ガラガラの設定が作者の妄想を駆り立ててできた小説 (コガイ)
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旅立ちの日
ここは、森の奥深くにある村。人口はそれほど多くはなく、活気もあるわけではなかった。大きな祭りを定年行っているわけでもなく、騒がしいという言葉とは、ほぼ無縁であった。
しかしこの日は、村の雰囲気はいつもとは少し違っていた。村の入り口に村人全員が集まっている。ある者は喜び、ある者は寂しい気持ちになり、またある者は自身の気持ちが理解できなくなっていた。
その原因、あるいは中心に立つ人物は一人の少年と一匹のポケモンであった。
「ついに君らまで旅立ってしまうのか。」
声の主は村の中で最年長の村長。白髪と太陽を反射する頭頂部が特徴である人だ。言葉を掛けた相手は先ほども話した少年とポケモンだ。
「すいません、村長。人手が足りないっていうのに……。」
人手が足りない。それは村の建て直しから来る言葉だった。
この村は二年前に全ての家が焼かれ、多くの重傷者が出てしまい、住む場所を失くしてしまった。それから村を復興する為に、人手が必要だったが、元々人が少なく、手伝うポケモンもそうであった。人を雇う金も無い苦しい状況であり、救いは人が誰も出て行かなかった事か。厳密に言えば一人いるが、今はその話をする時ではない。
「いや、そんな事はいいんじゃよ。この村はほとんど元通りになってきておる。」
村長の言う通り、かつてあった傷は消え、悲惨な事があった村とは思えないほどの再生を果たした。
「むしろ、謝らなければいけない方はワシらの方じゃ。本来の旅立ちの日である十歳の誕生日にお主を旅立たせられなかったのじゃから。」
「いえ、あれはここにいる誰の責任でもありません。」
悪いのは奴らです。とまで、少年は言えなかった。それを口にすると感情が抑えきれないような気がしたからだ。
「そう言ってくれると、ワシらの気持ちも楽になる。
じゃが、それとは別に……少し寂しくなるとは思っておる。」
「何言ってるんですか、村長!子供が夢を追うんですから、大人はそれをサポートしないと!」
「お前はこの子の父親なのに名残惜しいという感情はないのか?」
少年の父親と呼ばれる男性はかなり大柄な体型で、顎髭が印象的な見た目だ。
「無い!むしろ、こいつらがどんな成長をするか楽しみで仕方ないですよ!」
その男性は村長に対してはっきりと返答をする。
「やれやれと言ったところか。まあ、メソメソと泣くよりはマシかのう。」
村長はまた別の人を、横目で見る。その人物は少年の母親だ。目から溢れ出る物を何度も手で拭っているが、それはすぐに止まらないだろう。
「うぅ、……ひっく。」
「泣きすぎだ、マヤコ。」
「ヒ、ヒサオさん……、でも……」
男は、泣いている女の言葉を遮り、涙を指で優しく拭き取る。
「親がそんな悲しい顔してたら、息子が安心して旅立てないだろ?ここは笑顔で見送ってやろうじゃないか。」
「……ええ、そう…….よね。」
女性は一旦涙を全て拭き、それがもう出ないように堪えながら少年とポケモンに向き合う。
「……カケル、言いたいことは色々あるけど、母さんから言えることはこれだけよ。
強く生きなさい。」
「母さん……。」
少年にとってその言葉はかつて受けたことのない重みがあった。ただ単純に、どんな事にも負けないで、という意味ではなく、これまでの少年の人生を知っているからこその一言だった。
女性は少年に言いたい事を終えると、今度は少年の肩に乗っているポケモン、カラカラに話しかける。
