ラビットハウスの常連プロゲーマー(仮) (そらなり)
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ラビットハウスと常連さん

初めまして、そらなりです。

今回からこの作品を投稿し始めることになりました。アイディアはあったんですけど、きっかけができたので投稿しようと思います。


 俺の名前は吉田将斗(よしだまさと)。落ち着いたゲーム環境が欲しくてこの木組みの家と石畳の街に住んでいる。都会だと結構雑音がうるさくて防音工事をするかそれが付いている場所に引っ越すかしないといけないんだけどこれが結構馬鹿にならない費用なんだよな……。そこで俺が考えたのは元から静かな環境でやればいいということ。プロゲーマーになるには同じチームの人と共同で生活してチームワークを高めるようにするんだけど、俺たちのチームは一度離れた状態で各々個人技を磨いてから月何度かのチーム戦をこなし自分に必要な力を身につけていくという方法を取っている。

 

 本気で究めようとしているゲームジャンルはFPS。敵の足音や銃声を聞きとらないといけないこのゲームには都会の雑音は正直言って邪魔だった。だから俺はこの静かながらもきれいで活気あふれている木組の家と石畳の街に拠点を移したのだ。

 

 今日は月に何回かある大事なチーム戦の反省会。各々違う人にどんな動きをしてほしかったか、どう動けばもっと効率的になったのかをリストアップしてチャットでその反省会を行う。前回の試合は僅差での勝利。もっとどうすれば効率よく勝つことができるのか話し合う必要がある。一番自分の技術に反省するのは負けた試合からだけど、僅差での勝利もその試合から考察をしていかないと自分の技術向上に繋がらないから決して欠かすことのできないものだ。

 

 カランコロン

 

 俺はいつもチャットするときに来ている喫茶店『ラビットハウス』にやってきた。この喫茶店は少し古臭さを感じさせながらも落ち着く雰囲気を醸し出しているとても居心地のいい店だった。

 店内に入ると俺を出迎えるアルバイトをするにはあと数年必要な女の子がやってきた。頭には白いもふもふしたものを乗せ、銀髪をたなびかせながらも銀のトレイを胸に抱えながら少女は

 

「いらっしゃいませ。1名様でよろしいですか?」

 

 そうやって接客をしてきた。俺はその少女の問いに無言でうなずく。

 

「それではこちらにどうぞ」

 

 週に1回は必ず通っているこの喫茶店ではどうやら常連扱いになったみたいでいつも座っている席に何も言わずに通してくれる。今は春休み期間……といっても、もうそろそろ学校が始まる時期だからあまり人は来てないみたい。……というか俺以外客はいなかった。

 

「ご注文はどうしますか?」

 

「じゃあいつものカプチーノお願い」

 

「わかりました」

 

 この子はこの店の看板娘の香風智乃(かふうちの)ちゃん。この時間は喫茶店をしているこの店には後1人従業員がいたんだけど、どうやらその子は今日いないみたい。お父さんがいるからと言ってこの店を女の子2人で回してるなんてすごいな……。っとパソコンパソコン。

 俺はコーヒーが来る前にチャットの準備を始める。ネットには自分の持ってきた機器を使って接続することに成功。とこれからチャットを始めるぞとなるとチノちゃんがコーヒーカップをもって俺の席にやってくる。コーヒーだけだし、客も俺だけしかいないからそれは早よな。

 

 白いコーヒーカップをテーブルの上に置く。うんいつも通りのカプチーノだ。

 

「お待たせしました。カプチーノです」

 

「ありがとう。なんか、暇そうだね」

 

 でもいつもと違うのがこの店内に誰もいないということ。俺とチノちゃんしかいないこの店内は言い方は悪いかもしれないけど異常なものだった。店内には2人の声と外からかすかに聞こえる生活音程度。静かで心地のいい時間だった。

 

「いつもはもうちょっと忙しいんですけど、今日は客入りが悪いみたいです」

 

 俺の言葉に対してチノちゃんがそう答える。春休みが終わりに近づいてきて帰省していた人とかが帰ってきているころだと疲れて外出しなくなるのかな?

 

「そう。ちょっとカタカタ煩いと思うけどごめんね?」

 

 まぁでも、俺のやることは変わらない。反省会をしないといけないのだ。強くなるために。

 

「いつも何をしてるんですか?」

 

 毎回この店に来るときにはパソコンを持参して何かをしているという認識だったんだろう。チノちゃんが何をしていたのか興味があったみたい。大体基本的にオーダーの時くらいしか話せないからこうやって長く話せるのはちょっとだけ嬉しい。チノちゃんが可愛いっていうのもあるけど、純粋に自分のやっていることに興味を持ってくれているということが分かっただけでも十分すぎる喜びだった。

 

 その問いに関して、ゲームをよくやるわけではないだろうチノちゃんに向かって分かりやすい例えをさがしながら答える。反省会って言ってもゲームでってのはなかなか聞かないだろうし……あ!

 

「うーん。簡単に言うとゲームの作戦会議かな?」

 

 そう。作戦会議だ。反省して次回以降の作戦に組み込むわけだし、間違ってないしほとんど正解に近い答えだ。さすがにゲームのジャンルまで詳しく説明してしまうときっとチノちゃんもわからないだろうし。

 

「ゲーム?」

 

 けどどうやらチノちゃんはゲームというものをやったことがないみたいだ。確かチノちゃんは中学生だったっけ? 家のお手伝いでこうして働いてたり、学校はもちろんゲーム機なんて持って行けないだろう。だったらあまりやる時間はないか。

 

「そう。ゲーム。もしかしてチノちゃんやったことない?」

 

 そんな考えに至った俺はチノちゃんに聞いてみることにした。でも意外だな。これくらいの年齢になるとゲームの1回や2回やってると思ってたけど。

 

「はい。でも、ちょっと興味はあります」

 

 俺の考え通りチノちゃんはゲームをしたことがなかったみたい。でも興味を持ってくれてるのか~。じゃあやることは1つかな。

 

「そうなんだ。じゃあ今度もってくるよ。簡単で面白いゲームを」

 

 ゲームをやりすぎて勉強ができなくなったりこうしてお手伝いをしなくなっちゃうのは問題だけど、適度ならいい娯楽になる。それに同じゲームをしている人が増えるのは正直嬉しい。

 

「本当ですかっ! じゃあお願いします」

 

 俺のその提案にチノちゃんは目を輝かせながらクリスマスにプレゼントを心待ちにしている子供みたいなテンションで受け入れてくれた。

 あ、今はチャットしてるけどブラインドタッチできるからちゃんとチノちゃんの目を見て話しているよ。

 

「わかったよ。じゃあ今度もってくるから楽しみにしててね」

 

 あ~、ゲームを一緒になる仲間ができるのはやっぱうれしいや! 何をもってこよう? ポケットなモンスターの作品か、赤の兄と緑の弟が桃の姫を助けに行くやつにしようかな? 今からもうすでにワクワクしている自分がいた。

 あ、チャットの話が変わった。……何々? それぞれのプレイで他のチームメイトに対して思ったことを書き込んでいこう? あ~、そこから欠点とかを見つけ出そうってことね。

 

「ごめんチノちゃん。ちょっとこっちに集中するね」

 

 そうやってちょっとだけパソコンのほうに意識を集中させる。自分に対してどういったことを言われるのかも気にしないといけないし、どうしてほしいのかも明確に伝えないといけないから片手間になんてできない。

 

 カランコロン

 

 チノちゃんに俺がそう告げるとほぼ同時に、俺がここに入ってきたときと同じ音が店内に響き渡った。つまりは新しいお客が来たということだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

 チノちゃんは接客をするために入り口のほうに店のドアのほうを向く。

 

「うっさぎ―、うっさぎー」

 

 そこには鼻歌交じりにうさぎを探しているであろう声が聞こえてくる。俺は自分に話しかけられているものじゃないからチャットのほうに集中しているけど答えを言うと、ずっとチノちゃんの頭の上に乗っているのがこの店にいる唯一のうさぎなんだけどね。チラッとだけその女の子のこと見てみたけど高校生くらいで髪の毛は明るめの茶髪。目をキラキラさせながらうさぎを探しているのが分かった。

 

「うさぎがいない……? うさぎがいない……!?」

 

 けど店内を見渡してもこの子が探しているうさぎはいないよ。だからテーブルの下探しても無駄なんだよ。まだ書き込みが来ないし、自分の番じゃないから見てるんだけど本当にうさぎに会いたかったんだろうな……

 

「うさぎがいない!!」

 

 探しても探してもうさぎが見つからないことに突然声を張り上げ抗議する彼女。そんな彼女に対して少し驚くチノちゃんだけど、すぐに平常心を取り戻して自分の口を手に持っているトレイで隠す。……なんとなく考えていることが分かるよ。『なんだこの客……』とでも思っているんでしょ。だって俺ですらそう思ったんだから、相手をしているチノちゃんが思わないわけはないよね。

 

 少しだけ残念そうにしているお客さんは俺の座っている席の前のテーブルに腰かけた。

 彼女はチノちゃんの頭上にのっている白い物体に気が付いたようだ。そうだよ、それがうさぎだよ。

 

「もじゃもじゃ?」

 

 わかってなかった~!!! 確かにね、普通のうさぎとはちがうよ? でもね! ティッピーさんだって立派なうさぎなんだよ! あ、ティッピーさんっていうのはチノちゃんの頭の上に乗っているアンゴラウサギのことね。

 

「はぁ? これはティッピーです。一応うさぎです」

 

 ちょっとティッピーさんをもじゃもじゃ呼ばわりされてチノちゃんちょっとお怒りモードだよ!? 声のトーンがさっきと若干低くなってるよ! あまり表に出さない分気が付くのも直すのも苦労するよ!?

 

「あ~うさぎ!?」

 

 チノちゃんにウサギと言われた瞬間より目が離せなくなったみたい。だけどずっとそうしているわけにもいかず、チノちゃんは仕事を始める。

 

「あの、ご注文は?」

 

 うん。まったく怒りの色が見えないね。でも結構チノちゃん怒らせると怖いんだよ……。あれ、カップを持つ手が震えてるな……。早く! 早くこの場をどうにかして! チャットに集中できれば変わるかもしれないから早く! チームメイトたちよ!

 

「じゃあそのうさぎさん!」

 

 そんなことを考えていると彼女はティッピーさんを指さして答える。

 

 しかし、この店に絶対に必要なティッピーさんを売るわけにはいかない。というか喫茶店にきてうさぎを注文する女の子って……。

 

「非売品です」

 

 あ~ぁ……チノちゃんの声に怒りの色が見え始めたよ。でもそんなことはつゆ知らずチノちゃんの言葉にがっくりと肩を落とし泣き出す。テーブルに突っ伏してまで。

 

「せ、せめて……せめてモフモフさせて!!」

 

 余程残念だったみたいで落ち込んでいたけどすぐに元気になって、座っていた椅子から勢いよく立ち上がりチノちゃんに駆け寄る。

 

「コーヒー1杯で1回です」

 

 ……コーヒーいっぱいで1回!? そんなに怒ってたのチノちゃん!? この店のコーヒー無くなっちゃうよ!? 大丈夫!?

