バカな筋肉と優等生 (諦。)
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試召戦争編(第1巻)
第一問


初めてなので、拙い部分もあるかと思われますが
温かい目で見ていただけたら幸いです!

感想、指摘などお待ちしておりますので是非お願いします~!


四分咲きの桜が新入生を迎えるように大きく花開く散道。アタシとそのアタシと瓜二つの顔の美少女改め美少年の弟、秀吉はゆったりと歩いていた。

 

「いい朝ね」

「…姉上は気楽でいいのう」

 

肩程の茶髪を揺らして堂々と歩くアタシと対照的に、秀吉は背を丸めて、緑色の瞳に不安を映しながら白線を眺めつつ歩いている。

 

「クラス替えを気にしてるの?馬鹿ねえ、Fクラスに配属されたくなきゃ勉強すれば良かったのに」

 

アタシ達の通う文月学園は、2年から成績順でクラスが振り分けられるようになるのだ。頭の良いAクラスはとても良い環境で勉強が出来るし、逆に頭の悪いFクラスは劣悪な環境での勉強を強いられる。

部活に熱を注ぎ、勉強を疎かにしている秀吉はかなり頭が悪く、恐らくだけど良くてもEかD、悪ければF…といったところだろうか。まあ、完璧美少女のアタシなら確実にAクラスだろうけどね!

 

「確かにそうなのじゃが…ワシは部活の方が大切での。それに、大方あやつらも同じクラスになるじゃろ」

 

と秀吉は嬉しそうに目を細める。あいつら、というのは秀吉がいつもつるんでる馬鹿三人組だろう。確かに成績は大差ないようだし、順当に行けば同じクラスだ。

 

「ま、世の中勉強だけが全部じゃないわ。アタシに迷惑をかけない程度なら好きにしなさい。迷惑かけたら…わかってるわよね?」

「わかっておるから指をポキポキと鳴らすでない姉上!」

 

「おはよう、木下姉弟」

 

そんな話をしながら歩いていると、浅黒い肌の体格のごつい教師ー西村教諭が声をかけてきた。

 

「「おはようございます、西村先生」」

 

趣味がトライアスロンということや、驚異的な身体能力のせいか渾名は「鉄人」。生徒からはとても怖がられていたりする。ちなみにアタシもこの先生は苦手というか怖い。

 

「ほら、受け取れ」

「「ありがとうございます」」

「木下姉はーーよく頑張ったな」

 

手渡された封筒を開けると、中に入れられていた紙に書かれていたのは『木下優子 Aクラス』の文字。…ふう、()()()鹿()に触発されたとはいえ、頑張って勉強した甲斐があったわ。

 

「木下弟。部活に熱心なのは結構だが、勉強も両立出来るように」

「むう…」

 

とふくれっ面の弟の手元を覗き込めば、『木下秀吉 Fクラス』の文字が。

 

「結果が悔しければ、試験召喚戦争を起こすか来年また頑張るかだな」

 

と西村先生はうんうんと頷いた。

試験召喚戦争ー、文月学園はクラスの振り分け方も特殊だけれど、それ以上に注目されていることがもう一つ。ずばり、『試験召喚獣システム』だ。

文月学園のテストは制限時間1時間で問題は無制限。つまり、テストの点数は無限に伸びる。そして、その点数に応じて強さの決まる召喚獣というものが存在する。

その召喚獣を用いてクラスの設備を賭け、戦うのが試験召喚戦争、というわけだ。

 

「…そうじゃの、まあ、クラスメイト次第じゃが」

「そろそろ行きましょう、秀吉。アタシ、早くAクラスの設備が見たいわ」

「わかったのじゃ」

 

「…思うところは色々あるだろうが、各々配属されたクラスで頑張ってくれ」

「「はい(なのじゃ)」」

 

西村先生に見送られ、玄関へと向かうとーー下駄箱の前に、一人の男子生徒が立っていた。

 

春風にさらさらと揺られる赤い髪に、同色の鋭い瞳。整った顔立ちで、下駄箱に投げやりに背を預けている。

アタシ達を見つけると、さっきまでの気怠そうな雰囲気は何処へ消えたのか、こちらにぶんぶんと大きく手を振った。

 

「おはよう!!!」

「おはよう馬鹿」

「おはようじゃ、夏目よ」

 

彼の名前は夏目惣司郎。去年のクラスメイトだ。

 

「…で?テストはどうだったの?まさかアタシに教わっておいてFクラス…なんてないわよね?」

「そうプレッシャーをかけるでない、姉上」

 

去年、というか今年の春休みは夏目たっての希望でアタシが勉強を教えたのだ。もう…この…本能で生きているようなコイツに勉強を教えるのにどれだけ苦労したことか…!!

 

「喜べ優子、また同じクラスだ!!」

 

と、広げた紙に書かれていたのはーー『夏目惣司郎 Aクラス』

 

「「は、はああぁぁぁ!?!?!?」」

 

思わず秀吉と共に素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。三権分立を聞かれて、大真面目な顔で司法、立法、漢方とかのたまったコイツがAクラス!?!?

 

「ちょ、え!?何をしたらそんなに成績が上がるのよ!賄賂!?」

「いくら俺でも泣くぞ」

「もしくはミスじゃ」

「む、義弟(おとうと)まで俺を疑うというのか!」

「妙なニュアンスで弟と呼ぶでない!」

 

 

「ーーコホン。まあ、強いて言うなら愛の力、だな」

 

 

と勿体ぶって咳払いをしてからキラリと瞳を光らせる夏目のおかげで昂ぶっていた気分は冷えた。

 

「アンタは…またそんなことを…」

「そんなこと、とは失礼だな。俺は本気だ」

 

 

「本気でお前のことが好きなんだ、優子」

 

 

真っ直ぐな瞳に射貫かれるような感覚に陥る。

 

「その腕ひしぎ、見事だ!惚れた!!」と告白(?)されてから早1年。その日からコイツは一度断ったにも関わらず、何度も何度も告白してきた。それでも、こういう真面目なトーンで言われるのは慣れない。

 

「…ハイハイ。とりあえず詳しい話は移動しながらしましょう」

「わかった」

「んむ、良いのか夏目」

「無理に返事は求めん、俺が好きで言ってるだけだからな」

「そうじゃったか。…それにしても、本当に何故急に成績がこんなにも上がったのじゃ?去年はワシと同じくらい酷かったと聞いておるが」

「春休みの大半を勉強に費やした…というのが最もな要因だろう。あとはまあ、選択問題はいつも全問当たるし、張ったヤマも全部当たったからな」

「恐るべし野生の勘、ね」

 

前々から妙に鋭いところがあるとは思っていたけど、まさかここまでとは。

 

「それに、優子に教えてもらったし、何よりーー優子と同じクラスになりたかったしな」

「お熱いのう」

「うるさいわよ秀吉」

「あ、姉上ッ…!関節はそれ以上曲がらなッ……な、夏目、助け、!!」

「相変わらず綺麗な曲げ方だな」

「な、夏目えぇっっ!!!!」

 

結局、Aクラスに着くまで余計なことを言い続けた秀吉は、アタシの関節技を受け続け、若干色の変わった腕をさすりながらFクラスのある旧校舎まで歩いていった。



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第二問

たくさんのUAと、お気に入り登録をしてくださった方、ありがとうございました…!拙いながらも頑張りますので、これからもよろしくお願いします!


教室に入ると、まず目に入ったのは壁全体を覆うようなプラズマディスプレイだった。

そこから少し目を離せば、生徒一人一人に用意されているであろうシステムデスクとリクライニングシート一式が見える。更によくよく観察すれば、個人エアコンや冷蔵庫、各種飲料やお菓子なんてものまで用意されていた。

噂には聞いていたけれど、まさかここまで優遇されているとは。

 

「おーい!優子~!…に、あれ?夏目君?」

 

教室の奥の方で、緑色のショートカットに黄色の瞳を爛々と輝かせた女の子ー工藤愛子が手を振っていた。

 

「愛子、同じクラスなのね」

 

と駆け寄ると、愛子も嬉しそうにニコニコ笑っていた。

そして、アタシの後ろで我関せずと設備を眺める夏目に目を向ける。

 

「優子がAクラスなのは予想ついてたけど、夏目君もAクラスなの?」

「ああ、猛勉強したからな」

「ふぅん…夏目君て設備に興味無さそうだな~って思ってたんだけど…あ、もしかして優子と同じクラスになるため?」

「そうだ」

「あはは、相変わらずこっちが恥ずかしくなっちゃうくらいのべた惚れっぷりだね~」

 

と愛子が流し目でこちらを見る。

…アタシだって恥ずかしいんだからやめて欲しいんだけど…!!

 

「夏目のことはもういいでしょ!ところで席は決まってるの?」

「ううん、自由席みたい」

「…ならここにするわ」

「じゃあ俺は隣に」

「落ち着かないからせめて後ろにしてくれない?」

「わかった」

 

その辺の席に適当に荷物を置く。夏目はアタシの席の後ろに荷物を置いた。

 

「……ここ、空いてる?」

 

すると、黒髪の綺麗なロングヘアーの美人が夏目の隣に立っていた。面識はないけどアタシは知っている、うちの学年の首席の霧島翔子さんだ。

噂では色々聞いていたけれど、想像以上の美人に一瞬言葉が詰まる。それくらいに、彼女は浮き世離れしていた。

 

「空いてるぞ」

 

霧島さんの登場により静まり返っていた教室だったが、夏目(バカ)の一声で張り詰めていた空気が緩む。

 

「………隣、いい?」

「いいぞ」

「………ありがとう」

 

ふっと笑うと着席する霧島さん。夏目も用は済んだとばかりに席に座り、適当に設備を弄くり始めた。

 

「ってちょっと待ちなさいよ!!!アンタ、もっとこう…男なら思うことはないの!?!?」

「俺は一途だからな、優子以外に目移りなどせん」

「~~っ!!アンタはまた恥ずかしいことを…!!」

「?違うのか??なら…ハッ!俺を試しているのか!」

「霧島さん相手に??優子ってば大胆~!!」

「ち、が、う!!何でそうなるのよ!!?」

「……大丈夫。私が好きなのは雄二だけ」

「霧島さんまでーーって、雄二?」

 

霧島さんから出た名前に首をかしげる。確か、霧島さんって女の子が好きって聞いたんだけど…雄二、という名前はどう考えても男の名前だ。

 

「霧島さんって、女の子が好きなんじゃないの?」

 

と愛子がアタシと同じことを思ったのか質問していた。

 

「……そんなことない。私は、ずっと雄二が好きなだけ」

「…もしかして、霧島さんが告白を断ってきたのは女の子が好きなんじゃなくて、その雄二って人と付き合ってるから?」

「……ううん、付き合ってない。けど、私は好き」

「「えぇ!?!?」」

 

まさかの片想いという事実にアタシと愛子は声を揃えて驚いてしまう。こ、こんな美人の告白を断る贅沢者がいるなんて…!

 

「え~ねえねえ、その雄二君ってどんな人なの!?」

「……凄くカッコいい」

「他には?」

「……不器用だけど、優しい」

 

アタシと愛子で質問すれば、霧島さんは顔を赤らめつつも答えてくれた。恥ずかしがっている様は、正直女子のアタシから見ても可愛い。

 

「……私だけ話すのも恥ずかしい。……優子と愛子は、何かないの」

 

いくつか質問していると、霧島さんが恥じらいながらそう返してきた。

愛子はアタシと夏目を見て満面の笑みを浮かべる。…う、嫌な予感。

 

「優子と夏目君はーーむぐっ」

「やめなさい!!!」

「俺は優子が好きだ!!」

「ちょっとぉーー!?!?」

 

せっかく愛子の口を塞いだのに!!何で自分から言うのよ馬鹿!!!

夏目の堂々した告白に、霧島さんはもちろんクラス全体までざわつき始めた。

 

「……二人は付き合っているの?」

「俺は付き合いたい…と思ってる!!」

「わざわざ紛らわしく言うんじゃないわよ!この馬鹿の片想いだからね!?」

 

ああもう、何で告白してるコイツより私の方が恥ずかしいのよ!!

 

「……夏目は堂々と言えて羨ましい。…私は」

 

と言うと、霧島さんはうつむき、スカートをくしゃりと握りしめた。

 

「……雄二のことが好き。それなのに…日が経つに連れて、自分の気持ちがまやかしなんじゃないか、雄二の言う通り、勘違いなんじゃないかって思ってしまう……」

 

「あの時のことも、気持ちも鮮明に覚えているのに、雄二の答えを聞くたびに怖くなってーー」

 

 

「なんだ、お前の気持ちはその程度なのか」

 

 

霧島さんの独白を遮ったのは、夏目(バカ)の声だった。

 

「一方通行の気持ちは辛い。俺も同じだからな、よくわかる。…だが、お前がその気持ちを疑うことは、お前を苦しめるだけじゃなくて…相手も疑うことになる」

 

「っ!」

 

 

「あの時好きになった優子も、自分の気持ちを疑うのも、俺は嫌だ。」

 

 

そう言い切るアイツの目は一点の曇りもない、真っ直ぐな光を帯びていた。

 

「……私も嫌」

「だったら信じろ、自分の気持ちと相手を」

「……うん」

「そして相手を信じて自分の思いをぶつける!これが愛!!」

「……具体的に、どんなことをしたらいい?」

「そうだな…手始めに既成事実を作るとか…あとは周りを牽制したり…」

「ちょっともう手始めの段階からジャブ強すぎない?」

「………その後は」

「キス」

「段階飛ばし過ぎじゃない!?」

「…やってみる」

「霧島さん!?!?お願いだから夏目の言うことは参考にしないでよね!?!?」

 

夏目と意気投合した霧島さんは、その後担任の高橋先生が来るまでずっと二人で恋愛談義をしていた。

…夏目からおかしな影響を受けてなきゃいいんだけど。



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第三問

操作を間違えて、書いたものが全て消えたのかと焦りました。自動保存で保存されていて何とかなったのでよかったです、ありがとう自動保存…!!


嵐のような始業式から数日たった昼休み。

スパン、と勢いよくAクラスの扉が開かれ、怒りからか顔を真っ赤にした女生徒が入ってきた。

 

「私達Cクラスは、Aクラスに試召戦争を申し込みます!!」

 

思わぬ宣言にポカンとしてしまうアタシ達だったけれど、その女生徒はどうでもいいのか、霧島さんーー改め代表の方へツカツカと歩み寄った。

 

「午後13:00から開戦で良いかしら?」

 

代表はちらりとクラスを一瞥する。特に不満そうな顔をしている人が居ないのを確認して、代表は頷く。

その女生徒は満足そうな顔をした後、アタシを一睨みして

 

「木下優子…!覚えてなさい!」

 

と吐き捨て、来た時と同じように扉を乱暴に閉めて去って行った。

 

「随分と嫌われているようだが」

 

隣で総菜パンを食べていた夏目がこちらを見る。問いかけの答えが気になるのか、その場にいたクラス全員もアタシの方を見ていた。

 

「知らないわよ、…とにかく、13:00というと後1時間くらいしかないのね、…代表」

「…………わかってる。皆、席に座って」

 

代表がそう言うと、各々元の座席に戻り始めた。…まあ、元々自由席だから、あまり移動する人もいないけど。

アタシはといえば、代表に手招きされて隣に立った。大方、口下手な自分の代わりに仕切って欲しいということだろう。…難儀な代表だけど、クラスを好きに動かせるのは悪くないわ。

 

「Cクラスだからって油断は禁物よ!何か案があれば言って頂戴」

 

そう声を張れば、眼鏡を掛けた如何にも知的な男子ーーもとい、久保利光君が手を挙げた。

 

「ハイ久保君」

「先程のCクラスの女生徒を見た感じ、木下さんに悪意…というか、とにかく良くない感情を持っていることは確かだ。……あまり良い案ではないと思うが、木下さんを囮にするのはどうだろう」

「アタシが囮…??」

「ああ、木下さんが敵を引きつけて、本体が手薄になっているところを撃破…なんてどうかな」

「……………でも、一人で何人も引きつけるのは難しい」

「それに、ボク達が相手の代表を倒す前に優子が戦死しちゃったらキツいんじゃないかな~」

「そうだね…それに、逃げ回るということは木下さんにもそれ相応の体力が必要だし…ごめん、やっぱりこの作戦はやめーー「ちょっと待ってくれ」?夏目君?」

 

「何を話してるのかさっぱりわからん。もう少しゆっくり話してくれ」

 

「「「…………」」」

 

あまりの馬鹿さ加減に、開いた口が塞がらない。

 

「ーー夏目君、僕は木下さんを囮にしようと提案した、これはいいね?」

「ああ」

「だけど、木下さん一人で大量の相手を引きつけなきゃいけないこと、木下さんが戦死してしまうとこの作戦は失敗してしまうこと、それから大勢から逃げ回るにはかなりの体力がいるんだけど、木下さんにはその体力はないから逃げ切れないんじゃないかってことで、成功率がとても低い作戦なんだ」

「だからこの作戦はなしだと」

「そういうことだよ、これを踏まえて何か意見はあるかい?」

「この作戦は、優子が逃げ切れれば成功するのか?」

「そうだね、だけどそれが成功する確率はかなり低い」

 

「なら、俺が優子を抱えて逃げる」

 

「「「……は??」」」

 

「俺は体力があるからな、優子一人くらい抱えて逃げ回るくらい余裕だ」

「ちょ、ちょっと夏目!?」

「ぷっ、あははははは!!!夏目君って本当に面白いね~」

「愛子まで!ふざけてる場合じゃないのよ!?」

「……………でも、悪くない」

「代表…!!でも、アタシはともかく夏目は成績に偏りがあるのよ!?もし苦手な教科で挑まれたらどうするの!?それに…アタシを抱えながら戦闘なんて無理に決まってるじゃない!」

「ならもう一人担ぐか」

「へ?」

「少し雑にはなるが、そこを気にしないなら二人担ぐ。…そうだな、流石に男子はキツいから女子だと有難い」

「ちょ、ちょっと勝手に「ならボクはどう?」あ、愛子ー!?」

「工藤なら問題ない。翔子、どうだ?」

「………………惣司郎が問題ないなら良い。ただ、失敗は許されない」

「わかった。それなら20人程逃走の手助けが欲しい。新校舎から旧校舎のいたるところに待機してもらう形で」

「………構わない。じゃあ、久保を討伐の方に回してその隊を10人で編成したい、良い?」

「僕は構わないよ、…でもそれなら、僕も逃走の方を手伝いつつ待機、本体の様子を見つつ出来そうなら撃破…という感じかな?」

「……………そうして貰えると助かる。残りの20人はAクラスに待機して、護衛や攻撃に専念」

 

アタシを置き去りにして、作戦はどんどん進んで行く。しかも良い感じにまとまって。

 

「…………そうと決まれば人員を考える。成績順で決めるけど、良い?」

 

と代表が辺りを見渡すと、皆一様に頷いた。

 

「じゃあ、代表が決めてる間にボクらも待機してて貰う場所を決めとこっか」

 

と、愛子がシャーペンと新校舎と旧校舎の見取り図を持ってこちらにやって来た。夏目も愛子の後ろから付いて来る。……はぁ、今更後には引けないわよね…。

 

「ーーいい?ひとえに逃げると言っても人数や状況次第ですぐに捕まってしまう場合もあるわね?そのためにはアタシ達が先に有利になるように色々と仕込んでおかなくちゃいけないの。そのためにはまずーー」

 

現在時刻は12:15。

アタシ達の、初めての試召戦争が幕を開けようとしていた。



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第四問

間隔が空いてしまいましたが、よろしくお願いします!


「それではこれより、Aクラス対Cクラスの試召戦争を行います。ーーはじめ!」

 

 

「「「試獣召喚(サモン)!!!」」」

 

 

教室のいたるところで自身の召喚獣を呼ぶ声が響く。そんな中、アタシはといえばーー

 

「あっ!!オイ木下優子が逃げるぞ!!!」

「逃がすな!アイツは絶対に戦死させなくちゃいけねえ!!」

「Cクラス山下清美がーー」

「させるかっ!!Aクラス栗本雷太が受けます、試獣召喚(サモン)!!」

「くっーー」

「よし、今のうちに抜けるぞ」

 

夏目に担がれて逃げていた。

 

「ありがとう栗本君!」

「礼はいいから、早く!」

「わかってる」

 

出入り口付近の戦闘に捕まりそうになるも、栗本君の援護でどうにか教室から出る。

それでも、余程アタシを討ち取りたいのか、何人かは追いかけてきた。アタシ的にはもう少し、人数を引っ張りたいんだけどーー

 

「へえ、ボク達を討ち取るのにそんなにしか人数をさけないんだ」

 

反対側で担がれている愛子がそういうと、Cクラスの人達が顔をしかめた。

 

「Cクラスだからもうちょっと強いのかな~?って思ったけどそうでもないんだね」

「い、言ってくれるじゃないの…!!工藤さーー」

 

「ーーって優子が」

「「殺せぇっ!!!」」

「ちょっとぉ!?!?」

 

確かにアタシ達を追う人数は少しどころかかなり増えたけど!なんかもうアタシが取り返しの付かないレベルで嫌われるんだけど!?

 

「ごめんって、優子。でもCクラスを挑発するなら優子が一番かな~って思ってさ」

「効果てきめんだけど!!アタシの今後も考えてくれない!?」

「だが、この作戦ではお前の存在が要だ。弁明は終わってからにしろ」

「…そうね、幸い元凶はわかっているし」

「「??」」

 

「さて、そろそろ切り替えましょう。…愛子、いける?」

「もちろん!ーー大島先生、許可を!」

「承認します!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()大島先生が召喚許可を出す。

 

「Cクラス遠山平太、木下優子に勝負を申し込みます!試獣召喚(サモン)!!」

「代わりに工藤愛子が受けます、試獣召喚(サモン)!!」

 

その叫び声と共に、二人の足元にはデフォルメされたような二人自身が現れる。

遠山君はオーソドックスな鎧と剣、愛子はセーラー服に大きな斧を持っていた。

 

『Cクラス 遠山平太 VS Aクラス 工藤愛子

 保健体育  120点 VS 405点      』

 

「「「ぶほぉっ!!!?」」」

 

「お、おい、そんなの勝てるわけーー」

「さ、いっくよぉぉっっ!!!」

「ぎゃああああ!!!!」

 

腕輪がキラリと光ると、愛子の斧がバチバチと電気を纏う。そして、その斧で相手を一閃した。

 

「くっ、ひるむな!何人かで戦えば必ず倒せる!Cクラス泉小太郎が勝負を申し込みます!」

「「試獣召喚(サモン)!!」」

「工藤、」

「大丈夫だよ夏目君、ここはボク一人で押しきる!!」

 

力強いその声と共に斧を横に振るうと、横一列で並んでいる相手の首を綺麗にはねた。

しかし、横からすぐに攻撃を振るわれバランスを崩してしまう。だけどまだ操作になれていないためか、上手く持ち直すことが出来ない。そのもたついている間に、Cクラスの猛攻は激しさを増した。

 

『Aクラス 工藤愛子 VS Cクラス 岡島久美

 保健体育  96点   VS 112点      』

 

「よし、一気に畳みかけるのよ!!」

「「おぉーっ!」」

「優子、そろそろ」

「わかってる!夏目、階段を降りて!」

「わかった!!」

 

夏目の大胆な階段下り(全段飛ばしとか死ぬかと思った)に動揺している内に、愛子の召喚獣が相手を肉薄する。

そして、降りてすぐの教室でーー

 

「Cクラス吉岡創路、工藤さんに勝負を申し込みます!試獣召喚(サモン)!!」

 

 

だけど、吉岡君の召喚獣は現れなかった。

 

 

「は!?何でだよ!?!?」

「大島先生、召喚許可の取り消しを!」

「…まさか、干渉!?」

 

干渉とは。先生の張るフィールドの範囲が重なってしまっている時のこと。そしてその重なっている間は、召喚獣を呼び出すことは出来ない!

 

「Aクラス花岡麗、吉岡君に化学勝負を申し込みます!

「同じく横田奈々、鈴木さんに勝負を申し込みます!」

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

「「なっ!!」」

 

そして教室で待機していたクラスメイトがすかさず勝負を申し込む。これで勝負を申し込まれたCクラスの人達は決着がつくまでその場から動けない。その隙に夏目がフィールドを走り抜ける。

 

愛子と先程のクラスメイト達のおかげで、アタシ達を追いかけていた人達はだいぶ減っていた。…そろそろ勝負時ね。

 

「夏目、その階段を上がって」

「わかった」

 

今度は余裕があるからか、それとも飛ばして上るのはキツいのか、一段一段上がっていく夏目。

…これ以上はほんとに、溝が埋まらなそうで嫌なんだけど…勝負のためだから仕方ない。

 

「あーあ、Cクラスって噂通り大したことないのね。アタシ一人討ち取ることも出来ないなんて」

 

と大声で言いながら廊下を歩く。夏目と愛子も横でうんうんと頷く。そんな会話をしながら突き当たりまで来て、振り向くと

 

「随分な言い草じゃない、木下優子…!!」

 

顔を真っ赤にした小山さんと、護衛であろう10人程のCクラスの生徒がそこにいた。

 

「あら、事実でしょう?」

「そんな態度をとれるのも今の内なんだから!」

「…ふぅん?」

「ふふん、いくらAクラス3人でもCクラス10人をいっぺんに相手するのはキツいんじゃない?」

「馬鹿言わないで、Aクラス2人よ」

「泣いていいか」

「あはは…」

「とにかく、逃げ場もないんだから大人しく死になさい!試獣召喚(サモン)!!」

「Aクラス工藤愛子、代わりに受けます!試獣召喚(サモン)!!」

 

『Cクラス 小山友香 VS Aクラス 工藤愛子

保健体育  122点  VS 96点      』

 

「大島先生を捕まえておいた甲斐があったわ!」

「流石にこれじゃあ負けちゃうけど、時間は稼げる!ーー夏目君!」

「任せろ!」

 

 

そう言うと夏目は、アタシをお姫様抱っこしてそのまま窓から()()()()()

 

 

「「「……は???」」」

 

Cクラスの人達の唖然とした声が遠くに聞こえる。

 

「ぎ、ぎゃああああ!!!!」

 

作戦とは言え怖いものは怖く、夏目の首に回した手をキツく締める。夏目から苦しいなんて呻き声が聞こえるけどそんなことは知らない。

 

ーーぼふっ

 

間抜けた音と共に、アタシと夏目は()()()()()()()()

 

「ちょ、ちょっとそんなの反則ーー」

「Aクラス久保利光、Cクラス代表小山友香さんに勝負を申し込みます。試獣召喚(サモン)!」

「えっ、きゃあああ!!!」

 

Cクラス生徒がアタシ達に動揺している間に、近場の階段で待機していた久保君が、小山さんを撃破する。

 

 

「そこまで!勝者、Aクラス!!」

 

 

その声を聞いてアタシと夏目は、校舎に背を預けながら深くため息をついた。



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第五問

投票とコメントをくださったアドリアンブルー様、感想をくださった長座体前屈様、ありがとうございました!お言葉を励みに執筆活動頑張ります…!


「失礼する!」

 

Cクラス戦を終えた放課後。昼休みに続きAクラスのドアが勢い良く開かれた。

そこに立っていたのは、微妙に色の合わないカツラを被り、女生徒の制服を着た

 

「…根本…君?」

 

Bクラス代表の、根本恭二()だった。

 

「ぐっ、俺達Bクラスは、戦争の準備をしている…!!」

「ハァ?戦争の準備も何も、Fクラスに負けてるから無理じゃない」

 

試召戦争のルールの1つ。『負けたクラスは三ヶ月間の宣戦布告の禁止』。彼らBクラスは今日、Fクラスとの戦争に負けたから無理なはずなんだけど…。

 

「いや、和平交渉で引き分けにしたからBクラス…更にいえばDクラスも戦争する権利はあるんだぜ?木下優子サン」

 

根本君の後ろからFクラス代表の坂本君、それから吉井君、姫路さん、土屋君、島田さん、秀吉が顔を覗かせた。

 

「引き分けでも宣戦布告は不可能じゃないかしら?」

「ルールには負けたクラスとしか書かれていないからな、引き分けなら別に出来るだろ?」

「屁理屈言うわね」

「屁理屈結構、屁理屈だって理屈の内。…そうだろ、根本クン??」

 

そう言って坂本君が根本君に意味深に視線を送ると、根本君は苦い顔をした。

…根本君は卑怯だって専ら噂だけど、Fクラス戦の時も何かしたのかしら。ま、この様子だと坂本君には及ばなかったようだけど。

それよりもーーわざわざBクラス代表にこんなことを言わせて坂本君本人もけしかけてくる、となると

 

「…Cクラスと戦わせた後にBクラス、更にDクラスと戦争して弱らせてから戦争しようと言うのかしら?いや、何かーー規約?条件?とかを吞まないと襲わせるぞって脅し?」

「察しがいいな、その通りだ」

「で?その規約だか条件は何かしら」

「Aクラスとの試召戦争の内容を、代表同士の一騎打ちにしてもらいたい」

「…一騎打ち?」

「そうだ」

「…………その提案は安易に呑めないわね。代表が負けるとは思えないけど…貴方達の今までを見れば、何かあるのは明白だわ」

「おっと、警戒してるのか?最底辺如きに」

「ただの最底辺クラスが格上クラスに勝てるとは思ってないわ」

「お褒めいただき光栄だな」

「やめて頂戴、微塵も思ってないくせに」

 

「二人とも、笑顔だけど目が笑ってないね…」

「ちょ、ちょっと怖いです…」

 

失礼ね。

 

「まあまあ、立ち話もなんだしさ、皆座りなよ~」

「せっかくだし、お茶を出そうか」

「悪いな」

「うわぁ~!ソファーふっかふか!!」

「流石Aクラスね~」

 

愛子が苦笑いを浮かべながら中央のソファーを勧め、久保君は自分の席でアタシの分を含めた七人分のお茶を淹れ始めた。Fクラスから来た六人は、設備に感嘆の声を漏らしている。

…何でこんなに緊張感がないのかしら…一応アタシ達、戦争の話をしているのよね…??

 

「…俺、帰っていいか?」

「むしろさっさと帰れ、目に毒だ」

「お前らが着せたんだろ!?」

「…坂本君って…そういう趣味が…」

「勘違いするなよ木下姉、明久の趣味だ」

「ちょ、ちょっと雄二!?確かに根本君の制服が欲しいとは言ったけどーー」

「「「うわぁ………」」」

「待ってええ!?!?これには深い事情があるんだって!!!って聞いてる?皆して目を逸らさないでってばぁ!!!!」

「じゃ、じゃあ俺はこれで…」

「尻に手を当ててガードしないで!?というかそういう趣味があったとしても、根本君や雄二だけはこっちから願い下げだからねっ!?!?」

 

何でだろう、今久保君の目が輝いた気がする。

 

「…とにかく、話を戻すわよ。それで、一騎打ちの件だけどーー「…………雄二の提案、受けてもいい」だ、代表!?」

「…………その代わり、条件がある」

「何だ」

「…………勝った方が、負けた方の言うことを聞く」

 

そういうと、代表はちらりと姫路さんに目をやった。

ああ、雄二ってどこかで聞いたことがあるなと思ったけど…そういえば彼は、坂本()()か。

…Fクラスの人達は坂本君や姫路さん以外、何か勘違いしてるみたいだけど。

 

「…代表がここまで言ったんだし、一騎打ちの勝負は吞みましょう。ただし、代表のみじゃなくてお互いのクラスから五人選出して、勝ち数の多いクラスの勝利…というのはどうかしら」

「わかった、その代わり科目の選択は全部俺達でいいな?」

「ダメよ。今までの戦績を見た限り科目によっては少なくとも、姫路さんと土屋君はAクラスと十分戦える点数がある。…そうね、そっちが3、こっちが2、これでどう?」

「…わかった、吞もう」

「雄二、いいの?」

「こんだけ譲歩してもらえりゃ十分だ」

 

「開戦時刻は明日の…」

「午後にしてもらえるかしら?Cクラスとの戦いの補充が不十分なのよ。ま、不十分なままでも勝ちたいというなら午前中でも構わないけど?」

「いや、俺は世の中学力だけが全てじゃないと証明するのが目的だからな。万全を期してもらわなくちゃ困る。」

「随分と崇高な目的をお持ちなのね。…まあ、それについてはおおむね同意するわ」

「…意外だな、アンタこそガチガチの勉強推奨派だと思ってたんだが」

「アタシが推奨派なら秀吉の奴はとっくにガリ勉よ。……そうね、身近にそういう馬鹿がいるのよ」

「…どういう意味だ?」

「そのままの意味よ。世の中、学力だけが全てじゃないと証明してる馬鹿がいるの」

「ソイツは興味深い、明日会えるか?」

「ええ、いいわよ」

 

脳裏によぎるのは夏目(あの馬鹿)

凝り固まっていたアタシの概念とか常識とか、ーー厚く被った仮面さえも壊した大馬鹿野郎。

 

「話がそれたな、午後からというなら14:30より開戦はどうだ?」

「それなら構わないわ」

「よし、じゃあまた明日、だな」

 

と坂本君が立ち上がると、他の五人も慌ててお茶を飲んで立ち上がった。…まだ熱かったみたいで、吉井君は咽せてたけど。

 

「んじゃ、お邪魔しましたーっと」

「お邪魔しました~。久保君、お茶ありがとう!美味しかったよ!」

「お邪魔しました。お茶までご馳走様でした、とっても美味しかったです!」

「………………邪魔した」

「お邪魔しました~!お茶、ありがとうね!緑茶って初めて飲んだけど、結構美味しかったわ」

「お邪魔したのじゃ、明日またよろしく頼むのう」

 

個々挨拶を残して去っていく六人。嵐のように騒がしかったAクラスは、一気に静まり返った。

 

「………優子、どういうこと」

「どういうって」

「………惣司郎のこと。雄二ならすぐに調べをつけて、対策を打ってくる」

「そうね、坂本君のことでしょう、土屋君の情報網を使って確実な対策を打ってくる。逆にそこが狙い目なのよ」

「……そこが?」

「恐らくあっちが出してくる代表は坂本君、吉井君、姫路さん、土屋君、秀吉。けど、向こうにとって確実に勝てる対策があるのは坂本君と土屋君のみ」

「………姫路は?」

「姫路さんは対久保君用かと…でも二人の学力は互角だから、運頼りに近い」

「………確かに」

「そこで、よ。勝つためには三勝する必要がある。でも確実に勝てるのは二人のみ。だから勝つ可能性を少しでも上げるために、アタシに秀吉を、そして恐らくーー夏目に吉井君を当ててくるわ」

「………どうして吉井?」

「夏目は教科によってFクラスレベルまで下がるものがある。対して吉井君も成績は変わらないけど、長けた操作能力でBクラス数人から逃げ切ったという噂も聞いてるわ。ーーつまり、科目によっては吉井君は夏目に勝てる、そう考えるでしょうね」

「………なるほど」

「それを見越してーー愛子!少し良いかしら」

「はいはーい!どうしたの優子」

「土屋君の情報網に、こういう情報を引っ掛けて欲しいんだけど」

「…!このくらいならお安い御用だよ~!」

「頼むわね」

 

Aクラス対Fクラスの一大決戦の時が、刻一刻は近付き始めていた。



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第六問

決着が近付いてきました。私も緊張しています。


明久side

 

「それではこれより、Aクラス対Fクラスの試召戦争を始めます!」

 

高橋先生の声がAクラス中に響き渡る。ーーそう、Aクラス。僕達は一騎打ち…いや、正確には五騎打ちかな?の勝負のために、この教室まで足を運んできたのだ。

と、無駄に壮大な感じに言ってみたけど、そこまで遠い道のりじゃない。Aクラスは新校舎入ってすぐだしね。

 

「まず一人目の方、前に出てきてください」

 

「アタシが行くわ」

 

高橋先生にそう促され、Aクラスから出てきたのは秀吉とそっくりな顔をした秀吉のお姉さんの、木下優子さん。

よし!雄二の予想通りだ!

 

「頼んだぞ、秀吉」

「うむ、任されたぞい」

「頑張ってね、秀吉!」

 

対するこちらは弟である秀吉だ。秀吉なら、木下さんの弱点とか秘密とかも知ってるだろうし、崩せそうなら崩せ、というのが雄二の指示だ。

 

「では、科目を「少し良いですか?」…はい、どうぞ」

「秀吉?ちょっといいかしら?」

「うむ、構わんが」

 

木下さんが秀吉を廊下に引っ張っていく。

…あれ、何だか雲行きが怪しいような…??

