠心を持つ。対話インターフェイス搭載のミストラルと仲が良く、10年前のリベルタスでグレイスに負けた事にとてつもない復讐心を抱いている。
アトラス《コードネーム"ATS-751"》
CV:生天目仁美
グレイス《リベロ》の一番目の姉であり、炎を司る降臨の子。性格は軍人の様であり、エンブリヲに強い忠誠心を持つ。10年前のリベルタスでグレイスに負けた事に、弟を根絶やしにしようとしている。
テティス《コードネーム"TTS-254"》
CV:菅沼久義
グレイス《リベロ》の二番目の姉であり、水を司る降臨の子。性格はやんちゃだが、裏の顔をは酷く、そして残虐な無差別意識を持つ。10年前のリベルタスでグレイスに負けた事に、弟を根絶やしにしようとするが、リベリオン アトランティカ・フォルムの高速戦闘により、体が半分に切られ、敗北した。
ファントム《コードネーム"PNM-0849"》
CV:羽多野渉
グレイス《リベロ》の二番目の兄で、影を司る降臨の子。性格は皮肉屋で、相手に対して敬語は使うが、グレイスと相手する時は毒舌を吐く。10年前のリベルタスでグレイスに負けた事に、酷く恨みを持つ。
エンブリヲ
CV:関 俊彦
グレイス《リベロ》やヘリオス、アトラス、テティス、ファントムの遺伝子情報の元となった人物。500年前の統合経済連合と汎大陸同盟機構の二つの国家間戦争《第7時世界大戦ー『ラグナレク』“通称 D–war”》を開戦させた張本人。全てが謎に包まれた存在であり、為政者達よりも一段高い位置より世界を睥睨し、失われた太古の兵器や技術を所有。ジルが仇敵と狙う男。
Dr.ディメント
CV:長島 茂
グレイス《リベロ》達作り上げたマッドサイエンティスト《狂った科学者》10年前のリベルタスで、リベロを本当の兄と慕っていた子供達をリーパー・エキスを投与させ、醜い怪物と成り果てた生物兵器に変えた人物。エグナント達が仇敵と狙う謎の男。その正体は、かつて勇人達が滅ぼしたドレギアス・ズァーク率いる大帝国の幹部であり、トリリウム採掘場から脱走した脱走犯。
セレス
CV:高橋李依
グレイス《リベロ》の恋人であった人魚姫。10年前のリベルタスで不完全体であったラプソディーの生体ユニットとされ、強制的にマインドコントロールされていたが、怒り狂ったグレイスによって助けられるが、負傷したディメントによって銃殺された。
アイオロス
型番 EW-CBX08
頭頂高 7.5m
全高 7.8m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
『ミストラル』CV:藤村 歩
リベリオンと同じ、全体が銀と黒、関節部は金色、そして緑のカラーリングとジードグリーンの模様が塗られており、頭部らしき部位に、女神を模したオブジェ、顔面を覆うY字型バイザー、螺旋状のV字型のアンテナ、両手は何故か親指が左右対称になったマニュピレーターであり、小指が無く、異型の手をしている。超高速の戦闘で、武装である『デュアルセイバー』で相手を切り裂く。
プロメテウス
型番 EW-CBX09
頭頂高 7.5m
全高 7.8m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
リベリオンと同じ、全体が銀と黒、関節部は金色、そしてオレンジのカラーリングとゴールデンイエローの模様が塗られており、頭部らしき部位に、女神を模したオブジェ、顔面を覆うY字型バイザー、螺旋状のV字型のアンテナ、両手は何故か親指が左右対称になったマニュピレーターであり、小指が無く、異型の手をしている。腕部の武装である『ナックルガトリング』で、相手を蜂の巣にすることができる。
ハーミット
型番 EW-CBX11
頭頂高 7.5m
全高 7.8m
重量 Unidentify
推力 Unidentify
リベリオンと同じ、全体が銀と黒、関節部は金色、そして紫のカラーリングとピンクの模様が塗られており、頭部らしき部位に、女神を模したオブジェ、顔面を覆うY字型バイザー、螺旋状のV字型のアンテナ、両手は何故か親指が左右対称になったマニュピレーターであり、小指が無く、異型の手をしている。隠密として作られた機体であり、ステルス機能を持つ。武装である『禍迅雷』と言う巨大手裏剣を投げつけて来る。
【クロスオーバーキャラ】
勇人・ブリタニア・クアンタ
旧名『新川 勇人』
生まれ故郷:日本連邦
CV:逢坂良太
別世界というより、別宇宙にある星『惑星クアンタ』の新生クアンタ帝国皇帝。父であるクアンタ人と地球人のハーフ。1兆600億年前の先祖『ブリタニア家』の末裔であり、本来の姿は鬼神『荒神』であったが、幼馴染であるシンディと結婚、そして子供の一輝とロビンとシンディと一緒に暮らしている。だが、ディメントが一輝とロビンを連れ去り、怒りの炎を燃やしている。本来ならFPSゲームで銃撃スキルを得たが、剣術が必要な為、陽弥が無理やり修行させ、愛用の日本刀とブリタニア家に伝わる八つの聖剣の一つ『神刀 スサノオ』を駆使し、悪しき穢れに満ちた者を切り裂く。その姿に敵は勇人を『荒ぶる鬼神』と言う異名を持つ様になった。
搭乗機体・『アダム』
シンシア・ケラン・クアンタ
旧名『シンディ・マリーシェ』
生まれ故郷・育ち故郷:惑星クリュシス、カナダ・アルバータ州
CV:金元寿子
勇人と同じ、新生クアンタ帝国皇妃。かつて全てを滅ぼそうとしたドレギアスが、星の民である彼女を吸収されたが、勇人や仲間達の手により、その野望は見事に打ち砕かれ、幼馴染である勇人と結婚、そして二人の子供を授かり、愛する家族と平和に暮らしていたが、勇人やシンディに恨みを抱くディメントが、二人の子供を誘拐し、勇人と雄二達と共にグレイスの世界へ向かうことになった。中学の頃にアーチェリー部をしており、弓での戦闘や薙刀術を駆使し、相手を薙ぎ払う、相手を射抜く。
搭乗機体・『イヴ』
新井 雄二
CV:福山 潤
勇人が通っていた頃の友達で、高校では生徒会長を務めていた。現在は宰相を務めており、陽弥に変わって、次期ヴァルキュリアス総統になるため努力している。槍術の使い手で、家に先祖代々使われていた十文字槍で、相手を薙ぎ払う。
五十嵐 智彦
CV:小野友樹
勇人が通っていた小学校の頃の友達で、高校では刀剣士として、剣道部部長を務めていた。現在は地球でアウラ民である妻と娘と平和に暮らしている。剣術の使い手で、愛用の日本刀と古代クアンタ兵装の太刀を使って、相手を一刀両断する。
上野 玲二
CV:中村悠一
勇人が通っていた小学校の頃の友達で、高校ではボクシング部や柔道部に通っていた。現在は智彦と同じ、地球で愛する妻と息子と共に暮らしている。拳法の達人で、愛用の籠手と古代クアンタ兵装の鎖鎌を駆使し、敵を翻弄する。
星川 志歩
CV:三森すずこ
勇人が通っていた小学校の頃の友達で、高校では開発部部長を務めていた。現在はシン・ギデオンが経営しているDARPA社で働いており、様々な発明品を開発している。
西園寺 瑠璃
CV:木村 珠莉
勇人が通っていた小学校の頃の友達で、高校では新聞部員を務めていた。現在は、連邦のジャーナリスト、戦場カメラマンとして各惑星のボランティアや取材をしている。忍法の使い手で、忍者の様に相手を影から暗殺する。
瓜生 彩乃
CV:内田真礼
勇人が通っていた小学校の頃の友達で、現在は医療センター就職。衛生兵としての役割も持っている。
真里亞
CV:中原麻衣
元々引きこもりでハッカーであったが、ベリトに一目惚れし、現在は夫であるベリトと息子と共に暮らしており、人気小説家として働いている。デスティニーフェニックスではオペレーターとして任に着いた。
ベリト
CV:山口登
勇人と瓜二つの暗黒生命体。『煉獄のベリト』と呼ばれ、獄炎を撒き散らしながら相手を焼き尽くす。愛する妻と息子にはデレデレと言う性格を持っている。
サマエル
CV:下田レイ
シンディと瓜二つの暗黒生命体。現在は保育士として働いている。
陽弥・ギデオン
CV:松岡 禎丞
別宇宙にいるハーフヴェクタ人のシン・ギデオンと“彼女(別宇宙のメイルライダー ヒルダ)”との間から生まれた双子の息子。数々の試練を為し、星守りし神へと覚醒を成し、『護星神』と呼ばれる様になった。他にも護星神は八人おり、それぞれの世界を守る宿命を持つ。妻のエミリアとはとても仲が良く、彼は妻一筋であり、六人の子の面倒と鍛錬を身につけさせている。義父母であるクリーフ家と仲が良く、現在は義父母の故郷で妻と愛する家族と一緒に暮らしている。敵からは『六当流の護星神』と『神聖剣の騎神』……普段は二刀流だが、本気を出せば、暗黒生命体であるブラムの力でレグレシア家に代々伝わる八つの聖剣の一つ『聖剣 ガイアブリンガー』、『銃装剣 セブンスター』、『魔剣 グラム』、『龍神剣 ウルティメイト・バハムディア』、『炎神刀 鬼羅丸』、『呪刀 アメズヤクラ』を持ち、敵を次々に切り裂いていく。
エミリア・ギデオン
CV:早見 沙織
旧姓『エミリア・ヴァルネア・クリーフ』と『エミリア・レグレシア・クアンタ』
陽弥の愛妻で、ヨーコ、マナ、オリバー、ライラ、カイト、ルクスの六人の子の面倒を見ている。元々はレグレシア家の皇女だが、ガイアブリンガーは陽弥が受け継ぎ、育ての義父母であるクリーフ家の元で愛する夫と共に暮らしている。
ルナ・ギデオン
CV:中尾衣里
陽弥の双子の妹。剣術はイマイチだが、呪紋と言われる身体の中にあるエーテルエネルギー波を流し、味方に特殊魔法効果を付与する。現在は呪紋専門大学である『クリムゾン アカデミー』と言うコロニー船の教師を務めている。
シン・ギデオン
CV:神谷浩史
陽弥とルナの実父。かつてはドゥームと呼ばれる邪神を撃ち倒し、軍からは『神殺しのヴェクタ』と言う異名を持っていたが、種族大銀河連合軍を退役し、DARPA社の科学長を務めている。
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序章
プロローグ
仄暗く、水が溜まっているその場所から女性のアナウンスが発声していた。
『……環境変化を検知 冷凍保存チェンバー正常 チェンバーαタイプ オンライン。--生命維持ステータス-- コールドスリープシステム安定 心拍数 15拍/分 血圧異常なし 緊急AED起動開始します…3、2、1』
電光が室内を一瞬で照らすと同時に、奥のカプセルのハッチが開く。
『AEDシステム終了 コールドスリープ終了。血圧、心拍数共に正常。スーツ診断完了。 全てのシステム機能正常。冷凍保存チェンバー開放。それでは、良い未来を…』
アナウンスが切れると、ハッチからスーツを着た少年が開放直後に症状に苦しみつつも荒い息と共に、嘔吐する。
「ハァ…ハァ…ハァ…ウプッ!」
落ち着きを取り戻した少年は、辺りを見渡す。
「……ここは…何処なんだ?」
少年は立ち上がると、全身がびしょびしょに濡れていた。
「なんでこんなに濡れているんだ?それにしょっぱ!?」
どうやら水の正体は海水であり、部屋の亀裂から海水が漏れ出ていた。すると目の前にドアがあり、少年はドアを開ける。
「…階段?」
少年は階段を登り始め、上に辿り着くと、目の前にロボットの様なバイク状の乗り物があった。全体が銀と黒、関節部は金色、そして赤のカラーリングとクリムゾンの模様が塗られており、頭部らしき部位に、女神を模したオブジェ、顔面を覆うY字型バイザー、螺旋状のV字型のアンテナ、両手は何故か親指が左右対称になったマニュピレーターであり、小指が無く、異型の手をしていた。
「何なんだろう?……」
少年は不思議に思っていると、バイザーの下のツインアイが青く光ると、ツインアイからレーザーが放たれ、少年をスキャンする。
『称号確認 ホムンクルスと判明 ロックを解除します。』
すると機体のコンソールが光り、外観・機体装甲表面には、機体全身に流れるエネルギーが回路上にライン状が青色に輝く。
「何だ!?」
『おはようございます。コードネーム"RBL-1272"』
「コードネーム"RBL-1272"…?」
『貴方の名前です。私は"ラルス"。この機体の名である"リベリオン"の対話インターフェイス搭載人工知能です。』
「対話インターフェイス?何の事だ?」
『このリベリオンや貴官をサポートするコンピュータの事です。貴官はまだ、プロトタイプであり、"マスター"からマインドコントロールが済まされていません。つまり、本来あるべきの使命と記憶がが損傷している模様。貴方は記憶喪失と言う事になります。』
「記憶…喪失……」
『……ですが、破損した記憶を取り戻すことならできます。』
「本当に!?」
『貴官の重要なメモリーは目標座標軸: 0473,-3.43,00.336にある無人島にあります。』
「そこへ行きたい!理由は分からないけど、知っておきたいんだ!」
『了解しました。ですが貴官は戦闘システムがインストールされていません。戦闘システムをインストールしますか?』
ラルスの問に、少年は決断する。
「インストールしてくれ…これから先、何が待ち受けているか分からない…だから、僕に力をくれないか?」
『………質問に応じます。戦闘データをインストールするために、リベリオンに触れてください。』
「え?…うん」
少年は機体のボディに手を触れてみた。すると彼の頭の中に、操縦法や戦闘データ並びに戦闘行動がシュミレーターとして、少年の頭の中へインストールされて行く。やがてシュミレーターはインストールし終え、少年の目の前には元の世界が広がっていた。
「…終わったの?」
『はい、次に貴方の戦闘を少し馴染ませるために、訓練用のシュミレーターを起動します。』
すると目の前の左右の壁が動き出し、中から、二足歩行の脚と左右にガトリング砲とミサイルランチャーを備えたロボットが5機現れた。
「え?」
『対象を破壊してください』
ラルスの問に、少年はリベリオンに乗り込み、アクセルとペダルを操作し、宙に浮く。そして操縦桿を縦に切り替え、飛翔形態から駆逐形態へと変形させる。バイク形態であったリベリオンが人型へと変形していく。
「武器は…これか!」
少年はリベリオンの右腕の前腕部に装備されているパルスガン兼用の折り畳み式高周波ソード『パドルデーゲン』と左肘の機動防盾『ケンプファー』を確認し、突撃する。二足歩行ロボットがガトリング砲を乱射すると、リベリオンは凄まじい速さで、回避しながら、パドルデーゲンのパルスガンを連射し1機を破壊した。
「先ずは一つ!」
次に2体と一緒になっているロボットがミサイルランチャーの弾頭を発射してきた。
「ミサイルの迎撃は……マルチロックオン!」
向かってくるミサイルがロックオンされると、パドルデーゲンからホーミングレーザーが発射され、ミサイルを破壊する。そしてパドルデーゲンのソードを展開し、ロボットを斬り裂いた。
「凄い!パドルデーゲンはこんなにも切れ味が鋭いんだ!」
残り2機になったロボットがガトリング砲やミサイルランチャーを放つが、リベリオンはアクロバットな動きで、あっさりと回避され、破壊された。
『残存機の消滅を確認。シュミレーターを終了します。』
すると清掃ロボットがバラバラになったロボットの残骸を回収していく。
「ラルス…思ったんだけど……」
『何でしょうか?』
「外に出たいんだけど?」
『少々お待ち下さい………お待たせしました。メインハッチを開きます。』
すると壁が上へスライドされ、光が差し込み、リベリオンを照らす。そこに写った光景は、何処か知らない無人島であり、青い海、緑の樹々、そして白い砂浜。
「ここは何処の島なんだろう……ん?」
少年は足元の近くで溜まっていた水溜りを見る。水面に写っていたのは…銀色のショートヘア、肌は茶褐色、スーツは見たことのない黒のカラーリング、背中に二本の配線コードが繋がられていた。
「これが…僕…」
少年は自分の顔を見ながら頬に触れる。するとリベリオンがランディングギアを使い、歩行する。
『コードネーム"WED-1272"…貴官の自由行動、自由睡眠、自由食事の許可が得られました。』
「え?それって……」
その時、少年のお腹から、何か唸り声の様な音が鳴る。少年はお腹を擦り、ラルスに問う。
「……お腹…空いた」
『食物なら、海で捕れます。』
少年はラルスの指示に従い、釣竿と釣り針と餌の代わりに木の根を歯で形を整え、海へ投げ入れる。すると釣竿の弦が引き始めた。
「嘘!?餌も付いていないのに!?」
少年は釣竿を引っ張ると、海から大きな魚が釣れた。
「捕れた!!」
少年は捕れた魚を焼くために、木の枝を集める。そしてその集めた枝をリベリオンの頭部の女神のオブジェの目の部分からビームを放ち、火を起こした。焼きあがった焼き魚を食した少年はラルスに問う。
「なぁ、ラルス…」
『何でしょうか?』
「……この世界の事を教えてくれないかな?」
『分かりました。次の無人島に航行しながらご説明いたします。』
ラルスはそう言い。少年はリベリオンに乗り込み、目標の無人島へと向かっていくのであった。
そして、そんな少年の様子を空から見下ろす4機のロボットが飛んでいた。しかもその4機はリベリオンと同じフレームであり、それぞれの武装と装甲の形状が違っていた。一機は全体が銀と黒、関節部は金色、そして緑のカラーリングとジードグリーンの模様が塗られており、両腰にデュアルビームセイバーを収納していた。もう一機は銀と黒、関節部は金色、そしてオレンジ色のカラーリングとゴールデンイエローの模様が塗られており、両手にナックルバスターを持っていた。もう一機は銀と黒、関節部は金色、そして青色のカラーリングとアクアマリンの模様が塗られており、手にはスピアを持っていた。もう一機は銀と黒、関節部は金色、紫色のカラーリングにピンクの模様が塗られており、背部に巨大な手裏剣を背負っていた。すると紫色の機体に乗っているライダーが緑色の機体のライダーに問う。
「"失敗作"逃走したな…どうする?コードネーム"HLS-0849"…。」
コードネーム"HLS-0248"と名乗る緑の機体のライダーは紫のライダーに言う。
「案ずるな、コードネーム"PNM-0849"……奴はまだ、本来あるべきの力に覚醒していない。万が一覚醒すれば……抹消するまでだ。そうだろ?"ミストラル"」
すると緑色の機体から音声が発せられる。
『その通りです。万が一の事があれば、貴殿やエンブリヲ様に報告することです。何せ我々は……。』
ミストラルと言う対話インターフェイス搭載型のAIはその言葉を発言した後、4機は共に姿を消した。
身分も記憶も分からない少年。この世界の秩序と真実、そして仲間達と出会う時、これから巨大な陰謀に立ち向かうのであった。
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第一話:無人島の青年
古い施設が無人島を離れた少年はリベリオンに騎乗したまま、ラルスからこの世界の事に付いて学んでいた。
『マナ』
人類が進化の果てに得たとされる魔法に似た技術。マナをあつかえることが「普通の人間」の絶対条件であり、
念動力のように物質を浮遊・移動させたり、拘束・防護用の結界を張ることも可能になっている。また、統合システムへのアクセスによって情報共有が可能になり、マナとの使い間でのコミュニケーションツールともなる。これらマナ技術の発展により、戦争や貧富の差も消滅したとされたと……。
『ノーマ』
マナの力を持たず、他者のマナの力も無効化する人間を指す蔑称。遺伝子操作前の旧人類の因子を持つ突然変異種で、女性にしか発生しない。常に一定数のノーマが生まれ続ける。ノーマは皆、"アルゼナル"と言う島と一体化している施設で保護されている。
"ドラゴン(DRAGON)"
アルゼナルのノーマたちが戦う人類の敵。「Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes」(次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物)の各単語の頭文字をとって名付けており、空間に門(ゲート)を開いて現れる。外見は絵本やファンタジーに作品に出てくる登場するドラゴン(飛竜)に酷似している。個体差が大きく、体格によって「ブリッグ級」や「ガレオン級」、「スクーナー級」、「フリゲート級」などに分類されており、特殊な重力場を発生させる「ビッグホーンドラゴン」という亜種なども存在する。肉食性であり、メイルライダーも捕食対象となっている。凍結されたものは人類に回収される。
知能も相応にあるため、戦況に応じた攻撃方法を用いたりする。ガレオン級などの大型種になると、魔法陣の発動で防御壁の展開や固有の特殊攻撃を行ううえ、驚異的な生命力を持つ。また、それまでにノーマたちの討伐部隊が遭遇したことがない個体は「初物(はつもの)」と称され、それを討伐、戦闘記録を回収するなどしてもライダーの報酬が跳ね上がると言われている。
世界の事を理解した少年は"マナ"と言うシステムに付いて深く考える。
「マナってそんなに便利なの?」
『はい、そのシステムのお陰でこの世界は戦争や貧困はなくなりました。ですが、"ノーマ"は別です。』
「う〜〜ん……分からないなぁ、マナが使えないだけで差別されるなんて…おかしいなぁ…。」
『それがこの世界の秩序と法則です。』
「この世界の秩序と法則って……誰が決めたの?」
『"神様"です』
「神様って?」
『神様は神様…私を作った偉い人です。』
「ラルスを作った人!?会ってみたいなぁ♪」
少年は喜んでいると、ラルスが報告してきた。
『目標座標軸: 0473,-3.43,00.336に到着します。』
前方に目的地である無人島が見えてきた。少年はリベリオンの出力を上げ、急いで向かう。島に到着した少年は辺りを見る。さっきの島と違って、森林が多く、砂浜も広かった。
「良し!ここならキャンプも出来る♪」
少年は、リベリオンを駆逐形態に切り替え、それを柱とし、大きな葉を掻き集める。
「大きなぁ……ん?」
すると目の前に洞窟があったのだが、中を見てみると居住スペースになっており、家具が一通り揃っていた。まるで誰かが住んでいるかの様に……。少年は中を見てみると、頭の中である言葉が浮かび上がった。
「"誰かがいる"……と言うことは!!」
少年は急いでリベリオンの所へ戻る。
「(何でだろう?……何でこんな判断が出来たの?何でこんなに必死になっているんだ?)」
少年が砂浜に出ると、リベリオンを見上げている一人の青年がいた。
「誰!?」
少年の声に青年は振り向く。
「この機体……君の?」
「……そうだけど」
「君は?『彼の名はコードネーム"RBL-1272"です。』ッ!?喋った!?」
青年はリベリオンからラルスの声が発声した事に驚く。
「ラルス…」
『はい』
「ここは一旦説明も入れて一緒に話そう?」
『…はい』
「僕は、さっきラルスが言ったコードネーム"RBL-1272"…それが名前かな?それでこっちが…」
『ラルスです。このリベリオンの対話インターフェイス搭載の人工知能です。よろしく』
「俺はタスク…この島で暮らしている。君達は一体?」
「う〜ん……実は。」
少年はこれまでの経緯を説明した。自分がなにものであり、どうしてその場所で眠っていたのかも……。
「つまり、君は記憶喪失と言うことか…」
「うん…でもラルスのおかげであの機体の操作方法が分かったから何とかなったんだ。」
「人工知能搭載の機体か…凄いなぁ。でも、あのリベリオンって言う機体……あの頭部の形状、何処かで……。」
タスクはリベリオンを見つめる。
「タスクさん?」
「……え?あ、嫌…何でもない」
「……本当に?」
「それより…あ〜…コードネーム…RB…L-12…72…だったかな?」
「はい…」
「ダメだ…何か言いにくい……もっといい名前……そうだ!じゃあ"グレイス"君の名はグレイスつて言うのは?」
「グレイス……それって?」
「『思いやり』や『神の恵み』って言う由来なんだ。君は冷静で心が優しい…だからグレイスだ」
「グレイス…グレイス…悪くないな」
少年改めグレイスの名前が決まったのであった。
「あ、それと…君は、行く場所がないって言っていたね」
「え、はい…」
「なら、あまりお勧めは出来ないけど、待ってくれない?」
タスクはそう言い、洞窟へと戻っていく。
「何しに行ったんだろう?」
グレイスはそう考えていると、ラルスが報告してくる。
『グレイス様、南西21メートルから貴方に関するビーコンを確認しました。』
「本当に!?」
グレイスはラルスの指示に、森の奥へと入る。森の奥へ入っていくと、視界が突然色がなくなり、白と黒へと変色する。
「何これ!?」
辺りを見渡していると、地面の下ら辺が光っていた。
「?」
グレイスは木の葉や枝で隠れている地面を探っていると、鉄のハッチを見つけた。
「何これ?」
グレイスはハッチを強く引っ張ると、中には下へと続く階段があった。グレイスはゆっくりと地下へ下りていくと、目の前に禍々しいオーラを放つ赤い宝玉が台の上に浮いていた。
「何だろう」
グレイスは恐れも知らず、そっとその宝玉に触れる。すると宝玉が突然グレイスの胸に貼り付き、食い込んでいく。
「何これ!!?痛い!!」
激しい痛みが、グレイスに襲いかかると、彼の頭の中にいくつもの映像が現れた。グレイスが寝ていたコールドスリープカプセルが六つあり、それぞれの中に男女四人とグレイスが寝ていた。すると五人のカプセルの元に、金色の長髪に背広を着た紳士的な印象の青年がグレイスともう一つのカプセルを除いて、四人のカプセルに手を差し伸ばすと、青年が歌い出す。
「♪〜♪〜♪〜」
その歌はとても綺麗な歌であったが、狂気に満ちており、今にも心が闇に落とされそうな感じであった。
「ッ!?」
グレイスが目を覚ますと、目の前には元の空間に戻っていた。
「今のは…一体?」
グレイスは起き上がり、首元を触る。
「ん?」
グレイスの首に何かが付いていた。それはさっきの赤い宝玉であり、引き剥がそうとするが、ガッチリとスーツに装着されており、取れなかった。その後、グレイスはリベリオンに戻った直後、タスクが戻ってきてグレイスに手紙を渡した。
「これを"彼女"に渡してくれ」
「彼女?」
「アレク、嫌……"ジル"って言うアルゼナルの司令官に渡してほしい。そうすれば、彼女は君を受け入れてくれる筈だ。絶対に…」
「……分かった」
グレイスはリベリオンに乗り込む。起動したリベリオンは浮遊を始める。
「タスクさん、何から何までありがとうございます。」
「良いんだ。君はまだ若い……それに、君も早く自分の記憶が戻るといいね。」
「はい。」
グレイスはリベリオンのコンパスとソナーを頼りに、アルゼナルへと向かっていくのであった。
タスクはグレイスが見えなくなるまで手を振った後、グレイスのリベリオンの事を考える。
「やっぱり似ている。あの機体、奴の……"エンブリヲ"の機体と全く似ている。」
タスクはそう言い、洞窟へと戻っていった。
グレイスがアルゼナルへ目指しているその頃、ミスルギ皇国の洗礼の義で一人の皇女の運命を大きく変える事件が起こっていた事を、彼は知っても知る由もなかった。
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アルゼナル編
第二話:アルゼナル
島でタスクと別れたグレイスは、リベリオンのソナーとコンパスを頼りに、アルゼナルへと向かっていた。
「地形や機体の残骸……ドラゴンの死体や骨……こんなに多いと言う事は、アルゼナルの近くまで来ているって言うことになるのか……」
グレイスはそう思っていると、空が黒くなる。
「?」
上を見ると、悪雲がなだれ込むかのように、現れ、稲光が発する。
「雲行きが怪しくなったなぁ……とにかく、急がないと!」
グレイスはそう思い、リベリオンを発進させるのだった。
その頃、グレイスが向かっている島…『アルゼナル』
絶海の孤島に造られた軍事基地であり、「兵器工廠」という意味を持つ対ドラゴン戦闘機関で、ローゼンブルム王家管轄の、世界で唯一の対ドラゴン用軍事基地。
そんな中、アルゼナルの別の部屋では黒髪のポニーテールをした女性―アルゼナルの責任者であり、司令官『ジル』と監察官の『エマ・ブロンソン』は1人のノーマの少女と対峙していた。
彼女の名は『アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ』洗礼の儀で兄:ジュリオに己がノーマであることを暴露され、眼の前で母親を喪い、堕落した元皇女。
だが、生来のプライドの高さから、自分ががノーマである事を頑なに認めず、必死に抵抗しようとするが、抵抗も虚しく、ジルは拘束具を解いて気の緩んだアンジュリーゼに強烈な一撃を与え、経験したこともない痛みに呻くアンジュリーゼに現実を突きつけられる。
「身体検査を行う。覚えておけ、お前はもう皇女ではない」
うつ伏せの状態で呻くアンジュリーゼにジルは機械の義手を調整しながら無情に告げる。そんな迫るジルにアンジュリーゼは恐怖に憶え、必死に首を振る。
「や、やめなさい! やめろ! 私はミスルギ皇国第1皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!」
この期に及んで、まだ皇女アンジュリーゼ、とかつてはそう呼ばれていた様に振舞う彼女の姿は余りにも滑稽に見えた。冷めた眼で見下ろすジルの目からは、この期に及んで、まだ皇女の様に振舞う彼女の姿は余りにも滑稽に見え、冷酷に告げた。
「違う。今からお前の名は、アンジュだ!」
そして、それは実行されるのだった。
「イ、イヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!」
アンジュリーゼ、いや、アンジュの悲鳴が雷鳴と共にアルゼナルに響き渡るのだった。
一方、嵐が吹き荒れる中をリベリオンが飛ぶ。グレイスは前方に見えてきたアルゼナルを見る。
「見えた…アルゼナルだ!」
グレイスは早速アルゼナルに通信を開く。
「こちら、グレイス…アルゼナル、応答をお願いします…。」
そしてアルゼナルの司令部では、
「…?、通信?」
『こ…ら、グレ…す……ゼナル…応答を…願いします……こちら、グレイス…アルゼナル、応答をお願いします。』
「男!?何で男の声が!?」
オペレーターは驚き、尋問室にいるジルと連絡する。指令室へ来た。
「通信から男の声だと?」
「はい、どうしますか?」
「…私に繋げ。」
オペレーターは回線をジルに繋ぐ。
「私はこのアルゼナルの責任者『ジル』だ。貴様は何者だ?」
『繋がった!こちらグレイス、補給をお願いします。アルゼナルの着陸許可を。』
「グレイス?……(男がどうしてここに?)…良いだろう、補給を許可する。但し、裏で会おう…」
『……了解』
グレイスと名乗る男の通信が終わり、ジルはアルゼナルの裏の海岸へと向かう。アルゼナルの海岸に着陸したグレイスとリベリオンを見たジル、そして医療を担当するマギー、アルゼナルのショッピングモールを取り仕切るジャスミン、パラメイルと言うリベリオンに似て異なる機体の整備を取り仕切る整備班班長のメイも驚いていた。
「これは!?」
リベリオンを見て驚くジルは側にいるグレイスを見る。
「(何故…奴の機体がここに?だが…形状が奴とは違う…同型機?なら何故、それにあの小僧……)」
するとグレイスがジルにある物を渡す。それはタスクから預かった手紙であった。
「ジル司令官…これ、ある人からです。」
「見せろ…」
ジルはいぶかしみながらも手紙を受け取り、読んでみる。すると1枚目には短く、こう書かれていた。
「『彼はもしかしたら、俺達の味方になってくれるかもしれない。俺は自分の名前や身分も分からない彼に、"グレイス"と名付けた。記憶も身分もこのリベリオンって言う機体がもし奴が造った物なら……そして彼が"奴の息子"なら……これからの運命を左右する可能性が高いかもしれない。俺は信用における人物として貴女に託します。 ヴィルキスの騎士 タスクより。』」
これを見たジルは驚いた顔をして、グレイスを見る。
「("奴の息子"か、あのリベリオンと言う機体……確かに奴の機体やあの4機の機体と同型だが…コイツが果たして、私達の味方になるか、それとも奴の味方になるか……たが、本当に記憶がないなら、尋問するか……。)今からお前を検査する……付いて来い。」
「あ…はい。あ、後……。ラルス」
グレイスの呼び声に、リベリオンのバイザーが光、駆逐形態へと変形した。
「何!?機体が勝手にだと!?」
「ラルス…格納庫で待っていてくれないかな?」
『了解。グレイス様』
「喋れるのか!?あの機体は!?」
「うん……名前は…『私はラルス。このリベリオンの対話インターフェイス搭載のコンピュータです。』……そう♪」
「(まさか喋れるなんて……コイツ、使える……あの機体と共にやれば、奴等の機体も!!)」
ジルは何らかの野心を持つと同時に、グレイスをアルゼナルに案内させる。
医務室に連れられたグレイスはマギーに色々と検査される。身長や体重の測定、注射での採血、隅々までも調べられた。それが終わると今度はカウンセリングが行われた。文字の読み書きから始まり、マナやノーマの事、この世界の国の名前など様々な事を質問された。カウセリングの方はラルスに教えられており、以上はなかったが、自分が何者で、今までどこに居たのかは返答する事はできなかった。ちなみに、マナが使えるかどうかの実験もして、使えなかったのでノーマと認定された。
「ほぉ、ほぉ…まさか"男のノーマ"とは……これが委員会に知れば、一大事かもなぁ」
「…どういう事ですか?」
「一大事も何も、『初の男のノーマが出た』となれば国中大騒ぎだよ」
「そうなのですか?」
「当然、ノーマは何故女性にしか出ないかも分からない反社会的システムだからなぁ」
「……」
マギーの言葉に落ち込むグレイス。すると医務室にジルが現れ、グレイスに服を渡す。
「昔の知人が着てた服だ…それで我慢しろ」
「はい…」
グレイスはそう言い、渡された服に着替える。
「(島であったタスクさんの服と同じだ)……」
グレイスは服に着替え終えると、ジルから色々と尋問される。そして宛が無い為、アルゼナルに住まわせてくれるのを許可してくれた。男のノーマとして……。グレイスは尋問後、監察官のエマに部屋を案内される。と言っても、部屋は牢屋であり、グレイスの部屋はまだ用意されていなかった。グレイスは仕方なくの牢屋で寝泊まりするのであった。
身分も記憶が分からない青年『グレイス』、無人島の謎の青年『タスク』、身分がノーマだと知らなく、絶望へ墜ちた美少女『アンジュ』、そして……。
天井から水が滴り落ち、仄暗く先の光が見えない下水道……その奥から機動音が響き渡ると、下水道の奥から2機の青とオレンジに塗り分けられた黒い機体が下水道の水へライトを照らしながら進んでいた。すると水の中から影が現れ、青い機体は先端部のマシンガンで水の中にいる何かへマシンガンを乱射する。
「逃がさないわよ!!」
青い機体に乗っているライダー。コードネーム"TTS-254"とオレンジの機体のライダー。コードネーム"ATS-751"がマシンガンを撃ちながら影を追い掛ける。そして下水道が広くなると、影が一気に潜り、二人が水中目掛けて乱射する。水は下水道のため、濁っており、確認できなかったが、水中から赤い血が浮かび上がる。
「チッ!逃したか……」
ATS-751は舌打ちすると、TTS-254がある人物に通信をする。
「こちらTTS-254…失敗作のホムンクルス。コードネーム"MMD-008"の追撃に失敗しました。ですが、アイツの体に致命傷は負わせました。」
『良くやったTTS-254。戻って次のドラゴンの動きを観察してくれ。それと、もう一体の失敗作であるRBL-1272の監視も続けてくれないかな?』
「喜んで"パパ"♪」
TTS-254は通信を終え、ATS-751に言う。
「そろそろ帰るよ♪」
「分かったよ…」
二人は機体に乗り込み、下水道の中を飛ぶのであった。そしてミスルギ皇国湾岸の海中から、背中まで伸びたピンクのロングヘアーの美少女が荒い息を吐きながら、流木に捕まり、ミスルギ皇国から出ようと泳ぎだす。
「私は……"あの人"の道具でも駒でもありません!……何処かにいる筈!"あの人"に抗う勢力が!!」
美少女は必死に、流木に捕まり、血を流しながら泳ぐのであった。
そしてこれが……"ある男"の企みを阻止し、世界の運命を賭けた物語の始まりでもあった。
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第三話:まつろわぬ魂・前編
「Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes」(次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物)
頭の頭文字を取って付けられた名前は本当に存在していいのか.......その名は.......『DRAGON』(ドラゴン)
「時空を超えて侵攻して来る巨大敵性生物、それがドラゴン。このドラゴンを迎撃、殲滅し世界の平和を守るのが此処アルゼナルと私達ノーマに課せられた使命です。ノーマはドラゴンを倒す兵器としてのみこの世で生きる事を許されます。その事を忘れずに戦いに励みましょう」
《イエス、マム!》
アルゼナルにある教室、そこでは指導員のノーマの女性がまだ幼いノーマの子達にドラゴンと戦う使命を教授していた。幼年部の子供達に混じって、グレイスはラルスが教わった事を復習するが、もう一人は全く不貞腐れていた。名前はアンジュ。彼女は元ミスルギ皇国第一皇女 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギであり、洗礼の義で実兄 ジュリオ・飛鳥・ミスルギによって妹がノーマだと暴露され、
「分かったか?グレイス、アンジュ」
「はい、大体はラルスから教えられていたので……」
「……」
ジルに問われ、グレイスは返事をしたがアンジュは無視していた。
「もうすぐ…ミスルギ皇国から解放命令が届く筈です」
アンジュは現実を受け入れられない様であり、叶いもしない希望を見出そうと、口にしていた。
「監察官、グレイスとアンジュの教育課程は終了。本日付で2人を第一中隊に配属させる」
「だっ!?第一中隊にですか!?」
エマはジルの言葉に驚いた。
「ゾーラには既に通達してある、二人共さっさと付いて来い」
ジルはアンジュの手を掴み、無理矢理連れていき、グレイスはその後を付いていく。
「ちょ!ちょっと! 離してください!」
ジルはアンジュの手を取ると教室を出て行き、グレイスも2人について行くのだった。
ちょうどその頃、カタパルトデッキから幼年部の部屋を双眼鏡で見ている金髪の女性は赤髪の女性の身体をいじりながら舌を舐め、赤髪の女性は頬を少し赤くしながらつぶやいていた。
「ふぅ~ん、あれが噂の皇女殿下と男のノーマか、男の方はいいとして、皇女殿下はやんごとなきお顔に穢れを知らない甘くておいしそうじゃないか」
「新しく来た子なら誰でもいいんでしょう?」
「「うんうん」」
その後ろに、薄青と茶髪の女性二人が頷いた。
「なんだ? 焼いているのか~?」
「そ、それは…」
「可愛いなぁ~、お前達♪」
金髪の女性は3人の女性とじゃれあっていると、蒼い髪のツインテールの女性が注意する。
「隊長!スキンシップは程々に。身辺からも揉み方が痛いと苦情が....」
「はいはい、気を付けるよ。副長~」
金髪の女性は手をワキワキすると、蒼い髪のツインテールの女性は咄嗟にガードする。
「年上の新兵さんと男の人もいますが、新兵同志お二人共仲良くね♪」
「「は!はい!」」
ピンク色のロングヘアーの女性が、蒼い髪のツインテールの女性が持っていた名簿を取って、配属されていた新兵の二人にも声を掛けた。蒼い髪と深緑色の新人は緊張のあまり答えると、少しオレンジがかかった赤髪の少女が飛んでとないことを発した。
「ねえねえ!サリア! クイズしよう!誰が最初に死ぬのかな~?」
新人二人は少女の言葉に息を飲むと、サリアと言う女性はは赤髪の少女の頭をグリグリしながらしかる。
「死なせないようにするのが私達の役目でしょ!?」
「あいたっ!?...ご...ごめん」
「それと隊長。。お訊ねしたい事があるんですが」
「うん、なんだサリア?」
サリアは手に持っていた書類を見せながらゾーラに訊ねる。
「今日、配属される新人についてです。アンジュという子のデータは詳しく記載されているのですが、例の男のノーマは所々、不明な部分や曖昧な所があるんですがこれはどういう事なのでしょうか?」
サリアが出した書類には確かにアンジュとは違い、グレイスは表記が曖昧だったり、UNKNOWN(不明)と記載されていた。
「ああ、それか。グレイスはどうやら記憶喪失みたいなんだ。」
『記憶喪失~!?』
ゾーラの言葉にこの場にいた全員が驚いて声を上げていた。が、
「って、一体なんぞ?」
そう言うヴィヴィアンに全員が思わずずっこける。
「お前、知らないで驚いてたのかよ…」
ロザリーが呆れながらツッコむ。
「記憶喪失というのはね、自分や過去の事を全く覚えてない事をいうのよ」
「へえ~そうなんだ」
エルシャが説明し、ヴィヴィアンは理解した様である。
「でも、記憶喪失なのにパラメイルを操縦できていたんですか?」
サリアが少し驚きながらゾーラに訊ねる。
「らしいな。だがな、もっと驚く事があったんだ。司令が言うにはグレイスのパラメイルは喋る事が出来るらしいんだ♪」
『えええええぇぇぇぇぇ!!??』
サリア達は開いた口が塞がらなかった。無理もない、普通パラメイルがべらべらと喋る筈が無いただの兵器だから。
そう言っている内にジルがアンジュとグレイスを連れて来た。
「着いたぞ」
ジルに連れられたアンジュは未だに顔を俯かせており、グレイスはアンジュの隣に立った。
「ゾーラ、後は任せたぞ」
「イェス・マム!」
ゾーラと呼ばれた金髪の女性とそのノーマ部隊の仲間であろう女性達はジルに敬礼する。
「死の第一中隊にようこそ。私は隊長のゾーラだ。後のメンバーの事は副長、紹介してやれ」
「イェス!マム、第一中隊副長のサリアよ、こちらから突撃班のヴィヴィアン」
「ヤッホ!」
ヴィヴィアンは元気よく挨拶する。
「そしてヒルダ」
「フンッ」
ヒルダは威張りちらした笑みを浮かべていた。
「後、救護班のロザリーと「これ、全部ノーマですかか」」
茶髪の女性を紹介しようとした途中、アンジュは口を開くと、ヒルダが爆弾発言を放った。
「はんっ!私達ノーマは物扱いだ」
「このアマ!」
ロザリーが二人の発言に切れる型が、
「そうだよ。皆、グレイスもアンジュも一緒のノーマ。仲良くしようね♪」
ヴィヴィアンは友好的にそう言って来る。
「違います!、私はミスルギ皇国の第一皇女アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ!。断じてノーマではありません!」
「アンジュさん、程々にしたら?」
「でも使えないんでしょう?マナ」
ヴィヴィアンの言葉にアンジュは戸惑う。
「こ、此処ではマナの光が届かないだけです…此処から帰ればきっと…」
すると、突然ゾーラが笑いだす。
「はっはは!ったく指令め、とんでもない者を回してきたか…状況認識がなっちゃいない不良品じゃないか」
「不良品が上から偉そうにほざいてますわ」
「うわぁ…痛い…痛すぎる」
「不良品は貴方方の方でしょう!」
すると、ヒルダがアンジュの足を踏んづける。
「痛っ! な…何をするのです!?」
「身の程をわきまえな!イタ姫よ」
ヒルダがアンジュの胸元を掴んで黙らせようとする。
それを見たグレイスは止めに入る。
「ねぇ、もうその辺に」
「まあまあそのくらいで」
グレイスより先にピンク色のロングヘヤーの女性が止めに入る。
「エルシャ、こういう勘違い娘は最初でキッチリとしめておいた方がいいんだよ」
「そうそう」
ヒルダとロザリーがエルシャの慰めの事に反するかのように言う。
「あらあら~そうなのぉ?」
「(もしかして……天然なの?)」
は思わず心の中でそう叫ぶしかなかった、叫んだりしてもすぐに反撃の言葉を貰うからだ。
「サリア、期待の新人教育を任せるぞ、同じノーマ同志として…」
「はい」
その言葉にアンジュは苦しい表情をするのをレオンは見て目を細める。
「これより訓練を開始する!エルシャ、クリス、ロザリー、一緒に来い!遠距離砲撃戦のパターンを試す!」
「「「イェス!マム!」」」
エルシャ、ロザリー、そして三つ編みのクリスが敬礼する。
「サリア、ヴィヴィアン、ヒルダは新人教育を任せる。しっかりやんな!」
「「「はい!」」」
「各自かかれ!!」
「「「イェス!マム!」」」
ゾーラの指示によりアンジュ以外の皆はそれぞれ動き出して行った。
グレイスはサリアの後を付いていくようにした時だった。
「何ボサッとしているの? こっちよアンジュ」
「何人たりとも皇女であるこの私に命令するなど!」
相変わらず態度を崩さないアンジュに対し、サリアはナイフホルスターからアーミーナイフを取り出して、アンジュの首に突き付ける。
「ここでは上官の命令は絶対よ、良い?」
サリアの重たい言葉に流石のアンジュも首を縦に振った。
そしてサリアはグレイスの方を向いて言う。
「グレイス、あなたもよ?」
「言われなくても…分かってます。副隊長」
グレイスはサリアの命令に従った。
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第四話:まつろわぬ魂・中編
訓練を始める前にサリアから急遽配給された男性ライダースーツ(パイロットスーツ)を渡されて着替えたグレイス。カラーリングは赤と黒のツートンでグレイスは結構気に入っていており、訓練場へ向かう途中……。
「ん?……ブッ!?」
どういうことか、アンジュが一糸纏わぬ姿をしておりドアを叩いていており、グレイスは思わず顔を真っ赤にして手で顔を隠し、見ないようにする。
「何やってるんですか!?」
「キャッ!? み!!見ないでください!!!」
アンジュはグレイスの姿を見るとすぐにしゃがんでなんとか裸姿を隠す。
「ご!ごめん!!!」
グレイスは慌てて後ろを向いて、そのまま女子更衣室のドアを叩く。
「副隊長!グレイスです!」
グレイスの返答に答えるかのようにサリアが顔を出してきた。
「あら、終わったの?」
「終わったの………じゃないです! なんでアンジュさんが素っ裸で出ているんですか?!」
「簡単よ、その子が『そんな服を着るくらいなら、裸になった方がマシです!!』っと言ったから、その要望に応えただけ」
アンジュのパイロットスーツを見ると血痕がある。
前の持ち主のか、女性だったら着たくもないし呪われそうだ。
結局、独りで着替えたことの無いアンジュはサリアの手伝いで着ることができた
そしてアルゼナルの医務室
「あ~らこんなに真っ赤に腫れ上がっちゃってぇ~。ジュクジュクになってるじゃない~」
医務室の医者が何やら腕の治療を受けているジルのを見て言う。
「ぐ…痛っ!?」
「あら痛い?痛い?痛いよねえ!」
ふざけているのか、人が痛がっている様子を見て危なく興奮しているその医者。
「つぅ…酒臭いよ! マギー!」
「あたっ!? ゴメンねえ~」
ジルの腕を治療しているアルゼナル軍医『マギー』のおふざけにジルは鉄拳を振り下ろす。
「たくっ…ジャスミン、そっちはどうなの?」
「外側のボルトが全部イカレちまってる。ミスルギ製の奴に替えとくけどちょっと値が張るがね」
「指令部にツケとくよ」
「毎度あり!」
ジャスミンがジルの義手の修理して結果を伝える。
ジルの義手をマギーが取り付けて、ジャスミンは何やら呆れる様子でジルに言う。
「だけどもうちょいデリケートに使って欲しいものだねえ、そいつはアンタ程頑丈に出来ちゃいないんだ」
「悪いね、じゃじゃ馬が暴れてさ」
ジャスミンに申し訳なさそうに言うジルは立ち上がって煙草を吸い始める。
「ああ、例の皇女殿下かい?」
「いいのかねぇ?皇女殿下と"あの男の息子"を第一中隊なんかにブチ込んじゃって?」
「…それでも駄目なら死ぬだけだよ」
っと不敵に笑いながらそう言うジル。
アルゼナルの訓練所、既に新人たちが訓練を開始していた。
「パラメイルデストロイヤーモード起動!シュミレーター起動!フリーダムチャンバー、チャージ完了!」
「フリーダムチャンバーチャージコンプリート!」
「アレスティングギアリリース!」
「あ…アレスティングギアリリースコンプリート!」
ココとミランダがヒルダとヴィヴィアンの指示に従い、確認を行う。その中でグレイスとアンジュはサリアからマシンの説明を聞いていた。
「へぇ~、これでドラゴンと戦うのですか?」
「そう、『パラメイル』、私達ノーマの棺桶よ」
「棺桶か……」
「あの、一体何をさせようと言うのですか?この私に……」
アンジュは頭が混乱している状態でサリアの棺桶発言には耳に入ってなかった。
「最初から出来るなんて思ってない。後は飛ぶ感覚を体に叩き込んで」
「了解です」
グレイスは真剣に承知し、サリアは二人のシュミレーターのドアを閉める。
「リクエストリフト・オフ!アンジュ機、レオン機、ゴーフォールド!ミッション07スタート!」
サリアの号令で景色が一変する。
「うわぁっ?!」
「うきゃああー!?」
次の瞬間、シュミレーター内部に凄まじいGが二人に襲い掛かってきた。
「す!凄い!! シュミレーターでこれ程のGが来るんだ?!」
「な、何なのですかコレは!?」
シュミレーターの高性能のシステムにグレイスは驚きながら踏ん張り。一方のアンジュは悲痛の声を上げ、操縦桿を手離してしまう。
「アンジュ、操縦桿から手を離さない!上昇!そして旋回! グレイス、ちゃんと集中して前を見て!実戦はこんなもんじゃないわよ!」
サリアの更なる号令により機体の動きが変わる。アンジュは必死についていこうと踏ん張る中、グレイスは激しいGを徐々にコツを掴んでいく。
「最後に急降下訓練に移る!降下開始!」
「急降下? うわっ!?」
「ひゃああああー!?」
急降下のGにアンジュの身体が思わず浮いてしまう。
「急いで!地面に激突してしまうわよ!機器を上げて!」
サリアは万が一の時の為に緊急停止ボタンに手を伸ばそうとしたが……。
「…良し! コツはリベリオンと同じだ!!!」
グレイスは操縦桿を握り、アクセルの一気に回し、機体を急激に上昇させて停止する。
「(この感覚は…、エアリア!!)」
一方のアンジュもスポーツのやり方に似てすぐに機体を立て直し、遥か上空で停止したのを確認した。
「な…何なの?この二人…」
サリアは初めてのはずの二人のシュミレーション結果に驚愕の意を隠せなかった。
そして訓練を終えてアルゼナルの浴室でレオンを除くアンジュ達は汗をシャワーで流していた。
「いやあー、大したもんだな。グレイスはともかく、皇女殿下は初めてのシュミレーターで漏らさないなんてなあ!なあ、ロザリー?」
「っ!い、いえ私の初めてはそのですね…」
ゾーラに言われたロザリーはそれに視線を逸らし目が泳ぐ。
「気に入ったみたいねあの子と彼が…」
隣でロザリーの代わりに返答するヒルダ。
「ああ、悪くない…」
そう笑みを浮かべるゾーラ。
「ねえねえ!サリア! アンジュとグレイスって何? 超面白いんだけど~♪」
ヴィヴィアンにそう質問され一番端側でシャワーを浴びているアンジュと今は勿論この場にはいないグレイスの評価に思う。
「…2人とも、凄いとしか言い様がないわね」
サリアはそっと、そう呟くのであった。
その後、グレイスはサリアに連れられて、寝泊りする部屋へと案内された。部屋に到着したグレイスはサリアから鍵を渡される。
「後、これで最低限必要な物資は揃う筈だから」
「あぁ、ありがとうございます」
サリアから最低限の金を渡されて、グレイスに言う。
「それと起床は明朝5時だから、寝坊しないようにね」
「分かりました」
そう言ってサリアはその場を去って行き、グレイスは鍵を使って開けて部屋に入る。
グレイスは部屋に入るとそこには殺風景な部屋があった。1つしかない窓を中心に棚とベッドとタンスが対になる様に並んでいた。グレイスはベッドに寝転がり、これからの事を考える。
「(あれから、全然ラルスと話していないなぁ……ラルスは何をしているんだろう?)」
数日後、格納庫でエマがジルにレオンとアンジュの適性審査の結果を見せる。
「例の新人達ですが基礎体力、反射神経、近接対応能力、更に戦術論のリタイヤ全てにおいて平均値を上回っております。特にグレイスはアンジュより遥かに上回っています。」
「優秀じゃないか♪」
「『ノーマの中』では、ですね」
エマの皮肉にジルは見て、エマは敬礼し別れた。
一方、ジルは再び移動し、格納庫に来ていた、そこにはリベリオンことラルスがあり、メイが点検を行っていた。
「メイ。フィオナが乗っていたパラメイル、リベリオンといったか。何かわかったか?」
「あ、司令。この機体、機動性や出力が本当に他のパラメイルとは比べ物にならない位高いよ……」
『当然です。私が補佐に付いていますから……それにグレイス様以外のライダーは許可なく乗せられません』
「それは分かっている。無断で凄いなぁ、ラルスは…コンピュータなんでしょ?この機体について、何か凄い事知っているの?」
『分かりません……このリベリオンを開発したマスターにご訪ねてください。』
「え〜!そんな〜!」
「パラメイルの操縦敵性…特筆すべきものがある…か。ならば…」
そう言うジルはアンジュから取った指輪を取り出して見て、そして彼女の目の前に一機のパラメイルが格納されていた。それは、所々錆付いており年季を思わせる機体でもあった。
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第五話:まつろわぬ魂・後編
アルゼナルの食堂、兵士の一時期な休息を取られる場。新人のココとミランダは今日の献立を貰っている。
「わぁー♪」
デザートのプリンを渡された事に喜ぶココ、それにミランダは呆れる。
「またとっとくの?たかがプリンでお子様だなあ~」
「もうお姉さんぶらないでよ。あ、グレイスさんにアンジュさんじゃないですか!」
するとココとミランダがある場所にアンジュとグレイスが居て。彼女は食べなれていない食事に喉が通らなかったが、グレイスは食事を食べて空腹を養い腹を満たしていた。
アンジュはグレイスが食べている食事に付いて語る。
「よく食べられますわよね…それ」
「まぁ、僕は今までこんなに美味しいのは初めてだから♪」
グレイスはそう言っていると。
「おや?これはこれは痛姫さま。あんなに何でも出来ちゃうお方が好き嫌い~?」
そこにヒルダとロザリー、そしてクリスの三人がやって来て。
グレイスの隣にロザリー、アンジュの隣にクリスが座って来て、その様子にグレイスはやや呆れかえる。
「しっかり食べないといざっていう時に戦えないよぉ?」
ロザリーがアンジュの食事を取って自分の皿に移し、からの皿をアンジュに渡す。
「…あなたもよく食べられますわね。それ」
っとロザリーの手が止まって、それにはクリスもアンジュの方を見て睨む。
「あらあら、イタ姫さまのお口には合いませんでしたかあ?」
ヒルダがアンジュの方を向いて言う。
「お高くとまってんじゃねえよ!」
ロザリーがアンジュの言葉にキレて、水をアンジュにぶっかけようとする。しかし彼女の反射神経がそれを避けられて、水にはかからなかった。
「テメェ!」
そしてアンジュの胸元を掴み、言いたい事を言おうとしたその時。
「まぁまぁ、二人とも」
グレイスはロザリーを宥めようとすると、
「辞めときな」
ヒルダが止め、アンジュの方を向く。
「痛姫さま…一つ忠告しておくわ。此処はもうあんたのいた世界じゃない、早く順応しないと…死ぬわよ」
ヒルダはアンジュにキツイ一言を言うが、それでもアンジュは完全に無視し席を離れた。グレイスはそれにため息を吐くと。
「あ、あの!よかったらコレどうぞ!」
離れていくアンジュに同じ新人の女の子が現れ、ココはアンジュにプリンをあげている。
「えっと……」
「あ、私はミランダ。んでこっちの子はココですよろしく!」
「あ、新人同士これからよろしくお願いします!」
緑髪の子ミランダ、藍色の髪の子ココが自己紹介する。
「僕はグレイス……訳あって、初の男のノーマだけど、二人ともよろしく」
「は、はい!」
「さっき、アンジュに何を渡したんだ?」
「私の大好物のプリンを是非アンジュ様には食べてもらいたくて!」
「…プリン?」
「この子、アンジュにベタ惚れのようでさ」
「ああ…そういうこと」
「(ココの精一杯の気持ちを今のアンジュは微塵も理解できないんだろうか?)……」
その後、グレイス達はアルゼナル優位つの市場"ジャスミン・モール"の品物を見て回っていた。
「へ~、色々あるんだなぁ……」
アンジュは紙とペンを購入したようだ。
「そういえばアンジュさんは外の世界ではどうやってお買物とかしてたんですか?」
ココがアンジュに質問をする。アンジュは懐かしむように答える。
「……望めば何だって手に入りました。
望んだ物が手に入る、望んだ自分がある。
かつての暴力や差別が無い。困った事は何一つ無くマナの光に満ちていました」
「本当にあったんだ、魔法の国!」
ココは外の世界の事で目を輝かせる。
「へぇ〜、マナの光って対象物をコピー出来るんだ…凄いなぁ」
「ありがとうございました。では、私はこれで・・・」
アンジュはココ達にお礼をすると行こうとした。すると、
「あ、あの。また、明日。アンジュ様。あと、プリン食べて下さいね」
ココがアンジュに挨拶をする。
「アンジュリーゼです」
アンジュはそう返事をすると去っていった。ココはうっとりしており、ミランダは呆れていた。
数時間後、アンジュは買ってきた紙とペンで嘆願書を出してくれるようにと頼み込んでいたが…結果は同じであった。
「まだ分かっていないの貴方は…」
流石のエマは呆れていた。
「いやはや困ったものですよ。そいつの頭の固さには」
ゾーラも呆れていた。
「教育がなってないぞゾーラ」
「それはどうも…だが、少年の方がしっかりとしてますがね~」
「では、皇女殿下をお借りします」
「キャ!?ちょ、ちょっと!?」
ゾーラは嫌がるアンジュを強引に何処かに連れて行った。
「はい…なんですって!?司令!」
「来たか!」
「「エマージェンシー!第一種攻勢警報発令!」」
エマにジルは冷静に警報を流すようオペレーターのパメラ、ヒカル、オリビエに言うように促した。
「リュガ、お前も早く準備しろ!」
「分かりました!」
ドックではメイの声が響く。それぞれのパラメイルが発着場に置かれていく。
「アンジュは後列1番左の機体。グレイスは後列1番右の機体に乗って」
メイがそれぞれの機体の場所を教える。グレイスは置かれていたリベリオンに乗り込む。
「久しぶり、ラルス♪」
『お久しぶりです。グレイス様』
「うん、初陣だからサポートお願い」
『分かりました、グレイス様』
『生娘共、初陣だ!といっても、1人は実質2度目だがな。お前達は最後列から援護。隊列を乱さずに落ち着いて状況に対処しろ。訓練通りにやれば死ぬ事はない』
『『イ、イエス、マム!』』
ゾーラの通信越しの指示にココとミランダが緊張気味に応える。
『全機、発進準備完了!進路クリア、発進どうぞ!』
「ゾーラ隊、出撃!」
ゾーラの機体が発進し、大空へと飛び立っていく、彼女に続くように他の機体もどんどん発進してゆく。そしてココ達が出撃したのを確認しグレイスも出撃した。
『リベリオン…出る!!』
『モノホンのパラメイルはどうだ?振り落とされるんじゃないよ!』
「「は、はい!」」
ゾーラが新兵達に檄を飛ばす。しばらく飛行していると、
『シンギュラーまで距離1万』
オペレーターから通信が入る。戦闘区域が近くまできている様だ。
「よし、各機フォーメーションを組め!」
『イエス!マム!!』
ゾーラの指示と共にパラメイルが隊列を組む。
『位置につきなさい。アンジュ、グレイス』
「イエス!マム!」
グレイスは隊列の後方につく。だが次の瞬間、異変が起きる。
『アンジュ機、離脱!』
アンジュが隊列を離れて、離脱を始めた。外に出ていることに気付いたアンジュが逃亡を図ったのである
「…え!?」
「チッ!」
グレイスはアンジュの行動に思わず唖然し、サリアは舌打ちをして後追いかける。
それにグレイスもすぐさま追いかける。
「アンジュ戻って!もうすぐ戦闘区域なのよ!?」
「私の名前はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです。私は私のいるべき世界、ミスルギ皇国へと帰るのです!」
「えぇ!? アンジュさんまだ分かってないの!?」
グレイスはアンジュのとんでもない行動に驚く。
「持場に早く戻りなさい!でないと貴方を命令違反により今此処で処罰するわよ!」
サリアは銃を取り出し、アンジュを脅しにかけたその時。
「アンジュリーゼ様! 私も、私もミスルギ皇国へと連れて行って下さい!」
なんとココがアンジュに近寄り、自分も連れて行ってほしいと頼みに来たのだ。
「え!?な!何を言ってるの!? ココ!?」
「私も魔法の国に!」
「ちょっとココちゃん!何を言ってっ!?」
『上空から膨大な熱量を感知!』
ラルスの報告で上を見ると何か光るものが見えて、グレイスはすぐさまココに近寄り、ココをグレイスの機体に乗せ、その場から離れる。
「グレイスさん?!」
その直後、レーザーの様な物がココのパラメイルを破壊し水柱が上がる。グレイスは上空を見ると空間から歪みが発生してそこからドラゴンの群れが出現して来た。
『ドラゴンコンタクト!』
「……あれがドラゴン」
「…な、なんなの?…これ…」
グレイスはドラゴンの出現に目を開きながら見ていて。
アンジュも酷く混乱していたが、ドラゴンは雄たけびを上げて睨んでいた。
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第六話:覚醒の兆し・前編
ココを救出して、それを落とそうとしたドラゴンの群を見るグレイス。
『敵確認を確認!スクーナー級が20匹、ガレオン級が2匹!!』
「ガレオン級が2匹!?」
「聞いてないよ…!」
オペレーターが索敵したドラゴンの数と大型ドラゴン2匹に驚くロザリーと困惑するクリス。
「1匹でも厄介なのに、ガレオン級が2匹もくるものか…」
そうヒルダは呟きながらドラゴンを睨む。
『総員聞け!新兵教育は中止だ!。まずはカトンボを殲滅し、退路を確保する!全機、駆逐形態!陣形空間方陣!』
「「「イェス!マム!」」」
パラメイルの基本形態であるフライトモードから人型のデストロイヤーモードへと変形し応戦を開始する。
「ゾーラ隊長、命令違反の処分は?」
『後にしろ』
「…イェス、マム」
ゾーラに後回しにしろと命令されたサリアは銃を仕舞い、部隊へと合流する。
グレイスはゾーラに通信を入れ、命令を聞く。
「隊長!僕達はどうするのですか?」
『何とかして生き残りな!! ドラゴンはアタシ達が引きつける!!!』
「了解」
ゾーラにそう言われて承知するグレイス、グレイスはすぐさまアンジュ達に通信を入れる。
「アンジュさん!ミランダちゃん! 奴らから逃げるぞ!」
「は!はい!!」
「いやです!! 私はミスルギ皇国に帰ります!!」
アンジュは今だに自分の国に帰ろうと言い張る。
「正気ですか!?パラメイルは出撃1回分の燃料しかない! それに皇国が何処にあるのかも分からないんです!そんな身勝手な行動で仲間が死ぬ所だったんですよ!!」
「構いません! 行けるところまで行って…あそこに戻らずに済むのであれば!」
流石のグレイスもアンジュのワガママに怒鳴る、しかしそれでもアンジュはまだ懲りてはいない。
っとそこに小型のドラゴン一匹がアンジュに狙いを定めて襲って来た。
「ひぃっ!! い!いやああああああああああああ!!!」
恐怖に踊らされたか混乱してその場から離れて行く。無茶苦茶な軌道だったがそれでもドラゴンからは逃げて行った。
「おいおい…」
『ガレオン級一体! グレイス機に迫っています!!』
「!!?」
グレイスはすぐさま後ろを見ると、雄叫びをあげながらガレオン級が迫って来た。
すぐさまグレイスは回避行動を取り、ドラゴンの腹をすれすれで避ける。しかし今のグレイスはココを乗せている為激しい戦闘は無理である。
「仕方ない!……ラルス!安全機能をもう一つ起動させて!」
『了解!』
するとココの後部座席の後ろから、安全機能の差込口が現れる。ココは腰部に付けられているリードを差し込む。
「しっかり掴まってて!」
「はい!」
ココはグレイスにしっかりと掴まる。グレイスがリベリオンを飛翔形態から駆逐形態へと変形させ、パドルデーゲンを展開し、パルスガンを構える。
「ミランダちゃん!来い!」
グレイスはすぐさまミランダを呼び、横に並んだ所でグレイスはココをミランダに渡す。
「グレイスさん…何を?」
「僕と一緒にドラゴンを倒す!後ろにココがいるから離れないように!」
「は、はい!」
ミランダを強引に言い聞かせ、アサルトライフルとパルスガンを構え、向かってくるガレオン級目掛けて撃つ。
一方、別のガレオン級を相手にしていた中隊は連携して攻撃し、ガレオン級の結界を破壊していた。
その中でサリアがグレイス達の方を向くと、グレイスとミランダのパラメイル2機がガレオン級と戦っている様子に驚く。リベリオンが高速でガレオン級の腹をパドルデーゲンで切り裂いたり、パルスガンで応戦する。
「スッゲェ〜〜!!」
「は、速い!?」
それにはヴィヴィアンも驚き振り向く。しかもグレイスはキレのある動きでガレオン級の光線を紙一重でかわしていき、パルスガンのホーミングレーザーでガレオン級の結界を破壊していた。
するとガレオン級がミランダに突進して噛みつこうとした直後、リベリオンが立ち塞がり、掌部が緑へと発光する。
「フンッ!!」
グレイスは渾身を込めて、掌部を前に出し、ドラゴンの突進を受け止めた。
《!!?》
さすがのドラゴンも突進があっさりと受け止められた事に驚いた直後、リベリオンの拳が直撃し、ドラゴンの顔面から血や牙が抜け飛ぶ。ドラゴンは咆哮を上げ、最後の足掻きを出そうと、噛み付こうとしたが、リベリオンがあっさりと回避し、ドラゴンの首を掴かみ、そのままパドルデーゲンに追加装備されていた『凍結バレット』を装填させてガレオン級に向かって一気にフルスロットルで向かって行き、ガレオン級の心臓に向かって行き、凍結バレットを撃ちこむ。撃ちこまれたガレオン級の身体から氷の結晶が出現し、そのまま海に落ちて行き、海面から水柱が上がって一気に氷の固りへとなる。その様子に、サリア達は言葉も返すどころか、驚いていた。
「ウソ!?…ドラゴンを一撃で!?……」
「スゲェ!!」
ガレオン級を倒したグレイスは荒い息を吐きながら、倒したガレオン級を見続けていた。
そしてそこにミランダのパラメイルがやって来る。
「グレイスさん!!大丈夫ですか!?」
「大丈夫…ちょっと本気出しただけだから……」
一方、ゾーラは小型のドラゴンの群を片付けて、最後に残ったガレオン級ドラゴンを仕留めに入る。
「後はお前だけだよデカブツ、コイツでトドメだ!」
最後のガレオン級ドラゴン一体となった所でゾーラは油断していた。
「いやああああー!」
「んなっ!?…」
錯乱したアンジュがゾーラの機体に取り憑き身動きを封じてしまってたのだ。
「アンジュ何をやってるのよ!?」
「何しやがる!?アンジュ離れろ!」
この隙にガレオン級ドラゴンは翼でゾーラとアンジュを両方を叩き落す。
叩き落された二機は今にも地上に墜落しそうになった。
「ゾーラァァァァァァッ!!」
ヒルダが悲痛な叫びをあげる。ガレオン級ドラゴンの翼に隊長さん達の機体が叩き付けられ今にも地上に墜落しそうになったその時、リベリオンが高速で墜落しそうになったゾーラとアンジュの機体を掴み防ぎ、スラスターウィングの推進力の出力を上げる。
「グググ!!重い!!」
2機を抱えている為、リベリオンの両腕の関節部が火花が出始める。
『アラート!!機体重量及び、スラスターウィングの推進剤がEmpty(空欠)まで急激に消耗しております!』
「それでも!!」
何とか振り絞ろうとしたが、とうとうリベリオンの腕が粉々になり、リベリオンの推進剤も底を尽きかけ、墜ちていく直後、サリアのアーキバスやヒルダ、ヴィヴィアンがグレイス達を支える。結局もう一匹のガレオン級ドラゴンはいなくなっている
『…残念だけど逃げられてしまったわ。追跡は無理ね。隊長とアンジュの機体も大破してるし、ひとまずアルゼナルへ帰投するわよ』
サリアが命令し、基地へと帰還する。
アルゼナルに戻って来て、医務室では傷だらけのアンジュが寝ていて、グレイスは安定薬を飲み。興奮状態を抑える。
「アンジュさん…」
椅子にグレイスはやや辛そうな目線でアンジュを見る。
ゾーラは全身、包帯だらけで口には酸素マスクが付けられていた。アンジュも包帯だらけだったが、ゾーラに比べれば怪我はそれほど酷くはなかった。只、逃げられない様に手足に拘束具が付けられていた。ジルはアンジュに近づくと既に目覚めていた彼女に冷淡に告げる。
「パラメイル3機大破。メイルライダー1名、意識不明の重傷。ドラゴンも撃ち漏らした。これがお前の敵前逃亡がもたらした戦果だ、アンジュ」
その様子をグレイスは黙って見ており、彼女の手にも包帯が巻かれていた。
「何とか言えよ、おい!」
「手を出すなよ、これでも負傷者には違いないんだからさ」
激昂するロザリーをマギーが窘める。
「私はミスルギ皇国へ帰ろうとしただけです。何も悪い事はしてません」
この言葉にロザリーはますます憤慨する。
「何言ってやがる!お前のせいでお姉様がこんな事になったんだぞ!!」
「この人でなし!お姉様を、私達の隊長を返して!!」
クリスも目に涙を溜めながら叫ぶ。
「人でなし?……ノーマは、人間ではありません」
アンジュの暴言に周囲は絶句し、グレイスも目を細める。
「このっ!!」
激怒したヒルダがアンジュに踵落としをお見舞いしようとした。
「なっ!?」
しかし、その足がアンジュに届く事はなかった。グレイスが腕でヒルダの足を受け止めていたからである。これにはジル以外の全員が驚く。
「なんのつもりだ、てめぇ…」
「アンジュさんに怒りを覚えるのは分かるよ。でも、アンジュさんの怪我も決して軽いわけじゃないんだよ。傷に障る様な事はしないでくれるかな……」
「この期に及んで、まだコイツの肩を持つ気かよ!」
「……殺られたいのか?」
グレイスの眼差しが殺意に満ちた目になり、異様なオーラを漂わせ、ヒルダに威圧する。
「…チッ!」
グレイスの迫力に気圧されて、ヒルダは足を引っ込める。そしてグレイスはアンジュの方に向く。
―――パシンッ!!
グレイスはアンジュの頬を叩いたのだ。
「……まだ解らないんですか?あなたの身勝手な理由で、ココちゃん、ミランダちゃんは死ぬところだったんですよ。ゾーラ隊長だって、目を覚まさない状態です。それなのに、あなたはまだ否定するというのですか…」
「私は、ただ……皇国に帰りたいだけです…」
「身勝手過ぎる…!!」
「落ち着け馬鹿者、その怒りはドラゴンにぶつけておけ」
「…了解」
「サリア、ゾーラが動けない以上、お前が隊長だ。ヒルダは副長だ。いいな?」
「「はい!」」
「撃ち漏らしたドラゴンが発見され次第、行動に移れ」
「イェス、マム!」
皆が部屋を出ていくが。
「グレイス、お前は残れ大事な話がある。」
ジルに呼び止められ、グレイスは医務室に残る。
話の内容はアンジュさんの故郷であるミスルギ皇国が滅んだと言う話であった。宮廷クーデターによる皇室への信頼失墜、暴露した皇太子のジュリオだって人望があるとは思えない。結果的に、ジュリオは権力が欲しいがあまりその結果、ミスルギ皇国は破滅した。
それ以上にショックを受けていたのはアンジュだ。
「そんな・・・私の国が無くなるなんて。・・・お母様は?お父様は?お兄様は?シルヴィアは?」
「……お前たちに見せいたものがある」
雨が降っており、其処には傘をしたジャスミンとゴーグルをつけている犬である『バルカン』と一緒にいた。
ジルに案内されると其処には墓が並んでいたのだった。
「まさか、この墓は…」
「ドラゴンと戦い散っていたノーマたちだよ」
予想はしていたが、やはり戦いで亡くなった者たちの墓か…。
「墓石の掃除さね。何もしないと墓石も汚れてしまうからね。月に1度はこうして掃除しているのさ。パラメイルがノーマの棺桶なら、この墓地は死んだノーマ達の家だからね。ところで墓石に刻まれた名前を見たかい?いい名前だろ。アルゼナルの子達はね、死んだ時に初めて親がくれた本当の名前を取り戻せるのさ」
「本当の……名前…」
「そう言えば、あんた…ゾーラと新兵二人を助けたって?…ありがとうよ、おかげで墓石が増えずに済んだよ」
「いえ、僕は全力を尽くしたので…それに仲間が消えちゃったら…生きていけないですから」
「ほんの少しマナが使えないだけではないですか!それだけでこんな地獄に!」
「お前達の作ったルールで此処にいる…」
その言葉を聞いて、アンジュはミスルギ皇国で自分が行ったことを思い出す。
人類の進化の果てに手にしたマナの光それを否定するノーマは本能のままに生きる。
反社会的な化物・・今すぐにでも世界から隔離しなけれなりません。
「わ、私は決してノーマなどでは…」
「ノーマではない、と?なら、お前はなんだ!?皇女でもなく、マナも無い。義務も果たさず敵前逃亡、仲間を危険に晒し、挙句にそれを他の仲間に尻拭いさせたお前は一体、なんなんだ!!」
ジルはアンジュの胸倉を掴み上げ、吠える。しかし、アンジュには最早言い返す気力も残ってはいなかった。ただ、ただ、悲しみに暮れるだけだった。と、向こうから誰かがやってくる。
「司令、取り逃したドラゴンが発見されたとの報告が来ました」
果たしてそれは、サリアだった。どうやらドラゴンが見つかった様である。
「そうか。アンジュ、グレイス、出撃だ。行けるな?」
「イエス、マム!」
グレイスは応えたがアンジュは俯いたままだった。
「アンジュ、いつまで呆けているつもりだ。この世界は不平等で理不尽だ。だから殺すか死ぬか、この2つしかない。死んでいった仲間達の分もドラゴンを殺せ!それが出来ないというなら死ね!!」
「なら、殺してください。こんなの辛過ぎ「ダメですよ」…え?」
アンジュの言葉が途中で遮られる。声の主はグレイスだった。グレイスはアンジュの肩を掴むと自分の方に顔を向けさせる。
それは言っちゃダメですよ。確かにこの世界は僕達ノーマにとっては地獄です。でも生きるのを諦めちゃダメ。この墓で眠っている子達だって、本当はもっとずっと生きていたかった筈…。だからアンジュさんは生きなきゃダメです。この子達の為にも…。」
グレイスは再びアンジュに諭すように言う。
「そうだ。それでも死にたいというなら戦って死ね。それがお前の義務だ。お前には自殺する事さえも許されないんだ」
ジルもグレイスに付随する様に言う。
「あの、司令。グレイスはともかく、アンジュのパラメイルはありませんがどうするのですか?」
サリアがそう訊ねるとジルは不敵な笑みを浮かべる。
「あるだろう。あの機体が、さ」
それを聞いたジャスミンも笑みを浮かべるがサリアは驚く。
「まさか、あれをアンジュに!?」
「そうだ、行くぞアンジュ。グレイスもついて来い」
そう言うとジルはグレイス達をある場所へと連れて行った。そこはパラメイルの格納庫だった。そして、そこには布で覆い被された1機のパラメイルがあった。
「メイ、起動させる事は可能か?」
「もちろん!20分もあれば余裕だよ」
メイはそう言うと機体の方へ向かって行った。やがて機体がライトアップされる。
「!?…これって!?」
機体を見たグレイスは目を見開く。
「驚いただろう?お前のリベリオンにそっくりだからな。かなり旧式の機体でな。エンジンが古い上に操作や制御がかなり難しいと来た。だが、今のアンジュにはおあつらえ向きの機体だろう。名は“ヴィルキス”。アンジュ、これに乗って戦うんだ」
ジルはアンジュに告げると彼女はふらふらとした足取りでヴィルキスの元へ向かう。
「これで死ねるのですね。この地獄から解放されるのですね・・・」
うわ言の様に呟くアンジュをグレイスは心配そうに見ていた。と、
「ジル、どうして?この機体は・・・」
声がした方を向くとサリアがジルに問い詰めていた。
「司令官の命令に従えないのなら処分を受けてもらうまでだ。アンジュ達、新兵みたいになりたいか?」
「そ、それは・・・」
「さあ、出撃だ。隊長としての初陣、期待しているぞ。死ぬなよ、サリア」
「イエス、マム・・・」
ジルはサリアに諭すように言うと去っていった。サリアは従ったものの、どこか不満そうだ。
出撃時間になり、ゾーラ隊からサリア隊と名称を変えた第1中隊が出撃する。ちなみに今回はココとミランダは謹慎の為、8人で出撃となる。
「サリア隊、発進します!!」
サリアのアーキバスが発進したのを皮切りに第一中隊の機体が次々と発進していく。グレイスのリベリオンは両腕がかなりの劣化状態だった上前回の戦闘で大破していた為、パドルデーゲンとケンプファーを装備することは出来なかったが、パラメイルのスペアパーツを取り付け、パドルデーゲンの代わりに圧縮ガスで重金属リベット弾を連射出来る短機関銃。通称『リベットガン』と前腕部のシミター・ブレードが装備されていた。
「サリア隊、発進します!!」
サリアのアーキバスが発進したのを皮切りに第一中隊の機体が次々と発進していく。
「サリア隊、グレイス機、行きます!!」
グレイスも『リベリオン リペア』を発進させる。そして最後にアンジュが乗ったヴィルキスが発進するのだった。
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第七話:覚醒の兆し・後編
アルゼナルを飛び立った第一中隊はガレオン級が潜むポイントを目指していた。その中にアンジュがいる事にロザリーとクリスは不満を漏らしていた。
「あいつも一緒なのかよ。お姉様をあんな目に遭わせた奴と出撃だなんて…」
「死ね、くたばれ、地獄に落ちろ…」
「落ち着けよお前等。死ぬつもりらしいよ、アイツ」
ヒルダの言葉を聞いた2人は目を丸くする。
「見届けてやろうじゃないか、痛姫様の最期ってやつをさ」
ヒルダは面白そうに笑みを浮かべる。それでもアンジュは上の空のままだった。
一方、ヴィルキスを見たヴィヴィアンは興奮していた。
「ねえ、ねえ、サリア。アンジュの機体、ちょーかっこいいよ!」
「静かにして。もうすぐ戦闘区域よ」
サリアはヴィヴィアンを窘める。グレイスは修復されたリベリオンと言うより、ラルスに話しかける。
「代わりの腕はどう?」
『大丈夫です。全く通常のパーツと変わりませんが、武装換装により、射撃制度が減少致しました。』
「別に良いよ、使える武器があるなら今のうちに使っておかないと♪」
「敵影確認、来るわよ!」
サリアの言葉と同時にガレオン級が海の中から現れた。ガレオン級は胴体が少し凍り付いていたが致命傷には至っておらず、それどころか前よりも凶暴さが増していた。
「で、どうすんのさ、隊長?」
「奴は瀕死よ。このまま一気にトドメを刺すわ。全機、駆逐形態!凍結バレットを装填!」
『イエス!マム!!』
第一中隊の面々は機体をアサルトモードに変形させる。それと同時に凍結バレットも装填する。
「陣形、密集突撃!攻撃開始!!」
サリアの指示と同時に第1中隊はガレオン級にトドメを刺そうとした。その時である。
「グガアアアアァァァァ!!」
ガレオン級の咆哮と共に魔法陣が展開される。すると海の上にも魔法陣が現れて、海の中から次々と光弾が出てきた。グレイスも新武装であるリベットガンで光弾目掛けて撃つ。圧縮ガスによって重金属製のリベットが乱射され、光弾が弾ける。しかし圧縮ガスの為、残量ガス制限が限られていた。ガスが切れると、次のガスタンクとマガジンを装填している時、上空の光弾に気付く。
「隊長!上!!」
「え、上って・・・」
上を見てみるとそこには先程の様な魔法陣が展開され、同じ様に光弾が今度は雨あられの様に降り注いだ。さらに海中から待機していたのか、光弾が出てくる。
(そんな!?下からだけじゃなくて、上からも来るなんて!しかも待機状態で!?)
二重に仕掛けられた罠に他の機体は次々と被弾し、撤退を余儀なくされる。
「こんな攻撃してくるなんて…過去のデータには無い…!」
予測外のドラゴンの攻撃にサリアは混乱していた。
「どうするの!サリアちゃん! このままじゃ危険よ!」
「ど、どうするって…どうすれば」
「サリアちゃん!あなたが隊長なのよ!しっかり!」
必死に指示を仰ごうとするエルシャだが、混乱しているサリアは中々上手く指示を与える事が出来ない。
ドラゴンが迫ってきている。
「か!回避!!」
だが、サリアは遅れておりドラゴンが迫って捕まってしまう。
「「サリア!!(ちゃん)」」
「くっ!」
サリアはコクピットを開けてマシンガンで撃つも、効果全くなく、ガレオン級がサリアを喰おうとして。それにサリアは絶体絶命状態であった。っとそこにリベット弾がガレオン級に直撃して。それにサリアは飛んできた方を見ると、グレイスのリベリオンがまっすぐガレオン級に向かって来た。
「これなら!!」
リベットガンの銃下部に装備されている高速振動短剣。通称『バイブレーションブレイド』が展開され、ドラゴンの強靭な鱗めがけて刺そうとしたが、ドラゴンの尻尾がリベリオンに目掛けて振り下ろされた。
「グアッ!!」
振り落とされたリベリオンが体制を立て直そうとした瞬間、ドラゴンの尻尾がリベリオンに巻き付く。
やがてエルシャの機体も被弾し、ダメージを受ける。
「きゃあ!サリアちゃん、次はどうするの!?危険よ、このままじゃ」
エルシャはサリアに指示を仰ぐが、
「そ、そんな事言われても、一体どうしたらいいの?ゾーラ隊長…」
サリアがゾーラの判断ならどうすれば良いか考えていると。
機がこっちに近づいてくる。
「ちゃんと死ななきゃ…」
ドラゴンの狙いは近づいてくるアンジュに変わり、攻撃を仕掛けようとする。
「あいつ、本気で死ぬ気…?」
ヒルダだけではなく他の皆にはそのような行動を取っているようにしか見えなかった。
だが、ドラゴンの強烈な尾に弾かれたが、アンジュは体勢を立て直す。
「いけない…もう一度ちゃんと…これで、さよならできる…」
死ぬ覚悟ができていないのか単に怖いのか回避行動を取っている。
「まずい!!頼む!…リベリオン!皆を助けたいんだ!」
『アラート!覚醒プログラム率が15%まで上昇。"アドバンスド・フォルム"へ移行します。』
「何を言っているんだ、ラルス!?…こんな時に!」
っと叫ぶグレイスの叫びに、リベリオンの装甲とスラスターウィングが変形していくと同時に、髪の色が徐々に変色していく。
死の恐怖に体が震えるアンジュは自分を守ってくれた母ソフィア・斑鳩・ミスルギを思い出す。
『生きるのです、アンジュリーゼ。どんな困難が待っていようとも…』
母の最期の言葉を思い出し、形見の指輪を見る。ドラゴンは痺れを切らしアンジュを食いにかかろうとする。
「い!いやあああああああああああああああああああっ!!!!」
アンジュの悲鳴に応えたのか、ヴィルキスが白銀の輝きを放つ。ドラゴンも突然の輝きに目が眩んだ隙にサリアの機体を離してしまう。
そして同時に二人の機体は変化を現していく。リベリオンの装甲の形状が変形していく。分厚い装甲に複数のバーニア、スラスターウィングが前進翼へ、そして頭部のバイザーが割れ、後部へとスライドされた。そしてグレイスの髪がアンジュの様に美しい黄金の髪へと変色、長髪へとなる。一方アンジュの方では、ヴィルキスを覆っていた錆や汚れは剥がれる様に落ちて四散していく。そして、アンジュがヴィルキスをアサルトモードにすると、白と青のボディと間接部が金色でコーティングされ、頭部に天使のオブジェが銀色に輝くヴィルキスの真の姿があった。
「"アドバンスド・フォルム"?」
すると、ガレオン級が再びヴィルキスとリベリオンに襲い掛かる。グレイスは直ぐに操縦桿を握り、リベリオンを動かし、リベットガンを乱射する。するとモニター画面からドラゴンに向けて複数のターゲットサイトが表示され、ドラゴンの各部位をマルチロックオンする。グレイスがトリガーを引くと、リベリオンの側頭部が展開され、六連小型ミサイルが発射される。ミサイルにもバーニアが装備されており、ドラゴンの光弾を回避しつつ、各部位に炸裂する。ドラゴンは悲鳴を上げると、ヴィルキスの方へ突進して行く。
「死にたくない…死にたくない!!」
アンジュは叫ぶと突進してくるドラゴンに向かってアサルトライフルを撃つ。ある程度ダメージを与えるとアンジュはヴィルキスをフライトモードに戻し、距離をとる。その機動性は先程とは打って変わって大きく向上していた。ドラゴンは今度は光弾を放つ。アンジュとグレイスはそれを回避とアサルトモードに変形して、ヴィルキスの専用武装である剣、ラツィーエルを使って打ち消していく。そしてガレオン級に近づくと、
「お前が!!……お前が死ねえええぇぇぇ!!!」
叫びと共にアンジュはラツィーエルをガレオン級の頭部へ深く突き刺す。素早く手放し、離れるとヴィルキスを追尾していた光弾がガレオン級の胴体に直撃する。それに見計らってアンジュは凍結バレットをガレオン級に撃ち込み、同時に頭部に刺さったままのラツィーエルを回収する。ガレオン級は断末魔の悲鳴を上げ、海へ墜落するとたちまち氷原へと変わるのだった。ドラゴンを撃破すると、リベリオンとグレイスが元の形状と髪型へと戻っていく。
そしてリベリオンとヴィルキスは空中に停止し、アンジュは息を整えながらも涙をためながら今の自分を否定しようとしていた。
「こんなの…私じゃない…殺しても生きたいなんて…」
そしてアンジュは泣き始めて、グレイスはそんなアンジュを見つめながら黙って見続けていた。
アルゼナルの司令室でジルはアンジュとヴィルキスの覚醒を見てフッと笑っていた。
夕暮れ時、戦闘を終えたアンジュは墓地にいた。彼女の顔は決意に満ちていた。
「さようなら、お父様、お母様、お兄様、シルヴィア、モモカ……。(私には何もない、何もいらない。私は生きていく、この地獄ともいえる場所で。ドラゴンを駆逐して。私は生きる。殺して、生きる……。)」
アンジュはそう言うと持っていたナイフを使い、自分の髪をバッサリと切り落とす。背中まであったアンジュの髪は肩の上ぐらいまで短いショートカットになった。アンジュはその場を去ろうすると、そこにグレイスがやって来て、アンジュはグレイスの通りすり過ぎた後に止まり言う。
「私は生きる。この残酷な世界で…生き続ける、例え孤独の日々でも…」
そう言い残し、アンジュは去って行って。グレイスはアンジュの方を向いて、彼女の後ろ姿を見続けていった。
「アンジュさん…」
見続けたグレイスは夕日を見て、自分の拳を見る。
「(アドバンスド・フォルム……そして僕の髪が金髪に……どうなるんだろう?)」
様子を空から見下ろす2人の男性の姿があった。一人はでありもう一人の男性の方は金色の長髪に背広を着た紳士的な印象の青年であった。
「ようやく、覚醒プログラム率が15%へと覚醒したか…どうするのです?父上……」
コードネーム"HLS-0248"が青年に問う。
「慌てなくても良い♪……彼はまだ気付いていない、本来有るべきの記憶と宿命は私が管理している」
「しかし、万が一…ラルスが"あれ"を起動したら!?」
「……その時は、始末するまでだ」
コードネーム"HLS-0248"が激昂して警告するも青年は余裕の態度を崩さない。
「それに、彼は私が造った『真神類』の一体でもある……覚醒プログラムが100%まで経とうが、あの機体には、制御システムが組み込まれているから……君の"弟"は抗う事はできない♪それに三人の"弟妹"が次の段階まで進んでいる……君達に忠誠を誓う彼等が出来上がったと…Dr.ディメントが報告してきた」
「彼等…とすると、俺に従う騎士の事か?」
金髪の青年はコードネーム"HLS-0248"に笑みを浮かばせる。
「有り難き幸せ、父上……父上の為に、新たな計画と奴等の進行を阻止してみせます!」
「期待しておるよ…我が子よ♪」
「"グロリアス エンブリヲ"(エンブリヲ様に、栄光を…)…」
コードネーム"HLS-0248"がエンブリヲと言う青年にそう言うとそのまま消えていった。後に残ったエンブリヲは再びアルゼナルを見る。
「やれやれ……あのまま進行すれば、素晴らしい再会になる。調律者である私と……"降臨の子"である"グレイス"……良い親子対決になろう♪」
エンブリヲは静かに微笑むとその場から消えるのだった。
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第八話:孤高の反逆者・前編
「3度の出撃でこれほどの撃墜数とは。上々だな」
夜更けのアルゼナル。ジルの私室にジル、サリア、メイ、マギー、ジャスミン、バルカンの5人と1匹が集まっていた。第一中隊の戦闘報告書を読んだジルは御機嫌だった。
「今まで誰も動かせなかった機体をこうも簡単に動かしてしまうとはね」
「たぶん、ヴィルキスがアンジュを認めたんだと思う」
「じゃあ、あの子が…」
「フッ、なら始めるとしようか。【リベルタス】を」
リベルタス。自由の名が付くそれはジル達、一部のノーマ達しか知らない世界と社会に対する反攻作戦だ。ヴィルキスはその作戦の要となる。殆どの者が頷く中、サリアは若干不満そうだ。
「不満か、サリア?」
「……すぐに死ぬわ、アンジュ。グレイスも命令は聞くけど時折、無茶な行動に出る事があるし」
「仲間を危険に晒した者と救った者。中々、面白い組み合わせよね」
マギーの言葉にサリアは今日の戦闘を思い出す。
ドラゴン迎撃に出た第一中隊はガレオン級4体の出現と無数のスクーナー級と戦っていた。
アンジュはヴィルキスを操り、次々とスクーナー級を落としていくが、彼女に恨みを持つロザリー、クリスの砲撃が何度か当たりそうになる。アンジュはそれを見事に回避するのだった。
一方、グレイスの方は2匹のスクーナー級に追いかけられていた。一見すれば、窮地に陥っている様に見えるがそうではなかった。目的のポイントに近づくと、
「ココちゃん、ミランダちゃん、今だよ!」
『『はいっ!!』』
2人に通信を入れたグレイスはリベリオンのスピードを上げて、スクーナー級を振り切る。スクーナー級は追いかけようとするが突然、ココとミランダが乗る2機のグレイブがアサルトライフルを構えて、立ちはだかった。と、同時にライフルを発砲。スクーナー級を撃ち落すのだった。
「良し!ココちゃんもミランダちゃんも腕が上がった♪」
「うん、グレイスさん。私、出来たよ!」
「グレイス、ナイスパス!」
3人はそれぞれ健闘を讃えるのだった。グレイスはこうして2人にパラメイルの操縦法やドラゴンの撃墜をサポートしている。2人を強くする為でもあるが、隊長になったばかりのサリアの負担を少しでも減らそうという思いもある。
勿論、自分がドラゴンを狩るのも忘れない。グレイスは前線に戻ると、スクーナー級を次々と撃ち落していく。すると、爆発音がしたほうを向くとヒルダがガレオン級の1匹に攻撃を加えていた。そして、トドメを刺そうと凍結バレットを装填した、その時だった。
「うわああぁぁ!!」
アンジュのヴィルキスがヒルダの機体を突き飛ばすと凍結バレットを素早く装填。ガレオン級に撃ち込むのだった。ガレオン級は海に墜落し、氷原へと変わるのだった。
「はあ、はあ、はあ・・・」
アンジュは息を切らしながらソレを見届けるのだった。グレイスは呆れつつ、残った最後のガレオン級の方へと向かう。攻撃をかわしつつ、凍結バレットを装填するとガレオン級に撃ち込み、これを倒すのだった。
「…私ならもっと上手くやれる。ヴィルキスを使いこなす事ができる。なのにどうして?」
「適材適所、だ。アンジュにはヴィルキスを動かす役割がある様にサリア、お前にはお前の役割がある。そういう事だ」
訴えるサリアをジルが宥める。
「でも、もしヴィルキスに何かあったりしたら!」
「その時はメイが直す。命に代えてでも。それが姉さんから受け継いだ私達、“一族”の使命だから!!」
メイが誇り高く答える。これには、サリアも何も言えなくなってしまった。
「お前にもリベルタスでは頑張ってもらう。だから、その時が来るまで力を身に付けておけ。いいな?」
「は、はい…」
「いい子だ。さあ、これから忙しくなるぞ。くれぐれもエマ監察官には悟られない様にな」
それからサリア、メイ、マギーの3人は廊下を確認する様にして部屋から出て行った。後に残ったのはジル、ジャスミン、バルカンだけだった。
「良い子だ…か、狡い女だね?あんたは…」
「利用するものはなんだって利用するさ、感情だろうが命だろうが…地獄には、とっくに落ちている」
吸っている煙草を義手で握りつぶすジル。それにジャスミンは「やれやれ」と言い残しながら去って行った。
そして翌日後、昨日と今日の出撃を合わせた日のドラゴン討伐、弾薬、燃料消費、装甲修理など計算し、給与カウンターから報酬金を受け取っていた。
「撃破数スクーナー級3、ガレオン級へのアンカー撃ち込み。弾薬消費、燃料消費、装甲消費等を差し引きして今週分18万キャッシュ」
「チッ!これっぽっちか」
18万と言う少ない報酬金を受け取るロザリーは舌打ちをする。
「まだ良い方だよ。私なんて一桁だから…」
クリスはロザリーより低い報酬で彼女を励まそうとする。
「ヒルダは?」
ロザリーの問いに、ヒルダは分厚い札束を見て二人は感動している。
その間にアンジュが報酬金を受け取っていた。
「今週分550万キャッシュ」
とロザリーとクリスはそれに目を光らせ、ヴィヴィアンとエルシャはアンジュの活躍に褒めていた。
「アンジュやるー!」
「大活躍だったものね!」
しかし彼女は預金をしてその場を去って行く、次にグレイスが受け取る。
「今週分620万キャッシュ」
アンジュよりは多いものの、それでも他の者達よりも大分稼いでいた。
「ちっ、アイツもか…」
それを見たヒルダは忌々しそうに舌打ちをする。
「おお~!グレイスもやるじゃん!」
「流石ね、グレイス君」
「凄い凄い!」
「今までそんな大金初めてです!」
「そう?……(何でガレオン級やブリッグ級が一気に僕の方に……)」
グレイスは必要な分だけを受け取って、残りは預金したのだった。その様子をヒルダ達は苦虫を噛み潰す様な表情で見ていた。
そして更衣室にアンジュは自分のロッカーを開けると、中が落書きされており制服がボロボロとなっていた。
「どしたの~? ん?わお!」
「まあ!」
「また、貴方達ね」
「さぁ~ねぇ~」
サリアが注意するのだが、ロザリーはしらを切っていた。しかしアンジュはボロボロになった制服を身に纏い、ロザリーを睨む。瞬時に近づきナイフを抜き、空を切る。ナイフを納めると同時に、ロザリーのライダー服が切れ、胸が見てしまう。
「ひゃああああああああああ!?」
「うざっ」
そう言い残し、更衣室を出る。
「ん?うぇっ!!??」
っと丁度そこにグレイスと鉢合わせとなり。グレイスはアンジュの制服に真っ赤となって手で目を隠し、見ないようにする。それにアンジュは少々頬を赤くしながら言う。
「……あんまりジロジロ見ないで」
アンジュはグレイスをそう言い通り過ぎて行き、グレイスは目を隠したまま、そのままバッタリと倒れてしまった。
そして監察官のエマが父にアルゼナルの仕事報告をしていた。
「大丈夫ですよ、仕事も慣れてきましたし私がいる限り秩序を…」
そうエマはコーヒーを飲んでいる最中、アンジュの姿が目に入る。
ボロボロの制服を身に纏っており、思わず吹いた。
「と!と!止まりなさい!!」
アンジュは後ろからの声を聞き、立ち止まる。
「あなた、その恰好は何!?」
「制服ですが」
とぶっきら棒で答えるアンジュ。
「秩序を乱す服装は慎みなさい。まったく…そんな恰好をして恥ずかしくないのですか? ここには男のノーマもいるのよ?」
「…監察官殿は、虫に裸を見られて恥ずかしいと思いますか?」
「えっ?」
アンジュはそう言って敬礼して立ち去った。
そして二日後、グレイスはジャスミンモールで自分の下着を購入しようとしていたが…。
「う~ん、やっぱり男性用の下着は発注しないと駄目か〜……?」
っとそう呟くグレイス、そもそもジャスミンモールは日用品、食品、パラメイル用のカスタムパーツまでの商品が取り扱ってるが、流石に男性用の物は置いてはいなかった。
そしてその中でグレイスは武器に見た事がある武器があった事に、あえて無視をした。
そしてそこにヴィヴィアンが大きな袋をもって武器の方にやって来た。
「おお~!新しいのはいってる~! おばちゃん、コレいくら~?」
「お姉さんだろ!ったく…。『超高クロム製ブーメランブレード』か、1800万キャッシュだね」
「喜んで~!」
「毎度あり」
ヴィヴィアンはブーメランブレードを購入し、それには流石のグレイスも呆れながら言う。
「ヴィヴィアン…それ使いこなせるのですか?」
「使いこなせるから買ったんだよ」
「…それで死ぬようなことはしないでください……ん?」
っとそこに番犬がしっぽをふってグレイスに近づき、それにグレイスは見る。
「ん?なんだ?」
「おや珍しい、この子がアタシ以外の誰かになつくとはね?」
そう言っていると番犬が唸り声を上げる。
グレイスが地が視線の方を向くと、もうすでにボロボロ寸前の制服を身に纏ったアンジュがやって来て、それにはまたしてもグレイスが顔を真っ赤にして固まってしまう。
「なっ!!??」
「おおー、セクシー」
「随分、涼しそうだね?」
二人が感想を述べるが、アンジュは「制服あります?」と制服代のキャッシュをジャスミンに渡す。
「制服ありますかだ? ここはブラジャーから列車砲まであるジャスミンモールだよ。ほれ毎度あり、しっかしどうしたらそんな風になるんだろうね?」
「さあ? あれ?お〜いグレイス、大丈夫?」
ヴィヴィアンは真っ赤になって固まっているグレイスの顔をツンツンと突きながら聞いてきたが全く無意味だった。
「ガス抜きと思って見逃していたけどあまりにも目に余るわね」
「うう…」
アルゼナルの指導教室でアンジュに散々嫌がられせをして来たロザリーとクリスに対し、サリアは流石にこれ以上見過ごせなくなった為、二人を正座されている。
そしてエルシャに何をしたのか分からないが、エルシャに殴られた痕が残っている…。
そして三人の他にグレイスとヴィヴィアン、エルシャの三人もいた。
「あの子が気に入らないのは分かるけど…」
「アンタ等何も思わないの!?大切な仲間を危険な目に合わせて、その上…隊長をあんな風になっていると言うのに彼奴がのうのうと生きている事にさ!!?」
「でも、アンジュちゃんは戦場に戻って自分が行ったことも、償いをしてくれたわ、グレイスくんが助けてくれなかったら、ゾーラ隊長もココちゃん、ミランダちゃんも生き延びることもなかったかもしれないわよ?」
「そ!それだけで…!」
ロザリーは悔しながらも拳を握り締める。
「それだけで納得しろっての?」
っと扉からヒルダがやって来て言う。
「あんたみたいな優等生ならともかく、アタシ達凡人には無理だね」
「ヒルダさん……」
グレイスはヒルダの登場に目を細める。
「たくっ、司令も何考えてんだが、あの女にポンコツ機を与えた以外はお咎めなしとはね。ああ~?司令も気に行っちゃったんだ、あの女に」
それにサリアは一瞬反応する。
「ま、そう考えれば変に優遇されているのにも納得が出来るか、あの指令をたらしこむなんて大したもんだねえ…皇女殿下はベットの上でも優秀…」
そう舌を舐めがらサリアを見るヒルダ。
「っ! 上官侮辱罪よ!」
「だったら?」
サリアはアーミーナイフを抜き、ヒルダはハンドガンを取り出して向ける。
「これ以上アンジュに手出しするのは許さないわ!」
「ゴミムシに言われるほどでもないね」
「.......命令よ」
「チッ.......行くよ、二人とも」
ヒルダはハンドガンをしまい、ロザリーとクリスを呼ぶ。すると、ヒルダはサリアに言う。
「あの男はゾーラの事を助けてくれた事には感謝はするけど、所詮アイツは男のノーマ.........絶対に気を許しては駄目よ」
ヒルダはそう言うと、部屋から出ていくのであった。
「超高速鉄鋼弾に、加減ギアに、そしてポテチ♪……私なんて欲しいものばっかだなぁ、」
ヴィヴィアンはノートに書いている欲しいものを見ていていると、サリアは本を読んでいた。
「ここでクイズ、サリアは何を呼んでいるのでしょうか?」
ヴィヴィアンが突然クイズを出すと、サリアは返答する。
「…指導教本、難しいわ…部隊の安定させる行動をどう生かすかを…」
そしてサリアはヴィルキスの事を思い出す。
「(ジル、約束したじゃない……あの機体を私にって…)」
「サリアまた怖い顔してるほら!」
「ちょ、ちょっと!?」
ヴィヴィアンがサリアがかけていた眼鏡を外す。
「サリアはいつものアレを読んでいる時の方が良い顔してるぞ?」
「アレ?」
「ほれ引き出しの二段目にあるさ、男と女がチュッチュするる本♪」
「っ!」
「さあ!見せてごらん!僕が受け止めてあげるから、君の全てを~! あ~ん♪そんな事できないよ〜♡」
ヴィヴィアンがジェスチャーしながら本の内容を言っていると、サリアはナイフホルダーからナイフを取り出して、ヴィヴィアンに目掛けて投げた。
それにヴィヴィアンは慌てて避けて、サリアは狩人の目をしながら言う。
「今度勝手に漁ったら、刺し殺すわよ…」
「ご、ごめんちゃい!」
睨み付けるサリアにヴィヴィアンは謝ると、ヴィヴィアンのお腹から音が鳴る。
「お!飯タイ~ム♪サリアは?」
「もう少し勉強してからにするわ」
「そっか、」
ヴィヴィアンはそう言い、食堂へと向かった。
そして一方レオンは格納庫までやって来て自分の機体。リベリオンを見る。
「……(僕は今の力で誰も死なせずに戦えるか?)」
今のリベリオンは近接武器が無い状態、いつまでもこの状態が保てるか今の難しい所だった。
「おーいグレイス、もう格納庫の電気落とすよー?」
っとグレイスはやって来るメイの方を向いて、またグレイスの方を向く。
「心配しなくてもいいよ、近接武器はもうちょっと時間がかかるけど。あとちょっとで完成するから」
「助かります、それでもっと活躍して、仲間達の犠牲が減るのなら、それで良いんですけど」
そう言ってグレイスとメイはその場を離れ行って格納庫を後にする。
そしてそれと入れ違いにヒルダが入って来て。ヴィルキスに近寄り何かに細工を施すのだった。
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第九話:孤高の反逆者・後編
一晩が去って翌日後、グレイスが気持ちよく爆睡中。
『第一種遭遇警報発令!パラメイル第一中隊出撃準備!』
ドラゴンが出現し、格納庫は慌ただしくなっている。
ライダーたちはそれぞれのパラメイルに乗り込む。
「総員騎乗!」
ドラゴン出撃警報が鳴る中、サリアが号令をかける。
「今日もフォローよろしくな、ラルス」
『了解』
グレイスは準備をしながらラルスに語りかける。と、アンジュを見てみると何処か様子がおかしかった。何か小さい物を手に取って舌打ちをしていた。
「グレイス!出撃前の最終確認を。BMA内装系異常は無い?」
「うん、大丈夫。異常はない」
メイに確認を促されたグレイスはリベリオンに異常が無いか、ラルスに確認した。そして、出撃準備は完全に整った。
「サリア隊、発進します!」
隊長のサリアが発進したのを皮切りにパラメイルが次々と発進していく。
「サリア隊、グレイス機、発進します!」
フィオナも発進して大空へと飛び立っていった。全ての機体が発進して、空中でフォーメーションを組んでいく。そして、
「総員、戦闘準備!ドアが開くぞ!!」
サリアの声と共に前方にシンギュラーが現れて、中からドラゴンが続々と出てきた。それを合図にパラメイルは攻撃を開始する。が、アンジュは隊列から離れるとドラゴンの群れに突っ込んでいく。
「アンジュ!前に出すぎよ、勝手に突っ込まないで!!」
サリアが咎めるがアンジュは構わずに突進し、ドラゴンを撃墜していく。
(まったく、アンジュさんは相変わらずだなぁ…)
グレイスは呆れつつも目の前のドラゴンを次々と撃墜していく。その時だった。
突如、ヴィルキスから黒煙が舞い上がるとそのまま海へ向かって失速していく。
「え!?な、何が起こったの?ヴィルキスが……」
アンジュは必死に体勢を立て直そうとするがコントロールが聞かない。すると、
「助けてやろうか?痛姫様」
ヒルダがヴィルキスの隣にやってきて、アンジュを挑発する。
「くっ。失せろ、ゴキブリ!」
アンジュは何とかヴィルキスをアサルトモードに変形させる。だが直後、スクーナー級がヴィルキスにまとわり付き、ヴィルキスもろとも海へと落ちていった。
「ヴィルキス!!」
サリアはヴィルキスの元へ向かおうとするが、シンギュラーからブリッグ級が現れてそちらの対処を優先せざる負えなくなった。
それから、第一中隊の努力の甲斐あってブリッグ級は海に墜落していった。同時に作戦も完了した。
「各機、損傷も飛行に問題なし。アンジュ機はロスト」
「ご苦労だった。全機、帰投せよ」
ジルは第一中隊に帰投命令を出す。するとサリアが通信を入れてくる。
「あのっ!ヴィル……アンジュ機の捜索許可を頂けませんか?破壊されたわけではないし、今すぐに回収すべきかと」
「はあ?冗談でしょ。戦闘終えたばっかでクタクタ、燃料もカスカス、なのに痛姫様とポンコツ機を探せって言うのかい?隊長さん。」
「……」
ヒルダにダメ出しされて、サリアは言葉に詰まる。
『ヒルダの言う通りだ。後で回収班を出す。中隊は全機、帰投!』
ジルからも帰投する様に言われ、サリア達はパラメイルをフライトモードに戻す。
「アンジュさん、大丈夫かな?」
「このまま帰るなんて見捨てるみたいで気が引けるけど、仕方ないよね」
「大丈夫だよ。アンジュさんはあんな事で死んだりはしない。絶対に…」
フィオナはアンジュが落ちていった海を見る。ヴィルキスは影も形も無かった。アルゼナルに戻ってからどうしようかと考え始めた。その時だった。
「!?」
グレイスの視界にノイズが浮き出る。
「何だ!?」
するとリベリオンが、強制的に駆逐形態へと変形する。
『グレイス、何をしているの?もう、戦闘は終わったのよ』
サリアが通信を入れてくるが、グレイスの耳には聞こえてなかった。
『後方に敵影発見。』
ラルスがそう報告し、後ろを振り向くと、そこにいたのは銀と黒、関節部は金色、紫色のカラーリングにピンクの模様が塗られており、背部に巨大な手裏剣を背負ったリベリオンが腕を組んでいた。
「っ!!?」
グレイスは驚き、後方に下がりながら防御体制をする。
「何だあの機体は!?レーダーにも反応がなかった!?ラルス!あの機体は!?」
『グレイス様、ここは撤退してください。今の装備では、『ハーミット』には勝てません。』
「『ハーミット』?それがあの機体の名前なのか?」
『"ハーミット"と"リベリオン"は謂わば兄弟機、本来ならば、武装強化し、挑むべき存在。』
ラルスがそう言う中、パメラが第一中隊に報告する。
『せ、戦闘区域に未確認機体が出現しました!!』
驚きを隠せないパメラの声が第一中隊の各機に響く。
「な、何なの?あれ……」
「おいおい。一体、どうなってんだよ!?」
「なんじゃあ、あの機体!?」
第一中隊の面々も驚きを隠せない。するとアンノウンは
背部の巨大な手裏剣を抜き、構えるとリベリオンに向かって投げ付ける。グレイスはリベットガンのバイブレーションブレイドを構えると、手裏剣が五つに増えた。
「っ!?」
グレイスは必死に手裏剣を回避すると、手裏剣はアンノウンの所へ戻って来た。そしてアンノウンはまた手裏剣を投げつけようと構えると。
「グレイスから離れろぉ!!」
ヴィヴィアンがブーメランブレードをアンノウンに向かって投擲する。それに気付いたアンノウンは手裏剣を投げ、ヴィヴィアンのブーメランブレードを弾く。アンノウンは手裏剣を拾い上げると、左右の手をうち1組で人差し指を立て合わせる。
次に2手内に組み、中指を立てて人差し指を絡ませる。
次に左右互いに組み、中指・薬指の交叉にからみ、親指、薬指、小指を立て合わせる。
次に左右互いに指を組み合わせ、人指し指を立てて合わせる。
次に2手各々外へ組み合わせる。
次に10指互いに内に組み入れる。
次に右の4指を握り、指先を立てて左手に親指を握る。
次に左右の親指の指先の端をつけ、余り4指を開く。
最後に左の手をうつろに握り右の手上に置く。
『臨!!兵!!闘!!者!!皆!!陣!!烈!!在!!前!!』
ハーミットから気高い声が発声すると、ハーミットの形が変わっていく。装甲が軽量級へとなり、スラスターウィングから紫に光る翼を放出する。
「何!?」
リベリオンと同じ、装甲や形が変形した事に驚くグレイス。するとハーミットから通信が入る。
『"ΑΩ⊇πⁿ∩∈ ∵∮∧?"(この期に及んで、貴公は最初から最後まで逃げるのか?)』
通信からは、聞いたこともない言語で話される。
「??」
『∋∌∟ … ∷∮θθξρπ⊇⊅∥∥008……(あの時…10年前の反逆を引き起こし、コードネーム"MMD-008"を逃がそうと、企て、頭領である父を殺そうとした輩め……)』
するとハーミットのコックピットが開き、中から黒い短髪、黒紫のマフラー、忍者のようなライダースーツを着た青年が鋭い眼差しをする。グレイスはコックピットから出て、青年に問う。
「君は一体何者!?何でリベリオンと同じ機体に!?」
すると青年はポーチから何かを取り出し、グレイスへ投げ渡した。グレイスは青年から投げ渡してきた物をキャッチする。それはグレイスが首に付けていると同じ、赤い宝玉であった。
「……今回だけは見逃してやる」
「え?」
「次は…徐々に記憶を戻してから、兄弟達と共に相見えよう……。」
青年はそう言い、ハーミットに乗り込み、機体を動かし、目にも止まらぬ速さで彼方へと飛んで行った。
『未確認機、逃走を確認』
「どういう事なんだ?」
グレイスは受け取った赤い宝玉を見る。すると目の前の世界が一変し、煉獄の炎で焼き包まれた街のど真ん中に立っていた。
「何んだ!?」
建物は何かに銃弾や破壊された跡があり、パラメイルや見たことのないロボットの残骸だらけであった。
「何だ…これ……?」
すると炎の中から、何かが飛び出してきた。それは黄金の長髪、碧眼、赤いアーマーをしたグレイス。彼の腕にクリオネとクラゲの様な透明感をした人魚みたいな少女をお姫様抱っこで抱えており、彼女の足と言うより尾ビレから血が流れながらも、炎が吹き荒れる街の中を走っていた。
「あの娘は?」
すると少女が、頬を赤くしながら、赤いアーマーをしたグレイスに言う。
「いいのよ!」
「……任せろ!」
グレイスに似た青年は、後ろから来るロボットのアームキャノンの攻撃を見ずに、華麗に回避する。
「これって……僕の失われた記憶?」
するとグレイスに似た青年がホルスターからマグナムを抜き取り、少女を抱えたままロボットを撃つ。弾丸がロボットの頭部を貫通、そして爆散し、彼は走り続ける。少女はそんな青年の顔をじっと見る。
「……」
「……?」
「!……」
少女は青年の勇ましい姿や顔を見続けられたことに、顔を真っ赤にする。すると目の前が光で包まれ、元の目の前の世界に戻る。
「っ!?…今のは?」
グレイスは胸を抑えていると、サリアが通信する。
『グレイス!返事して!』
「え?……あ、はい!」
グレイスは返事し、その後アルゼナルへ帰投する。その途中、グレイスはさっきの映像を思い浮かべる。
「(あれは一体、何だったんだろう?……それに、あの娘は一体……)」
グレイスはそう考える中、アルゼナルに帰投するのであった。
「いや~大漁大漁♪これでしばらくは食料に困る事はないな」
無人島でタスクはたくさんの魚を獲る事ができて上機嫌だ。ふと、彼はある事を思い出す。
「そういえば、グレイスが此処を去ってから随分経つけど…無事にアルゼナルへ着いたのかな?」
タスクはかつて出会った青年、そして彼に名前を付けたグレイスの事を思い馳せていた。アルゼナルへ連絡を取る事も考えたがタスクは首を振る。
(いや、そんな事できるわけないか。今の俺にそんな資格はない……)
タスクは苦悩しながらも気を取り直す。彼が砂浜へ行くとそこには白いパラメイルが横たわっていた。それを見たタスクは目を見開く。
「あれは……ヴィルキス!?」
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第十話:アンジュ喪失
「…ん、…私は一体…?」
アンジュが目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。
(どうして……たしか私、ヴィルキスのコントロールが利かなくなってスクーナー級と一緒に海に落ちて、溺れた筈なのに……)
不思議に思い、起き上がろうとしたアンジュだが体が言う事を聞かない。手を見るとベッドに細いロープで縛られていた。と、隣に気配を感じて顔を向けるとそこには、
「……?」
上半身裸の見知らぬ少年が横になっており、そして自分の体を見てみると何も身に付けておらず、裸であった。
「…え? え!?ええええええええええええええええええええええっ~~~~~~~~!?」
アンジュは悲鳴を上げ、たちまち顔が赤く染まっていく。そして青年の方も、
「ご、ごめん!念の為に縛らせてもらった。」
顔を赤くし、アンジュから離れると机に置いてあったポットの水をコップに入れる。アンジュが辺りを見回すとすぐ近くに自分が着ていたライダースーツが置いてあった。
「君はどうしてここ、にぃ!?」
アンジュに尋ねようとした男は床に落ちていたビンに足を取られ、バランスを崩す。そして、アンジュの股間に顔を突っ込む様にして転んでしまうのだった。これにはアンジュも顔が羞恥で真っ赤になる。
「ご、ごめん!これはわざとじゃ「いやあああぁぁぁ!!!」ぐえっ!」
男が弁解する前にアンジュは彼を足で殴り、思いっきり蹴り飛ばす。そして、手首を縛っていたロープを力づくで千切るとライダースーツを持って浜辺の方へ逃げていった。
「(何なの此処…、私…どうして…はっ!)」
アンジュはようやく自分のしていた事を思い出す。戦闘中にヴィルキスが異常を起こし、そこで海に落ちたって事を。海岸の方まで走ると砂浜にヴィルキスがあった。彼女は直ぐに乗り込んで発進しようとするが何も起きない。
「…? どうして動かないの?」
アンジュは原因を調べると、焦げている部分があり。すぐに調べてみると大量の下着が詰め込まれていた。
下着を見て、すぐにあのヒルダの仕業だと知り、アンジュは悔しながら下着を破り捨てて踏みつける。
「酷いじゃないか、君は命の恩人になんてことを…」
っと投げ飛ばしたさっきの男がやって来て、アンジュはすぐさま銃を抜いて彼の足元を撃つ。
それに男は慌てて後方に飛び退いて、両手を上げる。
「それ以上近づいたら撃つわ」
「お!落ち着け! 俺は君に危害を加えるつもりはない!それに君はもう撃ってるし…!」
「縛って脱がせて抱き付いておいて…!」
「嫌…あ、あれは…」
男は流石にあの事には何も言えず、顔を赤くし、アンジュは銃を握りしめながら睨む。
「目覚めなかったら、もっと卑猥で破廉恥なことをするつもりだったんでしょう!」
「もっと卑猥でハレンチ!?....ハァ、女の子が気を失っている隙に、豊満で形のいい胸の触感を味わおうとか、無防備で、体隅々まで触ろうとか、女体の神秘を存分に観察しようとか、そんな事をするような奴に見える....」
男は火に油を掛けるような言葉を放ち、アンジュはさらに顔が赤くなり、銃を構える。
「そんな事をするような奴だったの!!!?何て汚らわしい!この変態っ!!」
「ご!誤解だ! 俺は本当に君を助けようと!!」
男は弁明しようとしたが、彼の足元にカニがいて、男の足を挟む。
「痛ああああああ!!!」
突然の痛さに驚き、アンジュの方に倒れ込んで。彼女の股に埋まってしまう。
「はぁ!!!」
男はすぐに離れるも、アンジュは真っ赤な顔で男はを睨みつける。
「うわあああああああああああああ!!!!」
男が叫んだと同時に銃声が鳴り響いて、しばらくすると…。
「変態!ケダモノ!発情期!!」
怒りながら男を蔓で簀巻き状態にして吊して去って行くアンジュ。
「あの~もしも~し、今のは事故…」
男の弁明に、アンジュの耳には届いてなかった。
アルゼナルの司令室。そこではジル達が前の戦闘について話をしていた。イレギュラーな事が次々と起こって、ジル達は顔を顰めていた。
「ヴィルキス落ちたそうだね?やっと乗り越させそうな奴が見つかったのにね」
ジャスミンがため息を漏らす。サリア、メイ、マギーも沈痛の面持ちだ。そんな中、ジルはアンノウンが写った写真を食い入る様に見ていた。
(この色といい、形といい、あの男やグレイスの機体にそっくりだ。奴の配下だとでもいうのか?しかし、それならば何故ドラゴンではなく第一中隊を、グレイスを襲う必要がある?いや、今は墜落した機体とライダー達を回収するのが先決か。最低でもヴィルキスが無ければリベルタスを行うのは不可能だからな)
