雪銀の吸血鬼 (ぱる@鏡崎潤泉)
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序章 雪銀の吸血鬼

記憶のまどろみ

 

 

 人の血で塗られたかと思いたくなるほど紅い館、紅魔館。

 

 その館の主であり、<堅牢な老将>と言う二つ名を持つ当主ヴラド・スカーレット伯爵彼には三人の娘がいた。

 

 

 

1502年生まれの長女、レミリア・スカーレット

 

1505年生まれの次女、アルジェント・ネーヴェ・スカーレット

 

1507年生まれの三女、フランドール・スカーレット

 

 

 

 西暦1505年

 

 ネーヴェ・スカーレットが誕生する。

 

 

 

 子供部屋の中にポツンとおいてあるベビーベッド、レミリアがその中を覗くと中では幸せそうにスヤスヤと眠るかわいい妹の寝顔があった。

 

 

 

「ネーヴェは本当に可愛いわね~♪」

 

 そんなことを顔をニコニコさせながら妹のほっぺたを突っつくレミリア。

 

 その時子供部屋の戸が開く音がする。

 

「アルジェは元気か、レミリア」

 

「この子はネーヴェよお父様」

 

 アルジェと言う名前を聞いてむっとした顔になるレミリア。

 

「いいやアルジェントの方がいい!」

 

「ネーヴェよ!」

 

 今までほっぺたを突っつかれた上に自分の名前で喧嘩される当の本人は泣き出し始める。

 

 

 

 西暦1507年

 

 フランドール・スカーレットが生まれる。

 

 

 

「アリーチェがいいわ!」

 

「いいや、ジャンヌだ!」

 

 妹の様子を見に子供部屋に来れば大体五回に一回は聞こえてくる言い争いがまた聞こえてきたためため息をつきながら戸を開ける。

 

「二人ともまた争っているんですか?」

 

「「だってお父様(レミィ)が!」」

 

「だってじゃないでしょう?」

 

 怒った雰囲気を出してみる。

 

「「すいまっせんした!!」」

 

「全く、本当に親子でそっくりですね」

 

「「似てない!」」

 

 そういうところがそっくりなんですがね~

 

「あぁ、あとその子の名前はフランドールに決定いたしました」

 

「「いったい誰が!」」

 

「お母様です」

 

 唖然としている二人は放っておきベッドで眠っている妹を眺める。

 

「妹とはこんなにもかわいいものなのですね♪」

 

 こんな毎日がずっと続けばいいのにな。

 

 

 

 

 

 

 

1517年

 

人間の襲撃

 

ヴラド・スカーレット卿死亡

 

 

 

 去年姉と妹が能力を発現させた。

 

 姉は運命は操り妹はすべてを破壊できる、しかし私は能力を発現させることは今のところできなかった。

 

「大丈夫よネーヴェ、能力なんてすぐに扱えるようになるわよ」

 

「お姉さまなら絶対に出来るわ!」

 

 この二人の励ましを聞けば明日も頑張ろうと思える。

 

 しかし良くも悪くもこの日中に私は能力に覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「吸血鬼は昼は眠る」子供でも知っているような当たり前の情報(昼間に耐性のある吸血鬼もいる)しかしこれも立派な吸血鬼の弱点でもある。

 

 

 

 姉や妹に励まされあと棺桶で寝ていたのだが外から変なもの音がして私は目を覚ます。

 

 棺桶の蓋を開けるとそこには血で汚れている姉と妹や満身創痍のお父様そして足から灰になっていくお母様が目にはいる。

 

「ど、どういうことですか?」

 

 現状が飲み込めないため周りに答えを求める。

 

 

 

「やっと起きたのネーヴェ?実はもう死んでるんじゃないかって思っていたわ」

 

「お寝坊さんなのは緊急事態でも同じなの?お姉さま」

 

 

 

 姉妹の呆れの言葉に含まれている緊急事態と思われるセリフから大分ヤバイ状況だと理解する。

 

 

 

「どうしてこんなことに?」

 

 素朴な疑問というよりは嘆きに近い言葉が自らの口からこぼれでる。

 

「さぁな、そんなことよりアルジェそろそろここもヤバイようだから臨戦体勢に移れ」

 

 普段とは全く違うお父様の言葉で自分達がこの部屋に追い詰められていることを知る。

 

 

 

 

 

 そして棺桶から飛び出し臨戦体勢に移ったと同時に部屋の扉が開かれる。

 

 部屋に入ってきたのは約三十人、普通なら妖精にあうことですら命の危険がある者達だが、対吸血鬼装備に身を包み此方の心臓を狙っている。

 

「やつらは四人!それも満身創痍の大人と餓鬼だけだ!」

 

 

 

 慢心していた一人の人間が弾け飛ぶ、恐らくフランだろう。

 

 さらにそのとなりの人間が魔力でできた槍に身を貫かれ死んだ。

 

 その後ろはお父様に、そのまた後ろは私が殺す。

 

 しかしいつまでたっても相手は減らない。

 

 

 

「死ね、糞餓鬼!」

 

「しまっ!?」

 

 後ろからの声に振り向くとそこにあったのは信じがたい光景だった。

 

 最早物言わぬ肉塊と少しずつ灰になっていくお父様が倒れていたのだから。

 

 

 

『父親が死んだ』この時三人の反応は別々だった。

 

 一人は怒り、一人は哀しみ、一人は狂う。

 

 

 

「許さない、お父様を殺したお前たちを絶対に殺してやる」

 

「うそ・・・嘘よ!なんで死んじゃうの!」

 

「モウスベテコワシテモイイヨネ?」

 

 

 

 しかし反応は別々でも行動は同じだった。

 

「「「お父様を殺したお前たちを消してやる」」」

 

 

 

 レミリアは怒りに任せながら魔槍を振り回す。

 

 フランは愉悦の笑みをこぼしながら周りに血の海を作り出していく。

 

 そして私は能力を覚醒させた。

 

 

 

『吸血鬼の力を使いこなす程度の能力』

 

 程度の能力を持つ妖怪の能力は大まかに分けて二通りある。

 

『その妖怪本来の能力』と『その妖怪本来の能力とは関係のない能力』である。

 

 

 

 アルジェント・ネーヴェ・スカーレットの能力は典型的な前者であった。

 

 しかしその力とても強大であった。

 

 

 

 哀しみのなか振るう力は部屋を凍り付かせ血の海を操りどんどん人間を飲み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 ネーヴェが気付いたときには部屋のすべてが凍りつき人間は生きている者なんかいなかった。

 

 

 

 

 

「起きたの?」

 

「どのくらい寝てました?」

 

「大体3日くらいだったと思うよお姉さま」

 

「結構寝てましたね」

 

 

 

 

 

 

 

次は幻想郷

 

 

 

 

哀しみの雪銀

 

 過去の事についての夢から目を覚ますと、目の前には親の顔より見た顔があった。

 

「あぁ、お姉さまおはようございます。今回はどのくらい寝てましたかね?」

 

「たっぷり二日間よ。貴女の睡眠スキルはもうキャパオーバー何てものないのかしら?」

 

 

 

 妹の素朴な疑問への答えにたいして皮肉を幾つもくれる姉は少々ひどいと思う。

 

 しかしフランが二日間も寝ていたらわたしも皮肉を返したくなるかもしれない。

 

 

 

「そんなことより面白い話があるわ」

 

「お姉さまの面白い話って言うとき大体ひどい目に遭うからパスです」

 

「さすがにそれは酷いわよ!」

 

「前にやったハロウィンのサバト、片付けたの誰でしたっけ?」

 

「その節は大変お世話になりました」

 

 私が眠る3日ほど前その日は丁度ハロウィンで何となくでパーティーを開くことになったのけど、片付けの時には主催者はめんどくさがって寝るわフランの乱入があるわですごく大変だった。

 

 

 

「まぁ、その事はもういいですが、今度はどんな騒ぎを起こすつもりですか?」

 

「ふふふっ♪それわね、引っ越しよ!」

 

 この時のお姉さまの顔はとてもウザったいドヤ顔だった。

 

「そうですか、じゃあ私は寝るのでベッドごと動かして下さいね」

 

「館ごと引っ越すから問題ないわ」

 

 館ごと引っ越すという言葉を聞いて紅魔館に居るものでそんな大規模な魔法が使える者がいたのか思い出す。

 

 しかしその事は顔に出ていたようでお姉さまが忘れてたとばかりに私の知らない情報を告げる。

 

 

 

「あなたが寝ている間に一人の魔女がこの館に来たのよ。ここにはすごい数の本があるって聞いたから住まわせてくれってね」

 

「私が寝てる間にそんなことが起きてたんですね」

 

「なんでそんなに寝るの?梅雨の時期は梅雨明けまで起きてこないし」

 

「んーと・・・気持ちがいいからですね」

 

 眠くなったから寝るという理由以外は特に理由はない。

 

「お姉ちゃんは貴女の教育を間違った気がしてならないわ」

 

「そうなんでしょうね」

 

 取り敢えず肯定をしておく。

 

 

 

 

 

「じゃあお姉さま、ちょっと図書館行って来ますね」

 

「パチェによろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

【地下大図書館B2】

 

 久しぶりに図書館に来ると前に来たときよりも蔵書の数がとても増えていた。

 

 大体の本棚には本が大量につまっており新しい本を入れる隙間もない、入れられず散乱した本は床に平積みになっている。

 

 

 

「こんなに大量の本がいつの間に・・・」

 

 サバトの片付けの時に立ち寄った時とはだいぶ違う図書館の景色に圧倒されていると不意に後ろから声をかけられる。

 

「貴女は侵入者ということでいいのかしら?」

 

 声の主を確かめようと後ろを振り向くとそこには、紫色の寝巻きのようなユルい服を着た少女がたっていた。

 

「私は侵入者じゃないです。私の名前はアルジェント・ネーヴェ・スカーレット、レミリアお姉さまの妹です」

 

「レミィの妹は一人だけじゃないの?」

 

 お姉さまは私のことをどう説明したのだろうか?

 

「いえ、何時も寝ているだけでちゃんともう一人いるんですよ!」

 

 凄く哀れみを込めた目でパチェ?がこちらを見る。

 

 

 

「なんで信じてくれないんですかパチェさん!」

 

「私の名前はパチュリーよ」

 

 お姉さまは後でお仕置きするべきだと思う。

 

「信じられないならメイドを呼んで確かめればいいんじゃないですか?」

 

「それもそうね」

 

 そう言って何処からか小さいベルを取り出すパチュリー。

 

 

 

 チリンチリン♪と遠くまで響くベルの音がなった瞬間に現れる、私と同じ銀髪のメイド。

 

「お呼びでしょうかパチュリー様?」

 

「えぇ咲夜、この少女が自分はレミィの妹だと主張しているのだけど本当のことなの?」

 

 この少女とこちらを指差すパチュリーに言われこちらを向く咲夜。

 

「あら、おはようございますネーヴェ様」

 

 少し驚いた顔を一瞬見せながらも、挨拶をしてくる咲夜。

 

「おはようございます、咲夜」

 

 そんな光景を見ていたパチュリーはやっと私が本当にお姉さまの妹だと信じてくれたようだ。

 

 

 

「レミィって妹が一人いるとか言って無かったかしら?」

 

「普段生きている妹ってことではないでしょうか?」

 

「待ってください咲夜、それでは私が普段死んでいるようではないですか!」

 

 確かに何時も寝てはいるが死んでいるわけではない為本当にそれが理由ならお姉さまを再教育しないといけなくなる。

 

「まぁ、どっちにしても本当は二人居るんでしょ?」

 

「私にとってはそのどっちにしてもが一番問題があるんですが」

 

「用がすんだなら私は仕事に戻りますね」

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館はマイペースな人たちが集まる傾向があるようです。

 

 

 

私の存在を知らない人がいる悲しきことこの上なしにして(byA,N,S)

 

 

 

 

 

起きたらそこは戦場でした

 

 パチュリーと知り合って三日後私は再び眠りについた。

 

 姉には取り敢えず大体このぐらいに起きるという目安を伝えておく。

 

 初めて三日以上ぶっ通しで寝続け起きたときにとても怒られたので、その時から大体の目安を伝えるようにしている。

 

 

 

 次に起きたときには引っ越しが完了しているらしいが一体どんな辺境なのだろうか?

 

「さて、どんな夢が見れるのでしょうかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目を開けるとそこは白い世界だった。

 

 一瞬現実かなと思えたが、直感的にこれが夢だと悟る。

 

 所謂明晰夢と言うものであろう。

 

 

 

 そんなことを考えていると、足元を機転として回りにすごく見覚えのある景色が広がる。

 

 

 

 何度も何度も繰り返し見続けたあの日の記憶。

 

 そして何度も変われと思った結末。

 

 あれからなにか変わっただろうか?

 

 

 

 答えはNOでありYESでもある。

 

 

 

 しかしこの夢を見るときは決まって面倒事になる。

 

 

 

 この夢は私の背負う十字架であり、能力を腐らせない為の道具。

 

 せめて、家族が死なないように頑張らなくてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネーヴェがそんな夢を見ていた頃、ネーヴェの部屋の戸が開く。

 

「ネーヴェ?」

 

 しかし部屋を見渡せど、自分の最愛の妹は見当たらずそこにあるのは白い棺桶だけだった。

 

「もう寝てしまったのね・・・」

 

 何となくでつい白い棺桶を触るレミリア。

 

 その瞬間頭に流れ込むあの日の記憶。

 

「なんであの日の記憶が?」

 

 

 

 レミリアの背筋に悪寒が走る。

 

 もしかしたら紅魔館の誰かが死ぬかもしれないと。

 

 

 

 丁度良くあの時の感情も思い出したのだから、絶対に阻止してやる。

 

 そう心の内に決めるレミリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして『あの日の記憶』は末の妹にまで伝播した。

 

 

 

 しかしフランは姉二人とは違い家族を守ると言う二人の感情から来る決意とは全く別の方向に進む決意をした。

 

 この戦争を最後まで楽しもうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔とある三つの感情についての考察:バティカン市国、最深部 悪意のある報告書群から〕

 

 

 

 感情とは不思議なものである。

 

 人や人ならざる者、獣に至るまですべての生物が持つものである。

 

 

 

 分けるとすれば『護る物』『追い求める物』である。

 

 

 

 さて、我が組織がとても手こずった三匹の吸血鬼が居る。

 

 この吸血鬼たちは、我が組織が扇動した襲撃によって親を失い、三つの感情を根本として力を派生させたと襲撃を遠目で監視していた組織の報告係がそう報告している。

 

 

 

 三匹の吸血鬼の感情は、長女は『憤怒』次女は『哀しみ』三女は『喜び』である。

 

 先述した『護る物』『追い求める物』で分けると、長女と次女は『護る物』三女だけが『追い求める物』である。

 

 

 

 怒りや哀しみは自らを護る自己防衛で結果であるが、喜びは自らの快楽を求めた結果であり、対策を講じるなら最も注意すべきは『喜び』である。

 

 

 

 自己防衛の哀しみや怒りは命乞いは通じる可能性はあるが、喜びは護るのではなく求めるため命乞いは良いスパイスとなってくれるだけであろう。

 

 

 

ローズ・マリア司教

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネーヴェが起きるまであと二日

 

 

「さぁ、パチェ!魔法陣を展開して!」

 

「そんなに大きい声出さなくてもちゃんと聞こえてるわよ」

 

「幻想郷か~・・・どんなところでしょうかね咲夜さん?」

 

「妖怪にとっての楽園らしいわよ美鈴」

 

 ネーヴェの眠った次の日に早速引っ越しを開始するレミリア。

 

 恐らくいつも寝ているネーヴェに自分の支配した楽園をすぐに見せてあげたいのだろう。

 

 

 

 

 

 この日を持って幻想郷住民から外の世界と呼ばれる世界から紅魔館は消滅する。

 

 

 

 ある組織は泣いて喜び、近隣の吸血鬼たちは寂しくなるなと哀しみ、過去に村を全滅にまで追い込んだ吸血鬼が勝ち逃げすることに怒りを表す村人。

 

 可笑しなことにこの三者の反応はスカーレット姉妹の根底の感情と同じだった

 

 

 

考察は私が考えた者です真に受けないでください

 

 

 

 

 

第一章 紅魔の侵略

撃って出た末路

 

アメリカにはロックスターになった吸血鬼がいるとか

 

 空を多い尽くす紅い霧、その霧により日光は遮られ吸血鬼にとっての弱点が一つ消える。

 

 そんな紅い霧の下で幻想郷中に宣戦布告して回るレミリア。

 

 そして紅魔館に布陣をしていくメンバー達。

 

 戦いの火蓋は今落とされた。

 

 

 

 

 

 幻想郷賢人会議

 

 幻想郷の賢者が集まりこれからの方針を決める会議を賢人会議と言う。

 

 今回の議題は、新しくやって来た新参者をどうするかだった。

 

 

 

「さて、皆様はあの新参者をどうしようと思いますか」

 

 賢人会議の議長とも言える立場の紫。

 

「吸血鬼など我らで滅ぼせばよいことではないか」

 

 損得勘定で自らの利益にしかのらない天魔。

 

「愚問ね、叩き潰せばいいのよ」

 

 基本的にやる気のない幽香。

 

「紫~おやつないの~?」

 

 マイペース過ぎる幽々子。

 

「吸血鬼ってどのくらい強いのかな?」

 

 常に強き者に喧嘩を売る萃香。

 

 

 

 

 

 しかし、全員吸血鬼を叩くのを拒否する者は居なかった。

 

 つまりこれは幻想郷の賢人と吸血鬼の全面戦争になると言うことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね。咲夜!」

 

「ハイ、お嬢様お呼びでしょうか?」

 

 呼ばれた瞬間に目の前に瞬時に現れる神出鬼没な咲夜。

 

「ネーヴェを安全な部屋に移しておいて」

 

「畏まりました」

 

 そう言って姿を消す咲夜、案外彼女をアサシンか何かにすれば有名になったのではないだろうか・・・

 

 

 

「さて、最高のパーティーといきましょうか」

 

 紅くそして瞬く間に燃え上がる憤怒の焔、今の彼女を止められるものは居るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

【紅魔館 門番詰所】

 

「本日は館に入れないんだよお嬢ちゃん」

 

 美鈴がしゃがみ目線を会わせながらお嬢ちゃんー萃香のことだが・・・ーに話しかける。

 

「今なんて言った?」

 

 萃香は自分が見下されていることに腹を立てながら聞き返す。

 

「だからね、今日は館にh「もういいよ面倒臭いけど手前をブッ殺してここ通るから」

 

 美鈴の言葉を最後まで聞かずに萃香はフルスイングで美鈴の顔面を殴る。

 

 

 

「うぉっと!?」

 

 しかし美鈴はその拳を間一髪でのけ反って避ける。

 

 

 

「チッ、外したか」

 

 不意打ちで仕掛けた自分の一撃をかわされ、まだまだ余裕がある美鈴を見ていると無性に向かっ腹が立つ萃香。

 

「危ないですね、当たったらどうするんですか?」

 

「本当にお前は私をイラつかせてくれるな」

 

「そんなに誉められると照れますね」

 

「ほざけッ!」

 

 拳を繰り出し脚を繰り出し相手の技を相殺しつつ自分の技を当てようとするが相手も同じ考えでなかなか相手に決まらない。

 

「それほどですか?」

 

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

 肉体をぶつけ合いただ殴られたら殴り返すを切り返す二人。

 

 最初の険悪なムードはどこえやら二人の周りにはボクシングや柔道などのスポーツのような充実感が漂い始める。

 

 

 

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」」

 

 拳脚拳拳脚拳と繰り返し相手に畳み掛ける。

 

 もはや自分の防御は頭のなかに無いようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憤怒の焔&哀しみの船

 

 吸血鬼は流水を越えることはできなくても浴びるのは何ともないのです。

 

 門の辺りで 殴り合いスポーツに興じる脳筋共は無かった事としておき、幻想郷の賢者たちは各々自由に散らばる。

 

 

 

 二人は地下に進み、一人はホールに留まり、一人は大将の首を探して練り歩く。

 

 

 

 地下に進むのは天狗と幽霊の二人、しかし幽霊は気になるものがあると二人は別れる。

 

 

 

「何だか同族の感じがするわ~」

 

 自分と同じ幽霊のような気配に惹かれて忍び込んだ部屋には純白の棺桶が一つだけポツンとおいてあった。

 

 

 

「なんて書いてあるのかしら?」

 

 大食いの幽霊・・・幽々子は純白の棺桶の表面に赤いインクか何かの筆記体で書かれた文字をゆったりと指でなぞる。

 

 

 

 純白の棺に書かれた筆記体は、白い花の咲き乱れる花畑のなかに血を浴びて育ったかのような紅い花がある映像を脳内に浮かび上がらせる。

 

 

 

「で、この中には誰がいるのかな~?」

 

 ここで幽々子は選択を間違ってしまったのだろう。

 

 この棺桶は、姉妹の感情を爆発させるトリガーを封じ込めていた【パンドラの匣】だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 棺の蓋を開けれて棺の中を見れば、中に居たのは腰まで届くような長い銀髪を体に巻き付かせながら眠るネーヴェだった。

 

 多少の寝返りはうつのか髪の毛が絡まっているが、その小ぶりな胸は上下はしていない。

 

 

 

 

 

 不意にまた寝返りをうったのか丸まって寝ていたのが、仰向けに変わる。

 

「お人形見たいね・・・お持ち帰りしましょうか・・・」

 

 余りの可愛さに幽々子がお持ち帰りをするかどうか悩んでいるときに目の前の少女が目を覚ます。

 

 

 

 開けられた棺桶の蓋、こちらを見ながら恍惚とした表情を見せる幽霊、そんな、どう考えても貞操の危機を感じるようなシチュエーションに出会い混乱するネーヴェ。

 

 

 

「えーっと、あなたは誰ですか?」

 

 初対面の相手に失礼のないように少し下手に出て様子を考える。

 

「ん?私?私はね~幽々子よ~」

 

「そうですか幽々子さん、通報しますね~」

 

 

 

 取り敢えずという形で、いつも棺桶のそばにある呼び出し用の鈴が置いてあるキャビンの上に手を置くが、その伸ばした手は中空を薙ぐ。

 

「あれ?」

 

 そのキャビンのあった方向に顔を向けるとそこは見慣れた自分の部屋ではなく、見しらなぬお客さん用の応接間。

 

 

 

「ここはどこでしょう?」

 

「知らないわ」

 

 

 

 紅魔館は咲夜の能力乱用により実際の見た目の四、五倍は大きい。

 

 

 

 そんな中を適当にフラフラと幽霊のような気配だけ求めて漂ってきた幽々子は、帰る道を知らず、ネーヴェは寝ている間に移動され、どの辺りにいるかも把握不可能。

 

 完全に迷ったのである。

 

 

 

 

 

相手が幽霊だろうと自衛はします

 

 結構間が空いたな(達観)

 

 

 

 目が覚めたら目の前に不審者(女性)がいました。

 

「不審者でいいんですよね?」

 

 

 

 私がそう確認すると自らを幽々子と名乗った幽霊は「えぇ、そうよ」と頷く。

 

 

 

 ここは紅魔館だとしても、元々紅魔館は広い為逃げても遭難する。

 

 それに目の前の幽霊は私のことが気配で追えるらしいのですぐに見つかる。

 

 ならばもう残っているのは自衛しかない。

 

 

 

「私、まだそう言うのは嫌なんで遠慮しますね」

 

「大丈夫よ優しくしてあげるわ」

 

 そう言って任せなさいと言うように巨大な胸をドンと叩く。

 

 そしてその振動で揺れる胸を見て、自らの胸を見る。

 

 

 

 幽々子のはプルーンッと揺れるのに自らの胸を見ればあるのは壁しかなかった。

 

 非常に妬ましい限りである。

 

 

 

「やっぱり自衛しかないですね」

 

「あら、お姉さんじゃいや?」

 

 

 

 

 

アルジェント・ネーヴェ・スカーレット

 

「私を本気にさせた哀しみを受け取りなさい」

 

VS

「私が勝ったら一緒に来てね♪」

西行寺 幽々子

 

 

 まずは棺桶から出ることが第一目標、この場で足を引っ掻けて転ぶのは死を意味する。

 

 相手の揺れる胸を切り落としてやりたいが絶対にしてはならない、そう本能が告げている。

 

 

 

「あら?攻めてこないの?」

 

 不思議な物を見るかのような目で私を見ながらそう問い掛けてくる。

 

 しかし、驚いているのは目だけで他は直ぐ様に体勢を整え直す。

 

 その行動は美しい舞のようにも見えた。

 

 

 

「来ないなら私から行くわよ!」

 

 幽霊が手に持った桜が描かれた扇子を振るう。

 

 ただそれだけで辺り一面に魂死蝶を発生させる。

 

「こんなのチートじゃないですか!?」

 

 一羽で大量の命を簡単に奪える蝶を部屋中にこれでもかと大量発生させて殺す物量作戦、考え方としては簡単だと言える。

 

 

 

 しかし、この作戦は意味がなかった。

 

「ふふふ♪やっぱり貴女死んでるんじゃない?」

 

 何故か蝶が身体に当たろうが止まろうが、死なないし死ぬ気配もない。

 

 

 

「何言ってるんですか私はこうして息をしているんですよ?」

 

 そう言いながらも冷や汗が顔をつたり雫となって落ちていく。

 

 もしかしたらの考えが余計に混乱中の正常な現状把握の考えを邪魔する。

 

「そうかしら?もしかしたら・・・なんてこともあると思うのだけど?」

 

 

 

 悪い考えという火に油を注ぐ様に耳に届けられる声は悪い方向へと思考が加速する。

 

 

 

 

 

 これは幽々子の策である。

 

 相手の気にしていることを突っつき刺激して相手を混乱させ、その隙をついて急所を突き殺す。

 

 今までも何回かしたことのあるやり方ではあるが、精神というのは一回ヒビが入れば直ぐに崩壊する。

 

 精神の方に重きを置く妖怪に対しては実に簡単な策であった。

 

 

 

 しかし、幽々子はこれを実行する相手を見誤った。

 

 

 

 アルジェント・ネーヴェ・スカーレットの精神を追い詰めるべきではなかった。

 

 

 

「そんなわけがない、私は生きている、というか死んでる場合じゃない・・・」

 

 ブツブツと呪詛のように呟かれる言葉。

 

 自己暗示にも聞こえるが、自己暗示では無理なところまで追い詰めて置いたので自己暗示は効かない。

 

 面倒だし後味も悪いので幽々子は自己暗示が効かないと告げようとしたが、あることに気づいた。

 

 

 

 アルジェント・ネーヴェ・スカーレットを中心に魔力が練り上げられていることに。

 

 気配を感じやすい魔力を薄く薄く練って気配を誤魔化し大量に貯める。

 

 

 

 並みの魔法使いや、魔族ならまずできもしない芸当である。

 

 

 

 当然気付けていなかった幽々子はネーヴェの射程圏内までに入ってしまった。

 

 不味いと思いバッと後ろに下がるが、下がった場所にも薄く練られた魔力が仕掛けてあった。

 

 

 

 突如幽々子を襲う足から這い上がってくる違和感。

 

 突然太ももから吹き出てくる血。

 

 この時幽々子は理解した、相手が何をしたのか。

 

 

 

「足を失うのは哀しい?」

 

 先程まで頭を抱え目を血走らせて自己暗示(?)をかけていたのが今ではうって変わって慈愛の目に変わり手を後ろで組んで身体を少し曲げ痛みを我慢し辛うじて立っている幽々子を下から覗き込む様にして話しかける。

 

 

 

「腕を失うのは哀しい?」

 

 その言葉とともに腕から垂れる血。

 

 

 

 しかし、幽々子にはどうすることもできない。

 

 原因も恐らく妖力と魔力との拒否反応だと言うところまでわかっている。

 

 だからこそ手出しができない。

 

 方法は拒否反応を起こすものを取っ払えばいい。

 

 しかし、妖力を取っ払えば自分は力を失う。

 

 かといって逃げても片足の怪我具合から見て逃げ切るのは不可能、飛ぶのにも妖力がいるので飛んで逃げることもできない。

 

 完璧に逃げ道が塞がっていた。

 

 

 

「参ったわ、降参よ降参」

 

 両手を上にあげて降伏する幽々子。

 

 

 

 しかし、もう片方の足も血が流れ始める。

 

「降参!もう私が全面的に悪かった!蝶もあれは偽造だから!」

 

 そう叫ぶと周りの魔力がスーッと霧散して消える。

 

 

 

「あれは本当に嘘なんですね?」

 

 最終確認の様に聞き返される質問。

 

「えぇ、本当に嘘よ」

 

 対象を殺すなと厳命した蝶をまとわりつかせ、相手を騙すトリックであるという説明を聞きホッとしたように絶壁を撫で下ろすネーヴェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、貴女はこの中入ってて貰えます?」

 

 説明も一段落したときネーヴェが棺桶に向かって指を指す。

 

「じゃあって貴女、私歩けないのだけど?」

 

 そう言った幽々子を見てネーヴェは仕方ないとでも言う風にため息をつきつつ幽々子を棺桶のなかに押し込め蓋を閉じる。

 

 

 

 するとなぜか蓋が閉じらた瞬間に意識が遠くなって行く幽々子。

 

 数秒後には意識は完全に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンク髪の幽霊を棺桶のなかに押し込め、棺桶の蓋を閉める。

 

 これで誰かが開けるまではこの幽霊は意識が無くなる。

 

 

 

 棺桶の名前は【白き護り籠】

 

 この棺桶は、私が何度も寝たせいか私の魔力を吸収して魔道具となった。

 

 能力は睡眠導入(気絶)と絶対防御(核すら防ぐ)である。

 

 なお、持ち主だけは指定した時間に自動で開く能力つきである。

 

 

 

 持ち主以外は誰かが開けるまでは永遠に閉まったままである。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あぁ~、フランの方は大丈夫そうなので、お姉さまのとこにいきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇアンタ、うちの妹達に何かした?」

 

 魔槍を片手でブンブン回しながら問いかけるレミリア。

 

「白銀の方には冥界の責任者が、狂喜の方にはフラワーマスターが行きましたがそれが?」

 

 対する紫は扇子を片手にスキマを開いて腰かける。

 

 

 

「なら、いいこと教えてあげるわ。ネーヴェが覚醒したわ」

 

 悪魔の笑いと言えばいいのか、そんな風に口角を吊り上げ笑うレミリア。

 

 

 

「そんな!?幽々子が負けるはずないわ!?」

 

 長年連れ添った友人の敗北に少々狼狽える紫。

 

 

 

「そのうち来るから分かるでしょうね、貴女の友人が負けたかどうか」

 

 クックックと紫の狼狽えた姿を嘲笑するレミリア。

 

 

 

 そしてひとしきり笑うと回していた槍を握りこんで宣言する。

 

「妹に姉としてカッコ悪い姿を見せるわけには行かないわ。さっさとケリを着けましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚め

 

『それは余りにも完全でそれ故不完全であった』

 

 魔力で具現化させた魔槍を構え、相手の出方を窺う。

 

 部屋には、はりつめた空気が充満し体感する温度を低くする。

 

 

 

 魔槍を構え窺う先に居るのは導師服を着た金髪の大妖怪。

 

 戦いに備えることもせず【スキマ】と呼ばれる不思議な空間の入り口に腰掛け口元に扇子を当ている。

 

 

 

 先に動いたのは私だった。

 

 

 

 ただ力を込め、全身に魔力を浸透させていく。

 

 一突き、一薙ぎ、一叩き、と連撃を叩き込む。

 

 一攻撃ごとに空気を薙ぎ払う音が聞こえ、槍にまとわりつく魔力が紅い線を空中に浮かび上がらせる。

 

 

 

 しかし、相手は妖怪の賢者である。

 

 一筋縄にはいくことがない。、

 

 

 

 いとも容易く避けられ、カウンターや反撃の一撃をくらう。

 

 

 

 ゴフッという音ともに口から溢れる血液。

 

 ビチャッという音ともに部屋の隅へ飛んでいく腕。

 

 

 

 カウンターを貰っては吸血鬼の再生能力を使って無理にでも再生させ我武者羅に突っ込む。

 

 危険きわまりない作戦だが、無尽蔵とも思える再生力がその作戦を決行可能にしている。

 

 

 

 

 

 そして遂に紫に槍が届く。

 

 紫の横腹の柔らかい肉に槍を突き刺す感覚が手に伝わってくる。

 

 

 

 しかし、紫も大妖怪なのである。

 

 再生能力もそれなりにあり、槍での一撃なんて意味の無いようなものだった。

 

 

 

 だが、レミリアの槍は普通の槍とは違った。

 

 

 

 傷を塞ごうといったん距離を取ろうとする紫、しかし、そこで違和感に気付く。

 

 

 

 傷口を中心に何だか熱い。

 

 肉を焦がす嫌な臭いが辺りに充満し始める。

 

 

 

 やがて傷口を中心とした熱さは明確な痛みになる。

 

「貴女何やったの?」

 

 傷口から全身に痛みが移っていくが気にせず疑問を尋ねる。

 

「えぇ、そうよ♪」

 

 そう言って恍惚とした表情で槍をくるくると回す。

 

「憤怒の焔はお嫌いかしら?」

 

 

 

 その言葉で紫は現在の自分の状態異常を治す対抗術式を組み上げた。

 

「受けてみられれば分かりますわ」

 

 そう言って自分の足元にスキマを開き、槍の追撃をかわしつつスキマ内で対抗術式を自分にかけ、吸血鬼の後ろに出る。

 

 

 

「どうですか?自分の技を相手に使われるのは?」

 

 そう言いながら吸血鬼の背中に手のひらを当て、解析した吸血鬼の術式をぶつけてやる。

 

「いや、まだ生温いな」

 

 しかし、吸血鬼は気にしないというふうに背後に立つ紫に向かって槍を振るう。

 

 紙一重でその一撃を回避し、スキマを使い相手の足首を切断する。

 

 そして畳み掛ける様に倒れた吸血鬼の四肢をスキマを使って切断する。

 

 

 

 しかし、それでも吸血鬼は復活する。

 

 四肢を再び生やし羽と魔力で後ろにいったん下がり槍を再生成する。

 

「こんなものか?」

 

 搦め手でしか勝負をしてこない紫を侮蔑するような眼差しで見つつ、止めの方法を頭の中で作り上げるレミリア。

 

 

 

 

 

 

 

「では、こういうのはどうでしょう?」

 

 そう言って紫はスキマを操りレミリアの腕や足を切断せず手足が抜けない様にする。

 

 それはさながら十字架に磔にされたイェス・キリストの様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無様ですね、吸血鬼」

 

 スキマに腰掛け溢される言葉は、口元に広げられた扇子の向こうにある口が嘲笑っていることがよくわかる。

 

 十字架に掛けられた吸血鬼とそれを見ながら愉悦に浸る権力者、その構図はキリストが磔にされた時と同じであった。

 

 しかし、これから行われる処刑の主役は吸血鬼ではなく権力者・・・そう、彼女がたどり着いたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さまに何をするきですか?」

 

 

 

 その言葉が聞こえ、急いで辺りを見渡す紫。

 

 しかし、声の主は見つからない。

 

「あ~あ、Time Overね」

 

 レミリアの溢す意味深な言葉にどういう意味かと問いただそうとしてレミリアを見ればレミリアの前に一人の少女がいた。

 

 

 

 腰まである長い銀髪、怒りにと哀しみに満ちた蒼い瞳。

 

 フリフリのドレスも伝わってくるのは可愛らしさではなく怖さ。

 

 

 

 そして何より紫が驚いたのは次女の方に向かわせた幽々子の霊力が完全に感じられなくなったことだった。

 

 

 

「貴女は何者?」

 

 そう声を振り絞るので精一杯だった。

 

「誇り高きスカーレット家の次女、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットです」

 

 堂々とした名乗りに気圧される紫。

 

 次第に紫の心の中にネーヴェへの畏れが貯まっていく。

 

 

 

「お姉さまをこんなにボロボロにしたのは貴女ですよね?」

 

 そんな紫の心の内を知ってか知らずかどんどん攻め立てるネーヴェ。

 

「えっ、えぇそうよ」

 

 そう頷くとネーヴェの目の光が消え、辺りに魔力が急激に貯まっていく。

 

 やがて辺りの空気はネーヴェを中心に凍りつき始め温度が下がっていく。

 

 

 

「なっ何が起こっているの!?」

 

 魔力を辺りに散らすだけでこんな災害になるはずがない、そうわかっているからこその驚き。

 

 人も妖怪も時として自分の理解を一瞬で凌駕するものには理解することを止めてしまうことがある、それが今の紫だった。

 

「貴女はうちの妹を完全に怒らせたのよ・・・人智を越えるほどの思いを受けてきなさい」

 

 

 

「能力パターン【フランシス・ヴァーニー】」

 

 そうネーヴェが言いはなった瞬間ネーヴェを中心に広がっていた凍てつく空気が消え、代わりにネーヴェ自身に魔力が圧縮され注入される。

 

 

 

「ハァ・・・永い時はお好きですか?」

 

 そう言いはなったネーヴェは先ほどとは違う風貌だった。

 

 額からの降りる一房の髪の毛が銀から緋へと変わっている。

 

 手元には魔力で出来た片手直剣が握られている。

 

 

 

「えーっとネーヴェ?助けてくれるわよね?大技出して私も巻き込まれるとか嫌よ!」

 

 姿が変わったネーヴェを見て騒ぎ立てるレミリア。

 

 その反応から紫は今戦っている相手を推察し始める。

 

 

 

 状態が変わったところと能力を発動させたときに言った言葉を見るに能力は何かを引き出しその力を使うというものだと推測する。

 

 

 

 しかし、そこまで推測したところでネーヴェからの斬撃が飛んでくる。

 

 太刀筋は当然ではあるが西洋の物であり、達人級の腕前であった。

 

 

 

「さっさと切られてください」

 

 そう言って幾つもの斬撃を放つネーヴェだがしかし、紫はゆらりとそれを回避する。

 

 

 

 斬撃が波動となって飛んでくるでも太刀筋が見えないくらい早いと言うわけでもないのだ、ただ人が生きているうちに極められる程度太刀筋である。

 

 紫は余裕を持って避けることが出来た。

 

 

 

 一太刀二太刀と避けながら動きや癖を見極めながらネーヴェに接近する紫。

 

 それに対してネーヴェは一旦下がったほうが得策だと下がる。

 

 しかし、紫はスキマを使い己の拳でネーヴェの心臓を直接握り潰す。

 

 

 

「グッフッ!」

 

 胸を押さえ倒れ込むネーヴェ、しかし、体が灰となるはずがそうはならずにまた立ち上がる。

 

 

 

「痛いじゃないですか・・・」

 

 立ち上がったあとは死を恐れないことを表すためか防御に注意をかけずただ我武者羅に突っ込んでくる。

 

「猪突猛進では芸が有りませんよ?」

 

 一撃一撃が重くそれでいて剣速は速いままという出鱈目を繰り出すネーヴェ。

 

 

 

 このままではゾンビ戦法で負けてしまうと、仕方なく紫は最終手段を使うことを講じる。

 

「良いですか吸血鬼、あなたたちは太陽に弱いそれは変えられぬカルマです」

 

 今の時刻は夜、妖怪が名一杯力を出せる時間だ。

 

 だが、昼でも力がでないわけではないのだ。

 

 それも吸血鬼のほうは大ダメージを受けるだけだ。

 

 

 

 紫は時間の境界を操り今を昼で固定する。

 

 紫の目論見ではこれで吸血鬼は灰になるか最低でも弱体化すると踏んでいた。

 

 

 

 だが、世界各地に残る吸血鬼伝承はそれをよしとはしなかった。

 

 

 

「眩しいわね・・・」

 

 レミリア・スカーレットは眩しがった。

 

「この程度なんですか?」

 

 アルジェント・ネーヴェ・スカーレットは疑った。

 

 

 

 そう、紫の目論みは失敗に終わった。

 

 

 

 目論見は外れ、弱体化をしているようには見えず、灰になるようにも見受けられない。

 

 自分たち幻想郷の妖怪は弱体化してしまった。

 

 

 

 薄くなる勝機、起死回生の策も失敗に終わりってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼講座

 

 大概の吸血鬼は太陽の下で滅びることはない。(弱体化するものはいる)

  ブラム・ストーカー氏の書いたドラキュラ伯爵の小説では、ドラキュラ伯爵は昼間に町を歩くシーンが見受けられます。

 なおドラキュラ伯爵は太陽の下にいると変身能力(コウモリ、狼などに化ける力)を失います。

 

 小説作品でも、最近のものになってから吸血鬼は太陽の下で滅びるようになります。

 

 初めて吸血鬼が太陽の下で滅びるという設定を使ったのはオルロック伯爵の物語で、言い方は悪いですがドラキュラ伯爵のオマージュ作品でした。

 しかし、独自の設定(太陽の下で灰になる)や人物の捉え方などは変わるので、探してもいいと思います。

 なおオルロック伯爵のお話ははブラム氏の遺族が著作権がどうのこうの言ってきたので一旦公開停止になりましたが、幾つか作り直されたアメリカの物もあるのでそちらをどうぞ。

 

 杭で打たれると吸血鬼は滅びる

 

 これは間違いではありませんが、東南アジアの方の吸血鬼はまずそんなもんが効きませんし、昔の方の吸血鬼では効きません。

 効くのは最近の小説のみです。

 (ドラキュラ伯爵は【心臓】を刺すことが大事であってナイフでも、杭でも鉛筆でもいい)

 

 吸血鬼は人の血を飲まないと生きていけない

 

 一応これも間違いではありませんが、例外も居ます。

 

 まずは代用品が効くものが居ます。

 流石にトマトジュースとはいきませんが、豚や牛の血を吸っても生きていけます。

 

 次にまず血を飲まないものが居ます。

 殺すのが目的であったり、性交渉が目的であったりするものがおもです。

 

 次に処女の娘の血しか飲めないと言うものですが、これはただの食わず嫌いです以上!

 

 フランシス・ヴァーニー

 

 これはイギリスの雑誌に乗っていた小説のキャラで、西洋騎士の格好をした吸血鬼です。

 原作のイギリスの雑誌小説で作者がコロコロ設定を変えるため、設定が支離滅裂な感じになっています。

 

 特性としては不死性が挙げられます。

 首を絞められようと、銃で打たれても、はたまた心臓を杭で打たれても月の光で復活が出来ます。

 

 しかし彼はその不死性が嫌になりベヒオス火山に身を投げて死んでしまいました。

 

 

 

 

決着

 

 妖怪と月には密接な関係がある。

 

 しかし、吸血鬼は太陽とすら関係を持つ。

 

 

 

 その結果がこの様だった。

 

 

 

 月が無くなったことで吸血鬼の力を抑制しあわよくば灰とする。

 

 そんな幻想を抱いていたが、紫には吸血鬼の知識が足りていなかった。

 

 

 

 予定では地を這いつくばるのは吸血鬼の方だった。

 

 だが、今地面に倒れているのは紫の方であった。

 

 

 

「どうですか?私としては降参してほしいんですが・・・」

 

 

 

 地に伏せる自分と目線を合わせるようにしゃがみこんでこちらに顔を向ける、私がこうなった元凶。

 

 

 

「あら、許してくれるのかしら?」

 

 時間を稼いで何か代案を考えなくては!

 

「勿論です。私は争い事が好きじゃないのでね」

 

 口先でペラペラ喋り時間を稼ぐという私の考えを見透かそうとする相手の目。

 

 

 

 

 

「本当に降伏するきないんですか?」

 

 最終確認とでも言いたげに聞かれる内容は私の考えを見透かしたのを前提で話しているのだろう。

 

 つまりもうこれは王手であり詰み、もう抵抗は出来ない・・・

 

 

 

「わかった・・・降伏するわ」

 

 

 

 私の素直な言葉に裏がないと感じたのかニコニコと嬉しそうな顔で私がとらえた姉を解放しに向かう。

 

 

 

 気付けば彼女の髪の毛は元の銀髪に戻り、目の色ももとに戻っている。

 

 

 

 本当に戦闘が終わったものだと思っているようだ・・・

 

 

 

 しかし、地下に向かった方はどうなったのであろうか?

