魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!! (益荒男)
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過去編
特に当たり障りのない政狩家の日常 其の壱


 バレへんバレへん・・・。もしばれても今年はハピバレまではいってへん。







 

 

 

 

 時は少し遡り、中学三年の夏休み

 

 今日も今日とて、俺、政狩刀弥は朝から道場で爺やと鍛錬に励んでいた。

 

「せいッ!」

 

 気合いの入った掛け声と共に、爺やの顔へと放たれる右足の蹴り。先程、鳩尾目掛けて打った拳を囮として繰り出したそれは、体を重心ごと引くことで難なく避けられる。

 

「拳の方に気迫が足りん、狙いが透けて見える」

 

 ならばとそのまま一歩踏み込み距離を詰め、此方の流れを絶たぬようにと連撃を繰り出す。直ぐにその判断を下したのは間違いじゃないだろう。相手は格上、それなら一度仕切り直すなど愚の骨頂。もし相手に流れを相手に掴まれでもしたら、その瞬間此方の敗北が迫ってくる。例え体力の消耗が激しくなるとしても、継続して攻め続けなければならない。そのはずなのだが

 

「踏み込みが甘い、体が入っとらん」

 

 突き出した拳は易々と受け流され、蹴りは的確に腕で防がれた。間に挟む足払いや裏拳もことごとくいなされる。此方のもう既に二十を越える連撃は、一つとして爺やの体に入っていなかった。

 

 今日の鍛錬の内容は体術だ。なんで刀鍛治師が体術を修めるのか俺も最初は疑問を抱いたが、もう「政狩だからしょうがない」という風に納得してる。爺やが言うには「手元に得物がない状態でも、ある程度護身が出来なければいけない」とのこと。いや答えになってねえよ。しかも爺や、教える側だから当然なのだがめちゃくちゃ強い。なんかもう、最初は別次元だって思ったもん。今はなんとか喰らいつけてはいるけど、爺や多分全然本気出してねえんだよな。やっぱ可笑しいわこの家。

 

「ハアッ!」

 

 爺やの胸の中心めがけて、渾身の掌打を放つ。腰を落とし、目標に対して一直線に腕を伸ばし、これまでで一番いい出来だと言えるそれは、爺やの右腕一本に容易く受け止められてしまう。パアンッと乾いた音が道場中に響いた。

 

「型は良くなった。が、力み過ぎだ。それでは当てる瞬間の威力が下がる」

 

 俺の腕を弾き返し、こちらの番だと掌打の構えをする。その動きは水の流れの如き自然のものでありながら、構えは岩のように重い。まさに洗練されたという言葉が当てはまるものだった。今の自分には足りない『年月』というものをこれでもかと言うほど注ぎ込まれたそれ。見る人が見れば、まさに武の境地と呼ぶに相応しい。

 ここまでの動作を俺がなんとか目で追える速さでこなし、放つ直前。受けて立つという意思表示の為、もう一度腰に力を入れる。狙いは構えの高さからさっき俺が狙った場所と一緒、つまり胸の中心部。それがわかるのであれば、あとは防御に力を入れる瞬間だけを見切ればいい。さぁ来い。どこまでやれるかは分からないが、耐えて見せようじゃねぇか。

 

「いくぞ」

 

 遂にその一撃が放たれる。

 

 目ではきっと捉えられない。そんなことはとっくに分かっている。だから目を瞑る。信じるのは自分の直感だ。

 

 --ダンッと踏み込む音が聞こえる

 

 けど運任せじゃない。直感というものは様々な要因によって左右される。五感然り、環境然り、経験然り。

 

 --次に感じるのは波。自分を呑み込まんと押し寄せるそれに気圧されることのないよう体に喝を入れる。

 

 だからこそ、武芸者は絶対に直感というものを馬鹿にしたりはしない。その直感こそ、数々の窮地から自分を救い出す何よりも信頼出来る最高の武器なのだから。

 

 --その波が自分にぶつかろうとする瞬間

 

(今ッ!)

 

 腕を胸の前で十字に組み、全身に最大まで力を込める。爺やの掌打が腕に衝突する瞬間に衝撃を和らげる為少しだけ腕を引く。道場中にダアンッ!と、先の自分の放ったものが大したことないと思える程大きな音が響いた。覚えるのはまるで岩その物と剛速でぶつかったかのような錯覚。最小限の動きをこなすことで生まれる速さと、少しの力を極大まで増幅させることを組み合わせた衝撃。だが仰け反らない、怯まない。足腰にに力を入れ、力の限り踏ん張る。掌打の衝撃を全て全身で受け止める。

 

「ほう、これを耐えて見せたか」

 

 両腕と爺やの掌から薄い煙りが上がる。爺やが型を解くと同時に俺はその場に崩れ落ちた。

 いっっっってぇぇぇえええ!!!!???ヤベエイタすぎ!イタ、イタイッテ!?くそう、全身がピクピクして動かねえ・・・!ちょちょ、ちょっと待って?破壊力あり過ぎじゃない?ただの掌打だよね?強化も使ってないのになんでこんなに痛いの?くぅ、流石に衝撃全部を受け止めようとするのは無理があったか。

 

「受け止めたのは見事と言えるが、馬鹿正直に受け過ぎだ。衝撃の逃がし方は教えただろう」

 

「・・・あんな、説明、じゃ、分かん、ない・・・」

 

 確かに教えてもらったけど、あんな「考えるな感じろ」みたいな説明じゃ分かんないんだよ。地面へ衝撃を流れさせるとか言ってるけど、どうすんのさ。詳しく教えてって言っても感覚で掴めとしか言ってくれないし。やっぱり爺やも脳筋か。せめて身体の動かし方をだなぁ・・・。

 

 

 

 

「・・・暑い」

 

「十五分後に再開、今度は受けの練習だ。ほれ、水分はしっかりとっておけ。今日は一段と暑い」

 

「・・・ありがとう」

 

「はぁ、もうあそこまで本気では打たん。お前が捉えきれる速さで打つ。それと次からはどんな攻撃でも目を瞑らないでいろ。確かに直感は大切だが、今からそれ頼りだと成長せん。しっかり目で捉え、見切れるようにしなさい。見切りの極意は教えたな」

 

「一瞬では足りない。百や千と刻み捉え、それを以て見切りと為す」

 

「よし」

 

 よし、じゃねえよ。感覚の強化も使わずにどうやってんなもん捉えればいいんだ。まあ出来るまでやりますけども。

 

「不服そうだな」

 

 図星をつかれギクッとし体を震わせた。顔に出ていたのだろうか。俺はあまり顔に表情が出ないと専らの評判なんだが。少しいたたまれなくなって、そっぽを向いて小さく頷く。

 

「お前は普段顔を動かさない分、感情の出た時が分かり易いのだ。まあそれはいい。

 よく聞きなさい。大事なのは『一瞬を刻む』ということだ。例え己が正しいと感じた一瞬のなかにも、更に自らの望む答に近い瞬間というものがある。更にその中にもと、これをごく僅かな交錯の間、自分の限界まで刻み続けるのだ。

 それは闘いだけではなく、鍛冶にも当てはまること。無意識の中でも鍛えられるものでもあるが、意識しなければ気付くことの出来ない深みと言うべきものがある。それを追求し続けていくことこそが鍛錬といえるだろう。

 

 より深みへ潜れ刀弥、お前の欲しいものはその先にしかないぞ」

 

 ・・・そんな風に言われちゃ、やるしかねえに決まってるじゃん。俺が鍛冶に繋がると言われて、それを疎かに出来る訳がないだろう。

 こういう時、やっぱり敵わないなあと改めて思う。前世の記憶も合わせるなら自分の方が年上のはずだ。それに正直にいって、前世の全盛期に打った俺の刀と爺やの最期の真打に、神秘の有無を除きそこまで大きな差はなかった。なのに、今の俺は爺やにはいろんな意味で絶対に勝てないのだ。

 それはやっぱり、積み重ねた年月の『質』が違うからなんだろうか。それとも自分はどうあれ爺やの孫だからか。

 道場前の井戸から水を引っ張り出し思いっきり頭からそれをふっかける。頭が冷えたからか、そんな下らないことを考えていた。そう、下らないことだ。今は今のまま、ただやるべきこと、やりたいことをひたすら愚直にやり続ければいい。そうだ、オレが生まれた理由とかそんなものはどうでもいい。

 

 打って(鍛えて)打って(鍛えて)打って(鍛えて)打って(鍛えて)、ただただ打ち(鍛え)続けて、きっといつか、今度こそ、オレは牟都刈と呼ぶに相応しい刀を打って見せる。

 

 それで漸く、漸く(オレ)は・・・

 

 

「おい、刀弥」

 

「・・・んぁ。あ、なに?」

 

「此方の台詞だ、上の空になりおって」

 

「ごめん、ちょっとぼぅてしてた」

 

 最近こんなことが増えてきたな。不味い、弛んでいる証拠だ。常在戦場は鍛冶師の基本、常にこの身は鍛冶場(戦場)に在りってな。

 それに最後にモブ崎と模擬戦したとき危うく負けかけたし。てかあいつ、のCADのホルスターから抜く動作ギリギリ目で追える位にまでなってたんだけど、魔法の発動スピードもクッソ速いし。

 極めつけにはデバイス型と拳銃型2つCADの同時使用とかやってなかったか?基本的にそういうのって無理だった筈じゃないの?あいつものすっごい速さで成長してるぞ。「まだ、足りないのか・・・!」って負ける度にうなだれてるけど、魔法技術だけじゃとっくに自分を追い越してる気が・・・うし、一気にやる気湧いてきた。一分一秒無駄に出来ないぞ。決して現実から目を背けている訳じゃない。ただ自身の長所を更に伸ばそうとして何が悪い!

 

「爺や、続きやろう」

 

「まだ休憩しててもいいんだぞ」

 

「いや、大丈夫。それに今は時間が惜しいや」

 

「そうか、ならば始めよう。耐えてみせろよ」

 

 それと、鍛錬の時の爺やはめちゃくちゃ楽しそうだからつい頑張っちゃうんだよね。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 日が落ちていき、空に赤みがかかってくるまで俺と爺やは一緒に鍛錬を続けた。終わったあとはところどころ痛む身体を引きずって風呂に入る。夏休みの間はずっとこんな感じだ。毎日稽古をつけてくれる爺やには感謝の念しか浮かばない。

 

(やっぱり、まだまだ遠いよなあ)

 

 湯船に浸かりながら今日の鍛錬を思い出す。最初の一発以来、終ぞ爺やを驚かせるには至らなかった。悔しいという思いが止まらない。爺やは俺のいつか越えるべき大きなの壁の一つ。父さんと爺や、この二人を超えることが俺の目標だ。

 けど、その天辺が全く見えてこない。今の俺はまだまだ二人の足下にも及ばないということだろう。ほんと一体どんだけ時間かかんだこれ。

 

(武術の方はともかく、問題は鍛冶の方だ。最近全くうまくいってない)

 

 俺のもう一つの悩み、それは最近の刀鍛冶のことだ。打てなくなったってわけじゃない。寧ろ爺やから新たな技術と叩き込まれ間違い無く技術は向上している。爺やと二人打ちをするときなんかはもう足を引っ張ることなんて二度としないだろう。

 問題は一人打ちだ。それは刀の出来が悪いという訳じゃない。寧ろいいとさえいえるだろう、それが目的通りの完成型なのであれば。最近打った刀は全てどこか()()()()()のだ。目的の刀を打とうとしても、長さが、重さが、反りが、焼き目が、必ずどこかに自分の想像とズレが出る。

 二カ月ほど前。爺やからある課題が出された。自分でどんな刀を、どういった手法や手順で打つかを決め、魔術を一切使わず爺やから指示された一定の期間でどこまでやれるか。初の『真打の儀』から久方ぶりの一人打ちだった。一日で打つ刀の細部まで設計し鍛冶場の準備を完璧に整え、翌日から製作に取りかかる。制作は三週間に及んだ。真打の時のように短期間ではないため、一つ一つの工程をゆっくり丁寧に余裕を持って取り組んでいく。その結果完成した刀はそれはいいものに仕上がっただろうと思っていた。

 だが、結果は失敗も失敗作。自分が造ろうとしてたものに比べて一寸ほど長いは、反りは大幅にデカいは、それなのに何故か軽くなってるはと、散々たる結果となってしまった。たちが悪いのが、その刀単体で見ればかなりの出来に仕上がっていることか。というか最早別物である。

 つまり自分は、頭の中での設計図通りに打っているつもりで、実は身体は全くの別物を造り上げていたのだ。まるで意味が分からない。その時の俺が目の前の現実が理解できずに「なぁにこれぇ?」と声を上げたのも無理も無いだろう。いやほんとどういうことこれ?なんか不思議を通り越して軽くホラーなんだけど。身体の中に自分の知らない自分がいたりする?降霊術なんて使えないし霊媒体質でも無いはずだけど。全身包帯はめちゃくちゃ蒸れるのでNGでお願いします。

 

(真打から何か大きく変わったこと...は特にないな。あれは一種の通過儀礼であって成長を促すものじゃないし。でもあのとき打った刀、形といい振った感触といいなんか既視感があるんだよなぁ。うーん...)

 

 何度もこの悩みを繰り返したが、いっこうに答えが出る気配はしない。このことを爺やに相談したところ、「なに訳の分からないことをいってるんだ」みたいな顔をされ、相手にしてもらえなかった。多分問題の刀が遺憾ながら出来が良かったからであろう。それからまた二本の刀を打ったがどれも同じ結果に終わった。このままずっとこんなことが続けば流石にマズい。

 

(早くなんとかしないと、ってそれが出来ないから悩んでんだよ。...イラついても意味ないか。どうしたもんかねぇ)

 

 

 

 

 

 

(...のぼせた。頭くらくらする)

 

 結局あのまま答えは出せず、三十分ほど湯船に浸かっていたらこんな様だ。今は様子見するしかないのかな。ん?部屋に爺やの気配がない。いつもならこの時間は部屋で本でも読んでるのに。居間にいるのかな?あ、そういえば今日の夕食係俺じゃなかったっけ?やっべえ、まだ米を炊いてすらいねえじゃん。さっさと準備始めないと。

 

 素早く着替え、急いで台所へ向かう。居間に続く襖を開けると、母さんがなんだかふてくされた顔で卓袱台についていた。

 

「母さん?」

 

「あら刀弥、遅かったわね」

 

「ごめん、直ぐに晩飯の準備するから」

 

「それなら大丈夫よ。おじさまと郁麻が代わりにやってるから」

 

「あれ、そうなの?」

 

 よかった~最悪食事が9時まわってからになるところだった。後で父さんと爺の二人ともに謝っとかないと。・・・ん?父さんと爺やの二人?大丈夫なのその組み合わせ。もう料理そっちのけで口喧嘩してる光景しか思い浮かばないんだけど。・・・まぁ多分大丈夫だろう。断じて止めに行くのが面倒な訳ではない。でも、そう教えてくれた母さんはどこか不機嫌そうだ。

 

「何かあったの?」

 

「それがね...」

 

 

-------

 

 

「だからさっきから言ってるだろ!煮付けものを作るなら六代目の指南書の方が一番うまい!」

 

「何を言うかと思えばそんな下らんこと。確かに味だけで言えば其方が適しているかもしれんが、この三代目の料理には多大な滋養効果が見込まれるのだ。日頃の鍛錬で疲れている刀弥に適しているのはどちらか、考えるまでもないだろう」

 

「がさつで大雑把な悪童って今でも伝わっている三代目の作る料理に、滋養もなにも有るわけない!というか親父が好きなだけだろ!この前もそんなこと言って刀弥に呆れられて・・・。おいアイナ、その右手に持ってる真っ赤な瓶はなんだ。如何にもヤバそうな雰囲気がするんだけど」

 

「何って、この前商店街の売店で買ったソースだけど。なんでも第三次大戦前にあった『コブ○チリ社』ってとこので、一滴入れるだけで食べた人は飛び上がり駆け回る程元気になれるとか」

 

「アイナ、とりあえず何もせずに台所からでるんだ。そして今度その劇物を元のところに返してきなさい!」

 

「え~気になるのにぃ」

 

「ダメったらダメだ!それに君は料理はてんで出来ないだろう!なんでここにいるんだ!」

 

「むっ、なによ。私の計算にかかれば料理なんて復元の魔術より簡単なことなんだから」

 

「戯言抜かしてないで早く...おいなに勝手に進めてんだオヤジィ!」

 

 

------

 

 

「それっきり相手にされなくって、追い出されたってわけ。私は手伝いたいと思ってただけなのに」

 

「でも料理できないのは事実でしょ」

 

「生意気なのはこの口かしら?」

 

「イタイイタイ」

 

 ほっぺを引っ張るな。てかやっぱり喧嘩してたのか爺やと父さん。それと母さん、そのソースについては父さんに全面的に同意する。それタバスコの千五百万倍辛いとかいうマジでヤバい奴だから。それ一滴でもはいったスープ飲んだら3日間味覚が死んじゃう奴だから(益荒男体験談)。

 

「はあ、昔の刀弥はもっと素直でかわいかったのになあ。それがこんなに大きく無愛想になっちゃって」

 

「なんだよ、その言い方は」

 

「ヨチヨチ歩きのころから活発でね、目を離すと直ぐにどっかに行こうとするのよ。直ぐ気付ければいいんだけど、そうじゃないときは家中探し回る羽目になったりしたんだから。家から出て鍛冶場の小屋にいたりとか、酷い時なんか山を登った蔵の中にいたりして。色々困らされたわあ。まあそこが可愛いかったんだけど」

 

「聞いてないし。あとそんなの憶えはない」

 

 ちょっと、赤ん坊の頃の話とか止めてくれません?妙に気恥ずかしいというかなんというか。いたたまれない気分になるので

 

「五、六才の頃が一番大変だったわね。夜に布団から抜け出して、おじさまの鍛冶の光景を見るのはまだ可愛い方だったわね。勝手に山を降りようとしたりとか、蔵の刀を勝手に持ち出そうとしたりとか」

 

「...そんなこと知らない」

 

「山道をそれて迷子になった時もあったっけ?結局全部結界に引っかかっておじさまに怒られてたけど。あ、そうそう。刀弥ったらおじさまに本気で怒鳴られるたびに涙ででビクッてなって、『...ごめんなさい』ってものすごい小さい声で謝ったりして」

 

「もういい加減にしてくれ!」

 

 

 

 母さんの思い出話という名の辱めは結局、父さんと爺やが晩御飯を運んできたところで終わるかと思いきや、食卓の話題にまで持ち込まれ、二人までもが嬉々として参加するという地獄のような仕打ちとなった。ついでに料理の味付けについての争いは、運んできたときの二人の顔から父さんの勝利となったようだ。

 

 その翌日、俺は家族と最低限の会話しかせず、爺やと父さんからかなり真面目に謝られ、母さんはそれを端から笑いを堪えながら眺めるなんて一幕があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 




 何気に刀弥が声を荒げるの初めてかも。

 次はちゃんと早いうちに本編上げます。たぶん、きっと、メイビー。だからお願いします、そんな期待せずに待ってて下さい(懇願)


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転生編
プロローグ あるいはこのまま終わり?


 村正おじいちゃんへのリビドーが抑えられなかった。
 小説投稿初心者なので生暖かい目で見守って下さい。


 

 

 

 

 これは、ひとりの男が夢を叶えて終わる

 

 

 

 そういう物語だ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 俺は転生者だ。前世の名前は吉田蓮斗、今世の名前は政狩 刀弥。前世の方は忘れていい。

 

 でも、転生した理由はひと昔前の「事故に合いそうになっていた子どもを助けてトラック激突神様邂逅特典貰って転生ヨロシク☆」って訳じゃない。

 

 前世での死因はふつーに年を食い過ぎだってだけだ。九十五まで生きれたんだから只人としては充分だろう。神様にだって会ってねえし特典なんてものにも心当たりはない。いや普通にこんなジャンルもあったな。

 

 いやー最初はまじでビビった。自宅のベッドの上で家族や弟子達に見守られながら目をつむって「ああ、死んだな」って思ってたら、なーんか声が聞こえんのよ。気になって目を開けてみたらあら不思議、5歳位の体になって暗い部屋に知らないオジサンと二人っきり。何か事件の香りもするけど後で俺(?)の祖父だと分かった。

 

 爺や、あん時は急に叫んでゴメン。めっちゃ心配してたし。厳格で無口だけどすんごい孫思いだった。でも「年寄りを驚かすな」っていうのは俺のセリフだよ。もう違うけど、ピッチぴちの小学生は最高だぜ状態だけど、いやバスケもしないけど。

 

 それから俺は父と母と祖父の四人暮らしをなんやかんだで楽しみながら送っていた。

 

 

 そんでこっからが重要。今の俺のいる世界がこっちに来てから五年後の十歳になってようやく発覚した。てか分からされた、小学校の社会の授業で。

 

 

「では○○君、教科書の12ページの最初一行を読んで下さい。」

 

「はい!えーと『2040年、世界的な食料困難により第三次世界大戦が始まりました。』」

 

「はい。よく読めました。」

 

(へー今の小学生はそんなことまで習うのか。)

 

 

 何て思いながら俺は頬杖をついてあくびをしていた。昨日の鍛錬が長引いてしまい寝不足気味なのだ。

 

 

「では、続きを○○ちゃん、お願いします。」

 

「は、はい『戦術核が使われるほどの大乱戦になる中、世界滅亡の危機にまで達しましたが、後に『魔法』と呼ばれる超能力を扱う『魔法師』の登場により戦火は少しずつ小さくなっていき、開戦から20年後の2060年第三次世界大戦は終結しました。』」

 

 

 ふーん、そーなのねー・・・。え?魔法?魔術でなくて?いやそれもおかしいけど。てかこの設定どっかで聞いたことがあるような・・・。

 

 

「はい、よく読めました。皆さんが知っての通りこの様にして魔法という物が認められました。では、皆さんは魔法のことについてどんな事を知っていますか?」

 

「はい!確かサイオンっていうのを使うんだよね?おとーさんが言ってた!」

 

「あとエイドスってものも関係あるって聞きました。」

 

「『サイオンでエイドスを書き換えてあらゆる現象を起こす』って本に載っていたと思います。」

 

 

 わー今の子どもは博識だなーはーはっはっはっはっはぁ・・・。

 

 ダメだ。言い逃れできねえ。確定だ。

 第三次世界大戦に魔法、想子に個別情報体か・・・。

 

 

  ここ魔法科じゃねえか!!!!

 

 

 魔法科ってあれだろ。劣等生と名ばかりの世界最強シスコンお兄様が俺TUEEEEEする話だろ。原作読んでたけど、ほとんど覚えてねえ。今の年も合わせると八十年以上前じゃねえか?読んだのは。よく今の単語だけで分かったな。俺の頭も捨てたもんじゃねえな。

 

 そうかー魔法科かー。どーしよっかなー。

 

 

 

 

 

 

 ま、いっか

 

 

 

 

 

 

 ここがどんな世界だろうが関係ない。

 俺にはやることがある。叶えるべき夢がある

 

 学校が終わったあと、友達と話すこともなく(てかまず友達がいない)まっすぐ家に帰る。俺んちは学校の最寄り駅から三つほどいってバスにのり山を登ったその途中あたりにある。学校まで片道一時間ほど。一番近くの小学校があそこにしかなかったのだから仕方がない。過疎化って面倒だったんだな。

 

 山を登りきりようやく帰宅。木製のスライド式ドアをあけ玄関前で靴を脱ぎ畳を踏んで爺やのいる部屋へ一直線で向かう。

 

 そうなんです。うちんちバリッバリの古い和式の祖父家なんです。電気もガスも通ってないし機械の類もほとんどない。買い物などは山を降りて街でするが基本的に家の外には出ない。冬は布団とこたつだけがたよりだ。

 

 ふすまを開け爺やと会う。両親は今は結婚記念日の旅行中だ。何か読み物をしていたのだろう。本を置いて振り向く

 

 

「帰ったか、刀弥」

 

「うん、ただいま爺や」

 

 

 挨拶を済ましてじっと待つ。爺やはそれを見て難しい顔をしだした。

 

 

 

「今日もするのか?」

 

「うん」

 

 

 それを聞いてため呆れたようなあきらめたようなため息をはく。爺やも折れたようだ。不孝者でごめんなさい。でも、これだけは絶対に譲れないんだ。

 

 

「ついてきなさい」

 

「はい」

 

 

 それだけ言って立ち上がる。その言葉に従って俺もついて行った。どこに行くかも行き方も知っているが、自分一人だけで勝手に入るのは家族全員から固く禁止されている。

 

 さーてこっから気合い入れていくぜ。夢のためにレッツゴー!

 

 

 

 

 

 

 ついでに爺やが読んでいた本の題名は「おじいちゃんの悩みをスパッと解決!コレだけは守ろう 孫との接し方」だった。爺やマジ天使。そんで本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

――――-――-――

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生した世界が分かってやるべきことはなんだ。

 

 

 

 その世界の異能の修行?

 

 ―否である。

 

 

 ヒロインのフラグ作り?

 

 -否である。

 

 

 重要組織との接触?

 

 ―否である。

 

 

 確かに、そうした方が楽しめるという人もいるだろう。

 

 そうした方がすごしやすいという事もあるだろう。

 

 そうしなければ生きられないという世界もあるだろう。

 

 

 けど俺は違う。

 

 

 この世界で生まれ持った、この家族とこの場所があれば充分だ。これ以外のものは今はいらない。むしろ邪魔だ。

 

 

 

 

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 音が響く。その源は目の前の爺やである。障子窓から夕焼けの日が漏れる部屋の中、赤く焼けた鉄に一定のリズムで鎚を振り下ろす。

 

 

 カンッ カンッ コロン カンッ

 

 

 ある程度まで伸びたら縦に折り曲げ四半回転させた後、再び鎚を振り下ろす。言葉にすれば単純だ。だが此処までの間に俺にとってはどんな財宝にも届かないほどの価値があった。

 

 

 最適な鎚を振り下ろすタイミング、リズム、力の入れ具合、勢い、場所、鉄の延ばし具合、いつどのようなタイミングと角度で鉄を折るか、いつどこから再び振り下ろすのか。

 

 

 

 

 そう、今俺は刀鍛冶を視ている。そして爺やの持つ技術の全てを盗もうとしている。

 

 

 

 

 

 前世の俺は、中学の頃からあるゲームにはまっていた。

 

 その名も Fate Grand Order

 

 小学生の頃に原作、Fate stay nightにはまり奈須きのこの描く世界観に魅了された。

 

 もちろんFGOは事前予約から始めた。

 

 最初にギル様を当てて狂気狂乱したのも、林檎をかじりながらイベントを周り徹夜したのも、今じゃいい思い出だ。

 

 小遣いが少なかったので無課金勢だった(福袋?あれは必要経費だ)が、貯めた石で孔明先生を当てようとして50連爆死したこともあったし、引き継ぎコードを使った次の日に父親がアップデート更新を間違えてアンインストールなんてした日は絶望のあまり学校を3日ほど休んだ。

 

 再び始めソロモンで号泣しながら楽しんでしばらく経ったある日、比喩なしに俺は運命に出会った。

 

 

 

 亜種並行世界 屍山血河舞台 下総国

 

 

 英霊剣豪七番勝負

 

 

 夢と現の狭間、そこで再開した宮本武蔵と共に七人の英霊剣豪に勝負を挑む物語。

 

 

 そのラスボス戦で、一人のサーヴァントがその真価を発揮した。

 

 原作ファンは待ちに待った登場(杉山はいない)に歓喜し、その最後の勇姿は全てのマスターの心を打った彼。

 

 

 

 名は千子村正

 

 

 

 原作主人公、衛宮士郎の姿で登場した伝説の刀鍛冶師。その刀は全て逸品であり、徳川からは幕府を開く前からの因縁から妖刀と恐れられた。

 

 

 

 

「奥の手はねえのかって?阿呆か。んなもん、あるにきまってんだろ。」

 

 

 

 

 確かにかっこよかった。社長男の絵描くの久しぶりじゃねとか、BGM合いすぎだろとか、めっちゃ興奮した。

 

 

 でも、そこじゃない

 

 

 

 

「かつて求めた究極の一刀。其は、肉を断ち骨を断ち命を断つ鋼の刃にあらず。」

 

 

 

 

 

 士郎だからこそ出来たんだと理解したし、伏線を張ったライターに素直な賞賛を覚えた。

 

 

 でもそこじゃない。

 

 

 

 

「我が業が求めるのは怨恨の清算。縁を切り、定めを切り、業を切る。」

 

 

 

 

 ここだ。ここからだ

 

 

 

 

「―即ち。宿業からの解放なり。」

 

 

 

 

 何も言えなかった。只何かが心の中ではまった気がした。

 

 

 

 

 

「・・・・・・其処に至るは数多の研鑽。千の刀、万の刀を象り、築きに築いた刀塚。」

 

 

 

 

 

 

 刀とは切る物、ただ切る為に在る。

 

 

 

 

 

「此処に辿るはあらゆる収斂。此処に示すはあらゆる宿願。」

 

 

 

 

 

 なら、物など切れて当たり前だろう。寧ろそこからだ。

 

 

 

 

 

「此処に積もるはあらゆる非業────

我が人生の全ては、この一振りに至るために。」

 

 

 

 

 

 目に視えないものを切る。それこそが、本当に至るべき場所。刀という物の到達点。

 

 

 

 

 

 

「剣の鼓動、此処にあり─────!

受けやがれ、こいつがオレの、都牟刈、村正だぁーッ!」

 

 

 

 

 

 

 そして思ってしまった。

 

 

 打ちたい。

 

 

 この都牟刈りと呼べる刀を打ちたい、と

 

 

 

 

 

 そんで俺は刀鍛冶師になった。

 

 

 

 うん、自分でも馬鹿だと思うよ。ゲームやってたら刀打ちたくなりました。刀鍛冶師目指しますってアホか。それを高校生の頃に決めちまったもんだから、親は猛反対。いや諦めなかったけど。これまでずっとダラダラなあなあで過ごしてきた俺が必死になって話しているのを見て両親は困惑していた。

 

 そこから、俺は知識を集め、体を鍛え、高校を退学し、ネットで知った山奥に住む隠れた刀匠の元に弟子入りしにいった。師匠も最初は受け入れてくれなかったけど、腹を空かせても帰らないのを見てどれだけ本気か分かってくれたのだろう。家に泊めてくれて、暫くしたら弟子入りも認めてくれた。

 

 ここまで来れば、後は精進あるのみだ。只打ち続けた。あの画面で見た刀を目指し続ける。何年も何年も。

一時期、気紛れで出した自分の作品が世間を騒がしたこともあったが、まだまだ足りない。俺が目指すのはこんなものじゃない。

 

 後は、結婚して子供作って弟子を取って最初の方に言った通り、たどり着けずに死んじまって、この世界にやって来た。

 

 もうこれは運命なんだと思ったね。神様にはマジで感謝だ。いたらだけど。

 

 それと、俺が運命と感じた所がもう一つ在る。

 

 

 一通りの作業を終えた爺やが、片付けを済ませてこっちを振り向き口を開いた。

 

 

「刀弥よ」

 

「何?爺や」

 

「本当に根源を目指すのか?」

 

 

 そう、この家は型月世界の魔術師の家系なのだ。元は妖狩りを生業とし今に至っているらしい。

 

 そして、ある理由から俺にこの家を次がせることを皆は嫌がっている。政狩家の歴史を、俺の父の代で終わらせようとしているのだ。

 

 だが俺はそれを拒んだ。でないと俺は刀を打てなくなってしまうからだ。

 

 この家の魔術師の方向は「自ら打った刀と己の技により境界を切り、根源へと到達する。」だ。

 

 最初聞いた時は「何この脳筋一族」と戦慄したものだ。そして思ったね。実に自分にあっていると。

 

 

「はい」

 

 

 静かに、それでいて力強く頷く。

 

 ああそうさ、目指すよ根源。本来の目的は都牟刈だけど、別に切り開いてしまっても構わんのだろう。それに型月ファンとしても根源の渦が一体どういうものなのかヒジョーに気になるしね。

 

 

「そうか」

 

 

 そう言って、一度目をつむってしばらくしてからまた開き、扉の方へと向かった。

 

 

「もう直ぐ、あやつらも帰ってくる。夕餉の支度をするぞ。鍛錬はその後だ。」

 

「はい」

 

 

 俺も立ち上がり、爺やについって行った。

 

 技の鍛錬自体は幼少の頃から行っている。これは別に鍛えて置いても損はないだろうという考えらしい。

 

 お陰様で、今では子供とは思えない程に鍛えられた。刀だって、自由に振り回すことはできなくても、構えられる程には扱える。魔術による身体強化なしで。

 

 それに、技をもって根源を目指すといわれたら、思い浮かべるのはたった一つでしょう。

 

 幻想種TUBAMEを切るために生涯を捧げた伝説のNOUMIN、そして彼が生み出した対人魔剣。己の技だけで多重次元屈折現象なんてことをやらかした侍。

 

 技で根源に至るなんて抜かしてるんだ。そんぐらいしないといかんでしょうよ。今の時点で全くできる気はしないけどね!

 

 だが、この俺にこんな世界を与えてくれたんだ。つまりはこういうことなんだろう。

 

 

 

 

 

 神(きのこ)は言っている。

 

「都牟刈持って燕返しうっちゃいなYO☆」と。

 

 

 

 

 いいぜやってやるよ。こちとら魔法科になんて興味ないんだ。今度こそ俺の夢を叶えてやる。俺の冒険はまだ始まったばかりだ!!

 

 まあ、まずは夕餉の準備から始めますか。確か漬け物のあまりがあったな、魚も学校の帰りに買ってきたし。

よーし今日の献立きーまった。両親が帰ってくるまでにパッパッと済ませちゃいましょうかね。てかあのバカップル共が、今のご時世結婚記念日に一緒に二人だけで旅行なんてする夫婦なんてなかなかいねえぞ?仲のよろしいことで。カーッペ、爆発すりゃいいのに。

 

 さて、台所に向かいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・てか、この世界、魔法科と型月ゴッチャになってたんだな。

 まあ、どんな話だったか詳しくは覚えてねえし、ヒロインにも魔法モドキにも興味ないし、一生こっから離れる気もないし。関わることもないだろ。AHAHAHAHA・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六年後

 

 

 

 ・・・・・・今思えばあれがフラグだったんだろうなぁ。昔の俺のバカヤロウ、第二魔法使えるならそこの時間軸を消し去ってでも無かったことにする。

 

 

「答えろ、お前は何者だ。」

 

 

 刀をもって佇んでいる俺に、後ろから大型拳銃式CADを向ける「魔法科高校の劣等生」の主人公。

 

 世界最強お兄様、司波達也

 

 

 

・・・・・・ドウシテコウナッタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なんか合ったら指摘ください

 あと誰かルビの振り方教えて・・・


追記、十一月一日、感想から指摘を受け、英霊剣豪七番勝負をネタバレとなるところを改稿しました


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ご先祖様は恐らく、今の俺らを見て泣いているだろう。「私はこんな脳筋などではない!」と

 バンド練習しながら小説書きながら評価に戦慄しながらこの年でウルトラマンネクサスにはまっている今日この頃の益荒男です。

 あーいそがしいそがし


 テテテッテッテー♪ テテテッテッテー♪

 テテテッテッテッテ♪ テテテテテ♪

 

 頭の中で某絶対に時間内に終わるはずもない料理番組のテーマを流しながら調理を進めていく。

 

 はいワカメを切ってー豆腐を切ってー♪お湯に味噌をとっかしったらー♪煮干しを入れてー材料ブッチ込みふたをしろ♪はい味噌汁の準備完了。この間僅か50秒。

 

 次は焼き魚でーす。腹をさいてー内臓抜き出し腹を開く♪二つに切ってー塩をまぶしたら七輪の上にボッシュート♪これを二つ用意しましょう。水分の蒸発による泡が出てきたあたりでひっくり返してを繰り返しましょう。それで焼き魚の準備も完了。かかった時間は3分程度。

 

 「爺や、こっちできたよ。そっちは?」

 

 「あと2分待て」

 

 我が家、政狩家の食事は「効率よく的確に、それでいながら上品に」がモットーである。先のふざけた感じに紹介した手順も時間も、最も効率よく美味しく出来上がるようにご先祖様が調べ尽くしたものなのだ。

 

 何でもこれは、まだ妖狩りを生業としていた頃、「いつ依頼や任務が入ったとしても直ぐに動けるよう、それでいながら旨いものを食いたい」と思った当主がいて、それを聞いた者全員が賛同した結果、一族総動員で研究され生み出されたらしい。

 

 やっぱ馬鹿だわこの一族。仕事に忠実なのはいい。けど総動員なんてする必要ねえだろ。周りも馬鹿だが当主も馬鹿だ。同じ一族だからこそ分かる。コイツゼッタイ愚痴を零しただけだ。そんで皆が乗り気になった勢いでやっただけだ。

 

 

 

 

 ここで少し、こんな旧時代のような生活をしている魔術師兼刀鍛冶一家、我らが政狩家について説明していこう。

 

 時は遡り約900年前、元は西欧の魔術師であった我らがご先祖様。彼は人間の文明の起源となる「火」を題材に根源へと至ろうとしていた。彼自身も優秀な魔術師であり、火を扱う魔術において右に出るものは指で数えられる程しかいなかったそうだ。

 

 だが、いつの時代においても優秀さと面倒事はセットでついて来るものである。彼の研究に目をつけた魔術師達が徒党を組んでその成果を我が物にしようとしたのだ。基本自分の研究にしか興味なんてないはずの魔術師がここまでする事が、彼がいかに優れた魔術師だったかを物語っている。

 

 彼はそれから逃れるために、他の魔術師がまだ手付かずの東方を目指した。だが、研究をするには場所も資金も足りていない。そこで彼が目につけたのが、航海士マルコ・ポーロの「東方見聞録」そこに記された「黄金の国ジパング」。そう、ここ日本だ。

 

 黄金の国というのに惹かれたのか新たな竜脈の発見を期待したのかは分からないが、それから彼は日本を目指し旅を始め、そして辿り着いた。

 

 

 

 だが、彼の不幸はさらに続く。

 

 

 

 勘のいい奴なら分るだろう。今から約900年前、この頃は鎌倉幕府が開かれ、北条氏が実権を握り執権政治を行っていた時代。そしてマルコ・ポーロの「東方見聞録」。この二つのワードから導き出されるもの。

 

 

 

 すなわち「元寇(げんこう)」だ。

 

 

 

 「元寇」とは、モンゴル帝国の王フビライ・ハンが東方見聞録で日本を知り、その国を支配しようとふっかけてきた二度の戦争のことを差す。ご先祖様は来る時期が悪すぎた。その戦争に巻き込まれたのだが、彼も魔術師の一人。自分の魔術を用いて襲ってきた奴を返り討ちにしていった。

 

 彼はそこで初めて刀というものを知った。彼にとって剣とは、重さを武器に敵を叩き潰すものなのだから。あんなに細く美しい身で、馬や鎧を綺麗に両断する刀に見惚れたのだ。

 

 戦争が終わりようやく一息つけると思った矢先、彼は一人の地主の下へと招かれることとなった。どうやら、彼が自分の身を守ろうとやっきになっていた所で偶然助ける結果となった武士が高い身分の御家人だったらしいのである。

 

 御家人は彼に褒美を与えるとし、ご先祖様はここに来る途中に見つけた竜脈の起点となっている土地を要求した。土地という面で御家人は少しためらったが、山の一面に小屋を建てるだけでいいと言えば簡単に譲ってくれたそうな。

 

 これで竜脈の確保はできた。ならあとは生きていくためのお金だ。御家人に相談した所、妖怪退治はどうかと勧められた。お前が使う魔術とやらでどうにかできんか、と。彼はそれを引き受けた。有名どころの竜種や妖精などとは違う、この国独自の幻想種に興味を持ったからだ。それから彼は日本の竜脈を拠点とし妖狩りを生業とする魔術師となった。これが政狩家の発端だ。

 

 

 

 

 ご先祖様は子孫達がここまで脳筋になるとは思わなかっただろうなあ。なんて思いながらお椀に米を盛っていく。聞いた限りでは、この人は普通の魔術師って感じだろう。ではどっからこうなっちまったのか、そして何故刀鍛冶となり根源を目指す手段を変えたのか。それは・・・

 

 

「ただいま帰りましたーって、お、旨そうな匂い。」

 

「Good timingだったようね。私もお腹がすいてきちゃった。」

 

 

 玄関の扉が開く音と共に二つの男女の声が聞こえてきた。バカップル共も帰ってきたようだ。

 

「お帰りなさい。」

 

「帰ったか。早く着替えて来い。夕餉の準備はついさっきすんだ。」

 

「ただいま。刀弥、オヤジ。ならさっさといってくる。」

 

「ええ、刀弥の作るご飯が待ち遠しいしね。」

 

 台所から顔を出して迎えると、そんな言葉を返して隣部屋へと向かった。

 

 俺の父親、政狩郁麻(いくま)

 

 俺の祖父、脳筋一号の政狩龍馬と既に他界した脳筋二号の祖母の間に生まれた常識人にして政狩家現頭首。過去の事件により()()()()()、既に刀鍛冶としての現役は引いているが、その腕は過去に打たれた作品全てを凌駕する刀を生み出す程。現代でも知る人ならば彼を「蘇った村正」と呼ぶ。刀の技においても人の域を逸しており、全力の爺やを隻腕ながら圧倒する。

 

 そして、政狩一族で唯一至りかけた(・・・・・)者だ。

 

 

 俺の母親にして常識人二号 政狩・アイナ・ミハルトン

 

 名前の通り日本人ではない。生まれはイギリス。彼女は元アトラス院の魔術師であり、そこからここ日本に逃げ出してきた錬金術師である。

 

 何故あのアトラス院から逃げ出せたのかずっと疑問だったが今ようやく理解した。

 

 恐らく、第三次世界大戦が引き起こったせいでこれまでの魔術情勢が崩壊したからなのだろう。魔法科の設定にも外国の関わりが極端に減ったみたいなことも書いてあった気がするし。この世界ならではの出来事っていうことだろう。

 

 ついでに父さんに惚れた理由は、アトラス院からの追っ手から自分を守ってくれた彼に惹かれたから、らしい。チョロい。

 

 

 夕食を盛った食器をお盆に乗せて運んでいると二人が戻ってきた。全員がちゃぶ台についたら、はいいっせーのーで

 

「「「「いただきます」」」」

 

 まあ、なんかんや言って俺も久しぶりに家族全員で食卓につけて嬉しいのだった。美味しいって言ってくれたらいいな。面には絶対ださねえけどな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「それでは始めるぞ。刀弥。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 夕食を終えて場所は変わり家の隣に建てられた道場。修練着に着替え、そう言ってお互いに頭を下げる。

 

「まずはいつも通り素振りからだ。やれ。」

 

「はい」

 

 そう答え、木刀を構える。通常の物より二倍ほど重い特注品だ。それを振り上げ、刀身のぶれないように振り下ろす。それを繰り返していく。

 

「重心が前に傾いておる。」

 

「次は右だ。動き出しが鈍くなるぞ。」

 

「疲れてきたからと力を込めるな。木刀を離さない最低限の力だけを入れろ。」

 

 一つの間違いを改善すると、また新しい間違いが生まれる。そして間違いが生まれることが無くなるようになるまで、余分な物を削ぎ落とし一つの完成にまで近づけていく。

 これだから研磨するということは止められない。爺やという本当に優れた師を持てたことにも感謝だ。父さんには劣ると言っても、爺やも人の域を既に逸した超人の一人だ。例を挙げるならば、母さんを抹殺しにきた魔術師十数人を父さんと二人で文字通り瞬殺するほどである。

 あん時はチビっちまうほどの衝撃を受けたね。腰の刀に手をかけた事に気付いた時にはもう手遅れ。次の瞬間には襲撃してきた三分の一が文字通り一刀両断されていた。俺の家族チート過ギイ!俺もあんなんシテーーー!

 

「止め」

 

 三百回程降っただろか。木刀を下げ、息を吐く。この少しの間で既に汗を滝のようにかいてしまっていた。それくらい集中してやっていたという証拠だろう。けどこんなものウォーミングアップにもなりやしない。

 

 爺やが木刀につける為の重りを渡してきた。これで木刀の重さは大の大人でも持ち上げられないほどになる。

 

「次だ。魔術回路を起動させてそれをつけろ。終えたら再開だ。」

 

 言われるまま、俺の体の魔術回路全■■本のうち7本を起動させる。俺の起動させるイメージは、熱した鉄に槌を振り下ろすイメージだ。頭の奥でカンッと鉄が鳴り、起動させるとともに自身に木刀を構えられる最低限の身体強化をかけ、重りを付ける。

 

 後は素振りを繰り返す。爺やが指摘し、正していき、己自身を磨き上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの話、政狩家の歴史の続きを語っていくとしよう。

 

 何故刀鍛冶を始めたのか、そしてどのようにして「自ら打った刀と技をもって境界を切り、根源への道を開く」なんて脳筋思考へと至ったのか。

 

 なんとそこには、俺が最も尊敬し目指すべき目標である人物、千子村正が大きく関わっていたのだ。

 

 何度か代が変わりながらも、火の魔術師と妖狩りを生業として生活を送っていたご先祖様。時々戦国武将の合戦に巻き込まれながらもこれまでどおり依頼を遂行していたら、彼は信じられないものを目にした。

 

 一人の男が刀だけを持って霊を切り祓っていたのだ。刀は見た所刃こぼれもなく刃の磨かれ具合からついさっきできた新品の様であったし、特に魔術を使った痕跡もない。

 

 なら何故切れた。さっきのは鬼といった肉体を持った幻想種ではなく、生き霊や地縛霊などの概念的な存在だ。何の神秘も用いずに祓いのける。それも礼装ですらない只の刀で。

 

 

 魔術師は問うた、お前は何者だ。

 

 男は答えた、只の刀鍛冶だ。

 

 

 そう、この男こそが千子村正であり、この出会いが魔術師の運命を決定づけた。

 

 魔術師は彼に興味を持った。聞いてみたところ、新しい物を打ったから試し斬りをしようと思い山を下っていたら、先の変なのにあったらしい。霊を「変なの」といっているあたり、彼が刀以外に興味がないところを匂わせる。恐らく、自分がどんな偉業を成し遂げたか欠片も理解していないだろう。

 

 魔術師は村正の了解を得て刀を直に手に取り、霊を切った理由を理解した。

 

 この刀に込められたもの、それは『執念(思い)』だった。

 

 

 全てを切り裂け。神も仏も業も縁も、目に視えぬものであろうとも、一切合切を切り裂いてゆけ。

 

 

 もはや怨念の域にまで達した執念。そんな思いが込められた世の中にある物全てを超える刀。人の思いと技とは、極めれば神秘をも切り裂くというのか。魔術師の戦慄は天辺にまで達した。そして、そこに根源への道筋を見いだしてしまったのだ。

 

 「一度決めたら即実行」がモットーの我が一族。魔術師は村正の下に弟子入りする事を願った。村正は最初はつっぱねたが、ふとあることを思いつき条件付きで弟子入りを許した。その条件とは刀の鉄を熱する為の焚き火を魔術で補うことだった。魔術師は二つ返事でこれを了承。村正の下に弟子入りを果たした。

 

 後はもう止まらない。村正の下でひたすらに刀を学び続け、火を焚き続け、槌を握り締め鉄を打ち続ける。妖狩りの依頼も、まずは刀の試し斬りをし、効かないなら身体強化をかけて拳に炎を纏い殴り倒すという、最早魔術師の面影も感じられないようになっていた。

 

 脳筋の連鎖は止まらない・・・!

 

 使う魔術も、「火」「強化」「解析」「治癒」の四つのみとなり、最終的にはこの四つ以外の魔術が扱えなくなるところまで行ってしまった。

 

 刀を扱うにも技術が必要と理解し、近くの道場で基礎を学んでは師範代をそこで得た技術のみで打ち倒してから抜けるを繰り返すという新手の道場破りみたいなことをやらかし始めた。いや道場破りよりたち悪いなコレ。

 

 そして最後に姓を改名。師への感謝と尊敬を表し、村正の「正」に「打つ」という意味を持たせるのぶんの部首を付け「政」。妖狩りを生業としていたことを残すため「狩」の字を置き、「政狩(まさかり)」となった。

 

 

 魔術世界において(恐らく)初の「魔術の研究を用いずに根源を目指す」魔術師(脳筋)の爆☆誕である。

 

 

 いや本当にどうしてこうなった。なんかこの台詞デジャヴを感じるな。つまり俺は自滅因子だった・・・?相手は誰だ?政狩家そのものか?なら不能になってさっさと根源いたらなきゃ。目的のためなら不能にだって道化にだってなってやる。

 

 この一族にも村正が関わっていた事に最初はものすごく興奮したが、ここまで来るともうなれてくる。自分の夢を叶えるのに適した環境をこれ以上ないほどに整えてくれたのだ。ここまでお膳立てをされて何も為せませんでしたじゃ、刀鍛冶や求道者という前に男が廃るってもんだ。誰にも邪魔はさせないし立ちふさがるというのなら一切合切切り捨てる。だから・・・

 

 

 「そこまで。見込んだ通りかなりの成長速度だ。これなら次の段階に進んでもい

 

 

オォヤァジイイイイイイイイイイイ!!!

 

 

トォウゥヤァァァアアアアアアアア!!!

