東方花憑伝 (残念美人布教教会関東支部支部長斎藤宰慈)
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覚醒と少女

まず始めに、匿名の名前は偽名です。間違わないように御気を付けください。




では、始まります。


 深き森の中に佇む女性。

 その女性は、周囲に溶け込む様な髪色で、その身体には白のブラウスを着用し、襟元には黄色いリボンを巻き付け、赤いチェックの上着とスカートを着ている。

 

「笑えないわね」

 

 優香は周囲を見渡してから唇の形を歪める。

 

『ウォーーーン』

 

 野生の獣が既に彼女を包囲していたのだ。その数は凡そ40匹。

 狼のような体躯をした黒色の体毛を生やす獣は、優香を完全に包囲し、襲う期を虎視眈々と狙っている。

 この様な森の奥に女子供が迷い混むなど在るわけがなく、小さな小動物や猪、熊等を狩って生きてきたのであろうその獣達は、長と思われる暗黒の体毛を生やし、顔に大きな傷跡のある大狼が優香の前に姿を表した。

 勿論、森の外に導くためではない。

 自らに注意を引き付け、隙を産み出すためである。

 

「悪いけど、纏めて倒させてもらうわよ。大丈夫。無駄死にはさせないわ。私が全員食べるから、冥福を願わせてちょうだい」

 

 優香は軽く脚を曲げバネみたいに飛び跳ねる。空中で前方にゆっくりと回転していく。踵が大地(長の頭)に着くと同時に鈍い破砕音と大地が競り上がり、空中に黒い狼が全て投げ出される。

 

「ごめんなさいね。せめて、痛まないように一瞬で楽にさせるから、恨むなら私を存分に恨みなさい」

 

 真っ赤な地面を蹴り、一番近い疑似狼の頭を蹴り砕いた勢いでまた次の疑似狼に飛び跳び移る。それを繰り返すこと凡そ40回。

 大地は紅く染まり、首の無い狼や身体のネジ曲がった狼等で地面が死屍累々と化していた。

 

「見ていて気持ちの良い光景ではないわ。一つだけ死体を運んで、それ以外は埋めましょう」

 

 優香の目の前にある一匹の死体以外は、地面と同化する様に大地に沈んでいった。

 そして、その大地から銀杏の樹がコマ送りの様な速度で生えてくる。鎮魂の導となる様に、亡骸の真上に。

 優香は暫しの黙祷を捧げ、宙を見上げる。

 

「出てきなさい」

 

「あ、あの、……………ごめんなさい」

 

 林の影からゆっくりと姿を出したのは、ふんわりとした金髪に白のワンピースドレスを着た妖怪の少女だった。

 

「幾つか聞いて良いかしら?」

 

 優香の声に反応し、肩を跳ねさせた少女だったが、瞳に決意の光を爛々と輝かせ、優香の顔を見上げて答える。

 

「私に解ることなら、幾らでも答えます。ですから、私に生きる術を教えてください」

 

 静かな決意。

 その静寂を破るのは、優香本人であった。

 

「私はまだこの世界に来たばかりなの。けど、この世界に来る前から自我を持っていたわ。

 そんな私が出す条件は簡単よ。

 どんなに醜くとも、どんなに惨めでも、嘲笑われようと、蔑まれようと、どんなことがあっても生きなさい。

 死んでしまえば、何も出来ないわ。けど、生きていれば、必ず、何かを達成できる。必ず、何かを叶えられる。だから、生き汚く、泥臭く、青臭く生きなさい。

 生きることを楽しむの。どんなものであれ、見方によっては楽しめるのよ。だから、道徳に反しない範囲であれば、どんな些細で退屈なものであれ楽しみなさい。

 無為な殺しは控えなさい。それは、貴女の心を荒ませるだけよ。だから、殺すことに慣れてはいけないわ。

 それが私から貴女に出す条件よ」

 

「………」

 

 妖怪少女は、目の前にいる存在に驚愕する。

 世界云々ではなく、その心、在り方に。

 50近くの妖獣を瞬きをする間に肉塊と化した修羅の如き存在から発された言葉は、紛れもなく心があるモノであったからだ。

 生物を慈しみ、労るという心を持て、生きることに貪欲になれ、万物を娯楽とする見方を見つけよ、と。

 

「だけど、私に付いて来たいのならば好きにすると良いわ。その場合は、貴女は私に保護されるだけになるけれど、身の安全は保証するわ」

 