 

『アンタ、Cクラスの人に何を言ったのよ…!!』

『む?ワシなりに姉上を真似て罵倒してみたのじゃがーーあだだだだ!!!!あ、姉上、関節はそっち側には曲がらっ!!?』

『どうしてくれんのよ!!!主にアンタのせいでアタシとCクラスの人達の間に決定的な溝が出来ちゃったじゃないの馬鹿!!!!』

 

ゴキン、と鈍い音が響いた後、廊下が静まり返る。

しばらくすると、がらがらと扉が開き、木下さんだけが戻ってきた。

 

「秀吉は用があるから帰るってさ、代わりの人を出してくれる?」

「いや、うちの負けでいい…」

 

ハンカチで手を拭きながらにこやかに告げる木下さんに、若干青ざめた顔で返す雄二。

 

「わかりました、一回戦はAクラスの勝利です!」

 

『Aクラス 木下優子 VS Fクラス 木下秀吉

 生命活動 WIN   VS LOSE      』

 

とプラズマディスプレイ一杯に映る。

流石にまだ生きてます、なんて言えるはずもなかった。

 

 

「では二人目の方、出てきてください」

 

 

微妙な空気を壊すように、高橋先生が告げる。

 

「俺か」

 

と、赤髪の整った顔立ちの男子生徒が出てきた。

雄二と同じくガタイも良いのに、どうしてこう、雄二は不細工というかゴリラなんだろう…?

 

『『『チィッ………』』』

 

いたるところから妬むような舌打ちが聞こえてくる。ムッツリーニなんて血の涙を流さん勢いだ。

 

「よし、頼むぞ明久」

「うん、任せて」

「………死んでも勝て…!!!!」

 

雄二に背中を押され、ムッツリーニは僕の肩が外れそうなくらいの勢いで僕の肩を掴んだ。

ようやくムッツリーニの手が離れたところで、その赤髪の男子生徒の前に立つ。確かムッツリーニの情報によるとーー夏目君、だったか。

 

「科目は?」

「世界史でお願いします」 

 

夏目君が言うより先に僕が言う。

もうこれで僕は勝ったも同然だ。何故なら、

 

今日の作戦会議で告げられた、ムッツリーニが調べた情報によれば夏目君の成績はーー()()()()()()()()()()()()()F()()()()()()()だからである。

 

それなら人より少し操作が上手いだけの僕でも勝ち目がある。今までは点差が酷かったけど、同等の点数であれば操作に慣れている僕の方が有利だからね!

 

「君には僕の本気を見せられそうで嬉しいよ、夏目君」

「…ほう」

「今まで黙っていたんだけど、」

 

 

そう区切れば夏目君が興味深そうに僕を見つめ、周りの皆もざわめき始めた。

そのざわつきが治まった後、たっぷりと間をとって告げる。

 

 

「ーー実は僕、左利きなんだ」

 

 

『Aクラス 夏目惣司郎 VS Fクラス 吉井明久

 世界史  325点   VS 97点      』

 

 

『『『はぁっ!?!?』』』

 

ちょっと待って!?夏目君って社会系科目の成績はFクラスレベルなんじゃーーってまさか!

 

「俺達を油断させるための偽情報かよクソッタレ…!!」

 

と、Fクラス陣営にて雄二が悔しそうに呻く。

くっ…!そこまで仕込んで来るなんて…もう少し油断してくれたっていいじゃないか!

 

「酷いじゃないか夏目君。苦手な科目はFクラスレベルなんて嘘ーー」

「?現国はそんなもん(Fクラスレベル)だが?」

 

夏目君の一言に、場が一気に静まり返る。

…夏目君って、Aクラスの生徒なんだよね…??

 

「何でわざわざバラすのよ馬鹿!!!!」

「………優子、落ち着いて」

「夏目君だから仕方ないって、ね??」

 

Aクラス陣営では木下さんが絶叫を上げ、代表の霧島さんと昨日の宣戦布告の時にソファーを勧めてくれた女の子が必死になだめていた。…何だか、Aクラスも大変そうだなぁ…。

 

「…とにかく、この点差だし、僕はフィードバックで痛みも付いてくるから手加減してもらえると」

「それなら安心しろ、あまり苦痛を与えないようにーー」

 

 

「一撃で仕留めてやる」

 

 

鬼か。

 

 

「っとぉ!?」

 

宣言通り一撃で仕留めるつもりなのか、自分の倍の大きさはあるだろう鉈を振りかぶりこちら目がけて振り下ろしてくるのを慌てて避ける。

冗談じゃない!あんなのまともに食らったら補習室どころか天国行きだ!

 

「何故避ける」

「いや避けるよ!?真っ向から鉈なんて受けたら痛みで死んじゃう!!!」

「この点差ならどう足掻いても死ぬだろ」

「うんそうなんだけどさぁ!」

 

「ーーまあ確かに、鉈は痛いか」

 

そう言うと夏目君の召喚獣は、武器を投げ捨てた。

…へ?よくわかんないけどーーこれってチャンス!?

武器を捨てて丸腰の夏目君の召喚獣目がけて木刀を振るう。これで倒せはしないけど、こうやってダメージを蓄積させていけば、いつかは!

 

だけど、僕の召喚獣は二度目の攻撃は()()()()()()()

 

何故ならーー夏目君の召喚獣が、僕の召喚獣の木刀を掴んでいたから。

 

「腹に力入れとけ」

 

そう言うと、夏目君の召喚獣が思い切り、僕の召喚獣に腹パンした。

 

「ぐっふぅ!!!!」

 

鉈でやられるより遥かにマシなんだろうけど、殴られた箇所がジンジンと痛んでぐらぐらと目眩がする。

あまりの痛みに薄れる意識の中、最後に見たのはーー

 

『Aクラス 夏目惣司郎 VS Fクラス 吉井明久

 世界史  297点   VS 0点       』

 

粒子となって消えていく、僕の召喚獣だった。



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最終問題

最後の話、ということで原作風に最終問題に。清涼祭はまた、第一問からのスタートにしたいと思います。
1000UA突破、そして30件以上のお気に入り登録本当にありがとうございます!とても嬉しいです…!


明久side

 

「ー…ん…?」

 

遠くから聞こえる喧騒で目を覚ます。

…確か、僕らはAクラスと試召戦争をしていて…僕は夏目君と戦って…それで…??

 

「ってここはどこ!?」

 

ガバっと()()()()()()()()()()。さっきまでAクラスにいたはずなのにどうして僕はベットに寝かされてるの!?というか戦争は!?!?

 

「目を覚ましたようじゃの、ここは保健室じゃ」

「大丈夫?アキ」

 

すると、左右に掛けられていたカーテンの左側が開き、秀吉と美波が顔を覗かせた。

 

「ぼ、僕は大丈夫だけど!それより戦争はどうなってるの!?」

「落ち着きなさい、アキ。今は土屋と…工藤、だったかしら?の戦いが終わったところよ。ーー夏目!」

「はーい」

「!?!?夏目君!?」

 

美波に呼ばれて顔を出したのは、僕を沈めた張本人である夏目君。手にはタブレットを抱えていて、そこに映し出されていたのは、

 

『Aクラス 工藤愛子 VS Fクラス 土屋康太

 保健体育  0点  VS 487点      』

 

工藤さんの召喚獣が、粒子となって消えていく姿だった。

 

「む、工藤も強かったが、ムッツリーニには敵わんかったようじゃの」

「良かったわ、首の血管一つ繫がったわね」

「それを言うなら腕の血管じゃないか?」

「…首の皮一枚じゃ、二人とも…」

 

何でだろう、夏目君とは凄く波長が合う気がする。

 

「って、これ何回戦目?」

「康太と工藤が三回戦だから、次が四回戦だな」

「ってことは瑞希と久保ね…一番心配だわ」

 

と、美波が落ち着かない様子で画面を見る。

そういえば、雄二の話だと姫路さんと久保君は互角なんだっけ…だから僕が夏目君を倒して少しでも負担を減らしたかったんだけど、そうもいかなかったからなぁ…。

 

「姫路さん、頑張れ…!」

 

画面に映し出されているのは、中央に立つ姫路さんと久保君の姿。

 

『『試獣召喚(サモン)!』』

 

二人がそう口にすると、二人の足元に魔法陣が広がり、その中心から召喚獣が現れる。そしてその傍らに、お互いの点数が表示された。

 

 

『Fクラス 姫路瑞希 VS Aクラス 久保利光

 総合科目 4409点 VS 3997点      』

 

 

 

『『『なっ!?!?』』』

 

その点数の高さに息を吞む。この点数、次席どころか恐らく首席の霧島さんレベルなんじゃ!?

 

『姫路さん、いつの間にそんな点数を』

『………私、このクラスの皆が好きなんです。誰かの為に一生懸命になれる皆がいる、このFクラスが』

『…Fクラスが好き?』

『はい。だから頑張れるんです』

 

姫路さんはそう、嬉しそうに笑うと久保君の召喚獣を一閃した。

 

Fクラスが好き。その言葉がじわじわと身に染みてくる。嬉しくてにやける顔を必死に手で覆う。

普通なら彼女はAクラスで、高嶺の花で、もう関わりなんてないと思ってた。

だけど彼女はFクラスに来て、一緒に戦ってくれて、更にこのクラスが好きだから頑張れる、なんて。僕としては嬉しくないわけがない。

 

『…勝者、Fクラス』

 

姫路さんの驚異的な点数の上がり方のせいか、それともFクラスがAクラスと渡り合っている事実に驚いているのか、高橋先生の声は少し振るえていた。

 

『最後の代表、前へ』

 

高橋先生に促され、Aクラスからは霧島さんが、そしてFクラスからは雄二が前に出て中央に立つ。

 

『科目はどうしますか?』

『教科は日本史。内容は小学生レベルで、百点満点方式だ』

 

雄二の言葉にAクラスの人達がざわめく。

 

『…わかりました、少々待っていてください』

 

高橋先生はそう言うと、Aクラスの教室から出て行った。恐らく、問題を作るためだろうか。

 

「…小学生レベルの問題で、百点満点方式…??これで翔子に勝つつもりか?」

「雄二が言うには、昔に霧島さんに大化の改新の年号を間違えて教えたらしいんだよね。それで、霧島さんは一度覚えたことは忘れない…らしいから、今でもそう思ってるだろうって」

「確か大化の改新の年号と言えばーー794(鳴くよ)ウグイス大化の改新、だったか」

 

すごい、僕と同じ間違い方してる。

 

645(無事故)の改新で645年じゃ、夏目よ」

「……巧妙な罠か!」

「罠も何も自分で引っかかっただけじゃない!」

 

という美波のツッコミに冗談だと笑う夏目君。

…その割には目が真面目だったけど、一体どこまでが冗談なんだろう…。

 

『ーーそれでは試験を開始します、始め!』

 

そんな話をしている間に、雄二と霧島さんの勝負は始まったみたいだ。

プラズマディスプレイには、二人の問題用紙に書かれている問題が大きく映し出されていた。

 

何問かの問題が映し出されてーー

 

 

《  》年 大化の改新

 

 

『『『来たぁっ!!!!』』』

 

とうとうその問題が出てきた。

 

「アキ、木下!」

「うむ、これでワシらの机はーー」

 

「「「システムデスクだ!!!!!」」」

 

 

『日本史勝負 限定テスト 100点満点

 Aクラス 霧島翔子 97点 VS Fクラス 坂本雄二 53点                      』

 

 

僕達の机が、みかん箱になった。

 

 

「……そういえば、霧島が百点を取れないと言うだけで、雄二が百点を取れる保障はなかったのう」

「ゆっ、雄二いいいぃぃぃっっ!!!!!」

「あっ、コラ待ちなさいアキーっ!!」

 

僕は勢い良く廊下に飛び出し、Aクラス目がけて走り出した。あの馬鹿(坂本雄二)を処刑するために。

 

明久side out

 

 

 

「ーー言い訳は?」

「いかにも俺の実力だ」

「いい度胸だよぉし死ね!!!!!」

「落ち着きなさい、アキ!アンタだって百点取れないでしょ!?」

「それは否定しない!!」

「そ、そこは否定して欲しかったです…」

 

凄まじい叫び声を上げながら、夏目によって保健室へ連れて行かれた吉井君が戻ってきて、Aクラスは阿鼻叫喚の絵図となる。

暴徒と化した吉井君を止める島田さんと秀吉、それを苦笑いで、でも何処か楽しそうに見つめる姫路さんを尻目に、夏目がこちらに戻ってきた。

 

「おかえり、夏目君」

「ああ、ただいま」

「…ねえ、夏目。大化の改新は何年に起きた出来事?」

 

愛子が軽く声をかけた後に、念のため尋ねる。

…大丈夫よね…??いくらコイツでも、小学生レベルの問題は解けるわよね…???

 

「645年だろう?」

「…良かったわ…アンタが小学生レベルの問題もわからない馬鹿じゃなくて…」

 

 

「ああ、ーーさっき教えてもらったからな」

 

 

「もうヤダこの馬鹿!!!!!!!」

 

何でコイツAクラスにいるの!?!?学園最高峰のクラスにこんな馬鹿いてもいいの!?!?!?

 

「……………雄二、約束」

 

そんな喧騒を破ったのは、静かな代表の声だった。

座って力なく項垂れている坂本君を見下ろしている。

 

「…約束だからな、煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

と、観念したように答えた。

吉井君は代表と姫路さんを何処か期待するような、でも残念なような目で交互に見ている。

土屋君に至っては、鼻血をダラダラ流しながら入念にカメラを拭いていた。

…まだ誤解を解いてないのかしら、坂本君たら。

 

そして姫路さんを一瞥した後、改めて坂本君に向き直ると小さく息を吸い込んで、静かな声で告げる。

 

 

「………雄二、私と付き合って」

 

 

「まだお前は諦めてなかったのか」

「……諦めない。私はずっと雄二が好き」

「だから、その気持ちは勘違いだと言ってるだろ?」

「……勘違いなんかじゃない」

「………はぁ」

「……とにかく、約束は約束。今からデートに行く」

「は!?え、おい、ちょ、ちょっと待ッーー」

 

ポカーンと呆ける各々のクラスメイトを置き去りにしたまま、代表に引きずられて退場する坂本君。

 

「………お互いの代表もいないわけだし、お開きにしましょうか」

「………そうね、ほらアンタ達!ボーッとしてないで帰るわよ!ハイ文句は言わない!暴れるなら明日坂本が来てからにしなさい!」

 

アタシがそう声をかけると、島田さんがクラスメイト達を促す。…何だか不穏な話が聞こえたけど、大丈夫かしら…??

 

「優子、」

「行っておくけどデートはしないわよ」

「…」

 

そう釘を刺せば、夏目はぶすくれた顔をした。

その間抜けな顔が面白くて、ついつい笑ってしまう。

 

 

「……ま、奢ってくれるならファミレスくらい付き合ってあげるわ」

 

 

「…!ーーありがとう」

 

 

夏目は見ているこちらがドキリとしてしまいそうな、心底幸せそうな笑みを浮かべた。




ということで、第一章完結です!
ここまで頑張れたのも、お気に入り登録してくださった方や投票してくださった方、感想をくださった方々等々様々な読者の方々のおかげです、本当にありがとうございました…!

この後は、ちょっとしたお知らせ(出来れば小話も)を挟んでから清涼祭編に入っていこうと考えています…!今後ともよろしくお願いします!


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幕間
お知らせ


少しでも目を通していただき、また、協力していただけたら幸いです…!


さて、今回はお知らせです!お知らせ…というより、お願いに近いかもしれませんが…

 

 

Aクラスのクラスメイト達を募集したいと思います!

 

 

二度に渡る試召戦争を、バカテスを読みながら書いていて思っていたんです…Aクラスのクラスメイトで明かされている名前が、圧倒的に少ないことを!

なので皆さんに考えていただけたら嬉しいな、と思ってこういう形をとらせていただきました!

 

考えていただく上で、少しだけ守っていただきたいことがあります。

 

・チート点数、チートな腕輪能力持ちのキャラクター

(申し訳ありませんが、上限は800点で600点以上の点数を取れる場合は一教科のみとさせていただきます)

 

・特定のキャラクターに強いヘイトを持つキャラクター

 

上記2点(どちらか片方でも)を満たすキャラクターの応募はおやめください!

 

理由としては、この作品のAクラス代表は霧島翔子さんであること、それからアンチ・ヘイトが中心の作品でないことです。この二つを守っていただければ、どんなキャラクターでも大歓迎です~!

 

また、キャラクターを応募する上で書いて欲しい点は以下の通りです。

 

・名前(振り仮名も)

・性別

・大まかな容姿(イメージしている版権キャラクターがいれば、そのキャラクター名と作品名を書いていただけたら有難いです)

・成績(得意科目、苦手科目やその点数、また、得意でも苦手でもない科目の点数、総合科目の点数など)

・召喚獣について(400点オーバーを取れる教科がある場合は、腕輪の能力もお願いします)

・性格

 

キャラクターを送っていただく場所は、活動報告の方にそのような場所を設けさせていただきますので、そちらにお願いします!

 

お一人様何人送っていただいても構いません。

 

締切は人数がある程度集まり次第、締め切らせていただこうと思います。

 

出演の順番が前後してしまったり、出番に偏りが出てしまう場合があるかもしれませんが、なるべく均等になるように気をつけていこうと思います!

 

何か質問ありましたら、活動報告でも感想欄でもご自由にお尋ねくださいませ!

 

 

まだ字数が余っているので、下記は夏目についてまとめて(?)みました!字数稼ぎで長めになっていますが、下を参考に書いていただければ有難いです…!

 

 

名前:夏目 惣司郎(なつめ そうしろう)

性別:男

容姿:赤髪に同色の瞳で、ガタイも良く整った顔立ちをしている。

成績:Aクラス下位レベル。選択問題の多さで良かったり悪かったりするが、おおよそ150点~200点程。総合科目は2000点~2000点後半くらいの点数。

得意科目は地理、日本史、世界史の社会系科目。平均300点前後で良い時は400点を越える時も。

苦手科目は現代国語、古典、英語の言語系科目。平均70点程。良い時でも100点越えるか越えないかのレベル。

召喚獣:軽め西洋鎧を着用しており、召喚獣自身の倍の大きさはある鉈が武器。

腕輪の能力は、ある程度の点数を消費することにより、一撃を倍の威力にすることが出来る。

性格:本能のままに生きる馬鹿。かなりの自由人。優子に惚れていて、毎日のようにアプローチしてはスルーされるのが常である。勘が鋭く、選択問題は全問正解したり、張ったヤマは必ず当てたり…この勘と努力でAクラス入りをした特殊な人物でもある。




次回は小話か清涼祭を予定しています!
また、送っていただいたキャラクターは早ければ清涼祭の辺りから使わせていただく予定です。是非応募の方よろしくお願いします!

11/7 ご指摘をいただき、送っていただく場所は活動報告のみとさせていただくことにしました。感想欄での応募は無効となります。ご了承ください。


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アタシと財布と魔法少女

クラスメイト募集、たくさんの応募をありがとうございます…!もしかしたら来ないんじゃないか、なんて不安になっていたのでとても嬉しいです!
まだまだ募集していますので、よろしくお願いします~!


試召戦争も終わってしばらくたった放課後。

この日はアタシ、夏目、土屋君、秀吉と珍しい面子で家路についていた。

 

「…土屋君と夏目って、仲良いのね」

 

ふと思ったことを呟くと、秀吉が確かにと隣で頷く。

一方で、土屋君と夏目はきょとんとした顔をしていた。

 

「二人とも正反対な性格だから意外だなって思ったのよ」

「そうかの?ワシは似ていると思うが」

「……………何処がだ」

「本能に忠実なところじゃな」

「「確かに」」

「……………誠に遺憾…!!」

 

不服そうに首を勢い良く横に振り、否定する土屋君。

秀吉に言われてみればそうだ、土屋君は自分の煩悩に正直だし、夏目は本能に正直。

…まあ土屋君的にはあまり同じにされたくないみたいだけど…気持ちは察するわ。

 

「……………というか、俺からしたら木下姉や秀吉の方が意外」

「アタシは単にクラスメイトよ」

「姉上が良く家に連れてくる内に仲良くなっての」

「康太、シャーペンは文房具であって俺の頸動脈を刺す凶器じゃないぞ」

「…………木下姉妹の家に上がるなんて万死に値する……!!!!(ダバダバ)」

「ワシは弟なんじゃがの…」

「何で家に上がったってだけでここまで鼻血が出るのよ…」

 

アタシと夏目はそんな仲じゃないってのに。

 

「む、アレは」

「えっちょっと夏目!?待ちなさいよ!」

 

そんな話をしていると、突然夏目が店に向かって走り出した。その後ろを慌てて追いかけるとーー

 

 

夏目は、女子幼児向けの魔法少女のフィギュアガチャを見ていた。

 

 

「「「うわあ…」」」

 

ドン引きしたアタシ達は悪くないと思う。

 

 

「ふむ…一度くらい…」

 

 

しかもやるつもりらしい。

 

「…………アレは、毎週日曜朝9:30から放送している『魔法少女☆スマイルキューティーボンバーハート』……幼児向けのアニメにしては重たい内容と無駄にこだわった変身シーンが幼児と一部大人に大ウケしていて」

「土屋君絶対見てるわよね?その解説は見てるわね??」

「む、そういえば明久が録画しておったのう」

「吉井君まで!?何なの!?最近の男子高校生は魔法少女ブームなの!?!?」

 

なんて言ってる間に、夏目はもう回したのかカプセルをガチャガチャと乱雑に開けていた。

 

「……………敵幹部のガンクロニティブラックか…」

「うーん、スマイルレッドハーティクルピンクが欲しかったんだが」

「どれ、ワシもやってみようかの」

「ああ、頼む」

 

今度は秀吉がガチャガチャを回す。コトン、という軽い音と共にカプセルが姿を現した。

 

「これは…ゴールデンインフィニティアブラックレボリューションだな」

「な、なによそれ」

「………………敵ボスの従兄弟の親戚の弟の友達のお兄さんの妹の同級生で主人公の義理の妹」

「他人かと思ったら他人じゃないのね」

「ぎりぎり身内じゃの」

 

土屋君も気になりだしたのか、無言でガチャガチャを回しだした。またコトン、と軽い音と共にカプセルが出てくる。

 

「劇場版限定キャラクターのスマイルスカイリーシルバーブラックじゃないか、レアだな」

「…………流石劇場版、スカートのたなびきにこだわりを感じる」

「映画もやってたのかの?」

「一作目でコケたがな。しかしスマイルレッドハーティクルピンクがスマイルブルーキューティクルピンクをかばったシーンは胸熱だった…」

「…………思わず泣きそうになった」

「んむ?スマイルブルーキューティクルピンクとはこやつかの?二種類あるようじゃが…」

「「何だと!?!?」」

 

…ああ、もう!

 

「?優子もやるのか?」

「しょうがないじゃない!アンタ達のせいで気になってきちゃったのよ!」

 

お金を入れて乱暴に回す。少し錆び付いているのか回りは良くなかったものの、軽快な音と共にカプセルが出てきた。

さてさて、中身は…っと。

 

「………………これは……」

「…姉上…見た目はその、アレじゃがきっとレアだと」

 

「下っ端だな」

 

「うわああああん!!!」

 

返して!!アタシのデレと200円を返してぇっ!!!

 

「ま、まあまあ姉上!そうじゃ、もう一度やってみると良い!ワシの200円も貸そう!」

「………………一度出してしまえば、もう出てくる可能性は限りなく低い」

 

秀吉に200円を渡されてもう一度錆び付いていたハンドルを回す。また軽快な音を響かせ、カプセルが出てきた。

今度は慎重にカプセルを開ける。さて、中身は…

 

パカッ(カプセルを開ける音)

カチャ…(開けた衝撃で下っ端がカプセルの淵にぶつかった音)

パキン!(アタシが下っ端を地面に叩きつける音)

 

「落ち着け優子、下っ端に罪は無い」

「離しなさい夏目!!コイツはアタシをバカにしてるのよ!!!」

 

何が腹立つって黒いマスクに覆われた顔が営業疲れしてるサラリーマンみたいに疲れてることよ!!!

何よその顔!まだショッカーの顔の方が生き生きしてるわよ!!!

 

「もう嫌ぁっ!夏目、そのギャル娘でいいから交換して!!」

「だが断る!敵幹部はレアだから二体分の価値はある、簡単にはやれん」

「仕方ないわね…持ってけドロボー!」

「下っ端二体はいらん」

「何が不満なのよつぶらな瞳が可愛いでしょほら!!交換しなさいよ!!」

「先程まで叩きつけておったのに、とんだ手のひら返しじゃのう」

「…………………新手のチンピラ?」

 

この後…結局、財布がすっからかんになるまで回し続けたわけだけどーーどうしようもない虚無感と多大な後悔に襲われるのは、また別の話。

 



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清涼祭編(第2巻)
第一問


応募していただきましたクラスメイトの方々、とても楽しく書かせていただきました!Fクラスに負けず劣らず、濃いクラスになったとしみじみ思います…。


桜が散り始め、新緑が芽吹き始めた頃。

アタシ達の通う文月学園では、年に一度の文化祭ーー別名『清涼祭』の準備が動き出していた。勿論それは、アタシ達Aクラスも例外ではなく。

 

「ーーそれじゃ、清涼祭の出し物を決めます。何か意見がある人は挙手!」

 

ざわざわと騒がしい教室内で声を張る。すると、すぐにちらほらと手が上がりだした。流石文化祭、張り切ってる人が多いのかしら。

 

「じゃあ森兵さん」

 

適当に目についたクラスメイト、森兵恵さんを指名すれば、彼女は意気揚々と立ち上がった。

 

「やっぱり文化祭といえばお化け屋敷でしょ!!暗がりの中、彼と二人きりで縮まる距離!!『こわ~い』なんて腕を掴めば『俺に捕まってろよ…』とか頭ぽんぽん撫でられてたりしちゃって…最高のラブロマンス!ビバお化け屋敷!!!フゥーー!!!!」

「夏目」

 

一人盛り上がる森兵さんを軽く流し、アタシの横で書記を務める夏目に声をかける。

しばらくパソコンをカチカチと操作すると、ディスプレイに『お化け屋敷 「ラブロマンス」』の文字が表示された。

…何書いてんのよこの馬鹿は。

 

「はい次、」

「はいはい、はーい!!」

「…樋野くーー「無視は良くないですよ木下さん!こっち向いて木下さーん!!!」…じゃあ岡田さん」

「はいっ!」

 

元気良く立ち上がったのは、栗色の髪を腰の辺りまで伸ばし、碧眼をキラキラと光らせる美少女もとい問題児(女版夏目)ーー岡田ミーナさんである。

 

「私が提案するのはズバリ、ウェディング喫茶ですよ!」

 

「「「…ウェディング喫茶…??」」」

 

って何かしら?お客さんの服をウェディングドレスとかタキシードに着替えさせるとか…??よくわからないわね…。

 

「?皆さん知らないんですか??ウェディング喫茶っていうのはウェディングドレスで接客する喫茶店なのです!ウェディングドレスを着るのは女子の夢ですよねっ、ねっ?」

「…………………やりたい」

「代表!?」

「…………………代表権限で決める、出し物はウェディング喫茶で決定…!」

「ダメよそんなの!!」

 

「…なぁ、一つ良いか」

 

アタシ達のそんなやりとりを遮るように声をかけたのは、黒に近い焦げ茶色の髪でやや童顔気味の男子生徒ーー横田弘君だ。

 

「何かしら」

「結婚は人生の墓場って言うだろ、女子はともかく男子には重いんじゃないか?」

「そんなことありません!女の子にとっては永遠の憧れなんですよ!?男性の方も微笑ましく見守ってくれるはずです!」

「…本音は?」

「文化祭のノリで既成事実を作りあげようかと」

「やっぱりかこの野郎…!!」

「いだっ!鳩尾にグーパンは酷いですよ弘さんっ!!」

 

チラリ、と代表に目を向ければ、代表もその気だったのか完璧岡田さん側だ。ーーと、なると。

 

「?どうした優子」

「…いや、アンタもどうせこれやりたいんでしょ?」

 

我関せず、の体で横田君と岡田さんの漫才(いつもの)を見ていた夏目に声をかける。

…わかってるわよ、どうせアタシにウェディングドレスを着ろって言うんでしょーー「いや、俺は反対だな」…え?

 

「どうしてですか夏目さん!貴方なら食い気味に賛成してくれると思っておりましたのに!」

「…………………惣司郎、なんで」

 

これは岡田さんと代表も予想外だったみたいで、夏目に詰め寄っている。

 

 

「人生で一番の晴れ姿をこんなお遊びで見たくないからな」

 

 

「「おぉ…………………」」

 

「ちょっやめてよこの空気凄い気持ち悪いでしょ!!!」

 

夏目の珍しい真剣な様子に湧くクラスメイト達。

だからアタシと夏目はそんなんじゃないっていうのに!!

 

「ああもう次!これで最後ね!!ーー樋野君!」

「おう」

 

最後と言われ悠々と立ち上がったのは、黒髪を肩の辺りまで伸ばし、少し鋭い目つきをした男子生徒ーー樋野篝(ひのかがり)君。

 

「定番中の定番だけど、メイド喫茶とかーー」

 

「Oh,Japaneseメイド喫茶!?ステキヨ、ワタシ是非やりたいネ!」

 

樋野君の提案に食い気味に賛成したのは、目の覚めるような明るい金髪のショートカットに、シンプルなカチューシャをつけた女生徒、ジェシーことジェシカ・ブラウン。

机から乗り出して樋野君をキラキラとした瞳で見つめていた。

 

「わかってくれるか、ジェシー!」

「モチのロンヨ!メイド喫茶はJapaneseが誇る名文化!こんなところで体験出来るなんてとてもウレシイネ!」

 

と、お互いの手を取り合う二人。

そうか、これがーー

 

「洗脳、か」

「オイコラ惣司郎…!!」

「…あの、樋野君…メイド服が好きなことはどうこう言わないから…クラスメイトをおかずにするのはやめた方が…」

「なんて誤解してんだよ!?別に俺は女子のメイド服が見たいからメイド喫茶を提案したんじゃなくて、「でも見たいんでしょ」……………それは否定しない」

 

 

「…一応案だから書いておいてくれる?」

「わかった」

 

夏目がカチカチと操作すると、ディスプレイには『メイド喫茶 「性欲の捌け口」』ーーってちょっと待った。

 

「流石にそのタイトルはやめなさい」

「む、ダメか」

「ダメに決まってるでしょ!?」

「そうよ、もっとこうーー「お帰りくださいませご主人様っ♡」「美少女メイドとお呼び!」とかーーって余計な口挟みしないの愛子と半田君(馬鹿二人)!!!」

 

教室の奥の方で、愛子と黒髪で女顔をした男子生徒ーー半田洋介君がニヤニヤとこちらを見ていた。

軽く殴ってやろうかと身を乗り出せば、二人の近くにいた茶髪のショートカットに凛々しい瞳をした女生徒、戦国有志さんが軽く拳骨で二人を殴る。

いつものことだけど、ナイスアシスタント!流石戦国さん!

 

「ふむ…こうか!」

 

Aクラスの数少ない良心に感動していると、夏目がそう言ってエンターキーを勢い良く押した。タァン!と力強い音と共に表示されたのは、「メイド喫茶 『ご主人様とお呼び!』」の文字。

…何か違う気がするけど、もういっか……。

 

 

「ハイ、じゃあこの三つの案から出し物を決めます!やりたいものに手を上げてください!」

 

 

ーーこうしてとった採決の結果、アタシ達のクラスはメイド喫茶をやることになった。




まだまだ出ていないクラスメイトの方々も沢山いるので、今後の話でどんどん出せるように頑張ります!
まだまだ応募受け付けしておりますので、是非よろしくお願い致します~!

‐追記‐

出演キャラクター【()内は作者様】
・岡田ミーナ(倶利伽羅峠3号様)
・横田弘(同上)
・樋野篝(kitto‐様)
・半田洋介(同上)
・戦国有志(同上)
・ジェシカ・ブラウン(ベトンベトン様)


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第二問

いつもの倍の字数になっていて戦慄しています。書いていてとても楽しかったので後悔はしていません。


「頼む!優子!!」

「絶対イヤ!」

 

そろそろ文化祭の日取りも近くなってきたこの頃。

Aクラスも勿論準備の真っ最中なんだけどーー皆手を止めてアタシ達の方を見ている。理由は簡単、

 

夏目がメイド服を片手にアタシに詰め寄ってるから。

 

事の発端はつい10分前。

アタシはクラスを指揮していて、主に全体の管理なんかを中心に動き回っていた。だから、当日にホールに入るのかキッチンに入るのかをまだ決めていなかったのだ。

それでどちらにつくかという話になったんだけどーー当然アタシはメイド服なんて来たくなかったのでキッチンを希望。そしたら夏目がアタシのメイド服姿が見たいと駄々をこね、この状況である。

 

「確かにアタシなら悪くないとは思うけど、そんなの着てお帰りなさいませぇ~とか絶対イヤよ!アタシの沽券に関わるわ!」

「優子の沽券なぞ知らん!俺はお前のメイド服が見たい、それだけだ!!」

「知らんって何よアンタ!アタシがどんだけ頑張って優等生のふりして内申上げてると思ってるの!!こんな格好してたら秀吉(馬鹿)と同類の女にされるじゃない!!」

「いや、文化祭に全力で取り組む優等生に見えるかもしれん!」

 

ああ言えばこう返してくる夏目。何でこんなことに関しては凄い食いついてくるのよコイツ…!この熱量を勉強に向けなさいっての!

 

「大体、ウェディングドレスは嫌で何でメイド服は見たいのよ…!!」

「それはそれ、これはこれ、だ」

「開き直ってんじゃないわよ!」

 

…もう、こうなったら…!!

 

「…………………はぁ、もういいわ、着ましょう、着れば良いんでしょう?」

「優子…!」

 

「但し、アンタもメイド服を着るのよーー夏目」

 

肉を切らせて骨を断つ。

流石にこの条件ならコイツも断るでしょ!女装なんてコイツがやるわけ「わかった!」

 

な ん で よ !!!

 

「いや何でよ!?!?何でそんな速攻で着る選択が出来るの!?!?何!?アンタに男としてのプライドはないの!?!?!?」

「目的のためならプライドなど安いもの!」

「鳥肌たってるじゃない!体は思いっきり抵抗してるじゃない!!」

「武者震いだ!!」

「絶対違う!!!」

 

「でも、夏目みたいな大柄な男が着れるメイド服なんてないんじゃないかな?」

 

アタシ達の会話を遮るように発言したのは、橙色の髪に同色の瞳を携えた不健康そうな男子生徒ーー本田樹君。

 

「そ、そうよ!アンタ用のサイズのメイド服なんてないわ!残念だけど大人しく諦めてーー「大丈夫だ、ツテはある!」え、って何処行くのよ夏目ーー!!!!」

 

夏目はそう言うなり勢い良く教室のドアを開き、そのまま走って何処かへ行ってしまった。

 

 

 

明久side

 

「ねえ雄二、机ってほんとにこれでいいの?」

「ああ、あとは秀吉が来ればーーっと、来たな」

「雄二、これで良いかのう」

「十分だ」

 

雑多に重ねられたみかん箱の上に、上質そうなテーブルクロスがひかれる。そうすると、それまでは見た目最悪なみかん箱の机は、何とも可愛らしい机に変化していた。

 

「素敵ですね!」

「へえ…ものは考えようね」

 

その変わり身に美波と姫路さん(女性陣二人)も感嘆の声をあげる。

うん、確かにこれは凄い。本当にこういう知恵は働くなぁ、雄二の奴…。

と、感心しているとーー

 

「たのもーー!!!!!」

 

スパァン!と教室のドア…ドア(?)というより障子が勢い良く開かれた。

 

「夏目じゃない、どうかしたの?」

 

近くにいた美波がその障子を開けた人物、夏目惣司郎君に声をかける。

 

「ああ。…康太はいるか?」

「?コウタ??」

 

と美波が首をかしげる。

あれ?このクラスにコウタ、なんていたっけーーってああ、そういえば!

 

「ムッツリーニ、客が来てるぞ!」

 

僕が思い出したところで、雄二が良く通る声で奥に声をかける。

そうだ、ムッツリーニの名前は土屋康太だったよね…土屋、ならともかく康太って呼ぶ人は全然いないからなぁ、美波が首をかしげるのも仕方ない気がする。…僕もわからなかったし。

 

「…………なんだ、惣司か」

 

雄二に呼ばれて、ムッツリーニもこちらにやってきた。

…そうし?って、ああ、惣司郎で惣司か。下の名前で呼び合ってるなんて仲が良いんだろうか。何だか意外な組み合わせだなぁ…。

 

「…………………何の用だ」

「頼みがある」

「…………………何だ」

「メイド服を作ってくれ」

 

「「「ぶふぉっ!!」」」

 

予想の遥か上過ぎる頼み事で、思わず吹き出してしまう。

確かにムッツリーニならその手の話は適任だけども!何でメイド服!?

