特異点α 『超常科学舞台・学園都市』 (チラシ寿司)
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プロローグ・それぞれの始まり

はじめまして。ハロウィンイベントにうつつを抜かしてストーリーが全然進まない作者です。

物語の都合でカルデア及びマスター藤丸立香はいくつかの特異点を抜けた後です。見てるといろんな疑問や違和感が湧くと思いますが、何卒よろしくお願いします。


「新たな特異点…ですか?」

 

 隣に立つ後輩、マシュ・キリエライトのそんな言葉を聞きながら、藤丸立香は目の前の男、ロマ二・アーキマンに意識を向けていた。

 

「あぁ。人理崩壊に深く関わる七つの特異点、それとは別の、けれど規模としては同等以上の存在である特異点が発見された」

 

 人理崩壊。

 その言葉を聞き、藤丸は今までのことを思い出していた。

 

 レフ・ライノールや魔神柱、ひいてはそれらを率いる魔術王が起こした恐るべき陰謀。

 自分たちカルデア、そして最後のマスターとなった自分はこれまでに様々な特異点を巡った。

 

 第一の特異点、フランス。

 ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクらと共に、フランスを支配せんとする別側面のジャンヌと戦った。

 

 第二の特異点、ローマ。

 当時のローマ皇帝、ネロ・クラウディウスと共に、ローマを救い再び相見えたレフ・ライノールを打ち倒した。

 

 第三の特異点、オケアノス。

 海賊フランシス・ドレイクと共に、海賊黒髭やアルゴナイト船最強の英霊ヘラクレスなどの強敵と死闘を繰り広げた。

 

 そして、第四の特異点、ロンドン。

 ついに相対した魔術王…ソロモンを前に自分たちは。

 

「うっ…!」

 

 その時の恐怖を思い出し、思わず吐き気がこみ上げる。無理矢理にそれを戻し、けれど気分は落ち込んだままだ。

 

 自分たちは負けたのだ。

 なす術もなく、そして圧倒的に力の差を見せつけられて。

 

 まともに戦ったわけではないが、目の前に現れただけであの威圧感。

 途方もなく高い壁が自分たちの目の前にあると、自覚させられた。

 

「先輩…?大丈夫ですか?」

「あぁ…なんでもないよ」

 

 けれど、隣に立つこの少女を思い出し、折れそうな心を奮い立たせる。

 自分は最後のマスターなんだと。

 世界を救うのだと。

 皆を守るのだと。

 

(でも、なれるのだろうか俺に)

 

 そんなヒーローみたいな奴に。

 

 

「大丈夫かい藤丸君?」

「はい大丈夫です」

「無理は禁物だよ。…さて話を戻そうか、新たに発見された特異点、その詳細について」

「新たな特異点…具体的にそこはどこなんですか?七つの特異点と同じ、人類の歴史における転換点ということでしょうか?」

「いや、今回はそういったとこではなく、むしろ特異点としては意外すぎる場所だ」

 

 何しろ魔術を知る僕たちにとってはね、と付け加え、ロマンはモニターを映した。

 

「年代は特異点X冬木と同じく2000年と少し。場所は東京都西部」

 

 そこには、科学が映っていた。

 

「超能力が伝わる街、学園都市だ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AD・20XX。

特異点α『超常科学舞台・学園都市』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「くぁ…疲れたぁ〜」

 

 学園都市、某月某日。

 上条当麻は久しぶりに学校からの帰路についていた。

 

 ここ最近は魔術結社『グレムリン』との死闘や、『魔神』やら『理想送り』上里翔流との対決などで散々な目に遭っていたが、漸く目に見える脅威が去ったことで、久しぶりに学校に登校していた。

 本来自分にとって本分であるはずの学校生活が新鮮に感じることに、(主に出席日数的な意味で)やや危機感を覚えないでもないが。

 

(いくら小萌先生の補習に出ててもこのままじゃなぁ。これ以上休むことになると…)

 

 頭の中に留年の二文字が浮かんでくるが、頭を振ってその不穏な思考を中断し、今日の献立にシフトする。

 大食らいシスターやお人形サイズの『理解者』、そして猫のことを考えながら行きつけのスーパーに進路を変更する。すると唐突に

 

ピキーーン、とガラスが砕けるような音がした。

 

 

「なっ…!」

 

思わず、自身の右手を見る。

 

 幻想殺し。

 あらゆる異能を殺すとされるこの右手は、今までどんな相手に対してもその力を発揮してきた。

 

 例えば、学園都市第3位の『超電磁砲』。

 例えば、学園都市第1位の『一方通行』。

 例えば、イギリスの魔術師の『魔女狩りの王』。

 例えば、グレムリンの戦争屋『雷神トール』。

 

 

 今更疑いようのない事実であり、この右手はさまざまな窮地を救ってきた。だが、問題はそこではない。

 

(今…こいつは何を殺したんだ?)

 

 

 自分が何らかの攻撃を受けた…わけではない。それなりの数の修羅場を潜り抜けた上条は、そこの認識はしっかりしている自負がある。

 かといって周囲に異変もなければ、体に異常もない。ただ、得体の知れない何かを殺した、という結果だけが残っている。

 

「一体何なんだ?」

 

 とはいえ、問題が起きたわけでもなし、上条はひとまず当初の目的を思い出し、後ろ髪を引かれながらもそこを動くことにした。

 

 

 何かが起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜、だりぃ」

 

 

 朝から妙な気怠さを感じながらも、浜面仕上は、学園都市の街に繰り出していた。

 

 同居人である少女達に半ば押し切られる形で追い出され(というかパシリにされ)、近くのコンビニに足を運んだ浜面は、鮭弁やら日用品やら鮭弁やら鮭弁を、乱雑にカゴに突っ込んでいく。そこで新作映画のパンフレットの調達も頼まれていたことも思い出し、映画館にも寄らなければならないことを悟り、少しばかり肩を落とす。

 

(それだけの為に映画館に行くのって面倒くせぇな。なんなら映画の一本でも…でも、絹旗の行きつけだしなぁ)

 

 知り合いの映画のセンスのなさに絶望し、長いレジ前の列に並びながら、ふと備え付けのテレビから流れるニュースを見る。

 

『現在学園都市全域で不可解な磁場が観測されており、専門のチームが調査を進めているとの連絡が_』

 

(磁場?まさか)

 

 何げ無しに列を見て見ると、出勤前のサラリーマンや学生など、偏りはあったが確かに皆浜面と同様、うっすらと疲れのようなものが見える。

 

(学園都市だけで起こる磁場とかそんなピンポイントなもんがあるのか?)

 

 ふと、疑問に思った浜面だったが、すぐにその考えを消す。ここは超能力の街。得体の知れない実験施設だとか、訳の分からん電波を飛ばす工場だとかがあるのだ。磁場の一つや二つ、不思議ではないだろう。

 

 ありゃッしたー、と聞こえる若者バイト特有の有難い見送りの言葉を背に受け、浜面はスマホを開く。音楽でも聴きながら歩こうと考えていた矢先、動画サイトからのおすすめ動画が開かれていることに気づく。

 

(なんだ、こりゃ?アネリのやつが勝手に開きやがったか?)

 

 見ると、その動画はサイトの中でもランキング1位とされている動画だった。胡散臭いものを見るような目で浜面が眺めているその動画。タイトルには、こう書かれていた。

 

 

 

 『大魔術・英霊召喚』と。

 

 

 

 何かが起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 学園都市。

 其処の頂点に君臨する超能力者、一方通行は今朝から全身に刺すような違和感を感じていた。

 

 第三次世界大戦、魔術結社グレムリンとの死闘と、少なくない関わり方をした彼は、この違和感の正体についてある程度の見当をつけていた。

 

 魔術。

 超能力とは別の、未知なる力。

 

 学園都市最強の名を冠するだけあって、科学側では今の一方通行に無策に喧嘩を売ろうなどと思う奴はいない。

 しかし、だからといって魔術サイドとやらに恨まれるようなことをした記憶もないので、多少は疑問に思ったが。

 

(関係ねェ、潰す)

 

 これが一方通行個人を狙ったものであったら、直接な攻撃にでも及ばない限り彼は無視をしていただろう。

 

 だが、この不可視の攻撃とも呼べないものは、学園都市全土に広がっている。そして、その中には彼が守るべき存在である少女達もいる。

 

 今はまだ、害はない。しかし、本当にそうならないとも限らない。疑問は疑問のままに、けれど確実に芽は摘んでおく。そうして、彼女らを巻き込まないようにするため、今朝から一緒に住んでいるファミリー層のマンションから一足先に出た。敵は個人か組織か、何が目的かを探るべく、手掛かり一つない状態で、人気の少ない裏通りを虱潰しに歩いている。

 

(だが、そう心配もいらなかったみたいだなァ)

 

 決して、一方通行は物事を楽観視しているわけではなかった。

 しかし、疑いようのない事実が彼を襲っていた。

 

 

 

 いたのだ。

 目の前に黒いローブを被った如何にもな奴が。

 

 

 

「…一応聞いておくが、準備中のとこを間抜けに発見されただとか、全く関係ねェ黒ミサとかの帰りだとか愉快なこと抜かしやがる訳じゃねェよなァ。流石に俺も、そこまで暇じゃあねェぞ」

「あぁ、そこは問題ないよ」

 

 ローブ越しの瞳さえ見えない状態で、唯一見えた口元を三日月状に裂き、笑う。

 

「僕が黒幕だ」

「オーケー、潰す」

 

 カチリと。首元の電極に手をかけ、そのスイッチを入れる。学園都市最強の能力が行使される。

 

 

 黒いローブの男は、ただ笑う。これから起こるであろう暴虐の嵐、それさえも些末なことだと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 何かが起ころうとしていた。




始めの話がこんないろんな奴からの視点ですいません。
一応時系列は、上条(特異点発見2日前の夕方)→一方通行・浜面(特異点発見1日前の朝)→カルデア(特異点発見)となります。
藤丸くんに関しては、ほぼオリキャラのつもりで書いていくので受け付けない方はすいません。逆に見てくださるという方は、できる限り頑張りますので、どうか温かい目で見てください。


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第一話・衝突、動き出すFate

前回の一方通行パートで付け加えたい部分があるので、今回の話の冒頭に足しました。変な構成で見辛いかもしれませんが、暖かい目で見てください。



 科学の『白』と魔術の『黒』の激突は一瞬で決着という訳ではなかった。

 

 数瞬の攻防の後、突如黒ローブの男は身を翻し、学園都市最強に背を向けた。

 

 普通ならば自殺志願にも思えるようなその行動は、一方通行(アクセラレータ)を相手にするならばそれ以上の意味を持つ。軽く地面に転がる小石を蹴る。

 

 

 それだけでサブマシンガン以上の威力を伴った破壊が繰り出される。

 

 

「っっ⁉︎__‼︎」

 

 思わず、驚愕に目を開いた黒ローブの男だったが、その行動は冷静だった。軽い詠唱を唱え、腕を十時に振る。すると、迫っていたはずのつぶてが左右の壁へと方向を変えてぶつかる。男はそのまま走り、路地から続く廃ビルの中へ入り、その姿を消す。

 

(…誘い込まれてるなァ)

 

 廃ビルの入り口の前で、一方通行は思案する。

 

 先ほどの攻防の中で、一方通行は敵にその思惑があることを見抜いていた。というか、分かりやす過ぎる。手がかりもない状態の一方通行の前に現れたことや、露骨に退路を明らかにした逃亡。敵には、それをするだけの意味があるのだと、そう仮定した。

 

 だが、同時に疑問も湧いてくる。

 

 そもそも何故、敵は一方通行の目の前に現れたのか?学園都市が舞台である以上、第一位の一方通行にも価値があるかもしれない。だが、『外』の人間である魔術師に一方通行を使う理由は?考えれば考えるほど、不明瞭な点が目立つ。

 

 とはいえ、元凶が目の前にいるなら、それをみすみす見逃すわけにもいかない。廃ビルの中に入り、周囲を見渡す一方通行。

 

 

「よう」

 

 背後で声がした。

 

 

「…ッ!」

 

 後ろを勢いよく振り返る。そこに声の主はいた。

 

 先ほどの黒ローブの男ではない。現代離れした、銀の鎧を纏い、軽薄そうな男。RPGにでも出てきそうな不思議な出で立ちだった。

 

 しかし、それ以上に感じる違和感。胸を圧迫するかのようなこの感覚には覚えがあった。

 

 海原光貴やバードウェイ、ハワイ諸島で相対した『グレムリン』、いわゆる魔術師と呼ばれる連中と同じ圧迫感。だが、ここまでのやつはいなかった。いたとすればそれは。

 

 ロシアで戦った天使、『神の力』(ガブリエル)と同等か。

 

 

「学園都市ってのは、凄い街だな」

 

 

 軽い、まるで親しい友人にでも話しかけるような口調で、男は喋る。

 

「俺が以前の聖杯戦争で呼ばれたのはもっと前の時代だが、にしたって数十年やそこらでこの進歩はないだろう。行き過ぎたオーバーテクノロジーは魔術と変わらん、というがあれも本当かもしれんな」

 

 一方通行は先程の魔術師以上に、目の前の男を注視していた。気を緩めれば、こちらがやられかねない、一方通行にしてみれば、大変珍しい最大限の警戒を込めて。

 

「そして、この街の子供達は皆奇妙な力を使うそうだな。超能力、と言ったか。そこの第一位、しかもお前はこちら側の力も行使したと聞く」

「あン?」

「ならば見せてもらおうその牙。もしかしたらば、俺に届くかもしれん」

 

 男の目つきが変わる。獰猛な戦士の目へと。

 

 

「だからまぁ、楽しませろよ?」

 

 

 ヒュン という軽い音と聞こえると同時に、一方通行の頬が切り裂かれた。

 

 

 頬を切り裂いたものの正体はすぐに分かった。いつの間にか男の手元に現れた銀の槍。それが一方通行が認識できないほどの恐るべき速度で突き出されたのだ。そう、つまり。

 

 

 男はいとも容易く、一方通行の『反射』の壁を貫いた。

 

 

 

「っっ‼︎おらァ‼︎」

 

頭でその認識が追いつくよりも先に、一方通行は後ろへ飛び、片腕を振るう。風が、石のつぶてが、そしてコンクリートで出来た廃ビルの柱さえ巻き込んで、学園都市最強の能力『一方通行』によるベクトル操作が襲う。

 男は避けるそぶりさえ見せなかった。ゴッシャァァ‼︎ と激しい音の奔流が周囲を爆ぜた。全身ズタズタになってもおかしくないような一撃だった。

 

 土煙の中から立ち上がる影が見える。そこから反撃に転じる猶予すら与えぬよう、一方通行は近づき、横薙ぎに腕を振るう。触れた瞬間、男の体はベクトル操作によって自らが弾丸にでもなったかのような錯覚を覚えながら、吹き飛んでいく。

 

(チッ!やっぱりベクトル操作がイマイチ働かねェ)

 

 触れた瞬間、一方通行は体内の血流を操作し破壊を促した。しかし、それは叶わず吹き飛ぶだけで済んでいる。

 

(人体の外側には間違いなく作用している。だが、内側への干渉が出来ない。一般的な人体構造と変わりがねェのにだ)

 

 だが、攻撃は余すことなく、目の前の男に炸裂した。普通なら五体満足でいるのも奇跡に近い。

 

「おぉ、凄え凄え。魔術師でもない人間が、ここまでやるとはな」

 

 だが、男は無傷だった。直撃を避けたわけでも、攻撃を相殺されたわけでもない。喰らったうえで、無傷だった。

 

 口笛でも吹くような軽さで、男は一方通行の実力を讃える。その上で断言する。

 

「だが、ガッカリだ」

「…」

「超能力なんて聞こえはいいが、ようは物理法則を極めた結果だ。説明の出来ない何か、というわけでもあるまい。その街の頂点ならばと期待したが…蓋を開ければこんなものか」

「手札の一つ知っただけで随分お喋りじゃねェか。まさかもう勝った気でいやがるのか?」

「ああ、至極その通りだとも」

 

 不敵に笑う。自身の力を誇示するかのように両手を広げ、男は笑う。

 

 

 

「この『ライダー』を倒したければ、それこそ神でも連れてくるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 再び、2人の男は衝突する。

 

 結果は不明。

 

 だが、この時を境に、

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市最強の能力者、一方通行はその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「超能力?」 

 