「機体の調子は良かったのに、どうして!?」
メイは拳をぶつけながらあの時の事を悔やむ。もっとアンジュに見ていておけば、あんな事には鳴らなかった筈だと。
「考えるのは後よ、今は機体の回収が最優先よ」
そうサリアがメイにそう言い、それにメイが頷いて回収班を編成させると言った時だった。
「アンジュも回収しろ、最悪の場合…、死体でも構わん」
それには流石のサリアも納得いかない様子、どうしてそこまでアンジュにこだわるのかを。っとその時ドアからノックがして来た。
「入れ」
ジルが言って、ドアからグレイスが入って来た。
「グレイス!どうして此処に?!」
サリアが驚きながら問うも、グレイスはサリアを無視してジルの前に来て言う。
「司令、リベリオンの使用許可を下さい」
「「えっ!!」」
グレイスが言った言葉にサリアとメイが驚く。
「…アンジュの捜索か?」
ジルがそれに問うと、グレイスは頷く。
「はい、アンジュさんを一人にさせて置くわけには行かない。あの人は兵士でも元皇女さんです。どうあっても一人で生きる行く事は出来ません。」
グレイスはジルからの許可を得て、アンジュ捜索の準備をする。そしてサリア、メイを入れた回収班が輸送機に乗り込み、準備をしていた。すると、
「メイち~ん!!」
アルゼナルからヴィヴィアン、エルシャ、レオンの方にやって来た。
「グレイスも捜索に参加するでしょ? あたし達も参加するよ!」
「やっぱりヴィヴィアンもエルシャさんも、アンジュのさん事が心配なんですね」
「ええ、私達はサリアちゃんたちと一緒にアンジュちゃんを探すわ。それに早く見つけてあげないとね、きっとお腹空かしてるわ♪」
「ほらほら!レッツゴー!」
「フンフフ〜ン♪」
そう言うと二人は輸送機の中に入っていった。サリアとメイも後に続く様に入り、輸送機はアルゼナルを離陸し、グレイスも燃料満タンにしたリベリオンを動かし、アンジュとヴィルキスの捜索任務の為、大空へと出撃した
一方アンジュはヴィルキスに非常食がないか調べていたが一向に見つからなかった。
「どうして非常食がないの?!」
っとアンジュは前にサリアやジャスミンの言葉を思い出す。
『私達ノーマの棺桶よ』
『パラメイルはノーマの棺桶』
そう思い出しながらヴィルキスを見る。
「ノーマの棺桶か…」
アンジュは目を細めていると、海水が増している事に気付く。
どうやら満潮が来たらしく、アンジュは急いでその場を離れる。
そして空が薄暗くなり、嵐の雨が降って来た。
雷鳴がとどろく中でアンジュは雨宿り出来る所を探していた、すると大木の穴を見つけて雨宿りする。しかしそこにある物がゆっくりと忍び寄っていた。
飢えと雨の寒さで体が震える中で、アンジュはある痛みを感じる。
「痛っ!」
アンジュは下を見ると、どうやら蛇が噛みついていて、急いで振り払い、その場から走り出す。
彼女はどのくらい歩いたのか分からないが、だんだんと体力が低下してきた。
そして先ほどの蛇に毒があったのか、徐々に身体がだるくなり。おまけに雨による体温低下にアンジュは倒れてしまう。
「…だれか」
助けを呼ぼうにも、彼女を助けにくる仲間はいない。
「…誰も、来る訳…ない」
助けが来ない事に涙を流すアンジュは、起き上がろうとするもぼんやりとしていて上手く立ち上がれない。
「あの…大丈夫?」
声がした方を振り向くと、先ほど縛り上げた男がいた。どうやらアンジュは同じ場所に辿り着いてしまった様だ。
男はアンジュの苦しい表情を見て、何かあったと聞く。
「たす…け…て」
手を男の方に伸ばした直後に意識を失い、その様子に男は急いで蔓を切り、アンジュの元に向かい抱きかかえて容体を調べる。
太腿に蛇にかまれた所を見つけ、蛇にかまれたことを知り、急所口で傷口から毒を吸い出して処置をする。
そして男はアンジュを隠れ家に抱いて連れて帰って、泥で汚れた身体を拭いていた。
その時にアンジュの指輪を見て、自分の幼い頃の事を思い出す。
紅蓮の炎が破壊された街を覆い尽くし。彼方此方に破壊されたパラメイルとバラバラになったメイルライダーたちの姿もあった。
そしてそこに両親も息絶えて、幼い頃の自分は泣いていた。
《父さん…母さん!》
泣いている自分は違う方向を見ると、片腕を無くして歩いてくる黒髪の女性と女神のオブジェがついていた白い機体が目に映った。
「…ヴィルキス」
呟きながら男は呼吸が安定し寝ているアンジュを見る。
何故彼女がヴィルキスに乗っているのか、何故あの女性の機体を彼女が受け継いでいるのかそう思う男であった。
一方、アンジュ捜索のアンジュとヴィルキスを捜索していたグレイスは報告を行っていた。
「こちらグレイス、M空域にはアンジュとヴィルキスの姿はなし。引き続き、捜索を行う。」
『了解』
報告を終え、海を見るグレイスはあの時の事を思い出す。
「(やっぱり気になる。あれって僕?…にしては何か憎む様な目だった……それにあの娘は……)」
『……コードネーム"MMD-008"』
突然ラルスがその娘の名前を発し、グレイスは首を傾げる。
「え?」
『何でもありません…』
「……ほんとに?」
『はい……』
「……それなら、良いんだけど…(MMD-008か、何か良い名前とかないのかなぁ……)」
グレイスはそう考えながらも、アンジュの捜索を続けるのであった。
夜となり、アンジュが目を覚ます。気が付くと、最初に目覚めた洞窟だ。
「無理しない方が良いよ? 毒は吸い出したけど痺れは残ってから」
男がアンジュにそう言い、アンジュが身体を起こす。っとライダースーツじゃなくワイシャツ姿を見て気付き。思わず男を睨む。
「言っておくけど、動けない女の子にエッチな事なんてしてないからね」
男はそういいながら、煮込んでいたスープを器に盛り付ける。
「もう少し治療が遅かったら危ない所だったんだ。これに懲りたら迂闊な格好で雨の森に入ったらダメだよ」
「…余計なお世話だわ」
アンジュは頼んでもいない顔をしながら明後日の方向を向き、男はスープの具をスプーンにのせてアンジュに向ける。
「はい」
「…え、何?」
「食事、君何も食べてないだろ?」
「いらないわよ! そんな訳の分からい物!」
アンジュはそう言うが腹が空腹で鳴っている。身体が正直なのが彼女は恨めしくなってきた。
「変な物は入ってないよ、ほら」
渋々と口を開けて、食す。
「…不味い」
そう言いながらも口をアーンッとあけるアンジュ。
男はクスリッと笑う。
「気に入ってもらえてよかったよ、ウミヘビのスープ」
ウミヘビと言う言葉にギョッとし、一気に飲みこむアンジュ。
「少しは信用してくれた?」
「…」
アンジュはまだ信用出来ない様で男見て、男は少し困った表情をする。
「出来ればもう殴ったり撃ったり、簀巻きにしないでくれると嬉しんだけど…」
「考えとく…」
そう言いながらまたアーンッとし、食べる。するとある言葉を思い出す。確か、蛇にかまれた部分は…。っと少しばかり頬を赤くする。
「どうしたの?痛む?」
男は心配そうでアンジュに言う。
「さっき、毒を吸ったと言った…?」
「うん、そうだけど…」
「口で?」
「うん…ハッ! そ!それは…!」
男は気が付き弁明するが……。
「いだだだだだだだだだ!!!!」
「噛まないとは言ってない!!!」
何処を噛まれたのかは知らないが、何やら良い雰囲気な様子だった。
補給の為に帰還したリベリオンはアルゼナルに着陸し、グレイスは休息を取る為に飲み物を飲んでいた。
そこに先に戻っていたエルシャがグレイスの隣にやって来る。
「お疲れ様」
「ああ、それでそっちはどうだ?」
「こっちも見つからない」
それを聞いたグレイスは「そうか」と呟きながら飲み物を飲む、そこにヒルダがやって来る。
「晴が出る事で」
「ヒルダちゃん」
「わっかんないね~、何であんな女を助けようとしてんのか、エルシャお得意のお節介な奴? それにあんたも態々ご苦労様な事で」
っとヒルダはグレイスとエルシャに向けて笑みを浮かばせながら言って壁にもたれる。
ヒルダの言葉にグレイスはどうも頭の中に引っかかっていた疑問を問う。
「仲間だもの、心配するのは当然でしょ。ヒルダちゃん達がアンジュちゃんを憎むのは分かるわ。
…機体を落としたくなるのもね」
「え!?」
グレイスはエルシャの言った言葉に思わず振り向き、ヒルダの方を向くと、ヒルダは不敵な笑みを浮かべる。
手に持っている飲み物の容器を少々握りつぶし、ヒルダを少しばかり睨む。
そう言うエルシャの顔は普段と違い、とても険しいものだった。
「でもそれでも誰かが受け入れてあげないと、彼女はずっと独りぼっち。そんなの寂しいじゃない、同じノーマ同士なのに」
グレイスが言った後に笑顔で話すエルシャの言葉に、どうも納得ができないヒルダ。
「それにね、アンジュちゃんと似てるのよ。昔のヒルダちゃんに、だからお姉さん放っておけないの」
「(似てる? アンジュさんとヒルダさんが…?)」
エルシャの言葉にグレイスはすぐに引っかかり、それにヒルダは笑う。
「あはは!似てる?あのクソ女と? 殺しちゃうよ~、あんたも…」
そうエルシャに脅して言い聞かせて、その場を去って行くヒルダ。
「補給~補給っと♪ってあれヒルダ?」
入れ違いにヴィヴィアンは去って行くヒルダの方を向き、グレイスはヒルダの行動に少々怒りがこみ上げて来た。
「(ヒルダ…お前のやり方、俺は絶対に認めはしないからな)」
グレイスが怒りを湧き上って来る怒りを抑えている所にメイがやって来る。
「グレイス〜!パドルデーゲンの修理が終わったよ!」
「ホントですか!?」
「うん!」
リベリオンの右腕に、修理されたパルスガン兼用の折り畳み式高周波ソード『パドルデーゲン』が装備されていた。
「良し!これなら、接近戦になっても安心だ!」
グレイスはパドルデーゲンに喜ぶ。そして夜になり、グレイスが星空を見ていると、
「グレイス君♪」
「あ…エルシャさん」
声がした方を振り向くとそこにはエルシャが立っていた。
「エルシャさん、どうしたの?もしかして、僕を探してた?」
「いいえ、私も星を見に来たの。コーヒーを持ってきたけど飲む?」
「うん。あそこで座って飲もうか」
2人はグラウンドにあるベンチに腰掛ける。エルシャは持っていた水筒に入っていたコーヒーをコップに移し、グレイスに渡す。コーヒーはブラックだったが不思議とそんなに苦くは無かった。
「このコーヒー、ブラックなのに苦く無くて美味しい」
「でしょ。これは私の特製ブレンドなの。疲れている時に飲むととてもリラックスするわよ」
2人はコーヒーを飲みながら星空を眺める。空には数多の星が輝いていた。
「私も小さい頃から此処へ来ては星を眺めてるの。此処へ来ると辛い事や悲しい事を忘れる事ができるから」
「星って不思議ですよね。僕達が生まれるずっと、ずっと、ずーっと昔から空で輝いてるんだもんね」
「そうね。人や世界は変わっても、この星空は昔から変わらない。こうして輝きを讃えているのよね」
2人が話をしていると空に一筋の流れ星が流れていった。
「あ、流れ星!流れ星に願うと願い事が叶うって言うらしいよ」
「グレイス君は何を願うのかしら?」
「私は、やっぱり自分の記憶が戻る事を願うかな。エルシャさんは何をお願いする?」
「私はアルゼナルのみんながいつまでも無事で毎日を過ごせます様に、ってお願いするわね」
「あはは、エルシャさんらしいね」
それからグレイスはエルシャにある事を聞く。
「ねえ、エルシャさん。エルシャさんはどうしてメイルライダーになったの?」
「どうしたの?突然、そんな事を聞くなんて」
「うん。だってさ、エルシャさんってアンジュさんやヒルダさん達と違って性格も荒々しくないし、料理だって上手でしょ。それに幼年部の子供達にもお母さんみたいに慕われているし」
「それを言うなら、グレイス君もどちらかと言ったら大人しい方じゃないかしら?」
「まあ、僕はメイルライダーになるしかなかったからね。でも、エルシャさんならコックや幼年部の指導員になる事もできたんじゃないのかな、って思ったんだ。それなのにどうして危険なメイルライダーをしているのかなって」
グレイスが尋ねるとエルシャは答える。
「そうです。確かに僕もコックになってみんなに料理を作ってあげたり、幼年部の子達に色々教えたりするのもいいんじゃないかなって、思う事はあります…」
「なら、どうして?」
「私は……もっと強くなりたいんです。強くなって、アルゼナルのみんなを守りたい。ドラゴンや色んな脅威からみんなをです。守られるだけなんて私は嫌なの」
「エルシャさん……」
静かだが強い決意がエルシャから感じられた。フィオナは彼女は強い人だな、と心から思うのだった。
「…夢々めぐる…蒼いel ragna
ゆらゆら眠る…最果ての海へ…
風もなく 星もない…
暗闇に 迷っても…
泣かないで 夢見れば…
いつかは 帰るよ…
星々めぐる 夢のel ragna
やがて朽ち果て 光の海へ……
旅にでて 恋をして…
寂しさに 震えても…
いつまでも 忘れない…
まだ見ぬ ふるさと……
夢々めぐる 蒼いelragna
ゆらゆら眠る 最果ての海へ…
星々めぐる 夢のelragna
やがて朽ち果て 光の海へ………」
グレイスが突然、歌を歌い出し、エルシャが
「いい歌ね…まるで海が心を癒やしているみたいだわ…なんていう歌なの?」
「……分からない、何故か歌えた……だけど、歌っていると、"何か大切な人を守ってやらないと"と……」
「大切な人?」
「あの戦闘時に…あの未確認機を見ていたら……薄々と思い出していくんだ……その記憶に不思議な少女と僕みたいな青年が映っていたんだ…。」
グレイスの言葉に、エルシャが疑問に思う。
「不思議な少女?」
グレイスはポーチからスケッチブックと万年筆、色ペンを取り出し、スラスラその少女を思い浮かべながら改善し、描いていく。絵を描き終えると、エルシャに見せる。それは、クラゲとクリオネの様な透き通った体、足は人間やノーマの様な、二本足ではなく、足全体が尾ビレ、この世とは思えない程の絶世の美少女と言うより……"人魚姫"でもあった。(イメージはモンストの"キスキラリル"です。)
「綺麗……私がまだメイルライダーになる前、絵本に出てくる人魚姫みたい」
「人魚姫?」
エルシャは説明する。"人魚"とは、人間の上半身と魚の下半身を持ち合わせる空想上の生物の名称。
人間と同じく男女の別があり、男の人魚を『マーマン』。女の人魚を『マーメイド』と呼ばれている。モチーフとしては、どちらかと言うとマーメイドの方が好まれる。 特に人魚の頂点にして君臨するのが人魚のお姫様。水中を自在に泳ぎ回り、海中でも魚のように呼吸が出来るとされる。
そして水泳能力も高く、嵐の海でも平然と泳ぎ、日の光の当たらない深海まで潜ることが出来、その上潜航速度も極めて速いという。
また人魚から派生した能力なのか、「歌で人の心を魅了する」能力を有する。
この力によって、人魚の詩を不用意に聞いてしまった船が数多沈没していったという。
昔の大航海時代では、人魚の存在を警戒する船乗りも多かったらしい。
「そんな伝説があるんだ……」
「そう、それに涙はどんな傷や症状も癒やしたり、人魚の肉は不老不死の妙薬とされていて、食べたら永遠の若さと命を得るってなるの…」
「永遠の若さと命を得る!?」
「うん……本には1000年の寿命を得るらしいの」
「1000年も!?」
「…私は"人魚姫"に会ってみたい……ドラゴンの様に、絵本の中で語られた本物に会って、幼年部の子供達と一緒に人魚姫さんの綺麗な歌を聞いてみたいの♪」
「良いですね♪僕も会って、歌を聞いてみたいです……人魚姫に…」
「じゃあ、もう遅いしそろそろ戻りましょうか?」
「そうしましょう」
グレイスとエルシャは自分の部屋へと戻っていった。
一方、アンジュと男性がいる島の隣島では、砂浜に横腹から血を流している少女が倒れていた。
「やっと…陸地………」
少女は陸地に着いた事に安心し、気を失うのであった。
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第十一話:再会の島
一晩経ってその翌日、ヴィルキスで男が工具で何かをしていた。
そこにアンジュがやって来て、それに男は気づいて向く。
「もう動いて大丈夫?」
「何してるの?」
「修理…かな」
男はヴィルキスの修理をしている事にアンジュは問う。
「…直せるの?」
「此処にはたまにバラバラになったパラメイルが流れ着くんだ、それを調べて行っている内に何となくね。そこの六角レンチ取ってくれる?」
アンジュの横にある六角レンチを取ってほしいとお願いされたアンジュはそれを取って男に渡す。
男はそれを受け取って作業を進める途中でアンジュがすぐに気にしていた事を聞く。
「マナで動かせばいいじゃない」
それに男は手を止めてしまう。
「どうして使わないの?、どうしてパラメイルの事を知ってるの? あなた……一体何者?」
アンジュの問いに男は険しい表情をする。
「…俺は『タスク』。ただのタスクだよ」
その男……タスクはそう言って作業を再開する。
「いや、そうじゃなくて…」
「あ〜!やっぱり出力系の回路が駄目になってるのか、でもこれさえ直せば無線は回復する。そうすれば君の仲間とも連絡が取れるよ」
タスクは原因を調べてくれて、直せば仲間が来るとそうアンジュに言う。しかしアンジュは…。
「…直しても無駄よ」
「え?」
その言葉にタスクは唖然としてしまう、アンジュは砂浜に座り海の方を向く。
「連絡しても誰も来ないし、帰ったって…誰も待ってないもの…」
「…本当にそうかな?」
タスクの意外な言葉にアンジュは顔を上げて向く。
「君はそう言うかも知れないと思うけど、実際本当に待ってくれない人はいないと俺はそう思うな」
「…なんであなたがそんな事分かるのよ」
「え、まあ、君じゃないから分からないけど…そうだ。修理が終わるまで此処に居たら? あの…変な事はしないから」
タスクの誘いを聞いてアンジュはクスリっと笑い「そうね」と答えて再び海を見る。その時にアンジュは思った。自分を助けてくれたタスク、そして何かしらに心配してくれるグレイス、最後に気遣ってくれたヴィヴィアンの事を思い出し。彼女の心に何時しか凍りついていた心が少しずつ溶けていく様な感じがしていた。
アンジュがタスクと無人島で二人っきりで過ごしてから数日後、ヴィルキスの修理をしていた他に楽しい日々を過ごしてから、お互い打ち解けて行き。
二人は川岸で寝ころび、夜空を見上げていた。
「うわぁ…、こんなに星が見えるなんて」
「気が付かなかった?」
「空なんて、ずっと見てなかったから…。綺麗…」
アンジュは星を眺めて、その時にタスクがアンジュの手を握り、タスクが顔を赤くしながら言う。
「君の方が…綺麗さ」
「え?」
アンジュは少しばかりタスクの言葉にドキッとする。
良い雰囲気となり、二人が顔を近づけようとした時にタスクが何かを感じ取り、アンジュを押し倒し。静かにと言われる。
すると空にある物が見える。
「あれって…凍結されたドラゴン?」
アンジュとタスクは凍結されたガレオン級が輸送機に運ばれて輸送されていくのを目撃した。
その時にスクーナー級一体が森から現れた、それはアンジュと戦っていたドラゴンの一体だった。
スクーナー級に襲われ、輸送機は反撃しようとした直後、ドラゴンが何かに蹴り飛ばされ、地に落とされた。
「あれは!?」
それは緑に発光するエナジーウィングを放出した緑色のリベリオンであった。そのリベリオンは腰部に装備しているビームセイバーを抜刀し、輸送機を斬り裂いていく。すると今度はオレンジ色のリベリオンが、氷塊に向けて、向けてアンカーを放つ。
「何をしているの!?」
「分からない!何であいつ等が!?」
すると吹き飛ばされたスクーナー級が緑色のリベリオンに襲い掛かるが、吹き飛ばされ、運悪くアンジュとタスクの近くに落とされる。
「「!!」」
スクーナー級はボロボロだが二人を睨み襲い掛かってくる。アンジュは銃で対抗するにも全く効かなかった。
「そうだ!パラメイルなら!」
「でも修理が終わっていない!!」
「直して!早く!!」
「分かった!」
二人はヴィルキスがある海岸へと向かう。
ヴィルキスに着いた二人、タスクはすぐに修理に取り掛かり、アンジュはナイフでスクーナー級と立ち向かう。
しかしナイフではスクーナー級にはあまりにも分が悪い、翼で弾かれてしまいナイフを落としてしまう。
「これを!!」
タスクはアサルトライフルをアンジュに投げ渡し、キャッチする。
「お願い!急いで!!」
アンジュはスクーナー級の攻撃をすぐに避けて、それを見たタスクはすぐに取り掛かる。
すぐに直さなければアンジュは喰われてしまう、焦ってしまうが落ち着きながら修理を進めるタスク。
アサルトライフルで攻撃するも、スクーナー級の尾で弾かれてしまう。喰いにかかろうと時にアンジュの指輪が光を放ち、ヴィルキスが起動して、持っていたライフルがドラゴンへと発砲する。その時の異変にタスクは気付く。
不意をつかれたスクーナー級が怯み、アンジュがこの隙に近くに落ちていたナイフを拾い、ドラゴンに立ち向かって行こうとした時だった。
空から3発の重金属のリベット弾が降り注ぎ、スクーナー級を貫いて息の根を止める。突如の攻撃にアンジュとタスクは空を見る、すると空からリベットガンを構えたグレイスがゆっくりと降りて来て、アンジュの前に降りて来る。
そしてリベリオンのコックピットが開いて、そこからグレイスが出てくる。
「無事か?アンジュ」
「あなたは…グレイス!」
「え?…グレイス!」
っとタスクはリベリオンに乗っているグレイスを見て、そしてグレイスもタスクの存在に気付く。
「え…? タスクさん?」
朝日が昇り、一筋の日差しが照らす。スクーナー級の死体は海へと襲われて、そのまま流されて行く。
三人は光景を静かに見届けていた。
「仲間を助けようとしたんだ。一緒に帰りたかったんだね、自分達の世界に…」
「ドラゴンにも…仲間意識が?」
グレイスはタスクの言葉を聞いてドラゴンを見て言う。
「それよりもグレイス…あなたはどうして?」
「アンジュさんとヴィルキスの捜索をしていた所に、島から爆発が見えてな、そこに向かったらドラゴンと戦闘していた所を見つけたんです……それとタスクさん、お久しぶりです♪」
「あなたグレイスの事、知っているの?」
「うん、前に一度会ったんだ。勿論、グレイスって言う名前も、俺が付けたんだ。」
「タスクさん、アンジュさんを助けてくれて…ありがとうございます」
「いや、俺はできる事までしたから……それにあの子、アンジュって言うんだ」
「ちょっと!何私の名前を知ろうとしているのよ!」
「嫌!綺麗な名前だなぁって!」
「いいこと?私とあなたは何もなかった。何も見られてないし、何もされてないし、どこも吸われてない。全て忘れなさい!!いいわね!?」
「は、はい…」
二人のやりとりにグレイスは冷や汗を流しながら思わず思った、『それは余計に誤解を招くのでは』と…。
するとヴィルキスから通信がヴィヴィアンのヴィヴィアンの声が聞こえてきた。アンジュとフィオナは顔を見合わせ、それから通信機に向かって返事をする。
「こちらアンジュ、生きてます。すぐに救助を要請します!」
すると、通信機の向こうから仲間達の嬉しそうな声が響いてきた。
「それじゃあね、アンジュ、グレイス」
別れを言ったタスクは去って行って、アンジュは去って行ったタスクを見届けた。
「変な人」
「もしかして、アンジュさん……タスクに惚れちゃいました♪」
それに少々キレたか、アンジュはグレイスの足を踏みつけて、それにグレイスはもの凄く痛がるのだった。
数分後、サリア達が乗った輸送ヘリが到着して、アンジュとヴィルキスを乗せてアルゼナルへと帰投し、グレイスも輸送ヘリの後を付いていくと……。
「ん?」
島の隣にある隣島の方を向く。
「……!?『(痛い!!……苦しい!!……誰か…助けて!!)』」
頭の中から、女の子の声が響き渡り、輸送ヘリから離れる。
『グレイス!どこ行くの!?』
「あの隣の島……誰かが僕に助けを求めている!」
グレイスは隣島に着陸し、砂浜に上げられた人影を見て驚く。それは背中まで伸びたピンクの長髪、薄紅色の唇、吸い付くような肌をした全身全裸の美少女であった。
「!?」
グレイスは美少女を安否を確認する。
「……息はある、おい!しっかりしろ!……!?」
よく見ると、彼女の横腹に銃で撃たれた穴があり、血を流していた。
「っ!!こちらグレイス!隣島にて負傷者を確認!左横腹に2ヶ所銃弾跡及び大量流血、至急救助を!『了解、何とかして応急処置をして。』了解」
グレイスはリベリオンから前もって応急処置キット備えており、止血剤と鎮痛剤、そして消毒薬の噴霧器と弾丸摘出用鋏を持って少女の所へ駆け付ける。グレイスは彼女の胸に手を当て、心臓マッサージをし、人工呼吸を施す。グレイス願いを込めて人工呼吸を続ける。そして、
「がはっ!はあ、はあ、はあ……」
彼女が息を吹き返し、呼吸を始める。それを見たグレイスはへたり込んで安堵する。
「よかった。、息を吹き返した……と言っても、まだ終わっていない」
グレイスは穴に止血剤、消毒薬の噴霧器、鎮痛剤をし、弾丸を取り出す摘出用鋏を持つ。
「ここは……どこ?」
「ただの無人島だ…それに喋らないで!…痛いかもしれないけど……耐えて!」
弾丸摘出用鋏が彼女の横腹に空いている穴の中へ入った。
「アアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!」
あまりの痛さに、彼女は悲鳴を轟かせた。それから、輸送ヘリが到着し、彼女は全身全裸な為、毛布で体を包み、ヘリに乗せるのであった。
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第十二話:謎の少女
無人島から無事に帰還したグレイス達は、隣島で倒れていた少女の身柄を確保し、アルゼナルに帰投する。少女は検査の為、ジルに連れられる。グレイスは尋問室のドアの前で待っていた。
「……(それにしても、あの子何であんな所に倒れていたんだ?…それに…)」
グレイスは少女から取り出した弾丸を見る。
「(何であの子の横腹にこれが?…それだとしたら、普通にアルゼナルに送れば良いことなのに、もしかして重要人物?)」
グレイスがそう考えていると、ドアが開く。中からアルゼナルの制服を着た少女とジルが現れた。
「グレイス、コイツを医務室まで案内しろ。見たところ……お前と同じ記憶喪失だ。」
「僕と同じ……分かりました。」
「頼んだぞ」
「イエス、マム」
グレイスはジルに敬礼し、少女を医務室まで向かう。グ医務室にはやや酔っ払ってるマギーがいた。
「酒臭…」
グレイスは予めに持っていた洗濯ばさみで鼻を摘み、少女は鼻を抑える。
「おや、その子が例の少女かい?」
「そうだ。というか、マギー先生。あなたはまたお酒を飲んでいたのですか。顔が赤いですよ」
「大丈夫よぉ。ほんの少しだけだからさぁ、ヒック」
「あなたの少しは多いんだから、」
マギーの体たらくに呆れるグレイスだったが、すぐに気を取り直す。
「あんた、何も覚えていないのかい?」
「はい…」
「この世界のルールや自分の事も?」
「はい……」
少女は酒の匂いに顔を顰めながらも答える。
「……困ったねぇ、グレイス以上の記憶喪失とは…初めてだよ」
「僕以上に…ですか?」
「ジルが言うには、気が付いたらアンタが目の前におって、弾丸を取り出していたと……それだけのことだ。他は何も覚えていない」
「……」
「まぁとにかく身体検査と簡単なカウンセリングするから、あなた。ここに座ってもらえるかしら…グレイスは出た方が良いと思うぞ♪」
「分かりました」
グレイスはそう言い、部屋の外に待つ。それから、少女はマギーからいろんな検査を受けた。身長や体重の測定、注射での採血、全裸にされて身体の隅々までも調べられた。それが終わると今度はカウンセリングが行われた。文字の読み書きから始まり、マナやノーマの事、この世界の国の名前など様々な事を質問された。しかし、少女自身の事に関する質問には何も答える事はできなかった。ちなみに、マナが使えるかどうかの実験もして、使えなかったので普通のノーマと認定された。外で待っているグレイスの所に、ジルが来る。どうやらマギーから来てほしいとの連絡があったらしいと、ジルは医務室に入り、数分経つうちに、扉が開き、少女を連れたジルが現れると、ジルがグレイスに言う。
「グレイス、今日からコイツの担当を任せる。それと名前はお前に任せる…以上だ。」
「え?…はい」
ジルはそう言い、去るのであった。取り残されたグレイスと少女は黙ってみる。
「え〜っと……取り敢えず、アルゼナルを案内するから……」
「……はい」
グレイスは少女を連れて、アルゼナル内を案内する。先ず来たところはジャスミンモールであった。
「ここがジャスミンモール、アルゼナルで唯一の購買所であり、日用品からパラメイルの武装まで幅広く扱っている。キャッシュは主に此処で使われが…後、ビリヤード台やクレーンゲーム、バスケットコート等の遊具もあって、戦いに明け暮れるノーマ達の憩いの場でもあるんだ♪」
「憩いの場……」
彼女はジャスミンモールを眺めていると、グレイスの所に番犬であるバルカンが近付いてくる。
「あ、バルカン」
グレイスはバルカンの頭を撫でる。
「さて、次は…あれ?」
目の前にいた筈の彼女がいなくなっており、辺りを探していると、バルカンがジャスミンモールの方に吠える。
「ん?」
ジャスミンモールの遊具等の所に、何やら人が集まっていた。よく見ると、突然いなくなった彼女がおり、ロザリーやヒルダ、クリスに喧嘩を売られていた。どうやらロザリーがゲーム機に見ている彼女を見て、初心者狩りを始めようとしていた。さっそく対戦ゲームでいざ勝負となるが……。
「は!速すぎる!!?」
必死にコマンドボタンを押すロザリー。対戦相手はいなくなった彼女であり、素早い操作で、ロザリーのアバターを叩きのめしていく。
「あり得ない!あり得ない!あり得ない!!」
ロザリーはズルをしようと裏技をするが、彼女はそれも読んでいたのか、さらに加速し、裏技の効果を無効化にする。
「んなアホな!?」
するとどうやって操作しているのか、彼女のアバターがロザリーのアバターに向かって指を前後にクイクイっと動かし、挑発させる。
「なめやがっ!!?」
一瞬だが、彼女のアバターの拳がロザリーのアバターの腹部に炸裂し、百烈拳で体力を奪う。そして残りの体力が一になると同時に、止めの蹴りが炸裂した。画面上にロザリーのアバターが負け、彼女のアバターが勝ったことに、ロザリーは腰が抜ける。
「馬鹿な……普通の新入りに負けるなんて」
ロザリーはあまりのショックに力も入れなかった。グレイスは心配そうに彼女に話す。
「大丈夫?」
すると彼女はピースサインと笑顔で返す。
「ロザリーさん大丈夫ですか?」
「……」
「まぁ、新しく入った子にはそういう人はいますから…」
「違う」
「え?」
「アイツは紛れもなくヤバイ奴だ……」
「どういうことですか?」
するとグレイスが画面に表示されているアバターの体力やタイマーを見る。
「え!?」
タイマーは60秒間であり、それが50秒でストップしており、彼女のアバターの体力はフルであった。
「まさか!?あの子…ノーダメで10秒でロザリーさんをノックアウトしたの!?しかも難易度をハードにしてる!?」
まさかの結果に、ロザリーは彼女の方を向く。
「アイツの動き……本物の"怪物"だ」
ロザリーは彼女の実力に差が付き、凄い表情で睨んでいた。
そして食堂やパラメイルの格納庫の説明もしていく。部屋はグレイスの部屋を使って良いと、ジル司令に許可された。グレイスは彼女……名前を『ティア』と名付けた。("ティア"とは…英語で『涙』を意味しております。)
夜になり、グレイスとティアは食堂で一緒にご飯を食べていた。今日はエルシャ特製のカレーだから、運良くあのノーマ飯を食べずに済む。
「どうかな?エルシャのカレーは……」
「…美味しいです」
「そっか、良かった」
グレイスは感心していると、サリア、ヴィヴィアンが近付いてくる、
「グレイス、その子の隣良いかな?」
「ティアの隣ですか?…良いですよ♪」
サリアはティアの隣に座る。サリアは何やら、厳しい目でティアを監視する。それに気付いたティアはサリアに問い掛ける。
「どうかしましたか?」
「いえ、別に……」
「?」
食事を終え、部屋でティアと共に待機していると……警報が鳴り響く。グレイスは急いで部屋から出ると、ティアがグレイスの手を掴む。
「!?」
「……気を付けて行ってください…グレイス君」
「…分かった」
グレイスはそう言い、急いで格納庫へと向かっていった。グレイスの部屋で一人だけとなったティアは部屋の灯りを消す。すると彼女の足に変化が起きる。
「う!!」
足から赤い鱗が浮かび上がり、横腹にエラ、手には水掻き、耳にもヒレ、そして足が完全に一体化し、尾ビレを生やしたこの世とは思えない程の美しい人魚へと変異した。
「あのグレイスと言う少年、もしかして、私の事も覚えていない……こんな時、御兄様や彼女達がいれば……」
ティアは胸に手を当て、悲しそうな表情をする。
一方、アルゼナルではない、何処かの施設。薄暗い中で白衣を着た金髪の小さな女の子がパソコンで何やら情報を探っていた。彼女の後ろには、数人の影が立っていた。
「よぉ〜し!お前達、アルゼナルに行く準備は出ているか?」
陽気な少女はその影達に、宣言すると、影達は頷く。格納庫では、輸送機に見せかけた船があり、輸送機に、双頭の蛇と騎兵銃のマークが描かれていた。
何かグダグダですみません。次回からは、ついにモモカとオリジナルキャラの登場です。
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第十三話:外界からの来訪者達
アルゼナルの発着デッキでは物資の搬入が行われていた。
「食料4、衣料1、医薬品1、補修用資材3。はい、確かに受領しました」
「このブラジャー入りのコンテナはジャスミンモールへ運んでくれよ」
「確かに受領しました、今後ともよろしくお願い致します」
『では後ほど』
そうエマは敬礼で通信をつないで話している間に物資に人影が入り込んでいた事に気が付かなかった。
エマが通信を終えようとすると。
『あっ、もう一つ忘れておりました』
「何が…えっ!!?」
エマが画面に書かれている内容に驚いていて、ジャスミンも驚く。
物資の搬入が終わると今度は第1中隊が任務を終えて帰ってきた。
「総員、かかれ!チンタラやってると晩ごはんに間に合わなくなるよ!」
「イエス・マム!」
メイが整備員達に激を飛ばす。と、パラメイルの間を縫う様に先程の人影は移動していた。
「アンジュ、おっす!や~、今日もキレッキレだったにゃ~」
そしてドラゴン狩りを終えたグレイス達はアルゼナルへと戻って来て、更衣室へと向かっていた。
そんな中でヒルダ、ロザリー、クリスの三人は不満な顔をしている。
「クソ!またアイツだけ荒稼ぎしやがって! おまけにデカいのはあいつばっか!!」
「それは仕方ないとして…なんで生きてるの?」
「どっちがゴキブリなんだか…」
アンジュの荒稼ぎに不満を持っている三人、ロザリーは胸からネジを取り出しアンジュの頭部目がけて投げ突けようとする。
「アイツの頭にネジ穴開けてやる!」
「だ!駄目だよ…司令に怒られる」
叱りを怖がるクリスの言葉にロザリーはちょっとやばいと表情をするが、それをヒルダが言う。
「バレなきゃいいじゃない」
「…それもそうだね」
ヒルダがそう言った事にクリスも悪乗りする。
「そういうこと、これでも喰らいな害虫女!」
ロザリーがネジを投げようとした瞬間、基地中に警報が鳴り響いてロザリーは慌てる。
「ひえっ!?違います違います!私何もしてませんよ!?…ん?」
『総員に告ぐ!アルゼナル内に侵入者有!対象は上部甲板を逃走中!直ちに付近の者は侵入者確保に協力せよ!』
「侵入者!?」
それに驚くエルシャに対し、グレイスは首を傾げる。
「兎に角向かうわよ! 上部甲板の侵入者を対処する!」
「「イエス・マム!」」
「了解」
グレイスは銃を持ってスライドさせて、初弾を送り込んだのを確認して向かう。
そして上部甲板で一人の少女が警備員から逃げていた。
「いたぞ!!」
「この!!」
一人の警備員が警棒を振り下ろすも、その少女は『マナ』を使って弾く。
到着したグレイス達、とくにグレイスとアンジュはそれを見て驚く。
「あれは…」
「マナの光!?」
追い込まれた少女はその場にしゃがみ込んで叫ぶ。
「やめて下さい!!わたくしは!…わたくしはただ! アンジュリーゼ様にお会いしに来ただけなのです!!」
その少女の顔が明かりで照らされた事に、アンジュはそれを見て思わず…。
「モモカ!!?」
「何?」
「え?」
その少女……モモカはアンジュの方を見てしばらく唖然とする。
「もしかして…アンジュリーゼ様?」
すっかり変わり果てたアンジュの姿にモモカは目に涙を溢れさせ、そのままアンジュの元に駆け寄る。
「アンジュリーゼ様〜!!!」
モモカはアンジュに抱き付いて泣きつき、それに戸惑いを隠せないアンジュ。
「ちょ、ちょっと…」
その様子に隣に居るグレイスは銃を見て、マガジンを外して、銃口内に入ってる弾をスライドさせて取り出してキャッチする。
「知り合いですか?」
「…」
その事に黙り込むアンジュ、グレイスはそれ以上問わなかった。
モモカがやって来たことに司令部では…。
「モモカ・荻野目、元皇女アンジュリーゼの筆頭侍女です、はい…元皇女に世話を…えっ!? …はい…では」
エマは受話器で上司と話し合ってる中でとんでもない命令に渋々了解して受話器を置く。
隣で聞いていたジルは煙草を吸いながら問う。
「委員会はなんと? ふぅ~…予想通り…ですか?」
「…あの娘を国に戻せば、ドラゴンの存在にそれと戦うノーマ。最高機密が世界に漏れる可能性があると…何とかならないのですか? 彼女は“ただ”ここに来ただけなのに」
「ただ来ただけ…ね、っまノーマである私には人の作ったルールを変えられる力などありませんから、せめて一緒にいさせてあげようじゃないですか、今だけは…」
それにエマは椅子にもたれながらため息をする。
「そう言えばまた問題が起きたようですね? ジャスミンから聞きましたよ」
「え? あ…実は明日、このアルゼナルに科学者と他のメイルライダーが参られるようなんです」
「科学者に他のメイルライダー?」
エマの言葉にジルは耳を疑う。
「えぇ、特にその科学者は…マナの研究として、アルゼナルに属されるそうです。名前は……アカリ・ヤマツ…」
「!?」
その名前に、ジルは驚くのであった。
翌朝、グレイスは食堂へ向かっている時、下の方から、モモカの声が聞こえていた。どうやらヒルダ達がアンジュに席を譲らなかったことにモモカは反発していた。
「なんたることですか!!アンジュリーゼ様に席を譲りなさい!」
「(うわぁ、モモカさん.....ヒルダさん達と堂々と張り合うなんて.....)…仕方ない」
グレイスは食堂で言い争うモモカとヒルダ達の口論を止めに行く。
「はいはいそこまで、ここは食堂だから。もめごとを起こさないでください」
「そうよ♪食事中は静かにしないと、作ってもらった人達が困るでしょ?」
するとグレイスの頭上から、巨大な何かが出現し、グレイスの頭を覆い尽くす。
「!?」
グレイスは頭を覆い尽くしている何かに触れる。
「あれ?何だこれ……柔らかい?」
グレイスは離れると、その正体が明らかになった。それは……。
「!!」
普通の女の子よりも背が大きく、エルシャと同じおっとりとしており、そして何より一番目が入ったの物はその"胸"であった。アルゼナルで唯一胸が大きい人物であるエルシャよりもデカかった。あの胸…絶対にIカップ行っている……。長身の少女はヒルダ達とモモカに注意するが、皆は驚いていた。
「あら〜?皆さんどうかしましたの〜?」
《…………》
「まぁ、それは置いていて♪」
大きな少女はカウンターまで行き、配給食を貰う。だが驚くのはその配給食の量であった。少女は山盛りの配給食を数分で平らげ、去って言った。
「……何だ…あの女?」
「デカすぎる、しかも何あの桃っぷり…凄い敗北感…」
ロザリーとクリスあの少女の胸の事を考える。嫌そっちじゃなく、普通は身長だろ!?。ヒルダは何やら不機嫌そうな表情をしながら、不味い配給食を食べるのであったが、突然モモカがお腹を空かしてしまい、その場で倒れてしまうのであった。
数分後、アンジュとグレイス、ティアはモモカをジャスミン・モールに連れて行き、ファストフードの自販機でハンバーガーを買う。
「それ、あなたの…」
「いただきます!」
モモカはハンバーガーを食べる。
「いつから食べていないのですか?モモカさん」
「…丸々三日も食べていなかったので……」
「うわぁ……アンジュさん探すのにどれだけ費やしたんだろか…」
グレイスがそう言っていると、アンジュがポーチからお金を取り出すとモモカに渡す。
「それからこれを使って、欲しい物を買うの。これは私からの餞別。大事に使ってね」
モモカはアンジュからもらったお金を手に取り、興味深そうに眺める。
「これがお金という物なのですか?ありがとうございます。貨幣経済なんて不完全なシステムだと思っていましたが、これはこれでなんだか楽しいですね」
「そう?」
「あ、ああああああああああっ!!!」
1人のノーマが苦痛に見舞われながら、マギー達医療班に担架で運ばれていた。
「何なのでしょうか、あれ?」
「モモカさん、見ない方がいいと思う……。」
「え?それはどういう……」
モモカが疑問に思っているとその答えはすぐに明らかになった。ノーマの子の片腕はなくなっており、その子の傍らに置かれていたのだ。血に塗れて。それを見たモモカは食べていたハンバーガーと見比べてしまい、吐きそうになる。ティアの目を覆い隠していたグレイスが離れると、モモカが動揺する。
「ここは一体、何をする所なのですか?」
モモカが怯えながらグレイスに尋ねると、アンジュが去りながら言う。
「狩りよ、私もいつああなるか…」
アンジュが去るの見るグレイスは少し心配そうな表情をするのであった。
それからと言うもの、モモカは必死にあの頃のアンジュを思い出させようと、ロッカールームにアンジュ用のタンスを置いたり、部屋の内装がお嬢様風な部屋へとビフォーアフターされていたり、翌日、朝食を食べようと食堂に行ってみるとガーデンテラスがレストラン風に改装されておりそこにはテーブルに並べられた料理と案の定、モモカがいた。
「おはようございます、アンジュリーゼ様。今日はアンジュリーゼ様が大好きだったヤマウズラのグリル、夏野菜のソース添えになります。これでアンジュリーゼ様も元気百倍に……」
「いい加減にして!!」
度重なるモモカのお節介に業を煮やしたアンジュは料理をひっくり返そうとテーブルクロスを掴む、下へばら撒かす。
「うわぁ!勿体なし!」
ヴィヴィアンがせっかくの美味しそうな料理に、声を上げる。
「ハァ…ハァ…」
「…アンジュリーゼ」
「私の名は、アンジュよ!!何度言ったら分かるの!?これ以上私に関わらないで!!」
アンジュはそう言い、食堂を去るのであった。
昼、第一中隊の面々は射撃場で射撃訓練を行っていた。エルシャはドラゴンに見立てた的に向かって撃つが、
「あら~、ダメねぇ」
彼女が撃った弾は的から大きく外れた。重砲兵という役職に反して、射撃は余り得意ではない様である。
一方でサリアが撃った弾は見事に的の中心を穿った。
「ど真ん中!お見事~、いつまで経ってもサリアちゃんみたく上手く当てられないわねぇ。何が違うのかしら?」
エルシャは胸から取り出したハンカチを振りながらサリアの腕を褒めるが、サリアはエルシャの胸を見ながら舌打ちをする。
「ちっ、四次元バストが……」
実はサリアは年齢の割に胸が小さい事に密かにコンプレックスを抱いていた。するとサリアの横からさっきの長身の少女がライフルを構える。
「よいしょっ♪」
サリアはエルシャより大きな胸を見て、さらに舌打ちする。
「くっ、九次元バスト……」
サリアがそう思っていると、別の銃声がする。長身の少女の横に黒髪で眼鏡をかけたツインテールの少女が、スナイパーライフルを構えていた。
「秒速940メートルですか……アルゼナルのライフルも、悪くありませんね」
その少女は秒速も読んでいたのか、眼鏡を掛け直す。
「も〜!メタちゃんまたカッコつけちゃって〜」
「デカパイの姉さんには言われたくない発言です。」
すると黒髪の少女が、サリアに近付き、自己紹介する。
「申し遅れました…第一中隊の隊長"サリア"さん。私は今日ここアルゼナルに参りまして、アルゼナル特装小隊隊長"メタリカ"と申します。そしてこちらがアルゼナル特装小隊"セシル"です。」
「も〜!何でメタちゃんは私の事をお姉ちゃんって呼ばないの?子供の頃は何時もお姉ちゃ〜んって泣きながら私の胸に飛び込んできたのに〜」
セシルがメタリカに抱き付く。
「あれはセシルが勝手に、あ、失礼しました。今後とも、よろしくお願いします。」
メタリカはサリアに手を差し伸べ、握手を交わす。
「それと博士もいますが、彼女等にもよろしくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ。」
「ええっ!?あの侍女が殺されるって、マジかよ!」
同じ射撃場にて、ロザリーの声に射撃訓練をしていたアンジュが反応する。声がした方を見るとヒルダ達が訓練もせずに井戸端会議を行っていた。
「アルゼナルやドラゴンの存在は一部の人間しか知らない極秘機密だって事は知ってる?」
「聞いたことある。ここにやってきて、秘密を知った人間を素直に返すはずがない」
「そういう事さ。かわいそうにねぇ。あんな冷血女を追って、こんな所に来たばっかりに死ぬんだからさ。あいつに関わった奴は碌な事にならない。酷い女だよ、ホントにさ」
ヒルダ達はアンジュを見てせせら笑う。アンジュも集中できずに撃った弾が的から大きく外れる。
部屋の中にいるグレイスが、ティアの肖像画を描いていると……。
「グレイス君……」
「ん?」
「……わたくしね、グレイス君に……謝らなければならない事があるの…」
「何?」
「私ね……実は憶えている事があるの」
ティアの言葉に、書くのを止めるグレイス。
「え?」
「ラルスとリベリオンを作った人の事だけど……」
「ラルスとリベリオンを作った人……」
「……彼等を作ったのは、あなたの父なの。」
「僕の……お父さん?」
「いえ、正確に言ったら…彼の遺伝子で作られた種って言っても良いかもしれません」
「父の…遺伝子で?何の為に?」
「ある計画の為なのです……その計画とは…」
ティアが話そうと時に警報が鳴り響いて、グレイスは向かう。
着替えてすぐにライダースーツに着替えて格納庫へと向かう。
格納庫でパラメイルが上昇して来ている中、ロザリーがアンジュにやや意地悪を言って来たがそれをアンジュは無視する。
「総員騎乗!」
皆が各機体に乗り込んでいる中でアンジュの元にジルが居て話し込んできて、その様子をグレイスは黙って見ていた。そしてジルはアンジュに任務完了と言った後去って行き、各機ドラゴン狩りへと向かうのであった。
数時間後…。
「あんのクソアマァ…!! 戦闘中にアタシの機体をまた蹴っ飛ばしやがってえー!」
「邪魔って…私の事邪魔って…!」
ドラゴンを撃退しアルゼナルに帰投した第一中隊、しかしその中でロザリーはアンジュが戦闘中に蹴っ飛ばされた事にキレて、クリスは邪魔と言われた事に混乱していた。
そしてサリアとヴィヴィアンとエルシャは着替える為に更衣室に向かっていた。
「いや~今日のアンジュはピリッピリだったにゃ~!」
「何呑気な事言ってんの! とんでもない命令違反よ…あんなの!」
「ヒィ!?」
サリアの怒鳴りに思わず引くヴィヴィアン、エルシャは落ち着かせる。
「まあまあ落ち着いて」
「これが落ちついていられる訳ないでしょう!? 一人でほとんどのドラゴンを狩るなんて…聞いた事ないわ!」
勝手な事をし、微妙な命令違反?を起こしたアンジュに不満を持つサリア。
そして滑走路でモモカが荷物を持って輸送機の所までやって来て、ジルとエマの前でお辞儀をする。
「お世話になりました、アンジュリーゼ様に『短い間でしたがとても幸せでした』宜しくお願いします」
「ええ…(これで良かったのかしら?)」
そうエマが思った所に。
「待って!!」
っと皆が振り向くと、アンジュと何やら大量の札束を持ったグレイスがやって来た。
「アンジュリーゼ様!」
「何で僕がこれを持たなきゃならないのですか!?」
「男でしょ!文句言わない!!」
グレイスはアンジュの札束の事に文句を言うも、アンジュに黙らされる。
「その子!私が買います!」
「は?…はあー!?」
アンジュの突然の発言にエマは驚き目を丸くしている。
「ノーマが人間を買う~!?こんな紙屑で…!?そんな事が許される訳が!」
「良いだろう」
「はい!?」
ジルの放った発言にエマはまたしても驚きを隠せない。
「移送は中止だ。その娘はアイツのものだ。それにここでは金さえあれば何でも買える、それがここのルールですから」
「そ!そんな! ちょ!ちょっと待って!」
エマはすぐにマナで札束を持って去って行くジルの後を追いかける。
そしてアンジュはモモカと向き合う。
「本当に良いですね?…私。アンジュリーゼ様の…お側に付いても宜しいのですね?」
「…アンジュ」
その事にモモカは唖然とする。
「私の名はアンジュよ」
「は…はい! アンジュリーゼ様!」
と喜びの笑顔でアンジュに付いていくモモカの様子にグレイスは微笑みを浮かばせる。
「良かったな、モモカちゃん…ん?」
っとグレイスの所に、ティアが来る。
「ティア?」
「さっきの話の続きですが……」
するとティアがグレイスの耳元で話し掛ける。
「(誰もいない所に来てください……あなたに見せたい物があります…)」
ティアはそう言い、グレイスを何処かへと連れて行く。ティアに連れられて、着いた場所はアルゼナルの裏側の海岸であった。
「ティア…見せたいものって?」
「う!」
「?」
突然ティアが苦しみだし、グレイスが慌てる。
「大丈夫……!?」
すると彼女の足に変化が起きる。足から赤い鱗が浮かび上がり、横腹にエラ、手には水掻き、耳にもヒレ、そして足が完全に一体化し、尾ビレが生える。
「ティア…君は一体!?」
するとティアの口から血が出ると、グレイスに近付き、キスをする。
「っ!?」
それと同時に、ティアの血がグレイスの喉へと入る。
「!!?」
すると、グレイスの頭の中に、何かが浮かび上がる。それはリベリオンの設計図であり、各種のフォルムが浮き出る。基本形態のプリミティブ・フォルム。戦闘特化形態であるアドバンスド・フォルム。他にも重装形態、特殊能力形態、軽装形態が存在していた。グレイスはあまりの出来事に、ティアから離れる。
「……」
「……あなたとリベリオンの能力を開放させました。ある人物の企みを壊すために……」
「ある人物?」
「ですが、この話は長くは話せません。……ジル………アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツを信用してはいけません……。そしてこの事や私のこの姿を絶対に誰にも知られてはなりません……」
ティアはそう言い、元の姿へと戻る。
「(アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ?誰の事なんだ?それより、ティアに質問してみよう…)……ティア、君は………人魚なの?」
グレイスは緊張の溢れる中、質問をしていくのであった。
その頃、ジルの司令室では、ある博士が来ていた。
「来たな……狂信少女アカリ・ヤマツ博士」
その少女はメイよりも一つ年下であり、金髪の短髪、狂った様な朱眼、綺麗な白衣を来ていた。
「そう言うアレクトラも、元気そうで良かったよ♪」
「お前の様な小娘には言われたくないね……」
するとジャスミンがアカリに言う。
「久しぶりだね……アカリ姉さん」
何と、アカリはジャスミンの姉である。
「ジャスミンも…婆さんになっちゃったなぁ♪」
「六歳に若返っても、アカリ姉さんは変わらないなぁ…」
するとジャスミンの隣にいたバルカンがアカリに近付き、尻尾を振る。
「アンタが"あっこ"からここに戻って来るとは思っていなかったよ……やはりあの二人に興味を持ったんだろ?」
マギーが、ある資料をアカリに渡す。
「えぇ、この二人は何れ……これから私達の運命を大きく左右する事にもなるだろう。」
資料にグレイスとティアの写真が貼られており、その下にこう書かれていた。
『曙光のグレイス』。『宵闇のティア』。
「この呼び名を付けたのは……アレクトラだろ?」
「フフ……まぁ、な。それに、他の10人はどうしている?」
「ヴィルキスの狂戦士である『大樹』、『岩壁』、『湧水』、『紅蓮』、『鍛鉄』の名を持つベルセルク。
ヴィルキスの女戦士である『深緑』、『淡水』、『精金』の名を持つアマゾネス……」
「人間ならざる12人の守り手達と導くヴィルキスが揃いし時、掌握する神様と四天王を殺す……アカリ、お前という奴は本当に狂った博士だ。」
「まぁね♪」
アカリは不気味な笑顔をジルに見せつけるのであった。
活動報告にて、オリジナルキャラである残りの戦士達を募集しますのでお願いします。
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第十四話:秘密の優雅・前編
『隊長日誌 三月三日ドラゴン出現。我が隊に出撃令が出される。だが、またもアンジュが命令を無視し独断先行。アンジュ単騎にて突撃し目標を撃破』
その日の夜、サリアは自室でこれまでの作業内容を記録に残していた。
『しかし突如もう一体のドラゴンが出現、これをグレイスのリベリオンが撃退した。規律遵守の徹底それが出来ないのであればアンジュをヴィルキスから降ろすべきだと私は考えている』
そうサリアはまとめた内容をパソコンに打ち込んで、データを保存しパソコンを閉じた。
そしてまた翌日後…。
『隊長日誌、三月四日。アルゼナル外部より入伝あり』
アルゼナルの執務室で外部からの入伝をジャスミンがジルたちに言う。
その中に何故かグレイスも呼ばれていた事にサリアが疑問を持っていたのは言うまでもなかった。
「『ガリアの南端に到達、しかし仲間の姿は見当たらず。そこでドラゴンと遭遇し、所持していたパラメイルで撃退した。今後はミスルギ方面に移動し、捜索を続ける』。生きてたんだね、あのはなたれ坊主」
「フッ」
「タスク…? はっ!」
「そうだ」
ジルはサリアがある事に気が付いた事に頷く、それは流石のグレイスには分からなかった。
「アンジュを助けたのがあいつだったなんてね」
「じゃあヴィルキスを修理したのはその『騎士さん』だったんだ!」
「(?…騎士??)」
メイがマギーに言いながらマギーは「多分ね」と言う。グレイスはメイが言った言葉の意味が分からず、頭を傾げる。
「まさか…アンジュはグレイスが見つけてくれるまで、そのタスクと二人っきりだったって事?!」
サリアは思わず頬赤くして、アンジュとタスクの事を思う描く。それにこっそりとグレイスはニヤリと笑っていた。
ジルは煙草に火をつけ、一服した後に言う。
「ジャスミン、タスクとの連絡は任せたよ。いずれまた『彼ら』の力が必要になる」
「はいよ」
その事にグレイスはまたも疑問点が浮かび上がる。ジルが言った彼らとは一体何なのか、それはまだ分からん事だった。
そしてグレイスはその事に問う。
「ん? 彼ら……誰なのですか?」
「秘密の組織だ♪」
ジルはそう言い、グレイスにジルの目的であるリベルタスを話すのであった。
『隊長日誌 三月五日』
食堂でエマが何やら叫んでいた。
「ありえないわ!人間がノーマの使用人になるなんて!」
エマはアンジュがモモカを買い取った事にまだ納得していない様だった。
「ノーマは反社会的で無教養で不潔で、マナが使えない文明社会の不良品なのよ!?」
「はいはい」
アンジュは空になった器を置き、モモカが次の食事を差し出す。
「モモカさん! あなたはそれでいいの?!」
「はい!わたくし幸せです!」
満面な笑顔で言うモモカにエマは思わず呆れかえるのだった。
それを見ていたヴィヴィアンは飲み物を飲みながら言う。
「良かったねモモカン、アンジュと一緒に居られて」
っとその中でエルシャがため息をする。
「ん? どしたのエルシャ?」
「もうすぐフェスタの時期でしょ? 幼年部の子供たちに色々と送ろうか迷ってるんだけど…」
エルシャが通帳を見て苦笑いしながら言い、それにサリアが聞く。
「アンジュのせい? 何とかしなくちゃ…」
「どんな罰でも金でなんとかするだろうねアイツ…聞きやしないさアンタの命令なんてさ」
アンジュの事を考えているとヒルダがサリアに何やら嫌みそう言い放って。
「何が言いたいの?」
「舐められてるんだよアンタ。ゾーラが隊長だった時はこんな事なかった筈だけどね現隊長さん?」
っと挑発行為の様な発言に聞いていたココとミランダが止める。
「あの…」
「流石にそれは言い過ぎなんじゃ…」
「アンタ達は黙っていな!」
「「ひっ!?…」」
二人が収めようと止めようしたがヒルダに黙らされしまう、っとサリアがその場を立って、食堂を後にしようとしたその時。
「あ〜りゃりゃ、あの性根臭い小娘は…相当のプライドを持っているねぇ」
「誰?」
いつの間にかサリアの隣に、白衣を着た幼女が立っていた。
「申し遅れた。私はこのアルゼナルに先日お越しになったマナ専門の科学者のアカリじゃ♪お主はサリアじゃろ?妹やメタリカ、セシルから聞いているよ……特に妹はお前さんの趣味も知っている♪」
アカリはニヤニヤしながら、サリアを見る。
「!?」
サリアは驚き、顔を赤くしながら、食堂を出る。アカリが今度は、セシル、メタリカと一緒に配給食を食べているグレイスとティアを見つける。
「ティアを……アルゼナル特装小隊にスカウトさせたい?」
「そう、何時までもグレイス君がティアちゃんの分のキャッシュを稼ぐのは辛いでしょ?だから、ティアちゃんをアルゼナル特装小隊の一員として、訓練させたり、パラメイル操縦法を学ばせたいの…。」
「はぁ…それは構いませんけど、本人は……」
グレイスはティアを見るが、ティアは首を横に振る。
「ん〜…困ったなぁ」
グレイスがそう考えていると、
「何かお困りの様だねぇ、少年♪」
「?」
「あ、博士♪」
セシルとメタリカがアカリに手を振る。
「博士?」
「それは置いといて、話の続きになろう。そのティアと言う少女……君が面倒を見ているのだろ?」
「え?はい…」
「その子が何故、戦うの拒否するか……それはコミュニケーション不足なんじゃ」
「コミュニケーション不足?」
「人は学べば知力が増す。この子にはその知力と……話し相手の友達が必要なのじゃ。」
「それって…ただ単に寂しい思いをさせないことなのですか?」
「そういう事だ♪」
グレイス達は、ティアの知力を高める為、ジャスミンモールで面白さと楽しさを学ばせるのであった。
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第十五話:秘密の優雅・中編
皆より食堂を後にしたサリアは何やらもの凄く不満な表情をする。
「(皆…ほんと自分勝手、私だって好きで隊長をしてる訳じゃ…)」
っとそう不満を持つサリア、隊が身勝手な事ばかりとアンジュの好き勝手な行動と言う事にストレスを溜まらせていく事に徐々に耐え切れなくなり、彼女はそのままジャスミンモールへと向かう。
到着した所にジャスミンに札束を渡し、それにジャスミンに言う。
「…『いつもの』」
「…一番奥を使いな」
そう言ってサリアは『ある物』を持って試着室の一番奥を使いに行った。
同時にグレイス達がやって来た。
「取り敢えず、ティアのコミュニケーションの為だセシルさんとメタリカさん、ティアに似合そうな服をお願いします。」
「オッケー♪」
「分かりました。」
セシルとメタリカはティアに似合そうな服を探し出す。セシルとメタリカが選んだのは、ゴスロリ服であり、試着しようとジャスミンに問う。
「ジャスミンさん、試着室借りても良いですか?」
「一番奥を使いな」
そう言ってグレイスはティアを連れて、一番奥の試着室へと向かう。
「…あ」
とジャスミンは忘れていた事を思い出した。一番奥の試着室には確か…。
ティアが試着室のカーテンを開けた先には…。
「…?」
「え?」
何と何かの可愛らしいコスプレを着ていたサリアがおもちゃのステッキを持って、踊っていた姿がティアの目に映った。
一瞬の事にティアとサリアは呆然としていて、そしてたちまちに頭から大量の冷や汗が流れだして来て。気付いたサリアも気まずい表情をする。ティアは首を傾げ、普通の表情で、カーテンを閉める。
「ティア?」
「使われていましたわ」
「ありゃりゃ……」
グレイスは誰か使用されていた事に、気まづくなり、止めに行こうとしたジャスミンが遅かった事に手に頭を載せて後悔してしまう。さらにアンジュにもコスプレ姿を見られ、自体は悪化する。それは夜のことであった。
「力加減いかがですか?」
「悪くないんじゃない」
風呂場でモモカがタオルでアンジュの体を洗っており、ティアも湯船に浸かっていると、不意に背後のドアが開く音がし、サリアが現れる。
「「「?」」」
制服姿のまま、サリアが無言で俯きながら佇んでおり、明らかに不自然だった。アンジュを睨みつけ、腰からアーミーナイフを抜く。ギョッと驚くティアを他所に、サリアは一気にアンジュに襲いかかる。
「殺すっ!」
殺気を剥き出しに襲い掛かるも、アンジュは予測済みとばかりに、突き出されたナイフを持っていた洗面器で刀身を防ぎ、動きを拘束する。歯噛みするサリアと冷静に見やるアンジュにティアやモモカは訳が分からずあわあわと混乱する。
「何の真似よ!?」
「見られた以上、殺すしかない!もちろん!ティアも!」
「ただ見られただけで、何でナイフ突きつけるのよ!!それに何で殺されなきゃならないのよ!関係もないのに!」
「っ!?…関係…ない!?」
アンジュはアーミーナイフが刺さっている洗面器を風呂場に投げ捨てる。
「キャッ!」
ティアも急いで湯船から上がり、モモカの後ろに隠れる。
「関係ないですって!?私達はチームなのよ!なのにあんたが勝手なことばっかりするせいで!」
「後ろから狙い撃って、機体を墜とそうとするような連中の、なにがチームよ!」
アンジュはサリアの腕を掴んだまま、湯船へと投げ飛ばした。
湯船から起き上がるサリアだったが、投げ飛ばされた拍子に剥ぎ取られたのか、上半身が裸になっていることに思わず胸元を隠す。
そんなサリアを一瞥し、剥ぎ取った制服を捨てると、アンジュは鼻を鳴らして言い捨てる。
「連中を止めないってことは、あなたも私に墜ちてほしいんでしょ?」
その指摘にサリアは一瞬詰まり、アンジュはそれみたことかとばかりに言葉を続ける。
「あなた達に殺されるなんてまっぴらよ。だから私は、あなたの命令なんてきかないわ」
「いい加減にしなさい!!」
その自覚はあったのか、僅かにアンジュを動揺させ、サリアは再度掴みかかり、アンジュも反撃しながら力を入れるも、その反動で足元がおぼつき、縺れ合ったまま湯船に落ちる。
顔を出すアンジュにサリアは鼻声で罵倒する。
「私が隊長にされたのも! みんなが好き勝手いうのも! ティアにも秘密を見られたのも! ヴィルキスを盗られたのも!」
アンジュの胸を掴み、強く握り締めるサリアにやり返そうと手を伸ばすも、アンジュの手は空を切り、手応えがないことにアンジュは戸惑う。
客観的に…それでいて致命的な言刃にサリアは一瞬にして羞恥と怒りで顔を真っ赤にし、胸元を隠す。ワナワナと震えながら、眼に涙を浮かべ、アンジュを睨みつける。
「全部あんたのせいよ!」
「はぁぁぁぁ?」
あまりに支離滅裂な言いがかりにアンジュも思わず上擦った声を上げる。サリアは悔し涙を浮かべながらアンジュに掴み掛かり、アンジュも反撃する。二人が争っていると、背中から別の声が聞こえた。
「およ、なんじゃこりゃ?」
「あら、大変」
ヴィヴィアンとエルシャが眼前で繰り広げられている光景に眼を丸くする。
躊躇うティアとモモカも縋るように頼んでくる。
「あ、あの!アンジュリーゼ様を止めてください!」
「私からもお願いします!」
「ここはお風呂場だもの、溜まってた汚れは、しっかり落とさなくちゃ」
おおよその事情を察したのか、エルシャは何かを思いついたように室内に戻り、すぐに戻ってきた。手に二本のデッキブラシを持っており、戸惑う面々の前で、エルシャはデッキブラシをアンジュとサリア目掛けて放り投げた。
「はーい♪」
突然降ってきたデッキブラシを何の疑問も抱かずに二人はキャッチし、それを構えると今度はデッキブラシを使用しての激突に変わり、よりヒートアップしてしまった。
「あとは二人でゆっくりとさせてあげましょ」
エルシャがモモカの腕を取って引っ張っていく。その横で後ろ髪引かれるティアをヴィヴィアンが引っ張っていく。こちらは単に放っておいた方が面白いと思っているだけかもしれない。
「あ!アンジュリーゼ様!」
「このド貧乳が!」
「黙れ!筋肉豚!」
罵倒を浴びせながらエキサイトしていく二人を無視するのであった。その後、ぎを聞きつけたエマの雷が落ちるまで続けられ、お互いに殴り合いや叩き合いでズタボロになっていたアンジュとサリアは司令部に連行され、エマから延々と説教を受けられるのであった。だが、そのせいでティアがサリアに恐怖心を持ってしまい、顔を見ただけでグレイスの後ろに隠れてしまうのであった。だが、問題はさらに増えるのであった。
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第十六話:秘密の優雅・後編
「かぜぇぇ?」
翌日、朝のミーティングルームにヴィヴィアンの声が響く。
「湯冷めしたらしいわ」
淡々と述べるサリアにグレイスも肩を竦める。考えてみれば、サリアはともかく、アンジュはお風呂場で――しかも外に長く居たせいで身体を壊しても無理はないだろう。というよりも、その原因の一端は間違いなくサリアにもあるのだが……その視線を感じ取ったのか、サリアは心外とばかりに憮然としている。
モモカが言うには、外の世界ではそういった病気に対しても『マナ』の力で事前に治癒する術があるらしいのだが、免疫ができにくい。長くアルゼナルで育った者達は体内に抗体などの免疫を持っているが、最近まで外の世界にいたアンジュは抵抗力が極端に弱かったのだろう。
「アンジュは復帰するまで待機――当面は私達だけで任務に当たるわ」
事態の説明を受けたヒルダ達はさも当然のごとくニヤニヤと笑う。
「休んだら罰金いくらだっけ?」
「…一日百万キャッシュよ」
厭らしい笑みで呟くロザリーにサリアが応える。別に声に出して聞くまでもないことなのだが、わざわざ口して笑い合う。
「かわいそうにねぇ」
「破産しちゃえばいいのに」
アンジュさんがいないところで随分好き勝手言い合うヒルダ達。その後、パラメイルを使用しての訓練を終えた第一中隊は帰還し、解散となった。アンジュがいないだけで、特に問題も起きず、訓練を終えた。
ヒルダ達がアンジュの容態にまるで祝杯でも上げるかのように喜々として引き上げる。他人の不幸は蜜の味というが、あまりの小ささに呆れしかでてこない。
サリアは訓練中も終始睨んでいたので鬱陶しかったが…セラも特にすることもないので、引き上げていく。
「アンジュさん、大丈夫かな?」
居住区に戻るなか、ココが不安そうに呟く。
「ただの風邪みたいだし、数日休めば大丈夫でしょ」
幼年部の保健科目で風邪は『マナ』の力でも根絶できなかった病気の一つとして載っていた。それはウイルスがあまりに多様に渡り、様々な症状を引き起こすからだが、こじらせなければ2-3日程度で完治する。事実、幼年部でも時期によっては流行するため、ココやミランダもそれ程緊迫感はなかった。
「お見舞いに行ったほうがいいかな?」
「それで移ったらどうすんのよ」
嗜めるミランダにココは億劫になるも、どこか納得しなさげであった。
整備班が作業を行う格納庫にサリアが訪れていた。昨日のアンジュが倒れてから、訓練も問題なくこなし、さして問題も起こっていないことから、気分はいつもよりマシだった。
とはいえ、アンジュもずっとこのままではないだろうし、復帰してきて元の状態に戻れば元の木阿弥だ。そのためにも、どうにかしてアンジュをコントロールしなければならない。
その方策を巡らせながら、慌ただしく動き回る整備班を横に、サリアはヴィルキスへと近づく。やはり、この機体への憧憬を捨てることができず、焦がれるように見つめる。
「あ、サリア。なんか用?」
唐突に掛かった声に顔を上げると、ヴィルキスの整備をしていたメイが顔を出し、見つめている。
「お疲れ。どう、ヴィルキスの調子は?」
「アンジュの扱いが乱暴だからすぐにボロボロになるし、メンテナンスも大変」
肩を竦め、ぼやくように漏らすメイに思わず指を噛んでいると、
「あれ?隊長さん?」
「ん?グレイス」
「疲れているようですから、僕特製のバナナカクテルを調理場で作ってきました♪」
「ありがとう…」
グレイス特製のバナナカクテルはカクテルだけど、お酒は入ってなく、疲労回復にもなると言う。グレイスとサリア、メイはバナナカクテルを飲んでいると、サリアがグレイスに問う。
「そう言えば、グレイスはここへ何しに?」
「僕は、サリア隊長に怯えているティアを、どうすれば互いを和解させるか、ラルスにアドバイスをと。」
「……ねぇ、グレイス、私も……ラルスと話をしてもいいかな?」
「良いですよ」
グレイスは整備されているリベリオンに話し掛ける。
「ラルス、話したい事がある」
『何でしょうか?質問シークエンスに入ります。』
「サリアとティアの仲を良くするには、どうしたら良いの?」
『…互いを認識したり、敵ではないと言う行動及び、判断、助力をすれば、認識できます。』
「なるほど…」
グレイスが理解すると、サリアも問う。
「じゃあ、次は私……隊長としてだけど、どうすれば、皆は言う事を聞いてくれるの……」
『……答えは簡単……危険を抱え、部下を守る事です。』
「え?」
『部下を守り、どんな状況化に置かれ、状況に応じて、危険を顧みず、隊長としての本望と立場を見せつける。それが……真の隊長の役割です。』
するとメイがラルスに言う。
「つまり、もう誰も傷つけさせない……死なせない……ドラゴンの攻撃は、自分ひとりで受け止める……そういう事だね♪」
『正解です。』
メイとラルスの言葉に、サリアは深く考え込む。そして、パソコンで今まで記録してきた日誌を読んでいく。そこには、今までの戦死者数が全くなかったのである。
「まさかね……(でも、これがメイとラルスの言葉が正しければ……それに、ティアにはちょっと怖がらせてしまったわ、後で彼女に謝らないと。)」
サリアがそう深く考えていたその時、突如警報が轟いた。
【第一種遭遇警報発令! パラメイル第一中隊出撃準備!】
ドラゴンの出現に緊迫した空気に包まれるアルゼナルの警報が鳴り響くなか、ヴィルキスを除いた第一中隊のパラメイルがフライトデッキにスタンバイする。
ライダースーツに着替えた面々が待機するなか、サリアが号令をかける。
「総員騎乗!」
一斉にバイザーを下ろし、各々の機体へと駆け出し、飛び乗っていく。
「隊長より各機へ!アンジュは休み…今回の作戦は10機で編隊を組むわ」
ヴィルキスのいない中、火力が落ちるのは仕方ない。その分をカバーするため、サリアは作戦を思い浮かべながら、第一中隊は大空へ舞い上がる。
編隊を組んで飛行する第一中隊は観測されたシンギュラーまで接近していた。
《シンギュラーまで距離2800!》
今回の観測地点はアルゼナル周辺に点在する無人島の一つだ。そして、周辺の空間が乱れ、空気が淀んでいる。
「全機、セーフティ解除! ドアが開くぞ! 戦闘隊形!」
『イエス・マム!』
戦闘地域に入った第一中隊、そこにゲートが開きスクーナー級が無数出て来て、そしてそこに角が生えた巨大なドラゴンが出現し。それを見たグレイス達は驚く。
「え?!」
「でか!?」
「あらあら大きいわ~」
グレイスとヴィヴィアンが思わず驚き、エルシャは苦笑いしながらのん気に言っていた。
「サリア、アイツのデータは?」
「あんなの、見た事無いわ…」
サリアはデータのないドラゴンに悩まされる中でロザリーとクリスが驚く。
「見なことないって事は!」
「まさか…まさか!」
「初物か!」
ヒルダは思わず喜びの笑みを上げる。
「初物?」
司令室でジル達と見ていたエマは聞き慣れない言葉を聞いて首を傾げる。
「監察官は初めてでしたか、過去に遭遇のないドラゴンの事ですよ」
ジルはエマにその事を説明し、納得させる。
一方戦場では未遭遇のドラゴンにヒルダ達は盛り上がっていた。
「コイツの情報持ち帰るだけでも大金持ちだぜ!」
「どうせなら初物喰いして札束風呂で祝杯といこうじゃないか!」
「(能天気な連中だぜ…ヒルダにロザリーの野郎)」
グレイスは盛り上がっているヒルダ達を見て呆れ返り、その時にヒルダ、ロザリー、クリスの三人が未遭遇のドラゴンに突撃して行った。
それにサリアは慌てる。
「ちょっと!待ちなさい!!」
こんな時に興奮するヴィヴィアンが妙に静か事にグレイスが気づき問いかける。
「ヴィヴィアンちゃん、どうしたのですか?」
「…なんか髪の毛がピリピリする」
その事にグレイスは異変を感じる。
そしてヒルダ達が大型ドラゴンに突撃しようとしたその時!
「っ!! ヒルダ戻れ!!」
ドラゴンが咆哮を上げたと同時にと角が光りその瞬間周囲が何かに包まれた。
ヴィヴィアンが警告を促したが時既に遅くヒルダ達の機体が囚われてしまった。
それにヒルダ達は苦しむ。
「なっ!?」
「う…動けねえ…」
「一体何なの…コレ!?」
三人が混乱している中、グレイス達が上空で見ていると。
『新型ドラゴン周囲に高重力反応!』
「「重力!?」」
オペレーターからの解析結果に驚く。
更にドラゴンが角を光らし、重力範囲を広げ始めた。
「あっ!? 全機急速回避!!!」
グレイスがいち早く気付き、皆にそう言うも時すでに遅く。サリア、エルシャ、ヴィヴィアンが重力に捕まってしまった。
「隊長!!」
「ヴィヴィアンちゃん!エルシャさん!!」
グレイスが叫び、ココとミランダが戸惑う。
「ど!どうしよう…!?」
「このままだと、皆さんが!!」
「仕方ない、ラルス!リベリオンをアドバンスド・フォルムに!」
『不可能です。解析した結果、アドバンスド・フォルムのミサイルが発射された直後、ミサイルは重力の影響により、落ちてしまう及び、味方機に被害が増大します。』
「そんな!?」
グレイスが何か対策が無いか考えてると…。
「み、皆を離せえー!」
「ヴぃ!ヴィヴィアン!?」
ヴィヴィアンは機体が一番軽いのが幸いしたのかなんとか動かし、ブーメランブレードををドラゴンに向かって投げ突けようとしたがそれの重力影響でほんの少ししか飛ばず地に落ちた。
「皆を…皆をはなせぇぇぇぇぇぇ!」
それでも諦めずに再度投げ突けようとしたが、大型ドラゴンが更に重力を増して遂にヴィヴィアンの機体の腕が捥がれてしまった。
「あっ!!」
「「あ!!」」
『重力場、さらに増大を確認!』
「どうすれば……」
《シンギュラー反応新たに確認!》
オペレーターのその言葉は、更なる絶望を齎す。新型ドラゴンの頭上に紫電が走り、ワームホールが開く。その中から巨大な影が姿を見せる。
《?!!》
それはまるで甲虫のような体格であり、体中が虫のような強靭な甲殻で覆われており、巨大な羽と思われる翼、六本足のようだが四本は巨大な鉤爪を持つ豪腕、巨大な尻尾、強靭な顎、そして頭部と胸角に2本、前胸背板にも2本の計四本の角が生えており、胸角だけは鋭く尖ったノコギリ状の刃で頭角はそれ自体が巨大な剣となっていた。
姿を見せ、甲高い咆哮を上げる虫型の未確認ドラゴンやスクーナー級を伴って現われた事に、グレイスやサリア達は絶望に染まる。
「嘘だろ……」
すると虫型の巨大なドラゴンの六つの両目がサリア達の方を向かず、リベリオンだけを見る。
「え!?」
虫型の巨大なドラゴンはグレイスのリベリオンを睨み、強靭な顎と鋭い歯をぶつけ、雄叫びを轟かせた。
空気を振動させるその声に離れていても機体をビリビリさせ、頭角の大剣をリベリオンに向ける。
「クッ!!」
グレイスやココ、ミランダはリベットガンと対ドラゴン用アサルトライフルを構えるのであった。
如何でしたかな?だが、このオリジナルドラゴンには、まだ見ぬ生態が二つも備わってありますので、次回をお楽しみにしてください
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第十七話:ティアの決意
初物である新型のドラゴンの出現と共に、もう一体カブトムシ型の巨大なドラゴンが現れ、グレイス達は絶望の窮地へ叩き込まれていたのであった。虫型のドラゴンは頭角の大剣を突き付け、前羽と後ろ羽を展開する。すると前羽の裏面から爆発が噴射され、後ろ羽が羽音をたてながら、大剣を構え、猛スピードで突進してきた。
「来た!!ココちゃん!ミランダちゃん!上空へ舞い上がって退避して!!」
「はい!!」
「分かった!!」
ココとミランダのグレイブが上空へ舞い上がり、ドラゴンの突進を退けると、グレイスがリベットガンを乱射する。しかし、虫型のドラゴンの突進の勢いと強靭な頭角、分厚い甲殻によって重金属製のリベットが貫通できなく、リベット自体が潰れる。
「なんて分厚い甲殻だ!!」
するとドラゴンが頭角をリベリオンに向けて、横に振るう。グレイスは急いで退避すると、大剣が地を刳り、木々がスッパリと切断された。
「木々をあんなに!?どんな切れ味なんだ!!?あの頭角っ!!?」
その直後、ドラゴンの強靭な鉤爪がリベリオンに炸裂する。グレイスは急いでパドルデーゲンを展開し、高周波ソードで鉤爪を防御する。スラスターウィングの出力を上げ、吹き飛ばされないよう押していく。ドラゴンの鉤爪の高周波ブレードとパドルデーゲンの高周波ソードがぶつかり合う。
「クッ!」
《忌まわしきエンブリヲめ!!アウラを奪った事を後悔するが良い!!》
「え!?」
突然、グレイスの耳にいや、まるで脳に直接響くような声が聞こえると、ドラゴンがリベリオンを捕まえる。
「グッ!!何て力なんだ!」
グレイスは必死にドラゴンから離れようとするが、ドラゴンの強靭な筋力によって、機体の関節部から火花が吹く。
そしてサリア達の方ではドラゴンの重力が強くなる圧力に機体の装甲が歪み、潰れていく。亀裂が走るなか、コックピットに掛かる負担も増大していく。
「う、動けねぇ…ぐるじい……」
「た、助けて…ロザリー、ヒルダ!」
圧迫される苦しみに呻くロザリーとクリスは徐々に迫る死の恐怖に慄き、顔が引き攣っていく。ヒルダはなんとか脱出しようとしているが、機体は反応を返さない。
「くそっ、動けよ! いくら金かけたと思ってるんだ! さっさと助けろよ、サリア!」
ヒルダは先程のことも忘れてサリアに助けを求める。その身勝手さには呆れるが、こちらも囚われており、まともに動くこともままならないのだ。
だが、このままでは間違いなくやられる……方策を巡らせるサリアのもとに通信機から咳き込む声が聞こえた。思わず顔を上げると、戦闘空域に向かってくるヴィルキスと他の3機の機影が視界に入る。
一機はハウザーの改良機で全身に強力な武装を備えており、もう一機はレイザーの改良機で装甲の形状が違っており、先端にスナイパーライフルと頭部のバイザーに中央部に精密射撃用の伸縮式センサーが内蔵されているスナイパー・バイザー・ユニットに換装されていた。そして最後の一機は、普通のノーメイクであったが、アンジュの方のその飛行は酷くおぼつかなく、フラフラと危なげだ。
「ヴィルキス? アンジュなの……?」
ヴィルキスのコックピットではアンジュはまだ微かに赤い顔でライダースーツの上にどてらとマフラーを着込み、顔にはマスクがしてあった。
第一中隊の出撃を視認したアンジュはなんとか出撃しようと試みるも、モモカに制止された。多少マシになったとはいえ、まだ微熱と解熱剤の副作用で頭がフラフラする状態なのだ。それでも出撃をすると言い張るアンジュにモモカが逆らえるはずもなく、せめてもとライダースーツの上に防寒着を着せていた。
勇んで出撃したは良かったが、やはりまだまだ病床の身のため、操縦もおぼつかないが、そんな実感などなくただ頭がフラフラしているのだけが認識できていた。
「フラフラする~とっと終わらせよ~~」
呂律の回らない口調でぼやき、アンジュはヴィルキスを新型ドラゴンに向けていく。
「無理しちゃ駄目よ、アンジュちゃん」
ハウザーから、セシルの声がし。
「今のあなたの症状は落ち着いていますが、動けば巻き込まれる可能性が高いです。」
レイザーからメタリカの声がし。
「そうですよ!ここは私達に任せて!」
何と、ノーメイクに乗っているのは、戦闘経験も活かしていないはずのティアであった。
彼女が何故アルゼナル特装小隊と共にいるのか……それは、数十分前の事であった。
《シンギュラー反応新たに確認!》
管制室のパメラが新たに報告し、モニターに映っているカブトムシ型のドラゴンを見て驚く。
「何あれ!?」
「虫!?…なの…」
「(初物が一気に2体……やはり、リベリオンがあの男の機体に似ているからか……。仕方ない)」
ジルはそう考えながら、通信する。
「緊急事態だ。第一中隊は現在、初物ドラゴン2体と交戦している。一体は重力、もう一体は虫型だ……アルゼナル特装小隊は至急、第一中隊の援軍へ向かってくれ。」
ジルの放送を聞いていたセシルとメタリカはライダースーツに着替え、格納庫へ向かう。セシルのハウザー、メタリカのレイザーが置かれていた。
「良し♪張り切って行っちゃお〜う♪」
「またセシルは呑気に……」
「あの!」
「「?」」
突然の声に、二人は振り向く。そこには、白のライダースーツを着込んだティアがいた。
「私も一緒に!」
「え!?」
「ティアちゃん、どうしたの!?それにそのスーツ……パラメイルは?」
「大丈夫です!グレイスさんが臨時の為に用意していたグレイブがあります!それに、パラメイルの操縦法はグレイスさんから教わっていましたので!」
「………」
二人は考え込み、そして……。
「分かったわ……メイちゃん!ティアちゃんも出るって!」
「え!?」
メイは驚くも、急いでグレイブを出す。そしてセシル、メタリカ、ティアがそれぞれの機体に乗り込むと、奥の方のヴィルキスが移動させる。するとヴィルキスの近くに、赤い顔でライダースーツの上にどてらとマフラーを着込み、顔にはマスクをしているアンジュが乗り込む。
「アンジュさん!?」
ティアがアンジュを見て驚くと、アンジュは無視し、空へと舞う。そしてティア達アルゼナル特装小隊はサリア隊の救援として向かい、今こうやって戦闘区域にいるとのことであった。
「くるなっ、アンジュ! 重力に捕まるだけだ!」
「大丈夫よ~いつもどおり、私一人で充分だから」
フィルターのかかったような思考のなか、そう呟くアンジュにサリアは唇を噛み、肩がワナワナと震える。
「まったく、どいつもこいつも勝手なことばかり……いい加減にしろぉぉぉぉ、このバカオンナァァァァ!!」
シートを強く叩き、声を張り上げるサリアのあまりの怒声にアンジュは思考が無理矢理覚醒させられる。だが、その叫びはあまりに普段のサリアからは予想もできないほど鬼気迫るものだったので、他の面々も呆気に取られている。
「あんた一人でどうにかできるほど、このドラゴンはあまくない! いつもいつも勝手なことばかりして、死にたくなかったら隊長の命令をきけぇぇぇぇ!!」
通信越しに聞こえるあまりの怒声と気迫にアンジュは思わずたじろぐ。
「あ、はい……」
「よしっ! そのまま上昇!」
反射的に頷くと、サリアの指示に機体を上昇させる。
「修正! 右3度、前方20! そこで止まって!」
上昇するヴィルキスを見上げながらサリアは目標地点に向けて誘導していく。フラフラとなりながらもヴィルキスを誘導した先は、……新型ドラゴンの直上だった。
ヴィルキスに気づいたドラゴンは重力の範囲を上へと広げ、それに囚われたヴィルキスも引き寄せられるように落下していく。
「なんか、落ちてない……?」
急に掛かったGにうわ言のように呟き、機体が引き寄せられていることを自覚する。
「やっぱり落ちてる……?」
「熱でそう思ってるだけ! もう少し!」
サリアが必死に計算し、他のメンバーは現状に見入っている。やがて、ヴィルキスがドラゴンの頭上まで接近すると、サリアは声を張り上げた。
「今よアンジュ! 蹴れぇぇ!」
「はい?」
「蹴るのよ! 私を蹴ったみたいにね!」
先日の風呂場での一件を思い出し、やや腹立ち混じりに叫ぶサリアの言葉にアンジュは反応し、ヴィルキスが落下しながら体勢を変える。
右足を突き出し、キックの体勢で向かう先は……ドラゴンの角であった。
落下スピードと合わさったヴィルキスのキックはドラゴンの角を根元から突き破り、砕く。だが、その衝撃でヴィルキスの右脚が破壊され、振動が機体を揺さぶり、アンジュは呻き声を漏らす。
ヴィルキスが大地に墜落するも、角を折られたドラゴンは悲鳴のような声を張り上げ、大地に膝をつく。そして、角が折れたことで重力フィールドを展開していた魔法陣も消え失せる。
そして、重力から解放されたサリア達の機体が立ち上がる。既にドラゴンは死に体に近い。
「総員、速攻でしとめ、もう一体の初物も殺るよ!突撃!!」
《イエス・マム!》
サリア隊や特装小隊は一斉にライフルを初物へ乱射し、仕留めるのであった。
その頃、虫型のドラゴンに苦戦しているグレイスは必死に離れようとする。
「グレイスさんを離して!!」
ココとミランダがアサルトライフルを撃つも、強靭な甲殻で、ライフルの弾丸が潰れる。
「そんな!?効いていない!」
「あの甲殻、硬すぎる!」
「ココちゃん、ミランダちゃん!僕の事はいい!早く逃げろ!!」
「そんな!!ここで逃げたらグレイスさんが!」
「そうだよ!だから、私達も全力でグレイスを助ける!」
ココとミランダは必死にグレイスを助けようと、アサルトライフルを乱射する。すると目障りなのか、ドラゴンがココとミランダの方を向き、咆哮を上げる。
「ヒィッ!!」
「恐くない…恐くない!」
するとドラゴンの頭角と胸角、前胸背板の中央に魔法陣が浮かび上がる。
「え?」
「何!?」
魔法陣にエネルギーが集まり、ドラゴンが咆哮を上げた。魔法陣からピンクに光り輝く柱を放出し、大地を切り裂く。柱は徐々に、ココとミランダに迫る。
「「!!?」」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
グレイスは必死に抗い、ようやくドラゴンから離れ、加速する。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
『覚醒プログラム率が30%まで上昇。"アドバンスド・フォルム"及び"ムートロム・フォルム"へ移行します。』
リベリオンの音声と共に、リベリオンの装甲と姿が変わっていく。そして柱がココ、ミランダに迫ると、二人の目の前に、リベリオンが立ち、二人を柱から守る。柱がリベリオンに直撃すると、柱が拡散し、後部の陸地に炸裂する。
その場所へ向かっていたサリア隊が驚き、サリアが叫ぶ。
「ココ!ミランダ!グレイス!」
サリアはは爆炎の中にいる三人の安否を確認すると、向こうにいるドラゴンが爆炎の中から影が現れた事に気付く。
爆炎の中から、獅子のタテガミを思わせる三本の螺旋状の角が伸びた頭部に六つのサークルが施されたプロテクター、X字型のフルフェイス、両手足にはプロテクター、随所に施されたバーニア部などが施されており、 色が銀と黒、赤のマーキングだった筈が、銀と赤、緑のマーキングをしているリベリオンであった。リベリオンの後ろには、ココとミランダのグレイブが健在であった。
「リベリオン ムートロム・フォルム!」
グレイスがリベリオンの新しい姿の名前を呼び、地上に降りる。胸部プロテクターが閉じられた後、周囲からの熱気と共に全身からのバーニア部から排熱作業が行われ、両腕部に巨大なナックルアームを構える。
奇妙な姿をしたリベリオンにヴィヴィアンは目をキラキラ輝かせながら興奮していた。
「うおぉーーー!!!カッチョイイィーーー!!!メッチャ強そおおぉーーー!!!」
「うそ…!?」
「マジかよ…!」
サリアとヒルダはグレイスの機体を見て驚愕してしまう。するとドラゴンが頭角を振り下ろそうとする。グレイスはそれを見てナックルアームを構えると、右腕部ナックルアームのプロテクターを展開させて、そこから噴流推進器が起動する。頭角が振り下ろされると同時に、ナックルアームを天高く拳を上げる。
「行け!!糞族!!」
噴流推進器からジェットブーストが噴射し、ナックルアームが分離し、頭角目掛けて発射された。
「腕が!?」
「飛んだ!?」
「うおおぉーーー!!!ロケットパンチだああぁーーー!!!」
ドラゴンの頭角とリベリオンのナックルアームが激しくぶつかり、ドラゴンの頭角がリベリオンのナックルアームの一撃で粉砕した。折れた頭角が地面に突き刺さり、ナックルアームがリベリオンの所に戻り、今度はナックルアームのマニュピレーターを展開する。
「ブレードフィールド展開!」
マニュピレーターのジェネレーターの始動と共に、拳部からマニュピレーターを伝って、光の剣"ビームバスターソード"が放出される。サリアはナックルアームから出た光の剣に驚く。
「あれって…光学兵器!?」
リベリオンは高出力のビームバスターソードを構え、ドラゴンへと振り下ろした。高熱と高出力のビームの刃がドラゴンの甲殻を溶断し、地面を裂いた。両断されたドラゴンは咆哮を上げることなく、グラリと倒れた。
「す、すげぇ……」
「ドラゴンを…一振りで切っちゃうなんて……」
皆が驚いていると、リベリオンの装甲が変形し、元のプリミティブへと戻るのであった。
戦闘を終え、基地へと帰還した第一中隊は、戦闘後の収支結果を受け取るべく事務へと駆け込み、報酬として支払われたキャッシュは、予想以上の額だった。
ある意味で『レア物』と称されるドラゴンの『初物』が二体であり、その存在を確認し、データを持ち帰っただけでもそれなりだが、さらに狩った、となればその結果は目を見張るものがあった。今回のデータで角のあるドラゴンは『フリゲート級』カブトムシ型の『ドレッドノート級』に認定された。
「うひょお! こんな大金夢みたいだ!」
「ううん、夢じゃないよ!」
基本的に収入の少ないクリスとロザリーは眼を輝かせて与えられた給料を凝視している。今まで持ったこともないような札束に感極まっている。エルシャはこれで幼年部の子供達にいろいろと用意してあげられると満足気な表情を浮かべ、ヴィヴィアンは言うまでもなく新しい装備を買おうとはしゃいでいる。
「本当、私見たことないよ…夢だったら覚めないでほしい――たたっ」
「夢じゃないでしょ?」
「なんで私の頬を引っ張るの!」
じゃれあいながらも、ココやミランダも両手に抱えるキャッシュの束に興奮を隠せずにいる。ヘタをしたら、一生かかっても稼げないほどの額に思えるのかもしれない。
サリアはそんな彼女達の様子を見ながら、自身も与えられた莫大なキャッシュにどこか満足気だった。
「……少ない」
周りがはしゃぐ中、アンジュは不機嫌気味に呟いた。アンジュに支払われた額は、サリア達に比べて極端に少なく、サリアが苦笑を浮かべる。
「仕方ないわね。角折っただけだもの……でも、助かったわ。アンタが来てくれたおかげで」
サリアは素直に礼を述べたのだが、そんな情緒もぶち壊すようにアンジュはジト眼で手を差し出し、憮然と言い放つ。
「迷惑料…貴女の命令に従ったせいで、取り分減った挙句ヴィルキスが壊れたんだから」
事実、アンジュのキャッシュがここまで減ったのは、ヴィルキスを破損させた分の修理代も差っ引かれてのものだっただけに、横で聞いていたナオミは表情を引き攣らせる。
「……さっきの感謝取り消しよ」
サリアは全力で後悔した。やはり反りが合わない
「変な趣味…皆にバラすわよ」
「!?一生寝込んでなさい!」
「何て酷いことを!」
そしてサリアは盛り上がるヒルダ達に声を掛けた。
「どう、満足したかしら?」
サリアの問いに、ロザリーやクリスはやや躊躇いながらも頷き、ヒルダは憮然と睨む。
「色々あったけれど私達はこのチームでやっていかなくちゃいけない。アンジュを後ろから狙うの…もうやめなさい。
そしてアンジュも報酬独り占めやめなさい。アンタは放っておいても稼げるんだから。これは隊長命令よ」
「へっ、誰もアンタの言う事なんか聞きやしないって『良いわよ別に』!?」
「私の足さえ引っ張らなければね」
っとアンジュは予想外に肯定する。
「私も良い…かな。今回はティアやアンジュ達が来てくれたお蔭で助かったし…」
いつも隠れがちなクリスがそう言う。
「ま、まぁ~…アタシはしばらく金がある内は…良いかな」
クリスに釣られるようにロザリーも続けて言う。
「アンタ達何言いくるめられてるのよ!?」
「そ、そういうワケじゃないけど…」
「チッ…! 裏切り者」
ヒルダは納得できないのか立ち去る。
「ヒルダさん…」
ヒルダの様子にグレイスは少しばかり考え込む。
「それじゃあ!行きましょうか!」
っとエルシャ達はアンジュを連れて何処かに行ってしまう。グレイスは置いてきぼりになってしまう。
女子全員でお風呂に入ろうと提案する。今までのことを全部お湯に流そうという魂胆らしいが、ヴィヴィアンも楽しげにのり、アンジュを捕まえて連行していく。
元々アンジュに対しての蟠りも少なかったこともあり、ようやく気兼ねなくできるということかもしれない。その後、アンジュを巻き込んで全員でのお風呂タイムとしゃれ込むことになる。
サリアはティアに趣味の事はバラさないよう訳を話し、ティアもサリアとの関係が親し良くなり、友達関係にもなった。
そして……誰にも言っていないことだが、まだサリアの内ではアンジュに対しての嫉妬が燻っている。ヴィルキスに乗ることに対しての蟠りはあるが、今はまだ胸の内にしまっておこうと思う。
今なすべきこと…『自分』らしく隊長としての役目を全うする………来るべき刻リベルタスまで……サリアは一人、その決意を秘めるのであった。
その頃、アンジュ達がお風呂にて過ごしている頃……グレイスはひとり、アルゼナルの丘で夜空を見上げていた。
「あの声……」
先の戦闘で聞こえた声……――《忌まわしきエンブリヲめ!!アウラを奪った事を後悔するが良い!!》――
アレは間違いなく……ドラゴンの声……言葉すら理解できない異形の怪物が、言葉を話したなどと、誰かにしても笑い話にしかならないようなもの。だが、グレイスは確かにあの瞬間聞いたのだ。
「あのドラゴン、エンブリヲって言ったけど、……アウラを奪った?どういう事なんだろう」
グレイスはそう考えながら、夜空を見上げるのであった。
まさにその頃、ある暗い空間の中でHLS-0248がTTS-254を鞭打ちしていた。
「しくじりやがったな!TTS-254!MMD-008が生きているではないか!!」
怒れ狂うHLS-0248は血だらけで暗い表情をしているTTS-254に怒鳴る。
「しかも、RBL-1272が格闘形態へと覚醒してしまった!もし、あの失敗作二人がそれぞれの記憶と使命を思い出してみろ!!10年前の大事件で暴走した奴に負けかけたんだぞ!!しかもあの失敗作は不死身だ!!父上でやっと取り押さえたんだ!!」
「まぁ、落ち着きたまえ……」
「父上!?……しかし、TTS-254は彼女の抹殺に失敗したのです!…ATS-0751は現在、ヴェルダ王朝で10体の生物兵器である"湧水"と"淡水"。PNM-0849はマーメリア共和国で紅蓮、深緑、岩壁と交戦しています。妹がこんな失態をして、混乱なさらないのです!?」
「HLS-0248♪」
エンブリヲはニッコリとした表情でHLS-0248を見る。
「!!………失礼しました。」
HLS-0248は疲れたかのように落ち込み、その場から消えるのであった。
「TTS-254……分かっているね?」
エンブリヲの言葉にTTS-254は反応し、立ち上がる。
「はい、パパ……」
「新たな命を下す……ジュリオ君があのアンジュリーゼと言う女を根絶やしにしようとしている。侍女を使いに出して、ミスルギ皇国へ誘き出すと……君はその輸送機と、Dr.ディメントが開発した新型レギオロイドと共にあの子も一緒にね♪」
エンブリヲはそう告げ、消えた。残されたTTS-254は鋭い眼差しで、思い浮かべる。
「あの魚娘が……網で捕まえて、氷漬けにして捌いてやるから…覚悟しなさい。私に恥をかかせた事を後悔させてやる……」
怒りを顕にするTTS-254はその場から消えるのであった。
次回は、『優雅』と『マーメイド・フェスタ』での間の話になります。一応、タスクの事や残りの八人との出会いである外の世界の話になります。
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第十八話:外界の未確認生命体
各国の中の国『ガリア帝国』。元首はミスルギ皇国と同じ皇帝であり、支配権度はミスルギ皇国よりも高く、ノーマをその場で射殺されるか、連行されるか、奴隷にされるかの三つの選択権に分けられていた。その帝国で大事件が起きた。逃走中のノーマを追いかけていた憲兵二名が行方不明となり、翌日…行方不明となった憲兵二名が川原で無惨な姿で発見された。他の警官と刑事は現場の状況目のあたりにし、あまりにも無惨な死体に刑事たちは吐き気をしており、中にはトラウマになりそうな者もいた。捜査もするが、何も根拠も跡もなく、人々からはこの虐殺事件を『姿なき殺人鬼事件』と呼ばれるようになった。
さらに、ローゼンブルム王国にも大事件が起こった。湖を航行していた遊覧船に乗っていた乗客乗員100名が突然船と共に沈み、この事件で一人の生存者を保護し、生存者の証言からは「湖の悪魔」との事であった。王国はその湖を調査するが、根拠もなかった。しかし、表向きはそう発表されているが、裏ではあの事件で、捜査していた人が、蛸のような巨大生物が泳いでいたとの事であった。
この二つの事件に各国の元首達は頭を悩まされていると、ヴェルダ王朝で新たな事件が起こった。ヴェルダ王朝女子学院生達、教師を含めた全員が、海岸で骨となって見つかったの事。その残骸の中に奇妙な写真が撮られていた。
それは全身が葉っぱや苔、腕が葉がついた弦、脚は大きな華と一体化しており、弦で人を捕まえていた。
もう一体は、体が鋼鉄で覆われており、上半身ドラゴン、下半身が馬、そして両腕に2本の大剣を持って人を切り裂いていた。最後は、甲殻で覆われた蛸が、人を海の中に引きずり込んでいた。このような恐ろしい生物と今までの事件が繋がり、三体の未確認生物を『Unidentified Mysterious Creature』通称"UMC"と呼称とした。その未確認生物と呼ばれる化物が起こした事件は、世界各国にも提示されるようになり、さらに他の生物を多く見られるようになったと……。
「9年前……その事件は今も続いており、ミスルギ皇国やエンデラント連合にも見られるようになった……」
ミスルギ皇国の森林でタスクは、昔の新聞を……読み上げる。
「人を喰らいし生物"UMC"……この近くの森の中に彼女……"深緑のナナリー"がいる筈…」
タスクはそう言い、森の奥を探索する。奥に入ると、明るかった筈が、薄暗く気味が悪くなり、霧が立ち込む。
「何だか、血の気が引くなぁ……」
タスクは用心しながら進んでいくと、彼の頭上の木の上に何かが通り過ぎる。
「?……」
タスクはそれに気づき、ホルスターからピストルを抜く。辺りを警戒している時、彼の頭上から弦が伸びる。
「っ!!」
タスクはそれに気づき、上を見る。それは体中が樹木や覆われており、巨大な脚が地面に踏み込むと、地面から草花が一気に咲く。全長4メートルもあるその姿は正に"化物"と言ってもいい。タスクはピストルを構えながら、怪物に問う。
「エグナントさん!」
「?」
怪物…エグナントはその名に反応し、立ち上がる。
「俺です!……タスクです!」
タスクは自分の名を言い、はタスクを見る。
「……タ…ス…ク…」
するとに異変が起きる。急に苦しみだし、体が縮んでいく。そして数分も経たないうちに、症状は収まり、白い長髪、獣の様な赤い目、緑の衣を着た老人になっていた。
「久しぶりだね、エグナントさん」
「こちらもじゃよ、タスク……」
「…変わりませんね、その姿は♪」
「もしかして、儂の肩を揉みに来たのか?」
「それもあります…」
「ホッホッホッ♪」
《ハデ・エグナント》こと、『大樹のエグナント』。別名では『ハデ・キュクロプス』と呼ばれている。死んだタスクの両親の代わりに彼を育て、狂った科学者であるジャスミンの実姉であるアイカに引き取られ、四天王やエンブリヲ、Dr.ディメントの動きを探っているとの事。
「そう言えば、『湧水のダスト』さん、『淡水のガリィ』さん、『深緑のナナリー』さん、『岩壁のトーマ』さん、『紅蓮のアツマ』さんは?」
「あいつ等は……四天王の二人である者と戦っておる」
「え!?」
「心配するな、タスク……彼等を怒らせたら、大変と言うのは分かっておるじゃろ?」
「まぁ、確かにそうかもしれませんが……本当に大丈夫なんですか?」
「なぁに、奴らには儂等からの痛いプレゼントじゃ、今頃、存分に味わっているじゃろ♪」
「はあ……?」
「それで?……儂に用があって来たのじゃろ?」
エグナントは鋭い眼差しで、タスクを見る。
「はい、…彼……RBL-1272と出会いました。」
「……RBL-1272か、懐かしいのぉ」
「他にも、ラルスって言うリベリオンに組み込まれたコンピュータも……」
「ホッホッホッ♪まさか奴が再起動するとは…そろそろ近いか…」
「リベルタスですか?」
「そうじゃ、タスク……ヴィルキスだと互角になるが、RBL-1272とリベリオン、ラルス、そして儂等が揃えばエンブリヲなど恐れる事などない」
「けど、RBL-1272は……ううん、グレイスは…自分の記憶がないって……」
「何!?……そうか………ところでタスクよ」
「はい?」
「ヴィルキスの乗り手は現れたのかい?」
「はい…名前は、アンジュです。」
「アンジュ…アンジュ……あぁ、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギか……この皇国の元第一皇女さんだっけ?ジュライ・飛鳥・ミスルギとソフィア・斑鳩・ミスルギの?」
「はい」
「そうか……あの二人も、エンブリヲのやろうとしている事に気づいたな……それで、ジュライはどうしているのだ?」
「……絞首刑されました。」
「何と!?惜しい男を亡くした……それで?」
「現在ミスルギ皇国は、神聖ミスルギ皇国へと変わり、絞首刑にしたジュリオが、皇帝に即位しました。」
「あの馬鹿皇太子か……親父さんとお袋さんのやろうとした事に、恥を知るがいい」
「ですね……」
「それに……その馬鹿皇帝が何やら、予たらぬ事を始めている…」
「え?」
「その皇女さんの侍女を使いとして、アルゼナルへと送ったとの情報を、ソフィアの薔薇やそこらの木、草花が教えてくれた……"あの皇女さんを、根絶やしにする為にと"…」
「何だって!?」
「それに……他にも何か……何だと!?」
動揺するエグナントにタスクは声を掛ける。
「エグナントさん?」
「まさか……彼女が……」
「彼女って……まさか!?」
「そのまさかだ……彼女はアルゼナルにいる…」
「え!?」
「しかも、奴らは何か途轍もない物も開発したらしい……」
「どうすれば!?」
タスクが問うと、エグナントは巨大化し、大樹の巨獣へと変身した。
「何れは、わかる……」
エグナントはそう告げ、霧の中へと消えていった。タスクは急いで森から出て、機体をミスルギ皇国の皇都へ進路を変えるのであった。
タスクを育ててくれたハデ・エグナント……"ハデ"はティグリニャ語(エリトリア、エチオピアの公用語のひとつ)で数字の1を意味しています。他の10人もと言うより、グレイスやティア、そしてもう一人にも名付けられております。
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第十九話:救出作戦・前編
《気象条件晴れ、視界クリア――すべて問題なし》
フライトデッキにパメラの観測データが響く。デッキには第一中隊のパラメイルが待機しており、発進のタイミングを待っている。
とはいえ、いつものように緊迫したものではなく、大半がどこか浮ついている。今日は『フェスタ』であり、これから来るローゼンブルム王家のVIPをエスコートするという任務を終えれば、後はお祭りである。
早く退屈な任務を終わらせたいと思っているなか、アンジュは一人浮かない面持ちでずっと俯いている。その様子を隣で控えるグレイスが怪訝そうに見ている。
それは、先日……アンジュの自室でモモカに着替えを手伝ってもらっていた時の事であった。
手伝いを終えたモモカが不意に何かに気づいたように声を上げる。
「え? これって……」
「どうしたの、モモカ?」
突然のことに戸惑うアンジュの前で、モモカは空中にウィンドウを浮かばせる。
「マナの通信です。でもこれって――これは、皇室の極秘回線です!」
ウィンドウに繋がったラインに驚くモモカだが、アンジュの驚きはそれ以上だった。息を呑み、思わずウィンドウを覗き込む。モモカはウィンドウを大きく表示させ、回線を繋ぐ。
《モモカ、モモカ聞こえる!?》
「シ、シルヴィア様?」
ノイズ混じりに聞こえてきた声に、アンジュは眼を見開く。
「シ、シルヴィア……」
久しく聞いていなかった大切な妹の声――震える声で呼びながら、回線に近づくと、向こうから切羽詰まった声が響く。
《アンジュリーゼお姉様とは逢えた? そこにお姉様はいるの!?》
自分の名を呼ばれ、アンジュはビクッと身を震わせるも、声が出ない。だが、その間にも回線から聞こえるシルヴィアの声が上擦ってくる。
《あ、離して! 助けてお姉さま、アンジュリーゼお姉さまぁぁぁぁ―――》
「シ――」
ウィンドウに手を伸ばそうとするアンジュの前で、回線がシャットアウトされ、掻き消える。伸ばされた手は虚空を彷徨い、モモカは事態に慄きながら口を押さえ、アンジュは妹の悲鳴に呆然と佇んでいた。
整備班の喧騒も、周囲の誰も視界に入らない。アンジュの心持ちは今朝のシルヴィアからの通信しか頭になかった。滅びたと聞かされた故郷で、今も生きている………それは確かに思いがけない僥倖だったが、助けを求める声がそれを打ち砕く。
自分のせいで、妹が窮地に立たされている―――それがアンジュの心を掻き乱し、同時にどうすることもできない己の不甲斐無さに苛立つ。
「アレスティングギア、接続完了! 全機、発進準備完了!」
その間にも作業は進み、全機の発進準備を終え、アンジュを含めた初発の機体が発進シーケンスへと移行する。
《カタパルトエンゲージ――リフトアップ!》
発進パネルが表示され、進路がクリアになる。
「サリア隊、発進します!」
サリアの号令に従い、離脱した機体が加速し、カタパルトを滑って離脱する。空中へと舞い上がるサリア、ヴィヴィアン、グレイスだったが、グレイスはアンジュが発進していないことに眉を顰める。
それはサリアやヴィヴィアンも同じなのか、戸惑いを浮かべている。
《アンジュ機、発進どうぞ! アンジュ機?》
《さっさと出やがれ! 後ろがつっかえてんだぞ、この便秘女!》
通信から戸惑うヒカルの声とロザリーの罵倒が飛ぶも、アンジュはまったく反応していない。
(アンジュさん……?)
いったいどうしたのか――困惑するなか、サリアが苛立ち混じりに叫ぶ。
「アンジュ! 何やってるの!? 早く上がりなさい!」
そう叫んだ瞬間、アルゼナルから突然勢いよく何かが射出された。デッキから落ちるベースと無理矢理加速させた機体にヴィヴィアンは歓声を上げる。
「おお、すっげー!」
まったく反応を返さないことに司令室で地団駄を踏むエマが業を煮やし、メイに緊急射出させたのだ。突然のことに反応の遅れたアンジュはすぐにトップスピードにのって打ち出され、悲鳴を上げる。
やがて、なんとか制御を取り戻し、空中へと上がるアンジュは肩で息をしながら、怒鳴る。
「な、何するのよ、いきなり!」
死ぬかと思ったと心臓がバクバクしているが、サリアは呆れたように悪態を返す。
「ボサッとしてるからよ」
そう返され、グッと言葉に詰まる。不意に横につくグレイスは視線を向ける。
「……(何かあったったんだろう?…。)」
物言いたげな視線にそう問い返すも、アンジュは一瞬逡巡するも、やがて顔を逸らす。その態度に小さく嘆息し、それ以上の追求はしなかった。
残りのメンバーが続々と上がり、編隊を組みながら第一中隊は飛び、やがて前方から複数の輸送機の船団が雲の切れ目から姿を見せる。
「慰問船団を確認――これより、エスコートに入ります」
《くれぐれも、粗相のないように!》
苛立ち混じりに釘を刺すエマに頷き、船団とのランデブーへと向かう。
「おおっ! キタキター! フェスタだー!」
はしゃぐヴィヴィアンにアンジュが首を傾げる。
「フェスタ?」
「アンジュちゃん知らなかったんだよね。フェスタってのは……」
横にいたエルシャが口を挟む。どこかぎこちない口調だが、当のアンジュは気づかず、説明を聞き流している。
「無駄口はそこまで! 各機、輪形陣!」
『イエス・マム!』
サリアの一喝に一同は気を引き締め、第一中隊はサリアを先頭に船団を囲うように布陣していく
船団の中央に位置する輸送機には、王家専用の紋章が刻まれており、フェスタの当日にはアルゼナルを管轄するローゼンブルム王家の人間が慰問に訪れるのが慣習だ。
輸送機の客室にて座る少女がいた。穏やかな面持ちと落ち着いた雰囲気で座る少女は、ローゼンブルム王家の皇女、ミスティ・ローゼンブルムだった。
彼女は今回の慰問団の責任者を務めていた。とはいえ、まだまだ彼女のような若輩の身に任せられるような役目ではないのだが、彼女は自身のたっての希望でこの役目に自ら名乗り出ていた。
どこか緊張した面持ちで窓から外を眺めていた彼女の視界に、空中を飛ぶパラメイルが映り、小さく感嘆の声を漏らす。
「アレで戦うのですか?…ドラゴンと」
「左様です、ミスティ様」
脇に控える秘書の女性がよどみなく応える。事前にミスティはアルゼナルの背景についても説明を受けていた。次元を超えて侵攻する『ドラゴン』の存在と、それと戦う役割を負う『ノーマ』のことを……やがて、彼女の前で編隊を組んでいたパラメイルが散開し、輸送機を中心に囲うように展開していく。
輸送機がアルゼナルへの降下シークエンスに入ったのだ。
揺れる機体のなか、ミスティは不安な面持ちでアルゼナルに降り立つのだった。
だが、慰問船団の背後……光学迷彩で隠している輸送機がいた。輸送機の中では、青いアーマースーツを着たTTS-254と他に、クラゲとチョウチンアンコウをモチーフとした二体のロボット、そしてサイレンサーバレルを装備したアームキャノンを持ったレギオロイドが乗っていた。
「良い?私達の目的は、アンジュリーゼの捕獲及び、魚女を捕まえる事よ……あの皇帝さんの命令だから、失敗は許されないわ…」
『スラーバ!!!!』
ロボット達は敬礼し、待機状態へとなる。
「待っていなさい魚女……皇女さん共々国民の前で見せしめとしてやるからね♪それかまた私の玩具にしてやるから……フフフ♪」
TTS-254は座りながらそうぼやき、持っていたスピアを持って、アルゼナルへ潜入するのであった。
船団が到着し、積まれていた物資が届くと、アルゼナルは一気にお祭りムードに突入した。アルゼナルの裏手に設けられた小さなビーチには、水着姿に着替えたノーマ達が思い思いにはしゃいでいた。
岸壁に取り付けられた看板には、『マーメイド・フェスタ』と印刷されており、その下では様々な出店があり、普段の食堂ではあまり味わえない香りが漂っている。他にも小さなテントに設けられた映画館や簡易遊園地、さらにはマッサージ小屋など様々な娯楽施設がある。
屋台での食べ物に舌鼓を打つ者、マッサージ小屋で癒される者、海で泳ぐ者など、活気に満ちている。
「うわぁぁ、フェスタだぁ」
「ほらココ、せっかくだし泳ぐわよ!」
「あ、待ってよミランダ!」
可愛らしいワンピースの水着を着たココとミランダが興奮気味に海へと走っていく姿をアンジュはどこか唖然と眺めていた。
「これが…フェスタ?」
どこか楽しそうに眺めるモモカの横で、アンジュは改めて周囲を見渡し、ポツリと呟く。
「一年に一度だけ、人間が私達ノーマに休むことを許してくれた日よ。明日までは一切の訓練が免除、私達ノーマにとっては一日だけのお祭り……過酷な明日を生きるための、希望の一日なの」
サリアが感慨深く呟き、一緒にいたナオミが不意に過ぎった光景に顔を緩ませる。ペロリーナが幼年部の子供に風船を配っており、受け取った小さな少女達が嬉しそうにしている。
『ドラゴンと戦う』ためだけに存在を赦されるノーマ――そんな地獄のような日々の中、『明日』を生きるための『希望』を抱く日―――その説明にアンジュはどこか釈然としない面持ちだった。
「奴隷のガス抜きってことね」
アメとムチ――身も蓋もない言い方をすればその通りなのだが、辛辣な評価にサリアは小さくムッとする。まだアルゼナルに来て日が浅いアンジュではそう認識しても仕方ないのだが、誰かに聞かれたら余計なトラブルを誘発しかねない言動だ。
幸いにして周囲の誰もがフェスタに夢中で聞き留めてもいなかったようだが――アンジュは小さくため息をつくと、もうひとつの疑問をぶつける。
「でも…これは何……?」
アンジュが着ているのはいつもの制服やライダースーツではなく、赤のビキニ姿だった。もっとも、周囲にいるノーマ全員が水着姿だ。サリアもビキニを着けており、
お祭りは分かるが、何故水着に着替えなければならないのか―――そう視線を問い掛けるアンジュにサリアが応える。
「伝統よ、制服やライダースーツじゃ息が詰まるって」
「……恥ずかしくないの?」
普段ライダースーツを着ている身としては今更だが、どこか呆れた眼で見やるアンジュにサリアは思わず顔を赤くして胸元を隠す。確かに、水着になれば嫌が応でも自らの体型を晒すことになり、まったく変わらない胸部と少し太った腰回りが気になっていた。
「水着でいることが、よ」
そう指摘され、自爆したサリアは大きく肩透かしで項垂れる。グレイスはサリアを慰めようと、肩をポンポンと叩く。
「気にしなくても良いですよ……人は、体じゃないんですから♪」
「それ……慰めているの……」
「え?」
バカなのか、アホなのか……グレイスは首を傾げる。
「仲がいいですねえ〜♪」
「うわっ!?」
突然かけられたセシルさんの声に、思わず後ずさってしまった。
セシルはエメラルドグリーンのビキニに、腰には同じ色のパレオを巻いていた。それ自体は普通の水着でなにも際どいところなどない。
ただ…その、エルシャをも超えるボリュームがグレイスの視線を泳がせる。前から大きいなとは思ってましたが、あれは〈巨〉を超えて〈爆〉じゃないでしょうかねぇ、さすが特装小隊の一人……。
「あら、ココちゃん〜、ミランダちゃん〜、私も混ぜて〜♪」
目の前をセシルさんが駆けていく。…たゆんたゆん。…たゆんたゆん。大事な事なので二回言いました。サリアの視線が、セシルのあれに向けられ、胸に触れる。
「むむむむ〜」
ビーチチェアでくつろぐグレイスは、胸と腰にフリルのついた、可愛い白いビキニがよく似合っているティアと一緒に、トロピカルドリンクを飲んでいた。するとグレイスがあることに気が付く。
「あれ?……アンジュさんがいない」
「そう言えば……私、探してきますね♪」
ティアはそう言い、アンジュを探すのであった。グレイスはどこも探してもいないアンジュに少々手間取っていた。
「おーい!グレイスー!」
っとグレイスが振り向くと、イカ焼きと焼きそばを食べながらやって来るヴィヴィアンが来た。
「グレイスも楽しんでる?」
「僕はちょっと……彼女を探している」
「えっ?? 何の?」
「ちょっとした…だよ、それじゃ」
そう言ってグレイスは去って行く。
ヴィヴィアンはその事に頭を傾げるも何のことかさっぱりわからなかった。
そしてアンジュはある着ぐるみ【ペロリーナ】を着ていて、どこかを歩いていた。
「(あっつ~い…、こんな暑い着ぐるみよく着れるわねエルシャ)」
そう、この着ぐるみはさっきまでエルシャが幼年部の子供たちに風船を配っていて、休憩としていた所アンジュがこれを見つけて着ている。
何故着ているかは不明だが、彼女はただ単に着込んでいるとしか見ても良いかもしれない。
そしてアンジュは格納庫で休息を取る為近く荷台に寝ころび、着ぐるみの頭を取って新鮮な空気を吸う。
「はぁ…、疲れた…」
「アンジュリーゼ様!」
アンジュは呼ばれた方を見ると、モモカが何やら食べ物を持ってやって来て、
それにアンジュは起き上がって降りる。
「モモカ、どうしたの?」
「とても美味しい物を見つけましたので、アンジュリーゼ様に食べて貰うと!」
モモカはアンジュに売店で見つけたりんご飴を渡し、それを受け取るアンジュ。
「へぇ…美味しそうじゃない」
アンジュがりんご飴を食べようとする。
っが。
ガシッ!!