 

「そ、そういえば姉上がAクラスはメイド喫茶をやると言っておったのう!もしかして、服の数が足らんかったのかの?」

 

と秀吉が慌てて夏目君に尋ねていた。

ああ、なるほど!それなら夏目君がメイド服を頼むのも納得だ。それにしても数が足りないなんて、Aクラスも案外抜けてるところがあるんだなぁ。

 

「いや、数は足りている。何なら予備があるくらいだ」

「え?じゃあ何で」

 

「俺の着れるサイズがないんだ」

 

 

度肝を抜かれた。

 

 

「…………………断る」

「後生だ、頼む」

「…………………何を言われても作らない。俺には俺のプライドがある」

「優子のメイド服がかかってるんだ」

「三秒待て」

 

プライドって何だったんだろう。

 

驚きの変わり身の早さでメイド服を縫い始めるムッツリーニ。その速度はかなり神がかっていた。

 

「…何がどうしてそんな話になったんだ」

 

と、ムッツリーニが縫っている合間に呆れた素振りの雄二が夏目君に尋ねた。

あ、それは僕も気になる。

 

「優子がキッチンかホールに入るかで揉めてな。俺がメイド服を着て欲しいと嘆願したら、着ても良いけど夏目も着ろ、と」

「それで着ちゃうんだ…」

「アンタに男としてのプライドはないの?」

「着たくはないが、背に腹はかえられん」

「………………ナイス判断」

 

器用に片手で縫いながら、片手で親指を立てるムッツリーニ。夏目君も同じく、親指を立てて応えていた。

 

「…あの、夏目君に聞きたいことがあるんですけど…」

 

と、それまでずっと話していなかった姫路さんが、おそるおそるといった風に夏目君に声をかけた。

 

「?なんだ?」

 

そんな態度も気にならないのか、それとも気にしないのか、夏目君は変わらない様子で聞き返す。

 

 

「夏目君と木下さんって…付き合っているんですか?」

 

 

ドスドスドスっ(畳にカッターが突き刺さる音)

 

 

「発言に気をつけなきゃダメじゃない、瑞希。ただでさえウチらのクラスはこういうことにうるさいんだから」

「ごめんなさい、でもどうしても気になってしまって…」

「…でも、ウチも気になるわね。どうなのよ、夏目」

 

「付き合ってないぞ」

 

ふう、よかった…。もしも夏目君が木下さんと付き合ってる、なんて羨ましいことになってたら処刑しなきゃだもんね。流石に僕も知り合いには手をかけたくないし。

 

「まあまあ、そう他人の恋路に首を突っ込むでないぞ、お主ら」

「あれ?珍しいね、秀吉がFFF団の活動(こういうこと)に口を出すなんて」

「…身内の色恋沙汰というのは何だか気恥ずかしくてのう……。それに、」

「「「それに?」」」

 

 

「夏目の頑張りはワシもよく知っておる。…姉上と同じクラスになりたいがため、苦手な勉強を姉上に教わったりの。じゃから、夏目の努力をあまり邪魔しないでもらいたーー」

 

 

「「「殺せぇっ!!!」」」

 

 

「お主らワシの話を聞いておったか!?!?」

 

 

すかんっ!と強い音と共に廊下の壁にカッターやシャーペンが突き刺さる。

ちぃっ!教室に気を回さなきゃいけないのがもどかしい!姫路さんの転校さえなければこんなボロ教室、いくら傷がついたって気にしないのに!

 

「顔はやめてくれ、傷がついたら接客に悪影響だろ」

「気にするのはそこなんですね…」

 

「黙れ邪教徒…!誰もが踏み入れることの許されぬ、遙か遠き桃源郷(木下姉妹の家)を汚す異端者め…!!その罪、死を持って贖うべし。 それがーー」

 

 

「「「我ら異端審問会の掟」」」

 

 

「………………落ち着け、お前ら」

 

とりあえず教室から出ないと動きにくいなとか、どう皆に指示を出したらいいか等頭を回していると、ムッツリーニが縫い終えたメイド服を広げながら静かに告げた。

 

ムッツリーニが処刑を止めるなんて、明日は血の雨でも降るのだろうか。

それともまさか、旧友の処刑は出来ないなんて甘っちょろいことでもーー

 

「………………処刑は、木下姉のメイド服を見終えてからでも遅くないはず」

 

「「「異議無し」」」

 

よかった、明日はきっと良い天気になるだろう。

 

「……………首を洗って待っていろ」

「受けて立つ!」

 

ムッツリーニが乱雑にメイド服を投げると、夏目君もそれを握るように受け取り、堂々と去って行った。

…それにしても、木下さんのメイド服ということはつまり秀吉のメイド服も見られるってことだよねっ!ねっ!?

 

まだ来ぬ文化祭当日に、僕は密かに期待を抱き始めていた。

 

「…何かアキから邪な気配を感じるんだけど?」

「変なことは考えちゃダメですよ?吉井君」

 

 

ーー背中に悪寒を感じながら。

 

 

明久side out

 

 

 

「ただいま!」

「……随分と遅かったじゃない」

「色々あってな」

 

と言いつつ、夏目は持って、というより握っていた布をばさりと広げた。

 

しっとりと重たそうな黒い生地で縫われたロングスカートがふわりと宙を舞う。上に付けられている落ち着いた白色のエプロンドレスは、下の重厚そうなスカートに合わせてか控えめにフリルが付けられているだけのシンプルな作りだ。ワインレッドの大きなリボンは絶妙なアクセントとなっている。

外見は格好良いのに中身は残念ーーそんな夏目のちぐはぐさがよく表現されているな、と思った。

 

「へえ…すっごいねえ、これ。どうしたの?」

 

愛子がぺたぺたとメイド服を触りながら尋ねる。

遅かった、とは言っても夏目が出て行ったのは30分前だ。そんな短時間でこんなメイド服をこしらえてくるなんて…。これを見せられてしまうと、アタシ達のメイド服の方が何だか陳腐に感じてしまう。

 

「ああ、これはーー」

 

「………惣司」

 

がらり、と突然Aクラスのドアが開かれ、入ってきたのは土屋君だった。意外な乱入者にどよめくAクラス。そんな様子も気にせず、夏目は土屋君に声をかけた。

 

「どうした、康太」

「…………生地が余った」

 

と、土屋君が何かーーあれはフリルドレス?を手渡した。

さっそくかぽっ、と被る夏目。

 

「「「ぶふっ……!」」」

 

ガタイの良い夏目と()()はあまりにもアンバランスで浮いていて、笑いが込み上げてきて止まらない。

 

「どうだ」

「…………吐き気を催す」

 

と言いつつ、土屋君も下を向いて笑いを堪えていた。

 

「ねえ、せっかくだしさ、」

 

愛子が化粧品をばらっと広げ、にんまりとあくどい笑みを浮かべる。

土屋君が抵抗出来ないように夏目の腕をがっちりつかみ、代表は夏目を近場の椅子に座らせると、ぐるぐると椅子ごと縛り付けた。

 

「…………康太」

「…………俺は言ったはずだ、『首を洗って待っていろ』と」

 

と、普段無表情な彼からは想像がつかないほどにこやかな笑みを浮かべる土屋君。

 

 

「ーーさて、可愛くなりましょ、惣子ちゃん」

 

 

アタシが化粧品を抱えてそう言うと、夏目は珍しく顔を引きつらせた。




出演キャラクター【()内は作者様】
・本田樹(羽の生えた巻物様)

活動報告の方でも報告させていただきましたが、一度クラスメイト募集の方を締切とさせていただきます、ご了承ください。
落ち着きましたらまたやりたいと思っておりますので、その時はまたよろしくお願い致します…!


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第三問

いつの間にか、UA、お気に入り件数共に凄いことに…。本当にありがとうございます、頑張ります。


「ーーそれと、今日から試験召喚大会参加の申し込みが始まります。参加する生徒は私に言うように。以上でホームルームを終了します」

 

そういうと、高橋先生はツカツカと教室から出て行った。

文化祭当日まで三日をきったこの日。この頃になれば授業は全て文化祭準備に宛がわれていた。先生もやることがないためか、最近はさっさと職員室に行ってしまうことが多い。

 

『あー…あー…二年F組、坂本雄二、吉井明久。至急学園長室まで来るように』

 

その直後、呼び出しの放送が校内に響く。

…問題児だとは思っていたけど、まさか学園長室に呼び出される程やらかしてるの…?

軽く戦慄しつつ、ほとんど装飾を終えた室内を見渡す。

…特にやることもなさそうね。

そう結論づけ、装飾を壊さないように気を遣いつつ適当な席に座り、本でも読もうかと鞄に手を入れたところで後ろから小突かれた。

 

「代表、どうしたの?」

「…………優子、頼みがある」

「?なに?」

「…………私と大会に出て欲しい」

 

そう言われて、そこかしこに張られていた試験召喚大会のポスターを思い出す。

確か二人一組のトーナメント形式で、景品は白金の腕輪と遊園地か何かのペアチケット…だっただろうか。

…ははぁ、なるほど。

 

「坂本君と遊園地に行きたいの?」

「…………(こくり)」

 

少し頬を赤らめながら頷く代表。試召戦争をへて見事カップルとなった二人の交際はどうやら順調らしい。

 

「…………如月ハイランドのプレミアチケットがとれたら、一緒に行ってくれるって」

「へえ、よかったじゃない」

「…………嫌がっても、約束を盾に結婚まで持ち込めれば」

 

……順調……かなぁ……。

 

「……………それで、一緒に出てくれる?」

「いいわよ、白金の腕輪っていうのも気になるしね」

「……………ありがとう」

 

少し微笑んでから代表はパタパタと教室から出て行く。恐らく高橋先生に参加の旨を伝えてくるんだろう。

鞄から本を取り出して適当なページを開く。視線は本に向けながら、でも耳はクラスメイト達の会話に意識を向けた。

 

「ね、ねえ篝。あんた大会に興味ある?あるわよね?」

「え、いや別に……あ、でも腕輪は気になるな」

「き、奇遇ね!あたしも気になってたのよ一緒に出ましょう!!」

「へ?気になるとは言っても出たい程じゃーーか、蔓!襟首は首が絞まるから掴むなってオイ、聞いてんのかーー」

 

黒い髪をサイドテールで束ねた女生徒、笂蔓(うつぼかずら)さんが樋野君を引きずって教室を後にする。

それにしても緊張のし過ぎか、右手と右足を同時に出しながら歩いていたけど…あれは大丈夫だろうか。

 

「兄さん、大会に出よう」

「俺に見世物になる趣味はないぞ」

「私はある」

「教室でそういうことを言うな」

「…兄さんの趣味は、」

「わかった、一緒に出るからとりあえず喋るな」

 

教室の隅では黒と白の対照的な髪色が特徴的な霧島玄人君、素人さんの双子兄妹が話をしていた。

基本物静かな二人だけど、こういうことには興味あるのかと思うと少し意外だったり。…会話の内容はともかくとして。

 

「なあ、久保」

 

聞き慣れた夏目の声に、少しピクリと反応してしまう。まさか、アイツも出るとか言わないでしょうね…??

 

「どうしたんだい?夏目君」

「一緒に大会に出ないか?」

 

出 る ん か い !!!

 

「構わないけど…珍しいね、夏目君もこういうことに関心があるなんて」

「…先程学園長室の前を通ってな。その時に聞こえたんだが、どうやら如月なんちゃらランドに行けば…」

「行けば?」

「ウェディング体験とやらで、結婚までプロデュースしてくれるらしい」

「待ちなさい夏目」

 

不穏な空気を感じ、口を挟む。

もしかして、夏目(この馬鹿)ーー

 

「その如月なんちゃらランドに、アタシを連れて行くつもりじゃないでしょうね…!!」

 

結婚までプロデュース!?冗談じゃない!!それこそほんとに既成事実が出来ちゃうじゃないの!!!ただでさえ『木下と夏目は付き合ってるらしい』みたいな噂を聞くのに!!!

 

「勘違いするな、優子。俺はきちんと段階を踏む男だ」

「……段階って何よ」

「まず外堀を埋める」

「もうそこからおかしいのよ…!!!」

 

コイツ、男女間の付き合いを何だと思っているのかしら。

 

「『私、◯◯君のことが好きなんだよね~!』と先手を打ち、ライバルが目立ったアピールを出来ないように牽制するのは基本だと」

「確かにそういうこと言う子もいるけど!ていうかアンタがやたら好きって言うのってまさかそういうアピールなんじゃーー」

 

と、ここで考えを巡らせる。

確かに、コイツがアタシに所構わず好きだ、と言うようになってからアタシに対する告白の類いは減り、代わりに秀吉がモテるようになった。

それに、アタシ達が付き合っているという噂まで流れている。

 

…悔しいけど…着実に外堀を埋められているッ…!!

 

まさか、何も考えていないように見せて虎視眈々と外堀を埋めにきていたの…!?所構わず好き好き言っていたのも全部計算の内!?!?

ごくり、と生唾を飲み込み夏目を見る。

もしかして、今までのあれもこれも全部計算の内で、アタシは手のひらで転がされてる、とか…?

そう思うと、今している無表情も途端に怖くなる。無神経なところもアタシを油断させるための作戦の一つなんじゃ、

 

 

「?アピール??」

 

 

……………そうだ、コイツはそういう奴だった。

 

 

「…それで、木下さんと行くのが目的じゃないなら何が目的なんだい?」

 

コホン、と軽く咳払いして久保君が話を戻す。

そうだ、アタシが目的じゃないなら何が目的なんだろう。如月なんちゃらランドの話をしてたくらいだから、腕輪が欲しいってわけでもないだろう。

 

「この前、翔子と話をしていてな」

「代表と?」

「ああ。…どうやら坂本と上手くいっていないらしい」

「意外だね、霧島さんはよく尽くしていると思うけれど」

「そうだな、俺もそう思う。だから恐らく、問題は坂本の意識だ」

「アンタにしてはまともな着眼点じゃない」

「…そこで、そのウェディング体験とやらで翔子を意識させ、そのままゴールイン…それが一番手っ取り早いと思った」

「いい案だとは思うけど…それは坂本君が霧島さんに意識を向けないといけないよね?坂本君の意志を無視して無理矢理、というのはいただけないな」

「その点に関して心配はいらない。坂本も恐らくだが、翔子のことを悪くは思っていない」

「そうね、何かきっかけがあれば坂本君も素直になってくれると思うわ。…そのきっかけをウェディング体験で作ろう、ってわけ?」

「そういうことだ」

 

と夏目が鷹揚に頷いた。

 

「そういうことなら、何としてもペアチケットを取らなくちゃいけないわね。…つまり、アタシと代表が優勝する必要がある、と」

「ああ、俺達はそのサポートに回れるよう参加しようと思ってな。俺達が優勝してもそのままチケットは譲れるだろう」

「そういうことならやる気も違ってくるね、霧島さんのために頑張ろう」

「「おおーっ!」」

 

こうして、夏目による代表のための計画が動き出したのだ。

 

 

ーー後に、Fクラスの人達を巻きこんだ大仰なことになるとはつゆ知らず。

 

 




出演キャラクター【()内は作者様】
・笂蔓(kitto‐様)
・霧島玄人(駄ピン・レクイエム様)
・霧島素人(同上)

なお、以前に出させていただきましたキャラクターの紹介は省かせていただきました。ご了承ください。


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第四問

感想にて、原作のようなドタバタ感が好きという声をいただきます。一ファンとしてはとても光栄な限りです…ありがとうございます…!


雲一つない、よく晴れた土曜日。

いよいよ文月学園の清涼祭が幕を開けた。

 

『いらっしゃいませー!』

『1Aの焼きそばはいかがですかー!?』

『寄ってらっしゃい見てらっしゃい!可愛い娘いますよー!』

 

なんて謳い文句がそこかしこから聞こえてくれる。

文月学園は試験校として有名なため、一般客もたくさん来ていて、混みようも凄いものだ。廊下を歩くのも少し大変そうなくらいである。

 

「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様」

 

ホールもキッチンも任せるのが怖かった夏目と、お目付役と少しでも華やかになるように、と菊池理恵さんに売り込みに行ってもらってるわけだけど…さっきから客入りが順調なところを見ると、上手くいっているらしい。

 

「四名様で宜しいでしょうか」

 

中学生くらいの子達だろうか。

しっかりしてそうな眼鏡の男の子と、元気そうな藍色の髪の女の子、大人しそうな黒髪の女の子に、赤髪の小さな女の子が連れられている。

 

「はい」

「こちらへどうぞ」

 

男の子の返事を聞いて、空いている席へ案内する。

…それにしても…この男の子、何処かで見たことがあるような…??

 

「いやあ、Aクラスって凄いねえ」

「そうだね、こんな豪華な設備で勉強が出来るなんて…久保君のお兄さんが羨ましいな」

「あはは…まあ、兄さんは良く勉強しているからさ」

 

「…久保君の弟さん?」

 

その会話に、思わず口を挟んでしまう。

 

「あ、はい。…いつも兄がお世話になっています」

 

と男の子ーー改め久保君の弟君が丁寧に頭を下げた。

なるほど確かに、雰囲気とか真面目そうなところは久保君によく似ているな、と思う。

 

「こちらこそ。久保君にはよくお世話になっているわ」

 

とにこりと微笑みかけると、「あ、いえ、」とほんのり赤らめた顔で返事を返された。

そんな久保君の弟を、藍髪の女の子と黒髪の女の子はジトリとした目で見つめる。

…何だかそんな反応も新鮮で、面白い。

なんて心の中でニヤニヤしていれば。

 

「…あ、そう言えば」

 

と黒髪の女の子が鞄から何やらごそごそと取り出し始めた。

 

「あの、吉井明久さんって知っていますか?」

 

彼女が取り出したのは、海外からのものであろう手紙だ。宛名の欄には達筆な文字で『吉井明久様へ』と書かれている。

 

「ええ、知っているわ」

「よかった…!どのクラスにいるか、ご存じですか?」

「彼なら二年F組にいると思うけど…今、丁度大会で席を外していると思うわ」

「二年F組!?」

 

そう返事をすれば、藍髪の女の子が凄く食いついていた。

 

「そういえば、土屋さんのお兄さんは二年F組に所属しているんだっけ?」

「そうだよ!よかったねえ、Fクラスに行けば万事解決だね!」

 

と、ぴょんぴょんと跳びはねる藍髪の子。

…そうか、こっちはあまり似ていないから気付かなかったけど…Fクラスの土屋、と言えば思い当たるのは小柄な男の子ただ一人だ。

 

「へえ…貴方があの土屋君の…」

「!康兄を知ってるんですか!?」

「ええ。少しだけど…話したり、遊んだり」

 

席に着くと、左側に久保君の弟が、右側に土屋君の妹さん、黒髪の女の子、最後に赤髪の女の子が座る。

その時、赤髪の女の子がさげている鞄についた浅黒の女子高生のストラップが揺れたのが目に焼き付いた。

あれ…何処かで…??

 

「………………優子、そろそろ時間、」

「へあっ!?…あ、ああ、大会のね、わかったわ。…それでは、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

 

代表にいきなり話しかけられ、変な声を出してしまう。

慌てて持ち直してぺこりと頭を下げ、その場を離れる。

あう…恥ずかしいことをした…。

 

「代表、いきなり後ろから話しかけないで…!!」

「………………ごめん、でも、遅れると失格になるから」

 

そう小声で注意すると、代表も申し訳なさそうにしていた。…そんな顔されると強く言えない…!!

でも、時間ギリギリまで接客をしていたのは事実のようで。

会場に着いた途端に、その場にいた木内先生が時計をチェックする。それから高らかに宣言した。

 

「これから試験召喚大会、第1回戦を開始します!」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!!!」」」」

 

それぞれの足元に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。その中央から自分をデフォルメしたような召喚獣が現れた。

深みのある黄緑色のインナーにの上に西洋鎧を重ねてあり、ベルトの中央の金具には赤色の文字でAと書かれている。そして手には少しの装飾が施された大きなランスを構えていた。

そして、横にはテストの点数が表示される。

 

『Eクラス 中林宏美 & Eクラス 三上美子

 数学   105点  & 102点      』

           VS

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 数学   332点    313点      』

 

うん、この点差なら問題なさそうだ。

 

「やあーっ!」

 

と、突撃してくる相手(三上さん…だったかしら)の召喚獣をジャンプで躱し、ガラ空きの頭上へ向けてランスを一突きする。すると、三上さんの召喚獣は粒子となって消えていった。

 

『きゅうう…』

 

そんな声が聞こえ、横を見ると代表と対峙していた中林さん?の召喚獣も消えていた。

 

「うう、悔しい…」

「いきなりAクラスと当たるなんて、ついてない…」

 

顔を覆い悲しそうに俯く二人。

…何だか申し訳ないけど、これも勝負だしね。代表のこともあるから負けるわけにもいかないし。

 

「勝者、霧島翔子&木下優子ペア!」

 

第1回戦を無事勝利で収め、アタシと代表は会場を後にした。




出演キャラクター【()内は作者様】
・菊池理恵(倶利伽羅峠3号様)


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第五問

茶番ばかりが長くなり、話が進まないのが専ら悩みです。次回こそは!


「代表、アタシちょっとトイレ寄ってくから先行ってて頂戴」

「……………わかった」

 

第1回戦終了後、代表と別れて用を足す。

アタシに支給されたのはロングスカートのメイド服だったわけだけど、これで用を足すのがまぁ大変なことで。スカートは床は勿論、トイレの水に裾をつけないように気を遣わなくちゃだったし、服がかさばっているせいか、トイレットペーパーをとったり拭いたりも中々億劫だった。

本場の人はこれが毎日なんて、さぞ大変だろうなぁなんて思いつつ自分のクラスへ向かっていると、

 

「あのっ!」

 

小さな女の子に袖を引かれ、話しかけられた。

 

「どうしたの?」

 

流石にこの混雑した廊下でしゃがむのは迷惑だと思い、端に避けてから軽く屈み込み、話を聞く体制をとる。

こんなに小さな子が用とは何だろう。迷子だろうか、それとも文月学園に所属する、兄姉でも探しているのだろうか。

 

「バカなお兄ちゃんを知りませんかっ!」

 

一瞬、旧校舎の方角を指そうとしたアタシは間違っていないと思う。

 

「………えーと……そのお兄ちゃんのお名前はわかる?」

「…あぅ……わからないです…」

「何か特徴は?」

「えっと、凄くお馬鹿でしたっ!」

 

おかしい、そのお兄さんが馬鹿なことしかわからない。

 

兄、ということは何か身体的にも似ているところがあるだろうか、と、改めて女の子を観察してみる。

赤味のかかった茶色の髪。

強気そうな緑色のアーモンド型の瞳。

………ふむ。

 

「もしもし、アタシだけどーー」

 

思い当たる人物にコールしてみると、幸いにも()()()は近くにいたようで、すぐにこちらに来た。

紺に近い黒色のロングスカートをたなびかせ、走ることで胸元の落ち着いた赤色のリボンが揺れる。横に流された赤髪の上には、フリルのあしらわれたフリルドレスがちょこん、と載せられていた。

 

「?誰だ、このちびっ子」

「…お、お姉さんの知り合いさんですか…??」

 

どうやら、夏目の妹ではないらしい。

………結構、自信あったんだけどなぁ。

 

「この子、誰か探してるみたいで…バカ、っていうからアンタかと思ったんだけど、違ったみたいね」

「俺はAクラスだが」

「知ってるわよバカ」

 

というか、女の子が突然現れたゴツいメイド(夏目)に怯えている。

あまり目にも教育にも宜しくないし、さっさと帰って貰おうと声をかけようとした…けど、それより先に夏目がしゃがんで女の子に話しかけていた。

 

「その人捜し、俺達も手伝っていいか?」

「…!いいんですかっ!?」

「もちろん。歩くのも疲れたろう、大サービスだ」

 

そういうとしゃがんだまま、女の子に背を向ける。女の子は顔を輝かせ、

 

「メイドのお兄ちゃん、ありがとうですっ」

 

と、その背中に飛び付いた。

……子供が好きだったりするんだろうか。見たことのない、酷く優しい瞳に動揺する。なんだか、意外な一面を見た…というか、少し見直したというか。

 

「…さ、優子。案内してくれ」

「一応聞くけど、アンタ、心当たりは」

「ない!!」

 

見直した自分が馬鹿らしくなった。

 

「…とりあえず、Fクラスにでも行ってみましょうか」

「そうだな、わかった!」

 

夏目が(無駄に)元気良く返事をして歩き出し、アタシもその後ろに続く。

女の子は余程夏目が気に入ったのか、夏目にしきりに話しかけていた。夏目も時々素っ頓狂なことを言いつつも、女の子の話に応じている。

夏目と女の子の話に時々心の中でツッコミを入れながら歩いていれば、Fクラスにすぐ到着した。

扉というよりは…障子?その横には、『中華喫茶 ヨーロピアン』という看板が立てかけられていた。

……ヨーロピアン?

その名前に疑問を抱きつつも、障子を開く。

 

「ごめんなさい、少し良いかしら」

 

普段はボロボロのFクラスだけど…文化祭というだけあってか、派手ではないが飾り付けもされており、少しはマシな見た目になっていた。

 

「珍しいのう…どうしたのじゃ、姉上よ」

 

そう返事をしたのは、弟の秀吉だった。ウエイターでもしているのか、規定の制服に黄色い小さめの蝶ネクタイを着けた、ちょっとしたギャルソンスタイルだ。

 

「ええ、実は探してる人がいて…」

「あっ!バカなお兄ちゃん!」

「む、いたのか」

「はいっ!ありがとうです、メイドのお兄ちゃん!」

 

夏目がしゃがむと、女の子は律儀に一礼してからバカなお兄ちゃんーーもとい、吉井君の鳩尾にダイブする。

ぐえっ、と呻きつつもしっかりキャッチしている辺り、吉井君も中々紳士だ。

 

「……アキ、葉月と知り合いなの?」

「へ?……えーと、えーと……あっ!もしかしてぬいぐるみの!?」

「はいですっ!バカなお兄ちゃん、元気でしたかっ?」

「うん、元気元気…ってあれ?美波も…えっと…葉月ちゃん…だっけ?のこと、知ってるの?」

「知ってるも何も、妹よ」

「「「「えぇっ!?」」」」

 

吉井君だけでなく、様子を見ていた周りの人達も驚きの声を上げていた。

……言われて見れば、髪の色とか、勝ち気そうな緑色の瞳もそっくりだ。

 

「へえ…島田さんの妹だったのね」

「うちの妹が世話になったわね。ありがとう、優子、夏目」

 

アタシがそう呟けば、島田さんがこちらへ来てわざわざ頭を下げる。

 

「いいのよ、たまたま見かけただけだし」

「気にするな」

 

世話になった、とは言っても、ほとんど世話をしていたのは夏目だし。

 

「そう?…でも、せっかく来てくれたんだし、お茶くらい飲んでいかない?」

「…そうね、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

確か1回戦の後は休憩にしてもらったはずだ。もういい時間帯だし、お昼代わりに何か腹に入れておくのも悪くない。

その辺の適当な席に座る。そうすると、夏目も向かい側に腰掛けた。

 

「何が良いかしら…」

 

渡されたメニューをぱらぱらと適当に開く。胡麻団子に飲茶のセット…へえ、名前のわりにメニューはちゃんとしてるじゃない。

でかでかと書いてある辺り、一番のおすすめだろうしこれでいいか、と秀吉を呼びつけた。

 

「胡麻団子と飲茶のセットね」

「了解じゃ、夏目は?」

「俺もそれで頼む」

「了解じゃ」

 

秀吉はそう返事をすると、奥へパタパタと駆けて行った。

胡麻と飲茶のセット二つ、と厨房らしき場所へ声をかける。

……そういえば。

 

「吉井君、貴方を探してる人が」

 

と、言いかけたところで…がらがらと障子が開いた。

 

「こ、ここか……」

「凄く迷っちゃったね…」

 

なんて声と共に、メイド喫茶で会った久保君の弟、土屋君の妹さんと二人の女の子の四人組が入って来た。

 

「いらっしゃいまーー」

「何してんの馬鹿兄ーーーっ!?!?!?」

 

 

入るなり黒髪の女の子はそう絶叫し、()()()()()()綺麗な右ストレートを放った。

 

 

………へ??

 

「馬鹿!!!もうほんと馬鹿!!!!信じらんないもう何でメイド服着てるの馬鹿!!!!!!」

「うちのクラスはメイド喫茶でな」

「メイド喫茶だからって何でお兄がメイド服着てるの!?!?目に毒過ぎるよ!?!?」

「泣くぞ」

「私の方が泣きたいもうヤダこの馬鹿兄…………」

 

黒髪の女の子が夏目に掴みかかったと思えば、そのまま膝から崩れ落ちる。

すると、今まで土屋君の妹さんの元にいた赤髪の女の子が黒髪の女の子の元へ行き、を慰めるように背中をぽんぽんと叩いた。

……何だろう、このデジャヴは。

 

「……アンタ、妹いたの」

「ああ、中3と5歳だ」

「もしかして、前の魔法少女のって」

「妹が好きなんだ、俺も好きだが」

 

夏目がちらりと、赤髪の女の子のショルダーバッグにつけられたギャル娘のストラップに目をやる。

なるほど、通りで見覚えがあるわけだ。あのストラップを出していたのは夏目だったのだから。

 

「あれ?康兄いないなぁ?」

「夏目さん、手紙はいいのかい?」

 

土屋君の妹さんはきょろきょろと辺りを見渡し、久保君の弟君は崩れ落ちていた夏目の妹さんに声をかける。

夏目の妹さんはその一言で立ち上がると、慌てて鞄から手紙を取り出した。

 

「あの、吉井明久さんはいらっしゃいますか」

 

我関せず、と見ていたFクラス陣の目がギラリと怪しく光った。

 

「えーっと、僕に何か用?」

 

その空気を察してか、警戒気味に吉井君が名乗り出る。

 

「兄から、手紙を預かっていまして」

「「「手紙?」」」

 

兄、の一言で皆が夏目を見るが、夏目は首を横に振る。

ちなみに差出人が男とわかってか、張り詰めていた空気は一気に緩んだ。

 

「俺の上にもう二人いるんだ」

 

と、夏目が付け加えて説明した。

…納得はしたけど、でもどうして夏目のお兄さんが吉井君に手紙を…??

 

「兄が、文月に行くなら渡して欲しいって」

「夏目君じゃダメだったの?」

「……お兄に渡したら、渡るか心配だって言ってました」

「「「ああ…」」」

 

賢明な判断だ。

 

「…まあいいや、読んじゃおうっと」

 

吉井君がピリピリと封を切り、中身を読み始める。

すると読むにつれ、顔が目に見える程青くなっていった。

読み終えると深くため息をつき、手紙はポケットの中に乱雑に突っ込む。

 

「…………うん、わざわざありがとう」

 

と、吉井君はぎこちない笑みを浮かべて礼を告げた。

 

「何の手紙だったんだ、明久」

「…不幸の手紙だよ、夏目君のお兄さんがどうして知り合いなのかは気になるけどね…」

 

坂本君が尋ねるも、吉井君は疲れたようにそれだけ告げた。

どうして知り合いなのか、ということは、吉井君の知り合いの知り合いが夏目のお兄さんということ…?

なんて首を傾げて考えていれば。

 

「………………騒がしい」

 

何処か哀愁漂う吉井君を尻目に、土屋君が胡麻団子と飲茶のセットを持って来た。

 

「「ありがとう」」

「あっ康兄!遊びに来たよ!」

 

アタシ達がお礼を言って受け取る。

すると、土屋君の妹さんがにこにこと声をかけた。

 

「「「ムッツリーニに妹、だと…!?」」」

 

と、教室中がざわめく。

そんなに意外だったんだろうか。…まあ、アタシも驚いたけど。

 

「何だか今日は、ご兄弟の方がたくさんいらっしゃいますね…」

「そういう姫路さんはいるのかしら?」

「いえ、私は一人っ子なんです」

 

そう答えると、姫路さんは仲睦まじく話す土屋兄妹と夏目をちらりと見やってから寂しそうに笑う。

一人っ子は一人っ子なりに色々あるんだろうか。アタシなんて弟はろくでもないものだと思っているけど。

 

「兄弟とか、羨ましいなって思います。本音で話し合える人が身近いるって、とても素敵なことじゃないですか」

 

にこり、とアタシに向けて微笑む姫路さん。

だけどその視線は、何処か別のところに向かっているようなーーそんな気がした。

 

「……そう」

 

アタシはそれ以上何も言わず、少し冷めた飲茶を啜った。



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第六問

投稿を始めて約二週間。UA4,000突破、お気に入り100件の突破ありがとうございます…!これからもよろしくお願いします!


「ここにいたのか、木下さん」

 

アタシ達がゆっくり談笑していると、がらりと障子が開けられて、大柄でしゃくれた長い顎が特徴的な男子生徒ーー大森漠君が息を切らせて入って来た。

 

「…もしかして、何か問題?」

「…ああ。うちの学園の生徒が、大声でFクラスが汚いだのと話している。それも何度もだ」

「「何だって!?」」

 

苦々しい顔で告げる大森君に詰め寄る吉井君と坂本君。

…うちの生徒が営業妨害?嫌がらせにしては少しやり過ぎなような気がする。それに、それに対する吉井君と坂本君の食いつきも少し異様だ。…何かワケありだったりするのかしら…。

 

「チッ、道理で客が来ねえはずだ…!」

「雄二、早く行こう!このまま閑古鳥じゃ困るよ!」

「わかってる!…だが、Aクラスか……」

「そんなこと言ってる場合じゃないって!」

 

「木下さん、」

「いいわよ。吉井君と坂本君で解決してくれるならそれに越したことはないわ。…それと大森君、代表に会場に直接向かう、と伝えておいてもらえる?」

「了解した!行くぞ、吉井、坂本!」

「「おう!」」

 

ばたばたと去って行く三人。それを、ひらひらと手を振りながら見送った。

 

「さて、アタシもそろそろ行かないと…ご馳走様」

 

食器類を一カ所にまとめ、紙ナプキンで軽く口元を拭い立ち上がる。

 

「お代はいくらかしら」

「妹を連れて来てもらったんだし、ウチが奢るわ」

「…わざわざ気にしなくて良いのに」

「ウチが勝手にしたいだけだし、気にしないで」

「そう?…それならお言葉に甘えるわ」

 

島田さんに礼を伝え、Fクラスを後にする。

…それにしても…島田さんは良いお姉さんなのね。

アタシにはとても真似出来ない所業に感心する。アタシも秀吉あれくらい優しく…いや無理ね、普通にイライラするもの。色々なことで。

そんなことを考えてながら歩いて会場に向かうと、まだ誰もいないようだった。

しばらくぼーっとしていれば、パタパタとメイド服のスカートを揺らしながら代表が駆けてくる。

 

「…………遅くなった」

「大丈夫よ、まだ先生も相手も来ていないし」

「…………そう、よかった」

 

ほっ、とため息をつく代表。

余程ペアチケットが取りたいのか、かなり張り詰めているみたいだった。

ほぐしてあげたいけど…何かないものかしら…。

なんてウンウン唸っていれば、いつの間にか対戦相手も今回の担当の遠藤先生も来ていた。

 

「両者共、準備は宜しいですか?」

 

アタシは短く返事をし、代表が小さく頷く。

相手のカップルらしき男女の対戦相手もこくりと頷いた。

 

「では、試合開始です!」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!!」」」」

 

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 英語W   334点  & 318点     』

          VS

『Bクラス 加西真一 & Bクラス 入江真美

 英語W   179点  & 166点     』

 

前回よりも相手の点数は高いけど、それでも問題無さそうだ。

 

「流石Aクラス…どうしよう、真一君…」

「大丈夫!俺達二人ならAクラスだって目じゃないさ!ペアチケット、絶対とってデートしよう、真美」

「…真一君…!」

 

二人の熱々なやり取りを冷めた目で見る。

…なんか、こう…見ているこっち恥ずかしいわね…。

 

「……ア……ト……たさ…い」

 

ちらりと横目で代表を見ると、俯いてブツブツと何か呟いていた。さらさらと長い黒髪が揺れてだいぶ怖い。まるで貞子みたいだ。

 

「……ペアチケットは、渡さない…!!」

「えっ、きゃあああ!!!」

 

ブォンッ!勢いよく振り下ろされた日本刀を慌てて避ける相手の召喚獣。

 

「真美!」

 

慌てて庇おうとする男子の召喚獣をランスで牽制する。

 

「アタシのこと…忘れちゃ嫌よ、イロ男君?」

「くっ…!」

 

突き立てたランスを引き抜き、間髪入れずに振るう。

相手も剣で受け止めたが勢いに負け、そのまま後ろに倒れ込んだ。相手を馬乗りで押さえ込み、首へ向け全力でランスを突き立てる。

 

『Aクラス 木下優子 VS Bクラス 加西真一

 英語W  318点  VS 0点        』

 

跡形もなく消える相手の召喚獣。

 

「真一君!」

「油断は禁物よ、よく覚えておきなさい」

「きゃあああっ!」

 

相手が動揺した隙に、代表の召喚獣が素早く肉薄する。

二体の召喚獣が消えたことを確認し、遠藤先生が高らかに宣言した。

 

「勝者、霧島翔子、木下優子ペア!」

 

ふぅ…二回戦も無事に終えられてよかった。

…悪いけど、代表のためにデートは諦めて頂戴、と心の中で謝りながら会場を後にした。

 

「次はもうすぐなんだっけ?」

「………うん。B会場で現代社会」

 

試験召喚大会は、出場者の多さから二つの会場を臨機応変に使いつつ行われていた。先程いたのはA会場だったが、時間の都合でアタシ達はB会場に移動しての試合だ。

時間ギリギリではないものの、対戦相手はもう来ていたようだ。

 

「…出来れば…貴方達とは当たりたくなかったです」

 

そこに立っていたのは、クラスメイトの佐藤さんとーーもう一人は知らない女生徒だった。

 

「そうね、アタシも当たりたくなかった…。でも、クラスメイトといえど勝負は勝負。容赦はしないわ」

「是非、そうしてください。全力の貴方達に勝ってみせます」

「あら、言うじゃない」

 

「すまない、遅くなったな」

 

バチバチと火花を飛ばしあっていると、西村先生が小走りでやってきた。あれ?現代社会は氏家先生じゃ…?