 

 俺のそんな不安はもちろん通じるわけでもなく、チノちゃんたちのやり取りは続く。

 

「じゃあ3杯!」

 

 指を3つ突き出してそれをチノちゃんに見せる彼女。あ~1杯ってことね。なんだ、考えすぎか……。あ、チノちゃんのほほが少しだけ赤くなってる。嬉しそう~。ほほえま~。

 

 チノちゃんはコーヒーの種類に関しては何も言われなかったので、マスターのお好み的な感じでやるのだろう。カウンターで豆を挽き、1からコーヒーを作る。3つだからそれなりに時間はかかるけど女の子のほうもティッピーさんに触れるということで辛抱強く待っているみたい。

 今のうちにチャットチャット……。

 

 あ、あ~。確かにあの時ツッコむんじゃなくてグレ投げておけばよかったか……。手持ちが少なかったから使うのをためらったけど、大丈夫だったっぽいな。了解っと。それとあれか、もう少しみんなには裏取りのほうを意識してほしいっと。これであとは反応を待つか。

 

 そうしているとチノちゃんが3つのコーヒーカップを女の子のテーブルにもってきていた。3つのコーヒーが並ぶ所を見た女の子はチノちゃんのほうを向いて

 

「コーヒー3杯頼んだから3回触る権利を手に入れたよー!」

 

 ティッピーさんに向けて手を出し始める。

 

 が、

 

「冷める前に飲んでください」

 

 というチノちゃんの冷静かつ、当たり前の言葉で遮られてしまう。

 

「あぅ……そっそうだったね!」

 

 そして彼女は一番右にあるコーヒーに手を伸ばす。

 

 手に取ったカップを鼻の近くにもってきて香りを楽しもうとする。ワインと一緒でコーヒーにも香りを楽しむということは確かにある。

 だけど……、

 

「この上品な香り~、これがブルーマウンテンかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ。コロンビアです」

 

 外した。そして外した彼女をジト目で見つめるチノちゃん。それに負けじと次は左のカップを1口飲んでみる彼女。……にしてもブラックでなんてすごいね。

 

「この酸味! キリマンジャロだね!」

 

 明らかに決め顔で言っている。もう、"キリッ"て出てきそうなくらいの決め顔だった。けど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがブルーマウンテンです」

 

 またハズレ。チノちゃんから先ほどと同じような視線が女の子を襲う。

 

 最後に女の子はテーブルの真ん中にある一番遠いカップを手に取った。一口飲んで、他のコーヒーを飲んだ時とは違いリラックスしたように感じる。

 

「安心する味~! これインスタントの……」

 

「うちのオリジナルブレンドです」

 

 安心するって褒めたそばから引き出した答えがそれかよ!? 一番やっちゃいけない間違いだよ! 店のコーヒーでインスタントなわけないでしょ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外しまくった彼女はもう一度今度はコロンビアを手に持ち一口飲んでみる。

 

「……え? うん、全部おいしい!」

 

 そしてそう答えた。まぁそうなのだ。ここのコーヒーはおいしい。一から作っているし、豆も酸化していない。本来の味が引き出されているコーヒーを味わえるのはこの店くらいなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3つのコーヒーを飲んだ女の子が先ほどまでチノちゃんの頭の上にいたティッピーさんを抱きかかえている。

 

「はぁ~……。もふもふ気持ちい~」

 

 あ、何かに気が付いて口元拭いてる……。あ、涎か。

 

『ノォォォォォォォォ!!』

 

 静かな店内に野太い声が響き渡る。俺でもチノちゃんでも、彼女でもないましてや外から聞こえる声でもない。そんな声が聞こえてきた。

 

「あれ? 今このうさぎ、叫ばなかった?」

 

 あ、これもしかしてバレる? ティッピーさん、もう少し我慢しようよ……難しかったかもしれないけど。

 

「気のせいです……」

 

 チノちゃんも誤魔化すのに結構必死だよ。鼻から下トレイで隠しちゃってるじゃん。

 

「それにしてもこの感触癖になるなぁ~」

 

 ティッピーさんに自分のほほをすりすりする女の子。そんな姿を見て彼女に嫉妬してしまったのかチノちゃんが頬を膨らませる。

 

「もういいですか?」

 

 でもそれは聞こえてなかったみたいでずっとティッピーさんを撫で繰り回している。

 

 そろそろティッピーさんも我慢の限界に達するだろう。そう思っていると急にティッピーさんが女の子の胸から逃げ出そうとする。

 

『えぇい!! 早く放せ、この小娘が!!』

 

 あ……今度は誤魔化しがきかないぞ……。どうするんだ?

 

「なんかこの子にダンディーな声で拒絶されたんだけど……」

 

 やっぱり気が付いちゃったよ! 女の子とずっとパソコンに向かい合ってる俺しかいないこの店内でそんな声したらどうしてもわかっちゃうよね。

 

「私の腹話術です」

 

「えっ!?」

 

 あ~。よくトレイで口元隠すもんね。もしかしてこういう時のために癖として身につけたとかかな? って考えすぎか。

 

「早くコーヒー全部飲んでください」

 

 ちょっと困り顔で尋ねるチノちゃん。あ、話題転換して誤魔化す気なのね。じゃあ……

 

「チノちゃーん! カプチーノのお替り頂戴」

 

 俺も便乗しますか。あまりバレたくないことだろうし。でも結論として言わせてもらえば、このラビットハウスのマスコットでもあるティッピーさんはしゃべるのだ。なぜかと言われるとそれは今でもそんなにわかっていないけど、ティッピーさんの正体は……

 

 まぁ、今後分かっていくよね!

 

 




ごちうさはアニメしか見てない、ゲームは好きだけどFPSはやったことのない作者ですが話を書くために現在アニメを見返しています。

これから映画が公開されるそうで友人も大喜び見たいです。また少し遠出しないといけないのかな?

最後にすごく私的なことを言います。当選祈願!



それでは、次回もお楽しみに!


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ラビットハウスに新人誕生!?

どうも、そらなりです。

実はクロスオーバーじゃない作品を投稿するのはこれが初めてだったりしてます。結構苦戦してます。オリジナルパートは本当に0から作らないといけないので。

もしかしたら口調が変かもしれませんがそれはこれからもっと作品を知っていけたらなと思ってますので、今後に期待を。としか言えませんが長い目で見てくれればと思います。

それでは物語の始まり始まり、です!


 今は俺と店員であるチノちゃん、そして今日初めてこのラビットハウスに訪れたお客の3人だけだった。そのせいか落ち着いた雰囲気がより感じて自分の作業がはかどる。

……ごめんね。多分カタカタ煩かったりするかもしれない。今チームメイトとチャットしてるんだよね。

 反省会自体はもうそろそろ終わりそうで、もう自分にできること、言えることは全部伝えたから、あとはアドバイスとかがないかどうかを聞いているだけ。反応はしっかりとしないとね。伝わってるのかどうかわからないし。

 

 チノちゃんが持ってきた2杯目のカプチーノを飲みながら優雅にチャットを楽しんでいると、落ち着いたであろうお客の女の子がチノちゃんと会話をしていた。

 

「私、春からこの街の学校に通うことになったの」

 

 へぇ。じゃあこの街に引っ越して来たってことか。なんだろ? なんかこの2人を目で追っちゃうんだよな。どこか気になるというかなんというか。

 

「はぁ?」

 

 でもチノちゃんは違ったみたい。まぁ急に話し始めたからね。何の脈絡もなかったからどう反応すればいいのかわからないと言ったところか? いや、ここの店員をやってるんだからそれはないか。それだけだとこれからどういう話になるかわからないからとりあえず反応だけしてみせたって感じかな。

 

 で、その話の続きは何だろな?

 

「でも下宿先探してたら迷子になっちゃって」

 

 迷子だったの……!? もしかしてこの店に来た時のテンションでいたとかだったら迷子にもなるか。それになんか行き当たりばったりな雰囲気も感じるから初めての土地だと迷子になりそうだね。

 

「下宿って?」

 

 それに気になるのは下宿という単語。下宿とは家賃を支払って他人の家に住まわせてもらうこと。そこまでしてここの学校に来たかったのかと思うとかなり本気で目指していたように感じられる。

 

「道を聞くついでに休憩しようと思ったけど……。香風さんちってこの近くのはずなんだけど、知ってる? 香る風って書くんだけど」

 

 下宿ということは他人の家である。そのことから人の名前が気になるところ。確かに喫茶店というものは休憩するにも話を聞くにも適した場所だろう。でもね。その苗字の人は……

 

「香風はうちです」

 

 目の前にいるよ。この店は香風家が経営している喫茶店。だからその娘さんであるチノちゃんも香風ということになる。

 

 目の前にはずっと探していた人が、場所が知らず知らずにうちに出会えていたということに気が付いた彼女は座っている席から急に立ちあがった。

 

「え!? すごい! これは偶然を通り越して運命だよ!」

 

 そしてチノちゃんに近づき手を取ってブンブンと上下に振る。勢いが良すぎてチノちゃんの体が少し上下に揺れているところを見ると……可愛いな。

 

 そんな中でも冷静なチノちゃん。怒っているというわけではないようだ。

 

「私はチノです。ここのマスターの孫です」

 

 そう。このチノちゃんはラビットハウスを始めたマスターのお孫さん。マスターの息子さんであり、チノちゃんのお父さんと2人でこの店の経営をしている。まぁ、バイトの子がいるんだけどね。

 

 それはともかく、チノちゃんの名前が分かった女の子は自分も挨拶を始める。

 

「私はココアだよ。よろしくね! チノちゃん!」

 

 この女の子の名前はココアちゃんというみたい。苗字はわからなかったからほかに呼びようがない……。結構女の子をちゃん付けで呼ぶの恥ずかしいんだよな。それに見た目高校生っぽいから余計……。チノちゃんなら子供だからってなるんだけど。あ、呼び捨てはもっと無理。あとさん付けは年下の子にやるのはちょっと……。

 

「はい。ココアさん」

 

 何はともあれ、これでお互い名前が分かった状態になった。他に誰もいないから自然に耳に入って着ちゃうんだよ。声が。

 

「あとは高校の方針でね、下宿させていただく代わりにその家でご奉仕しろって言われるんだよ~」

 

 ご奉仕、だと!? ということはチノちゃんを主人としてそれに尽くすようにこの場所で生活するということか!? メイド服か!? メイド服なのか!?

 

「うちで働くということですね」

 

 興奮している俺の考えをただすかのようにチノちゃんがココアちゃんの言った言葉の本当の意味を理解し、それを言葉にした。……なーんだ。ただここで働くってだけか。……ん?

 

「そうそう」

 

 チノちゃんの言ったことは正しかったみたいでその言葉に首を縦に振るココアちゃん。……これは願ったり叶ったりじゃないか?

 

 そう俺は考えたんだけど、どうやらチノちゃんは違ったみたい。少しだけ考えるようなしぐさを見せた後ココアちゃんのほうをしっかり見て口を開く。

 

「と言っても家事は私一人でもなんとかなってますし、お店も十分に人手が足りてますので何もしなくて結構です」

 

 確かに、今のこの状態を見てもチノちゃんだけで何とか出来ている。家のことも人数が少なければやる仕事も減ってくる。であれば現状で何とかできる状況にあると言える。

 

「いきなりいらない子宣言されちゃった……」

 

 そのチノちゃんの言葉はどんなことでもやってやると思っていたココアちゃんにとってヘッドショットを受けたのと同義だった。目に見えて落ち込んでるよ。

 

 もう見てられないし、俺が思ったこともあるから目の前で2人が話している中でパソコンから一度目を離し、チノちゃんに対して言葉をかける。

 

「人手が足りてるとはいえ、チノちゃん。さすがに今は1人の負担が大きいでしょ? これから休みが明けるともっとお客さん来るよ? それでも大丈夫なの?」

 

 仕事はしっかりできているとはいえ、これから休みが明ければ仕事終わりの休憩に来店する人や、この場所で仕事する人だっている。このあまりお客さんがいない状況になること自体が稀になるだろう。そんな中でチノちゃんともう一人のバイトの子だけでは当然回すのが辛くなってしまう。だったらこの従業員が増える大きいチャンスを見逃すわけにはいかない。

 

「……確かにそうですね。ではお父さんに聞いてみます」

 

 俺の助言はチノちゃんにとって理解できたみたい。良かった。一人に仕事が集中するより分散して早く仕事をしたほうが効率的だし、いざとなった時の保険にもなる。だからこそ、中学生のチノちゃんにばかり仕事の行くような現状から打開するにはいい機会だった。

 チノちゃんのお父さんも話せば絶対にわかってくれるし、これでココアちゃんの学校からの指令もクリアできるし、チノちゃんたちの負担は減るからかなりいいように持って行けたと思う。

 

 仕事ができると決まったココアちゃんはその場に飛んで喜んでいた。けど、やらなくてはいけないことを思い出したみたいで飛び跳ねるのをやめたみたい。

 

「やった! っとその前に挨拶をしたいんだけど、マスターさんは留守?」

 

 あ……、その話題は……。

 

 俺は店の中でチノちゃんと話すことは今まであまりなかったけど、でもマスターとのかかわりは少なからずあった。と言ってもここに通うようになったのは去年からなんだけどね。ここに来る時間もまちまちだったから常連になるまで結構かかったんだよ……。とそんな話は置いておいて実はこの店にもうマスターらしいマスターはいない。

 

 なぜならそれは……、

 

「祖父は去年……」

 

 チノちゃんがそう言葉にすると店内に重苦しい雰囲気が流れる。この後の言葉は誰であっても想像がつくだろう。いないのかと尋ねられた後のこの言葉にはそれだけの重みがあった。

 

 悲しいことが起こったのなんてすぐにわかる。だから、ココアちゃんの脳裏にもよぎっただろう。それからのチノちゃんのことを。

 

「……そっか。今はチノちゃん一人で切り盛りしてるんだね」

 

 ただ、それはさすがに心配しすぎなんだよ。ココアちゃん。だってね……。

 

「いえ。父もいますし、バイトの子がもう一人……」

 

 そう。チノちゃんの周りにはお父さんもいるし、今は見えないけどもう一人のバイトの子に、何よりティッピーさんがいる。何も寂しいことはないんだ。まぁ、多分中学生の子が働いているってだけで充分大変なんだろうと思っちゃうんだよな。

 

 ただチノちゃんの言葉はココアちゃんに届いていなかったみたい。感極まりすぎてないかな?言い終わる前に抱きついちゃってるよ。……うん! 俺得!

