Fate Apocrypha学園 (ただの名のないジャンプファン)
しおりを挟む

プロローグ

新作、今度は学園モノに挑戦します。

すいません、何か最近色々なもの出しまくってほかの疎かにしてしまいでも何か書かないと他のやつの考えもまとまらず変にストレスがたまり、息抜きがてら書いてみました。



 春が過ぎ、鮮やかな桃色のカーテンは散り今や緑色の絨毯が生い茂げ始める時期。この季節の太陽はいつもより輝きを増し、絢爛な強力な日の光はジリジリと俺の肌を焼いてくる。

 月は梅雨を抜け夏の初頭に入るこの月、ジメジメとした湿気と暑さが重なるこの時期から俺の学校生活が始まる。

 時間は8時30分。確か後10分までに校長室というところに着いとかないといけなかったはずだ………

 

「困ったな。どうすればいいものか。」

 

 その校長室がどこかわからなくなっていた。こんなことならもっと早めに出ればよかった。地図などもないし、どうしたものかと困っていると凛とした声で声をかけられた。見るとそこには、大分肌が黒く日本人とは思えないぐらい雪のように綺麗いな白い髪をした人が立っていた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、あぁ迷っていてな。」

 

「迷う?そういえば見たことのない顔だね。君が転校生かい?」

 

彼は目を大きく見開き少し驚いているようだ。

 

 自分はしばらく間をあけて黙って頷く。すると男はにっこりと微笑み優しく対応してくれる。

 まずは名前を聞かれた。

 

「なるほど、名前は?」

 

「…ジークだ。」

 

 ジークは少し警戒してるのか、やはり返すのに間をあける。

 

「ジークか、私はシロウです。よろしく」

 

 だがシロウはそんな事を気にしない。シロウは警戒心を解きほぐすように話しかけてくれる。

ジーク自身もまた彼の優しい雰囲気に邪気はないと感じ顔が緩み始め、警戒心も緩んできた。彼のことはよくわからず読めないが悪い人ではない気がする。

 

「さて、君は校長室に行きたいんだったね?」

 

「そうだ。」

 

 そう答えるとシロウはまた微笑みジークに

 

「なら連れて行ってあげるよ。」

 

 案内してくれると言ってくれた。ジークはお言葉に甘えて案内してもらう。ものすごく長い廊下を二人で歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

~sideところ変わってとある教室~

 もう予鈴のチャイムがなり、真面目で規律を重んじそうな生徒は座っていたが、まだ何人か席から離れた所で小さい塊を作りおしゃべりをしていた。

 そんな中でも、最も賑やかに話している所に注意を入れる女子がいた。その女子は輝く太陽の光に反射した金色の小麦のような髪とおよそ高校生離れした艶めかしい体をなぞる曲線美はもう芸術の域だ。

 

「もう、予鈴のチャイムなりましたよ!早く席に着きなさい!いつまでおしゃべりしているのですか!?」

 

 腰に手をあてその鈴の音にも負けない綺麗な声を少し荒げて注意するが、そんな注意なんてどこ吹く風。まるで子犬のようなこの子は、桜のような桃色の髪そして、先程の女子と対局で綺麗なのは変わりないが、少し幼さを感じるその肢体は何故か母性本能のようなものを刺激して何処か守ってあげたくなるそんな体つき。元気はつらつな彼女は不満げな声を出すが聞く気はない様子。

 

「ふ~、固いなルーラーは、まだ予鈴でしょ?先生だってまだ来てないじゃん。本玲もなってないしいいじゃんか別に。」

 

 ふふんと鼻歌のように鼻をならしてこの子の態度がまたルーラー(?)の怒りを助長する。わなわなと怒りで手が震え始めたのを見たら近くにいた生徒は皆巻き添えを食う前に自分の席に座りだす。この子以外全員とばっちりを受けるのは御免のようだ。

 でも当の本人は態度を改める気はない。この子は自分が怒られてるという自覚がないのかな。この子の態度から見たらその様に受け取れる。

 今にも爆発しそうな時にいいタイミングで本玲のチャイムが教室内に鳴り響きルーラー(?)の怒りは爆発寸前でとまり両者すぐに席に着くとこのクラスの担任のケイローン先生が入ってくる。ケイローン先生は見た目は若いが中々のベテラン教師であり、弓道部の顧問である。更に見た目も雰囲気に合わせたかのように大人びていて思春期真っ只中の女子高生の完成を刺激するには十分だ。

 

「席には…座っているな。転校生を紹介します。入りなさい。」

 

 高校で転校生が来るのが珍しいのか、ただ単にわくわくとしてテンションが高まったのかガヤガヤとクラス内がにぎやかになり始めた。

 また騒がしくになり始めたことに頭を押さえるルーラー(?)それとは逆に今にも爆音並みの音量で叫びそうになっている子もいる。先程の生徒だ、確かに転校生っていうのは不思議と気分が高揚してワクワクしてしまう。美男子なら女子生徒が騒ぎ、美少女なら男性が奇声をあげる。

 

さて、お楽しみのご対面だ。初めて会う子にルーラー(?)も横目でどんな子かを確かめる。どんな子があのドアを通るのか...

 

入ってきたのは男の子。少し華奢な体付きで高校男子としてはもう少しあって欲しい(色んなところが)ただ、美男子である事には変わりなく、さながら研ぎ澄まされた宝石のような美形の中央を象る紅いルビーの様な瞳がとても印象的な男の子。

まぁ、何だかんだ言おうが女生徒にとっては可愛らしい美男子って事で黄色い悲鳴が上がる。

 

「さぁ、自己紹介を」

 

担任の先生の促しに頷き自己を紹介する転校生。

 

「ジークだ。性はないからこれだけだ。他には...」

 

自己紹介に詰まってしまうジークに質問をする生徒がいた。

言葉がつまり何を話せばいいかわからないジークを見て汲んだ行動だろう。

 

「趣味とかは〜」

 

「趣味...散歩はよくする。」

 

「好きな食べ物は?」

 

「.......別段好きな物も嫌いなものもない。」

 

「スポーツとかはするの?」

 

「余り...」

 

周りから見たら無愛想だなと感じてしまうぐらい乾いた答えでも皆よく質問してくれる。

ここまでは普通の質問をしている生徒達。

 

「好みの女子を教えて、又は男子も!!」

 

「特にない。...男子?」

 

何か変な事を聞かれた様な...

 

「着てみたい服とは?執事服とかどうですか!?興味あるなら持ってきます。あ、メイド服でも良いですよ」

 

段々変な質問が流れてきている。しかも周りの...クラスの女子達の殆どが何故か変に興奮しているのは自分の

それは男子が着るものじゃないと思う。

無表情だが大分困り出してるのをケイローンは感じ取り、席に着くように促す。

 

「さぁ、君の席はあそこの席だ。座りなさい。」

 

席を教えられたのでそこの席に着く。すると横から声をかけられる。

 

「初めまして、私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルクと申します。貴方の横の席の者です。暫くの間よろしくお願いします。分からないことがあれば何でも聞いてください。」

 

絵に書いたような美しい笑顔でそう言われ何故かほっとする。この人はさっき自分を質問攻めした人達とはまた違う。正直こちらの方が助かる。

この人の雰囲気は何方かと言えば最初に助けてくれたあの人に近い雰囲気を纏っている。

女性の雰囲気と言えば妖艶な雰囲気を纏わせているというのがよく使われるだろう。

だが彼女はその様な言葉全く似合わない。

彼女の慈悲深い清廉な雰囲気に凛とした彼女の芯が混ざり合い端麗で清い雰囲気が彼女の魅力に邪をつけいれさせないのだろう。

 

「あぁ、助かる。さっきも名乗ったがジークだ。これからもよろしく。」

 

愛想笑いもない、無表情の彼に少し疑問を抱く。普通なら愛想笑いでもいいから兎に角、いい感じを出し、また人を嫌い1人になりたい人でもそれなら話しかけるなというギスギスした雰囲気を出す。

だけど彼は何も出してない。何も感じられなかった。静かなのか怯えてるのか....少なくとも後者ではないだろう。人前は苦手って言うタイプではなさそうだ。

 

 

この時はわからなかった。彼と関わる事が私の啓示に影響を与えて大きく運命を...私を動かす何て思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

「HRはこれで終わりです。既に一限目の教師はいますので大人しく直ぐに授業を受けるように、騒いだりして授業崩壊なんて事はしないように。」

 

そう告げるとケイローンは授業があるのか教科書を持って教室を出て交代で一限目の担当教師が入り、集中力を切らさない為に間髪入れずに授業を始める。このクラスは亀裂を入れると直ぐに騒ぎうるさくなり授業どころではない。なぜなら止めるのに対して騒ぐ人が止める事を消し去る位騒ぎ出すからだ。

このクラスの二代対局巨塔、ルーラーことジャンヌ・ダルクは規律を重んじ規律を第一とした秩序を守る鉄壁の委員長。

その鉄壁を軽々しく砕く音の爆弾。元気が一杯なのはいいことだと思うがこの子の場合はもう少し精神的に成長してほしい。

 

「さて、授業を始める。」

 

 

 

 

 

〜said昼休み〜

「はぁ、疲れた。学校とはここまでくる疲れるものなのか」

 

とぼとぼと学食を目指すジーク。

10分休憩にあのピンクの人、アストルフォと言っていたか、その人が自分に物凄く興味を持ったのか物凄い質問攻め&話に振り回された為に、そのせいで凄く疲労感が溜まった。

そんな自分に声をかけられ振り向くと

 

「ジーク君。」

 

ジャンヌがいた。ジャンヌは休み時間の間ずっとジークを助けてくれた。正直ジャンヌが居なければ後数倍は疲れていただろう。

 

「あぁジャンヌか、すまないが学食の場所が分からなく迷っていた。案内を頼めるか?」

 

「え、あ、転校したばかりで場所が分からないのですね。良いですよこちらです。私も今日は学食でお昼を済まそうと思っていましたから。」

 

「ありがとう、助かる。」

 

手を引いてもらい食堂まで連れていってもらった。食堂は既に多くの人で埋まり尽くしていて座るところが見つからなかった。ジークはどうしようが考えてるとジャンヌがいい案を思いついたようだ。

 

「ジーク君、お昼はサンドウィッチで良いですか?」

 

「あぁ、何でも構わないが...」

 

「なら買ってきますね。ここで待っていてください。」

 

暫くしてサンドウィッチ、それと袋からも微かに香るコーヒーの匂いもある。ジャンヌが気を利かせたのだろう。

 

「付いてきてください。」

 

今度は駆け足で手を引っ張り食堂を出た。

 

「どこに行くんだ?教室に戻るのか?」

 

「いえ、教室に戻ればあのうるさいピンクがいます。多分だいぶ絡んできますから、兎に角付いてきてください。いい所を教えてあげます。」

 

ニッコリと微笑みを向けられジークは黙って引っ張られるがまま連れていってもらうと、緑彩り綺麗な葉に時期を少し遅れた鮮やかや紫陽花が面を覆う。

この綺麗な組み合わせに加えて、座ってくださいと言わんばかりの椅子と机。

 

「ここは」

 

ジークは思わずめを奪われる。確かに綺麗な場所だ。だからこそなぜここに人がいないのか、人が集まり賑やかに談を囲むことをしそうなのに

 

「ここは教室とも食堂とも人が多く集まる場所から離れてる為にこの時間は人がいないのです。ジーク君手伝ってください。」

 

「...手伝う?」

 

何を手伝えばいいのかわからずに首を傾げる。ジャンヌはそんなジークにやんわりと何をすればいいのか説明する。

 

「この椅子をこの場所のまま使うと虫が集まるので離れて使いましょう。」

 

成程、確かにこの季節は花や植物は綺麗に咲き誇るがその分、虫も集まりやすくなる。この時期はもう夏前なんだから

 

「分かった。」

 

作業は直ぐに済んで、昼食をとる。ジャンヌの買ってきたサンドウィッチはハムと卵と野菜のシンプルでマヨネーズがやや少なめだ。低カロリーのサンドウィッチっぽい。

 

「あぁ、そうだ。お金を返してなかったな。」

 

ジークは買って貰ったのに対してお金を返してないことに気づくとジークは財布を取り出してチャックを開けるとジャンヌは慌てて

 

「良いですよ、今日初めてですもんね。コレも神に導かれ出会った巡り合わせ。無垢な人からわざわざお金を返してもらうなど...」

 

「そうもいかない。こういうのはしっかりとして置かないと....」

 

「そうですね...すいません。確かに貴方の言う通りお金のやりとりを疎かにすると堕落に繋がります。」

 

ジャンヌはジークを見間違えていた。ジークはあまり自分に自信がなく自分を持っていない人と思っていたからだ。

それはなぜか、ジャンヌは彼から邪気、欲と言ったものが全く感じられなかった。

無欲と言えばいいのか、それともただの無関心といえばよいのか、ジャンヌはこれ程無垢な少年を見たことがなかった。存在すると思わなかった。

だからこそ欲もない彼に、しっかりと感謝している態度さえあればお金のことも今は強く言わなかった。

そこを見誤った。自分は無垢であるが無関心という訳では無い。しっかりとやってはいけないことはわかっているし、これはしないといけないという自分への決まりを定めて堕落しないためにも自分に厳しくしている部分もあるようだ。

 

「ありがとう。」

 

「ふふ、どういたしまして、さて時間もたって若しかしたらコーヒーも冷めてるかも知れませんね。」

 

ジャンヌはコーヒーに口をつけて飲もうとすると直ぐに咳き込んだ。ジークは不思議そうにジャンヌをみて自分の手元にあったハンカチを渡す。

 

ジャンヌは口の中に残る苦味のせいで咳き込んでいる。

 

「こ、コーヒーミルクを頼んだのですが...中身が完全にブラックでした。食堂のおばさん注文を間違えましたね」

 

どうやらこの人のコーヒーが苦手なのかもしれない、とジークは思っていた。

 

「ち、違うんですよ!少し苦いのが苦手なだけです!!少し甘めの砂糖とかミルクを入れたら飲めるんですよ!!本当ですからね!!!」

 

「あぁ、分かってる。」

 

そこに興味が無いのか変わらない無表情でコーヒーを飲んでるとこちらの方は甘かった。なら取り替えるかこっちならジャンヌも飲めると言ってるし。

 

「ジャンヌ、こっちは甘いぞ。苦い方は俺が飲むからこっちを飲んだらどうだ。」

 

と、ジークは自分のとジャンヌのを入れ替える。すると何故か頬を染めて慌てて辞めさせる。

 

「だ、ダメです。そういうのはしてはいけません。」

 

ジークにとっては何で止めるか分からない。飲めないなら無理をしなければいいのに...意地を貼っているのか?だがそういう風には見えない。

意地と言えば意地を貼っている様に見えるが少なくとも自分の弱点を隠すための意地ではない気がする。

 

「何故だ?苦いのは苦手なのだろう?」

 

「そうですけど.......その.......かんせつキスになるじゃありませんか」

 

と半分ぼかしながら言い切るが、当のジークは未だに首を傾げてる。こう言ってもわからない彼には飽きれればいいのか、それとも怒ればいいのかどうすれば良いのかわからず、もういいですと機嫌を損ねた。

 

「済まない、余計な世話だったようだ。ならこのままにしておく。」

 

全く気付かない鈍さとここまでの素直さにこうも自分が振り回されるとは...この行き過ぎた素直さがデリカシーをかけた心遣いをしているのだが、この素直さのせいで罪悪感を懐く。

何かと自分の調子を崩される。

 

「もう、良いです。コーヒー頂きます。」

 

また頬を染め目をそらしながら甘めのコーヒーを飲んでいる。

 

(美味しい。)

 

コーヒーもそれからサンドウィッチを食べ終わってからゴミを纏めてると、やや重圧のある野太い声で話しかけりる。

 

「そこにいるのは、ルーラーと...見たことないな転校生か?」

 

声だけでなく気を抜くと潰されてしまいそうな重々しい雰囲気を纏い飲み込まれてしまいそうになる。黒い服装と緑に近い黄色い髪がもまた不気味さを際立たせる。あちらから自分は記憶に内容だがここのパンフレットを見たジークは見たことがあった。ここの理事長だ。名前は

 

「ヴラド理事長。すいません、直ぐに片付けますので」

 

ジャンヌは頭を下げ理事長に謝る。どうやらここの植物は理事長が育てたようだ。

 

「よい、片付けるなら気にもしない。元々入ってほしくない場所であるなら立て札でもかけてるさ。転校生..ここの花は中々の植物だろう。」

 

急に声を掛けられ驚くジーク、だが言葉は詰まったが調子はいつもと同じで

 

「え、あぁ、そうだな。とても感動した。」

 

「ジーク君敬語!」

 

ただいつもと同じすぎて敬語すら使わずに返したのでジャンヌが叱る。

 

「よい、今日は気分が良い。我もそして植物もなそれに免じて不敬など水に流す。」

 

心が広いのかそれとも余裕が有り余っているのか、小さい事ではとくに心を乱さない。

 

「それでは、授業があるので、私達はこれで..」

 

「あぁ、勉学に励むが良い。ルーラー今日の放課後我の部屋に来れるか?この前取り決めた学内校則について話があるのだが...」

 

「分かりました。」

 

「それと転校生。貴様の過去、中々悲惨なものだな。」

 

今さらりと気になる事言い残したヴラド。だがこの時ジャンヌは気にせずにいた。

ジークが追求されたくないようだったからだ。

 

「いえ、気には....してませんので。」

 

「そうか?ならいい、もう行け」

 

ジャンヌとジークはその場を後にして校舎の中に入ると、ジャンヌにジークは怒られた。目上に対する敬いがなってなかったことともう一つ。あの理事長にまつわる異名についてだ。

 

「あの理事長は、普段は優しいのですが機嫌を損ねると手がつけられなくなるぐらい怒るのです。特にあの人の趣味である生け花の為のあの植物に手を出す事は彼の逆鱗に触れるも同じ。私はあそこで何度か会っていてそこまで怒られませんが、昔何度か怒らせた生徒がいたらしくその人が理事長室に連れて行かれ出てきた時から何故か出てきた時から串を見ればこう言ったらしいです。『やめてくれ突き刺すのだけは、それだけは...』とそこからあの人の異名の一つに『串刺し理事長』と」

 

「...恐ろしいな、」

 

「そうです!怖い人なのです。なのに何故あなたはそんな人に敬語を使わずに、しっかりと目上の人が相手なら敬語を使いなさい!!わかりましたか?」

 

「.......」

 

「わ か り ま し た か!」

 

「善処する。」

 

鬼気迫るジャンヌにジークもやや押され気味となる。

そう言えばジャンヌに聞きたいことがあったのだが

 

「なぁ、ジャンヌ?」

 

「はい?」

 

「貴女は何故ルーラーと呼ばれているんだ。アストルフォといい先ほどの理事長にも」

 

「あぁ、それは学校での役職です。私は生徒会に属していませんが、学校とその周辺の周りを正す行いをしていましたから理事長達が気を利かせ新たな役職として設立してもらい、こちらの名が広まったためです。」

 

「成程、それともう一つ。」

 

「何でしょう?」

 

まだ疑問があるらしくジャンヌは教えてあげようとする。正直こういうふうに教えるのは中々気分がいい。ジャンヌはそういう風に捉えている。

 

「何故ジャンヌは目上でもない俺に敬語で話しているんだ?」

 

と思っていた矢先に答えにくい質問が飛んできた。これはどう答えればいいのだろう。彼の純粋無垢なこの質問正直この年なら知っていてもいい気がするが...

 

「これはあれです、異性に対するあれです。殿方に対する礼儀です。」

 

こほんと咳をして答えるジャンヌにまたジークから斜め上にずれた変な質問が飛んでくる。

 

「じゃあ、何故アストルフォは俺に対しても他の異性に対してもあんな態度なんだ。」

 

ジャンヌは遂にずっこける。この斜め50度から富んでくるこの質問は本当にやっかいだ。

だが、彼はとんでもない間違いをしている。

 

「一応、言っておきますがアストルフォは男の子です。」

 

この瞬間初めて彼の無表情が崩れる瞬間であった。ただ、それもほんの少しだけであったがそれでも感情はしっかり見せるのだと安心した。

 

「女生徒の制服を着ていたのにか?」

 

そうアストルフォは女子生徒の制服を着ていたのだ。これは間違えて当然だろう。かくゆう自分も初めて見た時は彼は女だと思っていた。(教室の生徒全員)

 

「彼は変な趣味の持ち主なのです。」

 

「そうなのか、人には色々な趣味の持ち主がいるのだな。」

 

「後、言っておきますが、私は男性の方も女性の方も尊重している為にこのような話し方なのです。世間には色々な人がいるので全員がこうという訳では無いのです。」

 

そうこう話していると教室に付いた。ふたりは席につき次の授業の為に備えている。

机の中から教科書とノートを取り出す。

これがジャンヌに疑問を持たせた。何故ならこれまでの授業全てジークのノートはサラの新品であったからだ。普通転校してきたのなら何か書き込みなどを書いていてもおかしくはない。教科書もそうだこの高校で使う教科書を全て持っていいたのだ。前の高校と同じなら説明も着くのだがこの教科書に使われた形跡などは全く見受けられなかった。

でも、ジャンヌにとってはそんな事は気にしなくてもいいことなのだが....

さっきの理事長が残した言葉も...

 

と考えてるうちに本鈴のチャイムがなり午後の授業が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

〜said1日目終了〜

時は沈み真上にあった太陽はだいぶ地平線に近づいてきていた。

部活動がある生徒は残り他の者達部活の無い人は皆帰っていく。

ルーラーことジャンヌは理事長の頼まれた通りに理事長室に寄っていた。

 

「それでは失礼します。」

 

流石にもう彼は帰ったかな、学校の案内でもしてあげれば良かった。何か予定がなければジークの為に行動していただろう。

まぁ、もし困っているのであればまた明日案内などしてあげればいいか

さて、今日は月曜日ジャンヌの娯楽の一つのあれの発売日である。ただ、これは他人に知られてはいけない秘密。自分しか知らない秘密である。

それはどこにでもあるコンビニエンスストアで雑誌コーナーにある超有名雑誌

 

「ありました。ジャンプ!この前BO〇UTOは載せられてましたし、今週はなしのはずです。」

 

やはり日本のmanga文化は大したものと感動しながらジャンプを読んでいる。ジャンヌの月曜日は帰りできるだけ遠くのコンビニでジャンプを読むのが日課になっていた。

ジャンヌが深くジャンプを深く読み込む。最初の情報から今週のアニメ情報も購入出来るのであれば絶対懸賞を送ってやろうというぐらい好きなのである。そんなジャンヌの至福の時に誰かが水を差す。最初はジャンヌも気が付かなかったがちょくちょくの肩を叩かれ何かと振り向くと物凄い意外な人物が後ろに立っていた。

 

「ジ...ク君」

 

「やぁ、ジャンヌ。学校帰りか?」

 

転校生が何でここにいるのだろう。いやその前に見られた。私がジャンプに夢中なのバレた!?やばい幻滅される。いや、学校言いふらされる!?どうしよ誤魔化しが効かないですし。

 

「..済まない一応挨拶しようと声をかけたんだが...邪魔だったようだな。それじゃ」

 

「お、お」

 

ブルブルと震えるジャンヌにジークは腕をがっしり捕まれジークは離れることが出来ない。

 

「待ってください。そして私について来てください!!」

 

更には強引に引っ張られ、無理やり店から出される。

暫くの間引っ張られるがままになっているがその間も足を止めることなく走り続けるジャンヌの体力に驚いている。やがて小さな公園へと入ると足は止まり座らされるジーク。さすがに疲れたのかジャンヌも膝に手を当て息を切らしていた。

 

「ハァハァ、申し訳ありません。無理やり引っ張ってきてしまい.....でも何で...この様な所に.......?」

 

一応ジャンヌが選んでよくよるコンビニはとても距離がありどちらかと言うと冬木の町に与しているような場所で呼んでいる。まさか家がこちらの方向だったのか?

 

「いや、たしかにこの付近に家はあるが..俺はただ散歩していただけなのだが...」

 

「散歩....そう言えば趣味と言っていましたね。」

 

自己紹介の時に唯一答えた趣味で散歩と言っていたことをジャンヌは覚えていたようだ。まぁ今はそんなことよりもっとまずい事が起きた。ジャンヌにとって最も見られてはいけないものを見られてしまったのだ。多分言い訳も虚しいだろう。

 

「で、貴女が読んでいたこの雑誌面白いのか?」

 

「ひぁあぁ!!ちょっと盗ってきたのですか!?盗みは犯罪です。」

 

少し恥ずかしい好みが表に出てきた。だがこの場合は至って普通の好みだ。高校生がジャンプを読んでる何てよくある話だ。だがもしジークが窃盗をしていたら自分より大きな問題になるだろう。さすれば自分の行いも...な〜てのは全く頭にないジャンヌはどうやってジークを庇おうかああだこうだと考えていた。

だけどそれは無駄なことだ。何故なら...

 

「いや、気になったから買った。」

 

とジークはついでにレシートも見せる。

全くどんなタイミングで購入したかは非常に気になるところであるが、現在のジャンヌにそれを機にする余裕はない。何故なら

 

「忘れてください。今すぐに私がこれを読んでいたことを!!」

 

自分の醜態を忘れる様に懇願するジャンヌにジークは

 

「別に構わないが..何故忘れないといけないんだ?」

 

なんでこんなに慌てているのかがわからないであった。特に問題がなさそうな雑誌。中身もパラパラ目を通してみるもののやはり隠さないといけない問題は見当たらなかった。

 

「いや、その神に仕えるものがこの様な娯楽に身を置くなど...」

 

「ふむ、成程。だがジャンヌこれはそこまで悪いものなのか?少なからずも人は娯楽に身を委ねるものだと思う。見た感じこの雑誌は人を堕落する類のものではないと思う。いや寧ろ、この様な本でこそ人のあり方をあり用に語れるの.....「そう思いますよね!!」」

 

何がそんなに嬉しかったのかジャンヌは嬉しそうにジークの言葉を遮りジャンプについて熱く語り始めた。

 

「そうなのです。確かにmangaと言えば昭和の方たちも頭の硬い人は人達でも認めざるを得ない。日本の文化の一つと考えられる時代なのです。mangaの中でこそ人のあり方を描けるというものです。どんなに現実離れしていてもmangaの中ではカッコイイ主人公としてなり立てます。それをカッコいいと思える人の感性に刺激して自分も.....」

 

ジャンヌの熱狂的な語りにジークは生暖かそうな目でジャンヌを見つめていたためにジャンヌは思わず赤面して顔を隠す。「恥ずかしい、恥ずかしい」と悶える姿がなんとも言えない。

 

「他にもこれの面白い所があるのなら教えてもらえないだろうか?俺はこれについて興味が出てきた。」

 

「いいです...ダメです。このような所をほかの生徒に見られたら...」

 

「人目を気にするのか?」

 

「... はい」

ややゆっくりと俯きながら答える。だがそんなジャンヌにジークは心配ないと告げる。

 

「これは「週刊少年ジャンプ」というらしいな。この少年とは俺のような年頃の男子を言うのだろう?」

 

「はい。」

 

不思議そうにジャンヌは答えた。

すると次の瞬間ジークは肩が当たる距離まで詰めて2人の間にジャンプを広げる。

その思わず来た行動にジャンヌはまた赤面し驚いている。

 

「え、ちょ」

 

「こうすれば、俺が貴方にこの雑誌を教えてるように見えるだろう。」

 

「あ、え?そう...ですけど」

 

確かにこの状況を第三者がみたら少なくともジャンプを読んでるのはジークでジャンヌはそれに付き合ってる様に見えるが...これは違う意味で変な目で見られそうになる。

 

「うれしい申し出ですが...ジーク君。」

 

「どうした。?大丈夫か?」

 

「え」

 

急に心配をかけられなぜ心配されたかがわからないジャンヌ。そんな事ジャンヌに躊躇いもなくジャンヌの頬に手を当てる。

 

「顔が赤い。熱でもあるのか」

 

「いや、そのえ、ちょごめ」

 

ジャンヌはついに耐えきれなくなりジークを押し飛ばしてしまった。

 

「あぁ!やってしまった..すいませんジーク君」

 

とジャンヌは慌ててジークを見るが、そのジークは不思議そうに上を眺めていた。

 

「そうだった。無闇に異性に近づいてはいけなかったのだったな。すまないジャンヌ、気分を悪くしてしまったな。人との付き合いはあまり無くてな。まだどう付き合えばいいかわからないのだ。」

 

ジークの言い分にジャンヌはキョトンとしてしまう。今までの行動を思い出してみても確かにそう思えれば頷ける点はいくつか心当たりはある。

 

「ジーク君は..その引きこもり、または不登校だったのですか。」

 

「引きこもり?不登校?..」

 

「あ、あぁつまり学校とかには行っていなかったのですか?」

 

「確かに今通っているのが初めての学校だが...」

 

「ダメじゃないですか!!!」

 

ジャンヌはジークに今日1番大きい声で怒鳴りつけた。

 

「学生は勉強が本文!!堕落した日常を送っていては人は成長致しません。むしろ劣化し欲に塗れ人の威厳を保てなくなってしまいます!!貴方はその様な人では無いと思っていましたが...「すまない」」

 

ジャンヌの説教を遮り先にジークは謝る。今のジークは小動物の様に縮こまり怯えているように見えた。

流石に怒りすぎたのか、ジャンヌはため息を吐き

 

「でも、貴方はその日常を辞め世間に向き合った。それは褒めるべきことだとは思います。」

 

無言で俯くジークの手をジャンヌは握りしめこう告げる。

 

「だから私が貴方に教えてあげます。このmangaの事も勉学の事も、そして人との付き合い方も、私が貴方に教えてあげますりだから堕落した日常には戻ってはいけませんよ。」

 

そう優しく告げるジャンヌにジークは微笑みながら感謝を伝えた。

 

 

「ありがとう、ジャンヌ。」

 

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ後編

更新です。


〜sideジャンヌ〜

私は今日知り合ったジーク君と共にジャンプを読んでいた。時間を忘れるぐらい長い時間ジーク君は飽きもせず私の話を一生懸命聞いて真剣な眼差しでジャンプに向き合っていた。

 

「でこれが...あれ」

 

だがそんな時間を思い出させ2人の世界から呼び戻したのは雨だった。いつの間にか雲が空を覆い傾き山にかけれかけていた太陽も太陽と交代して夜空を照らす月も隠れていた。

これはヤバイ、昼間とは全く違い夜空を見上げても雲が覆って見ることが出来ない。まだ梅雨を抜けきっていなかったようだ。

ジャンヌとジークは子供たちが遊ぶ遊具の中で雨を凌ぐがこれは中々やみそうにない。

冬と違い寒いと感じさせる寒さはないが、雨のせいか隙間から入ってくる風が肌寒さを感じさせる、

 

「やみそうにありませんね。どうしましょう。」

 

「...ジャンヌ、もしよければ俺の住んでる所に来ないか。家はここから近くなんだ。ここにいるよりはまだマシだろう。家なら傘もある。それがあるなら貴方も帰れるはずだ。」

 

確かに傘を借りられれば帰ることは可能だ。

「どれぐらいなのですか?」

 

自分はジークの家がどこにあるのかわからない。

距離によっては近くのコンビニで傘を買って帰る方がいい。自分で走って帰るというのは無理だ。ジャンヌは自分の趣味を隠すために学校から

 

「走ったら3分もない。」

 

なら行ってみてもいいだろう。それに少し興味もある。彼がどんな生活をしているのか...とか、でも急に来客何て来たら家の人は困るだろう。

 

「家には」

 

「お爺さんが1人...」

 

「お爺さん?」

 

親はいないのか、それとも離れたところにてこの学校に通うためにわざわざ預かってもらっているのか...色々考えていたジャンヌに「どうした?」と声をかけられ慌てて「問題ありません」と伝えて

 

「その、ご迷惑かけるかも。」

 

「多分気にしないと思う。心の広い人だから..」

 

気にしなくていいとジークは言った。肉親の為か彼はだいぶその人に信頼をしているのだろう。

ジャンヌもここはお言葉に甘えさせてもらう事にして家に寄らせてもらうことにした。

 

確かにジークが言っていたとおりに家は近く、公園を出て過度を曲がりもう一度曲がった先にある。少し年季を感じる趣のある中々の家だ。

 

「ただいま。」

 

中に入ると、香ばしい匂いと気持ちの良いクラッシックが気持ちを落ち着かせる。

 

「おぉ、おかえりジーク。濡れなかったか。そこの子は友達か?」

 

家に入り、玄関で迎えてくれたのは少し黒ずんだ肌が目立つ一介のご老人。

 

「ただいま、お爺さん。彼女は俺のクラスメートという奴だ。名前はジャンヌ」

 

ジークからの紹介されてジャンヌは礼儀正しくお辞儀をするとセルジュもまたほっこりする笑顔でお辞儀を返した。

 

「ジャンヌ・ダルクです。彼とは学校でクラスが一緒になり席も隣で...その」

 

「あぁ宜しく、わしの名はセルジュ。それはそうとジーク、お前さん『自分に友達なんて出来るのだろうか』何て言っていたのに初日から出来ておるではないか、それもこんなに可愛いお嬢さんを」

 

と冗談を交えた言葉にジャンヌはまた心を乱してしまい慌てて否定する。

 

「そんな、可愛いなんて..私はその」

 

ぷしゅ〜と頭から煙を出し、手を思いっきり振りながら照れ隠しで否定している。そんなさなかジークはまたジャンヌの頭を悩ませることを言った。

 

「何を言ってる。俺とジャンヌは...友達なのか?」

 

ジャンヌはここでグサリと矢が突き刺さるような感覚を初めて体験した。こちらはこちらでだいぶ傷つくことを言ってくる。今日一日でジャンヌのスタミナはもう1週間分消費した気持ちだ。

 

「ジーク君!ジーク君は私を友達と思ってなかったのですか!?酷いです!!あんなにいっぱい喋っていたのに、さっきもその.....それなのにジーク君は私のことを友達と思ってなかっのですか!?」

 

激しい剣幕で怒られるジークは壁にまで追いやられた。そこからどう返せば良いかわからずにジークは些か不安定に言葉を紡ぎながらこう言った。

 

「それは..そのすまない。ただ‥そんな簡単に貴女の友達になって良いのかわからなくて..友達でいいのなら友達にしてくれ」

 

「ジーク君、ジーク君は深く考えすぎる傾向にあります。確かに軽く考え過ぎるのは良くないことですが、それでも深く考えすぎるのは体に要らない負担をかけます。

いいですか!友情というのは同じ肩を並べたらそこには友情が芽生えるのです。友情が発足するのに」

 

流石にジャンプファンなだけある。友情について説明しているとセルジュがほほほと笑っているので、また照れ隠しの為に無理やり話題を切る。

 この家族にジャンヌは物凄い振り回される。

 

「と、とにかく、私はジーク君の友達です。わかりましたか?」

 

そう断言するとジークは嬉しそうに笑った、そんなジークを見るとジャンヌもまた気づかれないように嬉しそうにした。何故なら今日一日ずっといた感覚ではあったもののたのしそうに、そして嬉しそうにしたのはまだ見たことがなかったからだ。それを自分が友達と断言したらこうも嬉しそうにしたのだ。言ったかいがあった。

 

「さぁ、お前さん達中に入れ、そこじゃ冷えるだろう。ジークよお前さんの部屋に案内してやれ。お前さんの部屋ならちょうどよかろう。タオルはそこに置いてある持っていけ」

 

と洗濯カゴに入っていたタオルを一つジークは持っていく。洗濯カゴに入って履いたもののもう乾いているようで、タオル本来の柔らかさと暖かさを取り戻していた。セルジュは後で、暖かい飲み物でも持っていくと言ってくれた。

 

「優しいお爺さんなのですね。」

 

「あぁ、本当に助かっている。」

 

ジークも肯定する。ジークの部屋は階段を上がりすぐのところ、中は家具が最低限あるだけであとは何も無かった。部屋はちゃんと清潔にしてるらしくあまりホコリなども無く、ただ年季ものの家だから黒ずんだところはある。ジークは座布団をジャンヌの方に置きタオルを渡す。ジャンヌも渡してもらったタオルで髪などを拭き肩にかける。

 

「ありがとうございます。」

 

ジークは部屋から出て飲み物をとってくると言って出ていき、一人となったジャンヌは部屋の中を見渡した。

綺麗で常に清掃されてるこの部屋、入った時から違和感がある。

それはものが無さすぎる事だ、いくら物欲が無くても少し日常必需品以外のものはあるはずだ。ジークは年頃の男子である少し気が引けるところもあるが部屋の中を見て机の引き出しを見るとそこにあったのは、文字の練習した紙だ。漢字、ひらがなカタカナ、英語に数字の計算式

 

「これは..最近書かれたものですね。」

 

紙の状態からまだ書かれて一年もたってないのがわかった。でも筆のレベルは後々綺麗になってはいたが最初は書きなれない小学生が書いたような筆跡だった。

何故この時期に字の練習をしたのか、数学の計算式も連立方程式や関数のグラフ程度なら分かるがこの足し算や引き算をここまでやり込むのは不自然だ。よくよくその箱の中を見るとワークやちょっとした参考書そして小学生が使う小学生ようの漢字ドリルなどが見つかった。これもまた書き込んだ形跡に消してまた書き込んだ形跡もある。

 

ジークの唯一の私物である勉強道具を見ていると、床が軋む音がしてくる。多分ジークが戻ってくる音だ、これをそのままにしておくのはジークに悪い。自分の都合で彼のプライベートを勝手に調べられるのは不快感を煽る。

私はすぐにこれらを戻し元の場所に直して用意してくれた座布団に座る。

 

「ジャンヌ、ココアを持ってきたのだが...飲めるか」

 

「あ、ありがとうございます。はい、ココアは大好物なので...」

 

ジークはココアをジャンヌに手渡しして、ジャンヌはその温かみを感じながら飲む。

ジャンヌはそのココアを飲みながらジークに尋ねた。

 

「ジーク君。聞いてよろしいでしょうか?」

 

「何をだ。」

 

特に質問されて困ることはないだろうと思いながらジャンヌの質問に答える姿勢を見せるジーク。

ジャンヌはいちばん聞きたいことを遠回しでジークに質問してみた。単刀直入に聞いても良いのだがそれは何かと気が引ける。直球に聞きすぎて触れなければいいところにも触れてしまいそうだからだ。

 

「ジーク君はもしかして遠いところから来たのですか?」

 

「何故そう思う?」

 

「私もフランスからの留学生なので似た所があったものですから。」

 

半分嘘で半分は本当だ。フランスから来たのは本当なのだが特に日本に来て困ったことは無かった。ステイ先も決まっていたし元々日本の文化には興味があったからだ。

ステイ先の人とは何かと一悶着はあったが日本での苦労は寧ろ充実の証として感じている。

 

「残念ながらそういうものでは無い。ここの血縁者ではないが縁があり預かってもらっている。彼は俺の事を本当の孫の様に優しくしてくれる。」

 

「そうですか、、」

 

ならあの練習は何なのだろう。まだ嘘をついている可能性はあるが、ジークを見る限り嘘をついている様には見えないし、そもそも嘘をつく理由がない。ならその他の理由..があるはずだ。

でもこれ以上の詮索する事でもないのだろう。若しかしたら、ここの家の人の実子が居て、その人のものかもしれない。.........ともかく今ここで深く掘り下げるべきことでもない。丁度ココアを飲み終えたので話題は変えジャンヌは窓の外を見てやみそうのない曇天を見ている。

 

「やみそうにないな」

 

「そうですね。」

 

ジークも同じで窓の外から雨の様子を見ていた。それとジークは時計も見てもうだいぶ遅い事に気づく。こんなに遅ければ家の人も心配するだろう。

 

「ジャンヌ、今日はもう遅い。傘を貸すから帰ったほうがいい。」

 

話を切り出したジークの意見にジャンヌも肯定する。曇天でも夏の為に、微かにもれる光が雲を薄く見せている。

でも時計は正直に時間を示している。

流石に帰らないと家に帰る時間はもっと遅くなるであろう。

 

「俺は先に降りて傘の用意をしておく、支度ができたら降りてきてくれ。」

 

と言いジークは先に部屋を出る。ジャンヌも座布団を邪魔にならない所に置いて部屋を出た。

出たらすぐにセルジュさんに呼び止められる。何か用かと聞くと、セルジュはジークがいないことを確認して、少し重いプレッシャーが二人の空気を張り詰める。

 

「ジャンヌと言ったな。貴女の人柄を信じてお話したいことがある。」

 

 

 

 

 

「何でしょう。」

 

ジャンヌは聞く姿勢を示してセルジュに向き合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜said帰り道〜