 

「担当の氏家先生なんだが、今日は外せない用事で休んでいてな。代わりに俺が務める」

 

なんだ、それなら納得だ。

西村先生がアタシ達を交互に見て、うむ、と頷く。

 

「お互い気合は十分なようだな。ーーでは始め!」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 現代社会 312点  & 315点      』

          VS

『Aクラス 佐藤美穂 & Bクラス 里井真由子

 現代社会 328点  & 196点       』

 

全体的な点数は勝っているけれど、個々の点数は劣っている。

前は点差があったからあまり考えずに振るえたけど…この点差での力技は厳しそうだ。さてどうしたものか…。

 

「やあーっ!」

 

そんなことを考えていれば、里井さんの召喚獣がこちらへ向かい、剣を振り下ろしていた。咄嗟に横っ跳びをさせて避けさせる。

 

「はぁッ!」

 

間髪入れずに佐藤さんの召喚獣がこちらへ剣を振るう。だけど剣は掠めていたのか、アタシの召喚獣の頬からツー…と血が垂れた。

 

「やってくれるじゃない…!」

 

乾いた唇をぺろりと舐め、集中する。

…そうだ、今まで1対1が二つの形式でやってきたから忘れてたけど…1対1で敵わないなら、2対1に持ち込めば良い!

 

「真由子ちゃん、危ない!」

 

里井さんの召喚獣に向けてランスをと振るうと、里井さんの召喚獣は消えていった。けれどそれと同時に、佐藤さんの召喚獣がアタシの召喚獣の腕を切り落としていた。

 

「代表!」

「…………(こくり)」

 

佐藤さんの召喚獣の後ろから、代表の召喚獣が胸元を剣で刺す。アタシの召喚獣も落としたランスを拾い上げ、とどめと言わんばかりに胸元を突いた。

佐藤さんの召喚獣も、粒子となり消えていく。

 

「勝者、霧島翔子、木下優子ペア!」

 

西村先生の宣言を聞き、ふぅ…とため息をついた。

 

「今回は負けちゃいましたけど…次の時は負けません!」

「今度も、アタシ達が勝つわよ。…ねえ代表?」

「……………勿論」

 

互いに不敵な笑みを浮かべつつ、会場のステージから降りる。

次に戦う時が楽しみ……なんてね。

そんなことを思っている自分に、密に苦笑いを零した。




出演キャラクター【()内は作者様】
・大森漠(kitto‐様)


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第七問

ご指摘をいただき、このお話を書かせていただきました。一度投稿したのですが、どうにも反映されてなさそうだったので再投稿です、ハーメルン難しい…!

活動報告にて、アンケートを設置させていただきました!協力していただけると有難いです…!


久保side

 

「急げ久保!二回戦までまで後三分だ!!」

「…夏目君が焼きそば食べたいなんて寄るからこんなはめに…!!」

「焼きそばが俺を呼んでいた!」

「君が勝手に匂いに釣られただけだろう!?」

 

木下さんが夏目君に手を焼く理由がようやくわかってきたこの頃。自由人過ぎる夏目君に僕はかなり手を焼いていた。

普段勉強ばかりで、ロクに動かさない三半規管が悲鳴を上げている。肺なんてもう焼けそうなくらい苦しい。

 

「久保、大丈夫か」

 

ぜえぜえと息を切らせて走る僕を見かねてか、夏目君が声をかけてくれる。

 

「こ、これが、はぁっ…はぁっ…大丈夫に、はぁ、見えるかい?」

「見えないな」

 

そう言うと、夏目君は僕を俵のように担いで走り出す。

…有難いけど、担ぎ方が雑過ぎて軽く酔いそう…というかこれは酔う。

 

「待たせたな!」

「…いや、別に良いですけど…。あの、久保君は大丈夫ですの?」

「…………その声は菊池さんかい?死にそうだけど、何とか……」

 

結構グロッキーな状態なので、フラフラになりながら答える。酔いのせいか、ぐらぐらとした視界で見えたのは菊池さんとーーあの眩しいくらいの金髪はジェシカさんだろうか。

 

「……えーと……何はともあれ揃ったようですので…それではこれより、第二回戦を始めます」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 

山田先生の苦笑混じりの宣誓の後に呼び出す。足元が光り出したかと思えば、魔方陣が形成されて、その中央から召喚獣が姿を顕した。

 

『Aクラス 菊池理恵 & Aクラス ジェシカ・ブラウン

 英語W  362点    &  132点       』

          VS

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 英語W  378点  & 102点        』

 

「………あの、」

「よーしリエ!ソシローはワタシに任せて!リエはトシミツとfightingネ!」

「む、望むところだジェシー!」

「ジェシーさんの裏切り者!!!」

 

ジェシカさんの召喚獣は真っ直ぐに夏目君の召喚獣に突撃していき、夏目君はそれをかわす。

こちらにも半ばヤケになった菊池さんが発砲してきたので、身を逸らしてかわした。ヤケになっているとは言え、勝負事には冷静なのか、狙いをどんどん定めてくる。

あくまでも接近戦には持ち込ませない気、か…。それならこちらだって、それなりに対処させて貰おう!

持ち手をずらし、手前の方にする。コントロールは難しくなるけど、これでリーチは同等のはず!そう大鎌を振るえば、菊池さんは苦い顔で鎌を避けた。

 

「そんなに攻撃に集中していて、大丈夫なんですかっ…と!」

 

パァン、と鋭い音と共に、弾丸が頬を掠める。

 

『Aクラス 菊池理恵 VS Aクラス 久保利光

 英語W  362点  VS 368点       』

 

予想以上に点数を持っていかれた。少し掠めただけでこのくらい減るなら、まともに食らったらどのくらい減るんだろうと計算ーーしてる暇なんてない!

 

「ぐっ、」

 

苦し紛れに振るった大鎌を菊池さんの召喚獣は避ける。けれどその先にはーー

 

「「へ?」」

 

ジェシカさんと夏目君がいた。

 

「ちょ、ちょっとま、」

 

野生の本能か、一瞬にして後ろに飛び去る夏目君と、咄嗟の事態に動けないジェシカさん。

 

「……あ、ごめん…」

 

僕の振るった大鎌は、無慈悲にもジェシカさんの召喚獣を切り裂いた。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス ジェシカ・ブラウン

 英語W  368点  VS 0点           』

 

「「「「……」」」」

 

何とも言えない空気に包まれる。

 

「…よし、久保!今の内だ!」

「あっ!?」

 

呆然としている間に、夏目君の召喚獣が菊池さんの召喚獣を蹴飛ばし、持っていた二丁銃を弾き飛ばした。

 

「…ありがとう、夏目君!」

 

遠慮なく菊池さんの召喚獣に向け、大鎌を振るう。

 

「ぐっ!」

 

しかし、その振るった鎌は菊池さんの召喚獣を首は取れず、代わりに何かーー固いもので弾かれた。

 

「隠しナイフとは、粋な真似してくれるね…!」

「…そりゃどうも、ですわ!」

 

ガキン、と弾かれる大鎌。

やはりそう簡単には上手くいかないか…!!

今度は大鎌とナイフを振り合う僕ら。ちらり、と夏目君を横目で見ると、夏目君は小さく頷き、召喚獣に身を屈ませ菊池さんの召喚獣に近づく。

 

「リエ!足元ヨ!」

 

気付いたジェシカさんがそう声をかけるけどーーもう遅い!!

夏目君の召喚獣が菊池さんの召喚獣の足首を掴む。

 

「っ、離しーー!!」

「そういうわけにはいかんだろう」

「それじゃあ、覚悟!」

「きゃあああっ!!」

 

もたつく菊池さんの召喚獣へ向けて大鎌を振るった。

菊池さんの召喚獣は真ん中から裂け、粒子となって消えていく。

 

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 英語W  252点  & 88点        』

           VS

『Aクラス 菊池理恵   英語W 0点    』

 

「…勝者、Aクラス、久保利光、夏目惣司郎ペア」

 

少し不服そうに宣言する山田先生。

…まぁ、僕達自身も勝ったとは言え、少し複雑な気分だしなぁ…。

横で呑気にガッツポーズしてる夏目君が羨ましい限りだ。

ちぇ、と残念そうな顔をしている菊池さんとジェシカさんと代わるように現れたのは、半田君と戦国さんだった。後ろには、現代社会の先生らしき人も佇んでいる。

 

「わー!次は久保君と夏目君なんだね、よろしく」

「…あんまりふざけないでよね、洋介」

「わかってるって!」

 

にこにこと笑みを浮かべる半田君と対照的に、厳しい顔付きでこちらを見ている戦国さん。

 

「…両者、宜しいですか?」

 

遠慮がちに声をかける現代社会の先生。

半田君はにこやかに頷き、戦国さんは変わらず厳しい顔で、夏目君は何を考えているかわからない顔(いつもの顔)で頷いた。

 

「「「試獣召喚(サモン)!!」」」

 

そのワードと共に足元に広がる魔方陣。その中央から召喚獣が徐々に姿を顕した。

 

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 現代社会 345点  & 403点        』

           VS

『Aクラス 半田洋介 & Aクラス 戦国有志

 現代社会 312点  & 271点       』

 

「「「……」」」

「?なんだ??俺の顔に何か付いてるか」

「…いや…そういうわけではないんだけど…」

 

何だろう、この不本意な感じ。

 

「俺、夏目君とやりたいってずっと思ってたんだ!ね、相手してくれるよね??」

 

そう言うと、嬉々として夏目君の召喚獣の前に立つ半田君。

 

「それなら…私の相手は久保君、君だな」

 

チャキ、と僕の召喚獣へ向けて双剣を構える戦国さん。

二つの剣が戦国さんによって器用に操られる。大鎌でさえ操るのに苦戦している身としては、そんなに悠々と操れるのが羨ましい限りだ。

双剣から繰り出される猛攻を、大鎌でいなしたりしつつギリギリで躱す。

 

「っ!」

 

しかし、その攻撃を防いでいる内に大鎌が弾かれてしまった。その隙を見逃してくれるはずもなく、目先に剣を構えられる。

 

「…これで終わりーー」

「久保!!」

 

鉈がズダンッ!と鋭い音共に、僕と戦国さんの間を通り、壁に深く突き刺さった。

召喚獣達だけでなく、僕ら本体までも冷や汗を流す。

 

「な、夏目君!何のつもりで、」

「それを使え!俺にはどうにも邪魔だ!」

 

動揺する僕に対して、素手で半田君の攻撃を躱しつつ叫ぶ夏目君。

…そっか、僕のためにわざわざ…。

 

「…ありがとう!」

 

余程ショックが大きかったのか、未だ呆然としている戦国さんを尻目に深く刺さった鉈を抜き、そのまま振るう。

 

「いつまで呆けているのさ、有志!!」

「ーーっ!」

 

半田君の鋭い声で意識を戻した戦国さん。僕の振るった鉈は寸で躱されてしまった。

 

「ごめん、洋介」

「いーえ!死なれちゃ困るからね!」

 

チャキ、と戦国さんが再度双剣を構え直す。僕も再度鉈を構え直し、戦国さんに向き直った。

しばらく間が開いてから、お互い武器を振るう。戦国さんの猛攻に負けじと鉈を振るった。

お互いの、消耗した点数が表示される。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス 戦国有志

 現代社会 205点  VS 213点       』

 

多少点差が出てしまっているけど…この程度ならまだまだ!

なるべく致命傷を与えられるように、急所を重点的に狙ってみる。鉈を振るう…と見せかけて、空いた手で鳩尾に突き。そしてガラ空きの頭に鉈を振り下ろすけれど、それは双剣で防がれてしまった。

再び間合いをとってからの攻撃。横に薙げば屈んで躱され、下から刀を振るわれる。咄嗟に手で止めたけれど、腹から胸に掛けてざっくり斬られたみたいで、血がだらりと流れた。手からもぽたりと血が流れる。

 

『Aクラス 久保利光 VS Aクラス 戦国有志

 現代社会 94点   VS 197点      』

 

斬られた箇所が痛かったのか、だいぶ点差が開いてしまった。…多分、あと一撃持つか持たないか。

この差だというのに、戦国さんは一切手を抜かない。

 

「…この点差ならもう少し油断して欲しいんだけどな」

「まだそんな生き生きした目をしていて、何を言い出すかと思えば…」

 

はぁ、とため息をつきつつも、やっぱり攻撃の手は緩めてくれない。

それを、場を見ながら躱して行く。僕達の奥では、同じように半田君が夏目君を押していた。

 

「守ってばかりじゃ点数削れないよ!ほらほら!!」

「ぐっ…!」

 

羅針盤から姿をちらりと見せる、高速で回転する刃に苦戦しているみたいだ。時たまに掠られつつも躱している。その時、不意にバチリ、と夏目君と目が合った。それから、目についたのは夏目君の腕元でキラリと光る腕輪。

戦国さんに見えないように、自分の腕元をトントン、と叩くと、夏目君は召喚獣の腕元に目をやり、視線をぴたりと止める。そして眉根を潜めた。…もしかして、今腕輪に気付いた?

すると、夏目君の召喚獣が腕輪を付けている方の手を握りしめた。

腕輪を使おうとしているのか、確かに腕輪が直撃すれば大ダメージは確実。

…待てよ?今夏目君が腕輪を使えば、腕輪の力はわからないけれど、能力と位置によっては戦国さんも倒すことが…??

慌てて避けつつも、位置調節に努める。大体召喚獣達はこのペースで動いているから、この辺りで…。

丁度良いタイミングで、夏目君の腕輪がまばゆく光り出した。

 

「いっけえええぇぇ!!!!!」

 

夏目君の雄叫びと共に凄まじい音をたて、半田君の召喚獣が派手な音をたてて吹っ飛ぶ。

 

『Aクラス 夏目惣司郎 VS Aクラス 半田洋介

 現代社会 120点   VS 47点       』

 

圧倒的な点差が明らかになる。

それにしても…さっきの夏目君の攻撃、恐らく半田君だってかわせたはずだ。もしかして、避けたら戦国さんに当たるからわざとまともに食らった、とか…?

 

「洋介!」

「俺のことはいいから!早く倒して!」

「っ!」

 

戦国さんの猛攻が更に増す。それはもう、鬼のような気迫だった。

 

「これで仕舞いだ」

 

無慈悲な夏目君の声が、少し遠くで聞こえた。

 

「ちぇっ、今回は俺の負けか…」

 

それにつまらなそうな半田君の声が続く。恐らく決着がついたのだろう。

一方こちらといえば、避けていることに集中している内に壁際まで寄られ、丁寧に片方の剣で服を留めてから心臓を一突きだった。

僕の召喚獣が、粒子となって消えていく。

 

 

からんからん、と鉈の落ちた乾いた音が辺りに響いた。

 

 

それと同時に二体の召喚獣が動き出す。

素早く繰り出される双剣に、渡り合う素手。双剣が当たり血がたらりと流れたかと思えば、刀が掴まれそのまま一本背負いで強かに背を叩きつけられたり。そこからまた立ち上がり、刀なり拳なり振るう。

一進一退の攻防が続く中、カツン、と夏目君の召喚獣の足に鉈の柄がぶつかった。夏目君の召喚獣がその鉈を戦国さんの召喚獣に向けて蹴り飛ばす。

戦国さんの召喚獣が咄嗟に鉈を弾くも、夏目君の召喚獣の方が一歩早かった。

夏目君の召喚獣が戦国さんの召喚獣に綺麗なアッパーを決める。

それが決め手だったのか、戦国さんの召喚獣は消えていった。

 

「勝者、久保利光、夏目惣司郎ペア!」

 

現代社会の教師の宣誓が響いた。

 

「…すまん、洋介」

「全然いいよ、俺すっごく楽しかったし!夏目君も久保君もありがとうね!」

 

にこ、と笑いながら半田君が左手を出す。これは握手…でいいのかな?

 

「こちらこそ」

 

と、ぐっと握り返す。

 

「夏目君も」

「痛い痛い痛い」

 

僕と握手を終えた後、我関せずと見守っていた夏目君の手を半田君が無理矢理握りこむ。…ただ、恨み辛みからかかなり強い力みたいだけど。

 

「次の機会は必ず勝つよ」

「上等だ」

 

最後に戦国さんと夏目君がコツン、と拳を合わせて、半田君と戦国さんは会場から去って行った。

 

「…さて、次の対戦相手は手強いよ。どうだろう、クラスに戻る前に景気づけに、何か食べていかないかい?」

「それならもんじゃ食べよう」

「もんじゃの露店でも見つけたのかい?」

「いや、これから探す!」

 

その無計画さに呆れつつも、たまには悪くないかなと小さく笑みを零しながら、堂々と歩き出す夏目君を追いかけた。

 

久保side out




夏目の腕輪の能力の方、わかりにくいかと思いますので少し補足というか説明を。

夏目の腕輪の能力は“点数を消費する代わりに一撃のダメージを倍にする能力”です。具体的に言い換えると、100ダメージの攻撃を200ダメージにする、といった能力です。元にかかるダメージにより、威力も変わっていきます。50のダメージであれば、100のダメージを食らわせる、といった形で。ちなみに、一度の戦闘につき、使えるのは一度のみです。


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第八問

もう長らく清涼祭編をやっている気分でしたが、原作の時系列はまだ半分と少しという事実に驚いているこの頃です。今から七巻が恐ろしい…!


明久side

 

「…丁度良い時間だな、行くぞ明久」

「へ?行くって何処に」

 

雄二のダンプをまともに食らってボロボロの体のまま引きずられる。

…大会と喫茶店以外に用事なんてあったっけ?

ずるずると引きずられる中数分後。到着したのは召喚大会で使われている会場の片方、A会場だった。

ざわざわと混み合う雑踏の中を雄二は無理矢理進む。

 

「??僕達の試合はまだだよね??」

「今回は俺達が出るんじゃねえ、見るんだよ」

 

雄二がそう言った瞬間、会場に備え付けられているライトが派手に付いた。

 

「それではこれより、Aクラス霧島翔子、木下優子ペアと、同じくAクラス、久保利光、夏目惣司郎ペアの対戦を始めます」

 

その言葉と同時に、会場の右端から霧島さんと木下さんが、左端から久保君と夏目君が出てきた。

 

「…これってもしかして、」

「ああ、勝った方と対戦だ。…頼むぞ、久保、夏目…!」

 

やっぱりか。

祈るようなポーズで久保君と夏目君を見つめる雄二を冷めた目で見る。

ちなみに僕からしたら霧島さんの方が御しやすい相手だったりする。だって雄二さえ差し出せば万事解決だからね!

 

「久保君と夏目君相手の方が大変だと思うんだけどなぁ…」

「夏目は弱点こそイマイチわからないものの、点数があまり高くない。それに、久保なら懐柔出来るからな」

「あはは、久保君が懐柔なんてまっさかぁ~!」

 

真面目な久保君がそんなことに手を染めるとは思えないんだけど…何だろう、この妙な悪寒は。

 

「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 

四人の鋭い呼び声に応えるかのように魔法陣が広がり、その中央から四体の召喚獣が姿を現す。

如何にも強そうな装備の召喚獣が揃ったからか、観客の歓声は凄まじいものだった。……まあ、四人共顔面偏差値が高いのもあるだろうけど。

 

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 古典   317点  & 328点      』

          VS

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 古典   402点  & 97点        』

 

「………………ねえ雄二。夏目君はAクラスなんだよね?」

「…………………信じたくないがな」

 

表示された夏目君の点数は、僕らにとってとても身近な点数だった。

 

「………はぁ……とにかくこの馬鹿から倒しましょう代表」

「………わかった」

 

木下さんの召喚獣と霧島さんの召喚獣が夏目君の召喚獣に向かって勢いよく武器を振るう。

夏目君はそれを大仰に後ろに飛んで回避した。すかさず横にいた久保君がデスサイズの大鎌を横になぐ。

咄嗟に避けさせる木下さんと霧島さんだけど、霧島さんの召喚獣は少し掠めたのか、点数に変化が出た。

 

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 古典   302点  & 328点      』

 

流石Aクラス…というより400点オーバー。少し掠めただけで軽く10点は持って行かれてる。

その時、久保君の召喚獣の腕元が光った。あれは…腕輪か!

 

「夏目君、下がって!」

「任せろ!」

 

夏目君が久保君の攻撃を受けないようにか、会場の端まで下がる。

ぶぉん、と強風が渦巻く。どうやら久保君の腕輪の能力みたいだ。

木下さんと霧島さんは顔をしかめつつ、だけど召喚獣は夏目君の方へ避難させようと動く。点数の低い夏目君を気遣ってか、久保君は大鎌を振るえなかった。

夏目君もそれに気付いて二人から逃げようとするものの、点数差が桁違いですぐに追いつかれてしまう。

そんないたちごっこが何回か続けてられていたけれど、やがて夏目君が立ち止まって木下さんと霧島さんの武器を掴んだ。

まさか、と木下さんが顔を歪める。

 

「久保!俺は構わん、やれ!!」

「代表!!」

 

久保君の召喚獣が大鎌を振るうのと、木下さんの召喚獣が霧島さんの召喚獣を突き飛ばすのはほぼ同時だった。

 

『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子

 古典   298点  & 0点        』

          VS

『Aクラス 久保利光 & Aクラス 夏目惣司郎

 古典   302点  & 0点         』

 

間一髪間に合ったのか、霧島さんの召喚獣がむくりと起き上がると観客から大きな歓声が上がる。

 

「…………優子!」

「良いのよ代表。代表だけでも無事で良かったわ」

「すまない、久保」

「気にしないでくれ、木下さんを倒してくれただけでもとても助かったよ、ありがとう」

 

お互い一言二言交わすと、戦闘不能となった木下さんと夏目君は邪魔をしないように後ろに下がった。

霧島さんの召喚獣と、久保君の召喚獣が向き合う。

一泊置いて二人の召喚獣が動き出した。ガキン、ガキンとお互いの武器がぶつかり合う、鈍い音が辺りに響く。

 

『Aクラス 霧島翔子 VS Aクラス 久保利光

 古典   201点  VS 198点      』

 

戦いで消耗された点数が表示された。点数はほぼ同点の互角だ。だけど、

 

「ぐっ…!」

 

大鎌、と振りの大きい武器は小競り合いに向かないらしく、中々当たらない。それに対して霧島さんは持つ箇所を調整して長さを使い分け、久保君の隙をついて攻撃している。

だけど、久保君の振るう大鎌は当たればダメージが大きい。久保君は焦ってヤケになり振りまわすようなことはせず、冷静に霧島さんの動きを見つつ鎌を振るっていた。

 

『Aクラス 霧島翔子 VS Aクラス 久保利光

 古典   147点  VS 152点       』

 

「…………そろそろ、終わりにする」

 

そう言うと、霧島さんは召喚獣に刀を構えさせた。

 

「お互いの全力の一撃を受けて、立っていられた方の勝ちってことだね…ノッたよその勝負」

 

久保君にしては珍しく不敵な笑みを浮かべ、大鎌を構えさせる。

ピリ、と空気が張り詰めたのがわかった。ここにいる人全員が固唾を吞んで二人の勝負を見守っている。

 

「いざ!」

「……………尋常に」

「「勝負!!」」

 

二人の召喚獣がすれ違う。

さて、どっちだ……!?

 

『Aクラス 霧島翔子 VS Aクラス 久保利光

 古典   3点   VS 0点        』

 

久保君の召喚獣がドサリ、と倒れ、粒子となって消えていった。

 

「勝者、霧島翔子、木下優子ペア!!!」

 

その宣誓と共に、会場が大きな拍手と歓声に包まれる。

 

「ふう、負けてしまったか…やっぱり霧島さんは強いね」

「…………そんなことない。ギリギリだった」

「お疲れ、代表、久保君」

「お疲れ」

「ありがとう、木下さん、夏目君。…ごめんね夏目君。役にたてなくて」

「いいんだ。俺こそ言いだしっぺのわりに動けなかったしな」

「アンタ達の代わりにアタシ達が勝つから安心なさい。ね、代表」

「…………(こくり)」

 

霧島さんがそう頷き、こちらーー正確には僕の隣で苦い顔をしている雄二に視線を向けた。ぶるり、と振るえる雄二を横目で見る。

……はぁ、情けない男め。

 

「まあ、何はともあれ…対戦相手は決まったね。気合入れなくちゃ」

「……そうだな。…っと、秀吉とムッツリーニに連絡しねえとな」

「秀吉とムッツリーニに?どうして??」

「対翔子と木下姉用だよ」

 

そう言うと、先程までの震えは何処にいったのか…雄二はニヤリと笑った。

 

明久side out

 

 

「あ、お前ら大活躍したんだって!?もう超混みなんだよ早く手伝ってくれ!」

 

教室に戻るなり、坊主頭が特徴的な男子生徒ーー安田・アンドリュー・陽太君に声をかけられる。

なるほど確かに、店内は大勢の人達で賑わいを見せている。アタシ達が入っていけば、至る所で歓声が上がった。恐らく先程の試合を見に来ていた人達だろう。

 

「俺はどうしたらいい」

「…仕方ないわね、配膳をして頂戴。ただし、くれぐれも落とさないように」

「わかった!!」

 

夏目は元気よく返事をすると、厨房へと走って行った。

……ほんとに元気ね、アイツ。

ここまで来ると呆れを通り越して感心してしまう程だ。へとへとのアタシからすれば羨ましい限りである。

とにかくアタシも休んでいる場合じゃない、と、疲れた体に鞭打って働き始めた。




出演キャラクター【()内は作者様】
*安田・アンドリュー・陽太(ドM犬様)


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第九問

ウルトラムーンのプレイがとても楽しく、更新を怠らないように気を張る今日この頃です。


久保side

 

「あれ、誰か木下さん知らない?」

 

一日目の文化祭が終了に近付き、もう客も居なくなってきた頃。

ノートを片手に本田君がクラス全体にそう尋ねた。

 

「木下さんは召喚大会に出ているのでは?」

 

と、返答したのはミニスカートにニーハイソックスという本場(秋葉原)のメイド服を着た岡田さんだ。

 

「俺もそう思ったんだけど、もう流石に終わってるんじゃないかな?」

 

言われてみればそうだ。いくら出場者が多いと言えど、僕らと木下さんが戦ったのは二時間も前。いくら長引いたって何時間もかかるようなことはないだろう。

 

「優子といえばだけどさ、代表も帰って来てないんだよねえ…どうしたんだろ?」

 

と、辺りをキョロキョロと見回すのは、こちらもミニスカートのメイド服が眩しい工藤さん。

言われてクラス中を見回してみれば、 確かに美麗な容姿と召喚大会の実績でメイド喫茶を賑わせた代表こと霧島さんも不在だ。一体二人揃って何処に行ってしまったんだろう?

 

「まだ屋台とか見てるんじゃないか?二人とも、出し物と大会で忙しくてロクに見れてないだろうし」 

 

そう控えめに発言したのは、キッチンで大活躍をしていた大森君。それもあるかもしれない。そうなら無理に邪魔せずゆっくり回らせてあげたいけどーー

 

「いや、二人とも見なかったぞ」

 

キッパリとそう言い切ったのは、中で仕事をさせるのが怖い、と満場一致で宣伝係に回された夏目君だ。

 

「「「………」」」

 

その一言で静まりかえるAクラス。

教室にも居なくて、校内にも居ないってそれ、かなりヤバいんじゃ…

 

「代表と木下さんに限って校外に出てサボり、の線はないよね」

 

誰もが一瞬よぎった考えをばっさりと否定したのは、落ち着いた雰囲気の漂うロングスカートのメイド服姿の霧島素人さんだ。

そうであれば良いけどーー素人さんの言う通り、真面目な霧島さんと木下さんに限ってそんなことはしないだろう。

 

「探してくる」

「待った」

 

駆け出そうとする夏目君の腕を掴んだのは樋野君だ。この状況下で夏目君一人に行動させるのは危ないと思ったんだろう、ナイス判断だ。

 

「何故」

「むやみやたらに探し回るより、ウチの学校にはプロがいるんだからさ、そっちに頼もうよ」

 

不服そうな夏目君にそう告げたのは工藤さん。

…プロ?そんな迷い犬を探し当てるようなことが得意な人がこの学校にーー居るな、一人。

 

「わかった、急ぐぞ工藤」

「へ?ちょっとま、」

 

工藤さんが言い終わる前に、工藤さんを担いで走り出す夏目君。

……工藤さんだけで大丈夫…ではないだろう。それこそ夏目君の手綱を握れるのは木下さんしか居ないのだから。

 

「…ちょっと僕も行ってくるね」

 

そう告げて、まだ文化祭特有の浮ついた雰囲気で賑わう廊下を走る。

…あまり良くないことだけれど、今日だけは許して欲しい。霧島さんと木下さんに何かあっては困るしね。

多少息を切らしたけれど、Fクラスにはすぐに辿り着いた。

立て付けの悪そうな障子をおそるおそる開けてみるも、中は酷くがらんとしている。

 

「ーーそうか、ありがとう」

 

誰も居ないのか、と辺りを見回していると、奥の方から夏目君と酔いからか若干青ざめている工藤さんが出てきた。

 

「どう?土屋君は何か知ってたかい?」

 

工藤さんの言っていたプロ、というのは恐らく土屋君だ。校内中にカメラを仕掛けている土屋君であれば、霧島さんや木下さんの居場所ーーとまではいかなくとも、何か情報を掴める可能性は高い。

 

「…さっき、吉井君とか坂本君と一緒にどっか行っちゃったみたい」

「そっか…。あ、そうだ、土屋君と仲の良い人に連絡とってもらうとか」

「康太は携帯電話を持っていないぞ」

「うーん…それじゃあどうしようもないね…。…とりあえず、クラスに戻って報告しよっか」

「…この人数の少なさ、吉井と坂本、康太が出て行った…あまり良い予感がしないな、急ぐぞ」

 

夏目君の言う通りだ。浮ついた空気の漂う廊下を突っ切るように走る。嫌な予感や不安、心配がない交ぜになって脂汗が出てきた。

教室のドアを開くなり、声高らかに夏目君が告げる。

 

「康太は居なかった。吉井と坂本と何処か出ているらしい。ーー皆、探しに」

「待ってください、夏目さん」

 

夏目君の言葉を遮ったのは、膝丈のメイド服を着た菊池さん。菊池さんは何やら弄っているみたいだけど、手元はよく見えなかった。

 

「夏目さん、これを」

 

少し待てば、菊池さんは夏目君の前に立ち、携帯電話を渡した。携帯電話は通話画面になっており、表示されている名前はーー吉井明久。

 

「ありがとう」

 

フッ、と微笑み、夏目君は即刻携帯電話を耳に当てた。幾度かのコールの後に、プツッと音がする。

 

「もしもし!康太は一緒か!?」

『康太ーーってその呼び方は夏目君!?ってちょっとムッツリーニ!』

『……………霧島と木下は誘拐されている、場所は坂を下りてすぐのカラオケボックス』

「わかった、すぐ行く!」

 

そう夏目君が言うと、プツリ、と音と共に電話が切れた。

 

「吉井君はなんて?」

「誘拐されているらしい、場所は坂を下りてすぐのカラオケボックスだそうだ」

「「「なっ!?」」」

 

誘拐!?……もしかして、今日やたらと多く見かけたチンピラの誰かに攫われたとか…!?霧島さんも木下さんも整った顔立ちをしているし、誘拐されて強姦なんて十分ありえる!

Fクラスの人数が少なかったのも、もしかしたら姫路さんらまで攫われていたから…?それなら吉井君や坂本君らが出て行ったのも納得が出来る。

だけど幸い中の幸い、姫路さんらと霧島さん達を攫った人達は同じみたいだ。

 

「行って来る!」

 

そう言うなり夏目君が教室から飛び出して行った。

意中の木下さんが攫われた、とあれば…彼のことだ、黙って見過ごすわけにもいかないだろう。

納得は出来るけどーーどうしよう、いくら吉井君達が居るとは言え夏目君一人行かせるのは色々な意味で不安だ。

僕が追いかけるのが一番良いけど、短距離ならともかく長距離で走るのはキツいものがある。追いついても最悪の事態であれば、チンピラの相手をしなくちゃいけない。自分で言ってしまうのは悲しいけれど、僕は非力だから荒事にはあまり向かないだろう。

 

「惣司郎だけじゃ不安だし、俺も行ってくる」

 

そう悶々と考えていると、樋野君が走って出て行った。

樋野君は去年から同じクラスだったみたいだし、彼なら安心だ。

そう思う反面、自分も飛び出して行ければ格好いいのに、とも思ってしまう。こういう場面になると自分のための逃げ道ばかり探してしまうから、頭が良いのも少し考えものだ。

…そんな無駄なことを考えずに飛び出せる吉井君や夏目君は、たまに羨ましくなる。

 

「それで、俺達はどうする」

 

静まりかえる教室の中、面倒臭そうにそう呟いたのは霧島玄人君だ。

 

「…とりあえず、夏目君と樋野君が戻ってくるまで教室で待機かな。それから笂さんは樋野君からいつ連絡が来ても良いように、携帯電話を出しておいて欲しい」

「わかった」

 

ピリピリと緊張感の解けない中、僕達は四人が戻って来るまで待機することにした。

霧島さんと木下さんに何もありませんように、と切に願いながら。

 

 

久保side out




活動報告にて設置しておりますアンケートの方、ご協力よろしくお願い致します。


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第十問

拉致された場所を町外れの廃工場からカラオケボックスに変更しております。ご了承ください。


優子side

 

「アンタ達!いい加減葉月を放しなさいよ!!」

 

狭い室内に、ツンと響く島田さんの叫び声。

その声もむなしく、アタシ達を攫った男達はげらげらと下卑た笑みを浮かべた。

 

「離しなさいよ、だってよ~かぁ~わい~」

「なあなあ、この子達って好きにして良いんだろ?俺このピンクちゃんもーらいっ!」

「ハァ!?ズリーぞお前!」

「ま、落ち着けよ。ゆっくり出来るんだから」

 

アタシ達を縄で縛り付け、ニヤニヤと見下ろしている。

この人達の口ぶりからすると、誰かから頼まれてアタシ達を攫ったように思える。

…一体どうして?衝動的に攫ってしまった、というのであればまだ納得出来る。だけどアタシ達を攫ったことで何のメリットがあるんだろう。

そうして男達の下品な笑い声をBGMに考え事をしていると、不意にがちゃりとドアが開いた。

 

「ーーッ!」

 

出かけた声を慌てて飲み込む。

藍色の髪に小柄な体躯。間違いない、土屋君だ。

でも、どうしてここがーーと辺りをキョロキョロと見回していると、不意に秀吉の首元に、黒い何かが付いているのが見えた。…カメラ、いや、盗聴器…??

 

「…………灰皿をお取り替えします」

 

土屋君はそう言うと、こちら側に来て机の上に置かれたガラスの灰皿を取り替えた。

土屋君が背中に手を回し、何やら示した。

…えーと…何々?