 藤丸の頭の中で疑問が生まれる。超能力というのは、あれだろうか。相手の頭の中を覗くテレパシーだったり、離れたところに一瞬で移動でする瞬間移動だったりが使えるあの。幼い頃見た創作物の中の曖昧な知識を思い出しながら答えた。

 

「ははっ、その認識で構わないよ。と言っても、そこまで夢と希望に溢れたところじゃないと思うけど」

 

 笑いながら、ロマンは手元にある資料を読み上げる。

 

「科学が進化した街、学園都市。超能力という魔術とは異なる、別の力の法則を生み出しているこの都市は、人口の約4割がこの力を体得している」

「4割ですか?」

「全員が全員、才能溢れる者ばかりではないんだろう。同じ能力者でも、強弱の差はあるみたいだし。ここは魔術師も同様だと思うけどね」

 

 そんな声が聞こえ、思わず視線を向ける。

そこには、カルデアに所属する男…ではなく女、それも自身の作品である『モナリザ』と同じ顔をしたサーヴァント 、レオナルド・ダ・ヴィンチがいた。

 

「ブリーフィングには遅れないようにねダ・ヴィンチちゃん」

「ふふっ、すっかり立香君もマスターらしくなったね。よきかなよきかな。さて、しかし超能力か…私的にも興味があるが、今回本題はそこではない。自重しよう」

「本題?」

「そうだね、まずは何よりもそれだ。藤丸くん、君に一つ質問だ。学園都市、この単語に聞き覚えはあるかい?」

 

 言われてみて、気づく。

 

「確かに、聞いたことがありません」

 

 隣にいるマシュからも、そんな言葉が聞こえる。

 

「学園都市…それは本来の歴史においては、存在しなかった世界なのさ。規模こそこれまでの特異点と比べると小さいが、正史とは異なる発展をした並行世界。そう考えるのが妥当だろう」

「並行世界?」

「パラレルワールド、という言葉に聞き覚えはないかな?数多に枝分かれした、あり得たかもしれない世界のことさ」

 

 ロマンは、デスクに置いてあったコーヒーを手に取り、説明する。

 

「このコーヒーにいつもなら砂糖を入れるが、今日はミルクを入れよう。もしかしたら、その後にこぼしてしまうかもしれない。そんな何気ない変化でさえ分岐する、『If』の世界。それが並行世界と呼ぶものの正体だよ」

「極端な話、魔術王に人類史を滅ぼされなかった世界もある」

「だが、今回そんな世界のはずの学園都市が、人類史に混ざりこんだんだ」

 

 まるでコーヒーに入り込んだミルクのようにね、とらしくない感じでロマンは嘯いた。

 

「似合わないねぇロマ二」

「似合いませんドクター」

 

 どうやら、2人も同じことを思ったらしい。

 

 気恥ずかしくなったのか、わざとらしくゴホンと咳払いをして、ロマンは話を戻した。

 

「という訳で、今回のレイシフト先はここだ。現代、と言っても冬木のように崩壊している訳じゃない。ちゃんと街として機能している場所な訳だから、藤丸くんとマシュ以外にも1人、現代に慣れているサーヴァントに同行をお願いした」

「なるほど、それで私に白羽の矢がたったというわけか」

 

 新しい声が聞こえ、振り返るとそこには赤い外套を着た白髪の人物がいた。

 

「アーチャーのサーヴァント 、エミヤ。同行するからにはマスターとマシュの身の安全は保障しよう」

 

 サーヴァント・エミヤ。カルデアにも古くからいる、頼りになるサーヴァントの1人だ。

 

「彼は古くから存在する偉人とは違い、藤丸くんと同じく、現代を生きた英霊だからね。きっと助けになると思って、声をかけたんだ」

「はい、そうですね。エミヤさんよろしくお願いします」

「無論だ。此度のレイシフト、全身全霊で臨むとしよう」

 

 今回向かう特異点や同行するサーヴァントも決まり、皆士気が高まっている。

 

(そうだ。俺だけが弱気になる訳にはいかない)

 

 マスターとして、みんなを引っ張らなくては。

 

 

「皆、行こう!」

 

 

 

 かくして、カルデアの面々は新たな特異点に向かう。そこで待ち受ける運命(フェイト)は、如何様なものか。まだ、誰にもわからない。




感想でいただくコメントの中で、物語に関わるコメントへの返答は本編で答えていこうと思います。沢山の感想をお待ちしてます。


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第ニ話・こんにちは学園都市

fgoは始めてまだ半年ですが、初めてすり抜けというものを体験しました。こんにちはヴラドⅢ世。さようならエルバサCEO。また次のピックアップで会おう。


――――――――――

 

 

 

 

 

アンサモンプログラム スタート

霊子変換を開始します。レイシフト開始まで あと3、2、1………

全工程 完了

アンノウン・オーダー

検証を開始します

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「…………」

 

 

 燃え盛る業火の中。

 少女の手を取った。

 

 

 自分以外の命が散り、目の前でまた新たに命が散ろうとしている中、俺には何も出来なかった。

 

「__」

 

 怖くないと自分に言い聞かせながら。

 逃げ出しそうな気持ちを抑えながら。

 

 そのまま共に炎に包まれながら死ねれば、どれほど楽だっただろうか。

 

 

 

 生き残った先も地獄のような場所だった。

 

 隣に立つ少女と共に、戦場を駆ける。何度も死にそうになり、恐怖に押し潰されそうになった。

 

「先輩_」

 

 けれど、隣に立つ少女にせめて胸を張れるようにと、折れないようにと歯を食いしばり、目の前の理不尽に立ち向かっていく。

 

 

 そうやって、自分の心を励ましながら(ごまかしながら)

 

 

 

 

 

 

____________

________

____

 

 

 

 

「__先輩!起きてください先輩!」

 

 

「……!」

 

 

 聞き慣れた後輩の声を聞き、意識を覚醒させる。そして、今自分が硬い地面に横たわっていることを認識する。

 

「起きたかねマスター」

 

 顔を上げると、どうやら自分たちは路地裏のような場所にいるようだった。エミヤの声を聞き、皆無事にレイシフト出来たのだな、と安堵した。エミヤやマシュに心配かけてごめん、と曖昧な笑みを送る。

 

『藤丸君、無事か!』

 

「うわっ!」

 

 カルデアからこちらをチェックしていたロマンの顔がドアップで現れ、思わず飛び退く。後ろに尻餅をつくように倒れてしまった。

 

『ご、ごめん!大丈夫かい⁉︎』

 

「はい、痛つ…」

 

「だ、大丈夫ですか先輩!」

 

 手の差し伸べくれるマシュに甘え、ありがとうと言いながらその手をとる。その時、ふと気づく。

 

 今回のレイシフトは現代ということもあり、立香はともかく、サーヴァント の格好ではかなり浮く。そんな事情もあり、今回同行するサーヴァントや立香は現代用に合わせた私服を着ている。

 

「……?」

 

 つまり、目の前の少女、マシュ・キリエライトもいつもと違う装いなのだが。

 

(やばい、めっちゃ可愛い)

 

 クリーム色のカーディガンに、白と青のギンガムチェックのワンピース、黒のパンプスに襟付きソックスと可愛らしさを全開にしたコーディネート。いつもレイシフトする時やカルデアにいる時とも違う後輩の姿に、先輩・藤丸立香はノックアウト寸前だった。

 

 そもそも、レイシフト前に衣装を選ぶ際、マシュはなぜか頑なにその姿を見せてくれなかった。単に恥ずかしかったのか、それとも駆け引き上手のサーヴァント達から手ほどきでも受けていたのかは定かではないが、ぶっちゃけそのせいで不意打ち気味に見せられた、否、魅せられたその姿に立香はドキドキしていた。

 

「あの、先輩」

 

「?」

 

「そんなにまじまじと見られると、その、恥ずかしいです…」

 

「へぁ!?ご、ごめん!」

 

 しどろもどろになりながら謝罪すると、生暖かい視線を感じた。隣を見ると、モニター越しのDr.ロマンの娘とその彼氏を見るような複雑な眼差し、ダ・ヴィンチちゃんの愉快なものでも見るような眼差し、それからエミヤの苦労するなこいつもと言いたげな憐憫の眼差し、の三者三様の視線がこちらを見ていた。煩い笑うなら笑え。

 

「こほん…さてドクター、これは一体どういうことだね。確かにレイシフトには成功したようだが、正確ではないようだか?」

 

 自分達同様、現代服に身を包んだエミヤ(ちなみにこちらは黒を基調としたタンクトップ、というかほとんど第一再臨だった)が顎で指し示した方向を目で追う。

 

 すると、そこには大きなゲートのようなものがあり、その先に更に大きな都市がそびえ立っているようだった。

 

「学園都市…正確にはその入り口か。いきなり、中に入ると言った話だったはずだが」

 

『あぁ、そのことなんだが…どうやら弾かれたらしい。レイシフト先に指定していたが、どうやら強引に座標をずらされて、結果として外の座標に転移させてしまったようだ』

 

「弾かれた?」

 

 あっさりと言われるが、そんな事は初めてだった。今回が本来ない筈の世界の特異点の影響なんだろうか。

 

「魔術…いやここは科学だったか。つまり、カルデアのレイシフトに向けて中の人間が妨害を仕掛けたということか?」

 

『いや、そういった指向性は感知しなかった。どうやら、外からの違法な手段での侵入を拒否する防衛設備のようなものだね。魔術師でも出来そうな事だが、まさか科学の力がここまでとはね』

 

 やれやれおそれいったよ、と頭を振るダ・ヴィンチちゃん。ドクターもドクターで苦い顔をしていた。

 

『しかし、困ったね。こうなると、正規の手順で入るしかないが、我々はそもそもこの時代の人間じゃない。国籍もない身分じゃ入るのは厳しいかもしれない』

 

「かと言って、正面突破なんて真似は出来んぞ。顔を知られるのは入ってからをより困難にするだけだ」

 

 となると、あとは。

 

「抜け道を探すとかは?」

 

 見れば、学園都市の側は見通せない程の果てない壁が続く構造になっている。入り口は何箇所もあるだろうが、それを使うわけにはいかない。だが、ここまで広ければ抜け道も一つや二つあるだろう。

 

『それしかないようだね。少し面倒だが、中に入れなければ元も子もない』

 

「そうですね…しかしどこに抜け道があるのでしょうか」

 

『こちら側でも探索してみよう。時間はかかるかもしれないが、根気強く探そう』

 

 方針は決まった。そして、路地裏から出ようとすると、エミヤが後ろの闇の中に視線を向けているのに気づいた。

 

「どうしたんですか、エミヤさん?」

 

「…誰かそこにいるな。隠れてないで出てきたらどうだ」

 

 そう呼びかけた先から、返事はなかった。しかし、

 

ボウッ と闇の中から小さな光源が現れた。

 

 揺らいでいるその光の正体は、炎だった。淡く、そして不規則に揺れるそれは決して自然で発生したものではなかった。

 

「失礼、そちらの話が聞こえたものでね。なんでも君たち学園都市の中に入りたいそうじゃないか」

 

 声と共に、一歩、二歩と炎も近づいてくる。そして、暗闇の人物の全体像が目視できるほどになった。

 

 赤い長髪に高い背丈、たくさんのピアスを付け目元にはバーコードのような模様、黒い服は後ろの闇と同化しそうなほど暗く、不思議な出で立ちだった。

 

「こちらも気になる気配を感じて、近づいてみたんだが、どうやら目的は一緒のようだ。相乗りってわけではないが、よければどうだい?」

 

 渡りに船の提案だった。

 

 しかし、立香が何を言う前にエミヤとマシュが庇うように前に立つ。

 

「いきなり、どういうつもりだ?悪いが、そんな都合の良い話を信用しろと言われてもきな臭すぎるな」

 

「まぁ、それはそうだ。けれど、こちらにも利点はあってね」

 

「どういうことですか?」

 

 煙草を点けながら、今から一息いれるかのように話す男に戸惑いを覚える一同。しかし、次の言葉にその考えは驚きに変わった。

 

「サーヴァント、って奴だろ君達」

 

煙草を構えながら、エミヤとマシュの2人を指してそう言った。

 

「!」

 

『馬鹿な!この時代、いやこの世界は本来の人類史じゃない。サーヴァントのことを知る人間なんているはずがない!』

 

「…何者だ貴様」

 

「顔つきが変わったね、なら交渉の余地はあるかな」

 

 にやりと不敵に笑うその男は、自身の名を告げる。

 

「争う気は無いからこちらの名だけ伝えよう。ステイル=マグヌスだ。相乗りの条件は一つ、サーヴァントについて、そして君達の情報を包み隠さず話せ」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「カルデア、英霊、そして人理崩壊か…。規模(スケール)の大きな話だな」

 

 ガタン、ガタン と揺れる貨物線の中でステイルはそう呟いた。

 

 結局、立香達カルデアはこのステイルという男の話に乗って、共に学園都市に侵入をしていた。どの道現地での協力者は必要で、自分達も頭を悩ませていたところだった。断らなくても良いだろうと最終的にロマンの判断、そして立香の目利きに任せることとなった。

 

 ステイルにこちら側の事情を伝えると、向こうもある程度の情報を教えてくれた。

 

 曰く、ステイルは学園都市の『外』に生きる、自分達も知る魔術師だというのだ。

 

「学園都市にも魔術師はいたんですね」

 

「正確には『外』だけどね。あの街の人間で魔術を使うものは…いないこともないが、それも一部の特殊な事例だ。基本僕達魔術師はそれぞれの派閥や国に別れている。学園都市に寄り付くのは珍しい部類だ」

 

 煙草に火を点けようとして、エミヤが視線でステイルを嗜める。未成年が2人いる場で、室内での配慮もあるのだろう。肩をすくめるようにポケットに煙草をしまうと、会話を続ける。

 

「事情は分かったが、どうにも手のかかる話だね。面倒なことに首を突っ込む羽目になりそうだ」

 

『では、こちらの質問だ魔術師ステイル。君はこの世界では、存在しないはずのサーヴァントについて知っていた。その理由を教えてくれ』

 

 ロマンが代表して皆が疑問に感じていたことを口にする。

 

「うん?あぁそれは簡単だ。1週間に僕は戦ったんだよ、そのサーヴァントとかいう奴と」

 

「!」

 

 あっさりと告げられた事実に驚きを隠せない。

 

「とはいえ、僕1人というわけじゃない。同僚の化け物みたいな奴や所属する組織の人間との複数人での相対だったが…正直二度と戦いたくないね」

 

『な…サーヴァントと戦って無傷だって⁉︎どれだけの力があるんだい君の組織は!』

 

 立香自身も驚いている。英霊というものの凄まじさを一番近くで見てきた彼は、それがどれだけの偉業なのかはよく分かっている。

 

「たまたまだよ、事実病院送りになった奴も何人もいる。それだけに凄まじい強さだった」

 

 苦虫を噛み潰したような表情のステイル。サーヴァントもたくさんいるが、いったいどんな英霊と合間見えたのだろうか。

 

「サーヴァントを知っている理由は分かった。だが、何故お前は学園都市に向かっている?特異点先だと分かっている我々はともかく、そのサーヴァントの所在も掴めなかったそうだが」

 

「いちいち偉そうだな君は…これを見ろ」

 

 そう言って懐からタブレットツールを取り出し、軽く操作してその画面を見せる。

 

 そこでカルデアの面々は、ここに来て最大の驚きを見ることとなる。

 

 

 

『――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』

 

 

「…‼︎」

 

『なっ‼︎』

 

「これは…⁉︎」

 

 

 ステイルが見せたのは一本の動画だった。これ自体は立香もカルデアに来る前に何度も触れたもので、様々な時代を渡って来た身として懐かしくは感じるが大して珍しくないものだった。

 

 

『  誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。』

 

 

  動画に映っている人物は黒いローブを被っており、誰かは分からない。だが、そちらには目もくれず、その人物の前に描かれた魔法陣から立香は目を離せないでいた。

 

 

『   汝三大の言霊を纏う七天、

    抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

 

 

  間違いなくそれは。

 

 

 

『英霊召喚だって⁉︎』

 

 

 

 

  …動画は煙が晴れ、魔法陣の中央に立つ人物を映した所で終わっている。召喚者やサーヴァントがどのような人物かは特定できそうになかった。

 

「これは、学園都市にいる同僚(バカ)から送られてきたもので、この動画自体、学園都市専用のI.Dを使って投稿されている。学園都市の人間じゃなければ見れないというわけだが、これで分かったな?僕が学園都市に向かう理由が」

 

『…あぁ、だがもう一つ分かったことがある』

 

  ロマンは手元の資料を見る。その資料には二つの記述があった。

 

  冬木の特異点X。

  そして、その10年前の特異点。

 

 

『何者かがこの地で聖杯戦争を起こそうとしてる』

 

 

 

「…着いたようだ」

 

 

  そして、彼らは学園都市の地に立つ。来たるべき災厄、それを止めるために。

 




話の進みが遅くてすいません。ご指摘、評価、感想待ってます。


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第三話・上条当麻と〇〇〇〇

ジャンヌ、オォジャンヌゥゥウウウ!