 

「私を姉だと思って、何でも言って!」

 

 そのあとにココアちゃんがチノちゃんの肩をもって真剣な表情で見つめあってる。

 

 そして次の瞬間、何を言い出すかと思ったら……

「だからお姉ちゃんって呼んで?」

 

 お姉ちゃんって!? なんで!? なんでそうなったの!? いや、確かに君はこの場所にこれから住むことになるけどね!! でもいきなり姉って過程吹っ飛ばしすぎじゃないですかね!?

 はっ!! いけないいけない……。つい熱くなってしまった。ここはいったんチャットに集中しよう……って終わってる~!! 反応はしてたけどまさかこれで終わりになるとは……。反省点を出し合えたからいいっちゃいいし、後で見直せるから便利といえば便利なんだけど、次の予定決めてないよ!?

 

 もうなんかテンションぶちあがっちゃってるよ! もうこうなったら2人のやる取りをとことん見てやる!

 

「じゃあ……ココアさん」

 

 ココアちゃんが手をつかんでお姉ちゃんと呼んでと言っているのにチノちゃんの呼び方は変わらない。うん、苦手そうだもんね。いや? 照れてるのかな?

 

「お姉ちゃんって呼んで!」

 

 おっと、それでもあきらめないココアちゃん。その諦めの悪さ、嫌いじゃない。いやーゲームやってると諦めちゃうタイミングで悪あがきして勝っちゃうなんてことざらだからね。諦めないことって結構大事なんだよ。

 

 でも、今回の場合は多分無理だよ。これから継続的に言っていけば、仲良くなっていければもしかしたらするかもね。

 

「ココアさん」

 

 ほらね? チノちゃんは呼び方を変えない。まぁ、俺の呼び方は苗字だからココアちゃんに対して結構好意はあると思うからやっぱ続けていかなきゃね。

 

「お姉ちゃんって呼んで!!」

 

 おっと、今もまだ諦めない。もうこれは呼んでくれるまで言い続ける感じだな。多分、本当に呼んでくれる時が来るよ。俺にはわかる。……エスパーじゃないからね? というかここまで必死だと応援したくなるってのが一番の理由かな。

 

「ココアさん。早速働いてください」

 

 ただ、もうこのままペースを合わせるとダメだとチノちゃんが理解したみたいで強行策に出る。まぁ、これからここで働いていくんだし仕事を覚えないとね。

 

「任せて!」

 

 言われたココアちゃんも頼ってくれたと思っているみたいで嬉しそうにチノちゃんの言葉を聞いた。……さっきまで本当に聞かなかったのに。

 

 まぁ、ようやく話が進んだみたいで何より。ってあ、そうか。これからチノちゃんここは慣れないといけないんじゃ……。

 

「今は俺しかいないし行ってきていいよ。これから彼女にあれを渡すんでしょ?」

 

 だってあれはこのフロア内にないから結局上に行かないといけなくなる。お客さんだけを残して従業員が裏に入ってしまうのはあまり褒められたことじゃないけど、今は他の客は俺だけだし、そうしないとチノちゃんも大変そうだから俺はそう提案した。

 

「はい。ではお願いします」

 

 チノちゃんも俺のことを信じてくれているみたいで何よりだ。そう言って俺にお辞儀をしてココアちゃんを連れて階段を昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくするとチノちゃんだけがフロアに戻ってきた。

 

「お待たせしました。ココアさんにリゼさんを紹介してたら少しだけ遅くなってしまいました」

 

 あ、リゼちゃんも来てるんだ。こうやって少しでもかかわっている人なら簡単にちゃん付できるんだよ。ただね、初対面になるとボロボロ。

 

 でもそんなことはどうでもよくて、とりあえずは今まで何もなかったことを報告かな。

 

「大丈夫だよ。って言えばいいのかな? お客さんはまだ来てないから」

 

 まぁ、あまりお店的には良くないんだと思うけど店員がいない間にお客さんが増えてないからこのタイミングだったらよかったのかな。

 

「今だけは助かりました。確かに吉田さんの言う通り人手は少なすぎますね。少しでも多いほうが今は助かりそうです」

 

 それはチノちゃんも同じだったみたいで、少しだけホッとしていた。今のままだとチノちゃんだけしかいない状況で裏にはいるときにこういったことを心配しないといけない。だから人数を増えることは願ったり叶ったりだと言える。

 

「それに、今のままだともし風邪でダウンしたときに困っちゃうでしょ。起こりうる最悪のことを想定するのがゲームでは大事なんだ。それは他のことでも変わらないけどね」

 

 それに、緊急事態が起こった時人手がいれば何とかなる可能性がグッと高まる。やっぱりココアちゃんの参加はかなりお店のためになることだったと思う。

 

「それもそうですね。これからココアさんとリゼさんには豆を持ってきてもらうのでカプチーノはもう少し待ってください」

 

 あ~、そういえば3杯目を頼んでたんだっけ。今まではパソコンしながら飲んでたからちゃんとコーヒーメインで飲みたいんだよね。最低でも1杯は。それにしても今日は飲む量が多いな~。いつもは2杯だけだから、カフェイン、大丈夫かな……。

 

「そうだったね。ティッピーさん、危ないですよ。気を付けてくださいね。チノちゃんが困っちゃいますから」

 

 コーヒーは待つとして、さっきまでのやり取りを見ているとどうしても言いたいことがあったからそれをティッピーさんに向けて話す。

 

『分かっておるわ。しかしいきなりというのはやはりなれないものでの』

 

 ココアに触られた時に聞こえたダンディーな声がまたこの店内に響き渡る。いきなり触られることは動物も嫌う。やっぱり恐怖心とかそういうものがあるからなのかな?

 

 にしても、反応が反応だからチノちゃんも俺と同じことを思っているらしい。

 

「おじいちゃんは少し耐性を付けてください」

 

 だって喋っちゃね……? せめてうさぎの鳴き声で反応すればいいのに。……ってうさぎの鳴き声ってどんなのだっけ?

 

『しょうがないじゃろ……。触られる感覚が今までとは違うんじゃから』

 

 チノちゃんのそう言われたティッピーさんはチノちゃんの腕の中で下を向いていた。かなり落ち込んでいるというか苦労しているというかそんな風に思っているみたい。

 

 まぁそうなる気持ちもわからなくはないんだよな。同じ生物だったとしても人間と動物とでは体の構造が変わってくるし、そうなると敏感なところ、視界が今までと異なって出てくることはある。

 

「人間とうさぎはやっぱ違いますか」

 

 やっぱどこかが違うのかな? そう思って俺はティッピーさんに尋ねてみたんだけど……。

 

「……って! 吉田さんティッピーのこと知ってたんですか!?」

 

 今まで何の気なしに話をしていたチノちゃんが驚きの目で俺を見ていた。あ、言ってなかったんだった。

 

「あ~……。うん。いろいろあってね。それより、えっとココアちゃんだっけ? 来たよ。あ、リゼちゃんも一緒だったんだ」

 

 チノちゃんがいないときにちょっとだけティッピーさんといろいろあったから実は話せますってことは知ってるし、元が人間だったということも知っている。だけどこの話はもう終わりにしないといけない。だってリゼちゃんもココアちゃんも来ちゃったんだもん。

 

「吉田さんじゃないか! またいつもので?」

 

 今日初めてのリゼちゃんは俺がいることの気が付き挨拶をしてくる。リゼちゃんにもカプチーノの人と思われちゃってるみたいだね。まぁ、この店でそれ以外頼んだことないんだけど。

 

「まぁね。あれ? 荷物はそれだけ?」

 

 それよりリゼちゃんの持っているものが気になる。小さい豆の入った袋1つだけ。確かにそれだけでも重そうだけど、リゼちゃんならもっと……。

 

「あ~!! あぁ!! 私ほら、か弱いし!」

 

 か弱いって、確かいつも銃を護身用として持ってなかったっけ? ちょっと興味あったから触らせてもらったけど、あれは貴重な体験だった……。ってそうじゃなくて!

 

「え? いつももっと大きいの何個も……」

 

 そう。もっと大きい袋をもっと持って何なら肩で背負って持ってきていたはず。なのに今回は……?

 

「あ~!! あ~!!」

 

 俺がそういうとリゼちゃんが頬を赤くして俺の声を消そうとしてくる。……そういうことね。後ろにリゼちゃんと同じ袋を苦しそうに持っているココアちゃんがいることに気が付けばどういうことなのかわかった。

 

「そっそれより、ココアは仕事を覚えなきゃだろ! さぁ! 行くぞ!」

 

 この場からいち早く逃げ出したかったんだろうな。リゼちゃんはそう言ってカウンターに豆を補充するついでにココアに仕事を教えるために向かった。

 

「あはは……。頑張ってね。リゼちゃん、ココアちゃん」

 

 これからは大変だよ。リゼちゃんはそのうちぼろを出すと思うし、新しい仕事を覚えるココアちゃんはもっと大変になると思う。だけど、楽しそうにしている彼女たちを見てどこか優しい気持ちになれるこの雰囲気が何だか好きだった。

 

 もしかしたらゲームでイライラしているものを癒すために自分はここに通っているっていうのもあるのかもしれない。これからは新しい人も増えるし、もっとにぎやかで楽しくなりそうだ。

 

 




明日は映画公開ということで、今日は前夜祭的な感じで投稿してみました。

一体どんな感じの物語で映画が展開されていくのか個人的にはすごく楽しみですので見てみたいとは思ってます。(なお時間の問題)

友人が行くっていうなら無理してでも付いていこうかな?(場所的問題)

それでは次回はきっと年末になるでしょう。それまでしばしお待ちください。


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ラビットハウスはもふもふ喫茶?

どうも、そらなりです。

まだ2話しか投稿していなかったはずなのに、なぜかお気に入りが伸び続けていることに驚きを隠せません。

今までの話でアニメと少し違った部分、ほとんど同じだけど主人公がどういった風に見ているのかを感じていただけているのであれば幸いです。

それでは、今回もご注文はお決まりですか?


 店内に戻ってきたココアちゃんとリゼちゃん。ココアちゃんはとにかく仕事を教わらないといけないからこれから少しだけ苦労しそうだな。

 チノちゃんもリゼちゃんを助けるためにカウンターに戻っちゃった。あ、そういえばカプチーノを頼んでたんだっけ。それを作ってくれてもいるみたい。

 

 なんだか、リゼちゃんとココアちゃんの様子を見てると初めてリゼちゃんがここに来た時のことを思い出すな~。あの時は……面白かったな。まぁ、その時はおいおい語るとして今はココアちゃんの様子を見守るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初はどうやら食器洗いをやってるみたいだ。まぁ、最初は何を教えるかっていうのを教える側が決めないといけないから自然と誰でもわかるような仕事をさせるよね。

 食器を洗うだけだし、ココアちゃんは淡々と食器を洗っていった。……あれ? 少し慣れてる?