 妖怪少女は葛藤する。

 庇護下に入るだけならば、苦難はないであろう。しかし、その場合、彼女から何らかの師事は存在せず、只、安穏足る日々を教授することになる。

 この荒んだ神代には、それはなんとも極楽であるかは理解している。しかし、それは受け入れることは出来ない。

 理想論と諭され、無謀な愚考と蔑まれ、乙女の夢と嗤われ、机上の空論と弾圧された。

 そんな夢を目の前の女性はどう思うのだろうかと、ふと気になった。

 

「…………………一つ、聞いて良いですか?」

 

「ええ」

 

「人間と妖怪が共存できる場を作りたいと、そう発するヒトが居たら、どう思いますか?」

 

「………そうね。それは、とても素敵なことだと思うわ。けど、それを実現させるのは苦難の道でしょうね。だから、私はその娘にこう伝えたいわね。

 

 

 

 

 

 

      ──────諦めないでやれば叶うわ」

 

 妖怪少女は決意した。

 この女性に師事を仰ごうと、この女性の教えは出来る限り守りと通そうと。

 

「私を弟子にしてください!」

 

「怪我をするかもしれないわよ」

 

「大丈夫です!」

 

「仕方ないわね。それじゃあ、この風見()香が貴女の師として貴女を教え導きましょう」

 

 この瞬間から、風見()香は死んで、風見()香となった。

 風見優香という人間は、風見幽香という存在(妖怪)に昇華された。

 死を経て、新たな生を受けた。

 前世という知識とバグのような能力を持った最凶の妖怪。

 【四季のフラワーマスター】、【天変地異の化身】、【修羅の妖】、【再現者】等と後に言われる幻想郷最強の一角を担い、妖怪の賢者の一人に数えられる猛者である。

 

 

 

 

 




ガイアとは、【大地】その物であると言われている神である。
この【大地】とは、地面であり、空であり、海であると言われているため、ガイアの息子であるゼウスの一つ前の主神、た天空神クロノスやガイアの孫に当たる海の神ネプチューン等が誕生した。


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諏訪の國と花妖怪①

 いきなり狼擬きに襲われたかと思ったら、体が勝手に動いて狼擬きを殲滅してしまったのだけど、神様擬きからの伝言である程度は体が勝手に動く(自衛の場合のみ)こと等を脳内再生されていたら、いつの間にか弟子が出来てたのだけども、仕方無いなんて言わないわよ。

 この体は私の意思を言葉に反映するときにフィルター(若干の辛口or毒舌)を通すらしく、若干勘違いされてしまいそうで悩んでるのだけど、私の普段の口調と似ているから別に良いのではないかと悩んでるわ。

 とはいえ、少女(妖怪)に名前が無いのは流石に困るわよね。

 でも、流石に適当に名を授けるのはアレだと思うのよね。

 まあ、そんなわけで、前世の親友に名前を借りようと思うのよ。勿論、少しだけ変えるわよ。

 

「【八雲 紫】と名乗りなさい。貴女は名無しでしょう?何時までも名無しだと呼ぶのが面倒だわ。良いわね?」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 縁の奴も紫みたく素直で感受性豊かなら良いのだけど、縁は胡散臭くて策謀かなのが美貌を台無しにしてるのよね。その癖、結婚できないと愚痴を溢すのは流石にどうかと思うわ。

 まあ、紫は縁みたく胡散臭くは成らないと思うけど、何故か私の勘が『諦めろ』と囁くのは無視した方がいいのかしら?

 

「さっさとこんな場所は移動するわよ。適当に旅をすることにするわ。最近は大和がどうのと騒がしくなってきたから、未だに侵攻されてない土着の頂点が座する地として有名な諏訪の國に行こうと思うのだけど、何処か行きたいところは有るかしら?」

 

「ありません!」

 

 …………無いとはっきり言うのは良いのだけど、自信満々に言うのはどうなのかしら?

