Kaiserreichで幼女戦記 (溶けない氷)
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Kaiserreichで幼女戦記

幼女、地獄逝き決定

1936年現在の世界地図


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Kaiserreichで幼女戦記

 

Kaiserreichって何?

HoI2と4の仮想歴史mod

第一次世界大戦でドイツをはじめとする大正義中欧同盟が勝利した世界

 

1916年7月~11月に行われたソンムの戦いで、攻勢を行った英仏軍はほとんど成果を挙げることなく、両軍合わせて100万を超える損害が生じた。ただし、防御側のドイツ軍の方がやや軽微だった。

1917年3月~5月に行われたニヴェル攻勢で、攻勢を行った英仏軍はやはり戦果を挙げることなく、再び莫大な損害を出した。中でもフランス軍は、自軍だけで20万近い損害が出た。

これらの無理な攻勢のため、英仏軍は以降一年の間、攻勢を仕掛けることができなくなってしまった。

一方ではロシア革命が発生し、ツァーリはドイツ領ブレスラウのマルヒに逃亡。11月にボルシェヴィキ革命が起こるまでは臨時政府が統治していた。1918年1月にはブレスト=リトフスク条約が結ばれることになる。

ドイツでは無制限潜水艦戦を行うよう声が挙がるが、アメリカの参戦を防ぐために実施はせず。

11月にシェーア率いる大海艦隊は、ドイツ封鎖を解くべく、1916年のユトランド沖海戦に続いて再度ロイヤルネイビーに決戦を挑み、勝利した。このためにロイヤルネイビーはドイツ封鎖を行うことが出来なくなった。

1918年3月、東部戦線から移動してくるドイツ軍が本格的に態勢を整える前に痛撃を与える必要に迫られた協商軍は、先手を打って攻勢を開始した。

攻勢は限定的な成功を収め、ドイツ軍は戦線を後退させたが、協商軍は80万を越える損害を出した。

6月~7月、独墺軍はギリシア戦線で攻勢をかける(ギリシア制圧は同年12月)。

1919年3月、ドイツ軍は満を持して攻勢をかけ、協商軍の戦線を突破、5月にパリを包囲する。

4月、オーストリア軍はイタリアに攻勢をかけ、4月にはイタリア軍はヴェネチアで捕捉され、全軍の6割が降伏する。

8月1日にローマ陥落、6日にイタリアは無条件降伏する。

ドイツ軍は9月までに南仏まで席巻し、10月にパリ陥落。フランスは降伏する。

海上では第二次ユトランド沖海戦でロイヤルネイビーの封鎖を解いた後、ドイツ巡戦部隊がUボートに協力して通商破壊を行っていた。

1919年末までに、中欧同盟側は圧倒的優勢を占めることになるが、

イギリス本土に手をかける力はなく、また極東の日本にも手を出せないまま、1922年までにらみ合いが続くことになり、最終的には停戦に至る。

 

シュリーフェンプラン失敗

アメリカの参戦はタイミングがずれて発生せず

ロシア革命で東欧はドイツの支配下

英仏がすっこけて戦力を浪費したところへ怒りの逆襲で大勝利

英国と睨み合いの末に和平

英仏で共産革命からのアメリカ破産コンボ

 

これは36年にドイツ帝国軍に入隊したターニャ・デグレチャフの物語。

どうあがいても地獄逝きなのだ

 

どうも皆さまこんにちは、ターニャ・デグレチャフ

ドイツ帝国軍士官学校の生徒です。

まぁなんやかんやあって、過去の世界に似た世界に転生しました。

いわゆる異世界とかパラレルワールドとかいうやつです。

この世界はおかしい。

まずおかしい点、ドイツが第一次世界大戦に勝利しました。

もう一度言います、ドイツが第一次世界大戦に勝利しました。

そして私はドイツ人です。

つまり世界の一等覇権国家の臣民!一等国民だい、うわーい!

と、ぬか喜びしましたが…なんで…

なんで英仏が共産主義国家になってるの!?

フランスはまだわかる、あいつらコミューンとか大好きだし。

で、なんで資本主義の権化のジョンブルが共産主義者になってんだ?

しかも議長がモーズレー(英国ファシスト同盟のリーダー)

私の知る歴史では”ヘイル・モーズリー!”というナチス式敬礼を取り入れた痛いナチオタぶりを爆裂させていたイギリス人だ。

フランスは…あんまり変わらない、共産主義になった以外は

ドイツをガン敵視しているのも変わらない。

そしてイタリアは二つに別れています。

北部のイタリア連邦、そして”ムッソリーニ”が支配する共産主義の南イタリア。

おい、お前ファシストだろ。

それ以外はオーストリア・ハンガリー二重帝国が事実上空中分解していたり、ウクライナとベラルーシがドイツの衛星国で、東方バルト諸国がドイツの支配下だったりとヨーロッパはカオスです。

アメリカ、29年の世界恐慌はヨーロッパにまでは波及せず南北アメリカに止まったようですが

この世界ではアメリカは英仏への莫大な借款が共産革命でパーになったせいで大不況+株価暴落のダブルクリティカルパンチでもう息をしてないようです。

今日もアメリカの議員が暗殺されたとか、よくあるニュースになってます。

アフリカは”ゲーリング”が総督を務める中央アフリカ領がほぼ支配してます。

広いです、フランスのド・ゴールやらペタンやらが旧フランス領のチュニジアで国土奪還運動をしてます。

あんなクソ田舎でご苦労なこった。

オスマン帝国は瀕死です、どれくらい瀕死かというとアラブの反乱がポンポン現在進行形で起きるくらい。

これはダメですね。

インドは3分割で西のデリー・南の諸侯連邦・東のベンガルでインド三国志やってますよ。

そして日本はほぼ史実通りですが、わがドイツが清に持つ権益の東亜総合商社に敵意を持っているようですね。

まぁ田舎の満州をやっとこさ支配するにすぎない日本と

長江以南に加え、スリランカ、ベトナム・ラオス・カンボジアに加えマレーシアとシンガポールまで支配するドイツに比べれば植民地のしょぼさが目立つのは仕方ありますまい。

オーストラララシアの白人至上主義者はドイツも日本も敵視しているわけのわからなさでしたよ。

 

まぁ簡単にいうと

ロシア爆死

英仏共産化

イタリアまた分裂

ハプスブルグ死亡

アメリカ破産

カナダ王(笑のスピーチ

みたいな?

 

なんで私が士官学校に入学したかって?

まぁ要するに人手が足りないんですよ、ドイツ

前の戦争で男がバカスカ100万単位で死にまくったせいで軍隊も後方勤務には女性を積極採用してる。

貧しい孤児院で育った私は、たまたまパイロットスカウトに来ていたドイツ空軍の士官にグライダー操縦で類い稀な才能を見出され

このままでは徴兵されて前の戦争のようにパイロットの平均寿命17日(!)な地獄送りになるよりは後方で輸送機飛ばす業務につきたいなーと思い志願した次第であります。

まぁ流石にこんな幼女を前線に立たせることはないでしょうから安心してパイロットとしての実績を積み、除隊後はルフトハンザでの高給パイロットとしての生活を楽しむことにしましょう。

そう、戦争なんて私が行くはずはない!

と、この時甘くも思ってた私をぶん殴ってやりてーよこんちくしょー!

 

 

「レルゲン少佐、君のリストにあった航空部隊要員。

これで全てかな?」

レルゲンは目の前に立つ将官に厳選したドイツ帝国軍空軍次世代機パイロット候補生を提出したが、今もって緊張を隠せない。

目の前にいる男はドイツ軍の生きる伝説。

ウィルヘルム2世皇帝やヒンデンブルグ元帥すらその意見は無視できない、有名な異名の“レッドバロン”ことマンフリート・フォン・リヒトホーヘン空軍大将

「私の思う、あの人員はいないようだが…意外だな。

やはり君といえども思うところはあるのだろう、だが彼女は将来我が国に絶対必要になる人物だ」

「大将閣下!お言葉ですが…あの幼女は危険です!

あれは…幼女の皮を被った…化け物です!」

 

空軍士官学校で思いっきりやらかして思いっきり誤解されていたターニャに出会った。

 

「言いたいことはわかる、しかし我々の計画には”彼女”のような存在がサンプルとしても必要なのだ」

 

場に居合わせた別の将官がレルゲンの意見に反対する。

「グデーリアン閣下まで!なぜですか!?失礼ながら将官には理解しかねます!」

 

「何故ならばだ、我が国はそう遠くない将来にこのままではフランスに敗北するだろうからだ」

「な!?」

そしてドイツ帝国軍参謀本部、つまりレルゲンの将来の直属の上司である人物のあまりにも予想外の発言に驚く。

エーリッヒ・フォン・マンシュタイン参謀総長の意見にはレルゲン少佐も予想外であった。

 

「彼女のレポート…とても8歳児とは思えんな。

“来るべきフランスとの戦い”」

 

レポートではコミューン・ド・フランスの多産義務政策によって39年には18歳以上のフランス男児の人口は1000万を突破し経済的・政治的にも脅威となるドイツの影響を消し去るためにドイツに対し報復戦争を仕掛けてくるであろう。

これに対し、先の大戦での消耗から徴兵可能男子を大きく減少させたドイツの現状では正面からでは兵数では対抗不可能ゆえ、航空機・戦車を活用した3次元の遅滞斬減作戦が有効であるという論文であった。

要するにNATOのエアランドドクトリンのパクリでしかないのだが。

グデーリアンがレルゲンに説明する。

「だから彼女がモデルケースとして必要なのだ、我々の来るべき新しい戦闘ドクトリン。

“電撃戦”の有効性を実証するためにはな」



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幼女とマンシュタイン将軍

正確に言うとこの世界ではCommunismではなくSyndicalismです
コミーではなくてサンディーが敵


皆様こんにちは、ターニャ・デグレチャフです。

異世界に転生して8年になります、

さて…くそったれなニュースの中でも最悪なニュースをお届けしましょう。

36年に入り、私もついに2年生として1年生を教育する立場になりました。

5分前行動もできないクズの口にMP18を突っ込んで粛清しようとしたらレルゲン少佐に怒られた、解せぬ。

「失礼ながら、少佐殿。本官はドイツの士官候補生として、自らの職責も果たせぬ有害物質を排除しようとしただけです」

「先の大戦で300万の同胞が戦場に倒れたことを考えれば、時間すら守れない人間が次の戦争で1日とて生き残れるとは本官は考えておりません。

それならば今の内に給料泥棒は間引くのが帝国の財政を考えれば合理的な結論かと」

 

よし!上官への合理的アピール!