ピックアップでジャンヌが来てくれました。
あと先ほど諦めていたインフェルノちゃんも来てくれ、気分上々です。そんな訳で第三話どうぞ。


「カルデアの連中が来たようだ」

 

 黒に染まった空間の中で、男は告げる。

 

「とうとう来たのね」

 

 その場には3人の男女がいた。彼らは、言ってしまえば、この聖杯戦争を正しく理解している側の人間だ。

 

「おいおいどうすんだよ。まだサーヴァントも出揃ってないだろ?そのカルデアとかいうのが此処に来ないうちに始める手筈だっただろうに」

 

「あぁ。だが、やはり集め方に問題があったかもしれないな」

 

 学園都市に流れている一つの動画。

 

 あれは元々彼らが学園都市の人間にサーヴァントを召喚するのに使った説明書のようなものだった。機械類に強い科学側の人間に見せ、物見遊山でも構わないから人数を揃える。魔術側にはこのような文明の機器を使う人間が限られているので、目を盗んでするには良かったのだが。

 

「やはり動画一つ使ってサーヴァントを召喚したところで、その凄まじさはわからんか」

 

「仕方ないんじゃない?魔術サイドと違って科学サイドはそっち方面が疎いんだし。そもそも誰が見るかわかんない動画サイト使っての宣伝てのが不味かったんでしょ」

 

「なっ!お前も良い案がないからって僕が捻り出した案に乗っかっただろ!後から文句ばかり…!」

 

「まぁまぁ、その辺にして起きたまえ。…それより◾︎◾︎◾︎、ライダーの調子はどうだい?」

 

 参謀役と思わしき男が尋ねる。

 

「あっ?…問題ないよ、勿体無いとはいえ令呪一画使って回復したんだ。怪我ももう癒えてる」

 

 軽く手の甲をみせる形で振る。するとそこには、ニ画まで減った令呪があった。

 

「ふむ…●●●、ランサーの調子は?」

 

「こっちも概ね一緒。魔力消費もようやく慣れてきたわ」

 

 少女も同様に、令呪を見せる。

 

「ところでどうするの?第2プランも早速雲行きがあやしくなってきたけど。あの白いの、結局どっか行っちゃったんでしょ?」

 

「そちらに関しては予想外の結果もあったが…まぁ、概ね問題はないだろう。転がしておく分には支障もない」

 

「じゃあこれからだな」

 

 

 男…ライダーのマスターは楽しそうに笑う。待ち焦がれた日がついに始まる、そう言いたげに。

 

 

「いよいよ、僕たちの聖杯戦争のスタートだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 学園都市に入った立香達はまず、その街の『中身』に目を奪われた。

 

「凄いです!見たこともないほどの高い建物がたくさん!」

 

『たしかに中の技術がこれほどとは…』

 

「学園都市の中と外じゃ技術が20年違うと言われているからね。此処ほど進歩した場所はないだろう」

 

 ようやく外に出たからか、煙草を吸いながら説明するステイル。エミヤはその姿を横目に見ながら、

 

 

「さて、ではまず何をするべきか。情報が少ない以上、出来ることは限られているが…まずは寝床だな」

 

「あっ」

 

 すっかり失念していたとばかりに声を上げる立香。そもそも近未来的な街に目を光らせていたが、ここは大都会。フランスの時のように野宿もできず、かと言ってホテルを取れるような賃金もあまりない。そもそも不法侵入の為、ホテルなんかでも不味いかもしれない。

 

『あの〜、ステイルさんはいったいどちらにお泊りになるご予定でしょうか?』

 

「僕は『必要悪の教会』(ネセサリウス)所縁の隠れ家に身をひそめるつもりだけど…正直あと3人も入れるところではないよ」

 

『そ、そんなぁ!君にはこんな見知らぬ場所にいたいけな少年少女達を放り出す気かい!鬼!悪魔!』

 

「ロン毛!」

 

 ついノリで言ってしまう立香であった。

 

「そもそもその辺の準備はそちらでなんとかしなよ。僕はそこまで面倒見る気は…ん?」

 

 ふと、懐から鳴り出したスマホを取り出し、画面を見たステイル。するとものすごく複雑そうな顔をした後、その着信を拒否った。しかし、すぐに再び鳴り出す携帯を見て、ため息をすると、観念したように携帯に出た。

 

「何の用だ土御門」

 

『や〜っと出たぜいステイル。こっちだって忙しい合間にかけてるんだから、ちゃんと出ろっての』

 

「そうか、こっちも暇じゃない切るぞ」

 

『待て待てって!学園都市にはもう入ったのかにゃー?というか、隣のカルデアさん御一行に変わって欲しいぜい』

 

「どこから見てるんだお前は?」

 

 面倒くさそうに、取り敢えず手元のスマホを立香に投げつけるステイル。落としそうになり慌てる立香だったが、どうにか受け取ると電話に出る。

 

「あのー…?」

 

『はじめましてだぜい。俺はステイルの同僚の土御門ってもんだが、軽い取引をしないかにゃー?』

 

「取引?」

 

 語尾や方言といった特徴な口癖で喋る電話越しの人物に眉をひそめつつ、話を聞く。

 

『俺たち『必要悪の教会』がアンタ達の学園都市での衣食住をバックアップしよう。その代わり対サーヴァントのプロフェッショナルのアンタ達の情報、戦力を借りたい。悪い話じゃないだろう?』

 

 交渉と呼ぶには、破格の条件だった。もとよりこちら側にはほとんどデメリットはないに関わらず、向こうは無償でサポートしてくれるという。

 

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

 

『何、簡単な話だよ』

 

 突然、電話越しの土御門の口調が変わった。少し背筋がひやりとする程の威圧感が伝わってくる。

 

『『必要悪の教会』としては、突然現れた奴に何人かやられた上、こちらの情報をいくつか持っていかれた。人様の家を土足で荒らされる様な真似をされて、何もできませんでしたじゃこっちの沽券に関わるってだけの話さ』

 

「……」

 

『こちらの事情に巻き込む以上、対価としてはむしろ当然だにゃー』

 

「…分かりました、ありがとうございます」

 

 

 ステイルに電話を返し、立香はこれからを考える。聖杯戦争、ということは多くて7人のサーヴァントと倒す羽目になる。いつも通りなら、現地のサーヴァントと協力して戦うのだが。

 

 

(何でだろう。今回は誰も召喚ない(いない)気がする)

 

 

 何故そう思ったかはわからない。だが、立香はそんな予感めいたものが胸の中で湧くのを感じた。

 

 ロマンは話が一区切りついたのを見計らって、ステイルに質問する。

 

 

『ステイル君。君や土御門君のほかにこの学園都市に来ている人員はいないのかい?』

 

「一応後続の増援がくることにはなっているが、あまり大した人数ではないだろう。だが、折角だ。こちらの人間に迷惑をかけても問題のない奴がいる。そいつも使おう」

 

 随分勝手な言いようだが、ステイル曰く、奴の場合はこちらから呼ばなくても、巻き込まれるレベルで『不幸』だから問題ない らしい。

 

「誰なんだね、その人物とは?」

 

「ただの学生だよ。もっとも成し遂げたことはその範疇を超えているが」

 

 

 

 

 

 

 

「上条当麻。第三次世界大戦や魔術結社『グレムリン』との抗争を終わらせたくそったれさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「お腹が空いたんだよ」

 

 

 銀髪碧眼のシスター、インデックスのそんな言葉を聞き、自身の体躯以上に大きな新聞を読んでいたお人形サイズの少女、オティヌスは顔を上げる。

 

 

「今は昼の2時だと思うが。つい先ほど食べたばかり、というか朝も大量に食ってなかったかお前?」

 

「あんなしっそな料理で私のお腹は満たされないんだよ!」

 

 

 家主のいない昼の学生マンションの一室。

テレビから流れる『第7学区の王子様!?噂のストリートミュージシャンに電撃インタビュー!!』というニュースをBGMに、インデックスは不満を募らせていく。

 

 

「そもそもとうまは年頃の女の子の食欲を舐めすぎなんだよ!」

 

「いや、お前が食い過ぎなだけだろう。炊飯器とやらの中身が10分で完食された時のあいつの顔を見たか?顔面蒼白だったぞ」

 

「あれくらい、あと三回はいけるんだよ!」

 

「太るという概念がないのかお前には」

 

 よよよと泣き崩れる真似をするインデックスを呆れた目で見るオティヌス。

 

 かたや『魔神』になる為に必要な10万3000冊の魔道書を記憶する者、かたや『魔神』の領域に到達した者と、2人揃えば世界の一つや二つ滅ぼせそうな彼女たちが織りなす日常は、非常にゆるりとしたものだった。

 

「うぅ〜、今ならとうまのウニ頭でさえ美味しくいただける気がするんだよ」

 

「いつも噛り付いているだろうお前は…仕方ない」

 

「?」

 

「そこのタンスを開けて、その下の所を見てみろ」

 

 言われた通りにしてタンスの段の下を覗き込むインデックス。するとそこにはテープで止められた白い封筒があり、中身は折りたたまれた千円札だった。

 

「こ、これはっ!」

 

「あの人間がお前が駄々をこねた時用に用意していた緊急装置…即ち、ジャパニーズへそくり!それで何か買ってくるといい、土産はいらん」

 

「わーい!ありがとうなんだよおてぃぬす!」

 

 満面の笑みで忙しなく出て行くインデックス。一つ懸念があるとすれば、あの世間知らずが果たして一人で買い物が出来るかということだが、流石にそこまでは知らない。いそいそと新聞を読む作業に戻ろうとしていたオティネスだったが。

 

「にゃ〜お」

 

「!?」

 

 天敵が目を覚ました。

 

 おい待てインデックス!せめてこの猫連れて…っ!ぎゃあぁぁああ!? という悲痛な叫びは残念ながら届かず。

 

 こうして、家主と居候が帰ってくるまでの間、オティヌスの命がけのサバイバルがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 上条当麻は、第7学区の街を歩いていた。

 

 小萌先生からのありがたい臨時補習を言い渡され、つい4時間前に同居人達に昼飯を作って出てから、もう2時になろうとしていた。

 

(インデックスのやつ、また駄々こねてねぇだろうな。その辺はオティヌスに任せたから大丈夫と信じたいが…)

 

 ちなみに今日の昼の献立は、特売のもやしで作った炒め物、これまた特売で獲得した豆腐の味噌汁、家で作っていた大根の漬物と真っ白なワンプレートだった。

 

「急いで帰らね…ぇと…?」

 

 

 何やら騒がしい声が聞こえ、視線を向けるとそこには女学生の集団がいた。しかし、その女学生達が見つめる先にその男はいた。

 

 

「___♪」

 

 

 透き通った歌声に、目を見張るギター技術。更に、王子様の様な甘いルックスと、女性達が姦しくするのもわかる。しかし、その実力は素人目に見ても上手く、他にも数人聞き入っている人がいる。

 

(凄ぇな…)

 

 ストリートミュージシャンというものを初めて見た上条は、最初は物珍しく眺めていたが、次第に聞き入っていた。

 

「__!ご清聴ありがとう!」

 

 歌が終わり、自然と拍手が鳴り響く。上条も釣られて拍手をするが、男は恭しく頭を下げている。演奏を聞いていた野次馬がギターケースに沢山のお金を入れているのを見て、眩しい笑顔を向けている。そして、聴衆が散り散りにその場を離れて行く中で柄の悪い3人組が近づいていった。

 

「おうおうお兄さん最高だったぜ!」

 

「あぁ、ありがとう。そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」

 

「いやいや。…だがよ、てめーの自己満の演奏で金を取るなんてのは、ちと虫が良すぎねぇか?」

 

「…それは、そうだな」

 

「だから、その金。俺らが代わりに募金しといてやるよ」

 

「そうそう社会貢献ってやつ?」

 

 下卑た笑みを浮かべながらそういう3人に、上条は珍しく苛立ちを覚えた。余韻をぶち壊された気分でその3人に近づこうとすると。

 

 

「悪いが、それは出来ない」

 

「あァ?」

 

「これは俺の演奏を聴いてくれた彼らが、俺自身の価値を認めてくれた証でもある。そんな大事なものをおいそれと渡すわけにはいかない」

 

 

 男のその貫禄に思わず一歩退がる男達。しかし、それでも喰ってかかろうとする様子を見て上条は。

 

「おーい警備員(アンチスキル)さん!カツアゲですよー!」

 

「「「!!?」」」

 

 したり顔でそちらを見ると男達は「覚えてろよ!」とテンプレートな叫びを上げて、去って行く。

 

 警備員なんかいねーよと呟きながら、急なことで呆然とした男の側に近づき、話しかける上条。

 

「悪い、余計なことしたか?」

 

「あぁ、あれは君が…そんなことないよ、ありがとう。助かったよ」

 

「いやいや上条さんは大したことはしてないですよ。アンタの演奏へのほんの礼代わりだ」

 

話しかけて分かったが、意外と気さくな人となりだ。しかし、気品溢れる其の姿はやはり現実味がない。絵本の中からでも出てきた様だった。

 

「そうだ。不躾で悪いが、この辺で小さな女の子の服を買える場所はないか?」

 

「?近くにショッピングモールがあるけど…どうしてまた?」

 

「家にいるマス…妹の為にね。このお金もそのために集めていたようなものなんだが」

 

 ジャラリと瓶に集めた金銭を見せる。路上演奏で集めたにしては凄い額だ。

 

「うぉ、凄いな。バイトとかじゃなくて全部ストリートでか?」

 

「早めにまとまったお金が欲しくてね。この短期間でこれだけ集めるとは予想外だったが」

 

 たしかに人気の出そうなルックスなので、下手なバイトよりは稼げそうである。

 

「それで、よければそこまで案内してくれないか?無理ならいいんだが…」

 

「あー…いいぜ、お節介の延長だと思ってくれ」

 

「本当か!助かるよ!」

 

 一瞬家に残したインデックス達が頭をよぎったが、昼飯もたくさん作ってきたし、保険の金の隠し場所もオティヌスに教えているので大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「上条当麻だ。よろしくな」

 

「とうま…トウマか、よろしく。俺のことは…故あって本名は明かせないが、セイバーと呼んでくれ」

 

 

 

 

 

 知らず知らずの内に。

 

 

 やはり、上条当麻はこれから起こる『不幸』への第一歩を踏み出した。




本筋と関係ないインデックス&オティヌスパートが一番書きやすかったです。
感想、評価など待ってます。


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第四話・開戦の狼煙

嵐を呼ぶ天草ピックアップ、やっぱり誰か来ますかね?
本命はアキレウスやケイローンなどのApo未実装鯖ですが、エレちゃんも欲しいなぁ。村正のおじいちゃんは流石にまだでしょうね。ピックアップ終わりが楽しみです。

あ、休みの日なので2日連続投稿です。


 ハズレを引いてしまったな、とアサシンは心の中だけで思った。

 

「ひひひ…!おいあそこに愚図どもがいるぞアサシン!」

 

 目の前でそのように自身に語りかけるのは、アサシンのマスター。確か、名を介旅初矢と言ったか。

 

 どういう因果は知らないが、この陰湿そうなマスターに呼ばれてしまったのは、アサシンとしても不本意極まりない。

 

「おい、何ノロノロ動いてるんだ!早くあいつらを痛めつけてこい!」

 

 その呼びかけに言葉では応えず、ただ行動で示すアサシン。

 

 介旅が指した人物とは、一人の学生を寄ってたかっていじめている3人の不良だった。

 

 彼らは無能力者でスキルアウトと呼ばれる武装集団のほんの一角だった。スキルアウトと言っても一口には言えず、様々な人種がいるが、彼らは低能力者を路地裏に連れ込み、カツアゲやストレス発散などをする所謂褒められる側ではない人間だった。今捕まっているのもおそらく学校帰りの学生だろう。

 

「おいおい僕ー。大人しく金だけ出しときゃ、こんな目に合わなくても済んだかもしれないのによー」

 