 

 そう思った時、扉が開いて紫色の少女が大柄な羽の生えた年寄りと緑髪の女性を引きずりながら歩いてくる。

 

 

 

「レミィ、したの方は押さえ込み完了よ・・・この二人は可哀想なことにフランの狂喜に触れたみたいね」

 

 その二人の名前は天魔と風見 幽香二人とも名高い大妖怪のはずだ。

 

 しかし、二人は気絶していている。

 

 戦い、傷つき気絶したのなら二人には傷があると思えるが、何故か二人ともそんなかすり傷すら見つからない。

 

 

 

 私の怪訝に思う気持ちが表情に出ていたのか、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットが説明をしてくれる。

 

 

 

「うちの妹はちょっと遊び盛りでしてね、遊んでると辺りにその喜びが溢れてきちゃうんですよ♪それに触れるとなれてない人や力が弱いとばたんきゅーになっちゃうんです」

 

 

 

 私はそんなあっけらかんと秘密を話す様子を見て戦慄した。

 

 そんなに軽々しく話すということは相手が知っていてもどうということはないというあらわれなのだろうから。

 

 

 

「まぁ、とにかく立てますか?」

 

 自分がここまで叩きのめして置きながら立てますかとは・・・

 

「残念だけど、たてないわ・・・」

 

 

 

 少し残念そうに言ってみるとうまく引っ掛かってくれたようで。

 

「そいつは大変です!じゃあ傷回復させますね!」

 

 

 

 周りの奴等が止めようとしたが時すでに遅く、私の傷は回復し、能力が使えるまでになった。

 

 

 

 ならばこんな敵地には居たくないのでスキマの世界に逃れる。

 

 

 

 勿論天魔と風見幽香を連れて・・・

 

 

 

 

 

一時の休息

 

最近これと百物語しか投稿してないな・・・

 

 敵の指揮官、八雲 紫を撃退・・・いや逃がしてしまった数分後の出来事であった。

 

 

 

 

 

「あれ、逃げられてしまいましt---」

 

 言葉を発する途中でフラりとその場に倒れるネーヴェ。

 

 

 

 その表情からは生気が見られず死んでいるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・寝てしまったわ」

 

 ネーヴェを持ち上げ、自分のベッドに優しく置きながらポツリと漏らすレミリア。

 

 

 

「ねぇ、本当にネーヴェは死んでるの?」

 

 パチュリーの疑問の投げ掛けに、レミリアは軽くそうよと答える。

 

 

 

「気になるのなら、呼吸を確かめるでも脈を取るでもいいけどお進めはしないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 そう、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットは寝ている間は死んでいる。

 

 正に吸血鬼のように、だ。

 

 

 

 レミリアがそれを知ったのは彼女たちの父親が死に、ネーヴェが暴走したあとの事だった。

 

 

 

 殺しに殺し、血を浴び美しい雪銀の髪が深紅とのまだら模様となり、生きるものが三人の姉妹だけになったとき、急にネーヴェは動きを止め倒れる。

 

 

 

 それを抱き止めたレミリアだからこそ気づけた。

 

 妹は死んでいると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアの使う武器は【グングニル】、妹のフランが使う武器は【レーヴァテイン】

 

 では、その二人の間の次女アルジェント・ネーヴェ・スカーレットはどうなのか。

 

 

 

 彼女の持つ武器は・・・いや武器と言うのもおこがましいほどのものである。

 

 その物の名前は何か、それは【スキーズブラズニル】すべてのものを乗せる船だった。

 

 

 

 しかし、そんなネーヴェに力を与えたものはフレイではなくヘルだった。

 

 

 

 体が半分死んでいる、ロキの娘。

 

 

 

 そして、氷の世界に包まれた死者の国を統治する雪の女王。

 

 

 

 だからこそネーヴェは眠り続ける。

 

 自らの一生の半分程を寝続ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そんなことなんで黙っていたの?」

 

 なんで友人の私に相談しないの!とその目は語っていた。

 

「仕方無いじゃない、普通寝てるときは死んでる半分死者が妹って言って信じるの?」

 

 ネーヴェの頭を撫でながらパチュリーに反駁するレミリア。

 

 

 

 しかし、暫くすれば二人はこんな口論無用と話を切り替える。

 

「それで、ネーヴェを寝ている時も生きてるように出来るのかしらレミィ?」

 

「えぇ、あるわ・・・但し問題が・・・・」

 

 少し話しにくそうに口ごもるレミリア。しかし、そのレミリアの友人であるパチュリーはその口ごもる先を訪ねる。

 

 

 

「昔調べてみたわ・・・協会とかに喧嘩売ったりして」

 

「ふーん・・・それで、糸口か何か見つけたの?」

 

 そこでレミリアは覚悟を決めるかのようにして一拍間を置き空気をさらにどんよりさせていく。

 

 

 

「あの子の吸血鬼としての基本的な能力は主に北欧神話のヘルに由来するものなの・・・だからあの子が吸血鬼としての能力を使うには半分死んでいる必要があるわ」

 

 

 

 パチュリーはレミリアの説明に舌を巻き、予想をいい意味で裏切られたと感嘆していく。

 

 パチュリーは調べたと言っても少しだけで、能力すら何を基盤にしているかわからない程度かも知れないと思っていた。

 

 

 

「それでねパチェ・・・最近気になっていたことがあったの」

 

 もったいぶるようにまたそこで口を紡ぐ、しかし、今度はすぐに開いた。

 

「もしかしたらよ、あの子は一生の半分を寝なければ生きていけないんじゃないのかしら?」

 

 哀しそうに紡ぎ出される姉の心配の言葉は深い眠りに落ちた妹は気づけない、しかし、親友の胸にはしかと届いたようだった。

 

 

 

 

 

おはようございます

 

 辺りがだんだんと明るくなって行き、小鳥の囀りでパチリと目を覚ます。

 

 

 

 普段ならば起きれば目の前には棺桶の蓋があった。

 

 しかし、今日はその景色ではなく、目の前にはスヤスヤと眠る姉の姿があった。

 

 

 

「ん?なぜここに御姉様が・・・あぁ、あのまま倒れたのですかね?」

 

 まだ眠りのなかでまどろう姉を起こすのは忍びなくこそこそとベッドを降りて部屋を抜け出す。

 

 

 

 

 

 しばらく歩けば誰かに会えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。ネーヴェ様」

 

 また変に空間を歪めたのかな?と見覚えのあるような無いような不思議な自分の家を歩いている途中、後ろから声がかかる。

 

 

 

「えぇ、おはようございます。咲夜。・・・・所で今日は何日でしょうか?」

 

 今回はどのくらい眠っていたのだろうか、余程でなければ嬉しいけど最低でも三日は堅いだろう。

 

 

 

「そうですね・・・ネーヴェ様が眠られてから今日で四日目でしょうか・・・?」

 

 少し悩んだようだがすんなりと答えてくれる。

 

 戦っている間に色々なものが壊れている筈だからそれを直すのにてんやわんやで時間の感覚が狂っていたのだろう、化粧で隠されて入るが咲夜の目の下にくまが出来ていることがはっきりわかる。

 

 

 

「あちゃー案外眠ってましたね・・・手伝えなくて申し訳ない」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる。

 

 

 

「いっいけませんネーヴェ様!主人がメイドに頭を下げるなど恐れ多いです!」

 

 その慌てた表情が結構好きなんですが・・・くまがあると折角の可愛らしい顔が台無しですね。

 

 

 

「それじゃあ咲夜こっちに顔を近づけて目をつむってください・・・あっこれは主人からの命令ですよ!」

 

 【主人からの命令】だから仕方ないとばかりに膝を曲げ目を瞑り頭を近づける咲夜。

 

 

 

 その近づけられた頭に手を置き、疲労とそれについてのことを取っ払う。

 

「元気にな~れ♪」

 

 無詠唱で結構高度な魔法を使う。

 

 二流、三流の魔法使いは詠唱しても失敗するらしいけどそんなに難しいかな?

 

 

 

「どうですか咲夜?疲れは取れました?」

 

 ゆっくりと顔を上げる咲夜の顔には先程までのくまが消えており辺りにキラつきが見えるほど英気が回復していた。

 

 

 

「えぇ、見違えるようです・・・ありがとうございますネーヴェ様」

 

 

 

「いえいえ、日頃のお礼ですよ」

 

 にこやかに笑いながらお互いに楽しく談笑をする。

 

 

 

「そう言えば私のベッド何処にやりましたか?」

 

 倒れた頃の記憶が地味にすっぽ抜けていてよく覚えていない、まるでバラバラのピースが落ちていてパズルが完成しない気分だ。

 

 

 

「あぁ、それでしたら現在とある亡霊が中に閉じ込められていて使用不可能です・・・あと封印なさったのはネーヴェ様です」

 

 

 

「ん、ならしかた無いです。・・・では美鈴はどうしました?」

 

 咲夜は少し苦い顔をしながらも答える。

 

 

 

「現在片腕が動かない状態です。治癒に専念すれば元にもどるかと・・・」

 

 

 

「そうですか・・・」

 

 まだなおる見込みがあるのならいいでしょうか?

 

 

 

 

 

次の祭りまでの準備な期間

 

 平熱クラブさんがなんとっ!支援絵を描いて下さいました!

 

 これは実にハラショーだ(うっとりした目)

 

 ネーヴェの起きる前日の話

 

 

 

「それではこれより幻想郷侵略作戦・・・いえ吸血鬼異変の処理に入ります」

 

 凛とした声で、従者の咲夜がボードを使いながら戦後処理を始めると告げる。

 

 

 

「始めましょう・・・ねぇ、総大将さん?」

 

 円卓に座る包帯を纏った導師服の女性に嫌味たらしく問いかける。

 

 

 

「え、えぇそうね始めましょう?」

 

 苦虫を噛み潰しきったその表情がとてもそそる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、お二方は被害がとても大きいので引き分けとしてこの戦争を手打ちにする。 そうとらえて宜しいでしょうか?」

 

 私とアイツの声が重なり、両者とも同じ意見だと言うことがうかがえる。

 

 

 

 ニヤリとこちらが含んだ笑いをして相手がそれに歯噛みするそんなのが幾回か続いた。

 

 そして待ちに待った停戦条件のタイムとなった。

 

 

 

「こちらの欲しい物は、この幻想郷への永住権と定期的な血液補給よ」

 

 永住権を手に入れられなければ、態々幻想郷へ引っ越してきた意味がない。

 

 これも全て妹たちの為・・・・何としても守り通さなければ。

 

 

 

 以外にこの条件はすんなりと通った。

 

 案外血液の供給で難航するかと思ったけど拍子抜けね。

 

 

 

「・・・ではこちらからも条件があります」

 

 一応便宜上は停戦、相手の条件も飲む必要はある。

 

 だが、あんまりいきすぎるとまた即座の第二次吸血鬼異変を起こすのもやむ終えない。

 

 

 

「条件は三つほど、まず一つ幻想郷の永住権を認めるのはやぶさかではありませんが、人里には近づかないでいただきたいのです。 そして二つ目は西行寺 幽々子の解放・・・そして、私の計画の協力をお願いしますわ」

 

「あの亡霊は妹のベットを占領してたしちょうど良いわ。三日後に解放するのを約束する。 そして人里とやらにもちゃんと血液がもらえれば近寄らないわ・・・・でもその計画ってやつは内容次第ね?」

 

 

 

 何にも内容を知らないような計画に参加するのは自殺も良いところだ。

 

 気づけば死ぬ運命何て運命はこっちから願い下げね。

 

 

 

「それでは説明しましょう。その計画を・・・」

 

 ソイツはそう言って、脱出にも使っていた異空間への裂け目から一枚の紙を取り出す。

 

 

 

「それは?」

 

 なにか怪しく思ったのか臨戦体勢に移ろうとする咲夜を手で制し、話を促す。

 

「これはスペルカード・・・まぁ、端的に言えばこの札には魔力弾の配列や種類が記録されていて、これに魔力や妖力等を込めるとその通りに配置され設定された通りに動きます」

 

 

 

 自信満々に説明するそのさまになにかすごい説明をしていると理解する。

 

 

 

「そして私はこれまでの血生臭い戦いからこのスペルカードによる美しさと技術の戦いへと変化させたいのです・・・・」

 

 そうしてその説明を聞いて数分たった。

 

 

 

「・・・そうしてあなたたちには来年の夏か秋ごろにこのスペルカードを使った異変を起こして欲しいの」

 

「・・・・そうね。 悪くないわ、受けましょうその条件」

 

 そう言うとアイツは目をパッと輝かせ、目の前に何十枚かの札を置く。

 

 

 

「それでは皆様これで吸血鬼異変の処理は終了です」

 

 咲夜の声で始まりと同じく終わりの幕を引っ張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜?例のカードだけど・・・」

 

 あの戦後処理から一時間ほど後、優雅に紅茶を飲みカリスマを溢れさせながら従者に用を言おうとするが、気づけば目の前に用意されている。

 

 

 

「流石ね咲夜」

 

「ありがとうございますお嬢様」

 

 後ろでペコリと頭を下げ下がろうとする咲夜を引き留め数枚のカードを渡す。

 

 

 

「貴女は私のメイドよ?剣になってもらわなくっちゃ♪」

 

 そう言って今度は自分用のカードに目を落とす。

 

 

 

 説明ではイメージを持って魔力や妖力を込めればその通りのものができると言っていたのでその通りにやってのける。

 

「あら、案外楽しいのね?」

 

 

 

 自分の思った通りの美しい弾幕?ができたのに感心しもう一枚と次のカードに手を出す。

 

 

 

 

 

 私がこんなに楽しくなれるのならネーヴェはどんな顔をしてやるのかしら・・・・大分気になるわね。

 

 

 

 起きたら早速渡しましょ・・・♪

 

 

 

 チラリと自分のベットの方を見れば胸を上下させず、死体のように横たわる自分の妹がいた。

 

 

 

 カチャリと陶磁器のカップを置き、ネーヴェの方へ近づく。

 

「いつになればその眠りの呪いは貴女を蝕むのを止めるのかしらね?」

 

 と独り言を呟きながら、氷に包まれたようなネーヴェの羽を撫で、私もベットに横たわっていた。

 

 

 

 

 

第二章 平和な時間

スペルカード・・・なんですかそれ?

 

 今回は短め

 

 紅い館のお姉さまの部屋・・・起きた次の日にお姉さまに呼ばれ私はそこにいた。

 

「えーっとね、今日ネーヴェに来てもらったのは少し特殊な物を作って貰うためよ」

 

 そう言ってお姉さまは、トランプのようなカードを片手で五枚づつ持ち、両方の手で合わせて十枚を私に見せる。

 

 

 

「・・・新しいカードゲームですか?」

 

 したり顔のような感じの表情をしたお姉さまを見ながらそう言ってみる。

 

「違うわよ!これはねスペルカードルールという弾幕の美しさとそれをいかに避けるかという事をする貴族の遊びらしいわ」

 

 少し理解ができない説明に「はぁ…?」という反応しか出来ない。

 

 

 

 しかし、横には優れたメイドが居るので、よくわかるように説明してくれる。

 

「ご説明致しますネーヴェお嬢様、このカードはスペルカードルールという一種の決闘をするための道具です。スペルカードルールというのは、幻想郷内で人間と妖怪又は強大な妖怪同士が話し合いで決まらない時、対等に決める為の決闘ルールです」

 

「なんというか馬上試合とかみたいですね」

 

「そうですね大体スペルカードルールという概念はそれで覚えておいてもらえればいいと思います。では、次にスペルカードルールの決まりごとを説明致します」

 

 そう言って咲夜はいつの間にか、ホワイトボードを用意して説明を開始する。

 

 

 

「スペルカードルールでの決闘はこのスペルカードと呼ばれる特殊なカードに魔力や妖力を流し込み元々書き込まれた弾幕を展開して戦うような感じで行われます。基本的には決闘開始前にスペルカードの使用回数を予め示し、その示した数を相手に攻略されるか体力・魔力などがつきるなどした場合は負けになります」

 

「では、示した数を攻略された場合に余力が残っていた場合はどうでしょうか?」

 

「そうだとしても示した数を攻略されているので、負けになります」

 

 咲夜のお陰で、スペルカードがなんなのかがよくわかる。

 

 

 

「それで、また異変を起こすのでスペルカードを作ろうと?」

 

「そうよネーヴェ、貴女も楽しく悪者役をやりましょ?」

 

 カラコロと笑いながらお姉さまはそう言う。

 

 

 

「そうですね~案外ヒールも良いかもしれませんね♪」

 

 そこからは数時間ほど手解きを受けながら自分のスペルカードを作っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ましたっ!」

 

 完成した幾枚のスペルカードを咲夜の持ってきたカードフォルダに入れる。

 

 

 

「良くできていると思うわ」

 

 そうお姉さまも褒めてくれる。

 

「そうですか?そう言われると嬉しいですね」

 

 褒められにまにまとした表情で笑っていると、お姉さまが勝負しようと言ってくる。

 

 勿論この勝負は受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「使用枚数は取り敢えず三枚ね!」

 

 紅魔館上空にて、大体10メートル離れた先からお姉さまがこちらに向かって大声を張り上げる。

 

「了解しました~」

 

 そう私は返して、先程どのカードフォルダから気に入った三枚を選びとる。

 

 

 

「それでは使用枚数は三枚、スペルカードルールを始めてください」

 

 そう審判役の咲夜が言って勝負が始まる。

 

 

 

「アルジェント・ネーヴェ・スカーレット、尋常に参りますっ!」

 

アルジェント・ネーヴェ・スカーレット

 

VS

「手加減は無用よ?最高のパーティーにしないとね?」

レミリア・スカーレット

 

 

一枚目【初符 スノーフェアリーダンス】

 

一枚目【スピア・ザ・グングニル】

 

 

 勝負が始まり、お互いのスペルカードが発動する。

 

 私のは名前の通り雪の精が湖面を踊るのをイメージして作られた設置型の弾幕で、一定時間毎に薄く張られた魔方陣から氷柱のようなものが全方位飛び出し敵を牽制しつつ、その間に私がばら蒔く弾幕が展開されていく。

 

 

 

 一方お姉さまの弾幕は、お姉さまのよく使う武器のグングニルをもして作られた弾幕だった。

 

 大型の魔力弾がお姉さまの方へ集まっていき、一定時間たつとこちらへ槍が投げられる。

 

 

 

 お互いに自分の考えたスペルカードのイメージがそのまま形になっていることに感心と感動を覚えながら、相手の弾幕を避けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この勝負はそれから三時間もかかって終息した。

 

 お互いが初めてスペルカードルールをやることもあってか、甘く作られていて避けやすく時間がかかったのだと推測している。

 

 一枚目は狙い撃ちされた私がやられ、二枚目は逆にお姉さまを倒したが、三枚目にて「姉に勝る妹などおらぬのだーっ!」とお姉さまが叫び、もののみごとに私は撃ち取られた。

 

 

 

 

 

 

 

ウルズとエイワズとウィン

 

 だいぶ期間が空いてますね(他人事)

 

 大図書館、そこは紅魔館の住人の趣味が結集されたと言っても過言ではない場所だった。

 

 

 

 レミリアの集めた吸血鬼の本と戯書にパチュリーの集めた魔術書、妖魔本。

 

 それに咲夜の料理の本や小説・・・そして私の集めた童話集。

 

 

 

 さすがに使用人のゴブリンや妖精、小悪魔たちの蔵書はないと思うけど、それ以外にこの紅魔館の忠臣メンバーであるべき少女の本はない。

 

 

 

 私はその少女に会うために、図書館までやってきていた。

 

 

 

「あらネーヴェ、何か捜し物かしら?」

 

 ちょうどテーブルでお茶をしていたパチュリーが尋ねてくる。

 

「いえいえパチュリーさん、ちょっと妹の様子を見に行こうと思ってるんですよ」

 

 そう私が返すとパチュリーは少し顔を青くしてしまう。

 

「どうしました?」

 

「・・・いえ、何でもないわ行ってらっしゃい」

 

 私の質問を少しはぐらかすように私を送り出すパチュリーに不審感を抱きつつ、私は行ってきますと大図書館の一角にある扉を開ける。

 

 

 

 狭く閉塞感のある石作りの階段と壁、下を向けば暗闇しか広がっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 私はカンテラを持ちながら、踏み外さぬよう慎重に一歩一歩下っていく。

 

「フランー!お姉ちゃんが遊びに来ましたよー!」

 

 コツリコツリと私の靴が鳴らす音をかき消すように大きな声で妹を呼ぶ。

 

 

 

「・・・返事がありませんね」

 

 いつもならこうやって呼べばエスコートしてくれる妹は今日に限ってやってこない。

 

 

 

 なんとなく心配で少し足早に階段を駆け降りる。

 

「フランー!フランさーん!」

 

 先ほどよりもボリュームアップして叫ぶが反応は返ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いで階段を駆け下り、閉まっているドアを開け放つ。

 

「フラン!居ますか!」

 

 光のついていない部屋をカンテラを振り回しながら見るが、妹の影は見えない。

 

 

 

 不安を募らせながら部屋の中を歩くが、やはり見当たない。

 

 

 

「どこに行ったんでしょうか?」

 

 部屋に置いてある燭台のろうそくに火をつけ部屋を明るくするがやはり見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、フランのベットに腰を下ろそうとしたとき、不意に片足が払われ、バランスを崩しベットに倒れ込む。

 

「引っかかったなお姉様!」

 

 すかさず倒れた私を押さえ込むように、私のおなかの上にまたがる妹が現れる。

 

 

 

「えぇ、すっかりやられましたよフラン」

 

 楽しげに笑う妹を見据えて降参のサインを出す。

 

 

 

「どうだった?どうだった?」

 

「ベットのしたは盲点でした・・・してやられましたね」

 

 イタズラの感想を求めるフランに起こされながらも、頭をなで感想を伝える。

 

 

 

 

 

 狂気に染まっていなければ少し強いだけで安全なフラン・・・しかしひとたび狂気の顔が浮き出れば、すべてを壊しにかかる悪魔となる。

 

 神ですら喜んで殺しにかかるその状態は誰に求めれない。

 

 

 

 そして近づく者のほとんどを狂わせる瘴気。

 

 それに触れる者は脳にフィルターがあるかよほど強い意志を持たないと脳の隅々までを汚染される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂喜と呼ばれるゆえんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、今はただのイタズラ好きの少女。

 

 私は勝手ながらもフランに哀しんでいた。

 

 

 

 エゴイストになるだろう、閉じ込められた妹が可哀想だからとここに来るのは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、フラン・・・今日はおやつを持ってきましたので一緒にお茶しましょ!」

 

「おっやっつー!」

 

 喜んでテーブルを持ってくる妹の姿はとてもかわいらしかった。

 

 

 

タイトルはルーン文字

この小説には深く北欧神話が関わってますので・・・

 

なんとなくの当てはめ

レミリア・ウルズ 意味 勇猛果敢、一途

ネーヴェ・エイワズ 意味 死と再生、弓

フラン・ウィン/ハガル 意味 喜び、満足/不可避の変化、破壊

パチェ・ケン 意味 知恵、ひらめき

咲夜・マン 意味 人間、人間関係

美鈴・ベオーク 意味 見守る、お節介

 

 

 

 

イタズラ好きの1日

 

 ハロウィーンは悪魔のお祭り、でも度を超えては・・・?

 

 ザァザァと土砂降りの外を見ながら紅魔館の中を歩く。

 

 

 

「おねーさま!」

 

 今日の日付を知ろうとした矢先だった。

 

「あぁ、フランおはようございます」

 

 後ろから声をかけられたのでさっと振り向くとそこには自分の妹のフランがいた。

 

 

 

「お姉様!」

 

「なんですか?」

 

 目をきらきらさせながら私に話しかけるので、日にちを聞くのはあとにして話を聞くことにした。

 

 

 

「お姉様お菓子持ってる?」

 

 唐突な質問に少々面食らいながらも答える。

 

「いえ、持ってませんけど・・・」

 

 少し疑問を持ちながらそう答えるとフランは急速に目の輝きを失う。

 

 

 

「ちぇっ、それじゃあじゃーねー」

 

 何か気に入らないことをしたのか不安になりながらも会話を続けようとするが、フランは飛び去ってしまった。

 

「あちょっ!」

 

 声をかけて引き留めようとするが、そのとき上から大量の水が降り注ぐ。

 

 

 

「ふぁっ!!」

 

 予期もしていなかったのでもろにくらい、引き留めようと腕を伸ばす体勢のままびしょ濡れになる。

 

 

 

「雨漏り・・・には水量がおかしいですよねぇ?」

 

 びしょ濡れの濡れ鼠になって数分後にそれだけ言って、お風呂場の方向に歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は何日なんでしょうか・・・・」

 

 水をかぶって冷えた体をシャワーで温め終わり、髪を乾かしながらつぶやく。

 

 しかし、その問いに答えてくれる者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからもゴブリンがカブをかぶって走り回る姿やゾンビのようなメイクをしている妖精の横を通り抜けて、お姉様の部屋へと進む。

 

 

 

 その道すがら、一人の妖精が私に声をかける。

 

「ネーヴェおじょーさまお菓子くれなきゃ・・・あれ?なんだっけ?」

 

「何でしょうね? でも、今お菓子持ってないんですよ」

 

 妖精は小さいので足を曲げて目線を同じ高さにして答えるが、妖精はその答えを聞いて目を輝かせる。

 

 

 

 あっこれは選択を間違えたなと察した時にはもう遅く・・・

 

「あっ、イタズラしなきゃ!くらえー!」

 

「ぶっ!?」

 

 顔面にクリームパイがクリティカルヒットし、お決まりのように顔から外れた残りのクリームがせっかく着替えたスカートにべっとりとつく。

 

 

 

「・・・妖精ちゃん、イタズラされた側の気持ちわかる?」

 

「ヒッ!」

 

 もう一度シャワーを浴びる必要とさっきのシャワーの時の髪を乾かす面倒くささで半分切れながら話しかけると妖精は小さく悲鳴を上げる。

 

 

 

「とても哀しいんだけど・・・」

 

「ハッハヒッ!ごっごめんなさぁぁぁいぃぃぃぃ!」

 

 妖精は顔を真っ青にしたまま走り去って行ってしまった。

 

 

 

「・・・悪いことしちゃったかな」

 

 そうつぶやきながらも、来た道を戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度目のシャワーを浴びて、今度はちょうど通りかかった美鈴(なぜか中国の農民みたいな格好だったが)に護衛を頼んでお姉様の部屋に向かう。

 

 

 

「その格好はなんですか美鈴?」

 

「えっ?あぁ、この格好ですか?」

 

「なんか中国の農民みたいな格好ですね」

 

「まぁ、なじみ深い場所でして・・・農作業とかの時に来てるんですよ」

 

 懐かしそうな目でそう言う美鈴の横をついて歩く。

 

 

 

 

 

「あっ、そういえば美鈴今日は何月何日ですか?」

 

 シャワーの件で忘れかけていたことを聞く。

 

「今日は10月31日ですね」

 

「ということは今日はハロウィーンですね」

 

「えぇ、楽しいハロウィーンですよ!」

 

 とても楽しそうにニコニコしている美鈴を見ていやな予感を感じながら尋ねる。

 

 

 

「美鈴、ちょっと聞きたいんですが何か今日イベントありますか?」

 

 思い返される去年のハロウィーンを思い浮かべながら聞く。

 

「たぶん少し前からイベントやってますよ? お菓子くれないやつにクリームパイ!ってイベントを・・・」

 

 その言葉を聞き、ズキズキと痛み始める頭に手をやりながら美鈴に急ごうと声をかけ、お姉様の部屋に急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ・・・遅かった・・・・」

 

 急いで部屋に行き、その扉を開けばそこには部屋の三分の二を真っ白にしてパイを投げ合うお姉様とフランの姿だった。

 

 

 

 近くにはクリームにまみれて動かない咲夜を見つける。

 

 

 

「ぶべらっ!」

 

 私の横に立っていた美鈴にクリームパイの凶弾に倒れる。

 

 

 

「・・・パターンレスタド・ド・リオンクール」

 

 自分の周りの魔力がスポットライトのように自分の方に集まっていくる。

 

 

 

 そして、手元に魔力で具現化したマイクをつかみ叫ぶ。

 

「コラ-----ーッ!!」

 

 その大声によってお姉様とフランは動きを止め、ゆっくりゆっくりまるで油を差していないブリキ人形のように表情を引きつらせながらこちらを向く。

 

 

 

「おっお姉様・・・」

 

「ネーヴェ・・・?」

 

 伺いを立てるようにこちらに声をかける二人に笑顔で言う。

 

 

 

「そこに座りなさい」

 

「「イェスマイマム!」」

 

 そして二人がその場に座ると私は哀しそうに二人に説教を始める。

 

 

 

「お姉様は一応この館の主なのですから、キチンと節度を持って行動するように・・・・」

 

「はい、その通りです・・・」

 

「それにフランもあんまり暴れないように!お姉様を煽るのも必要最低限でいいんです!・・・」

 

「ハイ、全くもっておっしゃるとおりです・・・」

 

 

 

 この後数時間説教は続いた。

 

 

 

 

第三章 紅き霧はすべての始まりとなる

紅き霧の異変

 

 原作では紅霧異変は夏なのですが・・・諸事情で冬になりました。

 

 ギィと寒さのせいか軋む音が棺桶から響く。

 

「うぅ~・・・寒いですねぇ」

 

ルーマニアと違って日本は暑いし冬になると寒くもなるなんて・・・最初の頃に四季折々の景色が気になってましたがこれじゃあ楽しさも半減しますよねぇ?

 

 

 

絨毯が敷いてあるとはいえ冷たい空気は下にたまるから足下には冷たい風が吹く。

 

「・・・1週間寝てなさいってお姉様何考えてるんでしょうか?」

 

一週間前にお休みの挨拶として寝る前に姉に挨拶しに行ったとき一週間ほど寝ておけと言われ、少し疑問に思いながらもまぁいいかと眠りについた。

 

しかし今思うとやはり一週間は長すぎるため何か裏があるのだろうと問い詰め・・・いや質問しに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~紅魔館 六日前~

 

寒い風が吹くテラスで寒さを我慢し暖かい紅茶を飲む。

 

やせ我慢とはわかりつつもぬくぬくとした室内で紅茶を飲むより、より世界を美しく見ることのできるテラスでのティータイムの方が心を静めることができる。

 

「お嬢様準備は着々と進んでおります」

 

紅茶を出すとともにいくつかの手紙と茶菓子、そして私の欲しくなる情報をくれる従者咲夜はやはりとても瀟洒なメイドだ。

 

「そう、パチェはがんばってくれてるのね・・・これは結構大規模なお礼をしなければいけないわね」

 

「そうですねお嬢様」

 

 

 

咲夜といくつかとりとめの無い冗談を交わし、蝋で封をされた手紙を開ける。

 

 

 

「・・・へぇ?」

 

 外の世界の情報も欲しいため設置しておいた情報網からの情報がその手紙には書かれていた。

 

「どうされました?」

 

咲夜も内容が気になるようで、【待て】と言いつけられた忠犬のようにうずうずしながら待っている。

 

私は手紙の内容があまりにも面白くニヤリと口角がつり上がる。

 

「外の世界の常識も案外狂気じみてるのね」

 

そう言って手紙を咲夜に渡す。

 

 

 

 

 

 

 

【情報報告】

 

拝啓レミリア様師匠が走る時期となってきました。

 

このたびこちらの世界での認識の変化が起こりましたのでご報告いたします。

 

 

 

何でも人の世では半身不随や全身不随と呼ばれる一部の人間を元通りに戻す方法が確立されたようです。

 

これによって幻想郷に半身、全身不随が人として生物として終わりという価値観が紛れ込む可能性があるのでそれにより妹様をまともな吸血鬼にする方法を確立できる可能性があります。

 

敬具

 

東欧吸血獣一同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・」

 

「まったく、ネーヴェを治せる方法を探せと入ったけどこんな方法にまで手を出すなんて・・・」

 

「さすがにこの方法は・・・」

 

「そうよねぇ」

 

従者の困惑の声に同調しながら、冬風によって冷めた紅茶をすする。

 

 

 

ネーヴェを半身不随にして一生車いすの代わりにちゃんとした吸血鬼になる・・・全くもってふざけてる。

 

少しむしゃくしゃしたのでその手紙をぐしゃぐしゃにまとめてゴミ箱に突っ込む。

 

「咲夜おかわりちょうだい?」

 

「えぇ、承りました」

 

咲夜がそう答えれば目の前には熱々の紅茶が用意されている。

 

「さすが我が紅魔館最高のメイドね」

 

「いえいえそれほどでも・・・」

 

 

 

 二人の会話は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~紅魔館 まどろみの中で~

 

(んぅ・・・ん?)

 

ただ白く距離感のつかめない空間に横たわる自分

 

見当たる物はなく堅くも柔らかくも寒くも暖かくもない不思議な感じの空間であたりを見渡す。

 

 

 

「気がついたか」

 

立ち上がってそのあたりをうろついていると後ろから男性的な声が聞こえ振り向く。

 

 

 

そこに立つ影は二つ。

 

片方はそのくびれから女性とわかる。

 

 

 

(あなたたちは?)

 

「そうねぇ・・・私は貴方よ」

 

女性の影がそう答える。

 

「そして俺がてめぇのアドバイザーになるはずのもんだ」

 

俺という言い方や声の低さから男と断定するが、その影が胸をどんと叩きながらそういう。

 

 

 

(私?アドバイザー?)

 

「今は気にしなくていいわ」

 

「どうせ今日は挨拶のために来ただけだ」

 

 意味がわからないと困惑する私に二つの影はそれだけ言って去って行った。

 

 

 

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紅き霧の前夜祭

 

 一週間少しずつ更新

 

~紅魔館 異変決行まで二日前~

 

 地下大図書館、普段は本棚に収まりきらない本が床に散乱しているが今日は何か違っている。

 

 

 

 床には巨大な魔方陣が描かれ、本は避難するようにどこか別の場所へ移されている。

 

 小悪魔や妖精があたりを忙しそうに飛び回っている。

 

 

 

「まったく、この館の安全のためとはいえやっぱりこういうことはしたくはないわね」

 

「そう言わないでよパチェ・・・」

 

 所狭しと動き回る妖精達せいで舞う埃のせいで持病のぜんそくが悪化しそうな毎日に対しての愚痴をこぼすが、横にいる満足でそうな顔でたたずむ友人が私をなだめる。

 

 

 

「ところでパチェ?」

 

 聞いてる風には変化が無いようにとれるが友人の私にはわかるような聞き方でレミィは尋ねる。

 

「なにかしら、あっレミィもうちょっと端っこによらないとその白いドレスとドアノブカバーが汚れるわよ」

 

 私の返答+注意によってレミィの服が汚れる事態が避けられる。

 

 

 

「ネーヴェのことだけど・・・」

 

 友人の頼みに答えるのは友人のつとめであると受けたお願い・・・

 

「そうね、わかったことはいくつかあるわ」

 

「ほんとうっ!?」

 

「えっ、えぇ・・・」

 

 デスクの上にある研究書を取りながらそういうとレミィはとても目を輝かせて腕に抱きついてくる。

 

 

 

「白衣少し汚れてるわよ?」

 

 上に羽織っていた白衣が汚れていることをレミィに伝ええるがそんなこと気にせずレミィは研究書を読もうと私の背中によじ登ってくる。

 

「説明して上げるから、背中に乗らないで」

 

「ちぇー」

 

 

 

 

 

 妖精に聞かれて困ることはないとは言いきれないため部屋を移す。

 

 

 

 

 

 

 

「それでパチェ、なにかわかったの?」

 

「まずはこれを見て」

 

 複製魔法で複製した研究書をレミィに渡す。

 

 

 

「・・・これ」

 

 いくつかページをめくったところでレミィはおそるおそるといった風に顔を上げ問いかけてくる。

 

「えぇ、その通り北欧神話をベースにした魔術ならルーン魔術がいいんでしょうけどね」

 

 いくらか北欧神話の資料を探ってもましな物は見つからなかった。

 

 

 

「でも、このヘルを無効化もしくは安定化させる方法も殺す方法もないってどういうこと?」

 

 当たり前の疑問を投げかけるレミィ。

 

 

 

「どんな文献にもネーヴェの能力の根幹であるヘルの倒し方はないの」

 

「でっでもっ!ヘルってロキの娘で神々を脅かす三兄弟の一人なんでしょ?だったらッ!」

 

「・・・確かにフェンリルやヨルムガンドなら対策の仕方もあるのよ・・・でもヘルだけはないの」

 

 フェンリルなら紐、ヨルムガンドなら釣り糸やハンマーで抑えられる魔術を構築はできる。

 

 しかしヘルはそれについての記述が一切なく、残っている資料はオーディンと対をなす存在だというのを裏付ける証拠しかない。

 

 

 

 

 

「じゃあここに書いてあるネーヴェをまともな吸血鬼にする方法って・・・」

 

 残念そうに目を伏せながらも最後の希望をかけて最後のページまで見る。

 

 しかし、書いた私は知っているそこには絶望くらいしか転がってないのだと。

 

 

 

「なっ!?」

 

 やはりレミィは最後のページに目を通しそう声を漏らす。

 

 

 

「・・・パチェ?」

 

「なによ」

 

「この対象者を完全な吸血鬼とする方法・・・なんて書いたの?」

 

 私は思わず目を背けてしまう。

 

「な ん て 書 い た の ?」

 

 威を持つ覇気によって脅され、私は口を開く。

 

 

 

「死のルーンを刻んでそれを体に入れる方法に、寿命が半分になるまで眠らせる・・・最後に体の半分を何らかの理由によって死んだのと同じ状態にするかのどれか、ね」

 

 

 

 普通はいえる言葉ではない、しかしこれは三日ほど悩んだり計算し直したり再構築をしたりとしたがどうやっても変わることのなかった【定理】【法則】そう言える物だった。

 

 

 

 

陣営またはプレイヤーとボス

 

 ちゃんと続けますよ?

 

 珍しく晴れた冬の一日、縁側に出てお茶をすすっていた。

 

 冬は寒すぎるのよね~こんな日が続けばいいのに・・・と独り言をつぶやく。

 

 

 

 しかしそんな感想を前言撤回したくなるほどの出来事がおきた。

 

 

 

 少し前に紫が解決した吸血鬼の館のある方向・・・霧の湖の方から紅い雲か霧のような物がわいてきて空を染めていく。

 

「・・・なんでこうなるのよぉ」

 

 平和な一日になると思った瞬間にこれだ。

 

 全くどうしてこう運が悪いのか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせ紫がなんとかするわよね」

 

 こんなの無視よ無視どうせ放っておけば紫がなんとかするでしょう。そう思ってふて寝しようと室内のコタツの方へ移動しようと立ち上がる。

 

 しかしコタツでのんびりすると言う希望は、この神社にやってきた一つの影によって不可能になる。

 

 

 

「おい霊夢!そんなはんてん着てこれからコタツでぬくぬくするのになんて恨めしい目でこっちをにらむ暇があるなら異変解決に行くぞ!」

 

「そこまでわかってるのならほっとき無いよ!」

 

 私の現状を事細かに説明しながら異変解決に誘う金髪の少女、霧雨魔理沙。

 

 彼女はいつもどこかへ行くときに使う箒を片手に暖かそうなもこもこしたコートとスカート、毛糸の手袋と耐寒ばっちりの装備で、外での行動を考えた服装をしている。

 

 

 

「魔理沙の方こそこっちに来てコタツでゆっくりしましょうよぉ?」

 

 コタツに入りながら外にいる魔理沙に手招きをする。

 

「おっとその手には乗らないぜ? この前もそうやって言いくるめられて冒険に行けなかったからな」

 

「ッチ!勘のいい小娘だね」

 

「そういうのは魔女が言う台詞だぞ」

 

 そう軽口を言い合いながら魔理沙は境内をザッザッザッと歩いてこちらへ近づいてくる。

 

 

 

「第一こないだのみたいに紫が止めるかもしれないわよ?」

 

 コタツという人間の開発したものの中で一位二位を争う至宝の中から私は出たくないので抵抗するようにそう告げるが魔理沙は気にしないように近づいてくる。

 

「そんならもうすでにここにいて私を止めてるはずだろ?でも出てきてないってことは異変解決してもいいよって言ってるんだぜ」

 

「そりゃあそうだろうけど・・・」

 

 言いくるめるはずが逆に言いくるめられてしまった。

 

 

 

「それにこの間からスペルカードって決闘方法ができたし、おおかた紫が後ろから糸をたぐってるかもな♪」

 

「確かにそれはありえるかも・・・?」

 

 よっと縁側に腰掛け、魔理沙は魔女の帽子と言われる帽子を外し、中から数枚の札を取り出す。

 

 そこには【マジックミサイル】や【マスタースパーク】と書かれていた。

 

 

 

「どうせ霊夢もいくつかもう作ってんだろ?さっさと行って、異変解決して英雄になろうぜ!」

 

「あんたはもう・・・」

 

 それからも魔理沙に何度もせかされ仕方なく異変解決に出かけることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 靴下を二重履きして上着も数枚重ね着して寒さへの耐性を上げる。

 

 最後に自慢の大きなリボンで髪の毛を結ぶ。

 

 

 

「準備できたわよ魔理沙」

 

「やっとかよ・・・ずいぶん待ったぞ?」

 

 着替えている間にコタツに載せておいたミカンを積み重ねていた魔理沙はやれやれといった風に立ち上がり、帽子をかぶる。

 

 

 

「すっかり暗くなったぜ」

 

「冬なんてそんなものよ」

 

「そうだな」

 

 魔理沙は獰猛な狩人のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツカツカツと革靴が紅魔館の床を蹴る音が響く。

 

「さてと、お姉様の部屋は・・・」

 

 自分の部屋で目覚めた後、歩いてお姉様の部屋を目指す。

 

 

 

 

 

「失礼しますお姉様」

 

 たどり着いた当主の部屋の前でノックし誰が来たのか告げる。

 

 

 

「ネーヴェね、いいわ入って」

 

 扉の向こうから姉の声がする。

 

 

 

 

 

 ガチャリとドアノブを回し、扉を開き当主の間に入室する。

 

 

 

 そこには当主のお姉様やそのメイド兼秘書である咲夜そしてお姉様の友人であるパチュリーや門番の美鈴までこの部屋に集結していた。

 

「・・・何か不穏な空気が充満してるんですけどお姉様」

 

「不穏かどうかはさておいてだけど、これから異変というお祭りをするだけね」

 

「異変ですか・・・?」

 

 異変と言われて前回の異変という名の殺し合いを思い出す。

 

 

 

「そうよ、でも前みたいな殺し合いじゃないわ・・・弾幕ごっこによる決闘での異変よ!」

 

 そういえばスペルカード、弾幕ごっこという物をやったなと思い出す。

 

「やってくる異変の解決者をスペルカードで負かして自分の言い分を通す。 簡単なことよね?」

 

「そうですねお姉様」

 

 

 

 平和であまり傷つくことなくできる異変・・・これなら誰も失わないしいいかなと思う。

 

「さて、みんな! 侵入者はもうすぐ来ると思うわ!配置につきなさい!」

 

 私との話を終えてお姉様は指示を出す。

 

 

 

 そしてその場にいた全員が動き出す。

 

 

 

「お姉様、私は何処に行けばいいですか?」

 

「そうねぇ・・・ネーヴェは自由にしていていいわよ」

 

「わかりました」

 

 

 

 自分は自由に行動できるらしいので部屋を出て館中を歩き回ることにした。

 

 

 

 

 

紅霧異変~壱~

 

「ふっふっふー、この湖を超えたいならこの最強のアタイに勝ってみなっ!」

 

 ふよふよと浮きながらとても大きな態度で勝負を挑んできた水色の少女。

 

 髪は水色、服は青色と白のワンピースの下に白のシャツを着ている。

 

 

 

「・・・今なら見逃して上げるわよ?」

 

「全く妖精は元気がいいなっ!」

 

 

 

 魔理沙は臨戦態勢をとる。

 

 

 

「じゃあ魔理沙、その馬鹿の相手はよろしくね」

 

 わざわざ相手をする気があるならもう魔理沙に任せてしまおう。

 

「えっ!?あっおいちょっと!」

 

「お前がアタイの相手か!かかってこい!」

 

 

 

 私に追いすがろうと魔理沙がするが、私と魔理沙の間にチルノが割り込む。

 

「よろしくねー」

 

 後ろで戦おうとする魔理沙に向かって手を振ってその場を離れる。

 

 

 

「チクショーーーっ!!」

 

 後ろで何か聞こえたが私は気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湖を突っ切って霧が 靄もや程度になりまだ見通しがきくようになって来た頃、目の前に紅い屋敷が現れる。

 

「ここが元凶のいる屋敷ね」

 

 

 

 目の前の紅い屋敷から立ち上る紅い霧でもう異変の元凶がいる場所だと言うことは確実だ。

 

 

 

 さてどこから侵入した物かと見渡していると、下から人型の影が現れる。

 

 

 

 

 

「お客様、当家は現在部外者立ち入り禁止です」

 

 その影は長身の女性だった。

 

 髪は赤毛の長髪で服装は華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色の服を着ている。

 

 

 

「あら、だったら貴方を倒していくしかないようね」

 

「これでも長年門番してるので通したら恥になりますね」

 

 目の前に浮かぶ中華娘は格闘技の構えをして、手をクイクイと曲げかかってこいと言うようにこちらの出方をうかがっている。

 

 

 

「それじゃああんたを倒してはいることにしましょうか」

 

 

 

博霊 霊夢

「さっさと終わらせてあげる」

 

VS

「一人背水の陣です!」

紅 美鈴

 

 

 

 私が距離をとると相手の華人娘も後ろに引く。

 

 そしてお互いが一枚のスペルカードを取り出す。

 

 

 

 二人の空間に虹色の花火が浮かぶ。

 

 

 

 隙間は小さく、人一人の隙間がぎりぎりある程度しかない。

 

 しかし私にはこの花火の中を抜ける道筋が見える。

 

 

 

「こんなものなのこの屋敷の門番は?」

 

「こんな物じゃないですよ~」

 

 虹色なのは変わらないが、物量と形が大きく変化していく。

 

 

 

「さすがにこれはきついわね」

 

 目の前に光る虹色の魔力弾を頬をかする程度のぎりぎりさでよけきりながら反撃のためのアミュレットを飛ばす。

 

 

 

 オレンジ色に光るアミュレットが華人娘の方向へ飛んでいく。

 

 勿論自分の目の前や周り全体に注意を払う。

 

 

 

 目の前に迫る光を高度を下げたり、上げたりしてよけたり平行に移動してよけていく。

 

 

 

 アミュレットが足りなければ封魔針を投げつけていったりして敵の傷を増やす。

 

 

 

「やっぱり扱い難しいですっね!」

 

 相手の華人娘がそう言いながら気弾を放ち、行動の阻害をしてくる。

 

 

 

 

 

 このままではらちがあかないと私は華人娘に近づく。

 

 

 

「接近するとは愚策ですね!」

 

 ニヤリと笑いながら目の前の華人娘は気弾をもう一度放とうとする。

 

 しかし、私はアミュレットでそれをはじき、華人娘の額に一枚のお札を貼る。

 

 

 

「霊符 封魔陣」

 

「…ッ!」

 

 相手の全身に電気のような感覚が走る。

 

 そして華人娘は墜落した。

 

 

 

 ちなみに霧と靄の違いは1km先が見えるか見えないからしい

 

 

 

 

浮かぶ娘と哀しむ乙女

 

魔理沙パターンと霊夢パターンで分けて投稿します。

え?手抜き?ハッハッハッ・・・その通り・・・

 

そういえば執筆現在(2018年11月5日)私はスペースコブラにはまっています。

やっぱアレがかっこいいヒーローってものですよね。

 

・・・私って渋い物とかダンディーな物が好きなのかな?

MGSのスネークやコマンドーのシュワちゃん大好き。

シュワちゃんが70代とか信じられないけどね?