「カラカラ、貴方も色々あるけど、カケルを支えてあげてね。」
「カラー!」
このカラカラ、頭には皆が見慣れている頭蓋骨を被っている。それが元々誰の物かを考えると……つまりはそういう事だ。
「それじゃあ、俺からもお前達に一言言わせてもらおうかな。」
今度は少年の父親であるヒサオが旅立ちの言葉を手向けとして送る。
「楽しめ!」
先ほどの母親とは打って変わり、非常に軽い一言であった。
「……それだけ?」
「ああ。むしろそれしかないな。
人生なんてのは一度きりだ。楽しまなきゃ損だぞ?」
「はあ……。」
少年は呆れていた。だが、いつもの父親らしいとも思った。この人は本気で言っている。楽しめという言葉は楽観的であれという意味ではなく『苦しいだけの人生は人生なんかじゃない、どうせ生きるのなら楽しんだ者勝ちだ。』彼が少年によく言っていた言葉だ。
「さて、そろそろじゃ。」
村長が旅立ちの時を告げる。
「カケルや。ここはお前の故郷。たま〜にでいいから戻ってくるんじゃぞ。」
「はい、村長。」
少年は返事をした後、自身の両親に向き直す。
「父さん、母さん。行ってきます。」
「カラカーラ!」
「ええ、行ってらっしゃい。」
「おう!」
両親へ挨拶した後、次は村人への挨拶だ。
「みんなー!行ってきます!」
「カラカーラ‼︎」
「行ってらっしゃーい!」
「元気でやれよー!」
「大きくなった姿、見せてねー!」
少年とポケモンが言葉を送った途端、一気に騒がしくなる。それほど、少年が皆に愛されている証拠だ。
一人と一匹は村人全員に見送られながら、旅立つ。姿が互いに見えなくなるまで、手を振り続ける。
この瞬間、新たなトレーナーの旅が始まった。
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見抜かれた能力
日差しがテントの入り口にある僅かな隙間から通り抜け、少年の目に入る。それは一日の始まりを告げる合図。
「うーん……」
「カーラー。」
小さな体格を持ち親の形見である頭蓋骨と骨棍棒を身につけているポケモン、カラカラが、相棒でもある一人の少年、カケルを眠りから目覚めさせようと、彼の体を揺らす。
「んー、後五分ー……。」
だが、その行動を少年は無視してしまう。
「カラカーラー!」
「まだ、大丈夫だって……むにゃむにゃ。」
カラカラは再度、寝坊助を起こそうとした。しかし、彼は寝返りをして、カラカラに背を向ける。
カケルを起床させたい本人はその行動に少し苛立ちを覚えてしまう。
「カーラー!カーラー!」
「………。」
へんじがないただのしかばねのようだ。
どうやら、完全に二度寝したらしい。そのせいでカラカラの怒りは、完全に頂天へと達してしまう。
「カー……」
カラカラは掛け声と共に地を蹴り宙を舞う。そして、テントの天井まで到達すると、また足で蹴り、重力と自身の体重を使い…!
「ラー‼︎」
「いってぇぇぇぇーー‼︎‼︎」
カケルの頭に骨を叩きつける!
——————
「ここがヤマガミシティか。」
おっす!オラ、カケル!昨日旅を始めたばっかの駆け出しポケモントレーナーだ!
いやー。さっき、いつまでも寝ていたいという願望を剥き出しにしていたら、隣にいるカラカラに骨を使った『たたきつける』を頭に喰らってしまったよ。はっはっはっ!
……さて、キャラを戻そうか。知ってるかもしれないが俺の名前はカケル、ヒヨッコのトレーナーだ。出身はシラヌタウン、つまりは昨日旅立った場所だ。夢は……まあ、強くなる事かな?