「一応聞いといてやるよ。強度(レベル)は?」

 

「レ、強能力者(レベル3)…」

 

「はい、残ねーん!どっちにしろ食い物にする俺たちなのでしたッ!」

 

「ぐっ!」

 

 …醜いな。

 

 顔や腹へ容赦なく蹴りを入れる3人に対して、アサシンは隠すことなくそう思った。

 だが、同時に。

 

 ()()()()()

 

 心の中でそう呟いた時、既にアサシンの行動は始まっていた。

 

 

 ズサン‼︎ と手に持つ槍で、容赦なく下卑た笑い声をあげる1人の男の背中を切り裂いた。

 

 

「ひっ…!?」

 

 そう声を上げたのは、残る2人の内どちらだったか。しかし、その判断が付かぬまま彼らも蹂躙される。

 

「……」

 

 十数秒後。

 そこには血まみれで倒れ伏す3人の姿があった。

 

「ふん。やればできるじゃないか」

 

 気味の悪い笑みを浮かべながら、アサシンに近づく介旅。

 

 彼は数ヶ月前、『幻想御手』(レベルアッパー)というものに手を出し、昏睡状態に陥っていた。退院した後もそれによって手に入れた力の味を忘れられず、他にも似たような事例がないか探っていた。

 

 半ば諦めかけていた介旅はつい2週間前にその動画を発見した。『英霊召喚』と題されたその動画は、どう見ても胡散臭く介旅自身も思わず眉をひそめた。

 

 魔法陣の書き方や召喚の口上などは凝ってはいたが、いかんせん科学が発展したこの街では、眉唾物に等しく、陣の中心に現れた人物も合成か何かだろうと思っていた。

 

 

 重要だったのは、その後。

 関連ページに上がっていた2()()()()()()だった。

 

 

 その動画はページの下に隠されるように上がっており、よく見なければわからないものだったが、介旅は発見し、そして見た。

 

 謎の男が様々な相手を完膚なきまでに倒し、降し、蹂躙するその動画。倒錯した美しさすら感じる破壊の動画に介旅は惹きつけられた。

 

 

 普通の人ならば、一笑に付すだろう。

 何処かの掲示板に上がれば、叩かれることだろう。

 本気にする奴はまずいないだろう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 貪欲に力を求めていた男には、例え眉唾だろうと試してみる価値はあった。そもそも、幻想御手という都市伝説相当の代物に手を出していた時点であまり躊躇いはなかったのだろう。

 

 そして、手に入れた。自身のサーヴァント・アサシンを。

 

 アサシンは寡黙な人物だったが、最低限の情報を聞き出し、介旅は理解した。

 『聖杯戦争』というものを。

 

(僕が勝つ…勝って力のある奴らを皆殺しにする!そうすれば、もう僕に敵う奴はいなくなる!このアサシンを使って僕がこの街の玉座に君臨するのさ!)

 

 野心と呼ぶにはあまりに自分勝手な、それでいて確かなものを掲げる介旅。

 

「おい、お前!」

 

「あ?」

 

 そう呼びかけられ視線を向けると、そこには先ほどまでやられていた男がいた。

 

 てっきりやり過ぎだとでも言うのだろうと思っていた介旅は、不快そうな眼を向ける。

 

「遅ぇんだよ助けに入んのが!」

 

「…あぁ?」

 

 だがそいつの口から出た言葉は、酷く自分本意なものだった。

 

 さっさと助けにこい、お前が遅いから服がボロボロだ、賠償金を払え、など喚くその男を見て介旅はこう思った。

 

(なんだこいつ。自分勝手な奴だな)

 

 自身のことを棚に上げ、心の中でそう呟く介旅。

 

 そもそも介旅がアサシンをけしかけた理由は、決して善意からなどではない。かつて自身を虐げていた者たちとこいつらが被ったからであって、彼は人助けなどする気にはなかった。結果的にそうなってしまっただけである。

 

(面倒くさいな。ん、そういえばこいつ…)

 

 未だ喚く男に見逃す気すら失せてきた介旅。そこで思い出す。確かこいつ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ははっ、何だよそうかよそうだったなぁ!じゃあ見逃す理由なんてないじゃないか!」

 

「あぁ…?何言ってるんだお前?」

 

「つまりさぁ…()()()()()()()()()

 

「……!?」

 

 介旅の発言の真意に気づいたのか、命乞いをし出す男。けれど、介旅はその喚きにすら興味を示さず。

 

「アサシン、やれ」

 

 ただ一言そう命じた。

 

 悲壮な顔を浮かべている男に見向きもせず、踵を返す。

 

 これでいい。自分よりもレベルの高い目の上のたんこぶに相応しい結果だ。適当にボコボコにすれば、次出会ったとしても関わることもないだろう。それが小悪党・介旅初矢の考えだった。

 

 一方で、男の態度に腹は立っていたらしく、八つ当たり気味に地面に倒れている不良の1人を蹴る。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「?」

 

 蹴りを入れた介旅は、その抵抗力のなさに違和感を覚えた。意識を失ってるだけの転がり方ではない。

 

 

 

 そう、まるで。

 物言わぬ死体でも蹴ったかのような感触だった。

 

 

 

「おい、アサシ…」

 

 アサシンに問いを投げるため、背後を振り向いた介旅はその光景を見た。

 

 

 

 

 ズブリ と、紙に穴でも空けるかのような気軽さで男の体をアサシンの武具が貫いているのを。

 

 

 

 

「…!?」

 

 どう見ても即死だった。

 絶句する介旅を横目に、アサシンはその視線を意に介さず武具を抜き取る。

 

「…如何した(マスター)よ」

 

 ここで初めて。

 アサシンは言葉を発した。

 

「お、お前!僕はここまでしろなんていっ、言ってないぞ‼︎ほんの少し痛めつける程度で十分だったんだ!」

 

「これは可笑しなことを申すな?逆賊を見逃す理由などないだろうに」

 

「なっ…!?」

 

「恐怖での支配、それは大層なことだが人を選ばなければ。優秀な臣下になるならいざ知らず、このような凡俗など生かしておく意味など無いだろう」

 

「…!」

 

 介旅はアサシンを召喚してから、2週間まともなコミュニケーションなどはとっていなかった。アサシン自身が多くを語らなかったのもあるが、命令通りに動く彼を介旅自身は自分の手駒のように思っていた。

 そんな扱いからここに至り初めて気づいた、このサーヴァントの異常性に。

 

「う、うるさい!もう行くぞ!」

 

 アサシンという男の危険性を漸く正しく認識したうえで、その恐怖を隠すように大声をあげ、その場から逃げるように小走りに歩く。

 

(所詮、この程度の男か)

 

 アサシンはそんなマスターの胸中を見抜いた上でそう評した。

 

 介旅初矢は気づかない。

 先ほど凡俗と評した者の中に自身も含まれているということに。

 

(いかんな、このクラスで現界した影響かどうもこの感情に引っ張られる)

 

 だが、アサシンはその感情を理解し、その上で動く。

 

 殺戮は極上の快楽なり。

 愚鈍な奴、無能な奴は生きるに能わず。

 そして。

 

 

(裏切りこそが我が本懐。その時まで道化でいてくれよ、我が傀儡(マスター)

 

 

 

 

 これが、今回の聖杯戦争におけるアサシン陣営。

 

 

 既に崩壊が定められた、裏切りと波乱の陣営である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ありがとうトウマ。わざわざ付き合ってくれて」

 

「いやいや構わねーよ。セイバーも目的のもの買えたみたいだし、俺もそれは良かったよ」

 

 

 時間は経ち、夕方の6時。

 ショッピングモールでの買い物を終えた上条とセイバーは人通りが少なくなった街並みの中で帰路についていた。

 

 どうやら学園都市に来たばかりらしいセイバーに上条は買い物の付き合いだけでなく、スーパーの特売の時間やら洋服店のセールタイムなどもお節介気味に教えていた。

 結果として帰宅の時間が遅くなってしまったのである。

 

(流石に男2人で女の子の服を買いに店に入った時は白い目で見られたけどな)

 

 そこの場面では、お縄になってもおかしくない状況だったが、セイバーの爽やかオーラでどうにか事なきを得た。

 

「でも、本当に良かったのか?集めた金ほとんど使ってまで高い服とかまで買っちゃって」

 

「あぁ、俺自身の欲はこのギターがあれば十分だし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。余った金も妹の為に使うさ」

 

 必要ない、という言い回しに若干首を捻った上条だったが、無頓着という事だろうと納得した。

 

「それにしても、随分妹思いなんだな」

 

「…不自由な暮らしをしていたらしいからな。その為になることはなんでもしてやりたいんだよ」

 

 らしい、ということは最近まで一緒に暮らしてなかったのだろうか。気になったが、会ったばかりの人間に対して気分良く話せるものでもないと判断した上条はその言葉を飲み込んだ。

 

「でも、こんな甲斐甲斐しく世話してくれる兄貴がいるって幸せな妹さんだな」

 

 一瞬隣に住むにゃーにゃーサングラスが頭をよぎったが、あれはノーカンにしておいた。爽やか王子様系と一歩間違えれば変態のやつを同じ括りにしてはいけない。

 

 更に人通りが少なくなった道で、2人並んで歩く上条とセイバー。上条としては思ったことを口に出しただけなのだが、セイバーは複雑そうな顔をしていた。

 

「ど、どうした?上条さんなんか地雷踏んじゃったでせうか?」

「いや、トウマのせいじゃないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 わざと理解させないように難解に喋っているような台詞だった。

 

 疑問を覚える上条だったが、セイバーの方はもう切り替えたらしくこちらを向いてこんなことを言ってきた。

 

「今日は本当に助かったよトウマ。また機会があれば会おう」

 

「おう、セイバーも元気でな」

 

 当の本人のセイバーが元気に振舞っている為、上条も踏み込まず別れの言葉を口にする。そして、

 

 

2()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…!」

 

「…?どうしたセイバー?」

 

 

 握手をした瞬間、セイバーの目が開かれ、手を離す。そして、上条の方を見つめ問いかける。

 

「トウマ、君の右手は…」

「あーいたー!」

 

 唐突に。

 上条とセイバー、2人の間に割り込むように小さな少女が現れた。

 

 

「なんだ…?」

 

「君は…!」

 

 上条は疑問符を浮かべ、セイバーはその顔を驚愕に染める。少女の方は上条の方に向き合い、話しかけてきた。

 

「もう!今は下校時間は過ぎてるのになんでまだこんなとこ歩いてるのよ」

 

「?えーと上条さんはあなた様のようなちびっ子は知りませんことよ?」

 

「うん、初対面だし」

 

 上条の視線を意に介さず、その右手を物珍しそうに見る少女。

 

「この右手で触ってもサーヴァントは消えないんだねー。聖杯から現界の為に供給された魔力が多すぎるからかな?25mプールにめいいっぱい溜め込んだ水をコップでせっせと掬う感じ?」

 

「何言って…」

 

「でも私には触らないでよね!サーヴァントの方は消えなくても、マスターは触っちゃったら令呪のパスが消えちゃうかもだし」

 

 ほとんど独り言のように喋る少女に、疑問が加速していく。

 

 そんな2人を見てセイバーは。

 

「トウマ、急いで彼女から、いや此処から離れろ!」

 

 

 切羽詰まったその声で上条は気づいた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「な…」

 

「まぁこれで『幻想殺し』(イマジンブレイカー)に関しては懸念材料が一つ減ったことだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで一騎減らしちゃおうかランサー」

 

「承知したマスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空から。

 太陽でも落ちてきたかのような錯覚を受けて。

 その男は君臨した。

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 臨戦態勢をとる上条とセイバー。

 

 

 「我がクラスはランサーのサーヴァント」

 

 

 眩いほどの熱を放つその男は、

 

 

 

 

「時期尚早だがここが貴様の死地と知れ」

 

 

 

 

 

 

 

真名をカルナと言う。

 

 




学園都市の聖杯戦争
セイバー:不明
アーチャー:未召喚
ランサー:カルナ
ライダー:不明
キャスター:不明
アサシン:不明
バーサーカー :不明



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第五話・合流、そして…

3日連続投稿でっす。ランキングに入って嬉しいかったので急いで仕上げました。次回は、イベントだったりセイレムだったりで遅くなるかもです。沢山の人からの評価、感想をこれからも待ってます。


 目の前に現れた黒の大槍を携えた黄金の男に、上条は気圧されそうになった。

 

(なんだっ 、この全身を焼かれるような威圧感⁉︎)

 

 おそらく目の前にいる少女が喚んだのだろう。少女は、その男の方へ向かって走り出し、その隣に並び立つ。

 

「ランサー、ウニ頭はどうでもいいからセイバーの方をやっちゃいなさい」

 

「心得た。が、いいのか?奴は確か学園都市側の鬼札だと聞いているが」

 

「いいのいいの。サーヴァントをすぐに消せない時点であの右手はもう警戒する意味ないし。けど、セイバーの方は真名もまだ分かってないから油断しないように」

 

「了解した。それがマスターの命ならば俺は従おう」

 

 

 会話をしているだけなのに、緊張から目を離せない。相対してこんなすぐにヤバいと感じるのは、久しぶりの体験だった。

 

(トウマ聞いてくれ)

 

(…?)

 

 いつの間にか肩にかけていたギターケースの中から、豪奢な作りの剣を取り出したセイバーがそんなことを言ってきた。

 

()()()()()()()()()()()()()。俺があの2人を引きつけるから急いで逃げろ)

 

(そ…っ ‼︎)

 

 

 そんなことできる訳ないだろう‼︎ と上条が声を上げる暇もなく。

 

 

 

 

 ゴグッッッシャァァアア‼︎‼︎ という激しい轟音と共に。

 赤が入り混じった黄金同士が激突した。

 

 

 

 

「…‼︎」

 

 

 視界が霞むほどの眩さを覚えるその対決は、様々な強者と戦ってきた上条にも割り込めるようなものではなかった。

 

「…ふッ‼︎」

 

 空を裂くような槍による突きを輝く剣で受け止め、槍の下に上半身を後ろに反るような形で潜り込み攻撃を受け流すセイバー。そのまま下から薙ぐような逆袈裟斬りを打ち込む。

 

「その程度では俺には届かんぞセイバーよ」

 

 だが、ランサーがその身に纏う黄金の鎧には傷一つつかない。一度ランサーの攻撃範囲から離れるために離れようとするが。

 

「逃がさん」

 

「…⁉︎」

 

 ランサーは手に持つ槍をセイバーに向けて振るう。すると神々しく燃え盛る炎が狙い撃つかのように走る。

 

 直撃を避けるため、輝く剣を地面に思い切り振り下ろす。ゴッシャァア‼︎という轟音が鳴り響き、炎の閃光と光の衝撃波が互いにぶつかりあい相殺された。ここまで両者は一進一退の攻防を繰り広げており、実力は伯仲しているように見える。

 

「隙だらけだぞセイバー」

 

 だが、そこまでだった。

 ランサーの目が怪しく光る。それが宝具による攻撃の前兆だとセイバーは認識した。

 

(まずい…真名解放、いや間に合わないか‼︎)

 

 直撃は避けられない。そしてそれを食らえば唯では済まない。時間としては一秒にも満たない一瞬の静寂の後、必殺の一撃が来る。

 

『梵天よ、地を覆え』(ブラフマーストラ)‼︎」

 

 ランサーの瞳から槍同様に突き刺すような光線が放たれる。

 

 決着が決まる。運命が定まった。

 

 

 

 

 

 ただし、上条当麻がその幻想(けっか)をぶち殺す。

 

 

 

 

 

 セイバー達の間に割り込むように入り、ランサーの『梵天よ、地を覆え』を右手の『幻想殺し』(イマジンブレイカー)で受け止める。

 

「おぉ、ぉぉおおお‼︎」

 

 だが、その強力な一撃をすぐに打ち消すには至らない。咄嗟にそう判断した上条は、正面に構えていた右手の手首を捻り、その光線の下に手を添えるような形で滑り込ませる。光線は上条達の斜め上空にずれる。一瞬危機を脱したかのように思えたが。

 

「その判断は悪手だぞ『幻想殺し』よ」

 

 しかし、光線は軌道を変え、再び上条達を狙いを定め襲い掛かってきた。

 

「我が宝具、『梵天よ、地を覆え』は必中の一撃。如何に攻撃を避けようともその事実は変わらない」

 

「…っ、なら‼︎」

 

 上条は背後から迫る光線にもう一度右手を合わせるように構える。再び衝突する一撃の余波に仰け反りそうになるが、今度はその光線を右手で掴むようにし、そのまま地面に叩きつける。

 

 

 ゴッッッ‼︎‼︎ という爆音が鳴り響き、地面が割れる。

 

 

 

 アスファルトの大地にクレーターが現れ、その衝撃に吹き飛ばされそうになるが、なんとか両足を踏み込んで耐える。

 

「ほう、凌いだか」

 

「ッ…!」

 

 関心したようにランサーはそう呟く。

 だが、上条はそんな言葉に反応することも出来ず、右手を抑え込む。

 

(なん、て重い一撃だよ⁉︎受け止めるだけで一苦労だっつうの!)

