トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話 (ZUNEZUNE)
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プロローグ 料理人 一夏!

トリコの世界から始まります!


誰かが言った——

 

海の底で、深海の水圧で味と栄養が凝縮され、プリップリの身を持った蟹がいると—

極上の喉越しを持ち、この世の物とは思えない程の純白を見せる牛乳の雨を降らせる雲があると—

太古からある火山で、極上の具材がマグマで煮込まれているカレーがあると—

人々は魅せられる!未知なる美味に——!

 

世はグルメ時代—— 未開の味を探求する時代——

 

 

 

 

 

暗い森の中、一人の青年が茂みに隠れていた。怪鳥達の唄が空に鳴り響く中、青年は静かにそれを待つ…

すると、体長10mはあろう黒い龍が現れる。赤い眼に大きな翼。恐怖を現したその姿。

龍は落ち着いているのか、静かに歩いていた。敵意などは見られない。自分に襲いかかってくる者などいないだろう—と思っているに違いない。

それに対し青年は目を光らせる。その手に長刀が握られた時、茂みの中から飛び出た!

 

「…!」

 

そして一瞬の内に龍の顎の下の鱗…つまり逆鱗を刀で剥ぎ取り、直ぐさま龍から逃げる。

言葉の通りの逆鱗に触れる行為。龍は怒り、青年を追いかけた!

 

ブラックコーヒードラゴン 〈翼竜獣類〉 捕獲レベル72

 

「うしっ!ブラックコーヒードラゴンの逆鱗ゲット!」

 

その青年…一夏は黒い逆鱗を眺めながら逃げる。ドラゴンはまだ追いかけていた。

 

「たく…こいつの相手面倒なんだよなぁ…」

 

冷や汗を掻き、溜息を吐く一夏。しかし彼には策があった。それは——

 

「今だ!リンカ!」

 

すると、ドラゴンの前に現れたのは、お好み焼きをひっくり返す時に使われる「コテ」であった。

 

「返し飛ばし!」

 

そのコテは地面の土ごとドラゴンを持ち上げ、遙か彼方へと投げ飛ばす。

コテを使った青髪の女性は、一夏とハイタッチする。

 

「やった!一夏!」

 

「ああ!リンカ!」

 

リンカと呼ばれた女性は一夏と共に喜び合う。そして手に入れた逆鱗を見て高揚の笑みを見せた。

 

「ブラックコーヒードラゴンの逆鱗は煮込むことで最高のコーヒーができる…やっぱこれだね!」

 

「帰ったら『入道牛の牛乳雨』と混ぜて飲もうぜ!」

 

そうやって嬉々と帰って行く二人に、携帯電話の音がなる。リンカの物であった。

 

「もしもし…ってママ!何か用?」

 

そうやって暫く話していると…

 

「一夏に用だってさ、すぐIGO本部に行けって…」

 

「IGO本部に?」

 

 

IGO本部にて

 

「「元の世界に戻れる装置が完成した!?」」

 

「ああ、遂に完成させたのだ!」

 

「それって本当!?マンサム会長!」

 

「ん?今ハンサムって…」

 

「「「いってない(し)」」」

 

今二人の前にいる男は、IGOの現会長の「マンサム」であった。

そしてその横に居るのが、グルメ研究所所長でもあり、リンカの母である「リン」。

 

「本当だし!一夏君の為に用意したんだし!」

 

「俺のために…?」

 

「ああ、もともと君をこの世界の呼び寄せてしまったのは我々だからな。その責任だよ」

 

一夏はこの世界の住人では無い。元々IGOが別宇宙のグルメ食材を調達するために開発していた「別宇宙移動装置」の暴走で来てしまったのだ。

 

「いえいえ!あの事件が無ければ俺は死んでいました。俺は助けられたんですよ!」

 

「そう言ってくれるとありがたい…どうするんだ?帰るのか?自分の世界に」

 

マンサムがそう言うと、横に居たリンカの表情が一瞬暗くなる。それを見逃さなかった一夏はニッコリ笑い…

 

「いえ、今の俺の世界はこのグルメ世界です。俺のいるべき場所はここです」

 

「そう!」

 

リンカの顔がまた変わる。今度は嬉しそうだ。

 

「まぁ1回ぐらいなら帰りますが」

 

「「「結局帰るの!?」」」

 

「向こうに家族もいます…それが気になっていたんですよ」

 

「この装置は何回でも使える。好きなときに帰って好きなときに戻ってくるといい!」

 

「ありがとうございます!」

 

そう言って一夏は装置を受け取る。小型化されており、腕輪のように装着する。

 

「帰るらしいな!一夏!」

 

突然男の声が後ろから聞こえる。そこには…

 

「トリコさん!?」

 

「パパ!?」

 

「トリコ〜♥」

 

世界一の美食屋「トリコ」と、そのコンビ、ホテルグルメレストランのコック長「小松」がいた。

リンはトリコを見ると直ぐに彼に抱きついた。

 

「師匠!いつ帰ってきてたんですか?」

 

「ついさっきだよ」

 

一夏は小松を師匠と呼ぶ。一夏はプロの料理人であり、彼に調理の技術と食材の知識を教えたのは小松だからだ。

ちなみにリンカは父と同じく美食屋で、一夏とコンビを組んでいた。

 

「来たなトリコ!どうだった今度の宇宙食材は?」

 

「それが絶品の酒を吹き出す水星に似た星を見つけたんだ!ありったけ汲んで来たから後で一杯やろうぜ!」

 

「ほほう!そいつは楽しみだ!」

 

そうマンサムと会話を進めた後、トリコと小松は一夏に向き合う。

 

「一夏、すぐ戻ってこいよ。お前の飯、楽しみにしてるぜ!」

 

「一夏君、僕も待ってるよ!」

 

「…はい!ありがとうございます!」

 

この二人にそんなことを言われると、中々涙腺が危なくなるから止めて欲しい。

 

「…絶対帰ってきてよね、一夏」

 

「当たり前だ、まだお前とのフルコース完成してないもんな」

 

リンカは顔を赤らめて俯く。周りの人間(トリコを除く)もニヤニヤとしていた。

 

「じゃあ!行ってきます!」

 

そうやって一夏は、優しい光に包まれる——

 

 




どうでしょうか?次は束さんの部屋に現れる話です。


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グルメ1 天災!

一夏が行った先には…束のラボが…


「んーーー?」

 

その女、篠ノ之束はある物を感知していた。

それは突如として部屋の中心に現れた光。約10分間そこに漂っており、正体も不明だった。

 

「触れても良い奴かなぁ…ちょっと怖いけど」

 

まず害がある現象なのかを調べるためにマジックハンドで光に触れてようとすると…

 

「うわっ!?」

 

突如として光の中から人が現れる。

 

「ありゃ…ここどこ?」

 

青年はリュックを背負いながら辺りを見渡す。ここか何処なのか分からないのだろう。

束はその顔に見覚えがあった。

 

「あ、すいません!ここどこですか?」

 

「…くん」

 

「えっ?」

 

「いっくん!!」

 

束は青年…一夏に抱きついた。

 

「もしかして…束さんですか?」

 

「そうだよいっくん!束姉さんだよ!」

 

束は涙を流しながら腕の力を強める。誘拐事件以来行方不明になった一夏を今の今まで必死に探していたのだから。

 

「もう何処行ってたの!チーちゃんや春君も心配してたんだよ!」

 

「…そうですか」

 

「いっくん?」

 

何故か、家族の事を聞いた一夏の顔が曇る。

 

「俺は…千冬姉さんや春十兄さんから見捨てられたんです」

 

「!?」

 

「千冬姉さんは僕より大会を優先して…」

 

「それは違うよいっくん!チーちゃんは大会関係者から何も伝えられてなかったんだよ!」

 

「えっ——?」

 

「2人とも見捨ててなんかいないよ!私と同じように、2人は泣きながらいっくんの事を思っていたんだ!」

 

「そうなんだ…そうか…俺はまだ愛されてたんだ…!」

 

自然に目から涙がこぼれ落ちる。それにつられて束もまた泣く。

 

「良かった!…本当に良かった!」

 

「うんうん…私も嬉しいよ…」

 

泣き崩れる一夏を、束がそっと抱きしめる。

 

 

 

「へ〜グルメ時代か〜」

 

一夏は束に自分がいた世界のことについて話した。

その世界は数多のグルメ食材があるグルメ時代だということを。

自分はそこで料理人になったことを。

 

「いっくん昔から家事上手かったもんね!」

 

「いや〜俺なんか〜」

 

「ところでどんな食材があるの?」

 

「それはですね…そうだ!」

 

座って話していた一夏が、急に立ち上がる。

 

「どうしたの!?」

 

「束さん、今まで心配させてたお詫びに、俺が何か一品作りますよ!」

 

「本当!?」

 

「マジです!どんな物が食べたいですか?」

 

「そうだね〜甘いものが食べたいな!」

 

「分かりました!キッチンお借りしますね!」

 

 

 

 

「すいません!キッチンお借りします!」

 

「!?」

 

急に入り込んできた見知らぬ人に、クロエは驚く。

 

「あの…貴方は?」

 

『くーちゃん!その子は織斑一夏君!』

 

束から通信が来た。

 

「織斑…一夏?以前話していた…?」

 

『うん!何も言わずにキッチン貸して上げて!』

 

「束様が言うなら…どうぞ好きにお使いください」

 

「ありがとうございます!」

 

クロエは出て行き、キッチンにいるのは一夏だけとなった。

 

「さて…やりますか!」

 

一夏が別宇宙移動装置を軽く操作すると、小さな光が沸き、そこからグルメ食材が沢山出て来た。

 

(こんな簡単に繋げられるんだ…)

 

実はこの食材、一夏が向こうの世界で食材を溜めていた食材倉庫から装置を使って取り出した物である。

 

「まずは…」

 

一夏は「メルク二代目」と彫られた不思議な形をした包丁を手に取る…

 

 

 

数分後、一夏が皿を持って束とクロエの所へとやって来た。

 

「お待たせしました!クロエさんの分も作って置いたので是非食べてください!」

 

「それはありがとうございます!」

 

「わーい!いっくんが作ってくれたスイーツだー!」

 

こうして2人の食卓に出された物は…

 

「…何これ?」

 

透明な「何か」が、苺やクリーム、餡子などを一口サイズで包んでいる。つまり饅頭だった。

 

「騙されたと思って食べてください!」

 

「じゃあ!いただきます!」

 

「いただきます」

 

手を合わせて、饅頭を手に取る。クリームが入っている物だ。

 

「あむっ」

 

そして口の中に入れると…

 

「!!」

 

思わず目を見張ってしまった。

 

(何これ…皮が舌の上でとろりと溶けた…!それと同時に甘い味が口全体に広がっていく…)

 

そして、この皮の正体に気付く。

 

「これって…水飴?」

 

「はい!ガラスのような透明度を持つ『玻璃(はり)水飴』を皮に使っています!」

 

(水飴なのにべたつきが無い…むしろ真水のように口の奥へと進んでいく!)

 

玻璃水飴は、トリコの「お菓子の家」の窓ガラスとして使われている物でもある。ベタベタな感触が無く、舐めたら甘いガラスとされている。

 

(中身のクリームが零れてきた!このクリームもとても蕩けていて、クリームのまろやかさと水飴の素朴な甘みが絶妙に絡み合っていて美味しい!)

 

「そのクリームは『油田クリーム』の物を使っています」

 

束がクリーム饅頭を堪能している間、クロエは苺饅頭を味わっていた。

 

(こんな苺食べたこと無い!噛むと中から練乳が染みてくる…それを程よい酸味が更に甘く感じさせる!)

 

「標高数万メートル…ベジタブルスカイと同じぐらいの高さの山で実る『スカイベリー』です。太陽光によって甘みが凄いです!」

 

そして最後に餡子、何とこの餡子、蛍のように光っているのだ。

本来なら何事かと恐れる筈なのだが、饅頭の旨さを知った2人は臆さず口に入れる。

 

(この餡子、柔らかい粒が噛まれる度に甘みと共に爆発して、口全体に伝わる!)

 

(だけど優しくて味わいやすい…まるで柔らかくなったチーズ!)

 

「これは海に住む『粒鮟鱇』の『提灯餡子』です」

 

美味い、2人が味わったことの無い甘み。2人は目を瞑り、一生懸命味わった。

ゆっくりと、大量の唾と共に飲み込む。

 

「…ふぅ」

 

思わず溜息を吐いてしまう。味わっていることに体力を使ったのだ。

 

「…美味しいよいっくん!こんなの食べたこと無い!」

 

「はい、とても感動しました」

 

「でしょでしょ〜にひひ」

 

一夏は子供のように喜ぶ。

 

「ところで束さん、千冬姉さんは今何しているの?」

 

「IS学園の教師だよ!」

 

「へぇ〜姉さんが教師…」

 

「そこに…何と春君も通っているんだよ!」

 

「ええ!?ISって女性しか操縦できないんじゃ…」

 

「だけど春君はできるんだよ〜これについてはこの私でも分からないや」

 

「へぇ〜」

 

自分の家族達の現状に一夏は軽く驚く。

あの生活感皆無の姉に教師が務まるとは思わないし、兄は女しか動かせない物を動かすし。

 

「そうだ!もしかしたらいっくんも動かせるかも!」

 

「ええ!?」

 

「可能性はありますね。一夏様のお兄様が動かせるのなら」

 

「そこにあるIS触ってみてよ!」

 

束が指さした方向には、まだ開発中のISがあった。

 

「そう言われると…じゃあ」

 

一夏はISにゆっくり近づく。

そして、そっと触れた——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景色が一変する。そこは何も無い黒い空間だった。そして自分は全裸。

何度か来たことがある。この空間は…

 

「ここは…!?」

 

「お前…中々面白い物を見つけたな」

 

後ろから声がする。そこには、赤色の肌を持った悪魔がいた。

髪の毛は漆黒の如く黒に染まっており、肩からは大きな棘が生えている。

両手両足の爪はトラのように伸びており、目も耳も鋭く尖っている。

 

「お前は…!」

 

「この機械は…俺達『食欲』の力を具現化できるらしい…グルメ細胞が馴染んでいる…!」

 

「…グルメ細胞が?」

 

「だが…こいつにはあるべき物…意思が無い。これは偶然か?」

 

「どういうことだ?」

 

一夏は悪魔に質問を繰り返す。

 

「例えば…食材が食運を持つ者に引き寄せられるように…俺達はこいつに引き寄せられたのかもしれん」

 

「…」

 

「俺達は選ばれたんだ…この機械に」

 

「…だから?」

 

「一夏、こいつを使え。この機械は、俺とお前を繋げる物だ」

 

「繋げる物?」

 

「もしかしたら…あの男の『フルコース』無しでも、お前は俺の力を使えるかもしれん」

 

「何だって!?」

 

「一夏、これは運命だ。運命の歯車…いや食の歯車が仕込んだ事…お前がグルメ時代の世界にやって来たのも…この世界に戻れて来られたのも…こいつの仕業かもしれん」

 

「…!」

 

「俺の意思は…こいつと一時融合する…お前なら…この俺を…」

 

 

 

 

 

 

 

「…いっくん?」

 

「これは…」

 

一夏が触っているISが、荒々しく反応していた。

 

 

これは運命…食運が巡りもたらした運命!

 

 

 

 




いきなり厨二っぽくなりましたね。この作品に出てくる食材は殆ど自分で考えようかなと思っています。


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グルメ2 襲撃!

織斑春十のストーリーは軽く冒頭で説明します。だって全部書くのはめんd(ゲフンゲフン)


織斑姉弟は、長女の千冬、次男に一夏、そして長男には春十(はると)がいた。

春十はスポーツが大好きで、中学に上がった後もサッカーをしていた。

姉のことを尊敬しており、弟は大切な存在としてずっと守っていこうと思っていたが…

一夏が誘拐され、行方不明となった。

春十は悲しみ、そして憎んだ。

弟を誘拐した奴と、それに対し何も出来なかった自分を。

その時流した涙の意味は、弟を失った悲しみと自分への絶望。

自分は弟を救えなかった。姉も同じ事を思っているはず。

春十は、せめて姉だけは自分が支えようと思い、就職率の高い高校へと受験する筈が、間違えてIS学園の入試会場に入ってしまい、そこでISを動かしてしまったのだ。

 

 

春十は学園で数年ぶりに幼馴染みの箒と再会した。

春十と箒は一夏のことを悲しみ、これからはあいつの分も生きようと決意する。

イギリス代表候補生のセシリアと口論じみたことになったが、無事和解する。

その際好意を向けられるようになったが、春十はそれに気付かない。

次は鈴とも再会した。鈴は春十がIS学園に入学したことを知ると中国代表候補生として入学したのだ。

 

 

「久しぶりだな——鈴」

 

「うん……一夏の葬式以来よね」

 

春十と鈴は気まずそうに屋上で話し合う。

前回再開したのは、一夏が死亡認定された後の葬式でである。

鈴は勿論、春十と箒も泣いていた。しかし千冬は泣かなかった。弟の死を悲しんでいないわけではない。あまりの絶望に涙すら出なかったのだろう。

 

「それにしても驚いたわよ…まさかアンタがIS動かすなんて」

 

「僕も驚いたさ、お前が中国代表候補生なんて…」

 

「それどころかクラス代表よ、アンタもそうだったっけ?」

 

「ああ、お前と同じ専用機持ちだ。今度のクラス対抗戦…負けねぇぞ」

 

「こっちの台詞よ!首洗って待ってなさい!」

 

いつの間にか2人は笑い合っていた。一夏の死ばかり話しているわけにもいかない。だから次の対戦の話に持ち込んだのだ。

 

 

 

 

『これより、1組代表織斑春十と2組代表凰鈴音の試合を始める!』

 

「行くわよ!春十!」

 

「来い!鈴!」

 

春十の白式、鈴の甲龍(シェンロン)の対決が始まった。

鈴の射撃は春十の刀『雪片弐型』にとって相性最悪であった。逆に白式にはこれしか武装が無いため長距離攻撃の対策は仕様が無い。

 

「くっ…龍砲か…!」

 

「どうしたの春十!これで終わり!?」

 

「まだまだぁ!!」

 

そうして春十が鈴に斬りかかろうとしたその時…

突如としてアリーナの中心から突風が吹く。

 

「きゃっ!?」

 

「何だ!?」

 

やがて黒い光が水を吸うように膨らんで現れた。直径6mぐらいまでのサイズになると、紫色のプラズマが中から飛び散る。

 

 

「これは…?」

 

管制室にいた副担任の山田真耶と担任でもあり織斑家長女の千冬は驚愕していた。

同じ部屋にいた箒とセシリアもだ。

 

「あの黒い光…山田先生、分析してくれ」

 

「はい…!」

 

真耶はパネルを操作して言われた通りにする。しかし…

 

不明(アンノウン)…前例データがありません!」

 

「一体何だというのだ…」

 

 

やがて黒い光に異変が起こる。

中から蛇のように、白い豪腕が出て来た。その次に足、胴体、そして顔。

全身が白い「何か」で覆われた巨人が、アリーナの中心で大きく叫んだ。

 

「なっ!?」

 

「化け物!?」

 

体高5mはありそうなその巨影に誰もが息を呑む。

そして、一人の生徒の悲鳴が合図になり、観客席の生徒が一斉に逃げ始めた。

それだけでは、終わらない。黒い光から、また何かが現れる。

足も無い、手も無い、胴体も無い、首も顔も背も存在しない。棘が隙間無く生えたその黒い球体にあったのは一つ目(モノアイ)のみ。ISと同じ大きさであるそれは、翼も無いのに空中を浮遊する。

2匹目の怪物を出した光は、何事も無かったの如く消えてしまった。

 

「どうなっているんだ一体…」

 

2つの異形が、春十と鈴を見る。すると黒い怪物が二人目掛けてタックルしてきた。

 

「ぐわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

猛スピードのそれは、春十と鈴を地面に落とす。落ちた先には白い怪物。

鈴は彼らを敵と見なし、「双天牙月」という青龍刀で斬るが…

 

「傷一つ付いていない!?」

 

その白い甲殻は、ダイヤのように輝いたままである。

 

「春十…一旦退くわよ」

 

「何言ってんだ!まだ避難は完了してないんだぞ!」

 

「だけど私じゃこいつらには勝てない!アンタでもね…」

 

「そんな…だけど!」

 

『二人とも、至急避難して下さい!』

 

真耶から通信が入ってくる。

 

『今教員達がそちらに向かっています!だから…』

 

「待って下さい先生!俺達は戦います!」

 

『えぇ!?』

 

「はぁっ!?」

 

鈴と真耶、そして通信の向こう側にいるセシリアと箒も驚く。

 

「今教員達を待っていても間に合いません!俺達が時間を稼ぎます!」

 

『だけど…』

 

「はぁ…仕方ないわね、付き合ってあげる、春十」

 

『凰さん!?』

 

『織斑、凰、できるか?』

 

千冬が通信に割り込んできた。

 

「ああ!任しとけ千冬姉!」

 

『織斑先生だ馬鹿者…任せたぞ』

 

「「はいっ!!」」

 

 

 

 

「大変だよ!いっくん!IS学園が怪物に襲われてる!」

 

「何だって!?」

 

束のラボでは、一夏と束がカメラでその光景を見ていた。

 

「あいつらは…!」

 

「やっぱいっくんがいた世界の生き物…?」

 

「はい!…例えISでも勝てません…」

 

「嘘…」

 

束は絶句する。まさかISを超える物…兵器では無く生物がいるとは思わなかったからだ。

 

「束さん…俺、行きます」

 

「うん!そう言うと思ってもう準備はしてあるよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

一夏は走り出して、先日自分が動かした赤いISの前に立つ。

 

「頼むぞ…食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)!」

 

ああ、任しとけ。

 

そんな声が、聞こえたような気がした。

 

 

 

「くっ…歯が立たない…!」

 

「何なのよ…ISの武装が通じていないなんて…」

 

春十と鈴は2匹の怪物に苦戦…というより圧倒的に押されていた。

最強の兵器と謳われていたISの武器がまったく効かない…女尊男卑主義者の女性達が見たら泡を吹くだろう。

白い豪腕が振り下ろされる…その時!

 

 

「はっ!!」

 

 

見たことも無い赤いISが、白い怪物を蹴り飛ばした。

操縦者は般若の仮面で鼻から上を隠していたが、その黒い短髪と体格で分かる。こいつは男だと。

 

「お、俺以外の男性操縦者…!?」

 

「あんた…何者!?」

 

一夏は、数年ぶりに兄と幼馴染みの顔を見る。

感動した。元気そうで何よりだ。涙まで流しそうになった。

姉もいるんだろうか、顔を…見てみたい。

だが、そんなことをしている時間は無い。

 

「逃げろ…」

 

「えっ?」

 

聞いたことがある。自分は、春十は、鈴は、この声を。

海馬を探るが顔を隠している仮面で上手く思い出せない。

一夏は、2人に背を向け、怪物へと立ち向かった。

 

 

 

「こいつらは…」

 

この怪物達を自分は知っていた。

 

 

ゴーレ餅 〈甲殻魔獣類〉 捕獲レベル67

 

ウニUFO 〈棘皮動物獣類〉 捕獲レベル52

 

 

「角餅を甲殻として纏う巨人に…宇宙から飛来してきたと言われるウニか」

 

そう口にすると、涎が垂れてきた。

 

「今日のおやつと晩ご飯は…お前らに決まりだ!」

 

長刀を握りしめ、怪物達に向かって走り出す。

料理の時間が、今始まる——

 




ウニに類って言葉は無くウニ網と言うので、棘皮動物獣類という枠に収めました。こういう生物の知識はあまり詳しくないのでご意見や指摘をしてくれると大変有り難いです。是非ともお願いします。


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グルメ3 調理!

ゴーレ餅とウニUFOとの対決です。


一夏とゴーレ餅が対峙する。ISを纏った人間と比較してもその巨大感は失われない。角餅の兜の隙間から赤い目で一夏を睨んだ。

 

ゴーレ餅、その知能は猿と同格であり、普段は群れで生息している。角餅の鎧は周期的に自然発生するもので、ゴーレ餅はその餅の状態を自由に操れる。

10〜15頭の群れの中で一番固い餅を作れる者が群れのリーダーとなる。捕獲レベル67の猛獣が10頭以上に固まって動いているので出くわしたら命が無いと言われている。

 

その隣にいたウニUFOは一夏の周りをずっと周回していた。しかしその眼の先は決して動かない。

 

ウニUFOは元々宇宙で生息する生物であり、こいつも基本群れで生息している。しかしその数はゴーレ餅とは比較にならないもので、100匹以上の群体である。

群れの中で弱い奴は爪はじきにされ、群れから追い出される。地球上で確認されるウニUFOはそんな個体が大昔に飛来して繁殖したものだと言われている。

捕獲レベル52、しかし群れから追い出されなかった個体の捕獲レベルはその数十倍だという噂も。

 

どちらも人間界の猛獣としては中々の強敵である。しかしその分味は美味であるのは確か。

一夏は剣を…いや包丁を握りしめた。

右手には黒い包丁『黒星(くろぼし)』、左手には白い包丁『白海(しらうみ)』、2本とも刀のように長く、まさしくその姿は二刀流であった。

ちなみにこの包丁は元々一夏が使っていた物をIS用として再現した物であった。

 

「さっ…クッキングタイムだ!」

 

そう言って一夏はゴーレ餅に向かって走り出す。それに対してゴーレ餅は白い豪腕で殴ってきた。しかし一夏がそれを飛んで避けた為その拳は地面に突き刺さった。

ある程度地面から離れるとウニUFOが後ろに回った。体中の黒い棘をミサイルのように一夏へと飛ばした。

 

「はっ!」

 

それを2本の包丁で弾く一夏。ウニUFOが発射した分の棘はまた生えてきた。

今度は縦に回転して一夏に突進してきた。まるで電動丸鋸のように斬りかかってきたのでそれをシールドで防ぐ。しかしその勢いは止められず、地面に叩き落とされてしまった。

地面に着地すると、再びゴーレ餅が襲いかかってくる。大きな手で捕まえようとしてきた。

それに対し黒星を当てたが、火花が散っただけでその甲殻に傷は付いていない。

 

(ちっ…刃は通らないか!)

 

一夏はゴーレ餅から離れる。するとゴーレ餅は自分の肩の角餅を剥ぎ取り、それを投げつけてきた。

 

「なっ——!?」

 

大砲の弾のように向かってくる角餅を2本の包丁を重ねて受け止める。しかしその威力に負け、体勢を崩し地面に転がってしまう。

ウニUFOは一夏を休ませないためか、仰向けになった彼に対し棘を発射する。

 

「うおっ!?」

 

次々に放たれる棘をギリギリ避け続け、何とか立ち上がる。

そして一夏はウニUFOへと斬りかかった。

 

「お前の弱点は…目だ!」

 

そして包丁2本をウニUFOの目に突き刺す。ウニUFOは悲鳴をあげるが、一夏はお構いなし。

黒星を上へ、白海を下へと斬り、ウニUFOを見事斬り倒した。

絶命したウニUFOは地面へと墜落する。

 

「中身が傷ついてなきゃ良いんだが…」

 

 

 

「凄い!黒いのを倒したぞ!」

 

春十と鈴は遠目から一夏の強さに驚いていた。歯が立たなかった1匹をあの男は一人で倒したのだから。

 

「何よあの強さ…化け物じゃない!」

 

「残るは…あの白い奴だけか!」

 

ゴーレ餅は一夏に向けて投石…というより投餅をしている。こちらには目もくれてない。

ここで春十は思いつく。

 

「鈴!今のうちに龍砲をあいつに撃てば…!」

 

「!!、そうね!」

 

すると鈴は言われた通り龍砲を撃つ。一寸の狂いも無くゴーレ餅へと向かったが…

 

「!!」

 

鈴の龍砲に気付いたゴーレ餅は突然体を震わせる。すると体表を覆っていた角餅が膨らんだ。

 

「「なっ!?」」

 

膨らんだ角餅は龍砲を受け止め、鈴と春十へとはね返す。

 

「しまっ——!」

 

二人が龍砲に当たりそうになると、一夏が前に出て白海で龍砲を掻き消した。

 

「あんた…!」

 

二人は一夏が助けてくれた事に驚く。元々敵か味方が分からないので警戒をしていたが、敵意は無いのだろうか?ちなみに一夏は別のことを考えていた。

 

(あれがゴーレ餅の膨張!シバリングで熱を起こし、餅の鎧を膨らませて弾をはね返す!)

 

シバリングとは身震いによる体温調節を行う生理現象。寒いときに口がガタガタ震えることや、小便をすると体が震えるのもシバリングである。体温の低下を防ぐための行い。ゴーレ餅はそれを意図的に発動して餅の鎧を膨らませて鈴の龍砲をはね返したのだ。

しかし、それが弱点でもある。

餅を膨らませることによってその強度は薄くなり、攻撃のチャンスが増えるのだ。

 

(次で…一気に決める!その為には…!)

 

すると一夏は二人を見る。二人はそれに対しビクッとなった。

 

「二人とも…あいつを倒すために力を貸してくれないか?」

 

「「…えっ?」」

 

 

 

 

鈴は、ゴーレ餅を周回しながら龍砲を撃ちまくった。ゴーレ餅はそれを膨張した餅で一つ残らずはね返す。

そして一夏と春十は、剣と包丁を構えていた。

 

(作戦は…ゴーレ餅が甲殻を膨らませてる時に…春十兄と一緒に一刀両断する!)

 

そして、ゴーレ餅が隙を見せた瞬間…

 

「「行くぞっ!!」」

 

二人は一斉に飛び掛かった。

春十は白式の雪片弐型を、そして一夏は黒星と白海を構えて、

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「二星微塵切り!!」

 

「はっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

春十の剣は餅を斬り、一夏の包丁は、全ての餅を微塵切りにした。

微塵切りにされた餅は、一般的な角餅のサイズに切り落とされている。

ゴーレ餅は素っ裸になり、それが屈辱となったのか、大激怒である。

 

「こいつ…まだ生きているのか!」

 

そう言って再び剣を構える春十だが、一夏がそれを止める。

 

「!?」

 

「殺す必要は無い、俺に任せてくれ」

 

すると一夏はISを解除し、ゴーレ餅に近づく。

 

「お、おい!?」

 

 

 

ゴーレ餅は怒りの中、一夏を目で捉える。

こいつが、こいつがこんな事を!

鎧で隠されていた大きな口に、鋭い牙。それらを剥き出しにして一夏に襲いかかるが…

 

 

 

 

「食い殺すぞ…餅製造機が…!!」

 

 

 

 

その後ろに映ったのは、赤色の悪魔、涎を垂らし、牙を見せ、尖った爪をこちらに差し向ける。

その瞬間、ゴーレ餅は、自分が無残に食い殺されるビジョンを見た。

爪で体中に穴を開けられ、牙で食い破られ、その長い舌で眼球を転がされてる姿を——

 

 

 

一夏はゴーレ餅の後ろに向こう側の世界へと繋ぐ光を作りだし、威嚇で強制的に元の世界へと帰らせた。

全てが何も無かったかのように静かになる。

 

「…すげぇ」

 

春十と鈴は、ただ震えていた。

2匹の怪物にではなく、一夏の後ろに見えた「それ」に対して。

 

『…織斑、凰』

 

ここで千冬から通信が入る。

その声は、驚きの色が混じっている。

 

『その男を…確保しろ』

 

静かにそう言ったが、鈴は首を振る。

 

「無理ですよ…あんな怪物…殺されますよ!」

 

『…そうか』

 

千冬は無理強いはしなかった。自分でもあの相手は無理だと分かっていたからだ。

一夏は切り落とされた角餅を全て袋に入れて回収する。

次にウニUFOの亡骸へと近づき、中から大量に採れた山吹色の身を、大型グルメケースに入れた。

そしてアリーナにいた人達に一礼をして、その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様いっくん!」

 

「はぁ…疲れました」

 

束のラボに到着すると、溜息を吐く。

そして直ぐにエプロンをつけた。

 

「待っていて下さい!今すぐ美味しいご飯を作ります!」

 

「大丈夫?少し休んだ方が良いんじゃない?」

 

「全然大丈夫です!」

 

そうして、厨房に立った。

 

 

 

 

「お待たせしました!食べてみて下さい!」

 

大量の料理が机に並べられた。どれも全て美味しそうだ。

 

「じゃあ!いただきまーす!!」

 

束は嬉しそうに、まずはウニの軍艦巻きを頬張った。

 

(ん…!このウニ、プリンのように柔らかくそして甘い!)

 

目を閉じ、その味を堪能する。

 

(それにこの海苔がとてもパリパリしていて、ウニの食感を面白く変えている…たまらない!)

 

「『ウニUFOの身』、そして『羽衣海苔』を使いました」

 

「一夏様、私も食べてよろしいでしょうか?」

 

クロエはもう待ちきれないという表情をしていた。それに対し笑みで答える。

 

「どうぞ遠慮無く!」

 

そしてきな粉餅を口に入れた。

 

(この餅の感触…必要以上の粘りけが無い…そのまま飲み込んでも喉に詰まらないでしょう…!そしてきな粉の香ばしい香りと甘みが餅の中に入っている…!)

 

「『ゴーレ餅の餅』に『金箔きな粉』を掛けました」

 

「美味しい…とても美味しいです!」

 

「うんうん!やっぱりいっくんは天才だね!」

 

「へへ…そう言われると恥ずかしいです」

 

一夏は照れくさそうに鼻下を擦る。

 

「あ、そうだ束さん、1回向こうの世界に戻りますね。すぐに帰ってきますから」

 

「すぐに帰ってくるならいいよ〜!」

 

 

 

 

 

「何!?我々と同じ技術が!?」

 

グルメ時代の世界で、一夏はマンサムとリンにIS世界で起きた事件を報告していた。

 

「はい、本来向こうの世界にいない筈のゴーレ餅とウニUFOが黒い光によってやって来ました」

 

「むむ…何故そんな猛獣が…」

 

「俺は向こうの世界でまだ調査を続けてみます」

 

「分かった…頼むぞ一夏!」

 

「はいっ!」

 

「一夏君!帰る前にリンカと会って行くし!あの子最近アンタと会えなくて捻くれてるから…」

 

「分かってますって」

 

 

 

 

 

「あらあら…あの2匹がやられちゃうなんて…」

 

IS側の世界にて、その女性がそう呟く。彼女の後ろには、グルメ世界へと帰って行った筈のゴーレ餅が気絶してそこにいた。

 

「まぁいいわ…次の猛獣を送りましょう」

 

彼女はパチンと指を鳴らすと、大きな足音が鳴り響く。それで起きたゴーレ餅はここはどこだとキョロキョロしていたが…

 

自分を食おうとしている大きな嘴が、最後の光景だった。

 

 




グルメ3終わりです。鈴とリンがややこしい。


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グルメ4 織斑姉弟の怒り!

今回は一気に学年別トーナメントまで行きます。


「分析結果…終わりました」

 

「ご苦労、何か分かったことは?」

 

千冬と真耶は、地下50mにある秘密の空間にいる。

2人の前には、皮だけとなったウニUFOの死骸が台の上に置かれていた。

 

「これの正体は分かりませんが…分かったことは二つあります」

 

ここで真耶は指を2本立てる。

 

「まず、この生物の遺伝子配列はウニに酷似していること」

 

「ウニ…?」

 

「海で採れてトゲトゲの奴です。今見るとそのまんまウニですよね」

 

と言っても普通のウニはこんなにデカくないし目も付いてないし空も飛ばない。自分達が知っているウニの常識から遠く離れている生き物だった。

 

「そして…この生物はあり得ない程の極寒や極暑状態でも生息でき、尚且つ真空空間でも生きていけると予想されます」

 

「…まさか」

 

「非常に信じられないですが…このウニさんは恐らく宇宙生物かと」

 

「宇宙生物か…確かに信じられん」

 

「全くです。それ以外のことは分からないことだらけです」

 

「わかった。それであのISの事は?」

 

「あ、はい!」

 

真耶がディスプレイに、正体不明機の映像や画像を出した。

 

「所属不明で、登録されていないコアでした」

 

「…そうか」

 

ISのコアは全部で467しかない。つまりISは世界で467機しか無いということだ。

しかしこの正体不明機は468番目であった。

 

「そして操縦者なんですが…言動や声色での判断では浅いので動きや心拍数などを調べてみると…約92%の確立で男性かと」

 

「世界で2番目の男性操縦者というわけか」

 

「これ…どうやって政府に報告します?」

 

「このウニ擬きの奴は曖昧でいい。『侵入してきた未確認生物2体を正体不明ISが倒した』でいいだろう」

 

「はい!わかりました!」

 

こうしてあの事件の事は政府を通し、世間に知れ渡る。

そして一夏の食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)は、通称「血まみれ」と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

「美味し〜!」

 

ラボにて、束が美味しそうにステーキを頬張っていた。

一夏はそれを見ている。

 

「どうですか?『霧隠れ牛』の肉に『星露ニンニク』を使ったガーリックステーキは」

 

「最高だよ!ニンニクの辛みが肉の味と舌の状態を上げていてとても良い!」

 

「ありがとうございます!」

 

「それにしても『血まみれ』か〜何だか物騒な名前だね」

 

「そうですかね?気に入ってますよ僕は」

 

「でもでも、折角助けてやったのに悪者みたいでさ〜」

 

この調子で束はさっきからジタバタしている。

 

「仕方ないですよ、世間側から見れば敵か味方かも分かりませんから」

 

「だけどだけど〜!」ジタバタ

 

「それで束さん、頼んどいたあれ分かりましたか?」

 

「それが全く分からないの!」

 

そして束は画面に向き直す。

そこには2匹の猛獣を連れてきた黒い光の映像が映し出されていた。

 

「いっくんと同じ装置を使ってるってのは分かるんだけど…発信源や向こう側がサッパリ」

 

「ですよね、それはIGOでも分かりませんでした」

 

「次見かけたとき入れば?」

 

「そうですね〜それが正体が分かる唯一の策ですよね」

 

「あ〜も〜!分かんないことだらけで束さんイライラする〜!」

 

「まぁまぁ、他にも作ってあげますから機嫌直して下さい」

 

「わーい!」

 

こうして束のグルメは続く。

 

 

 

 

IS学園側では、転校生が2人やってきた。

 

「シャルル・デュノアです。宜しくお願いします」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

フランスからやって来た男性操縦者、そしてドイツからやって来た軍人であった。

ラウラは来て早々、春十の頬を引っぱたく。

 

「!?」

 

「私は認めない…貴様があの人の弟など!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬を尊敬していた。しかしその弟は憎んでいた。

あの人の弟なのに何も出来なくて足枷になっているといった、個人的な物だが。

 

 

 

この後シャルルと春十は同室になるが、そこで驚くべき真実が発覚する。

 

「えっ…女!?」

 

「あっ…」///

 

シャルル・デュノアの正体は女で、本名は「シャルロット・デュノア」というらしい。

デュノア社の社長が父であり、母はその本妻…ではなく浮気相手であった。

優しくしてくれた母が亡くなった後、父の所へ強制的に行かされ、IS適合率が高かったために春十の白式、「血まみれ」のデータを得るために男として編入してきたのだ。

しかし、IS学園の特記事項を利用し、自分の居場所を作ったのは春十だった。

 

「これから三年間、自分の居場所を探そう」

 

「ありがとう…春十」

 

こうしてシャルル改めシャルと親密になる春十。

しかし、全てが上手くいくわけではない。

 

 

 

「くっ…!?」

 

「どうした!?この程度か!」

 

ラウラの「シュヴァルツェア・レーゲン」と対峙する春十。

彼女は鈴とセシリアを傷つけた。春十はそれに対し怒り、アリーナでの私闘となったのだ。

しかし春十の実力ではラウラに及ばない。実力はハッキリしていた。

ここでラウラは、火に油を注ぐ。

 

「どうやらお前や教官にはもう一人の弟がいたらしいな」

 

「!!…それがどうした!?」

 

「モンド・グロッソの時に誘拐されたが…教官はそれを見捨てた。当然だ、誘拐されるような弱い弟はあの人に必要ないからな」

 

「何だと…!!!」

 

この言葉で、春十は更に怒り始める。

 

「千冬姉は一夏を見捨ててなんかいねぇ!!誘拐の情報を大会側から伝えられてなかっただけだ!」

 

「それでもその一夏という奴は…弱い!」

 

「これ以上…一夏(おとうと)を馬鹿にすんなっーーーー!!!」

 

春十の雪片弐型がラウラを斬る。怒りの一撃により、ラウラは大きく蹌踉めいた。

 

「貴様…雑魚の癖に!」

 

「一夏を侮辱する奴は…俺が許さん!」

 

こうして二人の争いは続くと思われたが…

 

「やめんか馬鹿共」

 

織斑千冬が割って出てきた。

そして決着をつけるなら学年別トーナメントでしろ、それまで私闘は禁ずる、と決めた。

 

「教官がそう仰るなら…」

 

「ボーデヴィッヒ、私も織斑と同じ意見だ」

 

「えっ——?」

 

「二度と一夏(おとうと)を貶すな。私は生徒に手を出したくない…!」

 

「…はい」

 

怒ったのが千冬だったのが効いたのか、ラウラは悔しそうにその場を立ち去る。

 

(何故だ、何故教官は弱い弟達を庇う…?)

 

 

 

こうしてやってきた学年別トーナメント。春十はシャルと組み、打倒ラウラと興奮していた。

運が良いのか悪いのか、初戦でラウラ&箒ペアに当たる。

 

「1戦目で当たるとはな、待つ手間が省けたという物だ」

 

「そりゃ何よりだ」

 

ここで春十は刀をラウラに向け、大きく叫んだ。

 

「ここでお前に勝って、一夏を侮辱したことを謝らせてやる!!」

 

「面白い…できるものならやってみろ…」

 

 

 

 

 

「「叩き潰す!!」」

 

 

 

 

個人対戦での春十対ラウラは、圧倒的な実力差によりラウラが圧勝だった。しかし今回はペアでの対戦。ラウラは箒のことなど無視して春十へと向かう。しかし春十にはシャルがいる。

 

「春十!行くよ!」

 

「ああ!」

 

シャルは箒を倒し、ラウラと春十の戦いに加入する。

シャルは銃でラウラの動きを妨害した。時に春十の後ろへ隠れ、時に背後から撃ち、あらゆる手段でラウラの注意から離れる。

そして、春十は「シュヴァルツェア・レーゲン」が搭載した「AIC(停止結界)」の弱点を見つける。

 

「忘れたのか?俺達は2人だぜ!」

 

「なっ!?」

 

それは停止させている物に意識を集中させていないと効果が維持できず、意識外からの攻撃には弱い。つまり複数との戦闘はAICにとっての天敵だった。

 

「これで終わりだぁーーーー!!!」

 

そう言って春十が刀をラウラに振りかざそうとしたその時…

 

 

「「「「!!??」」」」

 

 

黒い光が、また咲いた。

 

それを見て、春十、箒、別室にいる真耶、千冬、観客席にいたセシリアと鈴、そして一部の生徒がそれを見て悪寒を感じ取る。

恐怖が心の中を染めていく。前回も見たことあるその光は、風船のように膨らんでいく。

そのサイズは、前のと比べて数倍。明らかに異常だった。

そしてそこから出て来たのは…巨大な足。

長さ数mはありそうな足が2本現れ、胴体、腕、羽も出てくる。

最後に出たのが太い首に大きな顔。しかし、どの部分も統一感が全くなかった。

頭は立派な鶏冠を生やした鶏。手足は虎柄の豪腕豪脚。胴体は狸。そして尾は恐ろしい蛇であった。

人間のように振る舞うその鶏は、体長15mはありそうだ。

筋肉と脂肪で膨らんだ胴と四肢、赤く光る眼。何もかもが威圧感を出す物。

 

 

 

鵺コッコ 〈幻獣類〉 捕獲レベル85

 

 

鵺コッコは大きく鳴く。それと同時に、沢山の生徒も悲鳴を上げ始めた。

 

 




いくら何でも展開が早いですかね?春十の話を略しすぎたかなと反省。


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グルメ5 ラウラの暴走!

最近飯食うときトリコの食材のことしか考えていない。何か指摘あればお願いします。


アリーナの中で、鵺コッコが巨体を揺らす。

足踏みで地面を揺らし、鳴き声で空気を振動させる。

観客席がパニック状態だ。

 

「こないだの奴の仲間か…?」

 

春十は前に来たゴーレ餅やウニUFOと同格の存在と確信する。

しかし今回の猛獣はその比較にはならない。

鵺コッコの赤い瞳が春十を捉える。

そしてその足で蹴り飛ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

バリアにぶつかる春十。攻撃力もその見た目に負けていない。

鵺コッコは興奮状態になっており、目に映る全てに攻撃をしていた。

 

「くっ…例の未確認生物か…」

 

ラウラは遠くから鵺コッコを見ている。そしてプラズマ手刀で斬りかかる。

 

「邪魔を——するな!」

 

その広い翼を切り落とそうとしたがハエでも叩くかの如く地面に叩きつけられた。

そして地面に這いつくばるラウラを鵺コッコは踏みつける。

 

「ぐああああああああ!!!」

 

何度も踏み、擦り、そして蹴り飛ばした。

蹴られた空を舞うラウラを大きな両手で掴み強く握る。

 

「ぐがっつ!?」

 

そして端まで移動すると、アリーナのバリアに自分の拳ごと何度も打ち付けた。

 

「やめろおおおおおおおおお!!!」

 

見るに堪えなくなったのか、春十が雪片弐型を振ろうとするが、尾の蛇がそれを妨害した。

鵺コッコは尾の蛇を鞭のように操り、春十を吹っ飛ばす。

 

「うぎゃあ!?」

 

やがてラウラを虐めるのは飽きたのか、彼女をゴミのように放り投げる。

ここでシャルがマシンガン射撃を鵺コッコに撃つ。

すると鵺コッコは両翼で空を飛び、弾丸を避けた。

 

「速い!?」

 

その体格には似合わないスピードでシャルの周囲を飛びかう。まるで分身しているかのように残像が残っている。

そして嘴で突き、地面に落とす。

シャルとの戦闘後なので上手く動けない箒、そんな彼女を鵺コッコは狙う。

 

「逃げろ!箒!」

 

ダメージを負っていたので逃げることが出来ず、鵺コッコの攻撃を受ける…その時だった。

何者かがバリアを破壊して箒を救出する。

お姫様だっこをして、そのまま鵺コッコから距離を取ったのは…

 

「あれは…!」

 

「『血まみれ』!」

 

仮面を付けてISを起動した一夏であった。

一夏はそっと箒を降ろし、鵺コッコに立ち向かう。

 

(鵺コッコ…また捕獲レベルが高いのが…)

 

黒星と白海の二刀を構えて、お互いに睨み合う。

どちらも一歩も引かずに、ただ時が流れる。

 

(どれどれ…これならどうだ!)

 

ここで一夏は力を込め、怒号を上げる。

すると背後にはグルメ細胞の悪魔のビジョンが現れるが、鵺コッコの様子は変わらない。それどころか悪魔にも鋭い目を向けていた。

 

(俺の威嚇に怯えず…か!)

 

そして包丁を握りしめ、食材に向かった。

まずは胴体を斬ろうとするが、さっきシャルに見せたスピードで後ろに回られた。

鵺コッコの拳を受け流す。そして首元目掛けて加速した。

そのまま首を切断しようと思ったが、鵺コッコの嘴内が光っているのを見て急旋回して距離を取った。

鵺コッコは口から光線を吐き出し、前方を焼き払う。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!竜巻微塵切り!!」

 

一夏は遠くで2本の包丁を回転させ、竜巻のような斬撃を鵺コッコに沢山放つ。

しかし全て飛んで避けられてしまった。

 

(図体のわりに馬鹿みたいに速く動きやがって…!)

 

ここで一夏は考える。このまま近接武器で挑んでも相手の攻撃範囲内に潜るだけ。むしろ危険ということに気付いた。

 

(ここは、束さんが作ってくれた新しい武器を使うか!)

 

一夏は新しい武装を展開する。それはスナイパーライフル型の遠距離武器。

名付けて調味砲(スパイスレーザー)食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)にとって初の射撃武器だった。

すると懐から透明なカプセルを取り出す。中には赤い粉末が入っており、そのカプセルを銃に取り付けた。

 

(閻魔七味——!)

 

そしてレーザーを放つ。最初こそ当たりもしなかったが、数発目で鵺コッコの右翼に命中する。

 

「コケコッ!?」

 

被弾した部分から煙と熱が吹き出す。翼は先程の銃で貫通されていた。

まるで火が通ったかの如く、散った羽は溶けている。

 

(この銃はカプセル内の調味料をビームの特徴として出す物…流石は束さんだ!)

 

元々一夏も断られる覚悟で頼んだが、見事用意してくれた。あの天才の頭脳が恐ろしい。

先程一夏が使ったのは閻魔七味という世界でも指折りの辛さを持つ七味。ハバネロの数倍の刺激と危険性を持つこの七味は、正しく処置をしないと食した者を死に至らせる「超特殊調理食材」であった。

一夏は敢えてこれを処置せずに所持。そしてそれを武器として使った。あまりの辛さによる高温で対象を溶かすレーザー砲だ。

翼を撃ち抜かれた為、上手く飛べなくなる鵺コッコ。

 

(よし、動きが鈍くなった)

 

再び包丁を構え、鵺コッコに向かったが…

 

「はああああああ!!!」ザンッ!!

 

「なっ!?」ガキンッ!!

 

急にラウラが一夏に斬りかかってきたのだ。

 

「話は聞いているぞ『血まみれ』…先日の猛獣も貴様が呼んだのではないかと疑っている!」

 

「…だとしても俺が倒してるぞ。自分で呼んでおいてそんな事しない」

 

「どうだかな…自作自演で英雄気取りかもしれん!」

 

ラウラの斬撃はより激しくなる。しかし一夏はそれを全て包丁で受け流している。

力も性能も差がある。その事を認めたくないのかラウラの攻撃はどんどん荒れている。

 

「貴様!何者だ!」

 

「ただの料理人だよ」

 

「ふざけるなあああああああああああ!!!」

 

いつまでも相手をしていられない。そう思い新しいカプセルを取り出す。

 

(砂海の胡椒——!)

 

そしてそれを銃にセットした。

至近距離でレーザーを放つ一夏。ラウラはそれに直撃し、地面に墜落する。

 

「貴様…舐めた真似を…くしゅん!何をした…くしゅん!」

 

急にクシャミが嵐のように出るラウラ。

先程一夏が銃撃に使ったのは「砂海の胡椒」、とある砂漠にあるその天然胡椒は、一度体内に入るとクシャミが止まらなくなる厄介な代物。

 

「すまんな、今お前の相手をしている暇は無い」

 

そう言って一夏はラウラを視線から外す。

屈辱だ。相手にならない、されない。

今まで自分が信じていた力が泡のように消えていくのを感じるしか無かった。

 

 

 

 

(力が…欲しい!)

 

願うか…汝、より強い力を…

 

(寄越せ力を…比類なき最強を!!)

 

 

 

 

ここでラウラに異変が起きる。プラズマを放ち、蒼く光り始めた。

 

「なっ…!?」

 

「あああああああああああああああああああああ!!!???」

 

そしてシュヴァルツェア・レーゲンの装甲がヘドロのような状態になり、ラウラを包み込む。

粘土のように形作り、やがて大きな人型になった。

手先には、同様に刀が作られていく。その形状に対し周りは何も思わなかったが一夏と春十はいち早く気付く。

 

(あれは…雪片か!?)

 

(何だあいつ…千冬姉とまったく同じ!?)

 

ついには巨人のようになったラウラは、辺りを見渡す。

 

「次から次へと…嫌になっちゃうね!」

 

ここでシャルがラウラに銃を向けるが…

 

「俺がやる」

 

「えっ?」

 

怒りの表情をした春十が刀を向ける。それに答えるようにラウラが跳びかかった。

春十は相手の刀をこちらの刀で受け止める。しかし圧倒的力で弾かれてしまった。

 

「なっ…!?」

 

そしてラウラの雪片が春十に振り下ろされるその瞬間…

 

 

「春十兄!!!」

 

 

咄嗟に一夏が春十を押し出し、代わりにラウラの一撃を受けた。

その衝撃で吹っ飛ばされ、壁に激突する一夏。シールドエネルギーが尽き、ISが解除された。

 

「血まみれ!?」

 

春十は自分を庇ってくれた事を驚く。

 

「大丈夫春十!?」

 

「あ、ああ」

 

そしてシャルが春十を保護した。

 

 

 

 

 

 

「…」

 

一夏は頭から血を流し、生身の状態で気絶している。

その意識は、暗黒の中にいた。

 

「ここは…」

 

そうだ。ここがどこだか思い出した。

今までだって来たことがある。この空間は——

 

「…!?」

 

汚い咀嚼音が耳に入る。出所は分かっていた。

目の前にいる「悪魔」…悪魔が一夏(じぶん)を食っているのだ。

皮膚を食い破り、内蔵を味わって、一滴も溢さず血を啜っている。

一夏は、ただ一夏(じぶん)悪魔(じぶん)に捕食されているのを、傍観していた。

 

制限時間(タイムリミット)は…5分だ」

 

悪魔が、返り血だらけの顔を見せてそう言った。

 

「急いであの鳥を食え。でなきゃあ…」

 

 

 

一夏(おれ)に食われるぞ

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ…千冬姉を真似やがって…!!」

 

「落ち着け春十!今のお前じゃ勝てん!」

 

春十は暴走しているラウラと戦おうとするが、箒に押さえられていた。

 

「お前がやらなくても良いだろう!今はあの怪物もいるんだぞ!」

 

「…だけど!俺がやりてぇんだ!やらせてくれ!」

 

無理にでもラウラに向かう春十。そこに来たのは…

 

「なら、鶏は俺に任せろ」

 

「なっ!?血まみれ!?」

 

さっきまで気絶していたのが嘘のような一夏であった。

 

「貴様…もうシールドエネルギーが無いのだろう!?何故ISを起動できている!?」

 

箒の言う通り、一夏は一度解除された「食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)」を再び起動して来たのだ。

 

「俺が鶏を倒す。だからお前はその隙にあの千冬ね…織斑千冬擬きを倒してくれ」

 

「……何故そんな事を頼む」

 

「早くあいつを倒さないといけないんだ。あのラウラって奴まで相手にする時間は無い!」

 

「………分かった」

 

「春十!?何を考えているんだ!?」

 

「確かにこいつのことは信用できない。だけど今はそれしか無いんだ!」

 

春十に押される箒。ここでシャルが入ってきた。

 

「やらせてあげよう篠ノ之さん、僕も賛成だよ」

 

「…仕方ない!その代わり…死ぬなよ!絶対にだ!」

 

「ははっ…当たり前だ!」

 

 

 

 

(俺の自食作用(オートファジー)で一時的に手に入れた細胞エネルギーを、悪魔(あいつ)がISを通してシールドエネルギーに変換してくれた!)

 

一夏は再び鵺コッコと対峙する。撃ち抜かれた翼はもう再生されていた。

 

(一気に…終わらせる!)

 

 

 




一夏に武器追加。料理人らしく調味料を武器として使います。


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グルメ6 血まみれの正体!

もうすぐ受験、やけくそです。


自食作用(オートファジー)とは、栄養飢餓状態の生物が自らの細胞内のタンパク質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得ることである。この事について現実世界で発見してノーベル賞を取った者もいる。

一夏はそれ程空腹では無かった。だがISのシールドエネルギーが尽きた状態を「飢餓」と扱われているらしい。

自食作用(オートファジー)はあくまで細胞エネルギーを増大させる手段、ISのシールドエネルギーを増やせない。

そこで食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)に宿っている一夏の「悪魔」がその細胞エネルギーをISのエネルギーに変換、ISと謎の関わりがある「食欲の悪魔」だけが為せる技だった。

しかし自食作用(オートファジー)は餓死に対しての一時的な回避に過ぎない。長時間発動していれば自分自身の細胞を食い尽くして死んでしまうリスクがある。

だから、発動限界時間は…5分!

それまでに鵺コッコを倒して、その肉を食べないと死んでしまうのだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

一夏の包丁と鵺コッコの爪が交じり合う。金属音を鳴らしながら受け止め合っている。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!満月輪切り!!」

 

ここで丸い斬撃を放ち鵺コッコの身体を斬り裂く。赤い血が溢れ出た。

しかし鵺コッコの凄まじいラッシュが一夏を襲った。

 

「ぐあああああああ!!??」

 

地面に叩きつけられる一夏。こうしている間にも時間は迫りつつある。

 

(早くしないと…!)

 

 

 

「この野郎っーー!!」

 

春十は無謀にも暴走状態のラウラに斬りかかるが、弾かれてしまう。

 

「がはっ!?」

 

地面を転がり、白式は解除してしまった。

しかし春十の足は止まらず、ラウラに向かう。

そんな無茶を、箒が止めた。

 

「馬鹿者!何をしている!?死ぬ気か!」

 

「放せ!あいつふざけやがって!ぶっとばしてやる!」

 

春十が目前にいるのに、ラウラは攻撃してこない。

 

 

 

「どうして攻撃してこないんでしょう…?」

 

「武器か攻撃に対して反応する自動プログラムのようなものか」

 

司令室で千冬と真耶が考察していた。

 

「じゃあ…ボーデヴィッヒさんの意識は…?」

 

「…」

 

 

「放せよ箒!邪魔するならお前も——!」

 

「——いい加減にしろ!」

 

ここで乱心状態の春十の頬にビンタを入れる箒。

今の春十こそが暴走していた。

 

「一体何だというのだ!」

 

「あいつ…千冬姉と同じ居合を使いやがる!あの技は俺と一夏が千冬姉から学んだもの…千冬姉だけの技なんだ!」

 

「今のお前に何が出来る!白式のエネルギーも残っていない状態でどう戦う!お前がやらずとも先生方が対処してくれる!」

 

「違うんだ箒!俺がやらなきゃいけない事じゃない、俺がやりたいんだ!」

 

「ならばどうするというのだ!」

 

「エネルギーが無ければ持ってくれば良いんだよ」

 

ここでシャルが近寄る。リヴァイヴからコードを伸ばし、待機状態の白式に繋げる。

 

「リヴァイヴのコアバイパスを解放、エネルギーの流出を許可!」

 

するとコードが金色に光り、白式にどんどんエネルギーが注入されていく。

それが終わると、シャルは人差し指を構えた。

 

「約束して、絶対に負けないって」

 

「ああ…サンキュー!」

 

そして、白式の右腕だけが展開された。その手には雪片弐型が握られている。

 

「零落白夜発動!」

 

ワンオフ・アビリティを発動し、構える春十。ラウラもそれに反応して向きを変える。

 

「行くぜ…偽物野郎!」

 

そして、その腹に一撃入れた。

すると斬り口からラウラが押し出され、春十に保護された。

 

 

 

精神世界の中で、ラウラはゆっくり浮かんでいる。

 

(お前は何故強くあろうとする…?)

 

この場にはいない。見えない人間に質問した。

 

(どうして強い…?)

 

 

強くねぇよ…俺は、全く強くない。

 

 

男の声がした。聞いた事のある声だ。

 

 

俺は弱い人間だよ…大事な弟も守れない弱い男だ。

 

 

だけど俺は強くなりたい…強くなって…これ以上千冬姉や皆に大事なものを失わせたくない。

 

 

(大事な…もの…?)

 

 

ああ、一夏や…お前のことだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 

 

 

ラウラは気を失い、春十の腕の中で眠っていた。

 

「大丈夫か春十!?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

そう言って春十は笑みを見せる。それに対し箒は顔を赤らめた。

ラウラをそっと置き、立ち上がってもう一つの戦いを見た。

 

「…血まみれぇ!!!こっちは大丈夫だ!!思いっきりやってくれ!!」

 

その叫びは、一夏の耳に届く。そして中で響く。

いつの間にか、口角を曲げていた。

そうだ、あれが織斑春十だ。

 

「…俺は世界で最高の兄さんを持ったよ」

 

俺の…自慢の兄だ。

 

 

 

「さて鶏野郎。覚悟は良いか」

 

一度冷静になり、包丁を静かに構える。

その太刀筋は、2本の包丁をより美しく魅せる。

 

「時間も無いんでな…一撃で終わらせる!!」

 

鵺コッコが、何かを察知する。

動物的本能や直感、阿呆の鳥に唯一ある危険察知能力で捉えたのは…命の危機!

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)…」

 

 

 

 

 

 

「高山分け!!!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、鵺コッコの首は、胴体に別れを告げていた。

重い頭が地面に落ちる。

 

「…ふぅ」

 

久しぶりの大技に少し疲れた一夏は、春十の方を見て…

 

「!」

 

サムズアップをした。

それに対し春十も笑顔で返す。

 

「へへっ…!」

 

誰もが安心しきっていた…その時!

 

「うがっ!?」

 

一夏が身体を掴まれ、アリーナのバリアに叩きつけられる。

見てみると、首が無い状態の鵺コッコが自分を襲っていた。

 

「こい…つ…首が…無くても…!」

 

…「首なし鶏マイク」という話がある。

夕食用の鶏が首をはねられた。

しかしその鶏は絶命せず、そのまま歩いたという。

頭部が無いのにも関わらず、羽づくろいや餌をついばむ行為をしたというこの鶏は「マイク」と名付けられた。

しかもこの鳥、その状態で2年近く動いていたという。

このような話は他にもある。どうやら鵺コッコも例外ではないようだ。

鵺コッコの虎腕は、一夏の全身を握りしめる。

 

「うがが…!?」

 

もう時間も無い、体力も無い。絶体絶命である。

 

「…しかた…ねぇ!」

 

一夏も覚悟を決める。そして口を大きく開け…

 

 

「…ガブッ!!」

 

 

自分を掴んでいる腕を…少し噛み千切った。

 

 

 

 

 

気づいた時には、鵺コッコの両腕は切り落とされていた。

 

「…えっ?」

 

その瞬間を見ていた春十達は絶句する。

「血まみれ」が…切り落としたからだ。

現に解放された一夏は包丁を大きく広げている。

 

「…」

 

そして次に、軽く包丁を振ると…

鵺コッコの四肢が切断されていた。

 

「なっ!?」

 

流石にこれでは生きられない。鵺コッコの身体は完全に絶命する。

何が起きたか周りは理解できない。しかし一夏は理解していた。

 

(進化した…!俺のグルメ細胞が!!)

 

自食作用(オートファジー)の状態で、極上の肉を食った結果、一夏の細胞レベルは格段アップ。

元々発動した時点で進化の前兆は起こっていたのである。

すると、先程襲われたせいなのか…

 

「…!」

 

一夏の付けていた仮面が、半分欠ける。

 

「…なっ!?」

 

春十と箒、そしてそれを映像で見ていた鈴と千冬が、その目を見て驚愕する。

 

「…一夏?」

 

行方不明になった弟の名をそっと呟く。

目を見開き、その顔を眺めた。

 

「一夏なのか!?おい!!答えてくれ!!」

 

(春十兄…!)

 

内心悲しんでいる一夏であったが、春十の言葉を無視して、鵺コッコの肉を回収してアリーナを去った。

 

「おい一夏!!何で逃げるんだ!俺だ春十だ!!」

 

遠くに行ってしまう弟を必死に呼び止める春十。

しかし無駄だった。

 

 

 

「嘘…でしょ?」

 

「鈴さん!?」

 

それを画面で見ていた鈴は、崩れる。それをセシリアが構った。

 

「何で…あいつ生きてんのよ…」

 

「鈴さん…?」

 

その目から、一筋の涙が流れる。

死んだはずの幼馴染みが、今動いていた。戦っていた。前回自分を守っていた。

 

(何でよ!何でよ一夏!!)

 

 

 

「織斑先生?彼を知っているんですか!?」

 

「…」

 

千冬も例外では無い。泣いてはいなかったが、驚きを隠せてなかった。

 

「知らない…と言えば嘘になる」

 

「じゃあやっぱり…!」

 

「だけど…あいつは死んだ。いや正確に言えば行方不明になった!」

 

「…えっ?」

 

「一夏…何故私達に会わない?」

 

 

 

「春十、彼を知っているの?」

 

「…ああ」

 

何も知らないシャルは困惑している。

彼の素顔ではなく、それを見て驚愕している春十と箒にだ。

 

「あいつは…一夏、織斑一夏」

 

 

 

「俺と千冬姉の…弟だ」

 

 

 

 




時々一夏と春十を間違えます。


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グルメ7 一夏の課題!

お気に入り300超えました。皆様ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。


「さてと…話をしますか」

 

事件後、ラウラは医務室に運び込まれ、春十、箒、シャル、セシリア、鈴、千冬、真耶が理事長室に呼ばれた。

そこにいたのは、この学園の表向きの経営者である「轡木 十蔵」。「学園内の良心」とも呼ばれている壮年の男性だ。

 

「まずは…『血まみれ』の話ですね」

 

「…ッ!」

 

その名を聞いて、織斑姉弟と箒、そして鈴が言葉を詰める。

千冬以外の3人は俯いている始末だ。

 

「…織斑先生、それに織斑君や篠ノ之さん、凰さんは彼を知っているのでは?」

 

「……はい」

 

答えたのは千冬だった。

他の3人は冷静に答えられる程、落ち着いてはいなかった。

その態度に部外者は不思議に思う。

 

(何故織斑先生や皆は…そんなに落ち込んでいるのだろ?)

 

(鈴さん…彼の素顔を見て泣いた…何故でしょう?)

 

その答えは、千冬が喋った。

 

「彼…いやあいつの名前は…『織斑 一夏』、私や織斑の…弟です」

 

「「「!!??」」」

 

弟、何も知らない人達はその単語を聞いて驚く。

 

「…弟?」

 

「はい、私達織斑家には末の弟がいました。しかし…」

 

その続きを話そうとすると、鈴が再び涙を流す。それに対し、セシリアが寄り添った。

 

「あいつは…数年前の第二回モンド・グロッソの時に誘拐されました」

 

「誘拐!?」

 

「誘拐犯の目的は、弟を人質にとって私を連続優勝させないことでした。しかし私は誘拐のことを大会関係者から伝えられておらず、終わると同時に教えられ、急いで助けに行きましたが…」

 

「一夏は…消えたんだ」

 

ここで黙っていた春十が口を開く。これ以上、悲しい話を姉にさせたくないのだろう。

 

「消えた…?」

 

「はい、一夏の姿はどこにも無かったそうです。捕まった誘拐犯に聞いても『何も知らない』『急に消えた』だけで…」

 

「行方不明…ということですか」

 

「………はい」

 

「しかし消えたはずの彼は男性でありながらISを操縦し、謎の怪物と戦う者として現れた…と」

 

「俺には分かりません!何故一夏が化け物と戦っているのかが!何故俺達に会わないのかが!」

 

「…分かりました。『血まみれ』が『織斑 一夏』であることを伏せて、今回の事件は政府に報告します」

 

「理事長先生…!」

 

「今日は解散です。皆さんはしっかり休んで下さい」

 

 

 

 

 

 

「鈴さん…それで泣いていたんですね…」

 

「行方不明の弟か…そりゃびっくりするよ…」

 

廊下を歩きながらセシリアとシャルが話している。

 

「それにしても…一夏って人…凄かったね」

 

「…ええ、あんなデカい怪物をあっさりと…」

 

「改めて気になるよ…怪物達の正体、織斑一夏の強さ…」

 

「また怪物は現れるのでしょうか?」

 

「…分からない。けど、これだけは言える」

 

シャルがセシリアに振り向いて、こう言った。

 

 

「そうなった時、あの一夏って人は…織斑先生(おねえさん)春十(おにいさん)を絶対助けるって…」

 

 

 

 

 

 

一方束のラボでは…

 

「お待たせしました〜!」

 

一夏の料理で、パーティが開かれていた。

 

「おお〜!!」

 

束とクロエに用意されたのは、数多の料理。狩った鵺コッコで作ったのである。

 

「鵺コッコの『狸の胴体』で作った『狸汁』にぃ…『蛇の尻尾』の『串焼き』、まだまだありますよ!」

 

「「いただきます!!」」

 

その料理を、2人が堪能する。

 

「この狸汁!ちょっと臭いけど美味しい!この臭みが肉の味を盛り上げてるよ!」

 

「蛇の串焼き…見た目は少々グロテスクですがジューシーでとても味わい深いです…」

 

「他には…『鶏の頭』のチキンステーキに、『翼』で作った手羽先、『虎の手足』の焼き肉です!」

 

「私虎初めて食べるよ!まず食べられるの?」

 

「強壮効果があるって昔から言われてるみたいですよ束様」

 

「鵺コッコは部位によってできる料理も違う…料理人にとって最高です!」

 

「そう言えばいっくん、何だか最近厨房に籠もりっぱなしだね」

 

それに対し、一夏は頬を掻きながら答える。

 

「実は…この間向こうの世界に行った時…師匠から課題を出されて…」

 

一夏の師匠、それは美食屋トリコのパートナーである小松である。

小松の教えは、一夏に途轍もない技術力を与えている。

 

「課題?」

 

「はい、その課題が難しくて…」

 

「どんな課題なんですか?」

 

クロエが気になって質問する。一夏は冷や汗を流して言った。

 

 

「『ロイヤルマンボウ』の調理です…」

 

 

「「ロイヤルマンボウ?」」

 

聞いた事の無い名前に首を傾げる2人。

マンボウは聞いた事はある。しかしロイヤルが付いたマンボウは知らない。

当然だ。グルメ世界の食材なのだから。

 

「普通のマンボウって…『最弱の魚』で有名じゃないですか」

 

「うん、ジャンプすると水面に激突して死んだり太陽光で死んだり海底に潜ってその寒さで死んだり」

 

「束様、それ嘘らしいですよ」

 

「へぇ〜」

 

束の知識にクロエが指摘する。

少し軽い空間になったのだが一夏の表情は暗かった。

 

「だけどロイヤルマンボウは本当に最弱で…その嘘以上に死にやすいんですよ」

 

「例えば?」

 

「えっと…住処から少しでも離れるとストレスで死んで、他の魚を見るとびっくりして死んで、小さな音にもびっくりして死んで、僅かな水流に対しても死んで…」

 

「弱っ!?」

 

「だから捕獲も大変なんです…ストレスを与えないよう一瞬でノッキングする。死んだら味も悪くなるし…」

 

その説明は、溜息が混じっていた。

 

「一応捕獲に成功されたのを用意されましたが…捌くのも大変で…少しでも力加減を間違えたら味が悪くなる…とんだフグ鯨です」

 

「そ、それ本当に調理できんの?」

 

その説明を聞いた束とクロエはただ呆れていた。

本当に弱い生き物だ。どうやって生きてきたのだろう?

 

「一応調理できる人はいますよ…『師匠』に『国宝の弟子』、『三代目調理王』に『膳王のひ孫』とか…」

 

「…何か二つ名を聞いただけで凄そうな人だね」

 

「『凄そう』じゃなくて『凄い』んです」

 

ここで一夏は座り、疲れ切った表情で項垂れる。

 

「やっぱ1回『食林寺』に行った方が良いかも…」

 

難しい課題に、一夏は頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

ちなみに学園では…

 

「お前は私の『嫁』にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「「「えええええ〜〜〜!!!???」」」

 

「よ、嫁!?婿じゃなくて?」

 

とある事件が起きていた。

 

 




今回はちょっと短めです。原作二巻を買いました!


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グルメ8 それぞれの準備!

最近運動していないので太ってきました。目指せしまぶー(笑)


静かな厨房、何の音も聞こえない。

一夏は冷や汗を流しながら目の前の「それ」を凝視する。

 

「…」ゴクリ

 

そのマンボウは、一般的に知られている種類と比べて小さかった。

通常のまな板に少しはみ出る程度のそれは、一夏にプレッシャーを与える。

勇気を出して、きらりと光る包丁を入れた。

エラの近くから切り、ゆっくりと包丁を進める。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

絶妙な力加減、失敗できないという緊張、ストレス。それら全てが一夏の精神を逆撫でする。

まるで随時首を絞められている感覚に負け、一夏は、微妙に力を強めてしまう。

 

「あっ!」

 

気づいた時にはもう遅い。ロイヤルマンボウの体色は見る見る内に黒ずんでいく。

失敗した、そう思った時には膝から崩れ落ちていた。

やってしまった、という気持ちではなく、体力的な問題で。

 

「いっくん!」

 

すると束が入り込んで来て、一夏の身を案じる。

一夏は大量の汗を流し、目も虚ろになっている。

 

(ロイヤルマンボウ…なんて魚だ)

 

その魚は、小松(せんせい)一夏(おしえご)に出した課題であった。

些細なことでストレスを感じ、死んでしまうロイヤルマンボウ。

そいつを何とか味を落とさずに調理するというのが課題だった。

しかし、それに伴う圧倒的な技術力と集中力。

それによって、1匹捌くのにも体力を使ってしまう。

 

(食林寺に行って食儀を習得したいけど…今この世界を放っておく訳にもいかないし…)

 

食儀の習得には時間がかかると思われる。しかしその間にグルメ生物からこの世界を守れる者がいなくなるのだ。IS世界でグルメ生物に対抗できる力や人間はまだいない。よって自分はここに残るしかないのだ。

 

「いっくん…たまには休んだら?」

 

「そう…ですね…少し…休憩を…」ハァ…ハァ…

 

取りあえず今は休もう。寧ろ他の食材で修行した方が良いかもしれない。

 

(兎に角…腹が減ったなぁ…)

 

しかしそのお腹は、素直であった。

 

 

 

 

 

「いっくん何やってるの?」

 

調味砲(スパイスレーザー)に使う調味料の整理です」

 

ある程度休憩を終えた一夏は、一旦ロイヤルマンボウから離れ、次なる戦いの準備をしていた。

 

「更に強いグルメ生物が現れたらどうしようもないですからね」

 

「ふ〜ん、これは?」

 

「研磨砂糖ですね。高速で発射すると相手を切断できます」

 

「この赤いのは?」

 

「バクハバネロの粉です。少しの衝撃で爆発するので気をつけて下さい」

 

「色んなのがあるんだね」

 

「そうだ束さん、頼みたい武装があるんですが…」

 

「え?どんなの?」

 

「はい、それは——」

 

 

 

 

 

一方、IS学園にて…

 

「あら、春十さんと箒さんは?」

 

「鈴もいないぞ」

 

セシリアとラウラが3人を探していた。

そこにシャルが話しかけてくる。

 

「3人なら自主練してるよ」

 

「自主練?」

 

「弟さんを早く見つけたいんだってさ」

 

「そうですの…」

 

「む?だからといって何故自主練になる?」

 

「次怪物が現れたら必ず一夏さんも来る…その時に捕まえるんだって」

 

「…あれをですの?」

 

「そう言わないでよ。いつかできるようになるよ…きっと」

 

 

 

 

 

 

「行くぞ鈴!」

 

「来るなら来なさい!!」

 

アリーナ内で、白式と甲龍(シェンロン)が飛び交いぶつかり合っていた。

春十は雪片弐型で、鈴は双天牙月で互いの懐を狙った。

激しい戦いを、箒はずっと眺めている。

 

 

 

 

 

 

一夏、お前が何で生きているのかが分からない。

 

あの時何が起きたのか、何故怪物と戦うのか。

 

俺はお前の兄なのに何も分かってやれない。

 

だけど一番不思議に思うのが、何故俺や千冬姉、皆に会いに来ないことだ。

 

俺はお前が生きていて嬉しい。だが怒っている。

 

 

 

これ以上——家族や友人を悲しませるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏、私はアンタが許せない。

 

あの時勝手に死んで、私や春十、千冬さんを悲しめたことが許せない。

 

アンタが私達に何か隠しているのが許せない。

 

それとも何?思っている程私達は仲が良くなかったの?

 

————ふざけないで。

 

だからといって隠し事をしないでよ。私達は最高の友達よ。

 

 

 

もう私に——大切な人を失った気持ちにさせないでよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏、お前は私達のことなど忘れてしまったのか?

 

お前はかつて千冬さんから学んだ剣術を使わなかった。

 

お前は私達の顔を見たのに声をかけなかった。

 

お前は——家族からの愛も忘れてしまったのか?

 

私は忘れなかったぞ。お前のことを。

 

例え死のうが記憶を失おうがお前は私の知っている「織斑 一夏」だ。

 

 

 

だからお前も——織斑 一夏(じぶん)を忘れるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鵺コッコもやられてしまったのね…」

 

鵺コッコを仕掛けた女が、がっかりしたような素振りをする。

 

「しょうがないわ…あなたを使うしかないようね」

 

その目に映るのは、自分の数百倍のサイズはある…赤い目であった。

 

 

 




この作品でも食材募集とかしちゃおっかな?(やらない)


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グルメ9 悪魔到来!