セルジュの家を出たジャンヌはジークに傘を貸してもらいって帰路に立つ。

こんな夜分だ。女性独りは何かと心配事がある為にジークができるだけ送ることとなり、ジークも同伴している。

2人の間は何故か距離が少し離れ沈黙が支配している。昼間はよく話していた2人だが今は何やら重苦しい雰囲気に息が詰まりそうだ。原因はどうやらジャンヌにあるようだ。ジャンヌの沈んだ顔をしているためにジークも話しかけられないのだ。

「なぁ、ジャンヌ。」

 

話しかけても答えない。一体何が原因なのかも聞けないでいる。だがもしこれが自分の粗相ジャンヌにこんな顔をさせてしまったのなら謝罪をしなければいけないと思う。

今日何度も自分を助けてくれた恩人であり、その友達なのだから。

その為にジークは最終手段をとった。一応先にジャンヌに声をかけてジークはジャンヌの肩を強引に揺らした。これならどんな上の空の人でも意識がある限り反応してくれるだろう。

 

「ジャンヌ!」

 

ジークはジャンヌに気付いてもらうために、わざと少し声を荒らげ名前を呼ぶ

ここでやっと自分が呼ばれているのだと気付いたジャンヌは慌てて「何でしょう?」と反応した。

 

「ずっと声をかけていたのだが..やはり聞こえてなかったのか。」

 

「え!?そうだったのですか...すいません。」

 

驚愕の表情を見せるジャンヌにジークは「そこは構わない」と伝える。

 

「大丈夫か、家を出てからずっと何か考え事をしていたようだが」

 

「えぇ、」

 

言葉に詰まりながら俯くジャンヌにジークは自分が何かやってしまったのかと思い謝罪をする。

 

「すまない、俺が貴女に何かをしてしまったのなら謝るだからそんな顔をしないでくれ。」

 

頭を下げるジークにジャンヌは全力で否定する。確かにジークの事で悩んでいたのは間違いない。でもそれは謝るべきことではない。寧ろこちらが頭を下げたい気分である。

 

「そんなジーク君は悪くはありません。わたしもそのような事をされた覚えはないです。だから顔を上げてください。」

 

人が少ない小道とはいえこんな所で頭を下げさせる何て、しかも彼に不備はない。彼の過去を聞かされたら彼に頭を下げないといけないことなんて何も無い。

 

「すいませんジーク君、聞きたいこと...あるのですが」

 

聞いていいのか、聞いたところで自分がなにかして挙げれるかもわからない。

でもセルジュさんは私なら彼を救えると言ってくれた。そんな大きい期待をされても応えられるかわからない。でも神に誓って私は彼の力になれるのなら全力を尽くしたい。

 

「ジーク君..貴方にはなんの記憶もないというのは本当でしょうか。」

 

 

 

 

〜Sideセルジュの家〜

家から出る少し前にセルジュに呼び止められたジャンヌ、何のようか聞くと何やら重たい空気が二人の空間を重くのりかかる。

 

「貴方に話したいことがあるのです。」

 

改まって何を聞かさせるのか..大体察しがつく。

 

「ジーク君のことですか?」

 

多分彼の事だろう。ジャンヌは眉をひそめながらセルジュに聞く。

セルジュは黙って頷く。

ジャンヌも聞く姿勢を取り直してセルジュに向き直す。

 

「さて...話すと決断したはいいが何からどう話せば良いか...」

 

「彼の部屋には字の練習した後がありました。あれば何なのですか?今から話すことはそれに関係があるのですか...?」

 

「なるほど...これなら単刀直入に言った方が早いな。彼には記憶が無いのだよ。」

 

セルジュの言葉にジャンヌは反応が遅れる。セルジュはそれでも続けた。

 

「彼を預かったのは半年前のあの火災事件...」

 

セルジュの言う半年前の火災とは隣町である冬木市に起きた大火災の事だ。死傷者多数でそれは近くの街をも飲み込む炎の波が人を襲い、人々の心に恐怖を焼き込む、最近あった災害である。

ジャンヌもその時には日本にいたのでそれを遠目で見ることがあったがあれは悪魔が命を欲するように人を焼いているように見えた。

 

「彼はその事件の被害者なのですか...」

 

ジャンヌは唾を飲み込みながら恐る恐るセルジュに聞くとセルジュはそれを分からないと言いながら首を横に振る。

 

「その日、その火災が起きていた時にある男が私の前に現れた。その男は必死に私にジークを助けてくれと懇願してきおってな、彼の懸命な言葉に私は負け彼を預かった。」

 

年老いた自分の脳でも彼との出会いは鮮明に覚えている。彼の熱い思いとは裏腹に悲しみも含むように見える彼の心を映し出した言葉の一つ一つはセルジュの耳を通して心に刻み込んでくるのだ。それは今聞いてるジャンヌにも伝わる。

 

「それから程なくしてジークは目覚めた。だがその時気づいたのだ。彼は酷い記憶障害を起こしているということをな。とてつもない恐怖を体験したものは精神を守るために事件前を忘れる事はあるのだが、ジークは言葉すらも分からなくなっていてた。ワシは言葉を教え、幸いあいつは頭の回転がよく物分りも良くてな...三ヶ月もしたら中学生位のことならすぐに覚えてくれた。」

 

ジークはよく出来た人間であったと話してくれる。気遣いができ、優しく、物覚えも良い。自分にこんな孫がいてくれたらと感じるぐらいに...と話してくれた。

 

「セルジュさん、何で私にその事を話してくれるのでしょうか?」

 

確信をつくジャンヌの質問、何故赤の他人とも言えるジャンヌにそのような大事な事を話してくれるのか

 

「お前さんのような人を探していたのだ。ジークがワシといた期間あやつは思い悩むことはあっても笑う事はなかった。あやつの心の問題をワシじゃどうする事も出来ん、だからこそ同年代が集まる学校へと通わせた。あの高校は前から縁があっての、学力さえ問題無ければ通常の生徒として通わせてくれた。.....ほほほ、ワシの思った通りあやつの心を救う人間はワシの様な一回の年寄より同年代の友達だったというわけじゃな。」

 

皮肉じゃない。セルジュは本当に嬉しそうに話してくれた。ジークが笑ってくれて、ジークが楽しくしてくれることがセルジュにとって本当に何よりなのだろう。...でもジャンヌは思う。こんなに思ってるセルジュの思いを自分は叶えて挙げられるのかを...

 

 

 

 

 

ジャンヌは自分の胸の鼓動が早くなってるのがわかる。ちの流れが速いのか体温が何十度にも跳ね上がったように思えてくる。

高鳴る鼓動を押さえ込み、流れる冷や汗を拭うジャンヌはジークの言葉を待った。

 

「あぁその事を知っていたのか。お爺さんに聞いたのか?」

 

呆気絡んとと答えたジークにジャンヌは力みすぎた力が思いっきり空回りしてしまいズッコケかけてしまう。

「その事って、その事で済むほど軽い問題じゃないと思いますよ!」

 

ジークの物言い、周りは物凄く心配しているのに本人は軽視してるかもしれない事にジャンヌは少し険しい表情になる。

 

「すまない、気を悪くしたなら謝る。ただ、軽い.重いも俺の中にはわからない。俺はそれすら、その感覚すら覚えてないのだから、もしかしたら自分はとてつもない恐怖を体験したかもしれない。大事な人を失っていたかもしれない。それでも俺の中には何も無い。」

 

淡々と無表情で続けるジーク..

ジークにとっては軽視と重視何て次元の話では無かったのだ。

 

「苦しく無かったのですか、寂しいとは思わなかったのですか?」

 

「何を体験したら苦しいと感じるのかも、何が寂しいと感じさせるのか、それもわからないんだ。...」

 

 

「 ある時一度、俺はいない方がいいのではと考えた。俺は必要ではない、寧ろ俺があの家に居候として預けてもらってること自体お爺さんの負担を多くしている。」

 

バランスよく取れていた世界に入り込んだ異物それを自分だと思っていた時それがジークにはあった。

何かわからない感覚が、何かわからないものが目から溢れ出ていたと言う。身体中がズキンズキンと疼いてきていた。心中がモヤモヤした霧みたいなのが心を覆うような感じしてくる。

ただ、そんな時ふと耳に囁かれたような気がした。

 

「何も無い記憶にある言葉だけ覚えていた。」

 

沈む顔浮かびあがらせる一言、それがジークにはあった。例え記憶がなくとも、ジークの奥底にひそかにひっそりと存在していた。

 

「.....その言葉とは」

 

「『誰からも焦がれることをなくとも、幾千の人がお前を望まなくとも、俺はお前に生きといてほしい。』誰に言われたかも、いつ聞いたかも、最初は意味すらわからなかった。お爺さんに言葉を教えてもらい俺はこの言葉の意味を知ると何故か胸の当たりが熱くなってくる。同時に意味を聞くとうっすらだが何かわからない者がこみ上げてくる。」

 

胸を抑え沸々と上がる熱を感じるジーク、ジャンヌはそのジークを見続ける。

ジャンヌもまた近くにいるだけで彼の思いの熱が伝わってきてる気がしてくる。その熱を感じると何故か、いや彼の今してる表情が自分の心に影響を与えて私にも感じているのだと思った。

 

この喉をくすぐるような喜びととお腹の辺りからこみ上げてくるちょっとした悲しみが...

 

「俺はこの言葉を信じ生きてみた。でも、誰が言ったかもわからない言葉。お爺さんもその人は確かにいると言ってくれたが.....それでも..それでも脚の力が抜け立ってられなくなるこの感覚は俺の足元から離れなかった。」

 

今でも思う。自分がこの世界に必要ないと考えた時に体の全て力が抜けて立つことが出来なくなるあの感覚を思い出すと肩が震える上がる程切なく、体にまとわりつく、この時ジークはこれが絶望するということがわかった。

 

「だからこそ、今日俺に向かって言ってくれたあの言葉、あの言葉は本当に嬉しかった。」

 

「あの言葉...?」

 

 

間を開けてジークがたまに見せる喜びの表情を見せてあの言葉をジャンヌに言う。

 

 

「ジャンヌは俺を友達と言ってくれた。」

 

「!?」

特に意識なく言ったただの言葉。自分は彼をそうだと思いそう言っただけの言葉、このご時世では安売りされるぐらい儚く意味をあまり持たない言葉...

 

「この言葉が、俺にあの言葉の真の意味を証明してくれた。貴方は望んでくれるのだろう。俺を」

 

少し後悔する。自分はそこまで深い意味で言っていないのだ。ただ話した、ただご飯を食べた当たり前の日常をたった1日過ごしたから、これからも続けるからそう言っただけなのだ。

「そんな深い意味で私は言えません。私はそこまでの人ではないのです。100%貴方の為を思い言葉を与え、貴方に生きる事を望んだその人と同じなんて...いれるわけがありません。私に貴方が失った15年間を埋めるなんて.....」

 

ジークは驚きジャンヌは自虐する。

自分は何て無力なのか、幾百の言葉を発せても彼の何倍もの知識を有していても、彼を救えるなんて断言ができない。

それでも彼を知ると自分の胸が張り裂けそうになる。

彼を思うと何かが喉にぐっときて息をする前に言葉が飛び出しそうになる。

彼を見てると自分心から溢れ出す涙にジャンヌは負けてしまいそうになる。

 

同情しかできない自分の無力さが恨めしい。

 

「...貴方の事を思うと涙を抑えないと溢れ出てしまうぐらい弱い存在なのです。神に貴方の事を頼まないと何もできない無力な存在なのです。それでも貴方の事を見捨てる何てできない中途半端な人間なのです。そんな人が力になれるかもわからない...」

 

ジークはふっと笑を零して安堵の表示でジャンヌに応える。

 

「それでも、俺は今日感じた感覚をまた味わいたい。貴女とならまた味わえると思う。胸がざわつき、気分が高まり、心が踊るこの時間が終わらなければいいと思えたあの感覚を...」

 

 

するとジークは黙って手を差し出す。そんなの関係ない。それでも自分は貴女といたい。そんな気持ちが前面に出たジークの行動。

 ジャンヌは迷っている。軽い気持ちでは受け取れない、どんな事を言われても半端な覚悟で物事に入られない、それがジャンヌの性分なのだから。

 

「私は不器用で無力です。それでも貴方が救いを求めなくてもこんなことを知ってしまったら、私は貴方を助けようとします。そんな私でもいいのなら私は貴方の友達として貴方のこれからを笑って過ごせる様に...もし辛い体験を思いだしたとしても、それに挫けないでいられるそんな貴方になれる様に私は最善を尽くします。

神に誓って」

 

ジャンヌはにっこりと微笑みながらジークの手を取る。

 

 

「あぁ、ありがとう。そしてこれからもよろしく。」

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1ページ目

深夜のfateApocryphaでのアストルフォの裸を見たジャンヌの反応が面白かったですね〜まさかあそこまで笑わしてくれるとは...
ってかアストルフォ一切テレビアニメ特有不自然な光ありませんでしたね〜。
何処かのバカクラスの秀〇見たいに入れるかからバカクラスなら特有の鼻血で隠しますからね〜


〜sideジーク〜

 

夏の日差しが強く眠気を突き刺してくる朝、日差しの眩しさとセルジュの柔らかい声がジークの意識を徐々に覚醒させていく。布団から出て1つ大きく伸びをしてジークはドアを開ける。ドアを開けるとパンが焼けた時になるあの高い音と目玉焼きの香ばしい匂いが朝一番の食欲を刺激し階段を降りる。降りたらそこには先に出来上がったばかりの目玉焼きが乗っているパン、コーヒーが傍らに置かれ更に新聞が置かれている。

 

「朝ご飯はそこに置いてある。」

 

「ありがとう。」

 

ジークは礼を言い「いただきます。」と食への感謝の言葉を発して新聞を片手間にパンを掴みかじる。

ジークの朝はセルジュの作った朝ご飯を食べならが新聞を読むことから始まる。

ジークが新聞を読むのはそう言った部門に進みたいとか、そこにとてつもない興味関心がある訳でもない。もちろん大人ぶっているという理由でもない。

ジークが読むのは文字の読む練習だ。新聞に出る漢字は普段日常に使う言葉、たまにマニヤックな漢字も入り読む練習にはピッタリなのである。後、ここのブームや色々な情報が詰まっている為にこれで予習も兼ねている。

 

ただ、同級生に新聞の話題をふっても中々ついていけない事にジークはまだ気が付いてない。

 

「今日も、あの子と一緒に登校するのか?」

 

「あぁ」

 

この前の一件以来、ジャンヌとジークは毎朝登校し帰るのもよく一緒に帰ったりしている。何かと心置き無く一緒にいられる仲であり、ジャンヌの母性本能なのかただお節介やきなのか、ともかくそういったものがジークを何かとほって置けないのだろう。

 

「早めに行ってやりなさい。女性を待たせるのは男のしていい事じゃないからな。」

 

「わかっている。ごちそうさま」

 

ジークは新聞を置き自分の食べた食器を軽く流しておき、洗面所に移動する。ジークは洗顔や歯を磨くなどは綺麗に磨くが髪は特に拘っていない。

元々が物凄いくせっ毛な為に寝癖なども全く目立たないのだが...

ジークは水で顔を洗い眠気を完全に吹っ飛ばし、制服に着替え制カバンを肩にかけて駆け足で階段を駆け抜け、セルジュに、

 

「行ってくる。」

 

「あぁ」

 

一声かけてドアを開けて今日の一日に向けて登校する。

ジークの家から学校まで距離がある。だから学校に行く時はいつも普通の人より早く出て朝の陽射しを感じながらゆっくりと歩くのが好きだった。それとこの前ジャンヌと偶然登校中出会った事からジャンヌと登校するようになり、最近は待たさないように早く行くことにしていた。

 

「ジーク君!!おはようございます!!!」

 

陽射しの心地よさを楽しみながら歩いていると前から声をかけられる。

 

「おはよう、ジャンヌ。いつもより早いな、何かあるのか?」

 

「えぇ、先生に提出しないといけないものがあるので」

 

「手伝うか?」

 

ジークが不意に出た言葉にジャンヌは嬉しそうに頷く。

 

「いえ、大丈夫です。プリントを提出するだけなので。」

そんなやり取りをしながら歩いているこの時もジークにとっては数少ない楽しいと思う事の1つだ。

 

「そう言えば、ジーク君の名前は誰につけて貰ったのですか?」

 

「..さぁ、そう言えば誰が...お爺さんか?」

 

ジークもそこまで深く考えていなかったらしい。現在頭を傾かせて誰が付けてくれたのかを考えている。この名前は気づいた時にはもう定着していたのだ。

 

「普通気になりませんか?」

 

「今思えば気にすればよかったな。」

 

ちょっと不機嫌に口を尖らすジャンヌにジークは顎に手を当てて感心している。

 

「でも、もし俺を預けた人が名付けた名前だったとしてもお爺さんはその人がどんな人誰なのか知らない。だからあまり意味が無い気がする。」

 

「そうやってすぐに想像だけで結論づけてはいけません。当たって見なければわからない事なんて良くある事です。」

 

「...そうか、そうだな。ありがとう」

 

「お礼を言われることではありませんよ。」

 

ジャンヌはにっこりと微笑む。ジークは変わらず前だけを見て2人は学校を目指す。

 

「それはそうと、ジーク君課題はやって来ましたか?」

 

「課題?何か出ていたか?」

 

「はい、言っておきましたよね。今回私のお手伝いがてら部活視察する所をチェックしておくと。まさか‥‥」

 

ジト目で見てくるジャンヌにジークは、「あぁそれか」と手を叩き勿論やっておいたと言う。

 

「本当ですか?」

 

更に近づいてくるジャンヌに眉一つ動かさず勿論と告げる。

 

「なら、今日見終わったら校門で待ち合わせですよ。ここの部活動は多いですからね、2人手分けしないと回りきれません。」

 

本当はジャンヌ1人でやる仕事だったのだが、ジークが自分から手伝いたいと申し出てきてくれて最初は自分の仕事のためにしぶったが...ジークにとって自主性は今後とも必要なもの、だからジャンヌは了承した。

 

「了解した。」

 

ジャンヌの学校での役職ルーラー、ルーラーは快適な学校生活をおくらせる生徒会の一員であり、会長と同じぐらい威を持っていている。

その仕事とは違反を犯している生徒の注意はおろかペナルティを与えられ学校と学区内の風紀を守り、委員会や部活動の監視を主な仕事としている。

特にここの学校は部活動が盛んで強化部も沢山ある。ただ、結果を残しても練習を疎かにしている部活動はあっても風紀を乱すだけ、こう言ったものも罰則を与えたりしている。

委員会も然り、あるだけの委員会は罰則もしくは生徒会の判断で消されたりしている。

これは元々生徒会全体の仕事であったが、今年の前期生徒会選挙にてこれまでに見ない位激しく票の競い合いが行われた為に、ここの理事長がその成果と力に見合う役職を与えたとの事そこからジャンヌはルーラーと呼ばれることになった。

 

「確かに此処の部活動は多いな。余りほかの学校を知らないがここまであるものなのか?」

 

「いえいえ、この学校は個性的な生徒が多いからその為でしょう。」

 

前に貰ったパンフレットを見ながらジークは数えているが、イラストありとはいえ5ページ位ある。

実績もしかり、最初の1ページ半位までは輝かしい成績ばかりの強化クラブでその後に続く部活動ちらほらと成績が載ってあった。

委員会も委員会で活動は学外までに響いていた。

 

ジークとジャンヌが歩きながら話しているといつの間にか学校に着いていて、2人は上履きに履き替え、ジャンヌは先程言った通り職員室に向かいジークは先に教室に入る前に、ジークは掲示板に貼っている部活紹介ポスターを見ている。一応順序よく上手く回れるように場所だけは覚えられる分覚えていた方が楽だろうからだ。

 

「やはり、多いな。活動場所で区分してくれたらいくつか見やすいと思うが...」

 

「あぁ、その意見は良いですね、今度貼り直しておきましょう。」

 

突如後ろから第2者の声が聞こえてきた。でもこの声前に聞いた事がある声だ。

転校初日に自分が迷っていると助けてくれたあの男の声がした。

確か名前は‥‥

 

「シロウ‥と言ったな。」

 

「はい、覚えていてくれてありがとうございます。」

 

相変わらず邪気を一切感じさせない彼の笑顔には警戒心を超えて少し恐怖も感じる。

向こうも此方のことを覚えていたらしい。

 

「この前は助かった。ありがとう」

 

「いえいえ、学園の者として当然のことをした迄のこと、礼なんて結構です。それで貴方は部活動を始める気なのですか?」

 

「えっ?あっ、いや‥‥」

 

「貴方は前の学校で何か部活動はされていましたか?」

 

「いや‥何も」

 

「そうですか‥‥此処の部活はどれもこれも中々の強豪で帰宅部出身の新入部員は付いていくのはなかなか至難の業ですよ」

 

「いや、そう言う意味で見ていた訳では無い。ただの興味本位と、少し手伝いを頼まれただけだ。」

 

「ほぉ~そうですか。ですが、一生に一度しかない高校生活ですから悔いが残らない様にして下さい。」

 

目を閉じまるで答えを知っていた様な物言いをするこの男。

 

「それでは頑張って下さい。」

 

「は、はぁ‥‥」

 

そう言い残してその場を去るシロウ。

彼の後姿をジークはジッと見つめた。

後にジークはシロウの事をジャンヌに聞いた。

それによると彼はこの学校の生徒会長であり、本名を天草四郎時貞と言うらしい。

ジャンヌ曰く彼程の善人はいないと。だけどわからない、善人とはいい人の事だ。でも彼からはよくわからないが、あの男といると、身の毛がよだち、知らぬ間に後ずさってしまう。

彼には警戒心を無意識に引き出させる何かがある。

ジークが初めて怖いと感じた相手は1年先輩であるあの男であった。

 

彼が去ると自分のもそこに用が無くなり教室へ向かう階段を登り始める。

2階に上がり階段の踊り場辺りからもう自分のクラスメートの声が聞こえてくる。それはいつも元気で子犬のようなあの少年の声‥‥ジークが多分彼だろうと予想しながら教室を開けると、

 

「おっはよー!!もう学校になれたぁ!!」

 

予想通りやはり彼だった。

桜のような淡いピンクの髪を下げて誰かれ構わず人懐っこく喋り、自分の空気で周りの空気も自分の空気と同調させる少年、アストルフォだ。

自分から話すことがないジークにとって人を選ばず話してくる。

アストルフォみたいな人はとても助かるのだが...彼のペースに乗ってしまうと自分みたいな人は振り回された挙句、壊れてもなお振り回される人形みたいになりかねない。

なお余談であるが、ジークが彼を初めて見た時、ジークはアストルフォを女の子だと間違えてしまう一面があった。

あの時は、本当にアストルフォが男なんて信じられなかった。

すると、アストルフォが、

 

「じゃあ、確かめてみる?」

 

と言って体育の授業でズボンを脱ぎ、その後にパンツまでも脱ごうとした時は流石に焦った。

 

 

「おはよう、あぁだいぶ慣れてきた。」

 

「おお!それはよかった。そうそう...転校生は.....」

 

あぁ、これは逃げれる事は出来ない‥と言うより席にも座れないと思える。

でも彼が自分を心配してわざわざ話しかけてくれたのだ。そう無下にしてはいけないだろうし困ったものだ。

 

「はい、席に着いてください。そこで話したら通る人の邪魔になります。」

 

さっき別れたジャンヌが来てくれた。

 

「あぁぁ、そうだね。ここは邪魔だね。」

 

とアストルフォも納得しくれた。それから程なく違う生徒からアストルフォは声をかけられジークにじゃあねと一声かけアストルフォはそちらの方に行く。

 

「苦手ですか?彼の様なタイプは?」

 

「苦手...って言っていいのか、どう付き合えばいいかわからないんだ。」

 

「そういうのも苦手と言うのですよ。彼の行為をどう受け取ればいいかは、少しずつ慣れていけばわかるものです。」

 

ジャンヌは目を閉じながらそう言って自分の席に向かって歩いていく。

 

「そうなのか、覚えておく。」

 

 

 

 

〜side昼休み〜

 

今日もまた昼ごはんをジャンヌとジークは一緒に食べていた。

本日の昼ジャンヌはお弁当でジークは購買で買ったパンである。

ジークのパンはサラダが挟んでいるのとホットドッグの2つでジャンヌはご飯とおかずに唐揚げを多めとした卵焼きにそれを覆う草のようなキャベツの山。

部活をしている人のスタミナ弁当みたいな量である。

しかし、ジャンヌは部活には所属していない事から、彼女がその見かけによらず大食いなのだ。

 

「今日はまた多いな。」

 

「そうですか?普通だと思いますけど?ジーク君こそ今日はだいぶ忙しいのですよ。」

 

それを普通と言いきったら自分は何なんだ。パン二つで十分の量なのに

ジャンヌは留学生な為に自分の食費は出来るだけ自分で出さないといけないために、たまにカロリーと共に食費も抑えるための量にしたりするが、ただ抑える日と抑えない日の差が凄く大きいのである。

パン1つで終わらす時もあれば今日のように激しい運動でもするのかと思うぐらい食べる。最近になってわかってきたこと。

ジャンヌはとてつもない大食らいなのだと‥‥。

 

「そうそう、ジーク君これ」

 

と言って渡してきたのは今日見に行かないといけない部活動のリストだ。

ボールペンで丸印がしてあるのが、ジークが今日回らないといけない所のリストアップだ。

ジークはパラパラと捲りながらさらりと確認していく。

 

「わかった。今日の内に回ればいいんだな。」

 

「えぇ」

 

「できる限り回る。何を基準して視察すればいいか教えてくれ。」

 

「そのままの報告をして下さい。私にその権限があるだけで貴方は手伝いでも、その権限はありませんので。」

 

「わかった。」

 

ご飯を食べながら進んでいく会話。

2人の仕事話だけで昼休みは終わり、迎えるは午後の授業。淡々とこなしていくジークはノートに黒板の文字を写しながらリストを見ている。

場所の確認をしていたのだが、隣のジャンヌに視線で『授業に集中しなさい!』と怒られた。ジークはリストを折りたたんで自分のポケットに直して置いてシャーペンを手に持ち教科書を見ながら授業に集中し直す。

学校の授業は参考書よりもわかりやすい、その教科の専門についた人が直に教えてくれるとは、常に自分1人で自習し、保護者であるセルジュが教えるのも限界がきていた為に、自分じゃわからない所はそのままにしておくしか無かったのだが...この学校という制度で疑問などはスグに解消してくれる。

それだけではない人との関わりがゼロであるジークに同年代の出会いを与え、尚且つ社会常識を学べる所など他にない。

ジークのような精神年齢が1部幼い大人の様な考えを持つ人にとって学校は有難い施設なのだ。

 

ジークはチラリと横を見て、その喜びを噛み締めながらまたノートに専念する。

 

 

 

 

 

日もそこそこ傾き、クラスは恒例の掃除を始める。

ジークは1番付き合いのあるジャンヌとゴミを捨てる係だ。重たい荷物を2人で運びながら今日の授業の雑談をしている。

 

「どうでしたか?内容、分かります?」

 

「あぁ、あの担任のは特にわかりやすい。」

 

「そうでしょうね。ケイローン先生は教師歴も長いですし、あの人は苦手科目がないからどんな教科でも対応してくれるのですよ。」

 

ジャンヌがそう教えてくれとジークも感心する。

自分じゃ得意分野を伸ばせても、あの人みたいにはなれないだろうと思えてくるからだ。

 

「ジャンヌは?」

 

「えっ?」

 

「そう言えば、ジャンヌは何の教科が得意で何の教科が不得意なんだ?」

 

丁度ゴミ捨て場に到着してゴミ袋を捨てておき、ジャンヌに少し抱いた好奇心を尋ねる。

 

「.....まぁ社会は得意ですよ。苦手はその...あ〜、こほん!ジーク君は!ジーク君はどんな教科が得意なんですか?」

 

これ以上ないぐらい強引に話題を変えたジャンヌは気を取り直して自分ではなくジークに話題の矛先を変える。

 

「俺か?そうだな‥数学は個人的に好きだな。」

 

ジャンヌは右ボディを喰らった痛みを心に受ける。

 

「苦手は特に無いな。」

 

またジャンヌは同じ痛みを喰らう。(今度は反対方向から)

何故ならジークが予想以上に頭が良いからだ。その上素直で、美形な所、大人っぽい雰囲気がありながら幼さを隠せないところもチャームポイント.......。よく言われる鉄壁の聖女などと言われ、頭が固すぎると言われている自分にとっては羨ましい限りだ。

 

「へぇ~優秀なのですね。ジーク君は‥‥」

 

「ん?そうなのか」

 

優秀の基準をわからないジークは頭を傾げている。ジャンヌは顔をひきつらせて微妙な表情をしていた。別に卑屈で言った訳では無いのだが..自分が感じた感情を理解されないのはこちらの調子を壊される。

ジャンヌは直ぐに気を取り直してジークと共に教室へと戻る。

だが、ジークは肝心のジャンヌが不得意とする教科を聞きそびれてしまった。

 

「さてと、早く戻って荷物の整理をしておきましょう。早めに教室を出る為に」

 

「わかった。」

 

だが、廊下は走らない。そこら辺の規則もしっかりとジークの中に叩き込んでいるジャンヌであった。

教室に戻り、終わりの会まで雑談をしていたジークとジャンヌは終わりの会の先生の連絡を聞いて教室を出ると、

 

「じゃあ、終わるかもしくは最終下校時間になったら校門の前に集合です。」

 

「わかった。」

 

2人は別れて部活視察に行く。

ジークのリストにあったのは英会話研究会、弓道部、漫画研究部、書道部、剣道部、地域交流会、放送部等などこれを全て1日で回るのは骨が折れる‥って言うか、これを1人で回ろうとするジャンヌの事を考えたら引き受けといて良かったと思う。

 

「えっと、まずは...」

 

ジークは視察する部活動の名前と部活場所を確認しながら移動を開始した。

 

 

 

〜sideジャンヌ〜

 

「おぉ、ジャンヌよ!!遂に!遂に!!つ・い・に!!!我が演劇部に入ってくれる気になったか!!!!」

 

「い、いえ今日はルーラーとしての一環で部活動の視察に来ただけです」

 

ジャンヌは今演劇部の視察に来ていた。

ここの顧問の名はシェイクスピア。脚本に俳優何でもござれのまさに演劇を導く者だ。彼の書いた脚本はプロにも絶賛。彼の演技力は世界も嫉妬すると言われるほどに

なお、余談だがジャンヌは個人的に此処の顧問が苦手だ。ぐいぐいと来る性格にジャンヌは押され気味になってしまう。

しかも一々吐く台詞がオーバーで芝居がかっているのも苦手な一因となっている。

 

「ふんふん、そうか、それは残念、いや実に残念、だが貴女の様な花の淑女Lady like you flowerは吾輩達演劇部一同は何時でもお待ちしておりますぞ。」

 

仰々しくお辞儀するここの部員達と顧問に苦笑で手を振るジャンヌ。

そんなジャンヌに囁く顧問。

 

「そうです。ジャンヌ貴女の為にこんな脚本を用意しました。題して『無垢な少女と無知の少年』吾輩彼にも興味を持っております。」

 

ジャンヌはつい過剰に反応してしまった。この人ジークを知っているのか...いや、そう言えば理事長も

 

(それと転校生。貴様の過去、中々悲惨なものだな。)

 

ジークの過去を知っている様子だった。そう言えばセルジュが此処に縁があると言っていた。成程上の立場に人は知っているのか

 

「いや、吾輩はそこまで上ではないですぞ。吾輩はこの前、あなた方が一緒に帰っているのを見かけたのでな、その上何やら興味を唆る密談をしておりましたので、吾輩電柱に耳ありで聞いておりました。」

 

と自分の行動を隠さずに暴露する。ジャンヌはこの先生に怒ればいいのか、恥ずかしがればいいのか、訴えればいいのか、本当に困った先生だ。しかも心を読んでくる、隠し事もできない。

 

「あ、あと1つ助言を‥あのコンビニは吾輩もよく寄っておりましてな、今度から違う場所で読む事をお勧めしますぞ。」

 

「‥‥」

 

しかも、自分の秘密を知る人がもう1人ここに居た。この人は口の軽い人じゃないと思うが...他にもバレてるかもしれない。

もう精神的にダメージを負いすぎたジャンヌはビクビクと震えながら演劇部を後にしたジャンヌであった。

 

「それでは...失礼します。」

 

ジャンヌは扉閉めて大きく一息つく。胸を抑えて自分の鼓動が激しいのがわかる。色々体に負担がかかった、でもこの1番自分にとって一癖もふた癖もある顧問に引っ張られるこの部活を最初に終わらせ次の部室に移動した。

 

「さて次に移動しますか」

 

最初から濃い部活の視察をしたせいか少しお疲れ気味のジャンヌだった。

 

 

〜sideジーク〜

 

ジークは弓道部に来ていた。この虫の鳴き声だけが聞こえる静かな空間でそれと同調する様に正座させられていた。

同情内差し込む夕暮れの日射しが影と重なる部員...アタランテを差し込んでいる。泣く蝉の声が泣き止んだ時、彼女が弓に構えていた矢を発射した。

 

放たれた弓は空を切り裂き的の真ん中を正鵠に射抜く。

 

「すごい...」

 

つい零れる汗を吹くアタランテの姿に無意識に感想がこぼれたジークであった。

 

「で、何の用で来た?入部希望か?」

 

アタランテは集中力をここで切り雰囲気だけで先程と違う事をジークに教え、ジークも要件を話す。

 

「ジャンヌ...ルーラーの仕事の手伝いで少し見してくれればいい。そのまま報告をする。」

 

「ふん、生徒会の犬が。別に疚しいことなどもやっていない。部員達も悪くない空気だろう。正直部外者がいる方がこちらの集中が乱れる。」

 

ピリピリとした空気が空間を通じてジークにも伝わってくる。それはアタランテだけでない。他の部員も同じらしい。ここは自分達の領域ここから先に踏み込むものは...私の矢で脳天を貫いてやる。その様な事を言ってきそうな感じだ。

 

「確かに、部活動として活動しているみたいだな。すまなかった邪魔をした。」

 

ジークは立ち上がり道場を後にした。

ジークは緊張がとけ力が抜けたのか大きく一つため息を吐いた。

 

「はぁ~これがスポーツか、すごいな‥今も手が震えている。」

 

彼らの殺気にも似た肌を突き刺す雰囲気に当てられたジークは震える腕を見ながら、次の部活に期待を抱きながらリストを見る。

こんなに、すごい人達がやるスポーツに興味を抱いたようだ。

 

「...?」

 

だがおかしい、次に行こうとしていた剣道部は場所が記載されていない。ジャンヌに渡された小さめのパンフレットに載っておらず、1回の部活ポスターの所にまで移動してどこか確認しようとしてもここにも無かった。

元々存在していない...いやジャンヌに限ってそんなミスは犯さないだろう。

 

「何処にあるんだ?」

 

困った。という顔を浮かべるジークに救いの手が降り立った。

 

「どうかしましたか?ジーク。」

 

急に現れた第2者の声の方に振り向くと、自分の担任のケイローンがいた。ケイローンは校内の見回りとしてここに立ち寄ったようだ。

 

「あっ先生.....剣道部に行きたいのだが場所がわからない。」

 

「剣道?何故あの部に?悪い事は言わないあの部には入らない方がいい。」

 

険しい顔で言うケイローン。この穏便な先生がここまで剣幕な表情を浮かべるなんて...そんなに問題のある部活なのだろうか?だとしたらジャンヌの為にもしっかりと視察を報告しないといけない。

 

「別に部活動に参加する訳じゃない。ジャンヌの仕事の手伝いをしているだけだ。」

 

そうすると少し安堵しため息を吐く。だが直ぐにまた険しい顔でジークに忠告する。

 

「ルーラーとしての仕事の手伝いをするのはいい事ですがあの部活は君の手に余る...行くのであれば彼女も一緒の方が良い」

 

「それでも俺は彼女の手伝いがしたい。彼女の助けになりたいのに煩わせるては意味が無い。」

 

ここまで言っても譲らないジークにケイローンは根負けして肩を竦める。

 

「仕方ないですね、では私も一緒に付いていきましょう。」

 

仕方なく何も無いように自分も同行する事を提案する。だが、ここで1つ問題が起きた。ケイローンを探していた違う女性の教師がケイローンに話しかける。

 

「先生!ここに居たんですか...」

 

「六導先生。どうしたんですか?」

 

「もうすぐ職員会議ですよ。早く職員室に来てください。」

 

ケイローンはあぁ、もうそんな時間かと腕時計を見ながらつぶやく。

そしてケイローンはすまなそうにそちらに行かないといけなくなり、ジークに仕方なく場所を教えて職員室に向かった。

剣道場の場所は先程居た弓道場の後ろにあると聞いて、それなら移動しなければ良かったと後悔した。

ジークは直ぐに弓道場に戻りその後ろにある少し小さめの道場が見えた。

 

「何だか弓道部に場所を取られて奥の方に追いやられているって感じだな。」

 

この建物の構造は至ってシンプルなのだが...どうも弓道部に8割、剣道部に2割しか渡ってないようだ。まぁ弓道は場所を取るからそのせいだろう。

ジークは早速扉を少し開けて中を覗いてみる。

中には部員と思わしき1人の女生徒がいた。

金色の髪を後ろに束ね、全体的にスラリとした体型で手に竹刀を1本構えた。その部員は目を閉じ集中しているように見えた。まるで空気の流れを感じ、対象物である練習台に全神経を注いで向かっている。

刹那、ジークが集中し見ていた一瞬の間に目を疑う光景を見た。まるで雷だ。迸る稲妻の如く激しい剣筋と轟音がジークの感覚を刺激した。

 

「な、何だったんだ?さっきのは...「おい!」」

 

自分の目を疑っている時に金髪の女生徒が急に此方を向いている。

 

「てめぇ、さっきからジロジロと覗きやがって、此処は部員なんざ募集してねぇんだよ。さっさと消えやがれ。」

 

突然の暴言にどう反応すればいいかわからないジーク。元々、視察に来ただけなのだが、

そもそも、部員は普通どの部活動でも募集しているものではないかと思う。人数がいなければ部活動はできないはずだ。

さてどうしたものか...素直に話すのがてっとり早いだろう。そう決めた時違う第3者の声が加入する。

 

「これこれ、折角の入部希望者が来たのに追い返す事はなかろう。」

 

ぬっとりとした女性の声を聞いた瞬間、剣道部の部員の女生徒は顔を歪め舌打ちをする。

 

「なぁ、モードレッドよ。」

 

「ちっ、生徒会の女狐が‥‥」

 

この場に来たのは生徒会会長の右腕であり、この学校の女帝と言われるセミラミスだ。この人の事もジークは事前にジャンヌから聞いていた。

取り敢えず、嫌な予感がしたのでジークはセミラミスとモードレッドと呼ばれた女生徒から距離を取った。

 

「今日は客がよく来んな。誰一人お呼びじゃないだがな。」

 

全く崩れないモードレッドの悪態。それを嘲笑うセミラミスの態度もまた、両者が両者の態度をとった助長し更に激しくなる。

 

「お主、幾ら戦績で残せるといっても限度があるのだぞ。素行の悪い生徒に貴重な場所と部費をくれてやる程、妾もそして妾の主も寛大では無いのでな、さっさと看板を下ろすがよい。そもそも1人では大会には出場できぬであろう。」

 

「ンだとぉ!この毒女が、誰に向かってんな軽口叩いてんだぁ!!あぁ!!」

 

相手を見下す態度しか見せないセミラミスにモードレッドは胸倉掴んで絡んでいる。

 

「お、おい。アンタ、少しは落ち着けって‥‥」

 

ジークはモードレッドを落ち着かせようとするが入る余地が全く見当たらない。

 

「だぁってろ!案山子風情が!!」

 

モードレッドはこの時ジークを押し飛ばそうとするが2、3度ジークの姿を見直して...それから、

 

「こいつは新入部員だ。なっ!?そうだよな!?」

 

「いや、ちが‥「そうだな!早く練習しないとな!!」」

 

ジークを強引に黙らせるモードレッドは異議を唱えさせない。

 

「んじゃ!もう用は無いよな!!さっさと帰って会長さんと乳でもこねくり回しとけ!!売女!!」

 

余裕ありげにこの場から追い出そうとするモードレットの態度が気に食わないのかセミラミスは顔を歪め嗤う。

 

「そうか、でも確か先程そやつを追い出そうとしていなかったか?」

 

「んな、わけないよな!」

 

モードレットは物理的にジークの首を縦に振らせる。

 

「てめぇ、そのとろっとろに溶けちまった脳みそじゃ3秒前を覚えんのが限界なんだろうな〜。まっ、そうゆう事であばよ〜」

 