 

 そんなことを想って観察していると最初にやるべき仕事を思いついたリゼちゃんがメニュー表をココアちゃんに渡す。

 

「ココア、メニュー覚えとけよ」

 

 確かに喫茶店だし、メニューを覚えるのは大事だよね。コーヒーだけでもいろいろな種類があるし、軽食だってそこそこの量があるから覚えないとオーダーができない。オーダーというのは全部紙に書いていたんじゃ時間がかかる。そんなとき、どう略していいのかを考えておかないと後で読んだときにわかんなくなっちゃうし、リゼちゃんの言うことは正しかった。

 

 リゼちゃんからメニューを受け取るココアちゃん。……暗記が苦手だと相当きついんだろな……。

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 この店のメニュー表の特徴は変に飾らずにシンプルに仕上げているということ。メニューの名前と金額。それを種類ごとに並べただけの質素なもの。けど、落ち着いた雰囲気を醸し出しているこの店には十分すぎるメニュー表だった。

 

 けど名前を憶えて、接客する側であるココアちゃんにはそれは少しだけ情報量が少ないものなんだろう。

 

「コーヒーの種類が多くて難しいね……」

 

 そう。このカフェという店はもともと一つの品目を複数提供している。だからコーヒーの種類が多くて混乱をしてしまう。それにコーヒーの見た目は基本同じ。それを覚えるのはかなり骨が折れるだろう。……まぁ、ゲームにおける相性を覚えるのもそうなんだけどね。今何種類あるんだっけ? あのポケットなモンスターのゲームのタイプって。

 

 覚えようという気があればできるんだけど、なかなか難しいよね。その点赤の兄と緑の弟が桃の姫を助けに行くやつは操作が簡単だし、覚えることも少ないから楽なんだよな。……じゃあ今度もってくるのは携帯機用の赤緑ブラザーズにでもしようか。……意外なところで持ってくるゲームが聞こえたな。

 

「そうか? 私は一目で暗記したぞ?」

 

 俺がそんなことを考えているとリゼちゃんがとんでもないことを言い出す。……いや知ってたんだけどね。改めて聞くとやっぱりなんかすごいなって思うわけで。だって瞬間的に記憶できるんだよ!? それさえあればゲームは有利に進められるんだよ!! 知っているのと知らないのとでは天と地の差だからね……。……今度リゼちゃんもゲームに誘ってみようかな?

 

 リゼちゃんが暗記が早いということを聞いたココアちゃんはキラキラした目で尊敬するかのようにリゼちゃんのことを見ていた。

 

「すごい!」

 

 確かにすごいんだよな……。羨ましいともいう。記憶力はないほうではないけどやっぱあることにこしたことはないしな……。って人の才能をうらやむより自分のできることを伸ばしたほうがいいか。適材適所。俺には俺のできることがあるってね。

 

 それに、リゼちゃんの記憶力は何も生まれもってのものではなかった。この前に少しだけ聞いた話だけどね。リゼちゃんは記憶力を鍛える訓練をしていたみたい。……アレかな? よくネットで見るハンドサインの意味とかを覚えないといけないからなのかな? 詳しいことは聞かなかったからそこらへん分からないけど、努力の成果がここで出たんだろう。

 

「訓練してるからな! チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄当てられるし」

 

 そして何より、俺はこれを聞いて当時は驚いた。その時は今みたいに簡単に話しかけられるような関係ではなかったけど、落ち着いて雰囲気の店内では結構話声が聞こえてくることがある。その中で耳にしたチノちゃんの特技。まるでソムリエのようなことをやってのける。

 

 一流のソムリエは香りだけでワインの名前を当てられるように、チノちゃんはそれがコーヒーでできる。それはチノちゃんが一流に等しいほどコーヒーの知識を持っていることになる。まだ、中学生なのにね。

 

「私より大人っぽい」

 

 きっと俺と同じことを想ったのだろうココアちゃんはまたまた尊敬のまなざしでチノちゃんを見る。そのチノちゃんは俺のところにカプチーノを持ってきてくれる。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう」

 

 まぁ、確かにこのままだとチノちゃんは本当に大人っぽい印象を受けると思う。こういった一つ一つの動作がとても中学生とは思えない。……でもね?

 

「ただし、砂糖とミルクは必須だ」

 

 そう。ブラックのまま飲めないというのがチノちゃんの今の弱点。まぁ、子供はしたが敏感だから苦みが苦手なのはわかるから普通のことなんだけど、それがチノちゃんの子供らしさを分からせてくれたから俺は初めて聞いたときに本当に安心した。

 これでも俺、そろそろ成人するんだよ? そんな俺が中学生になりたてのチノちゃんの特技を知って焦らないわけないよね。

 

 あ、戻っていくときのチノちゃん……トレーで口を隠してる。……恥ずかしがってるんだろうな~。

 

「フフッ、なんか今日一番安心した」

 

 リゼちゃんからそのことを聞いたココアちゃんは俺が当時した反応とほぼ変わらないテンションでほっと一安心する。なんでその時のテンションを覚えているのかって? だってすごく印象的な特技と反応だったから今でも覚えてるんだよね。

 

 でもやっぱり日々の積み重ねって大きいんだなって実感できる事例だよね。チノちゃんとリゼちゃんって。

 

「いーな~。チノちゃんもリゼちゃんも。私も何か特技があったらな~」

 

 確かにすごい特技を持った子たちだよね。俺もわかる。何か特技があったらって。でも、だからこそ頑張れるんだよね。ゲームを。こんな小さい子たちに負けているのも気分良くないし。

 

 そんなことを思っているとチノちゃんが何かをもっているにココアちゃんが気が付いた。まぁ、いつものあれだろうけどね。今日は何の科目かな?

 

「……? チノちゃん何もってるの?」

 

 今チノちゃんが持っているのは学校で使っているであろうノートだ。ちゃんと集中しようとしているのかティッピーさんも頭からおろしている。

 こういった長期休業になるとチノちゃんは暇なときにこうして店内でノートを取り出すことがある。

 

「春休みの宿題です。空いた時間にこっそりやってます」

 

 その理由が宿題をするためなのだ。家の手伝いをしているチノちゃんが勉強する時間は限られている。だからこそ、こういった暇な時間に少しでも進めておこうとしているのだ。実際そろそろ春休みが終わるころ。だから急ぎ目でやらないと終わらないのだろう。

 

 どうやら今日の宿題は数学みたいだ。ノートが青いし、ばっちりと大きな字で『数学』って書いてあるしね。

 

 けど問題だったのはココアちゃんのほうだ。ココアちゃんは少し気になったのかチノちゃんのやっている宿題の中身を見て1つの問題を指さす。

 

「あ、そこの答えは128で、その隣は367だよ」

 

 そこの問題に書いてあるであろう答えを何も見ずに答えていった。……え?

 

 

 

 

 

 暗……算……?

 

「あっ……。ココア。430円のブレンドコーヒーを29杯頼んだらいくらだ?」

 

 きっと俺と同じことに驚いているんだろうリゼちゃんが少し焦りぎみにココアちゃんに問題を出す。えっと……俺はその数字をパソコンに内蔵されている電卓を使って計算してみる。

 

 が……。

 

「12,470円だよ?」

 

 その数字を見る前にココアちゃんがすぐに答えた。しかもその時の表情が"なんでそんな簡単なことを聞くの?"と言おうとしているかのように。……合ってるし。

 

 ココアちゃんがやってのけたことを目の当たりにしたチノちゃんとリゼちゃんは当然驚く。もちろん俺も秘かに驚いている。

 

「私も何か特技があったらな~」

 

 けどこの店内で一番注目の的であるだろうココアちゃんは店員側のカウンターに突っ伏してため息交じりにそう呟いた。

 

 でもね、俺を含めたここにいる3人が思っていることは同じ。

 

 この飲食店に関していえばきっと一番ためになる力なんだろう。お会計にレジいらずって相当効率が良くなりそうだし。

 

 なんか、負けられない相手が増えた気がする……。これはちょっと心の整理が必要かな……。ごめん、今日はゲームできそうにないわ。

 

 ココアちゃんに意外な特技が分かるとカランコロンと本日3回目の音が店内に鳴り響いた。俺がここに来たときと、ココアちゃんが来た時にも鳴った音。つまりは。

 

「あ! いらっしゃいませ!」

 

 このラビットハウスに新しいお客さんが来たということでそのお客さんを迎えるようにココアちゃんが入口へと駆けていった。あ、あの人ってよくここに来てる人だ。常連さんが最初の相手だと結構楽なんだよね。新人であることを分かってくれるから無茶なお願いをされることはないし。

 

「あら? 新人さん?」

 

 ほら、あの人も気が付いた。ココアちゃんが初めてだってことに。お店に通い続けると店員さんがそのお客さんの顔を覚えるようにお客さん側である俺たちも店員の顔を覚えていく。そんな通い詰めた店に見ない店員さんがいれば新人かもしれないなんて簡単に予想が付く。

 

 お客さんから話題を振ってくれたおかげでスムーズに接客ができてるな~。後ろ姿しか見えないけど慌てているような様子もないしきっと大丈夫だろう。

 

「はい! 今日からここで働かせていただくココアと言います!」

 

 おっと……ここにいてもはっきりと聞こえてくる大きい声でお客さんに受け答えしてる。しかも言い終わってから深々とお辞儀をして……。え!? 接客慣れすぎじゃない!? ビジネスマナーでも習ってたの!?

 

「よろしくね。キリマンジャロをお願い」

 

 そんなきれいなお辞儀を見たお客さんは笑顔のまま普段座っている席に向かって行った。……注文までの流れはまだまだだけど上出来な接客だった。

 

「はーい!」

 

 しっかりと返事はしている。……けど伸ばすのはやめた方がいいな。リゼちゃんたちが注意しなかったら俺が少しだけ言っておくか。……お客さんに言われるのってちょっと複雑な気持ちになっちゃうからリゼちゃんたちが言ってくれるように願うか。……あ、注意するように言えばいいのか。リゼちゃんとチノちゃんならきっとわかってくれると思うし。

 

「ちゃんと接客出来てるじゃないか」

 

 そんなことを俺が考えているとさっきのココアちゃんの接客をじっと見ていたチノちゃんたちは少しだけ安心している様子だった。でも、この2人とココアちゃんって普通に初対面なんだよね。だからコミュニケーションは結構大丈夫だし、あとは接客用語を覚えればきっといい店員さんになれると思うな~。

 

「はい。心配ないみたいですね」

 

 けど、接客に関して教えることが少ないのも事実。それが今は結構うれしかったりするんだろう。他のことを教える余裕ができるし、メニューを覚えてもらえば作ることだってできるようになるんだから。

 

 そんな話をしているとオーダーを取ってきたココアちゃんが戻ってきた。

 

「やった! 私、ちゃんと注文取れたよ! キリマンジャロ、お願いします!」

 

 余程注文が取れたことが嬉しいんだろう。その場で少し飛んで喜んでいる姿を見るとどこか微笑ましいように思う。

 

「ほー」

 

「えらい、えらいです」

 

 こんな3人を見て今は楽しそうにやってるし、実際に楽しいんだと思うけどきっとこれから大変になってくるんだろうな~。ってそんなことを思ってたり思ってたり。……だって本番の時間帯ってこの後すぐだし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の予想通り、昼を過ぎ夕方に近づいてくるとだんだん客の入りが良くなってきた。きっとおやつ感覚で寄ってくるお客さんや、少し遅めの昼食を食べる人でにぎわってくるのだろう。

 

 初めてここで働いているココアちゃんにとっては……焦っちゃうよね。ほら、慌ててサンドイッチ運んでるし。急ぐのも悪くはないんだけど、まだ席に空きはあるこのタイミングだと、そこまで急ぐ必要はないかな。喫茶店に来る人って大体落ち着きたくて来てるわけだから。

 

 あ、慌てすぎてココアちゃんがリゼちゃんにぶつかった……。って何出してるの!? ちょっとその銃を渡しなさい! 何の銃なのかに気なっちゃうでしょ! だからそのハンドガンを触らせて!

 

 ……なんて心の叫びが伝わるわけもないか。今度直接頼んでみよ。……にしてもどうやって出したんだろ? 確かリゼちゃん右手にお盆持ってなかったっけ? それなのに右手にもう銃が持たれてる。お盆が離れた瞬間に何があったんだ……?

 

「わぁ~!? ごめんなさーい!」

 

 あ、でもココアちゃんが怯えちゃってるな。……初めてチノちゃんとリゼちゃんが仕事してた時のことを思い出しちゃう光景だ。まぁ、銃を向けられたらそんな反応になっちゃうよね。……俺も経験あるし。リゼちゃんにやられて。

 

 けどこんな光景を見るのも見ている側としては面白いんだよな~。まぁ、さすがにやりすぎたら止めるけどリゼちゃんに限ってはそんなことしないか。

 

 

 

 

 

 

 俺の考えていたことは正しかったみたいでそれからほとんど大きな騒ぎが店内に響くことはなかった。今は俺以外の最後のお客さんが店から出ていくところ。

 

 その人はココアが初めてオーダーを取った人で入り口付近までココアちゃんが駆け寄り出ていったお客さんに向けて深々とお辞儀をする。

 

「ありがとうございました!」

 

 これでこの店には客は俺だけしかいなくなったわけで、これじゃあ最初の時と変わらないな。

 あれ? お客さんが出て言った瞬間にココアちゃんが豆をひいているチノちゃんのところに駆け足で向かって行った? なんだろ? ちょっと気になるから近寄ってみるか。

 

 俺はカウンター席に腰かけココアちゃんとチノちゃんのやり取りを聞いていた。

 

「ねぇねぇチノちゃん!」

 

 何か気になるみたいでチノちゃんに聞き始めるココアちゃん。……何かわからないことでもあったのかな?

