堕天物語 (EIMZ)
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堕天使と魔王と出会い

ニーハオ  こんにちは、こんばんはEIMZです。
ハーメルン初投稿となります。本業は学生なので更新が不定期になるかもしれませんが、できるがぎりペースを保っていきます。
気ままに見て頂ければ幸いです。
 目標は「つれづれなるままに」
最初の舞台は主人公とヨハネが出会う、中学2年生の時代設定です。
それでは、本編どうぞ。



 

 

 これは僕と、僕の親愛なる彼女の物語です。彼女との出会いは、今までのどんな出来事よりも衝撃的だった。

僕は津々宮修斗。今年の四月から沼津に引っ越してきた、中学2年生だ。前の中学での僕は中二病だった。自分のことを魔王シェリアスと名乗っていた。しかし今のままではさすがの僕もダメだと思った。そんな時に両親の転勤が決まった。転勤先は、静岡の沼津というところだそうだ。そして転校を機に、シェリアスの名を捨てた。新しい学校では前のような後悔はしない。リア充に僕はなる! そんなことを考えながら僕の新たなリア充ライフを送る学校へと踏み出した。

そして最初の休み時間になった。 

 

「あなた、私のリトルデーモンになってみない?」

「はあ?」

 

転校先でどんな新しい学園ライフが待っているかと思いきや、一番最初に話かけてきた少女からそんな発言されたら、これを読んでいる君はどう返すだろう。大抵の人は僕と同じようになるのではないだろうか。状況についていけないだろう。完全にアウェイの空間でいきなり中二病発言を食らってまともな奴なんてそうそういない。ここは、状況を把握して軽く受け流すのが一番だ。まずは、周りがどんな反応をしているかを確認しよう。

「見て、善子ちゃんまたやってる。」

「堕天使ヨハネ、プッ。」

・・・ああ~、みんな呆れてる。ここではこれが日常なのだろう。さてどうするか。

 

「え~と、ヨハネさん、であってるのかな?僕に何か用?」

「フッ、2度も言わせないで。あなた、私のリトルデーモンになってみない?」

彼女は右目を隠しながら小悪魔のように微笑む。

「・・・いくつか質問させてもらってもいいかな?」

「許可するわ」

「じゃあ1つ目、君は誰?」

「私は堕天使ヨハネ、美しすぎるがゆえに展開を追放されてしまった堕天使よ」

「・・・・・」

なるほど、昔の自分に似ているな。僕の過去の話はまた今度しよう。

 

「じゃあ2つ目、リトルデーモンって何?」

「堕天使ヨハネに使える従順なる僕よ。」

「・・・・・」

転校してきて早々の、しかも異性を自分の僕にしようとするってよっぽど人手がないのだろう。

 

「はあ・・、じゃあ3つ目どうしてそのリトルデーモンとか言うのに僕を選んだの?」

「あなたから私と同じようなオーラを感じたから。」

「オ、オーラ?」

「そう。私と同じ魔族のオーラよ。」

ギクッ!!まさか、転校早々中二病だとばれたのか?この子、本当に魔眼でも持っているんじゃないのか?

「ちょ ちょっとヨハネさん一緒に来て!!」

 

そう言いながら彼女の腕をつかみ教室を出て人気のない場所を探す。これから彼女とする話を他の誰かに聞かれたらリア充青春ライフが音をたてて崩れ落ちてしまう。そうはさせるものか。僕は自分のことで必死になっていた。もはや自分の後ろでいきなり異性にうでをつかまれて、顔を赤くしている自称堕天使少女のことは、見えていなかった。

 

「ち ちょっといきなりなにするのよ!いきなり引っ張らないで!」

「いいから一緒に来て!」

「だから引っ張らないでってば!」

 

そんなやり取りをしながら教室を出ていく二人を教室の生徒は不思議そうに見ていた。

 

マズいマズいマズいマズい、まさかバレたのか。いやそれはない・・・ハズだ。中二病行動は何もしていない。とゆうか朝のSHLで自己紹介をしただけなんだが。もしかして前の中学のやつがいやがらせのために、わざわざ僕の転校先の中学にまで噂を流したのか?いや、原因を突き止めるのは後回しだ。折角転校を機会に中二病を引退しようとしていたのに。華やかなリア充青春ライフを送るはずだったのに。自分で言うのもなんだけど、顔もいいし、スポーツもできるし、成績も前の中学では1.2を争っていた。つまり前の学校でもモテていたはずなんだ。中二病の痛い発言さえなければ。例えば

「僕が完璧な理由?フッ、そんなの僕が魔王の血を引いているからさ。」

こんなことを言っていたな。今思い返せば恥ずかしすぎる。もう前の学校でリア充になるのは無理がある。だからこそ、一番の汚点は隠して新しい学園ライフをリスータトしようとしているのに。この転校は自分を変えるチャンスなんだ!絶対に逃すわけにはいかない。

そのためにはまずこの自称堕天使を黙らせることが最優先だ。魔王の力で封印してやるか。おっと、気が抜けると魔王が出てきてしまう。気を付けよう。

 

彼女を引っ張ったまま一つ上の階の廊下の突き当りについた。

このあたりは、生徒が少ないな。この辺でいいだろう。僕の新生活は誰にも邪魔させない。

生徒がいない廊下の突き当りで僕は彼女を壁に向けて押し倒した。

バンッ!!さらに僕は左手を壁に勢いよくぶつけた。いわゆる壁ドンだ。まさか自分が異性に向かってやるとは思ってもみなかったな。壁にもたれかかったままの彼女は戸惑いながら顔を赤くしている。これで彼女に逃げ道はないはずだ。彼女が戸惑っているのも気にせず、僕は彼女を問い詰める。

 

「なぜわかった?」

「え?」

「だから、なぜわかった?」

「ええ?」

「だあ~かあ~らあ~、なぜ僕が中二病だとわかったんだ!」

「え、本当に当たったの?」

「へ?」

「まさか本当にあったたなんて。」

まさか勘であてたのか。つまり僕の早とちりだったのか。そんな・・・・。

やってしまったあああ~!!!

まさか自分から墓穴を掘るなんて、大失態だ。

「お願い!僕が中二病だってことは、みんなに黙っててくれないか。」

「いいけど・・・なんで?」

「僕は・・・リア充になりたいんだ。」

「リア充に?」

「そう。」

「まあいいわ。でも一つ条件があるの、聞いてもらえる?」

「条件?」

「あなた、私のリトルデーモンになりなさい。」

「リ リトルデーモンってつまり僕が君の僕になるってこと?」

 

おいおい冗談じゃないぞ。魔王が堕天使風情に使えろいうのか。また気が抜けて魔王がでてきてしまった。これも彼女の影響か。以後気を付けなくては。いやそれ以前に、僕はⅯじゃないんだが。どちらかと言えば攻めるほうが好きなんだけど・・・。

そんなことを考えていたら彼女が僕の考えを悟ったのか慌てて訂正した。

 

「べ 別に僕になれって言ってるんじゃないわよ!変な勘違いしないで!

あなたも中二病なんでしょう。だから、その・・・たまには私の相談に乗ってほしいって意味で言ったの。」

「そういゆ意味だったのか。だったらそう言ってくれたら良いのに。

とゆうかそれ、リトルデーモンじゃなくて友達だよね。」

「だって、恥ずかしいじゃない・・・・」

 

彼女は俯きながらそう言った。改めて彼女を見ると、相当な美少女だった。

雪のように白い肌、宝石のような赤い瞳、正直今までこんな美人と話していたのかと思うと今更緊張してきた。やばい、心臓の鼓動が異常なレベルになってきた。何とかごまかさなくては。

 

「と、とにかくよろしく。えっと あれ?」

「どうしたのよ?」

「君の名前聞いてない。」

「名前? だからヨハネよ」

「いやそっちじゃなくて、本名」

「ヨ ヨハネが本名よ」

「嘘だよね、それ」

「ウッ・・・・言わなきゃダメ?」

「別に言わなくてもいいけど、後で出席簿で調べるから。」

「・・・わかったわよ。私の名前は、津島よ よ、よよ よしこよ。」

「津島よよしこ?」

「善子よ!よしこ!」

「そう、津島善子さんか、いい名前だね。」

「どこがよ!こんな堕天使にあるまじき名前。それであなたの名前は?」

「僕は津々宮修斗。」

「「・・・・」」

 

なにこの間、気まずい。

 

「それだけ?」

「それだけって?」

「だってあなたも中二病だったんでしょう。だったらそれらしい名前の一つくらい名乗ってたんじゃないの?」

 

この子、本当に勘が鋭いな。正直怖い。しかしそれらしい名前か。確かに名乗っていたな。だがもう卒業したんだし名乗らなくてもいいのではないだろうか。だけど、彼女には名乗ってもいいような気がする。これは、ある種の共鳴反応だろうか。覚悟を決めて僕は、魔王の封印を少しだけ解いた。二度と名乗ることのないであろうと思っていた魔王の名前を再び口にした。

 

「僕の名前はシェリアス、魔王シェリアスだ。」

 

言っちゃった。ついに言っちゃった。ああ~恥ずかしい、恥ずかしすぎる。また黒歴史ができてしっまた。自分ではわからないが、今僕の顔は真っ赤になっているだろう。

 

「シェリアス、いい名前ね。」

「そりゃどうも」

こうして僕たちはお互いに恥ずかしい思いをしながら、自己紹介を終えた。

 

「とりあえず、これからよろしく、ヨハネ。」

「よろし・・ちょっとまって、あなた私のことヨハネって呼ぶなら私、本名名乗る必要なかったんじゃないの。」

「これからよろしく!」

「ちょっと話聞きなさいよ!」

「いや~転校早々友達ができてよかった。少し気が楽だよ。」

「だから話聞きなさいよ!」

「さてそろそろ、教室戻ろうか。」

「もう、あなた私の話を聞かない気?だったら私にも考えがあるわよ。ちょっと待ちなさいよ、シェリアス。」

「おい!その名前で呼ぶのはやめろ!」

「フフッ、私のことを無視したこと、それこそがあなたの罪よ。自分の愚かさを償いなさい、シェリアス。」

「おい、いい加減その名前で呼ぶのをやめろ、善子!」

「善子言うな!」

 

そんなやり取りをしながら教室に帰ってくる2人をクラスメイトは茫然とたたずんで見ていた。

そんな中一人だけ、笑みを浮かべながら見守る男子生徒がいた。

 

「よかったね津島さん、いい友達ができて。」

 

彼の名は、藤崎元。このクラスの委員長だ。彼もまた、修斗たちの物語には欠かせない人物だが、それはまた、別の話で。

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。初作品の初投稿ですのでまだまだ未熟ですが、これからも見ていただけると幸いです。
次回は修斗君に部活に入っていただきます。

目標は「つれずれなるままに」
これからもよろしくお願いします。


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堕天使と魔王と放課後




 転校から現在に至るまで色々なことが起こった。現在までの経緯を話すと1,2日目で僕に関するいろんな噂が流れた。3日目にたくさんの部活から沢山の勧誘を受ける。そして今は4日目、1日中部活の勧誘プリントを貰ったところだ。

 その日の放課後、僕は僕に関するありとあらゆる噂を集めた。なぜなら、僕が中二病だという噂があれば一刻も早く撲滅しなければならないからだ。幸いなことにそんな噂は一つもなかった。しかし4日もたてば僕の噂も沢山流れていた。

突如現れたイケメンとか、新たな学年1位の秀才が現れたとか、転校初日に女の子に手を出した(この噂はヨハネにも被害があった)などが流れていた。

そんな中に運動神経抜群の元サッカー部エースというものと、頭脳明晰で将来は医者志望という内容のものがあった。噂が独り歩きしているが、大事なのは運動神経抜群というところと、頭脳明晰というところだ。そんな噂が流れれば、もちろん部活動の勧誘も沢山来た。大体ほとんどの部活から勧誘が来た。今は、部活から勧誘の際に貰った部活勧誘のプリントを整理しているところだった。

 

「え~と運動系のほうは、サッカー部に野球部、テニス部に空手道部、ラグビー部に陸上部か、うわ~まだまだある。とりあえず先に文化系をまとめるか。」

「随分と大変そうね、シェリアス。」

「その名前で呼ぶな、ヨハネ。」

「だからヨハ・・あってる。私のこと名前で呼ばないの?」

「ああ、僕の噂のせいで迷惑をかけたからね。あのことは本当に迷惑をかけた。」

「別に気にしてないわよ。」

「そう言ってくれると助かるよ。」

 

僕は笑いながら返事を返した。転校初日から3日が過ぎ、僕はヨハネのリトルデーモンもとい、友達になった。あれから彼女は、僕のことを修斗ではなくシェリアスと呼ぶようになった。最初のころは僕も抵抗があったが段々と慣れてきてしまった。周りのみんなにはゲームで使っているアカウントの名前だと説明したら納得してくれた。ただ、そのおかげでゲームの腕がプロ級という妙な噂が流れてしまい、ゲーム部からも勧誘が来るほどになってしまった。確かゲーム部の説明プリントもここら辺にあったはずなんだけど。そうして僕は、科学部と弓道部の勧誘プリンの下に隠れていたゲーム部の勧誘プリントを手に取った。

 

「あなた、ゲーム部に入るの?意外ね自称リア充志望のイケメンさんがゲーム部に入るなんて。」

「誰も入るなんて言ってないだろ、自称堕天使。」

「私は自称じゃなくて、本物の堕天使よ!」

「はいはい。」

 

そんなやり取り押していると教室のドアが開いた。そこに立っていたのは、うちのクラスの委員長、藤崎元だった。

 

「あ、いたいた。津々宮君さがしたよ。」

「ん?藤崎君、どうかしたの?」

「担任の前田先生が職員室に来いって言ってたよ。」

「ということは、届いたのか!」

「届いたって何が届いたのよ、シェリアス。」

「制服だよ、自分の制服。」

「え?でも津々宮君今、うちの制服着てるじゃん。」

「ああこれは、学校にある予備の制服で僕の制服じゃないんだ。」

「じゃあその制服借りておけばいいじゃない。」

「いやなんか自分のじゃない服を着てるとちょっと気を遣ちゃうからさ。」

「それ僕もわかるよ。濡らさないようにずっと神経研ぎ澄ますと疲れちゃうよね。」

「ああ、そんなわけで職員室に行ってくる。藤崎君、ありがとう!」

 

そう言って僕は廊下を駆け抜けた。

そして、職員室にて、

 

「サイズはどうだ津々宮。」

「はいバッチリです。」

「制服はお前の所属を示すからな。大事にしろよ。」

「はい!」

 

僕も前の学校の制服を初めて着たときはこれほどテンションは上がらなかった。僕がここまでテンションが理由は制服にある。なんといってもカッコいいのだ。騎士団の制服のようで。ズボンは全てを包み込む闇のように黒く、シャツは闇の存在を一切許さない神々の光のように白く、ネクタイは青の上に白い線が描かれていて広大な海を一刀両断するかのようになっていて、ブレザーは夜の海に反射した夜空のような、少し青みがかった黒と、とにかくカッコいい。テンションが上がりすぎて変な例えになってしまった。

 

「津々宮、テンションが上がっているところ申し訳ない。」

「ええっ?! せ、先生、なぜ僕がテンションが上がっているとわかったんですか?」

「さっきから顔がにやけてるぞ。」

「おっと。」

 

一方そのころ修斗が出て行った教室に残された2人は。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「「・・・・・・・」」

 

気まずい空気になっていた。

お互いに元から話すほうではないし。特に話題が無かったため無言の時間が続いていた。

 

どうしよう。気まずい。元々藤崎君とは話さないし、そもそも、私にそんなコミュ力ないし。もうさっさと帰ってきなさいよ、バカシェリアス!

ヨハネがそんなことを考えている中先に、口を開いたのは藤崎だった。

 

「この机の上のプリント全部部活の勧誘?さすが、完璧超人の津々宮君だな。転校してきて間もないのに、こんな人気者なんて、驚きだな。」

「そ、そうね。」

 

そうか、あのリア充モドキは、ほかの人にはそう見えてるのね。じゃあ、裏の顔を知ってるのは私だけ?私だけが知る真実、か。フフッなかなかいいじゃない。

 

「津島さん、ボーッとしてどうしたの?」

「え?べ、別に何でもないわ!」

「そう。それにしても津島さん、津々宮君と出会ってから明るくなったよね。」

「そ、そう見える?」

「うん。前よりずっと馴染みやすくなった気がするよ。クラスメイトがクラスに打ち解けないのは、委員長として心配だったし。ホント、津々宮君に感謝だね。」

 

私が馴染みやすくなった、ですって?しかもその理由がシェリアスに出会ったから?まさかね。また人間たちの戯言でしょう。無視よ無視。

 

「もしかして津島さん、津々宮君のこと、好きなの?」

「は、はあ?!べ、別にあんなののこと何とも思ってないわよ。そりゃ、カッコいいし、優しいし・・いいなとは、思ったことも・・・・なくもないけど・・・・。そ、それに堕天使が人間風情に恋なんてするわけないじゃない!!」

「照れ隠し?」

「違うわよ!」

 

2人が騒いでいるとき、2人の後ろでドアの開く音がした。

 

「お、仲いいねお二人さん。」

 

そこに立っていたのは、自分の制服に着替えた修斗だった。

 

「な、仲良くなんかないわよ!」

「おかえり津々宮君。」

「ただいま~。どうよこれ!新しい制服、似合う?」

「似合うもなにも、あなたさっきまで同じ制服着てたじゃない。」

「そうだった。あ、そうだ二人に話がある。実は・・・・」

 

時は戻り職員室にて

 

「津々宮、話がある。」

「なんですか?」

「お前この数日でどれくらい部活の勧誘を受けた?」

「すべての部活は把握してませんが、ざっと数えて25か26回ほど。」

「ふむ、ほとんど全部か。それなら好都合だ。津々宮、明日の放課後、全

部活の見学をしてこい。」

「明日ですか。まあいいですけど・・・。僕、部活の場所わかりませんよ。」

「そうか、なら藤崎に案内させよう。お前、藤崎と話したことあるよな。」

「はい。」

「ならいい。・・ああ、それと津島も一緒に連れていけ。」

「え?ヨハ・・・津島もですか?」

「ああ、あいつはどの部活にも入っていないからな。あいつも誰かと一緒なら入りやすいだろうしな。」

「そうですか?」

 

正直僕に部活の良さはわからないい。転校前の学校で絶賛中二病中だった過去の僕の考えとしては

『部活?そんなもの興味はない。僕はどこにも所属しないし、誰の下にも就かない、それに、魔王の上に下等生物である人間ごときが立つなんて、まっぴらごめんだね。それに、孤独な僕カッコいい!』

というようなものだった。やれやれ、過去の僕は次から次に黒歴史を作っていたな。

まあこれを機会に部活にでも、入ってみるか。

 

「津島を誘っても一緒に見学に来るかはわかりませんが、善処します。」

「うむ。そうしてくれ。」

 

そうしてときは戻り現在に

 

「ちょっと、なんで私まで部活の見学に行かなきゃならないのよ!」

「仕方ないだろ、先生に頼まれたんだ。はあ、藤崎君はあっさりOKしてくれたのに。」

「フッ、私を下界の民と一緒にしないでちょうだい!堕天使はどこにも所属する気はないし、誰の下に就く気もないわよ!第一、人間風情が高貴な堕天使である私の上に立つなんて、ゴメンよ!」

 

あれれ~、デジャブを感じるなあ。1年前の僕とほぼ同じような内容を言ってるぞ。フフフ面白い、一つ実験してみるか。

 

「ヨハネ、今、孤独な私カッコいいとか考えていただろう?」

「なっ!なぜわかったの?まさか、超能力?」

「違うから。まあ、共鳴反応みたいなものかな、なんて」

「共鳴反応?どういうことよ、それ。」

「まあ、それは置いといて。結局明日来るの?」

「仕方ないわね、リトルデーモン。あなたも行くなら行ってあげなくもないわよ。」

「なんで上から目線なんだよ。じゃあ、行くってことでいいんだな?」

「ええ、それでいいわよ。」

「じゃあ明日、僕たち二人の部活動見学の案内、改めてよろしく藤崎君。」

「ああ、任されたよ。」

 

こうして、僕とヨハネは明日部活動見学に行くことになった。

 

 




元々、修斗君が部活に入るはずだったのですが、思ったよりも長くなってしまったので三部構成でお送りします

目標は「つれずれなるままに」
これからも読んでいただけたか幸いです。


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堕天使と魔王と部活動見学(文化部編)

 いよいよ今日、藤崎君の案内の元、僕とヨハネは部活動見学に行ことになっている。昨日、藤崎君と相談をした結果、文化部を先に行き、文化部を全て回ったら運動部に行く、という内容になった。うちの学校は、文化部だけで10つほど存在する。ちなにみ運動部は15つある。今日は放課後を全部使って回ることになっている。

 

「津々宮君、津島さん、そろそろ行くよ。」

「ああ。それじゃあ、案内を頼む。」

「委員長として全力でやらせてもらうよ。」

「あはは、頼りにしてるよ。ヨハネ、準備できた?」

「ええ。行きたくないけど。まったく、どうして私が部活見学なんかに行かなくてはならないのかしら。」

「もう諦めろ。」

 

ヨハネの準備もできたしそろそろ行くとしよう。

まず僕たちは、文化部の部活がある特別校舎に向かった。

 

「そういえば、シェリアス。あなた前の学校で何か部活に入っていたの?」

「え?い、いきなりどうした?」

「いえ、ちょっと気になってね。」

「あ、それ僕も気になる。やっぱり、運動部に入っていたの?」

「う、うーん。色々な部活を兼部してたかな。」

 

主に帰宅部をな。

何とかごまかせたが、痛いところを突かれたな。元々中二病だったから、前の学校のことを聞かれると答えずらいな。前の学校のことは適当に設定を作っておく必要がありそうだ。そんなことを考えていると、ヨハネがひそひそ声で聞いてきた。

 

「ねえ、本当に部活に入っていたの?」

「・・・魔王が人間のしたにつくと思う?」

「そう、入っていなかったのね。」

「理解できたんだ。」

 

あれで伝わるんだから、中二病というのはすごいな。まさか中二病患者はみんな意思疎通ができるのだろうか。

そんなことをしていると、一番最初に見学する部活の部室についた。

 

「二人とも、ついたよ。ここが一番最初に見学する部活の活動場所。科学室だよ。」

 

そう、僕たちが最初に見学する部活は、科学部だ。科学部といえば白衣と眼鏡をかけたインテリが集まった頭脳派集団というイメージがあった。正直僕には合わないのではないだろうか。真面目な人たちの中に元中二病が入るのは、心細い。しかし、過去の僕を変えるためには、こんなところで心が折れそうになっているわけにはいかないんだ。

僕は心を決めて科学室のドアを開けた。

 

「し、失礼します。見学に来た津々宮と津島です。」

「津々宮さん、それに津島さん。ようこそ科学部へ。話は顧問の先生から聞いています。僕が科学部の部長です。よろしく。津々宮さんは医者志望だと聞きました。うちの部活にも医学部を目指している部員が数人います。そのために日々研究をしています。ですので、ぜひわが部に入ることをお勧めしますよ。きっとこれから有利に働きますよ。」

「あはは、前向きに検討します。」

 

科学部の部室は色々な実験器具が置いてある。強い酸性を持っていそうな液体から丸底フラスコまで、たくさん置いてある。ほかの部員は11人ほどいる。みんなそれぞれで活動している。顕微鏡をのぞいている人、フラスコに入った液体を熱している人、生物観察の結果を話し合っている人たち。彼らが話している内容は、呪文のようだ。正直ついていけない。

 

「どうです、津々宮君、津島さん。うちの部活を見てみて。」

「は、はい。前向きに検討することを検討していきます。」

「私はついていけない。」

 

僕たちは一瞬で悟った。この部活、ついていけない。多分僕たちとは次元が違う。

 

「そ、それじゃあ、僕たちそろそろ次の場所に行きます。行こう藤崎君。」

「あ、じゃあ、最後に僕から質問いいですか?」

「え?藤崎君が?」

「ええ、いいですよ。答えれる範囲なら何でも答えますよ。」

「じゃあ、ずっと気になってたことがあって。前にコインで打つ超電磁砲を作ろうとしたって本当ですか?」

 

何してんだよ科学部!君たちはレベル5になりたいのか?!

 

「それってレールガンの噂?」

「津島さんもやっぱり気になるの?」

「まあ、超電磁砲が使えるようになったらカッコいいし。」

「そ、そんな噂が流れたか?」

「うん、僕たちが一年生の時に。」

 

そ、そんな噂が流れたのか?急にこの部活に親近感がわいてきた。

 

「ああ、プロジェクトレールガンですね。確かに前部長が企画していました。あれは、すごかったですよ。ライトノベル研究部との合同の企画でした。前部長は『これが私の、全力だー!!』なんて言っていましたよ。結局成功せずに終わりましたが、今では懐かしい思い出です。」

 

そんなことがあったのか。ちょっと見てみたかったな。でもその前部長もしかしたら天才肌なのかもな。将来大物になりそうだな。

 次に僕たちは調理部に向かった。

調理部は家庭科室で活動していた。調理部はみんなで、スイーツを作っているところだった。マカロンから、大福はたまた、八つ橋まで色々な物を作っていた。

 

「ダメよ、ヨハネ。こんな、下界の食べ物に魅了されては。堕天使の心が浄化されてしまうわ。」

「ただのチョコマカロンだろ。そんな効果ないよ。」

「フッ、あなたには、わからないでしょうね。今のあなたには。」

 

つまり過去の僕なら分かったといいたいのか。僕ならお饅頭と食べながら、

「下界にはあんこく(あんこ)の封印された菓子があるのか。フッ、下界も捨てたものではない、ということか。」とか言いそうだな。

 そんなことを考えながらもう一度ヨハネの方を見る。結局欲望には抗えなかったか。美味しそうにマカロンを食べている。ヨハネもやっぱり女の子なんだな。なんか、かわいい。幸せそうな顔をして、その表情だけは天使のようだよ。あれ、なぜこんことを考えているのだろう。忘れよう。

 

「津々宮君、どうしたの饅頭を咥えたたままボーっとして。」

「へ?そう?」

「うん。さっきから津島さんのほうを見てるから。」

「え?ヨ、ヨハネを?き、気のせいじゃないかな。」

「ふーん。そう。」

 

まったく、藤崎君は何を言ってるんだ。ぼ、僕がヨハネを見ていただと。いやいやいや、まさかそんなことあるわけ・・・・なくもないのか。ま、魔王が堕天使ごときに?ありえないな!でもヨハネも黙ってさえいればかわいいのだがな、黙ってさえいれば。

 

「シェリアス、そろそろ次に行くわよ。」

「え?あ、う、うん。」

 

ヨハネ、最初よりやる気がでてきたな。甘いものを食べてご機嫌になったのか?どちらにせよ好都合だ。機嫌がいい間にさっさと終わらせよう。

 そして僕たちは次々に部活を見て回った。

 美術部

 

「わー!津々宮君も津島さんも美形!、ぜひ美術部に入って私たちのモデル(着せ替え人形)になってよ。このプリントに名前だけ書いてるれればいいから。」

「悪魔の契約?身の危険を感じるんだけど・・・」

「まさに『この美術部には問題がある』ね。」

 

園芸部

 

「キャー!ちょっと、シェリアス!あのおぞましい生物どもを何とかしなさいよ!」

「お、落ち着け。たかが芋虫とミミズだ。お、恐れることはない。」

「じゃあ、何とかしなさいよ!」

「無理言うな!誰にだって苦手なものはある!」

「二人とも、虫苦手なんだ。」

 

軽音部

 

「さっきから、彼らが演奏してる曲、アニソンばっかりだな。」

「あ、レールガンの曲だ。」

「この学校どれだけレールガンをしてるんだ。まあ確かに、面白かったけど。」

 

その後僕たちは、演劇部、放送部と回って文化部も残すところ3つとなった。

そして今入ろうとしているのは、残り3つの部室のうちの一つゲーム部の部室だ。

 

「ねえ、もう疲れてきたんだけど。帰っていい?」

「ダメだ。ちゃんと最後まで回らないと。さ、入るよ。」

「し、失礼します。」

 

そう言って僕はドアを開けた。中には男女合わせて7人ほどいた。その中の男子が一人こちらに向かって歩いてきた。

 

「ようこそ、シェリアスさん、ヨハネさん。」

「え?!シェ、シェリアス?!」

「ああ、この部活ではゲーム名で呼び合うんですよ。」

「あ、そ、そうなんですね。」

「ところでシェリアスさん。ゲームの腕がプロ級だと聞きましたが、どんなゲームをされているんですか?」

「え、えーと。ソシャゲやRPGを主にやってます。」

「そうなんですか。いいですよね、ソシャゲ。」

「そ、そうですね。」

「津島さんは、どんなゲームを?」

「え?わ、私も同じような感じです。」

「そうですか。」

「僕たちは部に入るように強要はしないので、もしよかったら今度、一緒に協力プレイをしましょう。」

「はい。ありがとうございます。」

「まあ、入ってくれたら一番ありがたいんですがね。」

「あはは、検討します。」

 

そうして僕たちはゲーム部を後にした。

 

「感じよかったわね。」

「ああ、少なくとも身の危険は感じなかったな。」

「じゃあ二人ともゲーム部に入るの?」

「まだ文化部しか見てないからなんともも言えないな。まだ運動部もあるし、文化部もあるだろ。」

「私はあまりどこにも入りたくない。」

「そっか、じゃあ見学を再開しようか。」

 

僕たちは最後に漫画研究部とライトノベル研究部に向かった。この二つの部活は部室が隣り合っている。

 

「よし、この二つの部活を見学したら、文化部は終わりだな。さてと、さっさと終わらそう。」

「でも、最後が一番難問だと思うよ。」

「どういう意味だそれ?」

「実は、この二つの部活すごく仲が悪いんだ。だからお互いの部員をあまり合わせないほうがいいんだ。」

「・・・なんだか嫌な予感がするんだけど。」

「・・・奇遇だな。僕もだよ。」

 

その時、二つの部室のドアが同時に開いた。

 

「何ですか?騒がしいですね。集中できないじゃないですか。」

「誰だよ、部室の前で騒いでるのは。もしかして、見学の人?」

 

「「「「「あ・・・」」」」」

 

「おやおやおや。これはこれは、ラノベ部の部長さんじゃないですか。我が漫画研究部の前で騒ぐのはやめていただきたいですなー。」

「ああ?俺は騒いだ覚えはないぞ。お前らが騒いでいたんじゃないのか?漫画研究部部長さんよぉ。」

「罪の擦り付けですか?見苦しいですよ。」

「お前が先になすり尽けようとしたのは、そっちだろう。」

 

うわー、犬猿の仲。もう帰りたい。こんな空気のところにいたくない。そんな仲の悪い二人の間に藤崎が入っていった。

 

「まあまあ、今は見学者が来てるんだから、二人とも抑えてください。」

「ということは、後ろにいる男子は例の転校生か?」

「すいません、お見苦しいところを見せてしまいました。このバカのせいで。」

「誰がバカだ。ようこそ、津々宮君、津島さん。」

「え、あ、ども。ところで、お二人は仲が悪いんですか?」

「ええ。こいつのことだけは大嫌いなんですよ。」

「俺だってお前のことが大っ嫌いなんだよ。」

「へ、へーそうなんですね・・・。」

 

もうやだ、こいつらと関わりたくない。でも、一様からんどいてやるか。

 

「そ、そういえばどうしてお二人は仲が悪いんですか?」

「ああ、それはですね。このラノベバカは僕の書いた、いや漫画全般の素晴らしさを微塵も理解していないからですよ。」

「ああ?お前こそ、俺の書いた素晴らしいラノベを理解してないくせに。」

「君のほうが理解していないのだよ。まあ、バカな君には理解できないか。」

「お前もその人を小馬鹿にする性格、直したほうがいいぞ。だから友達が少ないし漫画にしか目がいかないんだよ。」

「無駄な心配どうもありがとう。君こそラノベしか見えないその目、一度医者に診てもらったらどうだい。」

 

このやり取りいつまで続くの。僕たちの見学どころではなさそうだな。それにしてもさっきから、後ろにいるはずのヨハネが静かだな。あいつ何してるんだ、と思ったらラノベ部の中から本を拝借して読書してやがる。このちゃっかりめ。

 

「ヨハネ、何してんの?」

「何って読書よ。見てわからない?」

「わかるよ。わかるからこそ聞いてるんだよ。なんであの争いほったらかしなんだよ。」

「フフッ、堕天使は人間同士の争いになど興味はないの。」

「今この状況にも堕天使を持ってくるか。まったく自称堕天使サマにも困ったものだな。」

「誰が自称堕天使よ!私は本物の堕天使よ!」

「はいはい、本物の堕天使ね。失礼しました。」

「あなた今バカにしたでしょう?」

「いえ、全然。」

「絶対バカにしてる!いい加減にしなさいよ!たかが魔王レベルでこの堕天使にたてつこうなんて生意気よ。」

「フン!口を慎め。貴様こそ堕天使の分際で僕にたてつこうなんて100万年早いわ!・・・それに僕は魔王じゃない!」

 

 今二つの部室の前の廊下で、二つの喧嘩が起きていた。そしてその二つの争いを見守る男子生徒、藤崎には一つの考えがあった。その考えとは、二つの争いを止めるのに、一番面白くなりそうな作戦だ。この作戦をとれば、自分の前で言い争いをしている男女はどんな反応をするかと考えると、自然と笑みがこぼれてしまう。今の彼は、目の前の堕天使や魔王よりも、黒く輝いていた。

そろそろ、この争いを止める作戦を実行させるか。

彼は奥で言い争っている両部の部長に近づいた。

 

「まあまあ、お二人とも落ち着いてください。」

「しかしだな、こいつが。」

「そうだ、俺たちの喧嘩は終わっていない。」

「だから落ち着いてくださいって。要するにお二人は、どちらの作品のほうが優れているのかを決めたいんですよね。」

「えっ。あ、ああ。」

「まあ、そうだな。」

「だったら、これから、どちらの作品の方が優れているか、決めればいいじゃないですか?」

「確かにそうだが、どうやって決めるというのだ?」

 

藤崎は待ってましたと言わんばかりに微笑む。外から見たら自然に笑っているが、心の中は真っ黒な悪魔のような笑みを浮かべている。そして彼は、この作戦の生贄の方を見て微笑む。いや、生贄たちの方を似て微笑む。

 

「これから2週間後に、それぞれがそこで言い争いをしている二人をモデルにした、ライトノベルまたは、漫画を描くというのはどうでしょうか?お題は何でもあり。二人が恋人同士でも、兄弟でも、夫婦でも、幼馴染でも、先輩後輩の関係でも、主従関係でも何でもありで!」

 

「「えっ・・・?」」

 

その瞬間、僕たちは状況が理解できていなかった。

 

「なるほど、それはいい考えですね。」

「確かにあの二人なら面白い作品が書けそうだ。」

「でしょ。あの二人、はたから見たら美男美女カップルに見えますからね。」

 

「「は?」」

 

「僕は賛成ですよ。どんな戦いでも正々堂々戦いますから。」

「俺も賛成だ。あの二人なら面白いものが書けそうだ。」

「じゃあお二人とも同意ということでよろしいですね。」

「ああ。」

「うむ。」

「では2週間後に・・」

「ち、ちょっと待って僕たちが知らない間に話が変な方向に進んでるですけど。どういうことですか?」

「だから、津々宮君と津島さんをモデルにしたラノベと漫画を・・・」

 

「「はぁ?!」」

 

「僕たちがモデルってどういうこと?」

「え?例えば、作品の中で二人は先輩後輩だったり、兄妹だったり・・」

「兄妹?!」

「恋人だったり・・」

「こ、恋人ぉ?!」

「例えばだから、そこまで反応しなくてもいいと思うけど。」

「ちょっと、その戦い中止!」

「そうだ!こんな戦い認めない!」

 

僕たちが抗議すると部長たちが反論してきた。

 

「見損なったぞ!津々宮君!男の戦いに口をはさむとは、何事だ!」

「そうだ!俺たちの戦いは誰にも止められない!」

 

ええー?なんで僕たち怒られてんの?もうやだメンドクサイ。

 

「大丈夫だ安心しろ。俺の手にかかればお前らを最高に輝かせてせてやる。」

「いやそういう問題じゃないし、そんな輝きいらないんですけど。」

「僕も遠慮します。」

「君達を見ているとなんだか、いいアイデアが浮かんできた。」

「俺もアイデアが浮かんできたぞ。悪いがお前ら帰ってくれるか。俺は今から、部室にカンヅメする。」

「では僕も部室にカンヅメするとしよう。では2週間後。」

 

二人の部長はそれぞれの部室へと戻っていった。

 

「私たち、見学に来たはずよね。」

「ああ」

「どうしてこうなったのかしら?」

「わからない。」

 

僕たちの後ろで藤崎君は不敵に笑っていた。

 

こうして僕たちの部活動見学文化部編は幕を閉じた。

 

 




 皆さんはどんな部活に入っていたでしょうか。僕は中学時代、科学部に入っていました。本文みたいな部ではないですよ。どちらかというと生物部に近かったです。色々な生物を飼育して観察しました。いい思い出だ。

目標は「つれづれなるままに」
これからも読んでいただけると幸いです。


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堕天使と魔王と部活動見学(運動部編)

 今日、僕たちは部活動見学に来ている。さっきまでは文化部の見学をしていた。ついさっきまでは漫画研究部とライトノベル部に見学に来ていた・・・はずだった。見学に来たはずなのにいつの間にか、僕とヨハネが漫画とラノベのモデルにすることになっていた。ほんと、どうしてこうなったんだろう。

 

「「はあ・・・」」

 

僕とヨハネは同時にため息がこぼれた。そんな僕たちを見て、こんな状況に僕たちを陥れた張本人がかすかに微笑みながら訪ねてきた。

 

「どうしたの二人とも?ため息なんてついて。」

「誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ。」

「え?誰のせいだろう?」

「藤崎君、君のせいだよ。」

「え?僕のせい?そんなの侵害だな。」

「どの口が言うのよ・・。」

「まったくだ。君が変な案を出したからこんなことになったんだろう。」

「ええー?いい案だと思ったのに。」

「「どこが!」」

 

まったく、どうしてこうなったんだ。僕たちはただ、部活動見学に行っただけのはずなのに。まだ文化部の見学しかしていないのにもう疲れてしまった。これから運動部の見学もあるというのに、体持つかな。

 

「どうしたの、シェリアス。なんだか少しやつれてない?」

「そう見える?」

「ええ、ほんの少しだけど。」

「そうか。気持ちが疲れてきたからかな。」

「大丈夫なの?休んだら。」

「いや大丈夫だ。」

 

こんなことで倒れてはリア充にはなれない。しっかりと運動部の見学もして僕のイメージをしっかりと作っておかなければ。

 

「津々宮君、津島さん疲れている場合じゃないよ。」

「誰のせいで疲れていると思っているのよ。」

「そんなことより、そろそろ、体操服に着替えて運動部の見学に行くよ。」

「はいはい。じゃあ着替えてくるよ。」

 

僕たちは一度着替えるために更衣室へ向かった。

この体操服、何日か前に授業でやった身体測定以来だな。うちの体操服は白を基調とした体操服に黒を基調としたジャージと、まあ嫌いではないデザインだ。

 

「そういえば津々宮君。男子更衣室の隣って女子更衣室なんだよね。」

「ふーん。それがどうした?」

「いや、今隣で津島さんが着替えてるんだなーって。」

「ふ、ふーん。」

 

ヨハネが隣で着替えてる・・。ヨハネの雪のように白い肌や、なくもない胸があらわになっているのか。いやいやいや何を考えているんだ僕は。ヨハネの裸体なんて微塵も興味ない。興味なんて微塵も・・やっぱり少しは・・結構あったり・・いやでも・・。

 

「やっぱり、津々宮君も男だね。」

「どういうことだよ。」

「いや別に。完璧超人の津々宮君も男なんだなって。ちょっと安心した。」

「その言い方だと、今まで僕が普通と違うように見えていたような言い方だね。」

「いやぁ。津々宮君てさ、今まで違う次元の人間みたいに見えていたから。」

「そう見えるものなのかな。」

 

僕が違う次元の人間か。まあ元魔王だからな。他とは違うように見えるのかもしれないな。まだ完全にリア充を演じ切れていないのかもしれないな。少し不安が出てきたな。運動部見学もバレないようにしないと。

 さて着替えも終わったしそろそろ行くとしよう。着替えを終えた僕たちは更衣室前でヨハネを待っていた。

 

「おまたせ。」

 

しばらく待つと着替えを終えたヨハネが出てきた。ヨハネは僕たちが着ている体操服にジャージを着ていた。髪はいつものようなお団子を解いて後ろでくくっていた。いわゆるポニーテールにしていた。いつもの髪型じゃないとイメージが変わるものだな。それにさっきの話も合って妙に意識してしまう。

 

「な、何よ人の顔をジロジロ見て。」

「へ?い、いや。なんでもない。」

「・・もしかして、ヨハネの美しさに魅了されてしまったのね、リトルデーモン。」

「・・・面倒だからそれでいいよ。」

 

あながち間違ってもいないしな。

 

「さて、二人ともそろそろ行くよ。」

 

また、藤崎の案内の元、今度は運動部見学が始まった。

まず最初に僕たちはサッカー部へと向かった。

 

「お前が津々宮だな。よく俺たちサッカーへ来た。俺がサッカー部キャプテンだ。さあ、俺たちとサッカーしようぜ!」

「はあ・・・。」

「あ!僕良いこと考えた!」

 

藤崎がまた何か案を出そうとしている。またメンドクサイことに巻き込まれそうだな。

 

「津々宮君、キャプテンとPK戦で戦って、サッカー部側が勝ったら入部を優先的に考える、というのはどう?」

「いいなそれ!俺たちが勝ったらサッカー部に入ってもらう。津島さんはマネージャーになってもらいます。」

「いや、入るじゃなくて、入ること前向きに検討するだけだから。」

「というか私も!?」

「さあ、勝負だ!」

「熱いわねこの人。」

「めんどくさそうなタイプだな、この人。断る方がめんどくさそうだ。」

「とりあえず、津々宮君頑張って。」

「私もマネージャーなんてつきたくないし、しょうがないから応援してあげる。」

「はあ・・。しょうがない、PK戦やってくるよ。」

 

そして結果は、

 5対0で僕の全勝終わった。

 

「な、なぜ・・。」

「おー!津々宮君凄い!」

「ま、私の応援があったからね。」

 

正直最初の1.2回はなめられていたな。残りは結構本気だったが、僕には及ばない。

 

「く、さすがだな、津々宮。まだ次は負けん!」

「まだやるの?」

 

このままだと、僕が負けるまで勝負を仕掛けてきそうだな。少し悪い気もするが、ここは冷たくいかせてもらおう。

 

「まだやる気かい?」

「ああ。何度だって立ち上がる!それが俺たちだ!」

「フッ、負け犬の遠吠えだな。君と僕とでは格が違うんだよ。」

「くっ・・・。」

 

ちょっと冷たくしすぎたな。

 

「だが、いい勝負だった。試合の助っ人くらいなら受けるよ。じゃあね、サッカー部さん。」

 

これくらいでいいだろう。はあ、まさか勝負で決めるなんて思ってもみなかったな。というかこれ見学じゃない気がする。見学じゃなくて、殴り込みに近いぞ。

サッカー部の後、僕たちはテニス部に来た。

 

「聞きましたよ。サッカー部では勝負をして勝ったら入部してもらう、ということをしたそうですね。ならば、我々とも同じ勝負をしましょう。」

「またか・・・。そして入部じゃなくて優先的に検討するだけだから。」

「じゃあ、津々宮君頑張ってー。」

「へいへい。」

 

結果はまたも、僕の圧勝。

 

「まだまだだね。」

 

言ってみたかったんだよな、このセリフ。

そのあと僕たちは陸上部や野球部、空手道部、ラグビー部にも勝負を挑まれては勝ち、勧誘を断り続けた。途中、ヨハネだけチアリーディング部の勧誘を受けて途中で抜けた。一旦別行動をとることにした。僕は藤崎と一緒に先に最後の運動部、弓道部へと向かった。弓道部の練習場は広々としていた。広い割には部員も少なくほとんど貸し切り状態だった。

 

「よく来たな、津々宮。」

「前田先生。どうしてここに?」

「俺は弓道部の顧問だからな。」

「そうだったんですか。」

 

僕たちの担任の前田先生は弓道部の顧問だったのか。知らなかった。

 

「さてと、やっと最後か。で、どうせここでも勝負でしょ。だったら、さっさと終わらせよう。だれと勝負すればいいの?」

 

今まで弓を引いていた部員たちは反応はしない。ということは彼らが相手ではないのか。

 

「僕が相手するよ。」

「藤崎君、弓道部だったの?」

「うん。言ってなかったっけ?」

 

藤崎君、弓道部だったのか。特に勧誘もしてこなかったから気にならなかったな。

 

「まあいいや。誰が相手でも僕は負けないよ。」

「僕も全力でやらせてもらうよ。」

「熱いなお前ら。そんなお前らに一つアドバイスだ。弓道は集中力が大事だぞ。初めての津々宮は最初の何発かは狙い目を探したほうがいいぞ。」

 

なるほど・・・。集中力か。しかし今まで10を超える部活と勝負をしてきたから、少し心配だな。まてよ・・。

 

「先生たち仕組んでない?」

「どうしてそう思うの?」

「弓道部の状況を見る限り、少しでも部員を増やしたいはず。そんなところに運動神経抜群の転校生。しかしその転校生は色々な部活からも勧誘を受けている。そこで、それぞれの部活と勝負をさせて集中力を削る。それによって最後に案内した弓道部では疲労がたまるから、集中力を必要とする弓道の勝負は不利になる。そして最後に自分たちが勝負に勝てば、僕たちの勧誘に成功したことになる。というのが僕の推理なんだけどどうかな?」

「さすがだね津々宮君。」

 

推理物のドラマとかだったら、今は決め台詞を言うタイミングなんだろうな。「これが真実だ!」とか。

 

「まあ、いい作戦なんじゃない?」

「何とも思わないの?」

「別に、それくらいで僕は負けないから。さあ、勝負しようか。」

 

弓道の勝負は4本の矢で1立ちとして、1立ちを今回は3回やる。弓道には射法八節といって専門のやり方があるが、試合前に頭に叩き込んだ。

 

「やり方は覚えれた?」

「ああ。さっき頭に入れた。」

「それじゃあ二人とも、射場に立て。」

 

まず1立ち目。先生に言われたように最初の矢で狙い目を探すことにするが、カット。

結果は僕が1中、藤崎が2中だった。

 

「初めてで1中するなんてすごいよ。」

「言ったろ。あれくらいじゃ、僕は負けないって。」

 

そして2立ち目。

結果は僕が4中、藤崎が3中だった。

 

「さすが、津々宮君。初日で懐中するなんて!」

「え?懐中?」

「うん!4発全部当てることを懐中って言うんだ!」

「へー。まあ、さすが僕だな。」

「やっぱり、ここまで凄いとうちの部活に欲しいな。やっぱり最終兵器を使うしかないのか。」

「へ?最終兵器?」

「ああ。」

 

藤崎の合図と一緒に弓道場の扉が開いた。そこから、数人の女子生徒が出てきた。彼女たちは女子の制服一人分持っていた。

 

「津々宮君、君はひとつ間違えているんだ。」

「なに?」

 

藤崎は不敵な笑みを浮かべている。

 

「実はこの学校、チアリーディング部は存在しないんだ。」

「?!ヨハネ!!お前らヨハネに何をした!!」

 

この時僕は自分でもわからないくらい激怒していた。なぜこんなにも不安になっているのか。なぜこんなにも怒っているのか。自分でもわからなかった。ただ、一心不乱だった。しかしそんな不安をよそに藤崎は笑っている。こいつ何を企んでいるんだ。

 その時、弓道部の扉がもう一度開いた。そこに立っていたのは、チア服に着替えた、ヨハネの姿だった。

 

「・・・なにしてんの、ヨハネ?」

「こっちが聞きたいわよ!なんで、いきなりこんな服に着替えさせられて、いきなりここに連れてこられて、説明しなさいよ!」

 

説明しろと言われてもな。でもよかった、無事なんだな。あれ?なんでこんなに安心しているんだろう?

