IS*~Iris code~ (永遠の中級者)
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プロローグ
第1話 ホワイト・アウト・エトランジェ


二次創作初投稿なのでゆるい目で読んでください。


少女がそれに出会ったのは、冬休みも後半に差し掛かった時。

 

雪で世界が白一色に染まり、時間の感覚が無くなるようなそんな日。

 

 

田舎の中学に通う(すめらぎ)時花(ときか)は、特にやることも、やりたいこともなく、居間の炬燵に入りながら本を読んでいた。

実際には、やることがないわけではないが別に急ぎの用というわけではなく、しなくても問題ないのでこのように怠惰に過ごしていた。

 

そんな時花だったが、本を変えようと現在読んでいる本を閉じて立ち上がった時、耳鳴りにも似た不思議な感覚に囚われた。

何かが落ちたとも捻じれたとも言えない妙な感覚は意外とすぐに消えた。

 

時花は何だったのか気になったが、特に興味が無かったので気にせず本を取り換えているとまた異変が起きた。

 

 

―――――――――――――。

 

 

声が聞こえた気がした。

 

証拠はないが、時花は何故だが行かなければならない気になって、家族に出かけることを伝えると家を後にした。

 

向かったのは近くの林。

何故ここに向かったのかは分からない。けどそんな気がした。

 

林の中を進み、開けた場所に出る。

木々の枝が集まり、天然の屋根を形成していた。

だが、それだけでこれと言って変わったものは見当たらない。

冷静になって戻ろうかと思ったそんな時、時花は再び声を聞いた。

 

気付くと、林にいたはずの時花は何もない空間に居た。

そこは家も木もなくただただ広い場所だった。

 

そんな空間に一人佇む女性の姿があった。

時花が気付くと女性は微笑みかけてきた。

 

「―――――」

 

女性が何かを言っているが、聞き取れない。

時花は近づこうと歩き出すと、女性は時花の背後を指差した。

 

すると、背後から小さな音が聞こえて振り返ると、周囲は林に戻っていた。

そしてそこには一つの黒い機械の鎧があった。

その機械鎧は各所が人に近い形をしていて装甲が中心を覆うように配置されている。

 

この姿を時花は見たことがあった。これはISだ。

 

 

IS、正式名称はインフィニット・ストラトス。

宇宙での活動を想定して開発された飛行パワードスーツ。

だが、その秘めるスペックは宇宙活動よりも兵器として使われた。

当時はあまり知られていなかったが、昔に起こったある出来事から従来の軍事兵器を遥かに超える戦闘力が証明されその存在を知らしめた。

今となってはスポーツ的な立ち位置に落ち着いている。

ちなみにこのISは何故か女性にしか反応しない。それにより世の中は次第に女尊男卑へと変わっていった。

云わば世界を変えた存在。

 

 

そんなものが何故こんな場所にあるのだろうか。

ISは国が取り合うほどに貴重なものなはず。

 

それにこのISは激しく戦闘をした後かのように各所がボロボロになっている。

一体何があったのだろうか…。

 

すると、先程の女性が時花の隣に再び現れ、ジェスチャーのようにその手をISへと伸ばす。

その動きを真似て、時花も手を伸ばすとISを中心に周囲が眩い光に包まれる。

光が雪と合わさって全てが白く輝く。

 

 

光が治まると、ISと女性は消えていた。

そして時花の手には小さな機械が掴まれていた。

 

 

 




これを機会に本家を読み返そうかな…。


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第2話 回収のち拘束

ちょろっとだけあの御方の出番があります。
あの方ってこんな感じで良かったかな…(怯え)


場所は変わり、とある一室。

 

 

数名の女性が機械を操作していて、その中央には大きなモニターが表示されている大きな部屋。

その部屋の扉が開き、スーツを着た黒髪の女性が入ってくる。

黒髪の女性はモニターを一度確認すると、近くでモニターを操作していた女性に問いかける。

 

「所属不明のISの反応があったというのは本当か」

 

「はい、ですが今はもう反応は消えています」

 

それを聞くと黒髪の女性は腕を組み、モニターを見つめる。

 

「場所は」

 

「日本の◯県の奥地です」

 

「テロ…というわけではなさそうだな。そんなところを襲ったところで何のメリットも無い」

 

「そうですね。それにISの反応もどこか変です」

 

「変とは」

 

「先程の反応ですが、突然現れては消え、また現れては消失(ロスト)したんです」

 

黒髪の女性は疑問に思った。

女性は最後、"消えた"のではなく"消失"と言ったのだ。

つまりISを待機形態などにしたのではなく、その存在を失ったということだ。

 

黒髪の女性は右手を口元に当て、考えるようなポーズをとる。

 

「ふむ……反応があった場所は記録していますか」

 

「は、はい」

 

「では、数名を直ちに捜査に向かわせろ。何か見つかれば回収、怪しい人物がいれば身柄を確保しろ。敵対意思がみられた際はISを使っても構わん」

 

「はい!」

 

命令を受け、捜査の人員を選出するために女性が部屋を出て行く。

残った黒髪の女性は取り出した書類に視線を落とす。

そこには世界初となる出来事の中心人物である男子のことが書かれていた。

 

「…まったく、あの馬鹿は一体何をしているんだ」

 

黒髪の女性はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

とある機関から捜査隊が派遣された頃、時花(ときか)は自室に帰って来ていた。

 

勉強机に向かい、小さな機械を見つめる。

あの黒いISと女性が残した丸い機械。

突いたり軽く転がしたりしてみてもまったく反応が無い。

機械を見つめながら時花は思いついた。

 

「これって…コア?」

 

ISには人間で言うところの脳及び魂というべき核が存在する。それがコア。

コアはISの生みの親であるなんとか博士しか作ることが出来ず、世界に限られた数しか存在しない。

コアの構造には未だ謎が多く、作った博士も全てを把握していないとかなんとか。

 

IS関係を専門としていない時花も知識としては知っていたが、これがそうなのかは分からない。

 

コアと思しき機械を触っていると、コアが淡い光を放ち表面の装甲が少しずれて何かの挿入口が露わになる。

 

「……」

 

時花はそっと閉じた。

なにか起こったら困るからね。仕方ないね。(自分から調べてたとは思えない対応である)

 

 

そんな時、チャイムが鳴った。

(すめらぎ)家に訪問者のようだ。

部屋の外から足音が聞こえる。誰かが応対に向かったようだ。

 

任せとけばいいかと時花は再び機械を触っていると、再び足音が聞こえ部屋の扉が開いた。

どうやら時花に用だとか。

 

訪問者は客間に通したらしく、客間に向かうとそこには6人程の女の人たちがいた。

その中の一人が時花の方を向き、あることを問いかけてきた。

 

「一つお尋ねしたいのですが、貴女はあの林に行きましたか」

 

…どうやらこの人たちはあのISのことを探しに来たようだ。

面倒事は御免なので知らないと言おうかとも思ったが、ここまで来た人たちだし、変に嘘をつくと余計に面倒になると思い、時花は正直に話した。

黒いISのことを、そのコアと思われる機械を持っていることを。(女性のことは伏せておく)

 

「今、それを持っていますか」

 

時花は、そんな予感がしてなんとなく持ってきていた機械を取り出して渡す。

すると女の人たちはそれを確認し、正真正銘ISのコアだと分かると時花に告げた。

 

「すみませんがこれは回収させて頂きます」

 

そこは予想通りだったから特に驚きはしない。

時花が持っていても、今のところ使い道は無いし、問題事を呼び寄せるだけだ。

これで終わりかと思いきや…

 

「それと…貴女もご同行願えますか」

 

…Why?

 

「少々気になることもございますし、それにIS及びにコアに関することは重要機密なので貴女を放っておくことも出来ません」

 

あ…。

言われてみれば納得だ。

少しとはいえコアを所持していたのだから何かしら情報を知られている可能性もあるから身柄を押さえるのは当然か。

 

ん?ちょっと待って。

この場合のご同行…ってことは…あれ?結構面倒?

 

「では、行きましょうか」

 

 

 

現在時刻午後2時50分 (すめらぎ)時花(ときか) 連行。

 




ISの新作ゲームの事前登録の話を最近知った、今日この頃


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第3話 突然ですが入試です(実践)

ホウジョウエムゥ…←本編と関係ありません。


「疲れた…色々聞かれたりして気疲れした…」

 

女性たちに連れられ時花(ときか)が来たのはとある施設。

そこはISの操縦者やメカニックなど、ISに関する人材育成を目的とした特殊機関。

その名はIS学園。

本来ならここに来ることなんて一生ないと思っていたのだけど、ああなってはしょうがない。

そんな事より、ヘリなんて初めて乗ったなぁ。

まさかヘリで来てたとは思わなかった。

あの黒いISの反応を察知してから来たにしては結構早かったから正規の交通手段ではないとは思ってたけど。

 

ちなみに今の状況は、ヘリで連行されてこのIS学園に来てから、あのコアやISについて再度聞かれ、何故か全身を調べられたりして、それが今終わったのだ。時間にして2時間強。

本当疲れた。

 

今は大人たちが話し合いをしてるとかで、自由にしてろと言われ、ある部屋に通された。

さっきこの部屋、教員の部屋って聞いたんですが、あの、その。

それにしてもこの部屋、ホテルみたい。

時花は布団にダイブし、そういえばと取り上げられることがなかった携帯をポケットから出して家族にメールを送る。

 

そんな時、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは茶髪を肩のあたりで結んだ女性、(すめらぎ)家に訪問し時花と何度も話した人だ。

 

「…自由にとは言ったけど、随分と自由ね」

 

せっかくですし、ふかふかもったいないですし。

 

「そういえば、はいこれ」

 

そう言って女性が手渡したのは例のISのコア。…って、なんで!?

 

「このコアだけど、こちらで調べさせてもらったわ。けどこのコアは特殊らしくて、システムが少し妙で調べても何も情報を得られないし、初期化しようとしても初期化できなかった。そこで特例ではあるけど、貴女にこれを渡して貴女共々監視下に置いてデータを取ると言うことになったわ」

 

なんか途中から理解することをを諦めたんですが。

 

「簡単に言うと貴女にはIS学園に入学してもらうことになったわ。はい、これ書類」

 

時花の前に書類とペンが置かれる。

なんかもう…どうにでもなれって感じがする。

とりあえず書類書いとこ。

 

「それでこれからなんだけど、貴女にはまず入試を受けてもらうわ」

 

入試…微妙に時期遅くないですか?

まぁ突然の出来事だから向こうが色々用意するか。

そういえばここの入試って…

 

「これからアリーナに行ってISに乗ってもらうわ」

 

ですよねー。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「それではこれから模擬戦を始めます」

 

アリーナのピットに案内された時花は周りの職員に言われるまま学園に多く配備されている量産型IS「打鉄」に乗り込む。するとISと一つになったような感覚になり、頭の中がクリアーになっていく。

「打鉄」に乗ったことでISの基本システムPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)により身体がふわりと浮かび上がる。

時花はそのまま、ピットを飛び出してアリーナの中心近くまで進む。

するとそこには同じく「打鉄」を纏った先程の女性の姿があった。

 

「動かすことは出来たみたいね」

 

「…試験官もあなたなんですね」

 

「まぁ、今は時間が空いているからね。…そういえばまだ名乗ってなかったかしら?私は宝条(ほうじょう)綾香(あやか)よ。それで…準備はいい?」

 

そう言って、宝条は手にしていた武器を構える。

時花もそれを真似て、近接用ブレード「(あおい)」を構え、肯定の意思を見せる。

 

すると、アリーナの中心にモニターが現れ、開始までのカウントを刻む。

カウントが0となった瞬間、突然、時花の「打鉄」のセンサーが鳴る。

次の瞬間、時花の正面に宝条の「打鉄」の姿があった。

 

「!?」

 

宝条が手にしたブレードの斬撃が隙間を縫うように時花の腹部に叩き込まれ、時花は壁際まで吹き飛ばされる。

衝撃はあったが、ISは操縦者を守るため常にシールドバリアーが張られている為、大した怪我はない。

だが、その代わりにISの稼動にも関わるシールドエネルギーが大幅に削られる。

 

「…ごめんなさい。いつも加減を間違うのよね私」

 

そう言いながら次を構えてるのは何故ですか…汗。

でも、このままやられるのも嫌だ。割と痛そう。

 

時花は再びブレードを構え、相手に突進する。

宝条が突進を少し横に動いただけで躱すと、時花はブレードを真横に向かって薙ぐ。

 

これは当たったと時花が思った瞬間、

その手にはブレードは無く、ブレードは遥か後方に落ちていた。

 

何が起こったの!?

宝条を見ると、右手で持ったブレードを高く振り上げていた。

それで理解した。宝条は時花の不意打ちを読んだうえで振られていたブレードを弾いたのだ。

 

「はい。これで終わりかしら」

 

時花の首下にブレードが向けられ、時花は敗北した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「宝条先生も相変わらずだな」

 

「開始と同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)とは、容赦ないですね」

 

模擬戦を別室で見ていた二人の女性が言う。

 

「普段は温厚なのにIS実践となると加減が効かなくなる。だから正規の試験官には推薦しなかったんだ」

 

「以前から何ですか?」

 

眼鏡をかけた女性がスーツの女性に問う。

スーツの女性は黙っていたが眼鏡の女性は何かを察したようだ。

 

「…織斑先生もそういうところがあるような…」

 

「山田先生、何か言いましたか」

 

「いえ、何でもありません」

 

織斑先生の圧に押される山田先生であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

ピットに戻って「打鉄」から降りた時花は宝条と話していた。

 

「ISを動かすことが出来たから、入学条件はクリアしたわ」

 

ISを動かせることが入学の最低条件らしい。

なら、あんなに打ち込まなくてもよかったんじゃ…。

ちなみにIS適正はDらしい。低っ。

 

「これからのことを話すけど、さっきも言った通り貴方は学園の監視下に置かれます。当分は…そうね、私と一緒の部屋に住み、外部へ出かけるときは誰かと一緒に行動することになります」

 

わお、動き辛い。

 

「それと貴女の私物のことだけど、後日一緒に家まで取りに行くわ」

 

あ、取りに帰らせてはくれるんだ。

 

「とりあえず今は私の部屋に戻って休んでおくといいわ。私は他にすることがあるから」

 

そう言って宝条はピットから出て行った。

残された時花も特にすることがないので宝条の部屋に行くことにした。

 

迷いつつも来た道を戻るように部屋へと向かう。

そんな中、手持無沙汰な時花はコアを取り出して見つめる。

 

このコアは何故、私の下に来たのだろう。

IS方面に興味のなかった私に。

それにこのコアは他とは違うらしい。

何か伝えたいことでもあるのだろうか。

 

「あら、見かけない顔ね」

 

考えながら歩いていると前から声を掛けられた。

顔を上げるとそこに冬なのに扇子を持った女性がいた。

カスタム自由なIS学園の制服を着ているところを見るに、ここの学生のようだ。

 

「侵入者なら排除するんだけど…貴女は侵入者かしら?」

 

直球で聞いてくるなぁ…。

その聞き方はどうなんだろうか。

 

「…まぁ、その様子だと違うみたいね。となると何かしら?」

 

頭を軽く傾けながら悩む女性。

これ答えた方がいいよね。

 

「えっと…色々あって来年から入学することになった皇 時花です」

 

「あら新入生だったの。私は新しく生徒会長になった更識(さらしき)楯無(たてなし)よ。楯無お姉さんって呼んでいいわよ」

 

そう言って開かれた扇子にはでかでかと「俺、参上!」と書かれていた。

あれ?それどこかで…?

というか、なんでこんなところで居るの?

…私も人の事言えないけど。

 

「あら?その手に持ってるのって…」

 

楯無が時花の持っているものに気付いた。

時花は反射的に隠そうとしたが、楯無は猫のようにそれを追って回り込んだ。

 

「これってISのコアよね。どうしたの?()()の?」

 

楯無は扇子でコアを差しながら、聞いてくる。

その眼には好奇心が含まれていた。

…って組む?何を?

 

「あれ?ISを作るんじゃないの?」

 

ISって自分で作れるの?

いや、ISは人の手で作られた物だから理論的には可能なんだけど。

 

「いや、そんな予定は…」

 

「なーんだ、組むのなら手伝ってあげようかと思ったんだけどなぁ。私こう見えて凄いのよ?」

 

そう言って楯無はスカートの端を少し捲る。

いや、なんで!

 

でもそうか…作るって道もあるのか。

 

「あの…今はそんな時間は無いので無理ですけど…今度作ることになったらその時はお願いします…」

 

それを聞いて楯無は優しく微笑んでから時花に抱きついた。

時花も驚いたが不思議と悪い気はしない。

 

「そう。素直な子は好きよ。もう少しからかいがいが欲しい所だけど。じゃあ、その時になったらお姉さんが力を貸してあげるわ」

 

そう言って楯無は背中を向け、立ち去って行った。

最後に、次は新年度で会いましょうとこちらを向かずに言う姿はどこかかっこよかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ピットから出て、宝条は廊下を歩いている。

 

 

 

「それにしても…あのコアは一体…」

 

宝条は時花の持っていたコアを調べていた時の事を思い出す。

時花には、何も情報が得られなかったと言ったがアレは嘘だ。

システムが特殊だったのは本当で分析がうまくいかなかった。

だが、分かったことが一つだけあった。

 

あの場に居た者全てがそのことを瞬時に理解することが出来なかった。

 

 

モニターにコアから得た情報が映し出されている。

 

 

それは一言。予言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【皇 時花 数年後に死亡】

 

 

 




予定外に楯無さん出てきちゃった☆
簪ちゃんも早めに出せるといいな…。




次辺りから原作内容に突入できるかな…?




※ラスト少々変更


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IS学園(原作一巻)
第4話 始まる高校生活


「ねえねえ、噂の子1組に居るらしいよ」

 

「同じクラスだったらよかったのになー」

 

「今から見に行こうよ!」

 

 

IS学園での高校生活が始まった。

始めの授業は、軽い自己紹介で終わった。

 

時花(ときか)は3組に割り振られ、担任はもう見慣れた顔の宝条(ほうじょう)綾香(あやか)だった。

宝条を見ていると、学校が始まる前に渡された参考書のことを思い出す。

参考書が電話帳並みに分厚いってどうゆうことですか。

現実逃避気味でスルーしてたら宝条がにこやかな顔で逃げ場を潰してくるし。

天使のような悪魔の笑顔ってああいう表情のことを言うのだろうか…。

 

そして現在、休み時間に入り、クラスの女子が次々と出て行く。

理由は簡単。

ISの性質故に実質女子校だったIS学園に男が入学したからだ。

 

時花もつい先程知ったのだが、世間が入試シーズンの時に何の手違いなのかISを動かした男子がいたらしい。名は織斑(おりむら)一夏(いちか)

世界初の男性IS操縦者としてニュースにも取り上げられ、今年IS学園に入学し時花とは別の1組に入ったらしい。

そういえば、1組の担任の名前も"織斑"らしい。なにか関係があるのかな?

(ちなみにここまで全て周りから聞こえてきた話)

 

それにしてもこの周りの反応はアレだろうか。

女子校ゆえの同世代の異性を見る機会が少ないことと、女尊男卑の世の中で突然同じ立場の男が出たことへの興味、といったところなのだろうか。

 

そんな中、隣の席の女子(―――えっと、シィナさんだっけ?)は時花と同じく1組の男子に特に興味を示すことなくぼーっとしていた。

時花はなんとなく話しかけてみることにした。

 

「1組の様子、見に行かないの?」

 

シィナは答えない。

時花は独り言として処理されたことに少々恥じらいを感じ、窓の外を向いた。

すると、隣から声が聞こえた。

 

「興味ない」

 

時花の言葉は聞こえていたようだ。

その声はふわふわとしてはいたが簡素なものだった。

 

「シィナさんは何でここに来たの?」

 

「…命令だから」

 

命令…。

命令でIS学園に入学するって一体どんな環境で居たのさ。

きっと時花には分からない程に複雑なのだろう。

国家さえ絡むIS事情は分からないけど分かりたくもない気がする時花だった。

 

「そういう貴女はどうして?」

 

あ、今の感じ、小動物みたいでかわいい…ってそういうことじゃない。

シィナが意外にも聞き返してきた。

 

「私は…成り行き…かな?」

 

IS学園に来た理由は正直言って自分の意思はなかった。

あのISと出会っていなければ、時花はこの場には居なかっただろう。

普通の高校に通い、変化のない生活を続けていただろう。

 

けど、今考えると少し違うことに気付いた。

あのコアのことを知る。

IS学園に来た時花が本来持つことのなかった目標。

 

 

そんな事を考えているうちに、時間は過ぎ、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「あ、そうそう、皇さん」

 

一連の授業が終わり、教室から出て行こうとしていた宝条が時花を呼ぶ。

気になったクラスメートが見つめる中、時花は宝条の下に行くと宝条は周りを気にした風もなく、話し始めた。

 

「部屋の話なのだけど、今日から正規の部屋に移ってもらうから、私の部屋に荷物を取りに来てから新しい部屋に移ってね」

 

言うことは言ったとばかりに、宝条はそれだけを言って教室を出て行く。

 

部屋割りの書かれた紙を渡された時点で予想してはいたけど、同年代に比べて少なめと思えるとはいえ荷物の移動は面倒だなぁ。というか私だけじゃなかろうか、荷物の移動をするのは。

 

 

…面倒臭がっててもしょうがないから荷物取りにいこ。

 

 

 

 




すごい区切っていくぅ


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第5話 ルームメイトは不思議少女

「箒さん、部屋に入れてください!すぐに。まずいことになるので。というか謝るので。頼みます。頼む。この通り!」

 

 

…なにあれ?

 

自分の荷物を全て旅行用バックに叩き込み、宝条(ほうじょう)綾香(あやか)の部屋を出て学生寮の廊下を歩いていた時花(ときか)は道を塞ぐほどの人混みと出くわした。

その中心からは若い男の声が。

女子校であるIS学園に居る男子は一人しかいない。織斑(おりむら)一夏(いちか)だ。

 

この人混みの理由は納得したけど、あれほどの必死さって一体どういう状況なの…。

 

するとガチャッという音と共に織斑一夏はその場の部屋に入り、取り囲んでいた女子たちはその部屋の扉に耳を当てたりして中の様子を窺おうとしていた。

アウトじゃないそれ。まあいいか。

 

時花はあの空気に混ざる気力もないので、女子たちが織斑一夏を追って動いたことで生まれた廊下の端の隙間を通って自分の部屋へと向かうことにした。

 

廊下の角を曲がる頃、後ろから続きが聞こえてきた。

 

 

「あれー?終わっちゃったー」

 

「いい感じだったのにねー」

 

 

…結局、扉開けたんだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

時花は自分の部屋の扉を開く。

すると、二つの大きなベットのある部屋だった。

…いや、なんというか他の感想を求められても困ると言うか、正直に言って宝条の部屋と大体一緒というか。

言うほど驚きはない。

 

それにしても部屋の鍵が開いてたからルームメイトが既に居ると思っていたのに見当たらない。

と思っていると、今入ってきた扉が再び開いた。

そこに居たのは教室で時花の隣の席に座っていた毛先だけが黒い白髪の少女、シィナだった。今改めて見ると変わった色してるなぁ。

 

「えっと…ここの部屋なの?」

 

時花がそう言うとシィナは頷いた。

時花は自分もこの部屋であるということを伝えるとシィナは特に気にした様子もなく部屋に入り、奥のベットに置いてある自分の荷物を片付けている。

というか荷物少なっ。全部で時花の半分もない。

 

とりあえず時花は荷物を空いている側のベットの傍に自分の荷物を置くことにした。

荷物の置き方が悪かったのか、荷物が倒れその拍子に中身が飛び出し辺りに散らばる。

 

「あーもうっ」

 

こうなるのだったらちゃんと閉めておくんだったなぁ。

時花は散らばったものを集めてベットの上に置く。

大概が私服や本など、転がったりしないものだった為、集めるのはさほど苦労はしなかった。

だけど、転がるようなものもないわけではなく。

ISのコアは丸みを帯びているため反対の壁まで転がっていく。

 

「?」

 

シィナが飛び出したISのコアを不思議そうに拾う。

 

「ありがとう」

 

シィナが拾って持ってきてくれたので時花は礼を言ってコアを受け取る。

時花は荷物を確認するが、その後ろではシィナが戻らずその様子を見ている。

え、なんで?

