ひぐらしのなく頃に 嘘 (HTNN)
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【鬼騙し編①】

6月1日(水)

 

 

圭一「転校生?」

 

魅音「知恵先生が話しているのを聞いちゃってさ。今日来るらしいよ」

 

レナ「どんな子かな?かな?」

 

沙都子「男性らしいですわ。なので、圭一さんと同じ洗礼を受けて貰いますわよ!」

 

圭一「って、沙都子!お前、いつの間にあんなトラップを!!」

 

 

教室の入口には、圭一が転校して来た時と同じタライが落ちて来るトラップが仕掛けられていた。

 

 

沙都子「どんな転校生も私のトラップを受ける義務がありましてよ!」

 

圭一「そんな義務あってたまるかー!!」

 

 

教室が騒いでいると扉が開き、タライが転校生と思われる人物に直撃した。

 

 

???「キャッ!?」

 

沙都子「どうですか?私のトラップのお味は…え?」

 

 

そこには、転校生と思われる長髪の生徒が顔を俯けて泣いていた。

 

 

???「痛い…痛いよ…。うっ…うっ…」

 

知恵先生「誰ですか!?こんな悪戯をしたのは!!」

 

 

圭一は、とっさに声を上げた。

 

 

圭一「すみません!転校生が来るって聞いたので、悪ふざけのつもりで俺が仕掛けたんです!女性だと思わなかったので申し訳ありません!!」

 

知恵先生「前原君!二度とこんな悪戯してはいけません!わかりましたか!」

 

圭一「はい!深く反省しています!!」

 

 

圭一は、穏便に済ませようと沙都子のトラップを自分の仕業にして、深々と土下座をした。

 

 

知恵先生「反省したならいいです。皆さんにお話があります。前原君が先ほど言った様に、このクラスに転校生が来ました。…お名前言えますか?」

 

???「グスッ…。名前は夜白美影(やしろみかげ)と言います。宜しくお願いします…」

 

転校生は涙を拭いながら一番後ろの席に座った。

 

.

.

.

 

授業が終わり、休み時間になった。

 

魅音が、転校生に声を掛けた。

 

 

魅音「やぁやぁ、本当にごめんね!さっきのアレはウチのクラスじゃ日常茶飯事でさ。美影ちゃんにはきつかったかなぁ~」

 

圭一「おい、魅音!タライが落ちるのを日常みたいに言うな!俺の頭が変形してしまうわ!!」

 

 

圭一と魅音が、ボケとツッコミで場の空気を緩和させたところで沙都子が謝りに来た。

 

 

沙都子「申し訳ございません!先ほどのは、私の仕掛けたトラップなんです!美影さんに痛い思いをさせてしまって…。私、反省しております!」

 

レナ「美影ちゃん…。沙都子ちゃんも謝ってるから許して上げて…」

 

 

美影に、沙都子が謝罪の意思を見せ、レナもフォローして許す様にお願いした。

 

クラス一同も彼女の事が気になり、その様子を窺っていた。

 

美影は、泣くのを止めて言葉を発した。

 

 

美影「大丈夫、大丈夫。気にしなくて良いから」

 

 

「「「えっ」」」

 

 

突然、美影の口から男性の声が発せられた。

 

そして、片手で自分の顔を隠していた長髪のカツラを取って素顔を晒した。

 

 

そこには、一目で男性と判る姿があった。

 

 

圭一「お、男!?」

 

魅音「ど、どういう事!?」

 

レナ「美影ちゃん!?」

 

沙都子「な、な…!?」

 

 

部活メンバー含むクラス一同は、美影の姿を見た瞬間に唖然となった。

 

 

美影「皆の反応見てて面白かったよ。ちなみに名前は美影じゃなくて御影。れっきとした男だよ」

 

魅音「へ…へぇ~。まさか、おじさん達を引っ掛けるなんてねぇ…。全然気づかなかったよ…」

 

 

魅音は、苦笑いしながらも感心した様に言った。

 

 

沙都子「まさか、この私が転校生に踊らされたって言うのですの!?」

 

御影「沙都子ちゃんの『許してくれなかったらどうしよう…』って言う顔、とっても可愛いかったよ!もっかい見せてよ!」

 

 

沙都子は、顔を真っ赤にしながら「覚えてなさい!」と言うと席に戻った。

 

休み時間が終わり、知恵先生が戻って来た。

 

 

知恵先生「あれ?美影さんは?」

 

御影「美影は僕で~す。知恵先生、騙してごめんね~」

 

 

御影は、美影の声で笑いながら謝罪を送った。

 

 

知恵先生「…自習にします」

 

 

知恵先生は、事態が呑み込めず頭を抱えて教室を後にした。

 

梨花は、ヘラヘラ笑っている御影を注意深く観察していた。

 

 

 



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【鬼騙し編②】

魅音「部活だー!!」

 

 

授業が終わり、魅音が叫んだ。

 

 

圭一「俺に提案がある!御影も部活に参加させるんだ!!」

 

魅音「それは良い考えだねぇ!グシシ…」

 

沙都子「圭一さんにしては良いアイディアですこと。私も賛成ですわ!」

 

 

圭一・魅音・沙都子は、御影の方を見つめた。

 

 

御影「部活?」

 

レナ「部活って言うのは皆でゲームをして楽しもうって事なんだよ」

 

御影「ふーん、でもパス」

 

魅音「え~!なんでよぉ~」

 

御影「どんなゲームかは知らないけど、三対一じゃ勝てなさそうだしね。負けると判っている戦いはやらない主義なんだ。他にも嫌な予感もするし」

 

圭一・魅音・沙都子「ドキッ!!」

 

 

圭一・魅音・沙都子は、罰ゲームで御影に一泡吹かせようと目論んでいたが、その空気を察してか御影は部活に参加しないと言った。

 

 

御影「それに引っ越したばかりで荷物の整理がまだなんだ。それが終わったら参加するよ」

 

レナ「それじゃあ、しょうがないね。じゃあ、五人でやろうか」

 

 

梨花は、帰ろうとする御影の服の裾をつかんだ。

 

 

梨花「部活の前に御影と二人で話がしたいのです。すぐ終わる話なので皆待っていてくれますか?」

 

魅音「ん?あぁ、良いよ」

 

 

梨花は、御影を人目の付かない場所に連れ出した。

 

 

梨花「あなたは一体…」

 

 

御影は、梨花がそう尋ねると同時に喋り出した。

 

 

御影「ごめん!梨花ちゃん!!」

 

梨花「え?」

 

御影「告白されるなんて夢みたいだと思ってるよ!でも、梨花ちゃんは好みのタイプじゃないんだ!だから、応える事が出来ないよ!!」

 

梨花「…は?」

 

 

梨花は、訳の分からない事を喋り出した御影に呆気に取られた。

 

 

御影「僕の好みは表裏がなくて清楚な年上の女性なんだ!君みたいな狸みたいな子は論外なんだ!」

 

梨花「あ、あなた…何者なの!?」

 

御影「あ、もうこんな時間だ!僕の親は門限にうるさいんだ。じゃあね~、また明日~」

 

梨花「ま、待ちなさい!」

 

 

御影は、唖然とする梨花を置いてヘラヘラ笑いながらその場を後にした。

 

 

梨花「夜白御影…彼は一体何者なの…!?」

 

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.

.

 

教室に戻る梨花。そこで部活メンバーが相談していた。

 

 

圭一「俺が手伝えば、御影だって部活に参加出来るだろ?任せろって」

 

魅音「えー!圭ちゃんだけじゃ心細いよ~。皆で一緒に行こうよ~」

 

圭一「男にはな…女に見せられない物があるんだよ」

 

レナ「見せれない物!?なんだろ!?なんだろ!?」

 

沙都子「なんて破廉恥な!!」

 

梨花「みぃ、どうしたのですか?」

 

圭一「御影を部活に誘う方法さ!俺が手伝いをすれば、それだけ早く参加出来るだろ?一人暮らしだって言うし、何かと不自由してるだろうからさ」

 

梨花「一人暮らし?さっきは、門限がどうとか言ってたのです」

 

魅音「梨花ちゃん、御影の言葉を鵜呑みにするのはよした方が良いよ。知恵先生や校長先生まで騙して転校して来たらしいからね」

 

 

今になって、梨花も御影に騙されていた事に気付いた。

 

梨花は、怒るどころか呆れるばかりだった。

 

 

梨花「魅ぃは、御影を部活に入れたいのですか?」

 

魅音「そりゃあ、一泡吹かせないと気が収まらないよ!圭ちゃんや沙都子も同じ気持ちだよ!梨花ちゃんは、反対かな?」

 

 

梨花は悩んでいた。

 

御影が味方なのか敵なのか。

 

関わるのが正解か、関わらないのが正解か。

 

だが、明らかに何かを知っていた。

 

罠だとしても迷宮を突破する糸口があるなら踏み込むしかないと結論付けた。

 

 

梨花「皆が賛成なら文句はないですよ。にぱー」

 

圭一「ようし!俺がいち早く御影を部活に引き込んでやるぜぇ!」

 

 

 



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【鬼騙し編③】

6月2日(木)

 

 

御影が転校して二日目の放課後。

 

 

圭一「御影!まだ部活に参加出来ないのか?」

 

御影「ごめんね~。一人暮らしの上に荷物が多くて、まだ終わりそうにないんだ」

 

圭一「なら、俺が手伝ってやるよ。人手が多い方が良いだろ?」

 

 

部活メンバーは、御影がまた突拍子もない嘘で圭一をあしらって一人で帰るのではないかと思っていた。

 

 

御影「本当に?嬉しいな、圭一君が居たら百人力だよ!僕の荷物は女性に見せられないあんな物やこんな物がいっぱいあって整理に困ってたんだ~」

 

レナ「あんな物!?こんな物!?」

 

梨花「みぃ、レナが鼻血ぶーで倒れてしまったのです」

 

沙都子「ふ、不潔ですわ~!!」

 

魅音「おじさんは、御影がそこまで変態だったなんて驚きだよ…」

 

圭一「バカ野郎!男は皆変態なんだ!変態の何が悪い!!」

 

御影「圭一君の言う通りだよ!じゃあ、宜しくお願いするね!」

 

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.

 

梨花「思いの他、上手く行きましたです」

 

魅音「後は圭ちゃん次第だね。毒されなければ良いけど…」

 

レナ「大丈夫だよ。圭一君も御影君に劣らないよ!」

 

沙都子「レナさん、褒め言葉じゃないですわよ…」

 

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.

.

 

圭一「そういえば、何処に住んでるんだ?」

 

御影「ゴミ山の近くさ。あそこは人が居なくて静かで良い所なんだ」

 

圭一「へぇ~。それでどれ位の荷物が残ってるんだ?」

 

御影「引っ越しの荷物なら、とっくに全部整理したよ」

 

圭一「えっ!?だって、お前さっき…」

 

御影「いやだなぁ。引っ越しの整理を終わらせずに、転校なんてする訳ないじゃないか」

 

 

またも、御影の嘘に引っ掻き回されたと知る圭一。

 

しかし、腑に落ちない事がある。

 

御影は、なぜ圭一と帰る事を選んだのかだった。

 

 

御影「圭一君に聞きたい事があってね。雛見沢のダムの話は何処まで知ってる?」

 

圭一「国がこの村を潰してダムを作ろうとした話か?」

 

御影「それだけ?」

 

圭一「そ、それだけって…。村の住民が一致団結してダム計画を中止させたんだろ?それ以外に何かあるのか?」

 

御影「バラバラ殺人事件」

 

圭一「え?」

 

御影「ダム工事現場の監督がバラバラ死体で発見された事件だよ。知らないの?」

 

圭一「…あ、そうか。これも嘘なんだな。脅かすなよ、マジかと思ったぜ」

 

 

御影は、圭一を凝視したままだった。

 

凍り付く様な空気が辺りを覆い尽くした時、御影は言った。

 

 

御影「皆は圭一君に秘密にしてたんだ。ごめんね、今の話は忘れて良いよ」

 

 

圭一は、気が付くと御影の家に到着していた。

 

一人暮らし程度の大きさであり、ゴミ山の近くで静かな所だった。

 

 

御影「せっかく来てくれたんだし、お茶でも出すよ。ささ、遠慮しないで」

 

 

御影は、いつものヘラヘラ顔で圭一を迎えた。

 

圭一は、さっきの話を言及すべきか考えていた。

 

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圭一は、御影の家で少し休んだ後にゴミ山に向かった。

 

もしかしたら、レナが宝探しをしているかもしれないと。

 

しかし、レナは居なかった。

 

 

圭一「こんな時間だしな。来てたとしても、もう帰っちまったか…」

 

 

諦めて帰ろうとしたら、後ろから眩しい光が襲った。

 

 

圭一「うわっ!」

 

???「やぁ、圭一君。こんな時間に出会うなんてね」

 

圭一「と、富竹さん!?」

 

 

彼はフリーのカメラマンの富竹。

 

雛見沢の野鳥を撮っているらしいが、野鳥の撮影をしているところは見た事がない。

 

以前、圭一は富竹と話す機会があり、富竹が雛見沢に詳しい事を思い出した。

 

 

圭一「あの…富竹さん。この辺りで何か事件があったらしいんですけど…知ってますか?」

 

 

彼なら、何か知っているかもしれない。

 

圭一は茶化される事も考えて、御影から聞いた部分は伏せて質問した。

 

 

富竹「…現場監督がバラバラ死体で発見されたんだ。犯人達は被害者を鉈やツルハシで滅多打ちにして撲殺し、斧で六つに分割したって話さ。まだ遺体の一部が見つかってないらしい」

 

 

圭一は、息を飲んだ。

 

御影から聞いた話とほとんど同じだったからだ。

 

 

富竹「当時は週刊誌に載るほど大きな事件だったんだ。圭一君は引っ越してばかりで知らなかったんだね」

 

 

圭一はそんな事件があったとは露にも思わなかった。

 

御影はなぜ知っていたのか?

 

御影が梨花に呼ばれた事を思い出した。

 

梨花がその時に御影に話したのか?

 

なぜ、自分には何も話してくれないのか?

 

そんな疑問が頭の中を駆け巡ったが、答えは出なかった。

 

 

 



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【鬼騙し編④】

6月3日(金)

 

 

御影が転校して来て三日目の放課後。

 

 

魅音「部活だー!!」

 

 

授業が終わり、魅音が大声で叫んだ。

 

沙都子「ついに、この時が来ましたわね!御影さん、今日こそ覚悟しなさい!」

 

 

敵意むき出しの魅音と沙都子は、御影の方を見た。

 

 

御影「僕も参加したいけど、まだ荷物の整理がつかなくてね」

 

魅音「おんや~?昨日、圭ちゃんと一緒に居たのに終わってないなんて不思議だね~?また嘘じゃないの~?」

 

レナ「圭一君、本当なの?まだ終わってないの?」

 

 

部活メンバーは、圭一に聞いた。

 

圭一は、御影の言葉を嘘と言えば部活に参加させる事は出来る。

 

しかし、昨日の事が気になった圭一は言った。

 

 

圭一「わりぃ!御影の荷物、まだ整理し終わってないんだ!だから、もう少しだけ待ってくれないか?」

 

魅音「ちぇっ。今日こそは、御影をギャフンと言わせるつもりだったのに」

 

梨花「みぃ、残念なのです」

 

御影「酷いよ、皆!僕の言葉を信じないで、圭一君の言葉を信じるなんて!ショックで不登校になりそうだよ!!」

 

沙都子「どの口がおっしゃいますか!あなたの言葉なんて、九割九分九厘が嘘でございましょう!」

 

圭一「出来るだけ早く終わらせるから!御影行こうぜ!」

 

 

圭一は、御影の手を取って早足で教室を後にした。

 

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.

 

御影「それで今日はどうしたんだい?昨日出したお茶がまた飲みたいのかい?」

 

 

御影は、圭一に歩きながら話していた。

 

圭一は御影と梨花の話を聞こうと思ったが、御影が本当の事を言うかどうか怪しいし、梨花も梨花で誤魔化されそうだと結論付けた。

 

 

圭一「昨日のバラバラ殺人事件の話。あれ…本当の事だったんだな」

 

 

圭一は、御影に言った。

 

御影「そうだよ!圭一君は、僕の言葉を信じてくれるんだね!!やっと僕を信じてくれる人が現れて嬉しいよ!!持つべきものは友だよね!!」

 

圭一「でも…昔の話だし、事件は終わってるから今とは関係ないだろ?」

 

 

雛見沢で凄惨な事件があったが、それは終わった話。

 

そんな事件をわざわざ蒸し返すなんて悪ふざけが過ぎると思った。

 

 

御影「圭一君知らないの?そっか、皆は教えてくれないもんね。じゃあ、友達である僕が教えて上げるよ!その事件が起きてから毎年この時期に一人が死んで一人が行方不明になる事件が四年連続も続いてるんだよ」

 

圭一「えっ!?」

 

御影「これは雛見沢連続怪死事件って呼ばれていてね!今年も事件が起こるんじゃないかって噂されているんだよ。もしかして嘘だと思った?僕の目を見てよ!これが嘘を吐いている目に見える!?」

 

 

御影は、圭一に自分の目を見せる様に近づいて来た。

 

目を見るだけで本当か嘘かなんて判るはずがない。

 

 

御影「この事件の怖い所って、雛見沢に敵対したり、雛見沢に関係ない人物が被害者になっている点なんだよ!今年の犠牲者は、圭一君と僕がなるんじゃないかってまで言われてるんだ!!」

 

圭一「な、なんでそこまで知ってるんだ…?」

 

御影「梨花ちゃんが教えてくれたんだよ。僕に一目惚れしたらしくてさ、いつも熱い視線感じるんだ!きっと、僕の身を案じてくれてるんだよ!でも、圭一君は教えて貰ってないんだね。酷い話だと思わないかい?」

 

 

最近の梨花は、御影に対して異常なまでの執着を見せている。

 

転校生であるという理由なら圭一にも該当するのに、なぜか御影に対してだけだった。

 

 

圭一「御影は怖くないのか…!?それが本当なら死ぬんだぞ…!」

 

御影「大丈夫だよ!僕には、圭一君がいるんだ!僕達は、同じ境遇で同じ立場!一人じゃ心細いけど二人なら支え合っていける!困った事や嫌な予感があったら、お互いに相談し合っていこうよ!」

 

御影は、圭一の両手を取って笑顔でそう言った。

 

 

 



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【鬼騙し編⑤】

6月19日(日)

 

 

綿流しの祭りまでの間、御影は部活に参加する事はなかった。

 

御影は、圭一に事件を調べる時間が欲しいから皆を説得して欲しいと言い、部活の参加を回避していた。

 

綿流し当日。

 

圭一は、御影に「一緒に祭りに行こう」と誘った。

 

しかし、現地で合流した方が手間が掛からないという理由で断られた。

 

 

レナ「圭一君。最近、御影君と仲良しなんだね」

 

圭一「あ、ああ!同い年位の男友達だから趣味が合うからかな」

 

 

圭一は、レナと待ち合わせして祭り会場に向かう途中、魅音と合流した。

 

 

魅音「よっ!圭ちゃんにレナ!あれ?御影はどうしたの?」

 

圭一「御影とは会場で合流する予定なんだ」

 

魅音「そっか。沙都子と梨花ちゃんも会場で合流するから行こうか」

 

レナ「御影君の家って宝の山の近くなんだって!一度行ってみたいなぁ」

 

 

その後、圭一達は沙都子と梨花を祭り会場で見つけて合流したが、御影の姿は見当たらなかった。

 

 

魅音「圭ちゃん、本当に御影は来てんの~?」

 

圭一「電話もしたし…間違いなく来てるはずだが…」

 

 

圭一は、御影の姿が見当たらない事に対して不安を持ち始めていた。

 

御影は、圭一に以前言った事がある。

 

 

御影「今年の犠牲者が僕達だったら、僕が真っ先に狙われるだろうね」

 

 

圭一は、家族で暮らし目立つ住居に住んでいる。

 

御影は、一人暮らしで静かなゴミ山の近くに住んでいる。

 

どちらが狙われ易いかは誰でも分かる図式だ。

 

 

魅音「しょうがない!では…これから我が部活動を始める!!」

 

 

御影も強制参加させたかったイベント。

 

魅音は、しぶしぶ諦めて部活メンバーだけで部活動開始を宣言した。

 

部活メンバーは大いに祭りを楽しんだ。

 

祭りも終盤に差し掛かり、部活メンバーも解散する段取りになったが、未だに御影を見つける事が出来なかった。

 

 

レナ「御影君、見つからなかったね…」

 

沙都子「残念ですわ。今度こそギャフンと言わせるつもりでしたのに!」

 

 

その時、浴衣姿の女性が圭一の後ろから抱き付いて来た。

 

 

圭一「うわっ!なんだ!?」

 

???「やっと会えました!私の王子様、前原圭一君!」

 

 

抱き付いて来た女性は、圭一の背中に自分の顔を密着させてスリスリしていた。

 

 

レナ「お、お、お、王子様!?」

 

魅音「けけけけけ圭ちゃん!?誰その子!?」

 

圭一「し、知らねぇよ!誰だお前!?」

 

???「雛見沢でメイド姿の前原圭一君を見た時から好きでした!お願い、私と付き合って!」

 

 

謎の人物は、大声で圭一にとって赤裸々な事実を暴露し、周りの人物が何事かと圭一を見ている。

 

 

圭一「ばっ!ちょっと来い!」

 

 

圭一は、その子を引っ張って急いでこの場を離れた。

 

 

圭一「誰なんだ、お前は!?」

 

???「僕だよ」

 

 

その声は御影だった。

 

以前と違い、カツラや声色も変えて化粧までしていた。

 

 

圭一「お前、みか…ムグッ!」

 

 

御影は、すぐさま圭一の口を塞いだ。

 

 

御影「今日は綿流しなんだ、最悪殺されるかもしれない。だから、変装してるんだよ」

 

 

圭一は、御影が事件は祭りの日に発生していると話していたのを思い出した。

 

 

御影「それに圭一君、帰りはどうするつもりだい?一人で帰るつもりだったのかい?」

 

 

それを言われてハッとした。

 

もし犯人が圭一と御影を狙っていて、御影が見つからなかったら、次の標的が圭一になるという事を気づいた。

 

 

御影「事件は『雛見沢と敵対しているか関係が薄い人物』が狙われてるんだよ!圭一君と御影が同行していたら、間違いなく同時に殺されちゃうよ!!この変装なら『雛見沢の住民』という事で狙われないかもしれないんだ!だから、帰りは僕と帰ろうよ!!」

 

 

御影は、圭一にそう言った。

 

圭一は、いくら何でも大げさではと思い始めていた。

 

しかし、御影の厚意を無駄にする訳にはいかず、圭一は御影と帰宅する事となった。

 

 

 



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【鬼騙し編⑥】

6月20日(月)

 

 

綿流しの祭りも終わり、いつもの日常が戻って来た。

 

御影も無事登校しているし、圭一の中でもやもやしていた物が一気に晴れた。

 

部活メンバーは、昨日の出来事について圭一に言及した。

 

それに対して、御影が「圭一君のプライバシーを尊重してよ!」と言って、なんとか収拾させる事が出来た。

 

放課後になり、部活の時間がやって来た。

 

 

魅音「御影~。今日は逃がさないよ~」

 

沙都子「そうですわ!祭りにも来ない不届き者は成敗しますわよ!」

 

 

魅音と沙都子は、帰ろうとする御影を捕まえてニヤニヤと笑っている。

 

 

御影「じゃあ、圭一君が参加するって言うなら参加するよ」

 

 

魅音と沙都子は、圭一の方を見て答えを待った。

 

圭一は、御影には部活に参加して貰おうと思った。

 

これまでは雛見沢連続怪死事件に縛られて御影と早々に帰宅していた。

 

しかし、今日からは違う。

 

圭一も御影も無事だし、御影の嘘に合わせる必要はないと思った時だった。

 

知恵先生が教室に入って来て言った。

 

 

知恵先生「前原君。ちょっと良いですか?」

 

圭一「え?なんですか?」

 

知恵先生「前原君に、お客さんがいらしてますよ。昇降口へ行って下さい」

 

圭一「お客さん?」

 

知恵先生「待たせていますよ。早く行って来なさい」

 

 

圭一は、突然の出来事に面を食らった。

 

 

圭一「ちょっと行って来る。すぐ終わると思うから待ってろよ」

 

.

.

.

 

昇降口に出ると中年男が居た。

 

面識はない。

 

 

???「前原さんですか?前原圭一さん」

 

圭一「そうですよ。どちら様ですか?」

 

???「私、興宮署の大石と申します。私の車はエアコンが効いてますから、そっちでお話ししましょう。ここ暑くありません?」

 

 

突然の物言いに圭一は驚いた。

 

 

大石「捕って食やしません。どうぞ、どうぞ」

 

 

圭一は後部座席に座った。

 

車内はエアコンが効いて涼しかった。

 

 

大石「冷え過ぎだったら言って下さいよ?私、ガンガンに冷やしちゃう性質ですから」

 

圭一「俺に何の用ですか?」

 

 

大石は、胸ポケットから手帳を取り出し、そこに挟まれた一枚の写真を取り出した。

 

 

大石「この男性の事で、ご存じの事があったら教えて下さい」

 

 

その写真には、富竹が映っていた。

 

 

圭一「これ、富竹さんですか?」

 

 

大石は、もう一枚の写真を取り出し、圭一に見せた。

 

 

大石「こちらの女性は、誰かわかります?」

 

圭一「名前は知りませんけど、富竹さんと一緒に居た女性です」

 

大石「この二人に最後に会ったのはいつですか?」

 

圭一「綿流しのお祭りの晩、一緒に話をしました。二人とも仲良さそうでしたよ」

 

大石「何か気になった事とかありませんか?何でも結構です。話して下さい」

 

圭一「富竹さん達に…何かあったんですか?」

 

 

少しの間をおいて、大石は口を開いた。

 

 

大石「前原さんは、まだこちらに越されて来たばかりですよね?ご存じですかな?例のオヤシロさまの話は」

 

 

心臓がドキンと跳ね上がり、嫌な汗が顔を伝っていくのが感じる。

 

 

大石「まったく知らない?知らないなら結構なんですがね…」

 

圭一「まぁ…。聞いた事位はあります…」

 

大石「どの辺までご存じですか?」

 

圭一「どの辺までと言われても…」

 

 

圭一は、答えに行き詰った。

 

御影から、ダム工事の事から毎年起こる事件までは聞いているが、その話が本当だという確証もない。

 

 

圭一「あの…仲間を待たせてるんで、あまり時間取れないんですけど…」

 

 

これ以上話すと何かとてつもない事に巻き込まれそうな予感がしたので、早々に切り上げようと思った。

 

 

大石「その写真の男性は、昨晩お亡くなりになりました」

 

 

 



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【鬼騙し編⑦】

大石「お亡くなりになられたのが、昨日なんですよ。つまり綿流しの当日。前原さんにはどういう意味があるのかわかりますか?」

 

圭一「オ…オヤシロさまの祟り?」

 

大石「察しが良くて助かります。そこまで知ってるのであれば、ある程度の説明は要りませんよね?」

 

圭一「教えて下さい。一体、何があったんですか…?」

 

大石「第一発見者は、祭りの警備を終えて帰還中のウチのワゴンでした。始めは轢き逃げされたものだと思っていましたが、喉が引き裂かれていたんですよ」

 

圭一「ナ…ナイフとか?」

 

大石「いいえ。爪でした。しかも、自分の爪です」

 

圭一「え?それって…どういう事ですか!?」

 

大石「薬物を疑いましたが、そういう類の物は検出されませんでした。なので詳しい事はお話出来ません」

 

 

圭一は、驚きを隠せなかった。

 

 

大石「他にも幾つか不審な点があります。富竹さんは、お亡くなりになる直前、複数の人物から暴行を受けた可能性があります」

 

 

圭一は、話を頭の中で纏めた。

 

富竹さんは何者かに取り囲まれて襲われた。

 

夜道を興奮状態で逃げ惑い、落ちていた角材を拾い抵抗を試みた。

 

その最中に錯乱しながら自分の喉を掻き毟り始め絶命したと…。

 

 

圭一「富竹さんと一緒に居た女性は、どうなったんですか!?」

 

大石「行方不明です。出勤もしていませんし、自宅にも帰っていません。事件に巻き込まれた可能性が極めて高いです」

 

圭一は、放心するしかなかった。

 

 

大石「我々もあらゆる面から捜査を進めますが、村人はオヤシロさまの祟りの話になると口が重くなる」

 

圭一「それで…俺の協力が必要なんですか…?引っ越して来たばかりだから捜査に協力してくれると?」

 

大石「それもありますが、本当の理由は違います。今危ないのは、あなたと夜白御影さんなんですよ」

 

 

圭一は、ゾワリと恐怖した。

 

 

大石「今だから言いますが…今年の綿流しの犠牲者は、あなたか夜白さんのどちらか、もしくはその両方の可能性が高かったのです。あなたは、祭りの間色々な方々と居た。夜白さんは、お祭りに来なかった。だから、富竹さん達が狙われたという事です」

 

 

圭一は、今になって震え出した。

 

御影の機転がなかったら死んでいたのは、自分達だったかもしれないと。

 

 

大石「もし何か分かった事がありましたら、この電話番号までお願いします。今日の話は他言無用でお願いしますよ。んっふっふ」

 

 

圭一は、大石との話を終えて車を降りたが、暑い車外に出ても震えを止める事が出来なかった。

 

 

 



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【鬼騙し編⑧】

圭一は、心を落ち付かせて教室に戻った。

 

 

魅音「圭ちゃん、遅いよもう~!御影ったら『圭一君が戻るまで部活に参加しない』って言うから困ってたんだよ~!」

 

 

御影は、圭一が不在である事を理由に参加を拒み、それが原因で言い合いをしていた。

 

 

沙都子「もう逃げ場はありませんわよ!さぁ、覚悟して下さいまし!!」

 

 

圭一が戻り、御影を追い詰めた沙都子は盛大に笑った。

 

 

圭一「ごめん…皆。今日は部活する気が起きねぇんだ…。時間も遅いし、明日にしないか?」

 

 

御影の逃げ口上が終わると思いきや、今度は圭一が参加しないと言った。

 

一同は、驚いた様に圭一を見た。

 

 

レナ「圭一君、顔色悪いけど大丈夫…?」

 

 

レナの言葉を聞いた途端、御影は喋り出した。

 

 

御影「圭一君、凄い顔色だよ!綿流しの祭りで遊び疲れたんだね!もう帰って休もうよ!皆、こんな体調の悪い圭一君を部活に参加させるなんて鬼畜外道な事はしないよね!?」

 

梨花「まーた、始まったのです…」

 

レナ「でも圭一君、本当に体調悪そうだよ?皆、今日の部活は諦めようよ…」

 

魅音「しょうがない。部活は楽しむものだからね。圭ちゃん、明日までには体調を良くするんだよ」

 

圭一「すまん…。御影、悪いが一緒に帰り付き合ってくれないか?話したい事があるんだ…」

 

御影「可愛い女の子がいっぱい居るのに僕を指定してくれるの!?梨花ちゃんといい、圭一君といい、僕はモテモテだね!でも、そっちのケはないんだ!勘違いしないでね!」

 

梨花「御影、それ以上変な事を言うと怒るのですよ」

 

レナ「笑いながら怒ってる梨花ちゃん、かぁいいよ!」

 

沙都子「くやしいぃですわ!いつになったら御影さんをコテンパンに出来ますのー!」

 

 

圭一は、ツッコむ気力もなく御影と教室を後にした。

 

.

.

.

 

圭一は、帰路で御影に謝った。

 

 

圭一「すまん、御影!!」

 

御影「ずっと待たせてしまった事かい?大丈夫、大丈夫。可愛い女の子達とハーレムしてた訳だし、そんな気にしてないよ。後一時間位のんびりしてても良かったのに」

 

圭一「いや…そうじゃなくて…。昨日の綿流しの祭り、浮かれてたんだ…。お前の言ってた事を真面目に考えないで…内心バカにしてたんだ。オヤシロさまの祟りなんかあるはずがないと思って…」

 

御影「そうだったの?なんで急に考えを改めたんだい?」

 

 

圭一は、大石さんに聞いた事を御影に話した。

 

他言無用と言われていたが、御影は命の恩人だし立場が似ている。

 

だから、包み隠さず全てを話した。

 

 

御影「そうか~、五年目の祟りも起こちゃったんだね」

 

圭一「大石さんが言うには、俺達も危ないって言うんだ…。これからどうするか部活メンバーの皆と明日話し合おうと思うんだ…」

 

 

圭一は、今回の事で危機感の無さを感じていた。

 

いつ、自分が狙われるかもしれないこの状況、出来る事なら味方を増やした方が良いと思った。

 

 

御影「それは、止めた方が良いんじゃない?」

 

 

御影は、キッパリと言い放った。

 

 

 



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【鬼騙し編⑨】

圭一「どうしてだよ!仲間に相談するのは間違いだって言うのか!?」

 

 

圭一は、自分達の置かれている立場を仲間に相談する事で状況の打開を考えていた。

 

御影は、圭一の提案をスッパリと切り捨てた。

 

 

御影「魅音ちゃんやレナちゃんに相談するって言うのかい?あの子達は、今年の祟りに圭一君が選ばれるかもしれないという事実を隠し続けてた人達だよ!そんな人達を信じるなんてどうかしてるよ!」

 

圭一「そ、それは…」

 

 

圭一は、未だに雛見沢連続怪死事件の事を魅音やレナから聞いていない。

 

御影は、圭一の安否を気遣っているなら祭りの前に話す事が当たり前だと言った。

 

 

御影「それとも、沙都子ちゃんや梨花ちゃんに話すのかい?下手したら彼女達も巻き込まれるかもしれないよ?だって僕達より弱くて殺しやすそうだしさ」

 

圭一「でも…雛見沢の住民は、犠牲にならないって毎年決まって…」

 

御影「ルールなんかいくらでも変えられるよ!『村を潰そうとした』『村の仇敵だった』『よそ者だった』。次は『庇った人』になるかもしれないよ!?ルールなんて簡単に変わる物なんだよ!」

 

 

圭一は、反論出来なかった。

 

毎年の祟りの起こる理由がどんどん変わっている事から有り得ると思ってしまった。

 

 

御影「この状況で信頼出来るのは、同じ立場の僕達と大石さんだけなんだ!もし、両親にも話してごらんよ!富竹さんみたいに死んだらどうするつもりだい!?」

 

 

圭一は、大石さんから聞いた話でも震えが止まらなかったのに、それが両親に置き換わってみると立っていられない程の恐怖に襲われた。

 

 

御影「大丈夫だよ、圭一君!君には僕、僕には君が付いている!そんな顔じゃ犯人の思うツボさ!皆だって気にし始めちゃうよ!僕だって恐怖で泣きたいし逃げ出したいけど必死で笑ってるんだ!圭一君も元気を出して!」

 

 

御影は、圭一に手を差し伸べて笑顔を見せた。

 

圭一は、気が付くと自分の家の前に居た。

 

 

圭一「お前…一人で大丈夫か?」

 

御影「大丈夫さ。圭一君に無理させられないし、何かあったら後は頼むよ!」

 

 

御影は、一人で来た道を戻り自宅へと向かった。

 

.

.

.

