魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!! (益荒男)
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過去編 特に当たり障りのない政狩家の日常 其の壱

 バレへんバレへん・・・。もしばれても今年はハピバレまではいってへん。







 

 

 

 

 時は少し遡り、中学三年の夏休み

 

 今日も今日とて、俺、政狩刀弥は朝から道場で爺やと鍛錬に励んでいた。

 

「せいッ!」

 

 気合いの入った掛け声と共に、爺やの顔へと放たれる右足の蹴り。先程、鳩尾目掛けて打った拳を囮として繰り出したそれは、体を重心ごと引くことで難なく避けられる。

 

「拳の方に気迫が足りん、狙いが透けて見える」

 

 ならばとそのまま一歩踏み込み距離を詰め、此方の流れを絶たぬようにと連撃を繰り出す。直ぐにその判断を下したのは間違いじゃないだろう。相手は格上、それなら一度仕切り直すなど愚の骨頂。もし相手に流れを相手に掴まれでもしたら、その瞬間此方の敗北が迫ってくる。例え体力の消耗が激しくなるとしても、継続して攻め続けなければならない。そのはずなのだが

 

「踏み込みが甘い、体が入っとらん」

 

 突き出した拳は易々と受け流され、蹴りは的確に腕で防がれた。間に挟む足払いや裏拳もことごとくいなされる。此方のもう既に二十を越える連撃は、一つとして爺やの体に入っていなかった。

 

 今日の鍛錬の内容は体術だ。なんで刀鍛治師が体術を修めるのか俺も最初は疑問を抱いたが、もう「政狩だからしょうがない」という風に納得してる。爺やが言うには「手元に得物がない状態でも、ある程度護身が出来なければいけない」とのこと。いや答えになってねえよ。しかも爺や、教える側だから当然なのだがめちゃくちゃ強い。なんかもう、最初は別次元だって思ったもん。今はなんとか喰らいつけてはいるけど、爺や多分全然本気出してねえんだよな。やっぱ可笑しいわこの家。

 

「ハアッ!」

 

 爺やの胸の中心めがけて、渾身の掌打を放つ。腰を落とし、目標に対して一直線に腕を伸ばし、これまでで一番いい出来だと言えるそれは、爺やの右腕一本に容易く受け止められてしまう。パアンッと乾いた音が道場中に響いた。

 

「型は良くなった。が、力み過ぎだ。それでは当てる瞬間の威力が下がる」

 

 俺の腕を弾き返し、こちらの番だと掌打の構えをする。その動きは水の流れの如き自然のものでありながら、構えは岩のように重い。まさに洗練されたという言葉が当てはまるものだった。今の自分には足りない『年月』というものをこれでもかと言うほど注ぎ込まれたそれ。見る人が見れば、まさに武の境地と呼ぶに相応しい。

 ここまでの動作を俺がなんとか目で追える速さでこなし、放つ直前。受けて立つという意思表示の為、もう一度腰に力を入れる。狙いは構えの高さからさっき俺が狙った場所と一緒、つまり胸の中心部。それがわかるのであれば、あとは防御に力を入れる瞬間だけを見切ればいい。さぁ来い。どこまでやれるかは分からないが、耐えて見せようじゃねぇか。

 

「いくぞ」

 

 遂にその一撃が放たれる。

 

 目ではきっと捉えられない。そんなことはとっくに分かっている。だから目を瞑る。信じるのは自分の直感だ。

 

 --ダンッと踏み込む音が聞こえる

 

 けど運任せじゃない。直感というものは様々な要因によって左右される。五感然り、環境然り、経験然り。

 

 --次に感じるのは波。自分を呑み込まんと押し寄せるそれに気圧されることのないよう体に喝を入れる。

 

 だからこそ、武芸者は絶対に直感というものを馬鹿にしたりはしない。その直感こそ、数々の窮地から自分を救い出す何よりも信頼出来る最高の武器なのだから。

 

 --その波が自分にぶつかろうとする瞬間

 

(今ッ!)

 

 腕を胸の前で十字に組み、全身に最大まで力を込める。爺やの掌打が腕に衝突する瞬間に衝撃を和らげる為少しだけ腕を引く。道場中にダアンッ!と、先の自分の放ったものが大したことないと思える程大きな音が響いた。覚えるのはまるで岩その物と剛速でぶつかったかのような錯覚。最小限の動きをこなすことで生まれる速さと、少しの力を極大まで増幅させることを組み合わせた衝撃。だが仰け反らない、怯まない。足腰にに力を入れ、力の限り踏ん張る。掌打の衝撃を全て全身で受け止める。

 

「ほう、これを耐えて見せたか」

 

 両腕と爺やの掌から薄い煙りが上がる。爺やが型を解くと同時に俺はその場に崩れ落ちた。

 いっっっってぇぇぇえええ!!!!???ヤベエイタすぎ!イタ、イタイッテ!?くそう、全身がピクピクして動かねえ・・・!ちょちょ、ちょっと待って?破壊力あり過ぎじゃない?ただの掌打だよね?強化も使ってないのになんでこんなに痛いの?くぅ、流石に衝撃全部を受け止めようとするのは無理があったか。

 

「受け止めたのは見事と言えるが、馬鹿正直に受け過ぎだ。衝撃の逃がし方は教えただろう」

 

「・・・あんな、説明、じゃ、分かん、ない・・・」

 

 確かに教えてもらったけど、あんな「考えるな感じろ」みたいな説明じゃ分かんないんだよ。地面へ衝撃を流れさせるとか言ってるけど、どうすんのさ。詳しく教えてって言っても感覚で掴めとしか言ってくれないし。やっぱり爺やも脳筋か。せめて身体の動かし方をだなぁ・・・。

 

 

 

 

「・・・暑い」

 

「十五分後に再開、今度は受けの練習だ。ほれ、水分はしっかりとっておけ。今日は一段と暑い」

 

「・・・ありがとう」

 

「はぁ、もうあそこまで本気では打たん。お前が捉えきれる速さで打つ。それと次からはどんな攻撃でも目を瞑らないでいろ。確かに直感は大切だが、今からそれ頼りだと成長せん。しっかり目で捉え、見切れるようにしなさい。見切りの極意は教えたな」

 

「一瞬では足りない。百や千と刻み捉え、それを以て見切りと為す」

 

「よし」

 

 よし、じゃねえよ。感覚の強化も使わずにどうやってんなもん捉えればいいんだ。まあ出来るまでやりますけども。

 

「不服そうだな」

 

 図星をつかれギクッとし体を震わせた。顔に出ていたのだろうか。俺はあまり顔に表情が出ないと専らの評判なんだが。少しいたたまれなくなって、そっぽを向いて小さく頷く。

 

「お前は普段顔を動かさない分、感情の出た時が分かり易いのだ。まあそれはいい。

 よく聞きなさい。大事なのは『一瞬を刻む』ということだ。例え己が正しいと感じた一瞬のなかにも、更に自らの望む答に近い瞬間というものがある。更にその中にもと、これをごく僅かな交錯の間、自分の限界まで刻み続けるのだ。それは闘いだけではなく、鍛冶にも当てはまること。無意識の中でも鍛えられるものでもあるが、意識しなければ気付くことの出来ない深みと言うべきものがある。それを追求し続けていくことこそが鍛錬といえるだろう。

 

 より深みへ潜れ刀弥、お前の欲しいものはその先にしかないぞ」

 

 ・・・そんな風に言われちゃ、やるしかねえに決まってるじゃん。俺が鍛冶に繋がると言われて、それを疎かに出来る訳がないだろう。

 こういう時、やっぱり敵わないなあと改めて思う。前世の記憶も合わせるなら自分の方が年上のはずだ。それに正直にいって、前世の全盛期に打った俺の刀と爺やの最期の真打に、神秘の有無を除きそこまで大きな差はなかった。なのに、今の俺は爺やにはいろんな意味で絶対に勝てないのだ。それはやっぱり、積み重ねた年月の『質』が違うからなんだろうか。それとも自分はどうあれ爺やの孫だからか。

 道場前の井戸から水を引っ張り出し思いっきり頭からそれをふっかける。頭が冷えたからか、そんな下らないことを考えていた。そう、下らないことだ。今は今のまま、ただやるべきこと、やりたいことをひたすら愚直にやり続ければいい。そうだ、オレが生まれた理由とかそんなものはどうでもいい。

 

 打って(鍛えて)打って(鍛えて)打って(鍛えて)打って(鍛えて)、ただただ打ち(鍛え)続けて、きっといつか、今度こそ、オレは牟都刈と呼ぶに相応しい刀を打って見せる。

 

 それで漸く、漸く(オレ)は・・・

 

 

「おい、刀弥」

 

「・・・んぁ。あ、なに?」

 

「此方の台詞だ、上の空になりおって」

 

「ごめん、ちょっとぼぅてしてた」

 

 最近こんなことが増えてきたな。不味い、弛んでいる証拠だ。常在戦場は鍛冶師の基本、常にこの身は鍛冶場(戦場)に在りってな。それに最後にモブ崎と模擬戦したとき危うく負けかけたし。てかあいつ、のCADのホルスターから抜く動作ギリギリ目で追える位にまでなってたんだけど、魔法の発動スピードもクッソ速いし。極めつけにはデバイス型と拳銃型2つCADの同時使用とかやってなかったか?基本的にそういうのって無理だった筈じゃないの?あいつものすっごい速さで成長してるぞ。「まだ、足りないのか・・・!」って負ける度にうなだれてるけど、魔法技術だけじゃとっくに自分を追い越してる気が・・・うし、一気にやる気湧いてきた。一分一秒無駄に出来ないぞ。決して現実から目を背けている訳じゃない。ただ自身の長所を更に伸ばそうとして何が悪い!

 

「爺や、続きやろう」

 

「まだ休憩しててもいいんだぞ」

 

「いや、大丈夫。それに今は時間が惜しいや」

 

「そうか、ならば始めよう。耐えてみせろよ」

 

 それと、鍛錬の時の爺やはめちゃくちゃ楽しそうだからつい頑張っちゃうんだよね。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 日が落ちていき、空に赤みがかかってくるまで俺と爺やは一緒に鍛錬を続けた。終わったあとはところどころ痛む身体を引きずって風呂に入る。夏休みの間はずっとこんな感じだ。毎日稽古をつけてくれる爺やには感謝の念しか浮かばない。

 

(やっぱり、まだまだ遠いよなあ)

 

 湯船に浸かりながら今日の鍛錬を思い出す。最初の一発以来、終ぞ爺やを驚かせるには至らなかった。悔しいという思いが止まらない。爺やは俺のいつか越えるべき大きなの壁の一つ。父さんと爺や、この二人を超えることが俺の目標だ。

 けど、その天辺が全く見えてこない。今の俺はまだまだ二人の足下にも及ばないということだろう。ほんと一体どんだけ時間かかんだこれ。

 

(武術の方はともかく、問題は鍛冶の方だ。最近全くうまくいってない)

 

 俺のもう一つの悩み、それは最近の刀鍛冶のことだ。打てなくなったってわけじゃない。寧ろ爺やから新たな技術と叩き込まれ間違い無く技術は向上している。爺やと二人打ちをするときなんかはもう足を引っ張ることなんて二度としないだろう。

 問題は一人打ちだ。それは刀の出来が悪いという訳じゃない。寧ろいいとさえいえるだろう、それが目的通りの完成型なのであれば。最近打った刀は全てどこか()()()()()のだ。目的の刀を打とうとしても、長さが、重さが、反りが、焼き目が、必ずどこかに自分の想像とズレが出る。

 二カ月ほど前。爺やからある課題が出された。自分でどんな刀を、どういった手法や手順で打つかを決め、魔術を一切使わず爺やから指示された一定の期間でどこまでやれるか。初の『真打の儀』から久方ぶりの一人打ちだった。一日で打つ刀の細部まで設計し鍛冶場の準備を完璧に整え、翌日から製作に取りかかる。制作は三週間に及んだ。真打の時のように短期間ではないため、一つ一つの工程をゆっくり丁寧に余裕を持って取り組んでいく。その結果完成した刀はそれはいいものに仕上がっただろうと思っていた。

 だが、結果は失敗も失敗作。自分が造ろうとしてたものに比べて一寸ほど長いは、反りは大幅にデカいは、それなのに何故か軽くなってるはと、散々たる結果となってしまった。たちが悪いのが、その刀単体で見ればかなりの出来に仕上がっていることか。というか最早別物である。

 つまり自分は、頭の中での設計図通りに打っているつもりで、実は身体は全くの別物を造り上げていたのだ。まるで意味が分からない。その時の俺が目の前の現実が理解できずに「なぁにこれぇ?」と声を上げたのも無理も無いだろう。いやほんとどういうことこれ?なんか不思議を通り越して軽くホラーなんだけど。身体の中に自分の知らない自分がいたりする?降霊術なんて使えないし霊媒体質でも無いはずだけど。全身包帯はめちゃくちゃ蒸れるのでNGでお願いします。

 

(真打から何か大きく変わったこと...は特にないな。あれは一種の通過儀礼であって成長を促すものじゃないし。でもあのとき打った刀、形といい振った感触といいなんか既視感があるんだよなぁ。うーん...)

 

 何度もこの悩みを繰り返したが、いっこうに答えが出る気配はしない。このことを爺やに相談したところ、「なに訳の分からないことをいってるんだ」みたいな顔をされ、相手にしてもらえなかった。多分問題の刀が遺憾ながら出来が良かったからであろう。それからまた二本の刀を打ったがどれも同じ結果に終わった。このままずっとこんなことが続けば流石にマズい。

 

(早くなんとかしないと、ってそれが出来ないから悩んでんだよ。...イラついても意味ないか。どうしたもんかねぇ)

 

 

 

 

 

 

(...のぼせた。頭くらくらする)

 

 結局あのまま答えは出せず、三十分ほど湯船に浸かっていたらこんな様だ。今は様子見するしかないのかな。ん?部屋に爺やの気配がない。いつもならこの時間は部屋で本でも読んでるのに。居間にいるのかな?あ、そういえば今日の夕食係俺じゃなかったっけ?やっべえ、まだ米を炊いてすらいねえじゃん。さっさと準備始めないと。

 

 素早く着替え、急いで台所へ向かう。居間に続く襖を開けると、母さんがなんだかふてくされた顔で卓袱台についていた。

 

「母さん?」

 

「あら刀弥、遅かったわね」

 

「ごめん、直ぐに晩飯の準備するから」

 

「それなら大丈夫よ。おじさまと郁麻が代わりにやってるから」

 

「あれ、そうなの?」

 

 よかった~最悪食事が9時まわってからになるところだった。後で父さんと爺の二人ともに謝っとかないと。・・・ん?父さんと爺やの二人?大丈夫なのその組み合わせ。もう料理そっちのけで口喧嘩してる光景しか思い浮かばないんだけど。・・・まぁ多分大丈夫だろう。断じて止めに行くのが面倒な訳ではない。でも、そう教えてくれた母さんはどこか不機嫌そうだ。

 

「何かあったの?」

 

「それがね...」

 

 

-------

 

 

「だからさっきから言ってるだろ!煮付けものを作るなら六代目の指南書の方が一番うまい!」

 

「何を言うかと思えばそんな下らんこと。確かに味だけで言えば其方が適しているかもしれんが、この三代目の料理には多大な滋養効果が見込まれるのだ。日頃の鍛錬で疲れている刀弥に適しているのはどちらか、考えるまでもないだろう」

 

「がさつで大雑把な悪童って今でも伝わっている三代目の作る料理に、滋養もなにも有るわけない!というか親父が好きなだけだろ!この前もそんなこと言って刀弥に呆れられて・・・。おいアイナ、その右手に持ってる真っ赤な瓶はなんだ。如何にもヤバそうな雰囲気がするんだけど」

 

「何って、この前商店街の売店で買ったソースだけど。なんでも第三次大戦前にあった『コブ○チリ社』ってとこので、一滴入れるだけで食べた人は飛び上がり駆け回る程元気になれるとか」

 

「アイナ、とりあえず何もせずに台所からでるんだ。そして今度その劇物を元のところに返してきなさい!」

 

「え~気になるのにぃ」

 

「ダメったらダメだ!それに君は料理はてんで出来ないだろう!なんでここにいるんだ!」

 

「むっ、なによ。私の計算にかかれば料理なんて復元の魔術より簡単なことなんだから」

 

「戯言抜かしてないで早く...おいなに勝手に進めてんだオヤジィ!」

 

 

------

 

 

「それっきり相手にされなくって、追い出されたってわけ。私は手伝いたいと思ってただけなのに」

 

「でも料理できないのは事実でしょ」

 

「生意気なのはこの口かしら?」

 

「イタイイタイ」

 

 ほっぺを引っ張るな。てかやっぱり喧嘩してたのか爺やと父さん。それと母さん、そのソースについては父さんに全面的に同意する。それタバスコの千五百万倍辛いとかいうマジでヤバい奴だから。それ一滴でもはいったスープ飲んだら3日間味覚が死んじゃう奴だから(益荒男体験談)。

 

「はあ、昔の刀弥はもっと素直でかわいかったのになあ。それがこんなに大きく無愛想になっちゃって」

 

「なんだよ、その言い方は」

 

「ヨチヨチ歩きのころから活発でね、目を離すと直ぐにどっかに行こうとするのよ。直ぐ気付ければいいんだけど、そうじゃないときは家中探し回る羽目になったりしたんだから。家から出て鍛冶場の小屋にいたりとか、酷い時なんか山を登った蔵の中にいたりして。色々困らされたわあ。まあそこが可愛いかったんだけど」

 

「聞いてないし。あとそんなの憶えはない」

 

 ちょっと、赤ん坊の頃の話とか止めてくれません?妙に気恥ずかしいというかなんというか。いたたまれない気分になるので

 

「五、六才の頃が一番大変だったわね。夜に布団から抜け出して、おじさまの鍛冶の光景を見るのはまだ可愛い方だったわね。勝手に山を降りようとしたりとか、蔵の刀を勝手に持ち出そうとしたりとか」

 

「...そんなこと知らない」

 

「山道をそれて迷子になった時もあったっけ?結局全部結界に引っかかっておじさまに怒られてたけど。あ、そうそう。刀弥ったらおじさまに本気で怒鳴られるたびに涙ででビクッてなって、『...ごめんなさい』ってものすごい小さい声で謝ったりして」

 

「もういい加減にしてくれ!」

 

 

 

 母さんの思い出話という名の辱めは結局、父さんと爺やが晩御飯を運んできたところで終わるかと思いきや、食卓の話題にまで持ち込まれ、二人までもが嬉々として参加するという地獄のような仕打ちとなった。ついでに料理の味付けについての争いは、運んできたときの二人の顔から父さんの勝利となったようだ。

 

 その翌日、俺は家族と最低限の会話しかせず、爺やと父さんからかなり真面目に謝られ、母さんはそれを端から笑いを堪えながら眺めるなんて一幕があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 




 何気に刀弥が声を荒げるの初めてかも。

 次はちゃんと早いうちに本編上げます。たぶん、きっと、メイビー。だからお願いします、そんな期待せずに待ってて下さい(懇願)


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転生編 プロローグ あるいはこのまま終わり?

 村正おじいちゃんへのリビドーが抑えられなかった。
 小説投稿初心者なので生暖かい目で見守って下さい。


 

 

 

 

 これは、ひとりの男が夢を叶えて終わる

 

 

 

 そういう物語だ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 俺は転生者だ。前世の名前は吉田蓮斗、今世の名前は政狩 刀弥。前世の方は忘れていい。

 

 でも、転生した理由はひと昔前の「事故に合いそうになっていた子どもを助けてトラック激突神様邂逅特典貰って転生ヨロシク☆」って訳じゃない。

 

 前世での死因はふつーに年を食い過ぎだってだけだ。九十五まで生きれたんだから只人としては充分だろう。神様にだって会ってねえし特典なんてものにも心当たりはない。いや普通にこんなジャンルもあったな。

 

 いやー最初はまじでビビった。自宅のベッドの上で家族や弟子達に見守られながら目をつむって「ああ、死んだな」って思ってたら、なーんか声が聞こえんのよ。気になって目を開けてみたらあら不思議、5歳位の体になって暗い部屋に知らないオジサンと二人っきり。何か事件の香りもするけど後で俺(?)の祖父だと分かった。

 

 爺や、あん時は急に叫んでゴメン。めっちゃ心配してたし。厳格で無口だけどすんごい孫思いだった。でも「年寄りを驚かすな」っていうのは俺のセリフだよ。もう違うけど、ピッチぴちの小学生は最高だぜ状態だけど、いやバスケもしないけど。

 

 それから俺は父と母と祖父の四人暮らしをなんやかんだで楽しみながら送っていた。

 

 

 そんでこっからが重要。今の俺のいる世界がこっちに来てから五年後の十歳になってようやく発覚した。てか分からされた、小学校の社会の授業で。

 

 

「では○○君、教科書の12ページの最初一行を読んで下さい。」

 

「はい!えーと『2040年、世界的な食料困難により第三次世界大戦が始まりました。』」

 

「はい。よく読めました。」

 

(へー今の小学生はそんなことまで習うのか。)

 

 

 何て思いながら俺は頬杖をついてあくびをしていた。昨日の鍛錬が長引いてしまい寝不足気味なのだ。

 

 

「では、続きを○○ちゃん、お願いします。」

 

「は、はい『戦術核が使われるほどの大乱戦になる中、世界滅亡の危機にまで達しましたが、後に『魔法』と呼ばれる超能力を扱う『魔法師』の登場により戦火は少しずつ小さくなっていき、開戦から20年後の2060年第三次世界大戦は終結しました。』」

 

 

 ふーん、そーなのねー・・・。え?魔法?魔術でなくて?いやそれもおかしいけど。てかこの設定どっかで聞いたことがあるような・・・。

 

 

「はい、よく読めました。皆さんが知っての通りこの様にして魔法という物が認められました。では、皆さんは魔法のことについてどんな事を知っていますか?」

 

「はい!確かサイオンっていうのを使うんだよね?おとーさんが言ってた!」

 

「あとエイドスってものも関係あるって聞きました。」

 

「『サイオンでエイドスを書き換えてあらゆる現象を起こす』って本に載っていたと思います。」

 

 

 わー今の子どもは博識だなーはーはっはっはっはっはぁ・・・。

 

 ダメだ。言い逃れできねえ。確定だ。

 第三次世界大戦に魔法、想子に個別情報体か・・・。

 

 

  ここ魔法科じゃねえか!!!!

 

 

 魔法科ってあれだろ。劣等生と名ばかりの世界最強シスコンお兄様が俺TUEEEEEする話だろ。原作読んでたけど、ほとんど覚えてねえ。今の年も合わせると八十年以上前じゃねえか?読んだのは。よく今の単語だけで分かったな。俺の頭も捨てたもんじゃねえな。

 

 そうかー魔法科かー。どーしよっかなー。

 

 

 

 

 

 

 ま、いっか

 

 

 

 

 

 

 ここがどんな世界だろうが関係ない。

 俺にはやることがある。叶えるべき夢がある

 

 学校が終わったあと、友達と話すこともなく(てかまず友達がいない)まっすぐ家に帰る。俺んちは学校の最寄り駅から三つほどいってバスにのり山を登ったその途中あたりにある。学校まで片道一時間ほど。一番近くの小学校があそこにしかなかったのだから仕方がない。過疎化って面倒だったんだな。

 

 山を登りきりようやく帰宅。木製のスライド式ドアをあけ玄関前で靴を脱ぎ畳を踏んで爺やのいる部屋へ一直線で向かう。

 

 そうなんです。うちんちバリッバリの古い和式の祖父家なんです。電気もガスも通ってないし機械の類もほとんどない。買い物などは山を降りて街でするが基本的に家の外には出ない。冬は布団とこたつだけがたよりだ。

 

 ふすまを開け爺やと会う。両親は今は結婚記念日の旅行中だ。何か読み物をしていたのだろう。本を置いて振り向く

 

 

「帰ったか、刀弥」

 

「うん、ただいま爺や」

 

 

 挨拶を済ましてじっと待つ。爺やはそれを見て難しい顔をしだした。

 

 

 

「今日もするのか?」

 

「うん」

 

 

 それを聞いてため呆れたようなあきらめたようなため息をはく。爺やも折れたようだ。不孝者でごめんなさい。でも、これだけは絶対に譲れないんだ。

 

 

「ついてきなさい」

 

「はい」

 

 

 それだけ言って立ち上がる。その言葉に従って俺もついて行った。どこに行くかも行き方も知っているが、自分一人だけで勝手に入るのは家族全員から固く禁止されている。

 

 さーてこっから気合い入れていくぜ。夢のためにレッツゴー!

 

 

 

 

 

 

 ついでに爺やが読んでいた本の題名は「おじいちゃんの悩みをスパッと解決!コレだけは守ろう 孫との接し方」だった。爺やマジ天使。そんで本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

――――-――-――

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生した世界が分かってやるべきことはなんだ。

 

 

 

 その世界の異能の修行?

 

 ―否である。

 

 

 ヒロインのフラグ作り?

 

 -否である。

 

 

 重要組織との接触?

 

 ―否である。

 

 

 確かに、そうした方が楽しめるという人もいるだろう。

 

 そうした方がすごしやすいという事もあるだろう。

 

 そうしなければ生きられないという世界もあるだろう。

 

 

 けど俺は違う。

 

 

 この世界で生まれ持った、この家族とこの場所があれば充分だ。これ以外のものは今はいらない。むしろ邪魔だ。

 

 

 

 

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 音が響く。その源は目の前の爺やである。障子窓から夕焼けの日が漏れる部屋の中、赤く焼けた鉄に一定のリズムで鎚を振り下ろす。

 

 

 カンッ カンッ コロン カンッ

 

 

 ある程度まで伸びたら縦に折り曲げ四半回転させた後、再び鎚を振り下ろす。言葉にすれば単純だ。だが此処までの間に俺にとってはどんな財宝にも届かないほどの価値があった。

 

 

 最適な鎚を振り下ろすタイミング、リズム、力の入れ具合、勢い、場所、鉄の延ばし具合、いつどのようなタイミングと角度で鉄を折るか、いつどこから再び振り下ろすのか。

 

 

 

 

 そう、今俺は刀鍛冶を視ている。そして爺やの持つ技術の全てを盗もうとしている。

 

 

 

 

 

 前世の俺は、中学の頃からあるゲームにはまっていた。

 

 その名も Fate Grand Order

 

 小学生の頃に原作、Fate stay nightにはまり奈須きのこの描く世界観に魅了された。

 

 もちろんFGOは事前予約から始めた。

 

 最初にギル様を当てて狂気狂乱したのも、林檎をかじりながらイベントを周り徹夜したのも、今じゃいい思い出だ。

 

 小遣いが少なかったので無課金勢だった(福袋?あれは必要経費だ)が、貯めた石で孔明先生を当てようとして50連爆死したこともあったし、引き継ぎコードを使った次の日に父親がアップデート更新を間違えてアンインストールなんてした日は絶望のあまり学校を3日ほど休んだ。

 

 再び始めソロモンで号泣しながら楽しんでしばらく経ったある日、比喩なしに俺は運命に出会った。

 

 

 

 亜種並行世界 屍山血河舞台 下総国

 

 

 英霊剣豪七番勝負

 

 

 夢と現の狭間、そこで再開した宮本武蔵と共に七人の英霊剣豪に勝負を挑む物語。

 

 

 そのラスボス戦で、一人のサーヴァントがその真価を発揮した。

 

 原作ファンは待ちに待った登場(杉山はいない)に歓喜し、その最後の勇姿は全てのマスターの心を打った彼。

 

 

 

 名は千子村正

 

 

 

 原作主人公、衛宮士郎の姿で登場した伝説の刀鍛冶師。その刀は全て逸品であり、徳川からは幕府を開く前からの因縁から妖刀と恐れられた。

 

 

 

 

「奥の手はねえのかって?阿呆か。んなもん、あるにきまってんだろ。」

 

 

 

 

 確かにかっこよかった。社長男の絵描くの久しぶりじゃねとか、BGM合いすぎだろとか、めっちゃ興奮した。

 

 

 でも、そこじゃない

 

 

 

 

「かつて求めた究極の一刀。其は、肉を断ち骨を断ち命を断つ鋼の刃にあらず。」

 

 

 

 

 

 士郎だからこそ出来たんだと理解したし、伏線を張ったライターに素直な賞賛を覚えた。

 

 

 でもそこじゃない。

 

 

 

 

「我が業が求めるのは怨恨の清算。縁を切り、定めを切り、業を切る。」

 

 

 

 

 ここだ。ここからだ

 

 

 

 

「―即ち。宿業からの解放なり。」

 

 

 

 

 何も言えなかった。只何かが心の中ではまった気がした。

 

 

 

 

 

「・・・・・・其処に至るは数多の研鑽。千の刀、万の刀を象り、築きに築いた刀塚。」

 

 

 

 

 

 

 刀とは切る物、ただ切る為に在る。

 

 

 

 

 

「此処に辿るはあらゆる収斂。此処に示すはあらゆる宿願。」

 

 

 

 

 

 なら、物など切れて当たり前だろう。寧ろそこからだ。

 

 

 

 

 

「此処に積もるはあらゆる非業────

我が人生の全ては、この一振りに至るために。」

 

 

 

 

 

 目に視えないものを切る。それこそが、本当に至るべき場所。刀という物の到達点。

 

 

 

 

 

 

「剣の鼓動、此処にあり─────!

受けやがれ、こいつがオレの、都牟刈、村正だぁーッ!」

 

 

 

 

 

 

 そして思ってしまった。

 

 

 打ちたい。

 

 

 この都牟刈りと呼べる刀を打ちたい、と

 

 

 

 

 

 そんで俺は刀鍛冶師になった。

 

 

 

 うん、自分でも馬鹿だと思うよ。ゲームやってたら刀打ちたくなりました。刀鍛冶師目指しますってアホか。それを高校生の頃に決めちまったもんだから、親は猛反対。いや諦めなかったけど。これまでずっとダラダラなあなあで過ごしてきた俺が必死になって話しているのを見て両親は困惑していた。

 

 そこから、俺は知識を集め、体を鍛え、高校を退学し、ネットで知った山奥に住む隠れた刀匠の元に弟子入りしにいった。師匠も最初は受け入れてくれなかったけど、腹を空かせても帰らないのを見てどれだけ本気か分かってくれたのだろう。家に泊めてくれて、暫くしたら弟子入りも認めてくれた。

 

 ここまで来れば、後は精進あるのみだ。只打ち続けた。あの画面で見た刀を目指し続ける。何年も何年も。

一時期、気紛れで出した自分の作品が世間を騒がしたこともあったが、まだまだ足りない。俺が目指すのはこんなものじゃない。

 

 後は、結婚して子供作って弟子を取って最初の方に言った通り、たどり着けずに死んじまって、この世界にやって来た。

 

 もうこれは運命なんだと思ったね。神様にはマジで感謝だ。いたらだけど。

 

 それと、俺が運命と感じた所がもう一つ在る。

 

 

 一通りの作業を終えた爺やが、片付けを済ませてこっちを振り向き口を開いた。

 

 

「刀弥よ」

 

「何?爺や」

 

「本当に根源を目指すのか?」

 

 

 そう、この家は型月世界の魔術師の家系なのだ。元は妖狩りを生業とし今に至っているらしい。

 

 そして、ある理由から俺にこの家を次がせることを皆は嫌がっている。政狩家の歴史を、俺の父の代で終わらせようとしているのだ。

 

 だが俺はそれを拒んだ。でないと俺は刀を打てなくなってしまうからだ。

 

 この家の魔術師の方向は「自ら打った刀と己の技により境界を切り、根源へと到達する。」だ。

 

 最初聞いた時は「何この脳筋一族」と戦慄したものだ。そして思ったね。実に自分にあっていると。

 

 

「はい」

 

 

 静かに、それでいて力強く頷く。

 

 ああそうさ、目指すよ根源。本来の目的は都牟刈だけど、別に切り開いてしまっても構わんのだろう。それに型月ファンとしても根源の渦が一体どういうものなのかヒジョーに気になるしね。

 

 

「そうか」

 

 

 そう言って、一度目をつむってしばらくしてからまた開き、扉の方へと向かった。

 

 

「もう直ぐ、あやつらも帰ってくる。夕餉の支度をするぞ。鍛錬はその後だ。」

 

「はい」

 

 

 俺も立ち上がり、爺やについって行った。

 

 技の鍛錬自体は幼少の頃から行っている。これは別に鍛えて置いても損はないだろうという考えらしい。

 

 お陰様で、今では子供とは思えない程に鍛えられた。刀だって、自由に振り回すことはできなくても、構えられる程には扱える。魔術による身体強化なしで。

 

 それに、技をもって根源を目指すといわれたら、思い浮かべるのはたった一つでしょう。

 

 幻想種TUBAMEを切るために生涯を捧げた伝説のNOUMIN、そして彼が生み出した対人魔剣。己の技だけで多重次元屈折現象なんてことをやらかした侍。

 

 技で根源に至るなんて抜かしてるんだ。そんぐらいしないといかんでしょうよ。今の時点で全くできる気はしないけどね!