 

「さあさあ、最終試合をするよ。津島さんたちは観戦席にいて。」

「え?ええ。わかった。」

 

まったくヨハネのどこが最終兵器なんだ。多分、チア服のヨハネを見て動揺して勝負に集中できなくなる、そんな感じの作戦だろう。フッ、甘いな。視界に入ってこない限り、僕は揺るがない!フハハ、残念だったな藤崎。

そして勝負を再開しようとしたとき全てを悟った。

 ああ、これ負けたな。

なぜなら矢を飛ばす矢道のすぐ横が観戦席になっているからだ。つまり必然的にチア姿のヨハネが視界に入ってくるからだ。

 無理だろこれ!全然集中できない!

 

そして、試合結果は・・・

僕は0中、藤崎は4中。

合計は

僕が5中、藤崎は9中。

 

「ちょっと、シェリアス!何負けてんのよ!」

「いや、今回は君にも責任があると思うが・・・。」

「どうして私に責任があるのよ!」

「それは・・・。とりあえず先に着替えてこい!」

「いやー、惜しかったね。でもこれで、弓道部への入部を最優先に考えてくれるよね。」

「くっ、藤崎、君というやつは。」

 

なんだか今回の部活動見学自体こいつらにはめられた気がするな。あれ?そういえば、部活動見学を進めてきたのって、前田先生だったな。ということは、先生も含めて、こいつらにはめられたってことか。

 

「君たち黒いな。」

「え?どういうことかわからないな。」

 

こいつ、魔王や堕天使よりも黒いな。

 

「ちょっと、どうなってるのよ?」

 

チア服を着替えたヨハネが聞いてきた。正直さっきまでの服では目のやり場に困ったからこっち方が助かる。まあ、さっきの服も悪くはなかったが、制服のほうが僕は好きだな。

 

「ヨハネ、どうやら僕たちは巨大な陰謀に巻き込まれたようだ。」

「なっ?巨大な陰謀ですって?!まさか、このヨハネを付け狙う闇の支配者が・・・」

「君も闇の仲間だろうが。」

「二人とも、その話は置いといて、とりあえずこれ、入部届渡しとくよ。」

「なあ、藤崎君。1つ聞いていいかな?」

「何?」

「今日のことは君が仕組んだことだったのか?」

「さあ?どうだろうね。」

「お前黒いな。」

「ひどいな。策士だと言ってくれ。」

「はあ・・。まあいい、入部するよ。ヨハネもいいよな。」

「しかたないわね。このことも運命の導きだと言うなら受け入れるわ。」

 

その後、僕たちは弓道部に入部した。

 

 

 




 もし実際に弓道をやる場合はしっかりと準備運動や素引き、巻き藁撃ちと段階を踏んでから行ってください。怪我しますよ。

目標は「つれずれなるままに」
これからも読んでいただけたら幸いです。


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堕天使と魔王と休日Ⅰ

 今日は僕が沼津に来てから初めての休日だ。沼津に来てからというもの色々なことがあった。堕天使や腹黒委員長など個性豊かな友達ができた。そしてこっちでは僕は完璧超人の津々宮修斗として生きている。そんな津々宮修斗の一番最初の記念すべき休日は、昨日届いた1本のメールによってつぶされた。そのメールはうちのクラスの委員長、藤崎からだった。そのメールの内容は、

『昨日ラノベ部と漫研の見学に行ったとき、今度津々宮君達をモデルにした作品を作るって決めたんだけど、部長たちが二人の取材をしたいって言ってるから、もし明日暇だったら、お昼から津島さんと、二人っきりでお出かけしてほしい。津島さんはOKだって。僕らは邪魔にならないくらいのところから見ているから。』との内容だった。断りたかったが彼の後ろにあのめんどくさそうな先輩たちが待ち構えているので断るに断れなかった。ヨハネも多分同じような理由で了解したのだろう。しかし、休日に出かけるとなると、魔王の呪いが出る気がするな。心配だ。

 そして翌日、予想通りの雨だった。やれやれ、こっちでもか。ヨハネとの待ち合わせ場所に着いたはいいものの、着いた瞬間に雨が降り出した。大事な時に限って雨が降る、これが魔王の呪いだ。他のもいろいろな効果があるがそれは後程。

 

「やれやれ、魔王の名前は封印しても魔王の呪いは健在か。」

 

つい口に出してしまった。しかしほぼ同じタイミング、すぐ隣から同じような内容が聞こえてきた。

 

「まったく、こんな時にも雨だなんて。本当にヨハネって堕天使なんだから。」

 

「「えっ?」」

 

そこには今日の待ち合わせの相手、ヨハネが立っていた。

 

「おはよう、ヨハネ。」

「お、おはよう、シェリアス。」

 

今日の彼女の服装は、白いTシャツに黒のパーカーだった。対して僕は白いYシャツに黒のパーカーと、ペアルックで二人とも黒がベースの服装だった。中二病は黒色を好むのだろうか。

 

「あなたさっき、魔王の呪いって言ってたけど、なんなの?」

「ん?あ、あれは僕の生まれつきの能力で、今日みたいに特別な日には確実と言っていいほどに高確率で雨が降るんだ。これが魔王の呪いだよ。その他いろいろな効果がある。」

「フフッ。そんなところまで私に似てるのね。」

「その言い方だと、君も同じような力を持っているようだな。」

「ええ。私も今まで同じような目にあってきたわ。」

「お互い苦労してきたんだな。」

「そうみたいね。」

「さて、そろそろ、行くか。」

「行くってどこへ?」

「どこって、これってデートみたいなもんだろ。だったらヨハネが行きたいところがあれば、どこでも行くよ。」

「で、デート!?」

「みたいなものだろう。付き合ってないんだし。」

「そ、そうよね・・。」

「まあ、きっと今もどこかであいつらが僕らを見ているんじゃないのか。どうせ先輩たちのネタになるのだったら、今日だけ限定で付き合ってもいいけど。」

「ええ?!」

 

なんでこんなに動揺してるんだ。心なしかヨハネの顔の赤い。まあ、そうか。こんなイケメンと街中で仮にでもデートみたいなことをするなんて、普段から中二病をしている彼女からしたら難しすぎたか。まあちょっと前まで僕も同じような状態だったからわからなくもない。

 

「さて、本題に戻るけどヨハネはどこか行きたいところある?」

「ええ?!そ、そうね。それじゃあカフェに行きましょう。前々から前の学校でのあなたの話が聞きたかったの?」

「前の学校の話か。まあ、君にならいいか。いちようカフェの場所とかも調べてるけど、君の方が詳しいかな?」

「知らなくもないけど・・・。今日はあなたが私をエスコートしてちょうだい。」

「了解。」

 

僕たちは雨の中、目的のカフェへと向かうことにした。待ち合わせ場所から目的のカフェまではそう遠くない場所にあった。十分歩いていける距離だったので、傘をさして歩いていくことにした。それから数分歩いているとヨハネが口を開いた。

 

「ねえ、シェリアス。」

「ん、何?」

「今から行くカフェってどんなところなの?」

「たしか、スイーツが多かったな。今は、イチゴともう一つ何かキャンペーンしていた気がするな。」

「イチゴ!?」

「う、うん。もしかして、イチゴ苦手だった?」

「いえ、そんなことないわよ。むしろ逆ね。」

「そうならよかった。」

「フフ、このヨハネの心の見抜くなんて、さすがは魔王ね。」

「元、魔王な。」

「いいえ、ヨハネの魔眼はごまかせれないわよ。きっとあなたの中で、今も魔王は生きているわ。」

「・・・そんなものなのかな。」

 

僕の中でまだ生きている、か。確かにそうかもしれないな。今もまだ気を抜くと中二病発言がでてきてしまう。フッ、魔王が封印を破ろうとしているのか。やはり、魔王シェリアスは外に出たがっているのか。もしかしたら、押さえつけられることで今まで以上に力がでてきているのか。それとも、彼女との出会いが原因だろうか。堕天使ヨハネとしての自分を押さえつけることなく、外に出している彼女が僕に影響を与えれているのか。僕は彼女に憧れているのか。僕は完璧な人間としてではなく、素の自分として生きろというのか。そんなはずない。僕はヨハネとは違う。

 

「どうしたの、シェリアス。難しい顔をして、何か考え事?」

「え?いや、何でもない。」

「そう?」

 

出会ったときから思っていたことだが、彼女の勘は鋭いな。本当にすべてを見通す目でも持っているのではないだろうか?

 そうこうしているうちに目的のカフェに着いた。内装は白い壁で明るい雰囲気だった。今日は偶然客が少ないようだ。

 

「思ったよりも、空いてるな。」

「好都合じゃない。」

「まあ、そうか。」

 

僕たちは窓際の席に座った。しばらくすると店員の人がメニューを持ってきた。メニューは色とりどりのパフェや様々なドリンクが並んでいた。今までの僕では来れないような店だなと、内心思っていた。

一方ヨハネは目を輝かせてメニューに見入っていた。多分ページから察するにシーズン限定パフェのページを見ているのだろう。甘いものを前にすると、普段は中二病全開の彼女も一人の少女に戻っているようだ。普段からそんな天使のような顔をしていれば、彼女もモテているんだろうな。

しかし彼女にも僕が転校してきてからたった噂のせいで迷惑をかけてしまった。何かお詫びをしなくては。

 

「ヨハネ、今日は僕がおごるから好きな物を頼んでいいよ。」

「本当?・・何か企んでる?」

「何も企んでないよ。ただ、君には色々と迷惑をかけたから、何かお詫びをしたいなと思って。」

「フフ、さすがは私のリトルデーモンね。それじゃあ、お言葉に甘えて。何にしようかしら。」

 

そう言ってヨハネは再びメニューに目を戻した。僕も何を注文するか決めるか。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「私は、チョコカフェラテとストロベリーケーキで。」

「僕はキャラメルフラペチーノとケーキは同じものを。」

「かしこまりました。」

 

そういうと、店員の人はメニューを持って行った。しばらくしてヨハネが口を開いた。

 

「さて、メニューも注文したし、そろそろ前の学校でのあなたの話を聞かせてもらおうかしら?」

「ふう。ついにこの時が来たか。正直あまり話したくないんだが・・・。」

「フッ、ヨハネとの契約は絶対よ。さあ、話しなさい、リトルデーモン。」

「はあ・・。どこから話そうか。」

「そうね。あなたの、シェリアスの誕生から話してちょうだい。」

「魔王の誕生、か。いつ頃からだったかな。あんまりよく覚えてないけど、原点は幼稚園ぐらいからかな。確かその時くらいには、自分はほかの人間とは違うって考えてたからな。そのあと色々あってシェリアスっていう名前が付いた。」

「結構前なのね。」

「お恥ずかしい。幼稚園の頃は、『ぼくは、あくまの王さまなんだ!』とか言ってたな。」

「フフッ。かわいいところもあったのね。」

「かわいいとか言われてもそんなに嬉しくないのだが・・・。そういうヨハネの原点はどうなんだ?」

「えっ、私?!」

 

動揺してるな。自分にも僕の過去に負けず劣らずの過去があるのだろう。少し詮索してみるか。素直に気になるし反応が面白い。彼女は中二病なのに表情が顔に出やすい。笑ったり怒ったり見ていて飽きないな。

 

「で、どうなんだ?ヨハネの誕生は?」

「・・・私も初めは幼稚園くらいだったかしら。『わたし、ほんとうは天使なの!』とか言ってたわね。」

「ロリヨハネの今とさほど大差なし、か。」

「何よ!あなただってそうだったんでしょ!」

「まあ、そうなんだけど。」

「ほんと、私たち似てるわね。」

「・・・そうだね。」

 

僕たちが似てるか。似ているといえば似ているのだろう。ただ、似てると言われるほど複雑な気持ちになる。きっと僕の中には、外に出たがっている魔王がいる。堕天使の自分と真正面から向き合っている彼女を見ていると、僕の中に眠る魔王が疼いてしまう。もっと彼女のように正面から自分と向き合え。真の自分をさらけ出せ。本当の自分はそんなものではない、と。自分の中にもう一人の自分がいるというのは複雑な気分だ。彼女といるといつも以上に考え事をしてしますのか。それは彼女が僕の中の僕が求める本当の姿だからか、自分の消し去りたい過去に似ているからだろうか。いずれにせよ、この感情にはいつかけじめをつけなくては。

そうこうしているうちに店員の人が注文していた品を持ってきた。

 

「お待たせ致しました。チョコカフェラテとキャラメルフラペチーノ、こちらがストロベリーケーキ、それとキャンペーンのバーナームショコラストロベリーパフェでございます。」

「あの、キャンペーンって、何のキャンペーンですか?」

「はい。ただいま当店ではカップルキャンペーンを実施しています。男女二人でご来店になられたお客様にはサービスでパフェをタダでご提供させていただいています。」

「・・・そうなんですか。ありがとうございます。」

「では、ごゆっくりどうぞ。」

 

そんなキャンペーンをしていたのか。そういえば書いてあったな。あまり目を通さなかったけど、こんなパフェが出てくるのか。それにしてもさっきからヨハネが静かすぎるな。

 

「・・・・」

「ヨハネどうしたの?顔赤いよ。」

「だ、だって、そのパフェは・・・か、かか、カップルのためのパフェでしょう。なのにどうして受け取ったのよ?それじゃあまるで、私たちが・・・つ、付き合ってるみたいじゃない!」

「まあまあ、受け取れるものは受け取っとこうよ。ヨハネ、イチゴ好きだろ。」

「確かに好きだけど・・・。」

「じゃあ問題ないじゃん。」

「で、でもこれを食べると私たちはカップルだって認めるようなものよ。あなたはいいの?」

「うーん。君とならいいかな。いや、君だからこそいいんだ。」

「ええ!?え、え?っ、うう・・・。」

「なんてね、ときめいたいした?」

「へ?」

「わざとだよ、わざと。演技だよ。」

「・・・・っもう!人の心で遊ぶな!性格悪いわよ。」

「あはは、ゴメンゴメン。おもしろくてつい。」

 

本当に表情がころころ変わるな。中二病ならもっとポーカーフェイスでいるべきなのに。まあ、彼女はそこがいいのだがな。もしも彼女が表情を変えなかったら違和感があるだろうな。いや、無表情の彼女は彼女でちょっと見てみたいな。クーデレだったらさらに面白い。

 

「もう!これからは、ヨハネで遊ばないで。」

「はいはい。まあ食べようよ。パフェがとけるよ。」

「まったく、誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ。」

「あはは、ゴメンゴメン。・・・・・まあ、あながち嘘でもないんだけどな。」

「何か言った?」

「いや何も。」

 

ケーキにも手を付けていないのに、一波乱起きてしまった。今日一日、僕の体は持つのだろうか。

 食べ終えてからしばらく、現在の時刻は16時か。まだ時間があるな。

 

「ヨハネ。この後どこか行きたいところはある?」

「そうね。デパートに行きたいかしら?」

「デパートか。いいよ行こう。」

 

次に僕たちはデパートに行くことになった。

カフェの代金が4000円近くになったがそれはまた別の話。

 

 

 




今回の回は何が難しかったて、メニューの名前を考えることですかね。


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堕天使と魔王と休日Ⅱ

現在16時10分、さっきまでいたカフェからヨハネの案内の元、近くのデパートに向かっていた。彼女曰く、ここから目的のデパートまではさほど遠くない距離らしい。大体徒歩10分だとか。そのくらいなら大した距離ではないが、魔王の呪いの効果は健在でいまだに雨は降っていた。しかもさっきより少し強くなってないか。もしかして横の堕天使が持っている呪いと僕の呪いが合わさって力が増幅しているのか。

 

「ねえ、雨、さっきより強くなってない?」

「なってるな。」

「もしかして雨が強くなった原因って私たちの力だったりしないかしら。」

「奇遇だね。僕も同じことを考えていたよ。」

 

まったく、思考まで僕たちは似ているのか。正直僕たちが兄妹なんじゃないかとも思えてきたよ。さすがにそれはないだろうが、テレパシーとかで会話できるのではないだろうか。そんなわけないか。

 

「私たちここまで考えが似てたらテレパシーとか使えるようになるんじゃないかしら?」

「ええ?!」

「ど、どうしたのよ?」

「すまない。実は同じことを考えてた。」

「・・・何か見えない力が働いてるんじゃないかしら。」

「僕もそんな気がしてきた。」

 

目には見えない力で繋がっているのだろうか。まさか、運命の赤い糸、とかじゃないよな。よ、ヨハネと運命で結ばれているだと。・・・もう考えるのはやめよう。

 

「ヨハネ、あと何分くらいで目的のデパートに着くんだ?」

「大体3分くらいよ。そこの角を曲がればもう見えるはずだけど。」

「ほんとだ。こんなところにあったのか。知らなかった。」

「そんなことも知らなかったの?何年暮らしてるのよ。」

「1週間だよ。」

「あら?なんだかずっと前から知り合っているような気がしたからつい。」

「まあ、僕もそんな気がしなくなないくらい君とは意思疎通できているからな。」

「そういえば、うちの親が昔あなたの親と知り合いだったって言ってたわよ。」

「へーそうなんだ。うちの親はあんまり家に帰ってこないから聞いたことなかったな。」

 

うちの親は二人とも働いている。だからかあまり家に帰ってくることはない。普段は全然帰ってこないくせに僕の授業参観や音楽会には必ず参加する。相手は僕のことを知っているのに、僕は親のことをあまり知らない。うちの親を一言で表すと、気まぐれとしか言いようがない。まあ、いずれうちの親の話はしよう。

 デパートの前に着いたとき、ヨハネが話しかけてきた。

 

「シェリアス、あなた引っ越してきて1週間なら家具とかも少ないんじゃない?」

「あー確かに。調理器具とかちょと少ないかもな。」

「でしょ。ついでに見ていったら?」

「いいの。ヨハネはどこか行きたいところがあったんじゃ・・」

「私の用事は後ででいいわよ。感謝しなさい、リトルデーモン。」

「はいはい、ありがとなヨハネ。」

 

ちょうど家具が家に少なくて困っていたし、ヨハネの感謝しなくてはな。

まず僕たちは調理器具を見に行った。僕の目的は新しい包丁の入手だ。自分で料理をするときに自分用の包丁を使うのだが、引っ越しの時に古くなっていたので捨ててしまった。

 

「うーん。自分になじみそうなのがなかなかないな。」

「何を探してるの?」

「包丁。今家には出刃包丁とパン切りしかないんだ。できれば柳刃が欲しいんだけど、ここにあるのは大体、牛刀や鎌型が多くて。欲を言えば薄刃とか骨スキも欲しいな。まあ、切れ味が良ければ特に問題はないんだけど。」

「・・・やけに詳しいのね。」

「フフ、魔王が使う装備品だからな、ありとあらゆる刃物について調べてたのさ。というのと趣味。」

「へー。さすが魔王様ね。」

「・・それは誉め言葉なのか?」

 

結局、いいのが特に見つからなかった。そのうちネットで頼むか。まあ、刃が僕を選ばなかった、ということにしておこう。こういうものには、とことんこだわる僕だった。

次に僕たちは家具コーナーへ向かった。特に欲しいものがあるわけではなかったが、こういうところに来ると何となく来てしまう。特に買うわけでもないのになぜ来てしまうのだろうか。人というのは不思議な生き物だ。かく言う堕天使サマも今、クッションに埋もれている。

 

「くっ、この堕天使をも魅了するなんて、なんて恐ろしい魔道具なの。」

「ほんとだ。骨抜きって感じだな。」

「何よ。それだけ言うならあなたも座ってみなさいよ。」

「罠に自分から突っ込むほど僕は愚かではないよ。」

「その言い方だと私が自分から罠に突っ込んだバカみたいじゃない。」

「おや、違ったのか。」

「違うわよ!」

 

さっきまで力が抜けていたのに、一気に元気になったな。必死になって否定してきた。そこまで馬鹿にされたのが気に食わなかったのか。

 

「まあ、その人をダメにするクッションの恐ろしさはわかってるよ。こっちに来る前の家にあったからな。」

「そうなの?」

「ああ。夏休みにクーラーのある部屋でそれに座ってると半月くらい引きこもっていたな。」

「凄いわね。」

「それくらい恐ろしい道具なのさ、こいつは。」

 

過去こいつのおかげで夏休みがほとんど奪われてしまったからな、引っ越しの際に捨てた。あの魔道具には二度と座らないと決めたんだ。また時を奪われてしまう。

 

「さて、これで僕の見たい場所は大体行ったたかな。それで、ヨハネはどこに行きたいの?」

「ここの5階にあるお店なんだけど・・。」

「オッケー。行こうか。」

 

僕たちが向かった5階の店は、堕天使の館と言う黒魔術などの道具が並べられていた。こういった店は昔何度か言ったことがあったな。行くたびに魔王関連の道具や黒魔術に使うアイテムを買いあさったものだ。懐かしい懐かしい。引っ越しをしたときに黒魔術関連の店には二度とこないと思ったんだがな。まさかもう一度、しかも別の地方の店にくるとは。

 

「ところで、ヨハネさん。なぜ僕をここに?」

「え?あなたもこういう店探してたのでしょ?」

「・・・なんでそう思ったのか理由を聞かせてもらおうか。」

「なんでって、あなたがもう一度こちら側に再臨したら、また装備品を集める必要があるでしょ。その時のためにこのヨハネ様が直々に教えてあげたのだから、感謝することね。」

「・・・つまり、僕がまた魔王となった際に必要な装備品を集める手段を教えてくれた、と。」

「そうよ。」

「また僕がダークサイドに堕ちると思っているのか。フッ、残念だったな。魔王は二度と降臨しない。僕が張った結界は絶対的なものだからな。貴様ごときの堕天使には解けないだろうな。」

「・・・気付いてないの?あなた、ここ最近魔王発言が増えてるわよ。」

「なんだと?!」

「自覚なかったのね。柔い結界だこと。」

「くっ・・・。」

 

そんな、まさか自分が気付かないうちに出てきているのか。フッさすがは魔王シェリアスだ。そう簡単に封印はできないということか。それとも彼女の力が思ったより強かったのか。まあいい、どちらにせよもう一度封印すればいいだけのことだ。あれ?この発言自体中二病じゃないのか。もう訳が分からない。混乱してきたな。もう考えないようにしよう。気晴らしに店内を見て回るか。ヨハネに至ってはすでに見て回っている。さて僕はどこを見て回ろうか。こっちの店は僕が前に通っていた店より品ぞろえがいいな。

 

「黒龍の紋章・・邪神の禁書・・女神の羽衣・・白銀の双剣・・亜人の涙・・漆黒の銃弾・・魔水晶の頭蓋骨、か。色々あるな。黒曜石の白衣?白いのか黒いのかはっきりしろよ。」

 

特に当てもなくさまよっていたら、一つの品が目に入った。

 

「ん?これは・・・。」

 

店の前で待っていると、しばらくしてヨハネが出てきた。

 

「お待たせ、シェリアス。」

「何を買ったんだ、ヨハネ。」

「フフ、我がサバトにて使用する道具たちよ。」

「そうですか・・。あ、そうだ。君に渡すものがある。」

「何よいきなり。」

「さっき買ったんだけど。これ、黒四葉の髪飾り。運が上がるって書いてあったから。僕も黒四葉の髪留めっていうのを買ったんだ。僕たちが持ってる呪いに効果があるかはわからないけど。」

 

そう言って僕は彼女の髪に髪飾りを付けた。

 

「似合ってるよ。」

「あ、ありがとう。」

 

心なしか彼女の顔が赤いな。まあいいか。

この時、偶然か必然かわからないが今まで降っていた雨が止んだ。それは奇跡のような出来事だった。ほんの少しの時間だけ、雨が止んだのだ。またしばらくすると降り始めたが、このほんの少しの時間だけは、今まで二人をあざ笑うかのように降り続けていた雨が、二人のことを祝福してくれているようだった。

しかし室内にいた二人はそのことに気づかなかった。

 こうして僕たちのデート(仮)は終わりを迎えた。僕たちは最初の集合場所に戻った。

 

「今日はありがとう。」

「楽しめたならよかったよ。まあ、先輩たちのネタの為の一日だと思うと癪だけど。」

「確かにそうね。」

「それじゃあまた明日、学校で。」

「ええ、また明日。」

 

 

そして後日

 

「おはよー、津々宮君、津島さん。」

「おはよう藤崎君。」

「あれ?津島さんその髪飾りどうしたの?」

「えっ?!こ、これは貰ったのよ・・・」

 

ヨハネ、その髪飾りつけてくれたんだ。なんか嬉しいな。ん?あれおかしいぞ。

 

「なあ、藤崎君。昨日は君も先輩たちと一緒に来ていたんじゃないのか?」

「え?昨日は先輩たちに用事が出来てなくなったはずだよ。それなのに二人でデートしたの?仲いいね。」

「・・・藤崎君。そのことは僕たちに伝えた?」

「伝えてなかったっけ?」

「・・・伝える気はあったのか?」

「さあ?どうだろね。」

「ほんと、黒いな。」

「なんのことだか?」

 

今回もやっぱりこいつが裏で手を引いていたのか。腹立たしいな。いつか制裁をくらわさないと。まあ、それなりに楽しかったから今回は大目に見てやろう。

 

「それより二人とも。今日から部活始めるから、放課後は弓道場にきてね。」




漆黒の銃弾、黒四葉、ほぼ無意識で書いていました。実際に有名な作品のことを意識したわけではありません。ホントですよ。


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堕天使と魔王と弓道

気付いたらUAが1000を超えていました。ありがとうございます!


今日の放課後僕とヨハネは初めて弓道部の部活に参加する。先週は部活見学のときに僕は藤崎と弓道の的中数対決をして、僕が負けた。しかしあれは仕方ない、仕方なかったんだ。なぜって、的を狙うときにチア姿のヨハネが視界に入っていたからさ。無駄に露出があって、彼女の白い肌があらわになっていた。あんな彼女が視界に入ってきて、集中しろなんて無謀だな。あーあ、チア姿のヨハネ、写真撮っときたかったな。そんなわけで、僕は勝負に負けて弓道部に入部することになった。まあ、今までの暑苦しい運動部や、天才か変態が多い文化部とは違って平和そうだから少し気が楽だな。それはヨハネも同じだろう。横で一緒に弓道場に向かっている彼女の表情は緊張で強張っているわけでもなく、いつも通りのようだ。こういうときにも平然としていられるなんて、うらやましいよ。

僕たちはしばらく歩いて、今は弓道場の前にいる。そこには藤崎が待っていた。

 

「ようこそ、弓道部へ。歓迎するよ。」

 

笑みを浮かべてこちら側を見ているのは、うちのクラスの委員長の藤崎元。僕は先週こいつに負けた。

 

「たまに君の笑みが黒く見えるよ。」

「私もよ。委員長、あなたは堕天使や魔王よりも黒いわよ。」

「ひどいな、二人とも。」

 

こいつは最初から何を考えているのか全然読めなかった。もしかしたらこれからも僕たちはこいつに遊ばれるのかもしれないな。常に警戒しなくては。

 

「さて、これからうちの部活を二人を案内していくよ。まず二人には自分の弓と矢を選んでもらうよ。」

「ククク、つまり自分専用の武器を選ぶのね。下界には堕天使ヨハネにふさわしい武器は存在するのかしら。」

「ふさわしいかどうかは置いといて、今は自分の筋力で引ける弓にした方がいいんだよな。」

「よく知ってるね、津々宮君。」

「まあ一様これからは弓道部員だから色々と知ら出てきたんだ。」

「意外と真面目なのね。」

「意外は余計だ。」

 

僕たちは藤崎に連れられて弓道場の横にある専用倉庫に向かった。倉庫の中には弓や矢、予備の的から練習用の巻き藁まで色々な物が置かれていた。僕たちは弓置き場へと向かった。

 

「二人とも、ここら辺の弓の中から自分用の弓を決めて。決めるときに一度試しで引いてみるのがいいかもしれないよ。」

「りょーかい。」

「わかったわ。」

 

 さてどの弓がいいか。色だけで言えば黒がいいのだがな。ここら辺の弓は10キロか。一回引いてみるか。僕は目の前の弓を引いてみた。弓を左手で握り、弦を右手で引いた。うーん。少し軽いかな。もう少し重くしてみるか。14キロを引いてみるか。・・・ちょっと重いかな。10キロから14キロの間くらいか。次は13キロあたりを引いてみるか。うーんまだちょっと違和感があるな。他のも引いてみるか。

次々に弓を引いて自分合う弓を探している、修斗をヨハネは不思議そうに見つめていた。

 昨日もデパートに行った時にも思ったけど、シェリアスって結構凝り性なのかしら。包丁を選ぶときにもすごく悩んでたし。意外な一面を見たってことなのかしら。さて、私も自分の弓を選ばなくちゃ。

そう思ったヨハネは弓置き場に目をやった。しかし彼女は、修斗と違い一瞬で自分の弓を決めた。

な、何この黒い弓?。カッコいい。とりあえず引いてみようかしら。・・・丁度いい。これにしましょう。シェリアスとは違ってすぐに決まったわね。フフ、この弓が私を選んだ、ということかしら。これからはあなたをヨハネの専用魔道具にしてあげるわ。そうね、名前を決めてあげなくちゃ。どうしようかしら?

各々が自分の弓を選び終えたところで、自分の弓を持って一度入り口に戻ってきた。

 

「二人とも、自分の弓は決まった?」

「ああ、僕はこの11キロにするよ。」

「フフ、私はこの黒の魔狩人、『ダークイエーガー』にするわ。」

「ダークイエーガー?何それ?」

「この弓の名前よ。」

「「・・・」」

 

そりゃあ黙るよな。弓に中二病な名前を付ける奴なんて、彼女くらいだろうな。しかも弓の握るところが黒いからダークっていうところはわかるのだが。なぜ魔狩人なんだ。理解できない。いや理解してはいけないのだろう。深く考えずにただかっこよければいい、それが中二病なのだから。過去に同じようなことをしているからこそわかってしまうのかもしれないな。

 

「ま、まあ。弓に名前をつけて愛着がわいて、弓を大事にしてくれるなら部としてはありがたいかな。」

「そうだな。あんな名前をつけたくらいだから大事にするだろう。」

「もちろんよ。天界魔界条例に誓うわ。」

「天界魔界条例って何?」

 

今日のヨハネはなんだかテンションが高いな。いつもより中二病発言が多い気がする。何かいいことでもあったのか。

 

「それよりシェリアス。あなたは弓に名前を付けないの?」

「ええっ?僕もつけるの?」

「それいいじゃん。津々宮君もつけなよ。」

「ええ?うーん、そうだな。じゃあこの弓の握る部分に紅葉が書かれてるし、弓が黒いから、『黒紅葉』でいいかな。」

「・・・津々宮君も結構中二病だったりする?」

「?!そんなわけないだろ!ヨハネにあわしたんだよ。」

「そうなんだ。」

 

危ない危ない。危うくバレるところだった。

 

「黒紅葉、いい名前じゃないシェリアス。」

「それはどうも。」

 

成り行きで僕も自分の弓に名前を付けてしまった。こんな名前をつけると変な誤解を生みそうだな。とりあえずフルネームは黒紅葉にして、普段は紅葉と呼ぶようにしよう。何だか日本刀みたいになったな。

 

「シェリアス、あなたは名前は和風派なのね。」

「そういう君は英語派なのか。」

「まあまあ、二人とも。名前も決まったなら次行くよ。」

 

弓を持ったまま僕らは弓道場へ向かった。

 

「次に二人には弓道での打ち方を覚えてもらうよ。」

「何か特別な決まりがあるの?」

「うん。まあ礼儀みたいなものがあるんだ。」

「たしか射法八節だっけ?」

「そう。今からその射法八節について説明していくよ。」

 

そういうと藤崎は弓を左手に、弦を右手に持って僕らの方を向いた。

 

「それじゃあ射法八節について説明します。長くなると思うから興味がない方はとばしてもらって構いません。」

 

そう言いながら藤崎は何もない空間を見つめる。

 

「何言ってるんだよ。というかどこ見てんだよ。」

「フフ、何もない空間だからこそ何かがあるかもしれないわね。私たちでは理解できない何かが。」

「君も何を言っているんだ。」

 

(本当に長くなるので、とばして読んでもらっても構いません。興味のある方は是非どうぞ。)

 

「それじゃあ改めて説明を始めるよ。

まず射法八節の一つ目、足踏み。足踏みは弓を射る場所、射位っていうんだけどその射位で行う動作のことです。最初に弓を左手に持って、矢を右手にもってそれぞれを腰に当てた状態、この執り弓の姿勢から始めて、執り弓の姿勢から右手方向にある的に向けて、左足を半歩左に、右足を半歩右に開く。この時、足は扇を描くような軌道を意識して開いて。開く場所は的から見て延長線上に開くようにすること。

2つ目は胴造りと言って、さっき開いた足の上に状態を安静させる動作のことを言って、今持ってる弓の下の方を左の膝に置いて、弓を真正面にする。右手は右腰のあたりに置いておく。背筋をしっかりと伸ばすことがコツ。

3つ目は弓構え。矢を引く前に行う動作のことを指すんだけどちょっと専門用語が多いよ。まず取懸けという動作で弦に矢とつけて、次に手の内という動作で弦に矢をつけた場所を持つ右手を整える。次に物見という動作で一度的を見る。ここまでが弓構えだよ。

4つ目は打起しという動作で、打起しでは弓を上にあげる動作のことを言います。ここは流派によって違いがあるんだけど。うちでは正面打起しと言う方をします。正面打起しは名前の通り、弓を真正面に、垂直に持ち上げます。この時顔は的の方を向いておくように。

5つ目が引分けと言って、さっきの打起しをした位置から弓を的方向に押して弦を的とは反対方向に引いて、両手を左右に開きながら起こす動作のこと。この時弓を的方向に押した動作を大三と言いいます。

6つ目を会と言います。会はさっきの引分けが完成され、矢が的を狙っている状態を言います。矢で的を狙っているときに大事なことがあって、一つを頬付けと言って矢を右頬に軽く添えること。もう一つは口割りといって、ちょうど唇の高さに矢を添えること。会では主にこの二つを意識して。あと、会はゲームとかで言うチャージではなくて、あくまでも精神を落ち着かせる動作だから、変に力を入れないこと。

7つ目を離れと言い、矢を放った時の動作のことを指します。この時右手は的とは反対方向にしっかりと伸ばすこと。離れの時は右手の力を抜くと自然と離れるから、あまり変なところに力を入れないこと。怪我するから。それと右手伸ばすまでの通る道みたいなのがあって、横向きに右手を伸ばしてから反対方向に伸ばすんじゃなくて、会から離れになるときに肘はそのまま、向きを変えずに伸ばしてね。

次が最後、残心。残身とも言います。残心は矢が放たれた後の姿勢のことを言って、離れの姿勢を数秒保つこと。この時に心身ともに落ち着かせること。

これが弓道の基本の射法八節だよ。どう、覚えた?」

 

そういって藤崎は僕たち二人の方を向いた。

 

「う、うーん。」

「ま、まあ多分ね。」

 

僕もヨハネも返事に力がない。藤崎が説明中の僕たちの心境はこんな感じだった。

 シェリアス

「こいつ何時までベラベラ説明してるんだ。もう内容が頭に入ってこないのだが。あー、混乱してきた。もう藤崎が話している内容が理解できないのだが。もう呪文みたいじゃないか。貴様、元魔王相手に呪文とは、いい度胸じゃないか。しかし残念だったな。僕の脳にその呪文の内容が入ってこないのだ。そう僕が魔王がから内容が入ってこないんだ。じゃあ仕方ないな。あーあ早くこの話終わらないかな。」

 ヨハネ

「何この話?全然頭に入ってこないんだけど。何をいってるのか全く理解できないわね。もしかしてこれは、異世界の言葉かしら?いや、日本語ね。だとしたら呪文かしら。きっとそうね。だから頭に入ってこないんだわ。フフッ、愚かね。ヨハネは闇の住人。闇の世界に住むものに呪文は効果がないのよ。フフフ、残念だったわね。呪文ならヨハネの脳内に内容が入ってこなくても当然だもの。仕方ないわ。はあ、早くこの話終わらないかしら。」

 

「二人とも、ちゃんと説明聞いてた?」

「え?あ、うん。」

「まあ、最初の方は。」

 

二人の答えを聞いて藤崎は大きなため息をついた。

 

「しょうがないな。じゃあもう一度最初から説明するよ。まず射法八節の一つ目、足踏みからもう一度。足踏みは・・・・」

「「まだやるの?!」」

 

それから1時間ほど時間が過ぎ、やっと藤崎による射法八節の説明は終わりを迎えた。おかげでみっちりと教え込まれたよ。僕らにとってはとても長い1時間だった。

 

「二人ともちゃんと覚えた?」

「これだけ長くやれば覚えるわよ。足踏み、胴造り、弓構え、打起し。」

「引分け、会、離れ、残心。まさかここまで時間がかかるとは思わなかったよ。途中から細かいところの説明を足していくし。」

「あはは、ゴメンゴメン。でも確かにちょっと時間のかけすぎたね。もう部活終了の時間だ。それじゃあ今日は片付けようか。」

「やっと、終わった。」

「自由への翼の呪いが解けたわね。」

「二人ともお疲れ。」

 

弓道部の部員はそれぞれ片付けに取り掛かった。あるものは的を外し、またある者は弓を片付けに行った。僕たち3人は弓を倉庫ではなく、弓道場の控えにある弓立てに弓を直しに行った。

 

「二人ともここに弓を直すようにしてね。他の人の弓も立ててあるから次に取るときは自分の弓を間違えないように注意するように。」

「わかった。」

「フフ、このヨハネが自分の魔道具を間違えるわけないじゃない。」

「振りにしか聞こえないのだが。」

「何よ!絶対に間違えないから!」

 

弓立てには名前シールは張ってあり、そこには僕とヨハネの名前も並んでいた。ヨハネが先に弓立てに弓を立てて、戻るのを見送ってから、自分の弓を立てた。

 

「これからよろしくな。黒紅葉。」

 

僕は誰もいない控室でその一言をつぶやくとそそくさと二人の元に戻った。この後、他の道具の片づけを終えて、軽く部活のミーティングを終え解散した。僕とヨハネは変える方向が途中まで同じなので、分かれ道まで一緒に帰ることにした。

 

「はあ、疲れるわね。これがこれから毎日続くのかしら。」

「確かに疲れたな。でも原因は藤崎の説明にあったと思うから説明がなかったらもう少し楽なんじゃないかな。」

「そうかもしれないわね。」

「そういえば、ヨハネ。その髪飾り付けてくれたんだ。」

「えっ?!い、いきなり何よ?」

「いや、付けてくれてたのが、ちょっと嬉しくて。」

「そ。そうなの?」

「ああ、よくわからないけど嬉しいよ。似合ってるし。」

 

そういってヨハネの方を見ると、彼女は少し頬を赤くして俯いていた。なぜ、頬が赤いのだろう。弓道の練習で腫れたのだろうか。それとも・・・褒められて照れてる?そう考えるとなぜか急に胸の奥の方が締め付けられるような感覚が生まれた。なんなんだこの感情は?いままで体験したことのない感覚だ。それもなぜ彼女に向けてなのだろう。謎だな。

そんなことを考えてるとヨハネが口を開けた。

 

「フ、フフ。さすがヨハネね。魔王をも魅了してしまうなんて。自分の美貌が恐ろしいわ。」

「照れ隠し?」

「違うわよ!」

 

そんなやり取りをしながら下校していると、気が付くと目的の分かれ道に着いた。

 

「それじゃあここで解散かな。」

「そうね。」

「それじゃあ。」

「ええ、また明日。」

 

ヨハネと別れた後、僕は家への帰路の間、さっきヨハネを見た時に起きた感情について考えていた。

なんだったんだあの気分は。不思議なものだな。まあこんな時は自分の部屋のベットに寝転がり考えるのが一番だ。さてそろそろ家に着くな。鍵はどこに入れたかな。ポケットの中を探りながら角を曲がると、自分の家の前に車が止まっていることに気が付いた。それもただも車ではない。トラックだ。それも引っ越し業者のトラック。不思議に思いながら家の前に行くと、一人の作業員が話しかけてきた。

 

「もしかして津々宮修斗君ですか?」

「え、ええそうですけど。」

 

不安に思いながらも返事をする。すると作業員の男性はポケットから一枚の手紙を取り出した。

 

「お母さんから手紙を預かっています。」

 

 

 




弓道って当たったら本当に嬉しいし、外れたら落ち込むし、今までで経験したスポーツの中で一番感情が表に出るスポーツかもしれません。あくまで個人の感想です。


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堕天使と魔王と引っ越し

「お母さんから手紙を預かっています。」

 

僕の家の前にいた引っ越し業者の男性は制服のポケットから一通の手紙を取り出した。その手紙は白い封筒で包まれていて。表には『修斗へ』と書いてあった。間違いなくこれは僕の母の字だ。僕の両親は出張が多いから、最近はあまりあっていなかった。最後にあったのはこの沼津に越してきた初日だったかな。しかし、出張が多かったからこそ両親からの手紙は多かった。だからこそ親の文字はすぐにわかるようになった。いいことなのか悪いことなのか。しかし今日はいつも両親が送ってくる手紙とは違って嫌な予感がする。僕はしぶしぶ手紙を受け取ると、封筒の中を確認した。中には母が書いたであろう手紙が入っていた。その手紙の内容は、

 

「修斗君へ、

新しい学校では元気にやっているかしら。きっと大丈夫よね。だって私の息子なんだから。ところで急にで悪いんだけど、実はママとパパはしばらく海外出張に行くことが決まったの。それで今新しく買った家を引っ越して、近くのマンションに引っ越してもらえるかしら。新しい環境でまだ不慣れなところがあるかもしれないのにゴメンね。でも安心して、新しい家の隣にはママの昔の友達が住んでるから、頼るといいわ。友達には話してあるから引っ越しがすんだらあいさつに行きなさい。それじゃあママとパパは海外からでもあなたの元気を祈っています。

  津々宮千鶴 ママより」

 

という内容だった。他にも色々なものが入っていた。まったく出張は仕方ないけど引っ越しの話はせめて相談しようよ。手紙を読み終えると、引っ越し業者の男性が話しかけてきた。

 

「君のご両親から大体の話は聞いたけど色々と苦労してるんだね君。とりあえずトラックで新しいマンションまで送ろうか?」

「・・・ありがとうございます。」

 

引っ越し業者のトラックに乗って新しく住むマンションに向かうことにした。マンションの住所は母からの手紙に記されていた。見たところここからそんなに遠くはなさそうだ。僕はトラックに乗った。しばらくしてトラックが動き始めた。トラックは真っ先に僕がさっき曲がった角を曲がった。

 