 まあいいわ。

 土着の頂点がどの程度なのか、確りと見させてもらうわ。

 

❄❄❄❄❄❄❄

 

 諏訪の國を治める神は、確か祟り神の頂点であるミシャグジを従えているという噂が有ったわよね。

 可能ならば、ミシャグジの支配権を奪いたいところだけれど、まずは噂の神を見てからでなくては流儀に反するのよね。

 私の流儀は簡単なのだけど、今は置いておくわ。

 

「わぁ。幽香さん!こんなに活気が溢れてますよ!」

 

「そうね。確かにこのくらい活気があるのは珍しい方じゃないかしら。まあ、国を治める者として活気溢れる国を作るのは常識の範疇よ」

 

「そうなんですね!」

 

 余計な一言が入ったような気がするのだけれど、この程度なら無視してもいいわね。

 それよりも、紫は無邪気なのは良いのだけど、私の神気で覆ってるとはいえ妖怪であることは変わらないのだから、この地の神にちょっかい掛けられるかもしれないのはわかってるのかしら?

 まあ、もしもの時は私がどうとでも対処するとしても、彼女にはその考えがない、とは言い過ぎかもしれないとしても、薄いのは確かだわ。

 

「見てください!あんなに階段が長いですよ!300段は有るんじゃないですか!?」

 

 なんだか、私がお義母さんをやってる気分だわ。………前世では結婚すらしてなかったというのに。

 まあ、悪くはないわね。

 

「そんなに走ると転ぶわよ」

 

「わかりま───きゃあ!」

 

「まったく、だから言ったじゃない。ほら、掴みなさい」

 

「うぅ。ありがとうございます」

 

 年の離れた妹が居たらこんな感じなんでしょうね。

 この体の年齢はわからないけれど、大体に20歳程度だと思うのよね。まあ、紫の見た目は15歳程度だから有り得ないことはないわね。勿論、年齢だけ見ればだけれど(実年齢は置いておくとして)。

 

「少し、気遣いが足りないんじゃないかしら?」

 

「幽香さん?」

 

「ありゃ、気づいちゃッたか~」

 

「気付かれないと思ってたのなら、早めに就寝することを推奨するわ」

 

 確かに強大な神ではあるのだけれど、私が押し付けられたのは最盛期の信仰を一身に受けた状態のガイアと同等の能力なのよね。まあ、何が言いたいのかと言えば、貰い物とはいえ、それを持っている私からすればやはり劣る。そういうことよ。

 

「………わたしゃ別に疲れてる訳じゃないんだけど。

 まあいいや。で、何のようかな?」

 

「私の用件は簡単よ。

 少しの間、此処に滞在する許可を取りに来たのよ」

 

「あれ?大和の神じゃないの?」

 

「詳しく聞かせなさい。気分次第で助けてあげるわ」

 

 

 



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諏訪の國と花妖怪②

唐突に思い浮かんだネタ

紫「幽香さんに聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

幽「なにかしら?」

紫「幽香さんが言う地母神って、幽香さんみたいに皆胸が大きいの?」

幽「諏訪子も地母神の一種なのよ」

紫「そうなんですね!じゃあ、諏訪子様みたいに子供みたいな地母神もいるんですね!」

諏「なっ!!」

幽「諏訪子、子供は無邪気なんだから、気にしちゃダメよ。無邪気っていうのは、無慈悲と同義なのよ。ほら、子供が虫を捕まえて羽を毟か(むしる)のと同じことよ」

諏「そ、そうだよね!?子供は無邪気なんだから仕方ないよね!!」

幽「それに、諏訪子だって成長すればきっと胸も大きくなるんじゃないかしら?

















 でも、貴女は神だから成長することはないのよね。だから、一生幼児体型じゃないかしら?
 ほら、私って無慈悲じゃない?つまり、私は無邪気なのよ」

諏「このサディスト!!」

幽「うふふふふ」

無邪気=無慈悲、無慈悲=無邪気。
つまり、無慈悲な幽香さんは無邪気であったという話。
誰かこのネタ使ってくれませんかね?


 目の前の神が言うことを纏めたのだけれど、不愉快な結果だわ。

 

1.諏訪の國を即刻差し出せ。

2.差し出さないのなら、民を一人一人嬲り殺す。

 

 ここまででも不愉快なのに、もう人続くのよね。

 

3.抵抗するならば、四肢を切り落として凌辱する。

 

 二つ目の途中で紫は室外に出して結界を張ったから聞かれてることは無いのだけれど、私からしても不愉快なのだから、この目に座る前の神が肝を据えかねてるのは当たり前だわ。

 だから、私達に殺気を向けて来たのだろうけど、私だったのなら、殺気ではなくて物理的に首を飛ばしていかもしれないわね。

 

「手を貸すわ。

 妖怪の弟子とはいえ、小さな子供を保護してる身。少なくともあの子を保護してる間は誇れる師として在りたいの。だから、手を貸しましょう」

 

「恩に着るよ。

 あっちは阿修羅って鬼を囲ってるみたいでさ、私じゃどうにもならなかったんだ」

 

 阿修羅、ね。

 深く馴染みのある言葉だわ。

 【千剣万掌の阿修羅】と呼ばれていた彼を思い出すわね。確か、三年前から行方不明になってたのだけれど、まさか死んで此方に来てるなんて無いわよね?