 

 だが、この俺にこんな世界を与えてくれたんだ。つまりはこういうことなんだろう。

 

 

 

 

 

 神(きのこ)は言っている。

 

「都牟刈持って燕返しうっちゃいなYO☆」と。

 

 

 

 

 いいぜやってやるよ。こちとら魔法科になんて興味ないんだ。今度こそ俺の夢を叶えてやる。俺の冒険はまだ始まったばかりだ!!

 

 まあ、まずは夕餉の準備から始めますか。確か漬け物のあまりがあったな、魚も学校の帰りに買ってきたし。

よーし今日の献立きーまった。両親が帰ってくるまでにパッパッと済ませちゃいましょうかね。てかあのバカップル共が、今のご時世結婚記念日に一緒に二人だけで旅行なんてする夫婦なんてなかなかいねえぞ?仲のよろしいことで。カーッペ、爆発すりゃいいのに。

 

 さて、台所に向かいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・てか、この世界、魔法科と型月ゴッチャになってたんだな。

 まあ、どんな話だったか詳しくは覚えてねえし、ヒロインにも魔法モドキにも興味ないし、一生こっから離れる気もないし。関わることもないだろ。AHAHAHAHA・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六年後

 

 

 

 ・・・・・・今思えばあれがフラグだったんだろうなぁ。昔の俺のバカヤロウ、第二魔法使えるならそこの時間軸を消し去ってでも無かったことにする。

 

 

「答えろ、お前は何者だ。」

 

 

 刀をもって佇んでいる俺に、後ろから大型拳銃式CADを向ける「魔法科高校の劣等生」の主人公。

 

 世界最強お兄様、司波達也

 

 

 

・・・・・・ドウシテコウナッタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なんか合ったら指摘ください

 あと誰かルビの振り方教えて・・・


追記、十一月一日、感想から指摘を受け、英霊剣豪七番勝負をネタバレとなるところを改稿しました


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ご先祖様は恐らく、今の俺らを見て泣いているだろう。「私はこんな脳筋などではない!」と

 バンド練習しながら小説書きながら評価に戦慄しながらこの年でウルトラマンネクサスにはまっている今日この頃の益荒男です。

 あーいそがしいそがし


 テテテッテッテー♪ テテテッテッテー♪

 テテテッテッテッテ♪ テテテテテ♪

 

 頭の中で某絶対に時間内に終わるはずもない料理番組のテーマを流しながら調理を進めていく。

 

 はいワカメを切ってー豆腐を切ってー♪お湯に味噌をとっかしったらー♪煮干しを入れてー材料ブッチ込みふたをしろ♪はい味噌汁の準備完了。この間僅か50秒。

 

 次は焼き魚でーす。腹をさいてー内臓抜き出し腹を開く♪二つに切ってー塩をまぶしたら七輪の上にボッシュート♪これを二つ用意しましょう。水分の蒸発による泡が出てきたあたりでひっくり返してを繰り返しましょう。それで焼き魚の準備も完了。かかった時間は3分程度。

 

 

 「爺や、こっちできたよ。そっちは?」

 

 「あと2分待て」

 

 

 我が家、政狩家の食事は「効率よく的確に、それでいながら上品に」がモットーである。先のふざけた感じに紹介した手順も時間も、最も効率よく美味しく出来上がるようにご先祖様が調べ尽くしたものなのだ。

 

 何でもこれは、まだ妖狩りを生業としていた頃、「いつ依頼や任務が入ったとしても直ぐに動けるよう、それでいながら旨いものを食いたい」と思った当主がいて、それを聞いた者全員が賛同した結果、一族総動員で研究され生み出されたらしい。

 

 やっぱ馬鹿だわこの一族。仕事に忠実なのはいい。けど総動員なんてする必要ねえだろ。周りも馬鹿だが当主も馬鹿だ。同じ一族だからこそ分かる。コイツゼッタイ愚痴を零しただけだ。そんで皆が乗り気になった勢いでやっただけだ。

 

 

 

 

 ここで少し、こんな旧時代のような生活をしている魔術師兼刀鍛冶一家、我らが政狩家について説明していこう。

 

 時は遡り約900年前、元は西欧の魔術師であった我らがご先祖様。彼は人間の文明の起源となる「火」を題材に根源へと至ろうとしていた。彼自身も優秀な魔術師であり、火を扱う魔術において右に出るものは指で数えられる程しかいなかったそうだ。

 

 だが、いつの時代においても優秀さと面倒事はセットでついて来るものである。彼の研究に目をつけた魔術師達が徒党を組んでその成果を我が物にしようとしたのだ。基本自分の研究にしか興味なんてないはずの魔術師がここまでする事が、彼がいかに優れた魔術師だったかを物語っている。

 

 彼はそれから逃れるために、他の魔術師がまだ手付かずの東方を目指した。だが、研究をするには場所も資金も足りていない。そこで彼が目につけたのが、航海士マルコ・ポーロの「東方見聞録」そこに記された「黄金の国ジパング」。そう、ここ日本だ。

 

 黄金の国というのに惹かれたのか新たな竜脈の発見を期待したのかは分からないが、それから彼は日本を目指し旅を始め、そして辿り着いた。

 

 

 

 だが、彼の不幸はさらに続く。

 

 

 

 勘のいい奴なら分るだろう。今から約900年前、この頃は鎌倉幕府が開かれ、北条氏が実権を握り執権政治を行っていた時代。そしてマルコ・ポーロの「東方見聞録」。この二つのワードから導き出されるもの。

 

 

 

 すなわち「元寇(げんこう)」だ。

 

 

 

 「元寇」とは、モンゴル帝国の王フビライ・ハンが東方見聞録で日本を知り、その国を支配しようとふっかけてきた二度の戦争のことを差す。ご先祖様は来る時期が悪すぎた。その戦争に巻き込まれたのだが、彼も魔術師の一人。自分の魔術を用いて襲ってきた奴を返り討ちにしていった。

 

 彼はそこで初めて刀というものを知った。彼にとって剣とは、重さを武器に敵を叩き潰すものなのだから。あんなに細く美しい身で、馬や鎧を綺麗に両断する刀に見惚れたのだ。

 

 戦争が終わりようやく一息つけると思った矢先、彼は一人の地主の下へと招かれることとなった。どうやら、彼が自分の身を守ろうとやっきになっていた所で偶然助ける結果となった武士が高い身分の御家人だったらしいのである。

 

 御家人は彼に褒美を与えるとし、ご先祖様はここに来る途中に見つけた竜脈の起点となっている土地を要求した。土地という面で御家人は少しためらったが、山の一面に小屋を建てるだけでいいと言えば簡単に譲ってくれたそうな。

 

 これで竜脈の確保はできた。ならあとは生きていくためのお金だ。御家人に相談した所、妖怪退治はどうかと勧められた。お前が使う魔術とやらでどうにかできんか、と。彼はそれを引き受けた。有名どころの竜種や妖精などとは違う、この国独自の幻想種に興味を持ったからだ。それから彼は日本の竜脈を拠点とし妖狩りを生業とする魔術師となった。これが政狩家の発端だ。

 

 

 

 

 ご先祖様は子孫達がここまで脳筋になるとは思わなかっただろうなあ。なんて思いながらお椀に米を盛っていく。聞いた限りでは、この人は普通の魔術師って感じだろう。ではどっからこうなっちまったのか、そして何故刀鍛冶となり根源を目指す手段を変えたのか。それは・・・

 

 

「ただいま帰りましたーって、お、旨そうな匂い。」

 

「Good timingだったようね。私もお腹がすいてきちゃった。」

 

 

 玄関の扉が開く音と共に二つの男女の声が聞こえてきた。バカップル共も帰ってきたようだ。

 

 

「お帰りなさい。」

 

「帰ったか。早く着替えて来い。夕餉の準備はついさっきすんだ。」

 

「ただいま。刀弥、オヤジ。ならさっさといってくる。」

 

「ええ、刀弥の作るご飯が待ち遠しいしね。」

 

 

 台所から顔を出して迎えると、そんな言葉を返して隣部屋へと向かった。

 

 

 俺の父親、政狩郁麻(いくま)

 

 俺の祖父、脳筋一号の政狩龍馬と既に他界した脳筋二号の祖母の間に生まれた常識人にして政狩家現頭首。過去の事件により()()()()()、既に刀鍛冶としての現役は引いているが、その腕は過去に打たれた作品全てを凌駕する刀を生み出す程。現代でも知る人ならば彼を「蘇った村正」と呼ぶ。刀の技においても人の域を逸しており、全力の爺やを隻腕ながら圧倒する。

 

 そして、政狩一族で唯一至りかけた(・・・・・)者だ。

 

 

 俺の母親にして常識人二号 政狩・アイナ・ミハルトン

 

 名前の通り日本人ではない。生まれはイギリス。彼女は元アトラス院の魔術師であり、そこからここ日本に逃げ出してきた錬金術師である。

 

 何故あのアトラス院から逃げ出せたのかずっと疑問だったが今ようやく理解した。

 

 恐らく、第三次世界大戦が引き起こったせいでこれまでの魔術情勢が崩壊したからなのだろう。魔法科の設定にも外国の関わりが極端に減ったみたいなことも書いてあった気がするし。この世界ならではの出来事っていうことだろう。

 

 ついでに父さんに惚れた理由は、アトラス院からの追っ手から自分を守ってくれた彼に惹かれたから、らしい。チョロい。

 

 

 

 夕食を盛った食器をお盆に乗せて運んでいると二人が戻ってきた。全員がちゃぶ台についたら、はいいっせーのーで

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 

 まあ、なんかんや言って俺も久しぶりに家族全員で食卓につけて嬉しいのだった。美味しいって言ってくれたらいいな。面には絶対ださねえけどな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「それでは始めるぞ。刀弥。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 夕食を終えて場所は変わり家の隣に建てられた道場。修練着に着替え、そう言ってお互いに頭を下げる。

 

 

「まずはいつも通り素振りからだ。やれ。」

 

 

「はい」

 

 

 そう答え、木刀を構える。通常の物より二倍ほど重い特注品だ。それを振り上げ、刀身のぶれないように振り下ろす。それを繰り返していく。

 

 

「重心が前に傾いておる。」

 

「次は右だ。動き出しが鈍くなるぞ。」

 

「疲れてきたからと力を込めるな。木刀を離さない最低限の力だけを入れろ。」

 

 

 一つの間違いを改善すると、また新しい間違いが生まれる。そして間違いが生まれることが無くなるようになるまで、余分な物を削ぎ落とし一つの完成にまで近づけていく。これだから研磨するということは止められない。爺やという本当に優れた師を持てたことにも感謝だ。父さんには劣ると言っても、爺やも人の域を既に逸した超人の一人だ。例を挙げるならば、母さんを抹殺しにきた魔術師十数人を父さんと二人で文字通り瞬殺するほどである。あん時はチビっちまうほどの衝撃を受けたね。腰の刀に手をかけた事に気付いた時にはもう手遅れ。次の瞬間には襲撃してきた三分の一が文字通り一刀両断されていた。俺の家族チート過ギイ!俺もあんなんシテーーー!

 

 

「止め」

 

 

 三百回程降っただろか。木刀を下げ、息を吐く。この少しの間で既に汗を滝のようにかいてしまっていた。それくらい集中してやっていたという証拠だろう。けどこんなものウォーミングアップにもなりやしない。

 

 爺やが木刀につける為の重りを渡してきた。これで木刀の重さは大の大人でも持ち上げられないほどになる。

 

 

「次だ。魔術回路を起動させてそれをつけろ。終えたら再開だ。」

 

 

 言われるまま、俺の体の魔術回路全■■本のうち7本を起動させる。俺の起動させるイメージは、熱した鉄に槌を振り下ろすイメージだ。頭の奥でカンッと鉄が鳴り、起動させるとともに自身に木刀を構えられる最低限の身体強化をかけ、重りを付ける。

 

 後は素振りを繰り返す。爺やが指摘し、正していき、己自身を磨き上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの話、政狩家の歴史の続きを語っていくとしよう。

 

 何故刀鍛冶を始めたのか、そしてどのようにして「自ら打った刀と技をもって境界を切り、根源への道を開く」なんて脳筋思考へと至ったのか。

 

 なんとそこには、俺が最も尊敬し目指すべき目標である人物、千子村正が大きく関わっていたのだ。

 

 何度か代が変わりながらも、火の魔術師と妖狩りを生業として生活を送っていたご先祖様。時々戦国武将の合戦に巻き込まれながらもこれまでどおり依頼を遂行していたら、彼は信じられないものを目にした。

 

 一人の男が刀だけを持って霊を切り祓っていたのだ。刀は見た所刃こぼれもなく刃の磨かれ具合からついさっきできた新品の様であったし、特に魔術を使った痕跡もない。

 

 なら何故切れた。さっきのは鬼といった肉体を持った幻想種ではなく、生き霊や地縛霊などの概念的な存在だ。何の神秘も用いずに祓いのける。それも礼装ですらない只の刀で。

 

 

 魔術師は問うた、お前は何者だ。

 

 男は答えた、只の刀鍛冶だ。

 

 

 そう、この男こそが千子村正であり、この出会いが魔術師の運命を決定づけた。

 

 魔術師は彼に興味を持った。聞いてみたところ、新しい物を打ったから試し斬りをしようと思い山を下っていたら、先の変なのにあったらしい。霊を「変なの」といっているあたり、彼が刀以外に興味がないところを匂わせる。恐らく、自分がどんな偉業を成し遂げたか欠片も理解していないだろう。

 

 魔術師は村正の了解を得て刀を直に手に取り、霊を切った理由を理解した。

 

 この刀に込められたもの、それは『執念(思い)』だった。

 

 

 全てを切り裂け。神も仏も業も縁も、目に視えぬものであろうとも、一切合切を切り裂いてゆけ。

 

 

 もはや怨念の域にまで達した執念。そんな思いが込められた世の中にある物全てを超える刀。人の思いと技とは、極めれば神秘をも切り裂くというのか。魔術師の戦慄は天辺にまで達した。そして、そこに根源への道筋を見いだしてしまったのだ。

 

 「一度決めたら即実行」がモットーの我が一族。魔術師は村正の下に弟子入りする事を願った。村正は最初はつっぱねたが、ふとあることを思いつき条件付きで弟子入りを許した。その条件とは刀の鉄を熱する為の焚き火を魔術で補うことだった。魔術師は二つ返事でこれを了承。村正の下に弟子入りを果たした。

 

 後はもう止まらない。村正の下でひたすらに刀を学び続け、火を焚き続け、槌を握り締め鉄を打ち続ける。妖狩りの依頼も、まずは刀の試し斬りをし、効かないなら身体強化をかけて拳に炎を纏い殴り倒すという、最早魔術師の面影も感じられないようになっていた。

 

 脳筋の連鎖は止まらない・・・!

 

 使う魔術も、「火」「強化」「解析」「治癒」の四つのみとなり、最終的にはこの四つ以外の魔術が扱えなくなるところまで行ってしまった。

 

 刀を扱うにも技術が必要と理解し、近くの道場で基礎を学んでは師範代をそこで得た技術のみで打ち倒してから抜けるを繰り返すという新手の道場破りみたいなことをやらかし始めた。いや道場破りよりたち悪いなコレ。

 

 そして最後に姓を改名。師への感謝と尊敬を表し、村正の「正」に「打つ」という意味を持たせるのぶんの部首を付け「政」。妖狩りを生業としていたことを残すため「狩」の字を置き、「政狩(まさかり)」となった。

 

 

 

 

 魔術世界において(恐らく)初の「魔術の研究を用いずに根源を目指す」魔術師(脳筋)の爆☆誕である。

 

 

 

 

 

 いや本当にどうしてこうなった。なんかこの台詞デジャヴを感じるな。つまり俺は自滅因子だった・・・?相手は誰だ?政狩家そのものか?なら不能になってさっさと根源いたらなきゃ。目的のためなら不能にだって道化にだってなってやる。

 

 この一族にも村正が関わっていた事に最初はものすごく興奮したが、ここまで来るともうなれてくる。自分の夢を叶えるのに適した環境をこれ以上ないほどに整えてくれたのだ。ここまでお膳立てをされて何も為せませんでしたじゃ、刀鍛冶や求道者という前に男が廃るってもんだ。誰にも邪魔はさせないし立ちふさがるというのなら一切合切切り捨てる。だから・・・

 

 

 「そこまで。見込んだ通りかなりの成長速度だ。これなら次の段階に進んでもい

 

 

 

 

 

 

オォヤァジイイイイイイイイイイイ!!!

 

 

トォウゥヤァァァアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・まずはこの第一関門(バカップル共)を越えなければ。

 

 

 

 

 

 




 俺のにわか歴史アンド型月知識に矛盾などがございましたら遠慮なく指摘して下さい。

 自分で書いてて思ったけどだめだなこの一族


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親こそが最大の壁というけれど、俺の場合いくら何でも高すぎると思うんだ。

 遅れてしまって申し訳ありません。リアルが忙しかったもので。ライブ大成功だぜやっほい。

 この話が終わったら少し時間がとびます。原作で言う所の追憶編あたりまで。

 後半の方が、少し走りぎみになっているかもしれません。それではどうぞ。


 この前述べた通り、俺の家族は俺にこの家を継がせることを良しとしていない。それぞれ度合いは違っているが皆がそう感じている。爺やは気は進まないが望むのであれば仕方がないというスタンス。母さんは他が認めたのであれば協力するが出来ればそうしたくないと言い、父さんは何があろうとも断固反対、といった具合だ。

 出来るなら無視してでも継ぎたいと思っているのだが、彼が現当主であり魔術刻印を持っている以上絶対に説得しなければならない。俺は夢の為なら何だってすると決めた。例えその相手が父さんであろうと必要と思ったなら、切る覚悟はできている。

 

 そう誓った。だから、

 

 

 

「頼む、考え直してくれ。僕は、お前を失いたくない。お前に、こんなつらい道を行かせたく、ないんだ・・・!」

 

 

 

 俺の肩を片方しかない腕で抱きながらそう言い涙を流している父、郁磨の姿を見て思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 時は稽古の途中、俺の両親(バカップル共)の声が響き渡り、道場に乗り込んで来たところまで遡る。

 

 父さんは顔を真っ赤にし、怒り心頭と言った様子で爺やに怒鳴りかかった。

 

 

 

「大声を出すな。それと稽古の途中だ。邪魔をするな。」

 

「そんなことはどうだっていい!それよりも、また刀を打ったな!それも僕とアイナが旅行に行っている間毎日!大方刀弥に見せる為だろうけど、この前もうあそこに入ることを禁じようと言っただろう!僕達にはもう、刀鍛冶なんて必要ないんだ!何度言ったら分かる!」

 

 

 

 父さんが物凄い剣幕で爺やに押し掛けている。本当に三十後半なのかこの人。つーか殺気がヤバい。この世の殺気と怒気を一つに纏めて凝縮すればこんな感じだろうか。常人なら秒も耐えられずに泡吹いて死んでいるだろう。今はその全てを爺やに向けているので俺と母さんに影響はない。てかそんな殺気を受けても眉一つ動かさない爺やも大概だな。改めてこの一族が脳筋で化け物の家系なんだと理解する。

 それと、父さん違うんです。爺やは悪くないんです。バカップル共が消えた今がチャンスと思った俺が爺やの所に頼みに行ったのが悪いんです。最初はダメだと言った爺やに向けて5時間土下座をし続けたら流石の爺やも折れてくれた。土下座は暴力。よく分かんだね。

 

 さて、現実逃避もここまでだ。そろそろ目の前の問題に向き合うとしよう。顔を横に向けると、そこには眩しい位に輝く笑顔を浮かべたマイマザー、アイナが。知ってるか?女が最も危ない時は最上級の笑顔を浮かべる時なんだぜ?

 

 

 

「刀弥、私が旅行前に言ったこと覚えているかしら。」

 

「旅行に行っている間、魔術回路を起動させる時は母さんが作った魔力封じの布を付けること。」

 

「ええその通りよ、覚えていたのはいいわ。でも、何でその布が()()()()()()()()()()()()()のかしら?もちろん説明してくれるのよね?」

 

「無理に30本以上の魔術回路を発動させたから。」

 

「さらっと言ってんじゃないわよ!」

 

 

 

 笑顔が剥がれ、こちらも怒り心頭といった具合でつっこんでくる。いやー爺やとの手合わせで思いの外気合い入ちゃって。一々制限されるのうっとうしかったからハア!って力入れたらブチッとな。お陰で翌日から3日間は回路の修復と筋肉痛で全く動けなかったぜ。

 

 

 

「これは!アトラス院から持ち出した術式を使って編んだワタシの最高傑作なのよ!聖骸布と同等の効果があると自負できるそれが、どうすれば焼き切れるなんて羽目になるのよ!」

 

「気合いで」

 

「こんの脳筋息子!もうヤダこの化け物一族!」

 

 

 

 そう言ったきり、母さんは崩れ落ちてしまった。

 母さんが編んでくれた魔力封じの布。一定数以上のの魔術回路を起動させようとすれば術式が発動し魔力を押さえ込む仕組みになっている。元はアトラス院に置かれていた魔術兵器の暴走を防ぐために扱われていたらしい。アトラス院の兵器を封じ込める程の術式を気合いで破る俺とはいったい・・・。

 まあ、単純に俺の、というか政狩一族の魔術回路が他の物とは格が違っているというだけなんだが。

 

 思い出して欲しい。この政狩一族、刀を打ち始めたのは約六百年前だがそれより前から魔術師としての研究を続けていたのだ。少なくとも九百年以上前からは。もちろんその頃から魔術刻印は継いでいるし、代々山籠もりをすることが多いので一度たりとも途切れたことはない。その結果、やけに魔術回路を多く持っている人間が産まれてくる。更に扱う魔術も単純ながら日常でも応用が利く4つの魔術だけ。長い間それしかやっていないため質も良くなっていく。その結果生まれてしまった「強化と火と治癒を自分にかけ続ける耐久型バーサークヒーラー」、それこそが政狩一族。手がつけられないことこの上ない。

 俺の家族で言うなら、爺やは68本、政狩の最高傑作と名高い父さんは更に上を行き81本の魔術回路を持っている。ついでに母さんは42本。これを初めて知った母さんは「こんな脳筋一族に負けているなんて・・・。」と嘆いたそうだ。アトラス院の魔術師はもともと数が少ないらしいから仕方がないだろう。てか母さんの胃大丈夫かな。真面目に心配になってきたんだが。ついでに俺の場合は72本。爺やよりは多いが父さんには及ばない。政狩一族最強の名は伊達じゃないね。

 

 

 

 

「はあ、ま、いつものことよね。目を離す度に何かをやらかしてくれるのは。で、あっちはあんなことになっているけど。あなたでしょう。お爺様に刀を打って欲しいって頼んだのは。」

 

「なんで?」

 

「旅行にでる前、郁磨がお爺様にずっと言っていたもの。「絶対に鍛冶場を開くな」って。耳にたこができると言うのかしら。その位口酸っぱく言っていたわ。」

 

 

 

 余裕でバレてーら。

 

 

 

「刀弥。」

 

「なに?」

 

「本当に目指すのね。」

 

 

 

 さっきまでの雰囲気はなりを潜め、今度は真剣な顔を俺に向けていた。魔術師らしい無機質さを持ったその目は、俺からすればどこか親の温もりを感じるものだった。

 

 

 

「ワタシも元はアトラス院の魔術師よ。根源を目指すのは魔術師の義務ということも理解してる。でも、ワタシは目指すことをやめた。アトラス院の、魔術師の人を人として扱わないところを嫌悪した。魔術師として致命的な欠陥だってことは分かってる。けどそれがなに?他人を犠牲に根源なんてよくわからないモノを目指すなら、魔術師になんてなりたくない。ご先祖様には悪いけど、ワタシはそう決めたわ。」

 

 

 

 話してくれているのは、母さん自身の心の内。母さんは研究の中で疑問を抱いてしまったのだ。魔術師が決して抱いて、向き合ってしまってはいけない疑問を。

 

 

 

「だからあそこから抜け出した。幾つもの偶然のお陰だったけども。そして郁磨(あの人)と出会い、あなたを産んだ。嫁ぎ先が魔術師?の家だったのは嫌だったけど、他よりは全然マシだったし、何より彼に惹かれてしまったから。」

 

「・・・」

 

「彼も根源を目指していた。けどそれは家のためだからとか究極の知識を欲しているからとかじゃない。誰でもない、あなたの為。未来自分にできる子どもに家の呪いを残さないため。」

 

 

 

 父は小さい頃、政狩家の人間としてやるべきことを全て投げ出していた。何故自分がそんなことをしなければならない、何故自分は他の子ども達のように遊んではいけないのかと。それが変わったのは十二になった頃、父の魔術刻印の継承式に立ち会ってかららしい。

 父は思った。もし自分が継がなければ、他の子どもがあんな呪いを継いでしまうのか。自分の父や祖父の人生が無駄になってしまうのか。

 父は優しかった。なら自分の代で終わらせよう。自分が根源へと至り、この呪いに終止符を打とう。我が祖先、そして何より未来産まれてくるであろう自分の子どものために。

 

 

 

 

「結果として、手にしかけたものの至ることは出来なかった。至りかけた代償として右腕も失ったわ。恐らくは抑止力が働いたんでしょう。これではもう十全に刀を打つことも扱うことも出来ない。再び根源に挑むことなんて出来ない。」

 

 

 

 

 いつの間に言い争いも終わったのだろうか。父さんと爺やもこっちを見て静かに母さんの話を聞いていた。父さんは残った左腕で肩を握っている。

 

 

 

「だけど、もう目指すことはしなくていいということになった。郁磨の努力が最高の形で実った。なのに、こんな言い方はしたくないけど、あなたはそれを無駄にしようとしている。彼のないはずの右腕を見て、そこに至りたいと言っている。」

 

 

 

 きつい言い方をしているのは、俺を心配してくれている証だろう。そして場面は冒頭へ戻り、父さんが俺に涙ぐみながら訴えている。親にここまでさせてしまっている俺はなんて親不孝な子どもなんだろう。そんな思いがこみ上げてくる。そして、父の涙を流す姿をみてもう一つの思いを抱く。

 

 

 

 

 

 

 

「刀弥、再び問うわ。あなたは本当に、政狩を継いで根源をめざすの?」

 

 

「うん。目指すよ。」

 

 

 

 

 

 

 ごめんなさい。俺はもう止まらない。止まりたくない。

 

 

 

「父さんを超える技を得る。父さんが打ったものを超える刀を打つ。境界も抑止力も切り裂いて、誰も至ることがなかった境地に、俺が立つ。」

 

 

 

 俺もこの話を聞き、新たな決意を固めた。都牟刈と呼べる刀を打つことには変わりない。けど、同時に根源へと至ってもみせよう。これまではものの次いで感覚だったが、今からは本気だ。父さんでも敵わなかった抑止力を切り、俺が政狩の歴史に終止符を打つ。

 

 俺の返事を聞いて、父さんは唖然とし、母さんは俯き、爺やはやはりかといった具合に嘆息した。

 

 

 

「それがあなたの答えなのね。」

 

「うん。」

 

「後悔はできないわよ。」

 

「しないよ。絶対に。」

 

「そう。・・・なら私から言うことはなにもないわ。」

 

 

 

それから誰も何も言えないまましばらくたった後、

 

 

 

「今日の鍛錬はここまでとする。刀弥は風呂に入ってきなさい。」

 

 

 

 爺やのそんな言葉が沈黙を打ち破り、俺は道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・はあ、くっそ気まずかったな。まあ、あそこまで泣きつかれてこの反応じゃ仕方無いよな。本当ゴメンよ父さん。でも俺は執念だけを持ってこの世界に来たんだよ。こんなところじゃ終われないんだ。あと爺や、気を使ってくれてありがとうマジで助かりました。もう爺やに足を向けて寝れないな。これから心の中では大天使ハゲエルと呼ぶとしよう。えっ、まだ禿げてないって?いやといってももうあなた波平状態じゃないですか。

 

 とりあえず今は風呂だ。一番風呂は俺が貰った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのバカップル共、お湯炊きしてねえじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 本当に、どうしたものかしら。

 

 道場を後にした最愛の息子、刀弥の姿を浮かべながらしみじみと思う。赤ん坊のころから口下手なところは変わらないが、あそこまでの情熱を胸に秘めているとは思いもしなかった。ここまで政狩という魔術師一族に似合う性格をした人間もそういないだろう。

 

 

 

 

「アイナよ」

 

「お爺様」

 

「先程のこと、礼を言う。知っての通り私も刀弥(あいつ)と同じで口下手な身でな。これまで幾度も問うことはあったが、あそこまで向き合ったことは一度もなかった。」

 

「親としてやらなければならないことをしたまでです。気になさらないで下さい。それに自分のことを卑下なさらないで。あなたがあの子と真剣に向き合おうとしていることは、あの子自身が一番良く分かっているでしょうから。」

 

「そう言ってくれるとありがたい。」

 

 

 

 

 恐らく、刀弥と一番向き合っているのはこのお爺様だろう。政狩の人間として向き合い彼の望む技術を与えながらも、一家族の孫と祖父の関係としてしっかりと見守っている。ワタシでは後ろから見守ることは常にできても、向き合うことができる場面は少ないだろう。今の郁磨では、向き合うことはできても見守っていることなど出来やしないだろうし。っと、そろそろ彼の相手もしなくては。未だ俯いている郁磨の下に寄りしゃがみこむ。

 

 

 

「あなたも何時まで俯いているの。さっさと立ち直りなさい。」

 

「・・・アイナ」

 

「あなたがメソメソし続けるなんて事はここにいる誰も望んで無いわ。分かったら、はい」

 

「・・・ああ、そうだな。すまない」

 

 

 

 涙をぬぐんだ郁磨は一度座り直したら、道場の床に仰向けに倒れこんでしまった。まだ引きずっているのね。まあ、無理もない。自分の言葉をあそこまでバッサリ切り捨てられたら引きずりもする。それも内容が内容なだけにね。なんとも皮肉なことだ。最も家を嫌った男が持った子どもが最も家に相応しい人間だなんて。

 

 

 

「僕は、間違っていたのかな。」

 

「いいえ。あなたの言っていることは親として何も間違ってなんかいないわ。けど、刀弥とこの家からすれば正しくはなかった。それだけよ。」

 

「そっか。なら、仕方ないな。」

 

 

 

 そう言って彼は笑みを浮かべた。自虐のような、諦めのような、そんな笑み。

 

 

 

「郁磨、覚悟を決めろ。もう我が儘ではいられんぞ。継承の儀もさっさとすませるべきなのだ。お前が持っていても、もう意味はない。」

 

「そう、か。もう、そんなとこまできたのか。」

 

「たとえ根源を目指すことは認めないとしても、魔術刻印は継承させるべきだ。これだけは譲歩できんぞ。」

 

「・・・わかった。魔術刻印は刀弥に継承させる。それについては、もう文句は言わない。」

 

「了承した。では、ここに郁磨が息子、刀弥を次期政狩家第十五代目当主とするこ「待ってくれ」・・・なんだ。」

 

「継承はさせる。けど当主にさせるには条件が一つだけある。」

 

「言ってみろ」

 

「高校を卒業するまでは待っていてくれ。現頭首は僕なんだ。それくらいはいいだろう。」

 

「何故だ」

 

「あいつはまだ思春期を迎えたばかりなんだぞ。今は家のことばかりだとしても、もしかしかしたら他のことに興味を抱くこともあるかもしれない。そんな時に、もう後戻り出来ない状況だったら嫌だろう。」

 

 

 

 

 多分それは有り得ない。今の段階であんなにのめり込んでしまっている。ならいつまで経っても他のことなんかには目もくれないだろう。郁磨も薄々感づいてはいるだろう。それでも彼はこう言った。本当に欠片もあるかもわからない希望を含んで。

 

 

 

 

「どうなんだ、オヤジ。」

 

「・・・よかろう。刀弥を当主とするのは高校を卒業してからだ。」

 

 

 

 

 これで今できることは全てやった。ならあとは祈るのみだ。自分の息子がせめて悔いの残さない生き方が出来ますように。

 

 

 

「なら、この話はもう終わり!お風呂に入って寝ちゃいましょう。長旅から帰ってきたばかりだもの、疲れちゃった。」

 

「そうだねって、あ、風呂炊くの忘れてた。」

 

「そうなの?なら刀弥が炊いていているのかしら。湯気も上がっていたし。せっかくなら、今日は刀弥と一緒に入ろうかしらね。」

 

「それ、この前もしようとして逃げられてなかったか?それも強化の魔術を使って。」

 

「アトラス院の魔術師をなめないでちょうだい。自分の息子の行動パターンを読みきるなんて造作もないわ。」

 

「前々から思ってたんだけど、アイナも充分政狩の素質があるよ。」

 

「そんな失礼なこといわないで。」

 

「お前たち二人ともが政狩一族にとって失礼極まりないんだぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「郁磨、私はこれから己の持つ全てを捧げ刀弥を鍛えあげる。それが私の使命だと確信した。文句は言わせんぞ。」

 

「そう、僕からは何も言わないよ。精々頑張ってくれ。」

 

「ああ。それともう一つ伝えておく。恐らく刀弥はそう遠くないうちに鍛冶の腕も剣の技も()()()()()()()()()()だろう。」

 

「なに?」

 

「これをみろ」

 

「!これって、まさか・・・」

 

「治癒で傷は塞いだ。問題はない、が」

 

 

 

 龍馬が袖を捲り、彼の腕が顕わになる。そこには、骨にまでは届かないだろうが深く切られたことを表す三寸程の傷跡があった。

 

 

 

「お前たちが旅行に出掛けた次の日、私と刀弥で模擬戦した時に付けられたものだ。魔力封じの布が使い物にならなくなってしまったのもその時だ。」

 

「戦闘能力なら、すでにオヤジの技を抜いていると?」

 

「それもあるが本題はここからだ。模擬戦の時に使用したのは真剣ではない。お互いに、()()()()を使ってのものだった。」

 

「えっ」

 

「あのとき、刀弥は魔力を自身だけでなく、木刀にも注いでいるように見えた。だが、元々『切る』ことなど出来ない木刀に切れ味の強化は出来ない。」

 

「なのに切れた。ということは、僕と同じ『切る』ことに特化した属性、起源を持っている、ということか。」

 

「ああ。」

 

「・・・だとしても、いくら何でも早すぎるだろう。」

 

「お前がそこまで至れたのは、たしか二十歳を迎えてからだったな。刀弥はまだ自覚していないだろうが、あいつははっきり言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「・・・鍛錬の進み具合は?」

 

「異常と言う他ないな。基礎は一通り叩き込んだ。ここからはどこまで磨けるかだ。次の鍛錬からは実戦的な技を教えることとなるだろう。」

 

「・・・どこまで行くんだろうな。刀弥は。」

 

「あいつの底を見抜く事など私にはできん。だが、少なくとも二十歳になる頃にはお前と並ぶだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして根源へと至る、か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 父さんと爺やが小次郎と戦った場合、爺やなら2対8、父さんなら3.5対6.5くらいで勝機があります。もちろん小次郎の方が高いです。勝敗の分け目はやはり、あの対人魔剣をどこまでしのげるかになるでしょうね。

 何なんだろく。この思ったように書けているはずなのに、「これじゃない感」がちらついてくる感じは・・・!
「これが(悪い意味での)若さか・・・」


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魔法科?うるさいそんな事より・・・え?ダメ?