約6分ほどしてからトラックは停止した。トラックから降りると、先に着いていたいた他のから荷物が運ばれている最中だった。僕は家の荷物を引っ越し業者に頼んで先に母の昔の友達にあいさつに行くことにした。

 

「えーと。家の右隣だって書いてあったな。」

 

あっているか確かめるために表札に目をやった。そこには手紙に書いてあった部屋番号と、見知った名前が書いてあった。

 

「・・・津島?」

 

そこに書いてあったのは、沼津に来てから一番最初の友達であり中二病仲間のヨハネの名字だった。そういえばこの前ヨハネが自分の母親から、僕の母と知り合いだったとか言っていたな。もしここがヨハネの家だったらいろいろ気まずいのだが。

 

「・・・まさかな。」

 

僕は心を決めて、インターホンを押した。

 

「はーい。」

 

あれ、おかしいな?よく聞く声がスピーカーから聞こえてきた。もしかしてこれはもしかするかもしれないぞ。

扉から出てきたのは、頭にお団子をつけた堕天使が出てきた。

 

「ええっ?!なんでシェリアスがここにいるのよ?!」

「やっぱりか。あーあ予想通りか。」

「どういうことよ。」

「はあ、とりあえず。今日から隣に越してきた津々宮です。」

「はあ?!越してきた?どういう意味よ。」

「詳しくは後で話す。とりあえずヨハネ、ご両親か誰かいる?」

「え?ママならいるけど・・・」

 

二人で玄関前で話していると、奥からヨハネに似た女性が出てきた。

 

「善子ー。誰かいるのー?」

 

奥から出てきた女性は僕を見ると少し驚いた表情をしてから問いかけてきた。

 

「あら?もしかしてあなた千鶴の息子?」

「え?はい。僕が津々宮千鶴の息子で津々宮修斗です。」

「やっぱりね。目の色が似てるからすぐにわかったわ。」

 

目の色だけで似てるのどうかなんてわかるのか。

 

「話は千鶴から聞いてるわ。とりあえず上がって。善子、修斗君を通してあげて。」

「う、うん。」

「おじゃましまーす。」

 

流れで津島家に上がってしまったものの、今すごく緊張している。今ヨハネと彼女の母親はキッチンに飲み物を取りに行っている。つまり現在、僕は他人の家に一人っきりになっている。今更だが、今までの人生で女友達の家に上がったことなんてなかったからな。そもそも友達も少なかったから家に招待されたこともな立ったからな。だからこそなのかただリビングに座っているだけでも足が震えてしまう。全身の感覚が研ぎ澄まされている気がする。

 

「津々宮君、おまたせ。」

「?!あ、はい。」

 

感覚が研ぎ澄まされていた分、急に話しかけられるて変な声が出てしまった。

 

「そんなに緊張しなくてもいいのよ。飲み物は麦茶でよかったかしら。」

「はい。ありがとございます。」

 

そう言って僕の分のグラスに麦茶を注いでくれて、僕の前までグラスを持ってきてくれた。なんて優しんだ。これが母親というものなのか。僕の母は出張が多かったから、あまり一緒に過ごした時間は少なかった。もしかしたら今、母親という存在を初めて意識したかもしれない。しみじみとそんなことを考えていると、いつの間にか隣に座っていたヨハネが話しかけてきた。

 

「それで、どうしてシェリアスがいきなり隣に引っ越してきたの?まさかこのヨハネに魅了されたからって、ストーキング?」

「違う!実は・・・」

 

僕はヨハネと下校の帰り道で別れた後のことを話した。家の前にトラックが止まっていたこと、引っ越し業者の人から母からの手紙の入った封筒を渡されたこと、トラックに乗ってこのマンションまで来たこと、すべて話した。

 

「ふーん。そんなことがあったのね、あの後。」

「いきなりすぎてて僕も驚いたよ。」

「ところで修斗君。千鶴たちはどこに行ったか聞いてる?」

「うーん。ヨーロッパだったようなアメリカだったような、すいませんよく覚えてません。」

「千鶴、伝えてなかったのね。」

「えっ?知ってるんですか?」

「ええ。この前、あなたのご両親が私のところに来た時に教えてくれたわ。」

「両親ということは父も一緒にいたんですか?」

「ええ。」

 

僕の父は母と同じく出張が多い。しかも母よりも家に帰ってくる回数は少ないからあまり会ったことがない。父について知っている情報と言えば、本名は津々宮海斗、僕と同じで美形。僕と同じで!しかも母から聞いた話だが、父は昔中二病だったらしい。つまり僕は二代目ということだ。そんな父が沼津に来ていたのか。知らなかった。

 

「それで母たちはどこに出張に行ったんですか。」

「確かロンドンと言っていたわよ。」

「へーシェリアスのご両親、ロンドンに行ったんだ。」

「また遠いな。これじゃあしばらくは帰ってこれないかな。」

 

両親は今まで何度も海外に行っているが今までは中国や台湾と割と近かった。しかし今回は家まで知り合いの家の近くに引っ越して遠くということはしばらくは帰ってこれないだろうな。しかし母さんはヨハネのお母さんには色々話していたようだな。この人どれくらい前から母と知り合いなのだろうか。もしかしたらこの人は僕の知らない両親のことをたくさん知っているかもしれない。これからは親しみを込めて、心の中でヨハママと呼ぶことにしよう。

僕とヨハネが普通に喋っているのを見て、ヨハママが問いかけてきた。

 

「そういえば、善子はもう修斗君とは知り合いだったのね。」

「う、うん。学校で同じクラスになったのよ。」

「そうなの。じゃあ変に気まずくなる必要はないわね。」

「すいません。変な気を使われてしまって。」

「いいのよ。千鶴の子供なら私の子も同然よ。そうだ、今日はもう遅いからうちで晩御飯を食べていきなさい。」

「え?いいんですか?」

「え?シェリアス、家で食べていくの?」

「もちろんよ。これも千鶴に頼まれたことの一つだから。」

「あの、母は何を頼んだんですか?」

「千鶴は『しばらくの私の代わりにあの子の母親の代わりをやってあげて。一緒にご飯食べたり、休日に出かけたり。学校の保護者の許可や印鑑が必要なものも全て任せる。』って言ってたわ。」

「ちょっと待って、それだと私とシェリアスがしばらくの間、兄妹になるみたいな言い方じゃない。」

「そううなるわね。あ、でも修斗君の方がお兄ちゃんになるんじゃないかしら。」

「ヨハネ誕生日いつ?」

「7月13日よ。あなたは?」

「6月25日。ホントだ、僕の方がお兄ちゃんになるのか。」

「なんでよ!私の方がここに長く住んでるんだから私の方が年上でしょ。」

「別にいいよー。その代わりこれから君のことをお姉ちゃんと呼ぶよ。それでもいいの?お姉ちゃん。」

「うっ・・。それは恥ずかしいからあなたが上でいいわよ・・。」

 

リビングであーだこーだ言い合っている二人を見ながらヨハママはキッチンに向かった。

それからしばらくしてテーブルには料理が並べられた。僕は人が作ってくれた料理を久しぶりに食べた。それどころか誰かと食卓を囲んで晩御飯を食べること自体久々だった。小さなころから憧れていた、家族で料理を食べるという夢が想像していた形とは少し違ったが今日叶った。食事とはこんなにも温かいものだったのか。そう思うとかすかにだが、視界が曇ってしまった。そしてこれから晩御飯は津島家で食べることになった。

食事を終え、僕が帰宅の準備をしているとコーヒーを飲んでリビングでくつろいでいたヨハママが話しかけてきた。

 

「そうだ。私、高校で教師をしているの。だから何日か帰りが遅くなる日があると思うから、その日は何か適当に作って冷蔵庫に入れておくから、善子と温めて食べてくれる?」

「それでしたら、僕が作りましょうか?」

「シェリアス、料理できるの。」

「まあ一人で家にいる時間が長かったから、家事は大体できる。」

「そうなの。ほんとに?」

「疑うな。本当だよ。」

「そういえば千鶴もそんなこと言ってわね。じゃあお言葉に甘えようかしら。善子もいいわよね。」

「フフ、堕天使の味覚は敏感よ。あなたに私を満足させれるかしら。」

「・・・善処しますよ。」

 

今まで自分の料理を誰かに食べさせたことなんてなかったから自分の料理がうまいのかよくわからない。母はおいしいと言っていたが、僕の母ならどんなに焦げていてもおいしいと言いそうだ。自分では結構うまい方だと思うのだが。その答えは明日この堕天使をうならせれるかどうか、か。何を作ろうかな。とりあえず一度家に戻って、料理器具を整理しないと。

 

「お邪魔しました。」

「それじゃあ、お休みシェリアス。」

「うん。お休みヨハネ。」

 

二人の今日本当の別れの挨拶が交わされ、扉は閉ざされた。二人は閉ざされた扉に向かって今までためていた思いを口に出した。

 

「妹か・・・。」

「お兄ちゃんか・・・。」

 

少年は全てを捨てて新しい自分を始めるために、何もかもがなくなった日常の中にできた新しい大事な存在を思い。少女は変わらないと思っていた日常にできた堕天使としての自分を理解し、受け入れてくれた少年を思い。今まで離れて人生を送っていた二人がほとんど奇跡のようなつながりによって、巡り合った。確実に近づいたお互いの関係。これからどう変化していくのか、それは誰にもわからない。

 

 




津々宮夫婦の名前を決めた方法は自分の思い出をいれた箱の中身から適当につけました。
津々宮千鶴 千羽折ろうとして3羽程で諦めた鶴。
津々宮海斗 沖縄で拾ったまま箱の中に5年間入っていた砂と貝。


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堕天使と魔王と料理(ハンバーグ)

津島家を出た後、僕は家に戻った。すでに家には引っ越しの荷物が置かれていた。内装の数日前くらいから両親が装飾していたのか、既に完成していた。荷物は段ボールに入れられリビングになるであろう場所に置いてあった。新しく自分の家になる家を一通り見て回ろうと思い、まずキッチンに向かった。キッチンは津島家で少し見たキッチンに似ていた。そのほかにも色々と見て回ったがそれ程変わった場所はなかった。最後に入った部屋には、机とベッド、そして机の上に1通の手紙が置かれていた。その手紙は生まれて初めて僕に届いた父からの手紙だった。

 

『修斗、元気にしているか。新しい生活になって早々に父さんたちが海外に出張と決まって、お前に伝えていなかったこと、本当にすまないと思っている。これまで通り銀行の口座にお前の生活代を振り込んでおく。これからしばらく日本には帰ってこれない。少なくとも2年はかかるだろう。今までもこれからもお前に寂しい思いをさせてしまって本当に悪いと思っている。津島さんに迷惑はかけるなよ。元気でな。

津々宮海斗』

 

生まれて初めての父からの手紙を読み終えると、今は空港かロンドンであろう両親の姿が頭をよぎった。津島家で晩御飯を食べた時とは違う意味で視界が曇った。人生初の父からの手紙を涙で汚してしまった。

 

「2年か。そのころには僕は高校生か・・。」

 

僕が高校生になったころに両親が日本に帰ってくるのか。それまでまた今までのような一人の日々が続くのか。いや、今度は一人じゃない。大丈夫だ、寂しくない。そう思うと少し心が楽になった。僕はしばらく荷物の整理をしてからベッドに入った。

次の日、家で朝ご飯を食べてから学校に登校するとき玄関を出ると同じく学校に向かう途中だったヨハネと会った。

 

「おはよう、シェリアス。」

「おはよう、お隣さん。」

 

今まで学校とその帰り道くらいでしか会っていなかった彼女に会うと変な感覚だな。

 

「ねえ、昨日言ってた晩御飯はあなたが作るって言ってたけど、何作るの?」

「うーん、そうだな。ハンバーグでいいかな。」

「へえ、このヨハネをうならせることができるかしら?」

「フッ、魔王の名に懸けて君を満足させるよ。」

 

家の鍵を閉めてから僕たちは一緒に学校に向かった。今までの帰り道に通っていた場所を通って学校に行くと、途中で藤崎にあった。

 

「おはよう二人とも。」

「おはよう、委員長。」

「おはよう、藤崎君。」

「二人が一緒に登校なんて珍しいね。昨日何かあったの?」

「実は・・・・」

 

昨日、いきなりの引っ越しのことを藤崎に説明した。

 

「へーそんなことがあったんだ。津々宮君、ラブコメの主人公みたいだね。ということは津島さんがメインヒロイン?また漫研とラノベ部の先輩たちのネタにされるよ。」

「・・・それは大変ね。」

「しばらくあの人たちを避けようか。」

「がんばってー。」

 

あの人たちは僕たちが部活動見学に行ったときに、自分たちの争いに僕たちを巻き込み、僕たちを題材にした作品を作ることになった。まあ、こんな結果にしたのはそこでへらへら笑ってる腹黒委員長のせいなんだけどね!

 

「くそったれが・・・。」

「ん?何か言った?」

「別に何も。」

 

そんなやり取りをしながら僕たち三人は学校に着いた。

学校ではいつものように完璧を演じ、部活も完璧に

を貫き、今日も学校は終了し放課後になった。今日も完璧を貫き通した僕、お疲れ様。今は部活の片づけの最中だ。この後は津島家でハンバーグを作らなくては。材料あったかな。買いに行こうかな。

 

「ヨハネ、帰りに材料を買いに行っていいかな?」

「いいわよ。学校から直接買いに行くの?」

「ああ、その方が手間が少なくていいかなと思って。荷物持ちがいるし。」

「まさか、このヨハネを使い魔にする気?」

「ああ。」

「まあいいわ。手伝ってあげる。」

 

ヨハネの了解も得たので着替えたら早速スーパーに向かった。スーパーは学校から僕たちが住むマンションの間にある。結構大きめのデパートなので大体の食材はここで揃う。

 

「シェリアス、今日は何を買って帰るの?」

「うーん、卵はあったかな。ひき肉と玉ねぎと、ナツメグとローリエは家にあったから、あとサラダ用の野菜とか色々。」

「ナツメグ?ローリエ?」

「香辛料だよ。」

「あなた、ほんとに変なところで凝り性なのね。」

「えっ、そう?」

「自覚ないの?」

 

・・・そんなに凝ってるかな、僕。あまり考えたことなかったな。家で料理をしていても段々といろんなことを試していくからな。でも僕以外誰も家にいないから、止めてくれる人がいなかったからな。家で一人で暴走してしまったことが、僕が凝り性になってしまったことの原因なのかもしれない。

 

「ひき肉持ってきたわよ。」

「ありがと。あとはこれかな。」

 

僕はそう言いながら一つのフルーツを手に取った。

 

「何それ、レモン?」

「そう。」

「何に使うの?」

「それは後のお楽しみってことで。」

 

僕たちはかごの中を確認した後、レジに向かった。レジ番のおばさんがレジに来た僕たちを見て笑いながら言った。

 

「あらまあ、もしかして兄妹?一緒に買い物なんて仲がいいわね。」

「あはは。」

 

この前はカップルに見られて、今回は兄妹か。そしてまたしても後ろでヨハネは黙っている。こいつ、コミュ力ないのか、照れてるのかよくわからないな。材料を袋に入れているときもヨハネは黙ったままだった。メンドクサイな。スーパーを出て、しばらく歩いてから彼女に問いかけた。

 

「あの、ヨハネさん。大丈夫ですか?ずっと黙ったままだったけど。」

「・・・・シェリアス。あなた、私たちが兄妹みたいって言われても何も思わないの?」

「えっ?うーん、特に何も思わないかな。」

「・・・・そう、なの。」

 

なぜ少し悲しそうな顔をするんだ。僕は何か気に障ることを言っただろうか。

 

「・・・でも、小さいころから一人でいることが多かったから、周りの誰かと家族と間違われると、ちょっと嬉しい・・・かな。」

「ほんとに?」

「・・・うん。」

「フフッ、意外と可愛いところがあるのね。」

「うるさい。」

 

雑談をしていると、僕たちはマンションに着いた。僕は一度残りの食材をとるために家に戻った。まだ入れっぱなしになっていた引っ越しの時にダンボールに入れっぱなしにしていた香辛料を取り出した。後は冷蔵庫の中からニンジンと卵を取り出した。今までに取り出した食材を袋の中に入れた。その袋を持って僕は隣の家に向かった。

 

ピンポーン。

 

「はーい。」

 

中から見慣れた堕天使が出てきた。

 

「さあ、入って。」

 

そのまま津島家に入ると僕はキッチンに向かった。

 

「ねえシェリアス。何か手伝うことある?」

「いや、いいよ。僕一人でやるから。ヨハネはリビングでゆっくりしていてくれ。」

 

今まで一人で料理をしていたから誰かと一緒にするとなると失敗する恐れがあるからな。ヨハネには悪いが一人でやらせてもらうよ。ハンバーグくらいならよほどのことがない限りは失敗しないとは思うが、誰かに作るとなると、全力でやらせてもらうよ。そんな思いを胸に僕は包丁を手に取った。

 

「さあ、始めようか。」

 

約40分後、テーブルの上に僕の料理が並べられた。ハンバーク、ポテトサラダ、ライスが並んでいた。その向かいにはヨハネが座っていた。結構いい出来だと思う、今までで一番上出来だと思う。

 

「いただきます。」

 

切られたハンバーグの中から肉汁があふれだした。ヨハネは切り分けられたハンバーグを口に運んだ。

 

「?!美味しい・・・。」

「ほんと?」

「え?!フ、フン!ま、まあまあね。」

「そう。お気に召したようで、よかった。」

 

よかった、一安心だよ。しかし誰かに食べてもらって美味しいと言われるのはいいものだな。なんだかいい気分だ。まあ、魔王はなんでも出来るから当然なんだけどね。

 

「このヨハネの舌を魅了するなんてなかなかじゃない。」

「まあ、魔王ですから!」

「何なのよ、その自信?」

「でも美味しいだろ?」

「う、うん。」

「ならいいんだよ。それに君が美味しいと言ってくれたからさらに自信がついた。」

「何よそれ。」

「誰かに僕の料理を食べさせたのは今日が初めてだったから、最初はちょっと自信がなかったんだ。」

「そうなの?とても美味しいけど。」

 

まあ、前の学校ではほとんどボッチだったし。食べさせるにも家族もいなかったし。あれ、なんだか悲しくなってきたな。いや、今大事なのは今だ。

 

「そういえば、レモンはどこに使ったの?」

「ん?ああ、このポテトサラダに使ったんだよ。」

「このポテトサラダに?」

「ああ、普通のとちょっと違うんだけどわかるかな。」

「うーん。味が爽やか、とか?」

「お、正解。普通のポテトサラダだとマヨネーズの味がちょっと強いんだよ。だからレモンの酸味でマヨネーズの味を少し打ち消すんだ。マヨネーズの味が強いのちょっと苦手だったから、改良に改良を重ねてできたのが、このレモン入りポテトサラダなんだ。」

「へー、すごいわね。さすが魔王様。」

 

いつの間にか二人だけの時は、僕が魔王化してしまっている気がする。他の誰かにバレる心配がないから気が抜けて決まってるのかもしれない。それとも、堕天使という存在が魔王の封印を解こうとしているのだろうか。フハハ、貴様ごときでは僕の絶対的な封印は解けないな。食後、お皿を洗いにキッチンに来た時、長年使ってきた包丁が目に入った。今日もこいつのおかげでいい料理ができた気がする。こいつだけは念入りに洗わないとな。包丁を洗い終わって水気をとっているとヨハネが話しかけてきた。

 

「シェリアス。また、作ってくれる。」

 

ヨハネが小首を傾げて問いかけてきた。こういうちょっとした動きまで可愛いとは、罪な堕天使だ。

 

「もちろん。よろこんで作らせてもらうよ。」

 

君が喜ぶのなら、何度でも作ろう。魔王の名に懸けて、全力で作らせてもらうよ。

 

「さて、次は何を作ろうかな。」

 

 

 

 

 

 




料理って科学の実験みたいですよね。
あくまで個人の意見です。


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堕天使と魔王と生放送

今回で第十話となりました。読んでいただいた皆様、お気に入り登録をしていただいた皆様、本当にありがとうございます。これからも皆様へ感謝を込めて頑張って書かせていただきます。これからも読んでいただければ幸いです。


現在、このマンションに引っ越してきてから5日間が過ぎた金曜日。時間は午後20時30分。僕は津島家で食後のコーヒーを満喫していた。今日も津島家で料理をした。今回はカレーを作った。テーブルに座り、コーヒーを飲みながら読書をしていると、後ろからヨハネが話しかけてきた。

 

「シェリアス、明日の午後の2時から3時くらいは家にこないでね。後、電話とメールもしてこないでね。」

「は?」

 

唐突すぎて内容が理解できなかったな。

 

「ゴメン、もう一回お願い。」

「明日の午後の2時から3時は家に来ないこと、電話もメールもしてこないこと、いい?」

 

あれ、おかしいな。頭に内容が入ってこないな。

 

「ゴメン、もう一回お願い。」

「だから、明日の2時から3時は家に来ないで、電話もメールもしないで。いい!」

 

いきなり何なんだ。明日の午後2時から1時間何かあるのかな。

 

「なんで?」

「なんでって、それは・・その・・。」

「何か僕にも言えないこと?」

「いや、なんていうのか・・。」

 

明日の2時から3時か。午前中は部活の練習があるから会うことにはなるけど、午後からは特に何の用事もなかったしな。あれ、もしかして嫌われたのか。いやもしかして他の友達と会うのだろうか。まさか男子か?!いやいやいや、このコミュ力皆無の堕天使サマににそんな簡単に友達ができるわけないか。そもそも学校でも大体は僕と一緒にいるし。学校でそんな友達が出来たら僕も気づくはずだ。それとも学校以外の友達か、小学校か幼稚園の友達っていう可能性もある。この前ヨハネが幼稚園の時の友達の話をしていたし。それ以外の友達という可能性はないだろうか。最近はネットでできた友達と会うなんてこともあるし。もしかして他の中二病の友達ができて、その友達に会うとか?その友達は男なんだろうか。だから僕を会わせようとしないために僕から離れるのか。

 

「誰だ・・・」

「えっ?」

「誰と会うんだ?!」

「ええっ?!」

「ヨハネ!いつどこで誰と知り合ってどこで会うんだ?!」

「ちょっと何の話をしてるのよ?!」

「ネットの知り合いはリアルでは全然違う可能性もあるんだぞ!だから出会い系とかの知り合いと会うのはやめろ!」

「・・・えっ?そ、そんなんじゃないわよ!」

「へっ?!」

「だから、私がそんなことするわけないでしょ!」

「そっか・・。なら、よかった・・。」

 

今、心の底から安心した。もし彼女に何かあったら正気でいられないだろうな。まったく食後にこんなハプニングが待っていたなんて。

 

「どうしてそこまで心配したのよ。自分のことでもないのに。」

「うーん。なぜだろうな。あの時は必死だったからよくわからない。まあ、君が大事だからってことでいいか。」

「ええっ?!だ、大事?!私が?!」

「うん。クラスメイトだし、部活仲間だし、お隣さんだし、晩御飯一緒に食べてるし。あと色々。」

「色々って何よ?!」

「まあ、いろいろ。」

 

色々君に対して抱いているこの感情がどういうものなのかまだ判明していないからな。憧れなのか嫉妬なのか好意なのか、まだよくわからないからな。

 

「それで、明日の2時から何があるんだ?」

「えっと・・その・・実は・・。」

「実は?」

「じ、実は・・・ライb・・」

 

その時だった。津島家の玄関が開いた。

 

「ただいまー。」

 

そこにいたのはヨハママ、ヨハネのお母さんだった。仕事から帰ってきてたからか、疲れているご様子だ。

 

「あ、お帰りママ。」

「おい、さっきのは?ライ何?」

 

さっきまで顔を真っ赤にして答えようとしていたのに、なんだか誤魔化された気分だ。

 

「ちょっと、ヨハネさん。さっきの答えは?」

「あら?その声は、修斗君。来てたの?」

「え?はい。おかえりなさい。」

「うん、ただいま。ところでさっきの答えって何?」

「え?実はさっき・・・」

「ワーワーワー!何も、何もなかったから!」

 

ヨハママに返答しようとしたとき、大声で慌てながら遮ってきた。

 

「・・・その慌てよう、もしかして告白?」

「違いますよ。」

「あら、そうなの。修斗君なら善子を任せても構わないんだけどね。」

「な、何言ってるのよ、ママ!」

「うふふ、ごめんなさい。」

「はあ、それくらいにしてください。ごはん作ってますよ。」

「あら、じゃあさっそくいただくわ。」

 

ヨハママがリビングでカレーを食べている間、もう一度ヨハネに問いかけた。

 

「ヨハネ改めて聞くけど、明日は何があるの?」

「だから・・その・・」

「?」

 

ヨハネは一度ヨハママの方を見た。

 

「も、もう!とにかく明日の昼過ぎはこないで!」

「・・・わかった。」

 

しかたない、聞き出すのはあきらめよう。誰かと会うとかではないみたいだし、後は自分で推理するか。僕に解けない謎はない。

そして後日。僕たちは学校の弓道場にいた。僕の弓、黒紅葉を握りながら考え事をしていた。今日は、正確には昨日から考え事に追われている。もちろん昨日のことで。考え事を整理しようと思いながら的を狙っていた。僕は射場に立つと落ち着いて整理しよう。

まず昨日、ヨハネは2時から3時には来るなと言っていた。その時間には何があったか。テレビか?いやこの時間のテレビはすでに調べたが特に何もなかった。

次にヨハネが言いかけていた、ライなんとか。ライが入っていて、その時間に関係する単語はないだろう。それかラから始まって何か関係するものか。もしかしてラブライブ!って大会か。名前だけは聞いたことがあったがヨハネはそんな大会が好きなのだろうか。などと考えながら4本の矢全てを的に当てた。さすが完璧な僕!

数時間後、部活も終了し、僕は自室のベッドに仰向けで倒れていた。悩みに悩んだ末、疲れてベッドで少しふて寝した。まったく答えがわからない。もうやめよう。諦めよう。さて、せっかくの休日だし、ネットで動画でも見てるか。僕はパソコンを開き、適当にゲーム実況の動画を見ていた。気が付くと時間は2時を過ぎていた。今頃、ヨハネはなにをしているのだろうか。そんなことを考えながら、動画投稿サイトをホームに戻して、特に意味もないのに下にスクロールした。下に行くと現在live配信中の動画という項目があり、なんとなく開いた。配信中の動画は何本かあった。ブロックの世界でサバイバルをするゲームの整地中の雑談系生配信から、コメントを読み上げて、質問に答えているラジオ系など色々と配信中だった。その中に、『堕天使の集い』といういかにも中二病な名前があった。何かに引き付けられるかのように開くと、そこには堕天使コスをしたお隣さんが立っていた。

 

「はぁい、リトルデーモン。今日もヨハネのサバトによく来たわね。」

 

どう反応したらいいのだろうか。今、パソコンに移っている部屋はちょうど隣の部屋なのだが。実は、父が手紙を置いていた部屋をそのまま自分の部屋にしたら、ちょうどその隣の部屋が偶然ヨハネの部屋だったのだ。本当に偶然だから。つまり今隣の部屋が堕天スタジオになっているということだ。僕は壁に耳を当てた。かすかだが声が聞こえる。

 

「さあ、悩めるリトルデーモンたちよ。あなた達の悩みに答えてあげるわ。」

 

はあ。つまり家に来るなと言っていた理由はこれだったのか。まったくこんなことをしていたのか。結構本気の堕天使コスで動画をだすとは、勇気あるな。コメントの方も、中二病な発言が多いな。まあ同じタイプの奴らが見るからそうなるか。とりあえず最後まで見てやるか。この生配信は今まで結構やってきていたようだ。コメントの方に、『リアルワールドで新しくできたリトルデーモンの人とは最近どうですか?』という内容のものがあった。それって僕のことか。こいつ動画で僕のことを喋っていたのか。

生配信の動画も終わると僕は夕食の用意を持って津島家に向かった。いつもどうり津島家で夕食を作るためだ。僕がキッチンに入ると、ヨハネは自分の部屋に入っていった。動画配信の後の後かたずけでもするのだろうか。しばらくして夕食ができるとヨハネも部屋から出てきた。とりあえず夕食後に動画のことを聞いてみるか。夕食後、ヨハネはリビングのソファに座っていた。そっとその隣に座ると、僕はヨハネに話しかけた。

 

「なあ、ヨハネ。」

「何?」

「今日、部屋で適当に動画を見てたら、『堕天使の集い』っていう動画を見たんだけど。」

「?!どこまで見たの?」

「00:06から59:51まで見ました。」

「ほとんど全部じゃない!」

「うん。」

「・・・はあ、見たのね、あれ。」

「見られたくなかったなら僕をどこかに監禁でもするべきだったな。」

 

僕は少し自慢げに言った。しかしヨハネは焦る気配を見せなかった。それどころか少し悩んでるように見えた。

 

「見たからには私の相談に答えてもらうわよ。」

「えっ?いいけど。」

 

なんだ、そんなに驚かなかったな。面白くない。

 

「実はね、あの動画結構長くやってるのよ。」

「そうらしいな。」

「でね、結構多くのファンの人もいるのよ。」

「まあ、たくさんコメントがきていたから。」

「うん。でもその中に、『イタイ』とか『中二病ww』とか『恥ずかしくないの』とか結構くるのよ。」

 

要するにアンチコメントか。

 

「なんだかああいうコメントを見ていると、何だか嫌な気分になるの。悲しくて、辛くて。顔もわからない様な人たちにバカにされてるのが、辛くて・・つらくて・・。」

「でも所詮アンチだろ。気にすることないだろ。」

「でも!何もわかってない、わかろうともしない奴らが、私をバカにしてきているような気がして。・・・そりゃ、一流の投稿者の人はそんな事気にしないかもしれないけど・・、私は・・一流じゃないから。・・心もあるから・・辛くなるの・・。私は、・・どうしたらいいの・・。」

 

後半はほとんど泣いていた。今も涙が止まっていない。俯きながらだから涙のしずくが彼女のスカートをポツポツと濡らしていた。まるで雨のようだ。そんな彼女を見ていると、僕の心が痛くなる。なぜだろうな。君が泣いているのをほっとけないよ。僕はそっとヨハネの目元にたまった、あふれ出す涙を指ですくい上げた。いつもは宝石のような輝きを持つ瞳を、涙がさらに輝かされて見える。そんな瞳でヨハネは僕の瞳を見つめてきた。

 

「動画とか、イラストとか、小説でも漫画でも色々な作品がこの世界には存在する。作品があればその作品に対するファンがつく。ファンがつけばアンチがつく。この二つは相互関係にあると僕は考えている。だからファンがついていてアンチがいないなんて作品はないと思う。どんなにすごい投稿者になっても一人くらいはアンチがつく。仕方ないことなんだ。でも、それでも心が傷ついてしまう。そりゃあ、バカにされたら誰だって頭にくる。だけどそのコメントをたたけば更に荒れる。でも押さえつけていると、心が痛くなっていく。君はそのことをどうしたらいいか、どうやって乗り越えたらいいか、誰を頼ればいいか、誰を信じればいいか、誰かに相談したかったんだよね。」

 

ヨハネはこくん、と小さくうなずいた。

 

「昨日、僕が2回目に君に質問した時、一瞬だけど君のお母さんに目をやった。そして言うのをためらった。つまりお母さんには相談できないことだった。いや相談できなかったんだな、動画のことを話していないから。」

 

またしてもヨハネはうなずいた。

 

「そりゃ、辛いよな。一人で抱え込むのは。今まで一人でよく頑張ったな。でも、今は君一人じゃない。僕なら君を理解できる。これから辛くなったら僕を頼ってほしい。君が苦しむ姿を僕は見たくないからな。それでも辛かったら泣いてしまえばいいよ。」

 

ヨハネはついに泣き崩れてしまった。僕の胸でわんわんと泣いている。今まで一人で辛かったんだろうな。いろいろ我慢してたものが爆発したのだろう。

 

「お疲れ様。」

 

僕の服が濡れいるのがわかる。僕は、服に埋もれて泣いている彼女の頭をそっと撫でた。彼女が泣き止むまで、僕は彼女を見守っていた。二度と彼女を泣かせたくない、そう心に決めた瞬間だった。

30分ほど経過して、ヨハネもやっと落ち着いたようだ。今まで胸を内に秘めていた悩みを全て僕に話してくれた。ヨハネも心が落ち着いたことだし、そろそろ帰ろうかな。

 

「そろそろ帰るよ。」

「えっ?!もう?!」

「もうって、もうそろそろ22時なんだけど。」

 

ヨハネは時計に目をやった。

 

「ほんとだ。時間がたつのは早いのね。」

「ああ、時の流れには逆らえないからね。」

 

僕はカバンにキッチンに置いている自分の調理器具を片付け始めた。後ろから妙にヨハネの視線を感じるが、気にせず片づけをする。荷物も全部カバンに入れ終わると、玄関に向かった。靴を履いた時後ろからヨハネが話しかけてきた。

 

「今日はありがと。私の話聞いてくれて。」

「別に大したことじゃないよ。」

「そんなことないわ。なんなに真剣に聞いてくれて、一緒に悩んでくれて、簡単にできることじゃないわ。優しくて面倒見がいいからできたことよ。」

 

素直にヨハネから褒められると照れてしまうな。

 

「フンッ、魔王なら配下の者の面倒を見るのは当然だからな。」

「フフッ、照れ隠し?」

「違うわ!」

 

なんかのこの流れ、ヨハネに対してやったな。まさかやり返されるとは。

 

「じゃあ帰るよ。」

「ええ、また。」

 

僕が玄関を出て扉を閉ざされた後、ヨハネは小さくつぶやいた。

 

「・・・好きよ。」

 

彼女はその一言だけ言うとすぐに自分の部屋に戻っていった。自分の明かした気持ちが相手に届いていないと思いながら。

しかしその相手にはその小さな一言が偶然聞こえてしまった。そう、僕の耳にヨハネのつぶやきが入ってきていまった。僕は動揺が抑えきれなくなっていた。扉の前で赤面しながら立ち止まってしまった。頭が付いていけず、口から思わず声が漏れてしまった。

 

「マジか・・・。」

 

しかしこの声はヨハネには届かなかった。すでに彼女は自分の部屋に向かった後だった。ゆえに彼女は今も僕が気持ちを知らないと思っている。

僕は自分の部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。もう悶え死にそうだ。彼女がこんな自分のことを好きだと言ってくれるなんて。考えてもみなかった。どうしたらいいのか全然見当もつかない。

 

「はあ、明日からどんな顔して会えばいいんだよ・・」

 




今回動画についてふれましたが僕は髪が赤い実況者さんが好きです。


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堕天使と魔王と審査開始

またも気づくとUAが2000を超えていました。読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます!感謝!!


今日、漫研部とラノベ部の部長が『作品ができた』と言われ、放課後にラノベ部の部室に来ていた。この二人は僕たちが部活動見学に来た時に、喧嘩がお互い喧嘩をしたが最終的に僕とヨハネを題材にして、それぞれが作品を作ることになった。今横でへらへらと笑ってる腹黒委員長のおかげでな。

 

「二人とも、楽しみだね!」

「「どこが!!」」

「えー?絶対楽しいと思うよ。」

「君はそうだろうな!どうせ僕たちのことをおもちゃとしか思ってないんだろうな!」

「えっ、うん。」

「否定もしないのね。」

「だって否定しても無駄だろ?」

「そうだな。」

「だったらいいじゃん。」

「開き直りやがった。」

「最低ね。」

「えーそこまで言わなくても。というか君たちそこまで意気投合してるならさっさとくっつけばいいじゃん。」

「「はあ?!」」

「どうしてそうなるのよ!」

「そ、そうだ!なんで僕たちが・・つ、付き合わなくてはならいなんだ!」

「あれれー津々宮君どうしたのかな?ちょっと動揺してるのかな?いやー津々宮君も思春期の男の子だね。」

「フフ、さすがのあなたもこのヨハネの魅力にはかなわなかったようね。」

「くっ・・。」

 

僕が動揺したのはこの前君がつぶやいた一言のせいだよ、ヨハネ。僕はそう言おうとしたが言葉を飲み込んだ。言ったらまた藤崎に遊ばれそうだったから。くそ、口惜しい。今まで僕は弄る方だったのに、いつの間にか弄られる方になってしまった。くそったれどもが・・。

そんなことをしていると部室塔の中にあるラノベ部に着いた。扉の前に行くと、それぞれの部長がお出迎えをしていた。

 

「よく来たな。さあ、俺の作品を堪能してもらおうか。」

「いいえ、僕たちの作品の間違いですよ。」

 

また喧嘩を始めそうな二人を見て藤崎が動いた。

 

「お疲れ様でーす。落ち着いてください二人とも。まだ戦いは始まってませんよ。」

「そ、そうだったな。今は落ち着こう。改めてよく来たな津々宮、津島。」

「僕たちの作品を読むには、彼らが一番ではないといけませんからね。藤崎君よく連れてきました。」

 

このあと、僕たちは流れるように部室の中に案内された。中にある大きな机の上には二つの原稿用紙が置かれていた。この二つが先輩たちの作品だろう。そしてこれから僕らが抹消すべきもの。

 

「とりあえず、かけてくれ。」

 

僕たちは作品が置いてある方の席に座った。

 

「あの、この原稿用紙って今回の作品ですか?」

「ええ、そうですよ。」

「じゃあ、ここに書かれているのは私たちを題材を題材にした作品なんですよね?」

「もちろんです。中には二人をモデルにしたキャラが生きている、とも言えますね。」

「「はあ・・。」」

 

二人そろってため息が出てしまった。まったく、なぜこうなったんだろう。せめてこの前の土曜日より前に完成してほしかった。あの日より前ならまだあまり意識せずに済んだだろうに。少し憂鬱になっていると先輩が後ろから話しかけてきた。

 

「さて、そろそろ審査に移ってもらおう。君たち2人が審査員だ。さあ、どちらが優れているのか、君たちが決めてくれ。」

 

しょうがない、読むか。僕とヨハネがイチャイチャしてラッキースケベなことが起こるようなら大きく減点してやろう。

 

「どっちから読む?」

「長そうな方からにしましょう。」

「となると普通に考えてラノベの方からか。」

 

僕たちは同時にライトノベルに手を伸ばした。

 




今回は3部構成になっており、次のパートは先輩が書いたライトノベルの序章がのっています。何となく、暇があれば見ていただけると幸いです。


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(番外編) 魔術ギルドのDark prince

今回な前回、約1分前に予告した通り、オリジナル小説の回となります。本編と同じキャラはヨハネとシェリアスのみです。性格は違うかも。


 序章 召喚 この世界は度々、宇宙からの未知のエネルギーを受けている。そのたびにこの世界は進化を遂げている。過去には恐竜の絶滅、猿人類の誕生、人類の進化などが起きている。そして2028年にも宇宙からのエネルギーによってこの世界は変化した。変化と言っても人類が滅ぶようなことはなかった。人類が異界の生物に変化することもなかった。しかし、一部の人間たち、正確には人類の10分の1に変化が起こった。変化があった人類は、魔術や魔法、錬金術が使えるようになり、エニグマと呼ばれるようになった。しかし変化があったからと言って、変化がなかった人類に尊敬されることはなかった。むしろ軽蔑や敵対されるようになった。変化のなかった人類に攻撃を受け続けたエニグマたちは、そんな日々に嫌気がさし、魔法使いや錬金術師たちのリーダー格たちが、自分たちの魔法で元の世界の平行世界を作り上げた。この世界には魔獣や亜人も存在していた。しかし全ての者たちがこの世界で暮らしているわけではない。その世界で暮らす者のいるが、元の世界でひっそりと暮らす者もいた。そして平行世界が誕生してから時間がたち、今この世界には王族から貴族、農民や商人が存在する。しかしこの世界には警察や消防は存在せず、ギルドと呼ばれる機関が存在する。ギルドは人々の悩みを解決する。王族専門のギルドから民間のギルド、色々存在する。そして元々この世界を作り上げたリーダー格たちは、新しい世界で貴族となっていた。貴族たちはこの世界で魔術や魔法の研究を重ねてきた。その中で貴族たちは、天界や魔界、はたまたさらにほかの異世界のものと契約をして従者とする召喚魔法を使うようになった。貴族たちはそれぞれ自分たちの血筋によって召喚できる従者が決まっていた。神族、魔族、竜族、妖精族、精霊族、獣族、この中から召喚される。そんな召喚術の発展から、貴族たちは16歳になると召喚の儀を行うという決まりができていた。そして僕、シェリアス ウィンディアもウィンディア家の家系に生まれ、今日、自分専属の従者を召喚させる召喚の儀が執り行われる。魔法陣の書かれた床に自らの血と魔力を注ぎ込めることで、異界から従者となるものを召喚する。僕の生まれたウィンディア家は代々神族を召喚させてきた。父も母も兄も全員、神族が従者についている。きっとこれから僕が召喚した従者も、神族なんだろうな。

 

「さあ、シェリアス。そろそろ始るんだ。」

「焦ってはいけませんよ、あなたならきっと成功しますよシェリアス。」

 

後ろで僕の両親が見ている。仕方ない、始めるか。ふう、深呼吸をして意識を落ち着かせた。

 

「これより、召喚の儀を開始する。我、召喚を執り行う者なり。汝、我が血と魔力の呼びかけに答えよ。」

 

僕の血が魔法陣に落ちたとき、魔法陣から光があふれ出した。父がこの光を見て懐かしそうに眼を細めた。

 

「おお、懐かしい光景だな。私が召喚の儀を行った時を思い出す。」

 

しかし次の瞬間。魔法陣の光が黒く輝きだした。

 

「なっ、どういうことだ!この光は?!」

 

親は動揺しているようだ。しかし儀式の最中の僕には親の声は届かなかった。黒く輝く魔法陣から声が聞こえた。

 

「私を呼び出したのはどなたです?」

「・・・僕だ。」

 

魔法陣から黒い霧が渦を巻き始めた。渦が止むと、魔法陣の上に一人の少女が立っていた。雪のように白い肌に黒曜石のように黒い髪で紫色の瞳、黒を基調としたゴスロリドレス、何よりも印象的なのは、その少女の背中には黒い羽根が生えていた。その姿を見た途端、後ろで両親が驚愕の声を上げた。

 

「なっ!?堕天使だと?!」

「シェリアス!そのものから離れなさい!」

 

・・そうか、僕は堕天使を召喚したのか。僕の後ろで騒いでいる親の言葉が、魔法陣から出た光の壁によって聞こえなかった。親の声に気づかなかった僕は、堕天使に問いかけた。

 

「貴様が僕の従者になる存在か?」

「ええ、あなたに使えるため、参上いたしました。」

「フッ、申し分ないな。それじゃあ、続けようか。」

 

召喚の儀式に召喚した後にもう一つすることがある。契約を結ぶ必要がある。契約には契約者が自分の身体の一部を犠牲にする。犠牲になった部分は、契約後に契約相手の自分が犠牲にした部分と同じものが複製される。そしてその複製された部分は同じ能力、同じ特性を持つ。契約者の魔力の大きさによっては特別な能力を得るイレギュラーもいるそうだ。

 

「それじゃあ、契約を結ぶぞ。」

「わかりました。あなたは何を捧げるのですか?」

「そうだな。・・・左目でどうだ。」

「いいですね。それでは、続けましょうか。」

 

もう一度、深呼吸をして魔力の流れを落ち着かせた。

 

「異界と現世を結ぶ神よ。我が呼びかけに答えよ。我、契約に左目を犠牲にす。」

 

もう一度魔法陣が黒く輝き始めた。この時、僕の左目に異常なまでの魔力が流れた。次の瞬間、左目が内側から破裂して激痛が走った。僕は痛みに耐えながらも契約の儀を再開した。魔法陣の真ん中で堕天使が跪いていた。右手を彼女の額にあてた。

 

「・・・我が犠牲において、このものを我が従者と認める。」

 

魔法陣の光が一層黒く輝いた。その光が僕の右手に吸い込まれた。吸い込まれた光は右手に紋章を描いた。

 

「これで儀式は終わりだな。」

「はい、これからよろしくお願いします、マスター。これから私のことはヨハネとお呼びください。」

 

契約を終えると魔法陣が消えた。魔法陣があった場所には一人の少女が立っていた。その少女はさっき僕が召喚した堕天使に似ているが、決定的に違う部分があった。それは堕天使にはあった、黒い翼がこの少女に存在していなかった。しかし、両親の従者に翼がなかったことを思い出した。ということはこの少女はさっきの堕天使なのだろう。そんなことを考えていると、後ろから父が動揺したような声で僕に問いかけてきた。

 

「・・・シェリアス、まさか、その堕天使と・・契約したの・・・か?」

「・・・はい。」

 

父の問いかけに答えたとき、ちょうど僕の左目がヨハネの左目を複製を始めた。左目が黒い光を吸い込み始めた。黒い光を吸い込み終えた左目を開けると、そこにはヨハネと同じく紫色の瞳があった。

 

 第一章 ギルド アルデナナイツ

 

召喚の儀から1ヶ月が過ぎた。現在、僕はウィンディア家から追い出されていた。原因はわかっている。ウィンディア家は代々神族を召喚してきたというのに、召喚したものが堕天使だったら自分の家の顔が汚れてしまうからだ。使えないものはたとえ自分の息子だろうと捨てる、それがうちの教えだったからな。本当なら僕はヨハネごと死刑されるはずだった。しかしヨハネの左目を複製した時に、僕の左目は未来予知の能力を得た。そのおかげで僕たちが処刑される未来が見えたので、自分からウィンディア家を出ていった。これから先、僕がウィンディア家の生まれだということ自体、抹消されるだろう。写真、部屋、記録、学歴、全てが消えるだろう。だから僕はウィンディアの名を捨てた。僕自身、ウィンディア家の僕を誰も知らない場所に行くことにした。今は自分の魔道具を持ってヨハネと旅をしている。ただ、ウィンディア家から遠くに行きたかった。僕は黒いロートに身を包み、いざとなったら全身を隠せるようにしている。ヨハネは召喚の時と同じく黒のゴスロリドレスを着ていた。黒のドレスを風になびかせてヨハネが振り返って言った。