原作二巻を買いました!これで勉強しないと…


夜遅く、箒が携帯で誰かと電話していた。

 

『もしも〜し?皆のアイドル、篠ノ之束だよ〜?』

 

その相手は、姉である篠ノ之束。そしてその返事を聞いて電話を切ろうとした。

 

「…」スッ

 

『待って待って!切らないで箒ちゃーん!』

 

「…姉さん」

 

『やぁやぁやぁ我が妹よ、用件は分かっているよ〜、専用機が——』

 

「一夏のことなんですが…」

 

『…』

 

「姉さん?」

 

束は黙った。一応一夏の事を聞かれるのは予想していた。勿論自分の元にいる事は伏せておくつもりだが、

 

『…いっくん?いっくんがどうかしたの?』

 

「実は…最近あいつが生きている事が分かったんです。姉さんは何か知りませんか?」

 

『えぇ!?いっくんが!?』

 

ここでわざとらしく驚いたふりをする束。

 

『生憎なんだけど私も知らな〜い、だけど探してみるね!』

 

「お願いします…それと…」

 

『専!用!機!でしょ!?勿論用意しているよ!』

 

「…!」

 

『最高性能にして規格外、その機体の名前はぁ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『紅椿!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、IS学園の臨海学校。

 

 

「「「きゃっーーーー!!!」」」

 

 

たくさんの水着女子(一名男子)が海に向かって走り出した。

 

「今は11時でーす!夕方まで自由行動、夕食に遅れないようにしてくださいね〜!」

 

「「「はーーい!!」」」

 

 

 

 

「あの春十さん?サンオイルを塗って頂けないでしょうか…?」

 

「えぇ!?俺が!?」

 

 

 

 

「ラウラ、水着とても似合ってるぞ!」

 

「そ、そうか…」///

 

 

 

 

 

 

皆が海を堪能したその次の日、専用機持ちと箒が千冬のもとに集められた。

 

「よし、専用機持ちは集まったな」

 

「あれ?箒は専用機もってないんじゃ…」

 

「私から説明しよう。実は…」

 

 

「やっほーーーー!!!」

 

 

すると束が崖から滑り来て、千冬に跳びかかった。

 

「ちーーーちゃーーーーん!!!」

 

「ふん!!」

 

しかしすぐに押さえ込まれた。

 

「会いたかったよちーちゃん!さぁ!愛を確かめよう!」

 

「うるさいぞ束」

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだねぇ♪」

 

一方その妹は岩陰に隠れていた。

 

「じゃじゃーん!やぁ!」

 

しかし直ぐに見つかってしまった。

 

「どうも…」

 

「久しぶりだね〜♪こうして会うのは数年ぶりかな〜大きくなったね箒ちゃん!」

 

「…」

 

「あ!春君も久しぶり〜!」

 

「お久しぶりです」ペコリ

 

「おい束、自己紹介ぐらいしろ」

 

「は〜い♪」

 

そう言われた束は他の人と向き合う。

 

「私が天才の束さんだよ!はい終わり!」

 

それを聞いて一部の専用機持ちは驚く。

 

「束って…」

 

「あのIS開発者で天才科学者の…!?」

 

「篠ノ之束…!?」

 

自己紹介が済むと、束は大空に手を伸ばす。

 

「さぁ!大空をご覧あれ!」

 

すると上空から巨大なクリスタルが地面に落下してきた。そして1機の赤いISへと姿を変える。

 

「これが箒ちゃんの専用機…紅椿!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間前、ハワイ付近にて。

グルメ世界とIS世界を繋げる黒い穴が、発生する。そのサイズは…鵺コッコの時と比べて数倍のサイズであった。

そして、その穴から鋭い爪を生やした豪腕が生えてくる。

その瞬間、空は曇りに包まれ、海の魚は一斉に逃げ出す。

赤い眼が穴の奥からゆっくりと外に向かった。

すると、いくつかのIS部隊が現場に到着する。試験可動していたISの監視に、この穴が映ったのだ。

 

「目標を確認!」

 

隊長とその部下が穴を囲い込む。何が現れても対処できるようにだ。

奥にいる「そいつ」は、暗闇の中で口を大きく開け…

 

「きゃっ!?」

 

凄まじい光線を吐き出した。

幸い直撃した者はいなかったが、光線が放たれた先で、巨大な爆発とキノコ雲が出来上がる。

 

「な、何よこいつ…!?」

 

ISは世界最強の武器、そう信じていた隊員達が見たのは、それを上回る存在であった。

そしてその存在が、完全に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生〜!」

 

臨海学校にて、真耶が千冬に通信機を渡した。

千冬がそれを読み上げる。

 

「特命任務レベルS…!?」

 

「はい、至急対策を始めろと…」

 

「…テスト稼働は中止だ!」

 

そう言って、何が起きているか分からない顔をしている専用機持ち達に向く。

 

「お前達にやってもらいたいことがある」

 

 

 

 

旅館に対策室を設置し、そこに集められた春十達。

千冬が現状を説明した。

 

「2時間前…ハワイ付近において凄まじいエネルギー体を感知。これはその対処しようとしたIS部隊が撮っていた映像だ」

 

立体画面に映像が流される。景色はひどく揺れており、撮影者は何かと抗戦している。

すると、巨大な腕がIS部隊を全てなぎ払う。

 

「「「!!??」」」

 

大きな鱗で覆われたその腕の持ち主は、あまりにも巨大すぎて全体が映らない。

しかし、そのワニのような顔は捉えていた。

ここで映像が砂嵐になる。

 

「千冬ね…織斑先生、これは…!?」

 

「例の黒い穴から現れた怪物だ。しかしそのサイズ、強さとも今までのと比べものにならないらしい」

 

「怪物…!!」

 

春十、箒、鈴、そして束がその単語を聞いて一夏のことを考える。

 

「現に、小さな島々がこいつに潰されたらしい」

 

「島が…!?」

 

「そして、この怪物は…ここに向かっていることが分かった」

 

「ここに!?」

 

「我々の目的は…この怪物の討伐及び…」

 

ここで千冬が口籠もる。しばらくして口を開いた。

 

「現れるであろう、『血まみれ』の確保だ!」

 

「「「!!」」」

 

辺りが騒然とする。特に驚いたのは春十達一夏を知っている者。

 

「じゃ、じゃあ一夏がこいつを倒しに…」

 

「…可能性は高いな。今までもあいつは怪物を倒し続けた」

 

「…そうですか」

 

春十は思った。ここで一夏を捕まえて、何があったのかを聞くチャンスだと。

鈴は思った。これ以上心配をかけるあの馬鹿を、捕まえないと。

箒は思った。理由は分からないが、危険なことをしている一夏を守らないと。

 

(洗いざらい喋って貰うぞ!一夏!)

 

(あんたが皆を泣かした罪…償わせてやる!)

 

(一夏…今度は私が守る番だ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束のラボにて、厨房で調理していた一夏に、メールが届く。

何だ?そう思って内容を確認した。

 

IS学園の臨海学校を怪物が襲ってくる!

 

その意味を理解したとき、一夏はエプロンを外して現場へ向かおうとした。

 

(千冬姉や春十兄が危ない!!)

 

「一夏様、行くんですね?」

 

クロエが聞いてくる。

 

「はい!束さんや皆を助けに行きます!」

 

「…一夏様、例え今回の怪物を倒しても今度はIS学園側が敵に回りますよ?」

 

「…それでも、俺は!家族を助けます!」

 

 

 

 

 

 




トリコ側の武器って調理器具などが多いから、オリジナルを作るのは大変ですね。


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グルメ10 大乱戦!

遅くなりましたが新年あけましておめでとうございます。今年もどうか今作品を宜しくお願いします。


 

食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)を展開し、空を飛ぶ一夏。

灰色の空がただならぬ空気を出している。

しばらくすると、前方に巨大な生物を確認した。

その緑色の鱗がビッシリと敷き詰められた身体は、龍のように長く、そして太い。

顔はワニで、鋭い牙が何本も生えている。

ISが人の大きさに見えてしまうほどの巨体は、羽も無いのに空を飛ぶ。

すると奴の目も、一夏を捉えた。

 

タツノテンセイワニ 〈爬虫獣類〉 捕獲レベル95

ワニが龍に転生した姿、その伝説から命名されたそのワニは、口を大きく開け、咆哮を響かせる。

その衝撃で海は波立ち、大気は揺れる。存在感で分かった。こいつは紛れもなく食物連鎖の王だと!

しかし王は——1匹だけではない。

 

「良いだろう…お前に敬意を込め…俺も本気を出してやる…!」

 

王に向き合うこの男に宿る食欲(あくま)も、食物連鎖の王であった。

 

 

 

 

 

 

 

『血まみれを確認した!近いぞ!』

 

千冬の通信が耳に入る。春十と箒は空を飛び、対象がいる空域へと向かっていた。

春十は「白式」を、箒は手に入ったばかりの専用機「紅椿」を展開して。

 

『恐らく既に怪物と交戦中だろう、まずは様子見だ。戦いに混じるなよ』

 

「…はい!」

 

『それと…春十』

 

「…?」

 

千冬が名前で呼んできた。これは教師としてではなく、姉としての話なのだろう。

 

『篠ノ之にも言えることだが…一夏を確認しても暴走するなよ?』

 

「…分かっています」

 

『…』

 

その「分かっています」は絶対ではないだろう。ずっと弟の事を考えていた春十にとって、一夏との接触は夢にまで見たこと。それ故に、暴走する可能性がある。

しかし千冬は、それを否定できない。もし自分がその立場なら…同じ事をするかも知れないからだ。

春十と箒は前戦として進撃、その他のメンバーは後方で援護。それが今回の作戦だ。

 

(…一夏)

 

春十が一夏の事を考えていると、激しい音が聞こえ始めた。

 

「!、血まみれと怪物を目視で確認!」

 

視線の先には、仮面で素顔を隠している一夏とタツノテンセイワニが戦っていた!

 

 

 

 

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!竜巻微塵切り!!」

 

一夏は大量の斬撃を放つが、硬い鱗がそれを防ぐ。

するとタツノテンセイワニが長い腕を伸ばし、こちらを攻撃してきた。

指と指の間を潜り抜け、何とか回避した一夏は、引き続き包丁で斬りかかる。

しかしその鱗はどんな攻撃をも無駄にする程の鉄壁、傷一つ付けられない。

 

(ちっ…硬いな…)

 

するとタツノテンセイワニが口を開け、光線を吐き出した。

その光線は一直線に一夏へと向かう。

 

(まな板シールド!!!)

 

ここで一夏はまな板型の盾を展開、タツノテンセイワニの光線を防いだ。

まな板シールドは元々食欲をまな板の形に具現化させる技、しかし一夏のそれはISの武装の一部となっている。

しかし強力な一撃だったため、盾で防いでもシールドエネルギーが大幅に減った。

 

(あれは…!)

 

ここで一夏は春十と箒を確認、そしてワニを誘導してその場から離れようとする。

 

 

 

 

 

「一夏の奴…まさか俺達から怪物を離すために?」

 

春十と箒はその行動を理解する。恐らく自分達の身を案じてくれたのだろう。

やっぱり一夏は一夏だ。例え怪物を倒せる力を持ってもその心は変わりない。

それを思った箒は心の中で安堵する。やはり自分の信じていた一夏は死んでいなかった。

 

「春十…私達も戦おう」

 

「何言ってんだ!?一夏が俺達を守ろうとして離れたんだぞ!?その気持ちを無駄にする気か!?」

 

「だが…一夏は押されている」

 

「えっ…?」

 

箒の言う通り、確かに一夏は押されていた。

一夏の攻撃は鱗で防がれ、効果が無い。

対するタツノテンセイワニの攻撃は重く、一夏をじりじりと攻めていた。

 

「それ程の強敵なのだ…あの怪物は…!」

 

「で、でも…」

 

しかし春十は姉から暴走するなと言われている。しかも自分達はこの怪物を食い止める為にいる。もし二人が戦いに行ったら最前線で防衛する者がいなくなってしまうのだ。

 

「私達に任せて!春十!」

 

「鈴!?皆!?」

 

ここで後方にいるはずの鈴達と合流する。

 

「あんたは一夏を守って!」

 

「春十、僕達に構わず行って!」

 

「嫁!自分が正しいと思った行動をしろ!」

 

「皆…」

 

専用機持ち達に思いを託される春十と箒、決心はついた。

 

「…行くぞ箒!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

春十と箒が怪物に向かって飛ぶ。しかしその時…

 

「何!?」

 

黒い穴が沢山現れ、自分達を包囲した。

その穴から怪鳥、龍、様々な種類の猛獣が出てくる。

 

「これは…!」

 

気付けば怪物の集団に囲まれている。

そのサイズは自分達とあまり変わらない。あまり強そうでは無かった。

つまり…数で勝負してきたのだ。

 

鷹葱 〈鳥獣類〉 捕獲レベル5

龍豚(ろんとん) 〈哺乳獣類〉 捕獲レベル7

天のイカ 〈軟体動物〉 捕獲レベル4

八咫鴨 〈鳥獣類〉 捕獲レベル6

 

他にも様々な猛獣がいる。途轍もない数だ。

 

「特訓の成果見せてやろう!箒!」

 

「ああ!春十!」

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあああああああああ!!!!」

 

一夏が包丁を振り落とす、しかし火花を散らすだけで鱗には効かない。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

一夏自身の体力も減ってきた。当然だ、これだけ硬い鱗を何度も攻撃しているのだから。

身体も思うように動かない。その隙にと、タツノテンセイワニの腕が一夏を吹っ飛ばした。

 

「ぐあああああああああああああああああああ!!!!」

 

ハエでも追い払うかのような手払い、それでも一夏のダメージは大きい。

空中で何とか姿勢を直す。一方的にこちらが攻められていた。

 

「頼むぜ…俺の食欲!」

 

 

 

 

 

 

 

「うりゃ!!」

 

春十の雪片弐型が怪物達を斬り裂く。

今まで味わったことの無い、武器で肉を切る感覚。

気持ちの良い物では無いが、次々と倒していった。

それは箒も同じ、専用機を使いこなし、なぎ払っていく。

 

(行ける…これなら行ける!)

 

そう思ったその時…

 

「ぐああっ!?」

 

箒が何者かに殴られる。

 

「箒!」

 

海に落ちそうになった箒の腕を掴む春十。

箒と二人で、攻撃が来た方向を見る。

 

「何だあいつ…」

 

そこにいたのは、他の雑魚とは違う、明らかに強いオーラを出す猛獣。

悪魔のような羽で跳び、鬼のような腕を持つ。頭部は魚。

体長は約3m、こいつだけは油断できなかった。

 

「ボスのお出ましか…?」

 

カツオーガ 〈魚獣類〉 捕獲レベル15

 

しかし、春十と箒は臆さない。

 

(一夏は…こいつの何倍も強い奴を倒したんだよな…)

 

アリーナで見た怪物とは比べものにならないが、自分達にとって丁度良い。

春十は刀を構え、カツオーガに斬りかかった。

 

(待ってろ一夏!俺達がお前を救う!)

 

 

 

 

 

 

 




後半になるにつれ名前が適当になっていく…(何だよカツオーガって)


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グルメ11 進化!

今回はちょっと長めです。そして今までの感想で「弱いからでしゃばんな」的なことを言われ続けた春十君が、強くなって活躍します!


「うおりゃあ!!」

 

春十はカツオーガの拳を避けながらその懐へと忍び込み、雪片弐型で斬りつける。

しかしその猛獣は翼を羽ばたかせ一瞬でそれを回避した。

 

「伏せろ春十!」

 

すると距離を取っていた箒が空裂(からわれ)によるエネルギー刃を撃つ。

春十の横を通り過ぎたそれは、真っ直ぐカツオーガへと向かう。

対する悪魔は、長い爪で虚空を斬り裂き、斬撃を放った。

 

「何っ!?」

 

斬撃はエネルギー刃を打ち消し、箒に当たる。

 

「箒!」

 

箒は何とか耐えて体勢を立て直す。するとカツオーガは箒のことを心配して余所見をしていた春十に襲いかかる。

 

「しまっ——!」

 

鬼の拳が春十を叩き落とす。カツオーガは自慢の羽で春十の落下より速く飛び、海へと潜る。

そして海上から飛びだし、落下中だった春十を下から蹴った。

 

「ぐあぁっ!?」

 

そして春十は上へと吹っ飛ぶ。それを箒が受け止めた。

 

「大丈夫か春十!?」

 

「あ、ああ…!」

 

そう答えるも今の攻撃はとても重かった。ISのエネルギーを一気に減らしている。

カツオーガは人型故に素早い身のこなしで襲いかかってくる。

 

「速い上にパワーも凄ぇ…どうすりゃいいんだ」

 

「…私があいつの動きを制限する、その隙にあの翼を斬り落とすんだ!」

 

「分かった!頼むぞ!」

 

翼さえ無くせばあの化け物も飛べやしない、そう思った二人はその作戦に移る。

赤と白が、魚の悪魔の周りを飛び回る。

カツオーガは口から光弾をマシンガンのように吐き出し、二人を撃ち落とそうとする。しかし動き回っているので当たらない。

 

「はぁあっ!!」

 

箒がカツオーガに斬りかかる。カツオーガはそれを爪で受け止める。

 

「今だ春十!」

 

「おう!」

 

奴が箒の剣を止めている隙に、春十が背中から攻撃しようとする。

しかし…

 

「ぐわぁあ!?」

 

横から割り込んできた「何か」に遮られてしまう。

 

「春十!?ぐあっ!?」

 

それを見て驚いている箒も、カツオーガに薙ぎ払われてしまう。

春十も箒も、海上スレスレで何とか滞空する。そして自分達より高い位置にいるカツオーガと「何か」を見上げた。

 

プテラノ丼 〈翼竜獣類〉 捕獲レベル9

フライングリズリー 〈哺乳獣類〉 捕獲レベル10

 

他にも数多くの猛獣たちが集結してくる。

 

(しまった…相手は1匹だけじゃなかった…!)

 

カツオーガばかりに注目していたが、他にも敵がいることを忘れていた。

まるで虫の大群のように統率が取れている。見た目はバラバラのくせして。

 

「どうする春十…?」

 

「どうするも何も、こいつらを一夏の所に行かせるな!あいつはあいつで精一杯らしいしな…!」

 

そう言う春十の目線の先には、激しい攻防戦が行われている。

一夏とワニの化け物だ。あの戦いは俺達とは次元の違う者同士の戦いとなっていた。

 

「俺達は俺達のできることであいつを助けるんだ!」

 

「…ああ!!」

 

そう言って二人は、怪物達の大群へと突撃した。

 

そうだ、確かに自分達じゃああいつの足手まといになるだけかもしれない。だけど俺達にもできることはある!

弟の手助けをするのが、兄の役目だ!

 

次々と雑魚猛獣を倒していく春十と箒、カツオーガより弱い猛獣は難なく倒せる。

 

(…そう言えばあの魚野郎はどこだ!?)

 

調子に乗っていたせいか、カツオーガを見失ってしまった。

どうやら箒もそれに気付いたらしく、辺りを見渡している。

 

「箒後ろだ!」

 

「っ!!」

 

そうこうしている内に雑魚達が襲いかかってくる。箒は背中を取られながらも刀で受け止めようとしたその時…

 

「何!?」

 

突如としてその雑魚の腹を、青い腕が貫く。

貫いた腕はそのまま蛇のように箒の身体に巻き付いた。

カツオーガだ。奴は右腕を紐のように長く伸ばしている。その長さは、カツオーガの体長より数倍になっていた。

先程貫かれた奴以外にも、カツオーガに串刺しにされた猛獣も何匹もいた。攻撃を悟られないように味方ごと攻撃したのだ。

 

「ぐあああああっ!!!」

 

カツオーガは長くなった腕で箒を締め付け、苦しませていく。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

その光景に耐えられなくなった春十は、箒を助けに向かうも…

 

「ぐわぁ!?」

 

カツオーガが左腕を伸ばし、同じように拘束する。

そしてどんどん締め付けが強くなっていき、痛みがじわじわと感じた。

 

「うぐぐっ…!」

 

あっという間にカツオーガによって身動きが取れなくなってしまった二人。

苦痛を噛みしめながらも自分達の弱さに怒り始める。

 

(何が一夏を助けるだっ…このザマじゃないか…!)

 

そして思い出した。一夏がいなくなった日のことを…

誘拐されて、そして姿を消してしまった。

あの時、自分が強ければ、弟を守れていれば…

ただひたすらに自分を責める。責め続ける。

そうして…

 

 

 

 

 

 

「——えっ?」

 

気付けば自分は、青空の下にいた。

足で踏んでいる地は、水面のように空色を映している。

そして目の前には、白いワンピースを着て白い帽子を被った少女がいた。

 

「君は…?」

 

「…救いたい?」

 

「えっ?」

 

「君は誰を救いたい?」

 

名前も顔も知らない少女、彼女からの質問に、迷い無くこう答えた。

 

「俺は…箒や鈴、セシリアにシャルとラウラ…そして千冬姉!」

 

春十が脳内で思った名前が、そのまま口から漏れる。

 

「山田先生…のほほんさんや鷹月さん…相川さん!」

 

数多くの名前が出る。最後には…

 

「そして…一夏」

 

大切な弟の名が出た。

 

「俺は…救えなかった人や…大切な人…今もこれからも…全部守りたい!」

 

「…そっか」

 

その少女はその答えに満足したのか、微笑みを見せる。

 

「私が君に力をあげる…皆を守れる力を…」

 

そう言って両手を前に出す。すると先程まで無かった金色の球体が少女の手の上に置かれた。

光り輝く光沢を持つ球体。その表面には、いくつも口が付いている。

全ての口が、涎を垂らし、何も無いのに咀嚼をしている。

 

まるで、腹を空かせているみたいだった。

 

「だけど…もう普通の人間に戻れなくなるかも…」

 

「…構わない、俺一人の犠牲で皆が助かれば良い!」

 

「…悲しいこと言わないで」ボソッ

 

少女が何かを呟く。しかし春十はそれに気付かない。

 

「いいよ、この力で、皆を守って…!」

 

「…ああ!」

 

そして春十は、その球体にゆっくりと触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、暗闇だった。

何も無い。あるのは扉だけ。

そして、白い肌を持つ悪魔がいた。

ゆっくりと、その扉が開く。

開けたのは、春十と話していた白い少女。覚悟した顔で、その悪魔と対峙する。

 

「ずっと貴方を拒んでいたけど…春十自身が望んでいるなら仕方ない…」

 

「くくくくくっ…」

 

その言葉を耳に入れた悪魔は、小さく笑い始めた。まるでこうなると分かっていたように。

 

「最初からそうしてれば良かったんだ…何故俺を拒む」

 

「貴方は春十のことを道具としか思っていない…感情なんか持ってないから怪物だからよ」

 

少女は冷たい視線を悪魔に向けている。どうやら良く思っていないらしい。

悪魔がゆっくりと立ち上がった。その白い身体には、棘が幾つも生えている。

そして、その厳つい顔を少女に見せた。

 

「分からないぜぇ…『魂の世界』で噂程度に聴いたんだが…どうやら感情を持っちまった悪魔(バカ)がいるらしい…俺もそうなるかもなぁ?」

 

そして少女に顔を近づけ、ニヤリと笑みを見せる。

 

「安心しろよ、俺も復活するまでこのガキには手を出さねぇ…寧ろ守ってやるよ」

 

「安心するのはそっちよ。絶対に復活なんかさせないから」

 

「そうかい…ぐははははははは!!!!」

 

そう高笑いしながら、白い悪魔は扉から外へと出た。

青空の空間に入った悪魔。その先には、倒れている春十。

その目は色を失っており、まるで死んでいるかのようだ。

 

「ISとしての俺が記念すべく最初に食すもんは…」

 

そして悪魔は春十の身体を持ち上げ…

 

「てめぇだ。春十」

 

その身体を、貪り始めた。

春十の肉をステーキのように裂き、血を酒のように飲む。

少女はその光景を見て、悲しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「は、春十!?」

 

急に春十が叫び始めたので、箒が驚く。

すると春十の身体が白いオーラを纏っているではないか。

 

「うあああああああああああああ!!!!うがあああああああああああああ!!!!」

 

春十の雄叫びを聞いた猛獣たちが、一斉に怯え始める。

カツオーガや箒も例外では無かった。

唯一恐れず、驚いているのは一夏とタツノテンセイワニ。

 

第二形態(セカンド・シフト)!?それだけじゃない…あれは…!」

 

そして一夏は、その雄叫びの正体に気付いた。

一夏の悪魔が話しかけてくる。いつも冷静なこいつにしては、少し声色が変わっている。

 

『一夏!ありゃ俺と同じ…』

 

「ああ…『グルメ細胞の悪魔』が宿ったISだ!」

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

次第に春十を覆っていた白いオーラの中から、人の形が見え始める。

白い身体を持ったそいつは…悪魔だった。

 

「はあああああああああっ!!!!」

 

すると春十は自分を捕らえていたカツオーガの腕を無理矢理解いて抜け出した。

自由になった春十を見たカツオーガ、猛獣たちは恐怖のあまり逃げ出してしまう。

 

「逃がすかっ!!」

 

春十が雪片弐型を振る。それに連動して白い悪魔も腕を振り下ろす。

次の瞬間には…カツオーガ達は全てバラバラに殺されていた。

 

「なっ!?」

 

それを間近で見ていた箒は驚かずにはいられなかった。

先程まで自分と同じくやられていた春十が、急激に強くなった。

 

(しかもこの力は…一夏と同じ…!)

 

そして目前にいた筈の春十は、ワニの化け物へと向かって飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦司令室にて、真耶と千冬が白式の変身を確認した。

 

「白式の第二形態…雪魔(スノー・サタン)!?」

 

「一体…何が起きているんだ」

 

 

 

 

 

 

「うりゃあああ!!!」

 

春十がタツノテンセイワニに斬りかかる。皮膚こそ切れなかったもののその勢いでワニを少しだけのけ反らせる。

タツノテンセイワニが体勢を崩している内に、対面する一夏と春十。

 

「…一夏」

 

「…春十兄…だよな?」

 

兄の変容ぶりに驚いている一夏、無理も無い。春十は本当に変わったのだ。

 

「…行くぞ一夏!」

 

「…ああ!」

 

だが、実の兄であることに変わりない。

こうして兄弟の共闘が始まった!

 

 




こうして春十はグルメ細胞を持ったとさ。ちなみに結構無理のある設定だと自覚しています。


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グルメ12 共闘!

最近毎日の楽しみがご飯しか無くなってきました。もっと刺激的な人生を送んないとエルグみたいになるかも(笑)


「行くぞ一夏!」

 

「ああ!春十兄!」

 

織斑兄弟が手を交わして眼前の敵と対峙する。

対するタツノテンセイワニ、その眼を二人から離さない。鋭い眼光を常に一夏達に刺し続けていた。

それを呆然として見る箒。できれば自分も加わりたかった。

しかし無理である。一夏と春十はもう自分達とは違うステージに行ってしまったのだから。

 

「一夏…春十…」

 

その呟きが彼らの耳に入ったのかは分からない。しかしそれが合図となった!

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」

 

二人が雄叫びを上げ、全身に力を込める。

一夏から赤い悪魔(ディアボロス)が、春十からは白い悪魔(サタン)がオーラとして姿を見せる。

2匹の悪魔は唸り、タツノテンセイワニを威嚇する。

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

しかしそのワニは退かず、逆に威嚇してきた。

どうやらどちらも負ける気はしないらしい。お互いを殺すことしか考えていない。

 

「はぁあ!!」

 

一夏と春十は全速力でタツノテンセイワニの周りを飛びかう。対するタツノテンセイワニは百足のように多い腕を振り回して二人の軌道上に手を置く。

 

「おらぁあ!!」

 

しかし全力の突撃により押し返され、逃げられてしまう。

飛行中、一夏は調味砲(スパイスレーザー)にカプセルをセットし、ワニの目の前に飛び出る。

 

「閻魔七味!!」

 

途轍もない程熱いレーザーを大きな瞳目掛けて撃つ。閻魔七味の高温で失明させようという作戦だ。しかしタツノテンセイワニは腕でそれを防ぐ。しかし受け止めた部分の鱗はドロドロに溶けてしまった。

 

「今だ春十兄!」

 

「おう!!」

 

鱗が溶け、装甲が薄くなった部分を春十が雪片弐型で斬り裂く。その切れ目がどんどん広がり、ワニの腕は斬り落とされ海に落下する。

 

「ギシャアアアアッ!!!!」

 

それに怒ったタツノテンセイワニは、口から光の炸裂弾を放つ。多くの光弾が二人に降り注いだ。

 

「特大まな板シールド!!」

 

「はっ!!」

 

それを一夏は大きいまな板シールドで、春十は第二形態雪魔(スノー・サタン)で追加されたビームシールド「悪魔の口(ヘルストマック)」で防ぐ。

悪魔の口(ヘルストマック)の効果はこれだけではない。

 

「ギシャッ!?」

 

シールドに口が開き、掃除機のように吸引し始めた。その力は数百倍大きいタツノテンセイワニを引き寄せるほど強かった。

ここでワニは先程と同じように炸裂弾を吐く。しかし全部悪魔の口(ヘルストマック)に食われてしまった。

 

「お返しだ!」

 

ここで春十が悪魔の口(ヘルストマック)の吸引モードを別のモードに切り替える。

すると先程吸った炸裂弾がビームシールドの口から放たれたのだ。

 

「ギギッ!?」

 

自分の攻撃を全身に受けたワニは狼狽え始め、二人から距離を取ろうとする。

 

「逃がすかよ!!」

 

それを一夏が追った。一夏は閻魔七味の弾を乱発し、タツノテンセイワニ自慢の鱗を次々と溶かしていく。

逃げるのを止めたワニは、一夏を両手で掴もうとするが…

 

「おりゃああ!!」

 

黒星と白海に引き裂かれてしまう。もうタツノテンセイワニの固い鱗は意味を成していない。

 

「一夏!」

 

「オーケー春十兄!」

 

二人は剣を握りしめ、タツノテンセイワニへと勢い良く飛ぶ。

 

「「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」

 

 

一夏の黒星と白海で、春十の雪片弐型で、猛獣の首は切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!」

 

空中でガッツポーズする一夏。その傍らでタツノテンセイワニの亡骸が海に向かって落ちていた。

一夏はそれを移動装置で回収する。

 

「おっとっと…」

 

曇っていた空が晴れていく。もう空は夕日の色が広がっていた。

沈んでいく太陽を見て、安堵の溜息を吐いた。

ここで、春十が視線に入る。こちらに背中を向けていた。

 

「春十兄…」

 

一夏はこっそりと近づき、後ろから叩いて驚かせようとしたが…

 

「えっ…?」

 

それより先に、ISを解除してしまった春十が落ち始めた。

 

「春十兄!」

 

一夏は急いで春十を回収する。

その表情はとても苦しそうにしていた。息も荒く、顔も赤い。

 

(まさか…自食作用(オートファジー)を発動していたのか…!?)

 

春十の白式の雪片弐型は、自分のエネルギーを消費し続けて発動する武器である。雑魚猛獣との戦いでエネルギーが枯れかけていた春十は、グルメ細胞を手に入れたことにより無意識でそれを発動していたのだろう。

 

(そして…タイムリミットが来た…!)

 

自食作用(オートファジー)にはタイムリミットがある。もしそれを過ぎてしまうと死に至る可能性があるのだ。タツノテンセイワニとの戦いでも春十は雪片弐型を使っていた。その分も消費しているのだろう。

 

「は、春十!?」

 

「一夏!?アンタ…」

 

ここで箒や、後ろにいた鈴達専用機組も来る。

皆春十の様態を見て顔を青ざめた。

 

「春十さん!しっかりして下さい!」

 

「春十!死んだりしたら許さないんだから!」

 

「春十!起きてよ春十!」

 

「嫁…!」

 

一夏に横抱きされている春十に近寄る。その言葉を聞いても何も変わらない。

急がなければ——

 

「…鈴、お前達の宿は…?」

 

「…えっ?」

 

「早く案内してくれ!俺がこいつを何とかする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか…!」

 

一方千冬と真耶は宿の入り口で生徒達の帰りを待っていた。

するとこちらに向かう7機のISを確認する。箒達がゆっくりと着地した。

ここで千冬と真耶は、その集団の中にいる一夏に目を開く。

 

「一夏…お前…」

 

「話は後だ千冬姉!春十兄が大変なんだ!」

 

「春十…!?」

 

ここで千冬は箒達に抱えられている春十の元へと駆け寄る。

真耶も春十の様子を見て口元を抑えた。

 

「何があった…!?」

 

「分かりません!怪物を倒したら急に倒れて…」

 

ここで一夏がISを解除して、エプロンを着始めた。

全員がそれを不思議そうに見ていた。

 

「一夏…お前何をする気だ?」

 

「千冬姉…厨房借りるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏は急いで厨房へと行き、まな板と対峙して考えた。

 

(今の春十を救うには…極上の食材が必要!)

 

そう判断した一夏は、装置で1匹の魚を取り出す。

小さなマンボウ…そう、一夏の課題であった「ロイヤルマンボウ」である。

 

(こいつを食わせないと…)

 

しかしこいつの調理は繊細さがとても必要である。数ミリでも包丁がずれると味が駄目になってしまう。

だが迷っている時間は無い。一夏は包丁をゆっくりと入れた。

ゆっくりと言っても練習の時よりも速く、正確に…

 

(集中しろ俺!兄弟の命がかかっているんだぞ!)

 

数秒しか経っていないのに、汗が滝のように流れる。そして揺れるように目眩が起きる。

唾を飲みたいが、少しでも油断すると失敗してしまう。

震える手を無理矢理押さえ込もうとする。しかし脳も感覚も言う通りにならない。

息を荒げることも許されない空間。まるで目隠しして綱渡りをしている気分だ。

 

(俺はできる…俺が春十兄を守るんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春十はその後、布団に寝かされ、教師陣と専用機組に見守られていた。

一夏が厨房に入って約10分。一向に様態は良くならない。それどころかどんどん衰弱している。

 

「医者に診て貰っても分からない…一体嫁に何が…」

 

「まさか…春十死んじゃうんじゃ——」

 

「バカなこと言わないで!」

 

シャルの言葉を鈴が大きな怒声で遮る

 

「…ごめん」

 

「いや、私もイライラしていた…」

 

空気も悪くなっている中、勢い良く襖が開く。

そこには、疲弊していた一夏が立っていた。片手には、刺身を乗せている皿。

 

「「「一夏!?」」」

 

「良かった…間に合ったか…」

 

千鳥足のようにフラフラと歩き、寝ている春十の顔元に座り込む。

そして、一枚の刺身を箸で摘まみ口元に持って行く。

 

「春十兄…食ってくれ…」

 

「一…夏…?」

 

意識が朦朧としている状態で一夏を確認した春十は、差し出された刺身を口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。

 

「…」モグモグ

 

「…どう?」

 

「…い」

 

「えっ?」

 

すると春十は急に立ち上がり、飛び跳ねながらこう叫んだ。

 

 

 

「美味い!!!!」

 

 

 

その様子を見て、その場にいた全員がポカーンとしている。

春十は顔色悪い状態から意気揚々と味を語る。

 

「口の中で冷たい感覚が広がり、その後に甘い脂がスウッと解けて喉に行く!肉みたいに濃厚なのに刺身の感触だ!」

 

初めて口にしたグルメ食材に興奮しっぱなしの春十。それを見た一夏は尻餅をついて笑い始めた。

 

「はっは…だろうね」

 

「ハッ!そうだ一夏だ!」

 

春十は急に正常に戻り、一夏の顔を見る。

 

「一夏!!お前今までどこ行ってたんだ!?どうして俺達に会いに来なかった!?どうしてあんなに強いんだ!?」

 

「そ、そうだ一夏!説明して貰おう!」

 

「洗いざらい喋って貰うわよ一夏ぁ…!」

 

それに便乗する箒と鈴。二人とも怒っている。しかし春十だけが純度の怒りでは無かった。

美味しい物を食べた影響か、今まで抱いていた怒りと疑問がどうでもよくなっているのだ。

 

「…そういうわけだ、一夏。話して貰うぞ」

 

「千冬姉…分かった」

 

観念した一夏。正座をして皆に向き直った。

 

「でもその前に…」

 

そう言葉を溜めていると…一夏の腹が大きく鳴った。

 

「飯にしようぜ!」

 

 




次回、食事回(ほぼ毎回だけど…)


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グルメ13 腹ごしらえ!

次の鬼太郎の目玉おやじ野沢雅子か〜、どうせ出すなら鬼太郎役が良いかなと思ったんだが…あれはあれで良いかな。そして猫娘変わりすぎぃ!


一夏は「飯にしようぜ」と言った後、厨房へと姿を消す。

彼を信じてない訳では無いが、一応真耶が同行して監視をしている。

専用機持ちや千冬達は宴会場で待機している。

 

「春十…もういいのか!?」

 

「ああ、気分が良くなった」

 

先程まで立つことすら困難な状態だった春十は、それが嘘のように元気になっていた。寧ろ人生の中で一番の絶好調らしい。

 

「にしても腹減ったな〜箒!」

 

「あ、ああ…」

 

復活した春十は、何だか食欲が凄まじくなっている。さっきから何回も腹を鳴らし、「腹が減った」と連呼している。以前の彼はここまで食欲旺盛ではなかったはずだ。

これら二つの現象は、グルメ細胞が原因(もしくはおかげ)である。

グルメ細胞を取り込んだ春十は、調理に成功した「ロイヤルマンボウ」を食べることによって疲労が回復。さらに今までに無かった食欲も手に入れたのだ。

当然それを、彼らは知る由もない。

 

「にしても遅いですわね…血まみ…一夏さん」

 

「そうね…」

 

雑談していると、既に一夏が厨房に行ってから数時間経っていることに気付く。しかし姿を一向に見せない。

逃げたか?そう思われたが、真耶が見張っているし、もし逃亡してもIS反応があるはずだ。それらしき警報はまだ鳴っていない。

 

「ちょっと様子を見てきますわ」

 

「大丈夫?私も行こっか?」

 

「心配ご無用ですわ」

 

こうしてセシリアは長い廊下を渡り、厨房へと向かう。

厨房前には、真耶が開いた口が塞がらない状態で中を覗いている。

 

「山田先生?どうかなさいましたか?」

 

「あ、ああれ…」

 

そうして真耶が指さす方向を見る。

 

「なっ——!?」

 

そこに居たのは、凄まじい剣術を見せる侍でも、キレのあるダンサーでもない。

ただ一人、純白のエプロンを着て、踊るかの如く動き、刀捌きのように包丁を振る。

まるで数十人が一度に作業しているようなペース。しかしただ一人。

ただ一人の…料理人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏は龍豚(ろんとん)の肉を圧力鍋に入れ、別の調理に移る。

鷹葱の玉葱を切り、天のイカを捌き、八咫鴨を鍋で煮る。

 

龍豚(ろんとん)の生ハムと鷹葱の玉葱を使って生ハムサラダに!)

 

そして次は天のイカを半分刺身にする。もう半分は揚げ始める。

八咫鴨の鍋を見る。しばらく様子を見た後、キノコや野菜、具を足していく。

 

(狼煙椎茸に肉食白菜を加えて…)

 

そして次に調味料、スパイスで味付けしていく。

 

(ジェム柚子の柚子胡椒と葡萄山椒のダブル薬味で八咫鴨の味を深め…)

 

どんどん料理ができ、美味しそうな匂いが辺りに漂った。

それを嗅ぎ、唾を飲み込む二人。

 

(な、なんて香ばしい匂いですの…!?)

 

(ああ…お腹が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆何してるの〜?」

 

ここで一般生徒達が宴会場に入ってくる。

 

「ちょっと少しな…お前達は?」

 

「私達は〜ご飯を食べに来たの〜」

 

布仏が話しかけてくる。当然だが彼女たちは今回の事件の詳しいことを聞かされていない。もっとも機密事項なのだが。

 

「何か美味しそうな匂いしない?」

 

「…確かに」

 

すると突然、食欲をそそられる匂いが鼻に入る。

香ばしい匂い、甘い匂い、辛い匂い、多種多様な香りが宴会場を襲う。

そして、その元凶が運び込まれる。

 

「な、何これっー!?」

 

使用人達が運んできたのは、見たこともない食材で作られた大量の料理。

和食や海外の料理…東西南北全ての料理が終結した。

 

「よう!またせたな!」

 

「「「一夏っ!」」」

 

そして笑っている一夏が姿を現した。

その傍らには、凄い物を見た表情をしている真耶とセシリア。

鈴がセシリアに詰め寄る。

 

「ちょっとセシリア!何があったのよ!?」

 

「凄かったですわ…こう、目にも留まらぬ早業というのはああいうのを言うのですね…」

 

「えっ…もしかして…」

 

ここで箒があることを感づく。

 

「一夏…お前これ一人で作ったのか!?」

 

「ああそうだけど?」

 

「「「「「「「「「「「「ええぇっ!!!???」」」」」」」」」」」」

 

一夏を初めて見た人も含めて全員がその言葉に驚く。

どう見ても一年生全員分の量がある。これを数時間で一人で作ったのか?

 

「まぁ食べてみてくれ!味は保証する!」

 

「は、はぁ…」

 

こうしてその場にいた全員が席に座る。

目の前には極上の料理。どれもこれも美味しそうだ。

 

「では皆さん、お手を拝借」

 

一夏の言葉に全員が両手を準備する。セシリア達海外組は少し手間取ったが。

今からすることは予想できる。日本人なら食事前に必ずする「あれ」だろう。

 

「この世の全ての食材に…感謝を込めて…」

 

「…えっ?」

 

しかし聞いた事の無い前座で全員が戸惑い…

 

「いただきます!」

 

「「「「えっいや…いただきます!!!」」」」

 

少し遅れて言った。

一夏と春十は直ぐに箸を伸ばすが、周りの人々は少し躊躇する。

何故かというと、食べたこともない食材なので警戒しているからだ。

中には明らかに食べ物とは思えない形状の物がある。特にこの胴体が丼の翼竜。

 

「うおおおおおおおお!うんめぇええええええええ!!!」

 

そんな事をお構いなしに食べまくる春十。本当に彼は変わってしまった。

その食いっぷりを見ていて、こちらもお腹が減ってきたので箸を取った。

 

「じゃ、じゃあ…私も…」

 

そして自分達の近くにある料理を口に運び、食した。

 

「「「…」」」

 

すると全員が黙って硬直する。

そして次第に小刻みに震え始め…

 

 

「「「うまいっ!」」」

 

 

その言葉を、口から漏らしてしまった。

 

「一体何だこれは!?」

 

箒が食ったのは、鮮やかな寿司だった。

鮪、サーモン、ウニ、種類様々な物が握られている。

 

(この鮪寿司、口の中に入れた瞬間うま味と新鮮さが爆発するかのように広がった!まるでミサイルを口の中に入れられた気分だ!このサーモンも脂身が凄く、しっとりしているのにしつこくない!)

 

そして寿司をどんどん平らげていった。

 

(そしてこのウニ、一噛みしただけでウニの味がチーズのように柔らかく溶けていくぞ!)

 

「マッハグロにバイソンサーモン、そしてチーズウニだな」

 

 

 

 

 

「この味は…堪りませんわ!」

 

セシリアが食っていたのはローストビーフである。横にはソースが置いてある。

 

(独特の食感…そして噛んで中を開けると、閉じ込められたうまさが噴水のように飛び出て…)

 

そして一切れをソースにつけて食べると、更に味が良くなった。

 

(このソースの濃厚さが飛び出る旨さを倍増にしていますわ!)

 

「高足牛にソースの木の樹汁です」

 

 

 

 

 

 

「負けたわ…」

 

鈴は落ち込んでいた。何故なら、この酢豚は自分が作った物よりも美味いからである。

 

(豚の肉団子とピーマンの苦さがとても良く合っていて、このほど良い酸味も良い!)

 

しかし悔しがっても、酢豚を食べる手は止まらない。

 

(そしてこのパイナップルがその酸味を甘酸っぱくしていて良い感じ!)

 

龍豚(ろんとん)の肉に、ビターピーマンを、そしてパイナップルには金剛パイナップルを使ったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「甘〜〜〜い!」

 

シャルはそのショートケーキを食べて微笑んでいた。とろける甘みが彼女を笑わせる。

 

(生クリームの匂いが、口から鼻に届いていく…そして苺の凄い甘さがそれに混ざり合っていて美味しい!)

 

「クリームの波にプラネット苺を使ったショートケーキはどうだ?」

 

「美味しいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味い…美味いぞ!」

 

ラウラはそのジャーマンポテトを頬張っている。どうやら気に入ったらしく、どんどん口を膨らませていった。

 

(ベーコンの食感と玉葱の新鮮さに、濃厚なバターが絡んでいる!)

 

今までに食べたことのない味に、ラウラは舌鼓する。

 

(なのに喉腰は悪くない…すっと飲み込める!)

 

「ベーコン崖のベーコンと鷹葱の玉葱を入れ、それにバターの噴水のバターを入れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この魚は…まさか…」

 

春十は目の前に置かれた鰹のたたきを見てあることに気付く。

 

「ああ、お前が倒した『カツオーガ』で作ったたたきだ」

 

「あれ鰹だったのか…」

 

そう思いつつも口の中に入れる。

 

(力強くて新鮮——!何て爽快なんだろう…!)

 

「そしてそれに火花レモンとジェム柚子などで作ったポン酢を使えば完成!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この鍋は…温かいな」

 

「ええ…本当に…」

 

千冬と真耶は、熊鍋を食べていた。

 

(癖のないサラサラした脂が、ダシと混ざり合い、何とも美味…!)

 

(静かな味なのに…何て濃厚…!)

 

「フライングリズリーの熊鍋だ。冬眠するとうま味が熟成されるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「このイカの刺身美味し〜!」

 

「この角煮も溶けるみたいに食べられて良い!だけど太りそう…」

 

「麻婆豆腐辛〜い!だけど止められない〜!」

 

「鴨鍋初めて食べた!とても美味しい〜!」

 

他の生徒も、どんどん食べ、その旨さに感激している。

それを見ている一夏は、微笑ましく思ってくる。

 

(幸せだ…こう家族のように食事をする時は…)

 

そして脳裏を走ったのは、千冬と春十、皆で食卓を囲んだ日々。

 

(戻れるかな…俺も、あの時に…)

 

 

 




次回、遂に一夏が皆に説明します。


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グルメ14 これから!

昨晩おでんを食べました。おでんには味噌を付けますね。


「ふぅ〜落ち着くな〜」

 

御馳走を堪能しまくった専用機組と教師陣は一杯の茶を飲んでいた。

ちなみに他の一般生徒達は部屋に戻らせてある。

 

「針茶葉の茶は美味しいだろ?」

 

「針茶葉?」

 

すると一夏が奥から現れた。

その手にはおぼんが持たされている。

 

「一枚一枚が鋭い針の茶葉でな、正しく調理しないと目に見えないミクロサイズの針が口の中を傷つけるんだ」

 

「口の中を!?」

 

その言葉を聞いた全員が一夏をハッと見る。そして冷や汗をみるみる流していく。

 

「安心しろ、ちゃんと調理している」

 

「ほっ…」

 

「その針茶葉とかいうやつも…さっきの見たことも無い食材も…一夏、お前に何が起きたのだ?」

 

ここで箒が聞いてくる。それに便乗するかのように春十、鈴が顔を近づけた。

 

「…ゆっくり話すよ」

 

一夏も、他と同様座り、茶を飲んで経緯を話し始める。

 

「誘拐されたあの日、俺は異世界に行ってしまったんだ」

 

「い、異世界!?」

 

いきなり聞き慣れない言葉がでてきたので、聞いていた者達は一斉に驚く。

そんなラノベみたいな話、本来なら信用しないが今は特別だ。

 

「その世界は…名付けるなら『グルメ世界(ワールド)』美味なる食材が溢れかえる世界だった」

 

「グルメ…世界(ワールド)?」

 

「ああ、とろけるチーズの泉、チョコレートの咲く花、お米の砂場にワインの滝…そんな食材が沢山あるんだ」

 

「まるでおとぎ話だな…」

 

ここで千冬が頭を抱える。もう少し現実味のある話が聞きたいのだが、どうやら嘘は吐いていないらしい。現にさっきの料理が証拠となっていた。

 

「その世界に迷い込んでしまった俺は、『小松』という一人の料理人に出会い、弟子になったのさ」

 

「弟子って…料理人の?」

 

「おう、グルメ時代で最も価値のある存在…それは『料理人』だ。俺は小松師匠の元で修行し、自分で言うのも何だがプロの料理人になった」

 

「質問をいいか?」

 

「いいぜ…ってお前は…」

 

挙手したのは学年別トーナメントの時対峙したことがあるラウラだった。

 

「質問の前に、あの時の私は愚かだった。攻撃してしまったことを許して欲しい、義弟よ」

 

「気にしないで良い…って義弟?」

 

「ああ、私は春十の夫だ!」

 

その言葉に、場が静まりかえる。

最初に口を開いたのは箒だった。

 

「貴様!まだそんな事を言っていたのか!」

 

「何を言う、日本では気に入った相手を『嫁にする』のであろう?ならば春十(よめ)の弟は義弟だ」

 

「そう言う問題では無い!」

 

「えっ?えっ?春十兄が嫁?男なのに?それに嫁と夫って…結婚?」

 

「「「「断じて違う!」」」」

 

それを殆どの人間が否定した。

 

「まぁそれはさておき質問は?」

 

「そうだ、何故義弟はあんなに強いのだ?」

 

それはラウラだけにも関わらず全員が気になっていた疑問であった。一夏の強さは明らかに普通の物では無い。

 

「それは…『グルメ細胞』の力だ」

 

「「「グルメ細胞?」」」

 

また知らない単語が出てくる。

 

「『グルメクラゲ』から採れる特殊な細胞、取り込んだ生物は美味い物を食えば食うほど強くなっていくんだ」

 

「何よそれ!?ほぼチートじゃない!」

 

「まぁ手に入れるには命懸けだけど…先天的に持っている人もいる」

 

「グルメ細胞かぁ〜いいなぁ」

 

春十がそう漏らす。しかし一夏はそれを指摘した。

 

「何言ってんだ、春十兄も持っているじゃないか」

 

「「「——えっ」」」

 

その言葉に、一同唖然とする。

そして周りの人間が春十を見始めた。

 

「カツオーガの時に急に強くなっただろ?しかもロイヤルマンボウ食ったら傷も癒えたし…後天的に手に入れたんだろ」

 

「嘘だろっ!?何でまた!?」

 

一番動揺しているのは春十である。無理も無い。自分がいつそんな物を手に入れたのか知らなかったのだから。

 

「それについては…束さんに聞こう」

 

「はーい♪呼んだぁ?」

 

すると隣の部屋から束が入ってきた。

 

「姉さん!?」

 

「束!?お前もしかして一夏が生きていたことを知っていたのか!?」

 

「うん!それどころか一緒に住んでたよ」

 

「…何故教えなかった?」

 

「教えづらかったから♪」

 

「…お前という奴は」ハァ

 

千冬がまた頭を抱える。

 

「俺の考えだとISのコアが関係していると思うんですけど…どうです?」

 

「うーん、私もよく分からない。グルメ細胞もいっくんに出会ったから知ったんだし」

 

「そうですか…」

 

「ところでいっくん、これからどうするの?」

 

「これから…?」

 

これからというのは、どこに住むか、という意味だろう。もう正体を隠す必要が無いので束のラボに住む必要が無いのだ。

 

「そうですね…最初はしばらくいたら『帰る』つもりだったんですけど…ほっとけない面倒ごともあるしなぁ…」

 

(…『帰る』?)

 

その言葉に、鈴が疑問を持つ。

一夏が生まれて住んでいた世界はこの「IS世界」の筈だ。それなのになぜ「グルメ世界」に帰る必要があるのだ?

それに、「帰る」に違和感を持つ。元々の世界はここなのだから、グルメ世界に行くことを「帰る」と言うのはおかしいのだ。

鈴は何故かこの疑問に…恐怖を感じる。

 

「それなら(うち)に来いよ!なぁ千冬姉!」

 

「織斑先生だ。勿論良いんだが誰も家にいないぞ…?」

 

「あっ…」

 

自宅に帰らせたい千冬と春十、しかし今誰も居ないことに気付く。

 

「なら…食堂で働けば良いんじゃないですか?」

 

そう言ったのは、真耶であった。

 

「えっ…?」

 

「あんなに料理が上手なら、IS学園食堂のコックとして働けば良いですよ!織斑先生と織斑君は弟さんから離れずに済むし、食堂のご飯が美味くなるし!」

 

「いいんですか?俺みたいな奴を…」

 

すると一夏は全員を見渡す。向けられた表情で皆歓迎している事が分かる。

 

「勿論良いぞ!遠慮するな!」

 

「良いに決まってるじゃない!来なさい来なさい!」

 

「貴方の料理はとても素晴らしい物ですわ、こちらからもお願いします」

 

「歓迎するよ!どうぞ来て!」

 

「義姉としても話がしたいからな…構わんぞ!」

 

「当たり前だろ一夏!たまには兄に甘えろ!」

 

「一夏…一人の姉としてお前を守ってみせる。だから来てくれ…」

 

「皆…」

 

その言葉に、涙目になるが何とか堪え、笑顔になる。

 

「おう!『織斑食堂』出張だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかお前とまた出会うとはな…サタン」

 

「それはこっちの台詞だぜ、ディアボロス」

 

暗闇の空間、そこで一夏の悪魔「ディアボロス」と春十の悪魔「サタン」が対峙していた。

そして、それを遠くから見ている白い少女。

 

「ディアボロス、誰よりも冷徹なお前が随分宿主と仲良しこよしじゃないか」

 

「冷徹…俺が冷徹ならお前は『冷血』だろ?」

 

「フハハハハハハ!!違いねぇ!」

 

サタンは大笑いする。そう返されるのを予想していたように。

 

「目的は復活か?サタン」

 

「当然、俺は宿主(はると)の身体を乗っ取り、完全復活をしてやる!」

 

「そう大声で叫ぶもんじゃ無いぞ、同居人が睨みつけてるぜ?」

 

その言葉通り、白い少女がサタンを凄い目で見ていた。

 

「構うもんか、俺は全てを喰らい尽くす!!全ての宇宙の食材を!!全て胃液で溶かし尽くしてやるぜ!」

 

「相変わらずの強欲…いや『食欲』だな」

 

「あんたも…そうだろ?」

 

(一夏、一番ヤバい奴は、結構近くに居たぜ…!)

 

 




ラウラ(夫)から一夏(嫁の弟)は「義弟」であってるかな?


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グルメ15 太陽の子!

タイトルですが、RXではありません。


グルメ世界 ホテルグルメレストラン

 

街の景色が一望できる部屋にて、テープルを囲んでいる三人。

一人は本来厨房に立っているべきコック長。

もう一人は青髪の大柄な男。

最後の一人は同じ髪色の若い女性である。

そして料理人一夏に差し出された「ロイヤルマンボウ」の刺身を頬張った。

 

「くっ〜!流石ロイヤルマンボウ!甘みがそこらの魚とは段違いだ!」

 

青髪の男、トリコは幸せそうな表情を見せた。

 

「よく調理できたね一夏!」

 

その娘リンカが一夏の方を向いた。

そして一夏の師匠である小松が一夏にこう言った。

 

「おめでとう一夏君!まさかこんなに早く課題を達成するとは思っていなかった!やっぱり君には才能があるよ!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

その褒め言葉に照れてしまう一夏。

 

「まぁ切羽詰まった状況だったんで…『火事場の馬鹿力』ってやつですよ」

 

「そういや家族と会ったらしいな一夏、マンサム会長から聞いた」

 

「はい!自分の事も話しました。しばらく向こうに滞在しようかなと…」

 

「えぇ〜!そんなの聞いてない!」

 

ここでリンカが急に立ち上がり、一夏の両肩を掴んで彼の身体を揺らす。

その表情は少し怒っていた。

 

「すぐ帰るって言ったじゃん〜〜!」

 

「言ってない言ってない」

 

「一夏のバカ〜〜〜!!」

 

一夏は自分を揺らしまくるリンカの両手を掴み、目と目を合わせる。

その瞬間、リンカがドキッとして、頬を赤く染める。

 

「こればっかりは許してくれリンカ、あっちの世界で大変なことが起こっているんだ。俺は姉や兄、友達を放っておけない」

 

「…だけど」

 

「安心しろ、俺は必ずお前の元へ帰ってくる」

 

「…わかった」

 

顔をマジマジと見られて耐えられなくなったのか、急にモジモジし始めるリンカ。

トリコと小松はその光景を微笑ましく見ていた。

 

「そうだ一夏君、これ」

 

そんな中、小松が二つ折りにされた紙を渡してきた。

 

「何ですかこれ?」

 

「次の課題の一覧」

 

「!?」

 

その言葉に驚き、急いでその紙を広げる。

そこには、調理が難しいと言われてきた食材がズラッと書かれていた。

 

「えぇ〜〜っ!?まだ課題あるんですか!?」

 

「まだいくつもあるよ、その紙に記してある食材を全部調理してきて」

 

「うわ〜どれも難易度が高いと名高い食材ばっか…」

 

一夏はがっかりとした表情をする。

リンカもその紙を見て、一夏に同情した。

 

「なっはっは!一龍の会長(オヤジ)に修行食材の依頼渡された時を思い出すな!」

 

「あれは大変でしたね〜」

 

この空間でのんびりしていたのはトリコと小松だけだった。

 

「仕方ない…向こうで練習するか」

 

「もう!ちゃちゃっとその大変なことを解決して帰って来てよね!」

 

「なはは…努力する」

 

そう言ってリンカは一夏に抱きつく。本来なら照れてしまう一夏だが、差し出された課題に絶望してそれどころでは無かった。

すると突然、リンカの身体が一夏から引き離されるように宙に飛ぶ。

 

「えっ!?」

 

リンカは優しく置かれるが、その位置は一夏から大分離れている。

そして次に、課題が書かれた紙が一夏の手から離れた。

それは、出入り口にいた「その人物」の手に持たされる。

 

「これに書かれている…『虹色カボチャ』…」

 

その女性は、煌びやかな着物を身に纏い、ゆっくりと歩いてくる。

その長髪は緑、ピンク、白、水色など様々な色で分かれている。

 

(わたくし)、大好物ですのよ、一夏様」

 

「お、お前は…!」

 

 

「そう!私こそが地上に降臨した美の象徴!」

 

 

そして頼まれてもいないのに自己主張の激しいポーズを取る。

 

 

「父サニーが世界一美しい美食屋ならば、私は宇宙一美しい美食屋…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロナッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるでスポットライトでも当てられているような雰囲気を出す「コロナ」。

その場にいる全員が「やれやれ」という顔をしていた。

 

「相変わらず父親の影響を受けた子だ…」

 

「よっ久しぶりだな松にトリコ」

 

そしてまた現れたのは、美食屋四天王の一人である美食屋「サニー」であった。

ちなみにトリコの妻であるリンの兄だから、リンカにとっての伯父である。

 

 

「伯父さん!?」

 

「サニーさん!お久しぶりです!」

 

「サニーじゃないか!どうしたんだ?」

 

(こいつ)がよぉ、一夏(なつ)がグルメホテルに帰ってきてると聞いて一目散にここに向かったから付き添い」

 

「だから俺の名前は一夏(いちか)ですってば!」

 

名前を省略されて怒る一夏。ついでに小松も「松」と略されている。

 

「当然です。一夏様いるところに私です」

 

 

 

 

 

コロナ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…美肌豆腐(捕獲レベル24)

・スープ…グルメ天の川の雨(捕獲レベル測定不能)

・魚料理…

・肉料理…月光豚(捕獲レベル22)

・主菜(メイン)…

・サラダ…タレイアキャロット(捕獲レベル31)

・デザート…

・ドリンク…ビッグバンコーラ(捕獲レベル52)

 

 

 

 

 

「はは…久しぶりコロナ」

 

「一夏様ぁ!」

 

彼の顔を見た瞬間、コロナはふわりと浮き上がり、一夏に抱きついた。

 

「コロナっ!?」

 

「お久しぶりです一夏様…長い間会えないから寂しくて寂しくてどうしようもございませんでした…」

 

コロナは母親に甘えるが如く、彼の胸を頭で撫でる。

 

「いやあの…離れて…?」

 

「それはなりません、一夏様が私のパートナーになるまで離しませんことよ」

 

それを見てリンカが「コテ」でコロナをひっくり返して、一夏から離した。

 

「だ〜か〜ら〜!!一夏は私のパートナーって言ってるでしょ!」

 

「あらリンカ、いましたの」

 

「最初っからいたわよ!」

 

「まったくもう、こんな品も無い女性が私の従姉妹だなんて恥ずかしい限りですわ」

 

「何ですって〜!?」

 

見ての通りの犬猿の中、この通り一夏を取り合っていた。

 

「表出なさい!決着付けようじゃないの!」

 

「こっちの台詞ですわ!」

 

そう言って二人はホテルから出てくる。きっと喧嘩でもするのだろう。

 

「相変わらずモテモテだな夏」

 

「…どうも」

 

対する一夏は、どうもハッキリしていない表情をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の食堂にて、戻ってきた一夏は大きな看板を出入り口に取り付ける。

「織斑食堂」と書かれたそれは、大きく目立っていた。

 

「さぁ!織斑食堂!本日開店!」

 

こうして、IS学園に最強の食堂ができた。

 

 




関係無い話ですが、この間のピックアップで頼光ママ当てました。


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グルメ16 生徒会長!

最近プリンツ・オイゲンと結婚しました。どっちのだって?さぁどっちでしょう。


 

 

 

IS学園、お昼休み。

専用機持ち達は昼食を取るために食堂へと向かっていた。

 

「今日のお昼からだよね。一夏さんの食堂」

 

シャルの言う通り、今日からIS学園の食堂は「織斑食堂」にリニューアルするのだ。

ちなみに朝は準備やらで開けなかったらしい。

 

「そう言えば、一夏さんはどこに泊まっていますの?」

 

「千冬姉の部屋らしいぜ。一応一夏も学園の人間になるけど…空いてる部屋が無かったっぽい」

 

「私としては義弟の飯が楽しみで仕方なかったぞ!」

 

「あぁ〜ラウラなんか上の空だったもんね」

 

そう話している内に食堂へと到着する。

 

「何だこの人集り!?」

 

するとそこには普段の数倍はいそうな生徒達が集まっている。皆押すな押すなの大混雑だ。

 

「あっこれって…」

 

鈴が「織斑食堂」と書かれた看板を見つける。

六人はあっという間に人混みの中へと巻き込まれてしまった。

 

「嘘だろ…一夏の飯の旨さは一年しか知らないはずだぞ…」

 

「ど、どうやら噂が凄まじい勢いで広まったらしい…」

 

何とかはぐれないように集団で行動し、注文口に辿り着く。

すると一夏がヒョイっと顔を出して現れた。

 

「よぉお前ら!来たんだな!」

 

「一夏!凄い賑わってるじゃん!」

 

「まぁな」

 

「む…?」

 

ここでラウラがあることに気付く。

 

「義弟よ、メニューが無いぞ?」

 

「ああ、食べたい料理を言ってくれ。それに合わせて作る」

 

「合わせて!?この人数全員に!?」

 

「向こうの世界でもこんな感じだったしな、何にすんの?」

 

それぞれから注文を聞いた一夏はすぐ奥へと走って行く。

そして受け取り口へと着いた時にはあっという間に六品が出来上がっていた。

 

「「「「「「早っ!」」」」」」

 

「さっ!どうぞ食ってくれ!」

 

春十とラウラはカレーを頼み、箒と鈴は焼き秋刀魚定食、セシリアとシャルはオムライスを頼んだ。

 

「このカレー、こんなにまろやかなのに喉越しがめっちゃ良い!」

 

「ああ!辛いが食べられないというわけじゃ無い、寧ろどんどん口に行く!」

 

春十とラウラが頼んだカレー、ルーは「底無しカレー沼」を使い、スパイスには「ヒートツリー」という木の皮を粉状にした物を使っている。

 

「パリッとした食感の後に、秋刀魚のうま味で膨らんだ身が口になだれ込んでくる…!」

 

「香ばしい匂いが風味と共に鼻に入り込んで来て…美味しい!」

 

箒と鈴が頼んで焼き秋刀魚定食、秋刀魚は「手裏剣秋刀魚」を使っている。海中を回転しながら泳ぐこの魚、回転すればするほど味が美味しくなるのだ。

 

「ケチャップライスの味の濃さが、しっとり爽やかなタマゴの味を引き立てていますわ…」

 

「まるで溶けているみたいだ〜」

 

最後の二人が頼んだオムライス、タマゴは「崩壊タマゴ」を使い、ライスには「真紅の滴り」というケチャップを入れていた。

 

「あ〜こんなに旨ぇ飯が毎日食えると思うと幸せだな!」

 

「まったくですわ!食事の時間が楽しみになりますわね!」

 

一夏の料理を堪能したのは専用機持ち組みだけではない。他の一般生徒達も喜んでいる。

まるで祭りのような賑やかさ、食堂が嬉々とした雰囲気になる。

織斑食堂出張の初日は、無事上手くいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜ようやく落ち着いた」

 

しばらくすると人が減り、休める時間が来た。

しかし忙しさを恨んではいけない。何故なら生徒達は自分の料理を食べに来てくれたのだから、自分もそれに答えないと行けないのだ。

 

「ちょっと良いかしら」

 

「あ、はいどうぞ〜」

 

そう思っているとまた客が来た。

その生徒は、自分よりも年上で、聡明な水色の髪の女性、その手には扇子が握られている。

 

「織斑…一夏君よね?織斑春十君の弟…そして…『血まみれ』」

 

「…!」

 

血まみれの正体が自分だということは、一部の生徒(せんようきもち)、一部の教師しかいない筈。血まみれと呼ばれた一夏はその女性を警戒する。

 

「そう睨まないで、私は『更識 楯無』、この学園の生徒会長よ」

 

「生徒会長…」

 

成る程、生徒会長ぐらいなら自分の正体を伝えられてもおかしくはない。

 

「今日は個人的に君に会いに来たの。注文して良い?」

 

「どうぞ、好きな物を」

 

「そうねぇ…じゃあ何か甘い物をお願い」

 

「はい少々お待ちを!」

 

そう言って一夏は調理を始め、すぐに楯無に渡した。

 

「これは…どら焼き?」

 

「はい、食べてみてください」

 

「どれどれ…」

 

そう言ってどら焼きを頬張る。すると冷静な顔が一瞬で驚いた顔になった。

 

「あら…!」

 

「餡子は『提灯餡子』、皮には『白銀小麦粉』を使っています。どうですか?」

 

「とても美味しいわ、柔らかい餡子がふっくらな皮に包まれて…この皮何だかミルクの味が…」

 

「よく分かりましたね、『六つ足ホルスタイン』のミルクを少し入れました。まろやかさをアクセントにするために」

 

「…どうやら異世界から来たというのは本当らしいわね」

 

「…また来て下さい!今度も飛びっ切り美味しいの用意しますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさかタツノテンセイワニが倒されるなんて…」

 

何度もIS学園に猛獣を送りつけているその女性。次々と倒されていく刺客に、驚きを隠せずにいた。

彼女の側には茶髪の女性がもう一人いた。

 

「だから言ったんだ!最初から私が出てりゃあ良いってよ!」

 

その綺麗な見た目とは逆に、その言葉遣いは荒い。

いや、「今」は綺麗と言い難い姿である。

両腕両足は部分的に緑色へと変色している。目の下は、まるでひび割れているかのように線がある。

普通の人間とはとても言えないそれは、足を組み堂々としている。

 

「だって、あの時はまだ細胞の適合が上手くいってなかったじゃない。今だって完全とは言えないし…」

 

「だったら次私を出せ!早くこの力を試してぇんだよ!」

 

「はいはい…」

 

困ったように溜息を吐く。すると奥から機械音が足音のように聞こえてくる。

現れたのは、鳥人間のようなロボット。

 

「…『M』、それの操作には大分慣れたようね」

 

「…」

 

そいつは何も言わないが、ゆっくりと頷いた。

 

「だったら…次の作戦で終わらせましょう」

 

 

 

 

 




今回少し短めですね。すいません。


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グルメ17 過去!

一夏のグルメ世界での過去話をちょこっとだけします。


 

「お疲れ様、一夏」

 

「あ、千冬姉」

 

夕食時の客ラッシュが収まった後、自分の姉である千冬が来た。

 

「千冬姉も何か食いに?」

 

「いや、そうじゃない」

 

すると内緒話でもするかのように顔を近づける。一夏は耳を向けて答えた。

 

「理事長がお前と話がしたいらしい…店が閉まったら理事長室に来てくれ」

 

「…理事長が?」

 

そう言って千冬は去って行く。

せっかくだから何か食べていけば良いのに、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂が閉まり、言われた通りに理事長室に来た一夏。

 

「失礼します」

 

扉を叩き、返事が来たので開ける。

そこには理事長の轡木、ブリュンヒルデと謳われる千冬、そして生徒会長の楯無だった。

 

「あ、更識さん」

 

「昼はありがとね」

 

「いえいえ、所で話というのは?」

 

呼ばれた理由を三人に聞く。最初に答えたのは轡木だった。

 

「…『これから』についてです」

 

「これから?」

 

「はい、知っての通りIS学園は幾度も猛獣に襲撃されています」

 

一回目はクラス代表戦。

二回目は学年別トーナメント。

三回目は1年の林間学校。

 

「なので…今度のイベントも襲われるかと思いましてね…」

 

「イベント…?」

 

「…学園祭です」

 

「学園祭…!」

 

IS学園の学園祭は一大イベントと言っても過言では無い。

生徒は勿論、一般人も沢山来るのだ。

 

「確かにそんな所を襲撃されたら大変ですね」

 

「ええ、だから貴方には学園内の警備をして欲しいのです」

 

「分かりました!任せて下さい!」

 

それに対し一夏はやる気満々で答える。

 

「このことは…他に誰に伝えるんですか?」

 

「専用機持ち達にも伝えます。そして教師達も…」

 

「頼んだわよ織斑君」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏はそのまま千冬と一緒に部屋へ戻る。

 

「千冬姉、仕事は良いのか?」

 

「今日の分はもう終わった。このまま休むさ」

 

「もしかして呑む?美味しいおつまみ作るけど」

 

「それはありがたい、そうしてくれ」

 

一夏はキッチンへと立ち、装置で食材を取り出した。

それは小さな一本角だった。それが沢山出てくる。

そしてそれを素早く揚げた。

 

「はい!『角鼠の角』を揚げた物!」

 

「どれどれ」

 

そうして千冬姉はそれを口に運ぶ。

そして噛んだ瞬間、サクッと快音が脳内にまで届いた。

 

(コロッケのような食感…そして香ばしさが鼻まで達する…)

 

そしてそれを肴にし酒を吞む。

 

(癖になる味だ…箸が止まらん!)

 

そう思っていると、いつの間にか全て平らげてしまった。

 

「美味しかったぞ、一夏」

 

「そりゃ良かった!」

 

一夏は嬉しそうに笑い、千冬と反対側に座った。

 

「一夏…向こうの世界ではどうやって生きていたんだ?」

 

「どうやって?」

 

「あんな強い猛獣達が蔓延る世界で…どうやって生きてきたんだ?」

 

「そうだね…ある人達のおかげかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ…どこだよ」

 

気付くと俺は見知らぬ荒野にいた。

見たことも無い地形、植物、動物に恐怖を感じる。

 

「どうなっちまったんだ…俺」

 

自分は誘拐された筈、しかしいつの間にか大自然の中にいた。

取りあえず辺りを探索しようと歩き始める。すると地面が揺れた。

 

「…何だ?」

 

そしてそれが足音ともに大きく鳴っていった。 

後ろを振り返る。そこに見えたのは…

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

手が四本ある恐竜である。

2本の足で大地を走り、4本の手で獲物を探っている。

恐竜は一夏を捉え、追い始めた。

一夏は必死に逃げる。しかし恐竜の大きな歩幅には当然負ける。

恐竜はあっという間に追いつき、一夏を食べようとしたその時…

 

「!!」

 

右側から、青色の悪魔がオーラとして現れる。

それを見た恐竜は、一目散に走り去っていった。

 

「おい、大丈夫か坊主」

 

そう言って現れたのは青髪の大男。指の一本一本が女性の腕のように思えるほどの体格の良さだった。

その側には、小柄な富士額の男性。大男と並んでいるので小さく見えてしまう。

 

これがトリコと小松の出会いだった。

それからリンカと出会い、小松の指導を受け始めた。

そしてリンカとコンビを組み、現在へと至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリコと小松か…」

 

「ああ、あの二人がいなかったら俺は今頃死んでいた…」

 

「いつか会いたいもんだな…その二人に…」

 

「俺も会わせたいよ…千冬姉に」

 

こうして二人は対談し、夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グルメ世界にて

 

「何?ビオトープの猛獣たちが?」

 

会長のマンサムは部下から報告を聞いていた。

 

「はい、各ビオトープの猛獣たちが不規則に姿を消しています。どれも捕獲レベルの高いのばかりです」

 

「うーむ…一夏の言ってたことと何か関係しているのか?」

 

ビオトープとはIGOが生態調査や繁殖のために作った人工自然界である。

正式には第8まである。通称「庭」。

 

「大変です会長!」

 

「今ハンサムって…」

 

「「言ってません!!」」

 

もう一人の部下が慌てた様子で入り込んで来た。

その鬼気迫った表情を見てマンサムも真面目になる。

 

「第4ビオトープと第7ビオトープが襲撃されましたぁ!」

 

「第4と第7が!?」

 

「犯人は…数十のGTロボです!しかももう無い筈の美食會デザインです!」

 

「美食會…!三虎を崇拝している残党がいるとは聞いた事があるが…」

 

「いかがなされますか!」

 

「いや大丈夫だ…」

 

マンサムは余裕の笑みを見せる。

勝利の確信がある顔だ。

 

「確か今第4には『ララ』が…第7には『ポニー』がいる!」

 

「おお!」

 

「四天王の血を引く美食家達ですね!」

 

「ああ、儂らがいるかぎりこの世界は誰にも壊させん!」

 

 




最近なろうでも執筆し始めました。アカウント名はここと一緒なので良かったら見て下さい。


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グルメ18 食林寺!

お気に入り数が500を超えました!ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!



IS学園は——夏休みに入った。

春十達専用機持ち達は、一夏に食堂に集合させられた。

いざ集まってみるとそこには御馳走の山がある。

 

「おい一夏…なんだこれ」

 

春十は驚嘆してポカーンとしている。食堂に呼ばれたから御馳走してくれるのかと期待はしていたがここまでとは思っていなかった。香ばしい匂いが辺りを漂う。

 

「春十兄、強くなりたい?」

 

「あ、ああ…」

 

「なら!食すべき!」

 

そう言って一夏は皿を春十に差し出した。

チャーハン、カレー、スパゲッティ、デザート、ピザ。それはもう爆盛りで用意されている。

 

「グルメ細胞の効果は、美味しい物を食べれば食べるほど強くなる!だから沢山食ってくれ!」

 

「だからといってこの量は…」

 

「仕方ないでしょ、俺しばらくグルメ世界に帰るから」

 

「「「帰る!!??」」」

 

その言葉に大きく反応したのは春十、箒、鈴の三人。

 

「安心しろ…帰ってくるよ、夏休みが終わったら」

 

「結構帰るね、どうしてそんな長く?」

 

シャルの質問に一夏は答える。

 

「これから敵もどんどん強くなっていく、だから俺も修行しようかと思ってな」

 

「そうなのか…」

 

すると一夏は装置で向こうの世界へと繋がる門を開ける。白い光が食堂を照らす。

 

「じゃあ何かあったら束さん通じて連絡してくれ、直ぐに戻ってくる」

 

こうして一夏は一旦グルメ世界へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですマンサム会長」

 

「おぉ!帰って来たんだな一夏!」

 

一夏はマンサムの所へ寄る。

そこでビオトープが襲われたことを知った。

 

「えぇ!?ビオトープが!?」

 

「安心せい、何とか防衛したわい」

 

「それは良かった…ところで誰が?」

 

「ララとポニーだ、二人ともお前に会いたがっていたぞ」

 

ララは四天王ココの娘だ。父から受け継いだその毒能力で大活躍中。

ポニーは何とあの四天王ゼブラの娘。ちなみにゼブラが結婚すると言ったとき周りは天変地異のように大騒ぎした。父親譲りの暴れん坊な性格。しかし一応女の子なのでゼブラよりかは常識がある方である。

 

「ははは…いつか顔を見せますよ。所でリンカに連絡できますか?」

 

「できるが…どうするんだ?」

 

「食林寺で…修行します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間界最大の樹海「ロストフォレスト」。

総面積は3000万平方メートルという超巨大な樹海。一度入ったら二度と出てこられない森だ。

リンカと一夏はその森にある「食林寺」へと向かって歩いている。

 

「凄いわねロストフォレスト…本当に広い…」

 

「ああ、確かに入ったら二度と出てこられないなこれ」

 

その広さと大きさに呆れながらも目的地へと向かう。

しかしかれこれ2時間は歩いているのに一向に食林寺は見えない。当然と言っちゃ当然だが。

 

「そう言えばトリコさんは何てアドバイスしたの…?」

 

「お父さんなら『食への感謝を忘れるな』ってさ…」

 

「俺も師匠も同じ事言ってた…」

 

二人は溜息を吐く。それらしい助言が無いからだ。

そして合掌とかうんたらかんたら言ってたような…

 

「やってみるか…?」

 

「まぁやれることは…」

 

半信半疑だがやってみることにした。

手を合わせ、一礼する。すると…

 

「のうわぁ!?」

 

先程まで木しか生えていない筈の場所に寺の入り口が現れる。

和風溢れるその塀と門、そして名前が書かれた看板があった。

そうこここそが…「食林寺」。

食への感謝を絶やさない「作法の寺」だ。

 

「お待ちしておりました。一夏君にリンカさん」

 

そして長い階段の上には、食儀と書かれた胴着を来ている男が現れた。

頭に布を巻いており、優しそうな青年だった。

 

「僕はこの食林寺の師範…『シュウ』と申します」

 

その男は、かつてトリコと小松が食林寺を訪れたとき、「食儀」の修行を任された元師範代だった。

そして元師範「珍 鎮々」の跡を継ぎ、現在は食林寺の師範を任されている。

 

「しょ、食林寺の師範…!?」

 

師範と言うのだからもっとゴツいのを想像していたが、意外に細い身体をしていた。

 

「はい、二人のことはマンサム氏とトリコさんから聞いています。『殺す気で鍛えろ』——と」

 

((こ、殺す気…))

 

「最初に忠告しますね、この寺は常に食への感謝を常に思っていないと襲いかかってきます(・・・・・・・・・)。なので気をつけて下さいね」

 

「つ、常に!?」

 

いきなりハードルが高くなるので驚く二人。常に感謝とか難しいにも程がある。

 

「大丈夫、慣れれば呼吸のように意識しなくてもできるようになりますから」

 

こうして、一夏とリンカコンビの厳しい修行の日々が始まったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方IS世界では…

 

「「「…」」」

 

専用機(女性)組は目を疑わずにはいられなかった。

何故なら、あの山のようにあった一夏の飯を、春十は数時間で平らげてしまったのだから。

しかも休憩も入れず、次から次へと口に入れていった。

以前には見られなかった異常な食欲。これがグルメ細胞か…

 

「まってろよぉ一夏…ゲフッ、すぐにお前を追い越してやるからな!」

 

ゲップをしながらも、弟への闘志を熱く燃やすのであった。

 

 




家族とシェーキーズに行ったら、僕達の後に学生さん達が団体で入店してきました。彼らに取られたらマズイと思い、急いでピザやらスパゲッティやらを食いましたよ。


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グルメ19 帰還!

劇場版ウルトラマンジード見ました。
感想を後書きで書くのでネタバレ注意です。
後今回少し短めです。


時は流れ、二学期。文化祭の前日。

一組の生徒達は教室を切磋琢磨に模様替えしている。

その出し物はメイド喫茶。「織斑春十ホストクラブ」「織斑春十とツイスター」「織斑春十と王様ゲーム」など他に意見は沢山上がったが春十によって全て却下された。

 

「一夏の奴、元気かな〜」

 

春十がそう溢す。一夏の姿をもう数ヶ月見ていない。

こう見てないと不安になってきた。向こうで元気でやっているか知りたい。

そもそも二学期が始まったら戻ると言ったのに一向に姿を見せてこない。向こうで死んだか、と嫌な予想をしてしまう始末だ。

すると箒が話しかけてきた。

 

「一夏の事か?」

 

「ああ、音沙汰も無いから不安で…」

 

「一夏の事だ。きっとその内帰ってくるさ」

 

「呼んだ?」

 

聞き慣れた声が耳に入る。見ると、扉からヒョコッと顔を出している一夏がいた。

 

「「一夏!!」」

 

「おう、ただいま!」

 

右手を挙げ、和やかに笑う一夏。

まさかこんなにあっさり戻ってくるとは思ってもいなかったので驚いた。

急いで彼の元へと駆け寄る。

 

「予定より遅かったじゃねぇか!」

 

「すまんすまん、修行が長引いて…」

 

「修行…」

 

よく見ると彼の顔は傷だらけだった。服も埃だらけでとても綺麗には見えない。

相当厳しい物だったのだろう。

 

「一夏!帰って来てたの!?」

 

すると隣のクラスから鈴が来る。彼女も一夏の帰りに驚いていた。

 

「ああ、待たせたな」

 

「まったくよもう…!」

 

彼の顔を見て安心したのか、鈴の顔が破顔する。

鈴も一夏の無事な帰還に喜んでいた。

 

「それで?修行の成果はどうだったのだ?」

 

「そ、それは…」

 

すると一夏の顔から溢れるように冷や汗が流れ出る。

その視線も金魚のように泳ぎ始めた。

ハッキリ言うと、一夏の修行はまだ完了していない。

トリコと小松はその才能であっという間に食儀を完璧に習得したらしいが、一夏とリンカはまだマスターできていない。改めて二人の才能には驚く。

 

「まぁ安心しろ!大分強くなったさ!それより春十兄こそ大丈夫?」

 

「俺だってお前の飯のおかげでめっちゃ強くなったさ!舐めるなよ!」

 

そう言って笑いながら対抗し合う。どうやら心配の必要は無かったらしい。

見ただけで分かった。春十の細胞レベルは格段に上がっている。細胞の才能が元々凄かったのに加え、極上の物を食べたからだろう。

 

「最近は更識会長にも稽古をつけてもらってるさ」

 

「へぇ、生徒会長に…」

 

そう言えば千冬姉が言ってた。生徒会長である彼女は学園内で一番強い——と。

あの千冬姉が絶賛するぐらいだから相当の実力の持ち主なのだろう。

 

「俺も一夏に負けてられないからな!いつかお前を超えてやるさ!」

 

「言ったなぁ!そう簡単に抜かれないぞぉ!」

 

そう言ってお互いを突っつき合う一夏と春十。

それはとても微笑ましい光景だった。兄弟の仲の良さが見て分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、更識さん」

 

「一夏君!」

 

一夏は楯無に顔を見せる。

春十の事で礼を言いたいのだ。

 

「兄がお世話になっています。稽古をつけてもらってるって…」

 

「いいのよ、それより帰って来てたのね」

 

「はい、すいません前日に…」

 

「まったくよ、帰ってくるかどうかちょっと不安だったんだから」

 

「本当にすいません…」

 

そう言って彼女は「油断禁物」と書かれている扇子を見せてきた。

今思うと自分はとても心配されていたことを気付く一夏。そのせいか恥ずかしくなって少し顔が赤くなっている。

 

「それで…俺がいない間に何か分かりました?」

 

「そう、それを伝えたかったの」

 

そう言うと楯無が口を近づけて一夏の耳元でこう言った。

 

 

亡国機業(ファントムタスク)…それが奴らの名よ」

 

 

「ファントム…?」

 

「ええ、裏の世界に存在する秘密結社、どういう理由で暗躍するかは分からないけど、明らかにこの学園を狙っている」

 

「そいつらがこの世界に猛獣を…?」

 

その問いに楯無はゆっくりと頷く。

 

「グルメ世界…だっけ?そっちの世界の技術を使って何かをたくらんでいるのは間違いない。平行世界を自由に移動できる機械…何で奴らがそんなものを…」

 

「それについては俺も…」

 

「…まぁいいわ、今度来たらとっ捕まえてやりましょう」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は万端ね?」

 

世界のどこかにある亡国機業(ファントムタスク)の本拠地。

その女は、自分の後ろにいる者達へそう聞いた。

全身をISで隠した者。

また、遠距離操作のロボの者。

ある者は、ケンタウロスのような体を持つ者。

またある者は、セクシーな服を着た女性。

そして、数え切れない程の猛獣の群れ。

 

「じゃあ…行ってらっしゃい」

 

そう女が言った瞬間、その場にいた全員が雄叫びを上げ、その場所へと向かう。

そして次の日、

IS学園、文化祭——

 

 




感想ですけど、とても楽しめました。(小並感)
個人的には最後の、ジャンボットとリクによる中の人ネタが笑えました。
久しぶりに見られた五月蠅いグレンファイヤーも最高です。
あと池田昌子さんによるウルトラの母にも驚いたなぁ〜メビウス以来かな? 銀河伝説の棒読み母とはえらい違いだ(笑)
我らがジャグジャグもいつも通りの怪演技してましたし、オーブネタも多くて最高!
見てない方は是非今すぐにでも見るの勧めます!