今連れているポケモンはカラカラ一匹のみ。旅の目的としては色々あるけれど、強いて一つ挙げるならば、今ここにいるパニスラ地方で行われる大会に参加して優勝することだ。その大会は一年に一度開催していて、参加資格は特定のバッジを八個集める事。
今の目的地は、ポケモン図鑑とトレーナーカードを貰える研究所があるヤマシタタウンだ。ヤマガミシティは中継地として訪れた。ここにはバッジが手に入れる事ができるジムがあるけど、今はまだ挑戦するつもりはない。物事には順序があるのだよ。
「昨日は暗くてよく見えなかったけど、明るいと山の上にあるとは思えないほど多くの工場があるな。」
実のところ、ここには昨日の夜に着いていた。宿を取ろうかと思ったが、財布と相談したところ、街の外で野宿する結果となった。
俺が持っている財産は、全て村からの援助金だ。あの村は決して裕福とは言えない。別にケチをつけるつもりではない。むしろ、よく援助金なんて物を出してくれたと思う。だが、その金額は少ないと思わざるを得ない。食費は自然にあるものを取るからゼロとしても、その他の消耗品やら何やらで支出が必要になってくる。どこから収入を得るかも考えなくては。
「それじゃあ、まずは足りない物を買いに、フレンドリィショップでも行くか。」
「カーラー!」
相棒は元気よく答える。『キズぐすり』とか、『モンスターボール』とか、買う物は多くある。財布の中が寂しいので、全部は買えないが、必要な物だけは手に入れる事ができるだろう。
=====
「うん?あの人は……」
ここヤマガミシティは三つの区画がある。工業区と商業区、居住区がそれだ。キャンプは工場区の近くで行い、今は商業区にいる。そして、その一角にある喫茶店のオープンテラスで見たのは、書類とにらめっこしている……
「うーむ、やはりギリギリになるな。」
「また予算で悩んでるんですか?イービルさん。」
顔が少し厳つく、子供に会ったらすぐ泣かれそうなその人こそ、ヤマガミシティのジムリーダー兼ここら一帯にある工場を仕切っている工場長であるイービルさんだ。
「ん?……誰だ、お前。」
「覚えてないんかい‼︎」
「嘘だ。ちゃんと覚えてるから、店で叫ばないでくれ。」
アンタがボケをかましたせいだろ!
「……分かりました。ってか、本当に覚えてるんですか?」
「あったりまえだ。カケルだったな、シラヌタウンに居た。」
「そうですよ。ちゃんと覚えてくれてたみたいですね。」
「まあな。お前もそこのカラカラも元気そうでなによりだ。」
イービルさんに名前を呼ばれたカラカラは、一瞬体をビクッとさせ、そのあと、俺の脚の後ろに回り込んでしまった。
「あー、嫌われたかな?」
「すみません、こいつ少し人見知りが激しい奴でして……」
「なあに、そんな事気にしてない。カラカラは元々他人を怖がる性格だからな。」
「そう言ってくれると助かります。」
この人とは二年前に起こった村の崩壊の後に会った事がある。村の建て直しを行う際に、資金を出してくれた人だ。その他にも、必要な物を貸し出したりしてくれた。
しかし、あの村だけを贔屓しているのではなく、この人は他にも支援を必要としている多くの場所に手助けをしている。性格ゆえか、そういう事は放っておけないそうだ。
だが、同時に金の悩みが尽きない人でもある。理由は前述で察してほしい。本人曰く『先行投資』らしい。
「二年前の支援はありがとうございます。」
「いや、いいってことよ。……そういえば、行方不明になったっていう子供がいたらしいが、まだ見つかってないのか?」
「ああ……あいつの事ですか。」
あいつとは俺と同い年の男で、イービルさんが言った通り、二年前の騒動と同時に、理由も分からず姿を消してしまった。……いや、俺は知ってる。あいつが復讐を目的に旅立って行ったことを。
そのあいつとは同い年だということで、一緒に村で住んでいた時は仲が良かった。あいつとはまた会ってみたいが、その時になんと言えばいいのだろうか。復讐なんて無意味だ、なんてそれを言うこと自体無意味だろう。
「見つかってませんよ。」
「そうか……。」
なんとも、重苦しい雰囲気になってしまった。
「あー、そういや、なんでお前さんはここにいるんだ?」
それを変えようとしたのか、イービルさんは口を開く。
「ポケモン図鑑とトレーナーカードを貰いにヤマシタタウンに行くところです。」
「ほう、と言うことは試験に合格したのか。」
「もちろんです。半月ほど前に知らせが、家へ送られてきました。」
試験というのはこの地方でトレーナーになる為のものだ。場所は今向かっている目的地と同じヤマシタタウン。内容は筆記と実地の二つで、筆記の内容はトレーナーとしての基本知識、実地は野生のポケモンを懐かせる、というものだった。
「なら、お前も一人前のトレーナーだな!」
「その前に、ひよっこが付きますけど。」
「確かにそうだな。……なあ、一つ訊いていいか?」
「いいですよ。」
「そこのカラカラ、戦えるのか?」