で、これだ。

2月3日の新聞の一面記事はこれだ

『ベルリン株式市場暴落!市場閉鎖へ!』

 

まぁこうなるとはわかってた。

だって現状は明らかにバブルだし、29年のアメリカ株式市場と極めて近い動き方をしていたのに誰も止めなかったのか。

まぁ世の中にはバブルになるとわかっていても何もせず、不況になってから緊縮財政を行うアホな国があるから、ドイツ人の悪口は言えまい。

そして私、ターニャは軍人年金と士官候補生としての給料を大幅に値下がりして底値になったドイツの大手優良企業の株式を購入した。

これでドイツが存続しなかったら、素寒貧確定なのでますます勝利に向けて粉骨砕身しなくては…

 

そして新聞にはフランスの対外発表が出ていた。

『コミューン・ド・フランス国会総選挙。全世界に向けて発信。

世界共産革命を宣言、ドイツを“帝国主義の権化”と非難』

頭沸いてるのか?いや今のフレンチならやりかねん。

何しろ連中、産めよ増やせよと戦後から子沢山を“ほぼ強制”してまで国力増強に励んできた。

ドイツ憎しの一念で。

その結果、1939年には18歳以上の男性つまり徴兵可能年齢の男性がドイツに匹敵する状況となっている。

前世の日本も見習うべき凄まじい少子化対策だ。

 

当然のことながら、わがドイツ士官学校での仮想敵国はフランスとイギリスであり

前大戦の様々な戦いである、マルヌ、ヴェルダン、ソンムそして決戦である最終攻勢の1919年攻勢“Kaiserschlacht ”が講義の内容と中心になっています。

「ではデグレチャフ候補生、“マルヌの戦い”での航空機運用について君が現場指揮官だったらこの場合どう取るかね?」

「はい、この場合は史実同様に地上軍と連携しての偵察活動が重視されますが

当方に充分な機関銃の搭載が成されていれば空戦の機会を逃さずに積極的に敵偵察機の排除を優先します」

 

「ふむ、よろしい。一年生もいるようだから重ねて説明しよう、

この空軍士官学校では単なるパイロットを求めてはいない。

ドイツ空軍に必要なのは地上戦について理解し、航空部隊の指揮官・管制官として来るべき戦いに方面の、さらには全般を俯瞰し適切な指揮をとれる人材を求めていると言うことだ」

 

「では、次の例。地上部隊からの航空支援要請を受けて120分以内に航空機が攻撃を開始する例だが…」

 

…ああ、素晴らしきかなキャンパスライフ。

世間の阿鼻叫喚の不況を暴風雨から遠く離れた学び舎で給料をもらいながら過ごすこの贅沢。

衣食住の保証に加えて給料まで出る、更には極めて実践的で先進的な理論に肌で触れることができる士官学校という理想の学び舎。

なぜ目の前の馬鹿のようにここの素晴らしさを理解できない人間がいるのか全く理解できませんね。

「諸君らは、騙されているのだ!」

はいはい、立てよ万国の労働者、団結せよウンタラカンタラ。

フランスの回し者ですね、憲兵隊が自白を強要したのかと思うくらい典型的なアカだ。

実に結構な口上だ、資料では警察署に火炎瓶を投げ込み銃撃。

共産主義のプロパガンダポスターを貼って回る程度ならまだ可愛げがあるが

目の前の銃殺隊の前にいるのは主義者で殺人犯だ、躊躇う必要がどこにある?

ぱぱぱっと撃ってチャチャチャッと終わり!

 

ある日、私が図書館に行くと…ああ、帝国軍士官学校の図書館というのは世界有数の蔵書を誇っております。

「これかね?ほう、“ブルシーロフ攻勢でのオーストリア軍の反応”

空軍士官学校の候補生がこんな題材に興味を持つとは意外だな」

 

さ、参謀モール!っていうかマンシュタイン将軍ではありませんか!

私の知る歴史ではドイツ最高の知将として後の参謀総長、これはチャンス!

ここで私の事を売り込めば空軍参謀として安全で快適な後方勤務への道が開ける!

 

「そう、固くならんでいいよ。ここには士官学校の卒業生としてきているのだからな。どうかね?」

 

「ふむ、では君も将来のドイツは前回以上の総力戦に巻き込まれると考えているのかね?それは我が国の軍備が現状では英仏を打ち倒すのに不足だと」

 

しまった!自分の口を縫いあわしてやりたい!

 

「はい、いいえ。我がドイツは先の大戦で世界の覇権国となりました、

しかしながら如何に我が国の軍事力が卓越しているとはいえ、あまりにも仮想敵国が世界規模で散らばっております。

陸軍はフランス、海軍はイギリスを相手取る事を前提としておりますが

不安定なロシア情勢を考えれば東部から兵力を引き抜くわけにもいきません。

ここに我が国の東南アジア、および中国大陸での権益を狙う日本。

友好国であるオランダ領インドネシアへの野心を隠そうとしないオーストララシアの存在。

更にインド権益にとって危険なガンジーのベンガル共和国などの潜在敵などの存在を考えればユーラシア大陸の広大な戦線で兵力を分散し各個撃破の危険性があります」

 

よし!よし!ドイツの軍事力は世界一ぃぃぃをアピールしつつも

戦線が広すぎるから仕方ない理論で補強。

「ふむ、では君なら具体的にどのような政策をとるかね?」

「はい、我が国の基本はドイツの存在によって利益を得る友好国を増やすことにあると考えております。

それには上にあげた列強の干渉によってそそのかされた反ドイツ勢力を主要国から駆逐する外交努力、軍事力を行使する場合は義勇兵の派遣などが考えられます」

 

史実でのスペインや南米での秘密任務や、先のロシア内戦へのドイツの干渉(調べたところではアドルフおじさんは東部戦線で21年に戦死していた)などからもわかるように

つまり“チームドイツ!ワールドポリス”みたいなノリである。

悪い共産主義者はイネェガァ!なノリで他人の家のドアを蹴破るのだ。

「ふむ、義勇兵か。どの程度の規模で?」

 

「あまりにも大規模では列強との摩擦を産みかねません、おおよそ大隊規模。

小回りが効き、世界規模での即時展開が可能。

かつ現地の地上兵力の支援を考えた航空部隊が適切だと考えます」

 

「空の義勇兵か、中々面白いアイディアだな。

だが、航空兵力だけでは戦争には勝てないだろう?」

 

「はい、即応部隊としての航空兵力で。現地勢力の地上部隊にドイツ軍が直接参加することは政治上難しいので軍事顧問の派遣が求められます。

ですがパイロットの養成は中小国家ではコストの面から難しいと考えられるので

場合によっては形式上退役したドイツ空軍のパイロットが必要と考えられます」

 

まぁドイツの政治力を考えれば身元を偽る必要はないと思うよ。

フライング・タイガースみたいに中立のはずのアメリカ人が日本軍機にバリバリぶっ放してた例もあるし。

要するにドイツ版のフライングタイガース構想、あるいはコンドル旅団。

 

「ふむ…学生の貴重な時間を使わせてしまってすまないな。

実に有意義な話し合いだったよ」

 

よし!よし!これで参謀本部との繋がりができた!流石だな、私!

 

そして一ヶ月後

『中国で内戦再び。上清天国、大清帝国を攻撃』

 

そんでこれだ。

「ターニャ・デグレチャフを少尉に任命する。

大清帝国支援航空義勇軍、コンドル軍団に参加せよ」

 

ファッ!?

 

 

 

 

 

 

 




次回、幼女中国へ逝く


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幼女、義勇兵として頑張る

どうも皆さまこんにちは

ターニャ・デグレチャフです。

軍人のいいところは手荷物一つで世界中何処へでもすぐに行けるように訓練されることでしょうね。

銃と鞄ひとつを持った私はベルリンを飛行機で出発し、空路で中国の山東半島ドイツ海軍基地へと出発することになりました。

「なぜ?私が今回の義勇兵として派遣されるのでしょうか?」

「すまないが、選定基準は我々にも知らされていない。

無論、拒否する権利はある」

そう言われて契約書を示された。

「契約の前に熟考する権利はある。だがこれは上層部からの推薦だ」

上層部のということは事実上命令ではないか。

なになに?

形式上少尉に昇進後に退役扱い…契約は六ヶ月ごとの更新

ドイツ帝国軍復帰時には現地からの推薦に従い、本国軍と同じ扱いと昇進が約束されている。

肝心の契約金は…月の給料が1000ライヒスマルクだと?

一ヶ月働いただけでライヒスワーゲン自動車が買えるではないか!

(日本円の感覚だと大体月収90万円くらいの感覚)

今の士官候補生の給料の10倍!少尉でも150RMに比べれば破格の給与。

「はい、ターニャ・デグレチャフ少尉はコンドル義勇兵団に志願します!」

 

 

機体は海路で運送されるとのことで、パイロットは一足先に北京で現場を見てこいとのことです。

ベルリン国際空港にやってきた私は駐機場のFw200旅客機に乗り込む。

軍もこれほどの長距離輸送には旅客機をチャーターしてくれるとはありがたい。

輸送機のユーおばさんは腰が痛くなってかなわんからな。

またキール軍港からの海路は英仏との関係が緊張する中でドーバー海峡が使えず時間がかかるとの事。

まぁ税金で中国旅行ができると考えれば悪くないだろう。

「あの!ここでよろしいですか?」

ああ、同じく中国行きの義勇兵とか、人のことは言えないが随分と幼いな。

「えへへ、私こんな大きな飛行機に乗るの初めてなんですよ。

え?少尉殿!?失礼いたしました!ヴィーシャ・セレブリャーコフ伍長です!」

ああ、私の階級章にやっと気づいたか。

「そう固くならんでいいよ、この機に乗っているということは義勇兵なのだろう?