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グルメ20 開戦!

喉の奥に口内炎できました。食うとき飲み込むとそこに当たってクソ痛い。


 

普段生徒しか入れない学園内に、沢山の一般人がなだれ込んでくる。

華やかに飾られた校門を潜れば、そこは祭りの場所だった。

本日は、IS学園学園祭の日。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ、お嬢様」

 

春十は未経験だが「かっこいい執事」を演じて客をもてなす。その先には女子生徒による長蛇の列が伸びていた。

 

「織斑君の接客が受けられるの〜!?」

「しかも執事のコスプレ!」

「写真もOKらしいよ!」

 

春十目的の客しか来ないので男性客が来ない。折角のメイド喫茶なのにこれいかに。

 

「お、繁盛してんな」

 

「一夏」

 

ここで警備中の一夏がやってくる。

その手にはたこ焼きやらジュースやら食べ物で溢れかえっていた。

 

「まぁいいや、俺も入って良い?」

 

「勿論…あっいや、それではご主人様こちらへどうぞ」

 

「…何か春十兄にご主人様とか呼ばれるの気持ち悪い」

 

「…俺もだよ」

 

一夏は春十にテーブルへと案内され、メニューを渡される。

 

「ご注文は何にされますか?」

 

「んとね…」

 

ここで一夏は普段のメニューで見ないものを目にした。

 

「この『執事のご褒美セット』って何?」

 

「ご主人様、そちらより当店おすすめのケーキセットはいかがですか?」

 

「…おい執事、何誤魔化そうとしてる」

 

「…そんなことは」

 

春十の目が宙へと向く。

それを見た一夏は悪い笑みをした。

 

「じゃあこのご褒美セットを貰おうかね!」

 

そして悪ふざけでそれを頼んだ。

するとグラスに立てられた数本のポッキーが運ばれてくる。

それと同時に執事が横に座る。数秒沈黙した。

 

「…何で隣に座るの?」

 

「…このセットは、客が執事に食べさせるサービスなんだ」

 

「ほへっ?」

 

その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になる。

客が食うのではなく執事が食うのか。その突っ込みを喉で止めた。

 

「…やりたくなきゃいいんだぞ」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

強制ではないらしいので普通にポッキーを食べようとするが…

 

「「!!??」」

 

周りの女子生徒が一斉にこっちを睨むように見ていた。その真剣さは先程までのんびりしたものではない。

強制じゃないけど、強制になった。

 

「あ、あーん」

 

仕方がないので春十にポッキーを食わせる一夏。その瞬間周りから歓声があがった。

 

「兄弟カップリングよ!」

「夏×春!今年はこれで決まり!」

「いや、あえての春十君が攻めもいいわよ!」

 

何が悲しくてこんな恥さらしを受けなければならんのだ。数分前の調子に乗っていた自分を殴りたくなってきた。春十の顔もうんざりとしたものだった。

 

「…帰るね、御馳走様でした」

 

「…おう」

 

気まずい雰囲気になったので店を出ようとする。その際茶色の長髪女性とすれ違う。

 

「…ん?」

 

その女性に少しだけ違和感を感じたが、気のせいだろと自己解決して後にした。

 

 

 

 

「それでですね、織斑さんの白式に是非我が社の装備を使って頂けないかなぁと思いまして」

 

「はぁ…」

 

春十は巻紙 礼子と名乗る女性から話を聞いていた。IS装備開発企業の渉外担当らしく、春十に交渉を持ちかけてきた。

その勢いは有り余るもので、熱心に自分の所の武器を勧めていた。

 

「申し訳ございませんお客様、次のお嬢様が…」

 

「…」

 

だが鷹月による接待で何とか追い払った。

 

「サンキュー鷹月さん、最近白式にうちの装備を!っていう話がやたら多くて…」

 

「いいのいいの気にしないで、織斑君も大変だね。休憩時間で他の店まわったら?」

 

「そうか?じゃあお言葉に甘えて…」

 

「駄目よ!」

 

後ろから聞き覚えのある声がする。振り返るとそこにはメイド姿の楯無がいた。

 

「更識会長!?」

 

「春十君には生徒会の観客参加型演技に参加して貰うんだから!」

 

「…ほへっ?」

 

さっきの弟と同じ驚き方をしてしまう春十。断る前に楯無に連行されてしまった。

言われるがままに王子の服と王冠を渡され、シンデレラの王子としてステージに上がった。

いや、シンデレラという名のバトルステージだ。

 

「のわぁあ!!」

 

春十との同居権利(本人無許可)を狙って箒、セシリア、シャル、ラウラが狙って攻撃してくる。

訳が分からないまま逃げ惑う春十。

そしてフリーエントリー組という大集団まで参加してきたので会場は大騒ぎとなる。

 

「一体何なんだぁー!!」

 

すると床から伸びる手によってどこかに連れ去られる春十。

春十を助けたのは先程商談してきた巻紙だっだ。

 

「あ、ありがとうございます巻紙さん…でもなんで?」

 

「はい、この機会に白式を頂きたいと思いまして…」

 

「…は?」

 

「いいからとっとと寄越せよぉ!!」

 

顔付きと言葉遣いが急に変わった彼女の重い蹴りが春十を強く飛ばす。

その力はとても人間の物だとは思えない。そう思うほど強かった。

 

「貴方は…一体…」

 

「私かぁ?企業の人間に成りすました…」

 

すると彼女の背中が大きく膨れあがる。スーツを破いて現れたのは蜘蛛のような複数の足。

IS装備ではない。本物の足だった(・・・・・・・)

 

「謎の美女だよ!嬉しいか?」

 

その瞬間、彼女の綺麗な頬にひびが入る。

人間の姿では無くなった彼女は、今度はISを展開して全身を隠す。

本物の足に加え、機械の足も生える。機械部分は謎の粘着液で覆われ、不気味な見た目にされている。

まるで、ISと怪物が合体したような感じだ。

 

「何なんだアンタは…?」

 

「分からねぇのか?悪の秘密結社のオータム様だ!冥土の土産に覚えておきな!」

 

オータムはISの足で光弾を撃ちまくり、春十を襲った。

直ぐさま白式を展開して弾丸を避ける。

 

「おっと…お楽しみは全員でだ!!」

 

そう言って、彼女は指を鳴らす。それが開戦の合図となった。

 

 

 

 

学園上空に、グルメ世界への入り口が多数開く。その数は空を覆うほど多かった。

そしてそこから猛獣が溢れるように地上へと降下する。

 

「キャッーーー!!」

 

客は恐怖し、一斉に逃げ始める。

見たことも無い異形の怪物がわらわらと現れた。

 

「来たな…」

 

そしてその百鬼夜行に立ち向かうのは一人の男子、織斑一夏だ。

赤いISを展開して、猛獣たちに包丁を向ける。

 

「食い殺されたい奴からかかってきやがれぇ!!」

 

その背後には赤色の悪魔ディアボロスが現れる。

凄まじい威嚇だが、猛獣たちは一匹も引かない。寧ろより好戦的になった。

 

 

 

 

「うおおおおおおおおぉ…!!」

 

一方春十も自分の悪魔を出す。白い悪魔サタンだ。

オータムはそれを見て少し驚く。

 

「ちっ!細胞持ちだと聞いたがまさか悪魔もいたとはな!」

 

どうやら予想外だったらしい。

しかし彼女は自分が劣勢にいるとは思っていない。

 

「こっちもグルメ細胞はあるんだ!てめぇの白式奪い取って体はボロボロに食い尽くしてやる!」

 

こうして学園祭は、本当の戦場となった。

 




前にも宣伝しましたがなろうでも同じ名前を使ってオリジナルの物を執筆中です。是非暇があったら見て下さい!


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グルメ21 各戦場!

こないだガーリック味のカップ焼きそば食べました。この時初めて自分がにんにく苦手なんだと気付きました。


 

「IS学園が襲撃されただと!?」

 

それは演技に参加していた専用機持ち組にも伝えられる。

急いでISを展開し、現場へと出撃した。五機の専用機が到着した時、既に酷い有様であった。

 

「ひどい…!」

 

異形の猛獣たちが客達に向かって襲いかかっている。哺乳類、両生類など、殆どが人のサイズを軽々超えていた。

すると視界に、巨大なカメレオンに食べられそうな子供が入る。その長い舌で小さな体を拘束していた。

 

「たすけてままーーっ!!」

 

子供が口の中に入る前にセシリアの射撃がカメレオンの舌を切断する。解放された子供は直ぐさまその場から逃げ出した。

カメレオンの色鮮やかな目が空のIS達を捉える。すると切られた舌がトカゲの尻尾のように生えてきた。

 

人食いカメレオン〈爬虫獣類〉 捕獲レベル41

 

「ここは私にお任せを!」

 

セシリアはそう言ってカメレオンと対峙する。他の4人は別の場所へと飛び去った。

すると周囲の獣がセシリアに狙いを定めた。

 

ろくろ亀〈爬虫獣類〉 捕獲レベル35

両刀コング〈哺乳獣類〉 捕獲レベル38

センネンガエル〈両生類〉 捕獲レベル33

 

「来なさい!私のブルーティアーズで一匹残らず撃ち倒して差し上げますわ!」

 

 

 

 

一方鈴は、逃げ遅れた人を庇いながら攻撃を防いでいた。

相手は人の体を持ったイカとタコ、イカは2本の触腕で剣を振り、離れた位置にいるタコが8本の触手から弾を発砲していた。

 

ゲッソード〈軟体獣〉 捕獲レベル45

オクトバンバン〈軟体獣〉 捕獲レベル44

 

「龍砲!」

 

鈴は龍砲を放ち、二匹の体勢を崩す。

そのうちに人々を逃がしてあげた。

 

「まったく…数が多すぎるわよ!」

 

他にも猛獣はうじゃうじゃいた。

 

カジキサムライ〈魚獣類〉 捕獲レベル42

魚人シャチ〈魚獣類〉 捕獲レベル44

リュウグウノオウ〈魚獣類〉 捕獲レベル50

 

どれも魚のような見た目をしているのに陸に上がっていた。

 

「海に帰りたい奴からかかってきなさい!」

 

 

 

 

別の場所で、ラウラとシャルは猛獣に囲まれていた。

まるで兵器に改造されたような見た目のやつばかりである。

 

「いくよっ!ラウラ!」

 

「ああ!」

 

2人の猛攻により何とか突破口を作る。それで猛獣の群れから脱出した。

すると目の前に大きな貝があった。

 

「…あれはハマグリか?」

 

トーチカハマグリ

 

次の瞬間、ハマグリが勢い良く開き、中から銃弾の嵐が襲いかかる。

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

謎のハマグリによりる銃撃で大きなダメージを受けてしまう2人。そこに獣たちが群がった。

 

タンクマンモス〈哺乳獣類〉 捕獲レベル48

クウボリザード〈爬虫獣類〉 捕獲レベル43

パイロットバード〈鳥獣類〉 捕獲レベル45

 

「また囲まれたよ…どうするラウラ?」

 

「もう一度脱出するぞ!」

 

 

 

 

「おらぁ!!」

 

「くっ…!」

 

一方春十はオータムの攻撃を受けきれずにいた。ISの足+本物の足により休ませてくれない猛攻にどんどん押されている。

するとオータムが蜘蛛の糸を出し、春十の全身を拘束した。

 

「何…!」

 

「蜘蛛の糸を甘く見るからだ!」

 

オータムは糸をあやとりのように弄り、動けなくなった春十へと近づく。

そして春十の体に何かを取り付けようとする。5本の触手が蠢く六角形のパネルだ。

しかしその瞬間…

 

 

『調子乗りすぎだ蜘蛛女ぁ…!』

 

 

「!?」

 

白い悪魔の顔が現れ、オータムを威嚇する。

彼女が戦慄した瞬間、春十は雪魔(スノー・サタン)の姿になり…

 

悪魔の口(ヘルストマック)!!」

 

何でも吸い込むシールドで自分を動かなくしている蜘蛛の糸を全て捕食した。

解放された春十、オータムと距離を置く。

 

「てめぇ…よくも私をビビらせやがったな!」

 

すると奴は本物の足を膨らませる。そして先から緑色の液体を弾丸のように放った。

それを屈んで避ける春十。液体は後ろの壁に付着するとそこの部分をドロドロに溶かしたではないか。

物を溶解する液体、春十を震え上がらせた。あんな物を受けたら一溜まりもない。

 

「おらおら!!溶けちまえ!」

 

溶解液を何度も発射するオータム。春十はそれを避けたりシールドで吸い込んだりするが、弾幕の多さに圧倒される。

溶解液が春十の顔に当たるその瞬間…

 

「!!??」

 

突如横から流れてきた波によって掻き消される。

水場も無いここに、何故波ができた?答えは簡単…

 

「更識会長…!?」

 

「どうやら苦戦してるようね?春十君」

 

専用機「霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)」を纏い、水を自分の体のように操る女。

そして、学園最強の女でもある「更識 楯無」がいた。

 

 

 

 

「おぉおおらぁああああ!!!」

 

一夏は包丁で次々と猛獣を切り裂いていく。

捕獲レベルが高い猛獣も、ほぼ一瞬で片付けられた。

 

(速く終わらせて春十兄の援護に向かわないと…!)

 

通信によると春十兄は謎のISに襲われているらしい。もしかしたら苦戦しているかもしれない。

速く助けに行こうと思っていると…

 

「…?」

 

猛獣たちの中に、人際強い存在感を放っている男がいる。

上半身を包帯で隠し下半身は馬という、ケンタウロスのような体型だ。

 

「お前は誰だ!」

 

こいつは猛獣じゃない。人間がグルメ細胞を注入した姿だ。

そいつはゆっくり口を開け、こう答えた。

 

 

「私はエルグ…不老のエルグだ」

 

 

 




同時執筆で「IS×特撮 終わりを告げる者」を書いています。そちらも是非ご覧下さい!


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グルメ22 強敵揃い!

今回は原作の敵キャラが2人登場します。


 

サクラコウモリ〈哺乳獣類〉 捕獲レベル42

弾丸雀〈鳥獣類〉 捕獲レベル42

 

学園上空を飛び回る怪鳥達を、紅椿の超スピードを使って斬り裂いていく箒。次々と怪鳥の群れが小さくなっていた。

 

「はっ!」

 

そして上から、地にいる猛獣を「雨月」によるレーザーで狙撃する。

専用機持ちの中で、猛獣の撃破数№1は今のところ箒だ。その勢いは止まることを知らない。

しかしそれは猛獣も同じ、どんどん倒していったがその数は一向に減らない。数え切れない程の猛獣が送られてきてるのだ。

 

(くっ…!これじゃあ埒が明かないぞ…!)

 

ここで箒は一度地面に降り、地上戦で猛獣を捌く。地面でも箒の攻撃は止まらない。

地上戦においても紅椿の性能は群を抜いている。するとそんな時…

 

 

“芳醇な死の香り——ミストテイスティング!"

 

 

すると辺りに紫色の霧が突如として現れる。

箒と猛獣を包み込んだ霧は、いつの間にか辺りに充満していた。

 

「!?」

 

箒は直感的にそれに対し攻撃的な感覚を察知、その場から離れる。

すると、紫色の霧を吸った猛獣たちがどんどん倒れていった。どいつも血を吹いて苦しそうに死んでいく。

 

「何だこれは…!?」

 

「あら残念…もう少しで死を楽に味わえたのに」

 

すると奥から誰か現れる。その女性は両目の下に紫色の痣があり、妖艶な雰囲気を出すセクシーな女性だった。生物を殺す毒ガスの中を悠然と歩いていた。

 

「何だ貴様は…!」

 

「私は『リモン』、元美食會ソムリエールのリモン」

 

「ビショクカイ…?」

 

箒は知らないのも無理はない。

美食會、かつてグルメ世界にて名を轟かせていた悪の組織。全てのグルメ食材の独占を企んでいた者達だ。今は解体された筈の美食會、その一員がそこにいた。

 

「…まさか貴様が猛獣を解き放ったのか!?」

 

「だったら…?」

 

ニヤリと笑い、わざとらしく肩をすくめる。

彼女の挑発に、箒は威風堂々とこう言った。

 

「貴様を倒す!これ以上学園は襲わせない!」

 

「いいわ、死のソムリエール(・・・・・・・・)として、最高の『最高の死に方(・・・・・・)』を提供してあげる…」

 

 

 

 

「エルグ…?」

 

一方一夏は、ケンタウロスのような見た目をした男、エルグと対峙している。

 

「…私は美食會第1支部支部長だった男だ」

 

「美食會…!?」

 

一夏は驚愕する。箒とは違って美食會は昔存在していた悪の組織、そして数十年前に無くなったものだと知っていたからだ。一夏はトリコと小松達から聞いていたのだ。

 

「数十年前、クッキングフェスにて私は死んだらしい(・・・・・・)

 

「死んだ『らしい』…?」

 

「ああ!」

 

すると急にエルグが跳びかかってきた。一夏はそれを包丁で受け止める。しかし蹄による蹴りは強烈で少し押された。

エルグは馬の下半身による超スピードで一夏の周りを周回し、幾度も蹄によるキックをしてくる。

 

「はっ!」

 

ここで一夏は2本の包丁で斬撃を飛ばす。エルグの体を4等分に斬り裂いた。

エルグの死体が、その場に散らかる。

 

(…呆気ないような…)

 

あまりの速さで勝ったため、この圧勝に疑問を覚える。仮にも元美食會支部長がこんなに弱いだろうか…?分身とかの偽物かと思ったが、斬った感触も手に残っている。

その疑問の答えはすぐに出た。

 

「なっ…!?」

 

切り分けられたエルグの死体が再生して蘇ったのだ。しかもただの蘇生じゃない。

4等分にされた死体がそれぞれエルグになったのだ(・・・・・・・・・・・・・)。つまり4人に増えた。

 

「どうなってんだ…!?」

 

「驚いたか?これが私の力…」

 

美食會第1支部支部長エルグの下半身は、かつてグルメ世界のエリア8に君臨していた「馬王ヘラクレス」の子供のものだった。永遠の命を持つと言われるヘラクと同化に成功したエルグは、異名の通り不老不死となる。しかもバラバラに斬り裂いた場合、一つ一つの破片が本体として(・・・・・)再生して蘇る。

 

「さっき言った通り数十年前の私はクッキングフェスで倒された…しかしあの時の私は、フェスへと向かう前に自分のコピーを作っていたのだ…それが私」

 

クッキングフェスを襲ったエルグ…いやエルグ達は、天狗(・・)によって倒されたが、自分がやられた時のことを予想して、自分のコピーを生み出していたのだ。

 

「…クローンみたいなものか?」

 

「ああ、皆強さは変わらない…つまり!」

 

すると4人のエルグが一斉に襲いかかってきた!

 

「何っ!?」

 

素早い敵が4人に増えた。計八つの蹄が一夏を襲う。4人のコンビは凄まじいものである。当然だ。同一人物なのだから。

増えたエルグによる猛攻を、ひたすら耐える一夏。

 

(くっ…死なない相手だって…!?どうやって倒せば良いんだ…!?)

 

 

 

 

その頃セシリアは…

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

順調に猛獣たちを倒していく。周りにいた群れが今となっては数える程しかいない。

そして6機のビットのミサイル・レーザーにより最後の猛獣も倒した。

 

「良し!何とか掃討できましたわ!」

 

ここで一息つく。休んでいる暇は無いと言われそうだが、さっきからずっと戦ってばっかりなので仕方ない。

 

「急いで春十さんの所に…」

 

春十は今謎のISに襲われている。速く助けに行かねば…

そう思い、飛び去ろうとした瞬間、背後に気配を感じる。

 

「何者!?」

 

すぐに後ろを振り返り、ビットを構えるが誰もいない。

確かに気配を感じたはずだけど、姿が見えない。

 

「一体どうなっていま——」

 

この時セシリアがもっと速く気付けていれば良かった。しかし気付けなかった。

自分の後ろにいた「そいつ」は、圧倒的な素早さで跳び、自分の真上にいると…

「そいつ」が放つビームが、セシリアに直撃する。

 

「きゃああああ!!??」

 

凄まじい一撃、先の戦いのダメージもあっただろうが、一撃でセシリアを倒した。

ISが解除され、地面に倒れ込むセシリア。自分を任した相手も見られなかった。

そして彼女の側に、鳥のような足跡ができていた——

 

 




最近どんな感じに書こうか行き詰まっている気がしてならない…


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グルメ23 オータムの虫!

太り気味だったので最近ジョギングを始めました。


「のぐわぁ!?」

 

その攻撃は、鋭く、そして強烈だった。

楯無の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)はISエネルギーを伝達するアクア・ナノマシンを制御することによって水を自在に操ることができる。なのでその行動は予測し辛いものだった。

水の槍はオータムを貫く。

 

「さっきまでの勢いはどこに行ったの?」

 

「うるせぇ!!」

 

オータムは8本の足から弾を撃つも、水のカーテンで防がれてしまう。

激昂して楯無に跳びかかったとき…

 

「零落白夜ぁあ!!」

 

春十の零落白夜を発動した雪片弐型による一太刀を受けてしまった。

 

「うがあああ!!??」

 

その効果により、ISアラクネは解除される。オータムが放り出された。

すると楯無は水で彼女を囲む。春十も刀を構えながら彼女に近づいた。

 

「終わりね、諦めなさい」

 

「いや…まだだ!!」

 

オータムは本物の8本の足を伸ばし2人を攻撃した。楯無は槍で、春十は雪片で防ぐ。アラクネを纏っていない彼女は、もう人間の姿からかけ離れていた。

背中から生える蜘蛛の足は、オータムの手足。そして彼女の腕には黒い腕輪が付けられている。

 

「来い…私の相棒!」

 

そう言って腕輪を操作すると、彼女の背後に黒い穴が発生した。

 

「なっ…何か呼ぶ気か!」

 

「ああ!強烈のをな!」

 

穴の中から現れるのは、巨大な蜘蛛(・・)だった。

大きな蜘蛛の体には、白い上半身が生えている。まるでケンタウロスのようだ。

 

「何…こいつは…」

 

これには流石の生徒会長も戦慄する。信じられないほどの異形、サイズが恐怖をもたらす。

そして上半身のカマキリのような鎌が2人を斬り裂いた。

 

 

 

 

「ふぅ…大体片付いたな」

 

一方ラウラとシャルは、周りの猛獣を全て倒していた。逃げ遅れた人もいない。どれも手強かったが何とか蹴散らすことができた。

 

「他の援護に向かおうラウラ!」

 

「ああ!」

 

意気揚々と他の場所へ行こうとしたその時、突如として大きな地震が起きた。

 

「な、何だ!?」

 

すると地面にひびが入り、そこから何かが飛び出る。

それは、ボロボロになった春十と楯無だ。まだISは解除されていない。

 

「よ、嫁!」

 

「生徒会長も!」

 

倒れている2人に駆け寄ろうとするが、穴からまた何かが出て来たのでそれに遮られる。

巨大な虫、そう例えるのが無難だった。蜘蛛の下半身に、白いカマキリの上半身。蜘蛛の部分だけでも5mはありそうだった。

上半身から伸びる2本の鎌は、怪しく光り輝いている。そして一本の日本刀のように美しい。

下半身には赤紫の斑点模様と、毒々しい見た目であった。

 

 

バーミンエンペラー〈混合獣類〉 捕獲レベル102

 

 

「くっ!そこをどけ!」

 

春十の身が心配だったので、ラウラは考え無しに虫へと跳びかかったが右鎌で返された。

バーミンエンペラーの目が、ラウラとシャルを捉えた。そしてゆっくりと2人に近づいてくる。

 

「大丈夫ラウラ!?はっ!!」

 

シャルはやられたラウラを庇うように前に立ち、ショットガンを奴に向けて発砲するが効き目は無いに等しい。その体は厚い甲殻によって守られていた。

やがてバーミンエンペラーは一気に加速し、その太い足でシャルを蹴り上げる。

 

「うわぁ!?」

 

宙を舞ったシャルを、虫は蜘蛛の糸で拘束する。するとその脇下から新たな両腕が生えてきた。シャルを拘束した糸をその腕で掴みブンブン振り回す。虫はシャルを地面に引きずり、壁に激突させる。

 

「うわぁああああああああああ!!??」

 

「あははははははははははははっ!!無様なもんだ!」

 

すると地下からでてきたオータムが春十達がやられていく姿を見て高笑いする。

 

「そいつはなぁ!昔トミーロッド(・・・・・・)とかいう奴が作った混合虫!捕獲レベルも洒落にならんぜぇえ!!」

 

バーミンエンペラーはシャルで遊ぶのに飽きたのか、彼女を放り投げて捨てる。そして今度は倒れている楯無に狙いを定めた。

意識が朦朧としている最中、何とか彼女を守ろうと春十は刀を握るが、体の疲労が原因で上手く立ち上がれない。

 

(クソっ!立てよ畜生!!)

 

足に意識を集中するが、すぐ溶けるように消えてしまう。このままだと楯無が殺されてしまう。

しかし立つことはできない。

速く!速く!と自分を急かしていたその時…

 

(…!)

 

目の前の世界が、一瞬で暗黒の世界へと変わる。楯無達も、敵の姿も消えた。

そして春十の前には、1人の白い悪魔。その後ろには白いワンピースの女の子が悲しそうにこちらを見ている。

悪魔(サタン)は、涎を垂らしながら春十を凝視している。

 

「ああ…いいぜ(・・・)

 

春十は許可した(・・・・)。それを聞いたサタンは、春十の体を貪り尽くす。

 

 

 

 

 

(ああ、ここで終わりのようね…)

 

楯無は今までの人生を、走馬灯のように見ていた。眼前には、こちらに迫り来るバーミンエンペラー。恐怖を煽るように自慢の鎌を見せつけてくる。

 

(ごめんね——簪ちゃん)

 

そして、妹のことを想いながら、目を瞑って奴の鎌を受けようとしたその時…

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

右から来た春十が、バーミンエンペラーの両鎌を切断した。

 

「春十君…!?」

 

春十はそのままバーミンエンペラーの後ろに周り、背中に雪片を突き刺した。

 

自食作用(オートファジー)発動!!)

 

そのまま奴の背中を縦に斬り裂いた。

大きな切り傷を付けられたバーミンエンペラーはバランスを崩し隙を作ってしまう。

 

「今だぁあああああああああ!!」

 

春十は飛び回りながらバーミンエンペラーの体をどんどん斬り裂いていく。

しかしできた傷は、すぐに再生して治ってしまう。最初に斬った鎌も再生していた。

 

「来い!もう二度と大切な人を奪われてたまるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「どうした?その程度か、料理人」

 

一方その頃、一夏vsエルグ。

既にエルグは数十体にも増えている。いくら倒してもまた復活して増えてくるのだ。限が無い。一夏の体力も限界に近づいていた。

 

「もっともっと私を楽しませて…私の記憶(・・)に残してくれ」

 

「くそっ…!」

 

「それじゃあ…トドメと行こうか!!」

 

そう言うと、周りのエルグ達が一斉に襲いかかってきた。

もう駄目か、と観念したその時——

 

「…む」

 

「…え?」

 

急に数十のエルグが一斉に動きを止める。

全員が、同じ方向を見ていた。

 

「…どうやら、彼女(・・)は君をどうしても殺したいらしい」

 

「…何だと…?」

 

エルグと同じ方向を見ると、そこには一機のロボットがいた。

その鳥人間のようなフォルム、以前師匠から聞いた事がある。

 

「もしかして、GTロボ…!?」

 

美食會が使っていたというデザインのGTロボだ。ペアさん(・・・・)と同じニトロ(・・・)の姿を真似して作ったもの。

 

「料理人一夏、私はお前とまた戦いたい。勝てよ…」

 

そう言ってエルグ達はいつの間にかできた黒い穴へと去って行く。

この場には、俺とGTロボだけとなった。

 

 




日曜の九時台は鬼太郎みるかビルド見るか迷っています。


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グルメ24 現れた者たち!

パソコン変わったで慣れなくて誤字多いかも。


「ふぅ…他にはいないわね?」

 

海の猛獣たちを一掃した鈴、自慢の龍砲でどんどん蹴散らした。

誰かの援護に向かおうと空を飛びながら下を見る。すると誰か倒れているのが見えた。

 

「セシリア!?」

 

それはブルー・ティアーズが解除されているセシリア。彼女の周りには猛獣たちが群がっていた。セシリアを狙っているに違いない。

 

「あんた達!どきなさい!!」

 

鈴は急いで降下、セシリアを狙っていた猛獣たちを双天牙月で切り裂いた。

猛獣を全て倒し、何とかセシリアを保護する。

 

「セシリア!一体どうしたのよ!」

 

「ん…鈴…さん?」

 

目が覚めると、セシリアは慌てて鈴に警告する。

 

「鈴さん…と、鳥人間に…ご注意を…!」

 

「…鳥人間?」

 

あまり聞きなれない単語に違和感を持つ鈴。まぁあんなに多種多様の猛獣がいたら鳥人間がいてもおかしくはない。

だが、その鳥人間はなんとセシリアを倒したらしい。そんなに強いやつがいるのか。

 

「春十も襲われている…どうにかしないと!」

 

 

 

 

「ぐぁああ!?」

 

一夏は押されていた。その鳥人間、いやGTロボに。

GTロボが構えると、体から何かが放たれた。

 

『ピーラーショット…』

 

相手を削り飛ばす体毛を何度も撃ち、一夏に反撃の隙を与えない。

ロボの声は女性の声だ。どこかで聞いたことのあるような声だが、今はそんなこと考えている暇はない。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!竜巻旋風切り!!」

 

包丁で何度も斬撃を当てるが、その表面に傷すら付かない。

 

調味砲(スパイスレーザー)!!研磨砂糖!!」

 

ここで一粒一粒が鋭利な形をしている砂糖「研磨砂糖」を調味砲(スパイスレーザー)で発射。高速で撃つことで物を切れる砂糖だ。

対するGTロボも、顔を開いてレーザーを発射する。

二つのレーザーが衝突し、互いを押し合う。するとGTロボのレーザーが打ち勝ち一夏へと向かう。

 

「まな板シールド!!」

 

それを盾で防いだが、その時の隙でGTロボに接近されてしまった。

 

『ミキサーパンチ』

 

超回転する拳をもろに受けてしまう一夏。吹っ飛ばされるもすぐに体勢を立て直す。

再び調味砲(スパイスレーザー)を放つ。今度は閻魔七味だ。

しかしGTロボはレーザーを受け流すように避け、また一夏に近づく。そして至近距離からピーラーショットを多く放った。

 

「はっ!せいやっ!」

 

一夏は二本の包丁でそれを捌いて回避する。そしてGTロボのミキサーパンチも包丁で受け止めた。

 

「お前は誰だ!何故こんなことをする!」

 

『織斑一夏…貴様は私が殺す!』

 

(俺のことを知っている!?)

 

GTロボの操縦者は問いに答えず、ただ一夏に対しての殺意を見せつけた。

一夏から離れたロボは、再びピーラーショットを放つ。一夏はそれを走りながら包丁で捌く。

 

「グルメ世界の住人か!?それともこっちの世界か!?」

 

『答える義理は無い!』

 

するとGTロボはレーザーを炸裂弾のように撃つ。

 

「うぐあっ!?」

 

流石の一夏もそれは捌ききれずにレーザーに被弾してしまう。それで空中を舞ったところをGTロボの踵落としで地面に墜落させられた。

 

「がはっ…!」

 

そして倒れている一夏を高速で降下して踏みつける。

圧倒的な強さ、まだ習得途中とはいえ食義を使っている一夏を押していた。

 

『弱い…弱すぎるぞ…』

 

倒れている一夏をなぶり続けるGTロボ。流石にエネルギーが無くなる。しかし避けられない。

GTロボの重い蹴りが、一夏を吹っ飛ばした。

 

 

 

 

一方春十は、バーミンエンペラーと互角に勝負している。

体格上はバーミンエンペラーが圧倒的だが、その分死角を突ける春十。

 

「ここだっ!!」

 

雪片で相手の装甲を削っていると…

 

「のわっ!」

 

遠いところからオータムが撃った毒弾が目の前を通ったので動きが止まる。

その時にバーミンエンペラーが鎌で切り裂いた。

地面に落ちる春十。バーミンエンペラーは蜘蛛の糸で春十を拘束する。そして何度も何度も鎌で切ってきた。

 

「くっ…おおっ!」

 

春十は鎌の一撃を何とか雪片で受け止め、蜘蛛の糸を切り空を飛んで避難する。

そして飛んでくるオータムの毒弾。

 

「逃がさねぇぜ!!」

 

「しつこい!」

 

オータムを厄介に思い彼女に向かって飛んだが、バーミンエンペラーの巨体に遮られてしまう。

するとバーミンエンペラーが誰かに撃たれた。シャルとラウラだ。

 

「シャル!ラウラ!」

 

「僕たちも…加勢するよ…」

 

「嫁を助けるのも…夫の仕事だからな」

 

二人はボロボロの状態でも何とか立ち上がり、バーミンエンペラーに敵意の目線を向ける。それに答えるように奴は二人に近づいた。

ラウラは虫の周りを飛び周り、シャルは銃撃で援護する。二人の連携にバーミンエンペラーは鬱陶しがっていた。

 

「やめろ!今のお前らじゃ無理だ!」

 

そう言っている間にラウラが地面に叩きつけられた。

 

「ぐああっ!!」

 

そしてシャルはその巨大な脚で蹴られてしまう。

 

「ああっ!」

 

あっという間にやられてしまう二人。バーミンエンペラーが二人にトドメを刺そうとした。

 

「させるかぁあ!!」

 

それを何とか阻止する春十。

しかしすぐに蹴散らされ、今の一撃で百式も解除されてしまう。

 

「はっはっは!終わりだな!」

 

オータムが高笑いする中、バーミンエンペラーがゆっくりと春十に近づく。

すると、遠くから何かが飛ばされてきた。

 

「一…夏!?」

 

「は、春十兄…!」

 

それはボロボロになった一夏である。そして同じ方向からGTロボも現れた。

 

「ちっ!邪魔すんなМ!」

 

『さっさと任務を完了するぞ』

 

すると倒れている二人にバーミンエンペラーとGTロボの二体がやってくる。

そしてバーミンエンペラーは鎌で、ロボは頭を開いてビームを撃つ準備をする。

万事休す、二人ともそれに対抗することができない。

 

「一夏…すまん、またお前を守れなかった」

 

「春十兄…こっちこそごめん」

 

GTロボの光が死のカウントダウンのように強くなっていく。死を覚悟し、お互いの手を握った。

 

『終わりだ…織斑一夏!!織斑春十!!』

 

ビームが発射され、二人に向かう。

諦めてビームを受けようとしたその時…

 

 

 

「返し飛ばし!!」

 

 

 

巨大な「コテ」が、そのビームをはじき返した。

 

『何っ!?』

 

はね返されたビームは、バーミンエンペラーに被弾。奴の胴体に風穴を空ける。

虫は奇声を上げながら苦しみ始める。どうやら胴体に再生能力は無いらしい。

 

『…誰だ!』

 

邪魔されて怒ったGTロボは辺りを見渡す。するとさっきまでそこにいなかったはずの女が、一夏たちの前に立っていた。

綺麗な青色の髪にその長身の体。彼女が手を動かすと突如として現れたコテもそれに連動する。

一夏はその女を知っている。知っているとかいうレベルじゃない。俺の大切な人だ。

 

「リンカ…何でここに…」

 

「一夏のご飯が食べたくなった…それだけの理由で来ちゃダメ?」

 

 

リンカ フルコースメニュー

 

・オードブル(前菜)…ダイヤモンドおにぎり(捕獲レベル63)

・スープ…クリーム白虎(捕獲レベル59)

・魚料理…トロルマグロ(捕獲レベル42)

・肉料理…

・主菜(メイン)…

・サラダ…仙人参――野菜仙人の遺産(捕獲レベル測定不能)

・デザート…

・ドリンク…

 

世界一の美食屋トリコの娘にして、一夏のコンビである「リンカ」がIS世界にやってきた!

 




ようやくリンカ出せた。早く出したいなぁと思ってました。


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グルメ25 コンビ!

2キロやせました、この調子でダイエットダイエット。


 

突如として現れたリンカに、一夏以外の人間は驚く。GTロボのビームを触れずにはね返したからだ。

いや、触れずにというよりどこから現れたのか分からない巨大なコテでだ。

だが一夏の知り合いならばおかしくはない。あの人は多分グルメ世界の人、こっちから見れば向こうの世界は常識外れだ、と無理に納得する。

 

「どうやってここに来たんだ?」

 

「IGOが別宇宙移動装置をもう一つ作ったのよ。『コロナ』と『ポニー』と奪い合いで何とか勝って…」

 

「…マンサム会長も人が悪い」

 

一夏は笑いながら立ち上がる。

もう立つ気力もないのに、こいつの顔を見ればなぜか頑張れる。わざわざ来てくれたのに歓迎もできやしない。

 

自食作用(オートファジー)!!)

 

ここで自食作用(オートファジー)を発動すると…

 

(…!?)

 

突如として、自分の脳内にイメージが駆け巡る。

真っ黒い空間に悪魔と自分、ここまでは今までに見たことあるが、その周りには食材が絨毯のように置いてあった。

 

(何だ…今の…!?)

 

イメージはすぐ消え、疑問に思うが今は気にしないでおこう。

そして何とかエネルギーを回復して、再び食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)を展開した。初めて見るISに目を光らせるリンカ。

 

「何そのかっこいいの!?」

 

「ふっ…俺の新しい調理器具かな!」

 

 

一夏 フルコースメニュー

 

・オードブル(前菜)…黄金鮭入りダイヤモンドおにぎり(捕獲レベル63)

・スープ…クリーム白虎のクリームシチュー(捕獲レベル59)

・魚料理…トロルマグロの刺身――氷柱ワサビ使用(捕獲レベル42)

・肉料理…

・主菜(メイン)…

・サラダ…仙人参しりしり(捕獲レベル測定不能)

・デザート…

・ドリンク…

 

 

一夏とリンカが並んで立つ。久しぶりのコンビによる共闘だった。

 

「で、誰を倒せばいいの?」

 

「でかい虫と蜘蛛女とGTロボ」

 

来たばかりで状況が掴めないリンカに倒すべき敵を教える。それを聞いたオータムが怒り始めた。

 

「誰を倒すってぇ!?いきなり現れたガキの分際で!」

 

そう言ってリンカに跳びかかってくる。それに対しリンカは…

 

「はっ!!」

 

巨大なコテを再び空中に出し、オータムを高く叩き上げた。

 

「ぐああっ!?」

 

更に、飛ばされているオータムを別のコテが弾き飛ばす。そしてまた飛んだオータムをさっきのコテで返す。2本のコテでオータムをボールのように打ち合っていた。

 

「コテバトミントン!」

 

しばらくオータムを空中で弄び、そのまま地面へと叩きつける。

その落下地点に、一夏がとあるものを振りまいた。

 

「閻魔七味!」

 

それは調味砲(スパイスレーザー)に使っている閻魔七味だった。高温により、落下地点に火がついた。

オータムはそんな火事真っ最中のところに落ちてしまい、炎に包まれる。

 

「ぐあああああああ!!??」

 

急いでその場から離れようとするが、リンカのコテで地面に押し付けられてしまい、身動きが取れない。

 

「押し焼き!!」

 

「やめ…ろぉ…!!」

 

彼女は必死に抵抗するが、コテの力は凄まじく、ただ炎に焼かれるのを耐えるしかなった。

するとオータムが黒い光に包まれ、どこかへ消えてしまった。GTロボが逃がしたらしい。

 

『私が相手だ…!』

 

そういってロボは前へ出て、バーミンエンペラーも進む。体に穴が開いてもまだ動けていた。

 

「お腹が空いた、何か作ってよ一夏」

 

「終わったら、とびっきりのやつ作ってやるよ!」

 

 

2対2の対決が、今始まる!

 

 

「はぁ…!」

 

リンカは出した2本のコテを両手で持ち、二刀流のように振り回す。そしてバーミンエンペラーへと走りかける。

 

「いくわよ!」

 

そして3本目のコテで自分を持ち上げ、高く放り投げた。そのままバーミンエンペラーへと降下する。

 

「ピザ切り!!」

 

そのままバーミンエンペラーに2本の斬撃をくらわす。深いダメージではないが効果抜群だった。

奴の鎌が襲い掛かってきたが、それもコテで受け止める。

そして今度は小さなコテで自分の右腕を鎧のように武装し…

 

「15連…コテ釘パンチ!!」

 

その細い腕からは想像もできないほど強烈なパンチを敵に当てた。しかも、後からパンチの威力が複数やってくる。

父親トリコの必殺技「釘パンチ」だ。かつて父親から教わったものである。

胴体の風穴がパンチで更に広がる。流石のバーミンエンペラーも限界なのか、動きが鈍くなってきた。

 

「返し飛ばし!!」

 

そして大きなコテで地面をひっくり返し、敵を空高く飛ばした。

空中の虫に向かって、リンカは足を構える。

 

「コテレッグ!!」

 

そして右足から繰り出されるコテの斬撃で、バーミンエンペラーを空中分解させた。再生できないほどバラバラに。

 

「…すげぇ」

 

その強さに見ていた春十は驚愕する。自分の想像を遥かに超えた強さだからだ。

これが一夏と組んでいた女の力…ここまでとは…

 

 

 

一方一夏とGTロボの戦いは、意外にも一夏が圧倒していた。

さっきはGTロボの方が強かったのに、それが嘘に思えるほど一夏が優勢である。

 

『馬鹿な…何だこの強さは!?』

 

「さてね!」

 

GTロボのミキサーパンチを2本の包丁で受け止め、カウンターに一太刀入れる。そして頭部からのビームをまな板シールドで防いだ。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!満月輪切り!!」

 

丸い斬撃で、硬いGTロボの右腕を切断した。

 

『何だとっ!?』

 

「まだまだぁ!!」

 

一夏の勢いは止まらない、ずっと斬撃をロボに当てていく。

ロボの装甲が、どんどんボロボロになっていった。

 

『くっ…距離を取るしか…!』

 

そう言って後ろに引こうとするが…

 

「コテプレス!!」

 

『何っ!?』

 

参戦してきたリンカが2本のコテでGTロボを挟んで拘束した。

 

「今よ一夏!」

 

「ああ!サンキュー!!」

 

そう言ってGTロボにトドメの一撃を刺そうとしたその時…

 

 

「そこまでよ!」

 

 

女性の声で制止する。

大声を出したのはリモンだった。そしてその手には…

 

「箒!?」

 

ボロボロになった箒が掴まれている。勝負の行方はリモンが勝ったのだ。

 

「すまん…一夏…!」

 

「この子を死なせたくないなら、GTロボを放しなさい」

 

箒が人質にとられてしまった。

放すか放さないか、そんなものは決まっている。

 

「リンカ…放してやれ」

 

「…大切な人なのね?分かったわ…」

 

仕方ないのでGTロボを解放する。

リモンは箒を解放し、GTロボへと駆け寄る。

 

「作戦は終了よ、M」

 

『何だと…貴様があのまま人質をとっていれば…!』

 

「スコールの命令よ、他に優先することができたらしいわ」

 

『…ちっ!』

 

すると再び黒い光が現れ、二人を包み込む。

 

『今日は貴様の勝ちだ、織斑一夏。だが次は…命を覚悟しろ』

 

敵たちは全員撤退していった。

勝ったのか負けたのか分からないが、奴らを見逃してしまう。

 

「…次は…か」

 

こうして、IS学園学園祭は、最悪の形で終幕する。

 

 




こうやって学園祭編は終わりです。まとめかたは雑ですいません。次回からはIS原作の話から思いっきりそれる予定です。


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グルメ26 現れた変人たち!

今回は新キャラが三人もでます。


ひと段落ついたところで、現状をまとめる。

学園は猛獣たちの襲撃によりボロボロ、死者は幸いいないものの怪我人が多い。だが何とか守りきれたので良かった。

自食作用(オートファジー)発動による必要なエネルギーは一夏が簡単なものを作ってくれたので回復。一同は戦いが終わった後の宴でもしようとしていた。ただし…

 

「俺一人で復興は難しいなこりゃ…」

 

上手い料理は作れても、グルメ細胞を持たない一般人は傷をすぐに癒せない。それにいくら一夏でも学園の生徒+客という沢山の人たちに飯を作るのは時間がかかってしまう。

 

「それなら任せて!こういう時のために人を集めているわ!」

 

するとリンカが別宇宙移動装置を作動させ、グルメ世界の道を作る。光から三人の人影がでてきた。

一人は魔王のような服を着た大男、もう一人はキノコの帽子を被った暗い女、そして最後の一人は白髪のリーゼントの若い男だった。どれも会ったことのある顔ぶれだ。

 

「鉄狼!」

 

「よぉ一夏、元気そうだな」

 

まずは白いリーゼントの男。彼は「二代目ノッキングマスター」である「鉄平」の息子である再生屋の「鉄狼」だ。

再生屋とはグルメ食材の保護、もしくは絶滅した動物の復活を活動にしている者たち。鉄狼は父親から再生屋の技術を学んでいて、再生屋の世界では有名な人である。

 

「あ、アンタが一夏の兄貴か?俺は鉄狼って言って一夏の悪友だ!グルメ世界じゃあこいつの料理には世話になってるし一緒に旅にも出たことがある。一応友達の兄としてアンタに会いたかったんだ。それで一夏ってグルメ世界に来る前何してたんだ?料理人じゃないあいつを想像できなくて…」

 

「うおっ、凄いおしゃべり!」

 

その明るい性格とおしゃべり癖、そして才能は鉄平譲りだ。

 

「我が来たぞ友よ、今こそ友情の恩返しを貴様にしようではないか!」

 

今度は大男だ。その体格は3メートルと巨人のようである。あまりの大きさに生徒たちがビビっていた。

彼は一夏と肩を比べる料理人、「ガルベルト=ビター」。またの名を「チョコレートの魔王」。世界料理人ランキング39位のプロだ。

 

「ガルベルト!助かるよ!」

 

「あの…一夏さん?その男性は一体…」

 

セシリアが怯えながらも彼のことについて聞いてきた。

 

「そう緊張するなって、こいつこれでも20代だぞ」

 

「「「「嘘ぉ!?」」」

 

「我は300年の時を生きる男である!」

 

 

ガルベルト=ビター フルコースメニュー

 

・オードブル(前菜)…炙り水晶トリュフチョコ(捕獲レベル72)

・スープ…黒点カレーとココア滝のスープカリー(捕獲レベル55)

・魚料理…ショコライクラの軍艦寿司(捕獲レベル32)

・肉料理…ビターピッグの焼肉(捕獲レベル12)

・主菜(メイン)…カカオキングのチョコレートフォンデュ(捕獲レベル81)

・サラダ…ホワイトチョコ白菜の茹で物(捕獲レベル9)

・デザート…ザッハトルテ大陸の一部(捕獲レベル測定不能)

・ドリンク…ダークビターワイン(捕獲レベル29)

 

このように中々の変わり者であった。

次はキノコ帽子の女性だ。この人も料理人である。名前は「セリア」。キノコ料理の達人であり、世界料理人ランキング55位のプロだ。

 

「ヒヒヒ…お久しぶりです一夏さん」

 

「セリアまで!引きこもってなくていいの?」

 

「今日は…調子が良い…ヒヒヒ」

 

その不気味さは何とも不思議なものであり、周りの人たちを寄せ付けない。

 

 

セリア フルコースメニュー

 

・オードブル(前菜)…ジャングルしめじのポン酢漬け(捕獲レベル32)

・スープ…ベニダイテングタケの解毒スープ(捕獲レベル41)

・魚料理…海藻シイタケの炭火焼(捕獲レベル22)

・肉料理…特製タレ使用のステーキノコ(捕獲レベル5)

・主菜(メイン)…アース松茸の炊き込みご飯(捕獲レベル63)

・サラダ…タンポポ舞茸の盛り合わせ(捕獲レベル30)

・デザート…ホイップナメコのアイス(捕獲レベル2)

・ドリンク…高峰エリンギの茶(捕獲レベル68)

 

「みんな来てくれありがとう!!早速手伝ってくれ!」

 

「ああ、怪我人の治療は任せろ!リンカ、飯待ってるだけなら手伝ってくれ!」

 

「分かったわ!他に動ける生徒も来て!」

 

「じゃあ私が行きますわ!」

 

「僕も行きます!」

 

セシリアとシャルが鉄狼たちの手伝いに向かう。

 

「じゃあ我らは厨房に降臨するとしようか、我の力を見せてやろう!」

 

「ヒヒヒ…皆をキノコ中毒にしてあげる…」

 

こうしてグルメ世界からの助っ人による復興が始まった。

 

 

 

 

 

「『ドクターアロエ』、これは包帯替わりにできる。傷口には『消毒エキス』を使うように」

 

「は、はい!」

 

見たこともない治療道具に戸惑うも、鉄狼の教えで使えるようになったセシリア達。たくさんいる怪我人をどんどん治していく。

 

「鉄狼さん!この人腕が千切れかけています!」

 

「分かった!」

 

シャルが見つけた、腕が千切れかけている男性に急いで向かう鉄狼。そしてその人の腕を掴み…

 

「超ペーストフレム!!」

 

「うわあああああああああ唾かけた!!何やってるんですか!」

 

「唾じゃない痰!」

 

「どっちも同じです!って…腕がくっついてる!?」

 

鉄狼の奇行に驚いたが、何と痰をかけられた腕が治っていた。痰をかけられた時は怒っていた男性も治った腕を見て驚愕している。

 

「数分抑えとけば、神経もくっついているはずだ」

 

「…どうなってんの?」

 

「これは親父の師匠の『与作』って人の技でな、俺も最初見たときは驚いたよ。だけどあんな乱暴な治療でも技術は本物だ。だけど超が付くほどの変人でな、親父も相当変な奴なんだよ。自分はぺちゃくちゃ喋る癖に静かにしたほうがいいって人に言うんだぜ?まぁそれでもあの二人は昔ゼブラっつぅ…」

 

「分かりましたから次の治療お願いします!」

 

「鉄狼さん!こっちに足が切れている女性が!」

 

「おう任せろ!!すぐに痰付ける!!」

 

「…大丈夫かなぁ」

 

治療についての心配ではない。訴えられないか不安という心配だ。

 

 

 

 

 

「嘘だろ…」

 

「し、信じられん…」

 

箒と春十、及び他の生徒もそれを見て驚いていた。そこにあるのは簡易型厨房、そこにいるのは…

 

「ガルベルトそこの塩とって塩!」

 

「我に命令するなぁあ!!」

 

「ヒヒヒ…忙しいなぁ…!」

 

「てゆーかガルベルトって普通の料理もできたんだね!」

 

「当たり前であろう!!我に不可能はなぁああああああああああああい!!!」

 

「ヒヒヒ…うるさい」

 

三人の料理人が調理作業をしていた。その速さは目にも止まらない程のもので、常人にはついていけない。あっという間に料理ができ、皿に盛られ、机に置かれる。既に数十分の間に数百人分の料理ができあがっていた。

 

 

 

 

怪我を治療された人たちは一夏たちが作ったご飯を貰い、その味に感動する。

 

「おかあさんこのおにくおいし~!」

「何でこんなに旨いんだ!?」

「感激~!」

 

味わったこともない、見たこともない食材に技術。それらは彼らを驚かせるには十分だった。その中で一番食べているのは春十と、そしてリンカだった。

 

「おいリンカ、もう少しおしとやかに食えよ。だからコロナに『醜っ!』って言われるんだぞ」

 

「ごんなおいじいものめのまえにじでがまんでぎるわげないでじょ!おがわり!!」

 

「はいはい…」

 

呆れながらも空になった皿に盛る一夏。するとそこに姉である千冬がやってきた。

 

「大丈夫か一夏!」

 

「あ、千冬姉、何とかね」

 

「そうか…ところでこの変わった人たちはどちら様だ?」

 

「ああ紹介するね、こいつはこの間話したコンビのリンカ」

 

「…どうも、一夏がお世話になりました」

 

「どうぼっ!べづにげいごじゃなぐでいいでずよ!」

 

「は、はぁ…」

 

リンカの食事は休むことなく数時間でようやく終わり、客人たちは満足した顔で帰っていく。

 

「ところで一夏、すぐグルメ世界に帰るの?」

 

「そうだな、食義を習得したらすぐこの世界に戻るけど」

 

ここでまたもや鈴が違和感を持つ。何故グルメ世界に『帰る』なのだ?一夏の故郷はIS世界の筈だ。

 

(まるで向こうが自分の世界みたいに…)

 

「だけどあんた、料理の修行とかしなくていいの?五か月後よ?」

 

「…何が?」

 

「何がって…フェス」

 

その言葉を聞いた瞬間、一夏がアッという顔になった。

 

「しまったっーーー!!フェスのことしっかり忘れてた!」

 

「あんたこの世界に来る前にランキング入りしてたの忘れてたでしょ?あんなに喜んでたのに…」

 

「うぐぐ…IS世界に夢中ですっかり頭から抜け落ちていた…」

 

呆れた顔でリンカが話している途中、フェスのことを知らない春十たちがそれを聞いてきた。

 

「なぁ一夏、『フェス』って何のことだ?」

 

「…フェスは、『クッキングフェスティバル』のことだ」

 

クッキングフェス、プロの料理人たちが世界一を競う四年に一度の食の祭典。世界料理人ランキング100位以内が出場の条件で、優勝すれば一生遊んでも使い切れない大金、及び永遠に語られるであろう名声が貰える。まさに料理人にとって夢の舞台であった。

 

「へぇ…一夏何位なんだ?」

 

「こないだ上がって…92位に」

 

「90!?」

 

春十たちは一夏の料理術を絶賛していた。その絶賛していた技術が90台ということに驚きを隠せきれない。5か6ぐらいだと思っていた。

 

「う~ん、だったら帰って急いで修行しないと…」

 

「そうよねそうよね!早く帰らないと駄目よね!」

 

「帰る」という言葉を聞いて大喜びするリンカ。するとそこにガルベルトとセリア、そして鉄狼がやってくる。

 

「さらば友よ、同じ舞台で戦えることを心待ちにしているぞ!!」

 

「ヒヒヒ…今回は私が勝つよ」

 

「じゃあ頑張れよ一夏、まぁ俺が心配する必要無いと思うけど親友として心配してやるぜ。今回のフェスは新世代のルーキーばかりだからお前の顔出しにもピッタリだな。そうだ、親父がトリコさんに聞きたいことがあるらしいから伝言頼むわ。伝言ってのは…」

 

「ヒヒヒ…行きますよ」

 

そういって三人はリンカの作った穴で帰っていく。彼らもまだランキング100位入りしている猛者だ。ライバルになるであろう。

 

「じゃあ千冬姉、しばらく休暇を貰います」

 

「あ、ああ…」

 

千冬に休暇の許可を貰う一夏。しかし…

 

「断固反たーーい!!」

「私は一夏君のご飯が食べたーーい!」

「反たーーい!!」

 

IS学園の生徒たちが猛反対。一夏の美味しい料理を失いたくないのだ。何気に反対している人たちの中に鈴も混ざっている。

 

「ほほう…私の弟の休みを邪魔する気か…?」

 

ここで千冬が鬼の顔を出して全員を黙らせる。

 

「じゃあ一夏、頑張ってこい」

 

「ありがとう千冬姉、たまに顔を出すね」

 

こうして一夏はグルメ世界へ帰っていく。次にIS世界に顔を出したのは食義を習得した二か月後であった。

 




神羅の霊廟さんの「IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人」が今この作品とコラボしております。そちらも是非ご覧ください。
それにしても鉄狼、文字数稼ぎに便利だなぁ…ww


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グルメ27 新たな世界へ!

GWは江ノ島行きました。シラスの二色丼美味しかったです。


IS学園学園祭襲撃事件から二か月の時が流れた。一夏は学園側に長期休暇を貰い、食義を習得すべくコンビのリンカと食林寺に籠っていた。

それも完了し、二人は新たなステージへと立った。

 

「ありがとうございました。シュウさん!お陰で食義を習得できました!」

 

「二人とも才能があります。これからも食への感謝を忘れぬように」

 

「「はい!!」」

 

二人は食林寺から去り、ロストフォレストの中に入った。その姿を見てシュウは改めて感心していた。

 

(食義を二か月で完璧に習得するなんて…流石はトリコさんたちの意思を受け継ぐ子だ…)

 

数十年前のことだがつい昨日の出来事のように思い出す。あの二人も最初こそ上手くいっていなかったが、あっという間に上達していった。

最後には自分を超え、美食會の灰汁獣を瞬殺したあの光景は今でも忘れられない。

 

(新世代の若者か…僕も老けたな)

 

一方褒められている一夏たちは、絶賛遭難中だった。

人間界一の広さを持つ樹海「ロストフォレスト」。なんの対策もなしに入るなんて自殺行為に等しい。

 

「どうしよっかなぁ…」

 

「一夏、私に任せて。方角分かる?」

 

「ここじゃあ方位磁石は使えないけど…森から出たら良いか。多分あっちが北」

 

「OK!」

 

そう言ってリンカはコテを出し、自分と一夏を上に乗せる。

そしてそのまま勢いよく彼方へと飛ばした。

 

「はああああああ!!!」

 

二人はロケットのようにすっ飛び、3000万平方メートルの森をあっという間に脱出した。落ちるときは綺麗に着地する。大陸のように広い森を一瞬で出た。この時点でリンカの成長ぶりが良くわかる。

当然一夏も成長している。その調理スピードは格段に進化していた。

 

「よっと、何とか出れたわね」

 

「ああ、にしても驚いたぜ。まさかこの別宇宙移動装置が使えないなんて」

 

前回食林寺からIS世界に移動しようとした時、ロストフォレストの特殊な磁場の影響でなんと装置が使えなかったのだ。なので一回ロストフォレストから出て装置を使ったのである。

 

「とりあえず春十兄たちに顔を見せるか」

 

「そうね」

 

 

 

 

 

一方IS学園では…

 

「私、一夏さんを見習って料理の腕を更に上げましたの!」

 

「「「…へぇ~」」」

 

何故か暗い雰囲気になっていた。

理由は単純明快、セシリアが皆に料理を振る舞うと言ってきたのだ。こう言うのは何だがセシリアは料理が下手くそだ。かつて春十に「メシマズ国生まれ」と言われて怒っていたが彼女にそれを弁解する資格は無いと思う。

 

(どうすんのよ!?セシリアはやる気満々じゃない!)

 

(ここは傷つけないように丁寧に断った方が良いんじゃないかなぁ…)

 

(くぅう…一夏ならセシリアの腕を上達させることができるかもしれないのに…)

 

彼女以外の専用機持ちが何とかしようと話し合った結果、一夏がいてくれればよいという願望になってしまう。

 

「かぁあ…!頼む一夏!早く帰ってきてくれ!!」

 

「おう来たよ」

 

誰が呼んだか皆が来てくれと願った男、一夏が廊下から現れた。

 

「「「一夏(さん)!!」」」

 

「よっ!」

 

「やっと帰ってきたか!どうだ食義ってのは?」

 

「ああ、バッチリ習得できたぜ!」

 

もう帰ってこないかと思ってしまうほど姿を見せなかったが、ようやく帰ってきた。

 

「あれ、春十兄その人は?」

 

「生徒会長の妹の簪さん」

 

「あの…よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく!」

 

生徒会長楯無の妹である簪は、春十のことを恨んでいた。春十の白式が優先され自分の専用機が用意されていなかったからだ。

しかし春十との話し合いの結果、良い友となり、また彼に恋する乙女にもなった。姉に対しコンプレックスを抱いていたがそれも春十のおかげで仲直りすることができた。

 

「ところでお前ら、グルメ世界に行ってみたくないか?」

 

「「「…えっ?」」」

 

「手伝ってほしい仕事があるんだ」

 

一夏によると、三か月後のフェスの準備として世界中の美食屋にIGOから依頼が出されたらしい。コンビのリンカもその一人だ。

依頼内容はフェスに使う食材の調達。それを手伝ってほしいらしい。

 

「今のお前らならグルメ世界にも馴染めるはずだ。俺とリンカが先導するから安心してくれ」

 

「…一夏がいた世界か…行ってみたいな確かに!」

 

「あんなに美味しい食材が沢山ある世界なんて想像できませんわ!」

 

「だけど…教官が許してくれるか分からんぞ」

 

一回ダメ元で交渉しに行った。最初こそ千冬は難色を示していたが、一夏の必死な説得により何とか許可を貰う。

 

「まぁ私たちもグルメ世界に沢山助けられた。異世界にも交流が必要だ。良いだろう許可する」

 

「「「やった!!」」」

 

「だが一夏、本当に安全なんだろうな?」

 

「任してくれ!俺たちがキチンと見てるさ」

 

「なら大丈夫か…気を付けてくれ」

 

こうして専用機持ち達のグルメ世界行き旅行が決定する。一夏とリンカを除いたら初めての両世界の交流となるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白く優しい光を抜けたその先は、まだ見ぬ異世界。見たことも聞いたことも味わったこともない美食の世界。

何故こんなに違いができたのか、それは一つの細胞のせいだった。

大昔に墜落した隕石。その中にあるグルメ細胞が地球を大きく変動させたのだ。

食すことを快感に感じる者たちにとってそこは楽園、天国に等しかった。

簪を含めたグルメ世界旅行ご一行、グルメ世界へ訪れる。

 

 

 

 

 

 

誰かが言った――

 

かつて貴族が食べていたといわれるトウモロコシの王様があると―

極寒の地で百年に一度溶け出すといわれる幻のスープがあると―

絶滅した魚介類の味もするといわれる貝があると―

食べた者の美食人生を終わらせるほど美味しいマンモスがいたと―

かつて美食神がメインディッシュにしたといわれる食材の王様があると―

妖たちが住み着く大陸に実る食宝があると―

七色に輝く美しい果実があると―

数十億人の腹を満たしたといわれる卵があると―

 

 

世はグルメ時代—— 未開の味を探求する時代——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごーい!ここがグルメ世界かぁ~!」

 

一面広がる草原に出たご一行。その爽やかさに圧倒する。

 

「気のせいか空気も美味しく感じますわ!」

 

「一夏、早速案内してくれよ!」

 

「ああ、その前に…」

 

「おーーい!一夏ーー!」

 

遠いところから一夏が呼ばれる。リンカだ。こっちに走ってきた。

 

「待ってたわよ、皆も久しぶり」

 

「改めて紹介するぜ、俺のコンビのリンカだ。俺の師匠のコンビの娘だ」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

「よろしくね!ところで一夏、まずどこ行くの?」

 

「まずは…俺の店、『織斑食堂』に行こう!」

 

 




というわけでグルメ世界編スタートです。ここからはIS原作とかけ離れるのでご注意を。これからもよろしくお願いします!


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グルメ28 織斑食堂!

やってるソシャゲ多すぎてプレイするやる気でない。何とかせねば。


満腹都市グルメタウンの離れ、織斑食堂はそこにあった。

見すぼらしい外見に、大きく「織斑食堂」と書かれた看板、一見普通の店だった。扉には「休業中」の板がかけられている。

 

「あれ、数か月放っておいたのに意外と綺麗だな」

 

「ああ、私やコロナがたまに来てたから」

 

「へぇ~ここが一夏の店かぁ」

 

グルメ世界旅行ご一行たちは織斑食堂へと立ち寄る。もっと大きな外観を予想していたが意外と小さかった。

 

「とりあえず店やるか。皆中で見ててくれ」

 

「あ、ああ」

 

そう言って一行は食堂の中へと入っていく。中も普通で特に変わったものは無い。強いて言うなら厨房に見たことない調理器具やら食材やらがあるだけだ。壁にはメニューがかけられている。

 

「一夏、何の知らせもなくて客来るのか?」

 

「それもそうだな、ネットに告知しよ」

 

そう言って一夏が携帯を取り出した瞬間、小さく地響きが聞こえ始める。それと同時に地面も揺れ始めた。

 

「何ですの一体!?」

 

その地響きの原因は一斉に食堂に来た客たちであった。

 

「一夏!やっと店再会したな!」

「こちとらお前の飯食いたくてたまんなかったんだ!」

「早く食わせて!」

 

老若男女が一斉に中に入ってくる。あっという間に店は満席となった。

 

「待たせてすいません!どうぞ楽しんでいってください!」

 

外にも長蛇の列が並び、まるでずっと前から並んでいたように列ができあがっている。

ここで鈴があることに気づく。

 

「あれ、何で皆食材持ってきてんの?」

 

全員とはいかないが、その殆どの客が飯を食いに来たはずなのに各自がグルメ食材を手にしている。

 

「ああ、一夏の店は持ってきた食材をメニューに無くても調理してくれるのよ。だから皆自分の大好物を持ってきてるの」

 

「こっちの世界の織斑食堂と変わらないってことか…」

 

お客たちは自分たちが持ってきた食材を嬉しそうに一夏へ差し出した。

 

「一夏シェフ!この『神龍エビ』を調理してくれ!」

 

「わっ!よくそんな高級食材手に入れられましたね!」

 

「お前の店に行く用に買ったのさ!品は任せる!」

 

「一夏さん!私は『羽衣ワカメ』をお願いします!」

 

「任せてください!」

 

「俺は『豚ケルベロス』の肉を!」

「儂は『弾道タケノコ』を頼む!」

「私は『鬼灯トマト』をお願い!」

「僕は『オーロラカマンベール』を!」

「おいらは『岩石カボチャ』!」

「俺は『樹海ピーマン』!」

「私は『殿さんま』!」

「何とかして手に入れた『霜降りフグ』を!」

「『ロイヤルコッコの卵』を頼む!」

「私は『七色イチゴ』をお願い!」

 

続々と一夏に食材が渡されていく。その中には稀にしか見ない高級食材や調理が難しい食材もあった。そして一夏はそれを僅か数分足らずのうちに調理する。

 

「はい!『神龍エビのエビフライ』『羽衣ワカメのサラダ』『豚ケルベロスの豚汁』『鬼灯トマトの刺身』『オーロラカマンベールの裂けるチーズ』『岩石カボチャの煮物』『樹海ピーマンの肉詰め』『殿さんまの塩焼き』『霜降りフグのしゃぶしゃぶ』『ロイヤルコッコ卵のスクランブルエッグ』『七色イチゴの練乳アイス』!!ごゆっくりどうぞ!」

 

次々と出される料理を客たちは夢見心地で堪能し、満足した顔で代金を払って店を出ていく。

 

「ご馳走でしたー!!」

「美味しかったぞー!!」

「フェス頑張れよー!!」

 

「ご来店ありがとうございましたぁ!」

 

一夏の調理スピードが速いのか、それとも客が食うのが速いのか、また両方なのか、次々と外で待っていた人たちも中に入っていく。しかしそれでも列は無くならない。

一夏の仕事ぶりを春十たちは傍観していた。

 

「凄いな一夏の奴…どんどん客を捌いていってる…」

 

「当たり前よ!私のコンビなんだから」

 

春十の言葉にリンカは天狗になり、自分のことのように自慢する。

 

「それにしても驚くぐらい客が多いね…いつもこんな感じなの?」

 

「いや、繁盛しているのが普通なんだけど…フェス出場決定のおかげもあって普段より賑わっているわね」

 

それほどクッキングフェスティバルの影響力は大きいものだ。視聴率95%以上が普通の番組。フェスのCM放送権利はなんと100億以上。それが数分で完売するほどだ。例えば決勝時に流れたCMソングが1日で5000万枚売れた、書籍に10億冊の予約が入ったなど、その

経済効果は4000から5000兆円と言われている。

その数字を聞いてIS側の人たちは信じられない顔をする。

 

「100億…!?」

 

「5000兆…!!??」

 

「…さっきから億と兆っていう位しか聞かないような…」

 

結局織斑食堂がいったん落ち着くまで数時間はかかった。客足が途絶えたあと、一夏も座って皆と話し始める。

 

「待たせたな皆」

 

「本当だよまったく…俺たちは観光がしたいんだ」

 

「だけど一夏さんの店、大繁盛でしたわ!」

 

「ありがとうセシリア。でさ、皆を呼んだ理由を話すよ」

 

「理由?観光じゃないの?」

 

「それもある。だけどこの前言った通り手伝ってほしいことがあるんだ」

 

「「「手伝ってほしいこと?」」」

 

「ああ、クッキングフェスで使う食材、それが世界中の美食屋たちに依頼された」

 

「世界中…ってことは」

 

「勿論リンカも含まれている。コンビとして俺も手伝わないといけない。だけど食材を運ぶ人手が足りなくて…」

 

「あれ使えば?別宇宙移動装置っての」

 

「あれは異なる世界間の通路しか作れないし、そもそも依頼された場所全部が特殊な磁場だから使えないんだ」

 

「分かった!俺たちに任せてくれ!!」

 

その依頼を春十たちは意気揚々と受ける。何度も助けてくれた一夏たちに今度はこっちが助けるのだ。

 

「ありがとう皆!だけど全員は行けないな…依頼ごとに行くメンバーを決めるか」

 

「ところで最初はどこ行くんだ?」

 

「最初の場所は…かつて野菜仙人(・・・・)が治めていた地…『野菜仙境』だ!」

 

 

 

 

 

何もない荒れ果てた土地…そこに一人の女性が歩いていた。

緑色のターバンを身にまとった褐色の肌の持ち主。彼女は食材が沢山入った袋を背負っていた。

するとそこに、人型の猛獣の群れが集まる。

全員が涎を垂らし、女性の袋を凝視している。中身を狙っているのだ。

 

「…やめといたほうが良いよ。僕に触れるのは」

 

彼女がターバンを脱ぎ捨てた瞬間、その褐色の肌は感染するかのように紫色へと染まっていった。

数分経てば、彼女を襲った猛獣たちは、泡を吹いて絶命していた。外傷は無い。

 

「一夏…帰ってきたんだ」

 

手に持っているスマホには、「織斑食堂再開!!」とニュースの一文がある。

彼女はスマホをしまい、また荒野を歩き始める。

 

 




次回あのキャラの娘がでてきます!


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グルメ29 毒使いの女!

最近寒かったのに一瞬で熱くなってきましたね。熱中症にはお気を付け下さい。


野菜仙境へと向かう助っ人はくじ引きで、セシリア、シャル、春十になった。それ以外の人は鉄狼の案内のもと観光に行った。

野菜仙境へはIGOが貸してくれた飛行機に乗って向かう。

 

「野菜仙境は前に来たことがある。だからルートも分かるから大丈夫だろう」

 

三人の他に一夏とリンカも来ている。この二人がいなければ任務遂行なんて無理だからだ。

すると春十がある疑問を口にする。

 

「ところで野菜仙境ってどんなところなんだ?」

 

「標高約4000mにある野菜仙人たちの暮らす場所よ。そこで実る野菜は元々ベジタブルスカイっていう雲の上にある野菜畑から採ってきた野菜を仙人たちが品種改良したものよ」

 

「4000m…まぁISでひとっ飛びだよね!」

 

「いや、空は怪鳥の群れだ。そこを突破していくなんて自殺行為にも等しいぞ」

 

「じゃあどうしますの?」

 

「地上から行くんだ。だけど本当の敵は猛獣とかじゃない。森の突破だ(・・・・・)

 

「森の…」

 

「突破…?」

 

そう話していると飛行機が着陸する、目的地に着いたようだ。一同は降り、自分たちが向かう場所の入り口を見る。

 

「なんじゃこりゃ…!?」

 

それを見て三人は驚いた。長い木が生えまくり、そして濃い霧が辺りを覆っている。一面真っ白の景色だ。

 

「『濃霧樹海フォグレスト』、ロストフォレストと一二を争う程の樹海だ。その行方不明者数は毎年一万人以上と、自殺の名所だ」

 

「ここを通っていくのか!?大丈夫かよおい…」

 

「任せろ、この森は正しい道さえ歩けば野菜仙境にたどり着ける。言ったろ、前来たことあるって」

 

「その代わり、私たちからはぐれたら一巻の終わりよ、気を付けて」

 

「「「えぇ…」」」

 

いきなり幸先不安になるIS世界組、果たして無事帰ってこれるだろうかと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いざ足を踏み入れてみると、一瞬にして足元が霧に覆われた。一応春十たちISを持っている人たちはそれを起動しながら一夏たちの後ろを歩いている。

 

「ISなら落っこちても飛べて平気だろ」

 

「落っこちる?」

 

「所々にクレバスみたいな亀裂があるんだ。それが霧に隠れて見えないから天然の落とし穴になっている」

 

「怖っ!」

 

「やっぱ霧の中だと嗅覚も効きにくいわねぇ」

 

リンカはトリコの警察犬を超える嗅覚も受け継いでいる。しかしこの濃霧の中ではそれも相殺されてしまうのだ。

まるで雲の上を歩いているような感覚だ。ましてや足元が見えないので幻覚を見ていると脳が誤認しそうだった。

 

「ところで一夏さん、一体どうやって目印にして歩いていますの?」

 

「ああ、これだよ」

 

セシリアの問いに一夏が近くの木を指す。一見何も無いように見えたが、うっすらと樹木の表面に矢印が彫られている。

 

「仙人たちが彫った案内さ、まぁ初見じゃ霧に隠されて見つけづらいけど…」

 

「こんなものが…」

 

「ちなみにこの木は『霧隠れ樹』といって、呼吸と合わせて体内の水分を霧として噴き出しているんだ。他の霧隠れ樹はその霧を水分として吸収してサイクルを作っている。だからこんなに霧が深い」

 

「へぇ…木が他の木のために霧を出してるんだ」

 

「それもあるけど、この木自体がとても臆病で身を隠すためにも噴き出しているのよ。木材になってもその性質は無くならなくて、建築に使ったら隠れ家にもできる」

 

「とても使えなさそうだけどなぁ…」

 

霧の中を歩いて30分、春十があることに気づいた。

 

「何だあの木」

 

霧隠れ樹の中に一本だけ色が鮮やかな木を見つける。その木はハチミツの匂いを出していた。

 

「あれもグルメ食材かな?」

 

好奇心と少しの食欲に駆られた春十はその木に近づくが…

 

「この匂い…駄目よ春十君!!」

 

「え?…のわっ!?」

 

リンカがそれを制止する。するとどこからともなく黄色と黒のコウモリの群れが現れた。コウモリたちは樹液の周りを周回している。

 

「何だあれ…!?」

 

「あれは『ハニートラップツリー』、樹液が天然のハチミツの木で、あのコウモリは『ミツバチコウモリ』よ。ミツバチコウモリはハニートラップツリーの甘いハチミツの匂いで誘われた虫たちを食べる習性がある。時には小動物を食べるときもあるわ」

 

「そんなに強いのか…あのコウモリ」

 

見ただけでは色が鮮やかな普通のコウモリだった。しかしリンカが自分を制止したことによって警戒心を向ける春十。

 

「いや、捕獲レベルは5だけど…自分より大きい獲物には尋常じゃないぐらいの仲間を呼ぶの、少し面倒になるわ」

 

 

ミツバチコウモリ〈哺乳獣類〉捕獲レベル5

 

 

「気をつけろよ~春十兄」

 

「すまんすまん、つい甘い香りに誘われて」

 

(虫かよ)

 

「だけどあのハチミツは高級食材よ!帰りに採りましょ一夏!!」

 

「お前もか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森に入ってから一時間弱、一夏によればもうすぐ野菜仙境に着くらしいが、何故か周りの木々がやせ細っている。霧もなんだか晴れてきた。

 

「何だか景色が変わってきてないか?」

 

「もうゴールが近い証拠だよ。ここら辺の霧隠れ樹は野菜仙境の野菜栽培に栄養を奪われているんだ。だから霧も晴れてきている」

 

「こんな大きな木が犠牲になるほど育った野菜…一体どんな味がしますの?」

 

「品種改良元のベジタブルスカイの野菜も、栄養満点の雲の上に実っているからな。その分美味しくなっているはずさ」

 

「だけど、霧が晴れているってことは…」

 

すると突然一夏とリンカが構える。それにつれられ三人も構えた。

すると森の奥から猛獣たちの群れが襲い掛かってくる。

 

 

ハントパンダ〈哺乳獣類〉捕獲レベル66

 

 

「パ、パンダァ!?」

 

「ハントパンダだ!かわいい見た目に騙されないで!普通の熊の数倍凶暴だ!」

 

「一夏、こいつらって食えたっけ?」

 

「いや、肉は不味いらしい!皆、なるべく殺すな!」

 

迫りくるハントパンダの群れに対応する一夏たち、皆抵抗はするが死なないレベルで相手をしていた。しかしシャルとセシリアだけは攻撃を避けるのに必死であった。

 

「くっ…足手まといにはなりませんわ!」

 

「わ、僕だって…ってきゃっ!?」

 

するとシャルが一匹のハントパンダによって転ばされてしまう。倒れた彼女に数匹のハントパンダが襲い掛かった。

 

「シャルゥ!!」

 

絶体絶命のピンチかと思われたその時…

 

 

「ポイズンドレッシング」

 

 

突如紫色の液体がハントパンダたちに付着する。するとそのハントパンダたちは急に倒れこみ、小刻みに震えていた。

 

「安心して、薄い神経毒だよ。数時間で動けるようになる」

 

そこに現れたのは緑色のターバンらしきものを全身に巻き付け白いマントを着ている一人の女性だった。

ハントパンダの群れはその女性を見た瞬間、一斉に青ざめ、怯えながら逃げていく。

 

「久しぶりだね…一夏」

 

「お前は…ララ!!」

 

彼女は、トリコと並ぶ美食四天王の一人「ココ」、その能力と血を受け継いだ美食屋の少女…「ララ」であった。

 




ララって聞くとやっぱデビルーク星の王女を思いつく…


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グルメ30 野菜仙人!