 

「…これが気になる?」

 

シィナは頷く。どうやらコアが気になるようだ。

まぁ、それもそうか。各国が欲する貴重なコアが入学したての学生が持っているのなら気になるか。コアと分からなくてもこんな小さい機械の使い道が分からないだろうからね。

 

「えっと…あんまり言い触らさないように言われたけど……諸事情で持つことにISのコアなんだ」

 

「…コア?本当に?」

 

あ、やっぱり一度では信用されないよね。

 

「といっても他と比べて結構特殊らしいんだけどね。…教室でさ、私がこの学園に来た理由を成り行きって言ったよね。実はこのコアが原因だったりするんだよね」

 

そういえばあの時、なんで私に声が聞こえたんだろう。

あの声はこのコアを積んだISのものだったものはなんとなく理解している。

どうして、ISに関わったことのない私だったのだろう。

 

「それ、どうするの?」

 

「このままっていうのもなんだから、どうせだから今度ISを組んでみようかなぁ…って思ってみたり。この前に会った生徒会長さんが手伝ってくれるって言ってたし」

 

あれ、その場合は何処に行けば会えるんだろう?生徒会室とかあるのかな?

 

「あ、何だったらその時は呼ぼうか?」

 

シィナは頷いた。

まだ始める時期が謎なのに少しずつ制作メンバーが増えていく。

なお、メカニックとしての腕は謎。

 

 

 

こうして夜が更けていった。

…どこかから大きな音が聞こえた気がするけどスルーしよう。

 

 




アカン(エコー)


少しペースがだれてきた(;´∀`)


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第6話 制作開始

ぴょんぴょん(・ω・)


「突然だけど、これからISを作るわよ!」

 

 

ある日、時花はシィナと自室の荷物の整理をしていた。

そんな時、突然部屋の扉が開け放たれ聞いたことのある声が聞こえた。

確認すると、そこには以前出会った生徒会長の更識(さらしき)楯無(たてなし)が居た。

その手には以前のように扇子が開かれており、でかでかと『生徒会長』と書かれていた。

それは知ってます。

 

「あら、何してるの?」

 

「いや…整理ですけど」

 

というか貴女の方こそ突然何攻めてきてるんですか。

あ、ISを作るって始めに言ったか……え?

 

「確認ですけど、何て言って登場しました?」

 

そう言うと楯無は仕切り直すかのように扇子を閉じ再び開いた。

 

「これから貴女のISを作るわよ」

 

わぁ、凄い決め顔。

というか扇子の文字が『再挑戦』に変わってるんですが!?いつ変えた!?

それはさておき、ほんと突然ですね。

 

「今からですか?」

 

「うん。今、暇なの」

 

私のISを作るのは暇つぶしですか。

 

「まぁ、半分は嘘なんだけど…本当は興味があるの。そのコアと貴女に」

 

なんでこんなに興味持たれてるんだろ。

…ん?ちょっと待って?半分ってことはもう半分は本当に暇つぶしと思ってませんか!?

 

「それじゃあ今から整備室に行きましょうか」

 

「え、あ、ちょっ」

 

強引な楯無に捕まり、時花は部屋を出た。

何とか捕まった瞬間に当のコアを掴んだけど、これの話なのに危うく忘れて行きそうになったんですが生徒会長さん。

残されたシィナも部屋の鍵をかけた後、時花たちを追って整備室へと向かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

楯無に捕まって連れて来られた整備室は教室などよりも広く、いくつかのスペースに分かれており、その傍には整備道具が配備されていた。

そして楯無は入り口から一番近いスペースを借りて作業をすることにした。

 

「さてと、本当ならうちのメイドに協力してもらうはずだったのだけれど他の仕事を任せてきたから、今回は三人で始めましょうか」

 

今さらっとうちのメイドって言ったよこの人。只者じゃないね。

 

「そういえばどうやってISを作るんですか?」

 

その時花の疑問を受け、楯無は少し考えた後どこか楽しげに応えた。

 

「整備科に進めば習うだろうけど大雑把に説明すると…一から作る場合はまずコアの情報を解析してそれを基に部位ごとに簡単なプログラムと素体を組んでそれをコアのデータと連動連結させるとコアがそれを読み込」

 

「先輩ストップ」

 

ペラペラと語り始めたものだから、つい止めてしまった。

もう今の段階で途中から頭が理解を止めたよ。

後ろのシィナなんて見てはいるけど、意識が寝てそうだ。

 

「まぁ難しいことはさておき、貴女のコアを貸してくれない?」

 

「あ、はい」

 

とりあえず渡せばいいのかな?

楯無に言われその手にコアを渡そうとした時、コアが突然淡い光を放ち起動した。

 

「え、なに」

 

淡い光はその三人の居たスペースを一瞬で埋め尽くす。

すると、光が治まると同時に時花たちの目の前にボロボロのISが現れた。

 

「あれ、これって…」

 

そのISは時花が林で見たISに酷似していた。(同じコアだから当然かもしれないが…)

だがその細部が異なり、大半の装甲は無く、箇所によっては喪失しており、時花的には破損というより組み立て途中のような印象を受けた。

 

「あら?ある程度型はあったの」

 

楯無は現れたISを観察している。

 

今迄何の反応が無かったのになんで今このISを呼び出したの?

それに、あの時は傷だらけでコアだけになったりしたのに、何故これはこんなに真新しいの?

まるで、話を聞いて先に作っておいてくれたかのように。

 

「システムも機能してるようね…ん?…ふむふむ…んー」

 

楯無がいつの間にかISにケーブルを繋ぎ情報を抜き出していた。はやっ。

 

「あのー先輩、何を見てるんですか…」

 

「ん?プログラムの解析と構築をね。…何してるの始めるわよ」

 

「はい!」

 

それから時花とシィナは楯無の指示の下、必要な部品を運んだり、楯無の補佐をしたりと忙しく動き続けた。

生徒会長というだけあって、的確に指示を出し、時に時花たちの様子をみて休憩を入れてくれたりした。

 

休憩中、楯無はISから得た情報が引っかかっていた。

(私もISを組んだことがあるけどこのIsのプログラムは少し特殊ね。全てのシステム情報には色んな文字列が入り混じってる。カモフラージュの為だとしても簡単に読み取ることが出来た。それに…何故か他のISの設計を含む情報が含まれていた。それも全て聞いたことのない名の…)

そこまで思い出すと考えを振り払うように楯無は頭を振り、目の前の作業に再び取り掛かった。

 

 

意外と進んだ作業を計三時間ほど続き、楯無は終わりを告げた。

 

「んーっ。それじゃあ今日はここまでにしましょうか」

 

身体を伸ばしながら楯無は言った。

終わってみると、慣れないことをしたものだから身体のあちこちが痛い。

殆ど補佐だった時花でこれなのだから、全てを行っていた楯無の疲労は相当だろう。

その割にはかなりケロッとしてる気がするけど。

 

「そういえば先輩。途中のISってどうするんですか?こう言うのも何ですけど、あんまり目立つのは…」

 

「それなら大丈夫よ。ある程度プログラムを進めたからもう待機形態に出来るはずよ」

 

使用者が決まっている専用機などのISは待機形態と呼ばれるアクセサリーの形状となり、持ち運ぶことが可能だ。

まだ専用機というわけではないが、楯無はそういうプログラム設定をしたようだ。

 

時花はISに触れ、念じてみるとISは光となり掴もうとした時花の手の中に集約する。

手を開くとISは白い輪のシンプルなアクセサリー、チョーカーとなっていた。

 

「それじゃあ、私は次の用があるから先に失礼するわね」

 

「あの、ありがとうございました」

 

「はい、よく言えましたー」

 

楯無が帰ろうとしたその時、整備室の扉が開き、一人の少女が入ってくる。

その少女は眼鏡をかけた大人しそうな感じで、楯無を見つけると進む足を止めた。

楯無もその少女に気付いたようだ。

あれ、この二人似てる?

 

「かんざ」

 

バッ

 

楯無が少女に声をかけようとすると少女は逃げるかのように整備室を出て行ってしまった。

 

「もぅ、また逃げられちゃった…。あ、それじゃあね」

 

楯無は気を取り直して整備室を出ると先程の少女とは別の方向に歩いていった。

 

 

 

「えっと、帰ろっか」

 

「うん」

 

残された時花とシィナは夕食にはまだ早いので一度自室に帰ることにした。

 

 

 

 

 




ゾロ目投稿したいよね(笑)

そんなことは置いといて裏話。
やっぱり専門的な内容はキツい(´゚д゚`)

あと、布仏姉妹を出しそうで出さなかった理由

虚さんがどんなのだったか忘れた為。


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第7話 クラス代表

懺悔。
11月11日にそれっぽい形状の箸を噛み折りました まる

※本編に一切関係ありません


時花(ときか)たちがIS制作を始めた次の日

一限目の授業が始まって早々、宝条(ほうじょう)がこんなことを言った。

 

「そろそろクラス代表を決めねばなりません」

 

そういえばIS作ってるときにあの先輩も世間話としてそんなことを言っていたなぁ。

あの時は確か…

 

 

 

「そういえば貴女たちのクラスはクラス代表は決めたの?」

 

「え、やっぱりそういうのあるんですか」

 

「そりゃあるわよ学校だもの。それにこの学園はISという特殊なものを扱ってるからその手の厄k…げふんげふん、その手のこともあるからより大事なのよ」

 

今、厄介事って言いかけませんでした…。

あとその手ってどの手ですか。

 

 

 

とまぁ、なったら面倒な仕事がありそうということだけは分かった。

 

「誰かやってもいいという人は居ませんか?自分から立候補しても、他人を推薦してもいいですよ?」

 

他人を推薦してもって…

おかしいな、押し付け合えって感じに聞こえるぞ?

 

「ねえねえ、どうする?」

 

「あなたする?」

 

「いやいや、私はこういうの無理だって」

 

「こういうのって代表候補生がやった方がいいんじゃない?」

 

「でもうちのクラスには専用機持ってる人はいないよ」

 

「1組とかはやっぱり、織斑(おりむら)君がするのかな」

 

周りが口々に言う。

今言っていた代表候補生というのは、その名の通り国を代表するIS操縦者の卵であり、それに属する人は必ずといって自分のISを持っている。

とはいっても専用機を持っているからといって代表候補生かといえばそうとは限らず、現に未完成とは言えISを持っている時花は代表候補生ではない。

噂で聞いたが、1組の織斑(おりむら)一夏(いちか)にも専用機が用意されているらしい。

あっちもあっちで特殊だからね。

 

「誰か居ませんか?」

 

「はい!もういっそのこと居ないということで」

 

「却下します。このままだと話が進まないので私が勝手に決めますよ」

 

「お願いしまーす」

 

「やっちゃえ綾ちゃん!」

 

進まないと判断した宝条の台詞に乗っかる生徒たち。

にしてもいつの間に綾ちゃんなんて呼ばれるほどに。

 

「では、入試での成績で…いえ、ここは(すめらぎ)さんにお願いします」

 

「なんで!?」

 

やばい、突然指名されたものだから大声で反応してしまった。

 

「ISの方は完成しましたか?」

 

「いえ…まだまだ…ってちょっと待って!」

 

なんで作り始めたこと知ってるの!?

一緒に作ったシィナさんと更識(さらしき)先輩ぐらいしか知らないはず。

 

「貴女のそのチョーカーは待機形態のISですね」

 

バレてる!?

この前までは無かったけどそれだけでバレたとは思えない。何故気付かれた。

しかもその発言で周りまでこちらを見てくるし。

 

「丁度ISを持った人が居るのでクラス代表は皇さんにお願いします」

 

丁度って何さ!

その時、授業終了の音が鳴り響いた。

それにより、それではここまでと言って宝条は出て行ってしまった。

色々言ってやりたいことがあったけど、終了と同時にクラスメートに囲まれてしまった。

 

「ねぇ皇さん、いつ手に入れたの?」

 

「皇さん意外と凄い人だったりする?」

 

「今度見せてくれない?」

 

うげぇ、面倒なことになった。

出してくれるとは思えないけど無いよりはマシと助け舟を求めてシィナさんの方を見ると、既に寝ていた。絶対狸寝入りだアレ!?

 

はぁ…誰か助けて…

 

 




想像を文章に置き換えるのほんと疲れる(´゚д゚`)


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第8話 Blue and White

時花がクラス代表に決められた日の放課後。

シィナは先に自室に帰り、IS制作を少しでも進めるとしても更識(さらしき)楯無(たてなし)は何処に居るのか分からず、そもそも人手&知識不足で一人では出来ず、時花は特にすることなく校内を彷徨っていた。

 

「たしか第三アリーナだったよね」

 

「おりむー勝てるかな~」

 

「相手が代表候補生だからねー」

 

「個人的には織斑《おりむら》君に勝ってほしいけど、二人とも同じクラスだからなー複雑」

 

「おりむー本当にIS動かせるのかな~」

 

「いや動かせたからIS学園に入学したんじゃない」

 

「ほら早くいこう」

 

すれ違った女子たちがそんなことを言っていた。1年のようだけど、見たことないから多分他のクラスの子だろう。それにしても第三アリーナで何かあるのだろうか?

気になった時花は、特に予定もなく夕食まで時間があるので第三アリーナを覗くことにした。

 

第三アリーナの観客席に着くと、ちらほらと観客が存在し、その中央のフィールドには青いISが空中で停止していた。そのISには縦ロールのある金髪の女子(――見かけだけなら絵に描いたようなお嬢様)が操縦していて、その女子はある一点を見つめている。

すると、その見つめていた先、向かいのピットから白いISが飛び出してきた。

そのISは危なげな飛行をしながら青いISと向かい合うように停止した。

白いISが登場してから観客席が盛り上がった。その原因はISの操縦者にある。そのISを操っているのはIS学園唯一の男子である織斑(おりむら)一夏(いちか)だった。

 

「逃げずに来たことは褒めて差し上げますわ」

 

さっき廊下で聞いたのはこういう事だったのか。

でもなんでこんなことになってるのだろう?

 

時花は状況が読み込めていなかったが、中央の二人は少々険悪なムードを醸し出していた。

 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

 

「そう?残念ですわ。それでは…お別れですわね!」

 

青いISが突然ライフルを構え、独特な音と共に閃光が奔り、白いISは正面から撃ち抜かれた。

それからも雨の如き怒涛の連続射撃は続き、白いISは確実に追い詰められていった。

だが、そこで白いISはようやく武器を展開させた。

その武器を見て観客席はざわついた。

 

「え!?射撃型を相手に近接武器!?」

 

「無茶だよ!」

 

そう、展開させたのは近接格闘装備であるブレード一つだけ。

だがその展開を皮切りに白いISの動きは少しずつ良くなっていった。

 

今目の前で繰り広げられているレーザーライフルによる精密射撃型とブレードによる近距離格闘型は、戦闘スタイルが正反対であり、一見すると射撃型が有利なように見えるがそうではない、一定の距離さえ保ち続けることができれば射撃型が有利ではあるが、距離さえ詰めることができれば射撃型は効力を生かし切れず格闘型に軍配が上がる。この戦いは如何に自分の距離で戦えるかの勝負である。

 

その後、二十分は過ぎただろうか。

距離は一向に縮まらず、戦況もあまり変わらない。

 

「では、そろそろ…フィナーレと参りましょう!」

 

変わらない戦況に業を煮やしたのか、はたまた今迄のは遊びだったのか、青いISは四基のビットを射出する。そのビットはそれぞれバラバラな軌道を描いて飛行し、レーザーで白いISを狙い撃つ。

 

白いISは危なげではあるがそれらを全て躱して青いISに急接近する。

だがそれは罠だったようで青いISは隠していたミサイルを放つ。白いISは回避行動が遅れ、直撃。爆煙が包む。

 

アリーナに静寂が訪れる。

煙が晴れ、そこに居るはずの白いISは先程より洗練された姿へと変化していた。

 

「なに、どういうこと!?」

 

「織斑君の専用機の形が変わってる!」

 

観客席から声が上がる。

 

「まさか…一次移行(ファースト・シフト)!?」

 

青いISを操る少女が驚いた表情でそう言った。

一次移行(ファースト・シフト)…、確かISが行う変化の一つで、これを行うと正式に専用機になる…って参考書に書いてたような気がする。

 

白いISがその手に持つ新しくなったブレードの刀身が変形し光の刃を放出する。

すると、洗練されたのは姿だけでなくその性能もであり、白いISは一気に加速、はだかるビットを全て斬り伏せ、青いISの正面まで急接近する。ブレードの間合いまで迫り、その刃が青いISを振り下ろされる。

 

誰もが織斑一夏の勝利を確信した瞬間、試合終了を告げる音がアリーナに鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

周囲はおろか、戦っている当人たちすらこの結果は飲み込めないようで、呆然としている。

そのまま教師に促され二人はそれぞれのピットに戻っていった。

 

「…え?結局どういうこと…?」

 

「さぁ…?」

 

ギャラリーには謎が残った。

時花も少し釈然としないが一応覗き見てる立場なのでこの辺で撤収することにした。

 

 

そういえばこうしてIS同士の戦いを見たのは初めてかもしれないなぁ…。

 

 




原作沿いは危ない気がしてならない(;´・ω・)


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第9話 虹彩色の記憶

UAが1,000突破したし、もういいんじゃないかな( ˘ω˘)スヤァ


ある日の放課後、自室に帰ろうとしていた時花は廊下で偶然更識(さらしき)楯無(たてなし)と出会い、いい機会だからと制作中のISを進めるため整備室に来ていた。

 

「やっぱりクラス代表になったのね…」

 

「拒否権なんてなかった」

 

「まぁ、もうすぐクラス対抗戦があるから、専用機持ちの方がある程度有利だったりするからね。…出来てないけど」

 

クラス対抗戦…そういえばそんな行事があるって聞いたなぁ。

たしか各クラスからクラス代表が出場して競い合うとかなんとか。

え、参加しないとダメなの?

 

「それにしてもこのISは変わってるわね。私でもあまり見たことない技術が使われてる。これは何かしら?」

 

楯無(たてなし)が言うのは今弄っている時花のISのことだ。

現在進行形で制作中なのだが、この場に居る全員には一つ疑問があった。

それはISの制作状況が知らぬ間に進んでいるのだ。

前回制作して以降呼び出していないので本来ならば五体さえ揃っていない状態なのだが、今回呼び出した際には完成してはいないが五体が揃っており、一部の鎧のような装備まで付いていた。

そして楯無が触っているのは増えていた箇所の一つ、操縦者の腰元を左右から覆うように付いているスカートアーマー。

 

「ただの装甲…ではなく遠隔無線誘導型武器の一種かしら?」

 

「先輩、こういうことってあるんですか?」

 

こういうことというのは勿論、ISが勝手に開発していることに対してだ。

だが楯無はすぐには答えなかった。

 

「…ISが武器を独自に開発するというのはないわけではない…けどそれは形態変化する二次移行(セカンドシフト)以降の話。完成さえしていないISが自らを開発するというのは聞いたことがないわ」

 

周りに特殊特殊と言われていたけど、これもそうゆうことなのだろうか。

 

「…まぁ気になることは色々あるけど、ここまで形が出来てるのならそろそろ動かしながらしましょうか」

 

そう言うと楯無は時花をISの中心へと誘った。

時花はISに身体を預けるようにもたれかかると、ISは時花の身体を包むように装着されていく。

すると時花の中に何かが流れ込んでくる。

 

 

何!?これ!私の中に何かが流れてくる感じ!

情報?このIS…いやコアの記憶?

初めてあった時と同じであろう黒いIS、海の上を飛んでいる景色、見たことのないISの数々、そしてどこか悲し気な顔の女性。

知らないはずなのにどこか素直に否定できない自分がいる。

 

 

「どうしたの!大丈夫!?」

 

「え…はい…」

 

波のように押しかけて来た情報が引いていく。

それどころか何を見たのかもう覚えていなかった。

ただ…喜びや悲しみが混じった複雑な感情だけが残った。

 

すると、今のに反応するようにISが淡い光を放った。

そして光が治まると、機体は透き通るような白に染まり背部には天使の翼のようなウィングスラスターが追加され、その装甲には赤や青、黄色のラインが入っていた。

時花の目の前にディスプレイがいくつも表示される。

 

「もしかして初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)が終わったの!?というよりもう完成した感じ?」

 

楯無が驚くのも無理はないだろう。

まだ完成には程遠い状態だったのが突然最適化まで終わった状態になったのだから。まるで時間が飛んだように。

 

「調子はどう?」

 

機体を動かしてみる。特に不調はなく各所が生身の身体のように動く。

 

「授業で動かしたISよりも動かし易い」

 

「貴女のことよ」

 

「?大丈夫ですよ」

 

「そう」

 

一体どうしたのだろう?

 

「それで完成したのなら名前が必要ね」

 

名前か…これ自分で付けていいのかなぁ?

その時、ふと脳裏に一つの名前がよぎった。

 

「…虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)…」

 

虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)、ノルンって北欧神話に出てくる運命の女神のことだったかしら?なんでその名前にしたの?」

 

何故と言われても思い浮かんだとしか答えようがないんですが…。

楯無はそれほど答えに期待していなかったのか、さて、と話も作業も切り上げようとした。

 

「あの、ありがとうございました」

 

「また困ったときはお姉さんが手伝ってあげるわ☆」

 

なんかすごい楽しそうだなぁ。

そこで時花は一つ疑問を思い出した。

 

「そういえば、なんでここまで手伝ってくれたんですか」

 

「興味があった…というのもあるけど、本当は…妹にどこか似ていたからかな」

 

先輩の妹?それって…

 

「このあいだの先輩に似た子ですか?」

 

「ええ…ってこの話はもういいわよね。もう夕食だから私はもう行くわ」

 

あ、今もの凄い雑な切り上げ方をされた。まぁいいか。

整備室に残された時花はもう少し自分のISに乗っておくことにした。

 

これが私の専用機。前に見た姿とは結構変わったけどこれでこの子はまた飛べるんだ。

これからよろしく。

 

そこでふと思い出した。

 

 

「あれ?そういえば…武装は?」

 

 

 

 




専用機完成してしまった(´_ゝ`)


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第10話 IS実習

「時花、早く行かないと遅刻するよ」

 

「うん、もうすぐ…」

 

「私たちは先に行くね」

 

待ってはくれないのね。別にいいけど。

 

四月も下旬になり、授業でのIS訓練も始まり、時花はアリーナの更衣室でISスーツに着替えていた。(まぁ中に着てるんだけど)

ISスーツというのはISを操縦する場合に推奨されている専用衣装である。別にこれを着なくても操縦できることはできるが、ISスーツを着た方が身体を動かす電気信号などをISにより伝わりやすくなり操作性が上がるとかなんとか。

 

ちなみに本来ならグラウンドで訓練をするはずだったのだが、なぜかグラウンドに大穴があいているとかで急遽空いていた第二アリーナで行うことになった。(一体誰がそんな穴を開けたと言うのだろうか?)