 彼とは互角に殺り合えるとはいえ(彼は温厚でマイペースだからそうなることはまず無いのだけれど)、彼自身がそれに加担するとは思えないのよね。

 彼は基本的に義を重んじる武人だし、何より、率先してそういうことを潰してるから有り得ないのよね。

 …………まあ、彼はご飯を食べれれば問題ないって質だから心配だけれど。

 

「気を付けておくわ」

 

「んじゃ、居間に行ってご飯食べようか───って言いたいけど、まずは自己紹介しない?」 

 

❄❄❄❄❄❄❄

 

「私はこの諏訪を治める神様であり、祟り神の頂点の号を持つ洩矢諏訪子だよ。

 この子は、東風谷典奈(ふみな)って名前で、私の巫女をしてる愛娘なんだ。まあ、私が産んだ訳じゃないんだけどね」

 

「よ、よろしくおねがいいたします」

 

 実子では無いと言うのなら、恐らく神力を使って母体を受胎させたっていうわけね。

 その場合は確か、神力の大本が身に宿す性質を宿し易いという話が多いわね。

 つまり、目の前に居る深碧色をした長髪の彼女はどっちの性質を持っているのかしら?

 祟り神の性質を持っているのなら、相応の処置をしなくては往けないのだけれど、彼女の性質は偶像的な神(奇跡)の性質を持っているみたいだから問題ないわね。

 

「ええ、よろしく。私は簡単に言えば天と海と地の全てを治める神、識別名はガイアよ。まあ、私は一応妖怪でもあるけれど、神力の方が妖力の大半を侵食してるからわかり辛いのではないかしら?

 隣の子は八雲紫という名を授けた今のところは一個体の妖怪って言ってわかるわよね?」

 

「よろしくおねがいします!」

 

 そろそろお腹が減ったわ。

 

「諏訪子、もう食べても良いのかしら?」

 

「良いんじゃない?」

 

 目の前の料理は何というか、この時代に在る筈の無い料理群なのだけれど、流石に内蔵を取り除いていない魚は食べたくないからどちらかと言えば最高なのだけど、まだこの時代にお茶や塩、胡椒に唐辛子なんて何処から仕入れたのかが物凄く気になるけれど、この際だから気にしないで食べてしまいましょうか。

 

 

 

 

『いただきます』

 

 

 

 

 

 




【千剣万掌の阿修羅(本名:御山 七花)】さんの見た目は名前の通り、鑢 七花の外見です。
 性格について本編中に語られたのを補足すると、マイペースののんびり屋で、ご飯が食べれれば住む場所の環境は問わないというワイルドな性格です。ちなみに、姉が居ます(両者相互超過保護です)。


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諏訪の國と花妖怪③

 突然だけど、生前に抱いた子供の頃に抱いた夢って花屋なのよね。まあ、花言葉なんてモノには微塵も興味は沸かなかったけれど、花の美しさは素直に感動したわ。

 私は今でも思うのよね。会社員を定年で退役したら、きっと花屋を開いてたんじゃないかって。でも実際のところは、有休消化の為に遠くの温泉に行った帰りの途中で事故死。

 さて、振り替えるのもこの辺にして、大和の國本丸の門を派手に吹っ飛ばしましょうか。

 

「背番号4番、風見幽香がいくわ」

 

 唐突に思い出して言いたくなったネタを言いながらも、バットを構えるように私の体の一部とも言える白色の傘を持ち、全力で振り切ると────

 まあ、なんということでしょうか!目の前に在った城門やら櫓、塀やらが綺麗サッパリ消滅してるではありませんか!劇的にbefore four afterしています。無駄なモノが綺麗サッパリと消え、なんとも美しい更地が目の前に姿を表しているではないですか!?

