Fate/shadow night (星乃椿)
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#-02 比企谷 八幡

お久しぶりです。
こちら見切り発進・プロットなし・更新不定の息抜き作品になります。
というか社畜してたら『孤物語』1年以上放置していたという・・・
この作品のヒッキーはほぼオリ主だと思ってくださって結構です。


 目の前に広がっていたのは黒々とした底なしの闇だった。

 生き残りはただの二人だけ。

 当然、自分と――

 

 「今回も失敗だったか。この程度の村では人数が少なかったか? いや、学がなければ持っている情報の量も質も知れたものか」

 

これがもう一人の生き残りが発した言葉だった。

僕はその言葉に怒り以上に悲しみを覚えた。

僕がこの人より強ければ死なせることもなかっただろう、と。

 

「八幡。行くぞ。次はここよりも都会へ行く」

「わかりました父さん」

 

そしてなにより申し訳ないと思った。

この魔術師にただ従順に従う自分自身もまた同罪。いや、この悲劇を引き起こしたのは、この男がやろうとすることを知っていたにも関わらず、ただ結果だけを見つめていた自分の方が質が悪いのかもしれない。

そんな後悔をしたところでなにが変わることもない。『影』に取り込まれた人達が蘇ることも、突然この人以上の魔術師になってこの男を殺せるわけでもない。

いつもと変わらず、感情を殺して、思考を止めてこの男に従っていくだけだ。

 

「直に魔術協会の犬共が駆けてくるだろう。すぐにここを離れなくてはならん。お前の持ち物は置いていくが構わんな?」

 

魔術協会の犬ーーー執行者に父さんは追われている。

僕は何度も彼らが殺される瞬間を目撃している。

いつもならこの男に従い、即座にボートへ乗り込んでいるのだが、今回だけは従えなかった。

 

「すみません父さん。一度家に帰ってもいいですか? 今日は母さんから手紙が届いているんです」

「・・・いいだろう。ただし猶予はないぞ。急げよ」

 

これが私物ではこの男は絶対に認めはしない。だが、家族が絡むと別だ。

この人は冷徹で、非情な人間だけれど、家族には甘い。証拠に、僕に『影鬼』を2体も与えている。

この『影鬼』は普段は影の中に潜んでいるが、半径500m以内で『比企谷』以外の魔力が感知されると起動し、周辺の影を伝い敵を感知する特性を持つ。だが、それはあくまで探知能力の話。恐るべきはその渋とさだ。

こいつらは戦闘能力こそ“ちょっと優れた”人間程度のモノだが、まず死なない。周囲の影を取り込み無限に再生する。こいつらを倒すには『影鬼』の宿主となっている魔術師を無力化するか、半径500m内の影を一片残らず消すしかない。

 

「あった」

 

郵便受けにぽつんと入っている一通の手紙。まるで見本のように綺麗な文字で書かれた宛名は確かに父さんへ宛てられたものだった。読むのは船の中でいい。あとは父さんの元へ帰るだけだ。

 

「ちょっといいかい?」

 

不意にかけられた言葉に情けない声を上げて咄嗟に振り向いて見れば、見たことのない男が立っていた。

年齢は20代くらいだろうか。だが、光のない目がまるで世捨て人のようで見た目よりも老いているようにも感じれた。

 

「ごめんよ。驚かせてしまったね。見たところ君は日本人だね? 僕の言葉がわかるかい?」

 

彼は優しく僕に問いかける。そして無言で頷いた。

けれど僕は直感で理解した。

彼は父さんと同じ人種(魔術師)だと。

 

「そうか。じゃあ君が比企谷影國の子供だね。悪いけどついてきてもらうよ」

 

そういって男は魔術回路を励起した。大方、暗示の魔術でも使おうとしたのだろう。

だが、生憎こちらも無防備ではない。

男の魔力を感知して起動した影鬼が僕の前へ現れる。

 

「影の使い魔・・・? こんな子供が? いや、影國のモノか。やはり情報通り身内には甘いらしいな」

 

男はぶつぶつと何かを呟きながら影鬼と交戦している。

影鬼が男の手で殺されては復活してまた繰り返すこと6回。

なるほど。この男は今までの執行者よりも強いらしい。

この時僕は油断していた。

きっとこの男も死んでしまうだろうと。

瞬間、一面が強烈な光が支配する。

塵になっていく影鬼を逃げもせずただ傍観していた僕はこの男に暗示をかけられていた。

薄れゆく意識の片隅に見えたのは泣きそうな目をした男の顔だった。

 

+     +     +     +     +     +     +     +     +

 

意識が覚醒したーーーいや、覚醒させられたときには父さんは追い詰められていた。

 

「どうだい? これならお前は僕を攻撃できないだろう? お前の魔術じゃあ僕だけを狙って殺すことはできないからな」

 