 戦闘描写って難しい・・・。それを身を持って知った第四話でした。これが上手い人本当に尊敬します。

 この前友人が「俺ラブコメ書こっかなー」的なことを言ってたから私も少し原作突入に入れてみました。こんなのいらないって思う人もいるかもしれませんが付き合ってくれたら嬉しいです。



 

 

 

 ダンッ

 

 

 大きな音が道場に響く、音源は刀弥の脚から。過去最高速度で踏み込み、上げた木刀を振り下ろす。高く振り上げる必要も力を込める必要もない。腕を曲げ、木刀が頭を越えるくらいまで持ち上げ、振り下ろす時にだけ腕を鞭のようにしならせ力を込める。それだけで彼の木刀は音を超える。

 

 

「甘い」

 

 

 だがこの相手の目を騙すまでには遠く及ばない。

 

 

「力を込めるタイミングがまだ早い」

 

 

 相手は木刀を横向きに構えて当てる。これだけで防がれ、受け流された。動きは素人でも捉えられる速さだというのに、全く反応出来なかった。これが経験、持つ技の差である。この一瞬で誰もが理解させられる、決定的な差。

 木刀同士がぶつかる瞬間、なのに刀弥は一切力の拮抗を感じることができなかった。まるで相手の木刀は宙に浮いているよう、そんな感覚。自分の木刀は相手の体を避けて前に進んでいく。それは相手の想像した通りの光景だった。

 少し前ならこのまま体制を崩され、一太刀をたたき込まれて終わっていた。だが嘗めるな。いつまでもこんなとこにいられないんだ。その思いとこれまでの積み重ねが別の結末を生み出す。体勢が崩れる前に、相手の木刀の構え方から受け流す方向を予測し、そこに重心を合わせる。そうすることによって体勢が崩れるのを防ぎ、次の動きを間に合わせる余裕を生ませたのだ。

 

 

「ほう」

 

 

 相手が感嘆の声を漏らす。受け流しをここまでの精度で初攻略するとは予想していなっかたのだろう。

 相手の繰り出した横凪を刀弥はやっとの思いで木刀で逸らす。このまま体制が崩れかけたまま打ち合うのは得策ではない。そう考えた刀弥は一度相手の構えた木刀から最も遠いわき腹に向けて木刀を振るう。だが簡単にふさがれてしまう。ここまでは予想通り、木刀に力を入れ弾き飛ばされる要領で後ろに下がる。

 

 

(受け流しの対処法はつかんだ。あとは一進一退を繰り返して機会を-

 

 

「阿呆が。格上相手に下がってどうする。斬ってくれと言っているようなものだぞ。」

 

 

 

 着地する前に、相手は目前にまで迫ってきていた。既に木刀は下段に構えており凪払いの準備を整えている。

 

 

 

(速すぎるだろ!どうやって!?)

 

「!、縮地!?」

 

「ようやく気付いたか。」

 

 

 

 縮地

 

 中国の技能が起源とされる歩行術。元は地脈を縮めることで長距離を一瞬で移動することができる仙術を表す言葉であり、日本武術では相手との間合いや死角に瞬時に入る体裁きのことをさす。

 縮地を扱う武人は確かに多い。有名どころで言えば新撰組一番隊隊長、沖田総司などだ。彼(彼女?)もかなりの使い手だとされているが・・・

 

 

(後ろに飛んだ瞬間を捉えながら予備動作なしで使える奴なんているのか!?)

 

「少し本気でやる。得物は絶対に離すなよ。」

 

 

 相手の腕の筋肉が急に弛緩するのが目に入る。脳内で危険アラートがこれ以上ないほどに響いている。本能に赴くまま、木刀を横に構えた。

 

 

 

 カンッ!

 

 

 

 刀弥が捉えられたのはそこまで。気がつけば木刀のぶつかる音とともに彼はもの凄い勢いで道場の壁に打ちつけられていた。

 

 

 

「カッ、ハッ」

 

 

 

 受け身もとれないまま崩れ落ちる。言われた通り、木刀は手離さなかった。

 

 

 

「そうだ。如何なることがあろうと決して武器を手離すな。己と刀は一心同体、刀が自分の手から離れた時に己は死ぬと心得よ。まずはそこからだ。でないと根源など夢のまた夢だぞ。」

 

 

 

 試合の相手、爺やの声が届くが刀弥は反応を返すことができない。今は打ちつけられた時に吐き出された空気を取り込むことに精一杯だった。

 一分もしないうちに刀弥は再び立ち上がる。その顔には先ほどのダメージが響いていることをありありと感じさせた。腕が痺れる。爺やの払いは腕に途轍もない負荷をかけていた。なぜ木刀を握り続けていられるか、刀弥自身よくわかっていない。それでも構える。この向こうに彼の望むモノがあるかもしれないから。

 

 

「もう一度、お願い、します。」

 

「・・・よかろう、と言いたいが時間が来てしまった。学校に遅れる訳にもいくまい。」

 

 

 今の時刻は朝6時半、平日の朝の鍛錬は5時から6時半と決められている。学校のHRは8時半からだが、通学に1時間近くかかってしまうため早めに終わらないといけないのだ。

 

 

「朝食の準備をしておく。風呂に入って着替えてこい。」

 

「・・・はい。ありがとう、ございました。」

 

 

 木刀の構えを解き礼をしてお互い道場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、私も修行が足りんな。」

 

 

 龍馬の右腕、そこには切られたような傷跡が無数にあり、さっきの試合、最後の交錯でも新たな傷を付けられた。本能の赴くまま振ったのだろう。あれは確実に腕を切り落としにかかっていた。いち早くそれを察知したが間に合わず少しだけとはいえ切られてしまった。傷からは少量の鮮血が腕を伝って流れている。

 

 

「本当に、末恐ろしいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~いって、爺や容赦なさすぎだろう。まだお腹が痛むぞ。

 只今朝の入浴中、朝の鍛錬で爺やにボコボコにされたあと風呂に入るのがここ数年の日課だ。お陰で体には痣や傷跡がいっぱい。治癒をする必要のないギリギリのラインまで痛めつけてくるのでさらにたちが悪い。

 

 あの家族会議から三年の月日が経ち、俺は中学生になった。本当は学校なんか気にせずずっと鍛治と鍛錬に勤しんでいたいのだが、家族全員が「高校を卒業するまで政狩を預けることはできない」と言ったので仕方なく通っている。お陰で今マズいことになっているんだがなァ・・・!

 てかなんでだよ。なんで魔術刻印は継承させておきながら頭首の座は譲ってくれないんだよ。お陰でこっちは鍛治場を自由に使えなくて悶々とした日々を送る羽目になっちまった。爺やの鍛冶を週2くらいで手伝わせてはくれるけど、自分の作品を打ったことはまだこの世界では一度もない。

 あ~刀が打ちたい~!早くあの焼いた鉄をひたすら鍛え続ける感覚を再び味わいたいんだ~!もうそろそろ禁断症状起こってもおかしくないからね。

 

 っと、もう上がらないと朝ご飯を食べる時間がなくなっちまう。遅刻したら教師に反省文書かされることになっちゃうからね。

 

 

 

「来たか。」

 

「うん、おはよう父さん。」

 

「ああ、おはよう刀弥。」

 

「・・・母さんは、」

 

「まだ寝てるよ。アイナは朝に弱いからな。」

 

 

 風呂から上がって制服に着替えて食卓につく。母さんは案の定まだ就寝中。父さんは苦笑いを浮かべながら先に食卓についていた。

 

 

「それじゃ」

 

「「「いただきます」」」

 

 

 平日の朝ご飯はこうやって母さん抜きで食べることがほとんどだ。先ほど父さんが言った通り、母さんは朝に滅法弱い。常人よりかなり低血圧らしい。8時に起きてきたならいいほうだ。

 そのまま20分もしないうちに全員朝食をたいらげていた。

 

 

「ごちそうさまでした。じゃあ薪割りの続きに行ってくる。」

 

「ごちそうさま。それじゃあ、こっちも行ってくるね。」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

「車には気をつけなさい。」

 

 

 それには「ぶつかりそうになっても避けれるように警戒しろ」って意味も入ってるんだよね。もちろんだよ。

 

 さてと、特に楽しみもないどころか最近面倒なことになってきた学校に行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?昨日の大雨のせいで土砂崩れ?線路がふさがれてしまって復旧にはあと1時間かかる?あーそうですかそうですか。ハイハイハイハイ・・・。

 

 

 遅延証明書持ってったら反省文無しにしてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。そんじゃ期末テストの記録表返すぞー。出席番号一番から取りに来ーい。」

 

 

 気だるげな担任の声が教室に響く。十分前についたがもう一時間目は終わっていた。

 くそう。朝からひどい目にあった。幸い反省文は無しにしてくれたが後で授業ノートを提出しないといけない羽目になっちまった。この中学やけに内申ノート点でかいんだよな。なんで鍛冶師の俺が成績なんて気にしないといけないんだよ。ここのあたりの高校偏差値高いからだよちくしょう。まあ、前世の知識のお陰で一度教わればすらすら憶えられるからそこまで困ってはいないが、中学だから成績の内申点の割合が定期テストと同じか大きいくらいあるんだよな。

 

 

「次、政狩ー。」

 

「はい」

 

「ほらよ。喜べ、総合的にはクラス次席だ。数学を上げれば主席になれるぞ。次も頑張れよ。」

 

 

 ふむ、今回のテストの平均は87か。社会とか理科とか暗記系は90とれてんだけど、数学が75きってるな。まあ、数学は慣れだし仕方ないか、要復習だけど。夜の鍛錬終わったら間違い直しだな。

 うん?なぜ真面目に勉強しているのかって?いい成績出してたら誰も文句を言わないからに決まっているだろう。めんどくさがってサボるよりもさっさと自分からやって黙らせた方が効率も印象もいい。伊達に還暦迎えてないってことだ。

 

 

「政狩くん、おはようございます」

 

 

 ・・・きたよ最近の悩みの種が。

 

 顔を横に向けると、そこには将来絶世の美女となろう可憐な少女が微笑みながら尋ねてきていた。

 

 

「おはよう。」

 

「今日は遅かったですね。何かあったんですか?」

 

「昨日の大雨のせいで電車が遅れただけ。」

 

「それは大変でしたね。ところで、テストの結果はどうでしたか?」

 

 

 俺は特に答えもせず、そのまま結果表を渡す。

 

 

「平均点は87ですか。ほとんど同じですね、こちらの方が若干高いですが。数学も私の方が高いですけど、それ以外の教科はほとんど負け、ですか。はあ、中間とあまり変わりませんね。今度は勝ちたかったのですが・・・。」

 

 

 と、そんなことを言いながら肩を落としている彼女は俺の隣の席の女生徒、名前は司波深雪である。

 

 

 そう、あの司波深雪である。

 

 

 原作ほとんど憶えていないと言っても流石に分かる。だってキャラ濃すぎるもの。主人公の妹でありながらメインヒロイン。超が付くほどのブラコンで劣等生の兄と比べて完璧と言える程の優等生。ヨスガんのかテメエら。(益荒男の気持ち)

 なんでそんなキャラがこんな田舎といってもいい場所の中学にいるんだよ。お前んち確かお金持ちだったろお嬢とか言われてたろならもっと都会にいるだろう普通!!

 いや、俺も最初はビビった。最初の自己紹介のとき「その名前どっかで聞いたことあるな」と思って見てみたら、アニメの時より少し幼くなった感じの顔があるじゃないですか。叫び声をあげなかった俺を誉めて欲しい。勿論、初めは俺も関わらないようにしたさ、クラスメイト全員に。だって必要ないし面倒いし。普通にしてたらあんなクラスカーストトップに立つような奴とぼっちの俺が関わることはまずない。話かけられることも一週間に一度あればいい方だ。・・・言ってて悲しくなったりなんてしないぞ。

 だが、予想に反して司波深雪は孤立していた。容姿に惹かれて話しかけた男女は大勢いたが、反応がよろしくなかったらしい。確かにあの時の司波はどこか冷たい空気を醸し出していたな。話しかける奴は次第に減っていき最後は一人もいなくなった。クラスでは俺たちのことをぼっちツートップなんて呼んでいた時期もあったような。ならこのままお互いぼっちでいましょうと思っていたさ。ならなんでこうなったんだって?それはな、

 

 

Q、自由席替えがあります。クラスの連中はぼっちをどう扱うでしょうか?

 

A、邪魔だから纏めて隅っこに追いやる。

 

 

 こういうことだよ。

 

 ぼっちには一番キツい魔法の言葉「二人組作ってー」と同じ位の威力があるだろ?当然反論なんて聞きいれてもらえず窓際の二列に押し込まれたって訳だ。くそったれ、何が「窓際の一番後ろをやるんだから文句ないだろ?」だ。ジゴロの大山、テメエだけは絶対に許さねえ。

 でもまあ、ぼっち同士隣になったんだから仲良くしましょうとはなる訳ないわな。最初は顔も合わせずひたすら無視していたんだが、中間テスト一週間前のある日向こうから声をかけてきた。

 

 

「あの、」

 

 

 ビクッとなった俺は悪くない。警戒しながら彼女の方を向くと、

 

 

「教科書を忘れてしまって、その、出来れば、一緒に・・・。」

 

 

 なんて、瞳を僅かに潤ませながら小さい声で言ってきた。テスト週間中に教科書無しで授業を受けるのはかなり厳しい。だから一言も話したことのない俺に頼んできたのだろう。窓際だから俺以外に頼めるやついなしな。てか他に頼める友達もいないだろうけど。なんだ、それだけか。警戒して損した、なんて思いながら何も言わず教科書を俺たちの間に置いたら、

 

 

「ッ、・・・ありがとう、ございます。」

 

 

 本当に見せてくれるとは思ってなかったらしく、驚きながらもお礼を言った。授業が終わった後、休憩の間寝ていようと机に突っ伏そうとしたら

 

 

「あの、先程は本当にありがとうございました。この恩は必ず、後ほど返させていただきます。」

 

 

 いやいやそんな重く捉えないで。むしろ返さなくていいから、これまで通り無視し続けてくれたらそれでいいから。

 

 

「気にしなくていい。あと恩とかも返さなくていい。」

 

「そういうわけにはいきません。貰った恩は必ず返す、当たり前のことです。」

 

 

 結構頑固だなコイツ!めんどくせえ!いや本当にいいから。もう関わらないことが恩返しになるからマジで!一瞬このまま伝えてやろうかと思ったがそれだとただの嫌なヤツになってしまうので、迷いに迷った結果、

 

 

「次俺が忘れた時に見せてくれればそれでいいよ。」

 

「・・・わかりました。その時は必ず。」

 

(かかった!これで俺が忘れることなく次の席替えまで経てば接点はなくなる!クックック、完璧だ。世界は俺の知力の前に屈したのだ。ハーハッハッハ!)

 

 

 なんて思っていた時期が俺にもありました。

 

 三日後、俺は曜日を間違えて準備をしてしまい全ての教科で司波の教科書を見せてもらうことになった。

 

 

「もしかして、忘れてしまったのですか?ならどうぞ!約束ですもの、遠慮しないでください。え?曜日を間違えて持ってきてしまった?ふふ、政狩君はおっちょこちょいなんですね。」

 

 このとき程俺の鍛冶と刀の腕不足を恨んだことはない。さっさと根源に至って第二魔法を習得しておくべきだった。

 それをきっかけに、向こうから話しかけることが多くなった。これまで溜めていたものを掃き出したかったのだろうか。物凄く話をふってくる。具体的にはこんな感じに。

 

 

「政狩君、一緒に昼食を食べませんか?」

 

「政狩君は何か趣味は有りますか?私は最近料理をはじめてみたのですが。」

 

「政狩君は電車で通学しているんですね。家が遠いんですか?」

 

「政狩君、テストの結果はどうでしたか?って、凄いですね。三教科90点後半だなんて。数学については、その、誰にだって苦手なものはありますよ。」

 

「政狩君は・・・」

 

「政狩君!」

 

 

「と、刀弥?いったいどうしたんだ?その、目が完全に死人のそれだぞ・・・。」

 

 

 ふっ、笑えよ、この有り様を。・・・いや、まだだ。まだチャンスはある!決して譲らん勝つのは俺だ!次の席替えはくじ引きで決まる。再び同じ人間と隣になるなんて可能性はあまりに低い!さらばだ司波よフォーエバー俺の隣からいなくなれーーー!

 

 

「先程、大山君?が「本当はボクがブイブイいわせたかったんだけどねえ、女の子の笑顔には敵わないさ。精々上手くやれよ。教えを請うなら何時でもきな」って言いながらこのくじを渡してきたのですが、何だったのでしょう?って、まあ、政狩君がお隣ですか?またよろしくお願いします!」

 

 

 なあ大山君、ちょっと屋上行こうぜ。久しぶりにキれちまったよ。

 

 

 

 

 この後、大山君のキャッチコピーは「特徴がないのが特徴」となった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 あれからずっとこの調子が続いている。もう諦めた。後約10ヶ月、最悪三年間のあいだ耐えればいい。そうすれば原作者通り司波は魔法科高校に行き俺との関わりは完全に途切れる。魔法科高校になんて行きたくないし。てか俺は青春ラブコメなんて望んじゃいねえ!ただ政狩家があって刀を打てたらそれでいいんだ!まあいいだろう、後三年と割り切ればどうということはない。刀を好きに打てるようになるにはどっちにしろ後六年かかるんだ。なら気長に待とう。美人と一緒と考えたらそれはそれで悪くもないしな。

 

 

「それじゃあ政狩君、行きましょうか。」

 

「?どこに」

 

「どこって、体育館ですよ。」

 

「なんで?」

 

「昨日の先生の話を聞いていなかったんですか?」

 

 

 こく

 

 

「もう、政狩君ったら。今日は魔法適性検査の日ですよ。生徒の想子(サイオン)と魔法演算領域の保有量を検査するんです。今後の進路に大きく関わるんですから、忘れててはいけませんよ。」

 

 

 何だろう、急に嫌な予感がしてきた。

 

 

 

 




 この作品では深雪は社会勉強と確かな経歴を残すため学校に通っていることにしています。
 最初に言っておくと深雪ルートに入るっていうかヒロインルートに入ることはありません。この物語の結末はは刀弥が目標を達成できるかできないかの二つだけです。寄り道する事はあるかもしれませんが。

 深雪を持ってきた理由は「後で達也と四葉で遊びたいから」それだけです。


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本当に俺はいい親を持てたよ。それはそうと、もう家に引きこもりたいんですけど(泣)


 第五話投下!

 最後のが書きたくて急いで仕上げましたとも!あれ、途中適当になってないかな?(本末転倒)

 私はこの作品をアイナはアーチャーインフェルノ、郁磨はぐだ男、爺やをセイバーエンピレオにして書いています。友人はアイリ、キリツグ、アハト翁らしいですが。皆さんはどうですか?


 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

 我が家の居間は、重い沈黙に包まれている。只今政狩家、第二次家族会議まっただ中で御座います。きっかけは俺が学校から持ち帰った一枚のプリント、そこにはこう書かれていた。

 

 

『魔法適性調査結果表

 

 対象者:政狩 刀弥

 

 保有想子量:ランク B+

 

 魔法演算領域規模:ランク B

 

 総合評価:B+

 

 結果:平均よりかなり高い適性をお持ちです。

    記述テストの結果次第では簡単に一科生

    で入学できるでしょう。魔法科高校への

    進学を強くお薦め致します。

    

 

               日本魔法協会』

 

 

 

 

 嫌な予感ってよく当たるよね?

 

 

「これは凄いこと、なのか?」

 

「ああ。僕達はあまり現代の魔法というものに詳しくないんだが・・・。」

 

「ワタシだってそうよ。魔術師は基本現代の魔法を快く思っていないもの。ワタシはただ興味がないだけだけど。」

 

 

 政狩の人間はほとんど山籠もり状態なので俗世には全く詳しくない。外来の母さんも魔法には興味がないらしい。

 

 

「俺の学校には、二項目ともB以上は俺と後一人しかいないって。先生もなんか喜んでた。」

 

 

 そのもう一人とは勿論司波のことである。原作じゃ学年代表も務めてたし当然だね。ついでにあいつは両方ともA以上だった。

 

 

「それなら、凄いんだろうな。」

 

「で、どうする?」

 

「どうするって何が?」

 

「もちろん、刀弥のこれからの進路のことだよ。」

 

「今決めることなの?」

 

「ああ、もう一枚の紙に書いてある。『今回の検査で総合評価D以上の評価を受けた生徒は後日この紙の欄に希望する進路を記入して期限までに提出して下さい。希望する生徒には二学期から「魔法科高校進学カリキュラム」を実施致します。』だって。期限は一週間後の水曜日だ。」

 

「進路を決めるにはいくら何でも早すぎない?こういうのってもっとじっくり考えるものでしょ?」

 

「多分、ほとんどの生徒が魔法科高校への進学を希望するってわかってるからじゃないか?魔法師の将来は安泰だってことぐらいは聞いたことがあるし。」

 

「学校からしても魔法科高校に生徒を送るのは都合がいいんだろう。箔がつくという意味でもな。早くから始めておいて損はない。」

 

 

 なんか俺抜きで話しがどんどん進んでいく。でも言っていることは間違いではない。実際、先生もそんなこと言ってたし。話し長くて半分くらいしか聞いてなかったけど。こっちは四六時中鍛冶と鍛錬のイメトレで忙しいんだよ。あ、そういえば。

 

 

 

「俺はその紙出さなくていいって。」

 

「え、なんで?」

 

「俺はもう、そのカリキュラムを受けることになってるから。」

 

「はあ!?」

 

「それは、本当か?」

 

「うん」

 

 

 検査が終わった後校長らしき人のところに連れて行かれて「君が望むのであれば先にこのカリキュラムを受けることを受理しよう」なんて言ってきた。どうやら、カリキュラムを選択した生徒を一つのクラスにまとめて、通常のものとは別の授業を受けることになるだとか。基本的には魔法知識と魔法実技が中心となり、内申もあがるらしい。下校時刻が遅くなることもないみたいなので「それでかまいません」と返事をした。そのことを皆に伝えると、

 

 

「そうか・・・。」

 

「それが刀弥の答えというなら何も言うことはないわ。」

 

「・・・。」

 

 

 上から、爺や、母さん、父さん、である。あれ?なんか反応がよろしくないぞ?そんなに俺変なことした?確かに魔法科高校に進学する気なんてさらさらないけど、「内申上がるから高校行きやすくなるぜラッキー」な感覚で受けたんだけど。

 

 

「刀弥」

 

「?」

 

 

 父さんがようやく口を開いた。その目はまるで何か大きな決意をしたように激しく燃えている。

 ど、どうしたんだマイファザー?一体、何を?ゴクリンコ・・・・

 

 

「もしこれで、高校を卒業しても政狩を継ぎたいと言うのなら、僕はもう文句は言わない。当主の座を譲り、残りの命を全てお前の望みの為に捧ぐと誓おう。」

 

 

 

 ・・・え?マジで?

 

 

 

 

 ・・・ヨッシャアアアアア!!これは本当に後六年で自由に刀を打てるようになるってことだよな!いやあ心配だったんだよ。頭首になっても「もっと他にやるべきことがある」とか言って自由に打たせてくれないんじゃないかって。でも、もうそんな必要はない!よーしやる気出てきた。この六年で爺やの技を全部習得してそれからゆっくり都牟刈を目指すとしよう。ここまで、本当に長かった・・・!

 

 でも、なんかデジャヴを感じるんだよな。前の魔術刻印は継承させるけど当主にはさせない、みたいな?手に届く場所まできたのに回り道をさせようとしている、みたいな?ま、気のせいか!気にしない気にしない!

 

 

 後六年、死ぬ気で頑張るぞー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は纏まり夕食をとった後、刀弥と爺やは鍛錬の為に道場へ向かった。月明かりが照らす中、郁磨とアイナは庭に出て夜風にあたっていた。

 

 

「いつ見ても、とても綺麗な星空ね。」

 

「そうだな。小さい頃は何も思わなかったのに、一度外に出てからは、とても綺麗に見える。」

 

「外は地上の光が強すぎるのよ。賑やかなのもいいけど、ワタシはこっちの方が好きだわ。」

 

「そっか。」

 

「ええ。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・さっきの、」

 

「え?」

 

「さっきのあれは、魔法に興味を持ったってこと、なのかしらね?」

 

「そうだと、いいなあ。」

 

「でないとこんなものなんて受けないわよ、あの子は。無駄なことを嫌う人間だもの。」

 

「・・・どうにせよ、多分これが最後のチャンスだ。これでダメなら、僕は諦める。そして、全力で刀弥を支えるさ。」

 

「あら?ワタシはほったらかしなの?悲しいわ。」

 

「え!?いや、そんなつもりは・・・」

 

「ふふ、冗談よ。」

 

「うぅ、そんな冗談はよしてくれ・・・。」

 

「イーヤ、止めてあげないんだから。」

 

「そうかい、まったく・・・」

 

「・・・叶うといいわね。」

 

「・・・ああ。」

 

 

 夏が近くなってきたからか、どこか暖かい夜風が吹いている中、草原に立つのは子を愛する二人の親。

 

 彼らは星が瞬く夜空の下、たった一つだけの願いを口にする。

 

 

 

 

 どうか我が子が、幸せな人生を歩めますように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『※ カリキュラムを受ける場合の注意

 

    カリキュラムを希望する生徒は、

    進学希望校は必ず魔法科高校の中

    から選ぶこととなります。

                   』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、今日も今日とて学校でございます。昨日の父さんの言葉のお陰で俺のやる気はMAXだ。後六年、耐えきるぞ!それはそうと、なんか昨日の夜の鍛錬から爺やの扱きがいっそう激しさを増したんだが。具体的には一太刀だけ入れればいいところを一瞬で三連撃くらい入れてくる。てか爺や、あんたもう直ぐ燕返し撃てそうになってるんだけど!怒りで強くなるってあんたはスーパーサ○ヤ人か!いやスーパーマサカリ人だったな!あ、やっべ、お腹痛んできた。とりあえず周りに気付かれないように治癒かけとこう。

 

 

「あ、政狩君おはようござい・・・って、どうしたんですか!?お腹を抱えて座り込んで!?」

 

 

 タイミング悪過ぎんだろ司波ぁ!そんでどんだけ俺を虐めるのが好きなんだよ神様!この世界に連れてきてくれたのはスッゴい感謝してるけどさあ!いくら何でも俺で遊びすぎだろ!さてはアンタ愉悦部員だな!(もちろんさあ)

 

 

「いや、問題ない。」

 

「でもこんなに汗もかいているではありませんか!無理をする必要はありません!私もついて行きますから、保健室に行きましょう。」

 

 

 そういやコイツめちゃくちゃ頑固だったなコンチクショウ!って、いやもういいから本当に大丈夫だから!美人と一緒ならいいとか言ったけど前言撤回!やっぱりコイツとは離れたい!!

 ん?どうした?急に気温が一気に下がったような。今はもう夏だぞ・・・っておい、なんか廊下が氷張りになっているぞ!

 

 

「さあ、行きますよ!」

 

「おい司波、まさかお前魔法を・・・!って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーーーーレーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、やけに打撲跡とかは多いけど、特に後遺症が残るような大きな怪我はないよ。」

 

「そうですか、よかった。」

 

 

 保健室の先生の言葉に司波は本当に安心したというようにそんなことを呟いた。俺は全然よろしくなかったんですけどねえ。氷の上を引きずられながら移動させられたんだから。今はどっちかっていうとお腹より尻のほうがいてえよちくせう。

 

 

「でも、本当に傷の跡が多いな。日常生活でつくようなものじゃないぞ。それも事故とかじゃなくて誰かに傷つけられたものだ」

 

「ッ、まさか、政狩君・・・!」

 

「何勘違いしているかは知らないけど、これは爺やがやったものだよ。」

 

 

 チッ、これだから保健室なんかに来たくなかったんだよ。余計なことしやがって。まあ、俺のことを心配してくれているのは分かっているけども、もう少しその頑固さ直らないかなー司波さんよお。

 

 

「やはり、虐待を・・・!」

 

「違う。武術の鍛錬をしているだけだ。」

 

「鍛錬?政狩君の家は武術の道場なのですか?」

 

「ただのしがない刀鍛冶だよ。」

 

「かたな、かじ。このご時世にですか?」

 

「そんなものどうでもいいよ。俺の家は刀鍛冶をしている、ただそれだけ。」

 

「刀を作るのに、どうして剣の鍛錬をするのですか?」

 

「だからこそだよ。刀についてよく知っていないと刀を作ることなんて出来やしない。」

 

「そうですか・・・フフ」

 

「何がおかしい。」

 

「いえ、そういうわけではなく。初めて政狩君から自分のことを教えてくれたのが嬉しくって。フフフ♪」

 

「・・・」

 

 

 なあ、大丈夫だよな?俺何もやらかしていないよな?なんか俺ずっとコイツから離れられないんじゃないかって心配になってきたんだが!?大丈夫だよなあ!?

 

 

「はいはい。こんなところでイチャイチャするな、それにとっくに授業は始まってるんだ。早く自分の教室に戻れよ。」

 

「はい♪」

 

 

 断じてイチャついてなんていねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌だ、もう引きこもりたい。ずっと山の中でひたすら鉄を打って刀を振っていたい・・・。

 いや、気を改めろ。よくよく考えるんだ。司波は中学を卒業すれば必ず魔法科高校に行く。そうならないとおかしい。原作が成り立たなくなってしまう。原作といえば、なんでお兄様が司波の近くにいないんだ?あのシスコンが司波から離れているなんておかしいだろ。そんで俺に敵意を向けてきているだろうに。・・・今思えば俺って結構危ない橋を渡っていたんだな。あの司波深雪と一緒にいるなんて。こうなるんだったら原作を読んでおくべきだった!まあ、後悔してても意味はない。とりあえず司波は魔法科高校に行き、俺はこのあたりの高校に入る。これで万事解決だ。どこにも穴なんてない。もうこれは決定事項だ。

 

 

「そういえば政狩君、進路はどこの高校にするんですか?あそこまでの魔法適性があったんです。成績も数学さえなんとかすれば、どこにだって行けると思いますよ。」

 

 

 学年主席で魔法適性A+のあなたがいいますかね。朝の授業が終わって昼休み、屋上で昼ご飯を食べている。てかもう普通に司波と一緒に食べてるな。最初は無視していたのに、慣れって怖い。今じゃ学校にいる間ずっとコイツが隣にいるんじゃないか?しかも二人っきりで。・・・これ以上は止めておこう。これからが心配になってくる。主に俺の進路が。そうだ。今ここでもうズバッと言ってしまおう。俺の意思表示とこれ以上の付き合いの線引きのために。

 

 

「魔法科高校には行かない。俺はここの近くの高校を出て家を継ぐ。」

 

「え・・・?」

 

 

 司波の目が見開かれる。いや、こっちがえ?なんだけど。そこまで驚くこと?