 この口調は面倒臭いわね。それに、巫山戯るのも大概にしないと、紫が真似し出したら大変だわ。

 

「な、何事ですか!?」

 

「あら?態々出てきてくれたのね。感謝するわ」

 

 慌ただしく出てきた割には身成が整ってるわね。

 黒の長髪を後ろに一房に纏める髪型(俗称ポニーテール)に赤と白等の十二単衣を身に纏う端整な顔立ちの美女でスタイルも抜群とは、世の喪女に喧嘩売ってるわね。

 まあ、私は生憎と生前は(血生臭い意味で)モテた方だから…………誰かしら、文字の間に不要なものを挟んだ不届き者は。殺すわよ?

 

「あ、貴女は何者ですか?大いなる意思と気配を感じます。それこそ、天地に存在する全ての化身であるかのような存在感を感じます」

 

「勘が良いじゃない。まあ、私はガイアと呼ばれていることもあるわ。ただし、今は風見幽香と呼んで貰うけれどね」

 

 勘が良いみたいだけれど、まだ私が来た理由に気付いていないから及第点はあげられないわね。

 まあ、目の前の神がこの國の大黒柱なんでしょうけれど、あの卑劣な文書を書くような性格ではないということは確かなんでしょうが、部下を確りと躾してないことを見れば甘過ぎる(優し過ぎる)わ。

 

「貴女、この文書に心当たりあるかしら?」

 

「ッ!? な、なんですかこれは!?」

 

「部下の管理は確りなさい。私は危うくこの國を潰すところだったわよ」

 

「申し訳ありません!!

 これに関わる該当者全て追放処分とし、大和への以後の立ち入りを禁止し、立ち入ろうとしたら相応の対処をするので、どうか、この無礼を御許しください!」

 

「わかったわ。

 今後は公平な対話で國の拡大をし、このような脅迫紛いの事態を起こしたら私が直々に潰しに来るから覚悟なさい。

 そして、このような対応で軍門へ下した國があるならば、それらへ相応の謝罪と誠意を見せて許しを請いなさい。でなければ、貴女の國は瓦解するわよ」

 

「はい!

 風見様の忠言を心に刻み、改善へと邁進することをここに誓わせていただきます。

 そして、風見様の御手を煩わせぬよう、最良の國へと目指し、精進することを此処に宣言します!」

 

 …………可笑しいわね。

 私は単純に気に食わないから改善しろと言ったに過ぎないのだけれど、まあ、忠告はしたのは確かだけれど、それは気紛れに過ぎないし、勘違いされるのは癪だわ。

 けれど、敬われるのは悪い来はしないから、一つだけ贈り物をしてあげようかしら。

 

「貴女には、この簪を授けるわ。銘は【星之照日(ほしのみつか)】。貴女は太陽神みたいだから、その神格を底上げする物よ。私が気紛れで造った物を倉庫(【スキマ】)に入れてたのだけれど、貴女が持っていれば、少なくとも貴女は存在が揺らぐことの無い者となるわ」

 

「あ、ありがとうございます!

 肌身離さずに持つこととします!」

 

「ついでに、この【星之清海(ほしのせいかい)】もあげるわ。これは海神にそれと同じ効果があるものだけれど、私はもう使わないし、必要ないから弟にでも渡しなさい。数珠の身に付け方はわかるわよね?

 それじゃあ、さようなら」

 

 私の役割はここで終わりね。

 後は、大和の國と諏訪の國で対話し、解決する問題だわ。ささっと諏訪の國に帰ってから、諏訪子に話をしてから、紫を連れて旅に出ましょうか。

 それじゃあ、次は何処に行こうかしら?



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温泉(妖怪の山)と花妖怪

HAPPY NEW YEAR!


 目の前には楓の木々に結び付く紅葉の大群に、真上には星々が輝き煌めく夜の大空。正しく絶景ね。

 

「偶々立ち寄った山奥にこんな隠れ里があるなんて思わなかったわ。紫、湯加減は大丈夫かしら?」

 

「はい! 気持ち良くて寝ちゃいそうなくらいです」

 

「よかったわね。………厚待遇なのは良いのだけれど、良からぬことを考えてなければ最高だったわね」

 

 まったく、私を出し抜こうなんて百年早いわ。まあ、純粋な善意ほど恐ろしいモノは無いから、こんな風に策を弄して利用しようとしてくる方が対処しやすいから、問題ないわ。

 それよりも、あのバカは何をやってるのかしら?