この人、これでもかと言うぐらい人の気を逆なでさせる態度はないだろうと言うぐらいの挑発行動にセミラミスは怒りが収まらなくなってきて青筋が浮かんでいるように見える。

 

「覚えておれよ、この猪女が!!」

 

しかも最後にセミラミスを締め出した。

 

 

「さてと、邪魔者は消え去ったし、んじゃここに名前書いてくれたら名簿に載せといてやるよ」

 

モードレッドは適当な紙を取り出しペンと消しゴムを渡す。この行動にジークは戸惑っている。

別に入部できた訳では無いのだがここに入らなければ彼女の剣道部は無くなってしまう。あの最初に見た空気、あれはアタランテ達と同じ真剣に向き合ったものしか出せない独特の空気を醸し出す彼女を蔑ろにしてこの部活を潰してはいけない。

 

「あ、別に部活に来ようなんて思わなくていいぞ、名前さえあればいいんだからよ。」

 

「えっ?」

 

ジークは耳を疑う。部活に来なくていい、部活動というものは部員皆で切磋琢磨して自分達を磨きあるものだと思っているからだ。

 

「別にいいよ、邪魔なだけだからな。俺は俺の好きな様にやりてぇし、練習場所として最適だからこの部を存続させている。「ダメだ!」」

 

ジークは声を荒らげてダメだと宣言する。

 

「あ?」

 

「それならこの部は部活じゃない。」

 

ハッキリものを言うジークが気に入らないのかモードレッドは激情しジークに突っかかる。

 

「お前、何知ったように言ってんだ!?雑魚・オブ・雑魚の癖に生意気言ってんじゃねぇよ!!」

 

とまたモードレッドは突き飛ばそうとしてきたが、ジークはそれを紙一重で避ける。モードレッドはジークが避けた事に驚きを隠せなかった。

 

「なら、弱くなければ言っていいんだな?強さを見せればお前にモノを言ってもいいんだな?」

 

ジークの目つき‥それはジャンヌもセルジュも見たことがないぐらい鋭く真っ直ぐ怒りの矛先を睨んでいた。

 

「あぁ、お前が俺より強いんなら、お前の話を聞いてやるよ。弱肉強食‥それが此処のモットーだからな。」

 

モードレットはそれに怯まずに捕食者の様な笑みを浮かべながらジークに宣言する。

こうしてジークはモードレッドと剣の勝負をする事になった。

 

 

 

〜ウラバナ〜

 

勢いで言ってはみたもののジークは道着の着かた何て知らないしそもそも道着なんて持ってない。

しかも剣道も今回が初めての経験で防具の身に着け方も分からない。

 

「あぁ、お前あんなに意気込んどいてまさか剣道素人なのか!?」

 

幾ら待っても来ないジークの様子を見に来tモードレッドが道着に悪戦苦闘しているジークに尋ねる。

 

「そうだが?」

 

モードレッドの質問に当然のように返答するジーク。

そんなジークの態度にモードレッドはガクっと崩れる。

モードレッドの態度を見て何でそんな不思議そうに言うんだ、とこっちが首を傾げたくなる。

モードレッドとしては、よくそんなので自分に絡んできたなと思い、それでも知らないままほっておくのは何かこっちが不完全燃焼になる。

 

「しっかたねぇな、ほら手伝ってやるからさっさと脱げ」

 

「ここでか!?」

 

「いいから脱げってんだ!!あぁもうまどろっこしいなぁ!!」

 

じれったいジークに痺れを切らしたモードレッドはジークの服を無理やり脱がすという暴挙に出た。ポンポンとジークの服を脱ぎ捨てながらジークの体を見ているモードレッドは呟く。

 

「しっかし、、服の上から見たがそれ以上のなよなよした体だな。お前本当に男かよ?」

 

貸し出しした道着を無理やり着させてサイズが合わなかったら違うのを持ってきて着させていく。

 

「あ、ありがとう。」

 

着終わってからジークに竹刀を投げ渡して、

 

「それで?ルール説明は?」

 

念の為、剣道のルールを知っているかを尋ねる。

 

「‥‥頼む。」

 

最初から最後まで締まらないジークだった。

それと同時に彼はモードレッドについて口は悪いが面倒見のいい奴だと認識した。

 

 

 

・・・・続く

 




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ページ目

更新です。


前回の続き、ジャンヌの手伝いで放課後に部活動の視察を行っていたジーク。

そこで彼はスポーツというものを生で見るのは初めての経験で、好奇心に満ち溢れみていたが、学園のとある問題児がいる剣道部に立ち寄る事になりそこでただ1人の剣道部部員モードレッドに会う。

モードレッドは生徒会からも目をつけられる程、素行の悪さが目立つ女生徒だった。

そこから何をどういえばいいのか、ジークはモードレッドに無理やり部活に入れられる。

だが、モードレッドは名前を貸せば別に来なくていいと言うのだ。

つまり彼女はジークに幽霊部員で居ろと言うのだ。

今回、ジークが見て回った部活動は全て一致団結し時にはライバルとして切磋琢磨していくもののはずなのに1人でやる部活は部活動では無いと宣言してしまう。

格下にものを言われ、目上の説教のような言い分に腹を立てるモードレッドは初心者であるジークに突然野良試合を申し込んだ。

 

 

〜sideジャンヌ〜

 

時は遡ること数分前‥‥てきぱきと部活視察を行うジャンヌ、ジークと違い手馴れているジャンヌは1つ1つにそこまで時間をかけずに次々とやっているので処理速度はジークよりも当然早い。

 

「ふぅ~ありがとうございました。」

 

地域交流研究会の部室を出て廊下に立ち残りの部活動に目をやる。

 

「さて、あと2つですね、後は‥‥あ、あれ?」

 

ジャンヌは以前から危険視していた部活である剣道部が手元のリストの中にないことに今気が付いた。

何度見返してもそこにはなく段々と最悪な状況を想像しながら顔が青くなっていく。

 

「も、もしかしたら、ジーク君のリストと間違えて‥‥」

 

ジャンヌはリストを手渡す時、自分の分のリストとジークの分のリストを間違って手渡してしまったのだ。

いつものジャンヌならこの様なミスを犯さないだろう。でも今回は独りですべて回るつもりだった。その為に急遽作った自分とジーク用のリストを間違えて渡してしまったのだろう。

別に弓道部などは問題ないだろう。むしろ学校やスポーツの真髄を知ってもらう為には行って見た方がいい。

だけど、剣道部は違う。自分でも手を焼くあの不良もどきの生徒に絡まれて滅多打ちにされ、辱められ、口も開けないぐらい虐められ、最悪どこかに障害を持ってしまい、最悪自ら命を‥‥

そのイメージが頭によぎった瞬間ジャンヌは急いで廊下を走り出す。そうなってからでは遅い遅すぎる。

その最悪のイメージを振り払いながらジャンヌは廊下をかけていく。

途中で先生から「廊下は走るな!!」と注意を受けても「すみません」と一言言って彼女は剣道部の道場へと急いだ。

 

 

 

 

〜side道場〜

 

烏が泣き始め、日も暮れ始め青かった世界は濃い橙へと色を変え、影も黒くなり木のように伸びていく。

耳に聞こえるは微かに聞こえるチャイムだけというこの静寂が支配する空間で2人の選手が竹刀の距離で向き合う2人。

 

「いいか!お前はどうやってもいいから俺から1本取れば勝ち!!俺はお前が降参したら勝ちだ!!!分かったか!?」

 

「分かった。」

 

ジークは面や小手を付けてもらいがっしりと身体全体を覆っている。

だがモードレッドは道着を1着着ているだけで、他は防具類全て何も身につけていない。

これは自分がお前如きの太刀なんて一太刀も喰らわないという絶対的な余裕なのか?

それとも初心者であるジークへのハンデなのか?

それとも両方なのか?

 

「始めるぞ、準備はいいな!?もやし野郎!!」

 

「ああ、いつでもいい!!来い!!」

 

数コンマ間を開けてモードレッドは試合開始の合図を天に向かって吠えつけた。

それと同時に荒々しかったモードレッドの気が突如霧散する。

それに目を開き驚嘆するジークだった。

だが、そんなちょっとした行動は敗北へのきっかけへとなる事を今、この場で轟雷の様な叫び声とともにモードレッドは紫電の様にジークの思考を駆け抜けた。

 

「面!!」

 

上から響く振動に痛みこそ軽減されたが面から響く振動は脳に響きぐらつかせ足まで渡っていく。

今分かった‥彼女のあのギラついた気は消えてなんかいなかった‥‥

全て集約し1つに統一していたのだ。

まるで自分そのものが1本の剣の様になるまでに、今のモードレッドは間合いに入った全てを切りかかる妖刀のようだった。

 

「どうだ?身に染みたか?自分の身の程ってやつをよぉ」

 

「ま、まだだ‥‥まだ、俺は降参していないぞ‥‥」

 

強者として膝をつく相手を文字通り見下すモードレッド。

だが、ジークは負けを認めるつもりは無く、すぐに立ち上がり竹刀を構える。

モードレッドは舌打ちしながらルール通り付き合ってやる。

 

(まっ、後2、3度やり合えば否が応でもでも諦めるだろう。)

 

そう思ってお互いまた竹刀を突き合わせて剣道独特の距離の測り方で構える。

今度はさっきの様に行かせないためにジークから切り込む。

 

「やァァァァァ!!」

 

何度も振り下ろす竹刀をモードレットは片手で遇う様にあしらい、触手のように絡めとる。

 

「ふっ」

 

絡まれたジークの竹刀は宙に弾き飛ばされ、空いた胴に鋭い閃光に感じる位一瞬で突き飛ばす。モードレッドの鋭い突きを受けてジークは吹っ飛ばされて尻餅をつく。

吹っ飛ばされては膝をつき、面を打たれて尻餅をつく何度も何度も繰り返し無様を晒すジーク。

 

「いてて‥‥」

 

「おい、まだやんのか?」

 

それでもこの時、モードレッドにはもう侮りや侮蔑何てものは無かった。

ジークを諦めの悪い敵と見定めて低く現実を突きつける。

その為にジークにとって彼女の言葉はもう疑問形では無い。命令形に聞こえた。

自分力を思い知れ、図に乗るなそう言った言葉を交えている気がする。

 

(モードレッドにとって俺は格下なんて距離じゃない、上を見上げても届かないぐらい離れているんだ。)

 

ジークは自分とモードレッドとの差を認識はしたが、それでも彼女に対してそう簡単に折れる訳にはいかななかった。

一方、モードレッドの方も、

 

(勇敢さと度胸だけは買ってやる。でもな、それだけでやっていける世界じゃないんだよ!!剣の世界はな!!)

 

彼女もジークの度胸は認めた。

しかし物事はそう簡単に上手くは行かない。

だからこそモードレッドは試合形式でそれをジークに分からせる為に勝負を吹っ掛けたのだろう。

 

「だが負けじゃない。これは正式の試合じゃない、俺が降参と言わなければ俺の負けにはならない例え100本取られたとしてもだ」

 

そう言うとジークは背中に手をやりコソコソと動かす。

モードレッドはそれが何の行動かわからずに首をかしげて

 

「おい、お前‥何やっているんだ?背中でも痒いのか?」

 

彼の行動を尋ねた。

するとジークは、

 

「すまない、この防具外してくれないか?」

 

「はぁ?」

 

思わず耳を疑いたくなるセリフを吐いた。

モードレッドにしてみれば彼の思考がおかしいのかとも思えてくる。

防具を外すなんて幾らルールを知らなくてもそれ外したら軽いケガじゃすまなくなる。

まして相手は自分と違い剣術に関してはドが付くほどの素人なのに‥‥

 

「お前、ふざけてんのか?タダでさえ実力の差があんのにソレ(防具)を外したら、手前の綺麗な肌もアザだらけの茄子みたいになんぞ。」

 

「構わない。別に肌をそこまで守りたい何て思っていないからな。」

 

ジークは手を止めることをやめずに上の面を取り外し次に小手を外す行動に移る。

モードレッドは大きくため息を吐き、

 

「はぁ~骨折とかしても泣きついてくんじゃねぇぞ‥‥それにそれはお前が頼んだ事だからな、後々になって俺に面倒をかけるなよ」

 

モードレッド自身は既に自分に対する悪評は知っているので、今更悪評の1つや2つどうってことないが、今回はあの生徒会の女狐に見られていた事から、後々生徒会から事情を聞かれるのは不味かった。

その為、事前にジークからの怪我を負っても面倒事にしない様に言って、彼もそれを認めた。

 

「あぁ」

 

ジークの背後の防具の結び目を取り外し端っこに置いといた。ジークは後ろの防具に目をやらずに目の前にいる試合の相手を見据えている。

 

「もう1本いくぞ!」

 

「来い!」

 

小さな道場内を響く乾いた音、竹刀が竹刀とぶつかり合い奏でる音は最初そこまでしなかった。

何故ならジークが瞬殺されていたからだ。

でも少しずつ、少しずつだがジークはモードレッドの剣筋を捌けるようになってきた。

ジークにとってもあの防具はとても重く慣れないために動きづらくて仕方なかった。その為に外した方がジークの身は軽くなり動きにキレが出てくる。それだけじゃない、ジーク唯一の才能と言えるものがジークを更に喰いつかせる。その才能とは覚えの速さだ。半年足らずで高校受験を成功させるぐらいの知識を身につけ、それを促進させる貪欲さと度胸がある。

痛みなどにくじけないジークの精神力が常にモードレッドの剣筋を観察し自分の剣筋をその為だけに進化せている。

 

「手前ぇ!!あぁウザってぇ!!」

 

そんな剣がとても鬱陶しい、原型など形成されてなく水の様に常に形を変えるジークの剣に腹を立たせる。

 

(そんな異形の剣なんて認めてたまるか、そんな簡単に自分に追いつかれてたまるか!!)

 

モードレッドとジークの実力は地と太陽位の差はあるだろう。

でもモードレッドは何故か焦っていた。

覚えるのが早くそして自分と同じ条件で戦うジーク。その目にひっそりと忍ぶ闘志、決して熱くはないし滾ってもない、でも密やかに消えることなくか細くつなぎとめられたそれがモードレットに錯覚させている。

こいつは自分と同じ所に立っていると‥‥

 

「いい加減、諦めやがれ!!お前もアイツらと同じだろう!?虫のような屁理屈並べてくっだらねぇプライドを守ってやがれ!!」

 

「俺にそんなのはない、そんな立派なものは俺の中にはない。だけど...」

 

(そうやってすぐに想像だけで結論づけてはいけません。当たって見なければわからない事なんて良くある事です。)

 

自分が気を許している少女の言った言葉が頭をよぎるとジークの目はさらに鋭くなっていた。

 

「想像だけで負けたと決めつけたくない。勝ってお前に間違いだって自覚させてやる。」

 

今まで見たことのない瞳。

小さい頃からずっと剣道をしていたモードレッド。そんな彼女が男と試合するのは珍しくない。寧ろそこら辺の女子より頭一つ飛び抜けていた彼女の練習は男としなければ成り立たないほどだ。

でもそれもすぐに意味をなさなくなる。モードレッドは男でも手をつけられない位才覚をひめていた。強すぎる才覚は人を人との繋がりを断ち切らせる。しかも自分は女だ。認めたくなくとも事実は現実。男よりひ弱であるのが当たり前の世界で自分と言う存在は周りにとっては目障りでしかなったのであろう。

 

(女の癖に、無駄に生意気なんだよ。少し強いからって調子のんなよ!!)

 

(女がそんなにいけねぇのか!?あぁぁ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なぁ、あいつ同い歳の奴に負けたんだってさ)

 

(これで少しは大人しくなるだろう。)

 

(前からアイツは気に入らなかったんだ‥‥いい気味だぜ)

 

(ざまあみろ)

 

もう誰が言ったかもわからない言葉の苦汁が頭の中に注ぎ込まれていくモードレッド。

 

またお互い竹刀を構え直してもう1本試合を行う、だがここでモードレッドの剣筋が乱れ始めた。

まるで何かを怒りのまま振り払うように竹刀を振るっている。

鮮やかな剣筋が乱れ始めた事にジークは驚いたがこれはチャンス、最初のモードレッドの剣筋じゃジークに勝ち目なんて無かった。

これなら...とジークは受け止めながら隙を伺っているがモードレッドの荒ぶる剣は逆鱗に触れた龍の如く暴れ回りジークを喰らってくる。

 

(何という剣だ。さっきよりも手がつけられない。)

 

そう考えている一瞬の隙、動くことの出来ないジークにこれまでにない力の籠ったモードレッドの竹刀がジーク叩き割り、勢いを止めるものを失ったモードレッドの竹刀は、先に込められた力全てがジークの脳天に振り下ろされる。

 

「しまっ!?」

 

それを食らったジークはそのまま意識が沈下し、タラリと血が流れ落ちる。

 

「やっちまったぁ!おいしっかりしろ!!おい」

 

モードレットの声は沈んでいくジークの意識から遠のいていき最終的に...........

 

 

 

 

〜side???〜

 

頭が痛い、何だ?このビリビリと来る痛みは、と言うより俺はさっきまで何をしていたんだ。

ジャンヌの手伝いをして剣道部まで行って...

 

「はっ!?」

 

ここで意識がはっきりしたジーク、近くにはTシャツの上に赤いレザージャケットとデニム生地のローライズ・ズボンを着たモードレッドが横にいた。

 

「ここは...?」

 

(なんだ?この匂い)

嗅いだことのない鼻にするりと入り自分の脳を刺激してくるこの匂いは嗅いでいるだけでむせてくる。

 

(それにこの部屋、さっきまでいた道場じゃない。)

周りは暗く静かでガラスの中を転がる氷の音がよく聞こえてくる。

 

「んあ、ふぁぁぁぁあ~やっと起きたか?」

 

「お前はっ!?」

 

モードレットが隣に居たために無意識に距離を取るジークにくたびれたようにモードレットは現状を説明してくれる。

 

「あんま急に動くなよ。思わず頭をやっちまっんだからな、少し待っていろ。」

 

とその場を離れるモードレッド。

ジークはもう1度自分のいる場所を確かめるために辺りを見回す。

モードレッドが向かった先で話しているのは茶色い髪でこの空間とマッチした黒い服とサングラスが異様に似合う、少し厳つい感じの男でカウンターの中ってことはあの人はこの店の店主...まぁ店の人だろう。

その人の後ろにあるものを見ると数え切れない量の瓶が置いてある。

あの瓶には見覚えがあるあったよくセルジュが飲んでいたお酒というものだ。

興味半分で飲んだら凄く辛くて自分には合わないあの飲物、セルジュから『これはもう少し大人になってからだ。』と言われた。

ここはお酒のお店か、確かに客も自分と同年代の人は1人もいなかった。

そう考えてくると自分の肩身がどんどん狭くなっていく。

 

「よう、お前さん目覚めた様だな。大丈夫か?手足も問題なく動くな。」

 

「あ、ぁ」

 

言われるがまま自分の手や足がしっかり動くのを確認し戸惑いながら答えた。頭もまだ少し違和感がある。

 

「はぁ、とりあえず首の皮1枚つながったな。にしてもお前さんよくアイツに絡んだな。見た目はどこにでもいる優男なのに‥うちの娘は、まぁ顔は良くても性格が悪いからなぁ、そのせいで学校でも浮きまくりだろう?」

 

はっはっはと高らかに笑うこの人..モードレッドの父親なのか?

そんな事を言った気がするが、

 

「黙っていろ!クソ親父!!」

 

遠くから吠えるモードレッド。

間違いないこの人は彼女の父親だと確信するジーク。

その反面、あまりにも似ていない親子だと思った。

自分と同じく養子なのだろうか?

 

「おっと、名乗ってなかったな。俺は獅子劫界離。このバー、『ライオネル親方』のマスターやっている。そしてアイツの親父だよ。」

 

宜しくと手を差出してくる獅子劫にジークは名乗りながら手を握る。

 

「ジークだ。」

 

「ジーク、頭は大丈夫か?竹刀で思いっきり叩かれたらしいが」

 

獅子劫の言うようにやっと竹刀で叩かれた記憶を思い出し、痛みを和らげようと擦るが傷があるのか触るとヒリヒリしてくる。

遠くを見ると先程自分か寝ていた場所の頭付近にハンカチが置かれていた。あれで冷やしていたらしいそれに包帯も巻かれていた。

 

「あの、保健室のババァが居なくてな。後の事を考えたら親父に手当任せて最悪こっちで病院に送ってやろうって。親父の仕事場なら車もあるし親父は応急処置ぐらいもできるからな。」

 

頭をかきながら面倒くさそうに経緯を詳しく教えてくれた。モードレットは「ったく、部活時間にいなくていつ仕事すんだよ。あのババァは」とボヤいている。

 

「その、すまなかったな。手を煩わしてしまった。」

 

そうジークが謝ると不機嫌そうにジト目になるモードレットさらに項垂れるように愚痴をこぼす。

 

「ほん...とによぉ、お前をここまで運ぶのにも難儀したんだぜ〜。荷物纏めて、それごと手前を背負っておぶってここまで歩くんだからな。お前が最初っから諦めていたらここまでスタミナ持っていかれずに済んだのにな。」

 

ジークはモードレッドの愚痴に顔を暗くして表情が沈む。

こう返されると思っていなかったモードレッドに対して変に調子を崩されジークの胸倉を掴んで自分の方に引っ張る。

 

「何で、お前はそんななよなよしてんだよ!普通ここは俺に突っかかってくるだろ!!!」

 

「だが、お前の言うことは尤もだ。俺が試合を申し込んでそれから勝手に怪我した。それが今の現状だろう?」

 

「だ〜か〜ら、んな堅っ苦しいの要らねぇんだよ!お前さっき俺に突っかかって来た気合いはどこいったんだよ!!」

 

モードレッドが勝手にキレて逆上しているようにしか見えない。

難儀と言うか、面倒くさい性格だ。

 

「おい、いいのかマスター?」

 

「何がだ?」

 

そのモードレッドの父はカクテルシェイカーをシェイクしながら注文の品を作っている。それを心配した30代後半っぽいお客の1人が、自分の娘を止めなくていいのか聞く。

あれが大人びた空気をぶち壊して青春オーラを漏れさせているために客の人達も落ち着いて酒が飲めなくなってきている。

だが、獅子劫はそれをよしとしているのか口を出さずに見守っている。

 

「いいんだよ....初めてなんだ。」

 

「えっ?」

 

「アイツが、同年代と口喧嘩してんの見るのは‥‥」

 

嬉しそうに零す言葉に思わず客の人は加えていた煙草を落としてしまう。

今の獅子劫はマスター何ていう雰囲気じゃなく、モードレッドの父親のような雰囲気で話している。

それはそうだ。獅子劫は今父親としての喜びを味わっているのだから‥‥

男手一人で育ててきてせいか、モードレッドは、顔は美人の部類にはるが、性格は男勝りな性格となってしまった。

しかも女扱いされると怒る。だからと言って男扱いしても怒るという大変面倒くさい性格になってしまった。

 

「じゃあ、どうすればいいんだ。怒ればいいのか?」

 

「誰が怒れてつったよ!俺はそのままの気持ちを言えばいいだろって言ってんだよ。」

 

「だから言っただろう。すまなかったって‥‥」

 

「そんな分けないだろう。俺が頭やったつぅのに何でお前が謝んだよ!?」

 

「これは俺の行動の結果だ。だから俺に責任が「あぁぁぁもう!!」」

 

と声を遮って叫ぼうとするモードレッドに2本のペットボトルが飛んでくる。それをモードレッドは軽くキャッチをした。

中身は普通のスポドリで投げられた先を見ると獅子劫がニッと笑っているのが見えた。

これ以上は客に迷惑がかかるからそれでも飲んで頭を冷やせと言う意味で投げたらしく、モードレッドはばつが悪そうにそれをジークに渡した。

ジークも素直に受け取り獅子劫に礼を入れてからペットボトルの蓋を開けて口をつける。

空気をリセットさせて、頭を冷やしたモードレッドは落ち着いてまた聞き直す。

 

「まぁ、その‥‥大声を出して済まなかったな。頭に血が登っていた。」

 

これは素直に受け取った方がいい。そう直感したジークは

 

「別に気にしてない。」

 

モードレットはスポドリを一気飲みしてプパーと飲みきったら口を拭い質問してきた。

 

「なぁ、お前は本当に剣道部に入りたいのか?」

 

夕方のモードレッドとは何かが違う。そう思わせるのは彼女から出てくる雰囲気とその姿勢。

適当に済まそうとしていたモードレッドとは違う剣筋を会得したいと真剣に考え悩んでいるからだ。

 

「いや」

 

でもジークはそんな空気をぶち壊す返答をする。

どんな時でも自分に嘘をつかないジークであった。

モードレッドは目を見開き驚いている。立ってこの答えがジークの本心なら部活のアレは何のための試合だったのか

 

「お前ふざけるのもいい加減にしろ!じゃあ何で今日絡んで来たんだよ。」

 

「そもそも、部活動に入る為にお前の部活に行ったんじゃない。」

 

「んじゃ何のためだよ。」

 

「ジャンヌの手伝いだ。」

 

「ジャンヌ?ルーラーか、ぁあそういや抜き打ちで視察に来るってたな。何だ?お前、ルーラーの男か?」

 

何故か今度は面白そうに絡んでくるモードレッド。

とりあえず肘で突っついてくるのはやめて欲しい。

 

「男?まぁ、俺の生物学上の性別は男だが‥‥」

 

かっくりと体勢を崩す。

そこからすかさずにツッコミを入れるモードレットに気圧されるジーク。

 

「そういう意味じゃねぇよ。その‥あれだ‥‥」

 

そこから言葉が出なくなるモードレッド。

ジークは彼女が何を言いたかったのか分からないまま聞こうとしてもこれ以上何かしたらまた怒られそうなので止めておいた。

 

「んで、ルーラーの仕事の手伝いで、何であんな風になったんだ。別に俺の部活を見ればそれで良かったんじゃねぇのか?まぁ変な売女が来ていたが...」

 

モードレッドは今日来た生徒会の一員を思い出し少し目付きが険しくなる。

思い出しただけで機嫌を悪くするのはやめて欲しい。どうしようもないからだ。

 

「さぁ、自分でもよくわからない‥‥」

 

ジークはよく思い返してもあれが何で自分があのような行動をとったかわからない。

 

「ただ、初めて人をカッコイイと思った。こんな人が頑張っている部活をみすみす失くしてはいけないと思った。努力はしていた。後は人数さえいれば残せるとあいつは言っていただからかもしれない。」

 

でも感覚だけは覚えている。あの時のモードレッド、誰も立ち入らせない自分だけの域を集中だけで作り出し、一筋の線整った構えで立ち、対象物に自分の意識全てを滔滔と注ぎ込んでいたあの瞬間そこから放たれた雷のような鋭い剣筋、それと伴って発生する雷音のような凄まじい音。

目を奪われた。綺麗とはまた違い感動を感じさせる類ではない。気持ちを昂らせ、興奮が収まらない。無意識に手に力が篭ってくる。胸が激しく動き目を光らせる。男の子が皆子供の時に思う、自分もこんなこと出来たら...と思えて来る。これが格好良い

 

ジークが話し終わりモードレッドを見るとモードレッドは顔を真っ赤にして目を見開きジークを見ていた。ジークが首を傾げると自分がどんな状態なのか自覚し

 

「ば、馬鹿じゃねえのか!?んな小っ恥ずかしい言葉を普通に並べやがって...あぁもう!!何で背中がむず痒いんだ!!っクソ、変な汗かいた!!」

 

モードレッドがさっきよりも緩い眼光だがそれでも真っ直ぐ睨みながらジークに指を指して

 

「お前もう頭大丈夫何だよな!」

 

「え?あ、あぁ」

 

自分の頭を抑えて確かに痛みが引いたことを確かめる。

 

「ならここにいなくてもいいじゃねぇか!さっさと帰りやがれ!!親父、俺はシャワー浴びてくる!!」

 

「おう、ゆっくり浴びて来い。浴び終わったらカウンター頼むわ」

 

「...」

 

返事は帰ってこない。だが獅子劫は嬉しそうに頬を緩ませた。

 

「坊主、家は何処だ?送っていくぞ」

 

「いや、大丈夫だ。1人で帰れる」

 

ジークはカバンを持って帰ろうとする。話は終わりもう夜分も遅い。時刻は既に夜の9時を回っている。

 

「そうもいかねぇよ。お前さんの頭をやったのはうちのガキだしな。それに夜遅いし何かあっては申し訳も言い訳もたたん。まぁ、ラッキーだと思って黙って車に乗せてもらえ。」

 

そう言ってジークの肩に手を回して誘導していく。

 

「だがお店は...?」

 

「大丈夫だ。娘はたまに手伝ってくれるからな、あっ、学校にはチクんなよ。未成年だが家の手伝いに含まれっからな。」

 

獅子劫はそう言って店の外に連れ出して店の裏にある駐車所をから車を取りに行った。

 

「車か‥初めて乗るな」

 

ジークは見た目では分からないが内心ワクワクしている。男の子だから未知の機械に気分は勝手に高揚する。

 

「待たせたな。行くぞ!」

 

獅子劫の車は最近よく見る型ではなく、一世代前の車種だ。

使い古されているらしく何度も拭いた後が見受けられ、そのせいで付いたような傷もあった。

 

「乗れ」

 

獅子劫は助手席のドアを開けジークはそちらに乗る。

しっかりとドアを閉めたのを確認したら自分も乗りエンジンをつける。すると前に見た化学の実験動画でしたようなちいさな爆発のような音がし、そこから小気味よくブロンブロンと音が鳴る。

 

「んじゃ行くぜ」

 

勢いよくアクセルを踏み車はその勢いに呼応するように車は走り出した。

走っている途中にジークは住所を聞かれ獅子劫はそれをナビに入れた。

ジークは車に乗った経験があまり無いからわからなかったが獅子劫は見た目によらず物凄い安全運転だ。

周りの車に気をつけ信号も無理は絶対しなかった。ジークもこれは快適と思えるぐらいに気分よく乗れた。

 

「今日はありがとうな、坊主」

 

「?」

 

「初めて見たんだ。アイツがあんなに同年代と楽しんでいるのはな。アイツはあんな性格だからな、周りに浮きまくってそれで独り狼を気取っているから昔から満足に友達も出来なかったんだ。」

 

思い返すはどんどんねじ曲がっていく根性。腐った人たちが周りにいたせいかモードレットはそれに反感を抱くたびに自分を制御できなくなっていった。

暴れては傷を作り

暴れて恨みを買い、周りに迷惑をかけて

暴れては親が謝り、心配していく日々。

獅子劫が出来るのは口を出しても最期の一線を超えさせない程度しか抑えられなかった。

それでも最期の一線を踏まなかったのは親の努力や心配だけじゃない。

モードレッドには剣があったからだ。

剣こそがモードレッドを畜生に堕さず、ギリギリで踏みとどまらせていた。

 

「何で彼女はそこまで剣道を?」

 

「理屈じゃねぇんだろうよ。お前さんと同じで剣を見て自分の中にビビっと来てカッコイイと憧れたんだ。小さい頃にな‥‥そりゃ可愛かったぜ、あの時は‥‥小さいなりで『竹刀買って』ってせがんでくるアイツは」

 

サングラスを取りながら思い出にふける獅子劫の視線はどこか遠いところに向いていた。

 

「そう‥なのか?」

 

獅子劫の可愛いと言うモードレッドの姿が想像できないジーク。

 

「そう何だよ。だからさ、ジークこれからも暇ならアイツの相手をしてやってくれ。」

 

「俺如きじゃ、練習にはならない。今日相手しただけで逆に迷惑をかけてしまった。でも多分これからもずっといると思う。」

 

ジークは外の夜景を見ながらこれからの高校生活に頬を緩ませている。

 

「友達だからな。」

 

「そうかい。」

 

 

 

この後、ジークの家に着くとセルジュが心配そうにして玄関にまで出てきていた。

セルジュの目に最初に止まったのはジークの頭の包帯を見てジークに駆け寄ってきた。車で送ってきてくれた獅子劫は頭を下げ何があったかを話した。

セルジュはそこまできつくは言わなかった。部活動に参加した事に驚き、やるのかと聞いてきたが別に参加するつもりは無いと答える。

 

「そう言えば...何かを忘れている気が.......あっ!!」

 

ようやくジークは思い出した。そう言えば今日部活視察が終えたら校門前で集合して一緒に帰ろうと約束したのにそれを思いっきりすっぽかしてしまった。

 

「どうしようか、明日謝るか」

 

無表情ながらも冷や汗を流し、明日ジャンヌに事情を説明することにしたジークだった。

 

 

 

 

翌日になり学校に行くと、軽やかにジークを挨拶してくる人が増えた。

 

「よぉ、ジーク」

 

背中をバンバンと力強く叩いて来る。この衝撃がだいぶ傷に響いてくる。

 

「痛い、痛い。」

 

「おっと、すまねぇな。」

 

ジークの傷に気遣い始めて叩くのをやめたが、モードレッドはジークの顔‥頬の部分にできた紅葉痕に気付く。

これは昨日の傷じゃない。そもそも昨日の傷ならば父親が既に処置を行っていていいはずなのだ。それに自分は彼の頬に攻撃はしていないし、見ると、それは人の手で引っぱたかれた痕のようだ。

傷の具合からこの傷はほんの少し前‥‥今日出来たものだろう。

 

「あぁ〜と、確かに昨日俺はお前をボコボコにしたけどよ‥‥なんか昨日より増えてねぇか傷?」

 

「昨日約束に行けなかった罰と無茶してしまった事に物凄く怒られた‥‥ジャンヌに‥‥」

 

今朝登校しようと歩いていたら仁王立ちして鬼の気を纏ったジャンヌが家の前に立っていた。

昨日ジャンヌはジークの事を心配して剣道場に行くと既に誰もおらず、ジークを探して学校中を駆け回ったらしく、せめてどうにかして連絡でも入れろと怒られた。

だが、運悪くジークは携帯を持っていない。ジャンヌの電話番号すら知らない。

ただ、それだけじゃない。ジャンヌが怒りがやまないのは自分は記憶喪失なのに頭を怪我したからだ。また何か起こったらどうなるのと物凄い剣幕で怒られた挙句にしばかれたのだ。

 

「へぇ、アイツはお前のおかんかよ。お前も色々と大変だな〜」

 

ジークの苦労話を肴の様にしてヘラヘラと聞いているモードレッド、ご機嫌なのか今日は昨日より笑っている。

そんな空気の中、怒りの風が流れ込んで来る。

風向き逆に風の中心があるので中心に目を向けるとおかんの仮面を身につけたジャンヌが廊下に立っていた。

 

「モ――ドレッド!昨日ジーク君に怪我させたことを謝りなさい!!」

 

「あぁ~朝からうっせぇなぁ~。ってかこいつのケガは俺だけのせいじゃないだろう。お前もやったんだろう?ついさっき‥‥」

 

「う、これは心配させたジークへと罰です。でも貴女は初心者であるジークをここまで怪我させたんですよ。部活に参加するのに反対はしませんが思いっきり叩きのめしたのは許せません!!」

 

「はいはい。すまなかったな。」

 

「なぁ!?なんて適当何ですか!!?大体貴女は女として‥‥」

 

ジャンヌはモードレッドの適当な謝罪にまた怒り出す。

 

「そもそも、貴女は何でそんなに適当何ですか!?制服も改造して」

 

「あぁ〜?あんな堅苦しいもの着てられねぇよ。」

 

「ジーク君!ジーク君からも彼女に何か言って...」

 

「ジーク!お前もこいつの相手してくれうるさくて仕方ねぇ...」

 

2人がジークに援護射撃を頼もうとしたが、そこにジークの姿は既になかった。

 

「ジーク君何処に行ったんですか!?」

 

「あの野郎!!どこに行った!?」

 

2人の声が同調し廊下内に響き渡る。

 

尚、ジークは女子2人だけで話すのだろうと思い先に教室に戻っていたのだった。

別に逃げたのではない。ただ、いても邪魔になるだけだろうと思いその場を去ったのだ!

 

 

・・・・続く




今回モードレッド、若すぎましたかね(精神的に)まぁ、そこは高校生だし勘弁してください。

PS.私は別にジークハーレムを築こうとしてる訳ではありません。ストーリー上モードレッドはこちらについていて欲しいなぁと言うだけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3ページ目

すいません!先週更新出来ずに...言い訳くさいですがその色々ありまして、いや本当に今度からできるだけ更新させてもらいます。


 

 

 

とある休日、特に何もすることのなかったジークは近所を散歩していた。

特に予定もなく違う道を歩いて自分の中の地図を広げようと歩き、夏の日差しを浴びていた。そしたら違う道で知らぬ公園に出たのでそこでまったりと休憩していた。

そんな中、

 

「大丈夫?もう少ししたら助けてあげられるからね。」

 

聞き覚えのある少し高めのしっかりとした声、学校にいると何処でも聞こえるぐらい透き通った声を間違えるはずがない。

まさか休日にも聞くとは‥そんな事を思いながらジークはその声の方を見ると視線の先には何か困っている様子のクラスメイトの姿があった。

そこでジークはそちらの方に駆け寄る。

 

「何か困り事か?アストルフォ。」

 

桃色の髪で私服もどちらかと言うと女の人が着る様な服を着ていたクラスメイトのアストルフォ。

 

「ん?あぁ!ああ!いい所にいたよ、転校生。ねぇ手を貸してよ。今、とても困っているんだよ〜」

 

と急に近づいてきてせがまれた。

 

「あ、あぁ」

 

そう答えるとアストルフォは屈みジークの股に頭を入れる。要は肩車だ。アストルフォは軽々とジークを持ち上げた。

見かけによらず彼は結構力があるのだろうか?