 

 

 ・・・まずはこの第一関門(バカップル共)を越えなければ。

 

 

 

 

 

 




 俺のにわか歴史アンド型月知識に矛盾などがございましたら遠慮なく指摘して下さい。

 自分で書いてて思ったけどだめだなこの一族


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親こそが最大の壁というけれど、俺の場合いくら何でも高すぎると思うんだ。

 遅れてしまって申し訳ありません。リアルが忙しかったもので。ライブ大成功だぜやっほい。

 この話が終わったら少し時間がとびます。原作で言う所の追憶編あたりまで。

 後半の方が、少し走りぎみになっているかもしれません。それではどうぞ。


 この前述べた通り、俺の家族は俺にこの家を継がせることを良しとしていない。それぞれ度合いは違っているが皆がそう感じている。爺やは気は進まないが望むのであれば仕方がないというスタンス。母さんは他が認めたのであれば協力するが出来ればそうしたくないと言い、父さんは何があろうとも断固反対、といった具合だ。

 出来るなら無視してでも継ぎたいと思っているのだが、彼が現当主であり魔術刻印を持っている以上絶対に説得しなければならない。俺は夢の為なら何だってすると決めた。例えその相手が父さんであろうと必要と思ったなら、切る覚悟はできている。

 

 そう誓った。だから、

 

「頼む、考え直してくれ。僕は、お前を失いたくない。お前に、こんなつらい道を行かせたく、ないんだ・・・!」

 

 俺の肩を片方しかない腕で抱きながらそう言い涙を流している父、郁磨の姿を見て思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 時は稽古の途中、俺の両親(バカップル共)の声が響き渡り、道場に乗り込んで来たところまで遡る。

 

 父さんは顔を真っ赤にし、怒り心頭と言った様子で爺やに怒鳴りかかった。

 

「大声を出すな。それと稽古の途中だ。邪魔をするな。」

 

「そんなことはどうだっていい!それよりも、また刀を打ったな!それも僕とアイナが旅行に行っている間毎日!大方刀弥に見せる為だろうけど、この前もうあそこに入ることを禁じようと言っただろう!僕達にはもう、刀鍛冶なんて必要ないんだ!何度言ったら分かる!」

 

 父さんが物凄い剣幕で爺やに押し掛けている。本当に三十後半なのかこの人。つーか殺気がヤバい。この世の殺気と怒気を一つに纏めて凝縮すればこんな感じだろうか。常人なら秒も耐えられずに泡吹いて死んでいるだろう。今はその全てを爺やに向けているので俺と母さんに影響はない。てかそんな殺気を受けても眉一つ動かさない爺やも大概だな。改めてこの一族が脳筋で化け物の家系なんだと理解する。

 それと、父さん違うんです。爺やは悪くないんです。バカップル共が消えた今がチャンスと思った俺が爺やの所に頼みに行ったのが悪いんです。最初はダメだと言った爺やに向けて5時間土下座をし続けたら流石の爺やも折れてくれた。土下座は暴力。よく分かんだね。

 

 さて、現実逃避もここまでだ。そろそろ目の前の問題に向き合うとしよう。顔を横に向けると、そこには眩しい位に輝く笑顔を浮かべたマイマザー、アイナが。知ってるか?女が最も危ない時は最上級の笑顔を浮かべる時なんだぜ?

 

「刀弥、私が旅行前に言ったこと覚えているかしら。」

 

「旅行に行っている間、魔術回路を起動させる時は母さんが作った魔力封じの布を付けること。」

 

「ええその通りよ、覚えていたのはいいわ。でも、何でその布が()()()()()()()()()()()()()のかしら?もちろん説明してくれるのよね?」

 

「無理に30本以上の魔術回路を発動させたから。」

 

「さらっと言ってんじゃないわよ!」

 

 笑顔が剥がれ、こちらも怒り心頭といった具合でつっこんでくる。いやー爺やとの手合わせで思いの外気合い入ちゃって。一々制限されるのうっとうしかったからハア!って力入れたらブチッとな。お陰で翌日から3日間は回路の修復と筋肉痛で全く動けなかったぜ。

 

「これは!アトラス院から持ち出した術式を使って編んだワタシの最高傑作なのよ!聖骸布と同等の効果があると自負できるそれが、どうすれば焼き切れるなんて羽目になるのよ!」

 

「気合いで」

 

「こんの脳筋息子!もうヤダこの化け物一族!」

 

 そう言ったきり、母さんは崩れ落ちてしまった。

 母さんが編んでくれた魔力封じの布。一定数以上のの魔術回路を起動させようとすれば術式が発動し魔力を押さえ込む仕組みになっている。元はアトラス院に置かれていた魔術兵器の暴走を防ぐために扱われていたらしい。アトラス院の兵器を封じ込める程の術式を気合いで破る俺とはいったい・・・。

 まあ、単純に俺の、というか政狩一族の魔術回路が他の物とは格が違っているというだけなんだが。

 

 思い出して欲しい。この政狩一族、刀を打ち始めたのは約六百年前だがそれより前から魔術師としての研究を続けていたのだ。少なくとも九百年以上前からは。もちろんその頃から魔術刻印は継いでいるし、代々山籠もりをすることが多いので一度たりとも途切れたことはない。

 その結果、やけに魔術回路を多く持っている人間が産まれてくる。更に扱う魔術も単純ながら日常でも応用が利く4つの魔術だけ。長い間それしかやっていないため質も良くなっていく。その結果生まれてしまった「強化と火と治癒を自分にかけ続ける耐久型バーサークヒーラー」、それこそが政狩一族。手がつけられないことこの上ない。

 俺の家族で言うなら、爺やは68本、政狩の最高傑作と名高い父さんは更に上を行き81本の魔術回路を持っている。ついでに母さんは42本。

 これを初めて知った母さんは「こんな脳筋一族に負けているなんて・・・。」と嘆いたそうだ。アトラス院の魔術師はもともと数が少ないらしいから仕方がないだろう。てか母さんの胃大丈夫かな。真面目に心配になってきたんだが。ついでに俺の場合は72本。爺やよりは多いが父さんには及ばない。政狩一族最強の名は伊達じゃないね。

 

「はあ、ま、いつものことよね。目を離す度に何かをやらかしてくれるのは。で、あっちはあんなことになっているけど。あなたでしょう。お爺様に刀を打って欲しいって頼んだのは。」

 

「なんで?」

 

「旅行にでる前、郁磨がお爺様にずっと言っていたもの。「絶対に鍛冶場を開くな」って。耳にたこができると言うのかしら。その位口酸っぱく言っていたわ。」

 

 余裕でバレてーら。

 

「刀弥。」

 

「なに?」

 

「本当に目指すのね。」

 

 さっきまでの雰囲気はなりを潜め、今度は真剣な顔を俺に向けていた。魔術師らしい無機質さを持ったその目は、俺からすればどこか親の温もりを感じるものだった。

 

「ワタシも元はアトラス院の錬金術師よ。やることは違うけど、どちらもほぼ無意味な人生を送るって点では変わらないわ。魔術師も根源なんて物を追い求めて全てを費やすんだから。」

 

「母さんはどうして抜け出したの?」

 

「研究の為よ。幾つもの偶然のお陰だったけどね。」

 

 あまり詳しくは教えてくれないようだ。

 

「だけど、郁磨(あの人)と出会って、色々あって研究も投げ出して、そしてあなたを産んだ。

 嫁ぎ先が魔術師?の家だったのは嫌だったけど、他よりは全然マシだったし。

 ……何より彼に惹かれてしまったから。」

 

「……」

 

「彼も根源を目指していた。けどそれは家のためだからとか究極の知識を欲しているからとかじゃない。誰でもない、あなたの為。未来自分にできる子どもに家の呪いを残さないため。」

 

 父は小さい頃、政狩家の人間としてやるべきことを全て投げ出していた。何故自分がそんなことをしなければならない、何故自分は他の子ども達のように遊んではいけないのかと。それが変わったのは十二になった頃、爺やの魔術刻印の継承式に立ち会ってかららしい。

 父は思った。もし自分が継がなければ、他の子どもがあんな呪いを継いでしまうのか。自分の父や祖父の人生が無駄になってしまうのか。

 父は優しかった。なら自分の代で終わらせよう。自分が根源へと至り、この呪いに終止符を打とう。自分の家族の、そして何より未来産まれてくるであろう自分の子どものために。

 

「結果として、手にしかけたものの至ることは出来なかった。至りかけた代償として右腕も失ったわ。恐らくは抑止力が働いたんでしょう。これではもう十全に刀を打つことも扱うことも出来ない。再び根源に挑むことなんて出来ない。」

 

 いつの間に言い争いも終わったのだろうか。父さんと爺やもこっちを見て静かに母さんの話を聞いていた。父さんは残った左腕で肩を握っている。

 

「だけど、もう目指すことはしなくていいということになった。郁磨の努力が最高の形で実った。

 なのに、あなたはそれを無駄にしようとしている。彼のなくなった右腕を見て、自分もそうなりたいって。それはとても残酷なことよ、刀弥。」

 

 

 

 きつい言い方をしているのは、俺を心配してくれている証だろう。そして場面は冒頭へ戻り、父さんが俺に涙ぐみながら訴えている。親にここまでさせてしまっている俺はなんて親不孝な子どもなんだろう。そんな思いがこみ上げてくる。そして、父の涙を流す姿をみてもう一つの思いを抱く。

 

「刀弥、もう一度聞くわ。あなたは本当に、政狩を継いで根源をめざすの?」

 

 

 

「うん。目指すよ。」

 

 

 ごめんなさい。俺はもう止まらない。止まりたくない。

 

「父さんを超える技を得る。父さんが打ったものを超える刀を打つ。境界も抑止力も切り裂いて、誰も至ることがなかった境地に、俺が立つ。」

 

 俺もこの話を聞き、新たな決意を固めた。都牟刈と呼べる刀を打つことには変わりない。けど、同時に根源へと至ってもみせよう。これまではものの次いで感覚だったが、今からは本気だ。父さんでも敵わなかった抑止力を切り、俺が政狩の歴史に終止符を打つ。

 

 俺の返事を聞いて、父さんは唖然とし、母さんは俯き、爺やはやはりかといった具合に嘆息した。

 

 

「それがあなたの答えなのね。」

 

「うん。」

 

「後悔はできないわよ。」

 

「しないよ。絶対に。」

 

「そう。・・・なら私から言うことはなにもないわ。」

 

 

 それから誰も何も言えないまましばらくたった後、

 

 

 

「今日の鍛錬はここまでとする。刀弥は風呂に入ってきなさい。」

 

 爺やのそんな言葉が沈黙を打ち破り、俺は道場を後にした。

 

 

 ・・・はあ、くっそ気まずかったな。まあ、あそこまで泣きつかれてこの反応じゃ仕方無いよな。

 本当ゴメンよ父さん。でも俺は執念だけを持ってこの世界に来たんだよ。こんなところじゃ終われないんだ。あと爺や、気を使ってくれてありがとうマジで助かりました。

 もう爺やに足を向けて寝れないな。これから心の中では大天使ハゲエルと呼ぶとしよう。えっ、まだ禿げてないって?いやといってももうあなた波平状態じゃないですか。

 

 とりあえず今は風呂だ。一番風呂は俺が貰った!!

 

 

 

 

 あのバカップル共、お湯炊きしてねえじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 本当に、どうしたものかしら。

 

 道場を後にした最愛の息子、刀弥の姿を浮かべながらしみじみと思う。赤ん坊のころから口下手なところは変わらないが、あそこまでの情熱を胸に秘めているとは思いもしなかった。ここまで政狩という魔術師一族に似合う性格をした人間もそういないだろう。

 

「アイナよ」

 

「お爺様」

 

「先程のこと、礼を言う。知っての通り私も刀弥(あいつ)と同じで口下手な身でな。これまで幾度も問うことはあったが、あそこまで向き合ったことは一度もなかった。」

 

「親としてやらなければならないことをしたまでです。気になさらないで下さい。それに自分のことを卑下なさらないで。あなたがあの子と真剣に向き合おうとしていることは、あの子自身が一番良く分かっているでしょうから。」

 

「そう言ってくれるとありがたい。」

 

 恐らく、刀弥と一番向き合っているのはこのお爺様だろう。政狩の人間として向き合い彼の望む技術を与えながらも、一家族の孫と祖父の関係としてしっかりと見守っている。ワタシでは後ろから見守ることは常にできても、向き合うことができる場面は少ないだろう。今の郁磨では、向き合うことはできても見守っていることなど出来やしないだろうし。っと、そろそろ彼の相手もしなくては。未だ俯いている郁磨の下に寄りしゃがみこむ。

 

 

「あなたも何時まで俯いているの。さっさと立ち直りなさい。」

 

「・・・アイナ」

 

「あなたがメソメソし続けるなんて事はここにいる誰も望んで無いわ。分かったら、はい」

 

「・・・ああ、そうだな。すまない」

 

 涙をぬぐんだ郁磨は一度座り直したら、道場の床に仰向けに倒れこんでしまった。まだ引きずっているのね。まあ、無理もない。自分の言葉をあそこまでバッサリ切り捨てられたら引きずりもする。それも内容が内容なだけにね。なんとも皮肉なことだ。最も家を嫌った男が持った子どもが最も家に相応しい人間だなんて。

 

「僕は、間違っていたのかな。」

 

「いいえ。あなたの言っていることは親として何も間違ってなんかいないわ。けど、刀弥とこの家からすれば正しくはなかった。それだけよ。」

 

「そっか。なら、仕方ないな。」

 

 そう言って彼は笑みを浮かべた。自虐のような、諦めのような、そんな笑み。

 

「郁磨、覚悟を決めろ。もう我が儘ではいられんぞ。継承の儀もさっさとすませるべきなのだ。お前が持っていても、もう意味はない。」

 

「そう、か。もう、そんなとこまできたのか。」

 

「たとえ根源を目指すことは認めないとしても、魔術刻印は継承させるべきだ。これだけは譲歩できんぞ。」

 

「・・・わかった。魔術刻印は刀弥に継承させる。それについては、もう文句は言わない。」

 

「了承した。では、ここに郁磨が息子、刀弥を次期政狩家第十五代目当主とするこ「待ってくれ」・・・なんだ。」

 

「継承はさせる。けど当主にさせるには条件が一つだけある。」

 

「言ってみろ」

 

「高校を卒業するまでは待っていてくれ。現頭首は僕なんだ。それくらいはいいだろう。」

 

「何故だ」

 

「あいつはまだ思春期を迎えたばかりなんだぞ。今は家のことばかりだとしても、もしかしかしたら他のことに興味を抱くこともあるかもしれない。そんな時に、もう後戻り出来ない状況だったら嫌だろう。」

 

 多分それは有り得ない。今の段階であんなにのめり込んでしまっている。ならいつまで経っても他のことなんかには目もくれないだろう。郁磨も薄々感づいてはいるだろう。それでも彼はこう言った。本当に欠片もあるかもわからない希望を含んで。

 

「どうなんだ、オヤジ。」

 

「・・・よかろう。刀弥を当主とするのは高校を卒業してからだ。」

 

 これで今できることは全てやった。ならあとは祈るのみだ。自分の息子がせめて悔いの残さない生き方が出来ますように。

 

「なら、この話はもう終わり!お風呂に入って寝ちゃいましょう。長旅から帰ってきたばかりだもの、疲れちゃった。」

 

「そうだねって、あ、風呂炊くの忘れてた。」

 

「そうなの?なら刀弥が炊いていているのかしら。湯気も上がっていたし。せっかくなら、今日は刀弥と一緒に入ろうかしらね。」

 

「それ、この前もしようとして逃げられてなかったか?それも強化使われて」

 

「アトラス院の錬金術師をなめないでちょうだい。ワタシの計算によれば、今風呂を焚きなおして居間で休んでいる頃よ。一度捉えたらエーテライトで拘束できるわ」

 

「前々から思ってたんだけど、アイナも充分政狩の素質があるよ。」

 

「そんな失礼なこといわないで。」

 

「お前たち二人ともが政狩一族にとって失礼極まりないんだぞ。」

 

 

 

 

「郁磨、私はこれから己の持つ全てを捧げ刀弥を鍛えあげる。それが私の使命だと確信した。文句は言わせんぞ。」

 

「そう、僕からは何も言わないよ。精々頑張ってくれ。」

 

「ああ。それともう一つ伝えておく。恐らく刀弥はそう遠くないうちに鍛冶の腕も剣の技も()()()()()()()()()()だろう。」

 

「なに?」

 

「これをみろ」

 

「っ! これって、まさか・・・」

 

「治癒で傷は塞いだ。問題はない、が」

 

 龍馬が袖を捲り、彼の腕が顕わになる。そこには、骨にまでは届かないだろうが深く切られたことを表す三寸程の傷跡があった。

 

 

「お前たちが旅行に出掛けた次の日、私と刀弥で模擬戦した時に付けられたものだ。魔力封じの布が使い物にならなくなってしまったのもその時だ。」

 

「戦闘能力なら、すでにオヤジの技を抜いていると?」

 

「それもあるが本題はここからだ。模擬戦の時に使用したのは真剣ではない。お互いに、()()()()を使ってのものだった。」

 

「えっ」

 

「あのとき、刀弥は魔力を自身だけでなく、木刀にも注いでいるように見えた。だが、元々『切る』ことなど出来ない木刀に切れ味の強化は出来ない。」

 

「なのに切れた。ということは、僕と同じ『切る』ことに特化した属性、起源を持っている、ということか。」

 

「ああ。」

 

「・・・だとしても、いくら何でも早すぎるだろう。」

 

「お前がそこまで至れたのは、たしか二十歳を迎えてからだったな。刀弥はまだ自覚していないだろうが、あいつははっきり言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「・・・鍛錬の進み具合は?」

 

「異常と言う他ないな。基礎は一通り叩き込んだ。ここからはどこまで磨けるかだ。次の鍛錬からは実戦的な技を教えることとなるだろう。」

 

「・・・どこまで行くんだろうな。刀弥は。」

 

「あいつの底を見抜く事など私にはできん。だが、少なくとも二十歳になる頃にはお前と並ぶだろう。」

 

 

「そして根源へと至る、か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 父さんと爺やが小次郎と戦った場合、爺やなら2対8、父さんなら3.5対6.5くらいで勝機があります。もちろん小次郎の方が高いです。勝敗の分け目はやはり、あの対人魔剣をどこまでしのげるかになるでしょうね。

 何なんだろく。この思ったように書けているはずなのに、「これじゃない感」がちらついてくる感じは・・・!
「これが(悪い意味での)若さか・・・」


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魔法科?うるさいそんな事より・・・え?ダメ?

 戦闘描写って難しい・・・。それを身を持って知った第四話でした。これが上手い人本当に尊敬します。

 この前友人が「俺ラブコメ書こっかなー」的なことを言ってたから私も少し原作突入に入れてみました。こんなのいらないって思う人もいるかもしれませんが付き合ってくれたら嬉しいです。



 

 

 

 ダンッ

 

 

 大きな音が道場に響く、音源は刀弥の脚から。過去最高速度で踏み込み、上げた木刀を振り下ろす。高く振り上げる必要も力を込める必要もない。腕を曲げ、木刀が頭を越えるくらいまで持ち上げ、振り下ろす時にだけ腕を鞭のようにしならせ力を込める。それだけで彼の木刀は音を超える。

 

「甘い」

 

 だがこの相手の目を騙すまでには遠く及ばない。

 

「力を込めるタイミングがまだ早い」

 

 相手は木刀を横向きに構えて当てる。これだけで防がれ、受け流された。動きは素人でも捉えられる速さだというのに、全く反応出来なかった。これが経験、持つ技の差である。この一瞬で誰もが理解させられる、決定的な差。

 木刀同士がぶつかる瞬間、なのに刀弥は一切力の拮抗を感じることができなかった。まるで相手の木刀は宙に浮いているよう、そんな感覚。自分の木刀は相手の体を避けて前に進んでいく。それは相手の想像した通りの光景だった。

 少し前ならこのまま体制を崩され、一太刀をたたき込まれて終わっていた。だが嘗めるな。いつまでもこんなとこにいられないんだ。その思いとこれまでの積み重ねが別の結末を生み出す。体勢が崩れる前に、相手の木刀の構え方から受け流す方向を予測し、そこに重心を合わせる。そうすることによって体勢が崩れるのを防ぎ、次の動きを間に合わせる余裕を生ませたのだ。

 

「ほう」

 

 相手が感嘆の声を漏らす。受け流しをここまでの精度で初攻略するとは予想していなっかたのだろう。

 相手の繰り出した横凪を刀弥はやっとの思いで木刀で逸らす。このまま体制が崩れかけたまま打ち合うのは得策ではない。そう考えた刀弥は一度相手の構えた木刀から最も遠いわき腹に向けて木刀を振るう。だが簡単にふさがれてしまう。ここまでは予想通り、木刀に力を入れ弾き飛ばされる要領で後ろに下がる。

 

(受け流しの対処法はつかんだ。あとは一進一退を繰り返して機会を──!)

 

「阿呆が。格上相手に下がってどうする。斬ってくれと言っているようなものだぞ。」

 

 着地する前に、相手は目前にまで迫ってきていた。既に木刀は下段に構えており凪払いの準備を整えている。

 

(速すぎるだろ!どうやって!?)

 

「!、縮地!?」

 

「ようやく気付いたか。」

 

 縮地

 

 中国の技能が起源とされる歩行術。元は地脈を縮めることで長距離を一瞬で移動することができる仙術を表す言葉であり、日本武術では相手との間合いや死角に瞬時に入る体裁きのことをさす。

 縮地を扱う武人は確かに多い。有名どころで言えば新撰組一番隊隊長、沖田総司などだ。彼(彼女?)もかなりの使い手だとされているが・・・

 

(後ろに飛んだ瞬間を捉えながら予備動作なしで使える奴なんているのか!?)

 

「少し本気でやる。得物は絶対に離すなよ。」

 

 相手の腕の筋肉が急に弛緩するのが目に入る。脳内で危険アラートがこれ以上ないほどに響いている。本能に赴くまま、木刀を横に構えた。

 

 カンッ!

 

 刀弥が捉えられたのはそこまで。気がつけば木刀のぶつかる音とともに彼はもの凄い勢いで道場の壁に打ちつけられていた。

 

「カッ、ハッ」

 

 受け身もとれないまま崩れ落ちる。言われた通り、木刀は手離さなかった。

 

「そうだ。如何なることがあろうと決して武器を手離すな。己と刀は一心同体、刀が自分の手から離れた時に己は死ぬと心得よ。まずはそこからだ。でないと根源など夢のまた夢だぞ。」

 

 試合の相手、爺やの声が届くが刀弥は反応を返すことができない。今は打ちつけられた時に吐き出された空気を取り込むことに精一杯だった。

 一分もしないうちに刀弥は再び立ち上がる。その顔には先ほどのダメージが響いていることをありありと感じさせた。腕が痺れる。爺やの払いは腕に途轍もない負荷をかけていた。なぜ木刀を握り続けていられるか、刀弥自身よくわかっていない。それでも構える。この向こうに彼の望むモノがあるかもしれないから。

 

「もう一度、お願い、します。」

 

「・・・よかろう、と言いたいが時間が来てしまった。学校に遅れる訳にもいくまい。」

 

 今の時刻は朝6時半、平日の朝の鍛錬は5時から6時半と決められている。学校のHRは8時半からだが、通学に1時間近くかかってしまうため早めに終わらないといけないのだ。

 

「朝食の準備をしておく。風呂に入って着替えてこい。」

 

「・・・はい。ありがとう、ございました。」

 

 木刀の構えを解き礼をしてお互い道場を離れた。

 

 

 

「まったく、私も修行が足りんな。」

 

 龍馬の右腕、そこには切られたような傷跡が無数にあり、さっきの試合、最後の交錯でも新たな傷を付けられた。本能の赴くまま振ったのだろう。あれは確実に腕を切り落としにかかっていた。いち早くそれを察知したが間に合わず少しだけとはいえ切られてしまった。傷からは少量の鮮血が腕を伝って流れている。

 

「本当に、末恐ろしいな。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 あ~痛って、爺や容赦なさすぎだろう。まだお腹が痛むぞ。

 只今朝の入浴中、朝の鍛錬で爺やにボコボコにされたあと風呂に入るのがここ数年の日課だ。お陰で体には痣や傷跡がいっぱい。治癒をする必要のないギリギリのラインまで痛めつけてくるのでさらにたちが悪い。

 

 あの家族会議から三年の月日が経ち、俺は中学生になった。本当は学校なんか気にせずずっと鍛治と鍛錬に勤しんでいたいのだが、家族全員が「高校を卒業するまで政狩を預けることはできない」と言ったので仕方なく通っている。お陰で今マズいことになっているんだがなァ・・・!

 てかなんでだよ。なんで魔術刻印は継承させておきながら頭首の座は譲ってくれないんだよ。お陰でこっちは鍛治場を自由に使えなくて悶々とした日々を送る羽目になっちまった。爺やの鍛冶を週2くらいで手伝わせてはくれるけど、自分の作品を打ったことはまだこの世界では一度もない。

 あ~刀が打ちたい~!早くあの焼いた鉄をひたすら鍛え続ける感覚を再び味わいたいんだ~!もうそろそろ禁断症状起こってもおかしくないからね。

 

 っと、もう上がらないと朝ご飯を食べる時間がなくなっちまう。遅刻したら教師に反省文書かされることになっちゃうからね。

 

 

「来たか。」

 

「うん、おはよう父さん。」

 

「ああ、おはよう刀弥。」

 

「・・・母さんは、」

 

「いつも通り。あの朝の弱さは筋金入りだよ。」

 

 風呂から上がって制服に着替えて食卓につく。母さんは案の定まだ就寝中。父さんは苦笑いを浮かべながら先に食卓についていた。

 

「それじゃ」

 

「「「いただきます」」」

 

 平日の朝ご飯はこうやって母さん抜きで食べることがほとんどだ。先ほど父さんが言った通り、母さんは朝に滅法弱い。常人よりかなり低血圧らしい。8時に起きてきたならいいほうだ。

 そのまま20分もしないうちに全員朝食をたいらげていた。

 

「ごちそうさまでした。じゃあ薪割りの続きに行ってくる。」

 

「ごちそうさま。それじゃあ、こっちも行ってくるね。」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

「車には気をつけなさい。」

 

 それには「ぶつかりそうになっても避けれるように警戒しろ」って意味も入ってるんだよね。もちろんだよ。

 

 さてと、特に楽しみもないどころか最近面倒なことになってきた学校に行くとしますか。

 

 

 

 

 え?昨日の大雨のせいで土砂崩れ?線路がふさがれてしまって復旧にはあと1時間かかる?あーそうですかそうですか。ハイハイハイハイ・・・。

 

 

 遅延証明書持ってったら反省文無しにしてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。そんじゃ期末テストの記録表返すぞー。出席番号一番から取りに来ーい。」

 

 

 気だるげな担任の声が教室に響く。十分前についたがもう一時間目は終わっていた。

 くそう。朝からひどい目にあった。幸い反省文は無しにしてくれたが後で授業ノートを提出しないといけない羽目になっちまった。この中学やけに内申ノート点でかいんだよな。なんで鍛冶師の俺が成績なんて気にしないといけないんだよ。ここのあたりの高校偏差値高いからだよちくしょう。まあ、前世の知識のお陰で一度教わればすらすら憶えられるからそこまで困ってはいないが、中学だから成績の内申点の割合が定期テストと同じか大きいくらいあるんだよな。

 

「次、政狩ー。」

 

「はい」

 

「ほらよ。喜べ、総合的にはクラス次席だ。数学を上げれば主席になれるぞ。次も頑張れよ。」

 

 ふむ、今回のテストの平均は87か。社会とか理科とか暗記系は90とれてんだけど、数学が75きってるな。まあ、数学は慣れだし仕方ないか、要復習だけど。夜の鍛錬終わったら間違い直しだな。

 うん?なぜ真面目に勉強しているのかって?いい成績出してたら誰も文句を言わないからに決まっているだろう。めんどくさがってサボるよりもさっさと自分からやって黙らせた方が効率も印象もいい。伊達に還暦迎えてないってことだ。

 

「政狩くん、おはようございます」

 

 ・・・きたよ最近の悩みの種が。

 

 顔を横に向けると、そこには将来絶世の美女となろう可憐な少女が微笑みながら尋ねてきていた。

 

「おはよう。」

 

「今日は遅かったですね。何かあったんですか?」

 

「昨日の大雨のせいで電車が遅れただけ。」

 

「それは大変でしたね。ところで、テストの結果はどうでしたか?」

 

 俺は特に答えもせず、そのまま結果表を渡す。

 

「平均点は87ですか。ほとんど同じですね、こちらの方が若干高いですが。数学も私の方が高いですけど、それ以外の教科はほとんど負け、ですか。はあ、中間とあまり変わりませんね。今度は勝ちたかったのですが・・・。」

 

 と、そんなことを言いながら肩を落としている彼女は俺の隣の席の女生徒、名前は司波深雪である。

 

 そう、あの司波深雪である。

 

 原作ほとんど憶えていないと言っても流石に分かる。だってキャラ濃すぎるもの。主人公の妹でありながらメインヒロイン。超が付くほどのブラコンで劣等生の兄と比べて完璧と言える程の優等生。ヨスガんのかテメエら。(益荒男の気持ち)

 なんでそんなキャラがこんな田舎といってもいい場所の中学にいるんだよ。お前んち確かお金持ちだったろお嬢とか言われてたろならもっと都会にいるだろう普通!!

 いや、俺も最初はビビった。最初の自己紹介のとき「その名前どっかで聞いたことあるな」と思って見てみたら、アニメの時より少し幼くなった感じの顔があるじゃないですか。叫び声をあげなかった俺を誉めて欲しい。勿論、初めは俺も関わらないようにしたさ、クラスメイト全員に。だって必要ないし面倒いし。普通にしてたらあんなクラスカーストトップに立つような奴とぼっちの俺が関わることはまずない。話かけられることも一週間に一度あればいい方だ。・・・言ってて悲しくなったりなんてしないぞ。

 だが、予想に反して司波深雪は孤立していた。容姿に惹かれて話しかけた男女は大勢いたが、反応がよろしくなかったらしい。確かにあの時の司波はどこか冷たい空気を醸し出していたな。話しかける奴は次第に減っていき最後は一人もいなくなった。クラスでは俺たちのことをぼっちツートップなんて呼んでいた時期もあったような。ならこのままお互いぼっちでいましょうと思っていたさ。ならなんでこうなったんだって?それはな、

 

Q、自由席替えがあります。クラスの連中はぼっちをどう扱うでしょうか?

 

A、邪魔だから纏めて隅っこに追いやる。

 

 

 こういうことだよ。

 

 ぼっちには一番キツい魔法の言葉「二人組作ってー」と同じ位の威力があるだろ?当然反論なんて聞きいれてもらえず窓際の二列に押し込まれたって訳だ。くそったれ、何が「窓際の一番後ろをやるんだから文句ないだろ?」だ。ジゴロの大山、テメエだけは絶対に許さねえ。

 でもまあ、ぼっち同士隣になったんだから仲良くしましょうとはなる訳ないわな。最初は顔も合わせずひたすら無視していたんだが、中間テスト一週間前のある日向こうから声をかけてきた。

 

「あの…」

 

 ビクッとなった俺は悪くない。警戒しながら彼女の方を向くと、

 

「教科書を忘れてしまって、その、出来れば、一緒に・・・。」

 

 なんて、瞳を僅かに潤ませながら小さい声で言ってきた。テスト週間中に教科書無しで授業を受けるのはかなり厳しい。だから一言も話したことのない俺に頼んできたのだろう。窓際だから俺以外に頼めるやついなしな。てか他に頼める友達もいないだろうけど。なんだ、それだけか。警戒して損した、なんて思いながら何も言わず教科書を俺たちの間に置いたら、

 

「ッ、・・・ありがとう、ございます。」

 

 本当に見せてくれるとは思ってなかったらしく、驚きながらもお礼を言った。授業が終わった後、休憩の間寝ていようと机に突っ伏そうとしたら

 

「あの、先程は本当にありがとうございました。この恩は必ず、後ほど返させていただきます。」

 

 いやいやそんな重く捉えないで。むしろ返さなくていいから、これまで通り無視し続けてくれたらそれでいいから。

 

「気にしなくていい。あと恩とかも返さなくていい。」

 

「そういうわけにはいきません。貰った恩は必ず返す、当たり前のことです。」

 

 結構頑固だなコイツ!めんどくせえ!いや本当にいいから。もう関わらないことが恩返しになるからマジで!一瞬このまま伝えてやろうかと思ったがそれだとただの嫌なヤツになってしまうので、迷いに迷った結果、

 

「次俺が忘れた時に見せてくれればそれでいいよ。」

 

「・・・わかりました。その時は必ず。」

 

(かかった!これで俺が忘れることなく次の席替えまで経てば接点はなくなる!クックック、完璧だ。世界は俺の知力の前に屈したのだ。ハーハッハッハ!)

 

 なんて思っていた時期が俺にもありました。

 

 三日後、俺は曜日を間違えて準備をしてしまい全ての教科で司波の教科書を見せてもらうことになった。

 

「もしかして、忘れてしまったのですか?ならどうぞ!約束ですもの、遠慮しないでください。え?曜日を間違えて持ってきてしまった?ふふ、政狩君はおっちょこちょいなんですね。」

 

 このとき程俺の鍛冶と刀の腕不足を恨んだことはない。さっさと根源に至って第二魔法を習得しておくべきだった。

 それをきっかけに、向こうから話しかけることが多くなった。これまで溜めていたものを掃き出したかったのだろうか。物凄く話をふってくる。具体的にはこんな感じに。

 

「政狩君、一緒に昼食を食べませんか?」

 

「政狩君は何か趣味は有りますか?私は最近料理をはじめてみたのですが。」

 

「政狩君は電車で通学しているんですね。家が遠いんですか?」

 

「政狩君、テストの結果はどうでしたか?って、凄いですね。三教科90点後半だなんて。数学については、その、誰にだって苦手なものはありますよ。」

 

「政狩君は・・・」

 

「政狩君!」

 

 

「と、刀弥?いったいどうしたんだ?その、目が完全に死人のそれだぞ・・・。」

 

 ふっ、笑えよ、この有り様を。・・・いや、まだだ。まだチャンスはある!決して譲らん勝つのは俺だ!次の席替えはくじ引きで決まる。再び同じ人間と隣になるなんて可能性はあまりに低い!さらばだ司波よフォーエバー俺の隣からいなくなれーーー!

 

「先程、大山君?が「本当はボクがブイブイいわせたかったんだけどねえ、女の子の笑顔には敵わないさ。精々上手くやれよ。教えを請うなら何時でもきな」って言いながらこのくじを渡してきたのですが、何だったのでしょう?って、まあ、政狩君がお隣ですか?またよろしくお願いします!」

 

 なあ大山君、ちょっと屋上行こうぜ。久しぶりにキれちまったよ。

 

 

 この後、大山君のキャッチコピーは「特徴がないのが特徴」となった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 あれからずっとこの調子が続いている。もう諦めた。後約10ヶ月、最悪三年間のあいだ耐えればいい。そうすれば原作者通り司波は魔法科高校に行き俺との関わりは完全に途切れる。魔法科高校になんて行きたくないし。

 てか俺は青春ラブコメなんて望んじゃいねえ!ただ政狩家があって刀を打てたらそれでいいんだ!まあいいだろう、後三年と割り切ればどうということはない。刀を好きに打てるようになるにはどっちにしろ後六年かかるんだ。なら気長に待とう。美人と一緒と考えたらそれはそれで悪くもないしな。

 

「それじゃあ政狩君、行きましょうか。」

 

「?どこに」

 

「どこって、体育館ですよ。」

 

「なんで?」

 

「昨日の先生の話を聞いていなかったんですか?」

 

 こく

 

「もう、政狩君ったら。今日は魔法適性検査の日ですよ。生徒の想子(サイオン)と魔法演算領域の保有量を検査するんです。今後の進路に大きく関わるんですから、忘れててはいけませんよ。」

 

 何だろう、急に嫌な予感がしてきた。

 

 

 

 




 この作品では深雪は社会勉強と確かな経歴を残すため学校に通っていることにしています。
 最初に言っておくと深雪ルートに入るっていうかヒロインルートに入ることはありません。この物語の結末はは刀弥が目標を達成できるかできないかの二つだけです。寄り道する事はあるかもしれませんが。

 深雪を持ってきた理由は「後で達也と四葉で遊びたいから」それだけです。


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本当に俺はいい親を持てたよ。それはそうと、もう家に引きこもりたいんですけど(泣)


 第五話投下!

 最後のが書きたくて急いで仕上げましたとも!あれ、途中適当になってないかな?(本末転倒)

 私はこの作品をアイナはアーチャーインフェルノ、郁磨はぐだ男、爺やをセイバーエンピレオにして書いています。友人はアイリ、キリツグ、アハト翁らしいですが。皆さんはどうですか?


 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

 我が家の居間は、重い沈黙に包まれている。只今政狩家、第二次家族会議まっただ中で御座います。きっかけは俺が学校から持ち帰った一枚のプリント、そこにはこう書かれていた。

 

 

『魔法適性調査結果表

 

 対象者:政狩 刀弥

 

 保有想子量:ランク B+

 

 魔法演算領域規模:ランク B

 

 総合評価:B+

 

 結果:平均よりかなり高い適性をお持ちです。

    記述テストの結果次第では簡単に一科生

    で入学できるでしょう。魔法科高校への

    進学を強くお薦め致します。

    

 

               日本魔法協会』

 

 

 

 

 嫌な予感ってよく当たるよね?

 

「これは凄いこと、なのか?」

 

「ああ。僕達はあまり現代の魔法というものに詳しくないんだが・・・。」

 

「ワタシだってそうよ。魔術師は基本現代の魔法を快く思っていないもの。ワタシはただ興味がないだけだけど。」

 

 政狩の人間はほとんど山籠もり状態なので俗世には全く詳しくない。外来の母さんも魔法には興味がないらしい。

 

「俺の学校には、二項目ともB以上は俺と後一人しかいないって。先生もなんか喜んでた。」

 

 そのもう一人とは勿論司波のことである。原作じゃ学年代表も務めてたし当然だね。ついでにあいつは両方ともA以上だった。

 

 

「それなら、凄いんだろうな。」

 

「で、どうする?」

 

「どうするって何が?」

 

「もちろん、刀弥のこれからの進路のことだよ。」

 

「今決めることなの?」

 

「ああ、もう一枚の紙に書いてある。『今回の検査で総合評価D以上の評価を受けた生徒は後日この紙の欄に希望する進路を記入して期限までに提出して下さい。希望する生徒には二学期から「魔法科高校進学カリキュラム」を実施致します。』だって。期限は一週間後の水曜日だ。」

 

「進路を決めるにはいくら何でも早すぎない?こういうのってもっとじっくり考えるものでしょ?」

 

「多分、ほとんどの生徒が魔法科高校への進学を希望するってわかってるからじゃないか?魔法師の将来は安泰だってことぐらいは聞いたことがあるし。」

 

「学校からしても魔法科高校に生徒を送るのは都合がいいんだろう。箔がつくという意味でもな。早くから始めておいて損はない。」

 

 

 なんか俺抜きで話しがどんどん進んでいく。でも言っていることは間違いではない。実際、先生もそんなこと言ってたし。話し長くて半分くらいしか聞いてなかったけど。こっちは四六時中鍛冶と鍛錬のイメトレで忙しいんだよ。あ、そういえば。

 

 

「俺はその紙出さなくていいって。」

 

「え、なんで?」

 

「俺はもう、そのカリキュラムを受けることになってるから。」

 

「はあ!?」

 

「それは、本当か?」

 

「うん」

 

 検査が終わった後校長らしき人のところに連れて行かれて「君が望むのであれば先にこのカリキュラムを受けることを受理しよう」なんて言ってきた。

 どうやら、カリキュラムを選択した生徒を一つのクラスにまとめて、通常のものとは別の授業を受けることになるだとか。基本的には魔法知識と魔法実技が中心となり、内申もあがるらしい。下校時刻が遅くなることもないみたいなので「それでかまいません」と返事をした。そのことを皆に伝えると、

 

「そうか・・・。」

 

「それが刀弥の答えというなら何も言うことはないわ。」

 

「・・・。」

 

 上から、爺や、母さん、父さん、である。あれ?なんか反応がよろしくないぞ?そんなに俺変なことした?確かに魔法科高校に進学する気なんてさらさらないけど、「内申上がるから高校行きやすくなるぜラッキー」な感覚で受けたんだけど。

 

「刀弥」

 

「?」

 

 父さんがようやく口を開いた。その目はまるで何か大きな決意をしたように激しく燃えている。

 ど、どうしたんだマイファザー?一体、何を?ゴクリンコ・・・・

 

「もしこれで、高校を卒業しても政狩を継ぎたいと言うのなら、僕はもう文句は言わない。当主の座を譲り、残りの命を全てお前の望みの為に捧ぐと誓おう。」

 

 ・・・え?マジで?

 

 ・・・ヨッシャアアアアア!!これは本当に後六年で自由に刀を打てるようになるってことだよな!いやあ心配だったんだよ。頭首になっても「もっと他にやるべきことがある」とか言って自由に打たせてくれないんじゃないかって。でも、もうそんな必要はない!よーしやる気出てきた。この六年で爺やの技を全部習得してそれからゆっくり都牟刈を目指すとしよう。ここまで、本当に長かった・・・!

 

 でも、なんかデジャヴを感じるんだよな。前の魔術刻印は継承させるけど当主にはさせない、みたいな?手に届く場所まできたのに回り道をさせようとしている、みたいな?ま、気のせいか!気にしない気にしない!

 

 

 後六年、死ぬ気で頑張るぞー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は纏まり夕食をとった後、刀弥と爺やは鍛錬の為に道場へ向かった。月明かりが照らす中、郁磨とアイナは庭に出て夜風にあたっていた。

 

「いつ見ても、とても綺麗な星空ね。」

 

「そうだな。小さい頃は何も思わなかったのに、一度外に出てからは、とても綺麗に見える。」

 

「外は地上の光が強すぎるのよ。賑やかなのもいいけど、ワタシはこっちの方が好きだわ。」

 

「そっか。」

 

「ええ。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・さっきの、」

 

「え?」

 

「さっきのあれは、魔法に興味を持ったってこと、なのかしらね?」

 

「そうだと、いいなあ。」

 

「でないとこんなものなんて受けないわよ、あの子は。無駄なことを嫌う人間だもの。」

 

「・・・どうにせよ、多分これが最後のチャンスだ。これでダメなら、僕は諦める。そして、全力で刀弥を支えるさ。」

 

「あら?ワタシはほったらかしなの?悲しいわ。」

 

「え!?いや、そんなつもりは・・・」

 

「ふふ、冗談よ。」

 

「うぅ、そんな冗談はよしてくれ・・・。」

 

「イーヤ、止めてあげないんだから。」

 

「そうかい、まったく・・・」

 

「・・・叶うといいわね。」

 

「・・・ああ。」

 

 

 夏が近くなってきたからか、どこか暖かい夜風が吹いている中、草原に立つのは子を愛する二人の親。

 

 彼らは星が瞬く夜空の下、たった一つだけの願いを口にする。

 

 

 

 どうか我が子が、幸せな人生を歩めますように

 

 

 

 

 

 『※ カリキュラムを受ける場合の注意

 

    カリキュラムを希望する生徒は、

    進学希望校は必ず魔法科高校の中

    から選ぶこととなります。

                   』

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 はい、今日も今日とて学校でございます。昨日の父さんの言葉のお陰で俺のやる気はMAXだ。後六年、耐えきるぞ!それはそうと、なんか昨日の夜の鍛錬から爺やの扱きがいっそう激しさを増したんだが。具体的には一太刀だけ入れればいいところを一瞬で三連撃くらい入れてくる。

 てか爺や、あんたもう直ぐ燕返し撃てそうになってるんだけど!怒りで強くなるってあんたはスーパーサ○ヤ人か!いやスーパーマサカリ人だったな!あ、やっべ、お腹痛んできた。とりあえず周りに気付かれないように治癒かけとこう。

 

「あ、政狩君おはようござい・・・って、どうしたんですか!?お腹を抱えて座り込んで!?」

 

 タイミング悪過ぎんだろ司波ぁ!そんでどんだけ俺を虐めるのが好きなんだよ神様!この世界に連れてきてくれたのはスッゴい感謝してるけどさあ!いくら何でも俺で遊びすぎだろ!さてはアンタ愉悦部員だな!(もちろんさあ)

 

「いや、問題ない。」

 

「でもこんなに汗もかいているではありませんか!無理をする必要はありません!私もついて行きますから、保健室に行きましょう。」

 

 そういやコイツめちゃくちゃ頑固だったなコンチクショウ!って、いやもういいから本当に大丈夫だから!美人と一緒ならいいとか言ったけど前言撤回!やっぱりコイツとは離れたい!!

 ん?どうした?急に気温が一気に下がったような。今はもう夏だぞ・・・っておい、なんか廊下が氷張りになっているぞ!

 

「さあ、行きますよ!」

 

「おい司波、まさかお前魔法を・・・!って」

 

 

 

 アーーーーレーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

「ん、やけに打撲跡とかは多いけど、特に後遺症が残るような大きな怪我はないよ。」

 

「そうですか、よかった。」

 

 保健室の先生の言葉に司波は本当に安心したというようにそんなことを呟いた。俺は全然よろしくなかったんですけどねえ。氷の上を引きずられながら移動させられたんだから。今はどっちかっていうとお腹より尻のほうがいてえよちくせう。

 

「でも、本当に傷の跡が多いな。日常生活でつくようなものじゃないぞ。それも事故とかじゃなくて誰かに傷つけられたものだ」

 

「ッ、まさか、政狩君・・・!」

 

「何勘違いしているかは知らないけど、これは爺やがやったものだよ。」

 

 チッ、これだから保健室なんかに来たくなかったんだよ。余計なことしやがって。まあ、俺のことを心配してくれているのは分かっているけども、もう少しその頑固さ直らないかなー司波さんよお。

 

「やはり、虐待を・・・!」

 

「違う。武術の鍛錬をしているだけだ。」

 

「鍛錬?政狩君の家は武術の道場なのですか?」

 

「ただのしがない刀鍛冶だよ。」

 

「かたな、かじ。このご時世にですか?」

 

「そんなものどうでもいいよ。俺の家は刀鍛冶をしている、ただそれだけ。」

 

「刀を作るのに、どうして剣の鍛錬をするのですか?」

 

「だからこそだよ。刀についてよく知っていないと刀を作ることなんて出来やしない。」

 

「そうですか・・・フフ」

 

「何がおかしい。」

 

「いえ、そういうわけではなく。初めて政狩君から自分のことを教えてくれたのが嬉しくって。フフフ♪」

 

「・・・」

 

 なあ、大丈夫だよな?俺何もやらかしていないよな?なんか俺ずっとコイツから離れられないんじゃないかって心配になってきたんだが!?大丈夫だよなあ!?

 

「はいはい。こんなところでイチャイチャするな、それにとっくに授業は始まってるんだ。早く自分の教室に戻れよ。」

 

「っ!?い、いえ!そんなつもりは決してなくて……!」

 

 断じてイチャついてなんていねえ!!

 

 

 嫌だ、もう引きこもりたい。ずっと山の中でひたすら鉄を打って刀を振っていたい・・・。

 いや、気を改めろ。よくよく考えるんだ。司波は中学を卒業すれば必ず魔法科高校に行く。そうならないとおかしい。原作が成り立たなくなってしまう。

 原作といえば、なんでお兄様が司波の近くにいないんだ?あのシスコンが司波から離れているなんておかしいだろ。そんで俺に敵意を向けてきているだろうに。

 ・・・今思えば俺って結構危ない橋を渡っていたんだな。あの司波深雪と一緒にいるなんて。こうなるんだったら原作を読んでおくべきだった!まあ、後悔してても意味はない。とりあえず司波は魔法科高校に行き、俺はこのあたりの高校に入る。これで万事解決だ。どこにも穴なんてない。もうこれは決定事項だ。

 

「そういえば政狩君、進路はどこの高校にするんですか?あそこまでの魔法適性があったんです。成績も数学さえなんとかすれば、どこにだって行けると思いますよ。」

 

 学年主席で魔法適性A+のあなたがいいますかね。朝の授業が終わって昼休み、屋上で昼ご飯を食べている。てかもう普通に司波と一緒に食べてるな。最初は無視していたのに、慣れって怖い。

 今じゃ学校にいる間ずっとコイツが隣にいるんじゃないか?しかも二人っきりで。・・・これ以上は止めておこう。これからが心配になってくる。主に俺の進路が。そうだ。今ここでもうズバッと言ってしまおう。俺の意思表示とこれ以上の付き合いの線引きのために。

 

「魔法科高校には行かない。俺はここの近くの高校を出て家を継ぐ。」

 

「え・・・?」

 

 司波の目が見開かれる。いや、こっちがえ?なんだけど。そこまで驚くこと?

 

「な、何故ですか!?そこまで高い魔法適性を持っていながら、何で!?」

 

 声でけえよ!何故叫ぶ!?

 

「元から俺は家を継ぐつもりだから。他は知らないけど、俺は魔法を使うより刀鍛冶をしていたい。」

 

「将来のことを考えるならば、魔法科高校をでて魔法師になるべきです!あなたの才能ならば、それは難しいことではありません!()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、人生を棒にふってしまうのですか!?」

 

 あ?

 

 コイツは今何と言った?

 

 

 刀鍛冶を、政狩家を

 

 

 コイツは

 

 

 ()()()()()と馬鹿にしたのか?