 

アリーナの中に入ると中心部に担任の宝条と訓練用ISが四機があった。

そして授業は始まった。

 

「それではこれから基本的な操縦をこちらの四機の『打鉄』を使って順番に行ってもらいます。それではまず……お手本として皇さん、ISは展開できますか?」

 

「えー…」

 

いやまぁ機体自体はこのあいだで出来上がったから出来るけど…

なんだろう、事あるごとに使われてる気がする。

 

言われたので一応ISの展開を試みる。制作の時に一度呼び出してるから展開はなんとか出来る。

新たに三色が加わったチョーカーに手を当て集中する。するとチョーカーから淡い光の粒子が溢れ出し全身を覆う。そして次の瞬間、私は『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』を装着し地面から少し浮遊していた。

 

「あれが皇さんの専用機…」

 

「なんというか…綺麗…」

 

「天使みたい…」

 

その場のクラスメイトたちが口々に感想を述べる。

背中の閉じたカスタム・ウィングや腰部前面に付いた小さな羽根のようなスカートアーマーなど『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』は女神の名を持っているが、その姿はどちらかと言うと天使のようだった。

 

「では皇さん、そのまま前進してみてください」

 

宝条に言われる通り、進みだす。

端の方まで着くと早めに戻ってくるように言われたので、少しスピードを出して地面を滑るように移動する。

それにしても、専用機だから?なのか前に試験でISに乗った時と比べると、凄く動かし易い。深く考えなくても思ったように動いてくれる。なにか補助的な機能でもあるんだろうか?あとで調べてみよう。

 

「…では次に飛行を行ってみてください」

 

戻ってくるとすぐに次の指示が出された。休みはなしですか…。

というか飛行ってどうするんですか…。

方法は分からないがとりあえず何かしらイメージしてみる。この子は良い子だから上手くいけばそれで飛べるはず。イメージするのは丁度視界に入った飛んでいる鳥。青い空の中、翼を羽ばたかせて飛ぶ鳥。

すると『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』は意思を読み取ったようで、背中のカスタム・ウィングを広げ、少しずつ空へと浮かび上がっていく。よしやっぱり良い子。

そして少し不安定とはいえ時花の思う通りに飛行する。

 

満足するまで飛行を楽しんだので地上にゆっくりと降り始めると、宝条は次に行っていて地上には四つの列が出来ていた。

 

「では順番にISを操縦して今の流れを行っていただきます」

 

あのー、無視ですか?あ、こっちに気付いた。

 

クラスメイトたちが順番にIS操縦を始めたのを見届けてから宝条は時花に近づいて来る。

 

「さて、じゃあその間に皇さんは次のことをしましょうか」

 

「へ?」

 

みんなが始めたのならお手本は別にいいでしょう?

 

「何でもいいので、なにか武器を展開してください」

 

「えーっと、まだ武装は…」

 

まだない。というかまだ作ってない。前面に付いているスカートアーマーも一応は武器のようだけど使い方わかんないし…。

まぁ、この子のことだから何かしらあるかも知れないから念のためにディスプレイを呼び出し、データを確認する。するとこんなものが見つかった。

 

【生成中 

 現在四十八%】

 

なにこれ?

生成中…ってことは自分で武器を作ってるの?

以前、呼び出してないのにISの制作状況が進んでたのってまさかこれの影響だったりする?いやでもこれは武装の欄だし…うーん。ほんと、良い子なんだけどまだまだよく分からないこのIS。

 

 

それから結局、武器は無いので飛行練習を再度行い、授業は終了した。

また謎が増えた。

 

 




時間軸的にはそろそろ鈴のところかな(´・ω・)?


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第11話 放課後練習

「現在八十二%…前よりは進んでるけど、本当にこれは武装のことなの?」

 

放課後。アリーナにて。

時花は自主特訓のためにISとアリーナの使用許可を貰い、第三アリーナで自分のIS『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』を展開していた。スペックデータの確認などは別にアリーナに来ずとも整備室などで出来るが態々アリーナまで来たのは、ただ単に飛びたかった…という冗談はさておき、色々と確認しておきたいことがあるからだ。

 

「えっと、これじゃない…これでもない……これかな?」

 

前面に複数出現したディスプレイを処理しながら目当てのデータを探す。

そして探していた現在唯一の武器である()()()()についての項目を見つける。

 

「【マルチアシストビット『天使ノ羽根(エンジェル・フェザー)』。状況に応じ斬撃、射撃、防御、補助が可能な装備】…へぇー。見た目の割に意外と凄そう。どうやって使うんだろう?」

 

唯一の装備だから扱い方ぐらいは知っておきたいと操作方法を探してみたが見つからない。

いつものように念じてみても何も起きない。なんでぇー?

 

「お?箒、俺たち以外に誰か使ってるみたいだ」

 

「あまり喚くな一夏、迷惑になるぞ」

 

おっと誰か来たようだ。向こうも言ってるし迷惑になるから静かにしておこう。

 

「あれって専用機か?俺の『白式』と同じ白いISか」

 

「見たことのない機体だな。…じゃなくて、余所を気にしている余裕があるのか?…っておい!」

 

「なぁ、君!」

 

あれ?なんか声がこっちに近づいてきたんだけど。

振り向いてみると、そこにはISスーツを着た男子と長いポニーテールの凛とした印象の女子の二人組だった。片方は関わりがなくても知ってる。織斑(おりむら)一夏(いちか)だ。

 

「もしかして一年なのか?俺たちもなんだ。俺は一組の織斑(おりむら)一夏(いちか)。で、こっちが篠ノ之(しののの)(ほうき)

 

向こうから名乗ってるからとりあえず名乗るだけ名乗っとこう。

 

「三組の(すめらぎ)時花(ときか)です」

 

そう名乗ると、織斑は少し驚いたような反応をした。なぜ?

 

「あー、噂になってた三組の専用機持ちって皇さんのことか」

 

噂って何さ!?初耳なんだけど!

いや…代表候補生でもないのに専用機を持ってたら噂にもなるか…。

 

「それで今は何をしているんだ?」

 

篠ノ之さんからの質問だ。

こうしてみると篠ノ之さんかっこいいね(質問無視)

 

「えっと、基本的動作のおさらいと確認」

 

「そうなのか、実は俺もなんだ。どうせだから一緒にやろうぜ、その方が何かと効率がいいだろ」

 

そう言うと、織斑は自分のISを呼び出し、装着した。

呼び出されたISは突然表示されたディスプレイいわく『白式』という名前らしく、装甲が薄めで小さく収まっている時花の『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』と比べると、大きくてしっかりとした造形をしていた。(これが普通だろうけど)

 

「それで少し教えて欲しいんだけど飛行ってどうするんだ?飛行のイメージがイマイチ分からなくて。それで授業で急下降と完全停止でやらかしてな」

 

「私が丁寧に教えてやったのにまだ出来ないのか!」

 

「あんな説明で分かるか!」

 

どうって言われても私の場合はこの子(虹彩色の時女神)のおかげってのが多いし…。

 

「私のはあまりアテにしない方が良いと思うけど。この子に頼ってるところあるから」

 

「この子…そういえばそのISはどういう機体なんだ?」

 

「いや…実は私にもよく分かんない」

 

この子のことはまだまだ謎が多い

まぁそんなことは置いておいて、とりあえず練習ということでアリーナの中を飛ぶことにした。

私が少しずつ高度を上げると織斑くんも追うように上がってきた。なんだ普通に飛べてるみたい。

何だろう試したくなってきた。

 

「じゃあとりあえずついてきて」

 

私はそう言って少し速度を上げてアリーナの中を周回するように飛行を始めた。 

織斑くんは出遅れた。

 

「一夏!何をしている!早く行け!」

 

「簡単に言うがまだイメージが…っとこうか」

 

少し遅れて白式も飛行を始めた。

追いつこうという意思の表れか時花よりも速度を出している…気がする。

 

そのまま飛行を続け、気が付くとお互いにかなりの速度を出して並走していた。

 

「で、これどうすれば止まるんだ!」

 

「少しずつ速度を落とせば安全に止まるけど?」

 

時花はブレーキを踏んでゆっくり遅くなるようなことをイメージしながらISに止まるように命じる。

するとISのカスタム・ウィングが羽ばたくかのように少し動き、少しずつ速度を落としていく。そして程無くして停止した。今回で単純な飛行ならかなりできるようになった。

 

「一夏!ぐって感じだ!」

 

「だからそれが分かんねえんだって!」

 

ぐるぐる回る織斑に対して篠ノ之が叫ぶが却下された。

うん、私も結構感覚派だけどアレは分かんない。

 

「自転車とかでブレーキかけたりするイメージは」

 

「ブレーキ…ブレーキ…ブレーキ…」

 

呪詛でもかけるかのような必死のイメージによって少しずつ速度が落ちていく。

だが最後で気が抜けたのか、完全に止まる前に白式は落ち地面を転がうように停止した。

 

「いてて…なんとか止まった」

 

「一夏、なんだその有様は」

 

「止まったんだからいいだろ…今までで一番役に立つ説明だった、ありがとう皇さん」

 

いや、礼を言う前にその逆さの体勢をどうにかしようよ…。

まあいいや、お腹空いたしそろそろあがろう。

 

「それじゃあ私はそろそろ戻ろうと思うから、あとはごゆっくり」

 

「おぅ、また機会があれば一緒に練習しようぜ」

 

「一夏、そうやってまたお前は…」

 

「あのー、箒さん、なんで竹刀を持ってるんですか。というかどこから取り出した」

 

「問答無用」

 

「待て待て箒落ち着け!」

 

仲が宜しいようで。

 

 

 

アリーナからの帰り、外はすっかり暗くなっていたのでそのまま学食に行くことにした。

そういえば向かう途中に暗がりの中を立つ小さな人影があった気がするけど何だったのだろうか?

 

 



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第12話 合同訓練

平和な午後。晴れ渡る青い空。気持ちのいい風。

広い大地に上に精鋭が集う―――。

 

「では、今回は特別にクラス対抗戦も近いと言うことで二クラス合同で実戦的な訓練を行います」

 

はい、誤解を生みそうな言い方をしましたが合同授業です。相手は色々ある一組。

この時期に何故合同授業なのかというと、その理由はもうすぐ行われるクラス対抗戦に備えて経験を積むため。

あれ?それだったら手の内を明かすからしない方が良いのでは?

 

「補足しておくが、合同で行う本当の理由は三組の宝条先生が午後不在の為だ」

 

一組の担任の織斑先生が付け足した。

そういえばそんなこと言ってたかなぁ。何故か、態々、私にだけ宝条はそれを伝えて言った。理由は教えてくれなかったけど。

というかそういう時の為に副担任がいるんじゃ…あれ?ウチのクラスの副担任って誰?

 

「他所のクラスだからと加減はせん。覚悟しておけ」

 

織斑先生の宣言にウチのクラスから黄色い声があがった。今度は何だ!

 

「「「キャー、千冬様ぁぁぁぁ!!」」」

 

……IS展開して飛んでていいですかね?テンション高くてついていけない。

当の織斑先生は、またか…みたいな顔で頭を痛めていた。経験済みなんですね。

 

「静かに。早速だがまずは専用機同士での模擬戦を行ってもらう。一組からは織斑、三組からは皇、前へ出ろ」

 

「は、はい!」

 

専用機同士ってところで薄々分かってました…

ウチのクラス今のところ専用機あるの私だけですし…。

 

呼ばれて前へ出る時花と一夏。

 

「まさか皇さんと模擬戦をすることになるとはな」

 

「授業でするのは予想外だった」

 

「このあいだ教えてもらった借りはあるけど手加減はしないぜ」

 

「うん、それでいいよ」

 

「では二人ともISを展開して位置につけ」

 

そう言われ二人は同時に光を纏い自身のISを装着する。

 

「では…始め!」

 

開始の合図が告げられ、先に動いたのは一夏だった。

一夏は刀の形をした近接ブレードを呼び出すと一直線に時花に突進する。

『白式』は以前に戦っているところを見たので戦い方は知っている。射撃は行わず今のようなブレード一つでの攻撃一辺倒。スピードは速いが動きが読みやすい。時花は少し下がってから風に乗るかのように躱す。躱しては距離を取り、また躱しては距離を取る。ひたすら躱し続ける。

 

「織斑!相手の動きを見ろ! 皇!遊んでないでしっかり戦え!」

 

と言われましてもぶっちゃけこれしかすることがない。

天使ノ羽根(エンジェル・フェザー)』は使い方がまだ分からないし、他の武器は生成中だし……ん?生成中…忘れてたけどそういえば今どうなってるんだろう?

 

時花はディスプレイを呼び出す。

複数現れたデータの中にその文字はあった。

【生成完了

 可変式カスタムライフル『天の裁き(ジャッジメント)』】

 

ガンガン行こうぜな相手に射撃武器はどうなんだろう。まあいいや、そこはペースの勝負か。

とりあえず呼び出してみる。すると手の中に光の粒子が溢れ、その光が形となった時、武器の重さが伝わってきた。呼び出されたのは中々の長さのあるライフルだった。

ディスプレイには可変式と書かれていたが、何か秘密があるのだろうか?

 

「私と同じ射撃武器ですわね」

 

「さて、どうなるか」

 

射撃はしたことないけど、この子となら何とかなるよね。

 

「ライフルか、その手の奴はセシリアで経験済みだ…行くぜ!」

 

一夏は再び武器を構え、急接近してくる。今度は単純な直線移動ではなく右へ左へ動き回る。

時花はライフルを構える。すると、ISがそれをサポートしようとするかのようにディスプレイを表示し、様々な情報を与えてくれる。

 

バシュン!

 

銃口から放たれた閃光が空を裂く。直撃とまではいかなかったがその銃撃は『白式』を捉えている。

立て続けに撃つ。一夏はじわじわとダメージを受けながらもその弾幕の中を突き進む。

 

「おおおおお!」

 

弾幕を抜けて時花の正面、その刃が振り下ろされる。

時花は咄嗟にライフルを盾にしようとした。その時―――

ライフルからカチャッという音が鳴り、姿を変える。

全長は伸び、銃身は分かれ、分かれた銃身が取りついた先端部からはビームの刃が形成される。

その姿はまさしく大鎌だった。

 

大鎌のエネルギー刃がブレードを受け止める。

 

「なっ!変形!?」

 

驚きたいのはこっちである。

にしても可変式ってこういう事か。近接の大鎌と射撃のライフルの二つの側面がある武器。

よくもまぁこんな癖のありそうな武器を生成したなぁ。

 

大鎌を振り回し、流れを作るようにブレードを受け流して距離を取る。

こういうのも使ったことないけど自然と身体が動く。ISの補助のおかげかな?

近接武器もあることだし今度はこっちから行こうかな。

 

時花は両手で大鎌を構え一夏に向かって加速する。

大鎌を大きく振るい、一夏はブレードでそれを受け止める。

 

お互いの刃を何度も交えながら次の一手を考える。

そこで時花は一度、距離を取る。

一夏も武器を構え直し、気を落ち着かせる。

 

このままじゃ埒が明かない。じゃあそろそろ賭けにでも…

 

時花は再び特攻をかける。

だがその突撃は一夏を素通りして、一夏を中心に周回を始める。速度は段々と上げていく。

流石に知覚を補佐するハイパーセンサーがあっても追い付けないだろう。

まぁこの作戦、向こうが動いてくれないとこっちも動けないんだけど。

 

「あれは…何のつもりですの?」

 

「何かの罠か?」

 

下から色々聞こえる。

 

「どこから来る……あぁもう、考えても仕方ない、男なら突っ込め!」

 

そう言うと一夏は時花の進路を斬り裂く。だが斬った感触はない。

かかった!

すかさず、時花は一夏の背後に回り、ライフルに戻した『天の裁き(ジャッジメント)』を突き付ける。

白式のアラームが鳴るが反応が遅い。

 

「しまっ…!」

 

時花はライフルの引き金を引き、放たれた閃光が『白式』共々流星となりて地上に落ちる。

 

今回の模擬戦、勝ちは貰ったね。

 

 

 




本家時間軸的には、鈴が宣戦布告に来た日の午後の授業という設定。


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第13話 合同訓練その2

「いてて…」

 

「一夏!大丈夫か?」

 

「一夏さん!大丈夫ですか?」

 

地面に落下した一夏の下に二人の女子を始めとしたクラスの女子が駆け寄る。

IS展開してるし、そこまでダメージはないと思うけど…やりすぎたかな…?

 

ライフルを光の粒子に戻し「収納(クローズ)」、ゆっくりと地面に降り立つ時花。

 

「皇、よくやった。だが遊び過ぎだ。相手がこの馬鹿でなければ終わっていた。もっと経験を積め!で、問題は織斑、なんだその体たらくは。同じ初心者に攻撃一つまともに当てられないのかお前は」

 

褒められたと思ったら怒られました。

織斑くんに対しては何か言おうとした端から拳骨が。あ、まただ。

 

「さて、今のように君たちにも訓練用ISを使って実践経験を積んでもらう。時間が無いので複数同時に行う」

 

織斑先生の言うことを聞き、生徒たちは順番に用意されていた訓練用ISに搭乗し、次々と模擬戦を行い始めた。

 

「一夏、いい機会だ、私と勝負しろ。色々と鍛え直してやる」

 

「お待ちなさい、一夏さんと戦うのは私でしてよ」

 

『打鉄』を纏った篠ノ之さんと青いISを纏ったお嬢様風の女子(セシリアだっけ?)に囲まれる織斑君。なんだろう…二人の背後にオーラ的なのが見えるのは気のせいだろうか?…私怨的なものが混ざってません?

うわぁ、二体一が始まった。お気の毒に…。

 

「時花」

 

二体一の光景を憐れむように眺めていると声をかけられた。かけてきたのは篠ノ之さんと同じく『打鉄』を纏ったシィナだった。

 

「何シィナ?」

 

「勝負しよ」

 

意外な申し出だった。まぁ断る理由もなかった。

 

そして二人は向かい合うように一定の距離をとる。

 

「準備はいい?」

 

「ん」

 

時花は呼び出し大鎌に変形させた『天の裁き(ジャッジメント)』を構える。だが、それとは対称にシィナは構えることはせず、その場に突っ立っていた。

本当にいいのだろうか?

 

「それじゃあ行くよ!」

 

時花は加速、一瞬で間合いを詰め、大鎌を横一線に振るう。

だがシィナはそれに対して、対抗する動きを一切せず倒れるかのように姿勢を低くして躱した。

そして瞬時に抜いた近接用ブレードで鋭い反撃をした。

時花は一瞬シィナが視界から消えたことで反応が遅れ、回避行動をとったが反撃を喰らってしまう。

 

――――バリアー貫通、ダメージ63。実体ダメージ、レベル低。

 

回避行動をとったはずなのに結構削られてる。…って嘘!?

 

その反撃を皮切りに猛攻が始まった。

地上を滑るように後退する時花を標的を捉えた獣のように一切距離を離さず追い回し、何度もブレードを叩き付けるように振るうシィナ。いつもどこか力を抜いてそうなシィナにしてはかなり攻撃的な姿勢。その姿はまるで狂戦士の如く。

 

――――バリアー貫通、ダメージ77。実体ダメージ、レベル低。

――――バリアー貫通、ダメージ53。実体ダメージ、レベル低。

――――バリアー貫通、ダメージ65。実体ダメージ、レベル低。

――――バリアー貫通、ダメージ157。実体ダメージ、レベル中。

 

まだエネルギーがあるといってもこのままじゃまずい。というか痛い!

そう思い『天の裁き(ジャッジメント)』で防御、可能なら反撃を試みるが、その防御さえ掻い潜るようにブレードを叩きつけてくる。

 

――――バリアー貫通、ダメージ42。実体ダメージ、レベル低。

 

もうこうなったら…。

時花は急上昇、空へと移動する。シィナも逃がすまいと飛び上がる。

だが状況は先程とは違った。左右前後の平面的な移動だけだった地上とは違い上下の立体的な移動も加わった時花に対して、シィナは飛行はうまくないのか先程のような狂戦士ぶりは十分に発揮されていない。いける。

 

ライフルに変形させた『天の裁き(ジャッジメント)』で応戦を始める。

第二ラウンドが始まり、空中で光が激しく駆けまわる。

 

「逃げるな一夏!」

 

「一夏さん、逃がしませんわよ!」

 

「なんでそんなに怒ってるんだ二人とも!」

 

地上では一夏対篠ノ之・セシリアの変則バトルが繰り広げられていた。

いつの間にか周囲の生徒の目は二つの戦いに集まっていた。

 

「アレ、模擬戦のレベルじゃないよね!?」

 

「訓練機で専用機と渡り合えるってすごい…」

 

 

 

 

 

 

それから二つの激しい戦いは決着がつくことはなかった。

なぜかって?それは…やりすぎと判断した織斑先生が止めて五人仲良くお叱りを受けたからね。

 




なんで連続投稿できてるんだろ…(´・ω・)?


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第14話 うどん

模擬戦にも関わらず、激しい戦いをしてお叱りを受けた放課後。時刻は七時。

自室でシャワーを浴び終わった時花はシィナと一緒に寮の食堂へと向かった。

 

「今日はほんと疲れた…模擬戦もだけど織斑先生の説教も疲れた…」

 

やりすぎと言われても、こっちもあんな激戦になるとは思ってないんだからしょうがないじゃないですか。

隣を歩く当のシィナはいつも通りだし。あの狂戦士と同一人物だとは思えない。

にしてもあの特攻ぶりも予想外だったな。少し恐怖したよ。

 

「まさかシィナがあんなに強かったなんて。元から学園に入ろうとしてた人はあれくらい強い者なの?」

 

「ん」

 

…あれ?…それだけ?