 

御影は、帰る途中で梨花と出会った。

 

 

御影「やぁやぁ!梨花ちゃんじゃないか!こんな時間にどうしたんだい?君の家はこっちじゃないだろう?」

 

梨花「あなた…どういうつもりであんな事を言ったの!!」

 

御影「何が?教室での事かい?男の子ってのは女の子に告白されると、つい自慢したくなっちゃうんだ!口止めされなかったから皆の前でつい喋っちゃった、ごめんね」

 

 

梨花はイライラしていた。

 

何もかも分かっている様で分かっていない振りをして、相手の感情を逆なでする御影の態度と口調とこの顔が。

 

 

梨花「とぼけないで!さっき、圭一に言った事よ!なんであんな嘘を吹き込んだのって言ってるのよ!!」

 

 

梨花は激怒する。

 

この世界は圭一が雛見沢を離れるイベントが起きない事から、圭一が雛見沢症候群を発症しない世界だった。

 

しかし、御影が圭一と接触した事で圭一がいつも以上の不安と疑心暗鬼を持ってしまった。

 

 

御影「心外だなぁ。もしかしたらって話をしただけで嘘って訳じゃないだろう?」

 

梨花「まともに話を続けても無駄のようね。あなたの知っている事、全部吐きなさい!」

 

 

梨花は、包丁を取り出して御影に向けた。

 

御影は、焦る様な口調で喋り出した。

 

 

御影「待ってよ、梨花ちゃん!それはやり過ぎだよ!それに何を吐くっていうんだい!?僕のスリーサイズでも言えば許してくれるのかい!?」

 

 

御影は、不意に催涙スプレーを食らい、馬乗りにされる様に押し倒された。

 

 

梨花「次はないわよ!さっさと吐きなさい!!」

 

 

梨花は、包丁の切っ先を御影の喉元に向けた。

 

 

 



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【鬼騙し編⑩】

梨花は、御影を『敵』と認識していた。

 

そのため、催涙スプレーを使う事も容赦せず、返答次第ではこの場で殺そうと思っていた。

 

梨花は、御影に対して鮮やかに先制攻撃を決め、御影の動きを完全に封じた。

 

刹那、梨花は突き飛ばされた。

 

 

圭一「御影!大丈夫か!!」

 

 

それは、圭一の攻撃だった。

 

圭一は、両親が長期不在になる事を知り、御影と自分の家で二人で居た方が安全だと思って、御影の後を追っていた。

 

そこで圭一が見たのは、梨花と御影が言い争っていた現場だった。

 

内容は聞き取れなかったが、梨花が包丁を御影に向けた時、状況が一変した。

 

圭一は、梨花を突き飛ばして御影の手を掴んで、自分の家に連れ込んだ。

 

 

圭一「急いで顔を洗え!」

 

 

御影は、催涙スプレーの所為か視界が閉ざされており、歩くのがおぼつかなかった。

 

圭一は、そんな御影を見かねて濡れタオルを用意して渡すと事情を聞いた。

 

 

圭一「何があったんだよ!なんで、梨花ちゃんがあんな事を!?」

 

御影「彼女達の怒りに触れてしまったらしいね…。圭一君が居なかったら危うく殺されるところだったよ」

 

 

御影は、顔を拭きながら自分に起こった出来事を話した。

 

 

御影「圭一君が大石さんと接触したのがバレて、君を通して僕が大石さんと繋がったのが不味かったらしい。その所為で何か不都合があって梨花ちゃんが僕を殺しに来たんだよ」

 

圭一「ど、どうして、俺が大石さんと会ったのがバレてるんだ!?俺は誰にも話してないぞ!!」

 

御影「その理由は分からないけど、この村の住民は誰も信用出来ないって事だね。これからは、二人一緒に行動しないとすぐに消されそうだよ」

 

圭一「とにかく大石さんに連絡しよう!」

 

 

圭一は、電話機の受話器を取ろうとしたが、御影がそれを制止した。

 

 

御影「ダメだよ、圭一君!証拠はないんだ。それじゃあ、大石さんはすぐ動けない。逆に古手梨花に冤罪をかけたって理由で村人達から強行的に殺されてもおかしくないよ!」

 

圭一「それじゃあ、打つ手がないじゃないか…」

 

御影「大丈夫だよ。僕達が通報しない限り、彼女達はまだ表立って行動して来ないさ。だったら、ボロを出すのを待った方が良い。上手くいけば大石さんが一網打尽で捕まえてくれるよ!」

 

圭一「くそ…!それしか手がないのか…!」

 

御影「僕達は運命共同体だ。事件が解決するまでここに居させて貰って良いかな?」

 

圭一「ああ!俺達は仲間だもんな!」

 

 

圭一と御影は、見張りの時間を決めて交互に睡眠を取った。

 

 

 



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【鬼騙し編⑪】

6月21日(火)

 

 

圭一と御影は、学校を休んだ。

 

 

沙都子「圭一さんの嘘つき~!今日こそはと思って楽しみにしてましたのにー!」

 

レナ「圭一君、やっぱり体調治らなかったんだ…。でも、御影君まで休むなんて…」

 

魅音「確かにね~。もしかしたら、御影はズル休みかも!」

 

 

三人は、同時の欠席について論争していた。

 

梨花は、苦い顔をしていた。

 

梨花は、昨日の事を圭一に弁解したかったが、御影と欠席してしまったので嫌な予感が拭えなかった。

 

 

魅音「そうだ!今日、婆っちゃがおはぎを作ってるんだよ。お見舞いついでに二人に持って行こう!」

 

 

こう提案した魅音に、レナは言った。

 

 

レナ「魅ぃちゃん、レナもおはぎ作り手伝いに行って良いかな?」

 

魅音「良いよ。じゃあ、帰りにウチにおいでよ」

 

 

魅音とレナは、園崎家で圭一と御影へのお見舞いの品としておはぎを作りに行った。

 

.

.

.

 

一方、圭一と御影は二人で食料を買い溜めしに行っていた。

 

自宅には二人分の食料はなく、保存にきく物も少なかった。

 

彼らは、自宅籠城を覚悟で多くの食料を買い込んでいた。

 

 

圭一「これだけあれば、とりあえず一週間はもつだろ」

 

御影「そうだね。流石に月単位で籠城すると怪しまれるけど、圭一君の両親が帰って来るまでならもちそうだよ」

 

 

二人が買い貯めた食料を整理していると玄関のチャイムが鳴った。

 

 

圭一「誰だ?こんな時間に?」

 

御影「見てきなよ。僕はここで整理してるから。何かあったら遠慮なく助けを呼んで良いよ」

 

 

圭一は、覗き穴から誰が来たかを確認した。

 

魅音とレナだった。

 

 

居留守を使うべきかと考えた。

 

しかし、変な素振りをすると怪しまれると思い、キーチェーンを掛けたままドアを開けて対応した。

 

 

魅音「よ!元気?圭ちゃん?」

 

圭一「どうしたんだよ…?こんな時間に」

 

レナ「これ、おはぎを持ってたの。圭一君、お腹が空いてると思って作って来たんだ」

 

 

レナは、おはぎの入っている箱を開けて中身を見せた。

 

 

圭一「…これ、数多くないか?」

 

レナ「本当はね、御影君の分も作ったんだけど、留守で居なかったの…」

 

魅音「もしかしたら、居留守使ってかもね~」

 

 

圭一は、ドアの隙間からレナの持っていた箱を受け取った。

 

 

レナ「圭一君…。何か困った事ない?」

 

圭一「どうしたんだよ。急に…」

 

レナ「最近の圭一君、ちょっと変かなと思って…。もし困った事があったらレナ達に相談してね」

 

魅音「そうだよ!おじさん達だって圭ちゃんの事、心配してるんだからさ!勿論、御影の事もね」

 

圭一「大丈夫だよ…明日までには元気になるからさ…」

 

魅音「そっか。じゃあ、また明日ね。圭ちゃん!」

 

 

魅音は笑顔で、レナは心配そうな顔で、この場を後にした。

 

圭一は、おはぎの入った箱を持ってリビングに戻った。

 

食料を整理していた御影が言った。

 

 

御影「聞こえたよ。レナちゃんと魅音ちゃんが、おはぎを持ってきてくれたんでしょ?一緒に食べようよ」

 

圭一「あぁ…」

 

 

箱を開けるとおはぎがたくさん入っていた。

 

御影は、その内の一つを無造作に取って口に入れた。

 

圭一も一つ取り、食べようとした時だった。

 

 

『ガリッ』

 

 

圭一「えっ?」

 

 

おはぎを食べたとは思えない音が、御影の口の中からした。

 

御影は、突然口を抑えて圭一の持っているおはぎとおはぎの入ってる箱を奪い取り、トイレに鍵を掛けて逃げ込んだ。

 

 

圭一「おい!御影どうしたんだよ!」

 

 

圭一は、何が起こったのか分からず混乱した。

 

耳を澄ますと、トイレの流れる音と水道の水が流れる音が何度もした。

 

御影は、片手で口を抑えながら出て来た。

 

 

圭一「御影、大丈夫か!?何があったんだ!?」

 

 

御影は、首を横に振って空いている手でメモ帳に走り書きをした。

 

『喋れない』と。

 

 

 



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【鬼騙し編⑫】

6月22日(水)

 

 

御影は何があったか教えてくれなかった。

 

一夜が明けても御影は『喋べる事が出来ない』とメモ帳に書いた。

 

圭一は、おはぎの中に何かが入っていたと考えていた。

 

あの異音、そして御影が喋れなくなるほどの物が…。

 

圭一は、真相を確かめる為に学校へ登校する事にした。

 

御影は、危険だと圭一に説得したが止める事が出来ず一緒に登校した。

 

御影は、喋れない事が感付かれない様にマスクをして登校した。

 

 

レナ「圭一君、おはよう。風邪は治ったんだね」

 

 

圭一と御影以外は、すでに登校していた。

 

 

沙都子「今日はやけに静かだと思いましたら。御影さん、まだ風邪を引いてますの?」

 

魅音「軟弱な男だね~、圭ちゃんを見習わなきゃ~。でも御影の場合は、静かな方が良いかな?アハハ」

 

 

そんな魅音の言葉に対して、圭一は魅音に掴みかかった。

 

 

レナ「圭一君!?」

 

圭一「昨日のおはぎ、お前がやったのか!?」

 

 

クラス一同は、突然の行動に圭一達を注目した。

 

 

魅音「圭ちゃん…止めて…苦しい…」

 

圭一「答えろ!!昨日のおはぎは、お前の仕業か!?」

 

 

圭一は、鋭い目つきで魅音を睨み付けながら掴む手を強くして言った。

 

魅音は、怯えてながら答えた。

 

 

魅音「ごめん…。まさか、そんな怒るなんて思わなかったから…冗談のつもりだったんだよ…」

 

 

魅音は、涙目になりながらそう答えた。

 

 

レナ「圭一君、魅ぃちゃんを放して!お願い!」

 

圭一「あんな真似二度としてみろ!次は殺すぞ!!」

 

 

圭一は、レナに放す様に言われて魅音を突き放したが、怒りは全然収まらなかった。

 

.

.

.

 

圭一は、放課後になると御影を連れて早足に下校した。

 

その日の夜。

 

圭一は、御影と夕食を作ろうとしていた。

 

御影は『固い物が食べれない』と圭一に伝え、二人で思考錯誤していた。

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

圭一は、その音に対して昨日の出来事を思い出し、やや不機嫌になった。

 

 

圭一「ちょっと見て来る」

 

 

御影はコクコクと頭を振り、圭一は玄関に向かった。

 

覗き穴から確認するとレナが居た。

 

圭一は、昨日同様にキーチェーンを掛けたままドアを開けてレナに言った。

 

 

圭一「なんだよ、こんな時間に」

 

レナ「圭一君…夕飯まだでしょ?お惣菜作って来たんだ。一緒に食べようよ」

 

 

レナの手には、多くのお惣菜があった。

 

それは、今の御影が食べられない物ばかりだった。

 

 

圭一「いらねぇよ。帰れ」

 

 

圭一は、冷たくレナにそう言った。

 

 

レナ「圭一君、今両親が不在なんでしょ?ね、一緒に食べようよ」

 

 

レナは、しつこく圭一に頼み込んだ。

 

圭一は、聞く耳を持たなかった。

 

 

レナ「どうして御影君はいいのに、私はダメなの圭一君…」

 

 

圭一は、ギョッとした。

 

なぜレナが御影がここに居ると分かったのかという事に。

 

 

圭一「なんで御影が居るって思うんだよ」

 

レナ「だって御影君…ずっと家に居ないし、圭一君と仲が良いからここに居ると思って…」

 

 

レナは泣きながらそう答えた。

 

御影だけは許されて他の皆を拒絶する圭一に対して、どう対応すれば良いか分からないからである。

 

 

圭一「じゃあ、御影があんな状態なのに、わざとそんな物持って来たのか?」

 

レナ「…え?どういう事…?」

 

圭一「とにかく!お前らの物なんて二度と食わねぇよ!とっとと帰れ!!」

 

 

圭一は、ドアを強く閉めて鍵を掛けてリビングに戻った。

 

外には、泣いているレナだけが取り残されていた。

 

 

 



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【鬼騙し編⑬】

6月23日(木)

 

 

放課後。

 

圭一は、御影と早々に教室を後にした。

 

クラス一同は、昨日の事で圭一達に話し掛ける事が出来なかった。

 

誰も居なくなった教室に、圭一と御影は姿を現した。

 

圭一は、昨日の一件で御影と四六時中行動している事、御影が喋れない事までバレてしまったと危惧したからである。

 

御影は自分で助けを呼べず、御影を守れるのは圭一しかいないと思った。

 

北条と名の付いたロッカー。

 

圭一は、沙都子のロッカーが二つある事に文句を言った事があった。

 

しかし、それは沙都子のロッカーではなく、行方不明の北条悟史のロッカーだった。

 

一度だけ中を見た事がある圭一は、その中にバットがある事を知っていた。

 

これを持って帰って次の日から自宅籠城すれば、両親が帰って来るまでどうにか出来ると思った。

 

圭一は、バットをベルトとズボンの間に差し込んだ。

 

 

圭一「待たせたな、御影。帰ろうぜ」

 

 

御影は、コクコクと頭を振った。

 

.

.

.

 

圭一は、喋れなくなった御影とジェスチャーでコミュニケーションを取れる様になった。

 

帰り道、圭一と御影が歩いていると見知らぬの二人組の男性が居た。

 

圭一が異常に気付いてバットを構えようとした時だった。

 

男達が素早く動き、一人は御影を捕まえ、一人は御影の腹に一撃を与えた。

 

御影は、両手を掴まれており、成す術なく脱力した。

 

 

圭一「御影!!」

 

 

御影は、意識朦朧とする状態で圭一にジェスチャーした。

 

『逃げろ』と。

 

御影は、もう一撃受けて意識を失った。

 

 

圭一は戦おうと思った。

 

しかし、相手は二人。

 

しかも人質まで取られている。

 

圭一は、御影を守る事が出来なかったのを後悔して泣きながら逃げた。

 

二人捕まる位なら一人が大石さんを呼んで助けを呼んだ方が確実だと御影に言われたからだ。

 

圭一は雑木林をかけ走り、追っ手から切り抜けようとしたが、足が滑って崖から落ちて気を失った。

 

.

.

.

 

圭一が目を覚ますと自分の寝室だった。

 

 

レナ「圭一君、大丈夫?大丈夫?」

 

 

レナが心配そうに声を掛けて来た。

 

 

圭一「レナ…!?どうして…!?」

 

レナ「圭一君、道端で倒れてたんだよ。何があったの?」

 

圭一「御影…御影は何処だ!?」

 

レナ「御影君…?居なかったよ。一緒だったの?」

 

 

圭一は、飛び上がると自宅の中を探し回った。

 

しかし、御影の姿はなかった。

 

 

圭一「そうだ!大石さんに電話すれば…!」

 

 

圭一は、急いで大石に電話しようとした。

 

そこに魅音が現れた。

 

 

魅音「圭ちゃん!道で倒れてたんだって!?レナに聞いて驚いたよ!」

 

圭一「み、魅音…!?」

 

 

まるで、電話させまいとタイミングよく現れた魅音。

 

 

レナ「魅ぃちゃん、監督には電話した?」

 

魅音「電話したよ、すぐ来るってさ」

 

圭一「か、監督…?誰だよ、監督って…?」

 

レナ「監督は、『監督』だよ」

 

 

レナは笑いながらそう答えたが、圭一にはその笑いが恐怖にしか見えなかった。

 

魅音とレナは、挟み撃ちしながら圭一に少しずつ迫って行った。

 

まるで自分の行動を制限するかの様に。

 

 

魅音「そうそう。圭ちゃんには、罰ゲームを受けて貰わなきゃね~」

 

圭一「ば、罰ゲーム…?なんだよ、それ…」

 

レナ「おはぎの箱にあった手紙の罰ゲームだよ。だよ」

 

 

知らない。

 

おはぎの箱の中身は御影が処分したからそんな物があったかすら。

 

 

魅音「大丈夫だよ、圭ちゃん。すぐ終わるからさ~」

 

 

じわりじわりと接近する魅音、背後にはレナ。

 

圭一は、二人の笑い声を聞いて意識が途絶えた。

 

.

.

.

.

.

 

鹿骨市の寒村、雛見沢で女子生徒殺人事件が発生した。

 

容疑者は、雛見沢村在住の少年、前原圭一。

 

容疑者は、自宅にクラスメイトの女子二名(竜宮礼奈・園崎魅音)を呼び寄せ、金属バットで撲殺。

 

犯行現場は自宅玄関。

 

被害者ともみ合った形跡が認められた。

 

容疑者は、犯行現場と思われる自宅玄関で倒れているのを発見される。

 

発見時、容疑者は意識不明の重体。

 

直ちに村内の診療所に搬送し手当てをしたが、意識は戻らず24時間後に死亡した。

 

先週に発生した富竹氏事件の異常な死に方との酷似に、警察は関連性があるものとして捜査を開始する。

 

異常な死に方に何らかの薬物の使用を疑うが、富竹氏事件と同様に一切検出されない。

 

本件と直接的な関係があるか不明だが、容疑者達と同じクラスメイトの夜白御影は、同日以降行方不明であり関連性を調べている。

 

 

 



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【綿騙し編①】

6月12日(日)

 

 

圭一「わりぃ!寝坊した!」

 

魅音「遅いよ、圭ちゃん!」

 

 

圭一は、自転車を漕ぎながら、魅音とレナに合流した。

 

今日は、近所の玩具屋でゲーム大会が行われる日。

 

優勝者には、五万円という賞金が贈られる為、多くの子供達が参加していた。

 

 

レナ「圭一君。御影君は来れないの?」

 

圭一「誘ってみたんだが、来れるか分からないってさ」

 

 

圭一とレナは、転校生の夜白御影の話をしていた。

 

初日に、クラス一同と先生を騙した彼は、クラスの中でも一目置かれる存在となった。

 

魅音は、御影を部活入部へと誘ったが断られてしまった。

 

魅音は、一筋縄で行かないと悟ったのか玩具屋のゲーム大会を御影に教えた。

 

 

御影「凄いね!五万円なんてあったら、何でも買いたい放題じゃないか!皆に一人一万円の撮影料渡して、『雛見沢分校美少女写真集』を作るってのも良いね!勿論、ポロリもあるよ!」

 

 

その言葉に、圭一は『グッジョブ!』と親指を立て、レナは鼻血を吹き出し、魅音は苦笑いをして、沙都子は悲鳴を上げて罵倒し、梨花は顔は笑っていたが…内心は笑っていなかった。

 

 

魅音「動機はどうあれ、やる気は見せてたから来るんじゃない?おじさんは負けるつもりはないけどね!」

 

 

開始時刻になったが、御影の姿は見えなかった。

 

ゲーム大会は、部活メンバーが上位を取る形で進行し、圭一と魅音が互角の死闘を繰り広げていた。

 

ゲームの終盤、時計が15時を指した時、魅音が言った。

 

 

魅音「ちょっと待ったー!この勝負ここまで!後は、園崎魅音に預からせて貰うよ!」

 

 

魅音は、そう言うと早々に席を離れ、店から出て行った。

 

圭一は、そんな突然の物言いに納得出来ず、魅音の後を追った。

 

 

圭一「こらーっ!魅音!逃げる気かー!」

 

魅音「ごめん、圭ちゃん。おじさん、これからバイトなんだよねー」

 

圭一「バイト!?そんなの聞いてないぞー!」

 

店長「まぁまぁ、優勝賞金は次回に回すとして。今日のところはこれで」

 

 

圭一は、店長から茶色い紙袋を受け取った。

 

 

御影「やぁやぁ、寝坊しちゃってね。ゲーム大会は、もう終わっちゃったのかい?」

 

圭一「御影!?」

 

 

御影は、笑いながら申し訳なさそうに出現した。

 

 

魅音「御影、遅いよ!何やってたの!?」

 

御影「ごめん、ごめん。昨日の夜、ずーっと写真集の事を考えていてね。夜更かしして寝坊しちゃったんだ」

 

沙都子「救えないバカですわ…」

 

御影「優勝者は圭一君かな?圭一君が優勝出来るんだったら、僕ならダントツで優勝したのに惜しい事をしたなぁ」

 

魅音「残念、今回の勝負はお預け。圭ちゃんのソレは、ただの参加賞だよ」

 

御影「そっか。じゃあ、中身見せてよ。別に減る物じゃないでしょ?」

 

 

御影は、圭一の持っている紙袋に興味を示して言った。

 

圭一が袋を開けると、中から可愛い女の子の人形が出て来た。

 

 

圭一「え~、なんだよこれ~」

 

魅音「圭ちゃんには、見合わない物が出たね~」

 

 

圭一は、バツの悪そうな顔をしながら誰かに人形を渡そうと思った。

 

 

御影「圭一君!誰かに人形を上げようとしてるんでしょ!?レナちゃんに上げる事を推薦するよ!レナちゃんだって欲しがりそうな顔をしているし、何より可愛い物が一番見合う女の子だからね!」

 

 

御影のその言葉が後押しになったのか、圭一はレナに人形を渡した。

 

 

圭一「そうだな。御影の言う通り、可愛い物って言ったらレナだな!」

 

御影「そうだよ、圭一君!特に魅音ちゃんには、こんな可愛い物なんて見合わないもんね!」

 

 

魅音は一瞬残念そうな顔をしたが、咄嗟に笑って返した。

 

 

魅音「もう御影~、よく判ってるじゃない!おじさんもさ、どうして男に生まれなかったんだろうって思う時あるんだよねぇ~…。じゃあ皆、また明日!」

 

 

魅音は、そう言って自転車でこの場を後にした。

 

 

 



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【綿騙し編②】

6月14日(火)

 

 

圭一は、学校に登校して昨日会った『詩音』の事を皆に話した。

 

 

レナ「魅ぃちゃんに妹が居た事なんて知らなかったよ」

 

圭一「レナも知らなかったんだ。魅音、どういう事かな~?」

 

魅音「詩音は、興宮に住んでるの!婆っちゃと住んでるのは、おじさんだけだし。詩音は、婆っちゃと仲が良くないんだ!」

 

御影「双子なんてキャラクターがこんな身近に居たなんてね!興味あるな~。詩音ちゃんだっけ?」

 

魅音「えぇ~!?詩音と会っても面白くないよ~!詩音だって御影に興味なさそうだし!」

 

御影「僕は興味アリアリだよ!圭一君の話だと、魅音ちゃんと同じスタイルで『女の子』なんでしょ!僕の好みドストライクだよ!会ってみたいなぁ~」

 

レナ「レナも会ってみたいな!何処のお店で働いてたの?」

 

 

圭一がそれに答えようとすると、魅音が圭一の口を塞いだ。

 

 

魅音「圭ちゃんダメー!!もう、この話題はおしまい!!」

 

.

.

.

 

放課後。

 

圭一は、玄関で力尽きる様に倒れた。

 

原因は空腹だった。

 

今日の授業でカレー作りを行い、部活メンバーと暴走して知恵先生の怒りを買い、昼飯が食べれなくなったからだ。

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

 

圭一「空いてますよ~」

 

 

力のない声で返事をすると、ドアが開き『詩音』と名乗る女性が居た。

 

 

詩音「圭ちゃん…何やってるんですか?」

 

圭一「うぅ…」

 

 

圭一は、力なく返事をした。

 

 

詩音「はい、これ」

 

 

詩音は、弁当箱を手渡した。

 

 

圭一「もしかして…これ…」

 

詩音「お姉が電話してきて『圭ちゃん、ひもじい思いしてるから何か差し入れしてやれよ』って」

 

圭一「嬉しいけど…なんで…?」

 

詩音「ええと…その…圭ちゃん、お店のお客さんだし…」

 

圭一「お客?」

 

詩音「あ!それじゃ、私バイトに行くから…」

 

 

詩音が玄関のドアを開けようとした時、ドアが外から開いた。

 

 

御影「あれ?君、誰?」

 

 

そこには、御影が居た。

 

 

圭一「よ、よう…御影。園崎詩音だよ。今日話しただろ?」

 

御影「君が園崎詩音ちゃんか!初めまして、僕は夜白御影。『みっちゃん』って呼んでね!このあだ名じゃ魅音と被っちゃうかな?」

 

 

笑顔になって自己紹介する御影。

 

 

詩音「あなたが夜白御影さん?お姉から変人って呼ばれてるって聞いてますよ」

 

 

圭一は、その言葉に少し吹き出した。

 

 

御影「それは酷いよ!魅音ちゃんによる悪質な情報操作だ!僕は清楚潔癖の爽やか系男子だよ!」

 

詩音「そ、そうなんですか?あの…私、バイトに行かないといけないので…」

 

 

そそくさと玄関から出ようとする詩音に対して、御影は詩音の手を取って言った。

 

 

御影「僕と付き合ってよ!圭一君から話を聞いた時から一目惚れ…いや、一聞惚れしたんだ!」

 

詩音「え…?ご、ごめんなさい。ちょっと無理かな…」

 

 

御影は、詩音に抱きつき首元に噛み付いた。

 

 

詩音「痛っ…!」

 

御影「わーい!わーい!詩音ちゃんにマーキングしちゃった!これで詩音ちゃんは、僕の物だね!」

 

 

詩音の首には、御影の歯跡が残り少し血が滲んでいた。

 

詩音は、それを指で確認すると声を上げた。

 

 

詩音「え…えっ?い、いや~~~!!」

 

 

詩音は、御影に強烈なビンタをかまし、走って逃げ出した。

 

 

御影「照れちゃって可愛い~!詩音ちゃんは、僕の見込んだ通りの子だね!」

 

 

御影は、殴られた頬を撫でながらヘラヘラ笑って言った。

 

 

御影「圭一君。これ差し入れね」

 

 

御影は、圭一にコンビニで買ったお菓子を渡して嬉しそうに帰宅した。

 

 

 



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【綿騙し編③】

6月15日(水)

 

 

登校した御影は、教室に着いて魅音に話し掛けた。

 

 

御影「おはよう!魅音ちゃん!」

 

魅音「あぁ、おはよう。御影」

 

 

間髪入れずに御影は、魅音の首を確認して指で触って来た。

 

それに驚いて、魅音は御影を突き飛ばした。

 

 

魅音「ちょ…!急に何するの、御影!」

 

御影「昨日の『詩音ちゃん』が『魅音ちゃん』じゃないかなぁ~って思って確認したかったんだ。傷跡がないって事は、詩音ちゃんにハートを届ける事が出来たんだね!ハートと歯跡をかけてみたんだけど面白い?」

 

魅音「あのさぁ、御影…。詩音、昨日の事でずっと泣いてるんだよ?『御影なんかにもう会いたくない!』って言ってるんだよ…」

 

御影「そっか!詩音ちゃん、ずっと僕の事を考えてくれてるんだね!『今は嫌い!』とか言っても、いつの間にか好きになっちゃうってパターンはあるし、嬉しいよ!」

 

レナ「御影君…。少しは反省しようよ…」

 

圭一「えっ!?本当に傷跡ないのか!?てっきり、魅音が自作自演してるのかと…」

 

御影「何言ってるの、圭一君!?魅音ちゃんの話を信じないなんて最低だよ!僕は信じてたのに!!」

 

梨花「相変わらず、ペラペラと嘘を吐くのです」

 

沙都子「もう慣れましたわ…」

 

.

.

.

 

放課後。

 

 

圭一「よーし!部活だー!御影、今日こそ参加して貰うぜー!」

 

 

圭一は、御影を逃がすまいと教室の入口で手を伸ばしながら通せんぼしている。

 

 

梨花「ごめんなさいです。ボクは、やりたい事がありますです」

 

レナ「そっか。綿流しの練習だね」

 

沙都子「そうですわ。今度の日曜ですのよ」

 

魅音「そっか。じゃあ、今日の部活は中止だね」

 

梨花「ごめんなさいなのです」

 

 

沙都子と梨花は、一緒に帰宅してしまった。

 

圭一は、その事を疑問に思い、魅音に尋ねると魅音とレナが綿流しの話をしてくれた。

 

 

魅音「あっ、いけない!アタシも今日バイトだ。先帰るね」

 

 

魅音も教室を飛び出し下校した。

 

 

御影「僕も帰るよ。やる事があるんだ」

 

.

.

.

 

圭一は、弁当箱を詩音に返しに行く為にエンジェルモートへ向かった。

 

エンジェルモートまで付き、弁当箱を確認して進もうとした時、後ろから襟首を掴まれた。

 

 

御影「危ないよ、圭一君」

 

 

圭一は、御影に掴まれて歩を止めた。

 

圭一の目の前にはバイクがあり、御影が掴まなかったら倒してしまっただろう。

 

 

圭一「わ、わりぃ!…って、何でお前がこんな所にいるんだ!?」

 

御影「詩音ちゃんに会いに行く為だよ!圭一君、昨日のそれを返しに行くんでしょ?」

 

 

御影は、指で圭一の持っている弁当箱を指した。

 

 

圭一「まさか、俺を尾行してたのか!?」

 

御影「そうしないと会えないからね!僕は一日たりとも時間を無駄にしたくないんだ!」

 

 

呆れた圭一は、今日は帰ろうかと考えたが、どうせまた着いて来るに決まってると思った。

 

昨日は突然だったが、今日は御影の奇行を止める事が出来ると思い、同行を許可した。

 

エンジェルモートに入ると詩音が居た。

 

 

詩音「いらっしゃいませー…って、圭ちゃん!?」

 

圭一「よ、詩音」

 

 

圭一の後ろから現れた御影が、詩音に抱きつこうとした。

 

 

御影「詩音ちゃん!会いたかったよー!」

 

 

圭一は、即座に御影の襟首を掴み、詩音は一瞬で距離を取った。

 

 

詩音「え~っと、どちら様でしたっけ?変人に知り合いはいないのですけど」

 

御影「酷いな~!昨日、永遠の愛を誓い合った仲じゃないか!!ほら、君の首に僕のハートが…あれ…?ない…?」

 

 

詩音の首には、御影の歯跡が見当たらなかった。

 

 

詩音「あんな傷痕晒してバイトが出来る訳ないじゃないですか。ファンデーションで隠してるんですよ」

 

御影「そ、そんな酷いや…!うっ…うっ…」

 

 

御影は、ショックのあまりか泣き出してしまった。

 

 

詩音「ほーら、何処の誰か判らない変人さん。他のお客さんのご迷惑になりますから、注文しないならお帰りくださ~い」

 

御影「うっ…うっ…。こうなったら、自棄食いだよ…。この大盛りスイーツセット、一つ下さい…」

 

 

泣きながら自棄食いする御影を置いて、圭一は詩音に弁当箱を返して帰宅した。

 

 

 



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【綿騙し編④】

6月18日(土)

 

 

連日、御影はガックシしていた。

 

傷痕を隠された事がショックだったのか、静かな日々が続いた。

 

そんな様子を見てか、部活メンバーは御影を部活には誘わなかった。

 

 

沙都子「最近の御影さんは、やけに静かですわね」

 

レナ「本当だね。なんか教室が静かになった位だよ」

 

 

御影が、場所も時間も構わずにベラベラと有る事、無い事を喋るのが、クラスの日常になっていた。

 

その御影が黙り込んだ所為で、教室が静かになった様に感じていた。

 

 

綿流し前日。

 

 

圭一は、祭りの準備に参加していた。

 

途中、村人に休憩を促され、言葉に甘えて休んでいた。

 

詩音が圭一に麦茶を手渡そうとしてやって来た。

 

 

詩音「圭ちゃん、お疲れ様」

 

圭一「お、気が利くな。サンキュー」

 

 

詩音が圭一に麦茶を手渡そうとした時、御影が麦茶を奪い取って飲み干した。

 

 

圭一「わっ!何するんだ、御影!?」

 

御影「ふっふっふ…。僕は分かったんだよ!なんで詩音ちゃんが振り向いてくれないかを…!それは、前原圭一君、君が居るからさ!」

 

圭一「は…?はぁあああ!?!?」

 

御影「明日、僕は君に詩音ちゃんを賭けて一騎打ちを申し込む!僕が勝ったら、君は詩音ちゃんを諦めて貰うよ!もし万が一にも君が勝ったら、僕は大人しく詩音ちゃんを諦めよう!」

 

圭一「何だそりゃあ!?」

 

御影「見ててね、詩音ちゃん!僕の勇士を!」

 

詩音「わー、面白そうー!頑張ってね、圭ちゃん~」

 

 

困惑する圭一、戦意むき出しの御影、御影を無視して圭一を応援する詩音。

 

そこに魅音がやって来た。

 

 

魅音「お疲れ~、圭ちゃん。…って何この騒ぎ?」

 

圭一「み、魅音…。とりあえず、その麦茶をくれ…」

 

魅音「え、うん」

 

 

圭一は、魅音の持っている麦茶を手に取って飲み干した。

 

 

詩音「お姉、圭ちゃんと何処かの誰か知らない変人さんが、私を賭けて勝負する事になったんですよ」

 

魅音「え…?ええぇぇ~~~!?」

 

 

魅音は、その言葉に驚いて声を上げた。

 

 

魅音「や、止めてよ!そんな勝負!詩音だって迷惑してるし~!」

 

詩音「あら。私は、面白そうですから賛成ですけど」

 

魅音「えぇー!?あんた、圭ちゃんが負けたら御影と付き合う事になるんだよ!?」

 

詩音「あら~?お姉は、圭ちゃんがこんな誰かも知らない変人さんに負けると思ってるんですかぁ~?」

 

 

魅音は、圭一が御影に負けるとは塵にも思っていなかった。

 

かと言って、圭一が勝てば詩音と付き合う事となってしまう。

 

どう転んでも良い結果にならない事態に頭を抱えて悩む魅音。

 

そんなこんなで騒いでいる圭一達に話しかけて来た人物が現れた。

 

 

???「やぁ、君達が噂の転校生、前原圭一君と夜白御影君だね。僕は富竹、東京から来ているフリーのカメラマンさ」

 

???「私は、鷹野。噂通りに面白い人達ね。宜しく」

 

 

それに便乗して中年男が割り込んで来た。

 

 

???「おんやぁ~?皆さん、こんばんわ」

 

鷹野「大石さん、明日の警備の下見ですか?」

 

大石「そんなところですな。何もないとは思っておりますが」

 

詩音「それは勿論。今年は警察の皆さんの手を煩わせない様にしたいです」

 

大石「そう願いたいですなぁ。はっはっはっは」

 

 

そう言うと大石と名乗った人物は、この場を去って行った。

 

 

圭一「警察の人?」

 

魅音「…圭ちゃん!お腹空かない?テントに行って何か食べてこようよ」

 

圭一「そうだな。俺も腹減ったかな」

 

魅音「行こ!行こ!」

 

 

魅音は圭一の手を取り、この場を後にしようとする。

 

詩音は呟いた。

 

 

詩音「今年は、誰が死んで…誰が消えるんでしょうね…?」

 

 

 



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【綿騙し編⑤】

圭一「詩音…?今、なんて?」

 

詩音「お姉は、圭ちゃんにまだ話してないの?」

 

魅音「…そういう話は吹き込まない主義なの。行こう、圭ちゃん」

 

 

無理やり圭一を連れ出そうとする魅音に対して、圭一は歩を止めた。

 

 

圭一「なんの話だよ?俺だけ抜け者なんて気分悪いぞ」

 

魅音「…じゃあ、おじさん先に行ってるよ。早く来ないと圭ちゃんの分なくなっちゃからね~」

 

 

そう言うと魅音は走り去って行った。

 

 

富竹「…話しても良いかな?」

 

詩音「圭ちゃんには、聞く権利はあると思います」

 

圭一「一体、何の話だって言うんですか?」

 

 

圭一は、詩音・富竹・鷹野からダム工事の話から毎年起こる事件の話を聞いた。

 

 

鷹野「明日は、一体誰が死んで…誰が消えるかしら…?」

 

 

冷たい空気が覆う中、御影は喋り出した。

 

 

御影「面白そうだね!僕が今年の犠牲者になったら、きっと、未来永劫語り継がれるんだろうなぁ~。『夜白御影、オヤシロさまの祟りに遭い、雛見沢の人柱になる!』ってね!僕の勇士は、ちゃんと来世に伝えておいてね!」

 

富竹「はは…。君は、なんというか…噂以上の人だね…」

 

鷹野「本当に面白い子ね。そんな事を言う人、初めて見たわ」

 

 

御影はヘラヘラ笑い、富竹は苦笑いし、鷹野はクスクス笑っていた。

 

.