 

 

「な、何故ですか!?そこまで高い魔法適性を持っていながら、何で!?」

 

 

 声でけえよ!何故叫ぶ!?

 

 

「元から俺は家を継ぐつもりだから。他は知らないけど、俺は魔法を使うより刀鍛冶をしていたい。」

 

「将来のことを考えるならば、魔法科高校をでて魔法師になるべきです!あなたの才能ならば、それは難しいことではありません!()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、人生を棒にふってしまうのですか!?」

 

 

 

 

 

 あ?

 

 

 

 

 

 コイツは今何と言った?

 

 

 刀鍛冶を、政狩家を

 

 

 コイツは

 

 

 

 

 ()()()()()と馬鹿にしたのか?

 

 

 

 

 ふざけるな。

 

 

 そして

 

 

 

 

 

「図に乗るなよ。司波深雪」

 

「ヒッ・・・!」

 

 

 司波に向かって自分の出せる殺気の全てを向ける。腰を抜かして涙目になっているが知るものか。コイツは俺の逆鱗に触れた。

 

 

「何故お前が俺の人生に口を出す?お前は神か何かか?それでも俺は聞き入れるつもりはないぞ。俺の人生は誰でもない、俺自身のものだ。そして、俺は自分の夢を叶えるのを邪魔をするやつは全て切り捨てる。それもまた鬼であろうと神であろうとだ。」

 

「ァ・・・・アァ・・・・・・!」

 

 

 

 俺の夢は最高の一本の刀を打つこと。

 

 かつての刀匠、千子村正が目指し、そしてやり遂げた至高の刀「都牟刈」

 

 その名を語るに相応しい刀を打つこと。

 

 

「刀鍛冶は俺の夢へと至る道であり、俺の人生の全てだ。そして政狩家は俺を産み、俺に『鍛冶』を与えてくれた。この二つは俺にとって、何よりも大切なものだ。国家魔法師?将来の安泰?そんなものは俺はいらない。だから、口出しするな司波深雪。もしお前も俺の邪魔をするというのなら、」

 

 

 昼ご飯のパンの袋をゴミ箱に捨て、扉を目指す。もう俺にとってアイツの価値は底をついた。なら、

 

 

「その首、切り落とすぞ。」

 

 

 切ることに迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、俺達は初めてあった時のようにお互い関わらなくなり、2カ月近く経って夏休みを終えた二学期初日、司波が転校したことが担任の教師から告げられた。

 

 

 

 




ここから本編の補足をしていきます。

・魔法適性ランク

A~普通の魔法師を逸脱した規格外。ここまでくると、ほぼ数字付き(ナンバーズ)の家系の人間になる。

B~平均を大きく上回る適性を持つ、+がつけば万に一人いればいいくらいになる。

C~平均的

D~魔法師になれる最低限の適性しかもっていない。

 各ランクの間には、大きな差がある。




 最後の深雪の発言は、刀弥の言ったことのショックと四葉のことをよく思っていないことから出てきたものです。もしかしたら「こんなの深雪じゃねえ!」と思う方もいるかもしれません。

 ついでに夏休みのあいだに原作通り追憶編の沖縄戦が起こり、深雪は本格的に四葉の次期頭首としての勉強のため中学を止めることになりました。



 どうだ!深雪にトラウマを植え付けながら刀弥の原作参加を決定的にさせる!これこそ本物の愉悦だー!!ハーハッハッハッハ!!



 アイナと郁磨のシーンはブラックコーヒーを飲みながら書きました。



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我が世の春が来た!俺は刀を打つぞ!愉悦部員どもー!!



 少し遅くなりました。サブタイトルの通り、念願の刀鍛冶回です。自分なりに調べて書いてみましたが「ここは違うだろ」と感じたなら感想を下さい。


それではどうぞ


 

 あの事件から月日が経って、俺は中学2年生になった。俺のやることは変わらない。爺やに鍛冶と剣の腕を師事し、政狩を継ぐために鍛錬を続ける日々だ。

 

 だけど司波がいなくなってから学校に行くと、何故かやるせない気持ちになることがあった。そして、心の中をある疑問で埋め尽くしてしまうのだ。

 

 

 

 本当にあそこまできつく突き放す必要があったのか?高校に行ったら別れると決まっているのだから原作なんて気にせず普通に接していれば良かったのではないか?

 

 

 

(違う、あれで正解だ。今はいないとしてもあのまま一緒にいたら間違いなく兄である主人公に目を付けられていた。司波深雪は、俺の人生の邪魔になる存在だった。)

 

 

 本当に?

 

 

(ああ、本当だ。)

 

 

 でも女を泣かせたぞ。

 

 

(・・・)

 

 

 それは置いとくにしても、もう一つ不自然なことがあっただろう?

 

 

(・・・何故俺はあの時、殺気をぶつけるような真似をした?)

 

 

 

 前世でも俺は刀鍛冶だったんだぞ。「時代遅れ」「人生を棒に振る」よく言われた言葉だ。若い頃は確かに癇癪を起こし度々手を出すこともあった。だが二十代を過ぎればそんな事はほとんどなかったと記憶している。憤りはするが波風立てるようなことではなかったはずだ。

 

 

(俺がまだ未熟だからか?いや、これでも一度は寿命を迎えた身だぞ。それはないと断言したいが・・・)

 

 

 少し前に、家族にこの事を話したら「刀弥にもちゃんと子供っぽいところがあったんだな」と全員から笑われた。後で相手は女子で殺気をぶつけて泣かせてしまい一度も話すことなく別れた事も伝えたら、全員から拳骨を頂戴することになってしまったが。何故か一番力が弱い筈の母さんの拳が最も痛かったのを覚えている。

 

 

(精神が体に引っ張られているのか?)

 

 

 それならば話は分かる。精神と体は親密に繋がっているのは科学的にも証明されている。恐らく普段の心の中での言動だけはまるでイタい中学生みたいなのも・・・

 

 

 

(あれ、俺って前世はどんな性格だったっけ?

 

 

 ・・・いや、まて。それは今考えることじゃない。今俺がやるべきことは集中力を限界まで高めること。余計な思考は捨てる時だ。)

 

 

 

 集中状態で疑問を持ってしまったせいか。思考が余計な方向にいっている。俺は未熟だった、そう受け入れよう。家族が命令した通り、(ないだろうが)次あった時には殺気をぶつけたことをを謝る。そして向こうも謝ってきたならちゃんと受け入れる。それでこの話しは終わりだ。

 

 

 

 

 

 今やるべきことに戻ろう。時期的には今は夏休みの真っ只中だ。年頃の子供なら元気に遊び回っている時間だろう。俺にその気は全くないが。俺はこれから、一世一代の大勝負にでようとしている。それに備えるために今は、

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 家の自室の真ん中で、座禅を組んで心を落ち着かせいる。始めてもう一時間近く経っているがまだ解く気はない。生半可な集中力では絶対にいけない。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 今年に入ってからずっと爺やに頼み込んでいたこれは、この世界に来てからの悲願だった。そして、未熟と自覚したと己を叩き直すという意もこめている。たとえ誰が何と言おうと、今日これだけは譲る訳にはいかない。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 今の俺は、上着を脱ぎ右腕に母さんが編み直した魔力封じの布を魔術刻印がある右腕に巻き付けるという、千子村正と同じ格好をしている。魔力封じの布も、俺がデザインを提案して村正と同じものになるように頼んだ。母さんはやっと頼み事をしてくれたと張り切っていた。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 頭は完全にクリアーとなった。が、心の興奮はいつまでたっても収まらない。ならばそれでいいと捨てておく。これからは、この情熱がとても大切なものとなる。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 持って行く物は、この世界で学んだ政狩の(オレ)の知識と、一生をかけて培った前世の(オレ)の経験。それともう一つ、必ずやり遂げるという強き思い。

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 あと、あと少し、あと少しで、俺の集中力は限界に達する。余計なことは考えるな。そして思い出せ。(オレ)の姿を。ただひたすらに鎚を振り下ろす、あの感覚を。

 

 

 

「・・・よし」

 

 

 

 

 ゆっくりと、目を見開く。準備は出来た。ならあとはやり切るのみ。

 

 

 立ち上がり自室を出て、家の外れに建てられた鍛冶場のある小屋をを目指す。小屋の前には既に爺やが佇みながら待っていた。

 

 

「来たか。」

 

 

 閉じていた目を開き、真正面から向き合う。その姿はまるで生者が通ることを拒む地獄の番人のように見えた。

 

 

「準備はもういいのか?」

 

「はい」

 

「確認するぞ。これからお前がやろうとしているのは政狩の伝統、「真打(しんうち)」と呼ばれる刀鍛冶だ。普通の鍛冶との大きな違いは二つ。一つは鍛治に魔術を用いること。もう一つは刀の制作期間の十日のあいだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。小屋の中にある物は鍛冶用具と最低限生きるのに必要な物のみ。先に言っておくが、この世の地獄を味わうこととなる。過去にはこれで死んだ者も政狩を去った者もいたという記録がある。だが、これを乗り越えなければ「政狩の刀鍛冶師」を名乗ることは許されない。なまくらを打とうものならお前に政狩を継ぐ資格はない。

 

もう一度問おう。お前はこの試練を受けるか?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 夢に見た、思い焦がれた、待ちわびた

 

 

 俺の悲願への第一歩

 

 

 今なら自信を持って言える。

 

 

 

 

 

「俺は、この時の為に生まれてきた。」

 

 

 

「そうか。

 

 ・・・ならばここに!現政狩家当主 郁磨(いくま)が息子 刀弥(とうや)による、『真打の儀』を始める!己が持つ全てを捧げ、至高の刃を打って見せよ!!」

 

 

 

 扉が遂に開かれる

 

 

 己が挑むはこの世の地獄

 

 

 描くは理想の刃のみ

 

 

 不安も躊躇いもありはしない

 

 

 確固たる思いを胸に足を踏み出す

 

 

 

「刀弥!」

 

 

 母さんの声が届く。あんまり大きな声出さないでよ。集中が途切れちゃうじゃんか。

 

 

「死ぬんじゃないわよ!絶対に帰ってきなさい!アンタの好きな鯖の味噌煮、作って待ってるから!」

 

 

 母さん料理出来ないだろうが。いっつも男手に任せているくせに。魚がボロボロに崩れて出てくるのが容易に想像できる。

 

 

「刀弥、僕からは何も言いたくない。けど、これだけ。生きろよ。僕より先に死ぬなんて許さないぞ。」

 

 

 当たり前だよ。ここじゃ死ねない。ここは俺の死に場所じゃない。前みたいにやり遂げられずに死ぬのなんてまっぴらごめんだ。

 

 

 振り向いて答えるなんてことはしない。ただ頷いて、扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 扉が閉められた。

 

 

 

 

 

 俺はこの世界で初めての刀鍛冶に挑む。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 扉から手を離す。しばらくの間、龍馬はその場から動くことは出来なかった。一つの疑問が彼の胸の中でずっと引っかかっている。

 

 

(何故、刀弥はいきなり『真打の儀』を申し出た?)

 

 

 正確に定められている訳ではないが、本来『真打の儀』は人の世を捨ててから、現代では高校を卒業してから行うべきものなのだ。

 

 政狩に生まれた人間は、その人生の殆どを政狩の敷地内で過ごす。勿論、他の全てを捨て求道に邁進するためだ。

 

 なら、この『他の全て』とは何を表すものなのか。それは、『只人としての人生』『人が当たり前に持つ幸せ』のことだ。

 

 幼き頃に『只人』としての生き方と『政狩』としての生き方の両方を覚えさせ、自分は他の人間とは違っているということを理解させる。そして「己は政狩の人間だ」という感覚を心の底にまで刻み込む。思春期を越えるまでそれを続けさせ、真打の儀を受けさせる。最後に魔術刻印と当主の座を渡す時にこう告げるのだ。

 

 

「お前はここに『只人の幸せ』を捨てた。その残骸の上に、今のお前は『政狩』として立っているのだ。」

 

 

 既に自分はこの世から外れ、幸せを犠牲にしたことを自覚させる。高校まで学校に通わせるのはそのためだ。最初から家のことしか知らない人間と、一度普通というものを知りそれを捨てて道を選んだ人間とでは心構えは全く違う。『当たり前のこと』と『特別なこと』どちらの方がやる気がでるかなんて聞くまでもない。初めて行わせる『真打の儀』は、刀鍛冶としての腕調べの意図もあるが、それを相手に彫り込む為の手段である側面が大きい。二度目以降は己が根源に至る為の本作を打つことに意味がある。さらに初めての真打で打った刀が一定の評価を受けられなければその人間は政狩を継ぐ資格を失ってしまう。だから龍馬も郁磨も初めて『真打の儀』を体験したのは高校を卒業してからなのだ。

 

 

(それはもう刀弥には必要ないとして先に話していた。あいつは必ず政狩を継ぐ選択をとると解っていたからな。だが、まさか魔法科高校を選ぶとは思わなかったが・・・。)

 

 

 それを聞いた直後は心が乱れてしまい鍛錬は少しばかり力んでしまったが、刀弥の太刀筋を見てそれは誤解だと判った時は柄にもなく安堵の溜め息を吐いたのを憶えている。

 

 

(それは別として、なのにアイツは「今打ちたい」といった。「真打の儀で今の己を試したい」と。)

 

 

 最初はもちろんのこと断った。お前にはまだ早い、高校を越えるまで待てと。なのにこうなってしまったのは、

 

 

(あの目だ。私はあの燃えるような目に負けたのだ。まるで、《鍛冶師が持つべき理想》とも言える、一瞬に人生を懸けようとしている、あの目に・・・。)

 

 

 まるで地獄から這い戻った死者であり、生へと全力で縋る老人であり、ただただ夢を想う子供のようでもあった。

 見てみたいと思った。今の刀弥がどんな刀を打つのか、次に真打に挑んだ時にどこまで成長しているのかを。だからあの馬鹿息子の猛反対と拳を受けながらも、孫の背中を押したのだ。

 

 それを思い出せば、刀弥が挑んだ理由などどうでもよくなっていた。今はただ、自分の孫の挑戦を見守るのみ。

 

 

「見せてみろ刀弥。今のお前が何を望み、どんな道を選ぶのかを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やっと戻ってきた。お爺様ったら、朝からずっと小屋に籠もっていたから昼食がまだでしょう?準備は出来ていますから、早く座って下さい。」

 

「作ったのは僕だけどな。」

 

「細かいことはいいのよ。それにお爺様も、私に準備してもらった方が嬉しいでしょう?」

 

「当たり前だ。こいつが私の為だけに準備したなんて思うと虫ずが走る。」

 

「僕だってゴメンだよ、クソオヤジ。」

 

「二人ともケンカしないの。はぁ、刀弥がいないとすぐこれなんだから。ほら、お爺様の食事が終わったら明日の準備をしましょう。」

 

「ん?明日何かあったっけ?」

 

「忘れたの?明日でしょ、刀の取引。ほら、例の魔法師の家の。」

 

「ああ、千葉家との取引か。そういえばもうそんな時期だったな。」

 

「数少ない取引先なんだから、失礼があっちゃダメでしょう?ちゃんとしなさい。」

 

「はいはい、分かったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは早速始めるとしよう。

 

 まずは小屋の中にあるものを調べていく。えーと、食料は全て乾燥された保存食のみ。乾パンとか干し柿や煮干しが多いな。汗拭き用のタオルが数枚、毛布。生活品はこれだけだな。厠や井戸から引いた水道は小屋に付いているから問題ない。火床から離れたところには藁で編まれた寝床もある。うん、ここまであれば充分だ。

 次に刀鍛冶に必要な道具を見ていく。大鎚が一つに小鎚が二つ、(たがね)にてこ棒、木箱の中に大量に積まれた杉の木で作られた炭、船(熱した刀を冷やす水槽)に桶、ヤスリ、砥石etc。おい、爺や。先に小割りまで済ませてんじゃねえよ!?玉鋼を水減しして小割りをやってからの刀鍛冶だろ・・・って、そういや玉鋼の製作はこの儀が終わってからっていってたな。この製法は秘伝の一つだって。これは爺やなりの応援ってことなのか?はぁ、まあいいや。

 

 だいたいこんなところか。本当に必要最低限のものしかない。それと今は夏真っ只中だ。山の上にあるし風通しも良いように作られているが、鍛冶を始めれば小屋の中は灼熱と化すだろう。水分補給も忘れちゃいけない。

 

 

 

 よし、やるか。

 

 玉潰しやてこ棒の床造りなどは既にされているから省き、まずは「積み沸かし」だ。

 てこ棒の先に選別した玉鋼を積みあげていく。この時なるべく隙間なく、不純物が出て行きやすいようにする。まあ、ここにあるのはどれも最高純度の物ばかりだからいらないかもしれないが念には念を入れて。ここで積み上げる量は作ろうとしている刀の重さの約十倍分だ。そんなに?と思うかもしれないが、後の作業で多くの鉄を叩いたり切り落としたりするのでこれくらい必要になる。積み上げた玉鋼を、水焼き粘土や稲藁の炭などで塗り固めていく。こうすることで表面の酸化鉄が綺麗に飛ばされ純鉄が表面になるため境目なく鍛接する事が出来るのだ。

 終われば次は火を準備。木箱の中から大量の炭を火床の中に投げ入れる。そして魔術回路を起動。魔術を使って火床の中に火をつける。最初はただ炎を出すだけだったが、しばらくすれば炭が赤くなり火花を上げるようになった。

 これで準備完了。自身に身体強化の魔術をかけて10kg近くあるてこ棒を持ち上げる。そのまま火床の中に鉄が落ちないようにしながら突っ込んだ。あとは鉄が1500度近くまで熱せられるまで見ておく。

 

 

 心が満たされていく。たったこれだけの工程で、挑んで良かったと思える。

 

 そうだ、これが、これこそが

 

 

 

 

 (オレ)が生涯をかけた、刀鍛冶だ

 

 

 

 

 

 

 「積み沸かし」が終われば、次は「折り返し鍛錬」に移る。赤く染まった鉄を火床から取り出し、金床に置いた。そばに置いてあった一人鍛冶用の大鎚を取り、振り上げる。

 

 

 さあて、ここからが政狩の腕の見せ所!

 

 

 再び魔術回路を起動、熱した鉄に魔力を注ぐ。これが政狩の刀鍛冶の秘密の一つ。魔力を注ぎ続けることで鉄を高温で保ち鍛えやすくする。これによって、スムーズに作業を進めるのと、より強く鉄を鍛えることができる。だが、いつまでやっても見た目がほぼ変わらないため、引きどころの見極めがとても難しい。

 

 

(けど、(オレ)ならやれるだろ!爺やの鍛冶を十年もの間見続けた(オレ)なら!)

 

 

 鎚を振り下ろした。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 一定のリズムを刻みながら、魔力を注ぐのも途切れさせない。知識と経験を混ぜ合わせ、最適解を導き出していく。大鎚で大体の形を整え、細かい調整は小鎚に持ち替えて打っていく。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 ある程度まで鉄が伸びたら、鏨を間に挟んで折り目を入れ、縦横四つに曲げて重ねる。これは「十文字鍛え」という鍛錬法だ。この時余計な空気が入ってしまっては、鉄が酸化してしまい全てが台無しになる。細心の注意を払いながら折り曲げる。よし、この様子なら十五回ほど重ねれば充分だな。だがいつでも誤差を修正できるように集中せねば。

 

 この「積み沸かし」と「折り返し鍛錬」を二回行い、二つの鉄を造る。一つは硬い鉄で作った甲伏せ用の皮鉄、もう一つは柔らかい鉄で作られた心鉄の二つだ。次の作業「造り込み」でこの二つの鉄を使う。

 

 

(けど、今日出来るのはここまでだ。魔力の使いすぎになったらいけない。使い切ってまた全快するまで待つなんてやってたら、十日じゃ絶対に間に合わない。)

 

 

 少量とはいえ、ずっと魔力を鉄に流し続けているのだ。その消費量は馬鹿にならない。魔術回路が他より多い政狩の人間だからこそ出来る芸当だろう。

 

 

(魔術を使う工程はまだたくさんある。定期的に休んで回復させないと最後の方は動けなくなる。休みすぎてもだめだ。それじゃ期間内に終わらない。そして集中を切らせば最悪死ぬか。・・・いいだろう。やってやる!)

 

 

 獰猛な笑みを浮かべ、己を鼓舞する。刀鍛治(戦い)はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 

 

 小屋に入ってから、既に六時間が経過している。たった今鍛錬を終えたところだ。金床の上には完成した皮鉄と心鉄がおかれている。

 

 

(予想よりも、魔力の消耗が多かったな。無駄な魔力を流しはしなかった筈だが。俺の見立てが甘かっただけか。けど、一番の問題はそこじゃない。)

 

 

 ずっと注ぎ続ける魔力を調整しがら鉄を打つ。言葉にすれば簡単だが、とんでもない集中力を必要とするのは想像に難くない。しかもそれを半日もの間続ける事を、あと九日。

 

 

(頭が、割れるように痛い。この世の地獄という意味がやっとわかった。確かにこれは生き地獄だ。)

 

 

 けど、爺やは、父さんは、俺のご先祖様は、これを乗り越えて「政狩」となった。ならば俺も乗り越えなければならない。爺やから学んだモノを無駄にしないために。

 

 何より、都牟刈(オレの理想)へと今度こそ至る為に

 

 

(そのためにも今は休もう。朝にはある程度まで魔力は回復しているだろう。そうしたら作業は再開、次は「造り込み」と、刀鍛冶の山場である「素延べ」だ。)

 

 

 保存食しかない質素な夕食を食べながら明日の予定を立てていく。

 

 

(「素延べ」は時間的には丸々一日かかる。一度にやろうとしたら間違いなく魔力が保たないから、晩辺りは休んで深夜再開って風になるかな。)

 

 

 藁を敷いて、寝床の用意をする。そこに寝転がって時計を確認し、毛布に身を包んだ。

 

 

(俺はやりきるぞ。そして「政狩」を継ぐんだ、絶対に。・・・明日が楽しみだな。)

 

 

 これまで浮かべたことのない無邪気な子供のような笑みをしながら、俺は微睡みの中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回は二人目の原作キャラクターが登場(メインキャラとは言ってない)更新は期末テストが近づいて来たので遅れるかもです。


ところで型月廚の皆さん、憑依と聞いて何を思い浮かべますか?


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世界にはフラグってものがいっぱい転がっているんだ。ただ本人が気付かないだけで

 アニメのディエス、もうちょいなんとかならんのか・・・!?と思いながらテスト勉強を続ける今日、第七話を投稿でございます。


 正田作品はノベルゲームだからこそ面白い、はっきりわかんだね。


「父さん?もうそろそろ、どこに向かってるか教えてくれないか?」

 

 

 山間に作られたトンネルを通る黒い高級車の中で、美少年が自分の親に今回の遠出の目的を尋ねていた。

 彼の名は千葉 修次(なおつぐ)数字付き(ナンバーズ)である『剣の魔法師』千葉家の麒麟児と呼ばれている少年であり、その実力は3mの間合いなら世界でも上位に入ると言われている。

 修次と真正面に座り腕を組みながら目を閉じているのは、彼の父であり千葉家の当主を務める千葉 丈一郎(じょういちろう)。その筋肉隆々たる偉丈夫といえる体からは年による衰えを全く感じさせない。

 

 

「商談だ。」

 

「父さんが直々に?」

 

「ああ、相手は「政狩家」だからな。」

 

「政狩って、あの「蘇った村正」と呼ばれる!?」

 

「そうだ。今回はお前の紹介も兼ねている。決して失礼のないようにしろ。」

 

 

 「政狩」の名は、一度でも刀に関わったことがある者ならば知らないものはいない。俗世には全く興味を示さず、ただ刀を打つ為だけに育てられる鍛冶師の家系。彼らの作品はどれも逸品であり、一部では数千万単位での取引が行われたともいわれている。修次も千葉本家に保管されている政狩の刀を一度見たことがあるが、他の刀との決定的な違いというものを一目で理解させられた。

 そんな政狩家だが、先程言った通り俗世に関わることがほとんどないため、その実態を知る者はあまりに少なく色々な噂も絶えない。「世に出回っているものは全て本作ではない」「一人で何人もの魔法師を相手にできる」「その家に迷い込んで帰ってきたものはいない」などなど、一部現実的ではないものもあるが。

 

 

「パイプを持っていたのか?」

 

「先代が偶然知り合ったらしい。それからは五年に一度こうやって我々が出向いて取引を行っている。」

 

 

 もはや信仰の域にまで達しかけている生きた伝説、それが刀鍛冶の頂点「政狩」なのだ。一体どんなところなんだと戦々恐々としていながらも、楽しみの方が勝っている自分はやはり千葉家の人間なんだなと自嘲気味の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 昼の中頃、車はある山の前で止まった。使用人が扉を開け丈一郎が車から降りるのに修次も続いていく。

 

 

「戻るまでここでまて。」

 

「はい、いってらっしゃいませ。」

 

「行くぞ、修次」

 

「ああ」

 

 

 そのまま二人は道の開けたところから山を登っていった。整備などされていない。ただ木が生えていないからここは通れるというだけの道なき道だ。

 

 

(周りにも町なんてものは見えなかった。本当に今の時代でこんなところに住める人間がいるのか?いや、あの政狩だ。俗世を捨てた人々だからこそ、至れるものがあるのかもしれない。)

 

 

 十五分も歩けば、開けた平らな土地に出た。そこには一件の木造の家があった。普通の一軒家よりは広いが二階はなく、誰もが予想する「昔の日本の家」をそのまま形にしたような家だ。そして、家の前には一人の男性が立っていた。自分の父のように筋肉隆々といった訳ではなく細身だが、それは無駄な肉を極限まで削り理想の肉体を身に付けているのだということが一目で判る。丈一郎とは別方向で年による衰えを感じさせない初老の男性はこちらが目の前に立つと、威厳に満ちた声で話し掛けてきた。

 

 

「久しくなるな。遠路はるばるよくおいでなさった。初見となる者もいるので名乗っておこう。私は現政狩家当主、郁磨の父である政狩龍馬だ。今日はよろしく頼む。」

 

「お久しぶりです龍馬さん。ではこちらも。現千葉家当主、千葉丈一郎。こちらは、」

 

「は、初めまして。次男の千葉修次です。よろしくお願いします。」

 

「ああ、礼儀正しくて結構。ここではなんだ、上がるといい。」

 

「はい、お邪魔します。」

 

「お、お邪魔します。」

 

 

(なんだろう、不思議な感じだ。身のこなしから只者じゃないことはわかる。だけど)

 

 

 それだけだ。希薄というか何というか、あまり存在というものが感じられない。目には見えているのに、周りに溶け込んでいるかのように実感できないのだ。

 

 

「分からないのだろう?」

 

「えっ」

 

「只者ではない、だがその存在というものが上手く捉えられずそれ以上のことが分からない。違うか?」

 

「いや、あってる。」

 

「なら心得ておけ。彼等は俺達とは別次元の存在だ。あらゆるものを捨て、己にとって唯一無二のものを極めた上位存在。今の俺達では決してたどり着けない境地に至った化物。それが政狩だ。だから俺達では彼等を正確に捉えられない。」

 

「・・・言い過ぎじゃないか?」

 

「いずれわかる。ただ彼らの怒りを買えば、首が飛ぶのは俺達の方だぞ。」

 

 

 それは自分への忠告や脅しではなく、まるで自分に言い聞かせて奮い立たせているように修次は聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「粗茶ですが、どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ど、どうも。」

 

 

 居間に案内された修次たちは、そこでおもてなしを受けていた。アイナが出したお茶をいただき口に含む。昔ながらの緑茶の匂いが部屋を満たしていく。

 

 

「はじめまして。ワタシは当主郁磨の妻、アイナです。よろしくね。」

 

「あ、はい。はじめまして、次男の修次です。こちらこそよろしくお願いします。あの、失礼なのは重々承知なのですが、あなたは外国の方、ですよね?」

 

「ふふっ、まあこんな家の女が外国人っていうのも変な話よね。色々事情があってこっちに来たときにここの当主にあってね、ワタシから嫁入りしたのよ。どこの国かは想像に任せるわ。」

 

「へーそうなんですか。あ、変なこと聞いてすいませんでした。」

 

「別にこれくらいいいわよ、気にしないで。」

 

 

 修次がアイナと会話を弾ませている間、丈一郎はこの家の当主である郁磨との挨拶を済ませていた。

 

 

「お久しぶりです丈一郎さん。今回もよろしくお願いします。」

 

「いえいえ、こちらが買い取らせて頂く立場なんですからそう堅くならないで下さい。」

 

「そう言ってくれると助かります。片腕が無いのに鍛冶師の家の当主を名乗るのは、自分でも少し忌避感があるくらいなので。それはそうと、彼はあなたの?」

 

「はい、次男の修次です。まだまだ未熟ですが、剣の腕はそれなり以上と言えるほどになりますよ。まあ、あなた方と比べるとどうにも言えないかもしれませんが。」

 

「いやそんな、こっちは刀しか脳のない脳筋一族ですから。っと、はじめまして修次君、僕が政狩家当主の郁磨だ。そんな肩に力入れないで寛いでいってくれ。」

 

「い、いえ、そういうわけには。招いて貰った身でそんな・・・。」

 

 

(なんか、普通だな。もっとキリキリした感じだと思ってたんだけど、案外そうでもないっていうか。何処にでもある普通の家庭って感じというか。)

 

 そんなことを思いながらしばらく待っていると、龍馬が麻布の袋に入れた刀を二つ持って居間に現れた。

 

 

「品を持ってきた。商談を始めよう。」

 

 

 龍馬はそう言って座ると、麻布の紐をほどく。中から納刀された状態の刀を取り出し丈一郎に渡す。

 黒光りする漆塗りされた鞘に金で綺麗に装飾された鍔、そして鞘から抜かれた刀身。全てが一級品であり、刀身に関しては最早言葉にする事が烏滸がましいと思える程のものだった。一度納刀し、白鞘に納められたもう一本の刀を見るが、同じような感想しか湧き出てこない。修次にいたっては息をする事を忘れ、目が刀に釘付けになっている。

 

 

「これらは、どちらが打たれたものなのでしょうか?」

 

「黒鞘に納められたのが過去に僕が打ったもので、白鞘の方が半年前にオヤジが僕の息子と一緒に打ったものです。」

 

「息子さんと一緒に、ですか?それは、将来が楽しみですなぁ。」

 

「ええ。まあ、少し、というかかなりそればかりに夢中になってしまっているところがあるのですが。」

 

「確か、刀弥君でしたかな?物言わずでずっと剣を振っていましたね。」

 

 

 丈一郎の頭には鋭い目つきをした少年の姿が思い浮かんでいた。道場で素振りをしていたところに自分が挨拶をすれば、少し頭を下げただけで直ぐに鍛錬を再開する。五年前の彼でも、同年代では足元にも及ばない程の剣の腕を持っているのが分かった。今ではどこまでいっているのか。

 

 

「年はいくつになりましたかな?」

 

「今は十四で中学二年になります。ああ、でも魔法科高校に進学しようとしているみたいなんですよ。どうやら魔法に興味があるみたいで、適性もB+とかなり高かったんです。」

 

「そうなんですか。実はこの修次も今は魔法科高校の生徒でして、刀弥君が進学する頃には卒業してしまいますが。」

 

 

 郁磨は今のうちに、魔法科高校について色々と聞いておこうと考えた。アイナも同じことを思ったのだろう。アイコンタクトを取るとアイナから聞き始めた。

 

 

「ねえ、修次君。参考までに、どこの学校か聞いてもよろしいかしら。」

 

「は、はい。僕が行っているのは東京の八王子にある第一高校です。特徴は国立魔法大学への進学率が他校より高いことですね。九校戦での優勝経験もあります。」

 

「その九校戦っていうのは何かしら?」

 

「名前の通り、年に一度全国にある九つの魔法科高校が集まって行われる魔法の競技大会です。早い話が共同でやる体育祭と言ったところでしょうか。」

 

「へえ、かなりのエリート校なのね。その第一高校って。」

 

「でも、刀弥君は魔法適正がB+もあったんですよね?一校では魔法実技の方が優先されますので、彼なら簡単に入れると思います。」

 

 

 第一高校の入学試験は、論理七教科の筆記テストと魔法実技試験を受けることとなるが、実技の方が筆記より比重が大きいのだ。

 

 

「お前たち、その話は後にしろ。今はこちらが先だ。」

 

「あ、すまないオヤジ。話を折ってしまいすいません。」

 

「いえ、お気にならさず、この話は後ほど。それでは刀の方に戻らせてもらいますが、これらの銘は?」

 

「前に言った通り、私達が売るものは全て本作ではない。本作ではないものに銘はつけない主義だ。」

 

「そうでしたな。額はどのくらいをお望みで?」

 

「三百万あればいい。高いなら下げるが。」

 

「いや、現代の価値から考えてもそれは低すぎます。ましてやあなた方政狩の打った刀を二本もとなると桁が一つ増えて当たり前というくらいですよ。」

 

 

 第三次世界大戦以降、伝統品の職人はその数を急激に減らしていった。今では政府の保護の下に品を生み出し、博物館に展示されるのが普通だ。買い取ることはできるが一世紀近く前とは比べられない程の値段がつく。そんなご時世で刀を買うとなると、たとえ上級階層の人間でも躊躇してしまうほどとんでもない額が付くはずなのだ。

 

 

「そこまではいらん。むしろこの取引のおかげで金銭なら余っているくらいだというのに。」

 

 

 だが、この家で普段使われるお金は日用品代と食料代、刀弥の学費、数年おきに行われる鍛冶に必要なものの取引のみ。旧時代の生活を送っている政狩家にとってはお金はあまり必要ないものなのだ。

 

 

「・・・わかりました。ですが、こちらも剣を扱うものとしての礼儀があります。ですので、表示額の倍、六百万でこれらの刀、買い取らせて頂きます。よろしいですね?」

 

「はあ、もうそれでよい。」

 

「では、取引成立ということで。金は前と同様に後日家の者に送らせます。」

 

 

 この後、丈一郎たちは郁磨とアイナの二人から魔法科高校について色々と聞かれたあと、満足した様子で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「第一高校、東京の八王子・・・。あいつを頼ってみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-ッ、はぁ、はぁ、っふ!」

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 鉄を打つ

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、-ッ!」

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 鉄を打つ

 

 

 

「うぅ、ァア!!」

 

 鉄を打ち続ける

 

 

 

 

 真打の儀 四日目、刀鍛冶は皮鉄を心鉄に被せる『造り込み』を終え、ついに山場となる『素延べ造り』まできていた。

 『素延べ造り』とは、造り込みでできた鉄を細長い四角に伸ばし、反り以外の刀の形を決める作業のことだ。なのでこの作業の重要度は他の作業よりも抜きん出て高く、ここで少しでも調整を誤ればできるものはなまくらのみとなってしまう。

 

 

(始めてから、いったいどれくらい経った?もう時間の感覚もおかしくなってきてる。魔力も底が尽きそうだ。そして、何よりも・・・)

 

 

 10kg近くある鉄を、刀の細さになるまで伸ばす。それも常に形を調節しながら。途轍もない時間がかかることは想像に容易い。そして時間が延びれば延びるほど、使う魔力も精神も大きくなっていく。

 

 

(-ッ!ダメだ、思考を絶やすな!常に考え続けろ!こんな状態で感覚で打ち始めたら、一瞬でなまくらに成り下がるぞ!区切りまであと少しだ、絶対にやりきれ!)