 

「マスター、そろそろ次の街に着きます。」

 

ヨハネが地図を片手に南を指さした。今まで色々な街を転々としてきたが、どこの町に行っても僕がウィンディア家だということを少なくとも一人は知っていた。うちの家は貴族の中でも1,2を争うほど有力は家系だったから、知らないほうがおかしいのだがな。だから今まで列車を4回ほど乗り継いで、大陸を超えてきた。

 

「今度こそ、ウィンディア家を知ってるやつがいないといいんだけどな。」

 

この町は海と草原に囲まれ、貿易で発達したような町だった。そういえばこの近くにこの大陸の一番大きい国の王都があったな。 しばらく町を歩いていると、道に人が集まっていた。人込みの中心では傷だらけの男が数人倒れていた。男たちは体に大きな黒いかぎ爪の跡があった。傷口から血があふれ出していた。止まる気配がない。

 

「今回もだめだったのか。」

「もうどうしようもないのか?」

 

野次馬どもが騒いでいるな。野次馬の一人の男性に話しかけた。

 

「あの?なにかあったんですか?」

「?ああ、旅のもんか。実は、この町の東にある山道の洞窟の先に黒龍がいて、最近暴れているんだ。その黒龍を倒すためにうちのギルドが倒そうとしているのだが、なかなか倒せなくて手こずってるところだ。賞金が結構出るから、他の町からも倒そうとする人がいるんだが全員返り討ちにあってな。」

「ふーん。そうなんですか?」

「・・・マスター、あの傷。闇の魔法の追加効果でどんどん生命力を吸い取られています。その黒龍とやらを倒さない限りあの傷は収まりません。」

「・・・そうか。」

 

人込みを背にして、僕は町の東に向かって歩き始めた。数歩歩いたところで、さっきの男性が僕を呼び止めた。

 

「おい、兄ちゃん。まさか黒龍を倒しに行く気か?」

「ええ、まあ、やるだけやってみますよ。」

「やめとけ、ケガするぞ!」

 

僕は顔だけ後ろに向けて薄く微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ。僕結構強いので。いくぞヨハネ。」

「はい、マスター。」

 

この二人を見ていた者たちはまた病人が増えた、そう思っていた。

 

町から40分ほど歩いたころ、東の山道にさしかかった。山道付近には人気が少なく、奥の方から不気味な気配を感じる。ヨハネと契約してからというもの、闇の力を感じやすくなった。これも左目の複製による能力だろうか。

 

「奥にいるのは確実だな・・・。」

「はい。約500mほど先にいると思われます。」

 

東の山道を少し進むと小さな洞窟があった。その奥から黒龍の声と思われる、鳴き声が聞こえた。だいぶ気が立っているようだ。軽い気持ちでかかったら普通に殺されるかな。

 

「・・気を抜くなよ、ヨハネ。いつも通り僕が前衛をやる。」

「マスターこそ、無茶しないでください。」

「了解。」

 

僕が先に洞窟を抜けた。その後ろからヨハネが抜けてきた。洞窟の先には全長4メートル以上はあるであろう黒龍が待ち受けていた。

 

「おー、思ったよりでかいな。」

「どうします?いつも通りで行きます?」

「ああ、変更はしない。」

「フフッ、了解です。」

「さあ、始めるよ。」

 

僕の声を合図に二人は武器を装備した。ヨハネは黒いオーブがついた杖と魔導書を、シェリアスは右手に魔水晶と呼ばれる紫色の水晶でできた剣を、左手には銀の銃を装備した。

装備するとほぼ同時に黒龍はかぎ爪を立てて攻撃してきた。さっきまで僕たちが立っていた場所にはかぎ爪のあとが深く残っていた。僕たちは寸前で攻撃をかわした。

 

「スピードもあまり早くないな。」

「次はこちらから攻めましょう。」

 

ヨハネが魔導書を開いた。

 

「ファイヤエレメント!」

 

ヨハネの呼びかけにこたえるかのように、5つの赤い蛍のような光が現れた。

ヨハネが杖を黒龍に向けられると、5つの光が黒龍を囲んだ。5つの光からそれぞれ交互に黒龍を焼き、目くらましをしていた。堕天使であることを隠していたら、まあ限界があるだろうな。

 

「マスター!」

 

ヨハネがエレメントを使っていた間に、僕は黒龍の頭上に回っていた。

 

「よくやった、ヨハネ!」

 

黒龍の上から剣を振り落とした。刹那、僕の攻撃は黒龍全体を切った。すると黒龍の最初に切った傷跡からこの剣と同じ色の水晶のかけらができた。実はこの剣には対象物を魔水晶の呪いにかけるという、追加効果がある。しかし使い方を誤ると持主をも魔水晶の呪いにかけてしまう、という魔道具だ。剣の追加効果によって黒龍は切られた箇所が魔水晶で固まってしまった。

剣を鞘に収めるときには黒龍は全身が魔水晶でおおわれていた。

 

「これでトドメだな。」

 

魔水晶でおおわれた黒龍の胸に銃を向け、トリガーを引いた。銃から撃たれた銃弾はダイヤモンドよりも固い魔水晶も、どんな攻撃もはじき返す竜のうろこをも貫いた。黒龍は魔水晶に閉ざされたまま息を引き取った。

左目に移る闇の力が無くなるのを見届けてから黒龍にかかっていた魔水晶の呪いを解いた。

呪いを解き終わると後ろからヨハネが話しかけてきた。

 

「お疲れ様です、マスター。お怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。戻ろう。」

「はい。」

 

僕たちは黒龍を倒したことを町に報告に戻ることにした。この竜の死体から使えそうなものを剥ぎ取ろうかとも考えたが、うろこがナイフでは切れなかったのであきらめた。いい素材が手に入りそうだったのに、惜しいことをしたな。

 

町に戻ると、病院の前が妙に騒がしくなっていた。どうやら今まで黒龍に襲われた病人たちが回復したようだ。黒龍を倒したことで吸い取られていた生命力が元に戻ったのだろう。僕たちが立ち去ろうとしたとき、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おい、兄ちゃんたち。あんたら、黒龍を倒したのか?」

 

その声を聴いた途端、まわりでバカのように騒いでいた人たちが静まり返った。回復を喜んでいた病人もじっとこちらを見つめている。視線が痛い。どう説明しようか迷っていた時、横からヨハネが小声で話しかけてきた。

 

「マスター。ここは隠さないほうがいいかもしれません。」

 

今は彼女の言うことを信じるとしよう。僕はくるっっと回って後ろを向くと、人々に向かって答えた。

 

「ええ、僕たちが黒龍を倒しました。嘘だと思うなら東の山道に行ってみてください。死体が転がってますよ。」

 

僕の答えを聞いた者たちは、唖然と僕の方を見つめてくる。まるで、こんなやつに竜が倒されるわけがないとでも言いたげな表情だ。しかしこれが現実だ。黒龍は負け、僕たちは勝利した。

 

「し、信じられん・・。本当に君たちが倒したのか?」

「ええ。マスターが黒龍の心臓を破壊し、生命活動を停止させました。」

 

今まで黙っていたヨハネが口を開いた。彼女が僕以外に自分から話すなんて珍しいな。未来が見えたのだろうか。しかし彼女が口を開いたからと言って村人たちは信用はしなかった。そんな中、この町のギルドの人たちが東の山道に様子を見に行くと言って、何人かが町を出ていった。その間僕たちはこの町のギルド本部にお邪魔した。

数時間後、東の山道まで様子を見に行った、ギルドの人たちが帰ってきた。残っていたメンバーが次々に集まってきた。

 

「どうだった?」

「確かに倒されていた。胸に銃弾で貫いた跡があったよ。」

「・・・ということは、本当に倒されたのか。」

 

やっと信じてくれたか。やれやれ疑い深いなこの町の人たちは。

黒龍が倒されたことを祝って、今夜は宴が開かれた。町中の人たちが集まり、黒龍の討伐成功を祝った。あるものは踊り、またある者は酒を飲んでいた。僕たちも宴に招待されたがこういう宴に出ると僕たちのことを知るものが現れるかもしれない。だから宴の外の方でひっそりとしていた。そんな僕たちもの方に向かって長く赤い髪をなびかせながら歩いてくる女性がいた。

 

「あなたたち、黒龍を倒した人たちよね?」

「?・・・ええ、そうですけど。」

 

突然の質問に答えるべきか少し迷ってしまった。しかし答えたところで正体がバレることもないと思って質問に答えた。僕たちの答えを聞いたら、質問してきた女性がもう一度質問してきた。

 

「あなたたち、私のギルドに入らない?」

「・・・ギルド?」

「そう、この町のギルド、アルデナナイツに。」

 

ギルドか。僕がまだウィンディア家にいた頃、家のある町のギルドに行ったことがあった。あの時は、図書室に引きこもって魔導書ばかり読んでいた僕を、兄が連れまわされた思い出があったな。あまり、いい思い出がないな。

そんな考えを察したのか隣からヨハネが話しかけてきた。

 

「マスター、強力な魔術師を隠すには魔術師の中、ですよ。」

「要するに行けってことか?」

「はい。」

 

まあ、彼女には未来が見えるから彼女が言うなら間違いはないだろう。もしバレたら、この町ごと消してやるか。

 

 

「もしかして、入ってくれるの?」

「いいですよ。特に行くところもないし。ところでこの紋章、見たことあります?」

 

そういって僕は懐中時計に刻まれたウィンディア家の紋章を見せた。一様こういうことは確認しておかないと。

 

「?なにそれ、きれいな時計ね。それでこの紋章は何なの?」

「いえ、知らないならいいです。」

 

僕は懐中時計をしまった。この人さっき、『私のギルド』と言っていたな。もしかしてこの人がギルドマスターなのか。ギルドマスターが知らないなら大丈夫だろう。もしバレたら、この町ごと消してやるか。

 

赤髪の女性に連れられてアルデナナイツの本部に来ていた。ここには昼間、待ち時間に使ったな。まさかもう一度ここに来ることになるとは。

 

「さあ、二人とも。ここが私のギルド、『アルデナナイツ』よ。そして私がギルドマスター、ナタリー アルデナよ。」

 

ナタリーと名乗ったギルドマスターがギルドに背を向け両手を広げた。勢いよく両腕を広げたから、腰まで伸びていた赤髪が風になびいた。その髪の向こうにはかなり大きな建物、ギルド アルデナナイツがそびえたっていた。

 

「さあさあ、入って二人とも。」

 

ギルドの中には昼間の時とは違い、依頼を終えてきたギルドのメンバーが集まっていた。老若男女、いろんな人がいた。合計で50人くらいだろうか。外の黒龍討伐の祭りと同じように、バカのように騒いでいる。これも外の祭りの影響だろうか。

中で騒いでいた人たちが、ナタリーが入り口を入るとこちら側を向いた。

 

「お!マスター!」

「リーダー!お帰りなさい!」

 

仲のギルドメンバーの全員がこちら側を向いた。人込みは苦手だな。メンバーの一人が僕たちの方を向いた。

 

「マスター、横の二人は誰ですか?」

「ああ、紹介しよう。彼らは今日、東の山道の黒龍をたった二人で倒したほどの実力者だ。今日から私たちの仲間になる。」

 

ナタリーが黒龍の話をするとギルドメンバーたちはざわついた。そりゃあ、そうだ。竜なんて並の人間には倒せないからな。それも大賢人や勇者でもない、ただの子供二人が。

 

「本当に君たちが倒したのか?」

「そのくだりまだ続けるの?」

「・・・!思い出した!今日この町に来た奴らだな!」

 

なんだ見ていた人がいたのか。だったら聞くなよ。めんどくさいな。

 

「お前ら、名前は?」

「・・・僕はシェリアス。」

「私はヨハネです。」

「姓はないのか・・・。」

「・・・実は、小さいころに親と離れてな。」

「・・・なんだか・・・悪かったな・・・。」

 

こういう時、自分たちがみなしごだという設定を作っておいてよかったとつくづく思うよ。今僕たちは、旅をしている兄妹ということにしている。

 

「そうか、二人には姓名がなかったのか。なら私が何かつけてやろう。そうだな、二人はこれからここのギルドに入るなら、私が面倒を見るから、『アルデナ』でいいんじゃないか。」

 

テキトーだな。しかしこれでウィンディアを名乗らなくて済みそうだ。他のギルドメンバーもそれを聞いて、妙にテンションが上がっているように見えた。

 

「おお!いいですねマスター。」

「俺たちのギルドにふさわしい名前だ!」

「ルーキーの誕生ですね!」

 

メンバーの了解を得たのを見計らって、もう一度こちらを見た。

 

「と、いうことだ。これからはアルデナと名乗ると言い。これからはここが君らの家だ。そして私が君たちの姉だ。」

「ハハハ、ついにリーダーに弟と妹ができたわけだ。」

 

僕たちは何も言っていないのに話が段々進んでいっているな。勝手に決まっていっている気がするが、これでいいのだろうか。

 

「ヨハネ、この流れでいいのか?」

「ええ、私のビジョンに変わりはありません。心配ですか?」

 

僕よりも5cmほど背が低いヨハネが上目使いでこちらを見てきた。少し笑っているように見える。

 

「ああ・・・未来を見通す目でも、もうあまり人とは関わりたくないんだ。」

「大丈夫ですよ。私はいつまでもあなたと共にいますよ。」

 

簡単にそういうことを言ってくるとは、この堕天使は恐れを知らないな。でも、いまは彼女しか僕にはないしな。誰よりも信頼している彼女の言葉だ、疑う意味はない。

 

「わかった。君の見た世界を信じるよ。」

 

僕はナタリーと他のギルドメンバーに向き直った。

 

「それじゃあ改めて。今日からアルデナナイツに入ることになった、シェリアスとヨハネです。よろしくお願いします。」

 

のちにアルデナナイツを最強のギルドへと導く、初の兄妹ギルドマスター、シェリアス アルデナとヨハネ アルデナの誕生だった。

 




いかがだったでしょうか?今回はまだ彼らの冒険の序章に過ぎない・・・のかもしれません。また書くかもしれないし、もう書かないかもしれません。書くか書かないかは、僕の気分と本編の内容と皆さんの意見で決まります、多分。あと時間があれば。すべては神のみぞ知る、です!


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堕天使と魔王と審査終了

今回は3部構成の第三話にあたります。


・・・1時間ほどかけて、先輩が書いたラノベを読み終えた。ほぼ同時に僕たちが読み終えると、机の上に原稿を置いた。

 

「二人とも、どうだった?」

 

どうって言われてもなあ・・。感想に困る。どうせ先輩たちのことだから、ただ僕とヨハネがイチャイチャしてラッキースケベみたいなことが起こっているのだろうと思い、ボロクソに感想を言ってやろうと思ったら、思ったよりまともだったから、どういえばいいのかわからないな。困ったなこれは。

 

「・・・うーん。・・・まあ、いいんじゃないですか。」

「・・・私も同じ意見かな・・。」

「マジ?!」

 

まあ、本気で僕たちを弄り倒そうとするなら、大きく原点してやるつもりだったが。これじゃあ、減点できない。

 

「なんていうか、そこまで僕たちで遊ぶ気はなかったんですね。」

「そうみたいね。・・・ただ、なぜ私がモデルのキャラが、どうして、シェリアスを『マスター』と呼んでるのよ!」

「確かに、多分僕がモデルのキャラが、ヨハネにそう呼ばれるのはなんだか恥ずかしいな。」

「どうしてって、そういう設定にしたからさ!」

「だからなんでそういう設定したの・・・ですか?!」

「だって、面白そうだったから。」

「そんな理由で、こんな設定にしないでください!」

 

僕は内心、マスターか。確かに恥ずかしいけど、一度言われてみたいな。などと考えていた。いつもは元気の塊みたいな彼女が冷静にシェリアスをマスターと呼ぶのは正直憧れる。なんだか背徳感がある。服従させたみたいで。変態じゃないからな!ただ攻めるのが好きなだけだ!

後ろから僕たちが原稿を置くのを見届けると漫研の先輩が口を開いた。

 

「さて、お二人とも。次は僕の作品ですよ。漫研部長の実力、とくとご覧あれ。」

 

そういうと先輩は、僕たちの目の前の原稿用紙を押してきた。一度、ラノベの原稿を机に置くと、僕たちは漫画の原稿を手に取った。

 

「・・・さて、読むか。」

「そうね。今度も普通だといいけど。」

 

僕たちは同時に漫画を読み始めた。漫画の原稿用紙を開くと僕たちに衝撃が走った。

 

「なっ・・・これは・・。」

「ど・・どういう・・・こと?」

 

そこに描かれていたのは、髪をなびかせ、剣と魔法の世界で生きる、シェリアス アルデナとヨハネ アルデナの姿があった。つまりこの漫画は、『魔術ギルドのDark prince』の漫画版ということになる。

 

「お・・おい。どういうことだよ?」

「まさか・・・二人とも同じものを偶然同じものを描いたの?」

「いや・・・たぶん・・・違う。」

「えっ?・・・どういうことよ、シェリアス。」

「たぶんだけど。・・・これはコミカライズ化、なんだと思う。」

「コミカライズ?」

「うん。原作がさっきのだとすると、今読んでるこれがコミカライズされた作品ってことになる。」

 

僕の推理を聞くと、先輩たちは悪魔のような笑みを浮かべていた。黒い、どんな闇よりも黒く光ってる。先輩たちを睨んでいると、隣りからヨハネが問いかけてきた。

 

「つまり仕組まれてたってこと?」

「ああ。・・・多分、またあいつに。」

 

そう言うと後ろで漫画を読んでいる、元凶に目をやった。

 

「どうしたの?」

「いや、また君かと思ってね。」

「なるほど、また委員長の仕業なのね。」

 

またこいつにしてやられたのた・・・。

そんな僕たちをそっちのけで先輩たちは話を進めていた。

 

「よーし、このまま図書室で原作とコミカライズを出版するぞ。」

「それなら美術部にイラストを頼んだらいいんじゃないかな?」

「おおそれないいな!」

「そしてこのまま、放送部と演劇部と合同でお昼の放送でアニメ化だぁー!!」

「いいなそれ!」

「演劇部と文化祭で実写版かミュージカルをやるのはどうでしょう?」

 

勝手に話を進めていた先輩たちの間に入って、これ以上この話の進展を止めようとした。

 

「ちょっと待ってください!勝手に話が進んでるんですけど?!」

「そうよ!なんでそこまで話が進んでるんですか?」

「そうです、ちょっと待ってください。」

 

ここで珍しく藤崎が止めに入った。なんだ、こいつもまともなところあるじゃないか。と、考えた次の瞬間。

 

「アニメ化するなら、本人たちにアフレコをさせてはどうですか?」

「おぉい!!何言ってんだ!」

「そうよ!わ、私たちがアフレコなんて・・・。」

 

もしかしてまたこいつにはめられたのか、僕たちは。

 

「それはいい考えだ!そうだ!物は試しだ、津島君、津々宮君を一度マスターと呼んでみてくれ!」

「「ええっ?!」」

「いいからいいから。一回だけでいいから。自信をもって。さあ、3、2、1、」

「・・・ま・・マスター・・・。」

 

ぐはぁ。は、破壊力が強すぎる。ま、マスターって、マスターって、威力が強すぎる。ああ、いいな、マスター。

 

「ち、ちょっとシェリアス、大丈夫?」

「くっ、アルデナ君はすごいな。ヨハネにマスターと呼ばれて正気でいられるとは、ただものではないな・・・。さすがは・・・魔王の分身。」

「・・・そ、そんなに?!」

「楽しそうだな、津々宮君。」

「・・・うっさい!」

 

今日もまたこいつらにはめられたのか。あーあ、屈辱的だな。結論、こいつらにかかわるとろくなことにならない。マスター呼びは破壊力が高い。

 

「くそったれどもが・・・。」

 

 

 




最後の修斗君のセリフ、「くそったれどもが」ですが前に話した僕の好きな実況者さんの童画に出てきた言葉なんですが、その言葉を気に入って僕自身が度々使っていると、だんだんと口癖になってしまいました。弓道の練習で的を外した時にもたまに言ってしまうんですよ。「・・・くそったれが。」と。


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堕天使と魔王とゲーム

今日は1週間の終わり、金曜日。学校が終わって、いつものように津島家に晩御飯を作りに来ていた。今日はいつもより早く晩御飯を作り、食べ終わったのでしばらく時間を於て余していた。

 

「ああー暇だなー。」

 

食べ終えると本当に何もやることが無くなってしまった。いつも料理をしているから気づかないうちにスピードが上がったのかもしれないな。これもレベルアップの一つなのだろうな。某有名RPGのレベルアップの際の効果音、テレレッテッテッテーという音が聞こえてきそうだ。次からはもう少し手の込んだものを作ってみるか。片手にコーヒーの入ったマグカップを持ちながらボーッとテレビを見ていた。

 

「暇そうね。」

「ああ、もう少し手の込んだものをを作ればよかったかな。」

「フフフ、暇なら私とゲームしましょう。」

「ゲーム?何するの?」

 

ヨハネは一度自分の部屋に戻って、テレビゲーム用のコントローラーを持ってきた。

 

「これで勝負しましょう。」

 

ヨハネがテレビゲームを二人プレイ用に設定している間、僕はコーヒーを追加を入れるためキッチンに来ていた。コーヒーを入れている間、色々なことが頭の中をよぎっっていく。今まで友達とゲームなんてしたことなかったな。オンラインの通信対戦は何度もやったことがあるが、リアルに隣で友達と対戦なんてやったことないから、これが初めてなんだよな。しかも初めてがこのヨハネととは、ハードル高いな。数日前、ヨハネからのあの一言を聞いてしまったせいで妙に意識してしまう。しかしこの僕の相手ではない。返り討ちにしてやる。まああんまりやったことはないのだが、何とかなるだろう。でも、ヨハネと隣り合って、ゲーム、か。追加にコーヒーを入れたマグカップが地震のように揺れていた。これは緊張ではなく、武者震いだからね!別に女の子とゲールを隣り合ってやるからって緊張してるわけじゃないからな!

 

「シェリアス、設定できたわよ。」

「了解。で、何すんの?」

「フフフ、これよ!」

 

ヨハネが手に取ったのは、同じ会社のゲームキャラクターがゲームの枠を超えて戦うという内容のゲームだった。

まさかヨハネがこのゲームを持っていたとはな。もっと中二病チックなゲームが出てくると思ったが意外だったな。

 

「シェリアス、このゲームやったことある?」

「ない。・・・けど実況動画は見たことある。」

「じゃあ、操作方法わかる?」

「・・・大体は。完全に初見ってわけじゃないし、多分何とかなる。」

「じゃあ、ゲーム開始よ!」

 

予想道りソファに並んでテレビ画面を座ってみることになった。・・・近いな。ヨハネの肩があったている。これはゲームに集中できるだろうか。もしかして部活動見学のときの弓道の試合のようになるんじゃないのか。こんな少しのボディタッチにも動揺してしまうとは、僕もまだまだピュアだな。魔王でもピュアピュアだ。

色々考えこんでいると隣からヨハネの声が聞こえた。

 

「ちょっとシェリアス!さっさと使うキャラ選びなさいよ。」

「え?ああ、すまない。」

 

テレビ画面を見るとキャラを選ぶ画面で止まっていた。ヨハネはすでにキャラを選び終えていた。彼女の使うキャラは黄色い電気を使うネズミだった。じゃあ僕は同じゲームの火を吐く御三家の最終進化系にしようかな。

 

「ほい、選んだぞ。」

「フフ、それじゃあ運命のラグナロクを始めましょうか。」

 

ついに始まった、堕天使 vs 魔王の因縁の対決。勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。

フィールドに自分たちの使うキャラが現れた。僕たちと後二人は、CPUが入った。CPUの一人は赤い帽子の大工を、もう一人は緑の服を着た金髪の勇者を選んでいた。全参加キャラクターがステージに立つとカウントダウンが始まった。

 

「3」

 

コントローラーを握る力が強くなった。

 

「2」

 

テレビの画面を睨む。隣からヨハネを息が聞こえる。

 

「1」

 

たった数十秒が長く感じる。その刹那、

 

「0!」

 

最後のカウントの声が部屋中に響き渡ったような感覚に包まれた。テレビからの声とともに僕らの戦いは幕を開けた。

ヨハネはまずCPUから倒しにかかった。まず邪魔者を片付けに行ったのだろう。一方の僕もCPUを倒しに行った。僕が倒しに行った理由はヨハネとは違い、ただプレイになれるためだった。しばらく戦ってからだいぶプレイに慣れてきた。が、慣れたところで僕は先にゲームオーバーになってしまった。

第一回戦はヨハネの勝利に終わった。

 

「やっぱ実況だけじゃ慣れないか。」

「フフフ、慣れない戦いに挑むほどの愚か者だったのね、魔王様。」

「・・・次はどうなるかな。」

 

第二回戦も僕たちもCPUもキャラ変更はせず、そのまま戦いが始まった。

 

「3、2、1、0!」

 

今度もヨハネはCPUから倒しにかかった。また同じ作戦で行くのだろう。僕もさっきと同じくCPUから倒しにいった。今度は容易く自分に反動が帰ってくる技は使わないようにしよう。さっきの戦いは、あの技の反動で動けなくなっている間に相手にやられてしまったからな。今回はさっきの反省を生かして小技を中心に使っていこう。おかげで最後の方まで残った。さきにCPUを全滅させた事により、ヨハネと僕の一騎打ちになっていた。

 

「フフフ、成長が早いわね。」

「適応性が強いと言ってくれ。」

「まあいいわ、私に勝てるかしら?」

「やってみなければ、わからないだろ。」

 

結果は、またもヨハネの勝利で終わった。

 

「・・・思ったより強かったな。」

「思ったよりって何よ!」

「そんなことはいい。もう一度勝負だ。」

「そんなことって・・・。」

 

そして第三回戦。またもヨハネと僕の一騎打ちとなった。

 

「また、やられに来たわね。」

「やられに来たんじゃない、倒しに来たんだよ。」

 

またしても訪れた勝負。今度こそヨハネを倒してやる。二回目となる僕らの戦いはほとんど互角なものだった。お互いが同じような戦い方に同じような作戦と、かぶっていしまっている。だからお互いがまねをしているように思えてきた。

そして、勝負は延長戦、サドンデスにまで持ち込んだ。

 

「どこまでも互角になるようね。」

「だけど次で決めるよ。」

 

延長戦に入れば、こっちのものだ。前に動画で見た技が使えるからな。残念だったなヨハネ。この勝負は僕が貰った。

 

「3,2,1,0!」

 

よし、今だ!

 

「開幕フレア◯ライブ!」

 

僕が使っているキャラの技を開始の刹那うち放ち、敵を一発でK.Oにした。ヨハネも隣で唖然としている。当然だろうな。こんなすぐに勝敗が決まるなんて予想していなかっただろう。フハハ、読みが甘かったな。

 

「ちょっと、今の何よ!?」

「延長戦の時のみに使おうと思ってた必殺技だけど・・。」

「どこでそんな技覚えたのよ!」

「・・・ネットの実況動画。」

 

素直に自分が見た動画で使っていた技のことをヨハネに話した。

 

「・・・フ、フフフ。上等じゃない!もう一回よ!」

「いいよ。まだまだ僕が勝ち続けるよ。」

「そんな連続勝敗記録、この堕天使ヨハネが止めて見せるわ!」

「フン、君にできるかな?」

 

この後僕たちは連続で20回ほど戦った。15回あたりからは全て僕が勝っていた。19回目に差し掛かったころ、ヨハネが集中力が切れてきて、眠気に襲われたのか、ゲームプレイに切れが無くなった。

 

「ヨハネ、眠いのか?やめる?」

「・・・まだ、大丈・・夫・・よ。」

 

全然大丈夫じゃないだろ!頭ふらふらしてるぞ。このままでは自分が勝つまで続ける気じゃないのか。仕方ない、最後くらいは負けてやるか。

そして最終戦にしたい、第20回戦が始まった。ヨハネは結構ミスを連発している。本当に大丈夫か。ヨハネがふらふらしている間に僕はCPUを全員倒して回った。ヨハネの使うキャラには指一本触れさせない。この時の僕は命に代えても姫を守ろうとする騎士の気分だった。よくファンタジー小説で読む騎士は戦いの最中こんなにも集中力を使っているのだろうか。だとしたら精神力凄いな、尊敬するよ。そんな騎士気分に浸っていた時間も最後のCPUを倒した時に終わった。さあてここからは姫と騎士ではなく堕天使と魔王の戦いだ。と言っても今回はわざと負けてやるがな。

 

「うーん・・シェリ・・アス。」

「ほら最後だぞ。」

 

ヨハネはコントローラーを力なく握ると僕のキャラに向けて攻撃を仕掛けてきた。僕はその攻撃をガードも回避もせずに受けた。今までのCPUとの戦いでたまったダメージがだいぶきいていて、ヨハネのこの一撃で僕のキャラは限界を迎えて、ゲームオーバーになってしまった。そしてやっと僕を倒して満足したのか、ヨハネの瞼が少しずつ閉まりかけていた。僕にも少し睡魔が襲ってきたようだ。早く帰ってさっさと寝よう。などと考えていると隣に座っていたヨハネの首が左右に動き始めた。どこか安定した態勢を探しているのだろうか。そんな姿を見ながら、ゲーム機をある程度片付けようと思って立とうとした瞬間、隣のヨハネの首が僕の肩に乗ってきた。まるで探していた態勢が見つかったかのように満足した顔をして、最後には眠ってしまった。

 

さてこの状況、どうしよう。どうしたらいいのだろう。なぜ僕の肩を枕にして僕にもたれかかったまま寝ているんだ。というか、無防備すぎませんかね、この堕天使。何を考えてるんだ。僕は心はピュアな思春期の男子なんだけどな。もしかしてなめられているのか。だったら一度痛い目に・・・。いやいやいや、それはダメだろ。しっかりしろ、津々宮修斗。今すべきことは何だ、考えるんだ。おちつけ、僕には魔王シェリアスもいる。しかもヨハネの行動のせいで僕の睡魔はどこかに行ってしまった。こんなこと乗り越えられなくてどうする。・・・とりあえず、ヨハネを起こすか。でも何だか惜しい気もするな。何を考えてるんだ僕は!しかし、どうやって起こそう。揺するか。耳元でささやくか。叩くか。うーんどれもあまりいい考えではない気がするな。しっかりと考えたいのに、さっきから右耳のほうにすーすーと息の音が聞こえて、集中が途切れてしまう。僕は音のする方に目をやると、人の肩を枕に使う堕天使の姿があった。こいつ、人のことも考えずにすやすやと気持ちよさそうに寝てやがる。僕は肩のすぐそばにある、白くて柔らかそうな頬に指を当ててみた。

 

「んっ・・・。すーすー」

 

彼女の頬をさわると少しだけ呼吸が乱れたが、すぐに整えてまた寝てしまった。正直、かわいかった。別に僕に頬フェチがあるとかじゃないけど、反応と寝顔と寝息、すべてがかわいかった。まったく、寝ていても人を魅了するとは、本当に罪な堕天使だな。すると今度は自分からヨハネの口が開いた。

 

「うーん・・・・シェ・・・りあ・・ス・・」

 

まさか夢の中で僕が出てきているのか。

 

「・・さすが・・さすがわたしの・・・しも・・べね・・」

 

こいつ、夢の中で僕を僕にしているのか。たとえ夢とはいえ何だか不快だな。やっぱり痛い目に合わせた方がいいんじゃないだろうか。この後1時間ほど悩んだ末に何も思いつかず、何もできなかった。すると玄関の扉が開いた。

 

「ただいまー。」

 

ヨハママのご帰還だ。今の体勢を崩さないように細心の注意を払いながら僕が今の事情を説明するとヨハママは大体理解してくれた。

 

「なるほどね。それは善子が迷惑をかけたわね。」

「いえ、大したことありませんよ。」

「そう?じゃあ最後に一つだけお願い。善子を自分の部屋まで運んであげて。」

「? いいですけど、どうやって?」

「うーん、そうねえ。お姫様抱っことか?」

「・・・僕がやるんですか?」

「ええ、私は疲れたから夕食をいただくわ。」

 

そいうとヨハママはキッチンに向かった。そして取り残された僕たち。困ったな。ソファに横になっているヨハネに目をやった。ヨハネをお姫様抱っこで、ヨハネの部屋にもっていき、ベッドに寝かせる。あれ、絵図らがやばくないか、これ。はたから見たら誤解を生むぞ。そ、そんなことを本当にするのか。・・・やるしかないか。この時の僕は睡魔にやられてまともな判断ができなかった、と信じたい。

仕方なく一度ヨハネをソファにして寝かせた。心に何か引っかかるものがあったが、そんなものも睡魔にやられて無視して、僕はヨハネを持ち上げた。持ち上げた瞬間、ヨハネが思ったよりも軽かったことに驚いた。普段は全身を覆うような服をよく来ているし、そこまでまじまじと見たことがなっかたが、彼女の腕や足は想像よりも細く白かった。まるで彼女の背中に羽が生えていて、少し中に浮いているかのような気分だった。これなら眠気で力がそんなにでなくても大丈夫だろう。ヨハネを持ち上げたまま、彼女の部屋に向かった。両手がふさがっていて、この扉を開けることに一番苦労してしまった。先に開けておけばよかったな。扉を開け中に入るとそこは未知の空間だった。部屋に入った途端、ヨハネの甘い香りに全身を包まれたような気がした。さらに中は黒を中心とした家具が多かった。そしてここはヨハネが堕天使の集いの時には撮影スタジオになる部屋なのか。そんなことを考えたがとりあえずヨハネをベッドに下した。ヨハネが軽いからと言って今の状態でいつまでも持っていられるかと言われると不可能だからな。腕がつってしまう。ベッドに下されたヨハネはそのまま深い眠りについたにか。寝言も言わなくなった。一度彼女から視線を離すと左の壁へと目をやった。この壁の向こうに僕の部屋があるのか。さっさと帰って僕も寝よう。ヨハネの体に掛け布団をかけて眠気で今にも閉じそうになっている目を何とか開けて最後にもう一度ヨハネの顔を見た。

 

「おやすみ、ヨハネ。」




僕は最近、ポ◯モンの新作にはまっています。リー◯エ可愛い。
テストとか大会とか会議とか、めんどくさいことが近いときにやるゲームは格別ですね。・・・やることはやってますので。


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堕天使と魔王とオンラインゲーム

今回で第15回ということで、皆様に大事なお話があります。この度、僕EIMZは親からメールに対して返信していいと、やっと許可をもらいました。これまでに感想をくれた皆さん、今まで返信が出来ずにすいませんでした。あと、直接感想を言ってくれた友達、何も言えなくてごめんね。これからはできる限り感想にも答えていくつもりです。というわけで、これからも読んでいただければ幸いです。


 朝起きると、午前9時を回っていた。携帯を見てみると、一通のメールが来ていた。どうやらこのメールはヨハネから送られてきたようだ。こんな朝っぱらから、何送ってきたんだ。僕は昨日、君のおかげで寝不足なんだけどな。僕はとりあえず、メールを開いた。

 

『シェリアス、起きたらパソコンにこのゲームを入れなさい。私と委員長とあなたの三人でするわよ。』

 

そしてこのメールと一緒にURLが送られてきた。メールが送られてきた時間を見ると、1時間前に送られてきていた。まったくいいご身分だな、ヨハネさんよぉ。自分は人の肩を借りて寝落ちて、最終的に僕が自分のベッドまで運んでやったというのに。僕はおかげで眠気が吹っ飛んでしまって、あまり寝れなかったんだよ。だから今日は一日ゆっくりと寝ていようとしたのに。まさかまた藤崎の陰謀だろうか。いやそこまで考えてしまったら人間不信になってしまうか。仕方ない、今日は付き合ってやろう。まったく、まだまだ甘いな僕は。パジャマを着替えて軽く朝食を済ませると、僕の部屋に置いてあるパソコンにさっき送られてきたURLを入力した。開かれたパソコンの画面には、自由度の高いファンタジー系のオンラインゲームが広がっていた。

 

「セカンドワールドオンラインねえ・・・。」

 

セカンドワールドオンライン、略してセカオラ。このゲームはファンタジーの世界で戦ったり、遊んだり、色々なことができるようだ。とりあえず言われた通りに僕はゲームを入れた。

このゲームはまず自分の分身であるアバターを作るようだ。さて、自分の分身か。こういうのとは違うRPGとかなら女の子を選ぶこともあるが、このゲームはオンラインでヨハネたちと会うだろうから、性別は男にしておこう。名前はシェリアスでいいか。次は見た目と顔のパーツを選んで組み合わせるのか。どうしようかな。自分と全然違う顔にしてもいいだろうが、僕はできるだけ近くしてから徐々に変えていった。まず、目を釣り目にして、瞳の色をアメジストのような紫色にして、髪の毛の先端を白く染めた。リアルの僕は優しい感じの顔だが、このゲームの顔は鋭い感じの顔になった。しかしどこか似ているような気がする。まあ、自分の顔を基準に作ったから当然か。最後に自分の種族と職業を選ぶ。種族は、魔族、神族、妖精族の三択のようだ。もちろん僕は魔族を選んだ。職業は、15種類ほどあったが僕は魔導士を選んだ。これで全ての設定できただろう。さあここからが本番ゲームスタートだ。ゲームがホーム画面になるとスタートボタンが現れた。ボタンを押すと同時に自然と僕の口が開いた。

 

「リンクスタート!」

 

言ってみたいランキングトップ10に入るセリフを口にした。ゲームに入るならこれ言わなきゃテンションが少し下がりそうだし、オンラインゲームの世界に入るときに一度でいいから言ってみたかったんだ。

 

このゲームの中ですでにヨハネと藤崎がどこかにいるはずなんだけど。先にメールをした方がいいかな。そう思ってケータイに入っているアプリの僕たち三人のグループにメールを送った。

 

『ゲームにログインしたぞ。』

 

するとすぐに既読が付き、グループ通話が開始された。

 

『遅いわよ、シェリアス!』

『遅刻だよー。』

「ごめん寝てた。」

 

なぜ僕が謝ったんだろう。約束をしていたわけでもないのに。

 

『それで、今どこにいるの?』

「最初にログインした時に出たところ。」

『わかったわ。すぐに行くから動かないでよ。』

「あいよ。」

 

何だか、迷子が親を待っているような気分だな。なんか屈辱。でもまだこのゲームに慣れてないから待つしかないのか。しかしこのゲーム、グラフィックといい色々レベルが高いな。まるで本当にこの世界に暮らしているかのようだ。もしかしてこれログアウト不可とか・・・はなかったか。よかった。

しばらくするとヨハネに似たキャラと見知らないキャラが近づいてきた。もしかしてあれがヨハネと藤崎だろうか。

 

「シェリアスー。」

「もしかしてヨハネ?」

「そうよ!どうこのアバター。かわいいでしょ。」

 

可愛いか可愛くないかで言うと可愛いが全体的にリアルの彼女に似ているから可愛いと言いづらい。

 

「・・・可愛いんじゃないかな。」

「・・・ありがと。」

 

ほら、やっぱりこういう空気になるから、ちょっとためらったんだよ。

彼女のアバターは大体似ているが少し違っていた。一つは髪型、というか髪の長さ、いつも肩から少し出たくらいの長さから、腰くらいの長さまでに伸びていた。もう一つは、瞳の色が左右で違っていた。左目はリアルと同じ色だが、右目は炎のような赤色をしていた。しかしそんなことも目がかすむくらい、何よりも印象が強かったのは彼女のアバターの名前だ。『✟ヨハネ✟』って中二病全開じゃないか。自分だけのゲームとかならわかるけどオンラインのゲームで✟をつけるとは・・・。呆れも度を越えると尊敬になりそうだ。

 

「ということは隣は藤崎か?」

「うん、今日は津島さんに誘われてログインしたんだ。」

「君も今日が初めてか。」

 

藤崎のキャラは彼に似ていなくはないが、本人と一緒ではなかった。決定的に違うのは、髪の色だった。リアルとは違い彼の髪は雪のような白髪だった。そして名前も「ファースト」というキャラネームにしていた。藤崎の名前は元だったからファーストなのだろう。

 

「こっちでは僕のことはファーストと呼んでくれ、ヨハネ、シェリアス。」

「ああ、よろしくな、ファースト。」

「よろしくね、ファースト。」

「それで、何で僕は呼ばれたの?」

「そういえば、僕も聞いてなかった。」

 

するとヨハネが少し溜めてから薄く笑い出した。

 

「ククク、ヨハネに召喚されし、二人の英雄よ。よく聞きなさい。これからヨハネたち三人でパーティーを組むわよ!」

「「はあ・・。」」

「何よそのテンションは!?」

「いや、急にパーティーを組むって言われても、なあ。」

「うん、どう反応したらいいのかわからないよ。」

 

珍しく藤崎、基ファーストと意見があったな。

 

「何よ二人して!」

「まあ、僕は別に付き合ってやるよ。ファーストは?」

「僕も別にいいよ。」

「本当?!」

「まあ、アカウントも作っちゃたしな。」

「そうだね、どうせやるならみんなでやった方だ楽しいよ。」

 

これが僕たちのパーティーの始まりなんだろうな。僕たちはパーティー結成の手続きを済ませるためにヨハネがホーム画面を開いた。

 

「あ、そっか。パーティーを決めるのにそれぞれチーム名を決めなくちゃならないみたい。名前何がいいかしら?」

「今回は面倒だから君に一任する、とは言わないから。変な名前にされそうだし。」

「どういう意味よ?!」

「でも名前か、何がいいかな。」

「やっぱり私が決めなくてはいけない様ね。チーム名はシルバリック・・」

「「却下。」」

「なんでよー!」

「あ、そうだ!アルデナナイツは?」

 

ファーストが提案してくるとは、あまりいい思い出がないな。また何か企んでいたりしないだろうか。

 

「アルデナナイツってあの小説のギルドの名前よね?」

「そう、このチーム、シェリアスとヨハネって名前のキャラがいるからいいんじゃないかな。」

「それだと消去法でファーストはナタリーさんになるな。さらに言うとヨハネが僕のことをマスターと呼ぶことになるんじゃ・・。」

「それは・・ちょっと。」

「僕もネカマはちょっと・・。」

「だろ?」

「じゃあ何がいいのよ?」

「それを考えているんだろ。」

 

この後5分ほど考えたがいい案が出てこなかった。どうしようもなくなってきて、アルデナナイツで妥協しようかと考えだしたころ、ふと僕の部屋から見えた、月が見えた。現在時刻はまだ15時くらいだから、真っ白な月が見えていた。

 

「・・・月。」

「えっ?」

「月?」

「うん、何となく。」

「月って、ムーンとかルナみたいな?」

「ああ、部屋にから見えたから何となく。」

「いいんじゃないかしら、月、ルナ。でも何かもう少し黒要素が欲しいわね。」

「黒要素って何?」

「さあ?」

「・・・そうだ!シャドウ。ルナシャドウっていうのはどう?」

「ルナシャドウか。いいんじゃないか?」

「うん。僕もいいと思う。」

「じゃあ、決定でいいわね?」

「うん。」

「ああ。」

「じゃあ、これから私たちはチームルナシャドウよ!」

「「おお!」」

 

チーム名も決まり、登録も終わりこれで僕たちは正式にチームになった。しかしここで一つの問題に突き当たった。

 

「そういえば二人は自分の職業名に選んだの?」

「私は魔法使い。」

「僕は錬金術師。」

「ああ・・。まさか、だな。」

「シェリアス、あなたは?」

「・・・魔導士。」

「「「・・・」」」

 

そりゃあ言葉を失うよな。全員同じような職業だもんな。どうすんだよ、このチーム。前衛がいない。後方から魔法で支援しかできないじゃないか。バトルになったらすぐに負けそうだ。魔法だけの戦いって何の縛りプレイだよ。

 

「・・・確かこのゲーム、いまからスキルを開放していく方式だったよな。」

「え?ええ、そうだけど。」

「ヨハネは魔法使いのスキル、もう開放してるよね。」

「ええ。」

「だったらまだ何とかなる、はずだ。」

「どうするんだい、シェリアス?」

「僕とファーストが変わればいい。ファーストはメイン武器に弓を装備して矢が無くなったら錬金術で補充、サブ武器に杖をもって僕たちの攻守の手伝い、バフを頼む。」

「わ、わかった。」

「僕は、メイン武器に片手直列剣を持つ、そしたら片手で簡単な魔法が使えるはずだ。サブ武器は双剣を装備するよ。これなら多分バトルになってもまだ何とかなるはずだ。」

「な、なるほど!それなら戦えるぞ!」

「そうね。私が変わらなくていいところがいいわね。」

 

今のままでは後方専門のパーティーだがこの作戦で行けば強くなるはずだ、今よりは。

 

「よし!それじゃあこれから1週間、特訓するわよ!」

「「おー!」」

 

今、このチームに革命が起きたような感じがするな。これから1週間でこのチームはどこまで変われるのだろうか。それは僕たちのチームワークと努力、それとプレイヤースキルによるだろう。