 温泉に入るついでに潜水訓練とは、鍛練馬鹿にも程度が有ると思うのだけれど。

 

「七花、鍛練も程々になさい。紫が真似たらあんたの刀を圧し折るわよ!」

 

「勘弁してくれよ、優香。ああ、今は幽香だっけか? まあいいや。………まあ、温泉や四季折々の風景を楽しむのも嫌いじゃあないけどさ。やっぱり、鍛練とか飯を食うのとかが好きなんだよ。一つ追加で言っておけば、幽香のことも案外嫌いじゃないからな。むしろ好きな方だぞ」

 

「………………。

 まあ、これからご飯くらいなら作ってあげても良いわ。ただし、鍛練も程々にすると約束するなら、だけれど。どうかしら?」

 

「仕方無いな。まあ、幽香の飯は旨いから鍛練くらい少しは控えても良いけど、この時代で前と同じように作れるのか?」

 

「問題ないわ。スキマっていうのを習得したお陰で、倉庫代わりの空間が大量に増えたから、ソコに暇潰しで造った料理器具や香辛料、食材とか全て揃えてあるわ。

 それと、七花が好きそうな曰く付きの刀剣も有るから、今度貴方に渡すわね」

 

「ん、期待してるわ。それと、ありがとな」

 

「構わないわ。貴方はさっさと収集して役目を終えて、早く七実さんの元へ無事に帰ってあげなさい。

 最近、この世界に彼女の気が出現したわ。だから、役目を終えて仲直りなさい。いいわね?」

 

「はいはい。わかってるって」

 

 七花が変わった刀を収集してる理由は、彼の家、御山の宿命を彼の姉、御山七実の代わりにその役目を無理矢理、彼女と代わったというのがコトの真相だけれど、私はその手伝いをたまにすることがあったのよね。

 出張先に可笑しな気配が在ったら、原因を突き止めて対処する。そのときの原因が刀なら、七花に連絡して刀を引き渡す。

 私としてはあのシスコン(ブラコン)の姉弟を早く仲直りさせたいのが本音ね。七実は体が弱いから長旅に向かないのは同意するけれど、布団で簀巻きにしてから旅に出たのはどうかと思うわ。

 彼女を宥めるのに何れだけ時間が掛かったことか、彼はわかっていないのよね。まあ、態々言うつもりはないけれど、そんな風に適当に流されると癪に障るわね。

 

「ねぇ、七花」

 

「なん───ぐぼぁ!?」

 

 振り向き様に盥にたっぷりと試験品のお酒を注いで顔目掛けてぶん投げてやったけど、案外面白いわね。

 ぐぼぁ。なんて、普段じゃ聞けない七花の奇声を聞けただけで満足よ。

 

「その液体は、鬼殺しってお酒なのよ。一口呑むだけで鬼がベロンベロンに酔い潰れることからその名前を名付けたわ。まあ、まだ検証してないから七花に試してみようかと思ったのよ、今。感想聞かせてもらえるかしら?」

 

「………幽香、ソレ」

 

「そんな手には乗らないわ………よォ!? 紫!!?」

 

 思わず声が裏返るなんて珍しい体験したとか、七花のジト目にゾクッとしたとか、そんなこと今はどうでもいいの。

 今問題なのは、紫が鬼殺しで全身の筋肉が弛緩して人様に見せることの出来ない状態になってて、七花がソレを見たってことよ。

 

「────七花。今すぐに目を抉り奪られるか、今すぐに温泉の底と口付けするか、選びなさい」

 

「……………」プクプクプク

 

 

 



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天魔サマと花妖怪

 とある方から、3話と4話の誤字報告していただきました。
 誤字を報告していただき、ありがとうございます

 また、4話についてですが、
 〔~子供の頃『の』夢~〕
 云々は誤字ではなく、
 〔~子供の頃『に抱いた』夢~〕
 という意味で使ったのですが、分かり難かったと思われるので、上記の文にそのまま変えさせていただきました

 今後も誤字脱字が無いように気を付けますが、もし、見かけましたらご報告いただけたらありがたいです。





 結論だけ言ってしまうのならば、山の妖怪達は策謀を張り巡らせていた、なんてことは気のせいだったわ。

 実際のところ紐解けば単純な話で、圧倒的強者の怒りを買わない為に揉み手擦り手で相手の顔色を窺って何事もなく立ち去って貰おうとしていただけの話だったってわけなのだけれど、私は暫く此処に居座る予定なのよね。

 何故か?