何をすればいいのか教えられずに持ち上げられたジークは何をすればいいのか分からずアストルフォの肩の上であたふたする。

 

「お、おい急に持ち上げないでくれないか。」

 

「ちょ、暴れないでよ!首元が擦れてこしょばいよ〜」

 

それでも少しぐらつく程度で足はしっかりと地に付いていた。

 

「で、何をすればいいんだ?」

 

「にゃ〜」

 

ふと、木の上から猫の声が聞こえた。少し上に子猫が降りられないのか枝に乗って丸まっていた。

 

「わかった〜?その子が木から降りられなくなったかもしれないんだ。」

 

「わかった。とりあえずもう少し木の方に寄ってくれ」

 

「了解した!」

 

勢いよくジークに答えるアストルフォは木の方にできるだけよりジーク子猫の方に手を伸ばす。

 

「さぁ、もう‥.痛っ!?」

 

だがその救いの手を拒否するように引っ掻き子猫は立ち上がりジークの頭に乗りそこからジャンプしてアストルフォの肩に乗り地面へと降りた。

流石猫降りるのは得意らしい‥と言うか、ジークとアストルフォは子猫の踏み台代わりにされた。

 

「あぁ~自分で降りられたのか〜いらない心配だったみたいだね。」

 

とアストルフォはまたしゃがんでジークを下ろした。

開放されたジークは無意識にアストルフォに見られない様に傷を少し見た。

傷はそこまで深くはないものの少し気になるので帰って消毒しようと考えた。

だがその行動の一部始終を覗き込んで見ていたアストルフォは、

 

「ん?どうしたの?って、大丈夫その傷!!さっきの猫に引っ掻かれたの!?」

 

「あ、あぁ。」

 

ジークは怪我した場所を見られてしまいアストルフォは、

 

「で、転校生は今日、暇なの。」

 

急にそんなことを聞かれジークは咄嗟にうんと言った。

アストルフォはそれならとジークの手を引き、

 

「それならさ、僕んちに来て消毒してあげるからさ。」

 

ウインクするアストルフォは、いいからいいからと半ば強引に腕を引っ張って自分の家にジークを連れていった。

 

 

 

アストルフォの家はここから少し離れた場所にあり、家に対してガレージが異様に大きく車3台分は余裕で入れるぐらい大きかった。

 

「ちょっとそこで待っててね。」

 

アストルフォにリビングに案内された。

リビングはお世辞にも綺麗とはいえず、片付けられてない食器や捨て忘れたゴミを纏めた袋などが散開していた。

そういったものを避けながら椅子に座るジーク。

ジークの座った椅子何か妙な違和感を覚える。

特に見た目に学校や家にある木の感触を感じさてくれる椅子とは違い少しひんやりと冷たい感触を背中に感じさせる。

しかも4つ脚ではなくクルクルと回転させてくれるタイプの椅子だ。勉強机にセットされて展示させられている他のタイプの椅子だ。

 

「珍しい..な。」

 

「おっまたっせー!ちょ転校生それに座らない方がいいよ!!」

 

「えっ?」

 

笑顔で戻ってきたアストルフォが急に驚いて警告した。

急にそのようなことを言われたジークは咄嗟に立ち上がる。

すると立ち上がった勢いのせいかそれだけで支えていた部分がポッキリと折れてズシンと重たい衝撃と音がリビングに鳴る。

 

「あぁ、危なかったねぇ。あれ廃材を作って適当に作った椅子だったからそろそろ寿命が来そうだったんだ。」

 

「危ないな。こういうのがあるのなのがあるなら先に言ってくれ。」

 

「いや〜。ごめんごめん言うの忘れてたよ。だいじょ〜ぶ?」

 

いつもより少し表情を歪めて苦笑するアストルフォ。

 

「まぁギリギリ大丈夫だ。」

 

少し冷汗を流したジークは瓦解した椅子から離れる。妙な重低音が未だに頭の中に残っている。

 

「危なかったね〜、あれ鉄の廃材で作った奴だったからもしかしたら大怪我していたかも...」

 

全く笑えない事ボソボソと呟くアストルフォにジークもあまりしない表情を浮かべている。

でもそんな事をあまり気にしないアストルフォは大丈夫だった現実だけを受け止めて元気に手に持っている救急箱を上にあげ

 

「じゃあ、散らかっているここより僕の部屋でやろう。」

 

高らかに叫ぶアストルフォはジークを部屋に案内した。

アストルフォの部屋は階段を上がってすぐのところにあった。

しかもだいぶ目立つ、部屋を自分で改造したんだろう..それも1度や2度ではなく、刺さっていないネジの跡やペンキの色なの剥がれた部分ところどころにあるために目に入る。

だからこそわかる、この部屋物凄く凝っている。

ドアの色付けから始まり、ネームプレートもまたピンクに似合う丸まった子猫であり最後にドアノブもハート型であった。

 

「凄いな。」

 

「はは、これぐらいで驚くのは早すぎるよ。そんなんじゃ僕の部屋見たら腰を抜かすんじゃない?」

 

面白そうに告げてアストルフォはドアノブを引く。上手くジークの興味をそそるアストルフォの言い方に乗せられたジークは無意識にドキドキしながらアストルフォの部屋を見た。

 

アストルフォの部屋は‥‥ピンク1色!‥だった‥‥。

色合いがじゃない方‥‥雰囲気が、部屋の雰囲気桃色の何かを目に錯覚させる。

ハート型の絨毯から始まり化粧台、乙女チックなカーテン付きのベッドの上に並ぶ熊や猫という愛らしい姿の人形達。

クローゼットの中にあるのも自分じゃ着るのに勇気と何かを捨てなければ身につけることが出来ない感じの服がズラリと並び.......あれ、あの何か地味にはみ出ているあのほっそりと隙間からタラリと出ているフック‥その先にある手のひらにすっぽり収まりそうな丸い独特なフォームは前に服屋のチラシに載っていたブラジャー‥通称ブラ...いやそんな訳ないセルジュに用途を聞いたが男であるアストルフォが使う必要ない。

だって無いはずだ。女性の胸板にそびえる山は女性だけのもの男性であるアストルフォは平らな台地なはずだ。きっと親のが紛れているだけだろう。

 

「あれ?どうしたの?」

 

「いや、何も見てない。あるわけない。それとは別にアストルフォ、部屋のクローゼットは閉めといた方がいい。」

 

「え?あぁ、ありがとう。」

 

そう言ってアストルフォはクローゼットを閉める。

 

「んじゃ、早く消毒をすまそう!野生の猫の爪は怖いからねぇ~消毒が不十分だと破傷風になったりするから‥‥」

 

とガチャリと救急箱を開いて消毒液をジークの傷に塗る。

 

「痛っ!」

 

傷口に消毒液はやはり少し染みる。

ジークはつい来た刺激に驚き体がぴくりと反応させる。

 

「あぁ、もう動かないで」

 

「すまない、つい。」

 

消毒を済ませアストルフォは絆創膏を取り出してジークの指に貼り付けてくれた。

こう言ってはなんだが以外にもアストルフォはこの様な事慣れている様子だ。手つきも以前家で怪我した時セルジュがやってくれたのと変わりなく見える。

 

「慣れているのか?」

 

「ん?なにが?」

 

きょとんと 首を斜めに傾けるアストルフォ。

 

「いや消毒や絆創膏を貼るのが上手いのでな。」

 

「うん。まぁだって僕一人暮らし何かとやれないと生活成り立たないだよね〜。」

 

だらんとだれながら愚痴をこぼすように自分の生活事情を言う。

 

「一人暮らしなのか?両親は?」

 

「さぁ?今は何処にいるのやら。」

 

アストルフォは救急箱の中身をしまいながら呆れたように両親の事を考える。

 

「生まれた時から自分勝手な人達だったからね、あの人達の頭には9割乗り物、0,5生きる為に必要な物、残りその他しかないからね。」

 

アストルフォが言うには、両親は両方とも大の乗り物好きらしく、元々やっていた会社もそっち系らしく大分有名な町工場だった。

だが世間でもよくあることが起きた。

どんなに町工場で上位張っていても大きい大企業に吸収されることはざらにある。

それはアストルフォの親の会社も例外でなかった。

大きな会社に吸収合併された。………というのが世間で認知された事実なのだが真実は違う。

実は彼の親は会社に必要な資金や技術、知識情報を得たからもう会社を閉鎖したかったらしい。

でも、さすがに急にたたんだらそこの職員は全員明日から食べることができなくなってしまう。

そこに丁度良く大企業から話が来たので裏で職員全員の職場を繋いでから会社を明け渡した……というのが真実。

やれやれと首を振るアストルフォ、ジークも言葉を引きつらせながら同情の言葉をかける。

 

「大変だな。」

 

「いやいや、慣れちゃったからね。それが僕の普通だもん。」

 

救急箱を机の上から下に下ろす。

それからいつものアストルフォからは全く感じられない空気を醸し出す。

いつもの周囲を巻き込む位元気なアストルフォが今だけは目を細め静かになる。その細めた目から滲み出る寂しさをジークは感じていた。

普段は明るいムードメーカーな彼でもやはりは人の子‥両親と一緒にいたいのだろうか?

 

「やはり、親といたいと思うのか?」

 

「どうなんだろうね〜、昔はそうだったかもしれないけど今はいないのが当たり前だから。でも寂しいとかとは違うかな学校じゃあ友達がいっぱいいるし、僕自身あの人らに感謝している事もあるからね。」

 

「感謝?」

 

「うん」

 

嬉しそうに頷くアストルフォ。それからすぐに立ち上がって

 

「あ、そうだ!仲良くなった証に見せてあげよう!僕のコレクションを!!」

 

まるで祭りでもあるのかと思うテンションの高いアストルフォ、勢いよく扉を開けてジークにも早く来るようにいって先に下に降りていった。ジークも急いで階段を降りて

 

 

「親が残してくれた遺産を見せてあげよう。」

 

「遺産って...」

 

言い方が言い方の為に若干ひくジーク。さっきは自分のコレクションと言い次には親の遺産と言う。

アストルフォはそんな視線を気にせずに思いっきりガレージのシャッター上げる。

中は光を反射し光輪を生み出す。漆黒に包まれた中に入っていたのはバイクだ。何十台にも及ぶバイクの数々に圧倒される。

 

「これは...」

 

「僕の親がたまに送ってくるんだ。珍しいバイクや乗り物があって自分達の手元に置けなくなったら僕の所にくれるんだ。まぁ僕はそこの原付きぐらいしかまだ乗れないけどね。」

 

関係ないことだがアストルフォは一応原付きの免許は既にとっていた。来年はすぐに中型を取りに行くと意気込んでいる。

 

「どうだ。凄いだろ。」

 

「あぁ」

 

「まだ僕はここの機体は乗れないけど将来僕が使いやすいように色々いじっているんだ。」

 

「いじっているとは改造しているという事か?」

 

「あぁ、昔から親の手伝いをしていたからね。エンジンをいじったりもしているよ。まぁ元がレベルの高いあまりいじりようもなくこっちが学ばされている所があるけどね。」

 

そう言ってあははと口元をひきつらせた笑いをしているがジークは圧倒されている。

これほどの量のバイクと床に散開されている部品や道具、ジークはそれを拾い上げてまじまじと見ると何度も使われているのか色は黒に染まりきっている、それにかかっているジャージ多分ここで作業する時の服だろうが何度も縫い直したあとが見れる。

 

「凄いな。」

 

「でしょ!」

 

褒められたのが嬉しいのか頭に手をやるアストルフォ。

 

「アストルフォ、もう少し見てもいいか?」

 

「好きなだけ見ていいよ、あ、でも足元は気をつけてね。足引っ掛けてコケたら擦り傷じゃすまなくなるかも。」

 

そう言ってアストルフォは中の部屋のライトをつけて見やすくしてくれた。よくよく置くとかを見たらバイクとは関係ないものも置かれている。

 

「これは何だ?」

 

「ん〜、あぁそれは父さんが遊びで作った二人乗り用パラシュートだよ。」

 

「ぱら?」

 

聞いたことのない言葉にジークは首を傾げる。

 

「パラシュート、ほらバラエティとかで見たことない?スカイダイビングとかで使うやつだよ。」

 

その説明でも分からないジークに苦情でさらに詳しく説明してくれた。

 

「んー、じゃあ人や物が空中から落とされた時に空気抵抗がかかるのは分かるよね?」

 

「あぁ」

 

「それを利用して落下速度を落として空中から安全に地上に降りる為に使う道具だよ。スカイダイビングとかはスポーツとして発展しているしね。」

 

「成程。」

 

「何を見て作ったかは知らないけど親が人二人ぐらいなら支えられるパラシュートを作ったんだけど、」

 

「だけど」

 

「2人を支えるために大きくしすぎたために畳むのに苦労する作りでさ〜」

 

「なにかダメなのか?」

 

「ダメに決まっているさ!しっかりと畳まないと次の時綺麗に開かなくてただ落下するだけだからね!!」

 

「それは危ないな。」

 

「でしょう。」

 

それでもアストルフォはしっかりとそれを残していた。

 

「まぁやりたいのなら止めないけどね。」

 

「遠慮する。」

そんなことを聞いたら全力で拒否をするジーク。

 

「他には‥‥」

 

そう呟くとアストルフォは右奥にしまってシーツを被らしていた機体に指をやる。

その機体なにか不自然だ、大きさはバイクぐらいなのだがバイクにしては前にシーツの殆どの面積を取られていた。

 

「そうだね、面白いとおもうならプロペラを引っつけただけのバイクもあるよ。走っているとプロペラが回り出す。ただスピードを出しすぎるとプロペラが折れちゃうし、そもそもだいぶ回していると視界の邪魔にしかならない。」

 

完全に悪ふざけが産んだ可愛そうなバイクに同情の目をするジーク。

 

「.......」

 

「因みにこれは僕が作ったんだ、丁度いいバイクがあったから後はプロペラを繋げれば...」

 

「すまない、何のために改造したんだ。」

 

「映画に似たものがあって凄くロマンチックだったから乗ってみたいな〜って」

 

「...成程。」

 

と流石はアストルフォと思いながら目線を違う所にやるとそこには電子レンジやただの家電製品があった。見たところ普通に綺麗であまり改造をしていないように見えるのだが...

 

「アストルフォちゃん。」

 

ふと外からガレージによく知らない人の声がけしてきた。

そこにはいかにも主婦という感じの人がたっており中のアストルフォに声をかけた。アストルフォもどうやら知っているらしくすぐ外に出た。

 

「あぁ、おばさん。電子レンジ直ったよ!!」

 

「まぁ、いつもありがとうね。」

 

電子レンジ?電子レンジとはこれの事かと電子レンジのあるところに目をやる。これはもしかして人の物なのか?

そんなことを思っているとアストルフォから声をかけられた。

 

「ごめん、転校生。僕用事ができたから今日はこの辺で」

 

「いや、気にすることは無い。俺の方こそ世話になった。また学校でな。」

 

「うん!今度はそっちから話しかけてね!!」

 

そう言い残してジークはアストルフォの家を出た。

元々、散歩をしていたジークはいつもの散歩コースを夏のまぶしい日差しを浴びながら歩いていく、ジリジリとした日差しがコンクリートから反射された熱に少し顔がゆがむ。

そんな中、年老いたお爺さんが道でみかんを落としていた。話を聞くとどうやらぎっくり腰が急に発症した為に体勢が悪くなり袋から零れたみかんを腰を庇いながら拾っていた。腰が悪い上に今日は日差しが強くご老体に更に負担をかける。もしここで無理なんてさせてしまったら熱中症になってしまう。

 

「あぁ困った。」

 

でも、自分だけじゃこの人を荷物事運ぶのは無理がある。でもほっておくわけにはいかない。

 

「俺の背中に乗ってくれ。」

 

肩車しようとした時、突如耳に入る声‥この暑さでも消え失せないテンションの熱がこもったハイテンションの声が背後からしてきた。

 

「あれ?転校生まだこんな所にいたの?おや?それに八百屋のおじさん?」

 

ジークはその暑さに負けない花のような少年アストルフォ………が引っ張っている家電製品がたくさん積まれたリアカーに注目する。

そのリアカーが貸してほしくてジークはこのおじいさんの事と頼みをアスファルトに話した。

 

「OKなら僕に任せてよ!丁度その人のところに行こうとしていたんだ!!転校生、荷物を持っておじいさんと荷物リアカーに乗せて」

 

「わかった。」

 

アストルフォは以外にもおじいさんを背負ってリアカーに乗せてジークもおじいさんの買い物袋を一緒に乗せる。

 

「んじゃ、ジーク手伝ってせーので引くよ...せーの!」

 

アストルフォの引っ張っていたリアカーには元々の荷物がかさばり結構な重量でまるでローラーを引いている感覚をジーク達に味合わせる。

 

「結構重いな。」

 

あまりの重さにジークは顔をしかめるがアストルフォの涼しい顔を崩さない。

 

「まだまだ、本番はこれからだよ、ジーク!この先坂とかあるからね。」

 

暑さも重なるこの地獄の道をどんなに苦しくても力を最後の一滴まで振り絞りアストルフォは笑顔を崩さずに進む。

ジーク何てアストルフォに合わせるので精一杯なのに...でもアストルフォの崩れない笑顔がジークにまだ行けると思わせてくれた。

手がただの棒になるまでジークから力を振り絞らせもう曲げようと思っても曲げられないぐらい力を使ったジーク。

アストルフォが地形をしっかりと理解していたためにそこまで急な坂とは出くわさずに済んでいるがそれでもかわすために遠回りになっているのも事実。

胸の鼓動が波打つリズムがワンテンポ、またワンテンポ早くなっていくのを感じている。

 

「大丈夫だ。」

 

正直大丈夫では無い、半分意地みたいなものが口を勝手に開き言葉だけが気力を残しているジーク、アストルフォはにっと笑いジークに信頼を与える。

 

「んじゃいくよ、タイミング合わせてよ。じゃないと動かないから」

 

アストルフォの掛け声と共にジークは干からびあがった力を最後の一滴まで絞り出す気持ちで腕に力を注ぎ込む。軋む足をしっかりと地面に立たせ下から伝わってくる力をそのままリアカーに注ぎ込む。

坂を登り下ると見えてくる小規模だが地元民で賑わう商店街、商店街の活気かそれとも僅かに見えた希望の為かジークにラストを押し切る力が湧き上がってくる。

その力を使い切る思いで最後のひと踏ん張りと割り切る。

 

幸いにもおじいさんのお店は商店街からすぐ近くにあった。

 

「ガッハッハッー!今日は済まなかったな。いや〜最っ近腰が悪くなってなぁ〜遠出の途中で腰悪くなるとは思わなくってな!!そこの坊やアス坊にも迷惑をかけてしまったな〜。」

 

先程まで腰を痛めていたとは思えないぐらい元気を取り戻していた。

ジークが通りかけた時には道端に膝をつき糸を1本ずつ紡いでいったような声で助けを求められたのに、今じゃその野太い声に圧倒されその温度差にジークは驚かされる。

その陰に隠れる妻はジークとアストルフォにペコペコ頭を下げまくる。

 

「もうおじいさん、いくら鍛えているからってさおじいさんもう歳何だから体は大切にしないと」

 

「バッカヤろー、こちとらお前のお前がおかぁの腹ん中にいる時から八百屋やってんだぜ。土台がちげんよ。年季がちがんだよお」

 

「だからこそだよ、年季の入ったものがぽっくり行くなんてよくあることだよ。世の中少し位故障している方が長生きできるものだよ」

 

「おおぉ?仕事していたらそりゃ壊れるわな。仕事して壊ないのは手をぬいているって態度で表しているもんだよな 高らかに笑う八百屋のおじいさん、アストルフォとは昔馴染みらしく楽しそうに昔の話を語り合っている。

 

「おお、それと坊今回はありがとうな、いやぁあそこで助けてくれなかったら熱で死んでいたわ。今日の礼にこれ持って行ってくれ。」

 

そう言いながら奥さんがリビングから出てきて手に地球儀の様に大きなスイカを持ってきてくれた。

ただ、あまりの大きさにジークとアストルフォは愕然とする。

このあまりに大きいスイカ、こんな大きさならその日の目玉になってもおかしくない。そんなスイカを持っていけと言っている。

 

「いいのか、そんなに立派なスイカをもらうなんて。」

 

「いんだよ、命救われた後じゃそのスイカも小さく見えてな。まぁ夏なんだし2人で食べな。」

 

まだためらっているジークとは裏腹にアストルフォの目はいつも以上に磨きあがった綺麗な瞳でスイカを見つめている。

多分受けとったらすぐにかぶりつきそうな位までに

 

「きゃっほーーーーー!!ありがと!!転校生早くたべよ今すぐ食べよ、河原でスイカ割りしよ、いえ…あ、この前直してって言っていたレジ直ったから持ってきたよ。」

 

「おぉ、何か見覚えがあるレジだな。思っていたらうちのレジかよ。これで電卓とザルからおさらばだな」

 

「今もって来るよー!」

 

スキップしそうなぐらいテンションが高いアストルフォにジークは手伝いが必要か聞く。

 

「手伝うか?」

 

「うん、お願い。」

 

高らかな声は玄関に響きジークの耳に入ってくるとジークも後を追いかける。

 

「おじいさん。」

 

アストルフォ達の背中を見ているおじいさんにふと後ろから声をかけられる。

 

「若いってのはいいもんだな〜、ワシも若ければ」

 

八百屋のおじいさんはまるで小学生の頃に書いた日記を見ている気分となっている。

 

「あら、おじいさんもまだまだですよ。」

 

「たりめぇよ、青春終えたばっかの青い頃だよ俺なんか」

 

 

 

 

 

 

 

〜said河原〜

 

夏の黄昏は遅く、秋や冬ならばもう日が傾き世界は濃い橙色に染まっている時間帯。夏の日差しが川を反射しきらびやかな光が煌めいている。

 

「おーし!叩き割るよ。おりゃー!」

 

スイカ割りにしては目を隠さず適当な場所に落ちていたちょっと太めの木の棒でアストルフォはあの大きなスイカを叩き割っていた。更に食べやすく何度も割っていく。

 

「よーし、食うぞ。食べるぞ。もう我慢出来ないぞ―――!」

 

とアストルフォは一番大きな切れ端を手に取る。そしてそれと同じぐらい大きな奴をジークに差し出す。ジークも静かにスイカを食べる。

ジークは今日初めてスイカというものを食べた。

日本語の教科書や図鑑、そして最近のニュースにはよく出てきていたが食べた事はなく、アナウンサーがとても美味しそうに食べていたから少し食べてみたかった。

しゃりしゃりとした食べ応えはシャーベットの様でそこまで冷たく齧れば齧るほど湧き出る水が乾いた喉をするりと通り疲れた体を潤してくれる。

あまり味が濃くないのもいい、スッキリとした喉越しにあったちょうど良い味。

スイカを思いっきり堪能しているジークにアストルフォはチッチッチッと指を振る。

そして自慢げな顔でアストルフォはスイカの食べ方の醍醐味を説明してくれた。

 

「あぁ、それじゃダメだよ転校生。スイカってのはスイカにある種飛ばしも醍醐味の一つなんだから」

 

そう言ってアストルフォはガツガツとスイカを食べて自分の口の中に食べそれからぺぺペとマシンガンのように吐き出す。

 

「こうやって種を飛ばすのも面白いんだから」

 

「そうなのか?片付けるのが大変だろう。」

 

「ふっふっふ、見てみなよ飛んだ先を...僕が飛ばした種は全部さっきスイカを割ったブルーシートに乗っているでしょ?」

 

そう言われてよく見てみると確かに綺麗に乗っていた。あれを狙ってやるなんてだいぶ器用だとジークは思う。因みに現在アストルフォは腰に手を当てて座りながらも胸を思いっきり張っている。

 

「転校生もやってみなよ」

 

と言われたがジークは出来ないだろうし第一片付けるのに余計な手間が増える為にジークはポケットに入っていたティッシュにスイカの種を包む。

 

「ええ〜つまんない」

 

「俺はアストルフォと違って今日初めてスイカを食べたんだ。そこまで上手く飛ばせない。」

 

「え?そうなの、今時スイカを食べたことないなんて」

 

「それは偏見じゃないのか?」

 

「そうかな、親がいた頃夏になるとよく買っていたんだけどな。」

 

ふと昔を振り返っていたアストルフォはすぐにそれを辞めてジークに向き直した。

 

「まいっか。なら初めてのスイカどうだった。」

 

「.......とても美味いな」

 

そう言うジークは目を細めてスイカの味に頬が緩んでいた。

 

「そうでしょ、それにスイカってさ、やっぱり人と食べるからとても美味しんだ。」

 

「1人と2人では味が変わるのか?」

 

「変わるよ、寂しかったり、虚しかったりしたら美味しい何て感じないと思うよ。」

 

そう言ってアストルフォは遠くでスイカを眺めていた子供に1つ渡してあげる。渡された子供はパァと明るい表情を浮かべ大きな声で感謝を示してくれた。その顔を見るとアストルフォも満足そうに手を降る。

 

「そういうもんじゃない。気分が暗い時って何されても良くない方に捉えがちにならない?そんな時に食べるより今日みたいに2人でわいわい食べた方が気分よくなるじゃんか」

 

「...そうだな、わかる気がする。」

遠き日の、ジャンヌと出会う前の自分を思い出していた。1人しかいないと思う孤独感、家族と思ってくれているのにそれでも自分は違うと思ってしまう疎外感...ジークはセルジュに拾われたこの半年でそのような感情を水のように浴びていてた。

そんなジークがふと見せたジークの虚ろな目、アストルフォはそれに反応する。

 

「家で聞いたね、転校生は僕が寂しいかどうか。」

 

「あぁ。」

 

「あの時は誤魔化したけど、本当はさ僕を置いていった時は悲しかったな。僕も連れて言って欲しかったけど..あの人らの旅の内容的に中学生の僕じゃキツいんだよね。せめて中学校卒業して置かないと今後の将来真っ暗さ..変な親だけどそれはわかっていたから僕を置いていったてのは親が居なくなって半年ぐらいだったかな。」

 

そう言うアストルフォの目は緩み心做しか瞳からは光が掠れるだけになっていた。

アストルフォが今見ているのはジークでも綺麗な光景を見せてくれている河原でもない。ふさぎ込んでいた頃の自分だ。

 

「あの時は暗くなりすぎたら親が自分を捨てた..とか考えていたりしたね。」

 

憎しみがあった訳では無い、恨んだりもしていなかった。ただ怖かった。捨てられていないと言ってくれる..声をかけてくれる人がいなくて、手を掴んでくれる人がいなくて、心の拠り所となっていた人を急に失ってしまったのだから

 

「そんな時かな、あのおじいさんが僕の親にテレビを直してと頼んできたんだよ。」

 

昔から父親に縁があったあのおじいさんは、家に訪ねて来て直してと頼んできたその時には親がいなかったためにアストルフォが応対したのだがその時、あのおじいさんがアストルフォを心配したのか話を聞いてくれたのだ。

 

 

 

〜said数年前〜

 

「あぁ?あのガキは未だにそんなの何か!こんな娘さんほったらかして妻と駆け落ちの旅してんのかよ。」

 

そう愚痴りながらおじいさんはアストルフォの頭に優しく手を置く。

 

「アス坊も苦労してんだな。まぁ親があれなら苦労するのは予想がついているがな。」

 

ずっと膝を抱えながらうずくまっているアストルフォにおじいさんは

 

「おい、お前さん。家に来ないか?な〜に晩御飯一緒食べるだけだからよ。」

 

断る理由のないアストルフォは承諾する。

おじいさんの店でアストルフォは静かにおじいさんの仕事ぶりを黙って見ていた。

おじいさんは近所じゃ有名らしく通りがかりの人達に声をかけられていた。

 

「おや、八百屋さんその子はお孫さんかえ?」

 

「いやいや、ほれ昔のイタズラ小僧の娘さんよ。いただろよく粗大ごみを」

 

「ほぇ〜あの子の娘さん。立派に娘さん生んだりして」

 

「本人、娘ほったらかして世界旅行に出かけたらしいが」

 

「へぇ、中身はあんま成長してないのだな。」

 

アストルフォにはあまり聞こえなかったが、楽しそうに話しているなと思っていた。

それと同時に何で自分はここに来たのだろうと考えた。

 

「おい、またしょげた顔して」

 

今にも唇を尖らせようとするアストルフォ、気分はだいぶ沈んでいる。

 

「何でここに連れてきたの。」

 

「今の人はな、昔、アス坊の親の世話になった人でな。」

 

「え?」

 

「お前の親な、昔から有名何だよ、機械いじれるってだけで昔じゃ有名になるんだけどな。一際喧しい奴である意味唯我独尊の奴で自分勝手...と言ってもな世話焼きが好きな奴なんだ。」

 

「...」

 

「入らなくてもいい事情に躊躇いもなく入っては余計なことをしでかす奴さ、何だかんだそいつの人柄を好んで憎めない奴だった。お前もそうなんだろう?」

 

表層心理はむくれるが心の奥底では肯定している自分があった。

 

「でも、なら僕も連れていっても良かったと思う。何で僕だけ」

 

表面は愚痴を言っているだけだがアストルフォは心で泣いていた。自分に寄り添ってほしいのに、何で自分の所には来てくれないのか

 

「バカヤロー!アス坊が世界知るには早すぎんだよ。いいかアイツは自分が考えに考えついて世界に行ったんだよ!そんな奴だからこそお前にも考える時間を与えたかったんだろうよ。そいつは親がいては決めてしまうかもしんねぇ答えだ。だからこそ一旦お前から離れたんだよ。きっとな」

そう言ってくれたおじいさんの目はとても柔らかく緩んで照れくさそうに頭をかいている。

そんなおじいさんを見たアストルフォは徐々に目に光を取り戻していく。久しぶりに味わった感じがした。親がいなくなり記憶の奥底に眠っていたあの感じを久しぶりに思い出した。

その温かみで心の緊張を緩まし、足や手より口を動かしたくなるあの感覚を...

 

「ま、それでもヒント欲しかったり寂しかったら俺達の所に来な。親が残してくれたものはそこら辺にあるんだから。」

 

「おじいさん...なら早速1ついい?」

 

「おおぉ?いきなりなんだ?甘えたいのか?」

 

「おじいさん、僕男だよ。」

 

この時2人の時は一瞬止まった。

 

 

 

 

 

 

〜said現代に戻る〜

 

「あの時のおじいさんの顔が面白かったなー!!」

 

草の布団に背を預けアストルフォはその光景を思い出して笑っている。

アストルフォの瞳は光に反射してなのかいつも異常に輝いていた。細め穏やかに自慢の人達のことを語るアストルフォ。

 

「...だから僕は別に寂しくはないよ。平日は友達がいて、休日はあの人達の頼みを聞いて...充実した生活を送っているよ。」

 

「頼み。」

 

そう聞き直すとアストルフォは自分荷物が詰まっているリアカーに乗っている家電製品に指を指す。

 

「道具はいっぱいあるからね。おじいさんやおばさんの壊れた家電製品を修理しているのさ、おじいさん達、よく食べ物くれたりするからそのお返しさ。」

 

「成程。羨ましいな」

 

そのように繋がっていられるアストルフォが羨ましい。

それを幸福と感じ、今を満喫し心の穴を埋める術を持っているアストルフォがとても羨ましい。

 

「へへ、そうでしょ。」

 

「ならアストルフォ。今日中に全部回らないといけないのだろう?」

 

そんなアストルフォのリアカーには幾つもの家電製品が並んでいた。

 

「うん。」

 

「手伝うよ。」

 

「え!?いいの?」

 

「その代わり1つ頼みがある。」

 

「何?」

 

「俺の名前はジークだ。君の呼び方は少し他人行儀に感じるからな今度からそう呼んで欲しい。」

 

「‥‥うん!!分かった!!よろしくね、ジーク!!」

 

「ああ、こちらこそ‥‥」

 

アストルフォとジークは握手を交わす。

この時のアストルフォはやはり、同性なのだろうかと疑う程、可愛く見えたジークだった。

ジャンヌが居れば、きっと

 

『ジーク君!!それ以上は踏み込んではいけない領域です!!』

 

と、ジークにとって訳の分からない事を言いそうだし、

言い方が悪いかも知れませんが腐った女子(腐女子)にしてみればきっと鼻血か涎を垂れ流すシチュエーションだっただろう。

 

 

 

・・・・続く

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4ページ目

更新です。
今回は完全なギャグとして作りました。


 

 

〜side休み時間〜

 

だいぶ賑わっている休み時間。

何時もクラスメイトの皆はしゃいでいるのだが今日は何故かいつもと何かが違う。

何が違うかって?

それは何故かクラスの皆はソワソワして何か待ちきれない気持ちが抑えられないようだ。

抑えきれない衝動を理性で抑えているが抑えきれないモヤモヤが教室内に浮かび上がっていた。

 

「ジーク!」

 

「アストルフォ。どうしたんだ?」

 

「持ってきたぁ?」

 

とアストルフォは自分が手に持っている手提げを掲げジークに見せる。

ジークはそれを見て1度頷き自分の机の横に引っ掛けていた手提げ袋を持つ。

 

「あぁ、早く移動しよう教室が違うからな。」

 

手提げバッグを肩にかけてアストルフォとそして横にいるジャンヌに声をかける。

 

「ジャンヌ、一緒に行こう。」

 

「えぇ」

 

ジャンヌもまたカバンから取り出して2人を先導する様に廊下に出る。

 

「楽しみだなぁ〜今日は調理実習だからね!」

 

 

 

 

〜side調理室〜

 

そう今日は調理実習、家庭科の担当である六導玲霞の講義の下、今日の授業はクラスで料理を行う。

今日のお題は夏本番にとれる旬の食材を豊富に使った料理『夏野菜のカレー』だ。

夏にカレー!?と思う人も多かったが、暑い時にこそカレーは活きることもある。

それにカボチャやリンゴなどの野菜類を混ぜてほのかに甘くなったカレーは辛い人が苦手な人でも食べられる優しいカレーだ。

しかもカレーは単純で多くの仕事なために1つ作るのにも中々のコミュニケーション力がいる。

これも学校でできる楽しみの1つだ。

皆でワイワイと盛り上がりながら作るのなんて学校を卒業してからじゃもうやれる機会は少ないだろう。

ジークもあまり表情に出さないが、これはこれで中々楽しみにしていた。

料理はした事がない上に最近できた友達と楽しく料理するなんて心が踊らない方が可笑しいだろう。

 

「ジークー!!」

 

「ジーク君。」

 

アストルフォとジャンヌは真逆の反応でジークに自分達のエプロン姿を見せた。

アストルフォは髪より濃い桃色にくまのアップリケが付いた可愛らしいエプロンでアストルフォにあっていてとても似合っていた。

三角巾は光沢のある赤みが見ているだけで口の中に甘みを運んでくれる。

ジャンヌの方は全体的に白を基調としたフリルがついたエプロンだ。

それに純白のドレスに合うティアラに錯覚される三角巾がジャンヌの気品正しいオーラがより強調されている。

 

「どうですか?(どーおー!?)」

 

そんな両者がジークに感想を求めてきた。

ジャンヌは恥ずかしいのか一歩引いて感想を聞き、

アストルフォは逆に一歩出てこちらに感想を聞いてくる。

 

「2人ともよく似合っている。」

 

因みにジークは茶色い使い古されたエプロンを着ていた。

多分セルジュのお下がりなのだろう。

 

因みに学校でよくある、エプロンを作ってそれを用いて調理実習というではない。

この学校は一学期は完全に調理実習として時間を使い、二学期三学期と裁縫などに入る。

 

「ジークもよく似合っているよ。なんかお爺さんぽくって」

 

「‥‥アストルフォ、それは褒めているのか?」

 

アストルフォは笑顔でジークを賞賛するがジークは苦い顔でアストルフォを見返す。

彼としては何か釈然としない褒め方だからだ。

 

「よく似合っていますよ。お爺さんぽいと言うより何か家庭的?みたいな雰囲気がよく出ています。ジーク君」

 

「そうか?ありがとう、ジャンヌ。」

 

ジャンヌの褒め言葉が頬をくすぐるようでこそばゆい。

でも、その素直な感想が嬉しくジャンヌの褒め言葉は素直に受け取った。

 

「さてさて、お互いのエプロン姿に会話の花を咲かせるのもいいけど、今日は調理実習。てきぱき動かないと時間は幾ら足りないし、一歩間違えれば大きな怪我にも繋がるのよ。」

 

六導は黒板に簡単にレシピを書いている。

 

「それでは、前に私が言った班に別れてね〜。」

 

のんびりと話し終えた六導はジークの元に歩いて行きジークの頭にポンと手を置いてジークの班を伝えた。

ジークは転校生の為、まだ伝えられてなかったのだ。

 

「貴方はそこのアストルフォちゃんと一緒の班ね。」

 

そう言われるとジークはアストルフォの方に顔を向けた。アストルフォもそれは嬉しそうにジークに抱きつき首に手を回してきた。

こうしてみると男女のように見えるのだが、アストルフォは男‥ジークと同姓なのだ。

 

先生ですらもうアストルフォはちゃん付けで呼んではいるが...

 

「やったー!!ジーク!!同じ班だね!!よろしく!!」

 

「あぁ、アストルフォと同じ班というのは心強い。余り料理慣れしてない俺としても助かる。」

 

楽しそうに話す2人。それを遠目で面白くなさそうに見ているジャンヌ。

 

「では、ジーク君、料理頑張ってください。」

 

ジャンヌは立ち上がり自分の調理台へと移動した。

しかし、何故不機嫌なのかわからないジークとアストルフォは不思議そうに目でジャンヌを追っていた。

 

「彼女は何故不機嫌なんだ?」

 

「う~ん、わかんない。案外カレーが嫌いなのかもしれないね」

 

「そうなのか?」

 

アストルフォも離れて首を振る。

でもすぐにアストルフォは『やるぞー』と意気込んだ。

彼の一番の長所はこれだろう。

誰彼構わず分け隔てなく話しかけて引っ張っていく、目的意識がハッキリしていて自分をしっかり知っている。

それを恥ずかしげなく皆にオープンで見せて助けが必要な時は躊躇いのない所。

ただ、考え無しな所が紙1枚分の距離にあるのが玉に瑕である。

 

「さて、ではまず何から始めようか?」

 

ジークがまず、何から始めるのかを問う。

それをフォローするように他のメンバーが指示をてきぱきと行った。

 

「んじゃあ、ジーク君は野菜を洗って、アストルくんはそうだなぁ〜あぁ〜お米をお願い。他の男子は包丁とか取ってきて。」

 

明らかに料理慣れしている人は他にもいた。

これが女子力というものか、侮れないな。

 

「わかった。」

 

自分の手を消毒してからジークは数多く積まれている野菜を1つ1つ洗っていく。

ただジークは、物凄く丁寧に隅の隅まで洗っていた。

こんなふうに洗っていると物凄い時間がかかる。

これではいくら時間があっても足りはしない。

 

「ああぁ、ジークそこまでしっかり洗わないでいいんだよ。こうやって...」

 

と言ってアストルフォはジャガイモを撫で洗う。

アドバイスはいいのだが、担当したお米はどうなのだろうか?と思ったジークはチラッと見ると、既にお米は炊飯器にセットされて炊飯されている状態となっていた。

 

(アストルフォ‥ちゃんと研いだのだろうか?)

 

用意されたお米は無洗米ではなく、アストルフォがお米を担当してからあまり時間が経っていない‥‥

お米をちゃんと研いだのか少し不安になるジークだった。

 

「そんなのでいいのか?」

 

皮にはまだ土がほんのり残っている。

そんな状態で良いのかとお米同様心配になるジーク。

 

「うん。皮はどうせ剥くしね。」

 

お米は兎も角、野菜の方はどうせ皮は剥いて廃棄するので問題ないと言うアストルフォだった。

そんな仲睦まじいジークとアストルフォの2人。

その姿はもう新婚生活をスタートした夫婦の初めての休日に行う共同料理を見ているみたいだ。

ただ1つアストルフォは男の為にそうはならないのだがやはり見た目が...

 

「......」

 

ジャンヌも横目でじっと2人の様子を見ている。

やはり彼女は2人の様子が何か気になるのかジッと2人を横目で見つめている。

 

「次は皮剥きだけど、できる?」

 

尋ねるように聞くアストルフォ。

ジークは『出来る』と断言できないが一生懸命やるとは言い切った。

でもやはり見た事の無い道具を持つジークはどうすればと言ってピーラーの全体を見る。

でもその意気込みを買うアストルフォは『よっしゃ』と後ろに回りしっかりとジークの両手を握りしめ、

 

「ピーラーとジャガイモをしっかりもってね!」

 

そう言ってジークの手を動かす。今のアストルフォはまるでこうやるのと教える母の様見えてくる。

流石一人暮らしをしているだけはある。

だが、何度も言う様であるが、アストルフォは男である。

神はアストルフォの性別を間違えたのではないだろうか?