.

.

 

6月19日(日)

 

 

綿流し当日。

 

 

圭一「さて、今日は御影と一騎打ちか…」

 

レナ「え?御影君なら今日は…ムグッ!」

 

 

魅音がレナの口を塞いだ。

 

 

圭一「何かあんのか?」

 

魅音「ううん!なんでもないよ!」

 

 

そんな事をしていると沙都子と梨花に会った。

 

 

沙都子「皆様!遅刻でしてよ!」

 

梨花「こんにちわ~なのです」

 

魅音「梨花ちゃんの出番まで祭りを回ろうかー!」

 

圭一「御影はどうするんだ?」

 

魅音「大丈夫、大丈夫!その内、会えるって!」

 

 

部活メンバーは、祭りを回った。

 

しかし、御影と合流する事はなかった。

 

やがて、梨花の奉納演舞が始まった。

 

圭一は、後ろの方に居てよく見る事が出来なかった。

 

 

詩音「圭ちゃん。こっち、こっち」

 

 

詩音は、圭一を連れ出した。

 

詩音は、圭一を舞台の見れる場所ではなく祭具殿と呼ばれている場所に連れて来た。

 

そこには、富竹と鷹野が南京錠を空けようとする姿があった。

 

その様子を見ていた圭一と詩音は、二人に見つかってしまった。

 

どうやら、祭具殿に忍び込もうとしているらしい。

 

圭一は、以前に御影と村を探索している時に一度来た事があった。

 

 

御影「圭一君、この祭具殿って何があるんだろうね?噂じゃ古手神社の秘宝とか封印された呪具とかが入っているって話だよ!!一度でいいから中を見てみたいなぁ~」

 

 

圭一も御影の言葉に好奇心を覚えて祭具殿の中が気になっていた。

 

その後、四人は祭具殿の中に入って見回った後に分かれた。

 

 

詩音「圭ちゃん。私と会った事は、お姉に内緒にしておいて下さい。お姉、嫉妬深いんです」

 

 

そう言って、詩音と圭一は別れた。

 

一人になった圭一は、座りながら夜空を見ていると部活メンバーがやって来た。

 

 

沙都子「探したんでございますよ」

 

魅音「やっと見つけた~」

 

レナ「圭一君、もう迷子になっちゃだめだよ」

 

圭一「ごめん…」

 

梨花「ボクの演舞、ちゃんと応援してましたですか?」

 

圭一「…ちゃんと見てたぜ。最後まで頑張ったな!ミスもなかったし…」

 

 

その言葉を聞いてか、梨花の顔が少し暗くなった。

 

 

魅音「そうそう、あんなのミスの内に入らないよ」

 

レナ「そうだよ、梨花ちゃん」

 

 

圭一は、失言したと思った。

 

その時、後ろから御影の声が聞こえた。

 

 

御影「魅音ちゃん!よくも騙したね!」

 

沙都子「あらまぁ!御影さん、今まで何処にいらしてたんですの!?」

 

御影「魅音ちゃんが言ったんだ!【詩音が『私、本当は御影さんの事が好きでしたの!だから綿流しのお祭りは、二人でデートしましょ。勿論、お持ち帰りもOKですよ』って言ってたよ。待ち合わせは、ゴミ山でお願いしますってさ~】ってね!それなのに、待ち合わせ場所にいつまで経っても詩音ちゃんは来ないし、祭りは終わっちゃうし、散々だよ!」

 

魅音「あれ~?そうだっけ~?おじさん忘れちゃったなぁ~」

 

 

魅音は、圭一と御影の勝負を行わせない為に御影にとんでもない嘘を吐いていた。

 

レナは、事情を知っていた分、同情的になっていた。

 

 

御影「くそ~!魅音ちゃんなんか嫌いだ~!」

 

 

御影は、泣きながら走って立ち去ってしまった。

 

 

レナ「魅ぃちゃん…。やりすぎだよ…」

 

沙都子「あ~ら、御影さんの普段の行いから生まれた結果ですわよ」

 

 

圭一は、御影のおかげでこの気不味い空気がなくなった事に内心感謝した。

 

圭一は、お礼とお詫びを兼ねて何か奢ってやるか…と思った。

 

 

 



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【綿騙し編⑥】

6月20日(月)

 

 

圭一は、昨夜はあまり眠れなかった。

 

好奇心とはいえ、祭具殿に入ってしまった事に少し後悔していた。

 

授業中、うつらうつらと顔を揺らしていると知恵先生に怒られた。

 

 

知恵先生「前原君、顔を洗ってらっしゃい」

 

圭一「あ、はい!」

 

 

圭一は、教室を飛び出し、顔を洗いに行った。

 

外で洗った方が気分が良いと思い、外の流しで顔を洗っていた。

 

何処からか御影が姿を現した。

 

 

御影「やぁ、圭一君。今日は眠たそうだね!」

 

圭一「ん…御影か。ふぁ~ぁ。授業、さぼるなよな~」

 

 

圭一が顔を洗っている様子を、御影は眺めていた。

 

すっかり眠気を解消させて、圭一が教室に戻ろうとした時だった。

 

 

御影「圭一君。昨日の綿流しの晩、詩音ちゃんと居なかった?」

 

 

圭一は、体が強張った。

 

 

圭一「さ、さぁ…。会ったかもしれないし、会わなかったかもしれないし…」

 

 

圭一は、曖昧な答えで誤魔化そうとした。

 

 

御影「『会った、会わなかった』じゃなくて、詩音ちゃんと『一緒に行動してなかった?』って聞いてるんだけど」

 

 

ドキンと心臓が跳ね上がった。

 

 

圭一「ど、どうして、そんな事を気にするんだよ!?」

 

御影「皆が変な『噂』をしてるんだよ!圭一君と詩音ちゃんが、梨花ちゃんの奉納演舞を行っている最中に抜け出して何か悪い事をやっていたって!それが事実かどうか、こうして尋ねてるんだ!」

 

 

圭一は、血が凍った。

 

昨日、圭一と詩音が奉納演舞の最中に抜け出した事、その間に『何か悪い事』をやっていたと『噂』になっている事。

 

御影は詩音までしか言及してないが…もしかしたら、それ以上の行動まで『噂』になっているのでは…と圭一は疑念に思った。

 

そこに、追い打ちを掛ける様に御影は言った。

 

 

御影「そうだよね、圭一君と詩音ちゃんが悪い事なんてする訳ないよ!富竹さんと鷹野さんの二人なら、ともかくさ」

 

圭一「えっ!?」

 

御影「ごめん!変な『噂』の所為で圭一君を疑って悪かったよ!僕って詩音ちゃんの事になると、つい後先考えずに行動しちゃうからさ。この話はもうしないよ!じゃあね~」

 

圭一「あ…」

 

 

御影は、スキップしながらこの場を去った。

 

圭一は、御影に対して『噂』について知りたかったが、御影はさっさとこの場から離れてしまった。

 

圭一の手は、汗でびっしょりになっていた。

 

.

.

.

 

放課後になり、圭一と魅音が体調不良の事から部活はなかった。

 

圭一は、親に頼まれて図書館に本を返しに行った。

 

そこで、詩音に出会って二人で話をしていると、今度は大石と遭遇した。

 

大石は、圭一と話をする為に圭一と詩音を引き離してしまった。

 

詩音は先に帰ってしまい、圭一は時間差を置いて帰宅する事になった。

 

圭一は、帰宅の最中にコンビニ袋を持った御影と出会った。

 

 

御影「やぁ、圭一君!」

 

 

圭一は、今日一日で色々な事があって疲れていた。

 

しかし、今日の昼間に御影が話していた『噂』について聞きたかった。

 

 

圭一「よ、よう。話があるんだけど良いかな…?」

 

御影「良いよ、良いよ。詩音ちゃんへの恋愛相談以外なら何でも話して良いよ!」

 

 

疲れ切っている圭一とは対照的に、御影のテンションは高かった。

 

 

圭一「昼間、言ってただろ?俺と…詩音の『噂』。どんな物か詳しく教えて欲しいんだけど…」

 

 

御影は、悩んだポーズをしてから口を開いた。

 

 

御影「綿流しの晩にね、圭一君と詩音ちゃんと富竹さんと鷹野さんの四人が梨花ちゃんの奉納演舞の最中、祭具殿に忍び込んだって『噂』だよ。酷い言い掛かりだよね!これが本当なら、圭一君は詩音ちゃんとデートしたばかりか、僕に何も教えてくれずに祭具殿の中を見たんだよ!僕としては、男の友情を二回も踏みにじられた気分だよ!」

 

 

圭一は、その答えに恐怖した。

 

なぜ、昨日今日でその事実が判明して『噂』になっているのか。

 

そして、『噂』を知る事がなかったのか。

 

 

圭一「…なんで、そんな『噂』が広まってるんだ?…そんな『噂』をお前以外に語ってる奴見た事ないんだけど」

 

御影「そうなの?じゃあ、教えて上げるよ。昨日の夜、富竹さんと鷹野さんが死んだんだよ」

 

 

 



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【綿騙し編⑦】

圭一「…え?」

 

御影「昨日、富竹さんと鷹野さんが死んだって言ったんだよ」

 

圭一「な、なんで!?どうして!?」

 

 

圭一は、我を忘れて御影に問い詰めた。

 

 

御影「祭具殿に忍びこんだからじゃないの?あそこは古手神社の大切な場所だし」

 

 

圭一は、その答えに震え出した。

 

自分が起こした行動がとんでもなくマズイ事だと気付いてしまった。

 

 

御影「凄い死にザマだったらしいね。富竹さんは自分の爪で喉を引き裂いて死んで、鷹野さんはドラム缶の中で生きたまま焼かれたらしいよ。僕も祭具殿に忍び込んでいたら、そうなったんだろうな~。ちょっと残念だよ」

 

 

圭一の震え顔とは対照的に、御影はヘラヘラ笑っている。

 

 

御影「圭一君は、当事者である可能性があったから皆が黙っていたんじゃない?でも、圭一君には何も起こってないって事は、圭一君と詩音ちゃんの『噂』は嘘だったんだね!きっと、魅音ちゃん辺りが僕に対して嫌がらせする為に付け足ししたんだよ!まったく、酷いと思わないかい!?」

 

 

圭一は、何も答えなかった。

 

 

御影「もし本当に、圭一君と詩音ちゃんが祭具殿の中でデートしてたなんて事があったら、僕が圭一君を殺しちゃうよ!例えば、圭一君を生きたまま縛り付けて、手足の指全部に釘を打ち突けるとかしてさ!僕に嘘吐いて詩音ちゃんと祭具殿でデートしたんだから、これ位はしないと気が済まないもんね!」

 

 

冗談には見えない御影の表情に、圭一は苦笑いして誤魔化した。

 

 

御影「僕、こっちの道だから。じゃあね~」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら圭一と別れた。

 

.

.

.

 

その日の夜。

 

圭一は、詩音と電話した。

 

詩音の無事を確認すると少し安堵した。

 

圭一は『噂』の事について話した。

 

 

圭一「…って事なんだ。詩音は、この『噂』知っているか?」

 

 

詩音は、少し沈黙して答えた。

 

 

詩音「私も園崎の人間です。その『噂』なら知っています。私達がまだ生きているのは確証がないからだと思います」

 

 

圭一「か、確証…?」

 

詩音「はい。富竹さんと鷹野さんには、祭具殿に入った確証があった。しかし、私達にはそれがなかった。だから、まだ無事なんだと思います。もし確証が出た時は…」

 

 

詩音は、その先を言わなかった。

 

 

圭一「…って事は、俺達はギリギリの状態で生かされているって事なのか?なぁ…詩音、これから毎晩で良いからこうやって連絡し合わないか?お互いの無事を確認する為にも」

 

詩音「ええ、良いですよ。それにしても御影ったら、何処で『噂』を知ったのでしょうか?この『噂』は一部分でしか流れていないのに…」

 

圭一「ま、まぁ…。御影は、詩音の事になると無我夢中になるし…」

 

 

実際、御影の詩音に対する行動力は凄い物だった。

 

詩音に会ったと思えば噛み付くし、圭一と詩音の会話にはひたすら割り込んで来るし、いつもは勝負から逃げているのに詩音の事になると敵対心を燃やして来るし、魅音の嘘とはいえ祭りの間ずっとゴミ山で待っているし…。

 

御影が『噂』を本当だと知ったら御影に殺されるんじゃないか?…と圭一は、本気で思った。

 

 

詩音「じゃあ、圭ちゃん。また明日。…もし、何か分かったら隠さないで教えて下さいね」

 

圭一「ああ、俺達は運命共同体だもんな」

 

 

圭一は、受話器を置いた。

 

 

圭一「毎晩、詩音と話してるなんて御影にバレたら、それだけでも殺されるかもな…」

 

 

圭一は、そう笑って眠りに付いた。

 

 

 



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【綿騙し編⑧】

6月21日(火)

 

 

その日の夜。

 

詩音の電話から、公由村長が失踪したかもしれないという事実を聞いた。

 

詩音が言うには、公由村長に相談した所為で巻き込まれる形で失踪してしまったと仮説を立てたからだ。

 

圭一も梨花に相談した事を思い出し、梨花に電話をしたが繋がらなかった。

 

圭一は急いで、魅音・レナ・御影に連絡して合流する事になった。

 

 

御影「なんだよ、圭一君!僕はお風呂に入ってたのに!こんな時間に呼び出すなんて非常識じゃないか!」

 

圭一「ご、ごめん!でも急ぎなんだ…。もしかしたら、梨花ちゃんに何か遭ったかもしれないんだ!」

 

レナ「圭一君、急ごう!」

 

魅音「ほら、御影!もたもたしないで!」

 

御影「人使いが荒いなぁ。でも、魅音ちゃんとレナちゃんからシャンプーの良い香りがするから許して上げるよ」

 

 

御影のいつもの言動に圭一・魅音・レナは反応せず、急いで梨花と沙都子の居る家へと向かった。

 

四人は梨花と沙都子のいる家に着いたが、家は暗闇に包まれており物音も一切せず異常を示していた。

 

扉は鍵が掛かって開けられなかった。

 

魅音はハシゴを持ってきて、圭一はそれに登って中の様子を見ようとした。

 

レナと御影は、合鍵を貰って来ようと二人で駆け出した。

 

しばらくして、レナが村民の何人かと一緒に戻って来た。

 

 

レナ「これ、合鍵!」

 

圭一「すまん、レナ!御影は!?」

 

レナ「警察に連絡するって!」

 

魅音「とりあえず、中に入ろう!」

 

 

圭一と魅音とレナは、合鍵を使って中に入った。

 

部屋は普通の光景だったが、そこには誰も居なかった。

 

三人は室内を隈なく探したが、二人を見つける事は出来なかった。

 

やがて、御影が連れて来た警察が着いて大人の村民を含む大勢の人達が村中を隈なく探した。

 

しかし、誰一人として公由村長を含む三人を発見する事は出来なかった。

 

 

圭一は、自分の軽率な行動に後悔して涙を流した。

 

 

圭一「俺の所為だ…俺の所為で二人が…」

 

レナ「大丈夫…圭一君の所為じゃないよ。皆だって、ちゃんと分かってるから…」

 

御影「そうだよ、圭一君!もしかしたら、今頃、あの二人は呑気に村長さんと興宮のレストランで食事を取ってるかもしれないよ!明日になったら何事もなく登校して来るさ!」

 

 

レナの慰めと御影の支離滅裂な言葉に、圭一は泣き続けるしかなかった。

 

.

.

.

 

6月22日(水)

 

 

圭一はレナと登校したが、沙都子と梨花は依然として行方不明のままだった。

 

圭一が意気消沈していると、御影に校舎裏に呼び出されてた。

 

 

御影「圭一君。詩音ちゃんの事で何か知らない?」

 

 

御影は、そう尋ねて来た。

 

圭一は、詩音と毎晩電話で話している事を話そうと思ったが、絞め殺されるのではないかと思って答え辛かった。

 

 

御影「僕が、詩音ちゃんの事を好きだって知ってるよね?何か知ってるなら教えて欲しいんだ」

 

 

御影は、突然大きな声で喋り出した。

 

しかし、圭一は「何も知らない…」と答えた。

 

 

御影「そっか…。じゃあ、詩音ちゃんも失踪しちゃったんだ…。うっ…うっ…」

 

 

御影が、妙な事を言って泣き出した。

 

 

圭一「詩音が失踪したってなんだよ!?どういう事だ!?」

 

 

圭一は、御影に迫って問い詰めた。

 

 

御影「詩音ちゃん…綿流しの日以降エンジェルモートに出勤してないんだよ…。あれから毎日行ってるのに無断欠勤してるって言うんだ…うっ…うっ…」

 

 

有り得ない。

 

詩音は、毎晩自分に電話してきている…。

 

じゃあ、あの電話の相手は一体誰なんだ…と圭一は顔を青ざめてそう思った。

 

気が付くと、御影は泣きながら教室に戻って行った。

 

.

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その日の夜、圭一はいつも掛かって来る電話で『詩音』を問い詰めた。

 

 

圭一「君は…綿流し日以降、エンジェルモートに出勤していない…。いや、それどころか姿すら見た人がいない…。園崎詩音は…綿流しの日以降失踪しているんだ…!」

 

 

暫くの沈黙の後、電話の向こうから奇声の様な笑い声が聞こえて電話が途切れた。

 

 

 



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【綿騙し編⑨】

6月23日(木)

 

 

魅音は、学校を休んだ。

 

圭一は、レナと御影に全てを話した。

 

 

レナ「…それで、どうするの?圭一君…」

 

圭一「魅音を説得する…。手遅れかもしれないけど…自首して欲しいと…。二人も来てくれないか?」

 

御影「勿論行くよ!詩音ちゃんを手に掛けるなんて、魅音ちゃんは許せないね!圭一君が説得に失敗しても、僕が魅音ちゃんをぶち殺すから安心してね!」

 

 

御影は、怒り葛藤でそう答えた。

 

 

レナ「魅ぃちゃんは私達の仲間だよ、信じようよ。私も着いて行くよ、御影君が変な事しない為に」

 

.

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.

 

放課後、三人は園崎本家に着いた。

 

魅音は、白装束で出迎えた。

 

三人は、魅音に言われるまま、室内の一室に案内された。

 

圭一が、開口一番に謝った。

 

 

圭一「俺、神社の祭具殿に入ったんだ!悪い事とは思わず、好奇心に負けて…悪かった!」

 

 

そんな圭一に対して軽い返事をする魅音。

 

レナは、そんな態度の魅音に対して怒りを示した。

 

圭一とレナは、梨花と沙都子の失踪事件の推理を述べた。

 

魅音は、それに対して諦めたかの様に全てを話し始めた。

 

今回の事件、これまでの事件、全てに園崎家、特に自分が中心にいたという事を。

 

それに対して、御影が泣きながら魅音に掴み掛かったが、圭一とレナに取り押さえられた。

 

 

レナ「魅ぃちゃん、自首しよ!私達も一緒に行くよ…。これ以上…辛い姿、見たくないよ…」

 

魅音「そうだね…。でも、最後に圭ちゃんと二人っきりにさせてくれないかな…?」

 

 

魅音が、そう言うと御影が喋り出した。

 

 

御影「そんな我儘許さないよ!僕にも何かサービスしてよ!そうだ、さっき言ってた鬼の刺青ってやつ見せてよ!魅音ちゃんの話だと背中にあるんでしょ!?それが、詩音ちゃんを殺した僕への贖罪だと思わないかい!?」

 

 

魅音は、その言葉にキョトンとしていたが「プッ」と笑い出した。

 

 

魅音「相変わらずだね、御影。本当に面白いよ」

 

御影「本当なら、詩音ちゃんの裸が見たかったのに、魅音ちゃんの裸で妥協してるんだよ!この機を失くしたら見る機会なんか無いじゃないか!」

 

魅音「…詩音はまだ生きているよ」

 

 

突然、魅音はそう言った。

 

 

御影「え?本当!?詩音ちゃん生きてるの!?じゃあ、刺青なんかどうでも良いや!すぐ案内してよ!」

 

魅音「そうだね…。圭ちゃんと御影、着いておいで。私の罪…包み隠さず見せて上げるからさ…」

 

 

御影は、詩音の生存を聞くと刺青に興味をすっかり失くし、嬉しそうな顔になった。

 

レナは魅音に言われて室内で待たされ、圭一は魅音と腕を組む形で先に進み、御影は少し後ろに離れて着いて来た。

 

案内された場所は、広い地下牢だった。

 

詩音は、その牢の中に疼くまっていた。

 

圭一は、急いで駆け寄り詩音に声を掛けた。

 

 

圭一「詩音、大丈夫か!?」

 

 

牢の中の詩音は、圭一の姿を確認すると「圭ちゃん!」と声上げて喜んだが、背後の魅音の姿を確認すると悲鳴上げて怯え出した。

 

 

詩音「嫌ぁぁぁ!私が憎いなら早く殺してぇぇぇ!」

 

圭一「だ、大丈夫だ!詩音!!もう何もかも終わったんだ…」

 

 

その言葉を言い終わる前に圭一は後頭部に激痛を感じて気絶した。

 

薄れゆく意識の中で見たのは、大きな石で圭一を殴り倒した魅音の姿だった。

 

.

.

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.

.

 

昭和58年6月。

 

容疑者は園崎魅音。

 

容疑者は、6月19日から21日までの間に雛見沢村住民五人(園崎お魎・園崎詩音・公由喜一郎・古手梨花・北条沙都子)を拉致、監禁して殺害した疑い。

 

23日午後、竜宮礼奈の通報により、園崎邸に警官隊が突入。

 

容疑者の(園崎魅音)と失踪中の(園崎詩音)とクラスメイト二名(前原圭一・竜宮礼奈)を保護した。

 

捕まった容疑者、園崎魅音の証言により園崎邸内の離れ地下にて失踪者四人(園崎お魎・公由喜一郎・古手梨花・北条沙都子)の遺体を発見。

 

しかし、同日に行方不明となった夜白御影に対しては、一切の痕跡が発見されなかった。

 

容疑者(園崎魅音)、救出された(前原圭一・園崎詩音)に対してからも夜白御影による重要な証言を得る事は出来なかった。

 

 

 



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【祟騙し編①】

6月9日(木)

 

 

圭一「…なんとかなるかーーー!」

 

 

昼食の時間、圭一は叫び出した。

 

圭一の両親は事情により、数日間家を空ける事になり、一人暮らしによる自炊を余儀なくされた。

 

 

レナ「圭一君の両親って大変なんだね」

 

圭一「そういう事じゃなくて、飯だよ、飯!親が居ない間どうすりゃ良いんだよ!?」

 

沙都子「それなら覚悟を決めて自炊なされば良いじゃありませんか」

 

レナ「そうそう、自分で作ったご飯ってとっても美味しいよ」

 

魅音「うん、たまにはそういう経験も良いね」

 

梨花「お指を切ったり、火傷をしたりで、かわいそ、かわいそ、なのです」

 

御影「まったく、圭一君!自炊出来ないと、今の時代やって行けないよ!僕なんか天涯孤独なんだから、日本料理からフランス料理、ゲテモノ料理までありとあらゆる料理が作れるのに嘆かわしいよ!」

 

圭一「ぬぬぬ…!御影、お前にだけは言われたくないぞー!」

 

 

部活メンバーと夜白御影は、圭一に対して笑いながら言った。

 

夜白御影は、一週間前に転校して来た人物だ。

 

初日からクラスメイトと先生を騙した手腕で今もクラスを引っ掻き回すクラスメイトの一人。

 

部活メンバーと良く会話をするが、部活には頑なに参加しようとしない変わった人物である。

 

.

.

.

 

圭一は、自宅に帰るとエプロンをつけ自炊に励もうとする。

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

ドアを開けると御影が居た。

 

 

御影「圭一君だけじゃ黒炭料理ダークマターが関の山だからね、手伝いに来たよ!」

 

 

御影はそう言って、材料が入ったコンビニ袋と一緒に圭一の家に入って来た。

 

圭一と御影は、協力して料理を作り始めた。

 

圭一が切った料理を御影が火で揚げると、たちまち火柱が上がった。

 

 

御影「どうだ、僕の料理の腕前は!」

 

圭一「おお!まるで、料理の鉄人みたいだ!」

 

 

沙都子の驚いた声が上がった。

 

 

沙都子「何をしてるでございますの!?早く火を止めなさいですわ!」

 

 

沙都子と梨花は急いで火を止めた。

 

 

圭一「なんでお前ら俺の家にいるんだ!?住居不法侵入だぞ!」

 

沙都子「それを言うなら、圭一さんと御影さんは放火の現行犯でございますわよ!もうちょっとで大火事でございませんの!」

 

圭一「えっ!?あれって料理じゃないのか!?」

 

御影「始めて料理してみたけど、上手くいかないもんだね~」

 

圭一「おい、御影!お前、騙したな~!」

 

梨花「ボクと沙都子が来なかったら、今頃ボーボーで消防車がウーウーでしたのです」

 

圭一「すみませんでした…。お二方は命の恩人です…」

 

 

圭一は、沙都子と梨花に深々と感謝した。

 

沙都子は、そんな圭一に怒らず微笑んで言った。

 

 

沙都子「まったく、世話が焼けますわ」

 

 

沙都子は、台所を借りて圭一達の晩御飯を作り始めた。

 

 

圭一「まさか、沙都子に晩飯を作って貰うとはな」

 

沙都子「圭一さん。ボーっとしてる暇がございましたら、お茶碗とお箸の用意をなさいませ」

 

御影「そうだよ、圭一君!働かざる者食うべからずだよ!」

 

圭一「お前は、何ちゃっかり自分の分だけ用意してるんじゃー!」

 

沙都子「まったく、御影さんは…。私と梨花も食べますから、用意お願いしますわ」

 

圭一「はいはい!」

 

 

圭一は、沙都子に言われてせっせと用意していく。

 

梨花は、そんな様子を微笑ましく見ていた。

 

食卓に全てのご飯が揃い、圭一達は夕食を頂こうとした。

 

 

圭一「いっただきまーす。…ん?美味いな、これ!」

 

 

圭一は、沙都子の作った夕食を箸を止めずに食べていた。

 

 

沙都子「ホホホ…。褒められるのは嬉しいですけど、そんな立派ではございませんのよ…」

 

圭一「いや、これは立派な夕食だよ!」

 

御影「本当に美味しいね!将来、良いお嫁さんになれるよ!今まで生意気なクソガキだと思ってごめんね」

 

沙都子「御影さんは、一言余計ですわよ~!」

 

 

四人は、前原家で夕食の時間を楽しく過ごした。

 

 

 



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【祟騙し編②】

6月11日(土)

 

 

圭一は、父親の仕事関係のホームパーティに出席していた。

 

大事なパーティであったが、圭一にとっては退屈だった。

 

圭一は、電話に呼ばれた。

 

 

圭一「もしもし、俺ー!」

 

沙都子「『もしもし、俺ー!』なんて挨拶はございませんですわよ。もう少し言葉遣いをお勉強なさいませ!」

 

圭一「何だ、沙都子じゃねーか!お前が俺の所に電話して来るなんて珍しいなぁ」

 

沙都子「呑気な事を言ってる場合ではありませんのよ!それよりも、いつになったらこっちに来れますの!?」

 

圭一「わ、わりぃ…。こっちも何だが長引いちゃってさ…。なかなか、解放して貰えないんだよ。俺も早く部活に加わりたいんだけどさ…」

 

沙都子「違いますわよ!今日は部活ではありませんわ!実戦ですのよ!」

 

 

沙都子の声の焦る様な声から緊迫感が感じられた。

 

 

圭一「じ、実戦!?何だか穏やかな話じゃないな…。どういう状況なんだ?」

 

 

電話先から御影の声が聞こえた。

 

 

御影「説明してる暇なんかないよ!相手は九人がかりで僕達をボコボコにしてるんだ!!魅音ちゃんとレナちゃんが時間を稼いで、沙都子ちゃんが連絡してるんだよ!圭一君が早く来ないと取り返しの付かない事になっちゃうよ!!」

 

圭一「お、おい!場所は何処だ!?今行く!」

 

御影「興宮小学校のグラウンドだよ!駅まで来れば看板があるから判るよ!」

 

 

そう言って、電話が切れた。

 

圭一は、ただならぬ事態を感じ、父親からゴルフクラブを借りて自転車に乗って飛び出した。

 

スピード違反、信号無視、銃刀法違反も上等で急いで向かった。

 

途中、御影と出会った。

 

 

圭一「だ、大丈夫か!?一体何があったんだ!?」

 

御影「初めは、こっちが優勢だったんだ!でも、相手が助っ人を呼んで魅音ちゃんやレナちゃんを容赦なくボコボコに倒したんだよ!」

 

圭一「なっ!?部活メンバーとはいえ、女の子相手に助っ人まで呼んでボコボコにしてるのか!?男の風上にもおけない奴等だ!!」

 

御影「案内するよ!急いで!」

 

 

圭一は、学校に着くと自転車を走らせて校庭のど真ん中にゴルフクラブを持って参上した。

 

 

圭一「前原圭一、参上ぉぉぉ!!敵は何処だぁぁぁ!!」

 

 

辺りの空気がしんと冷えた。

 

 

レナ「あの…圭一君、そのゴルフクラブ何かな?かな?」

 

圭一「え…?いや、お前らがバタバタ倒されたからって…」

 

沙都子「…圭一さん。また御影さんに一杯食わされたのですのね…」

 

圭一「や、野球の試合なら始めからそう言えぇぇぇ!」

 

.

.

.

 

誰もが圭一の登場に驚かされたが、試合の結果が変わるとは思わなかった。

 

しかし、圭一と沙都子による『連携』と『表では語れない買収劇』により見事に逆転劇を決めた。

 

 

御影「凄いね、圭一君!やっぱり、君を見込んで助っ人として呼んだのは正解だったよ!」

 

圭一「御影、さっきはよくも~!…って、そういえば、何でこんな所にいるんだよ!?」

 

 

御影は、汗も疲れも見せておらず服も汚れていない。

 

 

詩音「ほんっと御影ったら、役立たずなんですから」

 

 

ひょこっと詩音が姿を現した。

 

 

御影「ごめんね~。スポーツってのは昔から苦手でさ。野球のルールなんて相撲と区別が付かない位、弱いんだよ」

 

入江「それは、苦手とか言うレベルではありませんよ」

 

 

野球監督の入江は笑った。

 

圭一は、合点がいった。

 

部活メンバーでもなく、スポーツが苦手な御影がここに居る理由は『詩音が居るから』だ。

 

御影は、詩音の話を聞いて以降、彼女にぞっこんで彼女がマネージャーをやっている雛見沢ファイターズに顔を見せに来ていた。

 

一方の詩音は、御影に対しては好意の『こ』の字もない。

 

御影は、初対面で会った詩音に対して速攻告白して速攻玉砕し、抱き付こうとしたらスタンガンで反撃を食らったと噂されていた。

 

.