 

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 思考を続けながら魔力を、そして思いを込めながら打っていく。

 

 切れ、切れ、全てを切り裂け。縁も定めも業も神秘も、全部切り裂いていけ。

 

 

 カンッ カンッ カンッ カンッ

 

 

 

 錬鉄を止め腕を下ろす。『素延べ造り』が終わった。このまま次の工程に移る。

 次に行うのは『火造り』。(しのぎ)と小鎚を使って、『素延べ造り』でできた地鉄を赤くなるまで熱しながら、刀の刃先となる部分を薄く叩き刀独特の断面を打ち出していく。しばらくすると少しずつ鉄の温度は下がっていくので、それに合わせて作業を進める。こうすることで、鉄にむらが現れないようにするのだ。最後に、船に入ったお湯につけて冷やすことで反りをつける。これで『火造り』は終わりだ。

 できた鉄を持ち上げて、出来具合を見ていく。

 

 

(細さは充分、けど反りが造ろうとしたものより少し小さい。断面はまっすぐ、心鉄にも歪みはなし。及第点はとれるだろうが、やはりまだ甘い部分もある。この体では初めてというのもあるだろうが。・・・まあ、とりあえず今日の作業、魔力を使う作業はこれで終わりだ。)

 

 

「ふう・・・。」

 

 

 ため息を吐いて、後ろに倒れ込む。ここまで長かった。頭は今も割れるように痛い。魔力はほぼ底をついた。

 それでも、しっかりできた。遂に真打の儀の山場を越えたのだ。

 

 

(まだやることはある。模様をつける『土置き』に『焼き入れ』、刀の腹に溝を入れる『桶入れ』の後に研ぎを済ませたら、最後に刀に名と命を吹き込む『銘切り』。土置きは一日置く必要があるから時間がかかるけど、これなら全然間に合う。)

 

「・・・やった」

 

 

 楽しかった。

 

 痛かったし、つらかったし、苦しかった。

 

 それでも何より

 

 刀を打つことができて嬉しかった。

 

 もっと打っていたかったと思うほどに

 

 刀鍛冶が楽しかったのだ

 

 

(もっと余韻に浸っていたいけど、そろそろ限界だ。体を拭いてもう寝よう。そして明日からも頑張ろう。今の俺ができる、最高の刀を造れるように)

 

 

 この四日、刀弥はずっと笑って眠れていた。夢でも刀を打つ姿が見られて、幸せの中にいることができるからだ。

 タオルを水につけ体を拭いたあと、もはや癖になりそうとまで愛着を持った藁の寝床で横になる。

 

 

「もうずっとこうしてたいなあ。」

 

 

 そんなささやかな願いをこぼしながら、この四日間で十回目の眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その願いは叶わない

 

 すでに物語の舞台は決しているが故に

 

 前日譚はこれにて閉幕

 

 運命が絡み始めるのはもうすぐだ

 




 次回で入学直前の話を書いたあと、遂に原作突入です。さーて、みゆきちとどう絡ませよっかねーゲヘヘ。


母「あんた、テスト赤点取ったらスマホ取り上げるからね。」


 勉強せねば・・・!


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幸せの絶頂にある時、背筋が凍る感覚があったら気をつけな。そこから先は地獄だぞ


 更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません。まさか自分でもメリクリあけおめことよろハピバレなんて挨拶をする事になるなんて思いませんでした。何してたんだというのは聞いてくれないでいてくれたら嬉しいです。


 でも、こちらから一つだけ

 何で邪ンヌと師匠がこない!?(泣)


 

 

 

 七月某日の正午、遂にその日が訪れた

 

 刀弥が挑んだ政狩の伝統「真打の儀」、小屋に籠もらせ極限まで追い込んだ状態で行われる刀鍛冶。刀弥が小屋に入ってあれからもう十日、つまり今日は儀の期限の日なのだ。

 小屋の前にはもう既に龍馬、郁磨、アイナの三人が集まっていた。皆固唾を呑んで時計の針が重なるのを待っている。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

 誰も口を開かない中、時計の針の音だけが響いている。後数秒で針は12の数字の上で重なり儀の終わりを告げる。

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 チッ チッ チッ

 

 

 残り、三秒

 

 

 チッ チッ チッ カチッ

 

 

 パカッ

 

 

 ポッポー ポッポー ポッポー

 

 

 針が重なると同時に、時計に付けられた扉が開きその中から玩具の鳩が現れる。小屋の扉の上に掛けられた鳩時計が正午の時間を軽快な鳴き声で告げた。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・ップ」

 

 

 沈黙を貫いた一同だったが、アイナがもう我慢出来ないと言うように吹き出した。既に腹を抱えて笑いをこらえている状態だ。それを何とも言えない表情を浮かべながら見ていた郁磨は、コレをずっと外させない父親、龍馬に向かって言葉をかけた。

 

 

「・・・なあ、オヤジ。もうそろそろ、本当にあの時計変えないか?いつもなら別に気にならないんだけど、真打の直後にコレっていうのは、その」

 

「・・・前にも言ったが、これは私の母君が少しでも我々が和むようにという想いから着けられたものだ。そして私の父である先々代はコレを外してはならないと厳命した。ならばこのままでいるしかなかろう」

 

「いや、それも知ってるし、理解出来る。だけど・・・」

 

 

 コレはないだろ!

 

 郁磨の頭に思い浮かぶのは、絶えなく笑顔を浮かべているがたまに訳の分からないことをしでかそうとする自分の祖母。

 

 

(あれは天然の塊のような人で、祖父ちゃんは祖母ちゃんのことになると凄く甘くなっていたよなー)

 

「それよりも、今は刀弥だ。開けるぞ」

 

「え、ああ、そうだな。おい、アイナもいい加減にしろ。毎回毎回もう慣れただろ」

 

「ップ、フフ、・・・ふぅ、ごめんなさい。けど、慣れるのは当分無理よ」

 

「はぁ、アイナのツボが変なのは相変わらずか。まあいいや。オヤジ、頼む」

 

「ああ。」

 

 

 懐から鍵を取り出し、扉に付けられたら鍵穴に差し込む。回すと同時に、がちゃり、と大きめの音が鳴る。そのまま龍馬は手をかけ、前に勢いよく押した。

 

 まず彼らの目に入ったのは、綺麗に整理された鍛冶場だった。埃やスス、炭のかけらも見あたらず、儀が行われる前より綺麗にされている。その次は、寝床として使われたであろう藁で編まれた敷物。その上には既に水洗いされた鍛冶用具やタオルが置かれていた。これらは、鍛冶師は刀を造るだけではいけないとしっかり理解し、これからの刀鍛冶のことも考えられているという証拠だ。今の年齢でこれを理解して実践出来ているのかと、郁磨と龍馬は刀弥の評価を改める。

 

 最後に目に写ったのは、長めの木箱を前に座禅をくむ刀弥の姿だった。今は目を閉じ小窓から漏れる陽の光を浴びて、まるで神々しささえ感じるような錯覚さえ覚える。そんな彼に三人とも一瞬動きを止めたが、真っ先に再起動した龍馬が呼びかける。

 

 

「刀弥」

 

「・・・」

 

 

 返事は無く、未だに目を閉じうつむいたままだ。二人の親が心配そうに目を向ける。不審に思った龍馬は刀弥の口元に耳を近づける。すると、息があるのを確認できた。

 

 

「眠っているだけだ。やはり、かなりの疲労だったのだろうな」

 

「そうか」

 

「よかったぁ」

 

 

 龍馬の言葉を聞き、二人とも胸をなで下ろした。アイナに至っては涙ぐんでもいる。

 

 

「おい、刀弥」

 

「・・・ん、うんん。・・・あれ、爺や?」

 

 

 もう一度、今度は少し強めに呼びかけると刀弥は目を覚ました。

 

 

「なんでここに?って、ああ、そっか。もう時間か」

 

「そうだ。真打ちの儀はこれで終わりだ。よく頑張ったな。できた刀は木箱の中だな」

 

「うん。結構、上手く出来たと思う」

 

 

 まだ眠たいのか、おぼついた足取りで刀弥は立ち上がり木箱を手に取った後、紐をほどいて中から何の装飾も施されていない抜き身の刀を取り出す。そのまま茎の部分を握り締め、己が集大成を持ち上げる。皆が期待の視線を向ける中、遂にその刀身が露わとなった。

 

 

 

 綺麗だ

 

 

 この言葉がそれを見た者全員の心を埋め尽くした。

 

 種類は現代で一般的な刀を指す「打刀」で、刀身は刃長二尺三寸(約70cm)、反り七分(約2cm)。そんな、ここにいる皆なら何度も見てきた普通の刀。だが()()が違う。アイナはこの()()を明確に言葉にする事はできないが、「それは形や構造、材質といった目に見える物ではない」という事だけはしっかりと理解出来た。

 

(本当に綺麗。何故そう感じるのか不思議なくらい。でも、これ、どこかで見たことがあるような)

 

 

 

 

「ねえ、爺や」

 

 

 唐突に刀弥が龍馬に呼び掛けた。そんな年でここまでの業物といえるべき彼の傑作を前に、思わず龍馬も身構えてしまう。

 

 

「どうした」

 

「風呂、行っていい?」

 

 

 だからこそ、こんな抜けた質問をしてくるとは予想しておらず、一瞬固まり言葉につまってしまった。おい孫よ、ここは感想などを聞く場面ではないのか?

 

 

「はぁ、行ってこい。話は上がってからだ」

 

「分かった」

 

 

 返事を聞くと刀弥は刀を木箱の中に戻し、さっさと小屋を出行ってしまった。いくら何でもマイペース過ぎるだろと思ったりもしたが、真打を終えても元気な証拠だと仕方ないといったふうに溜め息をこぼした。

 

 

「なぁ、刀弥」

 

 

 最後に、郁磨が刀弥の背に声をかけた。そして一つの質問をした。

 

 

「刀を打っているとき、お前はどんな思いをこめたんだ?」

 

「切れ」

 

 

 一拍の間も空けずに、答えを返す。

 

 

「総てを切り裂いてゆけ。ただ、それだけ」

 

 

 それが当たり前だと、それ以外に何がある。そんな風に言われた気がするような言い方だった。

 

 

「そうか」

 

「うん」

 

 

 今度こそ、刀弥は小屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ヤッフゥー!久しぶりの風呂だー!

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

 あーぎもぢいー、やっぱり何かやりきった後はお風呂に限るかな!疲れが全部流れていくこの感覚が最高かな~。

 ああ、物凄く楽しかった。ここが魔法科の世界だとか自分が魔術師だとか、そんなのどうでもよくなってしまう。やはり何処までいっても自分は「鍛治師」で「刀狂い」なんだと、死んでも変わらないんだと。それを再確認出来て良かった。今挑んだのは間違いじゃなかった。

 さて、頭の回転も戻ってきたところで、今回の反省会といこう。

 今回での最大のミスは、やっぱり自分の思い通りの反りに出来なかった点だろう。せめてあと5mmは欲しかった。もう一つは魔力の使用配分。魔術を扱った鍛治は初めてだとは言え、明らか使いすぎた面もあったし。上の2つの要因で、少し耐久性の面で不安が残ってしまった。コレはもしかしたら致命的な問題になる可能性もある。次までには絶対に克服しなければいけないものだ。鍛治は引き続き爺やに師事を請うとして、魔術は母さんに頼るとしよう。そろそろ魔術の訓練もしようと向こうもいってたし。

 次は誉めるべき点だ。自分で言うのも何だが、初の独り鍛治でここまでやれたのは、誇ってもいいと思う。いくら知識と前世の経験があるとは言え、この体での実践は初めてだったのだ。それであの出来なら、誰だって十分だと言うだろう。まあ、そこまでは言わないでも、自信に繋がったのは事実だ。

 

 こんな風に反省会を続けていき、半刻ほどで一段落ついた。まだまだ鍛錬不足ということを改めて実感した。これまで以上に精進せねば。

 そう言えば、父さんが最後によく分かんない質問してきたな。「どんな思いをこめたんだ?」なんて、そんなの「切れ」に決まっているだろう。刀は置物でもなければ装飾品でもないんだ。前世にもいたが「美しい刀を打ちたい」なんて言うやつは、腕がどれだけ良かろうと刀鍛治師としては三流もいいところだ。刀は元々切る為だけのものなんだ。美しさなんてものは二の次だし、いい刀を打てば勝手に付いてくる。なら何を目的に打つべきかは明白だろう。そんな当たり前のことを聞きたかった訳じゃないだろうし、うーん。・・・まぁいっか。そんな気にする事でも無いし。

 さーて、そろそろ上がりますか。これ以上湯に浸かっていたらのぼせちまう。あ、そうそう。刀の名前も結局あれにしたんだった。前世で初めて自分が打った作品。これまでも、そしてこれからも、あの時と同じ思いで行くために。

 

 

 

 

 骨は燃えると、含まれたカルシウムが炎色反応を起こし火が燈赤色(とうせきしょく)になる。だが、昔では別の色の炎になったという記録があるのだ。

 

 その色は『紫』

 

 赤と青の相反する二つの色を内包することから「高貴と下品」「神秘と不安」などの二面性を表す色とされ、骨を焼いた際のこの色の火が、おとぎ話に描かれる人魂の正体だともいわれている。

 

 それを知って、吉田蓮斗(前世の俺)は一つの誓いと共に、自分の作品に名を付けた。

 

 

 肉を焼いてもまだ足りぬ

 

 その骨が紫の火を上げるまで

 

 その火が我が魂となるまで

 

 鎚を握って降り続ける

 

 刀の名は

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 刀弥の姿が見えなくなったと同時に、三人とも木箱に入った刀弥の刀に視線を向けた。

 

 

「刀弥の奴、やってくれたな」

 

「そうだな。まったく、こんなモノを初の真打で完成させるなんて、僕達に喧嘩売ってるとしか思えないよ」

 

 

 そう言った郁磨の横を通り過ぎた龍馬は、木箱に戻された刀弥の刀を手に握り外に出る。小屋の近くに生えていた小さめの木の前に立つと、そのまま横に一太刀を振るった。すると木はゆっくりと斜めにずれていき、最後には見事としか言い様のない断面のみを残し地に落ちた。

 

 

「重心にほぼぶれはなし。だが、恐らく反りは描いていたモノより少し小さいな。それとやや耐久性に不安がある、といったところか。あえて挙げるとしてもこの程度だな」

 

「かなりの出来なんですね」

 

「ああ。だが、かなりの一言では済まされるものではないな」

 

「まだ十四で初の独り打ち。それでこの出来なんて、この目で見なければ絶対に信じないよ」

 

 

 アイナが矢張りと言ったように確認の言葉をかけた。郁磨も一度、龍馬から刀を受け取り試し斬りをし始める。

 

 

「でも、流石僕の息子。未だ教えていない本質までをも理解しているとは」

 

「本来はまだまだ早すぎるのだがな。まぁ、これならば特に問題はないだろう」

 

「ん?どういうこと?」

 

 

 二人の会話の意味が分からず、アイナは何のことか尋ねた。親子二人は「ああ」とそう言えばといった風に答えた。

 

 

「本質というか、心構えって言った方がわかりやすいかな」

 

 

 答えを聞いて、アイナは更に訳が分からなくなった。

 

 

「心構えって、一番最初に捉えるべきものじゃないの?」

 

「まあ、そうなんだけど。これについては別というか何と言うか」

 

 

 言いあぐねていた郁磨に、溜め息をつきながら龍馬が助け船を出した。勿論、それで郁磨が睨み付けるまでがいつもの流れだ。

 

 

「未だ未熟過ぎる身では、これは却って悪影響を及ぼす。だから先に技術を磨かせ、その後にこれを説く。基本はそうなのだが・・・」

 

 

 結果はご覧の通り、年からは考えられない技術とまだ誰も教えていない心構えを、今回の真打で見せつけられた。何がやらかしてくれるのではないかと覚悟はしていたものの、これは流石に予想の斜め上を行き過ぎた。

 

 

「して、その心構えとは?」

 

「あぁ、それは刀を打つ目的を間違えるなってことだよ」

 

「根源に至る為でしょ?」

 

「まぁ、僕たちはそうだけど、教えることは違うな。それは魔術師の目的であって、本来の刀鍛治とは全く関係のないことだからね。刀の本来の目的は「切る」ことだ。なら僕達鍛治師は切る為の刀を打たなきゃならない」

 

「だが、今の時代にその考えを理解出来る者はそうおらん。彼らにとって刀なぞ縁遠い物であり、触れる機会はあってもそれは芸術品としてであり、切る為の武器として見る人間なぞ皆無だろう。実際に現代での刀の役割とは芸術品であり、他の鍛治師が打つ刀も()()()()()()()()()()()()()ばかりだ。それを否定するつもりはないがな」

 

 

 現代において、刀が武器として使われることなど普通有り得ない。その役割は芸術品として人を魅了することだ。だから今の鍛治師の殆どが『美しさ』を欲する。だが、そもそも人が美しいと感じたのは、その切る為だけの武器としての姿なのだ。さらに言ってしまえば、切ることに特化した剣を勝手に人が美しいと思っただけ。ならば、刀に美しさを求めることは、はなから間違っているのではないのだろうか。

 

 

「と言っても、僕ら政狩家は普通からほど遠いからね。刀を芸術品と思う奴なんてまずいない。けど、最初からそればっかりに気にしていたら、思いが早って上手くいかない。だからまずは何も言わず技術を磨かせて、行き詰まったところにこれを教える、って言うのが伝統なんだけど・・・」

 

「初めてにも関わらず素晴らしい技術を見せつけ、切ることにも異常なまでの執着を見せた、と。刀弥って、刀鍛治の才能に溢れ過ぎ?」

 

 

 何度もしつこいかもしれないが、まだ十四の少年が本質を捉えた上で一本の刀を一人で完成させるなど、まず有り得ない話なのだ。それを「刀弥だから」ですませられる周りも周りなのだが。

 

 

「これ、真面目に先祖返りを疑うものだぞ」

 

「まぁ、真実がどうにせよ、刀弥の才は我々の想像を遥かに越えるものだということが分かった。これなら次からの鍛錬は段階を大幅に上げてもいいだろう」

 

 

 刀弥の地獄が確定した瞬間である。

 

 

「あ、ねぇねぇ」

 

 

アイナがそう言えばと言った風に声をかけた。

 

 

「そう言えば、その刀の名前って何なの?」

 

「あぁ、えーと

 

 

 

 

紫焔(しえん) 刀弥』

 

由来は知らないけど、紫の焔とは物騒な名だよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 時は移り、ある夏の日のこと。場所は旧長野県との境に違い旧山梨県にある、住所も割り振られていない人里離れた小さな村。ここにはある家系の人間たちが住んでいた。

 

 その家系の名は『四葉』

 

 魔法の最高権威を持つ十師族の一つに数えられ、過去の事件から「アンタッチャブル(触れてはならない)」として恐れられている、現代最凶の魔法師一家。

 

 そんな危険極まりない場所の中央、四葉家の本邸の一室で一人の少女がその手にある写真をもって、ベッドに腰をかけていた。

 

 彼女の名は司波深雪

 

 現四葉家当主である四葉真夜の姉、深夜の娘であり、次期四葉家当主候補の最有力。その美貌は未だに幼さを残しながらますます磨きをまし、可憐さと神秘性をも持ち始めた。

 だが今はその顔には色濃く影が浮かんでいた。そしてその原因は自分が持つ一枚の写真にあった。

 

 どこかの体育祭の様子だろうか。二人の男女が体操服を着て腕を組みながら、いや、男子の方が無理やり組まされながら写っている。その証拠に、男子の方は体を離そうとしながらそっぽを向いていた。

 写真の女子はもちろん持ち主である深雪であり、これ以上無いほど楽しそうに笑っている。事実この頃は毎日が楽しかった。学校に行くのが、彼に会うのが、彼と一緒に話すことや授業を受けることやご飯を食べることが、心の底から楽しく感じたのだ。

 

 

 それを自らの手で壊した。

 

 

 自分の思う通りにならないと分かって、それが受け入れられなくて、彼の誇りを貶してしまった。その返答は、これまで感じたことのない大きな殺意と拒絶だった。彼とはそれから一度もあっていない。

 

 彼は今、どうしているのだろうか。

 

 

「政狩君・・・」

 

 




 今回のできはあまり自分的には納得できていません。それもあって遅れてしまったのですが、「これはちょっと・・・」て感じたなら感想に下さい。頑張って書き直してみます。


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Q.知らぬ間に進路が確定し、ヤバい目に遭うこと間違いナシとなった場合の対処を答えなさい A.笑えばいいと思うよ

 
 ピックアップでふじのんを引いたお陰でやる気がすんごい出た勢いで過去最長の話を書いた益荒男。投稿もうすぐ詐欺をした弁明に「おりゃあ悪くねえ!急にらっきょ復刻してきた運営って奴が悪いんだ!」と述べる


 調子乗ってたら一万字を超えてました。小分けしようとは思ったのですが、おそらく皆さん方が待ち望んだシーンだと思いますのでこのまま投稿します。

 次回?うん、まあ、がんばるよ(セイバーウォーズ復刻の通知を見ながら)




「東京に出てみないか」

 

「・・・は?」

 

 

 初めての真打の儀を終えてから、既に一年の時が過ぎ、俺は中学三年となっていた。今は夏休みを終え、二学期に入ったばかりの頃で、皆一生懸命勉学に励んでいる。それもそうだろう。何たって今我々は受験生。誰もが望む高校に入学するため、一時だろうと無駄にできないのだ。かく言う俺こと、刀鍛治師の政狩刀弥も同じであり、日々勉強に明け暮れている。いや、勿論鍛錬の時間は一秒たりとも削っていないが、基本それ以外の時間は勉強だ。爺やと新しく加わった父さんのしごきを耐え、母さんのスパルタ魔術教室の後に受験勉強というのは、なかなか苦しいものではあるが。それは全て自分の為になるのだから文句なんてない。うん、ナイッタラナイ。真打が終わってから一気に難度が跳ね上がった気がするけど、まぁ大丈夫!死んでないし!たまに一日中全身尋常じゃないほど痛かったりする日もあるけど!だから、大丈夫、なんだ・・・!

 そんな自分なりには充実した毎日を送っていたある日の放課後、いきなり校内放送で呼び出され、帰宅を邪魔されたことに少し腹を立てつつ職員室に来た俺を、いつもは気だるげな担任教師が真剣な表情で迎えたと同時にこう言い放ったのだ。

 

 

「政狩、東京に出てみないか?」

 

「先生、何が言いたいのか分かりません」

 

 

 何で二回言った?そして何故いきなり東京?話が全く見えてこないんですが。

 

 

「あぁ、すまない。ちゃんと順を追って説明する。まず政狩、お前は魔法科高校進学カリキュラムを受けた。なら志望校は併願の場合、国公立は必ず魔法科高校から選ぶことになる。これは分かっているよな?」

 

 

 質問というよりは、確認のようなニュアンスで聞いてきた。それはまぁ、自分だって受験生ですし。そんなことくらい知ってて当然・・・

 

 ん?

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「そう、なんですか?」

 

「なんだ、知らなかったのか。あ、そう言えばお前は特例でもう一年の二学期から受けていたんだったな。なら仕方ないか。てか、そりゃそうだろう。カリキュラムに使う設備は演算媒体やら特殊装甲演習場やら馬鹿にならないほど金を喰うんだ。魔法科高校に行くつもりがない奴に設備を使わせるなんて勿体なさすぎるだろう。まぁ、適性があるって分かってカリキュラムを受けて、一般校に行きたい奴なんてそういないだろうし。いるとしても、そりゃ相当の馬鹿だ」

 

 

 いえ、いるんですけど。目の前にその相当な馬鹿がいるんですけど。

 

 

「話を続けるぞ。実は魔法科高校には既に推薦制度があるんだ。中学の魔法の知識、演習、模擬戦の成績を高校に送って、めぼしい生徒には受験での優遇や免除が行われる」

 

 

 え?何?つまり、俺は絶対に魔法科高校に逝かねえとダメってこと?あれ、そういや父さんが高校卒業したら当主の座譲るって宣言したのって、確かカリキュラムの説明を読んだ時じゃ・・・あっ(察し

 

 

「でだ。その推薦候補に、お前が選ばれた。それも最優先度でだ」

 

(これ俺オワタわ)

 

 

 もうどうしようも無いほどに手遅れだと、自分はようやく気づいた。そう理解した瞬間、全思考は停止し、目からハイライトが消え、完全に諦めモードに入ってしまった。こうなったのは司波深雪の時以来だな。ハッ、笑えよ神様。

 

 

「推薦してきたのは、ん?どうした政狩?何というか、暗黒オーラ的なものが出てきているんだが?」

 

「イエ、キニシナイデクダサイ」

 

「そ、そうか、分かった。推薦してくれたのは、東京の八王子にある第一高校。ここは魔法知識より魔法実技が優先される場所でな。入試の成績割合も実技の方がかなり配点が高い。だが、もしこの推薦を受けるなら、実技テストを免除しペーパーテストのみを行うことにするらしい。それも、実技テストは()()()()が与えられて、だ。総代候補からは自動的に外されることになるけどな。」

 

 

 それは誰でも簡単に分かるくらいの破格の条件だった。ここまでしてくれるということは、それ程までに自分を買っているということなのだろう。

 

 

「物凄い好待遇ですね」

 

「俺も最初はめちゃくちゃ驚いたが、今じゃそうでもないって思うよ。よくよく考えれば、保有想子(サイオン)量も魔法演算領域もランクはB越え、模擬戦は授業内では全勝、魔法のバリエーションも多いし発動速度も校内トップどころか全国レベルで見ても高ランクだ。しかもどこかの魔法師の家系でもない一般家庭の生まれときた。普通にこれぐらいで頷ける人材だよ」

 

 

 彼らは知らないが、刀弥の模擬戦の内容も今回の推薦の大きな要因となっていた。模擬戦とは言ってしまえば、魔法の早打ち勝負だ。どっちが先に魔法式を起動し、相手を戦闘不能に追い込めるか。大抵は一回の攻防で終わる。さらに未だ中学生の身では使える魔法も少ない為、同じ単純行程の魔法をどっちが先に当てるかという、ランクありきの泥試合が殆どだった。だが、高ランクであることからの教師の無茶ぶりに応えて、既に多くの魔法式の展開が可能になっていた刀弥。「そんなのつまらないだろ」と様々な魔法を実践で試し、新しい戦術を次々考えていった。只のお遊びと実習の暇潰しだけのつもりだったというのは、刀弥本人のみが知る事実である。

 

 

「一高は魔法大学への進学率が魔法科高校の中でもトップだ。しかも、今年度は十師族の七草(さえぐさ)のお嬢様と十文字(じゅうもんじ)の御曹司がいて、九校戦では二連覇を果たした。間違い無くお前にとっていい刺激になる」

 

 

 そう言う担任教師の顔からは、喜びの色が読み取れる。何時もは気だるげな感じだが、生徒とはいつも正面から向き合ってくれている、いい教師なのだ。司波が転校したときも気にするな声を掛けてくる程に。ついでに普通に顔も整っているので、女子生徒からの人気は教師で一番らしい。

 

 

「とりあえず、今ここで決めろって訳じゃないから、この書類を持ち帰って親と相談しろ。お前の進路だ、お前が決めればいいさ」

 

 

 そう言って爽やかな笑顔を向ける担任教師に「じゃあ一般校から選ばせて下さい」と言いたくなるのをこらえながら、俺は職員室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ・・・どーしてこーなった

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 只今俺は教室で絶賛後悔&自己嫌悪中でございます。いや、もうほんと、どーしてこーなった。校長の話に頷いたのがいけなかったのか?いやでもあの時はカリキュラムの概要を言われただけで他は何もしらなかったし。なら・・・

 

 

「・・・はぁ」

 

 

 もうやめよう。今更どうこう言ったって何も変わらない。今向き合うべき問題は、

 

 

「第一高校からの推薦」

 

 

 そう、あの一高である。魔法科主人公である司波兄妹が入学し、物語のメインステージとなり「いやこの高校だけ治安悪すぎだろ」と言われるあの魔法科第一高校である。ここに入学すれば、完全に物語に巻き込まれることが決まり、あのお兄様とブラコンシスターに会うことになる。最悪、全ての事件に首を突っ込むことになるだろう。まぁ、くっそ面倒くさいことになるわけだ。しかも、既に司波深雪とは面識がある。向こうがトラウマになっていなければ、もしかしたらあっちから話しかけてくるかもしれない。最初は謝罪しか受け取る気はないが。そして一番嫌なのは、世界最強お兄様こと司波達也に目をつけられることである。アニメでラストのあれはもう笑いしか出なかったのを覚えているよ。さて、どうしたものかねぇ。

 

 いや、推薦受けなかったらいいだけか。

 

 すんごい簡単なことだよ。一高に入学受けたらこうなるというだけで、なら別の高校に行けばいいだけだ。不登校になるというのは余りにも無責任だろうし。責任放棄、ダメ絶対。それに受験にわざと落ちるというのも気に入らない。ここまでやって来たんだ。それ相応の結果を得ないと納得もいかないんだよ。てか、恐らく父さんは魔法科高校を卒業しないと当主の座は譲ってくれないだろうし。

 ともかく、俺は(前から決まっていたけど)魔法科高校に行かなければならなくなった訳だ。さてどーしましょ。推薦蹴るならどこの高校にしようかな。順当にいくなら、ここから一番近い第四高校に入学するか?あれがあるのは静岡あたりだからちょっと遠いけど、半日もあれば余裕で帰れる。でも日帰り出来ないのが面倒だな。いや、それはどこ行っても同じか。あ~ダルい、昔の俺を殴りて~!こっちに来てからこんな後悔ばっかだなド畜生!