「ふざけやがってぇぇぇ!」

 

 門番の華人娘を倒し、館の中へ進む。

 

「目がちかちかしてくるわね、やっぱり住んでる人の感性がおかしいのね」

 

 移動時間短縮のために飛行しながら館を回ってみるが、景色は変わらないし窓が少なくて同じところをぐるぐると回っている気がしてならない。

 

 

 

 見た目以上に広いことにそろそろ怒りがわいてたきたころに目の前に見覚えのある人間の姿が見えてくる。

 

「追いついたのね魔理沙」

 

「ちょうどいいとこであったな霊夢」

 

 私の声で後ろに私がいることに気がついた魔理沙はにっこりと仏のごとき慈顔で振り返りそういう。

 

「元気そうでよかったわ」

 

「・・・お前それはさっさと消えたやつが言う言葉かぁっ!?」

 

 無事そうでそう言って上げたのに逆上してそう叫びながら八卦炉をこちらに向ける。

 

「そういうしかないからそういうしかないじゃない?」

 

 魔理沙の言葉にそう返しつつ魔理沙の魔力弾をよけながら進む。

 

 

 

 しばらくすると道が二手に分かれていた。

 

「右の道と左の道どっちがいいかしらね?」

 

「さぁ?まぁ、またお前に押しつけられちゃあたまらんからな。私は右に行かせてもらうぜ」

 

「じゃあ私が左ね」

 

 そう言っているうちに魔理沙はじゃあなと言い残して箒に乗ってびゅーんと去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく猪突猛進なんだからとこぼしながら私は左の方向に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく回っていると目の前に見覚えのある赤髪と見覚えのない凍り付いたように見える羽をした白いドレスの少女が私の視界に映る。

 

 しようがないとばかりにため息をつきながらその少女は中華娘をお姫様だっこして運んでいる。

 

 

 

 さすがに怪我人を運んでいる相手を襲うのは人としてどうかしているように思えるので襲うことはせずに後をつける。

 

 

 

 

 

 そして後をつけて数分したころに一つの部屋の前にたどり着いた少女は扉を開けて室内に入っていく。

 

 そのとき少女はこちらを向いて、一礼し入っていった。

 

 

 

 そこからまた数分たって扉が再び開き少女が出てくる。

 

 

 

 そしてゆっくりと少女はこちらに向き、しゃべりかけてくる。

 

 

 

「待ってもらってありがとうございます侵入者さん」

 

 ぺこりと頭を下げるサマは礼儀作法という物が鮮麗されているのが一目でわかる。

 

「言いわよ別に、あんたをあのとき襲うのは人としてどうかと思っただけだから」

 

 なんとなく恥ずかしくなってそう答えるが相手はそうですかと流す。

 

 

 

「私はこの館の主レミリア・スカーレットの妹、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットです。アルジェントともネーヴェともお好きなようにお呼びください」

 

「長い名前ね、舌をかみそうだわ」

 

 私は正直に感想を述べるが、相手の少女はがっくりと肩を落とす。

 

 

 

「じゃあもうネーヴェとかアルジェでもいいですよ・・・」

 

「それじゃあ、あんたはアルジェね」

 

「・・・はい」

 

 もういいやというようにアルジェは距離をとり手に数枚のスペルカードをもつ。

 

 

 

 

 

博霊 霊夢

 

「さっさとあんた倒して進むわ」

 

VS

「とっても哀しい思いをしてる最中なので私は本当に強いですよ!」

アルジェント・N・スカーレット

 

 

 

「猫符シュレディンガーの箱」

 

 開幕早々スペルカードを使用するアルジェはニヤリと笑いながら弾幕をばらまく。

 

 

 

 

 

 パターンは二通りで私狙いの直接弾か適当にばらまかれる散弾、それが三十秒に一回でどちらかが出てくる。

 

「甘い弾幕ねっ!これならさっきの赤髪の中華娘の方が凶悪だったわよ!?」

 

「ふっふっふー・・・貴方はシュレディンガーを知らないようですねーヽ(*゜∀゜*)ノ」

 

「何その顔うざいわ・・・決めたあんたは赤髪の二十倍でボコボコにする」

 

 アルジェの誇ったような顔がとても癪なので中華娘の二十倍の全力で完膚なき勝利を目指すことにした。

 

 

 

「あれぇ!?やぶ蛇ぃ!?」

 

「全く何でそんな日本語が堪能なのかしらね?」

 

 適度に飛んでくる散弾と直接弾をさらりとよけながらアミュレットを無げ返す。

 

 適度に直撃して悲鳴を上げつつも楽しむかのように動き続けるアルジェに少し違和感を感じる。

 

 

 

「ん?・・・なんだか視界が陰ってきたような」

 

「そろそろ充満したようですね」

 

 視界が少し暗くなり、なにか動きにくさが出てくる。

 

 

 

「毒香でも焚いたの?」

 

「侵入者にはそれくらいがいいと思うんですが毒を使うと後始末がいやなので魔力で足止めします」

 

「ずるっこい娘ね」

 

 

 

 空気がよどんで気分が悪くなる・・・

 

「ずるいですか?」

 

「えぇ、十分よ」

 

 動きを止めるという宣言通り本当に身体が動きにくく感じる。

 

 

 

 

 

「シュレディンガーの猫は有名な化学実験です。 実験の内容は一定時間で必ず放射線が放出される物質と一緒に猫とその放射線を感知して毒を発する物を入れる」

 

 ピクリと動ける、大体15秒か・・・

 

「そしてその一定時間の半分の時に箱を開ける」

 

 そして動き出せた瞬間そこへ私狙いの弾幕が襲う。

 

 

 

「ッチ!邪魔くさいわね!」

 

 その弾幕を間一髪で回避しアミュレットを送る。

 

「さて、箱の中の猫はどうなってるのでしょうかって、ふぎゃっ!」

 

 意気揚々に説明をしていたようだがそんなことを意に介すこともなくアミュレットは顔面に直撃したようだった。

 

 

 

 

 

「箱の猫は知らないわ!でもね、私はこんな物じゃやられないわよ!」

 

「ふみゅ~・・・ならばこいつです!」

 

 アミュレットの当たった部分をこすった後でそう宣言するがあまりかっこよい物ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「黄昏 ギャラルホルンの帰港曲」

 

 残り二枚のうちの一枚をつかみ、宣言する。

 

 

 

 そして宣言されたとたん魔力の霧は晴れ、船の形をした弾幕が波のように青いが隙間の多い弾幕をつれて直進してくる。

 

「隙間が多いわね・・・これなら簡単そう」

 

「さっきのことで学んでないんですか?」

 

 ニヤニヤとした表情でこちらをみるアルジェにいらつきが現れてくる。

 

 

 

「あぁ、そういうことね」

 

 隙間が大きい波の部分を抜けると目の前には一か八かで通れるほど隙間しかない船型の方の弾幕が現れる。

 

「面白いじゃない!」

 

「楽しんで頂けて感謝です」

 

「ホントにいらつくガキね!」

 

 

 

 船型を肩にかすらせながらもぎりぎりで抜け、アミュレットや針を投げつけてく。

 

「なかなかやりますねぇ?」

 

 船型を切り抜けていくつも私の武器を投げつけて行く。

 

 

 

 

 

「でもあんたこれで最後のカードよねぇ?」

 

「あっ!?」

 

 

 

「あんた多少阿呆の気があるわね?」

 

「くやちぃ・・・」

 

 悔しそうに唇をかむアルジェに何の札を投げつけてやろうか考えながら待つ。

 

 

 

「ならばこれで最後にして上げましょう!」

 

「元々あんた最後よ」

 

「うるさいです」

 

 

 

「氷符 ヘルの息吹」

 

 そう宣言した瞬間に今度は肌寒さを感じる空気になっていく。

 

 パキッパキッと空気が凍てつき始め、吐く息が白くなる。

 

 

 

「さぁ、変化にぶっ飛んだ最後の砦の時間です」

 

「さっきからぴょこぴょこ変わる変なやつね」

 

 

 

 そう言ってられるのも今のうちとアルジェが崩れて大量の白いコウモリに変化する。

 

「吸血気らしいものらしいけど・・・」

 

 そう感想をつぶやくと周りから一斉に響くように声が聞こえる。

 

「ふっふっふっ我が身体の体当たり、その身で味あうがいい!」

 

 

 

「こしゃくねぇ・・・」

 

  バ・ ッ・ と・一斉に牙をむいたコウモリが襲いかかってくる。

 

 

 

 一匹は腕をえぐろうとし、二匹同時に脇腹にかみつこうとするやつもいる。

 

 

 

「ふぅん・・・やっぱり的が多いといやだわ」

 

 ぴったりと目を閉じながらそうつぶやく。

 

 

 

「馬鹿な、目を閉じたら心眼で見えるとでも言うのですかッ!」

 

 嘲るような声が耳に届くが気にせずに針を構える。

 

「その通りよ? 私は心眼で物が見えるのよ」

 

 

 

 ニヤッと笑いながらいくつかの方向に針を飛ばす。

 

「そこねっ!」

 

 投げつけ多方向からは悲鳴が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・白旗です」

 

 白いコウモリたちが何匹も集まり人の形に戻っていく。

 

 そして絞り出された声は降伏の声だった。

 

 

 

「・・・てりゃ」

 

 そしてそんなアルジェの額に封魔の札を貼り付ける。

 

「あばばばばっばっっば」

 

 そしてベリッと札をはがす。

 

 

 

「鬼ですね貴方・・・」

 

「吸血鬼に言われたくないわ」

 

 

 

 

 

 そしてアルジェを起こし上げて札をひらひらさせながら、

 

「さっさとあんたの姉の元へ案内しなさい」

 

 

 

「はいはい、わかりましたって・・・その物騒な物しまってください」

 

 

 

「仕方ないわね・・・」

 

 私はアルジェの首根っこをつかみながら案内させた。

 

 

 

ルート説明

Aルート ルーミア(カット)→大妖精(カット)→チルノ→紅 美鈴→ネーヴェ→咲夜→レミリア

Bルート ルーミア(カット)→大妖精(カット)→チルノ→紅 美鈴→ネーヴェ→パチュリー→フラン

 

 

 

 

Witch girl&Sorrow vampire

 

基本は前回と同じ・・・

なお英語読めない方のためにタイトルを日本語の発音に・・・

ウィッチガール&ソローヴァンパイア

です。

魔女少女と哀しみ吸血鬼(直訳)

 

 氷結の妖精を倒し、なぜか門が開いている紅い西洋館の中へ進む。

 

 

「まわりがみーんな真っ赤だぜ、全くこんな家によくもまぁ住んでられるのぜ」

 

 移動時間短縮のために飛行しながら館を回ってみるが、景色は変わらないし窓が少なくて同じところをぐるぐると回っている気がして気分が悪い。

 

 

 

 

 

 そして館中を飛び回るが異変の主犯格らしき人影も、それにつながりそうな手がかりらしきも無く多少イライラしてくる。

 

 そんな時後ろから声がかけられる。

 

 

 

「追いついたのね魔理沙」

 

「ちょうどいいとこであったな霊夢」

 

 

 

 霊夢の声で後ろに霊夢がいることに気がついた私はにっこりと極上の笑顔で振り返りそういう。

 

 

 

「元気そうでよかったわ」

 

「・・・お前それはさっさと消えたやつが言う言葉かぁっ!?」

 

 無事そうでそう言って上げたのになんて馬鹿なことをほざく腋巫女に逆上してそう叫びながら八卦炉を霊夢に向ける。

 

「そういうしかないからそういうしかないじゃない?」

 

 

 

 霊夢の言葉の返しによりイライラしつつ私は魔力弾を放つが霊夢はひょいひょいよけながら進む。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを続けていると道が二手に分かれていた。

 

「右の道と左の道どっちがいいかしらね?」

 

 そう霊夢が話しかけてくるが、また面倒な物だけ押しつけられるといやなので二手に分かれることを提案する。

 

「さぁ?まぁ、またお前に押しつけられちゃあたまらんからな。私は右に行かせてもらうぜ」

 

「じゃあ私が左ね」

 

 そう霊夢が言っているうちに私はじゃあなと言い残して箒に乗ってびゅーんと去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢のやつと別れてしばらく飛んでいると白い影が扉から出てくるのが見えた。

 

 

 

 直感的にやつが何か知っていると感じ取った私は声をかける。

 

「やいっ!そこの白いお前っ!」

 

 

 

 そう声をかけるとその白い娘はこちらを振り返り自分の顔に指を指す。

 

「そうだ!おまえだ!」

 

 私が大声でそう返すと、その白い娘は氷結の妖精に似ているがそれより小さい氷が羽のようになった翼を広げ、こちらへ飛んでくる。

 

 

 

「白いお前ってのは言い得て妙ではありますが私の名前はアルジェント・ネーヴェ・スカーレットですので」

 

「長い、お前は白いのだ」

 

 何か自己紹介してるがどうでもいいので私はそれを無視してわかりやすい名前をつける。

 

 

 

「なんでっ!?」

 

「さっき言ってやったろう? 長いからだ」

 

「・・・我、不満である」

 

 そう言って頬を膨らませるのを見ながら私はスカートのポケットから3枚のスペルカードを出す。

 

 

 

「まぁ、そんなことよりやろうぜ!」

 

「私は何もよくないんですが・・・」

 

 そう言いつつも白いのはどこからか同じようにスペルカードを3枚出す。

 

 

 

 

 

白いの(アルジェント・ネーヴェ・スカーレット)

 

「今日はなんだか不幸な気がするんです・・・」

 

VS

霧雨 魔理沙

「私にとっては今日は最高の一日だぜっ!」

 

 

 

「・・・パターン レスタド・ド・リオンクール 変符 みんな私に惹かれる」

 

 白いのがそうスペルカードを宣言したと同時に白いのの髪の毛が白から私と同じ金髪に変わり、髪の毛もストレートのロングから癖毛のショートヘアになる。

 

 また、よく見れば手にはマイクを握っている。

 

 

 

「さぁ、ShowTimeだ!」

 

「きっとこのショーはお前のファルスだぜ!」

 

 先ほどのめんどくさそうな雰囲気は消え、ハキハキとした元気っ娘の様な雰囲気が現れ始める。

 

 そして変化が終わったとともに周りに、無秩序に花火のように飛び散る弾幕が次々現れる。

 

 

 

「わっわっわっと」

 

 いくつも飛んでくる花火のかけらをよけているとあることに気がつく。

 

「ん? あいつと近づいている?」

 

 そう、いつの間にか元白いのとの距離がなぜかどんどん小さくなっていくことに気がついた。

 

 

 

「もう気づきやがりましたか?」

 

「言葉が変だぜ?」

 

 私がそう笑いながら言うが、

 

「ちょっとした副作用みたいなもんだってものです」

 

「あっそう」

 

 

 

 そんな軽口をいいながらもマジックミサイルをいくつも放ちそれなりの対応をする。

 

 

 

「第二段階行くぜーです」

 

 そう宣言するとともに元白いのから一直線にビーム状の弾幕がはなたれ始める。

 

 

 

「まったく、みんな私に惹かれるってそいつは傲慢すぎやしないか?」

 

 小さな弾や微妙に太いビーム弾幕をよけつつマジックミサイルをたたき込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ潮時だな」

 

 そう元白いのが言うと花火型の弾幕とビーム状の弾幕は消えて、元白いのは髪の色素が抜け落ちて髪もどんどん長くなっていく。

 

 

 

「タイムオーバーってやつか?」

 

「そういうもんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして白いのは二枚目を宣言する。

 

「光符 バルドルの盾」

 

 そう宣言するやいなやなぜか弾幕が当たらなくなる。

 

 

 

「は?」

 

 私は純粋に疑問を浮かべる。

 

 

 

「バルドルって知りませんか?」

 

「・・・確か北欧神話の登場人物の一人だったか?」

 

 私の答えにうんうんと頷きながら白いのは話を続ける。

 

 

 

 なおこの間も私は放たれる隙間の少ない切り抜けながらもしかしてを狙って攻撃を続けているが一切合切それている。

 

 

 

「魔女ならもうちょっとルーン魔術もやった方がいいですね」

 

「うるさいな、私はルーンよりもっと別なのがいいんだよ」

 

 白いのの余計な忠告を聞き流しながらなおも飛んでくる弾を紙一重でよけていく。

 

 

 

「確かバルドルはミスティルティンで刺されて死んだはず・・・」

 

「おとぎ話程度の教養ですか?」

 

「むさ苦しいひげのおっさん共のお話はあんまり好きじゃなくてね」

 

 しかし、手持ちのスペルカードにその記号を再現することは不可能である。

 

 どうするか、そう悩んでいるときに、ふと気づいた。

 

 

 

 白いのの顔色が青くなっていることを、

 

 

 

「なぁ、白いの」

 

「その呼び方は不本意ですが何ですか?」

 

「・・・全部の攻撃をそらして、それも魔の物と正反対の光を基本に展開する・・・どう考えてもお前じゃ限界があるだろ? それももうすぐに」

 

 私の導き出した答えに白いのはふっと笑ってその通りだと私の推察を認める。

 

 

 

 

 

「背水の陣ですね」

 

「なんともいいがたいなぁ」

 

 勝手に自滅したようにも思えることを黙っておく。

 

 

 

 

 

「それでは最後の一枚!」

 

「泣いても笑ってもの一枚だ楽しくやろうかっ!」

 

 

 

「氷符 ヘルの息吹」

 

 そう宣言した瞬間に今度は肌寒さを感じる空気になっていく。

 

 パキッパキッと空気が凍てつき始め、吐く息が白くなる。

 

 

 

「さぁ、変化にぶっ飛んだ最後の砦の時間です」

 

「有名人に完全防御で、その次は何だ?」

 

 

 

 そう言ってられるのも今のうちとアルジェが崩れて大量の白いコウモリに変化する。

 

「いやはや、銀色のコウモリとは。捕まえるとワシントン条約に引っかかるな。」

 

 そう感想をつぶやくと周りから一斉に響くように声が聞こえる。

 

「みんな大っ嫌いなワシントン条約」

 

「そんなんでいいのか?」

 

 私は呆れながら八卦炉を構える。

 

 

 

「さぁ、いくぜ!」

 

  バ・ ッ・ と・一斉に牙をむいたコウモリが襲いかかってくる。

 

 

 

 一匹は腕をえぐろうとし、二匹同時に脇腹にかみつこうとするやつもいる。

 

 

 

「ふぅむ・・・やっぱり的が多いと面倒だな」

 

 ぴったりと目を閉じながらそうつぶやく。

 

 

 

「いずれの行も及び難き身なれば・・・とても地獄は一定すみかぞかし。」

 

「? いったいなにを・・・」

 

 目を閉じ、まっすぐに腕(というより八卦炉)を構える行動に怪しむような声が耳に届くが気にせずに狙いをさだめる。

 

「魔砲 ファイナルマスタースパーク」

 

 

 

 ニヤッと笑いながら、辺り一面を巻き込むような高出力の魔力砲を放つ。

 

「えっ、ちょ、結局はぶつりょうですかー!!」

 

 投げつけ多方向からは悲鳴が聞こえる。

 

 がきにしない。

 

「いいか白いの、弾幕はパワーだぜっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・白旗です」

 

 白いコウモリたちが何匹も集まり人の形に戻っていく。

 

 そして絞り出された声は降伏の声だった。

 

 

 

「それじゃあこの紅い霧を起こしてるやつのところへつれてってもらおうか」

 

「・・・しょうが無いですね」

 

 そうつぶやいて白いのは大の字に寝転んでいたところを起き上がり私の手の引いた。

 

 

 

「さぁ、行きましょうか・・・この霧を起こしてる人の元に」

 

 

 

今更ながら追加設定

パターン式に力を引き出している状態だと口調が中途半端に変わる。

 

 

 

紅い霧が晴れるとき

 

 霊夢Part

 

「こちらです」

 

 首根っこをつかんで逃げられないようにして道を聞き出している途中で襲いかかってきたメイドを返り討ちにして、メイドにも道を案内させる。

 

「ありがとう」

 

 そうお礼を言って戸を開ける。

 

 

 

 その時後ろでぼそっとこれじゃあどっちが悪玉なのかという声が聞こえたので、とりあえずアルジェを殴る。

 

 抗議の声を無視して改めて扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、当主の部屋へ」

 

 扉を開ければそこには薄い青紫色の髪をドアノブカバーのような帽子で包んだドレスの少女がいた。

 

 

 

「あんたが黒幕?」

 

 ドスをきかせてそう聞く。

 

 少女はクックックッとおかしそうに笑ってニタァとこちらにうすら寒い笑みをつけたままこちらを向いた。

 

「あら、私以外にこんな素敵なイベントを開ける方がいるの?」

 

「そんなの知らないわ」

 

 ゆっくりと私たちはスペルカードを取り出す。

 

 

 

博霊 霊夢

 

「こんなに月が紅いのに・・・永い夜になりそうね」

 

VS

レミリア・スカーレット

「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ・・・楽しい夜になりそうね」

 

 

 

「天罰 スターオブダビデ」

 

 吸血鬼の少女は一枚のスペルカードを自分の上に投げてそう宣言する。

 

 

 

 そしてその瞬間に目の前が紅く染まる。

 

 人間と言うより野生動物の勘が働き、私は一気に後ろへ下がる。

 

 

 

「初手で楽にして上げようかと思ったのに・・・残念ね、これで貴方は苦しんで死ぬルート確定よ」

 

 目の前に広がる極太のレーザーと青い数珠状に束ねられた大玉が飛び交う光景に身の危険をありありと感じる。

 

「うれしくない予言ね」

 

「私は運命を操れる・・・そして貴方の運命はもう私の手のひらの上よ」

 

 そう言って少女はパーの手をこちらに突き出した後、また薄気味の悪いニタァとした笑いをしてその手のひらを握りしめる。

 

 

 

 

 

 私を追うようにレーザーの光がこちらに向けて動き出す。

 

「なら、私はあんたの言う運命とやらをかき混ぜて上げるわ」

 

 

 

 ・・・私に敵はない。

 

 

 

 

 

 目の前に迫るレーザーを横に転がり回避し、そのまま能力で浮く。

 

 横合いからの青い大玉も隙間を縫って難なく回避する。

 

 

 

 うん、大体どんなのか全容はつかめた・・・もう私の劣勢はない。

 

 

 

 

 

 

 

 幾本ものビームを紙一重で回避し、大玉もはや目をつむっていてもよけていける。

 

 そして所々で封魔針やアミュレットを投げつけていく。

 

 

 

「・・・潮時ね」

 

 弾幕合戦をそのまま数分続けていると少女がそうつぶやき、レーザーと青玉は姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

「始祖様、私たち末裔に力を・・・呪詛 ヴラド・ツェペシュの呪い」

 

 第二ラウンドが始まる。

 

 

 

 大玉が走っていき、その軌跡を小さな玉が追っていく。

 

 

 

「まったく、このあたりいっぱいいっぱいに配置するのが好きなの?」

 

 呆れた様にそう言ってみるが相手は自信満々の様子で、

 

「王者たる物こうして己の圧倒的強さを示すべきでしょ?」

 

 そう言いのける。

 

 

 

 

 

 大玉の先のナイフが私の服に傷を作る。

 

 やはり簡単には終われないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな様子を眺める影二つ・・・

 

 そう、咲夜とネーヴェである。

 

 

 

 鬼畜巫女に連れてこられたまま放置された二人はそのまま姉と巫女の一騎打ちの様子を眺めていた。

 

「・・・まったく、お姉様は頭に血が上りきってる様子で、平然と殺すって言ってるし」

 

「まぁまぁネーヴェ様いざとなれば我々が乱入して二人を押さえ込めばいいだけですので・・・」

 

 

 

 二人の目の前に飛んでくる流れ弾も咲夜が相殺させて打ち消すので二人は安全に上空で楽しく飛び回る蝙蝠と鬼畜の決闘を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかやるじゃない、運命に逆らう輩は久しぶりよ」

 

「うるさいわね傲慢蝙蝠」

 

 

 

 そうしているうちに二枚目のスペルが消え、最後の一枚となる。

 

 

 

「これを乗り切れば私の勝利よ」

 

「・・・ふぅん、じゃあ頑張って生き残りなさい?」

 

 そう意味ありげに告げ、少女は最後のスペルを唱える。

 

 

 

「レッドマジック」

 

 吸血鬼の少女を中心に大玉が波紋状に広がっていく。

 

 

 

 その瞬間、少女は薄気味悪さを増したねっとりとした笑みをこちらに向ける・・・そして、鳥肌が立つ。

 

 

 

「 今 、 私 を 怖 れ た わ ね ? 」

 

 

 ゾクリとした感触が背中を駆け抜け、思わず立ち止まってしまう。

 

 

 

 そしてまた吸血鬼の方を見る。

 

 目の前に広がる大玉が増えたように見える。

 

 いや、実際増えている。

 

 

 

 立ち止まっていれば格好の的だと動き出してみるが、やはり違和感を感じる。

 

 

 

 針やアミュレットを投げるが吸血鬼には当たった様子は見られない。

 

 

 

 しかしこちらに傷は増えていく。

 

 切り傷のような、えぐるかのような傷は増える一方だった。

 

 

 

 ・・・えぐる?

 

 

 

 

 

 私は赤玉の間を見ながらアルジェの方をちらりと見る。

 

 

 

 その目は姉は見ておらず、何かを追うように目線を動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なるほど」

 

 私はぽつりとそうつぶやく。

 

 

 

 これ以上はどうやっても持久戦でこちらの負けになる。

 

 吸血鬼と人間の体力ではさすがに差がありすぎるのだから当然だと言える。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのかしらぁ? もう降参しちゃう?」

 

 ニタニタと下卑た嗤いを見せる少女に私は対抗するように言ってやる。

 

 

 

「降参なんてする気はないわ、だってもう終わるもの」

 

 あまり使う気はなかったが、負けて血を吸われるのも気にくわない・・・

 

 

 

「霊符 夢想封印ッ!」

 

 一枚のスペルカードに霊力が込められ、その内容が具現化していく

 

 私を中心に虹色に輝く大玉が八つ、上下左右斜めに展開された。

 

 

 

「さぁ、チェックメイトよ!」

 

 

 

 順番に一発ずつ龍のごとく一列連なりて、虹の大玉、少女に近づきもせずだだ一つ二つの紅い大玉追いかける。

 

 

 

 この光景を見て少女は顔を引きつらせ青くなる。

 

 

 

「どうやって気づいたッ!?」

 

「あんたの妹も似たようなことしてきやがったのよ・・・それもあんたを目で追ってるもの、当てやすいったらありゃしないわ」

 

 

 

 

 

 やがて夢想封印は赤玉に追いつき、痛烈な一撃を喰らわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに紅霧異変は解決したのだった。

 

 

 

なお本日は私の誕生日でして・・・

123とならぶちょっとした覚えやすい日ですね。(祖父の誕生日も1、23)

 

 

 

 

享楽的魔女と病弱系魔女と吸血鬼sisters

 

 もうそろそろクリスマスが近いですね。

 

 何でもサンタの代わりにやってきて殺しをする吸血鬼なんかもいるらしいです。

 

「なぁ、こっちであってんのか?」

 

 階段を下りながら私は何度目かわからない質問を隣に飛ぶ吸血鬼に飛ばす。

 

 

 

「こっちですよ」

 

 しかし、その吸血鬼はにべもなくそう言った。

 

 私は本当だろうかと怪訝な顔をするが、どうやらこの白い吸血鬼は気にしていないようだった。

 

 

 

 そうこうしているうちにかなり大きめの扉の前につく。

 

「つきましたよ、ここにこの異変で霧を起こしてる人がいます」

 

 と観光地を紹介するように淡々とガイドする白い吸血鬼。

 

 

 

 私は両手で力一杯扉を押し開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉の先に広がる世界は地下大図書館だった。

 

「ラスボスは読書家か?」

 

 そう疑問をこぼすが、白い吸血鬼はどういった物かというように小首をかしげて頬を掻いている。

 

 

 

 

 

「あら、侵入者かしら?」

 

 どう言うことか問い質そうとしたとき、後ろから声をかけられる。

 

「ッ!? 誰だぜ!」

 

 後ろからの声に驚き、懐から八卦炉を取り出しながら振り向く。

 

 

 

「私はパチュリー・ノーレッジ 古今の魔術に心得のある魔女よ」

 

「そうか、私は霧雨 魔理沙、この幻想郷最高の普通の魔女さ」

 

「ふふふ、大言壮語、ここに極まり・・・って感じね」

 

「自信があるのが一番さ」

 

 軽口が繰り出されるが、飄々とそれを軽口で返す。

 

 

 

 

 

「・・・さて、じゃあ楽しく」

 

 スペルカードを幾枚か取り出し魔女対魔女のスペルカードバトルをしようとしたが、

 

 

 

 しかし、その瞬間大きな爆発音が図書館中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないですよ」

 

 そしていきなりのことに目を白黒させていると白いのが目の前に飛んできた大きめの破片をたたき落とす。

 

「あっあぁ、ありがとう」

 

 やはり吸血鬼ではあるようでいとも簡単に人の頭大のがれきを殴り壊している。

 

 

 

 

 

「楽しそうなことしてるねお姉様たち」

 

 幼げな声がもうもうと舞い上がる土煙から聞こえる。

 

「フランッ!?」

 

 いくつかがれきを壊すことに集中していた白いのが驚いたように目を見開いている。

 

 

 

「ゴホッゴホッ!」

 

 私はつらそうに咳をしている 紫もやしパチュリーを抱き寄せて運び、廊下に出す。

 

 

 

「・・・さて、お姉様たちってのは年上に対してそう言ってる訳では無いって見ていいな?」

 

「えぇ、アレは私の妹フランドールです・・・すこし精神的な持病持ちです」

 

 消えない土煙の中で白いのと並び、情報をもらう。

 

 

 

「まったく、お前たち姉妹はどうなってるんだぜ?」

 

「В доме повешенного не говорят о веревке.」

 

「は?」

 

「相手が触れてほしくないことをわざわざ話題にしないでくださいって意味のことわざです。 私の故郷の近くの国のことわざですよ」

 

 その説明にフーンと新しい知識を蓄える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、お姉様たち! この楽しい遊びを始めましょ!」

 

 フランと呼ばれる少女が煙り越しにそう叫び、一方的にゲームの開始を宣言する。

 

 

 

霧雨 魔理沙&アルジェント・N・スカーレット

 

「私がその根性たたき直してやるのぜ」

 

「一騎打ちに乱入するような無粋なことをする子にはお仕置きです!」

 

VS

「私と遊びましょ!」

フランドール・スカーレット

 

 

 

「まずはかくれんぼよ! 秘弾 そして誰もいなくなるのか?」

 

 そう宣言するとともに煙り越しの影が消える。

 

 

 

「かくれんぼってことは探し出して当てるのがいいか?」

 

「いえ、これは所謂耐久スペルです待つのが上策かと」

 

 私は白いのの提案を受け、待つことにする。

 

 

 

 すると、私や白いのを追いかけてくる弾幕の群れがやってきた。

 

 

 

「クソッ!やっぱりこうなるのか!」

 

 青の追跡弾幕を切り抜ければ格子状に動く緑などの弾幕がやってくる。

 

 しかし、パターンがあるのは数回の攻撃でもう理解できている。

 

 

 

「パターンがわかれば十分にいけるもので気を抜けば知りませんが?」

 

 

 

 そして数分の攻防の後再びフランの影が現れる。

 

 

 

「かくれんぼは終わり! 次はチャンバラなんてどぉ?」

 

 濃い黄色の髪の毛をサイドテールにまとめ、その上からナイトキャップをかぶっている赤いドレスの少女はそう提案するがどうせ拒否権なんてありはしない。

 

 それが子供特有のものだろう。

 

 

 

「おいでませ我が愛刀!禁忌 レーヴァテイン ヒヒヒヒッ!」

 

 そう言うとともにフランは手に火をともす。

 

 その火は火柱となり、形が整えられて直剣になる。

 

 

 

「あぁ、スイッチが入ってしまいました・・・」

 

 それと同時に白いのがそう言う。

 

「スイッチ?どういうことだぜ?」

 

「うちの妹の異名、【狂喜】のスイッチが入りました。気をつけないと意識が飛びますよ」

 

 意識が飛ぶなんてそんな理由もなく・・・と呆れそうになるが、フランから立ち上り始めたオーラを見て考えを改める。

 

「フランのオーラにかすれば狂喜の一端に触れることになります。常人の脳では処理ができなくて処理落ち・・・つまり気絶と至ります」

 

「おいおい、そりゃあねーぜ・・・」

 

 やっぱり何でもありだなこの吸血鬼共・・・と考えながらも、どうするべきか悩む。

 

 

 

「さっ、いっくよー!」

 

 しかし、フランはこちらのことを考える気はないらしい。

 

 

 

 レーヴァテインと呼んでいた一本の真紅の直剣を、赤い小弾を軌道上に配置する形で振り回したり、小弾こちらに飛ばすように横一文字に横切る一太刀を浴びせてくる。

 

「避けてるばっかじゃ つ ま ん な い!」

 

「わがまま言うんじゃないのぜ、自慢じゃないが当たったら即人生終了なんてものに特攻する勇気は無い!」

 

「本当に自慢にならないですね・・・」

 

 図書館中を飛び回り、ときに本棚の影に隠れ、ときにジグザグに動いて攪乱したりとしながら、ちくちくとこちらも反撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 それをしばらくやっていれば・・・

 

「もぉー!!つまんない! 禁忌 フォーオブアカインドッ!」

 

 癇癪を起こしたフランは新しいスペルカード、いや最後のスペルカードを発動させる。

 

 

 

「さて魔理沙さん、さっきの狂喜のオーラ×4ですので頑張ってください」

 

「さらりと言うがそれだいぶきついからな!?」

 

 

 

「「「「妹戦隊 フランレンジャー!」」」」

 

 魔力を背後で爆発させてポーズから演出までばっちり決める四人のフラン。

 

「戦隊ごっこは男の遊びだぜ?」

 

「だってもう魔法少女になる夢は果たしたもん!」

 

「そうか、ならしょうが無い」

 

 もう極めたというのなら他のことをやらせるのも一興・・・いや今こんなこと考えてる暇はない。

 

 

 

 四人のフランが全員同じように弾幕を放つので2:4の様な感じで劣勢に立たされる。

 

 

 

「だぁーもう! これじゃあらちがあかないのぜ!」

 

「だからってどうしようもないでしょう」

 

 

 

「いや、私がねじ伏せる・・・弾幕はパワーだぜ!」

 

 そう宣言して、四人のフランの真正面に立ち、まっすぐ八卦炉を構える。

 

 

 

「光符 アースライトレイッ!」

 

 開発途中で使う気はなかったが、背に腹は代えられないと発動する。

 

 

 

 五本の光が四人のフランを正確に打ち抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やったのか?」

 

「それフラグって一番言われてるから」

 

 しかし、墜落していったフランはいっこうに浮かび上がることはない。

 

「撃破ってやつだな」

 

「ほとんど魔理沙さんのお手柄ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い合いながら二人で墜落地点に降り立つ。

 

 

 

 そこには体育座りで顔を伏せるフランの姿があった。

 

 

 

「フラン?」

 

 姉である白いのが心配そうに寄り添うがフランは顔を上げない。

 

 

 

「・・・ねぇ、お姉様」

 

「なあにフラン?」

 

 

 

「私地下に戻りたくない」

 

 そうフランはぽつりともらす。

 

「・・・フラン、そん     「出たきゃあでりゃいい・・・」

 

 私はつい口を挟んでしまった。

 

 

 

 白いのの口から地下に戻れと言わせたくなかった。

 

「ちょ、魔理沙さん」

 

 私を止めようと白いのが言おうとするが私は遮る。

 

 

 

「なぁ、フラン・・・外に出たい、もう地下室に戻りたくない。 そりゃあ私は部外者で詳しい事情は知らないが、私の経験で一つ言うべきことがある」

 

 フランはゆっくりとこちらに顔を向ける。

 

「言うべきこと・・・?」

 

「そうだ、ウジウジ繰り言を繰り返すな、行動しろ・・・これは私の経験からの言葉だ」

 

 白いのはやれやれという呆れと期待が半分半分というような様子で様子を見守っている。

 

 

 

「どう行動するか考えるのは別に良い、だが一度決断すればその通り貫徹しろ。 同じ決断を下すのは立ち止まってるのと同じなんだから・・・」

 

 

 

「わかった」

 

 フランは涙目となった目をゴシゴシと擦り、涙を拭く。

 

 

 

「よく言った」

 

 そして私はフランの頭をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 こんなもんかと白いのの方を見れば、白いのはあっと驚いた顔で固まっている。

 

 何かおかしいところがあるのかと見回すがおかしなところはないように思えた。

 

 そう思っているとガシッと抱きつかれた感触が私の下半身を襲う。

 

 

 

 どれとみればそれは 歓・ び・ を・ オ・ ー・ ラ・ と・ い・ う・ 形・ で・ 表・ す・ フ・ ラ・ ン・ が・ 抱・ き・ つ・ い・ て・ い・ た・。

 

「あー・・・白いの、後は頼・・ん・・・だ・・・」

 

 

 

 私の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

露 В доме повешенного не говорят о веревке.

訳 首吊り自殺した人の家ではロープの話をするな。

 

つまりはそういうことです。

海外のことわざって結構面白いよね。

 

 

 

 

紅と白と黒と黄色

 

今回短め

 

 紅白の巫女がお姉様を退治し、紅霧もいつの間にか晴れていた。

 

「さてこれにて一件落着ね」

 

 手をパンパンと汚れを払うように叩きながら巫女はそう宣言する。

 

 

 

 そして一同を正座させ、説教タイムに突入しようとしたとき、当主の間の扉がバァッン!と開かれ白黒の魔女と自身の金髪以上に爛々と目を光らせながら白黒の魔女にひっついている我が妹フランが入ってくる。

 

 

 

「よっ、霊夢!」

 

 そう白黒の魔女が霊夢と呼ばれた巫女に声をかける。

 

「・・・私が頑張ってる間に今度は何処で新しい女見つけてきたの?」

 

 しかし声をかけられた霊夢の方は心底いやそうな顔で皮肉を言う。

 

「んー? いや、ちょっとそこでな」

 

「・・・全くもうこれだから魔理沙は・・・・」

 

 呆れて物も言いたくなくなるわと続けながら霊夢は魔理沙にもそこへ直れというように私の隣を指さした。

 

 

 

「えぇー!そりゃないぜ!この魔理沙様の活躍を今から語ってやるから心して聞け!」

 

 しかし魔理沙は断固拒否すると徹底抗戦の構えを出し、余計にややこしくなるような雰囲気を醸し出し始める。

 

「うるさいわね! あんたの武勇伝なんて八割方嘘っぱちじゃないの!」

 

「なにおぅ!八割方嘘っぱちなんてひどい言いぐさじゃないか!それが十年来の友人に対する物言いか!」

 

「ただの腐れ縁でしょうが!」

 

 もはや私たちなんて関係が無いというように口喧嘩はヒートアップしていく・・・というかもう痴話喧嘩ならよそでやって欲しいです。

 

 

 

 そしてそのまま放っておけば、ついには取っ組み合いを始めてしまった。

 

 そろそろ我慢の限界なので止めようと立ち上がろうとするが、その瞬間におでこには封魔のお札が張り付く。

 

 

 

 あばばっっばっばばばと痺れ、私は立ち上がることなく地に伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネーヴェが立ち上がった瞬間にお札が張り付き、ネーヴェは電気が流れたように痙攣して倒れ込む。

 

 ・・・そして紅白と白黒の取っ組み合いが終わってもネーヴェは起きなかった。

 

 

 

 おそらくは札を受けたダメージの回復で残った魔力がすべて尽きてしまったのだろう。

 

 白黒と紅白はお札が強力すぎて気絶したんだと勝手に解釈して、ネーヴェが死んでいると気づかぬまま白けたなと言って帰って行ってしまった。

 

 

 

 

 

「咲夜、ネーヴェを棺に戻しておいて上げて」

 

「承知いたしましたお嬢様」

 

 淡々と咲夜は自らの仕事をこなしにネーヴェを抱き上げて行ってしまった。

 

 

 

 そして最後にこの部屋に残った者に目を向ける。

 

 

 

「久しぶりねフラン」

 

「えぇ、そうねお姉様」

 

 フランの声は親しみも懐かしみも感じさせない平坦さがにじみ出ている。

 

 

 

「・・・私が憎い?」

 

 つい私はこんなことを聞いてしまった・・・己がフランを、妹を幽閉したのに・・・

 

 

 

 だがフランは憎いという答えは返さなかった。

 

「いや、もうどうでもいい」

 

 しかし、その答えは憎い以上に私の心を痛めつけた。

 

 

 

「そう・・・もう良いわ、下がってちょうだい」

 

「言われなくても」

 

 そう言って部屋を去るフランの後ろ姿は白黒がいたときの爛々とした歓びがかけらも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レ・ミゼラブル・・・かしらね・・・・・」

 

 おそらく今の私には怒りの 焔ほむらも歓びの 纏風まといかぜも無いだろう・・・もしあるのならば、それはきっと哀愁の雨だけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

紅白と白黒

紅と白と黄

 

少し抜けている方でももうおわかりですね?

 

 

 

 

第四章 雪降る日々は続く

はっぴーくりすます?