 

 

 ふざけるな。

 

 

 そして

 

 

「図に乗るなよ。司波深雪」

 

「ヒッ・・・!」

 

 司波に向かって自分の出せる殺気の全てを向ける。腰を抜かして涙目になっているが知るものか。コイツは俺の逆鱗に触れた。

 

「何故お前が俺の人生に口を出す?お前は神か何かか?それでも俺は聞き入れるつもりはないぞ。俺の人生は誰でもない、俺自身のものだ。そして、俺は自分の夢を叶えるのを邪魔をするやつは全て切り捨てる。それもまた鬼であろうと神であろうとだ。」

 

「ァ・・・・アァ・・・・・・!」

 

 俺の夢は最高の一本の刀を打つこと。

 

 かつての刀匠、千子村正が目指し、そしてやり遂げた至高の刀「都牟刈」

 

 その名を語るに相応しい刀を打つこと。

 

 

「刀鍛冶は俺の夢へと至る道であり、俺の人生の全てだ。そして政狩家は俺を産み、俺に『鍛冶』を与えてくれた。この二つは俺にとって、何よりも大切なものだ。国家魔法師?将来の安泰?そんなものは俺はいらない。だから、口出しするな司波深雪。もしお前も俺の邪魔をするというのなら、」

 

 

 昼ご飯のパンの袋をゴミ箱に捨て、扉を目指す。もう俺にとってアイツの価値は底をついた。なら、

 

 

「その首、切り落とすぞ。」

 

 

 切ることに迷いはない。

 

 

 

 

 

 それから、俺達は初めてあった時のようにお互い関わらなくなり、2カ月近く経って夏休みを終えた二学期初日、司波が転校したことが担任の教師から告げられた。

 

 

 

 




ここから本編の補足をしていきます。

・魔法適性ランク

A~普通の魔法師を逸脱した規格外。ここまでくると、ほぼ数字付き(ナンバーズ)の家系の人間になる。

B~平均を大きく上回る適性を持つ、+がつけば万に一人いればいいくらいになる。

C~平均的

D~魔法師になれる最低限の適性しかもっていない。

 各ランクの間には、大きな差がある。




 最後の深雪の発言は、刀弥の言ったことのショックと四葉のことをよく思っていないことから出てきたものです。もしかしたら「こんなの深雪じゃねえ!」と思う方もいるかもしれません。

 ついでに夏休みのあいだに原作通り追憶編の沖縄戦が起こり、深雪は本格的に四葉の次期頭首としての勉強のため中学を止めることになりました。



 どうだ!深雪にトラウマを植え付けながら刀弥の原作参加を決定的にさせる!これこそ本物の愉悦だー!!ハーハッハッハッハ!!



 アイナと郁磨のシーンはブラックコーヒーを飲みながら書きました。



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我が世の春が来た!俺は刀を打つぞ!愉悦部員どもー!!



 少し遅くなりました。サブタイトルの通り、念願の刀鍛冶回です。自分なりに調べて書いてみましたが「ここは違うだろ」と感じたなら感想を下さい。


それではどうぞ


 

 あの事件から月日が経って、俺は中学2年生になった。俺のやることは変わらない。爺やに鍛冶と剣の腕を師事し、政狩を継ぐために鍛錬を続ける日々だ。

 

 だけど司波がいなくなってから学校に行くと、何故かやるせない気持ちになることがあった。そして、心の中をある疑問で埋め尽くしてしまうのだ。

 

 本当にあそこまできつく突き放す必要があったのか?高校に行ったら別れると決まっているのだから原作なんて気にせず普通に接していれば良かったのではないか?

 

 

(違う、あれで正解だ。今はいないとしてもあのまま一緒にいたら間違いなく兄である主人公に目を付けられていた。司波深雪は、俺の人生の邪魔になる存在だった。)

 

 本当に?

 

(ああ、本当だ。)

 

 でも女を泣かせたぞ。

 

(……)

 

 それは置いとくにしても、もう一つ不自然なことがあっただろう?

 

(何故俺はあの時、殺気をぶつけるような真似をした?)

 

 前世でも俺は刀鍛冶だったんだぞ。「時代遅れ」「人生を棒に振る」よく言われた言葉だ。若い頃は確かに癇癪を起こし度々手を出すこともあった。だが二十代を過ぎればそんな事はほとんどなかったと記憶している。憤りはするが波風立てるようなことではなかったはずだ。

 

(俺がまだ未熟だからか?いや、これでも一度は寿命を迎えた身だぞ。それはないと断言したいが・・・)

 

 少し前に、家族にこの事を話したら「刀弥にもちゃんと子供っぽいところがあったんだな」と全員から笑われた。

 後で相手は女子で殺気をぶつけて泣かせてしまい一度も話すことなく別れた事も伝えたら、全員から拳骨を頂戴することになってしまったが。何故か一番力が弱い筈の母さんの拳が最も痛かったのを覚えている。

 

(精神が体に引っ張られているのか?)

 

 それならば話は分かる。精神と体は親密に繋がっているのは科学的にも証明されている。恐らく普段の心の中での言動だけはまるでイタい中学生みたいなのも・・・

 

(あれ、俺って前世はどんな性格だったっけ? 

 ・・・いや、まて。それは今考えることじゃない。今俺がやるべきことは集中力を限界まで高めること。余計な思考は捨てる時だ。)

 

 集中状態で疑問を持ってしまったせいか。思考が余計な方向にいっている。俺は未熟だった、そう受け入れよう。家族が命令した通り、(ないだろうが)次あった時には殺気をぶつけたことをを謝る。そして向こうも謝ってきたならちゃんと受け入れる。それでこの話しは終わりだ。

 

 

 今やるべきことに戻ろう。時期的には今は夏休みの真っ只中だ。年頃の子供なら元気に遊び回っている時間だろう。俺にその気は全くないが。俺はこれから、一世一代の大勝負にでようとしている。それに備えるために今は、

 

「・・・」

 

 

 

 家の自室の真ん中で、座禅を組んで心を落ち着かせいる。始めてもう一時間近く経っているがまだ解く気はない。生半可な集中力では絶対にいけない。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 今年に入ってからずっと爺やに頼み込んでいたこれは、この世界に来てからの悲願だった。そして、未熟と自覚したと己を叩き直すという意もこめている。たとえ誰が何と言おうと、今日これだけは譲る訳にはいかない。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 今の俺は、上着を脱ぎ右腕に母さんが編み直した魔力封じの布を魔術刻印がある右腕に巻き付けるという、千子村正と同じ格好をしている。魔力封じの布も、俺がデザインを提案して村正と同じものになるように頼んだ。母さんはやっと頼み事をしてくれたと張り切っていた。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 頭は完全にクリアーとなった。が、心の興奮はいつまでたっても収まらない。ならばそれでいいと捨てておく。これからは、この情熱がとても大切なものとなる。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 持って行く物は、この世界で学んだ政狩の(オレ)の知識と、一生をかけて培った前世の(オレ)の経験。それともう一つ、必ずやり遂げるという強き思い。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 あと、あと少し、あと少しで、俺の集中力は限界に達する。余計なことは考えるな。そして思い出せ。(オレ)の姿を。ただひたすらに鎚を振り下ろす、あの感覚を。

 

 

 

「・・・よし」

 

 

 

 

 ゆっくりと、目を見開く。準備は出来た。ならあとはやり切るのみ。

 

 

 立ち上がり自室を出て、家の外れに建てられた鍛冶場のある小屋をを目指す。小屋の前には既に爺やが佇みながら待っていた。

 

 

「来たか。」

 

 

 閉じていた目を開き、真正面から向き合う。その姿はまるで生者が通ることを拒む地獄の番人のように見えた。

 

 

「準備はもういいのか?」

 

「はい」

 

「確認するぞ。これからお前がやろうとしているのは政狩の伝統、「真打(しんうち)」と呼ばれる刀鍛冶だ。普通の鍛冶との大きな違いは二つ。一つは鍛治に魔術を用いること。もう一つは刀の制作期間の十日のあいだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。小屋の中にある物は鍛冶用具と最低限生きるのに必要な物のみ。先に言っておくが、この世の地獄を味わうこととなる。過去にはこれで死んだ者も政狩を去った者もいたという記録がある。だが、これを乗り越えなければ「政狩の刀鍛冶師」を名乗ることは許されない。なまくらを打とうものならお前に政狩を継ぐ資格はない。

 

もう一度問おう。お前はこの試練を受けるか?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 夢に見た、思い焦がれた、待ちわびた

 

 

 俺の悲願への第一歩

 

 

 今なら自信を持って言える。

 

 

 

 

 

「俺は、この時の為に生まれてきた。」

 

 

 

「そうか。

 

 ・・・ならばここに!現政狩家当主 郁磨(いくま)が息子 刀弥(とうや)による、『真打の儀』を始める!己が持つ全てを捧げ、至高の刃を打って見せよ!!」

 

 

 

 扉が遂に開かれる

 

 

 己が挑むはこの世の地獄

 

 

 描くは理想の刃のみ

 

 

 不安も躊躇いもありはしない

 

 

 確固たる思いを胸に足を踏み出す

 

 

 

「刀弥!」

 

 

 母さんの声が届く。あんまり大きな声出さないでよ。集中が途切れちゃうじゃんか。

 

 

「死ぬんじゃないわよ!絶対に帰ってきなさい!アンタの好きな鯖の味噌煮、作って待ってるから!」

 

 

 母さん料理出来ないだろうが。いっつも男手に任せているくせに。魚がボロボロに崩れて出てくるのが容易に想像できる。

 

 

「刀弥、僕からは何も言いたくない。けど、これだけ。生きろよ。僕より先に死ぬなんて許さないぞ。」

 

 

 当たり前だよ。ここじゃ死ねない。ここは俺の死に場所じゃない。前みたいにやり遂げられずに死ぬのなんてまっぴらごめんだ。

 

 

 振り向いて答えるなんてことはしない。ただ頷いて、扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 扉が閉められた。

 

 

 

 

 

 俺はこの世界で初めての刀鍛冶に挑む。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 扉から手を離す。しばらくの間、龍馬はその場から動くことは出来なかった。一つの疑問が彼の胸の中でずっと引っかかっている。

 

 

(何故、刀弥はいきなり『真打の儀』を申し出た?)

 

 

 正確に定められている訳ではないが、本来『真打の儀』は人の世を捨ててから、現代では高校を卒業してから行うべきものなのだ。

 

 政狩に生まれた人間は、その人生の殆どを政狩の敷地内で過ごす。勿論、他の全てを捨て求道に邁進するためだ。

 

 なら、この『他の全て』とは何を表すものなのか。それは、『只人としての人生』『人が当たり前に持つ幸せ』のことだ。

 

 幼き頃に『只人』としての生き方と『政狩』としての生き方の両方を覚えさせ、自分は他の人間とは違っているということを理解させる。そして「己は政狩の人間だ」という感覚を心の底にまで刻み込む。思春期を越えるまでそれを続けさせ、真打の儀を受けさせる。最後に魔術刻印と当主の座を渡す時にこう告げるのだ。

 

 

「お前はここに『只人の幸せ』を捨てた。その残骸の上に、今のお前は『政狩』として立っているのだ。」

 

 

 既に自分はこの世から外れ、幸せを犠牲にしたことを自覚させる。高校まで学校に通わせるのはそのためだ。最初から家のことしか知らない人間と、一度普通というものを知りそれを捨てて道を選んだ人間とでは心構えは全く違う。『当たり前のこと』と『特別なこと』どちらの方がやる気がでるかなんて聞くまでもない。初めて行わせる『真打の儀』は、刀鍛冶としての腕調べの意図もあるが、それを相手に彫り込む為の手段である側面が大きい。二度目以降は己が根源に至る為の本作を打つことに意味がある。さらに初めての真打で打った刀が一定の評価を受けられなければその人間は政狩を継ぐ資格を失ってしまう。だから龍馬も郁磨も初めて『真打の儀』を体験したのは高校を卒業してからなのだ。

 

 

(それはもう刀弥には必要ないとして先に話していた。あいつは必ず政狩を継ぐ選択をとると解っていたからな。だが、まさか魔法科高校を選ぶとは思わなかったが・・・。)

 

 

 それを聞いた直後は心が乱れてしまい鍛錬は少しばかり力んでしまったが、刀弥の太刀筋を見てそれは誤解だと判った時は柄にもなく安堵の溜め息を吐いたのを憶えている。

 

 

(それは別として、なのにアイツは「今打ちたい」といった。「真打の儀で今の己を試したい」と。)

 

 

 最初はもちろんのこと断った。お前にはまだ早い、高校を越えるまで待てと。なのにこうなってしまったのは、

 

 

(あの目だ。私はあの燃えるような目に負けたのだ。まるで、《鍛冶師が持つべき理想》とも言える、一瞬に人生を懸けようとしている、あの目に・・・。)

 

 

 まるで地獄から這い戻った死者であり、生へと全力で縋る老人であり、ただただ夢を想う子供のようでもあった。

 見てみたいと思った。今の刀弥がどんな刀を打つのか、次に真打に挑んだ時にどこまで成長しているのかを。だからあの馬鹿息子の猛反対と拳を受けながらも、孫の背中を押したのだ。

 

 それを思い出せば、刀弥が挑んだ理由などどうでもよくなっていた。今はただ、自分の孫の挑戦を見守るのみ。

 

 

「見せてみろ刀弥。今のお前が何を望み、どんな道を選ぶのかを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やっと戻ってきた。お爺様ったら、朝からずっと小屋に籠もっていたから昼食がまだでしょう?準備は出来ていますから、早く座って下さい。」

 

「作ったのは僕だけどな。」

 

「細かいことはいいのよ。それにお爺様も、私に準備してもらった方が嬉しいでしょう?」

 

「当たり前だ。こいつが私の為だけに準備したなんて思うと虫ずが走る。」

 

「僕だってゴメンだよ、クソオヤジ。」

 

「二人ともケンカしないの。はぁ、刀弥がいないとすぐこれなんだから。ほら、お爺様の食事が終わったら明日の準備をしましょう。」

 

「ん?明日何かあったっけ?」

 

「忘れたの?明日でしょ、刀の取引。ほら、例の魔法師の家の。」

 

「ああ、千葉家との取引か。そういえばもうそんな時期だったな。」

 

「数少ない取引先なんだから、失礼があっちゃダメでしょう?ちゃんとしなさい。」

 

「はいはい、分かったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは早速始めるとしよう。

 

 まずは小屋の中にあるものを調べていく。えーと、食料は全て乾燥された保存食のみ。乾パンとか干し柿や煮干しが多いな。汗拭き用のタオルが数枚、毛布。生活品はこれだけだな。厠や井戸から引いた水道は小屋に付いているから問題ない。火床から離れたところには藁で編まれた寝床もある。うん、ここまであれば充分だ。

 次に刀鍛冶に必要な道具を見ていく。大鎚が一つに小鎚が二つ、(たがね)にてこ棒、木箱の中に大量に積まれた杉の木で作られた炭、船(熱した刀を冷やす水槽)に桶、ヤスリ、砥石etc。おい、爺や。先に小割りまで済ませてんじゃねえよ!?玉鋼を水減しして小割りをやってからの刀鍛冶だろ・・・って、そういや玉鋼の製作はこの儀が終わってからっていってたな。この製法は秘伝の一つだって。これは爺やなりの応援ってことなのか?はぁ、まあいいや。

 

 だいたいこんなところか。本当に必要最低限のものしかない。それと今は夏真っ只中だ。山の上にあるし風通しも良いように作られているが、鍛冶を始めれば小屋の中は灼熱と化すだろう。水分補給も忘れちゃいけない。

 

 

 

 よし、やるか。

 

 玉潰しやてこ棒の床造りなどは既にされているから省き、まずは「積み沸かし」だ。

 てこ棒の先に選別した玉鋼を積みあげていく。この時なるべく隙間なく、不純物が出て行きやすいようにする。まあ、ここにあるのはどれも最高純度の物ばかりだからいらないかもしれないが念には念を入れて。ここで積み上げる量は作ろうとしている刀の重さの約十倍分だ。そんなに?と思うかもしれないが、後の作業で多くの鉄を叩いたり切り落としたりするのでこれくらい必要になる。積み上げた玉鋼を、水焼き粘土や稲藁の炭などで塗り固めていく。こうすることで表面の酸化鉄が綺麗に飛ばされ純鉄が表面になるため境目なく鍛接する事が出来るのだ。

 終われば次は火を準備。木箱の中から大量の炭を火床の中に投げ入れる。そして魔術回路を起動。魔術を使って火床の中に火をつける。最初はただ炎を出すだけだったが、しばらくすれば炭が赤くなり火花を上げるようになった。

 これで準備完了。自身に身体強化の魔術をかけて10kg近くあるてこ棒を持ち上げる。そのまま火床の中に鉄が落ちないようにしながら突っ込んだ。あとは鉄が1500度近くまで熱せられるまで見ておく。

 

 

 心が満たされていく。たったこれだけの工程で、挑んで良かったと思える。

 

 そうだ、これが、これこそが

 

 

 

 

 (オレ)が生涯をかけた、刀鍛冶だ

 

 

 

 

 

 

 「積み沸かし」が終われば、次は「折り返し鍛錬」に移る。赤く染まった鉄を火床から取り出し、金床に置いた。そばに置いてあった一人鍛冶用の大鎚を取り、振り上げる。

 

 

 さあて、ここからが政狩の腕の見せ所!

 

 

 再び魔術回路を起動、熱した鉄に魔力を注ぐ。これが政狩の刀鍛冶の秘密の一つ。魔力を注ぎ続けることで鉄を高温で保ち鍛えやすくする。これによって、スムーズに作業を進めるのと、より強く鉄を鍛えることができる。だが、いつまでやっても見た目がほぼ変わらないため、引きどころの見極めがとても難しい。

 

 

(けど、(オレ)ならやれるだろ!爺やの鍛冶を十年もの間見続けた(オレ)なら!)

 

 

 鎚を振り下ろした。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 一定のリズムを刻みながら、魔力を注ぐのも途切れさせない。知識と経験を混ぜ合わせ、最適解を導き出していく。大鎚で大体の形を整え、細かい調整は小鎚に持ち替えて打っていく。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 ある程度まで鉄が伸びたら、鏨を間に挟んで折り目を入れ、縦横四つに曲げて重ねる。これは「十文字鍛え」という鍛錬法だ。この時余計な空気が入ってしまっては、鉄が酸化してしまい全てが台無しになる。細心の注意を払いながら折り曲げる。よし、この様子なら十五回ほど重ねれば充分だな。だがいつでも誤差を修正できるように集中せねば。

 

 この「積み沸かし」と「折り返し鍛錬」を二回行い、二つの鉄を造る。一つは硬い鉄で作った甲伏せ用の皮鉄、もう一つは柔らかい鉄で作られた心鉄の二つだ。次の作業「造り込み」でこの二つの鉄を使う。

 

 

(けど、今日出来るのはここまでだ。魔力の使いすぎになったらいけない。使い切ってまた全快するまで待つなんてやってたら、十日じゃ絶対に間に合わない。)

 

 

 少量とはいえ、ずっと魔力を鉄に流し続けているのだ。その消費量は馬鹿にならない。魔術回路が他より多い政狩の人間だからこそ出来る芸当だろう。

 

 

(魔術を使う工程はまだたくさんある。定期的に休んで回復させないと最後の方は動けなくなる。休みすぎてもだめだ。それじゃ期間内に終わらない。そして集中を切らせば最悪死ぬか。・・・いいだろう。やってやる!)

 

 

 獰猛な笑みを浮かべ、己を鼓舞する。刀鍛治(戦い)はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 

 

 小屋に入ってから、既に六時間が経過している。たった今鍛錬を終えたところだ。金床の上には完成した皮鉄と心鉄がおかれている。

 

 

(予想よりも、魔力の消耗が多かったな。無駄な魔力を流しはしなかった筈だが。俺の見立てが甘かっただけか。けど、一番の問題はそこじゃない。)

 

 

 ずっと注ぎ続ける魔力を調整しがら鉄を打つ。言葉にすれば簡単だが、とんでもない集中力を必要とするのは想像に難くない。しかもそれを半日もの間続ける事を、あと九日。

 

 

(頭が、割れるように痛い。この世の地獄という意味がやっとわかった。確かにこれは生き地獄だ。)

 

 

 けど、爺やは、父さんは、俺のご先祖様は、これを乗り越えて「政狩」となった。ならば俺も乗り越えなければならない。爺やから学んだモノを無駄にしないために。

 

 何より、都牟刈(オレの理想)へと今度こそ至る為に

 

 

(そのためにも今は休もう。朝にはある程度まで魔力は回復しているだろう。そうしたら作業は再開、次は「造り込み」と、刀鍛冶の山場である「素延べ」だ。)

 

 

 保存食しかない質素な夕食を食べながら明日の予定を立てていく。

 

 

(「素延べ」は時間的には丸々一日かかる。一度にやろうとしたら間違いなく魔力が保たないから、晩辺りは休んで深夜再開って風になるかな。)

 

 

 藁を敷いて、寝床の用意をする。そこに寝転がって時計を確認し、毛布に身を包んだ。

 

 

(俺はやりきるぞ。そして「政狩」を継ぐんだ、絶対に。・・・明日が楽しみだな。)

 

 

 これまで浮かべたことのない無邪気な子供のような笑みをしながら、俺は微睡みの中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回は二人目の原作キャラクターが登場(メインキャラとは言ってない)更新は期末テストが近づいて来たので遅れるかもです。


ところで型月廚の皆さん、憑依と聞いて何を思い浮かべますか?


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世界にはフラグってものがいっぱい転がっているんだ。ただ本人が気付かないだけで

 アニメのディエス、もうちょいなんとかならんのか・・・!?と思いながらテスト勉強を続ける今日、第七話を投稿でございます。


 正田作品はノベルゲームだからこそ面白い、はっきりわかんだね。


「父さん?もうそろそろ、どこに向かってるか教えてくれないか?」

 

 

 山間に作られたトンネルを通る黒い高級車の中で、美少年が自分の親に今回の遠出の目的を尋ねていた。

 彼の名は千葉 修次(なおつぐ)数字付き(ナンバーズ)である『剣の魔法師』千葉家の麒麟児と呼ばれている少年であり、その実力は3mの間合いなら世界でも上位に入ると言われている。

 修次と真正面に座り腕を組みながら目を閉じているのは、彼の父であり千葉家の当主を務める千葉 丈一郎(じょういちろう)。その筋肉隆々たる偉丈夫といえる体からは年による衰えを全く感じさせない。

 

 

「商談だ。」

 

「父さんが直々に?」

 

「ああ、相手は「政狩家」だからな。」

 

「政狩って、あの「蘇った村正」と呼ばれる!?」

 

「そうだ。今回はお前の紹介も兼ねている。決して失礼のないようにしろ。」

 

 

 「政狩」の名は、一度でも刀に関わったことがある者ならば知らないものはいない。俗世には全く興味を示さず、ただ刀を打つ為だけに育てられる鍛冶師の家系。彼らの作品はどれも逸品であり、一部では数千万単位での取引が行われたともいわれている。修次も千葉本家に保管されている政狩の刀を一度見たことがあるが、他の刀との決定的な違いというものを一目で理解させられた。

 そんな政狩家だが、先程言った通り俗世に関わることがほとんどないため、その実態を知る者はあまりに少なく色々な噂も絶えない。「世に出回っているものは全て本作ではない」「一人で何人もの魔法師を相手にできる」「その家に迷い込んで帰ってきたものはいない」などなど、一部現実的ではないものもあるが。

 

 

「パイプを持っていたのか?」

 

「先代が偶然知り合ったらしい。それからは五年に一度こうやって我々が出向いて取引を行っている。」

 

 

 もはや信仰の域にまで達しかけている生きた伝説、それが刀鍛冶の頂点「政狩」なのだ。一体どんなところなんだと戦々恐々としていながらも、楽しみの方が勝っている自分はやはり千葉家の人間なんだなと自嘲気味の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 昼の中頃、車はある山の前で止まった。使用人が扉を開け丈一郎が車から降りるのに修次も続いていく。

 

 

「戻るまでここでまて。」

 

「はい、いってらっしゃいませ。」

 

「行くぞ、修次」

 

「ああ」

 

 

 そのまま二人は道の開けたところから山を登っていった。整備などされていない。ただ木が生えていないからここは通れるというだけの道なき道だ。

 

 

(周りにも町なんてものは見えなかった。本当に今の時代でこんなところに住める人間がいるのか?いや、あの政狩だ。俗世を捨てた人々だからこそ、至れるものがあるのかもしれない。)

 

 

 十五分も歩けば、開けた平らな土地に出た。そこには一件の木造の家があった。普通の一軒家よりは広いが二階はなく、誰もが予想する「昔の日本の家」をそのまま形にしたような家だ。そして、家の前には一人の男性が立っていた。自分の父のように筋肉隆々といった訳ではなく細身だが、それは無駄な肉を極限まで削り理想の肉体を身に付けているのだということが一目で判る。丈一郎とは別方向で年による衰えを感じさせない初老の男性はこちらが目の前に立つと、威厳に満ちた声で話し掛けてきた。

 

 

「久しくなるな。遠路はるばるよくおいでなさった。初見となる者もいるので名乗っておこう。私は現政狩家当主、郁磨の父である政狩龍馬だ。今日はよろしく頼む。」

 

「お久しぶりです龍馬さん。ではこちらも。現千葉家当主、千葉丈一郎。こちらは、」

 

「は、初めまして。次男の千葉修次です。よろしくお願いします。」

 

「ああ、礼儀正しくて結構。ここではなんだ、上がるといい。」

 

「はい、お邪魔します。」

 

「お、お邪魔します。」

 

 

(なんだろう、不思議な感じだ。身のこなしから只者じゃないことはわかる。だけど)

 

 

 それだけだ。希薄というか何というか、あまり存在というものが感じられない。目には見えているのに、周りに溶け込んでいるかのように実感できないのだ。

 

 

「分からないのだろう?」

 

「えっ」

 

「只者ではない、だがその存在というものが上手く捉えられずそれ以上のことが分からない。違うか?」

 

「いや、あってる。」

 

「なら心得ておけ。彼等は俺達とは別次元の存在だ。あらゆるものを捨て、己にとって唯一無二のものを極めた上位存在。今の俺達では決してたどり着けない境地に至った化物。それが政狩だ。だから俺達では彼等を正確に捉えられない。」

 

「・・・言い過ぎじゃないか?」

 

「いずれわかる。ただ彼らの怒りを買えば、首が飛ぶのは俺達の方だぞ。」

 

 

 それは自分への忠告や脅しではなく、まるで自分に言い聞かせて奮い立たせているように修次は聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「粗茶ですが、どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ど、どうも。」

 

 

 居間に案内された修次たちは、そこでおもてなしを受けていた。アイナが出したお茶をいただき口に含む。昔ながらの緑茶の匂いが部屋を満たしていく。

 

 

「はじめまして。ワタシは当主郁磨の妻、アイナです。よろしくね。」

 

「あ、はい。はじめまして、次男の修次です。こちらこそよろしくお願いします。あの、失礼なのは重々承知なのですが、あなたは外国の方、ですよね?」

 

「ふふっ、まあこんな家の女が外国人っていうのも変な話よね。色々事情があってこっちに来たときにここの当主にあってね、ワタシから嫁入りしたのよ。どこの国かは想像に任せるわ。」

 

「へーそうなんですか。あ、変なこと聞いてすいませんでした。」

 

「別にこれくらいいいわよ、気にしないで。」

 

 

 修次がアイナと会話を弾ませている間、丈一郎はこの家の当主である郁磨との挨拶を済ませていた。

 

 

「お久しぶりです丈一郎さん。今回もよろしくお願いします。」

 

「いえいえ、こちらが買い取らせて頂く立場なんですからそう堅くならないで下さい。」

 

「そう言ってくれると助かります。片腕が無いのに鍛冶師の家の当主を名乗るのは、自分でも少し忌避感があるくらいなので。それはそうと、彼はあなたの?」

 

「はい、次男の修次です。まだまだ未熟ですが、剣の腕はそれなり以上と言えるほどになりますよ。まあ、あなた方と比べるとどうにも言えないかもしれませんが。」

 

「いやそんな、こっちは刀しか脳のない脳筋一族ですから。っと、はじめまして修次君、僕が政狩家当主の郁磨だ。そんな肩に力入れないで寛いでいってくれ。」

 

「い、いえ、そういうわけには。招いて貰った身でそんな・・・。」

 

 

(なんか、普通だな。もっとキリキリした感じだと思ってたんだけど、案外そうでもないっていうか。何処にでもある普通の家庭って感じというか。)

 

 そんなことを思いながらしばらく待っていると、龍馬が麻布の袋に入れた刀を二つ持って居間に現れた。

 

 

「品を持ってきた。商談を始めよう。」

 

 

 龍馬はそう言って座ると、麻布の紐をほどく。中から納刀された状態の刀を取り出し丈一郎に渡す。

 黒光りする漆塗りされた鞘に金で綺麗に装飾された鍔、そして鞘から抜かれた刀身。全てが一級品であり、刀身に関しては最早言葉にする事が烏滸がましいと思える程のものだった。一度納刀し、白鞘に納められたもう一本の刀を見るが、同じような感想しか湧き出てこない。修次にいたっては息をする事を忘れ、目が刀に釘付けになっている。

 

 

「これらは、どちらが打たれたものなのでしょうか?」

 

「黒鞘に納められたのが過去に僕が打ったもので、白鞘の方が半年前にオヤジが僕の息子と一緒に打ったものです。」

 

「息子さんと一緒に、ですか?それは、将来が楽しみですなぁ。」

 

「ええ。まあ、少し、というかかなりそればかりに夢中になってしまっているところがあるのですが。」

 

「確か、刀弥君でしたかな?物言わずでずっと剣を振っていましたね。」

 

 

 丈一郎の頭には鋭い目つきをした少年の姿が思い浮かんでいた。道場で素振りをしていたところに自分が挨拶をすれば、少し頭を下げただけで直ぐに鍛錬を再開する。五年前の彼でも、同年代では足元にも及ばない程の剣の腕を持っているのが分かった。今ではどこまでいっているのか。

 

 

「年はいくつになりましたかな?」

 

「今は十四で中学二年になります。ああ、でも魔法科高校に進学しようとしているみたいなんですよ。どうやら魔法に興味があるみたいで、適性もB+とかなり高かったんです。」

 

「そうなんですか。実はこの修次も今は魔法科高校の生徒でして、刀弥君が進学する頃には卒業してしまいますが。」

 

 

 郁磨は今のうちに、魔法科高校について色々と聞いておこうと考えた。アイナも同じことを思ったのだろう。アイコンタクトを取るとアイナから聞き始めた。

 

 

「ねえ、修次君。参考までに、どこの学校か聞いてもよろしいかしら。」

 

「は、はい。僕が行っているのは東京の八王子にある第一高校です。特徴は国立魔法大学への進学率が他校より高いことですね。九校戦での優勝経験もあります。」

 

「その九校戦っていうのは何かしら?」

 

「名前の通り、年に一度全国にある九つの魔法科高校が集まって行われる魔法の競技大会です。早い話が共同でやる体育祭と言ったところでしょうか。」

 

「へえ、かなりのエリート校なのね。その第一高校って。」

 

「でも、刀弥君は魔法適正がB+もあったんですよね?一校では魔法実技の方が優先されますので、彼なら簡単に入れると思います。」

 

 

 第一高校の入学試験は、論理七教科の筆記テストと魔法実技試験を受けることとなるが、実技の方が筆記より比重が大きいのだ。

 

 

「お前たち、その話は後にしろ。今はこちらが先だ。」

 

「あ、すまないオヤジ。話を折ってしまいすいません。」

 

「いえ、お気にならさず、この話は後ほど。それでは刀の方に戻らせてもらいますが、これらの銘は?」

 

「前に言った通り、私達が売るものは全て本作ではない。本作ではないものに銘はつけない主義だ。」

 

「そうでしたな。額はどのくらいをお望みで?」

 

「三百万あればいい。高いなら下げるが。」

 

「いや、現代の価値から考えてもそれは低すぎます。ましてやあなた方政狩の打った刀を二本もとなると桁が一つ増えて当たり前というくらいですよ。」

 

 

 第三次世界大戦以降、伝統品の職人はその数を急激に減らしていった。今では政府の保護の下に品を生み出し、博物館に展示されるのが普通だ。買い取ることはできるが一世紀近く前とは比べられない程の値段がつく。そんなご時世で刀を買うとなると、たとえ上級階層の人間でも躊躇してしまうほどとんでもない額が付くはずなのだ。

 

 

「そこまではいらん。むしろこの取引のおかげで金銭なら余っているくらいだというのに。」

 

 

 だが、この家で普段使われるお金は日用品代と食料代、刀弥の学費、数年おきに行われる鍛冶に必要なものの取引のみ。旧時代の生活を送っている政狩家にとってはお金はあまり必要ないものなのだ。

 

 

「・・・わかりました。ですが、こちらも剣を扱うものとしての礼儀があります。ですので、表示額の倍、六百万でこれらの刀、買い取らせて頂きます。よろしいですね?」

 

「はあ、もうそれでよい。」

 

「では、取引成立ということで。金は前と同様に後日家の者に送らせます。」

 

 

 この後、丈一郎たちは郁磨とアイナの二人から魔法科高校について色々と聞かれたあと、満足した様子で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「第一高校、東京の八王子・・・。あいつを頼ってみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-ッ、はぁ、はぁ、っふ!」

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 鉄を打つ

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、-ッ!」

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 鉄を打つ

 

 

 

「うぅ、ァア!!」

 

 鉄を打ち続ける

 

 

 

 

 真打の儀 四日目、刀鍛冶は皮鉄を心鉄に被せる『造り込み』を終え、ついに山場となる『素延べ造り』まできていた。

 『素延べ造り』とは、造り込みでできた鉄を細長い四角に伸ばし、反り以外の刀の形を決める作業のことだ。なのでこの作業の重要度は他の作業よりも抜きん出て高く、ここで少しでも調整を誤ればできるものはなまくらのみとなってしまう。

 

 

(始めてから、いったいどれくらい経った?もう時間の感覚もおかしくなってきてる。魔力も底が尽きそうだ。そして、何よりも・・・)

 

 

 10kg近くある鉄を、刀の細さになるまで伸ばす。それも常に形を調節しながら。途轍もない時間がかかることは想像に容易い。そして時間が延びれば延びるほど、使う魔力も精神も大きくなっていく。

 

 

(-ッ!ダメだ、思考を絶やすな!常に考え続けろ!こんな状態で感覚で打ち始めたら、一瞬でなまくらに成り下がるぞ!区切りまであと少しだ、絶対にやりきれ!)

 

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 思考を続けながら魔力を、そして思いを込めながら打っていく。

 

 切れ、切れ、全てを切り裂け。縁も定めも業も神秘も、全部切り裂いていけ。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 錬鉄を止め腕を下ろす。『素延べ造り』が終わった。このまま次の工程に移る。

 次に行うのは『火造り』。(しのぎ)と小鎚を使って、『素延べ造り』でできた地鉄を赤くなるまで熱しながら、刀の刃先となる部分を薄く叩き刀独特の断面を打ち出していく。しばらくすると少しずつ鉄の温度は下がっていくので、それに合わせて作業を進める。こうすることで、鉄にむらが現れないようにするのだ。最後に、船に入ったお湯につけて冷やすことで反りをつける。これで『火造り』は終わりだ。

 できた鉄を持ち上げて、出来具合を見ていく。

 

 

(細さは充分、けど反りが造ろうとしたものより少し小さい。断面はまっすぐ、心鉄にも歪みはなし。及第点はとれるだろうが、やはりまだ甘い部分もある。この体では初めてというのもあるだろうが。・・・まあ、とりあえず今日の作業、魔力を使う作業はこれで終わりだ。)

 

 

「ふう・・・。」

 

 

 ため息を吐いて、後ろに倒れ込む。ここまで長かった。頭は今も割れるように痛い。魔力はほぼ底をついた。

 それでも、しっかりできた。遂に真打の儀の山場を越えたのだ。

 

 

(まだやることはある。模様をつける『土置き』に『焼き入れ』、刀の腹に溝を入れる『桶入れ』の後に研ぎを済ませたら、最後に刀に名と命を吹き込む『銘切り』。土置きは一日置く必要があるから時間がかかるけど、これなら全然間に合う。)

 

「・・・やった」

 

 

 楽しかった。

 

 痛かったし、つらかったし、苦しかった。

 

 それでも何より

 

 刀を打つことができて嬉しかった。

 

 もっと打っていたかったと思うほどに

 

 刀鍛冶が楽しかったのだ

 

 

(もっと余韻に浸っていたいけど、そろそろ限界だ。体を拭いてもう寝よう。そして明日からも頑張ろう。今の俺ができる、最高の刀を造れるように)

 

 

 この四日、刀弥はずっと笑って眠れていた。夢でも刀を打つ姿が見られて、幸せの中にいることができるからだ。

 タオルを水につけ体を拭いたあと、もはや癖になりそうとまで愛着を持った藁の寝床で横になる。

 

 

「もうずっとこうしてたいなあ。」

 

 

 そんなささやかな願いをこぼしながら、この四日間で十回目の眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その願いは叶わない

 

 すでに物語の舞台は決しているが故に

 

 前日譚はこれにて閉幕

 

 運命が絡み始めるのはもうすぐだ

 




 次回で入学直前の話を書いたあと、遂に原作突入です。さーて、みゆきちとどう絡ませよっかねーゲヘヘ。


母「あんた、テスト赤点取ったらスマホ取り上げるからね。」


 勉強せねば・・・!


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幸せの絶頂にある時、背筋が凍る感覚があったら気をつけな。そこから先は地獄だぞ


 更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません。まさか自分でもメリクリあけおめことよろハピバレなんて挨拶をする事になるなんて思いませんでした。何してたんだというのは聞いてくれないでいてくれたら嬉しいです。


 でも、こちらから一つだけ

 何で邪ンヌと師匠がこない!?(泣)


 

 

 

 七月某日の正午、遂にその日が訪れた

 

 刀弥が挑んだ政狩の伝統「真打の儀」、小屋に籠もらせ極限まで追い込んだ状態で行われる刀鍛冶。刀弥が小屋に入ってあれからもう十日、つまり今日は儀の期限の日なのだ。

 小屋の前にはもう既に龍馬、郁磨、アイナの三人が集まっていた。皆固唾を呑んで時計の針が重なるのを待っている。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

 誰も口を開かない中、時計の針の音だけが響いている。後数秒で針は12の数字の上で重なり儀の終わりを告げる。

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

 残り、三秒

 

 

 チッ チッ チッ カチッ

 

 

 パカッ

 

 

 ポッポー ポッポー ポッポー

 

 

 針が重なると同時に、時計に付けられた扉が開きその中から玩具の鳩が現れる。小屋の扉の上に掛けられた鳩時計が正午の時間を軽快な鳴き声で告げた。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・ップ」

 

 

 沈黙を貫いた一同だったが、アイナがもう我慢出来ないと言うように吹き出した。既に腹を抱えて笑いをこらえている状態だ。それを何とも言えない表情を浮かべながら見ていた郁磨は、コレをずっと外させない父親、龍馬に向かって言葉をかけた。

 

 

「・・・なあ、オヤジ。もうそろそろ、本当にあの時計変えないか?いつもなら別に気にならないんだけど、真打の直後にコレっていうのは、その」

 

「・・・前にも言ったが、これは私の母君が少しでも我々が和むようにという想いから着けられたものだ。そして私の父である先々代はコレを外してはならないと厳命した。ならばこのままでいるしかなかろう」

 

「いや、それも知ってるし、理解出来る。だけど・・・」

 

 

 コレはないだろ!

 

 郁磨の頭に思い浮かぶのは、絶えなく笑顔を浮かべているがたまに訳の分からないことをしでかそうとする自分の祖母。

 

 

(あれは天然の塊のような人で、祖父ちゃんは祖母ちゃんのことになると凄く甘くなっていたよなー)

 

「それよりも、今は刀弥だ。開けるぞ」

 

「え、ああ、そうだな。おい、アイナもいい加減にしろ。毎回毎回もう慣れただろ」

 

「ップ、フフ、・・・ふぅ、ごめんなさい。けど、慣れるのは当分無理よ」

 

「はぁ、アイナのツボが変なのは相変わらずか。まあいいや。オヤジ、頼む」

 

「ああ。」

 

 

 懐から鍵を取り出し、扉に付けられたら鍵穴に差し込む。回すと同時に、がちゃり、と大きめの音が鳴る。そのまま龍馬は手をかけ、前に勢いよく押した。

 

 まず彼らの目に入ったのは、綺麗に整理された鍛冶場だった。埃やスス、炭のかけらも見あたらず、儀が行われる前より綺麗にされている。その次は、寝床として使われたであろう藁で編まれた敷物。その上には既に水洗いされた鍛冶用具やタオルが置かれていた。これらは、鍛冶師は刀を造るだけではいけないとしっかり理解し、これからの刀鍛冶のことも考えられているという証拠だ。今の年齢でこれを理解して実践出来ているのかと、郁磨と龍馬は刀弥の評価を改める。

 

 最後に目に写ったのは、長めの木箱を前に座禅をくむ刀弥の姿だった。今は目を閉じ小窓から漏れる陽の光を浴びて、まるで神々しささえ感じるような錯覚さえ覚える。そんな彼に三人とも一瞬動きを止めたが、真っ先に再起動した龍馬が呼びかける。

 

 

「刀弥」

 

「・・・」

 

 

 返事は無く、未だに目を閉じうつむいたままだ。二人の親が心配そうに目を向ける。不審に思った龍馬は刀弥の口元に耳を近づける。すると、息があるのを確認できた。

 

 

「眠っているだけだ。やはり、かなりの疲労だったのだろうな」

 

「そうか」

 

「よかったぁ」

 

 

 龍馬の言葉を聞き、二人とも胸をなで下ろした。アイナに至っては涙ぐんでもいる。

 

 

「おい、刀弥」

 

「・・・ん、うんん。・・・あれ、爺や?」

 

 

 もう一度、今度は少し強めに呼びかけると刀弥は目を覚ました。

 

 

「なんでここに?って、ああ、そっか。もう時間か」

 

「そうだ。真打ちの儀はこれで終わりだ。よく頑張ったな。できた刀は木箱の中だな」

 

「うん。結構、上手く出来たと思う」

 

 

 まだ眠たいのか、おぼついた足取りで刀弥は立ち上がり木箱を手に取った後、紐をほどいて中から何の装飾も施されていない抜き身の刀を取り出す。そのまま茎の部分を握り締め、己が集大成を持ち上げる。皆が期待の視線を向ける中、遂にその刀身が露わとなった。

 

 

 

 綺麗だ

 

 

 この言葉がそれを見た者全員の心を埋め尽くした。

 

 種類は現代で一般的な刀を指す「打刀」で、刀身は刃長二尺三寸(約70cm)、反り七分(約2cm)。そんな、ここにいる皆なら何度も見てきた普通の刀。だが()()が違う。アイナはこの()()を明確に言葉にする事はできないが、「それは形や構造、材質といった目に見える物ではない」という事だけはしっかりと理解出来た。

 

(本当に綺麗。何故そう感じるのか不思議なくらい。でも、これ、どこかで見たことがあるような)

 

 

 

 

「ねえ、爺や」

 

 

 唐突に刀弥が龍馬に呼び掛けた。そんな年でここまでの業物といえるべき彼の傑作を前に、思わず龍馬も身構えてしまう。

 

 

「どうした」

 

「風呂、行っていい?」

 

 

 だからこそ、こんな抜けた質問をしてくるとは予想しておらず、一瞬固まり言葉につまってしまった。おい孫よ、ここは感想などを聞く場面ではないのか?

 

 

「はぁ、行ってこい。話は上がってからだ」

 

「分かった」

 

 

 返事を聞くと刀弥は刀を木箱の中に戻し、さっさと小屋を出行ってしまった。いくら何でもマイペース過ぎるだろと思ったりもしたが、真打を終えても元気な証拠だと仕方ないといったふうに溜め息をこぼした。

 

 

「なぁ、刀弥」

 

 

 最後に、郁磨が刀弥の背に声をかけた。そして一つの質問をした。

 

 

「刀を打っているとき、お前はどんな思いをこめたんだ?」

 

「切れ」

 

 

 一拍の間も空けずに、答えを返す。

 

 

「総てを切り裂いてゆけ。ただ、それだけ」

 

 

 それが当たり前だと、それ以外に何がある。そんな風に言われた気がするような言い方だった。

 

 

「そうか」

 

「うん」

 

 

 今度こそ、刀弥は小屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ヤッフゥー!久しぶりの風呂だー!

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

 あーぎもぢいー、やっぱり何かやりきった後はお風呂に限るかな!疲れが全部流れていくこの感覚が最高かな~。

 ああ、物凄く楽しかった。ここが魔法科の世界だとか自分が魔術師だとか、そんなのどうでもよくなってしまう。やはり何処までいっても自分は「鍛治師」で「刀狂い」なんだと、死んでも変わらないんだと。それを再確認出来て良かった。今挑んだのは間違いじゃなかった。

 さて、頭の回転も戻ってきたところで、今回の反省会といこう。

 今回での最大のミスは、やっぱり自分の思い通りの反りに出来なかった点だろう。せめてあと5mmは欲しかった。もう一つは魔力の使用配分。魔術を扱った鍛治は初めてだとは言え、明らか使いすぎた面もあったし。上の2つの要因で、少し耐久性の面で不安が残ってしまった。コレはもしかしたら致命的な問題になる可能性もある。次までには絶対に克服しなければいけないものだ。鍛治は引き続き爺やに師事を請うとして、魔術は母さんに頼るとしよう。そろそろ魔術の訓練もしようと向こうもいってたし。

 次は誉めるべき点だ。自分で言うのも何だが、初の独り鍛治でここまでやれたのは、誇ってもいいと思う。いくら知識と前世の経験があるとは言え、この体での実践は初めてだったのだ。それであの出来なら、誰だって十分だと言うだろう。まあ、そこまでは言わないでも、自信に繋がったのは事実だ。

 

 こんな風に反省会を続けていき、半刻ほどで一段落ついた。まだまだ鍛錬不足ということを改めて実感した。これまで以上に精進せねば。

 そう言えば、父さんが最後によく分かんない質問してきたな。「どんな思いをこめたんだ?」なんて、そんなの「切れ」に決まっているだろう。刀は置物でもなければ装飾品でもないんだ。前世にもいたが「美しい刀を打ちたい」なんて言うやつは、腕がどれだけ良かろうと刀鍛治師としては三流もいいところだ。刀は元々切る為だけのものなんだ。美しさなんてものは二の次だし、いい刀を打てば勝手に付いてくる。なら何を目的に打つべきかは明白だろう。そんな当たり前のことを聞きたかった訳じゃないだろうし、うーん。・・・まぁいっか。そんな気にする事でも無いし。

 さーて、そろそろ上がりますか。これ以上湯に浸かっていたらのぼせちまう。あ、そうそう。刀の名前も結局あれにしたんだった。前世で初めて自分が打った作品。これまでも、そしてこれからも、あの時と同じ思いで行くために。

 

 

 

 

 骨は燃えると、含まれたカルシウムが炎色反応を起こし火が燈赤色(とうせきしょく)になる。だが、昔では別の色の炎になったという記録があるのだ。

 

 その色は『紫』

 

 赤と青の相反する二つの色を内包することから「高貴と下品」「神秘と不安」などの二面性を表す色とされ、骨を焼いた際のこの色の火が、おとぎ話に描かれる人魂の正体だともいわれている。

 

 それを知って、吉田蓮斗(前世の俺)は一つの誓いと共に、自分の作品に名を付けた。

 

 

 肉を焼いてもまだ足りぬ

 

 その骨が紫の火を上げるまで

 

 その火が我が魂となるまで

 

 鎚を握って降り続ける

 

 刀の名は

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 刀弥の姿が見えなくなったと同時に、三人とも木箱に入った刀弥の刀に視線を向けた。

 

 

「刀弥の奴、やってくれたな」

 

「そうだな。まったく、こんなモノを初の真打で完成させるなんて、僕達に喧嘩売ってるとしか思えないよ」

 

 

 そう言った郁磨の横を通り過ぎた龍馬は、木箱に戻された刀弥の刀を手に握り外に出る。小屋の近くに生えていた小さめの木の前に立つと、そのまま横に一太刀を振るった。すると木はゆっくりと斜めにずれていき、最後には見事としか言い様のない断面のみを残し地に落ちた。

 

 

「重心にほぼぶれはなし。だが、恐らく反りは描いていたモノより少し小さいな。それとやや耐久性に不安がある、といったところか。あえて挙げるとしてもこの程度だな」

 

「かなりの出来なんですね」

 

「ああ。だが、かなりの一言では済まされるものではないな」

 

「まだ十四で初の独り打ち。それでこの出来なんて、この目で見なければ絶対に信じないよ」

 

 

 アイナが矢張りと言ったように確認の言葉をかけた。郁磨も一度、龍馬から刀を受け取り試し斬りをし始める。

 

 

「でも、流石僕の息子。未だ教えていない本質までをも理解しているとは」

 

「本来はまだまだ早すぎるのだがな。まぁ、これならば特に問題はないだろう」

 

「ん?どういうこと?」

 

 

 二人の会話の意味が分からず、アイナは何のことか尋ねた。親子二人は「ああ」とそう言えばといった風に答えた。

 

 

「本質というか、心構えって言った方がわかりやすいかな」

 

 

 答えを聞いて、アイナは更に訳が分からなくなった。

 

 

「心構えって、一番最初に捉えるべきものじゃないの?」

 

「まあ、そうなんだけど。これについては別というか何と言うか」

 

 

 言いあぐねていた郁磨に、溜め息をつきながら龍馬が助け船を出した。勿論、それで郁磨が睨み付けるまでがいつもの流れだ。

 

 

「未だ未熟過ぎる身では、これは却って悪影響を及ぼす。だから先に技術を磨かせ、その後にこれを説く。基本はそうなのだが・・・」

 

 

 結果はご覧の通り、年からは考えられない技術とまだ誰も教えていない心構えを、今回の真打で見せつけられた。何がやらかしてくれるのではないかと覚悟はしていたものの、これは流石に予想の斜め上を行き過ぎた。

 

 

「して、その心構えとは?」

 

「あぁ、それは刀を打つ目的を間違えるなってことだよ」

 

「根源に至る為でしょ?」

 

「まぁ、僕たちはそうだけど、教えることは違うな。それは魔術師の目的であって、本来の刀鍛治とは全く関係のないことだからね。刀の本来の目的は「切る」ことだ。なら僕達鍛治師は切る為の刀を打たなきゃならない」

 

「だが、今の時代にその考えを理解出来る者はそうおらん。彼らにとって刀なぞ縁遠い物であり、触れる機会はあってもそれは芸術品としてであり、切る為の武器として見る人間なぞ皆無だろう。実際に現代での刀の役割とは芸術品であり、他の鍛治師が打つ刀も()()()()()()()()()()()()()ばかりだ。それを否定するつもりはないがな」

 

 

 現代において、刀が武器として使われることなど普通有り得ない。その役割は芸術品として人を魅了することだ。だから今の鍛治師の殆どが『美しさ』を欲する。だが、そもそも人が美しいと感じたのは、その切る為だけの武器としての姿なのだ。さらに言ってしまえば、切ることに特化した剣を勝手に人が美しいと思っただけ。ならば、刀に美しさを求めることは、はなから間違っているのではないのだろうか。

 

 

「と言っても、僕ら政狩家は普通からほど遠いからね。刀を芸術品と思う奴なんてまずいない。けど、最初からそればっかりに気にしていたら、思いが早って上手くいかない。だからまずは何も言わず技術を磨かせて、行き詰まったところにこれを教える、って言うのが伝統なんだけど・・・」

 

「初めてにも関わらず素晴らしい技術を見せつけ、切ることにも異常なまでの執着を見せた、と。刀弥って、刀鍛治の才能に溢れ過ぎ?」

 

 

 何度もしつこいかもしれないが、まだ十四の少年が本質を捉えた上で一本の刀を一人で完成させるなど、まず有り得ない話なのだ。それを「刀弥だから」ですませられる周りも周りなのだが。

 

 

「これ、真面目に先祖返りを疑うものだぞ」

 

「まぁ、真実がどうにせよ、刀弥の才は我々の想像を遥かに越えるものだということが分かった。これなら次からの鍛錬は段階を大幅に上げてもいいだろう」

 

 

 刀弥の地獄が確定した瞬間である。

 

 

「あ、ねぇねぇ」

 

 

アイナがそう言えばと言った風に声をかけた。

 

 

「そう言えば、その刀の名前って何なの?」

 

「あぁ、えーと

 

 

 

 

紫焔(しえん) 刀弥』

 

由来は知らないけど、紫の焔とは物騒な名だよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 時は移り、ある夏の日のこと。場所は旧長野県との境に違い旧山梨県にある、住所も割り振られていない人里離れた小さな村。ここにはある家系の人間たちが住んでいた。

 

 その家系の名は『四葉』

 

 魔法の最高権威を持つ十師族の一つに数えられ、過去の事件から「アンタッチャブル(触れてはならない)」として恐れられている、現代最凶の魔法師一家。

 

 そんな危険極まりない場所の中央、四葉家の本邸の一室で一人の少女がその手にある写真をもって、ベッドに腰をかけていた。

 

 彼女の名は司波深雪

 

 現四葉家当主である四葉真夜の姉、深夜の娘であり、次期四葉家当主候補の最有力。その美貌は未だに幼さを残しながらますます磨きをまし、可憐さと神秘性をも持ち始めた。

 だが今はその顔には色濃く影が浮かんでいた。そしてその原因は自分が持つ一枚の写真にあった。

 

 どこかの体育祭の様子だろうか。二人の男女が体操服を着て腕を組みながら、いや、男子の方が無理やり組まされながら写っている。その証拠に、男子の方は体を離そうとしながらそっぽを向いていた。

 写真の女子はもちろん持ち主である深雪であり、これ以上無いほど楽しそうに笑っている。事実この頃は毎日が楽しかった。学校に行くのが、彼に会うのが、彼と一緒に話すことや授業を受けることやご飯を食べることが、心の底から楽しく感じたのだ。

 

 

 それを自らの手で壊した。

 

 

 自分の思う通りにならないと分かって、それが受け入れられなくて、彼の誇りを貶してしまった。その返答は、これまで感じたことのない大きな殺意と拒絶だった。彼とはそれから一度もあっていない。

 

 彼は今、どうしているのだろうか。

 

 

「政狩君・・・」

 

 




 今回のできはあまり自分的には納得できていません。それもあって遅れてしまったのですが、「これはちょっと・・・」て感じたなら感想に下さい。頑張って書き直してみます。


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Q.知らぬ間に進路が確定し、ヤバい目に遭うこと間違いナシとなった場合の対処を答えなさい A.笑えばいいと思うよ

 
 ピックアップでふじのんを引いたお陰でやる気がすんごい出た勢いで過去最長の話を書いた益荒男。投稿もうすぐ詐欺をした弁明に「おりゃあ悪くねえ!急にらっきょ復刻してきた運営って奴が悪いんだ!」と述べる


 調子乗ってたら一万字を超えてました。小分けしようとは思ったのですが、おそらく皆さん方が待ち望んだシーンだと思いますのでこのまま投稿します。

 次回?うん、まあ、がんばるよ(セイバーウォーズ復刻の通知を見ながら)




「東京に出てみないか」

 

「・・・は?」

 

 

 初めての真打の儀を終えてから、既に一年の時が過ぎ、俺は中学三年となっていた。今は夏休みを終え、二学期に入ったばかりの頃で、皆一生懸命勉学に励んでいる。それもそうだろう。何たって今我々は受験生。誰もが望む高校に入学するため、一時だろうと無駄にできないのだ。かく言う俺こと、刀鍛治師の政狩刀弥も同じであり、日々勉強に明け暮れている。いや、勿論鍛錬の時間は一秒たりとも削っていないが、基本それ以外の時間は勉強だ。爺やと新しく加わった父さんのしごきを耐え、母さんのスパルタ魔術教室の後に受験勉強というのは、なかなか苦しいものではあるが。それは全て自分の為になるのだから文句なんてない。うん、ナイッタラナイ。真打が終わってから一気に難度が跳ね上がった気がするけど、まぁ大丈夫!死んでないし!たまに一日中全身尋常じゃないほど痛かったりする日もあるけど!だから、大丈夫、なんだ・・・!