形式上とはいえ退役し、民間人扱いだからな。

ターニャ・デグレチャフ元少尉だ」

 

「あ、はい。えーとデグレチャフさんでいいですか?」

 

「ああ、構わんよ」

 

「よかったぁ、私ウクライナから出てきて周りの人みんな知らない男の人ばっかで不安になってたところなんですよ」

 

ああ、いわゆるドイツ系ウクライナ人というやつだな。

ウクライナ王国は戦後に独立を果たし、ドイツの衛星国でドイツ人が王様をやっている。

「デグレチャフさんは、なんで義勇兵に?」

「私の場合は、軍の命令というやつだな。最新の実戦経験をフィードバックしたいという思惑があるのだろう。

私自身、訓練では得られない経験を実戦から汲み取ることを期待している」

「立派な目標があるんですねぇ…私なんかとは大違いです」

 

聞けばお金目的らしい、まぁそうだろうな。私も本音を言えば80%くらいは高給目的だ。

「この前の株価暴落でお父さんの会社も苦しくって、私が頑張って仕送りすれば借金が返せるんで…」

 

ああ、不況の悲しさよ。

実に世知辛い世の中だ。

 

ドイツから地中海を越えてスエズ、そこからペルシャ、セイロン島、シンガポール、海南島、山東というユーラシアを横断する長旅になるでしょう。

この時代、ユーラシアの政治情勢はカオスそのもの。

あっちこっちで山賊や空賊や海賊がヒャッハー!するなんて当たり前。

覇権国家のはずのドイツからして海洋国家ではないのだから治安は最悪と言っていい。

故に安全な遠回りをするしかなく世界旅行はほとんどの人間にとって縁遠いものとなっている。

Fw200は飛んでいく、我々を乗せてはるか東の空に…

 

2日後、我々は基地を次々と中継して北京空港へと到着した。

観光?ないよ

「うー腰が痛い」

空港に待っていたバスに乗り込んで北京飯店へ、中国北京でも古い外資系ホテルの部屋を取っている。

「ほう、一人部屋か。さすがにVIPルームとはいかないが品のいい部屋だな。

フランス人の作ったホテルなだけはある」

 

柔らかで暖かいベッドに潜り込んで長旅の疲れを癒す。

「ふふ、中国行きが決まった時は左遷かと心配したが…

給料は高い待遇もいい、昇進も決まっている」

我が世の春は決まったようなものだと安心して床に着くと疲れもあってぐっすり眠れた。



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中国が世紀末だって、それ一番言われてるから

想像:アイヤー!西洋人は出てけアルー!蒼天既に死す!黄天立つべし!
青竜刀を振り回す中国兵

現実:砲弾と銃弾と毒ガスの合間から無言の銃剣突撃してくる、ミニ第一次世界大戦状態
ロシアっぽい軍服に身を包み、ガスマスクをつけ、短機関銃で突撃してくる中国兵という現実

これリアルだとイスラム国じゃね?


明朝、我がコンドル義勇軍団の結成式が紫禁城で清の皇帝の御前で行われるとのことで用意された清の軍服(というかドイツ軍のそのままだなこれ)に着替えて迎えに来たメルセデス・ベンツG4の御用車で出頭する。

「す、凄い車ですね。シートもふかふか」

「ウクライナにも自動車くらいはあるだろう」

「た、確かにありましたけど。こんなお金持ちの車なんて見たこともありませんよ」

同乗の義勇兵もどうやらヴィーシャと同じような感想を抱いているらしい。

 

確かに私の前の世界の記憶ではこれに乗っていたのはヒトラーやゲーリングといった政府高官くらいなものだ。

ドイツ皇帝から溥儀皇帝にプレゼントされた物だと運転手も言っていた。

中国の産業は南部の東亜総合商社の元でこそ軽工業が発達し始めている程度。

30年代の北京は上海や香港に比べれば田舎で道行く僅かな自動車もほとんどが公用車。

21世紀の中国の発展ぶりを知る私から見れば、同じ国とは思えないほどのどかな場所だ。

最初は実質傭兵ということで、肩を赤く塗るような連中と同じような運命ではないかと冷や冷やしたが

この待遇から一目瞭然。やはり専門技能を持った技術職は強いな。

出撃手当もつくというし、しばらくはここで理想のアーリーリタイアメントのための資金を稼がせてもらおう。

 

紫禁城にて

「ゆえに、かの悪逆なる反乱分子の討伐に遠い国より義のもとに馳せ参じた諸君らの勇気に感銘するものであり、持って我が大清帝国に対するドイツ帝国の友誼に感謝する」

溥儀皇帝が集まったコンドル軍団義勇兵の前で演説を終えると後は宮殿で立食パーティーだ。

実に豪華な中華料理が次々と流れてくるので兵士達も喜んでありついている。

「少尉、見てください。おっきなお肉ですよ!」

むむ、見るからに高級そうな食材が贅沢に使われているな。

ドイツ本土の不況は何処へやら、ここだけなんとセレブリティなことか。

食い物と金で兵士達の忠誠を買うとは、古典的で単純なだけに効果はある。

「今回のドイツによる義勇兵の派遣についてお考えは…」

向こうではドイツ軍の広報が色々と清の将軍にインタビューをしている。

流暢なドイツ語をしゃべることから多分ドイツ留学組だろう。

「無論、我が軍の精強なる兵士にドイツの勇士が加われば連中ごとき…」

まぁいわゆるテンプレ通りの受け答えだ。

上清天国、調べたところでは張天念という奴が真帝(笑

一天道を国教として西洋人を中国全土から叩き出して、地上の楽園(大爆笑

を作り上げると本気で盲信している連中である。

義和団の頃から全く進歩してない…まさしく、なんでこうなったを地でいく連中だ。

ああ、くそったれなアカどものみならずカルト宗教とも戦わにゃならんのか。

西洋の手先である清も悪魔の手先であり、戦死すれば天国に入ることが約束されているらしい。

よろしい、それならお望み通り糞ったれな存在Xの元に片っ端から送り込んでやろう。

おら、存在X。信仰が増えてよかったな、なんとか言えよ。

 

翌日、我々義勇兵団は武装した装甲列車に乗って義和団もどきとの前線を視察しに行くらしい。

それまでは英気を養い、戦いに備えよとのことだ。

素晴らしい、銃弾が飛び交う前線は清兵に任せて我々は後方で放火後ティータイムを楽しむとしよう。

 

翌日、たらふく食って疲れるという無上の贅沢を楽しんだ我々は列車に乗って北京から離れた前線近くの駅まで行く予定だ。

それから装甲ハーフトラックに乗って前線を視察するらしい。

列車の中でドイツ軍の軍事顧問が我々に状況を説明してくれた。

「諸君らの中には連中を宗教狂いの馬鹿だと考えている者もいるかもしれんが、

それが多いに間違いだということを言っておこう」

 

そう言って、連中の戦術がどんなものか。兵器は?練度はなどという質問に答えて言った。

 

 

「ああ、全く。ここの現状も知らない本国の連中が軽い気持ちで送り込んだんだな。どうせ未開の野蛮人が棍棒で襲いかかってくるとでも?

連中は確かに野蛮かもしれん、だが手強いぞ」

 

軍事顧問の少佐によると、連中の中核の将校は中華民国の士官学校の出身で占められており。

何よりも清との絶え間ない小競り合いで実戦経験を積み、兵隊は重砲などの大型兵器は保有していないものの戦術については理解している精鋭揃いだということだ。

「軍事顧問として情けない限りだが、清の軍隊の腐敗ぶりは酷いものだ。

給料は遅配、補給物資は将校が横流しする、兵隊は飯が食えるからという理由で敵に武器を持ったまま寝返る。これでどう勝てというんだ?」

ああ、だから紫禁城の皇帝陛下の親衛隊は白人やインド人っぽい外見の外人部隊で固められていたんだな(遠い目

「連中は使い捨ての兵隊に突撃前に麻薬を混ぜた酒を配るんだ。

天国逝きのチケットだと。そしてこっちの兵隊がラリった連中を防いでる間に精鋭が回り込んでくる」

どうやらこの世界は私が思っている以上にイかれてたらしい。

「連中は戦線近くを突破しても占領なんぞせん。平原に陣取っていれば重砲で殲滅できるが、連中もそれはわかってるんでな。

物資や人間を奪うと山中の要塞にささっと引き上げる、それで戦利品を中央アジアの連中と交換して武器を手に入れてるんだ」

戦利品とは?

「決まってるだろ、人間そのものだ。

労働用の奴隷や嫁として民間人を攫っていくんだ。

向こうは人間は足りないが武器はロシア人の残して言った軍需工場のおかげで余ってる。

中国は人が余ってるが武器が足りない、最悪な自由貿易ゾーンへようこそだ」

なんと、奴隷制度が復活していたとは。

やれやれ、時計の針はそこまで巻き戻ったか。

そうこうしている内に装甲列車が止まり、銃眼からは装甲車が見える。

「義勇兵諸君、地獄へようこそ。すぐに高い給料が支払われる理由がわかるさ」

ああ、やっぱりどうしてこうなった…



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初陣

日本:資源買うよ!武器売るよ!
天国:人的資源売るよ!武器買うよ!
中央アジア:資源売るよ!人的買うよ!

みんなハッピー三角貿易




戦場に近づくにつれて臭いがしてくる。

腐った死体の臭い、硝煙の香り、流れ出る血の匂い、ガソリンが燃える匂い。

戦の匂い、死の匂い…

 

『うあぁぁぁぁぁぁ!』

『頼む!足を、足を切らないでくれ!』

『こいつはもう死んでる!放り出せ!』

 

ここは後方の野戦病院だが、そこからも凄惨な戦場の残り香がうかがえる。

ああ、前の大戦では別に珍しくもない光景だ。

「義勇兵諸君、装備を補給所で受領して前線へ向かうぞ。

戦車兵は2号を受け取れ!歩兵には機関銃だ!

パイロットは格納庫に機体がしまってある、あの洒落た棺桶に乗り込むのがお前らの仕事だ!」

 

どうにも楽な任務ではなさそうだ。

「こ、これですか…ええ、でもこれ戦闘機じゃありませんよ」

Fi156 シュトルヒ 観測機

武装:機銃1 (ただし後方)

装甲:ない

速度:めっちゃ遅い

結論:鴨 

 

「来たな、パイロット(ターニャ)と観測員(ヴィーシャ)は乗れ。

弾着観測が今回のお前たちの任務だ、コールサインはPixy1」

 

「し!質問!他の空軍の援護はありますか?」

「He51戦闘機が後方で待機している。だが、心配しなくても連中に航空機は存在しないからな、だが対空機関銃くらいはあるから高度500m以下には降りるなよ」

あ、フラグ…という呟きがデグレチャフ少尉から聞こえる。旗がどうかしたのだろうか?