 

 カリカンザロス…イェス・キリストの誕生日とされる十二月二十五日からイェスの誕生を知った三人の賢者がイェスのもとを訪ねたという一月六日の公現祭までの十二日間を降誕節という。

 ギリシャの吸血鬼であるカリカンザロスはこの降誕節に密接な関係がある。

 カリカンザロスはこの降誕節に行動する吸血鬼で、それ以外の時期には姿を現さない。

 

 サンタの代わりにこんばんわ・・・なんてのは洒落ならない。

 

 しんしんと降り積もっていく雪を眺める。

 

 現在時刻は23:30、もうあと三十分で十二月二十五日のクリスマスとなる。

 

 

 

 私の記憶はクリスマスの数日間はいつもあいまいで、記憶が朧気となっている。

 

 お姉さまやフランとクリスマスを祝った記憶はお父様たちが生きていたころの記憶しかなく、もしかしたら私は二十五日の数日間は寝ているのかもしれない。

 

 

 

「ネーヴェ?起きているの?」

 

 棺桶というベッドから半身を起こして窓を眺めているとき、向いている方向とは逆のドアがノックされる。

 

「はい、起きていますよお姉さま」

 

 無論起きているのを偽る必要もなく、私はお姉さまにそう告げる。

 

 

 

「入るわね」

 

 そう言ってお姉さまは扉を開けて部屋に入ってくる。

 

「・・・月がきれいですね」

 

 棺桶のふちに腰掛け私と同じように窓から外を眺めるお姉さまに私は窓から見える景色についての感想を告げる。

 

「えぇ、恨めしいほどに完璧な月だわ」

 

「ふふふっ♪ 月まで奪うんですか?」

 

「確かにそれも面白そうね」

 

 お姉さまは楽しくてたまらないといった風ににこやかな笑顔を私に向ける。

 

 

 

「月の侵攻作戦なんて前代未聞でしょうね」

 

「案外妖怪の賢者がやってそうなことだと思いますよ?」

 

 私とお姉さまは他愛のない話を続ける。

 

 

 

 しばらく会話していると置時計がボーンボーンと低い音を鳴らす。

 

「もうクリスマスで…す・・ね・・・・」

 

 私の意識は急速に遠のいた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、カリカンザロス」

 

 私はネーヴェだったものに声をかける。

 

 

 

 先ほどまでの長い銀髪は黒曜石の如く黒く染まり、頭頂部には垂れ下がったロバの耳が生える。

 

 肌は程よく焼けた小麦色で、目は焔の如く赤々しい瞳へと変貌する。

 

 

 

「一年ぶりか? 姉貴」

 

「・・・あなたに姉と呼ばれる筋合いはないわ。カリカン」

 

 私はネーヴェの姿をした一人の吸血鬼を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 カリカンはネーヴェの能力覚醒のクリスマスにネーヴェの能力を媒介に現世に顕現した存在だった。

 

「おはよう姉貴」

 

「ネーヴェ?」

 

 性格もパターンに似るというのはわかっていたが姉貴呼びは礼儀正しいネーヴェにしてはおかしいと直感的にそう感じ取った。

 

 

 

 そしてそばにいたフランは私の疑問に答えを与えた。

 

「あなたは誰?」

 

「っ!?」

 

 フランの疑問はネーヴェの顔に驚きの表情を張り付ける。

 

 

 

「あなたはお姉さまじゃない」

 

 なおもフランは続ける。

 

「お姉さまの意識はあなたに抑えられてる・・・お姉さまを返せっ!」

 

 

 

 フランはそう叫んでネーヴェに襲い掛かっていった・・・

 

 

 

 それから毎年クリスマスの数日は私たちとカリカンの戦いが勃発していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、今回も虚無の世界に返してあげる」

 

「・・・チッ」

 

 起き上がったカリカンは爪を伸ばす。

 

 

 

「ごめんねネーヴェ」

 

レミリア・スカーレット

 

 

VS

「俺は俺の好きなようにさせてもらう」

カリカンザロス

 

 

 

 魔力を槍の形に変え、構える。

 

 

 

 槍の強さは突進力、吸血鬼の身体能力を生かした戦闘は実に向いているといえる。

 

 

 

 槍と爪が交差し、二人の顔がまじかに迫る。

 

 

 

「さっさとネーヴェに体を返しなさい」

 

「いやだね、やりたきゃ俺を倒せ」

 

 お互いの力が拮抗し、その結果離れる。

 

 

 

 槍の連撃を繰り出し、少しづつ傷を増やしていく。

 

 

 

「血を求める者よ」

 

 素早く決着をつけるためにパチュリーの開発した魔術を試す。

 

「その血に流れる真紅の魔を」

 

 

 

 カリカンは怪訝な顔をしながらも一撃一撃を食らわせてくる。

 

 

 

「我によこせ!」

 

 

 

 カリカンは動きを止める。

 

 がくがくと膝が笑い始め、数瞬後には膝を屈してその場にひざまずく。

 

「あ、姉貴・・・てめえ・・・・なに・・・を・・・」

 

 

 

 血は命の源、だから吸血鬼は血を吸うことによって魔力を補給する。

 

 

 

 血には魔力が流れる。ならば傷口から血中の魔力を抜き取る・・・

 

 ある意味対ネーヴェ用の術式であるといえるだろう。

 

 

 

「ちく・・・しょ・・・う・・・」

 

 ついに四つん這いから崩れ、地に倒れ伏す。

 

 

 

「・・・ネーヴェをまっとうな吸血鬼にする計画よりこいつを封じる手立てが先に欲しいわね・・・」

 

 私はそうぼやいた。

 

 

 

 

 

正月吸血鬼

 

クリスマスの次は正月ってイベント多すぎで草

 

ふぅ、とお茶を飲みながら外を見る。

 

 

 

外には一面の銀世界が広がっていてそこでは妖精どもがわいわい雪合戦をしている。

 

 

 

 

 

 

 

「氷精は元気ね~」

 

 

 

 まぁ、子供は風の子、大人は火の子ともいうし元気いっぱいなのはいいことだと思いこたつという最高の発明品でゆったりとする。

 

 

 

「では霊夢さんも参加してきては?」

 

 

 

 ・・・前言撤回、私のゆっくりを邪魔するやつの排除にせいを出す必要が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほらこのあったかい布団と暖房器具を一体化した夢の道具から抜け出して、一緒に雪合戦しませんか?」

 

 

 

 そう私に問いかけてくるのは全身もこもこの防寒具をつけた吸血鬼三姉妹の真ん中、アルジェだった。

 

 

 

「・・・そういうあんたはどうなの?」

 

 

 

「私はもうすでに三回ほどやってますよ・・・あっ、まぁ被弾しまくってひどい目あったんですが」

 

 

 

 アハハと影を感じさせる笑いをしつつもその顔はとっても楽しいというようにキラキラと充実感を醸し出している。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あんたは・・・こたつに入るのはいいけど布団濡らさないでね」

 

 

 

 そう言ってやるとアルジェはわかりましたと濡れた服を脱ぎ始めて、縁側のほうに吊るしに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁー霊夢ーあったかいもんくれー」

 

 

 

「駄目だよチルノちゃん!そんな言い方」

 

 

 

 アルジェが服を干しに行って数分後、遊び飽きたのか氷精と大妖精が部屋に入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとあんたたち妖精は自由気ままね?」

 

 

 

「あたいたちはファランクスみたいなんだから当たり前よ!」

 

 

 

「? あんた何言ってるの?」

 

 

 

 馬鹿が馬鹿なのはいつも通りだが、今日はさすがに単語の意味が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「きっとチルノさんはフランスみたいな、つまり共和制だといいたいんでしょうね」

 

 

 

 困っていたところへちょうどよく帰ってくるアルジェ。

 

 

 

 これは外で待っていたじゃないかと疑いたくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「仏蘭西?確かあそこって国王がいたんじゃなかった?」

 

 

 

「いえ、数百年前に打倒されましたよ」

 

 

 

 外国というより幻想郷から外の情報が極端に入りにくいこの幻想郷ではなかなか知れなかった事実を知りつつ、今度は別の質問をする。

 

 

 

 

 

 

 

「ところであんた何持ってんの?」

 

 

 

 アルジェはその手にお盆を持ち、お盆の上には四つの汁椀が乗っている。

 

 

 

 そしてそのお椀からはもうもうと湯気が立ち上っている。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、お雑煮ってやつですけど」

 

 

 

 困惑したような顔でアルジェは私たちの前にお椀を置いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、アルジェはそれをお雑煮といったがそれはどう見てもぜんざいだった。

 

 

 

 小豆の甘い香りが漂い、大きめの丸餅が二つほど入っている。

 

 

 

 漆器の朱色とぜんざいの小豆色が映えて、良い出来とえた。

 

 

 

 

 

 

 

「なにいってるの? これはぜんざいでしょ」

 

 

 

「んー?霊夢何言ってるんだー? これはおしるこだぞー」

 

 

 

「えっ?でもさっき厨房で白い服のおじさまがお雑煮作ろうかって言って一緒に作りましたが・・・」

 

 

 

 白い服のおじさまって誰だよと突っ込みを入れてもアルジェはさぁ?としか答えず、うちの台所に忍び込んでいた賊についてはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず食べませんか?」

 

 

 

「それもそうね」

 

 

 

 名前のことなんてどうでもいいと私たちはぜんざいにかぶりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぜんざいを食べてしばらくしたころ、時空がゆがみ、紫が顔を出す。

 

 

 

「あら、小豆雑煮ね?」

 

 

 

 私以外のやつらは対外こたつの魔力に負けて寝入ってしまって反応しない。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あんたも雑煮っていうのね」

 

 

 

 眠りたい気分なのを我慢して私はゆかりに疑問をぶつける。

 

 

 

「えぇ、もともとぜんざいっていう呼び方は間違ってるから」

 

 

 

 さすが賢者何でも知っている。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何の用なの?」

 

 

 

「正月の時期だからかわからないけど建御名方タケミナカタ様がこちらのほうに来られたようなの」

 

 

 

 ・・・まさか、いやまさかな、そんなことあるわけないと思いつつ私は聞いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしてその建御名方様は白い服装?」

 

 

 

 紫はえぇ、と肯定する。

 

 

 

「・・・ぜんざいのことをお雑煮っていう神様?」

 

 

 

 紫はたぶんそうじゃないかしらとあやふやながらも肯定の意を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・紫、その神様にこう伝えてくれる? とってもおいしゅうございましたって」

 

 

 

 ある意味神すらもろともしない強さだと思った。

 

 

 

 

 

幽かなる異変の気配

 

 

 

「ねぇ妖夢・・・」

 

 主人の西行寺 幽々子様は半分自分の体を預けるように縁側の柱に手を携えこちらを振り返ることなく話しかけてくる。

 

「なんでしょうか幽々子様」

 

 この主人は大事じゃないことを大事そうに言うのに大事なことはあっけからんと言うのだ、だからこんな風に私へなんでもなさそうに言う時こそ一番警戒してかかるべきだと私は知っている。

 

 前に「ちょっと出てくるわ」と言って数週間ほど戻らないことがあった。その時は帰ってきた後に言い訳がましく「吸血鬼に封印されて監禁されてたのよぉ~」と言っていたがその頬は上気してお酒臭かったので、きっと吸血鬼とか言うのは嘘でどこか別の・・・そう紫様のところに入り浸っていたのだろう。

 

 

 

 まぁそれはともかくとして・・・

 

「今年の冬は雪が少なかったと思わないかしら?まぁ、私は雪は嫌いだけど」

 

「えっ?でも去年までは雪見酒がおいしいとか言って雪が好きとか言ってませんでした?」

 

 その答えに「今年から嫌いになったの」とあっけからんと答える幽々子様。

 

 

 

「それでどう思うの妖夢」

 

 答えを催促するかのように幽々子様は聞いてくる。

 

「そうですねぇ~・・・今年は赤い霧が幻想郷中に充満する異変も起きていたので確かに雪が降りにくかったと思いますよ」

 

 のちにこのセリフを言ったことを私は後悔する。それは大体数秒後のことだ。

 

 このセリフを聞いた瞬間幽々子様はバッとこちらに笑顔で振り返る。

 

「そうよね!そうよね!やっぱり妖夢もそう思うんじゃやっぱりこの幻想郷に冬の風流は足りてなかったと思うのよ!」

 

 この瞬間私は間違った選択をしたと痛感した。真面目に答えるだけじゃろくなことにならないと知っていたのに・・・

 

 

 

「・・・幽々子様何をなさるつもりですか?」

 

 もうこうなったら少しでもましな方向になるように矯正していくしかないと恐る恐る計画の全貌を聞こうとする。

 

「そうねぇ・・・じゃあこういうのどう?」

 

 そう言って幽々子様は計画を話し出す。

 

「まず妖夢は春度って知ってるでしょ?」

 

 私は「えぇ」と肯定する。

 

「春度は春の度合いを意味している大事なもの・・・それを奪えば春は来ない、つまり夏も来ないし秋も来ない!ずっと四季が巡り続けることに飽き飽きしてる人がほとんどだから飽きも来ない!」

 

 私は嘆息しながら「うまいこと言ったつもりですか?」と言い「その春度の集める先はあなたの頭の中にあるお花畑だけで十分」という言葉は飲み込んでおく。

 

「でもでも結構いい案でしょ?」

 

 これよりましなものがあることを祈り他の案はないのかと尋ねる。

 

 

 

「それじゃあ西行妖の封印を解くとか、 人魂灯じんこんとうの灯をともして幻想郷中にばらまくとかどうかしら?」

 

 これは最も楽なのは春度集めとわかる。それ以外のルートがバットエンドにしか通じていないというのはどういうことだ!?

 

 どうせここですべての案に不賛成にしたとしてもそれはより悪い方向に進むのは目に見えているためもう私にはどうすることもできないと察した。

 

 

 

 誰かこの幽々子様を止められる人を私のもとへ遣わしてください・・・

 

 

 

 

 

雪と桜

 

書き溜めなければ・・・

 

 

「ねぇ、お姉さま・・・今日って何月何日ですかね?」

 

 窓の外に映る光を閉ざす分厚い雲とその雲から吐き出される雪を見ながら私は尋ねた。

 

「えーっと、今日は三月二十四日よ?」

 

 そして返ってくる答えは少し季節はずれな答えだった。

 

 

 

「・・・お姉さま。そろそろというか絶対にもう春ですよね?」

 

 三月二十四日ならばもうそろそろ雪解けが終わった頃なはずだ。しかし現状がそうとは絶対に言えなかった。

 

 

 

 もう一度外をのぞく。

 

 だが、そこから見えた景色は【雪解けの春】でなく、その凍てつく寒さで生きとし生けるものすべてを等しく包もうとする死の雪しかなかった。

 

 窓の外の光景は、やはり何かおかしいと思えた。

 

 

 

「やっぱり何かあるんじゃないでしょうか・・・」

 

 不安げにつぶやく私の後ろでお姉さまは「大丈夫よ」といって近くに置いている呼び鈴を手に取り、鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私にこの雪を解析しろってことでいいのよね?」

 

 お姉さまが呼んだ咲夜がパチュリーを連れ出し、ここまで運ぶ。そしてお姉さまが無理難題を吹っ掛ける。

 

 紅魔館ではよく見る光景だった。

 

 

 

「えぇ、お願いできるかしら?」

 

 サンプル集めとか諸々は咲夜によろしくと丸投げするオプション付きでお姉さまは今日も人に無茶をさせた。

 

 

 

「・・・貸し一つよ」

 

 そしてパチュリーもそれほど嫌がらずそのお願いを聞く。

 

「貸し一つならいつもより安いわね」

 

 貸し一つを当たり前と思わないでほしいんですがねぇ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後しばらく待っていると扉がノックされ、パチュリーが入ってくる。

 

「あら、早かったじゃない」

 

 期待していたよりもずいぶん早かったらしくいつもの皮肉めいた言い方ではなく素で驚く。

 

「こんな簡単なのに一時間もかけてられないわ」

 

 パチュリーはさっそく説明に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっとまずどこから話そうかしら?」

 

「原因からでお願いします」

 

 私はどこから話すのかを悩むのならばと聞きたいところをお願いする。

 

 

 

「わかった、じゃあ端的に言うわね」

 

 そう言ってパチュリーはその場に立体映像を作る。概要が簡単に説明できる。そう、魔法ならね。

 

 

 

 空中に浮かび上がる映像には二つのものが映し出されていた。

 

 片方は桜を模した雪の結晶、もう片方は空中に浮かんだ大きな門の隙間に青白いものが吸われていく光景だった。

 

「・・・これは?」

 

 そうぽつりと漏らした。

 

 

 

「まず、この幻想郷には【春度】という季節を変えるために必要な物質があるようなの。それがこの桜状の結晶よ」

 

 淡々とパチュリーは語る。

 

「じゃあその吸われていく光景は・・・まさかッ!?」

 

 座っていた椅子から思い切り立ち上がる。

 

 パチュリーはこちらを見てただ、こう言った。

 

「その────まさかよ」

 

 「場所は?」と声を出す。

 

 

 

 パチュリーはゆっくりと腕を上げ上を指さす。

 

「天高く、死したものが裁かれ次の転生を待つ死者の安息所・・・冥界よ」

 

 

 

 

 

 

 

 冥界・・・なるほど、死者の安息所か。

 

 この異変を止めたい、じゃなきゃ寒くておちおち眠っていられないのだから。

 

 

 

「お姉さま、行きましょうよ。冥界に幽霊退治しに!」

 

 私は高々とそう宣言した。

 

 

 

 

 

自由奔放な主人公ども

 

書き溜めなきゃ(既視感)

 

「あぁ~寒いわ~」

 

 あたり一面の雪と築数十年もたつ神社の隙間風ゆえにずぶずぶと ダメ人間製造装置K O T A T Uに入り込んでしまう。

 

 しかし、それもこれもアレも全てこの季節外れの大雪が悪いのであって、私は悪くない。悪くない!

 

 

 

 多大な幸福感と大いなる温かさに包まれ頭までとろけるぅ・・・

 

 どうせこんな大雪の日に参拝客なんていやしないんだからもう寝てしまおう。そうだ、そうしよう。

 

 うとうと、と途切れかける意識を立て直すことなく私は睡魔の湖へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザクザクと雪を踏みしめる感触に我ながら子供らしいと思うが、思わず鼻歌が漏れる。

 

「しっかし、なんでこんなに雪が降り続くんだぜ?」

 

 湿度の高い魔法の森は多く茂る木々やキノコによってあまり雪は積もっていないが、それでも霧が出たりはよくしていた。

 

 

 

 ハァ…と吐く息は白く、気温も肌を刺す冷たさから相当寒いのは心底伝わった。

 

 

 

 春なのに冬という矛盾した不思議な期間である今の状態は普通では観察できない現象や素材を手に入れるチャンスではあるのだが、それも一週間二週間と続くとさすがに飽きてくる。

 

 目標は春を取り戻すと心のメモ帳に書き留め、走り出す。

 

 

 

 行く先は───そうだな、前科者とかこんなことできそうなやつからあたっていこう。

 

 

 

 ダッダッダッと深い雪に足を取られながらも高台へと向けて走り、一気に飛ぶッ!

 

 ふわりという一瞬の浮遊感と次に訪れる風を切る感覚。飛んでいきそうになる帽子を押さえ、またがった箒の先を湖方面に向ける。

 

 第一目標は白いので、第二目標はチルノ・・・まっこんな感じが妥当かな?そう頭によぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連日の雪で日が陰り続けているそんな洗濯物が乾かず憂鬱とする一日。

 

 お嬢様の部屋の前を通りかかれば嬉々とした声が聞こえた。

 

「行きましょうよ!冥界に亡霊退治!」

 

 

 

 今日は珍しいなと素直にそう思う。

 

 普段は引っ込み思案で自ら先頭に立つことが少ないネーヴェ様が何かしようと言い出すのは珍しいことだった。

 

 

 

「失礼いたします」

 

 しかし、私はメイドである。メイドは主人を補佐し、時には外交、時には一軍の将として刃を取るのが仕事。無鉄砲に突っ込んでいくのをいさめるのもメイドの仕事だ。

 

 

 

 私は扉を開けて話し合いに参加する。

 

 

 

 

 

「冥界に亡霊退治、異変解決は大いに結構ですがネーヴェ様。それはどうやって成し遂げるのでしょうか?」

 

 具体的な案があるならそれでよし。なければ考えるか諦めてもらうだけだった。

 

 

 

 しかし、ネーヴェ様は私が尋ねるとニタリと笑って一言いうだけだった。

 

「大丈夫ですよ。咲夜がここに来たように残りの主役ももうじきここに訪れます」

 

 そして部屋にいたお嬢様、パチュリー様、私を見てフフフっ♪と笑っただけだった。

 

 

 

「そ、そんなの策でも、行動内容でも何でもありま────「いいのよ、咲夜」

 

 私の注意を止めるお嬢様。

 

「ネーヴェの言う通りよ、もうすぐ運命の糸が絡みつく・・・それが見て取れるわ」

 

 お嬢様はひどく喜んでいるようで徐々に口角が吊り上がっていく。

 

 その様子を見て私は、もう歯車は止まらないと確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・きろ・・・き・・ってばっ!」

 

 体が勝手にゆすぶられて動く違和感と、上から降り注ぐ声により私のさわやかな睡眠は邪魔をされる。

 

 

 

 けだるげに目を開けば、ぼんやりと映る金髪の魔女っ娘の姿。

 

「何よ魔理沙、私の安眠を邪魔しないで」

 

 相手が魔理沙なら、放っておいても問題ないだろうとごろりと寝返りを打つ。しかし、魔理沙はそれでも私を起こそうと試行錯誤してくる。

 

「安眠というより惰眠だろ?」

 

「いいじゃない惰眠・・・」

 

 どうせこいつが来たなら外へ連れ出されるのはどう考えても確定事項。ならば私はそれを絶対に阻止しなければいけない。なんとしてでもだ!

 

 

 

「絶対に外へ出ないわよ」

 

「そうか・・・それじゃあ私一人で行くか 酒・ で・ も・ 飲・ ん・ で・ 体・ を・ あ・ っ・ た・ め・ て・ か・ ら・ な・」

 

 そういうがいなや魔理沙は戸棚を開け秘蔵酒を次々見つけ出す。

 

 

 

「ちょっ!アンタァ!」

 

 思わず私は上体を起こしてしまった。

 

 どう考えても魔理沙の思うつぼなのは確かだった・・・というか反応してしまって少し悔しい・・・

 

 

 

「おっ起きたか霊夢。じゃあさっそく白いののところへ行くぞ」

 

「わっ私は起きたんじゃなくて!」

 

 ギャーギャーと言い合いの響く神社。その声は元気な声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 館の敷地内に二つの新しい気配が入り込む。

 

 それはまさに覚えのある気配だった。

 

 

 

 紅い楽園の 素敵な巫女鬼畜な巫女と白黒の魔法使いの気配だった。

 

 

 

「お姉さま、パチェ、魔力供給ありがとうございます」

 

 私はそう手をつないでいた二人に言って一面雪で覆われた広い庭を見る。

 

 

 

 広さは十分ですね・・・

 

 

 

 一応最大級の私の武器であるものを出すのだから広さと魔力を考え作る。

 

 

 

 親指の腹を噛み、血を流れさせる。そしてその血を一面の銀世界へ垂らす。

 

 

 

「我が力は槍にあらず」

 

 

 血は物理法則を無視して広がり複雑な魔方陣を形成する。

 

 

 

「我が覇は剣にあらず」

 

 

 ゆっくりと魔方陣は紫の光を放つ。

 

 

 

「我が命は悠久にあり」

 

 

 ドクン、ドクンと私の鼓動に共鳴するように威圧感が高まる。

 

 

 

「生けるもの死せるものの境なき万雷の喝采を聞け!」

 

 

 ドクンッ!と力強く魔方陣が輝く

 

 

 

「冥界の女王の誉れをここにッ!」

 

 

 魔力が魔方陣からあふれ出し、ゆっくりと雪が溶けだす。

 

 

 

「その勇ましさを讃えよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「顕現せよッ!!」

【 不死者の軍艦ッ!ナグルファルッ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔方陣が星のように瞬き、だれもが目がくらみ一瞬目をつむる。

 

 そしてもう一度開いたとき、そこには大きく帆の張った白い木造船が顕現していた。

 

 

 

 そして、紅魔館の面々が驚きの顔を見せる中、二人の少女がその場へ顔を出す。

 

 

 

「一体全体何なんだぜッ!?」

 

「・・・これ、幽かに神聖さがある」

 

 一人は目を輝かして驚き、もう一人はいぶかしげに観察する。

 

 

 

 しかし、そんな二人にネーヴェは一声かける。

 

「さて、役者もそろいました・・・では冥界への帰港へまいりましょう?」

 

 

 

 そして船の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ霊夢」

 

「ねぇ魔理沙」

 

 二人は顔を見合わせて同時に口を開く。

 

「「この異変、大変な目にあう予感がする」」

 

 

 

 そして声が重なった二人は笑いあって、ゆっくり船に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢と魔理沙、次にレミリア、咲夜と船に乗りパチュリーは乗船せず館にいると戻っていった。

 

 

 

 そして乗るものはもういないとわかったかのように船は乗り込むための階段をしまい、飛び立つ。

 

 

 

 

 

 操舵をする見知らぬ大男の脇をすり抜け、ネーヴェは船首のほうへ進む。

 

 

 

 ちらりと振り向けばそこには隊列を組みネーヴェたちの後ろにつく小型の船がいくつもついてきている。そして、その小船にはいくつもの人魂が乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 視線を後ろから前に移し、行き先を睨む。

 

 その視線の先には雪を降らすついでかのようにゴロゴロと音を鳴らす黒雲があった。

 

 

 

 ネーヴェはにたりと笑って叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嵐の夜ッ! 亡霊の群れッ! ワイルドハントの始まりだァッ!」

 

 

 

 

 

 

ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス?はっはっはっ!なんの御冗談を?

 

えっ?フランシス・ドレイク?ちょっと何言ってるかわかんないですね

 

 

 

 

冥府への亡霊船

 

亡霊船 雄々しく進む 冥府道

 

 

「で、この船はどこへ向かってるの?」

 

 壁に背を預けながら鬼畜巫女は尋ねてくる。

 

「そんなことも知らずに乗ったんですか?」

 

 どうせわかってるからここに乗せたんでしょと鬼畜巫女はそう言ってくる。

 

 

 

 現在この場にいるのは巫女と私と魔理沙だけである。

 

 私の宝具ナグルファルは順調に雲を抜け、冥界と現世を区切る封印されし門のもとへ進む。

 

 お姉さまは咲夜と一緒に甲板に出ているが、雲の覆いがなくなってしまった現状においてはすぐにここへ戻ってくるだろう。

 

 

 

「この船の行き着く先は冥界です」

 

 私はそう告げる。

 

 

 

「なんだ?私たちをそこへ送り届けて殺そうってのか?」

 

 巫女と私の会話に割り込むように話しかけてくる魔理沙。だが冗談めかした言い方とは逆にその目は笑っておらず、壁に寄りかかっているそのすぐ横には箒がかけられている。・・・つまり彼女はいつでもここから脱出できるということ。そしてわざと注目させるように会話へ割り込んできたなら警戒の証であり、いつでも抵抗できると言外に言っている。

 

 

 

「そんなことありませんよ。人聞きの悪い・・・私の目的はこの長ったらしい冬を終わらせることです」

 

 私の目的はそれだけだと説得力をもって伝えることだ。

 

「確かに私を信用できないというのはあると思いますが、私を信用できないなら今この船から出て行ってもいいですよ」

 

 そこで私は但しとつなげる。

 

「ただし、この船から降りれば安全に冥界まで運ぶというのは不可能ですよ?さすがに船を降りた後の戦闘やケガなんてのは面倒見切れませんから」

 

 脅しっていうほどのものでもない、いうなれば注意事項といえるものではある。

 

 

 

 

 

「いや、お前の言うことを安心して信じる方法はあるぜ」

 

 どう反応するのかと待ってみると魔理沙のほうから提案が上がる。

 

「ほう、それは何でしょうか」

 

 

 

 

 

「簡単なことだぜ。白いの、私と契約しろ」

 

 魔理沙は一歩前に出て拳を突き出す。

 

 

 

 ふむ、悪魔との契約────それも吸血鬼とですか・・・フフフっ♪度胸があるんですね。

 

「いいでしょう。契約しましょう」

 

 

 

「じゃあ契約条件は三つだぜ。一つは契約者に危害を与えない。二つ目は契約者には包み隠さず答える。三つめは契約者を裏切るなだ」

 

 契約するか?とニヤッと笑いながら拳ををこちらへ近づける。

 

 この拳に触れれば契約は完了・・・だがさすがにそれは不平等だ。

 

 

 

「さすがにそれはひどいですね・・・物事は対等な関係の下に結ばれるべきなんですよ?」

 

 条件はこちらからもあるんだ。sれを伝えないとひどい目にあうのはこちらである悪魔側だ。・・・いやごく一部ちゃんと契約しておきながらも何回も騙されている悪魔の話はあるにはあるけど・・・

 

 

 

「私からの要求は・・・まず一つ後に明文化すること。次に契約した場合契約を破棄するには勝負に勝つ必要がある。あとは白いのではなく別の名称で私を呼んでください・・・というところでしょうか?あぁ、もちろんもっと細かいところは明文化するときに」

 

 悪魔は契約には敏感で、儲け話には食いつく・・・ある意味一流の交渉人であることは間違いないだろう。

 

 

 

 さぁ、どうします?と私は問いかける。条件を飲んで契約するのかと。

 

 

 

「あぁ、契約してやる」

 

 私は少しは悩むと思っていた。だが魔理沙は何のためらいもなくまっすぐ私の拳に自分の拳をぶつけた。

 

 

 

 ポーンと何かを告げるような音ともにぶつかり合ったコブシの上に魔方陣が出現し、契約を確認するとすぐに消えた。

 

「これで契約完了・・・と、言いたいですがまだ細部を決めてないので仮契約といったほうがいいですね」

 

 まぁ、これで一応契約完了です。と私が続けようとしたとき、魔理沙はそんなことどうでもいいというように抱き着いてくる。

 

 

 

 いきなりのことに驚いてわっぷという間の抜けた声を出しながら目を白黒させる。

 

「えっとなにを・・・」

 

 私が困惑する中で魔理沙は、一人進める。

 

 

 

「よっし、じゃあお前は──「アルジェント」そうアルジェントだ!・・・ん?」

 

 私との契約の一つ呼び名を変えることをさっそくしようとしたとき、そこに一つの声が混じる・・・いや一つの声が上書きした。

 

「なんだよ霊夢、それじゃあ長いんだからもっと短いの頼むぜ」

 

「それじゃ、アルジェでいいじゃない」

 

 

 

 そうだなと鬼畜巫女と魔理沙の会話中に私は魔理沙のハグを抜ける。

 

 

 

「・・・おっとそうだった」

 

 板に押しつぶされて多少苦しかった・・・だが彼女のほうが私より大きかった・・・・・・人の肌付近の薄い空気から船内の空気に肺の中身を入れ替えていると魔理沙はそう何かを思い出したように問う。

 

 

 

「アルジェ、お前は私たちを連れてどこへ何しに行くつもりなんだぜ? そして何を知ってるんだ?」

 

 あぁ、そういえば契約の裏話はそんなものだったなと思い出しつつ、その問いに答える。

 

 

 

「私が知っていることは冥界の亡霊が春を集めこの冬を長引かせていること・・・何をするかというと春を取り戻してこの国でしか見れないという植物SAKURAをみること」

 

 私の原動力っていうものはこれだというものをしゃべる。

 

 まぁ、これできっとこの二人も信用してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネーヴェ、見えてきたわよ」

 

 私が目的を話し終わったのと同時にお姉さまが楽しみを抑えきれないというような表情で船内に戻ってきた。

 

 

 

 

 

船の突進力

 

わぁが!軍船の突進力は世界一ぃぃぃ!

 

 ガチャリと船室のドアを開ける。

 

 雲の上であるこの空域は基本的に太陽の光を遮るものはない。

 

「吸血鬼は不便ね」

 

 そう言って傘を広げる私と咲夜の横を霊夢と魔理沙が抜けていった。

 

 

 

 

 

「おっ!?なんだぜアレ?」

 

 初めて知ったというふうに彼女が指をさし呼ぶもの────それは大きな門だった。

 

 東洋建築というよりは若干中華風の建築が見られる時代を感じる門は少し距離があるこの場からも大きく見える。遠近法を考えるなら相当大きいのだろう。

 

 

 

「・・・うーん、やっぱり閉まってますよね?あの門」

 

 双眼鏡片手にそうつぶやく。

 

「なに悩んでるのよネーヴェ?私に任せなさい!あんなちんけな扉は、私の 血を啜る牙グングニルで貫くわ」

 

「いえ、待ってください?なんですかそのおかしなルビッ!」

 

 血を啜る牙って・・・相変わらずお姉さまのネーミングセンスは変わることがない。

 

 いい名前でしょ?と言いたげな姉は置いておいて、私は門に目を向ける。

 

 

 

 確かにお姉さまの槍で貫くこともできるが、そうすることでこちらの種が敗れるのは少々痛い。だが、ならばどうするかということを考える・・・ここで最大戦力の突破は確実に対策が取られてしまう。ならば現状判明していいものは何だろう?

 

 そこまで考えて私は気づく。なんだ答えは明確じゃないか。

 

 

 

 答えはいつも簡潔であり、奇抜なことは少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネーヴェは知らぬことではあるがこの時甲板にいたものは全員背筋に悪寒を感じた。

 

 そして数人は気づいた。

 

 ───ネーヴェのその悪魔もはだしで逃げ出すほどの笑みに。

 

 

 

「総員直ちに船内に戻った後何かにつかまりなさい」

 

 鈴のような声が甲板にいる全員に届く。

 

 

 

 そしてその声が聞こえた者は雄大な空の景色も無視して、即座に船室の扉へ走る。

 

 先ほどの感の正体がなんなのか分かったから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、姉さん・・・あの船なんですか?」

 

 白い服に身を包み、片手にラッパを持つ少女がそう尋ねる。

 

「いや、わからん・・・だがこのプリズムリバー三姉妹の名に懸けて、ここを守らないといけない」

 

 妹を奮い立たせる目的があったのだろうその声は震えていた。

 

「私は逃げる・・・絶対に逃げる」

 

 紅い衣装に身を包んだ姿の少女はそろりそろりと逃げ出そうとしている。

 

 

 

「ふ、ふんっ!どうせこの門の前で止まるさ!そこを三人で畳みかければ勝利もあ・・・る・・・・は?」

 

 まだ自分たちに優位があるはずだと、そう考えたおそらくプリズムリバー三姉妹の長姉は気づいた。

 

 船が速度を上げたことに。

 

 

 

「ヤバくないかしら」

 

 冷や汗をだらだら流してそう尋ねる妹とすでに逃げた妹を横目にどうするべきか長女は悩んだ・・・だがそれはただの時間の浪費であった。

 

 

 

 白木の竜骨と力強くそびえる竜角が三姉妹(一霊もうおらず)を弾き飛ばしながら門を突き破るのはそれから数秒後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船室のドアを開け冥界に突っ込んだ舳先から冥界の入り口に降り立った。

 

 

 

初期の吸血鬼は心臓から直接血液を吸う。

だから口がストロー状のやつもおる

 

 

 

 

冥界剣士参上!

 

週刊は絶対

何故なら私は気にったことは守り通すから。

 

あっ、気分と楽しさによって正義も悪も関係なくハチャメチャにする暴れ馬の戯言です。

 

 冥界と現世を仕切る門が突破された。という報告を受け、私は黄泉比良坂(と幽々子様が名付けた階段)を駆け降りる。

 

「なッ!?」

 

 賊が無理やり封印を解いて入ってきた程度かと私は思っていた。しかし実際はどうだ!門の戸は粉々に破壊され、綺麗だった石畳は割れていた。

 

 そしてそこに鎮座していたのは、堂々とした白樺の異国船・・・

 

 

 

 そして船のへさきから純白の悪魔が現れた。

 

「あぁ、あなたがここの管理人ですか?」

 

 

 

 冷ややかな目は私を見定めるように見つめる。

 

「私は魂魄妖夢・・・この冥界の庭師でありあなたのような外敵を追い払う役目を司るものです」

 

 相手はどういうやつかはわからない。だからどんな攻撃でも反応できるように妖怪が鍛えた愛刀の二振りを抜く。

 

 

 

「そうですか・・・では、私が相手しましょう」

 

 にっこりしながら純白の悪魔がおりてくる。

 

 

 

 凍り付いたかのような羽を羽ばたかせ降り立つ。

 

 その余裕の姿に腰を落として重心を落として臨戦態勢をとる。

 

 

 

「 投影トレース:フランシス・ヴァーニー・・・」

 

 そう呪術のための宣言?を行った瞬間目の前にいた悪魔は純白から一筋の紅になる。

 

 凍り付いた翼は解け、氷が雫となり滴ったと思えばその羽は甲冑のように硬質化していった。

 

 そして相手の手には二振りの短剣が握られていた。

 

 

 

「我が体は死を超越した。我が血潮には滾る魔力が詰まっている。そしてわが心は凍土の氷でできていた」

 

 純白の髪から血を垂らすように、一房が紅色に染まり、その双眸は私のスキを探しながらもまっすぐ私を見ていた。

 

 

 

「このスカーレット家第二息女がお相手いたそう」

 

 目の前の悪魔はそう言って私へとびかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあいつ、楽しそうに降りていきやがったが?」

 

 アルジェの後を追って船室を出た私と魔理沙と吸血鬼コンビ。

 

 しかし、私たちが船室を出た時にはアルジェはすでに甲板からもおりていく瞬間のことだった。

 

 

 

「なぁ、下見ておくか?」

 

 魔理沙はそう提案したが、私はそれを却下して先に進もうと提案した。

 

 

 

 魔理沙はなぜだと食い下がったが吸血鬼コンビも私に賛同し、三対一で私の意見が通ることになった。

 

 さっさと行ってこの寒い場所から帰りたい。私はそう思っていたが、おそらく吸血鬼のコンビは私とは違うことを思っているだろうがそれはどうでもいい。

 

 

 

「アルジェは何かの目を引き付けるために降りたんだから、さっさとわたしたちは移動したほうがいいわ」

 

 そう言いながら私は魔理沙に箒を投げわたし、吸血鬼コンビのメイドのほうを見る。

 

 

 

「えぇ、私はあなたたちに同行させてもらいます」

 

 私の口が開くまえに メイドは答える。

 

 

 

「私は残るわ。留守番役は必要でしょ?」

 

 以外にも吸血鬼は残ると言い出した。私の見立ててではこいつは魔理沙に負けず劣らずの意地っ張りで頑固の上に自己顕示欲が強い部類だと思っていたので意外といえば意外なものだったが・・・特に放っておいても問題はなさそうだと思い、あっそうと生返事を返しておく。

 

 

 

 

 

「大将は本陣に残って泰然自若にしているのが一番いいのでしょう?」

 

 前言撤回こいつはなによりも自己顕示欲が強いんだなと理解する。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ隠密で、といいたいけど・・・たぶん下のやつはアルジェにかかりっきりね。なら極力音を出さずに行きましょうか」

 

 私は能力を行使して空中に浮かび、自分の勘でどこに行けばいいか考え、見当づけたところへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂魄流・・・いや、きっとほかの言い方があるのだろうが、私は知らないためこう呼んでいる。────まぁ、ともかく攻防バランスよく対応できる中庸の構えで相手に刃を向ける。

 

「追加 投影トレース・・・いや、新規 投影トレース:ジャック・ザ・リッパー」

 

 そう相手がしゃべるたびに徐々に太刀筋が変わる。ううん、太刀筋だけじゃない。気配も足運びも力の振り方や髪形、喋り方でさえ変わってしまう。

 

 

 

 ジャック・ザ・リッパーと相手の悪魔が言えばその姿がまた変わり始める。

 

 長い髪の毛は縮んでぼさぼさっとした髪形になり、目は何かを望むかのような輝く黄金の目となる。羽も硬質化したものが切り替わってぼろ布のようになる。

 

 

 

「さぁていってみよー」

 

 しゃべり方は一定のまま変わらない平坦な感じに変わってしまった。

 

 

 

 私は今あんな化け物を相手にするのか・・・

 

 

 

 

 

 

 

「さーていってみよー」

 

 くるりとナイフを回して逆手にナイフをもち、目の前の少女に襲い掛かる。

 

 

 

 右、上、左、突き、足払いッ!ダンスでも踊るかのようにボクは目の前の剣士を蹂躙する。

 

 あぁ、楽しくてたまらない。

 

 

 

 左右の連続した切りつけにリーチの長い日本刀で対応するのは称賛に値する・・・が、一つ言えばそれだけだということだ。

 

 こちらは手数も速度もうわまるのだ少女の敗北は当たり前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの技の数々を見切って対応したのは褒めてあげる。

 

 でも、ボクはさっさと終わらせたい・・・だから本気を見せてあげる。

 

「 其そは森羅万象を切り開くメスである」

 

 剣劇は続ける。

 

「 其そは憩う癒しを切り裂く激痛である」

 

 ゆっくりと充填される魔力を感じる。

 

「 其そは意識を手放させた一撃であった」

 

 ボクはその魔力をナイフに伝わらせ、そこに当たる刃に魔力を伝え、またそこから少女へその魔力をぶつけた。

 

 

 

「カハッ!?」

 

 急な全身に伝わる痛みに少女はひざを折った。

 

 

 

「これが悪魔のやり方だ」

 

 魔力で作ったナイフを消した後に少女を縛って、私は船の甲板に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

冥界の桜

 

もう三十二話かぁ・・・

 

 長く続く景色に距離感や時間間隔を無くしそうになる・・・そんなことを思いながら私は飛んでいた。

 

 長く続きすぎてなんだかイライラしてきたとき魔理沙がぽつりと言う。

 

「なんか魔力がごっそり持ってかれた感覚があるのぜ・・・」

 

 

 

 急に何を言い出すのかと思えばそんなわけのわからないことをいう。私はあきれながらも魔理沙にどうしたのかと問いかける。

 

「いや、さっきも言った通り私の魔力が結構持ってかれたぽくてな・・・」

 

 魔理沙の言葉を濁すような言い方がなんだか気に入らないが、新手かと思いちらりとメイドのほうへ目を向ければ・・・そのメイドはチラチラと後ろを振り向いている。

 

 

 

「アンタまでどうしたのよメイド」

 

 もういっそのことこいつらを放って私だけで先に行ってしまおうかと思うが、後々何かあって後ろから撃たれると厄介なので仕方なく話を聞くことにした。

 

 

 

「いえ、後ろは大丈夫でしょうかと」

 

「なに?あんたは自分のご主人様を信じないの?」

 

 私はそう意地悪く言ってみるがメイドは私の思っていたこととは逆のことを言い出した。

 

 

 

「ご主人様をどんな時でも信用してみせるのがメイドではありますが・・・今はそういうことではなく」

 

「じゃあどういうことなのよ」

 

「いや、ネーヴェ様の一撃を受けて相手の人がこの世に存在しているのかちょっと心配でして・・・」

 

 さらりとなにかメイドがやばいことを言い出した。この世に存在しているか心配?何を言っているのか訳が分からない。

 

 

 

 だが、私はネーヴェとの魔理沙の契約を思い出す。そして同時に戦った時の感情を。

 

「・・・確かに心配になるわね」

 

 妖怪と人間が対等にやりあえる弾幕ごっこですらあの強さなのだ。ならば私たちが乗ってきたあの船はどうだろうか?あれは本当に移動だけか?私は身をもって知っているはずだ・・・あの船が本当に移動用であるならば竜角はいらないはずだ。あれは敵の船を貫くものなのだから・・・

 

 

 

「ラスボス手前でMPが半分ってのはちときついぜ」

 

「さて、どうしましょうか」

 

「ろくでもない三人衆ね」

 

 

 

 私は呆れて、頭痛がしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?もう階段も終わりらしいぜ」

 

 けだるげに箒にまたがりながらも先頭を飛ぶ魔理沙が指さす先を見て確かにここがラスボスのいる場所だと確信する。

 

 

 

 禍々しく怪しげな妖気を振りまく大きな桜。

 

 桜は古来より狂気の象徴でもあるが・・・確かにこれほどの妖桜は人を狂わせるだろう。

 

 

 

「さぁて、ちゃっちゃと終わらせて帰りましょう」

 

「ん~?なんだビビってんのか霊夢!」

 

「ここは──おっ、おい!早く帰ろうぜというべきでしょうか?」

 

「待ちなさいメイド。それは帰れなくなるフラグよ」

 

 

 

 黒幕の目前であっても姦しく騒ぐ三人。

 

 そしてその三人の前に現れる一つの影。

 

 

 

 

 

「ずいぶん姦しいわねぇ──妖夢は侵入者の迎撃に失敗したようね・・・やっぱりお仕置きね」

 

 青色の和風のドレスにアルジェと色違い・・・というよりは似ているナイトキャップ。

 

「・・・あんたが黒幕かしら?」

 

 

 

 確実に味方ではないやつが一人・・・どう考えても敵だ。

 

 

 

「えぇ、そうね。ご明察の通り私がこの事件の黒幕よ」

 

 桜色の髪の毛たなびかせて黒幕はにこやかにほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜色の亡霊は妖桜の夢を見ない

 

 ふわりふわりと浮く桜色の髪の女性。

 

 彼女は一つの巨木を背に扇子を広げた。

 

「常世の桜は陽気でも・・・ここの桜はただ人を狂わせるだけの物よ?だから早々に立ち去りなさい」

 

 いい諭すように優しく語りかけてくるが、ここで帰ってはここまで来た意味が無い。

 

 

 

「断るわ」

 

 そう私が言い切ると桜色の亡霊は一言言った

 

 

 

「桜の下で眠るといいわ。紅白の蝶!」

 

 

 

 そう言うか否や彼女は弾幕を展開する。

 

 触れば命が危ない様な反魂蝶。

 

 その反魂蝶が飛び回る。数が計り知れないほどに・・・

 

 

 

 私の頬につぅっと冷や汗が伝わる。

 

 さすがにこの数は難しい。

 

 

 

「ふふふっ♪」

 

 そう引くことを考えた途端に亡霊は含んだ笑いを勝利宣言かのようにする。

 

 

 

 その行為に若干イラッとしたので、後ろに引かずぶん殴ってやろうかと思ったとき、後ろで花火のような大きな音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァンと静かな冥界に一発の近代兵器の嘶きがとどろく。

 

 激しさを持つはじめとそのすぐ後の余韻を残さないすっと消える音。

 

 誰しもそこに居た者は動きを止める。

 

 

 

 何の音なのか。そして害は無いのか。そう言った考えが頭を巡るが、その考えを邪魔するようにもう一発先ほどの音が鳴る。

 

 そしてそれと同時に吹き飛ぶ亡霊の扇子。

 

 

 

 私はその光景と後ろから聞こえた声にこいつは味方だと確信する。

 

「遅くなったな。あの剣士にあわせてやっていたら時間を食ったんだ」

 

 先ほど私たちを送り出したアルジェ・・・だが今は多少その姿が違っていた。

 

 背の高さも服装も同じ、ただ違ったのはその黒い髪の毛と眼帯、そしてしゃべり方と手に持っている物だった。

 

 

 

「アンタは?」

 

 いぶかしみながら私は尋ねる。

 

「アルジェだ。ただ、今はとある吸血鬼を 投影トレースしているがな?」

 

 

 

 それだけ言ってアルジェは亡霊の方へ向き直る。

 

 

 

「よう、貴様またあったな?」

 

 亡霊は頭に?を浮かべる。

 

「気づいてもらえてないじゃないの」

 

「ん?あぁ、そうだな。きっと吸血鬼を投影してるから魔力が少し変わっているんだろう」

 

 

 

 そしてアルジェはガチャリと数キロはありそうなマスケット銃を片手で持ち上げまっすぐ構える。

 

「ピンクの亡霊。足の具合はどうだ?」

 

 そう口にしたとき亡霊は驚いた顔を一瞬してから顔を引き締めて指揮をするように腕を前に出す。

 

 

 

 その瞬間百を超える膨大な数の反魂蝶がアルジェめがけて飛ぶ。

 

 しかし、アルジェは不敵に笑って引き金を引き絞る。

 

 

 

 カチッ、パァン。カチッ、パァン。

 

 それが何度も繰り返される。

 

 そのたび何羽もの蝶が破壊される。

 

 

 

「中世の亡霊に近代の吸血鬼が倒せるとは思わんが?」

 

 ニヒルな笑いを見せながらアルジェは隙間無く押し寄せる波の様な蝶を蹴散らしていく。

 

 

 

 

 

 カチッカチッ、パァンパァンと弾の出る速度は増す。

 

 一度に数羽の蝶が落ちる。

 

 

 

 増す被害に比例するように亡霊は顔を青くしていく。

 

 

 

 

 

「さっさと負けを認めろ。さもなくばまた閉じ込めるぞ」

 

 アルジェのその一言に亡霊はさらに青ざめた。

 

 

 

 

 

桜吹雪と散る

 

 弾幕戦がめんどうだからって、これで良かったのだろうか?

 

「ふむ、それが貴様の思考結果か?」

 

 視線の先にいるのは覚悟を決めて構える亡霊。今は出方をうかがうといったところだろうか?

 

「今なら数発なぐって赦してくれそうだというのに・・・」

 

 まぁ、わかってもらえなかったことは哀しいが、博麗の鬼巫女が後ろにいる限り撤退はできそうも無い。

 

 

 

「強化 投影トレース:アルノルト・パウル・・・」

 

 現在の投影吸血鬼の投影具合を高める。

 

 うん、詠唱を追加してからは投影時の消費魔力が少なくていいな。

 

 

 

「さて、マスター様魔力をだいぶ持っていきますよ」

 

 魔理沙がえ?という風に首をかしげるが説明責任はした。なので魔理沙から飛行に必要最低限な魔力だけのこしてごっそり持って行く。

 

 そうするとふらっと落ちそうになっていたが、咲夜が支えていたので大丈夫だろう。

 

 

 

 そして私はまっすぐ亡霊をとらえる。

 

「今の私は生きてないやつを倒すのに特化した状態だ。それでも続けるなら容赦しない。これは最後通牒だ」

 

 マスケットを消して、二丁拳銃に変えながら私はそう突きつける。

 

 

 

「断るわ」

 

 しかし、亡霊は最後の温情を蹴った。

 

 

 

 ならばもう始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 死者を作り出す能力と解釈もできる亡霊の能力。

 

 ある意味吸血などによって仲間を増やす私たちに共通する点もある。

 

 だとすればアルノルトは最高に相性がいい。吸血鬼殺しの英雄なら死者を作り出す反魂蝶を消すのは簡単だった。

 

 

 

 扇子から吹き荒れる反魂蝶の桜吹雪。

 

 当たればこの世から一発退場なこの吹雪に容赦なく弾丸をたたき込む。

 

 

 

 しかし、先ほどから同じように私の周りを取り巻く反魂蝶は何かを狙うかのように回っている。

 

 おそらく私の魔力枯渇。それがだいぶ短いと数様見抜くとは・・・やはりカリスマがあるやつは手に負えない。

 

 

 

「時間が無いのでな、手短に潰す」

 

 反魂蝶で埋め尽くされた視界には亡霊は見えない。

 

 この反魂蝶をどうにかするか・・・

 

 

 

「古代神祖の名を借りてここに喚ぶ」

 

 今の私の必殺技とは言えないが──致し方ない。

 

「万物の現象はすべて星を中心として周りしが天則」

 

 

 

「星とはすなわち惑うものたちの中心に立つ者である」

 

 ・・・これを使った後は五分が限界だな。

 

「 森羅万象の中心で叫ぶ私の声を聞けッ!」

 

 

 

 レスタトの必殺技・・・万物を引きつけ、それを地に伏させる我が天敵を術式に組み込んだ技。

 

 そしてその技は反魂蝶をすべてたたき落とした。

 

 

 

「そこか」

 

 驚きを隠せず少し惚けている亡霊を見据えて、拳銃を構える。

 

 

 

 

 

 一発の銃声───それでこの異変は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタがあの亡霊を殺したと思ったんだけど」

 

 ゆっくりと地上に帰港するナグルファルのなかで鬼巫女は私に尋ねた。

 

「亡霊は殺せませんよ。私がしたのは一時的な気絶処置です」

 

 今はトレースを全解除して、私自身の船に全力を注いでいる状態だった。

 

 

 

「気絶処置?」

 

「えぇ、あの場面なら誰だってうたれて死んだと思うでしょう? 本・ 人・ も・ 含・ め・ て・。そこに気絶するように暗示をかければコロリです」

 

「今日日コロリとか聞かないわねぇ」

 

 そんなお約束を拾うのかと思いつつ私は別の場所に目を移す。

 

 

 

 そしてそこには魔力をだいぶ使われてしまった魔理沙がすやすやと眠っていた。

 

 

 

 

 

第五章 短き春と長い酒盛り

幕間の物語あるいは個性を表す何か

 

設定集および小ネタおよび設定秘話

 

クラス  ライダー

 

 

 

筋力   C

 

 

 

耐久   A

 

 

 

敏捷   B

 

 

 

性別   女性

 

 

 

魔力   ?