 

「へぇ〜、意外とやるもんだね」

 

 桃色の髪をした少女は、口元に笑みを浮かべそう言う。

 

「でも、なんで邪魔すんのよ。あなたこっち側の事情なんて知らないでしょう」

 

「…ああそうだよ」

 

 躊躇うことなく上条当麻はそう語る。事情なんて知らない。少女やランサーと呼ばれる人物がセイバーを狙うのはそれ相応の理由があるのかもしれない。会ったばかりの上条には理解できない領域かもしれない。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 この時、この場にいる全員が、上条当麻という人間を理解した。誰かの為に戦うという、当たり前だが誰もが持っているわけではない善人、いや英雄の気質を備えたその男のことを。

 

「ははっ」

 

 セイバーは隣でそう吠える上条を見て笑う。

 

「民草を守るのは王の役目なんだけどな」

 

「…王様ってなんだよ。凄い自己中な奴ってわけじゃないよな」

 

「そこの説明はおいおいさせて貰うさ。さっきは助かった、トウマ」

 

 

 

「一緒に戦ってくれ」

 

「おう、当たり前だろ」

 

 

 

「…ふぅ〜ん」

 

 対して桃色の髪の少女は、上条当麻を一瞥する。そして、並び立つカルナを見る。

 

「…?どうかしたか、マスター」

 

「…いーや、なんでも」

 

 口ではそう言うが、少女は内心こう思っていた。

 

 施しの英雄・カルナと上条当麻。根っからの英雄であるこの2人はどこか似ているな、と。

 

(とはいえ英雄として完成されたカルナと発展途上とも言えるあいつとじゃ比べても劣ることはないけど)

 

「ランサー、ちょっと魔力の消費抑えて。私も戦いたくなっちゃった」

 

「マスターが出張らずとも、俺なら奴ら2人がかりでも倒せるが?」

 

「いーのいーの」

 

 シュルシュルと絹がずれるような音が聞こえる。

 

 その音の正体は光る金属でできた糸が形を変え、鳥のような形状に変化したものだった。そして、いつの間にか少女の両手には、鳥同様に光金属が変化した中華刀が備わっている。

 

 

「久しぶりに遊び甲斐がありそうだし」

 

 

 

 そう言って、少女…クロエ・フォン・アインツベルンは駆け出した。

 

 

 

 再び戦火が上がる。

 

 上条とセイバーも駆け出し、2人はそれぞれ上条はクロエと、セイバーはランサーと向かい合う。

 

「はぁッああ!」

 

 自身の周りを旋回するように飛ぶ二対の鳥を躱しながら、クロエの剣を捌く。刃に触れないよう側面の部分に裏拳のような形で右手の甲を当てる。崩れるように剣が瓦解するが、その隙を突きクロエはもう一方の刀を振り下ろす。

 

「…‼︎」

 

 右手が間に合わないと判断した上条は、クロエの腹部に蹴りを叩き込む。クロエは空いた腕でその蹴りを防ぐと同時に、その勢いを利用して後ろに跳ぶ。ある程度の距離をとると、再び構え直す。武器を1つ潰したことでアドバンテージを得た上条だったが、違和感に気づきクロエの手元を注視する。

 

 すると崩壊したはずの剣が再び形を取り戻し、クロエの手に収まっていた。

 

「魔力を流し込むことで自動再生する代物よ。そう簡単には崩せないわ」

 

「みたいだな」

 

 ちらりと、少女の後ろの先で戦うセイバーとランサーを見る。先ほどのように危なげな場面はないようだが、未だ押され気味のようだ。加勢に行きたいが目の前の少女も軽く流せる相手じゃない。

 

「視線を外してる時点で十分油断だっつの!」

 

「⁉︎」

 

 

 少女のその言葉で意識を再び向けた時には遅かった。

 

 剣や鳥と同様の光金属でできた糸が上条の足を絡めとり、宙に上げる。逆さ吊りのようになった上条は、地面がだんだん離れていくのが分かった。

 

「上条当麻が異能に関して抜群の反射を見せるのは知ってる」

 

「ぐっ…!」

 

「でも、こんな風に見えない範囲からの攻撃には働かないのね。そうそう、今右手で足の拘束を解けば頭から落下して死ぬわよ」

 

 頭に血が上った状態で上条は打開策を考える。するとクロエの口元が動くのが見えた。

 

 幾多の戦闘経験がある上条はそれが魔術師が行使する詠唱だと分かった。その声に反応してクロエの体から這い出る光金属の糸が束なり、巨大な槍のようになった。

 

「____。バイバイ、おにい〜ちゃん♪」

 

「‼︎」

 

 上条の腹を貫かんとばかりに迫る槍に右手を構え、防御する。しかし、唐突に足の拘束を外されバランスを崩す。右手を再び構え直す暇もなく落下した体に槍が接触する。

 

 

 

右方へ歪曲せよ( T T T R )!」

 

 

 

 その声が聞こえると共に輝く銀の槍が右に逸れ、壁に激突する。

 

「!」

 

 クロエが気づく。見れば自分の視界の先、より正確には上条当麻の後方に銀の修道服を身に纏った少女がいた。

 

「やばいやばいやばい‼︎ぶつかるー‼︎」

 

 しかし、落下の結果は変えられない。重力に従って地面に衝突することを覚悟した上条は思わず目を瞑るが。

 

「……?」

 

 ぶつかる衝撃が来ない。いや、どころか誰かに抱き抱えられている感覚すらある。

 

「お怪我はありませんか?」

 

 目を開けると、すみれ色の髪をした少女が自分を受け止めていた。傍らに持つ大楯や露出の激しいダークカラーの服が目立つが、一先ず助かったのだと認識した後、少女に礼を言う。

 

 

 一方クロエは戦場に増えた部外者に警戒する。修道女の方は話に聞いていた『禁書目録』(インデックス)だろう。もう一方の少女は、カルナ同様に人ならざる気配を薄くだが感じる。

 

「杜撰な人払いの結界だね。素人は兎も角、本職である僕ら魔術師には通じないよ」

 

 しかし、考えを巡らせていたところにもう1人。銀髪の修道女と対をなすかのように赤髪の神父が現れた。

 

「インデックス…それにステイル⁉︎お前らどうしてここに⁉︎」

 

「どうしたじゃない、何この子1人街に放り出しているんだ焼き殺すぞ!しかも既に厄介ごとと出くわしやがって…まぁ巻き込む手間が省けたからそれはそれで良かったが」

 

「ていうかとうまはいつまでましゅにデレデレしてるんだよ!早く離れるんだよ!」

 

「ええ⁉︎インデックスさん私は別に…」

 

 いきなり賑やかになった戦場に新たな声が響く。

 

「ドクター、あの2人が?」

 

『あぁ、サーヴァント反応もある。間違いない、というか凄いな!どちらもトップクラスの霊基反応だ!』

 

 最後に現れたその人物はカジュアルな服装に身を包んだ、一見この場に一番相応しくない人物にみえる。

 

 

 だが、クロエは悟った。彼こそがこの中の最重要人物。即ち、この街の異常をただしに来た、

 

 

「カルデアのマスター…!」

 

 

 

 藤丸立香、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ふむ、此処がいいか」

 

 カルデア側からただ1人、戦場に駆け付けなかった男、エミヤは自分の仕事を全うしようとしていた。

 

 彼はアーチャー、弓兵だ。

 その本分は遠距離からの狙撃にある。前衛とマスターの護衛をマシュに任せ、彼は狙撃に適したポイントを探していた。

 

 遠く離れた戦場を俯瞰する。

 敵サーヴァントは2人。ランサーと思わしきサーヴァントは此処からでも凄まじさが伝わってくるが、彼が注視するのはもう1人の人物、セイバーの方だ。いや、正確にはその剣。

 

(似ている…あの剣と)

 

 思い返すは、生前の記憶。彼としては思い出したくもない記憶だがその中で出会った彼女を思い浮かべる。

 

(別人には違いないだろうが…円卓の関係者か?モードレッドやガウェインのように宝具にその関係が現れるタイプは珍しくないが…)

 

 気になるが、私情を抜きにして戦場を見る。いつ如何なるタイミングでも放てるように矢をつがえて待つ。

 

 

 しかし、ゾワリと。

 背筋を撫でるような悪寒が彼に走った。

 

 

「…‼︎⁉︎」

 

 戦場の遥か前方。

 5000mにも満たない距離から凄まじい速度で、戦場に接近する影が見える。

 

(なんだあれは…?)

 

 このままではあと5分もたたないうちに接触する。迎撃を考えるエミヤだが、戦場のランサーとセイバーも無視できる者じゃない。

 

(どうする…)

 

 エミヤは考える。彼にしては珍しい焦りが頭の中を支配していた。

 

(どうすれば奴らから無事にマスター達を逃がせる⁉︎)

 

 

 しかし、そんな思考とは関係なく。

 時間は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデアのマスター…!」

 

 

 戦場に到着した立香は少女を見る。

 立香としては、その少女は知らない仲ではなかった。

 

 

 クロエ・フォン・アインツベルン。

 いつかの魔法少女の特異点で助けたイリヤの姉妹だった少女だ。カルデアにも彼女の霊基が登録されており、自分達の危機には助けに来てくれると言っていたが。

 

 

『彼女は君の知る人物とは別人だよ藤丸君』

 

 モニター越しのロマンの声が耳に届く。

 

『来る前に言っただろう?此処は並行世界の特異点、サーヴァントが特異点によって立ち位置が変わるように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。聖杯戦争のマスター、魔法少女ではない少女という認識を正しく持って戦ってくれ』

 

「…はい」

 

 そう言われて気を引き締める立香。

 

「なぁアンタ達はいったい…」

 

「上条当麻さん、私達はカルデア。詳しい説明は省きますが、この異常事態を解決するためにやってきた組織です。ここから先は私達が引き受けますから貴方はここから逃げてください」

 

 マシュはこれ以上巻き込むまいと上条に逃亡を促すが。

 

「悪いけど、それはできない」

 

「えっ…?」

 

「ここまで関わった以上見て見ぬ振りなんて出来ねぇし、見ず知らずのアンタ達に押し付けて行くなんてこともしたくない」

 

「でも…」

 

「諦めろ。そいつはそういう性質(タチ)の奴だ」

 

「もう、とうまは相変わらずなんだよ」

 

 上条を知る2人が呆れたようにそういうので、マシュも半ば無理だと悟る。

 

「わかりました。でも、無茶はしないでください」

 

「無茶ばっかしてきた毎日だから、保障しかねるなぁ」

 

 軽口のように会話を繰り広げているとランサーと戦っていたセイバーが此方側まで後退してきた。

 

「っ …!援軍…という認識でいいのかな?流石に彼の相手は俺1人では堪えるのだが」

 

『セイバーのサーヴァント…!どうやら仕掛けてきたのは向こうのようだし、こちらの目的の人物はどうやら君寄りだ。味方という認識で構わないよ』

 

「そうか、心強い」

 

 

 士気が高まる中、ステイルはただ1人状況を冷静に観察していた。

 

(不味い…()()()だ)

 

 蘇る記憶は一週間前。辛酸を舐めさせられた遠くない思いがふつふつと湧き立つ。

 

 その元凶(ランサー)が目の前にいた。

 

(どうする…あいつは『聖人』の神裂を含めた『必要悪の教会』(ネセサリウス)でも倒しきれなかった相手だ。いくらこちらにもサーヴァントがいるからといって勝てるのか…⁉︎)

 

 援軍である自分達が到着したからといって、事態は好転したわけではない。一対一で押されていたセイバーに加えてもマシュは防御寄りのサーヴァント、エミヤも弓兵という立ち位置から分かる通り、本質は援護が主軸の戦士だ。決め手にはもう一歩届かない。

 

 ステイル自身も本来は拠点を置いて、相手が来るのを迎え撃つ、いわば籠城戦に特化した魔術師だ。炎剣だけでは心許ない。せめて『魔女狩りの王』(イノケンティウス)が使えたらと思うが、それすらも通用するかどうか怪しい。

 

 ジョーカーとして期待していた上条も、こうなってはあまり使えそうにない。そもそもあれだけの神秘の塊だ、触っても消滅させるには時間がかかるだろう。そして、敵が素直にそうさせるとも思えない。

 

 インデックスに戦闘能力を求めるのは論外。唯一の未知数は、カルデアのマスターだが、人間である以上サーヴァントに肉薄する実力というわけではないだろう。

 

「お話は終わった?」

 

 残された勝ち筋はマスターであるこの少女を狙うことだが、ランサーが側にいる以上それも難しそうだ。となると取るべき戦略はサーヴァント達でランサーを引きつけ、その間にステイルがこの少女を殺すことだろう。少女自身もかなりの実力がありそうだが、やるしかない。

 

「じゃあランサーみんなまとめてやっちゃって!」

 

「っ…来るぞッ‼︎」

 

 

 全員が構え、中断された戦いの幕が再び上がる。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ォォオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ と。

 唸り声と共にそれは来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

 

 全員が一斉にそちらを振り向く。

 

 両者の激突する一歩手前、彼らの間遥かその先にそいつはいた。

 

 

『サーヴァント反応⁉︎この荒れ狂った霊基、バーサーカーか!いやでもこれは…?』

 

 ロマンの焦った声が聞こえる。

 

 立香はそいつが視界に入った瞬間恐怖した。マシュは体が震えそうになるのを堪えた。ステイルとクロエは警戒レベルを最大にしてそいつを見ていた。セイバーとランサーは向かい合うようにそいつの前に立った。

 

 

「えっ…?」

 

 インデックスは口から出た戸惑いを隠そうともしなかった。

 

 

「…⁉︎」

 

 

 そして、上条当麻は。

 そいつの名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行(アクセラレータ)っっ‼︎⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 黒い翼を携え、『破壊』がそこに立っていた。




学園都市の聖杯戦争
セイバー:不明
アーチャー:未召喚
ランサー:カルナ
ライダー:不明
キャスター:不明
アサシン:不明
バーサーカー :一方通行?


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第六話・その剣の名は

お待たせしました。セイレムだったり翁ピックアップだったりいろいろあったので、なかなか書けず申し訳ありません。


一方通行(アクセラレータ)っっ‼︎⁉︎」

 

 

 突如目の前に現れた『災厄』に戸惑いを隠せない上条。

 

「……」

 

 対して一方通行、いや、バーサーカーは身じろぎひとつせずその場に留まっている。いつ暴れてもおかしくない凶暴性を発しながらも、何の動作も見せないその姿は酷く不気味だった。

 

(あの翼は…?)

 

 俯き表情が分からずにいる一方通行が背に携えている翼に上条は注目した。

 

(詳しい事情は知らねぇがあいつの翼はデンマークの時点では白だった筈だ。自在に使い分けでも出来るのか?)

 

 いつだかのロシアでの激闘を思い出す。これまで一方通行と激突した数は少なくない上条だが、あの黒翼を見るのはこれで2度目だ。だが。

 

 

 あの翼はあそこまではっきりと翼の形をしていただろうか?