 

 

「政狩君?一人で頭抱えてどうしたの?」

 

 

 んあ?俺がOHANASIしてから大人しくなった大山じゃないですか。ご機嫌取りのつもりか、自分からパシられようとしていた頃が懐かしいな。今では世間話くらいならする仲である。

 

 

「別に、こっちの話」

 

「そう?あ、それよりも政狩君、一高からの推薦がきたんだよね!おめでとう!」

 

 

 ん?何でコイツがそれをしってんだ?まだ誰にも話してないし、これから話す気もなかったんだけど?

 

 

「さっき職員室の話を聞いたって、他の女子が話しているのを聞いたんだ。多分、今日の間には学校中に話が広がると思うよ」

 

 

 え、マジか。あの話聞かれてたのかよ。ちょっと自分への気遣いが全くないように感じられるのですが。てか行く気ないのにそんな噂を流されても困る・・・わけでもないけども。

 

 

「受けるつもりないんだけど」

 

「え!?何で!!?」

 

「ウルサい。だって遠いし、他に行きたいところがあるし(ほんとのこと言うのもあれだし、こんなところでいいだろ)」

 

「あ、そーなんだ。なら仕方ないか。でも確かに、あそこって九校戦とかのの成績はいいけど、一科生とニ科生の確執が大きいって聞くし、政狩君はそういう雰囲気は嫌いそうだしね」

 

 

 コイツ色々詳しいな。いや、当たり前だよな。受験する学校について何も知りませんはただの阿呆か。俺のことだよ阿呆は。仕方ない、あまり他人に頼ることはしたくないけど大山に聞いてみるか。

 

 

「大山、四高についてなんか知ってることない?」

 

「えっ、四高?うーん、僕はそこ受けるつもりはなかったから詳しくは調べてないんだよね。あ、でもあそこは多工程魔法を推奨してて、受験は魔法知識の配分が大きいってのは聞いたことがあるよ。でも、やってることは一校の方が分野が広いし、九校戦の戦績はほとんど最下位なんだよね。一校だけ定員も他より倍だし、これなら正直一高に行った方がいいと思う。政狩君は四高を受けるつもりなの?」

 

「いや、聞いてみただけ」

 

 

 ふーん、あまり大山の評価はよろしくないようだ。けど生徒数は少ない、か。騒がしいのは嫌だし、何より場所が近い。日帰りは無理でも、長い休日なら沢山時間がとれるな。候補の一つに入れとくか。他のところも一通りは調べておかねえとなー。

 

 そのまま大山と別れたあと、俺は帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 ふう、このなっがい通学路とももうすぐおさらばだな。あばよ信濃堺駅、これまで楽しかったぜ。いやあんまりいい思い出もないな、うん。山道を登りきり家の扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

「刀弥、帰ったか。すまん、鍛錬の前にちょっといいか?」

 

 

 顔を覗かせ、挨拶を返した父さんはそんなことを聞きながら、居間に手招きする。特に断る理由もなかったので、制服の着替えも後回しにして、父さんの前にあぐらをかいて座った。それを見た父さんは一度息を吐いてから、まるでこれから刀鍛冶に挑むかの如く真剣な顔で俺にこう告げたのだ。

 

 

「刀弥、東京に出てみないか?」

 

 

 ループって怖くね?

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 旧山梨と静岡の境にあるほとんど人の手がつけられていないように見える山の中のさらに奥。血族以外の人間には誰も知られていない四葉の里。そこの本邸では今、二人の美しき女性が晩の食卓を共にしていた。

 一人は司波深雪。時期四葉家当主の最有力候補であるまだ十五歳であり、そうとは思えないほど完成された美貌をもつ少女である。

 そしてもう一人は四葉真夜。現四葉の当主であり、深雪の叔母にあたる妙齢の女性である。魔法師の間で「夜の支配者」と恐れられている彼女の姿は、実年齢からは考えられない若々しさを持っており、どこか深雪に似た面影のする紛れもない美女である。

 二人は徹底的にたたき込まれたことを匂わせる気品溢れる作法で、皿に盛られた料理を口に運んでいく。これだけ見れば絵になる光景なのだが、そこには温かみなど一切感じられない凍えきった食卓だった。そんなことは知らないといった風に、真夜の方から深雪に言葉をかけた。

 

 

「深雪さん、勉強は捗っていますか?」

 

「・・・はい」

 

 

 問いかけに対し、深雪は力無い返事を返すだけだった。熱も感情すらもこもっていない、機械的に返した、そんな返事。このやり取りだけで、彼らの関係の一端が捉えられた気がした。

 

 

「なら良かった。あなた達には前に言った通り、第一高校に入学してもらいます。《あれ》も深雪さんも、それ自体に心配はいらないでしょうが、やるならより上を目指して欲しいですしね」

 

「はい」

 

 

 深雪の心の内を知らずか、いや、知っていてやっているのだろう。先程からずっと、真夜の口元には笑みが浮かんでいる。反応を楽しんでいるのか、只彼女に無関心なのかはわからないが、当の本人からすれば気分の良いものではない。真夜の言葉には一応耳を傾けながら適当に相づちだけを返し、深雪は早々に夕食を食べ終えた。もうこんな場所には居たくないと立ち上がり、扉をつかんだ時、向こうから呼び止められる。

 

 

「深雪さん、あなたはいつまで夢を見ているつもりですか」

 

 

 深雪は最後の質問には応えず「失礼します」とだけ返し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「深雪さんに学校へ行かせたのは得策ではなかったようです。それにしても、『政狩刀弥』ですか。余計なことをしてくれましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻り、そのままベットへと倒れ込む。服がしわになってしまうと分かっていても、今はこうしていたい気分だった。あの人のことは、はっきり言って好きになれない。何を考えているのかが全くわからず、何よりも兄のことを()()呼ばわり。一部を除く四葉全体にも言えることだが、敬愛する兄の扱いに自分は我慢ならない。兄の事情は知っている。あちらの言い分も理解はしている。それでも許せないのだ。何故兄がこんな目に合わなければならないのか、と。

 天井へ向けていた顔を、現実から目をそらすかのように横へ動かす。すると、棚の上に置かれた一つの写真が目に映る。万弁の笑みを浮かべる二年前の自分と、腕を組まれるのが恥ずかしいのか頬をほんの少し赤く染めながらそっぽを向く彼。

 

 そして思い出す、彼との日々

 

 

(ああ、まただ。何度も何度も、ほんとはいけないことなのに)

 

 

 あの時は、本当に楽しかった。

 

 ぶっきらぼうで、不器用で、少し天然で、でも優しさを持っている。

 

 

(最初は、教科書を貸してもらったんだ。一度も話したこともない私にテスト前で気を張っている中、不躾なお願いを彼はなにも言わずに聞いてくれた。たったそれだけのことだとしても、私にとっては何よりも嬉しかった)

 

 

 いつも何か考え事をしていて、あまり周りが見えていないこともあって危なっかしい。私がちゃんと見ておかないと、なんて思ったりもした。

 

 

(彼から話すことは少なかったけど、私の話にはしっかり応えてくれた。家での鬱憤を吐き出すように話し続ける私を、しっかりと受け止めてくれた。それが私の只の思い込みだとしても、それでも私は確かに救われた)

 

 

 そんな彼と過ごした、たった三カ月。それが私のこれまでの人生で、一番幸せだった記憶であり

 

 

 

『その首、切り落とすぞ』

 

 

 

「ッ!」

 

 

 一番つらい思い出だった。

 

 

 彼の最後の言葉を思い出し、縮こまって自分の肩を抱き寄せる。震える体を押さえつけ恐怖を鎮めようとするが、脳裏にこびり付いたそれは簡単に消えはしない。

 

 刀弥が深雪にぶつけた殺気は、彼女にとって極大のトラウマとなっていた。いくら裏の世界に関わる四葉の家の娘だとはいえ、当時の深雪は他とそう変わらない中学一年の少女でしかなかったのだ。本物の殺気を受けたことすらなかったし、何より不味かったのは触れたのは相手の逆鱗だったことだ。精神年齢が三桁を迎えた人間の純粋な殺気を少女である深雪が耐えるというのはあまりにも酷な話だ。今もただ時間に委ね、恐怖が少しずつ薄れていくのを待つしかなかった。

 

 永遠に続くのではないかという恐怖の時間は、時計の針が半分周りきるまで続いた。だがこれでもましになったものなのだ。最初は一日中ベットにうずくまった時だってあった。体をベットから起こし、棚の上の写真に手を伸ばす。一度引きながらも、数巡の末ようやく持ち上げる。自分の臆病さに嫌気が差し、思わず自嘲するように笑みを浮かべる。

 先の恐怖がある。恐らくこれを無くしてしまったら、自分は彼のことを忘れようとするだろう。自分の意志なんて関係ない。本能がこの恐怖を消そうとする。本当に嫌な記憶ならそうするべきなのだろう。けどそうじゃない。彼と過ごした日々は自分にとっての救いなのだ。自分も普通でいられる、普通に笑えることの証明のために。

 

 

 『いつまで夢を見ているつもりですか』

 

 

 そこで思い出したのが、先の夕食で叔母が自分にかけた言葉。

 

 夢、そう夢だ。

 

 現実よりも心地良く、最後は恐怖と悲しみに染まる幻。突き落とされると分かっていても、浸っていたいと感じてしまう胡蝶の夢。私はずっと夢を見ている。いつか、この呪縛(四葉)から解放される時が来るのではと。けど、もう止めるべき時ではないだろうか。この美しくも忌まわしい過去を忘れ、四葉として生きることを受け入れる。そうするべきではないのだろうか。

 頭の中で、様々な思いが行き来を繰り返しぐちゃぐちゃになる。混乱が頂点に達しようとしたそのとき

 

 

「深雪、俺だ。少し話したいことがあるんだが、今、大丈夫か?」

 

 

 部屋の扉がノックされる音と共に、深雪の兄であり物語の主人公、司波達也の声が届いた。

 

 

「お、お兄様!?キャッ!」

 

 

 急に声をかけられた驚きで、手に持っていた写真を落としてしまう。ガラスで作られていたそれは、落ちた衝撃によって大きな音をたてて割れてしまう。その音が部屋の外にまで聞こえたのだろう。血相を変えた達也が、深雪の返事を聞く前に部屋に入った。

 

 

「深雪!どうした!?」

 

「い、いえ。驚いてしまって、写真を落としてしまっただけです」

 

「そうか、ならいい。すまなかった。怪我はないかい?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「取りあえず、ガラスはすぐに始末しよう。床に傷はないみたいだから、面倒なことにはならないだろう」

 

 

 そう言って達也は、砕け散ったガラスに手をかざす。すると、魔法が起動しガラスが素粒子レベルにまで『分解』され、跡形もなく消え去った。

 

 司波達也は二つの魔法しか満足に扱えない。一つは先程見せた『分解』、物質ならその構成要素の限界まで分解した状態に上書きし、情報体ならその構成自体を分解する魔法。もう一つは『再成』、最大24時間前まで対象の個別情報体(エイドス)の履歴を読み取りフルコピー、上書きする魔法。この常識はずれもはなただしい魔法を扱う代償に、達也は感情の大部分を白紙化されている。ただ一つ、『兄弟愛』という感情を残して。

 

 魔法によりガラスを消した後、埋もれていた写真を拾い上げるとそれを見る。深雪がしまったという風に「あっ」と声を出すが時すでに遅し。ここでさっき言ったことを思い出して欲しい。達也には、ほぼほぼ兄弟愛以外の感情が無いに等しいため、妹である深雪にはとても過保護になる。そんな彼がこの写真を見たら、する事など一つであった。

 

 

「深雪、これは?」

 

「ええと、その、これは、私がまだ学校に通っていたときのもので・・・」

 

「深雪?」

 

 

 少しずつ声が小さくなるのを聞いて、やはり()()()()()()を聞かれるのは恥ずかしいのか、と思っていたら、深雪の様子がおかしいことに気がつく。まるで写真について話すことを恥ずかしがっているのではなく、怯えているように。

 

 

「・・・お兄様、少しだけ、こちらの話を聞いて下さいませんか?」

 

 

 それから深雪は、達也に全てを打ち明けた。

 

 

 それはまるで、全てを諦めた罪人が己の罪を告白するかのようだった。彼との馴れ初めから過ごした日々、そして最後の話と別れ。本来楽しい思い出だったはずの話をするときも、自分にそれは許されないとでも言うように、無表情に語って言った。

 

 

「政狩君は最後に、『邪魔をするな』と言って、それから一度も話すこともなく夏休みを迎え、沖縄での出来事を機に私は学校を去りました」

 

「・・・深雪」

 

「本当、笑い物ですよね。自分と彼を勝手に重ねて、彼の誇りを傷つけて、自分が欲しかったものを自分で手放すなんて」

 

「深雪!」

 

 

 達也は一度強く深雪の名を呼び、話を無理やりに中断させる。これ以上は深雪の精神が保たないと感じたからだ。達也は後悔する。この話をする深雪は、あまりに痛々し過ぎた。

 

 

「もういい、今日は疲れだたろう。風呂はもう済ませたのか?」

 

「い、いえ。お兄様?」

 

「深雪、確かに非の多くお前にあるのかもしれない。けど全部じゃない。間違い無く向こうにも非がある。お互いに言葉が足りなかったんだ」

 

「そう、なのでしょうか」

 

「ああ。たとえ深雪の独りよがりだったとしても、話を聞く限り彼はそれを受け入れていた。ならお互いのことをもっと知っているべきだったんだ。勿論、話せないことだってあるだろう。()()なんて特にな。向こうにだってあるはずだ。でも、こんなことになってしまうくらいなら、向こうももっと踏み込んでも良かっただろうに」

 

 

 たとえ不本意だったとしても人と関わることになったのであれば、後に問題にならない為にその人のことはある程度知っておかなければならない。これには相手の素性は勿論のこと、性格なども含まれる。文字として見ればされた方が理不尽に感じるかもしれないが、これは普段じゃ誰もが当たり前に行っていることである。なので普通の場合はそこまで面倒なことにはならない。

 なら何故こうなったか、それが刀弥に足りなかったものだ。刀弥にとって、深雪は『原作キャラ』だという先入観が強く入る人間だった。刀弥の素性から考えればそれは当たり前のことなのだが、そのままにしておくのが問題なのだ。つまり、

 

『今はこうでも後で勝手に離れていく、それは物語的に決まったことだ。ならほっといても大丈夫。』

 

 刀弥はこう感じ、深雪のことを微塵も知ろうとしなかったし、自分のことを深雪に話そうともしなかった。

 

 

「でも私が、彼の誇りを貶したのは、事実です」

 

「なら謝ればいい。もし会えた時にしっかりと謝れたのなら、彼だって許してくれるだろう。それとも、政狩刀弥という男は心の狭い人間なのか?」

 

「ち、違います!政狩君は、少しぶっきらぼうなところはありますけど、とても優しい人です!」

 

「なら大丈夫だろう。安心しろ、俺はいつまでも深雪の味方だ」

 

 

 深雪の反応を見て、安心したという風に溜め息を吐く。しかしこの反論の強さ。やはり深雪は彼のことを()()()()()()思っているのだろうか。そんなことを思った達也は、しばらく迷った末に思い切って聞いてみることにした。それがある引き金になってしまうとも知らずに。

 

 

「深雪は、その『政狩』のことが好きなのか?」

 

「・・・え?」

 

 

 私が、政狩君を・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そっか

 

 

「そう、なのかも、しれませんね」

 

「・・・そうか」

 

(政狩刀弥、注意する必要性があるな)

 

 

 それっきり話は一度止まってしまうが、達也にも用事があったことを思い出した深雪が彼に尋ねることで、沈黙が破られた。今日達也は、自らが研究員として勤めるフォア・リーブス・テクノロジー(通称FLT)会議にでていて、そのせいで遅れてしまった深雪のCADの調整が完了したので渡しに来ていた。

 

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

「かまわないよ、たいしたことはしていない。試運転といきたいところだが、今日はもう遅いし明日にしよう」

 

「はい。お兄様はこれから夕食ですか?」

 

「いや、もうそれは済ませてある。これから部屋に戻って研究の続きをするつもりだ」

 

「そうですか。私はもう少ししたらお風呂の方へ入ろうと思います。では、また後で」

 

「ああ。また困ったことがあったらいつでも言ってくれ。さっきも言ったが、俺はいつでもお前の味方だ」

 

 

 

 

 

 

  

 達也が部屋を去った後、深雪はしばらくその場から動かなかったまま2、3分たつと、テーブルの上に移された彼との写真を見つめる。その目に前までの恐れは見えず、別の感情が見え隠れしていた。

 

 

「・・・好き」

 

「私は、政狩君のことが、好き」

 

 

 何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろう

 

 

 そうだ、私は

 

 

 彼が、政狩刀弥君のことが

 

 

 好きで好きで

 

 

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好好--------

 

 

 好きで好きで堪らないのだ

 

 

 だから怖かった

 

 

 嫌われるのが怖かった

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 彼のことが好きで、でも彼に嫌われたと認めてしまうのが怖くて

 

 

 だからずっと震えていたんだ

 

 

 でも認めよう

 

 

 私は罪を犯した

 

 

 だからこの思いは認められない

 

 

 実ることはない

 

 

 でも、もし

 

 

 もし彼に許されるなら

 

 

 そんな時がきたら

 

 

 この思いを、受け取ってもらえますか

 

 

「政狩・・・刀弥君」

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 トラウマとなった殺気の恐怖を嫌われることへの恐怖とすり替え受け入れる、これぞ人の本能の為せる技、という風に納得してください。

 今回初描写のキャラが多かったので、ガバガバなところ多いかもしれません。ご指摘は感想でお願いします。

 次回は閑話を挟む予定。主に政狩家の日常風景を描く予定。あと近々活動報告にてアンケートをとる予定。そちらのチェックもお願いします。それでは今回はこのへんで。ばいなーら



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武道家という人間は一度「歓迎」の意味を広辞苑で調べるべきだと思う

 前に閑話を挟むと言ったな。あれは嘘だ

 いやあ、閑話と一緒にその次回を並行して書いてたら、閑話が全く進まず次回の方が先に出来ちゃいまして。


第二部PUアヴィケブロンしかこねえええええ!!



「本日からこのアパートに住むことになった政狩刀弥です。よろしくお願いします」

 

「あらあら御丁寧にどうも。あたしはここの大家をしています、佐々木です。こちらこそよろしくね」

 

「これ、引越蕎麦です。良かったらどうぞ」

 

「あ~らまあ!まさかこんな若い子に引越蕎麦を貰うなんて夢にも思わなかったわ。では、ありがたく頂くわね。そう言えば、あなた進学で東京に出て来たって聞いたけど、どこの学校かしら?」

 

「⋯魔法科の第一高校です」

 

「あらあらまあまあ、すっごい進学校じゃない!ということは将来は魔法師に?」

 

「⋯そう言うことに、なるんでしょうか」

 

「ふふ、えらいわねえ~。こんな年でもうしっかり将来のことを考えているなんて。私の若いころなんてもう⋯っていけないいけない。もう年寄りになると昔話が多くなっていけないわ。とりあえず、こんなおんぼろアパートだけど困った事があったら遠慮なく相談してちょうだい。オバサン、頑張って力になるから!」

 

「⋯はい、その時は、また」

 

「ええ!あら、もうこんな時間。地球堂のセールがもうすぐ始まっちゃう。あなたの部屋は二階の右端、『205』号室よ。これが部屋の鍵ね。それじゃ、色々大変だとは思うけど、頑張りなさいね!」

 

「⋯はい。じゃあ俺はこれで」

 

「ええ、また今度!よーし、今日こそ今井さんに勝つわよ⋯!卵一パック二十円セール、譲るモンですかー!!」

 

「⋯」

 

 

 なんか、物凄くパワフルなオバサンだったな⋯。まあ悪い人じゃないのは間違い無いし、とりあえず後でセールのことは聞いておこう。間違いなくこれからの生活に欠かせないモノになるだろうしな。母さんとの約束で絶対に一日三食自炊しなきゃいけないし。今月の仕送りは生活必需品でかなり削られることになる。さて、まずは部屋に入って背中のものを下ろすとしようか。

 

 あれ、俺って鍛治師目指してんだよね?

 

 

 

 

 第一高校入試を終え無事入学資格を得た俺は、遂に中学を卒業した。そうだよ、あの後結局父さんからの提案を呑んだんだよ。まあ、推薦書類が母さんに見つかって逃げられなかったってだけなんだけど。どうやらこの近くに父さんと爺やの知り合いが道場を開いていて、彼には色々と「貸し」ているらしい。詳しくは知らないけど、多分刀の取引とかだと思う。その知り合い自身相当腕が立つらしく、そいつから学ぶこともあるだろうとのこと。何より、その道場の裏には爺やが用意させた鍛治小屋があるらしい。そんなことから、俺に世界とはどんなものかを実感させる目的も含めて俺に上京を薦めてきたって訳だ。まあ確かに、今まで居たところは此処と比べるとかなりの田舎だった。まだ細かいところまではキャビネットが設備されておらず、旧式の電車を用いているくらいだ。それも家の最寄りの場合三時間に一本だけって感じだし。

 そんなこんなで東京に来た俺はこれからワンルーム家賃10万円のこのアパートで暮らすことになったという訳だ。現代の東京にしては結構安い方である。部屋の中は木製タイルで敷き詰められた床、壁につけられたクローゼット、玄関のそばにはキッチンと洗面所とバスルーム、あと冷蔵庫とそのくらいしかなかった。てか言ってしまえばらっきょの式と似たような部屋だった。電話買って冷蔵庫の中にストロベリーアイス詰めなきゃ(使命感)と馬鹿なことは置いといて、早速背中の荷物を下ろし荷ほどきをしておこう。

 

 バックを下ろし、中から少し大きめの立方体を取り出す。一見ただ形の整えられた石のようなそれに手をあて魔術回路を起動。一部の機構に魔力を流すと、その魔力に反応し封印が解除され、手の当てた部分が()()()()()()。中は空洞になっていて今は俺が家から持ってきた私物が詰め込まれてあった。実はこれ、母さんがアトラス院から持ち出した収納用の魔道具であり、一定の大きさ以内のものなら何でも三十個だけ入れれるという便利なものなのだ。俺は『箱』と呼んでいる。てか母さんアトラス院から色々盗りすぎだろ。と言うよりは、これがあったから色々持って来れたんだろうけど。詳しい仕組みは知らないが、母さんが言うには「第二魔法の真似事」らしい。恐らく中の空間を歪ませたりしてるのだろう。ついでにカレイドステッキは入っていない。

 

 えーと、とりあえず制服と寝間着と部屋着の和服はクローゼットの中に、通帳やら印鑑などの貴重品も一緒に。枕はベッドの上にポイッと、歯ブラシは洗面所に。あとは⋯あぁ、母さんからもらった魔術訓練用の礼装シリーズと魔力封じの予備、それと刀三本。『紫焔』と俺の打った無銘と爺やのくれた小太刀。これらは⋯うーん扱いに迷うな。今は箱に入れたままクローゼットに押し込んでおくか。ん、なんだこれ?あ、CADか。これはそこらへんに置いとこ。⋯えっ、これだけ?もうちょっと多いような気がしたんだけど。まあいいや。別に贅沢したいわけでもないし。必要な物が揃ってりゃいっか。えーと、今の時刻は?⋯もうこんな時間か。確か約束が一時間後だったから、もうそろそろ家を出た方がいいな。服装はこのままでいいや。何時もの和服程じゃないけど動き易いし。

 

 さて、父さんと爺やの知り合い。いったいどんな人なのか。

 

 

 

 今回協力してくれたその知人について、俺の知っていることは少ない。今ある情報は「寺の僧侶で道場を開いていること」「政狩家に借りがあること」「見た目よりずっと年を喰っていること」これぐらいだ。名前すらも教えてもらっていないが、まあそこはどうでもいい。俺が気にしているのは別のことだ。

 

 この「東京の寺で道場を開いている僧侶」ってお兄様の師匠的ポジでアニメに居なかったっけ?

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 刀弥の家から徒歩で約四十分程のところに、裏山と言えるような場所がある。そしてその山の中には「九重寺」という名の寺があって、刀弥の目的の人物はそこにいる。寺へと続く長い階段を半ばまで上ると、刀弥は不意に足を止めた。そのまま視線を上に見える門にむけ、おもむろに溜め息を吐く。暫くすると再び階段を上り始めた。優に三桁はあるであろう石畳を上りきり門をくぐる。

 

 

「フンッーーーー!」

 

 

 それと同時に、門の裏に身を潜めていた一人の修行僧が刀弥に殴りかかった。相手の死角をついた完璧な不意打ち。それは修行僧自身の技術も合わさり、例え腕に自信があろうとも並みの者なら間違いなく避けられない一撃となる。だが、目の前の男は文字通りの規格外だった。その程度の攻撃では、未だ二十に満たないとしても政狩の人間を傷付けることなど出来やしない。階段を上っている時点で既に修行僧の気配を感じ取っていた刀弥は、体を横にしながら後ろに跳ぶことで簡単に攻撃をかわしていた。

 

 修行僧は驚愕に目を見開くがそれも一瞬のこと。これを為せる規格外を他に知っていた故に、その立て直しも早かった。自分の流れを途切れさせ無いため、すぐさま次の攻撃へと移ろうとかわされたことで開いた距離を詰める。

 

 それが刀弥の思惑通りとも知らずに

 

 

「なっ!?」

 

「⋯」

 

 

 自分の目にした光景が信じられず、顔に浮かべたのは二度目の驚愕。刀弥はもう、()()()()()()()のだ。何時の間に、と修行僧の頭がその疑問で埋め尽くされる。標的を視界から外すなんてヘマを、自分は犯してなどいない。ならどうやって。答えは単純明快。避けると共にすぐに体制を整え構えた、それだけのこと。ただそれがあまりに早く、何より自然であった。それは速さを求めた動き、だが無駄な力は一切込められてなどいない。動きは水の流れ、構えは岩の重さの如し。一種の暗殺術にも似たそれは、例え目の前に捉られていようとも、敵に動きを悟らせ無いことを可能とする。

 

 気付いた時にはもう遅い。修行僧は自ら死地へと飛び込んでいく。理解不能の驚愕、それと無理に前に詰めたことによって、思考と体の動きはもう取り返しのつかない程に遅れている。結果、修行僧は無防備な胴体を刀弥の目の前に晒すこととなる。

 

 刀弥の正拳突きが修行僧の身体を捉えた。

 

 拳は鳩尾辺りに深く突き刺さり、修行僧の身体がくの字に曲がる。完成された構えから放たれたその威力は絶大。修行僧は衝撃のあまり気絶し、その場所に倒れ込むしかなかった。その様を見届けた刀弥は、周りに視線を向ける。刀弥を中心として、十数人程の修行僧が囲むようにして立っている。皆構えてはいるが、飛び込んでくる様子ではなかった。いや、飛び込む事が出来なかった。それは何故か。理解してしまったからだ。先の一瞬の攻防をみて、骨の随まで理解させられた。目の前の少年と自分達とは、比べるのも烏滸がましい程の差があるということを。修行僧達は背中に流れる冷や汗を感じながら、刀弥を睨みつけている。刀弥自身は特に自分から動く理由もなく、いつ仕掛けてくるか見極めようと自然体で相手の動きを待つ。場は完全に硬直してしまった。永遠に続くのではと思わせる緊張は、寺の本殿から響く気の抜けた拍手で幕を閉じる。

 

 

「いやあ、お見事!龍馬さんから話は聞いていたけど、まさかここまでやるとはねえ!流石、政狩の名を継ぐ者ってところかい?」

 

 

 刀弥は声の届いた方向に勢いよく振り向く。それは彼の察知出来ていなかった気配。未だ距離は遠いとはいえ、父親から太鼓判を押された自分の気配察知で見つけられなかった。信じられない。⋯いや、そうか。これが慢心か。

 

 

(出て来て正解だったかも。自分を見つめ直すいい機会になるし)

 

 

 何処か天狗になっていた自分の認識を改める。まだまだ自分は鍛錬不足、せっかく外にきたんだ。学ぶことは全て学ばせてもらう。新たに決意を固める刀弥の前に現れたのは、紺の法衣に身を包んだ僧侶。笑みを絶やさず、特徴的な糸目に片方の目には斬られた痕が残っている。警戒する刀弥に向けて、本殿前の石階段に腰掛ける彼は名乗る。

 

 

「はじめましてだね。僕は九重八雲(ここのえやくも)。ここの道場で古流武術の師範代をしている者だ。君の家族から話は聞いているよ。魔法科高校進学おめでとう」

 

「⋯これ、なに?」

 

 

 自分を囲む修行僧を見渡し、仕掛けさせた張本人であろう八雲に問い掛ける。少し気が立っているせいか、敬語も外されていた。八雲はそれに悪びれもせず笑いながら答えた。

 

 

「なあに、僕なりの歓迎ってやつだよ。気に入ってもらえたら良かったんだけど」

 

 

 どうやらうまくいかなかったみたいだね、と頭の後ろをかく八雲。当たり前である。刀弥からすれば、ただの面倒事に他ならないのだから。だが、向こうは変な勘違いをしていた。八雲は立ち上がり、脱力しながら腕を上げ指をくいっと曲げる。まるで刀弥を挑発するように。

 

 

「まだまだ暴れ足りないんだろう?今度は僕が相手になろう。彼らじゃ少しばかり荷が重いだろうからね。さっきよりは楽しめるとおも───」

 

 

 八雲はそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。未だ10mほど距離のある場所にいた筈の刀弥が、既に目の前にまで迫っていたからだ。

 

 刀弥の突き出した拳を八雲は片手で受け止める。瞬間、寺中にバシンッと乾いた音が響いた。修行僧達が肌で感じるほどの衝撃に戦慄している中でも、八雲の笑みが途絶えることはなかったが、先よりも余裕が感じられない。

 

 

「危ない危ない。もうすぐで彼の二の舞になるところだった。それにしても刀弥君、いきなりとは酷いじゃないか」

 

「歓迎には礼を持って答えるのが道理だろ。そっちのやり方に沿っただけだ」

 

「それはどうも、ご丁寧に」

 

(今のは、縮地か。警戒は最大限にしていた。それを潜り抜けてくるなんて、洗練度が半端じゃない。そして何より()()()()()()()()()()()。この年でそこまでできるなんて、化け物の子も化け物だね)

 

 

 型が明確に定められているわけではない政狩家の武術だが、全ての技に置いて一つだけ徹底されているものがあった。それは『実戦技の予備動作の排除』である。戦いで常に優位に立つ為の単純な方法は、先手を取り続けること、それと相手に自身の手を悟らせないことである。この二つを同時に満たす為にはどうすればいいか。その答えとして初代政狩家当主が導き出したものがこれだ。予備動作を無くすことで常に先に仕掛けることができ、本来派生させることが出来ない技を繰り出すことを可能とする。これによって常に優位を保って闘うことができる。つまり政狩の武術とは、「速さ」と「巧さ」を極限まで突き詰めた武術なのである。

 だが刀弥はまだこれを修めている訳ではない。八雲が感じた通り、刀弥は予備動作を()()なくしていた。つまり完全になくしている訳ではないのだ。八雲はそこに刀弥の隙を見出した。確かに脅威ではある。だがあの二人程ではない。目の前の彼を鍛えたであろう二人は、まさに神域の人間であった。只の人間では絶対に踏み込むことすら出来ない領域の住人。彼はまだそこまで至ってはいない。ならば自分にまだ勝機はある。

 

 

(遂に、遂に叶った。この時をどれほど夢に見ただろう)

 

 

 この闘いは実を言うと、八雲にとっての挑戦の闘いでもであった。過去に手も足も出なかった彼らの家の子供。刀弥の父親から「息子に稽古をつけてやってくれ」と連絡を受けたとき、久々に血がたぎるのを、彼に付けられた目の傷が疼くのを感じた。彼と同じ道を辿るであろうその息子と手合わせ出来る。一人の武術家として、この機を逃す訳にはいかない。

 

 そして遂に、その時がきた。頭はこれまでに無いほど冴えきっている。身体の調子も万全。ならば後は試合うのみ。

 

 

「比叡山天台宗古式魔法、そして古式武術『忍術』の使い手。九重八雲」

 

「⋯政狩家次期当主、政狩刀弥」

 

 

 

「「参る!」」

 

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

 

 

 

「『政狩』⋯?おい真由美。今、『政狩』と言ったか?」

 

「?、ええ言ったけど⋯」

 

 

 場所は魔法大学付属第一高校の生徒会室。近日に行われる入学式の準備の為、学校には生徒会や部活連などの役職を持つ生徒達が集まっていた。その休憩がてら、生徒会長である七草真由美(さえぐさまゆみ)と風紀委員長の渡辺摩利(わたなべまり)は今年度にこの学校へ入学する新入生のデータを、生徒会長権限(だけなのかは怪しいところだが)で閲覧していたところ、一人の少年が話に持ち上がった。