その質問は難しい。言葉通りの意味としてそれを捉えるのならば、答えるべきは肯定だ。しかし、この人がいるジムは新人が挑むようなところではない。普通ならば、八個目のバッジを得る為の場所だ。それに見合った強さをカラカラが持っているか、という意味ならば、否定しなくてはならない。
俺がそんな事を悩んでいると、イービルさんは見通したかのように声をかける。
「そんな悩むモンでもないだろ。要は戦う気概があるかどうかだ。」
なら、答えは簡単だ。と思い、返事をしようとしたが……
「カーラー!」
相棒に先を越されてしまった。
「はっはっはっ!さっきまでビクビクしてたのに、バトルとなると途端に目の色変えやがった!」
「全くですよ。」
このカラカラは強くなるという事に関しては、並ではない執念を持っている。バトルに関してもそうだ。理由を持ち出すと、また暗い話になるので、それはこの場で出すわけにもいかない。
「それじゃ、ちょっとついてこい。」
「一体何をするつもりですか?」
「なあに、大した事じゃねえさ。ヤマシタタウンに着くのはもう少し先でも良いんだろ?」
「確かにそうですが……」
イービルさんの言う通り、ヤマシタタウンに到着する日にちは、後でも構わない。最長でも一週間で良い。各地から人が研究所に押し寄せてくるので、それを考慮して研究所は期間を設けた。
そして、ヤマシタタウンとヤマガミシティ、その間に距離はあまりない。あると言えば、ヒラ山のみだ。けっして◯マラヤ山脈ではない。一日もあれば、その道のりを進む事に何の問題もないだろう。
「なら、いいだろ。さっさと行くぞ。」
と強引に話を進められてしまう。こっちははっきりと応じてはいないにも関わらず。だが、相棒がやけに張り切っているので、断るのも野暮だろう。
結果として、俺たちはイービルさんの後について行くことにした。
=====
「ここはジム……ですか?」
「ああ、そうだ。」
連れてこられた場所はジムだった。まさか、この人の目的は、俺をジムへ挑戦をさせる事だったのか?
「なんでジムなんかに連れきたんだって顔してるな。」
「誰でもしますよ、こんな状況じゃ。ちゃんとした説明をしてください。」
「まあまあ、そうカッカすんなよ。実はな、お前と……いや、そのカラカラと戦ってみてえなって思っただけだ。」
戦ってみたい?それもカラカラと?何か含みのある言い方だな……。
「なんでそんな事を?」
「単なる勘と興味だ。深い理由はない。」
「勘って……」
たったそれだけかよ。威張りながら言う事じゃないだろうに。
「……まさか、本気でやるなんて、大人気無い事はしませんよね?」
「するわけないだろう。お前のカラカラに見合った相手を選んでやるさ。」
見合った相手ねぇ。見ただけで相手の強さが分かるのか?
「さあ、中に入ろう。さっさと戦いたくてウズウズしてるんだ。」
「仕事は大丈夫なんですか?」
「……勝ったらジムバッジやるぜ?」
物で釣るなよ、ジムリーダー。
「……その言葉、忘れないでくださいよ。」
まあ、貰える物は貰っておこう。
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初のジム戦
急遽行われる事になったイービルさんとのジム戦。しかし、審判を誰にやってもらうかが問題になった。曲がりなりにもジムバッジを賭けた公式試合なのだから、審判は必要だ。いつもならジムにいるイービルさんの弟子兼工場の従業員がやっているらしいが、今は全員工場に勤務中らしい。
どうしたものかと考えていたら、バトルフィールドに老人の清掃員がおり、イービルさんがその人に頼んで審判をやってもらった。
審判は誰でもいいのか。
「えぇ〜、今からジムリーダー・イービルさん対挑戦者・カオル……」
「カケルですよ!」
「おお、そうじゃった。挑戦者・カオルくんの試合を始める。」
また間違えてる。
それはどうでもいいとして。本来のジム戦ならば、周りに観客がいるはずだった。いつもではないが、ここのジムはトレーナーがバッジを獲得するための最後の場所であることがほとんどだ。色々と理由はあるが、今は置いておこう。
とにかく、一定の個数以上のバッジを持っているトレーナーとジムリーダーが戦う場合、資金のために観客を集める。少し汚い話だとは思うが、ジムリーダーも色々と大変なのだ。
というかそうしてもらわないと、転々と旅をする俺たちトレーナーは、お金が入ってこない。実は、試合をするときに勝っても負けても、その後にジムからお金が入ってくる。もちろん勝てば多く貰え、負ければ少ない。
短期バイト以外に旅の資金を稼ぐには、これしかないのだ。親が裕福であれば、話は別かもしれないけど。
「なお、交代は挑戦者だけに認められ……」
「出すポケモンは、互いに一匹ずつだから、そこは関係ないですよ。ユキオさん。」
「おお、そうじゃったな。」
イービルさんが訂正したからいいものの、この人本当に大丈夫か?