 

 

『気をつけてくれみんな!サーヴァントとしてはセイバーやランサーにも引けを取らない!が…何だこの不自然な霊基は?上条君君はバーサーカーのことを知っている口振りだが…』

 

「知ってるも何も…」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で上条は答える。

 

「あいつは学園都市第1位の一方通行。この街で最強の超能力者だ」

 

『‼︎』

 

 立香はその言葉を聞き、1人のサーヴァントを思い出す。

 

 諸葛孔明、またの名をロード・エルメロイⅡ世。彼は確かⅡ世の身体に諸葛孔明という英霊を憑依させサーヴァントとして現界するという特殊な事例だったはずだ。

 

 デミ・サーヴァントではなく擬似サーヴァントと分類されるそれは英霊そのものではないにしろ、ほとんど遜色ない力を発揮していた。現代の人間である一方通行に霊基反応が出たということは、それは目の前の人物は紛れも無いサーヴァントということを示している。

 

「ちょっと不味いわねこれ…」

 

 クロエは冷や汗を垂らしながら呟く。しかし、その動揺は上条やカルデアとはまた別種のもの。バーサーカーというサーヴァントの危険性を知るからこその動揺だった。

 

「…ァア」

 

「「「‼︎」」」

 

 一言。

 たった一言発しただけで、バーサーカー以外のサーヴァントはその唸りにも似た声に釣られ動く。

 

 ランサー、セイバー、シールダーの3人がバーサーカーの首を取らんと動く。迅速に、的確に。対して、バーサーカーがとった行動はシンプルだった。

 

 

 

 背に携えた黒翼を振るう。

 それだけで圧倒的な『破壊』が繰り出される。

 

 

 

 ゴッッガッシャアアア‼︎ とアスファルトの地面ごと抉り取るようなシンプル且つ強力なその一撃は彼の周りに迫っていたサーヴァント三騎を一瞬で振り払う。

 

「くっ…っっ!」

 

「これは…!」

 

「…!」

 

 幸いにも最も遠い位置にいたセイバー、そして防御に秀でたシールダー・マシュは致命的なダメージを受けずに済んだ。そして、ランサーは直撃こそ避けれなかったものの、その身を守る黄金の鎧によって被害は見た目より少ない。せいぜい一瞬怯んだ程度だろう。

 

「ipgno跳baxgk…!」

 

 だが、その一瞬がサーヴァント同士の戦いにおいて戦況を左右する。

 

 一瞬でランサーの懐に潜り込んだバーサーカーは左手の悪手を突き出す。すると、ランサーの体が宙に浮きそのまま弾丸のような速度で後ろへ飛ばされた。

 

「…‼︎」

 

 咄嗟に身を捻り、槍を地面に突き刺すことで減速を試みたランサーだが、勢いはそのままに飛んでいく。

 

「まずっ…!ランサー‼︎」

 

 しかし、ランサーも唯では終わらず、槍から魔力を放出した焔を吹き立たせる。その焔は導火線の如く、バーサーカーめがけて走る。

 

 ボワァ‼︎と神秘を纏ったその焔はバーサーカーの体を包む。苦しむ様子を見せるバーサーカーだがその様子は炎に包まれていてよくわからない。

 

 クロエは一瞬逡巡し、ランサーを追った。サーヴァントが揃っているこの場では自分の身を守れないかもしれないという考えからの判断だった。

 

「…これは」

 

 一瞬の内に起きた攻防に唖然としていた立香だが、その隙を逃すまいとロマンから通信が入る。

 

『藤丸君!ぼさっとしてないで早くそこから離れるんだ!』

 

「…!どういうことですかドクター!」

 

『バーサーカーはおそらく見境なしに攻撃している。だけど、マシュだけでその攻撃を捌ききるのは不可能だ!ランサーもその場を離れたとはいえ距離自体はそう遠くない、すぐに戻ってくるかもしれないぞ!』

 

「っ!でも…!」

 

 何処からか聞こえる謎の声に上条も確かに、と思う。

 

 出会いこそ死闘を繰り広げ互いに敵として見ていた2人だが、上条は本来一方通行が理知的な人物なのはうっすらとだが分かっていた。けど何も見えずただ破壊を繰り返す今の彼と会話することは難しいだろう。

 

 制圧するにしても黒翼やベクトル操作といった脅威的な力を掻い潜るのは至難の技だ。一方通行を知らないカルデアは勿論、上条自身にもそう簡単にできることじゃない。とりあえず距離を取るために後ろに下がろうとする。

 

 

 しかし、唐突に。

 上条当麻すら知らない攻撃が既に発生していた。

 

 

「な…っ⁉︎」

 

 足を引こうとした上条は凄まじい速さで迫ってきたそれのせいで身動き1つ取れなかった。

 

 その正体は氷。

 炎を振り払ったであろうバーサーカーを中心に、足元から広がった強力な冷気によって彼らの足は凍結されていた。

 

「くっ!何だこれ‼︎」

 

 立香やマシュは凍結によって痛む足を無理やり動かしどうにか振り解こうとするが、ロマンが慌てて止める。

 

『待つんだ藤丸君!その凍結はバーサーカーの攻撃だ。そこまで強力な凍結ならサーヴァントのマシュは兎も角、君は下手に動いたら凍りついた足を持っていかれるぞ‼︎』

 

「…‼︎」

 

 思わずゾッとする。

 そして、無理な動きをいきなり止めたせいで、空を足掻くように手を動かしながら後ろに尻餅をつく。そのせいで足への痛みが増したが、どうやらロマンの言ったようなことにはなっていない。

 だがこのままでは凍傷で足が壊死してもおかしくない。どうにかして氷の凍結を解こうと考える立香だが。

 

 

「……」

 

「…!⁉︎」

 

 

 バーサーカーと目があった。

 

 その燃えるような赤い目を見た瞬間、立香は一瞬呼吸が止まった。目の前の怪物は自分を狙っているのだと判断できてしまった。

 

 黒い翼の片方を立香めがけて振るうバーサーカー 。

 

「…せんぱっ」

 

 マシュは急いで立香の元へ駆け寄ろうとするが、足の凍結から未だ逃れられていない彼女では間に合わない。

 

 命が刈り取られる。立香自身がそう認識した瞬間。

 

 

 黒いツンツン頭の少年が自分の前に立っていた。

 

 

 真上から振り落とされた黒翼を右手で掴み取り消滅させる。以前よりも強力なそれは打ち消すにも時間がかかったが、どうやら成功したようだ。

 

「…大丈夫か」

 

 こともなげに言うが、その体はこの短時間の間にぼろぼろだった。足の凍結は右手で打ち消したが、凍傷の痛みはすぐに消えるようなものでもない。

 

「…あぁ、ありがとう」

 

 それでもこの少年は其処に立っていた。会って間もない立香を助けるために行動する彼に、立香は感謝の言葉を口にする。

 

 

 仕留め損なったと認識したのか、次の挙動に移ろうとするバーサーカー。しかし、その前に動きがあった。

 

 ズバッァァン‼︎という音ともにバーサーカーの体が爆ぜた。

 

「Ahh…!」

 

 苦悶の表情を浮かべるバーサーカーを襲った攻撃の正体はここから離れた場所にいるアーチャーの狙撃だった。正確にバーサーカーの体を貫いたその攻撃は、彼自身を倒すには至らなかったがダメージは与えた。

 

「灰は灰に、塵は塵に」

 

 そしてその隙を赤き魔術師は見逃さなかった。

 

 炎を得意魔術とするステイルは上条同様、一足先に氷の拘束を解きバーサーカーに狙いを定めていた。そして、バーサーカーがそちらに意識を割く頃にはもう手遅れだった。

 

「吸血殺しの紅十字‼︎」

 

 交差するように放たれた炎の剣は正確に人体の急所である首を焼き切らんと放たれる。しかし、

 

 

 バーサーカーに炸裂するはずだった炎の衝撃が寸分の狂いもなくステイルに跳ね返ってきた。

 

 

「がっ…はっ‼︎」

 

 炎が自身の体を焼く感覚に陥るが、痛みで体が悲鳴をあげるその前に急いで距離を取るステイル。

 

 彼自身は知る由もないがそれはバーサーカーの依り代になった一方通行のベクトル操作による反射だった。アーチャーの狙撃もこの能力により幾らか逸らすことができたバーサーカーは、ステイルの攻撃によって倒れることはなかった。

 

 バーサーカーは翼を振ろうとしたが、ステイルが距離を取ると深追いはせず、自身の体を不思議そうに見ている。

 

(くそ、駄目元の攻撃だったが歯牙にもかけないか!サーヴァントってのはどいつもこいつも規格外だな!)

 

 だが、ここでステイルは違和感に気づいた。

 

 バーサーカーの行動がおかしい。確かに強力な存在には違いないが隙が多い。ランサーの反撃やステイルの攻撃を問題なく跳ね除けたとはいえ、直撃自体は避けていない。そこの無駄さえなければ確実に反撃で手痛い一撃を加えられるのにだ。

 

(いや、そもそもこいつ…()()()()()()()()()()()()()?最初の翼の攻撃はサーヴァント連中から仕掛けたことに対しての反撃だ。ランサーを飛ばした後も奴に追撃はしなかった。今の僕の攻撃も僕が距離を取ると追撃しようとはしてこなかった)

 

 例外としては、立香への攻撃はバーサーカー自身の判断によるものだったようだが、ステイルにはそこまでは分からなかった。

 

 そして、上条もステイルとは別の違和感に気づいていた。

 

(能力の使い方がぎこちない。翼や氷なんかは問題なく行使してるように見えた。だけどあいつ本来のベクトル操作能力はあそこまでおざなりなもんだったか?)

 

 見たところベクトル操作を使った回数は4回。一度はランサーを突き飛ばした突き出し。残る三回は攻撃に反応する自動反射能力だ。今思えばランサーへの攻撃直後、その能力にバーサーカーは戸惑っている様子すら見えた。反射能力もサーヴァントの攻撃には鈍いように見えたが、ステイルの攻撃は問題なく反射は作用していた。だが、その能力自体にも、よくわからないが戸惑いを覚えているようだった。

 

(なんていうか、初めて使う武器を手探りで探ってるような感じだ。だからこそ隙が多いとも言えるが…)

 

 いづれにしろバーサーカーに手こずっていたら、直にランサーが戻ってくる。そうなる前にこの場を離脱しなければならないのだが。

 

『バーサーカーが藤丸君を狙っているならその隙すらもないか…』

 

 カルデアのマスターだからか、それとも他の理由があるのか。バーサーカーは他のサーヴァントには目もくれず、立香1人を見据えている。離脱するには難しい状況だが。

 

 

「なら先にバーサーカーの方から退場してもらおうか」

 

 不意にそんな声が聞こえた。

 

 声の主はステイルの炎で拘束からセイバーだった。バーサーカーの正面に立つと、剣を天に掲げ宣言する。

 

「トウマやカルデアには借りができた。ここで何もしないのは最優であるセイバーのクラスや王としての俺自身の名が泣くのでな」

 

 その剣が光り輝く。

 

「いづれ機会があれば再び相見える機会もあるだろう。だが、今はおとなしく退場しておけバーサーカー」

 

 かつてブリテンを統べた騎士王アーサー。

 彼の王は其の者に憧れ自身の持つあらゆる物に彼と同じ剣の名を名付けたという。

 

 

 

 其の者が持つ剣の名はあまりにも有名だった。

 その名を。

 

 

 

「『永久に遠き(エクス)……勝利の剣(カリバー)』!」

 

 

 

 光の奔流がバーサーカーを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「おーい生きてる?ランサー」

 

「…マスターか」

 

 

 バーサーカーの突きによって飛ばされたランサーはマスターのクロエと合流した。

 

「随分飛ばされたみたいだけど大丈夫だったの?」

 

「あぁ、咄嗟のことで判断を少し見誤ったが致命的なものではない。サーヴァントの力…というよりは依り代の能力故に手こずったがな。魔力放出を使えばもう少し復帰も早くできただろうが…マスターの指示を優先させてもらった」

 

「律儀ねぇ」

 

 ランサーはバーサーカーの攻撃を結局受け流しきることは出来ず、ビルへの激突という形で止まった。急いで戦場に戻ろうとしたが、クロエから急ぎでも取らなくても良いとの命を受け、その場を動いていた。

 

「先ほどのあれは…おそらくセイバーの宝具か」

 

「みたいね。んでもってそれを出したってことはもう戻っても誰もいないでしょ」

 

 ランサーとクロエからも見えていた大きな光に2人はある程度の正体を予測した。

 

「バーサーカーの奴にはまだ自由に動いてもらわないとだし、私たちが積極的に関わってもいいことないからね。セイバーを倒せなかったのはちょっと勿体無いけど仕方ないか」

 

「これからどうする?」

 

「もう遅いしアジトに戻るわよ。ランサーは一応霊体化しといて」

 

「了解した」

 

 マスターからの命令を聞き、大人しく霊体化しようとするランサー。

 

「ランサー」

 

「…?どうしたマスター」

 

「勝つよ、絶対。この聖杯戦争を」

 

「もとより承知の上だ。それが我がマスターの望みなら、俺はそれを叶えるだけだ」

 

「…ありがとう」

 

 

 

 激闘の1日目が終わる。

 

 

 そしてこの日を境に、多くの者が舞台に上がることだろう。




上条のセリフや一部では一方通行と表記してますが、基本的に行動などはバーサーカーで統一してます。見辛いとは思いますが、これからもよろしくお願いします。


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第七話・戦いの後

更新ペースがだんだん遅くなってきました。そして投稿できてもあまり話が進んでなく…これからも精進します。
PS.今年の正月ガチャはどちらにしようか、皆さんはどちらにしますか?


「所、長手を…!」

 

 嫌な記憶がフラッシュバックする。

 

 年齢の割には大人びていて、けどどこか暖かな部分もあった彼女。厳しさもあったし取り乱す所も見たけど、自分よりもしっかりしていた彼女には尊敬の念を抱いた。

 

 彼女は俺が最初に救えなかった人間だ。

 

 凛々しい顔を涙でぐちゃぐちゃにして、遠く離れていく彼女の手を俺は掴むことすら出来なかった。

 

「いやぁ、いやぁあああ‼︎」

 

 彼女の叫びが耳にこびりついて離れない。

 

 諦めろ、どうあがいても彼女は救えなかった、お前のせいじゃない。

 心が罪の意識を正当化しようと、甘い誘惑をしてくる。

 

 

 

 あれは地獄の入り口に過ぎなかったのだと、フランスの特異点に降り立ってから思い知らされた。

 

 竜の魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタ。

 煉獄の炎を燃やす彼女の憎悪に沢山の人が倒れていった。

 竜が蹂躙し、狂った英霊達が血に染め上げる。

 

 ここでもまた救えない人達がいた。それどころか、俺自身何回も死に目にあった。

 たくさんの助けがあったけど、たくさんの犠牲も出たのだ。

 

 

「カルデアのマスター」

 

 そして俺は竜の魔女と相対した。

 

 

「あなたはいったい何のために戦うのですか?」

 

 

 

 

 …あれ?