 

 

「今年の推薦枠入学の生徒。名前は政狩刀弥。実技は免除されてるから記録はないけど、筆記テストは全教科平均87点と高得点。推薦枠に選ばれる程の魔法能力をも持ち合わせていることを考えると、まさに逸材というべきでしょうね。知り合いなの摩利?」

 

「いや、直接的な面識はない。ただ、彼の家については多少ばかり知っている」

 

 

「有名な家なの?私は一度も聞いたことが無いけど」

 

 

 真由美は名字に「七」とある通り数字付き(ナンバーズ)、それも国内で最強と言われる十師族の家系の長女であった。さらに七草家は「アンタッチャブル」と名高い四葉家と並び最有力とされている。そんな良家のお嬢様である自分の知らない魔法師の家。真由美はそんな彼に興味を持ち始めた。

 

 

「一部の人間の間でな。刀を扱う者で知らない奴はまずいない。彼等は刀鍛治師の家系なんだよ」

 

「刀鍛治師?こんなご時世に?」

 

「ああ。江戸時代前から刀一本で歴史を重ねているらしい。表に出るようなことは滅多にない。彼等の打つ刀は他の随追を許さない程に美しく、そして恐ろしいと言われる程。一時期はその刀の取引には億を越える額がついたという話だ」

 

「億!?たった一本の刀で!!?」

 

 

 驚異的な額に目を見開き声を上げる真由美。信じられないよな、と摩利は苦笑いで答えた。

 

 

「そんな家の人間がこの学校に来るなんて、ふふっ、さっきの司波君といい、今年は楽しいことになりそうね」

 

「厄介事が増えそうな予感だな」

 

「あら、でもこの子はあなたが面倒を見ることになりそうよ。ほら」

 

「なに?⋯ほう、楽しみだ」

 

 

 真由美に見せられた画面を見て、摩利は笑みを浮かべる。そのディスプレイに映された政狩刀弥のデータには、『風紀委員会教師選任枠候補』と付け加えられていた。

 

 

 

 

 




 今回は戦闘描写に力を入れてみました。いやぁやっぱり難しいけど楽しいですな。まだまだ修行不足ですけど、いつかは奈良原一鉄みたいな一瞬を十に分ける戦闘描写を書けるようになりたいです。

 どうしよっかな~村正買おうっかな~まだプレイ動画しか見てないし。けどアレ、ニトロの中でもさらに人を選ぶって言ってたし。それならガチンコの剣劇の刃鳴散らすの方がいいかな?正直言って村正の鬱に耐えられる自信がない。あっ、でもヒロインがラスボスってのはすっごい楽しそう。


ん?まだお前○校生だろって?細けえことはいいんだよ。


※4月16日 一部加筆修正をしました



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入学編 学園ものの入学式に何もイベントが無いってのはいけないと思うby益荒男

 やっと原作まできましたよ。なんでこんなに時間かかった?俺の投稿スピードがクソだからだよ。


 

 始まりは、言ってしまえば暴走

 

 物語の登場人物に憧れたというよりは、共感したというべきか、彼の言うことに胸を打たれたというべきか。少し言葉には言い表しにくいものだが、先のことと変わりはない。

 

 自分はやらなければならない

 

 願望でもなく責務でもない。それが当たり前のことだと思ったのだ。自分は何故こんな所にいる、早く俺はやらなければ。そんなこれまでに感じたことの無い情熱が、心の底から溢れるのが止まらない。他のことなどどうでもいい。このときから自分にとって、文字通りそれが俺の全てだった。

 

 

 今だって、そのはずだ

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 あの迷惑ながらもそれなりに楽しかった決闘から数日、俺は遂に中二チックな白い制服を身にまとい、これから通うことになる校舎を見上げていた。

 

 

「うわあ・・・」

 

 

 でっけー、そしてきれー。うちの中学もそこそこ綺麗なところだったけど、如何せん場所が田舎なもので規模がそこまで大きくなかった。それが高校に上がってみればどうよ。なにあの「金かけました」っていうのが一目でわかる校舎。もっと他のところに金回せよ。土地は広いし、建物は多いし、庭には噴水があるし、地味にここら霊脈の起点になってマナが集まる霊地になってるし。ん?最後に何か混じってたような。ま、いっか。

 

 皆さんご覧の通り、今日はこの魔法大学付属第一高校の入学式だ。はぁ・・・遂にきたちまったかこの日が。いるんだろうなあ司波兄妹・・・原作に巻き込まれるんだろうなあ・・・嫌だなあ・・・え?あの九重八雲との戦いはどうなったんだって?()()()()()()()()()()?あのあと三時間ぶっ続けでやって、右腕を奪ったまでは良かったんだけど体力が保たなくて動きのキレが落ちた瞬間をドスン。終始優位は自分にあったけど決めきることが出来なかった自分の完敗ですよ。向こうは

 

 

「途中からは忍術をフルで使っていたというのに、それでも優位を保てた上にぼくの右腕を奪うなんて、君は本当に末恐ろしいね。けど君は魔法、そして強化すらも何も使ってないじゃないか。これで負けたら僕の人生は何だったんだって話だよ。ま、今回は最後まで粘った僕の勝ちってことで。また頼むよ刀弥くん」

 

 

 なんて言ってたけど、そんなの関係ない。負けは負けだ。てかあの人魔術の存在知ってそうな感じだったな。それはともかく、負けっぱなしというのは我慢ならない。とりあえず最後のサムズアップがくっそムカついたから一年中にアイツをボコれるように絶対なる。俺を煽ったことを後悔させてやらぁ・・・!はいそこ、こいつ相変わらず沸点低いなとか言わない。前から俺は煽られたり小馬鹿にされるのが大嫌いなんだ。

 

 さて、そんなことを思っているうちに、もうそろそろ入学式が始まる時間だ。場所はしっかり把握してるからいくら広いといっても迷うことはないだろう。周りにまだ生徒はちらほら見えるけど、みんなちょっと焦ってるぽいし。真っ直ぐ講堂へと向かうとしましょうかね。

 

 

 こうして、俺のクソッタレた学園生活は幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

「うわあ・・・」

 

 

 本日二度目の反応。入学式開始前に講堂に入れたはいいものの、もうほぼ席は埋まっていた。マジか。もうちょっと早めに家出るべきだったか?いや朝の鍛錬とか夕食の仕込みとかがあったからな、仕方ねえやコレは。えーと?あそこはハンカチ置かれてるし、ならあっちは・・・ダメだ。俺に女子二人に挟まれたところに一人で座れる度胸はないってかいらない。けど他に空いてるところは・・・お?あそこ空いてんじゃん最後列の一番右。別に前に座りたい訳でもないし、よしあそこにしよっと

 

 

「おい、待て」

 

「ん?」

 

 

 ようやく見つけた空席に喜びながら向かおうとすると、後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声だったので、もしかして自分かと後ろを振り向いてみると、案の定見知った顔があった。この如何にも最初に主人公の踏み台にされそうなエリートモブ風の男は

 

 

「モブ崎」

 

「一文字違う、僕は森崎だ。いい加減に直せ。そろそろ飽きるだろ」

 

 

 こいつは森崎瞬(もりさきしゅん)。俺の中学二年からのクラスメイト。こいつとの付き合いは、実技授業の模擬戦で相手する事になったとき、俺が間違えて「モブ崎」と呼んでしまい怒らせたのが始まり。反撃として森崎は、やれ自分はエリートの人間なんだお前とは格が違うんだお前の戦い方は魔法師の面汚しだと色々言ってきた。俗に言う思春期によくなってしまうアレだ。煽られた俺はまあそれは煩くてムカついたから、魔法一切使わずに全部相手のエア・ブリット回避した後腹にゼロ距離スパークをぶち込んでやった。後で先生に説教くらったけど。それからコイツはことあるごとに俺に模擬戦を申し込んできて、今のところは全戦全勝。たまに噛み付いてくることはあるが、俺は中々コイツを気に入っている。プライドが高いのは別として努力家で挑戦家なのは見ていて気分がいい。今ではこんなやり取りができる仲だ。多分唯一の友達って言える友達じゃないか?絶対口には出さないけど。ついでに言うと俺が中学の頃にやった模擬戦の相手の半分は森崎である。

 

 

「なに?」

 

「あっちは止めておけ。前にまだ空きがあるからそっちにしろ」

 

「なんで?」

 

「周りをよく見てみろ」

 

 

 周りってどういうこと?何かルールでもあったの?とりあえず言われた通り周りをみてみる。みんな普通に好きに座ってるだけじゃないか。ん?そういえば肩のエンブレムって・・・あっそういうこと。一科生と二科生で座る席が前後に分かれてるのか。

 

 

「やっと気付いたか?お前って妙に鈍いとこがあるよな」

 

「そんな規則あるなんて聞いてないけど」

 

「周りが勝手に分かれているだけだ。けどわざわざ目立つ行動をとる必要も無いだろ。わかったなら早く来い。あと五分で開会だぞ」

 

 

 森崎の言うことにそれもそうかと納得し、大人しく後ろについて行く。着いたのはさっき自分がいた右最後列の真逆の左最前列そこに二つ空席があった。ご丁寧に森崎は自分のハンカチを置いて席取りをしていたらしい。てかコイツわざわざ俺の為に反対まで呼びに来てくれたのか?まさかと思い森崎を見ると、咳払いをして念を押すように淡々と言ってきた。

 

 

「勘違いするなよ。僕も少し遅めに来てここしか空いてなかったんだ。それでトイレに行っていた帰りに、たまたま目について声をかけた。それだけだ」

 

 あっそうすか。

 

「ありがとう」

 

「ふん、次は知らないからな」

 

 

 男のツンデレとか腐った貴婦人くらいにしか受けないと思うぞ。まあ、経緯はともかく助けられたのは事実だからお礼だけは言っておく。森崎が内側に座ったから、それに続いて俺は一番外側に座る。森崎はすでに逆側に座っている男子生徒達と交友を深めているようだ。俺は特に話題も喋る気も無いので一人でぼーっとしているとしましょうか。

 そのまま暫くすると、講堂のカーテンが閉められステージ付近以外の照明が落とされた。ようやく入学式が始まるようだ。講堂内は静まり返り、この学校の生徒会長の宣言によって式は始まった。お決まりのような校長の挨拶などは特に無く、式はスムーズに進んでいく。お陰でこっちも眠くなったりはしなかった。話を真面目に聞いている訳でもないけど。そうして終盤へ差し掛かかり、続きまして新入生代表の挨拶」と司会進行役の声が響くと共に講堂は急にざわめきだした。今日の鍛錬のメニューを考えていた俺は、それによって意識をステージに戻す。

 

 

(ああ、そういえばそうだった。お前だったな、新入生代表は。久しぶり司波深雪)

 

 

 腰半ばまである艶やかなストレートの黒髪、日本人離れした雪の如く白く透き通った肌、完璧な左右対称で均整のとれた容姿。そのまま人の想像できる美しさを最大まで詰め込まれていると言ってもいいだろう。司波深雪はそれほどまでに美しく成長していた。不覚にも、この俺でさえ少し見とれてしまうくらいに。えっ?てか超美人じゃん。昔はもっと子供らしかったような?何というか、あれはもう学生って括りに入れちゃいけないんじゃないか?いや、いかんいかん。俺としたことが取り乱してしまうとは。ええい心の鍛錬が足りない証拠だ。今日の鍛錬は精神修行を主にしよう。心を落ち着かせて静かに深呼吸をする。未だにざわめきが収まらない周りが少し気になって隣を見てみると、森崎が心ここにあらずといった様子で司波にお熱な視線を送っていた。てか周りの男子全員がそんな感じだった。あっこれは落ちたな。学校中の男子の心を鷲掴みとか一昔前のアイドルかってーの。周りの男子と司波の両方に呆れるように視線を舞台に立つ司波に戻した。

 

(アイツ、何で俺を見ている・・・!?)

 

 司波深雪と目が合った。根拠は無いが確信があった。勘違いなどではなく、あいつは俺を見ているのだと。この距離じゃあ向こうから顔を正確に見分けることなんて出来ないとは思う。けど何故かヤバいと危機感を覚えるも、こんな状況では隠れることなんて出来やしない。とりあえず目の焦点をぼかし気配を少しずつ消していく。呼吸を一定の間隔で少しだけ行い、周りに溶け込むように自身の存在を薄めていく。気休めになるかすら怪しいが今できることなんてこの程度だ。やり過ごせるか?気配を消してからしばらくすると、まるで何かを見失ったキョロキョロしだした。ようし、どうやらなんとかなったみたいだ。ヒヤヒヤさせやがってコノヤロー。

 幕裏から注意でもされたのだろうか。ハッとしたように司波深雪は本来の仕事を思い出し急いで取り掛かりに戻る。新入生代表の挨拶を済ませた彼女は、最後に恭しく一礼をした後舞台から降りていった。最後に司会進行役からの終了の言葉により、俺の高校入学式は終わった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「司波さん、お疲れ様。いい挨拶でした」

 

「生徒会長、ありがとうございます」

 

「そういえば、壇上に上がって直ぐの時、少しぼーっとしていた時間があったけど、どうかしたのですか?」

 

「あっす、すいません!えっと、その・・・あの時は少し、緊張してしまって」

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。緊張なんて誰にだってあることです。気にすることなんてありません」

 

「はい・・・」

 

 嘘だ、緊張なんて物はほとんどなかった。敬愛するお兄様に良いところを見せないとと気負ってはいたが、でもそれが理由じゃない。

 

 最前列の右端辺り。壇上に上がって直ぐに目がそこに行った。まるで、探し物がそこにあるということを直感しているように。そして、一人の男子生徒に目が止まった。確証は無いけれど、たぶん彼も私の目を見ていたと思う。そしてあの人のことが浮かんだ。私の初恋の人、私の罪の証。魔法に大して興味を示さなかった彼が、こんな場所にいるはずもないのに。

 

 私が彼への思いを自覚してからと言うもの、これからの生活が激変する訳ではなかった。いつも通り、作法や高校へ向けての勉強と魔法の訓練を続け、夜にあの写真を胸に抱えながら彼との思い出で自分を慰める日々。変わったことと言えば、少し前から体術を嗜むようにになったくらい。もともと兄が体術を修めていることから少し興味はあったが、そういえば彼も鍛えていたことを思い出し本格的に自分もやってみようと決めたのだ。最初は戸惑っていたが、今では兄から師事を得ている。

 そんな私はこの第一高校に入学し、勉強を見てくれた兄の期待に応え学年主席の座を手に入れた。これからの二度目の学校生活はとても楽しみに感じている。

 

 けど、絶対に満たされることなんてない。私にとって学校という場所は、彼と共に過ごすことで満たされるものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 色々ヒヤッとすることはあったが、なんとか入学式が終わった。生徒達この後、IDカードの交付を窓口で済ませ自身の個人情報の登録をしなければならない。そこで自分のクラスを初めて知ることが出来るのだが、めんどくさい事になりそうな司波と同じクラスにはあまりなりたくない。兄の方はあっちが二科生だし、司波と接点を作らなかったら関わりを持つことはないだろう。

 

 

「森崎」

 

「何だ」

 

「お前、惚れたか?」

 

「は、はあ!?だ、だ誰が誰に惚れただって!!?」

 

「いや、そんなに動揺するなよ」

 

「・・・あ」

 

 

 分かり易過ぎるだろお前。今時そんな初な反応する奴いねえぞ。

 

 

「どうせ司波深雪にだろうけど、応援はしとく」

 

「か、勝手に決めつけるな!おい待て!」

 

 

 特に別れる理由もなかったので森崎と一緒に行くことに。そのついでにさっきのことを聞いてみたらこんな反応が返ってきた。もうこいつメインはれんじゃねえの?ってくらいベッタベタなリアクションをしてくれる。コイツっていじられキャラだったんだな。

 

 

「・・・誰にも言うなよ」

 

「大丈夫、まず相手がいない」

 

「それはそれで別の問題があるぞ」

 

 

 ほっとけ。

 

 当たり前のことだが、入学式終了直後ということで窓口前には大勢の生徒が並んでいた。遠目に他の窓口を眺めて見るが、何処も彼処もそれなり混んでいたので大人しく適当な場所に並んでおく。人混みで酔いそうになる刀弥にとって、この場所は苦痛でしかなかったが。十五分後、ようやく刀弥の番が回ってきた。自身の個人情報を登録しIDカードに生徒の情報を映させる。刀弥のクラスはB組、森崎はA組だった。登録を済ませた彼は同じクラスになった連中について行った森崎と別れ、人の少なくなっている中庭に出る。適当にベンチに腰掛けた後、長い溜め息を吐いた。

 

 

(今更ながら、こんなところに来ちゃうなんてなぁ。どうしてこうなった、なんて考え飽きたし。もうちょっと周りを見て行動するってことを覚えろって話しだよなぁ)

 

 

 自販機で何気に初めて飲む缶珈琲を買い、クリップを開け格好付けて一気に飲み干そうとする。が、結局苦さに絶えられず一口で咳き込む馬鹿を晒すことになった。「苦い・・・」なんて呟くが、ブラックなので当たり前である。いまの学校の中庭には、ブラックの缶珈琲を苦さを耐えながらチビチビ飲む刀鍛冶師の姿があった。刀弥がようやく珈琲を飲み終わった頃、学校のチャイムが鳴った。今からクラスでホームルームが開かれるのだが自由参加なので刀弥はもちろんパスする。現実が苦いんだから珈琲くらいは甘くしようなんて考えながら、刀弥は帰宅しようとベンチを立つ。そうしようとしたが、途中で止めて背もたれにもたれかかった。視界の先に、一人の女生徒がこっちに向かって歩いてきた。その目はしっかりと刀弥のことを見つめている。

 

 

(めとめが合う~しゅんかん好きだときづいた~、なんてロマンチックなものじゃねぇな。俺は知ってるんだ、ありゃぁ一種の獲物を狙う目だね。・・・フラグっていつ立てたっけ?)

 

 

 何時でもどこでも立ててるよ、と突っ込む人間などここにはいない。その女生徒のことを、刀弥は前世の記憶(アニメの知識)で少しだけ知っている。そして、これから自分にとって都合の悪いことになるのも、容易に想像がついた。刀弥の目の前まで歩いてきた彼女はハッキリとした口調で刀弥に言葉をかけた。

 

 

「君が、政狩刀弥君で合っているかな?」

 

「・・・誰?」

 

「風紀委員会会長の渡辺摩利だ。それと、私は君の先輩に当たる。礼儀はしっかりと付けるべきだぞ」

 

「・・・すみません。で、渡辺先輩は俺に何のようですか」

 

「うむ、話が早くて助かる。では単刀直入に言おう」

 

 

 あ、間違い無く面倒ごとだ。刀弥は頭の中でそんなことを思い浮かべるが、時すでに遅し。磨利は顔に笑みを浮かべながら、彼のことを試す、そして見極めようとするように刀弥に言い放った。まるでこれからが楽しみで仕方がないという風に。

 

 

「政狩刀弥、君を我が風紀委員にスカウトにきた」

 

 

 刀弥は心の中で、また溜め息を吐いた。

 




 
 如何でしたでしょうか?という訳で、魔法科原作突入です。本当、ここまで長かった・・・!予定なら書き始めて3ヶ月くらいで入る筈だったんですけど。これも一週間もかけずに復刻イベントを入れてくる運営って奴が悪いんだ!

 では今回はこの辺で、次回も首を長くして待っていただけると嬉しいです。


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主人公と深く関わった奴は軒並み強化されるんだよなぁ(なお狂化でも可)

 お待たせしました。

 遂に今日から始まりますよ!ぐだぐだ帝都聖杯奇譚!ぐだぐだイベントなのに予告がぐだって無いとはこれいかに。まずは二十連引いて伊蔵をゲットするぞぉ!!


 

 

 

 入学式の翌日の朝、達也と深雪の兄妹二人は朝早くから自分達が師と仰ぐ九重八雲の下へ、入学の報告の為に足を運んでいた。今は達也が修行僧たちによる総掛かりの稽古を受けており、深雪は遠目からそれを見守っている。

 

 

「やあ深雪君!久し振りだねぇ」

 

 

 その傍らに、急に死角から陽気な声がかけられた。深雪は思わずその存在を撃退しようと、蹴りの構えをしてしまった。が、それが誰だか判るとその構えを解き声を荒らげる。

 

 

「ッ!・・・先生、いつも後ろから気配を消して忍び寄るのはやめてください!でないといつか本気で蹴り上げてしまいそうです」

 

 

 無駄だと知りつつも目の前で胡散臭い笑みを浮かべる九重八雲に、抗議せずにはいられなかった。

 

 

「うんうん、いい反応だ。武術といい体つきといい、しっかりと成長しているようで結構結構。それと、忍び寄るなと言うのは難しい注文だねぇ。僕は『忍び』だからね。忍び寄るのは性みたいなものさ」

 

「そんな性は忍者なんて職種と共に早急に矯正する事を望みます」

 

「いやいや忍者なんて、そんな誤解だらけの俗物じゃなくて、僕のは由緒正しき『忍び』の伝統を受け継ぐ者なんだよ」

 

 

 戦国時代の身体能力にずば抜けた諜報員なんてものではなく、昔から受け継がれている古い魔法の使い手。普段の言動やたたずまいはともかくそれが九重八雲である。だが、どうしてもその言動やたたずまいが俗っぽく、そして嘘くさい。

 

 

「それは知っていますが・・・なら尚更のこと、何故先生はこうも軽薄なのですか」

 

 

 到底彼のいう由緒正しい存在にはとても見えず深雪は苦言を呈すが、当の本人である八雲はそれを聞いておらず、制服姿の深雪を元々細めている目を更に細めてまじまじと見つめている。そして顎に手を当てては仕切りに頷いていたりしていた。端から見れば事件の予感のする風景である。

 

 

「あの・・・先生?」

 

「それが第一高校の制服かい?」

 

「はい、昨日が入学式でした」

 

「そうかそうか、うーんいいねぇ、実にいい」

 

「ええと、今日はそのご報告にと・・・」

 

 

 目の前の変質者となった八雲から身の危険を感じ、深雪は少しずつ後ろに下がるが、八雲はテンションを上げながらジリジリと差を詰めていく。110番待ったなしである。鼻息を荒くし、胸に溢れるリヒドーを解放する。

 

 

「真新しい制服が初々しくて、清楚な中にも色気があって、まるでまさに綻ばんとする花の蕾、萌え出ずる新緑の芽!そう萌えだ・・・これは萌えだよ~!

 

 あ、それと達也君。今の僕の後ろをとりたいなら、気配を消すのではなく周りに同化させるべきだよ」

 

「!」

 

 

 後ろから手刀を落とす為と構えようとした達也の動きが止まる。既に彼の相手をしていた修行僧達は全員地べたに倒れこんでいた。達也が全て打ち負かしたのだろう。そして自分の妹に迫る危険を察知し修行の一環として師匠である八雲の背をとり奇襲を仕掛けるつもりだったのだ。

 達也にはこれまでの八雲との立ち会いによる経験で彼の実力をしっかりと把握し、今の隠行なら後ろを取れるという確信を持っていた。だが結果はどうだろうか。達也は見事にその隠行を見破られてしまった。口振りからして後ろに回ったことには先から気付いていたのだろう。何故だ、一瞬の思考。その先に辿り着いた疑問の答えは単純なもの。

 

 

「何故かって?簡単なことさ。僕だって日に日に強くなるんだよ。しかも近頃は色々あってね、やる気に満ち溢れているのさ。さてと、それじゃあ来なさい。個人レッスンを始めようか」

 

 

 その後達也は十五分もしない内に地面に背を打ちつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が中学一年の頃から続く恒例行事も終わり、寺は静けさを取り戻す。修行僧達は叩きのめされた体に鞭打ちそれぞれの御役目に戻る。本堂前の庭園に残ったのは達也、深雪 八雲の三人のみとなった。汗を流した達也と八雲は深雪からタオルとお茶を受け取り、その後朝食を一緒に取ることになった。

 

 

「いやあ、もう体術だけじゃあ達也君に抜かされてしまったかもねえ」

 

「腕が互角でここまでボコボコにされるのはあまり喜ばしいことじゃありませんね」

 

「それは当然だ。僕は君の師匠で今回はこっちの得意な土俵でやってたんだから。君はまだ十五歳の少年なんだ。それで負けてしまっては他の弟子に逃げられてしまう」

 

 

 達也の愚痴とも取れる言葉に、八雲は大きく笑い声を上げてから答える。そのまま談笑しながら朝食を楽しんでいると、深雪がそう言えばといった風に八雲に問い掛けた。

 

 

「そう言えば先生。今回の稽古、あまり右手を使わずにお兄様の相手をなさっていましたが、怪我でもなされたのですか?」

 

 

 そう、さっきの試合で八雲は右腕を使わず出来るだけ左腕のみで達也の相手をしていた。流石にフェイントをかけられた対処には両腕を使っていたが、それでもほとんどの攻撃は左腕で捌き、技をきめるときも足技かこれもまた左腕だけで行っていたのだ。深雪の心配の色を窺わせる問いに八雲は照れるように手を頭に置きながら答える。

 

 

「恥ずかしいことに、ちょっと前の試合で右腕を使い物に出来なくされてしまってね。肩を破壊されたんだ。今はもうなんとか動くけど前のようになるにはあと一、二ヶ月はかかるかな?」

 

「試合で、ですか?」

 

「うん。昔の知り合いから頼まれてね。彼の息子の相手をしてやってくれってね。いやぁ危なかったなあの時は。彼の体力がもう少し長く続いてたら負けるのは僕の方だったね」

 

 

 八雲の口から出た話に二人は驚きの表情を作る。何故なら彼がそこまで追い込まれる姿を想像する事がなかったから。二人から見て八雲は近接戦闘において彼の右に出る者はいないとする人物だ。そんな八雲が深手を負わされる、いや口振りからして優位を取られる状況まで追い込まれたと言うのは、本人が言うことではなかったらとても信じられないものだった。

 

 

「世界は広いということだね。僕も結構できる方だという自負はあるけど、それを嘲笑うかのような規格外は他にもごまんといる。そして気をつけるといい。そう言う規格外の連中っていうのは、案外近くにいるものなんだよ。特に君達のような人間の周りにね」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

(炊飯器と電子レンジならどっち買うべきだ?)

 

 

 入学式の翌日、今の時刻は七時前。朝の鍛錬や朝食、弁当の準備、夕食の仕込みなどやることは済ませた後、制服に袖を通した俺はちゃぶ台の上に置かれたチラシを見て頭を悩ませていた。それは鍛錬の帰りにポストを見たら入れられていたもの。内容はここからキャビネットで二駅ほど離れたところにある電気屋のセールだ。どうやら最新とまでとはいかないが割と新しめの品が定価の半額で買えるという。今の俺にはかなり喜ばしいことなのだが、お金の問題でどっちか一つしか買えないというのが新たな悩みの種になっていた。

 

 

(前から炊飯器には目を付けていたんだが。米を飯盒とコンロで炊くのは結構時間がかかるからな。いちいち家に帰ってから直ぐに始めてずっと見ている訳にもいかんし、予約するだけで時間通りに炊き上がると言うのはとても素晴らしい。だが米ではなく他の食材に目を向けるとするならレンジも欲しい。今までは余ったものを冷凍保存しようにも温める手段が焼き直す以外になかったからな。レンジがあればただボタンを押して数分待つだけで温め直せる、なんと素晴らしいことか)

 

 

 科学とは偉大だな、なんて普通の魔術師なら絶対に認めないようなことを思いながらそれぞれ買った場合のメリットを頭の中に並べていく。しばらく頭を悩ませた結果導き出した結論は

 

 

「また今度考えよう」

 

 

 何でも先送りにしようとする駄目な日本人の典型的な選択肢を取った。財布や生徒証やCADなど、必要な物を鞄に押し込み家を出る準備をする。すると、部屋の中に短いチャイムが響いた。玄関へ向かいの鍵を外しドアを開けると大家の佐々木さんが大きめのビニール袋を下げて立っていた。

 

 

「おはようトーヤ君、朝早くにごめんなさいね」

 

「おはようございます。いえ、今ちょうど出るところでしたので」

 

「あらそうなの?へぇそれが魔法科高校の制服なの?カッコいいわね~昔とは大違い。あ、これこれ。この前の地球堂のセール、あなた何も買えなかったでしょう?良かったらこれ、使ってちょうだい」

 

「えっ、でも」

 

「いいのよ。あなたは初めてだったんだし、押し負けちゃったのも仕方無いわよ」

 

(押し、負けた・・・?俺には最早全体重と加速をかけたタックルで殺しに来られた気分だったんだが。というか実際に何人か白目向いて気絶していたような、アソコだけ何故か世紀末世界みたいになっていたぞ)

 

 

 腰を低くして目を血走しらせただ目の前の食品に向かっていく様は、最早人ではなく飢えた猛獣を思い浮かばせる。この佐々木さんもにたような感じだった。

 

 

「それにあそこの品って新鮮で安いものばっかりだけど、その分直ぐにダメになっちゃう物も多いのよ。前回のセールは稀に見る大戦果だったんだけど幾らか余っちゃいそうだし、私とこの食品を助けると思って受け取ってくれない?」

 

「・・・では、ありがたく受け取っておきます」

 

「ふふっありがとうね。それじゃ私はこの辺で。朝ご飯の準備しなくちゃ。学校頑張りなさいね」

 

「はい、それじゃあ」

 

 

 階段を降りていった佐々木さんを見送り、一度部屋に戻る。渡された袋の中身を見てみると、瑞々しい野菜や魚、赤身の濃い肉など新鮮な食材が多く入れられていた。この量なら三日は食費が浮くだろう。思わず小さくガッツポーズをする。上機嫌のまま家を出た刀弥はそのまま学校へ向かう。

 

 

(・・・俺って魔術師で刀鍛治師なんだよな?)