明確な答えのないまま、食堂に到着した。

タイミングがよかったのか券売機の前は空いていた。

 

「んー。どれにしよう?日替わりは気分じゃないし…魚?…肉?うーん」

 

時花が悩んでいる間にもシィナはさっさと決めて食券を買っていた。買ったのはきつねうどんのようだった。うどん、たまにはいいよね。そう思い時花も同じ食券を買って渡す。するとそんなに待つことなく注文の品が出てきた。二人はそれぞれ自分の品を受け取り、空いている席に腰掛けた。

 

ずるるるっ

 

うどんを咀嚼しながら、模擬戦のことを振り返る。

飛行はともかく、その他の技術はまだまだだ。

シィナのあの特攻は素人目でも分かるぐらいに相手を仕留めに来ていた。

模擬戦だったからよかったものの、もし本当の戦闘になることがあったならば……

 

「ごちそうさま」

 

気が付くとシィナが食べ終わり、席を立とうとしていた。

時花も残りを食べて、食器を返しに行った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

翌日、登校すると生徒玄関前廊下に人だかりが出来ていた。

 

「…なにあれ?」

 

「さぁ…?」

 

人だかりに近づき手前の女子に話を聞くと、どうやらある行事の日程表が発表されたらしい。

それを聞いた時花たちは確認するために人だかりを通してもらうと壁には一枚の貼り紙があった。

その紙にはこんなことが書いていた。

 

 

 

『クラス対抗戦(リーグマッチ)日程表』

 

日付は二週間後。場所は第二アリーナ。

 

第一回戦、1組 織斑一夏 VS 2組 凰鈴音

 

 

 

「織斑くんは一回戦かー」

 

「これは見ないとね」

 

「席とれるかな?」

 

「相手の凰さんって織斑くんの知り合いらしいよ」

 

盛り上がってるな…。これは観客席満員ですわ。

っとそこで肝心の自分の試合を思い出し、その紙の続きを見た。

すると、すぐ下に時花の名前があった。

 

時花の試合は第二回戦だった。

 

 

 




ここに最低文字数制限があることを初めて知った。


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第15話 クラス対抗戦

時間はあっという間に過ぎ、クラス対抗戦(リーグマッチ)当日。

第二アリーナの中央では第一回戦となる織斑一夏VS凰鈴音の試合が始まろうとしていた。

話題の対戦カードということでアリーナの席どころか通路までも生徒で溢れかえっている。

今回の全ての試合はリアルタイムモニターでも見ることが出来るらしく、モニターのある場所には会場に入れなかった人が詰めかけていることだろう。

そういう時花は織斑一夏が飛び出して行ったばかりのピットに早めに来てアリーナとモニターを交互に眺めてる。

 

そんな事を思っているうちに試合開始を告げるブザーが鳴り、それと同時に織斑一夏を衝撃が襲う。

青竜刀のような武器を持った凰鈴音の初撃をなんとか防いだ一夏だったが、その直後、凰鈴音の肩の横に浮いた非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が輝いた瞬間、見えない攻撃に襲われ吹き飛ばされる。

 

「…今何が起こったの?」

 

「今のは衝撃砲…」

 

「衝撃砲?」

 

隣のシィナの呟きに聞き返す。

シィナの説明では衝撃砲は空間自体に圧力をかけて、衝撃を砲弾とする武器らしい。

凰鈴音の使うISは『甲龍(シェンロン)』という第3世代型IS。

第3世代型は操縦者のイメージ・インターフェイスを使用する特殊兵器(…なにそれ?初耳)ようするに集中力が必要な専用武器を搭載した世代。

ちなみにセシリアが使う青いIS、ブルー・ティアーズも第3世代型らしい。

 

立ち上がった一夏は近接ブレード『雪片弐型』を再び構え飛び上がった。

 

何度も互いの刃がぶつかり合い、距離が出来れば衝撃砲が火を噴く。

近接格闘のみの一夏に対して、近接格闘に加え全方位へと放てる衝撃砲がある鈴音。

ペースは確実に鈴音が持っていた。

 

そんな中で一夏が何かを考えるかのように動きを止めた。

不審に思ったのか鈴音も動きを止めた。

 

「鈴」

 

「何よ」

 

「本気で行くからな」

 

その瞬間、一夏の『白式』のスラスターが強く火を吹き、今迄にないほどの加速を得る。

近接格闘でよく用いられる技術の一つ『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だ。

無理な軌道変更は危険なため、軌道が直線のみと単純ではあるが、間合いを一瞬で詰める程の加速が得られることで割と使い勝手が良かったりする。(エネルギー効率を度外視)ちなみに時花は使ったことがない。

時花との模擬戦で使用しなかったことを考えると、対抗戦間際で習得したのだろう。

 

目にも止まらぬ速度の一夏の刃が、ふいを突かれた鈴音へと届く――――ことはなかった。

 

バリィンッ!ドドドオオオオオオオン!!

 

突如としてアリーナ上部に張られた遮断シールドを突き破られ、二人の間を裂く形で第三者が介入した。

二人はその衝撃で吹き飛ばされ、地面からは今の衝撃で黒い煙が上がっている。

 

『試合中止!織斑、凰!直ちに避難しろ!』

 

スピーカーから織斑先生の声がアリーナ全体に放送される。

今の介入によりアリーナの緊急事態用機能が作動し、遮断シールドで観客席が閉じられる。

 

煙の中からはレーザーが幾度となく放たれ、二人は避けるように飛行している。

煙が晴れるとそこには他のISとは確実に違うごつごつとしたシルエットの全身装甲の異形なISが居た。

 

ピットから見ていた時花は行くべきか考えた。

まだピットは閉じられてない。助けに行くべきだろうか。足手まといかもしれない…でも、きっと何か出来ることがあるはず。

 

「これは予想外…だけど好機…」

 

「…シィナ?」

 

時花が考えている隣で、呟きが聞こえた。

まだ閉じられていないピットの中、シィナが突然歩み出す。

呼びかけてもシィナは止まらない。まるで何かを定めたように。

 

「…()()()

 

シィナの身体が淡い光に包まれる。

 

 

 




もうすぐ一巻あたりの内容は終われそう。

それにしても鈴を鈴音と呼ぶ違和感(´・ω・)


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第16話 狂える獣

織斑(おりむら)一夏(いちか)(ファン)鈴音(リンイン)は正体不明のISと対峙する。

 

「で、仮にそうだったらなんだっていうのよ」

 

「そうだったらなら思いっきり攻撃しても問題はないからな。それに、教員の助けを待つにしても誰かはこいつを止めとかないといけない」

 

「はぁ、わかったわよ、それに乗ってあげる。けどやばくなったら即避難するからね」

 

「おう。それじゃあ…行くぜ」

 

作戦が決まり二人が仕掛けようとした時、ピットから見知らぬISが乱入してきた。

そのISは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使っていないはずなのにかなりの速度を出し、正体不明のISへと突っ込んだ。突っ込まれたISはその衝撃で吹き飛び、地面に膝をついた。

敵ISの居た場所に立つ見知らぬISの姿は、先程の敵に劣らぬ程の大きな腕にミサイルのような形のスラスターらしきものを背負っていた。

 

「あれ誰?味方?」

 

「その割にはなんか様子が…」

 

二人が状況が分からずに観察をしているとその操縦者の口が開いた。

 

「やべ、久しぶりで勢いが付きすぎた」

 

軽い口調の割に少しふわふわした声だった。

その声で一夏は聞き覚えがある気がして誰かを思い出しそうになっていると、またピットからISが飛び出してきて、一夏たちの前で止まった。時花だった。

 

「シィナ!急にどうしたの?それにそのISは何!」

 

見知らぬISに乗っているのは、人が変わったかのようなシィナだった。

ピットで何かを定めたかのように動きだしたシィナは突然、どこからかISを()()()()()するとアリーナに飛び出したのだ。時花も追う為に『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』を呼び出し、今に至る。

 

向かい合ったことでシィナのISの情報がディスプレイに表示される。

 

【第3世代型『クレイジー・ビースト』

 近接格闘特化 】

 

 

「うっさいな。どけ、アタシが用があるのはそこの『白式』だ」

 

「俺の『白式』だと…ッ」

 

「アタシはそれを奪うために来た」

 

「シィナ…何言ってるの…?」

 

「アタシの名はC7(シーセブン)だ。邪魔するなら、そのISも貰うぞ」

 

「さっきから聞いてたら好き勝手言ってるじゃない、そこのISもろとも相手してあげるわ」

 

鈴音が啖呵をきると、先程まで止んでいた敵ISのビームが再び放たれる。

シィナは地上、残りの三人は空中へと移動してそれを躱す。

 

「ふん!ならやってみろ!お前らなぞアタシの敵じゃねぇ!」

 

敵ISが放つ弾幕の中、狂獣が咆える。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「これは一体?」

 

「…スパイということか」

 

山田先生の呟きに織斑先生が答える。

 

「『白式』はまだ謎が多い上に所属国家も決まっていない。IS本体もしくはデータを手に入れるために何かしら手を出してくるのは予想出来ていた。まさかこのタイミングでこのような形で仕掛けてくるとは」

 

「そんな暢気に分析してる場合ではありませんわ!私に出撃許可を!」

 

「駄目だ。それに、本人たちはあの様子だ。ここは準備が整うまで任せてみようじゃないか」

 

「あの…織斑先生…それ塩では…」

 

セシリアの申し出を却下した織斑先生がコーヒーに砂糖ではなく塩を入れていることを指摘する山田先生。

冷静を装っているが一応は心配なようだ。

 

「一夏…」

 

祈ることしか出来ない箒はただひたすらに勝利を願う。

 

 

 

 




よし、区切ろう!(;´∀`)


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第17話 乱戦

アリーナでは今でも乱戦が続いていた。

 

「おらおらどうした!」

 

「くっ」

 

「一夏危ない!」

 

「え?うわっ!」

 

「あぁもう!鬱陶しい!」

 

シィナの猛攻を耐えていた一夏目がけて敵ISからビームが放たれる。

一夏はなんとか避け、そのおかげかシィナと距離があいた。

その間に鈴音は敵ISに対して衝撃砲で応戦する。

 

「シィナ!」

 

時花は展開した『天の裁き(ジャッジメント)』を大鎌に変形させ、シィナへと斬りかかる。

シィナは指先からビームの刃を発生させたビームクローでそれを難なく受け止める。

 

「シィナ、止まって!」

 

「さっきからうるせえよ!アタシはC7(シーセブン)だ!」

 

「貰った!」

 

「甘ぇ!」

 

隙を見つけ背後から斬りかかる一夏にシィナは背部に折りたたまれていた鞭のような武器を展開し叩き付ける。その武器はまるで獣の尾のようだった。

 

シィナの戦い方は以前戦った時と殆ど同じ超特攻。というよりこれの存在があってのあの戦い方だったのだろう。違うことといえば、あの時はブレードのみを使っていたのが今は両腕のビームクローに先程のテイルウィップ、背中のスラスターの先端部に搭載された荷電粒子砲を駆使し、あの時よりもさらに速度を増した獣染みた戦い方になったこと。正直に言って厄介である。

 

「一夏、まだエネルギーは残ってる?」

 

「残り二百もない」

 

「こっちも同じくらい」

 

「結構キツイなこれは…」

 

「どうする一夏?数では勝っててもこのままじゃジリ貧よ」

 

一度距離をとり、次の手を考える三人。

幸い、敵ISは離れて会話をしているとそれを聞くかのように動きを止め、シィナの猛攻は脅威だがその高速戦闘の合間には必ず地上で動きを数秒止める癖がある。

 

「先にどちらかをどうにかできればなんとかなりそうだけど…」

 

「手分けして…というのもキツいからな」

 

「どっちもアンタを狙ってるしね」

 

「ほんとなんでだよ……ん?どうした皇さん?」

 

一夏は先程から黙っている時花に気が付いた。

 

 

「え…なんで…」

 

時花には初めてISを見つけた時に会った女性の姿が視えていた。

他が気付いていないということは時花にしか視えていないようだ。

幻覚なのかこのISが見せているのかは分からない。けどその女性は時花に語りかける。

 

「止める為に力が必要?」

 

時花は頷く。

 

「そう。なら使いなさい。使い方は分かるはずよ」

 

その言葉に反応するように『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』から淡い光が溢れる。

女性の姿はもう視えなかった。そういえば…その女性はどこか時花に似ていた。

 

 

【マルチアシストビット『天使ノ羽根(エンジェル・フェザー)』。

 状況に応じ斬撃、射撃、防御、補助が可能な装備】

 

 

前にも見た内容がディスプレイに表示される。けどもう分かっている。

 

「二人はあっちの敵をお願い。私はシィナを止めるから…」

 

「無理よ。そっちのが一番厄介なのに一人でって」

 

「お願い」

 

「…分かった」

 

「一夏!?」

 

「俺たちは向こうの奴を止める。だからそっちは任せた」

 

「うん」

 

さぁ、ここから反撃開始。

 

虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』のスカートアーマーから六つの羽根のような形のビットが射出される。ビットは時花の思う通りに動き、ビットのモードをそれぞれ斬撃、射撃、防御に切り替える。

時花はビットと共にシィナの下へと飛来する。

 

シィナが撃ち落とそうと二基の荷電粒子砲を放つ。

その砲撃には、装甲が開きエネルギーシールドを発生させた防御ビットで防ぐ。

その行動によりシィナに隙が生まれ、そこ目がけてエネルギーの刃を発生させた斬撃ビットを突撃させる。

加速状態なら厄介だが、まだ加速していない状態ならまだなんとか出来る。

 

「チッ!」

 

シィナは振り切るために加速しようとするそれをライフルモードの『天の裁き(ジャッジメント)』と射撃ビットで撃ち抜く。

シィナは思い通りに動けず、着実にダメージが重なっていく。

だが―――

 

「うざいんだよ!!」

 

痺れを切らしたシィナが無理やり加速し、高速戦闘に持ちかける。

しかし、それを読んでいたかのようにビットが動き、妨げる。

 

それでもシィナは加速を続けビットを振り切ると時花の背後へとまわり、爪を突き立てる。

その爪が時花に触れようとする瞬間、時花の姿が霧のように消えた。

 

「!?」

 

シィナは着地し、辺りを探す。だが何処にも時花の姿はない。

あるのはあとの二人と一機、そして時花の操っていたビット。そしてそのビットが上空へと飛んでいく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

さっき何が起こったのかは正直私にも分からない。

けど、そんなことは今はどうでもいい。

次の手が頭に浮かぶ。今はそれに従うだけ。

 

遥か上空で『天の裁き(ジャッジメント)』を構える。すると飛来してきたビットのうち四つが変形し、ライフルの先端に四方を囲むように取りついた。

 

【出力解放『BURST』

 エネルギー伝達選択:SHOOT

 充填率 83%

 集束率 51%】

 

「バースト!!」

 

思い切り引き金を引く。

銃口に今迄以上の光が宿り、地上目がけて一筋の閃光が一直線に空を裂く。

 

閃光に気付いたシィナは回避行動が遅れ、全身にその光の奔流を受ける。

光が全てを飲み込み包む。

激しい光が消えると、その場にはぼろぼろのISの姿が残った。

地上に降りた時花が近づくと、そのISは崩れるように光の粒子に戻り、ぼろぼろのシィナだけが残った。無意識に放った一撃だった気がするが、なんとか加減が間に合ったようだ。

 

倒れるシィナをすかさず受け止める。

 

「こっちはなんとかなったよ」

 

今の一連の行動でエネルギーの殆どを使い果たした。向こうの加勢には行けなさそうだ。

けど、向こうもケリが付いたようで、一夏の光の一撃を受けた敵は動かなくなった。

 

戦いが終わり、一安心したのも束の間。

 

「一夏!まだアイツ動いてる!」

 

鈴音の叫びで事態に気付く。

停止したと思っていた敵が再起動し、最後の足掻きを繰り出そうとしている。

逸早く動いた一夏が敵の放った光の中へとその刃を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 




…実は展開装げふんげふん(;´∀`)




ここで少し忘れていた説明。

時花が使う他キャラの呼び方はある程度統一しているつもりですが、
文中での呼び方は、同じ苗字なら少し表記が変わったり、その場のノリに引っ張られたりします。
例:織斑先生がその場に居る場合。
  織斑君→一夏
 
鈴を鈴音と表記しているのは時花がまだちゃんとした面識がない&一夏呼びに引っ張られたゆえ



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第18話 獣は時の中で眠る

時花は自室のベットで寝ころびながらぼーっとしていた。

外を見るとすっかり夕方になっていた。

 

あの後、敵ISの攻撃の中に飛び込んだ織斑君により敵ISは完全に停止し、当人も軽い打撲はすれど命に別状はないとのこと。敵ISは先生たちが調査ということで何処かへ運んでいった。

そして叛逆とでも取れそうな行為をしたシィナはあの後ISと共に何処かへ運ばれていった。色々と聞かれるのだろうか。

 

今回の件でクラス対抗戦は勿論中止。

だけど、形を変えていずれ埋め合わせがあるというのが噂。

 

それにしても『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』には驚かされる反面助けられた。

今回のようにあの人が現れて助けてくれたり、気付けば遥か上空に移動していたり、まだまだ知らなければならないことが多い。

 

そんな事を考えていると部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

いつもの様子に戻ったシィナだった。

 

「シィナ!?もう動いて大丈夫なの!?というか色々あるんじゃないの!?」

 

「仮釈放」

 

「へ?」

 

よかった。よく知ってるシィナだ。

というか仮釈放って。言いたいことは分からなくもないけど。

 

「前よりも監視はつくけど学園に残すらしい。このISも正式に専用機として持ってていいみたい」

 

そう言って以前は無かった紅いヘアピンを示す。

白い髪に紅いヘアピンって映えるね。

 

「そう…よかった」

 

「なんで…?」

 

「いやまぁ…友達だから?」

 

「友達…」

 

何気なく言った時花の言葉を噛み締めるようにシィナは聞いていた。

 

「…それより疲れたから寝ていい?」

 

「え?あーどうぞ…ってうぇいっ!?」

 

乙女らしくない変な声がでた。

その理由はシィナが時花に抱き着くように寝始めたからだ。

その寝顔はどこか安らいでいて、それを見ているとまぁいいか、と思えた。

 

あ、起きたら皆に謝りに行かないとね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

IS学園の地下深く限られた人しか知らない空間。

機能停止した謎のISはここに運ばれ、そこで数時間に渡り解析が行われていた。

 

山田先生と織斑先生が先程出たばかりの解析結果を確認する。

 

「このISは無人機です」

 

「やはりそうか。で、コアは?」

 

「それが、登録されていないものでした。」

 

「そうか」

 

知っていたような織斑先生の反応に山田先生は疑問を浮かべる。

 

「何か心当たりがあるんですか?」

 

「いや…ない。今は…」

 

「失礼します」

 

そんな中でこの空間に入室してきたのは時花たちの担任の宝条綾香だった。

 

「報告にきました」

 

報告というのはシィナの問題と処遇についてだ。

織斑先生はすぐさま切り替えて話を聞く。

 

「まず、シィナさんについてですが、白式の強奪という命を受け潜入していた『名も無き兵たち(アンネイムド)』所属の強化人間だったようです。今回の事件に乗じて奪おうとしたと」

 

「『名も無き兵たち(アンネイムド)』…国籍も名前も何もなく()()()()()()()の特殊部隊か。それに強化人間か…」

 

「はい。それでシィナさんは保護と自由を保障する代わりに「『名も無き兵たち(アンネイムド)』を脱退し知っている情報を提供してもらうということで承諾してくれました」

 

「それだけで承諾するとは思えないが、他に何か言ったのか?」

 

「いえ、何も。…では私は他にも仕事があるのでこれで失礼します」

 

宝条が出て行く。

それを追うように私も、と思い出したように山田先生も出て行く。

 

 

それから一人残された織斑先生は解析の終わったISを眺めながら一人何かを考えていた。

 

 

 

 




なんか無理やり気味に一巻の内容は終わった(´・ω・)疲れた。


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間章
第19話 チキチキ☆懺悔巡り


その後のちょっとした間章。


色々あって中止となったクラス対抗戦(リーグマッチ)から二日目の夜。

 

時花とシィナは事件の関係者(というかアリーナに居た人もしくはそれを見ていた学校側数人)に改めて謝って回っていた。白式強奪は未遂に終わったとはいえ、あれだけ暴れて、色々と迷惑をかけたのだ。このままだと色々と学園生活でやり辛いこともあるだろう。特に正式に専用機持ちになったので他の専用機持ちとの間で。

言ってみればこれはほぼ時花の自己満足に等しい。

 

何故二日経った今これをしているのかと言うと、事件の次の日つまり昨日、これをしようと考えていたのだが、何故か何時まで経ってもシィナが目を覚まさず、結局目を覚ましたのが夜中だったということである。(寝過ぎ)

授業はいつも通りあったので、みんなから心配された。宝条からは登校拒否かと疑われた。

 

「えっと、先生陣には言ったからあとは主に専用機持ちかぁ」

 

教師陣には既に謝っていた。

学校側には殆どの話がすでに通っていたのでそんなに時間がかかることはなかった。

織斑先生なんてわざわざ来なくていいって言ったからね。

 

それで残りはその場に居た織斑一夏と凰鈴音、あと織斑先生が言うには1組の篠ノ之箒とセシリア・オルコットにも言いに行った方が良いとのこと。…なんか増えてません?

 

寮の廊下を進み、ある部屋の前で止まる。

たしかここだったはず。

 

コンコン

 

「一夏、誰か来たわよ」

 

「ん、はい」

 

扉をノックすると何やら会話が聞こえたあと、扉が開いて一人の青年、織斑一夏が出てきた。

そう、ここは織斑一夏の部屋である。部屋の奥には凰鈴音の姿も見える。なんで?

 

「あれ、皇さん?それに…」

 

織斑君がシィナを見て少し止まった。

何々?と覗き込んできた凰さんも敵意を向けてくる。

 

「えー、この度はご迷惑をおかけしてすみませんでした。ほらシィナも」

 

「すみませんでした」

 

ぺこり

 

突然頭を下げられ織斑君は少し困惑していた。

 

「アンタよくもぬけぬけと!」

 

「まあ落ち着け鈴。こうして謝りにきてるんだからいいじゃないか」

 

そう言われた凰さんは少し釈然としない様子だったが、すぐ切り替えて受け入れてくれた。

結構いい人かもしれない。

 

「それとシィナも正式に専用機持ちになったからよろしく」

 

「…よろしく」

 

「専用機ってまさかあの時のか」

 

まだ記憶にも新しいだろう。

全員の頭にアリーナで暴れた獣のようなISが過った。

 

「うん」

 

「うーん、まあ、色々あったが同じ専用機持ち同士仲良くしようぜ」

 

「アンタはまたそうやって…まぁいいけど」

 

 

 

それから残りの二人、篠ノ之さんとオルコットさんの所にも謝罪に行き、難なく終わった。

ライフルを向けられたりしたけど誠意を見せたら信じてくれた。

そして自室への帰り道。

 

 

「みんな案外受け入れてくれたね」

 

「うん」

 

「少し仲良くなれたし良かったね」

 

「うん」

 

「それじゃあ帰ろうか」

 

「…時花」

 

「ん?」

 

シィナに後ろから呼び止められた。

 

「何?」

 

「…ありがとう」

 

シィナがお礼言うところを始めてみた気がする。

 

「どういたしまして」

 

 

 




全部書くのは面倒だった(;´∀`)


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IS学園(原作二巻)
第20話 整備室再び


ここから二巻の内容に入っていきます。

そんなことより一夏がちょっと外出した日って休日で合ってるの?