野菜仙境にたどり着きます。そしてオリキャラのオンパレードです。


 

濃霧樹海の中で、一夏たち一行はココの娘「ララ」と出会う。その身長は小柄でまるで子供だが、その実力は親譲り。

 

「ララ!どうしてここに?」

 

「僕も依頼されたの、フェスに使う食材を集めてこいって…」

 

「そうなの!じゃあ行き先は同じね!」

 

一夏とリンカはララに駆け寄り、親しそうに談話している。しかし春十たちは彼女を知らない。

 

「一夏、その人は?」

 

「ああ、ララっていってな…師匠のコンビの知り合いの娘だ!」

 

「遠いような遠くないような繋がりだなぁ…」

 

「ララ、こいつが話していた俺の兄の春十で、その後ろにいる女性はセシリアとシャル」

 

「よろしく…」

 

「よろしくお願いしますわ」

 

「こちらこそよろしくね!」

 

お互いの紹介も終わったところで、引き続き野菜仙境へ目指す一夏たち。その道中、ララが一夏の腕に自分の腕を組んできた。

 

「うわっ!?どうしたララ!」

 

「別に…」

 

対するララは顔を隠しそれでも一夏の腕に組んでいる。それを見たリンカが顔を真っ赤にして一夏から彼女を引き離す。

 

「コンビの私に許可なく何してんのよ!!」

 

「…腕を組むのにコンビなんて関係ない」

 

「だからといってねぇ…!!」

 

ここで二人が一夏の取り合いに発展し、お互いを睨み合う。それを放っておいて一夏たちは先に進んだ。

 

「大変だなお前も…」

 

「まぁね」

 

「ところでよ、あのララって人の『あれ』、何だ?」

 

「『あれ』のこと?」

 

あれというのは、先ほどハントパンダを撃退したときに見せた毒能力のことだろう。父ココは自分の体に抗体として沢山の毒を打ちすぎて、結果毒を体内で生成できる毒人間になってしまった。その力は娘のララにまで受け継がれている。

 

「あんまりそのことを聞くなよ、あいつそれがコンプレックスだから」

 

「おう」

 

そう言って歩くこと数分、ようやく目的地にたどり着いた。

 

「意外と早くつけたな…ここが野菜仙境だ!」

 

雲海から聳え立つ沢山の細い岩山、そこから橋が幾つもかけられている。まさしく仙境という雰囲気、ここが野菜仙人たちが住む野菜仙境だ。

 

「ここが野菜仙境…何て幻想的なところですの…」

 

「綺麗…まるでこの世のものとは思えないよ」

 

一行は入り口の橋を渡り、野菜仙境へと入っていく。下を見れば雲で地面が見えない。落ちたらひとたまりもないだろう。

春十たちはISを解除している。流石にこんな狭いところでだと危険だからだ。

 

「所で一夏…あのロボットみたいの何?」

 

「ああ、ISって言ってな。向こうの世界にある…」

 

雑談しながら橋を渡っていると、雲海の中から何かが飛び出してきた。咄嗟の出来事に春十たちは構える。

 

「猛獣か!?」

 

「いや違う、ここの番人だ」

 

現れたのは巨大な怪鳥、しかし頭部は顔が書かれた布で覆われており、穴から嘴が出ている。鳥は最初春十たちに敵意を向けたが、一夏とリンカを見た後空高く飛んでいってしまった。

 

「『カカシチョウ』、野菜仙人の使い魔で普段はここの畑を他の怪鳥から守っているんだ」

 

 

カカシチョウ〈鳥獣類〉捕獲レベル77

 

 

「へぇ~あんな鳥が」

 

「私たちも最初会った時泥棒と間違えられて襲われたわ」

 

そうこうしている間に長い橋を渡りきる。橋が落ちないかヒヤヒヤしたがその心配は無用だったらしい。すると渡った先に一人の老人がいる。頭が玉ねぎのように尖っていた。

 

「これはこれは一夏殿、葬式以来ですじゃなタマ」

 

「タマギ、久しぶりだな」

 

「知ってる人ですの?」

 

「ああ、野菜仙人の一人、玉ねぎ仙人の『タマギ』だ」

 

「他の皆様もようこそいらっしゃいました。登山で疲れていたという時に先ほどはこちらのカカシチョウがとんだご無礼を…」

 

「いえいえそんな!」

 

初めてみる仙人に少し緊張する春十たち三人。その後はタマギに案内され一軒の家に入った。

 

「今回はやはりフェス用の食材を…?」

 

「ああ、悪いが分けてくれないか?」

 

「少々お待ちください、急いでお持ちいたしますじゃタマ」

 

そう言って野菜貯蔵庫に向かうタマギ。一行は旅の疲れをだらだらしながら癒していく。

 

「思ってた感じと全然違ったなぁ…仙人というからもっと厳しそうなのを連想してた」

 

「まぁそんなもんだよ、じゃあさっさと野菜を受け取って帰りますか」

 

「えぇ~!!俺はここの野菜食ってみたいんだけど!」

 

「私も私も!!」

 

ここぞというところで春十とリンカが騒ぎ始める。呆れるように一夏が顔を押さえている時、ララが一夏に詰め寄る。

 

「こんなのは放っておいて、僕と散歩に行こ」

 

「だからと言ってそんなのは認められないわよ!油断も隙もない!!」

 

「…リンカはここの野菜を食べたいんでしょ?これを機にここで数十年ぐらい修行したら?」

 

またもや一夏の取り合いになっていると、慌てた様子でタマギが帰ってくる。

 

「たたた大変ですタマ一夏殿!」

 

「うおっびっくりした!どうしたのいきなり!」

 

「と、とにかくこちらに…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野菜仙境の貯蔵庫にて、その周りには沢山の野菜仙人たちが集まっている。そして貯蔵庫の屋根に一人の若い男が立っていた。

 

「早く鍵を返すのダイ!!」

 

「いい加減にしないと怒るカボ!!」

 

野菜仙人たちはその男に対し怒りをあらわにしているが、対する男はどこ吹く風と無視している。

そこに一夏たちとタマギがやってきた。

 

「どうしたんだ一体!?」

 

「おお一夏殿だダイ!」

 

「貴方からも何とか言ってくださいカボ!」

 

先頭にいる大根仙人「コボダイ」と南瓜仙人「カボー」の元まで駆けつけ、皆が注目しているところを見る。そこにいる男は見覚えがあった。

 

「ああっーーてめぇは一夏!!」

 

その男も一夏を見た瞬間、凄い表情になって敵意を向けてきた。

男の名は「ジンギ」、二代目(・・・)の人参仙人だ。

 

「ジンギじゃないか、何やってんだそんなところで」

 

「ジンギのやつが貯蔵庫の鍵を奪って返してくれないのですタマ」

 

「そんなことしたら…野菜が受け取れませんわ!」

 

「その通りでございますタマ。ジンギ!早く鍵を返すのだタマ!」

 

野菜仙人たちによる必死の説得は、ジンギの右耳から左耳まで通ってしまう。聞く耳持たずとはこのこと。

 

「嫌だね!この野菜は俺たち誇り高い野菜仙人たちが丹精込めて作った野菜だ!薄汚い下界の人間に渡せない!」

 

ジンギという男は野菜仙境の外、つまり下界の人間たちを基本的に見下しており、このように高圧的な態度をしている男だ。

 

「ジンギ、俺からも頼む。お前たちの美味しい野菜が必要なんだ」

 

「何でたかが下界の祭りごときに俺たちの野菜を提供しなくちゃいけないんだ!誰がなんと言おうと嫌だね!雑草でも食ってろ!」

 

一夏の説得にも耳を傾けず信念を曲げないジンギ。よほど下界の人間が嫌いらしい。

 

「そこまでこの野菜が欲しいなら俺と勝負しろ一夏!お前が勝ったら好きなだけ野菜を分けてやる!だが負ければ…二度とこの地に足を踏み入れるな!」

 

「…わかった!その勝負、受けて立つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回ジンギ戦。
体重3キロ減りました、やったね!


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グルメ31 二代目人参仙人!

今回ちょっと短めです。


突如として行われることになった一夏対ジンギの試合。野菜仙境の中心にある大広場で行われることになり、かなり広いリングができていた。

リングの上に立つ二人。そしてそれを外から見ている多くの野菜仙人たち、そして春十ご一行。

一夏はISを使わず、あくまで武器の包丁である「黒星」「白海」だけを使うことになった。

 

「そう言えば…IS無しでの一夏の戦いを見たことないな」

 

春十たちIS世界側の人は一夏のISを使わない形での戦いを経験したこともないし見たこともない。それ以前に生身の人間同士で起きる戦闘に慣れていないのだ。

 

「だけど強いよね多分…リンカさんがあんなに強いなら」

 

なのでIS無しであそこまで戦えるリンカを始めて見た時は本当にびっくりした。あれがグルメ世界での戦い方だと驚愕もした。

 

「約束は守れよ一夏…」

 

「ああ、俺が負けたらこの地には二度とこない。お前も守れよ」

 

「…下界の人間如きが、生意気なんだよぉお!!」

 

火蓋が切って落とされる。両者ゴングが鳴った瞬間跳びかかり、唾競り合いをする。一夏は二本の包丁で、対するジンギはピーラー(・・・・)でだ。

ただのピーラーではない。リンカの「コテ」と同じようにグルメ細胞が具現化された武器である。

二人は後退し、お互いに距離を作る。どっちが先に仕掛けるか、それを考える時間になる。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!竜巻みじん切りぃ!!」

 

ここで最初に攻撃してきたのは一夏だ。二本の包丁で斬撃をジンギに対し放ちまくる。

 

「土壁剥き!!」

 

それに対しジンギは大きなピーラーを具現化し、それで地面の表面をまるで野菜の皮のように剥き、剥けた地面を盾にして斬撃を防ぐ。

 

「すごい!地面を剥いてガードしましたわ!」

 

ジンギのピーラーはまだ止まらず、また地面を剥く。今度は大蛇のように太く、厚く、そして長く剥いた。

 

「地表大蛇!!」

 

長く剥かれた地面の皮は、そのまま倒れこんでくる。一夏はそれを左に避けるが、別の地表大蛇が襲い掛かってきた。

 

「地面がどんどん削れていく…」

 

シャルの言う通り、ジンギのピーラーのせいでどんどん大広場がボロボロになっていく。その勢いは止まることを知らない。

 

「はっ!!」

 

しかし一夏はそれを逆に利用する。倒れてくる地表を足場にし高く跳んだ。そしてそのままジンギの元へ降下する。

地面に包丁を突き刺すがジンギはそれを避ける。そして一夏の包丁とジンギのピーラーがぶつかり合った。甲高い金属音を鳴り散らし、まるで侍による刀の勝負のように思えるがまったく違う。包丁とピーラーという調理器具の戦いだった。

 

「剥き斬撃!!」

 

するとジンギが至近距離でピーラーによる斬撃を放つ。それをギリギリ包丁で受け止めた一夏であったが、その隙を突かれてしまった。

いつの間にか先ほどと同じ地表大蛇が一夏を囲んでいる。そしてそのままとぐろを巻くようにドーム状に伸び、一夏を閉じ込めた。

 

「どうだ見たか!!そのまま皮ごと切り裂いてやる!!」

 

そう言って巨大なピーラーを具現化し、自分が作った地面のドームごと切ろうと、高く跳んでピーラーを振り下ろしたが…

 

「はぁあっ!!」

 

すんでのところで一夏が土の壁を全て切り、そのままピーラーを受け止めた。

 

「ジンギ!何で野菜を提供することを拒む!!」

 

「言っただろ!俺は誇り高き野菜仙人たちが作った野菜を、下界の人間の見世物に使われるのが嫌なんだ!!」

 

「本当にそれだけか?亡くなった先代(・・・・・・・)の名を守るためにそうしてるんじゃないのか!?」

 

「…そうだよ!その通りだよ!!」

 

ジンギは激昂しながら両手で二つのピーラーを作り、そのまま一夏に向けて振り下ろしたが黒星と白海に防御されてしまう。

 

「だから許せない!!お前とリンカの野郎が、親父の遺産(・・・・・)を受け継いだことを!!」

 

「…そうだ、確かに俺はニジンさん(・・・・・)から仙人参を受け継いだ。だけどそれはお前もだろ!!」

 

「そこだよ!!俺だけじゃなく、しかも薄汚い下界の人間風情が仙人参を受け継いだことが許せないんだぁあああああ!!!」

 

ジンギの感情は更に高まり、その攻撃の威力、速さはより強烈なものへと進化する。

そしてそのピーラーは、スティック状へと変形する。

 

「受けてみろ!!俺の一撃を!!」

 

ジンギはそれを剣のように持ち、一夏へと跳びかかる。対する一夏も答えるように包丁を構えた。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)…!!」

 

 

 

「高山切り!!」

 

「厚皮剥きぃ!!」

 

 

 

再び始まる唾競り合い。しかし最初の奴とは比べ物にならない。一夏とジンギ、両者の想いが全て詰まっているのだ。

その押し合いは数分続いたが、遂に決着がつく。

 

「がっ…!!」

 

ジンギのピーラーが砕け散ったのだ。対する一夏の包丁は折れていない。勝敗を決めるにはこれ以外無い程の決着。一夏、そしてジンギもそれを認めていた。

 

「俺の勝ちで良いよな…ジンギ」

 

「…糞がっ!!」

 

ジンギは悔しがりながらも一夏に鍵を投げ渡す。その瞬間歓声が沸いた。

 

「一夏が勝ったぞ!!」

 

「当たり前、僕のパートナーだもん」

 

「わ・た・し・の・で・すぅ~~!!」

 

ジンギはそのままどこかへ消えてしまう。そして一夏たちはそのまま貯蔵庫に置いてあった溢れんばかりの野菜を目にした。

 

「すげぇ…野菜の山ができてるぞ」

 

「相変わらずここの野菜はインパクトの強い香りね…」

 

「お疲れさまでしたタマ一夏殿。休憩のついでにここの野菜を存分に味わってください」

 

「ありがとうタマギ、ありがたくそうさせてもらうよ」

 

こうして野菜仙境で、野菜パーティが始まった。

 




次回は野菜堪能回、そしてジンギの過去話の予定です。


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グルメ32 食の本場からの猛獣!

最近車の免許を取ろうと頑張っています。


野菜仙人たち(一部を除き)に歓迎される一夏たち。いつのまにか宴会のような雰囲気になっており、大広場で野菜の試食会が始められた。

目の前に出される数々のみずみずしい野菜料理。本来メインとなるであろう肉などのタンパク質が一切ないが、それでも食欲を増進させるのであった。

 

「まずは私のタマネギを食べてくださいタマ」

 

そういってタマギが出してきたのは丸々一個茹でられたタマネギ。ポン酢がかけられておりなんとも美味しそうであった。

一夏とリンカがそれを口に運ぶ。

 

「ん…タマネギの程よい辛さが茹でることでちょっと優しくなって、ポン酢の味が絡んでいる!」

 

「癖になる味ね、いくらでもいけそう!」

 

「私が育てている『蓬莱タマネギ』ですタマ。皮が七色に光るタマネギで剥く順番を間違えると通常のタマネギより数十倍の量の硫化アリルができるので涙の流しすぎで脱水症状になる危険性がありますタマ」

 

春十とセシリアが食っているのは大根仙人「コボダイ」が栽培した大根の煮物だ。

 

「一口噛むと出汁が噴水のように口の中で広がった!」

 

「だけど大根本来の味が出汁に負けることなく存在感を出していますわ!」

 

「これは儂の『霊草大根』ですダイ。抜こうとすると周りの浮遊霊が反応して集まってくるので危険な大根ですダイ」

 

「浮遊霊って…もはや何でもありだなぁ」

 

そしてシャルとララが食べているのは南瓜のポタージュ。南瓜仙人「カボー」が作った南瓜だ。

 

「南瓜の濃厚な味が舌に一気に行きわたる…それなのにさっぱりしていて飲みやすいなぁ!」

 

「…まるで水を飲んでいるような喉越し、だけど南瓜の味はちゃんと感じる…」

 

「『金剛南瓜』ですカボ。ダイヤモンドのように硬い南瓜、それを調理するには専用のハンマーが必要ですカボ」

 

その他にも沢山の料理が運び込まれていく。玉蜀黍仙人の焼き「富豪コーン」、トマト仙人の「輪廻トマト」のケチャップで作ったナポリタン。胡瓜仙人の「白キュウリ」の塩漬けなど。

 

「先ほどはジンギがすいませんでしたタマ。この間来たお客人の時あいつは仙境にいなかったから良かったものの…」

 

「他にも誰か来たのか?」

 

「ええ、依頼されたプロの美食屋、そしてフェスの特訓用に野菜を貰いにくる料理人が多数…」

 

「フェスの出場者まで来たのか!?」

 

「はい、天ぷら料理のプロ『天龍』、『ブルーノピザ』の『ブルーノ』、後は『漬け婆』などなど…」

 

「すげぇ…どれもランキング上位の名前だ…」

 

「我ら仙人一同、一夏様の健闘をお祈りしていますタマ」

 

「ああ、ありがとう」

 

やはりランキング上位のプロもここにきていた。優勝を狙うライバルとしてピッタリのはずだ。

 

「ところで…ジンギのやつはまだあんな感じだったのか」

 

「…ええ、ニジンが死んでからずっとあの調子ですタマ。責任を感じているのでしょうねタマ」

 

「そう言えば、一夏とリンカさんは前に来たことあるって言ってたな。その時なんかあったのか?」

 

「ああ、前に野菜仙境に来た時、俺たちはニジンっていう人参仙人たちと会ったんだけど…」

 

「亡くなったのよ。私たちに『仙人参』の栽培方法を授けて」

 

仙人参というのは一夏とリンカのフルコースメニューの野菜料理に名がある野菜だ。それは人参仙人である「ニジン」から授かったもの…つまり遺産だった。

 

「だから、人参仙人の名はあいつが受け継いでいるんだけど…その責任感で少し暴走しているんだ」

 

「そうなのか…」

 

一夏たちが春十に説明していると、ララが耳を貸せという仕草をしてくる。それに従う一夏。

 

「一夏、早くあの人のところに行った方が良いかも…」

 

「何で?ああいうのは一人にしといたほうが…」

 

「…死相(・・)が見えたの」

 

「…!」

 

ララが父親から受け継いだ能力は毒だけじゃない。ココの電磁波を捉えられる超視力も持っているのだ。

その目で行われる占いはほぼ必中。つまりジンギのやつから死相が見えたってことは…

 

「ジンギは…死ぬのか!?」

 

すると大きな遠吠えが仙境に鳴り響く。一斉に耳をとじ、それに耐える。その遠吠えは数分続いた。

 

「今のは…!?」

 

「…グルメ界の猛獣の鳴き声(・・・・・・・・・・・)ですタマ!」

 

「「「グルメ界!?」」」

 

その単語に驚愕する一夏とリンカ、そしてララ。

地球の人間が住む以外の土地、それが「グルメ界」。そこは普通の人間じゃ生き残れない特殊で危険な環境である。そこに住む猛獣たちも人間界のものとは比べ物にならないのだ。

 

「何でグルメ界の猛獣が人間界にいるんだよ!?」

 

「…数十年前の四獣襲撃の際、その時にグルメ界から猛獣たちが紛れ込んできたのですタマ。そのうちの数匹が野菜仙境にやってきて…」

 

「じゃあなんでここ壊滅していないの!?そんなのが数十年間もいたらとっくにもう…!」

 

「その時に来た猛獣たちの中に、心優しい神獣(・・)4匹もいたのです。そのうちの一匹である朱雀(・・)様が今まで猛獣たちを洞窟の中に閉じ込めていましたタマ」

 

「朱雀…様」

 

「しかし最近お姿を見せなくなりましたタマ。もしかしたら朱雀様はこの仙境にはおらず、そのせいで閉じ込められた猛獣たちが出てきたのでは…!?」

 

「…だとしたら最悪だ!急いでその洞窟に行かないと!」

 

ここで、先ほどの「死相」という言葉が頭の中に出てきた。

 

「…まさか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ジンギは、森の中で座っている。その顔は悔しいことを物語っている。

 

(何故だ!?俺は親父の跡を継いだ人参仙人だぞ!なんで下界の人間ごときに…!)

 

一夏の言う通り、ジンギは父親であるニジンの名を守ろうと必死になっている。その結果、下界の人間を見下すような高圧的な性格になってしまったのだ。

 

(くそ!どうしたらいいんだよ…!)

 

すると森の奥から何かがやってくる気配がする。

 

「な、なんだ一体!?」

 

こんな強い気配を放つ猛獣は仙境にはいないはずだ。そう思ったジンギは瞬時に警戒モードになる。

奥から出てきたのは、2匹の緑色の龍。

 

「こいつら…まさか洞窟の…!」

 

 

ドラゴーヤ〈幻獣類〉捕獲レベル105

 

 

命がかかったピンチが、ジンギを襲う――!

 

 

 




ドラゴーヤは、以前コラボしていた「IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人」の「神羅の霊廟」さんがコラボ内で登場させたオリジナルの猛獣です。捕獲レベルを少し上げています。


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グルメ33 2匹の龍!

最近ドライブドライバーを買いましたマックスフレアが無いだけでワンコインで買えるとは思いもよりませんでした。


2匹の龍は森の奥から現れてジンギと対峙する。緑色の体にはその名の通りゴーヤのような凸凹があり、何とも言えない異形の姿をしている。

ドラゴーヤは本来グルメ世界に小鳥のように群れで行動しており、その105という捕獲レベルも向こうでは雑魚だからだ。群れの数は約1000匹、この2匹は四獣襲来時に群れからはぐれたのだ。不運にも異性同士ですぐにも繁殖しそうだったが「朱雀」によって洞窟に封印されていた。

 

「何でこいつらが外に出てるんだ…!?」

 

ドラゴーヤはジンギの姿を見た瞬間、蛇のように体をうねらせて襲い掛かってきた。ジンギはその突進をピーラーで防御するが後ろに吹っ飛ばされてしまう。

倒れたジンギに向かってもう片方のドラゴーヤが光線を放つ。咄嗟のところでそれを避けられたが爆発の風圧でまた飛ばされてしまう。

 

(流石グルメ界の猛獣…何て強さだ!これが雑魚レベルと思うと恐ろしいぜ…!)

 

するとメスのドラゴーヤの目線がジンギからずれる。その方向には一夏たちが野菜仙境に来るときにも生えていた「ハニートラップツリー」があった。そして「ミツバチコウモリ」も群がっている。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

メスはそれを見た瞬間ミツバチコウモリごとハニートラップツリーを貪りつくす。その大きな口から逃れたミツバチコウモリは森全域に響き渡るほどの鳴き声を上げる。

ミツバチコウモリの習性だ。仲間が大きな敵に襲われた時尋常じゃない程の仲間を呼ぶ。

それが例え自分たちより格上の存在でも。いわばミツバチがスズメバチを倒すときに行う蜂玉と似たようなものだった。

見る見るうちに数えきれないほどのミツバチコウモリがメスに向かってくる。しかしドラゴーヤはそれに対しビクともせずに、逆にどんどんコウモリを食べていった。

 

(野郎…卵を産むためにエネルギー蓄えてんのか!)

 

もしそうだとしたら最悪だ。ドラゴーヤの卵は鶏のような殻で覆われた感じのやつではなく鮭のいくらのように小さいのを沢山生むのだ。

そのためグルメ界で存在している群れのほとんどは一匹から生まれたいわば家族のようなものだった。その繁殖力が一番怖い。

 

「させるか!」

 

急いで止めに入るが夫がそうはさせないと噛みついてきた。

 

「ちっ!」

 

その牙をピーラーで受け止め、反撃しようとするが、オスのドラゴーヤの姿が霧に包まれた。

 

(雲隠れ樹の霧!だけど普段より数倍濃いぞ!)

 

それもそのはず、雲隠れ樹が霧を発生させる理由は他の木のためだけじゃなく、自分を隠すためでもあるのだ。

臆病な雲隠れ樹たちはドラゴーヤが解放されたことにより自己防衛のため普段より多く霧を噴き出したのだ。

ドラゴーヤの姿が完全に見えなくなってしまい、どこにいるかもわからない。すると後ろから長い尾で叩いてきた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

四方八方の視界が失われているのと同じなのでどこから攻撃がくるかが分からない。こうしている間にも尾で叩かれまくる。

 

「くそがっ…ぐあぁあっ!?」

 

やがて長い胴体でとぐろ巻きにされ、大きく開いたオスの口が迫ってくる。もうここまでかと思ったその時――

 

『クエッーーー!!!』

 

「カカシチョウ!?」

 

野菜仙境の番人であるカカシチョウがかぎ爪でドラゴーヤの顔を攻撃、傷こそついていないが不意打ちによりとぐろ巻きが緩くなったのでその隙に抜け出す。

更にカカシチョウは空高く舞い、上空で翼を強く羽ばたいてその場の霧をある程度払ってくれた。

 

「見えるようになった…すまないカカシチョウ!」

 

『クエッーー!!』

 

すると辺りのハニートラップツリーやハチミツコウモリ、はたまた雲隠れ樹まで食い尽くしたメスのほうのドラゴーヤがカカシチョウを目に入れる。どうやら次のメニューに決めたらしい。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

素早い身のこなしで一瞬にしてカカシチョウまで迫り、その翼に強く噛みつく。千切れはしないが血が多く出る。

 

「カカシチョウ!」

 

『クエッーー!!』

 

カカシチョウを救おうとメスにピーラーを使おうとしたがオスが目の前に立ちふさがってそれを阻止する。

 

「どけ!!カカシチョウが死んでしまう!そいつは200年間この仙境を守っていたんだぞ!」

 

怒鳴るも決してどこうとしないオスのドラゴーヤ。その間にもどんどんカカシチョウの鳴き声が弱まっていく。メスも翼を何度も噛んでいた。

 

『クエェ……』

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ジンギの叫びが森に響くその時…

 

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!満月輪切り!!」

 

「ポイズンキャノン!!」

 

「コテレッグ!!」

 

悪魔の口(ヘルストマック)!!」

 

 

突如上から来た攻撃がメスに命中、カカシチョウから離れた。

 

「一夏…お前ら…」

 

「大丈夫かジンギ!?」

 

「…うるせぇ!下界の人間に心配されるほどやられてねぇよ!」

 

悪態をつきながらもカカシチョウを助けてくれたことに感謝し、一夏たちと合流する。

 

「あれは…トリコさんから聞いたことがある、ドラゴーヤだ!」

 

「ああ、一点にしか弱点が無くその部位も個体差があると言われているやつだ。メスのほうは卵を産もうと食事に専念したいらしい」

 

「まさかこんなところでグルメ界の猛獣と戦うなんて…!」

 

「セシリアとシャルは大変と思うけど、その鳥を仙人たちのところまで運んでくれ!」

 

「分かりましたわ春十さん!」

 

「うん!そいつらはお願い!」

 

そう言って2人はISを起動し2人係でカカシチョウを運ぶ。あれなら何とか命だけは助かるだろう。

 

「一夏、僕なら毒であいつら倒せるかも…効くのが遅いかもしれないけど」

 

「そうだな!じゃあメスの方を春十と戦ってくれ!オスの方は俺とリンカがやる!」

 

「…分かった」

 

「頼むぞ…えぇとララさん?」

 

「貴方…一夏のお兄さんなんでしょう?後で沢山話聞かせて」

 

こうして食欲旺盛なメスのドラゴーヤと戦うのは春十とララになった。

 

「行こうぜリンカ!!食義を習得した俺たちの力を見せてやろう!」

 

「ええ!私たちの絆、見せてあげる!」

 

「…邪魔するようで悪いが、俺もいるぞ下界の人間ども!」

 

そしてオスと戦うのは一夏とリンカ、それに加えてジンギとなった。

 




宣伝ですが、なろうで執筆中の「爆発寸前な男」も是非ご覧ください!


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グルメ34 ララの決意!

最近車の免許を取ろうと教習所に通っているせいか、夜寝ようとすると頭の中でエンジン音が永遠に流されるので中々寝付けない日々を送っています。


春十&ララVSドラゴーヤ(メス)

 

「おらぁあああああああああ!!!!」

 

春十が思い切りドラゴーヤに向かって雪片を振るが、メスはその硬い鱗で防ぎビクともしない。するとドラゴーヤが長い体を更に伸ばし、春十に噛みついてきた。それをララが阻止、春十をドラゴーヤの視線から退かす。

 

「ありがとうララさん!!」

 

「気にしないで…次が来る!!」

 

するとドラゴーヤは口からありったけの光弾を撃つ、春十はそれを悪魔の口(ヘルストマック)で吸収、ララは毒で壁を作りそれを防ぐ。ララは受け止めきれたが春十は自分に向かってきた全ての光弾を吸収できたわけじゃなく、漏らした数弾が命中した。

 

(たったの数発で一気にシールドエネルギーが減った…何て威力だ!)

 

しかしそんなことで臆してはならない、春十はドラゴーヤの頭上に移動し何度も雪片で切り裂いた。ダメージが皆無に等しいがその警戒をララから外すことに成功、その隙に彼女が毒攻撃をした。

 

「ポイズンライフル」

 

静かに発射された毒の弾はまるで引き寄せられるかのようにドラゴーヤの口の中に入っていった。

 

「これならそのうちに毒が効き始めるはず、だけどやっぱり弱点を見つけた方が良い…」

 

「どうやって見つけるんだ?」

 

「とにかく攻撃して奴の顔色を伺う…その時あいつが一番苦しんだところが弱点…だけど並みの攻撃じゃあいつは顔を崩さない」

 

「成る程、結構わかりやすくて良い!!」

 

「僕が右側を攻撃する、君は左側をお願い」

 

「ああ!」

 

そう言って2人は大きく周り、左右からドラゴーヤを挟み撃ちにする。

 

「ポイズンキャノン!」

 

悪魔の口(ヘルストマック)!!発射モード!!」

 

ララは腕から出す毒の塊「ポイズンキャノン」、春十は先ほど吸収した光弾をそのまま返した。左右から同時にドラゴーヤは攻撃を受けたが、奴は顔色一つ変えずにララの方へ突撃していった。

 

「…!」

 

ララはそれを飛んで避け、春十の所へやってくる。その次に春十が雪片を握って突撃、ドラゴーヤの周囲を飛び回りながら攻撃していった。それでも弱点は見つからず、ドラゴーヤは暴れに暴れまくっていた。

 

「くそっ!なかなか見つからねぇな!」

 

「…ここは僕に任せて、君はちょっと下がっていて」

 

「なっ!?俺だってまだまだ戦える!!役には立つぜ!」

 

「いいえ、君を役立たずと言ってるわけじゃないの、ただ…」

 

すると彼女は体中に付けていた緑のものを脱ぎ捨てていく。その瞬間、彼女の褐色の肌は紫色に染まっていく。その光景を春十は目を見開いて見ていた。

 

「今の僕に触れると危険だから…離れていて!」

 

そう言うと彼女は両腕を大きく広げ、肌が露出している部分から紫色の「何か」が生まれ始めた。それは毒で形成された()、それに数えきれないほどの蜂を彼女は作った。

 

「ポイズンビット」

 

ララがそう呟くと、蜂たちは一斉にドラゴーヤを囲い始める。そして尻にある針から毒弾を一斉に発射し始めた。数匹だけなら痒いだけのものだが、それが数百匹となると四方八方から狭い密度で毒弾が迫ってくるのだ。

当然ドラゴーヤはそれを避け切れず、体中に毒弾を受けてしまう。それを凝視していたララはとある電磁波の違いを見つけた。

 

(顎部分だけ電磁波がおかしい…毒弾を受けてわかりやすくなったのね)

 

彼女が人差し指で何かを示すと、それに合わせて蜂たちが顎に集中し始めた。おそらく顎が弱点なのだろう。しかしドラゴーヤは暴れまわり蜂たちを追っ払う。そして奴は体をうねらせてララの方に口を大きく開けて向かった。

 

「ポイズントーチカ」

 

すると彼女は毒の壁でドームを作り、それで自分を覆った。それを見たドラゴーヤは急転換してそのトーチカから離れる。するとトーチカから複数のポイズンキャノンが放たれた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアア!!!???』

 

それに驚きながらも龍は何とか全弾避けるが、その時にはララはトーチカから出ておりドラゴーヤの眼前まで跳んでいた。

 

「はっ!!」

 

そしてドラゴーヤの顎を蹴り上げた。龍は悲鳴を上げながら辺りを飛び周り、よほどの激痛だったのだろう、ならやはり顎が弱点のはずだ。

ララは右手から毒液を垂らし、そのまま手首を回し毒で円を作った。

 

「モウルドパンチ!」

 

そしてその円に向かって拳を放つと、反対側から毒で作られた剛腕が生え、ドラゴーヤの顎をぶち抜く。

先ほどから弱点を突かれまくっているせいか、ドラゴーヤの怒りが頂点に達し、咆哮を上げながらララへと向かったが…

 

『ギャアッ!?』

 

突然止まり、痙攣しながら地面に横たわる。さっきまでの威勢はどこにいったのやら、鳴き声も震えていた。

 

「…ようやく効いてきたようね」

 

ララはそんなドラゴーヤに近づき、そっと頭を撫でる。龍はどんどん衰弱していき、何故かやせ細ってきた。

 

「僕がポイズンライフルの時貴方の口から体内にいれた毒はただの毒じゃない…微量でも体内にさえ入れば周りから水分や養分を吸収して爆発的に増殖していく…名付けて『パラサイトポイズン』、前の僕じゃあ作ることもできなかったけど、食義のおかげで作れるようになった」

 

しかしドラゴーヤは腐ってもグルメ界の猛獣、本来なら一瞬で増えるはずのパラサイトポイズンが全身に回るまで少しかかった。その抗体力も侮れない。

 

「安心して、パラサイトポイズンはその生物を殺せばその時点で完全に消滅する。つまり君の体は食べられるようになる(・・・・・・・・・・)。君の命や君が残そうとしている命は無駄にならない。僕たちが責任を持って引き継ぐから…」

 

どんどん死に近づいていくドラゴーヤを、ララは慈愛と慈悲が籠った目で見ていた。やがてドラゴーヤはゆっくりと目を閉じる。

 

「…さて、春十さん、一夏たちの援護に向かおう」

 

「あ、ああ…(すげぇ…)」

 

あっけなく勝敗が決まり、ララはドラゴーヤの亡骸に背中を見せる。するとその長い尾が何故か動き始めた。

 

「ララさん危ない!!」

 

「えっ――?」

 

次の瞬間、死んだと思われていたドラゴーヤが長い尾でララを弾き飛ばした。彼女はそのまま岩山へと激突する。

 

(…何でまだ生きているの…パラサイトポイズンは完全に…)

 

ドラゴーヤはその名の通りゴーヤの龍である。ゴーヤには胃の調子を整えて食欲増加を促す「モモルデシン」と膵臓の働きを良くし正常な動きに戻す作用がある「チャランチン」という成分が含まれており、この2つの成分はゴーヤの苦みの原因でもあった。

ドラゴーヤは、胃や他の内臓に入り込んだパラサイトポイズンに耐えるために自身の体内のモモルデシンとチャランチンを増加させた。それにモモルデシンは、卵を産むために必要なエネルギーを蓄えるために食欲増加を目的として前から増やしていた。

その他にもビタミンC、βカロテン、カリウム、葉酸といった栄養素も大量に作り体の抵抗力を更に上げた。パラサイトポイズンが吸収しきれないほどの量を。

ドラゴーヤの繫殖能力が長けている理由は卵を沢山産むこともあるが、まずその免疫力が凄まじく、病気などでは絶対にといっても過言ではないほど死なない生き物でもある。

そして良薬は口に苦しという言葉通り、ドラゴーヤは薬にも使われることもある。グルメ界に点在している文明(・・)を使い、野生の猛獣も病気になった時良くするため千というドラゴーヤの群れに襲い掛かり、逆に食われるなんていう話もある。

 

「…くっ」

 

痛みの中、ララは走馬灯のように過去を振り返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーーい!!どくおんな!!」

「わたしララちゃんとなんかといっしょにおべんとうたべたくない、どくがうつりそうなんだもん」

 

子供の時から言われてきた「毒女」というフレーズ。父ココとは違って僕の毒能力は父さんから受け継がれた先天的なものだったから、昔から毒はあった。

そのため周囲から嫌われ、陰口を言われ、迫害されていた。虐めや暴力は無かった。仕返しが怖かっただけだろう。僕は小さい頃から人間扱いされなかった(・・・・・・・・・・)

最初こそ父さんを恨んでいたが、大人になるにつれそれは筋違いだと理解する。父さん自身も第一級の危険生物として隔離されそうになった話を、毒のことで喧嘩したときに聞かされたからだ。

やがて嫌われることを「仕方のないこと」だと思い始めた。だって僕は、普通の女の子どころか普通の人間ですらないのだから。

だから僕は孤独になれる美食屋という仕事に就いた。これなら他人とも話さなくていいし何より「毒」という能力を必要とされる職業だったからだ。私も最初は嬉しかった。忌み嫌っていた毒能力が初めて称賛されたからだ。デビュー当時は「最も稼いでいる美食屋ランキング」で上位になったしグルメ評論家やグルメ政治家も私を褒めていた。「美食屋四天王ココの娘」という看板もあったからだろう。

だけど、褒められていたのは「毒能力」だけで(・・・)僕自身は褒められていなかった(・・・・・・・・・・・・・・)。最も稼いでいる美食屋ランキングだって所詮は数字の話、評論家や政治家たちの話も、ただ僕の存在で「これからグルメ文化が豊かになっていく」という話。名をあげるためにテレビでやった「毒化したフグ鯨をそのまま食べる」という芸をした時、スタッフやプロデューサー、そして一部を除く視聴者も僕を「珍しい特技をする珍獣」としか見ていなかった。

僕は独りになることを何とも思っていなかったはずなのに、結局は少しでも褒められようと努力している。そのうち、僕が有名になった瞬間仲良くなろうとする同級生、お金を稼ぐ道具としか見ていないスタッフ、周りの人々が信じられなくなっていた。

しかしそんな時、とある光が僕に世界を教えてくれた。

 

「『僕に近づかないで』?、何でだよ、別にお前自身が危険というわけじゃないだろ?俺はお前と仲良くなりたいんだ!」

 

一夏(ひかり)が、そしてリンカ、コロナ(はちょっと顔を曇らせていた)、ポニー、皆が僕自身を見てくれた。

だから思った。皆の役に立ちたいと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(僕を必要としてくれる皆を!!守るって!!)

 

自分を食おうとしてきたドラゴーヤを、逆に攻撃して牽制させた。そして両手から流す毒で自分の全身を覆う。

 

「ポイズンドレス――!」

 

そうして毒で形成されたドレス型の戦闘服を身にまとったララは、ドラゴーヤと対峙した。その姿はまるで紫色の女神、そしてその美しさからは想像もできない危険な香り…

 

「僕は勝てる。自信を持ってそう言える…」

 

ドラゴーヤを指し、自信満々な宣言をする。

 

「だって君…死相が見えるから(・・・・・・・・)

 

 




ララは結構お気に入りのキャラで、そのために「僕っ娘」「褐色」という性癖をフュージョンさせました。
だけど褐色肌で毒って、どこかで聞いたようなキャラだなー(棒)


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グルメ35 毒の美女!

ララの設定考えるの中々楽しいです。


ポイズンドレス…毒で形成されたドレスを身にまとうことによって防御力と毒の攻撃力を上げる技である。全身を毒で覆うことにより触れるだけで相手を毒に侵すことができる。

しかし相手はグルメ界の猛獣であるドラゴーヤ、生息地の過酷さに適応した強さ、更にゴーヤの成分による圧倒的な抗体力によって殆どの毒は通用しない。

唯一効果が発揮される毒は、相手の栄養素などを吸収して増殖する「パラサイトポイズン」、しかし先ほど与えた分の量では足りなかったようだ。

だからララは、パラサイトポイズンの毒で(・・・・・・・・・・・・)ポイズンドレスを形成した。本来微量でも生成するのに体力を大幅に削るが、ララの覚悟とグルメ細胞の生存能力により、全身を包み込めるぐらいの量を作れたのだ。しかしその分スタミナを削っていた。つまり、ララにとっても命を懸けた大勝負ということだ。

両者の勝負に正義と悪はあるか?そんなものは無い。緑色の龍は子孫を残すために牙を剥き、ララは愛する者のために毒を作っている。そんな勝負に良し悪しを決めるなんてもってのほか。

負けた奴が餌にされる(・・・・・・・・・)――ただそれだけだった。

 

「はぁああああああああああ!!!」

 

先に仕掛けたのはララだった。ドラゴーヤに臆することなく立ち向かう。触れさえすればパラサイトポイズンを注入できる。なので考え無しのようなこの突進は正しい。

しかし怯えないのはドラゴーヤも同じ、もうパラサイトポイズンが効かないと認知したのか、口を大きく開けてララに突撃してきた。

 

「…!!」

 

彼女はそれに対し高く跳び体をうねらせ、ドラゴーヤの頭上を跳び越える。そのまま奴の尻尾に着地する。すると固めた毒で両爪先を尖らせる。

 

「ポイズンネイル!!」

 

そしてそれを尻尾に突き刺す。ドラゴーヤは硬い鱗を持っているがどうやら尾は胴体並みの強度ではないらしい。いとも簡単に爪が深く刺さった。そこからどんどんパラサイトポイズンが注入されていく。

ドラゴーヤは尾を思い切り縦に振り、尻尾にしがみついていたララを振り解く。そして空中の彼女に光線を撃ち当てる。

 

「きゃっ!?」

 

光線がもろに当たったララは吹っ飛ぶも足で地面に引きずりながら着地し、ドラゴーヤから離れる。そして毒で2本の短刀を作り出した。

 

(ポイズンダガー――!)

 

それを逆手で持ち再びドラゴーヤに突撃する。龍も先ほどと同じく口を開けて突撃してきた。しかしララはさっきとは逆に突進してきたドラゴーヤの下に潜り込み、地面を滑りながら腹にダガーを突き立てる。あまり深くは入らなかったが2本の傷を付けることはできた。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!??』

 

ドラゴーヤはララが下を通過した後、体を高く上げてそのまま上から頭を落としてきた。彼女はそれをバックして避ける。

 

「ポイズンキャノン!!」

 

奴の頭が地面に刺さっている隙に毒弾を弱点である顎に命中させた。その瞬間ドラゴーヤは悲鳴を上げるも、尻尾で彼女を叩き飛ばす。

ララはそのまま後ろに飛ばされ、雲隠れ樹に激突する。そして濃かった霧が今の衝撃で更に濃くなってしまう。

完全に霧に囲まれてしまった状態で、ララはドラゴーヤの攻撃を避け続ける。例え視界が悪くてもララには電磁波が見えているからある程度の攻撃はギリギリ避けられたのだ。しかしあくまでギリギリで完全に避け切れるわけではなかった。

 

(どうにかしないと…!)

 

こうしている間にも霧はどんどん濃くなっていき、ドラゴーヤの攻撃を避け続けるのも困難になっていく。そして奴の牙がララの体を傷つけていった。

霧をどうにかしないと…そう思った瞬間、ある方法が頭の中を過る。

 

「春十さん!!今すぐ空に逃げて!!」

 

「あ、はい!」

 

そしてどこかにいるであろう春十に避難するよう警告、それほど今から出す毒は危険(・・)だからだ。その性質はパラサイトポイズンより厄介である。

ララは春十が上空に逃げたことを電磁波の感覚で察すると、口から毒霧を辺りに噴き出した。それはドラゴーヤに吸わせるためじゃない、雲隠れ樹(・・・・)のためだった。

 

(…デビルポイズンミスト…ッ!)

 

それはココもかつて使っていた「デビルポイズン」の応用、相手を殺すためではなく、強い中毒性(・・・・・)の効果のある毒だった。

それを使って何がしたいか、ララは本来のデビルポイズンとちょっとだけ成分を変え、中毒性よりそれに伴う快楽を強めにした。

それを辺りの雲隠れ樹に吸わせて、ストレスによって霧を噴き出す雲隠れ樹を安定させる。その結果霧がこれ以上噴き出されなくなり、辺りの視界も晴れてきた。

 

(や…やっぱ…きつい…!)

 

しかし本来作るのにも体力がいるデビルポイズンを霧状にして大量にバラまいたため、スタミナが多く削れてしまった。森の生態系をこれ以上崩さないために、急いでデビルポイズンミストを中和させる毒をあたりに噴き出す。

するとその隙に、ドラゴーヤがララを両手で鷲掴みにした。

 

「しまっ…!!」

 

そしてその太い牙を、ララの肩に突き刺した。

 

(こ、これは…毒…!?)

 

その際ドラゴーヤは、ララのパラサイトポイズン対策で体内に集中させていた栄養素などを殆ど牙へと集中させる。ドラゴーヤの体内にはゴーヤの成分以外に新種の成分が数えきれない程あった。それにより人類が発見できていない新種の毒(・・・・)を生産、そしてそれを牙を伝ってララの体内に打ち込む。

 

「くぁあっ…あっ…!」

 

元々ココとララの毒能力は、ココが毒の抗体を手に入れるために多種の毒を体内に注入し、その結果新種の毒が生まれたことが原点だ。つまりココもララも毒への免疫力は凄まじいということである。

しかし、今ララに注入された毒は、未知の成分で作られた未知の毒。当然抗体など人間界には存在しない。

やがて、徐々に毒の苦しみがララに襲い掛かってくる。

 

(なら…抗体を今作ってやる(・・・・・・)!)

 

しかしララもその程度で死ぬような器ではない。かつてのココがデビル大蛇の毒を受けた時と同様に、その場で毒の成分を解読、中には知らない症状もあったが、決してめげずに抗い続け…

 

(できた…ドラゴーヤの抗体!)

 

なんと誰も知らない新種の毒の抗体を作り上げたのであった。

すると、ドラゴーヤの容態もどんどん弱まっていった。

 

「…僕に毒を注入させるために、体中の成分や栄養素を牙に集めたから、パラサイトポイズンが効いてきたようだね…」

 

それを見たララは、疲れの表情を見せながらも勝利を確信した笑みになる。すると彼女の髪がどんどん白くなってきた。

 

「僕も毒を使いすぎた…だから、今の僕は危険でもないし毒女でもない…近寄っても触れても大丈夫…だから、春十さん!!」

 

「おう!!!」

 

すると春十が降りてきて、ドラゴーヤの顔元まで近づく。そして、雪片弐型が奴の顎から入り込み、そのままドラゴーヤの頭部が斬り落とされた。

 

「しゃあああああっ!!!」

 

「…やった」

 

こうしてドラゴーヤ(♀)との戦いは、ララ達の勝利となった。




野菜仙境編が終わったらゼブラの娘「ポニー」を登場させよっかなぁと考えています。


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グルメ36 激戦!

梅雨も過ぎたと思ったらまさかの大雨、数十年に一度というフレーズを耳にしましたが、覚えていないけど絶対去年も同じフレーズを聞いた。
被害が酷い地域にいる方はどうか頑張ってください!


ララ&春十VSドラゴーヤ(♀)との戦いとは別の場所、そして時も少し遡り…

一夏&リンカ&ジンギVSドラゴーヤ(♂)。

 

「はぁあああああああ!!!」

 

一夏は2本の包丁で、リンカは大きなコテでドラゴーヤに斬りかかる。しかし両者の刃は硬い鱗で防がれ、挙句長い尻尾で2人揃って弾かれてしまった。

ララは電磁波が見えるから弱点がすぐ分かったが、そういう特殊能力が無い3人は手探りで弱点を見抜くしかなかった。

 

「くそっ!一体どこが弱点なんだ!?」

 

「退け下界人!!」

 

声がした方向を向くと、ジンギが大きなピーラーを2つ構えて姿勢を低くしている。一夏とリンカはそれを見た瞬間急いで左右に分かれる。

 

「剥き竜巻!!」

 

そして放たれる無数のピーラーの斬撃、2人もそれに合わせるように遠距離攻撃を繰り出した。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!竜巻みじん切りぃ!!」

 

「フライングコテ飛ばし!!」

 

3人による無数の斬撃、それらが一斉にドラゴーヤに襲い掛かる。しかし奴は防御もせず受け止めた。その鱗には傷1つ付いていない。

そしてドラゴーヤは口から凄まじい光線を撃つ。

 

「返し飛ばし!!」

 

リンカはその光線をコテでドラゴーヤにはじき返した。龍は自分の光線が当たるも突撃するスピードを落とさない。奴のタックルが3人を吹っ飛ばした。

 

「チートすぎんだろ!!」

 

「諦めるな!必ず弱点はある!」

 

「んな事は言われなくても分かってる!!」

 

体の前部分じゃなければ今度は後ろの部分だ。ドラゴーヤの長い体を見て中心から後ろを攻撃し始める。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!高山分けっ!!!」

 

「厚皮剥きぃ!!」

 

一夏とジンギは力強い一太刀をドラゴーヤの体に入れたが、それでも奴は苦しまずに弱点を見せない。本当に弱点があるかどうかも怪しくなってきた。

するとリンカが奴の体の下に潜り込み、拳を構えてドラゴーヤにパンチした。

 

30連(・・・)……コテ釘パンチィイ!!!」

 

食義習得により多くの連数が可能になった「コテ釘パンチ」、その30連分がドラゴーヤに襲い掛かる。流石のドラゴーヤも30連にはジッとできないのか、威力が来るたびに上に打ち上げられていく。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアア………ァアアアアアア!!!!』

 

するとドラゴーヤは驚くべきことにリンカのコテ釘パンチが全部繰り出される前に体で受け止めて打ち消したではないか。

 

「嘘っ!?」

 

そして龍は空から一気に降下し、リンカもろとも地面にタックルした。

 

「リンカァア!!」

 

リンカはそれを数枚の巨大コテを重ねて防御、しかしドラゴーヤの突撃は強力だったのか突進を受け止めきったあとコテは全て砕け散る。

 

(私の「コテシールド」をこうも簡単に…それにコテ釘パンチも受け止めきるなんて…)

 

食義を習得したとはいえ、敵はグルメ界の猛獣、習得したばかりの2人にとってはまだ強敵である。

 

(やっぱり…パパから教えてもらったネイルガン(・・・・・)で…)

 

「大丈夫かリンカ!?」

 

「うん、何とか…」

 

「一体どうしたらいいんだ…弱点が一向に見つからないぞ…」

 

「…私に考えがあるわ。だから、一夏はジンギと一緒に時間を稼いで!」

 

「良く分からんが…何とかしてみる!」

 

一夏はリンカの言葉を疑いもせず、その作戦に乗る。ISで空高く上がった。

 

「ジンギ!!一緒に行くぞ!!」

 

「下界人が指図するなぁ!!」

 

悪態をつきながらもジンギもそれに協力、一夏は空から、ジンギは地上からドラゴーヤに攻撃しまくる。

ジンギは2本のピーラーを持って突撃、それでドラゴーヤの牙と激突した。火花が散りまるで真剣同士がぶつかり合った時のような金属音が辺りに鳴り響く。

激突の末牙に打ち負け後ろに後ずさるジンギ、しかしその時地面をピーラーで剥き、それをドラゴーヤにぶつけた。

 

「地表大蛇!!」

 

捲られた土塊によって視界を防がれるドラゴーヤ、その隙にジンギは高く跳んで敵の頭上に着地する。そして右手にピーラーを作り、ボウリングの玉を投げるように下からすくい投げた。

 

「鱗剥き!!」

 

放たれたピーラーの斬撃は、ドラゴーヤの背中の上を走る。しかし鱗はまったく切れず火花が散るだけに終わる。すると後ろからドラゴーヤが食おうとしてきたのでそれを後ろに跳んで避けたジンギは両手でピーラーを具現化し、回すように斬撃を放った。

 

「風神桂剥きぃい!!」

 

今度は背中だけではなく、全体を回して斬りかかるがそれでもドラゴーヤは応えない。寧ろ今の攻撃で怒りを買い余計凶暴化させてしまう。

怒り狂ったドラゴーヤは真っ先にとジンギの方へ突撃した。しかし、上空から一夏が落ちてきてドラゴーヤを力任せに地面に押さえつける。

 

「ジンギ!お前も頼む!」

 

「分かってる!!」

 

そしてジンギも2本の巨大ピーラーを出し、それで挟むようにドラゴーヤを押さえつける。そして一夏がリンカに向かって目だけで合図する。

 

「30連…!!」

 

それに対しても目で答えたリンカは、腕にパワーを溜めたまま拘束されているドラゴーヤに向かって走り出し、その顔面に攻撃を与えた。

 

「コテネイルガン!!!」

 

ネイルガンは釘パンチと違って、連続攻撃分を一瞬で相手に与える技である。本来トリコが、自分が受けたダメージを外へ受け流す猛獣対策に開発した技だ。

30連分の攻撃がドラゴーヤの頭から尻尾まで一瞬で到達する。するとドラゴーヤは今まで見たこと無いような表情で悶絶し始めた。

 

「…!!」

 

それを見たリンカは鼻をスンと鳴らし、何かに気づいたように目を鋭くする。ドラゴーヤが悶絶している隙に3人は一度集結した。

 

「2人ともありがと!おかげで分かったわ!奴の弱点の位置が!」

 

「本当か下界人!?一体どこだ!?」

 

「一体どうやって分かったんだ…リンカ」

 

「私のネイルガンの衝撃が奴の全身を駆け抜けた時、その部位を通過した瞬間、ストレスホルモンのコルチゾールやアドレナリンの匂いが一気に噴き出したの!多分痛みを和らげようと本能的に快楽物質を分泌したのね」

 

「成る程…ネイルガンなら相手の内部にまでダメージが行くから…まるで潜水艦のソナーみたいなものか!」

 

「で!?奴の弱点はどこだ!?」

 

「それはね、右脇下(・・・)!!そこを狙えばいいわ!」

 

「…それはまた狙いづらいところだな!!」

 

「ちっ!礼は言わんぞ下界人!!」

 

そう言うと3人はグルメ細胞の悪魔をイメージとして出し、ドラゴーヤに対し宣戦布告の意味も込めた威嚇をする。ドラゴーヤはそれにも屈さずに大きく遠吠えを上げた。

ドラゴーヤ(♂)との戦いは、更に激戦となっていく――

 




ウルトラマンルーブ1話をリアタイで見ました!コメディとは聞いていたけど、あそこまで入れてくる思っていませんでした。勿論良い意味で!今までに無い感じの雰囲気でこれからが楽しみです!


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グルメ37 ニジンからの遺言!

今回ちょっと少なめです。


『ジンギ…儂はもう永くない……二代目人参仙人の名はお前にやろうジン…』

 

わかってるよ親父、アンタの息子である俺の当然の務めだ。

 

『ただし…仙人参はお前だけにやれないジン…』

 

何でだよ!?俺以外に誰が貰うってんだ!?

 

『いいかジンギ……あの一夏とリンカというコンビにも預けておく、お前が立派な野菜仙人になったら彼らから教わるといい…』

 

一夏とリンカ…?あの下界民のことかっ!?あんなやつらに何で…!!

 

『いずれすぐに分かる…儂たちが何故野菜を作っているのかが…』

 

親父!?おい親父!!親父っーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいジンギ!先行しすぎだ!危ないぞ!」

 

「うるせぇ!下界民が俺に指図するな!!」

 

ドラゴーヤの弱点は右脇下、一夏とリンカ、そしてジンギはそこを一点集中に狙うが、ジンギだけが先に突っ走っていた。

ピーラーで何度も斬撃を放つが、右手に全て弾かれてしまう。その度にどんどん近づき、いつのまにかドラゴーヤの目と鼻の先まで行っていた。まるでイラついているように、その猛攻は続く。

 

「落ち着け!お前だけじゃ勝てないぞ!冷静になれ!カカシチョウのことまだ引きずってんのか!」

 

「…ちげぇよ!!カカシチョウ(あいつ)のことじゃねぇ!!これは野菜仙人としての誇り(・・・・・・・・・)のために戦っている!!」

 

「野菜仙人としての誇り…?お前何言ってんだ!?」

 

「…お前には関係ねぇ!!」

 

ジンギの無謀ともいえる特攻は更に勢いを増し、攻撃の手を緩めることは無い。非常に興奮した様子でドラゴーヤに立ち向かっていた。まるで獣のようである。

 

「厚皮剥きぃい!!!」

 

そして凄まじい一太刀を奴の弱点に命中させる。ドラゴーヤはまたも悲鳴を上げて暴れまわる。

 

「厚皮剥き!!厚皮剥き!!!厚皮剥きぃいい!!!!」

 

そのまま止まることなくドラゴーヤの弱点を攻めていくジンギ、いつのまにかドラゴーヤが防戦一方となっている。グルメ界の猛獣をここまで一方的に追い詰められる理由、それは怒りの感情なのか、それとも…

 

 

 

 

 

『何故儂がお前以外に仙人参を託したのかって?それはお前が情けない未熟者(・・・・・・・)だからだジン』

 

うるせぇ!親父はそんなこと言わねぇ!

 

『お前が薄汚いと見下している下界民だって、あそこまでドラゴーヤを追い詰めているではないか。それなのにお前ときたらカカシチョウも守れずに奴らに助けられている始末…』

 

黙れよ……親父の声で好き勝手言ってんじゃねぇぞ…!!

 

『我が息子ながら恥の塊だジン、こんなことなら二代目人参仙人の名も一夏たちに託せば良かったジン…』

 

 

 

 

 

「うるせぇぇええええええええええええええええええええええ!!!」

 

一夏たち下界民に対する劣等感、自分を情けなく思う気持ち、誇り、それらが身勝手な被害妄想となり、幻聴としてジンギに襲いかかっている。

 

(二代目人参仙人に適してないだぁ?…そんなのは仙境のジジィにも耳に胼胝ができるほど言われてるよ!!やれ「もっと相応しくなれ」だの「お前の父親は立派な野菜仙人だったぞ」だの!そんなのはもう聞き飽きた!!)

 

ジンギは2つのピーラーで、ドラゴーヤに向かって斬撃を放ちまくる。勿論脇下を狙っているが斬撃はほぼ全体に放たれている。

 

「(だったらよぉ…1人でこの龍倒して…力の誇示をしてやる!!誰が一番人参仙人に相応しいか!誰が仙人参を持つに相応しいか!!今見せてやる!!)風神桂剥きぃ!!」

 

ジンギは自分の体力など気にせず、超強力な攻撃を更に続ける。もう彼には周りは見えていない。ただ自分の信念を貫くためにピーラーを使っていた。

しかし、それが油断を招いたのか、ドラゴーヤの長い尾がジンギの体に巻き付いた。

 

「糞がっ!放せ!放せ!放せぇ!!」

 

自暴自棄になって何度もピーラーを当てていくが硬い鱗で守られているためまったく効かない。

 

「放せよぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

そして自分の尻尾ごとを食らいつこうとドラゴーヤが頭を伸ばしてくる。そして口を大きく開け、齧り付こうとしたその時…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

横から一夏が飛び出し、2本の包丁でドラゴーヤを邪魔する。それによりドラゴーヤの狙いがジンギから一夏に変わった。邪魔されたので怒ったのか、至近距離で光線を吐く。

 

「まな板シールド!!」

 

「コテシールド!!」

 

一夏は即座にまな板シールドで防御、それに加わってリンカもコテのシールドを一夏の前に作った。それでも吹っ飛ばされた一夏はそのまま飛行に移り、ジンギを抱えてドラゴーヤから離れた。

 

「大丈夫かおい!弱点だけ狙え!」

 

「ぐっ…お前なんかに言われなくても分かってる!お前らは退いてろ!!俺一人で十分だ!!」

 

「…もう!仕方ないな!」

 

ここで一夏は一旦地面に降り、ジンギと向き合った。

 

「ニジンさんからの伝言てか遺言、聞きたくないか!?

 

「親父の遺言…!?何でお前がそんなことを…!!」

 

「最後に会った時、時が来たらお前に伝えてくれって頼まれたんだ!ちょっと早いが今伝えるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンギ……お前も野菜仙人を志すなら、分け合う気持ち(・・・・・・・)を忘れちゃいかんジン。

 

そもそも野菜仙人という存在は、美味しい野菜を世界中の人々に食べてほしいがためにできた存在…それは一龍元会長(・・・・・)の考えでもあるジン。

 

手と手を取り合う…つまり同じ食卓を囲む(・・・・・・・)者たちを見つけるんだジン…

 

 

 

お前は、一人じゃないジン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…親父がそんなことを!?」

 

一夏から伝えられた父親の言葉、ジンギは信じられない顔をしていた。

さっきの幻聴とは違う、正真正銘の言葉―――

 

「ジンギ、お前は昔からニジンさんとしか食卓を共にしたことが無いことも聞いた。だったらこれが終わったら俺たちと一緒に(・・・・・・・)飯を食おう、ドラゴーヤはきっと旨いぞ!」

 

「…」

 

「だから、俺たちと戦って倒そう!」

 

そう言って一夏は右手を差し出す。驚いていたジンギは段々冷静な顔つきに戻っていき、一夏の手を叩いた(・・・・・・・・)

 

「あほ抜かせ!誰がてめぇみたいな下界民の言うことなんか聞くか!!」

 

「…ッ!」

 

「大体、親父は考えが古臭いただのジジィだったんだよ!何が食卓を囲めだ!馬鹿馬鹿しい!!」

 

「ジンギ…お前!」

 

ニジンの想いを踏みにじる言動をしたジンギに対し一度は怒りを見せる一夏。しかし、その言葉はジンギの腹の音によって遮られる。

 

「ただし…後半には賛成だ。良かったな、俺の腹が丁度(・・)減っていて」

 

「…ああ!」

 

そうして2人はドラゴーヤへと向き合う。今はリンカが1人で食い止めていた。

 

「行くぞ、一夏(・・)!」

 

「へっ…!調理は任せておけ!」




こうしてジンギと和解しました。次回でドラゴーヤ戦は終わらせるつもりです。


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グルメ38 決着!!

最近気づけば蚊に刺されています。昔から私は蚊からもモテまくりでした。


「はっ!!」

 

リンカはドラゴーヤの放つ光弾を2本のコテを盾にして防いでいるが、その威力にどんどん押されていっていた。攻撃を与える隙も無く、ただ防戦一方の状態になっている。

 

(ここは無理にでも突破しないと…!)

 

このままでは駄目だ、そう思ったリンカは特攻を決意、コテを消して飛んで来た沢山の光弾の間を潜り抜けていく。そして全弾避け切った後、右足でコテの斬撃を蹴り飛ばす。

 

「コテレッグブーメラン!!」

 

ぐるぐる回る巨大なコテは、ドラゴーヤに当たらずその真横を通り過ぎる。しかし不発だったと思われていたコテがブーメランのように転回してきてドラゴーヤの背中に迫っていく。

 

「50連コテ釘パンチィ!!」

 

そうしてコテから逃げようと前に出てきたドラゴーヤを正面から突撃、50連のコテ釘パンチを奴の顔面に命中させた。前からの攻撃に吹っ飛ぶドラゴーヤ、そして後ろから来たコテレッグブーメランが当たった。前と後ろからの挟み撃ち、しかしそれでもドラゴーヤは倒れない。

するとドラゴーヤは口を大きく開けてリンカを丸のみにするつもりで突進してきた。

 

「させないっ!」

 

それに対しコテを上あごと下あごの間に挟み、自分の代わりにコテを奴に食わせた。ドラゴーヤはコテをかみ砕こうと必死に暴れまわるが中々壊れない。

更にリンカは大量のコテを具現化、それをドラゴーヤの周りに固めることで奴の動きを封じた。

 

「右脇下に重いのぶち込んであげるわ!」

 

そして再び釘パンチを放つ構えになるが、ドラゴーヤは無理やりコテの檻を崩壊させ、長い尻尾でリンカを弾き飛ばした。

 

「キャッ!?」

 

木に激突し、大ダメージを食らうリンカ、そしてドラゴーヤがゆっくりと近寄ってきた。もう駄目だ…食われてしまうと覚悟したその時――

 

 

「高山切り!!」

 

「厚皮剥きぃ!!」

 

 

横からの一夏とジンギの連携攻撃によってドラゴーヤは吹っ飛び、体勢を崩す。一夏は倒れているリンカを庇うように前に立った。

 

「大丈夫かリンカ!」

 

「…何とかね」

 

リンカに手を貸し、3人そろってドラゴーヤと対峙する。一夏は包丁を構え、リンカはコテ、ジンギはピーラーを出す。

 

「所でリンカ、こいつどんな匂いしてる?」

 

「苦みが強い匂いだけど…決して苦に感じない。それどころか苦みのはずなのに逆に爽やかにも感じる匂いね。こんなに美味しそうなゴーヤの匂いは嗅いだことが無い…!」

 

するとリンカははしたなく涎を流し、まるで獣を狩る目でドラゴーヤを睨んでいた。

 

「そいつは何とも調理しがいのあるこった…俺も腹が減ってきた!」

 

「まったくこれだから下界民は…品が無い」

 

「お前も腹が減っているんじゃなかったっけ?」

 

「…」

 

そうこう話し合っているうちに、ドラゴーヤが怒りの表情でこちらに飛んでくる。一夏とジンギはリンカが用意してくれたコテの上に乗る。

 

「はぁああああああああああ!!!」

 

リンカはコテで一夏たちを飛ばし、一夏とジンギもそのタイミングで跳んで加速し、真正面からドラゴーヤに突撃していった。

奴の鋭い牙と、包丁とピーラーがぶつかり合い、向こうに負けずとそのまま押しまくる。やがて奴の口がどんどん迫ってくるその時、一夏たちは左右にずれた。

 

「コテレッグ!!」

 

そして後ろにいたリンカが足によるコテ斬撃を放ち、ドラゴーヤの顔に命中させた。奴はそれが堪えたのか少しだけ後退して距離を置く。

その隙を見逃さず、一夏とジンギが左右から斬ってきた。

 

「おらぁあああ!!」

 

一夏はそのままISで大きく展開、ドラゴーヤの右脇下に潜り込んで一太刀浴びせることに成功した。

ドラゴーヤは弱点を突かれたことが効いているのか暴れに暴れまくる。周りの木々を押し倒し、光弾をありったけ吐いてきた。

 

「まな板シールド!!」

 

「コテシールド!!」

 

一夏とリンカはその光弾を盾で防ぐ。しかしジンギは光弾の雨を掻い潜りながらドラゴーヤに接近、2本のピーラーを構えて奴の元にたどり着いた。

 

「はっ!!」

 

そのまま邪魔な右腕を蹴り上げて退かし、ピーラーによる2つの斬撃をドラゴーヤの脇下に当てた。それに続き一夏とリンカもその場へ急行、追撃として更に攻撃を当て続けた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

流石のドラゴーヤも連続的に攻撃を弱点に当てられたらひとたまりもない。今までに見せたことが無い苦しみ方をし始める。

それを見て3人は「あと少しだ!」と確信、ラストスパートとして最後の力を振り絞る。リンカと一夏はグルメ細胞の悪魔を全面に出しまくる。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」

 

そして3人同時にドラゴーヤに向かっていた。奴は光弾を無数に吐きまくり、一夏たちの行く手を阻もうとする。しかし3人は包丁やコテ、ピーラーでそれを弾き飛ばし、もしくは避けながら走り、足を止めない。

 

『ギシャアアアアアアアアッアア!!』

 

するとドラゴーヤが牙を尖らせこちらに突進してきた。そこで一夏とリンカはジンギより前へ出て、ドラゴーヤの突進を真正面から受け止める。

 

「まな板シールド!!」

 

「コテシールド二枚重ね!!」

 

3枚の盾で防いでもドラゴーヤの突進を完全に止めることはできず、そのまま後ろへ盾ごと押されていく。しかし後ろにいたジンギが一夏を踏み台にして盾を乗り越え、ドラゴーヤの懐に潜り込んだ。

 

「おらぁああ!!」

 

そして奴の脇下にピーラーの刃先を思い切り当てることに成功、ドラゴーヤが痛みで静止した瞬間、一夏たちも盾を消してドラゴーヤに斬撃を放つ。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!!満月輪切り!!!」

 

「ピザ切りッ!!」

 

一夏の2本の包丁、リンカの2つのコテ、合わせて4つの斬りつけが龍の弱点を更に傷つけていく。流石のドラゴーヤも弱点を連続的に攻撃されたら堪らないのか、そのまま上空へ昇るように飛び去ろうとした。

 

俺たちを投げ飛ばせ(・・・・・・・・・)!!リンカァ!!」

 

「分かってるわ!!」

 

一夏とジンギは再びリンカのコテの上に足を乗せ、そのまま上空に投げ飛ばされた。それにより2人はISをも超えるスピードで加速、逃げようとするドラゴーヤを一瞬で追い抜いた。

 

「逃げられると思ったかぁ!!カカシチョウのお返しをしてやる!!」

 

ここでジンギは2つのピーラーを構え、そのままドラゴーヤへと落下。奴の頭に触れる瞬間ピーラーを思い切り振りかざした。

ドラゴーヤはそれを両顎の牙でがっしり受け止めるが、真上からの攻撃なので受け止めることはできても耐えられずに、そのまま押されて落ちていく。

 

「今だぁあああああああああああ!!!」

 

そして落ちていくドラゴーヤに一夏は突撃、上から包丁で叩き斬ることによって奴の落下スピードを更に上げた。その下には、パンチの構えで溜めをしているリンカ。

 

「いっけぇええええリンカァアアアア!!!」

 

「50連コテネイルガンッ!!!!」

 

そのまま落ちてきたドラゴーヤの脇下にネイルガンを命中させ、50連分の威力をほぼ一瞬でその体に流し込む。その瞬間、ドラゴーヤは白目を剥き。大きな断末魔を上げながらゆっくりと倒れていった。

その後リンカは疲れで着地することもままならない一夏たちをコテで受け止め、そっと地面に下す。

 

「やったな!」

 

「ええ!」

 

すぐに一夏とリンカは勝利の記念としてハイタッチをする。その後一夏はジンギに対しても手を差し出した。

 

「お前もありがとう!ジンギ!」

 

「ふん…」

 

顔はしかめっ面だが、ジンギは一夏とハイタッチをした。

こうしてドラゴーヤ戦は幕を閉じたのであった。




ようやくドラゴーヤ戦が終わりました。かれこれ1か月くらいかかっていますね、そして次で野菜仙境編は終わりの予定です。


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グルメ39 さらば野菜仙人!

8月に入る直前、7月がこんなに暑いと8月は地獄になるかと思われるので、熱中症だけにはお気を付けください。


「ジンギのやつ、大丈夫かタマ…?」

 

野菜仙境では、タマギや他の野菜仙人たちが一夏たちの安否を気にして待っていた。その横には治療が施されたカカシチョウと、シャルとセシリア。

 

「春十たち…勝てるかな?」

 

「一夏さんやリンカさんもいますの、大丈夫ですわ」

 

すると濃くなった霧の中から何か大きな影が見え始めた。それを見た瞬間、野菜仙人たちは動揺しだす。

 

「ま、まさかグルメ界の猛獣が…!!」

 

しかしそれは猛獣ではなく、倒された2匹のドラゴーヤを引きずって戻ってきた一夏たちであった。

 

「一夏殿!!それにジンギまで!」

 

「春十!無事だったんだね!」

 

「ああ、心配かけたな!」

 

「いや~疲れたな」

 

一夏たちはボロボロの状態で帰ってきた。それほど戦いが厳しかったのだろう。それでも一夏は休もうとしない。1人でドラゴーヤを引きずって何処かへ行こうとする。

 

「とりあえず俺はこいつらを調理してくる!ジンギ、手伝ってくれ!」

 

「仕方ねぇな!」

 

ジンギもそれに付いていき、二人は厨房へと向かった。一夏の言うことに従っているジンギの姿に野菜仙人たちは戸惑いを見せた。

一方シャルとセシリアは、春十とリンカ、そしてララのもとへ駆けつける。

 

「大丈夫ですの皆さん!?」

 

「ララさんと協力して何とか倒したぜ!助かったよ!」

 

「…いや、こちらこそありがとう」

 

「じゃあとりあえず今は、一夏たちを待ちましょう!」

 

そう言って5人は一夏の料理を待つべく、大広場へと向かった。ここで傷の手当をするより、旨い飯を食べてグルメ細胞の能力で再生した方が楽だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う~む」

 

一方一夏は、ドラゴーヤの食材の前で唸っていた。ドラゴーヤは鱗がとても美味なゴーヤでできている。一夏はメスのドラゴーヤの鱗を見ていた。

 

「どうした?そんなに悩んだような素振りをして」

 

「いや、ちょっと食ってみろよこれ」

 

そう言って一夏は一切れのゴーヤを近くにいたジンギに渡し、食べさせた。するとジンギが口に入れた瞬間、その表情はどんどん今の一夏に似てきた。

 

「…苦すぎないか?」

 

「ああ、オスの方のゴーヤは程よい苦みで美味しかったんだが…何かメスだけ苦すぎるんだよ。これじゃあ他の食材と混ぜても苦みが強すぎて駄目だ」

 

「ほかの食材は使ったのか?例えばこの『桃トマト』とか――」

 

「それも含めて『ハニートラップツリーのハチミツ』と『シュークリームカボチャ』も試してみたけど…全部苦みの方が勝っちゃうんだよな…」

 

ここにきて意外な難問、ドラゴーヤ♀の鱗のゴーヤが苦すぎて調理できないのだ。あまりにも苦みが強すぎて他の食材の味を打ち消してしまう。

 

「何かないかなぁ…って」

 

必死になって一夏が適合する食材を探していると、あるもの(・・・・)が目に入った。

 

「そうか…これならいけるかもしれない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、調理を完成させた一夏とジンギが、大広場にどんどん料理を運んでくる。

 

「待ってたわよ一夏、早く食べさせて!」

 

「どうどう!慌てるなって!」

 

出された料理はどれも美味しそうなゴーヤ料理、特に一番山盛りにされているゴーヤチャンプルが美味しそうだった。

勿論ゴーヤ料理だけではなく、野菜仙境の美味な野菜料理もある。

 

「じゃあ…この世の全ての食材に感謝を込めて――」

 

「「「「「「「いただきますっ!!」」」」」」」

 

こうして第二の食事会が開かれる。その瞬間、春十とリンカは獣のような変わりようをし、料理をどんどん口の中に入れていく。

 

(このゴーヤチャンプル!ゴーヤの凄い苦みとこのお肉の自己主張が激しいけど、それでいてお互いを尊重し合っているかのようなピッタリ感!)

 

(しかも肉だけじゃねぇ!上にかかっているこの粒々したもの(・・・・・・)が、僅かな甘みでゴーヤの苦みを抑えているんだ!)

 

「一夏!このイクラみたいの何?」

 

「ああ、ドラゴーヤの卵(・・・・・・・)だ、腹の中にあった」

 

「卵!?」

 

まさか本当に卵だったとは思っておらず、食べていた春十たちは一斉に驚く。

 

「何でか知らないけど、メスのゴーヤの方だけやたらと苦かったんだよね、そのせいで他の食材の味を打ち消して大変だったよ」

 

「…多分僕のせい、毒のストレスでドラゴーヤが苦みの元になる栄養分を多く出してたから…」

 

「あ、そうなのか。多分栄養素って言っても苦みのあるものを卵に与えていなかったから甘くなったんだろう。でもそれでドラゴーヤの卵が鱗のゴーヤの苦みを抑える適合食材って分かったから、ララのおかげだよ!」

 

「…ありがとう」

 

ここでララは照れて顔を赤らめる。

 

「料理の名前を付けるなら、『ドラゴーヤの親子丼兼ゴーヤチャンプル』だな!」

 

こうしてどんどん宴会は盛り上がっていき、いつしか夜になっていた。

 

「ふぅ…大分落ち着いたな」

 

宴会が終わってから数時間、皆が寝ている最中、一夏とタマギだけが濃霧樹海を一望できる場所に座っていた。

 

「それで一夏殿、()とは…?」

 

「ドラゴーヤたちを抑えこんでいた朱雀(・・)の話が聞きたいんだ。ちょっと思い当たる節がある」

 

「そうですかタマ…四獣侵攻時に人間界へやってきた四神獣(・・・)、朱雀様も含めた彼らは、人間界の東西南北に散らばりました。朱雀様は南のこの野菜仙境」

 

「…昔、グルメ界から紛れ込んできたクリーム白虎(・・・・・・)の子供をリンカと一緒に狩ったことがある。まだ子供だったから弱い方だったか…それでも強敵だった。今では俺のフルコースのスープだが」

 

「…儂は何故朱雀様がいなくなったのかを知りたい…もしかしたら他の方角の四神獣の身にも何か起きているかもしれません。一夏殿、旅の途中で結構ですので、どうか儂の代わりに調査の方をお願いできませんか?」

 

「…分かった。その場所を教えてくれ」

 

こうして一夏は、食材集めの他に新たな大義ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ!お世話になりましたー!」

 

「またお越しをー!」

「お元気でー!」

 

翌日、一夏たちは仙人たちに見送られながら野菜仙境を後にする。その中にジンギもいて、目線こそずれていたが手を振っていた。

道中ハニートラップツリーのハチミツも大量に採取し、一夏の案内の元ご一行は無事濃霧樹海を脱出できた。一夏とリンカは野菜がたくさん詰まった袋を背負っている。

 

「じゃあ一夏…僕はここで」

 

「ああ!本当に助かったぜララ!」

 

「…」

 

「…ララ?」

 

別れの挨拶もしたのに、ララはこの場を去ろうとしないので一夏は疑問を感じ、何かあったのかと顔を近づけると――

 

「…んむ」

 

「…なっ!?」///

 

ララは急に顔を近づけ、一夏の唇と口づけをする。

その瞬間春十は目を丸くし、セシリアとシャルは顔を真っ赤にして黄色い悲鳴を上げ、肝心のリンカは一瞬で表情が黒く染まる。

一夏はすぐに振り解こうと抵抗しようとしたが、何故か体が痺れて動かない。

 

(…毒!)

 

長いのか短いのか分からないがキスの時間は進み、ようやくララは唇を離す。そして普段真顔のその顔は、女の子らしい笑顔に変わる。

 

「僕のキス、どんな味がした?」

 

「え?あ、ええっと…」///

 

「じゃ!じゃあバイバイ一夏!」

 

するとララは急に何かに怯える表情になり、逃げるようにその場から走って去っていく。それもそのはず、青い鬼を出したリンカがそこにはいたのだから。

 

「ごぉらぁあああ!!待ちなさいアンタァ!!!」

 

「落ち着いてリンカさん!女性が出していい声じゃありませんわ!」

 

「コテしまって!」

 

リンカは怒りの表情で両手でコテを持ち、逃げるララを追い始める。

一方男子陣は、何もできずに突っ立っていた。

 

「…モテモテだな一夏」

 

「…春十兄だけには言われたくないやい」

 

こうして濃霧樹海を後にした一夏たちであった。




野菜仙境編ようやく終わりましたー!次回はトリコ原作と同じように1話完結のお話を挟んでから次の編に入っていこうと思っています。


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グルメ40 1億のウナギ!