まあイービルさんにとっては、記念にバトルしようというぐらいの気持ちだろう。俺は本気で取る気だけどな。
「えぇ〜、先行は挑戦者からになります。両者、まずはポケモンを出してください。」
「よし。じゃあ、俺から先に出すぞ。お前は、ジムバッジをまだ持ってないからこいつだな。
出てこい、ポチエナ!」
イービルさんがモンスターボールを投げると、ぱかっと蓋が開き、中から光が飛び出す。
「ガウッ!」
光が消え、姿を表したのは小さな黒い犬だった。
確か、ポチエナが最初に発見されたのはホウエン地方の筈だ。ここパニスラ地方にも生息しており、割とよく見るポケモンの一匹でもある。そして、タイプは『あく』のみ。ここはあくタイプを使うジムだから、なんら不思議ではない。
隣にいるカラカラの様子を見ると準備万端のようで、肩をぐるぐると回している。さきほどの人見知りは何処へやら。
「勝つ気満々だな、カラカラ。」
「カーラッ!」
カラカラは元気よく頷いた後、前へ出る。バトルフィールドは、何のへんてつもない土のフィールド。最初はあの作戦を
「お二人とも、準備はよろしいですかな。」
「はい。」
「いいですよ、ユキオさん。」
「それでは、試合開始。」
ユキオさんの合図と同時に、カラカラはポチエナにたたきつける攻撃をする。
「カラッ!」
「後ろに跳べ!」
イービルさんの指示を受けたポチエナは、軽々と避ける。しかし、それは想定内の事。ただの攻撃が当たるとは、思っていない。
狙いは、目くらまし。たたきつけるは、地面に衝撃を与えており、その結果、土埃が舞っている。
「土埃を使った目くらましとは、なかなか良い作戦じゃないか。」
イービルさんは、もう気づいているようだ。流石ジムリーダーをやっている事はある。
「だが、甘い。ポチエナ、バークアウト!」
「バウッ!」
イービルさんの指示で、グラエナは吠える事により、音の波動を生み出し、そして土埃を吹き飛ばし、視界を晴れさせようとする。
「
何かが、土埃の中からポチエナへと一直線に、勢いよく飛び出る。もちろんそいつはカラカラだ。その勢いのままカラカラは、バークアウトを紙一重で避ける。そして、一瞬のうちにポチエナの目の前へと移動する。
「ポチエ……!」
「もう遅いですよ。」
余裕の笑みを浮かべながら、格好つける。
土埃で視界を塞げば、相手は対処しようと技を出す。その技を出した後にできる隙を突く。これが、俺たちの先手必取作戦だ。
「カーラッッ!!」
「キュー!」
カラカラは、先程と同じたたきつける攻撃をする。しかし、今度は相手にしっかりと当てられた。
「なっ……!」
しかし、驚いたのは俺の方だった。何故ならば、たたきつけるが当たったポケモンはポチエナなのに、吹っ飛ばされていたのは別のポケモンになっていたからだ。
その別のポケモンというのは、まるで黒い狐のような姿だった。
「いやー、まさか先に貰うとは思わなかった。おかげで、ゾロアのイリュージョンが解けちまった。」
ゾロア?……あの黒い狐の事か。見た事ないポケモンだ。新種か?イリュージョンというのは、メタモンのへんしんみたいな技なのか?