 あの時俺は、なんて答えたんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 学園都市に来て2日目の朝。

 藤丸立香は学生寮の一室で目を覚ました。

 

 

「おはようございます先輩」

 

 ベッドから起き上がると、聞き慣れた後輩の声が耳に届く。それと同時に、朝の味噌汁と焼いた鮭のいい匂いが鼻をくすぐる。意識を覚醒させた立香はキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「おはようマシュ。エミヤはどこ行ったんだ?」

 

「エミヤさんは上条さんとインデックスさんの部屋に。どうやら上条さんが朝早くから補習…?というもので出かけているらしく、代わりに朝食を作りに行ってます」

 

「ああそれで。マシュが朝ごはんを?」

 

「はい。エミヤさんはもちろん、ブーディカさんやキャットさんから学んだ料理スキルを今こそ見せる時だと思いまして」

 

 白いエプロンが眩しいくらいに似合う後輩のそんな言葉に自然とこちらも頬が緩む。

 

(新婚みたいだなーこの光景)

 

「ですので先輩、もう少々お待ちください。あと…先ほど少しうなされてたような…大丈夫ですか?」

 

「ん?…なんでもないよ、マシュ」

 

 心配かけまいと笑みを浮かべながら、立香は昨日の出来事を思い出す。

 

 あの激闘のその後を。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「ここまで来れば平気だろう」

 

 バーサーカーを退けた一同は、上条当麻が住む第七学区の学生寮付近にまで来ていた。

 

「ランサーとそのマスターも追ってくる様子はない。バーサーカーは…無力化はできなかったが暫くは大人しくせざるを得ないだろう」

 

 苦虫を噛み潰したような上条を見て、セイバーは申し訳そうに言う。

 

 実際問題、バーサーカーやランサーといった脅威を退けるのにセイバーの行動は間違っていなかった。だがそれでも上条にとって見知った彼は見捨てられるような存在でもない。

 

「……」

 

 しかし、それで全滅に繋がるようなら上条の判断はやはり甘いのだろう。それが分かっているからこそ、彼自身も何も言わずに黙っている。

 

「…で、今日の所はお開きかい?ひとまずの脅威は去ったんだ。僕はそれでも構わないが」

 

「そうもいかんな」

 

 横合いから声が聞こえ視線を向けると、闇に映える赤の外套を身に纏った人物、別行動中だったエミヤがそこにいた。

 

「今回は利害の一致だから共闘もしたが、そこのセイバーは未だ素性が知れぬ身。このまま帰す訳にもいくまい」

 

「エミヤさん、でも…」

 

「今回の特異点でこれまでと違う点が分かるかマシュ?平行世界やら超能力者やらも気になるが、そもそも大前提に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いくらセイバーが好意的でもマスターが令呪で強制すれば危機的な場面で寝首を掻かれるかもしれん」

 

 厳しい意見をぶつけるエミヤにマシュは黙る。

 

 エミヤも決して嫌味を言っているわけではない。ただマスターやサーヴァントとしてはまだ発展途上の二人に代わり冷静な視点で忠告をしているのだ。その辺に関しては幾多の経験があるステイルや上条も思うところがあるのか口には出さない。

 

「俺のマスターに関してはその心配はない…と言っても信じないだろうな。なら俺の真名を教えよう」

 

 だが、よりによってセイバーからなんのためらいもなくそんなことを申し出てきた。

 

『は、えっ、はぁあ⁉︎真名だって⁉︎そんな大事なことあっさり教えていいものじゃないだろう!』

 

「そこまで驚くことか?そこのアーチャーの言うことはもっともだし、俺も君達に助けられた。見返り、というか礼としては当然のことだ」

 

 ロマンの驚く声にもなんのその。セイバー自身はあっけらかんとした様子で意見を曲げることもない。そうするよう仕向けたのはエミヤだが、思った以上にあっさりと話が進んでいることに内心驚いている。

 

「なぁ、真名ってなんだ?」

 

「えっ」

 

 唯一こちら側の事情を知らない上条が立香に問う。確かに巻き込んでしまった以上、ある程度の事情は伝えなければならないのだが、いかんせん同年代の男子と話すのはカルデアに来る以前だ。サーヴァントでいうと風魔小太郎等が年が近いが、サーヴァントとマスターという立場の違いもある。少々緊張気味になりながらも教える。

 

「えっと、サーヴァントっていうのは過去に偉業を成した人、つまりは英雄が魔術師によって召喚された者なんだ。真名ってのはそのサーヴァントの名前、クラス名とは違う英雄本来の名のことだよ」

 

 拙い説明だが、なんとか伝わっただろうか。噛み砕き過ぎてないか不安になるが、上条はひとまず納得したようだ。

 

「英雄…セイバーは外人ぽいし、海外の英雄ってことか?」

 

「はい、おそらくそうでしょうね。地域や神話、伝承等様々な条件下で召喚されるサーヴァントですが、セイバーさんは比較的ポピュラーなところかと」

 

「神話…なぁもしかしてそれオーディンとかトールとかもいたりする?だとしたらちょっと笑えねぇんだけど」

 

「?いえ、そういった神霊クラスの顕現は難しくあまり例を見ないかと」

 

「そ、そっか。安心した」

 

「?」

 

 そんな会話が傍で繰り広げられてるが、立香達もセイバーを注視する。ランサーと渡り合った英雄、その真名を聞くために。

 

 

「我が名はリチャード!ノルマンディーの君主にしてイングランドの王、『獅子心王』の呼び名でも知られている英霊だ」

 

 

『獅子心王…!ライオンハートのリチャードか!そりゃ凄い訳だ!』

 

 サーヴァントの知識が豊富なロマン、マシュはもちろん立香や上条も授業で聞き覚えのあるその名に驚愕する。

 

「とはいえ今回の俺は王しての立場は少し控えさせてもらうつもりでね。ただのしがないサーヴァント一匹と思ってもらっていい」

 

 両肩を竦めるような動きをするセイバーだが、立香はその両手に持つ荷物に気づいた。やけにボロボロだが、袋が機能しているところを見ると中身もおそらく無事だろう。

 

「あぁ、これか?戦闘の余波で何着か使い物にならなくなったがそれでも無事なのもあるからな。決して裕福とは言えないマスターの元に召喚されたからには、使えるものはなんでもだ」

 

「…ん?マスターってのがセイバー達の雇い主みたいなもんなら、つまりセイバーの言ってた妹は…」

 

「あぁ、俺のマスターだ。トウマを巻き込むまいと隠していたが、それも無駄になってしまったな」

 

 頬をかき苦笑いを浮かべながらそのように話すセイバー。しかし、マスターのことを話す彼はどこか楽しげで、既に幾らかの信頼関係を築いていることがうかがえた。

 

「共に行動するということはできないが、俺のマスターは信頼における人物だ。それはこのセイバーが身を持って保証しよう」

 

 セイバーは凛々しい瞳でこちらを見ながら、宣言する。紛れもなく王としてのカリスマを放ちながら。

 

 

「そして俺のマスターを勝たせる。それが俺の今回の聖杯戦争にかける願いだ」

 

 

 

 

 

 

「やー、初知り顔が多いにゃー。遅かったじゃないか、皆の衆」

 

 語尾がにゃーの怪しい金髪サングラス男に遭遇。カルデアの警戒度MAX!

 

 

 マスターの元に帰るセイバーや学園都市滞在用のアジトへ移ると言うステイルと別れた後、残ったカルデアの3人は上条とインデックス案内の元、ひとまず彼らが住む学生寮まで同行した。サーヴァントと再び遭遇しないとも限らないので、2人の護衛も兼ねての同行だったのだが。

 

「土御門?何してんだよこんな時間に」

 

「仕事相手の出迎えのつもりだったんだけどな。ていうか、カミやんはこっちから巻き込む前にもう関わってるとは、相変わらずの『不幸体質』だにゃー」

 

「…土御門?」

 

 最近聞いた名前に反応見せる立香。というか数時間前に電話で話した2人目の協力者、土御門元春その人だった。

 

「改めてよろしくだぜい『カルデア』のマスターさん。とりあえずあんた達の寝床は此処の寮母に話をつけて、空き部屋を2つほど貸してもらえることになった。好きに使ってくれ」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

「気にしないでくれにゃー。俺としても『必要悪の協会』としても、これから頼りにする協力者に恩を売っといて損はないからな」

 

 当面の住居が確保できただけでも、これからの生活は楽になるだろう。土御門に礼を言い、上条にも改めて頭を下げる。

 

「今日はありがとう、上条さん。俺達だけじゃ危ない場面はいくらでもあった、助かったのはセイバーやステイルさん、それに貴方のおかげだ」

 

「いいっていいって、俺は俺のやりたいようにやっただけだしな。あと、さん付けってのもむず痒いし呼び捨てでいいよ」

 

「じゃあ改めて。俺は藤丸立香、よろしく上条」

 

「おう、よろしくな藤丸」

 

 親しげにお互いを呼び合う2人を見て、マシュはこう思う。普通の、年相応のやりとりや友人。カルデアに来る前は当たり前だった藤丸立香の日常はこのようなものだったのだと実感する。

 

(その日常が少しでも早く取り戻せるように私は…)

 

  藤丸立香の盾になる。

 強い決意を胸に抱き、マシュはそう自分に言い聞かせた。

 

「とりあえずもう遅いし俺は自分の部屋に帰るとするかにゃー、舞夏お手製の特別カレーが俺を待ってるんだぜい!」

 

「ご飯…!」

 

 土御門のその言葉に、これまで静かだったインデックスがピョン!と跳ね、上条の肩がビクッ‼︎と震える。

 

「そうなんだよとうま!ご飯だよご飯お腹ぺこぺこなんだよ私は!」

 

「えーと…そのインデックスさん?実はですね、上条さんも気をつけてはいたんですけどね?」

 

「?」

 

 引きつった笑みを浮かべる上条に疑問の眼差しを向けるインデックス。そして気づいた。ここまで誰も指摘しなかったが、上条の持つ買い物袋らしきものの中身の何かが潰れたような染みが付いていることに。

 

「いやあの、セイバーの服なんかが無事だったからこっちも大丈夫かなぁって思ったんですけどね、どうやら向こうほど頑丈な中身じゃなかったぽくて」

 

「……」

 

「中の卵やら牛乳やらが潰れてほかの食材も浸されて使える状態じゃなくてですねその」

 

「……」

 

「で、でも非常用に買った缶詰が2つくらいあるから全くダメって訳じゃなくてだな!それも穴空いたやつとかあったけど大丈夫食べれる食べれる!」

 

「…とうま」

 

 

 

「遺言はそれだけ?」

 

「優しくしてほしいでごんす」

 

 

 

 ガッブゥウウッ‼︎という鋭い音と共に。

 夜の学生寮に絶叫が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「痛そうだったなぁあれ」

 

 あの後は確か、上条の部屋に行ったら猫に咥えられた女の子の人形に上条が絶叫したり、冷蔵庫の余り物と缶詰だけで作った絶品料理をインデックスに振る舞うエミヤだったりといろいろ見た気がする。

 

「上条さん達への事情説明は昨日済ませましたが、先輩はどう思っていますか?」

 

「うん…やっぱり上条にはこれ以上迷惑はかけられない」

 

 会ってそれほど経っていないが、立香もマシュも彼の人となりを理解したつもりだった。上条当麻は良い人だ。そんな彼をいくら何でもこちらの事情に積極的に巻き込ませようとは思っていない。サーヴァントとの戦いはいくら凄腕の魔術師でも命を落としかけない危険があるのだ。ただの高校生の彼にそれを強いるのはやはり酷なことだ。

 

「けど、そもそも現状こちらの戦力が不足しているのは事実です。今回はまだ聖杯戦争に参加しているサーヴァントとしか遭遇していませんが、どの方も凄まじい強さです」

 

 昨日出会った3人のサーヴァントを頭に思い浮かべる。セイバー、ランサー、そしてバーサーカー。どのサーヴァントも一騎当千と評してもおかしくない実力者ばかりだった。守りの要のマシュとアーチャーのエミヤだけでは1人相手ならともかく、昨日のような多人数を相手にすると厳しいだろう。

 

「結局リチャードさんも協力体制に首を振ってはくれませんでした。今までの特異点のように現地に召喚されたサーヴァントの方達を頼る、という選択肢もありますが」

 

「まだ誰とも会えてない現状、そっちばかりをあてには出来ないよな…」

 

 それに昨日感じた予感、前兆めいたものも気になる。確信はないし杞憂だと思うが、どうも後ろ髪を引かれる感じだ。

 

「なら取る策は1つかと」

 

「?」

 

「聖杯戦争に参加している残りのサーヴァント、ライダー、アサシン、アーチャー、キャスターの誰かと手を結ぶんです」

 

 マシュからされた提案は確かに現実的なものだった。レイシフトをそう何度も繰り返しは出来ないのでカルデアからの戦力補強も難しいだろうと考えていたそれはここからの戦いを切り抜ける上でも必要なものだ。

 

「協力の候補は搦め手が得意なアサシンやキャスターではなく、機動力に長けたライダーか三騎士で能力ランクの高いアーチャーが妥当かと」

 

「エミヤがうちにいるのも考えると、やっぱり一番はライダーかな」

 

 方針をマシュと2人で決めていると、ドンドンドン!と部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。そしてドアを開けるとそこには何やら焦った様子の土御門元春がいた。

 

「おい、カミやんが何処へ行ったか知らないか?」

 

「?上条さんなら朝から補習に行くと」

 

「ちくしょう、やっぱりか!」

 

「あのどうかし…」

 

「ないんだよ」

 

 この時、立香とマシュは自分達はとんでもない思い違いをしていたのだと気付かされる。

 

「今日は休校だ、補習なんてないんだよ」

 

 上条当麻はどれだけ危険でも、人のために動くのに何の躊躇もない善人だということに。

 

 

「あの馬鹿、1人で一方通行の奴を探しに行きやがった!」

 

 

 

 

そして。

 

 

「滝壺ー、ちょっと出かけてくるわ」

 

「?どうしたのはまづら。さっきの電話?」

 

「あぁ、ちょっとな。スキルアウト時代のツレと会ってくるだけだから心配すんな。帰ったら今日の埋め合わせはするからさ」

 

「うーん、わかった」

 

「悪りぃな、そんじゃ出るわ」

 

「はまづら」

 

「?どした?」

 

「いってらっしゃい」

 

「…おう、行ってくる」

 

 

 動く。

 

 

 

「ではしばらくランサーを借りるよクロエ」

 

「言っとくけど、こっちが困ったら容赦なく令呪使って呼ぶからね」

 

「ああ、そこまでの事態になれば、こちらも困るからね。好きにするといい」

 

「心配ない、すぐ駆けつけるマスター」

 

「…まぁ、それならいいけど。じゃあ私はしばらく留守にするから」

 

「ていうかお前はどこ行く気だよ」

 

「観光よ観光、まだこの街をゆっくり見れてないからね。まぁ、退屈じゃないといいけど」

 

 

 動く。

 

 

 

「いかがでしょうか、介旅様。こちらの商品は」

 

「ははっ、いいじゃないか!これで僕のアサシンはより強くなるってことだろ」

 

「はい、それはもちろん。こちらのカード数枚はサービスとしてプレゼントさせていただきます」

 

「気が利くじゃないか。でもどうして僕だけにこんなことを?」

 

「簡単なことです。この聖杯戦争の勝者の資質をもつ貴方ならばきっとこのカードを有用に使っていただけるだろうという私の考えでして」

 

「へぇ見る目あるじゃないか!当然だろ、この僕が優勝に決まってる!」

 

「その自信、大いに結構!私も投資した甲斐があるというもの」

 

 

 

「是非ともこのエインズワースをご贔屓に」

 

 

 

 それぞれの思惑を胸に。

 彼らもまた動き出す。




学園都市の聖杯戦争
セイバー:リチャード
アーチャー:未召喚
ランサー:カルナ
ライダー:不明
キャスター:不明
アサシン:不明
バーサーカー :不明


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第八話・動く者達

遅くなってすいません。リアルで忙しいのと新作を書こうと悩んでたら気づけばひと月近く。これからも遅くなると思いますがどうかご容赦ください。あと新作も近々出すんで目を通していただけたら。


(ドコダ、ココ…ハ?)