今回は予告通り1話完結のお話です。ちなみにテーマはもう土用丑の日は過ぎていますが「ウナギ」の話です。


とある日のこと、一夏とリンカ、そしてIS世界一行は船に乗ってある場所へと向かっていた。船上では軽い食事会が開かれていた。

 

「旨いなこのたくあん!癖になる歯ごたえに染みてるこの味!」

 

「コボダイの霊草大根で作ったたくあんだ。たくあんにしても美味しいと思ってな」

 

「そしてこれが一夏のフルコースの前菜の『ダイヤモンドおにぎり』によく合うんだよなぁ!」

 

「ダイヤモンドおにぎりは貴重なのよ?良く味わって食べてよね」

 

この間野菜仙境で手に入れた仙人野菜のうち、余ったのをこうして食べているというわけだ。

すると箒が行き先のことを聞いてきた。

 

「所で一夏、そろそろどこに行くか教えてくれたっていいんじゃないか?」

 

「行き先は『マハーツ諸島』っていう小さな諸島だ」

 

「マハーツ諸島?どうしてそこに行くんですの?」

 

「それはな、タカラブネウナギ(・・・・・・・・)がそこに来る季節だからだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして一行はマハーツ諸島へとたどり着く。何もない島だというのに大柄な人で溢れかえっている。

 

「すっごい人だかりだね!この人たち全員がその何とかウナギってのをとりに来たの?」

 

「ああ。タカラブネウナギは滅多に姿を見せない幻のウナギだけど、10年に一度何故かこの諸島に集まるんだ」

 

「10年に一度…だから珍しいのだな?」

 

「そう、普段は1000万もの価格がする程貴重で美味しい魚、だけど今はめっちゃラッキーな時期なんだ」

 

「1000…!?しかもラッキーな時期って…?」

 

「丁度もうすぐフェスが開催されるからフェスの委員がタカラブネウナギの買取価格を10倍にしてるのよ」

 

「10倍ってことは…!?」

 

「1億!?」

 

たかがウナギ一匹に1億円、その値段にIS世界組は目を丸くした。

 

「そ、そんなことしたら暴落するんじゃ…!?」

 

「まぁそんなに市場に出るもんじゃないけどな。捕まえづらいんだ(・・・・・・・・)、タカラブネウナギは」

 

そうして一夏によるタカラブネウナギの解説が始まる。

元々戦闘能力も無いに等しく、その面だけ見れば捕獲レベルは1以下、しかしタカラブネウナギは外敵から身を守るために擬態能力を進化で手に入れ、水の中だとほぼ透明なのだ。

発見、捕獲、その面で見てその捕獲レベルは82(・・)。ついた名が「泳ぐダイヤモンド」――!

 

「だからこうして一攫千金を狙う美食屋が集まってんだ」

 

「だな、数匹捕まえれば遊んで暮らせるぜ。捕まえられたらの話だけど」

 

「俺は別に金が欲しいわけじゃないが、一度タカラブネウナギは食ってみたかったんだ。だから今日は頑張って沢山とるぞ!」

 

「「「おーー!!」」」

 

 

 

 

美食屋たちは浅瀬に足を沈め、網や釣り竿、様々な道具で釣ろうとしているが、2時間経ったにも関わらず捕まえられたという報告は無い。

 

「中々捕まりませんわね…」

 

「そうだな…」

 

その中にも一夏たちは含まれている。汗水たらして必死に探していた。

それもその筈、まず姿が見えないのだから。

 

「でも…リンカさんが何か掴んだみたい」

 

「…え?」

 

鈴が簪の指す方向を見ると、リンカが目を瞑りながら集中していた。たまに鼻を鳴らし、精神統一していた。

 

「まさか…匂いで捕まえようとしてるの!?」

 

するとリンカの目が一気に開く。そして何もないところを4本のコテで囲い、そこを5本目のコテで掬い上げた。

コテの上には、金色に輝く立派なウナギの姿が――!

 

「おお!誰か捕まえたぞ!」

「新生美食屋四天王のリンカだ!」

「流石は世界一の美食屋の四天王…!」

 

その瞬間辺りから歓声が沸き起こる。リンカは捕まえたタカラブネウナギをグルメケースに入れて再び集中し始める。

 

「でもあんなに簡単に捕まれるなら…!」

「俺たちにだってチャンスはあるぞー!」

 

「凄いですわリンカさん!見事な掬いでした!」

 

「ありがとう。ようやくコツとどんな匂いかが分かったわ…」

 

「どうやったの?」

 

「…タカラブネウナギに感謝(・・)したのよ」

 

「「「…感謝?」」」

 

「そう、タカラブネウナギに感謝して近くに寄せてるの」

 

「…感謝すれば寄ってくるの?」

 

「自分のことを感謝してくれる人を好意的に見るでしょ?それと同じ」

 

リンカと一夏は食義を使い、どんどんタカラブネウナギを捕まえていく。

 

(まぁ食義でもやっと1匹ってとこね…)

 

「よーし!俺だって捕まえてみせるぜ!」

 

そしてそれを見た春十がやる気を起こし、水面を凝視しまくる。そして数十分経ったその時、春十が思い切り右手を挙げた。

そこに重なる白い手のビジョン、春十が熊のように水面を叩くと、一匹のウナギが掬いあげられた。

 

「しゃあ!!俺も一匹!!」

 

「凄い…春十まで…」

 

(春十兄はタカラブネウナギを食べたい一心で捕まえたか!…なんて食欲)

 

こうして一行はどんどんタカラブネウナギを捕まえていく。そして日が暮れる頃にはグルメケースに入っているタカラブネウナギの数は9匹になった。

 

「すげぇ!1億が9匹も!」

 

「春十…その数え方は駄目だよ」

 

「2、3匹は委員会に売って、残ったのを俺たちで食うか」

 

「「「賛成!!」」」

 

こうして一夏が6匹のタカラブネウナギを調理していく。まず最初は蒲焼き、ウナギを開いて焼き始める。

その瞬間、その圧倒的な香ばしさが一同の鼻を襲う。

 

「高級ステーキにも劣らないどころか圧倒的に打ち負かすほどのインパクト…!」

 

「まるで鼻に直接肉を詰められたような、肉で頭を殴られたようだ…!」

 

そうして出来上がった蒲焼きを人数分に分け、全員が食した。

 

「このジューシー感!!ウナギとは思えない程の圧倒的強み…!!」

 

「ふっくら膨らんでいて…味が爆弾のように口の中で広がっていくわ…!」

 

「これが1億の味か…!」

 

これなら1億払ってもいい、そう思う程に美味しい脂身、匂い、今まで感じたことも無い幸福感であった。

 

「まだまだあるぞ!タカラブネウナギの寿司にひつまぶし!どんどん食ってくれ!」

 

そうしてタカラブネウナギパーティという恐らく世界で指折りの贅沢なパーティを実行、宴のような雰囲気になり、夜まで続いた。

すると春十が次の依頼を聞いてきた。

 

「一夏、次の依頼はどこにいくんだ?」

 

「次は、宝箱の海と呼ばれる海、『ヘブンオーシャン』だ!」

 




以上で終わりです。一話完結なのであまり深く書かずあっさりとした内容にしてみました。すこし内容不足かも。
次は海の食材溢れる「ヘブンオーシャン編」です。一応ゼブラの娘が出る予定です。


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グルメ41 天国の海!

今週から「ヘブンオーシャン編」突入です!ゼブラの娘を出す予定です!


波の音が聞こえるこの港、一夏とリンカ、そしてIS世界組の何人かがそこへやってきていた。今回のメンバーは箒、鈴、ラウラの3人とくじ引きで決まった。

港には黒く日焼けした1人の若い男が一夏たちを待っていた。

 

「よー千夢(せんむ)!久しぶりだな!」

 

「一夏とリンカ!待ってたぜ!」

 

その男は「千夢」といって、トリコと仲のいい卸売業の商売をしている「十夢」の息子である。一夏とリンカはよく彼に世話になっていた。

 

「後ろの嬢ちゃんたちがお前の故郷の人たちだな?俺は千夢、よろしくな!」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

「でよ千夢、行き先なんだが…」

 

「ああ、ヘブンオーシャン(・・・・・・・・)だろ?準備はしてある」

 

そう言って千夢が持っていたリモコンのスイッチを押すと、海の中から潜水艦が浮上してきた。そしてその潜水艦の天井部分が展開し、まるで普通の船のような形態になる。

 

「潜水も可能の船、『グルメアクアマスター』だ!数トンの水圧にも耐え『地獄深海』の潜水にも成功してる!更にそんじょそこらの海獣じゃ傷1つつけられない装甲に対海獣用の特殊魚雷も装備!一台10億だぜこれ!こいつじゃないとヘブンオーシャンにはいけないだろ」

 

「さっすが、マシンも一流だな」

 

「更に更に近辺のグルメ界の海のデータもあり、僅かなら潜水も可能!別売りの追加ウイングも買えば低空飛行も可能で――」

 

「分かったもういい!」

 

そういって一行は船に乗り、千夢の操作によって船の旅へと出発していった。

 

「ところで一夏、ヘブンオーシャンとはどんな海なんだ?」

 

「ヘブンオーシャンはあらゆる海の幸や美味が集結している名前の通り天国のような海と言われている。俺たちも行くのは初めてだ」

 

「そこに生息している『ミカエルフィッシュ』っていう魚が今回のターゲット。だけど一番の問題はヘブンオーシャンまでの道のりよ」

 

「…道のり?」

 

そう言って一夏は千夢から渡された地図を開き、箒たちに分かるように教え始める。

 

「ヘブンオーシャンは特殊な海流のせいで普通では入れない。だから一回潜ったり海を進んだりする必要があるんだけど…」

 

「ヘブンオーシャンまでの潜水ルートに『天国の門』と呼ばれている渦巻きがあるの。直径1000m(・・・・・・・)の超巨大渦巻き、そこを通らないといけないの」

 

「直径…1000m!?」

 

「それなら飛べばいいのでは?」

 

「上空はヘブンオーシャンの海水が蒸発して予測不能なサイクロンの壁ができてるんだ。飛行機とかISとかで言ったら即終わりだ」

 

「上手く行かないものね」

 

すると突如として海上を飛び跳ねてこちらに突っ込んでくる魚群が見え始める。凄まじい勢いで来ていた。

 

「何あれ!?」

 

「『ピラニアトビウオ』だ!任せろ!」

 

ピラニアトビウオの味は不味いため殺す必要はない。そう判断した一夏はグルメ細胞の悪魔を見せてピラニアトビウオを威嚇、トビウオたちは軌道を変え船を避けていく。

 

「流石一夏ね!」

 

「…おかしいな」

 

「え?」

 

そう不思議そうな顔をした一夏は再び地図に視線を移す。

 

(ピラニアトビウオは確かに「天国の門」付近にも生息しているが…まだそこまで来ていないはずだぞ)

 

 

 

 

 

船の旅を続けて数十分、一行は船上でさっき採った海の幸を堪能していた。

 

「この牡蠣!舌の上に乗った瞬間トロリと溶けて濃厚さとコクが全体的に広がっていく…それでいてサッパリだ!」

 

「このサザエも弾力のある身に染み込んだ美味しさと甘さ、噛んでで飽きないわ!」

 

「私が食べている蟹…プリッとした触感で何とも奥が深い味だ!」

 

「『チーズ牡蠣』『黒糖サザエ』『ダイヤモンドキャンサー』、どれも高級食材として有名なものばかり。ヘブンオーシャンに近い証拠だな」

 

「え?どうして?」

 

「ヘブンオーシャンの入り口の天国の門は、あまりの水流の勢いでヘブンオーシャン側にある魚や貝を巻き込んで外の海に出しちゃうことがあるの。だからこの食材たちもそのうちの1つってわけ」

 

「通称『天からの恵み』、ある意味ヘブンって意味も間違いじゃないんだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「…天国の門は入った者を激しい水流で襲い、船や潜水艦を粉々にしちゃうんだ。その威力はかの有名な『デスフォール』とも引けを取らない。侵入した者は絶対に殺して天国に送り込むって意味だ」

 

「そんなところに今から行くの…!?」

 

「安心しろ、千夢の操縦スキルは世界でも指折りに入るし、天国の門には猛獣もいない。突破するだけでいいんだ」

 

すると突如水しぶきが上がり、海の中から巨影が複数飛び出してきた。

 

「「「グルウウウウガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」

 

 

リヴァイアサンウツボ〈魚獣類〉捕獲レベル88

 

ヤマタノシャーク〈魚獣類〉捕獲レベル79

 

ウミキツネ〈哺乳獣類〉捕獲レベル81

 

 

「それも天国の門までつく話だけどな!」

 

「皆!戦うわよ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

こうして一行は天国の門を目指して襲い来る猛獣を倒しながら進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天国の門付近の海域、一人の女がボートを漕いで(・・・・・・・)そこへとやってきた。

するとそんな泥船一隻を狙って海獣たちが襲い掛かっていく。

 

調子に乗ってるな(・・・・・・・・・)…お前たち」

 

その男勝りな口調でそう言い零すと、女は立ち上がり、深く息を吸った。

 

 

「――ボイスマシンガン!!」

 

 

次の瞬間、100匹近くいた海獣たちが穴だらけになり、全滅した。

 

「…この声は!」

 

すると何か聞こえたらしく、女は何もいない方角へ視線を移す。

 

「…成る程、あいつら(・・・・)も来てたか…!」

 

そういうと女は口角を曲げ、単身天国の門へと入っていった。




劇場版ビルド見ましたー!ネタバレになるのであまり言えませんが笑いありシリアスありで素晴らしかったです!


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グルメ42 危険生物の娘!

今回ゼブラの娘のポニーが出る予定です。


「見えたぞ…あれが『天国の門』だ」

 

迫りくる猛獣たちを倒していきながら、一行がたどり着いたのは水平線の先にまで広がる超巨大な渦巻き「天国の門」。その広さに全員が圧倒されていた。

 

「これが天国の門…なんて広さなの」

 

「あ、あれを見ろ!」

 

すると箒が指した方向を見てみると、そこには鯨の数倍の大きさはあるであろう巨大魚が渦巻きの中でうまく泳げず、そのまま溺れ死んでいく光景だった。

改まって周りを見ていると沢山の海獣の死骸が散らばっている。皆渦巻きに呑み込まれて命を落としたのだろうか?

 

(それにしては変な外傷を持ってる死骸もあるな…)

 

「ほ、本当にこの中を進んでいくのか…?」

 

ラウラは不安そうな顔をして一夏に聞く。軍人といってもこのサイズの渦巻きは誰もが恐ろしく思うはずだ。

現にこの世界の異常気象慣れしている一夏とリンカもこれには冷や汗を流している。

 

「安心しろ嬢ちゃん!俺とこのグルメアクアマスターを信じて言葉の通り大船に乗ったつもりでいてくれ!」

 

そう言って千夢が操縦席のボタンを押すと、船が変形していき船上を囲むように天井ができていく。そして頑丈そうなシートベルトが付いている椅子も中から跳び出してきた。

 

「一応聞くが船弱い奴とかいないよな!?あとあんまり喋るなよ舌噛むから!」

 

「ああ…本当に行くのね」

 

箒と鈴、そしてラウラたちは諦めと覚悟の顔で座席に付く。一方一夏とリンカは文句の1つも言わずに座った。

 

「じゃあ行くぞ!しっかり掴まれ!!」

 

そうして一行を乗せたグルメアクアマスターは天国の門の手前で潜水、完全に水に浸かった時点でいざ巨大渦巻きへと侵入していった。

 

「きゃあああああ!!??」

 

すると凄まじい衝撃と轟音がアクアマスターを四方八方から襲い、まるで台風の中にでもいるような感覚に陥る。振動も凄まじく、もし座席にちゃんと座っていなかったらスーパーボールのように船内を飛び回っていただろう。

それと同時にこみ上げてくる嘔吐感にまるで脳みそが頭の中でシェイクされるような気持ち悪さが全身を包み込むように襲ってきた。

吐けば楽になるかもしれない。しかし箒たちは立派な女性、そんなことは許されない。

 

(耐えるのよ…!!ここで負けたら一生の不覚!)

 

「と、ところで義弟!これはあとどれぐらい続くんだぁー!?」

 

「そ、そうだなぁ!この船の速さからして…後1時間ぐらいはかかるんじゃない!?」

 

「「「う、嘘ぉ!?」」」

 

すると突然何か大きな音が響いた。何かが船に当たった音だ。

 

『何だぁ!?映像出すぜ!』

 

そう言って千夢の操作によって船内にスクリーン画面が映し出される。そんなものを見ている余裕はあるのかと思うがもしかしたら何かあったのかもしれない。

そして見えたのは凄まじい勢いでカメラを横切ったりぶつかったりする水流…そしてそれに流されている肉塊や岩であった。

 

「な、何だあれは!?」

 

「渦巻きの水流でミンチになった海獣の死骸だ!水流が強すぎてミキサーみたいに引き裂かれたのが船に当たっているんだ!それに削られた岩とかもきてる!」

 

そこからどんどん肉塊が当たっていき、まるで大砲を撃たれたような轟音も鳴り響く。

 

「あの水流に流されているせいで本当に大砲並みの衝撃でぶつかってくるのか!!何とか避けられないか千夢!?」

 

『無理だ真っ直ぐ進むだけで精一杯!!それに大砲如きでこの装甲は壊れないから安心しろ!』

 

「だー!これ耳栓必要だ!持ってきてよかった、皆つけろ!!」

 

こうして一行たちは襲い掛かる障害を越え、もう少しで天国の門を抜ける所まで来た。あともう少しでこの地獄から解放されるその時、今度は何かが船に巻き付いてきた。

 

『…触手だ!!巨大な生きた触手が巻き付いてきた!!太いぞ!直径10mはありそうだ!』

 

「触手!?馬鹿な…この渦巻きの中悠々と泳げる生き物なんかいるのかよ!?」

 

一同はカメラで確認すると、海中の様子は見えず代わりに何か白いものがカメラを覆っていることが分かる。その触手が何ものか判断するのに時間はかからなかった。

 

タコ(・・)だ!!超巨大なタコの触手だぞ多分!!」

 

「じゃあこれは吸盤か!?」

 

箒の言う通りこれは明らかに吸盤だろう。しかし吸盤と触手だけでこのサイズとは本体はどれぐらい大きいのだろうか。

いや、驚くべきことはそこではなく、この渦巻きの中で自由に触手が動かせていることについてだ。見えないので一体どんなタコか分からない。

 

『と、とにかく魚雷連発で牽制してやるぅ!!』

 

そう言うと外から魚雷が発射された音が響き、その後に爆発音も聞こえたが、触手は依然と健在、こちらを海深くまで引き寄せていく。

 

『まずいぞ!いくらグルメアクアマスターでも渦巻きの中心、つまり最も水流が激しいところに引き寄せられたら耐えられるかどうか分からん!何とかしろ!』

 

「何とかしろって…仕方ないリンカ!2人掛かりで威嚇するぞ!」

 

「ええ!」

 

そう言って一夏とリンカはシートベルトを外し、凄まじく揺れる船内の中バランスを崩すことなく並んで立つ。そして一斉にグルメ細胞の悪魔の顔を出そうとしたその時…

 

「なんだぁ!?」

 

突如として甲高い音が海水を伝わり、まるで刃物のような形状になって触手に直撃、切断されることはなかったが大きな切り傷はできた。

 

『今だ!!一気にゴールまで進むぜ!!』

 

そう言って船は全速力で前に進んでいく。

 

(今の音波攻撃は…まさか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてようやく一行は天国の門を通過、船は海上に浮上し天井を開けた。一行が疲れ果てた様子で立ち始めるが、バランス感覚などとうに壊れ、転びそうになる。

 

「はぁ…はぁ…死ぬかと思ったわ」

 

「だけど…見てみろ!」

 

そう言って目の前に広がるのは先ほどまでの地獄の光景が嘘のように見えてくる海、優しい青色の海水に、雲1つ無い快晴。

ここが天国の海、「ヘブンオーシャン」だ。

 

「凄い…本当に天国のようだ」

 

皆がその美しさに圧倒されている最中、ボートが横に並んでくる。一夏とリンカはボートで天国の門を突破できたことよりもそれに乗っている女に驚く。

 

「お前は…!」

 

「久しぶりだな一夏、約束(・・)は覚えているか?」

 

「ポニー!」

 

それはゼブラの娘である「ポニー」という美食屋であった。




最近涼しくなってきて過ごしやすい日々になってきましたね。


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グルメ43 競争!

銀河の光が我も呼ぶ。我が名はzunezuneダークノワールブラックシュバルツだ!


その女、ゼブラの娘であるポニーはこの船と比べると何倍にも小さな小舟に乗っており、そこから跳んでこちらへと乗り込んできた。

名前の通りにその髪型は赤が混じった茶髪のポニーテール、服装は毛皮を使った大変ワイルドなものでそこにおしとやかという言葉は無い。

 

「ここを突破する前に声が聞こえたから来てたのは知ってた。まぁお前らなら突破できるだろうと思って先に行ったがな」

 

その口調も女性らしくなく、両足も大きく広げて大胆に立っていた。右目には大きな傷が付いており、その圧迫感は父親譲りである。

 

「アンタ…何でここにいるのよ」

 

「よぉリンカ、相変わらず平和ボケした面しやがって…」

 

そして顔を合わせた瞬間、リンカは睨みつけ、それに応えるかのようにポニーも笑いながら睨み返した。突如現れた男勝りな女に、IS組一同は何も話せずにいる。

 

「一夏…アンタの知り合い?」

 

「ああ、ポニーっていってな、俺の師匠のコンビの同期の娘だ。リンカとも幼馴染だぞ」

 

「おい一夏ぁ…そいつら誰だ?」

 

するとポニーはまるで野獣のように光った眼光を箒たちに向け、彼女たちを軽くビビらせる。それを止めるかのように一夏が間に入った。

 

「こいつらは俺の故郷の友達だよ、この間話したろ?」

 

「ああ…アタシに断りも無く勝手に異世界に行ってたなぁ…」

 

「い、いいじゃんこうやって帰ってきた(・・・・・)んだから」

 

「…おいお前らぁ!!」

 

すると突然ポニーは一夏を抱き寄せ、見せつけるかのようにし親指で自分を指した。

 

「言っとくけどこいつはアタシの男だからなぁ!?勝手に手ぇ出すんじゃねぇぞ!!」

 

「「「なっ――!!??」」」

 

その言葉にある者は驚き、ある者は怒る。そして気づいた時にはリンカがポニーに向かって飛び膝蹴りをしていた。

 

「勝手な事を言ってんじゃないわよ!!一夏は私のコンビよコンビ!!」

 

あの約束(・・・・)もまだ終わったないんだぞ!?勝手なのはお前じゃないのかぁ!?」

 

「何ですってぇ!!」

 

「やるかぁ!?」

 

すると船上は一触即発のような雰囲気になり、その場にいた全員が嫌な予感を察知する。

千夢もそれに感づいた。

 

『お、おい!?いくらこの船が凄い装甲をしていてもあの2人の攻撃に耐えられるかどうかは保証できねぇぞ!!やめさせろ!!』

 

「わ、わかった!」

 

慌てて一夏が彼女たちの間に取り入ろうとするが、その前になんと鈴が彼女たちに立ち向かった。

 

「ちょっとアンタたち!一夏(こいつ)を勝手に自分のものだと決めつけないでよ!?」

 

「り、鈴!?」

 

「あぁ!?何だてめぇは…関係ない奴はすっこんでろ!」

 

「鈴ちゃんが何でそんなこと言うのよ!」

 

「な、何でってそれは…と、とにかく勝手にそんなこと言わないで!」

 

その口論はそれから数分間続き、他の人間は傍からそれを傍観している。そうこうしている間にも船は目の前にあった白い島へと到達する。

草も無い木も無い、ただ砂と土でできた島だ。一行はその足で大地を踏みしめる。

 

「俺は船の点検と修理をしている。釣りをするなら小舟が幾つか積んである。頑張れよー!」

 

千夢は船に残り、天国の門を突破したことで傷ついた船を直し始める。俺たちはその間目的の魚を探すための手掛かりを探し始めた。

 

「そういえばポニーは何でここに来たんだ?」

 

「なんかミカエルフィッシュ?てやつを取りに来たんだ。わざわざ船まで借りて…」

 

「あっそうだ!お前あんな小舟であの渦巻き突破できたの!?」

 

そう、ポニーが乗っていた船は特別な材質でもサイズでもないただの木製の小舟、なんとポニーはその船であの凄まじい渦巻きを突破したのだ。

 

「難しいことじゃないぞ、確かにお前らのような団体だとあんな立派な船が必要だが、その気になれば一人だけならああいう船でもいける」

 

「へ、へぇ~」

 

その言葉を聞いてIS組はゾッとする。座ってるだけでもあんなに酔うというのに彼女は単独でそれを耐え突破できたのだ。どれ程強いのだろうかこの人は。

 

「てかアンタもミカエルフィッシュ(それ)狙ってたんだ…」

 

「…丁度いい、どっちが先にそいつを捕まえられるか勝負しようじゃねーか!勝った方が一夏のコンビになるのはどうだ!?」

 

「「「はぁ!?」」」

 

と、突然の提案に一同驚くが、リンカだけはそれに怒り突っかかってきた。

 

「勝手な事言ってんじゃないわよぉ!一夏は私のコンビだってことは確定事項よ!!」

 

「なんだぁ?負けるのが怖いのか?そうしたら一夏がアタシにとられるからなぁ」

 

「…上等じゃないのぉ!!」

 

そう言ってリンカとポニーは一気に勝負態勢に入り、各々別方向へと走っていった。

 

「ちょっとお前らぁ!?…仕方ない、俺たちも手分けして探すか」

 

「そうだな…」

 

仕方が無いので一夏たちも同じように別れ、各個人でミカエルフィッシュの手掛かりを探し始める。

一夏は島の中央部分へと向かう。しかし其処には何もなく、池や湖も無かった。

 

「もしかしたら池とか湖があってそこにいるかと思ったが…影も形もねぇな。やっぱ探すなら海だな」

 

そのまま船へと戻ろうとすると、向こう側から煙が立ち上っていることに気づく。何だあれは、とそこへ向かってみると…

 

「…定食屋?」

 

するとそこにはありふれた見た目の貧相な飯屋がポツンと堂々構えていた。のれんには「雲渡り」と書かれている。それを見た瞬間一夏は驚愕の顔になった。

 

「く、雲渡りって…あの世界ランキング19位(・・・・・・・・・・)の『雲渡り食堂』か!?」

 

突如見つけたプロの料理人の店に、一夏は驚きを隠せなかった。

 




オーブダークの懐古厨感僕は好きです。


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グルメ44 幻のマロボシ!

男でISを操縦する鈍感男は…(チッチッチッチッチ)一夏だ!!


「すげぇ!本当にあの『雲渡り食堂』だ!」

 

一夏は偶然にも見つけた世界料理人ランキング19位の「雲渡り食堂」を見て子供のように大興奮する。プロの料理人の店とそのシェフを見たら興奮するという癖は小松師匠譲りである。

食堂というよりは店にタイヤが付いている言わば移動式の店である。そんな店の影から1人の小さな老人が出てきた。

 

「あんれま、客なんて珍しい」

 

額にタオルを巻いた極々普通の老人だったが、一夏はその顔に見覚えがある。前回のクッキングフェスの特集記事でその顔を見たことがあるからだ。

 

「『マロボシ』シェフですよね!?俺一夏っていいます!会えて光栄です!」

 

「ああ、最近ランキングに入ったあの…凄い偶然だねぇ…まぁ何か食うと良いよ」

 

「良いんですか!?是非!!」

 

そう言って一夏はノリノリで椅子に座り、マロボシと対面する。

「雲渡り食堂」は実際にはずっとその場所にいるわけじゃなく、珍しい食材が眠っている秘境を行き来して店を置いているのだ。そのため食べたことがある一般人はほぼおらず、都市伝説に近い話になっていた。

とある専門家はマロボシが次はどこに店を置くかという予想に全力を注いでいる。それほどまでに出くわすことが希少なのだ。

 

「で?何にする?」

 

 

マロボシ フルコースメニュー

 

・オードブル(前菜)…水晶カタツムリのエスカルゴ(捕獲レベル44)

・スープ…ベニザクラナマコの煮込みスープ(捕獲レベル32)

・魚料理…天女エイの刺身(捕獲レベル55)

・肉料理…高峰牛の炭火焼(捕獲レベル48)

・主菜(メイン)…その土地で一番うまいもの(捕獲レベル不明)

・サラダ…白銀パンダのお裾分けの笹(捕獲レベル72)

・デザート…果物天界の盛り合わせ(捕獲レベル測定不能)

・ドリンク…マロボシの旅話込みのお茶(捕獲レベル測定不能?)

 

 

「何か適当なもので!」

 

「あいよ」

 

そう言ってマロボシはキッチンに向き合い、ここで採れたであろう海の幸を存分に料理しだす。

最初に出したのは緑色に輝く海老の身、まるで宝石のように光沢を見せ存在感を放っていた。

 

(エビラルド…この海で採れると言われている高級海老食材だ…!!)

 

マロボシはレタスを丁度いいサイズに切り分け、その他にもマヨネーズでソースも作り始める。

 

(海藻レタス!それにあれは海底火山の中で眠っていると言われているマグママヨネーズ!)

 

するとマロボシはフライパンでマグママヨネーズとエビラルドを一緒に焼き、そうして焼きあがったものを海藻レタスで次々と包んでいく。

 

「できたぞ、マヨエビラルドの海藻レタス包み」

 

「ありがとうございます!いただきます!」

 

こうして出された海老を一夏は箸で口の中に運び、幸福の笑みでその味を堪能する。

 

「エビラルドのプリップリの身にマグママヨネーズの濃厚さと旨味が絡んで…そこに更に海藻レタスのシャキシャキ感が加わっている…最高だ!」

 

「この海はいつ来てもいい…海の幸たちが来るものを拒まず祝福してくれるからな…」

 

「…何度かこの海に来てるんですか?」

 

「ああ、ちなみに君ら以外にも料理人は来ている。考古学者兼プロ料理人の『ジョーンズ』、クッキング拳法を極めた『マスター・龍牙』…」

 

「ランキング上位の料理人ばかりだ…」

 

自分たち以外にヘブンオーシャンに来ていた者が、フェスで最強のライバルになるであろう強者ばかりであることに一夏は改めて緊張しだす。

 

「にしても…この海もだいぶ変わったな…」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、亀のやつ(・・・・)もいなくなってるし…どこ行ったんだか」

 

「…亀?」

 

亀という言葉に、一夏は疑問と何かしらの勘を感じとる。

 

「ああ、前は玄武(・・)っていうグルメ界から来た亀がこの海を守っていたんだが…そいつがどっか行っちまったのよ…」

 

「…それってもしかして」

 

そうだ、野菜仙境でタマギの奴が言ってた「四神獣」のことじゃないか。グルメ界から四獣が襲撃してきた際に人間界へとやってきた優しい獣、野菜仙境では「朱雀」がいたがそいつも行方不明になっているという。

――もしかしたら何か関係あるのかもしれない。

 

「あ、そういえば…ミカエルフィッシュっていう魚を探しているんですけど…一体どこにいるか分かります?」

 

「ミカエルフィッシュ?そいつなら…鯨の中(・・・)にいるぞ」

 

「…鯨?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「釣れないわねぇ…」

 

 

「…そうだな」

 

一方IS組の鈴と箒、ラウラは小舟に乗って各自釣竿を持ってミカエルフィッシュを釣り上げようと奮起していた(・・・・)が、今となっては普通にのんびりしているだけだった。

ミカエルフィッシュどころか普通の魚すら釣れない、ただ退屈な時間が過ぎている。

 

「ところで本当に私たちだけで良いのか?義弟やリンカさんたちと一緒にいた方が…」

 

「大丈夫でしょ、一夏の話だと強い猛獣とかはいないらしいし、いたとしても3人もいればISでどうにか倒せるわよ」

 

「それもそうだな」

 

そうやって引き続き釣りを続けていくと、何か違和感があることに気づく。

 

「…おい、水位が上がってないか(・・・・・・・・・・)?」

 

「――え?」

 

ラウラの言う通り、周りの水面より自分たちが少し高い位置にいることにようやく気付く。一体どうしたのだろうと下を見ると…

 

「いや、下に何かいるぞ(・・・・・・・)!!」

 

「「…ッ!!」」

 

その瞬間、一気に自分たちがいる海面が上昇、3人は一斉にISを起動して空を飛び脱出、さっきまで乗っていた小舟は海水の中に沈んでいく。

いつしかとんでもなくデカい魚影が、一気に浮上して姿を現す。

 

「く、鯨!?」

 

「普通の鯨より何倍のサイズだ!で、デカい…!」

 

その正体は見たことも無い程大きい鯨、白銀の体を海水で濡らして綺麗に見せ、まるで角笛の音色のような鳴き声を辺りに響かせて波を起こす。

 

 

カミノクニクジラ〈哺乳獣類〉捕獲レベル測定不能

 

 

 




多分この話が投稿された時には私はジオウを見ています。


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グルメ45 鯨の正体!

今日「ペンギンハイウェイ」を見に行く予定です。


「な、なんてデカサだ…!」

 

箒、鈴、ラウラたち3人の目の前に突如として現れたのは巨大な鯨。太陽の光を反射するその純白の体はとても美しく、まるで異世界の動物のように一段と存在感を現していた。

カミノクニクジラ、普通の鯨より数倍ものサイズを誇るそれは、3人に圧倒的な驚きを与えていた。まず自分の世界でも鯨なんて見たことが無いというのに始めて見る鯨がこのサイズじゃそれは驚くに決まっている。

 

「…本当にデカい…まるで豪華客船のようだ」

 

「これ、どうしたらいいの?」

 

そう、一見すれば無害のように見えるが、実は危険な鯨かもしれない。事によっては箒たちは戦わないといけない場合でもあった。

しかし鯨は空を飛ぶ3人に目もくれずただ優雅にヘブンオーシャンを泳ぐだけ、一体何を考えているのか見当もつかなかった。

するとそこから数分、カミノクニクジラに動きがある。急に前に進むのを止め、プルプルと震え始める。

 

「な、なんだ――!?」

 

次の瞬間、カミノクニクジラは大きな潮吹きをした。まるで天にも昇る勢いで潮は上がり、辺りに潮の雨を降らしていく。それもまるで火山の噴火のような勢いで上がり、本当に何かが爆発したのかと思ってしまう程だった。

その時潮の一滴が鈴の口の中に入る。

 

「何これ美味しっ!たった一滴が入っただけなのに口の中が一気に潤ったわよ!」

 

鈴たちの反応を見た箒とラウラも続いて潮を飲んでみると、3人そろって夢心地の顔を浮かべてその味を楽しむ。

 

「本当だ!こんな美味しい水飲んだことないぞ!」

 

「ああ、まさしく天にも昇る気持ちだ…!」

 

すっかり目先の鯨の恐怖など忘れ、降り注いでくる潮を夢中になりながら飲んでいく。途中箒は持ってきたペットボトルにそれを蓄え始める。

すると遠くの方から何かが飛んでこちらに向かってきていた。

 

「ジェットボイス!」

 

それは音速に乗って凄まじい速さで空を飛ぶゼブラの娘であるポニーであった。いきなり来たため最初は空を飛ぶ猛獣かと警戒した3人だがポニーの顔を見てホッとする。

それに続きリンカもコテで自分を飛ばしこの場へとやってきた。ポニーはまだ飛び続け、リンカはコテの上に乗っている。

 

「これはまた…馬鹿にデカい鯨だな」

 

箒たちとは違ってこういう巨大生物には慣れているのかポニーとリンカはたいして驚いた素振りも見せず普通のリアクションをするだけだった。そして2人もその潮水を飲んでその美味しさに表情を崩した。

 

「…中々美味いじゃないか」

 

ポニーはそれを飲んだ瞬間、卑しい顔になり口角をまげて舌を舐めずる。瞬間彼女はジェットボイスで一気に加速したのち真っ直ぐカミノクニクジラへと飛んで行った。

 

「ちょっとポニー!?何する気よ!?」

 

「潮がこんなに美味いんだ!そのデケェ腹にたっぷり貯めこんでいるだろうよ!!」

 

何とポニーはあの鯨を仕留めようとしている。いくら向こう側から攻めてこないからと言ってそれは些か無謀すぎる。そう判断したリンカはコテで彼女の動きを止めようとした瞬間…

 

「ストップストーーーーーーップ!!!ポニーステイ!!」

 

横から一夏の叫び声が聞こえた瞬間、ポニーは急ブレーキ。そして一夏がマロボシを抱えてこの場へと飛んで来た。いきなりおっさんが増えたため皆は少し困惑する。

 

「一夏、誰だその人…」

 

「もしかしてその人マロボシシェフ!?ランキング19位の!どうしてこんなところに…」

 

「話は後だ!マロボシさんによればミカエルフィッシュはこの鯨の中にいるらしい!」

 

「「「――えっ!?」」」

 

とにかく一同はマロボシから詳しい話を聞くべく一旦島に降り、未だ浮上しているカミノクニクジラを横目に話し合いを始める。

 

「あの鯨は『カミノクニクジラ』、この海にしか生息しない固有種だ。元はただの鯨だったがあの『天国の門』ができる前にこの海に迷い込み、その時に渦巻きができてこの海域に閉じ込められた形になったんだ」

 

「それにしても…なんであんなに大きいんですか?」

 

ここで鈴が質問する。確かにあのカミノクニクジラのサイズは普通の鯨から進化するというのは考えにくい。

 

「それはね、プランクトン(・・・・・・)のおかげだな」

 

「…プランクトン?」

 

「このヘブンオーシャンのプランクトンは他の海と比べて数百倍の栄養を持っている。だからこの海の生き物はどれも絶品だ。昔はもっと少なかったみたいだけど天国の門でそのプランクトンが他の海域に流れなくなってこの海で充満してるってわけ」

 

「それと鯨が何の関係が…?」

 

「鯨ってのは1日に300万匹のプランクトンを食べるらしい。それは自身の体重の4%ぐらい、この海のプランクトンをそんなペースで食べていると次第に大きくなっていったんだ。今も食べる量を増やし続けている、いわば美味しくなり続ける鯨なんだ」

 

「…美味しくなり続ける」

 

「そしてカミノクニクジラは食べたプランクトンの旨味と栄養素を潮として噴き出している、それがさっき君たちが飲んだやつ、カミノクニクジラの体内ではそんなプランクトンの旨味が凝縮された潮が溜まっている部分があって、そこにミカエルフィッシュが住んでいる」

 

「でも…何で鯨の中なんかに」

 

そんな潮の中になんでミカエルフィッシュが住んでいるかが問題だった。

 

「ミカエルフィッシュは元々グルメ界の生き物なんだ。本当はヘブンオーシャンよりも豊かな海域に住んでいるけど…その稚魚が偶然この海に紛れ込んだんだけど…本来の住処と比べてあまりにも栄養が足りない海、だからその海の栄養が全て集まっているといっても過言じゃないあのカミノクニクジラの中に住み始めたんだ」

 

「成る程…生きるためには仕方ないというわけか…」

 

「で、そのミカエルフィッシュってやつはどうやってとるんだ?」

 

ポニーがそう荒々しく聞いてくる。そう、本来の目的であるミカエルフィッシュ、そいつをどう捕まえるのかが一番の疑問だった。

 

「カミノクニクジラは温厚な性格、ストレスが無ければ無い程その潮の勢いは増していく。つまりあいつを一番安らかに和ませれば潮と一緒にミカエルフィッシュも出てくるんだ」

 

「…じゃあポニーがしようとしてたのは最悪の行動というわけね」

 

「…ふん」

 

「和ませるにはどうしたらいいんですか?」

 

「…別にこっちが何もしなくてもカミノクニクジラは勝手に安心するはずなんだが…何か妙だな」

 

ここでマロボシは海にいるカミノクニクジラを見て顔をしかめる。

 

「いくらなんでも潮の出が悪すぎる。あの調子だと1か月は思い切り出せてないな…この時期は大事(・・・・・・・)なのに…」

 

「…大事って何が?」

 

「…美食屋トリコとゼブラの娘である2人なら、分かるんじゃないか?」

 

そうやってマロボシは挑発じみた言い草で聞いてきた。最初こそ2人は何のことやらと考えていたが、しばらくするとハッとした表情になる。

 

「…まさか」

 

するとポニーは再びジェットボイスで空を飛び、さっきとは違く敵意は無い状態で鯨に近づき、ソッと優しく触れた。

 

――メディカルソナー――

 

そしてあることが分かった瞬間、急いで皆の所へ戻り、その結果を言った。

 

「…妊娠してる(・・・・・)んだな。それもいつ生まれてもおかしくない状態のを」

 

「「「えっ!?」」」

 

「そう、カミノクニクジラは哺乳類なのに単為生殖が可能な生き物。出産時に最大限の潮を噴き出すことによってそのストレスを和らげるんだが…それができなくて産めないんだな」

 

「…私の鼻もそれを捉えたわ、どうやらいつになっても産めなくてそれが逆にストレスになってるみたいだけど…本当に原因は他にあるわね」

 

「…一体どうしたんだ…って!!」

 

ここで一夏とリンカとポニー、そしてマロボシが急に立ち上がり警戒状態に入る。その眼差しは戦う寸前の色だった。

 

「成る程…渦巻きの中で何かデカいの(・・・・)いるなと思ってたら…ここまで来てたか!」

 

「一夏、これってさっきの渦巻きの時に襲ってきた…」

 

「…ああ、かなり強いぞ!」

 

すると突然カミノクニクジラの近くで水飛沫が上がり、そこから数本の触手が飛び出してきた。

そう、その正体は天国の門の中で一夏に襲い掛かってきた超巨大タコ、カミノクニクジラとほぼ同じ大きさであった。

 

ポセイドンオクトパス〈軟体動物〉捕獲レベル120

 

「どうやら…今回の依頼も簡単にいきそうにないな…!!」




お気に入り数が700を超えました!これも普段読んでくださっている皆様のおかげです!これからも「トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話」をよろしくお願いします!
ちなみにTwitterやってます。特撮の実況や小説家になろうでの投稿報告、たまに旅行先の写真など呟いております。よろしければフォローしてください!

@ZUNE_ZETTON


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グルメ46 海神のタコ!

三連休は草津に行きます、温泉楽しみ!


突如として現れたのは、グルメ界と人間界の狭間に住む海の覇者、人は複数の名でそれを呼ぶ。海神、海の悪魔、直径10mは超えるだろうその8本の触手を見た者は最後、海の底にまで引き寄せられるという。

ポセイドンオクトパス――その食事の回数は数十年に1度、それまではずっと海底に身を潜んでいるが、その時が来た瞬間奴は誰よりも凶暴なタコと化す。触手が届く範囲なら例え自分より大きな生物でもどんどん食らいつくしていく、大昔こいつによって小さな島が沈んだという伝説まであるぐらいだ。数十年分の食事を一気に済ますためその海域の生態は高確率で崩壊。目につくもの、触手で触ったものは全て捕食する、まさにポセイドン。

 

ポセイドンオクトパスは浮上すると8本の触手を鞭のようにうねらせるとそのうちの数本を島にいる一夏たちに向けて放ってきた。

 

「のわっ!?」

 

マロボシはそれを跳んで回避、他の物は空を飛んで避けた。島に直撃した触手はそのまま大地を削り、自分の口元にまで運んでいく。

 

「島を食っている…!?」

 

「…あながち伝説も間違いじゃないってことか」

 

それに加えゴリゴリという音とともに海に高い波ができている。おそらく海底に沈んでいる豊富な海の幸を海底ごと削り取って食べているに違いない。

やがてその触手は近くにいたカミノクニクジラにまで伸びていく。鯨は鳴きながら必死に抵抗するもどんどんタコの方へ引き寄せられていく。あの巨体を引っ張れるとは凄まじい怪力だ。

 

「やばいぞ!鯨が食われる!」

 

「させるかぁ!!」

 

それを見ていた一夏、リンカ、ポニーの3人はタコへと突撃、各々の切断技を奴に向かって一斉に放った。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!高山分け!!!」

 

「コテレッグ!!」

 

「ボイスカッタァアア!!!」

 

3つの斬撃によって鯨に巻き付いている触手を斬ることに成功したが、何とトカゲの尻尾のようにすぐに生えて治ってしまった。

 

「ちっ!」

 

するとポセイドンオクトパスの目がカミノクニクジラから一夏たちへと移る。どうやら一夏たちを倒すことにしたらしい。飛んでる3人に次々と触手が伸びていく。

 

「コテ釘パンチ!!コテレッグ!!コテシールド!!!」

 

「竜巻みじん切り!!高山分け!!まな板シールド!!」

 

「ボイスマシンガン!!ボイスカッター!!音壁!!!」

 

迫りくる触手を攻撃で退かしたり防いだりするもその勢いが無くなる気配は無く、それどころか触手の連打にどんどん体力が削られていき押されている始末だ。

 

「調子に乗ってんじゃねぇええぞぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

するとそこで苛立ちが最高潮に達したのかポニーは周囲の触手を無理やり払いのけ、そのまま音玉をポセイドンオクトパスの上空に発射する。

放たれた音玉は内部で何度も反響し合い威力とサイズをどんどん大きくしていく。

 

「落ちろ!!音の雷鳴!!サンダーノイ――!!!」

 

「待て!そんなの撃つと近くのカミノクニクジラにまで当たるぞ!!」

 

「…ちぃ!!」

 

そのままポセイドンオクトパスに降り注ごうとしたが咄嗟の一夏の警告により中止させ、サンダーノイズを消した。

 

「落ち着け一夏!奴が触手を動かす直前を見極めるんだ!」

 

「箒…そうか!」

 

ここで箒に言われたアドバイスを活かし、3人はタコの触手の動きを完全に観察、そして伸びてくる直前にどう軌道を描くかを予測、先ほどまでの怒涛の連打を次々と躱していく。

 

「これならいける!」

 

しかし現実はそう甘くはなく、ポセイドンオクトパスは一旦全身を海に沈めた後、墨を大量に放出、周りの海をどんどん黒く染めていく。

しまった!これじゃあ直前まで触手の動きが読めない。その通りで黒い海の中からいきなり触手が迫ってきたため避け切れず激突、3人とも地面に叩き落とされてしまった。

 

「ぐっ…この!」

 

しかしすぐに起き上がり再びポセイドンオクトパスと対峙する。するとIS組の箒たちもISを展開させてそのタコへと突撃していく。

 

「私たちが相手よ!」

 

そう言って各々の武器で太い触手に立ち向かっていくが、先ほどの一夏たちと同じように少しは善戦するもすぐにその触手によって弾かれてしまう。

 

「きゃっ!?」

 

「くっ…何て強さだ!」

 

すると次にポセイドンオクトパスに動きが入る。タコは8本の触手を全て島の大地に付け、そのまま何と上陸してきたではないか。

 

「上がって歩いた…タコが…!!」

 

まるで蜘蛛の足のように触手を一歩前へ出し、ゆっくりとこちらに向かってくる。その大きさは見上げない限り全身を拝めない程の巨体で、そのサイズは最初から分かっていたがこちらと同じ舞台に上がられるとその大きさがより鮮明に分かった。

するとタコは口部分をこちらに向けて、弾状に捏ねられた墨をこちらに飛ばしてきた。

 

「遠距離攻撃まで!?」

 

急いで一夏たちはその場を離れて墨弾を回避、するとポセイドンオクトパスは何度も墨を発射してきた。

 

「まな板シールド!!」

 

墨弾が当たったところはどんどん黒く染まっており、綺麗な景色だったはずのヘブンオーシャンは見る見るうちに黒色に浸食されていく。

すると鼻の奥を急に異臭が襲い掛かってきた。

 

「だぁ!この墨くさっ!」

 

思わず涙を流してしまう程の激臭が墨から発せられる。一番嗅覚が強いリンカは鼻を両手で押さえながらゴロゴロとのたうち回ってしまう。

そしてさっき奴が海中に身を隠すためにバラまいた墨も異臭を出し、そこらに魚の死骸がどんどん浮かび上がってくる。

 

「やばい!このままだとカミノクニクジラどころかヘブンオーシャンの生態系がぐちゃぐちゃになる!」

 

「はやく何とかしないと!」

 

カミノクニクジラどころかヘブンオーシャンの運命まで任された一行、果たして一夏たちはポセイドンオクトパスを倒しヘブンオーシャンを守り、無事ミカエルフィッシュを捕まえることができるだろうか。




最近地震や台風やらで大変なことになっていますね、北海道民の皆様はどうか頑張って明日を生きてください!


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グルメ47 ポニーの力!

涼しくなってきたこの頃、夏も終わりましたね。


ポセイドンオクトパスは悠々とこの海を闊歩し、辺りに激臭を放つ墨をバラまいている。次々と魚の死骸が水面に上がり、カミノクニクジラもストレスを感じているように怯えた様子だった。

一夏たち一行は目の前の巨大ダコをどうやって倒すか一生懸命に考えていた。何しろサイズもデカくて力も強い、そして臭い墨まで吐いてくるなど厄介にもほどがある。

 

「触手を斬ってもすぐに生えてくる…かといって大きな攻撃はカミノクニクジラにまで影響を与えかねない…」

 

「じゃああのタコを急いでカミノクニクジラから離すぞ!」

 

そう言って一行は作戦に入る。

まずは鈴、箒、ポニーが蠅のようにポセイドンオクトパスの周囲を飛び回って注意をそらし、一夏とリンカ、そしてラウラが遠距離から攻撃する。それをどんどん後ろに後退しながら行うことでポセイドンオクトパスはそれを追う形になり、カミノクニクジラから引き離すというわけだ。

カミノクニクジラ自身もポセイドンオクトパスに怯えて逃げているため、その距離はどんどん離れていく。すると引き離している途中にポセイドンオクトパスが触手を箒と鈴に伸ばしてきた。

 

「しまっ――!」

 

「音壁!!」

 

しかし目前まで迫ったところでポニーが声で音の壁を作り、それを遮った。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「油断するなよノロマ…あっという間にやられちまうぜ」

 

そして数分それを続けているとカミノクニクジラがもう見えなくなるほど遠くにおびき寄せることに成功、これで思い切り攻撃ができるという訳だ。

 

「さぁ皆…思う存分行くぞ!」

 

「待ってました!!サンダーノイズゥウウ!!!!」

 

するといつの間にかポニーは上空に音玉を発射しており、先ほどはカミノクニクジラがいて撃てなかったサンダーノイズをポセイドンオクトパスに直撃させる。稲妻の如くノイズがその体に響き渡り、苦しみだす。

それに便乗するようにリンカ、そして箒と鈴もポセイドンオクトパスに接近、箒と鈴は雨月と双天牙月でその頭を斬り裂いた。

 

「50+50!!!100連ツインコテ釘パンチィイ!!!」

 

そしてリンカが両手でのコテ釘パンチである「ツインコテ釘パンチ」をぶつけ、ポセイドンオクトパスに100連分の超威力のパンチが襲い掛かった。

ここぞとばかりに攻めまくる一夏たち、それでもこの勢いは収まらない。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!!竜巻みじん切りぃ!!」

 

「はぁあ!!」

 

一夏の大量の斬撃、そしてラウラのレールガンが直撃。するとこれには耐えられなくなったのかポセイドンオクトパスは再び辺りを墨で汚し海中へと潜っていく。そしてそこから触手を飛ばしてきた。

墨で見えなくて避け切れないがこれはさっき受けた攻撃、もう皆見切っていた。迫りくる触手を次々と躱していく。

 

「逃がすか!エコーロケーション 魚群探知機(ボイスソナー)!」

 

ここでポニーは誰にも聞こえない超音波を発声、そしてそれで反響してきた音を耳で捕らえることによってまるでコウモリのように周囲を感じ取っていく。しかも水中は音が伝わりやすく地上と比べてより鮮明かつスピーディーに分かるのだ。超音波の探知に墨など関係ない。その中も音は伝わりポニーはそれを耳で感じるが…

 

(墨の中にいない!?じゃあどこに…!!)

 

そう思った時には遅く、いつの間にか後ろにいたポセイドンオクトパスによって触手で叩き落とされ水面にぶつかってしまう。

 

「ポニー!?」

 

一夏たちは慌てて彼女の所まで移動するも触手で遮られて思うように前進できない。ポニーは海の上で息を荒げて怒りの視線をポセイドンオクトパスに向けていた。

 

「このっ…墨の中にいたと思わせて移動してやがった…調子に乗りやがってぇええええ!!!」

 

父親譲りのその性格、ポニーは嘘を言われたり調子に乗ってる輩は誰よりも嫌っていた。しかしそれだけ父親ゼブラから譲り受けたものではなく、幼少期が原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が自分を「ゼブラの娘」と見て怯える、恐怖し、誰も近づかない。誰にも相手にされない。される時といえば自分に矛先が向かないよう媚びを売る行為だけ。その際言われた言葉とは裏腹に心拍数がその嘘を証明していた。

ゼブラから貰ったこの聴覚と音能力、これを使って嘘をつき調子に乗ってる奴は全部ぶっ倒していった。それは動物猛獣人間問わず、何でも潰していく。

父は26種の生物を食い殺して絶滅させた第一級危険生物、丁度いい――皆が自分を危険生物(ゼブラ)の娘としか見ないならお望み通りそうしてやろうではないか。

そう思ってポニーは自暴自棄になり、当時紛争地域を荒らしていた危険な猛獣を絶滅させようとした。何故その生物を選んだのかは分からない、彼女に残った唯一の優しさかもしれないだろう。しかし、その行為はとある男によって止められた。

 

「そんなに腹減ってるなら俺の店に来いよ!とびっきりのご馳走食わせてやる!」

 

一夏だ、一夏だけが自分を人間のように扱ってくれ、女として見てくれた。いや、それまでは本当に獣だったのかもしれない。だけど一夏と出会ったことで初めて人の心が分かった、恋心(・・)を抱いた。一夏がそれを教えてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…この!」

 

一夏たちは襲い掛かる触手に手間を取らせながら苦戦していた。皆疲労しておりIS組もエネルギーが底をつきかけている。そんな時、全てを払うように8本の触手が一斉に払ってきた。

 

「しまっ――!!」

 

結果全員がその触手に衝突され、痛みが全身を走った――はずだった。

 

「こ、これは…!」

 

箒たちは自分の体を覆っている半透明の鎧を見て圧巻している。これが触手から自分たちを守ってくれたのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 

「サウンドアーマー…まったく世話かけさせやがって」

 

「ポニー!」

 

すると海面に落ちたポニーが復活し、ジェットボイスで一夏の横に並んだ。

 

「一夏、俺ぁ腹減ったぞ。あのタコ絶滅させても(・・・・・・)いいか?」

 

「へっ…俺がとびっきりのタコ料理作ってやるからそれで我慢しろ!」

 

「そうかい…それは楽しみだ!!」

 

そして2人で笑い合い、再びポセイドンオクトパスと対峙する。こうして海神のタコとの戦いは続くのであった。




後書きでも書くこと無くなってきてるなぁ~なんてことを書いてる時点でもう駄目。


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グルメ48 合体技!

今回の台風の異動の仕方が日本潰すぞという悪意しか感じない。


「これは…音の鎧か?」

 

「何か不思議な感覚ね…」

 

音の鎧という自然界でも人間の手でも本来は作れない筈の物を始めて身にまとった箒と鈴とラウラ、その慣れない感覚を感じながらも自分たちを守っているサウンドアーマーを見ていた。

ポニーの能力は父親ゼブラから受け継いだ音の能力、そしてその耳はこの星の生物でも一、二を争う程の聴覚の持ち主、数十㎞先のコインの落ちる音も聞き分け、踏まえてその声帯が凄まじかった。

しかし(ゼブラ)同様、その能力にも限界がある。それは喉が枯れる(・・・・・)ことだった。

ポニーはリンカや一夏と比べて数倍の量の体力とエネルギーを持ち合わせている。しかし莫大な量のエネルギーを消費する音攻撃の使い手ではまだ全然足りないぐらいだ。本来ならば食事して回復するか時間が経てば治るが、ポニーはここに来る前から何も食べていない(・・・・・・・・)

天国の門突破時、ミカエルフィッシュを探すための魚群探知機(ボイスソナー)、そしてポセイドンオクトパスとの対戦。それら全てに声を使っているのになぜ食事をしないのか?

それは、一夏の飯が食べたいからだ(・・・・・・・・・・・・)。初めて会ったその日から、ポニーは一夏の料理の大ファン(本人にそれを言うと逆上される)。とどのつまり期待していたので腹を空かせていたという訳だ。

なので現在のポニーの声の残量はあまり残っておらず普通ならここで調節や節電ならぬ節声をするべきだろう。しかしそんなことはしない。

何故なら――ポセイドンオクトパス(こいつ)が本当にムカつくからだ!!

 

「ボイスミサイル!!!」

 

ポニーは口から音の爆弾を発射、それを防ごうとした触手たちを圧倒しタコ本体へと直撃させる。本当にミサイルのような威力に圧倒される。すると今まで全員を仕留めようとバラバラに動いていた触手が全てポニーの方へ伸びていく。

 

「マシンガンボイス!!ボイスカッター!!」

 

しかし迫りくる触手たちに恐れることなく真正面から音で迎え撃つ。1人の女性と1匹のタコが戦っているだけのはずなのに、まるでそこは戦争中のような爆音が鳴り響き、風圧も台風のように起きていた。

 

「一夏ぁ!!リンカァ!!他の奴らも今だ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

全ての触手をポニーが1人で捌いている最中、一夏たち他の全員はタコの頭へと一気に加速、各々の武器を構えて突っ込んでいく。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)!!高山分け!!」

 

「コテレッグブーメラン!!」

 

「「「はぁ!!」」」

 

そして一斉に頭を斬り裂き、奴の頭部に大きな切り傷を作った。遠くから見てしばらくしても再生する気配は見られない。どうやら再生機能があるのは触手部分だけのようだ。

 

「よし!皆頭を狙え!!」

 

そう言って一行は全員ポセイドンオクトパスの頭に狙いを定める。

 

「じゃあアタシも――ノイズロック!!!」

 

ここでポニーは音で鎖のような形状の物を作り、それで触手8本を全てまとめて締め上げた。ポセイドンオクトパスは触手に力を込めて精一杯その鎖をぶち壊そうとするも全然壊れない。

奴の触手を拘束した後、ポニーもジェットボイスで加速、頭へと飛んで行く。

 

「ビートパンチィ!!!」

 

拳に音を乗せた「ビートパンチ」が炸裂、その効果は音が内側から組織を破壊、ポセイドンオクトパスは苦しんだ様子で暴れまくる。

 

「ビートレッグゥ!!」

 

そこから更に音を乗せた蹴りを当て、さらに内側からの衝撃を与えていく。そして次は箒と鈴が突撃する。

 

「せいや!」

 

「これでも食らいなさい!」

 

2人の斬撃によってポセイドンオクトパスは更に切り傷ができていく。さっきまでポセイドンオクトパスの方が優勢だったはずなのにいつのまにか一夏たちの方が押していた。

するとタコはようやくノイズロックを破壊。8本の触手を自由にし、そこから鞭のように動かしまくった。

 

「ぐぁ!」

 

「きゃっ!?」

 

一行はその触手の扱いに圧倒され弾かれてしまう。ポセイドンオクトパスは触手を鞭として振り回し自分の周囲を囲む。

 

「これじゃあ近づけんぞ…!!」

 

「ポニー…ここは合体技でいくわよ」

 

「…合体技ぁ?」

 

リンカがそう提案してくるも覚えが無いのかポニーは首を傾げる。それを見て呆れた様子で説明するリンカ。それは彼女たちの修行時代に編み出した技だった。

 

「昔よくやったでしょうが!」

 

「覚えてねぇな…」

 

「もう…一夏と皆はあいつの触手をお願い!私たちで頭を叩くわ!」

 

「わかった!」

 

そう言って一夏とIS組は一気に飛び、振り回されている触手を刃物で受け止めたり切ったりしながらその動きを抑制させていく。いつしかポセイドンオクトパスは4人の相手をすることに精一杯になっていた。

 

「ほらあれよ!アンタが音をバァー!ってやってそれに合わせて私が…」

 

「ああ、あれか!」

 

一方リンカとポニーはポセイドンオクトパスの遥か真上に移動、海を見下ろす形になった。

 

「失敗するなよリンカァ!」

 

「あんたに言われなくても!」

 

そしてポニーは音の爆弾を口から一気に発射、それに後ろから押されたリンカはその勢いで一気にスピード上昇、真上から落ちる形で拳を構える。

ポセイドンオクトパスも彼女たちが何を企んでいるか気づいたのか、触手を一気に集めて盾にしようとしたがそれを一夏たちが阻止する。

 

「やれぇ!リンカァアア!!」

 

そして加速したリンカがポセイドンオクトパスの頭部に凄まじい威力の拳を当てた。

 

 

「音速コテ釘パンチィイ!!!」

 

 

ポニーの音によって威力とスピードが何十倍にもパワーアップしたリンカのコテ釘パンチである「音速コテ釘パンチ」がポセイドンオクトパスの頭部の中心に命中。

軟体な体に何発もの衝撃波が連発し、その一発一発が炸裂するたびに奴の体は海に押され、波紋のように波も広がっていく。

その光景を見ていたポニーは昔のことを思い出していた。

 

 

 

 

『はぁ!?リンカ以上のフルコースを揃えたらお前のコンビになれぇ!?』

 

『だったら条件を出す!お前は必要以上に生き物を殺すなよ!それだったら考えてやる!』

 

『…「じゃあお前は無料(タダ)でアタシに飯を提供しろ」?だったらまた条件がある!』

 

ーーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

『最後の条件だ!…リンカを、あいつに力を貸してやれよ。もしピンチになった時や協力が必要になった時は…必ず!』

 

 

 

 

「約束したからな、嘘をつくふざけた真似はしねーよ」

 

そしてポセイドンオクトパスの体はリンカとボニーの合体技の威力に耐えきれず、そのまま爆裂していった。

こうして海神は、バラバラになって敗れたという。




次回、いよいよエンゼルフィッシュ実食です。


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グルメ49 さらば天国の海!

最近また太ってきた…


「やったー!倒したー!」

 

崩れていくポセイドンオクトパスの亡骸を見て一行は歓声を上げる。皆で力を合わせて強大な敵を倒せたのだ。その達成感は尋常じゃない。

その中リンカとポニーだけが汗を垂らしながらハァハァと息を荒げている。久しぶりの合体必殺技「音速コテ釘パンチ」を使ったためか疲労が残っている。

その後お互いの顔を見合わせ、両者顔を崩し拳を合わせた。

 

「ふぅ…何とか倒せたな」

 

一夏も笑い顔の汗を拭う。恐ろしく強いタコだった。皆の力があったからこその勝利だと一夏は思う。

するとそんな時、マロボシが慌ててやってきた。

 

「おーい!皆~!」

 

「あ、マロボシシェフ。そんなに慌ててどうしたんですか?」

 

「カミノクニクジラが出産しそうなんだ!潮を吹くぞ!」

 

「えぇ!?」

 

そうだ、勝利の達成感ですっかり忘れていたが、本来の目的はポセイドンオクトパスではなくミカエルフィッシュ。カミノクニクジラが潮と共にその魚を噴き出すのだ。

一行は急いで鯨の元へと急ぐ。到着してみるとカミノクニクジラがそこでプルプルと震えていた。一夏はそれを捕まえようとグルメケースの準備をし、そこにヘブンオーシャンの海水を入れるがそれをマロボシが止めた。

 

「ミカエルフィッシュをグルメケースに入れるにはカミノクニクジラの潮以外の水だと魚が不味くなるぞ?」

 

「えぇ!?そうだったんですか!?」

 

ここにきて意外な真実。ミカエルフィッシュは自分の体に合った海水を求めカミノクニクジラの潮の中に移動した。そのためそれ以外の海水につけると味が劣化しストレスで死んでしまうのだ。

 

「そんな!あいつの潮水なんて取ってませんよ!」

 

「どうすんのよ!?」

 

このままだと折角のミカエルフィッシュが台無しになってしまう。全員が慌てて解決策を考えていたその時、箒が手を上げる。

 

「潮は取ってあるぞ。後で飲もうとペットボトルに」

 

「あ!そう言えばアンタ入れてたわね!」

 

「でかしたぞ箒!今回のMVPはお前だ!」

 

早速一夏は箒のペットボトルを受け取りその中の潮水をグルメケースに入れた。するとグッドタイミングのようにカミノクニクジラがピークに達し大きく鳴く。そして次の瞬間、背中の穴から思い切り潮を噴き出した。さっきの時の潮とは勢いが違う、噴水から消防車のホースのように水圧が高まっている。

そして同じようにお目当てのミカエルフィッシュも数匹飛び出してきた。

 

「あれがミカエルフィッシュか…!」

 

「なんて綺麗さなのよ…」

 

その体はプラチナのごとく白銀に輝いており、まさしくそれは天使のような美しさであった。大きさは普通の鮭程度、打ち上げられたミカエルフィッシュたちは宙で必死にヒレを動かしている。

それを見た一夏は一気に加速、凄まじいスピードながらも優しく触れるようにミカエルフィッシュを受け止めた後、流すようにグルメケースへと入れた。瞬間、ケース内の潮水もミカエルフィッシュの輝きに同調するかのように発光を始めた。

 

「すげぇ…まるで宝石みたいだ…」

 

するとカミノクニクジラの方を見るとその傍に小さな鯨が生まれている。あれが赤ん坊なのだろう。

 

「ようこそ、グルメ時代へ――!」

 

その出産を祝うようにそう呟くと、カミノクニクジラが再び震え始め、出産を終えたというのに再び潮を噴き出した。それに伴いミカエルフィッシュも出るが、その数はさっきのとは比べ物にならない程多く、潮水を噴き出しているというよりかはミカエルフィッシュの大群を出しているように見えるほどだ。

 

「うおおお!?こんなに出んのかよ…!」

 

「…恐らく一夏君たちに礼を言っているんだろう。自分と子供を守ってくれた礼をな」

 

「駄目だ俺一人じゃ足りねぇ!皆も手伝ってくれ!」

 

「「「おう!!」」」

 

そう言って一夏は全員にグルメケースを配りその中に潮水を入れていく。そして総員であふれ出るミカエルフィッシュを受け止めに行った。

いつしか一夏が持ってきていたグルメケース全部にギリギリ入り切るような数のミカエルフィッシュを捕まえることができた。まるでその輝きは宝石の山のようだった。

 

「よし!こんなに数があれば俺たちが食う分もあるだろ!マロボシシェフ!手伝ってくれませんか?」

 

「面白いものを見せてくれたんだ。喜んで手伝おう」

 

「ありがとうございます!リンカたちは他の海の幸も採ってきてくれ!」

 

そう言って一夏とマロボシは雲渡り食堂に向かっていく。他の者は食材の調達を命じられた。

 

「ミカエルフィッシュの競争は決着がつかなかったんだ。今度はどっちがより多くの食材をとってくるかで勝負だ!リンカ!」

 

「望むところよ!」

 

「わ、私だっているんだから!」

 

ここでリンカとポニー、それに加わるように鈴が海に向かっていく。箒とラウラもその後ろをやれやれと呆れながら付いていく。

数時間経てばミカエルフィッシュの料理に加え、大量の海の幸の料理がそこに並べられた。

 

「よし!この世の全ての食材に感謝を込めて…」

 

「「「いただきます!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ早速刺身を食べてみよう…」

 

まずリンカが手を伸ばしたのは白銀に輝く刺身、ミカエルフィッシュの身は中身まで白色に輝いていた。

箸でつまみ醤油をつけ、そっと口に入れてみる。

 

(大トロの数倍に匹敵するこの油と甘み!それなのに上品な甘みでいて…なんともインパクトの強い味…!)

 

「かぁ~!こんなに美味い刺身は初めてだ!」

 

「うわ千夢!いつのまに!」

 

千夢もいつからか混じっており、どんどんミカエルフィッシュを食していく。

 

(この寿司…シャリとネタが絶妙な触感でとても合っている…どんどん口の中に入れてしまう。病みつきだ…!)

 

(こんなに甘い身だから天ぷらなんて合わないと思ったのだが…揚げると香ばしさとこの魚の旨味がスッと口の中に流れて鼻から出ていく…!)

 

「他にもあるぞー!どんどん食ってくれ!」

 

こうしてその宴は一晩続き、皆がヘブンオーシャンに感謝しながら食材を口にしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして依頼者に渡す分のミカエルフィッシュを残し、一夏たちはヘヴンオーシャンから帰る準備をする。

マロボシはまだこの海に残るという。

 

「一夏君、君の料理は大変興味深い。フェスで再び会うのを楽しみにしてるよ」

 

「はい!俺も勉強になりました!」

 

そして一行は千夢のグルメアクアマスターに乗り込むが、ポニーだけは行きと同じようにボートで帰るらしい。

 

「本当に乗ってかなくていいのか?いくらそれで天国の門を突破できるとはいえ疲れるだろ?」

 

「ふん、アタシはアンタラみたいに乗り物には頼らないのさ」

 

「そっか…じゃあまたどこかでな!」

 

「…」

 

するとポニーは急に黙り込むと、無言でジェットボイスで一夏のところまで加速、瞬時にその唇を奪った。

 

「なぁ!?」

 

「今度はお前を食うぜ、一夏」

 

そう言ってボートに乗り込み、ジェットボイスを応用してそのまま一気に水平線の彼方へと突き進んでいく。

 

「千夢ゥ!あいつ追いなさい!」

 

「リンカさん落ち着いて!」

 

「早く行きなさいよ!」

 

「なんで鈴まで怒ってるんだ!?」

 

こうして慌ただしく終わりながらも、こうして一行はヘヴンオーシャンを去った。




これでグルメオーシャン編は終了です。次は単発回をやろうと思います。


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グルメ50 キノコ狩り!

最近凄く寒くなってきましたね。真冬にもなってないのに布団から出られなくなるとか冬が怖い。


「キノコ狩り?」

 

「ああ、今から行く山はキノコも含め沢山の秋の食材が豊富なところなんだ」

 

一夏たち一行は自然の中を突き進む列車に乗っており、その中で次の食材のことを説明していた。

 

「そこで採るのは『黄金マツタケ』。1本数千万は下らない程の価値で、味、希少価値のどちらとも最高クラスのものだ。人間界で採れるキノコ食材の中では指折りに入る程の旨さらしい」

 

「元々はグルメ界の高い所に生えている食材だったんだけど…その胞子が風や台風に乗って奇跡的にこの人間界に入ってそれが繁殖したの」

 

「…数千万じゃもう驚かなくなってきたな」

 

IS世界とグルメ世界の金銭感覚の違いに最初は困惑しまくりだった春十たち、今となってはそれも慣れ数千万という大金の数字にもそこまで驚愕の反応を見せなくなってきた。

 

「この間のタカラブネウナギみたいに一攫千金を狙っている人たちも多い。黄金マツタケは稀にしか生えない幻の食材、この時期に生えるのは分かっているが詳しい分布とかも判明してないしな。本当に徳川埋蔵金を見つけるみたいなもんだよ」

 

「トクカワマイゾウキンって何?」

 

「ああリンカは知らねぇか、トクカワマイゾウキンっていうのはな…」

 

そうこう雑談をしている間に、列車の窓からの景色は緑色から色鮮やかな赤と黄色に染まっていく。そして目的地の駅で降り駅を出てまず最初に見えたのは、森全体を綺麗に染め上げている紅葉の山々だった。あまりの壮快感に圧倒されつつも、ゆっくりと歩きつつ山から目を離さない。

 

「なんと綺麗なんでしょう…」

 

「日本にもここまで立派な紅葉景色はそうそうないぞ…」

 

「この山のどこかに黄金マツタケがあるらしい。まぁこんな広大な山々からチマチマ探すのは骨が折れるから、ここはリンカの鼻に頼ろう!」

 

「任せて!」

 

すると一夏に頼られて嬉しいのか元気よく返事するリンカ、彼女の警察犬以上の嗅覚を以てすれば確かにキノコ狩りなど楽勝かもしれない。

 

「そう言えば美食屋以外にも人沢山いるのね」

 

「ああ。ただ黄金マツタケが採れる山ってだけで有名になったんじゃなくて、普通の紅葉狩りみたいな旅行先としても人気があるんだよ」

 

良く見れば家族連れや体格の凄い美食屋、名のある料理人だってチラホラいる。その中、見たことのある顔がそこにいた。

 

「あ、セリアじゃないか」

 

「ヒヒ…一夏さんも来てたんですね」

 

それはかつてIS世界にも援助として来てくれたことのある料理人である「セリア」だった。ランキング55位のプロ、キノコの専門の店だ。

 

「お久しぶりですセリアさん、この説はお世話になりました」

 

「向こうの世界の子たちまで来てるんだ…ヒヒ」

 

「この季節、セリアも良く来てるのか?」

 

「…最近では週5で」

 

「ほぼ毎日!?」

 

そんなに来てるなら店はどうしているのだろう?まぁキノコの料理人である彼女から見てもこの山は宝の山だろう。早速一夏たちはセリアと共に山の中へと足を踏み込んでいく。

見渡す限りの紅葉で、爽やかな風が頬を撫でる。リンカとセリアが先行して他の皆もその後についていっている。その道中にも秋の食材が沢山実っていた。

 

「『白銀柿』に『紅葉マロン』、『百房ブドウ』と『ビターサツマイモ』。まだ結構麓付近なのに高級食材が結構眠っているな」

 

「うーん…他の食材の匂いが混同して分かりにくいわね。まずマツタケの匂いすら捉えられないわ」

 

こんなに沢山の食材があることが逆に仇となった。山の幸が豊富な分黄金マツタケが隠れてしまう。するとここでセリアがリンカより前に出た。

 

「ヒヒ…私に任せて。私の鼻は胞子限定で誰よりも利くから…」

 

「おお!そういえばそうだったな!」

 

セリアのキノコ探しの能力においては右に出る者はいない。その理由はその出自にあった。

 

「一夏、セリアさんってどんな人なんだ?」

 

「セリアはね春十兄、元々はキノコ料理を主流とした部族で、世界に自分たちの一族の味を広めたくて料理人になったんだ。まぁ都会に来たせいか根暗な性格になったけど…」

 

「ヒヒ…それを言わないで」

 

「だけど部族で培ったキノコの調理法とその探索法は誰よりも優れている。キノコの名人といっても過言じゃない」

 

現にセリアはその性格とは別にどんどん自信満々に森の中へと突き進んでいく。いつしか周りもキノコがチラホラ見かけるようになり、数十分もすればキノコがカーペットのように敷き詰められて生えていた。

 

「おお!キノコ天国じゃないか!」

 

「よーし、ここから黄金マツタケを探すぞー!」

 

キノコを踏まないよう気を付けながらゆっくりと歩き、片っ端から採って籠に入れていく。まるで雑草取りのように皆屈んで一生懸命に採取していった。

 

「『マシュマロエリンギ』『猛々シイタケ』『乱舞茸』、うひょーまだまだある!」

 

「あ、そのキノコ毒キノコ…ヒヒ」

 

「凄いな…毒キノコだって即座に分かるのか」

 

セリアに頼りながらも一行は籠一杯になるまでキノコを採っていく。それがしばらく続いていると、春十がようやくお目当てのものを見つけた。

 

「見つけたーこれだろ!どう見ても黄金だもん!」

 

「見つけたのか春十!」

 

黄金色に輝く1つのマツタケ、その輝きはまるで太陽のようで辺りを照らしている。

黄金マツタケだ。それも――

 

「ちょっと、こっちに大量にあるわよ!」

 

「本当だ!ラッキー!」

 

「でかしたぞ春十!」

 

幻の食材という名が嘘のように大量の黄金マツタケが生えてきた。皆目の色を変えて必死に採っていく。いつしか2個目の籠は黄金マツタケで溢れ、史上例を見ない程の大豊作となった。

 

「これならフェスの委員会にも売れる…少し食っていくか!」

 

「待ってました!」

 

そう言って一夏はノリノリで七輪を鞄から取り出し、早速火を点け黄金マツタケを含めキノコ食材をどんどん捌いていく。そしてどんどん七輪の上に乗せて焼いていくと、一夏は瓶を取り出しその中に入っている塩を振りかけた。

 

「あれ一夏、その塩ってまさか…」

 

「お、匂いで分かったか?ヘブンオーシャンの海水を煮詰めて塩作ってみたんだ。多分あの海の水なら上等な味の塩になると思ってな」

 

そう言って一行は一夏とセリアが調理したキノコ料理をどんどん口の中に入れて頬張り始める。瞬間、全員の顔が蕩けた。

 

「あぁ…この上品ながらもステーキのようなジューシーさ…」

 

「噛んだ瞬間濃厚な松茸の香りが広がってたまらない…」

 

「それを塩味が更に引き出しているぞ…!!」

 

こうして採った黄金マツタケを全て食べそうになるも何とか堪え、一行は日が暮れるまで秋の食材を味わい続けた。

 

「で?一夏、次はどこに行くんだ?」

 

「ああ、次は『マグマカレー』を手に入れるために『ドーイド火山』に行くぞ!」




この作品もそろそろ1周年を迎えます。よく1日も休まずに投稿し続けられたなぁ…


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グルメ51 再び太陽の子!

今回からマグマカレー編です。そして今回は短めで、コロナが出ます。


場所は織斑食堂。休みになっているこの店の中で、一夏とリンカ、そしてIS組が集まっていた。壁には中心に山が書かれた地図が貼られており、一夏たちはそれを説明しているところであった。

 

「次のターゲットはここ!西にある大火山の『ドーイド火山』にある『マグマカレー』だ!」

 

「「「……マグマカレー?」」」

 

しかしいくらこの世界に慣れてきた春十たちでも流石に食材の名前を聞いただけでその詳細は予想できない。聞いたことも無いそのカレーの名前に首をかしげる。

するとリンカが説明しだした。

 

「マグマカレーというのは、火山に流れる名前の通りマグマのように流れて噴火するルーよ。元々マグマカレーが流れている火山は人間界にも(・・・・・)沢山あるけど、一番美味しい味のルーはこの『ドーイド火山』」

 

「か、火山のマグマを食べるのか……」

 

マグマを食べる、想像したことも無い話であんなものを食べるとなるとまず口の中にすら入れられない。もし入れたとしても口内が火傷とかの話で済むわけがない。

 

「まぁノッキングマスター(・・・・・・・・・)のフルコースにも似たようなのがあるし、そもそもマグマカレーは最近調理法が発見された(・・・・・・・・・・・)食材だ」

 

「そうなのか一夏?」

 

「ああ。かつてのランキング4位、カレーの王様とも言われた『ダマラ・スカイ13世』シェフが、ルーの中にある有害物質の除去方法を発見したんだ。今まではその有害物質が除去できなくて食べれなく、戦争時代には井戸の中に入れる毒代わりにもなってたとも聞く」

 

ダマラスカイはカレーの調理に長けた料理人、長年調理不可能と言われたマグマカレーを小松シェフ(・・・・・)と共に研究し、長い月日をかけてようやく有害物質の取り除き方を見出したという。

これによりカレー界は大きく一変、更に火山ごとに味も辛さも違うことが分かり、調理法が発見された日からも多くのグルメ研究者がそれに携わっていたという。

その結果、ドーイド火山のルーが一番美味だということが判明した。

 

「それにより廃れていた火山周辺の村々は一気に開発が進み、尚且つ様々な種類の温泉も掘り出されたから今となっては観光都市になってるわ」

 

「確か飲むと美味しい(・・・・・・・)温泉もあったよな?」

 

「……流石別世界」

 

自分たちの世界とは常識も環境も全然違うことを改めて再確認するIS組、しかしそれでも話は進む。

 

「問題なのはその環境!マグマを取りに行くとなると火口付近に行くことになるから暑いぞ。その気温はサンドガーデンにも並ぶという」

 

「それに捕獲レベルの高い猛獣もわんさかいるわ、まぁ今までの旅通り危険ね」

 

「そうか……」

 

「そこで今回は、希望者だけを同伴させようと思う!」

 

一夏がそう言うと真っ先に手を上げたのは春十であった。

 

「まぁ俺もこういうのは経験しておいた方が良いからな!」

 

「……じゃあ私も」

 

すると今度は簪が手を上げた。

 

「私、今までの旅に一回も同伴したこと無かったから……」

 

「そうか!他にはいるか?もう1人欲しいけど……」

 

「うーん……どうしましょう?」

 

そこでもう1人がなかなか決まらない。皆今までの経験から怖がっているのか、もしくは疲れているのか率先して名乗り出ようとしなかった。

しかしそんな時、鍵を閉めていた筈の扉が勢いよく開けられる。一体何事かと全員がそこを向くと、髪の長い女性が両手で扉を開けている。

 

「お前は……コロ――!!」

 

「一夏様ぁあああああああああああああ!!!!」

 

それは美食屋四天王サニーの娘「コロナ」、奥にいる一夏を目に捉えると跳びかかり、抱き付いた後自分の髪の毛でぐるんぐるん巻きにした。

 

「お、おいコロナ!」

 

「一夏様!毒女と獣女から聞きましたわ!私ともあろうものがいるのに何故連れてくれないんですの!?あの2人に憎たらしい程自慢されましたわ!」

 

「ちょっとアンタァ!何抱き付いてんのよ!!」

 

コロナは一夏を拘束し、一夏はそれから抜け出そうとし、そしてリンカは2人を一生懸命引き剥がそうとする。静かだった食堂は一気に騒がしくなり、IS組はポカーンとそれを見ている。

 

「だ、だったら次の旅……お前も行くか?」

 

「いいですの!?」

 

「ちょっと一夏ァ!?」

 

こうしてコロナの同伴も決まり、ようやく行くメンバーが揃った。

 

「今回の旅で私の美しさと華麗さを見せつけて、今度こそ一夏様のハートを奪って見せますわ」

 

「……ムッ」

 

するとコロナの発言を聞いた鈴が急にムスッとなる。そしてそのまま立ち上がり、さっきは見せなかったやる気を急に出してきた。

 

「私も行くわ!!」

 

「え?良いのか鈴……この間ヘブンオーシャンに行ったばっかりだろ?」

 

「良いから同行させて!!」

 

「あ、はい」

 

こうしてドーイド火山に向かうメンバーは一夏、リンカ、コロナ、IS組からは春十、簪、鈴という6人のメンバーとなる。

そして今回も、旅は険しくなるのであった。




最近寒さが本格的になってきましたね。マスクも付け始め、皆様も風邪には気を付けてください。


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グルメ52 温泉街!