一度僕たちは町でそれぞれの防具と装備を買った。この後一回設定の画面を見て見ると、100を超えるスキルが用意されていた。戦闘用の剣や銃、弓や武術に魔法などがあった。またほかにも日常的なもので、料理や釣り、裁縫と色々な種類などから珍しいものでは、話術や幸運などもあった。そのほかにもたくさんあった。もっと珍しいものは、もう少しレベルが上がってからしか取れないものもあった。

 

「みんな、さっき言ったスキル以外は何を取る?」

「私は・・・料理スキルでも取ろうかしら。」

「いいんじゃないか。リアルは料理できないし。」

「ちょっと!今は関係ないでしょ!」

「ゴメンゴメン。で、ファーストは何取るの?」

「うーん・・・。今は置いといて、もう少しレベルが上がったらまたスキルを取ることにするよ。シェリアスは?」

「釣り・・・かな。」

「へー意外。もっと、話術とか、知性とかに振るかと思った。」

「まあ、ゲームだから。いいじゃん。」

 

スキルの設定をそれぞれ終えると、チュートリアル的な物をヨハネから受けて今日は解散した。

 

「それじゃあ、また明日学校で。」

「ええ、また明日。」

「うん、また学校で。」

「「「おつかれさまー。」」」

 

日曜日はこのゲームだけでほとんど一日を使ってしまった。今日はこの後お隣に晩御飯を作りに行かねばならないが、それが終わったらゆっくり寝れそうだ。今日も一日座ってばっかだった気がするが疲れたな。しばらくは何もなくゆっくりできるし、たまにはこういうこともいいかもな。しかしこの時僕たちは、大事なことを忘れていた。

 

 

 




今回、修斗君が「リンクスタート」といったので、彼が考えている言ってみたいセリフTOP5をランキングしました。

1位 これは重要なファクターだ!
2位 リンクスタート!
3位 まだまだだね。
4位 愚か者ぉ!
5位 俺は主人公になりたいんだ。

すべてのセリフをいつかはこのシリーズで出すつもりです。もしかしたら最近考えている新しいシリーズかも。新しいシリーズについてはまた今度詳しくお話しします。

この作品を読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを。


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堕天使と魔王とテスト1週間前

「みんな、これから1週間後、二年生に上がって最初のテストである中間考査があるぞ。これからの1週間は部活も休みになる。テストまでの1週間気を抜かずに勉強に励めよ。以上、今日の帰りのSTはここまで。」

「きりーつ、れい。」

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

まさか今週からテスト1週間前だったとは。これではあまりゲームができない。せっかく昨日、オンラインゲームを始めたばかりだというのに。今回はみんなからしたら2年生初のテストであり、僕にとっては沼津にきて最初のテストとなる。あまり気は抜けないな。それは、隣で騒いでいるヨハネも同じはずなんだけどな。彼女は

 

「まったく、テストなんてどうでもいいわ。それよりもゲームのキャラの育成の方が大事よ。シェリアス、今日一緒にセカオラやるわよ。」

 

などと言っている。まったくなぜ僕も巻き込むのだ。というかテスト前にゲームやるなよ。せめてやるなら他の人を巻き込むなよ、一人でやればいいじゃないか。などと考えたが反論したらそれはそれで面倒事になりそうだったので言葉を飲み込んだ。

 

「ちょっと、聞いてるのシェリアス!」

「? なにが?」

「聞いてなかったの?」

「・・・うん。」

「もう、ちゃんと聞いてなさいよね。」

「すまない。それで、何の話だったっけ?」

「だから帰ったら早速ゲームにログインしようって話よ。」

「ゲームにログインって、テスト前だぞ。テスト勉強は?」

「そんなのしないわよ。しなくてもそれなりの点数取れるし。だからあなたを誘ったのよ。」

「僕を? なんで?」

「だってあなた、勉強しなくても1位くらい余裕でしょ。」

 

その言葉は誉め言葉として受け取っていいのだろうか。少しに微妙だな。でも確かにヨハネの言う通り、僕はそんなに勉強しなくても、そこそこいい点数が取れる。ちなみに僕はこの学校の編入試験で過去最高点を取ったらしい。それにこの中学は私立で中高一貫となっている。別の高校に受験する人もいるが、大体の人はそのまま進級することになる。しかしテストも人生も何が起こるかわからないからな。いつも満点の奴が一気に気を抜いて点数が落ちるなんてこともないわけではない。常に用心した方がいいと思うのだが。

 

「ヨハネ、テストは何が起こるかわからない。今はテストに集中しよう。」

「でも、日頃勉強してたら大体はできるじゃない。」

「そうだけど、僕は今回、本気でトップを取りに行きたいんだ。だから今回はゲームはやめおかないか。」

「・・・わかったわ。私も一緒に勉強してあげる。その代わり、テスト明けにまたパフェでもおごってもらうからね。」

「・・・わかった、いいよ。」

 

なぜおごることになってしまったのだろう。まあ、いいか。

学校が終わってから、今日から1週間は津島家で晩御飯を作った後、二人で勉強することにした。いつものように二人で帰る帰り道に今日はもう一人加わった。その人物は藤崎元、僕らのクラスの委員長で部活仲間で今はゲーム仲間でもある。

 

「おーい、二人とも!」

「ファースト、委員会の仕事は終わったのか?」

「うん、さっき。」

「そっか、お疲れ。」

「おつかれさま。」

「ところで、二人は勉強どうするの?もしかして二人で一緒に?」

「ええっ?!そ、そんなわけ・・」

「まあ、各々で色々やるよ。」

「なんかテキトーな言い方だね。」

「気にするな。そういう君はどうするんだ?」

「いつも通りにやるよ。」

「そいえば、ファーストって結構成績上位よね。」

「そうだね。まあ、上の方なのかな。」

 

どうせこいつのことだしれっと学年トップ20くらいに入っているのではないだろうか。

 

「まあ、僕は今回はいつも通りにやって、そんなに本気じゃなくてもいいかな。」

「よかった、これでライバルが一人減った。」

「そんなこと考えていたの?」

「あはは、まあ今回はトップを狙っていきたいからね。」

 

とりあえず、一番何を考えているのかわからないやつを意見を聞けたのはありがたかったかな。いやもしかしたらこいつのことだからこれも作戦なんじゃないのか。自分はあまり参加的ではないと見せかけて、後で美味しいところを持っていくことはよくあることだしな。まだまだ油断はできないということか。

しかしこの三人でこうして一緒に帰るのはもしかしたらこれが初めてかもしれないな。これもあのゲームの影響なのだろうか。

 

「それじゃあ二人とも、僕はこっちだから、ここで。」

「ああ、また明日なファースト。」

「また明日ね、ファースト。」

「うん。また明日ね、ヨハネちゃん、シェリー。」

 

そういうとファーストは小走りで分かれ道を走っていった。独特の呼び名で呼ばれた僕たちはその場に取り残された。

 

「シェリーって、外国の女性の名前みたいね・・・。」

「・・・確かに。君のヨハネちゃんってのも違和感しかないけど。」

 

僕たちはしばらく茫然としたが、分かれ道を後にした。彼は何を思ってあんな呼び名にしたのだろう。やっぱりあいつは何を考えているのかよくわからないな。

ファーストと別れた後、僕たちは家に直行するのではなく、夕食の材料を買いに行くためにスーパーに向かった。ここのスーパーもいつもヨハネとの帰り道でよくよるようになった。今日もいつものように買い物籠を持ったがここで夕食のことを考えていなかったことを思い出した。

 

「ヨハネ、今日の夕食何かリクエストとかある?」

「そうねえ、魔界の禁断の赤い実を使った、血のように赤い霊薬を金の糸にかけた下界の食べ物がいいかしら。」

「・・・トマトソーススパゲッティ?」

「なんでわかるのよ?!」

「・・・まあ、同じような考え方を持ってるし、わからなくないかな。」

「フフフ、さすが私が認めた魔王様ね。」

「褒めてるのかそれ?」

 

なぜだろうな、彼女の考えていることが手に取るようにわかってしまう。エスパーだろうか。そんなわけないか。僕たちはトマトスパの材料を買うと、マンションに向かった。

今日は自分の家には戻らず、直接津島家に向かうことにした。トマトスパならそこまで特別な道具もいらないだろうし、勉強道具は学校の荷物に入っているし、取りに行く材料もないからな。

 

「さて、トマトスパなら、1時間もかからないから、しばらくは勉強してよう。」

「真面目ねえ。」

「いいだろ。今回は気を抜けないから。」

 

今回の教科は、国語、数学、英語、理科、社会の5教科だ。僕は大体の教科はできる、ただ、一つ昔から道徳が苦手だった。だって問題の中の人物たちが何を考えているのかとか僕にはあまり理解できないから、現に自分の感情もよくわからない。感情が乏しいわけではないからな。笑顔は大切だ!・・何の話だったか。そうそう、今回の5教科に苦手は教科はない。だからこそ全教科しっかりとやらなくてはならない。

 

「ヨハネ、苦手な教科とかある?」

「苦手・・・社会かしら。」

「ほほう、教えてあげようか。」

「じゃあ、わからなくなったら頼ってあげなくもないわよ。」

「何で上から目線なんだよ・・。まあいい、社会はこの世界の時の流れを表したもの、世界を総べる魔王には容易い教科だ。」

「時の流れ、ねえ。そう考えるとちょっとやる気が出てくるわね。他にもそういう考え方あるの?」

「あるよ。例えば、国語の古文と漢文と英語は古代文字か異世界文字の解読、理科は錬金術の勉強みたいな考え方かな。」

「数学はないの?」

「ない。ただ解く。」

 

数学は解けば何とかなるからな。答えを導き出すのは結構楽しい、はず。

しばらく二人で勉強してきたが、先にヨハネの集中力が切れた。

 

「もう!文字ばっかりで、飽きた。黒魔術の本でもないのに、こんなにも苦労するなんて。フフフ、どうやらこの魔導書はヨハネを混乱の渦の中に陥れようとしているのね。」

「いいから、勉強しろよ。」

「でも、もう集中できない。」

「はあ、しょうがない。休憩しようか。」

 

あまり詰めすぎると内容が頭に入ってこないしな。僕は一度キッチンに行き、休憩すると気用に作っておいた紅茶を取りに行った。キッチンから紅茶の入ったカップが乗ったお盆を持って戻ると、ヨハネの前にカップを置いた。

 

「はいよ。」

「ありがと。」

 

紅茶の飲むと口の中に染み渡るような感覚を感じた。僕も気づかないうちに疲れていたのだろう。紅茶の飲みながらふと目の前を見ると、両手でカップを持ちながらちびちびと飲んでいるヨハネを見て一つの疑問が浮かんだ。

 

「なあ、ヨハネ。」

「なに?」

「君のお母さん、教師だよな。」

「そうね。」

「勉強しろとか言われないの?」

「あんまり言われないわね。」

「ふーん。じゃあ、将来はお母さんを同じ仕事に就きたいとかは?」

「ないわね。」

「・・・そういうものなんだ。」

「何が言いたいわけ?」

「いや、僕の親はあんまり帰ってこないし、どんな仕事してるのかよく知らないから、普通の家庭で普通に親を持つ子はどんなことを考えているのかなと思って。」

「・・・あなたも、色々考えてるのね。で、あなたはどうなの?」

「何が?」

「あなたは自分の親と同じ職に就きたいと思うの?」

「・・・ヤダよ。あんな各地を飛び回るような仕事。」

「確かに、しんどそうな仕事ね。」

「そうだろ。しかも家族とも全然会えないなんて、僕は絶対に就きたくない。」

 

ヨハネに言われてから僕は初めて親の仕事に就きたいか考えたかもしれないな。良くも悪くも僕にとって彼女の影響力は絶大なものだな。

 

「さて、休憩もそろそろ終わりかな。さあ、またテスト勉強再開だ。」

「えー、もう少し休憩しましょうよ。」

「もう十分だろ。」

 

それからまたテスト勉強をしたが時間が6時に差し掛かってきたのでまた休憩をとった。休憩を兼ねて僕はトマトスパを作ることにした。一方のヨハネはリビングのソファに座りながらテレビを見ていた。休憩から約40分ほどたつと、トマトスパが出来上がった。今回は麺を茹でるときに塩を少し加えたことでたぶんトマトソースに合うはず。お皿によそったトマトスパとサラダをテーブルにもっていくと、ソファに座っていたヨハネもテーブルに来た。二人が椅子に座ると、同時に両手を合わせた。

 

「「いただきます。」」

 

毎回毎回新しく作った料理をヨハネに食べてもらうとなると、何度も緊張してしまう。まったく、心臓に悪いな。

 

「この、スパゲッティ美味しいわね。」

「そう。よかった。」

「この麺からは普通の麺とは違ってかすかに魔力を感じるわ。さすが闇を総べる王が作った料理ね。」

「・・・君は塩を魔力と呼ぶのか。」

 

よくわからないが褒めてくれたのだろう。別に彼女に料理評論家みたいな感想は求めてはいないけど、もう少しわかりやすい感想が欲しいな。毎回解読が必要になるから苦労する。まあ、過去に自分も同じようなことを言っていたからわからなくもないが、自分が言う側だとカッコいいとか思っていたのに、聞く側となると面倒だな。でもそういう中二発言を自信をもって言えるのだから、彼女は僕をも超える存在なのだろう、なんてね。

沼津に来てからというもの今までよりも毎日が楽しいと感じることが多くなった。それもヨハネやファーストとの出会いのおかげなのだろうか。今はそんな事よりも1週間後のテストに集中しなくてはな。

 

「さあ、食べ終わったらまたテスト勉強再開するよ。」

「えー。」

 

 

 

 

 




 リアルでテスト前になったので1週間から2週間の間、更新頻度が下がります。ごめんなさい。多分テストが終われば冬休みも近くなるので、更新頻度もテストが終われば上がります、一時的に。
くっ、パソコンを触りたくて、この呪われし右手がうずいてしまう・・・。しかし、今はマウスではなくペンを持たなくては。なんてね。
 ほんっと、テストさえなければいい、ですね。

この作品を読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを。
 


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堕天使と魔王とテスト

またも気づかないうちにUAが3000を超えていました。
 感謝の使用もありません!


1週間とは早いものだ。気が付くとあっという間に流れていってしまった。時の流れは川のようで戻ることもなければ、止まることもない。過ぎ去りし時間は二度と戻ってこない。どんなにあらがっても手に入ることはない。だからこのテスト前の一週間はとても早く感じたが、戻ってくることはない。テスト当日、僕とヨハネは一緒に学校に向かっていた。

 

「さあ、遂に今日、戦いが始まるぞ!」

「燃えてるわねえ。」

「当然だ。これから僕はこの学年の生徒全員をテストで倒すのだからな。フハハ。」

「調子に乗ってるとイタイ目みるわよ。」

「フン、甘く見るな堕天使。今の僕ならどんな難題が降りかかろうと僕は倒せないだろうな、今日の僕は絶好調だからな。」

「・・・それを調子に乗ってるというのよ。」

 

ヨハネは調子に乗っているというが実は起きてからも一人で復習をしてきたから内容は頭に入っている。ゆえに今日のテストは問題なく解けるだろう。しかしヨハネの言う通り調子に乗ると、ミスをするかもしれない。ケアレスミスには注意しなくてはな。

それからしばらく雑談をしながら登校していると校門の前でファーストにあった。

 

「あ、おはよう、シェリー、ヨハネちゃん。」

「おはよう、ファースト。」

「おはよう。」

「二人とも勉強ちゃんとした?」

「まあ、それなりに。」

「抜かりない。」

「なんだかご機嫌だね、シェリー。」

「フフフ、成果を発散できるからね。」

「そっか、まあがんばれ。」

「そっちこそ。」

 

ファーストと合流してから僕たちは三人で教室に向かった。既に教室には朝から勉強していた、クラスメイトが10人ほどいた。彼らもきっとテストで上位を狙ってくるだろうから今はクラスメイトだけどテストの時はライバルになるだろう。さて、僕ももう少しだけ復習をしておこう。この学校は5教科のテストを2日間かけて行う。1日目は英語と国語。2日目は数学と理科と社会。つまり1日目は文系の教科を2日目は理系の教科をやることになる。朝は英語を復習しておこう。隣をみるとヨハネは古文の復習を、ファーストは漢字の復習をしていた。みんなそれぞれの勉強に集中してるな。これなら朝の勉強に続きができそうだ。

10分ほど朝の自習をしているとほかのクラスメイトも登校してきた。どこの学校にもいるがいるだけで空気が明るくなる奴が教室に入ってきた。今まで張りつめていたような空気が一気に柔らかくなったような気がする。そして教室に入ってきた奴らは勉強をするもすぐに悩み始めた。そして教科書をもって立った。どこに行くのかと思うと、こちらに向かって歩いてきた。

 

「津々宮君、ここの問題教えてもらっていいかな?」

「? ああ、ここの問題難しいよね。ここは先にここの文を先に訳したらスムーズにできると思うよ。」

「ほんとだ!ありがと!」

「いえいえ。」

「津々宮君私も教えてもらっていいかな?」

「ぼ、僕もいいかな?」

「あ、私もわからないところが・・・」

「津々宮、俺にも教えてくれ。」

 

一人に教えたら次々とクラスメイトが集まってきた。既に6人ほど集まっている。みんなわからないところ多すぎだろ。

 

「わ、わかった。とりあえず順番に教えるから、まずどこから教えればいいかな。」

 

やれやれ、優しいとは罪なものだ。仕方ない、者どもの悩み、僕が張らしてやろう。まったく僕も自分の勉強したいのだがな。クラスメイトから頼られている、リア充な津々宮修斗を見て、隣りの席のヨハネは複雑な気持ちになった。彼女もまた、隣の席の秀才に質問をしようとしたのだが、先に他の生徒に取られたことを少しばかり悔やんでいた。まるで自分の所有物を他の誰かに取られたような気分だった。

しばらくクラスメイトの質問攻めにあっていると、教室の扉が開き、担任の前田先生が入ってきた。

 

「おまえらー。席につけ。朝のSHLを始めるぞー。」

 

先生の声でみんなは自分の席についた。みんなが自分の席に着いたのを確認すると、このクラスの委員長であるファーストが号令をかけた。

 

「起立ー。きよつけー、れい。」

「「「「「「「「おはようございます。」」」」」」」」

 

クラスの生徒、僕を含めて全員で40人ほどがあいさつをした。

 

「ちゃくせきー。」

「今日は遂に中間テストだ。みんな気を抜かないように。1時間目は国語、2時間目は英語だ。それぞれ自分のベストを尽くすように。」

 

前田先生の話が終わると、遂にテストが始まった。1時間目の国語。国語の問題は、現代文、古文、漢文の3つに分かれていた。現代文の問題は特に何のの苦労もなく終わった。古文の問題は、・・・何の苦労もなく終わった。漢文は・・・何も苦労もなく終わった。結局国語ではそこまで苦労はしなかった。残りの時間に見直しも終えた。さて問題は次の英語だな。国語の余った時間に英語の勉強を頭の中でしておくか。

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムの音が1時間目の終わりを告げた。解答用紙が後ろから回収されると、次の問題と解答用紙を配るために生徒は一度廊下に出された。廊下に出された生徒たちは、次のテストの勉強をする人、さっきのテストの見直しをする人、いろんな人がいた。そんな中僕は目を閉じてさっき頭の中で勉強していた内容を思い出していた。そしてその横ではヨハネが自分に呪文をかけているかのように英単語を読んでいた。

そしてしばらくすると、またチャイムが鳴った。そしてそのチャイムと同時に二時間目のテスト、英語のテストが始まった。英語は、最初にリスニングテストが行われた。リスニングテストは最初のスペルだけ少し苦労したが、まあ、なんとかなった。リスニングテストが終わると、筆記に取り掛かった。筆記の試験では少し難関なところもあったが、朝にクラスメイトに教えた問題に近いことを思い出し、解くことができた。そして英語のテストも終了した。これで今日のテストは終了した。今日はこれでテストが終了したので生徒は午前中で下校した。テストの後僕とヨハネは一いつものように一緒に下校した。

 

「ヨハネ、今日のテストどうだった?」

「まあまあね。」

「そっか。」

「・・・」

「・・・」

 

何だか今日のヨハネ、ちょっと冷たいような気がする。朝はそうでもなかったのに。何かあったのかな。もしかしてテストで何かあったのか。すると今まで黙っていたヨハネが口を開いた。

 

「今日、私あなたに問題を質問しようとしたの。」

「う、うん。」

「でも、他のみんながあなたに聞いてて聞けなかったの。」

「・・・うん。」

「その時、私のものが他の誰かに取られたような不快な感覚がしたの。」

 

そう言ってヨハネは僕の方を見てきた。その時の彼女の眼には光が宿っているようには見えなかった。光が無くなった目は夜の闇のようだった。なんだか今日の彼女はヤンデレみたいだな。じゃあこの後僕は痛い思いをしなくてはならないのだろうか。というかいつの間に僕は君のものになったんだ。その前にいつからヤンデレっぽくなったんだよ、ヨハネ。

 

「じゃあ、この後わらかないところとか聞いてあげるから、それでどう?」

「それならいいわ。」

 

よかった、とりあえず身の安全は確保できたかな。まったくテスト期間に心臓に悪いことを。この後ヨハネに社会の問題をとことん聞かれた。

 

そして次の日。迎えたテスト2日目。今日もまた途中までは僕とヨハネは一緒に登校していた。

 

「今日でやっとテストが最終日ね。」

「そうだな。昨日の教科もほとんどミスはなかったと思うし、今日も昨日と同じような結果だったらいいんだけど。」

「そうね。それに今日が終わったらやっとゲームができるわ。」

「そこかよ。テスト頑張れよ。」

 

今日の教科は数学、理科、社会と理系のものだった。昨日、さんざんヨハネと社会は勉強したから大丈夫だろう。今日もまた、チャイムの音を合図にテストが始まる。

またしても始まったこの戦い。こんなもの、僕にかかれば造作もないことだ。フハハ。一時間目 数学

 

・・・√2をこうしたら、ここが出るからsinΘは1。よしこれで全部解けたな。見直しも完璧だ。間違いもないだろう。さすが僕。まだ20分ほどあるな。暇だし問題用紙の裏に落書きしとくか。もう一度シャーペンを持つと問題用紙の裏にセカオラ内のヨハネのアバター、✟ヨハネ✟のイラストを描き始めた。約20分後、僕の大作が完成した。タイトルは『とこしえの闇を操る堕天使』と名付けよう。そこに描かれていたのは杖から放たれる漆黒の炎に身を包んでいる黒の魔法使いだった。炎からでた風で舞い上がる帽子を片手で抑えているところが自信作だ。自分の作品に見とれていると、チャイムが鳴った。数学のテスト終了だ。

休み時間に問題用紙をカバンに片付けようとすると、隣りにヨハネが現れた。

 

「シェリアスー。さっきのテストどうだった?」

「ええっ?!」

 

まずい。まだ問題用紙の裏に書いたやつが残ってる。これを彼女に見られたら変な誤解が生まれてしまう。そう思って問題用紙を自分の後ろに隠そうとしたが、その行動は彼女には逆効果だったようだ。

 

「? 今何隠そうとしたの?」

「い、いや。何でもないよ。」

「怪しいわね・・・」

 

するとヨハネはすぐさま僕の後ろに回り込んでさっきの問題用紙をつかみ取った。ああ、終わった。そこに描かれた✟ヨハネ✟の姿を見てヨハネはどんな反応をするのか。

 

「これって、セカオラの私のアバターよね?」

「・・・はい。」

 

イラストを見ながら表情を変えずに聞いてきた。するとヨハネは笑顔でこちらを見てきた。

 

「なんだ。シェリアスもやっぱり早くこのゲームやりたいのね。」

「えっ?・・ああ、そうなんだよ!だから待ちきれなくてそれを余った時間に書いてたんだ。」

「・・・余った時間にこれを描くなんて、すごいじゃない。」

「い、いやあ。あはは・・・。」

 

何とかごまかせたようだ。危ない危ない。ほっと一息ついたとき、2時間目開始のチャイムが鳴った。僕たちは急いで教室に戻ったが問題用紙はヨハネがちゃっかり自分のカバンに入れていたことに僕は気づかなかった。もし気がついたら次のテストに支障が出ていただろう。

2時間目 社会

 

この教科、ヨハネが苦手とかなんだとか言っていたな。大丈夫だろうか。隣の席に耳を傾けると、すらすらと止まることなくシャーペンで文字を書く音が聞こえた。問題なさそうだな、まあ、僕が教えたんだから当然か。昨日社会をヨハネに教えていた時から、彼女はただ苦手意識があっただけだと僕は思う。苦手意識さえなくなればきっと点数も上がるだろうな。さて、僕も続きを解くか。

チャイムが鳴り、解答用紙が集められた。テストも残すところあと一教科となった。そして最後の休み時間、生徒はそれぞれで勉強やらテストが終わってから何をするか話している生徒であふれかえっていた。ヨハネはすでに帰ってからのゲームのことしか頭に入っていないようだ。唱える必要もないのにゲームで呪文を使った時のリアルの自分が何というのか考えている。理科のことはもう完全忘れているようだ。まあ、イタイ目にあいたければ勝手に合えばいいさ、僕は知らないぞ。

3時間目 理科

 

今回のテスト最終教科となる理科のテストが始まった。このテスト、一度目を引いてみればただ呪文が並べられているようにも見える。しかし、どんな問題が来ようとも僕は止められないだろう。・・・やっぱり20分ほどで解き終わってしまった。フフフ、我ながら自分の才能が怖い。さて残りは見直しにでも費やしてやるか。

しばらくして、今日最後のチャイムが鳴った。このときみんな解放されたような空気に包まれた。ヨハネも同じような状況のようだ。

 

「さあ、さっさと帰ってゲームの続きやるわよ!シェリアス、カバンを持ちなさい!」

「いや、まだ帰りのホームルームがあるから。とりあえず座れ。」

 

どうやらホームルームのことも完全に忘れていたらしい。帰る気満々だったのに邪魔されて少し不機嫌になっている。ホームルーム中も前に立って話をしている前田先生のことを睨み続けていた。意味も分からないのに生徒に睨まれるなんて先生って大変だな。僕は絶対に先生なんてなりたくないかも。5分ほどたってホームルームが終わると、ヨハネはしかめっ面が笑顔に変わった。どれだけ嬉しいんだよ。

 

「起立、きよつけー れい。」

「「「さようなら。」」」

 

最後にファーストの合図で全員があいさつをした。挨拶が終わった瞬間、ヨハネは隣の席、つまり僕の方を見た。

 

「さあ、帰るわよ!」

「急に元気になったな。・・・っておい!人の話を聞け!」

 

ヨハネはすでに教室の外に出ようとしていた。そこでまだ自分の席にいる僕のことに気が付いたのか、僕の席に戻ってきた。

 

「何ぼさっとしてるのよ!帰るわよ!」

 

そういうとヨハネは僕の右腕をつかんだ。そしてそのまま扉に向かって走り出した。

 

「おい!引っ張るな!」

「だってこうでもしないと遅れるでしょ!」

 

後ろも振り向かずに廊下を走り抜ける彼女に引っ張られる僕。どういう状況だよ。階段を下りて1階に降りようとしたとき、後ろから声が聞こえた。その声の主はファーストであった。

 

「おーい二人ともー。」

「ファースト!助けて、止めてくれ!」

「えー、それが人にお願いする態度?それに面白いから止めない。」

 

こいつどこまで黒いんだよ。すると、前しか見ていなかったヨハネがようやく後ろを向いた。

 

「ファースト、あなたも何をしてるのよ。さっさと帰ってゲームにログインしなさい!」

「ゴメン今日、委員会の仕事で残らなきゃならないんだ。先に二人でやっといて。」

「そう大変ね。じゃあ先に入って待ってるわね。行くわよシェリアス!」

「だから引っ張るなって!」

 

猪突猛進となったヨハネに連れられ、帰り道も半分くらいに際かかったころ、少し疲れてきた。彼女に引っ張られているせいでずっと変な姿勢で歩いてきたから腰が痛い。わしゃもう駄目じゃばーさん、とか言ったら止めてくれるかな。いや女の子にばーさんと言った時点で息の根を止められるかな。どうしよう。やはりあの手しかないのだろうか。

 

「おい、一回とまれ!」

 

僕は今まで掴まれていた腕を離し彼女の手に自分の手を重ねた。ヨハネの右手と僕の左手が初めてつながった。堕天使の右手と魔王の左手か、名前だけならすごそうだが、実際に僕たちがやっていることは、ただ手をつないでいるだけだ。・・・カップルみたいに。

 

「ちょ・・・ちょっと何するのよ!」

「はあ、やっと止まった。」

「あ、あなた、堕天使の手に振れるとは、大罪を犯したわよ。」

「それを言うなら魔王を連れまわした君にも同じような罪があると思うのだが。さっきから変な姿勢で歩いてたから、腰が痛いんだよ。すごい前傾姿勢になってたと思うぞ。」

「そ、そう。それは・・・ごめんなさい。」

「いや、わかってくれればいいんだ。さあ、帰ろうか。」

 

そう言って僕が彼女の手を放そうとすると、彼女の手が僕の手を強く握ってきた。

 

「・・・・こ、このままで帰りましょ。」

「う、うん。」

 

まさかこんなことになるとは、まだ恋人つなぎとやらではないにしも、ヨハネと手をつなぐ日が来ようとは。想像したことはあったが、こんなにも早く来るとは。自分からやっといて恥ずかしくなってくてしまった。

さっきまでの前後で歩くのとは違い、僕たちは並んで歩いていた。手をつなぎながら帰る二人の足取りはさっきまでよりもどこか弾むようだった。

 

そして後日

廊下にテストの順位表が張り出された。順位表はクラスごとに見に行くことになっている。

第二学年中間考査総合順位

1位 津々宮修斗 487点

 

「おおー。転校生が一位だ!」

「下剋上達成だ!」

「すげー」

「津々宮君素敵ー」

 

周りから完成の声が上がった。フフフ、流石僕!

 

「凄いな津々宮!」

「いや、運が良かっただけだよ。」

 

とりあえずここは謙遜しておいてやろう。一位になっても調子に乗らないなんてさすがだな僕。それにしても約200人中一位か、素晴らしい!

すると横からもう一度歓声が上がった。

 

2位 藤崎元 469点

 

「おおー委員長もすげー!」

「流石元学年一位だな。」

「いやーあはは。」

「・・・君が元一位かよ、ファースト。」

「あれ?いってなかったけ?」

 

こいつわざと言わなかったな。まあいい、今回は僕が勝ったのだから。

ふと、次にうちのクラスで順位が高いのって誰なんだろうと思い、もう一度順位表に目をやった。

 

15位 津島善子 419点

 

お前かよ!知らなかった、ヨハネがこんなにも頭だよかったなんて。

 

「フフフ、まあ当然の結果ね。」

「へー意外だな。」

「ちょっと!意外ってどういう意味よ!」

「いや、もう少し下だと思ってた。」

「フッ、まったくなめられたものね。この堕天使ヨハネが人間ごときに負けるわけないじゃない。」

 

いや10人程度に負けてますがね。

 

「あれ?おかしいなーここにあるのは善子っていう名前だけど。ヨハネさんは何位なんですか?」

「ああー!はめたわね!」

「まあまあ、二人とも。落ち着いて。」

 

僕たちの間にファーストが入った。この三人は結構順位が上の方だったようだ。偶然なのか、はたまた運命なのか。それは僕たちには知る由もなかった。ただ、僕はこの二人に出会えたことを嬉しく思う。ほとんど一人でいることの多かった僕にはもったいないくらいの友達だ。

 

 

 




リアルのテストの結果は、まあ、その、いつも通りですかね。

近いうちに新シリーズを3つ出します。二つはラブライブ!一つはラブライブ!サンシャイン!!の作品になっています。このシリーズはまだまだ続きます。読んでいただければ幸いです。どの作品の主人公も修斗君と関係がないわけでもないと思うので、たぶん。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王と初イベント

今回、ゲームの中の話ですが最初から普通のゲームみたいな感じではなく、シェリーたちがゲームの世界に暮らしている感じになっています。
ソ〇ドア〇トオンラ〇ンみたいな感覚で読んでいただければありがたいです。


先日、テストが終了した。結果は僕が1位、ファーストが2位、ヨハネが15位という好成績だった。そんなテスト好成績集団は、絶賛オンラインゲーム中だった。もちろんゲームの名前はセカンドワールドオンライン略してセカオラだ。現在僕たちはゲーム内のとある噴水広場にいた。ゲーム内の状況を整理してこれからどうするかを相談するために一度ここに集まったのだ。初心者集団だからこういう時は真剣に考えなくてはいけないからな。ついこの前、テスト1週間前に入る前にアカウントを作っていたが、次の日からテスト前に入ってしまったので、泣く泣くキャラの育成はしていなかった、ハズなのだが・・。

 

「ヨハネ、どうして君のキャラだけレベルが高いんだ?」

「き、気のせいじゃないかしら?」

 

気のせいのはずがない。パーティーのメンバーから相手のレベルをチャックできるのだが、僕とファーストのキャラは5レベルとほとんど初期値から変化していないのだが、ヨハネのキャラだけレベル36と一人だけとびぬけていた。いくら自分だけ先にアカウントを作っていたからと言っても1週間前の時はせいぜい24レべルくらいだったはずだ。

 

「テスト前も一人でやってたな?」

「き、気のせいよ!この前からこのレベルだったわよ!」

「嘘を言うな。この前は24くらいだったはずだ。学年1位の記憶力をなめるなよ。」

「確かに。僕もそれくらいだった記憶があるよ。」

 

僕たちが問い詰めると、ヨハネは少しの間沈黙を貫いたが、やがて口を開いた。

 

「ええ!そうよ!テスト前にちょっとログインしたわよ!何か悪い?!」

「逆ギレかよ。見苦しいぞ。」

「うっさいわね!成績よかったんだからいいじゃない!」

「そういわれると、言い返せないな。」

「まあ、いいさ。その分僕らのレベル上げに付き合ってもらうだけだ。」

 

いつの間にか開いてしまった、30以上のレベルの差。そうやすやすと埋められるだろうか。こういう時に都合よく経験値が2倍になるイベントとか始まるわけでもないし。

その時ウィンドに新しい通知が届いた。このゲームではオンラインの時はイベントや運営からの一斉メールはこういう風に通知として届く設定になっている。そして今回の内容は、ヨハネが自分のウィンドを開いた画面に書かれている。

ピロンという効果音とともにメールが開かれた。

 

「・・・期間限定。経験値三倍ボーナスイベント開始。」

「「「・・・」」」

 

都合いいな。まるで運営側が僕たちの様子を見ていたようだ。しかしここまでスムーズにいくとは、僕たちの日頃の行いがいいからだな!少なくとも僕は日々いい行いばかりしている。

 

「ナイスタイミングね!」

「ああ、奇跡みたいだな。」

「僕らの成績が良かったら運営の人が気を使ってくれたんじゃないかな。」

「とりあえずこのイベントが開催されてるダンジョンに向かいましょう。」

「「おおー」」

 

ヨハネが指揮を執るのも珍しいな。まあ、生き生きしてるならいいか。

僕たちは噴水広場を後にして、町はずれの草原へと向かった。このゲームでは色々なステージや世界が存在している。山脈、水辺、洞窟、世界樹の森、世紀末の町、砂漠、魔界、天界、全ての理が存在しない異世界、他にも色々あるらしい。主にステージはレベルが低いステージはよくあるファンタジーの世界で、難易度が上がるともっと珍しいステージになっている。今僕たちがいる草原ステージは一番レベルが低いステージで雑魚モブが多く出る。最初の敵キャラとしてはスライムや小さい虫、イノシシのモンスター、などが存在している。少し強いモンスターだと、オオカミのモンスターやあばれ牛や人食い植物、状態異常にする鱗粉を振りまく蝶など存在している。今回の初心者応援イベントの敵キャラは亀のモンスターとなっていた。相手のモンスターの特徴は背中の甲羅が表すように防御力が高いが素早さが低いというものだった。攻撃パターンも単純で回転してしっぽではたいたり、自分の重い体を生かしたのしかかり攻撃などがあった。群れで行動することはなく、主に単体で行動しているよだ。僕たちは今、ダンジョン内の一番の雑魚キャラである小さな亀と戦っていた。前衛は僕が務め、後衛をファーストとヨハネが務めている。ファーストは前で戦っている僕に弓で援護射撃をして、ヨハネは僕たちの回復をしながら、攻撃魔法を唱えていた。前衛の僕は敵相手をスピードで翻弄しながら徐々に体力を削っていた。片手直列剣を使い、開いている方の片手で至近距離から攻撃魔法を当てていた。敵の体力が4割を減ったころ、亀の動きが少し鈍くなってきた。そのことは誰よりも近くで戦っていた僕が一番理解できた。

 

「二人とも!多分敵がもう少しで倒れると思う。」

 

しばらく敵に攻撃を続けると亀は僕を先に倒そうとすることをあきらめたのか、ヨハネたちに向かって突進し始めた。しかしヨハネは攻撃魔法で足にダメージを負わせ、ファーストは弓で亀の右目を貫いた。すると亀はその場に倒れこんだ。そのすきに僕は亀の前に回り込んで、剣を構えた。放たれた剣は亀を下から上へと切り上げた。この剣技がラストアタックとなり、亀の体力はゼロとなった。亀は体力がゼロになると、体がガラスのように割れるて破片となって消え去った。そして破片がすべて消えると僕たちにそれぞれ経験値がふられた。さすがにまだ雑魚キャラなだけあって、僕たちのレベルはあまり上がらなかった。

 

「シェリー、レベルいくらになった?」

「3上がって8レベル。」

「そっか、同じくらいなんだ。」

「前衛で戦おうと後衛だろうと経験値は同じなんだな。」

 

僕たちがそれぞれレベルのチャックをしていると、ヨハネが一つの答えを出した。

 

「このゲームはパーティーを組んでいるキャラはみんな同じ分だけ経験値とお金が配分されるのよ。」

「へーそうなんだ。」

「さすが一人でやっていただけあるね。」

「悪かったわね!」

「まあそのおかげで攻撃魔法で体力を大幅に削れたんだから。」

「そうよ!もっと私に感謝しなさい!そしてあがめなさい!」

「あんまり調子に乗るなよ。」

「わかってるわよ!さあ、次の敵を倒しに行くわよ!」

 

ヨハネが先導となって次の敵を目指して歩きだした。さすがにレベルが一人飛び向けていると頼りになるな。リアルだと頼りになる要素があまりないのに。ゲームの中だと頼りになるな。今も生き生きと僕らの前を歩いている。ヨハネの背中を眺めていると、隣りを歩いていたファーストが話しかけてきた。

 

「なんだか生き生きしてるね。ヨハネちゃん。」

「そうだな。テスト中もずっと三人でやりたがってたしな。」

「えっ?そうなの?」

「ああ、よくゲームしようゲームしようって言ってたけど、知らない?」

「うん。僕は誘われなかったけど。」

「そうなのか・・・。何を考えていたんだろうな。」

「もしかして・・・」

「? 何か心当たりがあるのか?」

 

ファーストは少し考えたそぶりを見せたが、すぐに考えるのをやめた。

 

「いや、何も。」

 

そういうファーストはいつも悪いことが起こるときによくファーストがしている、不敵な笑いを浮かべていた。こいつがこういう顔をするときは絶対に何か良くないことが起こるんだよな。

僕らが後ろで会話をしていると前を歩いていたヨハネの動きが止まった。

 

「ヨハネ、どうした?」

「・・・来るわよ。」

「敵?」

「ええ。」

 

ヨハネがファーストの質問に答えてから数秒後、地中から地響きがした。

 

「地震か?」

「いえ、下から来るわよ。回避して!」

 

ヨハネの予想は正しく、さっきまで僕らが立っていた場所には、ちょっと前に戦った亀の敵の数倍は大きい金色の亀が現れた。そしてその亀に続くように小さな銀色の亀が数体現れた。どうやらこいつらは取り巻きのようだ。続々と現れた敵に僕たちは武器を装備して、戦闘準備に入った。ファーストは弓をつがえ、ヨハネは魔導書を開き、僕は片手剣を抜刀した。

 

「フォーメーションはさっきと同じで行くわよ。体力が危なくなったら無理はしないように。今回は敵が多いから、ボスに少しずつダメージを与えつつ、先に周りの敵を倒すのよ。」

「了解。」

「オッケー。」

「じゃあ、始めるわよ!」

 

ヨハネの合図とともにそれぞれが攻撃を開始した。小さい亀たちは半分はボスを守るように防御に徹して、半分は僕らに向かって突進を仕掛けてきた。僕が剣で切りかかる前に後ろからのファーストの援護射撃で2体が倒れた。先に倒された亀を通り過ぎ、残りの突進してくる亀に向かって切りかかった。右から突進してきた亀を右から左に剣で中段切りを繰り出し体力をゼロにすると、次に左から突進してきた亀をさっき亀を切った状況から剣を放物線を描くように上段切りを使った。剣は左から突進してきた亀を上から下へと切り裂いた。切られた亀もその場で体力がゼロになると、破片となって散り去った。それと同時に後ろからヨハネの援護魔法が放たれた。ヨハネの攻撃魔法はボスモンスターに直撃した。ボスモンスターはヨハネの攻撃を食らうと、また取り巻きの亀と召喚した。すると新しく召喚された亀は僕の周りを囲みだした。どうやら包囲網を張られたようだ。すると、後ろからヨハネの声が聞こえた。

 

「シェリアス。焦らないで!そいつらの一撃一撃は弱いから、落ち着いて一体ずつ倒していって!」

 

なめられたものだな。一体ずつなんて時間の無駄だな。僕の剣技なら数秒もあればすべて倒せるだろうな。僕は右に構えていた剣を目線の高さまで持ってくると、目線と水平方向に構えた。小さいころ、東京にいたころに教えてもらった剣技の型を構えた。しばらく静止していると、前の亀が突進してきた。亀が僕の目の前30センチの近さまで来た時に、ワンステップで亀の突進をひらりとかわすと、構えていた剣を横から亀に突き刺した。すると亀は刺された場所から破片となって散り始めた。刺された剣を亀から抜くと亀は完全に破片となった。

 

「さあ、次は誰だ?」

 

他の周りを囲んでいた亀が数体で突進してきた。

その一方亀に囲まれたシェリアスを助けるためにヨハネとファーストは外から亀を削り始めた。ヨハネは亀に取り囲まれたシェリアスの姿が見えないことに焦りを感じていた。このままではシェリアスが倒されてしまうかもしれない。必死になって戦っていた。その様子をファーストは横目で見ていた。そして必死に戦う彼女に一つの感想を述べた。

 

「・・・これが愛の力ってやつなのかな。」

 

その声はヨハネには届いていなかった。ヨハネは後2,3体でシェリアスのもとへとたどり着ける距離まで来ていた。亀の大半はシェリアスをターゲットしていたため倒すのは簡単だった。しかしその分彼が危険な目にあっているのではないかという不安があふれ出た。シェリアスまでの道の最後の一体を倒すと、その先には彼の姿があった。彼は初心者とは思えないような機敏な動きで次々と敵を倒していっていた。異常なまでの強さで敵を攻め滅ぼしていく、その姿はまさに魔王のようだった。

 

「シェリアス!」

「? ヨハネ!」

 

彼は自分の存在に気が付いて私の方へと駆け寄ってきた。しかし彼の手にはまだ剣が強く握られていた。すると次の瞬間、彼は私の体を引き寄せると、さっきまで私が立っていた場所に剣を突き刺した。恐る恐る剣先に目をやると、そこには敵が破片として散り去っていた。

 

「ここはまだ敵に囲まれている。気を抜くな。」

 

彼は私を強く引き寄せていると、無意識に私は彼にもたれかかっていた。

 

「う、うん。」

 

きっとこの時の私は顔が物凄く赤くなっていただろう。

 

 さて、どうしよう。勢いでヨハネを引き寄せたのはいいけど、離れるタイミングが分からなくなってしまった。こういうときどうすればいいんだろう。なんか惜しいような気もするけど今は敵に囲まれているんだよな。すると後ろからファーストも合流した。

 

「戦いの最中にイチャイチャするとは、余裕だね。」

 

ファーストの声で僕たちは離れた。今また顔を合わせると赤くなってしまいそうだ。ファーストが弓を乱射したことで雑魚もだいぶ減っていた。もうボスも体力が半分になっていた。

 

「よし。あとは僕がやるよ。」

 

そう言いながら剣を構えると、ボスモンスターへと向かっていった。ボスも僕をターゲッティングしたらしくこちらを向いた。

 

「無茶よ!だいぶダメージ食らってるじゃない!一発でもくらったら終わりよ!」

「じゃあ一回で終わらすよ。」

 

剣を両手で持って右側に構えるとボスに向かって走っていった。ボスのほぼ目の前にまで来るとボスがかみつこうと顔の勢いよくつきだしてきた。かみつき攻撃をバックステップでかわすと、剣を上に向かって切り上げた。ボスが攻撃にひるむとそのままつぎの攻撃で上から下へと切り裂き、流れるように斜め上に切り右手を剣から離すと左手だけで剣を持ち水平方向に切り裂き、次に斜め下に切り裂いた。最後に切った体制のまま目線の高さまで剣を持ってきてボスの体を貫いた。最後の一撃を食らったボスはそのまま破片となった。ボスの破片が完全に消えると雑魚モンスターたちも消えていった。すべてが消えると上空にミッションクリアの文字が浮かんだ。その文字を確認すると剣を収めた。ヨハネとファーストもほっと一息を突いた。武器を収めるとレベルアップの音が鳴った。確認すると、レベルが42まで上がっていた。すると後ろから首周りに白い腕が回された。その腕はヨハネのものだった。どうやら後ろから抱き着かれているようだ。