「えっと…これをこう?あれ?こっち?」

 

謎のISの襲撃とシィナ(C7(シーセブン))の白式強奪未遂事件から数日。

学園生活は特に問題もなく、平穏な日々が過ぎていた。

(平穏って言ってもIS訓練は平穏とは程遠かったりするけど)

休日の午後、時花は前から気になっていた『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』のことを少しでも知るためにシィナを連れて整備室の一角を借りてISを呼び出していた。

 

「何か分かった?」

 

シィナがスパナを持ちながら聞いてくる。

なぜスパナを持っているのかと言うとISのメンテナンスなどと並行してデータを閲覧しているからだ。

まぁメンテナンスといってもその手のことは素人なのでマニュアルや教科書を見ながらの作業である。

 

「うーん、異様に情報が多くてよく分からない。前にも見たことのある武装のデータとかなら見つかったけど他は関係なさそうなデータとかが多くてね」

 

ディスプレイを眺めながら答える。

何故か自身の武装の他に、前に対峙したISの対峙時のデータなどが項目別に記録されてあったりと、やけに情報が多い(これって他でもあるのかな?)

 

「そういえば気になってたけど…」

 

シィナにしては珍しい切り出し方。どうしたんだろう?

 

「なんであんなに動けたの?」

 

?何のことだろう?

 

「私と戦った時、あれだけダメージを受けたのにまだ動いた。この間なんてあれだけの反撃までした」

 

シィナとはこれまで二度、模擬戦と事件の時に戦った。

その両方で何故最後まで動き続けられたのかということらしい。

何故と言われても、まだ動けたからとしか言いようがない。

 

「どれだけエネルギーあるの?」

 

「?さっき動かしてる時に少し減ったけど、二千ちょっと…」

 

「!?」

 

普段の状態のシィナってあんまり表情変えないけど、今のは驚いたと分かった。

というか、なんでそんなに驚くの?

 

ISというものは性能やコンセプトなどが違っても大抵の機体は多少の違いはあれどエネルギー量は一緒である。

仮に燃費を念頭に置いて作られたISがあっても、それは効率が良いだけでエネルギーの総量自体は一般的なISとあまり変わらない。だが、この『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』は他のISの二倍以上のエネルギーを持っているという。これだけでもかなり特殊であることが分かる。

そんなことにはまだ気付かない時花であった。

 

「ん?」

 

追究するのもなんだからと時花はディスプレイを操作しているとあるものに目が止まった。

それは先程見たデータとは違う別の項目で、ISと思われる名前がいくつか並んでおり、その中の一つを触ってみると、見知らぬISの性能データと設計データが表示された。時花が今見ているのは名前の割に防御的なシルエットのISだ。

 

「『ソード・オルフェウス』…こんなISと見たことないんだけど。というかなんで設計データとかあるの!?」

 

流石に他のISの設計データがあるのはおかしいでしょ!

ほんと…このIS(もしくは使われてるコア)は謎が多い。

 

それから少しして時計を見るとかなりの時間が経っており、丁度いい頃なので二人はISを待機形態に戻してから整備室を後にし、早めの夕食を取ることにした。

 

 

 



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第21話 それは知りたくなかった…

時花たちが食堂に着くと、食堂中が謎の盛り上がりをみせていた。

というか凄い群がってる。

 

お腹空いたのでその集まりは今はスルーして注文する。

時花は今日は焼き魚定食を選んだ。シィナも同じものを注文する。

出来上がった料理を受け取る。

うん、鰤の照り焼きがすごく美味しそう。

 

他の女子たちは、殆ど一か所に固まっているため、割と空いている席が多い。そのため席を見つけるのは楽だった。

 

「いただきます」

 

「…いただきます」

 

早速、鰤の照り焼きに手を付ける。

身は外がカリッとしていて中は解しやすく、口に入れると少し濃いめの味付けがご飯をすすませる。うん、美味。空腹感でよりそう感じさせる。

 

それにしても…

 

「結局あれは何だろうね?」

 

「聞きに行く?」

 

「いや、それは面倒くさい」

 

今食べてるのにわざわざ行くのも面倒だし、行かなくても割と耳を澄ませば聞こえるものだよ?

時花は聞くことに集中する。

 

 

「聞いた?」

「聞いた聞いた!」

「え、何の話?」

「だからあの織斑君の話だって」

「いい話?悪い話?」

「最上級にいい話。聞きたい?」

「聞きたい!」

「まあまあ落ち着きなさい皆の衆。いい?絶対これは女子にしか教えちゃダメよ?女の子だけの話なんだから。実はね――――」

 

 

なんかさらに盛り上がってる。

聞き耳を立てて聞こえたことをまとめると…

・女子にしか教えてはいけない。

・近々、学年別個人トーナメントというものがあるらしい。しかも強制参加。

・そしてそれに優勝した者は織斑君と付き合える。

 

ほうほう。まるで景品のようですぞ織斑氏。

というか、女子にしか教えてはいけないってところで本人発案企画ではないんだろうね。そうするタイプでもなさそうだし。ということは何かが独り歩きしてる感じかな?

まぁ別に付き合う云々に興味はあまりないけど、もっと気になることが他にあった…

 

「学年別個人トーナメントってなにさ!?この前もそういう感じの事したよね」

 

「この前のは中止。それにこの前のはクラス代表だけで、次のは皆参加」

 

うげぇ。

あれ?でもそれだと…

 

「シィナのISって大丈夫なの?その…私が半壊させたようなものだから…」

 

「どうだろう…自己修復中だけど間に合うかは分からない」

 

「なんかごめん」

 

「別にいい」

 

シィナが許してくれたことに少し安堵していると誰かが向かってきていることに気が付いた。

 

「ここいいか?」

 

声に反応し、相手の顔を見るとそこには夕食を持った織斑君と鈴だった。

円状のテーブルだったので時花がシィナの方に寄り、空いた場所に鈴、織斑君の順番に座る。

 

「なあ、向こうのアレって何の集まりなんだ?なんか盛り上がってるみたいだけど」

 

織斑君は例の集まりを気になっているようだ。

やっぱり自分が渦中にいることは気付いてないんだ。

 

「ああ、それなんだけど、学年別個人トーナメントって本当?」

 

「学年別個人トーナメント?あー、月末にあるやつね」

 

「全員参加だから一週間かけてするんだよな」

 

長い…。まぁ全員参加となればそれぐらいかかってもおかしくないか。

 

「どの学年もそれぞれの評価がされるから案外大事なのよ?特に三年にとってはね。一年は先天的な才能評価、二年は成長能力評価、三年は将来のことも絡んだ実戦能力評価ってね」

 

鈴が簡単に説明してくれた。

流石代表候補生、すらすらと説明してくれた。

(失礼な話、鈴はこういうことを雑に流すタイプだと思ってた。)

 

「あー、でもそれ私たちあんまり目立たない方がいいんじゃない?」

 

「なんでよ?」

 

このテーブルに集まる四人は全員専用機持ちである。

その内、鈴以外は少し特殊である。

世界初の男性IS操縦者の一夏、元何処かの組織に属し今は脱退したシィナ、特殊なISを持つ時花。

しかもこの三人はどこの代表候補生でもない。(この前聞いたらシィナも違うらしい)

これは色々と火種になりかねない。

 

「まぁ何とかなるだろ」

 

「そうね。どうせするなら全力でやらないとね」

 

「あ」

 

「あ」

 

「あって何よ。―――あ」

 

「ん?」

 

「?」

 

織斑君と鈴ともう一人の誰かが突然固まった。

もう一人の誰か、今から夕食を摂ろうとしていた篠ノ之さんである。

え、何この状況?

 

「よ、よお、箒…」

 

「な、なんだ一夏か…」

 

なんだか二人の会話がぎこちない。

この二人って結構仲良かったはずだよね?どういうこと?

 

「何、あんたたち何かあったわけ?」

 

「「いや!別になにも!」」

 

見事なシンクロである。

この様子といい、フリのようなシンクロといいなんだろう?真相はともかくさっき聞いた噂の出所ってまさか…いや、そっとしておいてあげよう。

 

「ごちそうさま」

 

こんな状況でもマイペースに食べ進めていたシィナ。

時花もすぐ食べ終わり、二人で逃げるかのように自室へと帰った。あの空気居づらい。

 



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第22話 朝から元気だねぇ…

月曜日の朝。

IS学園にしてはいつもと何も変わらぬ平穏な日。

(聞く人によってはお前はどんな偏見を持っているんだって言われそう。)

……だったらよかったと思う。

 

「え、なになにどうしたの?」

「一組に転校生だって!」

「転校生?」

「しかもなんと男の子!」

「え、男の子!?」

「織斑君のほかにも居たの!?」

「ああ、一組ばっかりずるい!」

 

あ、これ割と平和なやつだ。

SHRが早めに終わり、クラスの女子たちが何やら騒ぎ立てている。

(まだ他のクラスが終わっていないということで一応クラス内に留まってはいる。)

騒ぎの理由は聞こえてきた内容で明白である。

 

SHRが終わる少し前、時花は何かが聞こえた気がした。

それは恐らく、転校生に男子が含まれていると知ったときの一組の反応だったのだろう。

それにしても三組まで聞こえるとなるとかなりの絶叫だったのだろう。え、ハイパーボイスなの?

なんかこうしてはしゃぐ皆を見ていると…

 

「…みんな元気だねぇ」

 

老人になった気分で観察していると隣のシィナから視線を感じた。

 

「…時花は見に行かないの?」

 

「いや別にそこまで興味があるってわけでもないし、今見に行かなくてもいずれ会うんじゃない?」

 

「そう」

 

なんだったんだろうか?

そんなことより、また教室の入り口辺りが盛り上がりだした。

 

「あ、こっちに来たわ」

 

声に釣られて廊下を見ると、ちょうど織斑君と見知らぬ金髪の子が通り過ぎていったところだった。

 

「今のが転校生?」

「織斑君の黒髪もいいけど金髪もいいなぁ」

「まるで貴公子って感じだったね」

「……男同士っていうのもいい……」

 

皆口々に感想を述べる。

というか最後の人大丈夫ですかなにかトリップしてませんか…?

そしてその女子たちを含め大勢の女子たちは、こうしちゃいられないと教室を出て行った。

他のクラスも皆HRが終わったようで喧噪が本格的になってきた。

 

「いた!こっちよ!」

「皆の者、であえであえい!」

 

なんだろう、よくわかんないけど廊下が戦国と化している。

やだ、近づきたくない。

 

「…にしても、織斑君も大変だねぇ。そういう星の下で生まれたんじゃないかな?」

 

「どういう星?」

 

「なんかこう…変わった火種を引き寄せる的な?」

 

引き寄せるどころか当人自体、唯一の男性IS操縦者っていう今の世における大きな火だったりするんだけど。

 

 

それからチャイムが鳴り、大半の女子がギリギリで戻ることができた。危険ですので気を付けましょう。なお、担任の宝条が何かを取りに行って戻ってきたのはさらに五分後だったのでそれすら気づいていなかった。

 

 




本家の時間軸的には転校生のくだりですが、展開はアニメのものを採用しています。
ラウラまだいない。


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第23話 昼休み、屋上にて

「…どういうことだ」

 

開口一番、篠ノ之さんが不機嫌そうに言った。

 

よく晴れた昼休み、時花たちは屋上に居た。

普通の学校なら割と禁止されているところが多いがIS学園はいいらしい。というか花壇はよく手入れされており、円テーブルやイスが用意されているところを見るに、推奨とまではいかないが選択肢としては用意されていたらしい。今度から偶には来ようかな?

ちなみにメンバーは時花、シィナ、一夏、箒、鈴、セシリア、そして噂の男子シャルルという七人。

 

時花たちは少し前偶然廊下で織斑君と出会い、昼食を一緒にどうだ?という誘いを受けたので了承し、購買で適当に昼食を買ってきたのだ。そのついでにちらっと学食を覗いてきたがいつも以上に混んでいて、こっちに来てよかったと思う。

で、来てみると篠ノ之さんが何やら不機嫌なようで…

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

 

「そうではなくてだな……!」

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食った方がうまいだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」

 

「それはそうだが…」

 

織斑君の純粋な返しに篠ノ之さんは言い負けていた。

そういう篠ノ之さんは織斑君にお弁当を作ってきたらしく、手元にそれが確認できる。

このIS学園は生徒のために早朝のキッチンが使えるようになっているため、弁当持参派はこうしてお弁当を用意することが出来る。

すると鈴とセシリアも何やら持参してきたようで織斑君に渡していた。

(鈴に限り、なげつける攻撃)

織斑君は鈴から酢豚が入っているらしいタッパーを受け取り喜んでいたが、セシリアから渡されたサンドイッチを見るとどこか引きつった顔をしていた。鈴もなんか引いていた。なにか問題でもあるのだろうか?

 

「えっと…本当に僕が同席してよかったのかな?」

 

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうが、まあ協力してやっていこう。わからないことがあればなんでも聞いてくれ。……IS関係以外で」

 

急にえらく弱気である。気持ちは分かるけど。

 

「アンタはもうちょっと勉強しなさいよ」

 

「してるって。多すぎるんだよ、覚えることが。…そういえば皇さんってIS関係どこまで覚えたんだ?たしか俺と同じようなスタートだったよな?」

 

「え?」

 

この流れで振られるとは思わなかった。

まぁ時花と織斑君がISの勉強を始めたのは殆ど同時期だろう。

で、正直に言って専門的なことはあまり分からない。

織斑君の言う通り、多すぎるんですって。

 

「いやあんまり…動かすのも殆どこの子(虹彩色の時女神)のおかげってのも多いし」

 

「だよなー」

 

「アンタらねぇ…」

 

鈴が呆れたような顔をしている。そこまでか…

 

「皇さんってたしか一夏と同じで代表候補生じゃないけど専用機を持ってるんだよね?」

 

おぉぅ、突然デュノア君に質問された。

関係ないけどデュノア君って結構女顔だよね。男子って思ってもかわいい。

 

「まぁ…色々あって」

 

くぅぅ~~~

 

皆の興味がこちらに向こうとしていたが、突然の音が場に響き渡った。

音の発生源はシィナだったようで、何かを訴えるような目線をこちらに向けている。まぁ聞かなくても分かるけど。

 

「ほら、そんなことはさておき食べようよ」

 

「そうだな。…箒、そろそろ俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが…」

 

「……」

 

織斑君は無言の篠ノ之さんから無事お弁当を受け取り、皆揃って昼食を食べ始めた。

 

その後、織斑君が餌付けされているような光景に笑ったり、なんやかんや談笑が続いた。

あと、セシリアの料理に引いていた理由がうっすら分かった気がする。

 

私たちは次の授業の準備のために途中で抜けたから、あとがどうなったかは知らない。

ただ…放課後に会った織斑君が残りのメンバーに白い目で見られていた。

お主、一体何をした…?

 

 




最近、本家っぽいタイトルが思いつかない。


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第24話 夜に潜む兎

朝から賑やかだった月曜日の放課後。

白い目で見られていた織斑君と別れた時花は空いていた第二アリーナで自分のISを呼び出していた。

(ちなみにいつも一緒にいるシィナは眠たそうだったので帰らせた。)

 

バシュン!バシュン!

 

ライフルから何度もビームが放たれる。

狙いは前方に表示されているターゲットボード。だがその照準は甘く、四回に一回当たるぐらいの命中率。

 

「三十点」

 

「厳しくない!?宝条さんなんか恨みでもあるの?!」

 

宝条綾香が厳しく採点している。

何故、放課後なのに宝条がこの場にいるのかと言うと…

先程、時花が射撃の練習をしていると突然口を出してきた人が居たのだ。それが宝条であり、今暇だから見てあげるとのこと。あまり説明になってない気がするがその通りなのだ。

ちなみに時花は宝条を担任だけど先生とは呼ばない。学校前に会ってるし、入試の時に思いっきりブレードで打たれてるから。

 

「これでも命中率上がってるよね」

 

「動かない的相手でこの精度は問題よ。ISの補助があるとはいえ貴女よく対人戦闘で当てられたわね…」

 

なんかすごい呆れられてるんですが。

自分でもよく相手に当てられたなって思ってますよ。

 

「そういえば聞きたかったのだけれど、この間の戦闘のデータを見たけどあの最後の一撃は何?あんな無茶苦茶な出力を出しておいて」

 

このあいだ、恐らく事件の時のことだろうな。

あの一撃に関しては自分でもよく分からない。気付いたら起動していたし、それを何故か扱えていたこともよく分からないし。

 

「あの…何だっけ?バースト?ってやつ?あれに関してはどうすればいいのか今でも分からないんですよね。システムの一つではあるみたいだけど」

 

「あの高出力がシステムの一つ?唯一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)ではなくて?」

 

聞き返されても困るんですが。そもそも唯一仕様能力の規模って知らないし。

 

唯一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)というのはその名の通り、そのISだけが使える特殊能力である。

本来は第二形態以降の機体が操縦者と最高状態の相性になったときに発現するとされている。されているといっても発現しない場合が殆どの希少な力。噂では織斑君の『白式』が第一形態からこの能力を使用できるらしい。理由は知らない。

時花もつい最近この能力の存在を知った。

 

「データを漁ったら存在は確認できたけど、使い方がイマイチ掴めないんだよね。一度使ってるから使えないってことはないだろうけど」

 

時花が言う通り、呼び出されたディスプレイには【出力解放『BURST』】と表示されていた。

 

「使えたら結構応用が利くみたいなんだけど、その分燃費がなぁ」

 

このシステムもだけど、特殊武装の『天使ノ羽根(エンジェル・フェザー)』も状況に応じて用途を使い分けられる分、使い方によってはエネルギーをかなり消費する。エネルギー総量が多いから気にしてなかったけど、もしかしてこの子案外燃費悪い?

 

「…まあいいわ。さて、もう少し射撃の練習をしましょうか。出来れば二回に一回は当てられるようになってもらわないと」

 

「うげぇ…」

 

これいつまで続くんですか…

そろそろ切り上げてもいいですかね?だめですか、はい。

結局特訓は夜まで続いた。命中率はそこそこ上がった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

射撃音が響く第二アリーナの端の陰から時花の特訓を観察していた小さな人影があった。

その人影は小さく、腰近くまで伸びた銀髪と左目の黒い眼帯が印象的だ

 

「あれが奴とは別に報告のあった機体か」

 

「データには無かったが、あの程度なら私の敵ではないな。

障害になるようなら排除したが、その価値もない」

 

「あの男だけは…織斑一夏だけはこの手で…」

 

銀色の少女は闇に消えていく。

 

 




唯一仕様?単一仕様?
あれ、どっちだっけ(´・ω・)?


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第25話 銀色風声

次の日。

 

「そういえば聞いた?また一組に転校生だって」

「また一組に」

「一組ばっかりずるくない?」

「今度はどんな子?」

「今度は軍人みたいな女子」

「軍人かぁ、話しかけづらそうだなー」

「ちっちゃくてかわいいんだけどねー」

 

昼休みに入った途端これである。いや、昼にこの会話だから遅い方か。

というかまた一組に転校生なんだ。これはもう…

 

「ほんと織斑君はそういう星の下で生まれたんじゃないかな?」

 

「時花、それ昨日も言った」

 

「うん、知ってる」

 

昨日も言ったのは覚えてるが、言わずにはいられなかった。

多分、機会があればこれからも言うことだろう。

 

とまあ、そんなことはさておき、昼休みになったので時花とシィナは学食へと向かった。

その道中、戦国みたいなノリの予感がしたが気のせいだろう。気のせいであってほしい。面倒だから。

 

 

学食に着くと、案の定混んでいた。

何故混んでいるかは学食の中央辺りに、新たな男子を加えたいつもの面々が居るからね。

定食を受け取った二人は、こちらに気付いた織斑君に誘われ、そのメンツに加わる。

 

「で、どこまで行ったっけ?」

 

「一夏さんが女性の方との縁が多いというところまでですわ」

 

席に着いたらなにやら穏やかではない空気が…。

セシリアが既に不機嫌そうだ。

 

「今朝、一夏が転校生のボーデヴィッヒさんにビンタされたんだよ」

 

状況が飲み込めずにいると、デュノア君が小声で教えてくれた。

ほら、織斑君は何かしら引き寄せるし、そういう星の下に生まれたんだよ。

 

「一夏、なにか心当たりはないのか?」

 

「ないっちゃないけど…大体予想はついてる」

 

「なによ、アンタが昔何かやらかしたんじゃないの?」

 

「ちげぇよ。俺は会ったのは今日が初めてだから、多分千冬姉絡みだと思う」

 

「たしかに、織斑先生を教官と呼んでいたから何か関係はありそうだね」

 

つまり二人目の転校生は織斑先生の昔の生徒か何かで、とある事情で織斑君に恨みがあると。

え、何、今度は殺伐としそうなものを引き寄せたの? というか軍人みたいなのが昔の生徒となると織斑先生は何者?いや、織斑君のお姉さんか

 

「結構敵意あったから何かしてくるかもしれないよ。気を付けないとね一夏」

 

「おぅ」

 

デュノア君に対して織斑君は大丈夫だというような返事を返す。

ふと時花はそういえば…と、あることを思い出す。

 

「織斑君の『白式』って唯一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が使えるって聞いたんだけど本当なの?」

 

「ん?ああ『零落白夜』な」

 

「バリアー無効っていう超攻撃特化だけど、そこまで対処が難しくなくて放っておけば自滅しかけるアレね」

 

「一度それでセシリアに負けているからな」

 

噂は本当だったようだ。

にしても凄い言われようだな。

 

「そこまで言わなくてもよくないか…」

 

「本当のことでしょ?防御分のエネルギーまで攻撃に回してるから喰らえば絶大だけど、攻撃方法は変わらず馬鹿正直だから不意を突かれない限り結構読めるのよ」

 

「う…」

 

こうして聞くと、唯一仕様能力も癖のある能力なんだなぁ。

それにしても、『白式』の唯一仕様能力って『BURST』システム(仮で命名)に少し似てるな。

…バリアー無効化までは出来ないだろうけど。

 

 




急に終わる。


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第26話 事前学習

「『パッケージとはISの換装装備一式のことであり、その中には特定のISの機能を伸ばす為の専用パッケージ、オートクチュールも存在する。』

…へぇー、そんなのもあるんだ。私の『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』のは流石に無いだろうけど」

 

教科書に載っている簡単な説明を読む。

時花はISに関する知識が周りより遅れているので、こうして偶に自室で予習・復習をしているのである。分かっていたことだけど、こういう専門的なことって専門用語が多かったり、変わった読みをするときあるよね。初期化(フィッティング)とか最適化(パーソナライズ)とかその他諸々。いくつか伝わらないこともないけど。

 

「シィナのISには何かあったりするの?」

 

「知らない。そもそも要らない」

 

パッケージにはそこまで関心がないご様子。

まぁ、シィナのIS『クレイジー・ビースト』は今の段階で、もうパッケージ入ってるんじゃないかと思うぐらい地上での高速戦闘に特化した性能だったからなぁ。その分、飛行能力が極端に低いけど。ISは宇宙空間での活動を想定されたものなのに。

 

「…修復まだかかりそう?」

 

「もう少しで修復終わると思う」

 

「そう、よかった」

 

修復が長引いたら長引いたで目覚めが悪いからね。壊したの殆ど私だし。

 

「そういえば、シィナのISって後付武装(イコライザ)とかって無いの?武器を呼び出したりしたようなところ見たことないけど?」

 

時花は先程教科書で用語を思い出し、口にした。

ISには基本装備(プリセット)後付武装(イコライザ)という武装の分類がある。

虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』に当てはめてみると、初めから搭載していた特殊武器の『天使ノ羽根(エンジェルフェザー)』が基本装備(プリセット)で、後から増えたカスタムライフル『天の裁き(ジャッジメント)』が後付武装(イコライザ)に該当するだろう。

さらに、ISは武器など(主に後付武装)を量子化してデータ領域内に収納することが出来るが、だからと言っていくらでも収納しておけるわけではなく拡張領域(バススロット)というものが決まっている。そもそも多く持っていてもうまく扱いきれない

 

「ない。そもそも後付武装を使わなくても戦えるように作られてるから」

 

言われてみると、『クレイジー・ビースト』は両手にビーム刃のクロー、背部に荷電粒子砲とテイルウィップ、と基本装備だけでも十分戦えるようになっている。

だけどそう納得すると同時にISの在り方が兵器から少しずつ変わりつつある現代において今なお戦闘の為だけに存在していると分かってしまった。

 

コン、コン

 

そんな時、部屋の扉がノックされた。

扉を開けるとそこには宝条綾香が立っていた。

 

「二人とも今少しいいかしら?専用機に関する書類を書いてもらいたいの」

 

「へ?」

 

「二人は事情が少々特殊なの。特に皇さんはね」

 

うへぇ…

 

その後、二人は宝条に連れられ職員室に行き、かなりの数の書類を書かされた。

時花にはさらに追加でデータ採取というの名のよく分からないことをされた。

終わって帰った頃には食堂が閉まりかけていた。

 

 



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第27話 ブルー・デイズ

タイトルが思いつかない…

なぜか分けた…レッドの方はまた後に


土曜日の午後。

午前だけの授業を終え、時花はISの特訓をするためにアリーナへと向かう。

 

土曜日はアリーナが開放されているため、多くの人が実習の為に各アリーナに詰めかけている。

時花が来た第三アリーナも例に漏れず、貸し出された訓練機の『打鉄』や『ラファール・リヴァイヴ』を動かす生徒が所狭しといた。アリーナの端の方には見知った顔もあった。

 

「だからね、一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速(イグニッション・ブースト)って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

 

「直線的か…」

 

「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

「……なるほど」

 

先生、私の横に凄い速度で動き回った人が居るんですが?瞬時加速は使ってなかったらしいですが。…ってそうじゃなかった。

 

どうやら織斑君がデュノア君からレクチャーを受けているようだ。

というか手前の三人は何やってるんだろう…。

後ろ姿でも分かったけど、箒と鈴とセシリアが少し高い位置に居る男子二人を覗くように見ている。

…まぁいいか、忙しいみたいだから邪魔しないでおこう。

 

時花は自分のISを展開し、早速ディスプレイを操作する。

昨日の自主練習中に分かったかも知れないことを試す。

 

【出力解放『BURST』

 エネルギー伝達選択:BOOSTER

 充填率 23%

 展開率 10%】

 

数値が上がっていくのに合わせて、少しずつ機体が淡い光を帯びていく。

イマイチ扱い方が分からなかった『BURST』システムだったが、手動で出来ることが分かった。

そして今回試してみたがなんとか発動には成功したようだ。

選択したのはBOOSTER、恐らく攻撃関係ではなくスラスター関係だろうと予想しての選択である。

すると予想は間違っていなかったようで、噴出に加えカスタム・ウィングの装甲が開き、そこから光の粒子が溢れ出して大きな光の翼を形成する。おまけに射出していないスカートアーマーの『天使ノ羽根(エンジェルフェザー)』までも装甲が開き、粒子が溢れている。え、こっちも!?