 

「義勇兵諸君、連帯規模の敵が清軍の塹壕戦を突破した!我々の任務はこの敵の進出を補給拠点の前で喰い止めることだ。質問は?」

「清軍の援護は期待できますか?」

「正直なところ、近衛禁軍以外の戦力はあてにするな。

清軍の将校はドイツ語が通じるから、観測機経由で重砲による火力支援があるが。

歩兵部隊は外人部隊以外はあてにするな、だ」

 

最悪だな。盾となるはずの味方は弱卒ばかり、火力はあっても士気は低い。

ハードウェアばかり先行して、明らかにソフトウェア不足。

 

前線へ向かうと無線機からは悲鳴のような声ばかりが聞こえる。

「畜生!撃て!撃てぇ!」

「なんなんだこいつら!?狂ったように突撃して!くそ、死にてぇのか!?」

「ガス!ガス!マスクをつけろゴホッゴホッ!」

 

下は地獄だ、現代版太平天国軍のえげつない戦いぶりは

1:正面から麻薬でパッパラパーにした使い捨てを突っ込ませる(突っ込まないと後ろから撃つ

2:撃って来た敵を味方ごと迫撃砲で吹っ飛す、または毒ガスをぶち込む

 

人命をゴミのように軽視した戦術だが効果的な事は事実だ。

WW1の戦術を人的資源が有り余っている中国独自に改良した物だなと感心してしまう。

 

「C小隊より連隊本部へ、火力支援を要請。ポイントF2345」

「連隊本部より指定座標への火力支援を開始する、観測員pixy1は試射に備えよ」

 

試射が1発目標地点へと落ちると、敵の前進して来た歩兵が吹っ飛んだ。

「弾着を確認!敵歩兵隊に損害を認める!効力射を要請!」

 

「ヴィーシャ、しっかり見てろよ。旋回しながらもう一回りするぞ」

雷のような轟音とともに後方の榴弾砲から飛んで来た75mm砲弾が次々と弾着し炎の花とともにクレーターを作っていく。

遥か下方で硝煙とガスと銃弾にまみれて悶える戦友たちには気の毒だが、実に快適だ。

(初陣が弾着観測員とはついてる、安全な場所で花火見物しているだけで手柄になるとは…)

 

そう、私はいい気になってすっかり忘れていた。

下でぶっ飛んでいる連中は囮に過ぎないという事に…

「敵襲!側面から銃撃だ!うわぁぁ!」

「なぜ気づかなかった!?くそ!2号車がやられた!対戦車ライフルだ!」

ボーンという音とともに戦車が派手に燃え上がるのが見えた。

なぁ!?これが例の精鋭部隊か!?くそ、このままでは折角の楽な勝ち戦にケチがついてしまうではないか!

「しょ!少尉!1時の方向から敵機!戦闘機です!」

「なにぃ!?連隊本部へ、敵機が出現!至急援護の戦闘機を回してくれ!」

 

『Pixyへ戦闘機隊がスクランブル、到着するまで5分かかるその間退避しろ!』

5分だと!?自衛用の機銃1丁しか持たないこれで戦闘機の相手をしろと?

落として、カップ麺を作って食べて片付ける十分な時間ではないか!

 

「少尉!頑張りましょう!大丈夫ですよ!」

ちっとも大丈夫じゃないから黙ってろ!くそくそくそ!ここで死んだら高給も元も無いではないか

 

九五式戦闘機が2機現れた!

 

ターニャは操縦桿を握り、必死の思いで効果しつつ地上すれすれトップツリーを回避行動をとるが、敵機はぐんぐん近づいてくる。

「少尉!もっと早く逃げてください!」

「これが全力だ!撃ちまくって敵を近づけるな!」

敵に戦闘機はないという話ではなかったのか!

どうやら相手も偵察機は鬱陶しいと感じたらしく、どこからか戦闘機を買い込んだらしいな…

「舌を噛むなよ!空中サーカスを披露してやる!」

 

右へ左へふわりふわりと回避機動を行うシュトルヒは相手からすれば鬱陶しい存在らしく、機銃が飛んでくるのもあってなかなか当てにくい。

と思っていたらパスという音がしていたので。

「え、エンジンに喰らった!出力低下!」

バリバリという嫌な音とともに出力が低下し、たちまちスピードが落ちていく。

「あ、味方です!味方の戦闘機が来ましたよ!」

味方のHe51が到着し、95式戦闘機は引き上げていった。

「くそ!不時着するぞ」

だがフラフラとしていたシュトルヒはエンジンが止まるとグライダーのようにスーッと滑空し、味方の陣地近くに滑り込んだ。

砲弾で鋤き返されクレーターで月面のような大地、泥と血と死体と鋼鉄が奇妙に入り混じった戦場という地獄に堕ちた天使。

味方の歩兵が近づいて来て、コクピットから二人を抱えて下ろす。

「降りて走れ!砲弾が降ってくるぞ!」

哀れにも不時着したシュトルヒの周りに敵の迫撃砲弾がパイロットを生かして帰すなと雨あられと降って来た。

二人は大慌てで塹壕に転がり込み、その上を爆風と破片が飛んでいった。

ターニャ・デグレチャフ少尉、およびヴィーシャ・セレブリャーコフ伍長の初陣はこのような顛末を迎えた。

 

 



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6話

世界は発狂したのだろう。

こんにちは ターニャ・デグレチャフです

軍医殿によると墜落時のショックで私は重傷を負ったとのことで、この度東亜総合商社本社のある山東の軍病院で治療を受けられるとのことです。

入っててよかった民間の医療保険、セレブリャーコフ伍長も一緒に入院とのこと。

軍の良いところは高額の医療費が無料で良いところでしょう。

悪いところは空を飛ぶパイロットの場合はたいてい医療費が別の意味で無料になり、代わりに葬儀代になることですね。

あの後、戦闘はいつもの定期実弾訓練の域を超えて(毎回の“訓練”で死者が百単位で出る。中国怖ぇ)反乱軍の全面攻勢となりました。

塹壕に走りこんだ我々の上を95式軽戦車が通り越えていった時はまたも命の危険を感じたり、塹壕に飛び込んで来た敵兵(槍しか装備していない)を拳銃で撃った時にも命の危険を感じたりした。

しかしそれは単なる新たな地獄の始まりに過ぎなかった。

「ガス!ガス!着面しろ!」

反乱軍は塩素ガス砲弾をこっちの塹壕にぶち込んで来やがった!

ジェネーヴ条約はどこへやら、しかしこれは清からすればあくまでも反乱鎮圧に過ぎないため催涙ガスの使用は暴徒鎮圧では認められているという理屈らしい。

間抜けなことに、ドイツがBC兵器技術を清に渡すことを拒否しているため

日本かロシアから化学兵器を買い付けた反乱軍の方がこの点では優位に立っている。中国の田舎はあっという間に煙幕と毒ガス、硝煙が立ちこめ銃弾と砲弾が飛び交う暗い地獄になった。

「くそっ!連中、後方の野砲陣地まで回り込む気だな

何が時代遅れの宗教狂いだ!最新兵器で武装した正規軍だぞ!」

咄嗟に無線機で連絡しようとするが、清国の部隊はとっくに寸断され

塹壕は侵入して来た後続の敵歩兵に制圧されつつあった。

『後退!後退!』

まともに戦闘できているのはもはや外人部隊と義勇兵のみでありこのまま前方に止まれば私たち自身も置き去りにされる可能性がある。

「後退だ!嬢ちゃん、ついてこい」

外人部隊の軍曹の分隊が我々の退路を確保すべく後方の塹壕へと扇動してくれるそうだ。

「嬢ちゃん、ではない。デグレチャフ少尉だ」

「おっと、こいつは失礼。全く今時のドイツ人は何考えてんだか…

メリノヴィチ軍曹でさぁ。

上等兵!援護しろ、後退するぞ!撃ちまくれ!敵に頭を上げさせるな!

おい!砲撃支援はどうなってる!?無線手」

「駄目です、後方に浸透して来た敵兵の対処でどこも手一杯です!」

 

MG34が唸りを上げて敵方に銃弾を吐き出す。

「今だ、走れ!」

塹壕からぱっと飛び出し、手近な遮蔽物に飛び込む我ら外人部隊の面々。

「後退!後方の拠点にしてある、寺院まで下がれとの命令です!」

ヴィーシャがさっきヤられた無線兵の無線機を背負って這いずって来た。

「こちらに戦車と装甲車を送るとの事です、射撃援護の元後退せよとの事!」

なるほど、向こうからやってくる二号戦車が援軍か。

20mm機関砲がこれほどまでに頼もしく思えるとはな。

我々は戦車の援護の元、装甲車に転がり込み

奇跡的に五体満足で前線を離脱できた。

「こんな事がしょっちゅうなのか?」

「まぁ、年に4、5回ってとこですね。少尉さんは運が悪い.

気をつけろ!連中、ぱっと撃ってはぱっと消えるからな」

くそっ!運が悪いだと!六ヶ月契約ということは2、3回は確実に死にかけるということではないか!

騙された…何が楽な仕事だ!ああ、どうしてこうなったのだ。

後方の中国の寺院に交代した我々は寺院の周囲に防御陣形を築いた。

まぁ寺院というか寺院の残骸というか…

「ここも戦争が来る前は結構、風雅なところだったんですがね

連中が全部壊したそうですよ、邪教の寺院だってね」

どうやら文化大革命を待つ必要もなかったらしい。

対戦車砲を用意し、手元に収束手榴弾を用意しながら敵がまた前線を突破したという報告が入って来る。

 

「少尉!デグレチャフ少尉はいるか!?」

「はっ、デグレチャフ少尉ここに!」

 

「爆弾がようやく届いた!今すぐ50kgを八発敵の重砲陣地にぶち込んでこい!」

「重砲!?敵に重火器はなかったはずでは!?」

「相手だってバカじゃない、どっかから調達したんだろ。

とにかくパイロットが手一杯だ、セレブリャーコフ伍長も一緒に行け!」

今も陣地の周辺に重砲がズドンと落ちてきた。

「くそっ、今のは100mmクラスだぞ。

連中の方が装備が新しいなんて、聞いてないぞ」

 

後方の飛行場まで年代物のT型フォード(キュベルワーゲンはまだ無い!)で乗り付けると、そこにはピッカピカの複葉機であるHs123が待っていた。

「少尉!清に納入されたばっかの新型ですからね!壊さんでくださいよ!」

「少尉!一緒に頑張りましょうね!」

整備員と伍長が励ましてくれるが歴史を知る私からすればメッサーシュミットが欲しいところだ。

例え初期型で機銃が2丁しかついていないとしても。

空へ舞い上がった我々は時速250kmまで加速。

880馬力の強力なBMWエンジンのおかげで複葉機ながら加速は実に良好。

あっという間に下で砲弾が炸裂し続ける戦場に到着する。

 

単座とはいえ爆撃機なだけにでっかい無線機を積んでいるおかげで感度は良好。

『ピクシー2、5km先に敵の野砲陣地だ。ピクシー1、先行して敵重砲を叩く。

我に続け』

「ピクシー2、了解」

我々2機は連続して敵重砲陣地への緩降下投下体制に入る

50kg爆弾十六発を食えばただでは済まない。

『注意!対空砲火!』

「もう投下体勢だ、構うな!」

下からはこちらに気づいた敵が機銃を盛んに打ち上げて来る。

「投下!投下!」

爆弾十六発が投下されると、機を持ち直して大急ぎで離れていく。

『命中!少尉、敵の野砲は沈黙しました!』

見ればパンパンと下で敵の積んであった砲弾が誘爆しているのが見えた。

これで、下の連中もひとまずは息をつけるだろう。

『敵機!2時の方向!上方1000!』

上を見上げれば今度はまたもや敵の戦闘機が迫ってきていた。

 

(なっ!95式の次は96式だと!?ここは日本軍の最新兵器のモデルルームか!?)