 

『右』

『4』

 

右…はドアの方向…かしら。四、は四人来てる?それか、ドアの向こうに四人いる。問題は敵か味方か…だけど土屋君だけでここに来るとは考えにくいし…大方吉井君や坂本君辺りが助けに来てくれた、と見るのが正解だろう。

ちらり、と横を見れば葉月ちゃん以外はサインの意味が分かったのか、こくりと小さく頷いた。

 

「あ、あのっ!葉月ちゃんを放して、私達を帰らせてください!」

 

少しでもドアから意識を逸らせる為か、必死な形相で姫路さんが訴えかける。

 

「だってさ~。どうする?」

「それはオネーチャンたちの頑張り次第だよな?」

「やっ!さ、触らないでーー」

「ちょっと、やめなさいよ!」

「あーもう。うっせえ女だな!」

「きゃぁっ!」

 

チンピラの一人が島田さんを突き飛ばし、突き飛ばされた島田さんはテーブルを巻きこんで倒れた。

 

「み、美波ちゃん!!」

「アンタ達!いい加減にーー」

 

姫路さんが慌てて島田さんに駆け寄り、アタシが怒鳴ろうとしたその時。

 

「おじゃましまーす!」

 

ドアが勢いよく開き、吉井君が入ってきた。姫路さんと島田さんに目をやってから、チンピラを鋭い目つきで睨む。

 

 

ーーそれはもう、今まで見たことのない形相で。

 

 

「ハァ?お前誰よ?」

 

吉井君の雰囲気に気付かないチンピラの一人が、そう絡む。

 

「それでは、失礼して………」

 

そう言いつつ、吉井君はそいつの手首を握ると、

 

「死にくされやぁぁっ!」

 

股間を思い切り蹴り上げた。

 

「てっ、てめえ!ヤスオに何しやがる!」

 

ゴキ、と鈍い音を立てて殴られるけれど、そんなの関係ないとばかりに顔面にハイキックを叩き込んでいた。

 

「テメェら!よくも美波に手をあげてくれたな!全員ブチ殺してやる!」

「……アキ…」

 

そう吠える吉井君と、怖いような、でも嬉しそうな様子でそれを見つめる島田さん。

 

「コイツ、吉井って野郎だ!」

「どうしてここが!?」

「とにかく来ているのなら丁度いい!ぶち殺せ!」

 

テーブルを蹴散らし、吉井君に群がる四人のチンピラ達。吉井君も応戦するけれど、やはり複数人では分が悪いのか後ろや横からパンチやキックが次々に入り、ふらりとぐらついてしまう。

けれど、 俯いた顔からちらりと覗く瞳は全く死んでいなかった。

 

「お前ら全員、絶対ブッ飛ばす……!」

「チッ!舐めてんじゃねえぞーーぐほぉっ!!?」

 

「やれやれ……少しは頭を使って行動しろっての」

 

吉井君に突っかかっていたチンピラが、鋭い蹴りでノックダウンされる。

ドアを開けた坂本君の横で、()()()()()鹿()が脚をあげていた。

 

「雄二!夏目君!」

「貸しイチ、だからな?」

 

坂本君が間髪を入れず近くのチンピラを殴る。夏目もズカズカと室内に入ると、手当たり次第チンピラ達を殴る蹴る。

 

「大丈夫か?」

 

そして、アタシ達の方には樋野君がやってきた。手にはカッターを持っていて、アタシ達を縛り付けていた縄を次々と切っていく。

 

「ありがとう、助かったわ」

「いやいや、無事でよかった」

 

にこり、と微笑む樋野君を見て、心の中に安堵感が広がる。チンピラ達に手を下す吉井君、坂本君、夏目らに視線をやると、そんなアタシを見て樋野君は先程までの微笑みから一転、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。

 

「な、何よその笑い方」

「いやあ…惣司郎の奴、凄かったなって思ってよ。お前が校内に居ないと分かった時の焦りようと言ったらーー」

 

「動くなよテメェら!!」

 

その声で、ピタリと動きを止める。声の方へ視線を向けると、チンピラの一人が葉月ちゃんに刃物を向けていた。

小さい子を人質に取るなんて、なんて卑怯なの!!

 

「葉月っ!」

「大人しくしねえと、ヒデェ傷をーー」

「………負うのはお前」

「ごはぁっ!!」

 

チンピラは白目を剝いて倒れる。その後ろには、クリスタルの灰皿を振り切った土屋君が佇んでいた。

 

「お姉ちゃん!!」

「葉月!怖かったよね…?無事でよかった…!」

 

ひしりとお互いを抱きしめる、島田さんと葉月ちゃん。うーん…美しきかな姉妹愛…。

ちらり、と秀吉に目をやれば、まぁ当然だけども怖がる素振りはなく、吉井君や坂本君と話している。アイツが一番触られていた気もするけど、全く気にした風でもない。

少し複雑な感情で秀吉を見ていると、夏目がこちらに寄ってきた。…尚、服に付いた(恐らく鼻血など)血痕からは目を逸らす。

 

「無事で、よかった」

 

アタシの体を一回り見て、安堵したようにため息をつく。余程慌てていたのか、額から玉のような汗が流れていた。

 

「当然でしょ」

 

何だか恥ずかしくなって、ハンカチを渡してそっぽを向いた。視線だけ少し戻せば、ハンカチを握り小首を傾げている。

 

「汗!汗出てるのよ暑苦しいからさっさと拭きなさい!」

「そうか、ありがとう」

 

そう言うと遠慮なくアタシのハンカチで顔を拭き始める。……まぁ、察してはいたけど……本当に配慮というかデリカシーがないのねコイツ…。

 

「お前な…せめてちゃんと洗って返せよ?」

「??ああ」

 

呆れたように樋野君が声をかける。夏目も頭上にはてなマークを浮かべつつも頷いた。

 

「…それで?どうするのさ、この有様」

「んー…とりあえず出てサツに通報するか。帰るぞ、お前ら」

 

代表に腕を絡められ、辟易としてる坂本君が先頭をきって部屋から出て行く。その後にボロボロな吉井君と吉井君を支える秀吉が続き、心配そうな姫路さん、島田さん、葉月ちゃんも部屋から出た。アタシ達も続けて部屋から出る。

 

「お客様、お会計はーー」

「ああ、ツレがまだ中にいるんでな。ソイツらが払う」

「はぁ、かしこまりました…」

 

……金払いを押し付けるなんて、坂本君はちゃっかりしてるわね。

回らない頭で、そんなことが頭をよぎった。



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第十一問

オリキャラの応募は現在受付しておりません。また、感想欄にオリキャラを載せる行為もおやめ下さい。


「おかえりー!代表!優子!!心配したんだよー!?!?」

「わぷっ、あ、愛子、落ち着いて!」

「……………………苦しい……」

 

教室に入るなり、勢いよく愛子に抱きしめられる。

…心配してくれているのは嬉しいけど…息が苦しい…っ!!

 

「夏目君、樋野君…無事で良かった」

「急に飛び出すものだから、心配したよ。…怪我、酷いね。大丈夫かい?」

「ああ、心配ない。掠り傷だ」

「篝!!」

「お、おう?」

 

隣では、久保君と本田君、それから笂さんが夏目と樋野君に駆け寄っていた。

掠り傷って…………殴られたり蹴られたりしていたくせに、よく言うものね。

 

「……嘘つくんじゃないわよ、ちゃんと手当てしないと」

「何処へ行く」

「保健室に決まっているでしょう」

「何故」

「何故、じゃないわよ馬鹿。絆創膏とかもらってくるわ」

 

保健室から手当て用の道具をもらってこようとすると、

 

「ユーコ!ちょっと話したいことがあるヨ!ワタシもいい?」

 

と、ジェシカが駆け寄って来た。

 

「別に構わないけど…」

「アリガトー!じゃあチャチャッと行くヨ!」

「あ、ちょっと!引っ張るんじゃないわよーー!」

 

ジェシカに襟首を掴まれ、まるでペットのように引っ張られる。く、首が…!!

 

「…そ、それで、話って何よ」

 

しばらくしてから解放してもらい、げほげほと咳をしながらジェシカに尋ねる。

 

「今日の事件を経て、ワタシ考えたヨーー明日も同じことが起こる、かもしれない!二度あることは三度あるってやつヨ!!」

「…そうね、十分可能性はあるわね」

「でも閉店にするのはちょっとシャクヨ!ワタシ達が負けたみたいで悔しいネ!」

「……まあ……そうね」

「そこでワタシ考えたヨ!安心安全デ、かつ、ドカンと明日売れる方法ヲ!!」

「ふぅん…。教えて頂戴、その方法とやら」

 

「フフン、それはズバリーー」

 

             ☆

 

「ーーで、それが男子がメイド服を着る案だったと?」

「そういうこと。似合ってるわよ、横田君」

「全く嬉しくない…!!」

 

文化祭最終日の朝。がらんとした店内には、メイド服を着たーー数十人の、()()()()

アタシの前にはフリフリで丈の短いメイド服を着た、横田君が居心地悪そうに立っている。

 

「いやはや!ジェシカさんナイスとしかいいようがありません!!これで弘さんコレクションが増えるというものですヤッフーー!!!」

「勝手なコレクション作るんじゃない!!」

「オーマイガッ!?!!?」

 

岡田さんのカメラのレンズに正確無比なフォークが何本と刺さる。相変わらず見事な腕前だ。

 

「あれ?夏目君は燕尾服なの?」

 

体操服の上からエプロンを着て、頭に三角巾をした愛子が、数少ない燕尾服を着た夏目に尋ねている。

ちなみに、昨日ウェイターをしていた子達は調理場に入ってもらうことにした。大森君もいることだし、大きな失敗もないだろう。

 

「ああ、昨日はメイド服だったからな」

 

さらさらと流している赤い髪はオールバックにしており、ワックスが陽光を浴びてきらきらと輝いている。

黒を基調とした燕尾服はガタイの良い体によくフィットしていた。黒のピッチリとしたパンツはすらりと長い足によく似合う。ゴツゴツとした傷だらけの手は、白い薄手の手袋で覆われていた。

…………普段とは違う雰囲気に、正直戸惑った。まるで、御伽噺の一ページに出てきそうな、或いは、ドラマの中のワンシーンのような。立っている、それだけなのに様になる、流麗な佇まい。

 

「…………優子、見惚れてる?」

「ひょえっ!?あ、だっ、だだだ、だいひょ、いや、そんなわけ…!!」

「…………顔、真っ赤」

「あ、熱いだけよ!あぁ熱い熱い!エアコンでも付けようかしら!?」

「…………素直じゃない」

 

楽しそうに笑う代表の頬を引っ張る。

違う、違う、戸惑っただけで、見惚れる、なんて!そんな!!

とにかく、これ以上は目に毒だと別の場所へと視線を巡らせる。アレはーー下田君??

 

「…意外と…似合ってる…」

 

黒髪の間から覗く、男子にしては丸っこい瞳。露出の低いメイド服から見える雪のような白い肌。頬は恥ずかしさからか、ほんのりと赤く染まっている。

 

「…………本当。可愛い」

「あら、素敵なメイドさんですわね」

「や、やめろ……!」

 

代表と菊池さんが褒めると、ブンブンと首を振り否定する下田君。…………少し口元が緩んでいるのは、女子と話せたことが嬉しい……のかな……?顔を赤くしたり青くしていたりするところを見ると、色々と複雑なんだろうなぁ…。

 

「む。俺のナンバーワンメイドの座は渡さないからな!」

 

そんな下田君人気に口を出したのは、これまた絶世の美女と化した半田洋介君だ。女子でも中々着るのを躊躇ったミニスカメイドを臆することなく着こなしており、整った顔立ちと惜しげも無く晒した生足はかなり眩しかった。

 

「………そんなもの、元々いらない」

 

そう否定する下田君の鼻からは鼻血がぼたぼたを流れている。先程までの幸の薄そうな雰囲気は消え去り、むしろ残念さだけが色濃く残ってしまった。

 

「…勝った!」

「味方をダウンさせないで頂戴」

 

メイド服に鼻血が付かないよう、慌てて下田君の鼻にティッシュを突っ込む。

………全く、このメイド服は高かったんだから、汚されるのは困るのよね。また何かに使うかもしれないし…。

 

「…木下、そろそろ時間なんじゃないか?」

 

ゴツいガタイには合わない、黒髪のロングヘアーと長いメイド服のスカートを揺らすのは安田・アンドリュー・陽太君だ。ウィッグを被ってもらっているため、一瞬誰だかわからなくなってしまうのはネックだけれど、坊主頭にメイド服よりはマシだろう。

 

「そうね。…さ、代表、そろそろ開店にしましょう」

「………………皆、頑張ろう」

 

その言葉に、全員が頷く。

アタシ達の文化祭最終日は、静かにその幕を開けた。




出演キャラクター【()内は作者様】
・下田聡(ドM犬様)


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第十二問

お気に入り200突破、ありがとうございます。亀過ぎる更新ですがお付き合いいただければ幸いです。


結果から言うと、ジェシカ提案の女装メイド喫茶は大成功だった。

 

女装のわりにメイドのレベルは低くくなく、前日と違うメイドさんがいる!と昨日の客もまた訪れに来ていたり、女子の手作りが食べたいと訪れる客も数知れず。

そして何よりーー

 

「「お帰りなさいませ、お嬢様」」

「「「キャァアアーーッッ!!!!!」」」

 

夏目と久保君の執事コンビが大盛況だった。

二人はホールにいるはずなのに、その女子達の悲鳴にも似た歓声はこちらの厨房にまでよく響く。

久保君はわかるけど…全くあの馬鹿の何が良いんだか。顔?顔が良いの??

 

「ぶすっとした顔してる」

「き、霧島さん!?」

 

若干イラつきながらお皿を洗っていると、昨日のメイド服とはうって変わって愛らしいエプロンを着た霧島素人さんが顔をのぞき込んできた。…び、びっくりした…。

 

「そんなに夏目がモテるのが気にくわない?」

「……そんなわけないでしょ。何であの馬鹿がモテるのか不思議なだけよ」

「知らないの?夏目って、結構人気だよ?」

「……………へ?」

 

アイツが??????

 

「下級生とか、上級生とかがかっこいい~って。…流石に二年生では聞かないけど」

「そ、そうなの?」

「(こくり)……告白されたりもしてるし」

「……告白ぅ?夏目が??」

「おやぁ??お二人にしては珍しく、何やら楽しそうな話をしているではありませんか!」

「……………岡田さん」

「………そんなに露骨に嫌そうな顔されたら、流石の私でも傷つきますよ?」

 

えーん、えーんと泣き真似をする岡田さんだが、顔はにんまりと笑っていた。…最悪だ、よりにもよってこの手の話題を岡田さんに聞かれるなんて…!!

 

「で?何です??告白、なんて聞こえましたが??」

「……何でもなーー「夏目がモテるって話」「ほほぅ」霧島さん!!!」

「……それを聞いて木下さんは夏目さんへの告白を踏み切った、と」

「違うからね!?!?誰があんな馬鹿のことをーー「えっ!?木下さん、ついに告白するんですかっ!?」菊池さん!?しないって!しないから!!」

 

色めき立った話題が厨房中を駆け回る。

って言うかついって何よついって!!まるで私に気があるみたいな言い方しちゃって…!!!

 

「今大丈夫か?」

「ぎゃああーーっ!?!!?!」

 

そんな中、燕尾服を身に纏った夏目がひょっこりと姿を現した。

何でこのタイミングなのほんと空気読めないわねコイツ!!!!どうしてくれんのよこのソワソワとした厨房の空気は!!!!そんなにキラキラとした目で見つめられても告白なんてしないからねそこの岡田さんと菊池さん!!!!!!

 

「どうしたの?」

 

口をはくはくとさせ、何も言えない私に代わり、霧島さんが夏目に用件を尋ねる。た、助かったぁ…!

 

「注文を伝えに来たんだが…何やら騒がしいから何かあったのかと」

「実は木下がむぐっ「何でもないわよ!!で、注文は何かしら!?」」

「そうか。注文はオムライス一つだ。ケチャップはこちらでかける」

「了解。オムライス一つ!」

「「「はーい」」」

「はい、ケチャップ」

「ありがとう」

「いいえ」

 

とりあえず、近くの冷蔵庫からケチャップを取り出して渡す。

 

「木下さん、そろそろ休憩に入ってくれ」

 

すると、昨日に引き続き厨房で指揮をとってくれていた大森君に声をかけられた。

言われてみれば、今日は最初からずっと居たかもしれない…。意識し始めると、ちょっと腰が痛くなってきた。

 

「わかった。お言葉に甘えるわ」

 

少し離れたところでエプロンと三角巾を外していると、夏目がじっとこちらを見ていた。

 

「……何よ」

「大森、俺も休憩とれないか?」

「は?」

「すまん、ホールの奴に聞いてくれ」

「わかった」

 

そう言うと素早く踵を返し、ホールに戻っていく夏目。すると、すぐに戻ってきた。

 

「久保に許可もらってきた、オムライスだけ運んでくるからそこで待っててくれ」

「わ、わかった…」

 

言われるがまま近くのパイプ椅子に座る。 と、またすぐに戻ってきた。

 

「行くか」

「…その格好で?」

「集客の為だそうだ。飲食も禁止された」

「あ、そ」

 

出入り口は全てホールにあるため、一旦ホールに出なければならない。

パイプ椅子から立ち上がり、スカートの埃を払ってから厨房スペースから出ると、ガヤガヤと賑やかなホールに出た。

 

「お疲れさん」

「霧島君も、お疲れ様」

 

声をかけてきたのは死んだ目で給仕をしている霧島玄人君だ。素人さんとお揃いのロングスカートのメイド服をひらひらと揺らしている。スカートの裾から見える脚はかなり艶めかしい感じに仕上がっていた。

 

「夏目君、ごめん。夏目君の写真を撮らせて欲しいってお客さんがいて」

「わかった」

 

オレンジ髪の上にフリルドレスを乗せ、膝丈スカートのメイド服を着こなしているのは本田君。執事服の夏目と並んでも特に違和感が無いのが末恐ろしい限りである。

 

「「お待たせ致しました」」

 

なんてその女性客に頭を下げれば、甲高い悲鳴がたちまち上がる。うーん…凄まじいわね…。

 

「すまん」

「別にいいわよ。客を優先させるのは当然のことだし」

「そうか。それで、どこに行く?」

「私、お腹が空いたの。飲食店に行きましょう?」

「やっぱり怒ってるだろう」

「そんなことないわよ」

 

ただ気にくわないだけであって。

 

「…さて。飲食店なんて何処にあったか」

「…行くの??」

「お前が行きたいって言っただろう」

「いや、まぁ、言ったけど…まぁいっか。それなら校庭の出店を回らない?召喚大会も見たいし」

「わかった」

 

校庭に出ると、ずらりと出店が立ち上る。香ばしい匂いから甘い匂いまで漂っていて、お祭り独特の雰囲気がもうここだけでも形成されていた。売りこみの声をBGMに、一軒一軒じっくり見て回る。

 

「焼きそばは美味しかったぞ」

「…食べたの?」

「ああ、召喚大会の前にな」

 

心の中でそっと久保君に手を合わせた。

この馬鹿が何をしたのかなんて知らないけど、もうわりと長い付き合いだ。何があったかおおよその見当はつく。

 

「…あんまり久保君に迷惑かけちゃダメよ」

「わかっている」

 

たこ焼きの屋台をじぃっと見ながら夏目が答える。

………全く、聞いてるんだか聞いてないんだか。

 

「たこ焼きください」

「毎度あり!」

 

頭に鉢巻きを巻いた男子生徒からたこ焼きを受け取り、そのまま夏目に渡した。それから焼きそば、綿菓子も買って持たせる。

腕時計で時間を確認すると、召喚大会の決勝戦まであまり時間は残っていなかった。…座って食べたかったけど、仕方ない。

 

「このまま会場まで向かうわよ」

「?食べないのか?」

「立って食べるわ」

「そうか」

 

会場に着くと、もうとんでもない人の多さだった。後ろの方にはなるが、食べ物が潰れたりしても困るし…と少し空いたスペースを位置どる。ほとんど見えないけど…まぁ勝ち負けくらいならわかるはずだ。

 

「あれ…?木下さんに夏目君?」

 

しばらくそこにいると、ふと声をかけられる。

そこに立っていたのは、赤色のチャイナドレスを着た姫路さんと、青色のチャイナドレスを着た島田さんだった。………………比べてしまうのは悪いとは思うけど…凄い………。

 

「姫路に島田か。昨日は大丈夫だったか?」

「はい!昨日は本当にありがとうございました!」

「おかげ様でピンピンよ。ありがとね、夏目」

 

眩しい二人の姿を気にもせず、普通の調子で呼びかけに答える。本当にこういう時は羨ましいわね、コイツ。

 

「優子と夏目も観戦?」

「え、ええ、まあ…。島田さんと姫路さんも?」

「はい。土屋君と木下君にせっかくだから行って来い、と」

「にしてもこんな遠くからで見えるの?」

「全く見えないな」

「でしょうね。…これ、使う?」

「双眼鏡?いいの??」

「もう一つあるのよ。二人で一つ使うことになるけど…いいわよね、瑞希?」

「はい、もちろんです!」

 

小さいけれどずっしりとした双眼鏡を手渡される。…何だかぴかぴかだし、これってもしかして結構高いやつじゃ…??

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』

 

そうこうしていると、そんなアナウンスが辺りに響き渡った。今までのアナウンスは先生方の声の声だったけど、今回は知らない人の声だ。もしかしたらプロでも呼んだのかもしれない。

 

『出場選手の登場です!』

 

ワァァ、と湧き上がる歓声に降り注ぐような拍手。そんな熱気に包まれながら、真剣な顔をした吉井君と坂本君が舞台袖から現れた。

 

『二年Fクラス所属・坂本雄二君と、同じく二年Fクラス所属・吉井明久君です!』

 

その紹介に更に色めき立ち、歓声と拍手が増す。頑張れ、などの声もいたるところから聞こえてきた。

 

『なんと、最高成績のAクラスを抑えて決勝戦に進んだのは、二年生の最下級クラスであるFクラスの生徒コンビです!これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません!』

「……卑怯な手で、だけどね」

「あはは…」

 

アタシがそうぼそり、と呟くと、姫路さんが隣で苦笑いを浮かべていた。おおかた、アタシと同じく被害に遭ったんだろう。

 

『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、同じくAクラス所属・常村勇作君です!』

 

こちらにもまた、盛大な歓声と拍手が贈られる。

舞台袖から出てきたのは、おおよそAクラス所属の人物とは思えない坊主頭とモヒカン頭の男子生徒二人だ。

 

『出場選手が少ない三年生ですが、それでもきっちりと決勝戦に食い込んできました。さてさて、最年長の意地を見せることができるでしょうか!』

「吉井君と坂本君…大丈夫でしょうか…」

「大丈夫よ瑞希!アイツらならやってくれるわ!」

 

そのアナウンスを聞いた姫路さんが顔を曇らせ、島田さんが励ます。…何だかやたら切羽詰まっているように見えるけど…何かあるのかしら?

 

「それでは、ルールを説明しますーー」

と、司会の人が簡潔に試験召喚システム諸々の説明を始める。

 

「…どっちが勝つと思う?」

「さあ?あの三年生らもAクラスだから頭は悪くないだろう」

「気持ち的には勝ってもらいたいけど…」

「……どうだろうな」

 

会場の熱気に呑まれ、熱のこもった目線をステージに向けた。そんなアタシとは対照的に、夏目はどこか退屈そうだ。…少し不機嫌そうな感じさえする。こいつ、こういうのは苦手だったり…?むしろ好きそうなイメージがあるんだけど。

 

「…ほら、もう始まるぞ」

「へっ」

 

そう言われてステージに目を向けると、もう両ペアとも召喚獣を出して待機していた。

何だか言い合いをしているみたいだけど、ここからじゃよく聞こえない。何を話しているのか、というかそんな話す仲なのかと小首をかしげていると、司会のマイクが『ジ…ジジ……』と少しだけ音を、その会話を拾う。

 

『ーーぇに、ク……の子が……ってた』

『……んだ?晒…に…れた時の………方でも……えてく……のか?』

『………き……為な……頑…れ……って』

『……ハァ?……ツ、何…って』

 

『ーー僕も最近、心からそう思った』

 

何の話をしていたのかはわからない。わからないけど、きっと……吉井君にとって、とても大切なことだったんだろう。双眼鏡に彼の真剣な眼差しはよく映った。

 

『Fクラス  坂本雄二 &  Fクラス  吉井明久

 日本史  215点   &  166点       』

 

『『なっ!?』』

 

そのFクラスらしからぬ高い点数に、相手の生徒はおろか近くにいた姫路さんと島田さんも目を見開いて吉井君を見つめている。

 

『アンタらは、小細工なしの実力勝負でぶっ倒してやる!!!』

 

吉井君の力強い叫び声は、会場中に響き渡った。

   

            ☆

 

真っ正面から突っ込む坊主頭の先輩の攻撃を、吉井君はひょいひょいと軽く躱して隙を突いて攻撃を叩き込んでいく。その立ち回りの鮮やかさといったら!少し、見直してしまった程だ。………………………まあ、本当に少しだけど。

 

「上手いな」

「そうね。ただの馬鹿だと思ってたけど…戦争になったら要注意人物だわ」

 

つい一ヶ月前程の、試召戦争。結果的にFクラスは負けたわけだし、坂本君の性格からして戦争はまた仕掛けられるはず…。対戦相手の勝負が見れる機会なんてそうそうない。これはよく見て、真似できそうなところは真似していかないと…!

そう意気込んで試合を観戦していると、突然坊主頭の先輩の召喚獣が大きく飛び退った。

 

「……どういうことかしら…?」

「?どうした、何かあったか?」

「……あの、坊主頭の先輩の召喚獣。急に大きく飛び退ったのよ。吉井君の召喚獣から離れるならともかく、自分からも離すなんておかしいと思わない?」

「そうだな」

「……………………気になった?代わる?」

「いや、ギリギリ見えなくもない。大丈夫だ」

 

と言って目を細め、ステージを見る夏目。

アタシも双眼鏡に目を戻すと、いつの間にか優勢だったはずの吉井君の召喚獣に次々と攻撃が叩き込まれていた。一体何が、と吉井君に目を向けると当の本人は目元を抑えながらふらふらしている。

もしかして…さっきの大きな動きは目くらましで、吉井君に何かしら危害を加えていた、とか…!?

そ、そんな、本人に危害を加えるなんて反則じゃない!!でもそれを伝えるすべも、証拠もない。どうしよう、このままじゃ吉井君が、

 

ダンッ!

 

大きな音が響いた。力強く、叩きつけるような音が。

その音が合図だったかのように、満身創痍な吉井君の召喚獣に、坊主頭の先輩の召喚獣が突っ込んでいく。吉井君の召喚獣はそれをするりと抜け、その背中を大きく蹴った。坊主頭の先輩の召喚獣がよろめく。

それを見て坂本君の召喚獣がモヒカン頭の先輩の召喚獣に突っ込んでいった。…けど、相手の先輩だってそれを見過ごす程馬鹿じゃない。迎え撃つように、剣を振り下ろしていた。

その剣が坂本君の召喚獣の首を両断するーーその直前! 

 

ギィンッ

 

吉井君の召喚獣が投げた木刀が当たり、その軌道が逸れる。

 

「吹き飛べやぁあっ!!!!」

 

坂本君の怒鳴り声と歓声は重なり、派手なパンチをくらうモヒカン頭の先輩の召喚獣。

決着がついた一方で、吉井君の召喚獣の方に坊主頭の先輩の召喚獣が迫る。先程木刀を投げたせいで吉井君は丸腰のまま。誰かのごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。

しかし、吹き飛ばされたモヒカン頭の先輩の召喚獣が坊主頭の先輩の視界を遮り、坊主頭の先輩の召喚獣の動きが一瞬鈍る。

その隙をついて吉井君は召喚獣を前に出し、坊主頭の先輩の召喚獣は空振りに終わった。だけど素早く剣を戻し、再び攻撃を加えようとする。その攻撃の前に、吉井君の召喚獣は坊主頭の先輩の召喚獣に頭突きをした。

相手が怯んでいる合間に、坂本君の召喚獣が吉井君の召喚獣へ向けて木刀を蹴飛ばし、吉井君の召喚獣はその木刀を拾い上げる。

 

「くたばれえぇっ!!!!!」

 

吉井君の召喚獣の左腕は切り落とされ、その痛みか吉井君は顔を歪める。ーーけど、けれど!!

 

 

『坂本・吉井ペアの勝利です!』

 

 

「ぃぃぃよっしゃぁああーー!!!!!!!」

 

坊主頭の先輩の召喚獣の喉元には深々と、吉井君の召喚獣の木刀が突き立っていた。



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第十三問

たーーまやーー!!!!

私のところではつい昨日、近所のお祭りで花火の打ち上げをしていました。花火ってテンション上がりますよね!いいですよね!
ここまでアピールすればお察しの方はお察し出来ると思います。という訳で芸術は爆発だ!波乱の第十三問目、よろしくお願いします。


明久side

 

『ただいまを持って、清涼祭の一般公開を終了致します。生徒は速やかに撤収作業をしてください。繰り返しますーー』

 

「お、終わッッ……た」

「うむ、流石に疲れたのう………」

「……(コクコク)」

 

終了を告げるアナウンスが流れ、派手に寝っ転がった。

あの召喚大会の後、お客さんはそりゃあもう増えに増えた。今までいなかった分働かなくちゃ、というのと自分達がいれば人が入る、というのでずっとウェイトレスをやってたわけだけど……あ、足がもう、ぱんぱんでやばい……。

 

「お疲れ」

「お疲れさまでした」

 

姫路さんと美波はこの一日二日程で慣れたのか、涼しい顔をしている。…すごいなぁ、二人とも…。僕ら以上に動き回ってたと思うんだけど…。

 

「……さて、終わったし着替えましょうか」

「そうですね。私も早く着替えて、お父さんとお母さんのところに行かなくちゃ…」

「ちょ、ちょっと待って!!!」

「?どうかしましたか?」

「何よ、アキ」

「着替えちゃうの!?!?!?」

「さ、流石にこのまま両親に会いに行くのは恥ずかしいですし……」

「終わってまで着てる理由がないじゃない」

「ま、待って二人とも!!カムバァァーーックチャイナドレスーー!!!!!」

 

無情にも去って行ってしまう二人。あ、ああ………僕の癒しが…目の保養が………!!!

 

「…………(ギリッ)」

 

撮影会の準備を進めていたムッツリーニも、目から血を流さんばかりの勢いで悔しがっている。

 

「…さて、ワシもそろそろ」

「!させるかぁっ」

「……(ガシッ)」

「な、何するんじゃお主ら!」

 

踵を返そうとする秀吉の足を掴んで阻止する。せ、せめて秀吉だけでも……!!!

逆の足はムッツリーニが掴んでいた。おお、流石同好の志よ…!

 

「おいお前ら。遊んでないでとっとと支度しろ、学園長室行くぞ」

 

そんな僕らを雄二が呆れたように見ていた。終わって早々に倒れ込んだ僕とは違って、コイツもまた涼しい顔をしている。…本当にタフな奴だなぁ…。

 

「って学園長室?」

「阿呆、俺達の目的は腕輪でもペアチケットでもねえだろ」

「!そうだ、設備の話!」

「うむ?設備?」

「…………何の話だ」

「ちょっと色々あってな。お前らも来るか?」

「いや、ワシはその間に着替えを」

「よぉし皆で行こうか!!」

 

素早く起き上がって秀吉の手を取る。させない…!あの二人が着替えてしまった以上、秀吉のチャイナだけは絶対死守してみせる!

 

「やれやれ、ワシのチャイナなぞ誰の得にもならぬというのに…」

 

絶対そんなことないと思う。

 

            ☆

 

「お邪魔しまーす!」

「邪魔するぞ」

「やれやれ。そんな気楽に入ってもらわれても困るんだけどねえ…。何だか知らないけど、まぁたぞろぞろ連れてきて」

 

ドアを開けると醜悪な妖怪、もとい学園長が顔をしかめた。そのいかしぶげな視線は僕らではなく、秀吉とムッツリーニに向けられている。

 

「いいだろ別に。こいつらも被害者なんだから話を聞く権利はあるはずだが?」

「………………ふぅん、そいつは悪かったね。」

「それで?腕輪は返せばいいのか?」

「いや。どうせすぐには直せないんだから後でいいさね」

「不具合、とな?」

「うん。この腕輪、欠陥品らしくて点数が高いと暴走しちゃうんだよ」

「そうじゃったのか。……………うむ?どうしたのじゃ、雄二よ」

 

秀吉の視線の先にはいつの間にか、考え事に没頭している雄二の姿が。…何だか前もブツブツ言ってたけど…雄二はここで考え事をするのが好きなんだろうか。

 

「……まぁいいや。それで、教室を改修してもらう代わりに僕と雄二が腕輪をゲットするって取引を学園長とーー」

「待て明久!その話はマズい!」

「へ?」

「………………………盗聴の気配」

 

ムッツリーニがぼそりと呟く。

慌てて学園長のドアを開ければ、バタバタと複数人が去って行く音。

 

「…ッ、やられた!追いかけるぞ!」

「ま、待ってよ雄二!どういうことなの!?」

「盗聴だ!アイツらこの部屋に盗聴器を仕掛けてたんだよ!」

「何だって!?」

「今の会話も全部聞かれてたはずだ。もし録音なんてされてたら相当マズいことになる!」

「ろ、録音!?冗談じゃない!」

 

そんなものが公開されたら、学園の信用はガタ落ちして姫路さんどころか僕達まで転校騒ぎだ!何としても証拠を隠滅しないと…!!

 

「秀吉、ムッツリーニ!二人も協力してくれないかな!?」

「元よりそのつもりじゃ!して、相手は妨害をしておった坊主頭とモヒカン頭で良いのか!?」

「ああ!ちらっとだが見えたから間違いない!」

「ってことは二人組だよね!?こっちも二手に別れよう!!」

 

本当は四人でばらけた方が良いんだろうけど、返り討ちに遭うのはマズい。ここは二手に分かれるのが得策だろう。

 

「じゃあ、僕らは放送室を抑えるから秀吉とムッツリーニは別の放送出来る場所を、」

「……………外を回る。持ち帰られてコピーをとられたら面倒」

「それは一番困る!頼むぞ二人とも!!」

「……あと、これを」

 

走りながらムッツリーニが何かを寄越す。……これは、

 

「双眼鏡?良いの?」

「…………それは予備だから問題ない」

 

予備どころか学校で双眼鏡が必要な時なんて無いとは思うんだけど…まぁいいや!有り難く借りておこう!

 

「ありがと、ムッツリーニ!」

「…………………この学校は気に入っている」

 

それは女の子のレベルが高くて制服も可愛いからだろうか。なんにせよ、学校が潰れて欲しくない気持ちは一緒だ。

 

「見つけたら連絡してくれ!」

「うむ!」

 

屋内組と屋外組に分かれて校内を走り回る。ああもう!走り回るのは慣れているけど、ここ二日間はずっと走ってばかりだ!