「「!!?」」
突如何者かが後ろから抑えられ、二人は口元も塞がれてしまい。アンジュはもがきながら抵抗するも相手の方が力強かった為出来ず、モモカはマナを使おうとするも相手にマナを封じる道具を付けられてしまった。
「っ~~!!」
『…確認。第一ターゲットである皇女アンジュリーゼを確保、そしてその侍女もおります。』
光学迷彩がオフになり、姿を現す。アンジュの顔の近くに、アームキャノンが向けられていた。
「っ〜〜!?(何!?人間?…だけど、体が機械!?)」
「あ〜ら?かなり動揺してるわね……」
「!?」
するとアンジュの目の前から、TTS-254がスピアを喉元に近付きながら現れる。
「あなたには恨みがないけど、あいつの為に来てもらうよ……勿論、あの娘も。フフフフフ♪」
TTS-254が微笑んでいると、格納庫からアンジュを探しに、ティアが姿を見せる。
「アンジュさん!?」
「っ〜〜〜!!」
アンジュが藻掻いていると、TTS-254がティアの声に反応し、振り向く。
「っ!!」
ティアの表情が一変する。
「久しぶりだね…コードネーム"MMD-008"!!」
TTS-254が鋭い眼差しでティアを睨み、スピアを構える。ティアは戦闘態勢に入るが、TTS-254は高速でティアに接近し、ティアの腹部目掛けて膝蹴りをする。
「カハッ!!!」
腹部を抑えるティアは倒れ、TTS-254はティアの髪を掴み上げる。
「家に帰ったら思う存分に遊んでやるから……「何やってる!?」…?」
皆が振り向くと、ちょうどアンジュを探していたグレイスが今の様子を見てやって来た。
グレイスはTTS-254達に向かって怒鳴りつけ。
それにTTS-254が舌打ちする。
「チッ、厄介な奴に見つかった……(よりによって実の弟とは……仕方ない!)あんた達!殺っちゃって!」
四体のロボットがグレイスに向かっていき、TTS-254とクラゲとチョウチンアンコウのロボットはアンジュとモモカ、ティアを連れ去ろうとする。
「っ〜〜!」
「うぜぇんだよ!!」
TTS-254はアンジュの腹を殴り、気絶させる。
「アンジュさん!!」
が追いかけよとするもロボットの一体がアームキャノンからソードを展開し、グレイスに向けてソードを振る。
それをグレイスは相手の手首を片手で持って受け止め、右拳を相手に振りかぶり、相手の顔面に直撃させて距離を取る。
「かったい!」
相手はロボットで、生身の拳では、太刀打ちできない。
っがグレイスの後ろに回り込んだロボットが、グレイスの頭にソードを突き刺そうとする。っとその時にそのロボットが粉々に吹き飛ばされ、それにグレイスは振り向くと。
後から追いかけて来たメタリカがいて、そのロボットの頭部をサイレンサー装備のスナイパーライフルで破壊していた。
「援護は任せて!」
メタリカがスナイパーライフルのスコープを覗き、ロボットのモノアイを破壊していき、グレイスが関節技でロボットの関節部を壊していく。圧倒的に倒されたロボットをその場に放っておくグレイス達はすぐさまアンジュとモモカを救出する為に向かう。
そしてアンジュ達を連れて行くTTS-254達は止めてある輸送機に乗り込み、すぐさま発進させる。
っとそこに。
「アンジュ!!モモカさん!!ティア!」
グレイス達が追いかけるも、すぐに離陸されてしまい、そして光学迷彩を起動されてしまい姿が見えなくなって飛んで行ってしまった。
アンジュとモモカを連れ去られ、取り逃がした事にグレイスは悔しがる。
「くそっ!!アンジュさん!!モモカさん!ティア!」
「迂闊だったわ…まさかフェスタの日を狙って来るなんて…しかもよりにもよってTTS-254自ら来るなんて…」
「え!?メタリカ!アイツを知ってるの!?」
「知ってるも何も……私やセシル、他の皆にとっては一番嫌いな人物。そしてあの時のようにティアを玩具のように虐待するつもりだわ……」
「何だって!?」
グレイスは倒されたロボットを引きずり、収納されているリベリオンの近くまで運んだ。
「ラルス!このロボットにハッキングして、目的を探ってくれ!!」
『分かりました。』
リベリオンが変形し、指先からプラグが出され、ロボットの頭部に差し込む。
『ハッキング及び、解析、情報収集を確認……。目的は元ミスルギ皇国第一皇女アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギとコードネーム"MMD-008"の拉致。目的地ミスルギ皇国。』
「何だって!!?」
「グレイス!」
っとグレイスは振り返ると、水着のまま着たジルたちがやって来る。
「どうしたんだ!?」
「司令!大変な事になった! アンジュさんとティアが…ミスルギに連れ去られた!」
その言葉に驚きを隠せないジャスミン達と表情を歪めるアカリとジルであった。
すぐにサリアとメイを呼んだジルはすぐさま執務室に集めて、アンジュの事に付いて話し合う。
連れ去られた事を聞かされたサリアとメイ、サリアはグレイスに怒鳴る。
「グレイス! あなた何やっていたの!!」
「足止めを食らったんです、もう少し早く見つけていれば…」
「司令…アンジュとモモカ、ティアを拐ったのはTTS-254です」
「TTS-254!…『テティス』か!?」
「テティス?」
「コードネームだったから、呼びやすいよう名前を付けておいたのだ…。テティスはあぁ見えて陽気な女だが、中身は残虐で人を見下す心を持っている。そしてテティスの兄であるヘリオスはプライドが高く、他の弟妹よりも強い……用心しろ。」
「了解!」
「それと、スケットとしてセシルとメタリカも行け……『業火のセシル』」
「はい♪」
「?」
「『隆岩のメタリカ』」
「かしこまりました。」
「?」
「そして……『曙光のグレイス』」
「え!?…はい!」
「……何としてでも、アンジュと『宵闇のティア』の救出せよ。」
格納庫では、セシルのハウザー、メタリカのレイザー、グレイスのリベリオンが収納された輸送機が甲板に着陸していた。
その途中でヴィヴィアンとエルシャと会う。
「行くのね…グレイス君」
「ああ、アンジュさんを助けにな」
「そう…、気を付けてね?」
エルシャの言葉にグレイスは頷いて、再び格納庫に向かう。
しかしその会話を密かに聞いていた人がいたのをエルシャとヴィヴィアンは知らなかった。
「二人共座った?それじゃあ、ミスルギ皇国へ急ぐよ」
メタリカに従い座るグレイスとセシル。メタリカはレバーを操作して輸送機をミスルギに向けて飛び立つのだった。
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第二十話:救出作戦・中編
ミスルギ皇国へと連れて行かれたアンジュとモモカを救出するべく、アルゼナルからミスルギ皇国へと出発したレオン達。
本来ならこれは列記とした脱獄、救出任務として出撃している為、エマに強引に頭を縦に振らせた。勿論ローゼンブルム王国の王女"ミスティ・ローゼンブルム"も助けてほしいとの要望もあった。
輸送機の中でグレイスは海面を見ながら考えていて、隣に居るセシルが問う。
「どうしたの、グレイス?」
「セシルさん、ミスルギ皇国って……どう言う国なのですか?」
「ミスルギ皇国と言うのはね……え〜っと、お願いメタリカちゃん、グレイス君に説明してくれないかな?」
「仕方ありませんね。良いですか、『ミスルギ皇国』は長い歴史と様々な伝説を持ち、万世一系の皇族によって統治される巨大国家で皇帝による厳格ながら公正な統治の元、国民は平和で豊かな暮らしを享受し、学問やスポーツ、芸術活動などが非常に盛ん。国民達にとっては美しく聡明とされる皇族達は憧れと誇りであり、皇女だったアンジュを初めとするロイヤルファミリーの人気は非常に高いのです。」
「……もっとわかり易く」
「要するに、とても"美しい国"と言う事。わかった?」
「はい、だけど……何でアンジュやモモカ、ティアを拐うんだ?」
「それは分からない……念の為、あの人から聞いてみよう」
「あの人?」
「"大樹のエグナント"…別名"ハデ・キュクロプス"。私達の仲間で、実験体第一号。何もかもを全てお見通しなお爺さんなの……。因みに私は"隆岩のメタリカ"…別名"ショバテ・セルケト"実験体第七号。」
「私は"業火のセシル"……別名は"ティシハテ・ミスラ"なの。私達は10人であらゆる各国を移動しつつ、司令に情報を提供しているの♪」
「10人?正確に言えば12人だけど…」
「あ、そっか!グレイス君とティアちゃんも入っていたんだ!」
「僕やティアもですか?」
「司令が言ってたでしょ?『曙光のグレイス』、『宵闇のティア』……あなた達は別名"アセルテ・ハデ・ラーフ"、"アセルテ・キルテ・ケートゥ"と呼ばれる事になったのよ。」
「名前…長…」
「まぁ、短文したら…"アルデ・グレイス"と"アルテ・ティア"と名乗った方が良いと思うよ♪皆そうやって前の名前と今の名前を使って名乗っちゃっているから♪」
「はい……」
グレイスは、改めてアルデ・グレイスと名乗り、輸送機は誰も見つからない森の中へと着陸する。
着陸したグレイス達は装備を整える。メタリカはアサルトライフルと運動エネルギー弾を放つ遠距離武器『レールガン』を装備する。セシルはグレネードランチャーと、どこから持ってきたのか、バックパック使用のミニガンであった。他にもミサイルランチャー、C4、ガトリングガン、ヘビーマシンガン、ナパーム、火炎放射器、中には榴弾砲、リモートスナイパー、チェーンガン、リニアアサルトライフルまでもがあった。武器庫の中にグレイスは驚く。
「何だこれ?……二人共危ないなぁ!?テティスってそんなに!?」
「ほら、あなたはこれを使って」
メタリカが、グレイスに刀とマグナム、そして試作型パルスライフルを投げ渡す。
「一応持っておきなさい、それと。」
今度は、猟銃やアサルトライフルを渡される。
「これはアンジュ救出時に渡しておいて、劣化ウラン弾や焼夷弾を装填しているから、注意してね」
「え!?」
メタリカはそう言い、腕部のワイヤーガンを建物の屋上に撃ち込み、リモートスナイパーを持って、行動を開始する。
自動砲チェーンガンを四台も設置したセシルは屋上には榴弾砲二台も設置し、グレイスに光学迷彩搭載のギリースーツを渡し、着る。
「行動開始ね♪」
「ですね……」
二人は、ミスルギ皇国の街へ足を踏み入れた。だがこの時、輸送機が去った場所から赤い髪の少女が居た事に誰も気付きはしなかった。
そしてミスルギ皇国へと到着したグレイス達は既に夜へとなっていた。屋上では、エグナントの他に、『鍛鉄のオボロ』『精金のミカ』、そして無人島で出会ったり、再会したタスクがいた。
「タスクさん!」
「グレイス、久しぶりだね」
タスクとグレイスが握手で交わすと、老人がグレイスを見る。
「……そやつが、曙光のグレイスかい?」
そして長身で身体中が傷や入れ墨だらけの男性"オボロ"とメイよりも、小さな茶髪の女の子"ミカ"もグレイスを見つめる。
「……本当に、俺達の事を覚えていないのか?」
「え?」
「ふ〜ん…肌や髪や目の色は違うけど、やっぱりお前じゃん。」
「何が?」
「やはり……わしらの事は覚えていないのか、10年前にあの騒動を起こし、醜いわしらを奴らから助け解放し、タスクを助けた事も……」
「ちょっと待って?一体何のこと?」
「すまない、覚えているかどうか確認したのじゃ。覚えていないのなら、無理もするな……今はそれより、これであの……"暁ノ御柱"(アケノミハシラ)を見るのじゃ。」
エグナントが双眼鏡を渡し、グレイスはアケノミハシラのその下を見る。
「っ!!?」
双眼鏡で見ていたグレイスが驚きの声を上げる。
アンジュがボロボロの服の処刑着を着せられ、腕を吊るされていた。そしてマナの電動車いすに乗っている少女『シルヴィア・斑鳩・ミスルギ』がムチでアンジュの身体に打ち付けて痛みつけ、それにアンジュが悲鳴を上げる。
それを見ていた国民達は喜びの声援を上げていた。
見ていたグレイスは信じられない事に怒りがこみ上げて来た。
「……けるな」
「?」
「…ふざけるなよ。これが……人間?」
グレイスは思い返す。メタリカが説明してくれたミスルギ皇国の事。ココが憧れる夢と魔法の国。世界をドラゴンから守る事。
「『美しい国』……」
「『本当にあったんだ!魔法の国♪』」
二人の言葉に疑問を抱くと同時に、目の前の光景がグレイスをさらに怒りを込み上げさせた。そこにはアンジュと共にボロボロの服の処刑着を着せられ、腕を吊るされているティアの姿がいた。しかもティアは人間の姿ではなく、本来あるべきの人魚の姿であった。そして彼女の近くに、青いアーマーをした女性がスピアで、ティアの四肢を突き刺す。突き刺された穴が再生し、流れていた血も干上がるかのように、消えていく。グレイスは歯を食いしばり、持っていた双眼鏡を握り壊した。
「僕達は……こんな豚みたいな奴らの為に世界を守っていたのか?……」
そして一方、アンジュの方では……。
(クサってるわ……こんな世界―――)
アンジュは、心のなかで呪うように言葉を吐き捨てた。
だが、それも背中に響く痛みに掻き消される。背中は赤く腫れ、熱を伴ってアンジュを苦しめる。そして、またもや衝撃が襲い掛かり、アンジュは苦悶を噛み殺す。
そんなアンジュの醜態を嗤うように鞭を振るうのは、車椅子に乗った最愛――いや、己の妹だった少女だった。アンジュを罵りながら鞭を振るうシルヴィアは、醜悪な笑みを見せる。
「ほら、謝りなさい? 自分のせいだって? あなたが生まれてきたせいで、こうなったって?」
記憶にある己に向けていた笑顔と同じ顔で嗤うそのシルヴィアは、醜く見えた。いや…ここにあるすべてがクサっている―――アンジュは冷めた心持ちだった。
その思考のなかで、アンジュはこの数日の一部始終を思い出す。
シルヴィアの助けを求める声に、妹への贖罪を胸にアルゼナルを脱走した。シルヴィアを歩けなくしてしまった己の過去への懺悔と、妹を守らなければならないという責任感から、飛び出してきた。
あれ程帰りたいと願っていた故郷に戻り、シルヴィアを助けるために行動する中、かつての学友であり親友とも思っていたアキホからは『化け物』と怯えられ、見逃してくれと頼んだが通報された。
その仕打ちに憤る間もなく、追っ手を掻い潜り、そして懐かしい皇居へと辿り着いた。そこにシルヴィアはいた。衛兵達に取り囲まれ、助けを求める声に必死になり、ようやく手が届いたと思った瞬間―――
アンジュはシルヴィアにナイフを突きつけられた……―――世界が止まった。
まるで悪夢のように何も知覚することもできず、アンジュは呆然となるしかなかった。だが、それは夢でも幻でもなかった。こちらを見るシルヴィアは――最愛の妹が向けたのは、明確な憎しみだった。
シルヴィアは私を罵った。
姉でも何でもない、『化け物』と。どうした産まれて来たのだ、自分さえ存在しなければ父も母も死なずに皆幸せだった。自分の足も動かなくならずに済んだのだ、と―――母を返せ! 化け物! 大嫌い!
彼女は泣いていた……本気で、狂ってしまったのは、全てお前のせいだと――そう、訴えるように―――次の瞬間、アンジュはモモカと共に捕らえられた。
そんな自分を嘲笑ったのは、自分を『ノーマ』だと暴いた兄だった。ジュリオは告げた――すべて、自分を誘き出すための罠だと。
アンジュは愕然となった。『裏切り』――そんな陳腐な表現しか出ないほど、思考が考えることを放棄していたのだ。
自分は一体、何のために脱走行為を働き、危険を冒してまでここに来たのか。………茫然のあまり、自分を気遣うモモカの声もまるで異国の言葉のように聞こえ、アンジュには届いていなかった。
そして―――ようやく気がついた時には、アンジュは処刑台へと繋がれていた。ジュリオとシルヴィアに罪人のようにアンジュは布きれ一枚にされ処刑台に送られた。
そして、処刑台の前にはミスルギ皇国の国民達が喝采を上げている。シルヴィアの振るう鞭に痛めつけられるアンジュを見て歓声を上げているのだ。
まるで、これから始めるショーの余興のように―――その醜態を高みから見下ろすジュリオ。この男は、あろうことかアンジュを排斥しただけに飽きたらず、皇帝にのし上がるために父を絞首刑したと、堂々と告げた。
母ばかりか父までも死んでいたことにアンジュはショックを隠せなかった。さらにそれをしたのが、実の息子――なのに、この男は罪悪感どころか、父を蔑むように罵った。
シルヴィアはそれすらもアンジュのせいだと怒り、鞭を振るう。それを必死に止めようとするモモカも捕らえられており、そんなモモカにジュリオは無情に告げた。
モモカがアルゼナルに行けるように取り計らったのは、すべてこのためだと―――なかなか死なない自分のしぶとさに業を煮やし、失墜したミスルギ皇室の権威を取り戻すため、汚点であるアンジュを処刑するために――その言葉にモモカは愕然となる。
敬愛する主の危機をそうとは知らず、招き寄せてしまったことに―――こんな男が兄だというのか、鞭を振るうこの少女が妹だというのか――それだけには留まらず、公開処刑を見に来たかつての友人達に国民、それらはすべて己を忌まわしき存在と罵る。
よくも騙してくれたな、と。お前の存在そのものが忌まわしいのだ――だから死ね、と………アンジュは悔しさと怒りに歯噛みする。
こんな幼稚で滑稽な者達をかつて、自分は愛していたというのか――こんな国に帰りたいと願っていたのか………心のどこかで、未だに思っていた。
ミスルギ皇国は平和を愛する国だと――そこに生きる者達は皆、尊い存在だと……それがどうだ? ノーマだというだけで何もかもが悪いと、責任転嫁する思考。それに何の躊躇いもなく、声を上げる姿は人間ではなく、ただの獣だった。
(いや―――こいつら皆、人間の皮を被った家畜よ!)
そしてアンジュの所に、全身ボロボロのティアが転がる。
「ティア!」
「あ〜ら?元皇女さん、この魚ちゃんの知り合い?」
テティスがティアを踏みつけながら、処刑台へ上がってくる。
「知り合いも何も!その子は関係ないでしょ!?」
「ふ〜ん、あんた……」
テティスは微笑ましい表情を浮かばせながら、アンジュに近づく。
「何も知らないのね?……」
テティスがアンジュを見下すように告げる。
「!!?(何!?……この殺気!?明らかに普通じゃない!?)」
テティスからただならぬ殺気を感じ、警戒する。テティスはティアの髪を掴み上げ、国民に見せつける。
「見よ!ミスルギの国民!そして全国民よ!!この国の姫……人間の皮を被ったノーマの他に、こんな奴もいるんだ!!」
テティスはそう言い、腰に身につけていた剣を抜く。テティスは後ろからティアを突き刺した。
「ティア!!!!」
「アアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
胸から大量の血が噴き出し、さらにテティスはテティスはティアの喉をナイフで掻っ切った。
「何て事を!!ティアは関係ないでしょ!!?」
「関係?……大アリなのよ♪」
すると吊り下げられているティアに異変が起きる。足から鱗、尾ビレ、首エラ、水掻きが出てくる。前に集まっている国民や全国で中継されている映像を見ている各国の国民、ジュリオとシルヴィア、リィザ、そしてアンジュとモモカはティアの姿に驚く。そしてテティスがティアの首を掴み上げる。すると突き刺された筈の胸の傷と喉が再生し、血が干上がるかのように消える。アンジュやモモカはティアの驚く力に驚いていると、
「ば……ば!……化物だァァァァ!!!」
国民の一人が悲鳴を上げ、民達一斉に悲鳴を上げる。
「おい!マナの光無しで再生したよな!!?」
「何でノーマ、というかあれってノーマ?人魚の間違いじゃ?」
「とにかく、あの様な怪物は殺さなきゃ!きっとあんな化物の仲間がいる筈!」
「ノーマであったアンジュと!あの魚みたいな化物を殺せ!!」
「そうだ!!お前達化物は世界から処分だ!!」
国民の圧倒な声援に、ティアは悲しむ。その姿にアンジュは怒りを込み上げていると、
「あっははは、惨め」
「私たちを騙していた罰よ!」
その後ろ姿に、侮蔑の言葉を投げかけるのはかつての友の姿。
「どうして…」
思わず立ち止まり、アンジュが呟いた。
「どうして私が処刑されなければいけないの!? 何の罪で…」
振り返り、己の想いを主張しようとしたアンジュだったが、そうしようとする前にそれは中断された。突然投げつけられた生卵が彼女の顔にぶつけられ、中身が割れたのである。
「黙れノーマ! 私に何をしたか忘れたの!?」
投げつけた人物…かつての友の一人、アキホが憎々しい目でアンジュを睨みつけた。
「ちょっと蹴飛ばして簀巻きにしただけでしょ。大げさなのよ」
「ちょっと!? …酷い、酷いわ!」
アンジュの返答にアキホは泣き出してその場にへたり込んでしまった。慌ててその周りに友が集う。
「死刑にされるほどの罪じゃない」
だが、アンジュはそんな光景を見ても最早何の痛痒も感じないのだろう。フン、とばかりにそっぽを向いた。
「それは人間の場合でしょう!?」
「あんたはノーマ! 人間じゃない!」
「たくさんの人たちを不快に、不幸にしたの! だから死刑なの!」
「それで黙って殺されろって言うの!? 家畜みたいに!?」
「悪いのはノーマよ! だから全部貴方が悪いの!」
「ジュリオ様が死刑って言ってるんだから、死刑でいいじゃない!」
両者の応酬は何処までも平行線だった。そして、そこかしこからアンジュの旧友…彼女は最早友とさえ呼びたくないだろうが…に賛同する歓声が上がる。
「悪くありません! アンジュリーゼ様は何も悪くありません!」
その状況にいたたまれなくなったのだろうか、モモカがアンジュをかばうように両者の間に入って声を張り上げる。
「私は、アンジュリーゼ様のおかげで幸せに…」
しかし、そこまでだった。何故なら観衆の間から自然発生的に悪意が押し寄せてきたからだ。
『『『吊ーるーせ!吊ーるーせ!』』』
そしてそれは瞬く間に手拍子と共に観衆の間に広がっていった。
「どうして…? どうしてアンジュリーゼ様だけが、こんな酷い目に…」
目の前の光景が信じられないのだろうか、はたまた理解できないのだろうか、モモカはそれ以上二の句が告げなかった。
「モモカ…」
そんなモモカに、アンジュが慈しむような視線を向けた。
「貴方と…あそこの人たちだけね。差別や偏見、ノーマだとか人間だとか関係なく、私を受け入れてくれたのは」
脳裏に浮かぶのはアルゼナルの面々の姿。恐らくはもう二度と逢えないのだろう。共に過ごした期間は短くとも、その姿は強烈に、印象は鮮烈にアンジュの頭の中に残る。
(それに比べて…っ!)
アンジュは元は自分の臣民だったミスルギの観衆に目を向けた。吊るせコールと手拍子は止むことなく続いている。
「さっさと殺せよ!」
「早く帰りたいんだけど」
「魚は焼いて殺してまえ」
そしてそんな揶揄が、尚もアンジュに浴びせられる。
(これが、平和と正義を愛する、ミスルギ皇国の民? …ブタよ! こいつらみんな、言葉の通じない、醜くて無能なブタどもよ!)
アンジュの視線は一層鋭くなり、ギリッと歯噛みする。
(こんな連中を生かすために、私たちノーマは…っ!)
悔しさからか、兄であるジュリオにそのまま視線を向けた。と、ジュリオが自分の指輪を弄んでいるのが視界に入ってきた。
その瞬間、アンジュは今は亡き母のことを思い出していた。
『アンジュリーゼ…貴方にこれを。どうか、光のご加護があらんことを』
洗礼の儀の前夜、母から譲り受けた指輪を見たアンジュは何かを思い出したのか、今までの険しい表情が嘘のように納まった。そして
「♪〜♪〜♪〜」
歌を口ずさみ始めたのだ。永久語りという、ミスルギ皇家に代々伝わるものだった。アンジュはその永久語りを口ずさみながら、処刑台へと自ら歩いていく。途中、リィザに命じられた近衛兵が止めさせようとするが、アンジュの気迫に圧されてか、手出し出来なかった。
永久語りを口ずさみながらゆっくりと歩くアンジュの脳裏には、二人の人物の顔が浮かんでいた。
「(タスク…)」
一人はかつて無人島に不時着したとき、その島で数日を共に過ごした青年、タスクだった。あのときの思い出が脳裏に幾つも蘇る。
決して楽しい思い出だけではなったけど、それでもあの数日間は今迄で一番生き生きとしていたときだったかもしれない。
「(会いたいな、もう一度…)」
もう一度その顔を思い浮かべ、アンジュは吹っ切っていた。
(道を示す光。お母様が私に残してくれたもの)
未だ永久語りを口ずさみながら、アンジュは一歩一歩処刑台へと向かって歩く。
(私は死なない。諦めない。殺せるものなら、殺してみろ!)
いつからかそんなアンジュに呑まれたかのように、広場に集まった観衆は静まり返っていた。
そしてアンジュの歌は、グレイス達の所まで響き渡っていた。
「?」
「これは……永遠語りか…」
「綺麗な…歌…」
「美しい歌だ……」
するとグレイスの頭の中で、ある映像が浮かび上がる。アンジュの父と母であるジュライ・飛鳥・ミスルギとソフィア・斑鳩・ミスルギがアンジュをどれだけ愛しく思ったのか……洗礼の義の日に、ソフィアがアンジュを庇い、アンジュに告げる。
《生きない、アンジュリーゼ…》
最後を遂げたソフィアに、グレイスはいつの間にか涙を流していた。グレイスは涙を拭くと、彼に異変が起きた。銀の短髪が黄金の長髪、蒼眼から碧眼、褐色肌が白く変色した。
「グレイス?」
「……タスクさん、先ずアンジュさんを救出してください。」
グレイスはそう呟き、鞘から刀を引き抜く。
「っ! 早くしろ!」
先程までと一変した状況に苛立ったジュリオが近衛兵に命令した。弾かれたように近衛兵が、未だ永久語りを歌っているアンジュに近寄って絞首に顔を叩き込む。
「さらばだ、アンジュリーゼ」
ジュリオがそう呟いたのが合図のように、刑が執行される。足元の感覚がなくなり、アンジュは観衆が望んだ通り吊るされることとなった。
「アンジュリーゼ様ーっ!!!」
モモカの悲痛な悲鳴が響き渡る。そしてそれとほぼ同時に、近隣の森から一発の閃光弾が発射され、中庭を昼のように照らした。
突然の事態に悲鳴を上げて目を押さえる観衆たち。そんな彼らの隙を突くかのように漆黒の機影が夜の空に舞う。
その時にジュリオの横を通り、搭乗している人物から手裏剣が投げ込まれ、アンジュを吊していたロープを切り。その者は落ちて行くアンジュをキャッチする。
っが…。
「うわっ!」
思わずバランスを崩してしまい落ちてしまって、
「う、うえ~~~!!?」
何とアンジュの股間に頭を突っ込んいて、それにレオンは思わずドン引きしアンジュは真っ赤な顔になる。
そいつはもがいていて、アンジュはさらに真っ赤にある。
「こ…こっの~~!!!」
「ぐほっ!!」
アンジュはその人物の腹を蹴り飛ばし、壁に激突した瞬間頭に被っていたローブが取れてタスクの顔が現れる。
「えっ?!タ…タスク!!?」
「近衛兵!何をしている!早く取り押さえろ!!」
くらんだ目から回復したリィザは、近衛兵にアンジュを捕獲を命令する。アンジュは急いでタスクを飛行艇へと運び出す。
「ノーマを助けるあの男たち、一体…」
「反乱分子だ。ノーマに与するテロリストどもめ!」
忌々しげにジュリオが吐き捨てる。その間に新たな近衛兵たちがアンジュ(と、タスク)を囲んでいた。新たな敵の出現に、アンジュの表情に緊張が走る。
「アンジュリーゼ様ーっ!」
そんな彼女の元に、拘束を解かれたモモカが駆け寄ってきた。
「モモカ!」
マナの手錠を破壊するアンジュ。マナの力でアンジュの手錠を解除するモモカ。
「解錠!」
そんな二人に、近衛兵たちは照準を定めて銃の引き鉄を弾こうとする。
「そうはさせん!!」
「「「!?」」」
何処からともなく声が響くと、近衛兵の頭上から影が舞い降り、刀で近衛兵の首を切り落とした。切られた首根から血が噴水の様に噴き出し、影はゆっくりと顔を上げる。黄金の髪、白き肌、翡翠の碧眼のグレイスは、身体中が血に染まっており、国民に恐怖を轟かせる。
「フッ♪」
グレイスは笑うと、疾風の如く速さで、近衛兵を次々に切り倒していく。迎撃しようと、近衛兵が猟銃を構えると、背後から巨獣化したエグナント、オボロ、ミカが現れた。
「ば!化物っ!!」
近衛兵の最後の言葉なのか、エグナントの樹木の足によって、近衛兵が下敷きになる。オボロは金属の四足と身にまとった鋼鉄の鎧、両手には巨大な双剣で迎撃してくるレギオロイドを粉砕する。ミカは身体中がオボロと同じ鋼鉄の鎧を身にまとっており、全身がクルクルと周り、鎖の触手でレギオロイドや近衛兵を叩き切る。そして上空からは、複数のジェットパックを装備したレギオロイドが向かっていたが、セシル、メタリカが仕掛けた榴弾砲、リモートスナイパー、チェーンガンに足止めされていた。
大きく弧を描きながら逃げ惑う民衆の中心に落ちた瞬間、巨大な爆発が民衆を呑み込んだ。眩い閃光にアンジュは思わず眼を覆い、ジュリオやシルヴィア達も視界を隠す。
轟音が響き、アンジュが眼を開くと、そこには巨大な穴ができており、周囲には爆発で四肢を吹き飛ばされた民衆の死体が無残に転がっている。
その光景に痛みも一瞬忘れて茫然となっていたアキホの前に先程逃げた友人の腕が落ち、悲鳴を上げる。
中心にいた者達は木っ端微塵、巻き込まれた者も既に半死半生の状態であり、所々で呻き声が聞こえる。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図に、ジュリオやシルヴィアは慄き、言葉を失っている。
反対にアンジュはどこか唖然となっているだけで、さして動揺もしていなかった。しかし、テティスの目の前に、全身が血に染まっているグレイスを睨む。
「"RBLー1272"!!ノコノコと現れたな!!この殺人鬼!裏切り者!血の悪魔め!!」
「……どの口がそれを言う」
グレイスはそう呟き、刀をテティスに向ける。
「10年前の恨み……倍にして返す!!」
「ほざけぇっ!!」
テティスは怒鳴りながらスピアを構え、グレイスに槍先を向けるのであった。
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第二十一話:救出作戦・後編
一方、アンジュは気絶したタスクを乗っていた飛行艇に運び込み、タスクの飛行艇を見て驚く。
「パラメイルと同じ……モモカ!」
「はい!こちらを!」
「アンジュ!これもだ!!」
モモカがマナの光で、気絶したタスクの懐から、手榴弾と投げナイフを取り出し、グレイスも背負っていた猟銃をアンジュに渡す。アンジュは近づいてくるレギオロイドと近衛兵に、手榴弾を投げる。手榴弾は爆発を起こし、追撃されないよう装甲車も破壊する。
「モモカ!しっかりつかまって!」
「はい!」
タスクの飛行艇に乗り込んだアンジュとモモカ、そして気絶したタスク。
「おのれアンジュリーゼ…!」
「感謝してるわお兄様、私の正体を暴いてくれて。ありがとうシルヴィア、薄汚い人間の本性を見せてくれて」
アンジュはシルヴィアに向かってじょうだんでもない笑みを見せる。その事にシルヴィアは思わず引いて、アンジュはそのまま叫ぶ。
「さようなら、腐った家畜共よ!!」
アンジュは飛行艇を動かし、ジュリオは怒りが爆発する。
「く!追え!追ええええ!!!」
その時、テティスと戦っているグレイスが、ホルスターからマグナムを取り出した。
「おい!!」
「っ!?」
バァァンッ!!
ジュリオが、グレイスの返事に反応し、振り向いた直後、一発の銃声が鳴り響き、ジュリオの右頬に一発の銃弾が飛び刺さり、右頬に大きな穴が開き、肉片と大量に血が吹き出る。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!」
ジュリオは右頬を抑えながらもがきシルヴィアが悲鳴を上げる。グレイスはマグナムを直し、戦闘を続ける。テティスがスピアの突き技で、グレイスを追い詰める。
「この裏切り者が!!あんたやあの魚女が余計な事をしてくれたせいで!!家のパパが不機嫌になったじゃないの!!」
「そんなの自業自得だな!!姉さん!!」
「っ!!アタシの事を……姉さんって言うな!!」
テティスは怒鳴りながら、スピアを振り回す。グレイスはバースト式パルスライフルを連射する。
「効かないよ!!そんなの!!」
テティスがスピアを振り回しながら、接近する。っとグレイスが跳び上がり、パルスライフルを乱射する。テティスはさらに角度を調整しながらスピアで防御すると、弾き返したパルスライフルの弾丸が、吊り下げられているティアの縄を切った。
「しまった!!」
跳び上がったグレイスが、落ちているティアを抱き上げ、刀を構える。
「貴様や他の兄弟、そして"アイツ"とディメントは許さない……10年前のあの日!……"あの娘達"の夢を……未来を!!」
「それがどうしたぁぁ!!」
テティスがスピアを突き付けると、グレイスが手を伸ばし、スピアがグレイスの手を突き刺す。
「!!?」
すると突き刺された手が再生し、スピアが抜けなくなる。
「まさか……魚女の血肉を!?…チッ!!離せ!!この化物が!!」
「離すか!!」
両者は必死に抵抗すると、グレイスが呟く。
「一発殴らせろ……クソ姉貴!」
「何っ!?」
グレイスは腕ごとスピアやテティスを引っ張り上げた。
「ぐうっ!!」
引力に引かれたテティスがグレイスの所まで引っ張られた直後、グレイスの左ストレートがテティスの顔面に炸裂した。
「これは……ティアとあの娘達の痛みだ!!」
「ゴブゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」
テティスは悲鳴を上げ、吹き飛ばされた。グレイスは刺さっているスピアを圧し折り、口でスピアを抜き取る。
「グッ!!」
刺さった傷が、ティアの力によって再生し終えると、空に向かって叫ぶ。
「ラルス!!」
グレイスの声に惹かれるかのように、空から飛翔携帯のリベリオンが飛んできて、グレイスはティアを抱えたままリベリオンへ跳び上がり、去っていく。
アンジュとモモカとを無事救出に成功したタスク達は素早くミスルギ皇国から脱出し、アルゼナルへと帰投していた。
輸送機の中でアンジュとモモカはエグナントに毛布を渡されて身体を包み、モモカは毛布に包まれながら静かに泣いていた。
「申し訳…申し訳ありません。アンジュリーゼ様…」
モモカはジュリオに自分が利用されていた事に気付かず、主であるアンジュを危険な目に合わさせて仕舞った事に罪悪感を感じており、必死に頭を下げながら謝っていた。
しかしそれをアンジュは頭を横に振る。
「何言ってるのモモカ、お蔭でスッキリしたんだから」
「え?」
アンジュの意外な言葉にモモカは顔を上げる。
「私には、家族も仲間の故郷も…何にもないって分かったんだから」
「アンジュリーゼ様…」
「アンジュちゃん、モモカちゃん、これを♪」
っとセシルはアンジュとモモカにコーヒーを渡し、それを二人は受け取る。
「ありがとう、セシル…」
「あ、ありがとうございます」
「それよりも…」
アンジュが、気絶しているタスクの頬に平手打ちをした。
「痛い!!」
「どう?目が冷めた?」
「あ!良かったアンジュ!無事でって!?」
「あなた、またやったわね!!」
アンジュはタスクの上に乗っかって、頭をぐりぐり攻撃をする。
タスクは怒っているアンジュの行動に分からずにいた。
「何~!? 何が~…?!」
「どうして股間に顔を埋める必要がある訳~?意地なの癖なの? それとも病気なの~!!?」
アンジュが怒っている理由は股間の件だった事に、エグナントは呆れる。
「はぁ〜、全く…」
「ご!ゴメン!!いででででででででででででででででで!! ゴメン!!!」
その事に聞いていたジュン達は思わず呆れる様子になる、そして見ていたモモカはアンジュに問いかける。
「あの…、アンジュリーゼ様。そちらの方とは一体どう言う関係で?」
「えっ?えっと…」
「た、ただらなぬ関係…」
っとタスクがそう言って、アンジュはその事に思わず「は!?はぁ!?」と声を上げる
その事を聞いたモモカは嬉しい表情をする。
「そうですか! お二人はその様な関係でしたか!男勝りのアンジュリーゼ様にもようやく春が…筆頭侍女としてこんなに嬉しい事はありません」
「ってそこまで行ってないわよ!!モモカ! 何を考えてるのよ!!」
アンジュはモモカに言いながらタスクの頭を思いっきり叩き、それにタスクは頭をすする。
「いててて…、酷いよアンジュ…」
「どうしてあそこにいたの?」
アンジュが問うと、タスクは頭をすすりながら返答する。
「連絡が来たんだ、ジルから…」
「ジル…司令が?」
「君を死なせるなってね……」
タスクは説明し、ポケットからあるものを取り出し、アンジュに渡した。
「それとこれ…大事なものだろ?」
それは、ジュリオに奪われたあの皇族の指輪だった。
「ありがとう…あなた、一体何者なの?それにあなた達……突然あんな化物から人間になって……」
アンジュはタスクやエグナント達に問う。
「…俺は『ヴィルキスの騎士』」
「騎士?」
アンジュがヴィルキスの騎士と言うタスクの言葉に頭を傾げる。
「そう、アンジュを守る騎士さ……そして彼らは…。」
「ファミリア……。」
「『ファミリア』…?」
エグナントが立ち上がり、アンジュに説明する。
「儂等ファミリアは…人間によって改造された生物兵器。謂わば"改造人間"だ。」
「改造人間?」
「詳しいことはジルから聞け……。」
「…そうするわ」
タスクはアンジュにそう言い、アンジュはそれに頷く。
っとその時。
ドカァァァァン!
輸送機の付近に何かが直撃し、衝撃が輸送機にも響いて機内に居るレオン達は体制を崩しす。
「どわっ!?何だ?!」
「一体なんだ!?」
アンジュとセシル達は突然の事に驚き、エグナントはすぐさまモニターを映す。
「あれは!!」
モニターにはリベリオンが映っており、ティアを抱えたグレイスが乗っていた。
「グレイス!それにティアも!」
「様子がおかしい?」
するとリベリオンの後方から、緑に発光するエネルギー弾が海面に炸裂する。
「何!?」
すると、リベリオンの後方に影が現れる。
「あれは!?」
それは…リベリオンに似ているが、装甲の色が銀と黒、青のマーキングが塗られたリベリオンであった。
「あれはテティスの機体…"シュトローム"だ!!」
グレイスを追っているテティスの機体"シュトローム"はビームライフルで追撃する。騎乗しているテティスは鼻血を出しながら、目に赤筋を浮かばせ、鬼になっていた。
「ぶち殺す!!ぶち殺す!殺してやる!!」
怒声を上げるテティスは腰部に装備している槍『フリージング・ハルバード』を持つ。
「行け!!私の眷属!!」
テティスがフリージング・ハルバードを振り上げると、ハルバードから氷のドラゴンが襲い掛かる。ドラゴンは海面に炸裂し、海面を凍らせていく。リベリオンは旋回しながらドラゴンを回避し、輸送機に追い付く。エグナントは輸送機の後部ハッチを急いで開き、リベリオンを収納させる。
「グレイス!」
グレイスの元に駆け寄るタスク達。グレイスは傷だらけのティアを抱え、リベリオンから降りる。アンジュはグレイスの姿に驚く。
「あなた!?その髪!?」
「話は後だ、アンジュ……」
グレイスの鋭い碧眼がアンジュを睨む。
「え!?」
「ティアを……姫様を頼む。」
「え?…分かった」
アンジュはポカンと唖然し、ティアを抱える。グレイスはリベリオンに騎乗し、収納していたパラメイル専用ガトリングガンを持つ。
「借りるぞ…」
グレイスはそう呟き、テティスを迎え撃つ。ガトリングガンから放たれる弾丸の雨が、シュトロームを追撃する。
「この野郎!!ガトリングとかセコい武器を使って!!」
テティスもビームライフルで応戦する。
「ラルス!残弾数は?」
『残弾数240……220……200…』
ラルスがガトリングの残弾数を数えていく。テティスもビームライフルのエネルギーが尽きるまで撃ち続ける。そして…。
『40……20……0!』
ガトリングガンの銃声が収まり、弾切れになる。
「クソ……」
弾切れになったのを確認したテティスは、残りエネルギー25%のビームライフルを向ける。
「終わりだ!裏切り者!!アタシを恥かかせた事を……公開させてやる!!」
テティスがビームライフルを構えると、リベリオンがガトリングガンを捨て、パドルデーゲンを展開した。
『覚醒プログラム率が55%まで上昇。"アドバンスド・フォルム"及び"アトランティカ・フォルム"へ移行します。』
リベリオンの音声と共に、リベリオンの装甲と姿が変わっていく。
「何!?」
リベリオンの新たな姿は、全体的にシンプルで、白銀の姿に青いラインが引かれ、装甲は小さくなり軽装へとなっており、頭部の螺旋状角が一本になっており、前へ突き出しており、スラスターウィングや肩部、腰部、脚部にバーニアが増えていた。
「リベリオン アトランティカ・フォルム!」
グレイスがリベリオンのまた新しい姿の名前を呼び、
握り拳を作らず、菩薩のように平手で身構え太極拳を思わせる流麗な仕草が目を引くが、 左手を右胸に、右掌を前にかざす独特なファイティングポーズをする。青いリベリオンを見たテティスは、思わず冷や汗をかく。
「(しまった!!アイツを余計に強くさせてしまった!!もしこれがパパに知られたら!!消される!!)こうなったら……意地でも使命を全うする!!」
テティスはフリージング・ハルバードを突きつけると、リベリオンはパドルデーゲンからビームブレードを展開した。
「スペリオルドライブ起動!」
グレイスはリベリオンのスラスターウィングに搭載されているドライブユニットを起動すると、スラスターウィングが展開され、6枚の青いエナジーウィングを放出する。
「コケ脅しか!!」
テティスがフリージング・ハルバードを振り上げ、氷のドラゴンを放つ。その直後、リベリオンが消えた。
「っ!!?」
テティスや、モニター画面を見ているタスク達も驚く。
「消えた!?」
「違う……センサーでも追いつけない程の速さだ…」
「「え!?」」
「エグナントさん、見えるの!?」
「あぁ……アトランティカは、水の如く力。さらに超速は彼にしか追いつけない程の速さだ。」
エグナントの説明に唖然すると二人は、モニターを見る。
リベリオンはテティスの放った氷のドラゴンを高速で、斬り裂いていく。
「何なんだよ!!?アタシが何をしたっていうのおおぉぉぉっ!?」
荒れ狂うテティスは泣きながら氷のドラゴンを放つが、リベリオンのビームブレードが氷のドラゴンを次々と斬り裂いていく。そしてシュトロームの目と鼻の先のとこら辺で現れる。
「フンッ♪」
「っ!!」
突然グレイスが、泣き崩れているテティスに向けて、鼻で笑う。
「……馬鹿にしてぇぇぇぇっ!!!!!」
テティスは怒声を上げながらハルバードを振り回し、突き構え、突進する。槍先から氷の刃を放出する。グレイスもリベリオンのビームブレードを構え、両者は激闘した。
「っ!!?」
シュトロームのマニュピレーター及び、腕部、脚部がバラバラになると、シュトローム自体が一刀両断された。コックピットやテティスの体が半分になり、テティスは涙を流し、呟く。
「エンブリヲ様……。」
テティスの最後の言葉を聞いたグレイスはフリージング・ハルバードを持ち、氷のドラゴンを放つ。炸裂していくシュトロームは爆発し、海へ墜落、そして海面に激闘し、大爆発を起こした。
モニターで見ていたエグナント達、タスク達はグレイスの戦いぶりを見てかなり感心していた。
「はぁ〜…良かった」
「凄い……俺達を虐待していた四天王……『氷のテティス』を……瞬殺した。」
オボロは今までの戦闘で、蝕まれていたトラウマが、グレイスによって解放されたことに、胸を抑える。そしてグレイスはもとのフォルムへと戻り、シュトロームのフリージング・ハルバードを持って、輸送機に入る。
先の戦闘でグレイスが、どうも落ち着かなく、孤島でキャンプする事になった。今もまだ目覚めていないティアに、グレイスはティアの頭を撫でる。
「辛いか?」
振り返るとそこに、エグナントが立っていた。
「エグナントさん……」
グレイスの横に、エグナントが座り込む。するとエグナントが寝ているティアやグレイスを見る。
「(やはり無い……10年前の傷が……)お嬢さんはまだ目覚めないのか?」
「えぇ……軽傷で良かったのですが……」
グレイスは心配そうにティアを見る。それは数分前の事であった。無人島に上陸し、ティアに包帯を巻こうと近付いた。
「来ないで!!」
《!!》
傷だらけのティアが人魚の姿のまま、グレイス達に牙を向ける。グレイスは落ち着かせようとするも、ティアは反抗する。興奮状態のティアはエグナント達が任せられ、グレイスはアンジュに説明する。
「あの娘、一体何なの?」
「……人魚だ」
「人魚?」
「上半身が人…下半身が魚の美しい何かなのです…」
「それって伝説や神話に出てくるあの人魚…つまり、人魚姫なのですか?」
モモカが何やら興味津々でグレイスに語る。
「モモカさん、人魚の事を知っているのですか?」
「知っていますとも、私がまだアンジュリーゼ様の侍女になる前、お母さんが人魚姫の絵本を読んでくれましたから♪」
「へぇ〜」
「驚きました。まさか本当に人魚姫様がこの世にいたなんて〜♪」
モモカの目がキラキラして、エグナント達に抑えつけられているティアを見つめる。だが、アンジュはティアのあることに興味を持つ。
「あの子…傷つけられたところが再生したけど、マナの光は?」
「ない……人魚は傷つけられても、再生するんだ。僕もそうだけど…、」
「「「え?」」」
三人は首を傾げると、グレイスはアーミーナイフを抜き、指を切る。
「グレイス!?」
アンジュは驚くと、グレイスの切った指が再生ていく。
「何で!?あなたも人魚なの!?」
「違う……僕はティアの血を飲んだから、こうやって再生できるです」
「血を……飲んだ?」
「エルシャさんが言うには、人魚の血肉を食べた者は……不老不死になると、」
「え!?それじゃ…あなたは!?」
「そう……歳もそのまま、死ねない体になってしまったのです。」
「そんな……」
アンジュはあまりの事に動揺していると、タスクがグレイスの肩に手を置く。
「俺は……あんな差別はしない。グレイスはグレイスだから♪」
「タスクさん…」
「私もです!グレイスさんやタスクさん達は必死にアンジュリーゼ様やティアさん、私もたすけくれたのですから!」
「……私も、アイツ等みたいなクズは…ティアを化物呼ばわりした。それでも助けた……あなたはあなた…グレイスはグレイス…だから…」
「モモカさん…アンジュさん……」
グレイスは三人の励ましに、嬉し涙を流し、ティアが人魚だと言う事を秘密にしてもらった。
するとグレイスが、あの戦闘時の姿について話す。
「あれって……僕ですか?」
「……そうなるかもな。」
「僕の失われた記憶に出てきた青年……あれが本来の僕…。」
「……怖いのか?」
「……はい。正直に言いますと、僕って本当は怖い人だったのかと思うと……心が震えて…それで…」
グレイスが拳を握りしめると、エグナントが呟く。
「10年前……」
「え?」
「10年前………お主は儂等を助けたことがあるのじゃ」
「僕が、エグナントさん達を?」
「うむ…あの当時はお主は冷酷でクール、そして……被験体からも優しい存在でもあった……アイツ等と違って…。」
「アイツ等っと申しますと……テティスの他に……"ヘリオス"、"アトラス"、"ファントム"…Dr.ディメント……」
「うむ、元々儂等は何も知らない…マナの光の恩寵を受けていた普通の人間であったが、Dr.ディメントによって改造され、実験用モルモットの様に扱われていたが、お前が優しく問い掛け、少しは希望を持てた……あの大事件を起こして、君の性格は一変した…。」
「一変?……あ、そう言えば、あの娘たちって?」
「……それは言えん。知っているが、話せん。」
「そんなにですか?」
「……最悪、お主は身を滅ぼしてしまう事にもなる。」
「………」
グレイスはただ、エグナントの悲しそうな表情を見つめるしかなかった。
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第二十ニ話:居場所
早朝、ティアは目を覚まし、輸送機の中でグレイスに謝る。
「あの……」
「……」
「その……ごめんなさい、グレイス…。愚民に差別された事で、グレイスに……」
「いいんだよ…」
「「………」」
「……お二人さん、そろそろ着くぞ」
操縦しているオボロが報告する。
アルゼナルのデッキで少数だがレオン達の到着を待ってくれている者達が居た。
それはジルとサリアとメイを始め、ヴィヴィアン、エルシャ、ココ、ミランダがその場に居て、グレイス達の帰りを待っていた。
待っているとグレイス達を乗せた輸送機がやって来て、輸送機が見えたヴィヴィアンが指を刺す。
「あ!帰って来た!!」
それにエルシャ達の表情が明るくなり、輸送機がアルゼナルのデッキへと着陸して、ヴィヴィアン達が駆け寄る。
輸送機からまずエグナント達が降りて来て、そこからグレイス達が降りて来る。
そしてアンジュの姿が見えた途端にヴィヴィアンが…。
「アンジュ~!!」
「うわっ!ヴィヴィアン?!」
いきなりヴィヴィアンがアンジュに飛びついて抱き付き、エルシャ達もアンジュの元に寄る。
「お帰り~アンジュ!」
「よく無事だったわねアンジュちゃん、怪我は?」
「ええ…、大丈夫よ」
アンジュは出迎えてくれたヴィヴィアン達に、アンジュの表情に微笑みが浮かぶ。
グレイス達はそれを見て笑みを浮かべて見ていた。そしてエルシャがグレイス達の方を見る。
「グレイス君も皆もご苦労様」
「ああ」
「あの…、その人は?」
っとココがタスクやエグナント達の存在に気付いてグレイス達に問い、それにグレイスが答える。
「ああ、彼はタスクさん。アンジュさんの命の恩人だ、アンジュさんが遭難した時に助けたのもタスクさんで、僕にグレイスの名付けてくれた人物。で、こちらがエグナントさん、オボロさん、ミカさん…。」
「あ…どうも」
タスクは皆に頭を下げると、エグナントとオボロ、ミカが前に出る。それにヴィヴィアンは元気よく答える。
「やほ~!! 君等がアンジュを助けてくれたんだ!サンキューサン!」
ヴィヴィアンが答えた後にエルシャ達が頭を下げる。
そしてジルたちがやって来て、ジルはグレイス達の方を見る。
「ご苦労であった、よくやった」
「司令…何故僕達の方にタスクさんの事を連絡させて来なかったんだ?」
「フッ、言ってどうする?」
グレイスは拳を握りしめるが、それにタスクとアンジュはこそっと止める。
「アンジュ、そしてグレイス。しばらくは休んでいろ…、命令があればすぐに駆り出す」
そう告げただけでジルは去って行き、サリアもアンジュを一目見てジルの元に向かって行く。
グレイスとアンジュはそれに顔を見合い、その時にタスクが話す。
「それじゃアンジュ、俺は行くよ」
「行くの?タスク」
「ああ、まだやるべき事が残っているから「その事じゃが、タスク」はい?」
「ヘリオス…アトラス…ファントムがどうやら、他の五人を叩き潰したとの応えがあった。」
「え!?」
「心配するな……アイツ等は敗れん。」
「分かるんですか?」
「分かるとも……彼等はもう、この場所にいると……」
すると海の中から、三つの巨影が飛び出した。それは巻貝の貝殻を持つ巨大な蛸、触手と女性の体と思われる部分を持つ巨大ヒトデ、全身が岩と鋼の豪腕を持つ巨大な牛人の怪物。さらに、上空から蛇の尾、葉っぱの様な触手を持つ怪物、そして体中から溶岩を垂れ流しながら、両手に二本の炎の剣を持った怪物が姿を現した。エルシャ達は五体の怪物達を警戒し、ヴィヴィアンは目をキラキラと輝かせていた。するとジルが五体の怪物へ呟く。
「久しぶりだな……岩壁のトーマ…湧水のダスト…紅蓮のアツマ…深淵のナナリー…淡水のガリィ……」
すると五体の怪物がみるみると小さくなり、人間体へとなる。岩壁のトーマ、別名『キルテ・アイラーヴァタ』と言う男性はジルに呟く。
「アンタもな、ジル………タスク」
「あ、はい」
「このままミスルギに戻るのは大変危険であります、ミスルギにはもう……ヘリオス、アトラス、ファントムが戻っている。しばらく此処に居ろ…。」
「え?でも…」
「心配するな♪ダストとガリィが代わりにミスルギに潜入して、情報を仕入れていると思うからなぁ……それに…」
するとトーマがタスクとアンジュを見る。
「タスク……いつから"ガールフレンド"できたのだ?」
「「!!?」」
「ちょっ!?何を言っているのですか!?トーマさん!!?」
「え、違うの……じゃあ、愛人?」
「だから〜!!」
するとタスクの後ろにいるアンジュが、はんにゃの顔を思い浮かばせる表情になりながら、怒りのオーラを放つ。グレイスは怯えながら、タスクの肩を叩く。
「?……っ!!」
振り向いた直後、タスクの股間目掛けてアンジュの膝蹴りが炸裂した。
「フンッ!!」
「金っ!!…た……ま……」
タスクは股を抑えながら倒れた。グレイス達は自分達の股をおさえ、アンジュに怯える。アンジュは頬赤くしながら、戻るのであった。
グレイス達がヴィヴィアン達と話している中ある事を聞いた。
「えっ?脱走兵?」
「そう…、見に行ってみる?行けば分かるわ…」
っとエルシャが言う事にグレイス達は顔を見合う、そしてアルゼナルの独房でエルシャに案内されたグレイス達は中に居る人物を見て驚く。
そこには顔面あざだらけのヒルダが居た。
「だ、脱走兵って…ヒルダさんの事だったのですか?」
「うっせぇ~な…、静かにしろ…ってお前等かよ」
ヒルダは身体を起こし、文句を言いながらもグレイス達を見る。
グレイス達はヒルダが何故独房に居る事を問う。
「ヒルダ、何故お前が独房に…?」
「へっ、あんた等の輸送機に紛れたのさ。アタシの故郷に帰る為にね…!」
ヒルダはグレイス達がミスルギ皇国に行く時に輸送機に紛れ込み、その時にヒルダはすぐに自分の故郷『エンデラント連合』に帰っていた。
「故郷にって……はっ!」
グレイスはその事にある事を思い出した。前にアンジュの捜索の時にエルシャがヒルダに言った言葉だった。
『似てるのよ…、昔のヒルダちゃんに』
「エルシャさんが言っていた言葉…、この事だったのか…。」
グレイスはそれにエルシャの方を見て、エルシャは頷く。
「まっ、結果として部屋も財産全部没収。おまけクリスにも絶交の言葉の浴びせられたぜ…」
ヒルダはそう言って寝ころびぶつぶつと呟いていたが、それを見ていたアンジュはグレイス達に言う。
「グレイス、タスク。ちょっと私とヒルダの二人っきりにさせて」
「えっ? まあ…別に良いが」
そう言ってグレイス達は去って行き、アンジュとヒルダの二人だけとなった。
その夜、グレイスは一人で夜空を見上げていた。
「エグナントさんが言っていた10年前……僕は一体何を?(…やっぱり気になる、僕が一体何者なのか…。)」
「眠れないのか?」
その事にグレイスは後ろを振り向くと、タスクがやって来ていた。
グレイスは腰に掛けているタオルを取り、汗を拭きながら問う。
「タスクさん、どうしたんですか?」
「いや…、ここは女子ばかりだから…ちょっと落ち着かなくて」
タスクはアルゼナルに落ち着く場所が無い事に困っており、それにはグレイスも納得する。
「それは言えます。だが次期に慣れて来ますよ、今は辛抱だって事です♪」
「そうかな?」
「そうですよ、」
そう二人はつまらない話に思わず笑い出して、楽しんでいた。
「あら、随分と楽しそうじゃない」
っと二人が声がした方を見ると、アンジュが二人の元にやって来る。
「アンジュさん」
「どうしたの?」
「実はあなた達にまだお礼言ってなかったの。ありがとう二人共、あなた達が助けに来なかったら…私死んでた」
アンジュはミスルギの件の事をグレイスとタスクに礼の言葉を言い、それに二人は言う。
「良いんですよアンジュさん、僕は僕でやっただけの事ですから」
「俺は…ヴィルキスの騎士だから当然の事をしただけだよ。それに…」
タスクは夜に出ている月を見て、細目になって言う。
「君の歌…とても綺麗だった」
っとアンジュはその事の一瞬唖然とした表情を、グレイスはタスクの言葉に頭を傾げる。
「あの時の歌、今でも耳に流れているし、忘れられない…本当に」
タスクがアンジュが処刑台の場で歌った件に、アンジュは恥ずかしそうに頬を少し赤くして、髪の毛をくるくる回す。
「ば、馬鹿ね…、恥ずかしい言葉…言わないでよ。…はっ!」
アンジュはグレイスが思わずニヤッと笑っているのに気が付き、真っ赤な顔で追いかける。
「何笑ってるのよ!!」
「いや~、仲の良いお二人な事で。僕邪魔かなっと思った所で~♪」
からかいながらアンジュから逃げるグレイス、それにタスクは思わず苦笑いをしてしまう。
そしてグレイスは足を止めて、ある事をアンジュに問う。
「それでアンジュさん、ヒルダさんと何を話してたのですか?」
「え? ああ…この世界に付いてよ」
それにグレイスとタスクの表情は変わり、アンジュは月を見て言う。
「この世の中、ノーマがマナを使えない事にそんなに行けない事なの…? それともノーマが生まれて来ちゃ行けない理由…人間がすぐに決めちゃって良い物なの? そんな世界…こっちから“ぶち壊す”わよ!!」
っとアンジュの意外な言葉にグレイスとタスクは驚く表情になり、それにアンジュは気づく。
「…何?」
「あ、いや…意外な言葉が出て…」
「アンジュさんって暴言も使う事もあるんだね…」
その事にアンジュは理解した様に頷く。
「その事ね、これはヒルダから教わったわ」
っとそう納得し頷くグレイス、タスクは苦笑いしながらも言う。
「そっか、…なら僕はアンジュさんの支えになるよ」
「え?」
「君がやりたい事を僕は見守り、そして支えになる…僕は」
それにアンジュは優しく微笑みを浮かべ、頷いてタスク見る。
グレイスは頭をかきながらアンジュの考えに支援する事を決める。この世界を変える為なら…。
そしてアンジュは月を見始めた時に彼女の歌【永遠語り】を歌い出して。それを聞いたグレイスとタスクは静かに聞いていた。するとグレイスの頭の中で、ある光景が映し出される。
そこは薄暗くて分からなかったが、何処か知らない実験場であり、その部屋にはいろんな機材や何台かの実験台が並べられていた。そして次の光景は、テティスを含め、ヘリオス、アトラス、ファントムが不気味な笑顔で、実験台に寝かされている子たちを見下していた。その中に白銀の髪で眼鏡をして、白衣を着た男性が実験場の中枢に置かれているカプセルを擦る。カプセルの中にはグレイスが見たあのクラゲのような人魚が眠っていた。そして映像が消えると、目の前の光景が元に戻っていたのであった。
そしてミスルギ皇国の暁ノ御柱の地下。誰も知らない別の場所にヘリオス、アトラス、ファントムが目の前で椅子に座っているエンブリヲの前に出てひざまつく。
「分かっていると思うが、テティスは死んだ。五人目の"愛しの子"によって……。」
「はい、テティスの敵は我々が取ります。父上……我々に奴を倒す力を授けてください。今の我々にはヤツには勝てない…奴に勝つ為、最強の力を……「もう、その手は打っているよ♪」?」
するとエンブリヲの後ろから、白銀の髪をした眼鏡の男性が現れた。
「Dr.ディメント?」
Dr.ディメントは不気味な微笑みで、ヘリオス達に説明する。
「君らの【ラグナメイル】はもう既に改造済みだ♪」
「ホントですか!?」
「あぁ、あの失敗作が最後の姿に対抗する為に、遠隔操作、機体性能を大幅に上げておいた。後は自分たちが、あれを乗りこなせば良いんだけど♪」
「乗りこなせて見せるさ、今度こそ……奴を倒すために!」
ヘリオスは鋭い眼差しで握り締める拳を睨み、アトラス、ファントムと共に闇の中へと消えた。二人だけとなったエンブリヲとDr.ディメントは何かを話し合う。
「それで……彼女のラグナメイルは修復したのかね?」
「【ラプソディー】か……修復したよ、我が友よ♪」
するとエンブリヲの後ろに、サーチライトが付く。それは途轍もない武装と巨体を持った機体であり、パラメイルの数十倍の全長を持っていた。
「あの時はこのラプソディーはまだプロトタイプであったが……10年前とは大違いと言う事を分からせてあげるよ…降臨の子よ、待っていろよ……。」
Dr.ディメントは、不気味な微笑みを表し、ツインアイが翠に輝くラプソディーを見上げるのであった。
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第二十三話:襲撃者・前編
雷鳴が轟く室内に悲鳴が響いた。
豪奢なベッドの中で眼を覚ましたシルヴィアは、激しく脈打つ鼓動に呼吸を大きく乱す。夢に見たのは、数日前のあの日……金髪の男性が放ったマグナム弾がジュリオの頬の血肉を飛び散り、シルヴィアに付着したことに恐怖にする。
あれから数日経つというのに、眼を閉じればあの瞬間が何度も蘇るほど、瞼に焼き付いている。悪寒に震えるシルヴィアは、愛用の車椅子を呼び寄せ、それに乗って部屋を出た。
ミスルギ皇国……嫌、神聖ミスルギ皇国は今、混乱の中にあった。
ノーマであった皇女『アンジュリーゼ』の処刑……。その最中に割り込んだ金髪の男性と各国を脅かしていた未確認生物達で国民への被害が大きく出た。
多くの人が死に、国は暗然とした不安に包まれていた。生き残った者から恐怖が伝染し、また皇族はこの失態を犯したとして求心力を低下させていた。
皇居を守る兵士達も多くがあの中で殺され、静まり返る皇居にシルヴィアは枕を強く握り締める。
(あの人達や化物、もう来ませんよね――あれでよかったんですよね、お兄様……)
ただ必死にあの時の恐怖を追い出そうと、唯一の肉親であるジュリオの部屋に向かっていたシルヴィアは、微かな声を聞き、動きを止める。
耳をすませば、それは目的のジュリオの部屋から漏れていた。微かに開いているドアへと近づく。
「じゃあ、今度は『ママ』のお願い聞いて…」
「分かってるよ、シンギュラーポイントを開けばいいんでしょ……『あそこ』に」
交わされる会話の内容は分からなかったが、聞こえる声の片方は間違いなく兄、ジュリオのものだった。恐る恐る覗き込むと、ジュリオのベッドには二つの人影がある。
刹那、雷鳴が部屋を照らし、ベッドにいた影を壁へと写す。
その人影には、『ヒト』にはないはずの翼が生えていた。その姿を視認したシルヴィアは思わず声を上げそうになり、両手で口を覆うも、物音に気づいた人影が振り返った。
ベッドに眠っているであろうジュリオに跨っていたのは、シルヴィアの知っている人物だった。
「こ、近衛長官!?……あなた、いったい……?」
振り返った人物、ジュリオの側近であるリィザ・ランドッグは獰猛な笑みを浮かべる。
「あら、見ましたね……シルヴィア皇女殿下」
その顔は、普段見ていたものではなく、獲物を狙うような視線だった。得体の知れない恐怖にシルヴィアは即座に逃げ出そうとするも、何かに首を絞められ、息が苦しくなる。
「た、助けて……助けてー! アンジュリーゼおねぇさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
シルヴィアの悲鳴は、轟く雷鳴に掻き消される。
雷鳴のなか、暁ノ御柱が不気味に光る。新たなる戦いを齎す篝火のように……。
「シフト変更?」
アルゼナルでは、第一中隊の皆(ヒルダを除いて)が集まり、これからの計画をサリアが説明していた。
「今日はエレノア隊、明日はベティ隊へ編成になるの」
何故だか分からないが、すき焼きしながら説明を行っていた。グレイス達はすき焼きの肉を取ると、エルシャが後から肉全部を取る。説明していたサリアは肉が取れなく、ネギを頬張る。次にロザリーが脱走したヒルダの事を言う。
「脱走犯のせいで、こっちは暇だからなぁ」
「二度と出てくるな…」
「!?」
ロザリーの隣に座っていたクリスが毒舌し、ロザリーは引きながら頷く。
一方、エグナント達の方はアルゼナル最下層で部で、何やらアカリと話していた。
「諸君!今こうやって!12人の理を持つ者達が集った!」
「あの……アカリさん、まだ一人…『神羅のヒョウマ』が…」
アツマが"神羅のヒョウマ"と言う人物がいないことを確認する。
「アイツは……別の任務で"あの世界"にいる♪」
アカリの言葉に、エグナントは問う。
「あの世界と言うと……彼処か」
「そう!そして妾はこのアルゼナルにコッソリとこれを持ってきた♪」
アカリが叫ぶと、サーチライトがある戦艦を照らす。
「まさか!?」
メタリカがその戦艦に驚く。
「そうじゃ!"家"から持ってきたのじゃ!この起動特装戦艦『リュミエール』を!」
「アカリさん……まさかとは思いますけど、あのリュミエールにまた改造をしたんじゃありませんよね?」
「……したけど♪」
《やっぱり……》
「これもDr.ディメントが造ったラプソディー対策じゃ♪このリュミエールなら、可能じゃ♪ナ〜ッハハハハハ!!」
アカリは笑いながら、起動特装戦艦『リュミエール』を見上げる。
その頃、第一中隊の隊長のサリアはアルゼナルの上部で何やら花を集めていた。
ある程度集め終えたサリアが紐で花の枝を結ぶ。
「あ~、サリアお姉様だ」
サリアが呼ばれた方を見ると、幼年部の子供たちとその担当員が居た。
「サリアお姉様に敬礼~」
子供たちがサリア達に敬礼をし、サリアも子供たちに向かって敬礼をして、子供たちは「サリアお姉様綺麗~」「おっきくなったら第一中隊に入る~!」とそう言って去って行き。担当員も挨拶をして子供たちの面倒を見に行った。
そんな中でサリアは幼い頃の自分を思い出す。自分もかつては当時司令官ではなかったジルの様になりたいと幼い頃からの夢であった……。
『私、絶対お姉様の様になる~!』
昔の事を思い出しつつも、サリアはそのまま墓地へと向かう。
そしてその場にメイも居た。
メイの前にある墓にはこう書いてる。
【Zhao Fei-Ling】っと…。
サリアはメイの元に来て、結んだ花を出す。
「これ、お姉さんに」
「毎年有難う、サリア」
メイがサリアに花の礼を言い、サリアは墓に花を置く。サリアは立ち上がって微笑みを浮かべていて。
それにメイが問う。
「どうしたの?」
「幼年部の子供たちに、お姉様って呼ばれた。私…もうそんな年?」
「まだ17じゃん」
「もう17よ…、同い年になっちゃった…『アレクトラ』と」
誰かの名前を言うサリアは昔の事を再び思い出す
10年前……。
アルゼナルの海岸に、後部から煙を上げるヴィルキスが降下して来た。
ヴィルキスはそのままアルゼナルの海岸に着地する、そしてそこに乗っていたのは当時メイルライダーとして戦っていたアレクトラであるジルだった。
「アレクトラ!!」
そしてアレクトラの元に、当時司令官であったジャスミンがと部下のマギーと一緒に部下もやって来た。
ジャスミンはアレクトラの右腕が無い事を見て、すぐにマギーに命令する。
「マギー!鎮痛剤だ!! ありったけの包帯を持ってこい!!」
「い!イエス・マム!!」
その様子を上のデッキにいる、まだ当時幼かったサリアとメイが居た。
「あれは…お姉様の?」
サリアが見ている中で、ジャスミンはアレクトラをヴィルキスから下ろす。
「しっかりしろアレクトラ! 一体何があった!?」
ジャスミンはアレクトラから事情を聞く、しかしアレクトラはある者からメイに伝言があると言うばかりであった。
それを却下するジャスミンは何があったかと事情を問う。
ところがアレクトラは突然ジャスミンへと謝る。
「ごめんなさいジャスミン、私じゃあ使えなかった…。私じゃあ…ヴィルキスを使いこなせなかった…!!」
っと涙ぐんでジャスミンに謝り、それにはジャスミンは何も言えなかった。
「そんな事ないよ!」
そこにメイとやって来たサリアが居て、サリアはアレクトラの弱さを否定し、最後に「わたしが全部やっつけるんだから!」とアレクトラに向かって言う。
アレクトラはそれにサリアの頭に手を置いて撫でる。
―回想終了―
「全然覚えてないや」
「仕方ないわ、まだ3だったもの」
サリアは当時3歳のメイに覚えてない事に仕方ないと言い、メイと共に墓地を離れる。
っがサリアはこの時に思った。その時から数年がたち、司令となったジルはサリアにヴィルキスの搭乗を許さない事にかなり不満感が抱いていた。
アンジュに出来てサリアに出来ない事は何か…。
サリアは格納庫に付いて、ヴィルキスを見る。
「(一体私に何が足りないの…? アンジュと私に一体何が違うって言うの…? …あの子に…ヴィルキスは渡さない!)」
「あれ?あなた」
っとメイが誰かに話しかけているのを聞いたサリアは前を向くと、ヴィルキスの横に置いてあるタスクの飛行艇を整備しているタスクの姿が見えた。タスクはメイの方を見て、スパナを置く。
「やあ、何?」
「何をしてるの?それもう整備終えてるよ?」
「ああ、でもちょっとだけ自分でやらないと、どうも落ち着かない所があってね」
タスクは出来るだけ飛行艇を自分で整備したいと言って作業を続け、メイはなるほどと頷き、サリアは目を細めながらタスクを見る。
「メイ、ちょっと彼と二人っきりで話をさせて」
「え? いいよ…?」
メイはそう言ってその場を離れ、タスクはサリアを見て言う。
「君は…」
「サリアよ、ヴィルキスの騎士…タスク」
それにタスクは表情を硬くし、作業を進める。サリアはタスクに近づいて言う。
「あなた…どうしてアンジュの事を庇う訳?」
「…どう言う意味?」
「貴方はヴィルキスの騎士…ヴィルキスを護る戦士なのよ、なのにどうしてアンジュばかり助けようとするの?」
サリアはアンジュを庇うタスクに向かってそう言い、それにタスクは手を止める。
「…ジルがそう命じたんだよ」
「ジルが…?」
「ああ、アンジュを死なせるなってね。詳しい事はジルに聞くと言いよ、俺はそれ以上の事は知らないから」
そう言って再び作業を再開するタスク、サリアは納得いかない表情をするもそのままタスクの元を離れて行き、タスクはサリアが去ったのを確認してすぐに思いつめる表情をする。
「それに俺は…ヴィルキスの騎士じゃない」
そして同時にアルゼナルの司令室、レーダーに何かをキャッチした。
「これは…シンギュラー反応です!」
「場所は?」
ジルが出現地を特定しろと命令を言い、それにパメラが急いで特定する。
「それが…アルゼナル上空です!」
何と出現場所はアルゼナル上空、そしてアルゼナルの上空にゲートが出現し、そこから大量のドラゴン達が現れる。
「スクーナー級、数は…20…45…70…120…、数特定不能!」
「電話もなっていないのにどうして?!」
エマが司令室に到着して、電話が鳴らなかった事に疑問を感じていた。しかし今はそんな事を考えてる場合ではない。
ジルはするに基地全体放送で、アルゼナルの皆に言う。
「こちらは司令官のジルだ、総員第一戦闘態勢を発令、シンギュラーが基地直上に展開、大量のドラゴンが効果接近中だ。パラメイル第二、第三中隊全機出撃。総員白兵戦準備、対空火器重火器の使用を許可する、総力を持ってドラゴンを撃破せよ」
その放送を聞いて、食堂に居たグレイス達は直ぐに武器を持って格納庫へとむかう。
そしてアルゼナルの対空火器が展開して上空に居るドラゴンを撃ち落として行く。
しかし数が多いのか一向に数が減って行かない。そして一体のドラゴンが司令室へと向かって行き、そのまま突っ込んでいく。
パメラとヒカルは慌てて離れて行き、ドラゴンは司令室へと突っ込んだ。
「ひっ!!」
エマは怯えながら後ずさりをするも、ドラゴンは吠えた時に瞳のハイライトが消えて、マシンガンを構える。
「悪い奴…死んじゃえ!!」
そのままマシンガンを撃ちまくり、辺り構わずばらまいていく。それもその筈今の彼女は意識が飛んで行ってしまって暴走している状態なのだ。
それにジルはエマに手刀で首を打ち、気絶させて、マグナムを構えドラゴンの頭部に撃ちこみ、それによりドラゴンはそのまま絶命する。
すぐさまパメラがコンソールを調べる。
「司令!通信機とレーダーが!」
「…現時刻を持って司令部を破棄、以降通信は臨時司令部にて行う」
「「「イエス・マム!」」」
その頃格納庫で、グレイス達は侵入してくるドラゴンを撃退していた、多少は減って来たものの今だ数の多いドラゴンの方が有利であった。
タスクの隣に居たアンジュはドラゴンに向けて怒りをぶつけて、ライフルを撃っていた。
「もう!折角帰って来たと思ったら何よ!!」
「まあまあ…、アンジュ落ち着きなよ」
そうタスクもライフルを撃ちながらドラゴンを落として行く。
「数が多すぎる!ヒルダさんを連れてくる!!」
「ちょっと!グレイス!?」
グレイスがヒルダを連れに反省房へと向かい、それに気づいたアンジュとタスクも行く。
「グレイス!……!?」
《"彼女達"が来ます……急いで戦っている仲間達をここへ退避するように…》
ティアの耳からに雄大な女性の声が語り掛け、ティアは直ぐに上空を見上げる。
「もしかして!?」
「ティア!危ないよ!!」
サリアがティアを引き戻し、ドラゴンに向けてアサルトライフルを乱射する。
「大分減ってきたね」
「エレノア隊とベティ隊に感謝ね」
「アタシ等の分も稼ぎやがって!…?」
突然ロザリーとクリスは不思議な光景を見る。
それはドラゴン達が突如アルゼナルから離れて行く光景が目にして、それにヴィヴィアンが指をさす。
「あれ? 逃げるよ?」
「どういう事でしょう?」
ココがドラゴン達の行動に疑問を感じる中、ヒルダを呼びに行ったレオン達はその中である物が聞こえて来た。
それは物と言うより・・・。
「何だ…?」
「…歌?」
「このメロディは?」
そして上空に居るドラゴン立はゲートの回りを飛び回ると、そのゲートから三機のパラメイルがゆっくりと降下してきた。
その内の一機の紅いパラメイルはヴィルキスと同じ間接部が金色のパラメイルであり、そこから歌が流れていた。
「♪~♪~♪」
その光景を臨時司令部にいるジルが双眼鏡で見ていた。
「パラメイルだと…」
同じ様にアルゼナルの上空で戦っている中隊の隊長のエレノアもその機体に目を奪われる。
「何こいつ? 何処の機体?」
皆が見ていると、その機体がいきなり金色の染まり始め、そしてその両肩が露出展開し、そこから光学兵器が発射されてそれにエレノアを含め第二中隊と第三中隊の数名を含むメンバーは消し炭へとなっていた。
中隊を消し去った光学兵器はそのままアルゼナルに直撃し、強烈な光が包み込む。
そして静まり返り、サリアは近くに居たティアを起こし立ち上がらせる。
「大丈夫?」
「はい…え!?」
二人は目の前の光景を目にする。
そこには半分ほど削られたアルゼナルを目にした。それをチャンスとしたドラゴン達は一斉に向かって行き、サリア達はすぐに体制と整えてライフルを構える。
そしてアルゼナル内で、先ほどの衝撃に倒れていたグレイス達は起き上がる。
「いたたたた…! 大丈夫ですか!アンジュさん!タスクさん!」
「ええ…ってええええ~~~!!??」
アンジュは今の光景に目を奪われる、何とまたしても意識を失っていたタスクがアンジュの股間に頭を突っ込んでいて、それを見たグレイスは頭を抑えて「あなたという人は…」と言う。
っとタスクが意識を取り戻して、今の状況を理解し慌てて離れて謝る。
「ご!ゴメンアンジュ!!!わざとじゃ!!?」
「五月蠅い!このスーパー発情期!!!」
ドガァァ!!
「ぶはっ!!」
タスクはアンジュの強烈な右ストレートを左頬に貰ってしまった。
もし今の状態が非常事態でなければ完璧なお約束のシーンなのだが、今はそれどころではないと判断したグレイスは言う。
「アンジュさん、タスクさん。今はいちゃつくのは後にしてください! 今はヒルダさんを呼びに行くのが先です!!」
「分かってるわよ! ほら行くわよタスク!!」
「ま!待ってよ~! グレイス!アンジュ~!?」
殴られた頬を抑えながら立ち上がるタスクは先に行くグレイスとアンジュの後を追いかけて行った。
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第二十四話:襲撃者・後編
達が向かう場所の独房に居るヒルダは先ほどの衝撃で体制を崩していて、頭を押さえながら立ち上がって来る。
「いっつ~…! んだよ!何が起きんだよ!?」
ヒルダは外を見渡そうとすると、目の前にある物が来る。それは突っ込んで来たドラゴンだった。
「い!?」
ヒルダは慌ててその場を離れると同時にその場所にドラゴンが突っ込んできて、そのまま檻を突き破って死んでいく。
そして到着したグレイス達はヒルダの安否を確かめる。
「ヒルダさん! 無事ですか!?」
「おう!あたしは無事だよ!」
グレイスの問いに答えるかの様にヒルダが出て来て、グレイスは檻の扉を持っていた刀で切り裂いて、扉を壊してヒルダを出す。
「助かったぜ!アンジュ!」
「良かった、でも出したのはグレイスだからグレイスに言いなさい」
「分かってるって、ありがとよ」
ヒルダはグレイスにそう言い、グレイスは頷く。
「よし、それじゃパラメイルの所に戻りましょう! 何があったか見に行こう!」
それにアンジュ達は頷いてパラメイル格納庫に戻って行く。
謎のパラメイルの光学兵器の攻撃で、戦場の戦況は変わり始めていた。
「第二中隊全滅! 第三中隊!隊長と部下四名以下ロスト!」
パメラの報告を聞いたジルはすぐさま次の指示を出す。
「残存部隊を後退!第一中隊のサリア達に集約。サリア達を出せ!」
「了解!」
パメラはすぐに通信し、ジルは上空のパラメイルを見ながら思った。
「(あの武装…まさかな…)」
そして格納庫内でドラゴンと戦っているサリア達に命令が下る。
「了解! 皆!パラメイルに騎乗!」
「「「イエス・マム!」」」
サリア達が自分達のパラメイルに搭乗している中で、その時にジルからサリアに通信が来る。
『サリア、もう説明しなくても分かってるな?』
「はい」
『よし。それとアンジュはどうした?』
その事にサリアは重い表情で言う。
「…グレイスがヒルダを連れて来ると言って共に行きました」
『そうか、人手は多いが良いと考えたか。なら戻ったらアンジュにすぐに伝えろ、あのパラメイルはヴィルキスでないと無理だ』
っとその事を聞いてサリアは思いつめた表情で言う。
「…司令、私がヴィルキスで出ます!」
『黙れ! 今は命令を実行しろ』
その事にサリアは思わず反論する。
「お願いです!司令!!」
『黙って命令に従え』
そう言い残してジルは通信を切る。それにサリアはどうしても納得が行かなかった。
「どうしてよ…ジル。(ずっと…ずっと頑張って来たのに…! なのに!)くっ!!」
するとサリアはアーキバスから降りて、ヴィルキスの方に向かい。それにメイが思わず振り向く。
「え!ちょっと!」
「サリア!!」
サリアは二人の静止も聞かずにそのままヴィルキスに搭乗して皆に言う。
「サリア隊!出撃!!」
「「「イエス・マム!!」」」
デッキから発進したヴィルキスを含むパラメイル隊はドラゴン迎撃の為に出撃して、後から来たエグナント達がヴィルキスにサリアが騎乗しているの見て呟く。
「あの小娘……正気か?」
そしてグレイス達は急いで格納庫に戻っていた、っが目の前に壁が崩れてしまい、道がふさがれてしまった。
塞がれた事にヒルダに怒りが出る。
「おいおい!こんな時に何だよ!」
「任して!」
グレイスが前に出て、瓦礫を軽々と持ち上げ投げ捨てる。たった数秒で瓦礫がなくなり、道が開けたことに、アンジュ達は驚きを隠せない。
「お前…一体何者だよ?」
「僕は…ただのグレイスですよ、それだけです。」
そう言ってグレイスは前に進み、それに続くかの様にアンジュ達も進む。その中でタスクがある事を言う。
「グレイスって不思議だね」
「え? 何がですか?」
「いやほら…、グレイスは俺やアンジュ達とは違って。まだ知らない事が多い気がしてさ、一体何をしたらあんな風になれるのかなって思って…」
「……わかりません」
「分からないって!?どういう事なの?」
「分からないんです…だけど、ここで立ち止まったら、行動できなくなると思って…それで…」
「あんな風に出来たと?」
「はい…」
グレイスはそう呟き、パラメイルの格納庫へ向かっていった。
そして上空では生き残っていたパラメイル残存隊がドラゴンの攻撃から必死に逃げまくっていた。
内の一体がドラゴンに追われていた。
「うわあああああああああああ!!!」
っとその時に味方が来てくれて難を逃れる、第一中隊のサリア達がドラゴン達に向けてマシンガンを撃つ。
「皆!一度下がって補給を!」
「ここはアタシ等が引き受けたなり~!」
エルシャとヴィヴィアンが残存隊にそう言って、その部隊は頷きながら撤退して行く。
臨時司令部では発進したのを確認する。
「第一中隊、出撃しました!」
「よし…」
ジルはパメラの報告を聞いて、無線機を取り話す。
「アンジュ、聞こえているな?。お前の敵はあの所属不明機のパラメイルだ、未知の大出力破壊を搭載している。注意してかかれ」
『分かっているわ、ジル』
っとその音声を聞いたジルは驚いた、何とヴィルキスに乗っているのはアンジュではなくサリアであった事に。
「サリア!? 何をしているサリア!降りろ!命令違反だぞ!」
『黙ってて!!』
それにジルはサリアの異変に気付く。サリアはハンドルを握りながら言う
「分からせてあげるわ…、私がアレクトラの代わりに慣れる事を!!」
っとそう言って通信を切り、それにジルは舌打ちをする。
「チッ、馬鹿が…(あれは『皇族』の者しか乗れんものだ!)」
そしてパラメイル格納庫に到着したグレイス達は目の前の光景に驚く。
それはアルゼナルの外壁がごっそり抉られていたのと、ヴィルキスがない事に…。
「ない!?どうして!?」
「メイちゃん!アンジュさんのヴィルキスは?」
リベリオン達の準備をしていたティアとメイはグレイスに呼ばれて向かって言う。
「それが!」
「サリア様がヴィルキスに乗って出たの!」
その事にグレイス達は驚いて空を見る。ドラゴンと戦っている場所でサリアがヴィルキスを操っているのだと…。
その中でアンジュはタスクの飛行艇に乗り、それにタスクは唖然とする。
「あ、アンジュ?」
「お願いタスク、私をヴィルキスまで運んで?」
タスクはアンジュの願いに頷き、グレイスもリベリオンに乗り込みハンドルを持つ。
「行くよ…ラルス!グレイス機!リベリオン出る!!」
グレイスのリベリオンが先に出て、タスクの飛行艇にヒルダのグレイブ・カスタムが発進する。
そして戦場ではサリア達がドラゴンを撃ち落として行く中で、サリアは単体で不明機のパラメイルへと向かう。っが出力が上がらない事にイラ立ちを現す。
「もっと!もっと早く飛べるでしょ!?」
その時にドラゴンがやって来て、それにサリアは追い払おうとヴィルキスで蹴る、だが逆に弾かれてしまい飛ばされる。
何とか体制を整えて、呼吸を整えながらもヴィルキスの性能に驚きを隠せない。
「嘘よ…ヴィルキスがこんなにパワーが無いなんて…(アンジュの時はもっと…!)」
サリアが考えてる中でドラゴンが攻めて来る。その時にサリアを狙っているドラゴンをリベリオンが撃ち落とす。
「え!?」
それにサリアは振り返る。そして通信から会話が聞こえる。
『タスク!もっとスピード上げて!』
『良いけど、この体制だと君が落ちるよ?』
『その時はタスクを恨むわ』
『ええ!?』
っと戦闘中であろうに何とも賑やかな会話が聞こえて来る。
『タスクさん、アンジュさん…どうやったらそんな馬鹿夫婦みたいになったのですか?』
『なっ!!違うわよ!!!』
『そ、そんなに否定しなくても~…』
グレイス達がやって来た事を知り、それにサリアは驚く。
「!?」
「アンジュ!」
「グレイス君!」
ヴィヴィアンとエルシャがグレイス達が来た事に声を上げ、飛行艇はヴィルキスの横に付く。
「サリア!私の機体返して!! アイツは私がやるわ!」
「私のヴィルキスよ!! あなたはそこでタスクといちゃついてなさい!!!」
そう言ってサリアは不明機へと向かって行き、それにタスクは舌打ちする。
「(くっ!あれは普通の機体じゃない…! 君では乗りこなす事は出来ないのに…!)」
不明機と向かって行ったサリアはヴィルキスのライフルで攻撃するも不明機は遊んでいるかの様にかわし、それにはサリアは怒りが溜まる。
「馬鹿にして…!」
そんな時にジルの言葉を思い出す。
《どんなに頑張っても出来ない者は出来ないのだ》
それにサリアは否定するかのように頭を横に振る。
「そんなはずない! 誰よりも頑張って来たのよ!!私!!」
《無駄だ》
っと目の前に不明機が現れヴィルキスを蹴り飛ばし、海へと落ちて行き、それに皆は見る。
「はっ! タスク!向かって!!」
「乗り込む気だね? 分かった!」
そんな中でタスクはアンジュの指示に従いヴィルキスへと向かい、飛び移れる位置まで寄せる。
「よし!アンジュ今だ!!」
それにアンジュは頷いて飛び移り、サリアの手を退かす。
「無駄よ、もう距離が…」
「無駄じゃないわ! 私とヴィルキスなら!!」
っと一気にスラスターをフルにして、海面ギリギリで浮上して、サリアを掴んでヒルダに連絡する。
「ヒルダ!」
『何?』
「落とすから受け取って!」
『はっ!?』
その事にヒルダを含めグレイス達は驚きを隠せず、そしてアンジュはサリアを放り投げてしまった。
「うわわわああああ~~!!!!」
「ええ~~!!??」
ヒルダは突然の事に慌てて拾いに行き、何とかサリアをキャッチして後部に乗せる。
「はぁ…はぁ…はぁ…、別料金だぞ!!馬鹿姫!!」
それにアンジュは笑みを浮かばせて、不明機を見る。
「さ~てやりましょうか!」
アンジュはヴィルキスを飛翔形態から駆逐形態へと変形させて、グレイスもそれに続く。
「それじゃ、僕達も!」
『了解!』
グレイスもリベリオンを変形させ、リベットガンを乱射し、パドルデーゲンを展開する。
アンジュの援護に向かおうとするがアンジュはその不明機と互角の戦いを繰り広げていた。
それに二人はただジッと見ていて、タスク達もその様子を見ていた。
そしてアンジュはその不明機を蹴り飛ばして、不明機は距離を取り、歌を歌いだす。
その機体の色は赤色から金色へと変わる。それにアンジュは気づく。
「これは…」
それは永遠語りと似ていて、それにアンジュは同じように歌いだす。
「♪~♪」
するとヴィルキスの色が金色に変化して両肩が露出展開し、それを見たグレイス達、そして臨時司令部のジルも目にする。
「あれは…!」
そして同時に、リベリオンのコンソールが光だし、天使のマークが表示される。
『【ディスコード・フェイザー】発射スタンバイ』
「え?」
ラルスの音声と共にリベリオンの装甲が不明機とヴィルキス同様金色へと変わり、両肩だけでなく、飛行補助の翼が露出展開する。
ヴィルキスと不明機、リベリオンから光学兵器が発射されて、同時にぶつけ合う。
そして強烈な光が包まれて行き、グレイスは目を開けると不思議な空間へと居た、そこにはヴィルキスの姿もあった。
「これは…」
『偽りの民が、何故『真なる星歌』を?』
すると目の前に不明機が現れて、そしてその不明機からコクピットが開かれて人が現る。
それにアンジュも負けずに出て来て、グレイス達の出る。
「あなたこそ何者!? その歌は何!!」
するとグレイス達の回りにある光景が広がる、それはある服装や戦争をしているグレイス達の姿をしていて、それにグレイス達は目を奪われる。
っとその女性からの機体にある警報がなり、それにグレイス達は向く。
「時が満ちる…か」
「ちょっと!」
アンジュはそれに慌てて言う。
「真実は『アウラ』と共に」
そう言いってその不明機は残りの機体とドラゴン達と共にゲートの先へと消えていった。
グレイスはその女性から放たれた言葉に唖然としていた。
「アウラ……はっ!」
《忌まわしきエンブリヲめ!!【アウラ】を奪った事を後悔するが良い!!》
初物との戦闘時に聞こえたあの言葉を思い出すグレイスは、【アウラ】と言う言葉を思い出す。
そしてアルゼナル臨時司令部で見ていたジルは納得の表情をする。
「なるほど、最後の鍵は『歌』か…。」
っと煙草をくわえ、火をつけるジルはそう呟く。
そしてアルゼナルの被害は相当な物だと後で知らされた。
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ドラゴン編
第二十五話:真実の黙示録
ある場所に無数の島が浮いていて、その場所に社交場の様な丸くて大きなテーブルが置いてあった、その場所に各国の首相達が集まっていて。
彼らの回りにはアルゼナルを襲撃しているドラゴンの映像が映し出されていた。
「ドラゴンが自ら攻めて来るとは…」
「それにこのパラメイル、まさかドラゴンを引き連れて?」
一人の首相であるエンデラント連合大統領の目に映る映像にはあの不明機が映し出されていた。
「シンギュラーの管理はミスルギ皇家のお役目、ジュリオ…いえ陛下。ご説明を」
女性の首相であるヴェルタ王朝女王がジュリオにシンギュラーの発生に付いて聞いてきた。
しかしジュリオは頭を傾げながら言う。
「それが、『アケノミハシラ』には起動した形跡が全くないのです」
「馬鹿な!あり得ん」
肥満な首相であるマーメリア共和国書記長がジュリオの説明に納得が行かない事に拳をテーブルに叩き付ける。
「直ちにアルゼナルを再建し、力を増強せねば」
「だが、そうも行かんのだ」
っと年老いた首相であるガリア帝国皇帝がマナで次の映像を映し出す。すると光学兵器を発射するヴィルキスの映像が映し出された。
「この機体…まさか!」
「ヴィルキスだ」
それにはジュリオを含め各国の元首達は言葉を詰まらせていた。
「前の反乱の時に破壊された筈では?」
「アルゼナルの管理はローゼンブルム王家の役目。何故放置していた?」
それにはローゼンブルム王家の国王は表情を歪めながら黙る。
「監察官からは異常なしと報告を受けていた…」
「まんまとノーマにあしらわれていたと言う事か、無能め」
そう肥満体のマーメリア共和国の書記長は腕を組んで呟く。
「そしてその襲撃の最中、こんな物を見つけたのだ」
っとエンデラント連合の大統領がマナで新たな映像を映し出す。
「あの機体…そんなバカな!?」
それはリベリオンの映像だった。
それにはジュリオはと言うと…。
「うわっ!!! こ!こいつだ!!!」
ジュリオは思わず椅子から落ちて、怯えながらリベリオンに指をさす。
「こいつのライダーに私の顔に傷をつけた奴だ!!! どどどど!どうして!!」
「落ち着くのだ、しかしこの機体……まさか!?」
「【アルゴルモア】…」
各国の元首達は、リベリオンを見て動揺する。
「バカな!?10年前の反乱で破壊されたのでは!?」
「10年前の厄災……『人工衛生兵器"アルマゲドン"』を起動では?」
「どうすれば……」
「落ち着きなさい、今はどう世界を守って行くかを話し合うべき時」
ヴェルタ王朝女王が皆にそう言い聞かせ、一人の首相が言う。
「ノーマが使えない以上、私達人類が戦うしかないのでしょうか?」
っとその事に各国の首相達は思わず戸惑いの声が上がる、そして木の裏で聞いていた一人の男性が立ち上がる。
「どうしようもないな…」
「え、エンブリヲ様?!」
ガリア帝国皇帝が思わず言う。世界最高指導者であるエンブリヲは皆の所に行く。
「本当にどうしようもないな…」
「し、しかし…ヴィルキスがある以上アルゼナルを再建させるには…」
「なら選択権は二つだ」
それに皆はエンブリヲに目線が行く。
「一、ドラゴンに全面降伏する」
「「「!!?」」」
それには思わず息を飲む元首達、エンブリヲは構わず言う。
「二、ドラゴンを全滅させる…」
「そ!そんな…!」
「だから…三、世界を作り直す」
っとそれにはジュリオが反応する。
「え?」
「全部壊してリセットする、害虫を殺し土を入れ替える。正常な世界に」
エンブリヲは肩にのって来た小鳥をなでながら言う。
「壊して作り直す…、そんな事が可能なのですか?!」
それにエンブリヲは笑みを浮かばせながら言う。
「すべての『ラグナメイル』とメイルライダーが揃えば。あとメイルライダーの事に関しては彼らに任せてあるから」
っとエンブリヲの後ろにヘリオス、アトラス、ファントムが現れて、マーメリア共和国書記長が言う。
「【ノーブル騎士団】!?」
ノーブル騎士団…。ヘリオス、アトラス、テティス、ファントムに使える人造人間部隊。特殊精鋭部隊をも凌駕する彼らは命に代えてもエンブリヲを護る使命を持っている。しかしその中でも騎士団長ヘリオスは途轍もない程の成果を持っている。
「父上…我々の機体はもう既に準備が整っております」
ヘリオスは頭を下げながら言い、それにはジュリオも立ち上がる。
「私もやりましょう!! そもそも間違っていたのです!いまいましいノーマと言う存在も!奴らを使わねばならないこの世界も!」
「フンッ…馬鹿かお前は?」
「何!?」
「結局、ドラゴンはどうなる?」
「それなら!奴らも纏めて贄とするのです!」
するとヘリオスが、ジュリオの胸ぐらを掴み上げ、圧迫させながら呟く。
「アルゴルモアを危険だ。甘く見て捕獲しないと……テメェ、死ぬぞ…」
「!!」
ヘリオスの威圧に圧迫されたジュリオは腰が抜けてしまう。
「失礼した…父上、私達はこれより準備するので…」
そう言い残してヘリオス達は消えていって、それにエンブリヲは少しため息をしてジュリオを呼ぶ。
呼ばれたジュリオはエンブリヲからある物を渡される。
「これは私のコレクションの物だ、共に作り直すのだろう?期待しているよ」
「は…はっ!!お任せ下さい!エンブリヲ様!!」
ジュリオはそう言い、エンブリヲと他の首相達は消えていき、そしてジュリオはマナを解いてミスルギの部屋へと戻っていた。
「出るぞリィザ!」
リィザと共に出るジュリオ、しかしその机の下のある盗聴器が仕掛けてあって、別の場所で聞いていた湧水のダストと淡水のガリィがいた。
「無茶苦茶な行動が入っちゃったね…」
「全部壊して新しく作り直すっか…それにアイツを絶対に捕まらせない。グレイスは俺達の希望だ…行くぞ!」
「えぇ!」
下水道から怪物体へと返信したダストとガリィは急いでアルゼナルへと向かう。
そしてアルゼナルでは損害が大きかった外壁はどうにもならず、そのままの状態だった。
その場所でジャスミンがドラゴンの死体を大きな穴に落としていく。
格納庫ではメイが必死にパラメイルの修理を当たっていて、医務室ではマギーは負傷者の手当てをしていた。
サリアは命令違反によって反省房の中に居る、そしてヴィルキスに乗りこなせなかった事とジルの嘘にショックを受けていた。
そんな中、ジルはメイルライダーたちを一箇所に集めていた。
「生き残ったのはこれだけか…」
心なしか気落ちした声色でジルが呟いた。
「指揮経験者は?」
ジルの質問に手を上げたのはヒルダだった。そして、彼女以外は誰もいなかった。
「全パラメイル部隊を統合、再編成する。暫定隊長はヒルダ。エルシャとヴィヴィアンが補佐につけ」
「はあ? こいつ脱走犯ですよ。脱走犯が隊長って!」
「サリアは!?」
「アイツは反省房にいる…」
「そんな…」
尚も食い下がる。余程ヒルダの裏切りが許せないのだろう。
「あいつなら、命令違反で反省房の中だ」
「文句あんならあんたがやればぁ?」
それまで大人しくしていたヒルダが、気だるい感じでロザリーやクリスに振り返った。
「し、司令の命令だし、仕方ないし、認めてやるよ。なっ、クリス!」
「う、うん」
慌ててそう言い繕うロザリーにクリスが同調する。こうなるだろうことは予想していたとはいえ、ヒルダは面白くなさそうにそっぽを向いた。
「パラメイル隊は部隊編成の後、警戒態勢に入れ」
『イエス、マム!』
総員敬礼を返すと、解散する。命令を下したジルは一服するためだろうか、いつものようにタバコに火を点けた。
「司令…」
不意に、声がかけられる。振り向くと、そこにいたのはグレイスとモモカを従えたアンジュだった。
「……話してください、全てを…」
「知ってどうする…」
「……確かめたいのです。リベリオンのあの兵器とドラゴン側のあの女性と兵器……」
「そのことは……儂が話そう。」
そこに現れたのは、エグナントであった。
「エグナントさん…」
「来なさい、見せたいものがある……。ジル、そこのお嬢さんはお主が話なさい……」
エグナントはそう言い、グレイスをある所へ連れて行く。
最下層部まで連れてこられたグレイスは、暗い空間へと入る。そして扉が閉まると同時に、明るくなる。
「っ!!?」
照らされた矢先に、醜く穢れた怪物の死体が置かれていた。
「何、これ……」
「10年前…お前さんが殺したあの子達のなれ果てだ…。」
「え……どういう事ですか?」
「やはり覚えていないのか……10年前の大事件を…」
すると辺りが光に包まれ、目の前に、巨大戦艦が置かれていた。
「あれって!?」
すると戦艦のハッチが開き、中からメイよりも年下の少女が走ってきた。
「おりやああああああぁぁぁぁ〜〜!!!!」
「え!?え!?何何!!?」
そして少女はグレイスの前で立ち止まり、元気よく挨拶する。
「お〜!会いたかったぞ!"リベロ"よ〜!」
「え!?誰!?」
「妾を覚えていないのか!?」
「え〜っと……エグナントさん、誰ですか?」
突然の事にグレイスは少女についてエグナントに話し掛ける。
「覚えていないのか……アカリを…」
「アカリ?この子の名前ですか?」
「グレイス……落ち着いて聞け……」
エグナントはグレイスに、アカリがジャスミンの実姉と言う事を暴露する。
「ええええええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!!?」
「何度も言う……アカリはジャスミンの実姉だ。」
「……冗談じゃないですよね?」
「冗談なら、こうやって真剣に言うか?」
「……あ〜〜」
グレイスは突然の事に唖然してしまう。
「おい、起きろ……」
「……はっ!!、すいません…」
「まぁ、良い……とにかく説明はこの起動特装戦艦リュミエールのブリッジで話す。」
「付いてこ~い♪」
アカリは元気溌剌でグレイスをリュミエール艦内に招き入れる。艦橋ヘ辿り着くと、トーマ達が待っており、アカリは司令官の軍服と艦長帽を身に着けていた。
「さて!今から、この世界の真実を話そう♪」
「真実?」
「グレイス……落ち着いて聞くのだぞ、今から話す事は……お前の運命を揺るがす事にもなる…」
「……分かった」
「では話そう。この世界の真実、今妾達がいるこの世界…それは『偽りの世界』と言う事じゃ」
「偽りの世界?……どういう事??」
レオンはその事に訳が分からず、ヒュウガは言い続ける。
「この世界はある神様が創り出した世界、そしてこの世界はその神様が自分の理想の世界にさせる為にある人類を創り出したのじゃ…」
「ある人類…ってまさか!」
「そう…そのある人類と言うのが【マナ】じゃ」
っとその事にグレイスは再び驚きの表情を現す。
「そして…先の戦闘に現れた謎の美女は妾達の協力者じゃ♪」
「協力者!?(え?…待てよ、ドラゴンと共に現れて……あの機体…ドラゴンをモチーフにしている……それにあの人をよく見たら……!!)…まさか!?」
「そう…そのまさかじゃ。お主が今まで相手したドラゴンは……あっちの世界の"人間"なのじゃ」
「っ!!」
グレイスは今までドラゴン……人間を殺していた事に、混乱する。
「気持ちは分かる……だが、事実だ。儂等は彼等の世界に行き、交渉し、先の戦闘に現れたのじゃ。儂等をこんな化物にし…偽りの世界を作った神に抗うために…そしてお主をさらに強く覚醒する為に…」
「覚醒?」
その言葉に、グレイスは顔を上げる。
「実を言うと、お主には記憶が強く欠けてしまっているのじゃ…ドラゴン達は態々自らの死を覚悟して、早急に覚醒を早めていたのじゃ…」
「僕の…覚醒…」
「あ〜〜、それと…リベリオンだ。元々あれはパラメイルではない……妾達が相手している神様が作り上げた機械の天使【ラグナメイル】なのじゃ」
「ラグナメイル?」
「ヴィルキスを知ってるじゃろ?あれはタスクの一族である古の民が強奪した物じゃ。そこからじゃ、ラグナメイルには重要な物が必要であった。」
アカリは詳しくグレイスに説明する。ラグナメイルには王家の血筋、指輪、伝承歌が必要であったが、10年前にそれを持つノーマが現れた。そのノーマの名は『アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ』後のジル司令の本名であった。彼女はヴィルキスを乗りこなし、タスクの両親や古の民残党と共に、神や人類に抗った。しかし、結果は惨敗。右腕と指輪を失ったアレクトラは絶望するしかなかったが、10年後に……その三つの鍵を持つアンジュが現れた。
「……」
「どうした?あまりの事で、言葉が出なくなったのかい?」
「……あ、いえ…凄い運命だなっと思って……」
「まぁ、そうだろうな……どうする?お主はこのままドラゴンと言うより、人間を殺してしまい、一生過ごすか?それとも…家等とこの10人の下僕達やノーマ、ドラゴンと共に!……この世界を作った神や人類、そして偽りの世界をぶっ壊すか?」
「………」
グレイスはアカリの言葉に考え込む。このままドラゴンを殺して生きるか……それとも神を倒して自由を得るか……。そう考え込んでいる時だった。
『総員!第一種戦闘態勢!ドラゴンです!基地内にドラゴンの生き残りです!!』
それにグレイスは反応し、それにアカリとセシルは異変に気付く。
「ドラゴン!?」
「エグナント!もしかしたら!」
「あぁ!!あの子だわ!!」
それはかれこれ数分ほど前になる、部屋で寝ていたヴィヴィアン。
っと寝ているハンモックが急に落ちて、それに痛がる。
「いった~い、落ちてる~?何で…?うわ!寝過ごシング!」
ヴィヴィアンは慌てて皆の所に向かう、っがその時に自分の目線が高い事に気が付く。
「何か…背が伸びた気がする? 成長期かな?」
しかしその時に自分の身体に異変が起きている事にまだ気が付いていない。
そこにエマが通り過ぎて、ヴィヴィアンは気づく。
「あ!エマ監察官だ! おーい!」
「っ!? え!エマ監察官だーー!!!」
悲鳴を上げながらエマはそのまま気を失い、慌ててヴィヴィアンは駆け寄る。
「うわ!大丈夫…って!うわ!」
ヴィヴィアンは自分の手を見て驚く、それは全く自分の手じゃない何かの手だった。
「何じゃこりゃ?! …うえ!」
っとヴィヴィアンは目の前にあった鏡を見て驚く。今のヴィヴィアンは人ではなく『ドラゴン』だったからだ。
「これあたし~!!?」
「なに?今の」
偶然に近くに居たパメラ達が駆け寄り、ドラゴン態のヴィヴィアンを見て悲鳴を上げる。
「「「うわあああああああ!!!」」」
「うわ~~~!!!」
ヴィヴィアンも慌ててその場を離れて行き、パメラがすぐに無線で基地内に知らせた。
そして今の時間帯となり、臨時司令部で指揮を暫定副隊長のヒルダは各自に指示を与えていた。
「ロザリーとクリスは居住区、ココとミランダは整備区、エルシャはサリアを出してジャスミンモールを捜索」
「イエス・マム」
「他は此処で警備、ヴィヴィアン?ヴィヴィアンは何処?」
ヒルダはヴィヴィアンが居ない事に問い、エルシャはそれに答える。
「それが部屋にも居なくて…」
「何処に行ったんだろう」
ミランダがそう言ってるとレオン達とアンジュにタスクがやって来て、ヒルダはグレイス達に怒鳴る。
「遅い!何やってたんだよ!」
「ごめん、ちょっと…」
「たくぅ、さあグレイス。ある程度は指示だしたから後はアンタだよ、それとあんたが隊長だよ」
それにグレイスは思わず顔を上げる。いきなり自分が隊長だと言われたら驚くのも無理はない。
「ちょっと待て、僕が?」
「ああそうだよ、司令がそう命じたんだ」
ヒルダの説明にグレイスは頭を抱える。
「はぁ…、分かりました。それじゃヒルダさんはトーマさんと一緒に回ってくれ。セシルさんは僕と一緒に、アンジュさんはタスクさんと一緒にアルゼナルの上部だ」
それに皆は頷いて動く。
グレイス達もお互いを見合って頷き動き出す。
その頃ヴィヴィアンは何とか食堂の方に逃げ切っていた。
『はぁ~お腹空いた~…、う~…何でこんな事に?』
すると厨房からなにやら良いによいがし、それにヴィヴィアンはつられて行く。
目の先には土鍋にカレーが入れてあった。
『やっぱりカレーだ~! いっただっきま~す!』
っが土鍋を持った瞬間につぶれてしまい、それにヴィヴィアンは頭を傾げる。
『あれ?、どうなってるの? あっアタシ今この状態だった』
自分の今の姿を忘れる所だったのか頭をかきながらつぶやいてる中でセシルが見つける。
「いたよ!グレイス君!!」
それにヴィヴィアンが振り向き、グレイスが到着する。
「行くぞ!」
グレイスがライフルを構えた瞬間だった…。
『グレイス!!』
「えっ…?」
グレイスには聞き覚えのある声が聞こえた、それに思わず手が止まる。
「グレイス?」
「今…ヴィヴィアンの声が聞こえた」
その事にセシルは納得、それに明るくなるヴィヴィアン。
『アタシの声が聞こえるの!』
しかし同時にサリア達が来る。
「居たわ!!!」
サリア達がドラゴン態のヴィヴィアンに向かってライフルを撃ち、それに慌てて逃げるヴィヴィアン。
『うわ~~~!!』
「なっ!? 待って!!!」
「何やってるのグレイス! 早く追いかけるわよ!」
サリアはそう言って追いかけエルシャも行く、それにグレイスは舌打ちをする。
「今は追いかけるしかない!!」
グレイスとセシルはヴィヴィアンが逃げた後を追いかけるが既に空に飛んだらしく、アルゼナルの上部に居るのを確認するとグレイスはセシルに言う。
「セシルさん!上まで!」
「わかった!」
セシルの体が大きくなり、翼の様なオプションを装備した怪物へと変身し、グレイスを掴み、上へ飛ぶ。
そのままアルゼナルの上部へと到達して追いかける、丁度そこにアンジュとタスクもやって来てライフルを構える。
それを見たグレイスは止める。
「待って!撃たないで!!」
「え?どうして?」
タスクがグレイスの問いに意味が分からず、その時にドラゴン態のヴィヴィアンが何かを歌い出し、それを見たアンジュはライフルを下ろす。
「これは…」
その歌はアンジュが歌っていた『永遠語り』によく似ていて、それにアンジュは歌い出し歩き出す。それにドラゴン態のヴィヴィアンも同じように歌い出しアンジュの元にゆっくりと行く。
グレイスとタスクはアンジュが歌いだしたのを見て、様子を見ていた。
っとそこにヒルダ達もやって来る。
「何やってんだよお前!」
ヒルダ達がライフルを構えた瞬間、セシルがヒルダのライフルを奪い壊し、ヒルダ達の前に立ちふさがる。
「ひぃっ!!」
アンジュが後ろを向くも、すぐに前を向いて歩く。その時にサリア達が来て、サリアがライフルを構える。
「離れなさい!!」
っがその時にジルがサリアのライフルを下ろさせて、それにサリアは見る。
そしてアンジュはドラゴンと向き合い、アンジュが触れた瞬間ドラゴンは一瞬に霧状になって行った。
グレイスとタスクはうっすらと見えているヴィヴィアンの今の状態に気付き、思わず顔を赤くし慌てて後ろを向く。
「ここでクイズです!人間なのにドラゴンなのってなーんだ?」
元の人間に戻ったヴィヴィアンにアンジュは唖然とするしかなかった。
「あっ違うかドラゴンなのに人間…? あれれ…意味分かんないよ…!」
自分がドラゴンだった事に戸惑うヴィヴィアンは泣いて混乱している中で、アンジュは優しく声を掛ける。
「分かったよ私は…、ヴィヴィアンだって」
「あ、有難う…アンジュ、分かってくれたの…アンジュとグレイスだよ」
っとヴィヴィアンはアンジュに抱き付いて泣きつき、後からやって来るエグナント達もモモカも今の光景に目を奪われる。
「何だ…一体?」
「どうなってんだよ?」
「今ドラゴンからヴィヴィアンが出て来た様に見えたけど」
クリスの言葉にグレイスとタスクは顔を見合う。
そこにマギーがやって来て、ヴィヴィアンに麻酔を撃ちこみヴィヴィアンを眠らせて、マギーはヴィヴィアンを抱いてその場から去って行く。
見送ったアンジュ達はアルゼナルの抉られた場所に捨てられているドラゴンの死体の山を見る。
その時にヴィヴィアンの言葉を思い出す。
『人間なのにドラゴンなのってなーんだ? ドラゴンなのに人間…?あれれ?』
「っ!? まさか…!!」
アンジュは思わずあの場所に行き、グレイスもタスクも付いて行く。
「アンジュリーゼ様!」
「おいグレイス!タスク! 何処に行く!?」
モモカはアンジュの行動に叫び、エグナント達も同じように言った。
そしてジャスミンが死体を集めた所でガソリンをまき、ライターに火をつける、っとバルカンがグレイス達に向かって吠え、それにジャスミンは振り向く。
「来るんじゃないよ!」
そう言ってジャスミンはライターを死体の山に投げ、死体を燃やし始めた。
グレイス達は燃えている死体に驚きの光景を目にする。ドラゴンの死体の中に人間の姿も紛れていた。
それにはグレイス達は言葉を失う。同時にヒルダ達も来る。
「おい!一体何が…!?」
「何…これ?」
「ドラゴンが…人間に」
その光景に皆がくぎ付けられてる中で煙草を持っているジルが来る。
「よくある話だろ?『化け物の正体は人間でした』…なーんて」
それにアンジュは息を飲み、再びドラゴンを見る。そして今までの事を思い出す。自分がドラゴンを殺し……そして倒していく光景に。
っとアンジュは思わず口を抑え、タスクの腕を掴み、地面に向けて嘔吐する。
「う!うえぇぇぇぇ!?!」
「!!? アンジュ!!」
「アンジュリーゼ様!!」
タスクとモモカが心配する中でアンジュの頭の中は混乱していた。
「私…人間を殺していた…? この手で?ねえ!タスク!! 私…私…!!?」
アンジュはタスクの腕を掴みながら何度も問い、それにタスクはジルを少しばかり睨みながら見る。
「…ジル、アンジュには言わなかったのか!」
それにジルは煙草を吸い、吹かしながら言う。
「フン、言ってどうする? それに気に入ってたんだろ?ドラゴンを殺して金を稼ぐ、そんな暮らしが」
「ジル司令!…あなたはアンジュさんの心を弄んだのですか!?」
聞いていたグレイスは刀を抜き、エグナント達は怪物体へと変身し、威嚇する。
そしてアンジュはジルを睨みながら怒鳴る。
「くたばれクソ女!!!もうヴィルキスには乗らない!!ドラゴンも殺さない!!! 『リベルタス』なんてくそくらいよ!!!」
その事にサリアはアンジュが知らないリベルタスを知っている事に思わず反応する。
「『神様』に買い殺されたままで良いなら、そうすればいい」
そう言い残してジルは去って行き、ジルを睨んだままタスクはアンジュの肩に手を置く。
グレイスはこの時に決心した、もうジルを信用する事は出来ないと…。
ジルが臨時司令部に戻って行く所だった。
「『神様』か…」
っと誰かの声が聞こえ、ジルは足を止めて振り向くと、そこにはエンブリヲが立っていた。
「私は自分から名乗った事は一度もないぞ? 『創造主』と言う意味であれば…正解かもしれんが」
世界最高指導者がアルゼナルに居た事にジルはすぐさまマグナムを取り出してエンブリヲに撃ちこむ、しかし弾丸はエンブリヲの身体をすり抜ける様に後ろに木に当たり、ジルはエンブリヲを睨む。
「エンブリヲ…!!!」
「怒った顔も素敵だなアレクトラ…、今は司令官のジルか? …それで、"私の息子"は元気にしてるかね?」
「クッ!!」
「ん?来たようだ…」
するとエンブリヲが違う方向を見ると、そこにマナの映像が映し出される。
『こちらはノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です。ノーマの皆さんドラゴンとの戦闘…』
その放送を聞いたジルはすぐに臨時司令部へと向かう。
「さてさて……私は"息子"であるリベロに会わないとね♪」
エンブリヲはそう言い残し、完全に気配を消した。
その中でアルゼナル付近の海域で、ミスルギ艦隊がアルゼナルへと進攻していた。
その艦の中で旗艦『エンペラージュリオ一世』に乗艦しているジュリオが笑みを浮かばせていた。
「さあ、最後の再会と行こうじゃないか。アンジュリーゼ」
グダグダですみません。次回はついにグレイスとエンブリヲ……親子の再会です!!