「……その様子だと、何の事かさっぱりみたいだな。」
あ……。まずい、考えが顔に出ていたか。相手に心を読まれる事は、かなりきつい。
「けど、そのポケモンがゾロアだって事は、分かりましたよ。」
「ゾロアっていうポケモンが何なのかも分かってないのに、偉そーな口を利くな。」
「うっ……。」
そこを突かれると痛い。
「まあ、その事についてはバトルが終わった後に話してやる。」
「今話してくださいよ。」
「バカか、お前は。」
ふざけてたら、怒られた。はんせーはんせー。ま、相手にホイホイ情報を渡すわけがないか。
「そろそろ、バトルを再開するぞ……。ゾロア、たいあたりだ!」
「キューン!」
ゾロアはカラカラに向かって真っ直ぐたいあたりをしてくる。それに対して、カラカラはみきりを使い、相手の攻撃を流す。そして、カウンターのたたきつけるをゾロアに当てようとする!
「耐えて、骨を掴め!」
イービルさんが指示を出し、ゾロアは四本の足を広げて、たたきつけるを受け止める。
カラカラが骨を振り切った時、ゾロアはどこにもいなかった。カラカラは見失ったようで辺りを見回す。しかし、
「後ろだ、カラカラ!」
「遅い!ゾロア、そのままひっかく攻撃!」
カラカラは俺の言葉にから後ろ、つまりは骨の先端に掴んでいたゾロアの存在に気づいたが、時すでに遅し。ゾロアのひっかくをまともに受けてしまった。
ゾロアもダメージを受けたものの、不意を突かれたカラカラの方が、ダメージが多い。正に肉を切らせて骨を断つ作戦だ。
「そのままダブルアタック!」
カラカラが体制を整えた瞬間を狙い、ゾロアは攻撃を当てようとする。カラカラは骨を使って身を守ろうとするも、ゾロアはまるで幽霊のようにすり抜けていった。
そのせいで、カラカラは驚きのあまり一瞬硬直してしまう。
「馬鹿ッ!二回目が来るぞ!」
俺の言葉通り、いつの間にかゾロアはカラカラの背中に回り込んでおり、二度目の攻撃をしかける。
「カラッ⁉︎」
そしてまたもや、相手の攻撃をモロに食らってしまうカラカラ。
体制を立て直し、骨を構えるのだが、
「カラカラ、ストップだ。」
俺が止めの声をかける。
「ちょいこっち来い。」
カラカラは不満そうな顔をしながらも、相手に背中を向けないように、後ろ歩きで俺の所まで下がって来る。
「最初の作戦通りにした所とか、かわしてカウンターまでは良かったけど、反撃食らってからは一方的じゃねえか。
イービルさんはゾロアに掴めって言ってたんだから、相手がお前の骨を掴んでることぐらいわかるだろ。あと、フェイントに引っかかりすぎ。一直線の攻撃には、何かあるってちゃんと頭の中に入れとけ。ダブルアタックって技名言ってんだから、二回目あんの分かってんだろ。驚いてる暇があるなら、次にどんな攻撃が来るか予測しろ。」
「……ぷっ、あーっはっはっはっ!」
びっくりした。俺がカラカラに説教してたら、あの人急に笑い出した。
「何かおかしな事、言いました?」
「くっくっくっ……いや、お前は何も間違った事は言っちゃいない。ただ、そんな事をやってるトレーナーは見たことないから、初めてだからよ。」
「そんな事……?」
「だから、試合中にはほとんど指示を出さずに、途中でアドバイスだけを言う事だ。」
「ああ、それの事ですか。」
本来、トレーナーというのは練習中も試合中もちゃんとポケモンに指示を出す。出す技や、タイミング、そのほかにも色々と。それが普通だ。
しかし、俺の場合は、練習中に相手がどういう行動を取ったらどう対処するかとか、フィールドの地形をどう利用できかとかをポケモンの頭に叩き込み、試合中はポケモンに練習でやった事を活かして戦ってもらい、その間にトレーナーである俺は、試合の状況を読み取り、途中でアドバイスをする。それは普通ではない事だ。
「人間がやるスポーツなら、その方法は有効かもしれんが、ポケモンにあれこれ考えろっていうのは無理じゃねえか?」
ポケモンというのは賢いようでそうでもなかったりする。トレーナーの指示無しでは行動が単調になったり、搦め手を使われればすぐに混乱する。それが今の事実だ。
「確かに無理かもしれません。ですが、俺は憧れてるんです。」