 

            ☆

 

~ 放送室 ~

 

「邪魔するぞ!」

「な、何だお前ら!?」

「ダメだ雄二!ここにいるのは煙草吸ってる馬鹿だけだし、置いてあるのは学園祭で密かに取引されていたアダルトDVDくらいしかないよ!」

「そうか!とりあえず煙草とDVDを押収してさっさと行くぞ!」

「そうだね!校則違反だもんね!」

「お、おい待て泥棒!」

 

 

~ 廊下 ~

 

「そんなに何を急いでるのよ、アンタ達」

「美波!坊主頭とモヒカン頭見なかった!?」

「へ?えーと、見てないわね」

「そっか、ありがとう!ちょっと色々あって急いでるからまた後で!」

「あ、ちょっと!何か落としてーー『女子高生緊縛物語』?」

「は、早く逃げよう雄二!美波からドス黒い何かが見えるんだ!!」

「待ちなさいアキ?アンタ何でこんなもの持ってるのかしら?」

「うわっっ追ってきた!!」

 

 

~ 二-A教室前 ~

 

「…………雄二」

「翔子!悪いが今はお前に構ってられない!」

「…………大丈夫。市役所くらい一人で行ける。婚姻届を出すだけだから」

「何を言ってーーってちょっと待て!俺はそんなものに判を押した覚えねえぞ!?!?」

「霧島さん!坊主頭とモヒカン頭、見てないかな!?」

「………見てない」

「そっか!ありがとう!それじゃこの辺には居ないから急ぐよ雄二!」

「おい待て明久!こっちはこっちで大変なことに」

「じゃあまたね、霧島さん!」

「待て!頼むから待ってくれ!!!」

 

~ 職員室前 ~

 

「理恵ちゃーーじゃなくて!菊池さん!坊主頭とモヒカン頭見てない!?」

「え?えぇと…見かけてませんわ」

「ありがとう!ーー雄二!ここまで見て居ないんだからもう新校舎には居ないじゃないかな!?」

「そうだな、一通り回ったからな!よし、他の場所探すぞ!」

「あ、ちょっと!あの、明久君、坂本さん!霧島さんと木下さんの件はありがとうございました!それから、夏目さんが明久君のことを探してたので、用事が済んだら行ってあげてください!」

「夏目君が…?よくわかんないけどわかった!ありがとう!!」

 

            ☆

 

「ハァ、ハァ……い、一体、何処に…」

「クソッ……時間を…ハァ、だいぶロスした……」

 

校舎には居なそうだったので、僕と雄二は一度外に出てグラウンドの隅など人目につかなそうな場所を探していた。しかし、辺りを見渡しても一向に見つからなーー

 

「…?何だろ、あれ」

 

校庭の隅に、ビニールシートが敷かれていて、その上に布に包まれた丸い玉が置かれていた。

 

「何だ、何か見つけたか?」

「…あれ、あの、ビニールシートのとこ」

「……あぁ、あれか。……二尺玉じゃねえの?ほら、毎回後夜祭で花火あげてるだろ」

「ああ、締めのやつね。へえ~、こんなとこに保管してたんだーーあれ?でも打ち上げるやつがないね?」

「そっちは打ち上げ場所に保管してるんだろ。一応花火は火薬の塊だしな。直前まで火の気のないところに保存しておくのが鉄則だ」

 

火薬の塊か。そう考えると爆弾やダイナマイトとあまり変わりないのかも。見た目が綺麗かどうかの違いがあるだけって感じだ。

 

「吉井!」

「ーー夏目君?」

 

流石試験校、お金があるなぁなんて関心してると、夏目君がこちらにやってきた。……そういえば、菊池さんが探してたとか…言ってたような…。

 

「ごめん、ちょっと急いでて。用事なら後でーーそうだ、坊主頭とモヒカン頭、見てない?」

「……見たぞ。確かあっちだ」

 

少し思案した後、夏目君が新校舎を指差した。目撃情報は有り難いけど、確か新校舎はくまなく探したはずじゃ、

 

prrrr!!

 

雄二と二人で首をかしげていると、突然雄二の携帯が鳴り出した。着信はーー秀吉から!

 

「もしもし!見つかったか!?!?」

『うむ!見つけたぞい!流石ムッツリーニじゃ、遠くまでよく見ておる!』

「よくやった!そんで何処だ!?」

『新校舎の屋上じゃ!』

「し、新校舎の屋上!?」

 

しまった!屋上までは行ってない!!

慌てて双眼鏡で見ると、新校舎の屋上であの二人が放送機材を準備しているのが見えた。

 

「マズいよ雄二!放送しようとしてる!」

「何だと!?おい秀吉、お前らは今どこに居る!?」

『部室棟じゃ!』

「チッ、どっちにしろ今からじゃ間に合わねえな…!!」

「どうする雄二!」

「ーーッ!クソ!だがどうしたら、」

 

「…………よくわからんが、放送されたら困るのか?」

 

「う、うん!何か、何かない!?ここからでも放送を邪魔出来るようなやつ!」

 

すると夏目君はおもむろに二尺玉を持ち上げ、そのままそれをーー投げた。

 

「……は、」

「……飛距離が足らん。当たれば絶対いけると思うんだが」

 

夏目君の投げた二尺玉は、重たかったからかすぐ近くに落ちてしまった。それを見て目を細める夏目君。

確かに当たれば確実に放送はやめさせられる。だけど二尺玉は重いし、そもそも新校舎の屋上までは遠すぎて僕達じゃ届かない。

 

 

そう、僕達じゃ無理だ。

 

 

「雄二!」

「わかってらぁ!!ーー起動(アウェイクン)!」

「試獣召喚(サモン)!!!」

「夏目君!指示お願い!」

「わかった、任せろ!」

 

僕が投げた双眼鏡を、夏目君がキャッチする。

空いた手で先程煙草とセットで押収したライターを出し、二尺玉の導火線に火をつけた。

 

「それじゃ一回試しにーーどりゃあっ!!」

 

新校舎の屋上目がけて、召喚獣に投げさせる。

 

 

ドォン!!!パラパラ……

 

 

うんうん、流石召喚獣。問題なく新校舎の屋上まで飛んでいき、炸裂する。

 

「スピーカーに当たったな、壊れたぞ」

「うーん、花火って怖いな!」

 

夏目君の発想に僕らが一手間加えた、これが僕と雄二が編み出した最終手段。名付けて二尺玉アタックだ!(良い子は真似しちゃダメだそう!)

 

「念のため放送機材も壊しとくか。一発かましてやれ、明久!」

「ほいほーい!」

「機材ならさっきよりも右だな」

 

言われた通り、今度は右に方向を修正する。

何故教師も居ないのに召喚獣を使えるのか?それは雄二の持つ白金の腕輪のおかげだ。この腕輪は召喚獣自体には何の能力も与えないけれど、代わりに所有者の傍に召喚獣を呼び出せる場を作ることができる。要するに先生の代わりに立会人になれる力だ。

 

「オッケー!着火!!」

「よしいけ明久!」

 

「「「たーーまやーー!!!」」」

 

二尺玉を拾いあげ、導火線に火を付けて思い切り投げる。まさか花火の打ち上げを体験できるなんて思いもしなかったなぁ…。

 

「機材の破壊を確認!」

「よし!それじゃ、いい加減ここにいるのも危ないし」

「そうだな。あいつらに一発ブチ込んだら逃げるか」

「そうだね!」

 

やっぱり悪は徹底的に滅ぼさなきゃいけないよね、うん。

 

「今度はさっきより左だな。…あ、いや、もう少し右に。動き回ってる」

「チッ、往生際の悪い奴らめ」

「……えーと……こっちかな?それじゃ、とどめの一発!ファイヤーー」 

 

「貴様らぁっ!!!何をやっとるかぁっ!!!!」

「うわぁっ!?!!」

 

突然背後からドスの利いた怒鳴り声が。ヤバい、召喚獣の制御が!

 

ヒュ~~……… ドォン!!!

 

「おい馬鹿!校舎にブチ当たったぞ!?!?」

「校舎がゴミのようだな」

 

狙いがずれた花火は校舎の一角に激突。壁や扉を破壊し、瓦礫の一山を築き上げた。まるで映画でも見ているような気分だ。

 

「き、君達!よりによって教頭室になんてことをしてくれたんだ!」

 

先生のあわてふためく声が聞こえる。これほどの事件は文月学園創立以来初めてだろう。

 

「吉井に坂本!!それに夏目!!貴様ら無事に帰れると思うなよ!!!」

 

そして聞きたくなかったなじみ深い低い声。

 

「鉄人だ!逃げるぞお前ら!!」

「「おうっ!」」

「逃がすか!!今日は帰らせん!!!」

「違うんです先生!僕らは学園の存続のために」 

「その存続すべき学園をたった今お前らが破壊したんだろうが!!!」

「そ、それには山よりも深く海よりも高いわけが!!」

「それを言うなら山よりも高く海よりも深いだ馬鹿者!!!!」

 

というか、原因の一つは確実に鉄人だ。

 

「恩に着るぞ明久!そのまま鉄人を頼む!」

「しまった!こうなったらーー先生!元凶の夏目君があっちに!!」

「何を言う吉井。言いだしっぺはお前だろう?」

「やはり貴様か吉井ぃっ!!」

「夏目君の裏切り者ぉっ!!!だ、誰か助けて!変態教師に犯されそうですーっ!!!!」

「貴様よりによってなんて悲鳴を上げるんだ!!」

 

こうして鉄人との校内マラソンが幕を上げ、僕の学園祭の思い出は恐怖と筋肉痛に上塗りされ、埋め尽くされてていった。




多機能フォームが使えなくなってしまい、ルビの振り方を変えさせていただきました。こう変えたら見やすい、などありましたら言っていただけると…有り難いです…。


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最終問題

内容が濃かったので終わりは案外あっさりしててもいいんじゃないだろうかと言い訳を置いておきます。
今回の完結は酷く時間がかかってしまいましたが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです~!


明久side

 

「ひ…酷い目にあった…」

「全くだ」

「まぁ、まだ良い方だろ。普通に考えたら良くても停学、悪くても退学だぞ」

「うん、まあ、そうなんだけどさ」

 

結局三人とも、鉄人から逃げ切ること出来ず。三人揃って鉄人からきついお灸を据えられた。うう、思い出すだけで背筋が寒くなってきた……。

 

「悪かったな、夏目。事情も知らせずに巻き込んじまって」

「気にするな、怒られるのは慣れてるしな!」

「そこ絶対胸を張るとこじゃないよね??」

 

脳裏に浮かぶのは普段は冷静沈着な秀吉のお姉さんーー木下優子さんが夏目君に怒鳴る姿だ。……うん、何だかしょっちゅう見かけてる気がする。

そう三人で帰る支度しながら雑談していると、

 

「夏目君。少し良いですか?」

 

ピンク色の髪を一つにまとめ、スーツをぴっちりと着こなした眼鏡の女教師(ここ重要)ーー高橋女史が夏目君だけを(ここ重要)呼び止めた。

 

「何だ?説教は鉄人だけじゃないのか?」

「坂本君や吉井君にはありません。ですが、夏目君。貴方には担任として話があります」

「「「……担任として?」」」

 

全員が首をひねる。

何だろう。夏目君は普段から僕らのように逃げ回っている問題児という訳じゃないし、花火を打ち上げた実行犯でもない。というかむしろ、僕らが無理矢理巻き込んだようなもので、夏目君が特別怒られる理由はないと思うんだけどな…。

 

「……Aクラスはその学年、ひいては学園の模範となるべき存在です。それなのに…。何です?この騒ぎは」

 

高橋女史の冷たい視線が、夏目君を射貫く。鉄人の暑苦しい指導とは違い、静かに怒る高橋女史はまた鉄人と違った怖さがあった。

 

「ーーま、待ってください先生!夏目君は僕達が無理矢理巻き込んじゃっただけで、」

「黙りなさい、吉井君」

 

僕の主張はぴしゃりと突っぱねられた。その容赦のなさに思わず怯んでしまう。

 

「一緒に居たのであれば、貴方は吉井君と坂本君を咎め、その行動を止めるべきでした。学園の模範生徒として、貴方にはその義務があったはずです。それを、止めるどころかあまつさえ協力するなんて…」

「お言葉だが高橋女史。俺達の行動が夏目に止められていたら、学園は潰れていた可能性があったんだ。それでも模範的な生徒として止めるべきであったと言うのか?」

「ええ。言います」

 

その真っ直ぐに僕達を見る瞳に、正直ーー畏縮した。これは、この真っ直ぐさは。どんな言い訳をしようと無駄だと、本能が訴えている。

 

「……吉井、坂本。先に帰ってくれ」

「で、でも!」

「庇ってくれたことは嬉しい。…だが、女史の言うことも確かだ。俺は腐ってもAクラスの生徒。模範的な生徒として、お前達をとめる義務はあった」

「「……」」

「だから、説教を受けるべき理由はある」

 

そう言うと、適当な椅子にどっかりと座り込む夏目君。

 

「……夏目君。話は最後まで聞きなさい」

「最後まで?」

「ええ。確かに今回の貴方の行動は賞賛されるようなものではありませんがーー坂本君の言うように、それに助けられたのも事実です。ですので、長々と説教するつもりはありません」

「「「……!」」」

「それに、今回の件は学園側にも被がありました。なので、今回は目を瞑りましょう」

 

「ですが、二度目はありません。同じ失敗は二度としないように。…良いですね?」

 

そう言うと、高橋女史は踵を返して職員室から出て行った。後に残されたのは、僕達三人。

 

「…帰るか」

「そうだね」

 

雄二が鞄をとって出て行き、僕も後を追いかける。だけど、夏目君が一向に出てこない。

 

「夏目君?帰らないの?」

「…待ってくれ、この椅子、めちゃくちゃ座り心地が良い…!!」

 

「「…………………………」」

 

何だろう、夏目君の耳はちゃんと正常に機能しているんだろうか。早めに耳鼻科とか行った方がいいんじゃないだろうか。

雄二がハァ、とため息をつく。

 

「おい、早く来ないと電気消すぞ」

「む、すまん。つい」

「というか、Aクラスってリクライニングシートじゃなかった?座り心地良くないの??」

「悪いわけじゃないが、硬いな」

「「硬い」」

「ああ、寝ると体がバキバキになる」

 

意外だ。何となくだけど、設備全てが快適に使えるイメージがあったんだけどなぁ。

 

「…なるほど。ああ、でもそう思うとFクラスは寝心地は良いよね」

「確かに寝転がれるのは有り難いが…今回の予算で畳新しく出来ねえかな…」

「どうだろうね、収支をまとめたノートをチェックしてみないと何とも言えないなぁ」

「売り上げで設備を買うのか?なら俺は布団が欲しい」

「ガッツリ寝る気できたな」

「本当に何で夏目君がAクラスなのか、時々凄く疑問に思うよ…」

 

絶対僕と思考レベルは変わらないと思う。

そんなくだらない話をだらだらとしていたら、あっという間に校門まで来ていた。

 

「僕達はFクラスの打ち上げに行くけど、夏目君はどうするの?」

「うーむ…正直打ち上げはまだやっているのかわからなくてな。一応誰かに確認をうぉっ」

「おいこれ、早く行った方が良いぞ。木下姉絶対キレてるぞ」

 

夏目君の携帯を覗き込んでみると、ずらーっと並ぶ木下さんからの着信履歴。こ、これは中々…。

 

「そうだな………いや、ちょっと待ってくれ。吉井に頼みたいことがーー」

            

           ☆

 

優子side

 

「すまん、遅くなった」

 

からんころん、と店のベルが派手に鳴った。

見慣れた赤い髪が夜風にさらさらと流されている。いつもの無駄に整った顔は手酷くやられたのか、ところどころ腫れていたり絆創膏が張られていた。綺麗だった制服も何処か薄汚れているし、まさに満身創痍という感じだ。

 

「遅かったね、先に始めてたよ」

「悪いな」

 

久保君がお茶の入ったグラスを渡すと、余程喉が渇いていたのかすぐに飲み干してカンッと勢い良くテーブルに置く。

 

「ーー翔子、いるか」

「……………………何?」

 

夏目がそう言いながら辺りを見渡すと、アタシの隣に座っていた代表が立ち上がり、夏目の元へ行った。

すると夏目は、自分のズボンのポケットから一枚の封筒を取り出し、代表に手渡す。

 

 

代表が封筒を開けると、出てきたのは如月ハイランドパークのプレオープンチケットだった。

 

 

「…!惣司郎、これ、」

「吉井が譲ってくれた。礼なら吉井に、「ありがとう、惣司郎!」」

 

 

そう言われると夏目は、珍しく驚いた顔をした後にーー酷く、こっぱずかしそうにそっぽを向いたのだ。

 

 

            ☆

 

「怒らなくて良いのかい?」

楽しそうに話す代表と夏目を眺めていると、本田君がお茶の入ったグラスを持ってアタシの横に腰掛けた。

「……ええ。正直、校舎を破壊したって聞いた時はめちゃくちゃ怒鳴りつけたくはなったけど」

「……けど?」

 

 

「代表の笑顔を見てたら、何だか気が抜けちゃったわ」

 

 

アタシがそう肩を竦めると、本田君は心底楽しそう笑い、お茶を啜った。

 




終わった!!!終わり!!!ました!!!!!

最後までお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました!そして重ね重ねですがお気に入りの200突破。本当に嬉しいです!ありがとうございます…!感想、評価もこんなにもらえる作品になるとは思いませんでした。気まぐれ、亀更新なのでまだ間が空いた更新になったりしまうかもしれませんが、飽きずにお付き合いいただければ幸いです。

さてちょっとした予告を。
要望のあったオリキャラまとめをひとまず出すのと、本作の原作キャラの簡単な設定集のようなものを出してから3巻の合宿編に移りたいと思います。夏目の前についに恋のライバル登場?で優子のSAN値が大ピンチ!(予定)それではお楽しみに!


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幕間②
キャラ紹介~オリキャラ編~


オリキャラを応募してくださった方、また、オリキャラを応募したいと考えている方は後書きを必ず読んでください。


いただいた順番に並べさせていただきました。

夏目は幕間のお知らせに載せたので割愛致します。

それぞれのオリキャラの作者様は登場した話の後書きに載せさせていただいておりますので、そちらをご覧ください。

 

 

名前:本田 樹(ほんだ いつき)

性別:男

容姿:橙色の髪に同色の瞳で、体は細めで、血色が悪く不健康そうに見える。

成績:Aクラス中堅レベル。体調次第では久保や姫路に匹敵するが基本は200点~250点程。総合科目は2400点~3000点弱くらいの点数。

得意科目は現代国語と保健体育。基本的に380点前後で特に現国は良い時は400点を越える時も。

苦手科目は数学、化学、物理の理数系。平均150点程。Aクラス平均を下回る。

召喚獣:黒タキシード、白手袋、シルクハット、片眼鏡を着用している(紳士風?)、レイピアが武器。

腕輪の能力は、ある程度の点数を消費することにより、武器の長さを伸縮させれる。

性格:適当な相槌を打ったり、思った事や余計な事を口にする無自覚な毒舌。得意科目は昔は体が弱く、家で文学書や医学書を読み漁っていた為。今は体よりプレッシャーに弱い。

 

 

・名前 樋野篝(ひのかがり)

・性別 男

・大まかな容姿 絶対可憐チルドレンの火野カガリ似、髪型は中学時代のホースヘアー

・成績 総合は約2500~3000点台で得意科目は化学と物理で405点、苦手科目は保険で109点、他は平均で180~250点台

・召喚獣について武器は両手に持った鉄甲、中華系でモデルは新宿のアサシンの格好に似てる 腕輪は100点消費で両腕が炎をまとい、更にその炎で中距離攻撃が可能

・性格 基本的に常識人で突っ込みに廻る、夏目のことは一年同じクラスで親しい、夏目のバカさ加減には呆れているが、恋の為にAクラス入りした努力は密かに尊敬してる

実は土屋程ではないが結構ウブでもあり商会の軽めの写真を見せられしただけで尻込みする

そのためAクラスでのイジラレ担当な上に暇な時の愛子の玩具(吉井たちよりは軽めだが)

ちなみに幼馴染みがおり異性として好きだが無自覚で、明久程ではないが少し鈍い所がありその幼馴染みに嫉妬で折檻されても気づかない

 

 

・名前 笂蔓(うつぼかずら)

・性別 女性

・大まかな容姿 絶対可憐チルドレンの玉置カズラ似、髪型はサイドテールで ちなみに胸はC

・成績2200~2700点台で点数は220~310が平均で得意不得意特になし

・召喚獣 衣装は荊軻(Fate)モデルで武器は投げナイフ、戦い方は舞うようにナイフを投げる

・性格 篝の幼馴染みで篝と同じバカテスの中では常識人な方で突っ込み担当だがやはりバカテス女子にある嫉妬で篝をお仕置きしてしまう

篝のことは篝とちがって異性として意識し自覚してるが中々正直になれないためついついツンツンしちゃう、そのため何時も自分の気持ちをはっきり言う代表と夏目を羨ましいと思う

ウブなためスケベに向ける目は冷たい、突っ込みは結構辛辣、その辺がドMな男子生徒に地味に人気

Fクラスの美波とはどことなく自分と共通する部分を感じ結構なかいい

 

 

名前:菊地 理恵(きくち りえ)

性別:女性

容姿:ポケットモンスターサン・ムーンのヒロインリーリエがポニーテールになった姿(いわゆるがんばリーリエ!)で久保のように制服はきちんと着ている

成績:Aクラス上位レベルで平均点は350~390点程度

総合科目は3700~4000点弱。調子が良いと4000点を越える

得意科目は現代文・日本史であり平均420点程度

苦手科目は保険体育で50点程度とFクラスに匹敵するレベルである

召喚獣:白いパーティドレスに武器の二丁拳銃を持つ。なお拳銃には隠しナイフがあり接近戦にも対応している

腕輪の能力は30点消費で銃に氷属性を付け攻撃した相手の召喚獣を10秒間程凍らせる

だが、拳銃の弾3発に氷属性を付与するので乱射は難しい

性格等:明るい性格で愛子程ではないが行動性もある

ただ少し頑固なところがあり怒らせると周りを凍てつかせる程の怒りのオーラを出す(なので周りは理恵だけは怒らせないようにしている)

本の虫でクラスメイトと、遊ぶ等以外は常に本を読んでいるため知識が豊富であるが世間知らずなところがあり度々Aクラスの面子を迷惑させることもある。

しかし、康太以上のウブであり、愛子の性の事を入れたトークでさえ赤面するほどである。(これにより、保険体育は上記のとおり苦手である)

家が霧島財閥に匹敵する菊地財閥であり、列記としたお嬢様であるがその事を感じさせない魅力を持つ。

Fクラス勢では、明久・美波と仲がよく、とくに明久とは幼馴染みで一緒に遊んだ仲だが、彼女自身明久に関して好意は無く単なる男友達と思っておりむしろ彼女は美波の恋を応援している。

 

 

霧島 玄人(きりしま くろうと)

性別

容姿

デアラの鳶一折紙の黒髪Ver.(体は男)

概要

物静かな性格だが、こと戦闘時においては普段からは想像もできないほどに饒舌になる。

Aクラス上位(ほとんど国語のみで張り合っている)

得意教科は国語全般。国語において常に学園一位の成績を誇るが、理科においてはAクラス最底辺は愚かEクラスよりも下かもしれない。それ以外はAクラス中堅程度。

召喚獣は二刀流の侍風。武蔵(FGO)の服の黒いVer.。

腕輪の能力は点数を消費する事で武器の切れ味を高められる。(上限は特にない)

 

 

名前 ジェシカ・ブラウン

性別 女

容姿 髪は明るい金髪で、ショートカット。シンプルなカチューシャをしている。胸は大きく、姫路と余り変わらない。身長も高め。

成績 Aクラス中位〜上位。得意教科は現国と古典で350-400点。苦手教科は英語(分かっていても、書けないため)で160点平均。他は200-300点とまちまち。暗記教科は低め。総合教科は3000-3500点ほど。

召喚獣 本人のデフォルメに鎧。武器は剣。腕輪は巨大化(点数は減らないが大きさと範囲以外に威力も上がらず、的も増える。)。操作は人よりは上手い。

性格 明るく、ノリが良く、大雑把。男子も女子も気にせず話す。手を繋いだり、ハグしたりを遠慮なくやり、挨拶だと思っている(キスは別のよう)。喋るときには英語を所々混ぜてくる。英語は綺麗に話すが、書けるかは微妙。日本文化には興味がある。運動神経が良く、スポーツ万能で、腕っぷしも強い。愛称はジェシー(殆どの人がそう呼ぶ)。愛子とは仲が良い。

 

 

名前 大森漠(おおもりばく)

・性別 男

・大まかな容姿 クッキングパパの荒岩一味を年齢だけ若くした感じ

・成績 総合科目は2200~2500点で平均は150~210で得意な科目はないが子育てや料理関連の問題だったら間違いなく腕輪を獲得する自信はある

・召喚獣についてコック姿で武器はお玉とフライパン

・性格 性格は至って真面目、几帳面、かつ厳格。面倒見がよくお人好しな人情家でもあり、人望は厚く友人も多い

成績はAクラス下から片手で数える程だが料理の知識と技量は学校一、更に大家族の長男で両親が共働きで代わりに弟、妹たちの食事や世話等もしてるので、家事スキルも高く、五人分の荷物を簡単に持ち上げるなど体格に似合った力もある 、たまにクラスメイトの相談に乗ったり、手作りお菓子を振る舞うこともありクラス内のアダ名は「Aクラスのオトン」

反面体格のせいで動きが遅いのと年の割に見た目がフケてることを気にしてる

 

 

名前:横田 弘(よこた ひろ)

性別:男

容姿:這いよれ!ニャル子さんの八坂真宏似ではあるがその顔つきに彼のような幼さは無い

成績:得意不得意科目は無く全教科がまあまあ取れる

平均点は300点で総合科目は3000点程度

とにかくAクラスではど真ん中の成績である。

召喚獣:足軽のような格好で槍を持っている

勿論腕輪はないが、彼の強みは高1の頃から召喚獣を使った教師の雑用を積極的に行ったことで培った明久に次ぐ操作技術である。なので、点数を込みした場合その強さは明久をしのぐ程である。

性格等:個性派だらけのAクラスの中では数少ない常識人であり、カオスを楽しむ愛子とは違い、彼はカオスを止める傾向がある。(ようはツッコミ役)

ただ怒るとフォークを刺すやや暴力的なところがあり、Aクラスでは、あまり怒らせないようにはしている

 

 

名前:岡田ミーナ

性別:女

容姿:這いよれ!ニャル子さんのニャル子似で髪の毛はニセコイの橘万里花の栗色である

成績:平均点は300~330点程度。で総合科目は3800点強取れる

得意科目は理系で特に物理と数学は400点以上を叩き出すこともある

逆に苦手科目は文系で、ハーフなので、英語と世界史はまあまあだが、国語と日本史は苦手で50点にも満たない点数である

召喚獣:ニャル子が本気モードで戦う時の黒い鎧で、武器は鉄製の釘抜きである

腕輪の能力は100点消費で自身の防御力を上げる(防御力が1段階上昇で相手の攻撃を1/4削る)

性格等:明るく快活であるが弘に対して一途であり毎回

彼に下心全開で求愛をして弘に制裁されるのがAクラスの朝の日常である

アメリカ人の父と日本人の母のハーフであり高1の夏に日本にやって来てその後の登校初日に弘に助けられ、一目惚れし、弘と一緒のクラスになるため猛勉強してAクラス入りした。いわゆる女版夏目である。

 

 

名前半田洋介 (はんだようすけ)

性別 男性

容姿 戦国無双の竹中半兵衛が文月の学生服をきた感じ

成績 総合は2500~3800点だが3000点台はやる気が出た時しか出ず普段は2000前半位が平均、科目の点も点差が大きく、好きな国語、古典、世界史、日本史は400点越えするが、それ以外は興味がなくEクラス下位に低い、ただ本気出せばCクラス中間まで上がる

召喚獣 服装は無双の半兵衛と同じで、武器も無双同様針や仕込刃を高速回転させ敵を切り刻む羅針盤

腕輪は200点消費で羅針盤が狙った相手を自動追跡することが可能、認識機能が付いており、味方や自身には自動回避ができ、自滅はあり得ない

正し追跡中は丸腰になるの戻ってくるまで逃げないといけないので集団戦には余り向かない

性格 面倒くさがりな性格で常々昼寝をしており、Aクラスに入ったのも設備的に昼寝に良さそうという理由で入った

戦中も他のクラスメイトに任せてサボろうとしては周囲にバッサリ拒否されることもしばしば

しかし実際は思慮深い人物で、気の向くままに行動しているように見せながら、すべては計算ずくで、いかなる敵が相手でも飄々と人を食ったような助言から容易く敵を術中に嵌めるほどの頭脳を持つ

戦いにおいては「楽して勝つ」をモットーとしており、基本的に体力がなく、外見が中性的であどけない顔立ちなのを気にしてるが逆にそれを利用してサボろうとするあどけなさもある

人の呼び方はちゃんか君付け、人をからかうのが好きで、その辺愛子と気が合い一緒にクラスメイトをおちょくる

 

 

名前 戦国有志(せんごくゆうし)

性別 女性

大まかな容姿戦国無双の女性主人公似で胸はb

成績2100~2600 得意科目は国語と日本史に世界史だが300後半まで腕輪はない、苦手科目は英語で良くて90点台、 他の教科は250位が平均

召喚獣 武器も衣装も無双での女性主人公と同じ

性格 勉強よりスポーツの方が得意でよく体育系の部活から助っ人を頼まれるほど

洋介とは一年の時から知り合い、洋介が昼寝したりサボろうとしたら叩き起こすなど、周囲から洋介の世話係り兼見張り番として認知されてる

洋介に気に入られてるようで学校内で一番おちょくられ追いかけるのが日常風景となってる

本気を出せばAクラスでも上位に入るのに本気を出さない洋介を気にかけてるが、洋介は有志が知ってればそれでいいスタンスである

ちなみに自分の名前が男子ぽいことが悩み

 

 

名前

霧島 素人(きりしま しろうと)

性別

容姿

デアラの鳶一折紙の若干雰囲気柔らかめ。

概要

玄人の双子の妹。兄とは違い、静かながらも人と話したりすることを楽しむ節がある。また、行事等には積極的。

成績はAクラス上位。

得意教科は特に無いが、満遍なく高く平均3950~4000点。

召喚獣は侍風。宗矩(FGO)の着物の白いVer.。

腕輪の能力は点数を消費する事により、自身以外の半径20m圏内の相手の動きを遅くする。(上限は特にないが、消費は大きい。)

 

 

下田 聡(しもだ さとし)

容姿は「べるぜバブ」の古市貴之を黒髪版にした感じ。

成績はAクラス下位

得意教科&不得意教科は特になし

しいて言えば保健体育。400〜450点

召喚獣は鎧を着た騎士みたいな感じ(モブっぽい)武器は鉄槌。

腕輪は、「捨て身」点数を残り1にして体当たりをする外れたらを考えないギャンブル技。。

ムッツリ商会の常連

二つ名は「変態の傍観者(エロ・ゲイザー)」

無口だが脳内はエロ妄想ばかり。。

 

 

安田・アンドリュー・陽太(やすだ・あんどりゅー・ようた)

容姿は「進撃の巨人」のコニー・スプリンガー

成績はAクラス中堅

得意教科は日本史と古典。(どちらも400ちょい)

不得意教科は保健体育。(190〜199)

召喚獣は、首にマフラーを巻いたハンターみたいな格好。武器はボウガン。

腕輪は、「爆裂」武器(ボウガン)の弾が爆発する。一回使用に40〜50程度使用する。なお自分が巻き込まれるデメリットもあり。

最近、父親が仕事を辞めて屋台を経営し始め貧乏になり、それを誤魔化すために明るい性格を無理に作ってるのが辛いのが悩み。。

 




今回、ご協力してくださった羽の生えた巻物様、kitto-様、倶利伽羅峠3号様、駄ピン・レクイエム様、ベトンベトン様、ドM犬様、本当にありがとうございました!心より感謝申し上げます。

さて、今回のことを通してオリキャラに関してお願いがあります。

応募していただいたオリキャラは、出てたらラッキーくらいに考えて欲しいのです。

今回、一部のユーザー様からうちのキャラの出番をもう少し増やして欲しい、こういう話を考えたんだけどどうか?、などオリキャラ中心の意見をたくさんいただきました。
正直とても困りましたし、何よりこの物語自体をないがしろにされているようで悲しくなりました。
これは夏目と優子の物語です。Aクラスの日常を綴る物語ではありません。

色々ありましたが、二度目の募集も実は考えています。(まだ確定とは言えませんが)
もし、オリキャラを応募したいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら、どうか上記のことを頭の片隅にいれておいていただけましたら幸いです。


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キャラ紹介~原作メインキャラ編~+α

今回は原作のキャラ編です!原作との変更点、ざっくりとした紹介、夏目の関わりもしくは抱いている感情などをまとめてみました!


本作について

・基本的に優子視点で進みます。他視点になる場合は、◯◯sideという形で切り替えています。

・思い付いたまま執筆をしているので、時間軸のズレやオリジナル展開が多々含まれますが、基本は原作に沿って進めていきたいと思います。

尚、原作のシーンはちょくちょく飛ばしたりしております故、原作を読了した後に読むことを推奨致します。

・短編はあまりやらないかと思います…。楽しみにしている方がいらっしゃいましたら申し訳ないです。

 

 

~Aクラス~

 

 

木下優子

・優等生を振る舞っているのは教師の前だけ

・原作より丸い

・秀吉よりモテていないのは夏目のせい

 

本作の語り部兼メインヒロイン。口下手な翔子の代わりに、Aクラスの指揮を執ることも多い。

夏目に片想いされている。時たまに心を動かされることもあるが、基本的に相手にしていない。

 

 

霧島翔子

・原作よりアピール等の仕方は良心的

・雄二に対して理不尽過ぎる暴力は振るわない

 

Aクラスの代表。視点が優子にあるため上手く描写が出来ていませんが、作戦等ちゃんと考えています。

夏目とは一途同士で通じ合うことも多く、下の名前で呼び合う程には仲が良い。

 

 

工藤愛子

・特に変更無し

 

Aクラスの生徒の一人。保健体育(実技)が得意で、自他共に認めるムッツリーニのライバル。

優子、夏目は去年のクラスメイトで、一年生の頃から付き合いがある。

 

 

久保利光

・特に変更無し

 

Aクラスの生徒で、成績は学年次席と優秀。好きな人がいるようだが、詳しくは不明。

夏目の世話役その2。自由奔放な夏目に手を焼き、呆れもしているがその実直さに羨む時もしばしば。

 

その他クラスメイト

基本私の好き勝手な妄想で書いています。

オリキャラさん達は別途でまとめさせていただきましたので、そちらを参考にしてください。

 

 

~Fクラス~

 

 

吉井明久

・特に変更なし

 

本作のサブ語り手。Fクラスの生徒で、学園創設以来初めての観察処分者である。

夏目にはシンパシーを感じている。花火の件以来、少しずつではあるが仲良くなっている様子。

 

 

坂本雄二

・特に変更なし

 

Fクラスの代表。世の中学力だけが全てじゃない、と証明するため、打倒Aクラスを掲げている。

夏目のことはよくわからない奴、という認識。花火の件以降関わりが増え、だんだん理解はしてきている様子。

 

 

木下秀吉

・特に変更なし

 

木下優子の双子の弟。演劇部のホープとして有名。男にばかりモテるのが最近の悩み。

夏目とは1年の頃から付き合いがあり、仲は良好。姉との恋愛も応援してはいるが、義兄になるのは複雑。

 

 

土屋康太

・特に変更なし

 

誰もが認めるムッツリスケベ。ムッツリ商会のオーナーで、自身が撮った写真などを売りさばいている。

夏目とは中学時代から付き合いがある。タイプの全く違う二人ではあるが、根本的なところはそっくりである。

 

 

島田美波

・原作より丸い。

・明久に対して理不尽過ぎる暴力は振るわない

 

Fクラスの生徒。ドイツからの帰国子女で、明久に思いを寄せている。

夏目のことは変だかいい奴だと思っている。その素直さや実直さが羨ましいと思うことがしばしば。

 

 

姫路瑞希

・明久に対して理不尽過ぎる暴力は振るわない

 

Fクラスの生徒。病弱で、体調不良によりFクラスに振り分けされた。明久に思いを寄せている。

夏目のことは正直怖い。表情は全く変わらないし、触れて欲しくないこともズカズカ言うし。でも悪い人じゃないとはわかっている。




次回、ドキドキの合宿編!よろしくお願い致します。


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如月ハイランド編(第3.5巻)
第一問


とてもとてもお久しぶりです。

かなりお待たせしている状態になってしまい、続けるべきなのか悩みましたが、自身で何度も読み返すほど気に入っている作品なので自己満足として続けることにしました。今章では出番がないのですがいただいたオリジナルキャラクターの皆さんも変わらずお借りしようと思っています。

それではドキドキの如月ハイランド編、お楽しみください。


明久side

 

「それで用ってなんですか、ババア長」

「俺達若者はアンタら老人の暇つぶしに付き合える程暇じゃないぞ、ババア長」

「ったく、相変わらず失礼なガキ共だねえ」

 

清涼祭の熱気も落ち付いてきたこの頃。僕達は再びババア長に呼び出しを受けて学園長室に来ていた。

それにしても本当に何の用だろう?腕輪にまた問題点でも見つかったのだろうか。

 

「で?なんだ、腕輪の話か?」

「違うさね。今回呼び出したのはもう一つの景品の如月ハイランドのプレオープンチケットの方で話があってねえ」

「え?アレですか?アレ夏目君にあげちゃったんですけど…」

 

意外にも用があったのはチケットの方だった。でもアレ、夏目君に欲しいって言われたからあげちゃったんだよなぁ。僕も雄二も使わないし。

するとババア長が顔をしかめる。そしてしばらく思案した後に口を開いた。

 

「じゃあその夏目って奴に伝えておいてくれないかい?如月ハイランドのウェディング体験のことなんだが、是非学生側でプランを練ってもらってそれを主体に進めたいから企画書を作ってそれを送って欲しいそうだ。出来たら高橋先生に提出してくれればこっちで渡しとくから。じゃ、頼んだからね」

 

もう用はないと言わんばかりにババア長がシッシッと手を払った。

えーと…ウェディング体験のプランを考えて企画書を作って、それを高橋先生に渡せってことかな?