1936年現在
九二式十糎加農 1935年正式採用
95式戦闘機 1935年採用
96式艦上戦闘機 1936年採用
列強の最新兵器が内戦で試験運用されるのはテンプレ


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008の策謀


【挿絵表示】

イギリス、怒りの革命

https://www.youtube.com/watch?v=C7VAxt7Dhs8

戦えターニャ・デグレチャフ、全体主義者をやっつけろ!
全体主義者の
同志モズレー
同志ヴァロア
同志ムッソリーニ
同志ろ…じゃなくてベリヤ
同志ブハーリン
邪悪な連中が集まってますねぇ

選択次第でイギリスの内閣にイアン・フレミングやジョージ・オーウェルが入閣するというなかなかのカオスぶりである。

人物

T・E ロレンス いわゆるアラビアのロレンス 共和国軍大佐
エージェント”ダージリン” ガルパンのダージリンとは同姓同名同顔同声の別人。エージェント番号008
彼女の生涯は悲惨でそして当時ではありふれた始まり方でした、英国軍の将校であった父親は1918年の連合軍の無謀な攻勢で西部戦線において戦死しており戦争に伴う英国経済の崩壊によって裕福だった家は没落、母親は栄養失調が祟って当時猛威を奮ったスペイン風邪で病死。
25年の革命により、ストリートチルドレン(別に当時珍しくはなかったが)だった彼女は7歳にして革命軍幼年学校
グロリアーナ人民学院に入学。
憎き帝国主義者から世界の労働者人民を解放すべく、高貴な任務を果たしております


Union of Britain

共和国軍諜報部

 

「報告したまえ、同志ダージリン大尉」

「はっ、同志ロレンス大佐。

まずはこの建造中の艦艇をご覧ください、我が軍の諜報員が捉えたドイツの新造戦艦であります」

世界帝国を失ったとはいえ、彼ら英国人がその世界帝国の運営ノウハウまで失ったわけではない。知は力なり、諜報と外交で勝利するという彼らのやり方は例え英国が海外植民地をアイルランドすら失って西欧の片隅の島国に転落したとしても変わらない。

 

「ふむ、新造艦か。やはり連中も制海権なしには植民地を維持できないとようやく気付いたらしいな。

あのばカイザーならいつまでも後生大事に3B鉄道に拘るかとも思ったが」

ドイツの艦艇は基本的に主力艦は前大戦のままである、死力を最後まで振り絞ったからね。

 

「しかし設計から見ても、既に旧型と化したバイエルン級の改良型に過ぎないのでは?

我が共和国海軍が誇る、新鋭艦の”チェインブレイカー”の敵では無いと海軍情報局は結論づけております」

チェインブレイカー級は2隻建造されつつあるイギリス共和国海軍の新鋭艦であり

チェインブレイカー及びコモンウェルスはほぼ大和級に匹敵する。

最大の特徴は46cm砲を8門、58000トンの排水量を誇る巨大戦艦である。

10年前の1925年のイギリス革命で比較的新しい海軍艦艇が反動王室へと寝返った。

今の英国の艦艇数こそ米獨日に続く4位だが、艦艇の旧式化と対峙するドイツ海軍の拡大の前に危機感が募っていた。

そこで、考えたのが量がダメなら質で勝てばいいという当然の考え。

この2隻は建造中のビスマルク・ティルピッツをアウトレンジで一方的に撃破できる強烈なパンチ力を持っている。

「油断は禁物とはいえ、我が国の建艦技術が依然として世界をリードしているのは実に喜ばしいな」

 

「次にアジア情勢ですが、帝国主義勢力による植民地支配を現地の労働者によって打倒する革命運動は水面下で進行しております。

特に既に東インドにて地歩を固めている、バールティア・コミューンの同志チャンドラ・ボース及び同志マハトマ。ガンジーとの接触により軍の近代化に必要な軍備と引き換えに資源のバーター貿易を締結できたことはユニオンに必需の紅茶を安定して獲得できました」

 

「その件ではスノウデン首相より君に人民功労賞と一回級昇進とのことだ、おめでとう少佐」

 

「はっありがとうございます。インド情勢は混乱を増しており、デリーの軍事独裁政権には不満が高まっており、南部の寄せ集めは英国統治の消滅による藩王・地主の横暴により組合主義への歓迎論が高まっております。

インド全土における組合主義の勝利は時間の問題と思われます」

 

「希望的観測はいい、君の意見は?」

「バールティア内部ではガンジー派とボース派で主導権を争っており、更に地元勢力・ヨーロッパ留学組での派閥争いの存在が革命に悪い影響を与えると考えられております」

 

「ふむ、とはいえベトナム、インドシナの組合勢力との協力体制を気付いたことは賞賛に値する」

「それと気になる情報が、清が今回は宗教家を押しとどめたようです」

 

「ふむ、彼らが勝つとはな。日本が彼らに支援を行なっていたのではなかったか?

腐敗した清が日本軍仕込みの連中を止められるとは思えないが…」

 

「今回の義勇兵の中に無塗装の複葉機で敵軍に多大な損害を与えたパイロットがいるそうです。

“白銀”の異名だそうで、本国からわざわざ航空突撃鉄十字章が授与されたとか」

 

「ドイツがエースパイロットを送り込むとは、やはり中国利権をそこまで重視しているか。

それにしても面倒だな、日本とドイツが代理戦争で互いに消耗してくれれば話は簡単だったが」

 

「私が中華民国側に接触いたします、ビルマ経由で彼らに軍事顧問と武器を出資すれば資本主義者の搾取機関である東亜総合商社に大打撃を与えられるかと。

これを機会に、ドイツ人には中国で大勢死んでいただきましょう」

 

「前回の中国人への支援は大半が横流しされたからな、議会の承認を得るのが難しいが…

ふむ、だが君が監視してくれるなら連中も前ほどのバカはしないだろう。

わかった、モズレー議員にこの話を通しておこう。

頼んだぞ、同志“鉄血”ダージリン」

この女性こそ、コードネーム” ダージリン”で知られる革命闘士である。

端正な美貌の持ち主ながら、世界の労働者人民の革命運動を推進する運動に多大な貢献を行う英国の誇る諜報員の一人であり

後にイアン・フレミング諜報大臣が執筆した有名なスパイ小説シリーズ”008”のジェーン・ボンドのモデルでもある



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8話

作中では暴動や戦争、人種差別がありますが
当時の世相を反映しているだけです。
実際はもっとひどいから大丈夫(マテ
作中ではそこら中に銃火器が転がってますが、現実でもアフリカの遊牧民がAK-47で武装しているなんて普通ですよ
大国が崩壊すると作りまくった武器が捨て値で世界中に流出するのは今も100年前も同じ
むしろ制御できる力のある国が全部消滅したこの世界の方が危険かもね


みなさまこんにちは、ターニャ・デグレチャフです。

あの後、敵の96式戦闘機とドッグファイトを繰り広げた私は撃墜されて広州の東亜総合商社の病院に入院が許可されました。

ドイツ人が打ち立てた南チャイナの支配者である東亜総合商社。

要するに東インド会社のドイツ版。

列車で通りかかったドイツ人の為の市街地は石造り、煉瓦造りのいかにも富裕層の街。

投資家・大資本家の為の町であり、許可なしには有色人種は入れません。

ゲーテッドコミュニティーとはそういうものなので特に問題ないでしょう。

そこからちょっと離れた壁を隔てれば漢人の支配代理階層の為の中産階級の街。

実際に労働者を統括し、被支配層からの憎悪を一身に浴びるのが彼らの役目。

そこから更に目を凝らせばあばら家が密集する労働者被支配層漢人の為のスラム街。

君らの代わりなんていくらでもいるんだよ?ああ、素晴らしきかな資本主義

 

治外法権の巨大な租界。

これは大日本帝国から漢人は白色人種に媚びへつらいアジアの未来を売り渡していると非難されても仕方ないですね、実際尻尾を振る便利な道具扱いですし。

風光明媚で高地の避暑地に設けられた南昆山の雲天海にある療養病院に入院し、そこで一階級の昇進、勲章授与と療養検査入院を行います。

ま、入院検査と言っても軽傷だったので本部にしてみれば手柄を立てた私への慰安も兼ねたつもりなんでしょう。

「商社警備隊への戦技教導任務?でありますか?」

療養を手配してくれた清軍の軍事顧問の中佐は私に次の任務先を伝えてきたことによれば、

ドイツでの最新の航空機操縦技術を生徒に教導してほしいとのこと。

「そうだ、中尉。君は反乱軍との戦争で素晴らしい成果を上げたと聞く。

清からの推薦で広州に開かれる商社と清軍の航空部隊パイロット養成学校の戦技監督官に就任してほしいとのことだ」

成る程、確かに外国からの傭兵パイロットに頼りきった今のチャイナの空軍ではお話にならない。

将来的には自国で自前のパイロットを養成したいというのは頷けるところだ。

しかしそれなら私ではなくとも他に多くのドイツ人パイロットがいるのでは?と聞いてみたら

 

「…わかった、正直なところを言おう。

流石に8歳の少女を実戦に出したというのはドイツ本国や清からしても対外的にイメージが悪すぎるとのことだ」

(そりゃそうだ、今更ようやく気付いたのか…

 

「はい、ターニャ・デグレチャフ中尉は療養期間が終了次第、広州パイロット養成学校の指導員として赴任いたします!」

ここだ!軍人らしく常に毅然とした態度を見せ、このチャンスを確実にものにする!

 

それからはいい気分で、湯船に浸かり美味いソーダを嗜む。

火照った体を高原の爽やかな風で冷まし、揺れるハンモックを楽しむ。

ああ、なんと心地よい時間だ!くだらない戦争から離れ、優雅な暇人としての時間を楽しむ。

これぞわが無上の喜び。

 

「ふふふ…よくやっった、よくやったじゃないかターニャ。

怪我の功名とはこの事、これをきっかけに商社の中枢メンバーとコネを作れば良い投資先に縁故でありつけるというもの。

おまけに安全な後方での教導任務…今度こそ快適な職場で有意義な時間を過ごさせてもらうぞ」

そう、私はこの時確信していたのだ。

流石に幼女がもう前線に立つことはもう無いだろう、これからは後方勤務だと。

そして確実な未来のための投資に給料を注いで快適なアーリーリタイアメントを果たすのだと!

 

で、なんでこうなった。

 

広州に到着するなり、そこでは東亜総合商社本社がボーボー燃えて大火事になってた。

町中そこかしこに火がつき、町中は暴動と略奪でえらい騒ぎである。

「西洋人は出て行けー!中国人のための中国!中華民国万歳!」

あっちこっちで漢人が暴動を起こしているという知らせが舞い込んできた。

「ドイツ人の皆様は速やかに租界地域に避難してください!