 

 一回豆を挽く手を止めたチノちゃんはココアちゃんのほうに顔を向けて話す。

 

「はい?」

 

 チノちゃんが首を傾げココアちゃんの続きの言葉を待っていた。

 

 そんなココアちゃんは両手を頭上につけて、よく子供がやるようなうさぎさんポーズをしていた。そして口を開くと……。

 

「この店の名前って"ラビットハウス"でしょ? うさ耳付けないの?」

 

 なんだその素敵アイディア!! って違う違う……。ここは喫茶店なんだしさすがにコスプレはちょっと……。店の雰囲気にも合わないしね。

 

「うさ耳なんて付けたら違う店になってしまいます」

 

 どうやら俺の認識はチノちゃんとも同じだったみたいでそのことが告げられる。うんうん。この落ち着いて雰囲気の店がいいんだよ。そういうコスプレ喫茶的なものはその場所に任せよう? あ、でも見てみたい気も……。

 

 って邪念は捨てよう。としたんだけど……。

 

「リゼちゃんとかうさ耳似合いそうなのにね~」

 

 確かにね!! リゼちゃんスタイル良いからバニーガール似合いそう! ってだから! なんでココアちゃんは俺にそんな妄想させてくるの!? いい妄想でしたありがとうございます!

 

 けど話を振られていたリゼちゃんはというと……。

 

「そんなもんつけるか……」

 

 そっぽ向いちゃった。……けど、なんか様子がおかしいな。何があったんだろう?

 

「……露出度高すぎだろ!!」

 

 ……あ~ぁ、妄想してたのね。自分がバニーガールの恰好をした時の姿を。うーん。でも結構似合うよね、リゼちゃん。肌白いから、一般的な黒じゃなくて白の衣装でもよさそうだな~。

 

「うさ耳の話だよ!?」

 

 けど、ココアちゃんの猫耳の話と俺たちの考えているバニーではどうやらイメージが違ったみたい。……知ってたよ? ココアちゃんがバニーの話をしていないなんてことは。本当だよ? ……ごめんなさい。結構邪なこと考えてました。

 

「…………」

 

 けど、チノちゃんも頬が赤いしきっと同じことを考えてたんだよね! 仲間だよね! ……チノちゃんも似合うんじゃないかな? 愛らしい感じになると思うよ。

 

 そんな中、アイディアを却下されたココアちゃんは一つのことが気になったみたい。リゼちゃんに敬礼しながら何かを聞こうとしている。

 

「教官! ではなぜ"ラビットハウス"なのでありますか? サー」

 

 まぁ、そういうように思っちゃうよね。けど理由としては結構簡単なんだよ。

 

「それは、ティッピーがこの店のマスコットだからだろ?」

 

 そう。話に聞いただけだからよくわからないけど今の状況と、昔の状況だと少しだけ違ってるみたいだけど結局はティッピーさんによるもの。まぁ、マスターが好きだったってのも理由だけど。

 

 けどリゼちゃんの答えを聞いたココアちゃんは少しだけ首をかしげる。まぁ、言いたいことはわかるよ。この店に来たときも理解してなかったみたいだしね。

 

「……でも、ティッピーうさぎっぽくないよ? もふもふだし」

 

 ここまでもふもふなうさぎってそうそういないよね。けど確かにうさぎなんだよ。もふもふだけど……。

 

 ってそんなことを考えているんじゃなくて、どうやらココアちゃんはこの店の名前に少しだけ不満があるみたい。まぁ、うさぎがいっぱいいるわけでもないからそう思うのもわかるんだよね。

 

「じゃあどんな店名がいいんだ?」

 

 不満があるなら確かに変わりの案があってもおかしくない。リゼちゃんはココアちゃんにどんな店の名前がいいのかを聞く。……どんなアイディアを出すのかな?

 

「ズバリ! もふもふ喫茶!」

 

 堂々と自信満々に答えるココアちゃん。ちゅ……抽象的だ!? もふもふなら何でもいいの!? それになんか……。

 

「それはまんますぎるだろ……」

 

 そう! リゼちゃんの言う通りまんますぎるんだよ! もう少しひねった案が来るのかと思っちゃったから余計驚くよ! あんなに自信満々だったのに……。

 

 ……おや? なんかチノちゃんの様子が……。

 

「もふもふ喫茶……!」

 

 チノちゃんはもふもふ喫茶に目を輝かせた!

 

 って!?

 

「「気に入った!?」」

 

 予想外過ぎる反応に俺とリゼちゃんの声が重なる。けど、その反応はやっぱり年相応のものだったからそこは少し安心した。

 

 まぁ、けどティッピーさんは少し微妙な顔をしてるしこのまま"ラビットハウス"のままなのだろう。けどこうしてにぎやかな空気も嫌いではない。そう俺は思った。

 

 ココアちゃんが入ることでこれからこの店はどんな風に変わっていくんだろうか? 俺はただただ純粋にこの店の行方が気になってしまっていた。

 

 




ここで1話にて悩んでいたゲームについて決まりましたね~。皆さんは何を私が連想していたか、もちろんわかりますよね?

ポケモンとマリオです。

といっても私自身、ポケモンはBW2からハードの関係で引退して、最近ウルトラサンなるもので復帰したにわかもにわかです。さらにマリオも古いものをやっているわけでは無いしドヘタなんですけどね。

まぁ、それでもある程度の知識はあると思うのでそっちをオリジナル回に行かせて行けたらなって思ってます。

長々と話してしまいましたが今年の更新はこれが最後になります。急激に伸びているこの作品に作者自身驚いていますがこれからも楽しみにしていただけると嬉しいです。

それでは皆さん! 良いお年を!


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ラビットハウスでラテアート

どうも、そらなりです。

多分今回でアニメ1話分は終わると思います。この物語の性質上、きっとチノちゃんとココアちゃんの日常風景はそこまで書けないと思いますのでご了承ください。

それでは今回はどんな物語を繰り広げてくれるのでしょうか? それではどうぞ!


 店名の話はチノちゃんが気に入ったとかいろいろ驚くことはあったけど、今日来たばかりのココアちゃんのアイディアを今すぐに取り入れることは不可能なのと、ただただ冗談を言っていただけなのですぐに話は流れた。

 

 そして業務のほうを再開し始めたチノちゃん、ココアちゃん、リゼちゃんはチクタクと時計の音だけがする店内でそれぞれの仕事をしていた。

 

 でもその仕事というのも特別なものではなく一般的にどこの飲食点でもやること。チノちゃんは洗ったコーヒーカップの空拭きを、ココアちゃんは棚の整理をしていた。なぜここに来て数時間しか経っていないココアに棚の整理をさせているのかというとそれは棚にはどんなものがあるのかをいち早く把握して欲しいからだという。確かにそうした方が業務をこなしながら把握できるから一石二鳥と言えるだろう。

 

 そしてリゼちゃんは……。あぁ……あれをやってるのね。お客さんがいない間に練習とはやっぱりやる気があるんだね~。この店はただの喫茶店だけどただコーヒーを飲むだけが喫茶店というわけではない。コーヒーが関係する様々なことをサービスとして出しているのだ。そしてその練習を今、リゼちゃんがしているということだ。

 

「リゼちゃんは熱心だよね」

 

 いつも人がいない時間帯、暇な時は少しでも上達するようにずっと練習をしている。実は練習をする前に少しやってみたものを見せてもらったことがあったんだけどそれは普通の出来、言ってしまえば素人にしては上手だけど経験のある人がやればそれくらいは簡単に実現できる程度のものだった。しかし、ここで気にして欲しいのが初めての時だということ。つまり初心者の状態で経験者に並んだということになる。それ以降、なぜかリゼちゃんが頑張るようになったんだよね……。もしかして、初めての時に頑張ってて言ったのが原因? ってそんなことはないか。

 なんてことを考えているとガタッとリゼちゃんが持ってるコーヒーカップとスティックがぶつかり合い高い音が店内を駆け巡る。

 

「きゅ、急に何を言い出すんですか吉田さん!」

 

 その原因を作り出した張本人であるリゼちゃんは頬を僅かに上気させ講義をしてくる。確かに作業中に呟いちゃったからリゼちゃんの集中を削いでしまったかもしれないし、リゼちゃんの言うように急に話しかけちゃったから驚いたのかもしれない。……けどそんなことで顔を赤くするほどなのかな? 同にも納得がいかない状態だけど今は自分が砂にそう思ったことを伝えておくか。

 

「だって今だから練習してるんでしょ?」

 

 そう。今だから。いつもリゼちゃんは誰もいない時間、暇な時間を選んでそれの練習をしているけど、まだこの先人がくることだって考えられる時間。つまり練習中に邪魔が入る可能性だって存在するのだ。ではなぜいつもは集中ができて邪魔が入らないようにしているリゼちゃんが今その練習をしているのか。それはいつものように練習がしたいからしているのもあるだろうけどもっと違う理由があるはずだ。

 

「まぁ、そうですけど……」

 

 その俺の考えていることをしってか知らずか肯定するリゼちゃん。その後ろにいたココアちゃんは俺とリゼちゃんのやりとりで何かをしていることに気がついて近づいて来た。

 

 つまりリゼちゃんの考え通りになったのだ。ここまでくればきっとわかってくると思うがこの時間にリゼちゃんが練習を始めたのはまだここに来たばかりのココアちゃんにこの店のサービスをあらかじめ説明しておこうと思ったからみたい。チノちゃんに話を聞いたら教育係を任されたみたいだからきっと誰よりもココアちゃんのことを考えているのだろう。いい先輩を持ったね、ココアちゃん。

 

「あ、リゼちゃん何をやってるの?」

 

 俺とリゼちゃんとのやり取りを聞いてやっていた作業を中断し、リゼちゃんのもとによって来るココアちゃん。今までココアちゃんは基本的にチノちゃんやリゼちゃんから何かをするようにとやり方を教わりながら仕事をしてきた。だけどリゼちゃんが今やっていることに自分から興味を持って何をしているのかが気になっている。つまり自主的に興味を持つことで仕事を覚える効率を上げようとリゼちゃんはしているのだ。人というのは不思議なもので自分の興味のあるもの、あるいは興味を持ったものに対しての熱意は他のそれとは比較にならないほど高くなる。かくいう俺もゲームに関しての熱量は誰にも負けない自信がある。

 

「ラテアートだよ。カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだ。こんな風に」

 

 その人の性を使ったリゼちゃんのある意味作戦は成功してラテアートに興味を持ったココアちゃんに説明していく。さっきまで作っていたリゼちゃんのラテアートがそこにはある。絵柄としてはとても初歩的な、最初に練習で描くであろうハートやにこちゃんマークなど簡単なもの。だけどそれでも初めて見たココアちゃんには幻想的に見えて、興味をより持たせるには十分すぎるほどだった。

 

「へぇー!」

 

 キラキラと輝く瞳でリゼちゃんの作ったラテアートを見るココアちゃん。そんなココアちゃんにリゼちゃんは説明を付けくわえる。

 

「この店ではサービスでやってるんだ」

 

 そう。リゼちゃんの言うようにサービスでラテアートを書いている。つまり、無料ということ。であればこのラビットハウスに来た人がいつ注文したっておかしくはない。なぜそう思うのかそれは……。

 

「俺もたまにやってもらってるんだ」

 

 そう。実際に何回か俺もリゼちゃんやチノちゃんにお願いをしたことがある。2人とも慣れた手つきでラテアートを書くから書いているところも書いた作品もすごいんだよね。そしてココアちゃんもこのラビットハウスの従業員になるということ。けどたまにしか頼まないっていうのもまた事実。だからココアちゃんにも覚えて上達する時間も十分にあると思う。

 

「もっと、頼んでくれてもいいんですよ?」

 

 けどたまにしか頼まないからなのかリゼちゃんが笑顔でそう言ってくる。うん。確かにもっと頼んでもいいのかもしれない。それがリゼちゃんたちの練習になるんだったら協力だってしてあげたい。けど、この店に来る時の半分ぐらいが落ち着いてチームのみんなとチャットするときだというのが少しだけ問題だった。

 

「時間がある時はお願いするよ。目で見て楽しめるのがラテアートの良さだからね」

 