 

「どうしたんだヨハネ?」

「まったく・・・無理するんじゃないわよ。」

「ゴメンゴメン。」

「ところでさっきの連続切り何よ?」

「ああ、あれ。スキルでメイキングソードスキルていうのがあったからそれを取って昔教えてもらった抜刀術の改良版を設定しておいたんだ。」

「・・・何者よ、あなた。」

「色々あったんだよ。」

 

今回は一人で無理をしすぎてしまったかな。ヨハネに心配をかけてしまった。でも結果的に倒せたからいいか。

 

「じゃあ、今回のイベントのMVPは僕ってことでいいよね。」

 




このゲーム、ログアウトができないデスゲームではないので誤解なさらないように。シェリーも黒の剣士ではありません。ちなみに僕は紫の絶対的な剣技の子が好きですね。あの小説は泣けた。
 いつか行ってみたいな、あの浮遊城へ。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを

一様報告を。Twitterを始めました。EIMZ0419で検索すると出てくると思います。これから小説が増えたので、いつに何を投稿するのか自分でもわからなくなってきてしまったので管理のために入れました。もしよかったらフォローしてみてください。それ以外のツイートは不定期になると思います。


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堕天使と魔王と出演依頼

土曜日、2時40分。ネットでヨハネの生放送を見ていた。あの時以来ヨハネには『恥ずかしいから見ないで!』と言われていたが、言われたからああ、はいそうですか、と下がるわけもなく、ほとんど毎回見ている。もちろんヨハネには報告していない。毎回の内容としては、動画のリスナー、視聴者がヨハネにコメントやメールで悩みや質問を送りヨハネ様がその質問に答えるといったものだ。ただその内容は中二病用語で書かれているため、凡人から見たら理解不能だが、ヨハネや視聴者はその暗号とも思える内容をほぼ一瞬で解読できる。ちなみに僕も最初は苦戦したが今は波の中二病者以上は解ける。まあ、しばらくのブランクがあったものの魔王ですからね。と、そんなことは置いておいて、問題は今回の内容だ。別に最初は普通だった。いつも通り、堕天使姿のヨハネが映り、コメントが流れ始めた。ここから30分くらいはいつも通りだった。ただすべてが一つのメールをヨハネが読んだことですべてが変わった。そのメールは『我が眷属のものが魔に選ばれし騎士に森羅万象を超える誓いをささやかれたが、騎士にどのような呪詛を返すのが最適でしょうか。ヨハネ様、迷える私に堕天使の導きを。』というものだった。たぶん騎士は男性。これは堕天使ヨハネに送られるものだから魔に関するものとかの意味はいいとか好きとかプラスな意味になるはず。眷属は家族か友達。森羅万象は全てとかずっとという意味でいいはず。誓いは約束とか告白。呪詛を返すは返事か言い返すでいいのかな。これらをまとめて要約すると、『私の友達がカッコいい男性からずっと前から好きでしたと告白されたのですが、どう返事をしたらいいかわからないそうです。ヨハネさんどう返事したらいいのか教えてください。』というものだろう。要するに恋愛相談か。ヨハネに恋愛相談って一番してはいけないだろう。参考になることは何一つ言わないだろうよ。と思っていたら、『彼方の眷属はその騎士を自分と対に慣るに値すると見極めてから返すことね。彼方達と接点を持たないヨハネから言えることはそれだけよ。魔族の祝福が彼方達に訪れることを祈ってあげましょう。』と返した。要するに『あなたの友達にとって自分にとって相応しいと思える相手ならしっかりと返事をしろ。私はあなたたちの関係に首を突っ込むことはしてはいけないのないかと思う。あなたたちがそれぞれ正しいと思える道に進むことを祈っています。』というような内容だろう。ヨハネにしてはまともなことを言ったなと感心していると、一つのコメントが流れた。『そういえばヨハネ様が話されていたリアルの彼氏さんとは最近どうですか?』というものだった。そのコメントを見た瞬間ヨハネは動画中にもかかわらず素に戻り赤面した。そしてその画面を見ていた、たぶんその彼氏にあたるであろう僕も赤面していた。そこからはスムーズだった。コメントがそのことでいっぱいになった。まあそうなるよな。みんなこういうゴシップネタ好きだよな。そして煽りのコメントにヨハネが乗ってしまい、相手も中二病ということなので動画に出演してもらうということになってしまった。そして今、動画終了から30分後。ヨハネからメールが来た。『頼みたいことがあるから今すぐ家に来てほしい。』という内容だった。まあ、何を頼むかは見てたからわかるけどさ。いちよう行ってやるか。パソコンの電源を落とすと隣の津島家へ向かった。

 津島家に入るとリビングに案内された。僕を座らせるとヨハネは飲み物をとりにキッチンに向かった。今日のこの接客対応は単に僕を尊敬してではなく、裏があるからだと考えると複雑な気持ちになった。ヨハネがキッチンからジュースを持ってくると僕の前に座り、かつてないほど真剣な顔で話を切り出した。

 

「実はあなたに重要な頼み事があるの。」

 

はい、その内容は知ってます。

 

「実は私の生放送でね。・・・あ、あなたのことを彼氏と言ったことがあったの。」

 

ええ、君が撮影している部屋の隣の部屋で君の放送を聞いていました。

 

「そ、それで。今日の動画であなたの話が出たの。」

 

そうでしたね。僕も君とまったく同じ反応をしたよ。

 

「そこで・・・今度、生放送であなたに出てほしいっていうことになって。」

 

・・・見ていたさ。そのコメントしたやつ叩いてやろうかと思ったよ。

 

「だ、だから来週の放送に出てほしいなぁ~なんて、・・・その・・・」

「来週の放送に君の彼氏の中二病少年、魔王シェリアスとして出演しろ、と言いたいんだな?」

「・・・はい。」

「はあ。まあいいよ。ただし条件がある。」

「条件? できる限りなら聞くわよ。」

「一つ、名前は伏せること。」

「ええ、シェリアスはいいのよね。」

「ああ。二つ、顔出しはNG。」

「わかったわ。何とかする。」

「この二つができるならOKだ。」

「わかったわ。その二つは何とかするから、あなたは自分の準備をしておいて。読む手紙とかはこっちで用意しておくから。明日、日曜日に2時から3時の間にやるから準備しておいてね。」

「明日?来週じゃなくて?」

「ええ。さっきの放送で明日特別版をやることになったの。そろそろ放送の記念日だし。」

「で、その特別版のゲストとして僕が呼ばれたと。」

「そういうこと。」

「わかった。じゃあ明日は12時くらいに行くよ。」

「ええ。それじゃあよろしく頼むわね。」

 

特別回の緊急の前日の打ち合わせを終えると、僕は一度家に帰った。あとで夕食を作りに行くから帰る必要はないのではないかとヨハネに言われたが、明日のために色々準備をしたかったので一度帰ることにした。あとで夕食を作りに津島家に行くからそれまでに準備を終わらせておきたかった。何の準備かって、明日着る服のチェックさ。動画内のヨハネはしっかりと堕天使を身にまとっている。そして明日の僕はそんな彼女の彼氏役。ということは彼女にふさわしいそれ相応の衣装を身にまとわなくてはならない。堕天使に対になれるということは完全な魔王化を済ませなくてはならない。明日は一時的に魔王の封印をすべて解除しなくてはならなくなる。姿、しぐさ、言動、全てを変えなくてはいけない。まずは衣装だ。昔使っていたやつがまだ押し入れかベッドの下に置いてあるはず。家じゅうを探してバラバラになっていた、魔王専用衣装を見つけ出した。黒のローブに禍々しいシャツ、ズボンには鎖がまかれている。他にも色々な道具が出てきてもう少し飾りをつけることができる。本来はここに右が赤、左が黒のコンタクトをするのだが、何分僕はコンタクトがつけられない。なので代わりに他の小道具系でごまかすことにしている。黒いシルクハット、銀色の懐中時計、木製の杖、黒色の皮ブーツ、小さな竜が巻き付いている形状の指輪、理解不能の言葉が並べられた魔導書、などが今回の候補に挙げられた。とりあえず先に服を着て、ローブをつけて採寸をした。どうやら一年前くらいまではつけていた服はまだ着れるようだ。しかしこのままでは素顔が丸出しになってしまう。何か隠す物はあったかな。もう一度探して回ると、『ペルソナ』と書かれた箱が出てきた。大きさはノートパソコン一つ分といったところだろうか。ペルソナ、仮面かちょうどいいな。ここの中から適当にとるか。箱を開けるとそこにはたくさんの仮面が入っていた。ただの黒いマスクから、多分小さいころに行った夏祭りの出店で買ったであろう可愛いカエルの仮面など、様々な種類の仮面が入っていた。この入れ物の下の方には昔かったであろう幼稚な仮面が置いてあったが上に重なるにつれその形は変わっていき怪盗を思わせるような仮面まであった。ただ上の方の仮面は目だけ隠すアイマスクが多く、顔全てを隠す仮面は一つも存在しなかった。僕は大量のアイマスクの中から適当に一つの仮面を手に取った。そのアイマスクは赤い布が目の周りを包み、その周りを金色の生地で囲まれた少し、いやだいぶ派手なデザインだった。その仮面をつけると驚くことにサイズはぴったりで、鏡を見ると自分が怪人のように見えた。だがその姿からはイケメンで文武両道で完璧な津々宮修斗の姿は見えなかった。そこに立っているのは闇を総べる絶対的な強者、魔王シェリアスが立っていた。鏡を見ている自分は修斗なのに、鏡に映る自分は修斗ではなくシェリアスなのだ。妙な違和感が訪れた。ただその不思議な気持ちは前に、何度も味わってきたものとは少し違い懐かしいような気持だった。この時脳裏にシェリアスの誕生と言ってもいい出来事を思い出していた。あのころはまだ小学校一年生くらいで、全国を転々としていた僕が一番長くいた場所、確か東京のどこかだったような、での記憶。公園で遊んでいたら高校生くらいの青年が話しかけてきて、中二病の全てを教えてくれ、さらにその青年は勝手に僕をシェリアスとなずけた。まあ、それ以来小さい僕は彼のことを師匠と言って慕っていたっけな。今もたまに連絡をしている。そんな不思議な縁と不思議な出会いを思い出していた。師匠は元気にやっているだろうか。他にも僕が小さいころに住んでいた場所の親戚や近所の中学生にもいろんなことを教えてもらった。料理とか、後この前、ゲーム内で使った技もその時に教えてもらった。ただどんな教えよりも師匠の教えが強力すぎて教えてくれた親戚たちの顔も名前も覚えていない。それだけ中二病の教育は衝撃的だったのだ。そんなことをしみじみと思い出していると、もう一度鏡に目をやった。しばらく鏡の中のシェリアスを見つめていた。彼は僕と背も体系も声も髪も同じ。なのに決定的に何かが違う。そんな鏡の彼に手を伸ばした。すると僕の手に同調するかのようにシェリアスは手を伸ばした。シェリアスが伸ばした手に触れることはできず、僕の手は鏡に触れるだけだった。しかしシェリアスの手と僕の手は重ねっているように思えた。

 

「シェリアス・・・久しぶりだね。」

 

久しぶりに見た自分の魔王の姿に話しかけた。もちろん鏡の中の彼が答えることはなかった。

 

「明日はヨハネのためだ。君を認めたわけではない。」

 

当然のことに彼は答えることはない。

 

「だけど・・・今回は君の力が必要だ。」

 

シェリアスが答えることはない。だけど彼と意思疎通ができたような気がした。そして頭の中に僕の声だが僕の声ではない声が響いた。

 

『任せとけ。魔王が失敗するわけないだろう。お前とは違うんだよ。』

「・・・・・!?」

 

まさか本当にシェリアスが僕に話しかけてきたのか。まさかな。そんなことはない。僕は修斗、修斗はシェリアス、シェリアスは僕だ。きっとただの自分への暗示だろう。少し頭が痛むが、そろそろ夕食を作りに行かなくてはならない時間だ。魔王の衣装を脱ぐともう一度津島家に向かった。

 

 




Christmasが近くなってきました。皆さんは何か予定はあるでしょうか。僕はケーキ作って、友達と一緒に食べて、ゲームして、ネットサーフィンして、寝ます。寂しくなんかないんだからね!なんてツンデレ要素も入れつつ、Christmasに何か書いてもしいものとかリクエストがあったらTwitterでもコメントでも応募します。クリスマスパーチーとか言うチャラ付いたものにはいかないと思うので時間もたっぷりあるし。でもR指定になるものは書けません。年齢的な問題が発生してしまいますので。R15ならギリ書けるかも。ラブライブ!作品なら他のシリーズの内容からでも構いません。できる限り書きます。部活で忙しくなかったら。よろ!

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王と生放送出演

いつの間にかUAが4000越え。ありがたき幸せです!


昨日の土曜日、ヨハネから自分の生放送に出てほしいとオファーが来た。もちろんヨハネに招待されたのは修斗としてではなくシェリアスとしての僕だった。彼女の彼氏を演じる為に普通の人間ではだめなのだ。魔王の力を持ったシェリアスでなくてはいけないのだ。その為に朝から自分を魔王化させていた。魔王化というのは簡単なことで要するに自己暗示のようなものだ。鏡に映る自分を見て呪文のように繰り返し同じ単語を語りかけていた。

 

「僕は魔王・・・魔王・・・魔王・・・魔王・・・・」

 

はたから見たらただの危ない人に見えるかもしれない。しかしこういう暗示の効果は絶大で、なかなか解けることはない。今日一日魔王であり続けるためには10分ほど必要だと思い、ただただ鏡の自分を見ていた。5分ほど経つと自分というものを見失ってくる。そしてそんな時に耳に聞こえてくる声を頼りに自分を取り戻し、気が付いたら過去の自分、つまり自分が魔王だと思っている少年に戻っているのだ。これも一つの催眠術なのかもしれない。しかし催眠術だろうとなかろうと、使えるなら使う。ヨハネのために。シェリアスはそう心に決めていた。

自分の魔王化も終わり自室に戻り魔王の衣装を着ていると、時刻は12時に差し掛かっていた。そろそろ津島家に向かう時間になったので、服の上に少々厚着になるが大きめのパーカーを羽織った。もう一度鏡に映る自分を見た。今の自分の姿が過去の自分と重なって見える。

 

「また、ここに戻ってきたか・・・・」

 

常備している懐中時計を開くと家を出てお隣に向かった。さすがに仮面はつけなかったが、修斗のままだったらこんな格好で外に出たら恥ずかしくて死にたいと思うほどだっただろうが、魔王シェリアスとしての自分は恥ずかしいなどみじんも感じない。魔王化するにあたって感情が乏しくなったのか、精神そのものが過去に戻ったのか。もしかしたら後で副作用が残るかもしれないという考えが頭に浮かんだが、すぐに消えた。

津島家のインターホンを押すと、中からいつもの格好のヨハネが出てきた。いつもというのはあの放送の格好ではなく、いつもの普段着だった。そんな彼女は訪れた人物が一瞬誰だかわからないというような顔をした。

 

「やあ、ヨハネ。」

 

シェリアスの声で目の前に誰が立っているのか理解したようだが、念のためなのか、信じられないとでもいうのか前に立っている人物に問いかけた。

 

「本当にシェリアスなの?」

「君の知っている修斗とは少し違うが、紛れもなく僕は魔王シェリアスだ。」

 

シェリアス返答の後、ヨハネはまじまじと彼の姿と見た。いつもの彼。しかしどこか違う。口調、目つき、しぐさ、衣服、どれも自分がしる修斗とは違っていたが、もっと根本的な何かが違う、ヨハネはそう感じた。

 

「その服どうしたの?」

「ああこれかい。これは闇とつかさどるものにのみ与えられた服でね。僕は愛用しているのさ。いくら君でもこの服は渡さないぞ。」

「いや・・・そうじゃなくて・・・」

「何だというのだ?」

「今日はラジオみたいにしようと思ってたんだけど。・・だから、姿は映らないわよ。」

 

ヨハネの一言は魔王化の呪いを一瞬にして解いた。僕の自我がシェリアスから修斗に引き戻された。修斗に戻った途端、急激に自分の姿が恥ずかしくなった。修斗はポケットの中から財布を取り出すと、財布ごとヨハネに渡した。

 

「着替えてくる。お昼は適当に出前を取ってくれ。」

 

それだけ言うと大急ぎで隣の家に戻っていった。一方財布だけ渡されたヨハネは嵐のようにやってきて嵐のように去っていった少年と魔王にあっけに取られていた。隣の家のドアが閉じられてから数分すると、やっと動き始めた。家に戻ってお昼の出前を取るために。

自室に戻った修斗は大急ぎで着替え始めた。今着ている服を脱ぎ棄て、タンスの中から普段着を引っ張り出した。急いでいるとはいえ身だしなみはしっかりとしなくてはならない。もう一度鏡の前に向かうと、頭の中にもう一人の声が聞こえた。

 

『まったく、ちゃんと人の話は聞いておけよ。そそっかしいな、しっかししろよ修斗クン。』

「!?」

 

自分と全く一緒だが根本的にどこかが違うが声が、シェリアスの声が頭に響いた。その声はまるで修斗に問いかけてくるようだった。こんな事初めてだ。この声は今まで頭に響いたことは何度もあったが問いかけと自分の名前を呼んだのはこれが初めてのことだった。

 

「仕方ないだろ。昨日は色々忙しかったんだから。」

 

初めてのシェリアスからの問いかけに思わず答えてしまった。するとシェリアスの声はなおも頭に響いてきた。

 

『まあ、人間風情が魔王を名乗った罰だな。昔みたいに全て僕に任せればいいものを。お前は無理してんだよ。さっさと僕に変われよ。』

「うるさい。君じゃなくても、僕だけで十分だ。」

『フッ、それはどうかな。お前も心のどこかで自覚してるだろ。今の自分よりも昔の自分の方が楽しかった、とかさ。』

「・・・・今の僕でも十分楽しいさ。」

『確かにそうかもしれない。だが僕はごまかせないぞ。なんてったって僕らは一心同体だからな。隠そうとしたって無駄だ。それにお前が楽しいと感じているのはあいつらに出会ったからだ。違うか?』

「・・・違わないさ。ヨハネは、ファーストは、僕には大切な友達だ。」

『はいはい、大切ねえ。だけどお前はその大切な友達とやらに嘘をついているじゃないか。それで大切な友達だ、笑わせるな。友達だったら僕のことも含めて話してみろよ。あいつら引くんじゃないか。ま、あのヨハネとか言うのは逆に食いつきそうだがな。』

「何が言いたい?」

『別に。ただあいつだったら、お前みたいなやつより僕の方が好みなんじゃないかなと思ってね。もしお前があいつと今以上の関係になりたいと望むならさっさと僕に任せたがいいんじゃないかと思ってね。普通の少年、修斗と彼女と同じく魔とつかさどるシェリアス。学年1位の秀才、修斗クンならどっちが最適な方法かわかるよな。』

「・・・・」

『黙るってことは認めるんだな。なら僕にすべてを・・・』

「うるさい!」

 

頭に響く声を止めるために大声で叫んだ。その声とともにシェリアスの声はしなくなった。最初はシェリアスが映っていた鏡には、修斗が映っていた。さっきまでのシェリアスはまるで自分がひとつの人格であるかのように、今の修斗が偽物だと言いたげな口調だった。まさかさっきの暗示のせいで僕の中にシェリアスの人格が生まれてしまったのだろうか。いやそんなことはありえないはずだ。僕たちは一つ、僕は修斗でシェリアスなんだ。自室に戻り、懐中時計に目をやるとすでに一度家に戻ってから30分が経過していた。そろそろヨハネのもとに行かなくては、カバンを持つとすぐさま津島家に向かった。

前と同じように津島家のインターホンを押すと、これまた前と同じように中から私服のヨハネが出てきた。今度はさっきとは違い相手が誰だかすぐにわかったようだ。

 

「やっと来たわね。お昼もう届てるわよ。」

「ああ、ありがと。」

 

ヨハネに案内され中に入ると、テーブルの上にピザが置かれていた。そしてそのピザの横には僕の財布と領収書が置かれていた。

 

「おつりは入れといたわよ。」

「そっか。ありがと。」

 

テーブルの上の財布をカバンにしまっていると、後ろからヨハネが不安そうな声で聞いてきた。

 

「ねえ、シェリアス。」

「? どうした?」

「さっきあなたの家の方からあなたの叫び声が聞こえたんだけど、大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ。」

「そう、無理はしないでね。」

「ああ、ありがと。」

 

あの時の声は隣にまで聞こえていたようだ。これからは注意しなくては。などと考えているとヨハネがテーブルの上のものをすべて持って自室へと向かった。

「シェリアス、時間がないから食べながらやるわよ。」

「わかった。」

 

ヨハネの後をついていくように彼女の部屋に入っていった。彼女の部屋はこの前来た時とは違って、既にスタジオのようになっていた。部屋の真ん中にはテーブルが置いてあり、ヨハネはそこにピザとその他もろもろを置いて、床においてあった座布団の上に座った。

 

「シェリアス、あなたはそっちに座って。」

 

そう言うとヨハネは自分とは反対側に置いてある座布団の方を指さした。ヨハネの指示通り座布団の上に座ると、ヨハネは本題を切り出した。

 

「まず、大体の流れを説明するわね。最初は私たちが適当に雑談をするの。話題とかは何でもいいわ。その後はメールを読んで答えていく、いい?」

「了解だ。」

 

この後、しばらく雑談をしながら練習をしていると、目的の時間に近づいたのでヨハネはテーブルの真ん中にマイクをセットし始めた。

マイクのセットも終わり、本番10分前となった。正直この時は緊張で周りの音が聞こえないほどだった。そんな時頭の中にあの声が響いた。

 

『しょうがない奴だな、力を貸してやるよ』

 

その声はすぐに消えてしまった。しかしその声が消えると心に余裕ができた。すると今まであれほどまでに緊張していた体が一瞬で収まった。不思議に思いながらも声の主に感謝していると向かいに座っているヨハネがテーブル越しに問いかけてきた。

 

「シェリアス、緊張してる?」

「不思議なことに全然してないんだ。君がいるかな。」

「何よそれ。」

「なんだろね。君もいつかはこの気分が分かる日が来るよ。」

「そう。じゃあ始めるわよ。」

 

 

 

今回の特別回は一言で言うと大成功に終わった。特別ゲストのヨハネの彼氏のシェリアスも普段通りで詰まることなくスムーズに進んでいき、ヨハネも大満足のようだった。特別回が終わってから夕食を作ってから帰ることにした。今日は一緒に食事することは少し遠慮した。まだ頭が痛いというとヨハネも了承してくれた。そして今は夕食を作り終えたのでさっさと帰って寝ようと思っていたら、玄関でヨハネに呼び止められてしまった。

 

「シェリアス、ちょっといいかしら?」

「何、できれば手短にお願いできるかな?」

「わかったわ。今日はありがとね。体調が悪いのに手伝ってくれて。」

「当然のことをしたまでさ。感謝されるようなことじゃない。」

「そんなことないわよ。あなたはすごいわ。」

「・・・ありがと、じゃあ素直に感謝されておくよ。じゃあ、また明日、学校で。」

「ええ、また明日。体調には気を付けて。」

「あはは、もう遅いかもだけど、ありがと。」

 

その言葉とともに玄関のドアを開けて、自分の家へと帰っていった。隣の家の扉を開けると、すぐさま自室へと向かった。カバンを机の上に置くと、そのままベッドに倒れこんだ。突然自分の体に急激な眠気があふれ出て、このまま目をつぶって眠ってしまった。

目を閉じると真っ暗な空間がどこまでも広がっていた。今自分がどうしてここにいるのか、そもそもここはどこなのかもわからず、この前後左右が存在しない空間を漂っていると、昼頃に聞いた声が聞こえた。

 

『やっとここまで来たか。』

 

声が聞こえたのはちょうど自分の真上だった。見上げるともう一人の自分、シェリアスがふわふわと足を組みながら漂っていた。

 

「ここはどこだ?」

 

修斗の質問にシェリアスはあざ笑うかのようにに答えた。

 

『ここはお前の心の奥底、僕を封印していた場所だよ。』

 

シェリアスは両手を広げて空間全てを指さした。

 

「どうして僕をここに呼んだ?」

『お前が来たんだろ。現に僕はここから動けない。』

「僕がここに来た?」

『ああ、お前が僕を必要としたからだ。』

 

シェリアスは元の位置からは動かずに常に修斗を見下す場所にいる。そんなシェリアスは夢の中で空を泳ぐときのように修斗の前にやってきた。

 

『僕もお前と同じなんだ。だからお前が苦しむのは見たくない。自分が苦しんでいるように見えるからな。』

「・・・何が言いたい?」

『ようするに僕たちは一人じゃ完璧じゃないんだ。だったらより完璧になるために協力しようって言ってんだよ。』

「協力だと?」

『ああ、お前が必要と感じたときには僕がお前と変わってやる。それ以外はお前が一人で何とかする。そのかわり精神的な助けはしてやる。』

 

シェリアスは右手を修斗の方へと伸ばした。

 

『悪い話じゃないだろ?』

「確かにそうかもしれない。だが絶対に裏がある君が僕と同じなら僕と同じ癖があるはず。さっきから右足だけが前に出ている。これは僕が何かを企んでいる時の証拠だ。そうだろ?」

 

するとシェリアスは伸ばしていた腕を戻して高らかに笑い出した。

 

『ククク・・・フハハハハ・・・さすがは僕だな。ただじゃいかないか。』

「・・・それで真の目的はなんだ?」

『ヨハネだよ。』

「はあ?」

『僕はあいつのことが出会ったときから気に入っていてね。あいつを僕のものにする。それが目的だ。』

「ヨハネを・・・」

『どうした?お前にとっても悪い話ではないだろう。それともあいつに何か不満があるのか?』

 

シェリアスは再び右腕を前に出した。

 

『お前はこの計画に乗るか?それとも・・・』

「・・・・」

 

シェリアスの真の目的はヨハネだと。どういうことだ。普通にヨハネを射止める問だけなのだろうか。それとも本当にものとしか見ていないのか。どっちなのかはわからない今こいつを契約をするのは危険だ。そう考えているとシェリアスは悪魔のささやきならぬ魔王のささやきを口にした。

 

『お前は欲しくないのか?ヨハネが。』

 

シェリアスの一言は修斗の心を動かすには十分すぎた。修斗はシェリアスの指し伸ばされた手を握り返してしまった。それと同時にシェリアスは笑みを浮かべた。

 

『契約成立だな。』

「・・・ああ。」

『これからはお前は僕。僕はお前だ。』

 

シェリアスはその言葉だけの残すと修斗の中へと消えていった。残された修斗は一人さっきまでシェリアスの右手を握っていた右手を見ていた。その手を見ていると不思議と長い間忘れていた、自分への自信や心の余裕が生まれた。そして暗闇の中、頭に浮かんだ言葉を口にした。

 

「僕たちは修斗でありシェリアスである。僕たちは二人で一つ。二人で完璧なんだ。」

 

そのまま頭上を見上げながら高らかに笑った。そしてその笑い声はいつからか二重で聞こえた。

 

「『フハハハハ・・・・アハハハハハ!』」

 

少年と魔王の笑い声はどこまでも続く暗闇の中に響き渡った。

 

 

次の日目が覚めると、体がいつもよりも軽く感じた。昨夜何か大事な夢を見た気がするがどんな夢だったかまったく思い出せない。それでも今日という時間は過ぎていく。制服に着替えると、家を後にした。すると玄関を出たときにヨハネに出くわした。

 

「おはよう、ヨハネ。」

 

 




先日、リアルの友達に質問されました。
Q どうして忙しいのに小説を書くの?
A 1つ目は、母が元小説家なんだけど、その母に少しでも近づけたら、母の考えてること  がわかるかなと思って。
  2つ目は、ラブライブ!作品が好きだから・・・かな?
  3つ目は、いろんな小説を読んでて、自分ならここはこんな展開にする、とか考えて   色々探したら、自分で書いた方が早い!と考えたから。
                               以上!

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを                              


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堕天使と魔王とhappy birthday

今日は6月24日。今はオンラインゲーム、セカオラにログイン中。いつものメンバー、シェリアス、ヨハネ、ファーストの三人に今日は学校のゲーム部のメンバーが加わっていた。今回は経験値を積むことが目的ではなく、新たな装備を作るための素材を集めるためにこの前よりは少し難易度の高いダンジョンに来ているのだが、ダンジョンに向かう途中に彼らにあったのだ。彼らも僕らと同様に素材を集めに行く途中だったので、今回はともに仮のパーティを作成して協調することにした。といっても僕たちのやることは変わらず、ただただ相手を切り進んでいった。しかし今回のボスモンスターは巨大なオオカミでその周りにも多数のオオカミが配置されていて、メンバーが多くなったパーティーは有利な戦闘を繰り広げた。ゲーム部の面々の援護もあり、ボスモンスターも難なくクリアできた。シェリアスのラストアタックでボスオオカミがガラスのように砕け散ると、ボスオオカミがいた場所の上空に目ミッションクリアの文字が浮かんだ。

 

「ミッションクリアおめでとうございます。シェリアス。」

「そっちこそ。的確な援護ありがとうございます。」

 

ゲーム部の部長が剣を鞘の納めて後ろから話しかけてきた。この人とは部活動見学の際に一度だけ会話したことがあった。その時の第一印象としてはおおらかそうな先輩という感じだった。実際、今日ゲーム内で話してみると、とてもフレンドリーで他の部員への面倒見もよく、後輩からも厚い信頼を受けているという、まさに先輩という感じの人だった。修斗はこの時、沼津に来て初めて先輩らしい人にあったかもしれない。この人なら信頼できると。少なくともどこぞの二人のダメ先輩よりも。この二人の先輩というのはもちろん、漫研とラノベ部の部長たちのことだ。正直あの先輩たちには関わりたくないというのが本音だ。だからこそこの人のような先輩のことは頼りにしてしまう。

ダンジョンを後にした面々は町に戻ってドロップ品の配分を終えるとそれぞれログアウトしていった。そして最終的に残ったのはヨハネとシェリアスそしてゲーム部の部長だけとなった。ファーストはダンジョンから帰ると、何かやることがあるからと言ってすぐにログアウトしてしまった。ゲーム部の中には修斗たちと同じクラスの生徒もいたが彼もすぐにログアウトしてしまった。そして残された三人は町の喫茶店で雑談をしていた。しばらく話をして、リアル時間で9時に差し掛かろうとしたときに先輩が動いた。

 

「そうだ、シェリアス君、ヨハネさん、よかったら僕とフレンド登録しないかい?」

「僕たちは一向にかまいませんよ。いいよな、ヨハネ。」

「ええ、別にかまわないわよ。」

「それはよかった。もしこのゲーム内で困ったことがあったらメールしてくれ。できる限り力になるよ。」

「ありがとうございます。」

 

シェリアスたちはそれぞれ自分のウィンドを開いてフレンド登録を終わらした。この時、先輩が使っているアバターの名前を知った。『ヒュプノス』それが先輩の名前だった。先輩曰く自分の頭文字から適当にカッコいい名前を検索したら出てきてからつけた名前らしい。フレンド一覧の中の数少ないフレンドにヒュプノスの名前が追加された。先輩の一覧表の中にシェリアスの名前が追加されるのを見ると、また口を開いた。

 

「シェリアス君、ちょっと二人だけで話したいことがあるのだが、いいかな?」

「二人だけですか?」

「ああ、いいかい?」

「ヨハネ、先にログアウトしてもらってもいいかな?」

「・・わかったわ。じゃあ、お疲れ様。」

「ああ、お疲れ様。」

 

ヨハネのアバターが消えると、メールボックスに一通のメールが届いた。それはミッションクリアのお知らせだった。そのミッションの内容はフレンドを5人作るというものだった。ウィンド画面からミッションクリアのアイテムを受けとっているシェリアスを見て先輩が話し出した。

 

「懐かしいな。フレンドミッションか。」

 

先輩は懐かしいものを見る目でシェリアスのウィンドを覗いた。

 

「はい。何まだ始めたばかりなので。まだまだクリアしていないミッションもたくさんありますよ。」

「そっか。じゃあ、バースデーミッションもまだか。」

「なんですかそれ?」

 

聞きなれない言葉にシェリアスは先輩に聞き返した。

 

「ああ、このゲーム。プレイヤーの誕生日には特別なアイテムがもらえるんだ。」

「へーそうなんですか。」

「シェリアス君の誕生日はいつだい?」

「明日です。」

「ほほう。それはおめでとう。明日は必ずログインすることだね。」

「はい、そうします。」

「しかし、シェリアス君ならリアルでたくさんの友達に祝ってもらえるんじゃないかな?」

「どうですかね。確かに、クラスメイト達には明日が誕生日だと伝えたことがありますが、まだこっちに来て2か月とちょっとですからね。」

 

それに今まで自分の誕生日を祝ってもらったことなんて一回くらいしかない。それもあの時は親戚の人とその友達が集まっただけだったし。だからかあまり自分の誕生日には何も期待しないようにしている。そういえばこの前ヨハネにも同じような質問を受けたな。まあ、いいか。どうせ誰も祝ってくれるわけないし。精々自分でケーキを買って帰るくらいだろう。などとどこかうつろになりながら考えていたシェリアスを横目で見ながら先輩はぼそりとつぶやいた。

 

「なら、明日は驚くだろうな。」

「? 何か言いました?」

「いや、何でもない。さて本題に入ろうか。」

「あの・・・もしかして、ゲーム部に勧誘ですか?」

「アハハ、違うよ。まあ入ってくれればありがたいのは確かだけどね。本当は少し気になることがあってね。シェリアス君、君の名字って津々宮なんだよね。」

「? はい。」

「もしかしてだけど、ご両親って考古学者だったりする?」

「よく、知ってますね。」

 

津々宮修斗の両親、津々宮千鶴と津々宮海斗は二人そろって考古学者なのだ。その為に二人は世界中を飛び回ってありとあらゆる研究をしている。そしてそれが修斗が小さいころから親と一緒にいることが少ない理由である。

 

「やっぱりか。なんとなくそんな気がしたんだよ。」

「あの、どうして僕の親のことを知ってるんですか?」

「知らないの?君のご両親、考古学の世界では有名な人たちなんだよ。」

「そうなんですか。知らなかった。」

「やっぱり、この前のインタビューで言ってたよ。息子がいるが中々会えなくて悪いことをしているって。」

 

そんなことをしていたのか。というか僕の親は有名な人たちだったのか。いつもいつもどこかに行っては変なお土産を買って帰って、そしてまたすぐに行ってしまう。僕からしたらどうしようもない仕事好きだとしか感じていなかった。

 

「きっと明日も、君に誕生日プレゼントとか送ってくれるんじゃないかな。」

「どうですかね。」

 

この後先輩は津々宮夫妻のことを色々と教えてくれた。現在参加中のプロジェクト、過去に行った研究の成果、いろんな雑誌に取り上げられたインタビュー、結婚後の研究、世紀の大発見ともいえる計画に携わったこと。そして自分たちの息子についてのこと。両親は一度だけ研究中の遺跡にまだ幼児だった僕を連れて行ったこともあったそうだ。先輩は僕が知らないようなことをたくさん知っていた。僕は親戚や近所に人から両親の話や雑誌は極力聞かないようにしてきた。そのために今では目の前の、僕の親とも面識のない学校の先輩にも親についての知識では負けてしまっている。親のことを生まれて初めて詳しく聞いた僕は、表情一つ変えずにじっと先輩の話を聞き続けた。

 

「・・・・という感じで今は凍結された遺跡から見つかった故文書の解析チームに配属されていて、ロンドンにいるんだ。で、その遺跡っていうのも元々の発見は津々宮教授たちなんだけど、その遺跡がどうやら悪魔や邪神と関係性が高い遺跡なんじゃないかって教授たちは推測しているらしい。それで・・・」

 

先輩の話は僕の親がどうとか親が凄いとか、そんな内容だった。なぜか先輩の話を聞いていると、心臓の奥の方が詰まるような感覚に包まれた。するとその症状に続いて目が段々と熱くなってきてしまった。これ以上は耐えきれないと判断した僕は先輩の話を途中で切った。

 

「先輩。・・・もう、いいです。」

 

必死にあふれ出てくる涙をこらえながら詰まりそうになる息を必死に抑えて今出せる限界まで感情を抑えた声を出した。先輩は必死に感情を隠そうとする僕を見ると、何かを悟ったように申し訳なさそうな顔をした。

 

「ごめんね、話過ぎた。」

「・・・・」

「もうこんな時間だ。早くログアウトするといい。」

「・・・すいません。」

 

先輩の言葉に甘えて、ウィンドを開いてログアウトボタンを押した。すっと画面が真っ暗になるのを見届けると、修斗はどこか遠くを見るように空を見上げた。上を見上げていると自分の頬を雫が一滴、また一滴と流れていくのがわかった。あと1時間とちょっとで迎える自分の誕生日。沼津に来て初めての自分の誕生日。今自分の親たちは同じ空の下、同じ星に住んでいる。それなのにもかかわらず、どうしてここまで心細くなってしまうのだろう。どうして胸が痛いのだろう。どうして・・・僕ばかりがこんな目にあっているのだろう。どうして僕の親は一緒にいてくれないのだろう。そんなことを考えながら修斗はそっと瞼を閉じて、深い眠りについた。

 

目が覚めて、ケータイのアラームを止めるために画面を開くと、そこには6月25日とう文字が浮かんでいた。遂に迎えた沼津で始めての自分の誕生日。今まで友達が祝ってくれたことなんて一度もなかった、というよりも今までは友達と呼べる友達もいなかったが。しかし今の僕にはヨハネやファーストといった信頼できる友達もいるきっと彼らなら誕生日おめでとうくいらいは言ってくれるだろう。そんな期待を胸に意気揚々と家を出た。家を出てすぐ、鍵をかけていると、隣りの家からヨハネが出てきた。彼女には2回ほど僕の誕生日を伝えたことがある。きっと彼女なら覚えていてくれているだろう。

 

「おはよう、ヨハネ。今日もいい天気だね。」

「・・・おはよう。」

 

ヨハネはそれだけ告げるとすぐさまエレベーターに向かってしまった。その後ろ姿は振り返ることもなく、そそくさと行ってしまった。そして家の前に一人取り残されてしまった僕は、彼女の背中が見えなくなるまで、硬直してしまっていた。それだけですか、挨拶だけですか。薄情な奴め。急いで家の鍵を閉めると先に行ってしまったヨハネを追いかけた。幸い彼女はエレベーターを待っているところだった。ナイス、エレベーター。いつものようにヨハネの隣に立ちエレベーターが来るのを待っている間も彼女は目も合わせてくれず、会話すらまともに進まなかった。

 

「な、なあ。今日って何曜日だったっけ?」

「金曜日でしょ。まさか曜日感覚ないの?」

「いや・・・そうじゃないんだけど・・・」

「どうしたのよ、そんなにそわそわして?」

「えっ?!そ、そんなことないよ。気のせいじゃないか?」

 

君が素直に誕生日おめでとうと言ってくれればこんな思いせずに済むんだよ。まさか本当に忘れてしまったのか。しっかりと伝えたはずなのに・・。いや別に祝っても欲しいわけではないけど、なんとなく寂しい思いになった。

 

「シェリアス、何ぼさっとしてるの。エレベーター来たわよ。」

「・・・うん。」

 

この様子だと言ってくれそうにないな。仕方ない、こいつにはケーキを分けてやらんぞ。貴様の目の前でイチゴたっぷりのショートケーキを食べてやる。貴様の悔しそうな顔が目に浮かぶわ。フハハハハ・・・って、何考えてるんだ僕は。

いつものようにヨハネとともに学校に向かう途中に、何人かクラスメイトに会ったが彼らもいつものように『おはよう』と返してくるだけだった。そして学校に着いてからも、クラスはいつもの雰囲気で誰一人として祝ってくれる様子はなかった。ついにはみんなに自分から言ってしまった。

 

「きょ、今日って何かあったっけ?」

「え、今日?・・・何もなかったと思うよ。」

「・・・あ、そう・・・」

 

なんだよ、やっぱりみんな忘れてるのかな。その時後ろから女子の声が聞こえた。

 

「あ、そうだ!聞いてよ津々宮君。実はね私、ダイエットに成功したの!」

 

ダイエットだ?!どうでもいいわそんな事。貴様が太ろうが痩せようが興味ないわ。もっと僕を見てよ。僕は今日誕生日なんだぞ、おめでとうくらい言えよ!わかる?!today主人公、me!今日は数少ない僕が主人公に日なんだよ!わかったらさっそとその口を閉じろ!という暴言を思い浮かべたが、言葉を飲み込むと完璧なつくり笑いでできる限り明るく振舞った。

 

「そっか、おめでとう。」

 

この後も誰も、何も言ってくれなかった。僕はこんなにも人気がなかったのか。もしかして本当は僕は嫌われているのだろうか。この日のために日頃からいいことしてきたつもりなんだけどな。部活の助っ人に行ったり、探し物を手伝ったり、悩みを聞いてあげたり、色々したけどどれも意味なかったのか。そっか、勝手に誰かに誕生日を祝ってもらえるなんて思いこみしてはいけなかったんだな。なんかごねんね、粋がっちゃって、これからは誰とも関わりを持たないようにするよ、と極度の卑屈状態になっていたら、時間はあっという間に過ぎていき既に放課後になっていた。何だか今日の学校での記憶がないな。あれ、涙が出てきそうだ。

放課後、前田先生の手伝いをするように頼まれたので、指示通り職員室に向かった。どうせやることないし、だれも祝ってくれるわけないし、一人で静かに事務作業でもしてますよ。

 

「先生、全部終わりました・・・」

 

そう言って職員室にある前田先生の机まで資料を持っていった。

 

「早いな。もう終わったのか?」

「はい、文字っていいですね。人に干渉を持たないようにするから。」

「? 何か言ったか。」

「・・・いえ、別に何も・・・」

 

先生は資料を受け取り中身を確認すると茶色の封筒の中にしまった。

 

「正確にできている。お前こういうこと得意なのか?」

「はい、そうですね・・・」

「だったら、生徒会とか入ってみないか?」

「はい、そうですね・・・」

「・・・どうした、テンション低いな。何か悩み事か?」

「はい、そうですね・・・」

 

先生はこれ以上僕の様子については追及してこなかった。これ以上はそっとしておこうと思ったのか、これ以上は自分が触れてはいけないのか確信したのかわからないが、これ以上聞いてこなかったのは賢明な判断ですね。もし、聞いてきたら・・・フフフ・・・。

 

「ま、まあ。気をつけて帰れよ。教室のカバンを忘れるなよ。」

「・・・はい。」

 

先生から教室の鍵を受け取ると、重たい足取りで自分の教室に向かった。階段一段一段上がるごとに色々な感情や不満、疑問が湧いてきた。

ここにきて、今までで一番多く友達ができた。それは僕が中二病を抑えるようになったからだけではないと思う。きっとこの沼津のみんながどこよりも親しみやすく、明るく、何よりもいい奴らばかりだった。あいつらは人の気持ちをしっかりわかってくれている。この前も今まで誕生日プレゼントに何を貰ったかという話題だ出たとき、僕もその質問をされて、答えれなかった時があった。その時僕の家庭の事情を説明したらあいつらはどうしたか。小ばかにするでもなく、同情の目を向けるでもなく、ただただ、泣いてくれた。こんな僕のために泣いてくれたのだ。あの時は嬉しかったな。久々に人の温かさに触れた気がした。だから、だからこそあいつらならきっと・・。今度こそは誰かが何か言ってくれると思った。だけどそれは自分で舞い上がっていただけなんだ。所詮人間は自分のこと以外はどうでもいいんだ。他人がどうなろうとどうでもいいんだ。結局みんな自己中なんだ。もう、誰も信じない。誰も頼らない。誰も信用しない。これからは自分の為だけに、自分中心に生きてやる。他人の心配なんてくそくらえ。ああ、もう、人間不信になりそう。教室でちょっと泣いて帰ろうかな。下を向いたまま教室の鍵穴に鍵を差し込むと、力なさげにドアを引いた。その時、正面からパンッという銃声音のような音が聞こえた。しかしその音は銃声の音ではない。もっと小さな音だった。何事かと顔を上げるとそこには、地面に舞い散る紙吹雪、後ろに寄せられた机と椅子、黒板いっぱいに書かれた色とりどりな

『Happy birthday』の文字、そしてクラスメイト全員の姿があった。その中心にはこのクラスの委員長のファーストが立っていた。そのファーストが指揮をとると、クラスメイトのみんなの声が教室中に響き渡った。

 

「「「「「津々宮修斗君、誕生日おめでとーーーー」」」」」

 

みんなの声がまだ耳の中に響いているなか、ファーストが切り出した。

 

「シェリー、誕生日にあんまりいい思い出がないって言ってたから、みんなで計画したんだ。日頃の感謝を込めて、君を祝おうって。」

 

ファーストが一度下がると、代わりに後ろに構えていた男子数人が前に出た。

 

「いつも、勉強教えてくれて、ありがとな!」

「お前の教え方、ものすごくわかりやすいぜ!」

「これからも、頼むな!」

 

そういうと彼らは手に持っていたものを僕に差し出した。

 

「これは?」

「誕生日プレゼントだよ!ありがたく受け取れ。」

「俺たちがちょっとづつ小遣いを出し合って買ったんだ。」

 