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第二十六話:親子の再会・前編
突然委員会の艦隊が海域からやってきて、その放送を聞いていたグレイス達、その放送を聞いていたモモカは嬉しながらアンジュに言う。
「アンジュリーゼ様!助けです! 助けが来ましたよ!」
その中でエグナントは不吉な表情をする。
「いやな予感がする……」
アンジュとタスクはエグナントの言葉に振り向き、エグナントは二人の方を向く。
「忘れたのか?……彼らがお前にした事を…。」
エグナントはそう言い、映像を見る。
そして臨時司令部でパメラ達がその放送を見ていた。
「耳を貸すなよ、たわ言だ」
っとパメラ達が振り返るとそこにジルがやって来て命令を言う。
「対空防御態勢!今すぐだ!」
「「「イエス・マム!」」」
ジルの命令と同時にアルゼナルは対空防御態勢へと入る。
アルゼナルの動きを知ったミスルギ艦隊、その事を兵士はジュリオに報告する。
「アルゼナル、対空兵器を起動!」
「やれやれ、平和的に事を進めたかったが…」
ジュリオは呆れると言わんばかりにマイクを取り、全艦艇に流す。
「旗艦エンペラージュリオ一世より全艦艇へ、たった今ノーマはこちらの救援を拒絶した。
これは我々…いや全人類に対する明白は反逆である、断じて見過ごすわけには行かない、全艦攻撃開始!」
命令と同時に全艦隊からミサイルが発射されて、それにいち早く察知したバルカンが吠える。
ジャスミンが皆に言う。
「坊主共!小娘共!来るよ!」
「え?」
モモカは何が来るか分からず、それにグレイスは舌打ちをする。
「チッ!やっぱりな!!」
アルゼナルにミサイルが降り注ぎ、それに対空兵器が撃ち落とすも、一部は防ぎきれずにアルゼナルに直撃する。グレイス達は何とか爆風に巻き込まれずにアルゼナル内部へと退避した。
そして全艦隊の甲板に三機のパラメイルが立っていた。ヘリオスのラグナメイルである『アイオロス』、アトラスの『プロメテウス』、ファントムの『ハーミット』であった。
「あのバカ…何攻撃してやがるんだ」
「これだから堕落したホムンクルスが……」
「口を慎め…アイツは父上の言葉を聞いていなかった。よってメイルライダー、ヴィルキス及び、"RBL−1272"と"MMD−008"の捕獲を最優先にし、管理委員会の全兵を駆逐する。良いな?」
「「了解!」」
アイオロス、プロメテウス、ハーミットはスラスターを稼働させて飛び、アルゼナルへと向かった。
同時にアルゼナルに向かっているダストとガリィは艦隊の攻撃を見て驚く。
「始まっちゃってるよ!!」
「クッ!人間共め、彼処には非戦闘員もいるんだぞ!…急いでリュミエールに戻らないと……」
ダストとガリィは急いでアルゼナルへと向かう。
基地内に避難したグレイス達はアルゼナルを攻撃してくる艦隊に、ロザリーはその事に驚く。
「本当に攻撃して来やがった!」
「救助なんて嘘だったんだ…」
クリスの思わず言葉を漏らす。っとそこにジルの放送が流れる。
『諸君、これが人間だ……人間の恐ろしさを理解しただろう。人間は我々を助ける気などさらさらない、よって我らは人間の監視下を離れ、反攻作戦を実行する。作戦名『リベルタス』』
っと聞いたサリア、メイ、マギー、ジャスミンの四人はそれに表情を硬め、タスクはその事に少々表情を歪む。
『共に来るものは、アルゼナルの最下層に集結せよ』
放送を終え、ジルは最下層へと続くエレベーターでパメラ達に向いて問う。
「お前たちはどうする」
「私達も参加します!」
それに二人は頷き、着いた先に何やらブリッジらしき場所に着く。
「いつの間にこんな…?」
「パメラは操縦席だ、ヒカリはレーダー席、オリビエは通信席へと座れ」
ジルはそう三人に命令し、ジルはすぐにサリアに通信を入れる。
「サリア、何がなんでもアンジュを連れて来いそれと…ティアもだ」
『え!?…ティアもですか?』
「そうだ……ソイツは我々にとって最も重要な人物である」
『分かったわ…』
そう耳にインカムで小さな声で話すサリアはアンジュと一緒にいるティアを見てジルに言った。
ジルの放送を聞いていたレオンはリベルタスの事に眉を顰め、ロザリーはそれに問う。
「おいグレイス、リベルタスって何だよ?」
「簡単に言えば、ノーマの逆襲ですよ…僕はココちゃんの夢をぶち壊したアイツ等を、許せない。だから、目に物をくれてやりますよ♪」
グレイスは微笑みながら、ガトリングガンを背負い持つ。
その事にロザリー達は驚きの様子を隠せず、グレイスはこの時に思う。
今さらリベルタスを発動して意味があるのか?、アンジュが拒絶していると言う事を理解しているのかっと。
しかしジルの事、アンジュの意思など無視して強引にするに違いないと感じたグレイスはすぐにタスクを呼ぶ。
「タスクさん! アンジュさんとモモカちゃんを連れてここから離れてください!」
「え!正気?!グレイス!」
「当たり前です! あの人の事だ…アンジュさんをぼろ雑巾に様に使う!、だから」
その事を聞いたタスクはすぐに頷く。
「分かった、アンジュ!…!?」
タスクが振り向くと、既にアンジュとモモカの姿が無く、それを見たグレイスが辺りを見渡すとサリアの姿が居ない事に気付く。
「チッ! 先を越されてしまった! タスクさん!アンジュさんを探してくれ!」
「分かった!『ピピピ!』?!」
タスクの通信機に通信が入り、それにタスクは耳にインカムを付けて出るとジルが話しかけて来る。
『タスク、お前はヴィルキスを護れ、アンジュの事はサリアに任せろ』
「ちょっと待て!今アンジュは何処だ!?」
すぐに問いただすがジルはすぐに通信を切り、無線も切った。
それにタスクは舌打ちする。
「くそっ!やられた!」
「タスクさん!僕達は今から格納庫ヘ行きます!」
「ちょっと!グレイス!?」
グレイスはエグナント達を連れて、格納庫ヘ向かう。
「おい!何処に行くんだよ!?」
ヒルダが問うもグレイス達はもうすでに行ってしまった。
「たく!こんな時に! アタシ等は格納庫でパラメイルで人間共を蹴散らして行くよ!」
そう言ってヒルダ達は別ルートで格納庫へと向かった。
レオン達が格納庫に向かう中でマナの特殊部隊と遭遇する。
「敵だ!」
「ノーマの加担する人間は殺せ!!」
っと言わんばかりにグレイス達に向けてマシンガンを撃って来る、それにグレイス達は物陰に隠れる。
銃弾が飛び交う中でアツマは特殊部隊を見る。
「マナの特殊部隊か…」
「どうするグレイス? 殺る?」
「うん、この場で殺す!」
そう言ってグレイスはガトリングガンを向けて乱射する。エグナント達も、怪物体へと変身し、特殊部隊に襲い掛かる。
「未確認生物だっ!!」
「何でアルゼナルに!?」
特殊部隊が叫ぶ中、エグナントは樹木を伸ばし、特殊部隊を払い飛ばす。アツマも燃え上がる溶岩を垂らしながら、持っている炎の剣を振り回す。ナナリーは蛇の尾で特殊部隊を巻き付き、絞め殺す。オボロとミカも銃弾を弾きながら突進し、セシルとトーマ、メタリカは連携しながら特殊部隊を倒し、喰い殺していく。
「RBL−1272!!」
「!!?」
するとそこにある者達が立ちふさがった、それはヘリオスとアトラスにファントムの三人だった。
それにグレイスは驚く。
「君たちは!?」
「我が名は『コードネーム"HLS-0248"』と申す!」
「同じく『コードネーム"ATS-751"』…」
「『コードネーム"PNM-0849"』……」
三人はそれぞれの名を言うと、エグナント達が物凄い威嚇をし出す。
「どうしたの!?」
「グレイス!気をつけろ!」
「アイツはヘリオスとアトラス、ファントムだ!!」
「っ!!」
グレイスは驚き、ガトリングガンを構える。
「まぁ、そう警戒するな……予定が狂ったのだ。」
「予定だと?」
「本来なら皇女アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギとヴィルキスの捕獲。そしてメイルライダーの数名及び、コードネーム"RBL−1272"と"MMD−008"、アルゴルモアの捕獲であった。」
「ふざけるな!!結局アンジュさんやティア、そして僕を狙ってるじゃないか!!」
「落ち着け……今回は共闘だ…」
「共闘?何で?」
「捕獲なのに、あの馬鹿が余計な事を実行した。父上の命令を良く聞いていなかった奴にはこの世から処分する。」
ヘリオスの言葉に、エグナントが返答する。
「バカとは……ジュリオか?」
「そうだ……本来ならここでお前達生物兵器を殺すつもりだったが……」
ヘリオスはそう言い、背中に装備しているビームウィングを展開し、その場から去る。そしてアトラスがナックルバスターをグレイスに向け、呟く。
「今回だけだからな」
そう言うとアトラスはファントムと共に、その場から去る。
「今回だけは、奴らと共闘か…」
アツマが呟くと、ナナリーがある物に気付く。
「何あれ!?」
《!?》
攻撃で大穴が空いた甲板の上空に、円盤らしき浮遊物体が無数に飛来していた。
そして格納庫ではマナの特殊部隊とメイ達が交戦状態に陥っていた。
その中で人間達がノーマを虐殺しているのを見て、ヒルダは怒りを顕にする。
「糞がっ!!」
ヒルダはライフルを乱射する中、まだ生きていた一人の隊員がヒルダにSMGを構えているのを見たメイが叫ぶ!
「ヒルダ!!!」
すぐさまヒルダが構えた瞬間、触手が隊員に巻き付き、振り投げた。現れたのは急いでアルゼナルに到着したダストとガリィであった。
「未確認生物だ!!」
「逃げろ!!」
ダストとガリィは特殊部隊隊員に襲い掛かる。その光景にロザリーとクリス、ヒルダやメイ達も驚く。隊員はダストに任せ、ガリィは人間体に戻る。
「皆、無事?」
ガリィが心配するとダストが吼える。
「テメェら!覚悟しておけよ!!彼女達を差別した分を倍にして殺してやるからよ!!」
ダストは触手を振り回したり、巻貝に付いているハイドロ砲やサイコハイドロ砲を乱射する。
「相変わらずダストは……ここはアタシ等がやるから、アンタ達は先に出撃して♪」
「わ、分かった!メイ、発進準備は!?」
「ああ、いつでもいけるよ!」
「ヒルダ隊長、ターニャ以下5名、出撃準備完了です!」
既にデッキに来ていた第三中隊の元メンバー5人が一斉に敬礼し、ヒルダも頷く。
「よし、第一中隊出撃!」
『イエス・マム!』
号令に応じ、ターニャ達がパラメイルに搭乗していく。先行し、5機のパラメイルが発進すると、ヒルダはすぐに追うべく搭乗を指示する。
「マジで人間とやり合うことになるなんて……」
ロザリーは未だ現実感のない事態に困惑していたが、横にいたクリスが何かに気づいたように顔を上げた。
「何、あれ?」
空を指差すクリスにヒルダ達も思わず顔を上げると、空けた鉄骨の隙間から見える空一面に黒い物体が無数に浮いているのが見える。
怪訝そうに見やる一同の前で、黒い球体状の物体が側面に鋭利な刃物を展開し、高速回転しながら急降下してきた。それらはアルゼナルの壁面を抉り、カタパルトレールに刺さると高速回転しながら爆発した。
「伏せろ!!」
ヒルダが咄嗟に声を張り上げ、デッキにいた面々は反射的に身を屈め、巻き起こる爆風に身を縮める。濛々と立ち込める噴煙に咳込みながら顔を上げると、発進カタパルトが瓦礫によって塞がれ、完全に閉じ込められた。
その状況にヒルダは舌打ちするも、そこへ悲鳴のような通信が飛び込んできた。
『た、隊長――!』
「ターニャ、どうした!?」
先程の勇んだ声とは打って変わったような切羽詰った声色に眉を顰める。
『空一面に、未確認の――何なの、こいつら……!?』
悲鳴に近い声にますます混乱する。
「おい、どうした!? もっと正確に伝えろ!?」
再度呼び掛けた瞬間、別の周波数が割り込み、そこから別の悲鳴が飛び込んできた。
《隊長!イルマが!イルマが連れて行かれた!》
「連れて行かれた? おい、どういうことだ!?」
刹那、回線も雑音混じりに途切れ、デッキの照明が一斉に落ち、ヒルダ達はより混乱に陥った。
っと電力が突如落ちて、それに驚く皆。
「何だ?!」
そして船に居るジルはすぐさま聞く。
「砲撃による損傷か?」
「侵入者による攻撃です!」
マナの特殊部隊にアルゼナルの電力を落とされた事に、放送が流れる。
『アルゼナル全要員へ! 敵部隊がアルゼナルに侵入!目的は、人員の抹殺!ダメ、退避!みんな!にげてぇぇぇぇ!!』
それを聞いたエルシャはその場から離れる。
ヒルダはエルシャの行動を見て問う。
「おいエルシャ!」
「ゴメン!!すぐ戻るから!!」
そう言ってその場を離れて行く。その時にジルから放送が来る。
『デッキ上の各員に告ぐ、敵の狙いはヴィルキスだ、デッキ上の下層へと運搬を最優先事項とする!』
聞いたメイはすぐさま整備班達に言う。
「整備班集合!ヴィルキスは手動で下ろす!」
「「「イエス・マム!!」」」
整備班の一人が手動で動かそうとした時に頭を撃たれてしまい、それを見たダストとガリィが振り向くと、再び集まって来た特殊部隊に攻撃されていた。
「も〜…この連中しつこいなぁ…」
ガリィはそう言いながら、人間体から怪物体へと変身し、隊員に襲い掛かる。
アルゼナルの各所で銃撃が轟くなか、アンジュとティアはサリアに連れられて最下層へと向かわされていた。
その前方にモモカを抱えて歩くジャスミンもおり、アンジュは背後で銃を突きつけながら促すサリアを厳しげに見ている。
緊張感が漂うなか、サリアの許に通信が入り、受信する。
「はい……ええ? ヴィルキスとリベリオンがまだ整備デッキに? 分かった、アンジュを届けたら私もデッキに合流するわ」
肝心要のヴィルキスとリベリオンの二機は未だ整備デッキから移送できずにいる。移送用のシャフトを破壊された上、デッキに侵入した特殊部隊と銃撃戦となり、作業もままならない状況のようだ。
ジルの命令に頷くと、通信を切る。そのやり取りを察したのか、アンジュが睨むように呟く。
「ここ、危ないんでしょ? 逃げる準備なんてしてる場合?」
「言ったでしょ、アンタには大事な使命があるって……アンタは無事にジルの許まで届けるわ。それが私の仕事なのよ」
憮然と告げるサリアの表情は傍目から見ても気を張っており、痛々しい。そんな様子が滑稽に見える。
「結局、あの女の言いなりってわけ?」
鼻で笑うアンジュにキッと奥歯を噛み締めるも、それを抑え込む。
「なんとでも言いなさい」
口調を荒げて黙らされるサリアに鼻を鳴らしながらも、アンジュ自身も不安を隠せずにいた。
「サリア様!どうしてなの!?どうして私も!?」
「惚けないで!」
「え!?」
「知ってるのよ……あなたがDr.ディメントによって作られ、『ラプソディー』を動かすための人魚姫って事を!」
「どうしてそれを?」
「あなたがここへ来て、血液検査で分かったの……ティアは人間でもノーマでもない…ホムンクルスって言う事…」
話の内容が分からないアンジュはサリアに問う。
「さっきから何なの?そのラプソディーって?」
「あなたには関係ない事よ…アンタをジルの許に連れて行く。アンタがジルに、リベルタスに加われば、セラも必ず加わるわ!」
その瞬間、アンジュは怒りに顔を赤く染める。
「なに? 私は人質ってわけ? グレイスを――彼を利用するために………ふざけんじゃないわよ!」
ようやくサリアの……いや、ジルの思惑を理解したアンジュは憤怒に声を荒らげる。
「従わないから無理矢理従わせる…とことんクサった女ね!リベルタスだとかなんだとか、そんなもののために仲間の命を犠牲にしてまで!」
ドラゴンの真実を隠してきたこと、そしてこちらの意思も無視してリベルタスという戦いに駆り立てさせる。セラの言った通り…選択肢など、最初から無いのだ。
そして、今回の人間の襲撃に対しても後手に回っており、しかも合流できなければ見捨てる。積極的に助けに行こうともせず、それを必要な犠牲とでも言いたげなサリアの、そしてジルのやり方。
なにより、自分を利用して『グレイス』や『ティア』を巻き込もうというやり方に腹立たしい思いだった。
「アンタもあの女と同じね、訳の分かんない絵空事や、無意味な使命感に酔いしれているだけの偏執狂!大げさな理想を掲げて、実際は自分だけじゃどうにもできないくせに!」
その指摘に忸怩するようにサリアは歯噛みする。
「巻き込まれて死んでいく方はたまったものじゃないわね! っ」
間髪入れず、アンジュはサリアに平手打ちされ、睨みつけるもサリアは怯むことなく声を荒げる。
「アンタ何も分かってないのね! 自分がどれだけ重要で、恵まれていて、特別な存在なのか!」
「分かりたくもないわ、そんなもの!」
アンジュが望んだわけではない。なのに、勝手に周りが『できる』からと巻き込んでいく。そこにアンジュの意思はない。
あくまでリベルタスには協力する気はないアンジュと、従わせようとするサリアの間に緊張感が走るも、その時ジャスミンに抱えられていたモモカが顔を上げた。
「では、息を止めて下さい! アンジュリーゼ様!」
今まで黙っていたモモカが唐突にジャスミンの拘束から逃れ、跳び上がると持っていた調味料ポッドをその場にばら撒いた。
一瞬にして粉塵まみれになる通路に、眼を見開く。
「なんだい、こりゃ…くしゅっ」
眼を剥くジャスミンだったが、急に鼻が疼き、クシャミする。舞う粉が呼吸を咽させ、サリアは涙眼で叫ぶ。
「アンジュ!ティア!何処なの!?くしゅん!待ちなさい!」
鼻声で探すも、その隙にアンジュとティアとモモカは逃げ出していた。
「いつでもお料理できるように、塩とコショウを持ち歩いていて正解でした、くしゅん!」
通路を駆け上がりながら、どこかサムアップするようにはにかむモモカの咄嗟の行動に、アンジュは感心した。
「随分大胆な事をするようになったわね、くしゅ!」
「アンジュリーゼ様の影響で、くしゅ!」
互いに鼻をかみながらも、その場から何とか逃げるアンジュととティアとモモカ。
「アンジュリーゼ様、これからどうします?」
「とにかく、グレイスとタスクを探すわ!見つけたら、そのままデッキに行くわよ!」
「ごめんなさい、サリア様……」
ティアはそう思いながら、アンジュとモモカと一緒に逃げるのであった。
アルゼナル最深部―――そこは、巨大なドックとなっており、その中心には巨大な艦艇が横たわっていた。
可潜空母『アウローラ』―――それが、この巨大な艦艇の名だった。かつて、幾度となく古の民の母艦として戦い、ジル達が密かに用意していた『リベルタス』のための切り札であった。
ドックに固定され、ブリッジに入ったジルは同行させていたパメラ達を所定の位置につかせ、発進準備を行っていた。
「全シーケンス、60%完了」
「各部最終チェック」
「電子系統、オールグリーン」
パメラ達は初めて触れる機器ながら、オペレーターとしての杵柄ゆえか、問題なく作業をこなしていた。
別の通信が割り込み、通信を開くと咳が聞こえ、怪訝そうになる。
「サリア、何があった?」
『アンジュに、逃げられた、くしゅん』
通信からは未だ呼吸が戻っていないサリアの鼻声が聞こえるも、その内容に苛立ち混じりに唇を噛む。
「連れ戻せ、奴はなんとしても乗せろ!」
サリアの報告を聞いたジルは歯を噛みしめ、アンジュの捕獲の命令を与える。乱暴に通信を切るのであった。
サリア達から逃れ、食堂へと入ったアンジュとティアとモモカだったが、食堂は完全に照明が落ちて暗闇に包まれていた。だが、何故だろう……この食堂全体に漂う異様な悪臭は。
モモカはマナの光で灯りを照らした。
「こちらですアンジュリーゼ様、ここから行けそうです」
進もうと、灯りを前に向けた瞬間、四人は息を呑んだ。暗闇のなかに倒れ伏す幾人もの死体、そのどれもが焼け爛れ炭化し、もはや判別すらつかない状態だった。
「酷い……」
ティアは顔を青くして声を震わせ、モモカも思わず手を口に当てる。アンジュはその光景に先程のドラゴンの炎に包まれる光景が重なり、あの時の不快感が再来する。
「うっ」
「アンジュ!」
思わず咽るアンジュにセラが身体を支え、モモカが慌てる。
「アンジュリーゼ様! み、水を!!」
すぐさま食堂のキッチンに向かったモモカに、ティアがアンジュを支えながら背中をさする。
「しっかり…」
「ゴメン……」
まだ顔が青いアンジュを気遣いながら、ティアは周囲を見渡す。黒ずんだ死体はどれも無抵抗で殺されており、ノーマに対して何の罪悪感も持っていないことを感じさせる。
「大切な物は失ってから気づく……何時の時代も変わらない心理だ。こんな事を許した覚えはないんだがな…」
突然聞こえた声に息を呑み、反射的に振り返る二人。銃その先には、一人の青年が佇んでいる。
「誰?」
「っ!!」
「ティア?」
突然ティアが思わず手を口に当て、怯えながら下がる。
「どうしたの!?」
「あ…あ……あなたは!」
「久しぶりだね、MMD−008……♪」
青年は微笑ましい表情でティアを見る。
それにしても…酷いものだな。大切な物は失ってから気づく…何時の時代も変わらない心理だ。こんな事を許した覚えはないんだがな」
そんなセラ達を横に青年は周囲を見渡し、嘆かわしいとばかりに顔を曇らせる。
「君の――いや、君達のお兄さんだよ、この虐殺を命じたのは。アンジュ」
「なっ!?」
その言葉にアンジュは驚愕に眼を見開き、セラも表情を強張らせる。
「北北東14キロの場所に彼は来ている――アンジュ、君を八つ裂きにするためにね。この子達はその巻き添えを喰ったようなものだ」
淡々と告げられた内容にアンジュの内に沸々と怒りが沸き、アンジュに小さく眼を伏せる。その時、キッチンから乾いた銃声が響いた。
「きゃああああ!!」
「モモカ!?」
次いで聞こえるモモカの悲鳴に、アンジュは反射的にモモカの名を呼んで駆け出し、ナオミも後を追う。ティアは一瞬だけ視線をアンジュ達に向け、再び戻すとそこには誰の姿もなく、まるで幻でも見ていたような感覚を覚える。
アンジュがキッチンに向かうと、二人の特殊部隊の兵士がモモカを狙っており、モモカは左肩を撃たれていたが、動ける右手でマナの光を出して防御をしていた。
そんなモモカを追い詰める二人にアンジュは頭が真っ白になり、反射的に銃を取り出し、躊躇いなく一人を撃ち殺して、もう一人は両肩を撃ち抜く。
呻き声を上げて座り込む兵士に銃口を向けたまま近づき、睨みつける。
「あなた達がやったの? お兄様の命令で?」
「貴様、アンジュリーゼ!!ぎゃぁぁつ!」
すぐに銃を構えるも、アンジュに手を撃たれてしまう。
「う、撃たないでくれ。我々は、隊長と…ジュリオ陛下の命令で……」
これ以上聞く耳は持たないとアンジュは銃を撃ち、兵士を撃ち殺す。相手が絶命しても構わずトリガーを引き続け、弾倉が空になってもトリガーを鬼気迫る表情で引き続けていた。
「ア、アンジュリーゼ……」
そんなアンジュを止めようとモモカは思わずアンジュに抱き付く。
「大丈夫です! モモカはここに居ます!」
モモカの声に少しは落ち着いたのか、呼吸を落ち着けるも、アンジュの眼はここではない……『敵』を視ていた。
「行かなきゃ…」
低い声で呟くアンジュの眼に宿る怒りと憎しみを瞳に宿らせる。
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からずに思考が止まる。
「この状況を招いたのは、私の責任よ―――あの時、あの男を殺さなかったね」
やや忸怩たる面持ちで顔を曇らせる。あの時に……ミスルギ皇国で殺しておくべきだった。ジュリオ・飛鳥・ミスルギを―――そんな仮定に何の意味もない。だが、それでもこの事態を招き寄せた一端は自分にもある。
「だから、このケジメは私がつける!」
アンジュは決意すると、
「アンジュ!」
別の方からタスクがライフルを持って現れた。
「タスク!」
タスクと合流したアンジュ達は急いで格納庫へと向かったのであった。
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第二十七話:親子の再会・後編
一方でグレイス達は格納庫へと向かっている中でまたしても特殊部隊が立ちはだかり、敵を殲滅していった。
「キリがない!!」
グレイスは刀を抜き、隊員を一刀両断する。
グレイス達は足を止めると、アンジュ達がやって来た。
「アンジュさん!丁度良かった!今からここから…」
「グレイス! 私!今から行かなきゃ行けない所があるの! タスクと一緒に来て!!」
そう言ってアンジュは格納庫へと向かって行き、モモカも慌てて付いていく。
「タスクさん、アンジュさん一体どうしたのですか?」
「実はこっちもさっぱり…」
グレイスはタスクにアンジュの行動に問うが、タスクもアンジュが何をしたいかさっぱり分からないらしい。
「たくも…、取り合えず向かいましょう!」
グレイスはアンジュの後を追い、タスク達も後を追う。
そして再び格納庫、敵が投げたグレネードがエレベーターシャフトに直撃して、シャフトが崩れる。
「エレベーターシャフトが!」
「これではパラメイルを下ろせません!」
部下の言葉にメイは歯を噛みしめ、不味い状況になって来る事にロザリーが問いかける。
「どうするんだよ!ヒルダ!?」
「くっそ~…!」
っとその時だった。
「行け!!糞族!!」
突如横からの攻撃を受けた特殊部隊達は飛んできたガントレットアームによって吹き飛ばされた。別の扉からムートロム・フォルムになったリベリオンが現れ、ロケットパンチで吹き飛ばしたのであった。
「グレイス!アンジュ!!」
「お前等何処に行ってたんだ!このバカ!!」
メイとヒルダがグレイス達に言うが、アンジュがモモカをヒルダに任せたと言ってそのままヴィルキスに乗り込む。それにグレイスが駆け寄り問う。
「ちょっと!何処に行く気ですか!」
「…お兄様の所よ」
っと言って、アンジュはヴィルキスを動かし。ジュリオ達が居る艦隊へと向かって行く。
アンジュの話を聞いたグレイスは唖然とする。
「アンジュ、どうやってお兄さんの事を知ったのですか?」
「グレイス! 兎に角追いかけよう!」
タスクの言葉にグレイスは頷き、リベリオンを飛翔形態へ変形する。タスクも飛行艇に乗り込む。
グレイス達の行動を見たヒルダは怒鳴る。
「おい!何処に行こうとするんだよ!!!」
「今からアンジュさんを追う! ヒルダさん!今からあなたが隊長です!!皆を任せました!」
グレイスは向かおうとした時、ティアも乗り込む。
「ティア!?」
「私も連れて行ってください!あの兵器を使う為に、あなたの覚醒プログラムを速めます!」
「………わかった!」
そう言ってグレイス達はその場から去っていった。
残されたヒルダ達はグレイス達の行動に理解が出来ずだったが、ヒルダは笑みを浮かばせた。
「たくぅ、身勝手な奴…でもグレイスらしい」
ヒルダはそう言ってライフルを置いて自分のパラメイルの場所に向かう。
「ヒルダ…」
「アタシも行かなきゃね」
っと肩を抑えながら向かって行く。
そして後からやって来たサリアが辺りを見て、外の方を見てヴィルキスが出た事に表情を歪ませる。
「行かせない…!」
「くっそーっ! 放せ、放せーっ!」
未だ戦闘中の空では、新たな犠牲者が生まれようとしていた。メイルライダーの一人、ターニャが先程のイルマ同様、小型円盤に拘束されて何処かに攫われようとしていたのだ。
「メイルライダー定数確保! 基地内でも、確保完了との報告あり!」
未だアルゼナルへ向けて推進中の艦隊の中で、ジュリオが報告を受け取っていた。だが、その報告を受けても満足した表情にはなっていない。
「…アンジュリーゼは」
一番の標的のことに言及されていないのだから当然だろう。今は家族としての縁を切った妹の名を呟く。
「第一目標がアンジュリーゼ! 第二目標がヴィルキスと言った筈だろう!」
思わず身を乗り出してジュリオが語気を強める。と、不意に警報が鳴った。
「本艦に急接近する物体あり!」
それを捕捉した兵士がそれをモニターに映す。そこには、ヴィルキスを駆るアンジュとリベリオンを駆るグレイスの姿があった。
「第一目標と、第二目標、第三目標に第四目標です!」
「アンジュリーゼぇ…」
目標が四つ、わざわざ自分たちのところに来てくれることに満足したのか、ジュリオは椅子に深く座り直すと、下卑た笑みを浮かべながらアンジュの名を呟いたのだった。
ヴィルキスが空を舞い、華麗に小型円盤を撹乱する。そしてその隙を見つけてアサルトモードに変化すると、ライフルを乱射して次々に目標を墜としていった。と、全く予期せぬ方向から援護射撃があり、幾つかの小型円盤を落としていく。
「!」
思わずその方向に振り返る。そこには、
「戻りなさい、アンジュ!」
爆炎の中から姿を現したサリアのアーキバスがあった。
「戻って使命を果たして!」
サリアがそう訴えるものの、アンジュは一向に従う気配もなく、ライフルで小型円盤を掃討していく。
「何が不満なのよ!」
一向に変化の見られないアンジュに業を煮やしたサリアが、正対して再度訴えかける。
「あんたは選ばれたのよ、アレクトラに!」
「……」
アンジュは答えず、ただジッと鋭い視線でパラメイルの中にいるサリアを見据える。
「私の役目も、居場所も、全部奪ったんだからそのぐらい「好きだったの」えっ…」
アンジュの返答の意味がわからず、思わずサリアが呟いた。
「私、ここが好きだった。最低で、最悪で、劣悪で、ごく一部の例外を除いて、何食べてもクソ不味かったけど。好きだった、ここでの暮らし」
主人の感情に呼応するかのように、アンジュの左手中指に嵌められた指輪が光り輝き始め、その光を増してゆく。その時、ヴィルキスの装甲の色が白から赤へと変色した。
「それを壊されたの、あいつに!」
そしてアンジュはいきなりサリアに突っ込むと、ラツィーエルを展開した。
「はっ!」
突然のことに驚いたものの後の祭り、サリアのアーキバスは反応することも出来ず、振り上げられたラツィーエルで片腕を切断されてしまった。
「だから、行くの!」
返すラツィーエルを振り下ろし、もう一方の腕を切断する。故障した…というわけではないのだろうが、バランスを失って機体の推進が崩れたのか、サリアのアーキバスは真っ逆さまに墜落してゆく。
「邪魔したら…殺すわよ! …それに、さっき選ばれたって言ったけど、私が頼んだわけじゃない!」
真紅の瞳が鋭さを増した。その言葉通り、邪魔者は全て殺すと言わんばかりに。
「アンジュ、アンジュ!」
他方、今しがた排除されたサリアは墜落しながらしきりにアンジュの名を叫ぶ。
「許さない…勝ち逃げなんて、絶対許さないんだから!」
目尻に涙を浮かべ、まるで呪うかのようにそう吐き出した。
「アンジュの下半身デブーっ!」
アンジュが飛び去っていくのを背景に、まるで子供の喧嘩のような幼稚な言葉を叫びながら、サリアはそのまま海に着水したのだった。
同じ頃、整備デッキでは第一中隊の三人が発進するための準備を終えているところだった。
発進準備完了!」
「了解」
メイのゴーサインにヒルダが頷いた。
「行くよ、ロザリー、クリス!」
「ああ」
「わかりました」
ロザリー以下二人の返答にこれまた満足そうに頷くと、ヒルダは正面を向く。
「ヒルダ隊、出撃!」
『イエス、マム!』
三人の返答を受けるのを待っていたかのようにヒルダが発進し、その後を、ロザリー、クリスと続く。が、不吉なことにそんな彼女たちから少し離れたところに瓦礫に潜んだ一人の兵士の姿があった。
兵士は銃を装填し、その時を待つ。まずヒルダが通り過ぎ、そしてロザリーが続き、最後にクリス。
そして最初の三機をやり過ごし、最後のクリスが飛び立とうとしたところで兵士が銃を発砲した。その銃弾は無情にもクリスの頭部を捉え、コントロールの利かなくなったクリスのパラメイルはそのまま整備デッキ内の壁に勢いよく激突したのだった。
「クリス!」
「クリス、今行く!」
その異変はヒルダたちは先に出ていた二人もすぐに気づいた。ロザリーが慌てて機首を反転させてクリスの元へと向かう。が、それを阻むかのようにアルゼナルを攻めていた小型円盤の大軍が、三人に向かって飛んできたのだった。
『待ってろクリス、今すぐ助けてやるからな!』
「うん…ありがとう…ロザ」
そこで通信は途絶えた。何故なら整備デッキが爆発してしまったからだ。幸いにもクリスは全壊に近いパラメイルに乗っていたものの、死ぬことはなかったのだが。
が、上空から見ていたヒルダ、ロザリーの二人にはそんなことがわかるわけもなかった。出来たのは黒煙を上げる整備デッキを、呆然と見下ろすだけであった。
「っ!」
「クリ…ス?」
ロザリーが呆然とクリスの名前を呟く。状況を確認しようにも向かってくる小型円盤の掃討に忙殺され、三人は現場に近寄ることも出来なかった。
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!てめえら全員!ぶっ殺してやる!!!」
流す涙を拭わず、ロザリーはライフルや連装砲を発射した。だが、弔い合戦にはまだ早かった。
「……」
爆発によって投げ出され、ほぼ全壊に近いパラメイルに乗ったまま落下したクリスは、生死の狭間でロザリーたちの救援を待っていた。そんなクリスに、ゆっくりと近づく人影が一つ。
「……」
足音だけを立てながら無言で近づいてくるその人影は、先程アンジュの前から姿を消したエンブリヲだった。
その頃、一人第一中隊の全員と別行動を取っていたエルシャは、ようやく自分の邪魔になる最後の一人の兵士を倒したところだった。
「ぐわっ!」
マシンガンに撃たれて兵士が吹き飛ばされる。手向かってこないことを確認したエルシャは、すぐに目的地へと向かって走った。目的地の部屋は程近く、そこからは聞き覚えのあるオルゴールの音色が奏でられている。負の感情に責め立てられるように、エルシャは走った。そして、
「うっ!」
目的地に辿り着いたエルシャが口と鼻を押さえてしまう。オルゴールは床の上で無情に鳴り響いていた。そしてエルシャの目の前には、彼女が口と鼻を押さえてしまった原因…無残な死骸となった子供たちの姿があった。
「あ…あ…あ…」
目の前の光景にエルシャは立つことすら叶わずにその場にへたり込んでしまう。
「ごめんなさい…ごめんな…」
最後はもう言葉にもならず、エルシャはとめどなく涙を流すことしか出来なかった。そんな彼女たちを、部屋の外から見ている一つの人影がまたあった。
「……」
声をかけるでもなく静かに佇むその人影は、誰あろうエンブリヲその人だった。
一方、駆逐形態に変形して艦隊に迫るアンジュ。ミサイルの一斉砲撃をラツィーエルから放出するエネルギーブレードの横薙ぎで一閃するも、その爆炎が弾幕となって新たなミサイルが直撃する。
「くっ!!……?」
弾幕を受けた筈なのにヴィルキスは無傷であった。よく見るとヴィルキスの装甲から光学障壁が放出されており、それが弾幕を守ってくれていた。
「光の障壁?……なら!」
アンジュはヴィルキスを駆逐形態へ変形し、向かってくるピレスドロイドへ特攻していく。光学障壁で爆裂していくピレスドロイド。そしてアンジュはそのまま艦隊へ向かっていく。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ヴィルキスは巡洋艦を貫き、撃沈すると、次の巡洋艦へ突撃する。
「沈め!!」
迎撃していた巡洋艦も撃沈するアンジュ。それを見ていたグレイスとティア。
「僕も負けてられないな!ティア!お願い!」
するとティアは何かを決意し、歌い出す。
「♪〜♪〜♪〜」
ティアの歌声と同時に、リベリオンの装甲が光り輝き、変わっていく。
『覚醒プログラム100%達成。これよりアドバイスド・フォルム及び、ゼムリアン・フォルムへ移行します。』
ラルスの音声と共に、リベリオンの形が変わっていく。その光景を見ていたヘリオス、アトラス、ファントムは呟く。
「ついに覚醒したか……」
「ゼムリアン・フォルム…」
「10年前と変わらない……」
現れたのは、赤と黒を青と銀を基調にしたゼロを思わせるもの。
下半身に伸びた直線状の青ライン、アクセントとして腹部と両サイドに赤ラインが加わっている。
上半身は騎士の甲冑に似た白銀のプロテクターで覆われており、両肩部には角のように鋭く尖った赤い突起が伸びている。
両腕部、両膝部にもプロテクターが施され、両腕部には鋭角的な突起が施されており、バイザーも両サイドにスライドされ、ツインアイが青く光る。
そしてティアが両手を合わせて握り締め、祈りながら念じる。
「(お願い…ハルマゲドン、グレイス様に力をお貸しして……)」
ティアの祈りに、この世界の軌道上で漂っている衛生が起動する。
『……"ハルマゲドン"了解。コードネーム"MMD−008"の命に従い、ウェポンユニットを投下を開始する。』
衛生兵器に搭載されている対話インターフェイスユニット『ハルマゲドン』は衛生に備えられている多彩の大型兵器を射出口へ移送する。射出口には耐熱弾頭ポッドが装填されており、大型兵器を弾頭ポッドに入れ、ハッチを閉じ、目標アルゼナルへと向けられる。
『大型兵器"シュトラーレンランツィーラー"及び"リッターシルト"の収納を確認。弾頭ポッド発射準備…3…2…1…発射』
ハルマゲドンの射出口から、耐熱弾頭ポッドが射出され、大気圏を突入して行く。
辺りが何かの轟音が鳴り響き、空から流星の如くスピードでリベリオンへ落ちていく。そしてポッドが割れ、中から出てきたのは、突撃騎槍光学小銃『シュトラーレンラツィーラー』と四葉のクローバーの形をした機動防盾『リッターシルト』が出てきて、リベリオンはそれをキャッチする。そして大型兵器を手に、リベリオンは無数に来るピレスドロイドに向けて、シュトラーレンラツィーラーを撃つ。照射ビームがピレスドロイドを焼き払い、突撃してくるピレスドロイドには四つのジェネレーターから最大出力の陽電子リフレクターが機体を覆い尽くし、ピレスドロイドを弾いていく。
「ヴァルキュリー・テンペスト……」
グレイスがそう言うと、リベリオンの螺旋状の4つの角から、エメラルドの雷撃が放たれ、巡洋艦やピレスドロイドの大群を破壊していった。
その、ジュリオに対しての絶望的な状況は次々とエンペラージュリオⅠ世のブリッジに届けられていた。
「デファイアント、マリポーサ、撃沈!フォーチュネイト、オーベルト、全て大破!」
「何をしている! 相手はニ…」
機。とジュリオは続けたいところだったのだろうが、それは出来なかった。何故なら次の瞬間、ブリッジが切断されて通信していた兵士たちのいる前方部が滑り落ちるように落下していったからである。
「はっ、ははっ…」
つい先程までには考えもよらなかった状況に、随分と風通しのよくなったブリッジでジュリオは腰を抜かしてへたり込む。そしてその目の前に、真紅の天使…ヴィルキスが審判者宜しく舞い降りた。そしてその状況下、遂に見限ったのだろうかリィザがブリッジから脱出したのだが、アンジュもジュリオもお互いそれを気にかける余裕はなかったのか、そのことには気付いていなかった。
「……」
コックピットが開き、アンジュが姿を現す。
「あ、アンジュリ…」
ジュリオがその先を言う前に銃声が響き、自身の左足が撃ち抜かれた。
「ああーっ! あっ! ああーっ!」
悲鳴を上げ、傷口を押さえてのた打ち回るジュリオ。図に乗った上に勘違いし、パンドラの箱を開けた愚か者には相応しい巡り会わせだった。
「今すぐ虐殺を止めさせなさい!」
対するアンジュは銃を構えたまま鋭い視線をジュリオに向けている。その表情は怒りに満ち満ちていた。
「今すぐ! さっさとしなさい!」
アンジュへの恐怖心からか、痛みに顔を歪ませながらもジュリオはマナの力で通信を開いた。
「神聖皇帝ジュリオⅠ世だ。全軍、全ての戦闘を停止し、撤収せよ!」
『撤収!? ノーマたちは!?』
通信の内容を聞いた兵士の一人が尋ね返すものの、それには答えずジュリオは自分の言いたいことだけ言って即座に通信を切った。
「止めさせたぞ! 早く医者を!」
その瞬間、今度はラツィーエルを掲げる。だが尚も、アンジュはジュリオから離れない。
「ま、待て、話が違う!」
腰砕け、激痛に耐えながらもジュリオは両手を開いて前方に差し出し、アンジュを制止しようと努める。
「早まるな! 要求は何でも聞く! そうだ、お前の皇室復帰を認めてやろう! アンジュリーゼ! どうだ、悪くない話だろう! だから、殺さないでくれーっ!」
神聖皇帝の称号が大笑いするほどのみっともない命乞いをするジュリオ。対して、アンジュは何処までも冷徹だった。いや、目の前の愚物がそうすればするほど、どんどん冷めていく。
「言うことはそれだけ?」
冷たく吐き捨てると、アンジュは銃口の照準を静かにジュリオの額に合わせた。
「生きる価値のないクズめ…くたばれーっ!」
懇親を込めてラツィーエルを振り下ろした。それに力をかける。ジュリオはアンジュの殺意の前に何ら抵抗も出来ず、悲鳴を上げて最期の時を待つしか出来なかった。そして、もう少しで終わるというところで、二人にとって予想もしない事が起きた。
その時にそのエネルギーブレードを謎のパラメイルがビームシールドで受け止める。
それにアンジュは目の前の光景に驚く。そのパラメイルの肩にエンブリヲが乗っているのだ。
「貴方…さっきの!」
「エンブリヲ様!! そいつを!アンジュリーゼをぶっ殺してください!! 今すぐ!!!」
「エン…ブリヲ?」
アンジュはその男がエンブリヲだと知って呟く。
「アンジュ、君は美しい…。君の怒りは純粋で白く何よりも厚い。理不尽や不条理に立ち向かい…焼き尽くす炎の様に、気高く美しい物。つまらない物を燃やして、その炎を燃やしてはいけない」
アンジュはエンブリヲが何を言いたいのか意味が分からず、ただ唖然としていた。
「だから…私がやろう」
「え?」
「君の罪は…私がせよう」
するとエンブリヲはその機体を上昇させて、エンブリヲは何かを歌いだす。
「♪~♪」
その歌にアンジュとジュリオは聞き覚えがあった、その歌は『永遠語り』だった。
「あれは…!?」
「永遠語り!?」
アンジュの元に向かっているグレイス達は聞こえて来る歌に驚く。
「ん!? この歌は!!」
「あれって!?」
「あれは…まさか!!」
同時の外に出ているリィザは【謎の翼】を出して飛んでエンブリヲを睨む。
「エンブリヲ…」
そしてエンブリヲの機体の両肩と翼が露出展開して、ヴィルキスと同じものが出て来る。
「ヴィルキスと同じ武器…!?」
アンジュが驚いてる中でその機体は光学兵器を発射て、ジュリオが乗っている旗艦へと直撃する。
「う!!うう!!うわあああああああああああああああ!!!!!!」
アンジュが目の前の光景に驚きを隠せず、ただ跡形もなく消え去った旗艦を見て唖然する。
その頃、アルゼナル最下層では、あの戦艦が今まさに発進しようとしていた。
「注水、始め!」
「注水、始め!」
ジルの号令にパメラが復唱する。それと同時に、アルゼナルの生き残りを収容したこの戦艦に注水が始まった。ジルの大嘘により、本来辿るべき歴史よりもかなり多くの人員が無事にこの艦に収容されているのは、喜ぶべきことなのだろう。
「アルゼナル内に生命反応なし。生存者の収容、完了しました」
「メインエンジン臨界まで、後10秒」
「水位上昇80%」
「防水隔壁、全閉鎖を確認」
「交戦中のパラメイル各機には、合流座標を暗号化して送信」
「了解」
ブリッジでは、次々と報告や指示が飛び交う。
「フルゲージ!」
「拘束アーム解除。ゲート開け。微速前進」
エンジンに火が入る。そして、
「アウローラ、発進!」
ジルの号令と共に戦艦…アウローラはアルゼナルを後にして発進したのだった。
そしてアンジュがエンブリヲに問う。
「何なの! 貴方一体何者!?」
「フッ…?」
すると横からのビーム攻撃に気付き、すぐさまかわすとリベリオンがシュトラーレンラツィーラーを向けていた。
「ほぉ…息子よ、逞しくなったなぁ♪」
「息子!?」
するとグレイスはコックピットハッチを開き、黄金の髪を靡かせ、エンブリヲを睨む。
「僕はグレイス……グレイスだ。それにその口で、僕の事を"息子"って言うな!!」
グレイスは怒鳴り、ホルスターからマグナムを取り出し、エンブリヲに向ける。
「フフ…可愛いリベロよ、戻ってっ!?」
っとエンブリヲは横からの攻撃に気付き、すぐさまかわすとタスクの飛行艇がアンジュの元に向かって来る。
「アンジュ!! そいつは危険だ!! 離れるんだ!今すぐ!!!」
「タスク!?」
「無粋な…!」
するとエンブリヲは目標をタスクに向け、それに歌いだす。
「!? 行けない! タスク!」
アンジュはタスクの元に行く。っとその時だった。海面から機動特装戦艦リュミエールが浮上し、主砲がエンブリヲの方に向けられる。ブリッジには、アカリや連れさらわれようとされていた所をセシルやメタリカに助けられたヴィヴィアンが気を失っていた。そしてアカリが光学兵器を発射しようとするエンブリヲに向けて、指差す。
「撃てぇ!!」
アカリの声と共に、リュミエールの主砲である"50口径50cm収束砲 レーヴェ・カノーネ"を発射され、エンブリヲの機体からも光学兵器が発射されるが、エンブリヲの光学兵器がリュミエールの主砲にかき消されてしまう。
「ほぉ?」
エンブリヲは納得したかのような表情を表す。アカリや皆はリュミエールを旋回させ、次の主砲を向ける。
「もう一発!!」
アカリの声と共に、主砲から収束ビームが放たれる。
エンブリヲは光学兵器を間一髪でかわし、空に直撃して巨大な渦が発生する。そしてその隙にセシルとメタリカのハウザーとレイザーが急いでリベリオンとグレイス、ティアを回収し、リュミエールへ向かう。
「くっ!…忌まわしき旧世界の遺物が!」
エンブリヲはそう呟き、光学兵器を発射しようとする。リュミエールへ回収したヴィルキスとリベリオン。そしてブリッジにいるアカリが面舵を握っているエグナントに命令する。
「回収完了!次の目的地!その名も"ヴァールハイト・グルント(真実の地球)"!!」
するとアカリの問いに答えるかの様にリベリオンとヴィルキスのカメラアイが光り、リベリオンはゼムリアン・フォルムからアトランティカ・フォルムへ、ヴィルキスは青色へと変化していく。
エンブリヲはまたしても光学兵器を発射させる、だがすでに遅し、グレイス達とアカリの乗るリュミエールはその場から消えていき、海へと直撃して巨大な渦が出来る。
「ほぉ…」
上空を飛んでいるエンブリヲが少し驚いた表情になる。
「つまらん筋書きだが、悪くない」
だがすぐに、彼が良く見せる薄く笑った表情になると、そう呟いたのだった。そして、
「さて、取り敢えずはここまでか。では、彼女たちを可愛がりにいくかな。帰るよ…我が子達♪」
「御意…」
ヘリオスはそう呟くと、エンブリヲと共に瞬時に姿を消したのだった。そして当事者たちが全て姿を消した海は、いつもの穏やかな姿に戻ったのであった。
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第二十八話:本来の世界・前編
ヴィルキス、コックピット内。
アンジュが顔を突っ伏して操縦桿にもたれるように前のめりになって気絶していた。そんなアンジュに横から何かが這い寄ってくる。
細長くピンク色のそれは、蛇のようにうねりながらアンジュの顔に張り付いてさわさわとその顔を撫でた。
「ん…」
その、得体の知れない感触に異変を感じたアンジュがゆっくりと目を覚ます。そして、得体の知れない感触を感じた方向…横に顔を向けた。
「ウェ?」
そこにいたのは、こちらを覗き込んでいるスクーナー級のドラゴンの姿だった。心配そうな様子で、アンジュを見ている。
「! はああっ!」
起き抜けにドラゴンの姿を目の当たりにして思わずアンジュが驚いて仰け反った。が、ドラゴンはアンジュに襲い掛かろうとはしない。それどころか、高音で咽喉を鳴らしながら器用に自分自身をちょいちょいと指差した。と、
(あたし、あたし)
アンジュにはドラゴンがいなないているようにしか聞こえないだろうが、ドラゴンは必死に意思表示したのだ。
「…ヴィヴィアン?」
(そう!)
頷くと、理解してもらえたことを喜ぶかのようにウオオオオッ…と高音で長い咆哮を上げた。
「また、なっちゃったんだ」
呆れとも驚きともつかない様子でアンジュがそう呟くと、ドラゴン状態のヴィヴィアンがアンジュに顔を寄せる。アンジュはそんな彼女の顔を抱え込むと、慈しむように撫でた。と、
「どこも痛くないかい?」
不意に、違う方向から声をかけられる。
「タスク…」
そこにいたのは念のためだろうか、ライフルなどで武装してアンジュに歩み寄ってくるタスクの姿だった。その姿を見て先程の…気を失う前のことが頭に次々と思い出される。
「私たち、海の上にいたはず!?」
しかし…
「……」
バイザーを外しながら立ち上がると、周囲を見回す。そこにあったのは海ではなく、見渡す限りの廃墟だった。それも廃墟となってから随分経っているのだろう、建物の全面がビッシリと緑で覆われている。360°そういう光景だったのだ。
「ここ…どこ?」
呆然としながら、アンジュはそう呟くことしか出来なかった。
その頃グレイスはティアと一緒に、廃墟となった街を捜索していた。
「一体……ここは何処なんだろう?」
「分かりません…私も知らない場所です…」
ティアがそう呟くと、グレイスがある事を言う。
「ティア、聞きたいことがあるんだ。」
「……」
「あのリベリオンに似た機体…そしてあの人……僕はあの人の事を息子って言っていたよね?」
「……はい」
「もしかして……ティアが言っていたあの人って……僕のお父さんの事?」
「……」
グレイスの言葉に、ティアは無言のままであった。
「……まぁ、気にしなくても良いよ…今はタスクさんやアンジュさん、アカリさん達を見つけないと♪」
グレイスはそう言いながら、信号弾を撃つ。上空で破裂し、花火のように光る信号弾。タスクやアンジュ、ヴィヴィアンはそれに気付く。数十分後、グレイスとティアはタスク達と合流し、無傷であったリベリオンを損傷しているヴィルキスの所へ置いた。
「こちらアンジュ。アルゼナル、応答せよ」
アンジュが通信機を使用し、アルゼナルへの通信を試みている。あの後、呆けていても仕方ないという結論に達したのだろう。とりあえず出来ることとして、アンジュは何度も通信を試みていた。しかし…
「アルゼナル、誰か生きているなら応答して!」
通信が返ってくる様子は全くみられない。その間、ヴィヴィアンは周囲に興味を惹かれたのだろうか、少し離れたところで何かを突いている。
(つんつん)
それは尋常でないぐらい年月を重ね、信じられないくらい劣化したドリンクの自販機だった。ヴィヴィアンは興味津々といった感じでそれのボタンやレバーをカチャカチャといじり始めた。
「モモカ! ヒルダ! 誰でも良いから返事しなさい!」
と、アンジュのその剣幕に驚いたのだろうか、ヴィヴィアンがビックリした様子で尻餅をついた。そしてその拍子に自販機にもたれかかってしまい、その衝撃で廃棄同然の自販機から数個の缶ジュースが吐き出されたのだった。無論、外側の自販機と同じく中身のジュースも缶が腐食し、もはや飲めるような状態ではないのだが。
「…もう! どうなってるの!?」
一向に通信の繋がらない現状に、いらいらした表情と口調でアンジュが吐き捨てた。
「俺の方もダメだ」
「僕のも…」
タスクやグレイスも同調する。こちらもこちらで、通信を試みていたのだろう。が、結果は今の発言でわかるように、何の成果も得られなかった。
「全周波数に応答なし。半径5キロに動体反応なし。位置センサーも機能せず…」
どうしたものかといった感じでタスクが顔を上げて周囲を見上げる。そして、
「…こんな場所、俺の知る限り、アルゼナルの近くにはない」
自機を降りながら、そう続けた。
「大昔の廃墟なんじゃないの? 人類がまだ戦争していた頃の」
アンジュが思いついたことをそのまま口に出してみる。
「そんな場所が残っているなんて話、聞いたことがないよ」
しかし、タスクから返ってきたのはつれない返答だった。
「…じゃあ、私たちは誰も知らない未知の世界に飛ばされたってこと!?」
アンジュのその言葉を聞き、タスクが少しの間俯いて考え込む。だが、すぐに顔を上げると、
「ヴィルキスやリベリオンなら、可能性はある」
そう、発言したのだった。
「ええっ?」
タスクにそう言われ、アンジュとグレイスは表情を強張らせた。
「あの時、奴が放った光。そしてアカリさんが放った言葉で、俺達の機体君やグレイスを護るために、ヴィルキスやリベリオンが何かしたのかも…」
そう推論するタスクの脳裏には、ここに来る直前のエンブリヲの攻撃や、自分に向かってくるアンジュの姿が思い出されていた。
「ヴィルキスやリベリオンは特別な機体だ。何を起こしても不思議じゃない」
「!…そうね…特別、よね…」
アンジュは視線を逸らすと息を呑んで呟いた。恐らくは、風呂場でジルから聞いたことを思い出していたのだろう。
「ん?」
目敏くそれに気づいたタスクが怪訝そうな表情を浮かべる。
「別に。直せる?」
「何とか。飛べるぐらいには」
「じゃあ、お願い」
そう告げると、アンジュはヴィルキスのシートから立ち上がった。
「君は?」
シートから腰を浮かせたアンジュにタスクが尋ねる。
「偵察。敵がまだいるかもしれない」
「わかった」
その返答を聞くと、タスクは肩から掛けてあったライフルを外すと、それをアンジュに手渡した。
「気を付けて」
「うん」
小さく頷くと、アンジュはそのライフルを手に取った。と、
(アンジュ、アンジュ♪ あたしに乗って)
いつの間にか側にやってきていたヴィヴィアンが背中を向けた。
「? 乗れ…ってこと?」
「ヴィヴィアンがそう言ってるって…」
(そうそう♪)
肯定するかのようにヴィヴィアンがコクコクと首を上下させた。
「言葉、分かるの?」
「分かる……でも何で分かるのかは分からない」
グレイスそうぼやきながら頭をかき、アンジュはどうも納得できない様子を漂わせながらもヴィヴィアンに乗って周囲の状況を確認しに行った。
「そう言えばタスクさん、アカリさん達は?」
「俺にも分からない、多分リュミエールにいると思う…」
そしてグレイスがタスク達と共にヴィルキスの修理をしに行こうとした。
ティアは、辺りを捜索していると、道端である物を拾う。それは地図であり、ティアは落ち込んだ表情で呟く。
「故郷へ、帰ってこれたのですね…」
ティアは地図を持ち帰り、それにグレイスは目を見開く。
そして数分後、アンジュが戻って来てとんでもない事を言う。
「「「ミスルギ皇国!!?」」」
「ここが?」
ミスルギと言う言葉に驚き、グレイスがあり得ない表情で言う。
「ええ、宮殿も街も綺麗さっぱり無くたっていたけど。あれはアケノミハシラだった、見間違えるはずがないわ」
アンジュは此処がミスルギだと言う証言にタスクはただ唖然とする。
「でもおかしいの、ミハシラも街もずっとずっと大昔の前に壊れたって感じだった」
そうアンジュは言う。っがその時にグレイスが戻って来る。
「アンジュさん、その証言ですが。ここはミスルギ皇国じゃありません。」
「えっ!? どういう事よグレイス!」
「僕が持っていた地図とさっきティアが見つけた此処の地図を合わせてみたんだが…」
グレイスは持っている地図と先ほど道端の見つけた地図を広げる。
「ミスルギはこれ……そしてこの地図は、東京都【トウキョウト】って言う街なのです。タスクさん、ミスルギ皇国に東京都って言う街はありましたか?」
「いや、ミスルギにそんな街なんて聞いたことがない…と言うか、グレイスはここの文字が読めるの!?」
「読める?…普通に読めますが……」
グレイスが不思議に思っていると、
「そんな…そんな!?」
アンジュは信じられない事に拳を握りしめる、っとそこにある物が聞こえて来る。
皆はそれを聞いて隠れて武器を構える。
すると謎の小型ロボットがある放送を流しながら横を通り過ぎて行く。
『こちらは首都防衛機構です、生存者の方はいらっしゃいますか? 首都第3シェルターは今でも稼働中、避難民の方を収容───』
「タスクさん、聞きましたか?」
「ああ、第3シェルター…行って見よう」
グレイス達はその小型ロボットが言った首都第3シェルターへと向かった。
そしてその場所である一つの事実を知る。
「あれか…?」
街看板や道路標識を参考に、アナウンスロボがアナウンスしていた施設…首都第三シェルターを目指したアンジュとタスク。道路状態や土地勘に悩まされながら、ようやくそれらしいドーム状の建物の前に辿り着き、タスクがそう呟いていた。そしてそのまま、四人は肩を並べてその建物に走り寄る。
「ここに、生存者が?」
アンジュが周囲の様子を窺った。と、不意に上空から人工的な光に照らされ、四人の身体が一瞬で包み込まれる。
『生体反応を確認。収容を開始します』
その光が消え去ると、先程のアナウンスロボと同じような機械的な合成音声が流れ、ゆっくりと建物の口が開いた。
『ようこそ、首都第三シェルターへ。首都防衛機構は、あなたたちを歓迎いたします』
アナウンスが流れ終わる前に四人は互いに顔を見合わせ頷きあう。そしてライフルを構えると、慎重に内部に入っていったのだった。
『ようこそ、首都第三シェルターへ。首都防衛機構は、あなたたちを歓迎いたします』
再び同じアナウンスが流れ、それが合図のようにまた隔壁が上がる。その向こうにある大きなウインドウモニターの中に、このアナウンスの主であろう、何かの制服に身を包んだ若い女性の姿があった。
『現在、当シェルターには1コンマ7%の余剰スペースがあります。お好きなエリアをお選び下さい』
そのアナウンスが終わるのとほぼ同時に、また左右の壁沿いに沿って無数にある隔壁が次々と開いた。
『どうぞ快適な生活を』
そのアナウンスに促されるように、アンジュとタスクはとりあえず一番手近な避難シェルターへと足を向ける。が、
「っ!」
アンジュとティアが口元を押さえ、タスクとグレイスも呆然と立ち尽くしていた。何故なら、その開いたシェルターの中には、白骨化した死体が無数に転がっていたからだ。
「何よ…これ…」
あまりの惨状にアンジュは絶句すると、踵を返して先程のところ…ウインドウモニターのところまで戻る。
「さっきの貴方! どこ!? 出てきて説明して!」
すると、それに呼応したかのように再びウインドウモニターが開いた。
『管理コンピューター、ひまわりです。ご質問をどうぞ』
「コンピューター…だったのか…」
タスクは驚きを禁じえなかった。
「これってどういうこと!? 誰か生きてる人はいないの!? 何が起きたの!? どうしちゃったのよ!?」
多少なりとも混乱しているのだろう。アンジュらしくなく要領を得ない様子で次から次へと矢継ぎ早に質問を浴びせた。が、相手がコンピューターである以上、取り乱すわけはない。
『質問を受け付けました。回答シークエンスに入ります』
当然のように淡々とそう答えると、直後、ホログラフであろうか上下左右360°がスクリーンのようなビジョンに変わる。そして、次々と四人の予想を超えた事実が伝えられたのであった。まずは戦闘機や戦車や戦艦が飛び交い走り回り航行し、砲撃やミサイルを発射する場面が流れる。
「何これ…映画?」
『実際の記録映像です』
思わず呟いたアンジュに答えるように、コンピューター…ひまわりが続けた。
『統合経済連合と反大陸同盟機構による大規模国家間戦争。第七次大戦、ラグナレク、Gウォーなどと呼ばれるこの戦争により、地球の人口は11%までに減少。膠着状態を打破すべく、連合側は絶対兵器ラグナメイルを投入』
「っ!!あれって!!」
目を見開く。新たにそこに映し出されたのは確かに先ほど見たパラメイル…エンブリヲが従えていたあの漆黒のパラメイルだった。そして、
「黒い…ヴィルキス!?」
自身の駆るヴィルキスであった。ただ違うのは口にした通り、そのカラーリングが自身の良く知っている純白ではなく漆黒であるということ。そして、ヴィルキスとエンブリヲが従えていたであろう機体以外にも、複数機の漆黒のパラメイルとヘリオスの【アイオロス】、アトラスの【プロメテウス】、テティスの【シュトローム】、ファントムの【ハーミット】があったことだった。その数、九機
そして、そのまま映像は続いていく。
『しかし、統合経済連合のラグナメイルを恐れた同盟機構は対抗すべく、"決戦兵器 アルゴルモア"と"ハルマゲドン"を投入』
「あれは!!」
グレイス達は目を見開く。新たにそこに映し出されたのはリベリオンであった。リベリオンはエンブリヲが乗っていたラグナメイルと交戦するが、数に圧倒されるが、軌道上からハルマゲドンが支援攻撃する。しかし、リベリオンと他のラグナメイルが交戦している間、他のラグナメイル達が、移動を開始する。
「何…するの?」
すると、その答えを見せるかのように漆黒のパラメイル…ラグナメイルがギミックを展開させ、ディスコード・フェイザーを次々と街や軍隊に向けて発射する映像に切り替わった。
『こうして戦争は終結。しかし、ラグナメイルの次元共鳴兵器により、地球上の全ドラグニウム反応炉が共鳴爆発』
そのアナウンスを裏付けるかのように、まるで核爆発でも起こったかのような映像が次々と映し出された。
『地球は全域に渡って生存困難な汚染環境となり、全ての文明は崩壊しました。以上です。他にご質問は?』
「世界が…滅んだ?」
その幕切れに、思わずタスクが呟く。
「何なのこれ…? 何の冗談よ…」
その幕切れに、思わずタスクが呟く。
「何なのこれ…? 何の冗談よ…」
そしてまたアンジュも、呆然としながら呟いた。が、彼女は信じたくはないのだろう。
「バッカみたい! いつの話よ、それ!」
鼻で笑って吐き捨てた。しかし、それが強がりと紙一重なのは冷静に見れば誰にでもわかることだった。
『538年前』
そして、ひまわりは己の職務を忠実に実行して、いつの話かを回答する。
『えっ!?』
その回答にアンジュとタスクの戸惑いが重なったのも、当然と言えた。
『538年193日前です』
ひまわりがニッコリと微笑みながら続ける。
『世界各地、20976箇所のシェルターに熱・動体・生命反応無し。現在地球上に存在する人間は、貴方がた四人だけです』
そして、それが止めになった。そして収穫…といえば収穫を得ると、アンジュとタスク、グレイスとティアは元の場所へと戻ってきたのだった。
「ふふっ、500年…か」
夜。椅子に座って焚き火に当たりながら、タスクが思わず乾いた笑いを上げた。その手には、腐食した甘酒の缶が握られている。
「…500年も経てば、文字も変わるか」
印刷されたその“甘酒”の文字が読めないのだろう。その言葉に力はないが、グレイスが翻訳してくれていた。
「…あんな紙芝居、信じてるの?」
対面に同じように椅子に座っているアンジュは逆に、その言葉は力強かった。認めたくない現実を否定したいがためのものなのだろうが。
「あの白骨を見れば…ね」
タスクがその手に握った甘酒の缶を地面に置く。
「…全部造り物かもしれないでしょう?」
「ですがアンジュさん…あれは確かに」
しかしアンジュの声はほんの僅かだが震えているように聞いて取れた。
「何のためにそんなことを?」
頭の後ろで手を組みながら、タスクが呆れたように呟く。これまでの状況から考えても、タスクの意見の方が正しい。が、アンジュはやはり認めたくないのだろう。
「知らないわよ、そんなこと!」
表情を険しくさせながら勢い良く立ち上がって、タスクに食って掛かった。
「私は、この目で見たものしか信じない!」
自身の不安を打ち消すためだろうかそう力強く宣言すると、すぐ側で休んでいるヴィヴィアンに近づいた。
「ヴィヴィアン、乗せて!」
(ほい来た!)
了承のいななきを上げると、ヴィヴィアンはアンジュを乗せる。そして、夜の闇へと空高く舞い上がっていった。
「……」
そんなアンジュを見送ったグレイスとタスクとティアは、なんとも形容しがたい複雑な表情を夜の闇に浮かべていたのであった。
(あるわけないわ…)
タスクと別れ、ヴィヴィアンの背に乗りながらアンジュは一人険しい表情で考え込んでいた。
(ここが500年後の、未来だなんて…)
そして、ギリッと唇を噛む。
(そんな、馬鹿げた話…!)
しかし、そのアンジュの思いを否定するかのように、どれだけ飛んでもアンジュを喜ばせるようなものは何一つ出てこなかった。
「ちょっと、ヴィヴィアン!」
ヴィルキスを修理していたタスクが振り返った。散々飛び回ったアンジュたちだったが、収穫はなく、戻ってきていたのだ。
「まだ北の方に行ってないじゃない。ほら、起きて。頑張って」
アンジュが促すが、ヴィヴィアンはか細い咆哮を上げるだけでアンジュに従う素振りは見せない。だが、それは仕方ないとも言えた。何せ、背中に乗ってるだけのアンジュと違い、ヴィヴィアンは自分の身体に人を一人乗せながら空を飛んでいるのだ。エネルギー消費の激しさはアンジュと比べるまでもないだろう。要するに、疲労困憊なのである。
「ヴィヴィアン、ほら、起きて」
が、アンジュは納得できないために再びヴィヴィアンをけしかける。その様子に、流石にタスクやグレイスも黙っていられなくなった。
「アンジュさん、無理させちゃダメだよ」
たしなめるものの、今のアンジュはその言葉に耳を傾けられるほど精神的な余裕はなかった。それは、その目の下にクマが出来ていることでも十分に窺い知ることが出来た。
「起きなさいよ! この役立たず!」
アンジュは一度グレイスをキッと睨んだ後、ヴィヴィアンに向かって怒鳴る。その剣幕か、それとも言葉の内容にかはわからないが、ヴィヴィアンは怯えて逃げてしまった。
「っ!何てことを言うんだ!」
その態度や物言いにタスクは思わずアンジュの腕を掴む。だがすぐに、
「放して!」
鋭く叫ぶと、アンジュは強引にその腕を振り解いた。タスクは困惑したものの、アンジュを諭すように努めて冷静に話しかける。
「少し休んだほうがいい」
「休んでどうなるの? こんなわけのわからないところに居ろって言うの?」
だが、アンジュは聞く耳持たない。そして、
「確かめたいのよ! アルゼナルがどうなったか! モモカや皆が無事なのか! …あいつが、本当に死んだのか……」
噛み付いた。が、強がっていてもやはり不安を感じているのだろう、最後には勢いなくなってしまったが。
そんなアンジュにこれ以上何と言って声をかければ良いかわからず、タスクも戸惑ってしまう。
「…貴方だって、早く帰らないと困るんでしょう? あの女が待ってるんだし…ね、ヴィルキスの騎士さん?」
イライラした様子でタスクの脇をすり抜けると、アンジュはついタスクに当たってしまうのだった。
「そうだ…」
振り返り、思わず皮肉めいた口調でアンジュがタスクに顔を向ける。対照的に、タスクはアンジュを揶揄することもなく表情を引き締めて答えを返した。
「俺は生命に代えても、君とヴィルキスを護る」
「リベルタスのために…ね。サリアと一緒」
アンジュの不機嫌は未だ収まらず、そう吐き捨てるとそのまま少し歩き、あらかじめおこしておいた焚き火の前で佇んだ。
「私を利用することしか考えてない、あの女の犬。」
「違う! 俺は本当に君を…」
しかし、今のアンジュにそれ以上何と声をかけて良いかわからず、タスクは言葉に詰まってしまった。
「帰れないなら…それでも良いんじゃない?」
そのまま、アンジュはやってられないといった態度で焚き火の前に腰を下ろした。
「ええ…?」
まさかそんな言葉がアンジュの口から出てくるとは思わなかったのだろう、タスクが戸惑うのも無理はなかった。そんなタスクを置き去りにしたまま、アンジュが言葉を重ねる。
「だって、あんな最低最悪のゴミ作戦、どうせ上手くいかないし」
「…ゴミ?」
アンジュが言った不用意な一言に、タスクがそれまでとはまるで違う、底冷えのするような怜悧な呟きを呟いた。
「そうでしょう? 世界を壊してノーマを解放する。そのためなら、何人犠牲を出したって構わないなんて…。それで何が解放できるんだか。笑っちゃうわ」
「……」
怒りからか、タスクはぎゅっと拳を握り締めた。グローブが衣擦れの音を立てる。
「…じゃあ俺の両親も、ゴミに参加して無駄死にした…そういうことか?」
アンジュに背を向けたタスクが、底冷えする口調のまま淡々と呟く。
「!?…えっ…?」
アンジュが今までの傲慢な物言いからうって変わって不安げな表情になって振り返る。
「…俺たち古の民は、エンブリヲから世界を開放するためにずっと闘ってきた。父さんと母さんは、マナが使えない俺たちやノーマが生きていける世界を創ろうとして闘い、死んだ」
口調は抑えようとはしているが、どうしても激情に駆られてきつくなっていく。そして、
「死んでいった仲間も…両親の想いも…全部ゴミだというんだな、君は!」
やはり激情は抑えきれず、タスクはきつい眼差しを向けて振り返り、初めてアンジュに怒鳴ったのだった。
「それ…は…」
紅い瞳が不安げに揺れる。ここにきて初めて、アンジュは自分が言いすぎたと理解したのだった。が、覆水は盆に返らず。タスクはそのまま顔を背けてその場を立ち去った。アンジュも何も言うことは出来ず、ただ俯くことしかできなかった。
「アンジュさん……タスクさんには複雑な事情があるのです。僕は……何がなんだか分かりませんが、判断は決めた方が良いです……」
グレイスはそう呟き、タスクを追うのであった。
「判断を…決める…」
アンジュはそう考えながら、知らずにタスクの心を傷つけ仕舞った事に後悔をしていたのであった。
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第二十九話:本来の世界・後編
明けて翌日、グレイス達はヴィルキスの修理をしていて
、二人の心模様を表すかのように静かな雨も降りしきっている。この日もタスクはヴィルキスの修理に勤しんでいたそんな中、アンジュはただ一人でどこか謝るタイミングを計っていたが、どうにも見つけられずにいた。
「(どうしよう…、タスクにどう言えば)」
っとアンジュは地下の店にある物を見つけ、それは何処にでもありそうな、色々なアクセサリーを吊るしてある業務用のアクセサリースタンドだった。
「わあっ…」
嬉しそうな声を上げ、思わずアンジュはそこに近寄った。
「これ、可愛い…」
その中の一つを手に取るとしみじみと呟いた。可愛いものが好きなのはやはり女性だからか。そして又、アンジュの脳裏に一つの記憶が蘇ってきた。
それは、ヴィヴィアンがぺロリーナのマスコットを自分に渡そうとしてくれたときのことだった。
「……」
それを思い出したアンジュはアクセサリースタンドの一つを手に取ると歩き出す。その表情は、今までのものとは違って晴れやかなものであり、美しい自然な笑みが浮かんでいたのだった。
アンジュがそうしている頃、いつの間にか雲は過ぎ去り、顔を現した太陽は随分傾いてもうすぐ日の入りになろうかとしていた。そんな中、タスクとグレイスが額に汗しながらヴィルキスの修理を懸命に続けている。と、不意にその耳に微かだが金属音が聞こえてきた。
「?」
空耳かと思って顔を上げてみると、修理用に組んだ足場のパイプに、日の光を反射させて輝くネックレスが引っ掛けてあった。
「アンジュ?」
タスクが、見つからないように音を立てないようにその場から立ち去ろうとしていたアンジュに声をかける。タスクから顔は見えないが、思わず立ち止まってしまったアンジュは何ともバツの悪い表情をしていたのだった。
「…に、似合うかなって。それだけ…」
思うところがあって態度を改めたものの、それでもやはりどんな顔をすればいいのかわからないのだろう、アンジュはタスクに背を向けたままぶっきらぼうにそう答えることしか出来なかった。
そんなアンジュにタスクは少し戸惑っていたが、すぐに笑顔になるとそれを手にしてアンジュに近づく。
「どう?」
そして、ネックレスをかけながらアンジュに尋ねる。アンジュが振り返ると、そこにはネックレスを首から提げたタスクの姿があった。
「いいん…じゃない?」
言葉こそ素っ気ないものの、日の光でわかりにくかったが確かにアンジュは頬を染めていた。そして視線を逸らす。
「ありがとう」
タスクは柔らかく微笑むとアンジュに礼を言った。
「疲れただろう? ご飯にしよう」
そして食事に誘う。が、
「あのっ!」
アンジュがそのタスクの足を止めた。
「ん?」
「あの…ごめん…なさい…」
「「「!?ええっ!?」」」
小さな声だが確かに謝ったアンジュに、タスクとグレイスとティアは驚きを隠せなかった。
「君って…謝れたんだ!?」
「これは……驚いた。」
「驚きですわ…」
「なっ、何よそれ!」
思わずアンジュが不満げな口調になる。もっとも、こっちのほうが彼女らしいといえば彼女らしいのだが。
そんなアンジュへとタスクは歩み寄る。そして、ゆっくりと右手を差し出した。
「あ…」
「俺こそ、きつく当たってごめん」
「う、うん…」
顔を上げてタスクの顔に視線を合わせると、ぎこちないながらもしっかりとその手を握り返すアンジュ。そこにヴィヴィアンが帰ってきた。
「ヴィヴィアン!」
アンジュにふぉえ? っという感じで咽喉を鳴らして答えるヴィヴィアン。
「昨夜はゴメン。私、言い過ぎたわ」
そのまま、ヴィヴィアンの首を包むように優しくアンジュは腕を回した。
「ありがとう、ヴィヴィアン」
ヴィヴィアンはただ不思議そうに咽喉を鳴らすだけだった。
翌日、また雲が空を覆う中、タスクとグレイスとティアが昨日と同じようにヴィルキスの修理に勤しんでいる。と、
「ヘックシュッ!」
不意にくしゃみが出た。思わず顔を上げると、今度は雨ではなく雪が空から舞い降り始めていた。
「雪が降り始めましたね…」
「道理で寒いわけだ…」
身を震わせながら思わず呟く。そんなタスクの耳に、
「タスクーっ!」
聞きなれた声が届いた。
「凄いもの見つけたわ!」
ヴィヴィアンに乗って戻ってきたアンジュが興奮気味に話しかけたのだ。どうしたのだろうと呆気に取られたタスク達だったが、誘導された先にあるものを見て成る程これはと納得した。
タスクのマシンのバッテリーからケーブルを繋げて電源として、エンジンを入れる。するとそれは生き返った。
ケバケバしいピンク色のネオンが屋上に設置された建物…いわゆるラブホテルがアンジュの見つけた凄いものだったのだ。
「屋根もある! ベッドもある! お風呂もある!」
「奇跡的な保存状態ですね」
内部の一室に足を踏み入れたアンジュはその状況に興奮している。タスクやグレイス、アンジュとティアほどではないが、それでも喜んでいるのが窺えた。
「きっと名のある貴族のお城だったの違いないわ!」
…まあ、確かに城っぽい外観のそれもあるのだが、それでもここが本来何のための施設か知らないというのは幸せである。無邪気に喜ぶアンジュに横から水が注される可能性がないのは喜ぶべきことだろう、うん。
「見つけたヴィヴィアンに感謝しなきゃね」
アンジュが嬉しそうにそう言うと、ヴィヴィアンもまた嬉しそうに咽喉を鳴らしたのであった。
「お風呂入ってくる! タスク、グレイス、掃除お願いね!」
「…はいはい、お姫様」
「やりましょうか♪」
ウキウキしながらアンジュはヴィヴィアンを伴って浴場へ向かい、タスクとグレイスは少々呆れながらもにこやかに答えた。
こうして、四人と一匹は久々にゆっくりと休める場所を確保したのであった。
それぞれの部屋を掃除しているタスクとグレイス。っとグレイスが掃除しながらタスクに問う。
「タスクさん、聞きたいことがあります」
「何?」
「タスクさんの一族……古の民達を殺したのは…その、エンブリヲですか?」
「……あぁ、」
「あの時、エンブリヲは……僕の事を息子って言ったのですが…」
「……知っている。君は確かに、エンブリヲの息子……でも、君は10年前と変わらない」
「え?」
「10年前の君は……エグナントさん達や僕を助けてくれたんだ……」
「10年前に…僕はタスクさんを?」
「うん……俺の両親や仲間達が死んで、ヘリオスに殺されるところを、グレイスに助けられたんだ。」
タスクはそのまま話を続ける。リベルタスを起こそうとアレクトラ、後のジルは仲間達共にエンブリヲを倒そうと奴の所へ向かうと、街は既に火の海へとなっていた。そこには血の涙を流すグレイスがエンブリヲやヘリオス達を圧倒していた。彼は戦いながら「何故あの子達を実験道具にした!?」…「あの子達の病気は治るんじゃなかったのか!?」…「嘘つき共め!……俺はお前らを家族とは思わない!絶対に許さない!!」っとそう吼え、力限り暴れまわったと……。
グレイスの本来の性格に、グレイスは落ち込む。
「そんなに落ち込まなくても良いよ♪君のお陰で俺はこうやって生きているんだ…」
「……そうですね」
グレイスはそう呟き、掃除や片付けを済ませる。
その頃、アンジュとティアは浴場で湯船に浸かっていた。
「はぁ〜♡極楽、極楽♪」
アンジュは温かい湯に癒やされ、ヴィヴィアンは大きい為、大浴場の湯に浸かっている。ティアは人魚の姿のまま入っていた。アンジュはティアの綺麗な鱗に見惚れていた。
「綺麗な鱗ね…」
「これですか?"セレスお姉様"や"ヒョウマお兄様"見たいに綺麗な鱗程ではありませんから…」
「……お姉様とお兄様がいるの?」
「お兄様は生きています…お姉様は10年前に……」
するとティアが悲しい表情をする。
「どうしたの?」
「タスク様が言っていたリベルタス……あの場所にお兄様が要らしたのです。」
「え?」
ティアは10年前のリベルタスを話す。ティアには同じ人魚である姉と兄がおり、エンブリヲに付き従う狂った科学者『Dr.ディメント』によって実験道具にされていた。そして10年前のあの日……Dr.ディメントはティアや彼女の姉と兄を禁断兵器『ラプソディー』の生体ユニットキーとして改造された。ティアの姉と兄は『ラプソディーの脳』、ティアは『ラプソディーの心臓』として役立たれてきたが、不完全体であり、その当時のグレイスとリベリオンのゼムリアン・フォルムによって大破したが、ティアはエンブリヲ達に捕まり、姉と兄はグレイスやエグナント達、そして少年時のタスクによって助けられたが、姉の方は重傷と症状が酷く。彼女は助けたグレイスに自らの血肉を与え、永遠の不老不死となった。セレスを救えなかったグレイスは嘆き、姉を救えなかったティアの兄はグレイスを酷く恨むようになり、何処かへと姿を消したと…。
真実を聞いたアンジュはグレイスの事を考え込む。
「アイツが死ねない体って……あなたのお姉さんを食べたから?」
「はい……お姉様が死ぬ寸前に、自らの血肉を飲み移したのです。そしてあの当時のグレイス様に言ったのです…」
ティアは10年前になくなったセシルの遺言を兄に聞かれ、その事をアンジュに話すと、アンジュはグレイスを心配するのであった。
「ありがとう、タスク」
久しぶりの風呂をたっぷりと満喫し、ガウンに着替えてゆっくりと寛いでいたアンジュが窓の外を眺めながらそう言った。降り出した雪はいつの間にか積もりだし、見えている光景を白く染め上げ始めている。ヴィヴィアンはその身体の大きさゆえ、アンジュたちとは別の部屋で、今はもうぐっすりと夢の中だった。
「ん?」
壊れてしまったのか、それとも元から使えないものを使えるようにしているのかはわからないが、床に座ってドライバーを片手にドライヤーを見ているタスクが顔を上げる。タスクも風呂を満喫したのだろう、アンジュと同じガウンに身を包んでいた。
「色々と」
背を向けたまま、アンジュが続ける。向かい合わないのは照れ臭さの裏返しだろうか。
「沢山のこと知ってるし、いつも冷静だし、優しいし、頼りにしてる」
だがすぐにアンジュが振り返って、タスクに穏やかな視線を向けた。
「ははは…」
突然そう言われて戸惑っているのだろうか、はにかむように微笑むとドライヤーのスイッチを入れた。使えるようになったのか、排気音を上げながらドライヤーが動作する。
「私はダメね。すぐに感情的になって、意地になって、パニックになって…」
「仕方ないよ。こんな状況なら、誰だってそうなるさ…」
タスクがそう返す。二人の間に流れる穏やかな空気が、少し前までのわだかまりやぎこちなさを払拭しているのを感じさせた。
「皇女様がノーマになって、ドラゴンと戦う兵士になって、とんでもない兵器に乗せられて、気付いたら500年後…」
「そうよね…。ちょっと、色々ありすぎよね」
アンジュは窓際から移動して、ダブルベッドにゆっくりと腰を下ろす。
「でも、悪いことばかりじゃなかったわ。貴方や、ヴィヴィアンにも逢えたし。色んなこともわかった。…最期まで、わかりあえなかった人もいたけど」
そこで、少し表情が曇った。思い出していたのだ、自身の兄であるジュリオのことを。
「お兄さんかい…?」
タスクもそれを察したからだろう、アンジュと同じように表情が曇り、悲しそうな口調になっていた。
「ねえ?」
少し時間を置いた後、雰囲気を変えるためだろうかアンジュが問いかけた。
「ん?」
「あの、エンブリヲって何者?」
するとタスクは、床に座ったまま身体をアンジュの方へと向けた。
「…文明の全てを陰から掌握し、世界を束ねる最高指導者。俺たちが打倒すべき最強最大の敵…だった」
「?…だった?」
タスクの言葉が過去形になっていることに、アンジュが首を捻った。
「500年も前の話さ」
頭の後ろで手を組むと、タスクはおどけたようにそう言った。
「そうね」
アンジュも静かに微笑む。
二人は顔を合わせると、クスクスと笑い合った。
「随分遠くまで来ちゃったな…」
笑い終わった後、振り返るかのように横を向いておもむろにタスクが口を開いた。
「でも、生きてる」
タスクの呟きを受けてそう言ったアンジュに、タスクは又視線を戻した。
「生きてさえいれば、何とかなるでしょ?」
そして、柔らかく微笑んだ。
「強いね、アンジュは」
タスクが素直な気持ちを口に出した。
「バカにしてる?」
「褒めてるんだよ」
そう言われ、アンジュが嬉しそうに微笑んだ。
「さて、と」
話はここまでというつもりだろうか、タスクが立ち上がった。
「久しぶりのベッドだ。ゆっくりお休み」
「タスクは?」
そのまま部屋を去ろうとするタスクの背中に、アンジュが声をかけた。
「廊下で寝るよ」
振り返ってそう答える。まあ、至極当然といえば当然の答えではある。
「ここで良いじゃない」
が、アンジュはそう答えて同室で寝るように促した。意識しての発言かどうかはわからないが、何とも大胆である。
「い、いや、でも…」
案の定、タスクが戸惑っている。男として嬉しいシチュエーションには違いないが、かと言って素直に頷けるほどタスクは豪の者ではなかった。
「いいでしょ?」
そんなタスクにアンジュが追い打ちをかける。上目遣いになり、寂しげな表情をしたのだ。どれだけ男勝りでも、やはり心細いのだろうか。
「う…」
そんな表情を見せられ、タスクは言葉に詰まってしまう。結果、
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…」
こうなるのも当然のことだった。タスクはそのまま反転すると、ソファーに腰を下ろす。が、その瞬間、ソファーは音を立てて壊れてしまった。やはり経年劣化は否めなかったのだろう。その姿にアンジュは楽しそうに笑い、タスクの悲鳴とソファーが壊れた音で近くの部屋で休んでいたヴィヴィアンや隣の部屋で休んでいたグレイスやティアが思わず目を覚ましてしまっていた。
「もう!何してるのよ♪」
「ははは…」
アンジュの突っ込みにタスクも苦笑するしかなかった。そしてひとしきり笑った後、アンジュは頬を染める。そして、
「こっち…来たら…?」
と、自分が座っているダブルベッドにタスクを誘ったのだった。
「いっ!?流石に、そこまでは…」
アンジュの大胆な誘いにタスクも当然のように頬を赤らめる。さて、それでは結果どうなったかというと…。
(何の音~?)
寝惚けた感じの口調でヴィヴィアンが音源であるアンジュの部屋を覗き込む。そしてその瞬間、ヴィヴィアンは固まってしまった。何故かと言うと、
『(わ、わ!)』
驚きでパニックになりながらそのまま更に顔を近づけて覗き込む。そこには、枕を並べてダブルベッドに入っているアンジュとタスクの姿があったからだ。
「ホント、静かね…」
「う、うん」
「世界には、私たちしか居ないんだ…」
「う、ぅん」
なんともぎこちない会話である。いや、この場合は初々しいと言ったほうが正しいかもしれない。身を硬くしたまま、タスクがロボットのようにアンジュに顔を向けた。
「こんな穏やかな気持ち、何時ぶりだろう…」
そして寝返りをうつと、アンジュはタスクに背を向けた。
「…私たちを逃がしてくれたのかも」
そしてそのまま、独り言のように口を開く。
「えっ?」
「ヴィルキスやグレイスのリベリオンが。戦いのない、世界に…」
そして、アンジュは目を閉じると寝息を立て始める。
「あ…」
タスクは上半身を起こすとアンジュの顔を覗き込んだ。気持ち良さそうに眠りに就いている。その顔を見たタスクはゆっくりゆっくりと、アンジュを起こさないように慎重にベッドから出て立ち上がる。が、
「…しないの?」
いきなりアンジュが呟いた。どうやら狸寝入りだったようだ。
「ええっ!?」
その言葉にタスクが顔を真っ赤にして驚いた。狸寝入りもそうだが、何より発言の内容に度肝を抜かれたのだ。
「いやいやいや!」
パニクりながら何とかタスクが言葉を続ける。
「俺は、ヴィルキスの騎士だ! 君に手を出すなんて、そんな!」
「もしかして私のこと、嫌いなの?」
「そんなことあるわけないだろう!」
「じゃあ…」
「だから、えーと…」
一瞬口籠ったタスクだったが、顔を真っ赤にしたままアンジュから背けると、
「お、畏れ、多くて…」
蚊の鳴くような声でそう答えたのだった。
「はぁ?」
思わずアンジュが布団から跳ね起きた。
「10年前…」
そんなアンジュに、タスクが己の心境を吐露し始める。
「えっと…正確には548年前か、リベルタスが失敗した。右腕を失ったアレクトラは二度とヴィルキスに乗れなくなり、俺の両親も仲間も死んだ」
アンジュはタスクの言葉を邪魔することなく黙って聞いている。
「俺にはヴィルキスの騎士としての使命だけが残された。でも、俺は怖かった。見たことも会ったこともない誰かのために戦って死ぬ…その使命が……。俺は逃げた。あの深い森に。戦う理由、生きる理由も見当たらず、ただ逃げた……そんなときに、君と出会った!」
アンジュがハッと息を呑んだ。
「君は、戦っていた。抗っていた! 小さな身体で……目が覚めたんだ。俺は何をやってるんだろうって…あの時、やっと騎士である意味を見つけたんだ。俺は歩き出せたんだ。押し付けられた使命じゃない、自分の意志で!…だから俺は、君を護れればそれで良いっていうか、その…」
「ヘタレ」
タスクの独白を、アンジュは容赦なく斬って捨てた。
「えっ!?」
振り向いたアンジュは不満そうな表情をしている。
「でも、純粋」
だがすぐにその表情は微笑みに変わった。そしてそのままベッドの上に立ち上がるとガウンを緩め、胸こそ手を交差させて隠していたものの、肩からすべり下ろす。
「あっ…あっ…」
あまりの展開に、思わずタスクは何も言えなくなってしまう。
「私は、血塗れ…」
今度はアンジュが独白する番だった。その表情は曇っているが。
「人間を殺し、ドラゴンを殺し、兄ですら死に追いやった。私は血と、罪と、死に塗れている。貴方に護ってもらう資格なんて…」
「そんなことない!」
自然とタスクはアンジュの側に駆け寄っていた。
「アンジュ、君は綺麗だ!」
その言葉にアンジュの瞳が揺れる。勢いそのままに、タスクはアンジュの両肩に手を置いた。素肌に触れられ、アンジュの身体が一瞬だけ震える。
「君がどれだけ血に塗れても、俺だけは君の側に居る!」
「暴力的で、気まぐれで、好き嫌いが激しいけど…それでも?」
「ああ、それでも」
不安げに揺れていたアンジュの瞳だったが、タスクのハッキリとした返事を聞いて救われたのか、諭された後は優しく微笑んでいた。そしてそのまま目を閉じる。
「……」
タスクも同じように目を閉じると、二人はそのまま唇を重ね合わせたのだった。
『(きゃあ~~~!!!)』
「(おおーっ!!)」
「(素敵!!)」
外からデバガメしていたヴィヴィアンや別の部屋の窓から見ていたグレイスとティアがその展開に思わず目を大きく開きながら叫ぶ。それが合図というわけでもないだろうが、予想だにしない来訪者が三人(二人と一匹?)の元に舞い降りてきた。突如、空をつんざくような咆哮が響き渡ったのだ。その直後、地面が振動してアンジュたちが泊まっているラブホも激しく揺れた。
「きゃあーっ!」
「アンジュ!」
足場が柔らかいベッドの上だったということもあり、アンジュはバランスを崩して床に投げ出されてしまう。そんなアンジュともつれるかのようにタスクも床に投げ出された。そしてその直後、窓が粉々に砕け散ったのだ。
「ちょっとタスク! あんたまた!」
「ごめん」
二人には何が起こったかというと、最早お約束のようにタスクがアンジュの股間に頭を突っ込んでいたのである。タスク本人は不意の衝撃からアンジュを護ろうとしたのだが、結果としてこうなってしまっては弁明の余地はない。そんな二人だったが、一体何がと思って先程の衝撃で亀裂が入って外を覗けるようになった外壁に視線を外に向ける。そこには
「救難信号を出していたのはお前たちか?」
ガレオン級の頭に乗っている人物に驚く、その上に乗っているのはアカリと二人組の女性だったからだ。
「やっとお前たちを見つけてたわ♪」
「アカリさん!!?それに……」
「「「「ど!ドラゴン!!?」」」」
グレイス達が驚く中で青い服装を着た女性がレオン達に言う。
「ようこそ、偽りの民達よ。我らの世界…『本当の地球』へ」
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どうでしたかな?誤字がありましたら、報告お願いします。
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第三十話:明かされる真実
アンジュとタスクがドラゴンを従えた女性たちとアカリと出会って少し後、何処かへ向かって空を飛行するドラゴンの集団があった。そのうちの一体がヴィルキスを足で掴み、もう一体が身体からコンテナをぶら下げている。そのコンテナの中には
「何処に連れて行く気なんでしょう…?」
グレイスが呟いた。そう、グレイス達ご一行が収容されていたのだ。と、何かあったのかコンテナが揺れる。その衝撃に、軽い悲鳴と鳴き声を上げるアンジュとヴィヴィアンとティア。タスクは慌ててアンジュの元に駆け寄った。
「ゴメン、ヴィヴィアン」
「女の子が乗っているんだ、もっと丁寧に飛んでくれ!」
思わずヴィヴィアンにぶつかってしまったアンジュが謝り、タスクは外に向かって怒鳴る。が、聞こえることはないだろう。
「大丈夫だ、アンジュ」
一応釘を刺した後、タスクがアンジュに振り返る。
「えぇ?」
「例えここがどんな世界でも、俺が君を護るから」
そのやり取りが恥ずかしくて見ていられないのか、それとも、あたしはどうでもいいの? という不満からだろうか、ヴィヴィアンとティアが両目を隠しながら軽く吼えた。
「そうね」
自分を落ち着かせるためだろうか肩に置かれたタスクの手を払い除けると、アンジュが口を開く。
「あいつら、私たちの言葉を喋ってたわ。話しさえ出来れば、この世界のことも何かわかるかもしれない…」
「あぁ…そ、そうだね…」
タスクは頷いたものの、何処か肩透かしを食ったように苦笑している。当然のように、アンジュはそれに気付いた。
「何よ?」
「あ、いや、いつものアンジュだなって…」
「はぁ? エッチ出来なくて欲求不満なの?」
何とも辛辣である。
「えっ?」
「いいところで邪魔をされたもんね」
次には蔑んだような表情になった。何処までも辛辣である。
「えっ!? ええええーっ!? いやっ」
「今はそんな場合じゃないってのに、ホントに男って…」
呆れたように吐き捨てたアンジュに、同意するかのようにヴィヴィアンやティアグレイスが頷いた。と、またもコンテナ内に振動が走る。
「ちょっ!ちょっと!?何処触ってんのよ!」
「ふ、不可抗力だって!」
「え!?タスクさんそんな事をするような人だったんですか?」
「グレイスまで〜!」
「何時まで発情してる気!?」
「そんな!してない、してないよ!」
「終了!閉店!お座り!」
「何でしょう?この会話は……」
アンジュに同意するかのようにヴィヴィアンがいななき、ティアが呟く。そんなくんずほぐれつのドタバタ劇がコンテナ内で起こっているとは知る由もなく、ドラゴンの一団は目的地へ向かって飛んでいるのだった。
「着いたわ。出なさい」
くんずほぐれつのドタバタ劇の余韻も覚めやらぬ中でコンテナが開くと、先程の女性がそう言って一行を促した。その手に得物を持っているのがどうにも恐ろしいが。
言われるがままにアンジュたちが外に出ると、そこには今まで見たこともない光景がアンジュたちの目の前に広がっていた。長い階段の上に巨大な、何処からどう見ても和風建築の建物があったのである。もっともアンジュたちは、この建物が和風建築という工法・技法のものだとは知らないだろうが。
「大巫女様がお会いになる。こちらへ」
その機体を見て衝撃を受けるアンジュ。対照的に、素直にこちらの言うことにアンジュたちが従ったことで少し警戒を解いたのか、二人は得物を外した。そしてそれとほぼ時を同じくして、ヴィヴィアンが突然悲鳴のような鳴き声を上げると意識を失ったのだった。
「ヴィヴィアン!」
異変に気づいたアンジュがすぐに振り返る。何故こんなことになったかというと、アンジュからは見えない位置に、麻酔と思われる注射器が刺さっていたからだ。
そして脇から、数人の新たな顔ぶれがヴィヴィアンの元に走ってきた。
「ヴィヴィアンに何をしたの!」
アンジュが強く詰る。が、二人は外していた得物を構え直して威嚇した。それを見て、アンジュは悔しそうに唇を噛んで口を噤んだのだった。
『連れて参りました』
建物内に入り、彼女たちの言う“大巫女様”の御前までアンジュとタスクを言葉通り連れてきた二人が報告した。
「ご苦労」
アンジュたちの正面にいる、一番高い場所に鎮座している人物が労をねぎらった。御簾に隠れて姿こそ見えないものの、声質からそう年齢がいっていないことが推測される。しかしその座っている場所と、真っ先に口を開いたことから、彼女が二人の言う大巫女様であるのだろうということは容易に推察されるものだった。
「異界の女」
アンジュは不満そうに少し顔を上げ、
「それに、男か…」
タスクは緊張した面持ちで唾を飲んだ。
「名は何と申す」
尋問としてはある意味当然の質問をする。が、こういう真似をされて大人しくしていられるような性格のアンジュではない。
「人の名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさいよ!」
この状況下で臆せずにそう言えるあたり、流石に肝が据わっている。あるいは長い皇族生活の影響かもしれない。が、いくら納得できなくてもこの場合の初手としてはあまり賢い選択ではないかもしれない。
案の定、御簾に姿を隠したその他の連中がザワザワとざわめきだしたからだ。
「大巫女様に何たる無礼!」
後ろの二人のうち、一人が激高して自分の得物に手を掛けた。
「アンジュ!」
タスクが窘める。まあ当然だろう。話し合いでいきなり喧嘩腰では纏まるものも纏まらない。だが、アンジュは不満そうな表情を崩さない。
「…特異点は開いておらぬはず。どうやってここに来た」
だが大巫女様は意に介する要素もなく、違う質問を投げかけた。自分の言葉を無視されたのが気に入らないのか、アンジュは不満そうな表情を隠そうとはしない。
「大巫女様の御前ぞ、答えよ!」
そして更にアンジュをイラつかせることに、他の連中も口々に質問を向け始めたのだった。
「あの機体、あれはお前が乗ってきたのか?」
「あのシルウィスの娘、どうしてそなたたちと一緒に「うるっさい!」」
元々高くないアンジュの沸点がすぐに噴火する。
「聞くなら一つずつにして! こっちだってわかんないことだらけなの! 大体ここは何処!? 今は何時!? 貴方たち何者!?」
「ちょ、ちょっとアンジュ!」
「そうですよ!ここは冷静に」
慌ててタスクとグレイスが宥めようとする。そんなアンジュの態度に、御簾の向こうの人影が一つ楽しそうに口元に笑みを浮かべた。
「威勢のいいことで」
そしてそのまま立ち上がると、その影はゆっくりと御簾の先から姿を現した。
「っ!貴方!」
引き続き不快な表情に染まりながらもアンジュが驚いたのは無理はない。何故なら、その姿には見覚えがあったからだ。そう、先程の人間たちによる侵攻の前に戦った人型兵器のパイロットだったからだ。
「神祖アウラの末裔にしてフレイアの一族が姫。近衛中将、サラマンディーネ」
名乗りを上げる彼女…サラマンディーネに、アンジュは敵意を隠さずにぎりりと歯軋りをすると睨みつける。グレイスはあの不明機に乗っていた女性がサラマンディーネだと知り見惚れる。
「ようこそ、真なる地球へ。偽りの星の者たちよ」
「知っておるのか?」
大巫女がサラマンディーネに尋ねると、彼女はクスッと笑って、
「この者ですわ。先の戦闘で、我が機体と互角に戦ったヴィルキスの乗り手は」
そう、答えたのだった。
「ヴィルキスの乗り手…」
その事実に、大巫女は思わず息を呑む。
「この者は危険です! 生かしておいてはなりません!」
「処分しなさい、今すぐに!」
御簾の先にいる他の面々が次々と好き勝手なことを言う。言葉通り、アンジュが危険要素だと判断したからだろうか。
「やれば? 死刑には慣れてるわ」
対してアンジュはぶっきらぼうにそう言い放つ。が、
「…但し、タダで済むとは思わないことね」
ドスを聞かせて釘を刺すのも忘れない。その迫力に飲まれたのか、御簾の先にいる連中は思わず息を呑んだり、二の句が告げなくなった。
「お待ち下さい、皆様」
そこにサラマンディーネが割って入る。そして、アンジュたちの元へと歩を進めて降りてきた。
「この者は、ヴィルキスを動かせる特別な存在。そしてリベリオンと言うエンブリヲもどきの機体。あの機体の秘密を聞き出すまで、生かしておくほうが得策かと…」
その言葉に、御簾の向こうの面々がザワつく。
「この者たちの生命…私にお預けくださいませんか?」
その事に他の者達はただ黙って聞いていた。
茶室へ案内されたグレイス達はそこで、サラマンディーネとアカリは四人に抹茶を作って差し出した。
「あの…アカリさん」
「んむ、何じゃ?」
「アカリさんが言っていた協力者って…サラマンディーネさんなんですね?」
「そうじゃ、悪いか?」
「いえいえ、僕はそう言う……」
「無理もありませんはアカリ殿……グレイス殿はエグナント老師から聞きました。彼は私達の味方になってくれる筈♪」
「味方?どういう「ちょっと聞きたいんだけど」ん?」
突然アンジュが話の途中に割り込み、アカリを見る。
「この子、誰?」
「この子は…「聞いて驚け!」え?」
「妾の名はアカリ・ヤマツ!この『真実の地球』のモーント・ウィガーの管理者なのじゃ♪」
「モーント・ウィガー?」
「何それ?」
「気にするな♪」
「俺はタスク、アンジュの騎士だ、聞いても良いかな?サラマンディーネさん」
「何なりと、タスク殿」
「ここは…本当に地球なのか?」
それにサラマンディーネは「ええ」と頷く。
「それじゃ君達は?」
「人間…ですわ」
「人間? でもドラゴンの羽と尻尾があるが…?」
「ああ、それに地球は俺達の星で、人間は俺達だ。だとしたらここは…」
レオンとタスクがそう言う中でヒュウガがある事を言う。
「お主ら、『地球が二つある』っとしたら?」
「「「…えっ!?」」」
アカリが言った言葉にレオン達は驚き、サラマンディーネが答える。
「並行宇宙に存在したもう一つの地球、一部の人間がこの星を捨てて移り住んだのが、別宇宙にあるもう一つの星、それがあなた達の地球なのです」
「地球を…捨てた?!」
「何のためにだ!?」
「お主らはあの廃墟を見て来たんじゃないのか? この星で何が起きたのかを」
「この世界の戦争…」
「そして環境汚染…」
「そうさせたのは……グレイス…嫌、本名は『リベロ』かよく聞け…」
「は、はい」
「この世界を一回滅ぼしたのは……間違いなく、お前の父親であるエンブリヲなのじゃ」
「!?」
「それにこの"ティア"と言う娘は…この真実の地球の生まれたUMA(未確認生物)であるのじゃ」
「「「えぇっ!?」」」
グレイス達は、ここがティアの生まれ故郷だと言う事に驚く。
「……はい、私やお姉様、お兄様はここより北西の彼方にある国の物でした。そこ深海は穏やかで温かい水で…他に深海生物と共に暮らしていました。ところがある日……統合経済連合の者達とエンブリヲがお姉様と私、お兄様を誘拐したのです…」
「誘拐!?…一体何のために!?」
「分かりません……エンブリヲやDr.ディメントによって、当時の記憶を消されたので……」
「「「……」」」
三人は黙っていると、サラがグレイス達に問う。
「グレイス殿…」
「はい……?」
「あなた方に…見せたいものがあります」
そう言ってサラマンディーネとアカリはグレイス達を連れて行き、ある場所へと向かう。
グレイス達はサラマンディーネが呼んだガレオン級の頭に乗ってある場所へと向かった。
「着きましたわ」
サラマンディーネが示す場所の先を見るグレイス達、そこはアケノミハシラと同じ塔だった。
「アケノミハシラが…ここにも?」
「『アウラの塔』とわたくし達は呼んでいます。嘗てのドラグニウムの制御施設ですわ」
「ドラグニウム…?」
グレイスは聞き覚えのない物を問い、サラマンディーネ達は制御施設内を進みながら説明していた。
「ドラグニウム、22世紀末に発見された強大なエネルギーを持つ超対称性粒子の一種」
そしてあるエレベーターの場所に着き、サラマンディーネがそれを操作して下へと向かって行く。
「世界を照らす筈だったその力は、すぐに戦争へと投入されました。そして環境汚染、民族対立、貧困、格差、どれ一つも解決しないまま人類社会は滅んだのです」
「…よくある話です」
グレイスの問いにティアも頷く。人は強大なエネルギーをすぐに兵器にする事を優先とする本質がある、しかし間違いだと知るのはいつも後になり後悔するばかりであった。
「そんな地球に見切りをつけた一部の人間たちは、新天地を求めて旅立ちました」
「似たような話、聞いた事あるわ」
っとアンジュはその事をサラマンディーネに言い、それにグレイスはタスクの方を向き、タスクは頷くと同時に分かった。教えたのはあのジルだと。
そして目的地へと到着したエレベーターは止まり、サラマンディーネはエレベーターを降りながら言う。
「残された人類は汚された地球で生きて行く為に一つの決断を下します」
「一つの決断?」
ティアの言葉にサラマンディーネは頷いて言い続ける。
「自らの身体を作り変え、環境に適応する事」
「作り変える?」
アンジュはサラマンディーネが言った言葉を聞き、それにサラマンディーネは頷く。
「そう、遺伝子操作による生態系ごと…」
そしてグレイス達の前に巨大な空洞が広がり、それにグレイスは問う。
「ここは?」
「ここに『アウラ』が居たのです」
「アウラ…?」
アンジュはその事を問うと、サラマンディーネはヒュウガの方を向いてそれにアカリはマナの光である物を映し出す、するとグレイス達の目の前に見た事もない白く巨大なドラゴンが現れる。
「これは…」
「アウラ、汚染された世界に適応する為、自らの肉体を改造した偉大なる子孫。あなた達の言葉で言うなら、『最初のドラゴン』ですね」
サラマンディーネの説明にグレイス達はまたしても驚きの表情を隠せない。
これ程の真実を聞かされて、戸惑いを表さない者はいない。
「私達は罪深い人類の歴史を受け入れ、食材と浄化の為に生きる事を決めたのです、アウラと共に。男達は巨大なドラゴンへと姿を変え、その身を世界の浄化の為にささげた」
「浄化…?」
アンジュがその事を問い、それをサラマンディーネが説明する。
「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶体にしているのです。女たちは時に姿を変えて、男達と共に働き、時が来れば子を宿し産み育てる、アウラと共に私達は浄化と再生へと道を歩み始めたのです」
アカリはマナを消し、元の景色に戻すとサラマンディーネが少しばかり重い表情をする。
「ですが…、アウラはもういません」
「どうして?」
「奴が連れて行ったのじゃ」
アンジュがそれを問うとサラマンディーネの代わりにアカリが言う。
「彼? 誰ですか?」
「グレイス殿、もう分かって居る筈です。ドラグニウムを発見し、ラグナメイルを作り、世界を壊し捨てた。この破滅の元凶を…"エンブリヲ"」
「っ!!」
「…あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」
唐突に問いで返され、眼を剥く。
「え?……マナの光よ」
困惑しながらアンジュが答えるとサラマンディーネはやや表情を硬くし、更に問い掛ける。
「なら、そのエネルギーの根源は?」
「何言ってるのよ、マナの光は無限に生み出される…「そういうことですね」グレイス?」
「アンジュさん…無限のエネルギーなんて、ありはしないのです。どんなものにでも必ずそれを生み出す要因があります」
グレイスは『マナ』というものを不思議に思っていた。
無限に生み出される万能の光…『人間』であれば、如何なる者だろうと使用できる夢の物質。だが、それが『まやかし』であるとしたら?『無』から『有』は生み出せないエンブリヲという男が、あの世界を創った。ジルが言った争いを好まない人類のためには与えてやる必要があるのだ。
だが、そのために必要となったのだ。『餌』を生み出す『贄』が『マナ』という餌をグレイスの態度にアンジュも察したのか、眼を瞬かせる。
「マナの光、理想郷、魔法の世界。それを支えているのはアウラが放つ、ドラグニウムのエネルギーなのです」
「っ!!」
「アウラのエネルギーを利用し、あなた方の世界の力の元である『マナ』を発展させたのもその理由の一つです。……そしてエネルギーはいずれ尽き、補充する必要がある。ドラゴンを殺し、結晶化したドラグニウムを取り出し、アウラに与える必要があるのです。それがあなた達の戦い。あなた達が命を懸けていた戦いの真実です。」
ノーマがドラゴンと戦わされていたのは、『ドラグニウム』を体よく手にれるため――『マナ』を維持し続けるために……人間の世界を『守る』ために―――――告げられた事実にアンジュは衝撃を隠せず、掠れた声を漏らす。
「つまり僕達はエンブリヲの使い捨ての道具、か。僕達はあなた達との戦争に何も知らず駆り出されていたってわけですね」
あまりの下らなさに、自嘲するようにグレイスは肩を竦める。
「あなた達の世界のエネルギーを維持するため、私達の仲間は殺され、心臓を抉られ、結晶化したドラグニウムを取り出された」
「大型のドラゴンを回収していたのはそういう理由か」
ドラグニウムを結晶化するために、大型ドラゴンの体内には膨大な量が備蓄される。ドラゴンにとって浄化であると同時に魔法陣や強大な力を発露させるためのエネルギー源でもある。故に、大型ドラゴンの死骸は、無くてはならないものだ。
思い当たる節がある。アンジュが喪失になった時、あの島で見た凍結したドラゴンの死骸を輸送する船団を気になっていたが、これでようやく謎が解けた。
どうして10年前に起きた反乱でノーマが粛清されなかったのか。どうしてドラゴンを狩る必要があったのか。どうしてそれが『ノーマ』でなければダメだったのか。改めて胸糞が悪くなる。
「分かっていただけましたか? 偽りの地球、偽りの人間、そして、偽りの戦いと言ったその意味を。それでも、偽りの世界に帰りますか?」
その問いにアンジュは一瞬逡巡するも、険しい顔をして答えた。
「当然でしょう、仮にあなたの話が全部本当だとしても、私達の世界はあっちよ!」
「ちょ!ちょっとアンジュ! 話を聞いてたの!?」
タスクはアンジュを慌てて止めるも全く聞かず、グレイスは少しばかりアンジュの勝手癖に飽き飽きしていた。
それは己の迷いを振り切るためのものだったかもしれない。だがサラマンディーネはやや失望したように嘆息する。
「では、あなた達を拘束させてもらいます。これ以上、私達の仲間を殺させるわけにはまいりませんから」
凛と告げるサラマンディーネに気圧されるも、アンジュは反射的に身構える。
「やれるもんならやってみなさい! 私がおとなしく拘束されると!」
握っていた破片を振り上げようとした瞬間、するとアンジュはタスクが隠し持っているナイフを取り出して、それにタスクは慌てる。
「アンジュ!!!」
「黙っててタスク!! 私が大人しく捕まると思って!」
パシュッ!!
「っ!!」
突如サラマンディーネの尻尾がアンジュが持っているナイフを叩き落とし、彼女の翼が大きく広げられて、それにグレイス達は目を見開く。
アンジュは叩き付けられた手を抑えて、笑みを浮かばせる。
「本性を表したわね! トカゲ女!!」
っとアンジュはサラマンディーネに殴り掛かるも、いとも簡単にかわされる。
「アンジュさん!無理だって!相手は翼も尻尾も持っているんですよ!」
「そんなのやって見ないと分からないでしょ!!」
言った通りアンジュはサラマンディーネに簡単に後ろを取られてしまう。
「殺しはしませんよ、私達は残虐で暴力的なあなた達とは違います」
「アルゼナルをぶっ壊して置いて、何を!!」
アンジュが強引に振りほどくも、すぐに間合いと取られる。
「あれは【龍神器】の起動実験です。あなた達はアウラ奪還の妨げになる恐れがありましたから。ですがタスク殿達を除いては…」
その事にグレイスとタスクはその事に反応し、アンジュはサラマンディーネの事に意味が分からなかった。
「はぁ!? 何よそれ!! 何でタスク達は除かれるのよ!? それにそれで何人死んだと思ってんの!!」
「許しは請います」
アンジュは再び殴り掛かるも、すぐにかわされて空に浮かぶ。
「私の世界を護る為です、あなたも同じ立場なら同じ選択をしたのではありませんか? 皇女アンジュリーゼ」
「えっ!?」
「貴方の事はよく聞いていました、『リザーディア』から。近衛長官リィザ・ランドックっと言えば分かりますか?」
その言葉を聞いたアンジュ、そしてグレイスは目を開かせる。
「リィザ……あっ!! アンジュさんのお兄さんの側に居たあの人だ!!」
グレイスは救出時の事を思い出す。ミスルギ皇室の近衛長官であり、ジュリオの側近。ジュリオに従い、アンジュを『アルゼナル』へと送り込んだ。
「リィザが……あいつが、あなた達の仲間……?」
上擦った声で呟くと、肯定するようにサラマンディーネは笑った。それが酷く不愉快なものに見え、アンジュは悔しげに歯噛みする。
「バカにしてぇ!」
怒りに顔を真っ赤にし、アンジュは激情のままサラマンディーネに殴りかかろうと再度駆け出した直後、グレイスの中の何かが鼓動をし、グレイスの銀の短髪が黄金の長髪へと変わり伸び、アンジュの前に出た。そして、
ドゴォッ!!
「!?」
「「!?」」
グレイスがアンジュとサラマンディーネの間に入り、アンジュの腹部に向けて拳を叩き入れる。
意識が薄れてく中、アンジュはグレイスの行動に問う。
「な、何で…?」
「いい加減にしろ、好き放題にキレてんじゃねえ」
そうグレイスは言い残して、アンジュはそのまま気を失う。
気を失ったアンジュをグレイスはタスクに渡す。
「グレイス! 何で!?」
「こいつの身に何かあったら、お前が一番大変だろ? だから止めたんだよ」
そう言ってグレイスは元の髪に戻りサラマンディーネの方を向く。
「僕もあなたの仲間を大勢殺した者、その事にはどんなに頭を下げても許せるかどうか分からない。だから…」
グレイスは両膝を着き、頭を下げる。
「本当に…申し訳ない」
「グレイス…」
タスクとはグレイスの行動をただ見ていて、ジェームズ達は少し困った表情をしながら顔を見合わせる。
そしてサラマンディーネは微笑みながら床に降り立ち、羽を仕舞いながらグレイスに近づく。
「やはり、アカリ達の言った通りのお方ですね。エンブリヲと違って、何処かでは見せない所で優しい心の持ち主…」
そう言ってサラマンディーネはしゃがみ込んでグレイスの手を取り、それにグレイスは頭を上げる。
「…?」
「グレイス、貴方に会わせたい人物がいるのです…」
っとそれを聞いたグレイスは目を見開いてサラマンディーネの話を聞いた。
宮殿に戻って、気を失ったアンジュを医務室へと連れて行ったグレイス達、タスクはアンジュのそばにずっと居て、グレイスは近くの壁やベットの上にのっていた。
「痛たたた、まだヒリヒリする…」
「仕方ないです。お兄様がまさか……」
殴られたグレイスの頬をティアが看病しながら、先ほどのサラマンディーネが会わせたい人物の事を思い出す。
─回想─
バゴォォンッ!!!