 ラテアートとは目で見て楽しむものだ。アートなのだから当然。つまりパソコンの画面に集中したいときには頼まないし、落ち着いた雰囲気の時、時間がある時にしか頼まない。それは視覚的に俺が楽しみたいからでその時の空間も楽しみにしている一部に入るからだ。

 けど最近頼んでいなかったもの事実。ココアちゃんのこれからもちょっと気になるし、ちょっとここに来る頻度を増やそうかな。昔、マスターにした約束もあるし。

 

 そんなやり取りとしている俺とリゼちゃんの様子をココアちゃんがじっと見てくる。けどその視線の先にあるのは俺でもリゼちゃんでもなくたった1つのコーヒーカップ。ハート形のラテアートが描かれているそのカップにココアちゃんは心を惹かれたようだ。

 

「ほ~……」

 

「書いてみるか?」

 

 興味を持っているのが傍から見ても明らかな様子にリゼちゃんがそう提案する。目がキラキラし続けてるしやってみたい、あるいはもっと見たいと思っているんだろう。

そんな中リゼちゃんからもらったチャンスにより一層の好奇心がココアちゃんのことを刺激する。

 

「絵なら任せて! これでも金賞をもらったことがあるんだ!」

 

 そしてやる気は万全なようで以前に獲得したことを自慢するココアちゃん。確かにこのラテアートもアート。つまりは絵なのだからプラットホームは違ってもセンス自体は横流しで使うことができる。

 

「町内会の小学校低学年の部とかいうのは無しな?」

 

 けどそんな自信満々のココアちゃんにリゼちゃんの鋭い一言が突き刺さる。うん。俺もそうかもしれないなとは思ってたよ。人を見た目で判断するわけじゃないけど言動とかテンションとかそういうのをひっくるめて見ているとそこまで絵が得意じゃないのかもしれないと思ってしまう。

 

「……!?」

 

 リゼちゃんに言い当てられたことで驚きを隠せないココアちゃんは少しだけ気まずい顔をする。けどそれも数秒で元に戻るのだ。

 

「……はぁ~。まぁ、手本としてはこんな感じに……」

 

 だってそれは今一番関心のあるラテアートの見本が目の前にあるから。このラテアートを手掛けたのはもちろんここにいるリゼちゃん。少しでも簡単で興味を持ってもらえるように可愛いを意識して作ったみたい。いつもはもっと違うものを書いているからね。もっとすごいものを、ね?

 

「わぁ~! すごい上手い!」

 

 ただ、初めて見るラテアートに、それも可愛くできたラテアートに感激してるからだ。こういうものを見た時人はどういう反応を示すだろうか? 感激したものに心を奪われ、自分もやってみたいと強く思う人だっているだろう。今回のココアちゃんはまさにそれだ。すごいとは言いながらも瞳にはやってみたいという強い意志が見える。まるでゲームに心を奪われた時の俺のことを見ているようなそんな気分になった。

 

「そ、そんなに上手いか……?」

 

 リゼちゃんはココアちゃんに褒められると再び頬を赤らめ嬉しそうにする。褒められたりするのは慣れていなくてもうれしいことには変わりないようだ。

 

「すごいよ! リゼちゃんって、絵上手いんだね!」

 

 そこでココアちゃんはおそらく今まで思っていたであろうことを言葉にし始めた。そう。上手なのだ。リゼちゃんのラテアートは。可愛いものも描ければ、また違った方向の絵だって書ける。しかもそれは難しいはずなのにいとも簡単に描き切る。

 

「ねぇ、もう一個作って?」

 

 今のココアちゃんにとってリゼちゃんは尊敬に値する人だ。自分のことを魅了し、ラテアートという世界に足を踏み入れるきっかけになった存在。やっぱり、昔の俺のことを見ているような感覚はまちがっていなかったみたいだ。俺は昔、ゲームと出会ったときにまずはやろうとは思わなかった。確かに魅了され興味を持ったのは事実だけどその前にどうしてもやりたいと思っていたことがあったのだ。

 

 すごいプレイを見たい。ただただそれだけの願望。自分をもっと魅了してくれるプレイが見たかった。それがきっと今のココアちゃんにもあるんだと思う。だからリゼちゃんにもう一度、今度は自分が見ているところでラテアートを書いてほしいと願ったのだ。

 

「しょ、しょうがないな……。特別だぞ?」

 

 そのお願いに本当にうれしそうにしているリゼちゃん。そっぽを向いてしまうのは相変わらずだけどやっぱりうれしいことにも変わりはないみたい。最近はお客さんにすごいとは言われることがあってもそれ以上に褒められる機会がなかったようだしなおさらなのかな。

 

「ほんと!?」

 

 何はともあれ、もう一度やってくれるということを聞いたココアちゃんの瞳がより一層輝く。そしてその瞳に宿る感情は好奇心とわずかな向上心。嬉しそうにはしゃいでいるように見えてきっと技を盗もうとしている。……けど、そううまくいくのかな? 相手は手ごわいよ。ココアちゃん。

 

「やり方もちゃんと覚えろよ」

 

 ココアちゃんにそう告げ、カップをココアちゃんが凝視するのを確認したリゼちゃんはラテアートを書き始める。ただ書くための準備だってラテアートの一つだ。リゼちゃんはカフェラテの入ったカップにミルクを注ぐ。しかし、それはただラテアートを書くだけではなくパフォーマンスも付け加えたもの。カップを回転させたりミルクのかけ方が豪快だったりと魅せるのも1つのポイントだと言っているようだ。実際にリゼちゃんにラテアートを頼む人はこういうパフォーマンスを楽しみにしている節があったりする。

 

 でもそれだけで終わるのではなく今度はピックを指の間でくるくると回しながらラテアートの仕上げへと入っていく。細かい部分を書き上げるにはピックが必要不可欠でとても繊細に作業をしないといけない。しかし、それを確実な自信がないとできないほど素早くそれでいてオーバーアクションで仕上げる。

 

 絵をかくときにはピックを持っている手だけではなく反対の手に持っているカップも動かしたりして、普通では表現できないような方法も使っている。きっとここまで上達者の描く様子を見ても初心者には技を盗むことはできない。

 

「できたぁ!!」

 

 が、そんなことはどうでもいいかの如く、リゼちゃんが完成したラテアートをココアちゃんのもとに置く。

 

 当然というべきか、ココアちゃんは出来上がったラテアートを見て驚くことになる。

 

「わぁ~! 上手い!」

 

 リゼちゃんの描いたラテアートは本当にリアルな戦車だった。それは最初に見せてもらった簡単なラテアートとは違う、複雑で難易度が人間業では不可能と思えるほどの出来だった。そう。人間業ではないのだ。

 

「まったく~、そんな上手くないって!!」

 

 けどココアちゃんの言葉に嬉しいと思いながらも謙遜が入るリゼちゃん。……けどねもううまいだけじゃすまないレベルなんだよ。リゼちゃんの本気のラテアートは。

 

「いや……上手ってレベルじゃないよ……。っていうか人間業じゃないよ……」

 

 それはココアちゃんも思ったみたい。それはそうだろう。素人目から見ても、いや見たからこそリゼちゃんのそれが常人では実現不可能レベルまであるということが分かる。

 

「よーし! 私もやってみるよ!」

 

 が、それで折れるような好奇心ではなかったみたい。きっとほんの少しの向上心があったおかげなのだろう。

 

「頑張れー!」

 

 そんなはじめてのラテアートの挑戦するココアちゃんを先輩として後ろから見守りながら応援するリゼちゃん。

 

 ココアちゃんは初のラテアートを経験する。けどできたのを見てみるとそこには初心者らしい不格好なラテアートがあった。まぁリゼちゃんと比べるのも違うし、ココアちゃんが最初に折れなかったことからきっとこれから上達するだろう。そういう確信が俺にはあった。

 

(か……可愛い!!)

 

 でもそんな不格好なラテアートを見たリゼちゃんは口元を抑えて何かの感情を抑えているように感じた。けど俺にはわかる。これは負の感情ではなく、正の感情であることが。だってココアちゃんが描いたラテアートはウサギのようなもの。まだまだ下手ではあるけど何を描きたいのかは伝わってくる。そしてウサギは、特にイラストのウサギはリゼちゃんの好物だ。だからこそきっと可愛いと思っているんだろう。

 

「わ……笑われてる……。もぅ……チノちゃんも書いてみて」

 

 けど後ろで口を押さえているリゼちゃんの様子を見ているとココアちゃんは当然笑われているような感覚に陥る。そしてせめて仲間を作ろうとしてチノちゃんにラテアートをするように誘ってみる。

 

「私もですか?」

 

 結果としてココアちゃんの思惑通りチノちゃんがラテアートを描くんだけど確か、チノちゃんの描くラテアートって……。

 

「リゼちゃん、どんなのができるか楽しみだね!」

 

 そんな俺の考えていることなどココアちゃんに伝わるわけでもなくチノちゃんの描くラテアートを楽しみにしているココアちゃん。

 

「確か、チノの描くラテアートって……」

 

 でもリゼちゃんはきっと考えていることが一緒なんだろう。何度かチノちゃんにラテアートを頼んだけどリゼちゃんとは違うベクトルですごかったはずだ。

 

「できました」

 

 特に興奮した様子もなく淡々と作業を進めていたチノちゃん。そしてチノちゃんの描いたラテアートは……。

 

「こ、これは!」

 

 中身をのぞいたココアちゃんはそこにあった1つのラテアート。そのラテアートはリゼのように複雑ですごいというわけではないものの、普通の感性ではわからないであろう作品が描かれていた。そう、作品なのだ。

 

「チノちゃんも仲間!」

 

 けどそれが伝わってないのか下手なグループというわけのわからないグループがココアちゃんの中に出来上がった。ココアちゃんとチノちゃんが所属する形で。

 

「仲間……?」

 

 仲間宣言がされたチノちゃんは少しだけ疑問をもって首をかしげる。けどココアちゃんが握っているチノちゃん自身の手を振りほどこうとはしない分、そこまで嫌がっているわけでもなさそうだ。

 

「仲間だよ仲間!」

 

 そしてココアちゃんは今もなおうれしそうにしている。

 

「違うぞ。ココア。こういう絵は私たちと一緒にしちゃ……」

 

 が、この手の芸術作品は一般的な感性を持っている人には理解されにくいものなのだ。ということはだ。裏を返せばきっとリゼちゃんレベルでチノちゃんはラテアートがうまい。が、それを評価できる人が極端に少ないというだけなのだ。

 

 というやり取りを見ている中で少しだけ頭をよぎるようなことがあった。

 

「あ、そうだ。確かラテアートが練習できるシミュレーションゲームが家にあったような……」

 

 それがラテアートが練習できるゲーム。なんで勝ったのかもよく覚えていないけどそんなゲームが家にあったはずだ。実際にやっているのと大差ないレベルでできるというのが売り文句だったからきっと経験につながると思って口に出してみた。

 

「そうなんですか!? ってことはあなたもラテアートできるんですか!?」

 

 そんな俺のつぶやきが耳に入ったのだろう。ココアちゃんがカウンターから身を乗り出して俺にラテアートができるのかどうかを聞いてくる。けど、俺は経験したことがないし、今まで忘れてるくらいに記憶になかったのでできるかと言われれば胸を張ってノーと答えるだろう。

 

「あ、いや実際に挑戦したことはないから何とも……。って自己紹介してなかったっけ?」

 

 だからそういうことにしているんだけどココアちゃんにはチノちゃんやリゼちゃんのように呼ばれなかったことで自己紹介をしていなかったことに気が付く。

 

「そういえばしてないですね」

 

 それはリゼちゃんも今気が付いたらしく話に参加してくる。お互いに初対面だからある程度親しくしている人が中継役で入ったほうが何かとやりやすい。……まぁココアちゃんとリゼちゃんたちも今日が初対面なんだけどね。同性と異性だとやはり勝手が違うのだ。

 

「こちらは常連さんの吉田さんです」

 

 そんなことを考えているとチノちゃんの紹介が入る。いつも俺を呼ぶ呼び方だけど今はそれで十分だった。ココアちゃんには俺のことをどう呼べばいいかが伝わる。

 

「よろしくお願いします! ココアです!」

 

 そして俺はチノちゃんに自己紹介をしているココアちゃんのことを見ていたからこの子の名前は知っている。けどココアちゃんはそれを知ることもなかったから元気に自己紹介をする。

 

「うん。吉田将斗。よろしくね」

 

 それに応えるべく、さっきのチノちゃんの紹介で足りなかった部分を付け足す。そして少しでも印象が良くなるように今できる最高の笑顔をココアちゃんに向ける。

別にこの店に長年通い詰めているわけではないんだけど、居心地のいい子の空間にいることで、この娘たちに少しだけ人より深い好感度があるのだ。それはまるで妹と接しているかのような。そんな感じ。

 

 だから俺はこのココアちゃんとも同じようになるとそんな感じがしていた。

 

 

 

 

 

 その後も少しだけ店の中で談笑をしてた。けど、自分が満足したタイミングで店を後にする。もちろん今日した約束を忘れたわけではない。チノちゃんが興味を持ってくれたゲームを持ってくることも、ラテアートが練習できるゲームをもって来ることもしっかりと覚えている。だかた今度この店に来るときにもってこよう。

 

 次にこのラビットハウスにくるのはいつになることやら。でも、ココアちゃんの成長とあの3人のやり取りはちょっと見守っていたいと俺は心のどこかで思っているのだ。だからそう遠くならないうちにまた来るか。

 

 




お待たせしました。3か月ほどお休みをいただいてただいま復帰いたしました。

どうだったでしょうか? 今回のお話でアニメ1話分が終わりました。ある程度の流れは頭にありましたがほぼほぼ見切り発車したこの作品もしっかり1話分が終わるくらいには書き込めたと思います。

そしてなぜ4月4日に投稿したのかといいますと、今日はチノ役の水瀬いのりさんのライブBlu-rayが発売するとか。まぁ、だから更新したんですよ。なんか、しないといけない気がしたので。

それでは、次回もお楽しみに!