 そんな自分なりには充実した毎日を送っていたある日の放課後、いきなり校内放送で呼び出され、帰宅を邪魔されたことに少し腹を立てつつ職員室に来た俺を、いつもは気だるげな担任教師が真剣な表情で迎えたと同時にこう言い放ったのだ。

 

 

「政狩、東京に出てみないか?」

 

「先生、何が言いたいのか分かりません」

 

 

 何で二回言った?そして何故いきなり東京?話が全く見えてこないんですが。

 

 

「あぁ、すまない。ちゃんと順を追って説明する。まず政狩、お前は魔法科高校進学カリキュラムを受けた。なら志望校は併願の場合、国公立は必ず魔法科高校から選ぶことになる。これは分かっているよな?」

 

 

 質問というよりは、確認のようなニュアンスで聞いてきた。それはまぁ、自分だって受験生ですし。そんなことくらい知ってて当然・・・

 

 ん?

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「そう、なんですか?」

 

「なんだ、知らなかったのか。あ、そう言えばお前は特例でもう一年の二学期から受けていたんだったな。なら仕方ないか。てか、そりゃそうだろう。カリキュラムに使う設備は演算媒体やら特殊装甲演習場やら馬鹿にならないほど金を喰うんだ。魔法科高校に行くつもりがない奴に設備を使わせるなんて勿体なさすぎるだろう。まぁ、適性があるって分かってカリキュラムを受けて、一般校に行きたい奴なんてそういないだろうし。いるとしても、そりゃ相当の馬鹿だ」

 

 

 いえ、いるんですけど。目の前にその相当な馬鹿がいるんですけど。

 

 

「話を続けるぞ。実は魔法科高校には既に推薦制度があるんだ。中学の魔法の知識、演習、模擬戦の成績を高校に送って、めぼしい生徒には受験での優遇や免除が行われる」

 

 

 え?何?つまり、俺は絶対に魔法科高校に逝かねえとダメってこと?あれ、そういや父さんが高校卒業したら当主の座譲るって宣言したのって、確かカリキュラムの説明を読んだ時じゃ・・・あっ(察し

 

 

「でだ。その推薦候補に、お前が選ばれた。それも最優先度でだ」

 

(これ俺オワタわ)

 

 

 もうどうしようも無いほどに手遅れだと、自分はようやく気づいた。そう理解した瞬間、全思考は停止し、目からハイライトが消え、完全に諦めモードに入ってしまった。こうなったのは司波深雪の時以来だな。ハッ、笑えよ神様。

 

 

「推薦してきたのは、ん?どうした政狩?何というか、暗黒オーラ的なものが出てきているんだが?」

 

「イエ、キニシナイデクダサイ」

 

「そ、そうか、分かった。推薦してくれたのは、東京の八王子にある第一高校。ここは魔法知識より魔法実技が優先される場所でな。入試の成績割合も実技の方がかなり配点が高い。だが、もしこの推薦を受けるなら、実技テストを免除しペーパーテストのみを行うことにするらしい。それも、実技テストは()()()()が与えられて、だ。総代候補からは自動的に外されることになるけどな。」

 

 

 それは誰でも簡単に分かるくらいの破格の条件だった。ここまでしてくれるということは、それ程までに自分を買っているということなのだろう。

 

 

「物凄い好待遇ですね」

 

「俺も最初はめちゃくちゃ驚いたが、今じゃそうでもないって思うよ。よくよく考えれば、保有想子(サイオン)量も魔法演算領域もランクはB越え、模擬戦は授業内では全勝、魔法のバリエーションも多いし発動速度も校内トップどころか全国レベルで見ても高ランクだ。しかもどこかの魔法師の家系でもない一般家庭の生まれときた。普通にこれぐらいで頷ける人材だよ」

 

 

 彼らは知らないが、刀弥の模擬戦の内容も今回の推薦の大きな要因となっていた。模擬戦とは言ってしまえば、魔法の早打ち勝負だ。どっちが先に魔法式を起動し、相手を戦闘不能に追い込めるか。大抵は一回の攻防で終わる。さらに未だ中学生の身では使える魔法も少ない為、同じ単純行程の魔法をどっちが先に当てるかという、ランクありきの泥試合が殆どだった。だが、高ランクであることからの教師の無茶ぶりに応えて、既に多くの魔法式の展開が可能になっていた刀弥。「そんなのつまらないだろ」と様々な魔法を実践で試し、新しい戦術を次々考えていった。只のお遊びと実習の暇潰しだけのつもりだったというのは、刀弥本人のみが知る事実である。

 

 

「一高は魔法大学への進学率が魔法科高校の中でもトップだ。しかも、今年度は十師族の七草(さえぐさ)のお嬢様と十文字(じゅうもんじ)の御曹司がいて、九校戦では二連覇を果たした。間違い無くお前にとっていい刺激になる」

 

 

 そう言う担任教師の顔からは、喜びの色が読み取れる。何時もは気だるげな感じだが、生徒とはいつも正面から向き合ってくれている、いい教師なのだ。司波が転校したときも気にするな声を掛けてくる程に。ついでに普通に顔も整っているので、女子生徒からの人気は教師で一番らしい。

 

 

「とりあえず、今ここで決めろって訳じゃないから、この書類を持ち帰って親と相談しろ。お前の進路だ、お前が決めればいいさ」

 

 

 そう言って爽やかな笑顔を向ける担任教師に「じゃあ一般校から選ばせて下さい」と言いたくなるのをこらえながら、俺は職員室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ・・・どーしてこーなった

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 只今俺は教室で絶賛後悔&自己嫌悪中でございます。いや、もうほんと、どーしてこーなった。校長の話に頷いたのがいけなかったのか?いやでもあの時はカリキュラムの概要を言われただけで他は何もしらなかったし。なら・・・

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 もうやめよう。今更どうこう言ったって何も変わらない。今向き合うべき問題は、

 

 

「第一高校からの推薦」

 

 

 そう、あの一高である。魔法科主人公である司波兄妹が入学し、物語のメインステージとなり「いやこの高校だけ治安悪すぎだろ」と言われるあの魔法科第一高校である。ここに入学すれば、完全に物語に巻き込まれることが決まり、あのお兄様とブラコンシスターに会うことになる。最悪、全ての事件に首を突っ込むことになるだろう。まぁ、くっそ面倒くさいことになるわけだ。しかも、既に司波深雪とは面識がある。向こうがトラウマになっていなければ、もしかしたらあっちから話しかけてくるかもしれない。最初は謝罪しか受け取る気はないが。そして一番嫌なのは、世界最強お兄様こと司波達也に目をつけられることである。アニメでラストのあれはもう笑いしか出なかったのを覚えているよ。さて、どうしたものかねぇ。

 

 いや、推薦受けなかったらいいだけか。

 

 すんごい簡単なことだよ。一高に入学受けたらこうなるというだけで、なら別の高校に行けばいいだけだ。不登校になるというのは余りにも無責任だろうし。責任放棄、ダメ絶対。それに受験にわざと落ちるというのも気に入らない。ここまでやって来たんだ。それ相応の結果を得ないと納得もいかないんだよ。てか、恐らく父さんは魔法科高校を卒業しないと当主の座は譲ってくれないだろうし。

 ともかく、俺は(前から決まっていたけど)魔法科高校に行かなければならなくなった訳だ。さてどーしましょ。推薦蹴るならどこの高校にしようかな。順当にいくなら、ここから一番近い第四高校に入学するか?あれがあるのは静岡あたりだからちょっと遠いけど、半日もあれば余裕で帰れる。でも日帰り出来ないのが面倒だな。いや、それはどこ行っても同じか。あ~ダルい、昔の俺を殴りて~!こっちに来てからこんな後悔ばっかだなド畜生!

 

 

「政狩君?一人で頭抱えてどうしたの?」

 

 

 んあ?俺がOHANASIしてから大人しくなった大山じゃないですか。ご機嫌取りのつもりか、自分からパシられようとしていた頃が懐かしいな。今では世間話くらいならする仲である。

 

 

「別に、こっちの話」

 

「そう?あ、それよりも政狩君、一高からの推薦がきたんだよね!おめでとう!」

 

 

 ん?何でコイツがそれをしってんだ?まだ誰にも話してないし、これから話す気もなかったんだけど?

 

 

「さっき職員室の話を聞いたって、他の女子が話しているのを聞いたんだ。多分、今日の間には学校中に話が広がると思うよ」

 

 

 え、マジか。あの話聞かれてたのかよ。ちょっと自分への気遣いが全くないように感じられるのですが。てか行く気ないのにそんな噂を流されても困る・・・わけでもないけども。

 

 

「受けるつもりないんだけど」

 

「え!?何で!!?」

 

「ウルサい。だって遠いし、他に行きたいところがあるし(ほんとのこと言うのもあれだし、こんなところでいいだろ)」

 

「あ、そーなんだ。なら仕方ないか。でも確かに、あそこって九校戦とかのの成績はいいけど、一科生とニ科生の確執が大きいって聞くし、政狩君はそういう雰囲気は嫌いそうだしね」

 

 

 コイツ色々詳しいな。いや、当たり前だよな。受験する学校について何も知りませんはただの阿呆か。俺のことだよ阿呆は。仕方ない、あまり他人に頼ることはしたくないけど大山に聞いてみるか。

 

 

「大山、四高についてなんか知ってることない?」

 

「えっ、四高?うーん、僕はそこ受けるつもりはなかったから詳しくは調べてないんだよね。あ、でもあそこは多工程魔法を推奨してて、受験は魔法知識の配分が大きいってのは聞いたことがあるよ。でも、やってることは一校の方が分野が広いし、九校戦の戦績はほとんど最下位なんだよね。一校だけ定員も他より倍だし、これなら正直一高に行った方がいいと思う。政狩君は四高を受けるつもりなの?」

 

「いや、聞いてみただけ」

 

 

 ふーん、あまり大山の評価はよろしくないようだ。けど生徒数は少ない、か。騒がしいのは嫌だし、何より場所が近い。日帰りは無理でも、長い休日なら沢山時間がとれるな。候補の一つに入れとくか。他のところも一通りは調べておかねえとなー。

 

 そのまま大山と別れたあと、俺は帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 ふう、このなっがい通学路とももうすぐおさらばだな。あばよ信濃堺駅、これまで楽しかったぜ。いやあんまりいい思い出もないな、うん。山道を登りきり家の扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

「刀弥、帰ったか。すまん、鍛錬の前にちょっといいか?」

 

 

 顔を覗かせ、挨拶を返した父さんはそんなことを聞きながら、居間に手招きする。特に断る理由もなかったので、制服の着替えも後回しにして、父さんの前にあぐらをかいて座った。それを見た父さんは一度息を吐いてから、まるでこれから刀鍛冶に挑むかの如く真剣な顔で俺にこう告げたのだ。

 

 

「刀弥、東京に出てみないか?」

 

 

 ループって怖くね?

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 旧山梨と静岡の境にあるほとんど人の手がつけられていないように見える山の中のさらに奥。血族以外の人間には誰も知られていない四葉の里。そこの本邸では今、二人の美しき女性が晩の食卓を共にしていた。

 一人は司波深雪。時期四葉家当主の最有力候補であるまだ十五歳であり、そうとは思えないほど完成された美貌をもつ少女である。

 そしてもう一人は四葉真夜。現四葉の当主であり、深雪の叔母にあたる妙齢の女性である。魔法師の間で「夜の支配者」と恐れられている彼女の姿は、実年齢からは考えられない若々しさを持っており、どこか深雪に似た面影のする紛れもない美女である。

 二人は徹底的にたたき込まれたことを匂わせる気品溢れる作法で、皿に盛られた料理を口に運んでいく。これだけ見れば絵になる光景なのだが、そこには温かみなど一切感じられない凍えきった食卓だった。そんなことは知らないといった風に、真夜の方から深雪に言葉をかけた。

 

 

「深雪さん、勉強は捗っていますか?」

 

「・・・はい」

 

 

 問いかけに対し、深雪は力無い返事を返すだけだった。熱も感情すらもこもっていない、機械的に返した、そんな返事。このやり取りだけで、彼らの関係の一端が捉えられた気がした。

 

 

「なら良かった。あなた達には前に言った通り、第一高校に入学してもらいます。《あれ》も深雪さんも、それ自体に心配はいらないでしょうが、やるならより上を目指して欲しいですしね」

 

「はい」

 

 

 深雪の心の内を知らずか、いや、知っていてやっているのだろう。先程からずっと、真夜の口元には笑みが浮かんでいる。反応を楽しんでいるのか、只彼女に無関心なのかはわからないが、当の本人からすれば気分の良いものではない。真夜の言葉には一応耳を傾けながら適当に相づちだけを返し、深雪は早々に夕食を食べ終えた。もうこんな場所には居たくないと立ち上がり、扉をつかんだ時、向こうから呼び止められる。

 

 

「深雪さん、あなたはいつまで夢を見ているつもりですか」

 

 

 深雪は最後の質問には応えず「失礼します」とだけ返し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「深雪さんに学校へ行かせたのは得策ではなかったようです。それにしても、『政狩刀弥』ですか。余計なことをしてくれましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻り、そのままベットへと倒れ込む。服がしわになってしまうと分かっていても、今はこうしていたい気分だった。あの人のことは、はっきり言って好きになれない。何を考えているのかが全くわからず、何よりも兄のことを()()呼ばわり。一部を除く四葉全体にも言えることだが、敬愛する兄の扱いに自分は我慢ならない。兄の事情は知っている。あちらの言い分も理解はしている。それでも許せないのだ。何故兄がこんな目に合わなければならないのか、と。

 天井へ向けていた顔を、現実から目をそらすかのように横へ動かす。すると、棚の上に置かれた一つの写真が目に映る。万弁の笑みを浮かべる二年前の自分と、腕を組まれるのが恥ずかしいのか頬をほんの少し赤く染めながらそっぽを向く彼。

 

 そして思い出す、彼との日々

 

 

(ああ、まただ。何度も何度も、ほんとはいけないことなのに)

 

 

 あの時は、本当に楽しかった。

 

 ぶっきらぼうで、不器用で、少し天然で、でも優しさを持っている。

 

 

(最初は、教科書を貸してもらったんだ。一度も話したこともない私にテスト前で気を張っている中、不躾なお願いを彼はなにも言わずに聞いてくれた。たったそれだけのことだとしても、私にとっては何よりも嬉しかった)

 

 

 いつも何か考え事をしていて、あまり周りが見えていないこともあって危なっかしい。私がちゃんと見ておかないと、なんて思ったりもした。

 

 

(彼から話すことは少なかったけど、私の話にはしっかり応えてくれた。家での鬱憤を吐き出すように話し続ける私を、しっかりと受け止めてくれた。それが私の只の思い込みだとしても、それでも私は確かに救われた)

 

 

 そんな彼と過ごした、たった三カ月。それが私のこれまでの人生で、一番幸せだった記憶であり

 

 

 

『その首、切り落とすぞ』

 

 

 

「ッ!」

 

 

 一番つらい思い出だった。

 

 

 彼の最後の言葉を思い出し、縮こまって自分の肩を抱き寄せる。震える体を押さえつけ恐怖を鎮めようとするが、脳裏にこびり付いたそれは簡単に消えはしない。

 

 刀弥が深雪にぶつけた殺気は、彼女にとって極大のトラウマとなっていた。いくら裏の世界に関わる四葉の家の娘だとはいえ、当時の深雪は他とそう変わらない中学一年の少女でしかなかったのだ。本物の殺気を受けたことすらなかったし、何より不味かったのは触れたのは相手の逆鱗だったことだ。精神年齢が三桁を迎えた人間の純粋な殺気を少女である深雪が耐えるというのはあまりにも酷な話だ。今もただ時間に委ね、恐怖が少しずつ薄れていくのを待つしかなかった。

 

 永遠に続くのではないかという恐怖の時間は、時計の針が半分周りきるまで続いた。だがこれでもましになったものなのだ。最初は一日中ベットにうずくまった時だってあった。体をベットから起こし、棚の上の写真に手を伸ばす。一度引きながらも、数巡の末ようやく持ち上げる。自分の臆病さに嫌気が差し、思わず自嘲するように笑みを浮かべる。

 先の恐怖がある。恐らくこれを無くしてしまったら、自分は彼のことを忘れようとするだろう。自分の意志なんて関係ない。本能がこの恐怖を消そうとする。本当に嫌な記憶ならそうするべきなのだろう。けどそうじゃない。彼と過ごした日々は自分にとっての救いなのだ。自分も普通でいられる、普通に笑えることの証明のために。

 

 

 『いつまで夢を見ているつもりですか』

 

 

 そこで思い出したのが、先の夕食で叔母が自分にかけた言葉。

 

 夢、そう夢だ。

 

 現実よりも心地良く、最後は恐怖と悲しみに染まる幻。突き落とされると分かっていても、浸っていたいと感じてしまう胡蝶の夢。私はずっと夢を見ている。いつか、この呪縛(四葉)から解放される時が来るのではと。けど、もう止めるべき時ではないだろうか。この美しくも忌まわしい過去を忘れ、四葉として生きることを受け入れる。そうするべきではないのだろうか。

 頭の中で、様々な思いが行き来を繰り返しぐちゃぐちゃになる。混乱が頂点に達しようとしたそのとき

 

 

「深雪、俺だ。少し話したいことがあるんだが、今、大丈夫か?」

 

 

 部屋の扉がノックされる音と共に、深雪の兄であり物語の主人公、司波達也の声が届いた。

 

 

「お、お兄様!?キャッ!」

 

 

 急に声をかけられた驚きで、手に持っていた写真を落としてしまう。ガラスで作られていたそれは、落ちた衝撃によって大きな音をたてて割れてしまう。その音が部屋の外にまで聞こえたのだろう。血相を変えた達也が、深雪の返事を聞く前に部屋に入った。

 

 

「深雪!どうした!?」

 

「い、いえ。驚いてしまって、写真を落としてしまっただけです」

 

「そうか、ならいい。すまなかった。怪我はないかい?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「取りあえず、ガラスはすぐに始末しよう。床に傷はないみたいだから、面倒なことにはならないだろう」

 

 

 そう言って達也は、砕け散ったガラスに手をかざす。すると、魔法が起動しガラスが素粒子レベルにまで『分解』され、跡形もなく消え去った。

 

 司波達也は二つの魔法しか満足に扱えない。一つは先程見せた『分解』、物質ならその構成要素の限界まで分解した状態に上書きし、情報体ならその構成自体を分解する魔法。もう一つは『再成』、最大24時間前まで対象の個別情報体(エイドス)の履歴を読み取りフルコピー、上書きする魔法。この常識はずれもはなただしい魔法を扱う代償に、達也は感情の大部分を白紙化されている。ただ一つ、『兄弟愛』という感情を残して。

 

 魔法によりガラスを消した後、埋もれていた写真を拾い上げるとそれを見る。深雪がしまったという風に「あっ」と声を出すが時すでに遅し。ここでさっき言ったことを思い出して欲しい。達也には、ほぼほぼ兄弟愛以外の感情が無いに等しいため、妹である深雪にはとても過保護になる。そんな彼がこの写真を見たら、する事など一つであった。

 

 

「深雪、これは?」

 

「ええと、その、これは、私がまだ学校に通っていたときのもので・・・」

 

「深雪?」

 

 

 少しずつ声が小さくなるのを聞いて、やはり()()()()()()を聞かれるのは恥ずかしいのか、と思っていたら、深雪の様子がおかしいことに気がつく。まるで写真について話すことを恥ずかしがっているのではなく、怯えているように。

 

 

「・・・お兄様、少しだけ、こちらの話を聞いて下さいませんか?」

 

 

 それから深雪は、達也に全てを打ち明けた。

 

 

 それはまるで、全てを諦めた罪人が己の罪を告白するかのようだった。彼との馴れ初めから過ごした日々、そして最後の話と別れ。本来楽しい思い出だったはずの話をするときも、自分にそれは許されないとでも言うように、無表情に語って言った。

 

 

「政狩君は最後に、『邪魔をするな』と言って、それから一度も話すこともなく夏休みを迎え、沖縄での出来事を機に私は学校を去りました」

 

「・・・深雪」

 

「本当、笑い物ですよね。自分と彼を勝手に重ねて、彼の誇りを傷つけて、自分が欲しかったものを自分で手放すなんて」

 

「深雪!」

 

 

 達也は一度強く深雪の名を呼び、話を無理やりに中断させる。これ以上は深雪の精神が保たないと感じたからだ。達也は後悔する。この話をする深雪は、あまりに痛々し過ぎた。

 

 

「もういい、今日は疲れだたろう。風呂はもう済ませたのか?」

 

「い、いえ。お兄様?」

 

「深雪、確かに非の多くお前にあるのかもしれない。けど全部じゃない。間違い無く向こうにも非がある。お互いに言葉が足りなかったんだ」

 

「そう、なのでしょうか」

 

「ああ。たとえ深雪の独りよがりだったとしても、話を聞く限り彼はそれを受け入れていた。ならお互いのことをもっと知っているべきだったんだ。勿論、話せないことだってあるだろう。()()なんて特にな。向こうにだってあるはずだ。でも、こんなことになってしまうくらいなら、向こうももっと踏み込んでも良かっただろうに」

 

 

 たとえ不本意だったとしても人と関わることになったのであれば、後に問題にならない為にその人のことはある程度知っておかなければならない。これには相手の素性は勿論のこと、性格なども含まれる。文字として見ればされた方が理不尽に感じるかもしれないが、これは普段じゃ誰もが当たり前に行っていることである。なので普通の場合はそこまで面倒なことにはならない。

 なら何故こうなったか、それが刀弥に足りなかったものだ。刀弥にとって、深雪は『原作キャラ』だという先入観が強く入る人間だった。刀弥の素性から考えればそれは当たり前のことなのだが、そのままにしておくのが問題なのだ。つまり、

 

『今はこうでも後で勝手に離れていく、それは物語的に決まったことだ。ならほっといても大丈夫。』

 

 刀弥はこう感じ、深雪のことを微塵も知ろうとしなかったし、自分のことを深雪に話そうともしなかった。

 

 

「でも私が、彼の誇りを貶したのは、事実です」

 

「なら謝ればいい。もし会えた時にしっかりと謝れたのなら、彼だって許してくれるだろう。それとも、政狩刀弥という男は心の狭い人間なのか?」

 

「ち、違います!政狩君は、少しぶっきらぼうなところはありますけど、とても優しい人です!」

 

「なら大丈夫だろう。安心しろ、俺はいつまでも深雪の味方だ」

 

 

 深雪の反応を見て、安心したという風に溜め息を吐く。しかしこの反論の強さ。やはり深雪は彼のことを()()()()()()思っているのだろうか。そんなことを思った達也は、しばらく迷った末に思い切って聞いてみることにした。それがある引き金になってしまうとも知らずに。

 

 

「深雪は、その『政狩』のことが好きなのか?」

 

「・・・え?」

 

 

 私が、政狩君を・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そっか

 

 

「そう、なのかも、しれませんね」

 

「・・・そうか」

 

(政狩刀弥、注意する必要性があるな)

 

 

 それっきり話は一度止まってしまうが、達也にも用事があったことを思い出した深雪が彼に尋ねることで、沈黙が破られた。今日達也は、自らが研究員として勤めるフォア・リーブス・テクノロジー(通称FLT)会議にでていて、そのせいで遅れてしまった深雪のCADの調整が完了したので渡しに来ていた。

 

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

「かまわないよ、たいしたことはしていない。試運転といきたいところだが、今日はもう遅いし明日にしよう」

 

「はい。お兄様はこれから夕食ですか?」

 

「いや、もうそれは済ませてある。これから部屋に戻って研究の続きをするつもりだ」

 

「そうですか。私はもう少ししたらお風呂の方へ入ろうと思います。では、また後で」

 

「ああ。また困ったことがあったらいつでも言ってくれ。さっきも言ったが、俺はいつでもお前の味方だ」

 

 

 

 

 

 

  

 達也が部屋を去った後、深雪はしばらくその場から動かなかったまま2、3分たつと、テーブルの上に移された彼との写真を見つめる。その目に前までの恐れは見えず、別の感情が見え隠れしていた。

 

 

「・・・好き」

 

「私は、政狩君のことが、好き」

 

 

 何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろう

 

 

 そうだ、私は

 

 

 彼が、政狩刀弥君のことが

 

 

 好きで好きで

 

 

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好--------

 

 

 好きで好きで堪らないのだ

 

 

 だから怖かった

 

 

 嫌われるのが怖かった

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 彼のことが好きで、でも彼に嫌われたと認めてしまうのが怖くて

 

 

 だからずっと震えていたんだ

 

 

 でも認めよう

 

 

 私は罪を犯した

 

 

 だからこの思いは認められない

 

 

 実ることはない

 

 

 でも、もし

 

 

 もし彼に許されるなら

 

 

 そんな時がきたら

 

 

 この思いを、受け取ってもらえますか

 

 

「政狩・・・刀弥君」

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 トラウマとなった殺気の恐怖を嫌われることへの恐怖とすり替え受け入れる、これぞ人の本能の為せる技、という風に納得してください。

 今回初描写のキャラが多かったので、ガバガバなところ多いかもしれません。ご指摘は感想でお願いします。

 次回は閑話を挟む予定。主に政狩家の日常風景を描く予定。あと近々活動報告にてアンケートをとる予定。そちらのチェックもお願いします。それでは今回はこのへんで。ばいなーら



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武道家という人間は一度「歓迎」の意味を広辞苑で調べるべきだと思う

 前に閑話を挟むと言ったな。あれは嘘だ

 いやあ、閑話と一緒にその次回を並行して書いてたら、閑話が全く進まず次回の方が先に出来ちゃいまして。


第二部PUアヴィケブロンしかこねえええええ!!



「本日からこのアパートに住むことになった政狩刀弥です。よろしくお願いします」

 

「あらあら御丁寧にどうも。あたしはここの大家をしています、佐々木です。こちらこそよろしくね」

 

「これ、引越蕎麦です。良かったらどうぞ」

 

「あ~らまあ!まさかこんな若い子に引越蕎麦を貰うなんて夢にも思わなかったわ。では、ありがたく頂くわね。そう言えば、あなた進学で東京に出て来たって聞いたけど、どこの学校かしら?」

 

「⋯魔法科の第一高校です」

 

「あらあらまあまあ、すっごい進学校じゃない!ということは将来は魔法師に?」

 

「⋯そう言うことに、なるんでしょうか」

 

「ふふ、えらいわねえ~。こんな年でもうしっかり将来のことを考えているなんて。私の若いころなんてもう⋯っていけないいけない。もう年寄りになると昔話が多くなっていけないわ。とりあえず、こんなおんぼろアパートだけど困った事があったら遠慮なく相談してちょうだい。オバサン、頑張って力になるから!」

 

「⋯はい、その時は、また」

 

「ええ!あら、もうこんな時間。地球堂のセールがもうすぐ始まっちゃう。あなたの部屋は二階の右端、『205』号室よ。これが部屋の鍵ね。それじゃ、色々大変だとは思うけど、頑張りなさいね!」

 

「⋯はい。じゃあ俺はこれで」

 

「ええ、また今度!よーし、今日こそ今井さんに勝つわよ⋯!卵一パック二十円セール、譲るモンですかー!!」

 

「⋯」

 

 

 なんか、物凄くパワフルなオバサンだったな⋯。まあ悪い人じゃないのは間違い無いし、とりあえず後でセールのことは聞いておこう。間違いなくこれからの生活に欠かせないモノになるだろうしな。母さんとの約束で絶対に一日三食自炊しなきゃいけないし。今月の仕送りは生活必需品でかなり削られることになる。さて、まずは部屋に入って背中のものを下ろすとしようか。

 

 あれ、俺って鍛治師目指してんだよね?

 

 

 

 

 第一高校入試を終え無事入学資格を得た俺は、遂に中学を卒業した。そうだよ、あの後結局父さんからの提案を呑んだんだよ。まあ、推薦書類が母さんに見つかって逃げられなかったってだけなんだけど。どうやらこの近くに父さんと爺やの知り合いが道場を開いていて、彼には色々と「貸し」ているらしい。詳しくは知らないけど、多分刀の取引とかだと思う。その知り合い自身相当腕が立つらしく、そいつから学ぶこともあるだろうとのこと。何より、その道場の裏には爺やが用意させた鍛治小屋があるらしい。そんなことから、俺に世界とはどんなものかを実感させる目的も含めて俺に上京を薦めてきたって訳だ。まあ確かに、今まで居たところは此処と比べるとかなりの田舎だった。まだ細かいところまではキャビネットが設備されておらず、旧式の電車を用いているくらいだ。それも家の最寄りの場合三時間に一本だけって感じだし。

 そんなこんなで東京に来た俺はこれからワンルーム家賃10万円のこのアパートで暮らすことになったという訳だ。現代の東京にしては結構安い方である。部屋の中は木製タイルで敷き詰められた床、壁につけられたクローゼット、玄関のそばにはキッチンと洗面所とバスルーム、あと冷蔵庫とそのくらいしかなかった。てか言ってしまえばらっきょの式と似たような部屋だった。電話買って冷蔵庫の中にストロベリーアイス詰めなきゃ(使命感)と馬鹿なことは置いといて、早速背中の荷物を下ろし荷ほどきをしておこう。

 

 バックを下ろし、中から少し大きめの立方体を取り出す。一見ただ形の整えられた石のようなそれに手をあて魔術回路を起動。一部の機構に魔力を流すと、その魔力に反応し封印が解除され、手の当てた部分が()()()()()()。中は空洞になっていて今は俺が家から持ってきた私物が詰め込まれてあった。実はこれ、母さんがアトラス院から持ち出した収納用の魔道具であり、一定の大きさ以内のものなら何でも三十個だけ入れれるという便利なものなのだ。俺は『箱』と呼んでいる。てか母さんアトラス院から色々盗りすぎだろ。と言うよりは、これがあったから色々持って来れたんだろうけど。詳しい仕組みは知らないが、母さんが言うには「第二魔法の真似事」らしい。恐らく中の空間を歪ませたりしてるのだろう。ついでにカレイドステッキは入っていない。

 

 えーと、とりあえず制服と寝間着と部屋着の和服はクローゼットの中に、通帳やら印鑑などの貴重品も一緒に。枕はベッドの上にポイッと、歯ブラシは洗面所に。あとは⋯あぁ、母さんからもらった魔術訓練用の礼装シリーズと魔力封じの予備、それと刀三本。『紫焔』と俺の打った無銘と爺やのくれた小太刀。これらは⋯うーん扱いに迷うな。今は箱に入れたままクローゼットに押し込んでおくか。ん、なんだこれ?あ、CADか。これはそこらへんに置いとこ。⋯えっ、これだけ?もうちょっと多いような気がしたんだけど。まあいいや。別に贅沢したいわけでもないし。必要な物が揃ってりゃいっか。えーと、今の時刻は?⋯もうこんな時間か。確か約束が一時間後だったから、もうそろそろ家を出た方がいいな。服装はこのままでいいや。何時もの和服程じゃないけど動き易いし。

 

 さて、父さんと爺やの知り合い。いったいどんな人なのか。

 

 

 

 今回協力してくれたその知人について、俺の知っていることは少ない。今ある情報は「寺の僧侶で道場を開いていること」「政狩家に借りがあること」「見た目よりずっと年を喰っていること」これぐらいだ。名前すらも教えてもらっていないが、まあそこはどうでもいい。俺が気にしているのは別のことだ。

 

 この「東京の寺で道場を開いている僧侶」ってお兄様の師匠的ポジでアニメに居なかったっけ?

 

 

 

 

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 刀弥の家から徒歩で約四十分程のところに、裏山と言えるような場所がある。そしてその山の中には「九重寺」という名の寺があって、刀弥の目的の人物はそこにいる。寺へと続く長い階段を半ばまで上ると、刀弥は不意に足を止めた。そのまま視線を上に見える門にむけ、おもむろに溜め息を吐く。暫くすると再び階段を上り始めた。優に三桁はあるであろう石畳を上りきり門をくぐる。

 

 

「フンッーーーー!」

 

 

 それと同時に、門の裏に身を潜めていた一人の修行僧が刀弥に殴りかかった。相手の死角をついた完璧な不意打ち。それは修行僧自身の技術も合わさり、例え腕に自信があろうとも並みの者なら間違いなく避けられない一撃となる。だが、目の前の男は文字通りの規格外だった。その程度の攻撃では、未だ二十に満たないとしても政狩の人間を傷付けることなど出来やしない。階段を上っている時点で既に修行僧の気配を感じ取っていた刀弥は、体を横にしながら後ろに跳ぶことで簡単に攻撃をかわしていた。

 

 修行僧は驚愕に目を見開くがそれも一瞬のこと。これを為せる規格外を他に知っていた故に、その立て直しも早かった。自分の流れを途切れさせ無いため、すぐさま次の攻撃へと移ろうとかわされたことで開いた距離を詰める。

 

 それが刀弥の思惑通りとも知らずに

 

 

「なっ!?」

 

「⋯」

 

 

 自分の目にした光景が信じられず、顔に浮かべたのは二度目の驚愕。刀弥はもう、()()()()()()()のだ。何時の間に、と修行僧の頭がその疑問で埋め尽くされる。標的を視界から外すなんてヘマを、自分は犯してなどいない。ならどうやって。答えは単純明快。避けると共にすぐに体制を整え構えた、それだけのこと。ただそれがあまりに早く、何より自然であった。それは速さを求めた動き、だが無駄な力は一切込められてなどいない。動きは水の流れ、構えは岩の重さの如し。一種の暗殺術にも似たそれは、例え目の前に捉られていようとも、敵に動きを悟らせ無いことを可能とする。

 

 気付いた時にはもう遅い。修行僧は自ら死地へと飛び込んでいく。理解不能の驚愕、それと無理に前に詰めたことによって、思考と体の動きはもう取り返しのつかない程に遅れている。結果、修行僧は無防備な胴体を刀弥の目の前に晒すこととなる。

 

 刀弥の正拳突きが修行僧の身体を捉えた。

 

 拳は鳩尾辺りに深く突き刺さり、修行僧の身体がくの字に曲がる。完成された構えから放たれたその威力は絶大。修行僧は衝撃のあまり気絶し、その場所に倒れ込むしかなかった。その様を見届けた刀弥は、周りに視線を向ける。刀弥を中心として、十数人程の修行僧が囲むようにして立っている。皆構えてはいるが、飛び込んでくる様子ではなかった。いや、飛び込む事が出来なかった。それは何故か。理解してしまったからだ。先の一瞬の攻防をみて、骨の随まで理解させられた。目の前の少年と自分達とは、比べるのも烏滸がましい程の差があるということを。修行僧達は背中に流れる冷や汗を感じながら、刀弥を睨みつけている。刀弥自身は特に自分から動く理由もなく、いつ仕掛けてくるか見極めようと自然体で相手の動きを待つ。場は完全に硬直してしまった。永遠に続くのではと思わせる緊張は、寺の本殿から響く気の抜けた拍手で幕を閉じる。

 

 

「いやあ、お見事!龍馬さんから話は聞いていたけど、まさかここまでやるとはねえ!流石、政狩の名を継ぐ者ってところかい?」

 

 

 刀弥は声の届いた方向に勢いよく振り向く。それは彼の察知出来ていなかった気配。未だ距離は遠いとはいえ、父親から太鼓判を押された自分の気配察知で見つけられなかった。信じられない。⋯いや、そうか。これが慢心か。

 

 

(出て来て正解だったかも。自分を見つめ直すいい機会になるし)

 

 

 何処か天狗になっていた自分の認識を改める。まだまだ自分は鍛錬不足、せっかく外にきたんだ。学ぶことは全て学ばせてもらう。新たに決意を固める刀弥の前に現れたのは、紺の法衣に身を包んだ僧侶。笑みを絶やさず、特徴的な糸目に片方の目には斬られた痕が残っている。警戒する刀弥に向けて、本殿前の石階段に腰掛ける彼は名乗る。

 

 

「はじめましてだね。僕は九重八雲(ここのえやくも)。ここの道場で古流武術の師範代をしている者だ。君の家族から話は聞いているよ。魔法科高校進学おめでとう」

 

「⋯これ、なに?」

 

 

 自分を囲む修行僧を見渡し、仕掛けさせた張本人であろう八雲に問い掛ける。少し気が立っているせいか、敬語も外されていた。八雲はそれに悪びれもせず笑いながら答えた。

 

 

「なあに、僕なりの歓迎ってやつだよ。気に入ってもらえたら良かったんだけど」

 

 

 どうやらうまくいかなかったみたいだね、と頭の後ろをかく八雲。当たり前である。刀弥からすれば、ただの面倒事に他ならないのだから。だが、向こうは変な勘違いをしていた。八雲は立ち上がり、脱力しながら腕を上げ指をくいっと曲げる。まるで刀弥を挑発するように。

 

 

「まだまだ暴れ足りないんだろう?今度は僕が相手になろう。彼らじゃ少しばかり荷が重いだろうからね。さっきよりは楽しめるとおも───」

 

 

 八雲はそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。未だ10mほど距離のある場所にいた筈の刀弥が、既に目の前にまで迫っていたからだ。

 

 刀弥の突き出した拳を八雲は片手で受け止める。瞬間、寺中にバシンッと乾いた音が響いた。修行僧達が肌で感じるほどの衝撃に戦慄している中でも、八雲の笑みが途絶えることはなかったが、先よりも余裕が感じられない。

 

 

「危ない危ない。もうすぐで彼の二の舞になるところだった。それにしても刀弥君、いきなりとは酷いじゃないか」

 

「歓迎には礼を持って答えるのが道理だろ。そっちのやり方に沿っただけだ」

 

「それはどうも、ご丁寧に」

 

(今のは、縮地か。警戒は最大限にしていた。それを潜り抜けてくるなんて、洗練度が半端じゃない。そして何より()()()()()()()()()()()。この年でそこまでできるなんて、化け物の子も化け物だね)

 

 

 型が明確に定められているわけではない政狩家の武術だが、全ての技に置いて一つだけ徹底されているものがあった。それは『実戦技の予備動作の排除』である。戦いで常に優位に立つ為の単純な方法は、先手を取り続けること、それと相手に自身の手を悟らせないことである。この二つを同時に満たす為にはどうすればいいか。その答えとして初代政狩家当主が導き出したものがこれだ。予備動作を無くすことで常に先に仕掛けることができ、本来派生させることが出来ない技を繰り出すことを可能とする。これによって常に優位を保って闘うことができる。つまり政狩の武術とは、「速さ」と「巧さ」を極限まで突き詰めた武術なのである。

 だが刀弥はまだこれを修めている訳ではない。八雲が感じた通り、刀弥は予備動作を()()なくしていた。つまり完全になくしている訳ではないのだ。八雲はそこに刀弥の隙を見出した。確かに脅威ではある。だがあの二人程ではない。目の前の彼を鍛えたであろう二人は、まさに神域の人間であった。只の人間では絶対に踏み込むことすら出来ない領域の住人。彼はまだそこまで至ってはいない。ならば自分にまだ勝機はある。

 

 

(遂に、遂に叶った。この時をどれほど夢に見ただろう)

 

 

 この闘いは実を言うと、八雲にとっての挑戦の闘いでもであった。過去に手も足も出なかった彼らの家の子供。刀弥の父親から「息子に稽古をつけてやってくれ」と連絡を受けたとき、久々に血がたぎるのを、彼に付けられた目の傷が疼くのを感じた。彼と同じ道を辿るであろうその息子と手合わせ出来る。一人の武術家として、この機を逃す訳にはいかない。

 

 そして遂に、その時がきた。頭はこれまでに無いほど冴えきっている。身体の調子も万全。ならば後は試合うのみ。

 

 

「比叡山天台宗古式魔法、そして古式武術『忍術』の使い手。九重八雲」

 

「⋯政狩家次期当主、政狩刀弥」

 

 

 

「「参る!」」

 

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

 

 

 

「『政狩』⋯?おい真由美。今、『政狩』と言ったか?」

 

「?、ええ言ったけど⋯」

 

 

 場所は魔法大学付属第一高校の生徒会室。近日に行われる入学式の準備の為、学校には生徒会や部活連などの役職を持つ生徒達が集まっていた。その休憩がてら、生徒会長である七草真由美(さえぐさまゆみ)と風紀委員長の渡辺摩利(わたなべまり)は今年度にこの学校へ入学する新入生のデータを、生徒会長権限(だけなのかは怪しいところだが)で閲覧していたところ、一人の少年が話に持ち上がった。

 

 

「今年の推薦枠入学の生徒。名前は政狩刀弥。実技は免除されてるから記録はないけど、筆記テストは全教科平均87点と高得点。推薦枠に選ばれる程の魔法能力をも持ち合わせていることを考えると、まさに逸材というべきでしょうね。知り合いなの摩利?」

 

「いや、直接的な面識はない。ただ、彼の家については多少ばかり知っている」

 

 

「有名な家なの?私は一度も聞いたことが無いけど」

 

 

 真由美は名字に「七」とある通り数字付き(ナンバーズ)、それも国内で最強と言われる十師族の家系の長女であった。さらに七草家は「アンタッチャブル」と名高い四葉家と並び最有力とされている。そんな良家のお嬢様である自分の知らない魔法師の家。真由美はそんな彼に興味を持ち始めた。

 

 

「一部の人間の間でな。刀を扱う者で知らない奴はまずいない。彼等は刀鍛治師の家系なんだよ」

 

「刀鍛治師?こんなご時世に?」

 

「ああ。江戸時代前から刀一本で歴史を重ねているらしい。表に出るようなことは滅多にない。彼等の打つ刀は他の随追を許さない程に美しく、そして恐ろしいと言われる程。一時期はその刀の取引には数十億を越える額がついたという話だ」

 

「数十億!?たった一本の刀で!!?」

 

 

 驚異的な額に目を見開き声を上げる真由美。信じられないよな、と摩利は苦笑いで答えた。

 

 

「そんな家の人間がこの学校に来るなんて、ふふっ、さっきの司波君といい、今年は楽しいことになりそうね」

 

「厄介事が増えそうな予感だな」

 

「あら、でもこの子はあなたが面倒を見ることになりそうよ。ほら」

 

「なに?⋯ほう、楽しみだ」

 

 

 真由美に見せられた画面を見て、摩利は笑みを浮かべる。そのディスプレイに映された政狩刀弥のデータには、『風紀委員会教師選任枠候補』と付け加えられていた。

 

 

 

 

 




 今回は戦闘描写に力を入れてみました。いやぁやっぱり難しいけど楽しいですな。まだまだ修行不足ですけど、いつかは奈良原一鉄みたいな一瞬を十に分ける戦闘描写を書けるようになりたいです。

 どうしよっかな~村正買おうっかな~まだプレイ動画しか見てないし。けどアレ、ニトロの中でもさらに人を選ぶって言ってたし。それならガチンコの剣劇の刃鳴散らすの方がいいかな?正直言って村正の鬱に耐えられる自信がない。あっ、でもヒロインがラスボスってのはすっごい楽しそう。


ん?まだお前○校生だろって?細けえことはいいんだよ。


※4月16日 一部加筆修正をしました



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入学編
学園ものの入学式に何もイベントが無いってのはいけないと思うby益荒男


 やっと原作まできましたよ。なんでこんなに時間かかった?俺の投稿スピードがクソだからだよ。


 

 始まりは、言ってしまえば暴走

 

 物語の登場人物に憧れたというよりは、共感したというべきか、彼の言うことに胸を打たれたというべきか。少し言葉には言い表しにくいものだが、先のことと変わりはない。

 

 自分はやらなければならない

 

 願望でもなく責務でもない。それが当たり前のことだと思ったのだ。自分は何故こんな所にいる、早く俺はやらなければ。そんなこれまでに感じたことの無い情熱が、心の底から溢れるのが止まらない。他のことなどどうでもいい。このときから自分にとって、文字通りそれが俺の全てだった。

 

 

 今だって、そのはずだ

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 あの迷惑ながらもそれなりに楽しかった決闘から数日、俺は遂に中二チックな白い制服を身にまとい、これから通うことになる校舎を見上げていた。

 

 

「うわあ・・・」

 

 

 でっけー、そしてきれー。うちの中学もそこそこ綺麗なところだったけど、如何せん場所が田舎なもので規模がそこまで大きくなかった。それが高校に上がってみればどうよ。なにあの「金かけました」っていうのが一目でわかる校舎。もっと他のところに金回せよ。土地は広いし、建物は多いし、庭には噴水があるし、地味にここら霊脈の起点になってマナが集まる霊地になってるし。ん?最後に何か混じってたような。ま、いっか。

 

 皆さんご覧の通り、今日はこの魔法大学付属第一高校の入学式だ。はぁ・・・遂にきたちまったかこの日が。いるんだろうなあ司波兄妹・・・原作に巻き込まれるんだろうなあ・・・嫌だなあ・・・え?あの九重八雲との戦いはどうなったんだって?()()()()()()()()()()?あのあと三時間ぶっ続けでやって、右腕を奪ったまでは良かったんだけど体力が保たなくて動きのキレが落ちた瞬間をドスン。終始優位は自分にあったけど決めきることが出来なかった自分の完敗ですよ。向こうは

 

 

「途中からは忍術をフルで使っていたというのに、それでも優位を保てた上にぼくの右腕を奪うなんて、君は本当に末恐ろしいね。けど君は魔法、そして強化すらも何も使ってないじゃないか。これで負けたら僕の人生は何だったんだって話だよ。ま、今回は最後まで粘った僕の勝ちってことで。また頼むよ刀弥くん」

 

 

 なんて言ってたけど、そんなの関係ない。負けは負けだ。てかあの人魔術の存在知ってそうな感じだったな。それはともかく、負けっぱなしというのは我慢ならない。とりあえず最後のサムズアップがくっそムカついたから一年中にアイツをボコれるように絶対なる。俺を煽ったことを後悔させてやらぁ・・・!はいそこ、こいつ相変わらず沸点低いなとか言わない。前から俺は煽られたり小馬鹿にされるのが大嫌いなんだ。

 

 さて、そんなことを思っているうちに、もうそろそろ入学式が始まる時間だ。場所はしっかり把握してるからいくら広いといっても迷うことはないだろう。周りにまだ生徒はちらほら見えるけど、みんなちょっと焦ってるぽいし。真っ直ぐ講堂へと向かうとしましょうかね。

 

 

 こうして、俺のクソッタレた学園生活は幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

「うわあ・・・」

 

 

 本日二度目の反応。入学式開始前に講堂に入れたはいいものの、もうほぼ席は埋まっていた。マジか。もうちょっと早めに家出るべきだったか?いや朝の鍛錬とか夕食の仕込みとかがあったからな、仕方ねえやコレは。えーと?あそこはハンカチ置かれてるし、ならあっちは・・・ダメだ。俺に女子二人に挟まれたところに一人で座れる度胸はないってかいらない。けど他に空いてるところは・・・お?あそこ空いてんじゃん最後列の一番右。別に前に座りたい訳でもないし、よしあそこにしよっと

 

 

「おい、待て」

 

「ん?」

 

 

 ようやく見つけた空席に喜びながら向かおうとすると、後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声だったので、もしかして自分かと後ろを振り向いてみると、案の定見知った顔があった。この如何にも最初に主人公の踏み台にされそうなエリートモブ風の男は

 

 

「モブ崎」

 

「一文字違う、僕は森崎だ。いい加減に直せ。そろそろ飽きるだろ」

 

 

 こいつは森崎瞬(もりさきしゅん)。俺の中学二年からのクラスメイト。こいつとの付き合いは、実技授業の模擬戦で相手する事になったとき、俺が間違えて「モブ崎」と呼んでしまい怒らせたのが始まり。反撃として森崎は、やれ自分はエリートの人間なんだお前とは格が違うんだお前の戦い方は魔法師の面汚しだと色々言ってきた。俗に言う思春期によくなってしまうアレだ。煽られた俺はまあそれは煩くてムカついたから、魔法一切使わずに全部相手のエア・ブリット回避した後腹にゼロ距離スパークをぶち込んでやった。後で先生に説教くらったけど。それからコイツはことあるごとに俺に模擬戦を申し込んできて、今のところは全戦全勝。たまに噛み付いてくることはあるが、俺は中々コイツを気に入っている。プライドが高いのは別として努力家で挑戦家なのは見ていて気分がいい。今ではこんなやり取りができる仲だ。多分唯一の友達って言える友達じゃないか?絶対口には出さないけど。ついでに言うと俺が中学の頃にやった模擬戦の相手の半分は森崎である。

 

 

「なに?」

 

「あっちは止めておけ。前にまだ空きがあるからそっちにしろ」

 

「なんで?」

 

「周りをよく見てみろ」

 

 

 周りってどういうこと?何かルールでもあったの?とりあえず言われた通り周りをみてみる。みんな普通に好きに座ってるだけじゃないか。ん?そういえば肩のエンブレムって・・・あっそういうこと。一科生と二科生で座る席が前後に分かれてるのか。

 

 

「やっと気付いたか?お前って妙に鈍いとこがあるよな」

 

「そんな規則あるなんて聞いてないけど」

 

「周りが勝手に分かれているだけだ。けどわざわざ目立つ行動をとる必要も無いだろ。わかったなら早く来い。あと五分で開会だぞ」

 

 

 森崎の言うことにそれもそうかと納得し、大人しく後ろについて行く。着いたのはさっき自分がいた右最後列の真逆の左最前列そこに二つ空席があった。ご丁寧に森崎は自分のハンカチを置いて席取りをしていたらしい。てかコイツわざわざ俺の為に反対まで呼びに来てくれたのか?まさかと思い森崎を見ると、咳払いをして念を押すように淡々と言ってきた。

 

 

「勘違いするなよ。僕も少し遅めに来てここしか空いてなかったんだ。それでトイレに行っていた帰りに、たまたま目について声をかけた。それだけだ」

 

 あっそうすか。

 

「ありがとう」

 

「ふん、次は知らないからな」

 

 

 男のツンデレとか腐った貴婦人くらいにしか受けないと思うぞ。まあ、経緯はともかく助けられたのは事実だからお礼だけは言っておく。森崎が内側に座ったから、それに続いて俺は一番外側に座る。森崎はすでに逆側に座っている男子生徒達と交友を深めているようだ。俺は特に話題も喋る気も無いので一人でぼーっとしているとしましょうか。

 そのまま暫くすると、講堂のカーテンが閉められステージ付近以外の照明が落とされた。ようやく入学式が始まるようだ。講堂内は静まり返り、この学校の生徒会長の宣言によって式は始まった。お決まりのような校長の挨拶などは特に無く、式はスムーズに進んでいく。お陰でこっちも眠くなったりはしなかった。話を真面目に聞いている訳でもないけど。そうして終盤へ差し掛かかり、続きまして新入生代表の挨拶」と司会進行役の声が響くと共に講堂は急にざわめきだした。今日の鍛錬のメニューを考えていた俺は、それによって意識をステージに戻す。

 

 

(ああ、そういえばそうだった。お前だったな、新入生代表は。久しぶり司波深雪)

 

 

 腰半ばまである艶やかなストレートの黒髪、日本人離れした雪の如く白く透き通った肌、完璧な左右対称で均整のとれた容姿。そのまま人の想像できる美しさを最大まで詰め込まれていると言ってもいいだろう。司波深雪はそれほどまでに美しく成長していた。不覚にも、この俺でさえ少し見とれてしまうくらいに。えっ?てか超美人じゃん。昔はもっと子供らしかったような?何というか、あれはもう学生って括りに入れちゃいけないんじゃないか?いや、いかんいかん。俺としたことが取り乱してしまうとは。ええい心の鍛錬が足りない証拠だ。今日の鍛錬は精神修行を主にしよう。心を落ち着かせて静かに深呼吸をする。未だにざわめきが収まらない周りが少し気になって隣を見てみると、森崎が心ここにあらずといった様子で司波にお熱な視線を送っていた。てか周りの男子全員がそんな感じだった。あっこれは落ちたな。学校中の男子の心を鷲掴みとか一昔前のアイドルかってーの。周りの男子と司波の両方に呆れるように視線を舞台に立つ司波に戻した。

 

(アイツ、何で俺を見ている・・・!?)