 理由は簡単よ。この山がある近辺の地下には巨大な地脈が存在していて、紫の修行には適当な立地だから暫くこの地に滞在して紫の修行に力を入れようってわけ。

 今まではガイアという存在が持つ叡智から魔法を学んで治癒を早めてたけれど、地脈がここまで大規模な範囲で広がるこの地ならば紫自身に魔法を教えて自分の怪我を自分自身で治せるように出来るのよ。

 地脈はマナと言い換えることができるから、大規模な地脈があるこの地ならば魔法は大部扱い易いということと、万が一の時に地脈があると大規模な魔法が使い易いというのがあるわね。

 

 ………私は誰に説明しているのかしら?

 

 まあいいわ。

 取り敢えず、此処に居を構える前にしなきゃいけないことがあるわね。そう、私に対して物凄く鬱陶しい絡み酒を発揮しいてる、天狗の長と敬われている筈の天魔サマをどうにかしないと何をやるにしても面倒になるわね。

 

 「────聞いておられるのか? ワシは別に覗いてた訳じゃないんじゃ。ただ、見目麗しい女子(おなご)が居ったから見惚れてただけなんじゃよぉ。なのに、柊のヤツがワシを太刀で一刀両断しようとしよってからに。ワシじゃなければ本当に体が2分割される程の全力の一太刀を上司たるワシに問答無用で浴びせるなんぞ部下失格じゃと思わんか!?それに、ワシは風見殿らと同じく女子なのじゃぞ?少しばかり見惚れてもバチは当たるまいと思うのじゃ!………うぅ。あの頃の柊はことあるごとにワシに笑顔を見せてくれた優しい子じゃったのに、何故今のようにワシが女子の尻を追っかけるだけで、家宝たる妖刀まで持ち出してワシを苛めるようになったのじゃあぁ」

 

 始めの頃は私も相槌を打って愚痴を聞いていたわ。

 でもね、これは間違いなく天魔サマが悪いのよね。だって、側近の犬走柊って子の話を段々と聞いているとわかるのだけれど、惚れさせるだけ惚れさせておいて、ずっとお預けされている彼女には天魔サマを刺す程度の事はやっても良いんじゃないかって位お預けされてるのよ?

 例えば、「今夜二人きりで話したいことがあるから少し付き合っておくれ~」と言い出しておいて、酒の相手をさせられながら愚痴も聞かされた挙げ句、酔った後始末をさせられて終わったり、相手の気など自覚せずに「ワシは柊が一番大好きじゃよぉ」と抱き付きながら耳元で何度も囁くのはスキンシップの一環として当たり前、しかしその後は放置ときたら流石に刺されてあげても良いんじゃない?としか言えず、天魔サマに同情の一片すらも浮かばない現状を永遠と聞かされる私。

 紫でも七花でもいいから、この犬をも食わない痴話話を終わらせて欲しいわ。

 

───あっ。そこの白狼天狗のお嬢さん。この駄天魔を引き剥がしてくれないかしら?

 

───…………いや、顔赤くしながらふるふると首を振られても困るのだけれど。

 

───ああ、この駄天魔が言ってた娘は貴女なのね。

 

───この駄天魔に惚れてるなら、無理矢理既成事実作った方が手っ取り早いわよ?

 

───上司と部下の関係?

 

───そんなもの気にせずに押し倒してしまいなさい。

 

───恥ずかしいから無理?

 

───そんなこと言ってると他の天狗に奪られるわよ?

 

───ほら、覚悟決めて一晩しっとりと敷け込みなさいな。

 

───それじゃあ、私が準備してあげるから今夜襲っちゃいなさい。酔った拍子に犯した過ちってことで片付けてしまえば大抵の事は赦されるのよ。

 

───そう、その意気よ。アレの生やしかたはわかるわね?

 

───そう。それじゃあ、今晩は全力でヤっちゃいなさい。

 

 ふふ。良い仕事したわね。

 これで駄天魔が大人しくなるだろうから、私は後で御祝儀を持って駄天魔を揶揄いに行ってから柊ちゃんも序でに揶揄って弄れば面白いことになりそうね♪

 明日が楽しみだわ。

 

 



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