しかし、その間違いがあったからこそ、ジークとアストルフォの間に恋愛感情が生まれなかったのかもしれない。

 

「じゃ、ジャンヌさん‥ジャガイモが粉々なんだけど‥‥」

 

ジャンヌと同じ班の人が恐る恐るジャンヌの手の中のジャガイモの事を伝える。

 

「えっ?あっ、すいません。ボロボロにしてしまいました。」

 

ジャンヌによって無惨にビー玉サイズにまで切り刻まれたジャガイモ。

こんな大きさならカレーのルーに入れた瞬間一瞬で溶けなくなってしまうだろう。

 

「だ、大丈夫。まだあるから気にしないで。」

 

あたふたするジャンヌにフォローを入れている生徒は『それはそれで使う』と言ってくれる。

 

「あぅぅ‥すいません。」

 

頭を下げるジャンヌ。

そしてジャンヌは思わず大きくため息をついしてしまう。

 

「あぁ、これも青春というものですね。」

 

六導もまたその光景を見ながら呟く。

これが高校生活の醍醐味であり調理実習における家庭科の教師の楽しみの1つでもある。

青い熟成しきっていない果実。今は酸っぱさが際立っているがここからほんのりと甘みを引き出していく。

それを見るのが教師の楽しみの一つである。

 

「アストルフォ、これでいいのか?」

 

「うん。それでいいよ。ジーク、野菜が剥き終わったら今度は野菜を切ってね。」

 

「わかった。」

 

ジークはアストルフォの指示に従い今度は人参の皮を剥く。

この光景は回りの女子達は何やら変な話題が膨れ上がる。

 

「ねぇ、前まではジク×ジャンが王道だと思っていたけど...」

 

「そうね、ジク×アスも...」

 

しかも女子だけにはとどまらずに男子でも

 

「不落の城のルーラー様だけでなく春の桜まで自分に咲かせるのか!?」

 

「あぁおれの女神がぁ〜」

 

「転校生、許さまじ‥あの泥棒野郎に罰を与えよ!」

 

カレーを作らずに恨みを炊いていく男共、手を動かさずに口を動かす男子達に

 

「さて、早くやらないと時間なくなるわよ〜」

 

恨みの募った空気を吹き飛ばす黒い風、六導の逆鱗に触れた生徒達はビビり有無を言わさずに手を動かし始める。

 

「いいわねぇ〜若いって。」

 

僻む余裕のあるならよし、僻まずに溜め込んでばかりいてはいつか爆発してしまう。

この様な息抜き行事を見れば生徒がどのようなものなのか素が覗ける。羽目を外す時はネジ半分位ついでに緩むものなのだ。

 

 

 

 

「ジーク君。野菜の皮剥きが終わったのなら私が切ってあげる。」

 

「ありがとう。助かる。」

 

やはりジークとアストルフォ達の班がこのクラスの中では1番纏まりが見てとれる。少し進行は遅れているけれど見ているこっちも楽しめる。

 

「.....皮剥き終わった。」

 

「りよ〜かい。じゃあ次は肉の下拵えだね‥‥」

 

「肉を?このまま鍋に入れて煮込むのではないのか?」

 

ジークは肉に何かするのかと問う。

 

「料理ってヤツは下拵えで全てが決まるんだよ。ようは一手間加える。それで全てが決まるんだよ」

 

そう言ってアストルフォはバッグの中から自前の調味料等を調理台の上に置く。(何かあっては遅い為に前もって六導が下見をして許可をもらったものを持ち込んでいる。)

そしてスライスし、トレイの中に入れた牛肉に胡椒をふりかけ、擦り下ろしたニンクとショウガ、粉末状のターメリック、ヨーグルトを入れてよく揉むようにして肉に染み込ませる。

 

「おーい、トマト茹で上がったぞ」

 

「じゃあ、皮と種をとってからそれをスライスして」

 

「了解」

 

他のメンバーも黙々と料理を進める。

 

「うぅ~」

 

玉ねぎを切っているメンバーが泣いていたので、

 

「どうした?」

 

ジークは心配そうに声をかける。

 

「いや、玉ねぎの汁が目に‥‥」

 

「変わろう」

 

「あ、ありがとう」

違う生徒から包丁を受け取りジークが玉ねぎを刻んでいく。

ジークは代わりに玉ねぎを刻む。

すると、先程のメンバーの様に玉ねぎの汁が目に入る。

 

「これは‥確かにきついな‥‥」

 

ジークはあふれ出る涙を堪えながら玉ねぎを刻んだ。

 

「これで下拵えは終了」

 

調理台の上には刻まれた野菜と下拵えされた肉が並ぶ。

そして、いよいよ調理が始まる。

 

「まずは玉ねぎを炒めないと」

 

「火加減に注意してね」

 

「ああ」

 

玉ねぎはまず、強火で炒める。

焦がさないように手を休めずに炒める。

玉ねぎがしんなりとしてきたら火を弱火にする。

飴色になるまでじっくり丁寧に弱火でトロトロと炒める。

その横でアストルフォは肉を炒める。

 

「うーん‥‥本当は赤ワインがあった方がいいんだけどな‥‥」

 

流石に学園の家庭科室に赤ワインはないので料理酒で代用する。

 

「炒めてほしいんだけどいきなりジークに火を使わすのは危ない気がするしなぁ〜ちょっとそこの君!僕の代わりに鍋お願い。僕が肉を炒めるよ!ジークは隣で見ていてね!」

 

油を敷いて一気にフライパンに肉を突っ込むアストルフォ。

更に強火でガガァと一気に炒める。

炒飯のように一気に炒め、料理酒を入れてフランベをするアストルフォにジークはこれでいいのか心配する。

 

「えっ?いいんだよ。これで!僕いつもこうしているからね」

 

そう言う。

思いっきりのよさと褒めればいいのかただ無謀なだけなのか..やはり何かやらかしたアストルフォ。

 

「しゃー!完成まで一気に..てぇ」

 

だがそのテンションが最高潮まで上がったアストルフォを後ろから叩いて止めたジャンヌ。

 

「危ないでしょう!!周りの迷惑を考えなさい!!幾らやって慣れていると言っても皆なれてる訳では無いのですから!!もし、それで他の人が火傷してしまったらどうするんですか!?」

 

「えっ?あぁ‥‥」

 

アストルフォはジャンヌの言い分に目を逸らす。

だけど逸らせない。

ガシッと顔を抑えて無理やりにでも目を合わさせる。

 

「わ・か・り・ま・し・た・か!?ジーク君もしっかりと注意しないといけません!!1番危ないのは貴方だったんですから!」

 

「「す、すいません」」

 

オカンパワーをフルに使っているジャンヌ。

もうこれは謝るしか彼女の怒りを鎮める方法は無い。

ジャンヌの怒りの嵐が過ぎ去ると、

 

「んじゃ、野菜を鍋に入れるね。」

 

「あ、あぁ」

 

やがて、各素材は1つの鍋へと入れる。

野菜がグツグツと煮える鍋にカレー粉、香りを引き立てるガラムマサラ、ブイヨンスープ、トマト、玉ねぎ、肉のマリネを入れる。

そして隠し味として擦り下ろしたリンゴを入れる。

アストルフォは鍋の中をグツグツとカレーの鍋をゆっくりと煮ている。

どこか一歩手前でためらう2人。

先程の元気はジャンヌという嵐に吹き飛ばされ鎮火されていたアストルフォ。

 

「んん〜。さてどんなものかな〜」

 

糸目の状態でどんな感じかルーを確かめる為に一啜りした。

そしたら自分の口の中で旨みの爆弾が爆発したい。玉ねぎの甘みとルー特有の絡みがコクを与えアストルフォの口の門をするりと流れていく。

さっきまで糸目だったアストルフォの細目は一気に見開き元気の源は一気に燃え上がる。

 

「ジーク!君も舐めてみなよ!!美味しいよ!!!」

 

と先程自分が舐めたお玉にカレールーを乗せてジークの口元まで持ってくる。

 

「わ、わかった。」

 

ジークも躊躇いを見せるがすぐにいただく事にする。

ジークが1舐めしようと口元を近づけるだが、

 

「味見はそこまででいいでしょう!!」

 

今度は怒りの雷が鳴る。

ジャンヌはまだ近くにいて反省しなさいと怒鳴りつける。

それはもうガルルと今にも噛みつきそうな狂犬の様なジャンヌにジークも気圧される。

 

「全く!授業中の風紀を乱すようなことあまりしないで下さい。」

 

かつかつと少し大きめな足音を立てながら去っていく。それを驚き見開いた目でジャンヌの後を見ていたアストルフォ。

 

「あぁ~びっくりした。」

 

「アストルフォ、カレーを混ぜなくていいのか?」

 

「あぁ、そうだね。んじゃジークは皿出しといて、食器も軽く水で流しといてね。」

 

「了解。」

 

それに他の人も手伝いだす。

 

 

 

 

最後に水で洗った食器にカレーとご飯を入れて完了。

ちゃんと研がれていたのか心配であったが、お米はちゃんと研がれていた。

そして、出来上がった班からカレーを先に食べ始める。

時間は一杯一杯な為に食べ終わったらすぐに片付けに入らないといけない、その為にジーク達もすぐによそって食べ始める。

 

「あぁ、美味しいね。ジークもどう?美味しい?」

 

「あぁ。」

 

アストルフォは満面の笑みでカレーを食べるのだが。ジークは1つ気がかりな事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、少しお願いがあるのだが」

 

 

 

 

 

 

 

〜saidジャンヌ〜

 

食べ終わり片付けて腹が満ちた昼休み、いつもならこの時すいた腹を満たすために皆はエネルギーの摂取のために一つの場所に集まり腹を満たすか、クラスに残りクラスメイトと団欒を囲んで和気あいあいを楽しみながら昼食をすますか...

ジャンヌはどちらとも当てはまらない。

彼女は穴場を見つけ一人で日光浴と小さいながらの森林浴を楽しみながら昼食を終わらせる。今回もいつものように買い込んだサンドウィッチとコーヒーをセットで持ってきている。

ただ最近はいつも一緒にいる男子がいるのだが今日はいないようだ。

 

「はぁ~なんか、どっと疲れました。」

 

ジャンヌは苦笑いをしながら暴走したアストルフォを思い出していた。やっぱり何が問題を起こした彼、彼のブレーキを踏める人間などこの世にいないと言っても過言ではない気がする。

それに引っ張られる少年ジーク‥傍から見たらただ微笑ましい光景‥‥この中に自分もいて‥‥

 

「いやいや、先生が決めた班文句を言うなど。でも私も教えたかっ「何をだ」」

心中にしまいかけたその思いを聞かれたことに驚いてしまいつい過激に反応してしまう。

 

「え!?ジーク君来ていたのですか?」

 

「あぁ、アストルフォは違うメンバーとどこかに行ったし、教室にいても何も無いからな。ここに来ればジャンヌがいると思ってな。」

 

横に座るジーク。ジャンヌはもの悪そうに目を逸らしてしまった。

 

「それに、気になって‥さっきの時間、ジャンヌのスプーンがあまり動いてなかった。」

 

「え?そうでしたか?」

 

「あぁ。だからもしかしたらジャンヌはカレーが嫌いなのかと思って‥アストルフォもそう言っていたし‥‥」

 

ズゴッと滑るジャンヌ。何を的外れな事を言い出すのか...別に嫌いではない。

そんな大袈裟なリアクションに驚いたジーク。

 

「健啖家の君がカレーを余り食べないとは...やはり口が合わないとしか」

 

「ジーク君!!私はそこまで食いしん坊じゃありませんよ!!」

 

「えっ?そうなのか?」

 

ジーと見つめられたジャンヌはバツが悪そうに照れながら呟いた。

 

「まぁ、姉妹の中でもよく食べる方ですけど...」

 

「...」

 

「...」

 

「まぁ、そのだからこれを作ってみたんだ。」

 

そう言ってジークはジャンヌに少し歪な形をしたおにぎりを渡してくれた。

 

「え?」

 

「余ったもので何か作っていいかと先生にこれを作ればと言われた。」

 

ジャンヌはジークからおにぎりを受け取り口へと運ぶ。

 

「味はどうだ?」

 

「塩が効きすぎていますね。しょっぱいです。」

 

「そう...か」

 

「だから今度私が教えてあげます。」

 

ペロリと塩がほんのり付いた唇を舐めたジャンヌは人差し指を立てながら自分が教えると宣言する。

 

「あぁ、頼む。」

 

学園の人知れぬ場所で青春の風景を描く男女の姿がそこにあった。

 

 

 

 

〜saidウラバナ〜

 

調理実習が行われる前日‥‥

ジャンヌが住まわせてもらっている家のキッチンにて、

 

「明日は調理実習‥ジーク君に料理が出来る所を見せて女性らしさをアピールしないと‥‥」

 

キッチンに立つジャンヌは気合を入れて明日の調理実習の練習を使用としていた。

とはいってもまだジークと同じ班になれるのか分からないのに‥‥

 

「確か明日の調理実習のテーマはカレーでしたね‥‥この料理ナビを使えば簡単にできると聞きましたけど‥‥」

 

そう言ってジャンヌはタブレットを操作してその中の1つであるクッキングナビのアプリを起動させる。

 

『まず、最初に作りたい料理を選択してください』

 

タブレットの画面にはコック服を着たイタリアの有名な配管工の兄っぽいキャラクターが作りたい料理を選択してくださいと電子音声で言う。

 

「えっと‥‥カレーっと‥‥」

 

ジャンヌは色々ある料理の中からカレーを選択する。

 

『辛さを選んでください』

 

ジャンヌが購入したカレールーの辛さを見て、中辛を選択する。

 

『どちらのカレーを作りますか?』

 

画面には『本格派』と『庶民派』の2つの選択肢が現れる。

 

「此処は思い切って本格派でいきましょう」

 

ジャンヌが『本格派』を選択すると、画面にインド人らしき人物が映し出され、現地の言葉で話し始めた。

 

「えっ?えっ?」

 

ジャンヌは日本語、英語、フランス語は出来てもヒンディー語は出来ず困惑する。

結局画面のインド人が何を言っているのか分からなかったので、『庶民派』を選択した。

 

『中辛の庶民派カレーをつくりましょう』

 

庶民派は日本語でのナビだったのでジャンヌも理解できた。

 

『まず、玉ねぎを縦半分に切り、繊維に沿って薄切りにして下さい。』

 

画面では写真で分かりやすく切り方をナビしてくれた。

 

『次に、ニンニクを鼻○ソくらいの大きさに切ってください』

 

「‥‥」

 

料理の場にあまり似つかわしくない単語がいきなり出てきた事でちょっと唖然とするジャンヌ。

 

『皮を剥いたショウガを耳ク○くらいの大きさに切って下さい』

 

「‥‥」

 

やはり、料理の場にあまり似つかわしくない単語が出てきた。

それでも画面の写真の通りにニンニクとショウガを小さく切るジャンヌ。

 

『鼻ク○くらいの大きさに切ったニンニクと耳○ソくらいの大きさに切ったショウガをウ○コ色になるまで炒めてください』

 

「ちょっ、カレーを作っている時になんて単語を出すんですか!?」

 

思わず機械に向かって注意するジャンヌ。

 

『続いて、ナス科の多年草で、南米アンデス中南部山地原産の地下茎が分岐して、その先にデンプンが蓄えられて芋になると言われているジャガイモを用意してください』

 

「あっ、ジャガイモですか」

 

ナビの指示通りにジャガイモを用意するジャンヌ。

 

『次にジャガタライモの略で、ジャガタラとはインドネシアの首都、ジャカルタの事を指し、オランダ商船によりジャカルタから渡来したため、この名がつけられたと言われているジャガイモの皮を剥いてください』

 

「なんでジャガイモだけ、そんな詳しい説明なんですか!?」

 

ジャガイモだけやたらと細かい豆知識を披露して来るナビにまたもやツッコミを入れつつジャガイモの皮をピーラーで剥いていると、

 

『東北自動車道、川口JCTから浦和ICの間で約3キロの渋滞です』

 

突然クッキングナビが渋滞情報を伝えだした。

 

「そんなの知りません!!大体なんで家に居るのに渋滞情報を知る必要があるんですか!?」

 

クッキングナビにツッコんでいると、ナビはジャンヌのツッコミを無視して、

 

『人参をリズムに合わせて切っていくよ』

 

変な豆知識やいらない情報を伝えるが一応、料理のナビをしているので、それに従うジャンヌ。

タブレットの画面にテンポいいリズムが鳴り、ジャンヌはそれに合わせて人参を切って行く。

 

『次はちょっと難しいよ。ミュージック、スタート!!~♪~♪』

 

タブレットのスピーカーからは音楽が鳴り、ジャンヌはそれに合わせて人参を切って行く。

人参を切り終えると、

 

『次の曲を選んでね』

 

「ちょっと!!ナビはどうしたのですか!?ナビは!?」

 

趣旨が変わっていた。

そして、下拵えが終わり、いよいよカレーソースを作る所まで進んだ。

鍋に具材を入れると、

 

『此処で隠し味にリンゴをくわえて下さい』

 

「隠し味‥ですか‥‥リンゴはあったでしょうか?」

 

ジャンヌが冷蔵庫からリンゴを探しに行こうとしたら、

 

『やふぃいろがつくまでいひゃめてくらさい(焼き色がつくまで炒めて下さい)』

 

画面の中のイタリアの配管工っぽいキャラが口にリンゴを咥えていた。

 

「くわえるってそっちの意味!?」

 

『まぁ、なんやかんやありまして、カレーの出来上がりです』

 

「ちょっとあまりにも適当すぎませんか!?ちゃんとなんやかんやも説明してくださいよ!!」

 

思わずタブレット画面に向かって吠えるジャンヌ。

 

『人参とジャガイモをザー炒めて、水をビシャー入れて、灰汁をガー取って、ダー煮込んで、具バー入れたら出来るやろうがい!!』

 

画面の中のイタリアの配管工に似たキャラは顔を赤くして蟀谷にムカつきマークを表示してあまりにもぞんざいなナビをする。

 

「なんでそんなにキレる必要があるんですか!?キレたいのむしろこっちですよ!!『出来るやろうがい』じゃありませんよ!!ちゃんと説明してください!!」

 

あまりにもぞんざいなナビにジャンヌもキレる。

すると、画面には『本格派』の時のインド人が出てきてまたヒンディー語でカレーの説明を始める。

 

「インド人はもういいですってば!!」

 

ジャンヌはタブレットにむかってガァーと吠えた。

 

「ジャンヌ‥‥」

 

そんなジャンヌの姿をなんか可哀想に見る人物が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う下らない夢にうなされながら起きて学校に行ったというのは彼女の胸の内にしかない事実である。

 

 

 

・・・・続く

 




史実通りがお好きな方申し訳ありません。勝手に変な風にしてしまい...。

因みにアストルフォの料理は別に凄いと言う訳ではありません。
塩だろうが砂糖だろうが何だろうが全て適量で済ませますが、運がいいのかそれが本当に適量となっているために了解は全て上手くいっているという設定です。(流石幸運度A+)

今回色々あれでしたためにジャンヌの料理は全く出ませんでしたが近いうちにジャンヌの腕もしっかりと書きます!


設定とかって載せた方がいいのかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5ページ目

更新です。


時期は7月の中旬。

外は陽気な天気に恵まれ、学生にとってはこの後のイベント‥夏休みへの希望を魅せるかと思いきや、少年少女は鬱にもなりかねないぐらい暗く沈んでいる。あまりの暗さにお天道様も目を背けてしまいそうになっている。

特にジーク達の教室が一番暗い。

なぜ暗いかというとこのクラスのムードメーカーが最も沈んでいるからだ。

 

「くそ~もういいよ。もう僕、中卒で生きていくよ。もう学校にいられないよー!」

 

涙目になりながら諦めきった台詞を吐くアストルフォ。

 

「諦めるなよ!!アストルフォ。俺は嫌だぞ。俺はお前ともっと一緒に高校生活を送りたいぞ!!こんな事で諦めるな!!ガンバレ、やれば出来る!!」

 

一方でジークはアストルフォに諦めるなと強く応援していた。

 

「あ、ありがとうジーク、その気持ちだけで嬉しい。その思いだけで‥僕は‥‥僕は‥‥」

 

涙ぐむアストルフォは自分の腕でその温かい雫を力強くふき取るアストルフォであるが、まだ迷いを吹っ切れていないのかその目にいつもの光は宿っておらず、いつもの気迫も弱々しい。

 

「でも‥できないよ‥‥僕にはやっぱり‥‥」

 

「諦めるのか!?君がこんな事で諦めるのか!?」

 

諦めるなと力強く進言するジークはアストルフォの肩を揺らす。

アストルフォはその肩からぬくもりを感じ気持ちを何とかつなぎとめる。

潤んだ瞳でジークを見るアストルフォは近くにた男子達にまるで妹ができたような感じで、アストルフォを守ってあげたい感情がこみ上げてくる。

腐がつく貴婦人たちが見れば鼻血モノなシチュエーションである。

 

「僕に‥僕にできるのかな?」

 

「あぁ!!大丈夫だ!!君なら出来る!!」

 

「ジークぅ~‥ぼk、いだっ!」

 

光り輝く艶やかな瞳が戻ってくるとそこに間髪入れずに上から教科書が落ちてきた。

 

「アスファルト、いい加減にしてください!!そんなくだらない三文芝居をやっている暇があったら勉強しなさい!!もうすぐ期末テストなんですよ!?貴方この前の中間テストの成績も悪くてこの前、担任に警告されているのを見ましたよ!!」

 

アストルフォの行為をくだらない事だと吐き捨てるジャンヌであるがそれもその筈‥ごちゃごちゃと並べるだけ並べた薄っぺらいアストルフォの言葉はただ1つ‥テストという現実から逃げたいという一心に生まれた言動であった。

そう意外にも…いやお世辞にも勉強のできないアストルフォであった。

元々集中力皆無であり、興味を持った事には熱心になるが興味がわかないものには幼稚園児よりも集中力を出すことの出来ないというただの子供と言うだけであった。

しかもこの学校は近くじゃ有名な進学校テストもそれなりの難関であり勉強していないものは容赦なく補修地獄にたたき落とすという趣旨の元作られている。そのためにどう頑張っても勉強は避けられない試練だった。

そうでないとその後に控えるある学生すべてのゴールデン期間、夏休みの4分の3を補修で過ごさないといけなくなるという地獄への一ヶ月旅行チケットをもらうこととなる。

それなのに、それが嫌だと喚くのに今現在テスト勉強も嫌だと駄々をこねているアストルフォ。

じゃあ何故アストルフォがこの学校に入られたかってそれは後でわかることである。

ジークはそれに手を焼きながらもアストルフォに合わせてレベルを下げているのだが...もう限界らしい。

そんな子供の様な駄々っ子の甘えを許さないジャンヌはおかんパワー全力でアストルフォをシゴいている。

ジークに甘え、ジャンヌに食い下がっているアストルフォであった。

因みに今は選択教科だがやるべき内容は終わらされているために全クラス合わせての自習時間である。

 

「あぁ、もう嫌だよ!何だよ―――平安京に平城京って。何も変わってないじゃん安が城に変わっただけじゃん。ちょっと80年ばかりで変わっただけで、名前変えちゃってさ――。人間2000年の歴史のうちそんな小さいことなんていいじゃないか――――――!!」

 

駄々を捏ねるアストルフォは中学生レベルの問題で号泣していた。

 

「アストルフォ!逆だ。平城京から平安京に変わったんだ。」

 

ジークがさりげなく間違いを訂正するが駄々をこねるアストルフォにそんな事を言っても無意味に等しい。

 

「2000年のうち16年しか生きていない貴方が歴史の深さを語らないでほしいものです。というかこれは中学生レベルの問題ですよ!!!貴方は中学時代に一体何をしていたのですか!?」

 

声を荒らげているジャンヌもだいぶ興奮している。まぁ、無理もないこの説明ですら5回目なのだから。

だが、温厚な彼女がここまで興奮してしまうとは..とりあえず今のアストルフォに上から説教を入れても逆効果。ジークは必死に優しくアストルフォに語りかける。

 

「そうだぞ、アストルフォ。80年の歴史を教科書では僅か1ページで覚えられるんだ。そう考えるとだいぶ簡略化されたと思うだろう?」

 

「僕にとってはその1ページが般若心経よりも難解に見えるんだけれど?」

 

「「それは無い、それは幻覚だ(です。)」」

 

綺麗にハモるジークとジャンヌの意見に泣きながら今にも抱きついてきそうなアストルフォ。

 

「息を合わせて断言しないでよ〜〜余計辛くなってきちゃう。それよりもルーラーとジークはいいの?自分の勉強をしないで。」

 

そう言うとジークは淡々と答えた。

 

「人に教えるというのは中々復習になるものだ。丁度よかった」

 

「私は常に勉強していますから、そう慌てなくてもいいんです。貴方も普段から真面目授業に参加し家に帰って予習復習...くどくど」

 

「あぁ、分かったよ〜。なら歴史は家に帰ってからやるよ〜問題は数学何だよね。ワークが全然できてないんだよ。手伝ってよ2人共。」

 

ジャンヌのご高説を耳に入れる気のないアストルフォは一番片付けにくい数学の問題集をカバンから取り出す。

 

「君の代わりに解くことはしないが、教えることはできる。」

 

ジークは解き方ぐらいなら教えられると言ってくれた。それだけでもアストルフォにとっては嬉しいらしく満足げに頷く。

 

「うんうんお願い、ここのセンせーは意地悪だからちょびちょび解説を渡してきて中々進まないだよね。」

 

「解説を見ながらしていたら意味は無いぞ。」

 

「ふふ、僕レベルまでいったら提出しないと留年確定だから出すだけでも意味はあるのさ」

 

アストルフォに対して、留年の危機だと言うのに何故そんなに胸を張れるのか凄く不思議に思うジークだった。

 

「どうしてそこまで胸を張れるんだ?」

 

「こんな事は僕しか言えないからさ。」

 

ドヤ顔をし、勝ち誇った様なこの笑み。まぁ、ある意味誇ってはいるのだがこれを誇りにしていては前には全く進めない類の誇りである。

ジークはそんなアストルフォに大きく溜め息をしてどこがわからないのか聞いた。

 

「それで何処がわからないんだ?」

 

「えっとね。こことこことここもそれからこれも後こっから後ろ全部。」

 

満面の笑みでページを指定する‥と言うか、問題集の本を指さすアストルフォに若干呆れているジーク。

彼の表情や行動でどこまで本気なのか分からなくなる。

 

「わかった全部わからないんだな。」

 

沢山指示語が出ているが要するに全部解けないのである。

白紙のページを1つ1つ見ていくジーク、量が量だけに1人で教えられるか不安になってくる。

 

「ジャンヌ、少し手伝ってくれないか?‥‥ん?ジャンヌ?」

 

もう1度名前を呼ぶとジャンヌはビクッと体を震わせてまるで怯えた子犬のような反応をした。

それを怪しく思ったジークはジャンヌに、

 

「そう言えばジャンヌ、今日この前の数学の抜き打ちテストの結果が返ってきていたな。少し見せてくれないか?」

 

今度はさらにビクン!と跳ねる。

それからジャンヌは小鳥に囁きかけるように声を出した。

 

「い、いや‥です。」

 

「大丈夫だ、何もしない少し確認したいだけだ。」

 

「何も確認しなくていいですよ。大丈夫です、私は大丈夫ですからそっとしといてください。お願いします

 

2回目の大丈夫から声が篭もり出して聞こえるか聞こえないかというレベルまで低くなっているジャンヌにジークは多分これ以上やっても解決しないだろう。

そう考えたジークは不自然な動きを見せるジャンヌの机の中に手を突っ込む。

ジャンヌは当然それに抵抗するがいつものような力を出せずにやられるがままジークに負けてしまいテストの答案を奪われてしまった。

 

「‥‥」

 

「そ、その‥‥」

 

ジークに数学のテストを見られ口篭るジャンヌ。

興味があるのかアストルフォは身を乗り出して見るがその好奇心顔はすぐに失せて顔を歪ませる。

 

「うわぁ、何コレ?僕より酷い点数だよ‥ルーラーって意外とバカ?」

 

アストルフォよりも酷いというのは余程のことと思い下さい。

そんなアストルフォの言葉にジャンヌの胸にはグサッと十字架が突き刺さる。

 

「ジャンヌ‥‥何か言いたいことは?」

 

「‥‥今は話しかけないで下さい。」

 

今にも泣きそうなジャンヌは机に伏せてしまってこちらを見ようとしない。

 

それから少しして気持ちの整理が落ち着くとジークによる軽い説教が始まる。

 

「何で今まで言わなかったんだ?数学が苦手だって‥‥」

 

「それは、その‥‥」

 

先程までの強気な姿勢はもう完全に溶けてなくなってしまい少女のように縮こまるジャンヌ。

 

「このまま言わなかったらジャンヌは補修送りになっていたんだぞ。それなのに何で言わなかったんだ?もしかして俺じゃ力不足と「い、いえそうではなくて...ですね」」

 

慌てて遮るジャンヌは下を向きながら小さい声で力無く呟いた。

 

「だって‥‥失望するかも‥‥と思ったので‥‥」

 

「失望?何故だ?」

 

「...私は1年で生徒会‥全校生徒から過度な期待を抱かれております。それがこの様な点数を取るなど‥‥知られる訳にはいかなかったんです」

 

彼女の言う通りジャンヌは先生からも生徒からも過度な期待を背負っている。

先生達からは優等生、生徒からは憧れの的であるジャンヌはその鉄のように重いプレッシャーの中を一切窮屈とは思わずにそのプレッシャーに答え続けてきた。

その過度な期待はジャンヌを鎖のように縛り付け、それは結果的にジャンヌは優等生で居続けないといけなくなった。

それでもジャンヌはそれを重りとは思わずに今も優等生ジャンヌとして学生をしているが、そんな彼女だって人間だし、彼女にだって弱点はある。

その1つが数学だ。

語学や社会系統ならいい結果を残せるが何故かジャンヌは数学がとてつもなく苦手なのである。

そんな自分の弱点が心の許せる自分の友からの信頼を無くさせ繋がりを壊す。

それとこれは勝手にジャンヌが気負っているのだがジークは記憶喪失の為にやはり年齢と知識が伴いきっていない。

知能指数は高いようだがおぼつかない部分が多々ある。

そんなジークを自分は手を引っ張ってやらないといけない。足を引っ張ってはいけないと...そういう風に考えている。

それなのに自分の弱い所を見せてジークがもし自分を頼りなく思ってお荷物に感じたりしたら...そう思うのが、彼女にとってとても怖いのだ。

 

望んでほしい人には見破られて、それでも優等生を演じ続けなければならない現実、なんと虚しく辛い事だろう。

 

だがジークはそんな事を思いもしない。

 

「別に、人には向き不向きがあるものではないのか?それにここで全教科できないことを誇っている人に呆れている所だ。」

 

そう言って隣で満面の笑みで手を振るアストルフォも全くそんな事を気にしていなかった。寧ろジークの言った言葉を褒め言葉として捉えている。

 

「へへ〜。褒めないでよ。」

 

「褒めていない。」

 

冷淡に余裕な心境に矢を思いっきりぶっ刺す。

 

「寧ろ、そんな事で失望しないと信頼してくれなかったことに驚いている。」

 

「うぅすいません。」

 

顔は更に下を向き、前を向こうとしないが、そんな彼女を見てジークは笑みを浮かべた‥まるで悪戯を成功させた子供のように

 

「冗談だ。少しからかってみたくなっただけだ‥いつものジャンヌがこんなにも落ち込んでいるなんて珍しいからな。」

 

弱みに漬け込んで、からかわれた事に頬を膨らますジャンヌ。

 

「なっ!?ジーク君!!」

 

「さて、どうするかな?困った事に俺1人で君達2人を見るのはだいぶ手に余る。少なくともこの限られた時間だけじゃ‥‥」

 

「だったらさっ!だったらさっ!僕の家に皆で来ない?どうせ明日は週末だから皆でお泊まりをして勉強会をしようよ!」

 

「お、お泊まり!?」

 

「勉強会?」

 

「そっ、一度やってみたかったんだよね~友達呼んで夜を越す事を。」

 

「あの趣旨が変わっていませんか?」

 

だんだん自分の要望を出してきているアストルフォ。

それに対してツッコミをいれるジャンヌ。

 

「いいじゃん、いいじゃん楽しくやろうよ。」

 

「でも、女子1人というのは心もとないし、それに...」

 

ジャンヌはチラッとジークを見る。

 

「大丈夫だって僕もジークもそんなの気にしないよ。それに君が襲ってきても僕が抑えるから」

 

「ちょ、何故私が襲う事が前提何ですか!?普通は逆でしょう!?」

 

「えっ?その心配じゃないの?」

 

「‥‥」

 

本気か冗談かわからない顔で言ってきたのでジャンヌはアストルフォの頭を叩いた。

 

「いっぅ〜。」

 

「わ・た・し・は・そのような事は致しません!!なので安心してくださいジーク君。」

 

「‥‥」

 

ニッコリと恐怖にじみ出る微笑みにジークは若干引いている。

だけどいつもの調子を取り戻したジャンヌに安堵する。

 

「それと、一緒に勉強をするというのは反対しませんが、やはりお泊まりというのは反対ですね。親御さんも心配しますし、何より校則違反です。」

 

こほん、と1つ咳を入れて間を開けて否定する所を入れた。

 

「えぇ、イイじゃんかぁ~ルーラーは固いなぁ~」

 

「俺も泊まりは反対だ。家にはお爺さんが1人しかいないからな家事を手伝わなければいけない。」

 

そう言ってジークも勉強会はいいが泊まりへの反対意見を言った。

またも反対意見が出たことに唇を尖らせるアストルフォは2人も反対した為に仕方なく納得する。

 

「まっ、いっか!んじゃ、放課後皆で僕の家に行こう」

 

だがすぐに気持ちを切り替え張り切ってバンザイをするアストルフォは子供のように喜んでいた。

 

 

 

 

~side放課後~

 

放課後、今日の分の仕事を片付けたいために少し待っていてと言ったジャンヌを待っているアストルフォとジーク、ちょっとした会話を楽しみながら時間を潰しているとそこに今帰りなのかモードレッドが前を通った。

 

「モードレッド」

 

「ん?ジークか?何してんだ?」

 

「ジャンヌを待っている。」

 

「へぇ~」

 

ジークはモードレッドに話しかけ、モードレッドもそれに違和感なく返答するが、その横でそんな違和感を飲み込めずあたふたしている人がいた。

 

「ちょ、ジーク!!何で剣道部の先輩と知り合いなの!?」

 

驚きを隠せないアストルフォはジークに詳しい説明を求める。

 

「『何で』って...前に少しな.....えっ?先輩?」

 

ジークは不思議そうにモードレットの方を見てモードレッドに聞いた。

 

「モードレッドって先輩だったのか?」

 

「今更かよ。俺は2年だ。」

 

前回ジークは聞きそびれたがモードレッドは1年上の先輩である。

 

「そうか、それは済まなかった。」

 

本当に気にしていないのかモードレッドはそれには目を瞑ってくれた。

モードレットはそんな事よりもジークの横でまだ状況を飲み込めてないアストルフォの方がきになっていた。

 

「別に気にしていない。つうかお前の連れの方が大丈夫かよ。」

 

「大丈夫じゃないよ!?この人の噂は1年の教室まで広まっているんだよ。そんな人とジークがどういう経緯で知り合ったのさ!?」

 

「色々あったんだ。」

 

そこまで詳しい説明をするのは面倒なので一言に纏めるジーク。

まぁ、ここで自分とモードレッドの繋がりを教える必要も無いだろう。

 

「お待たせしました!」

 

モードレッドジークを引き合わせた人が少し遅れてやって来た。

ジャンヌが来たタイミングはグッドタイミングであり、なんとも言えないバットタイミングであった。

 

「え、あ。モード...レッド何で貴女が此処にいるのですか?」

 

「ん?部活行く途中。」

 

ジャンヌは警戒した声と顔でモードレッドが此処に居る事を問うと、モードレッドはしれっと平然にこれから部活をやると言う。

 

「部活って今はテスト期間中何ですよ!全ての部活動は禁止のはずです。」

 

声を荒らげながらジャンヌはモードレッドを止める。モードレットはジャンヌの言い分に小さく舌打ちして...

 

「それはお前達生徒会が勝手に決めた事だろう?俺がそれに従ってやる必要は無い。」

 

物凄く勝手な言い分で反論した。

 

「生徒会ではありません。これは学生としての常識です。部活動に精を入れるのも学生だけの特権ですが、それだけに集中して勉学を疎かになっては本末転倒です。学生の本分は本来学業なのですよ!!」

 

モードレッドはよりいっそう不機嫌になりながら鞄に手をやりバッグを開けてそこから1枚のプリントをジャンヌに投げ渡した。

だがジャンヌから見たらただ叩きつけられただけだ。

 

「きゃ!?」

 

「それを見ろ。」

 

ジャンヌは言われる通りにプリントに目をやる。

ジークとアストルフォも何を渡されたのかが気になりおそるおそる覗き込んだら、ジャンヌとアストルフォは硬直した。

プリントの内容はこの前、2年生だけがやった抜き打ち実力テストの結果だった。

この学校は2年生以降になると定期テストだけでなく、本当の実力を知るためにたまに抜き打ちでテストを行う。

そのテストがこれだ。範囲も知らされずに知らされず今までやったことを疎かにしていたりしていたらすぐにわかってしまうのだ。

これには他の生徒はよく手をやかされる。範囲が広い上に知らされるのは3日前位に普段からやらないと補修させられてしまう。

そんな厳しいテストをモードレットは.....

 

「へ、...平均95点!!?」

 

ジークも思わず目を見開いて驚いてしまった。ジークも仮にもここで編入試験を受けた生徒...だからここのテストの難易度は知っているのだがここまでとれるとは...英語なんて100点だ。

 

「これで分かっただろう?別に抜き打ちだろうが定期だろうが俺にはテストなんて関係ないんだよ。これを持っていたらあの偽善者(生徒会長)も黙ってくれるだろう。」

 

モードレッドは鼻を鳴らしながら得意げに言っている。

ただ、コレで1つに腑に落ちたことがある。

生徒会が何でモードレットに手を焼いているかだ。

モードレットについては生徒会でも何度か剣道部に牽制を入れている。だが直接的な攻撃は無かったらしい、それは何故かモードレットの成績が良いからだ‥それも2学年でもトップクラスの‥‥

この学校は部活の成績が良くても、普段の生活態度や学業を疎かにしている部活は取り壊していくらしい。

ジャンヌの仕事はまさにそれだ。

例え部活や成績で結果を出せても学風を損ない風紀を乱す異分子を無くすためだとのこと、モードレッド何てすぐに目をつけられて最悪学校側と険悪になり、潰されて‥‥何て結果もあったかもしれない。

だが、それはなく1人しかいない部活を壊さずに小さい小競り合い程度の手しか出さなかったのはモードレットが人間性は兎も角として能力に関してはまさに文武両道を絵にかいたような生徒‥しかもこれぐらいの成績をだす生徒、少し優秀ではなくとてつもなく優秀なのだ。

余計な手を出して彼女を失った方が学校側として損失がデカい訳だ。

だからこそ出来るだけブレーキをかけながら自重を覚えさせようとしていたのか...

 

これはチャンスだ。

そう思ったジークは言うより前に行動した。

 

「モードレッド。」

 

「は?...は!?」

 

何とも大胆な行動、大来の前でジークはモードレットの手を掴んでがっしりと掴み離さない。

 

「なっ!?」

 

「ジーク!!?」

 

ジャンヌもアストルフォも開いた口が塞がらない。

何でこんな場所でこんな人の目のある前でよりにも寄って何故モードレッドの手を掴んだのか?

こんな行動‥ヒグマと対面しその手を握っているようなものだ。

いつ襲いかかってくるか分かったモノではない。

 

「て、テメェ、急になにしやがる!?」

 

案の定、モードレッドは驚き、不機嫌そうにジークから握られた手を振り払う。

 

「頼む!アストルフォに勉強を教えてくれ!!俺1人じゃ教えきれないかもしれないんだ。この通りだ。」

 

ジークの必死の頼み、モードレッドはそんな面倒なこと断ろうとしている。が

 

「お願いだ!何でもするから俺達に手を貸してくれ!!」

 

ここまでの必死な頼み、これを突き放したらまた変な噂がたってしまいかねない。

ただでさえジークのこんな大胆な行動、両手でモードレッドの手を握り締め、頭を下げている。

その上に終業のチャイムがなってそれほど経っていないのだ、帰ろうとしている生徒全てがこちらをガン見してあとに引けない状態となり、偶然が生んだこの状況がモードレッドを追い込んでいた。

 

当のアストルフォはそれに反対意見でジークの腰に手を回して止めようとしているがジークは止まらなかった。

 

この状況、1人が告白し、1人が好きな人がいると言って断り、そこに自分はこちらの方が好きなんだけど!!っと言っている構図にしか見えない。

 

ここにジャンヌまでもが加われば...モードレッドの頭にはさらに面倒にしかならないと言う想像だけが頭の中に浮かんでくる。

 

「わかった!わかった!わかったからいい加減離せ!!!」

 

もう完全にジークを蹴り飛ばして強引に2人を引きはがす。

 

「ただし、借りにしとくからいつか利子つけて返せよ!いいな!?」

 

モードレッドの返事にジークは満足そうに頷いた。

まぁ、その反面モードレッドに何をされるのか不安であるが‥‥

 

「あぁ、必ず。」

 

(モードレッドへの借り‥‥何だか心配です‥彼女がジーク君に変な事をしなければいいのですが‥‥)

 

ジークは納得しているが他の2人は未だ納得はしきっていない。

校門を出て、帰路を歩いている中でもジャンヌとアストルフォは不貞腐れていた。

自分達に学力がなく学校一の問題児であるモードレッドの力が必要なのは頭では理解していても警戒心がどうしても消えなかった。

 

今回の勉強場所であるアストルフォの家に着いた。

 

「んじゃ2階の部屋に行っといて、お茶とお菓子持っていくから、あっ、ジークは2人を案内しといて場所知っているでしょう?」

 

そう言ってリビングに入っていくアストルフォ。

ジークは了承し階段を登り2人を先導していく。

そんな時ジャンヌがジークに耳元で囁いてくる。

 

「あの、ジーク君。」

 

「ん?どうした?」

 

耳元にかかる声がジークを擽るようでこそばゆくなる。

 

「あの、さっきアストルフォが言っていた場所を知っているというのは...?」

 

「大丈夫だ。しっかりと場所を覚えているから安心していい。」

 

微笑むジーク、だがジャンヌが聞きたいのはそういう事ではなくもうちょっと違う所だ。

 

「いや、何故場所を知っているのですか?」

 

「前に1度家に来たことがあるからな。その時この家の構造は大体覚えた。」

 

「え!いつの間にそこまで...仲良く。」

 

確かに週末までは正直苦手意識はあったがこの前の調理実習でも見たはずだが...