祝!1周年!


「ついたぞ!ここがドーイド火山の入り口がある『ステナ温泉街』だ!」

 

赤い大地に湧き出る温泉、立ち上るのは無数の煙。入り口から一本の坂道を渡ってその先にあるのは大きな火山であった。ドーイド火山のマグマカレーの価値発見のおかげで発展してできたこの温泉街、浴衣を着た観光客などで溢れかえっている。

メンバーの一夏、リンカ、コロナ、春十、簪、鈴がそこに訪れていた。全員準備は万端でリュックガパンパンになっている。

 

「凄い人ね~」

 

「このステナ温泉街は人間界にある健康目的の観光地としては指折り、癒しの国ライフと人気度が並んできているわ」

 

「ライフは健康、美容に特化したところだがこのステナは温泉だけ。寧ろ温泉街ではナンバー1だ」

 

ちなみにこのステナ温泉街はライフ同様、コロナの父であるサニーが良く訪れる場所でもあった。美容効果のある温泉が有名でそういう観光スポットとしての知名度もある、女性にも人気がありまさに完璧としか言いようのない温泉街であった。

 

「一夏、少し寄って見ようぜ!」

 

「まぁ仕事前の英気を養うには良いかもな、少し回ろう!」

 

そう言って一行はマグマカレーゲットの前の観光をしだす。出店やお土産が多く並んでおり、沢山の人で賑わっていた。すると春十があるものを見つける。タマゴの殻を見立てて作られたその店の奥には、沢山の黒い卵が並べられており、看板には「湯竜温卵」と書かれていた。

 

「お!やっぱりあった温泉卵!」

 

「へいらっしゃい!ドーイド火山付近に生息している『ユブネリザート』の卵を温泉卵にしたものだよ!一個300円!!買った買った!」

 

早速全員分買い、その黒い卵を頬張っていく。すると中から綺麗な黄身が飛び出してきた。黄金色に光っており、そしてなんと殻も食べることができた。

 

「うーん、この濃厚な黄身の味わい……これ他に味付けされてる?」

 

「お、良く分かったな!このステナ温泉街には茹でると食材を美味しくできる不思議な温泉があるんだ!」

 

「卵も美味しいけど……この食べられる黒い殻、このパリパリという触感と共に程よい塩味が感じられる……」

 

「他にも美肌効果ばっちしの温泉水と美容水を混ぜ合わせて作った化粧水も売ってるぜ!」

 

「一夏様一夏様!!」

 

するとコロナは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせてピョンピョン跳ねながら一夏の方を見る。

 

「はいはい後でな」

 

しかし化粧水なんてものは後でもいいのでスルー。そして一行はさらに奥へと進み、やがて屋台ゾーンからいくつもの温泉の場所へと到着。様々な種類の温泉がそこに存在していた。

 

「『美肌温泉』『コラーゲンの湯』……あの『潤い温泉』なんて混浴ですわよ一夏様!」

 

「いや、どうせなら火山行って汗かきまくった後に入ろうぜ……」

 

混浴という言葉を聞いて何とか誤魔化す一夏、するとリンカが顔をマグマのように真っ赤にしてコロナに掴みかかった。

 

「あんたぁ!モラルを大事にしなさいよモラルを!」

 

「貴方みたいな下品で醜い女性にモラルを説かれたくないですわ。もう少し自分のご身分を自覚なさってから言ってくださいな」

 

「何ですってぇ!?」

 

今にも爆発しそうな一触即発の雰囲気となり、リンカとコロナは睨み合うが他の面々はそれを傍観しているだけであった。

 

「あの2人、どういう関係なの……?」

 

「リンカとコロナは従姉妹なんだ。師匠のコンビの奥さんのお兄さんの子供」

 

「……一夏目線で説明されると遠く感じるんんだけど」

 

ちなみに一夏とコロナが知り合ったのはリンカが紹介したのがきっかけで、リンカも「こうなるんだったら紹介するんじゃなかった」と若干後悔している。

そうこうしている間に2人の喧嘩が徐々にヒートアップ、流石にこんなところでコテと触覚をフル活用している喧嘩をされたらたまったもんじゃないので、一夏が間に入って何とか宥める。

 

「まぁまぁ!後の温泉を楽しみにすればそれほど今回の旅に力が入るもんさ!な!?」

 

「……私は温泉に興味はないかな。ただマグマカレーの味が知りたいだけで」

 

「ま、貴方みたいな獣のような人には分からないでしょうね」

 

「ムキー!!」

 

「やめろって!」

 

再びいがみ合う2人を何とか落ち着かせ、一行は更に奥へと進んでいく。すると温泉施設がどんどん少なくなっていき、目の前に大きな関所がそびえたっている。周りには美食屋や冒険家などがゾロゾロと集まっていた。

 

「ここがドーイド火山への入り口だ。一般人は当然立ち入り禁止だが、まぁリンカとコロナがいるから俺たちでも通れるだろ」

 

「一夏様こそランキング入りを果たしたプロの料理人ですわ!つまり私と2人っきりで対等な立場ということ!」

 

「何で私を除いているのよ!」

 

「ははは……兎にも角にも厳しい旅になるぞ!!」

 

そう言って一行は受付を澄ませ、その関所を通っていざドーイド火山へと向かった。




この作品も1周年を迎えました!これも皆様の応援あってのことです!本当にありがとうございます。これからもこの作品をお願いします!

1周年ということなので宣伝
なろうでも執筆活動中、寧ろこっちがメインなので是非ご覧ください!
https://mypage.syosetu.com/1276534/

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グルメ53 コロナの能力!

最近布団から出るのが困難になってきました。そろそろ炬燵も出そうかと思っています。


「ここは一般人立ち入り禁止だよ……って料理人一夏に美食屋のリンカ、コロナじゃねぇか!!」

 

「フェスの依頼でマグマカレーを採りに来ました。通してもらえますかね?」

 

「どうぞどうぞ!お連れの方々も大丈夫ですよ!フェス応援してますからねー!!」

 

大きな関所にいる気さくな門番の声援を受けながら、一夏たちはドーイド火山へと1歩踏み出す。自分たち以外に登山者は殆どいない、目の前には山頂へと続く道だけがあった。

 

「マグマカレーはな、説明した通りマグマのように噴き出すカレールーだ。だから手に入れるためにはマグマの温度にも耐えられる入れ物が必要だ」

 

「そんなのあるのか?」

 

マグマの温度は基本的に800~1200℃、火山によってバラツキがあるが超高温というには変わりない。そんなものを入れられてかつ保存もできるケースがあるかどうか春十たちは不安なのだ。

そこで一夏はリュックからある物を取り出す。今まで春十たちが見てきたグルメケースとはデザインも大きさも異なり、まるで1つの機械のようであった。

 

「そのためにこの特殊チタン合金グルメケースを買っておいた!!グルメ界にある『チタンクラブ』の骨格を加工して作ったもので、高かったが奮発した買ったんだよ!」

 

「それ確か5000万するやつよね?アンタにしては珍しいじゃない」

 

「「「ごせッ……!?」」」

 

「ああ、自分のご褒美にな。前々から買いたいとは思っていたんだ~!マグマカレーのような超高温食材専用のグルメケース、このサイズの奴すぐに売り切れるからな」

 

果たして5000万もする入れ物がそんなペースで売り切れるのか、IS組の金銭感覚では一夏の買い物感覚も理解できなかった。

ちなみにそのグルメケースを買った場所は「グルメタウン」の「グルメデパート」、グルメケースの他にもメルク包丁や栗坊鍋など、他の高級調理道具なども売っている場所である。

ちなみにグルメ界に生息するチタンクラブ、本来グルメ界の生物の素材など市場には出回らないが、それはグルメ界にも行ける美食屋たちの活躍によるものだ。

一行が登り始めてから数時間、周囲の気温はどんどん上がっており汗をかいてない人間は1人もいない。

 

「あっついわねぇ……!」

 

「なんか……カレーの匂いもしてきたよ」

 

「山頂に近づいてきている証拠だ!ふんばれよ!」

 

「お、一夏!なんかあるぞ!」

 

全員がその熱さに疲労していると、その中春十が何かを見つけて指を指す。そこには周りには草も生えていないのに沢山の黄色い花や野菜が生えている。

 

「『チーズコスモス』に『黒色らっきょう』、どれもカレーによくあう食材だな。皆ありったけ採っていけ!」

 

チーズコスモスは花弁1枚1枚が美味しいチーズのコスモス、黒色らっきょうはその名の通り黒いらっきょう、他にもカレーのトッピングにはぴったりな食材があった。次々とその食材を採取し、一行はその先にと移動を再開する。

すると、前方を歩いていた一夏、リンカ、コロナ、が同時に立ち止まった。

 

「どうした3人共……?」

 

「……来るぞ!」

 

瞬間、前方の坂に幾つもの凸凹ができたと思いきや、そこから大量の猛獣が飛び出してきた。巨大な豚で群れを成して一夏たちの方へ走り出していく。その勢いはまるで土砂崩れのようであった。

 

ピッグクライミング〈哺乳獣類〉捕獲レベル34

 

「ピッグクライミングだ!山頂近くに生息して獲物が来ると一斉に突撃する獰猛な豚!!」

 

「あー!醜い!!」

 

泥だらけの姿で突撃してくる姿が気に入らないのか、コロナは鳥肌を立たせて罵詈雑言をぶつける。しかし他の者にとっては醜いというより恐ろしいに近い。

 

「そう言えばピッグクライミングのトンカツは絶品だったな、カレーによく合いそうだ。頼めるかコロナ?」

 

「うぅ……触れるのは嫌ですけど他ならぬ一夏様の頼みならば……」

 

そう言うとコロナは嫌々とした顔で前へ出て迫りくるピッグクライミングの群れに対面する。すると彼女の色鮮やかな髪が一気に靡いたと思いきや、突進してきた豚の群れは全て転倒し倒れてしまう。

 

「な、何だ!?何が起きたんだ!?」

 

「コロナの触覚(・・)だ。あいつは見えない大量の髪を触覚のように操って戦うのさ。今ピッグクライミングをそれでノッキングしたんだ」

 

「コロナの触覚が届く範囲で叶う猛獣はいないわ。名付けてコロナゾーン及びダイニングキッチン――!!」

 

「まぁ、こんな美しくもなく品性も無い豚に自慢の髪で触れるのは少々嫌ですけどね」

 

こうして一行はドーイド火山の更に上へと歩いていく。

その先に、とんでもない猛獣がいることも知らずに。




入間基地の航空祭に行ってきました!ブルーインパルスめっちゃかっこよかったです!


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グルメ54 火口到着!

「……あっつぅ~~」

 

そう鈴は言い零したが、一体何度目の暑さへの訴えだろうか。しかしそれは鈴だけの話ではなく、この場にいる殆どの人間が言っている言葉であった。

ドーイド火山の山頂には大分近づいており、その分気温も高まっているわけだ。汗が滝のように流れ犬のように舌を出している。それを見た一夏はリュックから食材を取り出す。

 

「ちょっと待ってろ……」

 

そう言って出したのは水のように透き通ったキノコ、傘まで波紋が動いておりまるで水そのものがキノコの形になっているようであった。

もう1つは小瓶に入った塩。一夏はそのキノコに塩をふりかける。

 

「この間のキノコ狩りで手に入れた『ミネラルキノコ』にオーシャンヘブンの海水を煮詰めて作った塩を振りかける……これで水分と塩分は確保できるはずだ」

 

「うぉサンキュー!噛めば一気に水が噴き出してくる。それにこの塩の風味が絶妙だ!」

 

「ミネラルキノコ……美しい!」

 

「ミネラルキノコは殆どが水でできているキノコだ。砂漠の遭難者とかにも食わせられる」

 

こうして一行は間食で何とか暑さに対抗しどんどん山を登っていく。するとその道中で洞穴のような場所を見つけた。足あとも沢山ある。

 

「この匂いは……さっきのピッグクライミングの巣よ」

 

「へぇ……ここがあいつらの巣かぁ」

 

「……妙だな」

 

「え?」

 

リンカの嗅覚でそこが先ほど一夏たちに襲い掛かったピッグクライミングの巣穴というのは分かった。しかし一夏は納得がいがないような顔をしている。勿論リンカを信用してない訳じゃない。

 

「さっき襲われた場所と離れすぎだ、いくらなんでも巣穴から離れすぎだろ」

 

「引っ越しの途中だったとか?」

 

すると一夏が豚の足あと以外にも他の足あとを見つける。それはとても大きい獣の足であった。すっぽり一夏が入る程の広さだ。

 

「それとも――生きる場所を追われた(・・・・・・・・・・)かだな」

 

すると目が慣れたのか洞穴の中が少しだけ見え始める。するとそこには、数えきれない程の骸の山が形成されている。全て同じ種類の骨であり、それがピッグクライミングのものに気づくのはそう遅くはなかった。あまりの無残さに簪は思わず口を抑える。

 

「何だあれ……!?」

 

「ピッグクライミングの捕獲レベルはそう高くないが圧倒的な数の群れで一斉に攻めてくるのが厄介、加えてあの突進力は簡単には止められない。だからいくらプロの美食屋でもこいつにやられるケースも珍しくは無い」

 

「そんな猛獣を追放できる程の実力者……そんな生態系を狂わしそうなやつここにいたっけ?」

 

「いたぜリンカ、グルメ界からやってきた(・・・・・・・・・・・)……クリーム白虎(・・・・・・)だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

あれは俺とリンカが数年前にこのドーイド火山の近くにやってきた時だ。あの時はマグマカレーじゃなくて他の食材を取ろうとして冒険していた。しかしそんな時にあのクリーム白虎が襲ってきた。

 

「これは野菜仙人のタマギから聞いた話だが……この人間界には四獣侵攻時にグルメ界から四神獣がやって来た。野菜仙境には朱雀、この間のヘブンオーシャンには玄武」

 

「そしてここにはその……クリーム白虎ってことか?」

 

「ああ。クリーム白虎の親が山頂深くに住み着いていてな、時々子供を教育の為に付き落とすんだ。俺たちが遭遇したのはそのうちの1匹である子供」

 

「それでもかなりの強さだったわ。何とか倒してフルコースのスープにできたんだけど……まさかその親が襲ったとでも言うの?一夏」

 

「四神獣は優しいと聞く。いくら食事の為とは言えここまで生態系を荒らすような真似はしないと思うが……まぁ今までのように紛れ込んだグルメ界の猛獣がやったのかもしれない。だとしたら放っておけないな」

 

そう言って一行は壊滅状態の巣穴を素通りし、やがて険しい山々を上っているとようやく山頂へとたどり着いた。そこからは火口が見え、茶色のマグマがグツグツと煮えたぎっている。間違いない、あれがマグマカレーだ。

 

「……あれ、どうやって手に入れるんだ?危ないだろ!」

 

「大丈夫ちゃんと命綱も用意してある。じゃあ早速行くか!」

 

「――待って一夏様!!」

 

すると火口の中に降りようとする一夏をコロナが制止する。瞬間、一夏たちのいる場所に突如として亀裂が走り、そのまま崩れて火口の中に入っていく。危うく落ちそうになった一夏たちは、斬撃が飛んで来た方を見る。

そこには明らかに他の猛獣とは毛並みと雰囲気が違う1匹の獅子、赤黒い肌を持ち黄色く輝く目でこちらを凝視していた。敵意を持っているのは見てわかる。

 

ブラッドレオン〈哺乳獣類〉捕獲レベル130

 

「こいつが犯人か……どうやら縄張りに侵入した様だ!!」

 

するとブラッドレオンは跳びかかり、一夏たちに襲い掛かった!




もうすぐ誕生日、だけど年を取るにつれて実感が湧かなくなるなぁ


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グルメ55 マグマの獅子!

祝え!名も知れぬ物書きの誕生日を!!


ブラッドレオンはグルメ界に生息する赤黒い獅子。基本火山など暑くそして高い山に縄張りを置き、時々紛れ込む猛獣に牙を剥く獰猛な猛獣である。その獰猛さときたら自分より大きな敵や捕獲レベルの高い相手にも遠慮なく襲い掛かる程であった。

今一夏たちと対面しているこいつも、野菜仙境のドラゴーヤ、ヘブンオーシャンのポセイドンオクトパスのように四獣襲来時に迷い込んできた1匹の1人である。単独なので増殖の可能性は無いが、ブラッドレオンは元々交配したり群れを作ったりしない、言わば一匹オオカミならぬ一匹獅子なのだ。

なのでその分寿命が極端に長く、周囲に餌があれば何でも食いその分寿命を延ばすのだ。そうして食い続けた獲物の返り血や飲んだ鮮血が表面にでき赤黒いという。つまり色が濃いブラッドレオンはその分長く生き強いということだ。

 

『グガルゥウッ!!』

 

その餌という分類には、当然人間も入っている。ブラッドレオンは一夏たちを確認すると同時に大地を蹴り跳びかかってきた。

 

「速いッ!!」

 

それに対し一行は回避、リンカは普通に横に回避しコロナは触手で空を飛んで上に避難、一夏を含むIS組も各々のISを起動させて空を飛んだ。

するとブラッドレオンが着地と同時に振り下ろした手が命中したところに、まるで隕石を落ちたかのようなクレーターができあがる。

 

「赤黒くて醜い……それに触ってみて(・・・・・)も殆どが硬い肉ですわ……これは戦う気も無いですわね」

 

「ちょ、ちょっとコロナ!?」

 

するとコロナは触手を器用に動かし宙に浮いたまま後ろへ退避、ゆっくりと降下して自身の触手で椅子を作りそこで優雅に座る。

 

「アンタも手伝いなさいよ!!」

 

「貴方たちだけでして下さいな」

 

「来るぞ皆ぁ!!」

 

再び突進してきた獅子に一夏とリンカは宙に退避、そして一夏は包丁の斬撃、リンカはコテレッグで攻撃するもその体表には傷1つ付かない。

するとブラッドレオンは口から赤い光線を吐き、空にいる2人を撃ち落とそうとしてきた。勿論そう簡単にやられる一夏たちじゃない、光線の間を掻い潜りながら次の一手を考えている。

 

「コロナの言う通り本当に硬いな……山に住んでいるからその分落ちても良いように皮膚が硬くなっているのか。リンカ!お前の鼻でどこか弱点が無いか分からないか!?」

 

「勿論――って言いたいところだけどカレーの匂いが強すぎて私の鼻が利きにくいわ!」

 

ここはドーイド火山の山頂、つまりマグマカレーが最も噴き出している場所なのでその旨そうな匂いが充満しているのも当然であり、それが仇となり逆にリンカの嗅覚を封じていた。

 

『グガルウウウウウウ!!!!』

 

するとブラッドレオンは地上に降り立ったIS組に光線を発射、その部分の地面は抉れ、岩石となり散乱する。すると簪にその石が当たり、そのまま火口に落ちそうになってしまう。

 

「きゃああああああッ!?」

 

「危ないッ!!」

 

咄嗟の所で一夏がそれをキャッチ、危うくマグマカレーの中に突っ込みそうになった簪を助け出した。

 

「もう少しで具になるところだったな」

 

「……笑えないなぁ」

 

すると他の石や地面の欠片もどんどんマグマカレーの中に落ちていくのを見て、一夏は顔をしかめる。同じようにリンカも嫌そうな表情をした。

 

「このままだとマグマカレーの味が劣化しちゃうわね……でもあのライオン多分不味いわよ……」

 

そうリンカのルールは父親であるトリコと同じように、「食う目的以外で獲物は殺さない」というものであった。それは父親から受け継いだ命の尊さ、優しさを胸にしており、食べる気が無いなら殺さないし、間違って殺してしまったら食べる。食う目的以外で命を奪うのは、危うく殺されそうになった時の正当防衛ぐらいである。

 

「かといって威嚇で追い返すこともできないし……放っておけばここいらの生態系が崩れるよな」

 

「……なるべく美味しく調理してよね」

 

「善処する!」

 

そう言って2人はブラッドレオンに立ち向かっていく。すると赤黒い獅子は同時に襲い掛かってきた一夏たちに対し岩々を兎のように素早く飛び移っていく。

元々ブラッドレオンは高い山に住む猛獣、その生息地に非常に似ているこのドーイド火山では奴の方が有利である。

するとブラッドレオンは虚空に向かって腕を出す。するとその拳圧と衝撃が吹っ飛んできて一夏を薙ぎ払った。

 

「一夏ッ!!」

 

「ぐあがッ!?」

 

そして吹っ飛んだ一夏に向かって獅子は走り出す。そのスピードは凄まじいものでリンカの横をあっという間に通り過ぎてしまう。そして犬のお手のように前足を落とし一夏を地面に叩きつけた。瞬間そこは陥没し一夏にも凄まじい圧力がかかる。

 

「一夏、アンタ大丈夫!?」

 

「り、鈴!!来るな!!」

 

するとそんな一夏を助けようと鈴が単身でブラッドレオンへ突っ込んでくる。すると獅子は一夏を踏みにじるのを止め口を開け鈴の方を向き、光線を放った。

しかし鈴もそれが読めない程弱いわけではない、予め光線の軌道を読み旋回してそれを回避。その後周回するように飛び周り背後から斬りかかるも……

 

「キャッ!?」

 

その剣は牙によって受け止められてしまい、そのまま弾かれて一夏同様地面を転がる。そしてブラッドレオンがそんな彼女にゆっくり歩み寄る。

一夏はそんな鈴を救いに行こうとするも、光線を撃たれて妨害されてしまう。

 

「鈴ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

そして、ブラッドレオンの大きな前足が彼女に落とされるその時――

 

「……えっ?」

 

突如ブラッドレオンの動きが突如として止まる。まるで何かに引っかかったように動けずにいた。

すると、今まで待機していたコロナがスッとこの場にやってくる。

 

「――貴方と私は、同じ想い人を持つ者。つまり恋敵ということですわ」

 

コロナが手を出すと、それに伴いブラッドレオンは大きく吹っ飛びそのまま火口へと放り投げられる。しかし獅子はほぼ直角の壁を上って再び戻ってきた。

 

「だけど、そんな理由で見殺しにするなんて……私の美学に反しますわ!!」




今日誕生日です!!一人で虚しく祝います!!


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グルメ56 100×100!

平ジェネフォーエバー楽しみ~!!


コロナは美しさに魅入られた女であった。それは生まれつきの性格であり、あるいは父親のサニーから遺伝子と共に受け継いだものかもしれない。

だが、彼から貰ったものはそれらだけではない、頭から伸びる目には1本だけでは見えない髪の毛を操り戦う戦闘スタイル。その数は100万本近く、それに加え触覚、冷点、温点、圧点など様々なものを感知する種類がある。

それによって華麗ながらも豪快の戦い方が可能、髪は長距離にも対応できるので傍から見れば触れずに敵を倒せるのだ。

そんな美しい姿、四天王サニーの娘、経験豊富な若手実力者、なので最初は彼女に気にいられようとしてその財産と美しさを手に入れようとする男が沢山いた。それに対しコロナはうんざりし、一時期男という生き物に失望しかけたことがあった。

男という存在は、金と体にばかり目が行く下劣で醜い生き物だと。しかしその考えは織斑一夏との出会いによって一変される。

 

「お前の力がどうしても必要だ!次の食材狩りはお前も同行してくれないか?」

 

この人だけは、私を金儲けの道具とは扱わない。従姉妹のリンカのコンビというので最初は僅かながらの興味を沸かせたが、いざ会ってみるとその人柄に夢中になった。一夏という存在が、彼女の心を大きく開けたのだ。

だから思った。彼の傍にいたいと――

 

 

 

 

(ヘア)ロックッ!!!」

 

コロナが大量の髪を動かし、それでブラッドレオンの動きを固定させる。多少前に動かれてしまうもまるで蜘蛛の巣に引っかかったように奴は動けなくなった。

その鋭い牙で必死に噛み千切ろうとするもコロナの髪はそんなことでは斬れない。例え1本だけでも数百キロの物は持てた。

奴が動かない隙にと、一夏とリンカは互いの武器を持って斬りかかる。その斬撃が当たる直前にコロナはロックを解除したわけだが、その僅かな一瞬の間にブラッドレオンは回避する。

 

「ちッ!速すぎだろッ!!」

 

「なんて馬鹿力なんですの……本当に醜い獅子!!」

 

するとブラッドレオンは大きく地面を蹴り上げ一夏に向かって飛びかかる。その牙による噛みつき攻撃に対し包丁で受け止め宙へ弾き飛ばした。

吹っ飛ばされたブラッドレオンは空中で回転しながらも口から光線を発射、一直線にコロナへと伸びていく。自分に向かってくる光線にも関わらず、コロナは華麗なポーズをしたまま微動だにしない。

 

「ちょッ!?危ないわよ!?」

 

避けようとする動作もせずコロナに対し、傍目の鈴は慌てて警告するも1歩も動かない。余裕の笑みでその光線を迎え撃った。

 

「――髪誘導(ヘアリード)

 

しかしそんな光線も、コロナの髪によって分散されあらぬ方向へ飛んでしまう。そこからさらにブラッドレオンが吐き出す光弾の猛攻が続くも全て髪誘導(ヘアリード)で弾き飛ばしていく。すると最後に特大の光弾が吐き出された。

 

「フライ返しッ!!」

 

それは誘導(リード)ではなく、攻撃を返すフライ返しを使用してのカウンター。特大光弾はそのまま返されブラッドレオンに直撃した。

ちなみに髪の量を増やして何倍にも威力を増して返す「スーパーフライ返し」もある。

顔面に自分の光弾が当たったブラッドレオンがしばらくの間視界が使えない状態、今度こそと一夏とリンカが同時に斬りかかった。その硬い体にもようやく切り傷ができる。

そしてリンカは剣として使ったコテを持ち直し、パンチの姿勢に入る。

 

「50連コテ釘パンチィ!!!」

 

『ガルルッ!!!』

 

そうして繰り出された釘パンチにブラッドレオンも同調、負けじと自分も手を出しリンカのパンチと張り合った。瞬間辺りに凄まじい衝撃波が走り出す。まるで戦争でも起きているかのような過激さである。

やがてブラッドレオンはまたもや一夏の方に跳びかかる。しかし一夏はまな板シールドで防御し単独で抑え始める。するとリンカとコロナの方に目配せをしてきた。

 

「……私たちと連携しろって言ってるわねあれは」

 

「やれやれ、仕方ないですわね。本当は貴方のような品性の無い女性となんか協力したくないんですけど……他ならぬ一夏様のためですわ」

 

するとリンカとコロナは並び、それぞれの準備をする。するとリンカは両腕を振りかぶった状態でコロナの方を見た。それもそのはず、リンカはコロナを殴るつもりだ(・・・・・・)

それを見ていた春十たちだが、何か裏があるのだろうと納得。そしてリンカは遠慮なくコロナに向かって打撃を放った。

 

「100連――ツインコテ釘パンチィイ!!!!」

 

「100万本!100倍(・・・・)スーパーフライ返しッ!!!」

 

するとその両手コテ釘パンチに対しコロナは全髪の毛を使ったスーパーフライ返し、それはリンカのパンチを100倍の威力に増大させそのままブラッドレオンの方へ飛んで行った。

最後まで食い止めていた一夏は向かってくるその打撃が躱されないよう獅子の目の前に立ち、当たる直前で上空へ回避。そしてブラッドレオンは抵抗できずその打撃を食らった。

 

「100連の100倍だぁあ!!どうだぁ!?」

 

『グルウウウウウウウッ!!!」

 

尋常じゃない程威力が高まった連携技は、ブラッドレオンの硬い肉を貫通しどんどんダメージを与えていく。やがて大きく吹っ飛び、地面に激突した時には白目を剥いて絶命していた。

 

「よっし!!勝ったぞぉお!!」

 

勝利に喜び合う一夏たち、その中でリンカとコロナは、まだ認め合っていないといった表情で手を叩き合った。




炬燵を出しました。えぇ、寒いからです。


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グルメ57 火山のカレー!

今回でマグマカレー編は終了です!


「おい!あの四天王の娘と料理人一夏がマグマカレーを取りに行ったって本当か!?」

「ああ、数時間前にここを通ったらしい」

 

ステナ温泉街のドーイド火山に続く門にて、そこには一夏たちの姿を見て噂している野次馬と住人たちで溢れかえっていた。門番も一夏たちを待ち望んでいた。

しかしそれは、とある地響きで収束する。

 

「な、何だありゃ!?」

 

住民が指さす方向には巨大な鉄塊が2つ、それは建物のように大きい鍋であった。それを運んでいるのはリンカとコロナ。

リンカは両手で踏ん張って持っているのに対し、コロナは触手を使い片手しか使ってなかった。

 

「ちょっとアンタァ!触手余ってるならこっちにも貸しなさいよ!」

 

「貴方みたいながに股持ちしている品性の無い女性に力なんか貸したくないですわ」

 

「新四天王のリンカとコロナだ!一夏もいるぞ!!」

「うわッすげーカレーの香り!」

 

やがてステナ温泉街に帰ってきた一夏たちは持っていた2つの巨大鍋を一斉に下ろす。そこには零れそうな程のマグマカレーが入っていた。

一夏は運んでいた2人に「お疲れ様」と言った後、集まっていた野次馬の前に立った。

 

「皆!マグマカレーを取ってきた!皆で食べようぜ!!」

 

「おーマジか!」

「マグマカレーなんて久しぶりに食うぜ!」

 

「一夏いいのか?」

 

「春十兄、結構カレーは余ってるから大丈夫だよ。それにみんなで食べた方が美味しいに決まってるだろ!」

 

「――それもそうだな!」

 

こうして始まったステナ温泉街で開催されたマグマカレーパーティ、ルーの中の有毒物質の除去は一夏を始めとした街のシェフが尽力して行われた。

そうして除去した後のマグマカレーを再び煮る。

 

「マグマカレーは本来地域によって辛さも味も違うが……このドーイド火山産のは別だ。煮る時の温度で辛さを調節できる。まぁそれも結構難しい技術だけどな……できたぞ!食いたい辛さを教えてくれ!」

 

全てのルーの仕込みが終わり、一夏たち料理人が横に並び配膳する。予め辛さごとにグループ分けされていた机の上にどんどんカレーライスが置かれていった。

 

「よし!この世の全ての食材に感謝を込めて……」

 

「「「いただきます!!!」」」

 

 

 

 

「うーんこのコク!舌の上でカレーの味が一気に口の中へ広がったわ!」

 

「甘口のマグマカレー……甘い分ゆっくりとその味を堪能できる……」

 

「辛口もいいわよ!この辛さが癖になるわ!」

 

IS組も当然ステナ温泉街の住民観光客全員がそのカレーを堪能していく。子供に好かれている甘口、少し辛いがそれが病みつきになってスプーンが止まらなくなる辛口。一夏たちはマグマカレーを煮る温度でどんどん辛さを分けていった。

するとその場に、とある料理人が突如現れた。

 

「あぁん……ドーイド火山のマグマカレー、久しぶりに見たな」

 

「あ、貴方は……チリサイシェフ!?」

 

その顔を見て一夏は驚愕する。この男は料理人ランキング30位のチリサイ。激辛専門店のオーナーシェフであり辛い食材を基本的に扱っていた。

 

「チリサイってあのチリサイか!?」

「その料理はあまりにも辛くて食べる前には全ての責任を自身で負う契約書を書かないといけない程危険と聞くが……」

 

「お前が一夏か、話は聞いている。ちょっとそのルーを貸してもらうぞ」

 

するとチリサイは一番辛いマグマカレーのルーを少しだけ貰い、そこから他の料理を作っていく。途中いかにも辛そうな調味料を入れ、できたのはカレーパンであった。

 

「さぁ食って悶絶しろ!チリサイ特製マグマカレーパンだ!!」

 

「ハム――辛ッ!!!!」

「舌全体が痛くて堪らねぇ!!」

「それでも……何故か止められない!」

 

「凄い!今閻魔七味を入れてましたよね!あの食材をあんな一瞬で調理しちゃうんなんて……少しお話聞かせてください!」

 

「ああ、俺もお前とは話がしたかった」

 

そうやって突然のプロ介入に祭りは更に盛り上がっていく。皆絶品のカレーを口にして踊り出し騒ぎ出した。そんな中一夏は目を光らせてチリサイから話を聞いていた。

 

「……」

 

その様子を、鈴はただ傍観するだけである。

 

 

 

 

夜、一夏たち一行はマグマカレーのお礼として無料でこの町で一番の温泉に入らせてもらった。ドーイド火山で掻いた汗をここで一気に洗い流す。

一夏が上がり外に出て見れば、すぐそこのベンチに鈴が座っていた。

 

「おー鈴!どうだったステナ温泉街の温泉は」

 

「本当に美味しかったわよ、ちょっと飲むのに気が引けたけどね」

 

何気ない会話を始め、一緒にベンチに並び星空を眺める。

ここで鈴は何かを言いたそうにモジモジとしだす。それに気づかず一夏は会話を続けた。鈴は今日チリサイと楽しそうに話している一夏の姿を見てある杞憂――といえど、本当にそうなりそうなことを想っていた。

 

(一夏は元々こっちの世界の人間なのに……そのフェスが終わったら、グルメ世界に残るのかしら?)

 

そう、鈴は一夏にゆくゆくは自分たちの世界にいて欲しかった。しかし彼自身はこのグルメ世界の住人の色に染まっている。何とかそのことを聞き出そうとするもそう易々と聞けることではなかった。

 

「あ、あの一夏……」

 

「そう言えば鈴、さっきチリサイシェフから聞いたんだけどさぁ」

 

勇気を出して聞いてみようとするも、一夏の話に遮られてしまう。すると一夏はさっきまでのキラキラした目を更に輝かせて鈴を見た。

 

「マグマカレーはグルメ界にもあるらしい、あそこにはもっと美味しいマグマカレーが噴火する火山があるんだ!ワクワクしないか!?」

 

「……そうね」

 

しかし一夏は料理の才能を導き出しすっかりその道に夢中になっていた。それでも鈴は諦めない、いつか一夏を説得してIS世界に帰らせるのだと決意した。

 

「一夏様ー!私も只今上がりましたわー!!」

 

するとコロナが浴衣姿で建物から出てくる。触手で優雅に空を飛び、一夏と鈴の間に無理やり入り込んだ。

 

「一夏様一夏様!!今回今一度貴方のお傍にいて行動を共にした結果、ますます惚れさせてもらいました!!」

 

ここでなんとコロナは右側に一夏に体を預け、そのまま触手でその顔を引き寄せると口づけをした。

 

「なッ!?」

 

「ちょッ……!?」

 

「これはその……印ですわ」

 

突然のキスにコロナを除く2人が赤面していると突如として温泉の方から爆発音が鳴り響く。一体何事かと後ろを向くとそこには天井を貫き空へと伸びる巨大なコテ。

 

「やばいリンカだ!逃げるぞコロナ!!」

 

「所謂駆け落ちですわね♡」

 

「待ちなさいコラァアアアア!!!!」

 

そうして始める一騒動、それを傍から見て鈴は、今まで真面目に考えていた自分が馬鹿らしくなり微笑んだ。




次回は1話完結で新四天王集合の予定です。


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グルメ58 新四天王集合!

今回は1話完結と言ったな……あれは嘘だ。


「なぁ一夏、依頼された食材はあといくつあるんだ?」

 

休みの織斑食堂にて、春十が椅子に腰かけ暇そうにそう聞いてきた。一応今日はどこにも行くあてが無く、全員が織斑食堂に集まっている形だ。

対する一夏は厨房に立っており仕込みをしながらそれに応答する。

 

「といってももう依頼は全部終わったんだよなぁ……それにそろそろフェスも近いし、ここいらで料理人として腕を鍛えたいところだ」

 

「じゃあフェスの日まで俺たちで一夏に付き合ってやろうぜ!!」

 

「春十は一夏さんの料理がただ食べたいだけでしょ?」

 

春十の食い意地に呆れるIS組、すると一夏が仕込みを終えエプロンを脱いだその時、突如として扉が開く。

 

「あ、すいません今日お休み……ってIGOの……」

 

店が休みなのにも関わらず、遠慮なく入ってきたのは1人の黒服、まるでアフロのような髪型をしたサラリーマンにはにつかない男であった。

 

「美食屋リンカ様、そして一夏シェフ、IGOから食材調達の依頼をお持ちしました。これはマンサム会長直々のものです」

 

「会長から?一体何の用よ」

 

すると今まで一夏の料理を食っていたリンカも身を乗り出してその男の話を聞く。

 

「――タイラントターニップ(・・・・・・・・・・)が実りました」

 

「なッ――あのカブの王様がか!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、一夏とリンカは驚いた顔をする。一方IS組は何のことやらと首を傾げる。

 

「つきましてはそのタイラントターニップを、新四天王全員で調達せよとのことで……」

 

「「……し」」

 

新四天王全員で――!?

 

 

 

 

「わぁー!凄く広い畑ですの!」

 

そう言ってセシリアは訪れた畑の広さに圧巻する。地平線の向こうまで野菜畑のこの土地は、周りに建物が無く広々とした雰囲気であった。

 

「IGOの開発局……ヨハネスさんが局長やっているところだな、そこが所有する野菜の品種改良を目的とした専用野菜畑だ。その広さは2000平方km」

 

「広い畑だな……ドイツでもそんな広い畑は作らんぞ」

 

IGOの開発局は第1ビオトープでも勿論新種の食材の開発を進めているが、こういった自然の力に任せて行う品種改良も行われている。野菜畑にそこまで広い面積を使えるのはIGOぐらいしかない。

 

「ところで一夏、そのタイラントターニップというのはどんなのだ」

 

「春十兄の足元に生えてるぞ」

 

「え――ってこれか!ちょっと抜いて見よ」

 

そう言って春十は足元の根を掴み、力強くそれを引き抜こうとする。想像した以上の重量感に少し驚いたが、一応グルメ細胞持ちなので難なく抜くことができた。

 

「うおすげッ!バスケットボール並みだぜこれ!それにずっしり重い!!」

 

「それがタイラントターニップの普通のサイズだよ。元々そのカブはそれよりちょっと小さいカブを品種改良して大きくしたのがタイラントターニップ」

 

「だけどそれよりもっと大きくなるのが稀にあるのよ、所謂スーパー(・・・・)タイラントターニップね。今回の目的はそれよ。それにしても四天王全員でって……何考えてるんだかあの人は……」

 

ちなみに同じ時でのIGO本部にて、会長が「ハンサムって言った今!?」とご乱心になったのはまた別の話。

 

「でも……この広さならこのメンバーを呼んでもおかしくないと思うな」

 

「あ、ララ!!」

 

すると野菜仙境で共に戦った新四天王の1人であり、美食屋ココの娘であるララがやってきた。新四天王の中で彼女は2番目である。

 

「それに最大級のタイラントターニップは重いだけじゃなくて引っこ抜かれることに抵抗してくる。100人の力でも抜けなかったっていう話もあるくらいだ」

 

「しかしそれでも、今回ばかりはリンカに同感ですわ」

 

「ゲッ、コロナ……」

 

そして次に来たのはサニーの娘であるコロナ、マグマカレー調達の際一夏と共に火山に行った、美しさを求める女性である。

 

「ララはまぁ良いとして、何で私が汚い泥――しかも醜い人たちと一緒に来なければならないんですの」

 

『そんなことはどうでもいい!とっととそのタイラントターニップってのを探すぞぉ!!』

 

すると今度は聞き覚えのある声が大音量で辺りに鳴り響く。遠くを見れば1人の女が木に寄りかかってこちらを見ている。ゼブラの娘であるポニーだ。

 

「ポニーまで!」

 

「この際だ、どいつが一番大きいカブを手に入れるか勝負しようぜ」

 

そして挑発的な言葉をその場の全員に投げかける。四天王一の凶暴さを持つ彼女なら当然の発言だろう。しかし他の3人はそれに積極的ではない。

 

「どうして私がそんな品の無いことをしなければならないんですの」

 

「協力しろって言われてるじゃないの、私も嫌よ」

 

「……僕も遠慮する」

 

「ほぉー……じゃあこうしよう、この勝負で勝った方が一夏のコンビってことで」

 

「「ッ!!」」

 

「ちょ!?何勝手に決めてんだお前!!」

 

「そうよ!一夏は私のコンビよ!」

 

勝手に勝利の報酬になった一夏、それに対し本人とリンカは全力で反対するも今の発言で嫌がっていた2人にも火がつく。

 

「その勝負、乗りましたわ!」

 

「やっぱ僕も参加する……!」

 

「なッお前ら!?」

 

そのまま一夏の話も聞かず別方向へ散っていく3人たち、IS組は突然の展開に呆然として立ち止まっていた。

 

「こ、こうなったら私が勝って一夏が私のコンビだと改めて実感させてやるんだから!!」

 

「リンカまで……じゃ、じゃあ俺たちも行くか」

 

「お、おう……」

 

こうして今回の依頼は、リンカ、ララ、コロナ、ポニー、IS組の5組による競争となった。




もう分かっている人もいると思いますが、今回のお話は原作のマダムフィッシュを元にしています。釣り以外で何か協力して調達する食材が無いものかと探していたところ、大きなカブの童話を思い出しカブにしました。


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グルメ59 うんとこしょどっこいしょ!

大きなカブの童話なんてこの回を書くまですっかり忘れていました。


「よーし、じゃあ誰が一番大きいスーパータイラントターニップを手に入れるか……競争よ!!」

 

こうして始まった新四天王+αによるカブ収穫大会、その報酬は(勝手に)一夏となり、ほぼ全員が目を光らせていた。一斉に広いカブ畑を走り出し、血眼になって目的のカブを探し出す。

 

「カブのみずみずしい匂い……一際旨味のある匂いを出してるのを探せばいいんだわ」

 

リンカは自慢の嗅覚を使い、大きいタイラントターニップの場所を特定しようと畑の上を歩いていた。現にその鼻を使い先ほど春十が抜いたのと比べて数倍の大きさを持つカブを見つけている。しかしこれでは勝てないと他のものを見つけるために彷徨っているのだ。

 

「まったくもう……こんな勝手な競争になって。一夏は元から私のパートナーよ!」

 

そしてこの競争に対しての愚痴を何度も零していた。相棒を奪われそうになったので勢いで参加したリンカであったが、元から一夏はリンカのパートナーであるため今回の競争は自分にとって理不尽なものだと後から気づいたのだ。

 

「でも、一夏も参加しているわけだから実質こっちは2人がかりよ!負ける気がしないわ!!」

 

そう言ってリンカは巨大なコテを取り出し、目の前に幾つかのカブを大地ごと削り取った。リンカに巨大カブの雨が降り注ぐが目的の大きさのものはない。

リンカは今ので手に入れたカブを齧りながら、更に大きいのを求めて歩き出す。

 

 

 

 

(一番強い電磁波はどこだろう……)

 

一方ララは電磁波を読み取れる目を駆使しして辺りを捜索、そのタイラントターニップのサイズが大きければ大きい程そこから放たれるオーラは存在感を持っている。ララはそれを頼りにしてくまなく探していた。

すると他のカブより一際強い電磁波を放っているのを見つけ、そのカブを掘り出してみる。バスケットボールどころか直径1mはありそうな程のサイズであった。

 

(これぐらいならまだまだありそう……もっと強いオーラを探さないと)

 

しかし彼女が望む大きさではなかった。

普段内気な彼女がどうしてここまで必死になって探しているのか?それは勿論報酬の一夏の為。普段はその感情をあまり出さないだけで、一夏を狙っているうちの1人であった。

 

「この競争に勝って……一夏とコンビを組む……!」

 

そうして彼女は大きなカブを求め、更に目を光らせていく。

 

 

 

 

「あまりこの美しい髪を泥に触れさせたくないですが……そんなことは言ってられませんわ」

 

そしてコロナは大量の髪を一斉に伸ばし、虱潰しに周囲のカブを探し求め片っ端から抜いていく。他の四天王と違ってコロナは質より数を求め、その中から一番大きいタイラントターニップを選ぶつもりなのだ。

しかし普段なら髪で泥まみれの野菜に触れようとは思わないはずだったが、さっきも言った通りどうしてもこの競争で勝って一夏を手に入れたかったのだ。

 

(まだ上手く直感(・・)は使えませんが……今ここで使いこなしてみせますの!)

 

そうして父サニーから教えてもらったとある技でもカブを探していた。

 

(汚れてしまった髪は、一緒に入浴している一夏様に洗ってもらいますの♪)

 

やがてカブを追い求めているその頭は、もうこの競争に勝った後のことを考えており、ふしだらなことを妄想していた。

 

 

 

 

(エコローケーション、反響マップ!!)

 

対するポニーは超音波を発しその反響で周囲の様子をマップ上に確認、その音はどんどん広がっていき周りのカブのサイズは一瞬で把握した。本来なら広範囲かつ長時間使用するのはスタミナを大量に食われるが、今の成長したポニーには無用の心配であった。

 

「この勝負で勝って、一夏には一生私の為に料理をしてもらう!!」

 

全ては一夏の為、その料理のため、血眼になって耳を研ぎらせ一番大きいタイラントターニップを探し求めていく。勿論その音波は地中の中にも浸透していき、それでカブの大きさを把握し他のものと比べていた。

 

(……?何かいるな)

 

 

 

 

「いやー一夏も4人の女に狙われるなんて隅に置けないな」

 

「春十兄が言うか春十兄が」

 

そしてIS組+一夏はISで飛行して空からスーパータイラントターニップを探していた。

 

「何ぼさっとしてんの!いち早く見つけてこの勝負に勝つわよ」

 

「ところで何で鈴はあんなにやる気なんだ?」

 

「さぁ……?」

 

兄弟そろって鈍感な性格に、後ろの女子たちは呆れるしかなかった。

 

「さぁどこにあるのやら……っと何かこの辺り全然カブができてないな?何でだろ」

 

すると一夏たちは今自分たちが飛んでいる下にタイラントターニップが全然実っていないことに気づく。さっきまで野菜の絨毯かと思う位敷き詰められていたが、そこだけは皆無であった。

 

「お、おい一夏!壁が見えてきたぞ!」

 

「ああ猛獣用のバリケードだよ……そういえば最近の壁に穴を開けて猛獣が入り込んだって聞いたが……そいつの仕業か?」

 

元々タイラントターニップは大きさながら栄養素も高いので獣が求めるのは必然的であった。そういう猛獣対策に設置されたのがこのゲートであった。

 

「つーか何でこんな所にバリケードあるんだ?まだそこまで来てないはずだぞ……」

 

「お、おいこれ壁じゃねぇぞ!!」

 

「なッ……カブ(・・)かこれ!?」

 

壁かと思われたそれは正確には鉄の壁じゃなく、巨大なタイラントターニップであった。まるでドームのように大きく一夏たちの目の前に立ちはだかった。

 

「すげぇ……こんな大きなスーパータイラントターニップは見たこと無い」

 

「あれなら優勝間違いなしね!」

 

そう言って早速そのタイラントターニップを取ろうとした瞬間、四方八方から他のメンバーも集まってきた。

 

「見つけた……一番強い電磁波」

 

「あれなら私の勝ちは確定ですわ!」

 

「先に見つけたのはアタシだ!」

 

「何言ってんのよ私よ!私の勝ちよ!」

 

そうして一斉にそのカブを取り合って喧嘩を始める新四天王たち、各々の武器を持って我先にとカブへと走り出す。

だがそれを止めたのは一夏であった。

 

「いや、このサイズは1人じゃ無理だろう。ここは連携してこのカブを手に入れるぞ!」

 

「よしじゃあ私のコテで……」

 

「貴方の汚いコテ捌きじゃカブを傷つけてしまいますわ!」

 

「じゃあアタシの声で……」

 

「それだともっと危ないよ」

 

「よしーここは、一斉に引っ張るぞ!!」

 

そう言って一夏は天高く伸びる葉っぱを曲げ地上にいる新四天王たちに渡す。そしてIS組も一旦地上に着地しカブを全員で引っこ抜く形になった。

 

「まて一夏、アタシの耳が何かを捕らえた。土の中から何かがカブを食おうとしてるぞ」

 

「……何か?」

 

「今追い出す」

 

するとポニーが地面に向かって声を出すと、大地を揺らし地面から勢いよく飛び出してきた。鋭利な爪を両手に持っている大きなモグラであった。

 

「うわ何か出てきた!モグラかあれ?」

 

「サイクツモグラだ!硬い爪でなんでも穴を開ける獰猛なモグラ、こいつがバリケードに穴を開けたのか!」

 

サイクツモグラ〈哺乳獣類〉捕獲レベル63

 

「く、来るわよ!」

 

するとサイクツモグラは獲物を先に狙われたのを怒り、そのまま一夏たちに襲い掛かってきた。鋭い爪を尖らせてまっすぐこちらへ向かってくるも……

 

 

「「「「邪魔!」」」」

 

 

しかしリンカのコテ、ララの毒砲、コロナのヘアパンチ、ポニーのボイスバズーカが一気に放たれモグラの顔面に直撃。サイクツモグラを天高く吹っ飛ばした。

 

「しゅ、瞬殺した……」

 

こういう時にだけ連携する新四天王、最早モグラのことなど目もくれずにカブにだけ視線を置いていた。

 

「じゃあ一気に引っこ抜くわよ!!」

 

「「「おう(うん)(はい)!!」」」

 

IS組(おれたち)も行くぞー!!」

 

「「「おう!!!」」」

 

いっせーのーせ!!!!!

 

 

 

 

「えぇー!?このスーパータイラントターニップ食べないの!?」

 

「当ったり前だろうが!これを依頼されたんだぞ――ってポニーにリンカステイ!!」

 

目の前に存在するのはデカすぎて天辺が見えない程のカブ、無論このカブをIGOに渡しその他のタイラントターニップは全てフェスに売る予定だ。

 

「というか一夏、いよいよその何とかっていう祭りだな!」

 

「ああ!絶対優勝してやる!!」

 

そして一夏は、迫りくる祭日に向けて奮闘するのであった。




味表現はマダムフィッシュ回でも無かったのであくまでもそれに合わせようとしたんで書きませんでした。まず私がカブの味に詳しくないという話でもありますが……
そして来週からいよいよクッキングフェス編です!


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グルメ60 宴開幕!

平成ジェネレーションズforever見ました。後書きに少しだけネタバレあるんで注意です。


今日は――街という街から人がいなくなる日。コンビニもデパートも高級レストランからも人が消え、あのグルメタウンも今日限りはガラガラとなる。

それは何故か?――4年に一度の食の祭典が開かれるからだ。

 

「のわぁー!何だこの車!?」

 

「わ、私の家でもここまで長いリムジンは取り扱っていませんわ……」

 

織斑食堂前で一夏を含むIS組の前に止まったのは電車のように長いリムジンの車。こんなに長くてどうやって曲がるのか実に気になる所である。

そしてそのリムジンには高級スーツを着た黒服が一列に並び、同じくスーツを身に纏う一夏を迎えていた。

 

「グルメリムジンでございます。フェス参加者とその関係者はVIP扱いとなっておりますので……」

 

「おー一夏、さっさと行くわよ!」

 

「リンカ!」

 

「リンカさん!」

 

そのリムジンには既に一夏のコンビであるリンカが乗っており、続いて一夏たちもそれに乗車していく。ちなみにIS組にはドレスコードをしてもらい、一夏の紹介ということで特等席を取っている。

グルメリムジンに乗ってフェス会場のある島、「クッキングアイランド」へと向かっていく一行、普通ならフェスの客で20時間近い渋滞になるも、専用道路を渡っている。

 

「そう言えばリンカ、あの件(・・・)どうだった?」

 

「ああ、行ってみたけどやっぱりいなかった(・・・・・)わ」

 

「あの件?」

 

車内での会話、一夏とリンカの間の聞き覚えの無い単語を耳にして春十たちは首を傾げた。ちなみにグルメリムジンの中では高級料理がテーブルの上にズラァと並んでいる。

 

四神獣(・・・)の青龍についてだ。俺が料理の練習している時にリンカに調査を頼んだんだが……やっぱり他の四神獣同様いなくなっていたか……」

 

野菜仙境の朱雀、ヘブンオーシャンの玄武、ドーイド火山の白虎、そして最後の1匹の青龍。かつて四獣侵攻時に人間界へやってきた優しい心を持つ4匹の神獣が姿を消していた。

 

「どうやらタマギの言っていた話は本当だったか……後で俺も調査に行かないと」

 

「まぁアンタはまず今回のフェスのことだけに集中していなさいよ」

 

「そうだよなぁ……ハァ、緊張してきた」

 

しかしそれ以前に一夏はフェスに対しての緊張に顔を青くしていた。普段なら見られない弱気な一夏の姿に、鈴が不思議そうに反応する。

 

「そんなに緊張することなの?」

 

「……クッキングフェスはそっちの世界で言うオリンピックみたいなものだ。世界料理人ランキング100位の強者たちが一斉に集まり自分の腕を見せ合う、これで緊張しないとか無理だろ……」

 

「ランキングってことは……文化祭に来たあの2人の料理人もか?」

 

ラウラが言っているその2人と言うのは、以前IS世界にお呼ばれしたガルベルトとセリアのことだ。彼らもまたランキング上位に名があるプロの料理人だ。

 

「そうだな、あいつらもライバルだ……俺も頑張らないと!」

 

「その意気だ、一夏!」

 

IS組やリンカが一夏を鼓舞している中、リムジンはクッキングアイランドに到着し会場へと向かう。するとリンカが急にリムジンを止めさせた。その理由は……

 

「あー!白銀クロワッサンの出店!」

 

「馬鹿!こんなところで降りたら……」

 

「おい見ろよ!四天王リンカと一夏シェフだぞ!」

 

会場前の出店、それに惹かれて思わず車を降りてしまうリンカ、それを引き留めようと一夏も降りるがもう時すでに遅し、両者の顔を見て周りの観客たちが一斉に騒ぎ始めた。

 

「一夏シェフ!応援してるぞ!」

「頑張って!」

「絶対優勝しろよな!」

 

「あはは……どうも」

 

しかし一番注目されたのは今回の参加者である一夏、そのファンがそこへ集まり握手を求めたりサインをお願いしたりなどした。まるで人気俳優のようだ。

 

「まったくワラワラと美しくない……一夏様ぁ!この間ぶりでございますぅ♪」

 

「げ、コロナ……」

 

「アタシたちもいるぞ」

 

「久しぶり、一夏」

 

「ポニー!ララも!」

 

そしてタイラントターニップの調達メンバーである新四天王がまた集結した。当然四天王たちもVIP扱いだ。

 

「よ!久しぶりだな一夏!」

 

「トリコさん!師匠も!」

 

「今度はトリコと小松シェフだぞー‼」

 

そして今回のシェフの要と言っても過言ではない、世界一の美食屋トリコと、そのコンビである小松もその場へやってきた。

 

「師匠、どうしてこんなところに……」

 

「うん……トリコさんが白銀クロワッサンの匂いに釣られて……」

 

「ああ……そっちもですか」

 

「パパ!久しぶり、ママは?」

 

「リンカ、お前腕を上げたな!リンならフェスの防衛にいるぞ」

 

あっという間にこの場に有名人が勢揃いとなり、辺りはフェスも始まっていないのに騒然となる。四天王親子と師弟シェフ、そして他の新四天王も集まれば無理はない。

 

「やぁ一夏君、久しぶり」

 

「頑張れよ一夏(なつ)!」

 

「フン……まぁ小僧が勝つんだろうな」

 

「ココさん、サニーさん、ゼブラさんまで!」

 

そして次に現れたのは四天王であるココ、サニー、ゼブラ、これで旧四天王も勢揃いしたわけだ。

 

「お父さんも来たんだ……」

 

「ああ、リンカちゃんたちと仲良くしてる?」

 

「お父様も何か言ってやってください!」

 

「まぁ落ち着けよコロナ」

 

「親父……アンタ祭りとか来るんだな」

 

「悪いか……ポニー」

 

そして四天王親子の会話も始まり、いつの間にかその集団を囲うように野次馬たちが集まっていた。無理もない、ここだけであらゆる有名人がいるのだから。

 

「俺さぁ、ゼブラとポニー見て改めてあいつが結婚したことが驚きなんだよなぁ」

 

「まったくだ、品の無ぇゼブラがまさかな……」

 

「何年前の話をしてるんだお前らぁ!」

 

やがてフェス開始前に、どんどんと有名人が集まっていく。まさに、祭りの前には相応しい盛り上がりであった。

 

 

 

 

 

一方暗い空間にて、金髪の女性が美しく立っていた。その後ろには魑魅魍魎、百鬼夜行、ロボや猛獣たちが勢ぞろいしていた。

 

「オータム、皆の準備はよろしい?」

 

「ああ、いつでも……」

 

「よし……行きましょうか」

 

そう言ってその女が先導すると、他の人もそれに付いていく。馬の下半身を持つ男、蜘蛛の女、GTロボ、それらが大軍を成して前へと歩いた。

これがIS世界かグルメ世界のどちらかで行われているかは分からない、しかし――一騒動起こるのは間違いなかった。




ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお(叫)ぬぎゃあああああああああああああああああ(悶絶)うわぁあああああああああああああああああああああああああああ(泣)
絶対ネタバレ無しで見てください!


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グルメ61 選手入場!

今回はフェスの参加者の紹介だけをやります。頑張ってオリキャラ作りまくりました。


4年に一度の食の祭典――「クックキングフェスティバル」。

視聴率95%は優に超えるマンモスイベント、その経済効果は凄まじい物だが所詮祭りの一騒動に過ぎない。真の主役は「料理人」であった。

優勝者には「スーパーコック」という名誉と、何代かけても使いきれない大金が送られる。この日は食日となりどこも休みとなった。

人口約360億人が夢中になるイベント、全世界の人々が盛り上がるのであった――。

 

 

 

 

『さぁー始まって入りました、第55回クッキングフェスティバルゥウウ!!!このネオクッキングスタジアムは3億人(・・・)に及ぶ観客で爆発寸前だぁーーー!!!』

 

1つのスタジアムに3億という人間が集まり、観客席にはビルが幾つも建っていた。その3億人全員が一斉に騒ぎ騒音とかいう言葉で例えられない程煩い。

リンカたちやIS組はVIP席にてその様子を見ている。

 

「すっげぇ人……こんなに広いスタジアムは始めて見たぜ」

 

「クッキングフェスはグルメ世界最高のエンターテインメント。G7や各国の国王、グルメ界の(・・・・・)大御所まで来てるわ」

 

「どんどん飯持ってこいやー!」

 

「ポニー……相変わらず品性の無い」

 

 

 

 

『そしてそしてぇ!司会を務めるのは勿論私『ムナゲ』!いくつになってもグルメ番組司会者好感度ナンバー1の座に居続けます!』

 

「ムナゲェーー!!」

 

『永遠のライバルである『ウデゲ』氏と脅威の新人である『ワキゲ』氏に抜かれかけましたがいつものように裏でごじょごじょして阻止しました!フェスのギャラだけは死守せねば!」

 

「黒いぞムナゲッーー!!」

 

『さぁーー!今祭典出場者100名の入場です!!』

 

 

 

 

『最初に登場したのは調理王ザウスの孫である、三代目調理王「ヘラクドス」シェフだぁ!!王者の名を今日轟かせるかぁーー!?』

 

「あ、いきなりトップの孫の登場なのね……」

 

ヘラクドス 料理人ランキング7位

 

 

 

『続いて現れたのは天ぷら専門店「揚げ鯱」のオーナーシェフである「天龍」!!会場を揚げるように盛り上げる男が来たぞぉー!!」

 

天龍 料理人ランキング12位

 

 

 

『ヘラクドスシェフとは永遠のライバル!英国料理店「キャメロット」に君臨する料理の王、「アーサー」シェフだぁあ!!長きにわたる因縁に決着はつくのでしょうか!?』

 

アーサー 料理人ランキング9位

 

 

 

『膳王ユダのひ孫!十星レストラン「膳王」の現オーナー「ユラ」シェフ!その繊細な調理方法はしっかりと受け継がれているー!!』

 

「優勝は1㎜も逃しませんよ」

 

ユラ 料理人ランキング8位

 

 

 

『器具を一切使わない調理法「クッキング拳法」!それを極めた男である「マスター・龍牙」だぁ!!ファンからは「師匠」とも親しまれる人気の料理人!彼に弟子入りするファンが後を絶ちません!』

 

マスター・龍牙 料理人ランキング10位

 

 

 

『高級和菓子店「桜花凛々」の若女将にして!美人料理人ランキングでは毎年1位を取るビューティーシェフ、我らが「美桜」様ー!!』

 

美桜 料理人ランキング18位

 

 

 

『彼以上に暑苦しい料理人は他にいません!焼き肉店「地獄の一丁目」のオーナーである「カナアミ」シェフ!今回も我々を焼き殺しにきたぞぉー!!』

 

「今年こそ俺が勝ぁーーーーーーつ!!!」

 

カナアミ 料理人ランキング13位

 

 

 

一店舗(・・・)のみで年商500億!!ハンバーガー店「ABRA」のオーナーである「ドナルド・ミラー」が来たぞぉ!俺たちを熱々のパンで挟んでくれぇ!!』

 

ドナルド・ミラー 料理人ランキング21位

 

 

 

『食うもの拒まず!しかし彼に病院送りにされたファンは星の数!激辛専門料理人の「チリサイ」シェフだぁ!!』

 

「カナアミの奴め……相変わらず鬱陶しい」

 

チリサイ 料理人ランキング30位

 

 

 

『来た来た来たぁ!意外にも女性ファンが多め!自称世界を滅ぼすという「チョコレートの魔王」!「ガルベルト・ビター」様の降臨だぁ!!』

 

「我の王たる姿を奉れ!!」

 

ガルベルト・ビター 料理人ランキング39位

 

 

 

『キザなその性格はあらゆる円を司る!「ブルーノピザ」のオーナーシェフ「ブルーノ」!!今年もスタジアムをピザのように回しに来たぁ!!」

 

ブルーノ 料理人ランキング15位

 

 

 

『まだまだ来るぞぉ!秘境ばかりに店を置く!「雲渡り食堂」の「マロボシ」シェフだぁ!!珍しく人目の前に現れたぞぉ!!』

 

「いや別に、人見知りとかじゃないから……」

 

マロボシ 料理人ランキング19位

 

 

 

『出ましたぁー!神が食べられる(・・・・・・・)孤児院と言われている「オトギの城」の院長!「大竹」だぁー!!』

 

「頑張ろう、梅ちゃん!」

 

「うん!竹ちゃん!」

 

『その隣には小松、大竹と共にGODを調理した伝説の料理人!中梅調理学校の校長である「中梅」シェフゥ!!』

 

大竹 料理人ランキング5位

 

中梅 料理人ランキング6位

 

 

 

『料理人兼考古学者!古代や遺跡の希少食材を求めて世界を周り、「クリスタルスカルの実」の調理方法を発見した「ジョーンズ」シェフが現れたぁ!また我々を見たことも無い古代の世界へ誘うぞぉー!!」

 

ジョーンズ 料理人ランキング14位

 

 

 

『この女が現れたぁー!キノコ専門店「ザ・マッシュ」のオーナー!「セリア」シェフだぁー!!」

 

「ヒヒヒ……優勝は逃さないよ」

 

セリア 料理人ランキング55位

 

 

 

『この男が遂にやってきた!元美食會(・・・・)副料理長にして、裏のレストラン「真・美食會」を経営する「スタージュン」だぁ!』

 

「スター!頑張れよー!」

 

「まさか、私がこの場に立つ日が来るとはな……」

 

スタージュン 料理人ランキング2位

 

 

 

『再生屋にして健康食材専門!再生屋鉄狼のコンビである「リム」シェフだぁー!ユラシェフへのライバル視は未だ健在ー!!』

 

「頑張れよリム、まぁお前の腕はユラシェフの足元に及ばないものだがお前ならきっと優勝を狙える。ここまでやってこれたのは俺とお前の力で世界にお前の腕を見せてやるんだ。そう言えばお前に貸し忘れた本があって……」

 

「鉄狼うるさい!今度こそユラを倒すんだから!」

 

リム 料理人ランキング27位

 

 

 

『皆さん急いで鼻を塞いでください!激臭食材ばかりを調理するこの男、噂だとゾンビやらサンゲリアとか死霊のはらわたとか良く分からない美食屋とコンビを組んでいる「クレイ」シェフです!!』

 

「俺はゾンゲだぁー!!」

 

クレイ 料理人ランキング50位

 

 

 

「おおっーと!ここで彼女が現れました!「節之食堂」の現オーナー!あの国宝節之様の弟子である「のの」シェフだぁーー!!」

 

「ののたーん!」

「頑張れののたん!」

 

のの 料理人ランキング4位

 

 

 

『他にも名のある料理人が出てきます……き、来ました!!十星レストラン「ホテルグルメレストラン」コック長であり、数々の伝説を生み出してきたこの男ぉ!!「小松」シェフーーー!!!』

 

「お前も頑張れよー!小松ぅーー!」

 

「はい!トリコさん!」

 

小松 料理人ランキング3位

 

 

 

『そしてぇ――その小松シェフの弟子であるこの男!「織斑食堂」の料理人でファンも多い期待の新星……』

 

 

 

 

『一夏シェフだぁーーーー!!!』

 

 

 

 

「頑張れー!一夏ぁー!」

 

「お前の腕を見せてやれーー!!」

 

「一夏!見せてやりなさい!アンタの力を、世界中にー!!」

 

「――おう!!」

 

一夏 料理人ランキング92位




選手の中には原作キャラやその子孫設定のやつもあります。是非気に入ったキャラを教えてください!


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グルメ62 予選スタート!

フェスの内容は原作と同じようにしています。流石に競技内容を考えるのには時間がかかりますから。


『記念すべき55回クッキングフェスティバルゥウ!!今100人の料理人たちが集結しましたぁ!』

 

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 

『このネオクッキングスタジアムも沸騰寸前!当然でしょう、彼らはグルメ時代に現れた超新星たち!!我々を新たな世界に導いてくれるぅーー!!』

 

司会者のムナゲの言う通り3億人で埋まっているネオクッキングスタジアムは人々の声援で盛り上がっている。数十年前の美食會襲来により崩壊した前のスタジアムを改築し、より広い施設へと生まれ変わっていた。

以前のランキング覇者たちはもう殆ど姿を見せず、今その名を上げているのはいずれもその技術を受け継いできた猛者ばかり、そしてそれはこの男も同じであった。

 

『今回注目すべき料理人はこの男ぉ!!小松シェフの弟子である一夏シェフだぁ!!超新星の中でも人際目立っている人物であり、その腕前はしっかりと師匠から受け継がれています!果たして今祭典にて師匠と弟子のバトルが見られるのかどうかに期待ですッ!!』

 

「頑張れ一夏ぁー!!」

「負けんなよー!!」

 

(師匠から教えてもらった技術……今ここで活かして見せる!)

 

放たれる声援に応えるかのように奮起を見せる一夏、フェス初出場の彼にとってこれは自分の腕を世界に見せるチャンスであった。そして師匠である小松を超えようとやる気を示していた。

するとそんな一夏に歩み寄る1人の料理人……赤いエプロンと帽子を身に付けた若い男であった。

 

「君が一夏か、一度会いたかったよ」

 

「あ!ヘラクドスシェフ!」

 

それはランキング7位にして調理王ザウスの孫である「ヘラクドス」、ザウスは元料理人ランキング1位の男で彼もまたその技を受け継いでいた。

 

「小松シェフの弟子と聞いてね。今回のフェス、共に奮闘しよう」

 

「はい!勿論です!」

 

92位の一夏に7位のヘラクドス、周りから見れば対等な関係になど見えないはずだが歳も近いためまるで友のように接し合っていた。

するとそんな和気藹々とした雰囲気に、何と馬に乗った男が現れた。

 

「ヘラクドス!今日こそ長きにわたるライバル関係に終止符をつけよう!」

 

「アーサーシェフまで!」

 

「ああアーサー!今回もよろしく!」

 

「このフェスに優勝し、調理王の名は我が貰う!」

 

英国料理専門店「キャメロット」のオーナーシェフであり、ランキング9位であるアーサー。ヘラクドスとは「王」同士でライバル関係で基本アーサーの方から勝負を挑んできている。

 

「ハハッ……皆さんやる気で……私なんか吹き飛ばされそうですよ」

 

「あ!ユラシェフ!」

 

次に現れたのは膳王ユダのひ孫であるユラ、彼もまたランキング8位であり膳王の血と名を受け継いでいる料理人であった。

 

「ユラ……貴様も膳『王』の名を持つ男か……その玉座も我が貰ってやる!」

 

「曾祖父から受け継いだその名は、決して安いものではありませんよ……!」

 

『おおっーーと!ランキング上位たちがいきなり火花を散らしているぅー!!もう勝負は始まっているのかもしれません!!』

 

ムナゲの司会により盛り上がりは更に絶好調。そしてランキング上位の新世代料理人たち、一夏を含めた彼らを遠くから傍観している料理人が3人いた。

その料理人こそ一夏の師匠である小松、そしてその親友ともいえる「大竹」と「中梅」であった。

 

小松(こま)っちゃんの弟子……手ごわそうだね」

 

「そうだね竹ちゃん……小松っちゃんは凄い人を育てたなぁ」

 

「梅ちゃん竹ちゃん……でも今回は僕が勝つよ!」

 

ランキング5位6位、そして3位が勢ぞろいしているその場も一際存在感を放っていた。

 

「小松シェフ……今年もよろしくお願いします」

 

「ののさん!負けませんよ!」

 

そこに話しかけたのは人間国宝節之の弟子であるののであった。国宝の腕と名はしっかり彼女が守っていた。

 

「相変わらずのようだな……小松シェフ」

 

「スターさん!フェス出場おめでとうございます!」

 

そしてこの男はかつて美食會副料理長としてIGO、そしてトリコと幾度も戦ったスタージュンであった。今は正式な料理人として活躍しかつての蛮行をその料理の腕で償っている。

 

「ブランチさんはいつも通り休みですけど……皆さん頑張りましょう!」

 

 

 

 

『それでは早速行きましょう!まずは予選第一回戦!!スイム、バイク、ランの食のレース、毎年恒例『トライアスロンクッキング(・・・・・・・・・・・・)だァアアーーーーー!!!』

 

「え……トライアスロン?」

 

そしてムナゲの口から言われる予選の内容、観客たちはそれによって更に盛り上がっていくが、料理の大会なのに何故トライアスロンという単語が出るのか、そう疑問に思った春十たちIS組は首を傾げる。

 

『スイムで手に入れた食材をバイクで運び、ランで調理器具を手に入れゴール地点で料理するこの予選!より速い者が良い食材を手に入れ、良い調理器具を使えるようになっています!』

 

「うーん……トライアスロンの部分必要かそれ……?」

 

『では!早速予選を始めていきましょう!!』




オリキャラ全員活かせるかどうか不安……


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グルメ63 スイミング開始!

今回もオリキャラ紹介がちょこっとだけあります。


クッキングフェス予選1回戦はトライアスロンで食材を手にいれ運ぶ「トライアスロンクッキング」、そのスタート地点となる浜辺「ライスビーチ」に総勢99人ものプロの料理人が並ぶ。その中には勿論一夏もおり鼻息を荒くして目の前の海を眺めていた。

いよいよ1回戦開始、合図をするのはトリコも小松も世話になった料理人であった。

 

『スタートの合図をするのは世界料理人ランキング堂々の2600位!寿司屋「占い鮨」より寿司職人「モンチー」シェフだぁあ!!』

 

「アホかぁ!!今回もこの立場かいアホがぁ!!」

 

それはトリコたちに食林寺への道を示してくれた寿司職人のモンチー、巨大な恵方巻を作って方向を指す彼は何度もフェスのスタッフとして参加していた。

設置されたリングから勢いよく飛び降りようとするモンチー、しかし紐に引っかかって頭から転んでしまい持っていたピストルを鳴らしてしまう。それがフェス開戦の合図となった。

 

『さぁー始まりましたクッキングフェスティバル!!一体だれが優勝するのかぁーー!?』

 

「頑張れー一夏ー!」

「負けんな小松シェフー!」

「ののたん見せてやれー!」

 

一斉に料理人たちが海へと走り、会場は沸騰寸前まで盛り上がる。それぞれが自身の推しを大声援で応援し、まるで大音量のスピーカーが何百個も設置されたような音量であった。

スタート時の視聴率は98%、世界中の殆どの人間がテレビ越しでその様子を見ていた。

すると99人の中から先行して泳ぐ料理人が現れた。日焼けした肌で南国の格好をしている何ともこの場にふさわしくない料理人であった。

 

『最初に飛び出たのはランキング33位の南国専門料理店オーナー、「アロハ・オキナワ」だぁ!!日焼けの褐色肌は飾りじゃない!』

 

アロハ・オキナワ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…キャッスルヤドカリの蒸し焼き(捕獲レベル26)

・スープ…宝石ウミウシの特性スープ(捕獲レベル10)

・魚料理…ウミヘビウツボの串焼き(捕獲レベル46)

・肉料理…ナポレオンホーンのロコモコ丼(捕獲レベル39)

・主菜(メイン)…カメハメキングザウルスのステーキ(捕獲レベル66)

・サラダ…サンシャインゴーヤのチャンプルー(捕獲レベル32)

・デザート…ドラゴンフルーツココナッツのゼリー(捕獲レベル24)

・ドリンク…毒殺蝮のハブ酒(捕獲レベル58)

 

南国料理のアロハ・オキナワ、水中深くに潜水しまるで魚のような速度で水の中を走っていく。その動作は最早哺乳類ができるものではなかった。

しかし、水面の上を走る何者かにその視線は奪われた。

 

『おぉーっと!しかし考古学者のジョーンズが追い抜いたぁ!ジョーンズシェフはあのグルメ七不思議の1つであるハングリートライアングルに眠る「グルメアトランティス」を見つけた男!水での活動は慣れていたぁ!」

 

ジョーンズ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…古代グルタ人の食宝 聖櫃(アーク)(捕獲レベル測定不能)

・スープ…始祖鳥アーケルクスの化石煮込みスープ(捕獲レベル不明)

・魚料理…グルメアトランティスのアトラスサーモンの刺身(捕獲レベル83)

・肉料理…ファラオ豚の乾燥ミイラ肉(捕獲レベル55)

・主菜(メイン)…クリスタルスカルの実(捕獲レベル測定不能)

・サラダ…虹色黄金草のドレッシングサラダ(捕獲レベル65)

・デザート…黄泉樹海の紫電リンゴ(捕獲レベル44)

・ドリンク…メルト遺跡の聖杯水(捕獲レベル不明)

 

『他にもスタージュンシェフ、ののシェフ、ヘラクドスシェフも水上を走っているぅー!!』

 

 

 

 

「凄いな……皆泳ぐより水の上を走っているぞ」

 

観客席からその様子を見ていた春十たち、その異様なトライアスロンの始まりに驚愕しIS組は全員目を丸くしていた。

 

「……この世界の料理人は全員こんな感じなの?」

 

「いや何も全員がこれなわけじゃないわよ……例えば小松さんがそのいい例ね」

 

シャルの問いにリンカはそう答えると、丁度ムナゲが小松を注目して司会をしていた。

 

『さぁーここで毎度おなじみ()()()()()()()の時間だぁ!これでフェスの優勝者が決まると言っても過言じゃありません!』

 

「小松チャレンジ?」

 

「小松さんって確かに料理の才能は凄いんだけど、運動能力は皆無でこのトライアスロンクッキングで小松さんが生き残るかどうかで勝敗が決まる感じなの」

 

 

 

 

「ウボボボボッ!アババッ!」

 

リンカの言う通りであり、現在進行形で小松シェフは溺れかけていた。その横を次々と他の料理人たちが素通りしていき一気に順位が下がっていた。

そして小松を追い抜くのは勿論この男もだ。

 

「師匠!先に行かせてもらいます!」

 

「一夏……君……すぐに追いついて見せるから!」

 

『ここでここでぇ!弟子の一夏シェフが師匠を追い抜いたぁ!!師匠と弟子の下克上は意外にも早く見られたぞぉ!!』

 

完全に水面の上に立っているわけではないが、一夏も何とか水の上を走り小松を抜く。その後どんどん他の料理人を追い越していきあっという間に上位に入った。

だが、当然その一夏を追い越すものもいる。

 

「フハハハハッ!我の前は行かせんぞ一夏よ!」

 

「うおガルベルト!」

 

なんとガルベルト・ビターは水上にチョコレートの橋を作り、その上をまるでスケートのように滑っていた。歩くどころか滑るという何ともトライアスロン泣かせな奴だ。

 

ガルベルト=ビター フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…炙り水晶トリュフチョコ(捕獲レベル72)

・スープ…黒点カレーとココア滝のスープカリー(捕獲レベル55)

・魚料理…ショコライクラの軍艦寿司(捕獲レベル32)

・肉料理…ビターピッグの焼肉(捕獲レベル12)

・主菜(メイン)…カカオキングのチョコレートフォンデュ(捕獲レベル81)

・サラダ…ホワイトチョコ白菜の茹で物(捕獲レベル9)

・デザート…ザッハトルテ大陸の一部(捕獲レベル測定不能)

・ドリンク…ダークビターワイン(捕獲レベル29)

 

「俺も負けないぞぉ!!」

 

その勢いに負けず、一夏も更にスピードを高める。そして一夏だけじゃない、他の料理人も全力でその海を泳いでいた。

 

一夏 フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…黄金鮭入りダイヤモンドおにぎり(捕獲レベル63)

・スープ…クリーム白虎のクリームシチュー(捕獲レベル59)

・魚料理…トロルマグロの刺身――氷柱ワサビ使用(捕獲レベル42)

・肉料理…

・主菜(メイン)…

・サラダ…仙人参しりしり(捕獲レベル測定不能)

・デザート…

・ドリンク…

 

『さぁさぁ!勿論このライスビーチにも障害があります!海の猛獣たちが一斉に襲い掛かってきたぁ!!』

 

すると司会の言う通り海の中から大量の海獣たちが出現し、大会出場者に襲い掛かる。祭りの盛り上がりは更に上がっていった。



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グルメ64 海戦!