 

「時花、どうする気?」

 

「いやぁ…どうしようか?」

 

ここまで光だらけになるのは流石に予想外である。

とりあえず…飛んどく?

 

浮き上がってみると、『天使ノ羽根』からも本格的に光が噴出し、思わぬ速度でアリーナの上空を飛び回る(パニックにつき操作不能)。突然の光る飛来物に周りの目が集まるが、当然そんなことに気付く余裕もない。この半暴走飛行がいつ終わるのかと思っていたら、そんなにエネルギーを回していなかったのか、少しすると徐々に速度が落ちていき、光翼が消えると普段通りに戻って着地した。

 

「…時花大丈夫?」

 

「…なんとか…」

 

駆け寄って来た割にはシィナがいつもの調子で聞いて来る。

ISの保護のおかげで気分が悪くなったりはしてないけど、急に予想外の速度出したものだから、結構驚いてます。ちなみにエネルギーは全体の四分の一ほど減った。

 

「皇さん!何なんださっきのは!?」

 

さっきまで射撃練習をしていた筈の織斑君たちが近づいて来る。

まぁ、あれだけ暴走紛いの飛行してたら流石に気付くよね。

 

「なんと言いますか…最近知ったシステムの練習を…」

 

「そんな悠長なものじゃなかったと思うんだけど…」

 

デュノア君の心配そうな視線が純粋すぎて痛い。

はい、パニックと暴走をしてました!

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

アリーナ内に新たなざわつきが生まれ、その視線の先を見る。

そこには漆黒のISを纏う銀髪の少女がいた。片目には眼帯をしていて全身からは冷たい印象を受ける。

 

「……なんだよ」

 

織斑君が突然喋り出す。恐らくISの開放回線(オープン・チャネル)で会話をしているんだろう。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない…!」

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

突然、漆黒のISの左肩に装備された大型の実体砲が火を噴いた。

初撃に対し、時花は『天使ノ羽根』を射出し防御形態にして展開し、ISを展開していた織斑君とデュノア君は後退して躱す。躱されたことをみて続けて放たれた砲撃はデュノア君が織斑君の前に出るように盾を構え、弾く。

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様……」

 

挑発を返すデュノア君の手にはいつの間にかアサルトカノンが展開されていた。

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

騒ぎを聞きつけたのか、アリーナのスピーカーから声が響く。

この声に気を取られ、再び銀髪の少女の方を見ると、いつの間にか姿が消えていた。

今の会話や流れを考えると織斑君に恨みがあることが分かり、あれが噂のラウラ・ボーデヴィッヒだとは予想できた。

 

「みんな、大丈夫?」

 

「あ、ああ。助かったよ」

 

「今日はもうあがろっか。四時も過ぎたし、どのみちアリーナの閉館時間だしね」

 

そのデュノア君の提案に従い、この日は皆訓練を切り上げることにした。

 

 




月が変わったんで、少しここをお休みにして
他のサイトの方を更新してきます。

あと、今更感想(というか独り言への回答)を頂いていることに気付いた。
ややこしいんですよねアレ。そういうわけでここではワンオフは単一仕様と表記することにします。

公開してない設定の部分で、唯一の唯一仕様って書いたらおかしなことになったので(笑)


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第28話 一夏チェイス

久しぶりに二次創作書くなぁ。


久しぶりに書くのが箸休め回という…


ラウラ・ボーデヴィッヒの襲撃から一夜明け、日曜日の朝。

少し遅めの朝食を取り終えた時花とシィナは今日の予定を考えながら廊下を歩いていた。

 

「どうしようかなぁ…」

「訓練する?」

「流石に毎日訓練してるから今日ぐらいは休みたい」

 

専用機を持ってるとはいえ、ISに関する知識は疎か技術でも他の生徒より遅れている時花は、毎日放課後にアリーナで可能な限り自身のISを起動している。とはいえそれでも平均ぐらいに動かせるようになったほど。隣を歩くシィナや他の代表候補生のようにはまだいかない。そもそも時花の『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』は少々特殊すぎるのだ。

 

「そういうシィナは訓練しないの? そろそろ修復終わってるんじゃないの?」

「修復はもう少しかかる。…それに…時花がしないのならしない」

 

お、おぅ。

最近のシィナはこうして時花に予定を合わせてくることが多い。別に迷惑ではないのだが、…なんかこう…ね?

と、そんな二人の視線の先で扉が開かれて二人の人物が中から出てくる。

 

「それじゃあ…行くか…?」

「そ、そうだね…」

 

現れたのは織斑君がデュノア君だった。少々距離がある為、二人は後ろに居る時花たちには気付かずにそのまま立ち去って行く。

それにしても、昨日見たときは仲が良かったのだが、今は何やらよそよそしさを感じる。気のせいだろうか?

 

「何処に行くんだろ?」

「?」

 

デュノア君はいつもの制服だったが、織斑君は制服とは違うものを着ており恐らく私服だったのだろう。そのことから考えるに学園の外に出かけるのだろうか?

 

「外か…そういえばこっちに来てからあんまり行ったことないなぁ…」

「…行きたいの?」

「…言われるとそうかもね。折角だから私たちも外に行こうか」

 

IS学園は色々と機密などがあるからなのか、私用で学園の外に行くためには外出届を提出しなければならない為、まずはそれを書きに行こうと二人は歩き出した。その時だった。

 

「こんなところで何してんのよ?」

 

振り返るとそこには随分とラフな格好の鈴が居た。朝食を終えたばかりなのだろうか?

 

「鈴? いや、これから外に出かけようかと思ってね」

「ふーん。」

「そういえば、さっき織斑君たち見たよ? 私服着てたから多分外に行くんだと思う」

「え、一夏が!? 何しに!」

 

織斑君の名前を出しただけでかなり喰いついてきた。目的が分からないけどデュノア君が一緒だったことを伝える。

 

「あいつら…朝から一体何しに行くんだろ…気になるわね…」

「二人で出かけただけじゃないの?」

「それでも何か気になるじゃん。そういえば時花たちも外に行くんでしょ。私も行くからちょっと待ってて」

 

え、あの、私たちは別に追う為に行くわけでは…。あ…行っちゃった

何かを言うよりも先に鈴は走って行ってしまい、仕方ないので待つことにした。

 

それからあまり時間がかかることなく、制服に着替え直した鈴が戻ってきては鈴に連れられるまま、織斑君たちの後を追う。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

駅での待ち時間などもあり、織斑君たちにすぐに追いつき、本格的に尾行を始める。

二人は駅を出ると、近くにあるお店に入って行った。

 

「なにここ?」

 

「喫茶店…だね?」

 

店の前に出ている看板を見ると、このお店は抹茶を扱っているらしい。抹茶風味などではなく割と本格派な。とはいえ外から窺えるお店の雰囲気的には茶道よろしく和室というわけではないようだが。

 

「抹茶ってあの抹茶? あたしアレあんまり好きじゃないのよね」

「私もそんなに…というよりあんまり飲んだことないかな」

「私も」

 

抹茶カフェということで中まで入ろうとはしない三人。

織斑君が好きなのか、デュノア君のリクエストなのかは分からないけど、織斑君たちはこれを目的に来たのだろうか?

 

「それでどうする? 二人の目的はここだったみたいだけど」

「流石にここは遠慮しとく。…折角外に来たんだし、あたしも二人に付き合おうかな。二人は何しに来たのよ?」

「私たちは―――」

 

それからは三人で駅前を観光することとなり、昼を少し過ぎた頃に学園へと帰った。

 

 

 

 



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第29話 レッド・スイッチ

予想以上に展開が変わったなぁ…


月曜の朝。

 

「二人とも、おはよう」

「あ…デュノア君、織斑君、おはよう」

「…おはよう」

「おう、おはよう……ってどうしたんだ、かなり眠たそうだけど?」

 

教室に向かって廊下を歩いていた時花とシィナは、同じく自身の教室へと向かっていた男子二人に出会い、軽い挨拶を交わす。その中で織斑は今にも寝そうな顔の時花を不思議に思った。

 

「いやぁ…昨日の夜に参考書眺めてたら、変に頭が冴えて中々寝付けなくて…」

 

寝坊はしなかったので遅刻ということにはならなかったのだが、いつもよりも睡眠時間が短い為か、その足取りは妙に悪い。

 

「あー、あの電話帳みたいに分厚い奴か。俺も一週間で覚えろって言われたりしたなぁ…」

「やっぱりあの分厚さは異常だよね?」

「だよな」

 

そんなことを話している内に一行は織斑君たちの教室の前まで着いた。すると中からは廊下にまで聞こえる程に賑わっていた。

 

「なんだ?」

「さあ?」

 

謎の賑わいに対して頭に疑問符を浮かべながらも教室へと織斑君が入っていく。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき――」

「俺がどうしたって?」

「「「「きゃああっ!?」」」」

 

織斑君が賑わいの中心と思われる女子の集団に声をかけると、その集団から悲鳴に近い声が上がる。よく見るとその中にはセシリアや鈴の姿も確認できた。そして集団は織斑君の登場を機に次第に自身の席やクラスに散らばっていく。

 

全部聞こえたわけではないけど、大体の予想が出来た。

恐らく学年別トーナメントの景品についてなんだろうな。当の織斑君はまさか自身が景品になっているということを未だに知らないようだ。いっそのこと言ってしまうと言う手もあるが、少々言い辛い空気があるのでやめておこう。

 

「…私たちも行こっか」

「?」

 

日に日に話題が大きくなっている気がするが、今は放っておこう。

折角寝坊は防げたのにこのまま突っ立っていると本当に遅刻しそうだから、イマイチピンと来ていないシィナを引っ張って自分たちのクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

時花とシィナは今日も今日とてISの特訓の為に、空いていると言う第三アリーナへと向かっていた。今日からはシィナのISの修復が終わったことで人が少なければ模擬戦をすることも可能だ。シィナのIS捌きは相変わらず荒いけど。

 

「じゃあシィナも特訓するの?」

「うん。相手出来る」

「なら、少し練習した後に軽く模擬戦しようか」

「うん」

 

二人は第三アリーナに付くと、すぐに更衣室へと入って手早く着替えを済ませてステージへと向かう。すると既に生徒が居るのか、なにやら声が聞こえた。それも争っているようだった。

 

「何だろう?」

 

聞こえてくる声は複数。それも知っている声だ。誰だろうと記憶を手繰り寄せているとステージの方から大きな衝撃音が響き、建物が微かに揺れる。

 

「今度は何!?」

「…行こう」

 

二人は急いでステージへと出るとそこにはISを展開して戦闘を行っている三人の姿があった。

一人は青い機体を纏うセシリア、一人は赤黒い色合いの機体を纏う鈴。そしてそれらを相手取る黒い機体。その機体に乗っているのは先日も織斑に敵意を剥き出しにしていたラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「どういうこと!?」

「知らない。…けど二人はやられてる」

 

代表候補生であるセシリアと鈴の機体は既にボロボロで二人もかなり消耗している。それに対してラウラ・ボーデヴィッヒは平然な顔をしている。まるで一方的に行われたように。

 

セシリアと鈴はまだ戦意を失っておらず、連携とまではいかなくてもそれぞれラウラに対して攻撃を加える。だが、ラウラはそれを意図も容易くあしらい型に装備した大きなカノンで砲撃を返す。とはいえそこは代表候補生、直線的な攻撃なら躱せる。その時、回避行動をとろうとしたセシリアの動きが突然止まり、砲撃をもろに受けて吹き飛ばされる。それに気を取られた鈴もラウラに至近距離まで近づかれて強烈な一撃を叩きこまれる。

 

「何…これ…」

「あの黒…戦い馴れてる……時花、先に行ってる」

「え…?」

 

目の前で行われる惨状に時花は動けないでいると、シィナは駆けだして淡い光を纏う。そして次の瞬間、修復したばかりのIS『クレイジー・ビースト』を展開して加速する。

 

 

 

 

 

 

セシリアは全方位から狙撃をするためにビットを射出する。だが、ラウラが両の手を向けるとそれは空に散らばるよりも先に低い位置で停止する。

 

「ふん……。理論値最大の稼動のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」

 

ラウラが再び肩の大型カノンをセシリアへと向ける。その時―――

ラウラは猛スピードで接近してくる第三者に気付き、後方に跳ぶ。するとかなりの速度を伴った突進を受けてセシリアから引き剥がされる。かなりの距離押されたラウラは手首からプラズマを発して展開したプラズマ手刀で乱入者の爪を受け止めていた。

 

「随分と穏やかじゃねえなオイ!」

 

気性の荒くなったシィナはビームクローで力勝負に持ち込む。それに対しラウラは特に焦った様子も無く相手を見据える。

 

「近接格闘に特化した第3世代型IS『クレイジー・ビースト』か…その名の通り獣のように動きが単純だな」

 

ラウラはその体勢のまま大型カノンをシィナに向け、銃口に光が宿る。

 

「悪いが獣は直感もいいんでね…!」

 

『クレイジー・ビースト』の背中のロケット型スラスターに搭載された荷電粒子砲の砲門が開き、カノンの砲撃に合わせて発射する。二つの砲撃が相殺し合い、二人は互いに反対に吹き飛ばされる。

 

それでも怯むことなくラウラはすぐにシィナに向けてワイヤーブレードを展開する。その刃は的確に狙いを澄ませておりあらゆる方向かシィナへと向かって行く。だが―――

 

ガイィン!

 

全ての刃が、防御に切り替えエネルギーシールドを展開した"天使ノ羽根"によって防がれる。

 

「遅れてごめんシィナ!」

「ナイスタイミング」

 

『虹彩色の時女神』を纏った時花がシィナの下に駆けつける。

 

「鈴とセシリアは?」

「そこらで休んでるさ」

 

周囲を確認すると、機体へのダメージが大きく動くことは出来そうにないが二人は無事なようだった。

まだラウラはやる気なようで、シィナはビームクローを、時花は可変式カスタムライフル『天の裁き』を構える。

 

「次から次へと…」

 

「鈴! セシリア!」

 

睨みあい、少しばかり静寂が訪れる中、男の声は響いた。

声がしたのはアリーナのピットからであり、そこには『白式』を展開した織斑一夏の姿があった。

 

「織斑君!?」

「織斑…一夏ッ!!」

 

織斑君はピットを飛び出し、右手に呼び出した雪片弐型でラウラに斬りかかる。織斑一夏の登場を察したラウラはワイヤーブレードを織斑君へと放つ。織斑君は瞬時加速でワイヤーの間を掻い潜って急接近する。

 

「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

雪片弐型の刃が届く瞬間、織斑君の動きが止まった。まるで見えない何かに捕えられたように。

 

「な、なんだ!? くそっ、体がっ……!」

「やはり、敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の一つでしかない。―――消えろ」

「一夏っ、離れて!」

 

大型カノンの砲口が織斑君へと向いた時、弾雨が降り注ぎ、ラウラは後退する。

そのおかげか自由が戻った織斑君が、守るように鈴とセシリアの前まで退く。織斑君とラウラの間にはISを纏い手には二丁のアサルトライフルを持ったデュノア君が入る。先程の弾雨はデュノア君がやったのだろう。

 

「また貴様か…面白い。世代差というものを見せつけてやろう」

 

皆が再び警戒する。だが、それは新たに乱入してきた影で消え失せた。

 

「そこまでにしておけよ、馬鹿者共が」

「ち、千冬姉!?」

 

現れたのは、いつもと同じスーツ姿を身に纏い、一組の担任であり織斑一夏の実姉でもある織斑千冬だった。

織斑先生が登場したことでこの場の全ての戦意が消えた。あのラウラですら。

 

「模擬戦をやるのは構わん。だが程度は弁えろ。この戦いの決着は学年別トーナメントででもつけてもらおうか」

「教官がそう仰るなら」

 

ラウラは素直に頷き、ISの装着を解く。すると黒いアーマーは光の粒子となって弾けて消えた。

そしてラウラは静かにアリーナから立ち去って行った。

 

「お前たちもそれで構わんな」

「あ、ああ…」

「教師には『はい』で答えろ。馬鹿者」

「は、はい!」

「僕もそれで構いません」

「私たちもそれで構いません。そもそも私たちは直接は関係ないので」

「ん」

 

全員の返事を聞いてから、織斑先生はアリーナに居る全ての生徒に聞こえるように言い放った。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

パンッ!と強く手を叩く。

その音はその場に、空に響き渡った気がした。

 

 




本当ならもう少し詰め込もうとしたんだけど、疲れたから分けよ


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第30話 朱に染まりながら

ちょっと危ない


場所は保健室。

第三アリーナの一件でISに大きなダメージを受け、命には別状はないものの操縦者にも打撲といったダメージが現れた鈴とセシリアを運び込み、治療をしてから小一時間が経った。

 

ベットの上には包帯に巻かれた二人が大人しくしており、周囲には先程のメンバーが居る。

 

「別にみんな来なくてもなんとか出来たのに」

「そうですわ。あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 

少し体力が戻ったと思えば、先程からこの様である。

そしてその愚痴の全ては何故か織斑君に対してのみ発している。

 

「お前らなあ……。はぁ、でもまあ、怪我が大したことなくて安心したぜ」

「こんなの怪我のうちに入ら―――いたたたっ!」

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味―――つううっ!」

「ほら二人とも動かない動かない」

 

時花とシィナは暴れそうな二人を再び寝かせる。

 

「…あんた今、あたしたちのことバカとか思ったでしょ!バカ!」

「一夏さんの方こそ大バカですわ!」

「言ってないだろ!」

 

二人は織斑君の思考でも読んだのか、揃って苦情をぶつける。二人は怪我人だというのにお元気なことで。

 

「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」

「ん?」

 

飲み物を買って戻ってきたデュノア君がそんな光景を見て発言した。当の言われた織斑君はうまく聞き取られなかったようで疑問符を浮かべている。けれど他の人はしっかりと聞こえており、怪我人二名は顔を一瞬で真っ赤にしてデュノア君に掴みかからん勢いで怒りだした。

 

「なななな何を言ってるのか、全っ然っわからないわね! こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!」

「べべっ、別にわたくしはっ! そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」

 

二人は顔をさらに赤くしながらまくし立てる。

当の本人は一切気付いてはいないが、恐らく二人が織斑君に好意などの何かしらの感情を抱いているのは近くにいる人なら勘付いていたのではないだろうか。

時花だってその手にはあまり興味はなくとも薄々感じ取っていた。シィナは気付く気付かない以前に時花以上に興味がないようで反応すらしない。

 

「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」

「ふ、ふんっ!」

「不本意ですがいただきましょうっ!」

 

渡された鈴とセシリアは、デュノア君の手から奪い取るように飲み物を受け取ると、蓋を開けてやけになったように飲む。

 

「ほら、一夏たちも」

「お、悪いな」

「ありがとう」

「ん」

 

デュノア君は私たちの分も買ってきてくれていたようで皆それぞれ缶ジュースを受け取る。

 

「そういえば…あの人、織斑君を敵視してるみたいだけど何かしたの?」

「そうよそうよ、何なのよあいつは!」

 

あの人というのは、黒いISを駆るラウラ・ボーデヴィッヒのことであり、彼女は事あるごとに織斑君もしくはその周りで何かしらの影響を与えている。全ては織斑君への挑発なのか…。

 

「…あんまり言いたくはないんだが…多分千冬姉絡みだ」

「織斑先生を"教官"って呼んでたからね」

 

織斑君が言うには、

織斑君の姉である織斑千冬は一時期、ドイツの方で軍隊教官として働いていたらしく、あのラウラはその時の教え子だったのだろうという。それだけでは敵意の理由がイマイチ分からないが、その軍隊教官になる前の出来事に織斑君が関わっているようでそのことで恨んでいるとは織斑君の推理である。

 

「何よそれ! 一夏に非はないんじゃないの!」

「そうですわ!」

「まあまあ落ち着いて。確かに彼女は織斑先生に崇拝めいた感情を抱いているのは分かったよ。そしてその相手に汚点があることが許せないってところもね。なら一夏はどうするの?」

「……今度の学年別トーナメントでけりをつけるしか―――」

 

ドドドドドドッ………!!