危険です!危険」

漢人の警察官が市民に避難誘導を行なっていると、パンパンという音がし咄嗟に身を伏せる。

「死ねぇ!漢奸!裏切りもに死を!国際組合主義万歳!大中華民国万歳!」

狂ったように拳銃を振り上げてそこかしこに発砲する暴漢がそこら中にいた。

警官は撃たれて血を流しているので、私も常に携えているMP18を引き抜くとそいつに向かってぶっ放す。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

職務を忠実に実行していた公僕に暴力を振るったのだからこうなるのは当然のはずが、一発食らっただけで喚いて倒れた。

ああ、所詮組合主義者にそそのかされたチンピラなぞこの程度だろう。

「な!?警官?怯むな!ただのガ…」

バカが、戦場で身を晒すなど…こいつらど素人だな。

分厚いコンクリートの遮蔽物に身を隠し、路上で銃を手にいい気になっていた暴漢を私は確実に射殺していく。

「全く、こういうのは普通は憲兵の役目だろうに…これは時間外勤務手当になるのかな?」

ようやく憲兵が到着した時には十人を超えるゴロツキの死体が出来上がっていた。

やれやれ、いくらなんでも遅すぎだろうに。

後で聞いた話によると町中で武装暴動が勃発したらしい。

 



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9話

日本 歴史説明
英仏の破滅は日本にも多大な影響を与えました。フランスの降伏と赤色革命によってそれまでの大戦景気は一気に破綻。
関東大震災の影響も合わせて日本経済は大打撃を受けたのです
更に25年の英国革命による日英同盟の終焉、ドイツによる欧州市場の独占
最大の輸出市場だったアメリカ経済の破滅は輸出産業に依存した日本経済を破綻させたのです
ドイツに対抗して日本が満州に打ち立てた奉天共和国を
外貨の乏しくなった日本は資源(特に食料)輸入の生命線だと捉えています
日本の犬養毅首相が推し進める協調主義と平和的経済発展が失敗すれば
日本は資源を求めての南方進出をせざるを得なくなるでしょう


広州大暴動の翌日、商社・清航空部隊パイロット養成機関への移動は一時中断となり

私は総督官邸に呼び出されることとなった。

暴動への対応に問題はない、何と言っても相手は武装し警官を殺害したテロリストなのだから

表彰こそされ非難される心配はない。

 

「デグレチャフ中尉、ファルケンハウゼン総督がお呼びです」

総督?ファルケンハウゼン将軍のことか…

私のいた前世では中華民国の軍事顧問だったが、なるほどこの世界では華南総督か。

 

「よく来てくれたな、例のゴタゴタで今は商社の連中もぴりぴりしていてね…

航空教導学校の教官連中も今はテロリストの追跡に駆り出されてしまってね。

人員不足というのは嘆かわしいな、こういう事態に対応できん。

烏龍茶はどうかね?慣れるとなかなか悪くないぞ」

 

そう言って、従者に良い香りの烏龍茶を持って来させた。

 

「はい、いただきます」

「お茶でもしながら話をするとしよう。

さて、君は北部での清軍と反乱軍との航空機同士の実戦を経験したドイツ人の貴重な人材だ

率直に言おう、敵はどうだったかね?」

 

 

「あの機体が何処の物か判明しましたか?」

 

「日本だ、日本軍が満州経由で国境を越えて西部の反乱軍及び中華民国の残党と武器を貿易している。

これまではせいぜい小銃や機関銃、迫撃砲といった軽火器程度だったが、

ここ1年ほどで重砲、戦車、航空機といった大型兵器が登場するようになった」

 

「外務省は抗議を?」

 

「したさ、だが本国の連中の形式だけの遺憾の意が何の役に立つ?

中尉、これはドイツと日本の代理戦争なのだ」

 

「なるほど、では正直な所を?」

 

「構わん、清軍経由ではいつも”我が方有利”しか帰ってこんからな」

 

「では、戦車・航空機、野砲。この重要な大型兵器において清軍の装備は反乱軍の装備に大幅に劣っています。

遺憾ながら、清軍の装備は我がドイツの供与したものでありますが、戦車・航空機の発展が著しい昨今において機関銃しか装備しておりません1号戦車はもはや戦場で偵察以外に居場所は存在しません。

また航空機においても低速の複葉機であるHe51では高速単葉機には全く歯が立たないことは本国の空戦教導隊で実証済みです」

 

「そしてアジアの実戦でわざわざ証明されたな。

理論は正しかった」

 

「そして火力支援の軸である野砲に関しても我が方のは前大戦の中古品の75mmクラスであり、軽量であること以外は敵に対して劣っております。

スピードが増した現代戦においてはトラック牽引の105mmクラスが必要だと考察いたします」

 

「それは、わかっている」

「そして何よりも清軍兵士の士気は非常に低く、とても使い物になりません。」

 

「やはり駄目だったかね?」

「駄目です。将校がアレではどんな兵士もついて来ません。

大ナタを振るう大改革が必要でしょう」

 

「それが出来る皇帝ならな、現実は厳しい。

財閥とドイツの後押しなしでは何もできないお飾りだと誰もが考えているしな。

そもそも清が精強な軍隊を持つことをドイツ本国もこの商社の連中も望んではいないのだよ」

 

成る程、東亜総合商社のドイツ人経営層にしてみれば日本に対する盾のはずの清に噛みつかれることを恐れているのか。

だが、現実に言えば清は紙の盾だ。弱くていいにも限度がある。 

 

 

「ま、君も一度株主総会の記録を見てみればいい。

大雑把にいうと大口株主と小口株主とでの意見の食い違い、日本に対する意識

面白いぞ、欲まみれだと公言する連中が経営する国がどんなものか見るのはな」

 

「日本の進出に抵抗しようという運動は?」

そう、ここは商社であって国ではない。

株主は資本主義に忠実に動く。売れるなら国だって売れ、ただしなるべく高く。

実にわかりやすい国家経営の鑑だと言える。

 

「それどころか、小口株主の大半の意見は商社の株式を景気のいい日本にも解放しようというのが主流だ。株価も上がるしな。

それに対し、大口の意見はあくまでもドイツの支配する植民地としての商社だ。

その割には軍備には金をかけるな、というのが彼らの主張でもある」

 

「成る程、今の所は大口の意見が通っていますが…

それにしても軍備がお粗末すぎるのでは?」

 

東亜総合商社の主力は本国やヨーロッパのドイツ支配国で食い詰めた連中の傭兵が主力だ。

ぶっちゃけていうと時代遅れの小火器で武装した民兵に過ぎず、空は旧式機ばかり。

海に至っては連合艦隊とぶち当たったら30秒と持たないだろう。

空母や台湾から爆撃機がじゃんじゃか飛んで来て終わり!

長門と陸奥が沖合に現れただけで降伏しそうだ。

 

「本国の連中はアジア人がそのように高度な兵器を作れるはずはない、とタカをくくっているのさ。だから本国で使い古されたお古で十分だとな。

新型の輸出許可がなかなか降りん。

現場を一度も見たことのない頭でっかちな連中の言いそうなことだ」

 

凄い、あいつら皆んな馬鹿揃いだ。

これでよく前大戦を勝てたな、ドイツ。ある意味奇跡の国だよ。

 

「成る程、加えて先の株式市場の暴落によって不況の波はチャイナにまで押し寄せて来ています。

この状況で新型兵器の導入は厳しいでしょうね」

 

「ああ、だが幸いにして何にもまして株価優先の商社の株価はそこまで下がらんで済んだぞ。

ルールを捻じ曲げられる連中が支配する会社だからな。君も何口か買ってはどうかね?」

 

「検討しておきましょう」

 

「よろしい、では次の君の任務だが不本意かもしれんがテロリストの掃討に行ってもらう」

「テロ…中華民国残党ですね」

中華民国は袁世凱が好き放題して皇帝になろうとした後、大戦の後のドイツによる1926年の清国の再建支援によって消滅しました。

清が河北を支配することと引き換えに華南をドイツ、上海や香港などの西洋人の租界は自治都市になった。

滅んだ国に未練がある連中が漢人の為のチャイナを掲げて“中華民国復興”の為にテロを繰り返しているのだというのが現状だ。

 

現時点でのチャイナの人口は

清6570万人 東亜総合商社1億5000万人 奉天共和国 3200万人と巨大な市場を形成している。(貧民がやたら多いので魅力的かどうかは別として)

ドイツ7400万と比べれば凄まじい大人口のこの大陸の商業を制することがいかに魅力的かわかるだろうか。

 

「そうだ、重慶を中心にした軍閥が黙認するテログループが破壊行為を繰り返している。

我々はこれから犯人とその一味を引き渡さなければ連中に懲罰制裁を行うつもりだ」

 

「成る程、私にその露払いをせよと命じられるのですね?」

 

「そうだ、義勇兵団からも許可はとってある。

今回の任務は回答期限切れした場合の戦略爆撃の護衛だ、本国駐屯軍の爆撃機が既に待機中で回答期限切れと同時に重慶を爆撃する」

成る程、重慶爆撃をドイツ軍が行うというのか。

「了解いたしました。デグレチャフ中尉は任務を拝命いたします」

 

当初の予定は少々狂ったが、ここで更に護衛任務をこなせば教導団で発言権を得て更に上を目指すことも可能。

 



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10話

「ばかやろー!」

「やめちまえー!」

別にどっかの島国ではなくここは世界一の国力を誇るアメリカ合衆国ワシントンDCの議会。

21年のフランス崩壊、25年のイギリス崩壊、そして29年のウォール街の崩壊というトリプルパンチはアメリカに致命傷を与えていた。

 

7年間高止まりし続ける失業率に対しフーヴァー大統領は何ら有効な手を打ち出せずにいた。

1921年の有力な政治家であったフランクリン・ルーズヴェルトの暗殺。

いたずらに政争に明け暮れるのみの共和党と民主党の無為無策に失望したアメリカで急速に勢力を拡大してきたのが以下の二つの党派である。

 

「America First!!!!資本主義者は欧州の惨劇に手を貸して何を得たのか?

何もだ!そして彼らはその損失を人民に被せたのが今の現状だ!

全ての富を全ての人民に!皆を王様に!皆を平等に!America First!」

 

「「「「America First!!!」」」

ワシントンの政治決起集会において主に南部のアメリカ・ファースト党支持者たちが威勢をあげる。

アメリカ南東部で支持を集めるヒューイロングのAmerica First Union Partyだ。

通称”アメリカ第一主義党”

「ありがとう、皆さん。ではここで我々の支持者であり、アメリカの偉大な英雄。

チャールズ・リンドバーグ氏が応援に駆けつけてくれました!

皆さん、盛大な拍手を」

 

「わーわーわー!」(大衆の叫び声)

 

そして、もう一方の集会所では別の団体が政府に怒りの声をあげていた。

「我々はいつまで耐え忍ぶべきなのか!?