 

 司波深雪と目が合った。根拠は無いが確信があった。勘違いなどではなく、あいつは俺を見ているのだと。この距離じゃあ向こうから顔を正確に見分けることなんて出来ないとは思う。けど何故かヤバいと危機感を覚えるも、こんな状況では隠れることなんて出来やしない。とりあえず目の焦点をぼかし気配を少しずつ消していく。呼吸を一定の間隔で少しだけ行い、周りに溶け込むように自身の存在を薄めていく。気休めになるかすら怪しいが今できることなんてこの程度だ。やり過ごせるか?気配を消してからしばらくすると、まるで何かを見失ったキョロキョロしだした。ようし、どうやらなんとかなったみたいだ。ヒヤヒヤさせやがってコノヤロー。

 幕裏から注意でもされたのだろうか。ハッとしたように司波深雪は本来の仕事を思い出し急いで取り掛かりに戻る。新入生代表の挨拶を済ませた彼女は、最後に恭しく一礼をした後舞台から降りていった。最後に司会進行役からの終了の言葉により、俺の高校入学式は終わった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「司波さん、お疲れ様。いい挨拶でした」

 

「生徒会長、ありがとうございます」

 

「そういえば、壇上に上がって直ぐの時、少しぼーっとしていた時間があったけど、どうかしたのですか?」

 

「あっす、すいません!えっと、その・・・あの時は少し、緊張してしまって」

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。緊張なんて誰にだってあることです。気にすることなんてありません」

 

「はい・・・」

 

 嘘だ、緊張なんて物はほとんどなかった。敬愛するお兄様に良いところを見せないとと気負ってはいたが、でもそれが理由じゃない。

 

 最前列の右端辺り。壇上に上がって直ぐに目がそこに行った。まるで、探し物がそこにあるということを直感しているように。そして、一人の男子生徒に目が止まった。確証は無いけれど、たぶん彼も私の目を見ていたと思う。そしてあの人のことが浮かんだ。私の初恋の人、私の罪の証。魔法に大して興味を示さなかった彼が、こんな場所にいるはずもないのに。

 

 私が彼への思いを自覚してからと言うもの、これからの生活が激変する訳ではなかった。いつも通り、作法や高校へ向けての勉強と魔法の訓練を続け、夜にあの写真を胸に抱えながら彼との思い出で自分を慰める日々。変わったことと言えば、少し前から体術を嗜むようにになったくらい。もともと兄が体術を修めていることから少し興味はあったが、そういえば彼も鍛えていたことを思い出し本格的に自分もやってみようと決めたのだ。最初は戸惑っていたが、今では兄から師事を得ている。

 そんな私はこの第一高校に入学し、勉強を見てくれた兄の期待に応え学年主席の座を手に入れた。これからの二度目の学校生活はとても楽しみに感じている。

 

 けど、絶対に満たされることなんてない。私にとって学校という場所は、彼と共に過ごすことで満たされるものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 色々ヒヤッとすることはあったが、なんとか入学式が終わった。生徒達この後、IDカードの交付を窓口で済ませ自身の個人情報の登録をしなければならない。そこで自分のクラスを初めて知ることが出来るのだが、めんどくさい事になりそうな司波と同じクラスにはあまりなりたくない。兄の方はあっちが二科生だし、司波と接点を作らなかったら関わりを持つことはないだろう。

 

 

「森崎」

 

「何だ」

 

「お前、惚れたか?」

 

「は、はあ!?だ、だ誰が誰に惚れただって!!?」

 

「いや、そんなに動揺するなよ」

 

「・・・あ」

 

 

 分かり易過ぎるだろお前。今時そんな初な反応する奴いねえぞ。

 

 

「どうせ司波深雪にだろうけど、応援はしとく」

 

「か、勝手に決めつけるな!おい待て!」

 

 

 特に別れる理由もなかったので森崎と一緒に行くことに。そのついでにさっきのことを聞いてみたらこんな反応が返ってきた。もうこいつメインはれんじゃねえの?ってくらいベッタベタなリアクションをしてくれる。コイツっていじられキャラだったんだな。

 

 

「・・・誰にも言うなよ」

 

「大丈夫、まず相手がいない」

 

「それはそれで別の問題があるぞ」

 

 

 ほっとけ。

 

 当たり前のことだが、入学式終了直後ということで窓口前には大勢の生徒が並んでいた。遠目に他の窓口を眺めて見るが、何処も彼処もそれなり混んでいたので大人しく適当な場所に並んでおく。人混みで酔いそうになる刀弥にとって、この場所は苦痛でしかなかったが。十五分後、ようやく刀弥の番が回ってきた。自身の個人情報を登録しIDカードに生徒の情報を映させる。刀弥のクラスはB組、森崎はA組だった。登録を済ませた彼は同じクラスになった連中について行った森崎と別れ、人の少なくなっている中庭に出る。適当にベンチに腰掛けた後、長い溜め息を吐いた。

 

 

(今更ながら、こんなところに来ちゃうなんてなぁ。どうしてこうなった、なんて考え飽きたし。もうちょっと周りを見て行動するってことを覚えろって話しだよなぁ)

 

 

 自販機で何気に初めて飲む缶珈琲を買い、クリップを開け格好付けて一気に飲み干そうとする。が、結局苦さに絶えられず一口で咳き込む馬鹿を晒すことになった。「苦い・・・」なんて呟くが、ブラックなので当たり前である。いまの学校の中庭には、ブラックの缶珈琲を苦さを耐えながらチビチビ飲む刀鍛冶師の姿があった。刀弥がようやく珈琲を飲み終わった頃、学校のチャイムが鳴った。今からクラスでホームルームが開かれるのだが自由参加なので刀弥はもちろんパスする。現実が苦いんだから珈琲くらいは甘くしようなんて考えながら、刀弥は帰宅しようとベンチを立つ。そうしようとしたが、途中で止めて背もたれにもたれかかった。視界の先に、一人の女生徒がこっちに向かって歩いてきた。その目はしっかりと刀弥のことを見つめている。

 

 

(めとめが合う~しゅんかん好きだときづいた~、なんてロマンチックなものじゃねぇな。俺は知ってるんだ、ありゃぁ一種の獲物を狙う目だね。・・・フラグっていつ立てたっけ?)

 

 

 何時でもどこでも立ててるよ、と突っ込む人間などここにはいない。その女生徒のことを、刀弥は前世の記憶(アニメの知識)で少しだけ知っている。そして、これから自分にとって都合の悪いことになるのも、容易に想像がついた。刀弥の目の前まで歩いてきた彼女はハッキリとした口調で刀弥に言葉をかけた。

 

 

「君が、政狩刀弥君で合っているかな?」

 

「・・・誰?」

 

「風紀委員会会長の渡辺摩利だ。それと、私は君の先輩に当たる。礼儀はしっかりと付けるべきだぞ」

 

「・・・すみません。で、渡辺先輩は俺に何のようですか」

 

「うむ、話が早くて助かる。では単刀直入に言おう」

 

 

 あ、間違い無く面倒ごとだ。刀弥は頭の中でそんなことを思い浮かべるが、時すでに遅し。磨利は顔に笑みを浮かべながら、彼のことを試す、そして見極めようとするように刀弥に言い放った。まるでこれからが楽しみで仕方がないという風に。

 

 

「政狩刀弥、君を我が風紀委員にスカウトにきた」

 

 

 刀弥は心の中で、また溜め息を吐いた。

 




 
 如何でしたでしょうか?という訳で、魔法科原作突入です。本当、ここまで長かった・・・!予定なら書き始めて3ヶ月くらいで入る筈だったんですけど。これも一週間もかけずに復刻イベントを入れてくる運営って奴が悪いんだ!

 では今回はこの辺で、次回も首を長くして待っていただけると嬉しいです。


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主人公と深く関わった奴は軒並み強化されるんだよなぁ(なお狂化でも可)

 お待たせしました。

 遂に今日から始まりますよ!ぐだぐだ帝都聖杯奇譚!ぐだぐだイベントなのに予告がぐだって無いとはこれいかに。まずは二十連引いて伊蔵をゲットするぞぉ!!


 

 

 

 入学式の翌日の朝、達也と深雪の兄妹二人は朝早くから自分達が師と仰ぐ九重八雲の下へ、入学の報告の為に足を運んでいた。今は達也が修行僧たちによる総掛かりの稽古を受けており、深雪は遠目からそれを見守っている。

 

 

「やあ深雪君!久し振りだねぇ」

 

 

 その傍らに、急に死角から陽気な声がかけられた。深雪は思わずその存在を撃退しようと、蹴りの構えをしてしまった。が、それが誰だか判るとその構えを解き声を荒らげる。

 

 

「ッ!・・・先生、いつも後ろから気配を消して忍び寄るのはやめてください!でないといつか本気で蹴り上げてしまいそうです」

 

 

 無駄だと知りつつも目の前で胡散臭い笑みを浮かべる九重八雲に、抗議せずにはいられなかった。

 

 

「うんうん、いい反応だ。武術といい体つきといい、しっかりと成長しているようで結構結構。それと、忍び寄るなと言うのは難しい注文だねぇ。僕は『忍び』だからね。忍び寄るのは性みたいなものさ」

 

「そんな性は忍者なんて職種と共に早急に矯正する事を望みます」

 

「いやいや忍者なんて、そんな誤解だらけの俗物じゃなくて、僕のは由緒正しき『忍び』の伝統を受け継ぐ者なんだよ」

 

 

 戦国時代の身体能力にずば抜けた諜報員なんてものではなく、昔から受け継がれている古い魔法の使い手。普段の言動やたたずまいはともかくそれが九重八雲である。だが、どうしてもその言動やたたずまいが俗っぽく、そして嘘くさい。

 

 

「それは知っていますが・・・なら尚更のこと、何故先生はこうも軽薄なのですか」

 

 

 到底彼のいう由緒正しい存在にはとても見えず深雪は苦言を呈すが、当の本人である八雲はそれを聞いておらず、制服姿の深雪を元々細めている目を更に細めてまじまじと見つめている。そして顎に手を当てては仕切りに頷いていたりしていた。端から見れば事件の予感のする風景である。

 

 

「あの・・・先生?」

 

「それが第一高校の制服かい?」

 

「はい、昨日が入学式でした」

 

「そうかそうか、うーんいいねぇ、実にいい」

 

「ええと、今日はそのご報告にと・・・」

 

 

 目の前の変質者となった八雲から身の危険を感じ、深雪は少しずつ後ろに下がるが、八雲はテンションを上げながらジリジリと差を詰めていく。110番待ったなしである。鼻息を荒くし、胸に溢れるリヒドーを解放する。

 

 

「真新しい制服が初々しくて、清楚な中にも色気があって、まるでまさに綻ばんとする花の蕾、萌え出ずる新緑の芽!そう萌えだ・・・これは萌えだよ~!

 

 あ、それと達也君。今の僕の後ろをとりたいなら、気配を消すのではなく周りに同化させるべきだよ」

 

「!」

 

 

 後ろから手刀を落とす為と構えようとした達也の動きが止まる。既に彼の相手をしていた修行僧達は全員地べたに倒れこんでいた。達也が全て打ち負かしたのだろう。そして自分の妹に迫る危険を察知し修行の一環として師匠である八雲の背をとり奇襲を仕掛けるつもりだったのだ。

 達也にはこれまでの八雲との立ち会いによる経験で彼の実力をしっかりと把握し、今の隠行なら後ろを取れるという確信を持っていた。だが結果はどうだろうか。達也は見事にその隠行を見破られてしまった。口振りからして後ろに回ったことには先から気付いていたのだろう。何故だ、一瞬の思考。その先に辿り着いた疑問の答えは単純なもの。

 

 

「何故かって?簡単なことさ。僕だって日に日に強くなるんだよ。しかも近頃は色々あってね、やる気に満ち溢れているのさ。さてと、それじゃあ来なさい。個人レッスンを始めようか」

 

 

 その後達也は十五分もしない内に地面に背を打ちつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が中学一年の頃から続く恒例行事も終わり、寺は静けさを取り戻す。修行僧達は叩きのめされた体に鞭打ちそれぞれの御役目に戻る。本堂前の庭園に残ったのは達也、深雪 八雲の三人のみとなった。汗を流した達也と八雲は深雪からタオルとお茶を受け取り、その後朝食を一緒に取ることになった。

 

 

「いやあ、もう体術だけじゃあ達也君に抜かされてしまったかもねえ」

 

「腕が互角でここまでボコボコにされるのはあまり喜ばしいことじゃありませんね」

 

「それは当然だ。僕は君の師匠で今回はこっちの得意な土俵でやってたんだから。君はまだ十五歳の少年なんだ。それで負けてしまっては他の弟子に逃げられてしまう」

 

 

 達也の愚痴とも取れる言葉に、八雲は大きく笑い声を上げてから答える。そのまま談笑しながら朝食を楽しんでいると、深雪がそう言えばといった風に八雲に問い掛けた。

 

 

「そう言えば先生。今回の稽古、あまり右手を使わずにお兄様の相手をなさっていましたが、怪我でもなされたのですか?」

 

 

 そう、さっきの試合で八雲は右腕を使わず出来るだけ左腕のみで達也の相手をしていた。流石にフェイントをかけられた対処には両腕を使っていたが、それでもほとんどの攻撃は左腕で捌き、技をきめるときも足技かこれもまた左腕だけで行っていたのだ。深雪の心配の色を窺わせる問いに八雲は照れるように手を頭に置きながら答える。

 

 

「恥ずかしいことに、ちょっと前の試合で右腕を使い物に出来なくされてしまってね。肩を破壊されたんだ。今はもうなんとか動くけど前のようになるにはあと一、二ヶ月はかかるかな?」

 

「試合で、ですか?」

 

「うん。昔の知り合いから頼まれてね。彼の息子の相手をしてやってくれってね。いやぁ危なかったなあの時は。彼の体力がもう少し長く続いてたら負けるのは僕の方だったね」

 

 

 八雲の口から出た話に二人は驚きの表情を作る。何故なら彼がそこまで追い込まれる姿を想像する事がなかったから。二人から見て八雲は近接戦闘において彼の右に出る者はいないとする人物だ。そんな八雲が深手を負わされる、いや口振りからして優位を取られる状況まで追い込まれたと言うのは、本人が言うことではなかったらとても信じられないものだった。

 

 

「世界は広いということだね。僕も結構できる方だという自負はあるけど、それを嘲笑うかのような規格外は他にもごまんといる。そして気をつけるといい。そう言う規格外の連中っていうのは、案外近くにいるものなんだよ。特に君達のような人間の周りにね」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

(炊飯器と電子レンジならどっち買うべきだ?)

 

 

 入学式の翌日、今の時刻は七時前。朝の鍛錬や朝食、弁当の準備、夕食の仕込みなどやることは済ませた後、制服に袖を通した俺はちゃぶ台の上に置かれたチラシを見て頭を悩ませていた。それは鍛錬の帰りにポストを見たら入れられていたもの。内容はここからキャビネットで二駅ほど離れたところにある電気屋のセールだ。どうやら最新とまでとはいかないが割と新しめの品が定価の半額で買えるという。今の俺にはかなり喜ばしいことなのだが、お金の問題でどっちか一つしか買えないというのが新たな悩みの種になっていた。

 

 

(前から炊飯器には目を付けていたんだが。米を飯盒とコンロで炊くのは結構時間がかかるからな。いちいち家に帰ってから直ぐに始めてずっと見ている訳にもいかんし、予約するだけで時間通りに炊き上がると言うのはとても素晴らしい。だが米ではなく他の食材に目を向けるとするならレンジも欲しい。今までは余ったものを冷凍保存しようにも温める手段が焼き直す以外になかったからな。レンジがあればただボタンを押して数分待つだけで温め直せる、なんと素晴らしいことか)

 

 

 科学とは偉大だな、なんて普通の魔術師なら絶対に認めないようなことを思いながらそれぞれ買った場合のメリットを頭の中に並べていく。しばらく頭を悩ませた結果導き出した結論は

 

 

「また今度考えよう」

 

 

 何でも先送りにしようとする駄目な日本人の典型的な選択肢を取った。財布や生徒証やCADなど、必要な物を鞄に押し込み家を出る準備をする。すると、部屋の中に短いチャイムが響いた。玄関へ向かいの鍵を外しドアを開けると大家の佐々木さんが大きめのビニール袋を下げて立っていた。

 

 

「おはようトーヤ君、朝早くにごめんなさいね」

 

「おはようございます。いえ、今ちょうど出るところでしたので」

 

「あらそうなの?へぇそれが魔法科高校の制服なの?カッコいいわね~昔とは大違い。あ、これこれ。この前の地球堂のセール、あなた何も買えなかったでしょう?良かったらこれ、使ってちょうだい」

 

「えっ、でも」

 

「いいのよ。あなたは初めてだったんだし、押し負けちゃったのも仕方無いわよ」

 

(押し、負けた・・・?俺には最早全体重と加速をかけたタックルで殺しに来られた気分だったんだが。というか実際に何人か白目向いて気絶していたような、アソコだけ何故か世紀末世界みたいになっていたぞ)

 

 

 腰を低くして目を血走しらせただ目の前の食品に向かっていく様は、最早人ではなく飢えた猛獣を思い浮かばせる。この佐々木さんもにたような感じだった。

 

 

「それにあそこの品って新鮮で安いものばっかりだけど、その分直ぐにダメになっちゃう物も多いのよ。前回のセールは稀に見る大戦果だったんだけど幾らか余っちゃいそうだし、私とこの食品を助けると思って受け取ってくれない?」

 

「・・・では、ありがたく受け取っておきます」

 

「ふふっありがとうね。それじゃ私はこの辺で。朝ご飯の準備しなくちゃ。学校頑張りなさいね」

 

「はい、それじゃあ」

 

 

 階段を降りていった佐々木さんを見送り、一度部屋に戻る。渡された袋の中身を見てみると、瑞々しい野菜や魚、赤身の濃い肉など新鮮な食材が多く入れられていた。この量なら三日は食費が浮くだろう。思わず小さくガッツポーズをする。上機嫌のまま家を出た刀弥はそのまま学校へ向かう。

 

 

(・・・俺って魔術師で刀鍛治師なんだよな?)

 

 

 途中で色々と心配になったのはここだけの話

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」

 

 

 その日の放課後、多くの生徒が帰宅するため通ろうとする校門の前で一悶着が起きていた。ことの始まりは昼休みあたりまで遡る。

 騒動の中心となるのは1年E組の司波達也とそのクラスメイトである西城レオンハルト、千葉エリカ、柴田美月と、1年A組の達也の妹の深雪、彼女に関わろうとするそのクラスメイト達だ。最初は食堂で昼食をとっていたE組のメンツだったが途中から遅れて深雪が合流。だが、彼女との相席を狙っていたA組の生徒たちがこれを快く思わずちょっとした口論になりかけた。最初は場所がない、邪魔しちゃ悪いなどオブラートに包んだ言葉を選んでいたが、深雪の意思が固いと見るや彼等はあなたに相応しくない、二科生と僕らは違うなどと言い、終いには食べ終えていたレオンハルトに席を開けろとのたまう始末。そこは最終的に達也が急いで食べ終え、深雪と共に席を立つという形に収まった。

 また射撃場などでも悪目立ちをしてしまい、校門でしびれを切らしたA組の生徒が強引に深雪と達也達を引き離そうとし、此方もいい加減頭にきたと美月が真っ向から反論したのが今回の騒動の顛末である。

 

 

「お兄様・・・」

 

「謝ったりするなよ。これは一毛たりともお前が悪いわけじゃ無いんだから」

 

「はい。ですが、止めますか?」

 

「・・・逆効果だろうなぁ」

 

 

 少し引いたところから見守っている達也と深雪の前では、一触即発の雰囲気で睨み合うA組とE組の面子。

 

 

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。一緒に帰りたかったらついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

「美月、何か勘違いしてない?」

 

 

 どこかずれているようではあるが、美月は理不尽な行動をする一科生に正論を叩きつけ一歩も引かず雄弁を奮う。だが、彼女を完全に下と決めつけている彼らにその言葉は届かない。

 

 

「僕達は彼女に相談することが有るんだ!」

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

「ハンッ!そう言うのは活動中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」

 

「予め本人の同意を取ってからってのが筋じゃないの?相手の意志も無視して時間をくれなんて。それがマナー違反ってことが高校生にもなってまだ分からないのかしら?」

 

 

 自分勝手な一科生達の言い分を、レオンハルト威勢良く笑い飛ばしエリカは皮肉たっぷりの笑顔と口調で言い返す。それを受けて一科生の一人が切れたのか、本来口に出してはいけないはずの差別用語を吐く。

 

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときがブルームに口出しするな!」

 

 

 入試成績表優秀者である自分たちを誇示するための『ブルーム』とその穴埋め要員である者をを貶す『ウィード』。本当はただの制服のデザインの違い、花の刺繍があるかないかだけの話。だが人は自分と他人を比べ無いと気が済まないのか、それを見て一科生は自らを『花』と誇りニ科生を花の咲かない『雑草』と見下す。差別意識のあるニ科生たちにも、それは当てはまる話だった。今では校則で禁止されているものの、裏で扱われるのはある意味当然のこと。

 それを聞いた美月は負けじと言い返そうとする。まだ入学したばかりの私達に、一体どれだけの差があるというのかと。だが、それより先に別の声が響く。

 

 

「いい加減にしろ!お前ら!」

 

 

 それはその場にいた誰にとって意外にも、一科生の一人の上げた声だ。そして達也には彼の顔に見覚えがあった。それは昼休みの時。かれは達也が深雪を連れてその場から離れようとして尚話し掛けようとした生徒を宥め自分にアイコンタクトをしてきたのだ。

 

 

「間違い無く言い分は向こうにある。これじゃただ自分の意思を押し付けているだけだ。相談ならまた明日にでもすればいいだろ。それに、このことに一科生やニ科生であるなんてのは関係ない。最低限人としてのマナーが今のお前たちはなっていないんだよ」

 

 

 深雪を連れて行こうとする一科生の一団の中から前に出て、達也達を『ウィード』と呼んだ男子生徒を中心に注意を促す。これからのことなんかを考えると間違い無く悪手であることを厭わず、間違ったことを集団に指摘する彼に達也達は素直に感心した。やはりしっかりとした人は必ずどこかにいるのだと。だが、

 

 

「森崎!君はブルームなのにウィードの肩を持つのか!」

 

「だからこの事に一科もニ科も関係ないって言っているだろ。それにニ科生を『ウィード』と呼ぶのは校則で禁止されているぞ」

 

 

 同じ『ブルーム』が反論してきたのが納得いかないのか、森崎と呼ばれた男子に向かっても大声怒鳴り散らすように言葉をぶつける。それに対し、森崎はただ冷静に、それでいながら強く話す。その雰囲気に気圧されたのか名も知らぬ男子生徒はたじろぎながらも言い返す。

 

 

「ただ相談がしたいことがあるってだけじゃないか!」

 

「それに司波さんにも悪いって言っているじゃない!」

 

 

 それを聞いて森崎は溜め息をつく。ただ相手を見下して、自分たちは正しいと思い込み言葉を繰り返す。ここまできたら救いようがない。達也達に至っては憐れみの目すら向けている。もう何を言っても彼は自分が間違っているとは認めないだろう。そして森崎はこんなヤツが自分と同じ一科生なのかと静かに怒りを覚えた。語気を強めて言う。

 

 

「同じことを何度も言わせるな。それがマナーがなってないって言っているんだ。そしてお前たちはそれが出来てない時点で人として劣っている」

 

「何ですって!?」

 

「森崎!」

 

 

 森崎の言葉を聞いて深雪のクラスメイトの面々は完全に頭に血が上った。そして遂に、男子生徒一人が腰のホルスターから小型拳銃形態CADを抜き、森崎に向けて狙いを定めて引き金を引こうとする。例え下らない騒動を起こしていたとしても彼は一科生。二桁の倍率の入試を乗り越え更に成績優秀者と認められた技術を持っている。それに加え彼は魔法の発動スピードには多大な自信をもっており、森崎との距離は少なくとも直ぐに追いつくものではない。一度発動させたのならば必ず当てられると確信していた。

 

 だが魔法が発動されることはなかった。何故なら彼男子生徒がCADの引き金を引く前に、森崎が彼に急接近し手に持つそれを蹴り上げたからだ。

 

 

「ヒイッ!」

 

 

 予想もしなかった衝撃に情けない声を上げながらCADを手放し尻餅をつく。自分に覆い被さる影に気付き顔を上げると、森崎が冷たい目で男子生徒を見下ろしていた。

 

 

「抜いてから構え狙うまでの時間が長すぎる。まるで邪魔してくれと言わんばかりだ。だからこうやって簡単に近付かれる」

 

 

 小型拳銃形態CADは彼自身も愛用しているモデルだ。だからこそ、その長所も短所も熟知している。今回のケースは正にその短所に当てはまる。

 拳銃形態のメリットは狙いを定め引き金を引くというごく短い行程で魔法を発動出来るということ。拳銃という本来はただの武器である物の見た目であることがその理由である。だが、形も同じなら使い方も同じである。普通の拳銃と同じで狙わないと当たらない。そしてその照準速度は本人の腕に依存する。つまりそれなりの練習と実践が必要なのだ。

 男子生徒は魔法の能力は高くとも銃を扱う能力は持っていなかった。それもそうだろう。彼はただ拳銃形態の方が魔法を早く発動出来るだろうという安易な考えの下にこれを先日購入したばかりなのだから。

 

 

(素人が。でも正直危なかった。彼があと少しでもまともに使いこなしていたら、魔法は発動していただろう。クソッ、反応がまだまだ遅い。こんなのじゃ、まだまだアイツに追い付けやしない)

 

 

 彼の心中を知らずか、その森崎の一連の動きを見て達也と深雪は感嘆の声を漏らし、レオンハルトやエリカは面白い物を見つけたと言うように笑みを浮かべる。その外の人間は目の前の光景を上手く呑み込めないのか呆然としていた。だが深雪のクラスメイトの一人が再び森崎に魔法を発動しようと、腕輪形態のCADを操作する。それに続く者、止めようとする者皆が魔法を発動させようとする。それをいち早く察知した森崎はいつでも対処出来るように構える

 

 

(俺を狙ったものは五つ。他の狙いは別だから放置。皆冷静さを欠いている状態だ。動きから実戦慣れしている様子もない。恐らく焦って早く発動させようと単純行程の魔法を使ってくる。なら・・・)

 

 

 と、そこで思考を止め構えを解く。それと同時に外部からサイオンの塊が打ち込まれ、発動直前だった魔法式を霧散させられた。

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 その後、生徒会長と風紀委員長からの尋問を受けたが、達也の機転を利かせた返答によりお咎め無しとなり解散となった。流石に深雪のクラスメイト達も、生徒の長にまで出張られると大人しく引き下がった。(森崎を含む達也達には恨みを込めた視線を送っていたが)

 光井ほのかと北山雫が達也に自己紹介と庇ってくれた事への感謝を済ませたころ、彼等に声をかける男子生徒がいた。深雪のクラスメイトへ真っ向から立ち向かった森崎だ。彼は達也たちがこちらに振り返ったのを確認すると、深々と頭を下げた

 

 

「僕のクラスメイトが君達に迷惑をかけたばかりか生徒会長達から庇ってもらうことになった。本当にすまない」

 

「お、おい顔上げろよ。別にお前だけが悪い訳じゃないだろ」

 

「そうよ。寧ろあなたはアイツ等止めようとしてたし魔法も使ってないじゃない」

 

 

 まさか急に頭を下げられるとは思わなかった彼等は、狼狽えながらも彼に言う。いやしかしと少し躊躇った森崎であったが、深雪が気にしていない、寧ろ感謝している旨を伝えると顔を赤くしながら勢いよく顔を上げる。深雪は何故顔が赤いのだろうと首を曲げていたが、その他の面子は何か察したように彼に生暖かい目を向けた。

 

 

「改めて、1ーAの森崎駿だ。好きに呼んでくれ」

 

「1ーEの司波達也だ。なら駿と呼ばせて貰う。こっちも達也で構わない」

 

「わかった、宜しく達也」

 

 

 そう言って握手をする二人。それに続いて他の面々も順番に自己紹介をしていく。そのまませっかくだからと、一緒に下校する流れとなった。談笑しながら歩いている中、そう言えばという風にエリカが森崎に聞いた。

 

 

「駿くんさぁ、さっきのよく追いついたね」

 

「さっきの?」

 

「ほら、一科生のCAD蹴り飛ばしたヤツ」

 

「ああ、あれか。結構距離開いてたよな?」

 

 

 エリカの話を聞いて皆が森崎に注目を集める。確かに、あの時森崎と一科生との間にはかなりの距離があった。ただ走っただけでは絶対に追い付けない距離をどうやってあの少しの時間で詰めたのか。エリカは『剣の魔法師』と呼ばれ武術を納める千葉家の人間として興味があった。

 

 

「あれって魔法も使ってなかったでしょ。駿くんって何か武術でもやってるんでしょ?」

 

「いや、家の関係で護身術を納めているくらいだけど、武術なんて呼べるものじゃないな」

 

「ウソ?でもあの動きって・・・」

 

 

 エリカの目からして、あの時の森崎の動きは間違い無く武術に通じるものがあった。まだまだ出来も悪く荒削りだったが、完成させたのならば一つの技となるであろうもの。なのに彼は武術には縁がないという。その答えは森崎自身の口から語られた。

 

 

「あれは、僕の友人の動きを見様見真似でやっただけだ。確かあいつは何か武術をやっている雰囲気だったし、僕のなんかよりずっと滑らかで早かった。多分その名残だな」

 

「へえ」

 

 

 その後、達也のCAD談議、エリカと美月による天然発言、これまで押し黙っていた雫の的確すぎるつっこみなどで今日のところは解散となった。

 

 

 

(あの動きを完成形で扱う事ができる、それも同年代でなんてとんでもなく出来る奴ね。面白いじゃない、今度もっと詳しく聞いてみようかしら。それにしても、あの人が言っていることって本当なのかしら。『政狩の次期当主が一校に入学して来るかもしれない』なんて。あの政狩よ?とても信じられないんだけど・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「・・・クシュン!」

 

 

 え、なに?風邪でも引いたか?いやいやこれまで風邪なんて一度も引いたことなんてないし。誰か俺の噂でもしてんのか?イヤイヤ誰がそんなのするってんだよ、て言うか俺の噂をするような奴自体がいねえだろ?・・・あれ、俺今フラグ立った?

 

 

 

 




 三人称は言い回しがワンパターンになってしまうのが難しいところ。ここがしっかり出来るようになると書くのがめちゃくちゃ楽になる(出来るとは言っていない)

 刀弥の真似で歩法モドキを習得している森崎くん。ついでにいうと接近して来る刀弥に対抗するため格闘術を死ぬ気で特訓、並みの相手じゃまず勝てない。


 書いてて「あれ?森崎主役だったっけ?」と戸惑いながら「まあいっか」今日この頃な益荒男でした。


 んじゃ、爆死してくるか(血涙)



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普通の主人公より主人公ぽいサブキャラの方が人気でやすいってそれいち(偏見)

 
 エタッたと思った?実は俺も思ってた。

 久しぶりすぎて「生きとったんかワレエ!?」なんて想っている人が大勢だとおもいます。なんかこう、はい、上手くやる気が起きずスランプで文が浮かばないっていうのがありまして。と思ったら三日くらい前から「あ、今おれスッゴい小説書きたい」とか思い始めまして、はい。

 あ、皆さん。バトル・イン・ニューヨーク、周回はどんな感じですか?今回はボックスガチャ式なので林檎かじりながら何時も以上に頑張っている所です。けど超高難易度がガンホーゲームじみてきていると思ったのは私だけでしょうか?


 そんなこんなで最新話投稿です。どうぞ





 

 

 ♪~~

 

 ♪~~

 

 

 授業終了の時刻となり放送が入った。それを聞いてテキストの表示されたウィンドウを閉じる。やはりと言うか、流石魔法科第一高校。授業のレベルは中学と比べ物にならない程に高い。ここで学べることは他では決して学べないものだ。だからこそ学びがいがある。自分の家に恥じない人間である為に、そしてアイツをいつか超える為に、今という時間を決して無駄にしないようにしなければ。

 

(と、昼食をとらないと。食堂も早く行かないと混んでしまう。・・・久しぶりにアイツを誘うか。そろそろまたやろうと思っていたしな)

 

 頭でそんなことを思い浮かべながら、隣の1―Bの教室へ向かおうと席を立つ。するとポッケに入れていた携帯端末から一通のメールがきた。送り主は先日アドレスを交換した西城レオンハルト。『せっかく仲良くなったんだし、一緒に昼食でもどうだ?』とのことだ。光井と北山にも声をかけて欲しいとも書かれていた。だがその二人は今日は別の友人と屋上で持参した弁当を食べるらしい。別の奴と一緒しようとしていたし、どうしようかと悩んでいると、そう言えばと一つ思い出す。

 

(千葉が確か、この前見せた動きに興味を持ってたよな?なら)

 

 レオに光井と北山は来れない、それともう一人増えるかもしれないという旨のメールを送る。直ぐにきた返信を見て僕は2ーBの教室へ向かおうとした。

 

「あ、森崎君。なんか先輩が君を呼んでくれって」

 

「ん?わかった直ぐに行く」

 

 なんだろう、入学早々先輩から世に出されるような問題を起こした覚えは・・・あるな。けどあれは生徒会長が不問にするって言ってたし、だったら別件か?教室を出ると、体格のふた周りほど大きい男子生徒がいた。この人が僕を呼び出した先輩だろう。

 

「お、君が森崎君かい?」

 

「はい。1ーAの森崎 駿です」

 

「俺は2ーDの沢木 碧だ」

 

「よろしくお願いします、沢木先輩。それで僕に何か用ですか?」

 

「ああ、実はだね・・・」

 

 

 

 

 授業が終わり、昼休みの始まりを告げるチャイムがなる。どうやらいつどこの時代や世界でもチャイムの音は同じらしい。つまり疲れる、憂鬱になる。そんな感情のまま電子コンソールの埋め込まれたデスクに倒れこむ。

 

(やっと終わったぁ、授業キッツいなあ・・・)

 

 いやさあ、中学と高校で勉強量違いすぎない?それなりに覚悟はしてたけど、想定の範囲外もいいとこだっつーの。流石の財団もガチで驚きの声を上げるくらいだ。六番目の戦場はまだですかねえ(怒)。どっかからか益荒男の電波を拾ってきた気がしたが、突っ込む気も起きない。

 このまま倒れ込んでいるままでいたいが、空腹を訴える俺の腹がそれを許してくれそうにない。今すぐ腹を満たしたいが弁当は今朝の鍛錬で熱が入ってしまい長引いたせいで持ってきていない。父さんが見せてくれた『縮地・無拍子連脚』、後もう少しで何かが掴めそうだったのに・・・。

 ともかく今はこの空腹をどうにかしなければ。金は持ってきてるし、無難に購買か食堂に行くとしようか。人ごみは大嫌いだが仕方ない。てかここの食堂を利用するのは初めてだな。さて、早めに行かないと直ぐに混んでしまうというしさっさと・・・あれ?制服のポッケに手を入れても、本来そこにあるはずの財布の存在を感じることが出来ない。もしかしてオレ、財布忘れた?・・・マジかぁ。もういいや、もう考えるのも億劫になってきた。大人しくここで寝ているとします

 

「おい政狩、一緒に食堂行かないか?」

 

 モブ崎様、あなたが神か

 

 

 

 

 

 

「で、僕に奢ってくれとせがんできた訳か。その朝の訓練に熱を入れるのもいいが、もっとあとのことを考えて行動しろ。今度同じようなことがあったら僕は助けないからな」

 

「ああ、次は気をつける」

 

 つまり今回は助けてくれんですね。突き放しているように見えてしっかり助けてくれるモブ崎、いや森崎様マジツンデレ。

 

「金は明日・・・は土曜日だから、月曜日に返してくれたらいい。それと実は別のクラスの奴と一緒に食べることになっていてな。本当ならお前に確認をとってから連れて行こうと思ってたんだが、こうなった以上、無理にでもついて来てもらうぞ」

 

 え、まじ?そんな話聞いてないんだけど。まあ背に腹は代えられんか。適当に自己紹介してからは空気に徹することにしよう。

 

「なにがいい?あまり高いのは止めてくれよ」

 

「天丼定食で」

 

「了解、僕も同じのにするか」

 

 食券を2枚勝った森崎の後ろについていき、そのまま窓口から定食を受け取る。食堂は予想通りというか、かなりの数の生徒でごっちゃになっている。思わずうへぇ、と辟易すてしまう。うん?ほう、たかが学校の定食だとあまり期待していなかったが、なかなかいい匂いがするじゃないか。蓋をされたどんぶりから漏れる微かな匂いが食欲をそそる。これは考えを改めなければならないか。

 ん?そう言えばさっき森崎、確認をとってから連れて行こうとか言ってなかったか?それに無理にでも付き合ってもらうとかも。つまり、元から俺をその他のクラスの奴に紹介しようとしてたってことだよな。なんで?

 

「なぁ森崎、なんで俺をその他クラスの奴に合わせようとしたんだ?」

 

「えっああ、前に政狩の動きの真似事をしたときに、その中の一人がこれに興味を持ってて。彼女も政狩と同じ武芸者で、もしお前が良ければ紹介しようかなと思ってさ」

 

「ふーん、ちなみに何やったの?」

 

「中学の頃に僕がやられた『歩法』ってやつ。お前のと比べたらお粗末が過ぎるけど」

 

 そう言うことですか。しかし『歩法』に興味を示すなんて、そいつも結構どっぷり武に浸かっているな。森崎も彼女って言ってたから女か。ほーん、こんなことがなかったら間違いなく断ってただろうけど、仕方ないか。人間空腹には逆らえません。

 

「あ、いたいた。おーい森崎こっちこっち」

 

「お、そこか。すまん待たせたな」

 

「気にすんなって。それより早くこっち座れよ。立ったままだと疲れるだろ」

 

 そんなことを思いながら人混みをかき分けて進んでいく森崎の後ろについていたら、こいつの名前を呼ぶ声が耳に届く。顔は人混みで見えないがどうやらあのゴツい奴が森崎の知り合いらしい。うっわ暑苦しそう。アイツとはなるべく話さないようにしよう。それにしても、お粗末ながらも『歩法』の影を見抜けるほどの女武芸者か・・・

 

 なんか嫌な予感がしてきた。

 

 こんな感覚は前にも味わったことがある。そんな気がしてならない。具体的に言うと、初めて司波深雪や九重八雲と会った、また会うことになってしまったときみたいな感じ。つまり原作キャラと遭遇する予兆のようなモノ。あれ?じゃあ何で森崎の時は何も感じなかったんだ?いやそんなことはどうでもいい。ともかく今はここから離れなければ。これまで自分の勘を信用しなくていい方に転んだことなんてないんだよ!

 

「なぁ森・・・」

 

「お、後ろの奴がお前の言ってた?」

 

「ああ、政狩刀弥といって僕の中学からの知り合いだ。無愛想だけど悪い奴じゃないから」

 

 ちょおま、なに勝手に紹介しちゃってんですか!?もう離れられなくなるじゃん!人多くて迷惑でしょアピールしようとしてたのに!いや待て落ち着け、まだここにいるのが原作主要メンバーと決まった訳じゃない。こんな奴アニメにいたよーなとか感じたけど気のせい気のせい。まず森崎が主要メンバーと仲良くなってる訳ないし。たぶんきっと大丈夫なはず・・・

 

「へえ、よっ、俺は西城レオンハルト。レオでいいぜ、よろしくな」

 

 はいアウトー!問答無用で現実逃避の余地を振り切ったー!知ってましたよどうせそんなオチだって!てかなにお前ら仲良くなってんだよツンケンしろよ!そっちは一科がなんだって唾吐いて森崎は強キャラ(かませ風)オーラで見下しとけよ!何で原作と色々違ってんですかねえ!?

 

 ・・・あれ?なんかあの兄妹いないみたいじゃね?いるのはがたいのいい暑苦しいのとこっちをガン見している赤毛の短髪と大人しそうなメロン2つぶら下げた眼鏡の三人だけ。周りに空いてる席もここだけだから後から来るってこともないだろう。つまり、ここにあの超危険兄妹達は現れない?

 

 

 …ふう、なんか疲れた。もういいや、あるがままを受け入れよう。お兄様がいないなら正直大抵なんとかなるだろうし、今は適当に返事だけしてやり過ごそう。それによくよく考えたら森崎が原作とキャラ違うのも間違いないなく俺のせいだし、完全なる自業自得じゃねえか。もう後のことは知らねえ。どうにでもなあれ。

 

「あ~、政狩刀弥。よろしく」

 

「おう。んじゃそっちのこと、なんて呼べばいい?」

 

「どうとでも、好きにして」

 

「わかった、なら刀弥って呼ば「ねえ!」ってうお!?」

 

 俺と西城レオンハルトが簡単な挨拶を済ませていると、横から大声で赤毛の短髪が割り込んできた。何だっけ?確か千葉なんとかって名前だったと思うんだけど。てかコイツさっきから俺のことガン見しながらフリーズしてたよな?今俺の中でこの女の評価は完璧なる変人なんだけれども。てか早く飯を食わせろ、ずっと腹減っててもうそろそろ限界なんだよ。

 

「おま、おいエリカ!急に乗り出してくんじゃねえ!危うく味噌汁零すとこだったじゃねーか!」

 

「それは悪いけど、今はそれどころじゃないのよ。突っかかってくるのは後にしてちょうだい!」

 

「原因作ってんのはお前だろ!」

 

「あたしは千葉エリカ。ねえ、さっそく聞きたいことがあるんだけど」

 

「聞けよ!」

 

 うっさい喧しい。耳がキンキンするからそんな近くで騒ぐな。あとさっさと飯を食べさせろ。

 

「あなたの名って本当に『政狩』なの?」

 

「は?」

 

 何でこの千葉某はそんなことを聞いてくるんだ?なぜそこまで俺の名前を気にする…って、そう言えばこの女って確かアニメで大太刀振ってたりしてなかったか?それに家の取引相手にも同じ千葉って人がいたような。

 …あ、あーねそういうこと。こんなところにまで繋がりがあるなんて、もう仕組まれてんじゃねーのと思うまであるのだが。

 

「ああ、俺は『政狩』の人間だ」

 

「山中で刀鍛冶を営んでいるあの?」

 

「間違いじゃなきゃ、そっちの家とも取引したことがある」

 

 そこまで言い切ると、目の前のコイツが急に物凄くいい笑顔を浮かべてきた。このあと何をお願いされるか、もう何となく予想ついた。

 

「ね~?一つお願いがあるんだけど~?」

 

「なに」

 

「私に一本刀を打っ」

 

「無理」

 

「ちょっと、せめて言い切らせなさいよ!」

 

 やなこった。何で俺があんさんなんかの為に刀を打たにゃあならんのか。例えいくら金積まれたってやるもんか。てか今は何時でも刀打てるって状態じゃないし。次に刀鍛冶に専念できるのはたぶんゴールデンウイークあたりだろうからな。てかもういいから天丼食わせろ天丼を。

 

「ぶー、でもまあそりゃそうよね」

 

「エリカちゃんって、彼と知り合いなの?」

 

「ん?いえ、私が一方的に知っているだけよ。親が彼の所に世話になってたり、それに彼の家って一部の間じゃ物凄く有名なのよ」

 

「有名って、さっき言ってた刀鍛冶ってやつか?」

 

 メロンぶら下げた眼鏡が俺と千葉の関係を伺っているが知ったこっちゃねえ。俺の目は前に置かれた丼の中身に釘付けだ。なんだこれ、メチャクチャうまそうじゃん。ぷりっぷりのとろたまに太い海老天、そして香ばしい出汁をかけられた極上の天丼。見ているだけで食欲をそそる。見た目がこんなに素晴らしいんだ、味も期待できるぞ。では、いただきます。

 

「そうよ、彼の家『政狩』はずっと昔から刀鍛冶を営んでいるの。それも只の刀鍛冶じゃない。何者にも縛られず山中にひっそりと暮らし、自分の腕をひたすらに高めていく。彼らの打った刀は他の追随を許さないほどに美しく、そして恐ろしいと言われているわ。表に出ることは滅多になく、その実態は謎に包まれている。けど、刀に携わる者でその名前を知らない者はいないでしょうね」

 

「へー、なんか凄そうな家だな」

 

 あーんパクッともっぐもっぐゴクリンチョ。・・・ん?なんだこの味は。いや、不味くはない。不味くはないんだけど、その、何というか。これ本当に天丼ですか?