今回もオリキャラとそのフルコースメニューの発表です。本当に頭絞って考えた……


各料理人たちが必死にライスビーチの海を泳いでいると、その中心に巨大な影が出現。そしてムナゲの言う通りそこから海の猛獣が飛び出してきた。

 

「のわッ!ナマコ龍!」

 

ナマコ龍〈棘皮動物獣類〉捕獲レベル38

 

龍のように長い体を持つナマコ、ナマコ龍は料理人を狙って暴れ始めその泳ぎを妨害していく。

すると急にその動きが静かになったと思うと、そこらの海域の異常を料理人たちが感じ取った。

 

――海水鍋煮込み!!

 

「……あっちぃ!!」

 

()()だ!皆離れろ!」

 

そこらの海水の温度が一気に上昇、続々とそこを泳いでいた料理人が離れていく中1人の老人だけが水面に立ってナマコ龍と対峙していた。

料理人ランキング43位にして鍋専門の料理人である鍋爺の仕業であった。彼によってどんどん海水が熱くなっていきナマコ龍は悶え苦しむ。

 

鍋爺 フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…キャラメル大豆の豆腐(捕獲レベル3)

・スープ…金泥味噌のダシ煮込み(捕獲レベル22)

・魚料理…青龍鮭の煮込み(捕獲レベル42)

・肉料理…風船豚のしゃぶしゃぶ肉(捕獲レベル12)

・主菜(メイン)…黄金竹林葱の煮込み(捕獲レベル49)

・サラダ…ダシ染み雪ん子白菜(捕獲レベル4)

・デザート…甘味しらたき(捕獲レベル1以下)

・ドリンク…キムチ金魚のヒレ酒(捕獲レベル10)

 

『おぉーとッ!ここで鍋爺シェフがナマコ龍を自慢の煮込みで捕えたぁ!海の猛獣を食材にすることはありです!ナマコ龍も彼の鍋に掴まってしまうのかぁー!?』

 

誰もが鍋爺がナマコ龍を仕留めたと思った瞬間――その体を《《粉が包み込む》。

 

――瞬時天ぷら粉、刹那揚げ!

 

その状態のナマコ龍が熱された海に入った瞬間、一気にサクサクの衣に包まれ絶命。カリッと揚げられてしまったナマコ龍の上に1人の料理人が立った。

 

「若造が……儂の煮込みを利用しよったな?」

 

「悪いね、このナマコ龍は貰っていくよ」

 

『ここで!12位の天龍シェフが鍋爺のナマコ龍を横取りぃ!』

 

それはランキング12位の天ぷらの料理人である「天龍」、彼が鍋爺が上げた海水の温度を利用したのだ。

 

天龍 フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…天翔天むす(捕獲レベル不明)

・スープ…揚げ揚げ島の海水煮込み(捕獲レベル1以下)

・魚料理…白銀シーラカンスの丸ごと揚げ(捕獲レベル73)

・肉料理…初日の出鶏の鳥天(捕獲レベル67)

・主菜(メイン)…白龍海老の天ぷら(捕獲レベル88)

・サラダ…レンダイコンの天ぷら(捕獲レベル21)

・デザート…真空苺のデザート天ぷら(捕獲レベル33)

・ドリンク…天界天つゆの水割り(捕獲レベル69)

 

『一方他では、鱗で絶品の海苔を作る『岩海苔魚』が出現!それに立ち向かうのは我らがマスター・龍牙シェフだぁ!!』

 

巨大な岩海苔魚に対し、ゆっくりと海面の上を歩くマスター龍牙。後ろで手を組みながらゆっくりと歩み寄っていた。そんな1人の老人をじれったいと思ったのか、岩海苔魚の方から襲い掛かる。しかし……

 

――手刀包丁。

 

龍牙は一瞬で魚を通過し、その手で全ての海苔鱗をはぎ取っていた。岩海苔魚はまだ生きており怯えた様子で海の中に避難していく。

 

マスター・龍牙 フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…濃霧米の念力握り(捕獲レベル23)

・スープ…雲海天魚の祈祷煮込み(捕獲レベル62)

・魚料理…心眼鮎の鮨(捕獲レベル52)

・肉料理…筋骨豚の体温焼き(捕獲レベル41)

・主菜(メイン)…春夏秋冬の実(捕獲レベル不明)

・サラダ…山神ほうれん草の盛り合わせ(捕獲レベル57)

・デザート…宝玉白桃(捕獲レベル58)

・ドリンク…潜龍滝の水(捕獲レベル77)

 

何とか生き残った岩海苔魚だったが、水底からある物が迫ってきた。()だ、巨大な五寸釘が何本も岩海苔魚の体に突き刺さり水上へと打ち上げられる。

それをやったのは、ハチマキをした()()であった。

 

『そこで鱗を失った岩海苔魚を仕留めたのは、大工の道具で調理をするグルメハウスの大工兼料理人である「親方のケン」だぁ!!その腕はあの天才建築士のスマイル氏が認める程です!』

 

「岩海苔魚は鱗だけじゃなく煮込むことで良いダシになる。そんなことも知らないのかい?」

 

「それくらい知っておるわ、私はただ無駄な殺生はしない主義だ」

 

親方のケン フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…コンクリート豆腐の立体正方形(捕獲レベル44)

・スープ…レンガトウモロコシのコーンポタージュ(捕獲レベル34)

・魚料理…深林魚のノコギリ調理刺身(捕獲レベル61)

・肉料理…塗り壁牛の玄翁ミンチ(捕獲レベル39)

・主菜(メイン)…大黒鰹のかつおぶし(捕獲レベル43)

・サラダ…瓦キャベツのサラダ(捕獲レベル11)

・デザート…漆チョコレートの壁塗り(捕獲レベル18)

・ドリンク…雪茶葉の白茶(捕獲レベル3)

 

 

『続々と料理人たちが火花を散らしていく中、周りとは少し違った方法で海面を歩いている料理人がいるぞぉー!その名はセリアァー!!』

 

「ヒヒ……私泳げない」

 

セリア フルコースメニュー 

・オードブル(前菜)…ジャングルしめじのポン酢漬け(捕獲レベル32)

・スープ…ベニダイテングタケの解毒スープ(捕獲レベル41)

・魚料理…海藻シイタケの炭火焼(捕獲レベル22)

・肉料理…特製タレ使用のステーキノコ(捕獲レベル5)

・主菜(メイン)…アース松茸の炊き込みご飯(捕獲レベル63)

・サラダ…タンポポ舞茸の盛り合わせ(捕獲レベル30)

・デザート…ホイップナメコのアイス(捕獲レベル2)

・ドリンク…高峰エリンギの茶(捕獲レベル68)

 

一方その頃一夏や春十たちと共にキノコ狩りに行ったこともあるセリアが、水中でも育つ「ワカメノコ」を一列に生やしその上を走っていた。

しかしそのキノコの道を、彼女以外に使っている人物がいた。

 

「何とぉ!さっきまで溺れていた小松シェフもその上を走っているぞ!」

 

「ヒヒ!?」

 

「ごめん、つかわせてもらったよ」

 

小松 フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…BBコーンのポップコーン(捕獲レベル35)

・スープ…センチュリースープ(捕獲レベル60)

・魚料理…オウガイのグリル(捕獲レベル不明)

・肉料理…完象(エンドマンモス)のステーキ(捕獲レベル1200)

・主菜(メイン)…GOD(捕獲レベル10000)

・サラダ…食宝エア(捕獲レベル6200)

・デザート…虹の実のゼリー(捕獲レベル12)

・ドリンク…ビリオンバードの卵(捕獲レベル1以下)

 

 

 

 

一方その頃、一夏とガルベルトの前にも猛獣が出現、側面に大量足が生えている巨大ウツボが2人の目の前に飛び出してきた。

 

ムカデウツボ〈魚獣類〉捕獲レベル50

 

「稚魚がこっちにも来たか……!」

 

「ムカデウツボ!確か食えたはずだぞこいつ!」

 

一夏のその言葉に2人は一気に反応、さっきまで競っていた一夏であったがその時だけは共闘した。

まず一夏は2本の包丁を取り出し構える。そしてガルベルトは両手を大胆に翳す。するとその後ろからチョコレートの波が立ち、それがどんどん巨人の形に成り立っていく。

 

無間の料理術(インフィニット・クッキング)……!!」

 

甘味の魔王城(キャッスル・ファウンテン)……!!」

 

 

 

 

「高山分け!!」

 

悪魔の最高級遊戯(ビター・ザ・サタン)!!」

 

 

 

 

一夏の斬撃、ガルベルトがチョコレートで作った悪魔のパンチがムカデウツボに命中、斬られ殴られウツボは凄まじい勢いで吹っ飛んで行った。

 

「優勝は我の物だ!一夏!!」

 

「勝つのは……俺だ!!」




なろうで書いていた作品「爆発寸前な男」が終わり、また性懲りも無く新しい作品を投稿し始めました。

丸太の戦乱
https://ncode.syosetu.com/n3612fg/

カブトムシを題材にしたローファンタジーです!こちらの方も是非ご覧ください!


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グルメ65 バイクレース!

私は虫が苦手です(突拍子もなく)


「よしッ!泳ぎ切った!」

 

見事海の猛獣たちを倒し泳ぎのステージを突破した一夏とガルベルト、ゴールの浜辺には大量の食材が山積みにされており他の料理人もそこへ集まっていた。

 

「これが料理に使える食材か、猛獣どもの邪魔で高級な食材は全部取られたようだな……」

 

スイミングステージでは早く泳ぎ終わったものから最後の調理で使える食材を選ぶことができ、逆に遅いものは余り物の食材しか使えないのだ。

そんな食材の山を凝視する一夏、その姿にガルベルトは疑問を持つ。

 

「どうしたのだ一夏」

 

「師匠は初出場の時全部の食材を運んだって聞いたけど……俺もそうした方が良いのかな?」

 

「あれはビリだからできたのだ、流石に後ろの連中の分も残しておけ」

 

 

 

 

『さぁー料理人の半数が既に第二ステージへと進出しています!このバイクステージでは第一ステージで手にいれた食材を自転車で運ぶものですが、そのルートは大きく分けて2つあります!障害物が無く長いルート、障害物が多く短いルート、殆どの料理人が後者を突き進んでいます!』

 

ムナゲの言う通り料理人の殆どが猛獣が蔓延り過酷なルートを選択している、料理人の中には元美食屋の手練れもおりこの程度の障害など取るに足らなかった。

例えば今突き進んでいる料理人、彼の目の前に1匹の猛獣が現れる。

 

ヤマタノクロコダイル〈爬虫獣類〉捕獲レベル31

 

首が八つある巨大なワニに対し、その料理人は片手で自転車を乗りこなしもう片方の手で()()()()()を回していた。そして綺麗な円となった生地を手裏剣のように投げ、ヤマタノクロコダイルをバラバラに引き裂く。

 

研磨小麦粉の手裏剣生地――!!

 

彼こそはピザ専門店「ブルーノピザ」のオーナーシェフであるランキング15位、ブルーノであった。その生地の扱いに勝てる者は他にいない。

 

ブルーノ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…銀色ドングリのパスタ(捕獲レベル22)

・スープ…マシンガンビーンズのミネストローネ(捕獲レベル35)

・魚料理…クリスタルマグロのシーチキンピザ(捕獲レベル41)

・肉料理…ロイヤルセレブ豚のベーコンピザ(捕獲レベル19)

・主菜(メイン)…グルトリア七諸島のミックスピザ(捕獲レベル不明)

・サラダ…チーズ人参のサラダピザ(捕獲レベル3)

・デザート…金色桃のデザートピザ(捕獲レベル20)

・ドリンク…七色ブランデー(捕獲レベル16)

 

そして次に現れたのは狼、まるで羊のような体毛を全身から生やしていたがその見た目に合わない獰猛さを牙と共に見せつける。

 

ウルフンワリ〈哺乳獣類〉捕獲レベル25

 

瞬間、ウルフンワリの左右に上下のパンが出現、そしてそのまま左右から挟み込んできてウルフンワリを挟み潰した。

 

「ミンチバーガー……ミーのバーガーの具材になってもらいますヨー!」

 

それをしたのは派手なアメリカン衣装に身を包ませた料理人、ハンバーガー店「ABURA」のドナルド・ミラーであった。彼もランキング21位の猛者であった。

 

ドナルド・ミラー フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…ハッピースマイル芋のフライドポテト(捕獲レベル2)

・スープ…赤色トウモロコシのコーンスープ(捕獲レベル6)

・魚料理…刀樹鯖のフィレバーガー(捕獲レベル34)

・肉料理…テノヒラコッコの丸焼きナゲット(捕獲レベル11)

・主菜(メイン)…エベレストビッグバーガー(捕獲レベル測定不能)

・サラダ…ヴァンパイアトマトの野菜バーガー(捕獲レベル44)

・デザート…星の大三角形チョコパイ(捕獲レベル68)

・ドリンク…バクハ炭酸コーラ(捕獲レベル56)

 

 

 

 

「最後まで我と競争だ一夏!」

 

「おう、負けねぇぞ!!」

 

一方その頃一夏とガルベルトはまだ競い合っており、互いに自転車を漕ぎまくっていた。ちなみに流石にISの使用は認められず、こうして自転車で危険地帯を走っているわけだ。

するとそんな一夏たちにも、猛獣の魔の手が襲い掛かる。

 

「ハッハッハ!邪魔だぞ猛獣共――甘味の魔王城(キャッスル・ファウンテン)百鬼夜行の我が覇道(デーモン・ビター・ロード)!!!」

 

するとガルベルトはチョコレートで空に伸びる道を作り出し、その上を渡って猛獣の群れを突破しようとする。しかし次の瞬間、チョコレートの道はドロドロに溶けた。

 

「閻魔七味――特製キラースパイス!」

 

「何だとォ!?」

 

真っ逆さまに落ちていくガルベルト、それでも地面に何とか着地し自転車も壊さずに済んだ。そんなガルベルトを妨害したのは、かつて一夏たちとも会ったことのある30位の料理人、チリサイであった。

 

「流石にそれはズルくないか?」

 

「チリサイ……我が覇道を邪魔するとは不敬であるぞ!」

 

チリサイ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…

・スープ…極熱デッドカレールーのスープカリー(捕獲レベル49)

・魚料理…わさびタップリロケットカツオの刺身(捕獲レベル34)

・肉料理…バーニングトレイン牛のスパイスステーキ(捕獲レベル65)

・主菜(メイン)…チリペッパードラゴンの卵(捕獲レベル88)

・サラダ…カヤク白菜のキムチ(捕獲レベル35)

・デザート…救済――ダイヤモンドメロンのシャーベット(捕獲レベル72)

・ドリンク…ここからが本当の地獄――激辛神水一気飲み(捕獲レベル不明)

 

そしてガルベルトの方だけではなく、一夏の方にも妨害が来た。

 

「……臭ぁ!」

 

あまりの激臭に思わず自転車を止める一夏、周りにいた猛獣も泡を吹いて気絶したり逃げ出したりした。そこに現れたのは、それはもう不潔そうな男。

 

「げへへ……素人なんかに先に行かせないぜぇ?」

 

「クレイシェフ……!」

 

激臭食材だけを取り扱う料理人のクレイ、彼が辺りに激臭を放ち混乱の渦を起こしているのだ。

 

クレイ フルコースメニュー

・オードブル(前菜)…異臭カタツムリのエスカルゴ(捕獲レベル44)

・スープ…深海ムカデの灰汁残しスープ(捕獲レベル54)

・魚料理…泥鮎のくさや(捕獲レベル28)

・肉料理…ダストベアーの熊肉ステーキ(捕獲レベル59)

・主菜(メイン)…生ドドリアンボム熟成(捕獲レベル68)

・サラダ…ラフレシアキャベツのサラダ(捕獲レベル65)

・デザート…蝦蟇蚯蚓の団子(捕獲レベル27)

・ドリンク…黒神原油の解毒ドリンク(捕獲レベル87)

 

この第二コースであるバイクのレース、ここでも料理人の激闘が行われていた。



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グルメ66 凄腕の美食屋!

一か月経つの早い……早くない?


一夏を含めた料理人たちが互いに競い合い、食材を抱えながらゴールへ進んでいる中観客席は沸騰寸前にまで盛り上がっていた。歓声が鳴りやむ時は来ず、全てが騒がしい。

唯一静かなのは、リンカや春十たちがいるVIP席かもしれない。

 

「一夏、周りのライバルに苦戦してるわね……あの人たちって相当強いの?」

 

「ええ、料理人の中には元美食屋もいる。基本的に強くなければフェスで勝ち残ることはできないわ……小松さんは除いてね」

 

この世界に慣れていないIS組に説明しているのは一夏のコンビであるリンカ、ちなみに他の四天王も同じ席にいた。逆にリンカ以外の四天王が質問責めにしているのは春十であった。

 

「君……一夏のお兄さんなんでしょ?何か一夏のエピソードとかないの?」

 

「出しゃばらないでくださいましララ!でも……確かにそれは興味がありますわ」

 

「お前、奴の弟なら一夏とアタシがコンビになるのを認めてくれよ」

 

「アンタらぁ!抜け駆けしてないで試合を見なさいよ試合を!」

 

「ははッ……」

 

VIP席が静かというのを撤回しよう、今現在その空間は別の意味で盛り上がっていた。

 

「チリサイシェフは激辛専門店のシェフ、世界中のありとあらゆる激辛食材を極めている辛さの天才とも呼ばれているわ」

 

「チリサイ……あの火山であった人ですか」

 

チリサイはドーイド火山で面識があり、IS組で彼の顔を知っているのはマグマカレーを取りに行った春十、簪、鈴の3名であった。

 

「そのフルコースは当然どれも辛い食材、特にドリンクの激辛神水なんか取り扱いを間違ってあまりの辛さにショック死した人が星の数ほどいる食材よ」

 

「ショ……ショック死!?辛さ!?」

 

「それを的確に調理できるのがチリサイ……といっても調理が成功したものでも気絶するケースが多いんだけどね。あまりに辛いそのフルコースは、食べる前にどんなことがあっても全責任を自分で負うという契約書を書かないと食べられない程」

 

「……何でそんな人がランキングに?」

 

「何で……って、そりゃ美味いからに決まってるじゃない」

 

グルメ世界の住民の食事概念についていけないIS組、唯一納得しているのはこの世界に一番慣れていた春十だけであった。

 

「そしてクレイシェフ、臭い食材だけを取り扱う料理人。あの人もまた多くの気絶者を出せる程危険な食材を使って料理してるわ」

 

「私……あの人は好きになれませんわ、あの人の()()()()()()()()……」

 

「俺のことを呼んだか?」

 

そう言って現れたのは薄汚い1人の美食屋、獣の皮で作られた服を身に纏い豪快さを醸し出し斧を携えたこの男の名は……

 

「あ、ゾンビさん」

 

「違うよ死霊のはらわたですよ」

 

「げ……ザンゲリア」

 

「何だ腐った死体か」

 

「ゾンゲだゾンゲ!!何故かVIP席にお呼ばれされなかったゾンゲ様だぁーー!!」

 

リンカたちに間違った名前で呼ばれたことに怒るロンゲ、しかしその両腕はVIP席のスーツマンに掴まれる。

 

「お客様、ここはVIP席ですので一般席にお戻りを」

 

「何を言ってやがる!俺はゾンゲだぞ!放せッー!!」

 

「……何今の人」

 

「クレイシェフのパートナー、覚えなくていいわよ」

 

 

 

 

「お待たせしました、こちらクジラ豚のステーキにございます」

 

「おっ♡待ってました~~♪」

 

するとウエイターに出されたステーキを豪快に頬張るリンカ、その食べっぷりに春十を除くIS組は驚き、ポニーも同じような食欲を見せていた。

 

「ん~♪この豚の上品な脂にクジラのクセの無さ、相当の脂肪分だけでどんどん食べれるわ~!」

 

「あのぉ……一夏は勝てますかね」

 

「ん……当然でしょ?何故なら一夏は……」

 

 

 

 

「私のコンビなんだから!」

 

「僕のコンビだから大丈夫だよ」

 

「私のコンビですので心配いりませんわ!」

 

「アタシのコンビなんだから当たり前だろ!」

 

 

 

 

「――って何でアンタらまだ諦めて無かったの!?」

 

「寧ろ僕らがそう簡単に諦めると思う?」

 

「貴方みたいな下品な人に一夏様は似合っていませんわ!」

 

「好き勝手言ってんじゃねぇぞテメェら!」

 

「あ……また喧嘩だ」

 

もう何回目かも忘れた喧嘩、それに春十たちは大分ウンザリしていた。それをよそに、フェスは更に盛り上がっていくのであった。




正月があっという間に過ぎましたね(今頃)。今回はちょっと少なくてすいません。


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グルメ67 生き残った50人!

FGOで見事呼符だけで紫式部を引けました。頼光ママ以来の一目ぼれでした。
私は黒髪美人で年上でおっぱいもでかくて身長も高い母性のある人が好きです(唐突な性癖暴露)。


『さぁートライアスロンクッキングも終盤半ば!もう殆どの料理人が第3ステージのマラソンに挑んでおります!その道中では給水所ならぬ()()()で自分の自慢の道具を回収しゴールへ挑んでいます!』

 

「あった!黒星と白海、間に合って良かった……」

 

何とかバイクコースを乗り越えマラソンに挑んでいる一夏、もうガルベルトとは別れ単独で走っていた。そして給具所で見事自分の包丁を獲得でき再びそれと食材を持って走り出す。他にも沢山の料理人が高速で風の如く駆け走っている。

 

『このトライアスロンクッキングで生き残る料理人は70名!そしてそのうち50人がこの後の料理勝負で残ります!ちなみにランキング上位のスタージュン、のの、大竹、ヘラクドスシェフはもうゴールしています!残り66名!』

 

「もうゴールしている人がいるのか!俺も急がないと!」

 

ムナゲの実況を受け奮闘を開始する一夏、他の料理人たちもよりスピードを上げ数十キロ先のゴールへと目指した。その道中に現れる猛獣に苦戦しながらも確実に倒しながら先へと進み、ゴールを目指す。

大量の食材や連戦による疲れで、もうヘトヘトになっていた一夏であったが前方に見覚えのある背中を確認する。

 

「あれは……師匠!」

 

「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ」

 

それは一夏の師匠である小松であり、息を切らしながら顔を真っ青にしている。小松は他の料理人のように戦闘能力が無いためこのトライアスロンは最大の敵であり、他の料理人たちに次々と抜かれていっている。一見可哀そうにも見えるが、ここで手を抜くのは自分の師を裏切る行為に近い。そのまま一夏はスピードアップをし小松の横を突き抜けた。

 

「師匠!お先に失礼します!」

 

「ハァ……ハァ……一夏君に越されちゃった」

 

そうして一夏はそのままゴール、順位は55位と結構ギリギリであった。そして後から遅れ小松も68位という本当に危ない順位で何とかゴールした。

 

『おぉーと!小松シェフがゴールしたぁ!今年の小松チャレンジが成功したぞぉ!これはもう優勝者が決まったに等しいのではーー!?』

 

「アホ抜かせ……師匠を超えて優勝するのは俺だ!」

 

ここで30人の料理人が脱落、そしてそこから始まるのはこのトライアスロンクッキングのメインと言っても過言ではない料理の時間であった。料理人はスイムで手にいれバイクとランで運んだ食材を調理しそれをG7に試食してもらう。そうやって美味い順から50名が予選を通過できるのであった。

 

 

 

 

『ガルベルトシェフ予選通過ぁーー!!!』

 

「当然である!我が料理人の頂点に君臨して見せよう!」

 

ガルベルトやセリア、そして上位組は当然予選を通過していく。ガルベルトはチョコレートを駆使した料理など自分の個性を生かした料理を作っていった。

そして次はいよいよ一夏の番である。

 

『次は一夏シェフだぁ!果たして今祭典のダークホースとなり得るのかぁ!!』

 

「お久しぶりですパッチさん、実食お願いします!」

 

「一夏シェフ、期待しているぞ」

 

実食をするG7の一人、パッチは一夏とも面識があり小松の大ファンでもあった。だからといって甘めに審査などしない、味覚マスターとして正面から料理人の全力を受け止める。

そうして7人分の

 

「おぉ……これは……!」

 

「題して、『2つの味のマグマダムカレー』です!」

 

『一夏シェフが作ったのは、ドーイド火山で採れるマグマカレーを作ったカレー!しかもライスで皿の真ん中にダムのような壁が形成されており、ルーが2種類に分かれてるぅー!』

 

「では……いただきます」

 

パッチはそのままスプーンをとり、一夏のカレーを頬張った。右側のルーは野菜がタップリ入っており、左側は海の幸が豊富なシーフードカレーであった。

 

「右側は野菜仙境の野菜で作った野菜カレー、左側はミカエルフィッシュをメインにしたヘブンオーシャンの海の食材を使ったシーフードカレーです」

 

「山と海、2つの幸がマグマカレーのルーと見事に調和しているな……栄養満点の野菜仙人たちの野菜、ヘブンオーシャンの爽やかな潮の味、そしてそれらが程よい辛さでより引き立てられている……絶品だ!」

 

「2つのルーを混ぜ合わせてみてください!」

 

「ルーを……?」

 

そう言われてパッチはスプーンでライスのダムを崩壊させる。隔離されていた2つの味が混じり合いまったく別の味のカレーへと変化した。

 

「んん!一見合わないと思っていた野菜とシーフードがベストマッチとなっている!」

 

「まったく別の食材、正反対の方向で見つかった食材、例えバラバラでもカレーなら一括りにできるかと思って……野菜仙境、ヘブンオーシャン、ドーイド火山の3つの土地が融合させました!」

 

「うむ……ここまで異色揃いの食材たちをここまでまとめられるとは……これは文句なしの合格だ!」

 

『一夏シェフも予選追加ぁーー!!これで更に勝敗が分からなくなって来たぞぉー!』

 

「よっし!」

 

今までIS組と乗り越えて手に入れた食材を使ったカレーで見事予選出場を勝ち取った一夏、しかしこれだけでは終わらない。本当のフェスはここからであった。

 

『いよいよ予選第1回!次の種目は、調理の早さを競うハヤワザクッキングレースです!果たしてこの50人の内誰が生き残るのかぁー!!」

 

 



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グルメ68 予選2回戦!

「ふぅ……何とか予選は通過できたな」

 

「トライアスロンクッキング」の50人に見事入り込んだ一夏、ギリギリだったため冷や汗を掻いて息を整える。

しかし本当の予選はこれから、後2つの予選を行い更に勝ち残った32名による決勝トーナメント、それでスーパーコックは決まるのだ。

 

小松の弟子にて初出場の一夏が予選に残ったことになり一夏ファン、そして会場は大盛り上がり。スタジアムの中心に君臨している50人の猛者たちに声援を送り続けた。

そして間髪入れず予選第2回戦に入った。

 

『続いての競技はハヤワザクッキングレースです!!こちらをご覧ください!』

 

視界のムナゲがそう言うとスタジアムの中心の一部の床が下がり、何かを乗せて再び上がってきた。それは食材の山、そしてそれを取り囲むように50人分のキッチンも用意されていく。

 

「あれは……フグ鯨にロイヤルマンボウ!どれも調理が難しい食材ばかりだ!」

 

『その通り!こちらの食材は()()()()()調()()()()!ハヤワザクッキングレースはこの食材を使って行われます!』

 

その食材は司会の言う通りどれも調理に相当な技術が必要で有名なものだけしかなかった。そして今回の予選に使うのがこの特殊調理食材だという。

 

『ルールを解説いたします!今から1時間、この食材を使ってできるだけ多くの料理を作ってください!ここで評価されるのは料理の数、食材の調理難易度、調理完了の早さです!』

 

「成る程……つまり食材選びの目も必要なのか」

 

『ちなみに料理数の最低合格ラインは30!できるだけ簡単な食材を選んで数と速さで勝つか!時間をかけても最低数は超え食材の難易度で勝つか!その判断も必要になります!』

 

1時間でどれだけの料理ができるか、そう考えれば某バラエティー番組でやってそうなコーナーであるがこの場合一番の問題はその全てが特殊調理食材であることだ。簡単と言っても本当に調理が容易なものなどあの山の中には無い。

 

(1時間で特殊調理食材を30……こりゃ大忙しだな)

 

『では早速始めましょう!ハヤワザクッキングレース……スタート!!!』

 

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 

ムナゲの掛け声と共に開始されるハヤワザクッキングレース、料理人たちは一目散にその食材の山へと走り出した。

ようするにこの予選もトライアスロンクッキングの食材選びとそう変わりはない、いち早く自分が調理できる食材を選びどんどん料理していく。

 

「早いところ食材を選ばねぇと……!」

 

与えられた1時間というのは確かに余裕があるかもしれない、ただしそれは食材が特殊調理の物じゃなければの話だ。あの食材の中には調理に免許が必要なものまである、どれを選んでどんな料理を作るのかという食材選びの時点で油断はできなかった。

 

「正しい順番で剥かないと爆発する『ジゲンレタス』、解毒作業に手間がかかる『ウツボヤモリ』、1gのズレがあると味が劣化する『繊細塩』、調味料まで特殊調理かよ……!」

 

使う調味料まで調理が難しいことに気づき一夏は絶句した。塩まで自由に使えないとなると料理ができるかどうかも怪しいからだ。

そしてこんな悩んでいる時間も惜しい、早いところ食材を選ばないと出遅れてしまう。

 

(いや……まだ大丈夫か)

 

『おっーとここで小松シェフ!もう2品目に突入だぁー!!!』

 

「嘘ぉ!?」

 

まだまだ余裕はあると見て油断する一夏、しかしその余裕は司会の内容によって打ち砕かれた。

向こうのキッチンを見れば自分の師匠である小松が目にも止まらぬ包丁さばきを繰り出している。最早乱舞のようなそれは食材を捌き、焼き、盛り付けを次々とこなしている。

 

『小松シェフは今使っているのは『ハートパン生地』、心臓マッサージのように1秒のズレも無く同じ力で捏ねる必要がありますがいとも簡単に調理していくぅ!!そしてその生地を焼いている間手に取ったのは「水晶トマト」に「硝子キャベツ」!どれも取り扱いを誤れば粉々に砕け散る食材ばかりだぁあ!!』

 

「師匠……まさか特殊調理食材だけでサンドイッチを作る気なのか?」

 

小松が選んだ食材はどれもミスれば見た目も味も劣化するものばかり、それでサンドイッチを作るなど無謀にも等しいだろう。しかし彼は難なくそれを完成して見せた。

 

「できました!ハートパン生地の特製サンドイッチです!」

 

『あっという間に3品目完成ッ――!!流石は薬膳餅の調理簡略化を成し遂げた小松シェフ、これくらいおちゃのこさいさいなのかぁー!?」

 

「すげぇ……流石は小松シェフだ。ハートパン生地の捏ね方だけじゃない、短時間で焼きあげる方法も使っている……」

 

『更に更に!スタージュンシェフやののシェフも既に1品目を完成させています!まだ2分しか経っていないのにこの早さ!驚くしかありません!』

 

その他にもスタージュン、のの、大竹、中梅のランキング上位組は続々と料理を作っている。それにより他の料理人たちは急かされたような気分になり慌てて調理速度を速めていく。

ただし一夏や他のメンバーは違った。あの到底敵わなさそうなプロたちに憧れとライバル心を抱いていた。いつか自分もあのステージへ行くのか……そんな夢にも近い希望を胸に強く包丁を握りしめる。

 

「俺も……負けてられない!」

 

そして対抗心を燃やし、目の前の食材たちと対面するのであった。



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グルメ69 声!

あっぶね操作ミスしてはやめに投稿しちゃった……すぐ消したけど。


「一夏の師匠さん……滅茶苦茶調理速いな」

 

「ええ……たった2分でもう3品も作っていますわ。自分の目が信じられません……」

 

一方観客席では春十たちIS組が小松の調理スピードに開いた口を塞げずにいた。神業といっても過言ではないその速さは馴染みの無いものからしたら一瞬の出来事だろう。

他の席では大盛り上がり、そのプロの技術が絶賛されていた。

 

「当然よ、小松さんはお父さんのコンビ……かつて四獣がこの人間界に進出した時に全人類が猛毒に侵されてあと数時間の命と迫られた時があるの。それを助けるために特殊調理食材の薬膳餅を作ることになったんだけど、小松さんは全人類を救うために誰でも3分ちょっとで作れるように調理の簡略化をしたの」

 

「いわば……小松さんの強みはあの調理スピードの速さだね、あれで大勢の命を救ったんだ」

 

「料理で……人の命を」

 

料理で人を、世界で救った小松。簡略化された薬膳餅は他の料理人によって大量に作られ四獣の毒を解毒していった、つまり小松1人で世界を救ったわけではないが彼がいなければ今頃殆どの人がこのネオクッキングスタジアムでこのように祭りを楽しんではいないだろう。

 

(頑張って……一夏!)

 

そんな強敵を前に一夏は勝てるのか、そんな不安を打ち消すために鈴は応援をするのであった。

 

 

 

 

(落ち着け俺……まずは食材を選ぶんだ!)

 

一方当の本人である一夏は周りが続々と料理を完成させているので焦りが生じ、少々冷静ではなくなっていたがすぐに落ち着きを取り戻す。

まずは使う食材を選ぶこと、これ以上は時間を無駄にできない。1つの選択ミスが大きなタイムロスとなるだろう。

 

「これは……『鮫肌大根』か、ザラザラしている表面のせいで調理できない大根……よしこれと……」

 

一夏が手にしたのは鮫肌大根、まさしく鮫肌のように皮がザラザラしており普通の包丁や調理じゃ切ることも不可能な大根であった。触り方の時点で間違えれば手の肌が破けてしまう危険な食材、これを食べられるようにするには身を削らずに皮を剝くしかない。

 

『ここで師匠に遅れをとるまいと一夏シェフも調理を開始ー!!鮫肌大根と他の食材で一体何を作るのかぁー!?』

 

「よし……まずはこの『断熱牛』の肉をひき肉にするか!」

 

そう言ってその牛肉をまな板の上に乗せ、2本の包丁で叩いていきミンチにしていく。そしてそこから細かく刻んだ食材を中に入れていき、そのまま形を整えてフライパンの上に乗せた。

もう分かる人もいるだろう、一夏はハンバーグを焼くつもりだった。しかしそれに使っている食材を見て一部の観客は騒然となる。

 

『おぉー!?一夏シェフが今焼いている牛肉は、焼けば美味だが熱を通しにくい『断熱牛』!焼いて調理するには数時間の時間が必要であり、しかももっと時間が必要なハンバーグを選んだぁ!一体何を考えているのかぁ!?』

 

断熱牛は特殊なタンパク質から形成されそれはそこらの素材より断熱性があるため職人たちにも重宝されていた。なのでその肉を焼くにはかなりの時間を消耗する必要があり、尚且つもっと時間がかかるハンバーグをそれで作るというのは悪手としか思えない。

確かに断熱牛は時間をかけて焼けば焼く程旨味が増す、しかしこの1時間という短い制限時間でそれは自殺行為にも等しかった。

 

一部の料理人はそれを見て、今まで一夏に寄せていた期待を失っているだろう。しかしそれを否定するかのようにそのひき肉が瞬時に焼きあがった。

 

「よしッ!!」

 

『なんとぉ!断熱牛のハンバーグが完成ッーー!!何が起きたんだぁ!?』

 

予想に反して焼きあがるハンバーグに会場は更に大騒ぎとなる。すぐに焼けないはずの断熱牛がものの数十秒で焼きあがってしまった、その信じられない事実を目にして誰が落ち着けるだろうか。

しかしいた、この場で冷静なのが。その全員の共通点は――一夏が()()()()()()()()()()()を見たことであった。

 

「俺がひき肉にいれた玉ねぎ……あれは野菜仙境で育てられている『火神タマネギ』、こいつを具材に使うと何故か火が通る速度を速める。あまりにも早くなって一瞬で焦げてしまう程だ、それを断熱牛で相殺し丁度よくしたんだ」

 

『どうやら一夏シェフは2つの食材の特徴を完璧に把握し、それらを活かしハンバーグを焼いたそうです!見事!流石小松シェフの弟子だぁーー!!』

 

「そして最後に鮫肌大根……この大根の皮には必ずどこかに包丁を入れる入り口がある。その僅かな差を見極めて……皮を剝く!」

 

そして最初に取った鮫肌大根もスラスラと皮を剝いていく。食材選びには戸惑ったものの食技の習得によりそこらの特殊調理食材は容易に扱えるようになっていた。

一夏は綺麗に皮むきをした鮫肌大根を、そのままおろし金に擦り大根おろしにした後でそれをハンバーグの上に乗せた。

 

「完成、断熱牛の鮫肌大根おろしハンバーグ!!」

 

『一夏シェフも早速1品目調理完了ッーー!!しかしかかった時間は約6分、出遅れてしまったー!!』

 

(そう、早く次の食材を選ばないと!)

 

ここで一夏の頭の中を焦りが襲う。出遅れたという真実が判断力と調理の腕を不確かなものへと導きそれが大きなロスへとなってしまう始末だ。

しかし目の前に存在する特殊調理食材の山、その中からどれを選ぶかなんてすぐには決まらない。

一体どうすればいいのか?そんな一夏の視界に黙々と次の食材を運んでいる小松シェフが目に映った。その表情はとても()()()()だ。

 

(師匠……何であんな楽しそうにしてるんだ……それに食材選びに迷いが無さすぎる)

 

小松はまったく選択に時間をかけていない。まるで直観の如くパパッと食材を手に取りそれをキッチンへと運んで行く。忙しいのは彼も同じ、それなのにその表情はまるで遊ぶ子供のようであった。

――何か話している。一体だれと?周りには誰もいないはずだ。

 

「まさか……食材の声を聴いているのか!」

 

そこで何が小松をあそこまでさせているかを一夏が気づく。

食材の声を聴く、それは食材に愛され食材を愛す純粋なものにしか聴こえない声と会話をし調理する技術であった。小松は今それをしていた。

 

(間違いない……食材自身が師匠を呼んでいるんだ!あの人はそれに従っているだけ!)

 

つまり小松は今の時間を楽しんでいるのだ。自分を使ってほしいという願望を耳にしそれを受け止める、まるで子供の世話をする親の如くその笑みは優しさが詰まっていた。

 

(俺も……1人の料理人として食材に求められるような料理人に……!)

 

そしてその行動は一夏を更に奮闘させるキッカケとなる。今までは焦りしか感じずに対面していた食材たち、一夏は改まって彼らに耳を傾けるのであった。




最近マウスが勝手にダブルクリックするから使いづらい……


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グルメ70 一夏という男!

「聞いてやる!俺も食材の声を!」

 

師匠である小松の奮闘、そしてその笑みを見て一気にやる気を出した一夏。料理人が食材を選ぶのではない、()()()()()()()()()のだ。この言葉はどこかの人間国宝が言ったセリフだが、そんなことも知らずに頭の中で思いつく一夏。

目の前に立ちはだかる食材に対し、研ぎ澄ますのは己の聴覚。目を瞑り全神経を耳に集中させ闇の中何かを聞き取ろうとした。人々に笑顔で食べてもらいたい食材、素敵な料理人に調理された食材、どんなに味の不味さや調理の難易度で人を拒もうが全ての食材がそう思っている。

 

このステージの食材は選択式、つまり選ばれる食材もあれば選ばれない食材もあるということだ。その不遇の食材たちの声を一夏は聞いた。

 

(これは……いや()()()……)

 

そして一番声が大きかった食材を手に取る。するとその瞬間、連動するかのように他の食材たちも騒ぎ始める。その数はこのネオクッキングスタジアムの観客たちを悠々と超えるものであった。その声はあまりにも煩くて耳を塞ぎたくなる程であった。

 

「そ、そうかそうか!お前らもか!よし、俺がお前らを片っ端から調理してやる!」

 

あまりの多さに思わず笑ってしまう一夏、その姿は滑稽にも不可解にも見えただろう。しかし別の捉え方をしている者が観客席やステージ上に数十名。

 

 

 

 

「一夏の奴、1人で何ぶつくさ言ってんだ?」

 

「食材の声を聴いているのね……流石は一夏。あんな楽しそうに料理するのは変わってないわ」

 

「食材の……声?」

 

その中には当然コンビであるリンカ、そして彼に思いを寄せる四天王の3人も入っている。しかしIS組にとってそれはおとぎ話のように幼稚な響きにしか聴こえなかった。

しかし今更そんなことを疑ってはこの世界で生きていけない、よく分からないが適当に納得する。しかしそれによって新たに生まれる疑問もある。

 

「で、でも普通『食われたくない』って思うんじゃ……」

 

「確かにそうかも、だけど自分が培った命を誰かの為に渡す……自分が生きてきた証拠を無駄にしたくないんだと思う。そんなのは人間のエゴかもしれないけど、一夏は料理する。命を決して無駄にしないために……」

 

リンカ及び他の四天王はそれに無言で頷く。料理人としての一夏を間近で見たもの同士だからこそ生まれる共感、いわば一夏大好き同盟ともいえるその輪の中に入れないことを、鈴は妬んだ。

 

 

 

 

(まずは、この『泡芋』から剥くか!)

 

そう言って一夏が手に取ったのは水色の皮の芋「泡芋」、まるで本物の泡のようにプルルンと震えるその芋は、剥き方、力加減を間違えれば一瞬で泡のように崩れてしまう繊細な食材だった。

この食材の山では最高クラスの難易度だろう、もう時間を無駄にできない中何故一夏はこれを選んだのか……()()()()()()()()からだ。

 

今にも崩れそうな泡芋を丁寧に剥いていく一夏、水面のように光を反射するその皮の中からは黄色の綺麗な身が現れ、数秒も掛からずに全ての皮が剥かれた。残った皮は観客の声援に揺さぶられただけで溶けてしまう。

 

(お前らは……この泡芋と一緒に調理されたかったんだよな)

 

そして次に豚肉を使い始める一夏、その豚肉「発掘豚」は岩のように硬い豚肉で、その程度一夏たちプロの料理人ならば誰でも壊すことはできるが、少しでも力加減を間違えると美味な肉まで壊れ劣化してしまう。調理する方法は化石を掘るように少しづつ表面を叩かなければならない。

しかし一夏は一気に強い力で発掘豚を叩く。本来なら台無しになるはずの豚肉は綺麗に甲殻部分が崩れ去り、中身の綺麗な豚肉部分だけが残った。

 

それをひき肉にした後、そぼろ状になるまで炒めそれを先ほど潰した泡芋と混ぜていく。それをある程度成形させた後、小麦粉とパン粉を用意した。

 

(「金粉小麦粉」と「雪パン粉」、こいつらを使って揚げる!)

 

そして潰した芋に小麦粉をまぶしその後パン粉ををつけ、それを揚げ始める。そう、一夏が作っているのはコロッケだった。油の中で心地よい音を立てながらサクサクのコロッケへと変貌した。

きつね色に輝く衣の中にはホッカホカの芋、匂いも届かない観客席だがその色を見た客は唾をのむ。

 

「できた!泡芋のコロッケ!」

 

『一夏シェフ!2品目完成ッ――!調子を取り戻したのか先程と比べてダントツに調理スピードが早くなっております!』

 

(凄い!調理法を知らなくても食儀の直観で分かるし、何より食材自身が俺に教えてくれる!)

 

どんなに難しい食材もその声がどう捌けばいいか教えてくれる。しかし技術が無ければ不可能、それも食儀で十分補えていた。

 

(これなら……行ける!)

 

勝利を確信する一夏、そのまま自分を求める食材に再び手を伸ばすのであった。




ずっと面接落ちだったバイトがついに決まりました!……と喜んでいますが裏では執筆活動の時間が少なくなるという半分の後悔もあります。


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グルメ71 いざ決勝へ!

皆さんもダラダラと予選を続けるのにも飽きたと思ったので予選第3回はカットさせていただきました。
「ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル」を見ました!感想は下の方に。ネタバレ注意!


『さぁー!!いよいよハヤワザクッキングレースの結果発表だぁー!』

 

予選第二回であるハヤワザクッキングレースも終了、今からいよいよ順位と突破した料理人の発表が始まる。会場は最初から変わらない大盛り上がり、一体誰が勝ち残ったのか、世界中の人間がそれを知りたがっていた。

ちなみにこのハヤワザクッキングレースにおいて評価判断は、料理の数、食材の難易度、そして味見はグルメSPが最初に毒見をし危険性が無いことを示したうえで、G7をはじめとした多くの味覚マスターによって正当に行われる。

 

『まず第1位!!料理数147品、数で勝利を収めた小松シェフだぁーー!!』

 

「うおー!」

「流石は小松シェフだー!!」

 

『そして第2位は127品のスタージュンシェフ、第3位は131品であるののシェフ!第4位は……』

 

続々と名前が挙がる中、必死に自分の名前も来ることを祈る男が1人……いや、この場合だと殆どの料理人が神に祈るだろう。その他の者は自分の腕に絶対的な自信があり己の名前を呼ばれることを仁王立ちで待っている。

一夏はその場合前者に当てはまる、無理もない。確かに一夏の料理スキルは群を抜いているがフェスには今回で初出場、不安になるのは当然であった。

 

(頼む……呼ばれてくれ!)

 

両手を握り瞼の裏をずっと見つめる一夏、しかしその名を呼ばれることはなく続々と他の料理人が呼ばれていった。

 

『第21位ガルベルトシェフ!第22位チリサイシェフ!第23位……』

 

「フン、当然である!」

 

「ふむ……何とか勝ち上がれたか」

 

一夏の知り合いも勝ち残っていき、一夏の不安と焦りはピークに達する。心臓がバクバクと騒がしく鼓動し、それに伴い過呼吸にも近い息のテンポを作り上げる。

もしこれで負ければ、俺は大勢の人を裏切るんだという不安があるのだ。冷や汗が滝のように流れ、手汗も凄く濡らしていた。

 

 

 

『第29位――一夏シェフ!!』

 

「――しゃああ!!!」

 

 

そして自分の名前が呼ばれた瞬間、一夏は雄たけびを上げて握っていた両腕を解放し高らかに上げる。周りにいた人がそれにビクッと驚き、その後静かに拍手でそれを迎えた。

 

『最初こそレースに乗り遅れた一夏シェフでしたが、後半は誰よりも凄まじい勢いで盛り返し何とか予選第2回を突破しました!その料理数は72!そして第30位は……』

 

「よしッ!よしッ!よぉおし!!」

 

その場で一夏はまるで子供のようにピョンピョンと跳ね始め、空中で喜びのガッツポーズと叫びを繰り返す。それ程までにこの勝負に勝ち残ったことが嬉しく、自分の成長ぶりを実感できたのだ。

まだ優勝もしていないのにかつてないほどの達成感が心を染め上げる、周りの目など気にせずそれを喜んだ。その後もムナゲの料理人の発表を続け、遂に40名全員の名が挙がった。

 

『ハヤワザクッキングレースを勝ち抜いたのは以上の40名です!」

 

「ヒヒ……私、負けちゃった」

 

「え!?セリア落ちたのか!?」

 

するとキノコ料理のセリアがここで落ちたことを知ってしまう一夏、普段から暗い感じの彼女が今だけは一段と落ち込んでいるのが分かった。

 

「じゃあ私はここで……頑張ってね一夏、ガルベルト」

 

「おう!!」

 

「勝利の聖杯をこの手に納めるのは他ならぬ我だ!!」

 

友の後ろを歩くことでフェスへの情熱が更に燃え上がる一夏、奮起を起こし次の競技へ挑む。

 

 

 

 

次の競技の内容は『客寄せクッキング』、観客席の中からランダムで4000人もの大人数を選び抜き、彼らに審査員になってもらう内容だ。40人の料理人が一斉に調理を始め己の料理の香り、見た目で客を呼び寄せより多くの人数を呼び込めば決勝ステージに進出できると言った内容だ。

 

その競技においても一夏は食材の声を聴き、より多くの人数を呼び出すことに成功。第2回に比べ良績な成績を残すことに成功、そしてこの予選第3回で40人という人数は、32人にまで減る。

100人の猛者の中から生き残ったプロの料理人、いよいよ始まるのは決勝トーナメント――!

 

『さぁーいよいよ決勝トーナメントです!!この32人の中、一体誰が勝ち残るのか、この大会も終盤に入っていきましたー!!』

 

「一夏のやつ、いよいよ決勝トーナメントにまで出場したぞ!」

 

「本当に優勝できるんじゃないか!?」

 

「頑張れー!!一夏ー!!」

 

『決勝トーナメント第1回戦はぁ……一夏VSガルベルトォ!!!』

 

「俺は負けねぇぞ、ガルベルト!」

 

「我こそ勝ちを譲る気はないぞ――一夏!」

 

こうして迎えた決勝トーナメント、一夏と最初にあたる料理人は知り合いでもあるガルベルトになった。クッキングフェスティバルも激戦を極め、更なる熱い戦いが今始まろうとしていた。




「絆のクリスタル」ネタバレ注意!









ルーブの最終回に対してあまりコレジャナイ感や物足りなさを感じていましたが、この映画によってそんな感情も全て吹っ飛んで行きました。
しかし物申すなら、グルーブのスーツアクションが見たかった。勿論CG戦も良かっただけど、現実味のある特撮が見たかった。それがちょっと勿体ないと思いました。


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グルメ72 VSチョコレートの魔王!

「あ、一夏!決勝トーナメント進出おめでとう!」

 

――休憩時間、見事決勝トーナメントに勝ち残った一夏が適当に歩いていると、そこへIS組やリンカたち四天王が称賛の声を送ろうと駆けつけた。

コック一夏、そして新四天王の集結により周囲は騒然となる。無理もない、新しいグルメ時代を代表する有名人がこうも揃って騒ぐなという話が無理だろう。

 

「おー皆、どうクッキングフェスティバルは?」

 

「なんていうか……スケールが大きすぎてついてこれないな」

 

一夏の問いに春十は冷や汗を流して答える。彼だけじゃない、他のIS組も苦笑いを浮かべていた。彼らIS世界の人間にとってこのグルメ世界最大の祭典ともいえるフェスは確かに壮大に思えるだろう。何せスタジアムですら億という単位の人間が入るのだ、経済的というか物理的というか、自分たちの世界とは根本的に違う。

 

「一夏、本当に優勝を狙えるんじゃないの?」

 

「当り前ですわ!一夏様は私のコンビですもの!」

 

「精々アタシのコンビとして恥をかかないようにするんだな」

 

「だーかーらー!一夏は私のコンビだって言ってんでしょ!?」

 

一方四天王たちはいつも通り一夏を巡る乙女の喧嘩を始め、選手たちの体を休めるはずの時間はあっという間に騒がしいものとなった。

そして騒動は、更に大きなものと化す。その原因は次に来るゲストであった。

 

「おめでとう一夏君!」

 

「お前もようやく一人前の料理人になれたわけだな」

 

「師匠!それにスタージュンさんも!」

 

「スター伯父さん!」

 

更に師匠である小松、そして元美食會副料理長にして「真・美食會」のオーナーであるスタージュンもやってきた。スタージュンは美食神アカシアの血を引いた存在でもありリンカの父であるトリコの兄でもあった。つまりリンカにとっての伯父でもあった。

 

「アルファロさんは元気にしてますか?」

 

「アルファロ様は開店時からウエイターとして何度も助けてもらっている。それで一夏、聞きたいことがあるのだが……」

 

「……俺もです。()()()について――」

 

 

 

 

『さぁーいよいよ決勝トーナメント開始です!!第1試合は一夏シェフVSガルベルトシェフ、プライベートでの付き合いも長いこの2人ですが両者新鋭!一体どのような白熱したバトルを見せてくれるのかぁー!?』

 

「いっけーガルベルトォ!!」

「師匠から受け継いだもんを見せてやれ一夏ぁー!!」

「このまま優勝だぁー!!」

 

「長き因縁――ライバル関係に終止符(ピリオド)を打つ時が来たようだな……一夏!」

 

「え?俺たちってライバルだったのか……俺はてっきりお前風に言うと強敵(とも)の方だと思っていたんだが……まぁいいや、全力でやらせてもらうぜ!!」

 

早速決勝トーナメントの第1試合が始まり、スタジアムの中心で火花を散らす両名に心を揺さぶられ、まさに沸騰寸前とまで言える興奮状態に陥る観客たち。さっきまでの予選のような大人数ではない、1対1のサシの勝負――ただし行われるのはボクシングやプロレス、ましてや本気の殺し合いでもなかった。

――料理人、彼らにとって包丁はグローブや銃より過激なものであり、それを持ち睨みつけるのは相手ではなくまな板の上の食材であった。

 

『そしてその内容は、グルメ時代の最新技術で作られた――この装置の中で行われます!!』

 

するとスタジアムの中心から何かが現れ、そのスペースを殆ど占領した。

直径500mはありそうな球体、出入り口も備わっているそれが2つも用意され、熱狂していた観客にどよめきを齎す。沢山のチューブが繋がり、蒸気を噴き出しながら禍々しい雰囲気を醸し出していた。突如現れた巨大マシンに息を呑んでしまう一夏。逆にガルベルトはその大きさを鼻で笑っている。

 

「な、何だこりゃあ……!?」

 

『これは「キッチン・イン・ザ・タイフーン」――通称「K・T』でございます!このカプセルの中ではありとあらゆる困難な自然環境が体験可能であり、元々は美食屋の練習用として開発されたものでした!

サンドガーデンのような超高温下、アイスヘルも顔負けの極寒、ベジタブルスカイへと繋ぐスカイプラントにも匹敵する突風!!あらゆるパターンの環境が設定されており、近年では過酷なグルメ界をも再現も目指しているという素晴らしいマシンです!』

 

「まさか……この中で調理するのか!?」

 

そのまさかである。そもそもキッチンという名前がついている時点でそれ以外あり得なかった。ムナゲのルール解説は続く。

 

『ルールは簡単!このカプセルの中で調理し一番旨いものを作り上げた料理人が勝ちです!しかし内部は説明した通り悪天候、悪環境のオンパレード!その妨害に抵抗し見事自分の腕を見せることが重要です!』

 

「フッ――面白い、たかが天候でこのチョコレートの魔王を倒せるなどと思うなよ……どんな台風だろうが我にとってはそよ風に等しい!」

 

「――俺だって、春十兄や皆と過酷な環境を生き抜いたんだ!これくらいなんだ!」

 

『しかし両名臆さずカプセルの中へと入っていくぅーー!!流石としか言いようがありません!!では、第1試合開始ですッッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 




バイト辛すぎィ!!


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グルメ73 敵は悪天候!

バイト面倒すぎて憂鬱


「へぇ……思ったより狭いんだなぁ」

 

決勝トーナメント第1回戦、一夏は早速リングともいえる「K・T」の中に入り、そこから周りを見渡す。大きな球体の外見とは逆に、内部は意外と狭かった。しかしそれでも十分動けるスペースは存在しており、調理器具や冷蔵庫、他にもグルメケースなど豊富な道具が揃っている。

これなら普通に調理ができるだろう――()()()()()()()()()()()だが。

 

『両選手共に中に入りましたー!制限時間は30分、そして中の天候は3分ごとに変化していきます!調理途中の食材、また完成した料理はそのグルメケースで保存できるようになっていますので是非お使いください!』

 

そしてガルベルトも隣のK・Tに入り待機、いつでも始められる状態で一夏も彼も奮闘する気満々であった。窓も無いこの閉鎖的空間は緊張感を更に加速させ、自分の内面と強制的に向かい合わせる形となっている。

一体何が始まるというのやら、そこで第1回戦のホイッスルが鳴った。

 

『では早速始めましょう!第1回戦――スタート!!』

 

「よっしゃ行くぜ――ってのわぁー!?」

 

そうして始まる決勝トーナメント、これに勝ち続ければ見事「スーパーコック」の称号を得られる。一夏が奮起し包丁を握ろうとした瞬間、突如として顔面に恐ろしいほど寒い感覚が襲ってきた。

思わず顔を抑え、蹲り襲い掛かる突風から避難する一夏。これは強風か?そんな生易しいものじゃない、極寒地獄も驚きの()()であった。

 

「さ、寒ッ!本当にアイスヘルなんて目じゃない!」

 

一夏が以前トリコたちに連れてってもらった極寒の地「アイスヘル」、零下50度を下回るあの大地にも引けを取らない寒さとなっていた。そして問題なのはこの吹雪、凍える風がどんどん押し寄せてきた。

そんなことをしている暇は無い、取り敢えず冷蔵庫から食材を取り出そうとする。

 

「そ、外の気温が冷蔵庫より低いってどういうことだよ……!」

 

開いてみれば中から()()()()()が流れてきた。別に冷蔵庫が壊れたわけではない、外があまりにも寒すぎて冷蔵庫の冷気すらものともしないようになっているのだ。

兎に角一夏は震える手でそこから食材を出す。「氷河キャベツ」――まるで氷のように冷たくシャキシャキの触感を持つキャベツ、これならこの寒さの中でも大丈夫だろう、後は自分の体を盾にし、吹雪に飛ばされないように食材を守る。

 

震える手で包丁を握る。この氷河キャベツは千切りにした方が一番美味しい。みずみずしいキャベツの身が舌の上で氷のように溶ける。そんな味わいだった。

しかしこのかじかむ両手では千切りすら難しい、かといって適当に切るわけにもいかない。まずはこの寒さに耐えられない手をどうにかしなければならなかった。

 

「――閻魔七味!」

 

そこで一夏は自分の両手に圧倒的辛さを持つ閻魔七味をまぶす。勿論料理の味に影響が出ないぐらいの量だ、しかし超激辛ともいえるそれはその両手に体温を取り戻してくれた。

これなら包丁が持てる、ニヤリと笑った一夏はそのまま千切りを始める。

 

そのスピードはいつもと比べて鈍いの一言にしかつかないだろう、だがそれでも常人からしてみれば目にも止まらぬ早業に違いない。ものの数秒で氷河キャベツは全て切られた。

じゃあ次はトマトを切ろう、そのまま一夏は急ぎ千切りキャベツを頑丈なグルメケースに保管し次の食材を取り出す。「泡トマト」――少しでも強い衝撃を与えたら散ってしまう繊細な食材だ。

しかし今の一夏は、そんな特殊調理食材も思うがまま。何故なら、食材の声を聞くのだから――

 

(よし……次はお前を……()()?)

 

いつも通りにその声を聞こうとすると、泡トマトは自分をどんな風に調理してほしいのかという願望ではなく、一夏に対し明確な警告、もしくは注意を促してきた。

そしてその瞬間、そのキッチンは大きく揺れる。

 

「なッ――()()!?」

 

突如として一夏のいるK・T全体に地震が起きる。勿論このネオクッキングスタジアム全体が揺れているわけではなく、この揺れも機能の1つであった。

あまりの揺れに立つことも困難で、人間である一夏が立たなくなるほどなので当然その影響は泡トマトにも及ぼす。

 

「パリン!」という鋭い音が鳴り、全て砕け散ってしまった。

 

「しまった……さっきの警告はこれか!」

 

切ろうとした泡トマトが跡形も無くなってしまう。しかし一夏は時間をロスしたことよりその食材たちを無駄にしてしまったことが何よりの心残りだった。

しかしそんな懺悔もこの地震は許さず、一夏はまな板や包丁が落ちないよう抑えるので必死になる。これじゃあ例え普通のトマトだろうが調理するのは難しいだろう。

 

「よ、ようやく収まった……って今度は雨!?」

 

揺れが無くなり喜ぶ一夏、しかし間髪入れずに次の災害が襲ってきた。

今度は大豪雨、雨というよりかは水の爆弾は次々と天井から降り注いできた。まるで滝に打たれているような衝撃で、これじゃあ食材なんて傷だらけになってまう。

 

「くっそ……諦めてたまるか!」

 

しかしそれでも諦めず調理を続けようとする一夏、そしてそんなやる気を押し潰すかのように、さらに雨は強くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の災害を書いてる際、原作での初グルメ界突撃を思い出しました。あの時の絶望感はヤヴァイ……


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グルメ74 攻略法!

「フゥーハハハハハッ!!こんな砂粒でこの我が止められると思うか!?」

 

一方隣のキッチンでは、ガルベルトが高笑いをしながら調理をしている。現在そこでは砂漠も顔負けの砂嵐が巻き起こっており普通なら食材に砂粒が大量につき、料理なんてできないはず。

しかしガルベルトと厨房を守るのは()()()()()()()()()()()()()()、それが砂嵐の風を防ぎ砂粒を受け止めていたのだ。

 

ガルベルトは開始直前でこのチョコレートの壁を形成、冷蔵庫と厨房をつなぐ半場家のようにも見えるその中で調理を続け、一夏と比べて若干作業が進んでいる。この砂嵐の前に襲っていた猛吹雪によってチョコは更に固まり圧倒的な強度を誇っている。最早敵なしであった。

――そう、次の災害が襲ってくるまでは。

 

「なッ……この暑さは!?」

 

砂嵐が止み、キッチン内の気温が急激に上がっていく。レンジの中のような温度となり滝のように汗が噴き出していく。手汗も尋常じゃないくらい出て包丁すら持てなくなった。

 

「ッ――我が要塞が……!」

 

その為今までガルベルトが作ったチョコレートの壁が全て溶けてしまい無駄なものになってしまう。

そう簡単にこのK・Tは攻略できないということだ。サウナも顔負けの猛暑がガルベルトの脳を襲った。

 

「たかが暑さに……このガルベルトが屈するかぁーー!!」

 

しかしそれがガルベルトを更に奮起させ、気温と共に燃え上がる情熱がその食材へと注がれているのであった。

 

 

 

 

「だぁあ!雨が強すぎる!」

 

一方その頃一夏は、その豪雨に手も足も出ず動けずにいた。滝のような水圧と量が上から降り注ぎミキサーにかけられたような気分を味わっている途中だ。

 

当然そんな中で食材など取り出すこともできず、冷蔵庫を開く暇もない。本当に何もできない時間が続き大きなロスとなっていた。

 

「どうにかしないと……一体どうすれば」

 

なんとか打開策を見つけ、そのロスを埋める必要があった。

しかし次の気候も予測できず何をすればいいのか?残り時間への焦りと四方八方の塞がり、それらが一夏の視野をどんどん小さくしていく。

 

そんな時、その耳にとある声が届いた。

 

(俺を……使え?)

 

冷蔵庫の中に入っている食材が突如として一夏に声をかける。自分を使ってほしいという希望を募らせるがこの状態で外に出した途端駄目になるのは目に見えている。

その瞬間――再び天候が変わった。

 

「竜巻!?」

 

なんと大きな竜巻が巻き起こり全てを吹き飛ばさんとする。あまりの突風に立つこともできず調理が困難になった。一体こんな状態でどうやって料理なんてすればいいのか……

 

(……まさか!)

 

そして一夏はあることに気づき、吹き荒れる風の中を何とか突き進んで冷蔵庫の前へと辿り着く。そのまま開けさっき自分を呼んだ食材を確認する。

それは赤色の燃え上がる豚肉であった。

 

「やっぱりか……『紅蓮豚』、こいつは大量の熱を放射して料理人を近づけない肉……!」

 

その豚肉をまな板の上に乗せた瞬間、ガルベルトを襲った災害に負けない熱を出し始める。本来ならすぐに吹き飛ばされてしまうはずだが、竜巻の突風がどんどん()()()()()()()()()()()()

 

「この猛熱で風が上に行っている……お前はこれを伝えたかったんだな?」

 

竜巻の風は紅蓮豚の熱によって上昇気流となり、完全とはいかないものの突風を防いでいた。

つまり紅蓮豚はこの突風の中で調理するには相応しい食材ともいえる。そしてそれを教えたのはその豚肉自身であった。

 

(さっきの泡トマトも警告していた……もしかして、食材たちは次の災害が何かが分かるのか?)

 

そう言って一夏はその結果に辿り着く。泡トマトや紅蓮豚だけではない、実は最初に調理した氷河キャベツも声をかけており一夏はそれを無意識で聞き、あの極寒の中で氷河キャベツを選んだのだ。

そして一夏は、このK・Tの攻略法を見出すことに成功した。

 

(そうか!俺はこの災害の中で自分しか見ていなかった。だけど真に耳を傾け顔を見るのは食材たちなんだ!食材に次の天候を聞いて、どれを使えばいいかを見極めるんだ!)

 

それに気付いた一夏は嬉々とした表情で突風の中冷蔵庫を漁る。「俺はこの風をなんとかできるぞ!」「この竜巻には負けるが次の災害は何とかできる!」という声が次々と上がっていった。

 

「これなら……いける!」

 

そう言って一夏はニヤリと笑い、強く包丁を握りしめた。



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グルメ75 決め手!

今回はサクッと一夏とガルベルトの勝負を終わらせます。


『さぁー1時間が経過いたしました!果たして一夏シェフとガルベルトシェフはあの災害の中でどんな料理を作ったのか!今両選手がキッチン・イン・ザ・タイフーンから出てきます!』

 

するとムナゲの言う通り、2つの「K・T」の扉がほぼ同時に開く。煙を噴き上げゆっくりとそれが開き扉がそのまま階段となって中の人間を下へと降ろす。そしてその中から一夏とガルベルトが退出してきた。

その白かったはずの服はボロボロとなり黒ずんでいる。それを見てどれだけ中の状況は凄まじいのかが伺えた。そしてそんな状態で完成品の入ったケースを運んで行く。

 

『どうやら無事に調理はできたようです!まずはガルベルトシェフの品から審査をしていきましょう!勿論実食はG7です!』

 

「フッ……世界よ!我の実力を見よ!」

 

そうしてガルベルトは7人分の料理をG7の机に前に置いていく。一体チョコレートの魔王はどんな料理を作ったのか、ネオクッキングスタジアム全体に緊張感が走った。

一斉にそのケースが開けられる。その瞬間香ばしい匂いがG7の鼻を襲い一体何の料理かを瞬時に理解させる。

 

「これは……カレーか!」

 

『ガルベルトシェフが作ったのはカレェーー!!私はてっきりチョコのスイーツ系で一夏シェフに挑むのかと思っていました!』

 

ガルベルトはチョコレートの魔王と呼ばれるだけあってチョコ専門の料理人、そのフルコースもチョコに関連した食材ばかりであった。なのでこのカレーという選択はある意味意外でもあった。

しかし分からない、カレーの隠し味と言えば()()が有名である。

 

「では早速いただこう……」

 

そう言ってG7はガルベルトのカレーをどんどん食していく。スプーンでルーとライスを口まで運び、その味で舌鼓を打つ。

 

「むッ……なんとまろやかなルーだ!舌の上でコクの深い味が爆発し喉の奥まで一気に駆け抜けていき、なんとも味わい深い!」

 

「チョコの魔王が作るカレーと聞いたからマイルドかと思っていたが、中辛か!しかしその辛さの中にも僅かな甘みを感じるぞ!」

 

その美味しさの秘訣、それは勿論チョコレートであった。

 

「当然よ、そのルーの隠し味には『結界カカオ』で作られたチョコが使われている。どんな外敵からも己を守るそのカカオはたっぷりとしたチョコの味を作ることができる」

 

「成る程結界カカオか……ルーを中辛にしたのも、あくまで隠し味を隠し味とするための判断だね?しかし、あのコロコロと気温が変わる中で良くカレーなんて作れたものだ……まさか!」

 

チョコレートを使わせたらガルベルトの右に出る者はいない、それは周知の事実であった。寧ろその技術と知識があるからこそガルベルトという男はチョコレートの魔王と呼ばれているのだ。

そしてそれがどれだけ凄いことか、そのカレーによって更に叩きこまれる。

 

「結界カカオは食材として使うと何故かその温度が上下しない現象が起きる。つまり極寒地獄だろうが極熱地獄だろうが!結界カカオは煮込まれている温度をその鍋に保たせてくれるのだ!」

 

『ガルベルトシェフ!得意のチョコ食材の知識を活かしK・Tの災害を見事突破ぁー!!これにはG7も大好評だそうです!!』

 

瞬間、歓声が上がる。ガルベルトはまるで天を仰ぐかのようなポーズでそれを受け止め、スタジアムの中で一番注目される存在となった。

審査員たちはあっという間にそのカレーを食し、今度は一夏の料理の味見へと移る。

 

「一夏よ、この勝負貰ったぞ」

 

「それはまだ分からないぜ、ガルベルト!」

 

『さぁー!いよいよ一夏シェフの料理です!』

 

「俺が作ったのは……これです!」

 

そう言って今度は一夏の品が7人の前に出されていく。それは大きな皿の上に千切りキャベツと豚肉が共存しており、その横には味噌汁とライスが展開している。

まさしくこれは……

 

「……生姜焼きかね?これは……」

 

「はい!どうぞ召し上がってください!」

 

『一夏シェフの品は生姜焼きィー!!先ほどのカレーと比べてインパクトが足りないかと思いますが、一体どのような味なんでしょうか、実食プリーズ!』

 

「これは紅蓮豚と氷河キャベツか……ん!?」

 

既にガルベルトのカレーによって舌を侵食されてしまったG7、しかし一夏の生姜焼きをキャベツと共に口にした瞬間大きく目を見開いた。

 

「紅蓮豚の熱い肉に氷河キャベツの野菜の旨味が溶けるように混じり、素晴らしい味になっている……!肉汁とビタミンが口の中で弾けているぞ!」

 

「これは確か竜巻と極寒の環境で選んだ食材……その選択も見事、まさか食材の力でその場を乗り越えるとは……」

 

次々と肉を頬張っていくG7たち、長引くと思われたそれはガルベルトの時と同様あっという間に完食され、そのままどちらが勝者かの話し合いとなる。

果たしてどちらの料理が美味いのか、会場全体が息を呑みその判断に耳を研ぎ澄ませる。そして誰の名が挙がったのか――

 

「勝者は――一夏シェフだ!」

 

「な……何故だ!?」

 

勝ったのは一夏、それを知った瞬間爆発でも起きたかのような音量の歓声が上がり、自分が負けた理由を知りたいガルベルトはG7に恐れず詰め寄る。

 

「両者の品も素晴らしかった。味だけで見ると引き分けにしたいくらいだ。しかし一夏シェフの方があのキッチンの災害を上手く活かし、攻略法を見出していた。基準はそこだ」

 

『勝敗を決めたのはK・Tの攻略法だったー!!皆様、両名に拍手をー!!』

 

 

 

 

「……我の負けだ一夏、やはり貴様は我がライバルよ」

 

「お前のカレーも美味かったぜ……また四年後、同じ舞台で戦おう!」

 

決勝2回戦が行われている間、待機室で一夏とガルベルトは握手をする。それによってこれからも仲間でありライバルであることを示しているのだ。

ガルベルトだけじゃない、この決勝トーナメントまで共に戦ったコックたち、皆が仲間だ。

 

『おおっーと!二回戦が終わりましたー!』

 

「なッ……始まったばかりだぞ!?」

 

「確か二回戦って……まさか!」

 

『勝者は小松シェフ!これにより、一夏シェフとの師弟対決が決まりました!』

 

「次の相手は……師匠!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バイト代何に使おうかなぁ~スイッチ買ってスマブラ買おっかな~小説の資料かな~TRPGも始めたいからルルブかなぁ~
ということを考える時間が一番好きです。


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グルメ76 師弟対決!

世界は変わり、IS世界では山田真那が作業をしていた。目の前のディスプレイに目を通しながらキーボードを打ち続けその隣には織斑千冬がその横に立っている。

 

「織斑君たち……今頃向こうの世界を謳歌しているんでしょうね」

 

「何度目だその言葉。そう言えば今日グルメ世界では大きな料理大会が行われていると聞いた、もしかしたらそれに一夏が参加しているのかもしれない」

 

と千冬は言うが、まさかそれが3億人という人数が入るコロシアムで行われているものとは思いもよらないだろう。「大きな」という形容詞では言い例えられない程の規模の大会、それがクッキングフェスティバルであった。

春十たち専用機持ち組が向こうの世界を楽しんでいる間、教師陣は仕事を続ける。それに嫌気が差したのか真耶はうっすらと弱音を吐いてしまった。

 

「はぁ……私も向こうに行って美味しい食べ物とか食べたかったです」

 

「いや、流石に教師陣も同行するのは駄目だ。ただでさえ代表候補生たちが異世界に行くことを各国に認めさせるのも苦労したんだぞ」

 

代表候補生というのはその国にとっての宝、そんな彼女たちが危険極まりない猛獣たちが巣食う世界に行くなど国の重要人が簡単に承諾するはずもなく、実はその件のことで千冬たちの仕事は増えていたのだ。

しかし、「これは異世界の未知の技術を吸収するため」という心にも無いことを報告し何とか納得してもらった。つまり今春十たちが楽しめているのは千冬と真耶のおかげでもあった。

 

「それよりも織斑食堂のことはどうなった?」

 

「ええ、織斑君……弟君の方の料理の味で舌を肥やしてしまった生徒たちが、普通の食事では満足できないようになってしまって……」

 

「まったく情けない……強い乙女を目指すのなら、食問題ぐらい自力でなんとかしろ」

 

そう溜息を吐きながら愚痴を零し生徒に呆れる千冬だったが、実は彼女も一夏が旅立って数日ぐらいはその味が忘れられず人知れず困っていたのだ。それ程までに一夏の料理は学園全体に影響を及ぼしていた。その秘密を知っている数知れない1人である真耶はそれに対し「どの口が言うか」と言った感じでクスクスと笑っていた。

見透かされている、千冬の頬が若干紅く染まった。

 

そんな平穏な時間、それが()()()と共に打ち砕かれる。

 

「なッ……これは!?」

 

 

 

 

 

『さぁーいよいよ予選の再会です!第1回戦も無事終了、生き残った16人がどんな料理、そして味を魅せてくれるのか楽しみです!』

 

「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」

 

一方その頃グルメ世界では祭りが一段盛り上がっており、会場は何度目か分からない沸騰を迎えていた。VIP席ではIS世界の住民と新四天王が談義している。

 

「おい!一夏の野郎マジで優勝狙えるんじゃねーか!?」

 

「当たり前ですわ!私のコンビですもの!」

 

「いや、一夏は僕のパートナーだよ」

 

「アタシのだアタシの!」

 

地位が上の者しか座れないはずのVIP席、しかも各国の大統領や国王と並ぶ席なので当然マナーがある前提だ。しかし春十たちはガヤガヤと騒ぎその片鱗すら見せていない。

 

「これもう絶対優勝するって!」

 

「いや……まだ分からないわよ!」

 

するとリンカだけは珍しく落ち着いた様子を見せ、春十の自信満々な言葉を否定する。その様子に新四天王たちは首を傾げた。

 

「珍しいね、リンカが一夏の事でそんな風になるなんて……てっきり賛同するかと思ってたけど」

 

「だって……次の対戦相手は小松さんよ?」

 

そう、次の一夏の対戦相手は師匠である小松、そのことについてリンカは不安を覚えていたのだ。

 

「確かに()()一夏は凄いけど……だけど小松さんの腕を超えるには並みならぬ努力が必要のはず」

 

そうしている間にも両選手が登場していく。小松と一夏、客にとっては夢のようなカードとなり会場は一気に盛り上がった。

 

「下克上だ一夏ぁー!!」

「師匠の底力を見せてやれ小松シェフッー!!」

 

『さぁーお待ちかねの師弟対決ゥ!!果たしてどちらが勝利するのでしょうかぁーー!?種目はこちらです!!』

 

そう言ってムナゲが宣言すると再びスタジアムの中心に新たなステージが追加される。それはまるで暗幕のテントのように不気味な雰囲気を醸し出していた。

それは、小松にとって懐かしいものでもあった。

 

『闇料理対決!!この何も見えない暗黒空間の中で料理してもらいます!』

 

「特訓の成果……見せてやりますよ!師匠!」

 

「うん、一夏君!」




この師弟対決、どちらが勝つかもう分かり切ったものですね。


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グルメ77 闇料理!

『制限時間は30分!一夏シェフと小松シェフにはこの真っ暗闇の中で料理してもらいます!当然食材の種類なども視覚では絶対に確認できません!』

 

(うわッ……本当に暗黒って感じだな……!)

 

闇料理対決のキッチンの中、一夏は今自分がどこに立っているのかも分からない状態で軽いパニック状態となる。無理もない、対戦相手である小松どころか使う食材すら見えないこの空間、しかしそんな危ない時でも一夏の勝利への欲望は燃え盛っていた。

 

それは勿論師匠である小松に勝つため、別に油断とか侮っているわけでもなくただ単純に()()()()()として、そして自分が最も尊敬する存在にこうして対等な場所で挑めることを誇りに思っているのだ。

 

(うしッ!まずは食材選びからやらないと!)

 

一夏は取り敢えず自分の使う食材を選ぼうと行動を開始する。物を蹴ったりぶつかったりとしないように慎重かつ大胆不敵に足を進め予め教えられた食材置き場へと向かう。

一夏はリンカのような嗅覚、ララの視覚、コロナの触覚、ポニーの聴覚といった索敵能力に優れているわけではない。だけどこうして真っ直ぐとその場所へと近づけた。

 

――一体何故か?食材の声に呼ばれているからだ。

 

(分かる!どこに食材が置かれているかが!)

 

そうして無事そこへ辿り着き、手探りでそれがどんな食材かを見極める。手だけじゃない、匂いや大きさ、それだけでも何の食材か言い当てられる知識と才能が一夏にはあった。

しかしそこである異変に気付く。食材の声が――一斉に騒ぎ始めた。

 

(何だ!?……まさか!)

 

その原因を一夏は即座に理解する。暗闇のどこからか包丁とまな板が当たる音が規則的に続き何が行われているかもすぐに分かった。

小松だ、彼は既に食材選びを終え既に調理を開始していた。その速さと決断力にも驚かされるが、問題はそれを感じた食材たちの反応だった。

 

(食材たちの声が一気にデカくなった!あの人に使われて欲しいって願望が溢れ出ている!)

 

こうしている間にも食材たちは大きく喜ぶ――《幸運かもしれない》、この世界で指折りの料理術を持つ小松とその弟子で引けを取らない実力者である一夏、プロの料理人たちにこうして見定められているのだから。食材にとってそれがどれだけの贅沢だろうか?それは()()()()()にしか分からなかった。

 

尊敬、憧れ、様々な感情が一夏の脳内を駆け巡る中。ドッシリと構える黒い感情もあった。

それは()()――自分とは全く違う、この暗闇の中見えないはずなのにハッキリと頭で捉えていた小松の姿を見てそれを思っている。

 

(食材に愛されているんだ……師匠と人柄と食材を想う純粋な心……)

 

自分もあんな風に食材たちに求められたらどんなに嬉しいことか、それが只の醜い感情であることは勿論分かっている。だけど同じ舞台に立つ者としてそのような念を感じずにはいられないのだ。

あれが自分が目指すもの、何て遠い――圧倒的な存在だろうか。

 

(……追いついてみせる!俺だって……料理人だ!)

 

だからこそ、これ以上彼を遠い存在として見ない為にも一夏は奮起する。そして凄まじいスピードと判断力で自分の使う食材を手に取り自分の調理場へと走った。

 

(自分の手も見えない暗黒空間……普通なら包丁なんて持つこともできないだろう、だけど食儀を習得した俺には簡単なことだ!)