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夕暮れ時。

 

圭一が、水場で顔を洗っていると詩音と出会った。

 

 

詩音「圭ちゃん、今日は大活躍でしたね~」

 

圭一「そうか?俺より沙都子の方が活躍してたよ」

 

詩音「ははっ…。悟史君とは大違いです。きっと、運動神経は全部妹に取られちゃったんですね…」

 

圭一「知ってるのか?兄貴の事?」

 

詩音「圭ちゃんこそ、知ってるんですか?」

 

圭一「会った事はないけど、両親が亡くなった後に転校したんだっけ…」

 

 

圭一は、入江から聞いた話を部分的に話した。

 

それに対して、詩音の顔が険しくなった。

 

 

詩音「転校…?誰が…!誰がそんな事…言ったんですか!?」

 

圭一「いや…誰って、なんだよお前…急に…」

 

 

詩音は、ハッと我に返って顔を伏せた。

 

 

詩音「…すみません。でも圭ちゃん、よく知りもしないで悟史君の事…転校とか言わないで下さい…」

 

 

詩音がそう言うと、圭一の後ろから御影が現れた。

 

 

御影「そうだよ、圭一君。悟史君の事を全然知りもしないで、そんな事を言うと詩音ちゃんが困っちゃうよ」

 

 

 



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【祟騙し編③】

詩音は、御影の言葉に返した。

 

 

詩音「へぇ…。御影は、知ってるんですか?悟史君の事」

 

御影「当たり前さ!だって、詩音ちゃん好きな僕が悟史君の事を知らない訳ないでしょ!?僕から見たら恋敵みたいな存在だしね!」

 

圭一「恋敵?」

 

詩音「質の悪い冗談は、止めてくれませんか?その程度で悟史君を知った気に…」

 

御影「四年目」

 

 

その言葉を聞いた時、詩音の口は止まった。

 

圭一は、真顔の御影と汗を垂らす詩音を確認した。

 

 

詩音「そうですか…。そこまで知っているなら何も言いませんが、あまり言い触らさないで貰えますか。聞いている方も気分が良くないので…」

 

御影「大丈夫だよ!この前、レナちゃんに話したら、シャレにならない事になったから!その辺は学習済みさ!」

 

 

詩音は、事情が分からず混乱している圭一とヘラヘラ笑っている御影を残して去って行った。

 

 

圭一「御影。悟史の事、何か知ってるのか?」

 

御影「知りたいの?でも、この話聞いたら気分悪くなるって詩音ちゃん言ってたし、レナちゃんの時は大変な事になったし、話しても良いけど文句言わないでよ?」

 

圭一「あぁ…」

 

御影「圭一君って、オヤシロさまの祟りって知ってる?」

 

圭一「毎年一人が殺されて一人が失踪する事件だろ?毎年起こってるって聞いたけど、それとどう関係あるんだよ?」

 

御影「ダム工事の時代になるけど、悟史君と沙都子ちゃんの両親はダム推奨派のリーダーだったんだ。勿論、悟史君と沙都子ちゃんは関係ないよ、北条一家ではなく両親が推奨派だったんだよ」

 

 

始めて聞いた話だ。

 

圭一は、ダム工事の話は聞いた事があっても詳細は知らなかった。

 

 

御影「勿論、この村はダムに沈まなかったんだから、ダム反対派も居たんだよ。当時は、ダムを推奨した北条家はダム反対派からもの凄い嫌がらせを受けたんだってさ」

 

 

御影は『両親』ではなく『一家』という表現をした。

 

つまり、嫌がらせを受けたのは両親だけではなく子供にまで及んでいたと。

 

 

御影「オヤシロさまの祟りの二年目の被害者がその北条一家の両親なんだ。事故とか言われてるけど、きっと雛見沢をダムに沈めようとしたバチが当たったんだね!」

 

 

圭一は、沙都子が両親を亡くしたと聞いていたが、そんな事件があったとは知らなかった。

 

 

御影「この後の事なんだけど、残された悟史君と沙都子ちゃんの面倒を見てくれるって言う叔父夫婦が来たんだけど…それが、とんでもない人達でさ。亡くなった両親の保険金目的でやってきて、悟史君と沙都子ちゃんに対して暴行・虐待ってのが日常茶飯事だったんだ」

 

圭一「えっ!?」

 

御影「これが酷いのなんの。悟史君と沙都子ちゃんは…僕は見た事ないけど、二人とも生気がないボロ雑巾みたいになってたんだよ。そこまで酷い事になったら誰かが助けに来ると思うでしょう?でも『北条』って姓の所為で、誰も助けなかったんだよ。酷い話だよね!」

 

 

圭一は、沙都子が村人に冷遇されているのを何度か見た事があったが、そんな背景があったとは知らなかった。

 

 

御影「そんな生活が一年以上続いてて、四年目のオヤシロさまの祟りで叔母さんが撲殺死体で発見、叔父さんは怖くなって雛見沢から逃げ出した。その後すぐに叔母を殺した頭のおかしい犯人は捕まって獄中で突然死。悟史君と沙都子ちゃんは幸せになって、めでたし、めでたし…」

 

 

圭一は安堵した。

 

今の沙都子達を傷つける奴は身近に居ないという事に。

 

しかし、御影の台詞にそんな安堵は吹き飛んだ。

 

 

御影「…って事にはならずに、今度は悟史君が失踪。沙都子ちゃんは一人ぼっちになってしまったのさ。おしまい」

 

 

圭一は絶句した。

 

沙都子にそんな事があった事。

 

悟史は転校ではなく失踪していた事。

 

詩音が怒り出すのも無理はないと思った。

 

 

御影「僕も雛見沢に名の残る事をやってみたいと思うけど、悟史君や沙都子ちゃんみたいな目には遭いたくないかな。この話は、レナちゃんの前ではしないでね!僕の話を聞いた途端に豹変して、下手したら五年目の犠牲者は僕になってたよ!」

 

圭一「そうか…沙都子もそんな辛い人生歩んでいたんだな…。でも、今は梨花ちゃんと暮らしてるし元気で良かったよ…」

 

御影「うん!沙都子ちゃんも永い苦労が報われたってもんだよ!」

 

 

御影は、笑顔でそう返した。

 

 

 



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【祟騙し編④】

6月13日(月)

 

 

沙都子が、学校を休んだ。

 

圭一が梨花に原因を尋ねたが、黙り込んでいて明確な解答は得られなかった。

 

御影が梨花に聞いて来た。

 

 

御影「梨花ちゃん。沙都子ちゃんのお見舞い行こうと思ってるんだけど、沙都子ちゃんってどんな果物が好きかな?」

 

梨花「みー…。別に来なくても大丈夫なのです…」

 

御影「何言ってんの!?僕は、こう見えても困ってる人を放っておけない人間なんだ!沙都子ちゃんには一飯のお礼もあるし、遠慮なく言ってよ!でも、僕の財布事情を考慮した上でお願いしてね」

 

梨花「御影の顔を見たら、沙都子は逆に悪化してしまうのですよ…」

 

 

御影は沙都子のお見舞いに行こうとしていたが、梨花はそれを頑なに止めた。

 

.

.

.

 

6月14日(火)

 

沙都子が、また学校を休んだ。

 

昨日同様、梨花の顔は暗いままだった。

 

御影が登校して大声で梨花に詰め寄った。

 

 

御影「梨花ちゃん!昨日は、よくも騙したね!」

 

 

クラスがざわりとする。

 

 

梨花「…何の事ですか?」

 

御影「何の事だって!?昨日、沙都子ちゃんのお見舞いに果物を買いに行ってたら、買い物先で沙都子ちゃんに会ったんだよ!そしたら、沙都子ちゃんはビールやらつまみやら大量買いして運んでいたんだ!僕はビックリしたよ!梨花ちゃんが、病人の沙都子ちゃんにこんな鬼畜外道な事させてるのかってね!」

 

 

梨花も驚く。

 

昨日、あれほど来るなと言ってたにも関わらず、御影はそんな事をお構いなしにお見舞いの準備をして来ようとしていた事。

 

そして、沙都子と偶然にも出会っていた事に。

 

 

御影「その後、反対する沙都子ちゃんの荷物を持って上げて同行したんだ。梨花ちゃんに一言文句を言おうと思ってね!でも、いつもと帰る方向が違ってて、気が付いたら見た事もない一軒家に到着したんだよ。そしたら、中からイカついオッサンが出てきて急に怒鳴り始めたんだ!」

 

 

その言葉を聞いて、クラス一同青ざめる。

 

 

御影「そこで理解したよ。この買い物は、このオッサンが強要したものだってね。よくよく考えたらビールは梨花ちゃんに見合わないよ。どっちかって言うとワインが見合うよね。その点だけは謝るよ」

 

 

レナ「それって、まさか…」

 

魅音「あいつ、まだ生きてたんだ…。よくも、ノコノコと…!」

 

 

慌てるレナ、怒る魅音、事情が掴めず混乱する圭一。

 

 

圭一「お、おい。どうしたんだよ?誰だよ、そのオッサンって!?」

 

レナ「…きっと、沙都子ちゃんの叔父さんだよ」

 

 

沙都子の叔父。

 

御影から聞いた事がある。

 

嘘か本当か知らないが、悟史と沙都子に夫婦で暴行と虐待を繰り返したという人物の一人。

 

圭一は、事態の危険性を理解した。

 

 

圭一「それが本当なら、不味いんじゃないのか!?今すぐ沙都子を助けに行くべきだろ!!」

 

 

圭一は、皆に急かす様に言った。

 

御影は、圭一の言葉に対して笑顔で言った。

 

 

御影「大丈夫だよ、僕が昨日の内に児童相談所に電話しといたんだ!僕だってバカじゃないし、人でなしじゃない。今頃、沙都子ちゃんは救出されてるはずだよ!」

 

 

その言葉に、圭一は安堵したが、逆に魅音は青ざめた。

 

 

 



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【祟騙し編⑤】

魅音は、御影に掴み掛かった。

 

 

魅音「何、勝手な事してんの…!!」

 

 

クラス一同は、魅音の豹変に驚いた。

 

 

御影「痛いよ!止めて!魅音ちゃん!」

 

圭一「どうしたんだよ、魅音!?落ち着けって!!」

 

 

圭一は、御影に掴んでいる腕を必死に解こうとした。

 

その腕はかなり固く、御影の服にもしわが残る程だった。

 

 

魅音「御影!あんた、何処まで沙都子の家の事を知ってるの…!」

 

御影「両親が死んで、叔父夫婦に虐待されて、村は裏切り者って理由で放置してたんでしょ?僕は、沙都子ちゃんとは仲が良くないかもしれないけど、そんな事で見捨てたりはしないよ!だから児童相談所にすぐ連絡したんだ、何かおかしい事でもあるのかい?」

 

 

魅音は、ゆっくりと御影を離した。

 

少なくても悪意があって行った行動ではないと分かったからだ。

 

 

魅音「…御影。あんたのやった事は間違いじゃないよ…。でも、それは正解じゃないんだ…」

 

圭一「どういう事だよ、魅音…?」

 

 

魅音は、悟史と沙都子が虐待されていた時に、村が児童相談所に通報した事があるのを話した。

 

しかし、以前に『沙都子が、沙都子の母親が再婚した後、その父親を追い出す為に嘘の通報を繰り返していた』事があり、相談所は事を慎重に見て『様子見』と判断を下したのだ。

 

それで終わるはずもなく、叔父夫婦は監視のない所で悟史と沙都子に対して、それまで以上の暴行・虐待を行ったと。

 

 

魅音「分かった!?相談所が、今動いても良い結果にはならない!それどころか、沙都子を追い詰めてしまうんだよ!!明確な証拠がない限りね…」

 

圭一「そんな…。じゃあ…どうすれば良いんだよ…」

 

魅音「…奇跡を待つしかないんだよ」

 

 

クラスは、魅音の言葉にしんと静まり返った。

 

.

.

.

 

放課後。

 

圭一は、御影と帰宅していた。

 

圭一は、どうしても沙都子を救いたかった。

 

しかし、魅音・レナ・梨花は完全に諦めていた。

 

 

「奇跡を待つしかない」「私達は無力だ」としか言わなかった。

 

 

唯一、御影だけは違った。

 

 

「奇跡みたいなオカルトある訳ないじゃん」と鼻で笑っていたが、誰もそれに反応しなかった。

 

 

圭一は、御影しか相談する相手が居なかった。

 

 

圭一「御影…。沙都子の事、諦めてないよな…?」

 

御影「当たり前でしょ!僕は、皆みたいに奇跡なんてオカルト信じないよ!」

 

圭一「じゃあ…どうすれば良いと思う?」

 

 

御影は、発想と行動が早い。

 

昨日の御影の行動もそうだけど、彼の行動があったからこそ沙都子の叔父という存在にいち早く気づけた。

 

そして、詳しい事情を知らなかったとはいえ、その日に児童相談所に通報するという行動も起こしていた。

 

 

御影「案はあるけど、話すと気を悪くするかもしれないけど良いかい?」

 

圭一「何でも良い、沙都子を救えるなら教えてくれ…」

 

 

圭一は、藁にも掴む思いで聞いた。

 

 

御影「沙都子ちゃんの叔父とかいうオッサンを、五年目のオヤシロさまの祟りで消しちゃうんだよ」

 

 

圭一は驚いた。

 

つまり、今年の犠牲者として沙都子の叔父を殺すという事だ。

 

 

御影「綿流しって、毎年一人は死んで一人は消える風習があるじゃない?それに便乗して消しちゃえば納得してくれるよ!あんなオッサン、死んだって、消えたって、誰も警察に捜査協力してくれる訳ないでしょ?」

 

圭一「それをやれば…沙都子は助かるのか…?」

 

御影「やって見なきゃ判らないさ!でも放置してると、村の人同様に沙都子ちゃんを『裏切り者』として扱ってるのと同じだよ!」

 

 

圭一は悩んでいた。

 

沙都子の叔父を殺して自分が捕まった時に、本当に元の日常に戻るのかという事に。

 

 

御影「大丈夫だって。捕まるのが嫌だったら、園崎家の力を借りれば良いんだよ」

 

圭一「なんで、魅音の家の話が出るんだよ…」

 

御影「オヤシロさまの祟りって園崎家の仕業なんでしょ?そうじゃなきゃ、こんな連続怪死事件が起こるはずもないし」

 

 

御影の言葉には不思議と説得力があった。

 

圭一は、御影の案に乗るべきか乗らざるべきかを考えていた。

 

 

御影「僕は、こっちだからお別れだね。今日も沙都子ちゃんを救う為に色々やるよ!やらない善よりやる偽善ってね!」

 

 

御影は、そう言って早足で帰って行った。

 

 

 



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【祟騙し編⑥】

6月15日(水)

 

 

沙都子が、学校を登校した。

 

しかし、表情は虚ろだった。

 

クラス一同は、驚きながらも沙都子の安否を確認していた。

 

御影が登校して、沙都子の姿の確認してから上機嫌に話し始めた。

 

 

御影「沙都子ちゃん!久しぶりだね!」

 

沙都子「皆さん、大げさですわ…。たった二日休んだ程度で…」

 

御影「僕も二日間大変だったよ!なんせ、二日連続で児童相談所に連絡してたんだからね!でも、沙都子ちゃんがこうして登校しているって事は無事救われたって事なんでしょ?」

 

沙都子「…御影さんの仕業でしたのね。お生憎様ですが、叔父様とは仲が良いんですの…。だから、児童相談所の人なんて追い返しましたわ…」

 

 

クラス一同は驚いた。

 

沙都子は、御影が呼んだ児童相談所の人達を追い返していた。

 

 

御影「あれ、そうなの?じゃあ、今日も通報しとくから、今度はちゃんと話すんだよ。僕の家の電話料だってバカにはならないんだからさ」

 

 

魅音は、御影を力強く掴み人気のない廊下まで無理やり連れ出した。

 

 

魅音「御影!!昨日の話、聞いてたよね!?余計な事はするなって言ったはずだけど!!」

 

 

魅音は、激怒して御影を攻め立てた。

 

御影は、怯える事なく答えた。

 

 

御影「ごめんね、僕って長い話は嫌いなんだ。魅音ちゃんが何か話したと思ったけど、右の耳穴から左の耳穴に流れちゃって、全然覚えてないんだ」

 

魅音「次、余計な事したら…あんたを殺すよ!!」

 

御影「うひゃー!…って事は、五年目の祟りは僕と沙都子ちゃんの叔父さんになっちゃうって事かー!」

 

 

魅音は、御影を突き飛ばして教室に戻って行った。

 

.

.

.

 

放課後。

 

沙都子は、すぐさま帰る支度をしている。

 

 

御影「じゃあね~、沙都子ちゃん。今日も児童相談所に通報しとくから、今度はちゃんと話すんだよ~」

 

 

沙都子は、御影の言葉を無視した。

 

魅音は、ヘラヘラ笑う御影を殺意を込めた目で睨んでいた。

 

 

圭一「魅音、帰りにお前の家寄っても良いか?話がある」

 

 

圭一は、真面目な顔で魅音に言った。

 

魅音は了承し、圭一を家に招き入れた。

 

 

魅音「で、なんの話かな?」

 

圭一「こんなお願いは理不尽だと思ってる…。不快だったら忘れてくれて構わない…。沙都子の叔父をオヤシロさまの祟りで消してくれないか…」

 

 

しばらくの間、沈黙があった。

 

 

魅音「ハハッ…。何処で、そんな話聞いたのかな…?御影が圭ちゃんに何か吹き込んだのかな…?」

 

 

魅音は、笑いながらも強く拳を握り締めている。

 

 

圭一「御影は関係ない…。俺に出来る事なら、何でもやるから沙都子の叔父を…」

 

魅音「待って、圭ちゃん。言いたい事は分かるよ。アタシも五年目の祟りで沙都子の叔父が消えて欲しいと心底思っている。でも、園崎家はオヤシロさまの祟りとは無関係なんだよ…」

 

 

魅音は、毎年起こる事件が園崎家とはなんの関係ない事を圭一に話した。

 

その話を聞いて、圭一はトボトボと帰宅する事しか出来なかった。

 

.

.

.

 

6月16日(木)

 

 

沙都子が、学校に登校した。

 

昨日以上に虚ろな表情だった。

 

それに一言も喋らなかった。

 

 

御影「グッドモーニング!」

 

 

登校した御影は、大声を出して現れた。

 

御影は、沙都子に近寄って言った。

 

 

御影「沙都子ちゃん、また児童相談所の人を追い返したんだって?このままじゃ、オオカミ少年扱いだよ」

 

沙都子「…いい加減にしてくれませんか、御影さん。これ以上、私達の家庭に首を突っ込むなら…本当に警察に通報しますわよ…」

 

御影「そんな~。この歳で前科なんか付きたくないよ~」

 

 

無言な沙都子は、御影に対してだけは悪態とはいえ話している。

 

それが、沙都子の声を聞く唯一の瞬間だった。

 

圭一は、そんな沙都子を元気づける為に沙都子の頭を撫でた。

 

その瞬間、圭一は沙都子に突き飛ばされた。

 

 

 



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【祟騙し編⑦】

圭一「ど、どうした、沙都子…?お前、頭撫でられるの…嫌いだったか…?」

 

沙都子「あ…あ…」

 

 

沙都子は、焦点の定まらない目をして両手で頭を押さえて叫んだ。

 

 

沙都子「あああぁぁ…!!嫌ぁ…!嫌ぁあああ!!」

 

 

沙都子は、物を辺り構わず投げ、覚束ない足で教室の隅に逃げ、怯える様にカーテンの束にしがみ付き謝り続けた。

 

 

沙都子「ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

 

圭一「さ、沙都子どうしたんだ…!」

 

 

圭一は、沙都子の急変に何が起こったのか理解出来なかった。

 

魅音が、御影を渾身の力で掴み、鬼の様な形相で言い放った。

 

 

魅音「御影!!これが、あんたの仕出かした結果だよ!!あんたの所為で沙都子が…!沙都子が…!!」

 

 

御影は、それに対して言った。

 

 

御影「魅音ちゃん。それは、お門違いだよ。僕は、沙都子ちゃんを助けようとしたんだ。でも沙都子ちゃんは、僕の救いに手を延ばさなかった。これは、沙都子ちゃんが望んだ結末なんだよ」

 

 

御影がそう言うと、魅音は御影を握り拳で思いっきりぶん殴った。

 

御影は、教室に派手に転がり、机と椅子に強打して用具と散乱して倒れ、クラス一同が騒ぎ始めた。

 

 

レナ「皆黙って!!…沙都子ちゃん、ごめんね…ごめんね…。無力な私達を…許して…」

 

 

レナは、優しく包む様に沙都子を抱きしめて泣きながら謝った。

 

騒ぎに気付いて知恵先生がやって来た。

 

 

知恵先生「これは…一体何事です!?何があったんですか!?」

 

 

すると、御影がよろよろと起き上がって知恵先生に言った。

 

 

御影「ごめんなさい、知恵先生。僕が、沙都子ちゃんをからかったら大泣きしちゃったんです。そしたら、魅音ちゃんに殴られちゃってね。そうだよね?沙都子ちゃん」

 

 

沙都子は、御影の言葉に気付くと涙を拭いて言った。

 

 

沙都子「そ、そうですわよ。御影さんったら、酷い事を言うんですの…!私も傷付いて泣いてしまわれたから…魅音さんが怒るのも無理はないですわ…!」

 

知恵先生「…事情はわかりました。夜白君、職員室に来なさい」

 

 

御影は、知恵先生に職員室へ連れて行かれた。

 

 

沙都子「ホホ…。御影さんったら…ザマァないですわ…」

 

 

沙都子は笑顔でそう言ったが、クラス一同には痛々しい思いしか残らなかった。

 

その日、御影は授業に出なかった。

 

職員室で長い説教を受けたのか、保健室で傷の手当てを受けているのかは判らなかった。

 

.

.

.

 

放課後。

 

圭一は、御影を校門で待っていた。

 

全員が下校し、辺りが暗くなり始めた頃に御影は出て来た。

 

 

御影「あれ!?圭一君じゃないか!?どうしたんだい、こんな時間にこんな所で!?」

 

 

御影は、顔に包帯、片手にギブスをしていた。

 

 

圭一「大丈夫か…?その怪我…」

 

 

圭一は、御影の怪我の具合に驚いて尋ねた。

 

 

御影「大丈夫だって!全治二週間程度の怪我だよ!お医者さんに言われたよ~、若いんだから、もっと運動して体鍛えとけってさ。僕に運動能力なんか期待しても無駄なのに、酷いよね~!」

 

 

圭一は、そんな御影を心配して一緒に下校した。

 

 

圭一「魅音が言ってたけど…。毎日、児童相談所に電話してたんだってな…」

 

御影「そうだよ!毎日、四六時中電話してたんだ!なのに、沙都子ちゃんったら追い返しちゃうんだもん!僕も意地を張り過ぎた所為かもね。それに対抗して一日に何度も通報してやったんだ」

 

 

魅音は、御影による度が過ぎた悪戯と解釈した。

 

圭一も、実際そう思った。

 

しかし、今日の沙都子を思い出して気が付いた。

 

沙都子の壊れるタイムリミットは存在していた。

 

もし、御影が通報を止めてもそのタイムリミットがいずれやって来て、沙都子は壊れてしまったのではないかと思った。

 

 

御影「ここでお別れだね!大丈夫だよ、口さえあれば児童相談所に通報出来るからね!そんな気を落とさないでよ!」

 

圭一「え…?お前、まだ通報するのか…?」

 

御影「何言ってるの!?沙都子ちゃんはまだ助かってないんだよ!沙都子ちゃんに止められようが、魅音ちゃんに毎日殴られようが、両腕の骨が折れようが、僕は通報し続けるよ!」

 

 

御影は、圭一と別れて早足で帰宅した。

 

 

 



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【祟騙し編⑧】

6月17日(金)

 

 

沙都子が、学校を休んだ。

 

クラス一同は、それが当たり前かの様に特に変わった事はしなかった。

 

 

御影「おはよう、皆!」

 

 

クラス一同は、御影の姿にギョっとした。

 

しかし、その挨拶に返す者はいなかった。

 

 

御影「沙都子ちゃんは休みか。なーんだ、僕も休めば良かったかな?」

 

 

魅音は、御影に迫って言った。

 

 

魅音「まさか…昨日も児童相談所に通報したんじゃないでしょうね…?」

 

 

魅音の目には、怒りと殺意しかなかった。

 

 

御影「いやいや、昨日の事で懲りたよ!二度と児童相談所には電話しないよ!もし約束を破ったら、僕を綿流しにして構わないよ」

 

 

魅音は、その言葉を聞くと席に戻った。

 

.

.

.

 

放課後。

 

この時期になると祭りの準備で動いてる者が多々居る。

 

御影は、怪我の具合から準備に参加する事は出来ない。

 

圭一は、御影の看病を理由に祭りの準備に参加しなかった。

 

 

圭一「御影…。昨日は児童相談所に通報しなかったのか…?」

 

 

圭一は尋ねた。

 

御影の性格なら、帰宅後に速攻で通報してもおかしくないと思ったからだ。

 

 

御影「勿論、通報したよ!でも、魅音ちゃんにそれを言うと、喉元を潰されるか、監禁されるかのどっちかされて、オヤシロさまの祟りになっちゃうでしょ!?確かに、オヤシロさまの祟りに遭いたいって常日頃から言ってるけど、沙都子ちゃんを放って死ねる訳ないじゃないか!」

 

 

圭一は、少し安堵した。

 

御影はいつもの御影だった。

 

御影がどんな方法であれ、沙都子を救おうと懸命に闘っている。

 

 

圭一「俺も児童相談所に通報した方が良いのかな…」

 

 

圭一が、ポツリと言った。

 

圭一は、沙都子を救いたいと思っているが、その方法を見つける事が出来ないでいた。

 

 

御影「圭一君は止めといた方が良いよ!もし魅音ちゃんにバレたら、僕と圭一君とでオヤシロさまの祟りにされちゃうよ!僕は消されても別に良いけど、友達である圭一君まで巻き添えに出来ないよ!」

 

 

圭一は思い出した。

 

 

『オヤシロさまの祟り』

 

 

以前、御影の話にも出た案であり、行動を躊躇していた方法だ。

 

最初は、自分が犠牲になる事で沙都子を救う事が正しいか悩んでいた。

 

しかし、御影は自分を犠牲にしながら闘い続けている。

 

だが、沙都子の心は壊れてしまった。

 

もはや、圭一は手段を問わず一刻も早く沙都子を救いたいと考えていた。

 

圭一は、御影の発想力と行動力を評価している。

 

もし御影ならどうやって沙都子の叔父を殺すのかを圭一は尋ねた。

 

 

圭一「…もし仮にだけど、沙都子の叔父を殺すならどんな風に殺す?」

 

御影「そうだなぁ…。僕は体格的にも現状的にも、真正面から勝てる手段がないから毒殺かな」

 

圭一「ど、毒殺!?」

 

御影「沙都子ちゃんの作ったご飯に毒を入れて殺すんだよ。それなら簡単に殺せるし、沙都子ちゃんが捕まっても正当防衛が主張出来ると思うんだ。毒は入江診療所に行けば、それっぽいのがあるでしょ」

 

 

御影の言う通りだった。

 

相手は暴力に長けているガタイの良い大人。

 

毒殺であれば、相手を一瞬に死に至らせればそれで終わりだ。

 

そして、特定犯を掴めない点では完全犯罪に近い物がある。

 

しかし、この方法は問題がある。

 

まず、沙都子が容疑者として捕まる点だ。

 

この完全犯罪は『犯人が不明』ではなく『犯人を別人に仕立て上げる』という点にある。

 

次に、沙都子の料理に毒を混入する点だ。

 

沙都子の料理に毒を入れる事は、沙都子への冒涜にすぎない。

 

そして、沙都子の料理を見る度にその事を思い出してしまうのはどうしても嫌だった。

 

 

圭一「言い方が悪かった!『ある程度、運動が出来る奴』がやった場合、どんな方法が良いと思う?勿論、誰にも迷惑を掛けない完全犯罪とかが理想なんだけど…」

 

 

御影は、少し悩んでから答えを出した。

 

 

御影「人目の付かない時間に外に呼び出して、呼び出した先で殺してから雑木林の地面奥深くに埋めるかな。鬼ヶ淵沼は如何にもって感じで危ないからね。でも、死体を埋める穴は相当深く掘らないと野良犬が掘り起こしちゃうから注意しないとね!」

 

圭一「それが完全犯罪なのか…?」

 

御影「事件ってのはね、死体が発見されて初めて事件になるんだよ。それに行方不明になっても誰かが届け出ないと捜索しないし、沙都子ちゃんの育児ほったらかして逃げる様なオッサンに気を掛ける様な人が誰か居ると思う?」

 

 

圭一は、その説明に納得した。

 

この方法なら、沙都子に迷惑を掛けずに叔父を殺す事が出来る。

 

御影が沙都子の叔父が消えたと知っても、圭一が殺したという証拠がない。

 

そもそも、沙都子を救う為にこんな状態になっている御影が、圭一を警察に売るとは思わなかった。

 

 

圭一「すげえよ…御影…。お前、よくそんな事を思い付けるな…!」

 

 

圭一は自らの手で沙都子の叔父を殺す事を決心した。

 

 

 



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【祟騙し編⑨】

6月18日(土)

 

 

沙都子が、学校を休んだ。

 

重苦しい雰囲気が教室を覆っている。

 

 

御影「沙都子ちゃんの不登校ぶりは困るよね~。僕もクラスから迫害されてる様な気がするけど、こうして登校してるんだからさ~」

 

 

誰も何も返さない。

 

 

御影「綿流しの祭りの日は豪雨注意報があるんだって。圭一君知ってた?」

 

圭一「…ん?わりぃ。なんだって?」

 

 

圭一は、沙都子の叔父を殺す段取りを考えていた。

 

 

御影「酷いよ!圭一君は、唯一無二の友達と思っていたのに!」

 

 

圭一は、御影が叫んだので謝った。

 

 

圭一「す、すまん!そうだ、祭りの時は俺が奢ってやるよ!な、それで勘弁してくれよ!」

 

 

御影の表情が笑顔になった。

 

 

御影「本当!?やっぱり、持つべきものは友だよね!」

 

 

放課後。

 

圭一は、この犯行計画を実行する為に一人で下校した。

 

御影にも協力して欲しいと思ったが、御影が負っている怪我の状況を考えると不可能に近かった。

 

それでも、御影は圭一に知識を与えてくれた。

 

圭一は、それだけでも御影に多大な感謝をしていた。

 

犯行場所を決め、その近くにシャベルで大穴を掘り始めた。

 

幾度となく挫折しかけたが、沙都子の状況を考えると止める事は出来なかった。

 

御影は危険を顧みず児童相談所の通報を続けているのに、状況は一向に好転しない。

 

もはや、自分にしかこの状況を打開出来ないと圭一は確信した。

 

圭一は、この犯行準備を出来る限りの時間を使って行った。

 

.

.

.

 

6月19日(日)

 

 

綿流しの祭り当日。

 

圭一は、御影に電話した。

 

 

御影「やぁ、圭一君!何の用だい?今になって『奢るのなし』なんて言わないでよね!」

 

 

そういえば、そういう約束をしていたなと思い出した。

 

圭一が祭りに来ないと知ったら、御影はきっと問い詰めて来るであろう。

 

だから、御影には自分が祭りに行けない事を伏せて、沙都子をあの家から出す様に仕向けないといけない。

 

 

圭一「いや…お願いがあるんだ。沙都子を祭りに誘ってくれないかな…?」

 

御影「…良いけど、なんで僕に頼むんだい?」

 

圭一「今の沙都子って…お前としか話さないだろ?他の皆は声掛け辛いって言うし…。お前にしか頼れないんだ…」

 

 

少しの沈黙。

 

 

御影「分かったよ!圭一君のお願いじゃ断り切れないね!何がなんでも沙都子ちゃんを祭りに連れて来るよ!」

 

 

電話は切れた。

 

圭一は、すぐに次の準備に取り掛かった。

 

沙都子の叔父を電話で外に呼び出す事に成功した。

 

雑木林の道でバットを持って襲い殺し、用意してあった穴に死体を放り込み埋めた。

 

何事もなく帰宅する事が出来た。

 

全ては計画通りだった。

 

『予定外の事態』も『予想外のアクシデント』もなかった。

 

圭一は、御影に対して『自分が祭りに来れなかった言い訳』を考えながら床の間に付いた。

 

.

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6月20日(月)

 

 

圭一は遅刻した。

 

全てが終わり、平和な日常を取り戻したという思いの所為か、緊張の糸が切れたのである。

 

登校すると、沙都子と御影の席は空席だった。

 

圭一は疑問に思ったが、御影に対する言い訳が思い付かなかったので少し安心した。

 

休み時間、魅音に話を聞いた。

 

 

圭一「なぁ、沙都子と御影。今日はどうしたんだ?」

 

 

すると、魅音がとんでもない返答をした。

 

 

魅音「御影なら警察に捕まったよ」

 

 

 



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【祟騙し編⑩】

圭一「け、警察!?なんで!?」

 

 

圭一は、大声を上げた。

 

クラス一同が反応し、圭一の方を注目した。

 

 

魅音「シッ!後で話すから!」

 

 

魅音は、圭一に昼休みに話すと約束したが、圭一は考えていた。

 

まさか、叔父殺しがバレた!?

 

でも、発見から犯人逮捕までのスピードが速すぎる!

 

それに、なぜ御影が容疑者として捕まったのか?

 

様々な事が頭の中を駆け巡っていたが、答えは出なかった。

 

.

.

.

 

昼休み。

 

圭一は昼食を食べる前に、魅音を校舎裏に連れ出して話を聞こうとした。

 

 

圭一「教えてくれ、魅音!何があったんだ!?」

 

魅音「あいつ、アタシが何度も言ったにも関わらず児童相談所に通報し続けてたらしいんだよ。それも毎日で一日に何回も」

 

 

知っている。

 

そこから、どうして逮捕になったのかが知りたいのだ。

 

 

魅音「それのやり過ぎで沙都子と児童相談所から何回も警告されてたんだよ。これ以上続けるなら、悪質な悪戯として警察に通報するって。それなのに、昨日までずっと態度を改めないで通報してたから、とうとう堪忍袋の緒が切れたって事」

 

圭一「そ、そんな…」

 

 

圭一は嘆いた。

 

沙都子の叔父を殺したのに、御影が今になって警察に捕まってしまった。

 

 

魅音「まぁ、自業自得なんじゃない?アタシだって警告したのに、止めないんだから」

 

圭一「そ、そんな言い方…。御影は御影なりに、沙都子を救おうとしてたんじゃないか…」

 

魅音「…圭ちゃん、やけに御影の肩もつね。まさか、あいつが児童相談所に通報続けてたの知ってたんじゃないの?」

 

 

圭一は、その言葉にドキリとした。

 

もし、自分が御影を止めてないと知ったら同罪だと、魅音は思うだろう。

 

 

圭一「し、知らねぇよ…。俺だって、そんな話初めて聞いたんだから!それに沙都子はどうしたんだよ!?」

 

 

圭一は、御影の事に関してボロが出る前に沙都子の話題を上げた。

 

 

魅音「はぁ!?沙都子は『いつもの休み』に決まってるでしょ!圭ちゃん、何言ってるの!?」

 

 

圭一は絶句した。

 

 

魅音「御影の話は、皆には言わないでよ。他の子達だって騒ぎ始めちゃうから」

 

 

魅音は立ち去り、圭一は屈して地面を見るしかなかった。

 

.

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.

 

圭一は、昼食から午後の授業の間をどう過ごしたか覚えてない。

 

気が付けば、放課後だった。

 

誰に何を相談して良いか判らなかった。

 

ふら付く足で歩いていると、北条の家に辿り着いた。

 

自分がなぜここに来たのか分からなかった。

 

せめて、沙都子の様子を見ようとチャイムを鳴らすが、返事はない。

 

戸に触れると鍵は掛かってなかった。

 

圭一は、家に入った。

 

叔父が生きていようが死んでいようが、せめて沙都子の安否を確認したかったからだ。

 

室内は、誰も居なかった。

 

耳を澄ますと、風呂場で何か音がするのが聞こえた。

 

覚悟を決めて風呂場を空けた。

 

そこには、湯船に半身を浸かってグッタリとした全身に傷とアザを背負った沙都子が居た。

 

 

圭一「さ、沙都子!?」

 

 

圭一は、沙都子を急いで湯船から出し、少しずつ冷やしながら呼び続けた。

 

しかし、沙都子は目を覚まさなかった。

 

圭一は、急いで救急車を呼んだ。

 

救急隊員によると、沙都子は意識不明の重体ですぐさま病院に運ばれた。

 

 

圭一「どうして…どうして…こんな事に…」

 

 

圭一は、泣き続けるしかなかった。

 

.

.

.

.

.

 

昭和58年6月22日未明。

 

鹿骨市雛見沢村で、広域災害が発生。

 

雛見沢地区水源地の一つ、鬼ヶ淵沼より火山性ガスが噴出し、村内全域を覆った。

 

周辺自治体から約60万人が避難する空前の大災害となった。

 

雛見沢村内では、生存者は確認されていない。

 

また本件と直接的な関係があるかは不明だが、20日早朝に逮捕された夜白御影は、同日に警察の厳重注意のもと一時釈放となっているが、その後の行方が不明となっている。

 

それ以降の目撃情報も存在せず、大災害後も雛見沢村内にて生死が確認されないまま、今現在も行方不明扱いとなっている。

 

 

 



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【目騙し編①】

いつからこんな気持ちになったんだろう。

 

園崎詩音は考えていた。

 

北条悟史。

 

彼の存在が園崎詩音にとって必要不可欠な存在になったのは。

 

北条沙都子。

 

彼女の存在が疎ましく思ったのは。

 

詩音は、悟史の失踪以降、あらゆる手で彼の行方を探した。

 

今も手掛かりを見つける為に鷹野三四から受け取ったスクラップ帳を見ている。

 

 

鷹野「あなた、鬼ヶ淵伝説に興味があるんでしょう?このスクラップ帳、貸して上げる。でも壊したり失くしたりしないでね。作り直すのって結構大変なのよ」

 

 

中身は、ゴシップ記事や鷹野が想像して作った話など、見る人が見れば質の悪いオカルト小説みたいな物ばかりだ。

 

それでも詩音は、この中に北条悟史の失踪の手掛かりがあるかもしれないと思って必死に熟読していた。

 

.