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ラビットハウスでアクションゲーム!

どうも、そらなりです。

今回はちょっとばかし私のわがままなのかな? オリジナル回になります。

普通に物語を紡いでいたらおそらくやることはないだろうということをやりますのでお楽しみに!


 昨日、ゲームに興味があると言っていたチノちゃんにプレイしてもらうべくラビットハウスにやって来た。

 

 それにココアちゃんのラテアートを手伝うためにもゲームを持って来るって約束しちゃったわけだし、早めに持って来るに越したことはないだろう。俺はカバンにゲーム機本体を4つとゲーム本体を3つ持ってきた。リゼちゃんも仲間はずれになっちゃうだろうし、カセットがなくても一緒にプレイできるようなゲームを持ってきたわけだし、これでみんなが楽しめるようになるだろう。

 

 今がまだ、中学校も高校も始まってない現状。時間に余裕があるのはしばらくこの春休みの間だけ。だから、この期間に紹介しておいた方がゲームに持っていた興味をよりのめり込ませると思った。

 

「チノちゃーん。ゲーム持ってきたよー」

 

 店のドアを開けてそこにいるであろうチノちゃんに俺は声をかける。……そういえば、チャット目的とコーヒー目的以外ではこの店に来たことないな。まぁ、喫茶店だから当たり前と言えば当たり前か。

 

 この時間の店内に客はかなり少ない。だからこの時間を選んでここに来たんだけど、今この店内にいるのは俺と、いると予想していたチノちゃんだけだった。……あれ? ココアちゃんは?

 

「あ、吉田さん。わざわざありがとうございます」

 

 店のカウンターで、宿題をしていたチノちゃんが俺が来店すると同時に立ち上がり俺のほうにとことこと駆け足気味にやってくる。実際、チノちゃんはゲームとかそういうのはあまりやらないというか苦手だと思っていたのに、こっちに駆けてくるチノちゃんの目は子供のようにきらめいていた。

 って、チノちゃんはまだ中学生なんだから子供で当たり前か。……あれ? チノちゃんに睨まれてる?

 

「いや、昨日言ったでしょ? ココアちゃんにもラテアートの練習を兼ねたゲームを持って来るって。せっかくだからチノちゃんにやってもらいたいゲームも持ってきたんだ」

 

 睨まれているように感じたからそれを誤魔化すかのように寄ってくるチノちゃんに昨日話していた内容を思い出してもらおうと話しかけた。

 

「あ、それも助かります。ココアさん、熱心なのはいいんですが、コーヒーの処理に困ってまして……」

 

 すると俺の目論見は成功したみたい。チノちゃんから出る鋭い視線がなくなるのを感じた。そしてチノちゃんの話を聞いて、まだココアちゃんと知り合って1日しか経ってないのにらしいなと思ってしまった。

 

「アハハ……。そうか。もうそんなに頑張ってるんだ」

 

「はい。ただ、コーヒーの飲みすぎで夜寝れなくなってしまっているせいで、今はちょっと休んでます」

 

 それにチノちゃんの言ってることも分からなくもない。コーヒーに含まれているカフェインはおそらく誰もが知っている眠気を覚ます効果を持つ物だと思っているだろう。

 それもそのはず。確かにその効果はあるのだから。けど、カフェインというものは眠気覚まし……覚醒作用のほかに解熱鎮痛作用や強心作用、利尿作用も含まれているのだ。だからカフェインの入った飲み物を飲んだ後や錠剤を飲んだ後はトイレに行きたくなったりするんだ。まぁ、トイレに行きたいと脳が命令を出すと眠気どころじゃなくなるといえば眠気覚ましを後押ししているのかもしれないけど、こういう効果を持っているということはなかなか知られていない。

 

「それは……仕方ないね。じゃあお店も暇なようだし、少し一緒にゲームをしようか?」

 

 それに、もう寝てしまっているのであれば、今は寝かしておく方がいい。眠いのに無理やり起こして、カフェインに頼られるとカフェインの過剰摂取によるカフェイン中毒で死に直結してしまうかもしれない。この先の未来がある中学生、高校生がそんな風にはなって欲しくない。

 

 そんな口実もあり、店が本当に暇そうだったからチノちゃんのゲームを教えるべくいつも座っている席へと腰かけた。

 

「そうですね。ゲーム、教えてください」

 

 俺が座った席に一緒に来たチノちゃんはそう言って俺のところに来る時にしていたキラキラした目をしていた。余程このゲームに興味があるようだ。……大丈夫。難易度も最初はそんなに難しくないし、アクションゲームだからやればやるほど上手くなる……。

 

『あのチノが、ゲームに興味を持つとはな……』

 

 ちょっとだけハマってくれるか不安になっていた俺をよそにティッピーさんがチノちゃんの変化にしみじみとしていた。確かに、俺もチノちゃんがゲームに興味を持つのは意外だと思ったけど、俺にとってそれは嬉しい誤算だった。一緒にプレイするゲーマーが増える程ゲーマーにとってうれしいことはない!

 

「おじいちゃんは黙っててください」

 

 だけどチノちゃんは目の前のゲームに夢中すぎてティッピーさんの声が邪魔だったみたい。辛辣にティッピーさんに告げるチノちゃんはまさにゲーマーの目をしていた。ただひたすらに目の前のゲームのことだけを考える集中力の塊の目。

 

『ガーン……』

 

 ただ、チノちゃんのティッピーさんへの言葉はかなり、ティッピーさんにダメージを与えたみたい。目から涙を流してるよ……。しかも、ブツブツと『これが反抗期というやつなのか……』とか『わしのチノが……』とか言ってる。本当に悲しかったんだろうな……。

 

 まぁ、それは俺には関係のないことだからティッピーさんには自力で復帰してもらおう。きっとチノちゃんが一言いえば元に戻るだろうし。今はゲームの操作説明をしないと。

 

「それで、今日持ってきたゲームがコレ。『超赤兄弟(スーパーレッドブラザーズ)』複雑な操作がないから簡単にできると思うよ」

 

 持ってきたゲーム機は携帯用ゲーム機版のもの。初代の赤ブラザーズよりも操作する数は多くなったものの、手軽で視覚的にもどんなことが起こっているのかが分かりやすい今作を選択した。

 

 専用ゲームハードであるVSは、2つ折り出来る携帯のようになっていて上画面とした画面が付いている。特にした画面はタッチパネルにもなっていてした画面を使うことによってよりゲームを簡単にプレイすることが可能になった。

 そしてした画面の左側には十字キーが付いていて右側には時計の3時のところにAボタンそこから時計回りで3の倍数のところにB、Y、Xの順でボタンが並んでいる。

 さらにはゲーム機を持つと両手の人差し指にもボタンがあるのが分かる。そこがR、Lボタンで左右に対象になるようについていた。他にも右側の下にstartボタンとselectボタンがあるが今はそんなに使うわけでもないので省略しよう。

 

 世界観としては赤と緑の兄弟を敵対視する黄色と紫の兄弟が甲羅に棘のついたカメを巧みに利用し、赤と緑の兄弟の幼馴染の桃色の姫を誘拐されてしまう。その幼馴染を取り戻すために赤の兄と緑の弟が地を駆け、海を泳ぎ、空を飛ぶ。そんなゲーム。

 

 けど、世界観というものは今はチノちゃんに説明するのは後回し。とにかく操作できるようになってからじゃないと話にならないから、まずは操作説明っと。

 

「まずはこのゲームを起動しよう」

 

 そのためにはまず起動してソフトを始めないとプレイするのも出来ない。

 

「はい」

 

 うきうきした様子で俺からチノちゃんは受け取ると、電源を探し始める。同じゲームを気を持ってきているからそこを押して一緒に電源を付ける。

 

 電源が付くとまずはプレイするゲームを選ぶ。今は1つしかないから選ぶようなことは簡単に進むことができる。そして軽快な音楽が聞こえ始め、タイトル画面が始まる。タイトルに『ボタンを押してください』と表示されていたおかげでチノちゃんは特に考えることなくボタンを押した。

 このゲームはセーブデータが3つ作れるから空のデータ1をチノちゃんに選んでもらう。すると少しだけムービーがあって、それもすぐに終わった。

 

 さぁ、ここからチノちゃんのゲーム人生の始まりだ!

 

 最初に1-1のステージを選択してもらってプレイ画面に移動する。画面の向こうにはプレイを始めると右上に制限時間とスコアが、左上には残機、獲得コインが表示される。そして地面の上に立って微動だにしない1人の男がいた。これがチノちゃんが操作するプレイヤーキャラクターのレッドだ。まずはこのプレイヤーキャラを移動させてみよう。

 

「基本的な操作を教えるね。まず左の十字キーの左右で移動ができるよ。やってみて」

 

 このゲームを選んだのは操作性の簡単さと持ち運びができるという手軽さを考えてのもの。十字キーと言われれば今までゲームをしたことがなくても形でどこのことを指しているのかは分かる。

 

「は、はい」

 

 俺の説明通りおぼつかない指ではあるが十字キーの右を押したチノちゃんのプレイキャラは右へと歩き始める。

それを確認した俺は、次に必要な動きをチノちゃんに教える。

 

「そして移動しているときに右のXかYのボタンを押すと走ることができる」

 

 制限時間があるため、早く移動できるダッシュは必要不可欠。それにテクニックも必要ないから移動ができれば十分使いこなすことができるはずだ。

 

「XかY……。あ! 速くなりました!」

 

 さっきと同じように今度は右でYボタンを押して移動を始める。すると先ほどより全然速い速度でプレイヤーキャラは移動を始めた。

 

「うん! 良い感じ。おっと、そろそろ敵の倒し方を教えるね。画面に怖い顔したキノコみたいなのが来たでしょ? それにあたると死んじゃうんだ」

 

 しっかりできたことが確認できたから次に必要な操作の説明。現状敵と遭遇すれば必敗。敵は横の衝撃には圧倒的な強度を持っているため、なんとかして倒す手段がないといけない。だけど、その倒す方法をチノちゃんはまだ知らない。

 

「え!? じゃ、じゃあどうすればいいんですか……?」

 

 だから絶対に負けてしまうということを聞いたチノちゃんはどうすればいいのかわからなくなってあわあわとゲーム機を上下に振っていた。そんなことをしても意味はないのに、そんなチノちゃんを見ているとどうしてか微笑ましくなっていた。

 

「倒される前に倒すか避けるしかない。BかAボタンを押してみて?」

 

 そんな不安そうにしているチノちゃんに解決策を教える。敵は横の衝撃にはプレイヤーが叶わないほど強いけど、プレイヤーが与える上からの衝撃には基本的に防御手段がない。だからジャンプして避けるか、潰す。

 

「B……。あ! 飛んだ!」

 

 俺の説明をしっかりと聞いてくれるから押してほしいと言ったボタンをすぐに押せるチノちゃんはそこで新しい動きをするキャラクターをキラキラした目で見つめていた。

 