 

 

 

幸運   C

 

 

 

宝具   A

 

 

 

保有スキル・カリスマC ・変容A ・吸血B ・騎乗A

 

 

 

 

 

 

 

宝具   【不死者の軍艦】

 

 

 

ランク  A

 

 

 

種別   対軍宝具

 

 

 

レンジ  1~400(最大補足 5000)

 

 

 

由来   最終決戦神々の黄昏において敵陣営であるロキが操ったとされる船。

 

     なお霜の巨人が操舵していた説アリ

 

 

 

真名   アルジェント・ネーヴェ・スカーレット

 

 

 

     誇り高きスカーレット家次女。

 

     実は作品のなかでの出自はまだまともな方・・・(というか他作品の闇が深すぎる)

 

 

 

本人一言欄「私はここまで読んでくれた皆さんが大好きですッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

質問 ⒈ネーヴェちゃんが幻想入りする前の世界観、気になりますだ!

 

回答 ⒈モデルは勿論世界で一番有名なドラキュラ公のモデルとなったヴラド三世の統治した国

 

    ワラキア公国です。

 

    国自体はあまり発展していなくてほどほどな強さな国という都合が良すぎる国。

 

    基本一五〇〇年~一七〇〇年頃の世界だと思っていてくれればそれでいいと思います。

 

 

 

   ⒉門番、むきゅー、メイド長が紅魔館入りした時はどんな感じ?

 

   ⒉この質問コーナーの後に掲載する【IFルートッ!もしネーヴェが起きていたら・・・】にて書きます。

 

 

 

   ⒊姉妹の仲の良さどんなよ?

 

   ⒊ネーヴェはどっちも好き好き状態でレミリアはどっちも好きではあるけどフランはちょっと苦手な状態

 

    フランはネーヴェのみ好き好き状態。

 

 

 

   ⒋一番お気に入りの変身

 

   ⒋作者本人:レスタト・リオンクール(可愛いから)

 

    ネーヴェ:フランシス・ヴァーニー(便利だから)

 

 

 

   ⒌ネーヴェの強さ、実際だとどれくらいなのか

 

   ⒌少なくても普通の人間ならすぐにミンチにできる程度には強い。

 

    多少他の吸血鬼より力が劣る低度なだけでそれほど弱いわけでは無い。

 

 

 

 

 

【IFルートッ!もしネーヴェが起きていたら・・・】

 

・美鈴がやってきた。

 

 

 

 夜も更けてそろそろ吸血鬼が本当の力を引き出せる頃、紅魔館の扉が破られる。

 

「頼もうっ!」

 

 どうしたことだろうとぱたぱたと廊下を駆けてホールの方に向かう。

 

 

 

「我、紅 美鈴と申す。ここらに強き吸血鬼が居ると聞いて決闘を申し込みに参った!」

 

 軽い構えを取りながら声を張り上げる女性。

 

 血を吸って育ったかと思うほどの美しい赤髪に動きやすさを重視した服・・・そして手練れといえる覇気を放っている。

 

 

 

「五月蠅いわねぇ・・・あんまり叫ぶと弱く見えるわよ」

 

 そこへ降り立つお姉様。

 

「呵々ッ!ずいぶん幼いな!」

 

「見た目で相手を判断しない方がいいわよ?」

 

 その瞬間お姉様の手には魔力で形成された槍が握られる。

 

 

 

「生き残ったら雇って上げるわ」

 

「笑止ッ!」

 

 

 

 空中に拳と槍が交差する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・パチュリーがやってきた!

 

 ふと目を覚まし、お姉様のもとへ挨拶するために当主の間に向かう。

 

 しかし、室内で話し声が聞こえてきて思わず扉の前で立ち止まる。

 

 

 

「ここの蔵書を譲ってちょうだい」

 

 聞いたことの無いか細い声はしっかりと芯が通った意思を発する。

 

「嫌よ、ここの蔵書は私たちの父が集めた蔵書であって私のじゃ無いんだから。欲しいならあの世にでも行って聞いてきなさいよ」

 

 ・・・さすがにその言い方はどうかと思いますよお姉様。

 

 しかし蔵書は確かにお父様が集めた物・・・・どうするべきか───あっ、そうだそうすればいい。

 

 私は一つの提案を思いつき、ドアをノックした。

 

 

 

 

 

 私は入室後一つの可能性を語る。

 

 蔵書が読みたい魔女と蔵書は渡したくないお姉様・・・ならば魔女をここに住み着かせればいいのだと。

 

 

 

 魔女は思い入れも無かったのかすぐさま承諾、お姉様は少し渋ったものの最終的にはその案を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

・咲夜さんがやってきた

 

 ある日、目が覚めた私はお姉様の元へ向かうために廊下をすたすたと進む。

 

 そして一人の私と同じくらいの銀髪のメイドとすれ違った。

 

 

 

 なんだ妖精かと思いかけたとき、その背中に羽が無いことに気がついた。

 

 バッと振り向けば相手の少女も驚いた顔で振り返っている。

 

「「え?どちら様ですか?」」

 

 こういうところだけは妙にハモってしまう。

 

 

 

 私は足早に当主の間まで進んだ。

 

「どういうことか説明お願いしますお姉様?」

 

 私の説明を求める声が当主の間を満たす。

 

 

 

「え?あぁ、咲夜のことかしら?」

 

「その咲夜かは知らないですけど、新しくメイド雇ったんですか?それも人間の」

 

 私の疑問に答える気はあるようで安心した。

 

 

 

「えぇ、雇ったわ。あまりにも不憫だったから────」

 

 

 

 

 

 数日前、美鈴と二人でそこらを散歩してたんだけど・・・そこに運悪く行商人の一団が通ったのよ。

 

 そして気まぐれで襲ったら武器や防具を残して逃げていったわ。この子もまさに生け贄といった風に幌のなかから蹴飛ばされて・・・美鈴がキャッチしてなかったら半身はミンチに近かったかもしれないわね。

 

 それでその場所においておくのも何だかなって連れ帰ったところよ。

 

 

 

 仕事や住人については説明しておいたわ。

 

 え?ならなぜ私の顔を見て驚いたかですって?そんなのわざと──アッやめてやめてッ!アイアンクローは洒落にならないからぁ!アッーアッアッアッ!

 

 

 

 

 

 吸血鬼の悲鳴は響く・・・

 

 

 

 

 

 

 

幕間の物語あるいは不死身の吸血鬼

 

一回で終わると誰も言っていない。

 

「おはようございます。お姉様」

 

 私の部屋がノックされ、入室を許可すれば、扉を開けて入ってきたのはネーヴェだった。

 

「えぇ、おはよ・・・え?」

 

 普段ならば絶対に見ない物がネーヴェの額から降りているのに気づいた。そう、紅い一房の髪の毛。

 

 

 

「どうされました?お姉様」

 

 私が困惑したことを理解してどうしたのか尋ねるネーヴェはどこかおかしいのかと少し心配そうにしている。

 

「・・・ネーヴェ?」

 

 しかし、どう尋ねるべきか・・・普通に聞いてもいいんだろうか?いや、ダメ元で聞いてみるか。

 

「一つ聞いてもいいかしら?」

 

 

 

 はい、なんなりとお尋ねください。と素直に返してくれるネーヴェはマジ可愛い。

 

 

 

「ネーヴェは今、他の吸血鬼の能力を投影してるのよね?」

 

「え?していますか?」

 

 帰ってきた問いに対する答えは予想外の物だった。本人は気づいていないうちに他の吸血鬼を投影?そんなことは今まで無かったのに・・・

 

「だって、その風貌は貴方がフランシスを投影してる状態の風貌よ?」

 

 額に揺れる一房の紅い髪の毛と甲冑のように硬質化して銀に輝く羽。どれもフランシス・ヴァーニーを投影してる状態だった。

 

 

 

「・・・鏡お借りしたいんですが」

 

 申し訳なさそうに鏡をねだるネーヴェたんマジ天使ッ! ネーヴェたんN マジM 天使Tッ!・・・え?Nの負担が大きい?こまけぇこたぁいいんだよ!

 

 ・・・おっといけない、愛が暴走するとこだった。さっさと鏡を渡さなきゃ。

 

「はい、これでいいわよね?」

 

 執務机の引き出しから手鏡を取り出し、ネーヴェの元まで手鏡を届ける。

 

「ありがとうございますお姉様」

 

 そういってネーヴェは手鏡を使って自分の顔を映す。

 

 

 

「あぁ、本当ですね・・・でも、魔力消費はいつも通りの通常状態なんですよね」

 

「どういうことかしら?」

 

 魔力消費はノーマル状態のままで姿はフランシス・・・本当にわからない。これはどうにかした方がいいのではないか。そう思ったとき。

 

「まぁ、いいです」

 

 ネーヴェはそう言った。

 

「いいの?」

 

 そう聞くとえぇ、と肯定する声が返ってきた。

 

 

 

 本人が言うというのならそれもいいか。そう私は思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様。私も一つ尋ねたいことがあるんです」

 

 その後、咲夜にもってこさせた紅茶を飲み干しつつ会話を続けているとネーヴェがそう言う。

 

 私は何かしらと答えた。

 

「お姉様は今投影しているフランシス・ヴァーニーについてどう思っていますか?」

 

「・・・確かフランシス・ヴァーニーはイギリスの小説に出てくる吸血鬼だったわね」

 

 そうですとネーヴェは肯定する。

 

 

 

 ずいぶん昔に読んだ記憶があるような気がするので、私はその記憶をたぐり寄せる。

 

 そう、確か彼はイギリスの安い週刊雑誌に長編として連載していた作品に出てくる吸血鬼。その正体はころころと変わってしまいどれかもわからないと言うほど多彩だったはず・・・

 

 月の光を浴びれば銀の弾丸だろうと杭が刺さろうと蘇る彼は長い時代を生きて、そして永遠の命に飽きが来てその身体を蘇らせることを拒み、ポンペイのヴェスヴィオス山から身を投げた。

 

 そう言うストーリーだったはずだ。

 

 

 

「小説の中の存在だとは思うけど・・・それでも同族として誇りに思う一人だとは思うわ。ただ一つ残念なことは自らその不死を絶ったことかしら」

 

 そうですかと相づちをネーヴェは打つ。

 

「あと、勝手な想像だけど・・・もしかしたらこの小説は本当に同族が書いた物かもと私は思ったの」

 

 え?とネーヴェは疑問をこぼす。

 

「ほら、この作品の作者は不明でしょ?そして出自がころころ変わる彼はもしかしたら多くの同族を見てきた一人が仲間を忘れることが無いように書いたのかもしれないじゃない?確固たる姿が無くあやふやな彼は確固たる姿を多く含んでいたからこそ確固たる姿が無くなってしまったそう思うとすっきりするの」

 

 ネーヴェは話を聞き入っていた。

 

 

 

「それに、確固たる姿が無いのであればなぜネーヴェの投影はたった一つの変身でしか無いのかしら?彼が小説の通りあやふやならば投影のたびに姿が変わってもおかしくないじゃない」

 

 あっ、とネーヴェは驚く声を小さく上げた。

 

「強い不死性をもってしまった故に多くの同族を見てきて、出会いあるいは分かれてきた作者・・・それが本当のフランシス・ヴァーニーではないかなって私は思うわ」

 

 そう私は締めくくった。

 

 

 

 ちなみにフランシス・ヴァーニーは日本語訳されてはいませんが週刊雑誌の連載分を本にした物があるそうです。

 読みたきゃ輸入して翻訳して見てください。

 

 あともちろんのことですが、この考えは私独自の物および、【吸血鬼ヴァー二ー或は血の饗宴】未読の作者です。

 

 

 

 

夢のまどろみ

 

(また、ここですか・・・)

 

 目の前に広がるどこまでも白い世界。寒くも暖かくも無いこの場所は一度覚えがあった。

 

 

 

「おいおい、またここですかはちとひどいぜ?」

 

 影である故に表情は読めないが、声色からは少し笑いを含んだ声だと感じた。おそらく苦笑いでも浮かべているのだろう。

 

 

 

(今回は一人なんですね)

 

「あぁ、そうだな。あいつ今回は出てくる気がネェらしい。何でかは知らんが・・・」

 

(アッハイ。ソウデスカ)

 

 影はつまらなさそうに何も無い空間に腰掛けている。いったいどうやっているのか・・・

 

 

 

(それで、貴方が出てきた理由は何ですか?前はアドバイザー的なこと言ってましたよね?)

 

 そう聞くと影はそうだったと思い出したように声を響かせた。

 

「酒の宴はそれはそれは長く続いて、皆何かに惹かれるように宴の主催者を探し出す。それだけ覚えてりゃいいさ」

 

 

 

 こういうのをお告げの夢とでも言うのだろうか。だが、ただの宴会だけでこんな風なお告げがあるはずが無いのはわかっている。

 

(わざわざ、言うのであれば何かありますね?)

 

「鋭いねぇ」

 

 ケタケタと笑いながらも影は続けた。

 

「その主催者はお前の味方になるやつだから心してかかれってな。これはそう言うお告げさ」

 

 そういって影はじゃあなとばかりに消えた。

 

 

 

 そして残された私と白い世界もまどろみの中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同日 幻想郷のどこか~

 

「へへっ、ちっとも変わってないねぇ」

 

 小さな人影とそれに見合わぬ大きな二つの角・・・幻想郷からも姿を消していた鬼の少女は再び地上に姿を出した。

 

 

 

「それは貴方もでしょう伊吹 萃香?」

 

 雄大な山から地を見下ろす少女の横に姿を現せた淑女──八雲 紫は吸血鬼異変以来どこかに姿をくらませていた旧友の元へ赴いていた。

 

「懐かしいもんさ、昔はここで四天王たちと酒盛りしたのが昨日のように思える」

 

「それで最後には力試しの乱痴気騒ぎで収拾をつけるのがとても大変でしたわ」

 

 釘をさすかのようにそう告げる紫の目は少しも笑ってはいない。

 

 

 

「おぉ、怖いねぇ。妖怪の賢者様がお怒りだ」

 

 しかし萃香は悪びれることも無くケラケラと笑ってひょうたんから酒を呷る。

 

 

 

「それで、貴方は今頃何をしでかす気ですか?」

 

「ん?なに、ただの宴会だよ。勿論私は表だって参加しないから安心しなよ」

 

 絶対にそんな簡単なことでこの鬼は動くはずは無い。紫の記憶ではそれだけで動かないのがこの鬼だと言うことがわかっていた。

 

 

 

「それだけですか?」

 

 その問いに萃香はさぁてねとはぐらかして答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

長かった冬のせい

 

 宴会回ですよやったね!

 

 

 

「冬が長かったせいかしらね・・・春が短いわ」

 

「もったいない気がしますね」

 

 私は対面に座るお姉様に同意する。

 

 

 

 春雪異変と名付けられた例の幽霊騒動は幻想郷の春をだいぶ短い物にしてしまった。だからみんな惜しむように毎日毎日花見という物をやっている。華を、とくに桜を見ては美しいといってお酒を飲む。私にはちょっと風流という概念が理解しにくかったが、お姉様はだいぶこの花見を気に入ったようで、よくワインを持ち、咲夜をつれて出かけている。

 

 

 

「それでも毎日出かけるのはいかがな物だと思いますよお姉様」

 

「ネーヴェはそういうけれどだいぶ楽しいのよ?もう一度いかない?」

 

 そう私は聞かれて悩んでしまう。

 

 食わず嫌いも喰ってみれば変わることもあるのだというし、お試しで後数回行ってみるのもいいかもしれない・・・

 

 

 

「──わかりました。次は私もご一緒します」

 

 お姉様はそう来なくちゃと言って立ち上がる。

 

 

 

「お、お姉様?」

 

 困惑する私の背筋に嫌な予感特有の感じが走る。これは選択肢を間違えたのかもしれない。

 

「さぁ、それじゃあ行きましょうかネーヴェ!」

 

「どこに行くんですか!?」

 

「どうせ神社の方でどんちゃん騒ぎをやっているわよ(断言)」

 

 自信にありふれた顔でそうお姉様は断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にしてた・・・」

 

 お姉様に手を引かれ鬼畜巫女の住処へ行けば本当にどんちゃん騒ぎが起きていた。

 

 

 

「さーて飲むわよぉ!」

 

 そう言って次々杯を飲み干す境界の管理人に、

 

「ちょっといいとこ見てみたい!ソレイッキ!イッキ!」

 

 他人の一気飲みを煽る白黒魔術師。

 

「わらひの酒よ!」

 

 そして紅白の鬼畜巫女。

 

 

 

 どんちゃん騒ぎの意味を宴から阿鼻叫喚の地獄絵図に変更しながら私はお姉様の後ろをついて歩く。

 

 

 

 ついて歩く傍ら周りの樹木を見れば桜の花はもう結構散ってしまっていた。しかし、それでも気にすることも無く料理を食って酒を飲む集団。こういうのを花より団子というのだろう。

 

 

 

「ん!?あるじぇじゃなーい?」

 

「ヒャッ!?」

 

 後ろから抱きつかれて思わず驚きの声を上げる。

 

 

 

「れッ霊夢!?さっき別の場所にいたのにいつの間に!」

 

 抱きついてきたのは私の苦手な鬼畜巫女・・・どうしたら逃げれるのか・・・

 

 

 

「あんた、ヒック、久しぶりに見たわねー。ヒック。わらひのさけのみなさーい!」

 

「え、あ、ちょっ!」

 

 抵抗の隙も無くワイン瓶くらいの瓶を口に突っ込まれる。

 

 

 

「そーれ三三九度ー!」

 

 にゃーっはっはっと笑いながらもその目は据わっている。

 

 

 

 というかそろそろ理性が限界・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっはー!紅魔館から来たネーヴェれーす!今から歌歌うのでよろしくー!」

 

 私の理性は腕に蒸発状態で歯止めはきかない。

 

 横から魔理沙が騒霊バンドども!助けてやれーと煽る。

 

 

 

「そえじゃー 投影トレース:レスタト・リオンクーリュ!」

 

 こういうときのためとしか言えないロックスター系吸血鬼のレスタト・・・

 

 

 

「わたしのロックなソウルをきけぇーーー!」

 

 

 

 ・・・このあたりから記憶が無い。というか思い出したくも無い。

 

 

 

 とりあえずはしゃぎすぎたことは確かなようだった。

 

 

 

 

 

三日おきの百鬼夜行

 

 あんまり思い出したくない宴会の一幕から三日後のこと、数日ごとに目覚めるような体質のせいで生まれてこの方二日酔いになんてなったことも無いのだけれど・・・さすがにあれは羽目を外しすぎたと自己反省する。

 

 そんな陰鬱な気分での目覚めのため私の今の機嫌も結構悪かった。

 

 

 

 少し重い足取りでお姉様がいる当主の間へと足を運ぶ。

 

「うーん・・・やはり羽目を外すなんてこといつぶりにしましたかねぇ・・・」

 

 なんて遠い記憶を脳裏に浮かべようと四苦八苦しているといつの間にやら当主の間についていた。

 

 

 

 コンコンと扉をノックして、入室許可が出ればノブを回して部屋に入る。

 

「起床のご挨拶に参りましたー」

 

 目が覚めるといつもしているなぁ。と我が家ルールについて考えていたときに、普段ならいない人物が部屋の中にいることを知る。

 

 

 

「少し遅いお目覚めだな」

 

 にひひと顔をはにかませながらお姉様と一緒に紅茶を飲む白黒の 契約者マスター。

 

「魔理沙さんは急性アルコール中毒で死んだかと思ってましたよ」

 

 今は多少気が立っているので少し棘がある返しだったかと思いながら相手の反応を待つと。

 

「大丈夫よネーヴェ私もそんなところだと思っていたから」

 

 横からの援護射撃がはいる。

 

 ・・・ん?援護射撃じゃないな援誤射撃だこれッ!

 

 

 

「お前ら姉妹揃って口が悪いんだな」

 

 やっぱり多少げっそりした表情でそう魔理沙が返す。

 

「当たり前でしょ。私の妹よ」

 

「あの、お姉様そこで胸を張らないでください」

 

 多少和む雰囲気になってきたところで私はお姉様と魔理沙の座る机に加わる。そしてそこに咲夜がちょうどよく紅茶を持ってくる。

 

 

 

 

 

 芳しい紅茶の香りと味を楽しみながらゆったりと飲み干す。

 

 うーん、この味がたまりません。

 

 

 

 

 

「そういえば、なんで魔理沙さんがこの館に?ついにパチェが動いて借りパクされてた本を取り返して名簿とあってるかの確認作業中ゆえにここで監禁てやつですか?」

 

「ときどきお前だいぶえぐいこというよな」

 

「まったくの素って顔でけろりと言うんだから余計たちが悪いの」

 

 ひそひそとそう目の前で会話する二人の方がそういうえぐいことを言うって感じだと思うんですけどね・・・

 

 

 

「まっ、今はそんなことはいいんだぜ」

 

 再び脱線しかけた話題を修正する魔理沙。

 

「ではどんな誤用事ですか?」

 

「まさかお茶飲みついでの盗難事件なんて起こさないでよ?」

 

 ジロリとお姉様の目が魔理沙をにらみつける。まぁ友人としての立場から見れば返却のため以外で訪れているのなら捕まえてしばき倒すのもやぶさかでは無いですが・・・

 

 

 

「おっおいまてって!今日は宴会に誘おうと思ってここに来たんだよ!なっ今日は本を借りてく気はないからさ!」

 

 私たちの剣呑な雰囲気に気がついたか、捕って・つるされて・本の返却へは一直線だと気づいたのか・・・どちらでもかまわないが、宴会?

 

「あれ、こないだ私が出たあの宴会から何日経ちましたっけ?」

 

 

 

「確か・・・三日かしら。前眠る前の申告で三日ぐらいって言ってたし」

 

 そんな私の疑問にそう答えてくれるお姉様。

 

「ん~・・・私の記憶もだいぶあやふやだが、確かにそのぐらいの期間だったかなぁ」

 

 ということは私が寝てから起きるまでの三日後まで一回も宴会をしていないとしても三日に一回のペースじゃないですか!

 

 

 

「えぇ、勿論ご招待にお呼ばれするわ」

 

「え、ちょっ!?お姉様!?」

 

 三日に一回の宴会なんて絶対おかしいのに!

 

 しかしお姉様はそのことを全くおかしいと思っていない。

 

 

 

「ネーヴェも来るでしょう?」

 

 そうお姉様は優しく誘ってくれるのだけれど・・・でも、三日前のお酒についての大失敗の記憶が鮮明なのでうまく楽しめる気がしない。

 

「いえ、三日前の行動について自己反省していまして酒精を自重しようと思っているんですが・・・」

 

 そう言って逃れようとしたとき。部屋の隅で小さく舌打ちのようなモノが聞こえ、そしてうっすらとした気配が部屋を抜け出した・・・ような気がした。

 

 

 

 普段──最近は使っていなかったが、罠のようにした魔方陣を薄く張り巡らせるような感じでしている私なら気づけたか細くも重圧な何か・・・敵だとしたらやっかいだけど、味方にもしたくないタイプだな。そう思いながら私も当主の間を脱出した。

 

 

 

 

 

Timelimit:96minutes

 

いやー新元号なんですかね(執筆時は四月一日の深夜)

 

 ──結局、あの妖力の正体がわかるのではないのかと宴会についてきてしまった。

 

「はぁ、日差しがつらいわ」

 

 ついてきたのは私とお姉さまと咲夜とパチュリー・・・ん?パチュリー?

 

「珍しいですねパチェが外に出てくるなんて」

 

「だって変な妖力が消えた後に貴方が思いつめたように出ていくのを見てしまったらついていくしかないでしょう?」

 

「そんな感じでしたか?」

 

 そう尋ねると。

 

「そんな感じよ。あっ、私が勝手についてきただけだから謝るのもありがとうもなしよ?」

 

 私は付き合わせてごめんなさいという言葉を言いかけたところで口をつぐみ、パチェに別の言葉をかける。

 

「じゃあなんといえばいいんですか?」

 

「さぁ?それは私にはわからないわ」

 

 だが、パチェはあっけからんとそういいのけた。

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに博麗神社につく。

 

「今回は地獄絵図ではないんですね」

 

 魔理沙は呼びまわって準備を手伝うメンバーを集めていたのか、準備はまだ進んでいない。

 

 だから前回のように出来上がっていないばかりか、まだ酒盛りすら始まることなく誰もお酒の瓶すら運び出してる最中だった。

 

 

 

「それじゃあ私はここで眺めてるわ」

 

「私は本読んでるわ」

 

「では私も同じで」

 

 平然とそう言いのける三人にげっそりとした反応をする魔理沙。

 

「お前ら少しは準備というものだな──」

 

 そう言って小言を続けようとするが、お姉さまが口を挟む。

 

「吸血鬼に?日が照る時間で?働けと?馬鹿なこと言わないでくれる?」

 

「おっ、おう・・・そうだな。すまなかった」

 

「さすがに口が悪いと思いますよお姉さま?」

 

 既にパチェは本を読み始めていてお姉さまを止めることはないので私が少し制止する。

 

「まぁ、まぁ、私は手伝いますので・・・」

 

 そう咲夜もフォローをよこしてくれるのでここでの取っ組み合いは回避された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタら来てたの?」

 

 魔理沙や霊夢が準備に出ていったあと、縁側でのほほんとしていると、そう後ろから声がかけられる。

 

「あら、巫女様はどちらへ行ってたのかしら?」

 

 お姉さまが首を頭を上げて後ろを見る。

 

「その減らず口を吐き出すのどをたたいてあげましょうか?」

 

 霊夢はイラっとした風に大幣を握る。

 

 

 

 私はアハハ・・・とから笑いとともに距離をとる。

 

 そして離れた理由をつけるためにパチェに話しかける。

 

「パチェは何読んでるんですか?」

 

「エドガー・アラン・ポーの黒猫よ。怪奇小説の中でも有名なものね。お酒におぼれ、気象の荒くなった主人公の転落劇が面白いわ」

 

「・・・それ、本当に本来の読み方ですか?」

 

 そう会話しながら、あたりの気配に気を配る。

 

 

 

 ・・・やっぱりなにかの妖力が充満してる。それもとても量が多いし、またそれと比例するかのように妖力が薄い。

 

「霧みたいですね・・・」

 

「えぇ、まったく興味深いわ」

 

 パチェはぱたんと本を閉じる。

 

 

 

「でも、悪意はない。だからこそ厄介ね」

 

「・・・では手がかりはこの妖力の個性ですか。できれば次の宴までに終わらせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

一日目

 

 百話行くかもなぁ・・・

 とりあえず、萃夢想クリアしたことねぇや・・・買ったけど・・・それもだいぶ前に・・・

 

「さて、探偵ごっこというやつですね」

 

「何かっこつけてるの。さっさと始めるわよ」

 

 紅魔館の地下にある大図書館。ここに私含めて三人の妖怪がいた。

 

 

 

「それでパチェ、例のあれは再現できましたか?」

 

 司書が座る席に深く座り込んだパチュリーは苦い顔をして答えた。

 

「一応気配や、大まかな妖力は再現できたけど・・・」

 

 パチェの十分すぎる答えを聞き、私はにんまりとしてもう一人のほうを向く。

 

「美鈴!あなたの出番ですよ!」

 

「かしこまりましたぁ!不肖紅 美鈴精一杯頑張らせていただきます!」

 

 美鈴はそう敬礼をしながら言ってくれた。

 

 

 

 気になったことは後ろでパチェが「何か弱みでも握られているのかしら?」とつぶやいたことくらいだろう。

 

 

 

 第一私がだれかを従える程度の力は持っていないのに・・・まぁ、いい今はそんなことよりもこの妖力の主を見つけ出すほうが大切なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして三人が妖力のある意を探す間、また別の人々ともまた三人と同じようにこの異変の主を探そうと移動していた。

 

「さぁ、行くわよ魔理沙!」

 

「なんか知ってるとおまえのとこに来たのは間違いじゃないのか心配になってきたのぜ・・・」

 

 それは白黒の魔法使いと幻想郷の調停者である博麗の巫女。

 

 しかし、その二人も今までとは違い数いる主人公の中での一人であった。

 

 

 

「さぁ、妖夢いくわよぉ~?」

 

「この魂魄妖夢ッ幽々子様には一切傷つけさせませんッ!」

 

 それは冥界のお嬢様とそのお供である庭師兼用心棒な白髪の剣士。

 

 春雪異変という前科を持つ彼女らもまた自らの嫌疑を晴らしつつのお遊び気分で解決を求める者。

 

 

 

「さすがに事態終息に動くべきかしら?」

 

「はい、それがいいかと思います。別勢力が異変を起こしたとはいえインパクトの面でこちらが勝ちすぎました。まだ私たちが異変の犯人だと思う人物もいるようです」

 

 それは幼き吸血鬼とそれに付き従う忠誠の徒である一人のメイド。

 

 ただ冬を長引かせる春雪異変とはとことん違い、派手さを前面に押し出した初めての異変は幻想郷の住民たちに深く吸血鬼というものを刻んだ。

 

 だからこそ己の疑いを晴らすべく、吸血鬼当主も動き出す。

 

 

 

「さすがに動きだし始めたわね・・・」

 

「一斉に動き出したは予想外かい?」

 

「いえ、まだ予測範囲内です」

 

 長身の八雲 紫と対をなすように岩場に腰かけ酒を呷る二本角の少女。

 

 これこそ黒幕であり、数ある主人公を打倒さんとするある意味の主人公。

 

 その黒幕の少女は楽し気に嗤う。

 

 

 

「祭りの最期は喧嘩さ、これがない祭りは祭りじゃないね」

 

 酒と喧嘩こそが我が人(?)生と言い切って見せそうな少女は自らに迫る勢力を児戯とみて、楽しもうとした。

 

 

 

 

 

二日目

 

【ネーヴェサイド】

 

 

 

「こっち・・・ですかね。たぶん・・・」

 

「わかりました。ありがとうございます美鈴」

 

 んん~と何かに耳を澄ませるようにして美鈴は何かを探っている。

 

 勿論これの内容について私は知っている。

 

 

 

 昨日パチェとの協力の結果三日おきの宴会を引き起こしているとみられる怪しい気配についてなんとなくのレベルまでは再現することに成功していた。

 

 これに美鈴の気を操る能力の応用によって怪しい気配の位置を探そうと試みていた。

 

 

 

「・・・ねぇ、まだ見つけられないの?」

 

 だが、ここまでがうまくいきすぎていたと言うべきか捜索はあまり進展しなかった。

 

「そう言わないでくださいパチェ・・・美鈴の肩身が狭くなります」

 

「さらっとこっちに責任投げつけやがりました!?」

 

 悲痛な美鈴の悲鳴を無視し、捜索を続ける。

 

 

 

 

 

【紅・白・黒サイド】

 

 やっぱり捜査は歩くべきだ!という謎の主張により私は歩かされている。

 

 その主張者は今も元気に歩いてる。

 

「それで、あんた目星はついているの?」

 

 そう私は問いかける。

 

 しかし返ってきた答えは不安を大きくするモノだった。

 

「こういうのは歩いていればそのうち当たるのぜ。犬が棒に激突しちまうようにな」

 

「あんたねぇ!そう言うのを無鉄砲って言うのよ!?」

 

 だが主張者である魔理沙はこともなげに言った。

 

 

 

「大丈夫だって!」

 

「だから、なんでっt・・・」

 

 その時私は絶句していた。

 

 なぜなら、目の前に見えたのはアルジェとあの目に痛い紅い館の住人だったからだ。

 

 

 

「なっ?言っただろ?犬は棒に当たるし、私らは手がかりに当たるって」

 

 私は信じられないという思いを感じながらこくりと頷いていた。

 

 

 

 

 

【???サイド】

 

 これは面白いことになった。そう心から感じていた。

 

 

 

 自分を様々な方法で追いかけるいくつかの視点のうち二つがぶつかる。

 

 私を探すために結託するのか、誤魔化し去るのか・・・それともぶつかりあうのか。

 

 主役でありながらの観客。

 

 

 

 そこにいながらここにはいない。

 

 なんだか禅問答くさくなっているが、これが現状黒幕であり傍観者たる彼女の立ち位置であった。

 

 

 

 幻想郷の至る所に薄く、儚く存在し幻想郷を見渡す彼女を表す最適解。

 

 悪魔が本当に汚れた場所ではなく聖なる場所に現れるのと同じで、鬼である彼女もそれっぽい洞窟や神殿などでは無く何気ない場所にいる。

 

 もはや、幻想郷は彼女の視界の中にある。

 

 勿論この能力での悪用はできる。

 

 しかしそれでは面白くない。人里での事件?妖怪の頂点への再臨?そんなものでは面白くもなんともない。

 

 彼女が求めるモノ。それは楽しさだった。

 

 

 

 桜を見て酒を飲んで飲まされて。そんな程度の楽しさが彼女の目的だった。

 

 

 

 

 

三日目

 

まにあった!

 

 宴へのタイムリミットも残り数時間を切り夜の帳が落ちた頃……2人の鬼とその他2名がかち合っていた。

 

「貴方ですか。私たちの住む館に侵入していたのは……」

 

「そうでもあるし、そうじゃない……と言う選択肢は?」

 

 私そういうあやふやなの嫌いなんですよ。と答える。すると目の前に佇む二本角の童女は何が可笑しいのか大笑いする。

 

 

 

「何が可笑しいんですか? 」

 

 そう私は問い掛ける。

 

「そういうあやふやなの嫌いなんです。か? とんだ自虐じゃないかチスイコウモリ」

 

 ニヤニヤと笑いかける鬼。

 

「何を言って……ッ!」

 

 どういうことだか理解していなかったネーヴェは目の前の鬼の言わんとすることを理解する。

 

 つまり彼女は私の存在自体をあやふやで実体ないものと言うのだ。

 

 

 

 彼女は何を見たのか? それを知るため詰問しようとするが既に目の前の童女は霧となって別の場所に姿を現す。

 

「さぁ、話は終わり。これ以上のことが知りたきゃ私を組み伏せな」

 

 にひひと彼女は笑い、鬼としての全力を出す。

 

 

 

「トレース……ッ!?」

 

 ネーヴェはいつも通り自らに吸血鬼を投影しようと術式を詠唱しようとする。だがしかし吸血鬼の名を唱える前に左腕へと激痛走る。

 

 バッと痛みの発生源を見ればそこにあるべき腕が見えない。

 

「探しもんはこれだろ?」

 

 童女の声が後ろに聞え、慌ててそちらを見ればそこにはやはり双角の鬼がいて、”これ”と示しその細腕に持つものはネーヴェの腕だった。

 

「やはり遅いね。あと私は君を見ていた。そしてここに来たんだ。ならば君への対処法を知っていると思うべきだろ?」

 

 かのローマの雄であるユリウス・カエサルの名言【来た・見た・勝った】とばかりにこのまま私は倒されるのかとネーヴェは思った。

 

 

 

 ローマの雄は言った。【賽は投げられた】のだと。

 

 ならばネーヴェは足掻く。

 

 投げただけでは結果が定まっていない猫の箱だと……そうわかって行動しないのはただの間抜けなのだから! 

 

 

 

 薄い魔力を練って妖力と魔力のエンストはどうだろうか?

 

 そうあふれる血によって揺らめく視界を我慢しながら鬼の一撃を躱す。

 

 

 

 吸血鬼の回復力は並大抵ではないが、まず鬼はそれすらもしのぐ鋼の肉体と驚異の回復スピードを持つ。攻撃と防御のどちらにも特化しすぎた仕組み・・・いうなればヤジロベエのような進化。ならば攻撃か防御を崩さなければ勝利の道は見えることはない。

 

 ただし多少のバランス崩れはすぐに修正される。ならばすぐ様に再起不能レベルで魔力を叩き込まなければいけないッ!

 

 しかしネーヴェの薄く張られた魔力は鬼の能力でかき消される。

 

 

 

 打つ手なしの中ネーヴェにまた拳が迫るッ

 

 

 

 

 

2人の鬼は月夜の下に殴り合う

 

「チスイコウモリってのは自分後も吸うのかい?」

 

そう、地に伏す私に向かって私と同じくらいの大きさの鬼である伊吹萃香は言った。

 

「知りませんよ。そんなこと……」

 

あぁ、誇り高き吸血鬼が聞いて呆れる。

 

意気揚々と挑んでみれば結果は惨敗。一発逆転も兆しすら見ることが叶わない。

 

 

 

霧のように魔力を張って相手の妖力などと競合させるやり方も萃香の能力には相性が悪く、張っては直ぐにかき消されていた。

 

 

 

そして地に伏せばニタァと非常に気分が悪くなるような笑みを見せて皮肉を込めた言葉を投げかけてくる。

 

しかし、困った。どうすればこの鬼を倒せるのか……

 

「それにチスイコウモリって言いますけど鬼だって血をすするでしょう?」

 

「確かにあたしら鬼は時に人喰いにもなるさ……でもそれだけだ」

 

そう言って萃香は美鈴とパチュリーの元へ目線を向ける。

 

 

 

「そいで?そっちの2人の…………いや1人か、まぁいいや。それであたしとやり合う気はあるかい?」

 

確かに美鈴は過去にやりあったことがあったらしいが、地面に転がる私を踏まず踏ませず、さらに守りながら戦うのは難しいと思う……

 

 

 

「どしたら……」

 

しかしこの時私の頭に先程の会話が思い出される。

 

鬼も血を啜る?ならば私の能力でなんとか出来ないだろうか!

 

だが、声に出して投影しようものなら確実に言い切る前に踏みつけられておしまいになってしまう。なら声に出さず投影するか?いや、それは時間がかかりバレてしまうのではないだろうか。試したことがない変身でどのように姿が変わるか分かったものじゃない。

 

 

 

ならば一旦抜け出るためにッ!

 

地に伏す状態ならばこの変身は目立たない!

 

 

 

そう思って私は顔を地面に向ける。そこには私の体から溢れた血溜まりがある。

 

そして私の髪の毛は紅く染まる。

 

 

 

投影 フランシス・ヴァー二ーッ!

 

普段よりもより多い魔力消費を感じながら、立ち上がる。

 

 

 

だが当たり前のように私は萃香に蹴っ飛ばされる。

 

「死に損ないが今更動くな邪魔にしかならん」

 

 

 

きつい言葉だが私の考えはここで終わらない。

 

「邪魔できるなら最高ですよ。なんせ異変の邪魔ができてるんですから」

 

「幾ら不死の上にけが人だとしてもあたしは甘くならんぞ?勇儀だったら楽しそうにハンデをもうけると思うがね?」

 

「なんだ知ってるんですねこの投影 【鬼】のあなたも……」

 

 

 

萃香があぁ、とうなづこうとした時私の姿が変わる。

 

ニタニタと笑うのはこちらの番としたい。

 

 

 

今私の頭には立派なふたつの角が生えている。

 

髪の毛は後ろで日本で言う髷のように結われている。

 

目は血走るとまでは言わないが、紅く萃香を見すえていた。

 

 

 

「さぁてこれでお互い力は互角です。」

 

 

 

 

 

決着と従者の憤怒

 

 地に伏せた体勢から一気に対等なところまで登り詰める。

 

「能力がタメなら勝てる? 馬鹿なこと言うんじゃないよ。実力があっても経験が足りんよ」

 

 妖怪の最上位の存在である伊吹萃香は堂々と腕を組んで言い切る。

 

「傲岸不遜ですね」

 

 私はそう端的に告げる。

 

「あぁ、たしかに傲岸で不遜だ。だが、それが当たり前であるほど地上のやつは骨無しばっかだ」

 

 そう目の前の相手は語る。

 

 だがその言葉を誰も否定しない。いや、否定できないのだ。まさに今、彼女の言うことが本当だということが証明されていたのだから……

 

 

 

「経験が足りない? そんなの試せばわかることです。行きますよッ!」

 

 ネーヴェ・アルジェント・スカーレット

 

VS

伊吹 萃香

「そこまで言うのならどうにかして私を超えてみなッ!」

 

 

 先手はお前に譲るとばかりにその場から動くことの無い最強の存在をめがけて一瞬で間合いを詰めて拳を叩き込む。

 

 しかし拳からの衝撃は相手に伝わることなく……

 

「やっぱり力が乗ってないね。こういうのはこうやるんだよ!」

 

 懐に飛び込んでいった私は無防備なボディに重い一発をくらう。

 

 カハッと肺にあった酸素が無理矢理体外に放出される。

 

 

 

「いいかい小娘これが経験の差ってもんよッ!」

 

 そしてダメージで怯んだところを更なる攻撃がおそいかかる。

 

 最初の一撃は膝で鋭い痛みがお腹に食い込む。次に顎への鋭いアッパーで無理やり体が上に引っ張られる。

 

 最後に強力な頭突きを喰らう。

 

 

 

「足がガクガクしてるぞっと」

 

 そして頭突きによる脳震盪でフラフラしている時に足を蹴っ飛ばされてその場に倒れる。

 

 見事にぐうの音も出ない完敗。まさに完璧な返り討ちand噛ませ犬感。

 

 

 

「美鈴……あとも…………うちょっと頑……張ってい…………ただけま……すか……?」

 

 自分の身もままならないものではあるが今は美鈴にかけるしかない。

 

 

 

「…………畏まりました。不肖美鈴、ここが命と誇りの賭け時と見定めました」

 

 いつもの優しい声ながら美鈴の声には怒気が宿っていた。

 

「ネーヴェお嬢様はそこで休んでいてください。私がなんとかします」

 

「あり……が……と……う……」

 

 私はそこで意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ久しいじゃんか……侵略戦争以来だな」

 

 えぇ、そうですね。と私は淡白に返した。

 

「冷たいねぇ」

 

 相手はそう言ったが、私はそれは違うと答えた。

 

「今私は本能が暴れ出すのを必死に抑えてます。この辺り一体を炎の海に変えないように」

 

「あっそ……でも、その憤怒の炎は消さずにかかってこないとあんたが死ぬよ?」

 

 目の前の最凶は見定めるように目を細めた。

 

 

 

「生憎、私のモットーは【退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!】ですのでそのご要望にはお答えできません」

 

 ただひたすらの前進と立ち塞がる相手をそのまま吹き飛ばすことに重点を置くその連撃は防御されようとも続く。

 

 

 

「さぁ、行きますよッ! 今の私は怒っています!」

 

 

 

 

 

お祭りは最後の最後まで

 

最近手抜き感が否めない……リメイクも考えんと

 

意識というものを感じさせない真っ暗な世界は次第に白んで明るくなっていく。

 

そして明るさに比例して私の意識も覚醒していく。

 

「私って弱いなぁ…頑張って頭を捻ってもあんな風にねじ伏せられちゃったんだし……」

 

 

 

幾つかあの戦いの中でも考えて実行した考えもあった。だがしかしその策の全てをあの鬼は全力の剛力で軽く捻り潰した。

 

投影トレースを実行する前に声が出せないほどの一撃を与えて喋れなくさせて投影できなくさせることを筆頭にあといくつかの策もねじ伏せられた。

 

 

 

まさにそれの原因は【鬼】という種族に対する明らかな慢心。

 

ここまで強い相手なんだと思わなかった。感じていなかった。なんて言い訳は確実に負け犬のほざく戯言だろう。

 

私という存在は確実にこう思っていた。

 

【鬼なんて私たちより少し強いだけだろう】と……だが実際はどうか?

 

ただの喜劇とも言えぬ児戯としかいいようのない三文芝居。

 

 

 

異変を止めると意気揚々と語ったその絵空事は見事黒幕に打ち滅ぼされたと言うエンディング!

 

嗚呼、こんなことなら私は言ってやろう!

 

「その程度で、なにいきがってんのよ。まだまだだわ。2時間前に出直してきな」とッ!

 

 

 

自己嫌悪の渦は高くなり、螺旋階段を描くようにクルクルと苛む言葉たち……

 

 

 

そうしてネーヴェがダークサイドへともっと傾きかけた頃、精神世界の明るさは最高潮に達し、ネーヴェの意識は現実世界へと引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?……ここは…………?」

 

ゆっくりと目を開き自分の現状を確認する。

 

 

 

「おはよう。寝坊助さん?」

 

頭がむっちりとしたやわらかいもの乗っていると理解すると同時に、自分に向かってかけられた声が真上からかかっていることを認識する。

 

「おはようございます。七曜の喘息娘さん」

 

 

 

しかし、異なこともあったものだと考える。あの鬼は私が覚醒して黄泉がえりのリベンジマッチをするのを阻止すると思っていたのだが……

 

そう思いながらパチュリーの顔を見ていた頭を90度横に回して別の方向を見る。

 

 

 

「あぁ、終わっちゃいましたか……お祭り」

 

ただぽつりとその一言が口から零れる。

 

 

 

私の目に映る光景はただ異変という1種のド派手な祭りの終幕だった。

 

私を庇うかのように地に膝つきながら気を失う美鈴。

 

そして黒と白の衣装に身を包んだ魔法使いと紅白の衣装に身を包んだ巫女。

 

 

 

「伊吹萃香はどこに……」

 

「大丈夫逃げられたりしていないわ。ちゃーんとツボの底」

 

パチュリーはそう言って紅白の巫女が手に握る陶磁器のツボを指さした。

 

 

 

「あの中に封じ込められて当分保管だそうよ」

 

優しそうに微笑んだパチュリーはそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 

一難去ってまた一難

 

何・ 故・ か・三日おきに起きていた異変も妖怪絶対滅する博麗の巫女が黒幕を倒し封印したとして昨日催された異変解決の饗宴で終わりを迎えた。

 

 

 

「……霊夢さん……そろそろ諦めたらどうです? どんなに探したってないものは無いんですよ?」

 

 所々からボロっちさが溢れる賽銭箱の蓋を取り外し、中を探る異変の立役者の哀れな後ろ姿を見ながらそう声をかける。

 

「うっさいっ! 昨日あんなに変な輩共来てたんだから誰かひとりくらいお賽銭を入れてくやついるでしょ!」

 

 私は言えない……そんな変なやつらだからこそ入れていかないのではないかとは口が裂けても言えない……

 

 

 

 しばらく隅々まで探してもなかったのか渋々現実を見た霊夢さんは諦めてこちらに目を向ける。

 

「それであんたは何しに来たわけ? わざわざお散歩って訳でも無いでしょ?」

 

 じとーっとこちらを見つめるめは言外にお賽銭を入れていけと語っている。だがしかしこちらも慈善事業って訳でも無いので世の中のどおりに沿って働けば働いた分の報酬と言うことで応じていこう。

 

 

 

「ちょーっといくつか聞きたいことがあってですねぇ」

 

 私の知りたいこと、それは例の鬼のことだ。

 

 ズタズタのボロ雑巾状態でいる身体を横たえ、パチュリーに膝枕してもらいながら宴会の模様を見聞きしているとどうも私をズタズタにしたあの鬼は霊夢さんに封印されたという。

 

 

 

 私をズタズタにできる鬼なのだから、あそこまで余裕綽々だったのだから……私の成長のために力を貸してもらいたい……

 

 

 

「あの小鬼の居場所は教えないわよ」

 

 だがそうそうに出鼻をへし折られた。

 

 威張っていると鼻をへし折られたという天狗の話を思い出し共感と同情をしながら私は会話を進める。

 

 

 

「嫌だなぁ霊夢さん……」

 

「悪魔が下手に出たり猫なで声を使う時は何かを企んでるのよ? あなたのお姉さんが証明してくれたわ」

 

 えっ、人様の家で何やってるんだろ私のお姉様は……? 