.

.

 

6月4日(日)

 

 

詩音は、魅音と興宮の自宅マンションにて会っていた。

 

魅音は、二人の転校生、前原圭一と夜白御影について話していた。

 

魅音の話によると、前原圭一は部活に加入し、いつも他のメンバーに振り回されて面白おかしくオモチャにされているらしい。

 

対照的に、夜白御影は部活に入らず、それどころか部活メンバーとは会話が多いのも関わらず、勝負事から逃げ続けている変わった人物だと言っていた。

 

魅音は、どうすれば御影を部活に加入させられるかを詩音に相談して時間を過ごしていた。

 

.

.

.

 

6月11日(日)

 

 

魅音は、泣きながらやって来た。

 

詩音が事情を尋ねると、魅音は圭一が店長から受け取った人形をレナに渡した事を話した。

 

また、御影が魅音に対して「魅音ちゃんには、可愛い物なんて見合わない」と言った事を圭一も笑いながら同調した事に魅音は深く傷付いていた。

 

 

魅音「やり直したい…。今度は、圭ちゃんに『女の子』って判って貰える様にしたい…」

 

詩音「お姉ったら、深刻に考えすぎ~!今からでも修正可能だって!それに御影の言った事なんて気にしないでさ」

 

 

詩音は、魅音を元気付ける為に「私も圭ちゃんで実践して見るかな~?」と茶化して見せた。

 

 

魅音「ダメだよ!ダメ!!詩音、雛見沢に来たら追い返すー!!」

 

 

詩音は、魅音が慌てる様に返したのを見てクスリと笑った。

 

.

.

.

 

6月14日(火)

 

 

詩音は驚いた。

 

魅音が『詩音』の姿で泣きながら訪問して来たのである。

 

事情を聞くと、圭一に弁当を渡す為に魅音が『詩音』として出会っている所に御影と遭遇し、抱き付いて来て首筋を噛まれたという話だった。

 

そこには、今も御影の歯跡が残っている。

 

 

詩音「お姉ったら、大丈夫ですよ!これ位なら、ファンデーションで隠せますって!」

 

魅音「お願い、詩音!明日、私の代わりに学校に行って…!もしかしたら、御影が確認して来るかもしれないから…」

 

 

魅音は、詩音に泣きながらお願いして来た。

 

詩音の説得も届かず、『魅音』として登校する事になった。

 

 

 



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【目騙し編②】

詩音は『魅音』として雛見沢の学校に登校して来た。

 

魅音の説明により、あらかたの事情を理解している詩音にとって『魅音』を演じるのは難しくなかった。

 

すると、知らない人物が教室に入ってきて『魅音』に話しかけて来た。

 

 

御影「おはよう!魅音ちゃん!」

 

 

詩音は、魅音から聞いた特徴から、この人物が夜白御影だろうと判断した。

 

 

魅音(詩音)「あぁ、おはよう。御影」

 

 

間髪入れずに御影は『魅音』の首を確認して指で触って来た。

 

それに驚いて、『魅音』は御影を突き飛ばした。

 

 

魅音(詩音)「ちょ…!急に何するの、御影!」

 

御影「昨日の『詩音ちゃん』が『魅音ちゃん』じゃないかなぁ~って思って確認したかったんだ。傷跡がないって事は、詩音ちゃんにハートを届ける事が出来たんだね!!ハートと歯跡をかけてみたんだけど面白い?」

 

 

詩音は、ゾワっとした。

 

魅音から聞いた御影の話は、どれも信じがたい様な話ばかりで、嫌味を上乗せした話をした物だと思っていた。

 

これで確信した。

 

『夜白御影』は『異常』だと。

 

 

魅音(詩音)「あのさぁ、御影…。詩音、昨日の事でずっと泣いてるんだよ?『御影なんかにもう会いたくない!』って言ってるんだよ…」

 

 

嘘ではない。

 

魅音は、今も泣きながら傷跡をどうにかしたいと試行錯誤しているだろう。

 

 

御影「そっか!詩音ちゃん、ずっと僕の事を考えてくれてるんだね!『今は嫌い!』とか言っても、いつの間にか好きになっちゃうってパターンはあるし、嬉しいよ!」

 

 

何を言っても無駄だった。

 

.

.

.

 

放課後。

 

『魅音』はバイトがあると言って教室を後にした。

 

その途中、人目が付かない所で詩音に戻り、バイト先のエンジェルモートへ向かった。

 

しばらくすると、バイト先に圭一が現れた。

 

圭一は、昨日『詩音』が持ってきてくれた弁当箱を返しに来たらしい。

 

すると、背後から御影が突然現れ、詩音に抱きつこうとした。

 

 

御影「詩音ちゃん!会いたかったよー!」

 

 

スタンガンで反撃しようと思ったが、今はバイトの制服姿であり、そんな物は持っていなかった。

 

詩音は、とりあえず御影から距離を取り、圭一が御影の襟首を掴んだので、御影は詩音に触れる事は出来なかった。

 

 

詩音「え~っと、どちら様でしたっけ?変人に知り合いはいないのですけど」

 

 

詩音は、嫌味を込めて言った。

 

 

御影「酷いな~!昨日、永遠の愛を誓い合った仲じゃないか!!ほら、君の首に僕のハートが…あれ…?ない…?」

 

 

当たり前だ。

 

詩音である私が、魅音の傷を背負ってる訳がない。

 

しかし、それを言うと矛盾が発生してしまうのでこう返した。

 

 

詩音「あんな傷痕晒してバイトが出来る訳ないじゃないですか。ファンデーションで隠してるんですよ」

 

 

勿論、嘘である。

 

 

御影「そ、そんな酷いや…!うっ…うっ…」

 

 

御影は、それを聞くと泣き出した。

 

詩音は、御影に同情はしなかった。

 

 

詩音「ほーら、何処の誰か判らない変人さん。他のお客さんのご迷惑になりますから、注文しないならとっととお帰りくださ~い」

 

御影「うっ…うっ…。こうなったら、自棄食いだよ…。この大盛りスイーツセット、一つ下さい…」

 

 

詩音は追い返そうと思ったが、御影は泣きながら大盛りのスイーツセットを注文してそれを完食していた。

 

 

 



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【目騙し編③】

6月18日(土)

 

 

あの日から毎日、御影はエンジェルモートに来店していた。

 

御影は、メニューの中でも比較的高い物を注文し、自棄食いと称して次々と完食していた。

 

エンジェルモートの店長は御影を上客と言っていたが、女性店員は詩音の話を聞いて常日頃から御影の動向を注視していた。

 

詩音は「次に触れたりする素振りを見せると出禁にする」と御影を脅し、御影は店内では比較的おとなしい存在となった。

 

綿流しの前日。

 

詩音は、圭一と魅音をからかう為に綿流しの準備に顔を出していた。

 

魅音の傷は完治には至ってないが、ファンデーションで隠した事もあり、触れたりしなければバレないだろうと思った。

 

勿論、御影のとっさの奇行には注意しているが、詩音が御影に念押しの意味で釘をさしたので魅音は外に出歩ける様になった。

 

詩音は、魅音が圭一に麦茶を渡す前に麦茶を渡して魅音の反応を楽しもうと思った。

 

すると、詩音が圭一に手渡そうとした麦茶を御影が横から奪い取り大きな声で言った。

 

 

御影「ふっふっふ…。僕は分かったんだよ!なんで詩音ちゃんが振り向いてくれないかを…!それは、前原圭一君、君が居るからさ!」

 

圭一「は…?はぁあああ!?!?」

 

御影「明日、僕は君に詩音ちゃんを賭けて一騎打ちを申し込む!僕が勝ったら、君は詩音ちゃんを諦めて貰うよ!もし万が一にも君が勝ったら、僕は大人しく詩音ちゃんを諦めよう!」

 

圭一「何だそりゃあ!?」

 

 

突然、何を言い出すのかと圭一も詩音も面を食らった。

 

御影は『詩音は、圭一が好きだから自分を見ていない』と思っているらしい。

 

その言葉に少し笑ってしまった。

 

 

御影「見ててね、詩音ちゃん!僕の勇士を!」

 

詩音「わー、面白そうー!頑張ってね、圭ちゃん~」

 

 

詩音は、嫌味を込めて圭一だけを応援した。

 

そこに魅音がやって来た。

 

詩音は、麦茶を圭一に渡す魅音に現状説明をした。

 

 

詩音「お姉、圭ちゃんと何処かの誰か知らない変人さんが、私を賭けて勝負する事になったんですよ」

 

魅音「え…?ええぇぇ~~~!?」

 

 

詩音は、これはこれで面白そうだと思った。

 

 

魅音「や、止めてよ!そんな勝負!!詩音だって迷惑してるし~!」

 

詩音「あら。私は、面白そうですから賛成ですけど」

 

魅音「えぇー!?あんた、圭ちゃんが負けたら御影と付き合う事になるんだよ!?」

 

詩音「あら~?お姉は、圭ちゃんがこんな誰かも知らない変人さんに負けると思ってるんですかぁ~?」

 

 

詩音は、御影がどの位の実力を持っているかは知らなかった。

 

魅音の反応を見る限り、圭一の勝利は確信していたが、圭一と詩音が付き合うという事に関して、魅音は頭を抱えて悩んでいた。

 

そして、富竹・鷹野・大石と出会い、オヤシロさまの祟りに話が傾きそうになると、魅音は圭一を連れてこの場を去ろうとした。

 

どうやら、魅音は圭一にオヤシロさまの祟りについて話してなかったらしい。

 

詩音と富竹と鷹野は、圭一と御影にオヤシロさまの祟りの話をした。

 

圭一は、少し恐怖に飲み込まれてしまった。

 

対照的に、御影はヘラヘラ笑いながら言った。

 

 

御影「面白そうだね!僕が今年の犠牲者になったら、きっと、未来永劫語り継がれるんだろうなぁ~。『夜白御影、オヤシロさまの祟りに遭い、雛見沢の人柱になる!』ってね!僕の勇士は、ちゃんと来世に伝えておいてね!」

 

 

それに対して、富竹は苦笑いし、鷹野はクスクス笑っていた。

 

 

 



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【目騙し編④】

6月19日(日)

 

 

綿流し当日。

 

詩音は少し浮かれていた。

 

御影が言っていた、今日の勝負事。

 

もし圭一が勝てば圭一と詩音が付き合う事になり、魅音はどんな反応をするんだろうと楽しみにしていた。

 

しかし、御影は祭りに姿を現さず、奉納演舞の時間になった。

 

詩音は、圭一を誘って富竹と鷹野がいる祭具殿まで案内し、祭具殿に入った。

 

別に興味があった訳じゃない。

 

ただ面白半分に入っただけだった。

 

 

詩音「圭ちゃん。私と会った事は、お姉に内緒にしておいて下さい。お姉、嫉妬深いんです」

 

 

 

詩音は、そう言って園崎本家に帰宅した。

 

魅音の頭首、園崎お魎が今日一日だけ詩音が本家に泊る事を許し、詩音はそれに甘えた。

 

.

.

.

 

その日の夜中。

 

詩音は、ふと目が覚めた。

 

水を飲みに行こうと廊下に出ると、魅音とお魎が話していた。

 

その会話は聞き取り辛かったので、詩音はさっさとその場を後にしようとした。

 

 

『オヤシロさまの祟り』

 

 

詩音は、その言葉を聞くと歩を止めた。

 

詩音は思った。

 

今日という日、オヤシロさまの祟りが起こったのだと…。

 

その時、詩音の傍にあった廊下の黒電話が鳴り出した。

 

急いでこの場を離れようとした詩音は、暗闇から魅音に掴まれた。

 

.

.

.

 

魅音は、詩音の襟首を片手で掴みながら、電話にでた。

 

 

「魅音です…。…わかりました。そちらの対応はお願いします。…それから、一切の口封じを宜しくお願いします。…えぇ。…えぇ」

 

 

詩音からは、電話の相手が何を言っているか聞こえなかった。

 

ただ、魅音の口ぶりから只ならぬ事態である事は理解出来た。

 

 

魅音「…聞いてた?」

 

 

魅音は、詩音に背を向けたまま話し掛けた。

 

 

詩音「ハハッ…、何の事か分からない…」

 

 

魅音は、詩音を強引に引っ張り、詩音に自分の顔を近づけて言った。

 

 

魅音「聞こえた通りです。富竹さんと鷹野さんがオヤシロさまの祟りに遭われました。本当にお気の毒な事です」

 

 

魅音は、鋭い目付きで淡々と説明した。

 

 

詩音「お姉…。何を…」

 

魅音「富竹さんは、自らの手で喉を掻き毟ってお亡くなりになりました。鷹野さんは、遠くの山奥でドラム缶に詰められて焼き殺された様です」

 

詩音「な、何それ…何で、そんな死に方…!?」

 

魅音「分かりませんか、詩音?理由なんて一つしかないじゃないですか…」

 

詩音「な…何の理由かな…?」

 

魅音「オヤシロさまの祟り…!」

 

 

魅音は、そう言うと同時に気を失って倒れた。

 

詩音が、魅音にスタンガンを当てたのである。

 

 

詩音「悟史君…。やっと、私…分かったよ。やっぱり、全て園崎本家の仕業だって事…。悟史君の無念は、きっと私が晴らすから…!私は、悟史君みたいに殺されないから…!」

 

 

覚悟した詩音は、お魎にも背後からスタンガンを当て、気絶した二人を園崎家の地下牢へと連れて行った。

 

.

.

.

 

詩音は、魅音とお魎から真実を聞く為に二人を問い詰めた。

 

しかし、お魎はスタンガンのショックで死んでしまい、魅音は「何も知らない」の一点張りだった。

 

やむをえず、詩音は『魅音』として動き出し、『北条悟史の手掛かり』を探し始めた。

 

 

 



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【目騙し編⑤】

6月20日(月)

 

 

圭一は、知恵先生に怒られ、外の流しで顔を洗っていた。

 

詩音はチャンスだと思い、圭一に揺さぶりを掛けようと思った時だった。

 

 

御影「やぁ、圭一君。今日は眠たそうだね!」

 

 

御影が何処からともなく現れて、圭一に話し掛けた。

 

詩音は舌打ちした。

 

圭一と接触するチャンスを失ったからだ。

 

二人の様子を見ていると、御影が何やら妙な事を話し始めた。

 

 

御影「皆が変な『噂』をしてるんだよ!圭一君と詩音ちゃんが、梨花ちゃんの奉納演舞を行っている最中に抜け出して何か悪い事をやっていたって!それが事実かどうか、こうして尋ねてるんだ!」

 

 

詩音は驚いた。

 

御影の『噂』は完全に嘘だが、中身は真実である。

 

詩音は、御影がどうやってその事実を知り得たのかは分からなかった。

 

聞くところによると、御影は祭りの間、一人でゴミ山に居たらしいがその真意は不明だった。

 

詩音は『御影は、昨晩の圭一と詩音の行動を知っている』のではないかと思い始めた。

 

詩音は、御影の生み出した嘘の『噂』を利用する作戦を思い付いた。

 

.

.

.

 

詩音は『魅音』として村の会合に出席し、御影の生み出した嘘の『噂』を役員会に広めて、本当の『噂』にした。

 

詩音は、会合の直後に公由村長を園崎家に招き、隙を見てスタンガンを当て、地下牢に連れて来た。

 

公由村長は、お魎と立場がもっとも近く仲が良い。

 

詩音は、公由村長を問い詰めた。

 

答えは、魅音と同じで「何も知らない」だった。

 

.

.

.

 

詩音は、圭一に『詩音』として電話を掛けた。

 

圭一は、詩音に御影の話した『噂』の真偽を聞いた。

 

詩音は驚いた。

 

御影が『圭一と詩音の行動』だけではなく『富竹と鷹野の行動』『二人がオヤシロさまの祟りに遭った事』『その死因』まで知っていた。

 

詩音は、御影をただの変人の異常者だと思っていたが、考えを改め直した。

 

そもそも、オヤシロさまの祟りは捜査秘匿が掛かっているので一般の人間がその情報を知る事は出来ない。

 

しかし、御影の語った『噂』は真実である。

 

詩音は、御影に対してこれまでは違う警戒心を抱いた。

 

しかし、今は圭一を襲う敵を捕まえる事を第一にしていた。

 

そのために、圭一に警戒心を抱かせ、圭一を囮に敵を見つけようとしていた。

 

詩音は、圭一に『御影の言葉は全て本当の事』だと言った。

 

.

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.

 

詩音は、御影の正体をいち早く知る為に再び地下牢に向かい魅音に尋ねた。

 

 

詩音「魅音、あの夜白御影って何者?まさか、あいつが鬼婆の共犯なんてないでしょうね?」

 

 

魅音は、急に御影の名前が出て驚いた。

 

理由は分からないが、詩音が御影の事を知りたがっている。

 

魅音は、知っている限りの情報を語った。

 

 

魅音「判らない…。御影は、天涯孤独って言ってたけど何処から来たかも言ってないんだ…。それに、御影が婆っちゃと仲が良いなんて考えられない。婆っちゃは一度会ってたけど、それ以来会うのを拒絶してたんだ…」

 

詩音「へぇ~、あの鬼婆と面識があったんだ。ただ者じゃないと思ったけど少し驚きね。で、何があったの?」

 

魅音「この前、引っ越しの挨拶に来たらしいんだ…。その時、私は不在だったから何があったのか分からない…。帰ってみると、ヘラヘラ笑いながら園崎家から逃げる御影と激怒した婆っちゃが居たんだ…。だから、あの二人が繋がってるなんて有り得ないよ!」

 

詩音「ふぅ~ん。確かに、あいつなら鬼婆を怒らせそうな事しそうだしね」

 

魅音の説明に納得した。

 

御影の性格をお魎が受け入れられるはずがないという事に。

 

だからと言って、御影が事件に関係ないとは言い切れない。

 

詩音は、近い内に御影を拉致する事を決めた。

 

 

 



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【目騙し編⑥】

6月21日(火)

 

 

放課後。

 

詩音は、すぐさま御影を拉致しようとした。

 

しかし、御影は不在であり、決行を夜中にする事を決めた。

 

その準備をしていると、梨花が醤油を貰いに来た。

 

詩音は、手早く済まそうと梨花を台所に案内した。

 

醤油の準備をしていると、梨花が催涙スプレーと注射器を持って詩音を襲った。

 

詩音は、スタンガンで応戦して梨花の持っている注射器を奪い取り、梨花の腕に刺した。

 

梨花は、やがて体の自由が利かなくなり悶え始めた。

 

 

梨花「あんたの拷問の趣味に付き合う気はない…!」

 

 

そう言うと、台所にあった包丁を自らに突き刺し絶命した。

 

梨花が襲ってきた動機は分からないが、詩音は『不味い』と思った。

 

このままでは、同居している沙都子が梨花の帰りが遅いと不審がるのは明白だった。

 

詩音は、沙都子に電話して「梨花ちゃんと二人で夕食を食べている。沙都子もおいで」と嘘を吐いて、園崎家に呼び出した。

 

そして、園崎家に来た沙都子を捕らえ、詩音が背負っていた怒りと恨みを込めて沙都子を殺した。

 

.

.

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その後、詩音は圭一に電話を掛け、事のついでに御影の所在を知ろうと思った。

 

しかし、話が梨花の方面に傾いてしまい、圭一が沙都子と梨花の不在に気づいて捜索する事になった。

 

詩音は『魅音』に扮して三人と合流した。

 

 

御影「なんだよ、圭一君!僕はお風呂に入ってたのに!こんな時間に呼び出すなんて非常識じゃないか!」

 

圭一「ご、ごめん!でも急ぎなんだ…。もしかしたら、梨花ちゃんに何か遭ったかもしれないんだ!」

 

レナ「圭一君、急ごう!」

 

魅音「ほら、御影!もたもたしないで!」

 

御影「人使いが荒いなぁ。でも、魅音ちゃんとレナちゃんからシャンプーの良い香りがするから許して上げるよ」

 

 

詩音は、いち早く御影を拘束して真実を知りたかった。

 

だからこそ、この時間の呼び出しに応じて、隙あらば拉致しようと思った。

 

しかし、御影が三人の捜索の為に警察を呼んでしまったので機会を失った。

 

.

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6月22日(水)

 

 

圭一が『詩音』が行方不明という事実に辿り着いた。

 

詩音は『魅音』を演じる為に、エンジェルモートを欠勤していたが、無断欠勤が不味かったのだろう。

 

詩音にとって、御影が綿流し日以降もエンジェルモートに通い続けていたのは予想外だった。

 

だが、御影も知るだろう。

 

魅音が詩音を殺したという事に。

 

きっと、御影なら『魅音』を殺しに来るに違いない。

 

彼の『詩音に対する執着心』と『魅音に対する敵愾心』を考えると有り得ると思った。

 

詩音は、その時こそ最大のチャンスだと思った。

 

.

.

.

 

6月23日(木)

 

 

御影は、園崎本家にやって来た。

 

そこまでは、詩音の計画通りだった。

 

圭一とレナが同行したのは、予想外だった。

 

最悪でも二対一ならどうにかなったが、三対一は厳しいと思った。

 

圭一とレナが、沙都子と梨花が失踪した事件の推理を述べたが、どうでも良かった。

 

詩音は、いかに御影を捕らえるかだけを考えていた。

 

詩音は、その瞬間が来るまで時間稼ぎに徹した。

 

その為に自分が起こした事件、園崎家が起こしたか判らない事件を長々と話し続けた。

 

すると、御影が泣きながら『魅音』に掴み掛かったが、圭一とレナに取り押さえられた。

 

詩音は思った。

 

やっぱり、こいつは詩音の為に何でもするだろうと。

 

 

レナ「魅ぃちゃん、自首しよ!私達も一緒に行くよ…。これ以上…辛い姿、見たくないよ…」

 

 

詩音は、内心しめたと思った。

 

 

魅音(詩音)「そうだね…。でも、最後に圭ちゃんと二人っきりにさせてくれないかな…?」

 

 

詩音は、まず圭一を離れた場所でスタンガンで無力化させた後、レナに不意打ちをすれば御影を捕らえる事が出来ると思った。

 

 

御影「そんな我儘許さないよ!僕にも何かサービスしてよ!そうだ、さっき言ってた鬼の刺青ってやつ見せてよ!魅音ちゃんの話だと背中にあるんでしょ!?それが、詩音ちゃんを殺した僕への贖罪だと思わないかい!?」

 

 

詩音は、御影の言葉に汗を流した。

 

詩音の背中には、魅音にあるはずの刺青はない。

 

もし、それが判ってしまうと全ての嘘がバレてしまう。

 

自分が詩音だと三人にバレると、明らかに『裏』がある事までバレてしまい、下手をすれば御影に逃げられると思った。

 

詩音は、表情を読まれない為にとりあえず笑った。

 

 

魅音(詩音)「相変わらずだね、御影。本当に面白いよ」

 

御影「本当なら、詩音ちゃんの裸が見たかったのに、魅音ちゃんの裸で妥協してるんだよ!この機を失くしたら見る機会なんか無いじゃないか!」

 

 

御影は、間髪入れずに『魅音』に迫った。

 

詩音は、最後の切り札を出す事にした。

 

 

魅音(詩音)「…詩音はまだ生きているよ」

 

 

 



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【目騙し編⑦】

詩音は、この切り札を出したくなかった。

 

最後に魅音を殺し、全ての罪を『魅音』に背負わせるつもりだったから下手に会わせたくなかった。

 

しかし、御影の興味を詩音に向けさせる為には仕方がない事だった。

 

 

御影「え?本当!?詩音ちゃん生きてるの!?じゃあ、刺青なんかどうでも良いや!すぐ案内してよ!」

 

 

案の定だった。

 

しかし、圭一と二人きりになりたいと言った建前上、詩音は圭一の同行も許可しなければならなかった。

 

詩音は、レナに「待っていて欲しい」と言って、上手く『三人』を『二人』にした。

 

詩音は、圭一と腕を組む形で歩き、御影はその後ろを着いて来る形になった。

 

詩音は、ここで圭一を無力化させても、御影は逃げてしまうだろうと思い、焦る気持ちを抑えて地下牢まで案内した。

 

 

圭一「詩音、大丈夫か!?」

 

 

圭一は『詩音』に駆け寄った。

 

御影は『詩音』に駆け寄らなかった。

 

詩音は、二人同時にスタンガンで気絶させようと思ったが、御影に対してスタンガンを持っている事を悟られたくなかったので、近くにあった石で圭一の後頭部を殴りつけて気絶させた。

 

.

.

.

 

魅音(詩音)「意外ですね。せっかく、詩音に会えたのに無反応だなんて。本当に詩音の事が好きだったのですか?また、いつもの嘘なんですか?」

 

 

詩音は、御影に悪態を付いた。

 

さんざん「詩音」「詩音」と言って今になってこれ。

 

もしかしたら、奇襲される事に気が付いたかもしれない。

 

しかし、悪く言えば自分の身を案じただけの臆病者。

 

こいつの気持ちは、圭一にも悟史にも劣る。

 

詩音はそう思った。

 

 

御影「誤解しないでよ!僕が好きなのは、詩音ちゃんだよ!魅音ちゃんじゃないんだ!『詩音』ちゃん!」

 

 

詩音は、顔をしかめた。

 

今、何と言った?

 

私の事を『詩音』と言ったのか?

 

 

魅音(詩音)「はっ!私の首に傷跡はないんだよ!それに見ろ、牢屋にいるこいつの首には傷跡がある!!だから、こいつが詩音で、私は魅音なんだよ!!」

 

御影「止めてよ、詩音ちゃん!僕だって苦しいんだ!詩音ちゃんにハートを伝えたと思ったら、それが実は魅音ちゃんだったんだよ!少しは僕の気持ちも考えてよ!」

 

 

御影は、揺さぶりではなく確信を持って、詩音を『詩音』、魅音を『魅音』と呼んでいる。

 

 

詩音「なんで…判る…!?私が詩音だと…答えろ!!」

 

御影「そんなに怒らないでよ。詩音ちゃんのお願いなら何でも聞いて上げるから。最初に気付いたのは、君とエンジェルモートで出会った日だよ。あの時、詩音ちゃんはファンデーションとか言ってたけど、そんな物付けてなかったでしょ?」

 

 

詩音は、ハッとした。

 

あの日、『魅音』として動いてた詩音は、雛見沢の学校から直接エンジェルモートに向かった。

 

その為、ファンデーションは必要なかった。

 

それに、エンジェルモートに圭一と御影が来る事など完全に予想外だった。

 

 

御影「あの日の僕のショックが分かる!?連日、自棄食いもしたくなるってもんだよ!」

 

詩音「じゃあ、なぜここに居る私が『詩音』だと判った…?」

 

御影「それは、さっき確認したんだ。掴みかかった時に首に触ったんだよ」

 

詩音「へぇ…。じゃあ、なんでここに来たの?あんた、知ってたんでしょ?私が圭ちゃんを殺そうって思ってる事」

 

 

そこが最大の疑問点である。

 

御影の行動は、数々が奇行だが全てに意味があった。

 

すると、御影が答えた。

 

 

御影「詩音ちゃんと一緒に、圭一君と魅音ちゃんを殺したいからさ!」

 

詩音「は…はぁ!?」

 

御影「圭一君は、僕に内緒で詩音ちゃんと祭具殿でデートしたんだし。魅音ちゃんは、僕と詩音ちゃんを傷つけたんだよ!!拷問に掛ける位しなきゃ僕達の気が晴れないと思わない?」

 

 

すると、牢の中の魅音が御影に聞いた。

 

 

魅音「え…?何…?私が、詩音を傷つけた…?」

 

御影「そうだよ!詩音ちゃんに『魅音ちゃん』の振りまでさせて!自分は圭ちゃん、圭ちゃんって…。何それって感じだよ!魅音ちゃんは、圭一君にお弁当持って来たのが恥ずかしいからって、『詩音ちゃん』の振りまでしてさ!詩音ちゃんが、どんな気持ちか分かってんの!?自分だけ、圭一君とイチャイチャイチャイチャ…」

 

 

魅音は、その言葉に震え出した。

 

詩音は、悟史の事でずっと傷付いていた。

 

それを知ってか知らずか、魅音は詩音に自分の振りまでさせて圭一と恋愛しようとしていた。

 

それがどれほどの罪かを。

 

 

魅音「ああぁぁ…!ごめん、詩音…ごめん…」

 

 

 



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【目騙し編⑧】

魅音は、泣きながら詩音に謝り続けている。

 

詩音は、魅音の謝罪を無視した。

 

 

詩音「あんたみたいな奴でも、今の私の気持ちが分かってんだ。少しは見直したよ」

 

御影「そうだよ!まったく魅音ちゃんの所為で、僕は詩音ちゃんとラブラブ出来なかったんだからさ!」

 

 

前言撤回。

 

詩音はそう思った。

 

 

詩音「私のお願いなら、何でも聞いてくれるんだよね?」

 

御影「勿論だよ!だって愛しの詩音ちゃんのお願いだよ!」

 

 

御影は、ヘラヘラ顔で言った。

 

 

詩音「悟史君の事、教えて。あんたの知ってる事全部」

 

御影「いやだ」

 

 

御影は即答した。

 

詩音は、それに対して歯ぎしりした。

 

 

詩音「さっき、何でも教えてくれるって言ったよね?嘘だったの?」

 

御影「嘘じゃないよ!でも詩音ちゃん、自分の恋敵の事教えろって言われて喋ると思う!?」

 

 

詩音は、御影をスタンガンで気絶させて拷問に掛けてでも吐かせようと思った。

 

しかし、レナがいつ警察を呼ぶか判らない。

 

そう思った詩音は、手っ取り早い方法を思い付いた。

 

 

詩音「ここの牢屋に入って」

 

御影「うん、良いよ!」

 

 

御影は、詩音の指示に従って指示された牢屋に入った。

 

 

詩音「その穴の前に両手を挙げて立って」

 

御影「うん、良いよ!」

 

 

御影は、詩音の指示で両手を挙げ、底が見えない穴の前に立たされた。

 

 

詩音「ここは、園崎家が代々死体を処理する為に使ってる穴なの。底が見えないでしょ?」

 

御影「うん、そうだね!」

 

詩音「最後のお願い。悟史君の事、全部教えて」

 

 

詩音は、御影ならこの状況を理解しているだろうと思った。

 

逆らえば、この穴に突き落すと。

 

勿論、死は免れない。

 

 

御影「詩音ちゃん。もし悟史君が生きてたら、それでも僕と付き合ってくれる?」

 

 

詩音は、少し考えた。

 

本当の事を言うか、嘘の事を言うか。

 

しかし、これまでの騙し合いでは御影に負けている。

 

だから、詩音は嘘を吐かなかった。

 

 

詩音「無理。私は、悟史君が好きだから」

 

御影「そっか。僕は、悟史君に『負け』たんだね」

 

 

御影は、躊躇せずに穴に歩を進めた。

 

 

御影「ばいばい、詩音」

 

 

御影は、そう言って穴の奥深くに消えた。

 

 

詩音「え…」

 

 

詩音は驚いた。

 

御影が自分から穴に落ちた事ではない。

 

御影の『声』だった。

 

それは『北条悟史の声』だった。

 

なぜ、御影が『北条悟史の声』を…と考えようとした時だった。

 

刹那、詩音は悟史との言葉を思い出す。

 

 

『沙都子の事、頼むからね』

 

 

詩音は、『北条悟史の声』を聞く事で悟史に託された約束を思い出した。

 

 

詩音「あ…ぁ…」

 

 

私は、『北条悟史との約束』を何も守っていなかった…。

 

沙都子を守るどころか、怒りのままに傷つけ殺してしまった…。

 

詩音は、その事を思い出し、悔やんで、その場で泣き続けた。

 

枯れたと思っていた涙は止まる事がなかった。

 

やがて、レナが通報してやって来た警官隊により、圭一・魅音・詩音は保護された。

 

.

.

.

.

.

 

昭和58年6月。

 

容疑者は園崎詩音。

 

容疑者は、6月19日から21日までの間に雛見沢村住民五人(園崎お魎・園崎魅音・公由喜一郎・古手梨花・北条沙都子)を拉致、監禁して殺害した疑い。

 

23日午後、竜宮礼奈の通報により、園崎邸に警官隊が突入。

 

容疑者の(園崎詩音)と失踪中の(園崎魅音)とクラスメイト二名(前原圭一・竜宮礼奈)を保護した。

 

捕まった容疑者、園崎詩音の証言により園崎邸内の離れ地下にて失踪者四人(園崎お魎・公由喜一郎・古手梨花・北条沙都子)の遺体を発見。

 

しかし、同日に園崎詩音によって殺害されたと思われる夜白御影に対しては、一切の痕跡が発見されなかった。

 

容疑者(園崎詩音)、救出された(前原圭一・園崎魅音)に対してからも夜白御影による重要な証言を得る事は出来なかった。

 

 

 



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【罪騙し編①】

6月6日(月)

 

 

圭一が、学校を休んだ。

 

理由は体調不良ではなく、親戚の葬儀で雛見沢を離れないといけなかったからだ。

 

レナは、空席を寂しそうに眺めていた。

 

.

.

.

 

放課後。

 

 

魅音「部活だー!」

 

沙都子「さて、御影さん。今日こそは部活に参加して貰いますわよ!」

 

 

魅音と沙都子は、御影に対して、獲物を見つけた捕食者の様にジリジリと迫る。

 

夜白御影は、転校初日にクラスメイトと先生を騙し、クラスの中では変わった人物だと評されていた。

 

そんな御影に対して、部活メンバーは黙っていられるはずもなく連日部活に勧誘しているが、御影は部活どころか勝負事にも一切関わろうとしなかった。

 

 

魅音「おやおや~?圭ちゃんから聞いてるよ~。もう引っ越しの整理は終わってるってね!それとも何か他に断る理由があるのかな~?」

 

 

魅音は、連日御影の部活回避の『引っ越しの荷物がまだ整理してない』という理由を、圭一と一緒に整理させて終わらせる事で弁解不能の状態に持ち込んだ。

 

 

御影「空気を読んでよ、魅音ちゃん!僕の初部活は、皆が全員揃った時にやりたいんだよ!圭一君が居ない時に部活をしたら可哀想じゃないか!僕の初部活は、女の子の初めてと同じ位、大事な物なんだよ!」

 

魅音「ちょ!?皆がまだ帰ってないのに、そんな事大声で言わないでよ!」

 

御影「いいや、言うね!魅音ちゃんは、空気が読めないんだから、はっきりと大声で言うよ!僕は処女を大事に…」

 

すると、梨花に口を塞がれた。

 

 

梨花「みぃー!分かったのです!!圭一が帰って来るまで待つのです!!」

 

 

御影は、今日も部活に参加しなかった。

 

.

.

.