 

「凄そう、じゃない。実際にとんでもなく凄いのよ。ここまで長い歴史を積み重ねて、今もなお続いている刀鍛冶なんて恐らく政狩以外には存在しないわ。彼らの銘が入った刀だってとんでもない価値がついているんだから。具体的に言うと私が聞いた中での最高はゼロが八つも並ぶわよ」

 

「ゼロが八つって、つまり億!?」

 

「え、嘘だろたった刀一本で!?」

 

 いや、これは天丼じゃねえ。天丼の形をした別の何かだ。食えば食うほどその味が滲み出てきやがる。この、なんだ?コンビニにおいてある弁当群と言えばいいのか。ぶっちゃけていえば不味くはないけど身体に悪そうな味というか。この天丼、見かけはいいが味がダメだこりゃ。

 

「お前って、そんな凄い奴だったのか。前々から普通じゃないとは思ってたけど。お前が武術をやってるのもそれが関係あるのか?」

 

「・・・んあ?何が?」

 

 ごめん。ヘルシェイク矢n、じゃなくて天丼のあまりの意外さに気を取られてて全く聞いてなかった。てか森崎はこの天丼を食べて何の違和感を抱かないのか?

 

「・・・なんか、こう言っちゃ悪いんだが、とてもそんな風には見えねえな。そういう奴ってもっと堅い人間ってイメージじゃね?」

 

「ん~まあ言いたいことは解るわ。ついさっきまで私も、もっと職人感があるキャラだと思ってたから」

 

「ふ、二人とも、そんなこといっちゃ政狩君に失礼だよ・・・!」

 

 なんかキャラが違うと初対面の男女にdisられた。そこのメロンが言う通りちょっと失礼過ぎやないですかね。え、実際そうだから仕方がない?そんなー。いやね、確かに自分でも・・・止めとこう。この話題について考えてると気分が悪くなる。なんだろう、この、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じ、気持ち悪い。いっつもこうだ、そして決まって思考を止めると収まり始める。まあいいや、もうこの気持ち悪い天丼モドキも食い終わったしさっさと退散するか。

 

「ごちそうさま。森崎、俺は先に戻っておく」

 

「あ、ちょっとまて。放課後僕のところに来てくれ」

 

「えっなんで?」

 

「風紀委員からの呼び出しだ。そっちには三年の渡辺先輩が行ったって聞いたけど」

 

 風紀委員?あ、それってまさか入学式のやつか?あれ俺お断りしたはずなんだけどなあ。去り際また声をかけさせてもらうとか言ってたけど。うへえ、面倒だなぁ。けど先輩、それも委員会から直々に呼ばれておきながらボイコットってのも絶対後がしんどいよなぁ。

 

「ん?なに、お前ら風紀委員になんのか?」

 

「教師からの推薦でな。僕は一応入るつもりだよ。で、政狩、聞いているのか?」

 

「わかった、終礼が終わったらそっちに行く」

 

 しょうがねえってか、元から拒否権なんてないか。向こうに行ったらお断りしますってキッパリ言おう、そうしよう。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「森崎、お待たせ」

 

「来たか、それじゃあ行くぞ」

 

 そして午後の授業を経て放課後。約束通り終礼後に一組に向かって森崎と合流する。なんか教室の中で人集りができてるけどなんだあれ?まぁどうでもいいか。森崎の後ろに着いて風紀委員の本部に向かう。別校舎に向かって数分歩き、目的地の扉の前に立つと森崎はノックをする。

 

「すいません、1-Aの森崎と1ーBの政狩です。どなたかいらっしゃいますか?」

 

「お、来たか。入ってくれ」

 

「では、失礼します」

 

「失礼します」

 

 森崎の後に小さく挨拶をし、扉を潜る。うわ、なんじゃこりゃ。机のうえは書類の山でほぼほぼ表面が見えなく。床にはさらに書類やCADらしきものが散乱している。これ最後に掃除したのいつなんだよ。部屋の隅とか絶対Gとかが潜んでんぞ。森崎もこの惨状に開いた口が塞がらないといった感じだ。なんか現実を突き出されて夢が壊れたみたいな顔をしている。

 

「よう森崎君、それとそっちは初めてだね。俺は2-Dの沢木 碧。よろしくな」

 

「あっはい。1ーBの政狩刀弥です。よろしくお願いします」

 

「ああ。二人とも、少々散らかっているが緊張せずにくつろいでくれ」

 

「は、はあ・・・」

 

 これが、少々?そしてどこで寛げばいいんですかねえ?椅子に座ったら書類で前が見えないし、床は机の周り以外書類が山積みでおかれているし、ってどんだけここの人間は書類をため込んでんだ!?ちっと整理をしろよ!あれか、散らかってないと安心できないみたいな人間の集まりなのか!?

 

「ん?あぁちょっと待っててくれ、よっと」

 

 こっちがどうすればいいのか分からないのを察してくれたのか、沢木先輩は適当に重ねた紙束を机の上から床に下ろす。おい、それでいいのか風紀委員。こういうのに限って重要な物が奥に眠ってたりすんだぞ。

 

「ふう、よし。どうぞ、そこに座ってくれ」

 

「・・・では、失礼します」

 

 よし、じゃねえよ。この人の部屋汚さそう(小並)取りあえず言われた通り先輩の対面に座る。

 

「今日ここにきてもらったのは姐さん、委員長の渡辺先輩との顔合わせと、俺達の仕事の説明、そして実際に見学してもらう為で、」

 

「あの、すいません」

 

 危ない危ない、このまま聞き続けていたら何時いえるか分からない。ここは今すぐにでもハッキリと断っておこう。

 

「俺は既に、渡辺先輩にお断りすると伝えた筈なんですが」

 

「えっ!?」

 

「ああ、それは勿論聞いている。だけど姐さんはかなり君に入れ込んでいるようでね。あれで諦める気は無いみたいなんだ」

 

 だるっ!めんどくさっ!

 

「何故でしょう」

 

「それは俺にも分からないな。俺は姐さんに説明だけでも聞いてもらえって言われただけでね。取りあえず、今日一日だけは俺の話に付き合って欲しい。その上で改めて断るなら姐さんも諦めるだろう。勿論興味を持って気が変わったのなら、そのまま誘いを受けるといい。どうだろう?」

 

 ・・・いやぁ、そこまで言われたら断れないでしょう。

 

「わかりました。では、このまま説明を受けさせていただきます」

 

「よし!それじゃあ早速説明させて貰おうか」

 

 はあ、今日は一部の鍛錬は諦めるか。まあこれを聞いた上で断るなら諦めると言っているのだから、聞いていて損にはならないだろう。興味を持つことなんて微塵の可能性もないけどな。悪いがそういう委員会とかは無しの方向でお願いします。てか帰れるのいつになんだろう。あんまり遅くなると夕飯の準備が出来なくなっちまうんですが。

 

 

 てか森崎、さっきから俺をチラチラと見てくるのはなんなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

(なんだよ政狩のやつ、変に期待させや・・・いや、期待なんて、端からしてないけど)

 

 まあよくよく考えれば、それも当然か。コイツが風紀委員なんて興味を持つことすらないだろう。コイツとの付き合いもそこそこある。だからそんなことは解っていた。だから俺は一緒にやれるなんて期待してもいなかったし、政狩が断って残念がってもいないのだ。いないったらない。横目で隣の顔を見やる。真面目に先輩の言葉を聞いているように見えるが、考えているのは恐らく今日の特訓とかのことだろう。

 

(コイツは何時も、どこか遠くを見てる。多分、それはコイツにとって、とてつもなく大きいもの。勉強とか魔法とか、そんなものは比べて小さ過ぎるから、正直どうでもいいとすら思っている)

 

 もしかしたら、僕のことさえも

 

 

 政狩は、僕にとっての友達だ。

 

 口には絶対に出さないけども、気に食わないところもあるけれども、一番親しい友人だと思っている。

 

 政狩は、僕にとってのライバルだ。

 

 中学のとき、僕に勝てるのはお前だけだった。僕と同じ場所で戦えるのはお前だけだった。

 けど、お前は多分、僕が思っているよりずっと強くて、何時も手加減している。

 

 だから、政狩は僕にとっての目標だ。

 

 いつかお前に追いつきたい、隣に並びたい、追い越したい、勝ちたい。そして言ってやるんだ。ついに勝ったぞ、お前の負けだって。これまで散々苦汁をなめさせられた分、コイツに悔しいって想いをさせてやるんだ。

 

 そしたら漸く、俺とお前は、対等になれるような気がするから。

 

「よし、こんなところだな。俺からするのはこれでお終いだ。何か質問があるなら遠慮なく言ってくれ」

 

 だから政狩、先ずは

 

「すいません、沢木先輩。質問じゃないんですけど、一つお願いさせて欲しいことが」

 

「ん?なんだ森崎君」

 

 

「僕と政狩に、模擬戦をさせてくれませんか」

 

 

 僕のことをしっかりと見てもらうぞ、政狩。

 

 

 

 

 

 あとそのぽけぇとした顔はやめろ。いつも結構イラッてくるんだ。

 

 




 
 次回 森崎、死す デュエルスタンバイ!


 剣ディルの要求素材、えげつな過ぎません・・・?120超えが三つって・・・。まだふじのんのスキルも8,2,6だし、今回のイベントで証集めないとヤバ・・・


柳生さん「これより後は、貴殿を主としてお仕え致す。如何なる命にも従う所存」


 モウヤメテエエエエエ!!けど来てくれてありがとうございます!!!







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ラブロマンス(笑)は都合も知らずに突然に

 お久しぶりです益荒男です!


 …いやもうほんっっっっとにすいません。何年待たせんだこの馬鹿野郎と自分でも突っ込みたいところですが、おそらくこんな野郎の自分語りなど誰も聞きたくないでしょう、短いですがしさっそく本編のほうへお進みください。

 ですが一つだけ

 無断休載中の間もこの作品を読んでいただいき、感想・評価をしてくださった読者の言葉が私の創作意欲への糧となり、自分の作品への自信となっていきました。本当にありがとうございました。


 二人が風紀委員の見学に駆り出されていた同時刻の第三演習室。ここではついさっきまで、二人の生徒、二年生生徒会所属の服部行部少丞半蔵、そして一年二科生の司波達也による模擬戦が行われていた。達也を敬愛する深雪を除き、誰もが服部の勝利で終わると思われていたこの勝負。結果を見れば、達也の特異性による圧勝で幕を閉じる。九重八雲のもとで培った体術と、術式の多数変化を用いた波の合成魔法という規格外の技を使い、テストに現れない実力を服部をはじめとする上級生たちに見せつけたのだった。

 

 

 

 それから暫くたち、真由美が服部をからかうひと悶着を起こしながらも彼が深雪への謝罪を口にしてから、摩利が達也を風紀委員会本部へ連行しようとしていた。

 

「私だ。...沢木か、何かトラブルかでもあったか?」

 

 そのとき、摩利の通信機に連絡が入った。相手は委員の後輩だろうか。まあどうでもいいことか、と達也は今日の出来事を思い浮かべて溜め息を吐く。妹の付き添いで生徒会へと訪れたら風紀委員に推薦され、挙げ句の果てには上級生と模擬戦をする事になる始末。最後に関しては自分から喧嘩を売りに行ったような物だが、理由が理由なので彼にとっては仕方のないことだろう。

 

(さて、風紀委員か。確か全学年から全部で13名選ばれる仕組みだったはず。俺以外にも新入生はいるだろうが...)

 

 これから起こるであろう面倒に思いをはせるも、これからすぐに起こるある種の悲劇を予感すること、今の彼はできないでいた。

 

 

 

 後輩にして、風紀委員の部下である沢木からの連絡を聞き、真理は一人ほくそ笑む。

 

「...ほう、それは面白いことになったな。いいだろう、許可しよう。タイミングも丁度いい、そのまま第三演習室に連れてきてくれ」

 

 そのままデバイスの通信を切る。ああ、今日は良いこと尽くしだ。さっきから機嫌も良かったというのに、今はの摩利の心の中は歓喜で溢れlかえっている。あの二人の試合いつかは見てみたいと思っていたが、こんなにも直ぐにその願いが叶うと思わなかった。そう、さっきの後輩からの通信は達也とは別の風紀委員候補、森崎 駿と政狩 刀弥の模擬戦の許可だった。

 何故、こんなにも興奮しているのか。確かに最初は政狩 刀弥はともかく、森崎 駿へ(評価は元々高かったが)そこまで関心がある訳でなかった。成績はよく、あの魔法発動速度で有名な森崎家の長男。少し調べれば分かる程度のことしか知らず、もし一科生である事を威張り倒すようであれば鍛え直してやろう、そんな風にしか思っていなかった。

 それが変わったのは先日の校門前の騒ぎから。実はあの騒ぎ、割と早い段階から通報を受けていて遠目から観察する時間があったのだ。するとどうだろう、彼は二科生を「雑草(ウィード)」と蔑む一科生達を自らが糾弾したのだ。ここに一科も二科も関係ない、人として最低限の礼儀だと。少々口が悪いと感じられもしたが、それは自身の実力に自信がある裏付けともいえる。

 

(同じ立場である大人数相手に、自身の意志こそが正しいのだと貫き通せる。そうできる奴は多くない)

 

 更には、暴走した生徒が魔法を向けてくると、彼は一気に接近しCADを蹴り飛ばしたではないか。かなりの距離があいていたと言うのに、森崎はそいつがホルスターからCADを抜く予備動作を察知した瞬間に動き出し、術式が発動しきる前に自身の間合いまで近づいてみせたのだ。少なくとも摩利から見て、彼が何かの魔法を使っている様子はなかった。つまり、純粋な身体的能力で為したことだ。しかも、あの動きは何か武術の一端を感じさせるものがあった。まだまだ荒削りだが、いつかはあれを修めることができるだろう。

 

 そして、政狩 刀弥。刀を扱う者ならば最早言わずとしれた古き歴史を持つ、そして他の随追を許さない程の技術を持った刀鍛冶の家、政狩家の人間。最初にその名前を見た時は舞い上がってしまったが、もちろん同姓同名の別人という可能性もあった。そんなものは出会った瞬間に何処かへ吹き飛んでいったが。あったのはただの偶然。入学式が終わった後、彼はホームルームに出ずに中庭のベンチに一人腰掛けていた。今思えば、どうして私は遠目からでもその男子生徒が誰だか分かったのだろうか。何故かは知らない、けど確信があった。彼は()()()()()()()()()()()()()()()。その時私が思いつく中で、その感覚が唯一当てはまるのが政狩 刀弥だったのだ。

 

 彼に向かって一歩踏み出す。これだけの動きで私の気配を感じとったのか、ベンチの上の人影はジッとこっちに視線を向けてきた。これは、いよいよ以て本物か。この時にはもう、私は彼が別人なのではなんて疑念は微塵も無くなっていた。話てみて判ったのは、彼はどうやら興味のないことにはとことん関わろうとしない人間のようだ。私が風紀委員に勧誘したときはなるべく平坦な口調で断ろうとしていたが、また話がしたいという概の言葉を送ると露骨に不機嫌そうな感じになった。表情が変わることは殆ど無かったが、感情の起伏が少ないという訳ではない。寧ろ表情以外の雰囲気で分かりかりやすいくらいだ。恐らくこのまま勧誘を続けても彼を風紀委員に入れるのは不可能だろう。自分も無理強いするつもりはない。

 

 だが、それとは別の側面で政狩 刀弥に強い関心があった。それは武芸者としての性、本能とでも言うべきか。彼の立ち振る舞いからいくらでも察せられる、彼は間違い無く自分より遥か高みにいる者だ。ならばその腕を見てみたいと思うのは当然のことだろう。そして、その彼が一体どの様な魔法を扱うのか、ああ全く興味が尽きない。更に一度彼等のことを同じく興味を持った真由美と協力して詳しく調べてみたのだ。するとなんの偶然か、あの政狩 刀弥と森崎 駿は同じ中学の出身だと分かった。しかも彼等は過去に何度も模擬戦を行い、互いを高めあう仲なのだとか。

 

 それを知ったならこの期を逃す手はない、

 

 

「渡辺先輩、どうかしたんですか?」

 

 通信を切ったきり黙りこくってしまった摩利のことを不信に思い、達也が一度声をかける。が、実にイイ笑顔をしだした彼女を見て、ほんの少し後悔する。これは嫌な予感がすると。

 

「達也君、まだ時間に余裕はあるかな?すまないが本部への案内は後回しにさせて欲しい。時間がないならまた後日にさせてもらうが」

 

 だが出てきた言葉は意外な言葉、どうやら急ぎの用ができたらしい。自分はともかくと達也は深雪の方へと顔を向ける。それに深雪は笑顔で頷いて答えた。ほんとに、自分には勿体無いくらいできた妹だ。

 

「時間に問題はありません。そちらの用がす済むで待っています」

「そうか、ありがとう。まあ、君にとっても関係ないことではない。見ていって損はないだろう」

「はあ」

 

 一体どういうことだろうか。全く検討のつかない言葉を残し摩利は真由美へ声をかける。

 

「真由美、一ついいか?」

「何かしら」

「其方にも申し訳ないが、ここでもう一戦だけ模擬戦を行わせて欲しいんだ」

「え?」

 

 摩利の言葉に真由美は素っ頓狂な声をあげるが、仕方のないことだ。新学期が始まってからまだ2日しか経っていないにも関わらず、立て続けにに二度の模擬戦申請が来るとは思わないだろう。摩利が風紀委員長に任命されてから確かにその数は増えたが、今日のこれは異例の事態と言える。

 

「それはかまわないけど、一体誰が?」

「真由美も知っているだろう、達也君とは別の期待の新人達だ...っと、てお前か」

 

 摩利が話している途中、演習室の扉が開き風紀委員の腕章をつけた男子生徒が入室してきた。彼は摩利の前に立つと、姿勢を正し手を後ろに回して威勢のいい声で話し始めた。

 

「委員長!本日の任務完了しました!」

「ご苦労だった、沢木。それで、例の二人は?」

「模擬戦の準備の為、CADを事務室に取りに行っているところです!もう暫くすれば到着するかと」

「そうか、わかった。おお、そうだ、お前にも紹介しておこう。生徒会推薦で我ら風紀委員会に入ることになった、1ーEの司波達也だ。さっきまで彼の実力を見るために模擬戦をしていてな、結果はそこでふらついてる服部を見ればわかるだろう」

「まさか、勝ったんですかあの服部に!?逸材ですね」

 

 まさに体育会系というよう言葉を体現したような彼を見て、達也と深雪は少し呆気に取られるが、互いに挨拶を交わして達也は、

 

(風紀委員会にもこういう人物はいるのか。考えていたよりも、居心地が悪い場所ではなさそうだ)

 

 半ば、いや殆ど強引に進められ、諦めるように入ることになったものだが、そう悲観するものでもないと前向きに考え始めていた。

 

 

 

 

 

「それで、お前から見たあの二人、どうだった?」

「それはもう、森崎君も政狩君もなかなかのものですよ。歩き方からスキの少なさが見て取れますし。司波君と同じように、まさに逸材と呼ぶべきでしょうね。それと中学からの付き合いとあって、良い仲だと思います。入学初日から模擬戦をいっしょにやるくらいなんですから。ただ、やはり政狩君は風紀委員会に加入する気は全く無いようです」

「むう…そうか。是非ともその腕をふるってほしかったが」

「荒事、というより面倒ごとを嫌う節があるようなので、自ら問題を起こすということはあまり無いと思われますよ。それにこういうのはあまり強制するものではないですし、今回は諦めましょう」

「そうだな。最後に一度聞いてみて断られば、政狩は素直に諦めるとしよう」

(俺の場合はほぼ強制のようなものだったんだが…まあ、ここまできたらわざわざ口に出すことじゃないだろうが)

 

  有望な下級生とのこれからに思いをはせる悠木は楽しみそうに目を細め、風紀委員に引き入れ親交を深めた後是非手合わせをし、あわよくばその政狩の()()()()()を奮ってもらおうという摩利の企みは潰え、達也の嘆きは先の考えとともにため息へと変わっていく。

 

 そんな中、先の会話に思いがけない反応をする者がいた。彼女にとっては本来これから与えられる役割とあまり関係なく、敬愛する兄の環境が少しでも良いものになることを願う、その程度の内容だった。だが、悠木と摩利が出した一つの名前が、深雪(彼女)の心を大きく揺さぶった。

 

 なぜならば、それは深雪にとって絶対にここで聞くはずのない名前だったから、彼に許されない限り二度と口にしてはいけない願いだったから。聞き間違いではない。でもほんとに彼なのだろうか。ただの同姓の別人なのではないか。そもそも彼が魔法科高校に進学するはずがない。もし仮にそうだったとしても何故ここに来るのか。様々な疑問が深雪の頭を瞬時に埋め尽くす。急に目の前に押し寄せてきた現実を受け止めきれずに、ただ茫然としながら、その思い人の名を呟くことしかできなかった。

 

「まさ、か、り…とう、や…くん」

「深雪?」

 

 異変に真っ先に気がついたのは、彼女の隣にいた達也。最愛の妹が、乾いた喉から絞り出しかのように先の名前を呟いてた時だった。達也が見た深雪の姿は、どう見ても正常な状態を失っていた。目を大きく見開き、唇どころか身体が小刻みに震えて、その震えを抑えるように手を強く握っている。彼女はこれから起こることに、驚愕や戸惑い、歓喜や絶望、様々な感情が入り交じり自分で抑えきれないでいるのか。ただ、達也にとって今の深雪は到底心配せずにはいられない状態だった。

 

「どうしたんだい深雪。どこか具合を悪くしたのか」

「あの、渡辺先輩!さっきの…!」

 

 達也の声を振り切るという、何時もの自分からは考えられない行動さえ気に留めず、深雪は摩利に声を荒らげて先の言葉の真意を尋ねようとする。だが、それを遮るようにドアの開閉を示す電子音が部屋の中にいるみんなの耳に届く。それと同時にふたりの男子生徒が、()()()()()()()()()()()()()()()()演習室を訪れた。

 

「今度こそは僕が勝つぞ、政狩」

「このやり取り何度目?」

「中二の五十からは数えてないな」

「ここまでくると気持ち悪いな」

「様式美と言え。だが、結果までいつも通りだとは思うなよ。今日はこのために色々、と…」

「ん、どうした、って…」

 

 彼らがこちらの存在に気づき、刀弥と目が合う。その目に浮かんだ色を、深雪は正確に推し量ることはできなかった。ただ、久しぶりに見た彼の顔は全く変わっていない、なんてことを深雪は真っ白になりかけた頭の片隅で考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 短いですが、読んでいただきありがとうございました!

 次いつになるかなぁ…書けたらいいなぁ…

 こんな感じでいつまたやらかすかわからない益荒男ですが、皆様のお声をいただけると幸いです。

 こんなご時世ですが、皆さん未来への不安なんてものに負けずに、胸張って頑張っていきましょう!


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男達の不器用な友情は、百合の尊さに勝るとも劣らない

 お久しぶりです益荒男です投稿遅くなってごめんなさい!!!!!(orz

 ただ一つだけ言うならば

 heaven's feel / spring song を見て涙を流し魔法科完結に拍手を送ったとなればそりゃもう書くしかないでしょうよ!


 まじで映画良かった…自分も見たよって方がいればネタバレしない範囲でコメントしてってください!(露コ稼)本編の感想も送ってくださると、益荒男のやる気がググんと伸びます。



「紹介しよう、彼らが今年の新入生から教師推薦によって選ばれた風紀委員候補。1‐Aの森崎 駿と1‐Bの政狩 刀祢だ」

「も、森崎です!まだまだ至らぬ身ではありますが、よろしくお願い致しします!」

「…政狩です。よろしくお願いします」

「初めまして…ではないですね。ご存じかと思いますが、3年、生徒会長を務めています七草真由美です。何か困ったことがあれば、いつでも生徒会室にいらしてください。よろしくね」

 

 そんな真面目な印象を与えながら、最後に愛嬌を演出する挨拶をしながら、真由美は内心ほくそ笑んだ。

 

 (生徒会の案内をするだけのはずが、今日はかなりにぎやかな日になったわねー。でも期待の新入生たちと顔合わせができたからお姉さんラッキー♪)

 

「あの、模擬戦用のソフトシューズがあると思うんですけど、どこに置かれているんでしょうか」

「ん?ああ、そうだな、君たちには必要なのか。それなら、一度この部屋を出てから右に曲がって…っと、口頭じゃわかりづらいか。沢木、案内してやれ」

「了解であります!それでは二人とも、ついてきてくれ」

「は、はい!おい、なにボーっとしてる、早くいくぞ」

「…ああ」

 

 本来、深雪の生徒会勧誘と入るための手続きを行うはずが、入学筆記試験のトップであり色々と規格外な彼女の兄、達也を自分の目が届く範囲に置けたことは、ある目的の大きな手助けとなるかもしれない、真由美にとって非常に喜ばしいことだった。

 

(森崎くんが一科生と二科生で差別をしない人だっていうのは昨日の件でわかるし、政狩くんもさっきのやり取りを見る限り、仲良さげだったからそこは心配いらなさそうね)

 

 その目的とは、学校内における一科生と二科生の間にある確執を無くすこと。現在、魔法科高校では一科生をブルームと誇り、二科生をウィードと蔑むといった差別意識が存在する。実際には、入学時の成績と講義時における教師の存在以外彼らに大きな差はないのだが、集団が形成されればそこに差別が生まれるのは人間の性だ。

 

 だからと言ってそれを受け入れるのは認められる訳もなく、真由美を中心とする生徒の上位組織は出来るだけのことをやってきた。だが、多少の改善は見受けられるものの、根本的な解決には至っていない。問題はその差別意識が、二科生のほうに強く根付いているということだった。結局自分たちは雑草(ウィード)だからと向上心を忘れ差別を受け入れた生徒が多く、最近ではその停滞を経て過激な思想に変わり、無理やり平等という言葉を使い声を上げている者もいる。だが、それは結局二科生の地位向上、事実上の優遇を求めるものであり、到底飲むことのできない要求だった。

 

 だからこそ、差別する立場の一科生だけではなく、二科生両方の意識改革が必要なのだ。そこで、歴代最高の実技試験記録を叩き出した深雪、そんな学年代表の妹を持ち座学で優秀な成績を修めながらも二科生である達也に白羽の矢が立つのは当然ともいえた。これからの一高を変えていくために、彼らの考えと思考が必要であると考えたのだ。真由美の彼に対する個人的興味も含むところだが、それが達也をどうしても近くに置きたかった大きな理由である。

 

 加えて、自分がこの学び舎を去ったあと、ここを背負うことになるであろう有望な後輩たちが、二科の生徒たちに差別意識を持っていない者がいると知れた。森崎 駿は差別を認めず声を上げる勇気を持つ今どき珍しい正義漢であり、その親友らしき政狩 刀祢は学園で数少ない特別推薦枠での新入生だと知れた。新学期早々の成果としては充分だろう。この日の真由美は非常に機嫌がよかった。

 

「それで摩利、これから模擬戦をするのはこの2人かしら?」

「ああ、もう一度聞くが本当にかまわないか?始めれば最終下校時刻も近くなるし、ここを使った後の始末は我々で行うが」

「ああ、それは気にしないで。利用申請はもう済ませてるし、時間もまだ残っているから。戸締りだけしっかりやってくれれば大丈夫よ」

「そうか、なら遠慮なく使わせてもらおう。ありがとな、真由美」

「どういたしまして、摩利。それじゃあ、こちらは一件落着したことですし、生徒会室に戻りましょうか。達也くんと深雪さんもお茶でも飲みながら待っていましょう」

 

 しっかり立場をわきまえながらも親友同士の気安いやり取りは、お互いの信頼の表れだろう。手短に確認を終えた真由美は風紀委員の彼らを置き、皆を連れてもといた生徒会室に帰ろうとする。しかし、そこに一人待ったをかけた生徒がいた。先の模擬戦で達也に敗北し、事の成り行きを見守っていた服部刑部だ。

 

「すいません生徒会長、風紀委員長。自分も彼らの模擬戦を見学していってもよろしいでしょうか」

「はんぞーくん?」

「新たな風紀委員役員の実力には興味があります。是非とも自分の目で確認したい」

「それは、私は構わないけど、いきなりどうして?」

「ははぁ、さてはまた下級生に吹っ掛けられたときのために今から対策を練ろうとしているな?それならまずは挑発を受け流せるだけの忍耐力をだな」

「そ、そんな理由ではありませんし別に先の模擬戦は関係ありません!ただ、これから風紀委員を担う人物がいかほどのものか確認するのも、生徒会役員の務めであるというだけで…!」

 

 生徒会室での経緯を摩利にからかわれうろたえる服部。彼の口からは否定されているが彼がこのような申し出をしたのは、達也との模擬戦に何か思うところがあったのは、誰の目から見ても明らかだった。

 

(負けてすぐに何もしないのは嫌ってことかしら。なんかそういうの、男の子って感じがするし)

 

 後で存分にからかってやろうと決め、それを腹に抱えたまま真由美は了承の意を示そうとする。

 

「あの…!」

 

 その彼女をまた妨げる、綺麗でありながらどこか張り詰めた陰りのある声が上がった。それは先ほどから何も話さず、どこか放心した様子だった深雪のものであった。その傍らで様子を見守っていた達也は、服部の要望から予想できたこの展開に、内心やはりかとつぶやいた。

 

「その…ええと、私も…その、…森崎くんたちの模擬戦を、見ていってもよろしいでしょうか?」

「深雪さん?ええと、なぜ、いきなり?」

「それ、は…」

 

 予想外の相手からのそれまた予想外の言葉に、真由美は困ったような表情を作る。なぜかわからぬ深雪からの要望にその理由を尋ねるが、深雪は応えあぐねている様子だった。助け舟を出したのは、やはり深雪の兄である達也だった。

 

「会長、俺も見学させてもらってもよろしいでしょうか」

「達也君も?」

「駿とはすでに友人ですし、森崎一門のクイックドロウは有名ですから。それに、今後同じ風紀委員役員としてともに活動することもあるでしょう。同学年ですから彼らと組むことも多そうですし、実力を知る機会はぜひ欲しいと思っていたところです」

 

 深雪から話題をそらすために語った内容だが、おおよそは事実だった。実際、昨日見せた駿の動きは達也としても目を見張るものがあり、政狩 刀祢の実力も、()()()()()()()()にも知っておきたい。彼らが模擬戦を行うというのは達也にとっても喜ばしいものだった。だが、やはり達也の最大の目的は深雪を助けるためということだけだった。

 

「そういうことなら、まあ。だけど、二人がいないまま生徒会室に戻るわけにもいかないし…。このまま私たちも残るしかないかしら。どう、リンちゃん?」

「本日分の仕事は既に終えているので、そこは問題ありません。あとは司波さんへの大まかな執務説明などを行えればよかったのですが、明日本格的な活動参加とともにすればよろしいかと。私個人としても、この後の予定はありません。中条さんは?」

「わ、私も!特に予定は…。このままひとりで戻るのも、寂しいですし…」

「ですので、我々もここに残ってよろしいかと。ただ、ここまでの大人数となると、等の本人たちの許可が必要でしょう」

「市原の言う通りだな。そこは彼らが帰ってきてからにしよう」

 

(上級生たちの間で話がまとまったらしい。あとは模擬戦を行う二人の判断次第か)

 

 達也の思惑通り、ここまで進めば再び深雪に目が向くことはないだろう。

 

「…お兄様、申し訳ございません」

「大丈夫だ、深雪。わかっている」

「はい、ありがとうございます…」

 

 深雪には達也の行動が、自分のためだということがすぐに分かった。七草先輩の質問に口籠る私を見かねて、話の先を自分に向けるようにしたのだと。この願いは、ただ自分しか省みていないというのに。

 ああ、なんと情けないことか。私の命はあの日彼に救われ、自分は敬愛する兄に相応しい妹になろうと誓った。だというのに、自分のわがままに兄を付き合わせるどころか、あまつさえ手を煩わせるなどと。恥を知れと、彼女の胸には深い自責の念が積もっていく。

 

(けど、それでも)

 

 兄は命を救ってくれた。そして、彼は心を救ってくれた。彼にそのつもりがなくとも。

 

 ここまで自身を貶めながら、浅ましくも彼女はその思い人との邂逅を望まぬにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛烈に今ここから脱兎のごとく逃げ出したい。

 

 俺は森崎と模擬戦をするためにここに来たはずだ。決して初めて会う先輩方と交流を深めるためじゃない。だというのに演習場の中には既に先客がいたのだ、それもどっかで見覚えがある面々が。

 まずは風紀委員長の渡辺摩利。この人がいるのはまだ理解できる。この場所を使わせてもらうのに風紀院の権限を使っているのだから監視する側の人間がいるだろうし、なんならこの人自身が好戦的だから、この模擬戦にも興味津々だろう。

 

 だが

 

 その隣には、生徒会役員の上級生たちと、あの司波兄妹。

 

 なんで?(殺意)なんでこんなところで大集合してんだよ原作主要人物共が。

 

 いや知ってるけども、演習室の中に入った瞬間に思い出しましたけども。なんでこう示し合わせたように全部のフラグを回収していくのだろうか。もしいるのならばクソッタレな神様というやつの頭をワイン瓶でかち割りたい気分だ、死ねよ。

 確かあれだよな。なんか忍者みたいな名前のやつがお兄様侮辱して、んで司波が切れた後お兄様が煽ってそのまま模擬戦だーってやつ。結果は無論あのチートお兄様の完全勝利なんですが。…なんかお兄様お兄様って気持ち悪いな。よし、これからは司波達也、貴様のことを司波兄と呼ぶことにしよう。

 

 いや、マジこれどうしよう。こうやって真正面から顔を合わせちまった以上知らぬ存ぜずで通すわけにはいかねえよな。向こうが俺のことなんかさっぱり忘れていてくれてたらワンチャン…。いや、あんな死人と会ったみたいな顔してたし望みは薄いか。間違いなく俺が政狩 刀弥だと判断しただろう。魔法科高校には行かない、なんて抜かしてたくせに蓋を開けてみればバッタリ遭遇しちまってるんだから笑うしかねえ。やっぱ笑えねえわ、うん。…えぇ…ええぇぇぇ?(困惑

 

 なんでこんなに迷わなければいけないのだろうか。元々こうなった元凶は司波の失言なのだから、俺は堂々と向こうからのアクションを待っていれば良いではないか。

 

(で、開き直るのはダメだよなあ)

 

 あの事件の後、俺は家族3人から叱られた。そりゃもうこっ酷く、これまでの人生で1番激しかったのは間違いない。特に母さんは、マジでやばかった。普段は出さないアトラス院の顔を出して丁寧語で、一つ一つ論理的に否定してかかってくるのはもう勘弁だ。その時に今度会ったら謝るようにと約束したし。俺にも非があったことは間違いないんだし、ここはひとつ罪の清算をする機会が与えられたと考えよう。うん、たぶんそうして綺麗さっぱり解決して、接点無くしたほうがいいような気がする。

 

「考え事か」

 

 そこまで決めたところで靴を履き替えた森崎と合流し、元の演習室へ戻る。沢木先輩は一足先に戻ったみたいだ。

 

「別に」

「そうか。ま、僕には関係ない」

(でしょうね。いや、まったく。ほんとに関係ないんですけどもこちらも割と死活問題なんですよ)

 

 心の中で愚痴を漏らす。そういってそそくさと我先に進もうとする森崎は、それきりかと思いきや少し歩いたところで顔をこちらに向けてきた。

 

「だけど、もしそれで本調子じゃないなんてことになっても困る。全力じゃないお前と戦っても意味がないからな。…日を改めることも考えてもいいが、それは結構深刻なことなのか」

 

 なんてテンプレなツンデレ的反応。古き良きベジータの風格を感じる。だが前も言ったが男のツンデレなんてどこに需要があるのだろう。てか

 

「そう見えるのか」

「少なくとも僕は。これまで見たことのないくらいに、焦っている?というか迷っているというか…まあともかく!どうなんだ、このまま模擬戦をできるのか?」

 

 どうやら色々と顔に出てしまっていたらしい。それを見かねたねた森崎は、不器用にも優しさを発揮して忠告してくれたということなのだろう。

 

(まずいな、最近の俺どうかしてるぞ…)

 

 自分で思ってるより、かなり俺は今の状況に参っているらしい。しかもそれを森崎に悟らせるなんて、気が抜けている証拠に他ならなかった。

 

「すまない、森崎」

「え?」

 

 そうだ、俺は今から戦いの場に立とうとしている。それがさして興味のない魔法の模擬戦であろうと、真剣に当たらなければ、自分の為にならず、相手である森崎への失礼に当たるというものだ。今は一身上の都合など隅に置き、目の前の戦いに集中するべきなのだ。

 

 一度深呼吸をし、両頬を叩いて、さらにもう一度深呼吸をして意識を切り替える。

 

「もう大丈夫だ。いらない世話をかけた、申し訳ない」

 

 謝罪の言葉を口にし、同時に頭を下げる。それを見た森崎は俺の急な転身に驚き慌てる。

 

「お、おい!別に大したことじゃない。ただ、まぁ、もう問題ないならよかったよ。というか、こんなことで頭を下げなくても」

「いや、こうさせてほしい」

 

 これは謝罪だけではなく、感謝の印でもあるのだ。俺の身を心配してくれたことに対してはもちろん、自身を見直す機会を与えてくれたことに対しての。

 

「やろう、今のようなみっともない真似はしない」

「…わかった。なら、今日こそ勝ちは僕がもらうぞ」

 

 それを皮切りに、再び前を向いて演習室へ向かう。

 

 

 ___そういえば最近気づいたのだが

 

「森崎」

「なんだ、まだ何かあるのか」

「なんでお前は、そこまで俺に勝ちたいんだ?」

「…色々と理由はある。けどあえて言うなら、そうだな」

「?」

「…負けっぱなしは我慢ならない。そして諦めるっていうのは、僕が一番嫌いなことだ」

「そっか」

「なんでそんなことを聞く?」

「別に、ふと思っただけ。…うん、その方が森崎らしくて、なんか、いいと思う」

「…そうかよ」

 

 こだわってるのは、森崎だけじゃないのかもしれない。

 

 

 

 

 演習室中央を挟み、5メートルほどの間をあけ、俺たちは相対している。そこにあるのは戦場特有ともいえる緊張感と、互いが互いに抱く激情とも呼べるなにかだ。

 

「…」

「…」

「ルールを説明する。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。」

 

 ギャラリーがかなり増えたが、戦い始めれば気にもならないだろう。なぜか司波兄妹まで残っているとは予想外だったけど、あとで司波とコンタクトを取るのに好都合か。一応勝負の邪魔にしないため、意図的に集団の気配を意識からかき消す。

 

 目の前の相手に、的を絞る。

 

「武器の使用は禁止。素手、蹴り技による攻撃は許可する。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合は、その時点で負けとする。異論は?」

「ありません」

「同じく」

 

 森崎が答え、俺がそれに続く。

 

 つまり、実質俺は肉体攻撃ができないということだ。俺は自分の肉親とあのハゲ坊主の寺の奴以外に、教わった武術を使ったことがない。もちろん加減などしたことはないし、未熟な自分にできるはずもない。まあ、これは中学のころから同じだ。高校に入っても何もかも変わらないというだけ。いつも通りにやればいい。

 

 

-------------

 

 

(コンディションは良好、戦意も十分、CADの整備も万全。後は策がどれほど通用するか、だ)

 

 

 最後に政狩と戦った時からずっとやってきた。これまでの戦い方から自分の弱点を克服していき、政狩の動きを予測できるようにする。受験が終わってからの一か月間は、ずっと鍛錬と戦闘記録を見返し対策を考える日々だった。

 

(それで出た結論が、俺は逆立ちしても()()()()()()()()()ということなのは悔しいが)

 

 政狩の実力は既に五十を超える模擬戦を経ても未だに底が見えない。あいつの行動にはいつもどこか余裕があり、仮に俺があいつを追い詰めたと思ってもどこ吹く風ですぐ対応してくる。そこまでの実力差があるとわかっていながら『今日こそ勝つ』と吠え続けるのは、己の意地と決意を忘れないためだ。そして、このままでいるつもりも毛頭ない。

 

 今までのは前哨戦、本番はここからだ。まずは精々そのしけた面を歪ませてやることにしよう。

 

 

 

-------------

 

 

 

「うぅぅ、なんだか、さっきの司波君と服部君の試合よりピリピリしてます…」

「お互いにものすごい緊張感で臨んでいますね。先のやり取りを見るに不仲というわけではないと思いますが」

「ふふ、そう考えこむことではないでしょう。お互い自分をさらけ出して、全力でぶつかり合える。友人でありライバルなのでしょうね。男の子らしくていいじゃない♪」

 

「よう服部、お前自分から大口叩いて下級生に挑んどいて瞬殺されたんだって?」

「沢木、貴様ッ…!」

「ははは、レッテルに足元をすくわれたな。で、服部はあの二人の勝負どう見える?」

「___っ!…まあいい。二人の魔法力にそこまで大きな差は無いだろう。だが、森崎といえば魔法の発動速度で言えば十師族にも劣らないと聞く家だ。当てられるのであれば、先手を取れる彼に軍配が上がるだろう。だが…」

「やっぱり気づくか。そうだな、政狩君の動きもタダ者じゃない。よく注意してみなきゃ気づけないが、体の動きにブレというものが全くない。それでいてとても自然だ。俺も委員長がいなかったら解らなかったろうな」

「なにか体術を修めているのか。魔法戦においてそこまで着眼すべきではない。…などとは言えないな、さっきの様では」

 

 

 ここにいるほとんどの興味はこれから行われる模擬戦に強く惹かれているようだ。だが今の達也にとって、一部睨んできたりする上級生たちや目の前の戦いなど、最愛の妹が今抱えているであろう苦悩と激情に比べればどうでもいいことだった。いや、そしてもう一つ。深雪にこの苦しみを与えている元凶以外に。

 

「___ッ」

 

 あれから深雪の視線は、ずっとそいつへと注がれている。その中にあるのは期待と不安、そして数々の疑問であろうことが達也には手に取るようにわかる。だが、そいつは最初にこの部屋を訪れて、深雪の存在に気付いて以降、一度たりともこちらに目をやることすらなかった。いや、そもそも意識から存在自体を消しているのかもしれない。

 

(『政狩 刀祢』か…。深雪の初恋相手であり、かつて喧嘩別れをしたきり、という話だったか)

 

 その相手がまさか同じ魔法科高校へと進学してくるとは、どういう星の巡り合わせなのだろうか。そこで達也は、深雪が『彼には一般家庭の出身にもかかわらず、高い魔法適性を持っていた』とも話していたのを思い出す。そこから政狩の進路に口出ししてしまい、結果彼の琴線に触れ怒りを買ったのだと。

 

「……刀祢君」

 

 そんな相手との再会で、深雪の心はどれほどかき乱されているのか。今の状況はおおよそにおいて致し方ないものではあるのだが、達也は政狩という男に対して敵意を抱かざるを得なかった。

 

 

 

-------------

 

 

 

 白一色の大きな空間を静寂が支配する。その中で相対する二人がいた。

 

 

 一人は強者。片手に腕輪形の汎用型CADを装着し自然体でたたずんでいる。

 

 この何度も繰り返されてきたカードにおいて一度の敗北はなく、彼はそれを誇ることはない。なぜなら、この戦いは彼にとって、『他人との実戦経験を積む』こと以外に意味などないからだ。彼の目指す場所とその為に歩む道に、この戦いは本来全く関わりのない、ただの寄り道もいいところ。

 

 だが決して、彼は手を抜くことなどありえない。己に実のないからといって、彼は勝負に不誠実であることを是としない。魔術を使わないのは、これが魔法師の戦いだからだ。体術のほとんどを封印するのは、一定以上の怪我を負わせれば己の敗北となるからだ。

 ましてや相手は己に勝つため、全身全霊をかけているに違いない。この誇りたくなるような友人に対して自分がしてやれることは、今できる全力を彼にぶつけることのみだろう。

 

 政狩 刀祢にとって、これは友の為の戦いであった。

 

 

 もう一人は弱者にして挑戦者。片手に端末形の特注特化型CADを握り戦闘態勢を取る。

 

 勝利の陰には常に敗北が存在する、彼は後者以外選べなかった。いかに他の部分が優秀であり、他の誰かに勝てるとしても、己の目指す者に敗れ続けるのであればその勝利に意味はない。ゆえに彼は己を敗者であると定義する。だがこれから未来永劫そうであることを、彼は断じて否と唱えた。

 

 彼は『諦める』という言葉を最も嫌った。それは停滞を表す言葉、選択したものは暗闇の中で道しるべを無くし、さ迷い続けることとなる。目標は常に夢を掴むため前へ進み続けているというのに、なぜ立ち止まることができようか。それでは、己とあいつは対等になれない。あいつが一人になってしまう。

 そう、並ぶ者のいないと悟ったあいつは、平気で孤独を選ぶだろう。人はそれを孤高と呼ぶのかもしれないが、己にとっては悲しく思えて仕方がない。

 だからコエを秘めて立ち向かうのだ。俺はここにいる、俺を見ろ、と。いつか自分が勝利をもぎ取り、一度やつを見下ろすその日まで。

 

 森崎 駿にとって、これは友の為の戦いでもあった。

 

 

 ここに、誰かを思いやれない人間など存在しなかった。

 誰もが友への激情を抱き、誠実なる思いを胸に秘めていた。

 

 

 審判の手が静かに持ち上げられる。

 両者ともに眼を見開き、倒すべき友を視界に収めた。

 

 「始め!!」

 

 凛とした声が空間へと響き、勢いよく手が振り下ろされる。

 

 彼らは駆け出す。己の全力を友へと届ける為に。

 

 

 二人の、二人による、二人の為だけの戦いが幕を開けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____それでも人は、自分のことを思わずにはいられない。

 

 

 

 

「何故、ですか…?」

 

 解ってしまった。彼がどこを向いているか。

 

 彼はずっと前を向いている。目の前の相手を見据えている。

 

 政狩 刀祢は、森崎 駿を見ているのだ

 

 

 

 私が隣にいた、あの時よりもずっとまっすぐな瞳で

 

「何故、私のことを見てくれないのですか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました!


 なんでまだ戦闘してないの………????


 はい、なんか書きたいこと多くなっちゃって過去最高文字数とまさかの事態に。お願い…!もう少ししたらきっと書けますから!!


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考えろ!じゃねえと脳死した奴から死ぬゾ!? 前編

 どもども、最近リアルでやることが多い(そればっか言ってる)益荒男です。

 なんか書いてたら一万字超えちゃったので、今回は前後編に分けて投稿したいと思います。え?なら後半はもうできてるのかって?…………(目そらし)


 それではお楽しみください!!!!!!!