 

 

 

 1つお姉様の疑問が増えてしまったことは今は脇へ置いておこう。

 

 

 

「……では霊夢さん。交渉しましょう」

 

 霊夢さんは胡散臭そうに見つめている。

 

「悪魔は契約に忠実ですよ?」

 

 ただし契約を潜ってなにかすることについてはノーコメントで黙秘します。

 

 

 

「見返りは?」

 

「いっぱいのご飯です」

 

 

 

 霊夢さんは目を輝かせた。

 

「よし、乗ったわ。あいつの居場所はそこの戸棚の酒壺の中よ」

 

 

 

 ふむふむと頷いてツボを持ち上げようとした時はたと気づいて振り返って尋ねる。

 

「もしも逃げ出そうとしたら捕まえてくれる御札あります?」

 

 

 

 しかし霊夢さんはお茶もつけなさい。と答え、私は仕方なくわかったと了承の意を伝える。

 

 

 

「御札あるからあげるわ。それでご飯とお茶は一緒にお願いね?」

 

「ハイハイわかりました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はツボを持って子馬かに戻り自室にツボを置いたあと、調理場に行って咲夜が準備していた茶碗一杯のご飯にお茶を入れて咲夜に持っていくよう伝えた。

 

 

 

「1杯のご飯をお茶と一緒に出せ……お茶漬け1杯でこんな豪華なものくれるだなんて霊夢さん人がいいなぁ……」

 

 

 

 その数秒後に博麗神社からはひとつの大声が響いた。

 

 

 

「だっだっ騙されたァァァァ!」

 

 

 

 

 

ペット……?

 

 紅魔館にある一室……そこにはふたつの影があった。

 

「それであの巫女をだまくらかして盗んできた私をどうしようってんだい? ご丁寧に能力封じの御札まで用意して……手篭めにでもしようってかい?」

 

 双角の童女 伊吹萃香はこちらを見ながらそう尋ねる。

 

「私にそんな趣味はありませんよ? 生憎私はレズビアンでもぺドフィリアでもないですから」

 

 私はそんな問いに否定を返す。

 

 

 

「……私は知りたいんですよ。自分がどういう厄介を抱え込んでいるのか」

 

 目の前の鬼は全てを知っているとは思わない。しかし、私生活を覗き見していたのはたしかなことである。ならばいくつかくらいなら私がわかっていない何かを知っているかもしれない。

 

 一縷の望みをかけてそう尋ねてみる。

 

 

 

「あ〜んぅ……そうだな。お前がどれだけショック受けるか知らんがひとつわかってることがある」

 

 萃香は気まずそうに頬を掻きながら口を開いた。

 

 

 

「お前が眠っているところを私は見たことがないね」

 

 あっけからんとしたその言葉は私を混乱させる。

 

 

 

「まっ、待ってください。私が寝ていないってどういうことですか? 棺桶の中で眠っている私を見た事ありますよね?」

 

 萃香はあぁと頷く。

 

「確かに棺桶で横になっているのは見たさ。だが、お前は息もしていなければ寝返りひとつ打ってもいないて完全に死者のそれだよ」

 

 淡々と言いのける童女の目に容赦や同情はみうけることが出来ない。

 

 

 

「そんな……嘘でしょう?」

 

 しかし萃香はにんまりと笑って言った。

 

「鬼は嘘をつかないんだよ。これ常識」

 

 

 

 カラカラと楽しそうに笑う双角童女は何がおかしいのか……

 

 

 

「どうせ私は当分ここで捕まってんだろう? なら別にのんびりやっていこうじゃないか。死体は死体らしく何も考えず寝てるといいさ」

 

 あぁ、やっぱりこの鬼は苦手だ。どうにもあっちのベースに引き込まれる。

 

 しかしそう実感できていても対応策は考えつかない。いや、今はあまり頭自体回っていない。私の脳は先程の爆弾発言のせいで処理にデバフがかかっているようだ……

 

 

 

「……それでは私はここで失礼します。あっ、お察しの通りに当分は逃がしませんよ?」

 

 さすがに食事くらい与えようとは思うが……でもこの鬼お酒あげたらお酒POWERで脱出しそうだよなぁ……お酒は抜きの方向で食事を出すべきか? 

 

 

 

「もちろん食事は酒がつくんだろうなぁ?」

 

 萃香は背を向け部屋を出る私の背中にそう声をかけるがお酒出したら何が起きるのかわからないため答えはNOと伝える。

 

 

 

「酒酒と言っているとアル中になりますよ」

 

 なんて適当なことを言って私は扉を閉めた。



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序章 雪銀の吸血鬼
誕生


 とある辺境に紅い館があった。

 その紅い館は、強大な力を持つ吸血鬼の根城として辺りの町は怖れを抱くとともに、畏れられていた。

 

 そしてその紅い館、紅魔館の主ドラクル・スカーレットは今、廊下を右往左往する最中だった。

 

 爪を噛みながらある部屋の前を行ったり来たりの繰り返しで、とても広大な地域の妖怪や魔物を従える存在には見えない。

 其処を通りかかる館の住民は皆、一様に大人しくしておいてほしいと思っているが、誰も言い出す勇気はない。

 そんな目を向けられていることに気づかぬまま、若干イライラしてきているドラクル公の裾を誰かがグイっと引っ張る。

 いったい誰だと、ドラクル公が睨むために振り返るが、其処には誰もおらず、相手を捜して視線を下に動かす。そして視線が相手を捉えたとき、そこには自分と同じ青みがかった銀髪の童女が頬を膨らませて居た。

 

「おとーたま、おとなちく、ちて」

 

 辿々しく声を出す童女に、つり上げかけていた眉尻を下げてドラクル公はしゃがんで目線をあわせる。

 

「すまないなレミリア。私も不安なのだ」

 

 自分の娘におとなしくしていろと言われたことに、恥ずかしさを感じながら、近くに用意しておいた椅子に座る。

 

「それは・・・れみりゃも、わかりゅけど」

 

 とてとてと近づき、膝の上によじ登ろうとするレミリアを抱き上げて、膝の上に座らせる。

 不安を感じているのはこの子も同じか、ならば父として気を紛らわせるべきだなとドラクル公は感じ、レミリアに話題を振る。

 

「なぁ、レミリア・・・妹か弟かはわからないが、新しい子の名前はどんな名前をつけるべきかな」

 

 不安が和らぐように、レミリアのサラサラとした髪を優しく手で梳きながらドラクル公が訊ねると、レミリアは待っていましたとばかりに目を輝かせていった。

 

「ネーヴェ!ネーヴェがいい!」

 

 イタリア語で雪を意味する単語をレミリアが叫んだ瞬間、分娩室となっていた部屋から、けたたましい産声が上がった。

 それは姉に呼ばれたから声を上げたと思う程のタイミングで、ドラクル公はその出来事に、何とも言い表せない不思議な感覚を覚えた。だが、ドラクル公は感じた感覚を表情に出すことなく、頭の片隅に追いやる。

 

「さぁ、レミリア。新しい家族に会いに行こう」

 

 レミリアは父の誘いに満面の笑みで頷き、膝から飛び降りる。

 ドラクル公には、レミリアの背中から生える、小さなコウモリのような翼がパタパタと羽ばたく様を可愛らしい感情表現だと感じた。

 



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姉の思い

 少し悪趣味に感じる紅い壁紙の続く廊下を、ある一カ所を目指して進む。

 目的地の部屋の前につくと、その小さい体を精一杯のばして扉をノックする。耳を澄まして返答を待つと、扉の向こうからはどうぞと優しい母の声がする。

 ノックしたときと同じように体を限界までのばし、ドアノブを回す。

 

「おかーたま。ネーヴェは?」

 

 そう訊ねると母は、こっちよと手招きをする。

 ベビーベッドに横たわる小さな命。父や自分のような水色よりの銀髪ではなく、正真正銘の銀髪であることを伺わせる産毛が蝋燭の明かりで少し輝いていた。

 父との意見のぶつかり合いと母による調停の末にアルジェント・ネーヴェ・スカーレットと命名された妹はすやすやと眠っている。

 なお、未だに名付け騒動は尾を引いており、父はアルジェント、私はネーヴェと呼んでいた。・・・母は気分によりけりと言うところだ。

 

「アリシア、アルジェントの様子はどうだ」

 

 ノックとともに父の声がする。母はどうぞと返し、その声の後に扉が開かれる。

 父は私に目を向けた後、ネーヴェに目を移す。今は愛すべきものの順番が違うのはわかっているからあまり寂しくはない。

 

「銀髪・・・私の血が若干濃いと言うことだな」

 

 ネーヴェをベビーベッドから抱き上げた父は独り言に近しい言葉をこぼす。それに母は、そうですねと頷く。

 私の髪の毛は父そっくりで、ネーヴェはその色が薄くなっている。母は太陽のような金髪なので、もし次の家族が増えるときは金髪にもっと近くなっているのでは無かろうか。

 そんな風に考えていると、騒がしくなってきた周りに反応して、ネーヴェはぐずりだす。父は慌て、母はその様子をニコニコ見つめている。母は少し気質がマイペースというかおっとりしている。私は仕方なく四苦八苦して扉を開け、外で立ちながら熟睡するという奇妙な妙技を持つ乳母を呼ぶ。

 飛び起きた乳母は、目元をこすりながら部屋に突入していく。

 だが、私がこれで大丈夫かなと思ったとき、部屋の中からネーヴェの鳴き声のほかに父の驚く声がプラスされ、こちらへ走ってくる音が聞こえる。そして、バンッと力強く開けられた扉から父が顔を真っ赤にして飛び出していく。

 私がその隙間から見たのは、トロンとした目で、搾乳のために片方の乳房を露出する乳母と、お腹を抱えて大爆笑している母の姿だった。

 走っていった父の顔が壁紙に勝るとも劣らぬ赤さになってたのは、怒りからか恥ずかしさからなのか、私には理解する気にならなかった。



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時計の針は進む

 紅い館はいつも騒がしい。それが私の一番最初の記憶に刻まれたことだった。

 魔女は部屋で薬品実験をして爆発させるし、人狼はよく吼える。妖精はいつだって笑い声を響かせていた。

 ・・・そして、とある親子が言い争うのが、ここ最近の賑やかさの大部分を占めていた。

 

「アリーチェよ!」

 

 ドアノブカバーにも似た帽子をかぶった私の姉が、羽をバッサバッサと羽ばたかせながらそう叫ぶ。

 

「いいや!ジャンヌがよい!」

 

 翼を変化させたマントから魔力をあふれさせながら父がそう言い返している。

 名前の類で争うのは、この二人だとよく見る光景だ。今回は妹の名前付けで言い争っている。だが、可愛い妹をジャンヌ・アリーチェ・スカーレットなどと言う珍妙な名前にするわけにはいかない。

 私はスーっと息を吸い込み、大声を張り上げる。

 

「けんかはぁ・・・だめぇ!」

 

 ビリビリと肌に感じる大声。二人は驚きの感情を乗せた目線をこちらへ向ける。

 

「「どっどうした、急に大声出して・・・」」

 

 なかなか無いことに二人は固まるが、気にせず私は続ける。

 

「いもーとの、なまえはけっちぇー、ちました」

 

 いつのまに・・・と言うように呆れと驚きを足した表情で私をみる。

 

「おかーたまときめまちた。ふらんどーりゅでしゅ」

 

 この辺りになると二人は、しょうがない諦めようと言う雰囲気になる。この二人のネーミングセンスに若干の不安を感じながらも考えないように決めた。

 

 

 ねぇアルジェ。と母が声をかけてくる。

 なにと返せば、母はベビーベッドに眠る妹の頭をなでた後、こちらに目を向ける。

 

「貴方には妹ができました。だからこの言葉を言わなければなりません」

 

 たとえ、呪詛のようなものになるとしても。と母は言った。

 

「今のところ家督の継承権は第二位、この世の中どう転ぶかわからないのですから、貴方が継いだとしてもおかしくありません。それを心に留めておきなさい」

 

 わかりましたと答える。

 

「そして、今は家族が貴方やフランドールを守護しています。無論これからもする気ですが、もしもの時は貴方が妹を守りなさい」

 

 わかりましたと答えるしかなかった。ここで拒否してもどうにもならないのはわかっている。

 母は、さぁ部屋に戻りなさいと促す。私は頷いて、部屋を出た。

 

「あぁ、ネーヴェ。お母様と何を話していたの?」

 

 部屋の前には姉が立っていた。顔色は少し暗く、質問の答えは答えなくても知っているだろうと思えた。

 

「かぞくの・・・かくごの、はなしでしゅ」

 

 私はそう答えて、その場を立ち去った。



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成長期とコンプレックス

 ネーヴェお姉様と後ろから声がかかる。こんな風な呼び方は一人しかしない。

 

「どうしたんですか、フr」

 

 後ろを振りかえろうとしながら返事をするが、その返事は途中で止まる。理由は簡単で、フランドールことフランが飛びついてきたからだ。

 押し倒されそうになるが、どうにか踏ん張って、受け止める。

 

「・・・フラン、また重たくなりましたか?」

 

 単純にそう感じて言ってみるが、フランは顔を赤くして、おねーさまはデリカシーが無い、という説教を残したまま私から離れる。

 うーむ、さすがに我が妹も乙女な時期ですか。

 

「まぁ、いいわ許してあげる。ネーヴェお姉様は、そう言うのわからなそうだし。・・・それよりお外でお父様たちが呼んでるわ」

 

 私はうんざりした顔を示すが、フランは私を引っ張る。

 

 

 

「遅いぞネーヴェ。今日こそ飛行できるようになれよ」

 

 お父様は少し怒気を含んだ声で言う。

 私は、レミリアお姉様やフランのように飛べていない。というかコウモリの羽型のレミリアお姉様なら飛べるのはわかるが、なぜ、翼が宝石型のフランまで飛べてるんですか、なに、どうやってんの?

 おっと思考がずれた。ともかく私は今のところ飛べていない。

 

「がんばってください。不肖、この紅美鈴が力添えさせていただきます」

 

 乳母から世話役、お目付役?になった赤毛の従者がそう言って励ます。

気を操る力を持つ彼女は魔力や妖力を使って飛ぶなら心強い応援になる。だが、能力で私の力の巡りを整えるとき、彼女は顔をしかめた。

 

 どうした美鈴とお父様に訊ねられるが、美鈴は答えず、真剣さを増した表情に変わる。

 

「いえ、少し魔力回路が複雑ですので、少し本気を出します」

 

 ドクンと全身が熱くなる感覚を覚え、顔をゆがめる。

 

「あっあの、美鈴?」

 

「翼に力を集中させてみてください。その熱さは魔力そのものみたいなのですから、それを翼に移動させてみてください」と美鈴は言う。

 体の熱さに異物感を覚えながら、がんばって熱さを翼に移動させる。

 熱さの感覚がある程度翼に移動しきった。その途端に体がふわりと浮きだす。しかし、ふわりと感じたのは一瞬で浮遊感を全身に感じる前に、風を感じる。

 

「分散ッ!熱さを分散させてください!」

 

 美鈴の悲痛な叫びをかろうじて聞き取り、翼に移した熱さをある程度逃がす。すると、私を押し上げていた浮力が今度は少なくなって支えがなくなったように重力に引かれる。頭には空白の思考が生まれ、考える暇もなく地面が迫る。

 

「大丈夫か」

 

 ドサリと腕の中に私は収まる。そして、抱き抱えてゆったりと地面に降りる相手、お父様が私に言葉をかける。私は、はいとだけ返した。

 

「一応、今日は休みなさい。飛行訓練は日をおいてだな」

 

 私はぼうっとしたまま、はいと頷いて館に戻った。



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悩みと赤毛と月夜

 私は言葉を飾らなければ落第生だ。

 お姉様もフランも完全な形で能力が覚醒しているわけではない。だが私はその能力が片鱗を見せず、一切の糸口はつかめないままで、吸血鬼という種族としての能力もあまり使いこなせていない。

 お嬢様は魔力量が桁違い且つ複雑な回路なんです。だから能力の発露が遅いのですと美鈴は慰めてくれるが、そうだとしても発露が遅いことに違いはない。

 初めての飛行から一年経ち、そこそこの飛行ならできる様になったが、高速移動や精密な飛行はまだ少々心許ない。

 

「ネーヴェ、貴方の悩みはわかりますが、別段貴方ができていないと言うわけではありませんよ」

 

 お母様は私を呼んでそう話し始めた。

 

「まず、能力自体が種族の能力から派生したものと、その人・・・人?まぁいいです。その人固有の能力という場合があります。貴方のお父様の能力である血液を武器に変える能力も念力の派生によって生まれたのです」

 

 知らなかったお父様の話に私は驚く。お母様はその様子にカラコロと笑いながら話を続ける。

 

「貴方だって周りのものを変化させることはできるでしょう?」

 

 お母様の問いかけに頷き、手の平を広げてお母様が見たいであろう能力をどうにか行使する。

 パッと手の平の上に雪の結晶が生まれる。見た目は綺麗だが、なんと言うことはない。ただ、周りの熱を魔力に変換しただけである。そうすることによって、熱がなくなって、冷まされた空気中の水分が凍っただけである。

 

「貴方は内側の魔力を操るのが苦手なだけで、外側の魔力リソースは普通に使えるの。だから、何の引け目もないの」

 

 お母様はそう言って、まっすぐ私を見つめる。私はその眼差しをキチンと受け止めきれずに目をそらした。

 

「・・・・・・まだ、受け止めきれないのかもしれないわね。いいわ、少しずつ向き合っていけばいいのだから」

 

 

 

 とぼとぼと廊下を歩く私に声がかかる。

 

「少し、星を見ませんか」

 

 美鈴ははにかみながらそう言った。

 私は少しだけですよと返しながら、差し出された手を取った。

 

 

 紅魔館の屋上、見上げる空は真っ黒の皿の中に、いくつもの光が浮かぶ世界が広がっていた。

 美鈴は地面に座って、顔を上に向けて言った。

 

「・・・私は夜が好きなんです。星を眺める以外にも楽しみはいくつもありますから。ただ、部屋で耳を澄ますだけでも良いですし、涼しい空気に身をさらすのも、また乙なものです」

 

 星の世界に見とれる私に美鈴の言葉が響く。確かにそうですねと返すと美鈴は、後はお酒もいいんですけどねと続ける。いじけた子供のような横顔につい笑みがこぼれる。

 

 しばらくそのまま星を眺めていると、美鈴はぽつりぽつりと語り始めた。

 

「ネーヴェお嬢様に何か悩みがあるのはわかります。でも、それが私に話して解決するものでもないし、他人に助けてもらって良いものかも私にはいまいち判断できません」

 

 美鈴のスタンスはお母様の『話し合って妥協点を見つけ、方法を言って聞かせて、行動を承認する』というスタンスと異なり、『言い分に耳を傾け、一度言い分の方法でさせてみせ、できたら誉める』がスタンスだ。だからその分、同じ問題でも別種の回答がでる。

 

「私は、お姉様やフランと比べて、これと言って目立つところもありません。この貴族社会では、私はお姉様のスペアです。だから、もし私がそういうときに直面すれば自分の役目が果たせることはできないです」

 

 私は中途半端な存在、完全なスペアになることはできず、かといって全く別な存在になることもできない。

 

「では、ネーヴェお嬢様・・・貴方がしてみたいこと、何かありますか」

 

 美鈴がそう問いかけるが、私は首を横に振る。何かできる才能は持ち合わせていないのだ。

 

「私にはできることはないですし、してみたいことも今はありません」

 

 美鈴は、顔をこちらに向けてにっこりと笑う。

 なんですかその顔と言うと、美鈴は一回胸に手を当てて考えてみてください。できることもしたいこともないのなら何をすべきか、聡明なお嬢様にはわかるはずですよ。と言った。

 

 できることもなく、やりたいこともない。ならばどうすべきか。深呼吸をしながら、思い浮かべる。

 

「・・・・・・わかりましたよ美鈴。できることもなく、したいこともない私がするべきこと。知見を広げる。そうでしょう?」

 

 美鈴は、それが正解と言わずに、ただ、やってみましょう。とだけ言った。

 

 

 

「・・・さぁ、夜は冷えますから。ここらで部屋に戻りましょう」

 

 自分なりの答えを得てから少しして美鈴が言った。私はその言葉に同意して屋上から屋内へ戻る。

 

「ネーヴェお嬢様、貴方は私が腹を痛めて産んだ子ではありませんが、それでも私の子供のようなものです。何かあれば私に命じてください」

 

 別れ際に美鈴はそう言った。

 

 

 

「こんな感じでいいんですかね・・・なんか奥様に反逆するような台詞回しな気がしましたけど・・・」

 

 赤毛の乳母は愛しい主と分かれてから、一人つぶやく。

 廊下の陰で上出来だったと幽かに賞賛したレミリアの言葉に気づかぬまま・・・



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最後の平穏

「術式介入、崩壊過程挿入、介入終了」

 

 お父様が辺りに浮かび上がらせる火の玉を次々とかき消す。かき消すと言っても物理的ではなく、魔術的だ。辺りの魔力を引き込んで現象を固定化する術式に介入、その後、術式を成り立たせる因子を摘出、または成り立たなくさせる因子を挿入し崩壊させる。見識を広め、周りの魔力や妖力に干渉する技能がそれなりに高かった私が思いついた方法だ。

 お父様は素晴らしいと賞賛し、お姉様も同じように誉めてくれる。

 

「アルジェ、お前の能力は物事に干渉するものだな」

 

 所感を語るお父様は、すぐに次の火の玉を展開し、続けるように告げてお姉様の方へ向き直った。

 

「レミリア、お前は逆だ。内蔵魔力量が相当多い、力押しというのはあまり美しくなさそうだが、その実、最後にものを言うのは力だ・・・魔力量が潤沢なお前はとれる手が多い、技術のレパートリーを増やせ」

 

 お姉様は頷いて全く別種の魔術を次々と展開させていく。

 

 

 

 ふわりと開いた手の平に術式を展開し、氷の固まりを創造する。その固まりを、重ねて展開した術式で細かく砕く。

 

「そこまで魔術でするの?」

 

 砕いた氷をコップの中に入れる私を見ながらお姉様は言った。

 私は訓練の一環ですと言いながら、ガラスのコップを中身がこぼれない程度に揺らす。

 

「・・・貴方の周りはエーテルが薄いわね」

 

 万物の元になる物質、即ちエーテルがあまり存在しないと言う指摘にコクリと頷く。

 

「私の魔術は全て外側にたゆたうエーテルを魔力に変換してますので、そのせいかと」

 

 そう答えた後、いい感じに冷たくなったジュースを口に含む。

 

「魔力がほとんど貯蓄できないなんて、難儀なことね」

 

 お姉様の言葉に私は首を横に振る。

 

「そんなことないですよ。流石に大規模な魔術はできませんけど、小規模程度ならそこまで負担はないです」

 

 ならいいのだけど。とお姉様は紅茶を飲み干してから小さく呟いた。

 

 

 

 いけませんね。お姉様に心配をかけてしまっては・・・

 せめてもの見栄で負担はあまりないと言ったが、小規模の魔術でも相応の負荷がある。普段の魔術行使は、その大部分が大気中のエーテルを魔力へ変換してまかなわれている。

 ・・・このことに気づいているのはお父様とお母様、それに美鈴。お姉様やフランには、私の周りだけエーテルが薄くなっているということが見えるだけだ。

 

「私鋸とを気にかけていただくのはいいんですけど・・・過保護なのが玉に瑕なんですよね」

 

 残ったジュースを飲み干し、私は席を立った。



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襲撃

 夜明けの頃、館がにわかに騒ぎだす。

 誰かの叫び声が響き、その音で飛び起きる。

 

「ネーヴェ!起きたのね。見ての通り緊急事態よ!」

 

 魔力で作った朱槍を携えたお姉様が、私を棺桶のベッドから引っ張り出す。

 一体なにがと問いかけると、お姉様はそれは後と叫び、扉を蹴破って部屋を脱出する。

 

 叫び声が聞こえていた時点で覚悟はしていたが、部屋の外は凄惨な状況が広がっていた。

 死屍累々、目に映るのは、人妖入り乱れた死体と、どす黒く濁った魔力だまり、そして壁や床をさらに紅くする血の流れ。

 呆然とする私が立ち止まらなかったのは、ひとえにお姉様が手を引っ張ってくれていたからだろう。

 

 やがて、襲いかかる人間をなぎ倒しお姉様が突入した部屋は、当主の部屋だった。

 

「一応ここなら安全よ」

 

 お姉様は呼吸を整えながらそう言った。

 

「今のうちならと言う但し書きがつくがね。レミリア」

 

 ガチャリと扉を開けて入ってくるお父様は、小脇にフランを抱え、背中にお母様を背負っていた。

 一体なにが起きているのか、私はお姉様に訊ねる。だが、その質問はお姉様よりも先にお父様が答えた。

 

「人間の襲撃だ。教会勢力がいよいよ本腰を入れて、この辺りの妖魔を滅ぼしにかかったらしい」

 

 この辺りの村々の住民は全て襲いかかってきてるぞ、とお父様は続ける。

 夜が明けてしまった今では、我々は外に打って出ることもできない。後に吸血鬼の弱点として余りにも有名となった日の光がある状態では館から追い出すことが限界だろう。

 

 

 

 当主の部屋に逃れてきた住人は、ほとんどの者が手傷を負っていた。ウェアウルフにウィッチ、ドワーフ、エトセトラ・・・それらの者が負った傷の多くは下半身に集中していた。それを見て、元々人であったお母様は、人の恐ろしさを数と残虐さだと言っていたが、その通りであったと痛感する。動けなくさせて、ゆっくりととどめを刺す。残虐さを強く示す行動だ。

 避難してきた住人に、獣人の妖魔が多いのも、手傷を負っても力強く動ける獣の因子が、その命を生きながらえさせているからだろう。

 

「そういえば、美鈴はどこです?」

 

 ふと、気付いたことを口に出す。自分がここへやってきてからそろそろ一時間経つが、自分によくしてくれるもう一人の母的存在である美鈴の姿は今だにない。

 

「お嬢様、美鈴殿は勇敢にも、お一人で外に打って出られました。この数です・・・恐らく命は・・・・・・」

 

 近くにいたおそるおそる魔女が告げる。

 仕方ないと言う諦観が見て取れる言葉に、私はそうですかとしか返せなかった。



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越えるべき死

 当主の部屋への扉がドンと大きな音を立て、扉にぶつかる衝撃に扉が軋む。

 傷を負って意識のないお母様に寄り添う、私とお姉様は心配そうに顔を見合わせる。

 

「皆、武器を取れ、戦うぞ」

 

 お父様が励ましながら、武器を生成する。

これから向かい合う敵へ向けられたお父様の厳しい横顔が、不思議と頼もしいように感じる。

 

 私には、この絶望的な状況を生き残るヴィジョンは見えず、己の死を覚悟する。しかし、不思議と諦観はなく、最後に一矢を報いると言う気概に溢れる。

 ふと、真横でスルリと衣擦れの音がして、私はそちらを向く。

 

「お母様?起きては体に障ります・・・」

 

 視線を横に移行すれば、起きあがろうとするお母様が目に映り、つい窘める。だが、お母様は、寝ていてもどうせすぐに殺されるでしょう?一矢を報いてやらなければ・・・それが淑女と言うものよ。と聞く耳を持たない。

 確かにここで休むか、戦うか、どちらに転ぼうとも死は免れないが・・・一矢報いて倒れるお母様を見たくはない。

 そもそも、それは本当に淑女だろうか?

 

「さあ、レミリア、アルジェント・ネーヴェ、フラン、武器を手に取りなさい。ここが私たちスカーレット家淑女の強さを示す時よ」

 

 空間に出現する魔導書は開かれ、術式の展開準備に入る。よく考えれば

お母様の戦う姿は初めて見た気がする。そう思っていると、横からお父様が耳打ちする。

 

「・・・アルジェ、お前のお母様は、こと魔術においては、この館随一の腕だ。と言うより、ここの魔術防壁等は全て、妻が一手に引き受けてるのだ」

 

 それ今言うことですかと驚き混じりに返すと、知らないのはお前とフランくらいじゃないのかと言われる。(後に確認した結果、本当に私とフランだけだったようだ。)

 

 

 

 朱槍を携えるお姉様と、魔力で適当に作られた棒を二振り持ったフランとともに、お母様を守護する構えで備える。

 

 しばらくじっと待っていると、誰かが防壁が破られるぞと声高に叫んだ。そして、声の数瞬の後、バチンと何かが破裂したかのような音が響いて人間が侵入してくる。

 

「我は紅魔の今代当主、ドラクル・スカーレット! 此度の襲撃、見事である! ここまで我が一族を追いつめし栄光、とくと黄泉の世界にて誇るがいいッ!」

 

 執務室として広すぎると思っていた部屋も、こうなった今では手狭に感じる。

 なだれ込む人間は扉の広さ的に逐次投入となるが、積み重なる死体は、確実に私たちの行動圏内を狭める。

 

 銀の弾丸と銀の刃の元に幾人もの妖魔が倒れる。

 

「「術式展開、広域支援、ヘイルムダムの笛発動」」

 

 士気と肉体の耐久度を上げる術式を展開しても、銀の前には効果が薄い。

 

「魔女部隊!リビングデッドを!」

 

 お父様が出す指示に死者蘇生を行う魔女たち。人間の数を有効に使う作戦ではあるが、使い道は盾が一番しっくりくる。

 

「我が姉妹の牙は抉るぞ!」

 

 狭い場所では不向きなはずの朱槍が味方を傷つけることなく、的確に人間の心臓のみを穿っていく。そして、その横では、フランが次々と武器を奪っては切りつけ、壊れれば捨てることを繰り返して、屍の数を増やしている。

 

「術式設置!自動防御、フレイの剣!」

 

 遠距離からの銀の弾丸を防ぐ術式を設置し、二人を近接戦に集中できるように配慮する。辺りのエーテルを自動で奪ってしまうのが難点だが、己の中に魔力が貯蔵できる量が私より少ない人間には有効な術式となっているのが幸いだった。

 

「我々の力を見せつけろ!妖魔の力がどれだけ恐ろしいか思い知らせてやれ!」

 

 哮る声が響き、呼応するように人狼が野生の咆哮をあげる。

 絶対的攻勢を崩してはならない、崩せば、そこが綻びとなって壊滅へと追いやる。そう誰しもが表層、深層的な意識を問わずに理解していた。誰かが足を止めればそこで終わる脆い何か。しかし、その何かしか我々には残されていなかった。

 

 

 

 ふと、気付くとフランもお姉様も少し遠い場所に移動している。何故今そのことに気付いたのかと、いやな予感を感じて、止めてはいけなかった足を、一瞬止める。

 不味いと即座に悟るが、別のことに気を引かれることが、戦場でどれだけ致命的か私は理解させられた。

 

「死ねッ!」

 

 短くも力強い殺意の一撃が、お母様を貫く。

 振り返った私の目に、死の光景が強く焼き付けられる。届かなかった不甲斐ない自分の腕が映り込んだ、その光景を・・・

 

 崩壊は始まった。

 

 

 

 館で随一の術者の死。これがどれだけ戦意に影響するかなんて、言うまでもない。

 カランと武器を取り落とす者が数人、人間に押しつぶされて消える。

 戦意の喪失は即ち、死しかない。

 

 そして私も、戦意を失いかける寸前だった。

 

 お母様を屠った人間が、こちらに向かおうとするが、その人間は朱槍の一投によって壁に縫いつけられる。

 

「しっかりなさい!その呆然を止めて、膝を曲げる前に前を向いて屠りなさい!」

 

 私に一振りの剣を押しつけて、お姉様は一番近い人間を刺し穿った。

 そして、その刺した人間から槍を引き抜くと、フランと共に私の前に立ち、名乗りを上げる。

 

「スカーレット家第一息女レミリアが槍は、変幻自在の朱槍!けして逸れず、曲がらず、折れぬ、思念の槍である!」

 

「同じくスカーレット家第三息女フランドールが一撃は、千変万化の一撃なるぞ!我が母の仇、数多の攻撃による死を持って償うがいい!」

 

 堂々としたその名乗りに、最も近くで覇者の圧を纏う二人の名乗りを聞いた者を中心として、最大の支援者を失ったことで崩れかけていた士気は持ち直した。

 

 

 血を分けた二人の勇者に追いつくように、私は立ち上がる。

 

「・・・同じく、スカーレット家第二息女アルジェント・ネーヴェ・スカーレットが魔術は、冥界神の権能であるッ!生を司るエーテルは我が手中に在り!死を待つ其の身は我が配下である!」

 

 自分でも、追いつけたかなんてわからない。それでも、不敵に笑う私の姉妹には十分だったのだろう。

 

「「「いざ!いざ!その命、貰い受ける!」」」

 

 



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怒・哀・歓

 お母様が死んだことで、この館は多くの魔術的防御を失った。

 扉しか結界を越える場所はなかった。しかし、結界を設置したお母様がいない今、壁は防御力が普通の壁と同じだ。

 そして今、壁が破られる。

 

 扉という数人同時に入ることのできない障壁が無効化され、なだれ込む人間。数が更に減っていた妖魔はどうすることもできずに人の波に呑まれて消えていく。

 

 斬り伏せて、爆殺して、引き裂いて、吼えて、また斬り伏せて・・・いくらやっても減らない。妖魔の死体から溢れる魔力すら貪って、魔術を行使しても、その数は減ることなく増え続ける。

 

「刺し穿つッ!突き穿つッ!蹴散らせグングニル!」

 

 お姉様の投げ槍は魔力の放出をしながら一度に十人以上を屠る。

 

「■■■■■■ッ!」

 

 もはや声にならない咆哮を轟かせてフランは、人の波に入り込み、血の海を作る。

 

「我が紅魔の神髄しかと目に焼き付け、冥土の土産にせよ!」

 

 マントとして纏う翼を展開してお父様はいくつもの魔力弾を放つ。

 

 魔力回復のために、できるだけ皆の周りのエーテルは採らないようにしているが、それでも、部屋に満ちるエーテルの残量は、数を減らす。

 

「減るのはエーテルばかりってことですか・・・」

 

 もちろん、この中で最もその損害を被っているのは紛れもない自分であり、意識をいつ手放してもおかしくない。

 まずは、目の前の銀の槍をどうにか・・・そこまで考えたとき、足が床の血で滑る。

 

「しまっ!」

 

 上手くバランスがとれず、目の前に迫る銀の槍を回避する事は不可能だった。

 ごめんなさい、お父様、お姉様、フラン・・・私は先にお母様の元へ行きます。

 心で家族に謝罪を行い、死を覚悟して目をつむる。

 

 だが、致命傷を与える銀の槍は、いくら待てども私の体を傷つけることはなかった。

 不思議に思った私は、恐る恐る目を開ける。

 

 そして、眼前に広がる光景に息を呑み、瞬時になにがあった理解した。

 私に向かう槍を自らの体で受け止め、体を貫いた槍の穂先が、私に当たらないように翼でへし折り、防ぎきった。

 

「この馬鹿者!親より先に死に絶えようとは、なんたる不忠気者だ。アルジェント!」

 

 口から血を吐き出しながらもお父様は、私を叱る。

 

「スカーレット家の息女を名乗るのならば、私より先に死ぬことは許さん」

 

 お父様は私を叱りつけた後、槍の持ち主に向き直り、重々しい口調でいう。

 

「貴様のその勲功、まことに大儀である。冥土にて仲間内に誇るがいい」

 

 グチャリとお父様は相手の頭を握りつぶし、全てが済んだとばかりに、その場に崩れる。

 

 

 

 『私のせいでお母様もお父様も死んでしまった』

 

 ネーヴェはそう、自責の念にかられる。

 呼吸が苦しく、視界も歪み、数多の悔恨が頭の中を走り抜ける。そしてその心に宿った哀しみの感情が閉ざされようとしている心を表すかのように氷塊を生み出し、鳥かごのようになる。

 母の死から刻みつけられていた精神への傷が、父の死によって、なんとか気丈に振る舞っていた精神を崩壊させる。

 だが、精神を崩壊させたのはネーヴェだけではなかった。いや、ネーヴェの崩壊がほかの二人にまで伝播したと言うべきだろう。

 

 レミリアは、父と母、そして今心を閉ざし氷塊の中に消えようとするネーヴェを見て、また救うことができなかったと、自らと敵に対する灼熱の怒りを宿した。

 怒りの焔は魔力をたどって、槍を燃え上がらせる、手がジュッと音を立てて身を焦がすが、レミリアは気にすることなく、憤怒の焔の火力を上げた。

 

 フランは、復讐というものを感じ、敵を殺すことでそれを達成できた歓びを知る。それでは次の人間を殺す。また、歓びを知る。繰り返し、繰り返し、何人も殺す。そのたび歓びを感じる。

 そして結果、復讐という初志を忘れ、歓びの快感だけを記憶に残し、またその感情を感じるために殺す。

 狂気的なまでの歓び、その感情がフランに文字通り、狂喜を孕む。

 

「嗚呼・・・・・・何故・・・何故・・・私なんかのせいで・・・」

「私は、許さない。我が怒りを呼び起こせし者共を全て許さない」

「アハッ♪私の為に刺されて?殴られて?砕かれて?切り裂かれて?殺されて?」

 

 三者三様、どれも別のベクトルに向けられた感情は一切の躊躇なく人間を呑み込み、血肉と変え、完膚なきまで徹底的な蹂躙を行う。

 

 人は敵に回してはいけない何かを目覚めさせ、そして敵に回してしまった。

 憤怒に巻き込まれれば灼熱が傷口から、体の内側を焼き尽くす。

 

 悲哀に巻き込まれれば手足が凍り付き、氷塊の中に封印される。

 

 狂喜に巻き込まれれば圧倒的な暴力が、挽き肉へと体を変える。

 

 絶対的な何かと形容すべき悪魔は、人を殺し尽くす。館の中を疾走する氷塊と火焔が、人間も妖魔も、生と死も関係なく呑み込み、焼き焦がしていく。

 

「「「ああああああああああッ!」」」

 

 三つの咆哮が館を満たす。

 異なる方向へ向けられたものであったが、奇しくも三つは共鳴して響きわたった。



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夜更け

 三つの咆哮が響きわたった暁の頃から、妖魔の時間となる黄昏になるほど時間が経った。

 普段ならば、何か騒ぎが起きている紅い館も、今宵は一切の音が無くなっていた。

 激闘の末に勇士がいくつも倒れる戦終わりとも言うべき景色はなく、その場にあるのは、焼け焦げた死体か、氷漬けの死体しかなかった。

 本来の紅さは失われ、舘の半分が崩壊し、瓦礫の山となっている。

 

 

 当主の執務室があった部屋、そこは最も紅く、最も被害がなかった場所だった。

 舘唯一の生き残りがいる場所と言っても過言ではないその場には、舘を破壊した元凶の三人がいた。

 

 虚空を見つめる、青みがかった銀髪をまだらに染めた少女と、ふふふ、とうれしそうに真っ赤に染まった自らの手を眺めている金髪の少女。そして、魂が抜けていったかのように動かない銀髪の少女。

 

「ネーヴェ?」

 

 青みがかった銀髪の少女レミリアは、一回パチリと瞬きをしてから、倒れている妹に近づく。

 レミリアは気付く。倒れる妹に青あざのような模様が顔を斜めに線を引くように、走っているのを目にする。切れて隙間となった服の合間からも青くなった肌が見える。

 心配になったレミリアは、治療魔術を行おうとするが、ふと、ネーヴェの周りに一切のエーテルが存在しないことに気付く。

 いったいなにがと呟くが、到底わかるはずもなく、とりあえずネーヴェを起こそうと体を揺する。しかし、呻くことせずに何の抵抗もない。いやな予感をレミリアは感じ取る。

 口元に手を当て、呼吸を確認する。だが、空気の流れを感じ取れない。嘘でしょと小さく漏らすが、誰も助けの手をさしのべてくれることはない。最後の希望と言うにはちっぽけな楽観をもって、首から脈を計ってみるが、その指に感じる鼓動は無かった。

 

「ネーヴェ・・・貴方まで去ってしまうの?」

 

 先ほどまで流すことができなかった涙が、自然とこぼれる。ポタリポタリと滴る水滴がネーヴェの顔を濡らす。

 

 どうせ死んでしまったのなら、ネーヴェも弔うために燃やしてしまおう。妖魔の遺骸は人間に辱められることも多い。とくに吸血鬼についてはよくあることだ。

 ネーヴェの横たわる床に、自分の魔力で術式を描く。そして、火をつけようとしたとき、その手をフランがつかんで止める。

 

「ネーヴェお姉様は死んでない。だから、燃やすのは待って」

 

 それはどういうことなのか問いかけようとするが、レミリアは質問をする前に違和感を感じ取る。

 術式を通して、私の魔力が吸い取られている。ハッとしてネーヴェを見ると、術式が輝いている。その輝きが術式からネーヴェの体に移っていく。

 

「・・・さぁ、レミリアお姉様。魔力つぎ込むの手伝ってくれる?」

 

 縋る希望が見つかったとばかりに、レミリアは頷いた。



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静かな夜に臥た龍は星を眺める

一区切り着いたので……ので?
これから1週間投稿かと思われます


 ガラガラと音を立てて、瓦礫ガ崩れる。

 月光が土煙を透かし、土煙が立つ中で立つ人影を浮かび上がらせる。

 ただし、その人影にはいくつか棒状のモノが刺さっていた。

 

「・・・ひどく、やられましたね」

 

 その人影は体中の血を見て、一人小さくこぼす。

 主の危機に、私は何か義務感のようなもので敵に向かって行った。有り体に言えば単身突撃だ。その無謀な突撃がどう転じたかはわからない。ただがむしゃらに敵を殺し、敵から殺されかけただけだ。この身の傷でいくら損害を被ったかはわかるが、決して、自らが積み上げた屍の数は把握できない。

 

「この荒れよう・・・お嬢様たちは生き残ってますかね?」

 

 突撃の時に脳裏に浮かんだ三人の娘に思いを馳せながら、美鈴は口に木片をくわえる。

 妖怪の身で、舌を噛みきることに心配する必要はないのかもしれないが、なぜだかついやってしまう。

 

 ふぅ、ふぅと覚悟を決めて、お腹に刺さった短槍を引き抜く。ドチュという水っぽい音ともに、全身に激痛が走る。痛みという熱が血管でなく神経を通って全身を駆けめぐる。あふれ出る血に、少しめまいを覚えるが、これは恐らく血が足りないからだろう。

 犬歯が木片に刺さるが、抜けて落ちないのなら僥倖だ。一度拾い上げる力を使うのも億劫だ。

 体に刺さる武器は残り二本、覚悟が消えないうちに、さっさと引き抜こう。

 

 背中に刺された槍と、肩に刺さって折れた剣の先が深々と刺さっている。

 そして、その後二回、夜の野外に呻いた声が響く。

 

 

 

 

「龍が呻いているわね」

 

 レミリアは、外から聞こえた声に耳を澄ませ、フランにそう話をふる。

 もちろんネーヴェを膝枕をして、髪を梳きながらではあるが。

 

「めーりん生きてたのね。死んだと思ってたのに」

 

 辛辣なことを言っているフランだが、立ち上がって、扉の方に足を向けていることから、呻いた龍を回収しに行くのだろう。

 

「・・・さて、ネーヴェをベッドに運び込むことにしますか」

 

 ゆったりとネーヴェを抱き抱えると、棺桶の中に下ろし、揺らされて広がった髪の毛を整える。

 その間も魔力はできる限り、そそぎこんでいる。しかし、やはり、ネーヴェは目を覚まさない。

 死んではないと希望に縋るが、死んでいるという不安もやはり浮かぶ。

 

 ガチャリと扉が開く、いつもは緑が目立つ服装だった美鈴が、フランに担がれて入ってくる。

 

「庭先で呻いてたわ。一気に刺さったモノ抜くから貧血で倒れるのよ」

 

 ドサリと下ろされた美鈴はウグッと鈍いうめき声を上げる。

 急患ねと言って、フランに治癒の指示を出す。さすがに怪力という能力を持つ私でも、この舘一つの復興は難しい。今は少しでも人手がほしい。

 ほかの生きている奴も探して見ないとなと頭に浮かべた後、頭を振って、今はネーヴェに集中するべきだと考え直し、魔力を送り続けた。



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教会禁忌書庫

お待たせしました…代償は小指でいいですか?