 

レナ「御影君、一緒に帰らない?」

 

御影「えっ!?レナちゃんが誘ってくれるの!?嬉しいな!でも、二股はだめだよ。僕と圭一君で、レナちゃんを巡って流血沙汰になりたくないからね!」

 

レナ「ち、違うよ~!レナ、御影君とお話ししたいだけなの!」

 

 

レナと御影は、一緒に下校する事となった。

 

 

レナ「ねぇ、宝探しに興味ない?」

 

御影「宝探し?」

 

レナ「そう!あのね、あのね、宝の山っていっぱい色んな物があるでしょ?その中から『かぁいいもの』を見つけるの!」

 

御影「あぁ、いつも圭一君とゴミ山でやってるやつね。僕の家が近いし、二人で何かやってたね」

 

レナ「うん!御影君もどうかな?レナ、御影君の事いっぱい知りたいし!」

 

御影「ごめんね、レナちゃん!他人のデートスポットを汚す様なマネはしたくないんだ!そこは、圭一君とレナちゃんの思い出の場所でしょ?僕なんかが踏み荒らす様な場所じゃないと思うんだ!」

 

レナ「ううん、そんなのレナ、気にしないよ!それにこれは、勝ち負け勝負じゃないんだよ?それとも、他に何か嫌な理由があるのかな?かな?」

 

御影「う~ん、あるにはあるんだけど。これ言っちゃって良いのかなぁ?」

 

レナ「大丈夫だよ!レナ、気にしないから!理由があるなら言って!」

 

御影「僕、君が嫌いなんだよね」

 

 

 



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【罪騙し編②】

一瞬、会話が止まった。

 

 

レナ「え…?」

 

御影「だから、僕は君が嫌いなんだよ」

 

レナ「ど、どうしてかな…?かな…?」

 

 

レナは、驚いた様な悲しそうな顔で御影に尋ねた。

 

 

御影「レナちゃんが、ゴミ山荒らすたんびに騒音で悩まされてるんだ。夜中なんかゴミ山が崩れる音がするんだよ。その所為で寝不足になってるんだ」

 

レナ「ご、ごめん!次から気をつけるよ…!」

 

御影「別に謝らなくていいよ!宝探しを止めろって強要してる訳じゃないんだからさ!レナちゃんが、反省してるってなら何も言わないよ!」

 

レナ「じゃ…じゃあ、レナが気をつけたら、レナの事嫌いにならない?」

 

 

レナは、恐る恐る聞いた。

 

 

御影「それはないかな~。今のは『カレーの福神漬け』って位の理由だしね。勿論、カレーと福神漬けは好きだよ!じゃないと、知恵先生に殺されちゃうからね!」

 

レナ「じゃあ、なんでレナの事嫌いなの…?」

 

御影「レナちゃん、僕達に嘘吐いてるよね?」

 

 

レナは少し動揺した。

 

 

御影「僕には、レナちゃんが『作られたキャラクター』に見えるんだよね!他の皆は、どう思ってるか知らないけど。僕は、レナちゃんの素顔を知りたいのに、そんな態度とるんだもん!嫌いになって当然だと思わない?」

 

レナ「そ、そんな事してないよ!レナは…」

 

 

その先を言おうとすると、御影はレナに追い打ちを掛ける様に言った。

 

 

御影「だって、レナちゃんのお父さん、なーんにも仕事してないんでしょ?それどころか、毎日毎日、家のお金使って遊び呆けてるって聞いたよ。僕は羨ましいと思うけど、レナちゃんの立場だったら、そんな家庭が嫌だから学校じゃあーんな作り笑いしてるんでしょ?」

 

 

その時、レナのビンタが御影を襲った。

 

 

レナ「何も知らないくせに…!お父さんの事、悪く言わないで…!!」

 

御影「気に障ったなら謝るよ、ごめんね~。まぁ、僕は君が嫌いだから宝探しには参加しないよ。でも、トイレ位なら貸して上げる。その時は遠慮なく言ってね」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながらレナと別れた。

 

.

.

.

 

6月11日(土)

 

 

あれ以降、レナは自分から御影に話し掛ける事がなくなった。

 

クラスに不審がられるのは避ける為に、御影から話し掛けられたら返す程度はしている。

 

今日は、圭一が登校している。

 

そして、欠席者は誰も居ない。

 

御影を部活に誘う絶好の機会だった。

 

 

魅音「さて、御影!今日は逃がさないよ!」

 

圭一「え?俺の居ない間、お前ら部活やってたんじゃ…?」

 

沙都子「御影さんったら、圭一さんが居ないからって部活に参加しませんでしたのよ!」

 

梨花「みぃー。下手に参加させてたら、クラスが大騒ぎだったのです」

 

 

事情を知らない圭一は、「?」と頭に浮かべていた。

 

 

御影「ちょっと待ってよ!ねぇ、レナちゃん!今日、君は大事な用があるって言ってたよね?」

 

 

レナは驚いた。

 

 

レナ「え…!?大事な用?あったっけ…?」

 

 

レナは考えるが、思い付く用事はない。

 

 

御影「本当に?今日やらないと手遅れになるって、僕と一緒に帰った時に言ってたじゃないか!本当にその用事済ませたの?部活なんかしてて大丈夫なの!?」

 

 

レナは、御影の言葉から推理する。

 

そして、自分の家庭事情の事だと推察する。

 

 

レナ「あ、そうだ!思い出した!ごめんね、レナ、ちょっと大事な用があるんだ。思い出させてくれてありがとう、御影君」

 

 

レナは、早足で教室を出て行った。

 

 

御影「残念だったね。部活は、今日もお預けみたいだ」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら教室を後にした。

 

 

沙都子「キーッ!くやしいですわー!!」

 

 

沙都子の悔し声が教室に響いた。

 

 

 



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【罪騙し編③】

御影と帰宅したあの日以来、レナは圭一が早く帰ってきて元通り部活する日々だけを期待して生活していた。

 

その為、レナは御影の言葉から逃げ続け、家の現状を確認したくなかった。

 

しかし、御影の言葉は嘘ではない事はレナも分かっていた。

 

その御影が言った。

 

『今日やらないと手遅れになる』と。

 

レナは家に帰宅した。

 

父親は留守だった。

 

レナは急いで金庫を開けて、中にある預金通帳を確認した。

 

そこには、ここ連日でもの凄い勢いで下がっている預金残高が記載されていた。

 

レナは青ざめた。

 

今日解決しないと本当に手遅れになると思い始めた。

 

.

.

.

 

深夜、レナの父親は帰宅した。

 

レナは起きていた。

 

寝る事など出来なかった。

 

 

レナの父親「おい、礼奈。何時だと思ってるんだ?明日が休みだからってこんな時間まで起きてちゃダメだろ」

 

 

レナは真っ直ぐな目で父親に言った。

 

 

レナ「お父さん。私、預金通帳見たよ。お願い!もうお金を無駄に使うのを止めて!!」

 

 

レナの父親はビクっとした。

 

 

レナの父親「良いだろ?まだお金はあるんだし…。それにお父さん、間宮リナさんと結婚するんだ。大丈夫だって」

 

 

『だから不味い』

 

 

レナはそう思った。

 

出費の原因のほとんどは、そのリナに対する貢物が原因だった。

 

このまま散財していけば、一年も持たずに破産するのは目に見えている。

 

 

レナ「お願い!お父さん!!レナもお父さんを甘やかして放って置いたのは謝るよ!!だから、考え直して!!このままじゃ…お父さん、ダメになっちゃうよ…」

 

 

レナは泣いて後悔した。

 

母親の浮気の所為で離婚した父親の傷付いた心を直すには、父親の自由にさせたい事をさせるべきだとレナは思った。

 

それが良くも悪くもレナは父親が回復するならそれが正しい事だと思った。

 

しかし、それは間違いだった。

 

傷が深くなろうとレナは父親と二人一緒に少しずつ歩むべきだったと…今になって理解した。

 

これは、レナが家族から目を背けて生まれてしまった結果。

 

 

レナの父親「何言ってるんだ…?誰かに変な事、吹き込まれたのか…?」

 

 

レナは、自分の体力の限界まで父親をひたすらに説得した。

 

しかし、説得に応じる事はなかった。

 

.

.

.

 

6月12日(日)

 

レナが目を覚ましたのは夕暮れ時だった。

 

父親は居ない。

 

その時、電話が鳴った。

 

レナが電話に出ると相手は知らない人物の声だった。

 

その内容は自分の父親が、リナの為に買った賃貸マンションの敷金礼金の支払い内容だった。

 

レナは、その話を聞いて以降、電話の内容が頭に入っていなかった。

 

電話が切れた時、レナは御影の言葉を思い出した。

 

 

『今日やらないと手遅れになる』

 

 

今日は、すでに終わってしまった。

 

レナは、もう何もかも手遅れになってしまったと確信した。

 

.

.

.

 

その日の夜、レナの父親はまるでレナに見つからない様にコソコソと帰宅して来た。

 

レナは、そんな父親に対して説得どころか話し掛ける事さえしなかった。

 

父親を説得するのは不可能だ。

 

ならば、リナを説得するしかない。

 

レナの目に強い決意が宿った。

 

 

 



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【罪騙し編④】

6月13日(月)

 

 

レナは、学校を休んだ。

 

リナの仕事は、基本的に夜であり、呼び出すなら昼間しかなかった。

 

レナは、リナをゴミ山に話があると言って呼び出した。

 

 

リナ「礼奈ちゃん、何かな?私に大切な話って?」

 

 

レナは、間宮リナが嫌いだった。

 

レナの父親と仲良くする為に、レナにベタベタと話しかけて物で機嫌を取ろうとする態度。

 

レナとレナの父親の二人だけの空間である自宅に、似つかわしくない家具や用具を買い入れて、家を汚す様な態度。

 

レナは言葉に出さず、ゴミ山から持ち込んだお宝で家を護ろうと静かに闘っていた。

 

こんな娘がいる家なんて嫌になるに決まっている。

 

いずれ別れるだろう、と思った。

 

しかし、すでに事態は取り返しの付かない段階まで来ている。

 

レナは、躊躇せずにリナに言った。

 

 

レナ「お願いです。もうお父さんと会わないで下さい」

 

 

リナは、そう言われたのも関わらず驚きの表情を出さなかった。

 

 

リナ「礼奈ちゃん、急にどうしたのかしら?」

 

レナ「もう一度、言います。もうお父さんと会わないで下さい」

 

 

リナは笑い出した。

 

 

リナ「プッ、アハハ!本当に礼奈ちゃん、おかしくなっちゃったんだね」

 

 

レナは少し混乱したが、目は真っ直ぐとリナを見ている。

 

 

リナ「昨日、あんたのお父さんが言ったんだよ。『礼奈が変な事を言い出した。もしかしたら、悪友に何か吹き込まれたかもしれない』ってさ、アハハ!」

 

 

レナ「…」

 

レナは言い返さない。

 

御影に吹き込まれたのは事実だ。

 

しかし、口が悪くても御影の言った事は真実であり、レナの事を思ったからこそ話したと思った。

 

 

リナ「立場分かってる?あんたのお父さんは、あんたより私の事しか信じてないの。私が『あんな娘置いてどっか行こうよ』って言えば、喜んで私に着いて来るよ」

 

 

レナは、強く拳を握りしめた。

 

その手には強く握った所為か爪が少し食い込み血が出ていた。

 

 

リナ「あんたも可哀想だね~。お母さんは浮気であんた達を捨てて、次は信じてたお父さんにまで捨てられる。あんた、呪われてるんじゃないの?」

 

 

その言葉が引き金になった。

 

レナは、足元にあった鉄パイプを握りしめてリナを殴りつけた。

 

 

リナ「がっ…!止め…!だ、誰か、助けてーーー!!」

 

 

リナは、レナの突然の蛮行に驚いて悲鳴を挙げた。

 

レナは、即座にリナの口を塞ぐ為に鉄パイプを口めがけて殴り付けた。

 

その衝撃で何本も歯が取れ、パクパクと喋れない状態で逃げようとするリナに対して、レナはリナが動かなくなるまで鉄パイプで殴り続けた。

 

.

.

.

 

間宮リナを殺した。

 

レナにとっては、予想内であり、予想外であった。

 

御影の話を聞いても聞かなくても、やがては自分の耳に入っただろう。

 

そして状況がどうであれ、レナはリナを殺していた。

 

それは、予想内だった。

 

ただ思いの他、早くその時が来た。

 

それが、予想外だった。

 

後悔はしていない。

 

これしか方法がなかったから。

 

レナは、リナの死体を何重にもごみ袋に入れて、捨てられた巨大な冷蔵庫の中に入れた。

 

レナは、ゴミ山にあるレナが作った秘密基地で着替えた。

 

それは小さな物で、廃車で作られた空間であった。

 

レナは、一人になりたい時に来ている。

 

静かで周りに誰も居ない空間に身を寄せるのが好きだった。

 

レナは、自分と御影が似ている事に気付く。

 

もしかしたら、御影は自分と似ているレナを助ける為にあんな事を言ったのかもしれないと思った。

 

明日、学校に行ったら御影に謝ろう。

 

もう自分を偽らない。

 

だって、悪夢は終わったから。

 

 

 



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【罪騙し編⑤】

悪夢は終わっていなかった。

 

帰宅したレナは、自宅で驚愕な光景を目にした。

 

沙都子の叔父、北条鉄平が自分の父親を殴りつけていたのだ。

 

喋っている内容によれば、リナと鉄平は美人局でレナの父親から慰謝料と称して財産を巻き上げようとしていたらしい。

 

鉄平は、帰り際に言った。

 

 

鉄平「ったく、リナの奴。何処行きやがった」

 

 

レナは、チャンスだと思った。

 

リナは、鉄平にも行き先を教えてない。

 

それを利用して早くこいつも殺すべきだと思った。

 

 

レナ「北条鉄平さんですね?実は、リナさんから託けがありまして。明日の昼にゴミ山に来て欲しい様です」

 

鉄平「あぁ?なんで、そんなとこに行かなならんねん。リナの奴、何考えてんだぁ?」

 

レナ「わかりません、詳しい話はそこですると言っていました」

 

 

レナは、夜では御影が悲鳴を聞いて来ると思い、御影が不在の昼間を選んだ。

 

.

.

.

 

6月14日(火)

 

 

翌朝。

 

レナは、失望する父親を置いて家を出た。

 

学校に行くのではない。

 

鉄平を殺す為にゴミ山へ向かった。

 

レナは、リナを殺した時の服を父親が寝ている間に静かに洗ってカバンに入れていた。

 

しかし、濃い血染みと夜中に静かに洗うという状況下で時間がかかり、洗う事は出来たが乾かす事が出来なかった。

 

レナは、鉄平をゴミ山に呼び出し、背後から持って来た鉈で殺した。

 

リナを殺した様に、悲鳴をまき散らした。

 

近くに誰かが居たら気付くであろう悲鳴。

 

しかし、近くに住んでいる御影を除いてゴミ山付近に人は居ない。

 

レナは、手慣れた手付きで鉄平の死体をゴミ袋に入れて、リナが入っている冷蔵庫に入れた。

 

後は、洗濯した服が乾くのをじっと秘密基地の中で待った。

 

その日は、曇りの所為か服が乾くのが遅かった。

 

それでも構わないと思った。

 

父親と仲が修復されていない。

 

遅くてもそこまで気にしないだろうと思った。

 

そろそろ大丈夫かなと思い、外に干してある服を取りに外に出た瞬間だった。

 

レナは、部活メンバーの四人と遭遇してしまった。

 

鉄平の返り血が染み込んだ服のまま。

 

.

.

.

 

部活メンバーは、レナのお見舞いに行っていた。

 

しかし、父親から自宅に不在だった事を聞いて、レナを探していた。

 

魅音は、レナが一人になりたい時はあのゴミ山に居ると言った。

 

結果として、レナを見つける事が出来た。

 

最悪の状況下で。

 

.

.

.

 

レナは、全てを告白した。

 

自分の家の状況、リナと鉄平を殺した事を。

 

レナは、もう平穏な日々は帰って来ないと思い、自暴自棄になり始めていた。

 

しかし、部活メンバーはレナの苦しみに気が付かなかった事を嘆き、共犯になる道を選んだ。

 

レナを含む部活メンバーの五人は、リナと鉄平の死体を近くの雑木林に埋めた。

 

部活メンバーは、レナが帰宅するのを見届けた。

 

まだ、レナには平穏な日々を過ごせるという意思を表して。

 

 

 



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【罪騙し編⑥】

6月15日(水)

 

 

レナが起きると、いつもは寝ているレナの父親が朝食を作っていた。

 

レナの父親は、レナが話し掛ける前に謝った。

 

鉄平に暴行を受けた事と、連日のレナの無断欠席に対して、レナの父親はレナが言っていたリナの事を考え直したのだ。

 

レナは、それを許した。

 

レナの父親は、レナと一緒にゆっくりだが前に進もうとしている。

 

レナは、それを感じて涙が出そうになったが、笑顔で誤魔化した。

 

.

.

.

 

レナは、学校に登校した。

 

今日から全てをやり直せる。

 

まずは、御影に謝ろう。

 

そして、皆で楽しく部活をしようと思っていた。

 

クラスはいつも通りの光景だった。

 

しかし、最後に登校して来た御影はマスクをしていて、体調不良の状態だった。

 

それに、いつもは開口一番で挨拶をして注目を浴びるのに目立った行動は何もしなかった。

 

御影は、授業の時も、休み時間の時も、昼休みの時も、静かで何も目立った行動はしなかった。

 

そんな御影を見た知恵先生は、早退を勧めたが御影は頑として拒否した。

 

放課後。

 

圭一は、御影を部活に誘った。

 

今日は出来なくても良いから、明日から一緒にやろうと。

 

しかし、御影はこう言い返した。

 

 

御影「嫌いな人達と関わりたくない」

 

 

御影は、早足で帰った。

 

これまでとは違う言い訳だった。

 

今までは「引っ越しの整理が終わっていない」「部活メンバー全員が揃って居ない」など、先延ばしにした言い訳だった。

 

今回は、明らかな『拒絶』。

 

レナは気になった。

 

『嫌いな人』ではなく『嫌いな人達』という言葉。

 

それは、レナだけの拒絶ではなく部活メンバーを含む言い方だった。

 

.

.

.

 

レナは、御影の家に来ていた。

 

御影に謝りたい事と、今日の御影の言葉が気になっていたからだ。

 

レナは、御影の家のチャイムを鳴らす。

 

中から体調不良の姿をした御影が出て来た。

 

 

御影「なに?」

 

 

御影は、それしか喋らなかった。

 

レナは、御影が本当に部活メンバーを嫌いになっていると確信した。

 

 

レナ「トイレ貸してくれないかな?以前、約束してくれたでしょ?トイレならいつでも貸してくれるって…」

 

 

レナは、言葉を慎重に選んだ。

 

お見舞いに来た、お話に来た、と言えば追い返されるかもしれないと。

 

 

御影「そんな約束してたね。さっさと済ませてよ」

 

 

御影はキーチェーンを外して、レナを中に入れた。

 

レナは、閑散としている御影の家に入って、御影に聞いた。

 

 

レナ「御影君…。なんで、そんなに怒ってるかな…?レナだけじゃなくて皆にも怒ってるよね…?お願い、レナ達が悪い事したなら謝るよ!教えて、御影君!」

 

 

御影は答えた。

 

 

御影「以前言ったよね?ここに住んでいるのは『静かだから好き』っていう理由」

 

レナ「う、うん!レナも好きだよ!ここ!!」

 

 

嘘ではない。

 

レナの秘密基地も御影の自宅選びも同じ理由だ。

 

その気持ちは分かる。

 

 

御影「見ての通り夏風邪引いてるんだよ。まだ完治もしてない。なんでか分かる?」

 

レナ「え…?え…?」

 

御影「一昨日、家で休んでたら悲鳴が聞こえたんだ。何事かと思ったら、レナちゃんが人を殺してたのを見ちゃったんだよ」

 

レナ「…!?」

 

 

御影は、不運にも学校を休んでいた。

 

そして、リナの悲鳴を聞き、レナが人を殺していた所を目撃していた。

 

 

御影「警察には通報してないよ。いくらレナちゃんの事が嫌いだからって、そんな事でレナちゃんを警察に売ったりはしない。ただ、何があったのか確認したかっただけなんだ」

 

 

御影は、淡々と言い続けた。

 

 

御影「一昨日は悲鳴の所為でロクに寝られなかったんだ。その所為か病態が悪化して、昨日も休んでいたんだよ。すると、また悲鳴が上がったんだ」

 

レナ「あ…」

 

 

それは、鉄平の叫び声。

 

リナの時より、大きく汚く醜い声だった。

 

 

御影「それで、ノイローゼ気味になってね。日課の散歩も止めたんだ。それどころか、ゴミ山を見る度にあの悲鳴声が頭に響いてね。正直、こんな所にもう居たくないんだよ」

 

 

レナは理解した。

 

間宮リナがレナの空間を汚した様に、竜宮レナも御影の空間を汚してしまったと。

 

 

御影「それにその後、またゴミ山で騒々しい事が起こってね。フラフラになりながら見に行くと君達五人が、なんか騒いでる訳でしょ?ここに居るのも、君達の顔を見るのも、嫌なんだ」

 

 

それは、部活メンバーがレナの告白を聞いて、リナと鉄平の死体を隠そうと算段していた話だった。

 

 

御影「早い話、もう雛見沢には居場所はないって事。家にいれば悲鳴が聞こえるかもしれない、学校に行けば嫌でも君達と顔を合わせる。だから、近い内に引っ越そうと思うんだ。どうせ、僕なんか嫌われ者なんだ。皆すぐ忘れてくれるでしょ?」

 

 

レナは、違うと言いたかった。

 

しかし、レナが御影の居場所を全て汚してしまったのは間違いない。

 

レナは泣きながら、御影に謝る事しか出来なかった。

 

 

 



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【罪騙し編⑦】

6月19日(日)

 

 

御影は、連日学校に来ては早退をしての繰り返しだった。

 

知恵先生が御影の状態を思い、無理やり早退させていた。

 

レナだけは、なぜ御影がそんな事をしているのかは理解していた。

 

でも、解決する方法は存在しない。

 

御影の体調は、綿流しの祭りの前には完治していた。

 

それでも、クラスでは喋ってはいなかった。

 

そんな御影を見て、レナは泣きそうになる。

 

.

.

.

 

綿流しの日、部活メンバーは御影を誘ったが全て断られていた。

 

レナは思った。

 

この祭りが終わったら、御影とはもう会えなくなると。

 

祭りの最中、御影を見つける事は出来なかった。

 

部活メンバーは綿流しの祭りを楽しんだが、レナだけは辛かった。

 

.

.

.

 

6月20日(月)

 

 

御影が、学校を休んだ。

 

しかし、知恵先生は御影が引っ越したのではなく、体調不良だと言っていた。

 

レナは、せめて御影が居なくなる前にもう一度話がしたかった。

 

拒絶されても御影の家に行こうと思った。

 

しかし、帰ろうとした矢先にレナは知恵先生に呼ばれ、昇降口に居た大石と話をする事になった。

 

大石は、富竹と鷹野の写真を見せて、二人が綿流しの日に殺された事を話した。

 

レナは驚いたが、内心は御影といち早く会う事だけを考えていた。

 

すると大石は、別の二枚の写真をレナに見せて来た。

 

その写真を見た時、肝が冷えた。

 

そこには、リナと鉄平が写っていた。

 

大石が言うには、この二人も行方不明であり、鬼隠しに遭ったのではないかと話した。

 

そして、リナはレナの父親と仲が良く、鉄平を最後に目撃したのはレナだった事から事情を聞かされた。

 

レナは、二人とは縁が切れたという事を話し、それ以上の事は知らないと話した。

 

偶然にも、レナの父親と同一の証言であり、それ以上の言及はされなかった。

 

.

.

.

 

レナが解放されると、辺りは暗くなっていた。

 

レナは、急いで御影の家に向かったが、留守だった。

 

レナは、窓から室内を除くと部屋には荷造りをしている箱がいくつもあった。

 

その箱をみて、本当に引っ越してしまうという現実を思い知らされた。

 

部屋の状況からして、まだ時間的余裕があるとレナは思い、明日にする事にした。

 

レナは、元気になった父親を心配させまいと急いで帰宅しようと思った。

 

しかし、大石の言葉が気になり、位置的にもそんな遠くない事から死体を埋めた場所を確認しに行った。

 

そこには、掘り起こされた穴しかなかった。

 

.

.

.

 

6月21日(火)

 

 

レナは、学校を休んだ。

 

死体がなくなっていた事を恐怖したからだ。

 

それに加えて四六時中、警察が訪れてリナと鉄平の事を聞いて来る。

 

レナは、また自分の平穏が壊れ始めているのを感じた。

 

放課後の時間。

 

レナは、静止する父親の言葉を聞かずに御影の家に向かった。

 

昨日は大石に捕まったが、今日は違う。

 

この時間なら御影は居るだろうと思った。

 

しかし、御影は居なかった。

 

窓から覗いて箱の状況を見る限り、荷造りが進んでいる事から昨日は帰って来ていたのは確実だった。

 

レナは思い始めた。

 

まさか、死体を掘り起こしたのは御影ではないのか?

 

御影は、レナにそれがバレて姿を現さずに引っ越そうとしているのではないかと。

 

レナは、心に膨れ上がった疑問を抑える事が出来なかった。

 

 

 



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【罪騙し編⑧】

6月22日(水)

 

 

レナは学校に登校したが、御影は学校を休んでいた。

 

知恵先生が、御影が明日を最後に雛見沢から余所に引っ越すと皆に伝えた。

 

皆は驚いたが、レナだけは知っていた。

 

 

圭一「レナ!御影が引っ越すって本当なのか!?なんで急に…」

 

 

レナは、理由を知っていたが話さなかった。

 

 

レナ「レナも驚いたよ。でも最近の御影君、様子がおかしかったし…」

 

魅音「アタシも最近の御影はおかしいと思ったよ。だから明日、盛大に見送りパーティをしない?御影を元気付けるためにさ!」

 

沙都子「そうですわね。御影さんには引っ越し記念に、もう一度トラップを受けて貰いますわ!」

 

 

クラス一同は、最近の御影を心配していた事もあり、お別れパーティを提案した。

 

知恵先生も許可し、明日の授業はパーティを行う事にした。

 

レナの胸中は、皆と真逆だった。

 

本当に御影がレナを警察に売ったなら、明日姿を現すだろうか?

 

「出席する」と言って、来ない可能性が高いと思った。

 

レナは、皆がパーティの準備をしている裏で、別の準備をしていた。

 

.

.

.

 

6月23日(木)

 

 

知恵先生が連絡し、今日のパーティを伝えたのにも関わらず御影は姿を現さない。

 

レナは確信した。

 

『御影は、レナを避けている』と。

 

レナは、知恵先生に御影を呼んで来て欲しいと頼んだ。

 

その言葉通り、知恵先生は御影の家に向かった。

 

校長先生も今日の授業がなくなった事により、別件を済ます為に学校には居ない。

 

レナは、賑やかに騒いでる教室に戻った。

 

その手に鉈を持って。

 

.

.

.

 

教室は一変した。

 

レナが職員室から戻って来たと思いきや鉈を持って来たからだ。

 

最初は何かの冗談かと思ったが、教壇と黒板を思いっきり破壊して本気である事を見せた。

 

レナは、圭一にクラスメイト全員を縄跳びで縛り上げる様に指示した。

 

圭一は、それに逆らう事は出来ずに全員を縛った。

 

レナの中には、二つの仮説があった。

 

一つ目は最初の考え通りに御影が死体を掘り起こして、レナを警察に売った事。

 

二つ目は部活メンバーの誰かが死体を掘り起こして、レナを警察に売った事。

 

一つ目の理由は『御影が死体を埋めた場所が判らない』事で成立しない。

 

二つ目の理由は『部活メンバーがレナを警察に売る理由がない』事で成立しない。

 

だからこそ、どちらであっても良い様に今日全員が集まるこの場で問い詰めようと思った。

 

レナは、この場に居ない御影を探す様に警察に指示した。

 

しばらくして、警察からレナに電話があり、御影が見つかったと報告された。

 

御影は、どうやらエンジェルモートに居たらしい。

 

電話先から御影の声がする。

 

 

御影「酷いよ、レナちゃん!僕は、エンジェルモートで最後の晩餐を楽しんでいたんだよ!クラスのパーティに参加しなかったのは悪いと思うけど、何も警察を使ってまで連行しなくてもいいじゃないか!僕のプライバシーはズタズタだよ!」

 

 

いつもの御影だった。

 

 

レナ「御影君、話がしたいんだ。一人で教室まで来てくれないかな?」

 

御影「うん、良いよ!でもね、警察の人達が許さないと思うんだ。だから、僕一人と部活メンバー以外の子供達全員とで人質交換しない?」

 

 

レナは了承した。

 

この話は、部活メンバーと御影だけの話。

 

他の人質など居ても居なくても同じ様なもの。

 

それで、御影を教室に呼べるなら構わないと思った。

 

 

レナ「良いよ。でも、御影君が先に来ないとどうなるか解ってるよね?」

 

御影「勿論だよ!僕は可愛い女の子の約束は破らないけど、後ろにいる中年のオッサンがもしかしたら茶々入れるかもしれないからね!」

 

 

そう言うと電話が切れた。

 

 

 



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【罪騙し編⑨】

「グッドモーニング!」

 

いつもの御影が教室に現れた。

 

 

レナ「御影君、やけに機嫌が良いね。何か良い事があったのかな?」

 

 

御影「エンジェルモートに行って詩音ちゃんと会ってたからさ!ここ最近ロクな事なかったけど、詩音ちゃんに慰めて貰ったんだ。いつまでも、ウジウジしてられないしね!」

 

レナ「そう。じゃあ、圭一君。御影君の身体検査して」

 

 

圭一が、御影を身体検査すると催涙スプレーと盗聴器が出て来た。

 

 

レナ「これ、何かな?」

 

御影「勘違いしないでよ!これは、中年のオッサンが無理やり渡して来たんだよ!こんな催涙スプレー持ってもレナちゃんに敵わないのに何考えてるんだって感じだよね!」

 

 

レナは、催涙スプレーを奪い取り、盗聴器を破壊して警察に見える様に窓から外に捨てた。

 

 

レナ「圭一君。御影君の両手両足を縛って、そこの柱に張り付けて」

 

 

圭一はレナの言う通りに、しぶしぶ御影を縛り上げて柱に張り付けた。

 

 

レナ「じゃあ、皆。出て行って良いよ」

 

 

レナが笑顔でそう言うと、部活メンバーを除く子供達は一目散に教室から逃げ出した。

 

そして、レナは教室の戸と鍵を閉めて、全員に問いた。

 

 

レナ「誰が、二人の死体を掘り起こしたのかな?」

 

 

魅音が、青ざめた表情になった。

 

魅音は、営林署が死体を埋めた場所周辺を伐採するという計画を後日知り、独断で死体を移動させた。

 

魅音が、レナにその事を話そうと思った瞬間だった。

 

 

御影「僕だよ」

 

 

御影の答えと同時に、レナが鉈で御影の右腕を殴り付けた。

 

.

.

.

 

嫌な音が響いた。

 

 

圭一「御影!!お、おい!レナ止めろ!!」

 

レナ「圭一君は動かないで。御影君、なんでそんな事したのかな?」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら答えた。

 

 

御影「あの後、何があったか知ってるかい!?連日深夜にゴミ山で、何人かの大人がゴミ山を調べてたんだよ、辺り構わず大きな音や眩しい光を点けて!僕は思ったよ。レナちゃんの犯行がお粗末過ぎて警察が調べてるんじゃないかって」

 

 

それは、園崎家が遣した人達だった。

 

リナと鉄平の痕跡を消しにゴミ山にやって来ていた。

 

しかし、近くに御影の家があるとは知らず、彼らは事を急いで荒く行動していた。

 

 

御影「だから、死体を掘り起こしてレナちゃんを警察に売ったんだ。そしたら、ぱーっと誰も来なくなったよ!レナちゃん、今度やるなら完全犯罪にして欲しいんだよね!」

 

 

レナは、鉈で御影の左腕を殴り付けた。

 

血は見えないが服の上からでも御影の両腕は異常である事が判った。

 

レナはポリタンクを取り出し、その中身のガソリンを御影にぶちまけた。

 

 

レナ「御影君がいけないんだよ…。レナの平穏を壊したんだから…」

 

 

レナはライターを取り出し、今にも点火しようとしていた。

 

 

御影「そうだね。僕はレナちゃんの平穏を壊したかもしれないけど、レナちゃんだって同じだよ!レナちゃんも僕の平穏を壊したじゃないか!」

 

 

部活メンバーは、レナと御影が何を話しているのか理解出来なかった。

 

死体処理の事情を知っている魅音は全てを話そうと思ったが、下手に刺激するとその瞬間に点火すると思って喋れなかった。

 

 

御影「これは、僕とレナちゃんの問題なんだ。他の皆は関係ないから解放して上げてよ」

 

 

御影がそう言うと、レナは了承した。

 

これは、御影とレナの問題。

 

レナは、部活メンバーの解放を許した。

 

 

圭一「ばか!お前を置いて逃げれる訳ないだろ!!」

 

御影「ここに残っても良いけど、もうすぐ警官隊が突撃して来るよ。そしたら、レナちゃんは遠慮なく点火する。僕を死なせたくないなら、そっちを止めてきてよ」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

レナを除く部活メンバーは驚いた。

 

御影の言葉が嘘か本当かは判らない。

 

万が一、本当なら時間がない事を意味する。

 

圭一達は、レナと御影を置いて窓から外へ出て行った。

 

急いで警察を説得する為に。

 

.

.

.

 

二人残されたレナと御影は、話を続けた。

 

 

レナ「ねぇ、御影君。今もレナの事嫌いなの?だから、レナの家庭を壊そうとしたの?」

 

 

答えは解っている。

 

これまでの行動、そして御影の両腕を叩き折った事。

 

答えは一つしかないと思った。

 

 

御影「今は嫌いじゃないよ」

 

レナ「え…?」

 

御影「レナちゃん、やっと素顔見せてくれたんだもん!きっと悩みが解決したんだね!でも、今度からは僕の迷惑にならない様に注意して欲しいかな!」

 

 

御影の言葉に嘘はなかった。

 

レナの家族が直った事。

 

それにより、レナは苦しみから解放された。

 

勿論、その方法は間違っていたのかもしれない。

 

レナが御影の空間を汚さなかったら…、御影がレナを警察に売らなかったら…、二人は仲良くなれたかもしれない。

 

…そうレナは思った。

 

警官隊が突撃し、窓ガラスが割れると同時にレナは言った。

 

 

レナ「ごめんね、御影君」

 

 

レナは、御影に向けていたライターに火をつけた。

 

.

.

.

.

.