 刀祢が進学のため上京してから一ヵ月ほど、政狩家ではかわいい息子(孫)がいなくった寂しさと各々が向き合いながら、少しだけ静かな毎日が過ぎていた…

 

「はーい、今日の晩御飯ができましたよ~。それじゃあ皆でいただきます!」

「いただきます」

「いただき…アイナ、この真っ赤な塊はなんだい?」

 

 なんてこともなかった

 

「ピーマンの肉詰めよ。ちょっと焦げちゃってお肉とピーマンの区別が分かりずらいけど」

「いや、どんな食べ物でも焦げたら赤じゃなくて黒くなるはずなんだけど…。後これ絶対ピーマンじゃないよね、そしてパプリカでもないな。肉を詰めてるのこれ唐辛子だろ。それにしてはやけにデカいけど」

「知ってる?パプリカってカラーピーマンの一種なの。そしてピーマンはトウガラシ属の植物、唐辛子の一種に過ぎないのよ。つまり逆説的に言えば唐辛子をピーマンと呼ぶことも可能なのよ。これにて命題『この食べ物はピーマンの肉詰めか否か』が証明されたわね」

「それは証明ではなくただの屁理屈だ!単にアイナが辛い物を作りたかったってだけだろ!別に辛いのは構わないけど、さすがに限度っていうものがあるだろう!」

 

 それはピーマンの肉詰めというにはあまりにも赤すぎた、赤く、大きく、グロく、そしてめちゃくちゃ辛そうだった。それはまさに辛味の塊だった。

 

「そ、そんなに辛くした憶えなんてないわよ!お肉にだってタバスコしか入れてないし!」

「やっぱり肉にも何か入れたんだなそうなんだな!?やっぱりアイナが『成長した自分を見せてあげる』って言いだしたとき、怪しむべきだったんだ!」

「ひどいですね!そういうのでしたら、おじ様を御覧なさい!何も言わずおいしそうに私の料理を食べているではありませんか!私の計算に狂いはありません!」

「素に戻るくらいなのか…?てかオヤジ、よくこんなもの食えるよなって、あれ?」

「おじ様?」

「……」

 

 カラリと、竜馬の手に握られた箸がちゃぶ台の上に転がる。

 二人は気づく。彼の意識は既に手放されていたことに。

 

「お、おお、おじ様!?お気を確かに!!?」

「この馬鹿オヤジ!!!あんたはなんでそう刀祢とアイナに甘いんだ!?」

 

 政狩家の巨木『政狩 龍馬』は、赤き身内の呪いの前に無力だったことを悔やみながら意識の深層へと沈んでいくのだった。

 

 

「アイナはまたしばらく僕の同伴なしに台所に立つの禁止、いいね」

「はーい、わかったわよもう」

「…初めての真打を打った時を思い出した」

 

 そんなこんなもありながら、三人は食卓を片付けていく(先の劇物は製作者が後日平らげることになった)。刀祢が東京に行ってからも、家内の雰囲気が変わるなんてことはほとんど無かった。精々これまで稽古をつけていた龍馬や、魔術の勉強を教えていたアイナの暇が増えたくらいだろう。

 

「あ、そういえば刀祢から連絡が来てたわよ『仕送り増やしてくれ』って。なんでも炊飯器を買いたいみたい。飯盒使おうにもコンロが足りなくて時間がかかるとか」

「なんだかんだ刀祢も今の環境に適応してきたな。どうするオヤジ、仕送り増やすか?」

「刀祢に限って堕落にふけることもなかろう、九重のやつからずっと稽古をしているとも聞いている。それくらいなら構わんだろう」

「わかった。アイナ、今度ここ降りるときにでも口座に振り込んどいてくれ」

「オーケー、ちょうど明日スーパーの特売日だし」

 

 刀祢が一人暮らしをすることに、郁磨たちはそこまでの心配をしていなかった。何故かと彼らが訪ねられたら、みんな口をそろえて「だって刀祢だし」と言うだろう。刀祢から見た家族が化け物であるように、郁磨たちから見た刀祢もまた規格外、どっちもどっちの家族だった。

 

「刀祢、楽しんでいるかしら?」

「どうだろうなぁ、僕は何よりちゃんと友達がいるかが心配だよ」

「中学の時も、あんまり友達の話は聞かなかったものね」

「それもだけど、きっと刀祢が変わるきっかけになるのは、僕たちじゃなくて同じ場所に立てる仲間とか、そういうものだと思うんだ」

「私たちじゃ無理だったものねえ。でも、大丈夫よ」

 

 にっかりと笑いながらアイナは郁磨の顔を覗き込む。その顔に未来への悲観なんて物は一切なかった。

 

「刀祢のことを解ってくれる人が絶対にいるわ。それにあの子、流石私たちの子供って感じに顔もいいし。普段無口な人のギャップってすごいんだから」

「急に下世話な話にならないでくれ。うん、そうだね。根はやさしい子ってことは僕たちが誰よりも知っている。____なら大丈夫か。頑張れよ、刀祢」

 

「あ、そうそう。八月の頭に『九校戦』っていう大きな行事があるらしいのよ。結構近くでやるみたいだし、刀祢の様子見に行くついでに行ってみない?」

「まだ気が早すぎるだろう。でもいいかもね、特に予定があるわけでもないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして刀祢は友の為に、友と戦っていた。

 

 

 開戦の火ぶたが切られ、審判である摩利の合図で相対する両者は動き出す。

 

 刀祢は前へ、駿は後ろへと。

 動き出したのは全くの同時であったはずなのに、この一秒を数等分する世界の間で二人の距離は1メートル近く縮んでいた。

 

(クソッ、予想より速い…!やはり賭けか!?)

 

 前へ進む行為と後ろに下がる行為、どちらがより人にとって容易かなど考えるまでもない。常に日ごろ、後ろ向きに歩きながら生活している人間などいないだろう。ただ後ろ向きに歩くだけで人はバランスを崩してしまうこともある。全力で後ろに飛ぶともなればその可能性はさらに上がるだろう。

 

 ならなぜ、駿は横方向への移動ではなく、真っ直ぐ後退することを選んだのか。

 

(相手が政狩でないなら、いくらでもやりようはあるのだろうがな…)

 

 前へと飛び込むことは論外だった。至近距離での戦闘において、今の駿が刀祢に勝てる可能性など那由多の果てにすら存在しない。ボディーガードを請け負う実家で教えられた護身術を扱える程度の体術では、刀祢に拳をかすらせることもできないのだ。事実、駿は中学時代の模擬戦で「距離を詰められるのならあえて相手の土俵で不意を突いてやろう」と自ら懐へと飛び込み、そのままCADを蹴り飛ばされ完膚なきまでに力量の差を叩きつけられた。

 

 なら横方向は?

 ある程度距離を稼ぐことができ、体のバランスを崩すことも後ろに飛ぶよりは少ない。もしフェイントをかけ相手に逆を取ることができれば、それは大きなアドバンテージにもなる。そうすれば…と考えたこともあったが、結局それも成功した試しが一度もない。

 

 どういうわけか、開始と同時に横に飛ぼうとすると、まるでその未来を予知した如く飛んだ方向に一直線で距離を詰めてくるのだ。何度も何度も、飛ぶ歩行や角度を変えてみたりしても、必ず着地地点に合わせて一直線に突っ込んでくる。いくら工夫し考えても、終ぞ駿は刀祢の逆を取ることはできず、最終的に恥を忍んで刀祢自身にからくりを聞き出すこととなった。何故自分の行動を先読みできるのかと。

 

「そんなの、見ればわかる」

 

 刀祢はまるで当たり前のことを確認するかのように、あっけらかんと答えた。

 

「見るって、だから何を見ればわかるんだよ」

「何、を…?ええと、まずはつま先と重心の位置。これで大体の方向を絞れる。他は視線とか体の向きとか呼吸の間隔とか。前二つは無意識に出るものだから結構あてにできるし。呼吸に関しては、人って息を吐くときにはなかなか動き出せない生き物だから、間を図るのに必要」

「…お前、始めるまでそれ全部を意識してるのか?」

「意識してる、っていうか。もうそれをするのが普通っていうか。うちじゃこれ位できないと話になんない」

(爺やと父さんの場合、判っててもどうにもならないのがデフォだし。そもそも見させてくれないこともざらだから、見れると時に見とかないと喰らいつけないんだよね)

「…なるほどな」

 

 駿は刀祢の話を聞き、そして納得した。

 

 先の全く見えない刀祢との差に絶望するのでもなく、怒りを覚えるのでもなく、ありのままの事実を受け入れ納得し進んでみせたのだ。そこから自分がとるべき選択を考える。刀祢の言う通りならば、初手に自分がとる行動などいとも簡単に予測して見せるだろう。そして、自分にはその予想を上回るだけの何かを用意することはできない。

 ならば、そのことを踏まえたうえで駿の取れる最良の選択とは何なのか。

 

 条件をまとめてみよう。

 

 

 一、刀祢に近付かれてはならない

 

 二、動き出しは同じでも、加速は刀祢のほうが早い

 

 三、彼我の距離は5メートル、刀祢であれば一瞬の内に詰めることが可能

 

 四、刀祢はほぼ確実に駿の初動を予測可能

 

 五、駿に刀祢の予測を覆すことはできない

 

 

 これだけ見れば、駿の勝利への道筋はないに等しい。とりあえず反撃を考えずに逃げ回ることに専念しようとも、そもそも刀祢のほうが足が速いのだから追いつかれるのも時間の問題だ。ましてや場所は模擬専用といっても室内であるのには変わりなく、ずっと真っすぐ後退することもできない。これが徒手格闘での戦いであれば駿にできることは何も無かった。ただ刀祢の絶技によって地に這いつくばるのみだ。

 

(だが、僕たちは魔法師だ)

 

 そう、この戦いは魔法師たちによる魔法を使った模擬戦だ。この魔法力において、刀祢と駿に大きな差はない。だが、『魔法を発生させる速度』という一点において、駿は明確に刀祢に勝っていた。だからこそ更なる条件が追加され、選べる選択肢が存在する。

 

(5メートルでは足りない。それでは魔法式の展開より、政狩の射程に入るほうが速い。ならば距離を稼ぐ!横に飛んでも意味がない、大した距離も稼げずに間を詰められるだけ!

 だから飛ぶのなら真後ろだ!例え予測されようとも、動き出しが同じならば、魔法の発生速度で僕に劣るあいつにできることは、少しでも早く自分の間合いにする為に真っすぐ突っ込んでくることだけだからだ!)

 

 やるべきことは既に決まっている。もう後戻りは効かない。

 

 ならば定めた道を突っ走るのみ…!

 

 

 

 試合開始の合図と共に大きく後ろに飛び、同時にCADを操作、使用魔法は「ドライ・ブリザード」。空気中の二酸化炭素を集め、ドライアイスを作り、凍結過程で余った熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、ドライアイスを高速で射出する魔法だ。

 

 なぜこれを選んだか、それには二つの理由がある。

 

 一つは術者に直接作用する魔法を使おうとすると、どういう訳か刀祢は事前にそれを察知し、全力で術者の視界から消えようとするからだ。その結果、術者は目の前にいるはずの標的を見失い、意識外からの攻撃によって沈むことになるのだ。これも中学時代の模擬戦の記録から読み取れる確かな事実である。なので扱う魔法は、刀祢本人ではなく周りの環境へと作用するものでなくてはならない。

 

 それを踏まえての二つ目の理由が、発生速度とある程度の威力、面制圧の能力の三つを兼ね備えているからだ。例えば一撃で沈める威力を持った魔法、駿の場合は自身の最も得意とする「エア・ブリット」などは、至近距離での使用を想定しているものか、効果範囲が狭いものがほとんどだ。そんなものでは刀祢なら少し体を傾けるだけで完全に躱し切ると駿は知っていた。だからと言って広範囲高威力の魔法を扱おうとすれば、魔法式の展開速度は極端に落ちる。それではそもそも先手をとれなくなってしまう。

 

 以上の理由で、条件に合う魔法の中で駿と相性が良かったこの魔法が選ばれた。そして、選択は間違っていなかったとこの瞬間証明される。

 

 

 駿が後ろに飛びのいた直後、刀祢と彼を挟むように展開された魔法式から、生成されたドライアイス群が刀祢に襲い掛かる。身を傾ける程度でかわし切れないと判断した刀祢は、範囲外へ逃れるため大きく左に飛ぶ。刀祢の動きを見逃すまいと目を凝らしていた駿は、急転換によって起こった一瞬の予備動作を見逃さず刀祢の逆方向へ続けて動く。身体訓練も欠かさなかった駿の体は、無茶な動きに振り回されずバランスを崩すこともなかった。

 

 

 刀祢の出鼻を挫き、距離の維持もされている。一つ目の勝負、先手の取り合いを制したのは駿だった。

 

(それでも危ない賭けだった。こちらの使う魔法に構わず、政狩が視界から消えることを選択すればこちらに打つ手はほぼなかったし、普段使い慣れてない端末型ということで魔法の発動が間に合わなかった可能性も十分あった)

 

 そもそも、刀祢が初めから正面に突っ込んでくると踏んだこと自体、刀祢の性格とこれまでの模擬戦の統計から出された予測でしかない。いつも使用してしている拳銃形のCADには「ドライ・ブリザード」が登録されておらず、この後の策の為に端末形を使わなければならない。不確定要素があまりにも多すぎる。だが、このような危ない橋を何度も渡らなければ、駿は刀祢との勝負という土俵にすら立てないのだ。この一瞬の交錯、刀祢は前に突っ込んでいるだけだというのに、駿は幾重にも考えをめぐらす必要がある。

 

 

 そしてまだ勝負は始まったばかり。駿の魔法で刀祢が倒れていないということは、次は相手から魔法が繰り出されるということに他ならない。

 

 ドライ・ブリザードを凌いだところで刀祢は立ち止まり、CADを身に着けた左腕を差し出そうとする。起動式の展開が完了される寸前である。CADから余剰想子光が漏れ出した。

 

(あの起動式なら、恐らく放出系での攻撃か!)

 

 刀祢との戦いを繰り返した駿には刀祢がよく扱う魔法、それも精々数種類限定ではあるが起動式から発動される魔法をある程度予測することができた。それを見た時点で駿は最優先事項を次の攻撃手段の用意ではなく、全力の回避行動に切り替える。予測通りの魔法が来るのであれば、今すぐ動き出さないと()()()()()()と知っているから。

 

 

 刀祢が腕を伸ばし切ると同時に魔法が発動する。駿の考えた通り、刀祢の選択した魔法は放出系、その基礎魔法である「スパーク」だった。物質中から電子を強制的に抽出し放電現象起こすこの魔法は、刀祢が中学時代から愛用している魔法であったため駿も予測することができた。

 だがこの「スパーク」という魔法、本来この状況においてそこまで警戒するべき魔法ではない。この魔法によっておこる放電現象は直撃すれば一撃で意識を刈り取ることが可能だが、効果範囲がかなり限定される魔法なのだ。さらにいうと「スパーク」は発動するために要求される想子量がかなり多い。よって効果と大証が釣り合わないことが多く、一般的にこの魔法は近距離で確実に相手をとらえられる状況でしか扱われることは少ない物のはずだった。

 

 そう、そのはずだったのだ

 

 そんな魔法を刀祢が愛用している理由はただ一つ、それが自身の勝利に最も貢献する魔法だと理解しているからである。

 

(来る……!)

 

 魔法式が完成し「スパーク」が放たれる。

 

 

 駿の視界が光に染まった。

 

 

 

 

 

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(やっぱ発動速度速いなオイ。明らか前より強くなってるわ。魔法師として考えれば間違いなくあっちのほうが優秀なんだろうな)

 

 魔法科高校の一生徒として、刀祢の魔法師としての素質は平均より頭二つほど飛び抜けている。特に、優れたサイオン保有量と魔法演算領域を保持していることから、【魔法式の規模】【対象物の情報を書き換える強度】実技試験で評価されるこの二項目においては目を見張るものがあると判断され、ここへ推薦入学したのだ。

 

 だがテストの点が本当の能力を表しているのではない。

 

 その最たる例が二科生として入学しながらも卓越した魔法技能を有する司波達也であるのだが、刀祢にもこれが当てはまる。だが、それは達也とは全く逆の意味合いでだ。実戦を想定した場合、刀祢の魔法師としての能力は極端に下がる。

 

 何故なら、刀祢に極限での戦闘中に魔法を扱うだけの思考のキャパシティが最早ないのだ。

 幼少期のころから『政狩』の人間として稽古を受け続けた刀祢は、戦う際に己が考えるべきことというのが既に確立されつつある。それは体幹や息遣い、足運びといった自身と相手の状態、そこから予測される十数手先の幾通りもの行動とその対処。更に自身の魔術や魔力の状態。得物を扱う場合はそれが持つ特有の間合いや攻撃、互いの武器の耐久度など、考えることは無限にある。

 道を極め、無想の境地へと至った達人たちであれば、最早反射の域で最適解を導き出すだろう。刀祢がその極地へと至る道のりはまだまだ険しい。そんな中で新たに演算の塊たる現代魔法を詰めこむというのは土台無理な話であった。中学の頃の模擬戦で負けなしだったのは、魔法だけに専念すれば魔法力の高さによるごり押しで目の前の友人以外はなんとかできたからに過ぎない。

 他にも、無意識下での演算活動の拒絶や刀祢自身の異能への認識の齟齬など様々な要因が存在する。

 無論これは現状の話であり、これからの修練によって体に染み込ませることもできるだろう。だが、刀祢に魔法師として大成する気などさらさら無く、この状態から良い方向へ転がることはないというのは容易に察せられた。

 

 それでも刀祢に魔法戦ができるのは、誰も計り知れない戦闘センスの高さによるものなのか。それとも、友人への負けん気のなせる業なのか。真実は誰にも判らないが、結果として刀祢は実に彼らしい戦術を身に着けていた。発生速度を犠牲に魔法の規模に焦点を当て、自身のポテンシャルを最大限に生かせる魔法を探し出した。あとは効果範囲まで()()()潜り込み一撃で勝負を決める。

 

(さっさと懐に潜り込んでからあらかじめ起動しておいた単純工程魔法をゼロ距離で叩き込む。もう脳筋ここに極まるみたいな感じで、これが一番合ってんだよなぁ。今回出鼻挫かれちゃってるけど)

 

 それについて驚きはない。森崎がここまでやれるだけの実力を身に着けたのは模擬戦を始める前から察知していた。だからと言ってこちらのやることを変えるつもりはない。もし魔法以外で攻撃するのであればCADを持った腕を直接狙うしかないので、どちらにしろ近付かなければならないのだ。手札はばれているとしても使わず腐らせるよりはずっといい。

 

(距離あるのが不安だけど、大丈夫かな)

 

 範囲はいつも通りなら届くだろう。狙いがつけづらいが、それはもうあきらめている。異能を相手のに施すという概念を政狩家は一切持っていないが、術をぶつけることならやってきた。

 

(魔法師としての実力が劣っていても、戦において負ける道理はない)

 

 駿が駆け出す数瞬を挟み、刀祢の魔法が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

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 放電、なんて物ではない。

 

 「雷」だ。何条もの雷が複雑に絡み合い波を作り出す。「雷の波」が駿が元居た場所を飲み込もうと押し寄せていた。

 

「ぐッ…、ぅ、うぉぉああああ!!!」

 

 狙いはずれている、直撃コースからは外れたはずだった。今駿を襲っているのは、魔法の奔流からあぶれた余波に過ぎない。それでも、これに触れたら最後自分は負けるのだと無理やり理解された駿は、全力で体をひねり眩い閃光から逃れる。判断速度の甲斐もあり、駿は規格外の「スパーク」を躱し切ることに成功した。

 

 

 

 刀祢は放出系の基礎魔法である「スパーク」を自身が持つ多大な想子と大規模の魔法演算領域を用いて、発動させる速度を捨て無理やり規模を広げることに成功した。その効果は今駿が味わった通りである。こんな芸当は普通の魔法師ならば考えない。威力と範囲で見れば、より効率よく成果を得られる魔法はいくらでも存在するからだ。

 何故刀祢がわざわざ「スパーク」を強化させて使用するのか。その理由は彼もまた「政狩家」の魔法師であることに起因していた。

 

 政狩の魔術刻印に記録されている魔術は全部で四つ。

 政狩と名乗る前から研究がされていた『火』の魔術(先代の記述によると『華祷炎儀』とか呼ばれてるらしい)

 自身の身体能力、そして感覚を引き上げる『強化』

 魔力をそのまま治癒力へと変化させ無理やり修復させる暴力的なまでの『治癒』

 視界を通じて身体や対象の構造、刀のすべてを見通すための『解析』

 

 見事なまでに、他人を対象に発動する魔術が存在しないのである。唯一他人に作用できる『火』の魔術の使い方も、もっぱら自身に纏ってぶつけるといった具合である。政狩の魔術師にとって魔術とは己に施す者であり、他人のことなど微塵も想定されていないのだ。

 「異能とはそういうものである」と既に刷り込まれた刀祢は、同じ異能という認識である現代魔法にも大きな影響が及び、自身以外を対象とする魔法を苦手としてしまったのだ。幸い(刀祢からすれば不幸だろうが)それを補って余りある魔法力の高さと、刀鍛冶によって鍛えられた集中力が高い実技での成績をもたらしたのだが。

 それでも実戦では上手くいかず、苦手分野とそうでないものの間にある差が顕著に表れた。はっきり言って実戦中で刀祢が苦手分野の魔法を使おうとすると、発生速度は二科生の中でも下位とされる結果となる。

 なので刀祢は比較的得意とする放出系、その中でも一番工程数の少ない基礎魔法である「スパーク」を発展させる形で実戦に持ち込もうとしたのだ。

 

 結果生まれたのが、たとえ距離が多少空いていようと無理やり放電する渦に巻き込む「雷の波」であった。

 

 

 

 

 

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 先の一瞬の攻防を見てギャラリーの多くは両者へ驚愕を抱く。特に実戦経験を持つ摩利や達也は、駿の思考による行動に舌を巻いていた。

 

(昨日の騒動から駿の身体能力の高さはうかがえたが、魔法に関しても間違いなく同世代の中では一級品。速度だけで考えれば数字付きが相手でも見劣りしないだろう。規模も事象干渉力も平均を上回っている。…だが、それだけじゃないな)

 

 達也は駿の行動が全て予定していたものだということを見抜いていた。相手の動きをあらかじめパターン化してその対策に準じた行動であると。その勝利に対する執念と実行に移せるだけの度胸がある駿に達也は素直に尊敬の念を抱く。それに相反するように、刀祢に対しては疑念のまなざしを向けていた

 

(身体能力、これに関してはおそらく俺と同等かそれ以上。だが魔法に関しては全く理解ができない。確かに基礎魔法に過ぎない「スパーク」をあそこまで発展させ、最早別魔法にまで変えたことを見るに実力はあるだろう。だが速度がおざなりに過ぎる。あれなら間違いなく別魔法を使ったほうが効率がいい。……実力を隠している?だとしたらなんのために……)

 

 達也は刀祢を観察し続ける。その視線に敵意が混じっていることに、達也は自身で気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

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(相変わらず、馬鹿げた範囲だ…!しかも前より広くなってるな。成長してるのは僕だけじゃない、当然の話か)

 

 これをずっと至近距離で叩き込まれていた駿にとって、刀祢の「スパーク」はもはやトラウマに近い形で駿の脳裏に刻まれていた。あの余波を躱し切れたのは間違いなく体が考える前に動いたからだ。駿の敗北が記憶だけでなく、身体にまで刻み込まれている証拠だった。

 

(とにかく、急いで体勢を立て直さないと!あいつはこの瞬間にも…!)

 

 そう、この大きな隙を見逃すような甘い相手ではない。好機と見ればあいつは全速力で一直線に突っ込んでくる!

 

 

 駿の瞳が刀祢を捉える。腕のCADを操作し次の魔法の準備へと取り掛かると同時に、一気に近付いて自分のCADを蹴り飛ばす算段だと駿は確信した。今の体勢が崩れた状態ではとっさの回避は不可能。こちらが動き始めるまでに、相手は射程距離まで詰めてくるだろう。刀祢の実力を知りつくしていると言える駿にはこの結果が模擬戦の始まる前から解っていた。

 

(だからこそ、僕は準備してきたんだ)

 

 制服のブレザーの下、腰にマウントされている()()()()()()()()()()()拳銃形の特化型CADを駿は意識する。布石は打った。今刀祢の意識にはこの手元にある端末系CADしかないだろう。そのために「ドライ・ブリザード」という大きく印象付ける魔法を使ったのだ。策の準備は整いつつある。

 

(第二ラウンドだ、政狩!)

 

 弱者の証明が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 刀祢君「え?そういうファンタジックパワーって自バフをかけて物理で殴るものじゃないの?あと計算苦手なんです勘弁してください」


 いかがでしたでしょうか。いやー戦闘描写となるとやりたい展開も書きたいことも溢れちゃって困ります。これを全部アウトプット出来たらどれほど楽なものか・・・。


 次回も多分待たせちゃうことになると思います。どうか気を長く待ってくださるとうれしいです。

 今回も読んでいただきありがとうございました!


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考えろ!じゃねえと脳死した奴から死ぬゾ!? 後編

 どうも皆さん、お久しぶりです益荒男です。土下座はデフォルトでお願いします。orz

 こうやって後編上げるまでに五、六章が配信され、月姫リメイクが発表され、そして発売まで秒読みというところまできました。やってんな益荒男

 最近の型月の勢いがすごいです。こんなに幸せなことはありません。きのこは仕事をしていました。そしてわたくしはサボっていました。やってんな益(ry

 こんな大変な時期の少ない楽しみを逃さぬよう、読者の皆様も健康に過ごせることを願います。





 僕は十師族に次ぐ魔法師家系の百家支流の森崎一門、その本家の長男として生を受けた。

 

 森崎一門の本業である魔法の研究として、僕らは魔法そのものの技術よりCADの操作技術を研磨することにより、魔法の発動速度を上げようと試みている一族だった。また、副業として始めたボディガード派遣の警備会社が世に認知されるようになり、一般社会でも魔法師社会でも高い評価を得ることとなる。そんな一門の本家長男として生まれたのであれば、魔法師として育てられることは最早既定路線と言えるだろう。僕が初めて魔法を発動させたのは七歳の頃だった。

 

 十歳になって本格的に同じ一門の子供たちと魔法師として訓練を受けることになる。本家長男ということもあり周りからの期待を一身に背負う立場だったけど、厳しい訓練の中でも自分なりに精一杯それに応えたつもりだ。

 だが、閉鎖されたコミュニティの中でかかり続けるストレスというものは人を変えていく。それも才能で大きく左右される魔法が、人を変えていくのには充分な環境がそこには揃っていた。この数年で「魔法師となる人間は生まれから定められており、魔法が使えるだけの人間が魔法師を名乗るべきでない」と選民思考を僕は強めていくことになった。

 

 

 中学生になり僕は、魔法大学付属高校への推薦を狙い近くにある魔法師育成施設の置かれた中学へと進学する。適性検査から特別カリキュラムを受ける資格を得たのは同世代で5人だけで、うち一人は転校したため駿を含めた4人で残りの学園生活を送ることになった。

 本家で既に訓練を受けている自分こそが、選ばれたこの四人の中心となり彼らを導かねば。そんな身勝手な思い上がりが理由で僕は彼らに近づいた。その中にあいつがいた。

 

「はじめまして、僕は森崎 駿。その名の通り、森崎一門本家の出身だ」

「……」

 

 出会って第一声にこれだ。自分がいかに天狗になっていたかが良くわかる。自分の家を引き合いに出し力を誇示しようとするのはまさに恥知らず、無知蒙昧といった言葉がふさわしい。そんな、どうしようもない僕にあいつが興味を持つことなんてありえず。

 

「おい、なんとか言ったらどうなんだ」

「……」

「ッ…!聞いているのか!?」

「うるさい、邪魔」

「な……!?」

 

 初めての体験だった。一切の視線も興味も持たず、自分を音の羅列を口から吐くだけの木偶の某としか思っていない。そんな風だったと後で僕はあいつから聞いた。

 結局この場ではそれ以降、会話というものが一切成立せず僕がいかに優れた魔法師の卵であるかを喚き散らしながら時が過ぎ、そして後の模擬戦でどうしようもないくらい無様に負けた。あいつが僕を見ることなんて一度たりとも無かった。

 

 これが僕、森崎 駿と政狩 刀祢のファーストコンタクトだ。

 

 

 その日の夜、僕は怖くなった、どうしようもなく。

 

「はぁ…っ、うぅ…はぁ…」

 

 ずっと自分が優れていると疑わなかった。他人の上に立っていたのだ。そのための努力を怠ったつもりはなく、期待に応えてきたつもりだった。実際に周りの人間も自分を褒めてくれたのだ。森崎家の長男として相応しいと、そんな言葉と優しい目を向けてくれていた。

 

 だけど、そんなものはあいつの前じゃ何の意味もなかった。ただの一般家庭から出てきて、これまで魔法の何たるかを学ばずにいただろう奴が自分よりも秀でている。

 

(そんな馬鹿な話があるわけない、それじゃあ僕が…)

 

 魔法師の世界は純然たる実力主義、そして実力のほとんどは生まれ持った才能に依存する。辿り着いた結論はただ一つ、自分(森崎 駿)は劣等者であるというだけだ。

 

(駄目だ、それだけは駄目なんだ)

 

 このまま腐っていたら、諦めてしまったなら。自分のこれまでの全てや、自分に関係してくれた人々の期待や労力すらも無駄にしてしまう。それこそが僕の最も恐れていることだった。

 

「だから…勝たなきゃいけない」

 

 恐怖を振り払うには、戦うしかない。戦って、あの怪物(政狩 刀祢)を打ち負かさなけばならない。

 この決意を固めた日から、僕の日常は一変した。持てる余白の時間のほとんどをあいつに勝つために注ぎ込むことになる。

 

 僕はこの時、弱者になった。

 

 

 

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 弱者の挑む理由は時と共に移り変わり、ここにを大成としようとした。

 

 

 状況は刀祢の優位性はゆるぎない。目論見を成功させた駿に若干の勝ちの目が見て取れてなお、純粋な実戦能力の差はそびえたつ。

 

 『スパーク』が放たれた後、再び左腕のCADに指を走らせると同時に刀祢は真っすぐ駆け出した。第一に間合いを詰めること、それができなければ刀祢は勝てない。そんなことは両者ともに百も承知、さらに刀祢にとってこれが容易であることは脳と体に染みついている。

 

 刀祢の狙いは、まず徒手空拳によって相手のCADを手放させることで無力化。これが叶わない場合、範囲魔法による撃墜と切り替わる。初撃でやろうとしたことと何も変わらない。だが状況は異なっている。開始時点と比べて両者の距離は少し離れており、いくら刀祢でも一息で詰められる間合いではなくなっていた。

 

 勝機はここに賭けなければ掴めない、駿の直感は確信している。

 

 

 

「さあ、どうなる」

(とても激しい戦いになってるけど、どうか大怪我だけはしませんように!)

 

 二人の鉄火場を支配する緊張感は、同じ空間にいる傍観者にも伝播する。皆固唾をのんで見守り、摩利や沢木、服部といった好戦的な者は一進一退の攻防に野生の眼光を向けてすらいる。それ以外といった真由美達は、ただこの模擬戦が平和に終えることを願っている。彼らにも模擬戦が佳境に入ったことが察せられた。

 

 

 

 刀祢の体が弓矢のように加速する。だが、そこに番えるような前準備は一切ない。引き絞る必要も狙いを定める必要もない。零から百へとただ切り替えるだけだ。その異常さを正確に理解できるものは、この場には三人だけ。一人は武道を歩む者として、一人は特異な出自と目を持つものとして、そして一人は何度も目の当たりにした経験によって。

 

(これまでにないほど冴えている、ベストコンディションだ)

 

 駿は自身の一切を疑っていない。実力も作戦も、それを実行する覚悟もだ。これまでトレースし続けていた刀祢の動きと現実との誤差を修正し、作戦に変更はないと結論付ける。自分の目が間違っていなかったという証明は、駿に活路は開けたという希望を与える。ただし妥協と油断は断じて許していない。程よきリラックス、最大の緊張の二つ合わせこそが、駿を一つ上の領域まで押し上げていた。

 

 駿の作戦は、簡単に言えばブラフを用いての一発勝負。

 

 まずは初戦を新しく用意した携帯端末形態CADの魔法でやり過ごし、次の攻撃を先の魔法で印象付けたCADを囮にする。蹴り飛ばすか、はたき落とすか、どちらにせよそこに次の行動までのタイムラグが発生するのは間違いないない。それがこれまでの戦闘記録から導き出した結論だ。

 そこに腰のホルスターに収められている最も使い慣れた拳銃携帯の特化型CADを使い、最速で単一系の振動魔法を叩き込む。状況により細々としたところは変わるだろうが大筋はこの通りに進むだろう。

 

 だが、囮にするにはただ目の前にかざすだけでは足りない。魔法式展開の兆候を見せつけて、考える暇を与えないことが重要なのだ。腰の拳銃型には意識を向けさせないよう半身だけ向かい合う体勢も忘れない。

 

 

 問題なし(オールクリア)、全ての準備は整った。

 

(さあ、ここからだぞ政狩!)

 

 

 

 自身の周りからサイオン光が漏れ出す。

 魔法の兆候を見ても、刀祢の動きは変わらない。

 ただ最速で、最短で、真っすぐに駆けてゆく。

 

 

 駿の手は既に勝利の鍵(拳銃形態CAD)に掛けられている。正面から見えないように少しかがみながら、来るべき衝撃に備える。一度相手に攻撃させてからのカウンターを狙う以上、多少のダメージは覚悟の上。だが『そのせいで動けませんでした』などと、下らないミスをしたら全て台無しだ。

 反応と受け身と、少しの根性で耐えきるしかない。

 

 

 急激に彼我の距離が縮んでいく。

 刀祢の姿勢に一切の変わりはない。

 間合いまで、あと一歩。

 

 

 半身の体勢を取り、血走った眼を更に凝らす。刀祢の一挙手一等足を見逃すつもりはなかった。今の駿にとって一秒は五秒だ。極限の集中と緊張によって神経が体幹時間を延長させる。それだけでなく、この瞬間の駿の身体は、ミリセコンドのラグすら生まないだろう。

 

 駿の研ぎ澄まされた感覚が刀祢の瞳を捉えた。焦点を合わさず、まるで俯瞰しているかのよう。駿は標的であると同時に、その瞳が眺める風景の一部に過ぎないのだろうか。

 

 (そんなこと、認めてたまるか…!)

 

 変わらない、鈍らない。やるべきことも決まりきっている。

 時が来れば、抜き、構え、引くだけだ!

 

 

 刀祢が最後の一歩をゆっくりと踏み出す。

 この足がついた時、間合いは完全に刀祢のものだ。

 刀祢の着地点が蹴りの間合いだと直感する。

 端末形CADを握る右手をわずかに緩め、本命を握る左手に力を込めた。

 

 

 

 そして、刀祢は目的CADを蹴り上げ──ようともせずに、そのまま駿の隣を過ぎ去っていく。

 

 

 

「……は?」

 

 刀祢は去り際に駿の足を払い、成す術なく駿の体勢は膝から勢いよく前へ墜ちていく。

 

 刀祢が狙ったのはCAD奪取による無力化でもなく、駿の魔法の徹底回避でもなく

 これまで頑なにしてこなかった駿自身への攻撃を刀祢は行使したのだ。

 

 

 駿の予想を全て裏切り、刀祢は崩れ去る躰を横目に駆け抜けていった。

 

 

 

 

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()()()()()()

 

 あと一歩で刀祢の間合い。CADを狙って蹴り上げるこれまで通りの戦術を展開しようとした。

 

 そのとき、脳裏に響く一抹の予感。

 爺やや父さんといった枠を超えた傑物。彼らと渡り合うために、そして九重八雲との激闘を経て更に研ぎ澄まされた直感がわずかに囁いた。

 

 このまま進んだらヤバいのでは、と。

 

 刀祢が味って来た直感の中では最も弱く、精々火の粉が飛んでくるかもしれない程度の小さい物だった。 魔法の準備中とはいえ、選択肢は未だに残っている。このまま突き進んだとしても対応を変えること程度は出来るだろう。

 さらに言えば、もしこれが九重八雲との戦いであるのならば、択を押し付けた場合の利が多いのなら、気に留めながらも無視できる。たったそれほどの、ちっぽけな第六感。

 

(───奴自身を崩す、軽いものは解禁だ)

 

 刀祢は選択肢を切り替える。

 

(初めてだ、お前から感じるのは)

 

 これまでの模擬戦の中ではなかった、微弱ながらも自身の明確な危機の予感。刀祢の中にもたらした感情は少しの心地よさだ。初めて戦った時からの駿の成長に自身が関われたのだと、これがかつての人生で己の技を伝えた弟子に見出したものと同じ喜びと知る。

 

 そして『成長したならば、自身も難易度(ギア)を上げなければ』と思うのも、以前と全く同じ道理なのだった。

 

 

 

 

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(いや、違うだろ!?)

 

 友人の勝手な胸中も知らない駿は、思考は限界まで回転しながらも混乱の極致にいた。

 

(そこはそのままCAD蹴とばしてくるんじゃないのか!?これまでのお前はそうだった!───ッ、てか不味い体勢が崩れる!けどどうする!?こんなのじゃ次の攻撃に対応できない!あいつの魔法式展開までのインターバルは十分すぎる。前に受け身を取っている暇に、間違いなくさっきのアレをぶち込まれる!なら、今反撃できないと確実に詰む!?)

 

 策が脳内で巡り、行き詰まり、再び別の策をめぐらせる。結果、試行(どうする)失敗(どうする)試行(どうする)失敗(どうする!?)

 結論は出ないまま、最初の疑問点へと回帰する。

 

(こんなの初めてじゃないか、今回に限ってやり方を変えてきたのは何故だ!?)

 

 本来考えるべきは状況の打開策だというのに、駿は現実逃避のように原因を追い求めた。

 意味のない探求は回想へと繋がっていく。

 中学での模擬戦の、他魔法に限らない勝負の数々。刀祢と過ごした時間を自由落下の速度で遡っていった。

 答えの見つからぬまま意識の底へ墜落する。

 墜ちる瞼、回転を止める思考、凍えていく意思。

 そこに、最も新しい記憶が駿の瞳に霞んで移る。

 

 

『やろう、今のようなみっともない真似はしない』 

『…負けっぱなしは我慢ならない。そして諦めるっていうのは、僕が一番嫌いなことだ』

 

 

「…グぅッ!」

 

 瞬間、吠えた。

 靄のかかった頭を振りかぶり、現実に目を見開く。

 体は傾き、地を這う直前であったが、再び心に炎が灯る。

 そしてようやく導き出した、答えと打開策。今を覆すにはこれしかないと腹をくくる。

 

(何故か?決まっている!あいつが全力でぶつかってきているからだ。つまり、()()()()()()()()()と認めたからだ!!)

 

 ああ、今のは僕がみっともなかった。まだやれることはあるかもしれないのに。

 そうだ。諦めるなんて、僕は大っっ嫌いなんだ!!!

 

 

 崩壊する体を、意思の力のみで踏ん張らせようとする。

 崩れ落ちる未来は変わらなくとも、体の向きを変えることくらいは出来るだろう。

 だが、それでは拳銃形態CADをホルスターから抜き放ち、狙いをつけることは出来ない。地面と衝突した際の振動が邪魔をしてくるだろう。もう一つの慣れていないCADではそもそも間に合わない。

 

 それでも()()ならば、刀祢を視界に入れることが出来たらチャンスはある。

 

 左手は既にホルスターに収まったCADにかけられている。必要なのは魔法の選出と起動式の展開。だがそれだけでは足りない、起動式を無理やり弄る必要がある。

 今から行うのはいつも通りの拳銃形態特化型に頼らない、そんな高等技術なのだ。

 さらに言えば、こんな不安定な体勢と落ちた衝撃を乗り越えてやり遂げなければならない。昨日の駿自身が聞いたら、馬鹿なことを罵倒する荒業を。

 

(だけどやる!ずっと練習してきた()()を!ぶっつけ本番!無理だったら、いっそ死んでしまえ僕!!)

 

 魔法師としての思考を最適化、魔法演算領域下での活性化を開始させる。

 

 駿の真価が試される時が来ていた。

 

 

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 魔法選択 『エア・ブリット』を指定。

 起動式の代入数値を変更し入力

 CADに搭載された照準補助システムを無視

 展開地点は銃口から術者の眉間に固定

 出力を最大から適当値に自動変更

 

「がぁッ」

 

 背部に衝撃を確に───知るかそんなの

 

 トリガー オン

 

 起動式展開

 

 想子 魔法演算領域をt…Zt…t───通過を確認 

 

 魔法式展開準備完了 『ドロウレス』成功

 

 標的を視界で確認 標的の魔法式展開まで残り僅か

 魔法発射体勢 ()()()()()

 照準確認 対象 標的腕部CAD

 角度調整 誤差修正 距離 思考対象から除外

 座標固定 完了 射撃──今!

 

 『エア・ブリット』 射出

 

 

 

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 駿の視界の先、刀祢は足を止めてCADを装備した手を前にかざしている。

 駿が見出したチャンス。それは刀祢の魔法使用の条件の一つ。駿は刀祢が実戦下での魔法の使用を苦手としていることを正確に理解していた。そんな刀祢に架せられた制約の中に、魔法式展開の際には他行動がとれなくなるというものが存在していたのだ。

 魔法が発動できればいいという普通の学生同士の模擬戦ならばある程度までは許容できるだろうが、刀祢はその枠には収まれない。

 機動力を売りとしている刀祢にとってこの条件は致命的であった。ならばこそ、刀祢は必ず魔法を発動する前に生身での行動を行っていたのだ。

 その猛攻が過ぎ去った後、確実に足が止まる瞬間こそ駿にとって最後の勝機であった。

 

(今回はこんなところかな)

 

 床に叩きつけられる駿、魔法式が展開されたことを確認した刀祢は、この模擬戦における勝利を確信する。

 そう、確信してしまったのだ。

 戦いとは裏切られるもの、その常を刀祢は失念してしまった。代を支払うのは直後の事だった。

 

 跳ね上がる躰を無理に傾け、振り返った駿。その眼光にサイオンの光が差した瞬間、刀祢を先のもの以上の直感が襲ったのだ。ゾクリッと、体が小さく揺れるのを感じた。

 

(まずッ…!)

 

 圧縮された空気弾が、文字通りの音速で射出される。刀祢に反応は出来ているが、対応はどうしようもなく遅れてしまっている。

 駿の狙いは正確だった。一切のブレ無く、吸い込まれるように刀祢へ直進する魔弾。

 直撃は確実だった。弾かれる右腕、崩れる体勢。

 多重展開された刀祢の魔法式は無慈悲にも上を向き、術者の意も間に合わずに放たれる。

 

 制御を失った飲み込むもの全てを焼く雷の波は、先へ先へと伸びていき光の大樹を形作る。最後に部屋の中を閃光で埋め尽くし、雷は霧散していくのだった。

 

 

 

 

 

 『ドロウレス』

 

 拳銃型CADをホルスターに入れたまま特化型CADの照準補助システムなどの補助機能を使わず、CADで魔法を発動する高等技術。

 

 この技術の優れた点は、虚を突きやすいということだ。タイミングを悟らせない、銃口を相手に向ける必要がないなどCADの形態を理解している者ほど術中に嵌ることになる。

 逆に難点は、この技術の難易度の高さだ。特化型CADの補助機能一切に頼らず拳銃形態という特性を全て殺して魔法を発動するのは、普段それに使い慣れているほど困難になる。もちろん、そのせいで発生速度や干渉規模が落ちてしまっては元の子もない。

 駿は刀祢への対策として、約半年ほど前からこの『ドロウレス』を習得しようと特訓を続けていたが、成功させたのは今回が初めてだった。

 

 

(ほんっとに土壇場だったけど、人間やればできるもんだな)

 

 ここぞという今で成せた自分を褒めてやりたい気分だったが、そんなことは後でいいと頭の片隅に余韻を追いやる。

 

(くっ、頭が響く。演算領域に負荷をかけすぎたか?)

 

 弾ける刀祢の魔法に目を焼きながら、駿は立ち上がろうと体に力を籠めた。

 刀祢のCADを弾き飛ばしたことは確認したが未だに勝負の終わりを告げる声は聞こえない。つまり、これからは魔法という()を外した刀祢を相手にしなければならないということだ。

 

 よろけながらも立ち上がり、今度こそホルスターから愛用の拳銃形態CADを抜き放って構えようとする。

 

 

 

 ───!

 

 風を切る音が聞こえた。

 

「ッ!!」

 

 直感の信じるまま、駿は体を全力で横にひねる。

 雷電が霧散し開けた視界の数寸先、刀祢の腕が駿を捉えようと延びていた。

 

 そう、決着がついていないのなら刀祢が躊躇う理由など存在しない。

 魔法が不発だったことを認め、吹き飛ばされたCADとお互いの位置関係、駿の状態を確認し最適解を導き出した刀祢は、迷わず自身の魔法の余波を避けながら駿へと接近したのだ。

 

(クソ!そりゃお前ならそうだけど、もう少し休憩時間をくれてもいいだろう!)

 

 心の底から悪態をつきながらも、駿の対応は正確だった。すぐに距離をとるため後ろに飛びながらCADの銃口を刀祢に向けようとする。

 

 だが、忘れてはいけない、そもそもの刀祢と戦うための条件を。

 

 

 一、刀祢に近付かれてはならない

 

 

 その条件が破られた以上、今の駿に抗う術など初めから存在しないのだ。故にここからの展開は必定、既に定め得られた結末をなぞるだけ。

 

 銃口が狙いを定め引き金を引くより早く、刀祢は早く間合いを詰める。

 流れるように体を滑らせ、撫でるような仕草で駿のCADを握る腕に手を伸ばす。

 触れられたと駿が知覚した瞬間、視点の上下左右前後が全てひっくり返る。

 一瞬の浮遊感の後、先に感じた以上の衝撃が駿の背中を襲う。

 初めて味わう神速の柔撃に駿は、何もわからぬまま投げられたのだ。

 

 およそ2秒にも満たない交錯。刀祢は一切の抵抗を許さずに駿の体を地に墜とした。己の理解できない展開に身体が追いつけず、CADも手放してしまっている。

 

 勝敗は誰の目から見ても明らかだった。

 

 「勝者、政狩刀祢!」

 

 審判である摩利の声が演習室の中でこだまする。その後、少ないながらも力強い拍手が、刀祢と駿の健闘を称えたのであった。

 

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

 

 

「負け、か……」

 

 僕は体を投げだし、見知らぬ天井を仰ぐしかなかった。

 

 間違いなく、これまでで一番の出来だった。

 初撃をやり過ごすことなんて数えるほどしかなかったし、そもそもあいつにまともな攻撃を入れられたのが初めてのことだった。

 入念に計画を練って、沢山訓練して、全力を超えて挑んで、ようやくつかんだ一撃だった。

 

 

 一撃しか、与えらえなかったのだ。

 

 

 一人にさせないとか、あいつはライバルだとか意気込んでいながら、たったそれだけのことしかできなかった。しかも後半に至っては勝負にすらなっていない。昔から変わらない、ただの案山子も同然だ。

 

 僕と政狩の間には、見上げることすらできないほどの壁があるのだ。

 

「遠いなぁ」

 

 そうやって呟くこと程度のしかできない。あぁ、なんて僕は、ちっぽけなんだろう。

 

「おい」

「っ!」

 

 不意に声をかけられた。そこでようやく意識が現実に戻ってくる。後ろを見れば、観戦していた先輩方や達也たちが俺たちに拍手を向けてくれている。自分たちを称えてくれていることがありありと感じられた。

 

 正直、止めてほしい。自分はそんなものを向けてもらえるほどに何かできたわけじゃないのに。

 

「森崎」

「え──あ…な、なんだ政狩」

 

 思わぬ相手からの呼びかけに少し遅れて返事をしたが下をむいてしまう。今、あいつの顔を見られる気分ではなかったのだ。

 

「あれってなに」

「あれ…?ああ、『ドロウレス』か。その名の通り、CADを抜かずに魔法を使う術だ」

「前からつかえたの?」

「いや、成功したのはあれが初めてだ」

「そっか」

「それがどうかしたのか」

「あぁ…うん」

 

(なんだ、政狩にしては煮え切らないな)

 

 いつも口数少なく、言いたいことだけを言って、こっちのことは知らないと相槌も少ない政狩が、何か言いあぐねているようだ。

 

(というか、言葉にすると思ったよりもひどいな。僕はこんな奴に本当に友情を感じていたのか…?もしかし、向こうもこっちを友人だとすら思っていないのではないだろうか。これまでのはずっと独り相撲をしていただけなのか…?)

 

 湧き上がってくる嫌な不安に頭を抱えたくなる。主に自分の心身両方のどうしようもなさに。

 

「あれだ、森崎」

 

 自分のあれこれも知らぬうちに、件のひどい奴は言いたいことをまとめたそうだ。

 

「なんだよ、僕が情けないと言うのか?そんなこと自分自身が一番よく解って──」

 

 

「なんで?すごいじゃん、出来るようになったんだから。あと、色々考えてたのも」

「──え」

 

 呆気にとられた。僕の知る政狩 刀祢という人間の口から出た言葉だと思えなかった。模擬戦でも止めなかった思考が、ここにきて完全にフリーズした。だって、気分じゃないのに、政狩の方を向いてしまったんだから。

 

「躱したけど、突っ込んでたら何かあったんでしょ。初撃の対応もあらかじめ決めてた動きだっただろうし。そこまで前もって考えたことは俺はない。それに、今回はじめてできたってのは、これまでの鍛錬の成果だから情けないわけ…」

 

 そこで、政狩は口を一度閉じる。こいつ自身、饒舌になっていることが不思議なようだ。首の後ろに手を当てるのは、政狩がばつの悪い時によくやる癖だった。

 

「とにかく、あれだ」

 

 数巡して意を決したように改まった政狩は、()()()()()()()()()()()()()言った。

 

 

「またやろう。楽しかった、さっきの」

 

 

「─────」

 

 

 なんだ。結局、独り相撲だったんじゃないか。くだらないことで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しい。

 そうか。またやろう、か。

 なら、やってやらないといけないな。

 

「おい」

「あ?」

「手、貸してくれ」

「…はい」

「ああ、ありがとう。よい、しょっと…」

 

 政狩の手を借りて立ち上がる。不安なんてものはもう何処かへさっぱり消え失せた。向こうが再戦を希望しているのだから、こっちも答えてやらなくちゃいけない。

 

「当然だ。だが…勝つのは僕だぞ、政狩。」

 

 だから自信満々に言ってみよう。

 不敵な笑みなんかも貼り付けて、高らかに受けて立とうじゃないか。

 握った手に力を込めて、堂々と宣言する。

 

 なんたって、僕は諦めるのが大嫌いなのだ。

 

「言ってろ、俺が勝つ」

 

 握り返しながらの其のセリフには、どこか暖かさを感じさせた。

 

 

 

 

 

 




 長え

 たった一度の戦闘でどんだけかかるんだよ、馬鹿じゃねえの(自己嫌悪)


 こんな稚拙な文をずっと楽しみにしてくれた人がいるというだけで、本当にありがたく思います。読んでいただきありがとうございました。


 さあ 皆さんも やろう 月姫


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地雷が足元に埋まっていると気づかずに過ごす馬鹿はいずこ?