千九百三十年 バティカン市国 教皇庁

 

「いやぁ、大変でしたよシスターレネアフ。禁忌書庫の入室許可をとるのは・・・お礼の程よろしくお願いしますよ」

 

「えぇ、このお礼は後ほど・・・後で使いを出しますので、そのとき楽しく過ごしましょう?」

 

 うふふ、と使いたくもない妖艶な猫なで声を出し、蝋燭を持って先を歩く老爺に媚びを売る。

 なぜ妖魔に劣る『人』に何故媚びを振って、体を売りつけなければならないのか。怒りにまかせて目の前の好色神父を、この爪で引き裂いてしまおうかとも思うが、目の前の助平は枢機卿の一人、このままここで殺せば、この『シスターレネアフ』という教会の最奥に触れることが、できるまでになった存在を捨てることになる。だが、それは避けたい。それこそ自分の頑張りを水泡に帰して、最初からのチャレンジに変えるからだ。

 

 ひとしきり階段を下りると、古い木製のドアが現れる。

 重々しい雰囲気のドアは、威圧感を感じさせたが、その扉の雰囲気を出すのに一役買っていた錠前がはずれてしまうと、不思議と威圧感は消えた。

 それでは後でと助平爺はそそくさ逃げ始める。まぁ、調べ物についてとやかく言われる可能性が消えたのでそこはよいとしよう。

 

 

 

 数時間の後に、どうにか目当ての禁書を見つける。

 タイトルは『吸血鬼スカーレットレポート』作成時期は千七百年頃。分厚い羊皮紙十数枚に綴られる事件の顛末とその後の報告、また、対処するべき時に参考にすると思わしき推考が書かれている。

 

「我が主もわざわざ敵方にある自分たちの情報を欲しがるなんて・・・しかし、何故強大なスカーレット家への対処法にもなる書物を禁書として封印したんだ?」

 

 その質問は独り言として、周りの禁書に吸い込まれ、外に漏れ出すことなく音は消滅する。

 以降、私はレポートを読むのに集中した。

 

 

 

 台に釘で羊皮紙を固定し、一心不乱に読む。

 

 この書によると、事の起こりは、やはり教会側で、教会があの辺りの信者数を増やそうと躍起になったからのようだ。一部では捕まえた妖精を悪魔の徒として殺し、自分たちでも妖魔を殺せると思いこませる狂気の沙汰までしていたらしい。

 人間はやはり薄汚い・・・七つの大罪だとか言っておきながら、それら全てから離れることができないなんてお笑い草だ。

 襲撃の最中のことは書いてある内容と主たちの話が同じなため読み飛ばす。

 

 生き残った三体の吸血鬼について。その一文が読み飛ばしで散漫しかけていた意識を再度集中させる。

 

 万物は神が与えた。勿論派閥によっては否定もするだろうが、ここで置いておく。

 神が与えし万物に火は含まれなかったが、感情という物は含まれていたのだろう。人や獣にも感情という物は存在する。何故か人ならざる物にも・・・これは悪魔が与えたのか、神が人に試練として与えたものかはわからない。

 スカーレットの家名を名乗る吸血鬼の生き残りは、この感情というエネルギーを燃やして動く人形にすぎない。

 憤怒と悲哀と狂喜と命名された我々の敵は、この襲撃を起点として、感情を活力に報復活動を行った。

 

 さて、感情という物は一様に推し量れるものではない。もしこの書を読んだ者が、前述の三鬼に会うのならば、どれかに命乞いをすれば助かるという甘い考えは捨ててかかることを強く勧める。

 憤怒は自己に対する攻撃でもあるが、大概それは責める相手がいないからであって、怨敵がいればそちらをとる。

 

 悲哀は完全に自己批判を繰り返している。自暴自棄の攻撃もあるだろうが、その後に自己批判が待っているのが目に見える。だが、ここで面倒なのが、悲哀自身の自己否定が既に精神をむしばんでいるのである。ここで否定すれば、追いつめられた精神は被害妄想に近い怯えで、瞬時の反撃を行い、肯定すればそんなはずないと、自己否定を保つために相手を攻撃するのである。

 

 狂喜は文字では伝わりにくいが、狂気的なまでに歓びを求める・・・歓び依存症とまで言えるかもしれない。ともかく、狂喜は二鬼の姉と違い、その内側に潜む物は自己批判ではなく、欲求不満である。ああしたい。こうしたいという欲望の押さえこまれた物が詰まっている。限界まで押さえ込まれた物は、一度押さえが無くなれば甚大な被害をもたらす。勿論その押さえをはずした人物こそ最初の犠牲者だ。内にある物が全て外にむいた狂喜こそ一番危険といえるかもしれない。

 

 

 主たちの考察に、多少の共感を持ちながら読み進めると、一カ所の『追記』と言う物に目が止まる。

 

 

 追記

 少し前に一番の危険は狂喜と書いたが、それは間違いだった。我々にとって真に危険なのは悲哀だった。

 観察していた信者が言うには、悲哀の顔半分と片足が、反対側の肌の色を否定するかのように青かったらしい。これは不味い、非常に不味い。我々の信仰を揺るがすものかもしれない。天に主は無く、地に亡者の国があるとでも言うのか。断じてそれは認められない。

 

 突然の内容に、とうとう作者の気でも狂ったかと思ったが、吸血鬼の考察をここまで残している時点で狂人だと思いだし、既に狂った人間がこれ以上狂うわけもないと、真剣に受け止める。

 追記を全て本当だと受け取れば、つまり主の一人、アルジェント様は教会にとって最も忌むべき存在だったと言うことになる。主は、アルジェント様を殺そうとしていないのはよくわかるが、これ以上はアルジェント様を殺す算段しか書かれていないだろう。無力化は教会にとって下策・・・と言うよりこの世からの抹消以外に教会は、方法を選ばないだろうから。

 もう少し手がかりを求めて書を読むが、書かれていたキーワードらしき文言は少ししかなかった。

 

『確認された神造兵器は二振り』『主の否定』『青い肌』

 

 レポートは、紅魔館の消失についての記述を最後に終わっていた。恐らく禁忌書庫入りしたのもこの頃だろう。対応策が必要なくなったのだから、こんなやばそうな物は目のつかないところに置いておくに限る。

 数百年続いているので、数人が引き継いでいることが分かるが、どれも死後の世界に旅立った後では情報は聞きだせない。

 

 

 羊皮紙を机から剥がし、元の場所に戻して、禁忌書庫の扉を堅く閉ざす。

 このことを早く手紙にしたため主の元に送らなければと、急ぎ足で地上にあがる。

 

 

 扉を開けると共にカチャと聞こえた音が、私に冷や汗を流させる。

 

「一体全体なんだと言うんです?このスイス傭兵の皆さんは」

 

 助平枢機卿とその横に、枢機卿の中でも一番の堅物と言われているもう一人の枢機卿ジョージが、幾人かの傭兵をつれて立っていた。

 

「なに、この主に背く助平を捕まえたところにちょうど君が出てきたところだよ」

 

 にこやかに告げるその言葉に、しくじったと痛感する。

 どう見ても傭兵の銃口は、助平ではなく私に向いている。どう考えても言い逃れできる状態にはさせてくれなさそうだ。

 時間も一時を回った程度で陽が高いうちは、コウモリなんかには変身できない。

 

「・・・そ、そうでしたかカーディナル・ジョージ。では私はこれで失礼いたします」

 

 一か八かにかけて、そそくさとその場を離れようとするが、ジョージ枢機卿は、にこやかな笑顔のまま、君も関係者なんだからどこか行かれちゃ困るなと、白々しくのたまう。

 本当の目的は私なのは見え見えだ。チラリとスイス傭兵の装備に目をやればSBと横に綺麗な銀色の装飾が見える。Sはシルバー、Bはバレット。つまりは銀の弾丸である。

 

 逃げれば死ぬのは分かってるが、連れて行かれた先で、夜を待つのは不可能だ。どう考えても、夜になる前に殺される。

 

「・・・どうしたのかな。シスターレネアフ?」

 

 笑顔の枢機卿を気取っているらしく、笑顔を崩さずに訊ねてくるが、はっきり言って、その目は笑っていない。

 

 ついて行くより、逃げる方が生存の確率は高い。

 そう覚悟を決めて、全力で逃走する。陽がある内はそれほど力が出せないと言っても、そこは吸血鬼の端くれである。そこそこのスピードで走って逃げる。

 

「主の真名によって命じる。悪魔よ、その場に止まれ」

 

 だが、悲しいかな。私の健脚が生かされることはなく、足が急に止まる。

 近づいてくるジョージ枢機卿を見ながら私は思いを固める。

 なに仕方ない。主の安寧を妨げる不出来な従僕は死ぬべきだ。

 

 

「・・・自害を選んだか。その死に様まで神に背く心意気はまさに反逆だ」

 

 龍を退治した古の聖人の名を洗礼名にした枢機卿は、罪深き存在に祈りを捧げることなくその場を去る。

 死者を裁いた後は生者を裁く番だ。

 



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目覚め

 白い空白があった。

 上も下も、右も左も、どこもかも全て真っ白。

 感じるのは自らの肉体に、魔力が足らないけだるさと空腹感・・・いや、空腹感は魔力を補充するために引き起こされた物か。

 

「魔力で解析・・・いえ、まずその魔力が足りませんね」

 

 感覚で分かるのは、この空間は魔力で構成されているという位だ。空間を構成する魔力を吸収すれば、どうにかできるかもしれないが、この空間を壊して良いものか分からないから手の打ちようがない。

 

「汝、妾を呼びながらこのような空間に閉じこめるとは、何様のつもりか」

 

 怒気を含んだ声に辺りを見渡すが、姿は見えない。

 

「まず、妾が見えぬか・・・では無意識で呼び出したのか」

 

 私の行動に、声から怒りの感情が消え去り、憐憫が姿を見せる。

 

「ふむ、その存在、可哀想ではある・・・こちらにかしずかぬのも、姿が見えぬとあれば赦しを与えねばならぬ。だが、呼び出しておきながら礼節を欠く事に対する罰は与えねばならん」

 

 一体全体どうしたのか分からないが、あちら側は一方的に理解したようだ。できれば教えてほしい。と尋ねようと口を開いた瞬間、怒号が再び飛んできた。

 

「痴れ者、分を弁えよ」

 

 反射的に膝をついて謝る。

 礼儀作法を教えてくれたお父様には感謝しかない。

 

「・・・面を上げよ。汝が頭を下げた方に妾はおらぬ。それでも続けるというのであれば、それはより不敬となるぞ」

 

 どうやら全く別の方に向けて謝ったらしい。端から見ればコントだが、当事者からすると、そろそろ命の危機を感じるべき不作法になってくる。

 声の主はだいぶ優しい方だと思うのだが、さすがに堪忍袋がはちきれないかどきどきしてくる。

 

「・・・ふむ、汝の裁定を下す」

 

 声はしばらくの思案の後、重々しい声で告げた。

 

「汝が罪の重さと哀れさを鑑み、汝の身を縛ることにする」

 

 声の主はそう告げた。

 

「汝、なにか言うことは?」

 

「・・・いえ、この世全てを裁く裁定者である貴方様が言うならば、我が罪はその罰が正しいのでしょう」

 

 私の言葉を聞いた声の主は、満足そうにふむと大きく頷いた。

 

「では、汝の意識を戻してやろう。その罪は生きておらねば、果たせぬからな」

 

 何か可笑しそうにクスクス笑いながら、声の主は私を送り返した。

 

 

 

 ギィと重々しい悲鳴を蓋があげる。

 射し込む光は少ないが、暖かみのある色合いが差し込んだのを見て、誰かがいる事が分かる。

 だが、誰だろうなと予想する暇もなく、棺桶の蓋は開けられた。

 蓋の向こう側にいたのは、お姉様だった。

 

「おはようございます」

 

 ぱっちり眼を開いた私がそういうと、お姉様は目尻に涙を溜めながら、遅すぎるわよ寝坊助と言って、私の頭を思い切り引っ叩いた。



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再建

 私が目覚めたのは、あの戦いから三日後だったとお姉様から伝えられた。

 引っ叩かれた頭をさすりつつ、あの声が笑っていたのは、このことが分かっていたからなのかと少し怒りを覚える。

 

「ネーヴェ?着替え終わったの?」

 

 部屋の外で待っているお姉様に呼ばれ、はーいと答えて部屋を出た。

 

 

 

 私が部屋の外にでると、私たちがいたのが紅魔館の地下階だと言うことが分かる。

 地上はまだ陽がある時間だと言ってお姉様は、私の手を引き、幾つかの部屋を訪ねていく。

 最初は獣人の夫婦。次に魔女、その次は下級悪魔、そのまた次は幼い獣人の兄弟とその世話をする魔女。他にもまだ色々な種族の誰もが傷つきながら生活を送っていた。だが、訪ねていくとその誰もが私の復活を喜び、涙を流す者もいた。

 毎日見回っていたらしいお姉様が言うには、皆が私を心配していたのだとか。

 

「さて、それじゃあ起きたネーヴェにとびきりの朗報を見せに行きましょうか」

 

「とびきりの朗報?いったいなんですか」

 

 お姉様はついてくれば分かると手を引いて行く。

 そして着いた扉の前でノックをしてから、返事を待たずにお姉様は突入していく。私をほうっておいて・・・

 

「お嬢様、私が着替えてたらどうするつもr・・・」

 

 置いて置かれたので、お姉様の後に続いて入室すると、そこにはとびきりの朗報が私を見て固まる姿があった。

 

「美鈴!」

 

 私は驚きの声を上げて美鈴に抱きつく。

 

「死んだんじゃなかったんですか!?」

 

 私がそう訊ねると美鈴は困ったように頬を掻きながら言った。

 

「いえ、私も自滅覚悟でつっこんだんですけどね・・・?私の生命力は予想以上に強かったらしく、右肺と腸に穴があいて、腕の腱を切られて、後は右心室をうがたれましたね」

 

「どうしてそんなになっても生きてるんですか・・・?」

 

 元から強靱な肉体というのは分かっていたがここまでだとさすがに、引く。

 

「分かってるわネーヴェ、私でもどん引きよ。ゴキブリの方がまだ死にやすいってものでしょこれ」

 

 さすがにそこまで思ってませんと言っておくが、どん引きとは言わないが少々引いている。

 

「何故!?」

 

 ゴキブリよりも生命力が高いと言われた美鈴はとても不服そうにしていたが、そんなになっても生きてるのは妖魔でも難しいので、しょうがない。

 

 

 

 その後しばらく美鈴と話していたが、お姉様が次に行きましょうと立ち上がったので、私もその後に続く。

 美鈴がいってらっしゃいませと送り出してくれた。

 

「分かってるでしょネーヴェ」

 

 部屋を出た後お姉様はそう言ってきた。

 

「ええ、美鈴は生きてるだけで激痛にさいなまれてるような、ほとんど死に体ですね」

 

 話している間、激痛にその笑顔がひきつっているところを何度も見た。何気ない動作が全て痛みに変換されるのはそれはもう地獄だろう。しかし、私を会わせる判断をお姉様が下したのなら、何か理由があったのだろう。

 

「まぁ、そう言う事よ。あの我慢屋に少しは報いなきゃいけないもの。話すときの激痛は・・・ちょっとした代償よね?」

 

 死ぬ前に会わせたい相手みたいになってる気がしたんですけどという質問をお姉様は無視した。



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煉瓦造の舘

 紅魔館は襲撃された。そして当主を含め、多くの者が死に絶えて弱体化したとした噂は妖魔の間を、憐憫や一攫千金の夢とともに駆け抜けた。

 

「いくらこんな噂流したところで・・・意味あるのかしら」

 

 どうでもいいとばかりに紅茶を飲むお姉様は、憂鬱げに呟いた。

 

「意味はありますよ。この噂を流しておけば逆らう者は逆らってきますし、力を貸してくれるような方はこちらにやってきます」

 

「にしては、ここ最近ならず者が頻発してるらしいじゃない」

 

 いたずらっ子の笑みを浮かべてお姉様はこちらを見てくるが、私は頬を膨らませて反論しておく。

 

「お父様の恩義が薄かったのか、薄情な妖魔が多いかのどっちかです・・・私は悪くありません」

 

 私の言い訳をお姉様は、ハイハイと流す。

 

「昼間は警備、夜は私たち自ら・・・忙しくてやんなるわ」

 

 そう言わないでくださいよと宥めて、私もココアをチョビチョビと飲む。

 夜は長く、そして涼しい春の夜更け。館の大部分は着実に修復されていき、今では見違えるような赤煉瓦の館になっている。

 早くの修復ができた理由は、妖精を雇用した事による人手が増加だ。自然が増えれば妖精が多く出現する事に気づいた美鈴はお手柄だ。

 今では立派な庭園を美鈴は管理している。庭園長の役職すらもらっている。

 

 

 

「・・・お姉様」

 

 賊の気配を感じてお姉様に告げる。

 お姉様は私が言うとともに立ち上がった。

 

「今日もまた馬鹿が一人・・・か」

 

 お姉様の手にはすでに朱槍が握り込まれている。

 場所はというお姉様の質問に、私は西の門付近だと言うとともに、お姉様はベランダから飛び降りた。

 

 

 

 月の光が照らす夜の庭に数人の獣人が降り立った。

 そしてその陰に応対する二つの陰が迎え撃つ。

 

 月の光は獣人の牙を妖艶に照らし、吸血鬼の方は朱槍を赤々と輝かせ、魔術式を煌びやかに飾り付ける。

 

「名を名乗りなさい賊、名乗る名もないほどの者がここに入ってこれるほどの防御術式じゃないわ」

 

 獣人はクックックッと一頻り笑った後、大顎を開いて高らかに名乗った。

 

「東の森の獣人カラル。カビカ族の長として貴様らを殺して、当主になる男だ」

 

 西の森は獣人が多く住まう森、そこに幾つか部族があると住人の一人が言っていた記憶がある。今は二、三人の族長が私たちに忠誠を尽くしていたはずだ。

 

「いいだろう。貴様らの挑戦受けてやる。こい」

 

 朱槍をクルクルと器用に回した後、その矛先を相手に向けた。

 カラルたちはその爪を立てて向かってきた。

 

 

 

 ギャリギャリギャリと金属をひっかくような音が耳に響くが、そんな物を気にしていたら私のお腹が引き裂かれてしまう。

 

第一術式再稼働(ワンコール)第二術式再稼働(トゥコール)第三術式再稼働(スリーコール)

 

 魔力吸収術式、行動阻害術式、生成術式の先に設定していた三つの術式を稼働させる。

 行動阻害と魔力吸収は私以外に効いてしまうが、お姉様をうまくフォローできれば問題はない。

 

 お姉様の槍はうまく間合いを調整して、カラルとその手下が懐に入り込まないようにしている。私が早く目の前の獣人を片づければ、二体二の戦いに持ち込める。

 

 手には短剣を握りこんで、相手の爪を弾く。

 獣全般に言えるが、相手に接近しなくては使えず、動けなくなる牙は諸刃の剣である。だから相手は絶対に有利な状況でなくては牙という技は使えない。

 

「憑依術式生成(メイク)、憑依開始(スタート)対象フランシス・ヴァーニー」

 

 すうっと頭の中に情報が入り込む。

 剣術や能力が元から自分の持っていた物のように感じる。

 あ?と獣人は疑問符を上げるが、即座に思考を切り替えたらしく、即座に爪撃を放った。

 

「永遠を貴方に」

 

 爪撃の軌跡に刃を合わせ爪を弾く、そして足下に短剣を生成し、弾いた時の反動でのけぞる力を利用して短剣を蹴り上げる。

 柄頭をつま先で押し上げ、獣人のお腹にずっぷりと刃が刺さる。

 獣人は鈍いうめき声を上げたが、その眼から闘志が消えることはなく、まっすぐこちらを見据えている。

 獣人は外傷に強いのは知れた話、いくらかの傷は軽傷にもならないだろう。

 

「嗚呼、生にこだわらない、その瞳は悲しい」

 

 私の一言に、闘志の瞳が怒りの瞳へと変わる。

 そして、うなり声を上げて向かってくる獣人の爪が私の頬を切り裂き、タラリと血が流れる。

 だが、感じるのは痛みではなく、生の充足感。血が流れて頬を伝わる感触はまさに喜びとなる。

 私は短剣を捨て、手に生成したロングソードを握りこむ。

 

 一切の隙間がない爪の連続攻撃をロングソードで受け流しつつ、次の一撃を畳みかける場所をねらう。

 そしていくらか弾いた時、フランシス・ヴァーニーの技術が爪と爪の隙間を見抜いた。

 爪の間をすり抜けた刃は獣人が動かしたもう一方の爪が阻もうとするが、その爪の間に刃を滑り込ませ、少し斜めに捻って活路を開く。爪が刃と擦れあって不協和音を奏でるが、そのまままっすぐ突き刺す。

 

 先ほどの短剣と同じ肉を突き刺す感覚が手に伝わる。

 ロングソードは爪と爪の間を切り抜けて喉を切り裂く。

 骨まで達した感覚を捕らえたら、即座に引き抜いて、のけぞった獣人を袈裟切りに切りつけた。

 

「先に行ってるといい。いつか私もそこに行く」

 

 私は血が付いたロングソードを投げ捨て、お姉様の救援に向かった。

 



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介在のない狂喜

遅れてすいません。
感想等、活力になるのでよろしくお願いします。


 私が戦いを終わらせ、お姉様のもとに戻ったとき、すでに勝敗は決していた。

 しかし、それはお姉様の勝利ではなく、闖入者による引き分けだった。

 

 闖入者は動物の毛と肉片、血の海のなかでニコニコと法悦の笑みを浮かべていた。

 

「人の戦いに首をつっこんで、そのすべてを殺し尽くすなんて、よくもまぁ・・・」

 

 返り血に汚れながら、お姉様は魔力の槍を解き、館に戻っていった。

 

 怒りも呆れかえるように、闖入者のフランドール・スカーレットは血の海の中で肉片をいじっていた。

 

 

 

 数日の後、私はフランの部屋へ向かって歩を進めていた。

 右手に燭台、左手に数冊の本をもって、石でできた地下道を進んでいく。

 自分の靴が鳴らす音が反響し、自分以外が後ろからついてきているような不気味さを感じさせる。

 

「まったく、フランもこんなとこに潜んでないで、もっと館の中にいてもいいのに」

 

 ゆらゆらと揺れる自分の陰と足音に少し恐怖を感じるので、足早に部屋へと向かう。

 

 

 

 コンコンコンとノックをすれば、「はーい、どなたー」と間の伸びた返事が返ってくる。

 

「私ですよふらーん。貴方の大好きなおねーちゃんですよー」

 

 先ほどまでの怖さを吹き飛ばすため、ちょっとだけ声のボリュームとテンションをあげる。

 私の来訪は、フランにとっては以外だったようで、少し待っててと待機を命じられる。できればさっさと入りたいんですが、妹とは言え乙女の部屋の前で待てと言われれば待たなければいけないと、心の中でフランシスさんが言ってる気がする。

 

 しばらく、扉の向こうからドタドタという音が聞こえるが、次第に小さくなって、最終的に扉へ歩く足音しかしなくなる。

 ガチャリと鍵の開く音がして、汗を掻いたフランが扉を開けてくれた。

 

「ネーヴェお姉様、どうしたの?」

 

 来るなら先に連絡して欲しいなという言外の一言を私は無視して、用件を伝える。

 

「貴方の狂喜を慣らしましょう!」

 

 燭台をおいて、私は持ってきた数冊の本を見せる。

 小説と詩、そして魔術についての教本。

 フランの癇癪である狂喜がどれほどのうれしさで発現するのか、あと、フランの興味がある分野を発見するために、ジャンルもバラバラに本を持ってきた。

 喜びの物差しを作り、段階的に克服させていく、気の長い訓練だ。

 

「・・・私より、ネーヴェお姉様の睡眠についての方が」

 

「あちらは、レミリアお姉様が研究してるっぽいので大丈夫です」

 

 明らかに口元をひくひくさせて、逃げ道を探しているフランを座らせて、本を並べる。

 

「どれでもいいんです。まずはおもしろいと思うものを探しましょう」

 

 まず読みたくないとは言わせない。絵本だろうが魔術論文だろうが、まずはきっかけ。そしてそこから楽しさを知ってもらって引きずり込む・・・いや、これは本好きを作る方法ですね。

 

 フランは少し迷った後、劇の本を手に取る。

 

「うぃりあむ・しぇーくすぴあ?」

 

 イングランドの劇作家ですよ。と説明をして、早速1ページ目を開かせる。

 内容はロミオとジュリエット、言わずと知れた名作である。

 ロマンスは喜びの感情が高ぶるのものではあるが、どの程度なのかを推し量らせてもらおう。

 

 

 

 部屋の中を静寂が支配する。

 活版印刷のおかげで、こうして多くの書物が世界に溢れる。もちろん風説が広まる速度が増したりする悪い点もあったが、それを差し引いても画期的といえるだろう。

 フランのしてくる幾つかの質問に答えながら、私たちは本を読み進めていく。

 二人の出会いに、愛の語り合い、両家の軋轢・・・おおよその世界というものを内包したその物語は、次第に残りのページ数を減らしていく。

 美男子と美女の墓から伸びた植物が結びつくいたところで、物語は終わっていた。

 

「・・・お墓まで離されてしまう・・・しがらみってめんどうだね」

 

 パタンと本を閉じたフランが、ぽつりとつぶやいた。

 私は、持ってきた本をまとめる手を止め、フランに向き直って口を開く。

 

「ロミオとジュリエットは、命を含めて全てを捨て去ったんです。命なんて大事なものすら捨ててるんですから、しがらみも一緒に捨て去ってますよ。だから、二人の木が結びついたでしょう?」

 

 そうだねとうなずくフランの頭をなでてから、扉のノブに手をかける。

 

「それじゃあフラン、またきますから、ちゃんとした片づけしてくださいね。クローゼットは服をしまうところですよ」

 

 私がウィンクをして扉を閉めると、部屋の中からは雪崩が起きる音が聞こえた。



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新たな住人

 音もせずに暖炉の灯がともっているのを、不思議そうに眺めていると、家主の少女はめんどくさそうに説明した。

 

「私は、火が嫌いなの。音がするのも嫌」

 

「だから、外に出ないのね。私も日が嫌いよ」

 

 ニコニコと皮肉ってみるが、少女は眉根にしわを寄せてから、視線を本に戻した。

 

「ねぇ、パチェ?こんなカビ臭い場所なんかに住まずに、うちにきて一緒に住みましょ?」

 

 この場所に通うようになってから、通算17回目のお誘い。だが、今回も彼女は首を縦に振る様子はなかった。

 私、お友達とお泊まりするのが夢だったのと、少女然とした願いを言ってみるが、パチェは視線を本から移すことなく、居候と友人とのお泊まり会は違うものだと言われてしまう。

 

「少しは口にチャックを縫いつけようと思ったことはないの?」

 

 それからも、幾つか質問や雑談をふってみたが、返ってきたのは辛辣な一言だった。

 

 これ以上の会話は望めない事を察して、身近に積み上げられた本の山から、一冊の本を抜き出す。

 タイトルは小難しい文字が並べられていたが、パラパラとページをめくれば、その内容が魔女狩りのハンドブックだということがよくわかった。

 拷問法や、誘導尋問、刑の方法、どれも悲惨な方法しか書かれていない。

 魔女が魔女狩りの本を持つなんて、おかしな話だわ。と何気なく筆者の名前をみようとする。だが、その試みは、魔女によって阻まれた。

 

「魔女の目の前で魔女狩りの本を開くなんていい度胸してんじゃないの。これはもらってしまった一冊よ」

 

 パチェはそのまま、本を手にとって家のどこかに行ってしまった。

 どうあっても教えてくれないのなら、自分で探そうか・・・

 

 

 

「はい?ここ数十年の魔女狩りにされた近辺の妖魔の記録ですか?」

 

 蔵書を本棚に差し戻しているネーヴェが、不思議そうに聞き返してくる。

 私は肯定を返して、情報はないか訊ねる。

 

「んー、私もここの本を読んではいますが、この図書館いつの間にか蔵書が増えてるので、あるかも知れませんね。この間よくわからない魔術論文や民族研究書みたいなのが紛れこんでたので」

 

 ネーヴェは私より本を読んでる相手がいるとフランを紹介してきたが、あの引きこもりを働かせるのは少し面倒くさい。

 

「いいわ、別の方向を当たってみるから」

 

 あてなど本当はないが、パチェから聞き出すのは、きっと骨が折れるだろう。

 友人の過去を探るのは悪いことだとわかってはいる。だが、それ以上に何か気になることがあるのだ。

 私は、新たなる糸口を探しに、地下図書館を後にした。



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友人

 今日も性懲りもなく私は、友人の家へ向かう。

 埃っぽくて日のあたりが悪い、じめじめした家。けれど、そこに少し愛着がわいてきた気がする。

 

「パチェ~?いるんでしょー?」

 

 呼び鈴を鳴らして、十数秒後に扉が開く。あの魔女にしては早い。

 

 本と本のアーチが、いつ崩れるかもわからない廊下を通り抜け、居間兼書斎の部屋に入る。

 

「・・・最近、貴方なにを嗅ぎ回ってるの」

 

 早速の詰問。さすがに町役場での公文書漁りはまずかったかもしれない。

 とりあえず、ごまかすか。

 

「なにもないなんて嘘でしょう。さすがに戸籍謄本作りに行ったなんてジョークは通じないわよ?」

 

 どうやらごまかしは通用しないらしい。正直に伝えるしかないようだ。

 

「貴方が隠したあの本、気になるの」

 

「あんな本、なんでもないわ。というか、貴方に隠した本は他にもあるのだけれど、何故あれだけ気になるの?」

 

「私の第六感よ」

 

 私が言い切ると、パチェは大きくため息をついてから、本に視線を戻した。

 

 

 

「あら、珍しいわね。こんなとこで貴方と会うなんて」

 

「ネーヴェお姉さまが眠ってるから、当分ここを任されたの」

 

 頬杖をついて、本をだらだらと読んでいるフランは、一向に視線を向けない。

 しばらく、魔女狩りについての本を捜して、本棚をうろうろしていると、本棚の向こうからフランの「あっ」という声が聞こえた。

 私がどうしたのかと見に行くと、フランはこちらへ手招きをする。

 

「これ、ネーヴェお姉さまに頼まれて捜しといたやつだから。ネーヴェお姉さまと手分けして捜したんだからお駄賃はずんでね」

 

 フランが手をたたくと、十冊ほどの本を妖精メイドが運んでくる。

 私は、妖精メイドに自室へ運んでおくように言うと、ふわふわと飛んでいった。

 

「ネーヴェお姉さまからの伝言は、これでご友人さまの哀しみの原因が、わかるといいのですが。だってさ」

 

 なにがもらえるかな、なんて考えている目がこちらへ向けられ、仕方なく人形や本を手に入れてくることを約束することになった。

 

「やったぁ。新しい玩具だ!」

 

 ネーヴェが少し疲れた顔で、サプライズはしないほうがいいと言っていたことを今更思い出し、助かったと内心思う。

 

 

 

 コンコンコンと扉がノックされ、お姉さまの声が聞こえる。入室の許可を与えると、お姉さまが入ってくる。

 

「本のこと、助かったわ。ついでにフランの御し方も・・・」

 

「いえ、役立てていただければ十分です」

 

 サプライズで渡さなくてよかったわ。という呟きに、私はアハハと乾いた笑いを返すしかない。

 

「フランから聞いたのだけれど、ネーヴェも捜してくれたんでしょう?お礼がフラン一人だけなのはずるいわ」

 

 といわれても、お小遣いは足りてるし、本はまだ十分読むものがある。調度品に欲しいものはないし、服も特に必要ではない。

 少し悩んで、私は一つ、欲しいものを思いついた。

 

「それじゃあ、私にもお友達をください。本のことや魔法のことがわかる素敵な方をご紹介くださいね?」

 

 お姉さまは、にっこりと笑って、勿論と言ってくれた。



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不穏

「ネーヴェお嬢様、おはようございます」

 

 妖精メイドが掃除をやめて、こちらに挨拶をする。

 私はおはようございますと返して、眠っていた間に起こっていたことを訊ねる。

 

「そうですね。最近当主様が入れ込んでらっしゃる魔女の住まう街に、疫病が流行り始めているらしいです」

 

「それは・・・気をつけねばなりませんね」

 

 他のことは、館の土地が属する国家の近隣国家がきな臭いことや、不況がよりひどくなりそうなど、あまりよい知らせはなかった。

 

 産業革命以降、神秘の力が揺らいでいるが、この館の存在が神秘を信じない者たちに知られてしまうのも時間の問題だろう。

 

「神秘の力も廃れて、最終的には私たちも消え去るとしたら、哀しいものですね」

 

 ふと、脳裏に一つの可能性がよぎる。

 掃除を終え、部屋を出ようとする妖精メイドに、私は声をかける。

 

「何でしょうネーヴェお嬢様」

 

「誰かを街に向かわせておいてください。なにかあれば即時の報告をしてください。あと、できるだけ町人の声を聞き逃さないようにお願いします」

 

 特に、街の有力者の元には数人がかりでと付け加えて、妖精メイドを送り出す。

 

「不安定な情勢に、疫病・・・杞憂で済めばいいんですけど」

 

 一抹の不安を頭の片隅に寄せて、気分を切り替える。

 まずは、みんなに挨拶をしに行きましょうかね。

 そう思ったとき、ちょうど扉をノックされた。

 

 

 

「この本がここで、この本はあっちね」

 

 いくつかの棚を宝石の綺麗な羽を持った少女が行ったり来たりしている。

 その手には数冊の本を抱え、記憶を頼りに元の本棚へ戻している最中のようだった。

 

「勉強は捗ってますか?」

 

 私が声をかけると、宝石の羽の少女、フランが私の元に降り立つ。

 

「今は基礎から少し発展編に進んだところ!」

 

 どんなのですかと訊ねるとフランは、にっこりと笑ってちょっと見ててねと息を深く吸い込んだ。

 何だろう、確実にやばそうなことが起こりそうだと思ったが、止める時間はとうに過ぎていた。

 フランは轟々と火の息を吐き出し、書物に火がつく前に、私がどうにか無力化する。

 

「ここは火気厳禁ですよフラン」

 

 しまったという顔をした後、しょんぼりとうなだれたフランの頭を撫でる。

 

「でも、見事な魔術でしたよ。合格点です」

 

 顔を上げたフランは、先程までのしょんぼり顔はどこへやら、輝く笑顔で本当かと聞き返す。

 

「本当ですよ。でも、次からは披露する内容と場所を考えてくださいね」

 

 はーいと気の抜けた返事をしてフランは、私に抱きついた。



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魔女

 ノックをする前に扉が開く。

 

「貴方、懲りないわね」

 

「招かれざる客を招くほうが悪いのよ」

 

 本が並ぶ廊下を通り抜け、いつもの場所へ向かう。

 この家の怖いところは、床に落ちた本や、積み重なった本の山がよく移動しているところだ。

 そのせいで数回、埋められた。

 

「ここ数日こなかったのは、諦めたからだと思っていたわ」

 

「できるだけ早く来たかったのだけれど、少し読みたい本ができちゃって出かけられなかっただけよ」

 

 パチェは淡泊の返事の後に、自分の椅子に座って、読みかけの本を手に取った。

 しばらくはページをめくる音だけが部屋に響く。

 

「パチェ、ちょっと小耳に挟んだのだけれど、貴方は錬金術に秀でた二つの家の魔法使いの子らしいじゃない」

 

 静寂を破ったのは私。

 

「そうね、サラブレットってやつよ」

 

「それで、この間の本の著者・・・貴方の父親ね?」

 

 ギラリと普段とはかけ離れた眼光が私を射抜く。

 招かれざる客は、家に土足で踏み込んだのだ。この場で消し炭にされても文句は言えない。だが、焼かれないところからすると友情の力で踏みとどまったのか、または、どこまで知ったのかを知りたいらしい。

 

「錬金術をしながら、魔女狩りの扇動・・・まぁ、疑われにくい立場を捜せばそうなるでしょうね」

 

 あの日、妹たちが渡してきた資料は、魔女狩りの被害者一覧とスカーレット家の庇護下にいた魔法使いの一族の名簿。

 私が役所に潜入して見た戸籍などの帳簿と併せて考えて導き出した答えがこれだった。

 

「なら、本のことならわかったでしょう? その口を閉じなさい」

 

「いいえ、もう少し開いておくわ」

 

 ギリリと歯が軋む音がパチェの口から聞こえる。

 

「・・・貴方の父は、母親を告訴した。そしてその研究成果を奪った」

 

「閉じろと私は言ったわよ?」

 

「これだけは言っておくわ・・・この暗い家にいれば死ぬのは貴方よ」

 

「ここまできて勧誘? よくその台詞が言えるじゃない。人の過去を掘り起こしてまで言うことが私とともに住もう? ふざけんじゃないわよ!」

 

 パチェの目に慈悲の色はなく、敵対に染まる瞳がのぞく。

 

「この家には思い出もあるかもしれない。動きたくない理由も他にあるでしょう。でも、私は何であろうと貴方を連れ出す」

 

「理由はなに? まさか、呪いでもあるって言うの? そんなものとっくに私が」

 

 それは違うわとパチェの台詞を遮る。

 私の意志なんか伝わってないだろう。パチェにわかるのは私が何か知っていることだけ。

 まだ、襲いかかってこないだけの冷静さがあるのなら、説得してみせる。

 

「率直に言って、もうすぐこの家に暴徒がやってくる。理由としては社会不安と疫病かしらね」

 

 この家は町から離れたところにある。そこに隠遁している女性は全く表に出てこない。これだけでも怪しさはあるが、そこに魔女の研究場所だったという歴史のエッセンスが加われば、魔女の家と噂が立つのもうなずける。

 

「街の有力者の子供たちの相次ぐ疫病、なかなかに科学が発達した世の中だけれどまだ、神秘を信じてしまう存在もいる」

 

 あんなに科学的な大戦争から二十年も経ってるのに、未だに呪いなんかがあると思っているお花畑は、嬉しくもあるが、こういうときは恨めしい。

 

「私が、そんなことすると思うの? 第一、そういうのを信じてるのはごく一部」

 

「だから、魔女狩りなんでしょ。昔も今も同じ。社会不安からの吊し上げ。だからさっさと逃げるの、残り時間は少ないわ」

 

 私はパチェの手を引っ張って外へ連れ出そうとするが、その手は払われる。

 

「私は残るわ。ちょうどいいじゃないの。そんな最後は魔女としてはある意味栄光でしょ」

 

「馬鹿! いいから、来なさい。あんたが死ぬと私は、妹との約束が守れないのよ!」

 

 自分勝手な理論。いや、理論ですらない我が儘。

 私はもう一度手を引く。

 今度は払われなかった。

 

「ホントに貴方は自分勝手ね・・・相手のことを考えてちょうだいよ」

 

 残り時間は、ほんの数時間。

 その間に必要なものを運び出す。

 ・・・フランへのプレゼントとしてこの本役立つかしら?

 

「勝手に人の領域へ踏み込んで、荒らし回って最後には連れ出して・・・悪魔ってもっとスマートなものでしょう」

 

 呆れた声で、荷物をまとめるパチェに私は言う。

 

「私は吸血鬼ですもの。吸血鬼は気に入った相手は多少強引にでもつれてくの」

 

「・・・貴方の妹とは苦労を分かち合える、いいお友達になれそうね」

 

 ため息をついた魔女は、紅い館の住人となった。



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ネーヴェの或る夏の日

夏バテでした・・・申し訳ない
だからこのあと数日、毎日投稿します


「蒸し暑いです・・・・・・」

 棺桶のベッドはそろそろやめて、普通のベッドを使う時期かと思う目覚め。

 冬はちょうど良い暖かさで悪くないのだが、やはり夏場だと蒸してしまう。

「氷を蒸し暑さ対策にと思いましたけど、よけい蒸気が増えて地獄でしたね・・・・・・次は氷枕にしますか」

 後に、氷枕が破けて流水が流れ出す大惨事が起きて、ネーヴェがひどい目に遭うのだが、それはまた次の夏のお楽しみ。

 

閑話休題

 

 べとべとするパジャマを着たまま、着替えを持って浴場に向かう。

 先に使いを出したので、浴場は準備ができてるはず。

 いやー新しい住人が来てから、この館にとっても充実した自動化設備が増えてきて喜ばしいですね。前はお風呂も十分以上待ちましたし、やっぱり魔術の力ってすげーです。

「あら、ネーヴェ。そんな格好して・・・・・・あぁ、湯殿にいくのね」

 私がそんなこと考えながら歩いていると、前から歩いてきたお姉さまが、声をかけてきた。

「えぇ、少し蒸し暑かったので、この気持ち悪さをどうにかしたくて」

 汗で肌にひっついたパジャマを見てなにか言いたげだったけど、手元の着替えを見て、どこへ行くかわかったらしく、お説教は回避された。

「あぁそうそう、どうにかしたいで思い出したのだけれど、フランを湯殿に封印する方法をどうにか思いついてちょうだい。地下は湿気がたまりすぎてキノコが生えるっていうから換気装置をつけたけれど、あの子はそれで涼しいって言って出てこないのよ。ネーヴェは眠ってて知らなかったでしょうけど、数日前に妖精メイドがあの子のところに行ってキノコを生やして帰ってきたわ」

「妖精はその場所の環境に合わせて姿変えますけど、キノコ生やしたんですか? 換気装置動いてるんですよね?」

「えぇ、私も気になってフランの部屋に行ったら、あの子、棺桶の蓋を開けっ放しで寝てたのよ。それで、棺桶の縁がカビてたわ」

「あぁ・・・・・・寝汗でそこだけいつもしけってるんじゃないですか?」

 苦い顔というより、もう泣きそうな感じの顔になっているお姉さまは、深いため息をついた後に、言葉を発する。

「だから、貴方にフランを湯殿に連れて行ってから、地下に近寄らせずに三時間ほど連れ回しておいて欲しいの。大掃除計画を開始するわ」

「わかりました。さすがに頭にキノコを生やしたフランなんて見たくないですからね。ご協力します」

 お姉さまは助かるわといって書斎のほうに向かって歩いていった。

 

 

 

 浴場にたどり着き、脱衣場に着替えをおいて、パジャマは洗濯待ちのカゴに入れておく。

「少し風に当たりすぎました。いくら風通しが悪くても着替えるべきだったかもしれませんね」

 独り言をこぼしつつ、浴場に入る。

 むわっとした蒸気が全身を撫でる。

「このしっとり感がいいんですよね」

 目の小さい簀の子を歩き、椅子に座って、蒸気を堪能する。

 吸血鬼は流水にダメージを受ける、または流水を越えることができない。それは本当のことで、私たちは雨の日に出歩きたくはない。確かに微弱なダメージでしかないが、ゆっくりするためにダメージというのはいかがなものかという事で、館の浴場は蒸気風呂となっている。

「美の探求を目指す魔女の一族の方のおかげですね」

 蒸気が水滴となって肌に浮く、そこに薬草などを包んだ布で流すように拭くと、中和され、極々わずかなダメージが古い角質を取り除くという・・・・・・ご都合臭い気もするが、私も乙女、肌が綺麗になるなら続けると言うものです。

「フランとくるなら、一緒に洗い合うくらいじゃないと逃げられちゃいますかね・・・・・・?」

 ひとしきり体を洗って、私は席を立つ。

 たぶんもう少ししたら、また来ることになるので、準備をしてから私は浴場を出た。



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雪と魔女

 図書館の扉を開けると、そこは見慣れた図書館ではなくなっていた。

「いったいどうなっているんですか・・・・・・?」

 見たこともない蔵書が、本棚に詰め込まれ、場所が足りなかったのか、床や本棚の上に積み上げられている。

「あら侵入者かしら?」

 本の壁の向こうから声がする。

 聞いたことのない、か細い声だが、私にはその声の主に心当たりがあった。

「パチュリーさんですか?」

「あら、私の名前を知っている侵入者なんてびっくりするわね。誰でもいいわ助けてちょうだい」

 なんのことかわからずに、本の壁を移動させて、声の主を捜したが、崩れた本の山から片腕だけでている誰かを見つけた。

「親指だけ突き立てて、なにしてるんですか?」

「あいるびぃばぁっく」

 脳裏に何故か『デデン、デンデ、デン』という音が響くが、気にせず本の山から遭難者を救助する。

 

 

 

「あら、友人そっくりの侵入者」

 もう一回埋めてあげようかなという気持ちを抑える。

「侵入者じゃありません。私はレミリア・スカーレットの妹、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットです。お好きにお呼びください」

「妹は、死んでるのと頭おかしいのと二人だって聞いたのだけれど。まだ生きてるのね。お墓の下かと思ったわ」

「・・・・・・悪いのは、お姉さまですか? それとも貴方の口ですか?」

「しいていうなら、性根かしらね」

 アハハと笑った後、魔女はせき込む。事前に聞いていた情報通り気管が弱いらしい。

 あまりにもせき込むので、肩をかし、近くのテーブルまで運ぶ。

 コホッと最後に少し大きめの咳をして、魔女は落ち着いた。ふと、机の上の新聞に二人して、目を向ける。日付は一週間前、私が眠りについて数日後であり、パチュリー・ノーレッジがこの館に移り住んだ次の日の新聞だ。

 見出しには、火災で家屋全焼と書かれていた。

「・・・・・・やっぱりあの選択で正解だったのね」

 魔女は、少しもの悲しそうに言った。その言葉になにか形容できない悲しさを覚えたが、それを問うことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「貴方妹がいるのよね」

「えぇ、とってもかわいい娘が二人、片方は一度眠ると死んだように、数日は起きてこない子。もう片方は、地下にこもりっぱなしの子よ」

 紅茶をティースプーンでかき混ぜながら友人の吸血鬼は答えた。

「・・・・・・地下の子は時期を見て会わせるわ。少し精神が不安定なの」

 友人は少し眼をそらす。これは、なにか言いたいことがあるときのサインだが、だいたいはやっかいごとのため、突っつかない方が吉である。

「蔵書の件はありがとう。あそこまで運び出せたのは幸いだったわ。それと、図書館の管理はこれから私が行うわ。前任者の作った目録とかがあると嬉しいのだけど、無いなら無いでいいわ。後、助手として何人かの悪魔を使い魔として召喚させてもらうわね。妖精じゃあ、埒があかないの」

 レミィは少し、気圧されたような表情だったけど、気にしない。

「要望だけはいっぱいあるのね。まぁ、好きにしてくれていいわ。ただし、図書館は私のテリトリーじゃないの。詳しいことは妹たちに聞いてちょうだい」

 私はわかった。とだけ返して、紅茶を楽しむ。

 しかし、すぐに紅茶を楽しむどころではなくなってしまう。

「あと、これについてあなたの見解を聞きたいの」

 そういってレミィは私に数枚の紙を渡してくる。

 これはと目線で問うと、レミィは説明し始めた。

「一枚目が私の妹で、よく眠ってる方の体内魔力量の測定結果よ。右が起きているとき、左が寝ているときよ。二枚目はあの子の周りの空気中魔力量の変化。一枚目と同じで寝ているときと、起きているときの二つ。そして最後が、あの子のパーソナルデータよ」

「・・・・・・睡眠中の空気中魔力量は相当薄いわね。時間が経つにつれて体内魔力量が増加しているから、おそらく吸収して貯めているのかしら。逆に起きているときは、体内魔力量が減少している。なんというか、電池で動く玩具みたいね」