15年間にわたってアメリカ人民は苦しんできた!

資本家は言う、アメリカには全てがあると!

だが今日を生きるアメリカの労働者人民に聞いてみるがいい!

諸君らは何を持つか?

何もだ!労働者人民が座して搾取に甘んずる存在だと思ったのか?

万国の労働者よ団結せよ!リンカーンの意思を継ぎ、新たなアメリカ革命は我らが始めよう!

労働者人民万歳!アメリカ万歳!」

 

「「「労働者人民万歳!」」」

ジャック・リード率いるCombined Syndicates of America Party

通称”アメリカ連合組合党”

ロシア革命の『世界を揺るがした10日間』などの作品があるので興味がある人は読んでほしい。

「皆さん、ありがとう!ありがとうございます。

ここで我々アメリカ組合から素晴らしい発表です!

同志チャールズ・チャップリン氏の新作映画、

“モダンタイムス”がフランスのカンヌ人民映画祭で大賞を受賞いたしました!

想像してみてください!全世界の人民が映画を通じてのプロレタリアート団結の必要性を感じ取るのです!この映画の威力は100万の軍隊よりも強烈だと言えるでしょう!

我々はこれを機会に同志チャップリン氏の承諾を得て全国の映画館に無償での上映が決定されました!

どうぞ!同志チャップリン氏です!」

 

 

重なる政治的混乱にアメリカ政府は右往左往するばかりで何ら有効な手を打てなかった。

これに対し、既に世界一の工業国であるアメリカがどのような体制になるかは各国の極めて重要な関心であった。

既に状況はワシントンの政治屋には手が追えなくなっており、世界の列強各国はそれぞれのイデオロギーに近い勢力と既に極秘裏に連携を取ろうとしていた。

英仏伊からシカゴのサンダース大付属高校に派遣されたのはマジノ人民学院、グロリアーナ人民学院、アンツィオ人民学園といった組合主義各国からの“留学生”であり、

輸入されたのは“トラクター”や”農業用航空機”といった重機であった。

 

一方でカナダやドイツからもヒューストン向けに“トラクター”や”農業用航空機”といった重機が輸出されていた。中身はお察しである。

こんな状況の中、日本側からもロサンゼルス向け機械の中身が偶然にも“トラクター”や”農業用航空機”といった重機であった。

 

 

世の中不思議なこともあるものだ。(棒



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11話

留学先で政変を起こして組合主義国に変革させる謎の留学生D
有能

ちなみにフランスがアメリカの同志達に送ってきた飛行機はというと

ちょっとというか、かなり反応に困る仏蘭西面が爆裂した飛行機ばかり送ってきた
最新鋭機ばかりだぞ同志


【挿絵表示】
何と四発爆撃機 搭載量ならばB-17Eよりも上の4.4トン

【挿絵表示】
戦闘機?いいえ、農作業用です 確かに軍用機には見えない

【挿絵表示】
確かに軽くしろとは言ったが


ターニャ・デグレチャフは広州からHe51に搭乗し発進した。

目的地は重慶、国境線を期限切れと同時にJu52を護衛しながら目標上空に到着。

あとは市街地に爆弾の雨を降らせるだけの簡単な仕事だ。

空軍による市街地への戦略爆撃というのは商社にとっては久しぶりの大仕事であり、貴重な経験を積めるという事からターニャも乗り気であった。

更には休戦協定がなされた清国からも義勇軍のパイロットが回され、空を50機以上の爆撃機と戦闘機が一斉に領空を超えて山西軍閥の拠点の重慶に向けて飛び立つ手筈になっている。

「気が進みませんね…都市部への爆撃って。

軍事目標のみへの爆撃に限定するって言ってますけど…」

セレブリャーコフ軍曹が控え室で装備を点検しながら私に愚痴る。

 

「ああ、伍長はコラテラルダメージを気にするタイプか?

気にするな、流れ弾が飛んで来れる範囲内にいるのが悪い。

どちらにせよ、奴らがテロの犯人引き渡しを拒否した後なら

奴らもテロリストだ、よってハーグ陸戦条約の適用外だ」

 

何という完璧な理論、テロリストなら毒ガス使ってもokなのは(プーチン大統領が証明している)

よって我々は何も悪くない、素晴らしきかな超大国。

さてと、まだ出撃までには時間があるな。

新聞でも読むか、なになに…ロシアで軍事政権が誕生しそれに反抗した市民との間で衝突。

”ケレンスキー首相が暗殺されて以来、ロシア政界は極めて不安定な状態を繰り返してきた。

現在のウラーンゲリ首相は軍の支持を背景に強権を敷いているが、ロマノフ帝政の復権を望む帝政派、農民を支持母体とするソビエトなど国内に多くの不安要素を抱えている。

今回の衝突は彼の支持の薄さの現れともとれ、インタビューに答えた帝政支持派は

”ウラーンゲリには国民からの支持が無い、彼にあるのは軍隊だけだ。”

また赤色派閥は

”ヴランゲリは軍さえ握っていれば後はどうでもいいと考えている。

地主に搾取されている農民を救えるのは我らボルシェビキだけだ”

と答え、左右からの彼の支持の薄さが伺える。

また、ロシア政府の権威は既に独立した地方はおろか

名目上はロシア国内にすらモスクワとサンクトペテルベルク以外には届かず

一種の無法地帯と化しているという指摘もある。

 

(ロシアは暫くは動かんか、まぁあの図体のでかさでは改革も簡単にはいかないだろうな…)

 

ドイツ在住のロマノフ家の一人へのインタビューでは

“ロシアを変えられるのは結局のところ軍事力のみだ、その意味ではヴランゲリは正しいのだろう”という意見があった。

 

“混迷続くハブスブルグ帝国、オーストリアの権威ますます低く。

ハンガリー議会は連邦離脱を示唆”

 

“英仏伊、3カ国がアメリカのシカゴに留学生を派遣。

インターナショナルは学生による国際協力を強調”

 

“オーストララシアで政変!インターナショナルに加盟!”

…は?

 

さる昨日、ついに環太平洋諸国の1カ国でもあるオーストララシアで政変が勃発した。

前政権の首相による、学校法人への権威の乱用があったとの野党からの批判を受けての総選挙。

野党と与党による政争に呆れ果てた首都キャンベラの住民によるデモに対し発砲した軍と市民との衝突が今回の政変につながったとみられている。

“実に誇らしいですね”

“不安はあったけれども、賃金待遇が見直されるならいいこと”

“この国はロクでなしのアジア人を受け入れすぎたんですよ、(中華街を指差して)

ああいう連中じゃなく、本国のもっと礼儀正しい思想の人達(英仏の組合主義者)に習わなけりゃならんのです”

英国からの女子留学生達は今回のオーストララシアでの政変に対し

“こんな格言をご存知かしら?『我が道を征け、人には好きなように言わせておけばいい』

外の人から見れば間違っているように見えますけど、我が国のやり方をきっと世界の皆様に理解していただける日が来ますわ”

 

“何だかよく分からないですけど、早く済んだのならきっといいことなのですわ!”

 

と国会議事堂が見えるカフェでインタビューに答えた。

 

(また、アホな組合主義国が増えたのか…)

ターニャはそっと肩を落として早く出撃命令が来ないかなと思った。



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12話

2ポンド砲
1000mからでも仮想敵のチハ、2号、3号4号を貫通することができる
この世界観ではライヒ戦車の天敵
しかしながら徹甲のみ、榴弾がないという英国面炸裂のため対戦車砲、歩兵相手にはほとんど無力になる

ちなみに
この世界観では95式軽戦車が日本の売った最新鋭機
相手はライヒの1号や組合のマーク6軽戦車や戦時中のFT-17
タンカスロンみたいなもんだ


誰かが言った、「この戦争はすべての戦争を終わらせる戦争だ」戦争は今も続いている。

人間の理不尽な野望や征服欲はたかが数千万人が死んだ程度では小揺るぎもしない。

戦場に冒険などなく、あったのは恐怖と狂気。

誰もに訪れる死という現実。

 

どうも皆さま、こんにちは。

ターニャ・デグレチャフです。

この度、中華民国独立派:通称雲南軍閥に対する懲罰爆撃が決定されました。

なので報復として重慶にナパーム弾をぶっこむわ、と聞いた時には耳を疑いましたね。本当に。

だめだ、この世界の人間はみんな戦争で頭おかしくなってる。

この世界ではジェネーブ条約そのものが存在していないのでBC兵器の使用基準は第一次世界大戦並みにガバガバです。

 

サリンも炭疽菌も(万トン単位で)あるんだよ♡

 

こんな作戦に従事したことがバレれば下手に人権がどうたらこうたら歌われる時代になったら犯罪人なので正直気が進みませんが、上からの命令には従わねばならんのが雇われものの辛いところですな。

ま、勝てばどうとでもなる。

 

「こちらアルバトロス1、間も無く重慶上空に到着する。

ピクシー小隊は本機に先行して敵の迎撃機を叩け」

「ピクシー1了解。行くぞ、2。遅れるな!」

『2、了解!」

ドイツ軍のHe51戦闘機を加速させて前方警戒に当たると、案の定というべきか敵からの迎撃機が上がってくるのが見えた。

軍閥程度に航空戦力を養成する力があるとは思えないから、どうせサンディカリズム勢力か日本のお雇いパイロットだろう。

エリア88みたいなことしてんな。

「見えた!1時の方向、複葉機20!多いな…

あれは…サンディカリスト御用達のブリストル ブルドッグ」

既に時代遅れの旧式だ。こいつも人様のことは言えないが…

「ピクシー2、私に続け。訓練通り無理はせずに高度を保て、一撃離脱を心がけろ」

『りょ、了解!』

こっちの方が最高速度で勝る、見れば他の味方機も積極的に仕掛けるつもりらしい。

ゆらゆらと飛ぶブルドッグ戦闘機もこっちを確認したのか散開して仕掛けてくるようだ。

だがこっちの方が優速だ、慌てて出たのか連中高度が取れていない。

「素人が、慌てて高度を取ろうとしてもな!」

高度を取ろうとして運動エネルギーを失った機体に機銃弾を撃ち込むとあっさりと燃えて落ちていく。

「伍長、私から離れるな!ドッグファイトに巻き込まれたら負けるぞ!」

一撃離脱のセオリーに従って、たとえ外しても深追いせずに上昇しエネルギーを保持する。

するとまたもや通信が入った

『gggggg、護衛機へ!そいつらは囮だ!爆撃機隊の方向に更に機影を確認した!』

高度15000を220kmで飛ぶ爆撃機を迎撃するには330kmは出せる機体が必要だ。

「見えた!くそ、追いつくか?早いぞ!」

ホーカーフューリー、複葉機ながら高高度迎撃に向いた高速戦闘機だ。

4機が飛行機雲を引いてこっちの上を飛んでいくのが見えた。

「ここからでは追いつくのは私達だけだ!ピクシー2、ついてこい!」

スロットルを全開にし、エンジンが焼け付くのにもかまわず全力飛行。

ここで爆撃機が落とされたら、私の評価欄にも傷がついてしまう。

何しろ爆撃機は戦闘機よりもよほど高価な兵器なのだからな。

「くそ!一体どこからこんなに湧いてきやがった!撃て!撃て!」

爆撃機からは悲鳴のような無線が流れてくるが、貧弱な機銃しか装備していないJu52では無理があるらしく護衛のHe51が落とされるとバシバシと撃たれてザルのようになる。