 どうも皆さんこんにちは益荒男です。土下座はデフォルトでお願いしますorz

 二日連続投稿とか久しぶりすぎて自分でビビってます。てか初めてじゃないか?なんか書けちゃった…
 不定期にもほどがある。一年待たして次回は翌日とかバグだろ。


 今回は皆さんが大好きなあの子がザワールド展開です


 

 戦いの風が去り、演習室の中の緊張感は既に解かれていた。ひとしきりの拍手が送られた後、彼らは小さく息を漏らす。

 

「はあ、無事に終えてよかった。それにしても、いい物を見せてもらったわねえ…!お姉さん最後少し感動しっちゃったわ!」

「政狩君の魔法も大したものですが。森崎君の最後に見せた魔法技能、あれは相当な難易度を誇る技術のはずです。一年であそこまでの研鑽を誇るとは」

「は、はい。最初のCADの操作技術も高度なものでした…」

 

「両者ともに実戦経験の豊富さを伺える判断能力だったな。上級生顔負けだぞ」

「魔法技能の高さでは、政狩 刀祢より森崎 駿のほうが優れているだろう。だが、最後のアレは一体どう理屈で彼は倒れたんだ?」

「オレににはわからなかったな。委員長、あなたにはどう映りましたか?」

「森崎が攻撃を回避してすぐ後ろに飛び、政狩はそれに追従したのはわかる。だが、投げる瞬間は私でも見えなかったな」

 

 二人の模擬戦を観戦していた面々は、思い思いの感想をこぼしている。

 

 

 その中で達也は一人、静かに()()()()()()()()()()。視界を直接イデアにアクセスし、周囲の事象をエイドスの変化によって観測する。この『精霊の目』は達也が持つ数少ない能力の一つであると同時に、世界中を見渡しても類例の少ない希少な能力である。

 

 先の模擬戦の内容を正確に理解している達也は刀祢の能力に疑念を抱いていた。

 

(突出した身体能力は明らかに同年代の域を超えている、あのエリカでも喰らいつけるかどうか。師匠であっても多少の傷は免れないだろう。いや、あれが全力だという確証もない。更なる実力を隠しているとみるべきか。

 俺の目から見ても相当な実力者である駿が魔法を含め手も足も出なかった。恐らく、駿の見せた歩法のルーツも彼にあるのだろうな)

 

 自身を棚上げしながらも、刀祢の能力の分析をつづけていく。

 

(問題は無駄が多すぎる魔法だ。演算領域に同じ魔法を多重展開している。しかも同時にではなく連続してだ。

 ループキャストのようにあらかじめ連続発動を目的して設定された起動式ではなく、通常の起動式を三回ほど数値を変えて入力している。より多くの範囲をカバーできるように微調整して順次完成させた魔法式を一斉に展開していた。

 本来ならエラーを起こして魔法式が展開する前に消失するものを、彼は何らかの方法で無理やり押し通しているのか。)

 

 達也は、刀祢の使用した『スパーク』の原理を正確に見抜いていた。それゆえに解らないことが多いのだ。

 なぜならば、魔法そのものに無駄が多すぎる。事実刀祢はエラーを起こすはずの起動式の混合を、魔法演算領域の質と鍛え抜かれた尋常ではない集中力を以てごり押ししているのだ。

 例えるなら、優秀なハードとプログラマーが揃っているのにも関わららず、規模だけが大きい効率最悪のソフトを無理やりその高い性能で生かしているだけ。

 

 そんな、魔法技師志望である達也から見れば暴挙ともとれる魔法を政狩 刀祢は使用していた。一言で言って宝の持ち腐れである。

 

 

(才能が与えられた上で、この学校に一科生でいるにもかかわらず、一体なぜ…。いや、止めよう)

 

 達也は自身の中に黒い感情がたまっていることを自覚し、一度頭を冷やす。どうやら昔の深雪と彼の件が先入観として働いてしまい、政狩 刀祢の印象を悪い方向に持って行きがちのようだ。

 

(いけないな、こうも批判的ではいらぬ邪推までしまう。これはあくまで深雪と彼の問題だ。俺が口を出すべきではないのだろう)

 

 深雪が絡むとつい熱くなってしまう。達也の()()を鑑みれば仕方のないことかもしれないが、それでも妹の為にならないのならば達也がこらえるべきだ。頭の中でそう結論付け、達也は最愛の妹である深雪への方を伺う。

 

 

 だが、声をかけることが出来なかった。なぜか、深雪が見ていたからだ

 先の激闘を繰り広げた彼らを、これまでずっとそばにいた達也が一度も見たことがない顔で。

 達也に、感情というものはよく理解することは出来ない、だが、今の深雪の表情は、

 怒り、悲しみ、苦しみ、そのような負の感情を抱いていることが痛いほど解ってしまう

 

 いや、それよりも更に大きな感情が深雪を支配している

 

(それは、嫉妬なのか……?深雪)

 

 

 

 

-----------

 

 

 

 

(何故、わたしではないのですか)

 

 こんな感情は間違っている、ただの独りよがりだ。

 だって彼らは何も悪くない。

 彼らは中学の頃からずっと競い合っていた、素晴らしい友人というだけだ。

 

 そう、彼は逃げなかったのだろう。

 わたしとは違って、あの人に自らの意思で立ち向かっていったのだ。

 

(どうして自ら手を伸ばすのです)

 

 わたしは逃げた、あの人が一度恐ろしくなって。

 嫌われてしまったかもしれないという恐怖から逃げたのだ。

 

(どうして笑っているのです)

 

 間違っているのは、悪いのはわたしの方

 そうだ、とっくに解っているはずだ。

 

 

 だから

 

(どうして、あなたがその人の隣にいるのですか…!!)

 

 これは醜いだけの、ただの嫉妬なのだ。

 

 

 

 

「深雪」

「───え」

 

 肩に感じた温もりから、ようやく意識が浮上する。声のするほうへ顔を向けると、敬愛する兄が心配の色を浮かべた瞳をわたしに向けていた。

 

「お、お兄様……?」

「深雪、そんな顔をしないでくれ。せっかくのお前の美しさを損ねてしまう」

 

 呼びかけに答えると、お兄様はやさしく微笑みながら私の手を取り、自らの手を重ねてわたしを温めようとする。

 …ああ、そうか。わたしは自分で思っているより、彼のことを受け入れきれていないようだ。

 

 兄から励ましの言葉を受け取ったというのに、わたしは俯くことしかできなかった。

 だって、自分はこんなにも浅ましい女なのだと痛感してしまったから。逃ることをえらんだのはわたし自身なのに、本当に欲しかったものを間近に見せつけられた瞬間、その相手に嫉妬するなんて。

 

 もう一度、彼らのいる方向へ顔を向ける。今は風紀委員会の方たちと話し合いを行っているようだ。二人を連れて彼らがわたしたちと合流しようとする。主に話を聞いているのは森崎君で、あの人はその後ろでそっぽを向いていた。

 あの人らしいと、思わず綻びそうになる。昔と変わらないものもあるのだと判ると、自分が知っているあの人なのだと少し安心する。

 

 

 ふと、目が合った。

 

 

 思い出に浸るように一度閉じた目を開いたら、彼はわたしを真っすぐに見ていた。

 

 森崎に君に向けていた暖かさは感じられない、鉄のように冷たい、()()()()()()()()

 

 

「───ッ!」

 

 フラッシュバックしたのは、あの日の屋上。

 

 騒ぐ私が逆鱗に触れ、激高し立ち上がる彼、その怒りに怯え後ずさる。

 その私に彼はゆっくりと近付き

 

 その頸──────

 

 

 もう、わたしはわたしではなかった。今すぐにここから逃げ出したい。いや、逃げなければ。

 

 そうでなきゃ、あの凶刃が、最も冷たく甘美な『死』が、私の首を刎ねに来る

 

 

「ふう。それじゃこんなところで、そろそろ生徒会室に戻りましょうか。と言ってももう鍵をかけてから解散するだけなんだけども。今日の分の説明はもう済んでいるので何ならもうここで解散しても構いませんが、達也君や司波さんたちはどうし……司波さん?」

 

「───え…は、はい」

 

 七草会長の言葉が、再びわたしの意識を現実へ引き戻す。

 おかげで少しの平静を取り戻すことができた。いや、だが今のわたしが正常なのかと問われれば、うなずける勇気は無かった。

 未だに足は震えている。目が乾き、喉がひりつく。

 理性も働いているよう見えるだけで、

 もう一秒でも早くこの場所からいなくなりたかった。

 あの人の目の前から、消えていなくなりたかった。

 

「……申し訳ございません。わたしはここで失礼させていただこうと思います。今日はご教授いただき、ありがとうございました」

「ええ、それはいいけれど…。大丈夫司波さん?汗がすごいわよ」

「いいえ、お気遣いなく。それでは、さようなら」

 

 手短に挨拶を済ませた後、わたしは脱兎のごとく外へと駆け出す。

 

「深雪っ!七草会長、本日はありがとうございました。俺もここで失礼します」

「え、ええ。また明日ね達也君」

 

 すれ違いざまに顔を上げると、呆気にとられた森崎君が映る。

 今、彼と話せるだけの余裕はなかった。

 わたしにできるのは、せめて彼にこの濁りきった黒い衝動をぶつけないよう、目を伏せて走り去ることだけだった。

 

 

「達也君たち、急にどうしたのかしら」

「会長のおふざけや腹黒さに、しびれを切らしたんじゃないですか」

「あ、リンちゃんひどいわ!私今日はそんなに遊んでないわよ」

 

「でも、司波さんってあの時、森崎君と政狩君のことを見ていたような…」

 

 

 

 

「深雪!待つんだ深雪!」

 

 後から追いかけてきた兄に手を掴まれて、ようやく走る足を止める。

 

「はあっ、はあっ、はあっ…」

 

 演習場からそれなりに離れた中庭の噴水の近く。既にほとんどの生徒は帰宅した後なのか、周りに人の気配が感じられない。

 がむしゃらに、ただ走っていた。あの場所から少しでも遠ざかろうと。敬愛する兄のことを微塵たりとも気に掛けたりせずに、自分の弱さが泣き叫ぶまま逃げ出したのだ。

 

「深雪…」

「お兄様…」

 

 兄の方へと向き直り、掴まれた手を弱い力で握り返して、そのまま膝から崩れ落ちた。

 零れ落ちる涙が止まらない。嗚咽を漏らしながら罪人の懺悔をわたしは吐き出す。

 

「わたし、わたしは…なんて、浅ましいのでしょう。お兄様に相応しい妹であろうと誓っておきながら、お兄様を置いて彼のもとから逃げ出す体たらくで…。

 あの人と目が合って、あの日のことを思い出して。謝らなきゃって思っていたのに、そんなことは頭の中から消え失せて…。挙句の果てには、あの人と親し気な森崎君に、あまりにも醜い嫉妬をぶつけようと…」

「深雪、もういい。もういいんだ」

 

 そっと兄は膝を折り、わたしの体をやさしく抱きとめる。あやすように背中に手を当て、ゆっくりとあやすように言葉を紡いだ。

 

「申し訳ありません…わたしは、お兄様の妹に、相応しくありません…」

「謝る必要なんてないよ。深雪は他の誰でもない、お前だけしかいない俺の自慢の妹だ。深雪がずっと頑張ってきたのは俺が一番知っている。

 失敗くらい誰にだってあるんだよ。その後悔の気持ちがあるならば、次はきっとうまくいくさ」

 

 兄にこんな心配を、言葉をかけさせる自分が情けなくてたまらない。この命は兄に救ってもらった命なのに、兄に迷惑をかけるなんてあってはならないことなのに。

 だというのに、兄の慰めの言葉がうれしくてうれしくてたまらない。今この時だけは、情けない自分に目を瞑って、この暖かさに甘えて居たかった。

 

 

 

 どれほどの時間こうしていただろう。

 日が沈んでいなのならそこまで時間は立っていないはずだ。永遠のように感じていたが、そうでないのならこれ以上、兄の時間をわたしの我儘で奪ってはならない。

 

「う…うぅ…」

「さあ、今日はもう疲れただろう、家に帰ろうか深雪。今日の夕食は俺が準備しよう。深雪は一度暖かい風呂に入って待っていてくれ」

 

 兄の胸の中でひとしきり泣いた後、膝に力を込めて立ち上がる。最後までわたしの体を支えてくれていた優しい手に感謝して、拙いながらも笑顔で顔をあげる。

 

「ン…いいえ、わたしはもう大丈夫です。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

「迷惑だなんて、全く思っていないよ。大丈夫だ、例え世界が深雪の敵に回ったとしても、俺だけは絶対にずっと深雪だけの味方だ」

「…はい、ありがとうございます、お兄様」

「さあ、いこうか」

 

 手を取り合ったまま、わたしたちは帰路に就く。兄と一緒に新しい学校生活が始まったというのに、ずっと情けないままではいられないのだ。

 

 まだまだ不安は残っている、黒い感情も消え去ってはいない。

 それでも今度こそは、あの人とちゃんと話せることを切に願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

 

 

 

 

「摩利ー!話はちゃんとついた?」

「ああ!もうすぐ終わらせる。後少しだけまってくれ!」

 

 なんだ、司波のやつ俺を見るなり飛んでもなく怯えてそのまま走り去っていったんだが。あれか、俺の事なんてもう二度と関わりたくありませんってか?てか?

 それはまあしょうがないというか至極当然のことでしょうけども、義理というか道理というか、そういうものを通さないと俺の中にしこりが残るっていうか前に進めないというか後(主に母さん)が怖いていうか。

 なのでほんの少しだけ我慢していただいて。ほんと、マジで、痛みは一瞬だ(KIDU)。いや手は上げないし、ただ謝罪するだけだよ。

 あんな感じだと、まーだ時間かかりそうだな。自分で蒔いた種とはいえ、もどかしいったらありゃしない。本当に今後の俺には自制というものが求められる。じゃないと更なる面倒が巻き起こると勘が告げている。売られた喧嘩は叩いて買ってやるけどな。

 

 ていうか、さっきの模擬戦はマジで危なかった。勝ち確慢心は敗北の前兆。慢心王がその名と身を以て示してくれているというのに、俺はすっかり油断しきっていた。

 もしあの『ドロウレス』で放たれた空気弾が威力を上げられていた場合、俺は敗北していたかもしれない。ダメージ的に大したものではないだろうが、CADは手放し、体は吹き飛ばされた状態を審判が戦闘不能だと判断すれば、その時点で俺の敗北だ。

 もっと言えば俺のCADが使い物にならなくなってしまった。まあ中学の頃にかわされた安物だし、よく持った方だろう。余計な出費は増えたがな!(血涙)

 自分にはそれが情けない。もっと危なげなく勝つ方法はいくらでもあっただろうに。

 

 

 だがそんなことよりも、森崎の成長がとてもうれしい。

 魔法技能、状況判断、身体能力、どれをとっても前より大きく成長しているが、一番大きな成長はやはり『覚悟』だろう。

 あいつは勝つために自傷をいとわない分の悪い賭けを通す、そのための意思を貫く『覚悟』をこの戦いで見せつけてくれた。

 うん、あの目はいいものだ。貪欲で、ギラついて、前のめりな、覚悟を宿す者だけが見せる光。

 それを宿すのに、自分が関われたことがとても誇らしく思う。これだけ気分が良いのは真打の儀を終えて以来だ。

 

「では、森崎 駿。君を我々風紀委員会の一員として歓迎する」

「は、はい!誠心誠意頑張らせていただきます!」

「おう!よろしく頼むよ森崎君!君が我々の仲間になるのは心強い!」

 

 そうだろうそうだろう!いいことを言うじゃないか。さ、さ…沢渡先輩も。

 どうやら森崎の風紀委員の加入が決まったらしい。見る目があるじゃないか森崎を選ぶなんて。こいつはやる奴だからな、つらい役目だろうときっと最高の仕事をするだろう。

 

「そして、政狩 刀祢君。君の答えも聞いておきたい」

「──ん?」

 

 オレ?あ、そういえば俺も推薦されていたんだった。なんかだいぶ昔のことのように感じてたから、すっかり忘れていた。具体的な期間は口にするのも憚られるが。

 

「君の制圧力はこの学年を…いや、この学校を見渡しても高レベルに位置するだろう。先の模擬戦を見てそれを確信した。

 時間はかかるが広範囲に及ぼす高火力雷撃。それを補う危機察知、及び判断能力。そして何より───君の身体能力に並ぶものは恐らくこの学校にはいない。この私を含めてな」

 

 それはそうだろう、魔術刻印が刻まれたこの体は、これまでの地獄のような鍛錬の成果であると共に、政狩家の誇りそのものだ。1000年近い歴史の集大成であるこの身体を、たった一世紀足らずの技術に負けていたら先祖たちに申し訳が立たない。……それでも司波兄に勝てるかどうかを聞かれたら怪しいところなんだが。やっぱあいつやべーよ一人だけ性能バグってるよ。

 

「名誉職だから成績に反映させることは出来ないが、魔法科高校の風紀委員という肩書は魔法師になる未来で大きな箔になるだろう。メリットは充分にある。個人的にも私はお前に興味があるな。そのあたりを含め、君とは交友を持っておきたいんだよ。

 君に少しでもその気があるのなら、我々と共に来てみないか?」

 

「……」

 

 周りの反応を見るに、ここまでの熱烈な勧誘は初めてなのだろう。そこまで自分を買ってくれていることに悪い気はしない。

 ここにいる全員に視線が俺に集まっていた。自分が風紀委員の参加をうなずくことに期待しているもだろうか。

 

「あー、政狩」

「森崎…?」

 

 一歩前に出た森崎が言葉をかける。淡い期待の眼差しが見てとれた。

 

「僕はお前と一緒にやってみたいと思っている。これまでの僕の成長はお前が大きく関わっているからな。それから、ええと…お前がいると気が引き締まるんだよ」

 

 それきり顔を明後日の方向へ向けてしまうが、今のは森崎なりのお願いらしい。

 正直、うれしい。強くなれたのはお前のおかげだと言われて、どこか舞い上がっている自分がいる。森崎が更なる成長を望むというのなら、手を貸すことに抵抗はもうほとんどないのだ。

 それに、こいつと一緒なら俺も退屈しないだろうという確信がある。

 

「さあ、君の答えを聞かせてくれ」

 

 渡辺先輩が最後通牒のように告げる。

 夕方の演習室の中、俺が出した答えは──────

 

 

 

 

 

 

 

 





 ルート分岐、入ります。

 まあ、どっちかは既に決まっているんですけども。出さなかったルートもいつか…書けるといいなぁ

 やっぱり戦闘描写は大好きですが鬼門でもあると理解しました。
 デカい戦闘があると悟ったときは気を長く待っていただけると嬉しいです…。


 月姫の発売は遂に明日!!!待ってろよアルクェイドーーーー!!!!


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少し素直になってやったらこれだよ(憤慨)

 月姫やって、メルブラやって、生命線聞きながら執筆して、これまでの人生のなかで最も型月に浸かっていると実感している今日この頃、どうも益荒男です。


 最&高の出来栄えでした。「アルクと先輩ルートだけかぁ」なんて愚痴こぼしちゃってマジすいません。もうボリュームがやヴぁい。ついでに新情報と新設定もやヴぁい。これのおかげでリーナ編のプロットが丸々一つ没になりました。ちくせう

 皆さんはもうすでにプレイされましたか?されていましたらお気に入りシーンはどこでしょうか?どんどん教えて下さい。私は全部好きです(迫真)。
 
 その中でも選ぶのなら、アルクルートは「竜虎相打つ」と「好き、好き、大好き!」。シエルルートは「宇宙志貴」と「この、偽善者」でしょうか。二人とも可愛くて仕方がないんや…。

 前置きが長くなりました。今回は短めです、前がけっこう長かったからユルシテ…

 それではどうぞ



 帰宅したころには既に日が落ちかけていたこともあり、今回は九重の寺に寄ることもなく真っすぐ帰宅することにした。

 キャビネットを利用せず、駅前の人ごみに紛れることなく路地裏に入る。細い曲がり道をいくつか抜けることしばらく、すると時代にそぐわないアパートや木製家屋が目立つようになってくる。

 

 俺の住まうアパートは普通に歩くと学校まで一時間近くかかる住宅街にある。

 その地域は世間からは「旧世街」と呼ばれてちょっとした有名どころらしい。引っ越してくるまで俺は全く知らなかったけど。

 なんでもこの町の代表者が大戦以降の都市開発を頑なに拒み続け、一世紀近く前の生活様式を保存してきたのだという。アパートメントやスーパー、見せ物市やコインランドリーまで、22世紀も目の前という現代では既に絶滅したと思われているものが、ここではお目にかかることが出来る。

 要はこの場所だけ平成のままだということだ。別に醜くはない。

 

 ずっと山の中で文明人とは如何に?みたいな生活をしていた自分にとっては、HARといったお手伝いロボが置かれた現代家屋に住むというのはどうも落ち着かない。

 まあ、もともとそんな楽な生活を送らせる気は爺やにもなかったようで。なので俺はこの時代に取り残された旧世街で生きていく運びとなったのだ。

 

 不便に感じることはまずない。商店街は目の前、欲しいものは大抵そこで手に入る。唯一気がかりなのは学校が遠いことぐらいだが、それもほとんど八雲の寺からの登校になるから遠いと感じることもそうそうない。

 刀鍛冶が気軽にできないという俺にとって致命的な点を抜いて、一介の高校生が一人暮らしをするには充分な環境がここには揃っていた。

 

「トーヤ君ってすごいのねえ、ふつう今どきの若い子なんて自分で家事なんてしないわよ」

「そうなんですか」

「それはもう、向こうに住んでいた木崎さんのとこも、引っ越し記念にHARを買ったら『もう家事をする気なんて起きないわ』なんて言ってたし。この町で身一つ、それもその年でこれで十分だなんて」

 

 最早絶滅危惧種ねと、アパートの前でポストの確認をしていたらばったり会った大家の佐々木さんは笑いながらビニール袋を携えている。恐らく地球堂のセールの帰りだろう。

 ちなみに地球堂とは俺も利用する、商店街前のこの町で一番大きいスーパーである。毎週何らかのセールをしており、その時は必ず町中の阿修羅(主婦)たちが集まり関ケ原もかくやという戦場を生み出す。

 

「そんな頑張り屋な刀祢君には…はい、こちらを進呈いたしましょう!」

「……さんま、いいんですか?」

「オバサンつい買い過ぎちゃった♪こっちにもたくさんあるし、新鮮なうちに食べないともったいないでしょ?」

「じゃあ、ありがたく」

 

 この前もそんなことを言っていたが、貰えるものは貰っておく精神は一人暮らしで大切だと学んだ俺は素直に魚を受けとる。今日は塩焼きで決まりだな。

 

 ちなみにここ数日の夕食の主菜は、全てこの偉大なる大家からのいただき物である。

 

 

 

 ありがたい夕食を平らげ、風呂も済ませた俺は、いつもの日課に移った。

 簡素というか生活色をあまり感じさせない部屋の壁に付けられた小さめのふすま。俺の普段着は実家の頃から愛用の着流しであるが、中の服は制服と予備の着替えくらいしか入っていない。それを開き、底の奥の暗がりに手を伸ばす。

 引っ張り出すのは、胸に抱えられるくらいの大きさの立方体。引っ越してきたときに直接持ってきた収納用魔術礼装だ。封印を解除し中から我が愛刀たちを取り出す。

 

 日課とはつまり刀の手入れだ。この礼装の中の歪みは空間しか適用されておらず、経過する時間は礼装内外で変わらない。ならば、きちんとこまめに刀身の油を変えておかないと湿気で錆ができてしまう。

 母さんはスペースの節約しかできず、経年劣化は避けられない欠陥品だとため息をついていたが。少なくとも空間を節約するだけでなく、規定値までの大きさのものを多数持ち運びできる、というだけで十分イカれた性能だと思うのは俺だけだろうか。

 

 ともかく今は、手入れをしていこう。学校にいたころから早く刀に触りたくてたまらなかったのだ。危ない発言なのは解っている。

 まずは爺やから渡された小太刀からだ。鞘に収めたまま両手で支え軽く頭を下げる。刀身を抜き放ち、家から取り寄せた道具を使って、柄と刀身を慣れた手つきで取り外していく。

 この世界で目覚める前からもう何度も繰り返してきた行為だ。前の世界では白鞘は扱っていなかったが、もう十分に経験は詰んでいる。

 

 上等な紙を使って刀身の油をやさしく拭き取り、布で包んだ綿を使い打ち粉を等間隔でまぶしていく。これを何度か繰り返していくと、最後に何にも遮られることのない刀身本来の姿が現れる。

 

(やっぱすげえや爺や。刃文といい反りといい、果たすべき役割に応じた最適の形をしている。機能美って言葉がよく似合うな)

 

 今の自分でこれを再現できるかと考え、すぐに頭を横に振る。

 俺や父さんのようにただ打ちたい形をひたすらに目指すのではなく、望まれるものを最大級の再現をし形にするのが爺やの鍛冶だ。

 あらゆる鍛冶手法に精通し、知りえるものすべてを修めている爺やに打てぬ形の刀はないだろう。そして、彼に鍛えられた刀は一流の傑作の名を欲しいがままにする。

 

 求道者と職人

 

 そもそもの土台が違うので、俺と爺やを比べること自体が間違いなのかもしれない。

 それでも批評するなら……打刀であれば俺も引けを取るつもりはないが、その他の形態を比べれば俺は爺やに校庭三周分くらい劣るだろう。

 

 人に望まれる鍛冶師、その完成形の一つこそ、我らが『政狩 龍馬(鉄人)』その人なのだ。

 

 

「その程度の歳月で、私の人生に並ぼうとする時点で間違っておるのだ戯け」

「おじ様、急にどうしたのかしら?ため息なんかついて」

「気にしない、気にしたら僕たちの負けだよアイナ」

「…?」

 

 

 

 

 

 改めて、刀身に新しい油を塗っていく。この順番で次々と刀の手入れを済ませていき、最後に真打『紫焔』を鞘に納めて今日の分の日課を終える。

 

「──はぁ」

 

 簡単な手入れとは言え、常に気を張っているのはかなり疲労する。さて、この前商店街で見つけた緑茶でも入れて一服するとしよう。

 

「茶葉はええと…」

 

 シンクの下の扉を開けて中を漁る。あれ、一昨日くらいここに片付けたはずなんだが。

 ううん、こう見ると台所周りはものが充実してきたな。調理器具やな調味料に加え、壺に入れられた梅干しやお漬物、味噌と多種多様。小さめの備え付け冷蔵庫の中は食材や出汁でいっぱいだし、かなり生活色が出てきたのではないだろうか。

 まあ、それ以外の場所はほとんど手を付けていないのだが。精々箪笥の中にものを置いてるだけか。後は本棚と机のみである。それでも少し前の自分では想像できないくらい一人暮らしに馴染んできたな。

 

「お、あった」

 

 急須に茶葉とお湯を入れて、ちょうどいいくらいになったら玉露に注ぐ。一口飲んだ後、ちゃぶ台の上に玉露を置く。五臓六腑に染みわたる、ちょうどよい苦みと温もりが心と体の緊張をほぐしてくいった。ベットに背を預け、くつろぎながらほうっと息を吐き、ふと物思いに更けて天井を見つめる。

 

「打ちたい…」

 

気が緩んで、最近の愚痴がつい自然に零れてしまった。

 

 そう、全く足りない。何が足りないかと言われれば、自分という存在を形成するための必須要素が完全に不足している。

 

 俺はこっちに来てから、一度たりとも鍛冶をしていないのだ。

 

 一人暮らしに適応していく、それと比例するように俺の鍛冶欲はどんどん膨らんでいた。最近ほんとに槌を握っておらず、金床の前に腰を下ろしてすらいないのだ。

 

 少し前の俺からすれば考えられない状況だ。仕送りはあれど、余分はない。生きるために動かなければ生きられないという状況になったとき、俺は断腸の思いで刀から少しだけ距離を置くことを決めた。八雲との激闘を経て思うところも多々あったので、しばらくは生活の安定と自己研磨に重きを置いたのだ。

 それからしばらく、既にライフワークは構築され、寺での修業についても充足感を得ている。そろそろこれに支障をきたさない範囲で、限界まで刀鍛冶に打ち込んでもいい頃合いだろう。

 

 だというのに

 

「なんで俺、あんなこと言っちゃったんだろ」

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

「俺は風紀委員には入りません」

 

 熱烈な勧誘に対して、俺の返答は酷く簡素なものだった。

 答えを聞いて、渡辺先輩と森崎、沢木先輩はあらかじめ想像していたのか軽く嘆息するだけで済ましたが、周りのメンツはかなり驚いているようだ。彼らの中では俺の風紀委員入りは既に確定事項として扱われていたらしい。

 当然といえば当然の帰結。

 今の俺の放課後の日課は九重 八雲との修業か、地球堂のセールでの激闘である。鍛冶を好きに行えない以上、自身を鍛えることに傾倒するしかなく、買い物については死活問題だ。普段の放課後を別に回す余裕なんてものは無かった。

 

 政狩 刀祢という人間は基本、自己中心的な人間である。自分で言うのもなんだが、自身の利益にならないものへの関心は極めて薄い。目の前で困っている人がいたとしても自分からは声をかけない。助けを求められても用があれば断るし、面倒だと思えば切り捨てる。気まぐれで助けたら助けたで対価を要求したくはあるし、何も無かったら心の中で悪態をつく。

 もちろん、無関係な奴に害を及ぼすことは良しとしないが、利することを自ら望んでやる気概なんてものは一切ないと言っていい。気に入らないことがあれば文句の一つも言いたくなる。売られた喧嘩は叩いて買う。

 ここまで色々挙げてきたが、ろくでなしと比喩されても全く異論をはさめないのが俺という男なんだろう。

 

 客観的に見ればこんな人間が風紀を取り締まる側にいるのは間違っているし。俺個人としても面倒だし拘束されるし、風紀を守るなんて複雑怪奇な奉仕行為に関心はない。背中がかゆくなってきそうだ。

 

「そうか、本人にその意思がないのなら仕方が──」

「だけど、手伝いならします」

「……は?」

 

 だから、もし風紀委員に入るとしたら、その理由はとても単純かつ個人的。友人の願い事はなるべく聞き入れたいと思う心は、こんな俺にもあったらしい。

 

「えっと、それはどういうことだ?」

「風紀委員に籍を置くことはしませんが、人手が足りない時くらいは呼ばれれば手伝います」

「随分と勝手な物言いだが……いや、能力を目当てに勧誘している身でそれは言えんか」

「放課後をなるべく制限しないようにしてくれれば、俺は基本なんでもいいです。そっちの指示に従います」

「だけど、この条件では君にメリットがないぞ」

「別にいいです」

 

 俺は森崎の「一緒に風紀委員をやりたい」という願いを少しでも叶えるため、そして森崎の成長を近くで師匠面して間近で見たいがために、限定的に風紀委員へ協力することにしたのだ。

 

 俺の返答を聞いてから、先輩たちは困惑した様子で話し合いを始めた。結果、その場はとりあえず『一番近いイベントである部活勧誘週間での活躍を見てから』という形に収まり、改めて今日は解散になったのだ。

 

 

 

-----------

 

 

 

 うん。余裕がないの、俺のせいだなこれ。自分で刀鍛冶に掛ける時間を潰しにいってる、紛うことなき自業自得だバカ野郎。

 まあ、なんでと言いながらも後悔とかは全くないのです。森崎と組めるなら一週間程度の放課後くらい捧げてもいいさ。もし退屈が森崎への義理を上回ったのなら、きっぱり風紀委員との関係を断てばいい。卒業さえできればいいから多少悪目立ちしてもモーマンタイ。後にこじれることもないでしょう。

 

 唯一の懸念点は司波兄だ。今日の模擬戦中にすごい見てきたし、こっちを見る目に敵意が隠しきれてなかったもん。多分、俺と司波の関係のことは既に知っているだろうしなぁ。

 ……なんとかなるか?流石にこんなくだらない昔の事情に、いくら可愛い妹のためとはいえ首を突っ込んでくるだろうか?

 うん、そうだよ。そうに違いない。たぶん、きっと、めいびー。最強無敵のお兄様はこんな些末ごとにはかけらも興味はありません。俺なんて愛妹によって集る羽虫Bあたりに過ぎないでしょう。だから心配なんてありはしないのです。これまでのは全部杞憂。はいこの話おしまい。人これを思考放棄といふなり。いや、いわない。

 

「……疲れてるな」

 

 いい感じに意識がハイになってきている。だが日中イベントが押し寄せてきたせいか、俺の体は休息を求めて抗議をあげていた。眉間を揉んでみるが変わらず睡魔が意識を襲ってくる。

 

「寝るか?いや、そういえば」

 

 母さんからの課題で怪文書めいた研究資料が仕送りと一緒にあったはずだ。確か机の上に置いといたんだっけ?ええと、あった。なになに…

 

「第三次…基盤…衰退、…超能力…技術体系化…ううん、なんじゃこりゃ」

 

 あの人時間があったらいつもこんな面倒く…もとい常人には到底理解できないことを考えているのか。しかもこれ現代魔法のことについても触れてるんじゃないか?そういえば俺が中学の頃、たまに俺の電話帳みたいな魔法関連の教科書みてふむふむうなずいてた様な。

 最近は、図書館に行く機会も増えたってお父さん手紙に書いてたっけ?暇ならまず料理の腕を磨いた方が…おや急に悪寒が。

 

「……俺は好きだよ、母さんの料理」

 

 さもありなん。まあ一応読んでみるが、感想が欲しいと言われてもそもそも読み切れるかが怪しいなコレ。アトラス院の人って話すとき面倒臭がられたりしないのかな?とりま愚痴っていても仕方なし、ゆっくり時間をかけていきますか。

 

 

 結局二十分しない内に飽きて寝てしまい、そのまま読まずにいたことを母アイナからローキックで折檻されるのだが。この日の夜はもうそんな想像もできないくらい、本当に疲れた一日だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 




 刀祢の身の回り(住居)編でした。やだこの主人公、森崎君に甘すぎ…!


 どうでもいいんですけど、この前友達の家でお酒飲んでて思いっきり失敗したんですよね。みんなほんとにいい友達で「気にすんな」と言ってくれましたが、申し訳なさでまた吐きそう…。
 今回の件で自分の限界は知れたので、二度と同じことは起こさないと誓いました。皆さまもどうぞお気を付けください。「酒は飲んでも飲まれるな」ってマジで名言。

 月の裏側ルートが出るまでワシは死ねないんや……オリンピック分は待たないといけないのか。

 それでは、読んでいただきありがとうございました。次回も気長にお待ちいただけると嬉しいです。


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大いなるやらかしには、大いなる尻ぬぐいが伴う


 ばれへんばれへん‥‥



 久々に感想ついて焦ってあげたけどもうばれへんばれへん


 

 翌日

 

 昨夜の長ったらしい論文じみた母からの手紙の内容などさっぱり忘れ、今日も朝の日課を淡々とこなして登校した。

 今日の主な授業は実験施設棟の研究室や保管されている研究対象を教員の説明と共に見学することだった。ぱっと見の感想としては正に近未来的科学実験室という言葉がふさわしいだろう。ハイテクな顕微鏡に陳列するデバイスコンソール、まるで用途が想像できない大型機械など、かつての魔法のイメージとはかけ離れた場所だった。

 

「このように、当校では先進的な魔法実験を積極的に取り扱っており、先日公開された‥‥」

 

 指導する教員が身に着けている白衣。説明用に配られた電子タブレット。いたるものがここに最先端の科学が集まっているのだと訴えてくる。

 ここに通うたび、魔法を学ぶたびに、現代の魔法はかつての空想の産物からかけ離れてしまったのだと思い知る。中学の頃は現代から見て前時代的な座学が多かったためか、ここに来る前と比べてそう感じる機会は多くなった。だからとって特に抱く感慨はないのだが。

 

「なんだこれ」

 

 配られた資料には一瞬だけ目を通し、教員の施設説明そっちのけで生徒が意識を向ける方向と別区画のものに目を奪われていた。その中に一つ、ガラス管に保存された手のひらほどもない大きさの鉱石が部屋の明かりを反射して鈍色の光を放っている。近くには「レリック アンティナイトサンプル」のメモ書きが張り付けられていた。

 

(ええと…魔法的な性質を持つオーパーツ、つまり出土した時代の技術水準を大きく上回る加工が施されているものは「聖遺物(レリック)」と呼ばれていて、人工物か自然組成されたものか断定できなくとも同じように括られている。

 聖遺物(レリック)なのか。それででこれはそのレリックと思わしき鉱物の一部だと。)

 

 タブレットからレリックについて知らベれば、大体の内容が理解できた。

 なんかごっちゃになるな。聖遺物なんて大層な名前なんだから教会由来のものを想像していたけど。現代魔法においては宗教や国、技術系統に区別なくなんかよく解らん昔の不思議アイテムは大体レリックと呼ぶらしい。

 

(母さんが聞いたら頭抱えそうだな)

 

 ────体系分類と時代区分構成は概念分析の基礎中の基礎でしょう!?

 

(うん、めちゃくちゃ言いそう)

 

 だけどどのような研究がされていたのか一通り見てみると、出てきた構造や構成物質の解明と加工方法の研究ばかりだった。残念ながら考古学的、オカルト的分析は全くと言っていいほどされていない。それも科学分野一辺倒である現代魔法であることを考えれば仕方のないことなのかもしれないが。

 

 ともかく、鉱石なんてものが絡むと考えてしまうのはやはり、「錬鉄できるか」の一点になるのは鍛治師の性なのだろうか。このアンティナイトって鉱石を鍛えた刀は一体どんな出来栄えになるのだろう。刀そのものもそうだが魔術、現代魔法的相性なんかも色々気になる。

 

 魔法の発動を妨害する鉱石を錬鉄した刀。どんな効能が生まれるのか、それとも全く意味のない代物なのか。

 

 

「ねえ、君!」

 

「───あ?」

 

 一瞬ひらめきかけてたら、小柄な赤毛の女子生徒に声をかけられた。隣には栗毛のショートボブの女子もいる。誰だこいつら、てか周り俺たち以外もう誰もいねえじゃん。

 

「もうみんな先に移動しちゃったよ?何見てたの‥‥って、これアンティナイト?」

「こっちは殺生石の一部だって。色んなものがあるねー。」

 

 俺をそっちのけで今度はガラスの中の石を二人で覗き始めた。あれ、他のやつらは先に行ったんじゃなったのか?早く追いかけねえと置いてかれちまうぞー。

 

 どうにも役目が逆転してるが、このままでは俺まで巻き込まれる(自身の責任は棚上げ)ので仕方なく見知らぬ女子生徒二人に声をかける。状況的にクラスメイトなのに見知らぬは可笑しいだって?俺がクラスの顔を憶えているわけ無いだろJK。

 

「次、どっちいったの」

 

「え?あっやば!サクラ急がないと!」

 

「うんエイミィ!君も、こっちだよ!」

 

 ようやく思い出したようで、二人とも足早に部屋を出て廊下を駆け出していく。俺は見失わない程度に歩きながらその後をつけていくことにした。一緒に行くのが恥ずかしかったからとかでは決してない。

 

 それにしても、なんだか喧しい女子二人だった。ああいう手合いは苦手だ、一度関わると距離の詰め方が光の速度を超えてくる。

 

(特に赤毛のちっさい方、あいつは母さんと少し似た臭いがする)

 

 具体的に言えば、面白そうだからと予想できるトラブルを無視するというか、巻き込むことにためらいがないというか、頭いいのに馬鹿になれるタイプだぞアレ、絶対。とりあえずは、

 

(もし聞かれても絶対名前は答えないでおこう)

 

 呼び合っていた二人の名前を瞬時に海馬の外へオーバースローを決め込み、新たな決意を固く胸に刻みこんだ。合掌。

 

 

ねえ、やっぱり‥‥

 

うん‥‥だよね!

 

 

 

---------

 

 

 

 

 そんなこんなで過ごしている間に時間は進み、今日一日分の授業をあっという間に終えてしまった。張りつめていた集中の糸が途切れ、体を動かした後とは別種の頭がしびれるのような倦怠感にさらされる。

 

(そこまで熱を入れるつもりはなかったんだけどな)

 

 鍛冶師を志す俺に魔法で大成しようだなんて気はさらさらない。それでもここを卒業することが家督を継ぐ条件である以上、ある程度真面目にこの魔法科高校の授業には取り組まなければならないだろう。

 そんなつもりでいたのだが、俺は割と真面目に楽しんで授業を受けている。それは魔法が意外にも俺の知的好奇心の一部を誘っているからだ。

 

 中学までの魔法の座学は、主に魔法基礎や現代魔法の四系統八種類、魔法の歴史の概要なんかが中心で魔法師を目指していない俺にとって非常に退屈なものだった。そもそもそんな奴が魔法を学んでいることがおかしいというのは置いておく。

 しかし、この高校はさすが魔法科というだけあって各分野をより専門的な授業を受けられる。特に今日のレリックといった発掘品や刻印型術式などは、母から学んだ魔術知識にどこか通ずるものがあると感じられた。それと同時に、より知識を深めていき実戦レベルになれば鍛冶に取り込めるのではと感じる。そうなってくると熱が入られずにはいられないという訳だ。

 

 なので魔法を学ぶという点においては俺はここに来たことに後悔はしていない。だが魔法の授業のすべてに関心があるわけでもなく、関心が薄ければ薄いほどそれを学ぶことはただの作業になってしまう。さらには人にはキャパシティというものがございます。つまりキャパをオーバーしたものは頭に全く入らなくっていきまする。とどのつまり、

 

(わからん‥‥)

 

 入学式から今日で四日目。わたくし政狩刀祢、自身の学力の無さに心が折れそうになっております。

 

 

「はぁあああぁぁ───」

 

 最後の授業を終え、頭からプスプスと煙を上げショートしている思考回路ごと、体をコンソールの上に投げ出し、地獄の怨嗟ようなクソでかため息を吐き出す。

 

 どうしよう、ここ最近の憂鬱が「原作に巻き込まれれそうで怖い」から「魔法を学ぶのがつらい」にシフトチェンジしてきている。そのくらいここの授業はレベルが高い‥‥正直言ってついていける自信がまるでない。ここまで打ちのめされたのは父さんに初めてボコされて以来かもしれない。いや、諦めそうって意味では二度目の人生初めてだわ。

 

 魔法基礎はまだ解る。中学でずっとやってきたことの応用みたいなもんだし、ついていけないことは無い。だけど!なんだよ魔法言語学やら薬学やら構造学やらは!?なんでも魔法ってつけりゃあいいってもんじゃねえZО!?やること急に増えすぎなんだよ、薬学とか明らかに分野違うだろぉ!?

 

 いや、例えやることが増えたにしてもだ。何故だ、どうしてだ‥‥!もうちょい詰め込んでもいけるだろう!こんなはずではなかった!いくら脳筋一家の血を色濃く継いでいるとはいえ、母はあのアトラス院出身の錬金術師だぞ!思考分裂のリハビリと言って右手で円周率を、左手で2の平方根を永遠と書き続けるあの政狩アイナの遺伝子を受け継いでいるんだ。地頭は決して悪くないはずなんだ‥‥!

 

 なのに、どうして!?

 

「‥‥中学までは余裕だったんだ」

 

「僕と大山が結構付き合わされたけどな」

 

「‥‥一般科目は高得点だったんだ」

 

「数学、僕がつきっきりで教えたけどな」

 

「‥‥推薦に座学は必要なかったんだ」

 

「実技試験の頻出課題、教えたの僕だけどな」

 

 ぐうの音も出ねえや、ぐう。

 

「意外にまだ余裕ありそうだな」

 

「そう見えるか」

 

「全く」

 

 おっしゃる通りで、こんなものただの意地だっつーの。自棄とも言う。こんな情けない姿をこいつに晒すことはなるべくしたくないのだが、前にそれを言うと今更かという苦虫をこれでもかとかみ殺した表情を浮かべてきた。解せぬ。

 視線を上げると惨めな俺を見下す瞳にはこれまでの気苦労がそれはもうありありと伺える。かけている張本人がいうことではないわな!ハッハッハッ!‥‥はぁああぁぁ───

 

「中間試験はすぐにやってくる‥‥放課後は空けられるぞ」

 

「‥‥頼む」

 

 やはり、持つべきものは親しき友だ。これからもテストノートみせてくれよな!あと数学のカンヅメだけは勘弁で。

 

 

 

 

 

 

 体を起こすとそこにアニメじゃ量産コピペを張り付けたような顔がある。我らが最後の砦、森崎さんの御成りだった。

 

「よう、森崎」

「ああ、とりあえず今は基礎だ。頭に入らなくとも話は聞き逃すな。後で聞きに来たらいい」

 

 最近森崎の俺内株がストップ高な件について、もしかしてこいつは聖人なのではないだろうか。いつか森崎の纏う制服が聖骸布となる日が来るのかもしれない。聖モリサキの聖骸布‥‥語呂が悪いな。うん、聖人方向は無しで行こう、教会に碌な奴はいないって母さんも言ってたし。協会も碌でもないだろって?そもそも魔術に関わる奴が碌でもないんだよ、この俺も含めて。

 

「で、何の用?」

 

「お前を迎えに来たんだよ」

 

「なんで?」

 

「昨日放課後どうしろって言われたか、憶えてるか?」

 

 えっとほら‥‥あれだろ、あれ。なんかで学生が暴徒と化すからボコって鎮圧するするみたいな。そこまで物騒じゃない?嘘つけ前世で見たとき絶対ヤバいこと起こってたぞ。もう内容までいちいち覚えてないけども。

 

「・・・・・テロリストの粛清」

 

「風紀委員をなんだと思ってるんだ」

 

 はい、昨日の話も右から左へ素通りして忘れていまする。 

 

「先輩方の話くらい聞いておけ。人の話を聞かないのはお前の悪い癖だぞ」

 

「そう」

 

 こんなやり取りももう3年目となると適当になるというもの。森崎も言い聞かせるというより言わずにはいられないというだけだろう。とは言え、風紀委員は自分から進んで飛び込んだのだし、あまりにこれは無責任か。業務連絡くらいは頭に入れるようにしなければ。

 

「放課後に委員会本部集合、だ。今日からの部活勧誘週間、いきなりだが手伝ってほしいって委員長が言ってただろ」

 

「ああ」

 

 そういえばそうだった。明日から本格始動みたいなこと言ってたなあのサバサバ女。渡辺先輩だったか、時間にはうるさそうだし、急いだほうがいいか。授業が終わってから既に十五分は経過している。校舎が無駄に広いから移動に時間喰うっていうのはここ数日で理解している。

 

「新人が先輩方を待たせるわけにはいかないだろう。さっさと行くぞ」

 

「わかった」

 

 勉強疲れで躰がたるいがこうも急かされては仕方がない。コンソールに放り投げていた状態を起こし、一度大きく伸びをしてから教室を出ようととした時だった。

 

 

「あ、政狩君!もう帰るの?」

 

 

 甲高い声に、ピシッと体が固まる音がした。

 ついでに2時間前の決意も凍り砕けた。

 

「暇だったら狩猟部に見学に来ない?楽しいよー馬乗ったり猟銃構えたりするの!」

 

「エイミィ、政狩君たちどこか行くところがあるみたいだよ」

 

 今、俺ノ名ヲ呼ンダノハ、ドチラ様デセウカ?

 

 首をカクつかせて音のする方へ振り向くと、見覚えのある大小栗赤色二つのシルエットが並んでいた。何故だろう、彼女達の足音が俺の棺桶を引きずる音に聞こえてくるのは。

 森崎はどうやら二人と知り合いらしく、余裕そうにニヒルな笑みまで浮かべていた。全く似合っていないぞ森崎。そういうところは見直した方がいいと思うぞ森崎。若干女子たちも引いているぞ森崎。

 

「すまない、これから風紀委員に行くんだ」

 

「えっ!入学初日にもう何かやちゃったの?」

 

「違う!僕たちは風紀委員に選ばれたんだ!」

 

 完全にペースを乱されていた。さっきまで取り繕っていた余裕はどこへ行った。

 

「へえ、すごいじゃない!政狩君もそうなの?」

 

「‥‥一応」

 

 うん、嘘は言っていない。風紀委員に入るつもりはないけど。

 俺のペースなんてものはもうどこにも存在しない。乾いた喉から絞り出した声は、これまで出した声で一番感情が載っていなかった気がする。名も知らない、もう一度言う、名も!知らない!女子二人はキラキラしたまなざしを俺に向けてくれたが、大変胃が痛くなってまいりました。

 

「それじゃあ勧誘はまた今度かな。じゃあね政狩君!」

 

「二人ともお仕事頑張ってね」

 

 そういって二つの台風は手を振って過ぎ去っていく、俺の心の安寧に大きな爪痕を残しながら。膝から崩れ落ちなかったのを褒めてほしいぐらいだった。

 

 ああ、神よ。何故誰もかれも私の決意を裏切るのです。教会を胡散臭いといったからですか?だってしょうがないじゃないですか、私の知る神父やシスターはともに外道と悪魔なのですら。この世界にまともな神職者なんていないのなら、教会なんてヤバい奴らの巣窟くらいにしか思えませんて‥‥

 

 まず、どうして二人は名前を知っていた‥‥。自慢じゃないが俺はここに入学して自分の名前を教えたことはほとんどない。知られるとしたらあの原作組のやつらが話すくらいだろうけど、あんな二人俺の記憶にないし主要人物じゃねえだろ。どういうこった‥‥。

 

「政狩、クラスに一人も友達がいないのはどうかと思うぞ?僕がお前の名前を尋ねてもみんな首をかしげるだけだったし。あの二人がようやくお前に思い至ったんだ。せめて最低限名前の交換くらいだな」

 

「モブ崎のバカ、カッコつけ、あんぽんたん」

 

「僕の名前は森崎だ!!」

 

 最初に突っ込むのそこなのかよ。

 

 

 

 






 もう自分の中で旬を逃した気がして仕方がないや


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