 

「な、なんだ? 何の音だ?」

 

地鳴りのように響くそれは確実にこちらに近づいている。そしてそれはやって来た。保健室のドアが文字通り吹き飛び、大勢の女子生徒たちが保健室の中に流れ込み、男子二人のところまで押し寄せる。

窓際に移動していた時花のところまでは来なかったが、あの勢いは怖い。無数の手が群がってて怖い。

 

「織斑君!」

「デュノア君!」

「なんだなんだ!?」

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

「こ、これ!」

 

女子たちが男子二人に見せたのは何かの書類のようだった。

状況の読めない織斑君は差し出される中の一枚を読み上げた。

 

「なになに……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』…」

「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」

「私と組もう、織斑君!」

「私と組んで、デュノア君!」

 

そしてまた二人に対して無数の手が伸びる。

 

この仕様変更って多分、さっきの騒動が絡んでるよね絶対。

ラウラが一人に対してこちらは大人数だったけど、構図的にはこちらは三つのペアのようなものだったし、決着を付ける必要があるのは男子ふたり…というより織斑君ぐらいだから、それを考慮したということなのだろうか。

 

それで参加がペア必須になったものだから皆は男子ふたりが他と組む前に組もうと押し寄せてきたと。

 

「悪い、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

まあ案の定こうなることは予想できた。

彼女との因縁があるし、そのことをデュノア君は理解しているわけですし。

 

「まあ、そういうことなら…」

「他の女子と組まれるよりはいいし…」

「男同士ってのも絵になるし…こほんこほん」

 

女子たちはそれで納得したのか、一人また一人と保健室を出て行く……と思ったら数人は立ち止まり、奥に居る時花たちに謎の視線を送る。…嫌な予感がする。

 

「皇さん、一緒に組まない?」

「シィナさん、力を貸して!」

 

一部の企画で、学年別トーナメントで織斑君が景品となっていたことを思い出した。彼女たちは景品に興味がなさそう且つ専用機を持ってる戦力として時花たちに目を付けたようだ。時花が面倒がりながらもどう言ったものかと言葉に悩んでいると、シィナが手を握って来た。

 

「行こう」

「え、まっ」

 

シィナはいつの間にか後ろの窓を開けていて、次の瞬間、シィナは時花を抱えて窓から飛び降りた。ちょっとぉぉぉ!?

 

後ろから少し騒ぎが聞こえる中、謎の高い身体能力を活かして少々の高さももろともしなかったシィナは無事に着地し、二人は逃走した。

なんでこんなスパイ映画的な逃走をすることになったのだろうか…

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「シィナ、流石にあの逃げ方はどうなの…」

 

保健室から逃走して数分後。二人は自室へと戻っていた。

 

「でも逃げきれた」

「いやそういう事じゃなくてね…まぁいいや。それより次のトーナメントはペア必須になったらしいよ、どうする?」

 

ベットに腰掛けて時花は訊いた。まぁ案の定答えは予想出来てはいたけどね。

 

「ふたりでする…」

「まぁそうくるよね。それじゃあ…優勝は別にしなくてもいいけど二人で行けるところまで頑張ろうか」

「うん」

 

夕日の朱が差し込む部屋で、二人は誓い合った。

 

 

 

 




三千行かなかった…(´・ω・)


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第31話 開催、学年別トーナメント

場面がころころ変わります。


月曜になり、IS学園はいよいよ訪れた学年別トーナメントのムードに包まれる。

学校の一つの行事と言えど、慌ただしさや規模は前回行ったクラス対抗戦以上であり、全員参加ということもあって数日に渡って行われて、一種のお祭りのようにさえ思える。

 

生徒たちは各々、雑務や会場の準備、来賓の誘導などを行い、それらを終えてからはそれぞれ更衣室や会場の観客席で自身の出番を待っている。

 

「あんたたち、着替えてなくてこんなところに居て良いの?」

「今、更衣室に行っても混んでるからね。出来ることならアレは避けたい」

 

場所は第一アリーナの観客席。

人がまだ少ない観客席の端の方で未だに制服姿の時花とシィナは、怪我で参加を止められた鈴とセシリアと始まるまでの少しの時間を過ごしていた。

 

「とはいえ、出番がいつなのかも分からないのですから着替えておいた方がいいのではないかしら?」

「まあそうなんだけど…」

 

セシリアの言う通り、出番はいつ来るのかは分からない。

その理由は、対戦表は試合直前に発表されるからである。何故直前に言うのかは分からない。戦う前に相手に対して小細工することを防止するためだったりするのだろうか?まあ観客の目のあるからそんな人は居ないと思われるけど。

ちなみに、全生徒が行っていては時間がかかりすぎる為か、別会場と同時進行で行われるようで、一年は第一アリーナ、二年は第二アリーナで試合が行われる。三年生は第三アリーナ…というわけではなく来賓にとって一番重要だからなのか他の学年が終わった後に行うらしい。試合の模様は各モニターで同時中継されており、来賓客は別室でそれを観覧するという形をとっているのだ。

 

「それにしても、二人は大丈夫なの?」

「怪我の方はだいぶ回復したわ。けど…辞退したことがね…」

 

やはり国を背負う代表候補生ということもあって、この辞退は国における立場などがやや面倒なことになっているようだ。参加して実力を見せつけるばかりか、機体が半壊に近い状態にあるのだから

 

「貴方たち」

 

のんびり話してたら後ろから声をかけられた。

振り返るとそこには教師としてではなく一観客としてきたのであろう宝条綾香が居た。

 

「あら? 先生も観客席で見るのですか?」

「ええそうよ。それより皇さんたちはここに居て大丈夫なの?」

「はい?」

「貴方たち、初戦よ」

 

…今、何と?

宝条さんの言葉がイマイチ理解できず、たった今発表されたばかりの対戦表を確認すると、確かにAブロック第一回戦のところに時花たちの名前があった。マジか。

 

「ほら、着替えておいた方がよかったじゃない!」

「やばっ…シィナ行くよ!」

「うん」

 

ISスーツは制服の下に来ているのである程度素早くできるけど、保健室が空いているかは分からない。二人は急いでアリーナの更衣室へと駆け出した。残った三人はその後ろ姿を見届ける。

 

「…で、先生はあの二人の試合を見るために来たの?」

「まあそうね。色々と特殊だから一部では織斑一夏と同じ程に注目されているからね、あの子たちは」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「第一回戦は皇さんたちか」

 

ところ変わって、他とは違って人が極端に少ない更衣室。そのわけは校内で二人しか居ない男子に割り振られた場所だからである。

 

「やっぱり二人で組んだんだね。結構強敵かもね」

「そうかもな」

 

相槌を打ちながらも何処か心ここにあらずな一夏。

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

「まあ、な」

「誰とのペアなのかは分からない。けど、彼女は必ず勝ちあがってくる。彼女は、おそらく一年の中では現時点では最強だと思う」

「ああ、分かってる。」

 

ペアを組んでいるというだけでなく同室ということもあってかなり息の合ってきた二人。

二人はそう話しながらも試合が始まろうとしているモニターを見た。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

試合開始まで十秒前。

時花とシィナはISを身に纏い、正面の相手を見る。

相手は学園から貸し出された『打鉄』が二機。

 

「シィナ、相手には悪いけどとりあえず作戦Bで」

「了解。短期決戦と行くか!」

 

試合開始まで三秒前、二、一……、試合開始のアラーム音が鳴り響く。

 

相手の二人は開始と同時に近接用ブレードを引き抜き、動き出す。

だが、それよりも早く戦況は動いた。

 

「いっ…けぇ!」

 

時花がシィナの後ろに回って押し出し、それと同時にシィナが瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行って超加速する。加速し光の矢のように一直線に飛び出したシィナは二機の『打鉄』を間を駆け抜け、すれ違い様にビームクローで斬り裂く。

 

「きゃあ!?」

「え、はやっ!?」

 

それだけでは終わらず、時花は押し出す時に天使ノ羽根(エンジェルフェザー)を射出していた。だが、これは攻撃の為ではない。

 

「え、戻って来た!?」

 

再び突進するシィナを今度は防御型ISである打鉄の両肩に展開された実体シールドで防ぐ相手。

そして駆け抜けたシィナはエネルギーシールドを展開した天使ノ羽根を()()()()()方向転換、すぐ次の加速を行う。

 

これが直前に決めていた作戦の一つ。シィナのISの特性を最大限に活かした速攻。エネルギー残量の都合上、これは短期決戦向けの作戦。まあシィナの『クレイジー・ビースト』は素でも相当早いんだけど。

 

動きになれ始めたのか、相手は何度も攻撃に対して盾で防御する。だがそれでも確実に相手のシールドエネルギーを削っている。そしてそれも終わりを告げる。

 

「流石にキツイな。だがこれで…終わりだ!」

 

エネルギー残量が厳しくなり、シィナは高速移動を続けながら攻撃手段をビームクローから背中の荷電粒子砲に切り替えて、放つ。

 

直撃を受けた二名は後方へと吹き飛ばされ、エネルギーが尽きたのか膝をついて機体からは煙が出ている。

 

そして試合終了のアラームが鳴り響き、時花とシィナは勝利した。

シィナが時花の下に戻ってくる。

 

「やっぱこの作戦、エネルギー的にキツくないか?」

「あ、やっぱり? でも終始この戦法は出来なくても少しぐらいならいいんじゃない?」

「まあ、アレを足場にする案ぐらいならな」

 

二人はそのまま談笑して、見ていた教師に急かされるようにアリーナのピットへと戻って行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「意外と一方的だったわね」

「シールドを足場にするなんて…」

 

観客席から見ていた鈴とセシリアが口々に試合の感想を言う。

その近くで宝条もまた試合について考えていた。

 

「ほとんどシィナさんの活躍だったとはいえ、これはダークホースと言われていてもおかしくはないのかしら?」

 

実は参加する代表候補生が減った今、時花とシィナのペアは一部の教師や生徒から一年の部のダークホースと呼ばれており、意外と注目を集めていた。そして今の試合での性能や変わった特殊兵器によってさらに来賓までも目を付けたであろう。

だけど、それでも良い線いくのでは?と思われているだけで優勝まで行くとは思っているものは少ない。ドイツの特殊部隊に所属しているラウラ・ボーデヴィッヒの存在があるからだ。実戦経験があるであろう彼女の戦闘力は計り知れない。

それに、注目度で考えれば織斑一夏とシャルル・デュノアのペアも未知数だ。

 

「さて、どうなるかしらね」

 

宝条はこの先に起こり得ることを考えて少し楽しげに笑い、その場を後にした。

 

 

 



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第32話 歪みし事変

この辺りは大体本家と一緒。だから危ない。
オリジナル編以外のどこかで大々的に変えねばと思いながら書いても結局寄ってしまう。

?「非力な私を許してくれ」


時花たちの試合が終わってから二、三試合が終わった頃。次の組み合わせが発表された。その組み合わせはおそらく色んな意味で一年の部で最も注目を集めるであろう対戦カード。

 

織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

当人たちにとっては一戦目であり、それでいて最も願っていたであろう因縁の一戦。

 

「まさかいきなり当たるとはね。ここまできたら運命を疑うよ」

「初めからクライマックス」

「それどこで覚えたのシィナ…」

 

一回戦を終えてから、更衣室に付けられたモニターで会場を窺う。

そして、フィールドの真ん中にISを装着した両チームが姿を現す。

 

片方は、織斑一夏とその専用機『白式』、シャルル・デュノアと専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』の男子チーム。

 

もう片方は、静かに殺気を放っているラウラ・ボーデヴィッヒと専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』。そしてその相方は…

 

「まさか篠ノ之さんが組んだとはねー」

 

そう、ラウラとペアを組んでいるのは篠ノ之箒なのである。纏っているISは勿論『打鉄』。

 

篠ノ之さんは織斑君とラウラの因縁のことを知っているはずだし、篠ノ之さん自身も性格的にラウラと合いそうにない気がしていたのでペアになっていたことには驚きだ。けど組んだ理由は考えてみれば分かった。おそらくこの組み合わせは抽選によるものだ。以前に保健室で織斑君が読み上げていたが、『ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』。これによりペアの居なかった二人が偶然組むことになったのであろう。

 

「なんというか、篠ノ之さんが一番やり辛い気がするよ…」

 

あのラウラのことだ。多分仲間意識などは無く、邪魔なら味方もお構いなしに攻撃するだろう。構図で言ったら2対1対1。

 

(―――――…。)

 

「まあ、織斑君たちが勝つはずだけどね…」

「なんで?」

 

無意識の内に出た言葉にシィナは問いかけた。

あれ? なんでそんなことを思ったのだろう? いや違う。何故私はこれから行われることの()()()()()()()()のだろう?

 

「始まる…」

 

そんなことを思っている間にモニターの中では戦いが始まった。

 

 

織斑君とラウラの行動は奇しくも重なり、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に距離を詰める。そこから先に動いたのはラウラだった。ラウラは片手を突き出した。するとそれを合図に織斑君の動きが停止する。

 

あれは『白式』が突然不調をきたしたのではなく、あれこそがラウラの第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の力。聞いた話だと、その力は同じ第三世代でもセシリアの『ブルー・ティアーズ』より鈴の『甲龍』の持つ衝撃砲に近く、エネルギーで空間に作用して対象の動きを止める。だが第三世代型の特殊兵器は大概が集中力を必要とする。

 

モニターの中ではデュノア君の援護射撃により、停止の効力を失って織斑君はラウラから距離をとり、代わりにデュノア君が銃撃で畳みかける。さらにそこに篠ノ之さんまで加勢し、乱戦へと変わる。

だが、懸念していたことは起こった。

 

『邪魔だ』

 

突然、篠ノ之さんが浮かび上がり端の方まで飛ばされた。それと代わるようにラウラが突撃する。ラウラの機体からはワイヤーブレードが展開されており、先程の篠ノ之さんはそれで投げ飛ばされたようだった。

 

その後に数の差をもろともせずに繰り出される攻撃の数々を織斑君はデュノア君の的確な援護を受けながら捌いていく。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

来賓客とは別に教師だけが入ることを許されている特別室で、モニターで試合状況を眺めている者が数名。

 

「ふあー、すごいですねぇ。二週間ちょっとの訓練であそこまでの連携が取れるなんて。やっぱり織斑君ってすごいです。才能ありますよね」

「ふん。あれはデュノアが合わせているから成り立つんだ。あいつ自体は大して連携の役には立っていない」

 

二人の連携を見て素直に褒める山田真耶に対して、身内上にさらに辛口で評価する織斑千冬。

 

「それにしても学年別トーナメントのいきなりの形式変更は、やっぱり先月の事件のせいですか?」

「おそらくそうだろう。より実戦的な戦闘経験を積ませる目的で、ツーマンセルになったのだろうな。ただでさえ今年は問題要素が多いんだ。そうなると勿論注目も敵対も増えるだろう」

 

問題要素と言うのはおそらく、専用機持ちの一年生が多いことや、ISを男で動かせる織斑一夏、それにいくつかのイレギュラーのことだろう。

と、そんなことを話しているうちにアリーナでは、戦況に変化があった。シールドエネルギーが底をつきた一機のISが停止している。

 

「あ、篠ノ之さんが負けてしまいましたね」

「専用機が無ければあんなものだろう。特に篠ノ之は性格上デュノアと相性が悪い」

 

モニターに視線を戻す千冬。モニターの中では二対一になろうとそれでも数の差をもろともせずに戦うラウラの姿があった。

 

「変わらないな。強さを攻撃力と同一だと思っている。」

 

千冬の視線は冷たくなっていく。だが、会場はそれとは対称的に湧いていた。

 

「あ! 織斑君、零落白夜を出しましたね! 一気に勝負をかけるつもりでしょうか?」

「さて、そう上手くはいかないだろうな」

「何故ですか? ボーデヴィッヒさんのAICで多少止められる可能性はありますが、デュノア君のサポートもありますし決めることは出来るのではないですか?」

「さあどうだろうな。 さて、試合の続きだ。どう転がるか見物だぞ」

 

千冬に促され、真耶はイマイチ釈然としないままモニターに視線を戻した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

更衣室を出て、観客席へと急いで向かう時花。

その後ろをシィナがついていく。

 

「何があるの?」

「それは私にも分からない。出来れば何もない方がいい」

 

嫌な予感がする。試合に違和感を感じる。

原因は分からない。何でそう思ったのかも分からない。

だけど、何かが本来と違う気がする。

 

二人は階段を上がり、観客席へと出る。

観客席の熱気に当てられながらもアリーナの中央を見ると、織斑君がラウラにワイヤーブレードで両腕を捉えられている場面だった。織斑君の片手に握られている近接ブレード「雪片弐型」からは溢れ出た力強い光が刃を形成している。織斑君の言っていた『白式』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だ。だがその光は次第に弱々しくなっていく。

 

「どうやら時間切れのようだな」

 

ラウラは肩の大型レールカノンの砲口を織斑君に向ける。だが、こんな危機的状況でも織斑君は焦ることなくそれどころか口元を緩ませている。

 

「終わりだ…!」

「…なんだ。忘れているのか? ()()()()()()()()なんだぜ?」

「!?」

 

その時、激しい銃撃を受けて大型レールカノンが爆散する。

 

「まさか貴様、単一仕様能力を囮に……!?」

 

武装の破損に怯んでワイヤーブレードが緩み、織斑君はバック宙のように回転する。するとそれと入れ替わるようにデュノア君が目にも止まらぬ速度でラウラに体当たりする。今のは瞬時加速!?

 

「ぐっ、この程度で…!」

「この距離なら、外さない!」

 

デュノア君の機体の肩部分の装甲が外れ、その下に隠されていた武装が露出する。

 

盾殺し(シールド・ピアース)…!」

 

ラウラの顔には焦りが見える。だが遅い。

瞬時加速の速度を利用した体当たりによりラウラは壁に叩き付けられ、それと同時に―――

 

ズガンッ!!

 

盾殺し、武装正式名称「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」による重い一撃が叩き込まれエネルギー残量をごっそりと持っていく。続けざまに何発か叩き込まれ、絶対防御があるとはいえ伝わる衝撃にラウラの意識が薄れてく。

 

あんな重い攻撃を叩きこまれればひとたまりもない。これで決着はついた。誰もがそう思った。

その時だった。

 

「うわっ!?」

 

デュノア君が何かに阻まれるように弾かれ、後退する。

機体が甚大なダメージを受けていて、エネルギーも残っていないだろう。だが、ラウラの微かに残る意識とは別に機体は歩み出る。

 

「まだやる気か…?」

「いや、何かがおかしい…」

 

二人が様子を窺っている。

そんな時、ラウラの周囲の空間が歪んだ気がした。

 

 

Compulsion

 

Mind Condition …… Uplift.

Certification …… Clear.

 

《 Valkyrie Trace System 》……… boot.

 

 

それはまるで、底深くに沈んでいた物を無理やり引き上げるように。

突然ラウラが苦しみだし、機体からは泥のような黒が溢れ出る。やがてそれは機体をラウラもろとも包み込みその形を変えていく。

 

そして生み出された形は原型とは色々な部分で異なり、その手には雪片弐型に似た刀が握られていた。

 

 

 



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第33話 ファインド・アウト・マイ・マインド

ISは原則として変形をしない。

ISがその形状を変えるのは『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』ぐらいだ。各ISに専用で存在するパッケージはその装備が大幅に変えてしまうことはあるが、基礎となるISの形状は変わらない。基礎から変わるということはあり得ない。

 

だが、織斑の目の前でそのあり得ないことが起きている。

 

今目の前に立っているのは黒い全身装甲(フルスキン)のような何か。操縦者のシルエットはラウラのそれではあるが、ISには『シュヴァルツェア・レーゲン』の面影は残っていない。

 

ラウラだと分かっていてもその姿に織斑はある人物を連想させ、その手に握られているものを見て無意識に手に力が入る。

 

「…どうしたの一夏?」

 

そんな織斑にデュノアは心配したように訊いた。

 

「あれは…あの武器は…千冬姉の…!!」

「ちょっ、一夏!?」

 

一夏の記憶の中に残っているISを纏った姉の姿。

織斑千冬がかつて振るい、それでIS対戦の世界大会『モンド・グロッソ』を勝ち上がったという近接ブレードを一夏は知っている。それを複写(トレース)したような武器を今目の前にいる得体の知れない者が持ってることに怒りを覚えた。

 

織斑は握っている《雪片弐型》を中段に構え、瞬時加速で一気に距離を詰めると、ブレードを横に薙いだ。

 

ガキィン!

 

織斑の手から《雪片弐型》がなくなり、《雪片弐型》は明後日の方に落ちていた。

織斑が攻撃を仕掛けたほんの一瞬、『シュヴァルツェア・レーゲンだったもの』は攻撃に反応して手に持っていたブレードで織斑のブレードを弾き飛ばしたのだ。なんという反応速度と技。

 

そして、《雪片弐型》を弾いた後のブレードは未だに振り上がっており、そのまま織斑に対して振り下ろされる。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!―――』

 

ラウラのISが変異したことで敵もしくは暴走状態と認識し飛び火する可能性を踏まえてアリーナ全体には放送が流れ、観客たちは避難を始める。その中で避難する流れに逆らう時花は観客席の最前で状況を確認した。

 

アリーナの中央ではISが消えた織斑君とその近くにデュノア君と篠ノ之さん、その遥か向かいにラウラを包んだ黒いIS。

 

織斑君のISが解けているということから考えるに、先程至近距離で受けた反撃を緊急回避で避けたは良いが、それによりエネルギーを使い果たしたようだ。先程の試合で雑な扱いとはいえ単一仕様能力を使ったのが原因だろう。

 

対して黒いISは反撃をした後何故か動こうとしない。まるで意思がなく、他の動きを合図に動く機械のよう…。

 

「皇さん何をしているの? 貴方も離れなさい」

 

そう言って駆け寄って来たのは宝条綾香だった。その後ろには鈴とセシリアの姿もあった。

 

「すぐ部隊が到着するわ。その間に貴方達は避難を」

「あいつらが渦中に居るのにあたしたちだけ逃げるのは正直悔しいけど今はそうするしかできないからね…ISが使えたら問答無用で殴り込みに行くのに…」

「使えても駄目よ」

 

こんな状況でも鈴は相変わらずのようだ。よく見るとセシリアも同じようなことを言いそうな顔をしている。そんな二人を見てやれやれといった宝条。

確かに宝条さんの言った通り、このまま待っていれば教師部隊が到着して事態は収束するだろう。だけど…未だに部隊は到着していない。先程のアナウンスが流れてから少なくとも十分は経っている。教師部隊ともあろうものがそれほどの時間をかけているということは何かトラブルがあったはずだ。宝条さんもそれぐらいは気付いているはず。

それに先程から感じる嫌な予感は消えていない。

 

「でも、それだとあそこに居るみんなが…」

「……大丈夫よ。あれでも一人は代表候補生よ。他よりも状況を理解しているはず」

 

宝条はそう言って避難を促す。

こうしている間に織斑君たちは何かを決めたようで、集まって何やらしようとしている。すると、それに反応したのか先程から沈黙を貫いていた黒いISが突然動き出した。

 

「一夏!」

「一夏さん!」

 

織斑君たちも気付いているようだが、ISが残っているデュノア君ですら何かをしているために動くことが出来ない。このままじゃ…!