「そう。そのボタンを押すとジャンプすることができるんだ。そして着地するときに敵を踏んでみて?」

 

 ジャンプボタンを押すことによって飛び跳ねたレッドを操作してチノちゃんはやってきたいかにも敵だと言わんばかりの茶色い何かに向かって着地を始める。

 

「踏む……。あ! 潰れました」

 

 今のチノちゃんの中には俺が説明したことを実行することに集中をしている。そのおかげがチノちゃんはなかなか呑み込みが早く、これならすぐに動きをマスターすることができるだろう。

 

「そうそう。いい感じだよ、チノちゃん」

 

 しばらく歩いたり、走ったりジャンプしたりを続けていると不意にチノちゃんのキャラクターの動きが止まった。どうしたのかとチノちゃんに尋ねようとしたら今度はチノちゃんのほうから俺に話しかけてくる。

 

「あの……一つ聞いてもいいですか?」

 

 どうやらわからないことがあったみたい。それもそのはず。今のは基本操作でゲームの全部を教えたというわけではないから。

 

「何かな?」

 

 一体どんなことが聞かれるんだろうと少しワクワクしながらチノちゃんの質問を待った。人にゲームを教えるのなんて久しぶりだから結構ワクワクしてるんだよね。

 

「さっきからずっと空中を浮いている黄色のブロック?みたいなものは何なんですか?」

 

 疑問に思ったことをチノちゃんは聞いてくれた。確かにあのハテナブロックについて全く説明していない。それどころか、アイテムの存在をまだにおわせてもいなかった。チノちゃんがアイテムに気が付ける場面は一瞬。あの始まりのムービーのところだけど、それがあのハテナブロックを破壊したら出てくるなんて思わないよね。

 

「あぁ、それか。じゃあそのブロックの下でジャンプしてみて?」

 

 だから口で説明するよりも百聞は一見に如かず……ではないけど試してみればどんなことが起こるのかが分かる。

 チノちゃんが俺の言った通りハテナブロックの下でジャンプをするとレッドの頭がハテナブロックに激突する。

 すると赤いキノコにチノちゃんは驚いていた。

 

「……!? 中から毒キノコが出てきましたよ!?」

 

「毒キノコ……? アハハハハ!! それは毒キノコじゃなくて赤兄が強くなるアイテムだよ。試しにとってみて」

 

 予想外の言葉におかしくなって少し笑っちゃう。確かに赤ベースのキノコに白い点々があったから確かに毒キノコ身も見えなくもないか。けど、このゲームのアイテムは全部プレイヤーを強化するものだから取っておいてデメリットはほとんどない。

 

「……あ! 大きくなった!」

 

「そう。それで一回的に当たっても死ななくなった。後レンガ模様のブロックを壊せるようになったんだ」

 

 一段階強化されたレッドはレンガブロックを破壊することができる。試しにチノちゃんが近くのブロックを破壊してそのことを実践して見せた。

 後はざっと説明して、自分でやってもらえれば呑み込みが早いチノちゃんのことだからきっとうまくできる。そう思ってまだたどり着く前にこの先にあるギミックのことをちょっとだけ教える。

 

「それでね。少し進むと緑色の土管があるんだけど、そこで土管の穴がある方向の十字キーを押すともしかしたら土管の中に入れるかもしれない」

 

「……かもしれない?」

 

 土管の説明をするにはちょっと骨が折れるな……。入れる土管と入れない土管の違いは見た目にはないから実践するしかない。それを説明するとなるとなかなかに難しい。

 

「そう。かもしれない。こればっかりは外から見ただけじゃ判断ができないんだ。だから自分で試してみるしかない」

 

 だから試してみないとわからないということをチノちゃんに告げる。

 

「わかりました」

 

 すると土管の上に立つたびにレッドがしゃがみだすと言われたことをしっかりとやるような性格なんだということが分かる。それに、いちいちしゃがんで確認するチノちゃんが普通にかわいいと思ってしまう。

 

「あ! 入れました!」

 

 何度か試してみた結果チノちゃんは入れる土管を見つけることができた。自分で見つけることができたからか、初めてプレイヤーキャラが動いたときよりも嬉しそうにしているのが伝わってくる。

 

「じゃあ今はそのまま外に出てみようか。穴の方向にボタンを押すから帰るときは……?」

 

 だけど、今のチノちゃんのテクニックではなかなかこの土管下のステージは辛い。だから今は早く土管の外に出てクリアをまずしてもらいたかった。

 

「上のボタンですね」

 

 来たときとは別に頭のほうに土管の穴が向いているから今度は上ボタンを押してチノちゃんは土管ステージを後にした。

 外のステージに戻ってきたチノちゃんはゴールがあるであろう右側にどんどん進んでいく。途中穴に落ちないようにちょっとずつ、確認しながらジャンプしている様子がまだゲームに慣れていないことを物語っているが、それでも懸命にゴールを目指すチノちゃんの姿は以前ゲームを教えていた同い年の女の子と重なった。

 

「あとはゴールまで行けるから頑張って!」

 

 そんなチノちゃんを応援したくなって、声をかける。その後チノちゃんが黙々とゲームを進める。しかし、最後の最後でチノちゃんは油断してしまったのだろう。

 

「あっ!」

 

 敵キャラに気を取られて穴に落ちてゲームオーバー。画面が黒くフェードアウトしていきやがて最初のステージ選択画面に戻っていく。

 

「ドンマイ、チノちゃん。最初なんだから気にしない気にしない」

 

 少し落ち込んでいるチノを励ます。いくら簡単だとは言え初めてで捜査を始めて理解したのであれば1発でクリアできるとは言えない。けど、チノちゃんの場合は今までゲームに触れてこなかったから余計に緊張していたのかもしれない。

 慣れないことをしているのだから思った通りに動けなくて当然。それはゲームだけというわけではない。では、慣れないことを慣れるようにするにはどうすればいいか。そんなのは簡単。反復練習するしかない。

 けど、もう一つだけ方法がある。

 

「……吉田さん、少しお手本を見せてもらってもいいですか?」

 

 そのもう一つの方法。お手本を見る。最初のうちは自分で考えて行動するのは難しい。だから、どういう風にすれば正解なのか見せつけてあげればそこから自分なりのプレイに繋がる。

 ……なんだ。チノちゃんってゲームやったことないらしいけどかなりゲーマーじゃん。

 

「OK。ちょっと見てな、チノちゃん」

 

 頼まれたからには先生として教えてあげないとね。このゲームは完全クリアをしてるから操作なんて簡単にできる。さて、いっちょ本気出しますか!!

 

 チノちゃんが俺の肩を掴み、のぞき込むようにして画面を見ていた。しっかりと画面を見ていることを確認した俺はステージ選択しゲームを始める。

 

 さっきチノちゃんがクリアできなかったから選択できるステージは1つだけ。そのステージが始まった瞬間、敵がやってくる前に走って強化アイテムを取る。そして倒さずにただひたすらスルーをする。次に強化アイテムがあるところをジャンプで出現させそれも取る。ファイアレッドになったことを確認した将斗は連打で火を出しながらそれでもダッシュを止めなかった。見る見るうちにゴールまでの距離は縮まり、ゴール前の階段まで到着した。

 

 軽快にジャンプをした将斗は階段のてっぺんまで行き一番の大ジャンプでゴールポールのてっぺんに抱き着く。これがゴール。一番上にたどり着いたことで残機を1つ獲得し、さっきのチノちゃんの分を取り戻した。

 

 あまりにも早くクリアしたためかチノちゃんの目が画面から離れない。

 

 だけど少しすると頬を膨らませたチノちゃんが俺のことを睨んでくる。え……? どうしたんだろう?

 

「……吉田さん、さっきやってた大きいジャンプは何ですか?」

 

 あ~ぁ。そうか。チノちゃんが言ってるのは3段ジャンプの事。これはテクニックだから説明はまだ早いと思ったんだけど、チノちゃんは知りたいようだった。

 

「さっきのは3段ジャンプって言って走ってるときにタイミングよくジャンプするとなるんだ」

 

 ダッシュで勢いをつけてジャンプ。そして着地したタイミングでジャンプボタンを押す。そうすれば2回目、3回目のジャンプは特殊なアクションとともに飛距離が伸びる。そして高さも高くなる。ゴールする階段のところで使ったけどよく見ているなと少しばかり感心した。

 

「じゃあ、壁を蹴って反対方向にジャンプしたのは……?」

 

 チノちゃん、結構勉強熱心なんだった……。それがこんなところでも発揮されるなんて、ちょっと嬉しくなっちまうぞコノヤロー!!

 やっぱいいな。自分が好きな物が他の人も好きになってくれるこの感覚! 久しぶりに味わったよ。こうなったら俺もとことん教えるぞ!!

 

「あれは壁キック。壁で挟まれたところとか上に取らないといけないものがある時に使うんだ。穴に落ちちゃうときの悪あがきとしても使うね」

 

 床がないところを上に登りたいとき近くに壁が2つあれば上ることができる。壁に接触したときにタイミングよくジャンプボタンと壁と接している方とは逆のボタンを押すとできるテクニック。

 

 一通り説明が終わった後、チノちゃんは再び頬を大きく膨らませて俺のことを睨んでいる。

 

「……なんで教えてくれなかったんですか?」

 

 確かに教えなかったのはまずかったのかもしれない。チノちゃんにとっては知りたいことだったみたいだし、でもこれで教えるきっかけになったから結果オーライなのかな?

 

「まだ早いと思って。タイミングが重要だから難しいよ?」

 

 それにまだ基礎しか教えていない状況で知ってもなかなかうまくは出来ないだろう。普通にプレイしていて失敗してしまうテクニックでもあるのだからなおさらそう思ってしまった。

 

「そんなことはわかってます。だから吉田さんに教えてもらうんです」

 

 まっすぐなチノちゃんの瞳に、俺が写っていた。見つめられているということに気恥ずかしさを感じるよりも前に、俺のいる世界に飛び込んでくるチノちゃんが嬉しくなって、いっぱいいろんなことを教えてあげたいと思った。

 

「……分かった。わからないことがあったらまた聴いて」

 

 だから時間なら俺が無理やり作る。チノちゃんが聴きたいときに聴けるようにしてあげようと決意した。

 

「もちろんです」

 

 でも、チノちゃんには忘れないで欲しいことがある。ゲームに興味を持ってくれたのは嬉しいけど、これだけは言っておかないといけない。

 

「ただ、ちゃんとやらないといけないことをやってからね? 今はお店に人がいないからいいけど、勉強とか友達と遊んだりとかやることはいっぱいあるでしょ?」

 

 子供にはやるべきことがある。学校で勉強すること、宿題、友人と外で思いっきり遊ぶこと、そしてお店の手伝い。それがしっかりとできると約束をしてほしかった。ゲームはあくまでも娯楽。本気でやっていたとしてもそれだけは忘れてはいけない。そういうことが分かって欲しいから。

 

「はい。それも分かってます」

 

 ……けど、その心配もなさそうだ。チノちゃんはちゃんとできる。無責任な信頼かもしれないけど、お店の手伝いをしながら宿題をしたりと時間の使い方はかなり上手。だったらできる。

 

「ならよし! これからも楽しいゲーム生活を送ろう!」

 

 だから俺はこの言葉とともに3つのVSと3つのゲームを渡す。ピンク、水色、紫とカラーリングを分けたりと結構考えたけどこれで誰がどれになるか決めれば間違えることはないだろう。

 

「では、これからいっぱい付き合ってもらいますよ私をこんなにしたのは吉田さんなんですから」

 

 チノちゃんは笑顔のまま俺からVSたちを受け取り、そう言った。

 

 このことがきっかけでチノちゃんと徹夜でゲームしたり、オンラインで共闘したりすることになるのだが、今の俺にはチノちゃんがそこまでハマるなんて予想できていなかった。これから本当に俺とチノちゃんたちのゲーム生活が始まるのだった。

 

 




7月1日が水瀬いのりさんのライブということで書かせていただきました。と言ってもツアーなので前にも投稿する機会はあったんですけどね。

じゃあなぜ今日なのか。そう疑問に思うと思います。その理由は私がそのライブに参戦するからです!

友人がチケットを取ることができたので楽しんできますよ! 

曲を予習しつつかいた話ではありますが初めてのごちうさオリジナル回。いかがだったでしょうか? 正直ごちうさに関してはまだまだだと痛感いたしました。口調とかいろいろ勉強しないといけないようですね。

次回はアニメ2話分の話を予定しております。着物少女の登場ですよ! ……多分。

それでは、次回もお楽しみに!


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