予想より驚いているジャンヌに、ジークは不思議そうに首を傾げた。

別にそこまで驚かなくてもいいのではと思ったのだが口には出さずに代わりにジャンヌの質問に答えた。

 

「以前、休日に偶然会ってそのときに家にあげてもらったんだ‥‥さっ、着いた。」

 

ジークはドアノブを回してアストルフォの部屋を開ける。

この女子よりも女子らしい部屋‥個人的な予想なのだがモードレットの部屋よりは女の子っぽい気がする。

鞄を床に起き腰を下ろすとアストルフォも部屋に入ってきた。手には手から漏れてしまいそうな量もある。

 

「おっ待たせー!お菓子持ってきたよ――――!!」

 

アストルフォは自分の机にお菓子を置く。

それからジャンヌ達は鞄から勉強道具を取り出す。

 

「んで、何処がわからないんだ?」

 

モードレッドが自分達に教えて欲しい所を聞く。

まぁ、大抵はそれで十分なのだが、ここにはそんな構えじゃ意味の無い人間がここにいる。

 

「えっとね〜。全部‥かな!!」

 

ドサドサドサっとカバンの中から教科書だの、問題集、それからノートを雪崩のようにカバンから放り出す。

そこにはクリアファイルも混ざっておりぐしゃぐしゃとプリントが出る。

その馬鹿げた行為にモードレットは激しく激怒した。

 

「テメェ!バッグをぞんざいに扱ったらどうなるか考えろよ!!」

 

「そうですよ、アストルフォ!余計な手間をかけさせないでください!!」

 

とんでもない行為を行ったアストルフォに早くも2人もと説教モードに入った。

それでも『まぁ鞄の中をぶちまけた程度の事なのだが‥‥』とジークは思っていた。

だからジークは話を余計話に変な話題を入れさせないためにアストルフォのバッグの中身直して整理しておいた。

 

「はぁ~もういい‥おい、ピンク。」

 

呆れたモードレットは自分の髪の毛をガリガリと掻く。

 

「とりあえず、お前達も今までやった小テストとかあるだろう?テスト前だ、全部は無くても幾つかあるだろう?最もの問題児は自分の家だ。当然あんだろう?テスト用紙を全部出せ!!」

 

モードレッドから危険を察知したアストルフォは3歩下がり自分のベッドの毛布に包まろうとする。

だがそんな行く手をモードレッドはアストルフォを追い詰める壁として利用した。

 

「おっと、逃がさないぞ。俺も暇じゃないところをこうして態々来てやったんだ。まさか...捨てたなんて言わねぇよな。」

 

もう完全に女子高生にかつあげしている不良にしか見えない構図。

流石に絵面がヤバい。

これは街中では通報されてしまいそうなぐらい今のモードレットの顔は世間には見せられない...そんな顔で追い詰められているアストルフォはもう観念するしかなかった。

 

「いや〜その〜なんというか〜〜.....さ、最近リサイクルにはまっているんだよねぇ~僕。アハハ、資源を無駄なく使い分け最後の最後までものを大切にする精神の表れ、これを態度で‥‥「ごちゃごちゃうるせぇ!!いいから早く出せ!!」‥全部捨てました!!!」

 

どんなに言葉を並べても立場の上下関係が既に決まっている時点でアストルフォに勝ち目などないのだ。

アストルフォにあるのは大人しく従っていくことだけである。

 

「捨てただぁ〜。」

 

わなわなと震え始めるモードレッド。に半ベソかきながらアストルフォは謝った。

 

「だ、だってさ‥いい点数じゃなかったし、残していてもゴミになるだけだと思ってさ。」

 

「はぁ~もういい。で、それで何点だったんだ。もうおおよそでいいから教えろ。それぐらいは覚えてんだろう?」

 

もうあのテンションでいくとこっちが疲れるだけだということに気がついたモードレッドは、早めに息継ぎしてテンションを切り替えて冷静になった。

 

アストルフォも静かになってくれたために少し楽になれた。

 

「えっとねぇ〜とりあえず全部2桁いってたら嬉しいな~って点数かな。」

 

あっけらかんと自分の取った点数言うアストルフォに笑顔が戻っていた。

 

「...」

 

少々現実から離れていた思考がモードレットの元に戻ってくると...

 

「何でテメェは!」

 

最初はドロップキックを決めて、

 

「そんな態度で!!」

 

次はコブラツイストをかけて、

 

「言えんだよ!?」

 

フィニッシュは海老反り固め!!

 

「イダダダダタ ギブギブギブ〜...っていうか僕はレギュラーになってからなんか痛い目にあいすぎじゃない!!?」

 

何のレギュラーかはひとまず置いといて、こんな感じでモードレッドは溢れ出てくる怒りをそのままアストルフォにぶつけながらジークとジャンヌにも答案用紙を出させた。

こっちの方はすんなりと出てきた為にお咎めはなし。

 

「ふーん。ルーラー‥お前は見かけによらず、ぜってぇ頭悪い方だろう?」

 

「なっ!?」

 

急に前触れなく頭が悪いと言われたジャンヌは驚き反論する。

 

「な、何でそんな事を貴女に言われないと「ジーク、お前は結構頭が回るな」話を聞いてください。どうしてそんな事を貴女にわかるのですか?」

 

ジャンヌの質問はジークも抱いた。

正直ジャンヌが今回出されたテストの点数だけでそんな事がわかるとは思わない(数学は別として)...モードレットはその質問にちゃんと答えてくれた。

 

モードレッドはジークとジャンヌに見やすいように同じ答案用紙のテストを並べてくれた。

それからジャンヌのテストに指を指しながら説明する。

 

「いいか、テストのって言うのは点数だけじゃねぇんだよ。テスト一つあればそいつの学力や性格が見えてくんだよ。例えばこの化学のテスト一つ見てもわかる。ジークお前はここの問題にこの公式を当てはめたら化学式が成り立つ事をしっかりと理解している。に対してルーラーお前はそれを中途半端に理解しているのか似た公式を使う奴で正解したり間違ったりだ。大方復習とかの付け焼刃何だろうな。しっかりと理解しきれてないんだろ。無駄な努力しやがって」

 

反論したいがぐぅの音も出ない。モードレットの言っている事は正しい。

ジャンヌは握り拳を握り締めて悔しそうに唇を噛む。

 

「そんな言い方は‥‥」

 

そんなジャンヌを見かねてか...いや、そういう訳では無いだろう。ジークはモードレッドに反論しようとする。

 

だけどまたモードレッドの正論が冷たくジークの助け舟も沈めた。

 

「無駄だよ。全く活かしきれていない。別に努力とか根性とかは好きじゃねぇが認めないわけじゃない。俺も実際しているしな...けどな、努力何てのは結局自己満足を得るための行為でしかない。そこに結果すら付いてこないなんてのは時間の浪費以外なんて言えばいいんだよ。」

 

鋭いモードレッドの眼つきにジャンヌもジークも思わず怯んでしまう。

それは今までジャンヌが見てきてはいないものだったからだ。

いつも不機嫌を態度に出して不真面目に適当にしているモードレッドは何度も見たことがあったがこんな目は初めて見た。

だけどジークは以前に見たことがある。

それは自分がモードレッドと話す前の練習していた時、冷静に自分に剣道に興味はないかと尋ねた時の目と同じだった。

だからジークは反論しなかった。

この時のモードレッドは真剣に考えてくれている証拠なのだから‥‥

 

「確かに、無駄かもしれない。でもそれはまだ決まった訳じゃない。」

 

絞るような声でジークはモードレッドに意見した。

ジークは冷や汗を垂らしながらモードレッドの答えを待った。多分自分じゃ論破されてしまうだけだろうがそれでも引きたくないと強く自分に思ってしまう。

 

「やっぱお前、結構面白い奴だな。」

 

だがモードレッドはそんなジークに聞こえないように呟き口角を上げてにっと笑う。

 

「ならお前が証明して見せろ。俺はこのバカを教えるのに集中するからお前はルーラーの点数を...そうだな、5教科の合格点を100上げろ。そしたら認めてやるよ。」

 

モードレッドは床で伸びているアストルフォの首筋をつかみあげながらジークに条件を提示する。

 

「わかった。」

 

ジークもまたモードレッドが言い切ってすぐにOKする。

 

「えぇ」

 

ジャンヌは現在この急展開の空気についていけていなかった。

 

「そうだな。何か罰ゲームをつけよう。その方が面白い.......あぁ久しぶりに試合形式の練習がしたかったんだ。ジークお前もし無理なら夏休みずっと俺の練習相手として道場に来い。」

 

「ちょっ!?ちょっと待ってください!!!」

 

モードレッドの提示する罰ゲームの内容に異議を唱えたのは勿論ジャンヌだった。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6ページ目

あぁ...完結したかApocrypha...そったれが!!何で何でなんでなんでなんで...あんな所で終わらしたんだよ〜(マジ泣き)UBWだって少し大人になった士郎と凛が出たじゃん。もう少し会話シーンあげようよジークとジャンヌに...

てなわけで今年最後の更新です。


「ジーク君!!」

 

ジャンヌの静かにそしていつもより純紫となった瞳がジークを睨みつけている。

彼女は間違いなく怒っているというのは一目でわかる。

わかるのだがどうすればよいのかわからない。

何故ならジークにはジャンヌが何故怒っているのか心当たりが全くないからだ。

先程までアストルフォの家で一緒にテスト勉強をしていたのだが、日もだいぶ暮れてきて、先程午後六時を知らせる時計のベルがアストルフォの部屋に響いていたので今日はこれで帰ろうという事となりアストルフォの家を出た。

その時、モードレットは家の方向が違うのでアストルフォの家を出てすぐに分かれジークはジャンヌの少し道が同じな為に近くまで送ろうとジークが言ってジャンヌ了承してくれた。

だが、そこから間もなくしてからだ‥‥ジャンヌの機嫌が徐々に不機嫌となり、アストルフォの家から離れた今、ジャンヌに過剰な反応をしてしまったジークである。

ジークには怒られるような事をした覚えがないのだが、自分が知らず知らずの内に彼女の不敬を買ってしまったのかもしれない。

そう思ったのでジークはジャンヌに頭を下げる。

 

「すまない。」

 

「では、何について謝罪をするのか、私が何故怒っているのかそれを述べる事が出来ましたら許します。」

 

最も返されたくない返し方をされてしまった。

謝れば許されると思って軽はずみに謝ってしまったことがこうして裏目に出てしまった。

でも、彼女が何もない事で怒ることなんてないのは今までの彼女との付き合いでよくわかっている。

それともう1つ、ジャンヌが怒る時は自分に対してではなく他者に対してのみ、つまり他人()の事しかない。

それを踏まえた上で思い直し考え直した。

今回は自分しかない。

でも、俺が誰かに迷惑をかけたのだろうか?

『ふむ』と小さく唸るジーク、顎に手を当てながら少し少し深くそしてゆっくりと今日あった事を1つ1つ鮮明に思い出そうとする。

 

生徒会と仲の悪いモードレッドにテスト勉強を頼ったから………?

いや、そんな小さい事で怒るわけはないだろう。

モードレッド‥‥そうか!!何となくだがわかった気がする。

 

ジークの目が不自然にパチクリと瞬きをするのが見えたジャンヌ。

あぁ、これは間違えているなと直感したジャンヌ。

全くかすりもしていないだろう。

 

「もしかしてだが、俺なんかより頭のいいモードレッドに教えてもらいたかったのか?すまない売り言葉に買い言葉があの流れを作ってしまい、ジャンヌの気持ちを考えずに決めてしまって済まない。」

 

申し訳なさそうに頭を下げるジーク。

確かに人の気持ちを考えずに自分の考えを押し通し、ジャンヌの意見を全く取り入れなかった事については自分が悪い。

これが後々他の人にもやっては迷惑行為となる。

ジャンヌが怒る理由は恐らくこれだろうと確信するジーク。

それに対してジャンヌはジークの思いとは裏腹に全く掠っていないと心で思っている。

 

やはり間違えた答えにたどり着きましたか‥‥。

 

ジャンヌは心の中でジークの回答に落胆した。

 

まぁ、大方予想通りといえば予想通りなのだけど、あぁ、悲しい。

彼は転校してきてから何も変わっていない。

彼の考え方は自分が人に劣る、自分は他人より下だという事を断言している。

自分と他人を比較しているようで決めつけている彼が彼に対する存在価値。

 

「はぁ~」

 

私はおもわず大きくため息を吐いた。

そこから気を引き締めなおして、

 

「そこではありますがそこではありません!!」

 

「えっ?じゃあ、ジャンヌは何に怒っているんだ?」

 

「ジーク君が頑張って私に教えてくれているのはすごく嬉しい事です。モードレッドよりもジーク君の方が親しみやすいですし、引き続きこのまま教えてもらいたいですし、結果的にこの様な形に収まってくれて良かったと思っています‥‥」

 

「‥‥」

 

「ですが!!何で!?どうして、あの様な無茶な賭けをしたんですか!?」

 

「それは、その‥‥」

 

「しかもどうして、自分の夏休みを賭けたのですか!?これは私の問題なのですよ!?それなのに‥‥もし、私が目標点に届かない場合、貴方は折角の夏休みをモードレッドに潰されてしまうんですよ!!それでもいいんですか!?」

 

ジャンヌはジークの意見を聞く前にズバズバと物事を進めていく。

 

「あぁ、そのことか。」

 

「だから、自分の事をもう少し考えてください。これは前にも言いましたよね!?」

 

頭を押さえながら自分の情けなさに項垂れたい気分だ。

会ってまだ一ヶ月も経ってはいなくても、鈍い自分にもわかるぐらい彼の表情や環境は変わったのに重要な根本はいまだに変わっていなかった。

記憶を失っているのだ。それが当然かもしれないがそれではだめだと思う。

記憶が戻り自分と言う人格を見つけると簡単に手に入るかもしれない。

だが、記憶を戻すという事が必ずしも好転するとは限らない。

最悪の状況は浮かべようと思えばいくらでもそれは湧きあがってくる。

でも、どんな逆境にも負けない自信をつけさせてあげなければならない。それは私がしてあげないといけないことだ思っていると言うのに‥‥

 

「そうか、だいぶ考えているとは思うのだが‥‥」

 

ジークの返事に私は力無く横に首を振る。

少し前進はしていた『考える』という自覚が芽生えだしたことは喜ばしいことなのだが、自覚してこれだったら全く意味は無い。

 

「それならば、何故貴方は自分自身を賭けに出したのですか?」

 

「先程も言ったがあれは売り言葉に買い言葉で‥‥」

 

言葉が詰まり出す。

だがジークは話題を変えてまた言葉を発する。

 

「それに、モードレッドは基本、無理難題を出してくるかもしれないが相手をしっかりと考えてくれる人だ。」

 

ジークの言葉から彼は余程モードレッドを信頼しているのだと思う。

それはそうだ。

以前も何かと文句言いながら最後までフェアで通していたのだ。

ジャンヌは喉がぐっと詰まり少し寂しさを感じていた。

彼に向けられる信頼‥‥できればそれはモードレッドではなく自分に向けて欲しかった。

 

「随分とその‥‥モードレッドを信頼しているのですね。」

 

無意識に彼に対して作り笑いを浮かべてしまった。

普通に喜ばしいことなのに何故か自分でもわかる笑顔を浮かべて肯定したくないと思っている事が...

 

俗に言う、今まで精魂込めて育ててきた弟が幼馴染を幼馴染と感じなくなり段々とその幼馴染を異性として意識してしまい、いつの間にか弟との思い出がすべて遠くの物となったブラコンの姉のような心境になっているジャンヌ。

 

何か低俗な例えだが言わばこんな感じだ。

簡単に言えば、ジャンヌはモードレッドに嫉妬心に似たやきもちを抱いたのだ。

だがそんなもどかしさが吹き飛ばされてしまう。

 

「ん?いや確かにモードレッドも信頼しているが、俺はジャンヌなら必ずできると思っている。俺は勉強の間、ずっとジャンヌを見てきたのだから。」

 

きょとんとした顔で爆弾を置いていく、さもそれが当然と言いたげな顔をしている。

ジャンヌがその顔をしたいのだが、彼女はそれどころではない心境になった。

ドクン!と1回心臓が跳ねるのを感じる。

ジャンヌは無意識に自分で自分の手を握りしめていた。

 

「ジャンヌは努力を怠ることは無いし、それは隣で見ていたから分かる。だからこれぐらいなら余裕だと思う。もしモードレッドの出した条件が無理難題というのならそれは自分の力不足しか要因はないと思う。」

 

淡々とジークはジャンヌを見てきたことを客観的に語る。

ジャンヌが何を思おうとジークにとっては最初の友であり手を引っ張ってくれる人。

だからこそジークは思う。それ以外で困っているのであれば助けてやりたいと考えていた。だからこそ今回の事は謝罪をしたい反面、嬉しい誤算というものであった。

 

テストでジャンヌの助けとなり積み上がった恩を返したい。

 

と言うのを考えているのだがジークはそれを口にはしなかった。

言う必要も無いしそれに何よりジャンヌは先程から顔を真っ赤にしていた。

言ったら言ったで余計にややこしくなりそうだし。

 

「ずっと見ている...隣で見ていた。」

 

紅潮した頬を抑えながら急に180度回転してコンクリートで出来た塀を叩く。

 

「その急にそんなことを言われたら、私...嬉しいのですが、そんな事を口にされたら、というか軽々しく口にしないでください。私以外に聞かれたら誤解を生む可能性があるのですから」

 

「ジャンヌ‥ちょっと落ち着こう。その手を止めた方がいい‥塀が壊れそうだ。」

 

普通は手が怪我するはずなのに、塀から鳴る音がとてつもなく大きい為にまるで棍棒で叩いている気さえしてくる。

このままではジャンヌが器物破損で警察の厄介になってしまう。

 

「とりあえず、目標の合格点100点上げる。100点と見たら高いかもしれないが、少なくとも数学を赤点ギリギリのラインに引き上げたら後残り60点。」

 

そう考えると確かに低く感じる。

いや、そう言われると何故か低く感じる。

 

「そうですね、1つ12点上げれば...」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

ジャンヌは何か間違いを言いましたか?みたいな事を言いたげな顔だ。

ジークは今、ジャンヌが言った言葉を疑いたい気分である。

そして、心の中で思った。

 

この賭けやはり難しいかもしれない。

 

 

 

 

〜saidそれから〜

 

それから、テストまで1週間を切り、テスト本番まで残り3日まで迫ってきた。

だが大丈夫か?と心配したくなる。

だって日が変わり挨拶をするたびに体はやつれてきている。

更に顔は青くなり、日がな1日中ブツブツと何か独り言を発している。

体は衰弱し、精神は崩壊しかけているように見える。

本当に大丈夫なのか?と心配したくなる。

 

アストルフォの事が‥‥

 

アストルフォとは席が少し離れているのだがそれでもわかる。

先の休み時間でもそうだし、朝、昇降口で顔をあわした時にもげっそりとしていていつもの綺麗で艶やかな桃色の髪は面影を残さず色を失ったかのようにしなしなとして、それから手入れをしていないのかボサボサしている。

このままではあの綺麗な桃色の髪が真っ白に変色してしまうのではないかとさえ思えてくる。

そんな今まで見たことのなかったアストルフォの姿には心配を通り越してクラスの皆は不気味さを感じ、少し引き気味になっている。

それは先生ですらそうだ。

先程心配した先生が声をかけて保健室で休むかと促してくれたのだが、アストルフォは先生にしがみつき無言で力強く首を横に振る。

しかもいつもは何カラットも放出しているその瞳には光こそなくただ黒ずんでいた。

そんな姿で声を出さなく何かを訴えている光景なんてホラーでしかない。

まだ付き合って日が浅いがこんなに生気のないアストルフォの姿は見たことなかったし、想像すらしたことのなかった。

アスファルトの不調の原因に心当たりはないわけではない。

すると、横からツンツンとジャンヌが指でつついてきた。

多分同じことを考えているのだろう。

ジークも少しジャンヌ側によるとジャンヌが耳元に囁く。

 

「ジーク君、アストルフォの不調ってもしかしてモードレットが関係しているのではないでしょうか?」

 

少し考える。

今よくよく考えるとモードレットとアストルフォの組み合わせは最悪だと気付く。

モードレットは面倒見のいい面もあるが他人にも、そして自分にすら厳しい一面がある。

それに対してアスファルトは普段は快く人当たりの良い性格だがそれ辿っていくと何処か甘えたがりな部分‥つまり、他人甘く、自分にも甘い部分がある。

そして、自分にすら甘いアスファルトの性根にモードレットの浅い怒りのツボ‥‥両者はまさに正反対の性格なのだ。

 

「後でもう一度、アストルフォに聞いてみよう。これではテストどころではない」

 

「そうですね」

 

ジークがそういうとジャンヌもまた首を縦に振る。

 

 

 

 

「アストルフォ。」

 

授業が終わりいつもならチャイムがなるとこちらに飛びつき勢いでこっちに来るのだが、今回はジークの方から声をかける。

アストルフォが突っ伏した状態からこちらを見あげるとジークとジャンヌを認識する。

 

「おぉ、ジーク氏にジャンヌ女史。何か自分にご用意でござるか?」

 

今日やっとまともな声を発したアストルフォだが、

やばいこれは明らかにヤバい。

口調が物凄くヤバい。

 

「ちょっと、どうしたのですか!?アストルフォ!?」

 

「何かあったのか?」

 

あったのだろうが...と心中で思いながらアストルフォに問う。

 

「いえ、何でありますよ、ジーク氏。」

 

「モードレットに何かされたのですか?」

 

ジャンヌは心配そうに目を細めて優しくアストルフォの髪を摩ってあげた。

するとそこには相変わらず正気は宿らないが力が込められてジャンヌに抱きつく。

 

「聞いてよ、聞いてよ!!2人とも!!」

 

泣きつくようにジャンヌのお腹に顔を埋めるアストルフォ。

更にアストルフォは自分の頭を左右に激しく動かすのだ。

これ絵面は良いが中身を考えたら一発で生徒指導室に送り込まれるな。

ジャンヌも顔を真っ赤にして困惑している様子。

というより何をどうすればいいのかわからずにとりあえずアストルフォを引き剥がそうとしている。

 

「ちょ、アストルフォ分かりました。分かりましたから離れてください。お話を聞くので...何かお腹が妙に擽ったいのです!!」

 

「もう僕の味方は君達だけだよ。もう疲れたよ。僕、もうあの先輩についていけない。」

 

アストルフォは断言した。

そこまでなのか、モードレッドがここまでアストルフォを追いやるとは思ってもみなかった。

というよりするとは最初から頭に入ってなかった。

何かと言葉はきつく乱暴な面が目立つが根はいい人だとジークは思っていたのだから‥‥

ジャンヌはとりあえずアストルフォを引き剥がしてモードレッドを問い詰めようと考えた。

 

「『帰ったら予習と復習は必ずしろ』って言ってくるんだよ!!」

 

ジャンヌの考えはすぐさま一転する。

モードレッドがどのように酷いのかを話すアストルフォであるが、モードレッドの言っている事は最もな事なので、

 

「「いや、それは当たり前だろ(です。)。」」

 

「そんな!?ひ、酷い!」

 

ガーン!と石化するぐらいショックするアストルフォ。

 

そんな事でここまで周りに心配をかけさせていたとは...いや、呆れを通り越してもまた心配してしまう。

ジャンヌも同じ心境のようだ頭を抑えてため息を吐いている。

 

「アストルフォ、こういうのはどうかと思いますが受験生の時とかどうしていたのですか?」

 

失礼で少し不謹慎だと思うが確かに気になる。アストルフォはモードレットの様に勉強の才能があるとは思えない。

かと言って勉強はとてつもなく嫌いらしいし、入試を受けた訳では無いが大体テストのレベルは頭に入っている。

勉強をせずに入れるほどこの学園の入試は生易しいものではい。

まさか、ドラマでよくある裏口入学をしたとも思えない。

ならばどうやって彼はこの学校の入学試験を突破したのか?

それは、

 

「えっ?あぁ、それはこの天満宮産のコロコロ鉛筆を転がして‥‥」

 

とアストルフォは筆箱から実際に使ったというそれを取り出して机に転がして見せた。

 

「「‥‥」」

 

しかもこの鉛筆は地味に4面なので本当に入学試験用らしい。

4面とは転がりにくそうな出来だなぁとジークは思った。

 

「答えを出したの。」

 

「‥‥あの‥1つ言わせてもらって宜しいでしょうか?」

 

ジャンヌは顔を引き攣らせながら、アストルフォに質問する。

 

「どうぞ。」

 

質問をされてアストルフォはどうぞと促す。

 

「ふざけているのですか!!?」

 

促されたジャンヌはアストルフォに怒鳴りつけた。

ジークはそこまで叱らなくても良いのではないかと考えたが確かにそれでいけるとは思わない。

 

「ほら、うちの入試ってマークシート形式だったじゃん。ぶっちゃけ問題を見ても見なくても関係...えっとルーラー何でそんなに睨んでいるの...?ほらスマイルスマイル。」

 

先程とは打って変わって鬼をもビビらす殺気を纏って静かにアストルフォを睨みつける。

今のジャンヌはジークから見ても文句なしに怖かった。

 

「ジャンヌ、確かにアストルフォのやり方はどうかと思うが...「ジーク君?」...何でもない。」

 

「ほら、ルーラーも知っているでしょ。信じるものは...何とかかんとかってやつ。」

 

「無宗教の人が何を信じてるのですか?」

 

「失礼な!僕は天満の神様を信じてこの鉛筆で挑んだ!!」

 

この前テレビでやっていたな‥‥普段優しい人ほど怒ると怖いと本当に怖いな。

今なら竜もこの剣鬼で負い返せそうなぐらい恐ろしい。

ジャンヌの声が抑止力となり近くにいるアストルフォとジークは疎か教室全てが静かになっている。

 

「はぁ~その様な愚行で高校入試を突破するとは...アストルフォよりも日本の教育体制にモノを言いたい気分です。」

 

確かにそうだ。

そこはジークも同感する。

普通入学試験を行うのはレベルのあった最適な場所に生徒を選ばせるためだと思う。

それを時の運で自分の学力の限界を突き抜けさせるとは...まぁ予想できないといえば予想はできないのだが...対策でも建てておいた方がいいと思う。

 

「んで、ルーラーはどうなの?君が合計点上げないとジークは先輩に取られちゃうんだよ。」

 

アストルフォの指摘にジャンヌはビクっと反応する。

先程と打って変わってアストルフォは目を細めてジャンヌを緩い眼光で見つめている。

 

「僕もピンチだけどルーラーがやってくれないとジークも道連れなんだよ。」

 

「アストルフォそれは違う。俺が取られるのではなく俺の夏休みが無くなるだけだ。だからジャンヌ貴女もそこまで深く考えなくとも...「甘い!!」」

 

ジークを遮りアストルフォが力強く断言する。

胸を張って断言しているアストルフォにジークはたじたじとなっていた。

 

「甘いよ、ジーク!ハチミツたっぷりのハニートーストにチョコレートソースをかけたよりも甘い!!いい、夏休みというのは先生や親の目から離れ学生が最も自由となりハメが外れる期間なんだよ!!ハメを外しすぎて、夜の校舎に忍び込んで窓ガラス壊してまわったり、盗んだバイクで走りだしたりと犯罪行為に走り出す人も居るけど、それは夏という誘惑の強さがなせること。夏やシミにはそれだけの魅力があるということだよ!!ジーク氏!!」

 

また呼び方が変になっているがいつものアストルフォで安心した。

まぁその何処かの有名探偵風になって入るのだがそれについては、今は置いておいてもいいだろう。

 

「そうなのか?ジャンヌ。」

 

ジャンヌにも聞いてみる彼女はその様な自堕落で落ちたりはしないだろうから、何となくそのような人の意見も聞きたくなった。

 

「どうでしょうね。それは文化の違いがあるのでなんとも言えませんが..でも確かに夏というものの魅力は群を抜いているかと‥‥」

 

「じゃあ、ジークはさぁ、これまでどんな夏休みを過ごしてきたの?」

 

「っ!?」

 

アストルフォの質問はあくまでちょっとした世間話程度に聞いた質問だ。

でもジークは答えられない。

目を細めて下を向くジーク。

頭の中には何も無いタンスを漁っている様な感じがしているが実際にそうだったジークにとっては夏が暑いことですら初めての体験なのである。

海が青いのも夏に向日葵が咲いているのも...

 

ピキっ!

 

急にジークの頭が裂ける様な痛みを感じる。

真っ二つに頭が割れ始め何か嫌なものが入り込んでくるみたいだ。

あまりの気持ち悪さと痛みで膝をつく。

何かが何か変なのが入り込んでくる違和感には嫌悪感を抱き吐き気がしてくる。

 

「あっ!?ァああ!!」

 

息が荒くなってくる。

 

「ハァハァ..ハ、ぁ」

 

目が霞み視界が暗くなってくる。

血の気とともに体の熱もなくなりだんだん寒気がしてきたように感じた。

 

「ジーク君!!?」

 

膝をついたことにも驚いたが先に見るのは先程から段々と悪くなって言っている顔色だ。

徐々に青くなり初め誰もが心配するぐらいにまで青白くなっていた。

 

「ジーク!?どうしたのさ!!?」

 

急な容態変化にアストルフォもジャンヌもどうすればいいのかわからずにオロオロしていた。

だがそれはジークも同じ何が何かわからなくなってきていた。

 

2人の狼狽える姿を最後にジークの意識は無くなった。

 

 

 

 

〜said保健室〜

 

アレから2時間昼休みに入ってもジークが目を覚めることはなくジャンヌは休み時間となるたびに保健室で横に座っていた。

目を覚まさないジークがとても心配なのだろう。

ジャンヌはジークの銀色の髪をさすりながら容態が回復するのを待っている。

 

「ジーク君。貴方には何があったのですか?」

 

「おい、ルーラー。」

 

そんな時に急に第三者の声が聞こえた。

ジャンヌは慌ててジークから手を離してそちらの方向へ向くとモードレッドが立っていた。

 

「ジークが倒れたって聞いてな、一応見舞いに来てやった。」

 

モードレッドはジークの横にペットボトルのスポーツドリンクを置いて彼の様子を見た。

 

「ジーク君の為に態々...」

 

「まっ、一応な。で、どうしたんだ?朝から体調が悪かったのか?コイツ」

 

「いえ、急に倒れて私にも何が何だから‥‥」

 

いや、私にはわかる気がする。

彼の急激な体調悪化の要因は過去を無理矢理に思い出そうとした事だろう。

 

「そうか‥‥」

 

モードレッドはジークの額に優しく手を添える。

 

「ふむ、熱は無さそうだし、まっ、大丈夫だろう。」

 

この時のモードレッドの表情は慈愛に満ちていた。

 

「‥‥」

 

その様子にジャンヌは驚いていた。

あんなモードレッドは見たことがなく確かにジークが信頼を置いていた理由もわかった気がする。

 

「ルーラー、そろそろ昼も終わるしそろそろ教室に戻れよ。」

 

そう言われたジャンヌは時計に目をやると確かにそろそろ予鈴がなるであろうという時間帯だった。

もうそんなに時間が立っていたとは...

 

「そう言えば、保健室の先生はいつになったら戻ってくるのでしょうか?」

 

ジャンヌは自分がいない間にジークに何かあってはいけないと思い保健室の担当の先生に任せたかったのだが未だに戻ってこない。

 

「どうせ悪趣味な事をしてどっかで時間でも潰してんだろう。つぅかいない方がいい気もするがな。アイツとこいつを2人にしとく方がな‥‥」

 

「た、確かに‥‥」

 

力無くジャンヌも肯定する。

確かにモードレッドの言う事は一理ある。

ここの担当は保健の勉強と称して様々な男子に変なことをしているという噂が耐えない。

 

まっ、噂程度だが‥本当に学校の保険医が男子生徒相手に変な事をすれば色々と問題がある。

 

「俺は先に戻っている。何かあったら知らせてくれよ。一応気になるしな。」

 

「わかっています。私はもうちょっとだけジーク君を見ておきます。」

 

そう告げるとモードレッドは手を振りながら立ち去る。

ジャンヌはその様子がとても暖かく感じつい、微笑んでしまった。

 

モードレッドが立ち去り予鈴も鳴ってジャンヌもそろそろ戻らなければならないと思った時にジャンヌは突如、腕を握られた。

それはあまり力強く無かったがしっかりと熱を帯びていた。

 

「ジーク君!」

 

「ジャンヌ、すまない。」

 

「ジーク君、大丈夫ですか意識はハッキリしていますね!私の事も分かっていますね。気分は悪くないですか?お腹は空いてないですか?気だるさはありますか?」

 

畳かけて質問してくるジャンヌに半分戻った意識で頑張って対応する。

正直本調子ではなかったがだいぶ戻ってきた気がする。

息遣いもいつものリズム感を取り戻したし、吐き気もなかった。少し頭痛があるもののこれぐらいなら大丈夫だろうと判断して上半身を起こした。

 

「心配をかけて済まなかった。俺は大丈夫だ。」

 

「...男の子の大丈夫はあまり信用できません。」

 

でもいつもよりよろよろと起き上がったことが余計にジャンヌの心配を煽ったのだろう。

ジャンヌはジークの体を支えてくれる。

ジークは苦い表情で俯いていた。

 

「ありがとうジャンヌ。」

 

「え?」

 

ふと、呟かれた言葉に力を奪われたジャンヌは抜けた力からジークに引っ張られ力強く抱きしめられた。

 

「もう‥離さない。」

 

「じ、ジーク君!?」

 

突然のジークからの抱擁にジャンヌは思わず声が裏返り、顔が一気にトマトの様に真っ赤になった。

 

 

 

・・・・続く




それではまた来年。良いお年を迎えてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7ページ目

お久しぶりです。
何の関係もない事ですが福袋でApocrypha組を狙い引いてみたところ邪ンヌが出ました。

...白いジャンヌが来て欲しかった.......。


もう離さない。

 

 

ジークが突然発したこの言葉には一体どのような意味があるのだろうか?

雄が好意を抱いた雌に対しての支配欲からくる言葉なのか?

思春期特有の異性へ対する性欲からなるものなのか?

それとも初々しい心の元に発した言葉なのか?

 

それは本人にもわからない。

本人にすら誰もわからないのであれば誰もわからないだろう。

 

まして言われたジャンヌ本人もなぜこうなったのかという考えにいかないぐらい頭が一杯一杯になっている。

急に来た刺激‥‥ほんのりとしそうな温かみを帯びた体に自分を覆ってしまうぐらい大きい体躯。

男子としては少し劣るように見えるジークでもやはり彼は男なんだなと感じてしまいそうになるこの熱と力強さ。

でも、何だろう?

この心地良さは‥‥

ずっと彼にこのまま抱きしめられ続けたいと感じていたいと思うぐらいに気持ちよさについうっとりとしてしまいそうになるジークの抱擁は‥‥

だが、段々と自分の理性が戻って来て、この現状を理解したジャンヌはジークよりも熱を発するぐらい赤く染まってきた。

 

(どどど!どうすればこんな‥‥急に‥えっ?あっ、嫌じゃないのですが、とりあえず落ち着かせましょう。えっと、こういう時は‥‥そうです!!子守唄を歌えば良いのですよね?えーと、えーと‥‥確か頭を手で撫でながら子守唄お守り歌‥‥って違います!)

 

ジャンヌは目には見えない心中では物凄く焦っているご様子。

顔も耳まで真っ赤に染め上げている。

そんなジャンヌは自分の頭の中では否定していたが、体は思ったよりも正直で彼女は無意識のうちにジークの頭を撫でてあげていた。

 

「おおお、落ち着いてください。ジーク君。一体何かあったのですか?怖い夢とかを見ていたのですか?」

 

ジークは髪から伝わる感触とジャンヌの言葉にはっとなり勢いよく自分から離れた。

 

「す、すまない。」

 

ジークは頭を抑えながら自分のやった事に後悔している。

何故、どうしてなのか?理由も分からずに自分はジャンヌを抱きしめてしまったのだろうか?

これも自分の失われた記憶に何か関係しているのだろうか?

 

「い、いえ、気にしていません。でも、ジーク君。本当に大丈夫ですか?頭が痛いのですか?あっ、コレ‥スポーツドリンクですが飲みますか?」

 

ジャンヌは一応ジークの額に手をやり熱がないかどうかも確かめた。

幸い熱などはなく外傷は何もなく無傷だと思う。

 

「大丈夫だ。頭もさっきまでは痛みがあったが今は何も無い。済まないが飲み物を貰いたい。」

 

さっきまでとは倒れた時のことだろう。ジャンヌはモードレットが持ってきたスポーツドリンクの蓋を開けてジークに手渡した。

ジークはそれを受け取り二口飲むとジャンヌから蓋をもらって占める。

それからジークは下半身を掛け布団から出して上半身も動かす。

 

「ちょっと、ジーク君?もしかして授業に出るつもりですか?」

 

ジークは首を縦に振る。どうやらそのつもりらしい。

 

「テストの事もあるからな、こんな場所で無駄に時間は潰していられない。」

 

「それはそうですが...ジーク君。テスト前に無理をしてテスト時に体調を壊してしまったら本末転倒ですよ。今は体を休めてもいいと思います。最悪、早退して家で今日一日休むのも...」

 

ジャンヌはジークの身を案じて休む提案をする。

原因がはっきりしていようがしていまいが、無理をさせられない。

まずは自分の体を第一に考えさせなければ...

だが、ジークもジークで譲らない。

ふんわりとしているようだがジークは内心結構頑固だ。

1度決めた事は完全圧倒で論破しないと曲げないし、頭が回る分それが難しい。

でも、彼の精神は今不安定なんだと思う。

勿論確信はないし確証もない。でも、先程の行動から始まり今も無理している気がする。

顔色は良くなっても顔つきが沈んでいる。

『大丈夫だ』と言っている声はいつにも増して弱々しい。

 

(彼が不調はないと言えば誰もが鵜呑みにするが私はそう簡単に飲み込めない。)

 

(今ここで原因がわかるのは私しかいない。)

 

(彼の事をわかる私が弱気となり、彼の意思を尊重しているように見せかけて彼の無理に目を背けてしまえば彼の事を一体誰が気付くのだろうか?)

 

「やはり、ジーク君、今日は休むべきです。万が一無理して教室に戻っても身が入ってなければ身につきません。それどころか無理をしてしまいテストにまで響く恐れもありますし、クラスメイトにも不安を与えかねません。」

 

「ジャンヌ...先程も言ったが無理をしているつもりは現に今も体調は...」

 

ジークは良好だと告げることができなかった。

確かに体調は良くなっている気がしている。手足には力が篭もり身体中に熱い血液が滞りなく流れているのを感じられるぐらい感覚が冴えている。

でもまだ少し頭に引ききれない違和感が残っているのも確かだ。

この違和感が何なのかはわからないがそれがあると不快感も消えない。

 

「ジーク君‥貴方が無理していることは一目でわかります。ですので今日のところは家に帰って今日あった事をゆっくり思い返してください。これはジーク君に必要な事です。親代わりであるセルジュさんにも話しておいた方がいいでしょう。貴方が記憶を取り戻したいのならこれは必要なことです。‥‥大丈夫です。これからやる授業の内容は後でジーク君におつたえますから。」

 

にっこりと微笑むジャンヌ。誰もが思わず目を奪われる彼女の微笑み...何故かジークはこれを見ると心が落ち着く。

どんな心境であろうとこの微笑み1つで自分を取り戻せる様に思える。

 

彼女にこれ以上の心配をかけさせたくない。

 

「ありがとう‥‥それなら1つ頼みがあるのだが聞いてもらえるだろうか?」

 

ジークの頼みと聞くとジャンヌは首をかしげて尋ねる。

 

「何ですか?」

 

「今日学校が終わったら俺の家に来てくれないか?伝えたいことがある。」

 

真剣な眼差しでジークはジャンヌに頼み込んだ。

 

「いいですよ。わかりました今日ジーク君のお宅によらせてもらいますね。」

 

ジャンヌは柔らかくジークの誘いを受け止め明るく笑いかけた。だがすぐに顔色が青くなっていった。

 

「どうかしたのか?」

 

「あの、チャイムって聞こえましたか?」

 

そう言えば何だかんだあり、本鈴が間もなくなる時間帯であることをすっかり忘れていた。

ジャンヌは慌てて時計を見て飛び出した。

ジークも時計を確認したら確かに授業開始の時間からだいぶ過ぎていた。

だがジャンヌは一旦引き返してきてジークに尋ねる。

 

「ジーク君!早退の仕方はわかりますよね!?職員室には先生がいますので、先生の誰かに手続きをして下さい。家に帰ったら動けたとしても体調が良かったとしてもあまり無理をしないでくださいよ。それとまだちゃんとお昼ご飯を食べていませんよね?どこかに立ち寄るぐらいなら学校で何か購入してそれを食べてください。体調の悪さを言い訳に空腹を見過ごしたらそれが原因でさらに悪くなりますからね!後、どこにも寄らずに真っ直ぐ家に帰るのですよ。いいですね!!」

 

相変わらずの心配性にジークはタジタジになり一言しか返せなかったがジャンヌは満足気に頷く。

と言うか、あの長い言葉を息つく間もなく話通したジャンヌが凄い。

 

「子供か?俺は?」

 

「それでは!」

 

ジークの問いに答える前にジャンヌは教室へ猛ダッシュして戻って行った。

 

 

〜saidジャンヌ〜

 

保健室からジークに見送られ教室に戻ると既に授業が始まっておりジャンヌは担当の教師に頭を下げて謝罪し理由を述べ一応許され現在は授業に参加をしていた。

近くの人にどこをやっているのかを尋ね、ページを開き途中からとはいえジークにあのように言ったのだ。

一言一句聞き漏らさずにノートに書き留めてジークにしっかり説明できるように準備をしていく。

まだ数学ではないことが幸いな為にジャンヌでもまだ理解が追いつき頭で理解できる。

 

 

 

今日家に来て欲しい。

 

 

そんな時、急に彼の言葉を思い出した。

 

 

彼からの誘い。

 

ジークが積極的になった事を喜べばいいのだろうか?