 

雛見沢営林署人質籠城事件。

 

6月23日午前、犯人(竜宮礼奈)は、雛見沢分校の教室内にて生徒25人を人質に籠城。

 

警察は竜宮礼奈の要求により、夜白御影の行方を捜索。

 

一時現場は硬直状態となったが、夜白御影を発見後に犯人と交渉。

 

その後、夜白御影と生徒21人を人質交換。

 

のちに、脱出して来た生徒4人により竜宮礼奈が夜白御影に暴行を加えた事が判明。

 

緊急性を要した警官隊は、静止する生徒達を無視して現場に突入。

 

警官隊が、窓ガラスを破ったと同時に現場にて大爆発が発生する。

 

原因は、竜宮礼奈が夜白御影に対して撒いたガソリンがなんらかの理由で起爆したものと断定。

 

警官隊数名の負傷と竜宮礼奈の死亡が確認された。

 

夜白御影に持たせた盗聴器が竜宮礼奈に破壊されたため、内部の事情は不明である。

 

事情を聞いた生徒も口を閉ざしていて事件の詳細は明かされていない。

 

しかし、現場に残されたと思われる夜白御影に対しては一切の痕跡が見つからず、今現在も行方不明扱いとなっている。

 

 

 



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【出題編:あとがき】

[夜白御影]

 

性別:男性。

 

年齢:不明。

 

出生:不明。

 

住居:ゴミ山の近くの一軒家。

 

家族:一人暮らし。他不明。

 

趣味:真夜中の散歩。

 

好みの食物:甘い菓子。

 

身体的能力:頭脳は高い。運動は好きじゃない。

 

身体的特徴:体格は普通。身長は平均よりやや低い。髪は白に近い銀髪。肌がやや色白。

 

服装的特徴:長袖、長ズボン。普段は長袖を腕まくりしている。半袖、半ズボンは持っていない。

 

雛見沢村民からの評価:魅音が御影の闘争心を煽るために流した噂で不審人物扱いされている。北条家と違った意味で警戒されている。

 

 

[部活メンバー達の視点からの『夜白御影』]

 

圭一:嘘に注意すれば、仲が良い男友達。嘘は、彼の個性だと思っている。

 

魅音:闘争心を煽って、部活に参加させたいと思っている。別に嫌いではない。

 

レナ:自分と似ている所が多くある事から、もっと知りたいと思っている。

 

沙都子:初日の一件から、目に物を言わせたいと思っている。ライバルのような存在。

 

梨花:『敵』として注視。自分から極力話し掛けず、学校以外の接触は避けている。

 

詩音:人間性は好きではないが、面白い人物とは思ってる。友達としてなら付き合える。

 

 

[『夜白御影』による介入で変化した事]

 

鬼騙し編:圭一が雛見沢を離れる離れない関係なしに、疑心暗鬼になった。

 

綿騙し編:魅音が詩音に『我儘なお願い』をしてしまった。

 

祟騙し編:沙都子の登校回数は増えるが、叔父の暴力も増えて、最後は意識不明となった。

 

目騙し編:魅音に対する憎悪が倍加し、沙都子を殺しても悟史の約束を思い出さなかった。

 

罪騙し編:レナの殺意を浄化できず、最後はレナが死ぬ。

 

 

[『夜白御影』の行動理由を考察するにあたって重視する箇所]

 

※鬼騙し編において、圭一を過度に追い詰めた理由は?

 

※綿騙し編において、詩音の話を聞いただけで過度に接触してきた理由は?

 

※祟騙し編において、逮捕される覚悟で児童相談所に通報し続けた理由は?

 

※目騙し編において、詩音と共に圭一と魅音を殺そうとした理由は?

 

※罪騙し編において、レナに嘘の自白した理由は?

 

※『夜白御影』は梨花にとって味方か?敵か?

 

 

[ TIPS ]

 

御影は、『嘘』を見抜ける。

 

『嘘』とは『言葉』だけではなく、『行動』『事柄』を含む『全て』に対してである。

 

 

御影は、『目的』を持って行動を行っている。

 

その『目的』は、全ての出題編で達成されている。

 

 

[ ルールL(LIAR) ]

 

『夜白御影』は、最終的に生死問わず行方不明となる。

 

 

 



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【全誑し編①】

6月4日(土)

 

 

梨花は、死に戻りした。

 

梨花は、何もかも諦めていた。

 

梨花は、自分の運命が綿流しの祭りの後に殺されるという事を知っていた。

 

そして、殺される度に梨花の付き人、羽入の力で時間を巻き戻し幾百年と同じ体験を繰り返していた。

 

羽入は、雛見沢の守り神である。

 

梨花を生まれた時から見守り、雛見沢の全てを見守っている存在。

 

羽入は、梨花の運命を受け入れられず、梨花の為に梨花の死と同時に時間を巻き戻している。

 

彼女達は、死の運命から逃れる為に思い付くあらゆる手段を試したが、全てダメだった。

 

 

『夜白御影』

 

 

彼は、今までの世界には居なかった存在だった。

 

梨花は、彼が自分達をこの永遠とも言える迷宮から救ってくれる人物だと少し期待した。

 

しかし、事態は梨花の期待とは完全に逆方向に転じていた。

 

御影の介入で、本来起こるべきではなかった惨劇が発生したり、本来起こるべき惨劇が今まで以上に早く発生したり、本来解決出来る惨劇が悲惨な最期になったりと。

 

梨花にとっては、完全に『マイナス』な存在でしかなかった。

 

梨花は、御影の行動を幾度となく止めようと画策したが、その度に惨劇が加速化してしまい、手の打ち様がなかった。

 

羽入にも夜白御影の正体を探る様に頼んだが、彼の正体は何も掴めずだった。

 

そして、この世界でも三日前に夜白御影は転校して居た。

 

梨花は、すでにこの世界に見切りを付けていた。

 

.

.

.

 

6月5日(日)

 

 

今日は、近所の玩具屋でゲーム大会がある日だ。

 

転校して来た夜白御影は、初日からクラスメイトと先生を嘘で手玉にとるという珍事をやらかした人物だ。

 

部活メンバーは、そんな御影に対して部活の参加を誘ったが、頑なに拒否している。

 

魅音は、一筋縄でいかないと思い、近所の玩具屋でゲーム大会を開き、御影を誘った。

 

御影は、優勝賞金に目が眩んでか参加する意思表明を見せていた。

 

部活メンバーは、御影の参加動機に唖然としていたが、参加してくれるなら転校初日の借りを返せると思い、意気揚々としていた。

 

梨花は知っている。

 

御影は参加すると言いながら、寝坊と称して戦わないという事を。

 

.

.

.

 

案の定だった。

 

御影は寝坊したと言って、ゲーム大会終了後にやって来た。

 

梨花は何も変わらないと思った。

 

 

御影「優勝者は圭一君かな?圭一君が優勝出来るんだったら、僕ならダントツで優勝したのに惜しい事をしたなぁ」

 

魅音「残念、今回の勝負はお預け。圭ちゃんのソレは、ただの参加賞だよ」

 

御影「そっか。じゃあ、中身見せてよ。別に減る物じゃないでしょ?」

 

 

御影は、圭一の持っている紙袋に興味を示して言った。

 

圭一が袋を開けると、中から可愛い女の子の人形が出て来た。

 

 

圭一「え~、なんだよこれ~」

 

魅音「圭ちゃんには、見合わない物が出たね~」

 

 

圭一は、バツの悪そうな顔をしながら誰かに人形を渡そうと思った。

 

 

御影「圭一君!誰かに人形を上げようとしてるんでしょ!?レナちゃんに上げる事を推薦するよ!レナちゃんだって欲しがりそうな顔をしているし、何より可愛い物が一番見合う女の子だからね!」

 

 

梨花は、御影の口を塞がなかった。

 

塞いでも塞がなくても、圭一は人形をレナに渡す。

 

梨花は、そう思って何もしなかった。

 

 

圭一「魅音、ほらやるよ」

 

魅音「ふぇ!?」

 

 

圭一は、魅音に人形を渡した。

 

それに対して、魅音はすっとんきょうな声を出した。

 

 

御影「あれ!?なんで、魅音ちゃんに上げるの!?魅音ちゃんには、こんな可愛い物なんて見合わないよ!目が節穴になったの!?」

 

 

しかし、圭一は動揺せずに言い返す。

 

 

圭一「ばーか、節穴なのはお前だろ。最近の魅音をちゃんと見てるのか?いくら鈍感な俺だって判るぞ」

 

 

最近の魅音は、少しずつ『女の子』を出している。

 

服やアクセサリーなどの身に着けている物。

 

それは、注視しないと判らないかもしれない。

 

圭一は、それに気づいて、魅音に人形を上げた。

 

 

圭一「魅音、それ大事にしろよ。御影の口車に乗ってレナに渡したりしたら怒るからな」

 

魅音「絶対、御影の口車なんかに乗らないよ!…ありがとう、圭ちゃん」

 

 

そう言って、魅音は人形を大事に持って自転車に乗り、この場を後にした。

 

 

レナ「圭一君、百点満点かな。かな」

 

 

レナは、笑顔で圭一に言った。

 

 

御影「あれ?そうなの?僕は納得が行かないなぁ」

 

沙都子「御影さんは、もう少しお勉強なさった方が宜しいですわ。私も圭一さんの行動が正しいと思いましてよ」

 

御影「皆がそう言うなら、僕の『負け』なんだね。うん、凄いよ!魅音ちゃんは『女の子』になれたんだね!」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら言った。

 

梨花は、内心驚いていた。

 

圭一が魅音に人形を渡した事もそうだが、最近の魅音が『女の子』になっている事に。

 

魅音の心に何か変化があったのか?

 

梨花は、不思議に思った。

 

 

 



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【全誑し編②】

6月6日(月)

 

 

昼休み。

 

 

圭一「叩き売りオークションの司会!?」

 

魅音「そう!綿流しで売れ残った物や使えそうな物をオークションするイベントをするの。それの司会をして欲しいんだ。昨日のゲーム大会で圭ちゃんの評判がうなぎ上りでアタシも推薦したんだよ」

 

 

昨日のゲーム大会で、圭一の派手な盛り上げに店長が評価し、それが村の噂となっている。

 

そして、その口上を見たいと村の役員会の決定で、オークションを開催する事にした。

 

 

圭一「俺、そんな事した事ないぜ。それに良いのか?引っ越したばかりの俺がそんな大役やって」

 

魅音「大丈夫だって!圭ちゃんの事は、アタシが保障する!絶対成功するよ!」

 

 

悩んでいる圭一に御影が言った。

 

 

御影「圭一君!なら、僕がやって上げるよ!僕なら、どんなガラクタでも一級品として紹介出来るしね!」

 

沙都子「御影さんが司会なんてやったら、クレームの嵐は目に見えてますわよ!」

 

 

沙都子と御影が騒いでいた中で、圭一が意を決して言った。

 

 

圭一「よし、俺も男だ!綿流しで『前原圭一』の名を村全体に広める勢いで出席するぜ!」

 

魅音「圭ちゃんなら、そう言ってくれると思ったよ!放課後、皆で準備しよう!」

 

.

.

.

 

放課後。

 

一同は、色んな店や家から色々な家電製品などを集会場に運んでいた。

 

 

圭一「ふ~、疲れた~」

 

 

集会場の中にて、一同は腰を下ろして休んでいた。

 

 

御影「まったくだよ!僕の運動神経を考慮した上で働かせて欲しいよ!こんな重労働、労働基準法に触れてもおかしくないよ!」

 

沙都子「御影さん。あなた、圭一さんの仕事の半分しか働いてませんでしてよ」

 

 

圭一・沙都子・梨花・御影が、集会場で休んでいる。

 

そこに、魅音・レナ・詩音が、タオルと重箱と麦茶を持って来た。

 

 

魅音「おつかれー!はい、これで汗ふいて」

 

 

魅音が、皆にタオルを手渡して行く。

 

 

圭一「あれ?なんだ、その重箱?」

 

魅音「これ、おはぎだよ。園崎家特製の手作りおはぎなんだ!」

 

レナ「レナと魅ぃちゃんの作ったおはぎもあるんだよ。皆、一緒に食べようよ」

 

御影「凄いね!おはぎなんて初めて食べるよ!先、もーらい」

 

 

御影は、誰よりも一足早くおはぎを口に入れた。

 

 

『ガリッ』

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

おはぎを食べたとは思えない異音が御影の口の中からした。

 

御影は、口を抑えておはぎの入っている重箱を持ち去ろうとした。

 

しかし、御影が重箱を手にする前に、御影は圭一に襟首を掴まれた。

 

 

圭一「おいおい。御影、口の中見せてみろ」

 

 

べぇ~っと御影は舌を出した。

 

舌の上には金平糖が乗っていた。

 

その金平糖は御影がいつも持ち歩いているお菓子だった。

 

 

沙都子「よ、よくわかりましたね、圭一さん。私、てっきり何か入ってたのかと…」

 

圭一「魅音達が持って来たおはぎに変な物なんか入ってる訳ないだろ。御影のやる事を真に受け過ぎだって」

 

御影「ごめんね~。美味しいおはぎだったから。つい、独り占めしたくなったんだ」

 

魅音「あのさぁ、御影…。今度、そんな悪戯したら許さないからね。今回は、おはぎが美味しいって言ってくれたから許すけどさ」

 

御影「うん!肝に銘じておくよ!僕の『負け』だしね!」

 

圭一「どれ、俺も一つ…。お、美味ぇな!」

 

 

皆は、重箱に入ってるおはぎを美味しそうに食べた。

 

 

詩音「皆さん。あまり食べすぎると喉に詰まらせますよ」

 

 

詩音は、皆に麦茶を手渡した。

 

圭一は、そんな詩音を見て思った。

 

 

圭一「そういえば、詩音。何でこんな所に居るんだ?お前の家って興宮だろ?」

 

詩音「私は、悟史君に頼まれているんです。沙都子の面倒を見て欲しいってね。だから、沙都子の面倒をみる為に雛見沢に来てるんですよ」

 

沙都子「ふぇ~ん!詩音さんったら、私に毎日カボチャを食べさせるんですの~!」

 

詩音「沙都子~、悟史君が帰って来るまで好き嫌いはなくして貰わないとダメですよ~」

 

 

沙都子と詩音がそんな雑談をしていると、御影が会話に入って来た。

 

 

御影「詩音ちゃん!悟史君の事、まだ引きずってるんだね!村から居なくなった人なんか忘れて新しい恋愛に励もうよ!僕は、いつでも詩音ちゃんのラブコール受けて上げるからさ!」

 

詩音「お生憎様でーす。私は、悟史君が帰って来るのを信じてるんです。変人さんはお断りしまーす」

 

 

詩音は、御影に「あっかんべぇ~」と突き返した。

 

 

御影「そっか。詩音ちゃんは、完全に悟史君一筋なんだね。あーあー、詩音ちゃんと悟史君にも『負け』ちゃった」

 

 

御影は、残念そうに言った。

 

 

 



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【全誑し編③】

魅音「それにしても、いっぱいあるね~」

 

 

魅音は、圭一達が運んで来た積まれた家電製品などを見て言った。

 

 

レナ「うん、凄いね。レナも欲しい物がいっぱいあって、どれを選ぶか困っちゃうよ」

 

圭一「レナも欲しい物があるのか?これってほとんど日用製品だぞ」

 

レナ「あ…うん。実は最近、お父さんと模様替えする事になったの」

 

圭一「へぇ~、何かあったのか?」

 

 

レナは、皆に話した。

 

レナの父親は、最近変なクラブでお金を散財していた事。

 

そして、一人の女性に熱を上げ、家庭の状況が取り返しの付かなくなる段階まで迫っていた事。

 

レナは魅音に相談し、魅音が弁護士達を連れて、レナの父親を説得して無事解決した事。

 

それを期に、レナとレナの父親は全てをやり直す決意をしている事。

 

きっかけは、御影の言葉だった。

 

御影の転校早々に、レナは御影を宝探しに誘ったが、それを御影が拒否した。

 

理由を聞くと、レナの事とレナの家庭の事を否定したからだ。

 

始めこそレナは怒っていたが、心身にそれを受け止めて、すぐに行動したから早期解決が出来た。

 

 

魅音「レナが物凄い神妙な顔で、内緒の相談があるなんて言って来た時は、アタシはてっきり変な検査薬で陽性でも出ちゃったんじゃないかと真面目に思ったよー!」

 

御影「ちょっと、魅音ちゃん!?僕が、レナちゃんを孕ませたみたいな言い方止めてよ!魅音ちゃんの流した噂の所為で僕の評価が酷い事になってるんだよ!」

 

魅音「あれ~?そうだっけ~?アタシ忘れちゃったなぁ~」

 

御影「魅音ちゃんには酷い目に合わされるし、レナちゃんにも『負け』るし、僕は散々だよ!」

 

 

一同は、笑いながら今ある平穏を感じながら楽しく過ごした。

 

.

.

.

 

 

魅音「じゃあ、今日は解散!また、明日ね~」

 

 

魅音は、皆に解散を告げた。

 

すると、御影は沙都子に言って来た。

 

 

御影「沙都子ちゃん。お願いがあるんだけど、ちょっと付き合ってくれるかな?」

 

詩音「今度は、沙都子の方から私を籠絡するつもりですか~?沙都子に妙なマネしたら私が許しませんよ」

 

御影「それは心外だよ!もう詩音ちゃんの事は諦めたんだ。本当に別件のお願いなんだよ!心配なら詩音ちゃんも同行して構わないよ!」

 

沙都子「良いですわよ、御影さん。妙な事でしたら、私のトラップと詩音さんのスタンガンをお見舞いしますわよ」

 

御影「うん、それは肝に銘じてるよ!もう詩音ちゃんのスタンガンなんて食らいたくないからね!」

 

.

.

.

 

6月7日(火)

 

 

魅音「御影!昨日、婆っちゃに何したの!?」

 

 

魅音は、登校して早々に御影に言った。

 

 

御影「何って?引っ越しの挨拶だよ。魅音ちゃんの所為で評価が酷い事になってる僕は、汚名返上の為に魅音ちゃんのお婆ちゃんに手土産を持って挨拶しに行ったんだ。喜んでくれたかな?」

 

 

あの後、御影は魅音が不在の時に園崎家に訪れ、手土産を持って引っ越しの挨拶に来たらしい。

 

ただ、魅音の話から察するにとんでもない事を仕出かしたのは間違いない。

 

クラス一同はそう理解した。

 

魅音は、呆れた様に言う。

 

 

魅音「婆っちゃは、もうカンカンだよ~!『次来たら、問答無用で刀で切り捨てる!!』って言ってたよ~!」

 

御影「うひゃー!…って事は、五年目の祟りは僕になっちゃうって事かー!」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら言った。

 

.

.

.

 

放課後。

 

綿流しのオークションの準備は予想より早く終わった。

 

一同は、それぞれで解散した。

 

沙都子と梨花は自宅に帰る途中、家に醤油がない事を思い出し、沙都子が魅音の家に取りに行くと言って別れた。

 

梨花は、帰りが遅すぎる沙都子に対して不安を感じていた。

 

当たって欲しくない予想を胸に、梨花は沙都子を探しに行った。

 

その途中で、コンビニ袋を持った御影に出会った。

 

 

御影「やぁやぁ!梨花ちゃんじゃないか!こんな時間にどうしたんだい?君の家はこっちじゃないだろう?」

 

梨花「ねぇ!沙都子を見なかった!?何か知ってたら教えて!!」

 

 

梨花は、沙都子の事を聞く為に急ぎ口で尋ねた。

 

 

御影「沙都子ちゃん?さっき商店街で見たよ。なーんかイカついオッサンと居て、何事かと思っちゃったよ。だって、怒鳴り声で叫んでたんだもん。見るなって言う方がおかしいでしょ?」

 

 

梨花は、その言葉を聞いて駆け出した。

 

あの男が帰って来てしまった。

 

 

『北条鉄平』

 

 

悟史と沙都子を虐待した叔父。

 

せっかく…せっかく…ここまで平和だったのに…!!

 

梨花は泣きながら、北条の家に向かった。

 

 



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【全誑し編④】

北条の家に着いた梨花は、奇妙な事に気付いた。

 

人の気配がなく、最近開けられた様子もない事に。

 

 

梨花「どういう事…?沙都子は何処にいるの…?」

 

 

梨花が呆然と立っていると、御影が追い付いて話して来た。

 

 

御影「梨花ちゃんは、人の話を最後まで聞かないんだから。僕に無駄な労力使わせないでよね」

 

 

御影はヘラヘラ笑いながら言ったが、梨花は御影に急いで問い詰めた。

 

 

梨花「沙都子は!沙都子は何処にいるの!?お願い、教えて!!」

 

御影「沙都子ちゃんなら、入江診療所だよ」

 

.

.

.

 

入江診療所に着くと、多くの人達が治療を受けていた。

 

中でも一番重症なのは沙都子で、満身創痍でベッドの上に寝かされていた。

 

梨花と御影が入江診療所に着くと、村人は慌てている梨花を見ているが、御影に対しては誰もが視線を外していた。

 

 

梨花「入江!何があったのですか!?」

 

 

入江の話によるとこうらしい。

 

沙都子は魅音から醤油を貰い、帰る途中の商店街で鉄平と遭遇した。

 

鉄平は、沙都子を無理やり連れて帰ろうとするが、沙都子はそれを強く拒絶した。

 

鉄平は、そんな態度の沙都子に暴力を振るい始め、沙都子もそれに応戦した。

 

勿論、体格の関係から沙都子が勝てる道理はない。

 

それが解っていた村人達は、大勢で沙都子を助ける為に鉄平と闘った。

 

最終的には、警察の手で鉄平は連れて行かれたが、多くの負傷者を残す闘いだったと。

 

 

『信じられない』

 

 

梨花は、心の底からそう思った。

 

これまでの沙都子は、叔父の暴力を耐える事が悟史が帰って来る唯一の方法、そして贖罪だと信じていた。

 

そして、村人も北条家を『村の裏切り者』として扱っている。

 

見捨てる事はあっても、自分達が傷付いてまで北条沙都子を助けるとは信じられなかった。

 

しかし、診療所にいる多くの怪我人を見る限り、嘘を吐いてるとは思えなかった。

 

そこに、御影がやって来た。

 

 

御影「凄い惨状だね。僕が警察を呼ばなかったら、死人が出てもおかしくなかったよ。沙都子ちゃんは凄いね!あんなイカついオッサンに脅されたら、逃げるか従うかしかないのに立ち向かうなんてさ!」

 

 

沙都子は、その言葉に小さくも力強く言い返した。

 

 

沙都子「ホホ…。私、御影さんとは違いますの…。これ位の事…へっちゃらですわ…」

 

御影「今回ばかりは、沙都子ちゃんを称賛するよ!僕は『従う方』に賭けてたからね。結局、沙都子ちゃんにも『負け』ちゃったか」

 

 

御影は、お見舞いにと果物が入ったコンビニ袋を置いて帰って行った。

 

.

.

.

 

6月8日(水)

 

 

沙都子は、学校を休んだ。

 

沙都子の事情を聞いて知ったクラス一同は梨花に問い詰めた。

 

 

圭一「梨花ちゃん!沙都子は無事なのか!?」

 

梨花「大丈夫なのです。安静にしていれば、祭りには出られる様なのです」

 

 

沙都子は、重症ではあるが命に別状はなく後遺症もないと判断され、祭りまで診療所で休む事になった。

 

他の大人達も、軽傷者や後遺症がないと判断された人達は退院している。

 

 

圭一「それにしても、沙都子の叔父ってのは本当にロクでもない奴だな。もし、沙都子が連れて行かれたと思うとゾッとするぜ」

 

御影「大丈夫だよ、圭一君!その時は、僕が児童相談所に通報してたからね!ちょっと静かにしてて、面白い物聞かせて上げる!」

 

 

御影がそう言うと、突然叫んだ。

 

 

御影「私を助けて!(沙都子の声)」

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

御影「どう、似てた?声帯模写の特技があってね。一度聞いた声とか真似る事が出来るんだ。これさえ使えば児童相談所なんて簡単に動かせると思うんだ」

 

魅音「そんな事したら、警察に悪質な悪戯で通報されるよ。それ使って変な事してないでしょうね?」

 

御影「大丈夫だって!この特技は、めったに見せないんだ。圭一君も魅音ちゃんもレナちゃんも、僕に『勝ってる』から教えて上げたんだよ。それに、僕は自分の変声で妄想するナルシストじゃないから安心してね!」

 

圭一「まさか、初日のアレも誰かの声なのか?」

 

御影「うん、そうだよ!あれは僕のお母さんの声なんだ!」

 

魅音「へぇ~。御影にも母親が居たんだね。アタシはてっきり桃から生まれたかと思ったよ」

 

御影「魅音ちゃん!それは、いくら何でも酷いよ!僕にだってお母さんはいるさ!」

 

レナ「でも、御影君。今は一人なんでしょ?お母さん…どうしたの?」

 

御影「レナちゃん、そんな気構えないで大丈夫だよ!僕のお母さんは、ある日僕を置いてどっかに居なくなっちゃったんだよ」

 

圭一「置いてって…。そんな、物みたいな言い方…。お前、大丈夫なのかよ?」

 

御影「大丈夫だって!僕には雛見沢がある!ここが、僕の居場所なんだ!こんな話なんて置いて、祭りのオークションの口上でも考えようよ!」

 

 

そう言って、御影はこの話題を止めた。

 

.

.

.

 

部活メンバーは時折、御影の言っている事が理解出来ない時がある。

 

それは、御影の『負けた』『勝ってる』の発言である。

 

一体、何に対してそう言っているのか不思議だった。

 

 

 



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【全誑し編⑤】

梨花は決意した。

 

この世界が最後でも良い、全力で闘おうと。

 

この世界は夜白御影がいるが、誰も惨劇を起こしていない。

 

それどころか、沙都子があの鉄平と真正面にぶつかり、村人が命懸けで沙都子を守る為に闘った。

 

こんな幸運に恵まれた世界は、二度と現れる訳がない。

 

しかし、梨花はこの問題を何処まで誰に話して良いか判らない。

 

御影が敵である可能性が高い以上、話す範囲を最小限にするしかないと思った。

 

話す範囲を最小限にする以上、最大の戦力を得なくてはいけない。

 

梨花は、まず魅音と相談した。

 

自分が綿流しの祭りの後に殺されるという事を。

 

.

.

.

 

魅音は、自宅で悩んでいた。

 

梨花の聞いた話。

 

自分が殺されるという事。

 

助けて欲しいと懇願している事。

 

敵が誰か判らない事。

 

もしかしたら、御影が敵の可能性がある事。

 

魅音は、レナの一件から梨花の話を真面目に受け止めていた。

 

梨花もレナと同じ様に、自分を信じて助けを求めている。

 

それを部長として、一人の人間として助けたいと思った。

 

部屋で悩んでいると、お魎が入って来た。

 

 

お魎「魅音、悩み事か?」

 

魅音「うん、婆っちゃ。ちょっとクラスメイトの事でね…」

 

お魎「…もしかして、沙都子ちゃんの事か?」

 

魅音「え…?どうして?」

 

お魎「沙都子ちゃん、大ケガしたと聞いたんじゃ。…もしかして、容態が悪いんか?」

 

 

魅音は驚いた。

 

どうして、お魎が沙都子を心配しているのかと。

 

 

魅音「婆っちゃ。こんな事、聞くのは悪いと思ってる。…どうして、沙都子の心配を?」

 

 

お魎は、一つの箱を見せて来た。

 

中身は何もない。

 

お魎は話し始めた。

 

.

.

.

 

それは、6月6日の月曜日の夕暮れ時。

 

園崎本家のチャイムが鳴った。

 

魅音は、買い物で不在だった為、お魎が対応した。

 

そこには、一人の少年が笑いながら立っていた。

 

 

お魎「誰じゃ、お前は?」

 

御影「この前、引っ越して来た夜白御影です。挨拶に来ました。これ、食べて貰っても良いですか?」

 

 

御影は持って来た箱を開けると、中にはおはぎが数個あった。

 

 

お魎「なんじゃこれは?」

 

御影「手作りおはぎです。魅音ちゃんから貰ったのでお返しにと。食べて評価が欲しいんですけど」

 

 

お魎は、その一つを食べて言った。

 

 

お魎「甘すぎる。それに小さいわ。いくら数が多いからって、こんなに小さいんじゃ食べた気にならん」

 

御影「そうですか?わかりました。じゃあ、そう言っときますね」

 

 

御影の返事が妙な物だと思い、お魎は尋ね返した。

 

 

お魎「なんじゃそりゃ?このおはぎは、お前が作ったんじゃないのか?」

 

御影「いいえ。全部、北条沙都子ちゃんが作ったおはぎなんですよ」

 

 

お魎は、その言葉に顔を一気に険しくした。

 

御影は、お魎に対して沙都子の作ったおはぎを食べさせていた。

 

 

御影「沙都子ちゃんって料理が上手いから、どんなおはぎ作るんだろうと思ってね。そうそう、口に合わないならこのお茶で口直しにどうぞ。じゃあね~」

 

お魎「待たんか!こら…!!」

 

 

ヘラヘラ笑いながら逃げる御影に対して、お魎は玄関に取り残された。

 

沙都子の作ったおはぎと御影の買って来たお茶葉を残して。

 

お魎がそのおはぎをよく見ると、小さいながらも一生懸命に作られていた事が判った。

 

食べる人が満足してくれるようにと想いを乗せて。

 

.

.

.

 

お魎「儂は死ぬ前に沙都子ちゃんとおはぎを作りたいんじゃ。だから、沙都子ちゃんに死なれるとそれが出来ん。もし、沙都子ちゃんに何かあるなら相談して欲しいんじゃ」

 

魅音「婆っちゃ…」

 

 

魅音は、お魎が北条を本当の意味で許していると思った。

 

だからこそ、こうして身を案じて魅音に沙都子の様子を聞いて来た。

 

 

お魎「じゃがな、御影だけは別じゃ!儂はあいつにやられた借りを返すまで死なん!そう言っとけ!!」

 

 

魅音は、それに笑い返した。

 

 

 



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【全誑し編⑥】

6月8日(水)

 

 

梨花「皆に相談…ですか?」

 

魅音「うん。これは、私達二人だけじゃ解決出来ない。皆の力が必要なんだ」

 

梨花「…それは、御影にもですか?」

 

 

梨花は悩んだ。

 

御影にも話すと自分の立場が急激に危うくなるのではないかと心配した。

 

 

魅音「御影は、きっと敵じゃないよ、梨花ちゃん。これは、皆に内緒だけど…」

 

 

魅音は、梨花に昨日お魎が話していた事を話した。

 

 

梨花「そんな事があったのですか…」

 

魅音「ただの悪戯かもしれないし、沙都子を助ける為にやった事かもしれない。アタシは、御影を信じる。梨花ちゃんはどうする?」

 

 

梨花は悩んだ。

 

『夜白御影』が味方なのか敵なのか判らない。

 

梨花は『御影を信じる事』ではなく『魅音を信じる事』にして全ての決断を任せた。

 

 

魅音「分かった。今日の放課後、皆を集めよう」

 

.

.

.

 

診療所で休んでいる沙都子を除いて、部活メンバーと御影は、魅音と梨花の話を聞いた。

 

 

魅音「…という事なんだ。この話、皆はどう思う?」

 

レナ「嘘みたいな話だけど、私は梨花ちゃんを信じるよ」

 

圭一「俺もだ。御影の話ならともかく、梨花ちゃんの話なら信じるぜ」

 

御影「ちょっと、圭一君!?僕が常日頃、嘘しか言ってない様な言い方止めてよ!」

 

圭一「嘘しか吐いてないだろうが!そういうお前は梨花ちゃんの話、信じてないのかよ?」

 

御影「何言ってるのさ!これは、僕の名前を雛見沢に残すチャンスじゃないか!『夜白御影、雛見沢を守る為に人柱になる!』ってね!僕の勇士はちゃんと来世に伝えておいてね!」

 

梨花「みぃ。それじゃあ、死ぬ前提なのです…」

 

.

.

.

 

放課後。

 

診療所にて。

 

 

梨花「鷹野、入江。聞きたい事があるのです。もし、女王感染者のボクが、死んだりしたらどうなりますか?」

 

 

梨花は、部活メンバーに言われ、動機を見つける事にした。

 

梨花の死は、必ず起こる物であり、発症した部活メンバーが手を掛ける以外は同一の殺された方が約束されている。

 

それは、偶発的事故・突発的犯行ではなく、計画的に梨花を殺すという強い意志が存在している。

 

ならば、必ず動機が存在する。

 

部活メンバーはそう結論付け、可能な限りの情報を集めようとした。

 

 

鷹野「ごめんなさい、梨花ちゃん。それは機密事項なの。あまり良い話じゃないから聞かないでくれると助かるんだけど」

 

 

話す事を否定する鷹野に対して、入江は少し悩んで言った。

 

 

入江「いえ話しましょう、鷹野さん。もし、鉄平の居た現場に梨花ちゃんが居たら、迷わず加勢したでしょう。そうなって最悪の場合、殺されていたら…。ですから、梨花ちゃんには自分の立場を理解して貰いたいのです」

 

鷹野「…分かりましたわ、所長がそこまで言うのであれば仕方ありませんね」

 

 

入江は、梨花に『緊急マニュアル34号』の事を話した。

 

それは、政府と自衛隊が大災害と称して、村人2000人全員を殺すという事。

 

理由は、女王感染者の梨花が死ぬと48時間に以内に村人全員が雛見沢症候群を集団発症させて殺し合いが起こりうるからである。

 

梨花は驚いた。

 

という事は、梨花が死ぬ度にそれが行われていた事になる。

 

梨花は、仲間さえ巻き込まなければ死んでも良いと思ったが、それは完全に裏目であった。

 

梨花の死は、仲間と村人全員の死を意味する。

 

 

梨花「…ボクを殺して喜ぶ人間。そんな人が居ると思いますか?」

 

入江「いません!いる訳がありませんよ!!」

 

 

梨花は、この『動機』から『犯人』を知る為に鷹野と入江に聞いたが、二人とも絶対有り得ないと否定していた。

 

梨花は、最後に沙都子のお見舞いをして帰った。

 

得た物は『動機』の欠片らしき物。

 

それでも良い。

 

今は、出来る事を少しずつやろう。

 

部活メンバーが自ら少しずつ変わっている様に、梨花も少しずつで良いから前に進もうと思った。

 

 

 



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【全誑し編⑦】

6月9日(木)

 

 

梨花は、皆に昨日の話をした。

 

皆は話し合い、その情報から動機を政治的アクションに関係する物ではないかと予想を付けた。

 

次は、その仮説が正しいか間違いかを調べる方法について話し合った。

 

 

『富竹ジロウ』

 

 

梨花の話によると富竹はフリーカメラマンと称している監査役だった。

 

部活メンバーは、敵が富竹を殺す事から彼が重要な立ち位置に居ると理解していた。

 

そして、この仮説が正しかった時は誰が敵であるかを話し合った。

 

入江は、梨花に緊急マニュアル34号を積極的に話した事から敵ではない可能性が高いと話された。

 

山犬に関しては、敵の可能性が高いと断定された。

 

梨花の話によると、全ての世界で山犬は梨花を守りきれずにいた事から、もしかしたら山犬自体が敵ではないかという可能性が浮上したからだ。

 

一方で、鷹野の判断が難しかった。

 

彼女は、確かに富竹と死んでいる運命を辿っている。

 

だが、彼女の死は焼死であり富竹と違って身元を断定するのは警察しかできなかった。

 

敵の規模がそこまで大きければ、警察内にもスパイがいて鷹野の死を偽造している可能性があると話された。

 

部活メンバーは、まず富竹だけに話して事の真相を確かめた上で、次の行動を行った方が良いと述べた。

 

入江にも話そうかと思ったが、入江は鷹野を信じている。

 

下手に話すと鷹野にまで話が回り、敵がこちらの動きを察する可能性があった。

 

放課後、富竹を神社に呼び出し話をする事になった。

 

.

.

.

 

夕暮れ時。

 

皆は、富竹と出会った。

 

そして、全てを打ち明け相談した。

 

富竹は、最初はよく出来た作り話と思ったが、話を聞く内に有り得なくない話だと思い始めた。

 

 

魅音「…という事なんだ、富竹さん。これは富竹さんにしかお願い出来ない事なんだよ」

 

富竹「…分かった。僕も梨花ちゃんが危険だという事は理解した。鷹野さんと山犬はシロだと信じているが、確認する意味で調べてみよう」

 

御影「大丈夫だって!鷹野さんは富竹さんの恋人なんでしょ?信じて上げようよ!」

 

 

御影はヘラヘラ笑っていたが、部活メンバーと富竹は真面目な顔でこの場を後にした。

 

.