これはさっきの男だろうか? 先ほどと違って無機質で冷たい声だ。

 

「それがどうした? 私がソレに情があるとでも? 馬鹿馬鹿しい」

「なら、殺すといい。どうした? できないのか?」

 

男は挑発を繰り返す。銃口を父さんに向けているがそんなものでは無意味だ。

父さんに影がある限りそんなものは意味をなさない。

さっきの影鬼を消し去った時のように閃光弾を使ったところで、服の中にある僅かな影が父さんを守る。

だが、父さんに僕だけを生かしてこの男を殺す術がないのも事実だ。

現に、父さんは秘術を展開しようとしている。

あれは術者の周囲のみが安全地帯。任意で標的を定めることはできない。即ち、僕はここで死ぬ。

 

「ごめんな八幡。こうなっては致し方ない。その男からお前が逃れることはできないだろう。ならば私だけでも生き残ろう。生きて根源へ到達せねばならないのだ・・・!」

 

涙ながら訴える父さんを男は一蹴した。

 

「ふざけるな。何が根源への到達だ。そんな価値のないモノのために一体何人の人命が失われたと思っている? 挙句、愛する息子すら根源への糧にするなんて、同じ人の親とは思えないね」

「吠えるな! 魔導の尊さを理解できない犬風情が!」

 

父さんの影が押し寄せる。あの影に触れればこの男も僕も影の海の中へ溺れていく。

 

「ああ、理解に苦しむよ。本当に」

 

そういって男は銃を撃った。

 

「無駄なのに・・・」

「そう思うかい?」

 

男は笑ってそう言った。

現に銃弾は影に飲み込まれている。あの影は見た目こそ水のように流動的だが、その中は海のように深く、暗い。銃弾が貫通して父さんを撃ちぬくなんてことはありえない。

ーーーやっぱり無駄じゃないか

そう言おうと思った矢先、影は弾けた。

 

「あ、あああぐあああああ!!!!」

 

影は消え、父さんは苦痛に悶えながら哭いていた。

 

「き、貴様! 一体! 私になにを! なにをした!!」

「お前に教える必要があるのか?」

 

そう言って男は父さんに銃を向けた。先ほどの大きな銃とは違う、ただの拳銃を。

 

「待ってください」

「・・・この男を殺さなければ何百人、いや何千人もの人命が失われる。君はそれをわかって言っているのかい?」

「わかっています。だからこそーーだからこそ父さんは僕が殺さなきゃいけないんだ」

 

僕は男の目を見てはっきりとそう告げた。

男は何かを思い出すかのように目を閉じた後、言った。

 

「いや、僕が殺す。なにも君がその手を汚さなくていい。君はーー」

「僕の手はもう汚れています。僕は父さんを止めることができなかった。たくさんの人を見殺しにしてきた。もうそんなのは嫌なんだ。・・・もう、もう死んでいく人をみたくない」

 

僕は男の目を見てはっきりと告げた。

普段人の目を見て会話することなんてなかったからだろうか。目が熱くて痛い。涙が自然と溢れ出そうになる。

 

「・・・わかった。ただし、これを撃ったら君はもう人の世界には帰れない。それでもいいんだね?」

「かまわない。それに僕は魔術師の子供だから。今更そんな世界・・・」

 

戻れるはずもない、と言い切る前に男は僕を強く抱きしめた。

それは父さんとも母さんとも違う暖かさだった。

ああ、そうか。この人がそうなんだ。

父さんを止めることができる正義の味方。僕をこの影から救い上げてくれる正義の味方。

だけど、僕はーーー

 

「ありがとうございます」

 

男は拳銃を僕に渡してくれた。

その慣れない重さは僕の心を明確にしてくれた。

 

「ごめんなさい父さん」

 

父さんはすでに意識が朦朧としていて、きっと僕やこの男がととどめを刺さなくともきっと数分で息絶えるだろう。

それでもせめて僕が。

 

「あ、ぃしてぅーーはちーー」

 

乾いた音が一発夜に響いた。

ああ、これが正義ならば、さぞ正義の味方は苦しいのだろう。

たった一発。それがとてつもなく重い。

抱いていた幻想も、掘り起こされた夢もすべて削り取られていくようだ。

この男は一体どれだけの幻想を壊してきたのだろう。一体どれだけの夢を諦めてきたのだろう。

そしてそれでも正義の味方でいる彼はどんな理想を持っているのだろうか。

 

「ねぇ」

「・・・なんだい?」

「僕もあなたみたいになれますか?」

 

正義の味方になれますか?

 

ーーー僕は、正義の味方になりたかったんだ。




実はこれアイデア事態はだいぶ前からあったのですが、書こうとしたらあまりに書くことが多すぎて放置してた作品だったり。
本当は#-とかにしないで#00にしようとしていたので長くなりそうなので分割。
どのくらいの文字数が適切なのでしょうか・・・


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