 

そして食林時で会得した食儀の技術を用いて普通の時とそう大差無いような包丁さばきを見せる一夏、どこにまな板があるのかも手に取るように分かり次々と食材を捌いていった。何も見えない空間で、ひたすら食材を切る音だけが響き闇の中へと消えていく。

 

(このプニっとした柔らかい肌触り、それでいて涙にくる僅かな痛み、恐らく『スライム玉ねぎ』だ。この硬い表面に苦みの匂い……『ルビーピーマン』だろう。そしてこれは『パスタ麺の木』の――)

 

見えない視界の中で食材を推理していく一夏、実際見事全ての食材を言い当てられており必要なものも全て揃った。そして何を作ろうかも決まっている。

暗闇の中でも、柔らかい感触ですぐに崩れてしまうスライム玉ねぎ、逆に宝石のように硬いルビーピーマンを順調に捌いていく。

 

(……って、コンロの火も見えないのかよ!)

 

そのまま火をつける一夏であったがこの暗黒空間を僅かだが照らすはずの火が見えない、その闇はまだ続行していく。

この闇料理対決、コンロの火によって食材の焼き加減やどれぐらいの火力かを悟られない為グルメ界に存在する特別なガスが使用されている。なので物を焼くことも容易ではなかった。

しかし一夏はまずそれで湯を沸かし、その沸騰した熱湯の中にトマトを入れていった。

 

(このブドウトマトを茹でて皮を剝く……そしてミキサーにかけて、これで一番の要は完成だ!)

 

――唐突だが、貴方がもし食材だとしたら一夏と小松、どちらを選ぶだろうか?

信頼や人間関係を無し……つまり料理人として技術面だけで選べば全員が小松の名を挙げるだろう。しかし今一夏が使っている食材たちは、小松ではなく一夏を選んだ。

 

感謝しかない、自分を選んでくれた彼らの為にも優勝する!そんなやる気が一夏に芽生えていた。



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グルメ78 IS世界の異変!

お気に入り数が800になりました!これからもよろしくお願いします!

宣伝としてなろうでの作品も晒します。
「丸太の戦乱」
https://ncode.syosetu.com/n3612fg/
ぜひご覧ください!


『さぁー闇料理対決も終了いたしました!両者とも料理を完成させてキッチンの中から出てきました!』

 

小松と一夏が同時に外に出て、今まで闇の中にいたため昼間の明るさに目がくらむも自分の品を審査員の前に出していく。どちらも満足のいく料理ができたらしくやり切った顔で自慢の品を見せていく。

 

『まずは一夏シェフから!どうぞぉ!』

 

「俺の作った品です!どうぞ食べてください!」

 

そう言ってG7の前に品々を出していき、一斉に開かれる。

そこにはトマトの赤みが移ったパスタの麺、ベーコンやピーマン、タマネギといった具が一緒に絡まっていた。

 

「これは……ナポリタンか!」

 

「はい!『ブドウトマトナポリタン』です!」

 

一夏が暗黒の中で作ったのは、その暗い空間とは正反対の情熱の赤、ブドウトマトのケチャップで味付けしたナポリタンであった。

ブドウトマト、それはミニトマトがブドウの房のように集まって実る特殊なトマト。それでも1つ1つは普通のトマトやブドウに負けない甘みと新鮮さを持っている。それをケチャップにしたわけだ。

 

早速G7はフォークを使い麺を絡め、他の具材と共に口の中へと運んでいく。そしてその味を舌の上に乗せた瞬間、大きく見開いた。

 

「これは……ブドウの濃厚な甘み、トマトの爽やかさ、一見正反対にも思える味が共存し麺の一本一本に染み込んでいる!それでいて僅かな酸味が食欲を掻き立てている!」

 

「そしてこの『パスタ麺の木』の樹皮から生産されたこの麺、しっかりと濃厚なブドウトマトの味を持っているというのに、まるで蕎麦のような喉越しの良さだ!爽やかで深い味わいが一気に喉奥へ走っていく!」

 

そして審査員たちはまるでラーメンのように麺を啜り始める。少し行儀が悪いがそれ程までにブドウトマトの味が病みつきになっているのだろう。

そして勿論、このパスタの強みは麺だけじゃない。

 

「スライム玉ねぎ、ルビーピーマン、野菜の具材たちが別方向からブドウトマトの味を押し出し、素晴らしい引き立てだ!柔らかい玉ねぎと歯ごたえのあるピーマン、その食感も面白い。噛むのがやめられんぞ!」

 

『おぉー!一夏シェフのナポリタンは好評のようだ!これは勝負が分からなくなってきたぞぉー!』

 

「うむ、見事だったぞ一夏シェフ」

 

「ありがとうございます!——よし!」

 

見事G7たちの舌を高めた一夏はガッツポーズをし、心の中で歓喜する。あの暗闇の中でも十分美味しいパスタを作れた、それに加えて見えない中パスタ麺やトマトをちゃんと時間通りに煮込めた点は高得点となるだろう。

しかしまだ勝負は分からない、次は小松の番だった。

 

「……一夏君、さっきのナポリタン凄かったよ。でも、君はまだ()()()()()()()()()()()()()

 

「え……?」

 

師匠の言葉に若干戸惑う一夏、そして小松は一夏と同じようにG7の前に自分の品を出す。

パラパラとして黄金色に輝く米粒、中には様々な具材が眠っておりホカホカの匂いを醸している。そう、これは——

 

「チャーハンか……!」

 

そこで一夏は驚愕する。あの手元が全く見えない状態で焼き加減を伺う必要があるチャーハンを作る。それがどれ程の技術が問われるか、しかもフライパンだって碌に使えないはずだ。

そしてその凄さは、使っている米などの食材によって更に証明される。

 

「これは……焼く時には全ての米粒を均等に焼かなければならない『石米』!これをあの中で、尚且つチャーハンにするとは……喜んで実食させてもらおう」

 

そうしてレンゲを持ち、爽やかな匂いを放つチャーハンを掬っていく。1粒1粒がまるで宝石のように輝くそれは何とも美しく、一瞬口の中に入れるのが惜しいと思う程だった。

しかし食わなければ意味がない、審査員たちは少し遠慮してその味を堪能し始める。そして一夏の分も作ってくれたらしく、有難くいただくことに。

 

(口の中に入れた瞬間、香りと旨味が一気に広がった!米粒が爆弾のような存在感を放ち続け、いつまでも味が口の中に広がっていく!)

 

「石米は焼く時間と火加減によって味を大きく変えます、その中でも一番濃い味付けになる焼き方にしました!」

 

「濃厚な味でいて何てパラパラ感!水のように飲み込めるし、決して味に飽きない!具材もそれを上手く引き立てて食べるのを止められない!」

 

「具材は『七色カニカマ』、『鶏王卵』などふんだんに使いました。石米のチャーハンに一番合う……いや、()()()()()()()()食材を使いました」

 

「……会いたがっていた?」

 

すると小松が一夏の方に向き合う。その表情は物事を説く師弟同士のようであった。その言葉を理解できてない時点で一夏と小松の間にはかなりの実力差があるだろう。

 

「一夏君、君は確かに食材の声を聞いてあの具材を選んだ。だけど食材たちが真に求め合う組み合わせまでは読み切れなかったようだね」

 

「?――そうか、そういうことか!」

 

一夏はあの闇の中、なるべく調理が難しい食材を選んだ。その方が高得点になるからだ、しかしそれで食材の声を一部聞き逃すことになってしまい、一番合う組み合わせを見誤ってしまったのだ。

その点小松は闇の中で正確にその声を聞き取り、見事石米にピッタリな具材を選ぶ。声を聞くという観点からも小松の方が大きくノウハウがあるわけだ。

 

(俺はまだまだ、食材を調理のものとしか捉えられていなかった、だけど師匠はその食材が一番望んでいることを親身になって聞き取った!)

 

()()()()()()()()()」、それは固定概念というより普通そういうものだと思っていることだろう、一夏も無意識のうちにその考えに囚われていた。

しかし本当は違う、どこかの国宝が言った――「食材が料理人を選ぶ」のだと。

 

こうしてG7は両者の品々を堪能する。そこから数分話し合い、結論に至った。

最早、どちらの勝利かは明白だった。

 

「一夏シェフの料理も見事だったぞ。しかしそれ以上に小松シェフの方が食材の味、引き立て、組み合わせを熟知できていた。よって勝者は——!」

 

 

 

 

 

「一夏ー!」

 

廊下を歩いている一夏に真四天王とIS組が駆けつける。既に一夏は着替え終わり、今から客席に行くところだったのだ。

 

「ドンマイ、相手が悪かったわね」

 

「ああ、俺もまだまだってことが分かったよ。やっぱ師匠はすげぇや!」

 

結果は明白、一夏の負けである。敗北した一夏を慰めようとリンカたちはここに来たわけだ。

 

「……悔しくないのか?」

 

春十の言葉を聞いた瞬間、一夏は持っていたシェフの帽子を握りしめた。バレないように唇も噛み締め、プルプルと腕を振るわせた。

しかしそれでも明るい笑顔をすぐに見せ、誇らしい表情で嬉しそうに話す。

 

「悔しいさ……だけどそれ以上にあの人と戦えて嬉しかった。後は観戦して沢山勉強する!」

 

「そう……それでこそ一夏よ!」

 

どんなに打ちのめされても諦めない、それが一夏という男だった。

そうして場の空気が和やかなものになった途端、腕につけていた別宇宙移動装置のアラームが鳴る。それはIS学園からの通話、つまり千冬からものであった。

 

「もしもし、どうしたの千冬姉?」

 

『い、一……夏か!?』

 

しかしそこから流れるのは掠れた千冬の声、雑音、爆撃音、破壊音など、あらゆる負の音が混ざり合っている。それによって落ち込んでいた一夏の気持ちが一気に跳ね上がり、他の面々と共にそれに集中した。

 

「――本当にどうしたの!?何か凄い音が……!」

 

『こ、この間学園を襲撃した連中が、また……ぐわぁ!?』

 

聞き慣れていない千冬の悲鳴を最後に通話は強制終了する。少なくとも向こうは楽しい雰囲気とかではないらしい、そしてその内容に一夏はハッとする。

それは、4年に一度の祭典のことなどすぐに忘れさせるものだった。

 

「まさか……俺たちがいない時を狙って……!?」




ちなみに小松の料理をチャーハンにしたのは、アニメのトライアスロンクッキングでチャーハンを作っていたからです。


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グルメ79 教師陣の意地!

今回からIS学園での戦闘になります。多分これが最終章的な感じです。


爆音が鳴り響く。それと合わせるように生徒たちの悲鳴も響き最早IS学園は地獄絵図と化していた。

空は怪鳥の群れで覆われ地上は亜人怪人猛獣の祭り、名高いISの学園として有名なその地は魔窟のように成り果て、女尊男卑の思想によって強く育ったはずの女子生徒は逃げ惑うしかなかった。

 

「生徒は急いで避難してください!こちらです!」

 

その避難誘導をしているのは教師の真耶、第2世代型量産機「ラファール・リヴァイヴ」を纏いその安全を守った上で的確な指示を出していた。普段はあわてんぼうの頼りない教師と思われていたかもしれないが、一応はここの教師として身を置いているプロ、こういった状況には慣れていた。

 

『ガァアッ!!!』

 

すると上空を蔓延っていた怪鳥が地上に狙いをつけ、翼で一気に降下してくる。それに対し真耶は射撃で迎撃し翼を狙って撃ち落としていく。巨大な体が地面に落ちるたびに地震が起き、今しがた討ち取った獲物がどれ程の巨体かが分かる。

他にもまるで戦車の陣形のように並んで襲ってくる猛獣たちにも弾を打ち込みその侵攻を妨害していく。実質周囲の敵は全て彼女の手で足を止めているといっても過言ではないだろう。

 

しかしその迎撃は完璧とは言えない、標準のIS兵器でグルメ世界の猛獣が食い止められたら()()はこんな手など使ってはこないだろう。

 

『ブオオオッ!』

 

「象!?――キャッ!?」

 

突如として横から飛んで来た衝撃に真耶は吹っ飛ばされ、上空に投げ出される。急いで体制を整えると自分を吹っ飛ばした標的をその目で捉えた。

巨大な体に長い鼻、そして天を貫くように伸びる2本の牙。

 

ブレスパンツァーマンモス〈哺乳獣類〉捕獲レベル75

 

そのマンモスは鼻の根本を一気に膨らませ、そこに溜った空気を砲弾のように鼻の穴から発射する。鈴の衝撃砲のように、見えない弾幕が真耶を襲った。

 

「ハッ!このッ!」

 

地上と空中、両方から弾が飛び交い瞬きをする暇も無い銃撃戦が繰り広げられていく。すると銃を構えて周囲に隙を見せている真耶に怪鳥……いや怪人が襲い掛かった。

 

「こ、今度はウサギ!?」

 

『キキッ――!』

 

何と翼の生えた兎の怪物が数匹群がり、その射撃を邪魔してくる。長い耳に飛び出た出っ歯、そう言えば可愛らしく聞こえるがその実態は人のような体に翼を生やしたキメラのような姿だった。

 

サタンラビット〈哺乳獣類〉捕獲レベル56

 

「じゃ、邪魔しないで……ッ!」

 

怪人により思うように狙いが定まらない真耶、すると地上のブレスパンツァーマンモスがその隙にと空気をチャージし、特大の砲弾として彼女に放とうとする。

絶体絶命のピンチ、誰もがそう思ったその時――マンモスの鼻が斬り落とされた。

 

『ブモオオッ!?』

 

「お、織斑先生!?」

 

「無事か!?」

 

一夏の姉である織斑千冬がISを纏い、閃光の如く空間を走り真耶を助ける。そしてそのまま群がっていたサタンラビットたちの翼も切断し地上へと落下していく。

 

「今しがた一夏たちに連絡を入れた!それまでの辛抱だ!」

 

「そ、そうはいっても……この数は……」

 

そうして並ぶ千冬と真耶であったが、その前には数えきれない程の猛獣たちが立ちはだかり教師陣に嫌と言う程絶望感を与えてくる。しかしそれも一夏たちが来るまでの間、それまでに何とか持ちこたえようと決心するも、流石にこの数はどうしようもなかった。

一体どうしたものかと考えていると、上空から巨大な何かが幾つも降ってきた。

 

「今度は何だ!?」

 

新手の猛獣か、そう警戒し身構える千冬と真耶。しかしその正体は聞き慣れた声の音声が説明してくれた。

 

『ちーちゃん!大丈夫~?』

 

「束か!これは一体……」

 

『私が内緒で作っていた無人機IS!いっけーゴーレム!』

 

無人機IS、通称「ゴーレム」たちはグルメ世界の猛獣にも引けを取らない体格を持ち、巨大獣と真正面から渡り合う。いつしか頼もしい仲間ができていた。

 

「無人機ISだと……いつの間にそんなものを、だが助かる!」

 

ゴーレムの乱入により戦況は教師陣の優勢となるも、それはあくまで一時的なもの。やがてその物量に耐えきれなくなり押されていった。

いつの間にか千冬たちは囲まれ、四面楚歌のような状態に陥ってしまう。いくら束の無人機ISでも高捕獲レベルの猛獣を圧倒することはできず、四肢を噛み砕かれボロボロになっていた。

 

『わ、私のゴーレムちゃんがこんな……いっくんから貰ったデータを元に作ったのに』

 

「学園祭の時より明らかに質が上がっているな……それ程までに向こうも私たちを潰す気でいるわけだ!」

 

やがて猛獣たちは目の前の獲物に我慢できず、牙を見せ爪を尖らせ一斉に跳びかかっていく。迫りくる大群に千冬と真耶、そして無人機ISは迎撃の構えを取る。

そしてその瞬間――淡い光と共に上空から斬撃が飛んで来た。

 

無限の料理術(インフィニット・クッキング)――竜巻みじん切りッ!!!!」

 

「コテレッグブーメランッ!!」

 

群がっていた猛獣たちはバッサバサと斬られていき、その数は一瞬にして大分数を減らす。それと同時に突如として現れた人物たちに千冬たちは微笑んだ。

 

「一夏……春十!」

 

『いっくん!』

 

「待たせてごめん!急いで戻ってきた!」

 

料理人一夏とそのコンビである美食屋リンカ、そしてグルメ世界へ行っていたIS組も学園のピンチに駆けつけてきた。クッキングフェス中に千冬からの連絡を受けた一夏たち、こう言っては何だが丁度敗退した直後だったのでこうして助けに来ることができたわけだ。

 

「これは……学園祭の時より被害が酷いな……!」

 

「今まで以上に猛獣が沢山おりますわ……!」

 

「大方僕たちが向こうの世界に行っている間を狙ったんだろうね……!」

 

専用機持ちたちもその数に圧倒されるも、彼らも過酷な世界を駆け抜けた強者たち――この程度で臆して逃げ出す程憶病ではない。

その組織――美食會は一夏たちがグルメ世界に行っている間を見計らってこの襲撃を行った。しかし、こうして戦力たちは元の世界に勢ぞろいする。

 

「来るなら来い!俺たちの故郷は、絶対に壊させない!」



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グルメ80 強くなった戦士!

今週は食材調達中にあまり活躍の場が無かった専用機組の出番を表現してみました。


「「はぁあッ!!」」

 

迫りくる怪鳥たちに対し箒と鈴はISで学園の上空を飛翔し突撃していく。先行するのは圧倒的なスピードを持つ第四世代機「紅椿」を使う箒、群れの間を一瞬の内に通過し、目にも止まらぬ早業に怪鳥たちは何もできずどんどん翼を斬り落とされ墜落していく。

しかし中には斬られたとしてもすぐに再生する種類もいたが、そこに鈴が駆けつけ完全なるトドメを刺していく。学園の制空権は加速していく乙女のものとなった。

 

「こんな奴ら!あの荒れ狂う海での戦いに比べたらどうということないわよ!」

 

「ああ!あの時とは違ってここは空!ならば、私たちの方が有利だ!」

 

そこで箒と鈴はヘヴンオーシャンでの戦いを思い出す。しかし捕獲レベルの面ではあの海に住む魚よりこちらの猛獣たちの方が上だろう。それでもあの時は海上のど真ん中という状況だったからこその苦戦、空中戦ではISの箒たちの方が上だった。

そして鈴の龍砲、箒のエネルギー刃が放たれていき更に空の猛獣たちを撃ち落としていく。まるで雨のようにその死骸がドバドバと下に落ちていった。

 

 

 

 

 

「力を貸してください!シャルロットさん!」

 

「オッケーセシリア!」

 

一方その頃、その近くの地上ではセシリアとシャルが猛獣に囲まれていた。その数は百をも超え視界を埋め尽くしていく。まさに絶体絶命の状態、それでも2人はお互いに信じ合い背中を預け、笑みを保ったまま己の銃を構える。

瞬間、彼女たちを取り囲んでいた猛獣たちは一斉に吹き飛ばされていく。そしてその後ろにいた連中はドミノ倒しのように崩れていき、その銃弾に次々と倒れていった。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ!!」

 

そこでセシリアのブルー・ティアーズ、その6機のビットが一斉に散らばっていく。そして高所からレーザーやミサイルを撃ち続け群れを殲滅していった。

一方シャルは自慢の銃を乱射、重いその銃弾は象のような巨体を持つ相手でも後ろに吹き飛ばし、鈍い銃声と共に猛獣の断末魔を打ち鳴らしていく。

 

「野菜仙人さんたちの山の方が、まだ険しい戦いでしたわ!」

 

「まぁあそこは霧が深かったからね、それと比べたら――楽勝だよ!」

 

2人がグルメ世界で体験した環境は野菜仙境に到達するまでに立ちはだかる困難「濃霧樹海フォグレスト」、あそこは深い霧によって視覚も嗅覚も全然機能せず、どこから現れるかもわからない獣の相手をしなければならない。

しかしこの日この場は晴天の下広々とした校庭、射線も地平線の果てまで伸びるのであった。

 

 

 

 

 

「行くぞ嫁!夫婦初めての共同作業というやつだ!」

 

「違うと思うけど……俺たちも負けてられねぇぜ!」

 

そしてまたもや場面は変わり春十とラウラ、この2人に襲う猛獣たちは特に捕獲レベルが高い連中ばかりだが一歩も後ろに引くことは無かった。それどころか阿吽の呼吸で群れの中に突き進んでいく。

 

「俺だって向こうで美味しいもん山ほど食ったんだ!結構強くなっているはずだぜッ!!」

 

すると春十の背後に巨大な悪魔のイメージが浮かび上がる。まさに白い鬼、その姿に猛獣たちは体を震わせ殆どが戦意を喪失していく。中には腹を見せ服従しているものさえいた。

しかしそんな命乞いも虚しく、次の瞬間その爪によってバラバラに引き裂かれてしまう。

 

『ハッハァ!久しぶりの登場だぜオイ!いつの間にかディアボロスの世界に行ってたみたいだなぁ……いいぞ春十、どんどん食らいつくせ!その分俺の完全復活に近づくんだからなぁ!』

 

 

 

 

 

 

「くっ……中々やるじゃない!」

 

一方校舎の近く、生徒会長である楯無も交戦中。生徒会長は前に出て迅速な対応をしていたがあまりの数に追い込まれている。水のように素早い彼女のISに対し、猛獣たちは比較的スピードに適したものばかり、明らかに対楯無対策であった。

そしてその鋭利な爪が彼女に襲い掛かろうとしたその時、上空から助太刀が参上する。

 

「はぁああ!!!」

 

「簪ちゃん!?」

 

それは妹の簪、彼女もまたグルメ世界で培った強さを活かしピンチだった姉を見事救出して見せた。

 

「大丈夫お姉ちゃん!?」

 

「簪ちゃん……立派になって」

 

 

 

 

 

 

 

「小娘どもめ……暫く見ない間に逞しくなったな」

 

「千冬姉!大丈夫かよ!?」

 

一夏とリンカは長い戦いにより疲れ果てた千冬たちを守るように戦っている。彼女たちの頑張りもあって学園の被害は最小限に抑えられ、生徒たちも無事避難が完了した。

 

「リンカさん……またもや助けられて申し訳ない」

 

「何言ってるんですか一夏のお姉さん!後は私たちに任せてください!」

 

こうして専用機組とグルメ世界の戦士、彼らは学園全体に展開し猛獣たちと戦闘を繰り広げ始めた。しかし当然相手は猛獣だけじゃない、かなりの強者たちもそこに集い始める――



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グルメ81 堕ちた神!

バイトの応援で遠くまで行くのがめんどくせぇー!!


美食會残党との戦いが遂に始まったIS学園、各々の武器を前面に出し迫りくる猛獣を蹴散らしていき死線を潜り抜ける。

校舎の近くでは楯無と簪が姉妹息ピッタリの連携をしていた。学園でもトップの実力を持つ楯無、そしてその妹でありグルメ世界で過酷な環境を潜り抜けた簪の2人にそう勝てる相手はいないだろう。

 

「大丈夫簪ちゃん?」

 

「お姉ちゃんこそ――!」

 

共にお互いの身を気にしながらも力を振るい猛獣を蹴散らしていく。猪突猛進、勢い付いた彼女たちを止められるものは誰もいないだろうと思われた。

しかしその瞬間、上空から降り注ぐ閃光がそれを阻止する。

 

「ッ――!?」

 

「私の可愛い子たちをよくもやってくれたわね、まったく酷い……」

 

降り立ったのは金色のISを纏った美女、禍々しいデザインのそれは量産型などではなく今までに見たことのないタイプのISだった。そして猛獣たちはまるで彼女を母親のように見てその側に近づく。

この女は一体何者なのか、簪の警戒をよそに楯無はその正体を見破る。

 

亡国機業(ファントム・タスク)……やはり貴方たちも関わっていたのね」

 

「あらバレちゃった?私はスコール、流石は生徒会長さんね」

 

いくら美食會とはいえ残党にここまで勢力を用意することはできない、そこで亡国機業(ファントム・タスク)の支援を受け合体し新たな悪の組織として復活を果たしたのだ。

 

「懲りずにまた攻めてきて……そう何度も追い込まれるほど私たちは甘くないわよ」

 

「それはこっちの台詞、まさか前回の失敗を忘れて襲撃してくると思う?」

 

「……何ですって?」

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

一方その頃春十とラウラ、次々と飛んでくる猛獣……いや、()()()()を相手に奮闘していく。そいつらは普通の人間など簡単に丸のみにできる大きさを持ち、ワサワサとおぞましく蠢いていた。

この世にいる生物とは思えない姿、それを春十は一度見たことがあった。

 

「こいつら……まさか!」

 

「当たりだよォ!織斑春十ォーーッ!!」

 

刹那、大きな影が2人を呑み込む。見上げれば、巨大な塊が敵意の目を向けてこちらに降下してきた。

春十とラウラは急いでその場から離れその攻撃から回避、派手に上がった土煙が晴れるとそこには見覚えのある蜘蛛のフォームをしたISが立ち尽くしていた。

ISの光る鋼のパーツに加え、その隙間から飛び出る本物の蜘蛛の足。まさに化け物ISと呼ぶに相応しい姿である。

 

「お前は……学園祭の時の蜘蛛女!」

 

「オータム様だ!」

 

「こいつ……何だあの姿は!?」

 

初めて見るその異形にラウラは目を大きく見開き、恐れを抱いて唾を呑み込む。無理もない、グルメ世界にも気味の悪い生物は数多く存在していた。

しかしISと融合しているものは初めて見るだろう、しかもそれはこの前より更に進化しており禍々しい模様が鋼鉄の上からでも浮かび上がっている。

 

「本当は織斑一夏とあの女の相手をしたかったが……テメェにも恨みはある!覚悟しな!」

 

「はっ!どうせまた馬鹿でけぇ虫を呼ぶんだろ!?そんなのに今の俺がやられるか!」

 

前回はバーミンエンペラーという美食會の副料理長に所属していたトミーロッドが作り出した混合虫を差し向けてきたオータム、しかし春十もかなり強くなっており今となっては負ける気もしない。

しかし、オータムはニヤリと笑った。

 

「そいつはどうかな?今度の相手は結構効くぜ?」

 

そう言ってオータムは上空に黒い穴を形成、そこから何かを出す気だった。確かに強くなった春十だがその精神はまだまだ未熟というわけでもなく、警戒心を張り巡らせる。

しかし数秒経っても足の1本も出てこず、静かな空間が流れていく。

 

「……何だよ、何も出てこな――ヅァ!?」

 

「ぐはッ……!?」

 

拍子抜けした春十は呆れた様子でオータムを見ようとしたその時、鋭い感触が光線のように駆け走り春十たちを薙ぎ払う。急に吹っ飛んだ、今はそれ以外の認識方法が無い。

一体何が起きたのか?倒れる春十が見たのは、地面にゆらりと舞いながら落ちる()だった――

 

「……何だ……アレ」

 

そしていつの間にか「ソレ」はオータムの背後に立っていた。オータム自身はまるで虎の威を借りる狐のようにニヤリとした笑みを見せつけてくる。しかし彼女の表情なんてこれっぽっちも目に入らない。それ程までにその存在は大きいのだから。

 

鳥の顔を持ったそれは、孔雀のように色鮮やかな翼を広げた。

 

 

 

 

 

一方その頃、異変は一夏とリンカの方にも訪れていた。2人は他のメンバーとは比べ物にならない力量であっという間に猛獣の群れを蹴散らしていき、その周囲には何も残っていなかった。

 

「よし、他の奴らを助けに行くぞ!」

 

「ええ!」

 

そうして全てが片付いた後、一夏たちは早速援護に向かおうと走り出す。しかしその直前、背中から飛んで来た殺気に思わず足を止め後ろを振り向いた。

 

(なんだこれ……人間界の猛獣が出せるものじゃない!)

 

(この甘くて透き通るような香り……まさか!?)

 

一夏はその凄まじい殺意に、リンカは既視感のある匂いに冷や汗を流す。そしてその正体はゆっくりと四足歩行で歩み寄り姿を現す。神のように後光を肉体から出し続け、まるで雪のように純白なその毛色を宝石のように魅せていく。

そしてその顔が見せつけるのは圧倒的捕食者の顔、牙を見せ虎の視線で一夏たちを刺してきた。

 

「四神獣……クリーム白虎!!」



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グルメ82 四神獣!

名探偵ピカチュウ見ました!想像の1000倍以上面白かったです!


「クリーム白虎……どうしてこんなところに!?」

 

突如として現れた伏兵に一夏とリンカは驚きを隠せない、それはかつて戦ったことのある敵でもあり自分たちのフルコースメニューにおいてスープの品となっている「クリーム白虎」であった。

白銀のような毛色を見せ、そして後光を放つその姿はまさに「四神獣」と名付けられるに相応しいだろう。しかし強敵を前にしたその張り詰めた空気は、周囲に流れるまろやかな匂いによって若干掻き消されてしまう。

 

その油断が、白虎の姿を僅かに消した。

 

「――グッ!」

 

「一夏!」

 

象にも勝る巨体が瞬時に目前まで接近、牙を剥き突撃してくる。一夏は2本の包丁を交差してそれを受け止めるもその突進力を相殺することは敵わずに後ろへ吹っ飛ばされてしまう。その圧倒的な力を真正面から防ぎ切ることは不可能であった。

一夏は何とか旋回し空中戦に移行、上空にいれば狙われることはないだろうと踏んでのことだ。しかし瞬きの後、クリーム白虎も宙に身を置いていた。

 

「跳んで――ヅァア!?」

 

そのまま体を盾に回転させて威力を上げ、長い尻尾ではたき落とす。そして追撃として墜落した一夏に向かって一気に降下を始めた。

 

「コテーシールド!」

 

しかし咄嗟にリンカが割って入り巨大なコテを形成、それを盾とし白虎の降下アタックを受け止めそのまま向こうへ投げ飛ばす。見事防ぎ切ったようにも見えたが、そのコテには大きな亀裂が走っていた。それでどれだけの威力だったのかが伺える。

 

「こいつ……私たちが戦った個体より強い、まさか……!?」

 

「ああ、あの時の親……つまりこいつがドーイド火山の主だった白虎だ!」

 

以前一夏とリンカが倒したクリーム白虎はあくまでも子供、それでもかなりの強敵だったことには変わりないが目の前の白虎はその親、つまりグルメ界からやって来た原種というわけだ。

 

クリーム白虎 ――原種――〈幻獣類〉捕獲レベル測定不能

 

 

 

 

 

一方その頃春十とラウラも同じように四神獣と戦っていた。宝石のように美しいその羽根は炎のように光を揺らめき、この戦場に圧倒的な幸福感と存在感を放つ。オータムが召喚したこの四神獣はその凄まじい力を見せつけてくる。

その羽根は()()()()()のような形状をしており、それを弾丸をも軽々と超えるスピードで撃ち続けていく。その弾幕に、春十もラウラも避けきれない。

 

「グッ……何だこいつは……!」

 

「他の猛獣たちとは比べ物にならん!かなりの強敵だ!」

 

「こうなったら……悪魔の口(ヘルストマック)ッ!!」

 

そこで春十は雪魔(スノー・サタン)のビームシールド「悪魔の口(ヘルストマック)」を展開、迫りくる羽根の弾丸を次々とそれで吸収していきその後で一気に解放、その全てを鳥に返していく。

それに対し奴は大きな翼を更に広げ、先ほどとは比べ物にならない程の量と速度の弾幕を放ち、真っ向からそれとぶつかり合う。当然春十の吸収しただけの弾ではそれに敵わず返り討ちにあってしまった。

 

「ハッハァ!お前ら如きが朱雀に勝てるわけねぇだろッ!!」

 

「朱雀?……まさか、野菜仙境から消えたって言ってたあの……!?」

 

春十たちが相手にしていたのは、野菜仙境にいるはずのグルメ界の猛獣「朱雀」。こいつがいなくなったせいでドラゴーヤたちは解放されたのだ。

四神獣が一匹「朱雀」――この世の物とは思えない程綺麗な翼を更に広げる。

 

 

ビタミン朱雀〈幻獣類〉捕獲レベル測定不能

 

 

 

 

 

「ぐわぁあッ!?」

 

「箒!?」

 

その頃、箒に突如として伸びてきた光線が掠り危うく撃墜されそうだったところを鈴がフォローする。先ほどまで空中にて次々と空飛ぶ猛獣たちを討ち取っていた2人であったが、突然の光線に驚かずにはいられない。地上を確認し、その犯人の姿を確認する。

そこにいたのはクジラと同じようなサイズを持つ巨大な亀、甲羅のマスの1つ1つが流れた時の長さを思わせる雰囲気を持ち、その顔つきも人間臭くも自分たちとは住む世界が違うことを示してくる。どう見ても他の猛獣とは格が違う、さっきの光線がそれを物語っていた。

 

「亀……なんて大きさだ」

 

「まさかあれって……ヘブンオーシャンからいなくなったって言ってた……キャッ!?」

 

すると突然、その広々として雄大な甲羅が発光したと思うと何とそのマス1つ1つから先ほどと同格の威力を持つ光線が発射される。凄まじいビームの猛攻が真上の2人に襲い掛かった。

その数十本の光線は密度を狭め飛び交う箒たちをまるで蠅のように撃ち落とそうとする。軌道を変えるために鈍くとも体を動かしている。そうすることでビームの発射口、つまり甲羅の位置を変えられるわけだ。

 

「な、なんて凄い攻撃なの!優しそうな顔してえげつない!」

 

「軌道が上を向いていて助かったな……これなら校舎など一瞬で丸焦げになってしまう!」

 

 

深海玄武〈幻獣類〉捕獲レベル測定不能

 

 

 

 

 

そして最後の1匹、そいつは既にセシリアとシャルの前に君臨していた。

 

「……なんて美しさなんでしょう」

 

「油断しないで!セシリア!」

 

2人の戦乙女が見上げる先にはその青い体を輝かせて地上の人間たちに見せつけている1匹の龍。野菜仙境にいたドラゴーヤとは比べ物にならない圧倒的なオーラ、そして一瞬味方かと思ってしまう程の綺麗な鱗、こんな相手に銃口を突きつけるなどとんでもない――なんていうのは甘ったれの言葉だ。

 

「くッ……凄い鳴き声ですわ!」

 

「やっぱりただものじゃないか……気を付けないと!」

 

この四神獣は春十たちが食材調達にいかなかった地域の存在、大地を震わせる咆哮はいかに己が格上の存在かを語っているようで立ち向かおうとするセシリアたちを一蹴しているようでもあった。

 

 

ソルト青龍〈幻獣類〉捕獲レベル測定不能

 

 

最後の四神獣「青龍」、これによりグルメ世界の全ての神獣がIS学園に降臨した。



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グルメ83 波乱の戦場!

「何だ……この反応は!?」

 

一方その頃、猛獣たちを次々と倒していた千冬たち教師陣、ISゴーレムも共にその剛腕を振るっていたがそこで四神獣の出現をISのレーダーで察知する。驚いたのはその数値であり、同じように真耶や通信の束も驚愕せずにはいられなかった。

 

『何このエネルギー値!?ISの数十倍……いやそれ以上!こんなの生物が出せるものじゃない、エネルギー保存の法則を完全に無視してるよ!!』

 

「これがグルメ世界の猛獣なのか……!?」

 

四神獣、グルメ界からやってきた猛獣にIS世界の発達した科学の常識など通用しないだろう。勿論今まで学園を襲ってきた猛獣も生態系から大きく外れた存在であることに変わりはない、しかしあれらはグルメ世界の中でも人間界に生息していた生物、グルメ界と人間界とでは環境も猛獣の進化もそれこそ別世界のように差があった。

 

四獣侵攻時に人間界へ紛れ込んだ四神獣たち、それからは人間界の秘境に身を潜めていたが4匹全てが一斉に失踪。皮肉にも外来種ともいえる四神獣たちの喪失で崩れた生態系は数多くあった。ドラゴーヤ、ポセイドンオクトパス、ブラッドレオン、これらの強敵たちを怯えさせ封じ込めていたがそれにより解放したわけだ。

タネを言えば学園襲撃に使われている猛獣は操られている。つまり四神獣も操られているということであるが、それに対し納得がいかない者がいた。一夏だ。

 

「馬鹿な……クリーム白虎は神獣だぞ、そう簡単に操られるわけがない!」

 

一度その幼体と戦ったことがある一夏とリンカには、その原種が他の雑魚同様に洗脳されたとは思えなかった。どこかの刑務所の所長のようなフェロモンや旧四天王の中毒率100%の毒など猛獣使いの方法は多く存在する、しかし圧倒的な実力を持つ相手、もしくは抗体がある敵に対しては効果が無い場合もある。四神獣の場合それは前者だった。

 

「一夏……他の場所にもかなりの気配がする。もしかしたら他の四神獣もここに来ているのかも」

 

「まさか美食會残党が四神獣を捕まえたのか!?まだそんな兵力があったのか……!」

 

どちらにしろ四神獣レベルの猛獣を持っていたとしてもそれにはかなりの時間と労力が必要のはずだ。壊滅してその生き残りが集まる美食會残党。一度崩壊したのにまだそのような力が残っていることにも驚愕だ。

そしてリンカはクリーム白虎以外の存在も察知、敵兵力が以前より数十倍にもなっていることを突きつけられる。

 

「まずい!いくら強くなっているとはいえ春十たちに四神獣クラスの相手は駄目だ!助けに行かないと――ヅァ!?」

 

「一夏!」

 

春十たち専用機組の成長は一夏も認めていた。それでも四神獣には勝てない、そう思って急いで援護に向かおうとするもクリーム白虎の攻撃を受け吹っ飛ばされてしまう。その白い尾は鞭のようにしなり一夏の全体を殴打、まるで巨大なハンマーを叩きつけたかのような衝撃が走った。

その次はそのコンビに牙を剥いてくる。リンカはそれに対しコテで両手を武装、そのまま拳を打ち込むもビクともしない。それどころかその凄まじい咆哮に吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……やっぱり簡単には行かせてくれないようね。私がこいつを抑えておく、その間に春十君たちを助けに行って」

 

「いいのかよ……いくらお前でも1人でこいつの相手は流石に……」

 

「フェスの練習用に沢山ご飯作ってくれたの覚えてる?あの分の食没をすれば何とか……!」

 

食没、それは食義の奥義であり食べてきた食材にありったけの感謝を込めることにより彼らから最大限の栄養素を貰い受ける技。少なくとも自食作用(オートファジー)よりかは効率的なエネルギーの摂取方法であった。

 

「お兄さんや皆が大切なんでしょ?だったら絶対に守り抜いてみなさい!」

 

「……ああ!そっちは任せたぞ——相棒」

 

そう言って一夏はISで飛翔、その場から一気に離脱し他の専用機持ちのところへ急ぐ。

そしてリンカは、唸る白虎に単独で対面した。

 

 

 

 

 

「ほう……もう四神獣を出したのか」

 

そこは、IS世界とグルメ世界の狭間としか言い例えられない世界だった。そこが美食會残党兼亡国機業(ファントム・タスク)の本拠地であった。そしてその暗黒の部屋、中心には学園の様子が映し出されている立体映像を取り囲むかのように元美食會第一支部支部長のエルグ、そしてソムリエールのリモンがいた。

 

「あれは私……いや私たちが死力を尽くして捕獲した猛獣、このような前座で使われるのは癪だな」

 

「確かに四神獣の洗脳は貴方の分裂と私の能力が無ければなし得なかったもの、スコールは一体何を考えているのかしら?」

 

エルグは「馬王ヘラク」の子供と融合、それにより決して死ぬことのない不死身の体を手に入れた。バラバラにされてもその破片が1つずつに復元し、まさに完全に殺すのが難しい相手だった。

しかし四神獣は、不死身を殺せた。捕獲用に分裂された大量のエルグはその攻撃により細胞が再生をする暇も与えずこの世から消し去ったのだ。それでもエルグは数を増やし続けてその体力を減らし、その隙にリモンが洗脳したわけだ。

 

「まぁいい、これで学園は終わりだろう。一夏やリンカは兎も角IS如きにグルメ界の猛獣は倒せない」

 

「今日私たちは、悲願のための第一歩を歩み出す……!」

 

2人がそう言うとそこに新たな人影が現れ機械の擦れる音を繰り返しその姿を見せてきた。ニトロのようなその顔はGTロボ、学園の文化祭に襲撃してきたタイプとはデザインが異なりより一層禍々しいものとなっていた。長い髪はオカルトのように揺らぎ、赤い模様が浮かび上がった血管にも見えた。

 

「来たなM……どうだ、I()S()()G()T()()()の動作は?」

 

『……悪くない、これなら織斑一夏を葬れる!』

 

「ISとこちらの世界のテクノロジーの融合……グルメ世界なら兎も角、向こうの世界でそれに通用する兵器は存在しないわね。男性には使えないIS……それをGTロボ越しで男女信号の変換。実質()()()使()()()I()S()と言っても過言ではない」

 

四神獣という強力な兵力を手にいれた敵、しかしそれだけではなくまた新たな力を開発したのであった。



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グルメ84 乗っ取り!

「この……速すぎるだろッ!!」

 

春十の周囲を緑色の閃光が飛び交う。いや、正確には閃光などではなく美しい羽根を持った朱雀であった。その速さはまさしく光速の如し、おまけに羽根の1枚1枚が光り輝いている為一閃の光と見間違えても無理は無いだろう。

その姿は一切見えない、見えない程速く飛び交っているので当然のことだ。しかしその深緑の線が描かれる度にその宝石の翅が空に舞いあげられ、風に煽られて優雅に落ちる。そうして地面に落ちる直前でまた吹き飛ばされての繰り返しであった。

 

その光景はまるで春十を中心に舞踏会が開かれているようで、素早いながらも美しい舞を朱雀は見せていた。ちなみにラウラはオータムと戦っており、1対1で分断されている。春十とラウラたちが優勢とは言い難いだろう、オータムもかなりの強化がされておりその上四神獣の1匹が相手なら苦戦も当然だ。

 

「ッ――悪魔の口(ヘルストマック)()()()()()()()!」

 

春十はビームシールドを自分の足元に展開、あっという間に周囲の地面はそこに吸い込まれていき凸凹だらけのクレーターが形成される。大量の瓦礫を吸い込んだ悪魔の口(ヘルストマック)、それはすぐさま開かれ今しがた吸い込んだものを朱雀の進行方向に吐き飛ばした。

一時的とはいえ軌道状に瓦礫の壁が形成されたため朱雀は飛行方向の変更を余儀なくされ、そのまま地面とは垂直に飛び上がっていく。その際にも羽根は花火のように散った。

 

「たくすばしっこい!」

 

『おうおう!いきなり敵のランクが上がったんじゃないかよ春十!』

 

そのかつてない強敵に白式と春十のグルメ細胞に宿る悪魔、サタンも反応。その姿は見えないし春十の耳にその卑しい声が届くことは無いが、それでも守護霊のように春十の背に現れる彼奴の姿を見るのは朱雀だけであった。

そこでようやく朱雀は表情を変える。今しがた自分が戦っている()()()()()に、とてつもないものが眠っていたのが分かったからだ。

 

『どうやら味のランクも極上らしいなぁ……そこの鳥、ちょっと齧らせろよ!』

 

「ぐあッ!?」

 

すると春十が苦しみだした瞬間、その目つきと表情は別人のように変わる。強敵として捉えていた目は完全に餌を見定めるものとなり、気のせいか牙を見せつけるかのように口角を曲げている。

 

『おお……向こうの世界でたらふく食ったとみえる。僅かな間とはいえここまで馴染むとは……少し肉体(からだ)を借りるぜ!』

 

そうして春十の体を乗っ取ることに成功したサタン、そのままISで一気に飛翔し朱雀へ接近。そのスピードは春十が主人格の時とは比べ物にならないもので、同格とはいかないものの渡り合えるぐらいの速さに進化した。

こうして繰り広げる凄まじい空中戦、ぶつかり合うたびに衝撃波が発生しどれ程激しくそして速い戦いが繰り広げられているかを説明した。

 

『流石に速いな!腹を空かせるには丁度いい!!』

 

サタンはそのまま刀も使わず拳で攻撃、その瞬間ISと春十の腕は白い巨大な腕に早変わりし朱雀に襲い掛かる。あまりにも大きく膨張したため朱雀のスピードでも回避が間に合わず片翼に掠れてしまう。初めてのダメージに朱雀は悲鳴を上げたりはしない、寧ろ空中でバランスを整えると同時に羽根の弾丸を発射していく。

 

『ほう、味見させてくれるのか!鳥頭の癖に中々親切じゃないか!』

 

それに対し悪魔の口(ヘルストマック)で防御、その際サタンの大きな口とビームシールドが重なるように見えた。

朱雀の羽根を全て吸い込み無力化、そしてそれをカウンターとして吐き出すことなくそれをただの栄養分として吸収していく。

 

『思った通りこいつの()()は極上だぜ!全部毟り取って食い尽くしてやらぁ!』

 

「待ちな!織斑春十!」

 

突如として鳴り響くオータムの怒号、サタンはそれが自分を指していることに気づくのが遅れ、数秒遅れて地面の方を見る。

そこでは、オータムがボロボロのラウラを大量の足で拘束していた。

 

「こいつがどうなってもいいのかよ!無駄に善戦なんかしやがって、動くんじゃねぇぞ!」

 

「す、すまん嫁……不意をつかれた」

 

オータムもラウラも今春十の体がサタンに乗っ取られていることは気づいていない。勿論サタンは春十のようにラウラへ何か特別な感情があるわけでもなかった。

 

『アァン?春十の女か……別にどうなったって――』

 

『――駄目に決まってるでしょう!いい加減にしなさい!』

 

そんな気高い女の声が上がると同時に、サタンは渋々と引っ込んでいく。白式と肉体の主導権は春十の下に戻る。それまで意識を失っていた春十は何が起きたのかと困惑して辺りを見渡す。

 

「あれ俺何を……ってラウラ!放せこの!」

 

「動くなと言ったはずだぜ!」

 

そこでようやく自分の状況を理解する春十、ラウラを人質にされ動けない状態となった。オータムはしてやったりといった表情で春十を睨みつける。そして己の蜘蛛の足で彼女の顎を丁寧に撫でている。

 

「調子に乗るからだ!このまま嬲り殺しにしてや――るぅ!?」

 

「その娘から離れろ!」

 

その瞬間、赤い斬撃がオータムを強襲。蜘蛛の足を切り裂いてラウラを解放。赤い悪魔――一夏が彼女のピンチを救う。

 

「一夏!」

 

「無事か春十兄!」

 

「てめぇ……織斑一夏ぁ!」

 

リンカと別れ春十たちの援護にやってきた一夏、ラウラを抱えて急旋回し春十の横に並ぶ。そして先ほどの変わりように静かに驚く。

 

(今の感じ……本当に春十兄だったのか?)

 

「すまねぇ一夏……こいつは朱雀だ!めちゃくちゃ強いぞ!」

 

「朱雀……野菜仙境のか!」

 

そこで一夏も敵を把握、野菜仙人のニジンから教えてもらったことを思い出す。そしてその朱雀も白虎同様操られていることに気づく。

 

「いくらテメェでも四神獣共には勝てねぇ!今度こそ捻り潰してやる!」

 

まさに虎の威を借る狐、オータムは指差して朱雀に指示を出す。気高い神獣も洗脳に負け彼女如きの命令に従ってしまう。

そうして再び羽根の弾丸が発射されたその瞬間であった。

 

 

「——ポイズンマシンガン!」

 

 

突如として地上から紫色の弾幕が展開、羽根を全て撃ち落としていく。それは全ての生物に有効とも言える毒で出来ていた弾丸であった。

その攻撃を撃った張本人に、一夏も春十も目を丸くした。

 

「——ララ!」

 

「久しぶりだね、一夏」

 

新四天王の一人、ララであった。



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グルメ85 我らが四天王!

スイッチを買いました。ソフトチケットの片方でスマブラを購入して、もう片方で何を買おうか迷っています。スプラ2かマリカーかはたまたマリオメーカーか。


「お前……どうしてこの世界に」

 

突然現れたララの姿に一夏は驚きを隠せない、本来このIS世界とグルメ世界間を移動するためには一夏の持つ「別宇宙移動装置」が必要だ。なのでララがここに来れるわけがなかった。

それでも彼女はこうしてピンチに駆けつけ、朱雀の攻撃から一夏たちを守った。その際見覚えのある腕輪が彼女の褐色の腕に付けられていることに気づく。

 

「その装置……まさか!」

 

「別宇宙移動装置……まだ少ないけど量産することができたの。それでこっちに来た」

 

それは一夏のしているものと全く同じ、IGOが開発した移動装置の量産されたタイプであった。確かにそれならこのIS世界にも行けるだろう。しかしそれがもう1個作られたことは聞かされていない。

 

「ハハッ……マンサム会長にまたしてやられたよ」

 

「……正直、こんなのいくつも作ってどうするんだろうね」

 

笑いながら一夏はララの隣に並び立ち、共にオータムと朱雀と対面する。新四天王の1人が協力してくれるならこれ以上の味方はいない。絶望の闇に沈みかけていた勝利に光が差していく。

一方オータムは突然の登場が気に食わないのか、顔をしかめて威嚇し始めた。

 

「何だてめぇ!急に現れてよぉ……誰だが知らねぇがまとめてぶっ潰してやる!」

 

そうして朱雀と共に突撃。一夏と春十、そしてラウラはオータムと戦闘を開始し朱雀の相手はララがした。美しい羽根と全てを侵す猛毒、対照的なものがぶつかり合う。

 

「ララ!そいつは野菜仙境にいた朱雀だ、操られている!」

 

「野菜仙境……こいつが……」

 

そうして迫りくる嘴を毒で形成した剣で受け止めるララ、そこで初めて四神獣朱雀の正体に気づく。ララは一夏たちと共に野菜仙境へ出向いたことがある、その時に名前と存在を聞いていたのだ。

 

「他の神獣もこの学園に来ている!早く何とかしないと……!」

 

「――大丈夫、その心配はいらない」

 

そのまま剣で嘴を弾き、一夏の焦燥感に対しララは微笑みで返す。そして見せつけるかのようにその腕輪型の装置をかざした。

 

「この装置、()()()()()()()()()()()()()

 

「え……まさか……!」

 

 

 

 

「まずい!また来るわよ!」

 

その頃箒と鈴は、玄武の放つ大量の光線に悪戦苦闘していた。甲羅から発射されるそれは戦車の砲弾やミサイルなど軽々と超えており、周囲は軍隊同士の戦争でも起きたかのように荒れ果てていた。当然その凄まじい破壊力を受け止める防御力を2人が持っているわけでもなく、そのビームをただ避け続けることしかできなかった。

 

光線の間を掻い潜るように飛び交い、必死に隙が無いかと模索する2人。せめてこちらも一撃かましてビームを相殺したかったがそんな攻撃力を持つ兵器は無い。今はただ避けることしかできなかった。

一体どうしたものかと悩んでいると、箒が運悪くその軌道上に入ってしまう。

 

「――箒ィ!」

 

「しまッ――!」

 

玄武の口から直接放たれる光線、それらが箒を焼き尽くす――かに思われた。

 

 

「――ボイスバズーカァアッ!!!!!」

 

 

離れた爆撃、それは火薬によって起こされたものではない。しかし圧倒的な威力で光線を打ち負かしそのまま玄武の顔に命中した。

では何がその力の源なのか?大気を震わせ鼓膜に伝えるかのようにその破壊力で物を粉砕する。音――それを出したのは他ならぬ声帯であった。

 

「派手な亀だ、張り合いがあるぜ」

 

次に放たれた声は普通の声量で何の影響も及ばない。それでもずっしりと迫力と重量感のある声でとても女性の口から出てきた声とは思えなかった。

女らしからぬ荒い口調、赤が混じった茶髪のポニーテールが揺れ動く。その腕にはララと同じ別宇宙移動装置が付けられていた。

 

「貴方は……ヘブンオーシャンにいた……」

 

「ククッ……私のいない地球は、随分退屈だったと見えるな……!」

 

ゼブラの娘であるポニー、新四天王の中でも一番気性の荒い女がIS学園に爆誕した。

 

 

 

 

そしてセシリアとシャルの前に顕現したソルト青龍は、青く輝く鱗を見せつけ同じ色の業火を吐き飛ばし周囲一帯を燃やし尽くしていく。セシリアのビットがその周囲を飛び交い攻撃を続けるも全て弾かれてしまう。シャルの砲撃もことごとく効かなかった。

 

「くッ……私たちの攻撃が全然通用しませんわ!」

 

「一体どこを狙えば……!」

 

空を自由に飛び回る青龍に狙いが定まらず、それで当たったとしても防がれてしまう。すると青龍は巨大な顎を開いて青い光弾を生成、そのまま地上にいる2人目掛けて吐いた瞬間――

 

 

「――スーパーフライ返し!」

 

 

突如としてその光弾の軌道が反対に向き、青龍に跳ね返って直撃する。皮肉にも初めてのダメージは奴自身の攻撃によるものだった。

一体何が起きたのか、理解が追い付かないセシリアとシャル。そんな2人の視界を埋め尽くしたのは広がる多色の髪であった。桃、白、水色、緑、その髪――いや触手はあらゆる機能を備えている。

 

「貴方は確か……コロナさん!」

 

「お久しぶりですわ、こちらの世界の住民の皆様」

 

新四天王の1人、サニーの娘であるコロナが現れる。今しがた青龍の光弾をはじき返した技は「スーパーフライ返し」、

相手の攻撃を何倍にも増幅させて跳ね返す技だ。

 

「ソルト青龍……四神獣の中でも最も美しいのは朱雀と聞きましたが、まぁ仕方ありませんわ。それに例え朱雀が相手だろうが、私の美しさに敵う者など無い!」

 

こうしてグルメ世界を代表する新四天王、その4人の戦乙女がIS学園に現れた。

 

 



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グルメ86 四天王vs四神獣!

IS世界からやってきた次のグルメ時代を代表する美食屋新四天王、親である旧四天王から才能と実績を受け継ぎその力を発揮するその姿はグルメ世界でも戦乙女と名高く人気もある。

トリコとリンの娘であるリンカ、ココの娘であるララ、サニーの娘であるコロナ、ゼブラの娘であるポニー、勿論親の七光りだけではない。既に食儀を習得し、もうグルメ界には踏み入れられる強さにはなっていた。

そして相手はそのグルメ界でも屈指の実力者である四神獣たち、丁度数も合わさってタイマンが可能である。

 

「よっしゃ!行くわよー!」

 

クリーム白虎VSリンカ、リンカは2本のコテを刀のように扱い接近戦に持ち込む。コテと鋭い爪が幾度も交差し金属音が鳴り響く。すると両者唾競り合いの形になったところで、白虎は顔を近づけてその口から思い切り青い炎を吐きだしてきた。対しリンカは3本目のコテを盾として展開しガード、青い炎は左右に拡散されていく。彼女は一旦白虎から距離を取りその間合いから外れる。

剣にも盾にもなれる、コテは攻守ともに優れた武器であった。

 

「スゥ……コテレッグ!!」

 

一息ついて力を足に込めそのまま一気に振り上げる。コテの斬撃が足の力と共に放たれた。足の力は腕の4から5倍の強さ、その為足から放たれるそれは今まで以上の威力を持っている。

しかし白虎は「それがどうした?」「強くとも遅ければ意味が無い」、と言わんばかりに余裕で回避。大地を蹴り飛ばして空中に避難しリンカに向かって落ちていく。

 

「コテシールド!からの……打ち返し!」

 

高所からの突進をリンカは再びコテで防御、そしてそのまま大きく振りかぶって白虎を宙に投げ飛ばした。両者全く引かずの争い、コテが飛び交う修羅場が展開されていく。

空中に逃げた白虎、その姿を見てリンカはニヤリと笑った。

 

「さっきのコテレッグはただのコテレッグじゃない、気づかなかった?アンタの避けたコテがそのまま軌道を変えて戻ってくるのを……!」

 

その瞬間、白虎の背中を何者かが斬り裂く。それは誰もいないはずの背後から飛んできたコテであり、それがブーメランのように戻ってきたのであった。

 

「コテレッグブーメラン!」

 

トリコの技レッグブーメランを基にした技が炸裂する。ここで初めて傷を負った白虎であったが全く様子を変えず着地し、自分の体を傷つけたリンカに怒る様子もなくただ落ち着いていた。

 

(流石四神獣、他の獣とは格も誇りも違うってわけね。食物連鎖の頂点に立つ絶対捕食者のプライド、人間如きに付けられた傷に悲鳴は上げない……)

 

かつての狼王、バトルウルフから作られたクローンがいた。その狼は最後に子供を産み我が子を愛するために殺されたわけだが、その死に様は決して地面に屈するわけでもなく立ったまま絶命した。

その誇りはクリーム白虎も同じ、神獣にとって人間などただの賢い猿に他ならない。操られようともその絶対的なプライドだけは失っていなかった。

 

しかし1つ間違いがある。目の前にいるその雌は、普通の人間ではない。

 

「アンタに敬意を評して、私も全力でやらせてもらう!!」

 

 

 

 

 

一方その頃朱雀は羽根の弾丸を飛ばし続けている。空の王者と呼んでも過言ではない飛び姿ではあるが、その足を地上に置くことはもう叶わない。紫色の毒の液体が湖のように広がっていき周囲一体を覆いつくしているからだ。

 

「ポイズンマスカレイド……もう君は地上に降り立つことはできない」

 

それは毒使いのララが作ったものだった。毒のフィールドは校庭を埋め尽くしていき、もう生き物が足を踏み入れる場所ではなかった。もしこれを自然の中で展開したらどうなるのか?森は枯れ山は崩れ、生きとし生けるものは全て死に絶えるだろう。

尤も、そんな毒が普通にビタミン朱雀に通用するとは限らないが。

 

「君も浸かりなよ、その綺麗な羽根を洗ってあげる!ポイズンマシンガン!」

 

そしてララは毒の弾幕を展開、上空の朱雀に放っていく。向こうも負けじと羽根を飛ばしていく。地上と空の狭間で凄まじい銃撃戦が繰り広げられ、その余波は爆風のように毒の踊り場を波立たせる。

 

「既に私のパラサイトポイズンは、毒ガスとして充満している!一夏たちを退避させて正解だったね」

 

相手の栄養素や水分を毒素に変換して増殖するパラサイトポイズン、それ既にまでガス状になってばら撒かれており朱雀の体内に侵入していた。

しかし朱雀の様子にあまり変化は見られない、パラサイトポイズンに抵抗できていた。

 

(電磁波が溢れている……逆に栄養素が多すぎて毒が効かないんだ!)

 

しかしドラゴーヤと同様、その体の栄養素がパラサイトポイズンの毒を浄化していった。未だグルメ界の人間が発見できていない数百種類のビタミンや栄養素、それらが奴の体内には詰まっている。その為従来の栄養素を吸収して増殖するパラサイトポイズンも、そのまま食べつくすということができず逆に蝕まれているのであった。

 

「どうやら、一筋縄ではいかないようだね」

 

 

 

 

 

そしてソルト青龍VSコロナ、青く輝き空に君臨している神龍と世界で一番美しいのは自分と自負している美食屋が対峙していた。すっかり青龍のものとなっていた制空権にコロナは侵入、髪を巧みに扱い空を飛ぶ。青龍が空を我が物としているように、コロナも触手を伸ばしてダイニングキッチンを展開していた。

すると青龍は青い光弾を発射、次々と口からそれを放ちコロナを撃ち落とそうとする。

 

髪誘導(ヘアリード)――ハッ!」

 

それに対しコロナは触手でその軌道を誘導し、光弾を全てあらぬ方向へと外させる。外れた光弾はそのままコロナの背後で爆発し、まるで彼女がそれをバックにして決めポーズをしているようになった。いや、実際これは格好つけていた。

 

「美しき神獣青龍……真に美を極めた存在が誰かを教えてあげますわ!——フッ!」

 

そこでコロナは触手を伸ばして青龍を追撃、ソルト青龍はそれから逃れようと空高く飛翔するも髪の束はどこまでも追ってくる。

 

「食儀を習得したダイニングキッチン、その射程は500m!そしてもう人間界には私の髪を斬れる生き物はいませんわ!」

 

つまりコロナの半径500mは全て彼女の間合い、いくら神獣といえどその範囲を一瞬で抜け出すのは至難の業であった。

コロナはもう人間界の猛獣では自分の触手を切断できないと言った。しかしソルト青龍は別、食の本場グルメ界で君臨する彼らにとってコロナの触手など本当に髪のようであった。

 

「いっつ——!?」

 

その瞬間、神経を通る痛点を持つ白の触手から激痛を感じ苦痛の顔を浮かべるコロナ。空の青龍によってその髪が多く噛みちぎられたのだ。

触手一本の切断は麻酔無しでを無理矢理引っこ抜く痛みに等しい。それが数百本となれば想像を絶する激痛だろう。下手をすればショック死するレベルだ。

しかしコロナにとって、その怒りを燃やすポイントはそこではなかった。

 

「——よくも、よくも私の髪を汚い涎だらけの口で噛みましたわね!」

 

何よりも怒ったのは自分の髪が噛まれたこと、それが彼女の美意識と潔癖性の逆鱗に触れたのだ。

 

「神獣だからといって手加減しませんわ!大人しく平伏しなさい!」

 

 

 

 

 

「フハッハッハッハッハ!!!アタシとの撃ち合いで互角とはやるじゃないか!」

 

白虎とリンカ、朱雀とララ、青龍とコロナ、どれも熾烈を極める戦いであった。しかし一番危険で大規模な戦いをしているのは他でもないポニーと玄武であった。

音の爆撃、甲羅からの光線、彼女らの間ではまるで戦争のような過激状態が広がり破壊の音が常に鳴り響いている。

 

「ボイスバズーカァ!!!サンダーノイズゥ!!!吹き飛べぇぇえ!!!!!!」

 

空気を震わせる音の破壊力、それが立て続けに力を示していく。周囲にはいくつものクレーターが形成され、近くの校舎も今にも崩壊する寸前な状態であった。

 

「——ジェットボイス、音速飛行!サウンドォ……ナックルゥ!!!」

 

時に音速で後ろを取り、拳に音を乗せたパンチが炸裂。その殴打は巨大なはずの玄武をひっくり返す勢いで殴り飛ばした。

それでもその甲羅には傷1つ付かない。それどころか玄武自身も全く表情を変えていなかった。

 

「心音で分かる……調子にのってるなお前?今すぐその甲羅ごと粉々に粉砕してやるよ!」



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グルメ87 「蝶」進化!

スプラトゥーン楽しい……ずっとやってたい。


「皆……来てくれたのか!」

 

続々と助けに来てくれた新四天王に対し一夏は感動せざるを得ない。今彼女たちはこうして四神獣たちと死闘を繰り広げこの世界を守ろうと必死に戦ってくれている。ある意味これはIS世界とグルメ世界が手を繋ぎ共存を誓い合ったのだと言っても過言ではないだろう。

すると一夏の食欲悪魔(ブラッド・ディアボロス)が接近してくるIS反応を感知した。

 

「一夏―!」

 

「鈴!箒!」

 

「シャル!セシリアまで!」

 

すると別々の場所で戦っていた専用機持ちたちが集合していく。ここに来るまでの間にも何匹という猛獣を捌いてきたのだろう、いつの間にかあんなに群がっていた獣の群れは何処にも存在していなかった。残るは四神獣と亡国企業(ファントム・タスク)の刺客のみ。

 

「ポニーさんやコロナさん、そしてララさんたちが四神獣の相手をしてくれているんだ!」

 

「皆さん、凄まじい強さですわ!」

 

「あいつらなら例え四神獣が相手でも大丈夫だ……俺たちは、俺たちの敵を倒そう!」

 

そう言ってその場に集まった全員が目の前の敵を睨みつける。本物の蜘蛛と蜘蛛型IS「アラクネ」が融合した姿であるオータムが彼女らの敵であった。

 

「それはつまり、私なら勝てるということか!?調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 

「――確かに、四神獣と比べたらお前は前菜にもならない御粗末な余りものだな」

 

「んだとテメェ!」

 

一夏の安っぽい挑発に乗り激昂するオータム、その瞬間彼女の真横に別世界へと通じる「穴が」生じた。増援か?そこから出てくるであろう新手に警戒する一夏と春十たち、そこから現れたのは――

 

「あれは……GTロボ?いやあの装備は……!」

 

「……IS!?」

 

現れたのは文化祭の時のと同じニトロをモチーフにした美食會製のGTロボ、しかしISの装備が装着されより兵器然とした状態で現れた。まるで光背のように装備が背に展開されそこから砲台も伸びている。両腕は鋼の剛腕で守られ全身が武器で固められていた。

そのまま穴から飛び出しオータムの真横に降下するGTロボ、しかしその足が地に着くことはなくホバリングを続け低空飛行している。自分に対する援護を見たオータムは、バツが悪そうな顔をする。

 

「何だよM!テメェが来るにはまだ早すぎるだろうが!」

 

『スコールの命令だ、例え四神獣でもこいつらの相手は厳しい』

 

「GTロボとISが融合している……何でもありかよ」

 

両方の世界の技術が合体した結果、どちらにも存在しない新兵器が開発されてしまう。その名も「IS型GTロボ」、テレイグジスタンス技術により遠距離からでもまるでそこにいるかのような操縦に加え、その機体にISの武装を装着させた兵器だ。

その禍々しいデザインは、一夏たちを畏怖させるには十分すぎた。

 

「私の目的は……貴様だ織斑一夏!今度こそ邪魔の入らない場所で……貴様を潰す!」

 

「何――のわッ!?」

 

するとMはブーストして一気に加速、そのまま一夏に突進し彼を連れて遠くの方へ飛び去ってしまう。あまりの速さに春十たちはその横を通過することを許してしまい、その際の突風に吹かれ気づいた時には空の奥で小さくなっていた。

 

「一夏――のわッ!?」

 

「おっと!お前ら雑魚の相手は私だぜ!」

 

急いでその後を追おうとするもオータムの蜘蛛の足がそれを阻む。春十たち専用機持ちとオータム、IS学園の強者たちが蜘蛛の怪物と対峙した。

 

 

 

 

 

「このッ……放せ!」

 

Mに捕まり遠くまで運ばれてしまう一夏、既に学園の領域外まで進出し何もいない荒野にまで飛んで来た。そこでMはようやく放したと思うとそのまま大地に蹴り落とし、そこを戦いの場に決める。一夏も地面に激突する直前で何とか姿勢を直し安定する。

邪魔者も障害物も無い場所にて、2人が対峙した。

 

『これで思う存分戦えるな織斑一夏……このイギリスの機体『サイレント・ゼフィルス』とGTロボを融合させた新機体、『GT(グルメテレイグジスタンス)・ゼフィルス』でな!!』

 

瞬間、機体の後ろに付けられていた装置が一気に変形し、攻撃手段としての機能を残したまま美しい蝶の翅のようになる。翅からのブーストにより更にスピードを加速させ、尚且つ破壊力抜群の火力を見せつける恐ろしいマシン。真に恐ろしいのはそこに生身の人間がいないということだった。

 

「GT・ゼフィルス……イギリスの機体だって?」

 

『この強さを……その身で味あわせてやろう!』

 

すると右手の回転する剛腕が一夏目掛け迫ってくる。両者の間にあった距離を一瞬で埋め懐に潜り込み、あっと言う間に戦いのゴングが鳴り響いた。

 

『――ミキサーパンチ、鱗粉爆破(スケール・レンジ)!!!』

 

「づぅ――何だ、粉?」

 

回転する拳に対し一夏は包丁を前に出して防御、何とか防ぐことはできたもののその回転に生じて粉のようなものが大気に分散されることを目視で確認する。赤と青の混じった不思議な粉、まさしく鱗粉と呼ぶに相応しいものだろう。

しかし次の瞬間、閃光を帯びて一夏の体は爆発に巻き込まれた。

 

「なッ――!?一体何が……」

 

『特殊な粉状の可燃物をパンチと共に散布、それに加えドリルのような回転力で火花を散らし粉塵爆発の要領で爆発させる。その火力まさしくレンジよ!』

 

よろめく一夏に対し、Mは自分の機体を見せつけるかのように怒涛の連続攻撃を繰り出す。パンチの1発1発が大爆発を巻き起こし多大なダメージを与え、カウンターの隙も与えず攻め続けた。

流石にまずい、危機を感じた一夏はISを素早く旋回させ上空へと避難、Mの間合いから避難する。

 

『遠距離攻撃を持たないとでも思ったのか?ピーラーショット……』

 

するとMは両腕を交差させて構えのポーズを取り、上空にいる一夏を睨みつけた。その動きを一度目にしたことがある一夏は次の一手を予測、こちらも同じく斬撃を飛ばそうと包丁を振りかぶった。

 

蝶軌道(バタフライリプル)!』

 

「満月輪切りッ!!!」

 

両者の攻撃が発射される、一夏が丸い斬撃を放ったのに対しMは自分の特殊体毛を丸めて砲弾のように発砲、それが弾幕を張って迫ってきた。

しかしこの軌道なら難なく撃ち落とせるだろう、そう一夏が油断したその時弾は斬撃の横を曲がり通過した。

 

(軌道が変化した!?)

 

あまりにも不規則かつ予想のしづらいその軌道に困惑し、そのまま真正面から飛んでくると思いきや、背中に回って命中した。

 

「ぐがあッ……!」

 

「見たか、このGT・ゼフィルスの力を!この力で貴様を——殺す!!」




GT・ゼフィルスの技名はIS側に近づけるためルビありだけにしようと思います。


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グルメ88 「超」成長!

「ウルトラマンタイガ」、1話としての掴みは完璧だしこれからに期待。


「チッ……織斑一夏はMに取られたか」

 

一方その頃学園ではオータムがMと一夏の消えた空を眺め舌打ちをする。前回の襲撃の際一夏とリンカにコテンパンにされた身としては今度こそその復讐を果たそうと思っていたが、それも叶わず彼女の苛々は徐々に頂点へと上っていく。あの赤い機体をこの蜘蛛の足で貫いてやりたいとウズウズしていた。

 

「まぁいい、兄とその妾共の無残な死体を見せれば少しは面白い表情をするか」

 

「やれるものならやってみなさいよ!」

 

そのオータムの相手は簪と楯無以外の専用機持ち、春十を筆頭とした箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラと多勢に無勢だが進化したオータムの相手にはこれくらいの戦力差が丁度いいかもしれない。

かといって強くなったのは勿論春十たちもだ。グルメ界での経験は彼女と互角に渡り合えるようにしていた。

 

「俺は殺されないし一夏もやらせない!俺たちがお前を倒す!!」

 

「――生意気なんだよカス共がぁあ!!」

 

すると「アラクネ」の異形化した8本の足が瞬く間に展開され、その矛先が一斉に春十たちに襲い掛かる。咄嗟にISで空を飛翔し陣形を形成、春十と箒は上空に飛びシャルとセシリアは後退、鈴とラウラは左右に分かれた。

まずは後退組の援護射撃、ブルー・ティアーズのビットとラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの弾丸が後方から撃ち込まれていく。足の間合いからはちゃんと離れ安全地帯からの射撃だ。

 

「鬱陶しい!そんなものが効くかッ!!」

 

しかし届かないだけで足自体は自由に動く。オータムはアラクネの足を驚くほど俊敏に操作し飛んでくる弾を次々と弾いていった。射線は通っているが決して命中することもなく、金属音が立て続けに鳴り響く。

 

「そんな!ブルー・ティアーズの一斉射撃をいとも簡単に……!」

 

「大丈夫!鈴とラウラが何とかしてくれる!」

 

すると次に動いたのは左右に分かれた鈴とラウラ、甲龍(シェンロン)とシュヴァルツェア・レーゲンの刃が両サイドから迫りオータムの足を補足する。セシリアとシャルの後方射撃は援護の意図だけではなく相手の注意を

引きつけるための誘導でもあった。

そうして足の可動域を支えている関節部へ斬りかかる。見事切断することはできたが数秒も経てばすぐに再生してしまう。

 

「なっ……再生だと!?」

 

「どんな仕組みよ一体!?」

 

「――お前らの前時代的で古臭いISとは違うんだよ!」

 

オータムは再生した足で鈴たちを一掃、更に爪先から光弾を発射することで更なる追い打ちを叩き込んだ。至近距離から放たれる光弾、薙ぎ払われた直後の2人に命中し派手に吹き飛ばす。

 

「づぅう……!!」

 

「このぉ……!!」

 

「私とアラクネはグルメ細胞によって既にISの範疇から外れている、最早お前らの知っている兵器じゃない!」

 

オータムの体にはグルメ細胞が後天的に植え付けられその影響がISにまで及ぼし実質融合のような形となっている。なので壊れた個所はすぐに修復、もとい再生するのであった。これを果たしてISと呼んでいいのだろうか、否――あれはもう別の何かであった。

 

「グルメ細胞とIS!この合体をお前らが倒せると思ってんのか!?」

 

「ほぉ……奇遇だな。俺も細胞持ちだ!!」

 

そうして有頂天になっているオータムに罰を与えるかのように、本来ならばISの戦いにおいて存在しないはずの男の声が響く。慌てて上を見上げるがもう遅い、同じくグルメ細胞……しかも食欲の悪魔を宿したIS使いの春十とその幼馴染である箒が一気に降下してきた。

2人の刃が、同時に振り下ろされる。

 

「「――おりゃああ!!!」」

 

「ぐおッ……!?」

 

その二撃に対し致命傷とはいかないが多くの足で支えられていた姿勢を崩すことには成功し、アラクネの重量感のある機体が地面に付く。

 

(こいつら……囮は後方射撃だけじゃない、第二陣も織斑春十たちの一撃を確実に当てる為か!)

 

6人もの戦士がバラバラに分かれたのは本命の一撃を必ず当てる為の陣形、この中で一番ダメージを与えられる可能性を持つのはグルメ細胞を持つ春十と最新ISに乗る箒だと踏まえての作戦であった。

勿論第一陣第二陣は本気で仕留めるために攻撃を放った。しかし下手に手加減すればそれこそ上空の春十と箒に気づかれてしまうかもしれない。

 

「足は蜘蛛の数だけあるのに、目は2つだけみたいだな」

 

「このぉ……糞カス共がぁあ!!!」

 

その挑発に易々と乗ったオータムは今しがた罵倒の材料にされた足を文字通り八方に伸ばし一気に光線を発射、辺りを更地にする勢いで破壊していく。

 

「くっ……なんて強さですの……!」

 

「これじゃあ近づけないよ……!」

 

あまりの弾幕に春十たちは逃げることしかできず、必死になって光線の間を潜り抜けていく。その破壊力は圧倒的なものでそれだけで自分たちの勝機を疑ってしまう。

 

「いや……やっぱり数の段違いで俺たちの方が有利だ。さっきみたいな陣形で攻め続ければ勝機はある!」

 

「流石は嫁、私が考えていたことと全く同じだ。やはり私とお前は結ばれる運命にある!」

 

「こんな時に何を言っている!わ、私だってそれくらい考えてたぞ!」

 

「いいえ!一番最初に考えたのは私ですわ!」

 

「僕なんか、それ以上の作戦を考えていたさ!」

 

ラウラの嫁発言に対し波紋が広がるかの如く反応していく鈴以外の女子たち、戦いの最中だというのにギャーギャーとまるで普段のように騒ぎ始めた。その原因は春十であるが……

 

「なんだ皆凄いな!やっぱ勝てるってこれ!」

 

(((相変わらず鈍感な……)))

 

「さっきから舐めてんのかお前ら!よし分かった、まずはお前らから潰してやるぅ!!」

 

こうして更に過激さが増していく戦い、春十たちはもう一夏がいなくとも十分グルメ世界の要素と戦えるようになっていた。

 

 

 




今回は割とスラスラと駆けました。


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グルメ89 黄金の正体

今週は多忙の為とても少なめです。楽しみにしていた方申し訳ございません。


水が流れる、金色の光が飛び散る。他で激しい戦いが繰り広げられている最中ここでも同じようなことが行われていた。

更識簪の打鉄弐式、姉の楯無の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)、その相手は亡国機業(ファントム・タスク)のスコールが着こなす黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)。3機のISが空を飛び交った。

 

金色に輝く長い尾は縦横無尽に展開され2人の姉妹を近づけんとする。そして防御状態のままで金色の火球を何発も放ってくる。

 

「ッ……ハァ!!」

 

楯無はその間を潜り抜け蒼流旋による一突きを繰り出す。しかし両肩から展開される金色のバリアに防がれてしまい火花と金属音が虚しく散るだけであった。するとその瞬間、彼女の全身を纏っていたナノマシンの水が一気に四方へ発散、光の壁の隙間を通り抜け金色のISを身に纏うスコールを拘束した。

 

「――簪ちゃん!」

 

「うん……!」

 

姉が作ってくれたチャンスを無駄にしない為に簪は恐怖を打ち消して突撃、薙刀を強く握りしめ一気に飛翔し斬りかかった。

そのままスコールに一太刀入れられると誰もが確信した。しかし刹那その機体は今までで一番強い金色の力を解き放つ。

 

「キャア――!?」

 

「な、何よこれ……!?」

 

あまりの閃光に目がくらむ2人、その隙にスコールは水の拘束から抜け出し光の中に姿を隠して飛びぬけていく。

その手には、先ほどまで無かった紫色の刀が握られていた。その刃は簪の薙刀を弾き地上へ突き飛ばす。

 

(私の水が……()()()()()()!?)

 

「あら失礼、随分と捌きやすそうに見えたから」

 

「簪ちゃん……大丈夫!?」

 

「な、何とか……!」

 

打鉄弐式の薙刀「夢現」がこうも簡単に競り負けた、その事実は2人の間を驚愕として突き抜ける。ましてや拘束されていた状態から一瞬で抜け出しすぐに斬りかかるなど常人にはできない芸当であった。

禍々しく光り輝くスコールの刃、妖刀のように煌めきそれがIS技術によって作られたものではないことは一目瞭然であった。

 

「その刀は一体……!?」

 

「これは刀じゃないわ、()()よ」

 

「包丁……?じゃあ一夏さんと同じ……!?」

 

どう見ても調理用には見えない刀を「包丁」と呼ぶ人種は一夏たちグルメ世界の料理人しかいない。それを知っている簪はその言葉を知って驚愕した。

 

「……私も昔は名の知れた料理人だった。この包丁はIS用に美食會の研ぎ師が作ってくれた特注品、『逢魔時』というのよ」

 

衝撃の事実だった。名の知れた料理人、向こうの世界の技術で作られた武器、それが何を意味するのか——その答えを導き出す前にスコールが動き出した。

 

「——ハァ!」

 

「くっ……!」

 

逢魔時による剣撃を受け止める楯無、しかし彼女もその威力に押し負け弾かれてしまう。彼女の剣捌き――否包丁さばきに圧倒されていた。

 

「もうこの学園は私のまな板の上、でも捌いても食べられそうにないわね。適当に切って捨ててしまいましょうか」

 

 

 




追記7月20日
「トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話」を読んでくださる読者の皆様いつもありがとうございます。グルメ89が短かったわけは前書きにも述べた通り多忙という個人的な理由によるものです。

今までこの作品は日曜日の九時に毎週投稿していたわけですが、一週間の間に次の話を作成するというのは学業、個人的な理由によりきついものがありました。そしてこの作品を愛してくれている読者の皆様には申し訳ございませんが、私としてはなろうで執筆中の作品に集中したいのです。

これらの理由により申し訳ございませんが当作品の週刊制は無くします。週に決まった時間までに投稿することがこの作品の大半を統べる評価であることを自負し、何卒読者の皆様に理解をしていたたくこの追記を書いております。
勿論更新を止めるわけではありません、創作家としてこの作品は最後まで書き続けようと思っています。しかしそのペースは大幅に遅れ下手をしたら一か月に一話という話になってしまうかもしれません。
しかし日を空けた分一話ごとのクオリティ、及び長さは今まで以上の物にすることはお約束します。

これは待ち望んでいる読者の皆様に対し謝罪とどうかこれからもこの作品を読んでくださいという身勝手な願望です。私の個人的な理由を許してくれるという寛大な心をお持ちの方は、これからもこの作品をお願いします。


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