.

.

 

6月12日(日)

 

 

富竹は驚いた。

 

部活メンバーが話していた事が真実でありうる事に。

 

入江心療所の金の動きや最近の政治家の動向、そして鷹野三四の不審な行動など。

 

富竹は鷹野に連絡を取り、事の真偽を問い詰めたいと思って受話器に手をのばした。

 

刹那、手が止まる。

 

部活メンバーは富竹を信じて、内緒で相談しに来た。

 

もし、富竹が感情で動けばそれは全て台無しになる。

 

理性と感情の揺れ動く中で、富竹は理性で自分を止めた。

 

しかし、事は急を要する。

 

梨花の家には山犬が盗聴している。

 

富竹は、魅音を介して入江を含む全員を呼び出す約束をした。

 

.

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放課後。

 

真面目な顔の部活メンバーと富竹、呼び出された理由が分からない入江、いつもの様にヘラヘラ笑う御影が居た。

 

富竹は、これまで調べた事を伝えた。

 

 

入江「信じられない!鷹野さんと小此木さんが、そんな事を…!?」

 

富竹「だが事実だ。僕は、急いで番犬部隊の要請に入るつもりでいる」

 

入江「梨花ちゃんはどうするんですか!?もし、山犬が梨花ちゃんの命を狙ってるなら…」

 

梨花「大丈夫です。ボクは、これから園崎家にお泊りするのです。勿論、沙都子もなのです」

 

入江「えっ!?沙都子ちゃんもですか…?お魎さんが反対するのでは…?」

 

魅音「大丈夫だよ。婆っちゃは、むしろ協力的さ」

 

入江「そうですか…。あのお魎さんが…」

 

 

入江は思った。

 

村人だけではなく、お魎も沙都子を助けようと協力している。

 

自分にも何か出来る事がないかと考えた。

 

 

入江「私にも何かお手伝い出来る事はありませんか?何でも良いんです!皆さんの力になりたい!」

 

魅音「監督には、沙都子と梨花ちゃんが自宅で療養している様に鷹野さん達に言ってくれないかな?不在とバレると、強硬手段で探しに来るかもしれない」

 

入江「わかりました。富竹さんが番犬部隊を呼ぶまでなら、なんとか誤魔化してみせましょう!この入江京介、未来のメイドさん達の為に命を賭けます!」

 

梨花「入江、これはボク達の家の合鍵なのです。ボクも沙都子も動けないほど重症という設定でお願いしますです」

 

 

一同は、富竹が番犬部隊を呼ぶまで梨花を守る作戦を決行した。

 

 

 



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【全誑し編⑧】

6月16日(木)

 

 

梨花と沙都子は、連日で休んでいる。

 

それは、計画通りだった。

 

ただ、御影も休んでいる。

 

それも今週全てだ。

 

圭一達は、事情を聞こうと御影の家にお見舞いに行ったが、応答がなかった。

 

.

.

.

 

鷹野は、少し苛立っていた。

 

理由は、富竹と連日会えなかったからだ。

 

富竹は番犬部隊を呼んでいるが、鷹野はそれを知らない。

 

鷹野は思い出す。

 

鷹野が、富竹から初めてプレゼントを貰った日。

 

あの日、少し浮かれていたと思う。

 

富竹に釣られるまま雛見沢を巡り、その楽しさからか、二人は持っていた手荷物をどこかに置き忘れてしまった。

 

後日、それを探しに行ったが見つからず、富竹に八つ当たりしてしまった事を。

 

もしかしたら、その所為で距離を置かれたかもしれないと思った。

 

鷹野は、入江に話し掛けた。

 

 

鷹野「沙都子ちゃんと梨花ちゃんは、連日お休みらしいですわね」

 

入江「そうですね。沙都子ちゃんはしょうがないとして、梨花ちゃんもこの時期に夏風邪を引いてしまうとは…。本当に運がない事です」

 

 

入江は、慎重になりながら返答した。

 

下手な事を一つ言えば吹き飛ぶ嘘。

 

この嘘がバレた瞬間に状況は悪くなるかもしれないと。

 

 

鷹野「あの御影君も休みらしいですわよ。入江先生知っていました?」

 

入江「…いえ。それは、初耳です…」

 

 

沙都子と梨花の事情は知っているが、御影が休んでいるという事は知らなかった。

 

そんな話は聞いてないし、診療所にも来ている形跡はない。

 

 

鷹野「そうですか。三人とも綿流しの祭りまでに治ると良いですわね」

 

 

そう言って会話は終わった。

 

.

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6月17日(金)

 

 

入江は、梨花と沙都子の家に来た。

 

いつもの検診であるが、勿論中は無人である。

 

入江は合鍵で中に入り、二人の容態を見てから帰る振りをしていた。

 

いつもの様に入ろうとすると、後ろから小此木と山犬二人が現れた。

 

 

入江「な、なんですか!あなた達は!?」

 

小此木「ウチのお姫様が用心深くて、様子を見て来いと言うんですわ」

 

 

入江は、冷や汗を流した。

 

この嘘がバレる。

 

その瞬間、奴らは強硬手段に出るであろうと。

 

入江は、可能な限り時間を稼いだ。

 

 

入江「沙都子ちゃーん、梨花ちゃーん。検診のお時間ですよー…」

 

 

入江は、玄関に入ると大きな声で言った。

 

勿論返事はない。

 

 

入江「どうやら、寝ている様ですね…。一旦お帰りになった方が良いみたいです…」

 

 

小此木は、入江の言葉を無視した。

 

 

小此木「調べてこい」

 

 

山犬二人が早足で寝室に向かった。

 

そこには膨らんでいる布団が二つ。

 

それを思いっきりひっぺがした。

 

 

「きゃー!入江のえっちーなのですー!」

 

 

入江は、梨花の声が聞こえて驚き、室中を見に行った。

 

そこには、何故か御影が居た。

 

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御影は山犬に囚われ、入江と共に連れて行かれた。

 

 

小此木「えぇ…。Rはいませんでした。…はい。…はい」

 

 

小此木は、何処かに連絡していた。

 

御影は、その様子を縛られた状態でヘラヘラ笑いながら見ていた。

 

入江は、事情が呑み込めず「分からない…」と喋るだけだったので別室に移されていた。

 

 

小此木「おい。お前は、あんな所で何をやってたんだ?」

 

 

小此木は、御影にそう問いた。

 

 

御影「ちょっとさー、聞いてよ!これは僕がやりたくてやった事じゃないんだ!いわば、僕も被害者ってやつだよ!」

 

 

御影は、小此木の質問に対してベラベラ喋り出した。

 

梨花が、誰かに命を狙われている事。

 

それに対して、自分が時間を稼ぐ様に身代わりとしてあの場に居させられた事。

 

入江に対しては、ふすま越しに声だけで対応して誰にもバレない様に工作していた事。

 

勿論嘘である。

 

この行動は御影が独断で行った物だった。

 

その時、剣幕な顔をした鷹野がやって来た。

 

 

鷹野「やってくれたわね…。古手梨花は何処に居るの!!」

 

御影「梨花ちゃんなら、魅音ちゃんの家だよ」

 

 

御影は、あっさりと鷹野に梨花の居所を話した。

 

 

 



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【全誑し編⑨】

6月18日(土)

 

 

部活メンバーと多くの村人は、園崎の家に集合していた。

 

 

魅音「お集まり頂きありがとうございます。本日は園崎党首代行、園崎魅音が仕切らせて頂きます」

 

 

魅音は、集めた全員に話した。

 

鷹野が、梨花の命を狙っている事。

 

その動機と今現在起こっている事。

 

鷹野が、御影を人質にして梨花を連れて来いと要求して来た事。

 

入江が人質と提示されなかったのは、御影の嘘により入江のクロが立証出来なかったからだ。

 

だが、シロとも言えず軟禁状態となっていた。

 

しかし、状況は最悪を迎えていた。

 

敵が事態に気づいてしまったのである。

 

そして、形振り構わず梨花を殺そうとしている。

 

 

「そんな要求認められねぇ!さっさと警察に連絡すれば良いんだ!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

 

多くの老人は梨花を連れて行かず、警官隊の突入で解決させる事に意見を述べていた。

 

 

魅音「先ほど申した通り、警察内にはスパイが存在している可能性があります。この一件は、まだ警察には知らせておりません」

 

 

「だけどよ、その番犬部隊ってのが来れば解決するんだろ?」

 

「梨花ちゃまを危険に合わせる訳にはいかねぇ」

 

 

警察がダメでも番犬部隊が来れば、山犬を一網打尽に出来るだろう。

 

ただし、御影の命の保証はない。

 

 

圭一「おい、待てよ!どうして御影を見捨てる前提なんだ!?誰も御影を助ける案を考えないのかよ!!」

 

 

圭一は大声を上げたが、村人は誰一人それに同調しなかった。

 

 

レナ「どうして…!?御影君が他所者だからなの!?だから皆…」

 

公由「違うんだよ、礼奈ちゃん。そういう事じゃない…。ただ、御影君はな…」

 

 

公由村長は、バツの悪そうな顔でその先を言うのを躊躇っている。

 

 

梨花「お願いです、公由。何か知っているなら教えて下さいです!」

 

 

公由「分かったよ、分かった。ちゃんと話すから…。でも、気を悪くしないでくれよ…」

 

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公由村長は商店街で散歩をしていた。

 

すると、御影が公由に話しかけて来た。

 

 

御影「こんにちは、公由村長さん!」

 

公由「こんにちは、御影君。この村にはもう慣れたかね?」

 

御影「はい。僕は好きですよ。この雛見沢!」

 

公由「もし困った事があるなら、何でも話しなさい」

 

御影「じゃあ、一つ良いですか?」

 

公由「なんだい?言ってごらん」

 

御影「この村って、僕に風当り悪くないですか?」

 

 

公由は驚いた。

 

 

公由「ど、どうしたんじゃ、急に…」

 

御影「感じてるんですよ。僕を迫害してる皆の視線。まぁ、園崎家の流した噂の所為でしょうけど」

 

公由「そんな事はないよ!御影君の気の所為だよ!」

 

御影「そうですかね?僕だけじゃなくて沙都子ちゃんにもそういうの見れるんですよ。でも、あの子は村をダムで沈めようとした一家なんで恨まれて当然ですよね」

 

 

公由は言い返せなかった。

 

自分も酒の席で「北条家の罰当たり!」と言って、ダムに賛成した両親だけではなく、関係ない子供も罵倒した事があったからだ。

 

 

御影「ですから、公由村長さんから皆に言ってくれると助かるんですよね!園崎家の噂に翻弄されないで、ちゃんと一人の人物として僕を見て欲しいってね!!」

 

公由「…あぁ。分かったよ…」

 

 

御影は、そう言ってヘラヘラ笑いながら帰って行った。

 

問題は、御影がそれを公由だけではなく、如何にもと言った感じで商店街全体に聞こえる様にデカデカと言った事だった。

 

それが影響して、村人は沙都子の事を北条としてではなく村の子供として見る様に意識を変えていった。

 

その結果が、北条鉄平の事件だった。

 

一方、御影は口調や態度の悪さから村人の反感を大きく買い、沙都子とは真逆の意識を受ける様になった。

 

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部活メンバーは驚いた。

 

 

梨花「そんな事が…」

 

公由「お爺ちゃんも分かってる…。御影君だってそんな悪い子じゃないって…。でも、皆それを思い出すんだ…」

 

 

御影の言った事は正しかったが、御影の口調や態度が多くの村人に刻み込まれ、御影を助ける事に賛成させなかった。

 

一同がどうする事も出来ないと言っていると、お魎が部屋に入って来た。

 

 

お魎「おぬしら、それでええんか?」

 

 

部屋に居る全員に言った。

 

 

お魎「御影にコケにされたままでええんかと聞いている。儂はこいつの借りをまだ返し取らん」

 

 

すると、お魎は懐から箱を見せた。

 

沙都子は、その箱を見て理解した。

 

どうして、お魎が『北条』の自分を助けてくれたのか。

 

あの箱は以前、御影に頼まれて自分が作ったおはぎを入れた箱だった。

 

恐らく御影が、沙都子とお魎の橋渡しをしたと思った。

 

 

お魎「言っとくがな、儂は死ぬ前にあいつにギャフンと言わせたいんじゃ。別に来たくない者は来なくて構わん」

 

 

村人が少しずつ騒ぎ出した。

 

どうやら、御影は自分達だけではなくお魎にも何かを仕出かしたと。

 

そして、お魎はその借りをまだ御影に返していないらしい。

 

御影が死ねば、お魎は顔に塗られた泥をやり返す機会が失ってしまうと。

 

 

「そ、そうだ!ワシもあいつに一言言ってやりたいわ!!」

 

「ワシもだ!あんな生意気な小僧、お魎さんに無礼を働いて死んで逃げようなんて許さんぞ!!」

 

 

動機はどうあれ、御影はまた帰って来て貰わないと困る!

 

村人達はそう口にして、鷹野から御影を奪取する策を考え始めた。

 

 

 



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【全誑し編⑩】

境内にて。

 

 

鷹野「あなたを助けに梨花ちゃんは来るかしら?」

 

御影「来る訳ないよ!今頃、全員が警官隊に突撃命令を出してるさ!」

 

 

御影は、ヘラヘラ笑いながら答えた。

 

 

鷹野「命が惜しくないの?前に言ってたわね。綿流しの生贄になりたいって。あれは本当かしら?」

 

御影「本当だよ!でも僕の本当の願いは、鷹野さんに殺される事なんだ!そしたら、鷹野さんもきっと喜ぶよ!」

 

 

言ってる意味が解らなかった。

 

なぜ、死にたい?

 

なぜ、鷹野が喜ぶ?

 

御影が何を考えているのか分からない…。

 

鷹野がそう考えてると、境内に圭一と梨花が現れた。

 

 

御影「やぁ、圭一君!僕を助けに来てくれたんだね!僕は信じてたよ!やっぱり、持つべきものは友だよね!」

 

圭一「お前、さっき『きっと来ないよ~』とか言ってただろ!」

 

鷹野「どうやら、お友達は来たようね。さぁ、さっさとお帰りなさい」

 

御影「ちぇっ…」

 

 

御影は鷹野に開放され、しぶしぶ圭一と合流した。

 

鷹野は、圭一達を目で見張っている。

 

 

圭一「で、次はどうすれば良いんだ?」

 

鷹野「はぁ?さっさと梨花を渡しなさい。その為に来たんでしょう?」

 

圭一「おいおい、俺は梨花ちゃんを『連れて来い』と聞いただけで『引き渡せ』とは聞いてないぜ。これ以上の要求がないなら帰らせて貰うぞ」

 

 

圭一の滅茶苦茶な物言いに、鷹野と山犬は怒りを表していた。

 

 

鷹野「あら、そんな道理が通ると思う?あなた達が選べるのは『御影君が残る』か『梨花ちゃんが残る』かの二択。さぁ、早くしなさい」

 

圭一「じゃあ…交渉決裂だ!!」

 

 

圭一は、懐から手りゅう弾を取り出し、鷹野の前に投げた。

 

 

山犬「ふ、伏せろ!手りゅう弾だ!」

 

 

その言葉に、山犬は全員伏せたが、鷹野はその手りゅう弾を躊躇せずに足で押さえた。

 

手りゅう弾は爆発しなかった。

 

元々この手りゅう弾は爆発せず、圭一がハッタリで用意した物だった。

 

 

鷹野「私は、こんなもので揺るがない!私の意志の力を舐めるな!!」

 

 

鷹野は、圭一に銃を取り出し銃口を向けて発砲した。

 

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死ぬ瞬間が目に見えるというのがあれば、今の状況が一番判る。

 

圭一の胸の前には、弾丸が距離30cmほど手前で止まっている。

 

しかし、止まっているのは弾丸だけではない。

 

人も時間もなにもかもが止まっている。

 

圭一と梨花は足掻いた。

 

今動かなければ、いつ時間が動きだし、この弾丸が圭一を貫くか判らなかった。

 

しかし、体は動かせなかった。

 

体だけではなく、口も指先ですらも動かせなかった。

 

圭一と梨花は、これは運命…。

 

死を受け入れるしかない…と思い始めた時だった。

 

 

御影「もう無理だよ、圭一君、梨花ちゃん!諦めよう!君達は頑張ったし、死んでも誰も文句は言わないよ!皆で雛見沢に名を残せるんだ!それを受け入れようよ!」

 

 

圭一と梨花は驚いた。

 

言葉の内容ではなく、なぜ御影が喋れるのかを。

 

勿論、御影の身体は動いていない。

 

それは、御影の強い意志。

 

御影はこの場に置いても、圭一と梨花に言葉を伝えるという強い意志が御影の口だけを動かす事が出来たと二人は理解した。

 

その御影の言葉で、圭一と梨花は諦めかけていた闘志に火をつけた。

 

そして、二人は止まった時の中で動いた。

 

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鷹野「なっ…!?」

 

 

鷹野は驚いた。

 

彼らが弾丸を避けたという事に。

 

御影を連れて逃げる圭一と梨花に対して、鷹野が捕獲命令を出そうとした時だった。

 

突然、後ろから大勢の村人が現れ、山犬達に襲い掛かった。

 

山犬は、奇襲に驚いて初動が遅れた。

 

 

鷹野「な、なによこれ…!?どういう事よ!?」

 

 

慌てふためく鷹野と山犬を置いて、圭一と梨花は御影を連れて雑木林に逃げて行った。

 

 

 



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【全誑し編⑪】

あの後、鷹野も小此木・山犬数名と一緒に雑木林に逃げていた。

 

 

鷹野「小此木!どういう事よ!?」

 

 

鷹野は苛立っていた。

 

突然の奇襲、こんなのは予想外だった。

 

 

小此木「すみませんねぇ。まさか、村の連中が一丸になって奇襲するとは思いませんでした。しかも、警察の手を借りなかった様で警察署内にいる工作員からも連絡がありませんでした。完全に虚を衝かれたんですわ」

 

 

すると、山犬の一人が何処かと連絡を取り、その内容を小此木に耳打ちした。

 

 

小此木「どうやら、富竹が番犬部隊を呼んだ様ですぜ。これは、完全にウチらの負けですわ」

 

鷹野「どうして、番犬部隊が…!?昨日今日で呼べる様な物じゃないでしょ!?」

 

小此木「そいつはわかりません。もしかしたら、連日姿を見せなかったのも番犬部隊を呼ぶ為に工作していたかもしれません」

 

 

混乱している鷹野に対して、小此木は弾丸を一発詰めた銃を渡して言った。

 

 

小此木「もうこの状況はひっくり返せません。それで、頭ぶちぬいてくれませんかね?クライアントもそれを望んでいますんで。三佐が死ねば、有る事、無い事、全てを擦り付けられるんですわ」

 

鷹野「なんで、そんな事…!?だ、誰よ!そのクライアントって!!」

 

小此木「アンタが贔屓にしている野村さんですよ」

 

 

鷹野は、その言葉に絶望した。

 

信頼していた野村が、鷹野を裏切って切り捨てたと。

 

屈する鷹野から小此木が銃を奪おうとして言った。

 

 

小此木「仕方ありませんな。三佐は『投降の説得に応じず銃撃戦で戦死』の方が好みの様で」

 

 

鷹野は、その言葉を聞いて弾丸が一発しか入ってない銃を持って逃げ出した。

 

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絶望している鷹野の前に、部活メンバーが立ちはだかった。

 

 

梨花「もう終わりです、鷹野。これは、私達の意志…。だから、あなたはもう勝てない」

 

鷹野「そうね…。これが、あなた達の望んだ事なら…もう私は勝てない…。だけどね、私はタダでは死なないわ!!」

 

 

鷹野は、御影に銃口を向けて発砲した。

 

銃声が辺りに響いた。

 

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「「「み、御影!!」」」

 

 

部活メンバーは驚いた。

 

意志の力。

 

それがこの場を左右するのであれば、御影と鷹野の意志は悪い意味で一致していた。

 

御影は鷹野に殺される事を望んでおり、鷹野は誰か一人を道連れにしようと思っていた。

 

御影は、弾丸を胸に受けると倒れた。

 

鷹野は高笑いをし、部活メンバーは御影に駆け寄った。

 

すると、御影は何事もなかったかのように起き上がって言った。

 

 

御影「どうやら、これが僕の命を救ってくれたみたいだね。あーあー、僕は殺されたかったのにさ」

 

御影は、服の下から首飾りを見せた。

 

鷹野は、その首飾りを見て震えて言った。

 

 

鷹野「ど、どうして、それを…!?」

 

御影「この首飾りかい?これは大事な人から貰った物なんだ。こんな土壇場で役に立つなんてラッキーだね!」

 

鷹野「嘘よ…!それは…それは…!!」

 

 

その時、番犬部隊が到着した。

 

番犬部隊は、鷹野を即座に捕えた。

 

 

鷹野「待って!!彼と話をさせて…!!お願い…!!」

 

 

番犬部隊は、その言葉に耳を貸さずに鷹野を連行しようとした。

 

すると、そこに富竹がやって来た。

 

 

富竹「待て。彼女には雛見沢症候群の感染の疑いがある。彼女を入江診療所に連れて行く。そして、この事件は彼女の病が起こしたものか、彼女の病を利用した何者かが起こしたものか、調査部が調べるものとする」

 

 

富竹の指示に番犬部隊は従い、鷹野を富竹と入江に預けた。

 

 

富竹「遅れてすまなかったね。もう大丈夫。君は僕が守るから」

 

 

鷹野は、富竹に縋り付いて泣いた。

 

富竹は、泣き続けている鷹野を抱きながら御影に話し掛けた。

 

 

富竹「それと御影君。君には後日、鷹野さんと話す場を設けるが宜しいかな?」

 

御影「うん、良いですよ!勿論、鷹野さんには富竹さんっていう大事な人がいるし、口説いたりしないから安心して下さいね!」

 

 

そう言うと、富竹達はこの場を後にした。

 

 

 



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【全誑し編⑫】

戦いは終わった。

 

鷹野・小此木・山犬部隊は、富竹と番犬部隊に連れて行かれた。

 

 

梨花「これで、ボク達の勝ちなのですか…?」

 

魅音「そうだよ。この闘いは、アタシ達の勝利さ」

 

 

部活メンバーは、勝利した事を喜んだ。

 

 

レナ「ねぇ、御影君。本当に大丈夫なの…?一度、看て貰おうよ…」

 

 

さっき、鷹野が御影に発砲した弾丸。

 

御影は首飾りに当たったと言ったが、レナは心配していた。

 

 

御影「レナちゃんは心配性だなぁ!服に血だって付いてないし、僕だってピンピンしてるよ!」

 

沙都子「そうですわね。御影さんは、殺しても死ななそうですし」

 

御影「酷いよ、沙都子ちゃん!それより、今から勝負しようよ!『僕 対 部活メンバー全員』でさ!」

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

部活メンバーは驚いた。

 

今まで全ての勝負事から逃げていた御影が、部活メンバーに勝負を仕掛けて来たからだ。

 

 

魅音「アタシ達を全員同時に相手にしようなんて良い度胸だね。どんな勝負をする気かな?」

 

 

魅音達は、この時を待ってましたとばかりに楽しそうだった。

 

 

御影「ルールはかくれんぼさ!今から、僕が隠れるから君達が全員で探しに来てよ!範囲は雛見沢全域さ!僕を一番最初に見つけられた人は、言う事を何でもして上げるよ!」

 

魅音「乗った!でも、アタシ達が立ち入れられる範囲で隠れる事。それで良いかい?」

 

御影「勿論だよ!園崎家御用達の死体置き場とかには隠れないから安心してね!」

 

 

そう言って、部活メンバー全員の了解を取り、御影は楽しそうに何処かへ向かった。

 

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御影は、一人で待っている。

 

 

???「…やはり、ここでしたか」

 

 

一人の人物が、御影を見つけた。

 

そこは、祭具殿の中だった。

 

 

御影「羽入ちゃんだけかい?梨花ちゃんも一緒だと思ったよ」

 

 

御影は、胸に空いた穴を手でさすりながら話していた。

 

御影を襲った弾丸は、首飾りに当たっていなかった。

 

弾丸は、御影の胸を貫いた。

 

ただ、一滴の血も流れていない。

 

あるのは、身体に開いた小さな穴だけだった。

 

 

羽入「最初、あなたを敵だと思っていました。でも違ってたんですね…」

 

御影「それは誤解だよ!羽入ちゃんだって、もう知ってるんでしょ?僕の正体は」

 

 

『夜白御影』

 

 

彼の正体は、鷹野三四の『最初のスクラップ帳』だった。

 

鷹野が、祭具殿に置き忘れたスクラップ帳に命が宿った存在。

 

それが、夜白御影だった。

 

 

羽入「良いのですか…?皆とあんな形で別れて…」

 

御影「皆は、僕に涙なんか流してくれないよ。今頃、罰ゲームをどうするか笑いながら探してるさ!」

 

 

夜白御影は、五年目のオヤシロさまの祟りの為に人々を騙すための存在。

 

綿流しの祭りが終って数日経てば、ただのスクラップ帳に戻る運命だった。

 

しかし、今回の御影は予想以上に動き過ぎていた為、生命力はもう残されていなかった。

 

 

羽入「…最後に何かボクに出来る事があるなら言って下さい」

 

御影「じゃあ、僕と付き合ってよ!羽入ちゃんの事が好きなんだ!!」

 

羽入「あうあう…それは無理なのです…」

 

御影「そっか…。羽入ちゃんにも『負け』たんだね…」

 

 

そう言うと、御影は消えた。

 

そこには、穴の開いたスクラップ帳だけが残されていた。

 

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6月20日(月)

 

 

朝のホームルーム。

 

知恵先生が御影は引っ越したと言った。

 

驚いた部活メンバーは急いで御影の家に向かったが、家の中には何もなかった。

 

 

魅音「ずるいよ、御影ー!また逃げたー!!」

 

圭一「俺達がどれだけ探し回ったのか分かってるのかー!!」

 

レナ「やっぱり、怪我が酷かったんじゃないのかな?」

 

沙都子「次、見つけたらもう容赦しませんことよー!!」

 

梨花「みぃ、悪い猫さんなのです。にゃーにゃー」

 

 

部活メンバーは、御影がまた逃げたものだと解釈した。

 

 

雛見沢では、今日もひぐらしの鳴き声と共に平和な時間が流れていった。

 

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祭具殿の中には、[夜白御影]とラベルの付いた穴の開いたスクラップ帳が置かれている。

 

誰かが見つけに来る事を期待して。

 

いつまでも。

 

いつまでも…。

 

 

 



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【解答編:あとがき】

[本名]

 

依代三影(よりしろみかげ)

 

依代:物に命が宿る事。

 

三影:鷹野三四の影。

 

発音を砕いて、漢字変換をして、夜白御影(やしろみかげ)と名乗っていた。

 

鷹野三四が、四年目の祟り以降に失くした『最初のスクラップ帳』。

 

鷹野三四が、失くすまで離さずに所持していた物。

 

古手梨花・古手羽入の『敵』。

 

古手梨花・古手羽入のように『時間逆行』『記憶継承』の能力はない。

 

『自身のタイムリミット(寿命)切れ』か『自身の死』でスクラップ帳に戻る。

 

『運動が苦手』『勝負事が嫌い』ではなく『動けば動くほど、タイムリミットが減っていく』。

 

使命を全うするまで必要以上に動きたくなかったので全ての勝負事から避けていた。

 

『依代三影』として生まれた時に、所持していたものは以下記載。

 

『置き忘れた鞄』(学校に登校する時に使っていた)

 

『鞄の中に入っていた鷹野の財布』(その中身だけで生活していた)

 

『鞄の中に入っていた富竹から鷹野へ上げたプレゼントの首飾り』(常時、首から服の中に掛けていた)

 

『スクラップ帳として過ごしていた記憶』(『これまで鷹野と行動して見て来た出来事』と『これから鷹野が起こす出来事』を知っていた)

 

 

[特技]

 

声帯模写。

 

一度聞いた事がある声を出せる。

 

話した相手なら口調等まで真似出来る。

 

人前では余程の事がない限り見せない。

 

転校初日に出していた『母親の声』は『鷹野三四(田無美代子)の声』。

 

『北条悟史の声』はスクラップ帳の時に聞いていた。

 

『目騙し編』にて、最後に『北条悟史の声』を使ったのは詩音に対しての仕返し。

 

『目騙し編』では、梨花が詩音に殺されたため鷹野の望んだ終末作戦が実行不可能になりました。

 

そのため、鷹野の願いを台無しにした詩音に対して、自らの死と『北条悟史の声』を使って詩音に対して『御影の事を一生忘れなくなる』ように仕返しを行った。

 

しかし、御影の意図と反して詩音は『北条悟史の声』を聞く事で『北条悟史の約束』を思い出しました。

 

御影は『北条悟史の約束』の事は知らず、この行動のせいで『全誑し編』では詩音を崩す手立てを失いました。

 

 

[人物像]

 

鷹野の性格、富竹の口調を受け継いでいる。

 

鷹野の『発想力』『機転力』、富竹の『写真撮影の趣味』『鍵空けの特技』も持っている。

 

 

[心理像]

 

鷹野三四のスクラップ帳として『人を騙す使命(生存本能)』と『鷹野の元に帰りたい心境(死亡本能)』という二つの強い意志が胸中に存在している。

 

祭具殿に置き忘れられた事から『自分の存在を忘れないで欲しい』という願望がある。

 

その願望が『出題編で御影が行った行動』を『解答編で部活メンバーが無意識に記憶している事』になる。

 

これは、御影にとって『完全に計画外の事』であって『意図して行った事』ではない。

 

 

[御影の『意図』]

 

鬼騙し編:圭一を追い込み、疑心暗鬼にさせる。

 

綿騙し編:魅音を追い込み、本当の自分を魅せないようにさせる。

 

祟騙し編:沙都子を追い込み、叔父から救出不可能にさせる。

 

目騙し編:詩音を追い込み、心の柱である悟史の存在に食い込もうとする。

 

罪騙し編:レナを追い込み、家庭から目を背けさせる。

 

 

[出題編で提示した疑問]

 

※鬼騙し編において、圭一を過度に追い詰めた理由は?

(『御影以外の言葉』を信じない様にさせるため)

 

※綿騙し編において、詩音の話を聞いただけで過度に接触してきた理由は?

(詩音と接触する理由を作るため。『好き』というのは嘘)

 

※祟騙し編において、逮捕される覚悟で児童相談所に通報し続けた理由は?

(児童相談所で解決する方法を潰すため)

 

※目騙し編において、詩音と共に圭一と魅音を殺そうとした理由は?

(詩音に悟史を忘れさせ、詩音の潜在意識に『御影』を食い込ませようとした)

 

※罪騙し編において、レナに嘘の自白した理由は?

(レナと部活メンバーを別れさせるため)

 

 

[御影の『負け』]

 

圭一に対して:仲間に対して疑心暗鬼になる様に工作したが失敗。

 

魅音に対して:圭一との出会い・関係を今以上に後悔させようとしたが失敗。

 

レナに対して:家庭から目を背けさせようと言葉で攻めたが失敗。

 

沙都子に対して:叔父に従う事を見越して、相談所を介して救出させる方法を潰そうとしたが失敗。

 

詩音に対して:悟史と沙都子の事を忘れさせようとしたが失敗。

 

悟史に対して:詩音の心に御影の存在を食い込まそうとしたが失敗。

 

羽入に対して:本当に好きだった。

 

 

村人と公由村長に対して:魅音の流した噂の所為で自分の評価が悪く、村人を騙せない状態だった。北条家の事を引き合いにして自分の言葉に耳を傾けさせようと工作したが失敗。

 

園崎お魎に対して:園崎家と北条家の仲を悪化させようと工作したが失敗。

 

富竹ジロウに対して:富竹が鷹野の真意に気付いた時に、独断行動させようとしたが失敗。

 

入江京介に対して:山犬に捕まったさい、「入江は『鷹野の裏切者』」と言わなかったのは、鷹野が入江の時間稼ぎに足を捕られないようにするため。『御影の証言(真実)』より『入江の証言(嘘)』を鷹野達が信じる恐れがあったので、あえて入江を助ける形になった。

 

鷹野三四に対して:自分の使命を全うするまで自分から会いに行けなかった。また、自分の使命を全うしてない事から自分の正体を直接明かす事ができなかった。

 

 

[御影のかくれんぼ]

 

自身の役目の終わりを感じたので、部活メンバーに勝負を挑んだ。

 

御影が待っていたのは部活メンバーではなく、自身のタイムリミット。

 

誰にも見つからずに一人で消えて、部活メンバーから『勝ち』を得ようとしていた。

 

しかし『自分を忘れないで欲しいという願望』から時間制限を無意識に付けなかった。

 

 

[御影が羽入を好きになった理由]

 

御影は、自分の正体・目的を隠すために『偽りの御影』というキャラクターを演じました。

 

作中の表舞台で行っていた部活メンバーへの全ての行動は『偽り』でした。

 

また、御影は人外である故に羽入を視認する事ができました。

 

羽入は、御影を『鬼騙し編』『綿騙し編』『祟騙し編』『目騙し編』『罪騙し編』で監視していました。

 

これらの話で、羽入が見た御影は『恐怖の存在』でした。

 

 

『鬼騙し編』では、行き過ぎた嘘で相手を傷つけてる事。

 

『綿騙し編』では、詩音に対して好意という感情は無いにも関わらず、それっぽく魅せている事。

 

『祟騙し編』では、自身の身が危うくなっても相談所に通報をし続けてる事。

 

『目騙し編』では、傷跡とは別に魅音と詩音を明らかに判別してる事。

 

『罪騙し編』では、怒り・悲しみすらも演じている事。

 

そして、羽入の存在を認知している事。

 

...と御影の真意が不明でした。

 

 

しかし、羽入は『罪騙し編』の終わりで御影が梨花より先に死んだ事で『御影の正体』を知る事ができました(鬼騙し編・祟騙し編では追跡不能となり見失ってしまう)

 

羽入は『全誑し編』にて、御影の正体から鷹野が黒幕だという事を知りました。

 

この情報を梨花に言えば、事態は好転すると思いましたが、部活メンバーの『行動』と『心境』が御影の行動で『プラス』に変わりつつある事から、梨花にも『プラス』を期待して伏せていました。

 

一方で、御影は羽入の様子が変わった事に気付きます。

 

6月1日~6月3日までは、明らかに御影を見る目が『恐怖』であった事に対して、6月4日以降はそれがありませんでした。

 

その時、御影は自身の正体を感付かれたと察します。

 

御影は、羽入の妨害を覚悟で自身の使命を果たす事に徹しました。

 

しかし、羽入が『本当の御影』を受け入れている事から、羽入は一切妨害をしませんでした。

 

その行動が、御影が羽入に対して【『偽りの御影』ではなく『本当の御影』を知っても、自分を拒絶・否定しない】に繋がり、羽入に対して他とは違う感情を抱きます。

 

最後の最後で、自分の使命から解放された御影は『本当の御影』で羽入に接しました。

 

そして、羽入に『負けた』事で消えました。

 

羽入は、御影の告白が嘘ではない事を知っていましたが、部活メンバーも『本当の御影』を受け入れたという意味を込めて、スクラップ帳に[夜白御影]とラベルを張って祭具殿に置きました。

 

羽入は、部活メンバーが[夜白御影]を見つけてくれる事を期待してこのような行動を行いました。

 

 

[ ルールT(TRUTH) ]

 

『依代三影』は、最終的に生死問わずスクラップ帳に戻る。

 

 

 



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