プレゼントを渡すと彼らは恥ずかしそうに下がっていった。すると次は女子生徒が数名前に出た。

 

「えーと、いつも私たちの話を聞いてくれてありがとう。」

「津々宮君の笑顔にいつも癒されています。」

「これからも友達でいてください。」

 

女子は器用に紙を次々に回し読みした。する今度は後ろにいた女子たちが前にいた女子とともに再び前に出た。

 

「これ、私たちが調理室で作ったクッキー、よかったら食べて。」

 

するとこれまた恥ずかしそうに後ろに下がっていった。その後も次々にクラスメイトのみんなが前に出ては何かを渡していき、感謝の言葉を述べた。

 

「たまに部活の助っ人に来てくれてありがとう。」

「探し物を一緒に探してくれてありがと。」

「悩みを聞いてくれてありがとう。」

 

などなどみんがが何かを言ってはプレゼントしてくれるので、既にこれ以上何も持てなくなってしまった。その時後ろのドアが開く音がした。そこに立っていたのは職員室にいるはずの前田先生だった。

 

「俺からも一言。お前が入ったことで俺の評価が上がった。ありがとな。」

 

先生は僕に後ろのみんなには見えないように大きな手提げ袋を渡した。そしてそのまま職員室に戻っていった。先生の背中が見えなくなると後ろから誰かが「自分のことかよ!」と突っ込にをいれた。それと同時にクラス中が笑い声であふれかえった。そしてその笑い声が止まないうちにファーストが再び前に出た。

 

「じゃあ、次は僕だね。」

 

ファーストが真っすぐにこちらを見つめると、周りから笑い声も消えた。それを合図にしたのかファーストは話し始めた。

 

「人数が足りなかったうちの弓道部に入ってくれてありがとう。あの事、物凄く感謝しれるんだよ。それと、テストでも、弓道でも、いいライバルになってくれてありがと。」

 

するとファーストは自分のポケットから図書カードを差し出した。もしかして荷物が多くなるから気を使ってくれたのだろうか。ファーストの顔を見上げると、彼は返事はせず、ウィンクをして返した。そして元の自分の持ち場に戻っていったら、今度は後ろの方が騒がしくなった。どうやら女子がもめているようだ。すると今度は数人の女子に押されてヨハネが前に出てきた。

 

「ちょ、ちょっと!私は言わないわよ!」

 

しかし他の女子たちはヨハネの声には耳も貸さずに、彼女の背中を最後にひと押しした。背中を押されたヨハネはバランスを崩しそうになるも、体勢を立て直した。しかしヨハネが今立っている場所は修斗の目の前だった。一度後ろを振り返るも、後ろの女子は目線を合そうとせず、ある者はじっと期待に目を輝かせながらこちらを見ていた。そしてヨハネは下がることをあきらめたようだ。急に眼を合わせてきたと思ったらすぐに離してしまう。そんなことを三回ほど繰り返すと、最後は目をつぶりながらこちらを向いた。口をパクパクと動かした後に深呼吸をすると、赤い顔で修斗の顔を真っすぐに見つめてきた。

 

「で、・・・出会ってくれて・・・・・ありがと。」

 

その声は小さく、周りのみんなからしたら口を動かしただけに見えたかもしれないが、確かに修斗には聞こえた。そして修斗がその言葉を聞いて唖然に取られている姿を見ると、ヨハネはクスッと笑いそそくさと後ろに下がってしまった。その様子を見ていたファーストはにやけ顔で音頭を取った。

 

「じゃあみんな最後行くよ。」

「「「「「「「津々宮修斗君、誕生日おめでとう!!!」」」」」」」

 

最後にみんなが一斉に祝福の言葉を告げると、何人かの男子は僕に駆け寄り、肩に腕を回してきた。その時、遂に僕の涙腺は崩壊してしまった。

 

「お、おい、泣くなよ、津々宮。」

「・・・だって、・・・こんなに・・・嬉しい日・・・初めてだ・・・・」

 

大粒の涙が床にポツポツと滴っていった。そこからは視界が涙で歪んでしまい、よく見れていないが、僕はこんなにも僕のことを祝ってくれてみんなに感謝の言葉の述べ続けた。

 

「みんな・・・本当に、ありがと。・・・今までで一番心に残る日になったよ。・・・今日のことは絶対に忘れない。・・・みんなに本当に感謝してる・・・こっちこそ・・・友達になってくれてありがと・・・今一番・・ここにきてよかったて思えた。本当にありがと・・・ありがと・・」

 

最後の言葉を言い終わると膝に力が抜けてしまい、泣き崩れてしまった。

この後、教室を片付けるて、みんなは解散した。僕は帰り道もまだ少しだけ目に涙が溜まっていた。

この後、津島家に夕食を作りに行かなくてはいけないのだが、それまでまだ少しだけ時間があったので、ファーストに電話をかけた。

 

『どうしたの?君からかけてくるなんて珍しいね。』

 

電話ごしにファーストの声が聞こえると、僕は一度心を落ち着かせるために深呼吸をした。そして決心を決めると本題を話し出した。

 

「ファースト。恋愛相談がある。」

 




この前、ほとんど徹夜で今までの小説を見直しました。多分訂正はしたと思うのですが、あんまり自信はありません。というか徹夜のせいで授業が物凄く眠かった。あ、いつものことか。なんて茶番は置いておいて、この前の回で第20話も突破しました。これも皆様に読んでいただいてこその結果です。僕自身、まだまだ社会的にも、小説家としても未熟ですがこれからも全力で書かせていただきます。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王と契約

「ファースト。恋愛相談がある。」

 

6月25日、津々宮修斗誕生日の夕方、学校から帰った僕は、津島家に向かう前にファーストに電話をしていた。ファーストとの電話の内容とは、ヨハネのことだ。そしてシェリアスとの契約との内容でもある。つまり恋愛相談だ。完璧な津々宮修斗が恋愛相談をしたとなっては、周りからの完璧というイメージを崩しかねない。それもギャップとして使えるかもしれないだ。僕自身があまりやりたくない。だって恥ずかしいし。そこで既に僕とヨハネの間に入ることに一番適した人物に相談をした。それが今通話中のファーストなのだ。

 電話越しに聞こえてきたファーストの声は少し驚いたような声で聞き返してきた。

 

「・・・え? 恋愛相談?もしかしてヨハネちゃんのこと?」

 

突如、ファーストの言葉から発せられたヨハネの名前に心臓が跳ね上がりそうになるも、落ち着きを取り戻してから返事を返した。

 

「そうだ・・・」

「まあ、そうだろうね・・・・」

「何が言いたい?」

「別にー。」

 

わざとらしくごまかしたファーストはどこか笑いをこらえているように聞こえた。

 

「何がおかしい?」

「いや・・・だって、真剣な声で聞いてきたから何かと思えば、そんな事かと思って・・・」

「・・・・・こっちは真剣なんだぞ。」

「ゴメンゴメン。で、僕は何を聞いたらいいの?」

「・・・・なあ、ファースト。 好きってどういう意味だと思う。」

「うーん、そうだな。・・・・『心が引き付けられる様子。その人に心が引き付けられて心がドキドキする様子。道楽や色事への欲求が強い様子。』・・・かな?」

「・・・辞書見てないか?」

「えっ?そんなことないよ。」

 

かすかだが電話の向こうからペラペラと紙をめくる音が聞こえる。もしかしてこいつに相談したのが間違いだったのだろうか。もっとゲーム部の先輩にでも相談した方がよかったのではないか、などと思い始めた頃、けらけらと笑いながらファーストの言葉が聞こえてきた。

 

「冗談だって。で、シェリーの言っている好きって、どっち?」

「likeかloveかということか?」

「そうそう。」

「うーん・・・・。」

 

二つについて考えていると、段々頭が混乱してきてしまい、根本的なところまで逆戻りしてしまった。

 

「・・・・そもそも、この二つはどう違うんだ。」

「多分だけどlikeは、一緒にいると楽しいとか、明るくいられるとかで、loveが残りの人生をずっと一緒にいたいとか、相手のすべてが知りたいとか、一つになりたいとか・・・」

「もういい。聞いた僕が悪かった。」

 

ファーストが口にした表現に全て自分とヨハネを当てはめていると、それこそ相談どころではなくなってしまいそうだったので、途中で止めさせた。するとファーストは考えたようにうなってからシェリアスに問いかけてきた。

 

「それじゃあ、シェリーはヨハネちゃんのことどう思ってるのさ?」

「よくわからん。」

「よくわからないじゃなくてもっと考えろよ。」

 

ヨハネ、ヨハネのことか。そうだな、どういったらいいのだろう。ヨハネと出会ってからの日々を思い返すと、最初に思いついた言葉は、『世話の焼ける妹』という言葉だった。そういえば、師匠も妹さんのことをまるで自分のことのように話していたことがあったな。こういうところから師匠に影響されてしまったのだろうか。しかしだとしたら師匠は妹のことを愛していると言っていたな。じゃあ、僕もヨハネのことを師匠にとっての妹さんと同じくらいの愛を抱いているのだろうか。そう考えると、何だか恥ずかしくなってきてしまった。それ以外に自分にとってのヨハネの存在を一言で表すと、と考えてしまうとどうにもこうにもいつまでたっても答えにたどり着ける気がしなかった。もしかしたらヨハネは一言では表すことが出来ないくらいの存在なのかもしれない。ぼそぼそとつぶやきながら考えるシェリアスのことを電話越しに想像していたファーストはじれったくなってきてしまった。早くしろよ、考えるなら電話切るぞ。と考えていた。その直後、今まで小さな呟きとは違う、はっきりとしたシェリアスの声が聞こえた。

 

「・・・・やっぱり、好きなのかな?」

「like? love?」

「・・・love。」

「じゃあ次、どれくらい好きか。」

「・・・どれくらい、と言われるとよくわからないが、これからも一緒にいたい、とか?」

「ほうほう。それで?!」

 

聞き返してくるファーストの声はさっきまでの少し退屈そうな声とは決定的に違う声に聞こえた。その声は、自分が楽しみにしていたクリスマスプレゼントが届いた時のように元気だった。

 

「・・・なんか、テンション上がってない?」

「気のせいだろ?それより早く次!」

「やっぱ、高い気がする・・・・。後は、僕の親みたいに離れたところには行きたくない、とか。

「うんうん。他は?!」

「他は・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・・」

「もっとさ!結婚したいとか、誰にも渡したくないとか、他の男子と話しているの見るとむかつくとか、自分だけのものにしたいとか、そういう考えはないのか?!」

「それ、危なくないか?」

「そんなことないよ!これくらい普通だって。誰にも渡したくないから人は告白するんだよ。」

「そうなのかは知らないけど、さっきの君の考えはヤンデレに近い気がする・・・。」

「えっ?!シェリー、ヤンデレじゃないの?!」

「何でだよ!勝手に人に余計な設定をつけたすな!」

「アハハ、ゴメン。」

 

なんだろう、やっぱりこいつに遊ばれている気がする。こいつにとって僕らは遊び道具でしかないのだろうか。ここらで一度反撃した方がいいのではないだろうか。一度、頭に思いついたが、言わないで閉まっておこうと思っていたものを引っ張り出した。

 

「そういえば、君がヨハネのことをヨハネちゃんって呼ぶの、なんかイラッとくる。」

「えっ?!マジ?」

「マジ。」

「マジか・・・・」

 

ここにきてファーストはどんな時よりも真面目な声で謝罪を返した。

 

「なんか・・・ゴメン。ホントにゴメン。」

「いやいいy・・・」

 

いいよ、と言おうとしたらファーストはさらに言葉を付け足そうとした。こいつ、もしかしてそこまで誤ってくれるのか。今日、学校で行われた誕生日会といい、やっぱりファーストは根はいいやつなのだろう。

 

「本当にゴメン。反省します。もう近づきませんから、殺さないでください。」

「だから、僕はヤンデレじゃない!」

「えっ?!違うの?!」

「違うわ!さっきも言ったけど、勝手に人に変な設定を付け足すな。」

「アハハ、ゴメンゴメン。反省しまーす。」

「くっ・・・。くそったれが・・・」

 

さっきの考えは全否定だ。やっぱりこいつ誰よりも黒かった。いいところなんてない!次はどう復讐してやろうかと考えていると、再びファーストが真面目な声に戻った。

 

「ふぅー。思いっきり笑えたし、今度は僕から助言させてもらうよ。」

「・・・・頼む。」

 

ファーストが電話から離れて息を思いっきり吸い込むと、一気に吐き出した。彼曰く、助言とともに。

 

「バカか!今まであんなにやっといて今更何が恋愛相談だ!転校初日壁ドンして、休日に一緒に出掛けて、隣りに引っ越して、二人きりで手料理を何度も食べて、しまいにはテストが終わった帰りに日に手をつないで帰ったのに・・・何が恋愛相談だ!そこまでやっといてまだくっついてないとか、どんだけルーズなんだよ!」

「ファ、ファースト、どうしてそんな知ってるんだよ・・・。」

「ヨハネちゃんに聞いたり、周りに見てたやつがいたんだよ。いい?見てるこっちが砂糖を吐きたくなるようなことも沢山してたのに、今更相談とか、逆に笑えるよ。」

「・・・・・」

「そこまで、やったんだからさ、今更恥ずかしいものもないだろ。行ってきなよ。」

 

なんだかんだ言ってこいつは僕が告白することを想定して、今まで会話していたのか。こいつやっぱり、いいやつなんじゃないか。

 

「ありがとな、ファースト。」

「いえいえ、こちらこそ面白い話が聞けたから。」

 

面白い話?・・・・まてよ、こいつさっきの言葉が言いたかったなら最初のひたすら僕が恥ずかしい目にあっていた工程は必要だったのか。そのことを問いただそうと、ケータイを耳に当てたが、時すでに遅く、通話は切れていた。逃げたな・・・。

スマホをホーム画面に戻すと、もうすぐでいつも津島家に向かう時間になっていた。夕食の準備をするために台所に向かうと、今度は頭の中にシェリアスの声が響いた。

 

『やるんだな、今日。』

「ああ」

 

何日か前の自己暗示の日からどういう訳か修斗の頭の中に自分の声が響くようになった。最初にこの声に聞こえたときも戸惑うことはなく、今では普通に会話までできている。そんなもう一つの自分の声はなおも言葉を続けて発せられたが、修斗は準備を続けた。

 

『告白なんて面倒なことせずに、力ずくで自分の所有物にしたらいいのに。』

「シェリアス、あまりヨハネを物扱いするな。それに、僕にそんな度胸あるわけないのを知ってるだろ?」

『確かに。こういうことに関してはヘタレだからな修斗クンは。じゃあ代わりに僕がやってやろうか?』

「黙れ。僕たちは未成年。そういうことは法律で禁止されてるだろ。」

『いい子ちゃんぶるなよ。僕たちは闇の住人だろ?』

「ここではその法則は通用しない。それくらいわかるだろ?」

『フン、わかってるよ。・・・もしまだ抵抗があるなら、告白くらい僕がやってやろうか?』

 

シェリアスの一言は今までの修斗を煽るようなものとは違い、本気で手助けをしようとする心遣いが声に出ていた。正直、これからヨハネに告白するかと考えると今にも心臓が破裂しそうだ。だけど、これくらいは自分でやりたかった。せめてものけじめとして。

 

「・・・いや、僕にやらせてくれ。」

『・・・・そうかい。でも、僕が無理だと感じたら強制的に変わるからな。」

「ああ。わかった。」

 

準備したものを入れたカバンを持ち玄関に向かった。そしてドアノブに手をかけたとき、再び脳内にシェリアスの声が響いた。

 

『しくじるなよ。』

「わかってるさ。」

 

ドアを開き、隣りの津島家へと向かった。

 

夕食を食べ終わり、修斗とヨハネはリビングでコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。ここまで、どのタイミングで言えばいいの関わらず、ただ時間だけが過ぎていき後4時間もすれば自分の誕生日も終わりを迎えようとしていた。しかしさすがの修斗もここまでくれば決心はついていた。後は最後の一歩が踏み出せないでいた。しかし今の逃すと、ファーストやシェリアスになんといわれるだろうと考えてしまうと、無理やりにでも口を動かそうとした。

 

「あ、あのさ、ヨハネ。」

「何?」

 

さっきまでテレビを見ていたヨハネの顔が自分に向いた。これから彼女に告白をしようと思うと妙に意識してしまう。ただでさえ可愛いのみ今は神々しくも見えてきしまって、言葉を失ってしまった。

 

「・・・・」

「何なのよ?」

「あ、その・・・・」

 

言わなきゃ言わなきゃ言わなきゃ、言わなくては。

 

「ヨハネ、す・・・・・す・・・・・」

「す?」

「す・・・・す、スイカの季節が近づいてきたね!」

「え?そ、そうね。でも私はスイカよりメロンの方が好きかしら。」

「そ、そうですか・・・・」

 

何やってんだ、僕は。またテレビの方を向いてしまったヨハネの姿を見ていると、頭にシェリアスの声が響いた。

 

『ヘタレが。変われ。』

 

この後意識が少し遠のきかけたかと思うと、自分の語感はそのままで自分の体の主導権を失ったような感覚になった。意識はシェリアスと繋がっているようで、大きなモニターに映ったさっきまで自分が見ていたヨハネの姿とリビングが映った。シェリアスの声はそのまま僕の声となりヨハネに話しかけた。

 

「ヨハネ、いいかい?」

「今度は何よ?」

「今日、僕の誕生日だろ?」

「そうね、それがどうしたのよ?」

「ちょっと、ワガママを聞いてもらってもいいかな?」

「いいわよ。天界魔界条例に誓ってあげる。」

「じゃあ、・・・君が欲しい。」

「えっ?!」

 

シェリアスの言葉に動揺しているヨハネは、顔が真っ赤になっていた。

 

「な、なな、何言ってるのよ?冗談もほどほどにしなさい。」

「冗談など言った覚えはないよ。僕はいたって本気だ。」

「つ、つまり、それって、告白なの?」

「ああ。」

 

ヨハネはさっきよりも顔が赤くなると、テーブルに伏せてしまった。しかしシェリアスはそんな様子のヨハネのことなどつゆ知らずに、告白の言葉をつづけた。

 

「君は僕をおかしくした。それは君が美しすぎるがゆえだ。もし君が僕の望む答えを返してくれないのならば、自らの首を剣で切るだろう。」

 

詩人だな、シェリアス。などと思いながら見ていると、シェリアスはさらに言葉をつづけた。

 

「君のその美しい瞳で見る世界を、これからは僕もともに見ていたい。君の隣で見ていたいんだ。」

 

そういったシェリアスはは真っすぐに自分の手を伸ばした。その手は机に顔を伏せているヨハネのすぐ前に突き出された。

 

「魔王の名のもとに、堕天使ヨハネと盟約を結びたい。」

 

その言葉にヨハネは俯いたまま目だけをあげて伸ばされた手を見ていた。その姿を見たシェリアスは薄く微笑むと最後の言葉を述べた。

 

「僕と付き合ってください。」

 

最後の言葉を言い終えたシェリアスを見つめるヨハネの顔は目だけでもわかるほど赤面していた。しかしヨハネはいつからか考えていたため、シェリアスの告白に対する答えはずっと前から決まっていた。その答えを述べるべく、ヨハネは自分の顔をあげてシェリアスの瞳を見つめると、必死に恥ずかしさで目をそらしたくなるのを我慢しながら、答えた。

 

「はい。」

 

そういったヨハネは自分の前に伸ばされたシェリアスの手を握った。白く、小さいヨハネの手は確かに強くシェリアスの手を握っていた。手を握ったヨハネの瞳は少し涙を浮かべていいるように見える。しかしヨハネは涙目になりながらも満面の笑みを浮かべていた。ヨハネの答えを聞いたシェリアスは不敵とも、優しいともとれる笑顔を浮かべた。

 

「フフフ、契約成立だね。」




今回から動画のタグに『恋愛』を付け足しました。
シェリーのヨハネへの告白を考えるのに、リアルで1時間ほど使ってしまいました。結果として、二人が恋愛展開で今後どうなるのかはあまり考えていませんが、次はクリスマスに投稿します。暇ですから!その時の回は記念すべき初デート回になります。初々しい!羨ましい!だけど嬉しい!そんな複雑な気持ちで執筆中です。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王と初デート

皆さんmerryXmas!聖夜をどうお過ごしでしょうか?僕は一人でケーキを作りました。
さてさて今回はクリスマス特別版のデート回となりました。最初に言っておきます、文字数は15000オーバーで結構長めになっています。手が痛い。お疲れ様、僕!

この輝かしい聖夜 シャンメリーを片手に歌い踊りましょう 私の声はどこまで届くのか  私は皆さんに幸福を届けるサンタになりたい 今日だけでいい 私の願いよ 届いて 
 Mrサンタ 届けてください 皆さんに幸福を 私に本棚を  


 昨日、人生の一大イベントを終えた。終えたといってもほとんどシェリアスに任せっきりだったのだが。その大イベントとは、告白だ。修斗、というよりもシェリアスはヨハネに告白し、OKを貰った。これで魔王シェリアスと堕天使ヨハネは盟約の儀を交わしたのだ。それによって修斗とヨハネは俗にいうカップルというものになった。そしてシェリアスは告白だけでは飽き足らず、明日、日曜日にデートをするという約束まで取り付けたのだ。シェリアスも自分だとはいえここまでできると、本当に自分なのかと疑ってしまう。シェリアスになぜ君にはできるのかと聞いたところ、『お前も本当はできるがやろうとしない。』という返事が頭に響いた。そして今日はヨハネとの初々しい初デート前日の朝。昨日は津島家から帰ってきて家の自分のベッドに入ると、嬉しさと恥ずかしさで布団にくるまれながら悶えていた。おかげですっかり寝不足となってしまった。まだデート前日になったばかりなのに、僕の体は持つのだろうか。と悩みながらも修斗は眠気覚ましにコーヒーを飲み干すと、制服に着替えて部活に向かった。今日は午前中だけ部活があるからだ。

 玄関を出て、家のドアに鍵をかけていると、隣りからヨハネが出てきた。玄関から出てきたヨハネの目元にはクマが出来ていた。ヨハネは眠そうな目に、小さなあくびを重ねて言った。

 

「ふぁあ、おはよう。」

「おはよう、眠そうだね。」

「あなただって、目の下にクマが出来てるじゃない。」

 

ヨハネに言い返されてしまった修斗は苦笑いを返した。

 

「なんだか眠れなくてね。ヨハネも同じ理由?」

「フッ、私はそこまで愚かではないわ。私は黒魔術の勉強をしていたの。」

 

誇らしげに語るヨハネだが、昨夜というよりも今日に日付が変わってから、たまにだが壁一枚挟んだ向こう側のヨハネの部屋からベッドの上で悶えているヨハネの声が聞こえた。どんなに他のことで頭がいっぱいになっていても、壁の向こう側で自分の彼女が自分のことを考えてベッドで悶えていると考えると、自分まで恥ずかしくなってきてしまう。そんな気持ちを僕一人だけが味わったとは言わせないぞ。

 

「あれ? おかしいな。昨日君の部屋からベッドの上で転がりまわる音が聞こえたけど。」

「えっ?!き、気のせいじゃないかしら?」

「そうなのか?たまに僕の名前も聞こえてきたような・・・あれ?ヨハネさん?もしかして・・・」

「・・・・うにゃーーー!!!」

 

ヨハネは顔を真っ赤にしながら照れ隠しにとびかかってくると、僕の背中をたたき出した。

 

「もーーー!!彼氏だったらもっと私を敬いなさいよ!」

「アハハ、ゴメンゴメン。」

 

付き合ったというのにもかかわらずいつもと何も変わらない日々を過ごす自分たちに少し疑問を持った修斗だったが学校に向かうべくヨハネとともに家を後にした。

 

~*~

 

家を後にして、いつものように学校に向かった僕たちは今、部活動をするべく弓道場にいた。そして今はウォーミングアップも終えて、弓を引いて矢を放っていた。4本すべて撃ち終わり、裏の待機室で弓の調整をしていると、隣りにファーストが座った。

 

「どうだった?」

「・・・うん。その・・・なんだ、OK貰った。」

「おお!よかったじゃん!だから悩む必要ないって言ったじゃん。おめでと。

「ありがと・・・・・」

 

ファーストの返事にどこか憂鬱そうな修斗を疑問に思ったのか、ファーストが不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「どうしたの?まだ何かあるの?」

「実は・・・・、明日、ヨハネとデートする。」

「うん。それで?」

「何をもっていけばいいのでしょうか?」

「はあ?」

 

ファーストは呆れたとでも言いたげな顔でため息をつくと、目を細めながら言った。

 

「ホントにシェリー?もしかして恋愛に関しては内手なの?」

「・・・・いままでしたことないので。」

「そりゃ、大体の人はないよ。でもシェリーはもっと自信もっていいと思うよ。何てったってイケメンなんだし。」

 

ファーストの言葉に大事なことを忘れていたことに気が付くと、勢いよくその場に立ってしまった。

 

「そうだった。僕は顔はいいんだった。そうだよ、僕はイケメンなんだからこの神から与えられた顔を駆使すればいいじゃないか。」

「なんだろ、その言い方腹立つ。」

 

横でぼそりと呟くファーストのことを無視して一人、頭の中で明日のデートプランを考えていった。そして大幅にだが思いついたプランをまとめると、中々いいものができた。

 

「ありがとな、ファースト。おかげでいいものを思いついた。」

「え?あ、うん・・・。」

 

自分が何かしたのかだろうかと悩んでいるファーストをほったらかしにして修斗はもう一度考え事にふけり始めた。

 

~*~

 

 部活を終え、帰宅した修斗はさっそく明日の準備に取り掛かった。準備と言っても最初は調べものばかりでネットを開いていた。明日行こうと思っている場所の公式サイトを開いて開園時間から、閉園時間、おすすめのスッポト、人気のスイーツ、注目のイベント、片っ端から調べつくした。こういう大事な時に限ってどういう訳か、僕たちが標準装備をしている呪いが発動してしまう。呪いとは、バスが事故で遅れたり、通日に強風や大雨で外に出られなくなったり、前日に体調を壊して当日に出かけれなくなったり、財布をどこかで落としたり、鍵を落として出かけた場所に取りに戻ったり、帰りの電車やバスが運行中止になったり、新品の衣類の上に鳥の糞が落ちたり、電車が事故で待ち合わせに遅れたり、もし買ったお土産が自分の目の前で売切れたり、と様々な種類がある。これ以外にもいままでたくさんの呪いにかかったがそれらすべてを話しているときりがない。それほどこの呪いは強力な物なのだ。魔王も堕天使も苦しめるのだから、よほど力が強いのだろう。いや、闇のものだから呪い強いのだろうか。などと考えだしたらきりがないので、呪いではどうしようもないという結論に至りそれ以上は考えないことにした。しかし明日は僕にとっても、多分ヨハネにとっても初めてのデートになる。だからこそ尚更、明日は呪いが起こってほしくないから、できる限り呪いが起こる可能性をつぶしている。行先については特に問題はなさそうだが、問題は天候とハプニングだ。ネットの天気予報サイトには沼津の明日の降水確率は10%と書かれていた。10%か、呪いが発動するには十分すぎる数字だな。これは高確率出降るぞ。傘を準備した方がよさそうだな。もう一つ呪いが発動する可能性があるとしたら、予想外のハプニングくらいだろう。これに至っては前日にはどんなことが起こるのか予想できないからどうすることもできない。しかしだからこそ用意するものは決められている。大目にお金をもって置き、簡単な医療品を持って、モバイルバッテリーを持ち、予備に地図をカバンに入れれば十分だろう。カバンはいつも使うものでいいだろう。カバンに荷物を詰めていると、飽きれたような声でシェリアスの声が響いた。

 

『まったく、心配性だな。』

 

シェリアスの声はなおも響いているが、修斗は気にせずそそくさとカバンに荷物を詰めている。

 

『そこまで心配する必要がどこにある?』

「今までに起こったことを考えたら次も起こると考えるのが普通だろ。」

『真面目だねえ。あんな呪いに打ち勝ってこその魔王だと思うがな。』

「知るか。そんなもの僕にはない。」

 

その答えの返答にシェリアスは少し困った様子を見せたが、しばらく考えてから回答した。

 

『だったら、僕が変わってやる。』

 

そう言ったシェリアスはいつぞやの時のように半ば強制的に修斗と入れ替わった。またあの不思議な感覚に包まれると、意識がシェリアスへと切り替わり、体の主導権を彼にゆだねた。

 

「まあ、見てなって。」

 

そう言ったシェリアスはせっかく修斗が入れた荷物をカバンから取り出し始めた。

 

『おい、なにやってる?』

「何って、必要なもの以外置いていくんだよ。」

 

シェリアスは次々に荷物をカバンから取り出すと、取り出した荷物を机の上に置いていった。その中には消毒液やモバイルバッテリー、地図も含まれていた。

 

『おい!そんなに抜いたら後々困ることになるぞ!』

「知るかよ、そんなこと。その場しのぎで何とかなるさ。」

『・・・君のその楽観差さはこから来ているんだ。』

「心配すんなって。大丈夫大丈夫。」

『君の大丈夫は何よりも心配なんだよ。』

 

この後、何とかシェリアスを説得させると、今度はさっきよりも少なめに最低限の用意をカバンに詰めなおした。シェリアスならばこんなものなくとも解決できるかもしれないが、念には念を入れておきたい。

 

~*~

 

 自分の用意を終えると一度意識を修斗に戻してから、夕食を作るために津島家に向かった。こういう時に鍵って呪いは牙をむく。呪いは体調に攻撃を始めて、免疫を下げて次の日には風邪をひいてしまうのだ。そこで前日にできる予防としては、栄養価の高いものを食べて、早く寝るだけだ。そこで今日は簡単に作った夕食が。

 

「うどん?」

「そう。何か問題がる?」

「別にないけど、どうしてうどんなの?」

「うどんはバカにならないぞ。食べやすいし、簡単に作れるし、栄養もある。女子力も上がるかもしれんぞ。」

「どこ情報よ。」

 

胡散臭いとでも言いたげな目で見てきたヨハネだったが、それ以上は何も聞いてこず、大人しくうどんを食べ始めた。これで明日僕たちが風邪をひく確率は少しでも減っただろう。

 二人とも夕食を食べ終え、うどんが入っていたお皿を洗い終え帰宅の準備をしていた。準備と言ってもカバンの中身を忘れていないかの確認だけだが今日持ってきたものと言えば夕食の食材くらいだったらかカバンの中はほとんど空っぽになっていた。今中に入っているのは、ケータイと財布などの貴重品くらいだろう。カバンを確認すると、中にはしっかりと貴重品が入っていた。これで確認できたし、そろそろ帰ろうかな。

 

「じゃあ、今日はそろそろ帰るよ。」

「そう、今日は速いのね。」

「まあ、明日は大事な日だし。」

「そ、そうね。」

 

ふとお互いに目が合ってしまい、二人とも顔が赤くなってそれ以上会話が続かなくなった。

 

「じゃ、じゃあまた明日。」

「ええ、また明日。」

 

~*~

 

 津島家を後にした修斗は家に戻ると、すぐさまお風呂に自室に向かった。明日の用意が入ったカバンの最終チェックをする。一度シェリアスによっていくつか取り出されてしまったから、物には少し不安があるがここまできたらなるようになるだろう。カバンのチャックを占めると、クローゼットを開けた。明日はどの服を着ていこうかとクローゼットの中を端から端まで見渡した結果、黒のズボンに白いYシャツに紺色とも黒色ともとれるパーカーを手にとった。この服は沼津に来る前から持っていた唯一のまともな服でここに来る前はあまり着なかったが、ここにきて遂に着る時が来たのだ。きっとこの服は明日という日のために買っていたのだろう。クローゼットの奥に封印され続けたこいつが日の光を浴びる時が来たのだ。ハンガーごとクローゼットから取り出すと、そっと部屋の壁にかけた。

 一方、修斗の部屋から壁一枚挟んだ反対側のヨハネの部屋では同じくお風呂上がりのヨハネが明日着る服を選んでいた。しかし彼女は修斗のように普通の服を選ぶはずはない。ヨハネがクローゼットを開けると、そこにはゴスロリが大半を占めていた。そのほかの服と言えば、制服と、ただの白い服くらいだった。この中から選ぶとなると、大体は黒い方を選ぶ。それは今回も同じで明日が初のデートであっても、初のデートであるからこそヨハネはゴスロリ衣装を選んだ。

 

二人はそれぞれ自分の服を選び終えると、それぞれ自分のベッドに入った。二人のベッドはお互い壁を挟んで隣り合っている形になっている。二人はそれぞれ相手が壁の反対側で寝ているであろうと考え、壁にそっと手を触れた。その手は壁のせいで見えないが、見事に二人の手は重なる形になっていた。この向こう側にいる相手は今何をしているのであろうか。そしてこの向こう側の人と明日、デートをする。これ以上考えると、寝付けなくなってしまいそうだったので、思考と止めて、壁に向かって今日最後の言葉を口にした。

 

「お休み、ヨハネ。」

「おやすみ、シェリアス。」

 

そのまま、深い眠りについた二人は、初デート前日に終わりを告げた。

 

~*~

 

 ケータイのアラームの音で目が覚めると、時刻は午前6時を指していた。ベッドから起き上がり、窓から外を見ると、空は雲一つないとはいいがたいが、太陽が顔を出していた。どうやら天候は持ちこたえたみたいだ。呪いによって邪魔されていない空は今日という日を祝福しているようだ。今日はこのまま、太陽が出ていてくれたらありがたいのだが、ここで油断したらそれこそ呪いの思うつぼになってしまう。大き目の折り畳み傘をカバンにはいいていることを再度確認すると、部屋を出た。洗面台に向かい顔を洗うと、洗面台の鏡にはいつもの輝かしい顔が映った。髪の毛から水が滴る姿も完璧だ。まさに水も滴る何とやらか。ドライヤーで髪を乾かし、前髪を整えると、キッチンに向かい、朝食を作り始めた。今日は8時にヨハネを迎えに行くことになっている。そして今は午前6時半。まだまだ時間に余裕がある。トーストと他の食事を作りながらリビングにあるテレビでニュース番組を見ていると、血液型占いが始まった。どうやらO型は今日はついていない日になるようで、要注意だそうだ。なぜこういう時に限って占いも低いのだろうか。まさか天の神が僕たちを邪魔しようとしているのか。などと考えていると、トーストが焼きあがった。オーブンからトーストを取り出し、先にテーブルにもっていくとバターを取りに冷蔵庫に向かった。冷蔵庫からバターを取り出し中身を見ると、空になっていた。仕方なく入れ物を捨てて、マーガリンと取り出した。中身を確認すると、今度はしっかりと中身が入っていた。冷蔵庫から取り出したマーガリンをテーブルにもっていくと、後数歩でキッチンを出るというところでつまずいた。

 

「うわっ!」

 

つまずいた表紙に手に持っていたマーガリンの入れ物は、宙を舞い最終的には僕の服の上に落ちてきた。まだ中身が完全に溶けていないとはいえ、少し溶けた部分から垂れたマーガリンが服に染みついていた。この時はまだ私服に着替えていなかったのでそこまでひどい被害は出なかった。立ち上がり、マーガリンを持ち上げると、中身が全て個体のまま滑り落ちた。そしてマーガリンの中身はこれも空っぽになった。ティッシュを持ってきて落ちた個体のマーガリンを拾うと、もう一度キッチンに戻り、今度は冷蔵庫からイチゴジャムを取り出した。またキッチンから出るときは足元を見ながら出た。結果今度はつまずくことなくテーブルに向かえた。もうすぐでテーブルに着くというとこに来た時、歩きながら小さなため息をつくとジャムの蓋を開けた。その刹那、足の裏が何かよく滑るものを踏んでしまい。背中から床にこけた。しかし床に着く直前に受け身をとったためそこまで大きな痛みはなかった。そこまではよかったが次の瞬間、頭に何かドロッとしたものが落ちてきた。そのスライムのような物体からはイチゴの香りが漂ってきている。まさかと思い床に転がっているジャム瓶を見ると、先ほどよりも確かに中身が減っていた。頭の上の物体に指を伸ばすと、その物体に振れた指には赤いイチゴジャムがべっとりとついていた。

 

「くそったれがぁぁ!!」

 

急いでシャワーを浴び、髪の毛に着いたジャムと一つ一つ細かく取った。最後にシャワーで一気に流したが、まだかすかにイチゴの香りが付いている。洗面台の鏡で見たら、髪の毛に赤い色はついてはいないから染みついてしまったものだろう。この香りについては妥協せざる負えないことになってしまった。

シャワーから上がり、再びリビングに向かうと、トーストはすっかり冷めてしまい、時計も7時45分になっていた。残された時間は15分となっていた。いそいで着替え、朝食を食べると、最後にカバンをもって津島家に向かった。

 家を出ると、隣りの家の前には既にヨハネが立っていた。

 

「ちょっと、遅いわよ!」

「ごめん。でも早くないか?さっき、時間見たら5分前だったはず・・・」

「べ、別に楽しみだから早く来てたとかじゃないんだからね!」

「あ、そう。」

「何よ、その反応。」

「いや、朝からいろんなことがあってね。」

「・・・そう、大変だったのね。」

 

ヨハネは何も言わずとも理解してくれたようで、それ以上は聞いてこなかった。

 

「君は大丈夫だった?」

「まあ、私も・・色々・・・」

「そうか・・・」

 

どうやらヨハネにも何かが起こったりしく、その目は疲れたと言っているようだった。よく見ると彼女の髪がはねていた跡があった。お互いに朝からしんどいことが起こったが、今日という日の時のが止まることはない。こうしている間にもどんどん今日は終わりに向かって進んでいる。こんなところでつまずいていたらデートどころではなくなってしまう。

 

「とりあえず、行く?」

「そうね、多分立ってるだけでも不運はかかるだろうし。」

「そんなマイナス思考になるなよ。」

「そうね・・・。で、今日はどこに行くの?」

「水族館なんてどうでしょうか?」

「いいわね、行きましょ。」

 

学校に向かう時のように一緒にエレベーターに向かった。この後はしばらく歩くことになる。今はできる限り体力は使わないようにしよう。

 

「そういえば、何だかイチゴのにおいがするような。」

「き、気のせいじゃないかな。」

 

~*~

 

家から最寄りの駅まで歩き、そこから電車に乗ること数十分。目的の場所に着いた。水族館は休日ということもあり家族連れが多く、他のカップルらしき人たちもたくさんいた。その人の数に圧倒されていると横にいるヨハネが心配そうに顔のぞき込んできた。

 

「どうしたのよ、立ち尽くして。」

「いや、実は水族館って始めてきた。」

「ええっ?!人生ぜ一度もないの?」

「うん、お恥ずかしいことに・・・」

 

今まで水族館なんて行ったことがないというよりも、家族でどこかに行くなんてことがそんなになかったのだ。そもそも家族といっしょにいること自体が少なかったのだから。父と母と一緒に行ったところなんて小さいころに遺跡調査に一緒に行ったくらいだ。そういえば、家族とじゃなくて親戚の人とその友達に連れられて動物園に行ったことがあったな。あれは何歳のことだったか。などと考えていると、ヨハネが発案してきた。

 

「じゃあ、今日は私が案内してあげる。ここには何度も来たことあるし。」

「悪いな、僕が先導しようとしたのに。」

「いいのよ。さあ、入り口に向かいましょ。」

 

そう言って人の流れが集中している正面入り口に歩いていくヨハネの後姿を見ながら修斗はぼそりと呟いた。

 

「・・・ゴスロリ少女に案内される少年、か。」

「何ぼさっとしてるのよ。さっさと行くわよ!」

「・・・ああ!」

 

ヨハネの後に続き、僕も正面入り口に足を運んだ。

 

チケットを購入し、中に入ると最初に目に入ってきたのは大きな水槽だった。その水槽の中にはたくさんの魚たちが悠々と泳いでいて、自分たちが海の中にいるように錯覚させた。この水槽には主に日本の海域に生息している魚が入っており、捌こうと思えば捌ける魚が泳いでいる。

 

「どう?大きいでしょ。」

 

横からヨハネが自慢げに言った。

 

「確かに大きいな。」

「でしょ?ここは最初にこの水槽で圧倒してくるのよ。でもこれで驚いていてはまだまだよ。さあ、次に行くわよ。」

 

そのまま人込みに紛れ込もうとしたヨハネの姿を見ると、段々意識が遠くなった。この感覚は今まで何度も経験している。シェリアスが出てこようとしている。今回のデートはシェリアスのお陰で成り立ったようなものだし、彼も自分だから問題はないだろう。そう思って主導権をシェリアスに戻ると、感覚が戻ってきた。しかしさっきまでとは違うものを感じた。するとシェリアスは薄く笑いながら言った。

 

「サンキュ。」

 

短く言葉を終えたシェリアスは人込みに進んでいくヨハネの右腕をつかんだ。何事かと振り返ったヨハネは自分の腕をつかんでいるシェリアスの顔を見ると自分の顔が赤く染まった。

 

「なっ、何してるのよ?!」

「今日は休日だから人が多い。もしかしたら離れてしまうかもしれないから、こうしてよう。」

 

そういってシェリアスはヨハネの右手を握った。そして右手を握られたヨハネの顔は益々赤くなった。しかし嫌がる様子はなく、ただこの群衆の中、手をつなぐという行為が恥ずかしいようだ。ゴスロリはよくてこれがダメってどういう基準なのだろう。そんなヨハネの様子など気にせずにシェリアスはさらに言葉を付け足した。

 

「それに、君を誰にも渡したくないから僕のものだってマーキングしとかないとね、なんて。」

「・・・・もう!行くわよ!」

 

ヨハネは手を握ったまま後ろを振り向かずに次の場所へと向かった。それに引っ張られるように後を追っていった。しかし、二人の手はしっかりと繋がれたままだった。おかげで先先行ってしまうヨハネともはぐれずに済んだ。

 

~*~

 

大水槽を後にしたシェリアスたちは様々な魚を見て回った。フグ、クマノミ、アナゴ、ハゼ、エイ、タイ、カワハギ、タコ、等々、他にも色々な魚がいた。そんな魚たちを見てふと、こいつら全部料理したら一体何人分の魚料理ができるのだろうと考えたが口には出さなかった。そして次にクラゲコーナーというところに入った。ここは名前の通りクラゲ専門の水槽がたくさん集まっていた。小さくふよふよと泳ぐクラゲや赤く光るクラゲ、毒を持つクラゲ、中華料理に使われるクラゲなど、色とりどりだった。その中でムラサキクラゲという種類を見ていると、隣りではヨハネがぼっーとクラゲたちを見ていた。

 

「いつ見ても飽きないわね。」

「そう?」

 

ヨハネの目線の先のクラゲを同じように見て見るが、特に何も感じない。

 

「このクラゲたち、まるで、空を漂う星みたいじゃない?」

「そういわれれば見えなくもないような気がするな。」

 

すると、水槽に取り付けられたライトが白色から青色に変わった。それと同時にクラゲたちの色も変わった。

 

「光によって変わるその姿、凍える世界に舞う氷雪が鏡のごとく紅蓮の輝きを白光に変化させたようだわ。」

「いや、何かと言うと、冥界を漂い続ける亡き人間たちの魂の光にも見えるけど。」

「その解釈の仕方、中々いいわね。」

「君の表現も幻想的でいいと思うよ。」

 

二人がお互いを表現方法を褒め合うと、目が合って同時に笑ってしまった。似た思考を持つ人がいるといろんなことが楽しいく感じる。この後も他のクラゲをお互いに中二表現はどんなものがいいかと語り合った。しかし結局、どれがいいかなんてものなく、まとめると、『クラゲは現世と冥界を行き来できる生物で、その輝きは船乗りたちを困惑させ、海に沈没させるという恐ろしい邪神の使徒』ということになった。ではなぜ、そんなクラゲを人間風情が飼いならし、喰らうのかという問題も出たが、そのことには触れないようにするという約束ができた。

 

~*~

 

 クラゲコーナーを後にしたシェリアスたちは別館にある深海館というところに来ていた。ここには深海の生物が暮らしており、全体的に照明も暗く、さっきまでも本館にいた魚たちとは違い独特の進化を遂げた深海の生き物が水槽に入っていた。試しに水槽に触れてみると、水温が低いためかひんやりとしていた。その為か水槽の横には小さなタオルが置かれていた。水槽に水蒸気が付着して見づらかったらこれを使えということなのだろう。シェリアスの後に入って中に入ったヨハネは最初の水槽の前に来る少し前で立ち止まり、片目を手で覆った。

 

「クックック、絶対零度の闇を司る魔獣たちよ、堕天使ヨハネの名のもとにその姿を現世に表すがいい。」

「ヨハネ、後ろから人来るぞ。」

「うそっ?!」

 

驚いて後ろを振り浮いたヨハネだが、彼女の後ろには誰もいなかった。

 

「アハハ、冗談だよ。」

「もー!!堕天使ヨハネをだますとは、自分がどれほどの重罪を犯したか思い知った方がいいようね。」

「なんだ、やるのか。この僕に牙をむくか。フッ、愚かだな。」

 

などと言い合っていると本当にヨハネの後ろから他の客が入ってきてしまい。二人して恥ずかしい目にあった。他の客が少しずつ入ってきたので、しばらくは大人しくし深海生物を見ていた。魔王と堕天使の戦闘は第三者である人間によって沈められた。そのなかで二人が大人しくしていたら、ヨハネの目にまたもクラゲが入ってきた。

 

「シェリアス、見てこの子。」

「どれ? シンカイウリクラゲ?」

「そう。きれいじゃない。虹色に光って。」

「確かにそうだね。」

 

このクラゲの水槽の下の置かれた説明文には自らで発光しているのではなく、繊毛が光に当たって光っているように見えると書いてあった。光が当たって光っているように見えるか。

 

「なんだか地球みたいだな。」

「えっ?地球?」

「ああ、自分自身が輝いてるわけじゃないけど、きれいに輝いて見える。それに周り暗くて宇宙みたいだし。」

「フフッ、変わった解釈ね。でも好きよそういうの。」

 

シンカイウリクラゲの水槽を後にすると、メンダコやダーリアイソギンチャク、ナツシマチョウゲンゲ、チヒロダコ、キホウボウ、ヒラアシクモガ二、センジュエビなど多種多様な深海生物を見て回った。その後にはホテイウオやエビスダイなど、食べられる魚が入っている水槽があった。何となくその二匹を見ていると、隣りから同じ水槽を見ていたヨハネから『ハンターの目』などと言われてしまった。そしてそんな深海館の最後には王道ともいえるクリオネことハダカカメガイが大量に入った水槽があった。この水槽は他のものとは違い立方体ではなく円柱型をしていた。その中にできた流れに流されるようにクリオネが泳いでいた。その姿はまさに天使のようで、そんな流され続ける天使を見て、うっとりとした堕天使の横顔に吸い込まれそうになる魔王であった。ここまで連鎖反応が起こるとは恐るべしクリオネ。

 

~*~

 深海間を途中で出ると、次にサメ館というところにやってきた。ここはヨハネのオススメらしく、この水族館一の見どころらしい。ネットにはさっきの深海館のほうが目玉らしく、続きにはもっと珍しい深海生物がいるらしい。なんでも生きたオウムガイがいるとか。しかしこのサメ館というところもヨハネが言う通り、なかなかの人気らしい。今は一回目のイルカショーをやっている時間のため人は少なかった。だからこそ今の時間に来たのかもしれない。サメ館には世界中のサメが集められており、入ってすぐの入り口には人食いざめのミイラまで置かれていた。ヨハネはミイラザメに一礼をした。なぜ?