 

「雄二、」

「Aクラスだろ?俺は行かねえぞ。明久、頼んだ」

「…へいへい」

 

学園長室を出ると雄二はそさくさと行ってしまった。

……はぁ。こうなると雄二はガンとして行かないだろう。敷居が高そうであんまり行きたくないんだけど…仕方ない。

踵を返してAクラスへと向かった。

 

 

「失礼しまぁす…」

 

後方のドアをおそるおそる開ける。昼休みで色んな人が出入りしてるのか、幸いなことに僕の存在は目立たなかった。えっと、夏目君…夏目君は…。

いた。教室の後方の席で木下さんと久保君と談笑している。…いや、談笑というよりは木下さんが怒鳴っている、ような。

 

「あの…」

「あら、吉井君?」

「よ、吉井君!?どうしてここに」

「どうした?」

 

声を掛けてみると三者三様の反応を返された。

先程までの怒声は何処に言ったのやら、即座に微笑む木下さん。

目をパチクリとさせ慌てる久保君。

いつもと全く変わらない夏目君。

 

「えーと…如月ハイランドのチケットのことで話があって…」

「…何か不備が?」

「ああ、いや。ウェディング体験のことなんだけどさ、学生側の方でプランを練って企画書を作って高橋先生に渡して欲しいんだって」

「なぁんだ、わかったわ。わざわざありがとう」

 

僕がそう伝えると皆一様にホッとした顔をした。そして何故かご機嫌そうに頷く木下さん。

 

「…?木下さんと夏目君で行くんじゃないの?」

「ぶふっ!?」

「き、木下さん…?大丈夫かい?」

 

そう尋ねると木下さんは飲んでいたお茶を勢い良く吹き出した。そのままけほけほと呼吸を整えるように咳をする。隣では久保君が心配そうにポケットからハンカチを取り出していた。

それを手で断り、木下さんは自らのポケットから取り出したハンカチで口元を抑えるとこちらを睨む。

 

「断じて違うわ」

「まあ行きたかったがな。今回は翔子に譲る事にした」

「え?霧島さんに?」

「ああ。どうやら坂本と上手くいっていないらしくてな。だからそのウェディング体験が一つのきっかけになればと」

「なるほど、それであんなにペアチケットを欲しがってたんだね。なぁんだ、僕はてっきり木下さんと行くのかと思ってたよ」

「ああ。誤解だからその左手に構えているカッターの刃は仕舞ってくれ。流石に教室を血塗れにするのは偲びないからな」

「そういう問題じゃないと思うのだけれど…」

「コイツらに何言っても無駄よ、久保君」

 

チキチキチキ、と5センチ程出していたカッターの刃を仕舞い、用済みになったカッターはポケットへと仕舞う。

それにしても僕の誤解で良かった。もし木下さんと行こうものなら夏目君の言う通りこの教室は血塗れになっていた事だろう。…裏切り者の血で。

 

「しかし困ったな。翔子と坂本のウェディング体験のプランを俺達で考えなければならないのか」

「…参ったな……。男女の色恋沙汰に関してはめっきりでね。霧島さんと坂本君の仲をぐっと縮められるプランなんて思い浮かぶ気がしないよ」

「アタシもちょっと自信ないわ。ウェディング体験なんてやっぱり、普通のデートじゃなくて特別に凝った演出とか必要そうだし…」

 

うぅん、と悩ましげな顔で溜息を吐く三人。

その瞳は真剣で、本当に霧島さんの事を思って悩んでいるのだなとありありと伝わってくる。

…………本当は、霧島さんと雄二の仲を持つような真似なんてしたくはない、けど。

 

「……あのさ。良かったら僕も一緒に考えていいかな?」

「…いいのか?」

「うん。雄二に貸し作っておくのも悪くないしね」

 

まあウェディング体験が終わった後に命で返してもらうけど。

 

近くの空席から椅子を拝借して座る。するとそれだけで察してくれたのか、木下さんが自席からノートパソコンを持ってきてくれた。そうして開いたワードの一行目に企画書、と文字を打ち込む。

 

「それじゃ、代表と坂本君の距離がぐっと縮まるような特別なウェディング体験プランを考えていくわよ!」

「「「おー!」」」

 

こうして僕達の、霧島さんと雄二の為のウェディング体験計画が始まった。

 

 



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第二問

温かいコメント、お気に入り登録、ありがとうございました!

如月グランドパークから如月ハイランドに修正しました。
清涼祭編の方を確認したら如月ハイランドの方にしていたので…。


雄二side

 

 

「……ぅじ、おきて」

 

誰かに、揺さぶられているような感覚がする。

もう朝なのか。だが今日は土曜日で学校は休みだ、わざわざ早起きする理由はない。

微かに開きかけた瞼を閉じる。

……それにしても土曜日に起こしにくるとは、おふくろのドジも大概にして欲しいものだ。…まあ、ウニとタワシを間違えて夕飯に出されるよりは百倍マシだが…。

 

「……………雄二」

「……んん、今日は土曜だろ…?まだ起きなくても別に、」

「…………起きないなら、一人で婚約届を出しに行く」

「おはよう翔子。今日はいい天気だな」

 

身の危険を感じ取り一瞬で目を覚ます。

あ、危なかった…。危うく知らぬ間に入籍させられるところだった…。

そう安渡すると同時に、ん?と頭に疑問符が浮かんだ。

 

「……翔子?お前何でここに」

 

学校がある日であれば、翔子が押しかけてくるのは日常茶飯事だ(と言ってもやめてもらいたいが)。

しかし繰り返すが今日は土曜。翔子がウチに、というか俺の部屋に押しかけてくる理由はない。

それに不可解な点がもう一つ。翔子の服装がやけに気合いが入っているように思える。

翔子は基本服に無頓着だ。ラフな格好でウチを彷徨いている時も多い(これもやめてもらいたい)。

それが今日はどうだ。上品さを際立たせる赤色のワンピースに薄紫色の上着。加えて胸元にはきらりと光るネックレス。まるでこれからデートにでも出掛けるような服装だった。

 

「(……いや、まさかな)」

 

一瞬頭に過った可能性を即座に否定する。

確か如月ハイランドのチケットに記載されていたプレオープンの日付は今日だった気がするがーーいやいやまさか。そもそもあれは明久が夏目に譲ったのだ、翔子の手元にあるわけがない。

 

「…………雄二。約束」

 

ーーしかし翔子が鞄から取り出しのは、如月ハイランドのプレオープンチケットだった。

 

「……」

「………………雄二?」

「悪い、ちょっと用が出来た」

 

枕元に置いていた携帯を手繰り寄せ、番号通知をオフにしてから明久の電話番号を呼び出す。

数秒後のコール音の後、奴は軽快な声色で電話に出た。

 

『はいもしもし』

「………………………………………………キサマヲコロス」

『えっ何何誰!?!?めちゃくちゃ怖ーー(ブツっ)」

 

明久の狼狽した声を聞きながら電話を切ると、少しだけ気分が晴れた。

直接的に渡したのは夏目だろうがーーそれでも大元を辿れば原因は明久にある。

まあ夏目が翔子に渡す事を知ってて渡したのか知らずに渡したのかはわからんが、どちらにせよ今俺の溜飲を下してくれるのは夏目の淡々とした声より狼狽える明久の声だった。

 

「…………雄二、行きたい」

 

無表情な奴にしては珍しく、きらきらと目を輝かせる。そんな翔子とは対照的に俺は額を抑え溜息を吐いた。

 

「…………雄二」

「いやだ」

「…………行かないなら結婚」

「ちょっと待て!?話が飛躍しすぎじゃないか!?」

「…………約束」

 

途端、ドバッと身体中から冷や汗が出た。

走馬灯のように頭によぎった記憶。そうだ、確かプレオープンチケットなんて取れっこないと鷹を括って適当に返事してた…ような。

突っ立ったままの俺をよそに翔子は懐から雑誌を取り出す。『ハネムーン特集♡』と浮かれたピンク色の文字が見えて軽く立ちくらみがした。

 

「…………雄二」

 

パラパラと雑誌を捲っていた翔子がふと手を止め、開いたページをこちらに見せつけて来た。

 

「…………ここがいい」

 

頬を赤らめながら見せつけてきたページ。そこには『ハワイのオススメ挙式プラン♡一生の思い出になること間違いなし!』という見出しと共に教会の写真と挙式の大まかなプランがつらつらと書き連ねられていた。

 

「…………雄二がいいなら、お義母さんにも話を」

「わかった。如月ハイランドだな?支度するからちょっと待ってろ」

 

翔子を部屋から追い出し、はぁ、と溜息を吐く。

行きたくはないが仕方がない。お袋にハネムーンの話が伝わり外堀を埋められるよかちょっとデートに付き合ってやる方が万倍マシだ。

……最近、ただでさえ翔子ちゃんとはどうなのと煩いのにハネムーンの話なんかしたら本当に逃げ場がなくなっちまうしな……。

適当に選んだ服に腕を通しながら、これからの事を思いまた深く溜息を吐いた。

 

            ⭐︎

 

「………………いい天気」

「そうだな。お前が腕を絡ませながら関節技をして来なければもっと穏やかなんだがな」

「………………雄二は照れ屋だから。逃がさないように」

「いだだだだっ!?逃げねえから更に締め付けるな!」

 

電車とバスを乗り継ぐこと数時間。俺達の眼前には如月ハイランドの門が聳え立っていた。

ようこそ如月ハイランドへ、という文字の横に青色と黄色のキツネのキャラクターが添えられている。おそらくコイツらが如月ハイランドのマスコットキャラクターなのだろう。

 

「……なあ翔子。悪いが少し腹が痛くて、」

「………(バチッ)」スタンガンをちらつかせる翔子

「なんでもない。行こうぜ」

「………(こくり)」スタンガンをしまう翔子

 

あ、あぶねえ!!危うく気絶させられてその内にウェディング体験どころか結婚させられるところだった!!

如月ハイランド側も今回のウェディング体験を通して最終的には俺達をここで結婚させようと狙っているだろうし……と思うと背中が粟立つ。今日はいつも以上に油断が出来ない日になりそうだ。

 

「イラッシャイマセ。チケットを拝見シマース!」

 

覚悟を決めて門扉を開くと、右手側のチケットカウンターからカタコトの日本語でチケットを要求された。顔立ちこそアジア人のようだが、どこか違う国から来たのだろうか?

翔子が鞄からチケットを取り出し、スタッフに渡す。すると受け取った瞬間スタッフは顔色を変え、俺たちに背を向けると尻ポケットから無線を取り出した。

 

「ーー私だ。例の客が来た。例のプランの手筈を進めろ」

「おい。なんだその物騒な通信は」

「オーウ……。ワタシアマリニホンゴワカラナイネ」

「嘘つけ。さっき流暢に喋ってただろうが」

 

HAHAHA、などわざとらしく口に出して笑うスタッフ。いや全く誤魔化せていないが、とツッコミを口に出す前に「デハ、記念の写真撮影に移りマース!」と強引に流されてしまった。少し開けた場所に案内され、立たされる。

 

「……こちらカメラです」

「オーウ!アナタが持って来てクレタノデスネ。ワザワザアリガトウゴザイマース!助かりマース!」

 

やって来た別のスタッフに対し頭を下げてカメラを受け取る似非外人スタッフ。

……コンビニとかならともかく、こういったアミューズメントパークの場で、しかも客の目の前でスタッフ同士が気を遣うことなどあるだろうか。

それに帽子を目深に被っていて顔こそあまりわからないが、なんだかあのスタッフから馴染み深い間抜けな雰囲気をひしひしと感じる。……試してみるか。

 

「ちょっと失礼」

「?ドウゾ」

 

携帯を取り出し、非通知設定で「吉井明久」宛に電話番号を呼び出してみる。

 

Prrrrr!Prrrrr!

 

「あ、すみません。僕ですね」

 

ほぼ同時にカメラを持ってきたスタッフが尻ポケットから携帯を取り出し、電話に応じた。

 

「…………いよう明久。てめえ随分と面白そうな事してるじゃねえか……!!」

「人違いですっ!!」

ダッ!

「あ、こら待ちやがれ!!」

 

脱兎の如くその場から逃げ出す明久。後を追おうとしたが似非外人スタッフに阻まれた。

 

「マアマア。落ち着いてクダサーイ」

「邪魔するなこの野郎!!」

「彼女ハ山田・クリスティーヌ・花子(三十歳)。幼い弟のタメニ出稼ぎにキタ家族思いのヤサシイ子デース。吉井ナントカさんではアリマセーン」

「黙れ!!人種性別年齢氏名全てにおいて嘘を吐くな!!ついでに変な御涙頂戴エピソードを盛るな!!あと俺は吉井なんて一言も言ってねえからな!?」

 

そんなやりとりをしている間に、明久の姿はすっかり見えなくなってしまった。

クソ、と歯軋りしながら思考を回す。

どういう経緯かはわからんが俺が思っていたよりどうやら話がデカくなっているらしい。でなければただの一学生が如月ハイランドのスタッフとして働くことなどないだろう。

……そういえばババア長がウェディング体験の企画書を出せとか言ってたな?……なるほど、プランを練る代わりにスタッフとして参加させろと学園側が交渉でもしたんだろうーーババア長も腕輪のことで明久に借りがあるからな、頼まれたら断れまい。それに、この程度で済ませてくれるならババア長からしても願ったり叶ったりってわけだ。

……そして。この話に噛んでいるのはおそらく明久だけではないはずだ。明久は企画書を夏目に届けているーーつまり夏目や木下姉も関わっている可能性が極めて高い。……一つ、確かめてみるか。

 

「おっと、ムッツリ商会にも出回っていない貴重な明久の寝顔写真をうっかり落としちまった」

 

「「「……!!(ガバッ)」」」

 

三人の、帽子を目深に被ったスタッフが顔を上げーー慌てて俯く。遠目からで顔は見えなかったがおそらく姫路、島田、久保だろう。

久保がいるという事はやはり夏目や木下姉もいるに違いない。それに加えて姫路や島田もいるとなると、ムッツリーニや秀吉も間違いなく噛んでいる。……あンの大馬鹿野郎、面倒な事にしやがって……!!

舌打ちをし、写真を拾おうとしたがーーその前に翔子がその写真を拾い上げた。

 

「……翔子?」

「……浮気は許さない…!!」

「は?何言ってーーぎ、ぎゃあああ!!顔が陥没するかのような痛みがあぁっ!!?」

「……やっぱり、雄二は吉井の事が」

「ご、誤解だ!!これは使えるかもと思って家に泊まった時に撮っておいただけで別に他意は、」

「……許さない。私は雄二とお泊まりしたことないのに……!!」

「ぐぎゃああああ!!」(ペキッ)

 

「オーウ、ラブラブなお二人デスネー!お写真お撮りシマース!サン、ニ、イチ……」

 

パシャ、とフラッシュが焚かれる。

ぐうぅ……!!アイアンクローをかけられている光景を見てラブラブとか抜かしやがったあのスタッフ、頭がおかしいんじゃないだろうか。

「印刷してくるのでお待ちクダサーイ!」、とスタッフがチケットカウンターの奥へ消えていく。

一方、翔子といえば「ラブラブ」という単語で機嫌を直したのか頬を赤く染め、ようやく俺を解放した。

……顔の骨格が歪むかと思った……!!

 

「お待たせ致しマシタ!こちらお写真デース!サービスで加工もしておきマシタ!」

 

と、戻って来たスタッフから渡された写真には、俺が翔子にアイアンクローをされている姿がバッチリ写されていた。その周りがハートで囲まれており、下部は「私達、幸せになります」という浮かれた文字と共に天使のような格好をしたキツネのキャラクターが添えられている。

……これを見て幸せな結婚を連想する奴はおそらくまともではないだろう。

 

「トッテモお似合いデース!デハデハ、引き続きパーク内をお楽しみクダサーイ!」

 

似非外国人スタッフに見送られながらチケットカウンターを後にする。と、同時に、青い狐の着ぐるみがズカズカと近付いてきた。

 

「こんにちは。ぼくはノイン。とってもすてきなラブラブカップルのおにいさんとおねえさん。ぜひ、ぼくにパーク内を案内をさせてほしいな」

「……着ぐるみらしくもう少し愛嬌と抑揚を付けてから来い、夏目」

「む?何故気付い「こんにちは!私はフィー!!私もぜひご一緒させて欲しいな!!」」

 

ノインこと夏目の声を遮ったのは何処からか駆けつけて来た黄色い狐の着ぐるみだった。……この(夏目に対する)フォローの速さはおそらく木下姉だろう。

 

「……(こくり)」

「おねえさんありがとう!それじゃあ、オススメスポットに案内するから着いて来てね!」

「……大人しく着いていくから腕を組むついでと言わんばかりに関節技を決めるのをやめてくれ、翔子」

「一連の所作に一つも無駄がない流れるような締め上げだった。流石ラブラブカップルだな、息ピッタリだ」

「……ラブラブカップル……(ポッ)」

「いだだだだだ!!おい夏目余計な事言うんじゃねぇっ!!!力が更にこもったじゃねえか!!」

 

舞い上がった翔子に俺の声は届かず、結局目的地に辿り着くまで関節技を外してもらえなかった。

 




夏目は一夜漬けで渡された台本を覚えて来ました。

このタイミングでこのセリフを言う、というところまでキッチリ決められている為、台本にないことを話す時は普通の口調になってます。


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第三問

 

「着いたよ!ここがフィーのオススメスポット、お化け屋敷で〜す!」

 

先導していたフィーこと木下姉が立ち止まり、こちらを振り返った。

その背後には廃ビルのような建物が建っており、他のアトラクションより離れた位置にあるせいか異質な雰囲気を漂わせている。お化け屋敷という立て看板が無ければアトラクションとも思わなかっただろうーーそのくらい、如月ハイランドの中で浮いた存在になっていた。

 

「わあ、雰囲気があってすごくこわいなあ。フィー、これはどんなアトラクションなの?」

「このアトラクションはお化けが出ると噂の廃病院を探検するアトラクションよ。どんな事が起こるかは入ってからのお楽しみなんだけどーー今日は特別なイベントも起こるみたいだから、楽しみにしていてね」

「へえ、そうなんだ。それじゃあ二人とも、楽しんできてね」

 

演劇が好きな秀吉の姉とだけあってか木下姉は上手いのだが……夏目がずっと棒読みなせいで着ぐるみ二人のやり取りはとてもちぐはぐだった。

微妙な目で二人を眺めていると、そうだ、とノインが翔子に近付く。

 

「その荷物は動きにくいだろう。良ければこっちで預かるぞ」

「……持てる?」

「俺ーーじゃなかった。ノインの腕に持ち手を通してくれ」

「……(こくり)」

 

ノインが並行に腕を伸ばし、翔子がそこに黒色の鞄を引っ掛けた。

……一応ここのマスコットキャラクターであろうに、その着ぐるみに対してそんな洗濯物の干し竿みたいな扱いをして怒られないのだろうか。

 

「横にしないように気をつけてほしい。溢れちゃうから」

「?わかった」

 

溢れる?あのデカい鞄には一体何が入っているのだろうか。

 

「……雄二、行こう」

「わかったからいい加減関節技を解いてくれ。そろそろ腕の感覚が怪しくなってきた」

「「いってらっしゃ〜い」」

 

着ぐるみ二人に見送られながら、横開きのドアを開き中へ入る。

 

「…もしもし、アタシよ。二人がお化け屋敷に入ったわ。……ええ、吉井君考案の作成を実行して頂戴」

 

ドアが閉まる寸前、木下姉のそんな声が聞こえた。

……へえ。明久考案の作戦か。面白い、受けて立ってやろうじゃねえか…!

蛍光灯の電気がぱち、ぱち、と不安定に瞬くだけの薄暗い室内を進んでいく。シンと静まり返った建物内には俺と翔子の足音だけが響いていた。

室内では冷房でも効かせているのか外よりも少し寒いように感じる。……明久の案なのか、それとも元からこういう演出なのかは不明だがーー雰囲気はかなり出来上がっていた。

 

「……少し怖い」

「珍しいな、お前が怖がるとは」

 

俺もそうだが翔子もこういったものにあまりビビるようなタイプではない。雰囲気にでも呑まれたのだろうか。しかし怖いと言いつつも特に何かをして欲しいわけでも無さそうだったので、気にせず順路の表示に従い進んでいった。

一階は何事もなく通り過ぎ、二階に上がり廊下を少し進んだところでーー天井付近に設置されているスピーカーから微かにノイズ音がした。

 

『ーーの方がーーよりもーー』

 

ノイズ混じりに音声が聞こえる。プツプツとところどころ途切れており明確には聞こえなかった。

……怨嗟の声とか、そう言った演出だろうか?

 

「……この声、雄二?」

「そうなのか?」

 

どうやら俺の声と似ているらしい。もしかして秀吉に物真似でもさせたのだろうか。……まあ、自分の声が聞こえるってのは怖いっちゃ怖いが明久にしては普通の演出過ぎるような

 

 

『姫路の方が翔子よりも好みだな。胸も大きいし』

 

 

「……雄二。覚悟は出来てる?」

「怖ぇっ!翔子が般若のような形相に!確かにこれはスリル満点の演出だ!!」

 

なんて恐ろしい事を考えるんだあの野郎…!俺をここから生きて出さないつもりなのか!?

なんてビビっていると、背後からバンッ!と仕掛けを作動させる音が聞こえた。ナ、ナイスタイミング!!助かった!!

 

「しょ、翔子!!何か出て来たぞ!!」

 

音のした方向に顔を向けると、そこには先程までは無かった場所に突如あるものが現れていた。それはーー

 

「……気が利いてる」

 

……釘バット?

 

「畜生っ!よりによって処刑道具まで用意してくるとは!趣旨は全く違うが最強に恐ろしいお化け屋敷だっ!!」

「……雄二。逃がさない」

 

その後、釘バットを持った幼馴染に追い回される斬新なアトラクションを一時間近く楽しむ羽目になった。

……しかし、明久はこれで俺と翔子がくっ付くと本気で思っているのか?

少し明久の頭が心配になった。

 

           ⭐︎

 

「えーっ!いいじゃん、アタシらも案内してよぉ」

「オレ達もオキャクサマなんだからサービスしろよ、あぁ!?」

「申し訳ございませんお客様。こちらはスペシャルプランのお客様のみ対象でして……」

 

スリル満点のお化け屋敷から出てくると、ノインとフィーがチンピラカップルに絡まれていた。

……何というか、着ぐるみが丁寧語で話しながら頭を下げる姿は少し痛ましく感じる。それは翔子も同じだったのか、フィーに駆け寄ろうとしたところをーー俺が腕を掴んで止めた。

 

「……雄二、放して」

「落ち着けよ翔子。その内違うスタッフが来て何とかするだろ」

「……でも、」

 

翔子が反論しようとしたところで、「きゃあ!」と悲鳴が上がる。どうやら煮え切らないフィーの態度に苛立ちを覚えたのか、チンピラカップルの男がフィーの腕を乱暴に掴んだようだ。

 

「ーーッ!!」

 

ノインが男目掛けて拳を振ろうとした、その時。

 

「どうかなさいましたか、お客様」

 

妙な仮面を付けたギャルソンスタイルのスタッフが間に入った。

目元を隠しているが焦茶色のショートヘアと、仮面の隙間から覗く緑色の瞳にはとても見覚えがある。……秀吉だ。

 

「おうおうおう、こいつらがよぉ、ガキカップルには案内してやってんのに俺達には出来ねえっつうんだ」

「ねー、これってヒイキってやつでしょ?アタシらも同じオキャクサマなのに、ひどくない?」

「申し訳ございません。こちらはプラス料金をお支払いいただいたプレミアムチケットのお客様にのみ実施しているサービスでして。代わりといってはなんですが、レストランの特等席にてランチの準備をいたします。いかがでしょうか?」

「おい、特等席だってよ」

「いいじゃん!いくいくー!」

「かしこまりました。それではご案内いたします」

 

すっかり上機嫌になったチンピラカップルを連れて秀吉が場から去っていく。

……それにしてもよく口が回るもんだ。プラス料金が発生するプレミアムチケット、と言われてしまえば扱いに差がある事も納得出来るし、そこで終わらせず代わりのサービスを素早く提供する事で気を逸らす二段構え。

秀吉は普段こそ大人しい良識人だが、たまに息を吐くように嘘を吐くなど大胆不敵な一面がある。

その大胆さが秀吉のいいところであり厄介なところでもあるわけだがーー今回に関してはいいところと言うべきだろう。

 

「……ところで特等席とやらはあんのか?」

「アタシよ。今から秀吉が面倒な客を連れていくから二階にあるあの無駄に豪華なテラス席に通しなさい。特等席って札も付けて置いといて。ーーそれから、今から二人も連れて行くから準備お願いね」

「おい。堂々と不穏な通信をするな木下姉」

 

もはや隠す気も失せたのか、チンピラカップルに絡まれたせいで張っていた気も削がれてしまったのかーー俺達の目の前で無線連絡を入れるフィー、もとい木下姉。

 

「ということで二人とも。そろそろランチタイムだしレストランに案内するわ。着いて来て頂戴。」

「……あ…」

「どうした翔子」

「……何でもない。ランチ、楽しみ」

 

一瞬、翔子の表情が曇ったような気がしたがーー翔子はすぐにいつもの無表情に戻り、俺の手を引いて早足でフィーに続く。

 

「……」

 

翔子に引き摺られながらちらりとノインを見やる。

ノインは俺の視線に気付いたのか、俺も知らんぞと言わんばかりに首を横に振った後、俺達の後ろに続いて歩き出した。

 



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第四問

 

フィーに連れてこられたのはパークの中央部にある小洒落たレストランだった。

二人はお化け屋敷の時と同様に中には入らないようで、レストランのドアを開き俺達に入るよう促す。

 

「……いらっしゃいませ。お席へご案内します」

「姿を見ないと思ったらここに居たか、ムッツリーニ」

「……何の事だかさっぱり」

 

秀吉と似たような格好をしたムッツリーニに言われるがまま着いていく。

内装はレストラン…というよりパーティ会場に近い形だった。正面奥には大きなステージもあるようだが、赤色のカーテンに覆われていてその全容はわからない。

 

「……こちらのお席へどうぞ」

 

俺達が案内されたのはちょうど真ん中のテーブルだ。ムッツリーニが着席を促すように恭しく二つの椅子を引く。

……仕事だとは分かっているが、気兼ねない友人にされるのは少しばかり変な気持ちになった。

俺達が座るとムッツリーニは席中央に置かれたシャンパンボトルを手に取った。そして慣れた手付きでボトルを開け、グラスに飲み物を注ぐ。

 

「っておい、未成年だぞ」

「……シャン⚪︎リーだから問題ない」

「それはそれでどうなんだ……」

 

試しに一口飲んでみたが、確かにガキの頃飲んだものと変わらないシャン⚪︎リーの味がした。

 

「……それではお食事の方ご用意させていただきますので、そのままお待ちください」

 

ぺこりと一礼し、ムッツリーニがその場から去る。

 

「……意外といけるな、シャン⚪︎リー」

「……(こくり)」

 

そんな会話をしながらシャン⚪︎リーを数口飲んでいれば、数分も経たない間に豪華な料理が運ばれてきた。慣れないフォークとナイフを使った食事に苦戦しつつ、舌鼓を打つ。

食後のデザートも食べ終え、食事の余韻に浸っているとーー不意に会場の照明が落ちた。

 

 

『皆様、本日は如月ハイランドプレオープンイベントにご参加頂き、誠にありがとうございます!』

 

 

カッ!、と、ステージの端に一条のスポットライトの光が当たる。

そこに立っていたのは、秀吉やムッツリーニと同様に仮面で目元を隠したギャルソン姿をしたーー明久だった。

 

『本日なんと、この会場に、結婚を前提にお付き合いを始めようとしている高校生カップルがいらっしゃっていまぁす!』

 

明久が指を鳴らすと、また今度は複数のスポットライトが動き出し、幾重にも光を重ねて俺達を照らし出す。しまった、と席を立つも時既に遅く。出入り口に目をやるといつの間にかその門扉は固く閉ざされていた。

あの野郎、完全に退路を断ちやがったっ!!

 

『そこで、当如月グループとしてはそんなお二人を応援する為の催しを企画させて頂きました!その名も【如月ハイランドプレゼンツ!ウェディング体験】〜!』

 

ダッ!(俺が駆け出す音)

ガッ!(翔子が足を引っ掛ける音)

ズザーッ!(俺が顔面から転ぶ音)

 

「……逃がさない」

 

翔子にガッチリと襟首を掴まれる。

……こうなってしまってはもう何も出来ない。この場での逃亡は諦め、大人しくする事にした。

……そう、この場では。

 

「新婦さんは私達と一緒に来てください」

「新郎さんは僕とこっちへ」

 

最早すっかり見慣れたギャルソンスタイルに身を包んだ姫路と島田が翔子に、久保が俺にそれぞれ声を掛ける。

 

『それでは一時間後、如月ハイランド内にある特設会場にて挙式を行います!皆様宜しければお越し下さいませ!それでは、お食事中に失礼いたしました〜!』

 

明久が一旦締めの言葉を述べ、一礼をするとパチパチパチパチと拍手が起こった。

クソッ、あの野郎、清々しい顔をしやがって…!!絶対に後で復讐してやるからな!!

 

            ⭐︎

 

久保の案内の元レストランから連れ出され数分。俺達は「STAFF ONLY」とドアに表示がかけられている建物の前に来ていた。

 

「一時間も着替えがかかンのか?」

「ああ、霧島さんの着替えが大変みたいで…。坂本君はすぐに終わると思うよ」

「そうか。ならちょっくらトイレにーー」

 

この辺りでテキトーにバックれれば大丈夫だろう。トイレが理由なら久保も深追いしてこないだろうしーーと思ったが、俺が背を向けると久保は俺の手首を力強く掴んだ。

 

「……ごめん。あまりこういう事はしたくなかったんだけど……吉井君が、雄二は隙を窺って絶対逃げ出すだろうからって」

「……おい、久保?」

 

冷や汗が背中を伝う。な、何だかとてつもなく嫌な予感がする…!!

 

「だから、着替える前に気絶させておいてってーーだからーーその……ごめん!!」

「あぎゃあっ!?」

 

バチンッ!!という派手な音と共に背中に激痛が走る。意識が遠のく前に皮膚が焼けたような焦げ臭い匂いがツンと鼻についた。

 



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第五問

 

『それではいよいよ本日のメインイベント、ウェディング体験です!皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎え下さい!』

 

園内に響き渡っているのではないかと思えるほどの拍手の音が聞こえて来た。何人かはサクラだろうが、どうやら釣られて一般客も拍手をしているようだ。

 

「坂本君。出番だよ」

「…………ケッ」

 

久保に促されるまま、トントン…と小さな階段を昇る。

久保はまだスタンガンを持っている可能性が高い為、ここは言う事に素直に従っておく方が懸命だろう。それより進行の最中で体調が悪くなったと訴える方が逃げられる可能性は高そうだ。例え仮病だろうが体調が悪いと言われてしまえば如月ハイランド側は企業イメージを損なわせない為にも中止せざるおえないだろう。

とにかくこの場さえ逃げ切ってしまえば後はどうとでもなる。

階段を昇りきり、ステージに上がるとその光景に一瞬眩暈がした。

 

「おいおい……。何だよこのセット……」

 

数えきれないスポットライトにライブステージのような観客席。スモークの設備の他、バルーンや花火まで準備されているように見える。向こうに見える電飾なんていくらかかっているのか見当もつかない。

 

『それでは新郎のプロフィールの紹介をーー』

 

ん?俺のプロフィール紹介か。まるで本物の結婚式だな。目的のシーン以外の部分もしっかり調べてあるようだ。きっと明久にでも聞いて細かく下調べを

 

『ーー省略します』

 

手ぇ抜きすぎだろ。

 

「ま、紹介なんていらねぇよな」

「興味ナシ〜」

「ここがオレたちの結婚式に使えるかどうかが問題だからな」

「だよね〜」

 

最前列に座っている連中からそんな声が聞こえて来た。

声の主は……ノインとフィーに絡んでいたチンピラカップル共だった。しかし最前列に座っておいてデカい声で会話とは。見た目相応のマナーしか持っていないようだ。

 

『……他のお客様のご迷惑になりますので、大声での私語はご遠慮頂けるようお願い致します』

 

「コレ、アタシらのこと言ってんの?」

「違ぇだろ。俺らはなんたってオキャクサマだぜ?」

「だよね〜っ」

「ま、俺たちのことだとしても気にすんなよ。要は俺たちの気分が良いか悪いかってのが問題だろ?な、これ重要じゃない?」

「うんうん!リュータ、イイコト言うね!」

 

調子に乗った、下卑た笑い声が一層大きく響き渡る。

主催側もイベントの邪魔になる要因は排除したいのだろうがーーあれだけ騒がれてしまうと手が出せないようだ。まあ、宣伝目的のイベントで悪評流されたらたまったもんじゃねえからな……。

 

『ーーそれでは、いよいよ新婦のご登場です』

 

心なしか音量の上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気が全て消えた。足元にはスモークが立ち込め、否応ナシに雰囲気が盛り上がる。誰もが、固唾を飲んで新婦の登場を待っていた。

 

……はは。これで翔子に花嫁衣装が似合っていなかったら興醒めもいいところだな。

 

脱出はひとまず後回しにしよう。せっかく来たんだし、翔子のドレス姿くらい見ておくのも一興だろう。

そんな事を考えながら待っていると、目が暗闇に慣れるより早く一条のスポットライトが点された。

 

『本イベントの主役、霧島翔子さんです!』

 

アナウンスと同時に更に幾筋ものスポットライトが壇上を照らし出す。暗闇から一転、眩く輝き出す壇上に思わず目を瞑ってしまった。

そして再び目を開けた時に飛び込んで来た姿にーー俺は一瞬、言葉を失った。

幼い頃から知り合いだったにも関わらず、今日初めて出会ったような錯覚に陥るほど見違えた姿。彼女は花嫁と呼ぶに相応しく嫋やかに佇んでいた。

……あれは、誰だ?

 

「…………綺麗」

 

静まり返った会場から溜め息と共に漏れ出た、誰のものともわからない台詞。だが、その言葉は何に阻まれることなく俺のところにまで届いて来た。

余程入念に作り込んだのか純白のドレスには皺一つ浮かべる事なく着こなされている。スカートの裾は床に擦らないギリギリの長さに設定されているようで、アイツがステージの中央に来るまでの間、一度も裾が床に触れることはなかった。

 

「……雄二」

 

ヴェールに素顔を隠し、シルクの衣装を纏った翔子が、不安げにこちらを見上げる。

胸元に掲げている小さなブーケが所在なげに揺れた。

 

「……翔子、だよな?」

「……(こくり)」

 

翔子が小さく頷く。頬を赤く染めながら、恥ずかしげに口を開いた。

 

「……どう?……私、お嫁さんに見えるかな…?」

「安心しろ。少なくとも婿には見えない」

 

未だ動揺が抜けず、つい反射で答えてしまった。だが、頭が真っ白な今の状態では思考がまとまらず、それ以上の言葉は発せなかった。

 

「…………嬉しい……」

 

一呼吸間を置いた後そう呟くと、目の前の少女は俯き、胸元に抱えたブーケに顔を埋めてしまった。そして、それ以上言葉を発する事なく静かに震え出す。

 

『ど、どうしたのでしょうか。花嫁が泣いているように見えますが……?』

 

仕事を思い出したかのようにアナウンスが入る。

……泣いている?

言われてみて初めて気付く。俯いて肩を震わせてーー翔子は、静かに涙を流していた。

 

「お、おい……。どうした……?」

 

ヴェールとブーケが邪魔で表情が窺えない。なんで急に泣き出したんだ?