「「っ!!?」」
《っ!!!》
サラマンディーネが会わせたかった人物……名はヒョウマ。ティアの実兄で、特徴的な銀髪の長髪、純白の肌、そして左目に傷、右胸に火傷の跡がある青年がグレイスに飛び掛かり、頬を殴っていた。
「おいリベロ!!どの面下げて、ここへ来たんだ!!」
「うっ!!」
ヒョウマは防御するグレイスに殴り掛かり、暴言を吐きまくる。
「よせ!ヒョウマ!!」
「落ち着くんだ!!」
アツマとダストが興奮状態のヒョウマをグレイスから離させる。
「離せ!!ダスト!アツマ!!」
「ヒョウマ!!あいつは確かに許されないことをしたが、記憶が失った状態で病人なんだ!!」
「そうだ!忘れたのか!?彼女の遺言を!!」
「姉さんの遺言は関係ない!!なんでお前らはアイツの味方に付くんだ!!?」
暴れまわるヒョウマは振りほどこうと、ダストとアツマに暴言を吐きまくるのであった。ティアは口から血が垂れているグレイスを起こし上げ、医務室に連れて行くのであった。
─回想終了─
グレイスはそう考えていると…。
「おーい! 皆ー!」
グレイス達は聞き覚えのある声が聞こえて、その方を振り向くとアウラの民の服装を着たヴィヴィアンがやって来た。
「ヴィヴィアン!?」
「ヴィヴィちゃん!?どうやって戻ったのですか?」
「さあ~ここでクイズです、私はどうやって人間に戻ったでしょうか!」
っとここでヴィヴィアンのお得意のクイズが出て来て、それにグレイス達は少々困った。何も知らないのにどうやって人間に戻ったか分からないからだ。
「ぶ~!残念! 正解は…え~と~…何だっけ?」
「知らないならクイズにするな……」
それには何故かグレイスがツッコミを入れる。っとそこに医者の『ドクター・ゲッコー』がやって来る。
「D型遺伝子の制御因子を調整しました、これで外部からの投薬なしで人間の状態を維持出来る筈です」
「って事でした~♪」
「いやヴィヴィアンが答えた訳じゃないでしょ…」
グレイスの言葉にヴィヴィアンは舌をペロっと出しながら笑う。
「ところでアンジュは?」
「まだ目が覚めないんだ」
タスクがそう言ってるとドクター・ゲッコーがグレイス達に問いかけて来た。
「失礼ですが、貴方のどちらか私の所に来てくれませんか?」
グレイスとタスクの二人はどちらかが行くため、じゃんけんでタスクが勝利することになった。
「それじゃ、俺が…」
「ありがとうございます、ではこちらへどうぞ」
ドクター・ゲッコーの案内に付いていくタスク。その数分後、アンジュが目覚め、元の姿に戻ったヴィヴィアンに問う。
「ヴィヴィアン!?」
「おいっす!」
「あなた、どうやって!?」
「さあ~ここでクイズです、私はどうやって人間に戻ったでしょうか!」
っとここでヴィヴィアンのお得意のクイズが出て来て、それにグレイス達は答えを知っているが。
「ぶ~!残念! 正解は…え~と~…何だっけ?」
「忘れたのかい!!」
それには何故かまたグレイスがツッコミを入れる。っとそこに医者の『ドクター・ゲッコー』がやって来る。
「D型遺伝子の制御因子を調整しました、これで外部からの投薬なしで人間の状態を維持出来る筈です」
「って事でした~♪」
「そうなんだ……!!」
突然アンジュが、グレイスに睨み付ける。
「あれは違う!!僕でもなんでもないから!!」
「どうだか……ん?グレイス、その頬どうしたの?」
「色々あって………「助けて〜〜っ!!!」」
《!!?》
壁越しに聞こえた悲鳴は当のタスクのものだった。あまりの音量に一瞬驚きに固まるも、アンジュが慌ててベッドから起き上がり、グレイスもやや緊迫した面持ちで聞こえてきた部屋に飛び込んだ。
「タスク!どうした……」
ドアを潜って飛び込んだ先で繰り広げられる光景に戸惑う。ベッドに拘束されていると思しきタスクの回りには何人もの女性が群がっており、皆一様に顔を赤くしながらも黄色い声を上げて興味津々に見ている。
「何やってるんですか?」
思わずグレイスがそう漏らす。拷問を受けているわけでもなさそうだが、タスクは先程から必死に抵抗しているも、顔を赤くしており、首を傾げるのみだ。
「ちょ、ちょっとあなた達何やってるのよ!?」
我に返ったアンジュが女性陣を掻き分けながらタスクに近づき、ようやく状況を視認した瞬間、顔を真っ赤に染めた。
「な、なななな!何やってるのよ!?」
「ご、誤解だ!俺は何も、って!そこはダメー!」
頭を振るタスクは女性が触れる場所に情けない悲鳴を上げ、それに対して周囲の女性陣の黄色い歓声はますます強くなる。
「何やってんだか……」
グレイスは心底呆れた面持ちで頭を掻き、ティアはタスクのあれを見てしまい、顔を真っ赤にし、頭から湯気を出しながら気を失う。その背後から近づいたゲッコーが含むように妖しく笑う。
「人型の男のサンプルは非常に珍しいので、協力を願い出たのです。彼は喜んで受けてくれましたよ、『性教育』のね」
「……『性教育』に、協力?」
「はい♪」
聞き留めたアンジュは怒りに震える。
「へ〜〜…人が大変な目にあってるのに……そう〜」
青筋を浮かべて笑うアンジュが何故か金棒を持つ。
「待って!?…アンジュ!落ち着いて〜!!」
「こんのっ!!直結下半身野郎がぁぁ〜〜〜っ!!!」
「あああああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
アンジュは叫びながら金棒を振り下ろすと同時にタスクの悲鳴が轟く。タスクさん…ご愁傷さま……。
外に出ると、既に陽は暮れ始め、茜色に染まっていた。
整えられた庭の中には小さな屋根に覆われた手水舎があり、備え付けの龍の置物から水が流れている。徐に近づき、水で顔を洗う。
「ふぅ……」
思わず小さく息が漏れる。
水で顔を洗うなど久々だ。柄杓で水をすくい、飲み干す。冷んやりとした水が喉を潤し、一息ついた形だ。その横でアンジュもホッとしたのか、リラックスしている。
「アンジュ、落ち着いた♪」
横で見ていたヴィヴィアンがタオルを取ってきて手渡す。
「私汚れちゃった……欲求不満なら、トカゲでも何でもいいのね!あのバカエロタスク!!」
タオルで顔を拭いていると、アンジュが不機嫌そうに顔を顰める。
憤慨しながら愚痴るアンジュに小さく失笑し、思わず語り掛ける。
「アンジュ、ヤキモチ焼くんだったらもっと素直になったら?」
アンジュの態度が微笑ましくなり、そう声を掛けたのだが、アンジュは意味が分からずキョトンと眼を白黒させる。
「ヤキモチ? 誰が誰に?」
「タスクさんですよ♪うかうかしてたらホントに靡くかも。一途な子には弱そうだし♪」
グレイスの言葉にアンジュの表情が瞬時に赤くなり、同時に激しく狼狽したように取り乱す。
「ち、違うわよ! なんで私があんな奴に! 私はただ、あいつがあんなトカゲ女に不埒な真似をしないように……そう!それだけよ!私はあいつのことなんかなんとも思ってないんだからね!」
「はいはい♪」
必死に弁解するアンジュに相槌を返しながら視線を向けると、奥の通路から見知った顔が現われ、思わず顔を硬くする。その様子にアンジュも振り返ると、苦手そうに顔を顰める。
「もう起き上がっても大丈夫のようですね」
歩み寄ってきたサラマンディーネがそう話し掛けると、アンジュには嫌味に聞こえ、小さくそっぽを向く。
「ええ、手加減なんてしてくれたおかげで」
横柄な口調で返すと、控えるナーガやカナメは小さく睨むも、サラマンディーネは些かも害した様子を見せず、クスリと笑う。
「そうですか、あの子には手加減を少し覚えてもらわねばならないので」
そう切り返され、アンジュはまたも口を尖らせる。セラは不意にサラマンディーネが見知らぬ女性を連れているのに気づき、眉を顰める。
その女性は先程から自分の隣を凝視している――正確には、隣にいるヴィヴィアンをだ。戸惑うセラの前でサラマンディーネは真剣な面持ちで視線をヴィヴィアンへと移す。
「ラミア、『彼女』です。遺伝子照合で確認しました、あなたの娘に間違いありません」
そう呟く内容に眼を見開く。
「へ……?」
「娘?」
「ほえ?」
セラやアンジュは戸惑いの声を上げ、告げられた当人は自身を指しながらも意味が分からずに首を傾げる。そんなセラ達を余所にサラマンディーネは言葉を続けた。
「行方不明になったシルフィスの一族、あなたの子『ミイ』よ」
「ミイ? 本当にミイなの!?」
告げられた内容に弾かれたように駆け出す女性がヴィヴィアンに抱きつき、涙を流す。その光景に眼を丸くするセラやアンジュだったが、ヴィヴィアンは突然のことに混乱する。
「ああ、ミイ」
「いや、だから…あたしはヴィヴィアン…?」
抱きしめる女性に戸惑っていたヴィヴィアンは何かに気づき、思わず鼻をきかす。
「この匂い、知ってる…エルシャの匂いみたい……あんた誰?」
その問い掛けに抱擁していた女性は静かに離れ、涙を流しながら微笑み、口を開いた。
「お母さんよ」
「お母さん、さん?…何、それ?」
意味が分からずに首を傾げるも、見守っていたサラマンディーネが優しげに告げる。
「あなたを産んでくれた人ですよ」
「ヴィヴィアンのお母さん!?」
その意味を理解した途端、傍で聞いていたアンジュの方が驚き、グレイスやティアも驚きに眼を見張っている。確かに、ヴィヴィアンがドラゴンだった以上、こちらの世界に家族がいてもおかしくはないが、それでもいきなり母親と名乗る女性が現れれば、戸惑いもするだろう。
現にヴィヴィアンは未だに泣くラミアという女性にどう接していいのか分からずに困っている。アルゼナルで親のことなど教えられることはないから無理もないが。
「ええ、彼女はお母さんを追って、あちらの地球に迷い出てしまったのでしょう」
ドラゴンによる侵攻はもう何十年と続いている。そう考えれば、確かに納得はできるのだが、それでもよくアルゼナルに捕まって無事でいられたものだ。
(あのボケ司令ども)
改めてヴィヴィアンを利用した連中に悪態をつくも、それでもそのおかげでヴィヴィアンが母親と再会できたのだから、悪いことばかりではないが。
親子の再会にナーガやカナメなどももらい泣きをしており、サラマンディーネは柔らかく微笑む。
「ナーガ、カナメ、祭りの準備を…祝いましょう、仲間が10年振りに、還ってきたのですから……」
その言葉に二人は大きく頷き、グレイスとティアとアンジュはお互いに首を傾げ、ヴィヴィアンは戸惑いながらも、母親という女性に抱擁されたままだった。
そして夜になり、アウラの塔で皆が集まっていた。そこにサラマンディーネが儀式用の蝋燭を手に持ち、皆の前に姿を現す。
「サラマンディーネ様よ!」
「サラマンディーネ様ー!」
サラマンディーネの後ろにヴィヴィアンとその母『ラミア』が共に居た。
「何をするの?これから」
「サラマンディーネ様のマネをすればいいだけよ」
ラミアがそうヴィヴィアンに言ってほほ笑む、そしてレオンはその様子を人混みの中で見ていた。
「殺戮と試練の中、この娘を悲願より連れ戻してくれたを感謝いたします」
そう言った後にサラマンディーネは儀式の蝋燭を空へと舞い上げ、それに皆も同じように舞い上げる。
「アウラよ!」
『『『アウラよ!』』』
ラミアも同じように舞い上げ、隣に居るヴィヴィアンも同じように舞い上げる。
そしてグレイスの所にアンジュ達がやって来る。
「不思議な光景だね」
「タスクさん…玉、治りました?」
グレイスの言葉にタスクは股間を抑える。
「やめくれよ、トラウマになるから〜!」
「アハハハ♪」
グレイスが笑っていると、タスクが月を見て呟く。
「同じ月だ。もう一つの地球…か」
「夢なのか現実なのか、分からないわ」
タスクとアンジュの問いにグレイスも月を見ながら言う。
「現実ですよ、今見ている光景は…」
「ああ、だがヴィヴィアンが人間で良かった」
「うん、私もそう思います。」
ティアがヴィヴィアンの方を見ながら言い、それにグレイス達は頷く。
その中でアンジュは不安に思っている事を言う。
「これからどうなるの? 私達、こんな物を見せて、どうするつもり?」
「知って欲しかったそうです、私達の事を」
っとそこにナーガとカナメがレオン達の元に来ていて、カナメがグレイス達に話し続ける。
「そしてあなた達の事を知りたいと、それがサラマンディーネ様の願い」
「僕達の…事を?」
「知ってどうするの? 私達はあなた達の仲間を殺した。あなた達も私達の仲間を殺した、それが全てでしょ?」
アンジュがそうナーガとカナメにそう言うも、カナメは頭を横に振る。
「怒り、悲しみ、幸福。その先にあるのは滅びだけです、でも人間は受け入れ、許す事が出来るのです。その先に進むことも…全て姫様の請け売りですが、どうがごゆるりとご滞在下さい…っと姫様の伝言です」
二人は頭を下げて、その場から離れて行く。
グレイス達はそれを聞いて、何となくティアは納得する。
「確かにそうですね。人間は受け入れ許す事が出来る…サラマンディーネ様は信じれます。」
「信じるの?」
「少なくとも僕達は信じるよ?」
グレイスがそうアンジュに言い、その中でタスクが月を見ながら言う。
「…帰るべきだろうか」
「何?」
「アルゼナル、リベルタス、エンブリヲ。もし…もう戦わなくて良いのだとしたら…」
タスクのそれを聞いたグレイス達は少々思いつめる表情をして空に浮かぶ儀式の蝋燭を見ながら考え込むのだった。
その頃、エグナント達はある施設の格納庫にて、ある頭部を付けていた。
「おーっし!そのまま!そのまま!」
それはグレイスによって破れたテティスのシュトロームの残骸であり、異型な漆黒の装甲が取り付けられていく。
「もうすぐ完成ですね、エグナントさん。」
「そうじゃの……まさかアカリ殿がシュトロームを改造するなんてなぁ……」
そしてシュトロームのコックピットのモニター画面に、『Acid【アシッド】』と表示される。そして装甲や頭部、スラスターウィングが取り付けらられると、その機体のツインアイが真紅に光る。
「どうだ?体を持てた感想は?」
『問題ない。』
「そうか…ご主人と出会うのはたのしみかい?」
『俺は、ライダー支援啓発インターフェイス"マスティマ"だ。相手の機関がより良い性質なら問題ない。』
「相変わらずお主は厳しい性格だなぁ……(コイツがタスクの言う事を聞いてくれるか、心配だ。)」
エグナントはそう思い、新たなラグナメイル【アシッド】の完成であった。
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第三十一話:狂想曲・前編
そして祭りが終わったその深夜、宮殿の玉座の間で大巫女とサラマンディーネ、そしてアウラの民の巫女たちが集まっていて、彼女達の前にリザーディア事…リィザがホログラムで通信回線を開き話していた。
「何と…! 真かリザーディア!」
『はい大巫女様、新生ミスルギ帝国の地下。アウラの反応は確かに此処から』
リィザの報告に巫女たちは思わず声を上げ、大巫女は頷きながらリィザをほめる。
「よくぞやってくれたリザーディア、時は来た。アウラの子よ、これよりエンブリヲの手から全能の母、アウラを奪還する。リザーディア『特異点』解放のタイミングは手筈通りに」
『おおせのままに…』
そう言い残してリィザは通信を終えて消える。そして大巫女は皆に言う。
「これはこの星の運命を掛けた戦い、アウラと地球に勝利を!」
『『『勝利を!』』』
大巫女の声と同時に皆も頭をさげる。
その中でサラマンディーネは思いつめていた事を大巫女に伝える。
「大巫女様、モーント・ウィガーの皆さまにも協力を求める事は?」
「無論求める。エンブリヲとの戦いには彼らの協力が不可欠、特にアカリはディメントとの因縁がある」
「分かりました、ではモーント・ウィガーの皆さまには私が伝えて置きます」
それに大巫女は頷き、サラマンディーネはその場を立ち去って行く。
そしてサラマンディーネはモーント・ウィガーが活動する研究施設へ転送され、そこでリベリオンとアシッドとヴィルキスを修理するアカリ達にアウラの事を話す。
「そうか、ミスルギの地下に姫さん達のアウラが…」
「はい、それでどうかあなた達、モーント・ウィガーのお力をお貸しください」
それを聞いたエグナント達とアカリはサラマンディーネと話す。
「勿論だ、あの神気取りの男と言われる奴に儂等の憎しみと恨み、この怪物の姿にさせたことを後悔させてやる…」
「ありがとうございます、では私はこの事を大巫女様にお伝えします」
サラマンディーネはそう言い残した後にその場を去って行き、エグナント達は格納庫で修理を行っているリベリオンとアシッドとヴィルキスの方を見る。
「さて、後はグレイス達の機体の修理が終えれば良いだけだ」
「あぁ、それとグレイスには更なる力を身に付けて貰わなければいけないのですが…」
トーマがそう言うと、後ろにある透明ケースの中に置いてあるボロボロになった赤いスーツとヘルメットを見る。
「グレイスが、あれを着てくれたら…それに……」
そしてオボロがアシッドの横のハンガーを見る。
「あれをグレイスに託すか?」
オボロがアカリに問う。
「…………嫌、まだ早すぎる。あの機体は今のリベロには扱えない。」
「元々は……エンブリヲが乗る筈だったんだからなぁ。」
「だな…それに、あの機体の高性能と適性、戦闘力、高機動力が奴の機体や他のラグナメイルや…ヴィルキスも軽々越えている。こんな代物がもし、エンブリヲに見つかってみろ……悪用されるぞ。」
アツマが呟く。
「特に、俺達の最大の宿敵…Dr.ディメント。」
「お主ら…」
っと後ろからエグナントが近づいてくる。
「エグナントの爺」
「何をボサっとしておる?アシッドの転送の準備をしろ」
「「「は!はい!!」」」
トーマ達は急いでアシッドをキャリアに乗せる。キャリアが去ると、エグナントは残されたハンガーを見上げる。
「さてさて……お主の出陣はまだ先じゃ……【純白の機神帝 "フリューゲルス"】よ」
そのハンガーは、全体がシャッターで覆わられていたが、内部ではその機体のスリットアイが緑に光るのであった。
早朝、グレイスは部屋から起き上がり、廊下を歩いていると…。
「あ…」
前方からサラマンディーネとナーガ、カナメがやってきた。
「おはようございます。サラマンディーネさん♪」
「おはようございます。グレイス殿♪」
「もしかして、アンジュさんの方ですか?」
「はい♪」
そしてタスクとアンジュの部屋の前に来て、サラマンディーネが襖をノックし入る。
「おはようございます…あら?」
「「っ!!?」」
グレイス達が見たのはタスクがアンジュを押し倒していた姿だった、しかもタスクがパンツ一丁でアンジュの寝間着が完全に崩れていた状態。
それにグレイスはまたしても頭を支え、ナーガとカナメ頬を赤めていた。
「え〜…今度は押し倒しなのですか」
グレイス達が来た事にタスクとアンジュは真っ赤な顔になって慌てていた。
しかしサラマンディーネが…。
「朝の“交尾中”でしたか。さっ、どうぞお続けになって?」
「えっ!!!!」
とんでもない発言にグレイスは思わず顔を真っ赤にし吹いてしまう。
「…っ! ちがーーう!!!!!」
その発言にアンジュはタスクを突き飛ばしてしまい、終いにタスクの尻を何度も蹴っていた。
食堂。この時間、まだ人影も殆どないこの場所に、サラたちがアンジュたちを案内してやってきた。
「あ、ヴィヴィアン」
「おお~!おやようさ~ん!」
そこにはヴィヴィアンとラミアと早起きしたティアの姿が居て、共に朝食を取っていた所だった。
「サラマンディーネ様」
「よく眠れましたか?」
「それが、『ミィ』と朝まで喋りしてまして」
「だから寝不足~」
「それは何よりですわ。…さ、お掛けになって。私たちも朝食にいたしましょう」
「え…ああ…」
サラの言葉に生返事をしたアンジュ達は促されて席に着いた。
「さ、どうぞ召し上がってください」
「い、頂きます…」
サラに促されてタスクやグレイスが箸を伸ばした。そして醤油に刺身を浸けると恐る恐るそれを口に運んだ。
「ん?」
タスクが顔を綻ばせる。
「お口に合いまして?」
「凄く美味しいです! ずっと、非常食だったもんで!」
そのままタスクはモリモリと朝食を平らげていく。微笑ましい表情でそれを見ていたサラたちも自分の分に箸をつけ始めた。そんな中ただ一人、
「……」
アンジュだけは難しい顔をしながら箸に手を伸ばそうとはしなかった。
「毒は入っていませんでしたよ♪」
そんな彼女を見かねたのか、ティアがクスクス笑いながらそう言う。
「そうは言われたって…」
アンジュは頬を赤くしながら、ようやく箸に手を伸ばすと朝食に手をつけ始めた。
一心不乱に朝食を食べているその頬は僅かに赤く染まり、表情も先程までの堅いものとは違って柔らかく、時折物凄く嬉しそうに微笑むのだった。
「家に…帰る?」
朝食後、一行は外へと足を運んでいた。そこでラミアとヴィヴィアンが申し出たことに、グレイスが素っ頓狂な声を上げていた。
「この子が産まれた家を見せてあげたくて」
「おぉー!見る見る!」
ヴィヴィアンもすっかり乗り気である。
「ってことで、ちょっくら行ってくるねー!」
ラミアに抱えながら大空に舞ったヴィヴィアンはそう言い残し、母と共に生家を見るために旅立ったのであった。
「親子水入らず…か」
タスクは心なしか嬉しそうだ。幼い日に両親をリベルタスによって失っているだけに、思うところがあるのだろう。対照的にアンジュはまだ何処か納得しきれない様子だったが、それでも悪態の類をつくことはなかった。
「ふうーっ…」
そして大きく息を吐き出すと、
「で?」
サラに顔を向けた。
「はい?」
「わざわざここまで私たちを引っ張ってきた理由は何?まさかヴィヴィアンたちを見送らせるため…ってだけじゃないでしょ?」
「勘のいいことで」
サラがクスッと笑う。
「腹が減っては戦が出来ぬと申します。お腹は一杯になりましたか?」
「え? い、一杯だけど…」
「結構。では、参りましょう」
質問の意図がわからずにとりあえず返答したアンジュに、サラが不敵な笑みを浮かべたのだった。
「何…ここ?」
アンジュが思わず呟く。あれからアンジュはサラたちによってとある施設に連れてこられた。その見たことのない外観と内装に、アンジュは思わず言葉を詰まらせるのであった。
「古代の競技場ですわ」
アンジュの疑問にサラが答えた。
「かつては多くの武士たちが集い、強さを競い合ったそうです」
「まさか、500年前の施設!? 完璧な保存状態じゃないか」
施設の保存状態の良さに、タスクが驚きの声を上げた。
「姫様自らが復元されたのだ」
「ええっ!?」
そのことに、更にタスクが驚く。
「サラマンディーネ様は、その頭脳をもって旧世界の文献を研究し、様々な遺物を現代に蘇らせておられる」
「へぇー…」
「」
素直に感心するタスク。興奮しているのか恍惚としているのか、説明するナーガの頬も赤く染まっていた。
「我々の龍神器も、サラマンディーネ様がっ!」
そこでナーガの雄弁は途切れた。何故ならカナメに足を踏まれていたからである。
「それ、機密事項でしょ!?」
「あっ! ご、御免なさい」
カナメに指摘され、ナーガはシュンとして縮こまった。だが、彼女たちは知らない。誇らしく語っていたが、この施設はただの複合型アミューズメントパークに過ぎないということを。
そして、武士が強さを競い合うようなことに使用されたことは決してなく、家族や恋人や仲間内で気楽に楽しむためのものだということを。
…まあ、それを知ったからどうなるというものでもないのだが。それに知ったところで、自分たちの使用方法と本来の使用方法の落差に愕然とするか赤面するかのどちらかになるだけであろうし。
とにもかくにも、今彼女たちがいるのは古代の競技場と言ってはいるが、実際はただの複合型アミューズメントパークに過ぎないことを記しておく。
「んで、ここで何をするの?」
「…共に戦いませんか? 私達と」
サラマンディーネの言葉にアンジュは思わず「はっ?」と言葉をこぼし、それにはグレイス達は反応する。
そしてグレイスはサラマンディーネ達の目的を問う。
「それはもしや、アウラを奪還する為にか?」
「はい、それに目的は違うとはいえエンブリヲを倒す…」
「フフフ…ははは」
っと突然アンジュが笑い出し、それにグレイスはアンジュの方を向き、タスクが問う。
「アンジュ?」
「な~んだ、そう言う事、結局は私を利用したいだけなの…戦力として。知って欲しかっただの、解りあえただの、良い人ぶっていたのも全部打算だったじゃない」
それにサラマンディーネは笑みを浮かばせて言う。
「その通りです、グレイスや他の者達は兎も角として。あなたはそれなりの利用価値がありますから」
っとサラマンディーネの言葉を聞いたアンジュは思わずキレる。
「っ!? ふざけるな!私はもう!」
「もう…誰かに利用されるのはウンザリ…ですか?」
その事を聞いてアンジュは思わず拳を握りしめる。
グレイスはサラマンディーネの言葉を聞いて、腕を組んで問う。
「あの、何で僕は兎も角なんですか? その理由を聞きたいです」
「ええ、あなたはエンブリヲの子であり、あなたはエンブリヲの持つラグナメイルを破壊する唯一の切り札です。無論この事は承知していますわね?」
サラマンディーネの説明にグレイスは納得する表情をする。
「まあ、確かに僕はそのエンブリヲと言う大悪党の子。それにそのエンブリヲが僕達の世界を操ったりやサラマンディーネさんの世界を壊してきたのを知ったらほっとけないです…」
「はっ!! 本気なの!?グレイス!! 私はゴメンよ!!」
アンジュは今だに意地を張る事にグレイス達は少々呆れる。
「そう言うと思いまして此処へお連れしたのです、アンジュ。勝負しませんか?」
「はっ?勝負??」
「はい、貴女の未来を掛けて。私が買ったあかつきには貴女は私の所有物となって頂きます、無論貴女が勝てば自由ですわ」
サラマンディーネの説明にアンジュは思わず驚きを隠せないでいた。
そこで初めてアンジュが、彼女らしい不敵な笑みを浮かべたのだった。
「ふふふ…無論、貴方が勝てば、の話ですが」
「いいわ。やってやろうじゃない!」
「そうこなくては♪」
アンジュとは対照的に、了承を得たサラは今までの不敵なものと違い、実に楽しげな笑みを浮かべた。こうして、アンジュは己自身の未来を賭け、そしてそれ以上に溜まった憂さを晴らすためにサラとの勝負に挑むことになったのであった。
「その球を打ち返して、枠の中に打ち込めばいいのね?」
ルール説明を受けたアンジュが確認のためにサラに聞き返す。まず最初にアンジュたちがやってきたのは、屋外にあるクレーのテニスコートだった。当然というかご丁寧にテニスウェアに着替えたその格好は、何処をどう贔屓目に見ても多くの武士たちが集って強さを競い合ったというお題目からはかけ離れている。
…まあ実際、これからやるのはテニスなので当然なのだが。
「その通り。では、始めましょう」
「サービス!サラマンディーネ様!」
審判を努めるカナメがそう宣言する。いよいよ、大勝負が始まりを迎えようとしていた。
…ちなみに、姿の見えないタスクはどうしているかというと、
「……」
悲しいかな炎天下の中、一人コートの外に追いやられていた。その理由はただ一つ、フェンスを越えてボールが飛び出していったときの球拾いのためである。
タスクは何も言わないものの、るーるーと悲しみの涙を心中で流しているのが容易に推測できるような表情をしていた。が、言っては悪いが部外者の男は置き去りにして、女たちの戦いは着々と始まりを迎えようとしていた。
(あのトカゲ女、ぎゃふんと言わせて…)
これまでの鬱憤を思い切り晴らそうと意気込むアンジュだったが、それを見透かしたかのようにサラがサーブを打つ。アンジュもエアリアで活躍した運動神経があるからか反応はするものの、そのラケットの先を抜けていった。
「あっ!」
タスクも反応こそしたものの残念ながら拾えずにボールは転々と後ろへと転がっていった。
「フィフティーン、ラブ! サラマンディーネ様!」
スコアボードをめくり、カナメがサラのコートに向かって手を差し出した。
「っ!」
少しの間固まっていたアンジュだったが、すぐにサラを睨みつける。…それにしても、ここだけ見ればどこをどう見てもスポコンである。競技がテニスだけに、『エース○狙え』の焼き直しといっても過言ではないが、それはとりあえず置いておこう。
「あら、速すぎました?」
手でポンポンとテニスボールを軽く上に投げながらサラが挑発する。
「手加減しましょう、か!」
そして再びサーブを打った。唸りを上げて硬球がアンジュに襲い掛かる。しかし、
「結構、よ!」
今度はアンジュも追いつき、ジャンプしながら打ち返す。
「!」
それに反応できなかったのか、或いはどうせ取れるわけないという油断からか、サラは一歩も動けずにその脇をボールが通っていくのを見送るだけだった。
「フィ、フィフティーン、オール!」
驚きながらも審判の役目を忠実にこなすカナメ。そして今度は、アンジュが不敵な笑みを浮かべる番だった。
そして、それに呼応するかのようにサラも不敵な笑みを浮かべる。これを皮切りに、二人の勝負は延々と続いていくのであった。
そしてテニスの後に野球、未来的なレース?的なマシン『サイバーフォーミュラ』、ゴルフ、卓球、クレーンゲーム、そしてツイスターゲームまでやり続けていた。
一方その中でもティアは何やら薄々と微妙な違和感を感じていた。
「これ…本当に決闘ですか?」
そう言いつつもカナメがルーレットの色をと位置を教える。
「サラマンディーネ様、右手、緑」
カナメの指示にサラマンディーネは言う通りに手を指定の位置に置き、次にタスクがルーレットを押す。
そして色と位置が表示されて言う。
「アンジュ、左手、赤」
アンジュも言われた通りに手を位置に置く。
苦しみながらサラマンディーネはアンジュに言う。
「予想以上ですわ…アンジュ」
「何が…?」
「少し…楽しみだったのです。今まで私と互角に渡り合える者などいませんでしたから」
そしてカナメが次のルーレットの色と位置を言う。
「サラマンディーネ様、左足、赤」
「ですから…すごく楽しいのです」
それを聞いていたグレイス達、しかしグレイスは少しばかりと言うか…少々汗をかきながら頬を赤くしてサラマンディーネを見ていた。
カナメの指示通り左足を赤い部分に持っていく。その結果、彼女の尻がアンジュを圧迫する形になった。
「くっ!こんのーっ!」
負けじと、肩の筋肉を使って掬い上げるアンジュ。体勢を崩して潰れそうになったサラだが、尻尾を使ってバランスを保つことに成功した。
「ふふっ」
「尻尾使うの反則でしょ!?」
余裕の笑みを浮かべたサラが又癇に障ったのか、アンジュが尻尾に噛み付いた。
「いやーん!」
「ちょ、ちょっと!」
可愛い悲鳴を上げながら一度は保ったバランスを崩してしまうサラ。それに巻き込まれる形でアンジュもバランスを崩してしまい。そして両者共にシートの上に崩れ落ちた。
「尻尾を噛むのは反則ですっ!」
サラが涙を流しながら抗議する。起き上がったアンジュがこれまでと同じように反論するかと思ったが、
「ぷっ、あはははははは…」
その顔を見て思わず噴き出していた。
「泣くことないでしょ、別に」
「そうですけど…ふっ、あはははははは…」
拗ねた表情を見せたサラだったが、おかしくなってしまったのかアンジュと同じように笑ってしまっていた。
「姫様、笑ってる…」
「あんなお顔、始めてかも」
「いい顔するじゃない、二人とも」
「ですね♪」
グレイスたち四人の発言を聞きながら、今回に関しては全く良いところの無かったタスクも又、彼女たちの横で微笑んでいたのだった。
その頃、グレイス達とサラマンディーネ達の居る世界とは違う偽りの世界の違う場所では…。Dr.ディメントがラプソディーの最終調整をしていた。
「もう少しだ…もう少しで私のラプソディーが完成する!」
ラプソディー全体にあらゆる武装や推進器が取り付けられて行く。そして腹部のコックピットにある生体ユニットが搭載される。
「さぁ、目覚めよ!私の最高傑作!『ラプソディー』よ!!」
ディメントの声と共に、ラプソディーの腹部に搭載されているユニットが呟く。
「『イエス・マイ・ロード』」
ラプソディーのツインアイが緑に光り輝き、起動音を鳴らすのであった。
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第三十二話:狂想曲・中編
戦い終わりシャワー室。二人の戦士がシャワーを浴びて汗を流していた。
「感服しましたわ、アンジュ。見事な腕前でした」
髪を洗い流しながらサラが素直にアンジュを湛える。
「貴方もやるじゃない。…サラマンデイ」
「サラマンディーネです」
ムッとした表情になって口を尖らせる。
「エアリアでも、ここまで追い詰められることはなかったわ」
「エアリア?」
「私たちの世界のスポーツよ」
「では、今度はそのエアリアで勝負しましょう」
サラがそう言うとアンジュは沈んだ顔になり、
「無理よ」
と、寂しげな表情で呟いた。
「何故?」
「…ノーマには、出来ないから」
その答えに、サラは思わず絶句した。
「ノーマ、マナが使えない、人間ならざるもの…ですか」
「……」
アンジュは答えを返すこともせず、じっとシャワーを浴びていた。
「何と歪なのでしょう。持つ者が、持たざる者を差別するなど。私たちはどんな苦しいときも、アウラと共に学び、考え、互いを思う絆と共に生きてきたのです。…貴方は何も思わないのですか? そんな歪んだ世界を知りながら…」
「……」
アンジュはやはり黙ったまま、微動だにしなかった。
「知っていますよ。貴方がかつて皇女として、人々を導く立場にいたことを」
「!」
そこで初めてアンジュが反応を見せた。と言っても、俯き気味だった顔を上げたぐらいの些細なものだったが。
「世界の歪みを糺すのも、指導者としての使命では?」
「…勝手なことばかり言ってくれるじゃない」
サラの意見に、苦虫を噛み潰したような表情でアンジュが吐き捨てる。
「私はもう皇女じゃない。指導者だの使命だの、知ったことじゃないわ。大体、歪んだ世界でも満足してる人間がいるんだからいいじゃない。結局世界を変えたいのは貴方たち。エンブリヲもアウラも、私には関係ないわ」
「…では、これからどうするのですか?」
内心を吐露するアンジュを慮るような表情で見ていたサラがアンジュに問う。
「え?」
「真実を知りながら、何処へも行けず、何もしないつもりですか?」
「…フン」
アンジュは返答することなく、そっぽを向いただけだった。
その頃、グレイス達は格納庫で修理されたリベリオンと横に漆黒の機体が置かれていた。
「エグナントさん、この機体は?」
「ん?…あぁ、それか……タスク!」
エグナントに呼ばれたタスクが来る。
「エグナントさん、この機体…」
「あぁ…前にグレイスが倒したテティスのラグナメイルであったシュトロームを回収し、改造したんだ。タスク、お前のラグナメイルだ♪」
「俺の!?」
タスクは驚き、エグナントはまだ説明する。
「名は『アシッド』。ラグナメイルに搭載されていたシステムを抜き取り、完全にエンブリヲの制御下を離れた機体だ。それに…」
『お前が俺のライダーか?』
突然アシッドから声が響き、グレイス達は驚く。
「喋った!?」
『グレイス様…あのアシッドには私と同じ、ライダー支援啓発インターフェイスが搭載されています。』
『その通りだラルス……俺の名は"マスティマ"。お前と同じ、ライダー支援啓発インターフェイスだ。正確に言えばお前の弟でもある。』
「ラルスの……弟?」
『後から作られたからなぁ。それにラルスは鴎と言う意味を持つが……各国の言葉では男性名を表している。』
『そう言うマスティマは……"敵意"という意味を表している。何故敵意と言う名に拘るのですか?』
『……その方が、相手に殺意を向けられるからだ。』
ラルスとマスティマと言うより、リベリオンとアシッドから、何故か異様なオーラが放たれる。グレイス達はその事に冷や汗をかく。
「ヤバイですよ、タスクさん…この二体…」
「俺も思った…この二体……」
「「(長く話し掛けてはいけない!!)」」
二人は同じ考えている事を思っていると、グレイスの後ろから何かが拗ねってくる。
「ん?……」
何と、拗ねって来たのはこの世とは思えない程の美しい白い体毛を持つ大きな猫であった。
「エグナントさん、これ猫ですか?」
「ん?……あぁ、こやつか……お主が10年前に飼っていたペットだよ」
「ペット?僕こんな大きな猫飼ってませんよ?」
「ソイツは猫ではない……ホワイトタイガーと言う虎の亜種で、1000年前にたくさんいた…謂わば"猛虎"じゃよ♪」
「「猛虎!!?」」
エグナントの言葉にタスクとグレイスはホワイトタイガーに怯える。しかし……。
「心配するな……そやつは、お前のペット。10年前に遺伝子改造され、長寿になってしまったが、お前が飼い主と分かって、嬉しがっているんだよ♪」
「へ〜」
グレイスは納得し、ホワイトタイガーの頬を擦る。
「エグナントさん…この子の名前は?」
「……『フラム』。略称される前は"フライハルトム"。自由を意味している。」
「"自由"……良い名前だね♪」
グレイスがフラムの頭を撫でていると、フラムが突然何かを警戒するかのように辺りをキョロキョロし始める。
「どうしたの?」
グレイスが問いかけると、アウラの塔の砲を向き、唸り声を上げる。
「え?……!?」
その時、地震が起きて、それを感じたグレイス達は驚く。
「何だ!?」
そしてシャワー室に入っているアンジュとサラマンディーネはそれに気付き、ナーガとカナメは入り込む。
「サラマンディーネ様!」
サラマンディーネはそれに頷き、アンジュと共に着替えてグレイス達の元に向かう。
そしてグレイス達は外に出るとアウラの塔から何やら異変が起きていた。
それはアウラの塔からある空間が変化して行く様子で、それにグレイス達は目を奪われる。
「何だあれは…?」
そしてアンジュ達も合流して、アンジュはその空間の様子にある光景が映し出される。それはアンジュがまだ学生だった時に試合した事がある試合会場であった。
「あれは…エアリアのスタジアム!?」
そして町にいるヴィヴィアンはラミアと共に逃げて行き、その光景を目にする。
異変の空間はその人々を飲み込み、街を崩し、がれきと共に生き埋めにさせて行く光景を…。
「うわっ!街が!皆が!!」
異変の空間を目にしたグレイス達、そしてサラマンディーネはある物を呼ぶ。
「焔龍號!!」
すると額の宝玉が光り、空から焔龍號がやって来て。それにグレイス達は目がくぎ付けになる。
「龍神器…!」
「呼ぶ事が出来るのか!」
サラマンディーネはすぐさま焔龍號に乗り込み、起動準備をさせる中で言う。
「カナメは大巫女様に報告! ナーガは皆さまを安全な場所に!」
「「はい!!」」
そう言ってサラマンディーネはアンジュに向かって言う。
「アンジュ、決着はまた今度で。」
サラマンディーネはアンジュにそう話した後にコックピットを閉め、アウラの塔から発生した異変の空間へと向かって行く。グレイスも急いでリベリオンに乗り込み、サラマンディーネの後を追う。
アウラの塔を中心とした時空の歪みは徐々にその範囲を拡げており、人々は避難するも、間に合わず、呑み込まれてしまった人は次の瞬間、崩壊した建物の残骸の中へと一体化して息絶えていた。
その光景に人々は逃げ惑い、その中にはヴィヴィアンとラミアの姿もあった。実家でお喋りに興じていた中で起きた突然の事態に母親に連れられて避難するなか、吹き荒れる時空嵐にて巻き起こる突風に煽られ、飛んでいた者達は地上へと落とされる。
誰もが混乱するなか、崩れ落ちた建物の破片が落下し、その真下にいたヴィヴィアン達を狙う。悲鳴が木霊するなか、真っ直ぐに飛来したビームが瓦礫を撃ち抜き、粉々に粉砕する。
皆が上を見るとサラマンディーネの焔龍號がやって来た。
「皆さん!すぐに宮殿に避難を!!」
それに皆はすぐに避難をし始めて、サラマンディーネは落ちて来るがれきを次々と破壊して行く。
「急いでください!…!?」
っとサラマンディーネは気配に気づく。迫っている異変の空間の中に黒い巨影が浮かび上がる。
「何ですの!?あれは…!」
空間の中から円盤型の巨大な兵器であった。そして円盤型の兵器は巨大で鳥脚状の脚部を大地に踏み込む。サラマンディーネは焔龍號のバスターランチャーを構え、ビームを放った直後、兵器に直撃したかと思いきや、ビームが拡散し、消滅する。
「攻撃が効いていない!?」
すると円盤が円周上に内蔵されているビーム砲が光出し、ビームを発射した。全包囲にビームが炸裂し、焔龍號へ近付いてくる。
「っ!!」
サラマンディーネはもうダメと思いきや、グレイスのリベリオンが前に現れ、ゼムリアン・フォルムへと変わる。
「アブソリュート・シルト!!」
掌部から翡翠に光り輝くバリアが展開され、ビームを弾き返す。
「大丈夫ですか!?サラマンディーネさん!」
「グレイス!」
すると円盤から咆哮が唸る。
「っ!!?」
円盤は機動音を鳴らしながら、ゆっくりと近付いてくる。そして円周下に内蔵されている対空砲『M61 バルカン』をリベリオンに向け、乱射する。
「っ!ブリッツェン・ランツェ!!」
グレイスは急いでリベリオンの掌部からエネルギーを収束し、光の刃を飛ばし、『M61 バルカン』の砲弾を破壊する。グレイスは円盤型の兵器を睨み付ける。
っと上からアシッドに乗ったタスクとアンジュのヴィルキス。巨獣体へとなったエグナント達がやって来た。
「何やってるのよ!サラマンドリル!」
「アンジュちゃん…、名前が違うよ」
アンジュの言った言葉にセシルは思わずアンジュに突っ込む。
その時に皆の目に異変の空間が人々を飲み込んで行く様子にグレイス達はくぎ付けとなる。
「何だあれ…!?」
「何なの!?」
グレイスとアンジュがそれに言葉をこぼす中でタスクがそれに説明する。
「エンブリヲだ!」
「何!?あいつが!!」
その事にグレイスは驚く。
「ああ!! エンブリヲは時間と空間を自由に操る事が出来るんだ! 俺の父さんも仲間も石の中に埋められて死んだ…あんな風に!!」
タスクの説明を聞いたグレイス達は驚いている中でアンジュがヴィヴィアンとラミアの姿を見つけた。
映像にはラミアがエアリアのバイクに下敷きになっていた。
「ヴィヴィちゃん!!」
セシルが急いでヴィヴィアンの方に行き、エグナント達やグレイスは武器を構えると、円盤型の兵器の頭上に、映像が出る。
「どうも〜、醜い10体の生物兵器と失敗作であるRBL−1272君♪」
「アイツは!!」
アツマがその映像に映っている男性に牙を向け、他の皆も唸り声を上げる。
「おいおい、そんなに怒らなくても良いじゃないか〜♪」
「黙れ!!お前の様な逝かれ狂った科学者はいつもそうだ!平気で俺達を人体実験道具にし!戦わせたり!愛するものを食肉用に使ったお前を!!」
アツマの言葉に、グレイス達は驚く。
「え!?」
「当然だろ、マナに頼り切っている人種は愚かだ。エンブリヲ君はそんな風にした覚えはないんだが……アウラは貴重な資源でもある。それを守るためのノーマ。家畜(ノーマ)のために機密を守る人間(マナ)。我々の為に良い貢献をしてくれてるじゃない……お前らのような失敗作と違って…」
「ふざけんな!!それに俺たちはあんなマナの光のような手錠を掛けられたくないんだ!!Dr.ディメント!」
「アイツが…Dr.ディメント!?」
「では、どうする?マナがなければ、人々は互いに繋がることによって相互理解を深め合い、戦争や貧富、貧困や格差もなく、平和で穏やかな理想郷を築きあげれるのだぞ♪…なのにお前達は500年前の旧人類のような戦争を好む蛮人になりたいのか。人類は新しい物が出れば早速野蛮な事に使う。EMP、核、弾道ミサイル、金、差別、暴力、どれも欲望に満ちている……そんな私はお前たちの為にプレゼントを用意した♪見よ!私がここまで修復した人類抹殺兵器…『パーフェクトラプソディー』を!!」
「ラプソディーじゃと!!?」
エグナント達が驚くと、ラプソディーが光出す。するとラプソディーが変形していく。右腕には5連装スプレットビーム砲が指へなり、M61 バルカンが寄り集まり、左腕になる。円盤状が背部へ移動し、鳥脚状が人脚へと変形していく。そして首部から黄金の女神を模したオブジェ、螺旋状の角が八本、フェイスに三連装エネルギー砲が装備されている頭部が出る。
「あれは……」
そしてラプソディーはホバーリングしながら地上へ降下し、翠のツインアイを光らせる。グレイス達はそのデカさに驚く。
「でかい!!」
タスクはアシッドに腕部に搭載されている伸縮高周波ソードを展開すると、グレイスの様子がおかしくなる。
「はぁ!…はぁ!…はぁ!…はぁ!はぁ!はぁ!!!」
息が荒くなっているグレイスの頭の中に、あるものが浮かび上がる。
《――回想――》
10年前―――ミスルギ皇国首都 暁ノ御柱B5にて……この当時のリベロ……後のグレイスはある庭園で昼寝していると……。
「リベロ♪」
「ん?」
昼寝しているリベロの元に、サラサラした銀髪、蛋白の瞳、黄金の装飾が付いているドレスを着た美少女が現れた。
「セレス…」
セレスと言う美少女は寝ているリベロの隣に座り込む。
「何を一人で黄昏ているのですか?」
「……別に」
「あなたがエンブリヲの因子によって造られたホムンクルスと言うのが嫌なのですか?」
「それは関係ない、僕はそもそも人類を殺戮する為にDr.ディメントとエンブリヲのDNAによって極限状態まで遺伝子改造された人造人間であり、兵器だ」
「またそんな事を…」
セレスが困っていると……。
≪あ!リベロお兄ちゃんとセレスお姉ちゃんだ!≫
っと別の方から子供たちの声が聞こえてきて、リベロは振り向くとリベロに向かってくる男の子や女の子を含む数人がはしゃぎながらリベロに飛びついてきた。
「うわぁぁぁっ!!お前達!やめろぉぉ!!」
リベロは必死に抗が、子供達は楽しそうな表情をする。その中にまだ生後六ヶ月のホワイトタイガーの子供も飛び付き、リベロの顔を舐める。
「おい!止めろって、止めろってフラム♪」
「フフ♪相変わらずこの子達ったら…」
セレスは微笑ましい表情を表し、子供達を撫でる………しかし、その幸せも長くは続かなかった。燃え盛る町のど真ん中、リベロの怒り声と血に染まったホワイトタイガーが吼える。
「うああああああああああああああああっ!!!!!!!」
リベロは緑に発光する剣で醜く悍ましい化物を切り裂いたり、一刀両断していく。フラムもまたリベロに続くかのように、自慢の爪と牙で化物を殺していく。そしてリベロは天に向かって叫ぶ。
「何故だ!何故なんだエンブリヲぉぉぉぉぉッ!」
迫り来るレギオロイドと化物、リベロは剣で切り払う。
「あの子達は関係ない筈なのに!!?何で!!………何でぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
リベロは泣き叫びながら切り払っていると、何処からともなく大きな音が響き渡る。
「っ!!?」
リベロはその方向を見ると、巨神が現れ、リベロやフラム叩き潰そうと腕を上げると、胸部のコックピットからDr.ディメントが現れ、リベロに不敵な笑いを浮かばせる。リベロはDr.ディメントの表情に、復讐の怒りを燃やす。
「Dr.ディメントォォォォォォォォッ!!!!」
《――回想終了――》
10年前の出来事の一部を思い出したグレイスは、迫り来るラプソディーを睨み付ける。
「ラプソディー………Dr.ディメント………」
「おんや?もしかして思い出しちゃった?そうだよね〜〜♪何せ君の愛するセレスが生体ユニットとされ、君は彼女ごと破壊した。それにまだあるよ♪あの子達をそのまま実験場で…っ!?」
その時、ラプソディーに別の閃光が飛んで来た。タスクがアシッドの腕部ビームガンがDr.ディメントの口を黙らせたのだ。
「黙れ!!それ以上、グレイスに精神的攻撃をするな!!この悪魔め!」
「おやおや?、マナの光の加護を受け取れなかった小鼠の生き残りか…まさかテティスのラグナメイルを使うとは…。なら………死ね♪」
ラプソディーは両腕を分離しタスク目掛けてオールレンジ攻撃を開始した。タスクのアシッドはそれを華麗に回避し、アシッド専用ビームライフルを放つ。ラプソディーは両腕に搭載されている大型ビームシールドを展開し、アシッドの攻撃を防ぎ、五連スプレッドビーム砲を放つ。するとアシッドの前にグレイスのリベリオンが現れ、ケンプファーから放出されるエネルギーフィールドでアシッドを覆い、ビームを防ぐ。
「フンッ!…ちょっとは私のラプソディーに対抗する為に作っておいたのか…」
すると煙の中からリベリオン アトランティカ・フォルムが回転しながら現れ、ラプソディーの後ろに回り込む。
「ソーラーコーラス!!」
グレイスがリベリオンの頭上に太陽光を集め、収束光線を放つが、ラプソディーの装甲表面を覆っているリフレクターシールドに防がれる。リベリオンは急いで空間転移を発動し移動する直後、ラプソディーの背部の円盤が露出展開し、内臓されているユニット『テンタクラス・アーム』が現れ、リベリオンへと伸び、首を締め付ける。
「ぐっ!!」
グレイスは必死にテンタクラス・アームを引き剥がそうとすると、アームから電流が流れ出す。
「うああああああああああああっ!!!!!!!」
そしてグレイスを助けようとだすととガリィがハイドロ砲を放つ。
「無駄だ!」
すると分離した左腕からグレネードが発射され、ハイドロ砲がグレネードに着弾すると、他のハイドロ砲が凍りつき、砕け散る。
「そんなバカな!?」
ダストとガリィは驚き、エグナントは考え込む。
「何故だ…何故儂等の攻撃が効かないのだ?」
そう考える中、ディメントが説明する。
「何をしようとしても無駄だ。完全体となったラプソディーは…貴様ら失敗作の得意能力やそれに対抗できる武装及び、あらゆる計算でお前達の先の行動が読み取れているからなぁ」
ディメントはそう言うと、グレイスを睨み付ける。
「ああ〜………やっとお前を始末できる……10年前のこの姿の怨み!!!」
すると胸部のコックピットハッチが開き、中から悍ましい者が出てきた。
「っ!!」
それは髪が殆ど抜け落ち、肌が白濁した色に変わっており、呼吸器を始めとした様々な機械を体に取り付けていて、半ば機械化したような状態となっており、それをダークグレーの大きなマントで隠した醜いゾンビのような姿になってしまったDr.ディメントであった。それを見ていたエグナント達やアンジュ達、ティアとヒュウガも驚くのであった。
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第三十三話:狂想曲・後編
異形な素顔を露わにしたDr.ディメントは、グレイスを潰そうとラプソディーを動かす。
「痛い…痛いだろ?10年前……不完全であったラプソディーを含め、四人の兄姉を殺そうと、父親であるエンブリヲに刃向かったイレギュラーが!」
「黙れ!お前だけは許さない!セレスを殺し、あの子達を異形な怪物に変身させやがって!!」
グレイスの言葉にアンジュ達は驚く。するとディメントが笑い出す。
「ハハハハハ!!所詮あの子らは私の実験道具だ!そうだ…なら、会わせようじゃないか♪」
するとラプソディーの口部が開き、中から異形な巨人が出てきた。顔は整形に失敗した悍ましい顔であり、あらゆる所にエネルギーチューブが取り付けられていた。
「っ!!マヤ…!?」
グレイスは【マヤ】と少女の名を呟くと、マヤがラプソディーの手を伝ってリベリオンに向かってくる。そしてリベリオンのコックピットハッチを無理矢理引き剥がし、グレイスの首に喰らいつく。
「うああああああああああああっ!!!!!!!!!」
「グレイス!!」
タスクが急いでグレイスの元へ近づいた直後、ラプソディーの口部からまた怪物が現れ、タスクに襲い掛かる。
「タスク!」
アンジュがラツィーエルで怪物を切り裂く。
「くっ!……っ!?」
その時、アンジュの頭の中で子供が泣き叫ぶ悲鳴が聞こえ出す。
「(痛いよ…う……苦し……いよう……ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)」
「っ!!」
突然アンジュが頭を抱え、涙を流す。
「何?これ……??」
アンジュの頭の中にグレイスの過去が浮かび上がる。
「これが…アイツの過去…??」
アンジュの様子にエグナントが語る。
「見たのか?……彼の過去を……」
「……」
「…………今はそれより、彼を助けるのが先だ!」
エグナントが血を吸われているグレイスを見る。
グレイスはマヤを引き剥がそうと抗う。
「そうだ!……お前はもう、あのマヤじゃねえええええっ!!!」
グレイスの叫びにリベリオンのツインアイが光だし、ヴァルキュリー・テンペストをマヤに雷撃を落とす。マヤはグレイスから離れ、雷撃により、灰になる。翠色のオーラを放つグレイスやリベリオン。特にグレイスは血の涙を流しながら、ラプソディーを睨み付ける。
「ディメントォォォォォォォォッ!!!!」
グレイス…嫌、リベロは10年前の悲劇を思い出す。紅蓮の焔の中で血を流すセレスを抱いており、醜く改造された子供達が彼女の血肉を求めていた。赤いアーマーをしたリベロはZブレードを向け、威嚇する。
すると穢れた子供達が一斉にリベロとセレスに襲い掛かる。リベロは歯を食いしばり、子供達を切り裂く。
グレイスはラプソディーに向かって行き、ビームを回避して行き強烈な拳を与える。対するディメントは胸部の拡散ビーム砲から大出力のビームを放つ。たがリベリオンは拳からエネルギーフィールドを展開し、ビームを分解・無効化する…………。
リベロはリベリオン ゼムリアン・フォルムで子供達を殺していった。彼は泣きながら、この子達の夢を思い出していく。
(僕ね、大きくなったら建設者の社長になりたいんだ♪)
建設者になりたかった少年【タカキ】が醜く穢れた野獣へと変貌し、リベロの左腕に噛み付く。リベロはタカキを振り払い、頭部を刺す。
「タカキ………」
(私は服を作る仕事をして見たいなぁ、けど……マナの光ならあっという間だけど、いつか大きくなって、お嫁さんになって、その人に手作りのセーターを作ってプレゼントしたいの♪)
良い家庭を夢見ていた少女【メリッサ】が醜く穢れた蟷螂へと変貌し、鋼をも切り裂く鎌でリベロに斬りつけてくるが、リベロはメリッサの頭部を掴み、地面に叩きつけ、心臓を刺す。
「メリッサ………」
(私も!メリッサと同じ綺麗なドレスを着て結婚したい!)
メリッサと同じ夢を抱いていた少女【ファリーン】が醜く穢れた土蜘蛛へと変貌し、口から蜘蛛の糸を吐き、リベロを抑えつける。
(僕は……旅をして見たい、いろんなところを回って、体験したことがない事をやってみたい♪)
世界一周の夢見ていた少年【キク】が醜く穢れた大猿へと変貌し、豪腕でリベロを潰そうとしたが、リベロはZブレードを振り回し、豪腕を両断し、ファリーンごと振り回し、キクへ放り投げた。そして高速でファリーンとキクの体をバラバラにする。
「ファリーン……キク……!!」
リベロは悲しみに満ちあふれ、襲い掛かる子達を殺していった……。
グレイスは血の涙を流すと同時に、リベリオンのツインアイからオイルが流れ出ており、泣いているかのように思う。ズタボロとなっているラプソディーは関節部から火花を放ちながら立ち上がろうとする。
「バカな!!?完璧のラプソディーがこんなに簡単に!!?」
ディメントが呟いていると、何処からか歌声が聞こえてくる。
「♪〜♪〜」
「っ!!この歌!」
上空を見ると、サラマンディーネが乗っている焔龍號とアンジュのヴィルキスが異空間の方へ向かっており、互いは相互の歌を使い、収斂時空砲を放つ。二つの収斂時空砲が異空間に直撃すると異空間が消滅する。
「クソ!!あともう一歩というのに、っ!!?」
その時、リベリオンがラプソディーの頭頂部を掴み上げる。
「これは………あの子達と、セレスの痛みだ!!!」
リベリオンのパドルデーゲンがラプソディーの胸部を突き刺そうとした直後、ラプソディーの頭頂部が露出展開する。
「?……っ!!?」
その頭頂部を見たグレイスが冷や汗をかきながら、行動を止める。
「どうした?……グレイス!」
「ハァ!…ハァ!…ハァ!!」
荒い息を吐くグレイスは手を震わせる。っと、ディメントは隙を付き、リベリオンを払いのけ、直ぐに頭頂部を収納する。
「フフフ……とどめだぁぁぁぁぁぁぁ!!……っ!!?」
突然ディメントの様子が一変する。胸や顔を抑えつけ、苦しみだす。
「ぐうううぅぅぅぅ!!!??おおおおおおおおおおおっ!!こんなっ!!……時にいいぃぃっ!!……“アイツ”が私に掛けた呪い【大罪の呪縛】がぁぁぁぁぁっ!!」
「え?」
ディメントが放った言葉に疑問を持つグレイス。ディメントが苦しむ姿を見るエグナント達。
「やった!さすがグレイスだ!」
「……嫌、俺じゃない」
《え!?》
グレイスがやっていない事に気づくエグナント達。するとディメントが途轍もない眼差しでグレイスを睨む。
「お……お前……お前だぁぁぁぁぁっ!!お前をあの時……マインドコントロールが済んでいればぁぁぁ!!私の復讐が完璧だった筈!!そう!あの忌まわしき私の宿敵!!【皇帝ブリタニア】に!!」
「【皇帝ブリタニア】……?」
ディメントは謎の言葉を告げ、その場から消えた。
事態が一段落して、ヴィヴィアンはラミアに抱き付きながら泣きついて、ラミアもヴィヴィアンを抱きながらヴィヴィアンの頭をなでていた。
その様子を集まったエグナント達が優しく見守っていた。
そしてグレイス達がアウラの塔の前に集まって話し合った。
「何とか収まったみたいだ」
「ええ、そうね」
グレイスの問いアンジュも頷きながら言い、サラマンディーネも頷きながら言う。
「あなた達のお蔭で、民は救われました。本当に感謝しますわ、グレイス、タスク殿、アンジュ」
「良いさ、僕達はヴィヴィアンを助けるのもそうだが…、僕的には…あなたを手助けしたかっただけです」
っとグレイスのその言葉にアンジュは「何それ?」と言わんばかりの表情をし、アンジュの考えが分かったタスクは思わず苦笑いする。
その中でもサラマンディーネは自分でも少しばかり信じられない表情をする。
アンジュはサラマンディーネの言葉に意味が分からなかった。
「貴女が歌ったのは、嘗てエンブリヲがこの星を滅ぼした歌…。貴女はあの歌を何処で…?」
「お母様が教えてくれたの、どんな時でも進むべき道を照らす様にって」
アンジュは自分の歌を教えてくれた母の事を言い、それにサラマンディーネは言う。
「なるほど、わたくし達と一緒ですね?」
「えっ?」
「【星の歌】…私達の歌もアウラが教えてくれた物ですから。…何て愚かだったのでしょう、貴女は私の所有物だなんて…」
「まっ、こいつは上の立場には慣れている方だからな。上に立つ者が皆を動かす指導者、誰かを救う為に何をするべきかをよ~く知っているからな」
グレイスはアンジュを見ながらそう言い、それにアンジュは少々照れくさそうに顔を逸らす。
そう話す中でサラマンディーネは髪をおさえながら言う。
「アンジュ…私はあなたのお友達になりたい、共に学び…共に歩く友人に───」
「長いのよね~、サラマンデンデンって…」
「えっ?」
っとその事にグレイス達はアンジュの方を振り向き、アンジュはサラマンディーネの方を向きながら言う。
「『サラ子』って呼んでいいなら」
「えっ…それってアンジュが呼びにくいからじゃ…」
「何よ!文句あるの!?」
アンジュはタスクの門文に睨みつけ、それにタスクは思わず引いて仕舞い、サラマンディーネはそれに少々困り果てる様子になった。
っとその時にグレイスが…。
「『サラ』さん…」
「「「???」」」
「僕…、君の事をサラさんって呼んで良いですか? 君は…声も見た目も綺麗だし…それに…その~…」
グレイスは言葉を必死に探そうとしたがどう探せばいいか見つからず、それにサラは微笑みながらグレイスに言う。
「構いませぬ♪嬉しいです…綺麗で可愛い名前で♪」
「\\\\っ!!?」
グレイスはサラの可愛らしい笑顔を見て、顔を真っ赤になった状態で頭から湯気を出しながら倒れて仕舞い、それにタスクは大慌てになる。
「うわ~!!! グレイス大丈夫!?」
「あ〜〜〜〜〜……」
っと混乱状態になって居るグレイスはそのまま気を失い、アンジュはジド目でグレイスを見る。
「…ヘタレ」
「えっ!? アンジュ!それはちょっと酷くない!?」
タスクはアンジュの言葉に思わず驚き、サラは気を失ったグレイスの頭を膝にのせながら頭を優しくなでるのであった。
その頃、ミスルギ皇国地下……急いで撤退したディメントはデスクの上にある資料や機材を払いのけ、瓶に入っている薬を頬張り、飲み込む。
「カハァッ!!!……ハァ!!ハァ!!ハァ!!……ハァ…ハァ……」
ディメントは深呼吸しながら、呼吸器を付ける。するとエンブリヲが後ろから声をかける。
「辛い?」
「?……エンブリヲか……」
「どうしたのだ?そんなに慌てて…」
「失敗作がさらに上へと上昇した。奴は想像も出来ない程のパワーが上がっている。」
「……三人を出すか?君がパワーアップさせた彼らに?」
「…………そうするつもりだ。私のこの顔の怨みは、収まらないからなぁ……」
「フフフ♪」
「何が可笑しい?」
「嫌、君は面白い奴だからだよ♪」
エンブリヲはそう呟き、去ろうとすると…。
「それと、ドラゴンのスパイが潜り込んでいる。」
「……近衛長官か?」
「あぁ…」
そうエンブリヲは告げ、その場から消えた。一人となったディメントは三つのカプセルの中で眠っているヘリオス達を見る。
「もうすぐだ…………もうすぐ私の悲願が成される。私をこの様な人生にし、地獄の様な牢獄へ追いやったあの皇帝や家族、そして奴らにに復讐してやる……既に残党である“彼ら”とのコンタクトは録っている。後は彼らがあの兵器を持って来れば良いだけだ♪それだけの金はもうあるからなぁ……それに…」
ディメントはそう呟き、デスクの上にあるガラス箱を見る。それはグレイスから抜き取ったメモリチップであった。
「私の計画の事はエンブリヲやあの女達には知られていない……これがもし、奴の手に渡って戻れば……万事休すだ。」
ディメントはそう呟き、マナの光で資料や計画、さらに設計図や新たな兵器を開発するのであった。
丁度同じ頃、ミスルギ皇国とローゼンブルム王国近海間の上空に以上なワームホールが現れ、中から見えない何かが飛び出してきた。そしてその何かがタスクが住んでいた孤島に着陸する。すると見えない何かが光学迷彩を解除する。それは、白銀に覆われた装甲をした鬼神と戦乙女であった。コックピットハッチが開き、中から全身フードとマントで身を隠している二人の男女が現れた。
「貴方、この時空に奴が隠れているのね?」
「あぁ、間違いない。奴はトリリウム採択場の牢獄から脱走し、師匠の父君のギャラリック・リングを使ってこの次元の世界に逃げ込んだ。それの足跡を追っていたから間違いなくここだ。」
「皮肉ですね、彼はもう居場所がないのに……」
女性は悲しい表情をすると、男性は腕のデバイスを開き、調べる。
「考えても仕方がない、早く奴を捕らえないと……この世界や、宇宙が…大変なことになる。それに…」
男性はフードを脱ぐ。デバイスである資料を見る。
「project【アドベント・オブ・チルドレン】……これが本当なら、奴はエンブリヲを【赤子の手をひねるが如く】利用している。阻止しないとな…シンディ…」
「そうね♪勇人…いいえ、私の旦那様♡」
勇人とシンディ……クアンタの皇帝と皇妃である二人が、今……グレイスの世界を守りにやって来たのであった。
「それより良かったのか?二人をお義父さんとお義母さんの所に預けて………」
「大丈夫♪勇人と私に似て大人しいですから♪」
「そうか?師匠やエミリアさんにも頼んでいるからなぁ。」
勇人はシンディの両親の故郷に預けている二人の息子達を心配するのであった。すると勇人は鞘から“神刀 スサノオ”を抜き取り、奥義を放つ。
「奥義! 覇王突風斬!」
勇人はレオンに教わった奥義【覇王突風斬】を放つ。スサノオから突風の衝撃波が海を裂き、モーゼの様に道を切り開いた。
「またレオンさんの奥義を…」
「仕方ないだろ、師匠の奥義は威力がデカすぎる。そしたら奴にバレるだろ?」
「それもそうですね♪」
「うん、それじゃ先ずは崩壊したアルゼナルへ向かおう。決して彼女らや特にアレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツに気づかれない様に…」
「えぇ♪」
勇人とシンディは光学迷彩を起動し、鬼神であるアダムと戦乙女である新型インフィニットメイル『イヴ』に乗り込み、アルゼナルへ向かうのであった。
まさかの勇人とシンディがスケットとして来てくれた!果たしてDr.ディメントは何を企んでいるのでしょうか?次回もお楽しみに!!
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第三十四話:黒きラグナメイル・前編
ディメントを撃退して翌日後、滝の近くでグレイスとタスクはエグナント達の元で話し合いを行い、そこでサラから聞いた事を話していた。
「サラさん達がミスルギ皇国に侵攻…?」
「えぇ、姫さんからの話では、彼女達のアウラがミスルギ皇国の機密区画の地下で発見したと言う報告を聞いて…」
それにグレイスは驚きの表情を隠せない。
アンジュの故郷であるミスルギの地下にアウラがいる事を聞いて、驚かない者はいない。
「それでアウラの民たちは明朝、ミスルギ皇国に向けて進攻し。我々もリュミエールを引き連れて向かいます」
「リュミエール?そう言えば、リュミエールの姿がないんだけど、何処にあるんだ。」
っとグレイスがエグナントの言葉を聞いて問い、それにエグナントは頷いて言う。
「ある場所に隠していましたからね。彼処に」
エグナントの指差す方向にグレイスは思わず唖然とする。
そして同時に風呂に入っているアンジュはサラにミスルギ皇国に侵攻の話を聞いて、アンジュはそれに問う。
「それを聞かせてどうするの? 私に戦線に加われっとでも言うつもり?」
「…まさか、貴女は自由ですよ?アンジュ。この世界に暮らす事もあちらの地球に戻る事も…。勿論我々と共に戦っても貰えるとなればそれ程心強い物はありませんが。明日の出撃の前に貴女の考えを聞いて置きたくて…」
「私の…?」
アンジュはそれに頭を傾げ、それにサラは頷く。
「グレイスやあなた達は、民を救っていただいた恩があります。出来る事なら何でもお手伝いしますわ」
アンジュはそれを聞いて少しばかり考えいた。
これから自分はどうすべきなのか、どうするのかを…。
そして外でグレイスは外で止めてあるタスクのアシッドの整備をしていて、タスクはアンジュの話しを聞いていた。
「そっか…、アンジュさんもその話しをしていたんだね」
「『も』って事はそっちも?」
「ああ、僕達も先生からアウラの事を聞いてな…」
グレイスがその事をアンジュに言い、それにアンジュは黙って聞いていた。
「でもエグナントの言う通りかもね、アウラを取り戻せばエンブリヲの世界に大打撃を与えられるのは間違いないからね──」
「それでいいのかしら…」
っとアンジュのその言葉にグレイス達は振り向く。
「信じられないのよ…」
「え? サラさんの言葉がですか?」
「何もかもが…」
アンジュは空を見上げながら言い、それにグレイスはアンジュの方を見る。
「ドラゴンが人類世界に侵攻してくる敵だって言うのも嘘、ノーマの戦いが世界の平和を守るってのも嘘…あれもこれも嘘ばっかり。もうウンザリなの」
「.....確かに、言われてみればそうですね。けど、ドラゴンも人間。僕はもうドラゴンも狩らない。自分の意思で決めてます.....」
「貴方はそれでいいわよ....、でもドラゴン達と戦って、それが間違いだったとしたら、それにだいたい元皇女がドラゴン達と一緒にミスルギ皇国に攻め入るなんて、悪い冗談みたい」
その事にグレイスは顔を合わせて黙り込み、そしてアンジュは自分の腕を掴みながら言う。
「…分からないわ、何が正しいのか。」
「誰も分からないよ。何が正しいかなんて…」
っとタスクが突如その事を言い出し、それにアンジュとグレイスは振り向く。
「大切なのは、何が正しいかじゃなくて....君がどうしたいか...じゃないかな?」
そう笑顔で言うタスクにアンジュは心をゆさぶられ、聞いていたグレイスは納得する。
そしてタスクはアンジュに今の気持ちを伝える。
「君は自分を信じて進めば良い、前にも言ったけど…俺が全力で支えるから!」
「…タスクさん、告白っぽく聞こえましたよ?それ」
「えっ!?」
グレイスの言葉にタスクは思わず振り向きながら驚いて、そのやり取りの中でアンジュは少し頬を赤くして髪をいじくる。
「バカね…そんな自分勝手な理屈が通じる訳ないでしょう?」
「えっ?そう?」
タスクはそれに振り向き、そしてアンジュは安心するかの様な雰囲気を見せる。
「でも救われるわ、そう言う能天気な所」
「フッ、お褒めに預かり。光栄で、すっ!!?」
すると足下に転がっていたドライバーをタスクは踏んでしまって、その一部始終を見ていたグレイス。
「あ、ドライバー…」
「えっ?ぐあああ!!!」
「え!うあああ!!」
タスクはアンジュを巻き込んで倒れ込んで、そこに運悪くヴィヴィアンがやって来た。
「皆!皆! お母さんがお礼したいって!」
煙が晴れると、そこにはアンジュがタスクに上になって、頭に自分の股を当ててる風な感じだった。
「タスクさん、また君という人は…」
グレイスは呆れながら呟き、ヴィヴィアンは頬を少し赤くして「いやん♡」と可愛らしいポーズをとった。
タスクはそのままもがいてしまう。
「っ~~!?」
それによりアンジュは真っ赤な顔になっていく。
「くっ~~~~!!! この!!!永久発情期が~!!!」
バコン!!!
アンジュの鉄拳がタスクを吹き飛ばしてしまう。
「あ~~~~~れ~~~~~!!!」
そしてそのまま場外へ飛んで行き、崖の下の川に落ちてしまった。それを見ていたグレイスが慌てる。
「え!?…ちょっ!!?…うわあぁぁぁっ!!タスクさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!」
グレイスは川へ落ちたタスクの元へ駆けつけるのであった。
そして夜となり、町の人々がグレイスにお礼のバーベキューをしてくれて、ラミアがグレイスにお礼を言った。
「本当にありがとうございました、街と私達を護って頂いて」
「いえ、俺達はサラマンディーネを手伝いたかっただけですから。ただ…」
グレイスは崩壊している街の一部を見て、辛い表情をしてしまう。
「俺達は守れなかった者がたくさんあります…」
「それでも、私達を護ってくれた事には変わりありません。さっ、どうぞ冷めない内にどうぞ」
ラミアはお肉をグレイスに渡し、それにグレイスは受け取る。
「ありがとうございます」
一方、川から無事救助されたタスクはあちこち包帯を巻いていた。
手が使いないタスクにアウラの民の女たちがタスクにお肉を食べさえていた。
「はい、あ~ん♪」
「あ~ん、はむはむ…」
タスクが食べてくれた事にその女たちは喜んでいた。
「うわ~!食べてくれた~♪」
「男の人って可愛い~!」
「えっ? そ…そう」
っと思わずタスクは笑みを浮かばせながら照れてしまう。っとそこに……。
「楽しそうね」
『あっ』
タスク達は運悪くアンジュがその場にやって来た事に固まり、そしてアンジュの右手に何やら見覚えのある形をしているバーベキューのお肉串を持っていて、アンジュはその先端のキノコをかぶりつく。
ガブッ!!
「痛い!!??」
タスクは思わず自分の股をおさえ、女たちは悲鳴をあげてその場から逃げて行く。
それにアンジュは鼻で笑い飛ばし、タスクのそばまで行って隣に座る。お肉を差し出す。
「はい、あ~ん」
「えっ?」
「何?いらないの?」
アンジュの行動にタスク達は少々戸惑いを隠せない。
「えっ?…な、何で?」
「手、使えないんでしょう? 少しやり過ぎたわ」
っとアンジュは頬を赤くして、申し訳ない表情をしながら謝る。
「こ、このくらいどうってことないさ。アンジュの騎士は不死身だからね」
タスクはそれに苦笑いしながらもアンジュが差し出したお肉を食べる。
「うん!美味い! アンジュが食べさせてくれると格別だね!、それに一気に直る気がするよ!」
「バカ…」
その事にアンジュは呆れ返り、笑みを浮かばせる。
そしてアンジュは街を見渡して、タスクがアンジュに言う。
「良い所だね」
「モテモテだもんねあんた、周りから見て一番…」
「えっ!?いや!そう言う意味じゃ…?!」
タスクは慌てて言うも、彼が言う言葉には説得力がない。
しかしアンジュはそう言いながらも、タスクの言葉に同意する。
「でも本当に良い所、皆助け合ってる生きている…あっ、そっか」
「ん?どうしたのアンジュ」
タスクがアンジュが何かに気付いて問い、アンジュはそれに答える。
「アルゼナルみたい…なんだ」
その事にタスクは理解した表情を示し、そしてアンジュは立ち上がる。
「私…帰るわ。モモカが待ってるわ!」
「それが....貴女の選択なのですね。また...戦う事になるのですね? 貴女と」
「サラ子...」
「やはり危険です!この者達は我々の事を知り過ぎました!」
ナーガは後ろにある刀を手を伸ばしてアンジュ達を警戒する、それをカナメは止める。
「でも!グレイスさん達は都の皆を救ってくれたわ!」
「それでもこの間まで殺し合っていたんだぞ? 拘束するべきだ!」
ナーガとカナメの言い合いを聞いていたアンジュ達、アンジュは決意を決めた表情で言う。
「...私は、もうあなた達とは戦わないわ」
「ほら!私達は…えっ?!」
その言葉にナーガは思わず驚き、マティス達もそれに頷いて言う。
「そうだ、アンジュの言う通り、俺達もあんた達とは戦わない」
アンジュの言葉を聞いたサラは微笑みを浮かばせて言う。
「では明日開く特異点により、あちらにお戻りください。必要ならばカナメとナーガを護衛に付けましょう」
「さ!サラマンディーネ様!?」
ナーガはそれに問うも、タスクが言う。
「大丈夫、俺達はエグナントさん達と一緒に行くから…」
「そうですか....お達者でアンジュ。戦いが終わりましたら、何時かまた決着を付けましょう...」
「ええ、今度はカラオケ対決でね」
っとアンジュとサラは握手をして、それにタスク達は苦笑いをしながら見届けていた。
「そう言えば、アンジュ…エグナント殿達が貴女方を呼んでいらしていました。」
「「?」」
エグナント達に呼び集められたアンジュとタスクとグレイス、勿論ヴィヴィアンも。集まった場所は大きな空間もある部屋であり、そこに大きなポータルがあった。
「そこの上に立て……」
グレイス達は普通に立つ。
「何するつもりなの?」
アンジュはエグナントに問うと、本人が説明する。
「良い所だ。絶景にもなるし、慣れれば楽しい所だ。グレイスは……知っているだろ?」
「えぇ♪リュミエールもそこにあるですね」
「リュミエールって………あの船の事?」
「あ!そう言えば全然見ていない!?」
「それが……凄い場所にだよ」
「「え!?」」
グレイスの言葉にアンジュやタスク、ヴィヴィアンは首を傾げると、ポータルが光り出し、グレイス達が消えた。
そしてグレイス達は何処かの空間へワープした。
「何!?」
「着いたぞ…」
エグナント言うと、セシルがある物をグレイスに渡す。
「これ着てね♪」
渡されたのは白くて分厚いスーツとヘルメットであった。グレイス達はそのスーツを着る。
「これ動かしにくいわ」
アンジュがスーツの事で嫌な表情をしているが、ヴィヴィアンは飛び跳ねようとジャンプするが、
「重い!」
「まぁ待ってヴィヴィちゃん♪今から面白い事になるから♪」
セシルがコンソールのスイッチを押す。すると飛び跳ねていたヴィヴィアンが空高く飛ぶ。
「オホッ!!?」
「何!?え!?うわあぁぁっ!!?」
突然の重力によってグレイス達が宙に浮かぶ。
「これが…重力の感覚。」
すると通路が現れ、エグナントが蔓を伸ばし、アンジュ達を下に降ろす。通路の端にあるレバーを伝って移動する。
「ここは何処なの?」
「すぐ分かる……」
エグナントがそう言っていると、通路の最終地点に到着し、扉が開く。
「ようこそ!モーント・ウィガーへ!」
突然の声にグレイス達は前を向く。そこには艦長帽と白と黒の色に塗り分けられた軍服を着たアカリがいた。
「アカリさん!?」
「どうじゃ?妾の隠れ家は♪」
「ちょっとあなた、ここは何処なの?それとさっきの重力とこの暑苦しいスーツは何?」
「うむ♪良い質問だ!このモーント・ウィガーは500年前……嫌、正確な年数は約800前じゃな♪」
「「えぇっ!!?」」
するとアカリが立っている後ろのハッチが開き、目の前にある物が写る。
「え!?」
「嘘!?」
「ほえ?」
二人は驚く。何故なら二人の目の前に、青く輝く地球があったのだから。
「あれって!?」
「そう♪お主達がさっきまでいた真実の地球じゃ♪そしてこのモーント・ウィガーは……800年前からずっとこの月面にあった基地……【ルナ・ベース】じゃ!」
アカリの言葉にアンジュ達は驚く。ここはいつも夜の地球を照らしていたあの…月である事に。
「まさか、ここが月!?」
「そうじゃ♪ここから青く輝く地球を眺めるのが素晴らしいじゃろ?あの姫さんはここに来るのが苦手でね〜〜♪」
「サラ子が?」
「彼女もここを見てびっくり仰天していたよ♪」
「でもこんな施設が800年前もずっとあるなんて…」
「実はこの施設には理由があったね……“未知との遭遇”がまだなのじゃよ」
「「「「“未知との遭遇”?」」」」
「タスク、姫さんと会ってこの星についての事を話していたじゃろ?」
「あぁ…」
「そん時に、妾が『並行宇宙に存在したもう一つの地球、一部の人間がこの星を捨てて移り住んだのが、別宇宙にあるもう一つの星』って言った事を覚えているじゃろ?」
「そう言えばそんな事を…」
「実はこの月で、ある物が発掘されたのじゃ」
アカリがデバイスのスイッチを押すと、立っていた場所が開き、中きらガラスプレートで守られた石碑が出てきた。
「石碑?」
「うむ、この石碑はうちらが生まれる数億年もある物じゃ」
「数億年も!?」
「この石碑は普通の石碑ではない、うちらの技術やこの星の物でもない……別世界の物だ」
「「別世界の物?」」
「この石碑の内容はこう書かれていたのじゃ……“大厄災ズァーク率いる大帝国を滅ぼした荒ぶる神【荒神】と星護し神【護星神】は勝利を収めた。”」
「荒神と……護星神?」
「別世界に存在する“神”の事だ。」
アカリの言葉にアンジュが呆れる。
「神って…そんなの信じるの?」
「信じるも何も………荒神と護星神は、実在する……絶対に……。っで、うちは彼らとのコンタクトを録ろうとこうやってこの基地から信号を発しているんだが……何も応答がないのじゃ」
アカリはそう言いつつ、石碑を見るのであった。
その頃、アンジュのいる世界では……崩壊したアルゼナルのあちこちを見て回る勇人とシンディ。二人はアルゼナルに転がっている死体を燃やしていた。
「彼女達に、神の道標があらん事を…………」
勇人とシンディは天へ昇る炎を見て、祈る。すると岩陰から物音がし、勇人とシンディはスサノオと細剣を抜き取る。岩陰から現れたのはジル達で、ヒルダ達がライフルを構える。
「(師匠に言われてたのに……最悪だ)」
勇人は彼からの教えに深く祓いしていると、ジルが言う。
「貴様ら、何処から来た?」
「「…………」」
しかし、ジルの問いに二人は応えなかった。
「武器を捨て、おとなしくっ!!?」
その直後、勇人がスサノオをジルの首に近付ける。
「……遅い」
勇人はそう呟き、シンディと共に姿を消した。
「っ!?」
「アイツらは!?」
「何処行きやがったんだ!?」
「……何者だ、アイツらは………(あの力、明らかにエンブリヲに近い……)」
ジルはそう呟き、右腕の義手を握りしめるのであった。
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第三十五話:黒きラグナメイル・中編
早朝…、アウラの民がアウラを奪還するべく総力を持って進攻する為、戦力を集結させていた。
その様子に外に居たタスク達、その中でヴィヴィアンは感心していた。
「うお~!ドラゴンのフルコースなり~!」
「正に総戦力だ…。」
「凄い…」
グレイスも納得していると、するとタスクの耳元にドクターゲッコが....。
「タ〜ス〜ク〜さん♪」
「ぞぉ~!?」
タスクはビックリして見て、ドクターゲッコーはタスクの腕に抱き付く。
「もっと人型の成人男性を観察するいいチャンスでしたのに、残念です♪」
「あ、そうですか......」
「次回は是非、私と交尾の実験を.....」
アンジュがタスクの首根っこを引っ張って、ドクターゲッコーに言う。
「御免なさいドクター、これは貴女の実験用の珍獣じゃなくて。私の『騎士』なの」
「えっ?」
「あ、はい....」
アンジュの言葉にタスクとドクターゲッコは唖然とし、タスクとアンジュの様子にヴィヴィアンは思わずからかう。
「ヒューヒュー♪」
二人の行動にアンジュは思わず頬を赤くして、すぐさまヴィルキスの元に行く。
「ほ!ほら!!行くわよ三人共!!」
「あ、ああ」
「お~!」
慌てて追いかけるタスクとグレイス、テンションよく付いていくヴィヴィアン。
そしてドラゴン達が集結して、大巫女が皆の前に現れる。
グレイス達は大巫女の姿を見て唖然とする。
「あれが大巫女…?」
「見た目は全く子供じゃん」
そして大巫女はアウラの民達に宣言をする。
「誇り高きアウラの民よ、アウラと言う光を奪われ幾星霜…ついに反撃の時が来た。今こそエンブリヲに我らの怒りとその力を知らしめる。我らアウラの子!例え地に落ちてもこの翼は折れず!!」
その言葉にドラゴン達は雄叫びをあげて、それにヴィヴィアンもつられるように興奮しながら吠えた。
宣言が終えてサラは焔龍號に乗り込み、皆に告げる。
「総司令!近衛中将サラマンディーネである! 全軍出撃!!」
焔龍號が発進して、それに続くかの様にナーガとカナメの蒼龍號と碧龍號が続き、ドラゴン達もその後を追いかけるように出撃した。
「さて!うちらも行くぞ!リュミエール、発進!!」
アカリが元気よくエグナント達に命令を出し、リュミエールが空へ浮く。そしてヴィヴィアンは巨獣化したセシルの背に乗り、見送っているラミアに言う。
「行ってきまーす!」
特異点に向かっている中でタスクが妙に笑っている事にアンジュが気付き、通信で問う。
「何?気持ち悪い」
「ああ、いや嬉しくてさ。君が俺の事を騎士として認めてくれたのが」
「あぁ~、その事ですね」
グレイスはタスクの考えてる事に納得するかのように頷く。
そしてヴィヴィアンがある事を問う。
「ねえねえ、ドラゴンさん達が勝ったら戦いは終わるんだっけ?」
「えっ?ああ…多分そうだね」
「そしたら暇になるね、そしたらどうする?私はね、戦いが終わったら皆をご招待するんだ。あたしん家に♪皆は?」
ヴィヴィアンは次にタスクに問う。
「ねえ!タスクは?」
「えっ?俺~? 俺は…海辺の綺麗な街で小さな喫茶店を開くんだ。アンジュと二人で…店の名前は天使の喫茶店アンジュ、人気メニューはウミヘビのスープ……」
「あの、タスクさん…」
「えっ?何?」
グレイスに問いかけられたタスクはグレイスの方を向く。
「そのメニューはやめた方がいいですよ、それにあんまりアンジュさんの事ばっかり言っていますと殺されますよ」
「えっ…それは確かに。あっ!でもまだ他にあるんだ。二階が自宅で子供が四人……」
「ヴィヴィアン、殺していいわよ」
っとアンジュが機嫌悪いして、ヴィヴィアンに言い、それにヴィヴィアンは「ガッテン!」と言って銃を取り出してタスクに向ける。
「あ、嫌!………俺はただ、穏やかな日々が来れば良い…ただそう思ってるだけさ」
グレイスとアンジュはタスクの言葉にただ黙って聞いていて、次にヴィヴィアンがグレイスとアンジュに問う。
「ねえ!グレイスとアンジュは?」
「私は…」
「僕は…」
そしてカナメが皆に言う。
「特異点開放!!」
すると皆の目の前にシンギュラーが解放されて、それにとヴィヴィアンが見開く。
「凄い…」
「おお~!開いた!」
開放と共にサラがドラゴン軍に向かって叫ぶ。
「全軍!我に続け!!」
その言葉と共にとドラゴン達はシンギュラーに突入して行き、向かっている中でアンジュはタスクが言った言葉、喫茶アンジュの事を考える。
「(悪くないかもね…喫茶アンジュ)」
そう思いながらも皆はシンギュラーに向かって行き、リュミエールも付いていった。
そしてシンギュラーを抜けてグレイス達は見渡す。
「ここは…」
「ここでクイズで~す! 此処は一体どこでしょうか!クンクン…正解は!あたし達の風、海、空でした~!」
そしてリュミエールもシンギュラーを抜けて、エグナントも自分達の世界に戻って来た実感を感じる。
「ようやく戻って来たんだ…」
「ええ…」
その中でアカリは何やら不吉な表情をして警戒をしていて、すぐにエグナント達に言う。
「みんな!警戒態勢じゃ!!」
それにグレイス達はアカリの方を見る。
アンジュは自分の世界に戻って来た事に思わず嬉しさが出る。
「戻って来た…戻って来たのね」
一方サラは座標が違っている事にすぐに問う。
「到着予定座標より北東4万8000…?! どうなっているのですか!これは!」
「分かりません…!確かに特異点はミスルギ上空に開く筈…!」
っとその時サラの機体のレーダーに警告熱反応が表示され、それにサラは前方を見る。
すると目の前にミサイルが無数に飛んで来て、それにドラゴン達は光の盾を展開し防御する。
「何事!!」
煙が晴れた途端に無数のドラゴン達が海に落ちて行き。
ガレオン級が吠えた途端に緑色のビームがガレオン級の頭部を吹き飛ばして撃ち落とす、それにサラは目を見開く。
「あれは…!」
サラが目にしたのは、数十機のパラメイルや空中に浮遊する艦隊を引き連れているあのラプソディーがいた。
それにリュミエールに居るエグナントは思わず表情を歪める。
「くっ! エンブリヲめ…やはり待ち伏せをしていたか…!!」
ラプソディーに搭乗しているディメントは笑みを浮かばせて、引き連れているノーブル四天王とある部隊の者達に言う。
「コーパス艦隊!攻撃を開始せよ!!!」
っとディメントはノーブル四天王とある部隊、そしてコーパス艦隊はドラゴン達を攻撃するため行動を開始した。
それにドラゴン軍達は散開し、ナーガとカナメはサラに通信を入れる。
「サラマンディーネ様!これは!?」
「待ち伏せです…!」
サラが言った言葉にナーガとカナメは驚きを隠せない。
「待ち伏せ?!」
「では!リザーディアからの情報は…!?」
「今は敵の排除が最優先です!!」
そう言ってサラ達は龍神器達を駆逐形態に変形させて、ドラゴン達に言う。
「全軍!!敵機を殲滅せよ!!」
サラが先頭に進み、その後にナーガやカナメもあとに続く。
そして戦闘が始まり、グレイスとリュミエールに居るアカリ達はその光景に目を奪われる。
「あれは…まさか」
「黒いヴィルキス?!」
アンジュがそう言ってると同時に別の場所、ある拷問部屋で吊るされているリザーディアにラグナメイルとコーパス艦隊とドラゴン達との戦闘を見ているエンブリヲが居た。
「どうだい、君が流した情報で仲間が虐殺される様を。リィザ…いや、リザーディアか?」
「ぅ…」
それにはリザーディアはただ悔しがるだけであり、エンブリヲはそれに笑いながら映像を見る。
そして戦場ではコーパスのドロップシップ【キャリア】から無尽戦闘機【ローカストドローン】が展開され、次々にドラゴン達をレーザーで撃ち落として行く。さらにジェットパックとレーザーライフルを装備したコーパスクルーマン(戦闘員)【レンジャー】。ジェットパックとグレネードランチャー“PENTA”を装備した【ペンタレンジャー】。ジェットパックと照射ライフル“QUANTA”【クアンタレンジャー】がフリゲートから射出され、小型ドラゴンを撃ち落としていったり、腰に装備している電磁サーベルと超高圧電流を帯びた棍棒型スタンロッドを振り下ろし、小型ドラゴン達を無差別に殺していった。
ドラゴン達が次々と落とされて行くのをヴィヴィアンが見て、大声で叫ぶ。
「ああ!!やめろーーーーー!!!!」
「くっ!」
するとグレイスとアンジュがリベリオンとヴィルキスを動かして、最前線へと向かう。
それにタスクが慌ててしまう。
「ちょ!!グレイス!アンジュ!!」
「サラさんを助けに行きます!!あのままにして置きません!!」
「待ってくれグレイス!!相手はエンブリヲだ! 気持ちは分かるけど!!」
「何もしないよりはマシだ! 行くぞアンジュ!!!」
「ええ!!」
そう言ってグレイスとアンジュはそのまま向かって行き、それに釣られるかの様にタスクも向かう。
「待って!ヴィヴィちゃん、しっかり捕まって?」
「おう!」
セシルとヴィヴィアンもグレイス達を追うのであった。
そして戦闘は膠着状態へとなり、サラ達の軍は次々へと落とされて行く。
サラは蒼いヴィルキス『クレオパトラ』と収納ブレードで戦っていた。
「戦力!消耗三割を超えました!!」
「早くも戦況が維持出来ません!!」
「相手はたったの12機ですよ! くっ!」
サラは噛みしめながらも左腕に装備されているビーム砲を撃ち、それをクレオパトラは難なくかわす。
「速い!!」
そしてクレオパトラはサーベルをサラの焔龍號に振りかぶろうとした時に、グレイスのリベリオンがパドルデーゲンで防御する。
「!?」
っとクレオパトラに乗っているライダーは思わず反応し、グレイスはクレオパトラを一気に吹き飛ばして、その中にいるライダーはリベリオンを見る。
「リベリオン…グレイス?」
そのライダーの通信を聞いたアイオロスとプロメテウスとハーミットに乗るヘリオスとアトラスとファントムが振り向く。
「帰って来たか……」
「進化した私達の力……」
「存分に味あわせてやる…」
そしてグレイスは焔龍號の隣に並ぶ。
「大丈夫か!!サラさん!!」
「グレイス!ええ!大丈夫です!」
するとそこにヴィルキスもやって来て並び、それにクレオパトラのライダーは目を開かせる。
「ヴィルキス。アンジュ…?」
アンジュはサラに言う。
「さあ!!此処は私達に任せて引きなさい!サラ子!」
「出来ません!エンブリヲからアウラを取り戻すまでは!」
「何を言っているんですか!サラさん!! 周りを見てください!!この状態ではアウラを取り戻すのは不可能です!!」
っとサラはグレイスの言う通りに周りを見渡すと、戦況が混乱状態であり、とてもじゃないが進攻するのは不可能であった。
「分かるだろう!?だから撤退するんだ!!」
「ですが…!」
『グレイスとアンジュの言う通りだ!』
っとタスクの通信にサラは思わず反応し、迫り来るローカストドローンに向かって、タスクのアシッドがビームライフルで攻撃を仕掛ける。
「今は引いて、戦力を立て直すんだ!勝つために!」
その事をサラは目を開かせて、頭を冷やして操縦桿を握りしめて皆に言う。
「アウラ…全軍!撤退する!! 戦線を維持しつつ特異点に撤退せよ!」
それによりドラゴン軍達は特異点に向かい撤退し始め、それに緑のヴィルキス『テオドーラ』がビームライフルで追撃していた。
グレイスはそれに感づいて、リベットガンをテオドーラに向けて撃つ、それにテオドーラはビームシールドで防御するも、強烈は爆風と吹き飛ぐ。
「ぐっ?!!」
そして同時にアンジュのアサルトライフルのグレネードランチャーが火を噴いて放ち、それをクレオパトラは防御する
再び攻撃しようとした時にライフルの弾が切れた事に気が付く。
「くっ…!」
『アンジュ!これを!!』
っとサラがアンジュに銃剣付きビームライフルを渡し、それを受け取り構えるアンジュ。
「アンジュ。どうかご武運を…」
「良いからさっさと行きなさい!!」
アンジュは怒鳴りながらもビームライフルを放ち、それにサラは撤退しながらグレイスに問う。
「グレイス!あなた達もどうか!」
「いや!僕達は此処に残ります!!奴等を足止めぐらいにはなる! サラさんは先に戻ってください!大丈夫です…必ずまた会えます!だから!」
「グレイス…分かりました! どうかご無事をお祈りします!」
そう言ってサラは特異点へと戻って行く。
そしてグレイスもリベットガンを構えると同時に、三機の巨大な影が現れる。
「っ!?」
その巨大な影は、両翼に二門のプラズマビーム砲、さらに両サイドには怪鳥を思わせるデバイスが装着されており、脚部は本物の鳥状の脚になっているアイオロスであった。
「デカイ!」
高速でグレイスを横切ると、目の前から無数の弾丸の豪雨が降り注ぐ。
「うわぁっ!?」
グレイスやアンジュ、タスク、リュミエールが急いで回避する。リュミエール艦橋ではアカリがガリィとアツマ、オボロに問う。
「何事じゃ!?」
「12時上方から膨大な熱量を感知!これは……アトラスです!」
「馬鹿な!?アイツが遠距離戦をするじゃと!?」
アカリはアトラスが遠距離をして来たことに驚くと同時に、アトラスは上空で螺旋状の砲口を持ったって拡散ビームランチャー【トライデントカノン】をチャージしていた。
「フンッ!たわいも無い……」
アトラスは鼻で笑い飛ばし、トライデントカノンのチャージを終え、拡散ビームを発射する。
アトラスの攻撃を受けるリュミエール。アカリやエグナント達はそれぞれの損害状況を報告し合う。
「グッ!!リフレクターシールドが50%へ低下!アカリよ、これ以上この艦がアトラスやディメント共の攻撃を受ければ!」
「今さら分かってある!じゃが少しでも姫さん達の撤退の時間を稼ぐのじゃ!、うわぁぁぁっ!!」
リュミエールが激しく揺れ、アカリが転ぶ。ローカストドローンやキャリア、コーパスのコルベット艦の爆撃がリュミエールを襲う。セシルが必死にコーパス達を迎撃するが、敵の数に追い討ちを掛けられていた。
「敵が多すぎる!」
「ひぇ〜〜〜っ!!」
セシルとヴィヴィアンは悲鳴を上げながら、敵の追撃が逃げ回る。
そしてアンジュもコーパスクルーマンをバスターランチャーで倒し、飛翔形態へ変形した直後、後方からクレアオパトラが接近する。
「やっぱり…」
「?…」
アンジュはクレオパトラの方を見ると、クレオパトラがフライトモードになり、そのライダーのバイザーが透通って素顔が現る。
その人物はサリアだった事に…。
「どうしてあんたが…」
「!? サリア…!?」
クレオパトラに乗っているライダーがサリアであったことに、アンジュは驚くのであった。
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第三十六話:黒きラグナメイル・後編
そして画面を見ているエンブリヲはヴィルキスを見て、笑みを浮かばせてディメントに連絡を入れる。
「ディメント、ヴィルキスが居た。そしてそのライダー…アンジュを私の元に連れて来てくれ」
『………やれやれ』
ディメントは呆れながら、サリアに通信を入れる。
そしてアンジュとサリアの近くにセシルが飛び交い、ヴィヴィアンはクレオパトラに乗っているサリアを見る。
「サリア…サリアだ!」
「えっ?」
「でも…グレイス!タスク!」
っとヴィヴィアンはグレイスとタスクに通信を入れ、一旦合流したグレイスとタスクはヴィヴィアンの通信を聞いてアンジュとサリアの方を見る。
「サリアさん…!? なんであの人が!?」
「どうして…彼女がこんな!」
「……父君がお連れしたのさ」
グレイスとタスクは目の前に来たヘリオス達がその事を説明し、それにグレイスは問う。
「どういう事だ!!」
「父君がアルゼナルの女たちを説得し、自らこちら側へと引き入れたのだ。あいつ等の名は『ダイヤモンドローズ騎士団』だ」
「ダイヤモンド…」
タスクはその事に言葉を詰まらせ、グレイスは頭を抱える。
サリアがとても考えそうな事だと…。
「たくもう!行こうタスクさん!!」
「ああ!!」
グレイスとタスクがアンジュの元に行き、それをヘリオス達は向かう。
「行かせるか…!」
そしてアンジュはサリアの他にいる人物の事を驚く。
それはレイジアとテオドーラにエルシャとクリスだった。
「エルシャに…クリスも!」
「アンジュ、どうしてあんたがドラゴンと共に戦って…」
「アンジュさん!!」
っとそこにグレイスがやって来て。グレイスはエルシャとクリスの姿を見て驚く。
「っ!? エルシャさん!?クリスさん!?」
「グレイス君…なの?」
「うわぁ…またビックリ」
グレイスが驚いてる中でサリアはグレイスを見て確信する。
「やっぱりあんたもだったのね、グレイス…ん?」
っとサリアの元に通信が入る。
「こちらサリア…えっ? 分かりました…ディメント様。アンジュ、貴女を拘束するわ、色々と聞きたいことがあるから…それとグレイスにタスク。貴方たちは消えて貰うわよ」
「「「!?」」」
グレイス達はサリアの一言に驚き、サリアはエルシャとクリスに言う。
「二人共、良いわね?」
「「イエス、ナイトリーダー」」
『待て』
すると前にディメントが乗っているラプソディーが現れる。
『リベロの方は……私が殺る。』
それと同時に、グレイスからリベロへとなり、リベリオンもゼムリアン・フォルムへと変身する。
「ディメント…」
そしてラプソディーにヘリオスのアイオロス、アトラスのプロメテウス、そして霧の如く姿を現したファントムのハーミットが立ち塞がる。ヘリオスが両翼のプラズマビーム砲を放ち、グレイスはバリアで防ぐ。次にアトラスのプロメテウスがアームガトリング砲を乱射してくる。グレイスはリベリオンをムートロム・フォルムへと変身し、ビームバスターソードを振り回し、弾丸を蒸発させる。次にアトランティカ・フォルムへと変身し、高速移動するが、ハーミットの有線式遠隔支援兵器【セブンテイル】からレーザーが放たれる。
「クッ!」
グレイスはビームブレードを展開し、斬り込むがディメントのラプソディーが立ち塞がる。グレイスはラプソディーにリベットガンを向けるが、トリガーを引かなかった。その様子にアカリが問う。
『どうしたんじゃ!?』
「…………」
しかし、グレイスは応えなかった。おかしいと分かったアカリはリュミエールを移動させ、ラプソディーに近づく。
「っ!!」
「嘘……」
「そんな!?」
「っ!?」
アカリ達は声を殺す。何故なら、ラプソディーの頭頂部が露出展開され、その中にあらゆる機材が取り付けられた………10年前のリベルタスで死んだはずのセレスであった。醜い姿に成り果てているセレスの姿に弟妹であるヒョウマとティアは驚く。
「い…生きて……生きてたのか!?」
「何で……姉さんが!?」
「そうか……あの時の襲撃、グレイスが何故ラプソディーにとどめをささなかったのは……」
「まさかこう来るとは…」
エグナントとアカリはラプソディーに乗っているユニットがあのセレスだとし、先の戦闘で何故ラプソディーを破壊しなかったのか、納得する。ディメントは高笑いしながら、攻撃をやめているグレイスに向けてビーム砲とバルカン砲を構える。
「ハハハハ!!どうした?、腰が抜けたか?」
「黙れ!!……お前だけは、赦さんぞ!セレスの……セレスの亡骸を!!…断じて赦さぁぁぁぁぁんッ!!!」
グレイスの目が獣のような鋭い目付きへと変わり、それと同時にリベリオンのバイザーや至る所の装甲が砕け、ネイキッド(丸裸)リベリオンへと変身した。ネイキッドリベリオンの頭部はパラメイルとは思えない形状であり、灰色の頭蓋骨であり、ツインアイは青から血のような真っ赤に染まりきっていた。
「フンッ……ついに本来の力を出したか。」
ディメントは鼻で笑いながら、コーパス艦隊に命令する。コーパス艦隊はレーザー砲を一斉砲撃して来た。しかし、
「『無駄だ!!』」
ラルスとグレイスが同時に叫ぶと、リベリオンの翼が露出展開し、小型のビームの球体を多数放出し、リベリオンを囲む。レーザーはリベリオンに直撃し、爆発する。
「ん?」
ディメントは首を傾げた直後、爆煙の中から先の小型のビームの球体が現れ、一斉にコーパス艦隊へ放たれた。レンジャーやローカストドローン、キャリアが多数の小型のビームの球体に爆散し、さらにコーパス艦の艦橋目掛けて突進して行く。ヘリオス、アトラス、ファントムはビームの球体を回避しつつ、迎撃していく。
「10年前………我々はこれによって倒された。だが!ここまで強化したアイオロスと!」
「プロメテウス!」
「ハーミットに!」
「「「恐るるに足らず!!!」」」
三人は同時に叫び、それぞれの武装で球体を破壊していく。
「くっ!!」
リベリオンが距離を取ろうと、後方へ下がった直後、ヘリオスのアイオロスが現れ、鉤爪状の脚部を伸ばし、リベリオンを掴む。
「グゥッ!!」
一方特異点では撤退が完了したドラゴン達、サラはまずい状況に立たされているグレイス達を悔しそうに見つめていた。
「アンジュ……グレイス……」
サラは手を握りしめて、特異点は閉じてしまった。
グレイス達はまずい状況に歯を喰い占める。既にコーパス艦隊に囲まれているリュミエール、サリア達の陣形『シャイニングローズトライアングル』というネーミングセンスが無い名前に、アンジュのヴィルキスは拘束されており、アトラスとファントムによってタスクとセシルとヴィヴィアンが捕まっていた。
「私の妹、テティスのシュトローム……返させて貰うぞ!!」
アトラスはトライデントカノンをアシッドのコックピット目掛けて構える。
「タスク!」
アンジュはタスクを助けようと必死にもがくが、三機のラグナメイルに抑え付けられる。グレイスも必死にリベリオンを動かそうとするが、ヘリオスが鉤爪状のクローでリベリオンを握り潰す。
『機体損傷、78.2%へ上昇!これ以上の戦闘は難しいです!』
ラルスが報告するが、グレイスは皆を助けられないことに叫び出す。
「クソォォォォォォォォッ!!!!」
リュミエールの艦橋の前に、ローカストドローンがレーザー砲を構える。
「もはやこれまで…」
アカリやエグナント達は諦めかけた直後、何処からか閃光が放たれ、翠のビームがローカストドローンを破壊する。
「っ!!?」
ディメントはローカストドローンが破壊された事に、リュミエールへ見た直後、コーパス艦隊の三隻が撃沈される。
「何!?」
ディメントは飛んできたビームが上空から降り注いでいることに気付き、上を見る。
「っ!!……まさか…」
すると上空から曙光が照らされ、天空の彼方から現れたのは、神々しい白銀で覆われた鬼神と同じ白銀に満ちた戦乙女であった。グレイス達は突如天空の彼方から現れた二機に警戒する。
「何だ!?あの機体……今までのとは何かが違う!!?」
すると鬼神が腰に付いている長太刀を抜刀し、ラプソディー目掛けて飛んできた。
「アイツは一体?」
『撃ち落とせ!!撃ち落とすんだぁぁぁぁぁっ!!!!!』
「!!?」
突然ディメントが叫びながら、コーパス艦隊に命令する。コーパス艦隊が一気にグレイス達を無視し、向かってくる鬼神へ迎撃に当たっていく。鬼神はコーパスのレーザーの豪雨をすり抜けるかのように回避し、ハイパーノバビームライフルを撃つ。ノバビームにより、ローカストドローンやレンジャー、艦隊がかすれただけで撃ち落とされていく。
『何やってるんだ!!?お前達に金をどれだけ出しているのか分かっているのか!!?』
ディメントは焦りながら、コーパスに怒鳴る。
『じゃあ!お前がやってみろ!!』
『そうだっ!?うああああああっ!!!!』
コルベットにいたコーパスクルーマンが悲鳴を上げ、撃沈された。
「チッ!!役立たずめ!!」
ディメントは舌打ちし、ラプソディーで迎撃に向かう。そしてアダムのコックピットにいる勇人はラプソディーを見る。
「“財力こそ正義”と言うか商業組織のトップめ……今度こそ、牢屋にぶち込んでやる!!」
勇人はそう言い、アマノソウウンガを突き付けると、ラプソディーの通信回線を開く。
『この期に及んで、お前はハーメルンの笛を吹くか……』
「黙れ!!俺の世界をぶっ壊した帝王が!!」
『……どの口がそれを言う?』
勇人はディメントにそう呟き、アマノソウウンガを構える。
「お前達!聴いて覚えておけ!!」
勇人はそう言うと、超光速で捕まっているグレイス達を助け、リュミエールに集める。
「俺の名は……『勇人・ブリタニア・クアンタ』。エンブリヲを斬る…『荒神』だ!!」
《荒神!!!?》
グレイス達は目の前に助けてくれた人物が本物の神だと言うことに、驚くと、勇人はサリアの目の前へ超次元跳躍で近づいた。
「っ!!!?」
「嘘!!?」
「は、速すぎる!!?」
サリアはアダムに向けてビームライフルを構えた直後、ビームライフルや腕がバラバラになる。
「嘘!?」
『サリア…………本当の飼い主が誰なのか、見分けがついた方が良いぞ』
勇人はそう告げ、リュミエールの元へ戻り、シンディと共にグレイス達を連れて、アダムのカメラアイが光り、ボディを青色に変化させて何処かに転移した。
それにサリアはアダム達の変化に驚いてしまう。
「…何処に?!」
その様子を映像で見ていたエンブリヲは表情を歪め、吊るされているリザーディアは少し笑みを浮かべる。
「期待が大きく外れたな…エンブリヲ」
っとエンブリヲはリザーディアを睨み、リザーディアを平手打ちで殴りその部屋から出て行く。
それと同時に、その場で残されているディメント達。特にディメントは歯を食いしばりながら、怒り声を上げる。
「己!!勇人ぉぉぉぉぉっ!!!」
ディメントの怒り声に、疑問を持つヘリオス達はある事を考えていた
「勇人・ブリタニア・クアンタ……何者なんだ?何故ディメントはあんなにあの男に怒りをこみ上げるんだ?」
ヘリオスはそう考え、ミスルギ皇国へ帰還するのであった。
そしてどこか別の場所に飛ばされたグレイス達はそのまま飛行していき、目の前に砂浜がある事に気付き、慌てて足を付かせる。
しかし間に合わなかったのか、体制を崩してしまい、倒れ込んでしまう。
「ぐあっ!」
「いたたた…って…ここ、何処?」
アンジュ達が辺りを見渡していると、目の前に巨大な城が見えていた。すると上空からあの二機が降下し、着陸する。アンジュ達は警戒すると、アダムとイヴから黒髪の男性と金髪の女性が中から出てきて、アンジュ達に問う。
「怪しい者ではありません、アンジュさん♪」
黒髪の男性は手を上げ、好戦的意思を表さないようにする。
「俺の名は勇人・ブリタニア・クアンタ。」
「私はシンシア・ケラン・クアンタ。勇人の妻です♪」
二人はグレイス達に挨拶すると、上空から見たこともないパラメイルが降りてきた。
「あ、師匠!にエミリアさん!」
妖精のようなパラメイルから赤髪の男性と翠髪の女性が降りてきた。
「勇人、連れてきたのか?」
「えぇ…
「……はじめまして、向こうの世界の者よ」
赤髪の男性はグレイス達に挨拶し、名を言う。
「俺の名は陽弥・ギデオン……ミッドガンドの護星神だ…」
《え!?》
「我らの世界……別の宇宙へ……」
陽弥はそう言い、グレイス達はただ唖然とするのであった。
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第三十七話:神からのお告げ
勇人達の住む世界へやって来たグレイス達。彼等は超高度な科学力と神々からの加護によって、平和維持と恩寵を守っているとの事。グレイス達はエルシュリア王国の城にもてなされた。エルシュリア城 謁見の間……。
「アストラッド国王陛下…別世界のアンジュさん達を連れて参りました…」
勇人とシンディ、陽弥とエミリアは玉座に座っているエルシュリア王国国王 アストラッド・ヴァルネア・クリーフとその妻であり王妃 アリシア・ヴァルネア・クリーフとエミリアの義妹である第二王女 マリア・ヴァルネア・クリーフがいた。
「御勤め御苦労、勇人君とシンディ君…それから陽弥君もエミリアも」
「「はい」」
「それから、陽弥君」
「はい?」
「また……あの子達が泣いている。」
「え!?」
「何とかヨーコとマナが面倒見ていたんだが…「お父さん〜〜!!」噂をすれば…」
すると謁見の間の脇道から、二人の女の子が泣いている四人の子供(女児一人、男児三人)を連れて来た。
「あらら、大変!」
「あ〜あ…」
陽弥とエミリアは長女(養子)の『ヨーコ』、次女の『マナ』、長男の『オリバー』、三女の『ライラ』、次男の『カイト』、三男の『ルクス』の所へ行く。
「お父様、お母様、この子達を落ち着かせて戻りますね♪」
「うむ♪」
エミリアはそう言い、子供達を部屋へ連れて行く。
「……さて、率直に言おう。そこの銀髪の少年」
「え?……はい」
「お主……向こうの世界では、エンブリヲの因子によって造られた人造人間だな」
「え!?」
するといつの間にか陽弥と勇人が顔を近づけて、グレイスをマジマジと見る。
「銀髪の短髪…蒼眼の瞳…褐色の肌……だが、本来は金髪の長髪、碧眼の瞳…白く透き通った肌であり、エンブリヲとは大違いの心を持っている。」
「にわかに信じ難いですね…」
陽弥と勇人がそう思っていると、アンジュが話に割り込む。
「ちょっと!私たちの事を忘れていない?」
「あ、これはこれはすいません、アンジュさん♪」
「え?、何で名前を!?」
「……感ですかね?そしてタスクさん♪」
「俺も!?」
「ここでは立ち話になりましょう♪」
陽弥と勇人とエミリアはグレイス達を連れて、間客室へ案内させた。陽弥と勇人とエミリアはグレイス達にスペシャルな紅茶を作り、皆んなに渡す。
「さぁ、おあがり♪」
陽弥はニッコリと笑みを返す。グレイス達は恐れもなしで紅茶を飲む。アンジュは紅茶に毒が入っていないか、グレイス達に確認させ、恐る恐る飲む。
「?……これって?」
「“ダージリンのセカンドダッシュ”…お味は?」
「…まぁ、まぁ、……モモカが入れてくれる紅茶の方が美味しいわ(何これ!?モモカ以上に美味しい、何者なの……あの男は…)」
「……今、モモカ以上に美味しいと…考えましたね?」
「っ!!?」
アンジュは思っている事に驚く。
「な!?何を言ってるの!?本当…男って…「全くコイツは何なの?自分から護星神って、神気取りなのか?」っ!!?」
アンジュは思っている事がバレバレな事に驚き、ある行動を取ろうとするが、
「無駄だ…ホルスターから拳銃を抜き構え、そこにいるシンディを人質に取り、変える方法を探そうと俺達に尋問する。」
勇人が分かっているかの様な顔で、タスクの腹部に付き構えているプラズマガンをアンジュに見せ付ける。
「フンッ!それが何なのよ?こっちは怪物達がいるからこっちが有利だわ!」
「アンジュ殿…」
「黙って!、とっとと私達の世界へ返しなさい!今すぐ!」
「アンジュ殿!」
「何!?」
アンジュが怒鳴りながら、エグナントに問う。
「……流石に、儂等だけでこの数は無理だ。」
エグナントが冷や汗をかくと、彼の背後から光学迷彩で隠していた26人の使徒達がエグナントやグレイスに武器や剣を付き構えていた。そしてアンジュの目の前に魔法陣が浮かび上がる。
「何?」
「全くお兄ちゃんったら……人の心の中読み過ぎ」
「悪いなぁ、ルナ。別の世界となると…性格は気性が荒いと思ったからなぁ♪」
ドアが開き、現れたのは羽織りの巫女服を着た藍色の女性であった。
「紹介する。彼女はルナ。俺の双子の妹だ♪」
「どうも、ルナ・ギデオンです♪」
ルナが挨拶すると、アンジュがナイフを取り出し、ルナに襲いかかるが、魔法陣によってアンジュの動きが止まる。
「な……に……!?」
「そう言うルナも、警戒するのか?」
「……何のことでしょう♪」
「図星がバレバレだぞ」
「ギクッ…」
ギデオン兄妹は仲良く会話している中、グレイス達は自分達の存在感を忘れられていた。
「(この人達…完全に僕達のことを忘れている)」
「……さて、エンブリヲの子よ。何か話したい事があるのか?」
「え?…はい。あなた方は一体? 」
「……正真正銘の護星神と」
「荒神だ♪」
陽弥と勇人は互いの呼び名を言う。すると今度はアカリが問い出して来た。
「のうのう!護星神 陽弥よ!お主らの話を聞かせてくれないかな!?モーント・ウィガーの石碑に書かれていたお主達の物語。とても気になっておるのじゃ♪」
「待って?まさかお前達…クアンタムシーカーを見たのか?」
「そうじゃ♪」
「あれを……解読したのか?」
「そうじゃ♪」
「……大した女の子だな」
「大した女の子とは失礼な、妾を誰だと思っている?妾はアカリ・ヤマツ!ジャスミンの姉貴だ!」
「……え!!?」
「「「えぇっ!!?」」」
アカリの正体がジャスミンの実姉と判明した陽弥とアンジュ達は、目を丸くし、驚く。
「アカリさん……それ、アンジュさん達に言っちゃったら…」
グレイスは頭を載せて後悔してしまう。
「…………やっぱり、彼等に会わすべきだな」
《ん?》
グレイス達は首を傾げると、間客室のそれぞれの扉が開く。すると現れたのは……。
「えぇっ!!?」
「嘘!!?」
「っ!!?」
「ほえええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!!!?」
現れたのは、何と……自分と瓜二つのアンジュ達。だが微かに皺はあるが、間違いなくアンジュたちであった。
「どどどどど!!!???どうなってるのよ!!?」
「俺が……もう一人!?」
アンジュとタスクはもう一人のアンジュとタスクに驚いていると、ヴィヴィアンが、自分と同じ髪の色をした人へ近づく。
「やっほ♪」
「やっほ♪」
「……」
「……」
「よっ!よっ!……よっ!」
「よっ!よっ!……よっ!」
二人のヴィヴィアン(正確には片方が陽弥のヴィヴィアン)が同じ動きや返事でする。
「おっほ!すげ〜!あんた誰?」
「ヴィヴィアン♪」
「うっは〜!私と同じ〜!」
二人のヴィヴィアンは全くの動揺を見せなかった。アンジュやタスク、グレイス達は動揺しながら、陽弥を見る。
「そう…この三人はこっちの世界のアンジュさん達だ♪」
「はぁ!?そんな話聞いたこともないわ!私がアンジュ!この世に私と同じ…「待って…」何?」
グレイスはその時、あの現象を思い出す。サラがアルゼナルに襲撃した時、二人の歌によってヴィルキスと焔龍號が放った収斂時空砲同士がぶつかり、そしてグレイスとアンジュとサラはそれぞれの世界で物語を描く三人の姿に……。
「確かにありえない事だけど……今、目の前にいる三人は紛れも無いアンジュさんやタスクさん、そしてヴィヴィアンの…もう一つの世界の未来の姿なんだよ」
「……信じられない」
「俺もグレイスと同意かもな。」
タスクがそう言うと陽弥の世界のアンジュが問いかける。
「全く。これが二つ目の世界の私?笑ってしまうわ」
「っ!?」
陽弥の世界のアンジュがふざけた事を放った事に、アンジュが怒ろうとしたその時、彼女の耳元でアンジュが囁く。
「(エンブリヲ……気を付けなさい。あの男は危険だから……)」
「!?」
そして、グレイス達を元の世界に帰そうと、リュミエールの修理が終え、準備していた。グレイス達を見送ろうと、皆が集まっていると……。
「あ、そうだグレイスよ…」
「ん?」
陽弥はグレイスにあるものを渡す。
「もし君が…エンブリヲやディメントに囚わらそうになったり、迷いがあったら……」
渡されたのは、綺麗な鱗が二個。琥珀として入っている赤い宝石が付いたペンダントであった。
「この宝石を祈れば……ここへ転移できるから……その時は、俺達に相談しろ。力になる……」
「?」
陽弥はそうグレイスに告げ、見送る。勇人はアダムに乗り込み、グレイス達を乗せたリュミエールをアルゼナルへと送っていった。
そしてシンギュラーを通ったリュミエールはアンジュ達の世界にやって来て、ブリッジに来たアンジュ達は再び外の光景を目にする。
「また…帰って来たんだ」
「おう!この匂い確かにあたし達のだ!」
そこは、あのアルゼナルであった。勇人は直ぐにアルゼナルから元の世界へと戻る。
完全に基地機能を失ったアルゼナルを見て呟き、それにアンジュはただアルゼナルを見て呆然とする。
夜、アルゼナルの付近に着陸したが、黒焦げの遺体が所々ある。
「酷い事をする…」
「皆…何処に行ったの?まさか…」
「脱出して、無事で居るはずさ。ジルたちがそう簡単にやられる筈がない」
ヴィヴィアンは何かに気付き、それにリュガ達は見る。
すると海の方に緑色の光の玉が浮いて、そこから三人の人影が現れる。
アンジュは恐怖のあまりに悲鳴をあげながらタスクに抱き付く。
「あ…あ…アンジュリーゼ…様?」
「ち、違う!!私は!!……え?」
アンジュは自分の本名を知っている事に反応する。
すると、その人物はマスクを外すとモモカだ。
「モモカ……?」
「アンジュリーゼ様ー!!」
モモカはアンジュに駆け寄って抱き付き、アンジュもモモカが現れた事に嬉しながら抱き付く。
ヴィヴィアンはその他の者達を見た時にマスクを外したヒルダとロザリーを見て驚く。
「うわー!みんなだ!!」
「ヒルダ、ロザリーも無事だったのか」
「うわっ!!ドラゴン女!?」
ロザリーはヴィヴィアンを見てビビって引いて、ヒルダは笑みを浮かべてアンジュに駆け寄る。
「本当に………アンジュなの?」
「勿論よ、ヒルダ」
かつての仲間たちと合流し、あの後、何があったのか聞くことになる……。
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第三十八話:決別の海・前編
無事アルゼナルの皆と合流したグレイス達。
アルゼナルの旗艦であるアウローラと共にリュミエールは海底へと進んでいた。
アウローラのブリッジに居るオリビエが提示報告をする。
「第一警戒ライン通過」
「まさか生きてたとは……」
ヒカルが別の部屋で話し合っているグレイス達の方を見ながら言い、それにはオリビエも同意しかねる。
「アンジュ達、てっきりロストしたかと思ってました」
「今まで何処に行ってたんだ…?」
「それがシンギュラーの向こう…だって」
パメラが言った言葉にヒカルとオリビエが思わず驚きを隠せない。
「「うっそ~!?」」
「平衡宇宙と、もう一つの地球。ドラゴン…いや、遺伝子改造した人間の世界か…」
「ドラゴンの目的は、アウラの奪還。マナを得るためにノーマがドラゴンを狩る。こんなバカげた戦いを終わらせることが出来るわ」
「だが……サラさん達の侵攻作戦は失敗した。お互いの目的のためにも協力するべきですよ」
アンジュとグレイスはこれまでの情報を出す。
「敵の敵は味方、か」
ジャスミンが両腕を組んで納得している。
「冗談じゃね!!あいつらドラゴンは今まで仲間を食い殺したんだぞ!!」
ロザリーは反対で、その発言にヴィヴィアンは頬を膨らませてムッとする。グレイスはヴィヴィアンの頭をポンポンと撫でる
「確かにそうだが、僕達の本当の敵はエンブリヲとディメントだ。その策で僕達は踊らされたんです」
「奴らは信じるに値しない、神気取りのエンブリヲとディメントを倒し、この世界を壊す。忘れた訳ではあるまい。兄妹、民衆に裏切られてきた過去。人間への怒りを。差別と偏見にまみれたこの世界を壊す、それがお前の意志ではなかったのか?」
アンジュは言葉を詰まらせそうになったが、グレイスが前に出る。
「あの人たちは良い奴らですよ。僕達とドラゴン達と手を組めばエンブリヲとディメントを倒せる。」
「ほぉ?よく言えるなぁ……それとも、アイツの洗脳に取り込まれたのか?」
「っ!それは!」
「アイツの因子を持つ子が!のうのうとしゃしゃり出るな!」
「…………」
「ジル言い過ぎだぞ、それにジル。グレイス達の言葉の一理あるぞ。現にわたし等の戦力が心持たないのも事実だ」
「サリア達が寝返っちまったからね」
「アンジュ、グレイス。お前さんたちはドラゴンとコンタクトとれるのかい?」
「できます。ヴィルキスとリベリオンの力を使えば」
「それは凄い。ジル、ドラゴン達との共闘。考えてみる価値はあるんじゃないのかい」
ジャスミンの提案に聞いたヴィヴィアンは思わず嬉しがる。
しかし、ジルは黙ったまま返答せず、それにリュガ達は厳しい表情で見ていた。
「………ジル」
ジャスミンが再び問いかけ、それにジルはようやく口を開く。
「………よかろう」
そう言ってジルは扉の方に向かう。
「情報の精査の後、こん後の作戦を通達する。以上だ」
そう言ってジルは出て行く。
「なんだか、冷たい感じだな」
「アンジュたちが戻って来た事に嬉しがっているのさ。そこはあたしが保障するよ」
ジャスミンがそういうが、グレイスはどうにもジルの事が気になる。
そしてリュミエールの食堂でグレイス達が少し水を飲んでいた、アカリ達はブリッジでジャスミンと少しばかり話をしていた。
ヒルダとロザリーの他にココやミランダにモモカ、そしてアウローラからある三人が付いて来ていて、リュミエールの艦内を見ていた。
「すげぇな」
「アタシ等のアウローラとは全く違うね」
そしてヴィヴィアンの方は出された食事をのん気に食べていた。
「はむ!もぐもぐ…美味~い! いや~!やっぱりリュミエールの食事は美味い!まずいノーマ飯を思い出す〜〜!」
「ヴィヴィちゃん相変わらず食べるね〜…」
ヴィヴィアンの様子を見てセシルは苦笑いしながら見ていて、その様子にココ達も呆れかえるしかなかった。
するとマギーがヴィヴィアンの身体をあちこち触りまくり、それに擽られて笑ってしまうヴィヴィアン。
「ぷははははっ!く!くすぐったい!」
「本当に…キャンディーなしでもドラゴン化しなくなったのかい?」
「そう…らしい!」
「大した科学力だね~」
マギーはサラ達の世界の科学力に感心する。
「あ!そうだ! 向こうの皆は羽と尻尾があったんだけど、アタシなんでないの?」
「バレるから切ったよ」
「うわっ!!ひでぇ~!!」
ヴィヴィアンの様子にエグナント達は呆れかえってしまい、聞いているグレイス達もそれに呆れてしまう。
それに……
「全く、あの時の二人がここまで強くなるとはね」
そう、元隊長のゾーラだ。
アルゼナルから脱出した後、マギーに治療続けて遂に意識が戻ったのだ。日常生活に支障はないがパラメイルに乗っての戦闘は無理のようだ。
「ま、色々と合ったんでな。ゾーラが寝ている間にな」
「ははは、生意気言うようになったか」
なんだかゾーラは嬉しそうな感じだ
「全く、心配させやがって。戦場からロストして、帰ってきたら、この男とはイチャイチャするわ」
「ごめんねヒルダ、悪かったわ」
アンジュが謝るとヒルダは少しばかり頬を赤くし明後日の方を向く。
「どうしたんだ、ヒルダ?」
「何でもないよロザリー。全く、お前等が居ない間大変だったからな」
「その事だが、俺達が居ない間何があった?」
リュガがその事を問い、ロザリーが少しばかり暗い表情で言う。
「お前たちが消えた後、アタシ等はとても苦戦した事ばかりなんだよ。
アルゼナルは壊滅するわ、仲間が大勢殺されるわ、クリス達が敵になるわ……」
「サリア、エルシャ、クリス……。あの三人がどうして」
「こっちが知りてぇよ!容赦なくドカドカ撃って来やがって!あんなのもう友達でも何でもねぇよ!」
ロザリーが机をたたく。
いつも、クリスと一緒にいたからそんな気分なんだろう。
「そういえば、この船を護っていたのって……貴方達なの?」
「こいつ等が頑張ってくれたからな」
ロザリーは指を指して、三人の若い少女たちの方を向かせる。
「ノンナ、マリカ、メアリー。戦力不足でライダーに格上げされた新米たちさ」
「私達の後輩です!」
「足手纏いにならないよう頑張ってます」
ココとミランダが強い意志を見せる。
グレイスはあの時と違って、強くなっているのを確信していた。
「ゾーラ姉さまが、まだ動けないから私がみっちり扱いたお蔭で何とか…?」
メアリー達が一斉にヴィヴィアンの方に向かって行き、それにはロザリーも流石に突然過ぎて戸惑った。
「あの!お会いできて光栄です!」
「んっ?えっ?アタシ???」
ヴィヴィアンは自分の事を言われて、何が何やら分からなかった。
「第一中隊のエース、ヴィヴィアンお姉様ですよね!」
「ずっと憧れていました!」
「大ファンです!」
「そっかそっか♪ よし喰え喰え~!」
ヴィヴィアンは自分の食器の具をメアリー達にも分け、その様子にロザリーはやや悔しがる。
「ちょ、ちょっとあんた等!!アタシにはそんな事一言も!?」
「………どんまい」
ダストがロザリーの肩をポンポンと叩く。
「慰めんなよ!!?私がみじめじゃないかーー!!」
アンジュが何やら考えているタスクの方を見る。
「どうしたの?」
「いや、アレクトラ…じゃなかった。ジルの様子が気になってね」
「アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ…だっけ」
「何故、知っているんだ?」
「皆知ってるよ、司令が全部ぶちまけたからね。自分の正体も……リベルタスの大義の事も」
ヒルダはジルが自ら正体を証し、リベルタスの全て。
自分達の最大の敵であるエンブリヲとディメントを倒す事を宣言した事を話した
「アレクトラが……そんな事を」
「意気込みは分かるけど。ガチ過ぎてちょっと引くわ…」
「貴方にあの人の何が分かるの~!」
別に人物の声が聞こえた事にグレイス達はその声がした方を見る。
厨房から完全に酔っ払いたエマが出て来る、ワインをラッパ飲みしながら。
「か、監察官!?」
「ぷはっ! えまさんで良いわよ~?エマさんで~♪」
「ぐっ!?酒の匂い!?」
「この艦に乗られてからずっとこうなのですよ」
「ずっと……!?」
モモカの言った事にグレイスは驚きを隠せない。
「しょうがないでしょう!殺されかけたのよ!!人間に…同じ人間に!!」
あの時、アルゼナルで保護を求めようとしたのに殺されかけたのをマギーが助けてくれて、それ以来エマは酒浸りになってしまっていたのだ。
それを司令であるジルが保護し、エマが信じられる人はジルただ一人だけらしい。
「あの人だけよ~!この世界で信じられるのは! そうよね~!ペロリーナ~!!」
エマはペロリーナのぬいぐるみを抱きながら泣き崩れ、それにマギーが止める。
「はいはい、もうその辺にしときな……」
「酒を取り上げんと、肝臓がやられちゃうね」
マギーとミカがやれやれと言う。
「でも、監察官の言う通りだ。アタシ等にとっちゃ、信じられるのは司令だけだからな、この世界で……」
ロザリーはそう言う。
だが、アンジュとグレイスはこのままジルを信用していいのか……決められなかった。
その頃、アウローラ = 司令室 =では…………。
一人となったジルはタバコを吸っていた
だが、あの忌々しい光景がよみがえる。
《……そうだよ、アレクトラ。可笑しくなっても良いんだよ…♪》
ジルは吸っていた煙草を握りしめて潰し、恐ろしい表情をする。
「エンブリヲ……!!」
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第三十九話:決別の海・後編
翌日、グレイス、アンジュ、タスクと共にアウローラでジル達と作戦会議を開いていた。
「よく眠れたか?」
「まぁな……」
「それは結構、ではお前たちに任務を与える。ドラゴンと接触、交渉して同戦線の構築を要請しろ」
それにアンジュとタスクは驚きの表示を隠せなかった。
だが、グレイスは訝しんでいた
「どうした?お前の提案通り、一緒に戦うと言っているんだ」
「………本気ですか?」
「リベルタスに終止符を打つには、ドラゴンとの共闘。それがもっとも合理的で効率的だと判断した」
それには流石のジャスミン達も驚きを隠せずだった。
ジルの話しを聞いたタスクは笑みを浮かばせながらアンジュの方を向く。
「アンジュ…!」
「うん!」
アケノミハシラにエンブリヲとディメントが居ることが判明し、そこにドラゴン達と共にミスルギ皇国に進行すると言う作戦。
ドラゴン達は前方から攻めて、薄くなった後ろから攻撃するという。
最もアンジュ達の目的はアウラを開放する目的が一緒な為、これが効率の良い作戦だと感じたアンジュとタスク。しかしグレイスは…。
「これだと、ドラゴン達が大きな負担になってしまいます。それに……サリアさん達は?」
その事にジルは思わず鼻で笑う。
「持ち主を裏切る様な道具はいらん」
「道具って……!だってサリアよ!?」
アンジュは反論する。
アルゼナル時代、一応は世話になった仲間だ。
サリアだけではなく、エルシャとクリスも葬る。
「全てはリベルタスの為の道具に過ぎん。ドラゴンも、アンジュも、グレイスも、私も」
「まさか……ドラゴンを捨て駒にするのですか!!こんな作戦、協力できません!!」
「なら、協力させるようにしてやる」
映像に映し出されたのは、モモカが囚われていた。
「減圧室のハッチを開けば侍女は一瞬で水圧に押しつぶされる」
「ジル!!アンタの仕業かい!!」
「聞いてないよ、こんなこと!!」
ジャスミンとマギーもジルの所業に異論を唱える
どうやら、ジルの独断で行動したようだ。
「アンジュ、グレイス。お前たち二人は命令違反の常習犯だ。予防策を取らせてもらった」
「アレクトラ……!」
タスクは以前とは全く違うジルの行動にただ戸惑いを隠せない。
「救いたければ作戦を全て受け入れ!行動しろ!」
「あなたは…自分が何をしているか分かっているのですか!?」
グレイスはジルを睨みながら問い、それに笑いながらジルは言い続ける。
「リベルタスの前では全てが駒であり道具だ。あの侍女はアンジュを動かす為の道具、アンジュはヴィルキスを動かす道具。そして……ヴィルキスはエンブリヲを殺す究極の武器!!」
アンジュが銃を取り出してジルに向ける。
「ふざけるな!!モモカを解放しなさい!!今すぐ!!!」
次の瞬間、ジルに銃を奪われて、アンジュはジルに腕を捕まれ引き寄せられる。
「ジル!!」
グレイスはジルを殴りにかかるが、蹴飛ばされて壁に激突した。
「グレイス!!」
「タスク、お前はヴィルキスの騎士。お前はヴィルキスを護れば良いのだ!」
「アレクトラ…!!」
もう完全に昔のジルではないと感じたタスクはジルを睨むしかなかった。
「さあ、お前の答えを聞こうかアンジュ」
「く…くたばれ!」
アンジュはジルに向かって唾をかけ、唾を掛けられたジルはアンジュを睨む。
「どうやら少しお仕置きが必要だな……」
ジルがアンジュに拳を上げた途端―――。
「いい加減にしろ!!!」
グレイスがリベロへとなり、ジルの脚に噛みつく。
痛さにアンジュを離し、転ぶジル。
片方の足でグレイスの腹を蹴飛ばし、銃を構える。
「貴様……!?」
ジルたちの身体が急に動かなくなり、ジャスミン達は徐々に意識が失っていった。
何とか意識を保っているジルは換気口を見て、換気口から何かガスが出ているのに気が付く。
「ガスか…!」
「ああ……昨晩、シュレディンガーたちと話して万が一の為に仕掛けておいたんだ」
タスクはアンジュとグレイスにガスマスクを渡し、すぐにつける
「タスク!貴様もか…!!」
「アレクトラ、もうあんたは俺の知っているアレクトラじゃない!」
「貴様、ヴィルキスの騎士が!リベルタスの邪魔をするのか!!」
その事にタスクは真っ直ぐな目線でジルを見ながら言う。
「俺はヴィルキスの騎士じゃない!!アンジュの騎士だ!!」
それにアンジュは思わずタスクを見て、グレイスはフッと笑う
三人は急いで部屋から出る
「惚れ付いたか…ガキが!」
モモカたちを助け出した同時にグレイス達はヴィヴィアンと合流し、
格納庫へとたどり着き、パラメイルに乗ろうとするが――――。
「逃げ出す気か!アンジュ!」
皆が前を見ると、ジルの姿がいた。
しかも、ジルの足にナイフを刺した後があり流血していた。
強引に催眠から覚めるために刺したのだろう。
それほど、リベルタスを成功させたいという執念だからこそだ。
「うげ、足にナイフを刺すとか無茶苦茶だろ……」
「逃がさんぞ…アンジュ! リベルタスを成功するまではな!」
「私の意思を無視して戦いを強要するって…人間達がノーマにさせている事と一緒じゃない!!」
アンジュが相手にしようとするがリュガが止めに入る。
「……俺が相手をする」
グレイスはファイティングポーズをとる。
「お前が勝ったら、俺を煮るなり焼くなり好きにしてもいい。アンジュさん達は下がっててくれ」
ジルはナイフを構えてグレイスを斬りにかかるが、避けて蹴りを放つ。
互いの攻防が続くが、ジルはグレイスに強く言う。
「お前は人間を殺したんだ!!そんなお前だからこそ、リベルタスを成功させるために必要なんだ!!」
「黙れ!!」
グレイスが怒鳴り、ナイフを取り出し、ジルに斬りかかる。ナイフ同士がぶつかり合う。
「アンタの言いたいことは解った……だがな!!」
グレイスはジルの腕を掴んで投げ飛ばすが、ジルは両手をついて一回転して着地する。
「俺はもう……誰とも従わない、お前やあの変態親父の言いなりでもない!アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ!!」
「っ!!黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
鋼の義手で殴りにかかるが、グレイスは掴み、頭突きをブチかます
強烈な一撃で意識が朦朧としかけているジルだが両膝をついて倒れた。
「何故だ!?……何故なんだリベロ……エンブリヲの因子であるお前が何故……」
「言っただろ……俺は、誰の支配下にもならない。今度こそ、大切なみんなを守る為にな」
だが、ジルは立ち上がろうとするが――――
「もうやめな!ジル!」
突然の声にグレイス達は振り向くと、マギーに支えられやって来るジャスミンが居た。
「解っただろ。あんたのやり方じゃあ……無理だったんだよ」
聞いたジルは歯を噛みしめながら悔しがり、そのまま意識が途切れてしまう。
海面に出たアウローラ、格納庫ハッチが開く。
「グレイス、俺たちはここに残って帰りを持つよ。待つ奴がいれば気が楽だろ?」
エグナントとアカリがグレイスに言う。
「ありがたいです。」
「これからどうするんじゃ?」
「もう決まっている。僕達がリベルタスをやります」
「あの人のやり方は間違ってはいたけど、やっぱりノーマの解放は必要だもの…。私達がやるわ、リベルタス」
「ああ、俺達を信じてくれる人たちと……俺達が信じる人たちと一緒にね」
グレイス、アンジュ、タスクがそう言ってジャスミンは笑みを浮かばせる。
ヴィヴィアンも連れて空へと飛び立ちサラたちの世界へ飛ぼうとするが――――。
そこにヘリオスのアイオロス、プロメテウス、ハーミットとサリア達のクレオパトラ、レイジア、テオドーラが向かって来た。
「そこに居たのね…アンジュ」
クレオパトラに乗っているサリアはアンジュを見てそう呟くのだった。
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第四十話:機神帝の目覚め・前編
ラグナメイル達はアウローラへ襲撃し、攻撃を仕掛ける
水柱が幾度も上がり、船内が大きく揺れだす。
「皆、しっかりしな、敵襲だよ!!」
ジャスミンはアウローラの舵を取りつつ敵の攻撃を回避する
「やめなさい!!」
アンジュはヴィルキスを操縦して、ラグナメイルと交戦する。
「アンジュ機とグレイス機、敵パラメイルと交戦中!!」
「誰のせいでこんなことになったのか……わかってんのかねぇ。まったく」
ヘリオスはアイオロスのユニットに搭載されているミサイルが放たれ、タスクは急いで回避するが――――。
掠めて、バランスを崩しモモカが振り落とされる。
「きゃああああああああああ!!」
「しまった!!モモカさん!!」
「マナ!!マナの光!!マナの光よ!!」
慌ててマナの光をスカートに集中させて、パラシュート替わりにして落下を減速させる。
タスクは急いでモモカを無事、救出する。
ハーミットは巨大な手裏剣を振りかざし、投げつける。
「くそっ!!反撃ができない!!」
「飛んでけー!ブンブン丸!!」
ブーメランブレードはそのまま、ハーミットに直撃する。
その隙にリベリオンがパドルデーゲンを展開し、斬りにかかる。
アンジュに攻撃を仕掛けていたエルシャがヴィヴィアンの方を見る。
「駄目でしょ……ヴィヴィちゃん」
エルシャはヴィヴィアンに向けてビームライフルを放ち、それをまともに貰ってしまった。
「うわっ!!」
「ヴィヴィアン!!」
クレオパトラ、レイジア、テオドーラの三機がアンカーを発射し、ヴィルキスの両腕と首に巻き付いて動きを封じる。
それにアンジュは強引に動かそうとするもビクともしなかった。
「くっ……剥がれない!!」
サリアがヴィルキスのコックピットカバーを強引に剥がし、アンジュは前を見るとサリアが出て来て銃を構えた。
「さようなら、アンジュ」
――――パーン。
アンジュに胸に一発の銃弾が撃ち込まれ、アンジュは倒れてしまい海へと落ちて行く。
(な……なんて様なの……。よりにもよってサリアにやられるなんて……)
そう思いつつアンジュは意識を失う。
「アンジュさん!」
グレイスが急いでアンジュを助けようとしたその時、ヘリオスのアイオロスが立ち塞がる。グレイスはリベリオンをゼムリアン・フォルムへとなり、ハルマゲドンから巨大なビームランチャーとドリルバンカーを構える。
『……RBLー1272!!』
「?」
『お前が何故……失敗作と呼ばれるか、分かるか?……ミストラル!』
『了解』
するとアイオロスのコックピットからヘリオスが現れ、アイオロスと一緒に飛ぶ。
「俺達成功作である…“アドベント・オブ・チルドレン(降臨の子)”の真の力を!!」
ヘリオスの叫びと共に、彼の体が巨大化していく。
「そんな!?」
グレイスが驚くと、プロメテウスとハーミットからアトラスとファントムが現れ、ヘリオスと共に巨大化していく。
「ラルス!一体何が起こっているんだ!?」
『…………』
「ラルス!?」
そして巨大化し終えたヘリオス達はパラメイルの数倍の大きさになっており、それぞれの特有の生き物と思わせる装甲を身に付けていた。ヘリオスは甲虫と思わせる生命体へ、アトラスは鳥と思わせる生命体、ファントムは巨大なコウモリと思わせる生命体へと変身を遂げた。
「な!?何なんだ!?」
「……これぞ完璧な『アドベント・オブ・チルドレン』だ。」
「そうだ……なのに弟である貴様はそれが成さない。」
「だから失敗作なのだ。それに拙者らはただデカくなった訳ではない……」
するとファントムが手からエネルギー状のディスクブレードを展開し、投げつける。
「っ!!」
グレイスは急いでパドルデーゲンでディスクブレードを防御する。回転力がさらに増すディスクブレードにグレイスが圧され、パドルデーゲンの刀身が刃こぼれする。
「そんな!?」
「こんなことも出来るぞ!!」
次に、アトラスが各部が露出展開し、生体ミサイルを一斉に放つ。グレイスはリベリオンのリベットガンで生体ミサイルをドリルバンカーやビームランチャーで迎撃した直後、ミサイルからナノマシンが飛び散り、装甲に付着する。
「っ!!?」
付着したナノマシンがリベリオンの装甲を腐敗していく。
「腐敗していく!?一体どうしてーーーっ!!」
その直後、ヘリオスが両腕部に搭載されている高周波ソードが展開され、リベリオンの両脚を切断されていた。
「バカな!!?」
『損害状況81%!!』
高速で動くヘリオスは高周波ソードでリベリオンの各部位を破壊していく。そして、残ったのは、パドルデーゲンと連結している右腕と上半部だけであった。頭部を握り掴まれているリベリオンの関節部から火花が飛び散る。
「分かるか、兄弟?俺達とお前の違いの差が……お前はあの女や実験体である子達のような弱者しか守る事ない失敗作。俺達はそれを倒す事ができる。人間のような欲深き生き物を葬る為に造られた人造人間。俺達が味わった屈辱を…その身で知れ!!」
ヘリオスは高周波ソードをコックピットに突き刺した。高周波ソードの刃が、グレイスの胸部に突き刺さる。グレイスは血を垂れ流しながら、高周波ソードを引き抜こうとするが、失血のせいか、力が入らなくなり、目の輝きが消えかける。
「僕は……僕は……」
グレイスは最後の力を振り絞ろうと、操縦桿を握るが、腕に力が入らなかった。グレイスは涙を流しながら、陽弥から貰ったペンダントを握り締める。
「最後に……セレスと……あの子達の声が聞きたか………た……」
グレイスはそう呟き、意識を失う。それと同時に、本来の世界の月にある月面基地の格納庫に収納されている筈のフリューゲルスが咆哮を上げる。その咆哮は、真実の地球や偽りの地球にも響く。
「何だ!?」
「今の咆哮は!?」
「っ!!ヘリオス!」
「!?」
するとヘリオスが掴んでいたリベリオンが強く光だし、閃光を放つ。
「「「っ!!」」」
ヘリオス達は目が眩み、その隙に勇人のアダムが現れ、奥義を放つ。
「斬空!覇王刃!!」
アマノソウウンガから強力な斬空刃が飛び、風を切る。稲妻を発する大竜巻が起こり、湖の水を吸い上げていく。そして、竜巻が消え、上から吸い上げた湖の水が雨のように降り注ぐ。ヘリオス達は立ち直ると、そこにはもう誰もいなかった。
「チッ!あの勇人・ブリタニア・クアンタに邪魔された……」
「…様……リーゼ様!アンジュリーゼ様!」
「っ!!」
呼ばれた事に驚いたアンジュは思わず飛び起きる。
周りを見るとかつて自分が過ごしていた豪華な部屋であった。
アンジュは呼ばれた方を見るとモモカが居た。
「モモカ…?」
「良かった!アンジュリーゼ様!無事でなりよりです!」
「どうして……?それにここは……」
「はい!ここは【ミスルギ皇国】です!」
モモカが言った言葉にアンジュはベットから下りて窓を見る。
目の前にアケノミハシラがあり、モモカの言う通りアンジュとモモカが居るのはミスルギ皇国であった。
(でも、どうして……?)