「……何に、だ?」
「とある野生ポケモンに、です。正確には元々とあるトレーナーのポケモンだったんですけど。そのポケモンは野生であるにも関わらず、トレーナーの指示を貰っているポケモンに勝つんです。しかも、全くの無傷で。
そのポケモンは、トレーナーの教えをしっかりと受け継ぎ、覚えていた。その姿から俺は、絆というものが見けました。だから、憧れているんです。そのポケモンも、そして持ち主のトレーナーにも。」
こうして口に出すと少し恥ずかしい気持ちになってしまう。誰かに憧れを話すなんてした事なかったし。けれど、嘘を言ったつもりはない。これは、俺が本当に思っている事だ。
「……なるほど。かなり深い訳がありそうだが、その話は後でな。まずは、この試合を終わらせようじゃねえか。」
「そうですね。ならば……カラカラ、ちょっと耳を貸せ。」
俺はカラカラを呼び寄せて、耳打ちで作戦を伝える。
「カラッ⁉︎カラカーラ!」
すると、俺の相棒は驚いた後、反対だと言わんばかりに怒り出す。
「しかたがないだろ!相手へ確実にダメージを与えるにはこれしかないんだ!逆に訊くけど、お前は何か良い案あるのか。」
俺が提案を求めると、カラカラはこちらを睨みつけたまま黙ってしまった。つまり、良い案は無いという事だ。
「無いなら、行ってくれ。悪いけど俺も完璧じゃないんだ。」
「カーラ……」
カラカラは、渋々といった感じでバトルに戻る。あいつにはすまないと思っているが、策はこれ以外に思いつかなかったんだ。
「そんじゃあ、続きをやるぞ。ゾロ……っ!」
自分のポケモンに指示を出そうとしたイービルさんは、カラカラの姿に驚く。
当然だろう。カラカラは堂々と仁王立ちをし、隙だらけの構えをしているからだ。
「何を考えてんのか分からねーが……やる事は変わらねえ!ゾロア、たいあたり!」
ゾロアは、助走で加速をつけて、体をカラカラにぶつけようとして、
しかし、ただやられているわけでもない。体を回し、攻撃の威力を逸らし、骨での反撃を行う。いわゆる、捨て身のカウンターだ。
ゾロアは吹っ飛ばされ隙を見せるが、カラカラはあえて追撃はしない。どこからどこまでが幻なのかが、判断できないからだ。
そして、それが二度三度と続いた時、
「ゾロア!一旦引け!」
イービルさんが止めの指示を出す。
ゾロアとカラカラは互いにボロボロで、そのまま続けていれば引き分けになる可能性が高かった。
おそらく、次に行われるイービルさん指示は、最後になる。
「まさかここまでやるとはな。」
「褒めるのは後にしてください。こっちは本気なんですから。」
「とか言いながら、苦肉の索しか出せてないだろ?」
イービルさんはドヤりながら上から目線で言う。
勝ったも同然ってか。五分の状況なのによくそんな顔ができるな。
「ま、挑発はこれぐらいにして、ゾロア、たいあたり!」
来る、これで勝負が決まる!
ゾロアの全身全霊たいあたりが、カラカラに襲いかかる。それに対して、カラカラはカウンターの構えを取る。
「待て!合図と同時に攻撃しろ!」
しかし、俺は我慢するように指示をする。読みが当たったのか、ゾロアの幻は構えたままのカラカラをすり抜ける。
「今だ!」
その瞬間を見計らい、ゴーサインを出す。カラカラは俺が出したタイミング通りに骨棍棒を振り抜き、姿を隠していたゾロアに攻撃を当て、吹っ飛ばす。
ガッツポーズ……をしかけたその時、とてつもない違和感を覚えた。カラカラの顔をよく見ると、目を見開いていた。まるで、空振りをしたかのような……
「まさか!」
「もう遅い!」
イービルさんが言った通り、今更俺が何を指示したって遅かった。すでに、攻撃を受けたゾロアの
「カーラー……」
カラカラは大きく飛ばされて、仰向けに倒れる。立ち上がろうとする気配もない。これはつまり。
「カラカラ、戦闘不能。よって勝者、ジムリーダー・イービル。」
審判による宣言がジム内に響き渡る。
こうして俺の初めてのバトル、そして、始めてのジム戦は敗北という結果で終わった。
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