 

「ほら、シェリアスもしなさいよ。」

「えっ、なんで?」

「何でって、相手は海の王様よ、海皇よ。」

「は、はあ・・・」

 

よく理解はできなかったが、とりあえず一礼をした。ヨハネは宗教に入っていたのだろうか。ヨハネはそのまま中に入ると、次々に水槽を見て回った。今までのどの水槽よりも目が生き生きしている。

 

「サメ、好きなの?」

「ええ、カッコいいじゃない。」

 

サメがカッコいいか、あまり考えたことなったな。サメなんてフカヒレくらいのイメージしかなったな。後は人食いの映画。それくらいのイメージしかないシェリアスに変わりヨハネはサメについて様こと様々なことを語っている。

 

「それでね、こっちのサメはヒョウザメって言って、身体中が動物のヒョウみたいにしろと黒色で、黒い点々がいくつもあって、細長いところが特徴で、それからこっちは・・・」

 

自分が好きなことに関しては楽しそうに話し出すな。できるだけ聞いておこうと努力はしたが内容が頭に入ってこず、聞いているふりをして受け流していた。ただ、彼女の顔を見ていると、これからは料理にフカヒレ使わないようにしようと思った。

 

「・・・という訳でね、サメには鮫肌が付いているらしいの、聞いてた?」

「もちろんだ!」

「・・・ほんとに?」

 

疑い目で見られたが、何とかごまかせたようで、ヨハネは再び水槽に目をやった。

 

「そういえば、この水族館にヨハネのお気に入りのサメはいるの?」

「ええ、ここじゃないけど。ネコザメっていうサメがいるの。あとで紹介してあげるわ。」

 

ネコザメか、それなら聞いたことがあるな。たしか日本の近海にいる奴だったよな。あと、和歌山の方で食べられている奴だ。これを言ったらヨハネにぶたれそうだな。などと考えながらもヨハネはそのお気に入りのネコザメについて話している。

 

「その子と初めて会ったのは小学校くらいだったわ。小さい私がその子の入った水槽を見ていたら、あの子も私を見つめ返してくれたの。それでね私が移動したら私についてくるみたいに泳いですっごく可愛いの。あれ以来私はあのネコザメをシュレーディンガーと呼んでいるわ。」

 

シュレーディンガーって、シュレーディンガーの猫のやつですか。そんな名前が付くと会ってみるまで生きているかわからないみたいな意味になってしまうのでは、いつ死ぬのかわからいのでは。という考えが頭によぎったがこれはヨハネに悪いと思いすぐに頭から消した。

 

「そっか、会ってみたいなそいつに。」

「楽しみにしていなさい。きっとあなたもとりこになるわよ。」

 

~*~

サメ館を出ると、時刻は丁度12時になっていた。

 

「そろそろお昼ね。売店に行く?」

「そうしようか。」

 

お昼ごろの売店は当たり前だが混雑していた。家族連れは先にテーブルを確保していて、座れそうにない。するとヨハネからある提案が出た。

 

「ねえ、シェリアス。お昼はここで買って、少し歩いたところで食べない?そうしたらシュレーディンガーの水槽にも近くなるし。」

「ああ、いいよ。」

 

ヨハネの提案通りにするため、売店で買い食べ歩きをするため二人はタコ焼きとタイ焼きを注文した。注文した品ができるまで、レジから少し離れたところで待っていると、ふとヨハネが口を開いた。

 

「サメって、どうしてライオンに負けるのかしら。」

 

ヨハネの目線の先にはライオンが描かれた服を着た小さな子供が母親とともに歩いていた。そのことから何かを思い出したのか、それとも思いついたのかはわからないがヨハネは遠い目をしていた。

 

「サメとライオン?」

「ええ、どうしてライオンの方が人気があるのかなって考えちゃって。」

「・・・どうしてだろうね。」

「ライオンって鬣があって、百獣の王って呼ばれて、主人公みたいなイメージがあるのに、どうしてサメにはないのかしら。どっちもやってることは同じなのに。」

「確かにどっちも他の生き物の肉を食べて生きてるな。」

「でしょ、ならどうしてサメは悪者みたいになってるのかしら。」

 

ヨハネはどうしてここまでサメが好きなのかは置いておいてどうやら本気で悩んでいるようだ。ここは真面目に回答した方がよさそうだな。

 

「・・・確か何かのサイトで見たんだけど、年間で人を襲う例が高いのはサメよりもライオンなんだよね。あ、ちなみに一位は果蚊だった。多分このことから人間を襲うかどうかが関係ないとしたら、後は手なずけられたかどうかとかじゃないかな。ライオンだったらさ、サーカスとかで人間の命令で火の輪をくぐったりするけど、サメは今までそういう例ないし、多分そういうのじゃないかな。」

「ふーん・・・」

「この答えでは満足できない様で?」

「当然よ、それにしたって私はライオンよりもサメの方が好きなんだから。」

「だったら別にいいじゃないか。君みたいにサメの方が好きと言ってくれる人がいる限りはあいつらも生きている意味があるんだから。」

「そういうものかしら・・・」

 

その時レジにシェリアスたちが注文した品ができたみたいで、持っていた番号札に書かれた数字が呼ばれた。ヨハネはレジから二人分の品が入ったレジ袋を受け取ると、財布を取り出そうとしたが、先にシェリアスが二人分の代金を払った。

 

「ちょっと、おごってもらう覚えはないわよ。」

「いいだろ。今日ぐらい彼氏面させろ。」

「もうっ・・・」

 

そういったヨハネだが後で袋の中からシェリアスの分を取り出し、渡すときに今日一番の笑顔で感謝の言葉と告げた。

 

「ありがとね。」

 

~*~

 

シェリアスたちはシュレーディンガーという名前のネコザメの入った水槽に向かいながら、タコ焼きを食べていた。するとシェリアスは言った。

 

「なんだか、変な気分だな。」

「何がよ?」

「ここには魚たちを見に来てるのに、その仲間のタコを食べてることが不思議だな、と。」

「確かに、そう考えるとここで食べることに罪悪感が生まれてくるわね。」

 

シェリアスはタコ焼きからはみ出したたこ足を爪楊枝でつつきながらさらに言った。

 

「浦島太郎のこんな気持ちだったのかな。」

「浦島太郎?」

「ああ、竜宮城での宴会は魚料理が出たんだろうから周りに魚がうようよいる中食べるのは気まずいだろうな。」

「・・・そう考えると、なんだかかわいそうね。」

「ああ、それに帰ったらおじいさんになってしまうしな。」

「じゃあ、もしかしたらあなたもおじいさんになるかもね。」

 

ヨハネが笑いながら冗談を言った。そしてそれ言答えるようにシェリアスも口を開いた。

 

「玉手箱を開けなきゃいいんだろ、乙姫様。」

 

自分が言った一言とさっきまでの話が絡み合い、シェリアスの頭に一つの神話を思い出した。

 

「そうだ。面白い話があった。」

「何よ、いきなり。」

「古事記に乗ってる、浦島太郎のもとになった話なんだけど、浦島太郎のモデルのなった人と、乙姫様のモデルになった人がお互いに一目ぼれをしました。しかし、浦島役は帰ってしまいました。なぜでしょう?」

「・・・どうして?」

「乙姫様のモデルの人の正体がサメだったかららしいよ。」

「へー。そんな話があるのね。」

 

シェリアスが珍しくまともな話をしたみたいな顔で見てきたが、この話をしたシェリアスもどこか自慢げだった。

 

「どうしてそんなこと知ってるのよ。」

「両親が置いていった本の中に古事記の本があって、それに乗ってあった。」

「へー、よっぽど暇なのね。」

「両親と一緒に出掛けるなんてこと早々なかったからさよく家で本を読んでたんだ。そうしたら覚えた。」

「そうだったの・・・」

「だからさ、今日みたいに出かける日はすっごく楽しいんだ。一緒に来てくれてありがとな。」

「べ、別に彼女だからこれくらい当り前よ!」

「そっかじゃあ、またどこかに一緒に行きたいな、なんて。」

「フン、付き合ってあげなくもないわよ。」

 

そういうヨハネもどこか嬉しそうに見えた。するとヨハネは手に持っていた荷物を反対側に持ち帰ると、上目遣いで聞いてきた。

 

「ねえ、もう一回、手、つながない?」

「ああ、いいよ。」

 

再び手をつないだ二人の肩の間隔はさっきよりも狭まっていて、足取りもさっきまでとは比べ物にならないほど楽しそうに浮かれていた。

 

~*~

 

再び本館に入ると、二人は水槽が置かれている場所の最上階である4階に向かった。ここにはふれあいコナーも置いてあり、小さな子供たちがナマコやヒトデを触っていた。そのタッチスペースから反対側には図書室が置かれてあり、魚に関するあらゆる本やこの水族館での研究資料などが置かれていた。その図書室とタッチスペースの間にはいくつか水槽が置いてあった。きっとここのどれかにネコザメが入っているのだろう。そう思って全ての水槽を見たがどこにもネコザメの姿はなかった。代わりにからの水槽が一つあった。ヨハネは祖のからの水槽の前で立ち尽くしている。そのとき丁度後ろを飼育委員の人が通りかかった。水槽を見たままのヨハネの代わりにシェリアスが訪ねた。

 

「あの、ここの水槽にいたはずのネコザメはどうなったんですか。」

「・・・そこのネコザメは病気で亡くなりました。」

「?!」

 

後ろで立っていたヨハネが驚きで顔を上げた。

 

「そ、それいつの話ですか?」

「えーと、1か月ほど前だと思います。」

「そ、そんな・・・・」

「申し訳ございません。しかしここの特別水槽はもともと病気やケガをした魚を入れておく水槽でして、どこよりも一番なくなる可能性が高い魚たちなんです。」

 

そういった、飼育委員は一礼して自分の職務に戻っていった。そして残されたのは立ち尽くす二人。ヨハネはさっきまであんなにも楽しそうだったのに今では自分の周りから黒いオーラを放っている。後で聞いた話だが、ヨハネはことある音にこの水族館に行きたがり、来るたびにこの水槽に来ていたらしい。そしてシュレーディンガーと名付けられたネコザメは公式に異名がシュレーディンガーとされていて、生まれた頃から思い病にかかっていて、ここまで長生きしたことも珍しいらしい。つまり、真の意味でこの水槽で確認するまで生きているかわからなかったようだ。そしてヨハネはそのことを知らなかったのだろう。ただこのネコザメを見ることが楽しかっただけでのようだ。シェリアスもそんなヨハネにどうしたらいいのかわからず、言葉に悩んでいた。

 

「ヨハネ・・・帰ろうか。」

 

色々悩んだ末に出てきた言葉はこれだった。自分には生き物の生死に関するものはどうすることもできない。今はこれ以上心が痛まないように家に帰りそっとしておくことが一番いいだろう。

 

「・・・そうね。」

 

ヨハネもシェリアスの提案を受け入れた。二人は朝とは全く違う気分で水族館を後にした。

 

~*~

 

 帰りの電車の駅で降りると、沼津には雨が降っていた。さらに雨だけでは飽き足らず強風まで吹いていた。駅からでて、持ってきていた折り畳み傘を開こうとすると、いきなりの強風で片方の傘のが折れてしまった。この雨は僕たちのために泣いているのか、それともの僕たちをあざ笑っているのか、どちらにせよここにきて本領を発揮してきた呪いに人生で一番腹が立っていた。ヨハネはと言うと、もうすべてがどうでもいいというかのように目が死んでいた。

マンションに着いた頃には二人とも全身雨に打たれてビショビショになっていた。マンションのエレベーターに入ると、ヨハネの目に少し光が戻ったように見えた。しかしその光は弱弱しく、今までもものとは比べ物にならないほどのものだった。それでもヨハネは自分の服のポケットから家の鍵を取り出した。

自分たちの家の前に来るとヨハネは無言で家の鍵を開けた。今日はこのままそっとしておいた方がいいだろうと思い自分も帰ろうとした瞬間、ヨハネに服をつかまれて津島家に入ってしまった。しかし目の前のヨハネは終始無言のままで、動く様子は見当たらない。すると次の瞬間ヨハネは重心を前に傾けてシェリアスに倒れてきた。最初は雨に打たれて風邪でも引いたのかと考えたが、その考えはすぐに否定された。ヨハネはもたれかかったままポツポツと雫が垂れだした。この雫は雨のものではない。彼女の目から出ている。つまり涙だ。

 

「ヨハネ?」

 

シェリアスの問いかけに少し間があったが、詰まりそうになる声を必死にこらえながら答えが返ってきた。

 

「おねがい・・・しばらく、このままでいさせて。」

 

本当は雨でぬれたままこんなところにいたら風邪をひいてしまうと言いたかったが、さすがに今のヨハネに言えるような言葉ではないので、口には出さず、せめてもの対処法としてお互いの体温で暖を取ろうとという意味と、ただ単に悲しんでいる彼女を慰めようとして、ヨハネの体に手を回し自分に引き寄せた。彼女の着ているゴスロリ服は予想以上に雨に濡れていて、冷え切っていた。しかし今の彼女にはそんな言葉届かないだろう。ヨハネは俯いたまま静かに涙を流していた。シェリアスはそんなヨハネに何と言葉をかければいいのか少し迷ったが、一つの言葉を見つけ出した。

 

「大丈夫、僕は君から離れたりしない。君とともにいる。ここに誓うよ。」

 

それはシェリアスと修斗の心の底から出た言葉だった。

 

~*~

 

やっとヨハネも落ち着いたらしく、顔を上げてくれた。しかしまだ二人の体はくっついたままで津島家の玄関にいる。

 

「ごめんなさい、シェリアス。楽しくなかったでしょ?」

 

ヨハネは申し訳なさそうな顔で言ってきた。

 

「そんなことないよ。とても楽しかった。」

「ほんと?」

「ああ、それにあそこは近いからまたいつでも行けばいいじゃないか。」

「そうね、その時はもっと、色々しましょ。」

「そうだね。思い返せばイルカショーもまだ見てないし。」

「フフッ、今度はちゃんと見ましょ。」

「ああまた今度。・・・だけど今はお風呂に入ってきなよ。体が冷えてる。」

「そうさせてもらうわ。」

 

そういうと二人は離れた、そしてシェリアスがヨハネも落ち着いたようだし帰ろうと思いドアノブに手をかけた。しかしそこでもう一度服をヨハネにつかまれた。

 

「おねがい、もう少し一緒にいましょ?」

 

そういうヨハネの目にはまだ涙が浮かんでいるようで完全にシュレーディンガーのことで立ち直っていないようだ。シェリアスも修斗もヨハネが泣いている姿は見たくないという意見は一致したので首を縦に振った。

 

「ああ、君の心がすむまでいっしょにいるよ。」

 




今回二人が行った水族館は空想のもので、色んなところと、自分の記憶と、兄の部屋に置いてある魚図鑑を参考にしました。実際には水族館ってあんまり行ったことないんですよね。人込み嫌いだし、外出たくない。ああ、誰か私を外の世界に連れ出してくれないかしら、なんて、お姫様はやめておきましょう。クリスマスが過ぎればもうすぐ新年。さて今年はいくらお年玉がもらえるかな? えっ、来年から高校生だからお年玉はいらないだろ・・・?

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王とJunebride

 本作品が2017年IMZ作の最後の作品となります。今年から始まった本作品ですが沢山の方々に読んでいただき、評価していただき、コメントをいただき、本当に感謝しています。来年には高校生になる僕ですが、これからも皆様が読んでもっと面白いと思える作品が書けるようになりたいです。皆さんよいお年を


今日は6月30日。二日前にヨハネと二人でデートをしたものの最後は雨に打たれてさんざんな結果となった。しかし呪いの魔の手はそれだけでは飽き足らず、その次の日とそのまた次の日に風邪を運んできやがった。どうやら風邪にかかったのは僕だけではなくヨハネもにも影響があったようだ。平日の正午にメールが届いたのできっと学校を休んでいるのだろう。まあ、僕が学校を休むという連絡を学校にしてるれた際に『あなたもなのね・・・』といっていたのでヨハネも風邪をひいていることは確実だろう。風邪を引いた原因には心当たりがある。日頃から体調管理はしっかりとしているからただ雨に打たれただけではあまり風は引かない。となると、原因は雨水でびっしょびしょの状態で玄関で抱き合っていたからだろう。お互いに全身が雨水まみれにもかかわらず衣服も髪も靴も群れていることを忘れて30分ほど暖を取っていたからだろう。しかし僕たちが至近距離で密着していた時間は無価値で無意味な非健康的なじかんだったとしても、一生忘れることのない時間になっただろう。二人とも体温が下がっていたためより相手の温度が感じやすかった。そんな寒くも温かい状況で風邪を引くくらい本望だ。そして風邪を引いて既に三日が経つと二人とも容体は回復し今では元気にゲームにログインしている。なんでも6月限定のクエストがまだいくつかクリアできていないらしく、今日中にできるものはクリアしたいというヨハネ様の素晴らしいお考えにまだ頭痛がするにもかかわらず付き合わされる僕、同情するよ。と言いつつもこんな風に彼女に振り回されることが嫌いという訳ではない。だけどゲームするくらいなら学校行こうよ。そんな修斗の意見など無視しつつダンジョンに出発するヨハネであった。そして今回のダンジョンは湿り気の多い沼地のステージになっていて常に天候は雨が降っている。敵モンスターもジメジメした湿り気の多い敵が多く、個人的には生理的に受け付けたくないモンスターが多いがそこは許容範囲にしておいてヨハネの援護のもとモンスターを次々に切り倒した。離れている場所から援護魔法しか放ってこないヨハネが声を上げた。

 

「シェリアス、後ろから3体近づいてくるわよ!」

 

ヨハネの声が聞こえた方向から反対側から大きく形が定まらない紫色のスライムが3体とびかかってきていた。しかしヨハネの声があったので瞬時に反応できた。切り裂いた時の感触が魚の内臓を開いた時のように気持ち悪く感じて、自分の剣が汚れてしまいそうなることが気に食わなかったがさらに次のモンスターの体力をゼロにしていった。

 そしてすべてのモンスターを倒し終わると、やっとヨハネがダンジョンじゅうにばらまかれたぬるぬるした粘液を避けながら遠くからシェリアスに近づいてきた。

 

「おつかれさまー。」

「・・・あのな、頭痛持ちに全線で戦わせて君は何がしたいんだ。」

「えー、だってスライムのぬるぬるって苦手なんだもん。」

「・・・僕も苦手だよ。こいつら着る時の感覚がどれだけ気持ち悪かったか、思い返したくもないよ。」

「じゃあ、さっさと忘れなさい。」

「・・・てかなんで子のクエストに来たのさ。」

「だって報酬が凄いのよ。『堕天使』って称号にもつながるし。」

「じゃあ君も全線で戦えよ!」

「いやよ!それとも何、あなたは可愛い彼女がスライムにヌルヌルにされるところが見たいわけ?!まさかあなたがそんな変態気質を持っていたとは思わなかったわ。」

「なんでスライムにヌルヌルにされること前提なんだよ!」

「何が起こるかはわからないじゃない!これ以上何か文句があっても受け付けないわよ!帰りましょ。」

 

もう駄目だ。これ以上ヨハネに何か言っても無駄だと悟ったシェリアスは静かに剣に着いた粘液を振り払い鞘に収めた。身体中に着いた粘液を払いながらヨハネの後ろについていった。

 

~*~

 

ダンジョンから帰ってきた二人は一度町に戻った。町ではクエストの受付や発行の機能が備わっていてさまざまなプレイヤーが集まっているが、町は他にも多数存在していて今二人がいる町はそんなに大きい町ではないが、最低限の性能しか備わっていない。プレイヤーが通うところといえば、ギルド、ショップ、宿屋後は鍛冶屋くらいだろう。そんな町の一角の小さなカフェで休息をとっていた。リアルでもゲーム内でも精神的にも身体的にも疲労してきたシェリアスはため息をつきながらコーヒーを飲んだ。その疲れ切った様子の目の前ではヨハネがウィンドを開き残りの限定クエストの一覧を開いていた。

 

「うーん、残りは難しそうなクエストが多いわね。」

「・・・まだやる気なのか。」

「当然でしょ。このまま終わるなんて私が許さないわ。」

「それに付き合わされる僕の立場って・・・」

 

一覧表をどんどんスクロールしていたヨハネの指が急に動きが止んだ。

 

「どうした?」

「・・・こ、これ。」

 

ヨハネが開いたクエストの内容はいままでのダンジョンに向かうものではなく、よくあるフレンドを作るに近い内容のものだった。

 

「『ジューンブライドキャンペーン クリア条件は異性同士のアバターが婚約をして結婚式を執り行う クリア報酬は1000万ゴールドに神々の指輪、星々の指輪、特別衣装、特別称号』・・・・えっ?」

「・・・・」

「もしかして僕らでやるの・・・」 

「・・・」

 

ヨハネは俯いたまま顔を上げようとしない。このままだと話が進まない。ヨハネが開かれたままだったウィンドを

静かに閉じると、真っ赤に燃えるような顔を前に向けた。

 

「・・・・よ。」

「えっ?」

「・・・やるわよ。」

「・・・何を?」

「・・・け、・・・結婚・・・」

 

そこまで言ったヨハネは力尽きたと言わんばかりに再び下に顔を向けた。そんな彼女の目の前では放たれた言葉にどう反応したらいいのかと戸惑い続けて救援を求めている少年が。小さな町の一角にある小さなカフェ。そこで行われた、求婚とも受け取れるその言葉、修斗はどのように受け取ればいいのか迷っていた。素直にOKと言えばいいのか、もう少し考えてからの方がいいのか、それ以前に自分たちは未成年だ。結婚はできないはず・・・あっ、ゲーム内だった。そんなゲーム内で結婚ってどこぞの黒の剣士様と閃光さんかよ、と突っ込みを入れたかったが、今目の前の彼女の顔は、目は、冗談など言っているようには見えなかった。これは本気の時の顔だ、彼女は本気で語っていたんだ。だったら自分はどうしたらいい。本気にはどう答えたらいい。そんなの決まっているだろ、本気には本気で答える。それは先生にも教えてもらったことでも、師匠に教えてもらったことでもない。自分自身の信念だ。たとえゲームの中とはいえその信念を曲げるのか。いや、そうはいかない。本気には本気で答えなくてはいけない。

 

「・・・僕でよければ。」

「・・ほんと?」

「ああ、本気だ。君に僕の命を捧げよう。」

「・・・いいの?」

「君から言い出したんだろ。それとも僕じゃ不満かい?」

「フッ、そんなわけないじゃない。あなたはこのヨハネ様が認めた唯一の対の存在よ。不満なんて出てこないわ。」

 

 

二人とも目を合わせると、目をそらしたくなるほど恥ずかしかったが、ここではさすがに目はそらせない。それは礼儀などではなく、お互いが心の底から認め合ったという証なのだから。しかし二人ともこの後はどうしたらいいのかわからなくなってしまい、そわそわとした空気がしばらく続いた。その空気を先に壊したのはシェリアスだった。シェリアスはその場に立ち上がると、いつドヤの告白の時のように真っすぐに手を差し出した。その伸ばされた手の先には前と同じようにヨハネがいる。しかし今度のヨハネはただただ照れているだけではなく、シェリアスを真っすぐに一点の曇りのない目で見つめ返すと、しっかりと彼の手を握った。ヨハネが前に差し出した手はシェリアスとは反対の手で、鏡のようにはならなかった。したがって、二人の繋がれた手は恋人繋ぎのようなつながり方ではなく、自然と力強い握手になっていた。二人はお互いに視線をつながれた手に落とすと、同時に同じ言葉を口にした。

 

「契約成立だな。」

「契約成立ね。」

 

偶然か必然か、はもってしまったお互いのことがに驚きを隠せなかった二人だが、次第に笑いが込みだしてきて最後には二人とも腹の底から笑っていた。息をするのも苦しくなるくらい笑ったが、同時にこんなことも考えていた。ここまで自分と意思疎通ができるのかこの人くらいだろうと。

 一通り笑い合って、落ち着いた二人は息を整えると、残っていたドリンクを飲み干した。さきにコーヒーを飲め終えたシェリアスは装備を整えると再び立ち上がった。彼の後ろにはちょうど太陽が浮かんでいて、逆光で彼の姿は黒く見えるが、体の周りからは神々しいようなオーラを放っているように見えた。そんな彼は彼の後ろに輝いている太陽のような笑顔で笑った。

 

「さて、そうと決まったら教会がある町に向かうか。行くぞ、my dear wife。」

 

そういうとシェリアスは私に背を向けて歩き出した。彼は先の光を見通しているような気がした。何となくだが、彼ならば私を光に導いてくれるような気がする。ヨハネは祖う感じたが、自分のドリンクを全て飲み干すをシェリアスの背中に向けて歩き出した。ヨハネの歩足はシェリアスよりも早かったので自分の前にいる彼に追いつくことは容易かった。そして前の彼に追いつくと同時に背中を強く押した。いきなりのことに驚きながらも躓きそうになったシェリアスは何をするんだと言いたげな顔で振り向いた。

 

「かっこつけるんじゃないわよ、私たちは対等、並んで歩くのよ。わっかた?・・・旦那様。」

 

~*~

 

二人は今までいた町から再び歩き出し、この周辺の一番大きな町へと向かった。一番近い町と言ってもリアルの距離で言うと10キロは離れている。その間はまだ夫婦ではなく婚約をしたただのカップルのはずなのだが二人はすっかり婚約した気分になっていた。元居た小さな町から大きな町へは徒歩、転移魔法、汽車と様々な交通遮断があったが二人はあえて徒歩を選んだ。いや正確にはほとんど無自覚で歩いていた。二人は横歩きのままかつてないほどに近づき明るい足取りで歩いているとあたりの施設が目に入らなくなってしまい、汽車の駅も、転移魔法のためのゲートも過ぎてしまっていた。しかし二人はそんなことになど目もくれずに二人仲良く歩いていた。はたから見たら熱愛バカップルに見えたであろう二人は小さな町から大きな町へと向かう丁度、半分くらい歩いたとこで気が付いた。歩かなくともよかったこと、そして大きな町に向かう途中には難易度が高いダンジョンが存在することを。しかし気が付いた時には時すでに遅く、ダンジョンのステージであるレベルの高いモンスターが多く出る草原へと足を踏み入れていた。今いる場所から元も町に戻ろうとすると、ダンジョンのトラップが発動してしまい、永久の迷路へといざなわれるだろう。そのことはしかりと覚えていた二人は引き返すことなく前へ前へと再び歩き出した。

 

「・・・・これも呪いなのかしら。」

「幸せ気分からどん底に陥れる。・・・呪いだろうな。」

「はぁ・・・どうしてこうなるのかしら。」

「さあね。だけど、今は一刻も早くここを向けなくては。」

「そうね、ここは魔獣が凶暴化していて、ダメージを与えるとさらに凶暴化して仲間を呼ぶわ。高レベルプレイヤーの狩場にはもってこいなんだけど、私たちにはまだ早いでしょうね。私たちのレベルはここに来るプレイヤーの平均レベルから20くらい少ないわね。」

「ご説明どうも。要するに、敵にあったらほぼ一撃か連続攻撃で倒せってことか。」

「バカ言わないでよ!そんなこと私たちに不可能だわ。」

「はっ、堕天使様が不可能という言葉を口にするか。笑いものだな。」

「何よ!じゃああなたならできるっていうわけ?!」

「やってみなきゃわからないな。それに・・・・」

 

シェリアスはその先の言葉を濁すと、自分たちを中心にして辺りを見渡した。あたりはいつの間にか濃霧が現れていて、5メートル先はほとんど何も見えないような状況になっていた。ヨハネはシェリアスが見渡した後を追うように目を凝らすと、段々と目は濃霧に慣れていき、そこらかしこから赤く光る点々が一つまた一つと浮かんできた。それはまったくもって幻想的な光景ではない。しいて言うならば絶望的な状況だと言えるだろう。なぜなら濃霧の中にぽつぽつと浮かんでいる赤く光る物体の正体は、凶暴化した魔獣たちの充血した目だったからだ。その赤く光る眼の大きさは大小さまざまでその中にひときわ大きな目が二つ、二人を見下ろしていた。自分たちを見下ろす赤い目を睨み返しながらシェリアスはさっきの言葉を続きを言った。

 

「・・・もう遅いみたい。」

 

その言葉と同時に一番大きなモンスターは初撃を繰り出した。ボスらしきモンスターは自分の背中に装備していた大きな刀を抜刀すると、勢いよく振り下ろすという何とも単純な攻撃だったがモンスターの刀はその背丈にあわして、中々大きなサイズで、人が持てるようなものではなかった。その大きな刀から落ちてくるまでの間、二人には空気の圧迫を受けてまともに動くことすらままならなかった。ヨハネはその刀から放たれる衝撃に足に力が入らなくなりその場に諏座り込んでしまった。しかしその傍らではシェリアスがさっきまでモンスターを見渡していた探りを入れるような目ではなく、真正面から的を狙う時の、まさに弓道をやっている時のような鋭い目つきになっていた。後数メートルで攻撃がシェリアスの体を真っ二つにするという直前、シェリアスは自分の剣を抜刀した。抜刀した勢いのまま降りかかってくる巨大な刀に向けて斬撃を繰り出した。当然のことに今彼がいる場所から敵の体を切ることは不可能だ。それもそのはず、彼の狙いは、敵の刀だったのだから。降りかかってきた刀を真正面から受けると、斬撃で相手の刀の丁度剣先を当てた。その攻撃は相手にダメージが当てることが目的ではなく、攻撃先をずらすことが目的だった。二つの武器が交差しお互いに反発すると敵に比べて小さいため彼の手には多大なる衝撃が与えられた。しかしその衝撃に耐え終わると、シェリアスのすぐ左隣の地面に深々と突き刺さっていた。その地面から生えているようにも見えるをシェリアスは中段切りで切えい砕いた。その折れたときに出た刀の破片が先にいたまだ小さな敵に飛んでいくと、その破片が当たった敵たちはさっきの刀を砕いた時のように光り輝く破片へと姿が変わり消え去った。その様子を茫然と見ていたヨハネは我に返り自分をかばうように立っているシェリアス向かって叫んだ。

 

「何やってるのよ!動けるなら逃げなさいよ!」

 

現在のヨハネはマヒのような状態異常にかかっていて、立ち上がることすらままならないような状態だった。そんな状態の仲間をかばいながらだと、まともな戦いなど早々できない。今のように戦いを続けていると二人とも倒されてしまうだろう。ならば今は生き残る確率があるほうがいいという考えだろう。だけど・・・

 

「何言ってんだ。自分の妻を置いて逃げるなんて、あるわけないだろ。」

 

そういったシェリアスはもう一度剣を構えると、残り半分となった敵に向かって切りかかった。

 

~*~

 

敵が全てダウンすると、さっきまで二人の周りを囲んでいた濃霧は消え去っていた。すがすがしいほどに晴れた草原の真ん中に二人、シェリアスとヨハネは広大な空を見上げるかのように寝ころんでいた。ヨハネの状態異常は解けていたが、シェリアスの残りHPはあとわずかとなっていた。自分でも無理をしたなと感じていたが、これが自分の呪いが吹っ掛けてきたものだったとしたら、その先に待っているであろう最上級の幸福のために自分の身を削ってでも戦い、抗い続けた。自分の意思を曲げないため、新婦を守るために、これまでにないほど戦った。しかし気に食わないことがあるとすれば、ここまでやっても二人にハイフンされる経験値は同じということだろうか。そして先ほどの戦いで二人のレベルは一気に10上がった。このダンジョンの最低レベルには追い付いた。しかし体力が尽きた少年と、彼の心配が解けて安心したと思ったら身体中から力が抜けてしまった少女はまだ草原から動こうとはしなかった。二人の間を、二人の頭上をそよそよと心地いい風が優しくなでるように吹き抜けていく。危険に満ちていた空気から解き放たれた空間からはすっかり濃霧は消えており、少し先に目的の大きな町が見えていた。その街に行けば幸福が待っているのだが、どうしたもの体が動こうとしない。それはヨハネも同じようで空を見上げたまま、紙だけが風に吹かれて宙を舞っていた。しかしヨハネは体は動かないが口はしっかりと動くようだった。

 

「・・・まったく、無茶するわね。」

「・・・・あ、はは・・・」

「どうしてって聞いても無駄かしらね。」

「・・よく、わかってるじゃないか。」

「はあ・・。無茶ばっかりするあなたにはしっかりとした私が必要なようね。」

「・・君が、しっかりしているかは、心配だが、僕に君が、必要、ということは、否定しないよ。」

 

その答えを聞いたヨハネは一度息を整えると、体を起こした。立ってからヨハネはシェリアスの前まで歩いてくると、すらりと伸びた真っ白な腕を自分の前へと差し出した。

 

「さあ、立ちなさい。私たちの目的地はすぐそこよ。どこまでもこの堕天使ヨハネが導いてあげるわ。」

「・・・この僕を導く、か。それもいいかもな。」

 

差し出されたヨハネの腕を強く握ると、ヨハネは倒れたままのシェリアスの体を引き起こした。

 

~*~

 

大きな町に着いた時には、リアル時間で午後5時になっていて、次々に学校から帰ってきた面々がログインしてきた。そして結婚するとなると、フレンド登録をしている仲間には通知が飛ぶようになっている。その仲間の中には当然ファーストも含まれている。その通知を受け取った人たちのほとんどが転移魔法を使い、この町に来ていた。そして今日この町の教会で、ジューンブライドキャンペーン最後の式が行われた。そしてその式の主役はシェリアスとヨハネだ。式に入る前、二人は特別衣装に着替えていた。その特別衣装とは、タキシードと、ウェディングドレスだった。この衣装は自分たちの所属している族によって色が変わるようで、魔族である二人の衣装を着ている姿は漆黒を身にまとっているようだった。

 

「ウェディングドレスは、女性の純粋さを表しているから白色のはずなんだけどな・・・」

「何よ? 何か言いたげね。」

「・・・いや、卒業式より先に結婚式を挙げる日が来るとはなと思ってね。きれいだよ。」

「そ、そう。似合ってる?」

「ああ、堕天使みたいだよ。」

「フフッ、あなたも魔王様みたいよ。」

「・・・魔王か。ありがと、最高の誉め言葉だよ。」

 

ヨハネの真っ黒なウェディングドレスに真っ黒なバラの花束、その姿に見とれていたい気持ちもあったが、外でみんなが待っているのでここで時間を過ごすことはできない。それにこのきれいな自分の堕天使をみんなに自慢したいし。横に立っているヨハネの手を取ると、扉を開けた。

 

「さあ、契りの儀式、開幕だ。」

 

輝いても見える扉の先には、祝いの言葉を投げる面々の姿があった。その中心を歩いていく新郎と新婦、魔王と堕天使。その姿は魔のものとは思えないほど輝いて見えていたそうだ




 これを読み終わったころには年が明けて2018年になっているのではないでしょうか。ついに年が明けてしまい、高校受験を控える身になりました。さあ、これで受かったら高校一年生。先の未来の僕よ、気を抜くなよ。まだまだ未熟ではありますが、これからもEIMZ作品全4作、全力で全身全霊で書かせていただきます。改めまして、謹賀新年、これからもよろしくお願いします。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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堕天使と魔王と七夕

梅雨が開けて、夏を迎えた沼津は今まで過ごしてきたところとは違い、海未が近いのでまだ涼しい風が吹き抜けていた。今日は7月7日、俗にいう七夕の日。織姫と彦星が1年に一度だけ会える日。短冊に自分の願いを書き笹の葉に飾るという古来から伝わる伝統行事。小学校の頃はクラスで短冊に願いを書くこともあったが中学生にもなれば家でも普通ならそんなことはしない。普通ならば。

 

「さあ、願い事を書くのよ!」

 

意気揚々を2枚の短冊を掲げた少女が夕食後のコーヒーを飲んでいる修斗の目の前に立った。

 

「・・・何その紙きれ。」

「フッ、愚かね。今日は7月7日よ。なんの日かしら。」

「えーと、・・・ポニーテールの日?」

「違うわよ!」

「・・・じゃあ、カルピスの日?」

「それも違う!」

「わかった、冷やし中華の日だな。」

「・・・わざと?」

「はいはい、七夕だろ。」

「わたってるなら最初から答えなさいよ!」

 

素直に答えろと言われても、大事な食後のコーヒーを邪魔したのだからそれ相応の対価を払ってもらっただけなのだがな。すねて頬を膨らました様子の堕天使様の姿は何とも言えぬ可愛さがあった。普段は堕天使だと言い放つ彼女だが、中二病には珍しく本性を見せやすい。だからこそその本性を引きずり出した時の表情は豊かで見る者の心を揺さぶらされる。そんな彼女のことで遊んでいいのは彼氏である僕の特権だ。もう一度言うが彼氏である僕の特権だ。などと心の中では思うも表情には出さない修斗であった。ヨハネはころころと表情を変えるのに対して、修斗とシェリアスはというと普段は笑っているころが多いが内心では色々考えているいわるゆポーカーフェイスを好んでしている。そんな彼も自分の彼女の前では自分も素を出すことが増えた。これは二人の関係が発展したという証拠なのだろうか。再びコーヒーを口に含むとヨハネの手に持たれた短冊に目をやった。

 

「で、何するんだ?」

「だから、この短冊に願い事を書くのよ。」

「書いてどうすんの?」

「願うのよ。」

「・・・」

 

自分の彼女のものすごく子供らしい一面を見た気がするな。

 

「・・・願うって織姫と彦星に?」

「それ以外誰がいるっていうのよ。」

「・・・ヨハネ、二人とされる星はベガとアルタイルって言うんだけど2つの星の間隔はざっと14~15光年はあるんだ。1年に一度だけ会うなんてありえないことなんだよ。そんな二人にどうやって願いをかなえてもらうというんだい?」

「そんなの、神様ならなんとななるに決まってるじゃない。」

「織姫と彦星は神様じゃないんだけどな・・・。」

「いいじゃない、別に。そんなにいうなら15年後にかなえてほしいことを書けばいいじゃない。」

「・・・光年はどこ行った。」

 

~*~

 

 修斗も妥協して、15年後にかなえてほしいことを短冊に書くことにした。しかし15年後と言っても何を書いたらいいのだろうか。15年後というと29歳か。中々の年齢だな。15年後になんて自分が何をしているかなんて予想をすることは容易くはない。そもそも将来自分がやりたいこと自体決まっていないのだから。それ以前に15年後にはこんなものを書いたこと自体忘れてしまっているのではないだろうか。ふとテーブルの向かい側で短冊に願い事を書いているヨハネに目をやった。ヨハネも自分で言ったまではよかったが何を書いたらいいのかは迷っているようだ。

 

「なあ、15年後の願いって何だと思う。」

「私に聞かないでよ。シェリアス、知り合いに20代の人とかいないの?」

「いなくもないけど・・・あの人変わってるからなあ・・・。」

 

ぶつぶつとつぶやく修斗だったが、その思い当たる人が欲しがりそうなものを一様考えてみたが、並の人間とは思考が違っているような人なので参考にはならないだろう。頭がいいのか、変人なのか、何年たってもあの人のことは理解できないな。

 

「それで、参考になりそうな人はいないの?」

「・・・いないな。」

「じゃあどうするのよ、このままじゃいつまでたっても埋まらないわよ。」

「君がいい出したことだろ。何か案はないのか?」

「あなた私より頭いいんだから自分で考えなさいよ。」

「・・・こういう時だけ、格上扱いですか。」

 

その会話を最後に二人は再び何を書こうかと悩み始めた。しかし相変わらず何を書いたらいいのか、答えは出てこない。15年後ともなれば社会人になっているだろうからやっぱり金銭的なことだろうか。しかしそれを書くと何か性に合わないような気がする。もし他に願いが見つからなかったら最終的にこれを書くか。そのまま考えること数分、ふとリビングから外に見える夏の夜空を見上げた。そこには満点とまではいかないがいくつか星が輝いていた。今日の夜空は雲が少なく、都会にしてはなかなかの数の星が見えた。きっと今は見えないが天の川もあそこに存在しているのだろう。そしてここから見えている星々の光は何光年も前に輝いた光なのだ。時代を超えてきたあの光は自分たちの前に現れたのだ。この広い空の下で暮らしている人々に存在を示すように輝いているのだ。この星はもしかしたらもう消滅しているかもしれないし、まだ健在しているかもしれない。逆にあの星から時間を無視して地球を見たら恐竜がうろうろしている地球が見えるのだろう。時間を無視できる力があればそんなことも可能だろう。そんなことをずっと昔に両親が言っていたような気がするな。あの時はまだ幼稚園くらいだったか。あの頃はまだ両親も一緒に暮らしていて普通な家庭だっただのに、いつからか両親は何かにとりつかれたかのように研究に取り組むようになった。あの研究はいつになったら終わりを告げるのだろう。もし終わってしまったら今のように津島家に入る機会も少なくなるのだろうか。なんだか嬉しいような、悲しいような。今の日常の形が楽しくないわけではない、むしろここ6年近くで一番楽しい日々になっている。しかしあの親子で過ごした日々は決して忘れられないほどの日々だった。きっとあれが普段あるべき家族の姿なのだと思う。あの日々に戻れるときは来るのだろうか。15年後にはその研究も終わっているのだろうか。もしも15年後に願いが叶うのなら、一瞬だけでもいいからもう一度あの暮らしをしたいな。

 

~*~

 

 結局短冊にはヨハネは『魔の力が暴発しませんように』と書き、修斗は『普通の家庭になっていますように』とかいた。修斗は適当に短冊を見えずらいところに飾ると、カバンをもって家に帰っていった。修斗の姿が完全に見えなくなったことを確認するとヨハネはリビングに飾ってある修斗が書いていた短冊を手に取った。そこには修斗が15年後にかなってほしい願いが書かれている。

 

「さて、あいつはなんて書いたのかしら?」

 

ヨハネはそっと飾られている短冊を取ると、その短冊に書かれている文を読み始めた。そこに書かれていたことを読み終えるとヨハネはだんだんと顔が赤くなっていった。自分の読み間違いではないかと疑い始め、もう一度読み直したが、どこにも読み間違いはなかった。そこに書かれていたのは最初から最後までシェリアスの書いた字で間違いはなかった。

 

「な、何書いてるのよあいつ。か、家庭って・・・」

 

か、家庭ってまさか自分で作るのかしら。もしかしてその相手は、私?ま、まあいま私たちは付き合ってるはずだし、そんな可能性がないってわけじゃないし、でもそれだと相手の家にこの短冊を置いて帰るなんて、そんなこと、そんなこと・・・・。思考回路がそれ以上考えることをやめようとするも、先々の未来を見通すかのように脳裏に映像が浮かんでくる。オーバーヒートしたヨハネはすぐに自室のベッドに向かい悶え始めた。

 次の日、ヨハネの目元にクマが出来ていた。しかし修斗はヨハネのクマの原因を知る由はなかった。

 

 




 今回何だか短い気がするなぁ。受験前なので大目に見てください。
恋愛って何なんですかね。この前友達が女子に告白すると言ってある作業を手伝わされまして、友達の男子とLIP×LIPさんの『ノンファンタジー』を一緒に歌わされまして『好きだよ』という部分で自分の後ろでその友達が女子に手を伸ばして告白するというイベントがありました。はあ、身体精神ともに疲れた。受験生が何をしているのだ。
ただ、彼らを見ていたら普通にオリジナルの恋愛小説書けるのではないかと思い浮かびました。もしかしたらそのうち何か書くかもしれないし、書かないかも。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを


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