ジャンヌはふと、何だろうと要件を考える。

昨日までならテスト勉強のダメなのだろうが今日はそれだけではないだろう。先程倒れた事が若しかしたら関係があるかもしれない。

もしかして記憶が戻った!?いや、そんなご都合よくはいかないだろう...だが少し思い出したかもしれない。

ジークは記憶を意識的に思い出そうとして今日倒れたのだ。

それから...その強い抱擁を自分にしてきた...何か混乱していたかもしれないが何か掴むことが出来たかもしれない。

混乱時には時々思いも寄れないヒントが湧いてくると言う。

1度頭がごちゃごちゃになると無意識の奥に...ジークに当てはめると記憶脳では失っていてもどこか違う所に眠っていた記憶が呼び覚まされたかも...

そういうケースは少なくないらしい。記憶喪失者が記憶を取り戻すきっかけなんて言うのは思いもよらないところかららしい。

これをきっかけに少しは記憶を...

 

 

記憶を取り戻した彼はどうなるのか?

 

今気がついた。

ジークは記憶が無いからここにいるのであって記憶が戻れば元の場所に戻らないといけない。

そうなれば折角友人となれたのに離れ離れになってしまう。

最悪もう二度とジークと会えないかもしれない。

ジークは少なくともこの国の人で私は一時ここで学ばせてもらっているに過ぎない。

彼がどうなるかわからないが私は3年後には国へ戻る選択肢しかない。

3年は長くもあっという間だ。急かしていたら長く感じるが...ゆっくりとしていたらあっという間に過ぎてしまう。

 

もう、会えないのかもしれない‥‥それを考えると自然に目尻が篤くなるのを感じた。

別れは何時でも人の都合を無視してやってくるもの...決意も決まっていないのに、別れたくもないと思っているのに無情にもやってくるそれを私はただ受け入れるしかない。

 

「それでも彼が幸せになるのなら...私は受け入れるしかない。」

 

主に盟い、私は約定を守る。

それが私の決意なのだ。

 

だから私は彼との約束を守る。

 

 

 

 

〜said放課後〜

 

時間はあれよあれよと過ぎていき、授業は終わり放課後となる。

ジャンヌは教科書を鞄へと仕舞う。

 

「ルーラー‥‥」

 

そんな時アストルフォが声をかけてきた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ルーラー、もしかしてジークのとこに行くの?」

 

「はい‥‥えっ、でもなぜわかったのですか!?」

 

さも同然のような流れでこれからの予定は当てられた。アストルフォは鼻が高くなっている。

 

「だってルーラーの顔が弾んでいたんだもん。ルーラーがそういう顔をする時ってだいたいジークが関わっているんだよ。」

 

そう言われるとジャンヌは羞恥で顔が赤くなり両手で顔を抑えた。

自分では知らなくても無意識のうちにそんな事をしていたなんて...

 

「というのは冗談で!」

 

ジャンヌは本気でズッコケかけた。アストルフォは、はははと高笑いしながらジャンヌのそんな反応を本気で楽しんでいた。

 

「もう、からかわないでください!!」

 

「と言うのが冗談。」

 

ジャンヌは、アストルフォの発言でマジでコケてしまった。それを見たアストルフォは遂に腹を抱えて笑った。

ジャンヌは頭を抑えながら教室全体に響き渡る声で叫んだ。

 

「もうどっち何ですか!!?」

 

「はは、さあね?でも、ルーラー、自分から自白しているようなもんじゃん」

 

「はっ!?」

 

ジャンヌは慌てて口を閉じる。このからかいやすい反応がアストルフォにとってはとてもツボにはまったらしくそして小学生を可愛がっているように思えてきた。

 

「ルーラーって最近、イメージとギャップがあり過ぎるよね。何か色々可愛らしい。」

 

「えっ!?」

 

アストルフォは本当に面白そうにジャンヌの髪を思いっきり掻き回した。

ジャンヌはそれを強引に引きはがす。

 

「ちょ!?やめてください。」

 

「ははははは、じゃ頼んだよ。」

 

アストルフォが自分に何を頼んだのかジャンヌはわからなかった。

 

「ジークの所に行くんだろう?僕も行きたいんだけど...彼が必要としたのは君だ。今回の事は僕よりも彼自身よりも君の方がわかっているようだし...ね」

 

アストルフォはウインクを1回した。

まるで全てわかりきっているよと言いたげな意味深なウインクだ。

彼が本当に女子ではない事にやはりこの世の不条理を感じる。

 

「ちょ、アストル...」

 

彼を呼び止めようとしたらアストルフォは手をひらひらしもう帰る準備と帰る足を進め教室を駆け足で出て行っていた。

 

アストルフォが教室を出るとモードレットが廊下で待っていた

 

「いいのか?」

 

「君もわかっているだろう?今回、僕らはジークの件に関わらない方がよさそうだ。僕がやるのはジークが周りの心配を気にしないようにする方がいいに決まっている。」

 

アストルフォだってジークの事を心配をしていた。

ジークが倒れ原因は自分のせいだと思ったからだ。

だってあの状況を招いたのは自分の何気ない一言だった。普段はお茶ら気ている彼とて責任を感じないわけがない。何も知らなかったで済むとは思えないぐらいジークは苦しんでいたと思う。

保健室にも何度も足を運んだ。

授業中そこにはいない彼が座る席を何度も見た。意味の無い行為だけどそこにいてほしいという願いから何度も何度も何度も見ていた。

 

 

 

 

 

 

ただどの風景にも彼の隣には彼女がいた。

 

 

 

 

 

自分よりもたくさん悩んでいるように見えた。

自分よりもすごく彼を心配していた。

 

僕が霞むぐらい彼女の思いは強かった。

昼休みあの時、足を運びモードレットにジークの事を話し自分は外から見ていた。

 

 

彼がジャンヌを必要と言った事も...

 

その時僕は心配する気が完全になくなった。

僕は彼の負い目よりも彼が気兼ねなく休めるようにしてあげたうがいいんじゃないかと気が付いた。

 

 

 

 

そうアストルフォがそう言うとモードレットはニヤっと口角を吊り上げて言った。

 

「お前..ただのバカじゃないんだな。」

 

「今。気がついたの!?」

 

「お前は正面みたらバカか阿呆だよ。」

 

「えぇ、酷いなぁ~。」

 

2人は面白そうににこやかに笑いながら廊下を歩き帰っていった。

 

 

 

〜saidジーク〜

 

ジークはジャンヌの言いつけ通りにどこにもよることなく真っ直ぐ家に帰り現在、ジークは時間を一時も無駄にしないように机に向かって教科書を開き勉強をしていた。

ただジークは勉強をしていたが頭の中ではあまり教科書の内容が入っていなく他のことでいっぱいだった。

 

他のこととは倒れる瞬間にあった頭に浮かんできた微かなイメージの事。

あの時頭が割れるように痛みだし地割れのような裂け目ができたと思ったら裂け目から黒い絵の具のような液体がバケツを逆さまにしたように流れ込んだ。

 

身の毛がよだつぐらい悍ましくて鳥肌が立つぐらい恐ろしい体験をあの一瞬でした。

まるで俗に言うトラウマと言うものだろう。

二度と味わいたくないあの胸のあたりを知らない人に撫でられたよりも気持ちの悪い感覚、身体中に走ってくる悪寒。

喉元が冷たくなり凍りついた喉奥から悲鳴を押し出したくなるぐらい何か気持ち悪い。

 

ジークは一旦ため息を吐き、その意識は集中の海に沈めた。

 

今なら少し頑張ったら記憶が蘇りそうだったが...全く反応はない。

 

そんな時、インターホンが時間を知らせてくれた。時計を見るともう夕方になっていた。

ジークは時間を忘れていたようだ。もう外の太陽が傾いていた。

 

ジークは下に降りた。

 

ドアを開けるとジャンヌが来ていた。約束通りに来てくれたことにジークは顔が緩む。

 

「すまない。君にも予定があったかもしれなかったのに」

 

「いえ、大丈夫です。...あ、これつまらないものですが」

 

ジャンヌはどこかで買ってきたであろうお菓子をジークに手渡した。

 

「すまない、気を使わせて‥‥「ジーク君。」」

 

ジャンヌは人差し指でジークの謝罪を制した。

 

「こういう時は!」

 

「えっ?あ、ありがとう。」

 

ジークは一瞬言葉に詰まったがすぐ頭を整理してここにあう言葉が出てきた。

ジャンヌもそう聞けて満足そうに返事してくれた。

 

「どういたしまして。それで?今日セルジュさんは?」

 

「仕事。」

 

「そうですか」

 

「さぁ、上がってくれ。」

 

 

ジークに言われてジャンヌはお言葉に甘えて家に上がらせてもらった。

ジークの部屋に入れてもらうが正直現在気まずい空気になってきた。何故ならジークが誘ってなにか話したそうだったのだが、現在そのジークが黙りを決め込んでずっと黙っている。

こちらから話を切り出そうかと思ったがジークは何かを話したそうにずっと口をもごもごとして目線をあちこちにやっていた。

 

本当にどうしたものか...

 

「「あ、あの」」

 

余計変な空気になった。

 

「す、すまないジャンヌから...」

 

「いえ、大したことではないので」

 

2人とも唸りながらどうやろうか考え出す。

だが、ジャンヌはすぐにクスッと吹き出した。

 

「ジャンヌ?」

 

「いえ、失礼。特に意味はありません。」

 

この空気に2人が同じ事を考え、同じ様な行動し、同じように考えていったこの一過程が面白く、つい吹き出してしまった。

 

「大丈夫ですよ、ジーク君。焦らずに話せる時に話してください。私はずっと待っていますから」

 

ジャンヌはお菓子の包を取り外して箱から中身をジークと自分に分けてあげた。

 

 

 

「なぁ、ジャンヌ。聞いていいかな?」

 

「どうしました?」

 

「ジャンヌは人に悩みを聞き出す時どうするんだ?俺は悩みを相談したいのだがどうやって話し出せばいいかわからない。」

 

「そうですね...」

 

ジャンヌはお菓子を口に運ぶ手を止めてケースに一旦置いた。

さらにジャンヌは少しだけ深く考えだがすぐに答えを見つけた。

 

「私のやり方を教える前に貴方は貴方自身のやり方があるじゃないですか?」

 

「俺のやり方?」

 

「貴方はどうすればいいか、わからない時は素直に聞いてくるではありませんか?貴方の美点のひとつの『素直』これは他の人、私にもあるとは言いきれません。素直に人に聞き素直な答えをすぐに出す。」

 

ジャンヌはジークの髪の隙間に櫛を差し入れるように手を入れて頭を優しく撫でてあげた。

 

「そうか‥‥今日はずっと貴女に子供扱いされているな。」

 

今もずっとジャンヌに頭を撫でられていた。まるで子供に向けるような微笑みと頭の撫でたか。

頭の方は凄く気持ちいいのが少しむず痒く感じる。

 

「ジーク君は気が付いていないだけで色々子供っぽい所ありますよ。」

 

「そうなのかもしれないな。怖くなった時や弱気な時にどうすればいいかわからない。人に頼りたいのにどうやって頼ればいいかもわからない。そもそも俺はどうしたいかもわからない。自分の事が記されている教科書があればいいのにな。」

 

ふとジャンヌの耳に入ってきた言葉。

ジークが零した弱気な言葉。

ふと零したと言うよりは元々ジークにあったのだろう。だがどうすればいいかわからないから溜め込んでいたのだろう。それが今回をきっかけに漏れ出した...

 

「ジーク君...」

 

ジャンヌはより一層心配そうにジークを見つめる。

私は彼を強いとは思っていなかった。

責任感も強く我がそこまで強くなくとも彼は自分の通したいものは通しきる意志がある。

それを認めたから彼に心を許した人もいる。

でもそれはやはり表面だけだったようだ。一皮剥けた今は弱々しく人に縋り弱気な部分を私に見せている。

 

それが見えなかったのは殻がとても分厚かったからと今までは思っていたが隣にいる彼の声を聞いたらわかった。

彼は頼り方すら知らなかった。

人に迷惑をかけてはいけないと思う良心が彼を妨げ、彼に耐えさせる様に強いていた。

頼る=迷惑

彼の中の方程式がもう既にできていた。

 

ただこれはよかったのかもしれない。

早めに無くさないといけない彼にとっての決まりをここでなくして頼り方を教えてあげる。

 

そう思った。

 

 

 

「ジャンヌ正直に言うと俺は記憶を戻したいとは思っていない。」

 

「っ!?」

 

彼とのつながりを壊す一言を彼は呟いた。

彼は今、何といったか?

記憶を戻したくない。それって‥‥

 

「ジャンヌ、君には教えたな。俺には記憶はなくとも脳に焼き付いている言葉があると...」

 

誰からも焦がれることをなくとも、幾千の人がお前を望まなくとも、俺はお前に生きといてほしい。

 

ジークにとって今までの支えで精神を支える最後の柱である力強い言葉。

 

「ジャンヌ、これは何のために言われた言葉だと思う?」

 

そう聞かれると考える。

これを真に受け止めれば励ましの言葉、激励の言葉だろう。

 

「励ます為の言葉なら他にも言いようがある。でも俺はこう言われたという事は、記憶のある俺は人に嫌われていた、最悪人に存在することを忌み嫌われている可能性がある。」

 

ジークは自分を見つめる時間はほぼ無限にあった。ここに拾われ何もすることはなかった自分は退屈を紛らわすかのようにある時自分について考えた事があった。

 

この言葉とても力強く温かみを帯びてさ自分を支えてくれたが焦点を言われる状況に置き換えた時にその状況がジークから熱を奪った。

 

そうだに生きている限りこんな事言われるわけはないんだ。

お巫山戯で言われた言葉ならここまで心に突き刺さっていないだろう。これは真の自分に向かって言われた言葉何だ。

 

「俺は他人に‥いや大勢に消えて欲しいと思われた人物‥だったかもしれないんだ.‥‥」

 

ジャンヌもわかった彼が何に絶望したのかを...彼はそれに気がついたから彼は彼自身に興味を無くしたことも...

 

「だから俺は記憶を戻さ‥‥」

 

ジークは以前の自分を否定する言葉を言おうとしたらジャンヌに抱きしめられながら押し倒される。

 

抱きしめた手は少し震え力強く彼を離そうとしなかった。

 

「ジャンヌ?」

 

「…わないで...ください。」

 

「えっ?」

 

声も小さく耳元に口があるにもかかわらず聴き逃してしまった。

 

「それ以上先を言わないでください!」

 

「ジャンヌ苦しい。」

 

「駄目です。離しません。離さないからそれ以上先は言わないでください。」

 

ジークはどうすればいいかわからない。

でも何故かジャンヌの心境はわかった。

彼女は嘆いていた。自分よりも自分の事を悲しんでいる。

自分よりも彼女が何故傷ついているかジークはわからなかった。

 

「何でジャンヌが悲しんでいるんだ?」

 

「悲しいからにきまっているからです。」

 

「これは俺の問題だ。俺の事をなぜ自分の様に...」

 

「貴方の気持ちがそれぐらい強いのです。」

 

「俺の気持ち?」

 

「ジーク君、人は他人の存在を軽く人を否定します...ですか神は決して人を見捨てません。神は平等です。人に否定されたらその分人に望まれます。私は絶対に否定しません。貴方の友達も...セルジュさんもアストルフォも...モードレットも貴方を受け入れてくれます。大丈夫ですよ...どんな人だったとしても...嫌われ者だったとしても...私達にとっての貴方は変わらない。」

 

そう告げられた時ジークの目尻は熱くなり嬉しそうに目を閉じジャンヌの背に手を回してジークからもジャンヌを力強く抱きしめ返した。

 

「ジャンヌ、すまない俺のせいでこんなに悲しませて...」

 

「ジーク君、違いますよ。貴方が今思っている気持ち...それを口にしてください。」

 

「ありがとう」

 

そう言った彼の顔はこれまで見たどの顔よりも良くなっていた。

ジークは本当に恵まれているのだろうと思った。

こんなに優しくこんなに心を埋めてくれる優しい人に出会えた事に...

彼の紅い瞳から見受けられる喜び、無表情に近い口元を緩ませる幸せ...私はそれを見ただけでどれだけ嬉しかっただろうか...それと同時にかれをもっと知りたくなった。彼を知った上で受け入れてあげないと意味は無いのだから‥‥

 

 

 

 

 

 

そんなこんな、ジークとジャンヌの話はだいぶ長引いて夏だというのにもう日が沈んでいた。

うるさかった虫の声も静まり暑さこそ残るがそれでも昼よりはましだ。

ジークとジャンヌは時間を気にしないぐらいに話し込んでいたらしく、折角今日彼女が取ってくれたノートを見るのは明日になりそうだ。

彼女も帰り支度をすまそうとしていた。ホームズステイの身である彼女だ。できるだけ遅くならずに帰って夕食なども時間を合わせないと...

 

「今日は助かった。本当に俺は貴女に世話になって...何か返したくてもちょっとやそっとで返せるとは思えない。」

 

「ふふふ、いいですよ。そう思わなくても、私自身貴方の手を煩わせているのですから」

 

そんな時ジークの自宅用の電話のベルが鳴る。

ジークはそちらの対応のために部屋を出て階段から降りた。

それと同時にジャンヌの携帯電話にも電話がひとつ入った。

内容はホームステイ先の人からで、今日は色々用があり未だに夕食の用意ができていない。

なので外で食事を済ませてほしいと...まぁお財布はここにあるし少しならいけるだろう。

 

ジークも部屋に戻ってきた。

 

「電話誰からでしたか?」

 

ふと、気になったので聞いてみた。

 

「あぁ、お爺さんからだ。今日夕食の用意するのを忘れたからどこかで済ませてくれ...と。」

 

「そうでしたか、私の方も同じ内容です。何とも偶然というのはあるものですね。」

 

ジャンヌの方も似た状況となった。

すると、ジークが

 

「なら一緒に済まさないか?」

 

ジャンヌを夕食に誘った。

 

「えっ?」

 

「その‥‥これらか何処かに夕食でも食べに行こう」

 

ジャンヌの方は一瞬何を言われたのか理解出来ずにポカンとするが、徐々にジークとの言葉の意味を理解して、

 

「はい」

 

ジークのお誘いを受けた。

こうしてジークとジャンヌは夕食をとるために日が暮れかかる街へと繰り出した。

 




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8ページ目

久々の更新です。


 

空は遠き彼方にうっすらと夕陽が残っているが空の殆どは月の光を輝かせる空に変わり星々の輝きが始める頃合い。

空には夏の大三角形が煌びやかに天の照明となってきた。

 

「美味しいです。」

 

今、ジークとジャンヌはとあるファミレス店に入っている。

ファミレスに男女2人でご飯を食べるなんていかにも高校生の構図に見える。

 

ただ一点を除けば‥の話であるが‥‥

 

「そうか‥‥なぁ、ジャンヌ」

 

「はい?何ですか?ジーク君」

 

「今更頼んでおいてなんだが、それは全部食べ切れるのか?」

 

「え?」

 

そうそれは女子であるジャンヌが食べている料理の量だ。

ジークは取り敢えず、ハムサンドとコーヒーだけで済ましているのだ。

反対にジャンヌはと言うとご飯(3杯ラージサイズ)ハンバーグステーキ、ミートグラタン、シーフードグラタン、オリオンスープ、トマトスープ、サラダ、ペペロンチーノ、ミックスサンドは5つほどを頼み、その他の料理もetc‥‥

 

その量はいつもの倍以上は食べている気がしてくる。

しかも食べるスピードは量の半分を切っても落ちることはなく維持して食べ続けていた。

ついでに言うと顔色も変わらずに食べ過ぎて苦しいと言う表情もしておらず、平然とした表情で食べている。

むしろ、ジークの質問に対して何を言っているの?

みたいな顔をしている。

 

夜に大量に食べると健康を損なうとこの前聞いた(テレビで)ジークはジャンヌが心配になった。

幾ら若く消費の激しい高校生でもこの様な事は積み重ねが原因となるというらしいから‥‥

主に女性が気にする体重とか‥‥

 

ジャンヌはちゃんと口の中の食べ物をちゃんとゴクンと飲み込み、口元をテーブルに備え付けの紙ナプキンで拭いてから断言した。

こういう所はやはり、ジャンヌは淑女らしい。

食べた量が普通の女子高生レベルならば、完璧だったのだが‥‥

 

「大丈夫です。食べられる分しか注文していませんから、それよりもジーク君はもう少し食べた方がいいですよ。育ち盛りな高校生なんですから、一杯食べて沢山寝る。これがこれからの健康の第一歩なのです。」

 

 

そうか、彼女がそこまで言うのならそうなのだろう。

確かにテレビで解答していた人の中には若い高校生がいなかった。

あれは大人達に向けて言ったものなのだろうか‥‥?.

 

 

そのような簡単な事を深く思い出していたジークにジャンヌは残っていたサンドウィッチを、

 

「ほら、一緒に食べましょう。ねっ?」

 

彼に渡した。

ジャンヌから渡されたサンドウィッチをジークも快く受け取りそれを口に運ぶ。

シャキシャキとしたレタスの食感と塩加減が絶妙なハム2つを多い味を引き出させているトマトピューレの甘酸っぱさが口の中で広がる事にジークは顔の緩みを止められない。

 

ジャンヌは少しだけ緩ませた口角を見ると最後に頼んだフライドポテトのお皿を二人の間に持ってきて「食べていいですよ」と促してくれた。

ジークはそこから2、3本貰いほんのりとしょっぱいポテトのサクサク感を楽しんだ。

そして最後に指に付着している塩を舐めとる。

 

 

 

 

「「ご馳走様でした。」」

 

そこから食べ終わるのはほんの10分程度だった。

食べ終わった食器は横にやり、ジャンヌはやはりと言うか注文ボタンでデザートを頼んでいた。

何となく想像はしていたが、まさかあれだけ食べた後、デザートも注文するとは‥‥

ジークとジャンヌの席を通りがかった人は一瞬、信じられないモノを見たかのように目を見開いて通り過ぎて行く人がちらほらいた。

 

「本当によく食べるな。」

 

「えっ?そう‥でしょうか?これぐらい普通だと思うのですが?」

 

ジャンヌはジークの問いに首を傾げて自然体で答える。

 

「そ、そうか‥‥」

 

ジークはジャンヌの答えに下手な事は言うのは止めようと思い、無理矢理納得した。

そんな反応されると恥ずかしい、まぁそんな事をド直球で聞いてくるジークにもデリカシー云々で問い詰めてやりたいが自分の食べた皿の数を見ると、聞かれても仕方が無いなと思った。

それにしても本当に今日のジャンヌはよく食べる。

ジークは普段、夜のジャンヌはここまで食べるのか?と考えたが本当の所、ジャンヌは今日朝にご飯を食べてからここまで碌に食べていないのだ。

ずっとジークの看病をしていたからだ。

お弁当はバッグに入れたまま手をつけずその後ジークの家に行く時もお土産とお見舞いを兼ねた品を用意しただけで何も食べずに現在までやり過ごしたのだが現在、少し限度を超えすぎた為にここまでの量を食べた。

ジャンヌはこの事をジークには話さなかった。

何故ならこれを話すと彼は余計な気遣いをしそうだからだ。

ならば黙っておくが吉だろう。

そう思っていたがジャンヌの緊張の糸は今日の色々な出来事のせいで既にズタズタに切れており、現在はそのツケが回ってきたのだ。

いつも取っているエネルギーを摂取しているのだ。

 

「ジャンヌ、すまないが今日の分のノートを見せてもらってもいいか?」

 

食事が一段落するとジークはジャンヌに今日参加出来なかった授業の分のノートを写させてと頼んだ。

 

「ジーク君、すぐに勉強を開始するその心意気はいい事ですけど、でももう少しゆっくりしてもいいんじゃないですか?今日はその...色々あって気持ちの整理と行きたいでしょうし。」

 

ジャンヌは届いたばかりのチョコレートケーキを口にしながら言う...ジークとしては『取り敢えず食べるのをやめようか』と言いたい。

最もな事を言っているのかもしれないが、口元についているチョコレートクリームがジャンヌの言動を台無しにしているからだ。

 

「いや、確かに今日は色々あったがもうすぐ期末テストだ。何があってもそれは変わらない。それに俺はもう大丈夫だ。何故か分からないがやりたい気持ちが抑えられない。君の合格点を100点上げる...これを何としてもやり遂げないと...」

 

そう言えばそうだった、さっきの事と楽しい食事の為にジャンヌは忘れかけていた。

今現状自分達のテストの日は着々と近づいている。

正直に言って本来ならば、このようにのんびりと食事をしている時ではなかった。

それともう1つ、これはジーク自身の事だ。

ジーク本人は気がついてないのだが何故か胸のあたりが熱くなり妙に高まっている、一言で言うならやる気に満ちているという事だ。

 

「わかりました。少し時間がありますから私の分も見てください。」

 

「ああ」

 

ジークは頬を緩ませながら頷く。

そして、ジャンヌは満足そうに目が緩む。

 

「ジーク君。ここの問題を教えてください。」

 

「ここは、さっきの式を当てはめて...ほらここで間違えていたから答えが合わない。」

 

「成程...やはり、難しいです。数学は複雑過ぎて」

 

「そうかな?俺は現国や古典よりは簡単だと思うが...」

 

そう言ったら不満なのか膨らませた頬でいじけた様子のジャンヌ。

 

「どうせ私は頭が悪いですよ。古典や現代国語よりも難しいです。」

 

いじけたジャンヌにジークは慌てて謝罪をした。

 

「すまない、ジャンヌを馬鹿にしたのではない。これは俺個人の考えなのだが」

 

「ジーク君。」

 

「古典や現国は作者が産んだ登場人物が沢山いて様々な展開に発展していくが、数学というのは色んな数学者が公式を生んでも今は簡略化した式が主流となっている。後はそこにはめていくだけで答えが出てくる。俺にとってはこちらの方が簡単だ。」

 

「...結局馬鹿にしている事に代わりがない気がするのですが?」

 

ジャンヌはジト目でジークを睨む。

 

「えっ?あ、すまない。」

 

「いいですよ、言葉だけの謝罪は...ふふ、何ていつかのお返しです。」

 

あまりにも素直な反応が可愛らしくついジャンヌは以前のお返しとともにジークをからかってみた。

本当に子供のようにしょげるジークは少し年にふさわしくないが、でも少し童顔のせいか無茶苦茶マッチしている。

 

「ピロピロン」

 

とそんな時だ。

ジャンヌの携帯がなる。

多分LINEだろうアイコンが見えたのでわかる。

ジャンヌは通知と同時に時間を見ると大分時間がたっていた事がわかった。

 

「もうこんな時間、ジーク君今日はもう帰りましょう。」

 

「そう...だな。もう遅い、ノートありがとう」

 

ジークは見してもらったノートを閉じてジャンヌに返した。

 

 

「どうでしたかジーク君?今日の所わからない所ありあしたか?」

 

首を傾げながら尋ねてくるジャンヌにジークは首を振った。

ジャンヌのノートの取り方が上手いおかげで見やすく、分かりやすかった。

数学なら綺麗な公式にワンポイントのアドバイス、英語なら教科書から文を載せてそこに合わせて訳すときを見るとわかりやすくなる単語にしっかりと丸をつけてくれている。

 

「ジャンヌ、また明日も見せてもらえないか?できれば他のも。」

 

そう頼んだジークにジャンヌは少し疑問を抱きながら聞き返した。

 

「他の教科も‥ですか?」

 

「うん。ジャンヌのノートはとてもこまめでわかりやすい。見ているだけで凄く参考になる。」

 

ジークは思った事をそのまま言葉に変えてジャンヌに言う。

言われている本人はとても気恥しくなんとも言いけれない感情が照れ隠しの行動を取らされる。

 

「ジーク君、そんな風に面と向かって言われると恥ずかしいです。」

 

「そうか、俺は思った事をそのまま言っただけなのだが。」

 

それが気恥しくなる原因なのだが、ジークはわかってないのだろう。

 

その後ジャンヌとジークはお店を出て分かれ道まで、取り敢えず問題を出しながら帰ってきていた。

 

「解の公式」

 

「X=2A分の-B±√B2乗-4AC」

 

「Sinの求める公式」

 

「斜辺×高さ」

 

ジャンヌは出された問題をぱっと答えてくれる。

公式はしっかりと頭に入っているのだろう。

 

「ジャンヌはやはり、覚えるのは得意何だろうな。」

 

ジークに言われ、少し思い返してみるジャンヌ..まぁ教科書やノートのはすぐに覚えるが、そこまで得意と言えるのか疑問が浮かぶ。

何故なら、隣にもっと物覚えの良い人がいるからだ。

 

「ジーク君の方が覚えるのは早い方かと思いますが」

 

「そうか..」

 

「はい。」

 

ははは、とため息混じりにかわいた声で笑い、ジャンヌはぱっと顔を上げる。

すると気がついた。

もう曲がらないといけない交差点まで来ていたのだ。

いつの間にと思う位時間が早くたっていた。

それ程、楽しかったのだろう。

 

「ジーク君、私はこれで」

 

「そうか、ならまた明日。」

 

「はい、また明日迎えに行きますね。」

 

 

 

 

〜side後日〜

 

日が変わり次の日いつもの様にジャンヌと登校し、いつもの様に授業を受けるという日常はあれ以来崩れることは無かった。

あの時来た感覚はあれ以来来なくなり、寧ろ来なさすぎて忘れてしまうぐらい頭の中では遠くに行きかかっている。

なので、ジークはあれを自分で呼び起こしてまたジャンヌ達に迷惑をかける状況にもなって欲しくないのと、いよいよ3日きった定期テストが頭の殆どを占めている。

 

「よぉ、ジーク。」

 

「モードレットか?1年のフロアに来るとは何か用でもあるのか?」

 

「ん?いや別にそこまでのようはねぇんだけどな。ま、散歩がてら聞きに来たのよ。」

 

モードレットは頭の後ろで手を組んで枕のようにして窓にもたれかかった。窓は半分開けて廊下の空気を循環させているために、微かな風が入ってくる。

モードレットはそれを気持ちよさそうに受け止めていた。

ジークも少し話すかもしれないからモードレットと似た体制を取り楽にした。

 

「まぁ、ぼちぼちだな。」

 

「ぼちぼちか。」

 

「アストルフォはどうなんだ?」

 

「あいつか?まぁ、今の所いけても赤点ギリギリってとこだな。」

 

「おいおい、それで大丈夫なのか?」

 

「心配すんなって、やっと基本を叩き込めたんだ。こっからテストまで休ませずに行ったら、とりあえずまぁ、50ちょっとは取れると思うぜ。」

 

心配をするジークの背中をバシバシと叩く。

モードレットは基本力加減というものを知らない為、叩く力も加減しないから結構痛い。

背中を叩く大きな音がなくなり壁から飛び離れる。

モードレットももう教室に戻るのだろう。

自分もそろそろ戻るつもりだった。

 

「んじゃな。」

 

手をひらひらと振る。

そんな素っ気ない態度で別れるモードレットに少し口角を緩め別れた。

 

 

〜sideホームルーム〜

 

「さて、週明けから期末テストです。皆さんのことですから、何も言わずとも対策をしていると思いますので、その調子でお願いします。」

 

ケイローンの最後の一言を切りに、今日の授業は終となる。

今日は週明けがテスト前という事で、午前のみで終わり。

後は、放課後に家に帰りテストに勤めろという事。

クラスの中は本当に勉強1色で、「何しよっかな〜」ってそんな事を頭に入れていない呑気者は1人ぐらいだ。

 

「ねぇ、ジークこれからカラオケとかに行かない。僕久しぶりに歌いたいんだ〜。ジークもきっと驚くよ。僕の歌声にメロメロになること間違いなしさ!」

 

「アストルフォ、週明けからはテストだぞ。もう少し我慢をしろ、休みになればどこにでも行けるだろう。」

 

「えぇ〜。だって夏休みになればどこも人がいっぱいじゃん、休み前のこの時期でこの時間だったらガラガラで貸しきれるんだもん。」

 

「すまないが、俺は先約がある。」

 

「誰?」

 

「私です。」

 

「あぁーまた勉強するの?」

 

と不思議そうに首を傾げるアストルフォにこちらが首を傾げたくなる。

普通この様な時間を有効するに使う...何て固い考えを持ってなくても、彼並みに成績が低いのなら勉強という一択以外選ばないだろう。

 

「ジャンヌ、携帯電話を貸してもらえないか?」

 

「えっ?別にいいですけど‥‥」

 

ジャンヌは特に何も考えずにジークに携帯を渡すと、ジークは電話を起動させて自分の知らない番号をポチポチと打つ。

 

「あっ、モードレッドか?アストルフォが今から帰ってカラオケに行くらしいのだが止めておこう...か!」

 

モードレッドの名前を聞いてすぐに教室を飛び出そうとしたアストルフォをジークは制服を掴んで止めておく。

アストルフォは駄々っ子のように涙目で抗っているのだがジークは全身の体重をかけるようにして中々逃げられない。

 

「いい加減にしてくれアストルフォ。」

 

「もう、やだよ。僕は一生分の勉強をしたと思うよ。だから、これ以上はしなくてもいいんだよ」

 

「そんな事を言わないでくれアストルフォ。俺は夏休み君と色々遊びたいんだ。」

 

「えっ?」

 

アストルフォは顔を上げてジークを見ると、ジークの赤色の瞳はアストルフォを見つめている。

これはジークの本心なのだろうが、何も知らない人が見たらそれは彼女を励ましているようにも、口説いているようにも見えるが、アストルフォは男である。

アストルフォの性別を知っている腐女子が見たら、『ジクアス!キタ――(゚∀゚)――!!』と喜びそうなシチュエーションである。

 

「俺は夏休み君のようにはしゃいだことがない。だからアストルフォ、一緒に夏休みを過ごすためにテスト勉強をして、テストを乗り切ろう!!」

 

「う、うん‥わかったよ‥‥」

 

ジークの言葉を受けてアストルフォは渋々と言った様子でテスト勉強をする事にして、迎えに来たモードレッドに連れて行かれた。

 

(なんでしょう‥‥アストルフォ君は男の子だと分かっているのになんだかモヤモヤします‥‥それに何故、ジーク君がモードレッドの携帯の番号を知っているのですか!?)

 

ジャンヌは2人の男子(←ここ重要)のやり取りを見て胸にモヤモヤするモノを感じ、そしてジークが自らの天敵とも言えるモードレッドの携帯電話を知っている事に疑問と共に理不尽ではあるが、納得の出来ない、嫉妬の様なモノを感じた。

しかし、ジークとモードレッドは同じ部活仲間‥互いの連絡の為、携帯電話ぐらいは知っていても当然であったが、それでもジャンヌはまだ不満気味だった。

 

 

 

 

あまりの内容に言葉を失った。

いくら、ジャンヌが日本人でないからと言ってもこれは酷かった。

とは言え、ジャンヌの平均点を上げる為、彼女の分かりやすく解説をしなければならないジークだった。

 

一方、もう片方の方‥‥

アストルフォとモードレッドの方では‥‥

 

「ね、ねぇ、先輩‥‥」

 

「あん?休憩ならさっきやっただろう?あと2時間は待て」

 

「ち、違うよ!!」

 

「じゃあ、なんだ?どこか分からない所があるのか?」

 

モードレッドはアストルフォの家で彼のテスト勉強を見ていた。

両親がいないアストルフォの家‥‥

つまり、アストルフォの家にはこの家の家主であるアストルフォとモードレッドの男女2人のみ‥‥

一歩間違えれば、男女の間違いが起こりそうなシチュエーションであるが、アストルフォがモードレッドを襲うなんて事はないし、仮にアストルフォが襲い掛かって来てもモードレッドならば、アストルフォを返り討ちにするのが目に見えていた。

 

「まぁ、質問と言えば質問なんだけど‥‥」

 

「なんだ?」

 

「先輩は誰か好きになった人っているの?」

 

「っ!?」

 

アストルフォは何気なくモードレッドに好きな人は居ないのかを訊ねる。

すると、モードレッドはビクッと反応する。

彼女の脳裏にはチラッと昔の思い出が過ぎった。

それは自分の原点とも言える思い出であった。

 

「先輩って言動は乱暴だけど、面倒見はいいし、顔も良いからね、そう言う話の1つや2つはありそうだし、実際に先輩の隠れファンとかいるからね」

 

「なっ!?何処のどいつだ?そいつはっ!?」

 

モードレッドはアストルフォの言う自分の隠れファンが一体誰なのかを問う。

 

「いや、流石にその人の命にかかわるから言えないよ。それで、どうなの?誰か好きな人はいるの?」

 

アストルフォがニマっと含む様な笑みを浮かべてモードレッドに顔を寄せる。

すると、

 

ゴン!!

 

「つぅ~‥‥」

 

「バカな事を言ってねぇで、ちゃんと勉強しろ!!」

 

モードレッドの拳骨がアストルフォの頭に炸裂した。

 

「は~い‥‥」

 

アストルフォは涙目で再び参考書へと目を通し、ノートに問題と解答を書き始める。

アストルフォがテスト勉強を再開した中、モードレッドは、

 

(そう言えば、あの人とは久しく会ってないな‥‥元気かな?)

 

(あっ、そう言えば、今度あの人が出る大会があったな‥‥ジークの奴を誘って行ってみるか‥‥)

 

密かに今の自分の原点のきっかけともなったある人の事を想っていた。

 

 

さまざまな思惑と不安の中、ついにテストの日がやって来た。

 

「はい、始めて下さい」

 

チャイムが鳴り、教卓では試験担当の教師の掛け声と共に試験が開始される。

どの教室もカリカリ‥‥とペンを走らせる音しか聞こえない。

そして、テストを受ける生徒の表情も様々だ。

問題に山を張り、当たって心の中で『よっしゃ!』と叫ぶ者も居れば、『外れたー!!』と嘆く者も居る。

モードレッドはと言うと‥‥

 

(楽勝‥‥)

 

淡々と問題を解いていく。

人間性や言動はともかく、彼女の成績が優秀であるのは事実だった。

同じく生徒会長であるシロウやセミラミスも余裕の表情で問題を解いていく。

一方、ジークの方はと言うと、

 

「‥‥」

 

無表情で問題を解いていく。

 

(あっ、これ確かジーク君に教わった所‥‥えっと、これの解き方は確か‥‥)

 

ジャンヌはジークから教わった事を思い出しながら問題を解いていく。

 

(これ、先輩に聞いた問題と似ているな‥‥えっとこれは‥‥)

 

アストルフォもジャンヌ同様、モードレッドから教わったやり方を思い出しながら問題を解いていく。

テストは一日だけではなく、数日に渡る。

勿論、ジャンヌもアストルフォも一日目のテストが終わったからと言って休まずにテスト勉強をした。

と言うよりもアストルフォの場合は、モードレッドに捕まったと言う方が正しい。

テスト期間中は午前中で学校が終わる。

アストルフォとしては折角いつもより学校が早く終わるので、帰ってテストで疲れた頭と体を休めたかったのだが、そうは問屋が卸さない。

ホームルームが終わって帰ろうとしたら、モードレッドがアストルフォを待ち伏せており、彼はモードレッドにしょっ引かれていく。

まるで、刑務所で作業を終えた囚人が房へ帰るみたいな姿だった。

そして、学生にとって苦難であるテスト期間が終わった‥‥

 

 

〜sideジャンヌ〜

 

ついにこの日がやって来ました。

すべてはこの日のために私はこれまで努力してきました。

たった数日なのに、勉強を始めたあの日から既に3ヶ月がたった気がするぐらい遠く感じます。

それもこれも全部この日のためを乗り切るためにあったようなもの、友人に勉強を教えてもらうというのはとても有意義な時間ではありましたが、苦しい時間でもありました。何度頭がショートしたことでしょう。

ジーク君は、意識があるかどうか確認はしてくれますがジーク君はとても厳しい人でした。

ジーク君は予め予定を立て、それをクリアしないと頑として家に返してくれませんでした。

ジーク君の意外な1面というのは発覚して欲しくありませんでした。

ただ、山を登れば降りるだけ、困難な予定をクリアすればそれをピークに徐々に下がってテスト前は軽い復習みたいなものだけでした。

この様にきめ細かい予定をジーク君は何処で立て方を覚えたのかは気になりますが、今は私のルーラーとしての尊厳がかけられているテストが帰ってきます。

これでもし、赤点など出してしまえば私の優等生の伯は消えジーク君の夏休みも失われてしまう。

この事から目を背けてはいけません。

主よ、願わくば私とジーク君にご加護を...