観客も少しずつざわめき始めていた。そんな中、彼女は小さな、だがハッキリと聞き取れる声で呟いた。

 

「……ずっと、夢だったから」

『夢……ですか?』

 

「……小さな頃からずっと、夢だった……。私と雄二、二人で挙式をあげること……。私が雄二のお嫁さんになること……。……私一人じゃ絶対に叶わない、小さな頃からの私の夢……」

 

口数が少ない翔子が懸命に紡いだ言葉は、俺に形容し難い何かの感情を換起した。

幼い頃のとある事をきっかけに抱かれた、コイツから俺への想い。それは罪悪感と責任感からくる勘違いの感情であるはずなのにーーどうしてコイツはこんなにも揺るがないのだろう。

 

「……だから、本当に嬉しい。他の誰でもなく、雄二とこうしていられることが……」

 

言い終わると翔子はまた俯き、ブーケに顔を隠してしまった。微かに肩を震わせているところを見ると、またはらはらと涙を流しているのだろう。

それに釣られるように会場のどこからか啜り泣く声が聞こえた。……随分と涙もろい奴もいたもんだな。

 

『どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁は相当に一途な方のようです。さて、花婿はこの告白にどう応えるのでしょうか?』

 

どう応える、だと?そんなもの決まっている。

場所がどこだろうと、時間がいつであろうと、俺がやるべきことはただ一つ。コイツの勘違いを解いてやることだ。

……それしか、こんな事に長年を費やしてしまったアイツへの贖罪は果たせないのだから。

 

「翔子。俺は……」

 

そう、頭ではわかっているはずなのに。

後に続く言葉は何故か上手く出てこなかった。

 

「あーあ、つまんなーい!」

 

何を言うべきなのか。伝えるべき言葉を探している最中、観客席から大きな声があがる。俺は慌てて口を噤んだ。

……よくわからないがどこか安渡している自分がいる。ということは、これは俺にとって天の助けなのだろうか。

 

「マジつまんないこのイベントぉ〜。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな〜い?」

「だよな〜。お前らのことなんてどうでもいいっての」

 

どうやら俺の窮地を救ってくれたのは最前列を陣取る馬鹿二人組のようだ。会場が静まり返っていたおかげで発言者がはっきりわかる。

 

「ってか、お嫁さんが夢です、って。オマエいくつだよ?なに?キャラ作り?ここのスタッフの脚本?バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!」

「純愛ごっこでもやってんの?そんなもん観る為に貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ〜。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ」

「そっか!これってコントじゃねぇ?あんなキモい夢、ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!」

「え〜っ!?コレってコントなのぉ?だとしたら、超ウケるんだケドぉ〜!」

 

口々に文句を言い、終いには翔子を指差してせせら笑う二人組。すると、舞台裏からガタガタッと大きな音がした。

 

『んだとテメェらっ!もういっぺん言ってみやがれ!!』

『あ、明久君落ち着いてください!ステージが台無しになっちゃいますっ!』

 

マイクが音声を拾っていたのか、そんな放送が流れ出す。どうやら何処ぞの馬鹿が暴れ回っているようだ。

どこで暴れているのやら、と観客席から舞台裏へ視線を移した、その一瞬の間に。

 

『は、花嫁さん?花嫁さんはどちらに行かれたですかっ?』

 

 

忽然と、翔子は姿を消していた。

先程まで立っていた場所に、ヴェールとブーケを残して。

 

 

「……」

 

やれやれ、と溜め息を吐く。

何処に隠れていたのやら、如月ハイランドのスタッフがわらわらと現れては慌ただしく駆け出す。霧島翔子さん、と懸命に呼びかけているが勿論返事はない。

……ふむ。どうやらイベントは中止のようだ。

全く、如月ハイランドも大々的に準備していたイベントがこんな形で潰されるとは……とんだ災難だな。

 

「さ、坂本雄二さん!貴方も一緒に探してください!」

「断る。俺には関係ないことだ」

 

そうだ。アイツの思いは勘違いで、俺はそれに巻き込まれただけ。その事でアイツが何を言われようと俺には関係ない。そう、関係ないのだ。

 

「……ったく、面倒くせぇな……」

 

壇上に残されていたヴェールを何となく拾い上げる。それは羽のように軽いはずなのに、涙で湿っていて少し重たかった。

バタバタと慌ただしく動き回る人の波の合間を縫い、壇上から降りると、俺を待ち構えていたのか島田と木下姉と秀吉が居た。

 

「ね、ねぇ、坂本!心当たりは無いの!?」

「無い。……悪いが便所に行きたいんだ、通してくれ」

「坂本君、アンタねぇ「あ、姉上落ち着くのじゃ!便意は仕方なかろう!」」

「あ、ちょっと坂本!」

 

秀吉と木下姉がわちゃわちゃしている間を通り抜ける。……悪いがこんなところで足止めを食っている場合じゃない。

通路を真っ直ぐ進む事数分。退場客の列と合流し、そのまま進む。すると、五分も経たずに目的地が見えて来た。あまり遠くでなくて助かった。

 

「いや〜、さっきのマジでウケたな」

「うんうん!……私……結婚が夢なんです……。どう?似てる?可愛い?」

「似てる似てる!けどーーキモいに決まってんだろ!」

「だよね〜!」

 

……さて。それじゃあとっとと用事を済ませるか。

ゆっくりと歩み寄り、背後から声を掛ける。

 

「なぁ、アンタら」

「ぁあ?ンだよ?」

 

二人組が真っ茶色な顔を向けてくる。

……俺には関係ない事だから、決してアイツのためではない。ただーー俺個人が腹が立って仕方がないので、憂さ晴らしがしたいだけだ。

 

 

「ーーちょっとそこまで面貸せや」

 

 

借り物の上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。

準備運動は一つもしていないが、不思議と体は温まっていた。

 




次回、如月ハイランド編最終話です!


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最終問題

如月ハイランド編、最終話です!


 

気の済むまでチンピラ二人組をのした後。

俺は柱の陰からこちらを窺っていた奴に声を掛けた。

 

「覗き見とはいい趣味してんな、夏目」

「人聞きの悪い事を言うな、坂本。俺は忘れ物を届けに来ただけだ」

 

忘れ物?、と、聞き返すと、夏目が黒い鞄を俺に押し付けてきた。

……あぁ、翔子が持ってたやつか。揺らすなと言っていたが、結局何だったんだろう。後で見てみるか。

 

「じゃあ、頼んだぞ」

「あ、ちょっと待て」

 

呼び止めたのは、ほとんど反射だった。

何となく、今しか聞けないだろうとそう思って。

 

「……?」

 

夏目が振り返る。

目つきこそ鋭く感じるが、真っ直ぐな瞳で俺を見つめている。

 

ーーあの時感じた、形容し難い何かの感情。

翔子と同じ、直向きに一途な思いを持ち合わせているコイツなら。

明久とよく似ているコイツなら。

その感情の答えを知っているかもしれない。

 

 

「なぁ、夏目。お前はどうしてーー木下姉のことが好きなんだ?」

 

 

コイツの感情の原点が知りたい。どうして好きになったのか、何をもって好きと判断したのか。それがわかったらーー何となく、俺の求めた答えに辿り着ける気がした。

 

「何でって……」

 

夏目がゆっくりと口を開く。

 

 

「アイツが秀吉にかけていた、腕ひしぎが見事だったからだ」

 

 

コイツに聞いた俺が馬鹿だった。

 

「……それだけか?」

「それだけ、とは失礼な言い方だな」

「だって…もっとこう……何かないのか?助けてもらったとか…」

「無いな」

「……なんでそんな、自信持って言えるんだ」

 

期待していたのとは随分違った答えを返され、呆れ半分でそう尋ねる。しかし夏目は、そんな俺とは対照的に真剣な目で俺を見つめていた。

 

「くだらないと笑われようが、何だそれはと呆れられようが、あの日の俺が抱いたあの気持ちは何一つ間違っていない」

 

 

「それを正しいだとか間違っているだとか決めるのは、他人ではなく俺自身なのだから」

 

 

その、あまりにも真っ直ぐな言葉に思わず黙ってしまった。

夏目はきっと、怒って先の言葉を言ったわけではない。俺に説教をしているつもりもない。そうわかっているのに、何故かその言葉はナイフで刺されたかのように俺に突き刺さり、胸が痛みを訴えた。

 

「……そうか」

「?」

「……忘れ物、届けとくぜ。じゃあな」

「ああ」

 

ひらり、と手を振れば夏目も背を向けて歩き出す。

この時抱いた痛みの正体を、俺はいつか知ることになるのだろうか。

今はまだわからず、知りたくもないのでよぎった思考は無理矢理シャットアウトさせた。

 

 

             ⭐︎

 

 

「よっ。随分待たせてくれたな」

「……雄二」

 

如月ハイランドの中にあるホテルの前で待つ事しばし。玄関からとぼとぼと翔子が出て来た。

泣き腫らしたのか、目元は真っ赤になっている。

 

「帰るぞ」

 

夏目から預かった鞄を抱え直し歩き出せば、翔子は黙って後ろに続く。

しばらく無言の間が続き、人気のない道に出た頃、翔子がゆっくり口を開いた。

 

「……雄二」

「なんだ?」

「…………私の夢、変なの?」

 

例のバカップルに言われた事を気にしているらしい。振り向くと翔子は顔を俯かせていた。

……長い付き合いだから、顔が見えなくとも何となくどんな表情をしているかはわかる。

 

「……まぁ、あまり一般的ではないな」

「……」

 

翔子が黙り込む。

コイツの言葉が本当のことなら。七年という長い年月、ずっと揺るぎない夢を抱いて生きてきたわけだ。それなのに、その夢を大勢の人の前で笑われ、否定された。その心情はとてもじゃないが推し量れない。

…だが、だからと言って嘘を吐いて慰めるつもりもない。

 

「この際だから言っておく。お前の気持ちは、過去の話に対する責任感を勘違いしたものだ」

 

七年前に起こった出来事。翔子が俺に好意と勘違いした気持ちを抱くようになったきっかけ。俺は今でもあの時のことを後悔している。もっと上手くやれたのではないか、と。

あんな事があったせいで、コイツはくだらない事に七年もの時間を費やすことになってしまった。だからお前の気持ちは勘違いだと俺はコイツに教えてやる必要がある。……これ以上、無駄な時間を過ごさせない為に。

 

「……ゆう、じ……」

 

翔子が息を呑む。俺にこんな事を言われて傷ついたのかもしれない。

 

「けれどもーー」

 

コイツが傷つく必要なんてどこにもない。

おかしいのはコイツの勘違いだけで、一人の人間を長い間想い続ける行為自体は、胸を張れる誇らしいことのはずだ。

だからこれくらいは伝えてやりたい。全てが間違いなのではなく、気持ちを抱く対象を間違えていただけでーーお前のその夢は、立派なものなのだから。

 

「ーーけれども、俺はお前の夢を笑わない。お前の夢は、大きく胸を張れる、誰にも負けない立派なものだ」

 

拾ってきたヴェールを頭に被せてやる。

せっかくの体験だったんだ、このくらいのお土産はあったっていいだろう。

 

「……雄二、これ……」

 

何故かその顔を見てはいけない気がして咄嗟に顔を逸らす。

…っとそうだ。あと一つ、言っておかなきゃいけない事があったんだった。

 

「それと、翔子」

 

沈みゆく夕陽を眺めながら、

 

 

「弁当、美味かった」

 

 

軽くなった黒い鞄を、翔子に向けて放った。

翔子が、目を丸くしながら鞄を受け取る。

 

「……お弁当、気付いてたの?」

「ほら、さっさと帰るぞ。遅くなると色々勘違いされるからな」

「……雄二」

「特におふくろの奴はいくら言ってもーー」

 

「雄二っ!」

 

ここ最近では記憶にない、翔子の大きな声を聞いて思わず立ち止まる。

 

「……なんだ?」

 

平静に、努めていつも通りの態度と声で言葉を返す。

そして少しだけ振り返ると、赤い光の中、自らのヴェールを持ち上げーー

 

 

「私、やっぱり何も間違ってなかった」

 

 

満面の笑みを浮かべる幼馴染がそこにいた。

 

 

             ⭐︎

 

週明け、学校にて。

 

「おい、明久」

「おはよう雄二。どうしたの?」

「よくもまあ、如月ハイランドでは散々やってくれたな?」

「あはは、何言ってるのさ。あのチケットは夏目君に渡したのを雄二も見てたでしょ?それに、僕はその日一日中家でゲームしてたんだから、如月ハイランドになんて行けるわけないじゃないか」

「……シラを切ると言うのなら、まあいい」

「な、何言ってるのさ。変な奴だなぁ」

「ところで、お前にプレゼントがある」

「え?なになに?」

「今話題の恋愛映画のペアチケットだ。気になる相手がいるなら一緒に行くといい」

 

必要以上に大きな声で告げてやった。おそらく、教室内にいる全員に聞こえていただろう。

 

「ペアチケット?う〜ん、そんなものもらってもな……」

「それじゃあな」

 

強引に明久の手の中にチケットを握らせ、明久の席から離れる。すると、

 

「ア、アキっ!そういえばウチ、週末に映画を観たいと思ってたんだけどっ!」

「あ、明久君っ!私も丁度、観たい映画があってーー」

「ほぇ?二人ともどうしたの?あ、そうだ、観に行きたいなら二人で観に行きなよ!僕は特にーーあいだだだだッ!?!?もげちゃう!人体の大事なパーツが色々と取れちゃうからぁっ!」

 

遠くから案の定、悲鳴が聞こえて来た。

……全くザマァないな。余計な事を企むからだ、馬鹿野郎が。




次回!夏目がついに優子を呼び出し!?真剣な眼差しで語りかける、その内容とはーー。波乱から始まる勉強合宿編です!


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学力強化合宿編(第3巻)
第一問


合宿編スタートです!


久保side

 

春の肌寒さも消え、夏に向け少しずつ暑くなり始めたこの頃。

僕は休日にも関わらず、ちょっとした荷物を抱えて学園へと足を運んでいた。

 

「おはよう、久保」

「おはよう、安田君」

 

校舎には向かわず、広々としたグラウンドの中心に行けばもうクラスメイトがちらほらとやって来ているようだった。疎に立っているクラスメイト達の少し奥にはバスが五台ほど並んでいる。

 

「珍しく遅かったね」

「ああ。勉強合宿とはいえクラスメイトと合同の泊まり行事だからな。落ち着かなくてあまり眠れなかった。おかげで寝不足だ」

「あはは。僕も同じだよ」

 

そう。何故休日に学園へ登校しているのかといえばーー卯月高原にて行われる学力強化合宿に参加する為だ。卯月高原というのは少し洒落た避暑地であり、暑くなり始め、何となく怠くなり始める今頃に気分をリフレッシュさせる為に行かせるのだとか。

 

「もう皆バスかな?」

「……みたいだな。一部の奴は人を待っているようだが」

 

確かに、バスの外にいるクラスメイト達は岡田さんだったり霧島さんだったり半田君だったりーー皆特定の人を待っているように思う。

その人達にも軽く挨拶を交わし、特に待ち人もいない僕らは一足先にバスに乗ることにした。

バス内は既に賑わっており、空いている席も限られている様子だ。さて、どこに座ろうかと一歩進んだところでーー右手側から、力強く手を掴まれた。

 

「……夏目君?」

「久保、頼む。隣に座ってくれないか?」

「え?僕が?」

 

とりあえず、後ろにいる安田君の邪魔になってしまう為、一旦席に座ることにした。

安田君は夏目君にも挨拶をした後、奥の方へと進んでいく。その後ろ姿が見えなくなったところで夏目君に向き直った。

 

「てっきり君なら木下さんと座りたがると思っていたんだけど……本当に僕でいいのかい?」

「ああ。お前がいい」

「そ、そう?」

 

……何というか、少し照れるな。

夏目君とはまだ出会って数ヶ月だけどーーこんなに僕のことを好く思ってくれているなんて思わなかった。……まあ、夏目君は良くも悪くも表情があまり変わらないから、感情がいまいち読み取りにくいというのはあるけれど。

気付かない間に育まれていた友情に少し感動していると、ちょんちょん、と後ろから腕を叩かれた。

 

「あー……久保。これ渡しとく」

「?樋野君?」

 

叩いてきた主は樋野君だった。その隣には笂さんが顔を覗かせている。

 

「エチケット袋?アンタそんなもん持ってたの?」

「まあな。でも、久保も持ってるだろ?」

「まあ、一応……」

「うんうん。なら足りるだろ。んじゃ頼んだぜ」

 

何を?、と樋野君に聞き返す前に後ろからおはよう、と声をかけられた。振り返ると、入り口側にいつの間にか木下さんと霧島さんが立っている。

 

「あ、あぁ…。おはよう、二人とも」

「姿を見ないと思ったら、二人とも早かったのね」

「まあな。それより入り口付近はまだ混み合うから、早く先に行くといい」

「……?えぇ、そうさせてもらうわ。行きましょ、代表」

「……(こくり)」

 

じゃあね、と手を振り木下さんと霧島さんは奥へと消えていく。

 

「…………」

「……どうした、久保」

「……夏目君。何か隠し事をしていないかい?」

 

じと…、と夏目君を見つめる。

今日の夏目君は何だかおかしい。木下さんの隣に座りたがらないのは勿論、(これは木下さんに限らずだけど)あんなにすげない態度を取ることは滅多にない。

 

「……実は、「全員乗車しましたか?確認の為、点呼を取ります」……また後で話す」

 

夏目君が何か言いかけていたが、タイミング悪く高橋先生に遮られてしまった。

夏目君は僕から視線を外すと窓の外を眺める。僕も何となく気まずくて自身の膝へと視線を落とした。

 

「……全員いますね。それでは出発します」

 

高橋先生がバスの運転手に声を掛け、自身も座席に着席する。ブロロロ……と大きな音を立ててエンジンがかかったところで、夏目君が口を開いた。

 

 

「……実は俺、乗り物が苦手なんだ」

 

 

そういうことは早く言って欲しい。

 

 

          ⭐︎

 

 

「風が気持ちいいわね」

「……(こくり)」

 

バスに乗車してから五時間ほど。

映画を付けてもらったり、カラオケをさせてもらったりしている内にあっという間に目的地の卯月高原へと到着した。

危うくカラオケで自分の出番が来るところだったから、本当に着いてくれて良かった…!

 

「……すまない久保。たすかっおろろろ」

「はいはい。部屋に行く前に医務室に寄って行こうか」

 

密かに胸を撫で下ろしていると、ふとそんな会話が聞こえて来た。

気になって声のした方に視線をやる。すると、バスの入り口付近ぐったりしている夏目とその背中をさすっている久保君がいた。

 

「……珍しく静かだと思ってたら、そういうことだったのね」

「……その声、優子だな?俺はこの通り元気いっぱいだーーぅおえ゛ッ」

「全く。久保君に迷惑かけてんじゃないわよ」

 

俯かせている顔はどう見ても真っ青で、とても元気そうには見えない。様子を隣で眺めていただけの代表も察せたようで、水をもらってくる、と駆け出して行った。

 

「まあまあ。夏目君なりに気を遣ってたみたいだしそんなに怒らないであげてくれないかい?僕も特に気にしてないし」

「でも……」

「本当に気にしていないんだ。だって、弱ってる姿を木下さんに見せたくないなんて理由で隠そうとしていたんだから、可愛いもんだろう?」

「……久保。お前本当は怒っているだろう」

「あはは」

 

夏目が睨み付ける横で久保君は涼しく笑っている。

……久保君が夏目と関わるようになってから、アタシの中の久保君のイメージは随分と変わったような気がする。取っ付きにくいイメージを持っていたけど、案外そんなことはなくて。他の生徒よりも少し真面目で頭がいいだけの普通の男子高校生なんだな、と思うようになった。

 

……もしかして、アタシも昔はそうだったのかな。ふと、そんな事を思った。

夏目と出会う前の、誰にでも優等生の仮面を被ったままだったアタシ。……別に仮面を被っていたことを後悔しているわけじゃない。間違ったことをしているわけじゃないと、それは夏目自身も言っていたことだし、アタシもそう思っている。

でも、昔のアタシより今のアタシの方が好きだ。それはきっと、ありのままのアタシも好きだとたくさんの人が教えてくれたから。このままでもいいと気付いたから。

……まあその代わり、余分なレッテル(夏目の世話係)は貼られてしまったけどーーそこばかりは早く誰かに譲りたいものだ。主に久保君とかに。

 

「……ふふ」

「木下さん?」

「何でもないわ。そろそろ代表も戻ってーー」

 

 

「い、急いで部屋に運び込むのじゃ!」

「クソッ!どんどん顔が白くなっていってやがる…!一刻の猶予もねぇぞ!?」

「…………AEDを借りてくる」

「「任せたっ!(のじゃ)」」

 

視界を横切っていった今の騒がしい一団はーー問題児でおなじみのあの四人組のようだ。

……吉井君が担架で運ばれていたみたいだけど、一体何があったのかしら……。心配、というより何をやっているのやら、と呆れ半分に眺めていると代表が水を片手に戻ってきた。

 

「……惣司郎。これ」

「助かる。いくらだった?」

「…………このくらい気にしなくていい。それより、今のは雄二達?」

「みたいね」

「……部屋割りが姫路と島田と一緒だったから、探してくる」

「姫路さんと島田さんとかい?」

「……Fクラスは女子二人だけだから。交流も兼ねてAクラス二人と同じ部屋にしたって高橋先生が」

「なるほどな。早く行ってくるといい」

「……また後で。お大事に」

 

パタパタと去る代表の背中をしばらく見守った後、アタシもそろそろ行こうかなと思い二人に声を掛ける。

 

「じゃあアタシも行くわね」

「うん。僕達も部屋に行こうか。だいぶ良くなっただろう?」

「そうだな。念の為袋だけもらっておこう。バスの中で使い切ってしまったしな」

 

じゃあ、と互いに手を振って二人と別れる。

四泊五日の短い間だけど、皆と長い時間を過ごせる。一体どんな思い出が出来るのだろう、とわくわくしていたのだ。

 

ーー少なくとも、この時までは。

 




夏目の乗り物酔いを知っているのはムッツリーニと樋野君の他は家族くらいです。普段から乗り物に乗らないように生活をしています、彼は。


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第二問

お気に入り登録300以上ありがとうございます!


 

明久side

 

「酷い目にあった……」

「全くだ」

「…………誠に遺憾」

 

合宿所に到着して早々(と言っても僕は姫路さんの料理をかき込んで何時間も気絶していたみたいだからそう感じているだけなんだけど)。僕達は全く身に覚えのない女子風呂覗きの罪を疑われ、拷問にかけられていた。

証拠不十分ということで一応今日のところは解放されたけど……それでも重石を乗せられた膝は未だに痛みを訴えている。

 

「まあお主らを疑う女子の気持ちもわからなくはないが……少々理不尽ではあったの」

「でも実際こっちには盗撮を普段からやってるムッツリーニがいるからね…」

 

ちらりとムッツリーニを見ると、ムッツリーニはわざと大袈裟に溜め息を吐いてみせた。

 

「………………見つかるようなヘマはしない」

 

その発言はちょっとグレーだと思う。

 

「ま、これで姫路と島田と翔子に協力を頼むのは難しくなっちまったな」

「協力?雄二、何か頼みたいことでもあったの?」

「バカタレ。俺らを脅してる奴は女生徒で尻に火傷があるんだろ?なら女子に見て来てもらうのが一番手っ取り早いだろうが」

「あ、そっか。でも今の状況だと確かに頼みづらいね…。覗きのための言い訳だと思われちゃいそうだし……」

「それも見越してこの騒動を起こしたんだろうな。ヤな野郎だぜ」

 

ケッ、と吐き捨てる雄二。

正体のわからない相手に脅されている、という状況も相まって不機嫌さが増しているようだ。あとは単純に相手のいいようになってしまっているのが気に食わないんだろうな、とも思う。

雄二はプライドも高いし負けず嫌いだしね。

 

「というわけで俺達も相手の裏をかく」

「裏?」

「ああ。女子と手を組むぞ」

「何を言っておる、雄二よ。今しがた姫路や島田や霧島に頼れなくなったと言っておったばかりではないか」

「俺達にはまだいるだろう?協力してくれそうな助っ人が」

 

姫路さん、美波、霧島さん以外の助っ人?

そんなに僕達のことを信頼してくれている女子なんていたっけ……?

 

「ま、少し手順は必要だがな」

 

雄二はそう言うなり、何処かへと電話をかけ始めた。

 

           ⭐︎

 

電話から数分後。

ふと、窓からかしゃん、と物音が聞こえた。

何か風に吹かれた物が当たったのかな、なんて思いつつ窓を見やりーー僕は言葉を失った。

 

「おう、夏目。悪いなわざわざ」

「気にするな」

 

窓の外にーーいつの間にか夏目君が居たからである。

 

「な、夏目君?どうしてここにーーというよりなんで窓に!?」

「?お前達が呼んだんじゃないか。なるべく人目につかないように来てくれと」

 

そ、それは確かに、窓から来たら人目には付かないだろうけどね!?

何から言えばいいのかわからず、口をあんぐりと開けているとーー不意に肩を叩かれた。

ムッツリーニだ。ムッツリーニがフルフルと静かに首を横に振っている。……諦めろということだろうか。確かに、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。本人も深く考えていないだろうから。

 

「……雄二よ。まさか協力者とは姉上のことかの?」

「流石だな秀吉。その通りだ」

 

思考を放棄した僕の横で秀吉と雄二が話を先へと進めていた。

えーと……要するに、狙いは夏目君じゃなくて木下さんってこと?確かに夏目君といえば真っ先に浮かぶのは木下さんだけど……。でも、木下さんが僕達の為に協力なんてしてくれるだろうか。

秀吉との話を一度区切り、雄二は改めて夏目君の方に向き直る。

 

「夏目。お前に協力して欲しい事がある。実はなーー」

 

と、雄二は夏目君に僕達の事情をかい摘んで説明をした。

 

雄二のプロポーズが録音され、霧島さんに売買されていたこと。

僕が清涼祭の時にいつの間にか撮られていた恥ずかしい写真を元にクラスの女子に近付くなと脅されたこと。

身に覚えのない女子風呂覗きの罪を被せられたこと。

犯人は尻に火傷がある女生徒であること。

 

話を聞き終わると、夏目君は顎に手を当て黙り込んでしまった。

……まあ、僕達がいきなりこんな話をしたところで信じてくれる人なんて早々にいないだろう。実際疑うのが当然と思われてしまうほど僕達は普段からやらかしちゃってるわけだしね。こういう時だけ信じて欲しいなんて虫のいい話が通るわけが

 

「事情はわかった。それで俺は何をすればいい?」

 

思わず、ぱちくりと目を瞬かせた。

えっ?そんなにあっさり信じちゃうの?

 

「木下姉を目立たずここに連れて来て欲しい」

「わかった。しばし待て」

 

そう言うと夏目君は入って来た時と同様、窓から出て行った。

 

「して雄二よ。夏目を使って姉上をどう説得させるつもりじゃ?」

「夏目に俺達の事情を話してもらう」

「うーん……。夏目君から事情を聞いたところで、木下さんが僕達に協力してくれるとは思えないけどなぁ」

「…………(コクコク)」

 

僕の横でムッツリーニが頷く。

確かに夏目君と木下さんは仲は良いと思うけどーー夏目君が間に入ってくれたからと言って僕達のことを信用してもらえるかどうかは少し別の問題な気がする。

 

「別に俺達を信用してもらう必要はねぇ。ただ、夏目が噛んでるってポーズが必要なだけだ」

「夏目君が噛んでることが必要……?」

「要するに夏目を使って脅すわけだ。協力しないのなら夏目も巻き込んで覗き騒動を起こすぞってな」

「あー……。なるほど」

 

相変わらずこういうことに関しては頭が回るな、コイツは。

 

「しかし雄二よ。姉上がそれでも乗って来なかったらどうするのじゃ?」

「そうなったら仕方ねえ。直接女子風呂を覗くしかないだろうな。幸い夏目は協力するって言ってるんだ、Aクラスも一部は巻き込めるだろ」

「………………惣司は、覗きには協力しない」

「「えっ?」」

 

ムッツリーニの呟きに、僕と雄二が揃って反応を返す。

 

「………………そういうところは真面目だから」

「木下さんの裸が見られるんだよ!?」

「………………好きな奴がいようといまいと、覗きは失礼な行為だと譲らなかった」

「……なあムッツリーニ。その言い方はまるで昔に誘った事があるような「(ブンブンッ)」……そ、そうか…」

 

雄二の発言を食い気味に否定するムッツリーニ。

それがもはや答えているようなものだと思うけど、いつものことなので突っ込むのはやめておくことにした。

 

           ⭐︎

 

夕飯も食べ終わり、30分後の入浴時間まで特にやる事のない手持ち無沙汰時間。

アタシ達は早々に敷き詰めた布団の上で各々自由に過ごしていた。

ごろんと寝転がり天井をぼんやりと見つめていた愛子が唐突に口を開く。

 

「そういえば部活の先輩から聞いたんだけど」

 

話しかけているのか、独り言かはわからないけど皆何かしていた手を止め、愛子の話に耳を傾ける。

 

「ここ、お化け出るらしいね」

「ワオ!ジャパニーズホラー!?」

 

愛子の話にジェシーが食い気味に反応した。

ジェシーは日本文化が好きだと言っていたけど、それはホラーも例外ではないらしい。

愛子もそんなジェシーの反応に気を良くしたのか、ゆっくりと身を起こして語り始める。

 

「うん。何でもここ、遠い昔は墓地だったみたいでね。ここに、旦那さんに先立たれた奥さんが毎日毎日墓参りに来ていたみたい」

「だけどある日、旦那さんのお墓が荒らされているところを目撃しちゃって……。奥さんは慌てて止めに入ったんだけど、その墓荒らしに殺されちゃったんだって」

「あまりにも無念だった奥さんはお化けになってその墓荒らしを取り憑いて殺してしまった。だけど奥さんは墓荒らしを殺したことに気付いてなくて、いまだに墓荒らしを探し回って彷徨っているらしいよ……」

 

…ま、よくある話よね。

大した話でもなく、信憑性もなさそうなので内心ほっと息を吐いた。

結構そういう話苦手なのよね…。心霊現象って物理で何とかならないし……。

 

「む。その反応の感じだと皆あんまり信じてないな〜?」

「当然でしょ。お化けなんていないわ」

「いーや、いるね!今だってボク達をいつ取り殺してやろうかと見張ってるんだよ。ほら、後ろ。そこの窓に今一瞬人影がーー」

「バカね。窓に人がいるわけ、」

 

 

「優子」

 

 

「「「「「ぎゃあぁっ!?!?」」」」」

 

窓外から聞こえたアタシを呼ぶ声に、アタシだけじゃなく部屋に居た皆が悲鳴を上げた。まさか本当に幽霊が出てしまったのかと、恐る恐る振り返ると、窓からーー

 

 

夏目が、慣れた手付きで入ってきた。

 

 

「…………な、なつめ?」

「?どうしたお前ら、そんな化け物を見るような目で」

「な、夏目クン…。何で窓から……?」

「少々訳ありでな。それより女子部屋なんだから二階だろうと窓はきちんと閉めておいた方がいいぞ。窓から入ってくる不審者がいるかもしれん」

「ウーン、大丈夫だよって言いたいところだけど…今実際入ってきたからね。肝に銘じておくよ」

 

身をもって示すとはまさにこの事ね。

 

「ところで、木下の名前を呼んでいたが何か用事か?」

 

気を取り直すように、戦国さんが軽く咳払いをした後夏目に尋ねる。夏目は問いかけに対して鷹揚に頷くと、こちらに手を差し出した。

 

「優子、話があるんだ。一緒に来てくれないか?」

 

……へ?

 



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第三問

 

皆に生温かい目で見られながら、夏目に背負われた状態で窓から部屋を出る。人目に付きにくいからの一点張りで窓から出入りしたいと譲らなかったけど……どうしてそんなに人目に付きたくないんだろう。

 

……人目に付きたくない用事の呼び出しってまさか……告白?

 

意識した途端心臓の鼓動が早まる。

い、いや、告白なんてしょっちゅうされてるようなもんだけど…!なんかこう、呼び出されて改めて告白されるのは初めてで…!

でも無くはない、のかな。修学旅行とか、旅行先のイベントでカップルって出来やすいし、浮かれて告白しちゃう、みたいなのが夏目にもあるんだろうか……。

急速に体が熱を持ち始める。初夏とは言えまだ肌寒い夜風が心地いいと感じてしまうほど頬が火照る。

 

「着いた」

 

ドキ、と心音が跳ね上がる。

夏目はまた慣れた手付きでからからから……と窓を開けた。

一体どこの部屋で告白するつもりなんだ。なんかそれっぽい空き部屋を事前に押さえとくなんて、コイツ浮かれすぎなんじゃないだろうか。でも告白ってやっぱり一大イベントだから張り切るのも当然なのかな、なんてーー

 

「待たせたな」

「ううん、全然待ってないよ!」

 

……ん?

 

「木下姉をおぶってきたのか?よくそれで壁伝いに移動できるな……」

「……………………一般技能」

「ムッツリーニよ。それが出来るのはお主らだけだと思うぞ?」

 

部屋には吉井君、坂本君、土屋君、秀吉の姿。口振りから察するに夏目を待っていた様子だ。

 

「……夏目。改めて…話って何?」

「実はだな。吉井達が受けている誤解を晴らす為、お前にも協力して欲しいんだ」

 

自分の勘違いを理解するより先に、左ストレートで殴ってしまった。

 

 

               ⭐︎

 

「ふぅん、なるほどね。今噂されている覗き騒ぎは吉井君達が原因ではないと」

「うん。それどころかその犯人に脅迫されてる被害者なんだ」

「うーん……まあ本当だったら可哀想だけど……」

「優子。吉井達に同情するなら腕十字固めから俺を解放してくれないか?」

「それとこれとは話が別よ馬鹿」

 

大体吉井君達の話だって鵜呑みには出来ないし。

同情するのはあくまで本当だったら、って話だ。実際盗撮やら盗聴に長けている土屋君がいるわけだし、それを除いても吉井君達は普段から問題を起こしている問題児なのも本当なわけで。

しかし顰め面のアタシを見ても、坂本君は気を悪くするどころか不敵な笑みを浮かべていた。

 

「別に信じて欲しいとは言わねえよ。お前の協力が得られないなら俺達は俺達のやり方で解決するさ。……なあ、夏目?」

 

夏目に送る意味深な視線でーー全てを察した。要するにもう手遅れだということも。

 

「俺に出来ることであれば全面的に協力しよう」

 

……はぁ。

 

「……アンタねぇ、本気で吉井君や坂本君達がやってないって信じてるの?」

「ああ」

 

夏目は鷹揚に頷くとーーその眼差しを土屋君へと向けた。

 

「俺は康太を信じているからな」

 

その言葉を受けて、土屋君はフッと口元に笑みを浮かべると小さく頷く。当然だと言わんばかりのその態度が二人が築き上げてきた信頼関係を表していた。

 

 

「康太がーー見つかるようなヘマをするわけがないと」

 

 

嫌な信頼関係ね。

 

「ま、俺達に協力するしないに関わらず尻に火傷がある女生徒を探すか脱衣所でカメラを探すかのどちらかはやっといた方がいいぞ。多分まだカメラがあるはずだからな」

「今回見つけられたカメラはダミーってこと?」

「そういうこった。じゃなきゃわざわざカメラを見つけられる場所に設置しないだろ」

「……」

「だが脱衣所でカメラを探すような素振りを見せれば犯人は都度隠し場所を移すだろうな。そうなればカメラの捜索はかなり大変だろうなぁ。相手もムッツリーニ同様盗撮盗聴で商売しているみたいだから、その手のプロだろうし」

 

坂本君は大袈裟に肩を竦めて見せる。

その大仰な仕草は言葉巧みに商品を売りつけようとするセールスマンを連想させた。

 

「楽しそうじゃのう」

「色々と鬱憤が溜まってたんだろうね」

 

だからといってアタシで晴らすのは辞めて欲しいんだけど。

 

……とはいえ、坂本君の言ってることは実際正しいし、カメラがまだあるのなら一人で探すより坂本君達と協力して探す方がやりやすいのも事実だ。坂本君達が派手に動いてくれれば犯人はそっちを意識せざるおえないのだから。

 

「んで?どうなんだ木下姉。手伝ってくれるのか?」

 

坂本君、吉井君、土屋君、秀吉、夏目の視線がアタシに刺さる。

 

坂本君達に協力して尻に火傷跡がある女生徒を探すか、自分一人で尻に火傷跡がある女生徒を探すか、アタシが選べるのはこの二択しかない。正直関わりたくもないが協力しなければ坂本君達のことだから手段を選ばずに解決に走るだろう。……それこそ、直接自分達で確かめる為に女子風呂を覗くとか。

坂本君達だけならいい。だけど夏目がコイツらと一緒に覗きの主犯格になったら?

(不本意ながら)夏目の世話係にされてるアタシの評価まで下がってしまうおそれがある。だったらーーまだアタシの目の届く範囲でやらかしてくれる方がまだフォローが効く!

 

溜め息を吐く。面倒な事に巻き込んでくれたわね、という皮肉も込めて。それから、渋々口を開いた。

 

 

「……本当に覗き魔だったら容赦なく突き出すから」

「交渉成立だな」

 

 

差し出された手のひらを乱暴に叩く。

こうして、平穏だったはずの学力強化合宿はいきなり波乱だらけの学力強化合宿へと変貌したのだった。

 



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