 

 

 途中で色々と心配になったのはここだけの話

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」

 

 

 その日の放課後、多くの生徒が帰宅するため通ろうとする校門の前で一悶着が起きていた。ことの始まりは昼休みあたりまで遡る。

 騒動の中心となるのは1年E組の司波達也とそのクラスメイトである西城レオンハルト、千葉エリカ、柴田美月と、1年A組の達也の妹の深雪、彼女に関わろうとするそのクラスメイト達だ。最初は食堂で昼食をとっていたE組のメンツだったが途中から遅れて深雪が合流。だが、彼女との相席を狙っていたA組の生徒たちがこれを快く思わずちょっとした口論になりかけた。最初は場所がない、邪魔しちゃ悪いなどオブラートに包んだ言葉を選んでいたが、深雪の意思が固いと見るや彼等はあなたに相応しくない、二科生と僕らは違うなどと言い、終いには食べ終えていたレオンハルトに席を開けろとのたまう始末。そこは最終的に達也が急いで食べ終え、深雪と共に席を立つという形に収まった。

 また射撃場などでも悪目立ちをしてしまい、校門でしびれを切らしたA組の生徒が強引に深雪と達也達を引き離そうとし、此方もいい加減頭にきたと美月が真っ向から反論したのが今回の騒動の顛末である。

 

 

「お兄様・・・」

 

「謝ったりするなよ。これは一毛たりともお前が悪いわけじゃ無いんだから」

 

「はい。ですが、止めますか?」

 

「・・・逆効果だろうなぁ」

 

 

 少し引いたところから見守っている達也と深雪の前では、一触即発の雰囲気で睨み合うA組とE組の面子。

 

 

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。一緒に帰りたかったらついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

「美月、何か勘違いしてない?」

 

 

 どこかずれているようではあるが、美月は理不尽な行動をする一科生に正論を叩きつけ一歩も引かず雄弁を奮う。だが、彼女を完全に下と決めつけている彼らにその言葉は届かない。

 

 

「僕達は彼女に相談することが有るんだ!」

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

「ハンッ!そう言うのは活動中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」

 

「予め本人の同意を取ってからってのが筋じゃないの?相手の意志も無視して時間をくれなんて。それがマナー違反ってことが高校生にもなってまだ分からないのかしら?」

 

 

 自分勝手な一科生達の言い分を、レオンハルト威勢良く笑い飛ばしエリカは皮肉たっぷりの笑顔と口調で言い返す。それを受けて一科生の一人が切れたのか、本来口に出してはいけないはずの差別用語を吐く。

 

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときがブルームに口出しするな!」

 

 

 入試成績表優秀者である自分たちを誇示するための『ブルーム』とその穴埋め要員である者をを貶す『ウィード』。本当はただの制服のデザインの違い、花の刺繍があるかないかだけの話。だが人は自分と他人を比べ無いと気が済まないのか、それを見て一科生は自らを『花』と誇りニ科生を花の咲かない『雑草』と見下す。差別意識のあるニ科生たちにも、それは当てはまる話だった。今では校則で禁止されているものの、裏で扱われるのはある意味当然のこと。

 それを聞いた美月は負けじと言い返そうとする。まだ入学したばかりの私達に、一体どれだけの差があるというのかと。だが、それより先に別の声が響く。

 

 

「いい加減にしろ!お前ら!」

 

 

 それはその場にいた誰にとって意外にも、一科生の一人の上げた声だ。そして達也には彼の顔に見覚えがあった。それは昼休みの時。かれは達也が深雪を連れてその場から離れようとして尚話し掛けようとした生徒を宥め自分にアイコンタクトをしてきたのだ。

 

 

「間違い無く言い分は向こうにある。これじゃただ自分の意思を押し付けているだけだ。相談ならまた明日にでもすればいいだろ。それに、このことに一科生やニ科生であるなんてのは関係ない。最低限人としてのマナーが今のお前たちはなっていないんだよ」

 

 

 深雪を連れて行こうとする一科生の一団の中から前に出て、達也達を『ウィード』と呼んだ男子生徒を中心に注意を促す。これからのことなんかを考えると間違い無く悪手であることを厭わず、間違ったことを集団に指摘する彼に達也達は素直に感心した。やはりしっかりとした人は必ずどこかにいるのだと。だが、

 

 

「森崎!君はブルームなのにウィードの肩を持つのか!」

 

「だからこの事に一科もニ科も関係ないって言っているだろ。それにニ科生を『ウィード』と呼ぶのは校則で禁止されているぞ」

 

 

 同じ『ブルーム』が反論してきたのが納得いかないのか、森崎と呼ばれた男子に向かっても大声怒鳴り散らすように言葉をぶつける。それに対し、森崎はただ冷静に、それでいながら強く話す。その雰囲気に気圧されたのか名も知らぬ男子生徒はたじろぎながらも言い返す。

 

 

「ただ相談がしたいことがあるってだけじゃないか!」

 

「それに司波さんにも悪いって言っているじゃない!」

 

 

 それを聞いて森崎は溜め息をつく。ただ相手を見下して、自分たちは正しいと思い込み言葉を繰り返す。ここまできたら救いようがない。達也達に至っては憐れみの目すら向けている。もう何を言っても彼は自分が間違っているとは認めないだろう。そして森崎はこんなヤツが自分と同じ一科生なのかと静かに怒りを覚えた。語気を強めて言う。

 

 

「同じことを何度も言わせるな。それがマナーがなってないって言っているんだ。そしてお前たちはそれが出来てない時点で人として劣っている」

 

「何ですって!?」

 

「森崎!」

 

 

 森崎の言葉を聞いて深雪のクラスメイトの面々は完全に頭に血が上った。そして遂に、男子生徒一人が腰のホルスターから小型拳銃形態CADを抜き、森崎に向けて狙いを定めて引き金を引こうとする。例え下らない騒動を起こしていたとしても彼は一科生。二桁の倍率の入試を乗り越え更に成績優秀者と認められた技術を持っている。それに加え彼は魔法の発動スピードには多大な自信をもっており、森崎との距離は少なくとも直ぐに追いつくものではない。一度発動させたのならば必ず当てられると確信していた。

 

 だが魔法が発動されることはなかった。何故なら彼男子生徒がCADの引き金を引く前に、森崎が彼に急接近し手に持つそれを蹴り上げたからだ。

 

 

「ヒイッ!」

 

 

 予想もしなかった衝撃に情けない声を上げながらCADを手放し尻餅をつく。自分に覆い被さる影に気付き顔を上げると、森崎が冷たい目で男子生徒を見下ろしていた。

 

 

「抜いてから構え狙うまでの時間が長すぎる。まるで邪魔してくれと言わんばかりだ。だからこうやって簡単に近付かれる」

 

 

 小型拳銃形態CADは彼自身も愛用しているモデルだ。だからこそ、その長所も短所も熟知している。今回のケースは正にその短所に当てはまる。

 拳銃形態のメリットは狙いを定め引き金を引くというごく短い行程で魔法を発動出来るということ。拳銃という本来はただの武器である物の見た目であることがその理由である。だが、形も同じなら使い方も同じである。普通の拳銃と同じで狙わないと当たらない。そしてその照準速度は本人の腕に依存する。つまりそれなりの練習と実践が必要なのだ。

 男子生徒は魔法の能力は高くとも銃を扱う能力は持っていなかった。それもそうだろう。彼はただ拳銃形態の方が魔法を早く発動出来るだろうという安易な考えの下にこれを先日購入したばかりなのだから。

 

 

(素人が。でも正直危なかった。彼があと少しでもまともに使いこなしていたら、魔法は発動していただろう。クソッ、反応がまだまだ遅い。こんなのじゃ、まだまだアイツに追い付けやしない)

 

 

 彼の心中を知らずか、その森崎の一連の動きを見て達也と深雪は感嘆の声を漏らし、レオンハルトやエリカは面白い物を見つけたと言うように笑みを浮かべる。その外の人間は目の前の光景を上手く呑み込めないのか呆然としていた。だが深雪のクラスメイトの一人が再び森崎に魔法を発動しようと、腕輪形態のCADを操作する。それに続く者、止めようとする者皆が魔法を発動させようとする。それをいち早く察知した森崎はいつでも対処出来るように構える

 

 

(俺を狙ったものは五つ。他の狙いは別だから放置。皆冷静さを欠いている状態だ。動きから実戦慣れしている様子もない。恐らく焦って早く発動させようと単純行程の魔法を使ってくる。なら・・・)

 

 

 と、そこで思考を止め構えを解く。それと同時に外部からサイオンの塊が打ち込まれ、発動直前だった魔法式を霧散させられた。

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 その後、生徒会長と風紀委員長からの尋問を受けたが、達也の機転を利かせた返答によりお咎め無しとなり解散となった。流石に深雪のクラスメイト達も、生徒の長にまで出張られると大人しく引き下がった。(森崎を含む達也達には恨みを込めた視線を送っていたが)

 光井ほのかと北山雫が達也に自己紹介と庇ってくれた事への感謝を済ませたころ、彼等に声をかける男子生徒がいた。深雪のクラスメイトへ真っ向から立ち向かった森崎だ。彼は達也たちがこちらに振り返ったのを確認すると、深々と頭を下げた

 

 

「僕のクラスメイトが君達に迷惑をかけたばかりか生徒会長達から庇ってもらうことになった。本当にすまない」

 

「お、おい顔上げろよ。別にお前だけが悪い訳じゃないだろ」

 

「そうよ。寧ろあなたはアイツ等止めようとしてたし魔法も使ってないじゃない」

 

 

 まさか急に頭を下げられるとは思わなかった彼等は、狼狽えながらも彼に言う。いやしかしと少し躊躇った森崎であったが、深雪が気にしていない、寧ろ感謝している旨を伝えると顔を赤くしながら勢いよく顔を上げる。深雪は何故顔が赤いのだろうと首を曲げていたが、その他の面子は何か察したように彼に生暖かい目を向けた。

 

 

「改めて、1ーAの森崎駿だ。好きに呼んでくれ」

 

「1ーEの司波達也だ。なら駿と呼ばせて貰う。こっちも達也で構わない」

 

「わかった、宜しく達也」

 

 

 そう言って握手をする二人。それに続いて他の面々も順番に自己紹介をしていく。そのまませっかくだからと、一緒に下校する流れとなった。談笑しながら歩いている中、そう言えばという風にエリカが森崎に聞いた。

 

 

「駿くんさぁ、さっきのよく追いついたね」

 

「さっきの?」

 

「ほら、一科生のCAD蹴り飛ばしたヤツ」

 

「ああ、あれか。結構距離開いてたよな?」

 

 

 エリカの話を聞いて皆が森崎に注目を集める。確かに、あの時森崎と一科生との間にはかなりの距離があった。ただ走っただけでは絶対に追い付けない距離をどうやってあの少しの時間で詰めたのか。エリカは『剣の魔法師』と呼ばれ武術を納める千葉家の人間として興味があった。

 

 

「あれって魔法も使ってなかったでしょ。駿くんって何か武術でもやってるんでしょ?」

 

「いや、家の関係で護身術を納めているくらいだけど、武術なんて呼べるものじゃないな」

 

「ウソ?でもあの動きって・・・」

 

 

 エリカの目からして、あの時の森崎の動きは間違い無く武術に通じるものがあった。まだまだ出来も悪く荒削りだったが、完成させたのならば一つの技となるであろうもの。なのに彼は武術には縁がないという。その答えは森崎自身の口から語られた。

 

 

「あれは、僕の友人の動きを見様見真似でやっただけだ。確かあいつは何か武術をやっている雰囲気だったし、僕のなんかよりずっと滑らかで早かった。多分その名残だな」

 

「へえ」

 

 

 その後、達也のCAD談議、エリカと美月による天然発言、これまで押し黙っていた雫の的確すぎるつっこみなどで今日のところは解散となった。

 

 

 

(あの動きを完成形で扱う事ができる、それも同年代でなんてとんでもなく出来る奴ね。面白いじゃない、今度もっと詳しく聞いてみようかしら。それにしても、あの人が言っていることって本当なのかしら。『政狩の次期当主が一校に入学して来るかもしれない』なんて。あの政狩よ?とても信じられないんだけど・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「・・・クシュン!」

 

 

 え、なに?風邪でも引いたか?いやいやこれまで風邪なんて一度も引いたことなんてないし。誰か俺の噂でもしてんのか?イヤイヤ誰がそんなのするってんだよ、て言うか俺の噂をするような奴自体がいねえだろ?・・・あれ、俺今フラグ立った?

 

 

 

 




 三人称は言い回しがワンパターンになってしまうのが難しいところ。ここがしっかり出来るようになると書くのがめちゃくちゃ楽になる(出来るとは言っていない)

 刀弥の真似で歩法モドキを習得している森崎くん。ついでにいうと接近して来る刀弥に対抗するため格闘術を死ぬ気で特訓、並みの相手じゃまず勝てない。


 書いてて「あれ?森崎主役だったっけ?」と戸惑いながら「まあいっか」今日この頃な益荒男でした。


 んじゃ、爆死してくるか(血涙)



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普通の主人公より主人公ぽいサブキャラの方が人気でやすいってそれいち(偏見)

 
 エタッたと思った?実は俺も思ってた。

 久しぶりすぎて「生きとったんかワレエ!?」なんて想っている人が大勢だとおもいます。なんかこう、はい、上手くやる気が起きずスランプで文が浮かばないっていうのがありまして。と思ったら三日くらい前から「あ、今おれスッゴい小説書きたい」とか思い始めまして、はい。

 あ、皆さん。バトル・イン・ニューヨーク、周回はどんな感じですか?今回はボックスガチャ式なので林檎かじりながら何時も以上に頑張っている所です。けど超高難易度がガンホーゲームじみてきていると思ったのは私だけでしょうか?


 そんなこんなで最新話投稿です。どうぞ





 

 

 ♪~~

 

 ♪~~

 

 

 授業終了の時刻となり放送が入った。それを聞いてテキストの表示されたウィンドウを閉じる。やはりと言うか、流石魔法科第一高校。授業のレベルは中学と比べ物にならない程に高い。ここで学べることは他では決して学べないものだ。だからこそ学びがいがある。自分の家に恥じない人間である為に、そしてアイツをいつか超える為に、今という時間を決して無駄にしないようにしなければ。

 

(と、昼食をとらないと。食堂も早く行かないと混んでしまう。・・・久しぶりにアイツを誘うか。そろそろまたやろうと思っていたしな)

 

 頭でそんなことを思い浮かべながら、隣の1―Bの教室へ向かおうと席を立つ。するとポッケに入れていた携帯端末から一通のメールがきた。送り主は先日アドレスを交換した西城レオンハルト。『せっかく仲良くなったんだし、一緒に昼食でもどうだ?』とのことだ。光井と北山にも声をかけて欲しいとも書かれていた。だがその二人は今日は別の友人と屋上で持参した弁当を食べるらしい。別の奴と一緒しようとしていたし、どうしようかと悩んでいると、そう言えばと一つ思い出す。

 

(千葉が確か、この前見せた動きに興味を持ってたよな?なら)

 

 レオに光井と北山は来れない、それともう一人増えるかもしれないという旨のメールを送る。直ぐにきた返信を見て僕は2ーBの教室へ向かおうとした。

 

「あ、森崎君。なんか先輩が君を呼んでくれって」

 

「ん?わかった直ぐに行く」

 

 なんだろう、入学早々先輩から世に出されるような問題を起こした覚えは・・・あるな。けどあれは生徒会長が不問にするって言ってたし、だったら別件か?教室を出ると、体格のふた周りほど大きい男子生徒がいた。この人が僕を呼び出した先輩だろう。

 

「お、君が森崎君かい?」

 

「はい。1ーAの森崎 駿です」

 

「俺は2ーDの沢木 碧だ」

 

「よろしくお願いします、沢木先輩。それで僕に何か用ですか?」

 

「ああ、実はだね・・・」

 

 

 

 

 授業が終わり、昼休みの始まりを告げるチャイムがなる。どうやらいつどこの時代や世界でもチャイムの音は同じらしい。つまり疲れる、憂鬱になる。そんな感情のまま電子コンソールの埋め込まれたデスクに倒れこむ。

 

(やっと終わったぁ、授業キッツいなあ・・・)

 

 いやさあ、中学と高校で勉強量違いすぎない?それなりに覚悟はしてたけど、想定の範囲外もいいとこだっつーの。流石の財団もガチで驚きの声を上げるくらいだ。六番目の戦場はまだですかねえ(怒)。どっかからか益荒男の電波を拾ってきた気がしたが、突っ込む気も起きない。このまま倒れ込んでいるままでいたいが、空腹を訴える俺の腹がそれを許してくれそうにない。今すぐ腹を満たしたいが弁当は今朝の鍛錬で熱が入ってしまい長引いたせいで持ってきていない。父さんが見せてくれた『縮地・無拍子連脚』、後もう少しで何かが掴めそうだったのに・・・。

 ともかく今はこの空腹をどうにかしなければ。金は持ってきてるし、無難に購買か食堂に行くとしようか。人ごみは大嫌いだが仕方ない。てかここの食堂を利用するのは初めてだな。さて、早めに行かないと直ぐに混んでしまうというしさっさと・・・あれ?制服のポッケに手を入れても、本来そこにあるはずの財布の存在を感じることが出来ない。もしかしてオレ、財布忘れた?・・・マジかぁ。もういいや、もう考えるのも億劫になってきた。大人しくここで寝ているとします

 

「おい政狩、一緒に食堂行かないか?」

 

 モブ崎様、あなたが神か

 

 

 

 

 

 

「で、僕に奢ってくれとせがんできた訳か。その朝の訓練に熱を入れるのもいいが、もっとあとのことを考えて行動しろ。今度同じようなことがあったら僕は助けないからな」

 

「ああ、次は気をつける」

 

 つまり今回は助けてくれんですね。突き放しているように見えてしっかり助けてくれるモブ崎、いや森崎様マジツンデレ。

 

「金は明日・・・は土曜日だから、月曜日に返してくれたらいい。それと実は別のクラスの奴と一緒に食べることになっていてな。本当ならお前に確認をとってから連れて行こうと思ってたんだが、こうなった以上、無理にでもついて来てもらうぞ」

 

 え、まじ?そんな話聞いてないんだけど。まあ背に腹は代えられんか。適当に自己紹介してからは空気に徹することにしよう。

 

「なにがいい?あまり高いのは止めてくれよ」

 

「天丼定食で」

 

「了解、僕も同じのにするか」

 

 食券を2枚勝った森崎の後ろについていき、そのまま窓口から定食を受け取る。食堂は予想通りというか、かなりの数の生徒でごっちゃになっている。思わずうへぇ、と辟易すてしまう。うん?ほう、たかが学校の定食だとあまり期待していなかったが、なかなかいい匂いがするじゃないか。蓋をされたどんぶりから漏れる微かな匂いが食欲をそそる。これは考えを改めなければならないか。

 ん?そう言えばさっき森崎、確認をとってから連れて行こうとか言ってなかったか?それに無理にでも付き合ってもらうとかも。つまり、元から俺をその他のクラスの奴に紹介しようとしてたってことだよな。なんで?

 

「なぁ森崎、なんで俺をその他クラスの奴に合わせようとしたんだ?」

 

「えっああ、前に政狩の動きの真似事をしたときに、その中の一人がこれに興味を持ってて。彼女も政狩と同じ武芸者で、もしお前が良ければ紹介しようかなと思ってさ」

 

「ふーん、ちなみに何やったの?」

 

「中学の頃に僕がやられた『歩法』ってやつ。お前のと比べたらお粗末が過ぎるけど」

 

 そう言うことですか。しかし『歩法』に興味を示すなんて、そいつも結構どっぷり武に浸かっているな。森崎も彼女って言ってたから女か。ほーん、こんなことがなかったら間違いなく断ってただろうけど、仕方ないか。人間空腹には逆らえません。

 

「あ、いたいた。おーい森崎こっちこっち」

 

「お、そこか。すまん待たせたな」

 

「気にすんなって。それより早くこっち座れよ。立ったままだと疲れるだろ」

 

 そんなことを思いながら人混みをかき分けて進んでいく森崎の後ろについていたら、こいつの名前を呼ぶ声が耳に届く。顔は人混みで見えないがどうやらあのゴツい奴が森崎の知り合いらしい。うっわ暑苦しそう。アイツとはなるべく話さないようにしよう。それにしても、お粗末ながらも『歩法』の影を見抜けるほどの女武芸者か・・・

 

 なんか嫌な予感がしてきた。

 

 こんな感覚は前にも味わったことがある。そんな気がしてならない。具体的に言うと、初めて司波深雪や九重八雲と会った、また会うことになってしまったときみたいな感じ。つまり原作キャラと遭遇する予兆のようなモノ。あれ?じゃあ何で森崎の時は何も感じなかったんだ?いやそんなことはどうでもいい。ともかく今はここから離れなければ。これまで自分の勘を信用しなくていい方に転んだことなんてないんだよ!

 

「なぁ森・・・」

 

「お、後ろの奴がお前の言ってた?」

 

「ああ、政狩刀弥といって僕の中学からの知り合いだ。無愛想だけど悪い奴じゃないから」

 

 ちょおま、なに勝手に紹介しちゃってんですか!?もう離れられなくなるじゃん!人多くて迷惑でしょアピールしようとしてたのに!いや待て落ち着け、まだここにいるのが原作主要メンバーと決まった訳じゃない。こんな奴アニメにいたよーなとか感じたけど気のせい気のせい。まず森崎が主要メンバーと仲良くなってる訳ないし。たぶんきっと大丈夫なはず・・・

 

「へえ、よっ、俺は西城レオンハルト。レオでいいぜ、よろしくな」

 

 はいアウトー!問答無用で現実逃避の余地を振り切ったー!知ってましたよどうせそんなオチだって!てかなにお前ら仲良くなってんだよツンケンしろよ!そっちは一科がなんだって唾吐いて森崎は強キャラ(かませ風)オーラで見下しとけよ!何で原作と色々違ってんですかねえ!?

 

 ・・・あれ?なんかあの兄妹いないみたいじゃね?いるのはがたいのいい暑苦しいのとこっちをガン見している赤毛の短髪と大人しそうなメロン2つぶら下げた眼鏡の三人だけ。周りに空いてる席もここだけだから後から来るってこともないだろう。つまり、ここにあの超危険兄妹達は現れない?

 

 

 

 ふう、なんか疲れた。もういいや、あるがままを受け入れよう。お兄様がいないなら正直大抵なんとかなるだろうし、今は適当に返事だけしてやり過ごそう。それによくよく考えたら森崎が原作とキャラ違うのも間違いないなく俺のせいだし、完全なる自業自得じゃねえか。もう後のことは知らねえ。どうにでもなあれ。

 

「あ~、政狩刀弥。よろしく」

 

「おう。んじゃそっちのこと、なんて呼べばいい?」

 

「どうとでも、好きにして」

 

「わかった、なら刀弥って呼ば「ねえ!」ってうお!?」

 

 俺と西城レオンハルトが簡単な挨拶を済ませていると、横から大声で赤毛の短髪が割り込んできた。何だっけ?確か千葉なんとかって名前だったと思うんだけど。てかコイツさっきから俺のことガン見しながらフリーズしてたよな?今俺の中でこの女の評価は完璧なる変人なんだけれども。てか早く飯を食わせろ、ずっと腹減っててもうそろそろ限界なんだよ。

 

「おま、おいエリカ!急に乗り出してくんじゃねえ!危うく味噌汁零すとこだったじゃねーか!」

 

「それは悪いけど、今はそれどころじゃないのよ。突っかかってくるのは後にしてちょうだい!」

 

「原因作ってんのはお前だろ!」

 

「あたしは千葉エリカ。ねえ、さっそく聞きたいことがあるんだけど」

 

「聞けよ!」

 

 うっさい喧しい。耳がキンキンするからそんな近くで騒ぐな。あとさっさと飯を食べさせろ。

 

「あなたの名って本当に『政狩』なの?」

 

「は?」

 

 何でこの千葉某はそんなことを聞いてくるんだ?なぜそこまで俺の名前を気にする・・・って、そう言えばこの女って確かアニメで大太刀振ってたりしてなかったか?それに家の取引相手にも同じ千葉って人がいたような。あ、あーねそういうこと。こんなところにまで繋がりがあるなんて、もう仕組まれてんじゃねーのと思うまであるのだが。

 

「ああ、俺は『政狩』の人間だ」

 

「山中で刀鍛冶を営んでいるあの?」

 

「間違いじゃなきゃ、そっちの家とも取引したことがある」

 

 そこまで言い切ると、目の前のコイツが急に物凄くいい笑顔を浮かべてきた。このあと何をお願いされるか、もう何となく予想ついた。

 

「ね~?一つお願いがあるんだけど~?」

 

「なに」

 

「私に一本刀を打っ」

 

「無理」

 

「ちょっと、せめて言い切らせなさいよ!」

 

 やなこった。何で俺があんさんなんかの為に刀を打たにゃあならんのか。例えいくら金積まれたってやるもんか。てか今は何時でも刀打てるって状態じゃないし。次に刀鍛冶に専念できるのはたぶんゴールデンウイークあたりだろうからな。てかもういいから天丼食わせろ天丼を。

 

「ぶー、でもまあそりゃそうよね」

 

「エリカちゃんって、彼と知り合いなの?」

 

「ん?いえ、私が一方的に知っているだけよ。親が彼の所に世話になってたり、それに彼の家って一部の間じゃ物凄く有名なのよ」

 

「有名って、さっき言ってた刀鍛冶ってやつか?」

 

 メロンぶら下げた眼鏡が俺と千葉の関係を伺っているが知ったこっちゃねえ。俺の目は前に置かれた丼の中身に釘付けだ。なんだこれ、メチャクチャうまそうじゃん。ぷりっぷりのとろたまに太い海老天、そして香ばしい出汁をかけられた極上の天丼。見ているだけで食欲をそそる。見た目がこんなに素晴らしいんだ、味も期待できるぞ。では、いただきます。

 

「そうよ、彼の家『政狩』はずっと昔から刀鍛冶を営んでいるの。それも只の刀鍛冶じゃない。何者にも縛られず山中にひっそりと暮らし、自分の腕をひたすらに高めていく。彼らの打った刀は他の追随を許さないほどに美しく、そして恐ろしいと言われているわ。表に出ることは滅多になく、その実態は謎に包まれている。けど、刀に携わる者でその名前を知らない者はいないでしょうね」

 

「へー、なんか凄そうな家だな」

 

 あーんパクッともっぐもっぐゴクリンチョ。・・・ん?なんだこの味は。いや、不味くはない。不味くはないんだけど、その、何というか。これ本当に天丼ですか?

 

「凄そう、じゃない。実際にとんでもなく凄いのよ。ここまで長い歴史を積み重ねて、今もなお続いている刀鍛冶なんて恐らく政狩以外には存在しないわ。彼らの銘が入った刀だってとんでもない価値がついているんだから。具体的に言うと私が聞いた中での最高はゼロが八つも並ぶわよ」

 

「ゼロが八つって、つまり億!?」

 

「え、嘘だろたった刀一本で!?」

 

 いや、これは天丼じゃねえ。天丼の形をした別の何かだ。食えば食うほどその味が滲み出てきやがる。この、なんだ?コンビニにおいてある弁当群と言えばいいのか。ぶっちゃけていえば不味くはないけど身体に悪そうな味というか。この天丼、見かけはいいが味がダメだこりゃ。

 

「お前って、そんな凄い奴だったのか。前々から普通じゃないとは思ってたけど。お前が武術をやってるのもそれが関係あるのか?」

 

「・・・んあ?何が?」

 

 ごめん。ヘルシェイク矢n、じゃなくて天丼のあまりの意外さに気を取られてて全く聞いてなかった。てか森崎はこの天丼を食べて何の違和感を抱かないのか?

 

「・・・なんか、こう言っちゃ悪いんだが、とてもそんな風には見えねえな。そういう奴ってもっと堅い人間ってイメージじゃね?」

 

「ん~まあ言いたいことは解るわ。ついさっきまで私も、もっと職人感があるキャラだと思ってたから」

 

「ふ、二人とも、そんなこといっちゃ政狩君に失礼だよ・・・!」

 

 なんかキャラが違うと初対面の男女にdisられた。そこのメロンが言う通りちょっと失礼過ぎやないですかね。え、実際そうだから仕方がない?そんなー。いやね、確かに自分でも・・・止めとこう。この話題について考えてると気分が悪くなる。なんだろう、この、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じ、気持ち悪い。いっつもこうだ、そして決まって思考を止めると収まり始める。まあいいや、もうこの気持ち悪い天丼モドキも食い終わったしさっさと退散するか。

 

「ごちそうさま。森崎、俺は先に戻っておく」

 

「あ、ちょっとまて。放課後僕のところに来てくれ」

 

「えっなんで?」

 

「風紀委員からの呼び出しだ。そっちには三年の渡辺先輩が行ったって聞いたけど」

 

 風紀委員?あ、それってまさか入学式のやつか?あれ俺お断りしたはずなんだけどなあ。去り際また声をかけさせてもらうとか言ってたけど。うへえ、面倒だなぁ。けど先輩、それも委員会から直々に呼ばれておきながらボイコットってのも絶対後がしんどいよなぁ。

 

「ん?なに、お前ら風紀委員になんのか?」

 

「教師からの推薦でな。僕は一応入るつもりだよ。で、政狩、聞いているのか?」

 

「わかった、終礼が終わったらそっちに行く」

 

 しょうがねえってか、元から拒否権なんてないか。向こうに行ったらお断りしますってキッパリ言おう、そうしよう。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「森崎、お待たせ」

 

「来たか、それじゃあ行くぞ」

 

 そして午後の授業を経て放課後。約束通り終礼後に一組に向かって森崎と合流する。なんか教室の中で人集りができてるけどなんだあれ?まぁどうでもいいか。森崎の後ろに着いて風紀委員の本部に向かう。別校舎に向かって数分歩き、目的地の扉の前に立つと森崎はノックをする。

 

「すいません、1-Aの森崎と1ーBの政狩です。どなたかいらっしゃいますか?」

 

「お、来たか。入ってくれ」

 

「では、失礼します」

 

「失礼します」

 

 森崎の後に小さく挨拶をし、扉を潜る。うわ、なんじゃこりゃ。机のうえは書類の山でほぼほぼ表面が見えなく。床にはさらに書類やCADらしきものが散乱している。これ最後に掃除したのいつなんだよ。部屋の隅とか絶対Gとかが潜んでんぞ。森崎もこの惨状に開いた口が塞がらないといった感じだ。なんか現実を突き出されて夢が壊れたみたいな顔をしている。

 

「よう森崎君、それとそっちは初めてだね。俺は2-Dの沢木 碧。よろしくな」

 

「あっはい。1ーBの政狩刀弥です。よろしくお願いします」

 

「ああ。二人とも、少々散らかっているが緊張せずにくつろいでくれ」

 

「は、はあ・・・」

 

 これが、少々?そしてどこで寛げばいいんですかねえ?椅子に座ったら書類で前が見えないし、床は机の周り以外書類が山積みでおかれているし、ってどんだけここの人間は書類をため込んでんだ!?ちっと整理をしろよ!あれか、散らかってないと安心できないみたいな人間の集まりなのか!?

 

「ん?あぁちょっと待っててくれ、よっと」

 

 こっちがどうすればいいのか分からないのを察してくれたのか、沢木先輩は適当に重ねた紙束を机の上から床に下ろす。おい、それでいいのか風紀委員。こういうのに限って重要な物が奥に眠ってたりすんだぞ。

 

「ふう、よし。どうぞ、そこに座ってくれ」

 

「・・・では、失礼します」

 

 よし、じゃねえよ。この人の部屋汚さそう(小並)取りあえず言われた通り先輩の対面に座る。

 

「今日ここにきてもらったのは姐さん、委員長の渡辺先輩との顔合わせと、俺達の仕事の説明、そして実際に見学してもらう為で、」

 

「あの、すいません」

 

 危ない危ない、このまま聞き続けていたら何時いえるか分からない。ここは今すぐにでもハッキリと断っておこう。

 

「俺は既に、渡辺先輩にお断りすると伝えた筈なんですが」

 

「えっ!?」

 

「ああ、それは勿論聞いている。だけど姐さんはかなり君に入れ込んでいるようでね。あれで諦める気は無いみたいなんだ」

 

 だるっ!めんどくさっ!

 

「何故でしょう」

 

「それは俺にも分からないな。俺は姐さんに説明だけでも聞いてもらえって言われただけでね。取りあえず、今日一日だけは俺の話に付き合って欲しい。その上で改めて断るなら姐さんも諦めるだろう。勿論興味を持って気が変わったのなら、そのまま誘いを受けるといい。どうだろう?」

 

 ・・・いやぁ、そこまで言われたら断れないでしょう。

 

「わかりました。では、このまま説明を受けさせていただきます」

 

「よし!それじゃあ早速説明させて貰おうか」

 

 はあ、今日は一部の鍛錬は諦めるか。まあこれを聞いた上で断るなら諦めると言っているのだから、聞いていて損にはならないだろう。興味を持つことなんて微塵の可能性もないけどな。悪いがそういう委員会とかは無しの方向でお願いします。てか帰れるのいつになんだろう。あんまり遅くなると夕飯の準備が出来なくなっちまうんですが。

 

 

 てか森崎、さっきから俺をチラチラと見てくるのはなんなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

(なんだよ政狩のやつ、変に期待させや・・・いや、期待なんて、端からしてないけど)

 

 まあよくよく考えれば、それも当然か。コイツが風紀委員なんて興味を持つことすらないだろう。コイツとの付き合いもそこそこある。だからそんなことは解っていた。だから俺は一緒にやれるなんて期待してもいなかったし、政狩が断って残念がってもいないのだ。いないったらない。横目で隣の顔を見やる。真面目に先輩の言葉を聞いているように見えるが、考えているのは恐らく今日の特訓とかのことだろう。

 

(コイツは何時も、どこか遠くを見てる。多分、それはコイツにとって、とてつもなく大きいもの。勉強とか魔法とか、そんなものは比べて小さ過ぎるから、正直どうでもいいとすら思っている)

 

 もしかしたら、僕のことさえも

 

 

 政狩は、僕にとっての友達だ。

 

 口には絶対に出さないけども、気に食わないところもあるけれども、一番親しい友人だと思っている。

 

 政狩は、僕にとってのライバルだ。

 

 中学のとき、僕に勝てるのはお前だけだった。僕と同じ場所で戦えるのはお前だけだった。

 けど、お前は多分、僕が思っているよりずっと強くて、何時も手加減している。

 

 だから、政狩は僕にとっての目標だ。

 

 いつかお前に追いつきたい、隣に並びたい、追い越したい、勝ちたい。そして言ってやるんだ。ついに勝ったぞ、お前の負けだって。これまで散々苦汁をなめさせられた分、コイツに悔しいって想いをさせてやるんだ。

 

 そしたら漸く、俺とお前は、対等になれるような気がするから。

 

「よし、こんなところだな。俺からするのはこれでお終いだ。何か質問があるなら遠慮なく言ってくれ」

 

 だから政狩、先ずは

 

「すいません、沢木先輩。質問じゃないんですけど、一つお願いさせて欲しいことが」

 

「ん?なんだ森崎君」

 

 

「僕と政狩に、模擬戦をさせてくれませんか」

 

 

 僕のことをしっかりと見てもらうぞ、政狩。

 

 

 

 

 

 あとそのぽけぇとした顔はやめろ。いつも結構イラッてくるんだ。

 

 




 
 次回 森崎、死す デュエルスタンバイ!


 剣ディルの要求素材、えげつな過ぎません・・・?120超えが三つって・・・。まだふじのんのスキルも8,2,6だし、今回のイベントで証集めないとヤバ・・・


柳生さん「これより後は、貴殿を主としてお仕え致す。如何なる命にも従う所存」


 モウヤメテエエエエエ!!けど来てくれてありがとうございます!!!







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