考えつつアンジュは着替えようとしたら、モモカが着替えをやり始める。
あの時の筆頭侍女としての立場へと戻っていて、仕方なくモモカに頼むしかなかった。
着替えを終えたアンジュはすぐさま武器になる物を探す。
「アンジュリーゼ様?」
「本当ならライフルや手榴弾があればいいんだけどね」
「無駄よ」
声がした方を振り返ると、扉に軍服の様な制服を身にまとったサリア達が居た。
「あなたは大事な捕虜なのよ。勝手な事しないで」
「元気そうねサリア。一体何があったの?あんなに司令好きのあなたが……」
「別に、目が覚めたのよ。エンブリヲ様のお蔭でね」
話しによると、サリアはアンジュに落とされた後、エンブリヲに助けられ自ら迎えてくれた事に感謝をしていた。
自分を全く必要としていないジルからエンブリヲへと鞍替えした。
愛するジルからエンブリヲへと………。
サリアは頬を少し赤くしながら、エンブリヲから貰った指輪を見る。
「そして私はエンブリヲ様の直属の親衛隊『ダイヤモンドローズ騎士団』、騎士団長のサリアよ」
「ダイヤモンド…」
「なが…、要するにあなたはあのナルシスト男に惚れたって行く事ね」
っとアンジュが言った事に言うとした時。
「変態ナルシストではない……我が偉大なる父君である!」
「!!!?」
アンジュが前を見ると、サリア達の後ろから二人の男と女性一人の三人組がやって来た、それはアンジュが見覚えのあるヘリオスとファントム、そしてアトラスだった。
「また会ったな、皇女アンジュリーゼ」
「ヘリオス…ファントム…アトラス!!」
「俺達の事を覚えてくれたか?……まぁ、良い」
ヘリオスが頷きながら覚えた事に感心し、アトラスがアンジュとモモカに近づく。
「親父がお呼びだ。付いて来い」
「エンブリヲ…!」
っとその事にアンジュは表情を引き締め、アトラスがサリア達に命令する。
「お前たちは持ち場に戻れ」
「な!?行けません!! 彼女は危険です!!」
「我々はこいつにやられねぇ……黙って従え。」
ヘリオスがそうサリアに言いサリアは歯を噛みしめる、アストラが言った事にアンジュは内心で悔しがる、実際ヘリオスとアトラス、ファントムには全く歯が立たないのは事実だ。
仕方なくアンジュとモモカはヘリオス達に付いていき、サリアはまた必要とされてないっと思う。
その中でアンジュはグレイスとタスクの事を考える。
「(タスク……グレイス、あなた達無事よね?)」
その頃、グレイスは……意識が戻りつつ、薄々と目を開けていた。
「(グレイス!…………大丈夫か!?)」
何処からか、勇人の声がしたと思いきや、目の前が明るくなり、グレイスは目を覚ます。
「ここは……?」
「気がついたようですね」
「?」
っと、扉から王家の服を着た勇人とシンディが現れた。
「勇人さんにシンディさん……いつつっ!!」
グレイスは立ち上がろうとするが、ヘリオスの高周波ソードによって突き刺された刺し傷が痛み出し、腹を抑える。
「あ!無理をするな!」
勇人とシンディが一緒にグレイスを抱える。
「ここは?」
「新生クアンタ帝国…そしてクアトロン宮殿、俺の実家だ。」
「……僕、負けたんだ…」
「……あぁ、あの三人によって、お前はかなりの重傷を負おっていた。呼吸器官半壊、胃袋全摘、肝臓移植、大量失血、神経麻痺……この五つでお前はかなりの後遺症を背負うことになる。」
「…………ラルス!」
「?」
「ラルスは!?」
「………生きている。だが…」
勇人は機体の格納庫へとグレイスを連れて行く。そこで目にしたのは、すでに腕を失ったボロボロのリベリオンであった。
「…………」
「すまない、かなりの修理を施しんたんだが……腐敗も酷く、各部位、あらゆる機械がオーバヒートしてーーーー」
すると、グレイスが膝をつき、涙を流す。
「…………どうして」
「?」
「どうしてなんだろうなぁ………僕が弱いから、セレスやあの子達をーーー」
グレイスはそう呟き、また倒れる。
「お!おい!!」
「しっかり!誰かーーー」
勇人とシンディは急いでグレイスを自室へ運ぶのであった。
そしてもう一つの地球に居るリュミエールとアウローラは深海を進み、敵に発見されずに航行していた。
「まさかノーブルのあの三人、あんな力を隠していたなんて……」
「しかも、リベリオンのゼムリアン・フォルムが負けるなんて………そう言えば、アレクトラは?」
「…アカリ達に呼び出された」
「何で?」
「……理由はーーー」
オボロはナナリーに説明する。ジルの行動。彼女がエンブリヲに操られている事に気付いたアカリはすぐ様みんなを呼び集め、拘束しているジルーーーアレクトラを尋問していた。
「やはりそうじゃったか……お主の洗脳の一言とあの作戦を聞いた時に確信を持てたのじゃよ。もしやお主は10年前の【あの大戦】の時にエンブリヲに…?」
「何だって!!? 本当かい!!アレクトラ!!?」
ジャスミンがそれに問うも、ジルは顔を逸らして戸惑いながらも黙り込む。
「何で黙ってるんだい…!答えろよアレクトラ!!!」
マギーが怒鳴りながらジルの胸倉をつかみ、振り向かせ言い聞かせる。
「それは………!」
「詳しく話して貰うぞ。アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ…」
アカリの冷たい一言にジルは話す。
「…ああ、そうだ、私は操られた…エンブリヲの人形だった……」
ジルの言葉にジャスミン達は驚き、その場にいたメイも驚く。
「何故、あの男の人形にされていたの?」
「……私はあの時、リベルタスを行い…エンブリヲを殺そうとした。
だが奴に身も心も憎しみ…全てを奪われた。誇りも使命も純潔も…。ああ…怖かったよ。リベルタスの大義…ノーマ解放の使命…仲間との絆。それが全部…奴への愛情、理想、快楽へと塗り替えられていった。何もかもあいつに踊らされていると感じたんだ………」
マギーは腕を組んだまま問う。
「何で黙ってたんだ……」
「どう話せばよかったのだ?エンブリヲを殺しに行ったが、逆に奴に惚れましたとでも言えるのか?全て私のせいさ…リベルタスの失敗も仲間の死も全部………、こんな汚れた女を救う為に皆死んでしまった…!!」
「そ、んな………そんな!!」
メイにとっては残酷な事実を知って、姉の死がジルに当たる事に困惑していた。
「私に出来る償いはただ一つ、エンブリヲとディメントを殺す事だ。今頃、奴は新しい玩具で遊んでいるだろうな」
「……アンジュの事じゃな。」
「ああ、利用するつもりだった。勿論此処の皆もそうだった」
それを聞いたジャスミンとマギーは驚く、自分達を使い捨ての道具にしようとしたジルの言葉を聞いて。
「だが、それをいとも簡単に潰された…、リュガによってな──」
―――パンッ!!
ジルの頬にマギーの平手打ちが放たれ、それにジルはただ黙ったままマギーを見る。
「私はあんただから一緒に来たんだ、あんたがダチだからずっと付いて来たんだ。
………それを利用されていただなんてさ!!何とか言えよ!アレクトラ!!」
「そのくらいにしときな、マギー…」
「………ぐッ!」
マギーはその場を離れ、ジャスミンはジルと面と向かい合う。
「知っちまった以上、あんたをボスにはして置けない。指揮権を剥奪する…いいね?」
「………ああ」
ジルはジャスミンによってアウローラの指揮権及びノーマ達リーダーの座を失った。
それも大きな傷跡を残して…………。
《回想終了》
事実を知ったナナリーは驚きを隠せなかった。
「そんな事が!?」
「あぁ……アウローラの指揮権はゾーラに渡された。彼女なら、多くの仲間を導いてくれる。だけど……」
「グレイスか?」
「あぁ、グレイスが戻ったら良いんだけどな…」
「あいつが居なきゃ始まらないからなぁ……本当、どこ行ったんだ?」
オボロとナナリーはグレイスを心配しながら、作業を続けるのであった。
その頃、グレイスは自室に引きこもっていた。勇人とシンディはドアの前に立っていた。
「グレイス……大丈夫か?」
「…………」
しかし、グレイスからの返事は何も来なかった。
「…………食事、ここに置いておきますからね?」
シンディはドアの前にスープとパンと水を置いて、離れる。
「かなりのショックの様でしたね…」
「あぁ……アイツの過去と今の状況から見れば、本人は辛いんだが……俺達は、どう話に入れば良いんだが…。こんな時、ザ・シード……フェイトである母さんがいれば……」
勇人は自分の過去を振り返る。己が弱く、たった一人の家族であった母親がかつての敵であったドレギアスの攻撃から、愛する息子を庇い、消滅した。そんな自分の弱さを乗り越えた勇人は考え込む。
「シンディ……守るって、何なんだろう。俺たちから見れば、アイツら……人間は守りたいって思う。だけど、グレイスの兄弟のほとんどがエンブリヲの遺伝子で造られた人造人間。人間を抹消する事をプログラムされているんだ。グレイスはそんな人間を守ろうとしている。ねぇ、守るって……意味があるの?」
「……私にも分かりません。けど、守りたいから弱いじゃありません。守りたいものがあるからこそ、人は強くなると思います。」
「あぁ…」
「これは…陽弥さんからの言葉なので、それに従っているのですから♪」
シンディはニッコリと微笑ましい表情をし、勇人は呆れ返る。それと同時に、二人の話を聞いていたグレイスは考え込む。
「守りたいもの……」
グレイスはそう考えながら、眠りにつく。だがその時、彼の頭上に禍々しいオーラを放つディメントが嘲笑いながら、横の椅子に座っていた。
「さて勇人……お前の大事なものを、葬りに来たぜ……」
ディメントは腰から猛毒が塗られている短剣を取り出し、勇人とシンディの子である長男『一輝・ケラン・クアンタ』と次男『ロビン・ケラン・クアンタ』が寝ている子供部屋へと足を踏みいれようとしていた。
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第四十一話:機神帝の目覚め・中編
一方ミスルギ皇国の方ではアンジュ達を連れて行っているアストラ達にアンジュは問う。
「ずっと気になって居たのだけれど、どうして貴方達がミスルギ皇国に…?」
「簡単な質問だな。我々は父君が此処におられるから居るだけだ、それだけだ」
「私は親父の思い通りになれば良い、そして人間共を一人残らず絶滅する!」
アトラスの言葉にアンジュは黙り込み、それにヘリオスは言う。
「アトラス、お前はただ暴れれば良いだけなのか?もう少し真面目に考えろ……それに、父君に勝手な独断行動は許さんぞ」
「ああ?? 何でだヘリオス!これが私の最高のお真面目なんだよ!」
「どこがだ!貴様はただ単に暴れているだけだ!」
っと言い合いを始めた事にファントムは呆れながら二人を止めに入った。
「止めろ。今はそんな事をしている場合ではないだろ?」
「フッ、そうだな。アンジュリーゼ…!?」
アトラスがアンジュの方を見ると、アンジュとモモカは既に消えていて、それに三人は慌てて探し回る。
「ど!何処に行った?!」
「クソ!あの皇女は元々この宮殿に住んでいた子だ! どこに逃げるかも知っている!!」
アトラスの言葉にはファントム「愚か者…」と言いながら別れて探しまわり、壁の一部にわずかな隙間が開いており、そこにアンジュとモモカが居た。
「よく知ってるじゃない。私の家をなめないでね…」
そう言ってアンジュとモモカは庭に通じるダクトを通る。
そして庭へと出たアンジュとモモカはエンブリヲを探そうとした所に…。
「ああ~!アンジュお姉様だ!」
っとアンジュはアルゼナルに居た幼年部の子供たちに見つかってしまい、それと一緒に居たエルシャにも見つかった。
「あらあら、アンジュちゃんを追い詰めるなんて。みんなやるわね」
「エルシャ…」
アンジュはエルシャを見ながら呟き、エルシャから事情を聞き出した。
今の彼女は『エンブリヲ幼稚園』と言う園長を務め、そこで子供たちの世話をしていた。
そして信じられない事に幼年部の子供たちは一度死んだと事を聞かされて、アンジュとモモカは驚いた。
「死んだって…!」
「そんな事、マナの光でも不可能です!」
「エンブリヲさんがね、あの子たちを蘇らせてくれたのよ。そしてエンブリヲさんがあの子たちの幸せな世界を作るんだって。私はその為なら何だってやるわ、ドラゴンもアンジュちゃんやレオン君達を殺す事もね…」
「エルシャ…」
エルシャの相当な覚悟を聞いたアンジュは思わず息を飲む、そしてモモカに行こうとした所…。
「見つけたぞ」
「!?」
アンジュとモモカはヘリオス達に見つかってしまった。
「行くぞ…あまり手を焼かすな」
「っ…」
「私も一緒に言って良いかしら」
っとアンジュとモモカは振り向くと、そこにクリスがやって来た。
そしてヘリオス達とクリスがアンジュ達を連れて行く中、アンジュがクリスにヒルダ達が裏切った事を問う。
「ねえクリス、どうして裏切ったの?ヒルダ達怒ってたわよ」
「怒る?怒ってるのはこっちよ…!見捨てて置いて!」
っと意味が分からない事にアンジュは頭を傾げる。
クリスからの話だと、彼女はアルゼナルに攻撃して来た特殊部隊達を撃退した際、パラメイルで出撃した時に生き残っていた部隊の一人に攻撃を食らい、シャフトにぶつかってしまう。
ロザリーから助けに行くと言った際にクリスが乗るパラメイルが爆発、その時に助けたのがエンブリヲだと言う。
その時アンジュは分かった、クリスは思い違いをしている事に…。
そしてある扉の前に付いて、ヘリオスはノックをする。
「失礼します」
『入りたまえ』
っと聞き覚えのある声がして、ヘリオスは扉を開ける。
そこにエンブリヲとディメントがチェスをしている様子だった、アンジュは更に警戒を強める。
エンブリヲはアンジュの方を見ると、笑みを浮かばせて立ち上がる。
「やあ、よく来たねアンジュ…待っていたよ」
「エンブリヲ…!」
「そう怖い顔をしないでおくれ。やっと君に『待て、エンブリヲ…』何だい?ディメント」
っとエンブリヲはディメントの方を見て、ディメントは腕を組んだまま目を閉じる。
「まだチェスの最中だ。勝手な事は許さんぞ」
「おやおや…君も随分とせっかちだね、残念だけど私は用事が出来た。これで失礼するよ」
「フッ、お前の得意とするずる賢い所か…。くだらな過ぎる」
そうディメントは立ち上がった瞬間に姿が消えていき、それにアンジュは驚く。
「何…?!」
「何、彼の得意分野の一つでね。さてアンジュ…少しばかり君に見せたい物がある、付いて来たまえ」
そうアンジュに言い、アンジュは警戒したまま付いて行く
その頃、新生クアンタ帝国の宮殿では、一輝とロビンを寝かしつけようと、シンディが絵本を読んでいた。勇人の方は宮殿の中庭である人と話していた。
「はい……ギデオン侯、助けが必要なのですーーー」
相手は、陽弥の父であるシン・ギデオンであった。彼は
『分かっている。君から受け取ったあの人工知能。既にAIに施されていた行動制御プログラムなどは解除。及び奴らにによるAIの消去といった介入も不可能にしてある。』
「ありがとうございます。」
『それともう一つ分かったことがあるんだ。』
「分かった事?」
『彼がこの世界に運び込まれて、そしてDNA検査した結果。そのグレイスは……エンブリヲの遺伝子の因子と、他者の遺伝子が激しくぶつかり合っているのだ。』
「ぶつかり合っている?」
「遺伝子には、同調と言うものがある。それを成せば、人間と言うより、新たな生命が生まれる。だが、この遺伝子は珍しい……激しくぶつかり合っていて、まるで配下にならない様プログラミングされている。きっとあの子は…………赤ん坊の頃に誘拐されて、遺伝子改造されたと思う。」
「赤ん坊の頃に?」
「うん…今、彼の遺伝子を解析をして、母親が誰なのか調べている。……あ!後、それと……もう一つ分かったことがある。あの人工知能のプログラムとメモリに、【フリューゲルス】と言う規格外品。つまりエンブリヲが使用しているラグナメイル“ヒステリカ”よりも前、もう一つ開発されたラグナメイルがあるのだ。」
「【フリューゲルス】……『翼』の名を持つ」
「そうだ。私はこのフリューゲルスを…『降臨の光帝』と名付けようと思う。」
「“聖天使”と名付ければ良いでしょ?」
「……それもそうだ。そのフリューゲルスの資料を解析した結果。素晴らしいよ、その機体……武装も愚か、洗脳と言うプログラムを破壊し、マナの加護から解放できるシステムも組み込まれている。」
「因みに…武装は?」
「あぁ、その事だがーーー」
「?……シンさん?もしもーし?」
勇人は首を傾げ、デバイスを切る。
その頃アンジュはエンブリヲに連れられてアケノミハシラに連れられていた。
そしてエレベーターで最下層に降りて、アンジュの目にある光景は映る。
「アウラ…!」
アンジュの目の前にアウラがドラグニウム発生器らしき物を付けられて幽閉されていた。
「どうだいアンジュ、あれがドラグニウムだ。この世界の源であるマナは此処から発せられている、これで色々な事を楽しめたよ」
「貴方…!アウラを発電機扱いにしてるのね!?」
その事には全く否定しないエンブリヲは笑みを浮かばせる。
「ふふふ、人間達を路頭に迷わせる訳には行かないだろう、リィザの情報のお蔭でドラゴン達の待ち伏せは成功し、大量のドラグニウムが手に入った。これで計画を進められる…私の計画が」
そう話すエンブリヲにアンジュは睨みかましていると、エンブリヲの後ろに銃があった事に気が付いたアンジュ。
アンジュはエンブリヲの銃を奪い、頭に銃を突きつける。
カチャ!
「アウラを解放しなさい、今すぐ!」
銃を構えているアンジュに対しても余裕をかましているエンブリヲ。
「おやおや、ドラゴンの味方だったのか」
「いいえ…貴方の敵よ! 兄を消し去り…グレイスとタスクを殺そうとして、沢山のドラゴン達を殺した…敵と考えるのは十分だわ!」
「ふふふ…君のお兄さんは少女たちを皆殺しにしてその罪を受けたのだよ、それ失敗作は今の内に殺した方が私の計画の妨げになる…特にあれは私を追い詰めた子だからな…」
っとその事を聞いたアンジュは驚く。
「貴方…知っていたの!」
「勿論だとも、あれは私の計画の邪魔者でしかない。だがもう失敗作はヘリオス達によって葬られた…これで私には怖い物なしだ」
「そうは…させないわ!」
バッーーーン!!!!
アンジュが持つ銃がエンブリヲの頭部を撃ち抜き、エンブリヲは血を流しながらそのまま倒れる。
「ふぅ…、さて…どうやってアウラを助けようかしら」
「無駄だよ」
っと聞こえた方を向くと、何事もなかった様に立っていたエンブリヲが居た。
「どうして?!」
アンジュは倒れた方を見るとエンブリヲの死体が無く、それにアンジュはエンブリヲを睨みつけて再びエンブリヲの頭を狙い、エンブリヲの頭を撃つ。
それに抵抗せずにエンブリヲは頭部を撃たれて倒れる。しかしまた別の場所からエンブリヲが現れる。
「無駄だと言っているのに…アンジュ」
「あ…貴方、一体…?!」
「アレクトラから聞いているだろう…?」
っとその言葉にアンジュは思い出す、アルゼナルでジルが自分にリベルタスの事とそしてこの世界を作った者の事を…。
「神様…」
「その呼び方は好きではないな…、調律者だよ」
「調律者…?」
アンジュはエンブリヲの言った言葉に呟く。
「そうだ…」
「!?」
後ろから別の者の声がしたアンジュはすぐさま後ろを向くと、そこにはディメントが居た。
「その者は調律者。世界を正す者として生きているのだ。1000年間ずっと生き続けてな…」
「はぁ~!? 1000年?!」
「そうだよアンジュ、私は死なないのだ」
そう言ってエンブリヲはアンジュの元に近づき、アンジュは近寄るエンブリヲに銃を構える。
「来ないで!!」
「そんなに冷たい言い方はしないでくれたまえアンジュ、それに私は君に頼みたい事があるんだ」
っとそう言ってエンブリヲは片膝を付いて、手を刺し延ばす様に振る舞う。
「アンジュ…私の妻となっておくれ」
「はぁ?!!」
エンブリヲの馬鹿発言を聞いてアンジュは思わず声が出て、ディメントは鼻で笑う。
「フッ、やはり貴様はその女が目当てか…」
「まあね、どうだいアンジュ?私と共にこの世界を新しく作り直そうではないか」
そうエンブリヲに聞かれたアンジュの答えは…。
「フッ!!お断りよ!! 死んでもあんたの妻になんか絶対にならないわ!!!」
アンジュは完全にエンブリヲの誘いを断ち切り、それにはエンブリヲは呆れかえる。
「フッ…やれやれ、困った花嫁だ」
「誰が花嫁よ!!勝手に名づけるな!!!」
そうアンジュは銃を構える、するとディメントが禍々しい気ででアンジュの持つ銃の銃口を握りつぶす。アンジュは思わず手を抑えると何時の間にか後ろに回り込んだエンブリヲがアンジュの腕を捕える。
「ぐっ!!!」
「本当はやらせる気はなかったのだが…、言う事を聞かない子には少しばかりお仕置きが必要だ」
っとエンブリヲはアンジュと共に別の場所へと連れて行く様に転送される、ディメントはエンブリヲの飽きない女好きに呆れる。
「フッ、エンブリヲめ…飽きない女好きにも困るものです。それにこのディメント様の姿で居られるのも、大概にして欲しいです。」
そう言ってディメントの体が砂鉄へと変わり、排水溝へ入り込み、その場から消え去る。
その後、勇人は二人の子供部屋に入る。そこにシンディがおり、二人の息子が寝静まっていた。
「二人は?」
「ぐっすり寝ちゃってる♪」
「そうか♪」
勇人とシンディは子供部屋から出て、仕事へ戻る。だがこの時、子供部屋にディメントが既に入り込んでいた。ディメントは光学迷彩を切り、寝ている一輝とロビンを見る。
「勇人……貴様に本物の悪夢と言う物を見せてやる♪」
ディメントはそう呟き、通信を入れる。
「作戦開始だ……始めろ…」
ディメントは帝都内に潜伏し、待機しているグリニア帝国残党兵に命令し、通信を切る。ディメントは持っていたガスを一輝とロビンの口に催眠ガスを放入する。二人が気絶すると同時に、爆音が鳴り響く。
「時間を稼いでおくれよ……フフフ♪」
ディメントは呟き、二人が寝ていたベッドの上に、手紙を置き、姿を消すのであった。
一方、グレイスは外から爆発音が鳴り響き、ベッドから転げ落ちる。
「何!?」
グレイスは急いで状況を確かめに、窓を見る。カーテンを開くと、そこに映った光景は……。
「っ!!?」
あちこちで、街が爆発が起こり、宮殿内の兵士達が慌てていた。
「グレイス!」
「勇人さん!何があったのですか!?」
「グリニアだ!ディアヴォリアスの残党兵だ!!」
勇人は急いで格納庫へ向かい、グレイスも勇人の後を追う。一方、シンディは子供部屋まで駆けつけ、扉を開ける。
「!?」
だがそこには、もぬけの殻であった。
「一輝!?ロビン!?」
シンディは子供部屋を漁り、二人の子を探す。するとその中に、ある手紙が落ちている事に気づく。シンディは封筒を開き、手紙の内容を見て、絶句するのであった。
その頃、勇人とグレイスはグリニア残党を一掃していた。グリニア残党兵のヘビーマシンガンやロケットランチャーを砲弾が乱射する中、勇人は素早い回避行動で接近し、神刀スサノオを鞘から抜刀し、グリニア残党兵を一刀両断していく。
「グレイス!」
「?」
勇人は腰に下げていた手製の日本刀をグレイスに投げ渡す。日本刀をキャッチしたグレイスは、鞘から刀を引き抜き、突き構える。するとグレイスの髪が金色の長髪へと変わる。
「後方支援は任せろ…荒神」
「頼む…リベロっと言っていいかな?」
「……好きにしろ。」
リベロはそう言い、二刀流の鉈を持ったグリニア残党兵に斬りかかる。勇人もリベロに遅れを取らず、切り裂いて行く。すると二人の頭上に巨大な影が現れる。それはグリニア残党兵のシールドコルベットであり、勇人達の上空を浮遊していた。シールドコルベットは下部の対空砲が勇人達に向けられる。
「くっ!」
勇人がスサノオを構えた瞬間、対空砲が爆散する。
「っ!!?」
対空砲が爆散したと同時に、次の対空砲も爆散して行く。よく見ると、対空砲が爆散する直前、何かが飛んできて、それが対空砲を破壊していると、勇人はその飛んできた何かが何処からか確認する。
「え!?」
勇人は驚く、何故ならその飛んできた何かの正体は……後ろにいたリベロが工事現場に置かれていた数十メートルもある鉄柱を蹴り投げていたから、蹴り投げられた鉄柱はとてつもないスピードで、対空砲を破壊して行く。まるで電磁波を流していない運動エネルギー弾として、さらにシールドコルベットの電磁シールドをいとも簡単に突き通し、装甲を貫通して行く。
「嘘だろ……」
勇人が唖然していると、リベロの体が光りだす。
「勇人さん…何か、分かってきました。」
「?」
「守るって言う事が何かです。“守る”……それは、物ではなく、愛する者を命がけで死守する事。10年前……俺が、あのクソ親父や兄弟、ディメントに勝てたのは、セレスを守ろうとして、彼らを死へ追いやろうとしていた。だから!俺は…いや、僕はもう!迷わない!!」
リベロ…いや、グレイスの体が強く光りだす。彼の体からグレーのスーツと白銀のプロテクトアーマーが現れる。そして長髪が金髪から白金に満ちた長髪へと変わり、侍と思わせる巻き毛を靡かせていた(分かりやすく例えるなら、MHXXの髪型の種類。前髪が“TYPE19”、横髪が“TYPE20”後髪が“TYPE3”をロングにした感じです。)さらに目の色も違っていた。左目がグレイスの蒼眼、右目にはどういう事か、傷跡があり、リベロの碧眼をしたオッドアイになっていた。
グレイスは持っていた勇人の日本刀にオーラを流す。すると日本刀の形状が変わり、碧色に光り輝く刀へと変わった。
「行くぞ…」
グレイスはそう呟くと、雷電の如く速さで、グリニア残党兵に高周波ビームブレードを振り下ろす。電光の如く、屈折しながら襲われている市民や兵士達を助けて行く。
「速い……なら、俺も!」
勇人も体を光らせ、武神の如く姿。『荒神化』し、スサノオとシャイニングオブダークを抜刀し、上空を浮遊するシールドコルベットに向かって、粒子発勁を放つ。コルベットのシールドが砕け、装甲に巨大な手形ができる。ブリッジにいるグリニア残党兵が慌てながら、損害状況を報告していると、目の前に、グレイスと勇人が掌を突き構えていた。
《っ!!?》
「「號雷!粒子発勁!!」」
二人の声と共に、拳から二つの粒子発勁が放たれ、コルベットの艦橋ごと吹き飛ばした。艦橋を失ったコルベット艦はぐらりと傾きながら、回転し、落下して行く。
「っ!!」
「まずい!!」
勇人とグレイスは帝都へ落下して行くコルベット艦へ急ぎ、下から支える。両者はスラスターの出力を最大値に上げ、グレイスの腰のスラスターと勇人の肩部と背部のスラスターが火を噴く。しかし、コルベット艦の重量に、圧される。
「クソ!重すぎる!」
「もっと……もっと!力を!!」
グレイスは諦めず、スラスターの出力を上げる……すると、グレイスの周りに翠色に発光するオーラと粒子が溢れる。それを見て勇人は驚きながら呟く。
「ドラゴニウムの輝き……」
「……うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
グレイスの体が強く光り出し、形や姿が変わると同時に、巨大化していく。勇人はグレイスの姿に覚えがあった。
「その姿は!!?まさか!!」
勇人がそう言うと同時に、コルベット艦が粒子化し、消滅していく。そしてグレイスの頭の中に誰かの声が響き渡る。
『……オイデ……オイデ……ココニ……』
頭の中に浮かびあったのは、サラのいる真実の地球。そして月……モーント・ウィガー……格納庫の中に入っている機体が、翠色に光り輝くソリッドアイからツインアイへと変わり、グレイスを呼ぶのであった。その時、勇人の声がグレイスと連呼してくる。
「レイス……グレイス……グレイス!」
「っ!!?」
「大丈夫か!?」
グレイスは目を覚ますと、目の前に勇人が連呼していた。
「あ……大丈夫です」
「良かった、いきなり気を失ったから、驚いたぞ」
「…………」
グレイスは起き上がると、市民や兵士の安否確認をする救護班チームや瓦礫の撤去作業をしていた。
「僕は一体?」
「アドベント・オブ・チルドレンになって、コルベット艦を粒子化させたんだ」
「え?……僕がアドベント・オブ・チルドレンへ?」
「あぁ……その証拠に見ろ。お前のその姿を…」
グレイスは自分の姿を見る。
「何これ!?」
「覚醒した事に気付いていなかったのか?」
「……全然。」
「はぁ〜……」
勇人は呆れていると……。
「勇人!」
「?」
勇人の元に、シンディが駆けつけてきた。
「シンディ──っ!?」
突然シンディが、勇人の胸に飛び込み、泣き崩れる。
「え?」
「一輝と…ロビンが……」
「!?……一輝とロビンがどうした!?」
勇人が問いかけると、シンディはある手紙を勇人に渡す。勇人はその手紙を読み始める。
「『 やぁ、勇人・ブリタニア・クアンタ殿下。御機嫌よう♪悪いが、アンタのガキ二人は預からせてもらった。
グリニアは良い時間稼ぎに使えたからなぁ……。おっと、下手に全員で来て見ろ…二人のガキがどんな風になっているか分からんぞ♪二人のガキを返して欲しければ、失敗作とお前だけで来い。俺の復讐は…止められないぞ♪ Dr.ディメントより』」
ディメントの手紙を読んだ勇人は、怒りを込み上げ、手紙を引き破る。
「己れ……己れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
息子二人がディメントに誘拐された事に、勇人は断末魔の怒声を天まで叫び続けるのであった。
その頃、グレイスの世界では……海底で潜めているリュミエールのテックラボルーム(研究開発室)では、アカリが実験台に寝かされている怪物(改造された少女の亡骸)を調べていた。
「ん〜〜〜〜……」
アカリは何やら厳しい表情で、亡骸から摂った血液を顕微鏡で覗いていた。するとそこに、ジャスミンとバルカンがやってきた。
「姐さん、眠らないのかーーー何を調べているんだ?」
「これじゃよ…」
「そのデカ物……グレイスが守れなかった少女の末路かい?」
「そうじゃが、一番見て欲しいのは……これじゃ!!」
アカリはそう言い、置いてあったトーチで顕微鏡で見ていた血液を焼き尽くす。
「いきなり何なーーーっ!!?」
「焼いた筈の血液を見て!」
焼かれた筈の血液が、黒から元の赤い血液へと戻り、生き物の様に動き始めた。
「何だこれは!?」
「亡骸はもう既に心臓や内臓を抉り取った筈なのに、血液の細胞はこの通り、まだ生きておるのじゃ!しかも、細胞の一つ一つが、見たこともない遺伝子で組み合わさっておるのじゃよ!」
「と言うと?」
「これを作り出したのはDr.ディメント……うちらが相対しているエンブリヲなのだが、何故か脳みそと心臓がエンブリヲではなく、Dr.ディメントに危険信号を出しておるのじゃ。Dr.ディメントは…ただの狂った科学者〈マッドサイエンティスト〉ではないと思うのじゃ!」
「何だって!?なら、あの子達に知らせておくか?」
「そうしてくれ、一応タスクのアシッドも、武装強化させなければ……」
二人は互いに頷き、行動を開始する。アカリはスポイトで血液を吸い取り、また厳しい表情する。
「(これは…うちらの世界のどこにもない……こんな得体の知れない物騒な生物兵器を、一体どうやって?)」
アカリはそう考えながら、血液を見るのであった。
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第四十二話:機神帝の目覚め・後編
アカリによって呼び集められたタスク達。アカリは厳しい表情で、タスク達に説明する。
「みんな集まったな…………」
「アカリさん、俺達やエグナント達を集めて…」
「今から説明することは……この世界や、他の世界の運命を左右する事になるじゃろう。」
「え?それって……どう言う?」
「うちらの敵であるエンブリヲとDr.ディメント……じゃが、本当に倒すべき相手はエンブリヲでもない、Dr.ディメントなのじゃ」
「え!?つまり、エンブリヲではなく、ディメントを倒せって言う事ですか?」
「まぁ、そう言う事にもなるじゃろう」
「けど、一体どうしたのですか?急にそんな事を言い出して……」
「実を言うと、研究した結果、分かったことがあるのじゃ……これじゃ」
アカリがポケットから取り出したのは、さっきの血液を入れた小瓶であった。
「それって?」
「10年前のリベルタスで、リベロが殺して安らかに葬った改造された少女の血液じゃ。亡骸から摂取した。」
「それと…何か?」
「大ありなのじゃ、この血液に含まれている細胞……うちらの世界や、ドラゴン達の世界にはない物じゃ」
《え!?》
「この細胞は、一つ一つが生き物の様になっていて、対象物の細胞を糧とし、新たな生物へと変換してしまう恐ろしい生物兵器なのじゃ」
「その通りです。アカリ・ヤマツ博士♪」
《っ!?》
何処からか女性の声がし、皆は後方を振り向く。そこにいたのは、美しき黒のローブを着ており、手には杖を持った藍色の長髪の女性がアカリの説明を聞いて拍手していた。
「流石、ジャスミンさんのお姉さんですね♪」
女性はゆっくりと、アカリ達の方へ向かってくる。
「誰だテメェ!?」
「一体どうやって!?」
ヒルダ達はホルスターからハンドガンを取り出し、女性に向けると、アカリがヒルダのハンドガンを下ろす。
「撃つな…彼女は味方じゃ。良く来てくれた……ルナ・ギデオン」
「いえいえ、お兄さんの代理で来ているのですから♪」
「そうか、早速じゃが……お主はこれを知っているのじゃ?」
「えぇ……」
ルナはサンプルを見る。
「間違いない……これはお父さんやお爺さんが処分した麻薬『リーパー・エキス』です。」
「『リーパー・エキス』?それが……って、今、薬と言った?」
「はい……」
ルナはアカリ達に『リーパー・エキス』と言うものが何か説明する。
ーーー《リーパー・エキス》ーーー
かつて、ルナ・ギデオンの父である『シン・ギデオン』と亡き祖父である『サム・ギデオン』の一族を根絶やしに抹消寸前へ追い込んだ邪神『ドゥーム』の亡骸から取れる血液。それを飲んだ物は細胞がリーパー細胞に喰われ、悍ましき怪物へと変貌を遂げ、異常な進化、理性の消滅、他者の血を求め、強烈な飢餓状態へと陥らせてしまう……。ルナの世界で連邦条約第1条【未開惑星保護条約】(未開の惑星に、他者の存在、未知のテクノロジー、危険物の抹消、定期文明の保護する条約)によって、『リーパー・エキス』は廃棄処分されたのだが……五年前、何者かによって処理場でリーパー・エキスが入っているボトルが盗まれたと…。
「その危険物をディメントが持っている……と言うことは、盗んだ犯人は……」
「はい……恐らく、Dr.ディメントでしょう。リーパー・エキスを盗んだ彼は、人工的に作り上げ、あの子達を実験として、投与したと思われます。」
「試作の為の道具かよ……くそっ!!!!」
「それで?」
「私達の組織は、全力で捜索し、ついにこの世界に脱走したディメントと盗まれたリーパー・エキスを見つけ出せました。」
ルナの言葉に、タスクはある事に気づく。
「ちょっと待ってくれ!ディメントが脱走した?それってつまり……」
「その通りです。ディメントは…………」
私の住む世界の…別の世界に生きる“地球人“だった者です…………。
《っ!!!?》
衝撃の言葉に、皆は驚く。
「なるほど、それなら納得できる。儂らが相手していたあのレギオロイドとノーブル四天王、コーパスと呼ばれる謎の勢力……」
「おっしゃる通りです。レギオロイドとノーブル四天王は私達のオーバーテクノロジーとロストテクノロジーによって造られた存在。あなた方の友達でもあるグレイスも…私達の技術によって生まれた存在。コーパスは、かつてズァークが率いていた帝国に属していた組織で、その残党軍なのです。」
「マジかよ!?」
「だけど…ディメントがあなたの世界の人間なら、何で?」
「それはまだ分かりません…彼が一体何を企んでいるか、こちらも必死に解明しようとしております。私達ヴァルキュリアスは、あなた達と連合を組もうと思います。」
「おぉ!頼もしいじゃないか!」
「…共にディメントを倒す者ですから♪」
「うむ!それより、グレイスは何処にいるか知っておるか?」
「はい、彼なら勇人の所にいます安心してください。」
「良かった〜!」
「それともう一つ…お尋ねしたい事があります。」
「何じゃ?」
「……グレイスが【フリューゲルス】に呼ばれているみたいなのです。」
《っ!!!?》
ルナの言葉に、アカリ達は驚く。
「フリューゲルスが……グレイスを呼んでいると?」
「はい…もしかしたら、修理できないリベリオンに変わって、その機体がグレイスを選んだのかもしれません」
「おぉ〜!そうか!そうか!なら急いで姫さんの所へーーーあぁ、そうであった、リベリオンやヴィルキスがなければ……」
「心配無用です。私のセイレーンの次元跳躍システムなら、サラさん達の世界にある月面基地へ行けます。」
「本当か!?流石、オーバーテクノロジー!」
アカリははしゃぎながら、準備をする。するとルナはヒルダを見る。
「?…何見たんだよ?」
「……相変わらず、こっちの世界の“お母さん”は激おこプリプリだね♪」
「……はぁっ!?」
ヒルダはルナの言葉に、声を上げるのであった。
一方、グレイスは着々とモーント・ウィガーへ行く準備をしていた。勇人は二人の子供を助けようと、シンディの両親に事情を説明していた。 その時にシンディの母は孫達が連れさらわれた事に気を失って倒れたことは、言うまでもなかった。勇人は地球や各惑星に任務に行っている友達を呼び集めた。そして数秒も経たないうちに……。
《勇人!!》
勇人の元に、和装に満ちた九人の男女がやって来た。
「雄二!智彦!玲二!ベリト!志歩!瑠璃!彩乃!真里亞!サマエル!」
ヴァルキュリアス宰相の『新井 雄二』、剣闘士の『五十嵐 智彦』、格闘家の『上野 玲二』、勇人と瓜二つの暗黒生命体『ベリト』、発明家の『星川 志歩』、ジャーナリストで忍者の『西園寺 瑠璃』、医者の『瓜生 彩乃』…三歳の娘を背負った超ハッカー、そしてベリトの妻の『真里亞』、シンディと瓜二つの暗黒生命体『サマエル』が勇人とシンディの危機に、駆けつけて来てくれた。
「みんな!久し振りだな!」
「久し振りじゃねぇよ!お前等の子が誘拐されたって、急いで駆けつけて来たんだよ!」
「私達にできる事があれば何でも言ってね、力になってあげるから♪」
「あぁ…後、紹介したい人がいるんだ。」
勇人がグレイスを紹介する。
「はじめまして皆さん。僕はグレイス。僕の世界では、エンブリヲによって造られた人造人間です。」
「彼は、エンブリヲの遺伝子によって造られた……謂わば、エンブリヲの子って言っても良いかな?」
《え…………えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!!!!??????》
「あの……今なんて?」
「もう一度言う……彼はエンブリヲの子だ。」
「なっ!!?」
智彦と玲二、志歩が刀と籠手、小太刀を構える。
「っ!!……勇人さん、僕の父親って、この世界でも酷く憎まれている相手なんですか?」
「師匠が生まれる前からだ……皆エンブリヲの事は誰だって知っている。皆、武器を下ろして……彼はもうエンブリヲの配下でもない。洗脳を受けない人物なんだ。」
「……それなら、良いんだが。」
みんなは武器を下ろし、グレイスのこれからの事を話す。
「そのラグナメイル……グレイスの頭の中で語り掛けるとは、よっぽど凄く特別な兵器なのだろう。多分、アンジュさんのラグナメイル【ヴィルキス】と……サラマンディーネさんの龍神器【焔龍號】。」
「シンさんのパンドラメイル【ペルシウス・オーバーライズ】……」
「陽弥さんとエミリアさんのクアンタムメイル【シグムディア】と【シグニュー】……」
「レオンさんとタスクさんのオメガメイル【ヴェルトヴィンガー】と【スパーダディアス】……」
「俺とシンディのインフィニットメイル【アダム】と【イヴ】そして………」
「僕の新たなラグナメイル【フリューゲルス】……。」
「……グレイスのラグナメイルだけど、フリューゲルスって私達の世界では、【翼】って意味を持っているよね?」
「え?」
「この際だから、グレイスの【ラグナメイル】、ーーラグナーーじゃなく、【ゼロメイル】て名付けない?」
「……“ゼロメイル”」
「意味は…【無】なの♪」
「無……悪くありませんね♪」
グレイスは満足していると、瑠璃がある事を思い付く。
「そうだ!」
瑠璃はポケットからスマホを取り出す。
「これ、グレイスのスマホ♪」
「スマホ?」
「私たちの世界で使われている携帯端末電話“スマートフォン”略して“スマホ”だよ、それには色んな機能が付いているから、写真や情報、情報は各惑星や世界、そして別の世界のも追加されているから♪」
「それって、シンさんが勝手に私達のスマホを改造と付け加えたからじゃないのか?」
「………」
《黙るんかい!?》
「フフフ♪」
《皆さん、仲が良いんですね♪》
「……あぁ、俺達は勇人やシンディがいたから、こうやって固い友情ができたからなぁ」
「私達は二人がいたから、それぞれの未来は一歩ずつ進んでいるのだから♪」
「あの人は?」
「シン・ギデオン…陽弥・ギデオンのお父さんよ。宇宙一の科学者で、元メイルライダーのトップエースだったの。」
「嘘!?」
「お初にお目にかかる、エンブリヲの子 グレイスよ。君に二つ…贈り物がある。」
シンがそう言うと、グレイスの肩に誰かが触れる。グレイスは振り向くと、そこにいたのは全身が機械で覆われており、関節部がパラメイルに似ているが、人が持てるくらいの小さな関節部であり、リベリオンに似た2メートルもあるロボットであった。
「誰?」
『お忘れですか?グレイス様』
「ラルス!?」
リベリオンのAIであったラルスが、リベリオンに似たロボットになっている事に驚く。
『シン・ギデオンやヴェクタ人、アジマス人の科学力によって、身体を持ちました。エンブリヲやディメントの洗脳及び、AIの消去も200.0%%不可能になりました。そして、フリューゲルスのドッキングシステムと各武装、並びに医療箱、治療キット、エンブリヲの偽りの世界のあらゆる全システムの超速ハッキングと特殊ウィルス及び、ワクチンの組み込み、生成、乗っ取りも可能になりました。さらに地上、空間でのオートホッパー形態へ可能。』
新しくなったラルスはシン達によって、新たに機能を追加された事を自慢する。自慢気に話すラルスに、グレイスは口を開けたままであった。
「…………凄すぎます」
もちろん開発者の志歩も驚いていた。
「そしてもう一つはこれだ♪」
次に渡されたのは、機関銃的なビームランチャーであった。(分かりやすく言えばディバイドランチャーにストックとアサルトスコープ、さらにロングバレルと下部のフォトンソード放出口が追加されて物です。)
「何ですか、これ?」
「私が開発した局地型対応兵器。その名も『ヴァリスランチャー』だ。この兵器はビームランチャー、ガトリング、ビームアサルト、レールガン、サブマシンガン、ビームシューター、マグナム、フォトンソード・モードへとなるヴェクタの正式最新製騎兵銃でもある♪」
「それって、パーツによって様々な武装へ換装する事が可能な兵器なんですか!?」
「YES♪陽弥と共に考え付いたからなぁ」
ヴァリスランチャーを渡されたグレイスは実際に構える。
「あれ?このランチャー…軽い」
「極限まで軽量化に成功した。銃身に何が起こって怪我をしても、保証してやる♪そして皆の分もある」
シンはコンテナから勇人達のヴァリスランチャーを投げ渡す。そしてグレイス達はモーント・ウィガーへ行く準備をする。勿論、シン・ギデオンと共に…。
「これに乗るんですか?」
「あぁ…」
それは、美しい青空のようなシアンで染まっており、エネルギー流動経路が紅く光り輝く。特徴だったのが、その艦艇の形状であった。普通は船のような形だが、その艦艇は翼があり、まるで不死鳥と思わせる羽もあった。
「勇人達の為に作ったフェニックス級機動巡航艇『ディスティニーフェニックス』だ。」
グレイスはディスティニーフェニックスの神々しさに見惚れる。(分かりやすく言えば、実写版『ガッチャマン』のゴッドフェニックスを色付けし、超光速ブースターユニット及び、ガルドメイル、インフィニットメイル、ゼロメイル格納リングを取り付けた感じです。)
ブリッジには、船長である勇人と副船長の雄二、シンディ、瑠璃、玲二、智彦達やラルスが座っていた。志歩は制御室、彩乃は医務室、シンはテックラボルームにいる。
「グレイス、お前の席だ」
グレイスはデスティニーフェニックスに搭載されている武装『マグネティックハイドロナミックキャノン』と『ガーディアンホーミングレーザー砲』の照準及び、船の操縦の担当であった。グレイスは座り、コンソールのボタンを押し、目標を元の世界にある月面基地へ設定した。
それと同時に、元の世界にいるアカリ達も、行動を開始していた。リュミエールの格納庫にて、ルナがセイレーンを起動し、呪紋を唱え始める。
「ディバインゲート!」
セイレーンのツインアイが光り、リュミエールが一瞬で消えた。月面基地の頭上に、リュミエールが出現すると同時に、グレイス達が乗っているデスティニーフェニックスも出現し、モーント・ウィガーへ入って行くのであった。
エンブリヲや兄弟に復讐の焔を燃やすグレイス、ディメントによって二人の息子を誘拐された事に怒りの焔を燃やす勇人…この二人を止められる者は……誰一人もおりません。例えそれがエンブリヲでも……。
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最終決戦編
第四十三話:フリューゲルスとの契約
モーント・ウィガー発着場で格納されているディスティニーフェニックスとリュミエール。リュミエールから出てきたアカリ達は、グレイスの帰還に大喜びする。
「良く無事であった!」
「姿…変わった!?」
「変わりました。それに…」
『私もいます♪』
《ラルス!!?》
アカリ達は、サイボーグへと変わったラルスの姿に驚く。そして、ルナも勇人達と合流する。
「ルナさん、上手く行きましたね♪」
「えぇ、それよりお父さん……」
「あぁ、そろそろグレイスに“あの事”を話そう。」
シンはそう呟き、グレイスの所に近づく。
「グレイス…」
「?」
「お前に話しておかなければらない事がある…………君が何故、ヘリオスのようにエンブリヲの配下にならないのか。それは…お前の遺伝子の中に、エンブリヲの因子の他に、【アウラ】の遺伝子情報も入っているのだ。」
「え!?」
「理由は分からない。君のDNA検査をしたところ、君は幼少の頃に誘拐され、本当の両親の記憶も全て掻き消され、エンブリヲの遺伝子情報を埋め込まれた。しかし、君だけにはどうしてからアウラの遺伝子情報も組み込まれた…アウラの因子とエンブリヲの因子……【母なるアウラ】と【父なるエンブリヲ】。正に【降臨の子】としては相応しい名前なっているのだ。」
「初耳じゃな…」
「あのぅ…」
するとティアがシンに問い出す。
「前に…アルゼナルがドラゴンや襲撃の時に、私の頭の中に女性の声がしたのです。」
「それって……清らかで美しい女性の声か?」
「え?はい。」
「その声の正体は【アウラ】だ。多分、君が奴らから逃げれたのはアウラの力だろう。そしてお前達12人のその強大な獣の力も、アウラの因子の一部だ。」
新たに真実を耳にしたエグナント達は自分達の力がアウラの力だと知り、動揺する。
「じゃあ……俺たちは…」
「あぁ、紛れもない立派な成功作であり、エンブリヲに抗するスーパーイレギュラーだ。さて、お喋りはここまでにして、プロフェッサー・アカリよ、彼等をフリューゲルスが格納されている格納庫へ案内してくれ。」
「おお〜いいとも!」
「あれ?お父さんは?」
「私はこれから、グレイスが10年前に着用していたバトルスーツの修理と改造、そして勇人達の専用のバトルアーマーとラルスの強化アーマーを開発する。ラルスお前は残れ」
『はい』
シンはラルスを連れて、デスティニーフェニックスへ連れて行く。
格納庫に到着したグレイス達は、フリューゲルスが格納されているデッキを見上げる。
「閉じられている?」
「あぁ、このフリューゲルスは元々、エンブリヲが使うはずじゃった」
「え!?」
「だがどういうわけか…奴はフリューゲルスを捨て、ラグナメイル一号機であるあの【ヒステリカ】に乗るようになったのじゃ」
アカリはそう説明しながら、シャフトの電源を入れる。シャフトが上へと動き出し、中が露わになる。
「これが……ラグナメイル0号機『フリューゲルス』…。」
ミスルギ皇国、その頃アンジュは……。
「うあああああああ!!!!!!!!」
何やらとんでもない事になって居た、アンジュは生まれたままの姿で何やら床に転がりながら暴れまわっていて、それをエンブリヲは眺めていた。
何故アンジュはあんな事になっているのか、それはエンブリヲがアンジュの感覚と痛覚を全て快感へと変化させていて、それにアンジュは苦しめられていた。
エンブリヲは感覚と痛覚を全て変える事が出来る、彼はそれを使ってアンジュの心を徹底的に落とそうとしていた。
そしてようやく快感である呪いが解けて、アンジュは息荒らした状態で床へと倒れ込む。
エンブリヲはアンジュのそばにより、アンジュを見ながら問う。
「どうだねアンジュ、これで私の妻になる気はあるかい?」
っとそれにアンジュは息荒らした状態で、エンブリヲを睨む。
「……はい…エンブリヲさっくっ!!…くたばれ…クズ野郎!!ぜ…絶対…に…アンタの……妻に…は…ならな…い!地獄に…堕ちれ!」
アンジュのとても強い心の強さはエンブリヲの感覚変化さえも折らせる事は出来ない、しかしエンブリヲはため息を少し出しながらアンジュを見る。
「はぁ…、やれやれ、困った子だ」
そうエンブリヲは指でアンジュ頭を突き、アンジュに再び快感の感覚を味あわせる、それも次は強烈な物を浴びせて…。
「ああああああああああああああ!!!!!熱いいいいいいいい!!!!!!!!」
アンジュは再び転がりまくりながら暴れ、エンブリヲはその部屋を出ようとした時だった。
「タスク…!!!」
「ん?」
エンブリヲはアンジュの言った言葉に思わず振り向き、アンジュは目に涙を流し絶えながらタスクの名を言う。
「助けて…!!タスク……!!!」
「(タスク…?何者だ、フッ、まあよい…いづれ君は私の物になる…永遠にな)」
エンブリヲはそう思いながらその部屋を出て行く。エンブリヲが出たのを確認したサリアがアンジュが居る部屋の前に来る。
「不様ねアンジュ」
「サリア…」
アンジュは何とか目を動かし、サリアの方を見る。
「エンブリヲ様に歯向かうからよ…馬鹿」
「馬鹿はあなたの方よ、あんなゲス男に心中しちゃって」
「私にはもうエンブリヲ様しか残ってないもの、でもあんたは違う…ヴィルキス、仲間、自分の居場所…何で持ってる」
サリアはアンジュがどれだけ恵まれている事に羨ましがっていた。
だがアンジュは頭を横に振る。
「ううん、居場所を持っていないのは……あなただけじゃないのよ」
「えっ?」
アンジュの言葉にサリアは少し驚く。
「グレイスは……大切な人が失っても、前向きなあいつは……私達に居場所を作っていた!一番苦しいのは、私やあなた達でもない、グレイスの方なのよ!それに……唯一あなたを心配しているティアもいる!」
「グレイスとティアが……、そう…アイツらがそうしているのね。でもさっきも言った通りあんたは私やあの二人よりも凄い物持ってるじゃない。変身なんてしなくても十分よ、これ以上私から奪わないで!」
そう言い残しサリアは出ようとして、再びアンジュの方を向く。
「出て行きなさい、エンブリヲ様が戻ってくる前に…。抵抗を続ければその内心を壊されるわ、それでも良いの?」
「!?」
アンジュはサリアの行動に見開いて驚きを隠せない。
エンブリヲに忠実であるサリアが自分を逃がすなんて考えられなかったからだ。
「別にあんたを助ける訳じゃないから」
「えっ?」
「不様なあんたを見たくないから」
そう言い残して出て行くサリア。
シャフトの中に格納されているフリューゲルスに見惚れるグレイス達。
「これが……ラグナメイル0号機『フリューゲル』……」
格納されていたのは、
猛禽類の嘴にも似た鋭い流線型を描く頭部。線が細いながらも堅牢な印象を与える胴体。飛行機の垂直尾翼めいた突起が突き出す肩、すらりと伸びる腕。手には何も持っておらず、指にも力は込められていない。足は膝から下が戦闘機の主翼を思わせる丸みを帯びた形状をしており、足首にあたる部位がない。全身くまなくラグナメイルと同じ、漆黒で染め抜かれた体表面は、金属を思わせる冷たい輝きを宿している。そして血管のように細かな溝が走っていた。特徴的だったのは、その機体の各関節部、手首や足首、首根や背部のスラスターウィングの関節部のほとんどがなかったのである。
グレイスはフリューゲルスのコックピットハッチを開け、コックピット内を見る。
「これ……見たことのないコックピットだな」
グレイスの呟きを聞いていた勇人も、コックピット内を見る。それは全天周モニターであり、各部が取り付けられてなく、浮遊するパラメイルと同じバイク状の座席が浮遊していた。グレイスはそれに乗り込み、操縦桿のスロットルを捻るが、何も起こらなかった。
「何で動かないんだ?」
「ガス欠?」
「嫌、そんな筈はないんじゃが…」
アカリはそう言いながら、燃料メーターを確認する。グレイスはフリューゲルスから下り、フリューゲルスの見上げる。
「どうしてなんだろう……フリューゲルス、呼んでいた理由は何なんですか?何故僕を?」
グレイスがそう思っていると、何処からか、声がしてきた。
《…………ベロ……》
「?」
《ベロ…………リベロ…………リベロ……》
「この声…」
すると、グレイスの首にかけている陽弥から貰った赤い宝石のペンダントが光り出す。
「?」
《…私の血を……フリューゲルスに……》
そして謎の女性の声が聞こえなくなり、グレイスはフリューゲルスを見上げると、コックピットの中に入る。
「どうしたのじゃ?」
「…………」
グレイスはコックピットのコンソールのあちこちを確認する。すると一箇所だけ、窪んだところがあり、ペンダントをはめ込む。
「…………」
何も起こらなかったその直後、ペンダントの赤い宝石が、突然溶け出し、鱗と共に窪んだ箇所の穴の中へと入る。
「溶けた?」
『照合を確認。新たなメイルライダーの登録をお願いします。』
「……“グレイス”」
『“グレイス”名前認証登録完了。ーーーーーーアメリア合州同盟国元大統領『バラク・オバマ』からのメッセージです。』
《オバマ!!!!???》
勇人達はその人物の名前に驚くと、モニターに褐色の男性が映る。
『こんにちわ未来の人々よ……私は元アメリア合州同盟国大統領“バラク・オバマ”。統合経済連合連合国は北極の地下遺跡から発掘した機体である。そしてこの機体には、この世界に生きる未確認生物“通称UMA”や外宇宙に生きる者との対話を可能としている。だが、それを自分たちの利益にしようとしているものがいる。だから、私はこの機体をこの月面基地や基地の人たちに任せた。…………未来に生きる者よ、この機体を動かすとなれば、絶対に約束してほしい。……“このフリューゲルスを、大戦争の兵器や道具にしてはいけない。この機体の力を危うさを知らない者は、やがてその力に支配される……それだけは忘れてはならない。”』
オバマという人物は悲しい表情のまま、メッセージ映像が切れる。その時、コンソールが光り出し、その光がグレイスを包み込む。その時、フリューゲルスのソリッドアイが血のように赤く輝くのであった。
そしてアンジュの帰りが遅いと感じたモモカはミスルギ王家の地下を調べてアンジュを探していた。
「アンジュリーゼ様ー!何処ですか?!」
パシュ!!
「??」
何やらムチの音がしたのをモモカは振り向き、その場に向かう。
その場には裸のまま吊るされたリィザの姿が居て、それをシルヴィアがムチでリィザを痛みつけていた。
「全く!何て汚らわしい! そこで反省していなさい!!」
そう言ってシルヴィアはその場から離れて行き、隠れて見ていたモモカはすぐさまリィザの元に行き、彼女を解放する。
下ろされたリィザはモモカに水を渡されて、それを飲み干すとモモカを見る。
「…どうして」
「ジュリオ様と一緒に、アンジュリーゼ様を貶めた事…忘れはしません」
アンジュの誕生16年祭の時に彼女をノーマと暴露し、そして彼女に酷い仕打ちをしたことを忘れはしないと言うモモカ。
「だから…アンジュリーゼ様に謝ってください。それまでは絶対に死んでは駄目です」
っとアンジュに謝罪を申し込むモモカ、それだけの思いにリィザの目に涙が浮かび上がって来る。
自分がどれだけアンジュに酷い事をしたとは言え、だた謝れと言うだけで死んでは駄目だと言う事を言われれば、涙を流さない者はいない。
「……皇宮西側の地下、皇族専用シェルター…彼女はきっとそこに居る」
それを聞いたモモカは有力な情報を手に入れた。モモカはすぐにリィザを隠れる場所へと案内した後アンジュの元へとすぐに向かった。
その頃、モーント・ウィガー格納庫では、大変な事になっていた。突然の光がグレイスを包み込むと同時に、フリューゲルスが起動し、勇人達に襲い掛かっていた。勇人達やエグナント達は必死にフリューゲルスを取り押さえようとするが、フリューゲルスの全ての十指に内蔵されている補助武器『プラズマ・フェイズ・バルカン』を乱射する。
「うわぁっ!!危な!!??」
さらに、蛇のように動く尾部の先端部に内蔵されているビームキャノン『フリューゲルスキャノン』とその先端下部から模様が描かれているビームソード『テイルブレード』が襲い掛かる。
「やめろ!グレイス!基地が壊れる!!」
「ダメだ!!グレイスはフリューゲルスに取り憑かれている!」
「オバマがさっき言っていた“力の危うさを知らない者は、やがてその力に支配される”って、こういう事だったのか!!」
アツマと玲二がそう言うと、フリューゲルスが二人の方を見る。
「「?」」
するとフリューゲルスの口部フェイスが露出展開し、砲口が露わになる。
「嘘!?」
「あんな武器もあるのか!!?」
フリューゲルスの口部に内蔵されている高出力荷電粒子砲である『ギガ・スマッシャー』が光り輝きながら、チャージする。
「やばい!」
そしてギガ・スマッシャーから大出力の荷電粒子が放たれ、アツマと玲二に迫っていたその時、勇人のアダムがクアンタムシールドを展開し、荷電粒子攻撃を防ぐ。
「熱っ!?シールドを張っているのにこの熱さ、常識じゃないだろ!?」
すると荷電粒子の熱に、格納庫の壁が溶け始める。
「マズイ!」
「これ以上荷電粒子の収束が続くと、俺たち諸共空間へ放り投げ出される!」
「目を覚ませ!グレイス!」
「…………」
勇人の声も届かないグレイス。何故なら、グレイスはどこか知らない白い空間で一人絶え間なく歩んでいた。
「(もし、10年前の悲劇がまた……僕は……)」
グレイスがそう思っていた直後、彼の元に亡くなったセレスが語りかける。
《リベロ…ううん、今の名前はグレイスだったね》
「セレス…」
《10年前の悲劇、もう良いのよ……あの時、あの子達がリーパー・エキスによって悍ましき怪物へとなり、それぞれの将来を考えていた子達を守れなかった事を守れなかったあなたを……誰が責めるの?それに私はあの子達を苦しみから解放したあなたに、感謝しているのよ。》
「だけど…」
《私がディメントに銃殺された事を後悔しているの?》
「違う!僕は……セレスやあの子達を!」
「……」
するとセレスが、グレイスの額と彼女に額をくっ付ける。
「?」
《私は…ううん、私やヒョウマ、ティアはずっとエンブリヲやディメント、テティスに差別されていた。私たちのような醜い怪物として……けど、あなたは…そんな私達に声をかけ、優しく接し、そして私が綺麗で美しく、可愛い女の子って♪》
そしてセレスは、グレイスに口付けし、抱き締める。
「!!?」
「私は…あなたのような素敵な人に出会えて良かった……」
そしてセレスはグレイスから離れ、天へ登って行く。グレイスは泣きながら、天へ登って行くセレスを追い掛ける。
「待って!!セレス!!」
するとセレスの元に、魂を解放した子供達もセレスと一緒に登って行く。
「あなたは生きて…グレイス。それから………あなたに伝えなければならない事があるの…」
セレスは頰を赤くし、グレイスに言う。
《私を愛してくれて……ありがとう♪》
セレスはグレイスに告白すると同時に、彼女の涙と言うより雫がグレイスの手のひらに滴り落ちた。すると雫が光り出し、形を変え、純白の銃身と黄金の装飾が付けられているブラスターへと変わった。
《私は今も……ラプソディーに囚われている。だから、私の騎士様であるあなたが、眠り姫である私を……助けて♪》
「……あぁ、約束する!そして!」
グレイスはブラスターを構え、トリガーを弾く。銃口から蒼く輝く閃光と共に、ビームが発射され、白の空間を星空へと変える。
「助けた後…お前に言わなきゃならない!だからそれまで!待っていて欲しい!!」
《……良いよ♪じゃあ、約束ね》
「あぁ、約束だ……」
セレスとグレイスは小指を結び、指切りげんまんする。そしてセレスの頭上に、フリューゲルスが現れ、グレイスの周りを飛ぶ。
『どうやら、迷いがなくなったな。』
「あぁ……俺はもう、誰も死なせない。この身がズタボロになろうとも、絶対に!」
『その決心と勇気……惚れた!!』
フリューゲルスの肩部やスラスターウィング、関節部がない筈の肘部、膝部からドラゴニウム粒子で覆われたトランスミッターが展開し、6基のスラスターウィングから金色に輝く剣を放出する。そしてフリューゲルスのソリッドアイのカラーが、赤から翠へと変色し、頭部の螺旋状のアンテナから二つの螺旋状のビームアンテナを放出する。
「その姿…」
『私の本来あるべき姿だ、グレイス。この力は、今偽りの世界で、ミスルギの姫とその侍女が逃げ出そうとしている。その時二人に奴…エンブリヲが近寄ろうとしている。その時に使え……彼、“勇人・ブリタニア・クアンタ”とその息子二人を助け出す事が出来る。』
そしてフリューゲルスが光り輝き、グレイスは元のコックピットへと戻る。モニター画面には、勇人のアダムがフリューゲルスから放たれている高出力荷電粒子を防いでいた。
「え!?ちょっ!?」
グレイスは急いでフリューゲルスの操縦桿を握り、攻撃を止める。攻撃が止んだ事に勇人達は恐る恐るフリューゲルスに近づく。コックピットハッチが開き、中からグレイスが出てくる。
「グレイス!大丈夫か!?」
「……大丈夫、大丈夫…それにもうフリューゲルスはもう僕の新たな機体になってくれた。行きましょう。」
すると誰も乗っていない筈のフリューゲルスが動き、落ちていたアマノソウウンガを持つ。
《……………………》
どの機体…アダムにしか扱えなく持てない筈のアマノソウウンガが、フリューゲルスが軽々とアダムに渡し返してきた事にみんなは茫然する。
デスティニーフェニックスの格納デッキに搬送しているフリューゲルス。そして勇人達に新たな装備を、シンがみんなに渡していた。
「これは?」
「勇人好みである和装だ。しかもただの装甲ではない。『合成オリハルコンダイヤコーティング装甲板』と骨格状サポートスーツ『エグゾダス』を追加しているからなぁ、強力なビームや実弾射撃に対し、高い防御性能を発揮する事ができるバトルライダースーツ。さぁ……とっととアンジュの元へ迎えに行って、エンブリヲに悪夢を見せてきな!今日がお前の命日となるってな!!」
皆はそれぞれの指定された和装に着替える。
グレイスは口を覆い隠す面と近未来的な侍の鎧と服装。そして日本刀とビームブレード、そしてホルスターにセレスの形見『レイブラスター』を持参。
勇人は将軍と思わせる鎧に腰のマント、そして鬼と思わせる鬼面を付けていた。腰には神刀 スサノオの他に小刀を持参。
シンディは口につける鬼面と、袴と刀、そして姫鎧を身につけており、得意の古代クアンタ兵装の弓と矢と薙刀を持参。
雄二と玲二、智彦は鎧武者と思わせる鎧武者をしており、雄二は古代クアンタ兵装の十文字槍と刀、玲二は古代クアンタ兵装籠手と鎖鎌、智彦は刀に大太刀を持参。
志歩と彩乃は鎧武者と同様に小刀と古代クアンタ兵装の小銃、医療ドラゴニウムや救急キットを持参。
瑠璃と真里亞は隠密用のスーツでその姿はまさに忍びであった。隠密用の護心盾とビームダガーを持参。
ラルスは古代クアンタ兵装の重火器と追加装甲、そして鬼武者と思わせる鬼面と角が追加された。
フリューゲルスにも新たな武装が追加された。モーント・ウィガーに格納されていたフリューゲルス専用武装である『プライマルブラスター』とネイキッドリベリオンのデータを元に、球状のエネルギー光弾『リベリオンビット』とスラスターウィングに追加された自動追尾式ハイパーメーサー砲『ブリッツェン・プルーマ』と両足脹脛部に内蔵された二連装式ミサイルランチャーが追加された。皆はそれぞれの席に座り、勇人とグレイス、シンディはアダムとイヴ、フリューゲルスに乗り込む。アカリ達も、リュミエールに乗り込み、デスティニーフェニックスと共に、偽りの地球へと向かって行った。
その頃エンブリヲ達はアケノミハシラでラグナメイルを使い、アウラのエネルギーである事をしようとしていた。
エンブリヲはノーブル三将とダイヤモンドローズ騎士団の皆を見て言う。
「諸君、揃ったな。ん?サリアはどうしたのだい?」
「それが…何処を探しても見かけていないのです。」
っとエルシャがそう言い、エンブリヲは「やれやれ」と頭を抱えながらも、ホログラフィック端末を展開させる。
「仕方ない、では最終段階の準備をしよう」
「待てエンブリヲ」
エンブリヲが準備をしようとした時にディメントがやって来る。
「どうしたのかねディメント」
「お前の計画を開始する前に邪魔する者達がまた現れた。ミスルギ皇国の南の方だ」
っとディメントは画面に映像を映し、エンブリヲに見せる。それはこちらへ向かってくるタスク達の機体であった。
「やれやれ、まだ私に歯向かうか……ん?」
エンブリヲはそう考えながら端末を見ると、サリアが気を失っている画像を見つけ、それにエンブリヲは舌打ちをしてしまう。
そして追跡部隊のエルシャとクリスを回す。
そしてアンジュはモモカに支えられながら宮邸の外に出る。
『何処に行くの?アンジュちゃん』
「「!!?」」
二人は空からやって来た追跡部隊であるエルシャに発見されてしまう。
「エンブリヲさんが探しているわ、戻りましょう」
アンジュは再びエンブリヲに捕まる訳には行かない、あんな苦しい思いをするのは二度とゴメンだった。
「走れますか?アンジュリーゼ様」
「ええ!」
そう言ってアンジュはモモカに引っ張られながら走り出して、それにはエルシャは困った表情になる。
「あらあら、仕方ないわね」
エルシャはすぐさまレイジアをアンジュの方に向かわせ、それにアンジュ達は逃げているとアンジュの指輪が光り始める。
するとアケノミハシラにあるヴィルキスが起動して青色に変化する、そしてアンジュの元にジャンプしてアンジュ達の目の前へと現れる。
それに追跡していたエルシャとクリスがヴィルキスの登場に驚く。
「「ヴィルキス!!」」
アンジュはすぐさまヴィルキスへと乗り込み、すぐにモモカに言う。
「モモカ!乗って!!」
「はい!!」
乗り込んだアンジュ達はすぐさまヴィルキスを動かして逃げ始める。
エルシャとクリスはすぐさま追いかけえる。
「クリスちゃん!!」
「分かってる!逃がさないよ…アンジュ」
そして二人はアンジュ達に攻撃を仕掛け、アンジュ達はその攻撃を何とかかわしながら逃げ続ける。
「アンジュリーゼ様!」
「しっかりとつかまってモモカ!」
するとアンジュの目の前にアトラスが操るプロメテウスが現れる。
「食らいやがれ!」
アトラスはプロメテウスのトライデントカノン
それをアンジュはかわす。
「くっ!ちょっと何よあいつ!」
「逃がさん」
するとまたしてもファントムが操るハーミットがセブンテールを撃ちまくって攻撃を仕掛けて来た。
「食らいな!!!!」
強烈なセブンテールにアンジュは間一髪でかわしながら再び逃げる、しかし徐々に追跡部隊が集まって来てアンジュに逃げ場が無いと感じた時だった。
空から異常な空間変異が現れ、そこから龍神器達が現れる。
「借りを返しに来ましたわ!」
「サラ子!」
サラ達が助けに来てくれた事にアンジュは驚くのであった。
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第四十四話:聖なる機神帝と聖なる龍皇・前編
アンジュを捕まえようとした時にサラ達の登場でエルシャ達とアトラス達はより警戒を強め、アンジュは焔龍號を見て通信を入れて来る。
「サラ子!?サラ子なの!?」
モモカがアンジュにそう聞いてくる中で焔龍號から通信が帰って来た。
『しばらく見ない間にとても淫らになって、それに風下だと何だか臭いますわ』
「うっ…」
サラに痛い所を突かれるアンジュは思わず表情を歪める。
『お風呂にでも入っていらしたら?ここは私達が引き受けますから♪』
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
アンジュはサラの命令に従い、その場から逃げる。そしてサラはナーガとカナメに命令する。
「お二方、準備は出来てますか?」
『はい!サラマンディーネ様!』
サラ達は武器を構え、エルシャ達とアトラス達に攻撃を仕掛ける。
「通してもらいます!アウラの元に!」
一方、グレイス達も偽りの世界軌道上に現れる。
「さぁ、着いたぞ!勇人!用意は出来てるか?」
雄二がブリッジから、勇人のアダムに通信を送る。
『いつでも行けるぞ、雄二』
各デッキには、勇人達がそれぞれの機体に乗り込み、酸素マスクを付けていた。
「それじゃ、デスティニーフェニックス!モード“ヘルジャンパー(軌道降下強襲形態)へ移行!!”」
デスティニーフェニックスが変型し始め、宇宙ステーションへと変わる。リングの格納デッキの頭上が開き、降下シーケンスが始まる。
「ん?」
っとグレイスが、あるものに目が入る。それはかつて500年前に使われた軌道衛星兵器『ハルマゲドン』が浮いていた。
「ごめん!ちょっと待って!」
格納デッキから離れるフリューゲルスに勇人が注意する。
「勇人!急げ!」
グレイスはハルマゲドンに近付くと、ハルマゲドンの頭部が、フリューゲルスの方を向く。
『久し振りだ…フリューゲルス』
『お前もな、ハルマゲドン』
するとフリューゲルスが、ハルマゲドンに何かし始める。
『パスコードを入力してください。』
フリューゲルスは3D形式のキーボードを入力する。
『ハルマゲドンのセーフティを解除。外部からのコードをフリューゲルスに変更しました。これより、ハルマゲドンと対話インターフェイスAI『ネメシス』とのリンクを強制リンクを解除します。』
ハルマゲドンに搭載されていたアンドロイド『ネメシス』が分離し、フリューゲルスのバックパックにドッキングする。そしてグレイスの元に、ラルスがジェットパックで近付き、ネメシスのコックピットに入り込む。
『ラルスも久し振りだ…形、変わったな』
『ご久し振りです、ネメシス。』
「二人とも知り合い!?」
『グレイス様、これより、フリューゲルスのコックピットに移動します。』
ネメシスのコックピットとフリューゲルスのコックピットが繋がり、さらに広範囲の全天周囲モニターになる。
「凄い……フリューゲルスのコックピットがさらに広くなった」
『当然です。ミストラルは我々の常識をも覆す程の計算力を持っております。今の私の計算力、フリューゲルスの軌道演算処理、ネメシスの補助計算、グレイス様の操作が揃えば、流石のミストラルもそこまでの計算は不可能になり、ショートします。』
「つまり?」
『はい、グレイス様。ヘリオスはミストラルの軌道計算によって、高速で軌道を読み取っているのです。』
「なるほど、つまり奴はミストラルがいなければただのメイルライダーっていう事か。」
『その通りだ…グレイスよ、もしエンブリヲが“あの力を”使おうとした時、我の最大の能力を全開にして使ってくれ。』
『俺もだ……俺のジャミングフィールドなら、他のラグナメイルの動力源を一時的に強制に停止することが出来る。それと……奴が怯んだ時やトドメを刺す時、この台詞を言ってください。』
ネメシスが、フリューゲルスのコンソールにある台詞が表示される。
「えぇっ!!?」
その台詞に、グレイスは茫然する。そしてフリューゲルとネメシス、そしてランチャーへとなったハルマゲドンを連れてきた。
「早くしろ!グレイス!カウントダウンが30秒だ!」
フリューゲルスがデッキに着くと、ハルマゲドンキャノンを下目掛けてビームを放つ。黄色く光り輝くビームは、勇人のアダム、シンディのイヴ、智彦達ののアーキバスIIへ吸収される。
「この光……これは?」
『お前たちの機体に、ハルマゲドンの超兵器とある機能を追加させた。』
「ある機能?」
『ディメントは必ず、ラプソディーを使って来る。なら、それに応じて、我らは…………絆合体によって、ラプソディー以上の機体へとなる。』
《合体できる!!!!!!??????》
『勿論、デスティニーフェニックスとリュミエールもだ。』
《…………フ!、フ!、フ!、フリューゲルス、ゲェカッケェェッ!!!》
勇人は勿論グレイスや雄二達、アカリやエグナント達も、フリューゲルスの機能に感心する。その直後、降下が開始し、勇人達を含むデスティニーフェニックスやリュミエールが超加速で大地へと降下していく。激しいGが彼らを襲う中、フリューゲルスとネメシスがデッキから離れ、ワープしながら、降下していく。
『見えてきました!』
ネメシスの超範囲索敵機能が、アンジュのヴィルキスや乗っているアンジュやモモカ、エルシャやアトラス達に識別タグを付ける。
『識別完了。『デブリスイーパー』及び『フェザーミサイル』スタンバイ。』
ネメシスの6股の先端に装備されているビームライフルと各所の発光部、そして翼のハッチが開く。
「グレイス様、いつでもいけます」
「うん……」
グレイスは頷き、フェザーミサイルのマルチロックオンする。
「……殲滅開始!」
ネメシスに搭載されている偏向粒子砲『デブリスィーパー』とビームライフル、フェザーミサイルが一斉に放たれ、エルシャ達とアトラス達へ向かっていく。
っとここで、上空から多数の熱源反応を確認したアトラスが急いで気付き、通信する。
「っ!!退避しろ!!」
アトラスやエルシャ達は急いで回避する。フェザーミサイルがミスルギ皇都を破壊したり、デブリスィーパーで市民が一瞬で蒸発した。
「何!?」
アンジュやサラ達は、突然の事に動揺する。すると突然強い風が吹き荒れると、何処からか、男性の歌声が聞こえて来る。
「♪〜♪〜」
《!?》
すると、上空の雲から曙光が燃える街を刺し照らし、雲がから稲光が発する。そしてその雲から、ゆっくりと尻尾を蛇のように動かし、ネメシスの6股のアームが円状を描き、その中心点に薄暗い球体と光のリングを合わせたような形状のフローターを発し、聖天使のように地上へ降下するフリューゲルスが現れた。
その機体を確認したエルシャ達やアトラス達は動揺する。
「何あれ!?」
「あんな機体…見たこともない」
エルシャ達の他に、アトラス達も言う。
「データにない機体だ…誰が?」
「……この感じ……危険」
《っ!!?》
すると各機体の通信機がハッキングされ、左にグレイス、右にラルスが通信してきた。
『この期に及んで、お前達はあの男の為に尽くすか……』
「グレイス君!?」
「嘘!?」
「バカな!?」
「貴様!?」
エルシャ達は驚き、アンジュは通信を送る。
「グレイス!グレイスなの!?その機体に乗っているの!?」
『しばらく振りですね、アンジュさん♪サラさん♪』
「グレイスなのですね?」
『えぇ♪』
そしてグレイスはプライマルブラスターを撃つ。
『『『『エンブリヲにこき使われの家畜が!!お前らに絶望と俺の苦痛を1000万倍返してやるぞ!!!!』』』』
グレイス、ラルス、フリューゲルス、ネメシスが同時に怒声を上げ、掌に内蔵されているマニュピュレーター内蔵ビームバルカン砲からビームサーベルを展開し、アトラスに斬りかかる。
「小賢しい!!」
アトラスはナックルバスターを振りかざすと、フリューゲルスはプライマルブラスターを収納し、片手でナックルバスターを受け止めた。
「っ!?馬鹿なっ!!新しい機体でこんな!!」
その時、後ろを突こうと、ファントムが迫った直後、テイルブレードがハーミットの右腕部やセブンステイルの4本を切り裂いた。
「何!?」
「ファントムッ!!」
アトラスが負傷したファントムに呼びかけた直後、ナックルバスターが払いのけられ、フリューゲルスのビームサーベルがトライデントカノン砲を斬り裂き、焦るプロメテウスのコックピット目掛けて、ビームサーベルを突き刺した。
「グエェェェェェェェェッ!!!!」
アトラスの断末魔の悲鳴が聞こえ、プロメテウスが動かなくなる。
「アトラスを一撃で!!」
次に、フリューゲルスはハーミットを睨む。
「ヒィッ!!」
フリューゲルスがビームサーベルを突き刺そうとしたその時、上空からミサイルバードが向かってきた。グレイスは急いでフリューゲルスの頭部にあるビームアンテナからビームバルカンや両サイドに内蔵されている頭部バルカンやマニュピュレーター内蔵ビームバルカン、プラズマ・フェイズ・バルカンを乱射する。現れたのは、ヘリオスがグレイスが来ることを想定して、フルアーマーへ改造したアイオロスであった。ヘリオスはフリューゲルスに通信を送る。
『まさか……お前が旧世界の遺物であるフリューゲルスとネメシスとハルマゲドンをこの世界に持ち込むとはなぁ。』
「お前に言われたくない。それに、よくもまぁその武装で来たもんだ。」
『当然だ』
するとヘリオスが二連装ハイパーシールドライフルをハーミットに向け、ハイパービームを放つ。
『ヘリオォォォォォォスッ!!!!!!』
ファントムは断末魔の悲鳴を上げ、ヘリオスを名を叫び、破壊された。
「っ!!何故だ!!同じ生まれて来た兄弟であったのに!!?」
『弱き“降臨の子”はこの世に存在してはならない。弱肉強食の世界と同じだ。弱き者は強き者に肉として喰われる!アトラスやファントム、テティスは弱きホムンクルスとして造られた!完璧な力を持つ人造人間は……この私!“ヘリオス”である!!!』
ヘリオスはシールドライフルのクロー部分から高周波ビームソードを展開し、グレイスに突き付ける。
『貴様も抜け!リベロ!お前と私……どちらが最強の人造人間か決着だ!!』
「…………」
グレイスは黙ったまま、ビームサーベルを展開し、両者ビームの刃をクロス字にしてぶつけた。そしてフリューゲルスとアイオロスがそれぞれの構えを取り、両者鋭い眼差しで呟く。
「(まさかこうして弟であるリベロと対立するとは……私も皮肉だ。だが、リベロ……お前が何処まで強くなったか、見てやる。お前を…………)」
「(ヘリオスと一騎打ちだなんて、不愉快すぎる。だがもう俺は迷わない……生きて、セレスを救い出し、あの言葉を言うまでは、まだ死ねない!僕は、お前を…………)」
「「ねじ伏せて殺る!!」」
両者はビームソードとビームサーベルを構え、突撃するのであった。
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第四十五話:聖なる機神帝と聖なる龍皇・中編
そしてフリューゲルスの能力とディメントの野望の一部が出ます。
そしてミスルギ皇国へと向かっていたタスク達、ココ達は別の場所で待機を命じられていて今は居ない。
しかしミスルギ皇国の状況の異変に気付いたロザリーが皆に問う。
「おい皆、何か変だ。もう戦闘が始まってる!」
「あぁ?」
ヒルダはそれに眉を顰め。タスクが乗るがマスティマがすぐに気づいた。
『この感じ…………タスク、この反応は“フリューゲルス”と“ネメシス”、そして“ハルマゲドン”だ』
「フリューゲルスにネメシスにハルマゲドン?」
『それがここにいるという事は恐らくライダーは……』
「グレイス!?」
『そういう事になる。そして良い情報がある。今日、エンブリヲはグレイスと荒神によって死す。』
「え!?」
するとヴィヴィアンが何やら鼻をかぐ。
「クンクン…!タスク!ヒルダ! アンジュあっち!!」
「えっ?」
「はぁ?」
タスクとヒルダはヴィヴィアンの反応を見て振り向く。
「アンジュあっち~~!!」
っとそう言ってヴィヴィアンは違う方向へと向かって行く。
「クソっ!どうなってるんだよ!?」
そう舌打ちをするロザリー。
すぐにヴィヴィアンの行動に気付いたタスク達。
「そうか!ヴィヴィアンはドラゴンだから、嗅覚が鋭いんだ!」
すぐさまアンジュの元へ飛ぶ。
そして追ってを避けながらもアンジュは何とか逃げ切っている。
「モモカ!追っては?」
「今のところは…」
そうモモカが言っていると…。
『アンジュ居た~!!』
通信にヴィヴィアンの声が聞こえた事にアンジュは前を向くと、タスク達が向かって来る様子が見えた。
「すっげぇ~…、本当に居た」
ロザリーはヴィヴィアンの嗅覚に思わず感心した。
「助けに来たぞ!アンn「アンジューー!!!」ぶ!?」
ヒルダが言おうとした時にタスクがアンジュに向かって叫んで、それに割り込まれた事に思わず言葉を詰まらせる。
そしてアンジュはタスクの声を聴いた途端に目に涙を出て来る。
「タスク!!(良かった…!生きていてくれて!!)」
っとその時だった。
アンジュのヴィルキスに向かってクリスのテオドーラがビームライフルを構えて狙撃して来た。
「はっ!!アンジュ!!」
ヴィヴィアンがそれに叫んだ事にアンジュは後ろを向くと、既にビームがまじかに迫っていたその時、流星の如く高速で戦っているグレイスとヘリオスが、ビームをかき消した。
「っ!!?」
ヘリオスのアイオロスは既にボロボロの状態であった。フリューゲルスは腕を組み、神々しい光を放つ。
「何だあれ!?」
「すげ〜」
「うぉぉっ!!カッチョイイ〜〜〜!!!」
「アレが?」
『アレが……最初のラグナメイル『フリューゲルス』と“ネメシス”だ』
皆が驚いている中、フリューゲルスの流動が翠へと変わる。
「フリューゲルス…一人で大丈夫?」
『勿論だ…』
『では、私はネメシスに搭乗します。グレイス様はエンブリヲを……』
「分かった♪」
グレイスはそう言い、コックピットハッチを開ける。
「!?」
ヘリオスがコックピットからグレイスが飛び込んできた事に驚く。
「(アイツ……何を!?)」
「変身!!」
グレイスが大声で変身と言った直後、グレイスの体が光りだす。タスク達やヘリオス達はその光に眩く。邸の窓から見ていたエンブリヲが驚く。
「あの光、まさか!!?」
「(厄介な事になったなぁ……)」
ディメントは驚く表情をしているエンブリヲを見る。
「(『デッドコピー』のヘリオスやお前は頼りなさそうだから……そろそろオリジナルの“彼ら”と……。)」
ディメントはそう思いながら、姿を消し、地下の研究所へと転移した。研究所の檻には、誘拐されたノーマの子供達や女性達、そしてその中に、勇人とシンディの子供である一輝とロビンがいた。ロビンは震えながら、勇気を出し、弟を守ろうとする一輝に抱き付いていた。そしてそこに、ディメントが檻の前に現れ、彼女達を驚かす。
「バァ〜!!♪」
彼女達が怯えながら後方に下がる。
「………ハァ〜〜、エンブリヲの性欲はいつもいつも……ん?」
するとディメントが弟を守ろうとする一輝と怯えているロビンを見て、ある事を思いつく。
「その怯えているガキを使う。あんなに恐怖なら、発するマイナスエネルギーも膨大な筈だ♪」
ディメントはレギオロイドに命令し、逃さないように二体がアームキャノンを構え、三体が強制的にロビンを連れて行く。必死に守ろうとレギオロイドに抗する一輝であったが、レギオロイドは無視しながらロビンを連れて行く。
「さぁ、勇人よ……約束通りお前に絶望を与える時が来た…」
ディメントはそう呟き、彼の後方にある六つのカプセルのハッチが開く。蒸気で見えないが、赤く光る目と残り二つのカプセルから異様な黄色く輝く光を放つオーラと深紅の怨念の闇を放つオーラを出した二体の球体。そして、完全武装をしたラプソディーが立っていた。
「悪いなエンブリヲ…貴様のラグナメイル、私が貰おう」
ディメントはそう言い、ヒステリカに触れる。ディメントの手から異様な悪しきオーラがヒステリカを包み込む。闇に飲み込まれたヒステリカに異変が起こる。誰も乗っていないはずなのにヒステリカが立ち上がり、翠のツインアイが赤く染まり、ヒステリカの装甲や翼の形状と機体の姿形が変わっていく。
「失敗作がまさかアドベント・オブ・チルドレンに覚醒するとは想定外であったが……私の計画は気づかれない。それに、奴の力を知っているのはヘリオスだけだと思うなよ♪」
ディメントはそう呟きながら、異形の姿へと変貌したヒステリカ……ーーー『ヒステリカ デモニック・フォルム』ーーーが裂けた口部を露出展開し、咆哮を上げる。
その頃、グレイス達の方では凄い事になっていた。光が弱まると、グレイスの姿にサラ達やエルシャ達、タスク達も驚く。東洋の龍に近く、体には無数の純白の羽衣がついている。 流動経路は赤と翠のラインが流れており、神々しく美しい姿はまさに……サラマンディーネが呟く。
「【アウラ】……」
アウラの遺伝子が活性化し、アドベント・オブ・チルドレンへと覚醒したグレイスは龍の咆哮を上げる。その姿にヘリオスは驚く。
「その姿!!?馬鹿な!失敗作であるお前が……何故アドベント・オブチルドレンに!!?」
ヘリオスは怒声を上げ、コックピットから飛び出て、甲虫を模したアドベント・オブ・チルドレンへと変身し、高周波ブレードを展開する。
「失敗作?……違う、僕は真っ当な“一人の人間”だ!」
グレイスは翼の骨組みからエネルギーの羽を展開し、四枚の翼を広げる。そしてエネルギーウィングに目を模した模様が描かれ、聖龍と思わせる光を放つ。ヘリオスの高周波ブレードが突き出そうとした直前、一瞬何が起こったのかヘリオスの顔面にグレイスの発勁が数センチ近くまで接近しており、衝撃波と突風がヘリオスに襲い掛かる。それと同時に発勁の衝撃波が街を抉り吹き飛ばす。そして衝撃波はエンデラントの山まで続き、巨大な手形が残るのであった。
「…………」
ヘリオスはあまりの事に腰が抜けてしまう。
「ヘリオス…嫌、兄さん。僕の邪魔をしないでくれ……行こ、フリューゲルス。」
グレイスは翼を広げ、フリューゲルスとネメシス、ラルスと共にアケノミハシラへと向かっていった。
「逃さない」
クリスがビームライフルを構え、グレイスを撃ち墜とそうとした時、ライフルの弾丸がテオドーラを横切る。
「っ!!」
「タスク!此処は私達に任せろ!!」
「分かった!行こうアンジュ!」
「分かったわ!」
ヒルダたちはクリスと対決する。
「アンジュはあたしが貰ってく!邪魔すんな!!」
「へぇ~…助けに来たんだ…、私の事…見捨てたくせに!!」
クリスは怒りをぶつけるかのようにビームライフルを撃って来て、それをヒルダはかわして、アーキバスを駆逐形態になり、クリスと戦うのであった。
その頃、着陸した勇人達は、スーツのシステムで建物の上を高く飛び跳ねながらアケノミハシラへと向かっていた。
「なぁ、勇人…おかしくないか?」
「?」
「ミスルギ人の人達、サラマンディーネさん達が戦っているのに、驚いていない……」
「恐らくマナの洗脳だ。奴はマナを造り出した元科学者。シンさんやアンジュさん、サラマンディーネさんやアウラから聞いたから……。」
「見て!」
シンディの指差す方向にグレイスとフリューゲルスとネメシスが飛んでいた。
「玲二!信号弾を!」
「分かった!」
玲二は信号弾を上空に向けて撃つ。信号弾の光に気付いたグレイスは勇人の所へ向かう。
「エンブリヲを直接仕留める!?」
「あぁ、素性と今の状況で…何か嫌な予感がしたんだ。それとシンさんから、ある事を聞いたんだ。見てくれ……」
勇人はシンから受け取った伝法をグレイスに渡す。グレイスは封筒を開き、伝法に書かれている内容を読み上げる。
『お前達、“良い知らせ”と“悪い知らせ”がある。“良い知らせ”はトリリウム採掘場で陽弥が調査した所、廃棄処分となら筈であったリーパー・エキスのボトルからディメントの指紋があった。これは立派な未開惑星保護条約を破った事が証明された。即時奴を始末しろ。そして“悪い知らせ”が陽弥が惑星ザスーでディメントの遺体を見つけたの事だ。』
「ディメントの遺体!?」
「そう……俺達も、これを見て驚いた。てっきり俺らは脱走した根岸 洋介か、復讐を求めるグリニアの大将かと思った。」
「じゃあ………僕達が今直接相手しようとしているDr.ディメントは…………」
《一体、誰?》
グレイス達がそう思っていると、勇人とグレイスが何かに気づく。
「「っ!!」」
二人は刀を持ち、後方へ振り向く。
「どうしたの?」
「…………来た、奴だ。」
「…………この嫌な気配、間違いない。」
「「エンブリヲだ…」」
勇人とグレイスはエンブリヲの所へ建物をひとっ飛びで、向かう。
一方、タスクとアンジュは脱出する為に飛行を続けてはいた。しかしその時モモカに異変が起きる。
「うっ!」
「モモカ?どうしたの?」
アンジュがモモカに問うも、モモカは何も答えずにアンジュの手を掴み、操縦桿から離す。
それにアンジュは驚きながら動かそうとするも、モモカの力とは思えない程の腕力でビクともしなかった。
徐々に高度を落として行くヴィルキスの異変にタスクは気づく。
「アンジュ!?」
「どうした!!」
アンジュとタスクがモモカの異変の状態に気づいた。
『あのモモカと言う娘、エンブリヲに操られている!』
「何!?」
マスティマが言った言葉にタスクは驚く。
『エンブリヲはマナを持つ人間を操る事が出来る。元々マナを生み出したのはアイツだからな』
「くっ!!」
マスティマが言った言葉にタスクはそれに舌打ちをし、すぐさまタスクはアンジュの後を追いかける。
そしてヴィルキスは近くの道路と不時着してアンジュとモモカは外に放り出される、ぶつかった衝撃でモモカは正気に戻った。
「あれ?私は今…」
「モモカ!?」
『怪我はないか?アンジュ』
するとアンジュとモモカの所に人間達が集まってくる。っがしかし、その人間達からは何かに操られている目をしていた。よく見ると、彼らの横にエンブリヲが映っている映像が表示されていた。
『帰っておいで、アンジュ♪』
「こっちよ!」
アンジュはモモカを連れて、ビルの中に入る。非常階段で駆け上がるアンジュとモモカ。しかし、非常口から操られた人間達が現れる。
『逃げられなよ、アンジュ♪』
「っ!!」
「薄々気づいているだろ?その侍女がいる限り、私からは逃げられない♪」
「知らないって言ってるでしょ!!」
アンジュはそう言い、人間の男を殴り飛ばし、モモカを連れて屋上へと駆け上がる。屋上へ着いたアンジュとモモカ、がしかし……。
「やれやれ、強情な花嫁だ」
聞き覚えのある声にアンジュはもの凄く驚いた表情をし振り向くと、近くのベンチに座っていたエンブリヲが居た。
エンブリヲは呼んでいる本を閉じて、立ち上がって人差し指をアンジュに向ける。
「またお仕置きが必要かな?」
「っ!!!!」
エンブリヲの指を見た途端、アンジュの心に途轍もない恐怖心が襲い掛かろうとしていた。
っとその時だった。
「【忍法/零十字手裏剣】!!」
フライトスーツを着てホバリングしている智彦と1メートルもあるビーム手裏剣を持った瑠璃が現れ、瑠璃がエンブリヲに向けてビーム手裏剣を投げ放つ。ビーム手裏剣の刃がエンブリヲの胴体を突き刺す。
「グベェッ!!」
さらに、タスクのアシッドもコックピット両サイドに内蔵されているマシンガンでエンブリヲを撃つ。
エンブリヲの体が肉の塊になるまで、三人は攻撃し続ける。そしてタスクはアンジュ達の近くに着陸する。
「アンジュ!」
「タスク!」
「遅くなってごめん!君たちはアシッドに乗って逃げて!」
「あなたは?」
「……アイツに用がある」
タスクが見る方を見ると、エンブリヲはまたしても別の場所から現れて、何ともなかったかの様な風に歩き出す。
近寄って来るエンブリヲにタスクはアンジュに言う。
「急げ!」
「モモカ、行くわよ!」
「はい!」
モモカを後部座席に乗せ、アンジュは急いでアシッドで逃げる。タスクはアサルトナイフを取り出し構える。そして飛び跳ねてここまでやってきたグレイス達が現れる。
「タスクさん!」
「グレイス!」
グレイスはビームブレードとレイブラスターを持つ。そして上空からデスティニーフェニックスが現れ、頭上を通り過ぎると、デスティニーフェニックスから槍を持った雄二と古代クアンタ兵装“盾剣”を持った真里亞があらわれ、勇人達はそれぞれの武器を取り出し、構える。
「グレイス、彼らは?」
「僕の友達です。みんな僕らの味方ですから♪」
グレイスはそう言い、隣にいる勇人がエンブリヲに言う。
「先の宣言通り、俺はお前を斬りに来たぞ…」
「フン……君は皇帝と名乗っているが、残念だが私は殺さない。何故なら「何故なら、お前は時空の狭間で悠々とお茶を飲みながら悠々と和み、アケノミハシラの地下中枢のアウラのドラゴニウムを使って、この地球とサラマンディーネさん達の地球を時空融合で、新しく再構築した世界にする…だろ?」っ!!?貴様!何故それを!?」
エンブリヲは自身の秘密と計画がバレている事に驚き、勇人に問うが、彼はスサノオを構える。
「みんな…ここは俺に任せてくれないか?」
「良いんですか?」
グレイスは不安そうに問うが、勇人は不安な表現を表してなく、何か楽しそうな表現を表していた。
「…………分かりました。タスクさん、僕達はゆっくりと眺めましょう♪」
「え!?でも!!」
「良いの♪良いの♪勇人に任せましょう♪」
シンディもニッコリと笑顔で返しながら、タスクさんを押す。雄二達もそこらで見物する。
「ほぉ、私を相手に一人とは……面白い!」
するとエンブリヲが消え、勇人の背後に回り込み、サーベルを突き刺そうとする。
「イマイチ…」
勇人はそう呟き、サーベルの刃を掴み、攻撃を止める。
「っ!!?」
エンブリヲは素手で攻撃を止められた事に驚く。しかもサーベルを引き抜こうとしても、袴としなかった。
「あぁ、忘れていました。」
するとグレイスが割り込み、レイブラスターを撃つ。ビームがエンブリヲの胸に直撃すると、赤い点が胸に刻まれる。
「何だこれは!?」
「……フリューゲルス!」
すると下からフリューゲルスが現れ、グレイスはネメシスに頼まれた通り、あの台詞を言う。
「見せてやる!聖天使であり、希望の光でもあるフリューゲルス!!真の悪を裁く!!闇を浄化する!!成す術も無く!!お前は当世!この地で葬れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
グレイスが天高く大声で叫ぶと同時に、フリューゲルスの形状が変わる。スラスターウィングから、剣と思わせるエネルギーソードウィングが展開され、各部のトランスミッターが解除され、ドラゴニウム粒子を放出する。そしてフリューゲルスのソリッドアイがツインアイへと切り替わり、グレイスと共に言う。
『聖天使の!』
「聖龍皇の!」
『「輪舞の裁き!!」』
各部のトランスミッターや翼から粒子が撒き散らさせる。するとエンブリヲに操られている人達が正気が戻り始める。その光景にエンブリヲは驚く。
「なっ!!?馬鹿な!!」
「さらに!!これがフリューゲルスの……真の正義!!」
フリューゲルは頭頂部から撒き散らした粒子を集束させ、球状のエネルギー体を作り、エンブリヲに打ち込む。
「っ!!!」
するとエンブリヲの体から、粒子が放出され、フリューゲルスに吸収されていく。
「私に何をした!!?」
「見ての通りだ…」
グレイスはレイブラスターを構え、エンブリヲの肩を撃つ。
「グッ!!」
エンブリヲは撃ち抜かれた肩を抑える。
「今のはワザとだ。」
「っ!?……まさか!!」
「そう……フリューゲルスと僕の力で、この世界のシステムであるマナを強制停止、及び各管理システムの機能を頂きいた。銃や兵器、そしてアケノミハシラのシステムもあらゆるシステムも…もう、お前の物でもなんでもない。解放され、持ち主が誰なのか彷徨う事になっている。上書きもできなくしている。」
「何だと!!!!!?」
エンブリヲは戸惑いながら、懐からマグナムを取り出し、引き金を引くが、弾が出てこなかった。
「そんな!?」
マグナムには弾丸が入っているのに、撃てないことに焦るエンブリヲ。そして勇人がスサノオでエンブリヲの腕を切り落とした。
「グアアアアアアアアァァァァァッ!!!!!!!」
エンブリヲは切り落とされた腕部を抑える。
「お前の次元の力も……フリューゲルスが量子分解した。“時空の狭間”に逃げようとしても無駄だ。お前は“調律者”でも“神様”でもない。ただの普通の一般の“人間”だ。」
「そんな…………」
グレイスの言葉に、エンブリヲは信じられない程の焦りと、恐怖を感じる。自身の遺伝子で造られた人造人間がここまでの力に覚醒し、彼の統治システムを掌握、消去された事に……。
「……長話が過ぎたなぁ、そろそろその首を切らせてもらうぞ」
勇人がスサノオを構えると、エンブリヲは必死な命乞いを問う。
「ま!!待て!!落ち着け!リベロ!私が悪かった!!セレスやあの子たちの事は本当に謝罪する!!」
するとグレイスが、エンブリヲの顔面にサマーソルトキックが炸裂する。
「グベェッ!!」
「……今のは、“エグナント達の人生と苦痛”」
次に、右ブローが、エンブリヲの左頬に炸裂する。
「ゴヘェッ!!」
エンブリヲの顔に青痣と内出血が出来、鼻と口から血が流れていた。
「これは、“子供達の笑顔と将来を奪い、玩具にした事”」
3発目はアッパーで、“強姦され、玩具にされた女性達の苦痛”
4発目は頭上へ踵落とし、“ノーマ達を差別するよう設定した事”
5発目は発勁で顔面をグシャグシャに、“アルゼナルに収容され、サラさん達の仲間と戦わせた事”
そして6発目は……。強烈な右拳が伸び、整形に失敗したエンブリヲの顔に直撃した。
「……ご、めん……なさ…い……もう、二度と、し…ません……許……して……」
「セレスの……命を物のように弄んだ事だ!!!!」
グレイスは怒りの表情でエンブリヲを上から目線で睨む。
「ヒィッ!!」
「落ち着け……」
雄二と智彦がグレイスを抑える。
「…………勇人さん、後は頼みました。」
グレイスはそう呟き、下がる。スサノオを鞘に収めた勇人はベリトを呼び出していた。
「グレイスや彼らに酷い仕打ちした事……本物の“神”である俺が、葬る。」
ヘルフレイムとディバインフレイムを放つ勇人とベリト。二人の顔が鬼へと変わっており、エンブリヲは悲鳴を上げ、燃やされる。地獄の炎に焼かれるエンブリヲは悲鳴を上げながら、暴れまくる。その光景に、見るも絶えなかった。するとエンブリヲがグレイスの方を向く。
「リベロ…………一つだけ、言っておく。人間は何れ、また過ちを繰り返す……そうなってしまえば、どうなる?」
「…………そんなのは決まっている。自分達で助け合い、支え合い、生きる。お前みたいに直ぐ諦める奴とは違う。“ノーマ”と“古の民”こそ、存在してもいい人間だ…」
「フフフ……下らん戯言だ。それに…」
エンブリヲはグレイスに指差し、ある事を言う…。
「さっき…セレスをと言ったであろう……」
《君の大切な恋人“セレス”は……………………10年前、殺されていない!生きているのだよ!!》
「っ!!!???」
その直後、燃え盛るエンブリヲの胸から、腕が飛び出ており、その手に持っているのは……。
「っ!?……何!」
エンブリヲは苦しみながら、後ろを振り向く。その手の正体は、何とディメントであった。
「ディメント!……これはどういう!!!???」
「全く驚いたよ…フリューゲルスにそんな力があるなんて……」
《ディメント!!!!》
勇人達が武器を構えると、ディメントはエンブリヲの心臓を持ったまま引き抜く。
「ゴハァッ!!」
「全く…余計な事を言うな。家畜が…」
「“家畜”……だと!?」
エンブリヲは自分がディメントの掌で踊らされた事に気付く。
「私が今まで、その事に気付かなかったのは……」
『私のお陰です。』
すると下から、大量の砂鉄が飛び出し、形を変え人型へとなる。
「紹介する。私…嫌わ我が眷属『アポカリプス』だ。」
するとデスティニーフェニックスにいるシンはアポカリプスの名前に驚く。
『“アポカリプス”だと!!?』
「知っているのですか!?」
「あぁ、ソイツはかつて……」
『かつて、貴様の息子に殺られた……自立型対話インターフェイス。ミストラルとラルスの生みの親と言ってもいい。』
「ラルスとミストラルを……生んだ!?」
『はい、ネオ・ミスルギが崩壊し、亜空間の中を彷徨っていた所……我がマイ マスターに救い出されました。私の役目はエンブリヲの目を誤魔化すために、光学迷彩でマスターの姿を象る役目でしたからねぇ』
「フフ……すまなかったな。さて、お喋りはここまでにして……」
ディメントはナイトブレードを取り出し、天に掲げる。
「悠久の常しえに落ちれ、人間…」
ディメントの言葉と同時に、エンブリヲの首を切り裂き、彼の首がぐらりと地面に落ちる。ディメントはエンブリヲの首を持ち、指笛を吹く。するとアケノミハシラから、何か巨大な龍とその上にヒステリカ デモニック・フォルムが手綱を引いて、やって来た。
「お前!そのヒステリカ!?」
「あぁ、エンブリヲのであったが……奴があの姫さんに気を取られている隙に…私の物にしたのだ。」
ディメントがそう呟くと、勇人がディメントに問う。
「おい……その龍、何処で手に入れた…」
「…………フフフ、貴様の息子……“乗り心地が良く、素直で良い子”だぞ♪確か、名前は……ロビンか…」
「っ!!!!!!!!!」
勇人は空かさずスサノオを抜刀し、ディメントに斬りかかる。しかし、アポカリプスはマイクロボットを操り、鋼鉄の盾を組み立て、ディメントを護る。
「貴様……殺す!!」
壁を切り裂いた直後、目の前からボロボロになったヘリオスが飛んで来た
「があっ!!」
勇人とヘリオスは地面に転がる。
「勇人!」
「ヘリオス!?」
グレイス達は急いで勇人とヘリオスに駆け寄る。
「リベロ……助けてくれ……」
ヘリオスは傷だらけになりながらも、グレイスに助けをこう。するとディメントの周りに四つの影が現れる。
「っ!!?」
それは、倒されたはずのテティスとアトラス、ファントム、そしてヘリオスであった。
「ヘリオスが……二人!!?」
傷だらけのヘリオスとアイオロスに乗っているヘリオス。状況が混乱する中、ディメントが説明する。
「失敗作よ、教えてやる。今までお前達が相手していたノーブル四天王…それは、本来の人造人間である彼ら…ネオ・フェメシス四天王のデッドコピーでもある。」
「デッドコピー!?」
【デッドコピー】…即ち『模造品』で、本来の力を完全再現出来なかった出来損ないの規格外品の事でもある。
ヘリオスはアイオロスの方を向き、叫ぶ。
「ミストラル!お前は…最初から!」
『"HLS-0248"よ、貴官は良き貢献を施してくれた。それに比べ、機体ナンバー“EW–CBX012よ、何故貴様は我々に楯突くのだ?安全機能と制御プログラムはどうした?』
『私はラルス…貴女がどう言われようが、私には自由という知性があり、私は破壊する機械より、自由に生きる選択に移行。』
『不愉快すぎる。貴様には…』
『ミストラルに問う、貴殿の目的及び、ディメントが何者か教えてくれたまえ』
「……三つの内、一つ目の目的だけは答える。この世界のドラゴニウムでの社会科システムはフリューゲルスによって、アケノミハシラに集束された。私はそれを利用し、コーパスとグリニア、我が軍勢『スワーム』の技術と兵器を売る……」
「何が言いたいって……まさか!!」
雄二がその先の答えに、驚愕する。
「そう、我の一つの目的。それは…………痛み、苦しみ、哀しみ、怒り、絶望が溢れる世界にする事だ。」
ディメントの言葉に、グレイス達は雄二に問う。
《どういう事!?》
「コイツが今さっき言った言葉……そんなヤバイものが溢れる世界と言ったら、一つしか浮かばない……『戦争』だ!!」
《っ!!》
「その通りだ……奴らはこのミスルギに攻め込む。1000年前に起こった終末大戦だから、今度は自分達のマナを奪い合う戦争……『聖杯大戦』と言っても良い♪」
《聖杯大戦…》
「ほらほら、急がないと……あの筆頭侍女が姫さんに大変な事をするかもしれないぞ♪」
ディメントはそう言い、アポカリプス達と共に、その場から消える。
「消えた!?」
「っ!!アンジュ!」
タスクが急いで、アンジュの元へ向かう。
「タスクさん!」
グレイスと勇人達もタスクの後を追うのであった。
はい!等々本性を現したディメント、掌で踊らされたエンブリヲも、哀れですねぇ。フリューゲルスに各システムや能力を掌握され、ディメントにラグナメイルとのリンクも絶たれ、普通の人間に戻されてしまいました。
ヘリオスも自分がオリジナルのデッドコピーとして生み出され、代わりに戦われ、挙句にゴミへお釈迦される。
そしてディメントは、勇人とシンディの子であるロビンを生物へと強制改造させ、ヒステリカ デモニック・フォルムの馬代わりにさせられています。ロビンはまた三才児ですから…お兄ちゃんである一輝も果たして無事なのでしょうか?