 

ジャンヌは名を呼ばれ担任の前にまで足を運ぶ。

 

ちなみにこの学校はテスト用紙と成績表を同時に返され、成績表に赤く点数を記載されていれば補習が決定。

その後、赤点をとった生徒以外は家に帰ることができてとった生徒は補習スケジュールを渡される。

 

「やった、赤点ゼロだ!!」

 

とピンクの髪が喜んでハイテンションに声を上げているが自分には全く聞こえなかった。

 

「えぇ、ジャンヌ、ジャンヌ・ダルク。」

 

「は、ひゃい!」

 

しまった緊張しすぎてつい変な声を出してしまった。

恥ずかしい。

私は赤くなった頬を隠すために少々下を向きながら先生の元に歩いていく。

 

「はい、よく頑張りましたね。」

 

丁寧に渡してくれる先生に対して、私は力んでいるために紙をぐしゃぐしゃにしてしまいました。

流石のケイローン先生も苦笑いを浮かべていたためにさらに恥ずかしさが増し髪の毛まで意識が渡ったように髪の毛が逆立つぐらい恥ずかしいです。

それから私はそそくさと席に戻り一息つく。

 

それから私は現国から順番に見ていく。

点数も70点弱ある。まずまずの立ち上がり出会ったことにほっとする暇もなく私は次の科目名に目を細める。

数学.....62点!!

その次に生物や地理なども見ていくが...無しだ!!

何度も確認しましたが、赤点は今回ありません!!

これまでの最高記録です!!

 

私は無意識に隣の席にいるジーク君に視線を向けると気がついてくれたのか、私の喜び一杯の表情を見たら微笑みながら1回頷いてくれた。

私は今すぐに大はしゃぎしたくなってるぐらい高揚している。

だって数学がこんなに高得点だったのは生まれて初めてだったから、感謝の気持ちを終わりまで置いおきましょう‥‥

 

 

 

 

〜side結果報告〜

 

中庭に2人並んで座っているモードレッドとジーク。

ジークは賭けのことや、2人の成績がどんなのかを詳しく聞かれそれを詳細に報告した。

ジャンヌやアストルフォを連れてきてもよかったのだがあの浮かれようでは...という事で教室に置いてきた。

詳しい点数は分からないが、これまでの成績の中で一番の成績をたたき出したのはあの2人の様子を見ればわかる。

今頃は2人で盛り上がっていることだろう。

 

「で、見事お前らは赤点回避したわけか。」

 

「あぁ、モードレッドのお陰だ。助かった。...って納得のいかない顔だな。」

 

不満たっぷりに頬を膨らませるモードレッドを見てそれ程賭けに勝ちたかったのか?と思う。

 

「ったり前だ!何でお前が教えたルーラーの方が高得点で、あのバカの方が低いんだよ。しかも赤点ラインギリギリだとぉ!あの野郎いっぺん占めてやる!!」

 

モードレッドは『うがー!!』いと叫びそうなぐらい力強く両手をあげた。

 

「今回の事でだいぶやられたと思うがな、アストルフォは‥‥」

 

そんなモードレッドにジークは苦笑で答える。

 

「ま、よかったな。高校最初の夏休みが補修地獄なんて流石の俺も同情するぜ。」

 

「あぁこれも全部モードレッドが手伝ってくれたからだ。ありがとう。」

 

「よせよ、頬が痒くなる。」

 

モードレッドは照れてか顔を背けて頬を掻く。

と、そんな時に客が来た。

 

「あ、ジーク君」

 

「ジーク!!」

 

来たのは、教室で喜びを分かちあっていたジャンヌとアストルフォだ。2人は駆け足でこちらに来た。

 

「どうかしたか?」

 

「テストも終わったことだし、これから皆でご飯を食べに行こう!」

 

「俺もか?」

 

「当たり前でしょう。ここにいる皆で楽しく騒ごうじゃないか!!」

 

「あまりお店にご迷惑をかけることはいけませんよアストルフォ。」

 

「うんうん、わかってる、わかってる。で、どうジーク、先輩?」

 

「あぁ、いいなおれも同席させてもらう。」

 

「俺はパスだ。やっとテストが終わったんだ、なまった体を動かさねぇと」

 

「えぇ、ノリが悪いな〜」

 

「それは置いといておいピンク、手前俺が付きっきりで教えてやったのにどうも赤点ギリギリだったらしいな。」

 

モードレッドの声が急に低くなった。

重いモードレッドの声にアストルフォが過剰に反応し身震いをし始めた。

 

「あれぐらい教えてやって平均70は行けるだろって言ったよな〜。それでも行ってほしいのなら」

 

「い、忙しい先輩はまた今度誘うよじゃ、僕はカバン取りに行かないと〜〜〜〜〜」

 

必死の形相で走り去るアストルフォにジャンヌが注意をしながらついて行った。

 

「じゃ先に行って教室で待っていますね。」

 

ジャンヌは礼儀正しく頭を下げて駆け足でアストルフォの後を追うように去った。

 

さてまた2人だけになってしまった。

特にここにいる理由もないし自分もジャンヌ達の元に行こうか。

 

「んじゃ俺も行くぜ」

 

「モードレッド、最後に聞きたい。」

 

「ん?」

 

「何であんな条件だったんだ?」

 

賭けの報酬モードレッドが望んだのは自分。

何であんな条件だったかのが気になる。

あのような要求はモードレッドらしくない

 

「理由、んなもん決まってんだろ。強くなる為だ」

 

モードレッドの雰囲気がガラリと変わった。

金色の髪は、まるで鬣のごとく。

迫力は獲物を見据える獅子の様に彼女はジークを見ていた。

 

「俺が次に上がるために必要だった。それだけだ。」

 

時間すらも気圧されたかのようにゆっくりと流れた5秒間。

自分はただ、モードレッドを見ている事しか出来なかった。

でも、口は開いた。

 

「それなら、こんな形じゃなくても手伝うのだがな」

 

ジークは優しく口元を緩ませモードレッドが去る前に一言残した。

 




ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9ページ目

更新です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side 某県 冬木市 商店街~

 

 

「らっしゃい、...ってセルジュの所の坊主か、久しぶりだな。」

 

「あぁ、そうだな」

 

深海よりも青い髪を後ろに束ねる男性、その細くもがっしりとした筋肉のついた体には似合わない魚のアップリケの入ったエプロンがとてつもなく強力な印象を与えているジークよりも年齢が上のこの人名はクーフーリン。

アイルランド人だ。

彼は冬木の町にある魚屋で働いている。

彼は何故冬木に来たのか?

それはここの店主であるクー・フーリンとセルジュは昔からの知り合いらしい。

何か、息子の友達だとか

 

「最近めっきり顔を見せなくなっちまって、今まで何してたんだよ。」

 

クー・フーリンはうりうりと肘でジークの胴を押してくるのでジークはやめてくれと言わんばかり手で払い除ける。

そのジークの行動がまだまだ初々しさが残っているのでクーフーリンはヘラヘラとした態度で楽しそうにしている。

 

「高校に入学して最近テストだったから忙しくてな、この前終わった」

 

ジークは最近の近況を軽く近況を教える。クーフーリンはそれを親しい友のようにそれを聞いてくれた。

クーフーリンとはジークが学校に通う前に一度会っていた。

セルジュの息子さんと付き合いがあったらしいのだがセルジュとも気があうらしくその時紹介してもらった。

ただ、最初の頃は付き合い方というのも知らないジークにとって彼は正直怖かった。面倒見の良い1面もあるのだがクーフーリンはとても厳しい一面もあり、それから彼は言葉を選ばない。

まだ拾われて数日しか経っていないジーク。この時のジークの精神年齢は幼稚園児と同じぐらい、セルジュにすら心を開ききっていなかったのだ。

もう2、3度会ってからここには来なくなった。

今回は、

 

「何だ?高校に入ったのか?お前はノー学歴で生きていくんじゃねぇのかぁ?」

 

「そんな事を言った覚えはないのだが。」

 

「それでどこに入ったんだよ。」

 

「ユグド学園だ。」

 

ジークが言った事にピクリと耳が反応した。

 

「何だ、俺の母校じゃねぇか」

 

「そうなのか?」

 

クーフーリンはキョトンとしていた。だけどジークもその事実にきょとんとしたかった。

 

「以外だな。あそこに入れたのか。」

 

ジークは目を見開き本当に驚いていた。

てっきり彼の最終学歴は中卒かと思っていたのに高校を卒業していたのだから‥‥

人は見た目によらないものである。

ジークの言葉に対して眉間をぴくぴくとさせているクーフーリンはジークに目線を合わせて胸元を指で押しやる。

こう言っては何だが彼はあの学校の学風に合わない、自分の今の通う学校はよく言えば文武に貪欲で2つの結果をしっかりと残しているが、見方を変えれば中は規則に堅苦しい肩身の狭い思いをしている生徒も多かろう。

そのような学校に身を置いていたらいたで彼のようなタイプは即不満を爆発させていると思うのだが………いや自分の知り合いにも1人彼のようなタイプがいたな

 

「お前、俺がバカに見えていたのか?」

 

「そういう訳では無いのだが、ただクーフーリンは真面目に勉強するタイプでは無いと思うのだが...」

 

そう言うとクーフーリンは言葉がつまりジークから離れる。

振り返ってみるとまぁ、何であんな所に入ったのか自分でも不思議に思えてくる。

 

「ま、確かに真面目に勉強するタイプじゃねぇからな。」

 

そう言ったらバツが悪そうにソッポ向いた。

どうやら図星らしい。

 

「なら何故あそこを選んだ。此処冬木にもあるだろう」

 

ここ冬木にも高校があるあそこでもよかったのではと思うジーク。

 

「だってこっちよりあっちの方がイベントとかが派手だろ。」

 

賛同できない。

何故ならジークは学校でのイベントをまだ体験していないからだ。

でも確かに一度見た時こちらの高校の方よりも華やかさが少しかけている印象はある。

あちらは一般的な公立高校、そこまで見た目にこだわれないのであろう。

そう答えるとクーフーリンは「なら楽しみにしておけよ。」と喉を鳴らしながら告げた。

 

「そうだ。なら理事長はまだアイツがやってんのか?」

 

「アイツ?」

 

「ヴラドのおっさんだ。」

 

「おっさん.って。」

 

ジークは呆れたようにクーフーリンの言い分にため息を吐く。

でもジークもあまり敬語を使っていないためそこはあまり言えないと思うのだがそれは置いておこう。

 

「何しろあの人のあだ名は俺が広めたんだからな。」

 

「え?」

 

ヴラド理事長のあだ名それは『串刺し理事長』

 

ジークは先程ほどではないが驚き胸を張るクーフーリンを見る。そのクーフーリンは自慢げに鼻を鳴らしていた。

理事長のヴラドの噂それはジークがジャンヌから聴いた話だがヴラドは以前自分に不敬な行為を起こした生徒に罰した事をきっかけに起こったその時についたあだ名だ。

 

ただ罰しただけではあだ名などつかないだろう。

それはこの時の生徒がヴラドの罰に物凄く恐怖しそれから棘は細長く鋭いものに恐怖感を抱きそれを見ただけで震え怯えたからだと

 

その生徒がクーフーリン...いや、彼がそんな事を100歩譲って広めた生徒だろうと思うジーク。

 

「あの野郎。少し花瓶割っただけであんなに怒りやがって」

 

ジークはそれは絶対ないなと思った。

なるほど、時間が経って噂の内容が変化して今じゃ恐怖を煽る内容へと変化したのかジークは満足そうに頷き納得した。

そんな態度を見ていたクーフーリンは頭に?を浮かべながら首をかしげていた。

さて、近況報告みたいな世間話も終わったことだし今日来た用事をさっさと済ませよう。

魚屋なのだ。

セルジュに頼まれた魚をクーフーリンに言うと彼はあいよ!と高らかに吼えて魚を捌き頼んだ量にしてくれた。

ふと、ジークは捌き終わるのを待っていると電柱の近くに何かが落ちているのを発見した。

ジークがそれを拾う。見たところ手帳のようだがジークは誰のものなのか、何か誰のものか記しているものはないかと見ると表紙に学校名が記載されていた、という事は生徒手帳だろう。

なら、名前や住所が

 

「衛宮..士郎、クーフーリン」

 

「ん?どしたぁ?」

 

ジークは名前の主に心がないか聞く。

クーフーリンは仕事の片手間でジークに耳を傾ける。

 

「衛宮士郎という名前に心当たりはないか?」

 

名前を告げるとクーフーリンの手が止まり顔をこっちに向ける。どうやら知っているようだ。

 

「何だ?知っているが、どうかしたのか?」

 

「知っているのか?」

 

「あぁ、よく魚買いに行くからな。それにその兄ちゃんはここでちと有名だ。ほら、ここらには似合わない屋敷3つぐらいあるだろう。そん中で唯一街並みに溶け込んでいる和風の屋敷そこがそいつの家だ。」

 

ジークはあまり冬木には来たことがなかったが確かに知っている。最近近代化してきている冬木の街並みに違和感を感じさせる古風な作りの家。

言い方は少し悪かったかもしれないが違和感と言っても悪い意味ではないひときわ際立っている建築物。

 

「その坊主がどうしたんだ...てかよく名前を..あ、そいつはアレか。衛宮んとこの坊主の持ち物か?」

 

クーフーリンはジークから手帳を受け取りそれから

 

「その内来るかもしれないから俺が渡しておいてやるよ。」

 

「いや、いい。俺が届けよう、俺も今日はこの後ここら辺をぼちぼち歩こうと思っていたところだ。」

 

「そうかよ、んじゃいってら。」

 

「あぁ。」

 

 

 

 

冬木は周りを水に囲まれ、一見この様な昔ながらの商店街が似合いそうな感じがするが最近は、レジャー施設やショッピングモールなどが充実しつつあるという面もある。

ジークが住んでいるところとここを結ぶ端から見る夜景は中々見応えがあるとか、都市から離れているものの市民にとっては中々住み心地が良い町である。

道行く人は様々な年齢層の方が歩いている。近隣住民の仲がいいのか住民同士の挨拶などもかわされる光景はここでは珍しくない。

でも、そんな町も半年前は絶望で燃え尽くされていた。

半年前、突如発生した大火災。

ここに住んでいる人達にとっては未だ消えない火傷傷となって記憶にへばりついているだろう。

それでも、老人も子供も笑っている本当に強いのだろう。

 

火事の原因は未だに不明、犯人も未だに検討もついていないらしい。

そして自分は炎の中から救出されたと聞いた。

それ以上のことは話されたことは無い。

自分も不思議と思い出したいと思わなかった。

いや、思わなくなって言ったと言えば正しい。

1つは、セルジュに心配をかけたくなかった。ただでさえどこの誰かもわからない自分を預けてもらっているのに余計な事で煩わせたくなかった。

もう1つは、思い出したいとは思わなかった。これは本当だ、自分がどんな所で生き、どんな風に育てられ、どのような人達に囲まれ、どんな人生を送ってきたのかを俺は興味すらわかなくなっていた。それは時間が経てば経つほど薄れて言っていた。

今は..

 

「おっと、ここみたいだな。」

 

周りを見ながら考え事をしていたらいつの間にかその家に着いていた。

ここもまた古風なお屋敷だ。

木造りで年月を感じる木材は風情を感じられる。

ジークは目の前にあるインターホンを押そうとすると

 

「えっと、どちら様でしょう?」

 

後から美しい芯の強さを感じられる声からは気品も感じられる。

丁寧に手入れされた金色の髪は程よく光をよく照らし、誰かを思い当たる。

 

(モードレッド?)

 

そう、金髪、容姿、纏っている雰囲気‥それは自分の友達であるモードレッドに似ていたのだ。

 

「あぁ、貴女はこの家のものか?俺は橋を渡った向こうの町に住んでいる者だ。故あってここら辺を歩いていたらこの家の主のものと思われるものを拾って届けに来た。」

 

と、写真の乗っているページを開きながらこの人に見せる。

 

「は、これは確かにシロウの物。ありがとうございます。私の名はアルトリア、アルトリア・ペンドラゴンと申します。」

 

目の前の金髪の女性はモードレッドに似ているが、勿論彼女では無かった。

まぁ、纏っている雰囲気と容姿は似ていても彼女はここまで親切丁寧な言葉を使ったりはしない。

世の中には似た者が3人居ると言うが、彼女はモードレッドのそっくりさんにあたるのだろう。

 

「これは申し訳ない、自己紹介が遅くなってしまった。俺の名はジークだ。」

 

「よろしくお願いします。私は一応この家の世話になっているものですが、よければ上がって言ってください。お茶位出せます。」

 

「え、でも‥‥」

 

ジークは戸惑う。流石に家主の許可無く上がるほどの図々しさは持っていない。

だがアルトリアは、そんな事を微塵も気にさせない笑顔で誘う。気にするだけ無用だと言っているような美しい笑顔に負けたジークは家に入らせてもらう事にした。

この家はセルジュの家も何倍もの数の部屋があり、リビングもまたすごく大きく6人ぐらいはゆうにのんびり食事できそうな広さであった。

ジークは畳に座らせてもらいアルトリアはお茶を入れてくれた。

気持ちよさそうにふかふかと浮き上がる湯気を見ながら熱い茶を飲んだ。

 

「ここの家の主の方は?」

 

「それはシロウです。シロウの親は基本外国で仕事をしているので、シロウの保護者兼(自称)姉と、私と彼の妹が基本ここで住んでいる。」

 

「貴女も姉なのか?」

 

「いえ、私はこの家の親と知り合いで、こちらでホームステイをさせてもらっている身です。」

 

アルトリアは自分の胸に手を当てて自分の立場を説明する。

 

「成程。」

 

ジークは貰ったお茶をすすりながらそんなことを思っていた。

 

「ただいま!」

 

「あ、帰ってきました。」

 

どうやら家主が帰ってきたらしい。

先程の話を照らし、貰った情報を合わせればこの家に男性は1人しか住んでいないらしい。

妹、姉、そして彼女、親は働きに外国にいるらしい。

ならこの男性の声は彼しかいない。

まぁ、アルトリアが聞き間違いなどしないだろうし。

廊下が軋む音がする。歩いてきているのだろう。

障子から影が見え入ってきた彼は、写真よりも切れないな赤毛、いやオレンジに近い髪色と鍛えているのだろうがっしりとした体にふんわりとした笑顔。

思った通りの好青年だ。

 

「君が届けてくれた人か?」

 

「シロウ、こちらはジーク、そうです。彼が届けてくれました。」

 

入ってきたアルトリアが間に入って自己紹介を始める。

 

「ジーク、こちらがシロウです。」

 

「衛宮士郎だ。今回はありがとう助かった。」

 

ジークとシロウは握手を重ねる。

 

「いや、別に気にしなくていい。それよりも住所等を見てしまった。すまない。あまり個人情報を見られるのはいい気がしないのだろう?」

 

「それこそ気にしないでいいよ。俺の手元に届けるためなんだろう?交番に預ければいいのに手間をかけさせて」

 

「そうか?やはり学生の身分を提示するのにこれ以上に便利なものはないからな、早めに返してあげた方がいいと判断したのだが...」

 

「そのおかげで助かった。」

 

ジークはふんわりと笑顔を浮かべる。

そう言われると返しに来たかいがあるというものだ。

 

「なら俺は帰らせてもらう。」

 

「何だ、ジークは忙しいのか?」

 

「いやそうではないが、あまり人様の宅で長居するものではないだろう?」

 

「もう少し待ってくれないか?さっきソーメンを貰って、何か作ろうって思ってさ。」

 

「シロウ、どこで貰ってきたのですか?」

 

袋の中の大量のソーメンを見たアルトリアの目は先程の印象とはかけ離れた光を発する。

何だろう。本当に似ている人がいた気がする。

食べ物を前にしての雰囲気はモードレッドとは異なる雰囲気だ。

 

「すごいだろう?一成がたくさん貰ったんで、お裾分けをして貰ったんだ」

 

「シロウ、流しそうめんです。流しそうめんをしましょう。私が台を蔵から探してきます!」

 

「流しそうめんってあれ時間がかかるだろう。」

 

「大丈夫です。私が見つけて組み立てますのでシロウは調理しといてください。」

 

ピューという擬音語が聞こえてくるような雰囲気でアルトリアは廊下を走り縁側に向かっていった。

 

「あ、俺は」

 

「みんなで食おうぜ。流しそうめんは人が多い方が賑わうだろ。」

 

「わかった。ならせめてなにか手伝わせてくれ。」

 

「そうか?じゃあ、料理は俺が作るから流し台の方を頼む。」

 

 

〜side衛宮家 縁側〜

 

場所は縁側に移り、ジークはつっかけを借りて縁側に出るとそこかしこに糸で骨組みを簡単に済ませた竹が散らばっていた。

 

「アルトリア、何か手伝おう。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

そう言ってアルトリアが糸でしっかりと結び直す時ジークは支える係とならせてもらった。

 

「客人なのに手伝わせて申し訳ない。」

 

「いや、気にするな、ただ何もいないのは居心地が悪いだけだ。それはそうとアルトリア。」

 

「何ですか?」

 

「流しそうめんとは何なのだ?」

 

「ジークは流しそうめんを知らないのですか!?」

 

「あぁ。」

 

「日本住まいなのに?」

 

「あ、あぁ。」

 

「それは人生の4分の1は損していますね。」

 

「そうなのか?」

 

「さらに、シロウの料理の味をまだ知らないジークは人生の4分の3は損していますね。」

 

アルトリアは胸を貼りながら断言した。

 

「そんなになのか?」

 

「私も普段から食事は人より多い方ではあり、よく食べていましたが...シロウの料理を知り私はそう感じました。」

 

「そんなに感じるのか。それは楽しみだな...」

 

それからジークは、初めてのためにアルトリアのサポートになる感じで手を出させてもらった。

こうやって、昼間から誰かと一緒になにかするのは楽しいものだ。

 

「そういえば、ふと気になったのだが。」

 

「どうしたんですか?」

 

「貴女と衛宮は付き合っているのか?」

 

突拍子もなく、変なことを聞かれたアルトリアは丈を押し倒して転んだ。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

アルトリアはぶつけた頭を抑えながらよっこらせと立ち上がる。

 

「な、何ですか、きゅ、急に変な事を」

 

「変なことなのか?」

 

「えぇ、不謹慎というものです。わ、私とシロウはその‥‥」

 

怒っている割には答えようとしてくるあたり、性格がわかってくる。

 

「何だ?俺がどうかしたのか?」

 

と、そんな時に当の張本人が突然登場にアルトリアは余計に慌てる。

でもシロウにはそんな事がわからず首を捻った。

アルトリアは慌てて話題変換させようとわざとらしい咳払いをひとつして、

 

「べ、別にシロウの話なんてしていません。そんな事よりシロウ、料理の方は大丈夫なのですか?」

 

「あぁ、そういえばジーク。」

 

「どうした?」

 

「ジークが持っていた魚、痛まないように冷蔵庫に入れておいたから帰る時忘れないでくれよ。」

 

ジークはシロウに言われてはっとした。

そうだ、自分はこっちに来たのは魚を手に入れてセルジュの元に持って帰るのが目的だったのだ。

完全に頭から抜けていた。

 

「すまない、少し家に電話をしたいので電話を借りられないか?」

 

「え、携帯持ってないのか?」

 

ジークは自分の携帯というものを持っていない。

携帯は購入費の他にも色々な保険をかけないと不安だらけなためにセルジュに頼むのは気が引ける。

まぁ、学校に入る前までかける相手がいなかった為にあんまり自分から欲しいとも思っていなかったのだが...

 

「いいよ、電話は玄関付近にあるから使ってくれ。」

 

「感謝する。」

 

ジークは電話でセルジュに遅くなるというのを伝えたらセルジュは快く承諾してくれた。

そのついでに現在の詳しい説明をすると、今日持って帰ってと頼まれた魚を使ってくれと言ってくれた。

流石にそれは駄目だろうと思ったジークが断ろうとすると遠慮するなと言って...ジークはどうしたものかと考えているうちに電話を切られた。

 

「あの...」

 

ジークは9つに切られた電話を戻したら違う女性の声が聞こえた。

見ると方までたれた紫の髪の少女とその親か?と思える女性がたっていた。

両者おっとりとした雰囲気の人で、親と思える女性は少しミステリアスな感じがする。

 

「あの、どなたですか?」

 

「泥棒?」

 

「いや、怪しいものではない。」

 

「えっとじゃあ‥‥」

 

「桜、今日も来てくれたのか。」

 

「えぇ、晩御飯のお手伝いに来ました先輩。」

 

このやり取りこの2人は知り合いなのか?

と疑問に思うと衛宮が説明してくれた。

 

「ジーク、こっちは間桐桜、俺の学校の後輩だ。後ろにいるのがメデューサで桜、ライダーこっちはジーク、今日知り合ってな。」

 

「まぁ、そうだったんですか。よろしくお願いします、ジークさん」

 

「私はここら辺じゃ、ライダーと呼ばれていますのでそちらでお願いします。」

 

「あぁこちらこそよろしく。」

 

2人ともジークに軽く挨拶を交わして握手をする。

 

「でも、珍しいですね。先輩が男性と知り合うなんて...先輩は女子としか仲良くならないから。」

 

「な、桜!?何だよそれ」

 

「だって先輩の男友達って生徒会長と兄さんしか知らないもので...」

 

「いや、俺にだって他にもいるぞ!?確かに付き合いも長いのはそれぐらいかもしれないが学校にもっといるよ。」

 

「ふふ、すみません。さて先輩、そろそろ私も何かお手伝いします。」

 

「あぁ頼む。」

 

「あぁ、衛宮その事なんだが」

 

もう完全に少し食べていくから夕食に変わっていたがそれは置いておいて先程セルジュにいいと言われた食材を使わないかと言うと3人で冷凍庫の方に移動した。

因みにライダーはアルトリアの方に手伝いに行った。

冷凍庫の中を除きジークの持ってきたものを包んでいたものを外すと2人は感嘆の言葉を漏らした。

 

「おぉ、これは」

 

「わぁ、立派ですね。」

 

中身は鯛、しかも

 

「尾頭つき」

 

「本当にこれ使っていいのか?」

 

「らしい、断ろうとしているうちに電話を切られた。」

 

「なら使わせてもらうか。」

 

「あ、そうだ。桜少し買い物頼めないか?」

 

「えぇ、いいですけど、何を」

 

「これをそのまま使わせてもらうが...こんなものを藤ねぇに見せたら全部食われかねん。だから別の摘みを用意しようと思ってな。」

 

呆れ気味に言う衛宮に桜も似た感じになって承諾した。

 

「わかりました。」

 

「なら荷物持ちは俺がしよう、世話になり続けるのは申し訳ない、何か手伝わせてくれ。」

 

「えっと、」

 

桜から見たらジークは完全なお客という感じだった。だから手伝ってもらうのはそれは...と思いながら衛宮の方に目線を向けると衛宮は黙って頷く。

 

「わかりました、ならお願いします。」

 

2人は玄関を出て坂道を降っていく。

でも2人の間には少々沈黙により距離ができていた。

当たり前だ、今日会ったばかりの2人がすぐに親密になれるわけが無い。しかも問題はジークがそれを全く気にしない、桜の方はどうしたものかとチラチラ視線を送っているがそれすらも全く気に留めていない。

そんなジークは気が向いたのか空を見た。

空は既に日が傾き、あおさを残す空には少々黄色が入っていた。

夕日がその色だからだろう。オレンジではなく、この季節に咲く向日葵のように黄色かった。

ジークはこんな空を初めて見た。

空は何度も見ている、空に浮んでいる雲もよく見ている。

夕日もジャンヌと一緒に帰った時に何度も見ていた。

でも、ここは別格に感じた。

夕日と目線を合わせて眺められるこんな景色にジークはつい言葉を出してしまった。

 

「綺麗だな。」

 

「え?」

 

「こんな綺麗な空、初めて見た。」

 

「ええ、確かに綺麗ですね。」

 

渓流の流れのように優しく流れる風に当てられた髪を抑えながらジークと同じ方向を見る桜。

 

「でも、ジークさん初めてというのは少々大げさな気がしますよ。」

 

「そうか?」

 

2人はまた歩き出した。

 

「はい、ジークさんは少々ロマンチストな方なのですか?」

 

「う〜ん、そういう訳では無いのだが...空を見たそのまんまの感想を言っただけなんだが...」

 

ジークは何がそう感じさせたのか考えているのだが桜は何をそんなに真剣に悩んでいるのかがわからない。

そんな姿をジークに桜は不思議な人という印象を受けた。

 

「そうだ、桜は先程衛宮の事を先輩と読んでいたが何年なんだ?見たところ高校生には見えるのだが」

 

「はい、今年高校生になったばかりですよ。」

 

「そうなのか、なら俺と同じ年か。」

 

「へぇ~ジークさんは1年生だったのですか、でも先輩と普通に喋っていましたよね。」

 

「衛宮が先輩とは気がついていなくて...後で謝っておく。」

 

ジークが難しそうに悩んでいるのを見た桜はまた微笑んでジークに衛宮はそんなことを気にする人ではないというのを伝える。

 

「桜は今日衛宮と約束があったのか?」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「いや、やはり学校の先輩後輩が家でその人の為に...その夕食を作り共に食すというのは...」

 

ジークの言ったことに桜は改めてそんな風に言われると沸点が急上昇し、ぼふっと爆発するような音がした。

ジークの疑問は最もだ。

桜と衛宮は付き合っていない、それなのに男子の家に普通に上がりしかも料理の手伝いをしていくという、これは何とも新婚さんみたいな事を..多少知っている者は、衛宮やアルトリアになるとそれが普通でもジークのような赤の他人からしたら違和感だらけである。

 

「それはその...えっと、料理のそう!料理の勉強をです!」

 

「そうなのか?」

 

「はい!」

 

桜が真っ赤な顔で断言する。大抵の人間ならこれで納得はせずに妙な勘ぐりの合図である「ほぉ〜」となるところだがこれまたジークは違う、納得したのか目を大きく見開いたのだ。

 

「女性が習いに来るほど衛宮の手料理は美味しいのか。」

 

「は、はい。それはもう私に留まらず、若妻も習いに来るぐらいです。」

 

「それは、食事が楽しみになってきた。」

 

先程と違いジークの顔は明らかに興味を示していた。

それは桜の言ったことを全て鵜呑みにしたからであろう。

桜は何て純粋な子なのだと関心と驚愕を抱く。

自分の尊敬する先輩も色々子供っぽい所があるが、ここまで純粋では無い。

そんな所がまた可愛らしくまた微笑んでしまった。

でもそれにジークは気が付かなくジークは未だにその目に光をともしている。

 

「それなら俺も学びたいぐらいだ」

 

などと小言を呟いていた。

 

 

そんなたわいもない事を話していたら商店街に着いたので、桜とスーパーに入りジークは籠を持ち桜の先導のもとにあれやこれやと籠の中に入れていく。

桜は各食材をじっくりとジークにとっては何が違うかが全然わからない。

自分もセルジュに買い物を頼まれたりしていたのだが、ここまでしっかりと見たことがなかったためにもっと学んでしっかりとやれば…と申し訳なさが出てきた。

それから、スーパーでの買い物をおえると、最後に魚屋に寄れば終了だ。

魚屋には彼がいる。

 

「おっ、間桐の嬢ちゃんとボウズじゃないか。おいおいボウズやるなぁ届け先の女と買い物とは隅におけねぁなぁ」

 

うりうりと肘で胸板をぐりぐりしてくる。

 

「一体何の話だ。」

 

「ったく、このボウズはこう言った話に本当に疎いからなぁ。んで何にすんだ」

 

「あっ、えっと‥これ、貰えますか?」

 

「はいよ。」

 

クーフーリンは手際よく魚を袋に詰めていき袋を桜に渡すと桜は魚の代金を渡した。

 

 

 

~said衛宮家~

 

「先ぱーい、ただいま戻りました。」

 

時間帯も計算されたかのように空には三日月が昇っていた。

ここまで、ここに長くとどまるつもりはなかったが、でももう少しここにいたい。

流しそうめんこうやって竹で器材を組み立てて、成程ホースの水を上流として流していくからそうめんを食べる面白い組み合わせだと思った。

立派な竹のそうめんを流す機械、アルトリアとメデューサは食器やそうめんのトッピングの具材などを運び込んでいた。

ハムや玉子ネギ等、結構多数なトッピング、それに台に置かれた麦茶やお酒も結構…お酒、酒!

まさか、衛宮達がお酒を‥「やっほ―――――シロ―――――!!」

廊下から急に声が響きながら飛んできた。

 

「おぉ、君が士郎の言っていた客人か私は士郎のお姉さん兼保護者でもある藤村大河よろしくねぇ、」

 

「あぁ、ジークだ。」

 

「そう、いや〜士郎の新しい友達は私も大歓迎だよ。さ今日は遠慮なく食べて言ってくれ。」

 

藤村大河と名乗る女性に方を掴まれ、らんらんと言う言葉が出そうなリズムであるジークは回された。

 

「藤ねぇ何してんだよ、もう酔ってんのか?」

 

「酔ってませ〜ん。」

 

衛宮に指摘された藤村さんは流れるようにジークを離して(投げて)缶であるビールに手を伸ばし慣れた手つきでビールを開けた。

 

「ごめんな、藤ねぇ悪い人じゃないんだけど絡みがちょっと...」

 

「いや、気にしていないから大丈夫だ。」

 

「藤ねぇあれでうちの学校の教師なんだけど‥‥」

 

「そうなのか?」

 

「やっぱり見えないか?」

 

「俺の見た教師というのが少ないからかもしれないが、あの様には振舞わないがな」

 

「まぁ、ユグドだと軽い教師はいないよな。」

 

呆れついでにはははと乾いた声をこぼす衛宮。

そんなことを話していると藤村さんはこちらの会話が聞こえているようなタイミングで声だけ反応してきた。

 

「ん?なんか今士郎に悪口を言われた気がしたんだけど?」

 

藤村さんはジト目で衛宮を見る。

 

「気のせい、気のせい。」

 

と逃げるように衛宮は麺とそれからあれを取りに行った。

ジークもそれについて行く。

 

「何か俺も持つよ。」

 

「そうか?ならそうめん頼む。藤ねぇ当たりに渡せば勝手に、いやライダーに頼むは...藤ねぇは絶対流してすぐに取ろうとするからな。」

 

教師として..と言うより大人としてそれはいいのか?という疑問を持ったジーク。

彼女に対してそこまでの信頼がないのかと若干呆れかけていると

 

「いや、そうじゃないんだ。藤ねぇはなんていうか、昔から知っていて長い付き合いだからこそ良くわかるんだよ。勿論、信頼する人の名前出すなら藤ねぇは家族みたいなもんだから」

 

「そうなのか..長い付き合いだからこそ...か。」

 

「ジークにはいないのか?そんな相手」

 

あぁ、自分にはそんな相手がいない。

 

「そっか、俺も藤ねぇを家族と思っているのは、俺は血縁関係の人を知らないんだ。」

 

「えっ?」

 

ジークは衛宮が話始めようとしていた冒頭を聞いて足を止めた。

 

「ここの家主は片方が海外で仕事をやっているからもう1人もそれについて行っているんだが、その2人に俺は拾われた。んで、最初拾ってくれた時には2人の間に子供もいてさ...皆良くしてくれたんだがやっぱりそういうやつってさ、肩身が狭かったりするだろ。んで、俺にも何か出来ることがないか探して料理を練習したんだ。まぁ最初は目も当てられない感じだったけどな。」

 

はは、と苦笑する衛宮にジークは目線をしたにする。

何かいたたまれない気持ちになったからだ。

衛宮はその家に恩を返すように努力をした。でも自分はどうだ?

勝手に色んなことに覚めて、セルジュにどれだけ心配をさせてしまったことか?

 

「すご‥「でも、あんまり意味なかったんだよな。」」

 

思わず目を見開いてしまう。

それは、喜ばれなかったのか..衛宮は家族の為になろうと努力をしたのに...それは...

だが衛宮の口元は少し緩んでいた。

それはもう懐かしの思い出の中の熱を真に受けたかのように

 

「役に立とうとした事に喜んだんじゃなくてさ、母さんはできた失敗作を本当に楽しそうに食べたんだよ。普通に味が濃すぎる~とか唸りながらがっついていたのを思い出すな~。……つまりだな、ジーク別に焦らなくていいんだぞ。お前のお世話になっている人もさお前の最近会った出来事を晩御飯で話してやれば、多分満足そうにきてくれそうだぞ。」

 

士郎の言っていたことは何となくわかる気がする。

そうだ、あの時からセルジュはジャンヌとであいジャンヌと何かあったとか友達ができたことを話した時...その時をよく笑って聞いてくれた。

今まで自分が塞ぎ込んでいたのを知っているセルジュはジークが外の事で目を回している事がとても嬉しいんだ。

何気ない事かもしれないが何気ない事を何となく出来始めているジーク、まだ不安があるがそれも彼にしてみれば結果に至る前のことが聞きたいのだ。

 

「そうだな、今日もきっと面白い話になるだろう。帰ったら聞いてもらうか。」

 

「あぁ。」

 

 

本当に今日はいい1日になる気がして仕方が無い。

メデューサが大量の麺を流し始めるとアルトリアと藤村の2人対決となっていた。

桜当たりもどうにか手に入れようと

 

「ふふ、桜ちゃんその程度じゃ麺を食すなんて10年早いみよ~鍛え抜かれた我が奥義を...あれ?」

 

「タイガこそ、油断は禁物です。世界共通食卓は戦場一時の油断が致命を与えるものです。」

 

「ライダー...変わろうか、ライダーも食べたいだろ?」

 

「いえ、大丈夫です。それよりも士郎早くしないとなくなりますよ。」

 

麺はあと1つしかない。

あれだけあった麺は殆ど2人の胃袋に入ってしまった。

因みにジークは2人の争いにて被弾してきた麺を見事キャッチして1杯だけ食べられた。

そしてそうめん最後の締めにセルジュの許可の元頂ける事となったあれがある。

 

「おぉ、尾頭つき」

 

藤村とアルトリアはまた目を輝かせる。

 

「ん?シロウ隣のこれは白米と...」

 

「出汁だよ。刺身として食べるもよし、完全なシメとして茶漬けにするのもいい。」

 

そしてこれを機にまた争奪戦が勃発したのは言うまでもない。

ジークは熱々のだしを入れた鯛茶漬けを食べながら衛宮の横に座る。

 

「衛宮。」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「その...俺と.....いや何でもない。」

 

「何だよ、気になるじゃんか。」

 

「な、何でもない。」

 

縁側で2人並んで話しているのを桜達はじっと見ていた。

 

「ねぇねぇ桜ちゃん。私士郎が男人話しているのを初めて見たかも」

 

「えぇ、先輩会長さんとかとも話していますよ。」

 

「いやでもさ、士郎が家に男友達連れてきたことってないじゃーん。」

 

「そんなことは.....」

 

「シロウはよく女性を招いて家で料理をしていますからね。」

 

「おい聞こえてるいぞ!?何ださっきから俺だって普通に友達はいるしそんな誤解のある言い方をしないでくれ!!」

 

「俗に言う女たらしですね。」

 

「ぐわ...ライダーの何気ない一言が1番ダメージに来る」

 

 

 

 

さてそろそろ今日の宴もお開きにさせてもらおう。

ジークは食べ終わるとアルトリア達とそうめんの機材を分解して直す手伝いを済ませると、帰ることとなった。

藤村達から『また来て』と挨拶を入れられ衛宮がそこまで送って行くこととなった。

 

「今日は本当に楽しかった。夏休み最初の思い出として俺の中から一生消えないものとなるだろう。」

 

「大袈裟だな。」

 

「そうか?」

 

「壮大すぎる。」

 

「...衛宮、やはり言わないと後悔する気がする。」

 

また改まってジークは何かを宣言しようとする。

 

「その...俺と友達になってほしい。こういう誘い方をするか正直わからないが俺は君とはもっと色々...すまない何か言葉にしにくい。」

 

照れくさそうに頬を書くジークに衛宮は背中を思いっきり叩く。

 

「!?」

 

「また食いに来いよ。」

 

「あぁ」

 

ジークは何だか清々しい気分で自分の町へと戻って行った。

 

 




少々、冬木の地形がうろ覚えなのでそこは勘弁してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。