そもそも防御も速度も貧相なあの機体で爆撃というのが無理があるとは思うのだが、あるものでなんとかするしかない。

幸いにして向こうの7.7mm機関銃程度ではなかなか爆撃機は落とせないらしく

こっちが後ろにつくと慌てて回避機動に移る。

「遅い!爆撃機相手に夢中になってはな!」

バリバリとこっちの7.92mmが吠えると翼をもがれたフューリーはくるくる回りながら落ちていった。

セレブリャーコフ伍長も他のフューリーを一機落とすと他の機体も敗走を始めた。

「助かったピクシー1、被弾した機体は爆弾を捨てて帰投せよ。

これより軍事施設に対する爆撃を開始する」

 

Ju52が爆弾をポロポロと落とし始めると眼下の木造建築物に着弾していく。

高度2000mからでも炎が上がり肉が燃える匂いがしてくる。

爆弾の破裂する音と、聞こえるはずもない人の悲鳴をバックグラウンドにして我々は基地へと帰投する。

「ピクシー1よりアルバトロスへ、当初の目標の軍司令部の炎上を確認。

当初の目標は破壊されたと判断する」

 

『了解…残りの爆撃機は軍需工場に割り当てる、引き続き観測せよ』

 

この日、雲南軍閥の首都・重慶に対する懲罰爆撃が実施された。

炎上した家屋多数、軍事施設並びに軍需工場の破壊を確認。

戦果、極めて大と判定。



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幼女、皇帝になる

ターニャ「4号Gを…せめてF2を…」

 

シャハト「(予算が)ないです」

 

1936年

ドイツ第2帝国の総参謀本部は重要なことに気づいた。

それは…

「観戦武官の報告と比べると…うちの軍隊って正直時代遅れになってないか?」

なってます

ドイツ帝国は世界に植民地を獲得した!しかしその補給線は北ドイツのキール港からドーバー海峡は政治的に使えないため北海をぐるっと大回りしジブラルタルを抜け仮想敵国のイタリア社会主義国の目先を抜けてスエズを抜けインド洋のスリランカの先のシンガポールを抜け、インドシナをさらに抜けて海南島から青島へと至る恐ろしく長大な戦線出会った。

はっきり言えば19世紀の大英帝国でも維持するのは困難であろうし、もっと悪いことには通る領域領域に大英帝国が直面したよりも遥かに強大な敵国が待ち受けていた。

イギリス、フランス、南イタリアにベンガルそしてオーストララシアに日本。

海の上だけでもこれだけの敵と対峙していると言うのに陸ではフランス、そして混乱している東ヨーロッパへの軍の抑えを緩めるわけにはいかない。

敵は多すぎ、維持すべき戦線はあまりにも細長く、ドイツの人口はあまりにも少ない。

 

デーニッツ提督の提言では…

「馬鹿な!海軍に回せる機体がたったこれっぽっちというのはどういうことだ!?」

海軍の現状、それは空母の旧式化。

新鋭艦のグラーフ・ツェッペリンは遥か極東で日本と睨み合いをしている。

ちなみに日本は4隻を保有しているので勝敗は目に見えている。

ともかく艦隊でドイツ軍の空母はわずかに3隻。

しかも世界中に分散配備されており各個撃破の的でしかない。

さらに問題があった。

「陸軍としては海軍の懸案は無用であると考える。

そもそも艦隊は陸上航空隊からの援護の下に行動するべきで空母は艦隊防空の為の戦闘機運用に専念すべきだ」

陸軍参謀本部は航空機はあくまでも陸軍の支援に回すべきで海軍にまで回す余裕はないと主張する。

「そもそも空母が3隻では少なすぎる。これでは艦隊防空すらおぼつかん。

戦艦にしても先の戦争からの代物で旧式化が著しい。

せめて敵艦隊の索敵と防空のためにも後6隻は空母が必要だ」

 

「戦艦の次は空母か?海軍さんは余程予算獲得したいと見える。

そもそも陸軍にしても先の大戦から装備の更新が滞っている。

兵数にしても砲の門数にしてもまるで足りていない。

ライン防衛網とはいうが、これでは現状ザルのような防御力しか発揮できないと本官は提言します」

陸軍参謀本部のゼートゥーア准将の指摘もまた正しい。

先の大戦で、ドイツ軍は全力を振り絞って燃え尽きた。

兵数こそ多いものの大西洋から太平洋までをカバーできるはずもない。

失われた人命と経済的損失は莫大でありながら植民地からの収益はほぼ0。

フランスとイギリスという敵は敵愾心ますます強く残り、先の大戦での足を引っ張っていた二重帝国はもはや帝国どころかまともな国の形骸すら残しておらず帝国は名目だけの存在にまで落ちぶれたバラバラの存在にしか過ぎなかった。

バルカン半島のセルビア人は先の大戦でなんとか落ち着いたと思ったらまたしても独立運動の火を燃やしていた。

ハンガリーはもはや独立国であり、義理程度の同盟をオーストリアと結んでいてあげるという状態。家族で例えると夫婦は別居、子供は家出といったところか。

オスマン帝国はそもそも瀕死の重病人が昏睡状態から戦争という電気ショックで一時的に目を覚ましただけとも揶揄され支配下のアラブ人の反乱は日常茶飯事。

先の大戦での疲弊から国内ではインフレーションが進み更にベルリン恐慌の影響もあり、内政は混乱の極みであった。

 

「近年のロシア情勢は?」

「相変わらず不穏なままだ、選挙が行われるらしいがどうなる事やら…

情報部の連中が漏らしていたよ。ロシア情勢は複雑怪奇だとな」

 

その頃、ロシア議会

王党派(ウチの代表、皇帝一家やけどうちの政党からの人望すらないなぁ…そや!皇帝一族だけど議員が好き勝手できる幼女に投票したろ!流石にこんな馬鹿なことするやつ他におらんだろ)

ボルシェビキ(ウチのはげ人気ないなぁ…せや!あの幼女に投票したろ!

どうせ勝てんのならメンシェビキの候補に票が流れんように嫌がらせしたるわ)

メンシェビキ(ウチの政党最近人気ないなぁ…せや!国民からの支持が無条件で得られる皇族を大統領にしたろ!けどうちが好き勝手できるように何の権限もない幼女にしよ!)

 

うーん、こいつらロシアの政治家は全員国賊レベルのクズですわ。

 

「えーただいまロシア大統領選挙が行われました。

 

(どうしてこうなった)

(どうしてこうなった)

(どうしてこうなった)

 

「ほらほら見なさいノンナ!やっぱやってみるものね!

圧倒的な支持率よ!やっぱりこのカチューシャ様がロシアの支配者になるのは運命だったのね!」

 

「というわけで今日でインチキ共和制はお終い!これからはこのカチューシャ様がエカテリーナ4世としてロシア皇帝になるのよ!

議会は軍で制圧!腐った政治家は追い出すのよ!」

 

議会に突っ込むBT戦車の写真と歩兵。

 

1936年7月のニュース

ロシア大統領選で末端候補とみられていたエカテリーナ・フォン・ロマノヴァ(16歳)が当選。

さらに議会を解散し、皇帝親政を宣言した。

当初は世間知らずの幼女の馬鹿げた行動と見られたが、これに反発した政治家の私兵を先制攻撃で粉砕した手腕が認められている。

ロシアの歴史的には女帝の伝統もあり違和感はなかったようだ。

この電撃的な当選と唐突な皇帝への就任に対してロシア国民からの反応は概ね好評である。

「尊いので」

「誰がなっても同じ、なら可愛いほうがいい」

「写真写りが良かった」

「皇族系候補の中で一番まともそうに見えたから」

「ボルシェビキの立てた候補が落ちるなら誰でも良かった」

「メンシェビキの立てた候補が落ちるなら誰でも良かった」

ロシア国民の80%以上はロシアに将来なんてない

政治家なんて誰がなっても同じと考える悲観的な浮遊票が今回の意外な勝利の原動力だったようだ。

 

またロシア国民は文字が読めないものも多かったが、エカテリーナ候補の懐刀と言われるノンナ女史とクラーラ女史は選挙に飛行機による各地での遊説、および映画の活用で大きな活躍をした。

スローガンの『ロシアを再び偉大な国に!』は帝国崩壊後の国民に強く訴えかける点があったようだ。

また選挙参謀のイオシフ・ゲッベルス氏は今回の勝利を

「意思の勝利ですね。それ以外に要因はありませんよ」

と述べた。

氏はニューヨークにおいて広告代理店で活躍した前歴を買われて就任し、今回の選挙活動では最新の広告理論を展開した。

その手腕はアメリカにおいても注目されており、次回のアメリカ大統領選挙においても機会があればその辣腕を振るうつもりだと述べた。

「こう付け加えれば間違いありません。『何々を再び偉大に!』ってね。

意思さえあれば本当にかつて偉大だったかどうかは問題じゃありませんよ」

 

前世の日本のみなさまこんにちは

ターニャ・デグレチャフです、やっぱこの世界は素敵に狂ってますね。

それともいつの時代もこんなもんで客観的に見れる私が狂ってるのか?

ついに私は華南で新鋭機Bf109の初期型を受領しました。

で、こうなった。

 

そこには脚が折れてひっくり返ったメッサーシュミットのコクピットでもがくターニャの姿があった。

「やはり脚が弱いのが難点だな…整備されていない飛行場が殆どの中華で運用したら脚ボキ連発だぞ…」

この点では固定脚の日本軍の96式にも一理ある。

シンプルな構造故軽く頑丈なのでこういった野戦飛行場での運用が容易という利点も考えれば悪い選択ではない。

 

「デグレチャフ中尉!義勇隊本部より連絡です!

直ちに現時点をもって所定の人員は海南飛行場へ集合とのこと」

 

やれやれ、事故の後でも今回は御構い無しにまたどこかへ飛ばされるらしいな。

そう言われて渡されたのは

サラマンダーカンパニ御一行>

サモア経由ブエノスアイレス行き

のチケットだった。

南米…それもアルゼンチン…この世界ではウルグアイを呑み込んだラプラタ共和国か。

牛肉が安くてうまい国だな、ああ休暇で行くのなら最高だろう。

 



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