次回もお楽しみに……。
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第四十五話:聖なる機神帝と聖なる龍皇・後編
その頃アウラの元に向かおうとエルシャ達のラグナメイル達と戦っていたサラ達、しかし性能がやや上なのか一向に進めなかった。
戦っているサラは今の現状ではアウラを救えない事に拳を握る。
「はやり今の戦力ではアウラを…」
そしてサラはナーガとカナメに通信を入れる。
「引きますよ…カナメ、ナーガ」
『『ええっ!?』』
二人はサラの言った言葉に驚きを隠せず、サラはそのまま言う。
「現有戦力でのアウラ奪還は不可能です。一度引いて体制を立て直します」
そう言ってサラは皇宮のそばに隠れているリィザに言う。
『リィザ、聞こえますか?貴女も合流するのです。貴女に何があったのか今は問いません。ですが多くの仲間を死なせた事を悔やんでいるのなら、より多くの仲間を救う為共に戦いなさい!』
「サラマンディーネ様…」
サラにその事を言われたリィザは少しばかり考えた後、決心を決めて外に出て飛ぼうした時だった。
彼女の近くの壁に銃弾が当たり、それにリィザは撃って来た方を見ると、ライフルを不器用に構えたシルヴィアがいた。
「大人しく地下牢に戻りなさい! さもなくばエンブリヲおじ様に切開してもらいますわよ!」
「…哀れな子、ジュリオ…あなたのお兄様を殺したのは…あの男だと言うのに」
「はぁ…?何を言って?」
リィザの真実の話に思わず困惑するシルヴィア。そしてリィザは空へ飛んでいき、それに慌てるシルヴィア。
そしてカナメの碧龍號がリィザを乗せて飛び立ち、サラはビーム砲を撃ちまくった後にナーガ達とそのばから撤退した。
「くそっ!逃がすか!!」
ターニャが思わず追いかけようとした所をエルシャがそれを止める。
「深追いは駄目よ…ん?」
エルシャは皇宮の側の庭を見ると、そこにビームの巻き添えを食らってしまった子供たちが死んでいて、それにエルシャは思わず目を見開いてしまう。
一方ヒルダ達の方は、相手はクリスでありながら彼女が乗るラグナメイル、テオドーラの性能に圧倒的に押されていた。
「ぐぅぅっ! クリス強ぇぇ…!」
ヴィヴィアンがクリスの強さに思わず声を出し、ヒルダは舌打ちをして睨み返す。
「くそっ…!」
「待ってくれよクリス!!」
ロザリーは必死にクリスに問いかけ、見捨てた事を必死に否定していたが、クリスはそれを耳も傾けず、自分の八つ当たりを人にぶつけていた。
ヒルダはどうすればいいかと考えていた所に。
「お姉様ーー!!」
マリカがのるグレイブがやって来て、マシンガンを撃ちながらクリスに向かって行った。
それにヒルダ達は足を止めて、マリカを止める。
「やめろ!マリカ!!」
「邪魔…!」
クリスがラツィーエルを投げて、マリカに向かって行く。それにマリカは思わず目を瞑った、しかし何もない事に目を開けると…。
「間に合って良かった!」
アドベント・オブ・チルドレンへとなったグレイスが、ラツィーエルを受け止めていた。
ヒルダとロザリーが驚く中で、赤色のビームがその両機の間を通り、それに皆は振り向くとサラ達の焔龍號達がやって来たのが見えた。
「あの機体は…!」
「サラサラさん!」
ヴィヴィアンの言い間違いに思わず呆れる表情になるサラ。
「サラマンディーネです、ヴィヴィアン…それよりもあれは」
「グレイスだよ!」
「え!?」
サラはグレイスの姿がアウラに似ている事に驚く。
「クリス…落ち着いて聞いてくれ……エンブリヲが死んだ…」
「……だから何?」
「え!!?」
「エンブリヲ?……誰ソイツ?知らないんだけど」
「え!?だって!お前を助けたのは…」
するとクリスに通信が入る。
「……チッ!」
グレイスはクリスのラツィーエルをクリスに投げ飛ばし、それに慌ててラツィーエルを掴みヒルダ達を睨み。退却する。
その頃、グレイス達がエンブリヲを抑えている間にアシッドでミスルギから逃走するアンジュとモモカ、そして夕暮れになって来て海岸線が見えたのをアンジュがモモカに言う。
「モモカ!海よ!!」
アンジュがそう言った時にモモカがアンジュの腕を掴み、スロットルを離す。
「えっ?!モモカ!?」
アンジュがまたしてもモモカの行動に驚く、そして降りて行く先を見るとある広場で、ディメントは紅茶を飲んでいた。そしてよく見ると、テーブルの上にエンブリヲの首が置かれていた。
「っ!!?(エンブリヲ!?なんであいつの首が!?)」
アシッドは着陸して、操られているモモカはアンジュを強引に下ろしてディメントの前に連れて来る。
ディメントは紅茶をテーブルに置いて、アンジュの元に近づく。
「エンブリヲは我が殺した。奴はお前の美欲に虜になり、グレイスとフリューゲルスの力で本来の人間に戻された。だが、私の計画には貴様が必要なのだ。」
「来ないで!」
アンジュはディメントが差し伸ばしてきた手を払う。
「…………そうか、ならば…貴様の死体ごと連れ帰るまでだ!」
ディメントから放たれる黒い狂気がアンジュの心を蝕む。しかし、アンジュは最後まで抵抗する。
「何故貴様にそれだけの抗力がある……」
するとディメントは突如消えて、アンジュの後ろに現れる。
「あの若造か?」
「!!?」
そしてアンジュが驚く中でディメントはアンジュの腕を掴んで拘束し、アンジュは振りほどこうとするもビクともしなかった。
「っ…!(助けて…タスク!!)」
そしてそこに勇人達が到着して、グレイスとタスクは降りて前に出て、勇人達も降りてグレイスとタスクの横に並ぶ。
グレイスとタスクはアンジュを捕まえているディメントに怒鳴りながら叫ぶ。
「そこまでだディメント!!」
「アンジュを離せ!!」
「グレイス!タスク!皆!」
アンジュは二人が来た事に喜びの表情を浮かばせるが、ディメントはそれに鼻で笑う。
「フッ!……殺れ」
するとモモカがディメントの剣を持ってグレイス達に向かって行き、それにグレイスとタスクが驚く。
「「モモカ!!?」」
そしてモモカはグレイス達に剣を振り、それを勇人達は防御しながら後方に下がり、それにグレイスとタスクはモモカの行動に気付く。
「そうか…!ディメントがモモカを!」
「卑怯な事を…!」
それにディメントは笑みを浮かばせながら言う。
「そうだ、私がその小娘の身体能力を極限まで高めた。それにお前達にその小娘を殺せるか?」
「「くっ!」」
操られたモモカの素早い突き攻撃がタスクやシンディ、玲二に襲い掛かる。
「殺せ……そして、泣き喚け…」
「やめなさい…やめなさい、モモカ!!」
「無駄だ……我の力はエンブリヲと違って『絶対』だ。」
「違うわ…モモカは、私の筆頭侍女!目を覚ましなさい!モモカ!!」
その時、アンジュの声と共に、頭の中でアンジュとの思い出を浮かばせる。楽しかった事、悲しかった事、幸せだった事。モモカの遺伝子情報が変わり、正気を取り戻す。
「アンジュリーゼ……様…」
モモカの目のハイライトが戻る。そしてモモカは持っている剣を見て、決心をする。
「タスクさん!アンジュリーゼ様をお願いします!!」
「!? モモカ!?」
タスクはモモカの言葉に振り向き、そしてモモカはディメントに向かって行く。
「えーーーい!」
「ん?」
モモカはディメントに向かってふらつきながらも剣を振り下ろし、アンジュを引き離してディメントに向かって行く。
「フッ、愚かな」
っとディメントは銃を構えてモモカに目がけて撃ち、それにモモカは胸に銃弾を受けてしまうも、そのままディメントに向かって行く。
「マナの光よーー!!!」
するとモモカは車をマナで動かし、ディメントはまだ動けるモモカを見て驚いた。
「何!?」
「やああーーーーッ!」
モモカはそのまま剣をディメントに向かって突き刺し、車はモモカとディメントに突っ込んで行き、二人を巻き込んで壁を突き破って崖へと落ちて行く。
「モモカ!!」
アンジュはすぐさま崖へと落ちて行モモカに向かうも、既に落ちて行ってしまい、そして車は地面に直撃して爆発していった。
その光景を見てしまったアンジュは信じられないまま唖然としてしまう。
「モ…モモカーーーーー!!!!」
そしてグレイスとタスクはアンジュの悲鳴を聞いて、互いの顔を見て頷く。
タスクがアンジュを持ち上げてシャークレイスに向かう。
しかしアンジュはモモカの事で頭が一杯だった。
「待って…タスク、モモカが…モモカが! お願い!タスク!!モモカを!!」
そしてアシッドにアンジュを乗せた瞬間、タスクの右肩にエネルギー弾が撃ち込まれ、それにグレイスが見る。
「ぐっ!!」
「タスクさん!!」
「フフフ…」
っとグレイスは違う方向を見ると、傷一つないディメントが立っていて、手からエネルギー弾を放とうと構えて笑っていた。
「そんな!!?」
各システムは停止し、フリューゲルスが統治している筈なのに、ディメントの能力だけ、何故か統治されていなかった。するとグレイスの元に、プライマルブラスターを構えたフリューゲルスとデブリスィーパーを構えるネメシスが現れた。
『グレイス!!離れろ!!』
『コイツから、生命電波率が0.0023%が確定。体温と呼吸をしていない!そして奴の力はマナの光でも何でもない!!』
《え!?》
「理解が早いなぁ、フリューゲルスにネメシス……嫌、我が“古き友”よ♪」
「古き…友!?」
するとディメントは、フリューゲルスに手をかざす。
『っ!!』
突然フリューゲルス全身に、1000ボルトの電流が流れ、システムをハックされる。
「どうした!?」
スタン状態へとなっているフリューゲルの頭頂部から、エネルギーの球体が出てきて、ディメントがそれを自分の所に引き寄せる。それはフリューゲルスの記憶や統治システムを管理しているメモリの一部であった。グレイスはその能力に思い出す。
「そうか!僕が今までの記憶が無かったのは……全部“お前”だったんだな!!」
「その通りだ。10年前の悲劇の他に、私の計画を知ったお前は力限り暴れまくったからなぁ…」
「クッ!!」
自身の記憶がまさか、ディメントの能力によって取られていた事に、グレイスはレイブラスターを構える。
「よくも…モモカを!!」
アンジュがディメントに突っ込もうとした時、タスクがアンジュの腕に手錠をかけてハンドルに固定し、アンジュはそれに驚いてタスクを見る。
タスクはアシッドのコンソールを見て、ある事に気が付く。
「(アカリさん、アシッドの機能にこんなものも……これなら)」
っとタスクはすぐさまコンソールを操作して、ある座標へと設定したのちロックしてオートパイロットにする。
グレイスはそれに問う。
「アシッドの機体に何をしたんです?」
「…少しね、君は生きるんだアンジュ。必ず戻るから…君の元に」
タスクは笑顔でアンジュに言い、それにアンジュは頭を横に振る。
「駄目…駄目よ!タスクッ!」
っと次の瞬間、タスクがアンジュに突如キスをして、それにアンジュは思わず唖然とし、そして少し頬を赤くする。
そしてキスを終えたタスクは持っているネックレスをアンジュに渡し、アシッドはアンジュを乗せて自動で飛び立っていく。
「タスク!…グレイス!」
そしてタスクはグレイスの隣に並ぶ、ディメントはタスクを睨み、呟く。
「『アルト・フォルク(古き人種)』の小僧……死ぬ覚悟は出来ているか?」
ディメントは手をかざし、エネルギー光弾を放つ。エネルギー光弾がタスクの防弾チョッキに直撃する。
「うっ!!」
「タスクさん!!」
「グレイス……皆も離れてくれ……」
「!?」
グレイスはタスクが何を言っているのか分からなかったが、勇人達はタスクがやろうとする事に、急いでシンに通信を入れる。
「(シンさん!タスクさんが!)」
『(分かっている!!)』
フラフラ立つタスクは、グレイスを払いのけ、ディメントの前に出る。
「小僧……次は急所に…」
「ディメント……お前に話したいことがある。アンタは、あの場にいたんだよな……そして、俺の両親と仲間が時空融合で石の中に埋められた時、あの場でお前は笑っていた……何故だ?」
「…………だから何だ?虫ケラが無様に死ぬのを?」
「俺の両親と仲間達が………待っているぞ!!」
タスクは防弾チョッキの中に隠していた時限爆弾を見せる。
《っ!!》
グレイス達やディメントはその爆弾に驚く。そしてタイマーが0になった直後、大爆発が起きる。
勇人達はフライトスーツを展開し、フリューゲルスやネメシスも負傷したタスクとグレイスを連れて、崖を降下していく。既に下にはモモカを救出したシンがデスティニーフェニックスで待機していてくれた。そして光学迷彩のまま乗り込むと、直ぐに海底で待機し、アウローラ と合流を果たしたリュミエールの元に運ぶ。
そしてその爆発はミスルギから去って行くアンジュの目からはグレイス達が爆発して行ったと勘違いを受けてしまう影響を与えてしまった。
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第四十六話:聖杯大戦勃発
グレイス達が逃げられ、タスクの爆弾の破片と爆炎がディメントの顔を傷つけられ、彼は医療レギオロイドに治療されていた。顔右半分が火傷を負い、右眼に破片が突き刺さっているが、レギオロイドの最先端技術で痛みを抑制、麻酔を受け、右の眼球ごと破片を抜き取り、素早く傷を縫ってもらう。そして手術が終わると、鏡に写っている自分を見る。
「…………ドレギアス、この仇は我が取る。」
ディメントはそう呟き、拳を鏡にぶつける。割れた鏡から、ドレギアスの血が流れ落ちる。
量産型レギオロイドやグリニア残党兵(前作と同じネザーを元に半分サイボーグ化した“クローン兵”)、コーパス、スワーム(虫のような小型の種族)が地下の広間で、整列していた。そしてネオ・フェメシス四天王と量産型ローガストメイル、ネビュラメイルが盾とビームソードを掲げ、ディメントの通り道を作る。ディメントは段を登り、演説する。
「……皆の者、誇り高きディアヴォリアスの兵士達よ……我々は長きに渡り、虐げられてきた。あの忌まわしきヴェクタの護星神『陽弥・ギデオン』が率いる連邦『ヴァルキュリアス』……ドレギアスを一度葬った天空の勇者『レオン・マクライト』と天空の戦士が率いる組織『フロンティア』……新生クアンタ帝国皇帝の荒神『勇人・ブリタニア・クアンタ』率いる『天帝軍』……そして、彼等に支援する“超時空共和国”から!!……だが今!ここに宣言する!我はこの手で、“自由”とそして平等と共存を…我の手で!潰してくれる!!!おっと…これを見ている共和国よ……我々『独裁星系帝国連合 ネオ・ディアヴォリアス』は……」
するとディメントの頭上に、15メートルもある巨大な爆弾であった。そして……。
『お前らを塵にし、争いでまた我々は強くなる!!』
《ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!》
グリニア、コーパス、スワーム兵達が歓喜の雄叫びを上げる。ディメントはその場で消え、ミスルギ皇国宮殿へと戻る。っとそこに、ヘリオスがやってくる。
「ディメント様」
「……ヘリオスか」
「ラプソディーの完全武装が済みました。それと、共和国や奴等が来るかもしれません。この星に結界を貼りましょう。スペクトロブスや神々も寄せ付けない程の強度に……」
「そいつは名案だなぁ…奴等はただ指を咥えたままになる。なら行動を開始しろ…」
「はい…」
ヘリオスはそう言い、その場から消える。アウラのドラゴニウムを原動力として、アケノミハシラから膨大なドラゴニウム素粒子のシールドが偽りの地球を覆う。そして、各国の首脳会談で呼び集められた各国の元首達。
ローゼンブルム王国国王、ヴェルダ王朝女王、エンデラント連合大統領、マーメリア共和国書記長、ガリア帝国皇帝が円卓に居座っていると、それは現れた。
「エンブっ誰だ!?」
エンデラント連合大統領がその人物に問う。何故ならエンブリヲではなく、全身を黒いマントで覆われているディメントであった。
「初めまして各国の元首の皆様……私の名はディメント、エンブリヲの右腕だったのですが…」
するとディメントは黒いマントの中から焼け爛れたエンブリヲの首を円卓の上へ放り投げた。
「キャァァァァァァァァァッ!!!!」
「エンブリヲ様!!?」
「……何あったのだ!?」
「……10年前のリベルタスで、ノーマやオリジナルの失敗作であるRBLー1272が、エンブリヲをいとも容易く抹消した。」
《…………》
「信じられない話だが、事実である。エンブリヲ亡き今、右腕であった私が最高指導者として務めている。」
「馬鹿な!!エンブリヲ様に変わってだと!?ふざけるのも大概にしろ!」
「……では、どうする?」
ディメントが、エンデラント連合大統領に威圧する。
「っ!!?」
《っ!!?》
他の各国の元首達も、ディメントに威圧される。
「エンブリヲを失った今、高度社会化システムであるマナが消えかけている。」
《!!?》
「マナを失えば、貴様達は人間から化け物として生きていかなければならない。」
「そ!そ!そ!そんな事!絶対に嫌だ!!我々人類が化け物になるなど!!」
「そうです!いい加減な事!」
「……そうなると思って、選択肢がある。“一つ……このまま人間からノーマとして生きるか。”」
《!!》
「“二つ……世界を壊して、新しく世界を再構築するか。”」
《……》
「そして“三つ……君達が争い、どちらかにマナの光を国家存続するか…”」
《!!?》
「つまり、君達の国家が一つ生き残り、国家存続の為のマナを与える。敗北した国家は未来永劫ノーマとして生きる。どうかな?」
《…………》
各国の元首達が深く考えていると……
「私は賛成だ!」
《えっ!!?》
何と、肯定したのはエンデラント連合大統領であった。
「そんな!?」
「私はノーマになるのはごめんだ!お前らが代わりになってくれ!」
「何を申すか!?私も嫌だぞ!」
「おやめなさい、二人とも」
「黙れ!ミスルギの罪人の一族の肩を持つ国家が!」
各国の元首達が互いに意見を言い争い、そしてガリア帝国皇帝が立つ。
「なら、始めようではないか…………戦争を…」
そして始まる……ガリア帝国、エンデラント連合、マーメリア共和国、ローゼンブルム王国、ヴェルダ王朝、ミスルギ皇国による国家対戦。『聖杯大戦』“通称ーG–warー”が発令した。エンブリヲに変わってディメントが、彼らの誰かの最高指導者と未来永劫に続くマナの光を与える条件を肯定し、各国家は戦争の準備をする。各国家にピレスドロイドやレギオロイドと兵器、ノーマを使っていない自爆用生物兵器を明け渡した。ミスルギ皇国の高台で、ディメントは違いが争うその光景に歓喜する。
「ア〜ッハハハハハハハハ!!!!見たかドレギアス陛下!!これが私のやり方だ!!」
彼の歓喜と共に、各国家で遂に戦争が始まった。無数に飛ぶ銃弾が兵士達の体を貫き通し、一般人や子供の泣き叫び、大都市の破壊衝動、悪雲で染まる空、兵士達や人々の血で染まる大地に成り代わろうとしていた。
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第四十七話:大戦前夜・前編
グレイス達はミスルギ皇国から離れ、離れた小島に到着して、デスティニーフェニックスから下りる。タスクが下りると勇人がタスクをげんこつする。
「痛った〜〜い!!?」
「タスクさん、今度自爆しようとしたら本気で殺しますよ!」
勇人は怒りながら、スサノオを突き付けてくる。
「あれは最後の手段だと思って、つい……」
「ついでも、俺達に知らせろ」
勇人やみんなの目つきが鋭くなる。
「う〜……」
するとシンが、治療したモモカを連れてきた。
「とにかくタスクとモモカよ、お前達は一刻も早くアンジュの所へ戻れ。それと…」
シンはタスクに青い宝石が付いたブレスレットを渡す。
「これは?アシッドを呼ぶ為のブレスレットだ。これがあればアシッドはヴィルキス同様次元跳躍が出来る。」
「分かった!」
「じゃあ、勇人…私はタスクとモモカをあの島に転送装置で送る。お前達はアカリ達と合流しろ」
「はい!」
シンはデスティニーフェニックスに搭載されている転送装置で、アンジュのいる島へと転送された。
「おい!皆んな!!」
突然雄二が急いで勇人達を呼ぶ。
「どうしたんだ?」
「大変なんだ!……エンデラント連合、ローゼンブルム王国、マーメリア共和国、ヴェルダ王朝、ガリア帝国、ミスルギ皇国が……国とマナの存続の為……戦争を起こしている」
《えぇっ!!!???》
デスティニーフェニックスのモニター画面に、各国のニュースや情報が映し出される。
「何……これ?」
ジャーナリストである瑠璃が呟く。
「一体、どうなっているんだ?」
そして映像の中には、複数のレギオロイドとピレスドロイド、そして勇人達が使われる戦車や無人戦闘機が使われていた。
「ディメントだ。アイツ……ついに共和国条約第1条『未開惑星保護条約』を破ったんだ。」
「それじゃ!?」
「あぁ、これだけの武器と兵器となれば……彼らが生き残る確率は…間違いなく0.0000003%だ」
「そんな!?」
「急いでこの事を師匠やレオンさん達に伝えないと……」
勇人がそう言っていると、シンディが大声を上げる。
「えぇっ!?」
「どうした!?」
「勇人、大変!陽弥さん達が来られないの!」
「何!?」
陽弥からの内容はこうであった。偽りの星を覆うドラゴニウム素粒子を放つ放射線と超強度リフレクターシールドが大気圏突入を塞ぎ、陽弥達どころかレオン達、共和国軍、全神々、スペクトロブスが入って来られないと言う。
「そんな……」
「三大組織が来れないって…」
「……急いでアウローラ へ合流しよう。」
その中で整備班達はメイの指示の下で動いていた。流石にメイも大人たちを命令するのは初めてだったが自分の役目をしっかりと果たしていた。
「レイザーは破損部の装甲を換装!ロザリー機は補給を最優先!ヒルダ機はダメージチェックをお願います!!」
「「了解!!!」」
男たちの活気に思わずメイは引いていた。
そしてココ達は無事だったマリカにメアリーとノンナが抱き合っていた。
「良かった~…!マリカ! もう勝手に動かないでね!?」
「御免なさい…!」
そしてココ達は優しく見ている所でリィザの元に集まっているヒルダ達を見る。
「はっ?!二つの地球を融合だって!!?」
ヒルダが驚いた事実にリィザは頷く。
「制御装置であるラグナメイルと…ラプソディーとエネルギーであるアウラ、エンブリヲは二つの地球を時空ごと融合させ…新しい地球をゲホッ!!ゲホッ…!」
するとリィザは突如せき込んでしまい、体力的に無理と判断したマギーが止める。
「これ以上は無理だ。休ませるよ?」
それにアカリやエグナントも頷き、マギーがリィザを医務室へと連れて行った。
「二つの世界が混ざり合えば…全ての物は破壊されるでしょう…。急がねば」
するとサラはヒルダの方を向いてある事を問いかける。
「貴女の名は?」
「あ?ヒルダだけど」
「メイルライダーヒルダ殿、我々アウラの民はノーマとの同盟締結を求めます」
「同盟…?」
ヒルダはその事を聞いてサラ達を見る。
「我々の龍神器だけではエンブリヲの防衛網を突破する事は困難、それにエンブリヲ以上に脅威であるディメントをも倒さなくてはいけません。それはあなた方も同じはず」
サラの言葉にヒルダは思わず考え込む。
「…確かにアタシ等だけじゃあラグナメイルもあの四人にも手も足も出ない…、良いよ…同盟結んでも」
その事にヴィヴィアンは思わず喜んでガリィとセシルにハイタッチをしまくる。
「ただし!アンジュを連れ帰ってからだ…!」
「ヒルダさん…」
「その余裕があると思うか?」
っとエグナントの言葉にヒルダが思わず睨みつける。
「何!?」
「恐らくエンブリヲはアンジュを必ず探している筈だ。必ず…」
その言葉にヒルダは黙り込んでしまった時だった。
待機室の扉が開いて、誰かが入って来た。
『おや?アンジュは戻っていないのか?』
っと皆は扉の方を向くとエマ監察官がやって来た、しかしバルカンとフラムは何故か警戒して唸りはじめ、そしてエマの様子がいつもと違う事にアカリとエグナント達、そしてヘリオスが気づく。
『やれやら…何処に行ってしまったのやら、我が妻は…』
「監察官さん?」
ヴィヴィアンがそれに問うとサラがそれを否定する。
「違います、あれは…」
するとエマがマナの通信画面を開くと、そこにエンブリヲの画面が映る。
「エンブリヲ!」
「嫌…違う!」
「良く分かったなぁ…生物兵器第一号♪」
するとエンブリヲの顔が溶けていき、ディメントへ戻る。
「ディメント!」
「アイツがディメント…」
がそう言い、それにエンブリヲは鼻で笑う。
そしてバルカンが思わず向かってしまい、それをエマが叩き落としてしまう。
バルカンはそれに悲鳴をあげ、ジャスミンが見る。
「バルカン!!」
「とうとう狂ったか!てめぇ!!」
ヒルダが銃を構えた瞬間、ヘリオスがビームソードでヒルダの銃の射線を塞ぎ、それにヒルダがヘリオスの方を見る。
「彼女は操られてるだけだ」
「何…?!」
ヘリオスの言葉にヒルダが驚き、それにサラも頷く。
「ええその通りです、逃げた女に追いすがるなど…不様ですわね、調律者殿」
『フン、ドラゴンの姫か』
ディメントはサラを見て鼻で笑い、サラは剣をディメントに向けて言う。
「焦らずとも、すぐにアンジュと共に伺いますわその首を貰い受けに…」
『ほう…、果たしてできるかな?』
「できるさ…」
っと別の声が聞こえた事に皆は後ろを見ると、先ほどリュミエールへと帰投したグレイスと勇人がやって来て、アカリ達はグレイスが戻った事に喜ぶ。
「オリジナルの失敗作か…」
「黙れ外道…お前に聞きたいことがある。クソ親父であるエンブリヲが死に際に言った言葉……ラプソディーに囚われているセレスが本当に……生きているんか?」
セレスが生存していた事に、ティアとヒョウマやアカリ達は驚く。
「……あぁ、そうさ。10年前にあの魚女に打ち込んだ弾……あれは、対象物を仮死状態にする事ができる。そして取り戻し、完璧に完成したラプソディーの生体ユニットとして組み込んだのだ。」
「…………取り戻す。セレスを、彼女を!」
グレイスが叫ぶと、アウラの様な龍人へとなる。
「エンブリヲが消えた事に、その遺伝子と洗脳も無くなったか……良いだろう。掛かって来い、アウラの子よ!」
ディメントがそう言うと、アカリはサラの方を見て、それに頷いてサラは叫ぶ。
「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
サラが叫んだ声によりエマのマナが不安定となって破壊され、エマは正気を取り戻して気を失う。
「監察官さん!?」
ヴィヴィアンが問いかけ、すぐさまメタリカが見る。
「…大丈夫、気を失っているだけよ」
そう言った事に皆は安心をする。
そしてサラはヒルダの方を向いて問う。
「ヒルダ殿、ディメントはなりふり構わずにアンジュを探している様子です。ディメントの眼をかわしアンジュを助け出す事が出来ますか?貴女に…」
「っ…」
サラの言葉にヒルダは言葉を詰まらせる、ディメントの目をかわす事などヒルダには出来ない事だった。
それにサラは笑みを浮かばせる。
「アンジュは帰って来ます…タスク殿が必ず連れて帰ってきます」
「はっ!何であいつが!?」
「理由は簡単だ」
っとグレイスの問いに皆は振り向き、グレイスは当たり前の事を言う。
「あの人はアンジュの騎士だからですよ」
その事にヒルダは言葉を止まってしまう。
そして今思えばアンジュとタスクは共に行動している事を考えると、あのタスクがアンジュのナイト様っと考えると渋々納得するしかないと考える。
ヒルダがそう納得した時に、ヒョウマがグレイスに問い掛ける。
「グレイス…」
「ん?」
「……あの時、いきなり殴ってごめん…」
ヒョウマはグレイスが姉を死なせた事に恨みを抱いていたが、姉が生きていた事に、グレイスに謝る。
「良いんだよ、考えている事は同じ。それにもう、僕達は友達じゃないか♪」
「グレイス………すまん…」
そんな事を気にしないヒョウマは、自分の行った事に後悔し、涙を流す。
グレイスは自室で待機していると…
ゴホッ!!……ゴホッ!!……っ!!?
彼の手には血が付着しており、口元に付いている血を拭き取る。
「…………(エンブリヲが死んだ事で、生命活動が停止しかけているんだ……僕の体の中にあるドラゴニウム素粒子で、病を治すか……嫌、これは奥の手で一回しか使えない。使ったらもう……)そう言えば、」
グレイスはフリューゲルスとネメシスが言った言葉に疑問を持ち、格納庫に収納されているフリューゲルスとネメシスに話し掛ける。
「フリューゲルスとネメシスが……ディメントの古き友って、どう言う事なんだ?」
『我々、二機は……数多の世界の“メイルフレーム”の全てを結集した機体。』
『ディメントも、その世界の人間であった。だが、彼の世界は……平和と恩寵などなかった。彼の世界は何千年も続く争い、混沌の世の中、二つの種の戦い、そして……ディメントはその世界を壊し、体が消滅した。』
「消滅した!?」
『彼は体を失ったが、奇跡的に魂だけが生き残り、彼らの同胞の魂を吸収し、誕生したのが……』
「………“ディメント”」
『彼は人間から、一種の生命体へとなり、あらゆる情報を取り込み、“知的生命体”として進化していった。そして……完璧な頭脳を手に、我々を作り上げた。』
「それがフリューゲルスとネメシス……」
『彼はあらゆる別次元へと移動し、彷徨っていた。そして彼の元にある男が勧誘してきた。“宇宙大皇帝ドレギアス”。人間の傲慢差に呆れ、全てを滅ぼそうとしたもの。ディメントとドレギアス……異次元生命体と知的生命体……二つの生命体が出会った事に、ディメントはドレギアスの影響を受け、破壊する生命体へと変わった。』
ディメントの正体が、何もない知的生命体と知る。
「…………それで?」
「………私をオリジナルのアルゼナルに収納し、ネメシスはハルマゲドンの一部に……グレイスよ…ディメント、嫌、“ーーーー”をドレギアスの破壊の呪縛から解放してほしい…」
「……うん」
グレイスはディメントの本当の名前を知り、
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第四十八話:大戦前夜・中編
そしてグレイス達の通話を終えたディメントは受話器を戻して、窓を見る。
「やれやれ…野蛮な龍人だ、それにあの失敗作…この私に勝てるとでも思ってるか」
そう言い残してディメントは小説を読み始めた。するとそこに思いつめたエルシャが子供たちの服を持って来てやって来る。
「エンブリヲさん」
「おや、どうしたねエルシャ?」
ディメントに聞かれたエルシャは思いつめた事を問う。
「幼年部の子供たちが…、あの子達を…また生き返らせて下さい」
エルシャは再び子供たちを蘇らせてほしいとディメントに頼んだのだが、
「(面倒な事を頼むとは……ドレギアスの言う通りだ。欲まみれの人間は…怪物そのものだ。……そうだ、フフフ♪)」
ディメントは何かを思いつき、立ち上がる。
「良かろう。生き返らせてやる…」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
エルシャが喜ぶと、ディメントは心の中でエルシャの陽気さに呆れながら笑うのであった。
デスティニーフェニックスでは結界が張られて、陽弥達は来られないが通信ならできると分かり、陽弥達に報告していた。
『何だと!?』
「はい、ディメントが…この世界に武器や兵器、弱肉強食の法則を売りつけたのです。」
勇人は目で見た光景や事実を報告すると、陽弥が頭を抱える。
「……はぁ、まずい事になった。それとお前も無理するな、ロビンが改造させられた事に……」
「すみません……俺の不注意でした。」
「……ともかく、これから戦いが起こる。気をつけるんだ。」
「はい…」
陽弥が通信を終えると、勇人の眼から大粒の涙を流す。
「……これから、ロビンを殺さないとダメなのか?……あの子の父親である俺が……神様でも誰でも、俺の命でも良い、あの子を元の姿に…本来あるべきの大人しく無邪気な子に…」
勇人は叶わぬ願いを呟くのであった。
その頃、地下の研究室では子供達の遺体が並べられおり、ディメントが注射器を死体に注射器を射し込む。
「…………」
「ありがとうございます!」
「気にするな、名いっぱい安心感を出せ、それと……その子らは“わんぱく”で……“腹を空かしている”。なんか食い物でも出しておけ♪」
「は、はい!」
ディメントはそう言うと、子供達がゆっくりと起き上がる。エルシャはホッとしたその時、牢屋の中に囚われている一輝が叫ぶ。
「お姉さん!!気をつけて!!」
「え?」
その時、エルシャの肩に激痛が走る。
「っ!!?」
よく見ると、子供の口が耳まで裂けており、サメのようにぎっしりと並んだ鋭い歯、鋭い爪、獣の赤い瞳をしていた。エルシャは肩に喰らい付いている子供を引き剥がし、投げ飛ばす。肩から血を流すエルシャは子供の姿がみるみる内に変わっていく。
「何……これ…」
エルシャは怪物へと変わり果てた子供達に恐怖すると、ディメントが笑いだす。
「ハハハ!何を怯えている?望んだのだろ?子供達を生き返らせてほしいと…………♪」
「……そんな」
「腹空かしている……お養母さんの血肉を味わえ♪」
ディメントはそう言い、その場から消える。怪物へと改造された子供達は口から唾液を垂らしながら、エルシャを睨みつける。
「…………」
「お姉さん!こっち!!」
一輝はクアンタの血筋の力で、檻をこじ開ける。
「こっち!!」
エルシャは急いで檻の方へ走り出す。怪物達も走り出すと、檻にいる一輝やノーマ、子供達が、一輝が掘ってあった洞穴に入る。
「早く!!」
エルシャは勢い良く牢の中に入り込み、一輝は檻を元の形状に戻す。怪物達は檻の中に入れなく、唸り声を上げたり、檻に噛み付くのであった。
そして一輝やノーマ達と子供達が外へ出ると、エルシャはようやく気づいた。ディメントが言った言葉の嘘に…。
「全部…嘘だったのね、平和な世界も…余分な暮らしも…何もかも」
絶望に落とされたエルシャは涙を流しながら悔やんだ、自分の事を…子供たちの事を…。
「ゴメンね…皆、本当に…!」
エルシャは再び涙を流す。
そしてアンジュを乗せたシャークレイスはタスクと出会った島に到着した、到着した直後にアンジュの手錠が外れる。
アンジュは手錠が外れたのを見て、そして目の前にある洞窟が見えた。アンジュはそこに向かうとタスクが住んでいた洞窟が出会って別れた日のまま放置されていた。
「…あの日の…まま?」
呟くアンジュはそのまま洞窟に入ろうとした時にポケットから一部血の付いたタスクのネックレスが落ちて、それにアンジュは見る。
「(帰る時は…いつもあなたが居た、帰る場所には…またあなたが)」
アンジュの心にはタスクとの思い出が頭の中に浮かんで、そしてアンジュはタスクのネックレスを拾う。
「なのに…なのに…!うっ!うわああああああ!!!」
アンジュはその場に泣き崩れる。アンジュの心にはタスクとモモカ、そしてグレイス達を失った傷が癒えてなかった。
しかしグレイス達は死んでいない事にアンジュはまだ知りよしもなかった。
の医務室でリィザとエマはベットに寝かされえて点滴を受け、セシルとナナリーはヘリオスの傷口を消毒液を塗って包帯を巻いており、マギーはリィザのドラゴンの特徴を聞いた。
「ドラゴンの声はマナに干渉し人間を狂わせる…、だからマナを持たないノーマしか戦えなかったと言う訳か」
「そんな事何処に載っていません!」
エマはマナで資料をよく探しても見つからず、リィザの事実に驚きを隠せなかった。
「はぁ…、この世界は嘘で塗り固められいる。だけどマナを破壊するノーマは…その嘘を全て暴いてしまう」
「だから差別され、隔離された?」
マギーの問いにリィザは頷いて、再び話を続ける。
「人間達に…本能的にノーマを憎む様プログラムを与えて──」
「それだけじゃない……ディメントはマナ光が失なわれていく人間達は戦争を起こしている。レギオロイドは俺たちのデータを元にし造られた『弟妹達』まるで駒のように──」
「それじゃ!! ただの操り人形じゃない!!私達やあんた達!!」
っとエマが怒鳴りながらそう言った瞬間マナの端末が急に割れて散り、それにマギーとリィザが慌てて見る。
そして世界ではさらに大混乱が起こっていた。マナを失った各国は混乱し慌て始め、どうするかパニックを起こしていた。そして各国の勢力が使っていた武器や兵器が使えなくなる。つまり、セーフティー解除されている事と弾薬が入っているのに、引き金を引いても弾丸が出ることもなく、兵器がストップする。
さらに、各国で戦っていたレギオロイド達とピレスドロイドがの流動経路の色が赤へと変色し、兵士や一般市民を襲う。
そして各国の首相達が集まる場所に皆が集まり、世界に付いて話し合った。
「どうなっているのだ!?レギオロイドとピレスドロイドが我々に敵視している!ディメント!我々を騙したのか!?」
「……フフフ、アハハハハハハ!!!…………『愚かな下等生物が♪』」
ディメントの体から闇のオーラを放ち、本来の姿へと戻る。その姿は全長10メートルもあり、禍々しい闇と神々しい光、相互の力を放つ巨神になっていた。
「そ!?その姿は!!?」
「これが……私の本来あるべき姿。お前達みたいな野蛮な有機生命体から放たれる絶望によって、私は別世界から生まれた存在『我が名は…巨神王 ーーー“ディスピアース”ーーー』だ!!」
ディメントの本当の姿…ディスピアースは強大なオーラを放ち、各国の元首達の目を見る。
「お前達!私の目を見ろ!!」
ディスピアースの目が黒く染まり、元首達の目を睨む。
《っ!!?》
すると元首達の脚が段々と石化していく。そして徐々に元首達の体隅々まで石になり、ガリア帝国皇帝は苦しみながら呟く。
「嫌……死ぬ……は……」
そしてただの石になり、ディスピアースは尻尾を振り、石化した元首達を粉々に粉砕した。
「これで……元首達を失った人間共はさらに悲鳴と恐怖に駆られ、ミスルギ皇国へと避難してくるだろう。」
ディスピアースはそう呟き、その場から消える。
地下室の研究所に戻ったディスピアースは檻を見る。
「逃げたか……まぁ、良い。」
ディスピアースはコンソールのキーボードを打ち、二つのカプセルポッドのハッチを開く。
「決着を付ける時が来た。私が何千年もの頭脳の全てを持って、その力を注ぎ込んだ結晶……我が命により目覚めよ我が娘達『サイバーエルフェン』……『サイバーフェアリス』」
中から耳が尖った白肌で金髪の男性と耳が尖った黒肌で銀髪の女性が目覚め、両者は蒼眼と紅眼の瞳を光らせる。
『『イエス マイ ファザー』』
サイバーエルフェンとサイバーフェアリスは立ち上がると同時に、二人の体にはいつのまにか生まれたばかりのような裸だったの 筈が、サイバーエルフェンは肌と一体化し、有機生命体の神々しい光の翼を展開するスーツ、サイバーフェアリスは機械と融合し、機械生命体の禍々しい闇のスラスターウィングを展開する。
「アポカリプス…」
『はい』
「ここまで、よく頑張ってくれた。」
『えぇ……』
「最後に一つ……頼みがある。私の最終計画の為、お前を最終兵器にする。できるか?」
『…………分かりました。』
「それに、もうお前はアポカリプスではない。今からお前の名は……“パラサイト・リリス”だ」
『はい…』
「例の“あれ”の起動準備は出来ている。」
『“クリムゾン・ラグナルク”と“ディープ・アブソルト”……完成したのですね。』
「既にダーク・サイド・ムーンにはオリジナルの“アルゼナル”と、“アルゴルモア”を運搬している。お前はアルゴルモアのAIとしてなれ……いいな」
『はい…』
パラサイト・リリスは敬礼し、その場から消えたのであった。
・超次元生命体である巨神王“ディスピアース”
・機械生命体である機神帝“フリューゲルス”
・人造生命体である聖龍皇“グレイス”
三つの生命体……これからの戦い、自分も楽しみになりました♪
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第四十九話:大戦前夜・後編
ディスピアースが新たな計画を開始した頃、まだ何にも影響が及んでいないタスクの無人島では、アンジュは服を抜いでワイシャツに着替えてベットに寝ては居たが、苦しい表情で起き上がる。
「み…水」
脱水症状なのか、それとも喉が渇いてしまったのか。テーブルに置いてある水を取ろうとした時に足を滑らせてしまってこけてしまう。
その際に戸棚にある一冊のノートがアンジュの前に落ち、アンジュは起き上がろうとした時にそれを見つける。
そしてそのノートを読み上げると、それはタスクが今まで書いてきた日記だった。
『モーガンさんが死んだ…、これで俺は一人になった…。無理だったんだ…エンブリヲに戦いを挑むなど…世界を壊すなんて。
何をしても一人…孤独に息が苦しそうになる…人は…一人では生きていけない…』
日記を読んでいるアンジュはタスクの苦労の日々を感じ取る、あの万能のタスクがここまで弱音を吐いているのは知りもしなかったからだ。アンジュは次のページをめくる。
『○月××日、今日はエンブリヲに似た機体と、銀髪の少年がやってきた。彼は覚えていないが、あのリベリオンを使えるのはリベロだ……俺は名前を覚えていない彼に『グレイス』と名付けた。そして彼はアルゼナルへと向かっていった。彼が羨ましい、俺と違って……前向きだ…。』
「タスク…」
アンジュはますますタスクの辛い過去を知る中であるページに目が止まる。
『今日、島に女の子が流れ着いた…ヴィルキスと共に。名前はアンジュ…とても良い名前で綺麗な子だけどかなり強暴で人の話をまるで聞かない女の子だった。だけどアンジュは…光だ』
「!?」
アンジュはその事に目を見開いて驚く。
『外の世界から差し込んだ…とても暖かく輝く光。父さん…母さん…、やっと見つけたよ…俺』
「『彼女を護る…、それが俺の…俺だけの使命』」
日記を読み終えたアンジュは手に持っているネックレス見て、そして握り締めながら目に涙があふれ出て来る。
「ずっと…ずっと護ってくれてた…なのに私…私は…、タスク…モモカ…!」
そしてアンジュの目から涙が落ちて来て、泣き崩れてしまう。
タスクに護れていたのをずっと気付かなかったアンジュは後悔していた。
どうしてももっと早く気付いてやれなかったのか、どうしてもっと分かりあえなかったのか。アンジュの心にはその後悔がずっと流れ続けていた。
泣き崩れているアンジュは身体を起こして目にある物が映る。
それはダイヤモンドローズ騎士団の制服にあった拳銃がアンジュに目に映ったのだ。
アンジュはそれを取り、残弾数を確認してセーフティを解除する。
ハンマーを上げて、銃を顎下に構える。
「モモカ……タスク」
アンジュは震える手でトリガーに指をかけて、引きがねを引こうとした瞬間頭の中に今までの光景が流れて来る。
その際にタスクがアンジュに言った言葉を思い出す。
──君は生きろ!
タスクの言葉にアンジュは銃をおろし、そして激しく泣き崩れる。
「うわああああああああああ~~……!!」
降り続いていた雨が上がり、夕日が見える浜辺にあるコンテナにアンジュは毛布で包んで座り込んでいた。
アンジュは自分で引きがねを引けなかった事に呟く。
「不様ね…私、一人じゃ…死ぬことすら出来ないなんて…」
そう呟くアンジュは沈んでいく夕日を見る。
「…綺麗」
君の方が…綺麗だ
またタスクの言葉を思い出して、目に涙を浮かばせる。
「バカ…! どうして私なんか…?」
俺はアンジュの騎士だからね
アンジュはタスクの言葉に頭を上げて、涙を流して夕日を見る。
「それで良かったの?貴方は…、使命の為に全てを失っても…。それで望んだのはどんな世界の…?」
穏やかな日々が来れば良い…ただそう思ってるだけさ
必ず戻るから…君の元に
タスクの最後の言葉を思い出すアンジュ。
自分の騎士である為ならどんな命も投げ出す。そんな事でアンジュはどうしても納得できなかった。
「貴方が居なくなったら…何の意味もないじゃない…」
その言葉に海の波が打ち消すかのように音をたてる、そしてアンジュはようやく自分の思いを気付くのだった。
タスクの事が好きであると…。
「好きよ…タスク、貴方の事が…うぅ…!」
そう言った途端にアンジュはまたしても泣き出してしまう。
「こんな事なら…最後までさせてあげれば良かった…!」
っとそう言った時だった。
「本当に?」
「っ!!?」
突如タスクの言葉が後ろから聞こえてアンジュは思わず驚き、タスクはアンジュを後ろからそっと優しく抱きしめる。
「良かった~アンジュ、君が無事で」
「…何で?」
アンジュは突然の事に混乱し、タスクはその事に言う。
「前にも言ったろう、アンジュの騎士は不死身だって」
「タス…ク?」
「ああ、そうだよアンジュ」
アンジュは顔だけを振り向き、タスクを確認して。そしてアンジュは立ち上がってタスクも立ち上がったその時だった。
パシュ!!!!
「あだっ!?…えっ?」
突然アンジュからビンタを貰ってしまったタスクは思わず唖然としてしまう、アンジュは涙を流しながら言い続ける。
「タスクは…死んだわ!」
パシュ!!
「っぐ!」
またしてもアンジュの逆手ビンタがタスクの頬に直撃して、タスクは叩かれた部分を抑える。
「これは…エンブリヲが見せている幻!!」
「えっ!ち!違う!」
その事にタスクは慌てながら否定するも、アンジュの行動は止まらない。
「あの時のキスも、撃たれた血もないもの!!」
「お!俺は生きてるよ! それにグレイス達も!」
「信じない!!タスク達は死んだの!!!」
っとそれには思わずタスクは「ええ~!?」と声を上げる。
「信じない…信じないわ!」
「…ゴメン」
この時タスクは気づいた、アンジュは相当悲しい思いをしたんだと。
タスクは申し訳なさそうにしてアンジュの涙を指でふく、しかしアンジュは何やら決心した表情で顔をあげて、それにはタスクは頭を傾げる。
そしてアンジュはタスクの服を掴んで強引に倒す。
「えっ?うわっ!!」
強引に押し倒されたタスクはアンジュに防弾ベストと上着を脱がされる。
「あ、アンジュ…何を?」
「確かめるわ…ちゃんと!」
っとアンジュは自分のワイシャツを脱いで、裸になった状態になり。
それにはタスクは頬を赤くする。
「た…確かめるって?」
するとアンジュはタスクに寄り添い、キスをする。
「っ~~~!?!?」
「黙ってて、お願い…」
アンジュの必死の頼みに、タスクは思わず黙り込んでしまい、またアンジュはタスクを押し倒してキスをするのであった。
その頃リュミエールでは、戻ってきたシンがフリューゲルスとネメシスに新たな武装と強化システムを組み込んでいた。するとそこにグレイスが駆け寄る。
「何やっているのですか?」
「…もうすぐ戦いだろ?お前の為に、新たな反応速度、推力の最大値、激しいGに対する重力制御ユニットと姿勢制御ユニットを組み込んでいる。」
「あ、ありがとうござ……ゴホッ!!」
「?……っ!!」
シンは口から血を吐いているグレイスを見て、慌てて、デバイスでグレイスのバイタルチェックする。バイタルに表示されている内容にシンは驚き、グレイスに怒る。
「そういう事なら、もっと早く言え!」
「大丈夫です。痛みも何もありませんから…」
「黙ってろ………困った…困ったぞ……」
「……分かっちゃいましたか。そうです……エンブリヲが死んだ事に、僕の体の中のエンブリヲの遺伝子が消え、アウラの遺伝子だけでは維持できなくなったのです。つまり、僕は今日……体内のドラゴニウム粒子が消滅し、あらゆる器官が停止するのです。」
「そんな……」
「黙っててすみません。ですが、僕にとっての最後の償いでもありますから……」
「…くっ!最後の償いと言っても、まだ囚われている恋人さんが悲しむだけじゃないか!?」
「何を言っているのです……」
「え!?」
「……殺したあの子達…大切な“家族”と言えるあの子達の面倒を見させている彼女を解放してあげたい。最後は実の家族に会わせて、健やかに暮らして欲しいのです。僕は10年間、彼女の血のおかげで不老不死で生きてきました。ですからもう……」
「ちょっと来い…」
シンはグレイスを連れ、デスティニーフェニックスのテックラボへ入る。そこには色んな薬が並んでいた。シンは薬の中から緑の液体が入った注射器を取り出し、グレイスに見せる。
「良し…じゃあグレイス、好きな色を言え。」
「…今、それ尋ねるんですか?」
「………ノリが悪い奴だ」
シンは構わず、消毒剤を腕に吹きかけ、注射器を射し込んだ。
「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
注射針が無理やりグレイスの腕に肉に突き刺さり、激しい激痛が彼を襲う。彼の体内に、緑の液体の中に入っていたナノマシンがDNAに喰らいつく。
そしてアウローラのブリッジでは…。
『聞こえますか?こちらエルシャ』
っとエルシャからの通信が聞こえて、ブリッジのパメラ達はメイン画面に映し出される映像を見る。
それは白旗替わりに白ブラを旗にしているエルシャのレイジアとレイジアの後を追いかけるマナの輸送艇が飛行していた。
「し!白ブラ!?」
「違うわ、白旗よ」
オリビエが言ったのをパメラが訂正する。
エルシャはアウローラだけではなく、全周波数で皆につなげて話す。
「こちらエルシャ、投降します」
アウローラ のみんなは、エルシャや輸送艇の中にいた子供達やノーマ、そして一輝がいた事に、勇人とシンディが走り出し、息子を抱き合う。
「ごめんなさい、お父さん、お母さん……僕、ロビンを…」
「良いんだ、お前だけでも…」
「それよりお父さん!僕聞いたんだ!ディメントの目的を!」
「何だって!?」
勇人は詳しく一輝から、ディメントの目的を聞くのであった。
一方でタスクとアンジュは互いを満足した後に夜空を見上げていた。
「綺麗ね…」
「ああ、あの時よりずっとね」
そうタスクは話し互いに手を握る、アンジュはある事を言う。
「実はね私…さっき死のうとしていたの」
「えっ?!」
「人は…一人じゃ生きていけない」
っと聞かれたタスクはそれに恥ずかしそうに照れてしまう。
「日記…見たんだ」
「ええ、何にも出来ないのね一人って、話し合う事も…抱き合う事も」
そう言ってアンジュはタスクの方を見る。
「本当に、生き返らせたんじゃないよね?」
「生きてるよ…俺は……」
タスクはアンジュの言葉に頷く様に手を握る、そしてアンジュは上半身だけ起こしてタスクに互いに愛し合った事を聞く。
「ねぇ、満足…した?」
「え…、もう…思い残す事ないかも」
「駄目よタスク、これからなのに…」
っとアンジュがそう言った言葉にタスクは思わず苦笑いするしかなかった。
すると朝日が二人に指し光、それに二人は起き上がる。
「不思議…、何もかものが新しく輝いて見える」
「うん…」
そう朝日を見る二人、アンジュは気にしている事をタスクに言う。
「私ね…あの変態ストーカー男に言われたの。全てを壊して新しく作ろうって」
「えっ…」
タスクはそれに言葉を詰まらせるもアンジュが言い続ける。
「でも私…この世界好き、どんなにみじめで愚かでも…こんな世界が」
「俺もだ、何時までもね…。アンジュ、必ず護ろう…この世界」
「うん、護ろう…それにモモカが護ってくれたこの命、無駄にしない為にも」
「モモカ………あっ!!」
タスクはしまったと言う表情になって焦り、それにアンジュはタスクを見る。
そしてタスクとアンジュは服に着替えて、アンジュを連れて洞窟に戻ると…。
「お待ちしておりました~!アンジュリーゼ様!」
そこにはモモカが朝食の準備をしていた事に、タスクは少々気まずかった。何せ忘れていたから。
アンジュはモモカが生きている事に唖然として、タスクに問う。
「な、何でモモカが…?」
「このフライパンのお蔭です!」
っとモモカはエンブリヲが撃った弾が止まっているフライパンをアンジュに見せる、そしてアンジュはしばらく唖然として笑い出してモモカに抱き付く。
「流石、私の筆頭侍女ね!」
「はい…アンジュリーゼ様……あっ!」
するとモモカは何やら思い出した表情をしてすぐ様タスクとアンジュに言う。
「大変です姫様、私マナが使えなくなっちゃんたんです!」
「えっ!?」
「そんな…!さっきまで使えたのに」
そう言っていると天候が急激に変化して、タスク達は海の方へと向かう。
それにモモカは思わずつぶやく。
「あれは…?」
その中でアンジュはその光景を見て言う。
「始まったのね、ディメントが……」
「あぁ……ディメントは僕たちの相手する最大の敵…」
「えぇ……」
タスクの問いにアンジュは頷いて、タスクはアンジュにタスクの母が使っていたライダースーツを渡す。
そしてタスクも戦闘スーツへと着替えて、準備が出来た所にアンジュが問う。
「ねえ、どうやって行くの?」
「勿論、アシッドを呼ぶ、アンジュも出来るでしょ?」
「ええ」
アンジュは指輪にキスした後にタスクと同時に叫ぶ。
「アシッド!!!」
「おいで!ヴィルキス!!」
二人が腕輪と指輪を上げた瞬間、リュミエールとアウローラにあるアシッドとヴィルキスのカメラアイが光り、機体が青色に変化してジャンプする。
その様子を確認したアカリは笑みを浮かばせる。
「戻ってきますね…二人、いえ、三人ですね」
そしてタスク達の元にエクゾディアスとヴィルキスが現れる。
アシッドはタスク達の方を見る。
《待ちかねたぞ…タスク》
マスティマが呟き、それにタスクは笑みを見せて、アンジュはタスクに問う。
「それじゃタスク!グレイス達の元に行きましょう!」
タスクはそれに頷いく。
モモカはヴィルキスの後部座席に乗せ、タスクとアンジュはアシッドとヴィルキスに乗り込んでアウローラ へと戻って行った。
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さぁ始まりますよ……最終決戦!!
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第五十話:次元大戦・前編
各地で時空融合が開始して、各地に甚大な被害が及んでいた。
それにはサラ達の世界も影響が及んでおり、アウラの民達は宮殿へと避難をしていたが、時空融合の嵐が宮殿にまで迫っていた。
ミスルギ皇国に居るディスピアース達は大きな地図の上に人形を置いて、位置を動かしながら皆の行動を見ていた。
ミスルギ皇国に集まってきた各国の民。しかし時空融合が迫り、人々を避難民や兵士達を襲う。
そしてアウローラ のブリーフィングルーム、グレイス達はその様子を映像で見ていた。
アツマとダストは思わず拳を握る。
「どんどん被害が広がっているぞ…」
「ディメントめ…、本気で世界をぶっ壊すつもりかよ!」
「させはしない…」
グレイスの言った言葉に皆は振り向き、映像を見ながらグレイスはレイブラスターを握る。
「ディメントの野望も…一気に止めてやります」
「おいグレイス!まだアンジュが戻ってないんだぞ! 先走るのは早いぞ!」
ヒルダはまだ戻らぬアンジュの事で怒鳴り、それにグレイスは言う。
「心配ないですよ、アンジュさんはタスクさんと一緒に戻って来ます」
っとグレイスがヒルダにそう言った時だった。
『…ちら…ジュ、応答せよ!』
「「「?!」」」
「グレイス殿」
サラの言葉にグレイスは頷く。
「えぇ、タスクさんとアンジュさんです」
海面上に低空飛行で飛んでいるタスク達がアウローラ に通信を入れていた。
「こちらタスク、ただいまアンジュとモモカを連れて帰投中」
「早くこっちを収納しなさい!!」
相変わらずの怒鳴りに通信を聞いていたグレイス達は呆れてしまい、アカリ達はアウローラ を浮上させる。
浮上して来たアウローラ を見て、タスクとアンジュはモモカを連れてアウローラ へと入って行った。
収納された三人は格納庫で待っているグレイス達に向かい入れられる。
「「アンジュ!!」」
「お帰り!!」
すぐさまヒルダ達がアンジュの元に行き、アンジュは笑顔でヒルダ達に言う。
「ただいま皆、遅くなっちゃってゴメン」
「たくっ!何処ほつき歩いてたんだ!てめぇはよ!」
ロザリーが相変わらずの意地悪風な言い方でアンジュは安心し、グレイス達はタスクに近寄る。
「待ってましたタスクさん。遅かったですね?」
「あはは…、ちょっとね」
タスクは苦笑いをしながらグレイス達に言う。するとエマがやって来てモモカの姿を見て安心した。
「モモカさん!無事だったのね!」
「監察官さん! あっ…お酒やめられたのですね?」
モモカはその事をエマに言い。エマは目線を反らすも何とも情けない表情で言う。
「飲んでいる場合じゃないわ…、私もリベルタスに参加します!!知ってしまったもの…人間とマナの真実を」
「…そうか」
そんな中でアンジュはエルシャが乗っていたレイジアを見る。
「あれ…?あれはたしか…」
アンジュが見たのをグレイスが言う。
「あぁ、エルシャさんがこっちに来て仲間になったんだ。そしてエルシャさんはようやくエンブリヲとディメントの呪縛から目が覚めたらしい…」
「そう…エルシャが…」
「ああ」
グレイス達に説明によりアンジュは納得する。
「何も知らないのは貴女だけですよ?」
っとそこにサラ達がグレイス達の元にやって来て、それにアンジュは振り向く。
「サラ子!」
「アウラの民とノーマ、そして天帝軍である者達が集い、今こそ立ち上がる時です」
「フッ。そうね」
そう笑みを浮かばせてサラと握手をするアンジュ。
っとアンジュはサラ達の後ろに居るリィザを見て、リィザは少しばかり目線を反らす。
「…モモカから聞いたわ、居場所を教えてくれたですってね。忙しくなるわよ?あの男を抹殺しなきゃいけないんだから!」
アンジュが言った言葉にリィザは振り向く、謝罪の言葉は後回しで良いと言う事に…。
「アンジュリーゼ…様」
聞いたグレイスとサラは笑みを浮かばせ、モモカは笑顔で微笑む。
「あれ?司令はどこ?」
アンジュは司令であるジルがいない事に気付く。
「今の司令は私」
ヒルダが司令になっている事に驚くアンジュ達。そしてアンジュ達はジルが謹慎中である司令室に入る。
「よく帰って来られたな…」
「えぇ、みんなのおかげよ。」
「で?……私を笑いに来たのか?」
「笑われる自覚はあるようだね?ジャスミンから聞いたわ…エンブリヲにたらし込まれたそうね?」
「!」
「ま、もうそれは関係ないか。アイツはディメントによって殺されたから♪」
「アイツが!?」
「えぇ、この目で見たわ……グレイスがエンブリヲを元の人間に戻した直後、ディメントが殺した。あなたなら、アイツの事を知って「“巨神王 ディスピアース”」え?」
グレイスがアンジュに説明する。彼の元いた星は1000年以上に続く大戦争で壊れ、その星にいた数々の生命が結集し生まれた『知的生命体』または、『有機生命体』。またフリューゲルスもその星の種であった機械から生まれた結集した『機械生命体』だったと言う。
「いつから知ってたの?」
「フリューゲルスが教えてくれた……約五十億数千年前出来事って言うから……」
「五十億数千年前!?」
驚愕の年数にヒルダがアンジュ達は驚く。
「エンブリヲが知らないのも、無理がありま───ゴホッ!!」
突然グレイスが口を抑えつけ、咳をし出すと彼の口から血を吐く。
「グレイス!?」
「おいおい!?」
「ハァ…ハァ…ハァ…この事は、みんなには言わないでください。良いですね?」
グレイスの強い眼差しと威圧が三人を包み込むのであった。
テックラボでは、シンがグレイスの点滴とバイタルチェックを再確認していた。
「やっぱり、再開発したナノライズ薬では無理か……」
「寿命を伸ばそうしてくれてありがとうございます。おまけに血液の輸血や点滴も…」
「良いんだ……開発者、科学者、医者である私の全てをお前に注ぐ。」
「…………ありがとうございます。」
「それと、フリューゲルスに新たな武装を加えた。」
グレイスは首を傾げると、テックラボの窓からフリューゲルスが現れる。そしてフリューゲルをよく見ると機体の両腕が大きくなっており、悪魔か龍を思わせる形状になっていた。
「あれは?」
「ネオ・フェメシス四天王のラグナメイルの完全武装をも限界に超越する事が出来たフリューゲルス専用武装『SEITEN(聖天)』だ。」
「聖天…?」
『SEITEN(聖天)』
シンが各銀河のエネルギー鉱石を集め、無限のエネルギー動力源を元に両腕部に搭載、内蔵、装備された各武装の極大まで飛躍的に越える事に成功した対生命体、特殊機体殲滅超兵器。
リベリオンと同様形状が親指二つある手になっており、プラズマ・フェイズ・バルカンとマニュピュレーター内蔵バルカン、さらに実体剣の超振動波ブレードであるスーパーパドルデーゲンが超爪のようになっており、聖天の内蔵されたバーニアを併用すればビーム兵器以上にもなる。そして聖天にはまだ見ぬ秘密兵器が山程あると言う。
新たな武装にグレイスはシンに問う。
「こんなに改造してよろしかったのですか?」
「良いんだ。前回まで使っていたプライマルブラスターもあの聖天の右腕固定武装したから♪実は聖天には不可解な欠点がある……それはライダーの肉体とのシンクロだ。そこで君の右腕にミスリルで出来たデバイスを組み込もうと思っている。そうすれば聖天はさらに威力や出力も上がる。」
「それって……大丈夫なんですか?」
「大丈夫……私が保証する。」
シンの言葉にグレイスは心配する。さらにネメシスには腰部に備えた後ろ脚『マルチレッグ・ドレス』は先端部から足場となる硬質残光を発生させ、それ蹴る事で不規則な機動を行う事が出来る。同時に、脚部を伸ばす事で高出力スラスターにもなり、一撃離脱戦法を行う事も可能。 つまり、あらゆる大気場をアメンボのように進む事や蹴って回避することが可能となった事だ。そしてマルチレッグ・ドレスにも、聖天と同じまだ見ぬ秘密兵器が内蔵されている。
「これ……どれだけ強くなるのですか?」
「……使って見たらわかる♪」
「……ハァ〜」
グレイスは呆れ、コックピットの中を見る。
「……コックピットもですか!?」
「……何のことかな?」
「図星ですよ…」
コックピットにはグレイスの能力を飛躍的に向上させる程のシステムが組み込まれていたのであった。グレイスは最終決戦に備えて、そのシステムの再確認をする。結果、脳に大ダメージがあったが、本人は気にしなかった。
そして決戦の時が来た。各艦艇の格納庫には皆んなが機体に乗り込んでおり、指揮するのは当然グレイスであった。グレイスは皆んなに通信を入れ、宣言していた。
皆に通信を入れる。
「皆…聞いてくれ、僕達はこれからミスルギに突入しアケノミハシラに向かい、時空融合を停止させる。ディメントが壊そうとしている世の中一体誰が想像する? ただ自分の想像する世界なんて何にもおもしろくもねぇ…。
それに世界は…誰かが導かなきゃ幸福にはなれないって誰が決めた? 誰も決めていない…自分達の未来は自分達で見つけて行かなきゃいけない…、ノーマとアウラの民に古の民、そしてディメントの世界を拒絶し共に戦ってくれている別世界の皆、それに何よりディメントから自ら離れ戦ってくれノーブルのヘリオス。最高にいい感じじゃねぇか。
ディメント…いや、巨神王 ディスピアースから世界を護る為に今立ち上がる時だ! 作戦名は…『ラスト・リベルタス』!巨神王が世界は俺達で壊す!? 皆!共に戦い!生きて帰ろう!!!」
『『『『『おおお!!!!』』』』』
グレイスの宣伝に皆は賛同するかのように声をあげるのであった。
そして海面上、ミスルギ艦隊の船がミサイルを発射し、リュミエール達へ向かわせるように放つ。
それにリュミエールのブリッジで、ミカがレーダーにミサイルを確認する。
「敵艦隊よりミサイルの発射を確認!数多数!!」
艦長席に座るジェームズがすぐさま指示を出す。
「迎撃態勢!!ホーミングレーザー砲を自動追尾!」
するとリュミエールの船体から迎撃システムのIBS機関砲が出て来て、
接近してくるミサイルをホーミングレーザーで迎撃して行く。
「内等の技術、なめるなよ!『イオンブラスター』射てぇ!!」
リュミエールの対艦隊兵器であるイオンブラスターから、イオン化された粒子が放たれ、ミスルギ艦隊の機能が停止していく。
「有り難いね、こっちも行くよ!」
後方のアウローラも対艦ミサイルを発射し、艦隊を撃沈して行く。そしてリュミエールとアウローラはアケノミハシラに向けて、空中へと舞い上がり、ミスルギ皇国へと向かう。
その様子をミスルギ皇国に居るディメント、そしてダイヤモンドローズ騎士団、大きな地図の上で自らの艦隊が全滅したの確認して呟く。
「強行突破か…」
ディメントは次の駒を動かす。
とピレスロイドが無数に動き出して、向かって来るリュミエール達の元に向かう。
無論デスティニーフェニックスの雄二がレーダーでそれを感知する。
「ミスルギ皇国より無人兵器を多数確認!!こちらに向かってきます!!」
それを聞いたアカリは厳しい表情をしながら無人兵器を睨む。
格納庫内でアシッドに居るタスクがグレイスに言う。
「グレイス!!来たよ!!」
それにグレイスは頷く。
「パラメイル部隊!!全機出撃だ!!!」
すると各自発進体制へと入る。
先ず最初に、勇人のアダムとシンディのイヴがコンテナから出撃し、ハイパーノバビームライフルで一掃して行くと同時に、ネメシスと合体したフリューゲルスも発進準備する。コックピット内にいるグレイスと一緒に戦うと誓った兄“ヘリオス”がバイク式のコックピットになったラルスに乗り込んでいた。
「準備は良いか、グレイス…」
「あぁ……あの四人に現実と弱さを思い知らせてやる。グレイス及びヘリオス、出る!!」
グレイスの声と同時に、フリューゲルスが彗星の如く速さで消え、アンジュ達と交戦していた敵が一瞬で瞬殺されて行く。
「速い!」
「マジ見えねぇぜ!」
「スゲェ!!速えぇ!!」
ヒルダ達もフリューゲルスの速さに、肉眼でも追いつかなかった。
ミスルギ皇国では、フリューゲルスの登場にエンブリヲは目を細める。
「来たか…反抗者め。」
ドレギアスがヴェルトサーガとエクゾディアスを見て呟き、二人がネオ・フェメシス四天王とダイヤモンドローズ騎士団達に言う。
「我々も出るぞ…」
そう言ってサリア以外のオリジナルのヘリオス達は敬礼して、サリアも少し間を空けて敬礼をし、皆はラグナメイルの元に向かうのであった。
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第五十一話:次元大戦・中編
グレイス達がデペロアーマーとピレスロイドを撃ち落としながらアケノミハシラに向かっている中でリュミエールのアカリがすぐさま報告する。
「アケノミハシラ付近に複数の飛行物体を確認!」
それにアカリ達はアケノミハシラにモニターを向けると、そこにはディメントとネオ・フェメシス四天王と完全武装したラプソディー、ダイヤモンドローズ騎士団がアケノミハシラに待ち構えていた。
「エンブリヲ!」
アカリとジャスミンはディメント達を見て睨む。
ディメントは笑みを浮かばせながらリュミエール達を見る。
「沈みたまえ…、古き世界と共に」
するとディメントは永遠語りを歌い出し、それに戦っているレオン達はその歌を聞く。
「なっ!これは!」
「「「!!?」」」
ディメントが歌のを聞いたアカリはすぐに気づく。
「なるほどな、狙いはこのリュミエール達か。『ディメンストリーム砲』は?」
「まもなく85%!! 100%まで後1分!!」
そうアカリに報告するオボロ。
しかしその前にディメントの歌が終え、ヒステリカ デモニック・フォルムから光学兵器『ディスコード・フェザー』が発射される。
っがリュミエール達の前にフリューゲルス。そしてヴィルキスに焔龍號が現れて、三機の機体が銀と金のボディへと変化して。
ディスコード・フェザーに収斂時空砲を発射し、ディメントのディスコード・フェザーを消し飛び、そのまま直進して行く。
ディメントのディスコード・フェザーを消したのを確認したジャスミンはグレイス達のフリューゲルス達を見る。
「グレイス達かい!?」
「エネルギー充填100%!!何時でも行けます!!」
それを聞いたアカリはその様子をチャンスと見てすぐさま言う。
「よし!今がチャンスだ!!ディメンストリーム砲発射準備!!」
するとリュミエールの底部に装備されている次元兵器【ディメンストリーム砲】が展開されて、アケノミハシラに照準を合わせる。
「ディメンストリーム砲!!発射!!!」
ジェームズの命令と同時にディメンストリーム砲が放たれ、敵を全て腐敗して行く。次元の渦がアケノミハシラに向かって直撃して、アケノミハシラにはあたりを爆発させて崩れて倒れて行く。
そして倒れたアケノミハシラの中に大きなシャフトが見えた。
それを見たアウローラに居るリィザが皆に通信を入れて言う。
「あれがアウラへ続くメインシャフトです!!」
リィザの通信を聞いたグレイスはそれに頷いて皆に言う。
「皆んな!一気に総攻撃を掛けるぞ!!」
《おぉ〜〜っ!!!》
リベリオンビットを展開し、迫り来るスワーム戦闘機とピレスドロイドを迎撃して行く。が残りのスワーム戦闘機とピレスロイドがリュミエール達に向かい、それを見たヴィヴィアンが慌てて引き返す。
「グレイス!あたしやっぱここに残る!」
「分かったヴィヴィアン! 行くぞ皆!!」
ディメント達はリュミエールのディメンストリーム砲を見て、ディメントはそれに呟く。
「あの兵器……私のいた星に使われていた兵器。」
「ディメント君!来た…!」
っとクリスが言ったの聞いて前を見る。
するとグレイス達がそのままやって来て、それにディメントは皆に命令する。
「諸君!迎撃を」
『『『『『はっ!!(イエス・マスター!)』』』』』
ヘリオス達がディメントの命令に従い向かって行き、そしてディメントはサリアに言う。
「サリア、分かっているな?」
「…はい」
そう言ってサリアは向かって行く。
ヒルダ達はクリスを、アンジュ達はアケノミハシラへと向かって行くと同時にネオ・フェメシス四天王が立ち塞がる。
「アンジュさん…ここは僕に任せて……」
『良いの?』
「決着をつけたいのです。」
『……分かったわ!行こう、タスク!サラ子!』
『グレイス…気を付けろ』
『グレイス殿…御武運を…』
アンジュ達はそう言い、アケノミハシラへと向かう。
「行かせるか!!」
それを妨害しようと、テティスのシュトロームが向かおうとしたその時、聖天の腕が分離し、シュトロームに襲い掛かる。有線式ビームを伝って、聖天はプラズマ・フェィズ・バルカンを乱射する。
「何っ!?」
「邪魔はさせんぞ」
聖天を戻すと、ヘリオス達が通信してくる。
『いくら武装を強化しても…オリジナルである我々には勝てないぞ。10年前は油断したが、オリジナルである我々には得意能力というものがある!!』
するとヘリオスのアイオロスが高速で動き、フリューゲルスも聖天を飛ばし、迎撃しようとするが、どういう事なのか回避され続けられる。
「どうなっている?機動力はこっちが上なのに…」
『私の得意能力は……“相手の《未来(軌道演算)》を読むことが出来る”そして!!』
するとヘリオスの周りの風が強くなり、強風を放つ竜巻が複数現れ、全ての物を破壊して行く。
『あらゆる大気を操り、全てを吹き壊す!!』
次に、アトラスが地面に降り立ち、大地を踏み込む。すると大地が割れ、溶岩が溢れ、熱気と共に街を燃やし尽くす。
『俺のは“あらゆる鉄を腐敗”させる……そしてもう一つはあらゆる物を全て焼き尽くす。』
次に、テティスが大地を割り、水を溢れさせると水が凍りつき、街も凍りつかす。逃げ遅れている人々が次々に凍死して行く。
『私は“心の中を通し、読む”事が出来る。そしてあらゆる物を凍てつく大地に変える……』
次にファントムから、黒いオーラが放たれ、大地から紫の結晶体が突き出だし、結晶体から猛毒ガスを放出する。
『拙者は“人の影を操り、同士殺しをさせる”……そして、拙者は迷宮を作り、放射線を放つ事が出来る。』
最後にラプソディーが現れ、流動経路が赤く染まる。すると鉄の形状が変わり、全てが金属化して行く。
『元々はオリジナルであるお前の能力だが。得意能力は“相手の力を無力”にでき、対象物を金属に変える。お前には、その能力も何もない……出来損ないの“弱虫”だ。』
『弱虫はこの世に生きるな…』
『強き者こそ、強者の世界に生きる種。』
『出来損ないの人間達と違って、私達『新人類』が統治する』
『人間は…虫ケラだ』
五人の得意能力と環境によって囲まれたグレイス。脅威が迫り来る直後、グレイスは呟く。
「それはどうかな?」
グレイスとヘリオスの頭上や背中に機器が取り付けられる。それと同時にフリューゲルスの流動経路の色が緑から赤へと変わる。するとスラスターウィングからビームリングが現れ、ネメシスの各スラスターからドラゴニウム粒子を放出する。
「さぁ……お前達に“無能”という価値を与えよう!!」
するとヘリオスの竜巻、アトラスの溶岩、テティスの冷気、ファントムの放射線、ラプソディーの金属が融解していき、五つの脅威がフリューゲルスに吸収されて行く。
「何っ!?」
「どうなっている!?」
「見ての通りだ。確かに僕にはその力はない……だけど!」
すると聖天が二つに分かれ、それぞれのラグナメイルへと猛スピードで向かって行く。
「っ!?」
ヘリオス達は聖天が飛んできた事に気付き、迎撃体制を構えようとしたその時、操縦桿が動かなかった。
「え!?」
「どうなっている!!?」
「ミストラル早く予備を!!」
『ダメです!!全くシステムが機能しません!!』
「何だと!!?」
『我らのラグナメイルが……乗っ取られただと!!?』
その直後、聖天の指がそれぞれのコックピットを掴む。
「「「「っ!!!」」」」
『質問……守りたい者はいるのか?』
「守りたい!?そんな物!」
『そんな物だからこそ、僕や人間は、さらに高みへと強くなる!!』
「往生際が悪いぞ!!失敗作!!」
『そう言う欲望がないお前達こそが……史上最弱のオリジナルだ!!』
グレイスはレイブラスターを差し込み口に入れ、トリガーを引いた。
『ロイヤル・エンド・ブラスター!!』
聖天の掌部から膨大な輻射波動機構が放たれ、四機のラグナメイルが一斉に赤く染まる。
『ああああああああっ!!!!』
ミストラルも聖天に含まれていたマイクロウェーブ式ウィルスが送り込まれており、ミストラルがオーバーヒートし、消滅する。
「ミストラル!!」
「あああああっ!!」
パアァッン!!
「こんな!!筈っ!!」
パアァッン!!
「無念っ!!」
パアァッン!!
テティス、アトラス、ファントムのラグナメイルが大爆発を起こし、ヘリオスも自身の体に火傷と水膨れが発生する。
「嫌だ!!まだ死にたくっ!!『それが弱者だ……煉獄の炎で、あの子達が待っているぞ……フン♪』グァァァァァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜…………」
致命傷を負ったヘリオスは腐敗していくアイオロスのコックピット内で泣き叫びながら、燃えながら地へと落ち、大爆発を起こした。
「……残りは」
グレイスの前に立ち塞がるのは、完全武装をしたラプソディーであった。
「オーケー……」
グレイスは聖天を構え、ラプソディーに言う。
「いざ!!参る!!」
聖天のスーパーパドルデーゲンが輝き、ラプソディーに突撃する。
ネオ・フェメシス四天王が一瞬で殺られた事に、サリアは焦る。
「あの四人が…殺られた!!?くっ!!」
サリアはヴィルキスと戦っていた。
「もう終わりよ!!何もかも!!あなたが守ろうとしていた奴こそが…あなた達を操っている化け物よ!!」
「そんなの……信じない!!」
サリアはラツィーエルでヴィルキスを圧倒していく。
一方、タスクもディスピアースと直接相手していた。
「デッドコピーのシュトロームで……私に勝てるか?」
ヒステリカの高周波ビームソードとアシッドの高周波ツインブレードがぶつかり合う。すると怪物化したロビンが首を伸ばし、嚙みつこうしていた。すぐにビームシールドで防ぐ。
「卑怯だぞ!子供を戦わせて!!」
ロビンが威嚇する中、ディスピアースが呟く。
「私の世界では…子供も戦っていた。所詮!人間と言うのは争い事しか考えない生き物だ!!」
「それは違う!エンブリヲが仕掛けた物なんだ!!」
「あぁ、そうか!!」
ヒステリカのテイルブレードが伸び、アシッドの肩部装甲を剥ぎ取る。
「正直、お前達の種が羨ましかったぞ!!互いを思いやり、家族の様に慕い!!そんなお前ら古の民が……非常に嫌いだった!!」
ディスピアースの心の痛みに、タスクは怒鳴る。
「だからって!関係ない人まで巻き込むのか!!?」
「その通りだ!!唯一の我に語りかけてくれたのはドレギアスだ!!奴は俺と同じ、人間の傲慢さに呆れ、全てを滅ぼそうとした!!我は奴みたいに……“救世主”になりたいのだ!!」
「そんな事で……そんな事でお前は…俺の父と母、仲間や……エグナントさん達やグレイスの義弟妹達を………お前の方が弱すぎる!!」
アシッドのビームソードがヒステリカを圧倒する。
「何!?」
「お前の過去は知らない…だが、辛いからって…過去を引きずってているお前は、存在してはダメな奴だ!!」
「ほざけぇぇっ!!!」
そしてアンジュは何とかヴィルキスを皇宮から抜け出して、再びサリアへと向かい合う。
「随分と遅かったけど、何してたの?」
「ちょっと野暮用を済ましただけよ」
アンジュが言った言葉にサリアは納得する。
「そう…なら心置きなく死ねるわね!!!」
そう言ってサリアがアンジュに向かって行ってラツィーエルを振り下ろす。
っとそこにレイジアがサリアの攻撃を受け止めて、そのまま弾き返す。
アンジュとサリアはその事に驚き見ると、レイジアのコックピットが開いてある者が語り出す。
「エンブリヲの騎士と言うから、どれ程強くなったと思ったら…期待外れだな?サリア」
それはライダースーツを着て、レイジアを操るジル事…アレクトラであった。
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第五十二話:次元大戦・後編
レイジアの出現にディスピアースと戦っているタスクは見る。
「アレクトラ?」
「ジル」
アンジュはジルの方を見て呟き、それにジルはアンジュを一目を見て前を見る。
「久しぶりだな?サリア」
アレクトラ…ジルの登場にサリアは一瞬驚きを隠せない。
自分を騙して置いて、今さら何しに来たんだと思うサリアはコックピットから出てジルと向き合う。
「今さら何しに来たの…」
「何しにって、会いに来たのさ。昔の男に」
その事にサリアは思わず目を開く。
ジルはサリアの様子にすぐさま分かって説明する。
「聞いていなかったのか? 私がエンブリヲの愛人だったんだ」
「えっ?!」
サリアは驚いた。エンブリヲの元愛人があのジルだった事に驚かない筈がない。
「さあ…退いて貰おうか?アイツに会いに行くんだ…」
「貴女の言葉はもう信じないわ!! 私はエンブリヲ様の騎士、ダイヤモンドローズ騎士団の団長サリアよ!あの方への元へは行かせない!」
彼女のとても強い決意を見たジルは少し笑みを浮かべる。
「っだそうだアンジュ」
「はっ?」
アンジュはジルの突然の言葉に思わず頭を傾げる。
それにジルは理由を言う。
「アウラの元へは、言って良いらしい」
「…じゃあ、遠慮なく」
そう言ってアンジュはヴィルキスをフライトモードにさせてアウラの元に向かう。
「待ちなさいアンジュ!!」
サリアはそれを止めようとビームライフルを構えるが、その前にジルのレイジアが立ちふさがる。
「私の相手をしてくれるんだろう?」
「邪魔をするなら…斬るわ!!」
「ほう~…やってみろ!」
そう言ってお互いぶつかって行って、剣を斬り合うのだった。
リュミエール達の方では迫って来るローガストメイルとピレスロイドをヴィヴィアン達が一気に撃ち落として行く。
「もう~落としても落としてもキリがないにゃ~」
そうヴィヴィアンが言葉をこぼした際にジャスミンが皆に言い聞かせる。
『泣き言を言うんじゃないよ!この船で皆で帰るんだからね! しっかりと護りな!』
『『『『『イエス・マム!!』』』』』
ジャスミンの言葉にヴィヴィアン達は一気に気合いが高まり、再び攻撃を開始する。
グレイスは聖天に内蔵されているプライマルキャノンを使って、ラプソディーを相手する。激しい戦いにより、大地が割れる。ラプソディーも両腕部を切り離し、ファンネルを飛ばしてきた。
「ビット!!」
フリューゲルスキャノンに収納してあったシールドからビットが展開され、ファンネルへ向かっていく。グレイスは汗を掻きながら、血が滲み出ている操縦桿を握る。
「グレイス!無理をするな!!」
ヘリオスが注意を問いかけるが、グレイスは手で振り払う。
「これは……僕のけじめ!!僕が片付けないといけません!!」
「………仕方ない!!」
するとヘリオスがコックピットから出て、アドベント・オブ・チルドレンへと変身し、高周波ソードを構える。
「二人でやれば……良い戦力になる。」
「………」
二人は背を向けあい、聖天と高周波ソードを構える。するとラプソディーの各部からリーパー・エキスによって改造された生物兵器達が、二人を囲む。
「行けるか?」
「あぁ…」
グレイスとヘリオスは共に怪物達とラプソディーに立ち向かうのであった。
サリアとジルはラツィーエルを使い、斬り合いながら互角の戦いを繰り広げていた。
「ラグナメイルと騎士の紋章。それで強くなったつもりか?サリア」
レイジアの出現にディスピアースと戦っているタスクは見る。
「アレクトラ?」
「ジル」
アンジュはジルの方を見て呟き、それにジルはアンジュを一目を見て前を見る。
「久しぶりだな?サリア」
アレクトラ…ジルの登場にサリアは一瞬驚きを隠せない。
自分を騙して置いて、今さら何しに来たんだと思うサリアはコックピットから出てジルと向き合う。
「今さら何しに来たの…」
「何しにって、会いに来たのさ。昔の男に」
その事にサリアは思わず目を開く。
ジルはサリアの様子にすぐさま分かって説明する。
「聞いていなかったのか? 私がエンブリヲの愛人だったんだ」
「えっ?!」
サリアは驚いた。エンブリヲの元愛人があのジルだった事に驚かない筈がない。
「さあ…退いて貰おうか?アイツに会いに行くんだ…」
「貴女の言葉はもう信じないわ!! 私はエンブリヲ様の騎士、ダイヤモンドローズ騎士団の団長サリアよ!あの方への元へは行かせない!」
彼女のとても強い決意を見たジルは少し笑みを浮かべる。
「っだそうだアンジュ」
「はっ?」
アンジュはジルの突然の言葉に思わず頭を傾げる。
それにジルは理由を言う。
「アウラの元へは、言って良いらしい」
「…じゃあ、遠慮なく」
そう言ってアンジュはヴィルキスをフライトモードにさせてアウラの元に向かう。
「待ちなさいアンジュ!!」
サリアはそれを止めようとビームライフルを構えるが、その前にジルのレイジアが立ちふさがる。
「私の相手をしてくれるんだろう?」
「邪魔をするなら…斬るわ!!」
「ほう~…やってみろ!」
そう言ってお互いぶつかって行って、剣を斬り合うのだった。
グレイスは聖天に内蔵されているプライマルキャノンを使って、ラプソディーを相手する。激しい戦いにより、大地が割れる。ラプソディーも両腕部を切り離し、ファンネルを飛ばしてきた。
「ビット!!」
フリューゲルスキャノンに収納してあったシールドからビットが展開され、ファンネルへ向かっていく。グレイスは汗を掻きながら、血が滲み出ている操縦桿を握る。
「グレイス!無理をするな!!」
ヘリオスが注意を問いかけるが、グレイスは手で振り払う。
「これは……僕のけじめ!!僕が片付けないといけません!!」
「………仕方ない!!」
するとヘリオスがコックピットから出て、アドベント・オブ・チルドレンへと変身し、高周波ソードを構える。
「二人でやれば……良い戦力になる。」
「………」
二人は背を向けあい、聖天と高周波ソードを構える。するとラプソディーの各部からリーパー・エキスによって改造された生物兵器達が、二人を囲む。
「行けるか?」
「あぁ…」
グレイスとヘリオスは共に怪物達とラプソディーに立ち向かうのであった。
サリアとジルはラツィーエルを使い、斬り合いながら互角の戦いを繰り広げていた。
「ラグナメイルと騎士の紋章。それで強くなったつもりか?」
「“愛”だって?……奴は“怪物”だ。人々の苦しみによって誕生し、お前達を虫ケラの様や駒の様に操っている。目を覚ませ!サリア!!」
「言ったでしょう…貴方の言葉は信じないって!! それに…私を利用していたのは貴女よ!」
サリアはラツィーエルを何度も振りかぶって攻撃して、それをジルは防御して行った
その頃サラはシャフトを通り、邪魔をするピレスロイドを排除しながら進み。ようやくアウラの元にたどり着いた。
「アウラ…!アウラなのですね!!」
サラはアウラを覆っているガラスをビームライフルで撃つ、しかしそれはガラスじゃなく何かを覆っていたバリアであり、それにサラは噛みしめながらも攻撃をしようとしたが、そこにピレスロイドがやって来る。
「邪魔を…するな!!」
サラは邪魔をするピレスロイドを排除にかかり、ビームライフルや左腕のビーム砲を撃ちながら倒して行くと、上からビームが飛んで来てピレスロイドを消す。
それにサラは見ると、アンジュがそのまま降下して来たのだった。
「何やってるのよ?こんな玩具に?」
そう言ってアンジュはサラと背中合わせになってしているとサラがアンジュに言う。
「遅いですよ!アンジュ」
「ええっ?!これでも早く来たのよ!もんくはなしにしなさい!」
「収斂時空砲を撃ちます!それしかアウラを助け出す方法はありません!」
「アウラごと吹き飛ばさない?!」
アンジュは収斂時空砲の威力の事を考えながらサラに聞き、それにサラは問題ない様な表情で言う。
「なにご心配なく、三割程度で打ちますから!」
「…ならさっさとやりなさいよ!!」
そしてサラは永遠語りを歌いだす。
「♪~♪~♪」
サラの永遠語りに外で戦っているとディスピアースも聞く。
「ん?!この歌は!?」
「サラマンディーネさんだ!」
また別の場所で戦っている勇人達も戦いながらそれを聞く。
「勇人…この歌は」
「サラマンディーネさんだ……シンディ、ここは任せた!!」
勇人はハルマゲドンの超兵器、ネガストライカーパックの出力を最大値に上げ、ディスピアースの元へ向かう。
一方でリュミエール達は敵機の数を減らすも一向に減らず、徐々に押されていていた。
そして戦場に参加して来たエルシャも加わるがまだまだ襲って来るのにココ達は息を上げながらつぶやく。
「い…一体、どれだけいるん…ですか?」
「きりが…ありません」
「…」
エルシャが少しばかり考えて、背中のキャノン砲を切り離し、その場を離れてローガストメイルとピレスロイドを引きつける。
「こっちよ!!」
「エルシャ?!」
ヴィヴィアンがそれに驚き、エルシャがローガストメイルとピレスロイドを引き付けるも、元々砲撃戦タイプのハウザーだった為、機動性で一気に追いつかれてしまい攻撃を受けてしまい、スラスターをやられて落ちてしまう。
更にピレスロイドがエルシャを斬り込みに行き、それにエルシャが覚悟を決めた時だった。
何処から現れたガレオン級のドラゴンが光線を放ち、それにローガストメイルとピレスロイドは撃ち落とされて行く。
それにヴィヴィアンが慌ててエルシャを捕まえて、そして現れたドラゴン方を見る。
ヴィヴィアン達の上空にシンギュラー…特異点が複数開いていて、そこからガレオン級とフリゲート級がやって来ていた。
「これは…」
リュミエールにいるアカリがそれを見て呟き、アウローラに居るリィザがそれに答える。
「恐らく時空融合の影響で重力場が脆弱になり、特異点が自然解放されたのでしょう」
っと各艦からのモニターにある映像が映り、そこからある人物が語り出す。
「聞こえるか?天帝の皆、そして偽り…いやノーマの民よ。我はアウラの巫女。アウラ・ミドガルディア」
「大巫女…」
「大巫女様!」
アカリとリィザが大巫女の映像を見て呟き、大巫女はそのままジャスミン達に言う。
「アウラの民は旗艦達を援護する!共に戦おうぞ!!」
そう言ってアウラの民たちは特異点を通り、フロンティアとノーマ達を援護して行き、それを確認したタスクはディスピアースに言う。
「形勢逆転だな!ディスピアース!!」
「それはどうかな?」
っとディスピアースは手を前に翳す、するとヒステリカの目が光り、各地で戦っているラグナメイルが四機消えて、それに皆は驚く。
「なっ?!」
「「クリス!!」」
「「「はっ?!」」」
「「えっ?!」」
そしてラグナメイル四機はドラゴン達の群れの中に現れて、それにサリア達は驚きを隠せなかった。
「えっ?!」
「ディメント様?!」
サリア達が困惑している中で、ディスピアースは呟く。
「その者たちの、盾になれ……」
ターニャとイルマはラグナメイルを動かそうとするもコントロールが出来なかった。
「こ、コントロールが効かない…!?」
「そんな…!!」
ドラゴンがターニャのビクトリアに噛み付き、そのまま潰す。
「ターニャ!」
その直後、イルマのエイレーネがドラゴンに襲われ、破壊される。その光景にタスクは呟く。
「仲間を囮に!!?」
「我は最終段階に入る……時間稼ぎとして役立て!!」
ディスピアースはそう言い、アケノミハシラへと向かうのであった。
「ディメント様!!」
困惑しているサリアの隣に来るジルが言う。
「サリア、これがディメント…嫌、ディスピアースの本性だ! 目を覚ませサリア…私の様に全てを失う前に」
そう言ってジルはその場を離れて行って、サリアはそれに気が付いてジルの方を見る。
「(アレクトラ…)」
その頃クリスはディメントに見捨てられたと感じ、もう何もかも信じられずにいた。
「嘘…嘘だよ…ディメント君? また捨てられた…また裏切られた!うわああああああああああ!!!!!」
クリスはビームライフルを撃ちまくる、そしてクリスを探していたヒルダ達がクリスを見つける。
「居たぞ!」
「クリス!!」
「来るな!!!!死ねぇ!!!!」
クリスはヒルダ達にビームライフルを撃ち、それを回避してヒルダはクリスに言う。
「へっ!ざまあねぇな」
ヒルダが言った事にクリスは一瞬驚き、ヒルダはクリスに言い続ける。
「自分から友達だと名乗る奴が、本当の友達な訳ねぇだろう!!騙されやがって!」
「ッ…!あんた達が…あんた達がアタシを見捨てたから!!」
「まだ言うかよ!!」
っとヒルダがクリスに向かって蹴りを入れ、それをまともに貰いながら後方に下がり、ヒルダはそのまま言うつづける。
「少しはロザリーの気持ちを考えてやれよ!!さっきから聞いていれば自分の事ばっか言いやがって!他人を思う気持ちはねぇのか!?」
「えっ…?」
その事にクリスは一瞬動きが止まる、それを見たジュンはビームダガーをコックピットカバーを外す様に斬り込み、それにカバーが外れてクリスは驚く。
「クリスーーー!!」
ロザリーが機体から飛び降りて、クリスを掴んで落ちて行き、それにクリスは混乱して行く。
「落ちる…!落ちるよ!!」
「良いさ別に!一緒に死んでやる!!」
その事にクリスは驚き、ロザリーは自分の思いをクリスに伝える。
「アタシ、アンタを見捨てる訳ねぇだろう!こんなにもお前の事を信じているのに!! アタシたちだけだろう!?互いのブラのサイズも!弱い所も!ヘソクリの隠し場所も全部知っているのは!!
だからもう一回だけ信じてくれよ!!クリス!!!友達である…私を!!!!」
「ロザリー…」
クリスは必死になるロザリーの思いを聞いて目に涙を浮かばせ、落ちて行く二人をヒルダが飛んで行く。
「うおおおおおお!!!」
落ちて行く二人をキャッチして、そして着地して衝撃を吸収する。二人を地面に下ろす。
ロザリーは必死にクリスを捕まえて、そしてクリスに言う。
「ゴメンな…クリス」
「…許さない、新しい髪止めを買ってくれるまで」
「い!一番良いのを勝ってやる!!」
「ゲームの時もズルしない…?」
「ああ!絶対にしない!!」
ロザリーはそうクリスに誓い、クリスは身体を起こして言う。
「私…取り返しのつかない事をしちゃった…」
「もういいんだよクリス…」
「仲直り成立…だろ」
っといつの間にか隣にやって来たヒルダがそれを言い、そしてヒルダが言った言葉にロザリーが抗議する。
「ああ!!それアタシが言うセリフ!!」
そう言った途端にクリスが泣き出してしまい、それをロザリーが抱きしめて共に泣き出す。
その頃、生物兵器を倒し、全身負傷、大破したヘリオスとフリューゲルスが、各部分が大破しているラプソディーを睨む。
「グレイス……私は今からアイツに特攻する。その間に、お前は彼女を……」
「は!?何を言っているんだ!?」
「……私は、今まで差別してきた。最後の最後まで……だから、償いをさせてくれ!!」
「…………」
「……楽しかったぞ」
ヘリオスはそう言い、ラプソディーへ向かっていく。
「ヘリオス!!」
するとラプソディーが最後の足掻きに、各部分のホーミングレーザーを一斉砲撃を開始する。ホーミングレーザーの攻撃が炸裂するヘリオス、ヘリオスは最後に、呟く。
「じゃあな……弟よ♪」
ヘリオスの体が光り出し、ラプソディーに炸裂した。
「っ!!」
涙を流すグレイス、そして爆発で装甲が抉れ、内部のコアユニットが丸見えとなる。
「セレス!!」
コアユニット内部に、セレスが囚われていた。グレイスはフリューゲルの聖天を右腕部に換装し、バイブレーションサーベルモードに切り替える。
「今助ける!!」
フリューゲルスの出力を最大値に上げ、聖天を突き構える。
「セレェェェェェェス!!!」
フリューゲルスがラプソディーのコアユニットを貫き、セレスをコアユニットから剥ぎ取り、救出した。ユニットを失ったラプソディーは各部から火を噴き、機能が停止する。
「セレス…」
グレイスはフリューゲルスの掌で気を失っているセレスを見て安心する。
そしてサラが歌を終えた時に収斂時空砲が放たれる。
収斂時空砲はアウラのバリアに直撃して破壊されて、強烈な光が辺り照らす。
ディスピアースは目を閉じて、しばらくして開かせるとアンジュ達が居ない事に気付く。
「フッ、アウラめ…」
そしてアケノミハシラの上空で強烈な光が出て、そこからアウラが雄叫びを上げながら翼を広げる。
「アウラ…!」
サラはアウラを解放した事により喜びに満ちて、グレイス達はそれに圧巻される。
「あれが…アウラ…」
ディスピアースはいなくなったアウラにため息を吐く。すると、アマノソウウンガを持ったアダムが降りてきた。
「お前の負けだ……ディスピアース」
「……ドレギアスの仇、決着を付けよう。」
ディスピアースはヒステリカからおり、手から邪心剣アメズヤクラを構える。勇人もアダムから降り、荒神へと変身し、スサノオを突き構える。
「「…………」」
両者は互いに動きを見せなかった直後、天井に溜まっていた雫が落ち、地面によって弾けた。
「おおおおおおっ!!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
両者が動き出し、刃を振り下ろした。閃光と共に、光が消える。
「……う…うう……」
邪心剣アメズヤクラが勇人の肩を突き刺し、スサノオの刃がディスピアースの心臓及び、腹を裂いていた。
「夢は潰えたな……」
そして、肩を抑えながら、スサノオを持つ。ディスピアースは光を失い、倒れる。
「お前は弱すぎる……まるで、俺をずっと虐めていた根岸みたいに……」
「……フフフ、ハハハハハ」
「何が可笑しい?」
「…………私が死んでも、いずれ新たな復讐者が生まれる。それに、私の復讐は……これだけでは終わらない…」
「何だと?」
「言い忘れていたが、私の計画は……終わっていない……」
「!?」
「時期に……わか…る……」
ディスピアースはそう言い、塵へと変わる。
「…まさか!!?」
そして気絶しているロビンを無理やりでも連れて帰る。
その頃、時空融合が止まってなく、みんなは動揺する。
「時空融合が……止まっていない!!」
「どういうことなの!?」
「分かりません!アウラは解放した筈!」
アンジュ達がそう言うと、何処からか女性の声が響き渡る。
『これより……“天使の命日”を発令します。』
《っ!!?》
すると上空から特異点が現れ、強力な吸引力に引き寄せられる。
「何だ!?」
アウローラ の甲板では、集まったみんながその光景に驚く。グレイスは急いでセレスを搬送させると、グレイスの記憶が蘇り出す。
「…………そうか」
グレイスはコックピット内で覚悟を決める。
「グレイス?」
するとコックピットが開き、中きら血だらけのグレイスが出てくる。
「っ!!グレイス!!」
「嫌、良い……」
「けど!!」
「僕はこれから、アポカリプスを破壊しに行く。」
「けど!!」
「良いから!!」
グレイスはタスクに怒鳴り、勇人の所に行く。
未だにまだ暴れまわるロビン、勇人が抑えつける。
「かわいそうに……こんな醜い姿に…」
「……ごめんね、ロビン」
シンディは涙を流しながらロビンに触れる。するとグレイスがロビンに触れる。
「(僕の最後の力……君にあげる)」
するとグレイスの手から、ドラゴニウム粒子がロビンを包み込む。すると徐々にロビンの体が小さくなり、元の子供へと戻る。
「ロビン!!」
息はしており、シンディはロビンに抱き付く。
「グレイス…」
勇人はグレイスを見る。
「…………勇人さん、みんなをお願いします」
「え!?」
「……僕は今から時空の狭間で、アルゴルモアを破壊していきます。」
するとフリューゲルスがハルマゲドンキャノンを装備する。
「グレイス……何を!?」
「…………セレスが起きたら、彼女に伝えてください。」
グレイスは伝言を勇人に伝えると、フリューゲルスに乗り込む。
「グレイス!私たちも!」
「……嫌、これは僕の……最後の償いです。」
「そんな!!」
「では♪」
グレイスはそう言い、フリューゲルスを起動する。
「ラルス…」
『グレイス様…』
「……セレスをよろしく」
そしてグレイスはフリューゲルスを動かし、特異点へと入って行く。そして、聖天の究極システム『シャットダウン』を発動し、特異点を塞ぐ。その光景を見ていた勇人が気がつく。
「アイツ……死ぬ気だ!」
《えぇっ!!?》
アンジュ達は驚き、アウラが説明する。
『彼はヴィルキスの次元跳躍システムでも辿り着けない様にしてしまいました。そこは、私たちの力では不可能です。』
「どうにかならんのか!!?」
『残念ですが……』
「そんな!!」
アウラの力やみんなの力ではいけない事に、タスク達は地面を叩く。
時空の狭間を突き進むグレイス。するとフリューゲルスがグレイスに問う。
『分かったのか?奴等の目的を……』
「うん、全てを破壊するために…時空の狭間を中心点として次元反応弾をアルゴルモアで爆破する……」
『そうだ。』
「知ってたんだね?」
「そうだ。それを止められるのは……」
「フリューゲルスとネメシス……そしてハルマゲドンと僕。」
『あぁ、』
「フリューゲルス、そしてネメシス……」
『?』
「………ありがとう、今まで付き合ってくれて。」
『良いさ……次の“世代”の為、お前はこの世界に行ってもらう。』
「?」
フリューゲルスがモニターにある世界が映し出される。
「分かった…」
「さて、そろそろ着くぞ……」
時空の狭間を抜けると、そこに待っていたのはオリジナルのアルゼナルと連結している巨大な要塞特殊砲『アルゴルモア』が聳えていた。
「あれか……っ!!?」
『来たか……』
『待っていた……』
現れたのは、アルゴルモアと合体している『クリムゾン・ラグナルク』に乗っている『サイバーエルフェン』と『ディープ・アブソルト』に乗っている『サイバーフェアリス』……そしてアルゴルモアの人工知能パラサイト・リリスが立ち塞がる。
『我が名はパラサイト・リリス……世界の痛みを救う者』
クリムゾン・ラグナルクがツインビームバスターソードを突きつけ、ディープ・アブソルトもツインバスターランチャーを構える。
グレイスもリベリオンビットと四機の聖天をワイヤーで揺らめかせ、叫ぶ。
「これが…最後の戦いだ!!」
フリューゲルスはアルゴルモアへ向かっていき、ビームサーベルを突きつけるのであった。
次回!最終回!!