 

 目覚めた時、彼には自分というものがなかった。

 

 此度の現界において彼には必要ななにかが悉く欠如していた。

 

 知性も、感情も、知識も、身体も、精神も。何もかもが彼には足りなかった。

 

 あったものは僅か。仮初めの肉体と吹き荒れるような狂気、少しの理性。そしてそれすらも覆う彼を彼足らしめる本能。ギリギリの、糸一本で繋がっているような状態で彼は此処に存在しているのだ。いつ切れるか分からない、そんな状態で。

 

「……」

 

 兎にも角にも、現状それがバーサーカーを構成する全てだ。

 

 

 昨日の戦闘でセイバーの宝具によって、決して浅くはない傷を負わされた彼は、その激闘の痕を感じさせないような素振りでビルの屋上に立っていた。

 

 否、感じさせないような、ではない。本当に傷1つないのだ。

 

 衣服の隙間から確認できる箇所は透き通るような白い肌が見えるのみで切り傷や痣などは見当たらない。依り代の肉体の自己修復か、バーサーカー本人の能力か、或いは別の力か。いづれにせよ、彼の肉体はその身に受けた数多の傷を一晩で治してしまった。

 

「……」

 

 昨日の戦いの中で携えていた翼も今はない。暴走もなりを潜め、今では街並みに溶け込めそうなほど馴染んでいる。だが、地上を見下ろすその眼には、自身の依り代としている人間以上に苛烈な光を宿している。

 

 その時だった。

 唐突に彼の首元に痺れるような小さな衝撃が走った。

 

 原因はバーサーカー、厳密にはその依り代が付けている首元の小さな機械だった。なんらかの信号を受け取ったのか、バーサーカーは依り代の持つ能力を使いその信号を起こした電波を追うように視線を向ける。

 

(ミツ…ケタ)

 

 そして彼は尋常ならざるその目を持って見た。

 

 

 自分の視界の遥か先、赤い紅い令呪を持った人物を。

 

 

 彼は再び街に繰り出す。自分に足りない何か、それを埋めるかのように。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 偶然、本当に偶然だったのだ。浜面仕上がこの事件に関わったのは。

 

 

 久しぶりにスキルアウトの仲間達に電話をかけたところ、1人、また2人と軒並み連絡が取れなかった。漸く繋がった半蔵という男の電話も本人が出たわけではなかった。

 

「あっ、浜面氏!よかった無事だったんですね!」

 

 無事、というその口振りにかつての自分の居場所がよくない事態に巻き込まれているのをなんとなく察した。そして電話口の郭に事情を聞いているうちにその勘が当たっていたことに気付かされた。

 

「いってらっしゃいはまづら」

 

「…おう、行ってくる」

 

 決して悟らせないように、巻き込まないように浜面仕上は家を出た。かつての居場所、そして今の居場所を守るために。

 

 

 

「で、ノコノコ来ちまったって訳か」

 

 郭から聞いた病院の病室に半蔵を見舞いに行ったら、いきなりそんなことを言われた。もっとありがたがれこの野郎と思ったが、浜面に情報を与えた郭の方を睨みつけているのをみると半蔵としても巻き込むつもりはなかったらしい。

 

「で、お前がそこまでボロボロなんてなにがあったんだよ」

 

「…どうせここで突っ撥ねても首突っ込むんだろうなお前は」

 

 観念したように半蔵は喋り出した。

 

「最近第七学区周辺で通り魔的にいろんな奴が襲われてるの知ってるか?」

 

「いや、知らねぇけど…学園都市じゃ珍しいことでもないだろ」

 

「あぁ。だが、能力者狩りなんかやってた俺たちが言えた義理でもねぇが今回のそれは異常だ」

 

 カーテン越しに区切られたとなりの患者の方を指差し、

 

「俺は比較的マシな方だけど、そっちの奴は顔の皮膚なんかが剥がされて、腕も二度と動かないレベルで壊されたらしい」

 

「…⁉︎」

 

「他にも再起不能レベルでやられた奴もいれば、命を落とした奴もいるらしい。俺も目撃した訳じゃないが、お前が電話して出なかった奴はやられていると考えて間違いない」

 

 もっとも命さえあればここの医者なら治せると思うがな、という言葉に浜面は反応することができなかった。想像を超える出来事に怒りを覚える。仲間を傷つけられたことにどうしようもない憤りが腹の底から煮えている感覚だ。

 

「浜面、忠告しておくぞ」

 

「なんだよ?」

 

「お前には帰る場所があるんだ。関わるにしても自分の身が無事な範囲にしろよ」

 

 自分もボロボロなのにそんな言葉をかける友に浜面は安心する。そして強く思う。スキルアウトも決して忘れることはない自分の一部なのだと。

 

「おう、無茶はしねぇ。安心しろ」

 

「どうだか。…浜面、郭が持ってる俺のスマホの写真見てみろ」

 

「写真?」

 

 差し出された端末を見ると、その画面は真っ赤に染まっていた。しかし、よく見るとそれは血濡れの男が路上で倒れている写真だった。

 

「その写真を見て、なんか思うことはないか?」

 

「いや、悪趣味だなお前としか…」

 

「好きで撮ったわけじゃねぇよ!そうじゃなくて、その傷痕だよ」

 

 言われてみれば、確かに違和感がある。写真の男の傷口は学園都市特有の能力による被害ではないように見える。どちらかといえば大きな切り傷や刺し傷なんかが目立つ。

 

「学園都市の能力者ならまず自分の能力を使う。無能力者なんかでも精々持ってるのはバットや鉄パイプなんかの喧嘩の道具だ。まずこんな傷をつける代物なんてこの街の人間じゃ持ってる奴はそういない」

 

 確かに、と浜面も思う。学園都市の暗部の人間ならば揃えられるかもしれないが、そもそも街の人間を手当たり次第に狩っていく理由も分からない。

 

(そもそもどんな理由であれこんな写真を撮られるってことは暗部の人間じゃない。連中は非道だがここまでおざなりに証拠を残すなんてことはしない。意図的にしたってあからさま過ぎる)

 

「ってことは『外』の人間か?」

 

「確証はねぇけどな。でも一番可能性があるのはそこだろ」

 

 『外』の人間。そのワードを口にした時浜面の脳裏にはある人種が浮かんでいた。

 

 魔術師。自分達科学サイドとは違う、異能の力を扱う存在。

 

 浜面としても魔術師なんて連中と出くわしたことはそれほど多くない。しかしその誰もが強力な力を持った奴ということも知っていた。レイヴァニア=バードウェイ、『グレムリン』、そしてサンジェルマン。内2人は学園都市内で会っているということもあり、可能性としてはゼロではないだろう。

 

(けどそれだとますます分からねぇな。学園都市の人間を殺してまわる理由ってやつが)

 

「とりあえず分かってのはこんぐらいだが、参考になったか?」

 

「おう、じゃあ俺は行くよ。お前は安静にしてろよ。郭ちゃんもしっかり見張っててくれ」

 

「もちろんです浜面氏」

 

 ひとまず頭の中で情報をまとめ、現場に向かってみることにする。分かったことは少ないが、街中の監視カメラに入れるアネリに頼めば走り回って探すより確実な情報も手に入るだろう。病室のドアに手をかけ部屋を出る。その最中、浜面は無意識のうちにあの動画を思い出した。

 

(聖杯戦争…戦争ね)

 

 何故今思い出したかは分からなかった。しかし不思議な予感を胸に抱えながら、浜面仕上は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「うーん、めぼしいものはないなぁ」

 

 学園都市の観光に出ていたクロエは街でショッピングを楽しんでいた。もっとも最初は珍しい学園都市限定の品々に目を輝かせていたのだが、それがじぶんの所持金では手の届かない物だと分かると肩を落とし渋々諦めるほかなかった。基本物価が高い学び舎の園から観光をはじめたクロエにも問題はあると思うが。

 

 仕方なく同じ第七学区内でも学生が多い中央エリアの方に足を運んだクロエは、街ブラの続きを楽しんでいたが、ここは先ほどの学び舎の園以上に学生が多いエリアなのでそういった店も少ないようだ。

 

(うーん、知らない街とはいえこうも上手くいかないとは。もしかして私街ブラ苦手?)

 

 頭を悩ませながら近くの公園のベンチに腰を落とし、街を歩く人々をぼんやりと眺める。みれば休日ということもあってか学生同士で遊んでいる若者や自分と年の近そうな子供も皆仲睦まじそうに遊んでいる。

 

(………いいなぁ)

 

 今の道を後悔しているわけではないが、ほんの少し心の中で本音を漏らす。

 

 クロエという少女は魔術師の家系の名門、アインツベルン家の嫡子として生まれ育った。その出生はやや複雑だが彼女は魔術師として生きるのに覚悟を決めている。しかし同時に、物心つく前から魔術の世界に身を置いているクロエはこのような日常に憧れがある。だからこそ目の前で繰り広げられるその光景が眩しく見えるのだ。

 

(でも、仕方ないかぁ)

 

 だが、血生臭い戦場をいくつも越えている彼女は決してその中に混ざることはないだろうとも考えている。今もその最たる例である聖杯戦争なんてものに参加している。この街の人間も巻き込んでしまうかもしれない、ましてや彼女はその戦争の主催者側だ。どの面下げて日常を謳歌しろと言うのだろう。

 

「おーい嬢ちゃん。どしたそんな落ち込んで」

 

「?」

 

 顔を上げて自嘲気味に考えていると、話しかけられた。声をする方に顔を向けると、車に乗った恰幅の良い中年の男性が窓から顔を出してこちらを見ていた。どうやらクレープの移動販売車のようで甘い匂いが鼻をくすぐる。

 

「この俺の移動販売歴3ヶ月目突入のめでてー日に随分暗え顔してんな。なんかあったんか?」

 

「いやあんたの歴は知らないし。別に何でもないわ。それに1人のレディに声かけるもんじゃないわよ、ナンパかと思ったじゃない」

 

「ははは、こりゃ随分ませた嬢ちゃんだな。どうだ1つ食ってけや、サービスすっから」

 

 少々強引だなとも思ったが、気分を変えるいい機会だと思い買うことにする。そして財布を取り出そうとした時。

 

「ちょーと待ったぁあああ‼︎ってミサカはミサカは渾身のストップをかけてみたり!」

「あふぇ⁉︎」

 

 急に目の前にアホ毛の幼女が割り込んできた。

 

「ふっふっふ、間に合った間に合ったってミサカはミサカは安堵の気持ちを口に出してみたり。おっちゃんクレ」

「にゃああ!大体追いついたぞー‼︎」

 

 突然のことに呆然としていると、今度は金髪のお人形の幼女まで割り込んできた。みればアホ毛の幼女と知り合いらしく突っかかっている。

 

「ぬうう、おのれ追いつかれてしまったか!けど、順番はミサカの方が先だからこの勝負はミサカの勝ちだぞってミサ」

「にゃあ、大体注文がまだなら勝負は着いてない!」

「最後まで言わせろ!ってミサカはミサカは憤慨する!」

 

 両者睨み合いながら互いを牽制しているが、不思議と仲が悪いようには見えず、どちらかといえば息が合いそうな行動をとっている。しかし、クロエとしては割り込まれて少々不機嫌になりながら、それでも一応年下のようにみえる2人相手に余裕を持って対応する。

 

「え〜と。2人とも喧嘩してないでさ、仲良く順番に買えばいいじゃない。先に買っていいからさ」

 

「おぉ、こりゃうっかり抜かしてしまったことに気づかないとは、ごめんねお姉ちゃんってミサカはミサカは反省と共に謝罪の言葉を口にしてみたり」

 

「にゃあ、大体ごめん、あとありがとうお姉ちゃん!」

 

「ぐふっ!」

 

 お姉ちゃんという魅惑の響きに心が射抜かれふらつきながら、別にいいよと手を振り、先に買うよう促す。どれにしようかと2人仲良く迷いながら選ぶその光景は微笑ましい。

 

「決めたこれにするってミサカはミサカはメニューの中から指差してみたり!」

 

「にゃあ、私はこれ!」

 

「毎度ありー!」

 

 2人が買ったのを見届けてから、クロエもメニューの中から選ぶ。流石学園都市というべきか、オーソドックスなものからゲテモノと呼ばれるものまでよりどりみどりだった。ゲテモノに手をつける勇気がなかった彼女はとりあえずシンプルな苺味にした。

 

「へいよ、お待ち」

 

「ありがと。大きなお世話かもしれないけど、もうちょっとメニュー考えた方がいいわよ」

 

「こっちの方がこの街の人間には受けがいいんだよ、そんじゃー次もご贔屓に!」

 

 快活に笑いながら、車を走らせ去っていくクレープ屋の主人。クロエもその後ろ姿を見送り、そして先ほどまで座っていたベンチに腰をかけ直そうとすると。

 

「「お姉ちゃんお姉ちゃん!」」

 

「ぐっはぁ‼︎」

 

 振り向きざまに会心の一撃を喰らい、膝から崩れ落ちそうになる。なんとか直前で持ちこたえ顔を上げると先ほどの2人がこちらに近づいて、お互いのクレープをこちらに向けて差し出していた。

 

「「食べ比べして!」」

 

「えっ、なに…?」

 

 先ほどの仲睦まじい様子は消え、お互いが張り合うかのように相手のクレープを凝視している。

 

 

 話を聞けば、お互いがクレープを食べ進めているうちにどちらのクレープがより美味しいかというよくわからない話になり、その審査役に勝手に選ばれたらしい。了承すらしていないクロエは断ろうとも思ったが、2人ともこちらには耳を貸さず睨み合っている。

 

「にゃあ、大体ここのクレープの鉄板はマスカットカスタード味だと言っているだろう子供め‼︎」

「ふん馬鹿めチョコグレープ味の奥深さをしらないとはなとミサカはミサカはお子様相手に勝ち誇った顔をしてみたり!」

 

「「がるるるる…」」

 

「ねぇ、ちょっと…」

 

「「(大体)お姉ちゃんはどっち⁉︎(ってミサカはミサカは聞いてみる!)」」

 

 いや何故私に聞くのか、ていうか両方とも同じようなものじゃないのか、そもそもその組み合わせはいかがなものだろうか。

 頭の中でいろいろ考えているクロエだったが、最初に思ったことはこれだった。

 

(なーんか面倒くさいことに巻き込まれたなぁ、もう!)

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 見慣れない街並みを藤丸立香はひたすらに駆け回っていた。1人で無茶をしている友人、上条当麻を見つけるために。

 

 土御門からその話を聞いた後、カルデアにいるドクターやエミヤとも話し合いすぐに探しに行くことに決めた。というかほっとくなんて選択肢は最初からなかった。

 

 そして土御門先導の元、学園都市中を隈なく探していたのが、今は土御門とは別れ第七学区内に絞って探している。

 

『しかし、ここまで広いとなると、見つけるのは一苦労だぞ』

 

「分かってるけどそれでも探さないと…!」

 

 範囲を広く探すためにマシュやエミヤとも別行動を取り、今は立香1人で探しているがカルデアからの通信越しのロマンは弱気な声をあげる。

 

「あの、大丈夫かい?」

 

 そんな時、不意に声をかけられた。振り向くとメガネを掛けた青年が立香を呼んだようで疑問符を頭で浮かべる。

 

「はい、えっとどちら様ですか?」

「いやぁごめんごめん。ずいぶん焦った様子だったからちょっと気になってね。ようすをみるに人を探しているようだけど」

 

 どうやら親切心で声をかけてくれたようで、こちらもツンツン頭の少年を見てないか尋ねる。ちなみに声をかけられた瞬間、ロマンとの通信は怪しまれるといけないので切った。

 

「あぁ、彼ならさっき見たよ」

「本当ですか!」

 

 青年の話では自分と同じように誰かを血眼になりながら探してる様子だったそうだ。その話を聞きやはり彼が昨日会ったバーサーカーを探しているのだと確信する。

 

「それでどこにいったかわからないですか?」

「あぁ確かあっちの建物の方に入っていったよ」

 

 

 

 案内されたそこは工事現場のようでいくつものの鉄骨や石材が積まれておりなかなかの広さがある。そこの中央には高くそびえ立つビルがあり、入り口には侵入禁止のテープが貼られている。

 

「ここ…ですか?」

「そうだよ」

 

 人の気配を感じない雰囲気に少し疑問を抱くも、青年の言うことを信じ辺りを見て回る。

 

『立香君、本当にここなのかい?上条君どころか人1人いるかどうかも怪しいけど』

「いや、でも…」

 

 こっそりと通信で話しかけるロマンの言う通り、立香もない多少の疑念はあるが手がかりがここしかない以上探すしかあるまい。

 

「うーんここに来たと思ったんだけど、いないようだね」

「いやまだ諦めるわけには。建物の中も探してみます」

 

 案内してくれた青年も放っては置けないという理由で一緒に探してくれている。

 残るは建物の中だけなのでそちらに足を進めると不意に声をかけられた。

 

「そういえばその手の刺青はどうしたの?カッコいいね」

 

 …唐突だ、とすぐに思った。なんのことだ、とすぐに誤魔化すこともできただろう。しかし、そちらを振り向いた瞬間。

 

「実は僕も持ってるんだよ」

 

 

 手遅れなのを悟った。

 

 

 背中越しに、建物の中から刺すように強烈な気配が現れた。

 

『⁉︎サーヴァント反応!急に現れたぞ⁉︎立香君、急いで離れろ‼︎』

 

 ロマンの焦る声も、それを聞くまでもなく動かそうとした体も。全て遅かった。

 

 かろうじて動かせた頭で背後を見ると、大きな、そして()()()()()()巨人が大きな槍を横一閃に振り抜かんとしていた。

 そして、それを見たときには迫る槍は首に添えられて。

 

「やれ!アサシン!」

「……ッ‼︎」

 

 死を覚悟したその瞬間。

 

 

 頬を切り裂くような突風が突き抜け、巨腕をビルに叩きつけた。

 

 

「少しは考えなかったのかね?」

 

 突風の正体。

 それは、ビル壁に槍を持った巨腕を巻き込む形で深く突き刺さった一本の剣だった。

 

「こんな右も左も分からない地でマスター1人で放り出すわけないだろう」

 

 それを放ったのは立香や巨人の視線の先、眼鏡の青年の背後数メートル。

 赤い外套を身に纏う弓兵だった。

 

「しかし今回の聖杯戦争、まさか貴様がアサシンとはな」

 

 冗長に喋る彼に対し、背中越しの巨人は何も言わない。

 

 

 

 

「なぁ、呂布奉先?」

「………」

 

 

 

 

 ただしその顔は獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 聖杯戦争、第二の幕が挙がる。




学園都市の聖杯戦争
セイバー:リチャード
アーチャー:未召喚
ランサー:カルナ
ライダー:不明
キャスター:不明
アサシン:呂布奉先
バーサーカー :不明


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