 それからいくつかの見解を述べた結果、レミィは私にとっても大きいやっかいごとを背負わせた。

 

 

 

「おもしろいじゃない。手を貸してあげるわレミィ。魔女との契約なんてどうなるかもわからないのによくやるわね」

 数日後、レミィの言っていた妹と出会った私は、よりその奇妙さに興味を注がれた。しかし、レミィに本人にはこのことが秘密だと言われてしまったからには、おおっぴらに聞けない。まぁ、時間はあるでしょうし、気長にやりましょう。



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ティータイムの合間に

特殊な感じです
一行ごとにお茶でも飲んでください。そしたらたぶん貴方もお茶会にいる気がします。


「ねぇ、レミィ。貴方の槍はグングニル。そして引きこもりの方はレーヴァテイン。なら、ネーヴェにもなにかあるんでしょう?」

「あぁ、あの子は武器がないの。しいていうのなら、能力自体かしら。吸血鬼の能力を憑依させて戦う。なんだかあの世から引っ張ってきてるみたいね」

「死者を呼び出して憑依・・・・・・シャーマンなのね」

 

「蔵書に魔術関連の物がいくつもあるのだけれど」

「昔は、貴族の義務として、探求者は保護して研究させていたの。そのおかげで古今東西の魔術書には、ことかかないわ」

「西洋だけじゃなく、東洋も混ざっているのは研究対象だったからなのね」

 

「フランの第二次入浴作戦はまだなの? さすがにうろつかれると鼻に来るのだけれど」

「第一次作戦のせいで、警戒度が上がっているの。諦めてちょうだい」

「いっそのこと拘束魔法でとか思ったけれど、そういうの一切聞かないのね彼女」

 

「あら、このクッキー悪くないわね。あとで、小悪魔に覚えさせましょ」

「これは我が一族だけの門外不出品よ。教えないから」

 

「最近、ネーヴェの起きるのが遅いの。やっぱり魔力量が足らないのかしら」

「空気中魔力量は神秘の度合いが濃ければ濃いほど、濃厚になるわ。どうしてもって言うのなら、フランの部屋に預けなさい。あそこは、においと魔力量がけた違いよ」

「いや、においが移ってしまってはたまらないわ。それは本当の最終手段よ」

 

「最近この国も、まずくなってきたわね」

「帝国の斜陽ってやつかしら。ロシアも色々やばそうね。あの鉄血宰相のダンスパーティーの頃が懐かしいわ」

「この国も、場所的には重要なんだから避難案を模索しておくべきかしら」

 

「それはそうと、研究は進んでる?」

「えぇ、あれほどの成果物があるんだから、いろんな物が進んでいるわ」

「違うわネーヴェの事よ。なにかわかったことはあるの?」

「成果はぼちぼちよ。できれば色々聞きたいけれど、それじゃ、あの子のなにかを引き出すなんて事が起きかねないんでしょう? だから睡眠時の観察と、日常会話のあたりで聞き出してるわ」

「それが賢明よ。私は逆鱗があるけど、あの子はフラッシュバック。寝込みを襲われたって勘違いされたら、貴方との相性は最悪よ」

「肝に銘じておくわ」

 

「・・・・・・魔術研究は他になにをしているの?」

「今のところはどれも本格的な研究段階じゃないわ。先達の成果を吟味して取捨選択と整理中よ。興味深い物はやっぱり東洋魔術ね」

「研究ってのは大変ね」

「そうでもないわ。レミィもしてみない?」

「前向きに検討させてもらうわ」




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夢の中のお姫様

遅くなりました。
許すまじ学園祭。
赦してください。
なにとぞどうか。


 

「汝、妾は暇である。なんとかせい」

「私、道化ではないんですが」

 白い空白の世界だったこの空間は、少しずつ彩りを入手し始めていた。夢というより精神世界というべきこの空間に、私は何度も出入りしていた。

 謎の声だった相手も、何となくの要領をつかんだようで、ローブをかぶった姿で、好きなように過ごしていた。

「バルドルはよく道化になっておったんじゃが・・・・・・」

「それ女王権限だったんじゃ・・・・・・」

 そして、最初は不敬だ何だと言っていたこの女王は、今や友人となっていた。なんでも、畏まった会話は面倒な上に退屈だということらしい。

「そうじゃ、戦争でもするか」

 そういって女王は、テーブルにチェス盤といくつかの駒を生成して、並べる。こうなってしまっては相手をするしかない。断ればうざ絡みが加速する。

 チェス盤を使うが、駒は自陣側ならどこに置いても良い。手の内に握っておく事もできるし、宣言すれば伏兵も配置できる。本当の戦争のようなゲーム。おそらく戦争のシュミレーションをこの女王がどこかで見て思いついたのだろう。

「叔父上はこのゲームが巧くてな、一度も勝ったことはあらぬ。父上もある意味巧みであった・・・・・・どちらも禁じ手すれすれを走り抜けるがのう」

 女王はそういって、駒を動かす。私はいくつか伏兵を配置しているが、女王は一切配置せず、真っ正面から突っ込んでくる。一応奇襲や、温存部隊もあるが、それでも評価すると、正面切って突っ込む猪武者となってしまう。女王は戦争指揮には、全く向いていないことがわかる。しかし、ご機嫌取りするには負けなければならない。だが、大敗は逆に難しい。いや、負けること自体難しい。どうにか僅差で負けるぐらいには持ち込みたい・・・・・・

 

 結論から言うと目標は達成できた。3回目のゲームでだが・・・・・・

 

 

 

「私としては魔力消費を抑えて欲しいのですが」

「なに?妾に浪費癖があると申すか。そのようなことはありえん。第一消費量は変わっておらん」

 女王は、汝の集める魔力量が少なくなってきているという。

「妾の性質上、顕現の魔力は汝から得ておる。汝が起きる事ができないのは、魔力が足らぬからじゃ」

「・・・・・・では女王、私が魔力切れで倒れている時、貴方はどうやって顕現しているのですか」

「寝ている間の汝は、死亡しておる。精神の世界か、冥府と現世の合間かは知らぬが、汝は妾と繋がっておるが故に、一時的に死亡し、また魔力の充填が終われば、現世に妾をつれて戻る。魔力は生命力でもあるが、それが引き戻してるのではないのか?」

「いえ、疑問で返されても・・・・・・でも、この世界に来始めてすぐの頃は、女王はいたりいなかったりでしたよね?」

「妾も魔術や魂についての学は少ない。なにせ、冥府は妾が望めばそうなっておった故、魂のあり方なぞわからん」

 私はそうですかと返して、女王をみる。

 目深にかぶったローブからのぞく顔の部分は少ないが、その口は楽しそうに笑っていた。




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魔女の大発明

書き溜めなきゃ・・・


「新しいベッドですか?」

 パチュリーは頷いて六人の妖精に運ばれる棺桶を指さした。

「棺桶の中に冷暖房完備よ。我ながら訳の分からない魔法を使い方をした気がするわ」

「冷暖房完備!? ホントですか! とってもありがたいです!」

「喜んでくれたがんばった甲斐があるわ。それと、冷暖房以外にも色々機能が付いているわ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「えぇ、あなたはなにがあっても起きないからってレミィが防衛機構を恐ろしいほど望んでしまって、TNT爆薬くらいなら耐えきって傷一つ見せないシェルターが生まれたわ。それも中に誰かはいるとあなたの意志でしかあけられないという呪いに近い何かも装備しているわ」

「バカなんですか? 妹バカなんですかお姉さま」

「私にいわないでちょうだい」

 それもそうですねと言って会話を打ち切り、ベッドの方へ向き直る。運んできた妖精は、なぜかサングラスをつけているが、気にしないことにする。

 棺桶は色が白く、白亜で作られているのかと思うほどの白さだが、触れてみると、木製の肌触りがする。

 蓋を開けると、中はそこそこに広く、壁面と床の部分には綿か何かが詰めてあり、硬さは感じない。そして棺桶の中程のあたりに風を送り込むための通風口があいていた。

「寝心地とかも良さそうですね。本当にありがとうございますパチュリー」

「いいのよ。気にしないでちょうだい」

 

 

 

「ネーヴェは気に入ったの?」

「えぇ、空調設備ってそんなに大事なの?」

「あなたはあの蒸し暑さを知らないのね」

 知りたくないわと断って、紅茶を飲む。今日はストレート。味は悪かったことはない。

「で、データは?」

「順調よ。就寝時のデータをスキャンするために棺桶なんて、よく思いつくわ。防衛装備とか言うもののために、数週間延びたけどね」

 我が友人は謝る気がないらしく、澄まし顔でお茶請けを口にする。

「付けたのは、防御機構、スキャナー、空調設備・・・・・・あとは魔力吸収機能と供給機能。我ながらあそこまでコンパクトにできたことは、天才的と言うほかないわ」

 対象が起きている間は魔力を吸収し保存。睡眠状態に対象がなれば、棺桶内に魔力を放出し、吸収させる。これによって急速に覚醒が速まる。睡眠状態時も、外の魔力を吸い込み続けているので、効率はこれまでよりもよいものになっているはずだ。まぁ、吸い込む魔力の濃度が薄ければ薄いほど効果は減るが、それは棺桶があろうとなかろうと同じことなので、気にしない。

「補助はできるわ。けれど、この世界から魔力というものがほとんど感じられないほど薄くなればこれはただの棺桶よ。神秘は消えゆくものなの。だから、これはただの延命措置、何とかしなければどっちみち結果は変わらないわ」

「だったら早く見つけないといけないわね。ネーヴェが安心できる場所を」



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東方の地へ

『極東の島國に幻想郷という隠れ郷あり。この地、特殊な結界をもって現世と切り離し、妖魔の存在を守りし土地なり。文明遅き東方の地故、妖魔文明の光から逃れること成功す。彼の地、妖魔の幻想の郷なり』

 

紅魔館地下図書館所蔵 【東方世界ノ妖術ニツイテノ風聞】 より

 

 

 

「極東の島国の隠れ里? それもまだ残っている?」

 馬鹿馬鹿しいと一笑に付すこともできるが、文明の開きが遅かった東洋、それもあまり列強と接することなく、生きていた島国なら、神秘の力は強く残っているだろう。

 だが、今はだいぶ文明が進み、眠り獅子をはり倒して、局地戦なれど、氷の皇帝の尻をけっ飛ばした。文明の光は、力強く輝いているのではないか。

「その風聞録、かかれたのはだいぶ前でしょう。今も残っているの?」

「少なくても作者は消えてる。幻想郷への干渉の術式は残ってはいるし、試しに術式を起動して干渉先を調べてみたけど、確かに反応は返ってきている。書かれた頃の理想郷から変わっているかもしれないけど、この国に居続けるよりはマシじゃないかしら」

「マシかもしれないし、マシじゃないかもしれない。この件は慎重に歩を進めるべきことよ」

 確定していないものに命を張る段階ではない。だが、希望は見えた。

 

 

 

「東洋の地ですか? 行ってみたことはないですよ。でも美鈴なら何か知っているかもしれません」

 本を読んでいた私に、パチュリーが東洋の地について聞いてきた。どうしてなのか聞いてみると、何でも新しい研究の為に必要らしい。

「東洋の吸血鬼を憑依させる・・・・・・? いえ、全く知らないものは喚んだりできないので何とも。やっぱりこの館で東洋について知るなら美鈴が一番です」

 確かに憑依したら、一定の記憶は流れ込んできますが、ほとんど断片的で、役に立たないんですけどね。

 パチュリーは、今研究に役立ちそうな情報をくれないでほしいわねと言って、美鈴のもとに行ってしまった。

 

 

 

「幻想郷ですか? えぇ、名前だけなら何度か耳にしました。割と最近ですけど・・・・・・」

 ネーヴェの助言に従って、この館の古株である美鈴に話を聞くが、聞けたのはいなくなった魔法使いの話だけだった。

「その魔法使いがあなたに何度か聞きにきたっていうことは、あなた、東洋の術式とかは詳しいの?」

「一応それなりには。陰陽道とタオと八卦はわかります」

「上出来じゃないの。しばらくの間、手伝ってもらうわよ」

 助言だけとはいえ、聞きにきた内容から何か手がかりがつかめるかもしれない。

 幻想郷が本当に妖魔のユートピアであることを祈ろう。



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東洋の吸血鬼

 

 館の敷地を多くの妖魔が埋め尽くしていた。魔女、獣魔、妖精、その他たくさん・・・・・・付き従う妖魔は五百、全ての者が新天地に希望を見ていた。

 

 

 

「すごい人数ですね。昔の頃のようです」

 棺桶から半身を起こし、窓から庭を見下ろしたネーヴェが言った。

「昔よりも強いわよ。もうあんなことは起こさせないんだから」

 私はそういった後、ネーヴェの頭を撫でつつ、眠りにつくことを促す。

「さぁ、ネーヴェ、そろそろ限界なんでしょ? 大丈夫だから休んでいなさい」

 わかりましたとネーヴェは、もう一度窓の外を見た後、棺桶に身を倒した。

 

 

 

「それで、どうやって幻想郷へ行くのかしら?」

「幻想郷の結界と陰陽の術式の応用よ」

 パチュリー曰く、幻想郷は二重の結界を張り、外界と隔てている。そしてこの結界の片方は、忘れられていくモノを引き寄せる力があるらしい。その力を応用して、位置を特定し、陽である外界から陰である幻想郷に紅魔館を反転させてしまうという方法が今回の作戦らしい。

「一応聞くけど、これってちゃんと実験したのよね?」

 パチュリーは静かに目をそらした。

 

 

 

「聞け、同胞よ」

 テラスから、庭の妖魔たちに語りかける。

「我らが紅魔は、今、忘れ去られゆくこの地から去る!」

 全ての種族が、人の地に見切りをつけ、新たなる地に居を移すと喝采を送る。

「人は愚かにも、幻想の恵みを忘れ、我らの存在を忘れようとしている。ならば、幻想の加護を絶ち、我らは去ろう!」

 新天地の幻想の郷を支配し、新たなる故郷とする。もちろんそれも目的だ。だが、それはネーヴェのためだ。幻想の加護を誰より必要としているのは、ネーヴェ・・・・・・もしくは、ネーヴェのためと動く私なのだろう。

「さぁ、同胞よ! 幻想のための楽園は我らの手に握る!」

 最大の喝采を背に、私は館に戻った。

 

 

 

 沈んだ意識は、白い世界で呼び起こされる。

「起きるがよい。汝はこの愉快な催しを妾に説明する義務がある」

「ないですよ。女王はちゃんと聞こえていたでしょう」

 つまらぬのうと、女王は言って、一人で独楽遊びをしている。いったいどこでその知識を手に入れたのか・・・・・・

「これからは、新天地ですって。ここよりも空気が綺麗で、魔力もいっぱいある凄い土地らしいですよ」

「それはよいのう。やはり、空気は綺麗なところに限る」

 女王は、その後、にこにこした眉をひそめていった。

「じゃが、今死んでおると、不味いやもしれぬ・・・汝、しばし妾は、消費を最小まで押さえてやる、その意識を覚醒させよ」

 私が何か言う前に、ではなと女王は消え、私は目が覚めた。

 

 

 

 遠い過去の夢、しかし、最も身近に感じる過去。

 断末魔の声に、怒号、雄叫び・・・・・・今、私は冷たい氷の中で泣いている。

 

 ハッと目を覚ますと、棺桶は開いていた。

「私は・・・・・・」

 時計は眠ってから、十数分しか経っていないことを教えてくれる。

 窓の外には相変わらず妖魔の集団が、猛っていた。

 

 コンコンと戸がノックされ、私が答える前に、戸が開いた。

「あれ、ネーヴェお嬢様、起きてらっしゃったんですか?」

「えぇ、もう少し、この館が幻想郷に行き着くまでは、見ていたいんです」

 そうですか、では私もお供しましょうと、美鈴は言った。

 

 

 

「不安ですか?」

 私は首を縦に振る。

「不安ではないとは言えません、なにせ引っ越しなんて初めてですから」

 美鈴は、それだけじゃないでしょう。と聞いてくる。

「・・・・・・先ほど、少し悪夢をみたせいか、なんだか庭にいるみなさんが、あの人間たちと重なるんです」

 今も窓の外では、野望に満ちあふれた猛りが感じられた。

 そのとき、頭の上に暖かい手が触れた。

 ゆっくり、ゆっくり、撫でられる感触は心地が良い。

「大丈夫です。私が、この門を、館を護りますから」

 美鈴の手は、大きく、柔らかい、優しさを知る手だと思った。

 

 

 

「さぁ、始まるみたいですよ」

 美鈴の声で、私は窓から庭の方を覗く。

 窓の外では、庭や門の外にかけて、幾何学的な模様が光り出していく。

 その光景に、私は美しさを感じていた。

 

 

 

「夢は現と切り離され、夢の道は万物を繋ぐ鎖となる。幻想の夢と繋がれ、我らが夢よ」

 意識の底で、何かがつながった感覚を得ると、ほっと一息をつく。これで第一段階は完了する。

 これで位置は捕らえた。あとは幻想郷まで、この館を繋がりにそって、移動させればいい。

「無情の現世に忘れられ、今形残さんと消える館のモノよ。我らが身は無常なれど、皆、妄執の一団なれば、夢上の鎖をたどれ」

 現実にどれほどの間があろうと、夢の間は距離が無い。この館は今夢の世界に入り、幻想の園に着こうとしている。

 ここまでが第二段階、着いたとしてもそれは現実の位置、それをひっくり返さなければならない。

 外で歓声が聞こえる。ということは、到着したのだろう。小悪魔たちに逸って、外に飛び出す馬鹿がいないように、押しとどめさせているが、さっさとした方が早いだろう。

「我らは、幻想、現実にあらざる者たち。ならばその存在は、幻想の世界に逆転す!」

 ぐるりと、体が180度回転する感覚を受ける。正直気持ち悪い。だが、この感覚があるのならば、それは成功に違いない。

「・・・・・・詠唱なんてもういやね」

 

 

 

 幻想郷への到着を見届けると、私は棺桶に戻り、眠りについた。

 

「妾の予想道理じゃったな」

 帰ってくる(?)と女王は、得意満面の笑みで、開口一番そういった。私はどう言うことですと尋ねた。

「あのまま眠っておったら汝は、そのままこの世に帰ってこれなくなっておったはずじゃ。逝ってきた場所に戻ってもその体が無くなっておれば戻れずじまいで、魂の消滅じゃな」

「やばいレベルで、生命の危機だったじゃないですか」

 女王は笑ってごまかした。



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幻想郷
幻想郷


「ではこれから、紅魔館と名乗る、侵略者への対応会議を始めます」

 藍が、そう言うと騒がしかった議場は、しんと静まりかえる。

「・・・・・・叩き出せば良いではないか」

 張りつめた空気の中、大天狗がそう言った。同意の声は挙がらないが、何人もの有力な妖怪が、同じ意志であることを思わせた。

「確かに、略奪行為など目に余る物はありますわ。しかし、幻想郷の結界が迎え入れたところを見るに、彼らもまた、現実に追われてやってきた同胞でしょう。少しの教育ですませるべきでは?」

 幻想郷は、幻想の最後の受け皿。それが、受け皿にのるべき物を叩き出せば、風聞が本来幻想郷を必要としている妖怪たちを恐れさせ、受け皿としての役目が果たせなくなる。それだけは阻止するべきだ。

「私も紫と同意見さ、あいつらは居着く方法を侵略しか知らないんだ。喧嘩っ早い奴らは、高い鼻っ柱を叩き折ればおとなしくなるさ」

 ケタケタと笑いながら、隠岐奈は天狗の方を見る。

 大天狗は、居心地悪そうに、赤い鼻を一撫でしてから、矛先を変えるように、妖精の一団の方を向いた。

「おい、妖精ども、貴様等がなぜここにおる。向こう側についたのではなかったのか」

「えっと・・・・・・妖精は誰かがまとめられる物じゃないですし、みんな勝手にしていて・・・・・・」

 大妖精と周りから呼ばれる、妖精が、視線に怯えながら話す。

 大天狗の言うように、一部の妖精は、何を思ったか、紅魔館の一味に混じって略奪行為や悪戯を行っている。

「私が呼びましたわ。霧の湖は妖精側のテリトリー。あの場所を一番知るものたちです」

 私が、視線を向けると、大妖精はがんばりますと言った。

 

 

 

「この幻想郷から奴らを叩き出す・・・・・・というのは諦めよう。だが、このまま侵略されて降伏というわけでもないのだろう?」

「えぇ、多少はお灸を据える必要があります。その上で、彼らが私たちとともにこの地に根付くのか、去るのか。選択させようと思います」

 少なくとも、人里に手を出されては困る。彼らがルールを守れるのなら、迎え入れよう。

「で、どうするんだ紫。まさか話し合いで済むとか思ってないよな」

「実力を示す必要はあるでしょう。だからといって、こちらが損害を出すわけにはいかないので、我々で少し痛めつけましょう」

 

 

 

 霧の湖上空、赤い館を見下ろす位置に、私・大天狗・萃香・幽々子が揃い、後ろに天狗の護衛集団が控える。

 隠岐奈は、めんどくさいし、あんたらだけで十分だと言って後戸の国へ帰った。

 できれば暴力装置として幽香も呼びたかったが、あのフラワーマスターは、植物が危機に瀕したときにしか来ない感じのヒーローなのであてにならない。

 

「楽園の新たなる住人よ。我々は、彼方からの来訪者を迎え入れる気がある。ただし、それは領主と奴隷ではなく、友好な同胞としてである」

 大天狗の口上は、辺りに響きわたる。いつもやかましいと思う、この声もこう言うときには使える。

「我々は話し合いに来た。だが、この平和の使者を切ろうというのであれば、それは死を意味するぞ」

 大天狗は平和の使者とのたまうが、その実この天狗切られたがっているのだからとんだマゾなのだ。

 そんなことを考えていると、門が開いた。




感想のほどお待ちしております


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クリスマスには奴が来る

銀雪の吸血鬼特別編です!



 クリスマスは我らが敵、聖キリストの生誕を祝う日である。ただし、クリスマスには生まれていないらしい。ホントは九月か十月頃なようで、ややこしいことこの上ない。

 まぁ、そんな聖なる光あふれる祝祭には、悪魔の影もまた濃く浮き上がるのである。

 

「今年こそは、ネーヴェと一緒にクリスマスが過ごしたいの。ということで、今年もやります。あいつの封印作戦!」

「「おぉー!」」

 美鈴やパチェ、フランなど館の住民が一斉に鬨の声を上げる。

 

 

 

「降誕節に現れる吸血鬼、化け物。ロバの耳と赤い目、長い爪を持つ・・・・・・それがカリカンザロスじゃ。降誕節以外は虚数の世界を漂っているというが、真偽は不明、観測できぬからのう」

 女王はケーキをケーキナイフで切り分けつつ、解説を行う。

「それがどうかしたんですか?」

 紅茶をカップに注ぎながら私は、女王の発言の意味を探る。

「ふむ、言ってなかったがな。そのカリカンザロスのうちの一匹が、降誕節の間、汝が眠っているのをよいことに、その体で好き勝手しておる」

「大問題じゃないですか! なにのんきにケーキ切り分けてるんです!」

「いや、妾は困らぬし、楽しいから・・・・・・」

 ティーポットを置き、頭を抱える。

「館の奴らも最初は手を焼いていたが、最近は撃退して汝を呼び戻しておるの」

「道理で、部屋が荒れてるわけですね・・・・・・」

 ほれ、汝にじゃと切り分けたケーキを女王は渡してくる。

「汝の能力は妾の権能、今は楽しいからよいが、賊が勝手に使うようでは困る」

「善処いたします」

 

 白い世界のクリスマスパーティーは続く・・・・・・

 

 

 

 ギィと蝶番が軋み、中から影が起きあがる。

「白い髪が台無しね。茶髪もかわいいけど、やっぱり似合わないわ」

 声に反応して影は、棺桶から飛び出し、臨戦態勢を作る。

 腰を落とし、力を抜いた両椀が揺れるのに合わせ、大きな鍵爪がふらふらとしている。

 頭部から生えるロバの耳についたリングが、キラリと光った。

 瞬間、声の主を見据えていた紅い両目がカッと開かれ、姿がフッと消える。

 ガキンッという爪と槍がぶつかり合う音が響く。

 そして、一歩下がった影が床を蹴る。

 爪と槍がぶつかり合う音が五度続く。

 爪を弾かれ、蹴りをいなされたカリカンザロスは、飛び上がって天井を蹴り、重力と速度を掛け合わせた一撃をレミリアに浴びせる。

 レミリアは膝をつき、槍を横にしてその大きな鍵爪を受け止める。

 カリカンザロスは咆哮を上げ、さらに力を込める。

「いくらやっても同じことよ、このアンポンタン!」

 押し込まれた爪を、馬鹿力で押し返す。

「・・・・・・う、る。らど・・・てぃーる。け、ん」

 なっ、と驚く暇もなく、押し返した爪が再び押し込まれる。

「ルーン魔術なんていつの間にッ」

 学んでいるのか、ネーヴェの知識を流用したのか、どちらかは分からないが、厄介なことに代わりはない。

「魔女はまだかしらねッ!」

 槍を傾け、爪を滑らせる。

 

 

 

 ワンホールぺろりと平らげた女王は、ティーカップを置き、ため息をつく。

「獣風情がルーンまで・・・・・・妾は、少しばかり頭に来た。叔父上が犠牲を払った物を畜生に使われるのが我慢ならん」

 なにをする気か聞く前に女王は魔術を行使する。

「氷の茨が汝を縛り、その一時の勝利を崩壊させる。汝を縛る妾は冥界の王、死と再生の管理者である!」

 女王の指が空間に文字をつづる。すると、白い空間の地面から太く透き通った茨が空へ突き上がって行った。

「・・・・・・ルーン魔術なら刻むだけでいいのでは?」

「雰囲気じゃ雰囲気。大した血統もない獣畜生には威圧が必要であろう」

 

 

 

 突然地面から氷の茨が生え、カリカンザロスが支配するネーヴェの体へ絡みついていく。

「これは・・・・・・」

 茨から逃れようと体を動かしもがくカリカンザロスだが、堅く太く作られた茨はその動きを完全に縛り続ける。

「レミィッ! 封印の礼装できたわ・・・・・・ってなにこの状況」

「私にも分からない。ただ、こうなったとしか」

 理由は分からないが、動きがとれないなら好都合。

「それで、いったいどんなのができたの?」

 これ、と差し出されたのは靴下、私は思わず疑いの眼差しを向ける。

「カリカンザロスの予防として人間は踵に焼き印をするのよ。でもそこは吸血鬼の回復力で回復されちゃいそうだから、靴下にしたわ。クリスマスにぴったりでしょ?」

「えぇ、時期的にはぴったりね。だけど一つ忘れているわ。誰が履かせるの?」

 パチェはしまったという顔を、ゆっくりと笑顔に変えて、グッドラックとハンドサインを送ってきた。

 私は溜め息をついて、机に置かれたペン置きから五、六本のペンを取り床に投げる。

「数えなさい。カリカンザロス」

 目を点にしたカリカンザロスは、ネーヴェの口を通して、一、二と数えるが、三を数えることができない。

「さっ、今のうちに履かせるわよ」

 二進法なんてものを思いつかない内に履かせなくてはならない。

 なんだかシュールだなと思うが口には出さないことにした。

 

 

 

「体の節々が痛い・・・・・・」

 起きあがると身に覚えのない怪我がいっぱいついている。

「悪いとは思うけど、仕方のない犠牲よ。コラテラルよコラテラル」

「コラテラルならしょうがありませんね」

 よっこいしょと立ち上がると、怪我に気を取られて気づかなかった足の暖かさに気づく。

「今年のクリスマスプレゼントは靴下ですか? あっ、素敵な柄ですね」

「えっ、えぇ、暖かいでしょ? 踵の部分にも柄が入っているから、必ず位置に気をつけてちょうだい。それと、替えのに履き替えるときも片足は必ず履いてる状態にして」

「・・・・・・? まぁ、わかりました」

 姉の伝える注意事項に、少し困惑しながらも、折角のプレゼントなのだしありがたく受け取っておく。

「さぁ、着替えてパーティーよ。 準備は万端なんだから」

「えぇ、楽しみにしておりますお姉さま」

 

 

 

 我々はキリストの敵、賛美歌は歌わないし、お祈りなんか死んでもする気はない。

 クリスマスの夜は豪華な魚料理に、おいしいパンと葡萄酒をお腹いっぱいになるまで食べ、贈り物をして富を蓄える。

 これはとある大工とその父親への当てつけで行うお祭り。

 盛大に、とっても賑やかに行う当てつけである。

 

「「「ハッピー! ホリデー!!」」」

 



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死と生の境界で

「・・・・・・ん? ここはどこです?」

 ふと気づくと私は、彼岸花の咲き誇る場所に立っていた。

「確か彼岸花って秋ぐらいに咲くものじゃ・・・・・・」

 辺りを見渡しても遠くは靄に包まれよく分からない。

 少し歩いてはみるが、歩いても歩いても先に進んでいる感覚がない。

 そろそろ夢ではないかと頬をつねるか悩んでいると、足音が近づいてくるのが聞こえた。

「どちらに行かれるのですか。賽の河原は逆方向ですよ?」

 私が振り向くと、そこには仰々しい衣服を身につけ、緑の短く切った髪の毛を揺らす少女が立っていた。

「貴方、誰ですか?」

「四季映姫・ヤマザナドゥと申します」

 ヤマザナドゥと私が繰り返すと、四季映姫と名乗った女性は、地獄の裁定者、閻魔ですと言った。

「それでは、私の質問に答えてください。貴方はどちらに行かれるのですか?」

「・・・・・・そもそも、どこなんですここ?」

 ピキッと映姫さんの白い額に青筋が浮かぶ。

「質問に質問で返さないで。寺子屋の試験では零点ですよ。いいから答えてください」

「とりあえず、家に戻りたいんですが」

 私がそう答えると、映姫さんはいぶかしみながら首をひねる。

「ここは彼岸です。お帰りはお諦めなさい。どうしても帰りたいなら、一年以上あの世で過ごした後で、お盆里帰り休暇を請求してください」

「役所感が、役所感が凄い・・・・・・!」

 だって役所ですからと返され、脳裏に全てにおいて適当な女王が思い浮かぶ。

「とりあえず、私まだ死んだつもりないんですけど」

 映姫さんは溜め息をついて、私を見下ろす。

「死んだことを理解もさせてない・・・・・・幻想郷から来た魂ですよね?」

 私がとりあえず、頷くと映姫さんは私の手を取って、歩き始めた。

「ちょ、ちょっと、どこ行くんですか!?」

「貴方の担当の船頭です。あのバカまたサボってるんだから!」

 まずい、このままでは本当にあの世に連れて行かれてしまう。踏ん張って耐えようとするがずるずると引っ張られる。なんだこの人、日本の鬼程度には力を張ってるはずなのに、なんで引きずる速度変わらないの!?

「ほら、抵抗しないで、死者が死から遠ざかろうとすれば、地獄の距離が近くなるんですよ」

 そもそも死んでないと叫ぶが、聞き入れてもらえない。

 あぁ、こんな死に方ギャグだよと思い始めたとき、横からスッと見覚えのある白い手が映姫さんの手をつかむ。

「すまんが、この娘は妾のじゃ、返してもらおう」

 振り返って女王を見た映姫さんは固まり、口をぱくぱくさせる。

「そう、貴方は何々なりすぎている・・・・・・とかじゃったか? 汝の口癖」

 映姫さんはコクリと頷く。

「なら、今の汝は頭が固くなりすぎている。というやつじゃな。優等生の失敗は見てて楽しいのう」

 女王はニマニマしながら、映姫さんの頭をポンポンと軽く叩く。映姫さんの顔は羞恥の赤に染まる。

「それくらいにしといた方がいいんじゃないですか女王?」

「いやぁ、もうちょっとだけ煽らせて欲しいんじゃが」

「何か恨みでもあるんですか?」

「ちと、昔貴女は頭が柔らかすぎると言われて事があっての」

 映姫さんが若干かわいそうに思えてきたが、これは止まるところを知らない感じのあれだと気づく。

「・・・て・・・い・・・」

 羞恥の顔を伏せて防御する映姫さん(私は身長的な理由で普通に見える)は小さくつぶやく。

「聞こえんのう。法廷での声はどうしたんじゃ~?」

「あっ、まず」

 マジメちゃんはぷっつんしたときがいっちばん不味いのだ!

 私は即座に耳をふさぎ、サタン様、リリス様、デビルマン様と心で祈る。

「出て行ってって言ってるんです、この馬鹿!!」

 閻魔の咆哮を受けた! 防御しなかった女王の鼓膜は四十パーセントのダメージを負った!

 

 ともあれ、冥府の出国許可を手に入れた私(魂)は、また気を失った。



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幽霊にお気をつけて

 棺桶の蓋を開け、起きあがる。

 なんだかおかしな空気だと思う。多種多様な種族を内包する紅魔館だと言うことを考えれば、周りがと言うより、自分の感覚が鋭くなっているのかもしれない。

 ツンと鋭くなった嗅覚に汗の香りがして着替えなければと、手を動かす。

「はろー、でよろしいのかしら?」

 突然の天井からの声に、驚いて見上げる。

「あら、お着替え中だったの? それはごめんなさい」

「のぞきの言い訳はそれで十分ですか?」

 パジャマの前のボタンをはずしただけで良かったと思いながら、天井を透けて越えてきたのぞき魔を睨みつけた。

 のぞき魔はあらあらといいながら扇子を取り出し、口元を隠してこう言った。

「眼福にはほど遠いわ。精進しなさい。牛乳なんてどう?」

「宣戦布告ですか!? 覚悟してくださいね。この不審者!」

 戦いの火蓋は、侮辱から始まったのである。

 

 

 

 日本の着物を纏ったゴーストに向かって、いくらか魔力弾を投げつけると、サッとよけてしまう。

「あらあら、お胸の高さと同じで沸点も低いのね」

「えぇい、あながち嘘じゃないのが悲しいっ!」

 幽霊が扇子をひらひらと振るう度に蝶の形をした妖力弾が、部屋を飛び回る。

「触れたら即死よ。がんばってね」

「貴女みたいに厄介です!」

 躱しながら魔力弾を放つが、一向に事態は好転しない。むしろ避けるときにすら扇子が振られて、蝶の数が増える。

 これなら当たっても死なないフランシス・ヴァーニー・・・・・・いや、壁を貫通する幽霊に剣術が効くとは思えない。

 いっそ、蜘蛛の如く絡み取れれば・・・・・・ん? 蜘蛛?

「触っても貴女なら死なないんじゃない?」

「分の悪い賭けはご遠慮します! 術式生成!」

 さっきまでとは違う魔力弾をフェイクで投射しつつ、術式だけを設置していく。

 私が一生懸命に術式を設置している間に、蝶はそろそろ避けにくくなるくらい部屋を飛び回る。

「術式稼働! 我が謀略にはっまれー!!」

 設置した術式はエーテルや妖力、霊力を魔力に変換する物。蜘蛛の巣のように張り巡らせた術式に蝶はからめ取られるように動けなくなり、そのまま消滅する。

「形勢逆転ですね。私を馬鹿にした代償を払ってもらいましょうか」

 部屋中魔力だらけで幽霊の使う妖力には再度変換しなければならない。だが、変換する分、魔力を使う私の方が早く攻撃できる。まさにチェックメイト。日本風に言うなら詰みと言ったところか。

 

 

 

 私が、幽霊を縛り付けるにはどうしたらいいものかと頭をひねらせていると、部屋の扉が開けられ、見知った家族と知らない金髪の女性が飛び込んできた。

「「何ともなかった!?」」

 二人同時に上げられた声に、私はどうしたものかと頬を掻いた。



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メイド長あらわる

「おはようございますネーヴェお嬢様」

「これもうパターン化してますね!?」

 棺桶を開ければ、また見知らぬ顔。

 今日も私の部屋に華麗なツッコミが決まってしまう。

 

 

 

「・・・・・・新しいメイド長?」

「えぇ、なかなか骨のある娘だったわ」

 お姉さまはそう言ってティーカップに口をつけ、そしてすぐにカップを机の上に戻す。

「咲夜、今度はなにをお茶に混ぜ込んだの? なんだか舌がピリピリと痺れるんだけど」

「あら、レミリアお嬢様? 私は気高いバラのようにまっすぐな女性とこのあいだは言ってくださったのに・・・・・・あんまりです」

「いや、私は紅茶になにを混ぜ込んだか聞いてるの」

 もちろん毒ですわと咲夜はにっこりと答えた。

 私はゆっくりとカップを机に置き、ニコニコしたまま、あっ、この子は大物だと確信した。

 

 

 

「うぅ・・・・・・まだ舌がピリピリするわ」

 べーっと舌を出したお姉さまにクスリと笑いながら、主治医(パチュリー)を呼び出す。

「研究用の麻痺毒が盗まれていたことが判明したわ。凶器はその毒ね」

 差し出された瓶は半分ほど液体が残っており、中に花が漬けられていた。

「それで、元々どのくらい入っていたんですか?」

「瓶一杯まるまるね」

「「ぱーどぅん?」」

 お姉さまと声が重なる。

「瓶丸ごと一杯に入っていたわ」

 私が正気かという目で咲夜を見ると、なぜか頬を染めながら、暖めた毒で紅茶を作りましたと白状した。

「当たり前のように暗殺されかかってるじゃないですか!」

「驚くことなかれ。これが初めてではないのよ」

 お前ほんとに正気かという目で咲夜を見ると、さらに頬を染めた。もう訳が分からない。

 

「まぁ、こんな感じで破天荒な子なの。ぶっちゃけこの子がメイドとして有能なのが唯一の救いであり、一番の絶望ポイントよ」

「・・・・・・頭の理解が追いつきませんが、何で咲夜は紅魔館に?」

 半分理解をあきらめかけてきたが、一番の謎はなぜやってきたかだ。

「私を殺そうとして来たの」

 は? と私は頭が真っ白になる。

「悪の吸血鬼を灰燼に帰す、美少女戦士咲夜ちゃんですわ」

 ばっちりと決めポーズを決める咲夜に頭が痛くなってくる。

「・・・・・・それでなぜお姉さまは雇おうと?」

「一つはおもしろかったから」

 お姉さまは三本たてた指の一つを折り曲げる。

「一つはとても強かったから」

 本当かという視線をパチェに送るとコクリと頷く。

「そして、とてもかわいかったから」

「謎の美女吸血鬼ハンターの面目躍如ですわ」

 ぺこりとお辞儀した咲夜は、紅茶を持ってきますというとその場から消えた。

「良かったわねネーヴェ、咲夜のお茶目なサービスよ」

「瞬間移動ですか?」

 私がそう尋ねると、お姉さまは首を横に振る。

「カップを見てみなさいネーヴェ」

 なんのことかとカップを見ると、冷え切っていた紅茶が湯気を立てている。

 訳が分からないという顔をしていると、お姉さまは湯気を立てる紅茶を飲んで言った。

「時間を操る能力よ。主に使ってるのは停止だけど、空間拡張もできる辺り、加速や減速もできるんじゃないかしら」

 へーと私が呆れたような驚いたような声を上げる。

 

「あら、何ともないわ今回は当たりらしいわ」

「むしろはずれじゃないの?」

「耐毒性の訓練かなんかですか・・・・・・?」

 

 十六夜咲夜、不思議なメイドがやってきた。



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はるうらら

 ぽかぽかとした午後、テラスでのんびりしていると悲鳴が轟いた。

 マンドラゴラ、不法侵入の馬鹿、そして不幸な事故・・・・・・いくつか候補があるが、たぶん今日はそのどれでもない。

「いやぁ、咲夜が来てくれてフランのお風呂作戦は大助かりですねぇ」

「機嫌が悪くなることは元々だし、被害が出ないのはありがたいわ」

 ふふふとお姉さまと笑いあう。

 ただし、この5秒後、私は左腕、お姉さまは頭が吹っ飛ぶことになる。まぁ、アレです。不幸な事故でした。

 

 

 

「めーりん。ちょっと整えていただきたいんですけど」

 雨が降って門番ができず、自室で太極拳をしていると、ネーヴェお嬢様が尋ねてきた。

「いいですよ。どっちですか?」

「こないだ右腕だけ吹っ飛んだせいで少しバランスが悪くなっちゃったんで両方お願いします」

 はーいと返して、ネーヴェお嬢様をベッドの上に寝かせる。

 能力と昔に習った按摩の技能は今も絶賛され、今では主治医的ポジションにある。

 薄手のネグリジェを畳んで横に置いたネーヴェお嬢様は腕を枕に力を抜く。

「それじゃあ、まず把握のために軽く行きますよ」

 どうぞという声を聞いてから、私はネーヴェお嬢様の白い背中に指を這わせる。

「んぅ!」

「冷たかったですか?」

「いえ、こそばゆかっただけです」

 我慢してくださいと笑いながら、作業を続行する。

 背中に触れる指先から魔力を広がるように流し込み、こりの把握とともにわだかまった魔力をほぐしていく。

「あらかたわかったので腕伸ばしてもらえますか?」

 ネーヴェお嬢様は冗談めかしてハーイ先生といいながら腕を伸ばした。

 

 まずは流れが悪い右腕に体の魔力がうまく流れ込むように、手で押しのばしていく。

 腰の辺りは体の中心、ここから押し込んで、砂山を平らにするように、魔力を引き延ばす。

 グッと力を込め背中を腰から首へ、皮を押し上げるように手を移動させる。これを数度繰り返し、次に右腕に移る。まずは軽く揉んで柔らかくし、魔力の通りをよくする。ここは力を込めて押すわけにもいかないので、魔力を押し込むように能力で操作する。

 ネーヴェお嬢様は脱力しきって、腕枕のかわりに私の枕に顔を埋めている。

「魔力はこんな感じですけどどうですか?」

「ん・・・・・・? あぁ、良い具合じゃ」

「じゃ?」

 ネーヴェお嬢様は少し慌てた風になんでもないと言った。

 

 

 

「あれ? Bの棚にあった素材どこに行きました?」

 研究のために必要だった薬草が見あたらず、後ろで本を読んでいたパチェに声をかける。

「大方今頃ハーブティにでもなってるんじゃない?」

 私はその返答に、呆れ顔をしながら振り返った。

「またですか? あれ単品でも毒性はあんまりないと思うんですけど」

 またというのは、最近こういうことがよく起きているからだった。

「えぇ、そうですわ。単品自体では意味がありませんの」

 振り返るとにこにことしながらティーポットとカップをお盆に乗せた咲夜が立っていた。

「急に話しかけるのは心臓に悪いです」

「新しい吸血鬼の退治方です」

「心臓発作で灰になる吸血鬼一号にはなりたくありませんよ。それより咲夜、薬草を返してください」

 こちらですよといつの間にかお盆に乗っていた小瓶を渡してくる。

「咲夜、私にその薬草を使った毒薬の作り方を教えなさい。発見した方法は何となくの思いつき以外だった場合に話しなさい」

 咲夜はティーカップにハーブティーを注いだ後、かしこまりましたと言った。

 



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弾幕式決闘

 大図書館にもテラスにも姉妹の姿が見あたらず、館中をふらふらと探索する。うちの館ってこんなに広かったかしらと思ったが、少ししてからメイド長の能力を活用した、館拡充計画を開始していたことを思い出す。

「こんなに複雑に入り組んでいると、そのうち、ミノタウロスがそこらへんを歩き回るんじゃないでしょうか?」

 空間を延ばしているせいか同じ景色が続き、二つ返事で了承したこの計画も少し修正を加えなければならないと思えてくる。うん、最低でも地図くらいは用意しなくては・・・・・・

 

 しばらく赤の迷宮を迷っていると、一室から笑い声が漏れているのに気づく。私は誰かいるという安心感に引かれそちらへ向かっていく。

「あら、こんにちは」

 扉を開けて目があった相手はこの間お姉さまと部屋に飛び込んできた金髪の紫なお姉さんだった。

「・・・・・・なにしにきたんです?」

「ちょっとした取引よ」

 相手はにっこりほほえんだ。

 

「大丈夫よネーヴェ。本当にただの取引よ」

 和紙を鋏で切りながらお姉さまが言う。その姿はなんだかとてもマッチしていて、犯罪臭がする。

「我々の住む幻想郷は人間と妖怪の絶妙なバランスで成り立っています。現状、一人二人の妖怪が起こす騒ぎなら人間側の博麗の巫女が武力で制圧できます。しかし貴方達のような人数や規模であれば、人間側は圧倒的不利、それではこのバランスは保たれない。いつかは崩壊します」

 そうでしょうと目線で問いかける相手に私はコクリと頷く。

「だからこそ、人間と妖怪がよりよくこの関係を続けるために必要とされるのが対等な決闘方式の策定です」

「それで、その方式を取り入れて騒ぎを起こすのが私たちの役目。理由は程良く人間に不安視されていて、ある程度は統率が取れているから・・・・・・まぁ、断る理由もないし、おもしろそうだしね」

 お姉さまは笑いながら、切り取った紙に絵筆を走らせる。もう幼女の工作にしか見えない。

「・・・・・・話はわかりましたが、お姉さまはさっきからなにを?」

「これはね、弾丸みたいなものよ。詳しい説明は紫がしなさい」

 紫と呼ばれた女性は、空間を裂いて、別の空間から紙の束を取り出す。

「はいはい、任されました。今制作中の物は、私が考えた決闘の方式、弾幕式決闘に必要な物。弾幕式決闘は、お互いに魔力弾、妖力弾・・・・・・何でもいいから弾幕を作るの。ただし、それには条件があって、まず、避けることができること。もちろん当たっても全治一週間くらいの威力でお願いします。そして最後に、弾幕が周りから見て美しいこと」

「馬上試合を思い出すわね。まぁ、あれは最悪死ぬけど」

「華々しさもありますし、そっくりですね。魑魅魍魎が馬に乗って試合とかシュールですけど」

 それで、お姉さまが工作しているカードはなんですか、と問う。

「それは、弾幕を記録したカードです。事前に何枚使うかを決め、そして先にその数を使い切った方の負けです。確かに弾丸とは的を射た言葉ですわね」

 そうだろうとお姉さまはいいながら、私にも紫が出した和紙を渡してくる。

「以外とセンスが必要よ。ほら、作ってみて」

 受け取ってから、いくつか考えてみるが、確かに難しい。

「いかに相手を生かしつつ、誘導するか・・・・・・性格が悪いと作りやすそうですね」

 そう、私が言うと、紫が少しひきつった笑みを浮かべた。



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