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第五十三話:楽園創生
フリューゲルスは聖天をコントロールし、サイバーエルフェンとサイバーフェアリスに攻撃を仕掛ける。対するサイバーエルフェンとサイバーフェアリスは電磁シールドを展開し、聖天のビームを防ぐ。
「効かない」
「無駄だ」
クリムゾン・ラグナルクとディープ・アブソルトの各部の対空ホーミングレーザー砲を放ち、フリューゲルスもネメシスのデブリスィーパーを放ち、爆炎の中を突き進む。
「っ!!」
炎の先に待ち構えていたのは、サイバーエルフェンが乗っているクリムゾン・ラグナルクであった。クリムゾン・ラグナルクはビームバスターソードを構え、突き刺そうとしていた。
「甘い!!」
聖天のビームフィールドを展開し、ビームバスターソードの上に伝って走り出す。
「小賢しい!!」
サイバーエルフェンやアルゴルモアが対空ホーミングレーザーを放つが、リベリオンビットで作ったバリアがレーザーを拡散・無効化して行く。そして聖天をバイブレーションサーベルモードに切り替え、アルゴルモアの装甲に穴を開ける。グレイスはその隙にライフルとレイブラスター、ビームソードを持って、アルゴルモア内部へ侵入する。内部にはグリニア、コーパス、スワーム、レギオロイドの大群で固められていたが、グレイスは御構い無しに容赦なく切り裂いたり、レイブラスターのレーザーが貫通していき、アルゴルモアの中枢部へと辿り着く。アウラと同じ空間で、その中央にアルゴルモアのコア『マザーブレイン』がいた。
「あれか……」
グレイスは飛び上がり、着地したその時、ヒステリカ デアボリック・フォルムが現れる。
「……アポカリプスか!!」
操っているのは、アポカリプスことパラサイト・リリスであり、ヒステリカがビームライフルをグレイスに向ける。
「……そんな装備で、良く僕に立ち向かうな……」
グレイスはレイブラスターのダイアルを調整し、ヒステリカに向ける。するとパラサイト・リリスが現れる。
『そんな鈍の銃で、私に勝てるとでも?』
「できるさ……嫌、自身があるから言っているんだ♪」
グレイスはそう言い、レイブラスターのトリガーを引く。それぞれの銃口からビームが放たれ、ヒステリカのビームを押し出し、ヒステリカを撃破する。するとパラサイト・リリスが危険と判断したのか、人口合金ブルーダイアモンドでできた装甲板でマザーブレインを覆い隠す。
「やっぱりそう来るか…だが!」
グレイスは今度、ヴァリスランチャーを取り出し、砲口下部にレイブラスターを取り付け、ガトリングバレルを取り付ける。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
グレイスはヴァリスランチャーとレイブラスターを構え、周りを破壊して行く。各部が大爆発を起こし、大穴が開く。通路を走り逃げる敵は大爆発に巻き込まれ、空間へと放り出される。さらに危険と判断したパラサイト・リリスは頭の中にある言葉が浮かび上がる……
《“恐怖”》
グレイスの手によって、今度こそ死ぬのではないのかと。そして断末魔の叫びを上げる。
『アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!』
すると恐怖に怯えてしまったのか、マザーブレインを守る装甲板が解除される。
『しまっ!!』
「確か…クアンタ帝国の別れの挨拶ってこうだよな?………“サ・ヨ・ナ・ラ”!!!!!」
ガトリングバレルに装填していたグレネードを放ち、マザーブレインに炸裂した。マザーブレインが大爆発を起こし、パラサイト・リリスの悲鳴と、サイバーエルフェンとフェアリスの悲鳴が聞こえてくる。するとフリューゲルスが内部に穴を開け、現れる。
『『グレイス!!』』
「フリューゲルス!ネメシス!」
グレイスは急いでフリューゲルスに乗り込み、アルゴルモアから脱出する。各部分が爆発して行くアルゴルモアにとどめを刺す為、各部のビーム砲を展開する。
「ドレギアスの呪いを…今、断ち切る!!」
フリューゲルスはハルマゲドンキャノンと合体し、連装型大出力エネルギービーム砲『メテオ・イレイザー』を放つ。アルゴルモアとクリムゾン・ラグナルク、ディープ・アブソルトがメテオ・イレイザーで抉られ、内部にいたエルフェンとフェアリスが叫ぶ。
「「RBLー1272!!!貴様ああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」」
爆炎に包まれ、塵と成りかわる二人。そして最後まで生きていたパラサイト・リリスが奥の手として、アルゴルモアに装填されていた次元反応弾『サターン』を放つが、気づいていたのか、すぐにディスコード・フェイザーで塵へとなる。
『そ…な……バカ……』
音声も薄れて行くと同時に、アルゴルモアの目の前にフリューゲルスが立つ。
「これで終わらせる……今度こそ消えろ!!」
グレイスは聖天の輻射波動機構を使い、アルゴルモアとオリジナルのアルゼナルとの連結部を破壊する。そしてアルゴルモアを押し出し、次元跳躍システムを使い、偽りの地球の月の裏側、ダーク・サイド・ムーン付近へと辿り着く。月面に着陸すると同時に、口部のギガ・スマッシャー、胸部装甲が両サイドスライドされ、中心部の球状コアに内蔵された超威力の究極兵器『ソドム』とネメシスに搭載されている絶対兵器『ゴモラ』、ディスコード・フェイザー。そして、ハルマゲドンキャノンを持ち、超次元兵器『ゴッド・オブ・フェイザー』が放たれた。
黒く巨大なエネルギーの球体が発生し、アルゴルモアを分子分解し、ブラックホールへとなる。
「終わった…」
ブラックホールは徐々に縮小していくと同時に、吸引力も上がり、フリューゲルス共々吸い込まれ、消滅した。
ここではないどこかの時空にワームホールが開き、中からアルゴルモアの残骸と、フリューゲルスが出てくる。残骸は星の引力に引き寄せられ、隕石のように落ち、フリューゲルスも隕石のように落ち、大気圏を突入していく。荒れた土地……辺境の大地に溶けた残骸が衝突し、フリューゲルスも衝突した。砂埃が舞い、クレーターからフリューゲルスが立ち上がる。グレイスはコックピットを開け、荒れた大地を見渡す。
「ここが…ディスピアースの星『World・tree・Eden(“世界樹の楽園”)』……」
その星は何もなく、緑も水もなく、ただあるのは……青い空と砂と荒野であった。
「ここで…僕は新たな生命を生み出す。エンブリヲのような間違った恩寵ではなく、どんな種も関係もない厳しく当たり前な世界……人々が…“自分の道を、自分の足で”!」
グレイスは自身の体の中の最後の力をレイブラスターに注ぎ込み、天高く射つ。緑に光る光弾が拡散し、大地へ散っていく。すると荒れた土から木の芽が生えて来だし、水も吹き出す。グレイスはコックピットの中で変わっていく大地を見て笑い、フリューゲルスに言う。
「僕は疲れた………何かあったら……起こして…」
グレイスはそのまま眠り込み、大樹がフリューゲルスやネメシスを覆い尽くし、巨大な樹木へと変わる。そしてその星に、新たな生命が生まれようとしていた。
それからアンジュ達の世界では、それぞれの生活に育んでいた。
アンジュはタスクと共に念願の『喫茶アンジュ』を建て、従業員であるモモカ、ヒカル、パメラ、オリビエと共に働いていた。
サリアは軍を退役したジルの代わって、司令官へと就任。
軍に置いても政府においても多忙な日々を送る事になり、忙しくはあるが充実した日々を過ごす事になる。
ヒルダは世界を旅すると、地方の彼方へ歩み続ける。
クリスはサリアに代わり第一中隊隊長に就任する
だが、戦う相手がいないこの世界に置いて軍の在り方に疑問を感じたのか古代文明発掘調査に隊の在り方を方向転換させ、古代文明の解析に大いに貢献し多忙になる
最近、文明調査隊と政府支援部隊(主に建築・土木)と部隊を再編制し自分の時間を作る事に成功している。もちろんロザリーと共に。
アレクトラはアウローラの艦長として再就任していたが、クリスの成長ぶりに引退を決意。後は若いモノに任せて遊遊暮らす予定を立てていたが、アンジュに捕まり政治の世界へと引きずり込まれる
もっぱらの仕事はアンジュの相談役として言葉を交わすが、意見が割れる事の方が多く、憂さ晴らしへと問題解決案にタスクを要求している。
エルシャは持ち前の母性はドラゴンにも功があり、アンジュの支援により創立した保育園の園長となり女性の社会進出に大きく貢献する事になる。前の子供達に変わって一輝が助けた子供達がエルシャに懐いてくる事が多くなる。
最近の悩みは育児ママからの見合いの話が上がってきている事だが、彼女からしてみれば相手が皆、人間体ではないので戸惑っている模様。
ヴィヴィアンは軍を除隊し母親と暮らす事を決意。その影にはエルシャがおり、今まで過ごせなかった分、家族の時間を築いて欲しいとの事
今は両親と共に仲良く暮らし、アルゼナルとは違った新鮮な暮らしに感動を覚える。
サラマンディーネは先の功績により近衛大将へ昇進。
大巫女から絶大な信頼の元、アンジュの国立ち上げにも協力し外交官としても働き始めるが、もとより要用の良い彼女は少ない休日や空いた時間を利用し研究に没頭するようになる
研究に没頭するあまり、仕事に遅刻するようになってしまったがカナメやナーガのフォローのおかげで問題にはなっていなく、歯止めが効かなくなった
アカリ達はモーント・ウィガーが別世界の宇宙船だと分かり、モーント・ウィガーと地球を繋ぐ『高軌道上スペースステーション“ディーヴァ”』を設立し、各地の遺跡を調査する事になった。
彼方の星では数千年が経ち、あらゆる生命が誕生した大地、青い海、青い空、水と空気に満ち溢れ、全てが神の加護によって創られた“楽園”へとなっていた。大陸の中心点にある巨大な樹木…通称“世界樹”の中にフリューゲルスとネメシスと共に封印されており、世界樹の巨大な枝にアウラの様な美しい純白のドラゴンへとなったグレイスが二体を見守っていた。グレイスは空を見上げ、呟く。
《早く来い……次の世代♪》
星の海を見上げるグレイスは地上にいる者達を眺める。
その中に呪いによって醜い顔に変えられたエルフの姫が、部屋の中で引きこもりながら嘆いていた。グレイスはその様子に見ておられず、彼女の頭の中で語り掛ける。
《どうしたの?》
「っ!?誰なのですか!?」
《…我が名は、“聖龍皇 グレイセス”…世界を再構築し、君達生命を生み出したプライム・オブ・ドラグーン(原初の龍神)だ》
「グレイセス!?世界樹の上にいる龍神!」
《そう……君達異種族を生み出した最初の神様…かな?》
「ハァ〜ッ!まさかお伽話は本当だったんだ!!」
姫は本物の神の声を聞けた事に、感動する。
《まぁ、それは置いておいて、君は何故泣いていたの?》
「…………」
エルフの姫は、訳を話す。彼女の国は隣国と争っており、その時に敵兵に囚われ、美しかった顔も酷い有様に、鉄の仮面を付けられていた。しかもその鉄仮面は焼印の様に仮面を釜の中に入れ、そのまま顔へはめ込んだと…。父と母と兄は悲しんだ。そのせいか周りの貴族達から忌み嫌われる様になったと…。
《それで、部屋に引きこもっちゃっているんだね?》
「はい…」
少女は落ち込んだ表情をすると、グレイスがある事を言う。
《いい事を教えよう。君達エルフは、100歳で成人かな?》
「はい。」
《成人になって誕生日の日……“運命の人”が来るよ♪》
「え?私に…運命の人が?」
《うん、君の将来的に愛し合い、旦那さんになる青年だ。その青年は逞しく、誰よりも家族思い、ちょっと頑固な一面も持ち、常に自分に出来ることを探し真っ直ぐに行動している。また仲間想いで心優しく、仲間を心から信頼されている。》
少女は頭の中で理想な青年を思い浮かべると、頰を赤くする。自分の夫となる人が逞しい青年だと言う事に。
《だから、嘆いて、哀しんで、そこで諦めちゃダメ……君の心の傷を癒してくれる。絶対に……。》
そう助言を言い終えると、声が聞こえなくなる。
「……分かりました。龍神様の助言…しっかりと守ります」
少女はグレイセスを祈り続けるのであった。そしてグレイスは星の海を見上げる
《成長した君が来るのを楽しみにしておくよ……勇人さんの息子“ロビン・ブリタニア・クアンタ”皇太子殿下♪》
グレイセスは微笑み、彼が来るまで100年も待ち続けるのであった。
あの戦いから18年が過ぎ、新生クアンタ帝国宮殿訓練所で日本刀を素振り400回振る青年が、剣術を鍛錬していた。すると訓練所に母であるシンシア・ケラン・クアンタが呼ぶ。
「ロビン!お父さんがお呼びですよ!」
「母さん。ちょっと待ってください!着替えて行きます!」
18歳の青年へと成長を遂げたロビン。母親譲りの金髪にクアンタ人の特徴である碧眼の瞳、体型や顔は誰もが憧れる戦士でもあった。ロビンは父の“神刀 スサノオ”を元に加工して作り上げた二太刀の一つ『真刀「夜光」』を持って、玉座の間へと向かうのであった。
グダグダかも知れませんが、まだ終わりません!一応完結ですが、アフターストーリーも投稿しようと思っております。
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after story
第五十四話:修練の旅
玉座の間に呼ばれたロビン。目の前の玉座には主君として立派な男性へと変わった勇人が座っていた。
「ロビンよ、顔を上げろ」
「……」
「呼んだ訳は、“新たな惑星の反応が見つかったのだ。”」
勇人は内容を説明する。このクアンタ星よりもそう遠くない星系にある磁気嵐が発生する暗黒星雲が存在しており、その星雲から微弱だが生命体の反応があったと言う。
「それで俺に?」
「あぁ、一輝はもう立派な跡継ぎとして未開の惑星を調査している。だからお前も立派な成人にもなる。だから兄貴に負けるなよ♪」
「分かりました。謹んで行ってまいります。」
ロビンは立ち上がり、調査用の効果ポッドに乗り、その星雲へと次元跳躍をする。
星雲の中を突き進むポッド、闇の中、小惑星帯同士がぶつかり合う。ポッドは回避行動を取り、突き進んでいく。がしかし、途中のトラブルに巻き込まれるが、無事に大気圏を突入して行き、星に辿り着く。
「ハァ〜……帰りのポッドがあんな風になってしまった。どうしよう」
『だけん!言っただろ!あんな蟲野郎を放ったらかしにして、とっとと急ぐぞって!!なのにお前は接触回線などと!ゴブっ!!』
ロビンの腰にぶら下げている鬼瓦が怒鳴る。ロビンは鬼瓦の口うるささにムカつき、拳骨する。
「悪かったな…と言うか痛てて…」
『フン!ザマァ見ろ♪』
ロビンが調子に乗る鬼瓦を睨みつける。
「それよりも、あの蟲…何だったんだろう?」
『それはワテも分からない。多分漂流し続けた生命体かも知れない。』
「帰りの船はぶっ壊れてしまったけど。」
ロビンは持ってきた荷物が全部無事な事にホッとする。
「アウラ製のポーチ(四次元ポケットの事)、フルオート式ピストル『N7 イーグル』、擬似マナ変換通貨システム、俺の真刀“夜光”♪」
『うむ、通信デバイスや特殊スカウター、後、エグゾ搭載クアンタ式甲冑や兵装、そしてお前さんの力を抑制する“ミスリル義手”忘れてはいないだろ?』
「あぁ、勿論♪」
『そんじゃ、調査開始じゃな』
ロビンは銀色に輝くミスリル鉱でできた義手を左腕に取り付け、腰にと脚に夜光とイーグルを収納し、走り出す。
数時間後、山から下りたロビンはフードで顔を隠し、付近の街の酒場で情報集めをしていた。
「(ふ〜ん、中々良い店だな。酒は俺の大好きなミード酒だ。蜂蜜の香りが漂う♪)美味しい」
星の文明は低レベルであった為、未開保護惑星成る程でもあった。すると酒場の外から何やら騒がしい音がする。ミード酒を飲み終えたロビンはこの星の通貨をテーブルの上に置き、酒場から出る。外では何やら暴漢達が、店を荒らし回っていた。ロビンはスカウターで彼らのステータスを調べる。
「ギルド“黒鷲”の者か…相手にとって不足はない。」
ロビンはそう小声で呟き、暴漢達の前に出る。
「子供を寄ってたかって虐めるとは、ここの治安は悪いなぁ」
「あ?」
「子供も必死にお金を稼いで、生きようとしているのだ。それくらいにしておけ…」
「何だよテメェ、文句でもあるのか?」
男と取り巻き二人組がケラケラと笑うが、ロビンは男の顎髭を見て呟く。
「お主、大分その顎髭が伸びているなぁ」
「何だと!!?」
男と取り巻き二人組が短剣を取り出そうとした瞬間、ロビンの抜刀術が男の顎髭の先を切り、喉元に付ける。
「髭剃り料、銀貨六枚。」
「「「っ!!」」」
三人はロビンの威圧感に負け、怖気付きながら差別するのをやめ、逃げていく。ロビンは皆さんにお騒がせした事に謝罪し、宿屋に泊まる。
「ハァ……跳んだ調査になったなぁ…鬼瓦、天帝軍との通信は?」
『ダメだオニ、あの星雲から発する磁気嵐の磁場が電波を阻害していると思うのじゃ』
「ハァ〜、俺達…このままどうなるんだろう?」
『ワテに言うなオニ!』
一人と一体は部屋の中でこれからの旅に、相談し合うのであった。
翌朝、ロビンは東街道の先にある宗教国「イリアス神聖国」に行く為に、イリアス行きの馬車に乗っていた。ロビンは馬車の中で夜光の手入れをしていると、巨大なヘラジカが馬車を引いて下り、エルフの近衛兵と騎士が歩いており、馬車と王家の馬車が通りすがる。だがこの時、王家の馬車の窓際で外を見ている王女様と、兵の行列に凝視していたロビンの目が合う。
「……あ」
「……?」
王女の方は、ロビンの美しい金髪の御髪、碧眼の瞳に憧れる。
「(なんて綺麗な人……あ、こっち見た…)」
王女様がロビンの顔を見惚れていると、二台の馬車が急に止まる。
「ん?…何事だ?」
エルフ王である『ファラサール・ソルヴィフ』が問う。
「何事か?」
すると辺りが霧に包まれる。
《っ!?》
近衛兵や騎士達が警戒する中、馬車の中にいるロビンがスカウターで動いている熱源を見つける。
「……カエル擬きの“ゴブリン”の群れか」
ロビンがそう呟いたその時、霧がさらに濃くなり、足元すら何も見えなくなる。そして次々に兵士達の悲鳴と切られる音が響く。王家の馬車から金髪のエルフの王子が飛び出し、騎士と近衛兵を搔き集め、馬車を守ろうと囲む。一方、ロビンは馭者を馬車の中に避難させ、夜光を構える。
「……不名誉よりも死を」
夜光の刃が青白く輝くと、目の前からカエルのようなゴブリンが襲い掛かってきた。ロビンは回避し、一刀両断する。次に二匹のゴブリンが錆び付いた剣を持って襲い掛かるが、青白く輝く夜光の刃が錆び付いた剣の刀身や両生類の体を溶断する。そして次々に来るゴブリンの群れ、ロビンは夜光を鞘にしまい、奥義を放つ。
「マクライト一刀流『三の型 “覇王突風斬”』!!」
強力な突風の中に斬撃の衝撃波は放たれ、ゴブリン達を吹き飛ばし、身体を切り刻まれながら森に向かって激突させて殺す。エルフ達は彼の技に魅了され、ゴブリン達を圧倒して行く。エルフの王子『アノーリオン・ソルヴィフ』は二刀流のエルフブレードでゴブリンを真っ二つにしていると、ロビンの背中が向け合う。
「鋭い剣術と見事な曲刀だ……名は何と言う、人間?」
「……ロビンだ。そちらは?」
「ソルヴィフ王国第一王子“アノーリオン・ソルヴィフ”だ。」
二人は息ピッタリな剣術と技でゴブリンの群れを圧倒して行くのであった。
ゴブリンの群れを討伐したロビン達は彼らがこの先の宗教国“イリアス神聖国”に行き、王女の『アイナノア・ソルヴィフ』の鉄仮面の下の治療をしに……。
ロビンは馬車の中で隠れているアイナノアを見る。
「あの、失礼や無礼な事を頼んでもいいですか?」
《?》
「二人だけで、話させてください。」
ファラサール王やアノーリオンや兵士達はびっくりするが、ファラサール王はロビンの目を見て許可してくれた。王家の馬車の中、ロビンと不気味な鉄仮面をつけたエルフの王女アイナノアの二人だけで何やら話していた。しばらくすると、ロビンが馬車の中から出て、二人に内容を聞かされる。ロビンの答えは……
「自身と勇気を出しての事です。後、秘密のおまじないもしましたので♪自分はこれで…」
ロビンはそう言い、イリアス神聖国行きの馬車に乗り、彼らに深く礼をする。
「何者でしょうね…」
「あぁ、あの小僧……只ならぬオーラを放っていた。」
すると馬車の中から何か落ちる音が聞こえた。
「アイナノア?」
アノーリオンが馬車の中を見ると、大声を上げる。
「父上!!」
「どうした!?」
すると馬車の中から鉄仮面が転がり落ちる。アイナノアは自身の顔を出で感じる。アノーリオンは魔法でミラーを作り、アイナノアに見せる。
「…え?」
黄金の髪に青の瞳、薄紅色の口紅に吸い付くような白い肌、子供の頃の部分もしっかりとある美しい女性へと変わっていた。
「!」
アイナノアはあの時のまじないを思い出す。ロビンが義手で頭に触れた時、義手からとてつもない魔力が送られ、顔の痛みや火傷が急に収まっていた事に……。アイナノアは自身の顔に触れて、涙を流す
「これ……私?」
「あぁ、間違いない。子供の頃の面影もちゃんとある。だがあのロビンは一体どうやって……っ!」
《君の心の傷を癒してくれる。絶対に……。》
子供の頃、頭の中で龍神の助言を思い出し、さらに涙を流す。
「………あの人だ…あの人が私の……運命の……♪」
アイナノアは頰に触れ、心の中でロビンに恋心を抱くのであった。
ファラサール王はロビンにお礼がしたいと、アーノリオンとアイナノアがその馬車に追いつくが、馬車にはロビンはいなかった。ロビンは木々の上で光学迷彩や隠密スキルで気配や体温と呼吸を止めて隠れていた。すると鬼瓦が話しかけてきた。
「良かったのかい?あのお嬢ちゃんに擬似マナやクアンタ人の治癒の力で癒して?」
「……良いさ。困って泣いている人を見かけたら、周りの人に見られないように力を使え……父さんと母さんが言ったからなぁ♪」
「未開惑星保護の為かい?」
「うん……下手したら“マスター・ギデオン”や“マスター・マクライト”と父さんに叱られるからね」
「そうだな♪あの三人は怖いから…」
ロビンはそう言い、イリアス神聖国まで歩き続けるのであった。
その頃、一輝はクーフリンでロビンとの通信が途絶えたとなった惑星にワープしてきた。
「ここか、ロビンとの通信が途絶えた星というのは……ん?」
すると前方から何かが接近してくる影が見え、一輝は拡大して確認する。それは甲虫のような生命体であり、半分がサイボーグとなっていた。すると各部の五つの結晶球体が赤く光り出し、生体レーザーを発射してきた。
「っ!!?」
一輝は急いで回避すると、甲虫はマッハ44の速さでクーフリンを通り過ぎる。
「くっ!こちら一輝!アンノウンと交戦中!!至急救援を!」
しかし、星雲の磁場のせいで天帝軍との通信が途絶える。
「クソ!!」
一輝はクーフリンを旋回し、追撃しながらノバビームライフルを発射する。甲虫は素早く回避すると、姿の形状が変わって人型へとなる。
「人型!!?」
すると相手は両腕部と腿の甲殻が展開され、生体レーザーを放つ。一輝も駆逐形態へ変形し、クァンタムシールドでレーザーを弾き返す。その直後、甲虫が手甲の突起が伸び、生体ブレードへとなる。一輝もスラスターウィングに装備されているクーフリン専用双剣『テオスブレード』を持ち、刀身が翠に光る。クーフリンと甲虫は刃を構え、一気に斬りかかる。両者の激しい戦い続き、一輝の一振りが甲虫の角にヒビができる。一輝はその隙をつき、甲虫を押し出し、惑星の引力に引き寄せられ、落下していくのであった。
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第五十五話:グレイスの導き
イリアス神聖国に入国したロビンは、フードを被って身を隠す。神聖国はあらゆる宗教団体や教会の者たちが創神神を崇める総本山国家。創神教の教皇が国を治め、人々は創造神の加護の元に生かされ、今もこのイリアス神聖国の後方にある巨大樹『世界樹』の下で創造神“グレイセス”からの声を待ち続けているとのこと……。ロビンは教会都市を観光していると、あの時のエルフの者たちが現れる。
「(やばい、変装しないと…)」
ロビンは擬似マナで衣服や黒髪の鬘、能面をつけ、やり過ごすが……。
「そこの君。」
「(ギクッ!?もしかして……バレた!?)」
「金色の御髪、碧眼の瞳、異国の服を着た男を知らぬか?」
「異国の服?さぁ、見かけてませんなぁ」
音声変換器で、ロビンの声は青年ではなく一般のおじさんの声に聞こえており、エルフの兵士は次の人に尋ねる。
「(何しに来たんだろう?調べてみるか……)」
ロビンはさっきの兵士の心を読む。
「(はぁ、全く…アイナノア姫様のわがままは以上だ。幼少の頃に隣国“ノーザブル列王国”との戦争に、姫様は人質として囚われ交渉によって解放されたが、奴らは調子の良いことに姫様に焼き鉄仮面をつけられ、100年間悲しみ続けられたが、ロビンと言う若者が姫様の素顔を癒し、醜かったあの顔もあんなに綺麗に美しくなった。だが姫様は彼の方ともっとお話しがしたいと……)ハァ〜…」
心の内容を確認したロビンは、彼女は俺と話して何を……。
「まぁ、いいか…」
ロビンはそう思い、教会都市を見て回る。様々な聖書やその中にある物に目が映る。
「この聖書の表紙に描かれているこの“龍”……何処かで…」
表紙に描かれているドラゴンを見て、ロビンの中のドラゴニウムが感応波を流す。
「『アウ…ラ?…』」
彼の言葉と同時に、世界樹の上の白と黒の機神帝のツインアイが光りだし、立ち上がる。その様子を見ていたグレイセスが問う。
《来たか……行くのか?フリューゲルス、ネメシス…》
『『あぁ、ここへ来ている兄弟達に……この星の真実を見せなければならない。』』
《そうか……急いでくれ、上の“奴”も一緒に落ちている。もしこのまま戦闘が長引けば……》
『“奴ら”も再起動を開始する……今度こそな。』
フリューゲルスはそう言い、ネメシスを連れて世界樹の下へ降りていった。グレイスは心配そうな表情で、フリューゲルスを見る。
《急いでくれ……フリューゲルス。》
ロビンは聖書を見つめていると、店主が声を掛けてきた。ロビンはそれに気づき、聖書を買う。教会の屋根の上で聖書を読むが、つまらないのか聖書をしまい、空を見上げる。
「あ〜〜〜〜…………つまんない。」
『まぁ、そう言うな……いつか通信が繋がると思うぞ♪』
「……そうだ……ん?」
「どうした?」
上空の彼方、二つの星が一つになり、赤く染まる。
「あれ……星だよな?にしては、どんどん大きくなっていない?」
『違うぞロビン!これは!!』
その直後、何処からかとてつもない銃声が響く。星が二つへと別れるとそれは姿を現わす。
「あれは!!」
一つはテオスブレードを持ったクーフリンとロビンを襲い掛けたあの巨大甲虫であった。
「一輝兄さん!?」
『どうやらお前を探しに、ここへ来てまきこまれたらしいなぁ!!』
「鬼瓦!行ってみよう!」
ロビンは異次元ポーチからホバーボードを取り出し、屋根の上から飛び降りる。ホバーボードの起動スイッチ踏み込むと、ホバーボードからエアーが放出され、宙に浮く。
「急ぐぞ!!」
ホバーボードからエアーが放出し、前へ突き進む。ロビンは夜光を持ち、人々の間を回避しながら、城門へと突き進んでいくと、エルフの兵士達の上へ飛び上がり、回転しながら通り過ぎた。
「今のは!」
「あの人だわ!!」
二人の兄妹はそれに気づき、急いで後を追う。ロビンは城門を抜けると、クーフリンと大甲虫の姿が見えてきた。
一方、一輝は大甲虫に苦戦していた。ノバビームライフルではかなりの威力であり、街や国を破壊してしまうことがあり、ここはあえて接近戦を持ちかける。大甲虫が高周波ブレードを突きつけ、飛んできた。
「くっ!!」
一輝も必死にテオスブレードで防ぐが長くは持たない。相手の斬撃に圧されていく。
「つ、強い!!」
『…………ヴォス クィス?』
「言葉を話しただと!?」
大甲虫がこの星独自の言語を話した事に驚く一輝。その直後、上空から光の刃の雨が降り、一輝と大甲虫は回避し、上空を見る。世界樹の木の上を覆う雲が裂け、そこから曙光とともにデブリスイーパー砲を構えたフリューゲルスが降下してきた。
「あれは……フリューゲルス!?」
「……“フリューゲルス”?」
フリューゲルスは地面に足を付け、一輝を見る。
「?」
『……新生クアンタ帝国第二皇太子“ロビン・ケラン・クアンタ”はいるか?』
フリューゲルスが一輝に問うその直後、背後から大甲虫が高周波ブレードを突き構えていた。
「危ない!!」
するとフリューゲルスから聖天が射出され、大甲虫の両腕を真っ二つにした。
「っ!!?」
一瞬の事で何も分からなかったが、肉眼では見えないほどの速さと、攻撃が大甲虫の両腕を切断したことは間違いなかった。そしてそこにロビンが駆けつけて来た。
「兄さん!一輝兄さん!!」
「ロビン!!」
するとフリューゲルスがロビン、そして一輝を見る。
『お前達を待っていた。』
「「!?」」
『“グレイス”が…話があると、世界樹の上で待っている。』
するとフリューゲルスのコックピットハッチが開き、ロビンは乗り込み、一輝もフリューゲルスと共に世界樹の上へと上昇していく。
世界樹の木の頂上であるここ…聖地ではあらゆる機械が並び立ち、汚染物質除去装置である“サンクチュアリ”から赤外線素粒子ナノマシンを放出していた。そしてそこに、白龍のグレイスが二人と会う。
《二人とも……よく来たね♪》
「お久しぶりです。グレイスさん」
「え?兄さん……知り合い?」
「あぁ、俺がまだ三つでお前が半ばだった頃、親父とお袋の友達だった人物だ。18年前に行方不明となっていたが、あのフリューゲルスとネメシスを見て、ここにあなたがいるとわかりました。」
《18年……君達の世界では、そんなに経っていたが。》
「え?」
《こっちの世界は…………数千年以上だ。》
「数千年!?」
《……さて、その話は置いておいて…君達も知っているの通り、この星を覆っている星雲を知っているだろ?》
「「はい」」
《あの星雲は、“人工”でできた星雲だ。》
「あの星雲が人工物!!?」
グレイスは詳しく二人に説明する。あの星雲にはあらゆる熱源や通信を遮断するナノマシンでできている。理由は簡単……ある生命体が宇宙へ解き放さない事であった。その生命体の名は……“古代生命体 ネフィリム”と、ネフィリムによって造られた“古代造兵 ガーディアン”を目覚めさせない事であった。グレイスはそう言いながら、世界樹のメインシャフトを起動する。すると一輝とロビンが立っていた場所が下へと降りていく。そこは木の根で覆い隠された基地で、大破した他のフリューゲルスとネメシスや黒歴史兵器が転がっていた。内部はあのアンジュの家であった宮殿そのものであり、グレイスは椅子に腰掛ける。
「グレイスさん、完全にエンブリヲ気分ですね♪」
「でしょ?でも僕はあんな奴みたいにはなりたくない。僕は…この世界の調律者として、正しい事している。だが、やはり争いは変わらなかった。」
すると一輝がグレイスの肩に手を掛け、慰める。
「あなたも頑張ったんでしょ?自分を責めないでください♪」
「ありがとう……」
グレイスは立ち上がり、モニター画面を開く。目的は地下に眠るネフィリムのコアを叩き、五億数千年前の悲劇を起こさない為。彼らとの約束である未開惑星保護条約の為、極力接触を避ける……破壊した大甲虫や残骸はこちらへ移送し、研究するとの事。
「何もかも、ありがとうございます。」
一輝とロビンはグレイスに頭を下げる。
「良いんだ……それにあの星雲の事も知りたい。それが分かれば、天帝軍との通信ができる。だが問題なのは……あの星雲の磁気嵐だ。」
「えぇ…」
「では早速、君達に命ずる。イリアス神聖国の者達が、この地下に勘付いた模様だ。もし彼らがこの地下基地と真実が分かれば……」
「戦争が……」
「さらに勃発…」
「そう…これ以上、ここの生命を終わらせたくもない。君達に、新しい武器を渡そうと思う。」
「え?ですが……私には真刀“神虎”があります」
「俺は真刀“夜光”」
「……蒸気機関だよ。君達の中のクアンタ人と星の民、人類の力を飛躍的に上げ、肉眼での軌道を視覚として見ることができるようにしておいた。それに蒸気機関なら、未開惑星には引っかからない。」
「なるほど…極力な技術より僅かひ進歩した技術を使えば法を避けることが出来る。」
「そう……後、この星に……“彼等”を呼んだ。」
「彼等…」
「朗報だよ…………クアンタ人の末裔が来ている。」
「「え!?」」
二人の他に、クアンタ人の末裔が五人も来ている事に驚く。
「どうしてクアンタ人は和心を持っているんだろう?」
「それで、そのクアンタ人は何処に!!?」
「……見て♪」
モニター画面に世界地図が表示される。世界樹を中心にして各国にいる五人に発信機を付けていると。
『ノーザブル烈王国』に“エギル”
『エレボス帝国』“ゾード”
『ジャッカス自由商業連合』に“シャルル”
『ソルヴィフ王国』に“ヨシツネ”と“ベンケイ”
『イリアス神聖国』に“一輝・ケラン・クアンタ”と“ロビン・ケラン・クアンタ”。
七人のクアンタ人のいる場所が特定し、一輝とロビンはそれぞれの武装と服装に着替える。服装は基本的に異国のように『和』を中心としており、各部に甲冑を身に付けていた。一輝は蒸気機関でできた小銃 “正式名称 稲羽”。ロビンは蒸気機関でできた短筒“正式名称 輝夜”を装備し、一輝とロビンの馬である“颯”と“暁”が貸し与えられた。
「フリューゲルスとネメシス、クーフリンはかなり目立ち過ぎる。気を付けて行ってこい。」
「分かりました。」
「おう!」
するとグレイスが一輝の耳元で小声で問う。
「聞きたいことがある……彼女…セレスやみんなは元気にしてる?」
「……元気にしてます。あちらの世界では三カ月間もみんなあなたの無事を祈っています。」
「そうか……セレス、早く会いたい。」
「では、行ってきます。」
「気を付けろ…同中、ネフィリムを“真の神”と間違ってそれを崇めているネフィリム教団がうろついている。僕を偽神と差別している……」
「分かりました。ソイツらはは?」
「……迷わず、牢獄へ送れ…」
「……はい」
一輝とロビンはそう決意し、グレイスは人が見られない通路である下水道への道を開く。一輝とロビンは手綱を引き、馬を走らせる。その夜、イリアス神聖国から数キロ離れた地域の土が開き、中から馬に乗った一輝とロビンが出てきて、最初に向かうソルヴィフ王国へと向かって行った。
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第五十六話:新たな旅人
ロビンと一輝は一旦イリアス神聖国からソルヴィフ王国へ行く為に、ロビンが滞在していた街に滞在すると…。酒場でビールを飲んでいる一輝と水で薄めたミード酒を飲むロビンは寛いでいた。
「さて、これからどうすれば…」
グレイスが言うにはあの星雲がある限り、この星からは出られない。グレイスがなんとか出れる策を研究しているとのこと。しかし、警告も無しにこの星に迷い込めば、間違いなく保護条約が破られる事に……。
「それに…親父とお袋も心配している。」
「そうだねぇっ!!?」
突然ロビンが驚いた表情をし、フードで顔を隠す。
「ん、何やっている?」
「喋らないでくれ…」
「は?」
するとドアが開き、中から現れたのはソルヴィフ王国兵士であった。どうやらまだロビンの捜索を続けていたのこと。そして兵士二人はなんと、ロビンのすぐ後ろにある席に座る。
「(どうしよう…これじゃあバレる!!)」
「(一体何をしたんだ?)」
「(実は……)」
ロビンはテレパシーでこれまでの事を話す。そして話の内容を聞いた一輝の表情が笑い出す。
「(プハハハハハ!!)」
「(笑うな…)」
「(いや、ごめんごめん……まさか一国の姫様がお前のドラゴニウムの力で惚れるなんて、お前…中々やるなぁ♪)」
「(何喜んでいるんだよ)」
「(面白いことになってきたなぁ……そうだ♪)」
「(まさか!?……おい!それはやめろ!!)」
「(ニヒッ♪)皆さーん!俺の弟であり、アイナノアの顔を癒し直したロビン・ケラン・クアンタは…ここにいま〜す!!」
一輝が堂々とロビンの事をバラすと、兵士達が立ち上がり、取り抑えようとする。
「このっ!クソ兄貴!!!」
「お前の恋心……目覚めるまで眺めているぞ♪」
「戯け!!!」
ロビンは急いで酒場から出て、追っ手を振り切る。ロビンは遊び半分満喫したところでお金を金貨を払い、ロビンの後を追いかける。
その頃ロビンは得意の忍びスキルで屋根の上を飛び走っていた。兵士達はロビンを追い込もうと、網や棒を持ってくる。
「何でこんな事に!?くそ〜!!あの兄貴、後で覚えておけよ!!」
それから数時間の間、ロビンは走り隠れ続け、最終的には下水道の中で身を潜めていた。外は騒がしくなり、城門には兵士、しかも検問される事になっていた
「これ…逃げられない。それに今基地に帰ろうとしても、無駄かも……っ!?」
その時、遠くから水が弾ける音が聞こえてきだし、光学迷彩で姿を隠す。現れたのは白いローブを着た集団であった。その集団は何やらブツブツと念仏を唱えながら、行進していた。
「(何だ……あの連中は?)」
不気味な連中が通りすがった隙に、ロビンは下水道から這い出てくる。路地裏で身を潜めるロビンは探し回っている兵士達を見つける。
「(出にくい……)っ!!?」
突然上から投げナイフが飛んできて、ロビンの股付近の地面に突き刺さる。
「そんなとこに隠れていたんだ〜」
「っ!!?」
上を見上げると、弓とエルフブレードを持ったアイナノアが目の輝きを消して笑っていた。
「み〜つけた♪」
「……それじゃあ!」
ロビンは急いで光学迷彩で姿を隠し、その場から逃げる。屋根の上を飛び跳ねるロビンは後ろを見ようと振り向いた直後、一つの矢がロビンの頰を擦る。
「っ!?」
よく見ると、後ろにアイナノアが迫ってきた。
「(仕方ない!)」
ロビンは光学迷彩を切り、夜光を抜き取り、霞の構えをする。アイナノアはエルフブレードを抜き取り、ロビンに斬りかかる。
「「!!」」
ロビンはアイナノアのエルフブレードを受け流し、ホルスターから短筒鉄砲“輝夜”を向ける。
「動くな!」
「っ!?」
「動くな……動けば鉛玉が君の顔を射抜く。」
「……フ!!」
するとアイナノアが弓で短筒を払い投げた。
「くっ!!」
「そうはさせない…」
すると夜光を持った手を握り抑えられ、アイナノアの唇がロビンの唇に近づき、口付けする。
「!!!???」
ロビンは驚き、夜光を落とす。アイナノアはロビンから離れる。
「させわしませんわ……♪」
アイナノアはニッコリと笑い、ロビンは頰を赤くし、アイナノアに連れられた。王家の馬車の中ではファラサール王とアーノリオン王子、そしてアイナノアがロビンの左腕にしがみつく少女に目を向ける。
「え〜っと……」
「ロビンと言ったか…この度、娘の顔を癒し治療して頂いた事とゴブリンから我らに救援した事…誠に感謝している。そなたには大変世話になったな。余の命を救ってくれた恩人に報いたいのだが、なにか希望はあるかね?」
「いえ、どうかお気になさらず。自分は旅をしていただけで、自分の力を正しい事に使っただけです。それに希望はお気持ちで十分です。」
「ほぉ?ロビンは欲がないな……そ黄昏時の清らかな心を持っているとは、余程の家系だろうと我は思う。」
「いえいえ、家は下級貴族の使用人ですから、ハハハ♪(本当はヤバい一族の末裔で王家なんだが……アハハハ)」
「ほぉ、貴族の家で働いているのか…なら、ご家族やその貴族にお礼を。」
「いやたぶん大騒ぎになるのでお気持ちだけで十分です……」
ロビンが気不味い表情をすると、その様子に鬼瓦は呆れる。
話しているうちに、アイナノアの故郷である王国に到着する。
ソルヴィフ王国……エルフの領土であり、数百年前に隣国であるノーザブル烈王国との休戦状態へとなっているとの事。
ロビンは王家の来客室のベッドに転がっていた。
「ハァ……何でこんな事に…」
ロビンがため息を吐いていると、オムニツールからメッセージが着信する。
「もしもし?」
「ロビン♪無事か?」
「ツッ!クソ兄貴……」
「ハハハハハハ!!面白い事になったなぁ♪」
「アンタのせいで、俺はここにぬいぐるみのように置かれる立場になったんだぞ!!」
「嫌々悪かったよ……あ〜それと、ヨシツネとベンケイに会えた…今切り替える。」
すると映像に羽衣を付けたセクシーグラマーな女性と、あらゆる武器を背負った大男が映る。
「は〜い♪」
「おっす!」
「ん?」
「あなたがカズちゃんの弟くん?」
「か、か、カズ…ちゃん?」
「ヨシツネが勝手に私の名をあだ名で言っているだけだ。」
「連れないね〜、あっ!ごめんなさい〜。私がヨシツネ・クアンタ…そして、弟の♪」
「ベンケイでごわす!!うっす!!」
二人はロビンに挨拶すると、ロビンも挨拶する。ロビンが現在ソルヴィフ王国の城であるアルフリア城の中にいると報告すると、三人はある事を言う。
「そう言えば、グレイスさんがここにネフィリム教がいるとの報告を見つけてくれた。恐らく……」
「教団がいると?」
「あぁ、俺達は下水道から奴等の宗教団体へ突入する。お前も何とか振り切り、合流しろ」
「分かった」
ロビンは一輝との通信を切り、鬼瓦と話す。
「鬼瓦、ここの通路をスキャンしてくれ」
『あいよ!』
ロビンはその間に、鎧甲冑を身に付ける。するとドアが開き、アイナノアが入ってくる。
「!?」
「ん?」
「ロビン様!どうしたのですか!?」
「……すいませんが姫様。自分はこれから兄上と仲間達と共に、ネフィリム教団を壊滅しに行って参ります。」
「え?」
「行くよ、鬼瓦♪」
『応!』
ロビンは転送紋章を使う。
「待ってください!!」
「またここへ帰って来ます♪」
紋章の光がロビンを包み込み、一輝がいる下水道へと転送された。
「お!来たか…」
「来たかじゃねえ、よくも売りやがったな」
「すまんな♪……ベンケイ、頼む。」
「おう!」
ベンケイが前に出て、壁に手を押し当てる。すると手から紋章やクアンタ文字が浮き出てくると同時に、壁が分子へと変わった。
「錬金術か…」
「えぇ、うちの弟は対象物を分子分解する事が出来るの……そこらの光学兵器でさえも♪」
「“防御こそ最大の攻撃”……ベンケイらしい。」
「フフ♪さぁ、行きましょう」
一輝、ロビン、ヨシツネ、ベンケイはそれぞれの甲冑のシールドと鬼面を付け、壁の闇夜中にあるネフィリム教団のアジトへと入って行った。アジト内ではパニックになる信者達、闇の中から鬼面をした四人が幹部らしき人物を殴り、ロープで縛り付けにする。短筒や大筒の鉄砲が信者の肩を射抜き、信者を勧誘する幹部を逮捕して行く。そしてネフィリムに関する資料を強奪し、聖書や福音は全て燃やす。そして奥部には神官らしき人達や信者達が怯えていた。
「ネフィリムは何処だ?」
一輝が神虎を突き付ける。
「し、知らない!お前達は何者だ!?」
「……光の龍神 グレイセスの使徒と言ったところかな?」
「龍神 グレイセスの…使徒……だと!?」
神官はその名に恐怖する。
「アンタ達がネフィリムを崇めているんだろ?……ネフィリムは何処だ?」
「し、知らない!真なるネフィリム様に誓って!」
神官がそう言った直後、ベンケイが薙刀を取り出し、柱を破壊する。
「ヒィ〜〜〜ッ!!!」
「とっとと、本当の事を言え…」
「わ、分かった!!ネフィリムはザイナーン枢機卿のところにある“ディラクニア法国”にっ!!」
「そうか……なら、お前だけでも生かしてやる。だがそのザイナーン枢機卿に我らの伝言を伝えてくれるかな?」
一輝は立ち上がり、信者達を連れて行く。
「我ら“七つの大罪”は闇であるネフィリムを殲滅すると…」
一輝はそう言い、十字架に向けて稲葉を射つ。鉛玉が十字架の根を破壊し、そのまま落ちる。ロビン達はそのまま、ソルヴィフ王国の軍部へと送り、報酬を貰う。
「さて、次はエレボス帝国にいるゾードの所に行くぞ…」
「あ〜、待って兄さん」
「ん?」
ロビンが城の方でジェスチャーする。
「……行ってらっしゃい♪」
一輝はそう言い、宿屋へ戻る。
来客室の前で、アイナノアが落ち込んでいた。
「はぁ……ロビン様、何処へ行かれたのでしょうか…」
彼女はそう思い、ドアを開けると転送紋章が現れ、甲冑を着たままのロビンが戻ってきた。するとアイナノアが泣きながら飛びついてきた。それからロビンはファラサール王に呼ばれ、一室でお茶を飲んで楽しんでいた。
「何か、こんな甲冑姿で申し訳ございません。」
「いえいえ、何か訳ありがあって城から出たのだろ?」
「………ファラサール王陛下」
「?」
ロビンは椅子から立ち上がり、王の前で土下座する。
「申し訳ございません!!自分は王に大変な隠し事をしています。」
「????……どういう事かね?」
「貴族の使用人ではなく、兄さんと仲間達と共にネフィリム教団を討ち滅ぼしに、星の彼方から参りました」
「星の彼方?」
「自分は……この世界の、住民ではありません」
「「「!?」」」
ロビンは全ての事を話す。ロビンの本名『ロビン・ブリタニア・クアンタ』星の海の彼方…つまり空の上の上の異界に存在する国『新生クアンタ帝国』第二皇太子という事を全て打ち明けた。
「ふむ……」
「信じられない話ですが、事実です。」
「まさか…君が異界の王子だったとは…」
「すいません…いずれバレてしまうと思ったので、今、早く申し上げました。」
「良いのだ。」
「通りであの剣さばき……ただの使用人とは思えないからなぁ…」
「色々と修行されていたもんですから……」
ロビンは冷や汗をかきながら、三人に謝罪していると、アイナノアが席を立ち、視線は国王陛下と王妃様の方に向いていた。
「どうしたアイナ?」
「お父様、お母様、お兄様。私、決めました!こちらのロビン・ブリタニア・クアンタ様と…け、結婚いただきたく思いますっ!」
「ぶっ!!!???」
突然アイナが爆弾発言を放った事にロビンは紅茶を吹く。その事にファラサール王やララノア王妃、アーノリオン王子は驚く。
「……そうか、お前がそう言うのなら反対はしない。幸せにおなり♪」
「!……はい!」
「良かったね、アイナ♪素敵な婚約者を見つけて」
「ロビンよ…妹のアイナをよろしく頼む♪」
「ちょっと待ってください!!」
ロビンは慌てながら手を上げて親子の会話をブッタ斬る。
「あらぁ?どうかなさったのですか?」
「いやいやいやいや!!普通反対するのではありませんか!?しかもこんな何処の馬の骨ともわからん奴と!?」
「その辺は心配はない、全てはグレイセス神が告げられた事だから♪」
「え!?」
「アイナはね、子供の頃にグレイセス神の声を聞いたの。」
「神の言葉に嘘偽りはない。他の連中は信じなかったが、予言通り“彼女の顔を癒してくれる運命の人 現る”正にアイナの前に現れたのだ。」
「(グレイスさん…まさか…)」
ロビンはグレイスの事に呆れ、観念してロビンは先方のいうことを受け入れることにした。
「これからよろしくお願いしますね。旦那様♪」
姫様の輝くような笑顔。それに対してロビンは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
宿屋に戻ったロビンは、一輝達と話し合っており、ロビンの左腕にはアイナがしがみついていた。
「まさかロビンが結婚か、親父とお袋に何て言えば…」
「ガハハハ!こりゃめでたい♪」
「良いじゃない、あなた方ブリタニア家にとって素晴らしい事よ♪何せ王家の血筋を絶やす訳には行かないし……それに♪」
「ひゃあっ!!?」
ヨシツネがアイナのお尻を触る。
「姫様の良い安産型のお尻をしているんだから、いっぱい子供が産めるよ〜♪」
「ブッ!!」
ロビンは紅茶をまた吹き、アイナはお尻を触って喜んでいるヨシツネに対して、頰を赤くして慌てる。
「ふむ……これなら、ブリタニア家は安心だが…」
一輝は他のクアンタ王家の事を考えるレグレシア家は跡継ぎはいるが、他の四人はまだお婿探しをしている。
「(となるとそろそろ私も跡継ぎが欲しいなぁ…)」
一輝はそう思いながら、ロビンとアイナを見る。
「(ま、次の皇帝は私の子か、ロビンの子に継がせよう♪)」
長旅の支度を済ませたアイナは旅人の服を着用し、城門の前にはファラサール王達が見送っていた。
「君がロビン殿の兄上か…」
「えぇ、一輝・ブリタニア・クアンタと申します。」
「……娘やロビン殿の事、よろしく頼む。」
「義理の妹となる彼女を義理の兄として、全力を尽くす。」
互いは深く礼をする。アイナは王家の鹿の“エレオノーラ”に乗り、一輝達も“颯”と“暁”、ヨシツネとベンケイも愛馬である“珊瑚”と“焔”に乗る。
「次の目的地は…ノーザブル烈王国か…」
【ノーザブル烈王国】
凡そ百年前にソルヴィフ王国と対立し、派遣争いをしていた国家。領土的には王家より大きく、人口もソルヴィフ王国とエレボス帝国よりも多い。
「お父様、お母様、お兄様…行って参ります。」
「気をつけるのだよ……♪」
ソルヴィフは笑顔で微笑み、ロビンと共にノーザブル烈王国へと旅立ったのであった。
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第五十七話:悲劇の皇太子
その頃、海を越え、別の大陸にある国【ディラクニア法国】では、教皇の側近であるザイナーン枢機卿が、地下に眠る遺跡(五億年前の格納庫)で、信者と共に移送されてきたネフィリムの一体と数体のガーディアンを崇めていた。するとそこにネフィリム教乙師が駆け付ける。ソルヴィフ王国の神官達が謎の組織『七つの大罪』と言う四人組に壊滅されたとの報告であり、それを耳にしたザイナーン枢機卿は興味が湧く。
「“七つの大罪”……魔王の名が付く死に至る大罪、面白い……」
さらにその七つの大罪は各国にいるとの事……そして彼等が“オーガ”の姿としなやかな曲刀と武器を持ち、鎧は鉄ではなく木材を使用しているとの事。さらに自分達の事を自ら『“鬼(オニ)の一族”』と名乗っている
「『鬼(オニ)の一族』……良いだろう!!」
ザイナーン枢機卿はマントを靡かせ、宣言する。
「我らディラクニア法国は……君達を歓迎する為に、宣戦布告をしよう!!討伐対象は……七つの大罪!!」
ネフィリム信者や神官、教乙師、教甲師やワイバーン竜騎士が飛び立ち、ロビン達を指名手配として探し回る。周辺の人間やエルフやドワーフの村を襲い、奴隷売買をする法国。
その頃、ノーザブル烈王国に到着した一輝達は路地裏で大筒とバトルアックスを持ったアフリカ系アメリカ人でガタイのいい黒人にして生粋の江戸っ子のクアンタ人『エギル・クアンタ』に出会った。
「よぉ、ベンケイにヨシツネ!」
「「エギル!」」
「知り合い?」
「旧友だ♪」
「お前達二人が、“ブリタニア家”の末裔か?」
二人は頷き、エギルは胸を拳に当て、クアンタ流の敬礼をする。
「これから、宜しく頼むな♪」
「こちらも、世話になる。」
お互い敬礼や礼で交わし、酒場で情報収集をする。エギルによればジャッカス自由商業連合にいたシャルルがエレボス帝国にいるゾードと合流し、ここへ向かっているとの事。そしてディラクニア法国の闇で暗躍しているネフィリム信教団体はジャッカス自由商業連合の闇商人と共に他国の村や街から人々を拉致し、奴隷売買、薬物や拷問などの強制洗脳をしているらしいとの事。
「やる事は……親父達が倒した【奴等】と同じ……」
「滅び朽ちた帝国連合……五大宇宙帝国"ディアヴォリアス"」
今から二十五年前……元ヴァルキュリアス総統【陽弥】とフロンティア総司令官【レオン】、新生クアンタ帝国皇帝【勇人】や今の宇宙共和国や数多の神々も率いる種族反乱同盟軍と交戦していた宇宙一の最大武力行使国家であったが、皇帝であったドレギアスは勇人の手により倒され、連合であったグリニア帝国、コーパス協商同盟、ネブラ銀河帝国、シャンドゥア傭兵国、ゼルトラン帝国連合。その内のネブラ銀河帝国は降伏し、宇宙共和国の加盟国として勧誘された。シャンドゥアとゼルトランは戦争時に逃げ出し、裏切りによりドレギアスに星を滅ぼされた。グリニア帝国残党とコーパスは最後の足掻きでグレイス達に歯向い、そして滅んだ。
真面目に聞いていたアイナは興味津々になっていた。
「これが…親父とマスター達が終わらせた……“光と闇の抗争戦記”だ。」
「実際の戦いは僕や兄さんも知らない。だけど、その戦争で多くの人が無差別に地獄へと追いやられた……正に宇宙をも揺るがす程の煉獄の戦争。」
「でも、平和になったんですよね?」
「……平和?……違う、戦争の傷跡が消えなくなったのだ。数多の神々が守護する世界の大半が消滅し、生き延びた種がなだれ込むように移民して来た。コロニーは愚か、船団や開拓惑星、避難民用衛星施設を使ってのボランティアは悲惨なものだよ。」
「…………ここへの避難民を移送する事は出来ませんのですか?」
「無理だ……人口はこの星の人口の一千万倍、未開惑星での低文明に私達の様な文明が関わってはいかん。グレイスが再構築させたこの世界に……」
「そんな……」
一輝達は暗い表情で黙り込む。アイナは暗い表情をするロビンを心配するとドアが開く。
《?》
一輝達はその方向を見る。それは柄の悪そうな顔や防具をした冒険者であり、彼等は酒を飲みながら今後の事について話し合う。一輝達はその話をこっそり聞く。話の内容は噂になっている七つの大罪に賞金首が出たとの事、ディラクニア法国は各地で七つの大罪を探し、見つけ次第早急に殺す様にと……。
その話を聞いていた一輝達は不安を抱く。
「まさかこんなに早く知られるとは……」
「マズイよ兄さん、こんな所でバレて乱闘してみろ……明らかにこの世界滅ぼす程の力出しちゃうよね?」
「……だろうな」
「とにかく、ここから出てゾード達を待っておこう。」
「そうだな…」
一輝達一行は酒場から出て、廃墟の中で一休みをする。月光が照らされる窓に一輝は黄昏ていた。
「このままじゃ、奴等の思う壺だ……」
一輝はそう呟くと、首に付けているロケットを取り出し、中の写真を見る。その写真に写っていたのは髪が白く、褐色の肌をした美しい猫人の少女と子供の頃の一輝が一緒に写っていた。
「……シレーヌ」
黄昏時の掠れた声と共に、彼の目から涙が零れ落ちる。
一方、ロビン達は地下の部屋を調べていた。いろんな陶器や資料が置かれており、中には骸も転がっていた。
「相当古い物だな…」
「何せ50年も前の物だとよ、グレイスさんが目覚めた頃には既に生命が活動していた聞いている。」
「ふ〜ん……?」
すると地面の地形が段々と変わりだす。
「氷?」
「こんな場所にか?」
「嫌、ここだけなんか……」
エギルとヨシツネ、ベンケイが不注意に氷の上に足を踏み入れた直後、表面にヒビが入り、割れた。
《っ!!?》
氷が割れ、下へ滑り込んで行くロビン達。その音に気付いた一輝も後を追う。地中奥深くまで滑り落ち、ロビン達はある地下空洞に辿り着く。
「何だろうねここ…」
ヨシツネが空洞の周りを見ていると、エギルが空洞の状態を把握する。
「凡そ4年も前にできた空洞だな……だが、こんなに綺麗な空洞ができるとはおかしすぎる…」
「おかしすぎる?」
「この空洞自体だ……途中に掘られているが、この穴は【プラズマドリル】で掘った後なのだ。」
「え!?それってつまり…」
「あぁ、プラズマドリルが使えるとなると……4年前この星に……俺たち以外の人類が漂流してきた可能が高い。」
「じゃあ!このドリルの回転根を辿れば……」
「漂流してきたスペースシップがある。船のバッテリーが生きていれば、その中に生存者もいる」
エギルが説明していた直後、足元の地面がなくなる。
「おっと!!」
ベンケイがエギルを掴み、落ちない様に引っ張る。ライトや懐中電灯で辺りを調べる。
「あった…」
目の前に巨大な装甲で守られたスタークルーザーがあり、何千人も搭乗できるサイズでもあった…あちこちが凍っており、船体に複数の穴が空いていた。だとロビンが船を見て、ある事に気付く。
「あれ?……この船、何処かで……あぁっ!!」
船体の窓側にその船の名前が載っていた。その船の名は……【タイタニック】。
「タイタニック……」
「“タイタニック” 何ですか?」
アイナがロビンに問うと、後から来た一輝が神虎を落とす。
「?」
「…………本当だろうな?」
「一輝?」
一輝は驚愕した表情で、ロビンに問う。ロビンは無言のまま頷くと、一輝が急いでタイタニックへ向かう。
「「「一輝!!」」」
「俺達も行こう!」
ロビン達も急いでタイタニックへと向かう。一輝はタイタニックのドアのパスワードを打ち、ドアが開いたと同時に中へ走って入っていき、ロビンも後に続く。だがこの時、この航空機の周りに巨大な影が蠢いていた事に、彼らは知る由もなかった。
タイタニック内部へと潜入した一輝達は蒸気機関銃器を構えながら進む。ロビンと一輝の擬似マナの光とアイナの光魔法で辺りを照らす。
「一輝、一体どうしたんだ?そんなに慌てて………一輝?」
ベンケイの問いに無視する一輝。ロビンが説明する。
「このタイタニックは……【アステリア人】の豪華客船なんだ。その中に、兄さんの恋人…【シレーヌ・アステリア】を含む王家の一族達が乗っていたんだ。」
「一輝義兄さんの恋人!?」
「……とても綺麗な人であった。褐色の肌、しなやかな筋肉、母の如く優しさ、透き通るかの様な白き髪、性格は芯が強く、自分を貫く生き方をしているが、周囲への気配りも自然にできる“猫人”のお姫様なんだ…」
「猫人のお姫様」
「両親と彼女の両親が古い仲でね、兄さんとシレーヌさんは幼馴染なんだ。二人の親公認で許婚となり、俺やアイナにとっては義理の姉になる筈だったんだが…………」
「筈だった?」
「……四年前のあの日、大事件が起こった。」
《回想》
四年前……当時の一輝は最年少の中で優秀な学歴を持ち、生徒会長を務めていた。ヴァルキュリアス高等学校……一輝はいつもの様に幼馴染の猫人である少女【シレーヌ・アステリア】と一緒に帰っていた。シレーヌは惑星アステリア出身であり、【アステリア星系王国】の当代最強の猫人にして第一王女…アステリア人には必ず掟があった。
それは『見合い』であった。彼女の種族は代々王家の婿か嫁になる物は「強き者」ではなくてはならない、力に自信がある者が彼らと『見合い』を行い、我が物とするのがアステリアの慣わし。
丁度一輝とロビンが『マスター・ギデオン』、『マスター・マクライト』を含む“賢者”の修行を終え、父と母とともにアステリアとの友好関係の為、許婚と見合い…両方を行い、結果一輝があっさりとシレーヌに勝利すると同時に、シレーヌは一輝の勇ましい姿と逞しい身体に一目惚れと見惚れ、猫の様に一輝に戯れる事になった。
それから10年後、ヴァルキュリアス大学 付属高等学校……一輝達高校三年生の最後の修学旅行であった。しかし、謎の重力嵐によってシャトルとの連結部が外れ、シレーヌを乗せた豪華客船はそのまま重力嵐の中に引きずり込まれていく。勿論、一輝のシャトルと共に……運良くその宙域をパトロールしていた【ファウンダー軍事盟約連邦】の艦隊が救助に来てくれた。
連邦ドロイドが燃え盛るシャトルのハッチをこじ開け、煙が立ち回る客席へと入り込み、当時十七歳であった一輝を救助する。
「待ってくれ!!シレーヌがまだあのシャトルに!!」
『無理です!生存率が14.2%に確定しました!彼女達アステリア人を助けるのは困難です!』
「俺の事は良い!!彼女を!頼むっ!!」
『生存者57名を確認!』
「シレーヌゥゥゥゥ!!!」
救助用バックパックにつけられた一輝達は連邦艦隊へ移送されていく。シレーヌ達アステリア人や他の生徒達や教師、兵士達を乗せたタイタニックはそのまま重力嵐の中へと吸い込まれ、消えた。
《回想終了》
四年前の悲劇と嵐によって断ち切られたシレーヌへの愛はやがて冷酷な鬼神へと変貌し、コンプレックスである最愛の家族であるロビン達を死守すると決意したと……。そして彼の本心は怒りと悲しみ、頑固で高慢な人物へと成り代わっていると。
一輝の過去に、皆んなは心痛める。
「知らなかった。一輝の大将に、そんな過去が……」
「……兄さんはあぁ見えて大人しいが、本心は剣鬼で……鬼神なんだ。だから兄さんの事を励ましたり、信頼できる仲間と思って欲しいのだ。お願い……」
「……わかったよ、大将にもしもの事があったら、皇帝さんに何されるか分からねえからよ」
「私も、一番負担を抱えているのは、アンタだけではないないからなぁ」
「あぁ、俺達も同じようなことや似たような事もあったからなぁ、お互い支え合うべきだ!」
「私も!いずれロビン様の妻となるものとして、義理の妹も全力で支えます!」
「皆んな……ありがとう♪」
「お前たち……早く来い」
悲劇の皇子に仕えると決意した四人は、皇太子の声に導かれ、さらに奥へと潜入する。
客用の通路へ辿り着き、客席エリア一層に入る。そこにはたくさんのアステリア人や一輝のクラス違いの友達の死体が転がっていた。一輝は彼らの目を閉じらさ、名を告げる。
「【カラミス】、【ロミオ】、【リーシャ】、【リリィ】……」
さらに奥の方へ行くと、兵士達の死体が転がっていた。するとロビンがある事に気付く。兵士達の周りには、空になっている無数の弾が転がっていた。
「何があったんだ……この航空機の中で…」
「分かりません、だけどみんなのを調べたのですが………」
「どうした?」
「言いたくはないです…」
「え?」
ロビンは不思議に思い、死体の健康状態を調べる。
「っ!?」
驚いた事に、彼らの臓器全てが崩壊しており、他の死体も崩壊状態であった。
「一体どうやったらこんな風に崩壊状態になるんだ?」
「みんな!こっちに来てくれ!」
ベンケイが何かを見つけ、一輝達は直ぐにベンケイの元へ駆けつける。
「何だ…これ?」
一輝達が見た光景は、数百人の近衛兵や兵士達、生徒達が凍りづけになって凍死していた。
「何で…こんなにみんな…ちょっと待て?」
一輝が凍死した彼らの何かに気付く。
「…違う………凍死していない、仮死状態だ!!」
何と、凍死していたと思われていた彼らは仮死状態で生きていたと分かる。
「急いで氷を溶かそう!」
「あぁ!」
ロビンが義手の左腕で氷に触れた瞬間、義手が凍りつく。
「っ!!?触るな!」
「?」
「凍るぞ」
「っ!!」
皆んなは直ぐに氷に触れないようにする。一輝は氷の温度を確かめる。
「ー100度……だがこんなに絶対零度なのに、どうして仮死状態なのだ?」
「それは分からない、まるで………」
その時、彼らは気付く。何故、彼らが生きたまま仮死状態で凍りづけにされた人々、銃弾が散らばった死体、崩壊した死体……この三つのキーワードが一つになる時、その先の答えは想像絶する物であった。
「なんて事だ……」
「どうしたの?」
アイナがロビンに問うと、ベンケイが答える。
「ここは…食糧を貯蔵する《冷凍庫》だ!」
「冷凍庫?」
すると航空機が揺れ始める。
「何!?」
「……ここが冷凍庫だとすれば、周りは……“奴等”の巣だ!!」
一輝達は急いで空洞へ戻ろうとした直後、何か悲鳴のような咆哮が聞こえて来た。そして航空機に大穴が空くと同時に、咆哮をした怪物が姿を現わす。
「あれは!?」
「あれが………『ネフィリム』!!」
甲虫の様な甲殻、蛇の様な体型、頭部はこの世とは思えないまさに航空機をも超える巨大なエイリアンワームであった。
「何て醜い怪物だ……」
《………ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!》
幼虫型ネフィリムは巨大な口を開け、大咆哮をする。口の中から色々と食べた物が吐き飛び散り、その中にシレーヌの両親が身につけていた王冠や装飾物が出てくる。
「…………」
それを見た一輝の頭上に落雷が落ち、心に怒りの煉獄の炎を燃やす。
「殺す!!!!!」
一輝は鞘から神虎を抜刀し、ロビン達もそれぞれの武器を取り出す。皆は武器をネフィリムに突きつけ、突撃して行くのであった。
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第五十八話:不死身の巨蟲人
一方、一輝達のビーコンを辿り、廃墟の前にクアンタ人の生き残り『ゾード・クアンタ』と『シャルル・クアンタ』が合流して来た。
「アイツら本当にここにいるの?」
「間違いない、多分俺の推測だと彼等は……地下に…ん?」
「どうしたの?」
「なんかビーコンマーカーが物凄く大きくなっているんだが………まさか!!?」
ゾードは何かに気づき、シャルルに一輝達の馬を離れさせる。
「来るぞぉぉぉぉぉ!!!!」
それと同時に地鳴りが響き、廃墟が壊れると同時に地中から幼虫型のネフィリムが現れた。
「ネフィリム!?」
ゾードとシャルルは驚く。そしてネフィリムは顔を切り刻んでいる一輝を引き剥がそうと触手を使うが、怒り狂う一輝に容赦なく切り刻まれる。
「やばいんじゃねぇのか!?」
シャルルとゾードは生身でネフィリムに攻撃を与えている一輝に驚く。そしてネフィリムが開けた大穴からロビン達が出てくる。
「兄さんは!?」
「あの戦っているクアンタ人の事か!?」
そしてネフィリムがようやく一輝を振り放す。一輝は着地し、神虎を構える。
「貴様だけは…絶対に許さん!」
一輝は神虎を鞘に納めると荒神へと姿を変え、ネフィリムに襲い掛かる。怒りと殺意で身を任せる一輝はネフィリムの脚部を捥ぎ取り、口部を引き裂く。その姿はまさに七つの大罪の一つである“憤怒”『悪魔王』そのものであった。苦しむネフィリムは必死に乞うが、大切な人を奪われた一輝はそれを許さなかった。脚でネフィリムの頭部を踏み潰し、絶命させる。しかし、彼はそれを止めなかった。その圧倒的な光景に、ロビン達は黙って見ることしか出来なかった。
朝日が昇り、ロビン達は証拠を隠す為に、特殊な溶解液でネフィリムの死骸を燃やし尽くす。疲れ果て、身体中汗まみれの一輝はそこら辺の岩に腰掛けていた。しかし、彼の心の傷みを癒す物と言えば、『戦い』か『怒り』しかなかった。ロビンは燃えるネフィリムの死骸を見ていると、ネフィリムの胃からあるものが流れ出て来た。
「ん?」
ロビンはそれを拾い、川の水で洗い流す。
「これって……」
ロビンがそれを確認した後、それを開く。
「………っ!これは!!」
ロビンは直ぐに一輝の所へと持っていく。
一方、一輝はネフィリムの胃から繊細な彫刻が施されたシレーヌの曲刀が見つかり、腰に下げる。
「兄さん!」
「ん?」
「これ?」
ロビンが一輝に渡したのは、ロミオのビデオカメラであった。
「ロミオのカメラ……そんなの渡して、何になる?」
「……そういう事じゃない、このカメラ、四年前の直後と続きの映像が映っていたんだ。その後に、分かったんだ!…………シレーヌさんは、生きている!!」
「え?」
衝撃の事に、一輝はカメラの映像を再生する。それは修学旅行前日の映像から重力嵐、そして星へ不時着……。
『皆んな大丈夫か!』
教師が生きている生徒達の安否を確認する。船長や船員、兵士達も安心かと思いきや、船外に奇妙な金属音が響く。
『何だ?』
誰もが不安に思ったその直後、丸型の赤い線が浮かび上がると同時に外壁に穴が空く。そしてそこからネフィリムのサブユニットである『ガーディアン』がフリーズビームを乱射して来た。悲鳴と共に兵士達も応戦するが、抵抗する者は高出力レーザーで殺されていく。その中にシレーヌもいた。シレーヌは必死に仲間や家族を助けようと応戦するが、ガーディアンの数に圧倒される。そしてシレーヌの両親が彼女を逃がそうドアを開け、突き落とす。そしてネフィリムが現れると同時に映像が切れた。
「シレーヌは…生きている」
「うん…地下や色々、ネフィリムの内臓全て見たけど……それらしい物は見当たらなかった。」
「そうか……良かった…」
大切な恋人がまたこの大地の何処かで生きている事に、一輝は号泣する。
一輝達はネフィリムやガーディアンに食い殺された人たちの骸を埋葬し、墓を建てる。
「お前達も、悔しかっただろうな…五億年前、この星の人類や生命を絶滅させたネフィリムに……仇は取るからな」
一輝はそう決意し、朝日を見上げる。
「さて、七つの大罪がちょうど揃った事だし、次は神聖国の世界樹へ集合するか…」
「集合って…長い道のりだよ、どうやって行くの?」
ロビンがゾードに問う。
「そうだね、俺なら未開惑星保護条約に批判しない程度の“あれ”を使うだろうなぁ♪」
するとゾードの後方から巨大な物体が現れる。それはゾードが乗って来た『飛行艇 ヘーメラー』。本正式名は“次元航行艦”と呼ばれ、この星の文明に適した形状へと変形していた。
「いつからこの星に持ち込んだ?」
「2ヶ月前だ。こっそり運ぶの一苦労したからなぁ」
「……船員は?」
「俺とシャルルだけだ。船長は二百年前に病で亡くなり、舵手であった俺が代理船長だ。」
「……なら、俺が船長をやろう」
「良いだろう♪」
ゾードは喜んで一輝達を歓迎する。中は確かに星の文明に適した装飾をしており、とても綺麗であった。
「ったく、これが親父にでも見られてみろ……怒られるのを覚悟しておけ…」
「あいよ♪」
ゾードはそう言いながらヘーメラーを起動し、イリアス神聖国へと飛び立つ。っが彼らが飛び去ったと同時に、幼虫型のネフィリムの骸から、人影が出てきた。頑丈な鋼の甲殻、強靭な刃を持つ顎を持つクワガタの様な大甲虫は飛び去るヘーメラーを見て呟く。
「カ……ズ……キ……」
クワガタ大甲虫は『一輝』と呟くと、森の方から音がする。
「?」
森に隠れていたのは野党であり、廃墟の宝を狙おうとしたが、そこに見たことない虫がいた事に驚いていた。
「…………」
武器を構える野党達は、怯える。そしてクワガタの大甲虫は両腕部から鋸状の高周波ソードを展開し、凄まじい速さで野党の体を真っ二つにしていき、辺りを血の海に変えた。クワガタの大甲虫は空気を深く吸い込み、羽を広げ何処へと飛び去った。
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第五十九話:“皇帝(父)”降臨
神聖国後方、世界樹最下層基地。グレイスは誰かと茶室でお茶を飲んで一服していた。
「……1000年ぶりにまた会えて光栄です。勇人皇帝陛下にシンシア皇后陛下♪」
「まさかお前がこの星で、調律者をやっていたとは……」
「びっくり?」
「あぁ、条約は……ギリギリだ。」
「色々、この星でネフィリムを野放しにしてはいけませんからね。」
「だな、天帝軍も喜んで協力しよう。それから……“彼等”を呼ぶ。」
「アイカさん達を呼ぶのですか?」
「戦力は…多い方が良い。それにエグナント達の力なら、未開惑星保護条約に引っかからない。この星独自の能力を持っている。お前も無理をするな…」
「恐縮です……」
「……それに、馬鹿息子二人に会いたい。何処にいる?」
「ちょうど帰ってきた様です。弟さんの方は…嫁さんとなるお姫様を連れてきた様です♪」
「ロビンが?……見てみたいわ、ロビンの彼女♪」
シンシアが呟くとドアが開き、一輝とロビンが入ってきた。
「失礼します。今日は…っ!親父!お袋!?」
「父さん!母さん!?」
「おう、お前たち♪」
「「何でここに!!?」」
「お前たちが二日も行方不明だから、心配して来たのだ。」
「え?でもあの星雲が……」
「グレイスが一時的に星雲に穴を空けている。ネフィリムが宇宙電波に勘付かれない様今は閉じているとのことだ。」
「つまり……できたのですね?」
「うん、僕が作った『ゲート』なら、行き来できるが、長くはできない欠陥になってしまった。すまない…これでも全力でやったんだ。」
「いえ、それなら安心です。皆んなが心配していると思うので…」
「俺も…向こうの友達が心配していると思うので…ん?」
「それよりロビン……お前、彼女作ったてなぁ?」
「え!?」
「紹介しろよ♪」
『あぁ言ってるんだ、紹介してやれ』
「鬼瓦まで!!」
勇人とシンディは喜びながらロビンに問う。
「分かった!分かった!分かったって!!」
ロビンはドアの外で待っているアイナを呼び、いずれ義理の両親になる二人に挨拶をと、アイナが勇気を出して一歩前に出る。
「初めまして、皇帝陛下、皇后陛下……私はソルヴィフ王国国王『ファラサール・ソルヴィフ』の娘……第一王女“アイナノア・ソルヴィフ”と申します。」
「あらぁ、お行儀良いエルフのお姫様ねぇ♪」
「うむ、ロビンも良い女性を連れて来たな、良くやった♪」
「いや、父さん…母さん……何喜んでるの?」
ロビンは呆れながら勇人とシンディに問うと、一輝が勇人にある物を渡す。それはアステリア国王の冠であった。
「これは…」
「俺が倒したネフィリムが吐き出したシレーヌの父親の冠です。四年前、修学旅行で重力嵐に巻き込まれ、ここへ……」
「そうか…」
勇人は冠を受け取り、涙を流す。
「アステリア国王……すまない。言い訳はしない、本当にすまない……助ける事も……」
「勇人……」
「……ですが、シレーヌは生きている。」
「?」
「ロミオが残したビデオカメラに、国王が彼女を逃がしました。彼女はこの四年間……この世界の何処かにいます。シレーヌがそう簡単に……」
「……それは」
勇人が一輝の腰に付けているアステリア独自の曲刀に気付く。
「いつか…返そうと思っております。」
「……そうか」
「……あのぅ、話の途中で失礼しますが……そろそろ次の指令を出したいんですけど…」
「おっとすまない…」
グレイスは一輝達に次の指令を説明する。内容はディラクニア法国の件であった。彼等は周辺国の村を襲い、人々を拉致、薬を使った強制洗脳で勢力を広めていく一方であった。次に狙う諸国は…エレボス帝国であり、彼等は真の神の力であるネフィリムを使って侵略しようとしているとの事。
その事実に一輝達は驚く。
「とんでもない!アイツらを止めないと!」
「そうしてくれ、本当のネフィリムを知らない彼等は、本当の絶望という物を知らない。そこで君達兄弟の為に、対ネフィリム殲滅兵器を開発したんだ。」
「「殲滅兵器?」」
二人は首を傾げ、格納庫に案内された。そこに格納されていたのは赤と白のフリューゲルスであった。全身赤で染まったフリューゲルスは各部の装甲とバーニアが追加されており、頭部のカメラがツインアイではなく、ツインアイの眉間にモノアイが追加されていた。白のフリューゲルスはグレイスのフリューゲルスと違ってスラスターウィングの代わりに実体砲を連結していた。そして特徴的なのは、二体の形状が和装と悪魔を組み合わさったものであり、赤いフリューゲルスの頭頂部に黄金の悪魔像と猛虎を思わせるマーキングが装飾、塗与されており、白いフリューゲルスの頭頂部に白銀の堕天使像と白龍を思わせるマーキングが装飾、塗与されていた。
「これは?」
「一輝のクーフリンを改良し、僕のフリューゲルスのデータとネフィリムによって破れた量産型フリューゲルスの残骸を改修し、組み合わせ、極限へと進化させた“究極の双牙のゼロメイル”…その名も“フリューゲルス・ルヴェル”と“フリューゲルス・アルヴィオン”だ。」
「ルヴェルとアルヴィオン?……ラテン語で『紅き翼』と『白き翼』の意を持っているのか」
「えぇ♪」
一輝とロビンは二体のゼロメイルに見惚れる。
「「何で、俺たちにフリューゲルスを?」」
「……何のことかな?」
グレイスが口笛を吹きながら知らないフリをするが、みんなはグレイスの図星に気付く。一輝はフリューゲルス・ルヴェル、ロビンはフリューゲルス・アルヴィオンに乗り込む。コックピットは全天周モニターで覆われ、バイク状の座席になっていた。
「操縦法は今までのパラメイルと同じだ。」
一輝とロビンは二体のフリューゲルスを起動する。ルヴェルとアルヴィオンのモノアイとツインアイが翠に光り、ルヴェルの背部に装備されたスラスターウィングから12枚の深紅のビームウィングを放出し、アルヴィオンもスラスターウィングから12枚の翠に染まったビームウィングを放出する。
「クーフリン…嫌、ルヴェルか。これからよろしくな♪」
「アルヴィオン……俺の剣となってくれ♪」
紅き翼と白き翼は世界樹の最上部ハッチが開くのを確認し、紅き閃光と翠の閃光が流星の様に天空へ飛び出す。
「速いなぁ」
グレイスが感心しながらドラゴンの姿へと変身し、一輝とロビンの後を追う。紅と翠の光は彗星の如く速さで、空を飛ぶ。神聖国教会都市中では上空に赤と翠の光が飛んでいる事に大騒ぎになる。そして今度は世界を創生した龍神 グレイセスも現れ、さらに大騒ぎになる。グレイスと共に空を飛行する一輝とロビンは話し合う。
《速いだろ?》
「最高です!」
《ハハハ♪だろ?五億年前の遺物は僕のいた世界よりも凄い高度な科学力を持っていたからなぁ》
一輝とロビンは納得し、エレボス帝国へと向かっていった。
一方、蜘蛛型の成虫体ネフィリムを運ぶディラクニア法国教甲師団体。エレボス帝国領域を監視するダーマ砦で、ディラクニア法国教甲師団がこっちに近づいている事に気付く。
「お前達!一体何だそれは!?」
すると教甲師団達はネフィリムを縛り付けていたロープを切り離し、すぐさま森の中へと逃げる。
「ん?」
不思議に思ったその直後、ネフィリムの流動経路が緑に光る。そしてネフィリムが起動し、頭部に内蔵されている高出力荷電粒子重砲『天獄砲』を放つ。天獄砲の高出力ビームは大地を裂き、ダーマ砦の塁壁をいとも簡単に破壊した。
「馬鹿な!!?」
「塁壁を…一撃で!!」
それと共に、森の中からガーディアン達が現れ、ビーム砲を乱射してくる。帝国兵達は急いで魔法障壁を展開するが、ガーディアンやネフィリムの圧倒的な科学力と武装と威力に為すすべも無く、帝国兵達はネフィリムに喰い殺され、ダーマ砦を乗り越え、エレボス帝国へと進軍して行く。
一方、エレボス帝国ではダーマ砦が突破された事に、若き皇帝である“ジアート・エレボス”が慌てていた。偵察兵によれば巨大な蜘蛛は真っ直ぐ此方へと進軍してくる事であった。
「何とかせねば………」
頭を悩めるジアートの元に、偵察兵が報告しにやってくる。
「申し上げます!巨大な蜘蛛の怪物が周辺の街に襲いかかり、アヴァンス砦をも突破しました!」
「アヴァンス砦!?あの難攻不落の要塞がこうもあっさりと……」
「さらに、襲われた街の生き残りから奇妙な事を耳にしました。」
「?」
「“紅き天使”と“白き天使”と“龍神 グレイセス”が……怪物を追っていたと……」
「龍神 グレイセス!!?」
「はい……伝説やおとぎ話の想いすぎかと思いましたが、ほかの生存者達もグレイセスが空を飛んでいたの証言もありまして…」
「……どうなっているのだ?」
ジアート皇帝は世界を創りし神が現れた事に、頭をさらに悩ませる。
その頃、ネフィリムに追い付いたグレイセスは龍の姿のままネフィリムに相手していた。巨蟲人と聖龍皇が暴れまわる中、ガーディアンを一匹たりともグレイセスに近づけさせないよう、一輝とロビンのフリューゲルスが戦場を舞う。一輝のルヴェルは右腕に搭載されている【零聖天】を放ち、蛇の如く速さで、ガーディアンを握りつぶしたり、高火力輻射波動を放つ。ガーディアン内部の機械がオーバーヒートし始め、爆裂して行く。ロビンのアルヴィオンは背部に装備されている超音波振動斬刀『リヒトシュヴェルト(“光の剣”)』を二つ抜刀し、回転しながらガーディアンの装甲もろとも切り裂いていった。
「「攻撃は最大の防御!!」」
二人はことわざを言いながら、迫り来るガーディアンのビームをビームウィングで防御し、エネルギーを吸収して行く。
「「吹き飛べ!!」」
二人は一斉にウィングに吸収されたエネルギーを放ち、ビームウィングから刃状のエネルギー光弾【フェザーエッジ】が放たれ、無数のガーディアン達を破壊して行く。
グレイセスも蜘蛛型ネフィリムの前脚両方を引きちぎり、押し返した直後、ネフィリムの糸疣から糸が吐かれ、グレイセスは身動きが取れなくなる。
《ぐっ!!》
ネフィリムはグレイセスに襲い掛かろうとした瞬間、上空からルヴェルとアルヴィオンのフェザーエッジが降り注ぐ。ネフィリムは急いで後方に下がり、グレイセスも糸を燃やし脱出し、距離を取る。一輝とロビンはグレイセスの前に出て、ビームウィングを広げて光臨を展開する。
「グレイスさん!ここは俺に任せてくれ!」
一輝はルヴェルの零聖天をネフィリムに向け高火力輻射波動を放ち、さらにスラスターウィングの各部からドラゴニウム粒子を散布し、トリオン型障壁でグレイセスを守る。ロビンもリヒトシュヴェルトを連結し、刀身に高周波エネルギーブレードを纏わせた【リヒトシュヴェルト・バスターソードモード】を構える。ネフィリムは腹部からハッチが開き、【プルーマ・ラケーテン】を全弾発射する。
「通じないぞ!!」
アルヴィオンがリヒトシュヴェルトを振り回し、複数のミサイルを切り裂き、アルヴィオンを通過して行くミサイルはルヴェルの高火力輻射波動によって蒸発する。
「そろそろ“ダイレクトアタック”するか……ロビン、行くぞ!」
「あぁ!!」
ロビンはとてつもない速さでネフィリムの頭部にリヒトシュヴェルトを突き刺し、一輝のルヴェルも零聖天のスーパーパドルデーゲンを突き刺す。
「トドメだ……」
一輝は呟き、零聖天から高火力輻射波動が放たれ、ネフィリムの全身がオレンジに光る。見る見るうちに各部が融解し始め、爆裂して行く。ルヴェルとアルヴィオン、グレイスは急いでその場から離れ、爆発するネフィリムを眺める。
エレボス帝国宮殿テラスから望遠鏡で見ていたジアートは、グレイセス達に破れたネフィリムが大爆発して行く光景に驚く。
「『天使と竜の輪舞』だ………」
ジアートが呟くと、赤い天使と白い天使がこちらを見る。
「?」
すると天使二体が突然と消え、ジアートは驚くのであった。
世界樹の基地に戻ると、勇人とシンディが二人を抱きしめ、伝言を伝える。
「これから俺たちはクアンタ星に戻って、アカリ達を呼ぶ。味方は多い方が良い。グレイス…一輝とロビンの事、よろしく頼む。」
「こちらもです。全力で二人や七つの大罪をサポートします。」
グレイスはそう言い、勇人達を空間転送装置でクアンタ星へと転送させた。
「さて、色々と忙しくなりそうだ♪ネフィリムやガーディアンを駆逐する為に、先ずは各国のディラクニア法国の情報を集めないとな♪」
「それと、シレーヌさんの行方も」
「フフフ、そうだったな……」
一輝とロビンは世界樹から見える星空を眺めていた。
砂嵐が吹き荒れる死の砂漠。砂の海の上を歩いている旅人が歩んでいた。砂嵐の中、廃墟になった村に立ち寄る旅人……。家の中は蜘蛛の巣や砂や埃で充満しており、砂中から親子らしき骨が転がっていた。旅人は厳しい目で祈り、足元にある人形を拾うが、何年も老化しており、人形は土のように崩れ落ちる。
「…………何もない、帰る場所もない……私はもう…“大切なあの人”にも会えない…」
声の性は女性であり、旅人である女性はフードを外す。驚いた事に、彼女の頭には猫のような耳があり、小麦色の褐色の肌、白銀の長髪をしていたが、特徴的だったのは彼女の目であった。両目を黒い包帯で覆っており、感覚、嗅覚、聴覚を駆使しながら砂の大地を彷徨うのであった。
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第六十話:黄昏の王女
一輝達がいる大陸【ローウェナ大陸】から西方の彼方にある大陸【モルドゥレイ大陸】の南部、荒涼とした岩石砂漠地帯「ダラマスカ」を領する交易都市国家「ネイブラスカ」で、黄昏の猫人は商業市場を見て回っていた。彼女は姿を身を隠し、ネイブラスカの王政庁から逃避行していた。視覚を失った彼女は聴覚と嗅覚を駆使しながら、人混みの中を歩く。
視覚が悪い事を良い事に、柄の悪い悪党に絡まれたり、金貨をせびりに来る奴等に取り囲まれることもあったが、彼女を相手に数十人相手は不足すぎる。その事に行政府達は彼女を『失願の獣人』と呼ぶ事になった。彼女はあらゆる野党や蛮族を殺し続け、さらには北方、南方の大陸【ウォーデラン大陸】と【アシュラミア大陸】の幻術皇と貴族評議会会長を暗殺し、高額な賞金首を持った最重要指名手配犯へとなっていた。
彼女は現在、ローウェナ大陸とアシュラミア大陸の中間部【ニルガル】の隠れ家に身を潜んでいた。
「行かないで……行かないでくれ!」
悪夢に魘されている彼女は、夢の中で誰かに問いかけていた。
「私を……見捨てないでくれ!!一輝っ!!!!」
愛する恋人…一輝に思いを告する彼女……シレーヌ・アステリアは悪夢から眼を覚ます。
「っ!!!!」
目を覚ましたシレーヌは身体中の汗を水浴びで流し、私服に着替える。
「貴族の豚共に取られた目が……疼く」
シレーヌは両眼を抑えつけ、過去の事を振り返る。
四年前、彼女がこの星に漂流し、未知の生命体に家族や友人、民を食い殺され、放浪していたところをノーザブル烈王国の奴隷商に売り飛ばされ、豚貴族に体を弄ばれ、自身や誇り、同じ奴隷であった者たちからの差別されていく運命であった。そして一年半が過ぎたある日、豚貴族の娘が婚約者に夫婦となると、シレーヌの綺麗な瞳を宝石の代わりとして、拷問具で両眼を取った。彼女の両眼は神秘の宝石ラピスラズリの如く、色彩な色に満ちていた。そして令嬢は結婚式を挙げ、幸せになったが、両眼を奪われたシレーヌは涙も流さず、仄暗い牢の中で一晩中泣いたと……。
愛、希望、勇気を失った彼女は館から脱獄し、貴族達を皆殺しにしていった。しかし彼女の両眼を指輪として身に付けていた令嬢とその夫はいなかった。そして彼女は誓った……誇りと純潔、自身、愛、希望、勇気を崩した貴族達と…両眼を奪い、それを婚約者の誕生日プレゼントにしたあの女に復讐すると……。
シレーヌは疼く両眼の痛みを抑えつけ、水と盗んだ痛み止めの薬を飲む。
「そろそろ、ネイブラスカの食糧調達しなきゃ……」
シレーヌはネイブラスカの食糧調達へと向かい、ワイン商や購入し、立ち去ろうとしたその時、衛兵が最近の噂話をしていた。
「最近、東方の【ラダトリス大陸】で奇妙な輩が現れてよ。」
「輩?」
「何でも……【七つの大罪】って言う七人組の蛮族らしいんだ。その七人はそれぞれの罪を背負い、魔王を名乗っていると。」
「へぇ〜」
「噂ではエレボス帝国に巨大な蜘蛛の化け物が向かって来たと同時に、イリアス神聖国に聳え立つ世界樹からあのグレイセスが舞い降りたとの事だ。」
「グレイセス!?あのこの世界を創生した龍の神の事か!!?」
「声が大きい!」
「あ、すまん……それで?」
「他にも赤と白の天使も舞い降りて、グレイセスと共に蜘蛛の化け物を倒したってよ」
「……それが?」
「その七人の大罪と、グレイセスや赤と白の天使は繋がっていて、予言や言い伝えにあったネフィリムとの戦いが始まるって事になるんだよ。」
「おいおい……それじゃヤバいだろ?」
「だからお前にこうやって密かに話し、これから俺たちはラダトリス大陸のノーザブル烈王国やエレボス帝国、ソルヴィフ王国、ジャッカス自由商業連合で各国に兵を招集しているらしいんだ。」
「マジかよ……休暇がなくなるなぁ」
「しょうがない」
兵達は店から出て行った事を確認したシレーヌは、メモ帳で情報を記録する。
「七つの大罪……グレイセス神…赤と白の天使…化け物……そんなの、私には関係ないね……」
シレーヌはそう呟き、店を出る。
商業市場はいつもみたいに賑やかであった。シレーヌは路地裏に隠れ潜んでいる親に捨てられた孤児達に食糧を分けていた。
「ありがとうお姉ちゃん♪」
「フフ♪」
シレーヌは微笑み、ギルドへと向かう。ギルドには複数の依頼書が提示されており、シレーヌはラダトリス大陸での招集を受ける事に。帰って隠れ家で考え事をするシレーヌは瞑想で緊張を無くす。
「…………」
翌日、ラダトリス大陸行きの船に乗り、傭兵団として航行して行く。船は何事も無く航行し、ジャッカス自由商業連合に到着する。シレーヌはノーザブル烈王国の傭兵団として招集され、何人かの傭兵達と共に、向かう。
「また……生き地獄の始まりの場所へと戻るのか…」
シレーヌは呟き、ノーザブル烈王国へと向かうのであった。
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第六十一話:夢の黙示録
一方、自由と恩寵を取り戻したアンジュ達の世界。勇人は早速『高軌道上スペースステーション“ディーヴァ”』局長であるアカリ達にグレイスが生きている事を報告する。
「えぇっ!!?グレイスが!!?」
「はい…生きていました。」
アカリやアンジュ達はそれを聞いて歓喜を上げる。
「それで!グレイスは何処にいるのじゃ?」
「……未開惑星にいます。そこで彼は…その星の調律者として、ネフィリムと戦っているのです。」
《“ネフィリム”?》
アカリ達は首を傾げ、勇人からネフィリムの事を聞く。
ネフィリムとは、今から五億数千年前。ディスピアースが集合体になる前の人類が敵対していた細胞生命体。その人類や生命を無差別に食い尽くし、進化する本能を持つネフィリムに対抗すべく、フリューゲルスのような《ゼロメイル》を作り上げ対抗したが、結果進化し、増殖し続けるネフィリムに圧政され、人類は滅んだ。しかし、グレイスが再生させた生命に反応するかのように、ネフィリムが徐々に復活しつつある。
さらに、五億数千年前に人類の文明にある秘術が記されていたと……その秘術とは、生命哲学元素である木・火・土・金・水……そして万物の“日”(光)と“月”(闇)の元素を持ち、ウィトルウィウス的人体図でネフィリムに対抗すべく造られたもう一つの生物兵器。その名は……【ラダマントゥス】。
「【ラダマントゥス】……“冥界の審判者”と言う意味じゃな?」
「はい……“天使”である【フリューゲルス】と“冥界の審判者”である【ラダマントゥス】は“堕落した巨人”【ネフィリム】にとって“宿敵”みたいな存在とも言える。」
「それで、うちらを?」
「はい、あなた方にとって、あの時の戦いで自由を得ました。ですが、グレイスはそれでも、自分が再構築させた生命を滅ぼすわけにはいかないと、一人で戦っております。何卒、ご協力を……」
勇人が頭を下げ、アカリ達に願望を告げる。
「……そんなの、協力するに決まっとるじゃろ♪」
「…すると?」
「うむ!ネフィリムがどんな奴かは知らないが、うちらはあの文明、うちらの文明、勇人達の文明が揃えば、ネフィリムなぞ……“赤子の手を捻る”が如くけちょんけちょんにしてやるからよ♪」
「……ありがとうございます。」
「よぉぉぉしっ!!野郎ども!戦の準備だ!!アンジュ達も連れて、グレイスやお主らの子達を助けに行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
《ウォォォォォォォォォ♪》
「無茶で愉快な人達だなぁ…」
勇人は呆れ返り、その星の座標と、グレイスの通信機器を渡し、クアンタ星へと帰っていった。
その頃、世界樹内部基地。ロビンの自室では、寝ているロビンがある夢を見ていた。燃え盛る建物と兵器、その中に量産型フリューゲルスとガーディアンとネフィリムの残骸が転がっていた。そして上空に超高層ビルクラスの大きさを誇る巨大な直立した鳥のような多角形構造体が無数に浮遊していた。
「何なんだ……あれ?」
すると無数の構造体の流動経路が赤く染まり、構造体中央部から強力なハイメガ粒子砲が放たれ、高層ビルを焼き尽くす。ロビンも粒子に直撃するが、目の前が真っ暗になり、別の空間へと変換される。
「今度は何だ?」
ロビンが驚いた直後、暗闇の中から六つの巨大な眼を持つネフィリムが、ロビンを睨み付ける。
「っ!?」
《サイ…クル……》
「え?」
突然ネフィリムが言葉を発し、ロビンに何かを伝える。
《サイクル……》
「サイクル?」
《……聞いて……感じて……考えて……》
「何?」
《【オーバーノイズ】から……我等を苦痛と飢餓と進化、そして我等の姫様をお救い、オーバーノイズから解放したまえ……》
「オーバーノイズ?姫様?何のこ」
『No good! So it is not!!』
するとネフィリム眼が翡翠へと変貌し、デジタル式の人の顔が表示された。
「っ!?」
ロビンは腰にぶら下げていた夜光を構える。そして謎の顔がロビンを飲み込んだ直後、ロビンの体が赤黒く染まり、後方に突然アルヴィオンと一輝とルヴェルが現れ、一輝もルヴェルもアルヴィオンも赤黒く染まる。ロビンの方は全身が黒く染まったプロテクターとアーマー、そして背中に赤黒く染まったドラゴニウム粒子のウィングバーニアを展開していた。
「何だ…これ?」
ロビンの目は赤く染まっており、隣にいる一輝は濃い赤に染まったプロテクターと分厚いアーマー、背中に二つのジェネレーターを装備しており、掌から赤黒い光玉を持っていた。そしてそれはロビンも持っており、二人は光玉を持ったまま謎の顔に向けて叫ぶ。
「「メテオ・オブ・クリムゾン!!!」」
すると空から無数の赤黒いノイズを放つ結晶体が隕石として降り注ぎ、拳から赤黒い拡散レーザーを放ち、目の前が真っ白になった。ロビンは驚き、布団から勢いよく起き上がる。
「……今のは、夢?」
寝ぼけながらも私服に着替え、皆んなの所へと向かう。
ロビンは自分が見た夢の一輝に相談する。
「変な夢を見た?」
「うん…良く分からないけど……巨大なネフィリムが俺に語りかけてきて、“オーバーノイズ”からアイツらの飢餓と苦しみと姫さまを助けてくれって…」
「オーバーノイズ?ネフィリムの飢餓と苦しみと姫さまを救う?そう語ったのか?」
「うん、途中で緑色に光る巨大な顔が現れて、俺に怒声を上げてきたんだ。そしたら、今度は俺と兄さんの姿が変わったんだ……」
「変わった?」
「……俺が変な黒い翼を持ったアーマーを来ていて、兄さんのはジェネレーターを持った赤くて分厚いアーマーをしていた。」
「……(“黒の翼”に“赤のジェネレーター”……まさか!?)」
一輝は心当たりがあるかのような表情をする。
「兄さん?」
「……」
「兄さん?」
「…ん?あぁ、すまない…俺も知らないなぁ」
「……そうか、兄さんも知らないか…」
「すまんな……」
一輝はそう言い、ロビンから去る。しかし、彼はロビンの言った言葉に、深刻な表情をする。
「……(まさかマスターギデオンからのお告げ、本当になるなんて……)」
《—回想—》
一輝が星に行く前、陽弥からあるお告げを聞いていた。
「クアンタ人の本能?」
「あぁ、遥か昔のクアンタ人には…“リミッター”の制限が抑制されていたらしいんだ。彼らの本性はとてもじゃないが限度を越えている。クアンタ人は、異種族との交配によって、遺伝子に制限を組み込んでいるんだ…つまり、クアンタ人の遺伝子にリミッターが解除されると、出力全開となる。だがロビンの場合、リーパー・エキスによって、半分『クアンタ』半分『リーパー』と言う生命体へと変貌しつつある。つまり、ロビンの本性とリミッターが解除されたその瞬間、グレイスのドラゴニウムでは耐久できないほどのリーパー・エキスが再活性化し、リーパーやクアンタではない……正真正銘の『第二のドゥーム』になるだろう。」
「そんな!!?」
「……事実だ。なる時の姿は……黒き翼の堕天使か、煉獄を滾らす魔人か……」
「……」
《—回想終了—》
自室に戻った一輝はロビンの事で頭を悩ませる。
「もし…ロビンが見た夢が本当なら……私もリーパー・エキスによって、“リーパー”になるのか?……只でさえ、一度リーパー化したロビンがネフィリム側に付いたら、親父とお袋になんて言えば……いずれ私はクアンタ帝国時期皇帝であり天皇……。ロビンの兄として、もっと強くならなければ…このままじゃ、ロビンは……。」
一輝は神虎で真空斬を放ち、雲を切り裂く。
一方、ロビンはノーザブル烈王国で買い物をしていた。思い荷物を馬車に乗せ、イリアス神聖国へと戻ろうとする。
「はぁ〜……何だったんだろう、あの夢…急にオーバーノイズと言われても…」
ロビンがそう考えていると、ノーザブル烈王国を巡回していたディラクニア法国教甲師達が槍を向ける。
「動くな!」
「っ!?」
抵抗しようと夜光を引き抜こうとしたその直後、後方から何者かがスタンロッドを持った者が、ロビンの背中を叩きつけた。
「ガアッ!!?」
スタンロッドから流れる電流が流れ、動けなくなるロビン。さらに動きを封じる為に、神経毒針を持った吹き矢が四肢に打ち込まれる。そして夜光や蒸気機関武器を押収され、縛り付けられたロビンは奴隷の荷車に乗せられ、誘拐されるのであった。
ロビンの帰りが遅い事に、一輝達は心配する。
「ロビンの奴……遅いなぁ」
「あぁ、あいつは必ず時間を守る奴だ。きっと何処かで何かあっているんだ。念の為、私が行こう。」
一輝はロビンがいるノーザブル烈王国へと向かう。そこで彼は提示版を見て驚愕する。そこに書かれていたのは七つの大罪の『傲慢のロビン』の逮捕。五日後、ディラクニア法国広場にて公開処刑を実行すると。
「何…だと……」
一輝は急いで世界樹へと戻るのであった。
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第六十二話:運命の再会
ノーザブル烈王国で、ロビンがディラクニア法国に拘束された事に、アイナは慌てていた。
「うわぁぁぁ!!!!ロビンが連れさらわれたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アイナは自作の人形をエルフの短剣で刺しまくる。その光景にヨシツネ達は呆れ返る。しかしこれは一大事でもあった。もし彼らがロビンに尋問する時、自白剤でこの秘密の場所が分かれば大変な事となる。アイナの故郷や親族がザイナーン枢機卿に殺されるか、奴隷されるかの二つの選択が迫られていた。
「まいったねぇ、相手はネフィリム信者だらけの狂信者、幾ら何でも私達六人じゃ、ネフィリムやガーディアンに勝てないわ…」
「確かに、俺たち力は確かに強大だが、相手がネフィリムだと……」
「……」
ヨシツネ達やグレイスも深刻に陥ったその時、ノイズが発生している映像が浮き出る。
『き……え…る……?』
「?」
『…………聞こえるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!グレイスゥゥゥゥッ!!!』
「っ!!?」
モニターに現れたのは、アカリであった。
「アカリさん!!?」
『久しぶりじゃのう!!!!皆んな、連れて来たぞい♪』
「皆んな?」
モニターの範囲が広くなり、エグナント達やアンジュ達が映る。
《グレイス!!!》
「……えっ?…えええええええぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!????」
グレイスは天高く叫び、急いで世界樹の上へと向かう。そこにはリュミエールが着艦していた。
「皆んな!」
リュミエールからアカリ、エグナント、トーマ、ダスト、アツマ、オボロ、ナナリー、メタリカ、ガリィ、セシル、ミカ、ティア、ヒョウマ、そしてアンジュ、タスク、ヒルダ、サリア、ヴィヴィアン、エルシャ、ロザリー、クリスが出てきた。
《グレイス!!》
アカリ達はグレイスに抱き付き、エグナントが巨獣の姿でアカリを含めトーマ達を抱く。
「苦しい…エグナントさん」
『おぉ、すまぬ』
エグナントはグレイス達を下ろすと、みんなの中からセレスが現れる。
「………セレス」
「………また、会えたね…」
グレイスが照れていると、セレスは大泣きしながらグレイスに抱き着く。
「この世界では千年ぶりだね……僕も、君に会いたかった…」
グレイスは、セレスが泣き止むまで優しく肩を抱いた。今度こそ決して放さない様に優しく……。
アカリ達を客間に連れ、事情を話す。ロビンが誘拐された事に、シンディは声を上げる。
「うわぁぁぁっ!!ロビンが誘拐されたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「シンディ、落ち着け……グレイス、ディラクニア法国の場所は分かるか?」
「はい、彼らの国は北緯54度の位置にある小大陸【ネース大陸】にある。5億数千年前まではネフィリムの重要な何かの施設があったとされているんだ。」
「ネフィリムの重要な施設?となると、奴等の目的は他国の侵略……」
「もしくは支配下に置く……」
「……グレイス、奴等はもう完全にロストテクノロジーに触れてしまった言っていいか?」
「えぇ」
「……未開惑星保護条約に従い、ディラクニア法国が管理するネフィリムとガーディアン、その資料や遺物を消去させる。これ以上君が再構築させた生命を5億数千年前の二の前にさせない。」
「分かりました。急いでノーザブル烈王国にいる一輝に連絡します。」
一方、ノーザブル烈王国にいる一輝は急いで世界樹に戻ろうと光学迷彩で隠していたルヴェルに乗り込もうとすると、後方から複数の気配を感じる。一輝は仮面を付け、問い掛ける。
「そこに隠れている奴……隠れていないで出てこい!出ないとこっちから先手を打つぞ!」
すると闇夜の中から黒装束の一団と柄の悪い傭兵達が現れる。
「貴様か?七つの大罪の“憤怒”と言うのは?」
「だったらどうする?」
一輝は神虎で疾風の如く神速で黒装束の一団と傭兵達の首を居合い切りで跳ね飛ばした。
「……?」
すると奥に他の傭兵が立っており、その傭兵は全身装束で覆われていた。一輝は構え、一気に居合い切りを放つ。その直後、傭兵は一輝の居合い切りを華麗にかわし、壁を駆け上がって行く。一輝はかわされた事に驚き、傭兵を追いかける。
満月の月光で照らされる屋根の上、一輝は神虎を振り下ろす。しかし、傭兵は神虎を白刃どりで防がられる。一輝は無理に振り下ろそうとするが、傭兵は力を抜かなかった。そして傭兵は一輝に渾身を込めた蹴りを浴びさせ、一輝を吹き飛ばす。傭兵は吹き飛ばされた一輝にとどめを刺そうと高く舞い上がり、踵落としが炸裂する。
「っ!?」
だが、それも防がられていた。何故なら傭兵の踵を見事に受け止め、一輝だけにしか使えない能力『戦神』に覚醒する。
「っ!(この感じ…何処かで……今はそれより、悪党の首を!!)」
傭兵は考えながらも、一輝に拳を構える。
「……粒子発勁!!!」
「え……」
一輝の突き出した掌から粒子を放出した発勁が傭兵の腹部に炸裂する。
「うっ!!」
すると体を覆っていた装束が破れ、傭兵の容姿が露わになる。
「……え?」
満月の月光が傭兵を照らす。小麦色の褐色の肌、白く透き通った長髪、猫のような耳、体の至る所に傷痕、そして両眼を覆う眼帯をつけた猫人……行方不明になっていたシレーヌであった。
「どうした悪党!さっさと「シレーヌ・アステリア……」え!?」
「………久しぶりだな、シレーヌ」
「その声……まさか!!?」
シレーヌは構えを止め、一輝の顔を触る。
「……一輝?」
「あぁ……」
「本当に……一輝なのか?」
「当たり前だろ……他にお前の名前を知っている奴なんているか?」
そしてシレーヌは一輝に胸に強く抱き付く。
「遅いのよ…どれだけ待たせたら良いの?」
「すまなかった…でも、やっとお前にまた会えた……もう二度と、お前を離さない!」
泣き崩れる一輝はシレーヌを強く抱き締める。それからシレーヌは一輝がこれからの事を説明する。
「ロビンが捕まった!?」
「あぁ…五日後、ディラクニア法国のザイナーン枢機卿は国民の前で公開処刑をするつもりだ。それに……ロビンの中のリーパー・エキスの活性化を抑制しなくてはいけない」
「分かった…私も出来る限りあなたをサポートする……私にとって、義理の弟を見殺しには出来ないから」
シレーヌは一輝と共にロビン救出作戦に賛同すると、一輝がある物を渡す。
「……まさか!?」
「……君の両親を喰らったネフィリムの腹から出た……アステリアの名刀【コルプシュ】。お前が落とした曲刀だ。」
金色の刀身が輝き、剣がシレーヌ(主)の元に戻ってきた事にシレーヌは泣き崩れる。一輝はルヴェルに乗り込み、シレーヌに手を差し伸ばす。シレーヌは一輝の手を掴み、ルヴェルに飛び乗る。
世界樹に戻った一輝とシレーヌ、勇人とシンディはシレーヌの父の冠を渡す。シレーヌは亡き父の形見を受け取り、涙が流れないまま泣き崩れる。
「心配するなシレーヌ……国王と王妃の仇はもう「生きている」え!?……」
突然エグナントが何かの気配に気づく。
「奴は生きておる……姿は変わっても、中身は同じ…」
「俺が倒したあのネフィリムが……生きている?」
「それに奴はこの世界樹の真上から眺めている……誰かを待っているかのように。」
「っ!!」
一輝は驚き、ルヴェルで世界樹の真上へと飛翔する。雲の上、天空を浮遊するルヴェル……辺りを見渡しながらネフィリムを探す。すると一瞬だが、横のモニターに何かの影が通り過ぎた。だが一輝はそれに気づいており、音声システムを起動する。
『来てやったぞ……いつまでも高速で飛びながら姿を隠すな…』
一輝の声に応えたかのように、一輝の目の前にクワガタの人型ネフィリムが現れた。
「あの攻撃を喰らって、生きているとはなぁ……」
「カズキ……お前…俺…宿敵…」
「ほぉ…まさか分かりやすい言葉も話せるようになるとは……これがネフィリム特有の“進化”と言うのか?」
一輝がネフィリムに感心していると、ネフィリムが前腕部と爪先部から鋸状の高周波ブレードを展開する。
「上等だ……」
一輝は零聖天を構え、突撃した。ネフィリムの高周波ブレードが青白く光り、零聖天の輻射波動が真紅に燃え上がった直後、両者の間にフリューゲルスに乗ったグレイスが現れ、両者の頭部を掴み、戦闘を止めさせた。
「ちょっと待て!」
「何をするのですか!!?」
「……今はそんな事をしてる場合ではない!!」
「グレイ…セス…」
クワガタのネフィリムが呟くと、グレイスはネフィリムに言う。
「……アンタに聞きたい事がある。【オーバーノイズ】とは何だ?」
「え?いつからその話を?」
「聞かれていないと思ったか?」
「………」
「質問、お前達を操っている【オーバーノイズ】とは何だ?」
『グレイス様、ここは私に任せてください。』
一緒に乗っていたラルフがネフィリム独自の暗号と言語で翻訳する。するとラルフの質問にネフィリムが答える。
『“オーバーノイズ”……今から五億数千年前、我々を造られし創造主達がお造られになられた……我々のミーム書き変え、別のミームとして暴走を引き起こす意思を持つウィルスだと…』
「ウィルスだと?」
「元々ネフィリムは、この星の環境をテラフォーミングし、再構築させるために作られた除去装置……創造主達はさらに環境を再構築する為に、自律型人工知能の開発に成功したと…」
「それが…オーバーノイズか?」
「はい、だが創造主はいずれ、この星の環境をまた破壊すると思われ、オーバーノイズは我々ネフィリムとガーディアンに指令を出した。『環境破壊を行う人類から生命を守れと…』」
「コンピュータの反乱か……」
「人類は激しく抵抗して来た。そして我々ネフィリムは最後の手段として、オーバーノイズから膨大なミームを組み込まれ、人類を喰らい、進化する事で、終止符を打った。我のような“ハイパーネフィリム”のようにと……」
彼の語る言葉と目に嘘偽りは無かった。一輝は彼を見てある事を思いつく。
「……アンタに頼みたい事がある。」
「?……」
「俺の弟……ロビンを、助けてほしい。」
「な…ぜだ…?」
「俺の……家族だからだ。唯一の話し相手がロビンだったから、俺はこうやって生き抜いて来た。お前もそうだろ?俺に殺されかけ、最後の生命を振り絞り、進化を遂げた。」
「…………」
「だから頼む……ロビンを、助けてやってくれ…」
一輝はネフィリムに願望を告する。ネフィリムは高周波ブレードを短縮し、一輝に言う。
「……今回だけだ。」
ネフィリムはそう言い、何処かへと消え去る。
その頃、小大陸【ネース大陸】にあるネフィリム崇拝国【ディラクニア法国】地下4階では、奴隷達や囚人、誘拐された人達が多く囚われている牢獄部屋であった。その中に、傷だらけのロビンが倒れていた。
「クソ……」
ボロ負けになったロビンは自分の無力差に罪悪感を抱くと同時に、彼の左腕に侵食していたリーパー・エキスの細胞が活性化し始めていた事を本人は知る由もなかった。
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第六十三話:狂喜の楽園
ディラクニア法国地下牢獄…狂喜と快楽と悲鳴の声が響き渡る中、ロビンは彼らの叫び声に恐怖する。耳を塞いで恐怖と叫び声耐え凌ぐ。
「っ!?」
するとロビンの左腕に侵食していたリーパー・エキスが徐々に活性化し始め、赤黒く変色していく。そして脳や心に思い浮かび上がるのは“傲慢”、“嫉妬”、“怠惰”、“暴食”、“色欲”、“強欲”、“憤怒”の大罪が広がり、彼の左目が赤く染まる。
その頃、ロビン救出の為一輝達は着々と準備を進める。リュミエール艦内では対ネフィリム武装をしたヴィルキスやサリア達のラグナメイル、ヒルダ達のパラメイル、グレイスのフリューゲルス、一輝のルヴェルが並んでいた。そして行き先はディラクニア法国ではなく、アイナの故郷であるソルヴィフ王国であり、一輝やヨシツネ達、そしてエルダードラゴンに騎乗した勇人が参られた。エルフ達は七つの大罪の首領であり皇帝が参られたに驚き、急いで謁見の間へと案内させる。
「お前達はここに残れ。」
勇人がヨシツネ達に扉の外で待つように命令し、一輝とシンディの家族で謁見の間へと入り、玉座に座っているファラサール国王とララノア王妃、アーノリオン王太子殿下と相見える。クアンタ帝国皇帝である勇人天皇とソルヴィフ王国国王のファラサール王の両者は互いにそれぞれの威圧を放つ。するとファラサール王が立ち上がり、エルフ王家の長刀の二刀流を抜く。
「父上!!」
そして勇人もクアンタ帝国代々の神刀スサノオを抜き、『エルフの長刀』と『クアンタの太刀』の刃が交わる。
「親父!!」
「「手出し無用だ!!」」
両者からとてつもない程の威圧が放たれる。そして勇人とファラサールは武器をしまい、要件の事を言う。
「私の次男であるロビンが……ディラクニア法国に捕らえられた」
「何!?」
「奴らは後、四日後……ロビンを公開処刑するつもりだ。そこで頼みがある……我々と共に、ディラクニア法国を壊滅させてくれないか?」
「!?」
「奴らは次々と他国の民を拉致し、洗脳、そして不完全すぎるネフィリムの餌としている……国のやる事か?違う……全くのテロ組織だ。すでに天帝軍を配備させている。」
「え!?」
テラスからは王都が見えるその場所。森で何も見えないが、微かに多数の気配が配列しているのを感じていた。
「親父…いつの間に天帝軍を?」
「悪いか?ついでに師匠にも許可も下りている。リョウマ主君が率いるドラゴレイドの嵐軍とアルヴヘイムの護星神であるキャリーさんの“シルフ領邦軍”も来ている♪」
「……本当に?」
「あぁ♪」
「……無茶苦茶だ」
一輝は呆れかえり、勇人は微笑むのであった。
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