 

その時、時花が視ていた世界が光に包まれた。

 

ガイィン!

 

気付くと時花は黒いISの正面に移動しており、『虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』を呼び出した状態で、黒いISのブレードを受け止めていた。()()()()()()で。

 

「ちょっ…!?」

 

時花自身飛び込もうとはした。間に合うかどうかの話だと思っていた。だけど、流石にこの状況は予想外すぎるんですが…! 何でこんな一瞬で割り込めたの!?

 

黒いISはすぐに次の行動に移り、時花の手からブレードを引き抜くと、すぐに水平に振るう。

時花は後方回避を命じそれを避ける。攻撃を躱された敵は追い撃ちをかけようとするが、それは第三者の砲撃により阻止される。

 

「シィナ…」

「今のは早すぎだろ。何した?」

「それを聞かれてもなぁ」

 

先程の乱入速度を問われるが、時花自身よく分かっていないのだから説明のしようがない。気付いたら目の前に居たのだから。

 

「二人共!」

「織斑君、さっきから何してるのそれ」

 

改めて織斑君たちの方を見る。よく見るとデュノア君のISから一本のケーブルが出ていて、それが織斑君のIS『白式』の待機形態であるガントレットに突き刺さっている。

 

「…何してるの?」

「えっと、一種の賭け…かな?」

 

デュノア君はそう言うと、終わったのかガントレットに差していたケーブルを引き抜いた。

すると、デュノア君のISは光の粒子となって消えていき、それとは対称的に織斑君のガントレットは輝きを放ちISへと姿を変えていく。

 

「やっぱり武器と右腕だけで限界だね」

「充分さ」

 

どうやら織斑君はそんな状態でもまだ続けるらしい。そんな織斑君を篠ノ之さんが止める。

 

「死ぬな……。絶対に死ぬな!」

「何を心配してるんだよ、バカ」

「ばっ、バカとはなんだ! 私はお前が―――」

「信じろ」

「え?」

「俺を信じろよ、箒。心配も祈りも不必要だ。ただ、信じて待っていてくれ。必ず勝って帰ってくる」

「……」

「じゃあ、行ってくる」

「あ、ああ! 勝ってこい、一夏!」

 

篠ノ之さんが織斑君を見送ると、次はデュノア君が時花たちに声をかけた。

 

「皇さん、シィナさん、一夏のサポートを頼んだよ」

「まあ、出来るだけね」

「仕方ねえ」

 

時花とシィナは距離が空いて再び静かになった黒いISに向き直る。

そして織斑君は《雪片弐型》を構えて意識を集中する。

 

「《零落白夜》―――発動」

 

返事をするかのように低い音が鳴ると、《雪片弐型》の刀身の装甲が開いてそこから光の刃が現れる。力強く溢れていた光の刃は次第に細く鋭く洗練された刃のように変わっていき、最終的には元の実体刃の消えた光の刀へと変化した。

 

そしてその力を認識したのか黒いISは再び接近する。

 

「シィナ!」

「あいよ!」

 

時花とシィナがそれを迎撃する。攻撃は全て手にしたブレード一本で捌かれるがそれでも構わない。少しずつ誘導していく。集中している織斑の下に。

 

誘導すると二人は離脱、黒いISはすぐさま近くにいる織斑君に標的を変える。だけど―――

 

ギィィィン!

 

次の攻撃へと移る少しの隙を突いて織斑君は敵のブレードを弾く。それは初めに受けたことと同じ。そしてすぐさま刀を頭上に構え、縦にまっすぐ振り下ろす。一閃二断の構え。

 

ジジッ…という音を立ててISは停止し、断ち切られたパイロット部分からはラウラが出てきて、織斑君はそれを受け止める。その時に見えた眼帯の下の金色の瞳には弱々しさを感じた。

 

「…まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

織斑君はラウラを抱えたまま、篠ノ之さんたちの下へと戻る。

 

「ほら箒、勝ったぞ」

「お前という奴は…」

 

そう言う篠ノ之さんの表情は凄く安心していた。

その傍では時花たちがISを解いて集まっていた。

 

「これで一件落着したってことでいいんだよね?」

「まあそうだな。でもこういうことがあった後がなにかしら大変だったりするんだよな」

 

それは言えてる。だけどそれは今は考えないことにして、この場を去ることにした。

その後、織斑君たちはラウラを保健室に連れて行くということで途中で別れ、時花たちは帰り道で宝条綾香に捕まって説教を受けたそうな…。

 

 

 

 

 

 




タイトル的にもうちょっと入れておきたかったけど集中力が切れた(;´Д`)


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第34話 その後…

宝条さんの説教に始まり、何故か他の教師が加わっての事情聴取にまで発展した拘束?は意外と長く、終わった頃には外は暗くなっていた。

 

「にしても、本当に疲れた…」

「うん」

「あの騒動よりもその後の話の方が体力使うってどうなの…」

 

時花は夕食のサンドイッチを食べながら愚痴を漏らしていた。

現在地は学食。教師陣から解放された後、疲れていたので(主に精神的に)そのまま帰って寝たかったのだが、時間が時間な為に今を逃すと今日は夕食にありつけなくなる気がしたのでとりあえず学食に駆け込んだのだ。

メニューは、この後シャワーを浴びてすぐ寝るつもりなので軽食のサンドイッチとジュースという。ちなみに正面の席に座っているシィナはなんか魚介の入ったスパゲティを食べている。ペスカトーレって言うんだっけアレ?

 

「そういえば、あれって何だったんだろ…?」

「あれ?」

「いや…」

 

時花はふと思い出した。

織斑君たちの試合を見ている時、一瞬だけラウラの周囲の空間が歪んだことを。シィナにそのことを言うとそのようなことは何も無かったと言う。気のせいかとも思ったが、確かにあれは起きていたしはっきりと感じた。

…とはいえ、あれが無かったとしてもあの変異の結果は何も変わらなかっただろう。ならば今は放っておくことにしよう。

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認――』

 

顔を上げると、学食に置かれているテレビに先程まで行われていた行事のことが流れていた。その途中でピ、と誰かがテレビを消した。

 

やっぱり先程の事の詳細は伏せているようだ。それも当然と言えば当然か。ここに来る前に行われた事情聴取もそのことを言い触らさないように釘を差す目的でもあったらしいから、それを言った側が言うわけにもいかないだろう。

 

「ふむ。シャルルの予想通りになったな」

「そうだねぇ。あ、二人共お疲れ」

 

席を探していたであろうデュノア君と目が合った。男子二人も今来たらしく、空いていたこともあって時花たちの隣に座る。

二人は麺料理を頼んだらしく早速ずるずるとすすっている。

 

「二人も事情聴取とかされたの?」

「おう…。ってこともそっちもしたんだな」

「まあね。自分から巻き込まれに行ったからねぇ…。結果、お説教から事情聴取の濃厚コンボを貰ったわけで…」

「まぁ、そのおかげでこっちは助けられたわけだけどね」

 

とまあこのまま四人で歓談をしながら食事をしていたわけだけど、いい加減気になるわけでして…

 

「で、周りにこの時間にしては凄い数の女子が居るんだけど?」

「あー、なんか話を聞きたいとかで何か集まってたんだが、とりあえず晩飯を食べてからってことにしてもらってな」

 

と、いうことはあの集団は食べ終わるのを待っているということなのか。

その割には、皆さっきよりも雰囲気が暗くなって何かを呟きながら一人また一人と去って行っているようなんだけど?

 

「ふー、ごちそうさま。学食といい寮食堂といい、この学園は本当に料理がうまくて幸せだ。……ん?」

 

食事を終えた織斑君も減っていく女子たちに気付いたようだ。

殆どの女子が帰っていき、その場に見慣れた女子が立ちつくしている。篠ノ之さんだ。織斑君は篠ノ之さんの傍へと移動する。

 

「そういえば箒、先月の約束だが―――」

 

その言い始めに、篠ノ之さんは少し反応した。

 

「付き合ってもいいぞ」

「――。――――、なに?」

 

あ、復活した。

 

「だから、付き合ってもいいって……おわっ!?」

「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当に、本当なのだな!?」

 

篠ノ之さん、興奮しているのは分かりますが、そのままその姿勢を続けていると織斑君の意識が落ちますよ。見事に締め上げてますから。

 

「お、おう」

「な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか……」

「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」

「そ、そうか!」

「買い物くらい」

「…………」

 

先程喜んでいたのは何処へやら。織斑君のその言葉により、篠ノ之さんの空気が一瞬で変わった。鬼的なものが見える…

 

「……だろうと……」

「お、おう?」

「そんなことだろうと思ったわ!」

「ぐはぁっ!」

 

おおっと。篠ノ之選手、腰のひねりをも使った見事な正拳突きです! これはたまったものではありません。受けた織斑選手はその場に膝から崩れ落ちた。

 

「ふん!」

 

おっと!さらにここでつま先による追撃が入った!鋭い一撃です。これは流石に動けないかぁ?!……って冗談はさておき、これ本当に動けなくなるやつだよ。

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思うときがあるよね」

「なんか…鈴たちが前に言ってたことがなんとなく分かった気がする」

 

織斑の死骸(仮)を横目に話すデュノアと時花。

そんなことより今の会話で、最近流れていた噂の真相が理解出来た気がする。どういうわけか話が独り歩きしてその間に色々誤解になっていったというところだろう。

 

それから織斑君が復活するまで三人で話していると、復活した織斑君が再び席に腰掛ける。

 

「そういえばちょっと聞きたいんだが」

「うん、なに? 何でも聞いて」

 

やたら機嫌のいいデュノア君。

 

「ISで会話ってできるのか? えーと、プライベートチャネルとは違う、なんかふたりだけの空間、みたいなところでの会話なんだが」

「うん? うーん……何か聞いたことがある気がする。何だったかな……」

 

デュノア君が手を口元に当てて思い出そうとしている。

ISてそんなことも出来たんだ。って言っても普通の回線すら使ったことないんだけどね。基本的にシィナから近くに来るし。

 

「……一夏、ふたりだけの空間で会話って、もしかしてボーデヴィッヒさんと?」

「あ、ああ、そうだが……」

「ふーん。そう」

 

そう答えると、デュノア君は食べ終わった後の食器を片付けるために立ち上がる。

あ、そろそろ私たちも帰ろうかな。

 

二人よりも先に学食を出て、途中で会った1組の副担任の山田先生に織斑君たちを見てないか聞かれたので、学食にまだ居ることを伝え、軽く挨拶を済ませてから自分たちの部屋へと戻った。

 

 

 

 

次の日、廊下に平和な朝とはかけ離れた騒がしい音が鳴り響きボロボロの織斑君が倒れているということがあった。

その原因が、なんとデュノア君が本当は女の子だったということと、あのラウラと織斑君がキスをしたということだった。相変わらず織斑君の周りは賑やかである。

それにしても、デュノア君が女の子だったことには驚きのはずだが、時花はそれほど衝撃は受けなかった。今にして思うと、その事実もそう言われればそうだったと思える程に()()()()()感じがした。何故だろうか…?

 

 




これでやっと二巻分は終わりですかね。
このあとにあの兎アリスの物凄い着信音が鳴ったりしますが、ここでは書かん!


この次はオリジナル篇に少々絡む間章とかですかね?


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間章
第35話 パラドクス・エトランジェ Ⅰ


今回の間章は、オリジナル篇に向かう為に必要…であろう一日の話。

そんなことより、
他のサイトで慣れてしまった影響か、章の差し込み方間違えちったぜ☆


最近になって、時々何かが聞こえる気がしていた。

 

始めは気のせいだと思っていた。だけどそうじゃなかった。

 

この子に乗るたびにそれは確かにあった。

 

それは、誰かが呼んでいるのか、この子が何かを教えてくれているのか。

 

はたまた、何かを予感しているのか、

 

その答えは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

バチッ――――――ッ―――――ッ。

 

 

 

 

空が争いなどなさそうに澄んだ色をしているよく晴れたある日。

 

IS学園の学生たちはそれぞれ、学外に遊びに出ている者も居れば、学内でISに関することをしていたりする者も居て、様々である。

そんな日、学内のとある場所で()()は起きた。

 

始めは偶然起きた自然現象と間違うような小さなものだった。

何もない所に閃光が生じ、次の瞬間その生じた場所の空間が捻じれる。それは黒白の歪みとなり光の粒子を伴う。そしてその歪みは次第に人のシルエットとなっていき、現象が消えて空間が治まった時、その場所には一人の女性が倒れていた。

 

「…ん……。ここ…もしかしてIS学園?」

 

その女性は起き上がると、今自分に起きたことを少なからず理解しているようで、あまり驚くことなく周囲を見渡している。

 

「あれって…まあ、行ってみよっか」

 

この女性はこの場所を知っているようで、ある建物を見つけると立ち上がってその建物へと向かって行った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「…ん?」

「どうした?」

「…気のせいかな? …で、何だっけ」

「こいつを弄るんだろ」

「あーそうだったそうだった」

 

IS学園の整備室。

時花とシィナは、少し思うところがあって整備室で自分たちのISを触っていた。

 

「それにしても、シィナって動かしてなくても乗ってるだけでも性格変わるんだね」

「まあ、色々あんだよ」

 

虹彩色の時女神(アイリス・ノルン)』と『クレイジー・ビースト』。二機のISを呼び出して自分たちなりに調整をするために今は装着解除してディスプレイを見ている。ちなみにシィナは上半身のみ解除しているだけで降りてはいない。

 

今回は色々と試したいことがある。今回はシィナのIS『クレイジー・ビースト』を少々改良してみようと思うのだ。これに関してはシィナの意思でもある。今のISは扱い慣れてはいるが、元は何処かに属していたらしいシィナの立場的には使うのはやり辛いということで、素人技術なので一からは無理でも少しでも変えようというわけである。

 

「で、ここをとってっと…」

 

時花は自分のISからケーブルを抜き出して、シィナのISに挿入した。

 

これは『虹彩色の時女神』の持っているデータの一部を『クレイジー・ビースト』に共有させようとしているのだ。そのデータは、他のISの設計データ。

 

正直先程の理由だけだったなら行動に切り出すことはあまり出来なかっただろう。だが、このデータがあることで少しでもISの進化を別の方向に向けることが出来るかもしれない。

 

「シィナ、そっちでも見える?」

「…ああ。にしても、よくもまあこんなに設計データを持ってるもんだな。出すところに出したらやばいぞ」

「だよねー。私自身なんでこんなものを持ってるのか分からないんだけど、持ってるんだから使わないと勿体ないよね。…あ、思い切ってこれなんてどう?」

 

時花は設計データの項目か一つを選び表示する。選んだものはシィナのディスプレイにも連動して表示される。

 

「…流石に無理だろ。どっちかと言うと射撃寄りだぞこれ。射撃なんてめんどくさい、殴った方が早い」

 

今のISと180度コンセプトの違うのものを勧めてみたけど却下された。

そういえば前にIS実習で射撃武器の練習をすることがあったけど、その時のシィナは結構的を外してたっけ。今のISにも射撃武器はあるけど基本的に至近距離で撃ち込もうとするからそんなの関係ないし。

 

「それにコアには相性があるはずだろ。そんな重視してるのは無理だ」

 

そういえばそんな制限みたいなのあったね。

人が様々なようにコア自身にもそれぞれ好みがあって、これは良いけどこれは嫌みたいなことがあるらしい。身近で例えるなら、織斑君の『白式』は現在持っている近接武装一本以外の全ての武器がインストールできないらしい。好みの他に容量的にも問題があるらしいけど。方向性がある程度決まっている専用機程それが顕著だったりするのだろうか?

 

「今思ったけど、別にこれらと同じものにしようってわけじゃないから何でもいい気がする…」

「確かに…。ならどうする?」

「うーん…これらから少しずつアイデアを貰う?」

「まあ、うん…」

 

ISから降りていつも通りになったシィナと二人でディスプレイから参考になりそうなデータを探す。

 

そんな二人を整備室の入り口から眺めている人影があった。

その人物は始めは二人を観察していたが、突然驚いたように開いた口を隠そうと手を添えだした。

 

「(あの二人ってやっぱり…ッ! じゃあこのIS学園って…ッ!)」

 

そんな視線を察したのか、シィナはディスプレイから視線を外して女性の方を向いた。

時花もシィナの視線が外れたことに気付いてその視線の先を追い、そして女性と目が合った。

 

隣のシィナは地味に警戒態勢に入りかけていたが、そんなことは御構い無しに女性は二人に歩み寄ると、腕を広げて二人纏めて抱きついた。

 

「「!?」」

 

二人は当然、突然抱きつかれたことに驚いた。

時花は状況が飲み込めず、シィナは引き剥がそうとしたが、女性が微かに涙を流していることに気付いてそれすらも止めてしまった。

 

「ああっ、急にごめんなぁ。なんか懐かしくて」

 

女性はそう言って二人を解放した。改めて女性を見てみると、その人はIS学園の制服を着ておらず、といって教員という感じでもなく、和風を取り入れた独特な服装をしていた。

 

何だろう、初対面のはずなのにそんな気はしない。

 

「…誰?」

 

とはいってもシィナは問答無用で訊くわけでして。

 

「まあ当然やね。ウチは(こよみ) 零華(れいか)。二人の()()での後輩よ」

 

 

 




今回の間章が終わればまだ余所に消える予定。


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第36話 パラドクス・エトランジェ Ⅱ

「にしても、昔のふたりかわええなぁ」

 

正体を明かしたからか、もう遠慮なしに二人の頭を撫でる(こよみ)零華(れいか)

二人の未来での後輩という彼女だが、証拠のない突然の発言に二人は未だに疑っている。といっても全てを疑っているわけではなく、先程の涙は嘘ではないことは分かっている。

 

「それで…本当なんですか?」

「ん? ああ、未来ってやつ? 本当よ」

「どうやってここに?」

「いや……そこのところは正直ウチにも分かんないんだよね。もう手元にクロノスは無かったし、他に出来るものも無かったのに」

 

嘘ではなく本音なのは伝わるんだけど、凄い怪しくなってきた。

 

「…クロノス?」

 

シィナが証言の中にあった名前に喰いつく。それが未来からこの過去に跳ぶことに関係したものなのだろうか…

 

「あー、こういうんは言っちゃって大丈夫かな?…ま、いっか。クロノスってのは未来の時花先輩が使ってたISだよ。くんろいやつ」

 

未来の私が…?

黒いIS…。…黒? もしかして…

 

「お? その顔は知ってる顔っぽいね。 やっぱり昔の時花先輩のところに跳んできてたかぁ…。いやー勝手に時間を跳ぶとか分かんないよね」

 

分からないのはこちらです。

先程から聞いていると、ISがタイムマシンの役割をしていて、IS自身が勝手にそれを使って跳んできたという。勝手に動いたという事にも疑問は浮かぶけど、それより使用者である未来の私はどうなってるの? なんでわざわざ過去に跳んできてるの?

 

そんな疑問を浮かべているなんて露知らず、零華は装着解除状態にある機体に目をやった。

 

「ほほぅ。これがシィナ先輩の昔の機体か。解体状態しか見たことなかったけど聞いてたよりもシンプルやね」

「未来の私はどんなの?」

 

自分の機体への感想から興味が出たのか、シィナは零華に訊く。

時花が何もしないので警戒心は一応解いているらしい。

 

「一言で言ったら、主に忠誠を誓う獣戦士って感じかな? もっとごてごてしてて、それでいて速かった」

「忠誠…」

「シィナ先輩、SP並みにいつも時花先輩と一緒に居たからね」

 

…大体今と一緒な気がする。

 

「それでこっちが…あれ?」

 

次に零華は視線を時花のISへと向けて、それを見ては頭を少々傾げた。

それもそうだろう。クロノスじゃないもん。

 

「クロノスじゃないの?」

「クロノスっぽいISなら確かに見たけど…それは見つけたときに丸いコアの状態になっちゃって…。それでそのコアを使って新しく組み上げたんです」

 

といっても、基礎などはISが独自に組んでたんだけど。

 

「へぇー。その割には所々にクロノスの面影残ってるような気がするなぁ。この装備とかスラスターとか、展開装甲が含まれてるし。…で、このケーブルなんなん?」

「えっと、それはシィナのISを改良するのにこの子のデータを少し送ろうと…」

「データ? もしかしてそれって設計データとか?」

 

ディスプレイを見せて訊いてみると、この子が持っている設計などのデータの大半はクロノスの物と同じであり、それは未来の時花が趣味で収集していたものらしい。教えてもらって気付いたがこのデータの並びにも意外と法則性があるようで、今は近接型・射撃型など機体の戦闘タイプ別に並べられていた。さらに並び替え機能や検索機能まで付けられていた。なんともご親切に。

というかこれらを趣味で収集って未来の私は何をしているの!?

 

それにしても、ここまで知っているということは本当に未来から来たんだなぁ…。

 

「手伝おっか?」

「えっ? 良いんですか?」

「ええよ? これでも未来の二人とチーム組んでIS弄ってたからね」

 

未来の私はIS弄ってるんだ。

 

「で、どうすんの?」

「いや、これといった目標とかは無いんです少し改良できればなぁって」

「ふーん…、じゃあ未来のシィナ先輩のISに近づけてみる?」

「さっき言ってた獣戦士ってのですか?」

「そ。名前は『獣騎士』。あれもこれをベースに作った改良機だから出来ないことも無いわ」

「…どうする、シィナ?」

「じゃあそうする」

「らしいです」

「そんじゃあ、少しずついきますか! あ、でもどうせだからさらに改良を加えよっか」

「「へ?」」

 

それからは三人でシィナのISの改良に取り掛かった。

率先して行う零華は、未来でしていたと言うだけあってその手際はよく、こちらの手際を見ながら助言をしたり、待ちながらプログラムを弄ったりしていた。

 

「そっちの展開装甲のデータも加えてみますか」

 

そう言ってディスプレイを操作して、瞬時に目的のデータをコピーして転送する。

時花はマニュアルを見ながら弄る手を止めずに、零華に一つ訊いた。

 

「さっきから時々言ってる"展開装甲"ってなんですか?」

「今言わんでもいずれ分かるはずだけど簡単に言うと、凄い装甲。強い」

 

わお、雑。

 

「そんで、凄く燃費の悪い装甲」

「えー」

「いや、そんな顔してもその通りだからね! 確かに燃費は悪いけどそれ以上に万能なのよね。ほんと、よくそんなデータまで集めたなぁ時花先輩」

 

そんなこんなで一時間程が経ち、零華は切りのいいところで作業を止めた。外していた装甲は再び取り付けて一応は使える状態にして。

 

「とりあえずはここまでね」

「ふう。やっぱりこの手の作業は疲れる…」

「……」

「ん?」

 

作業を終えた零華が『虹彩色の時女神』を見て止まっている。

 

「あのー」

「…っあ、何?」

「ISを見て止まってるんでどうしたのかと」

「ちょっとね。 そうだ、まだ時間ある?」

「? 今日は他に予定はないですし夕食はまだなのであるといえばありますね」

「せっかくだから模擬戦しない? 生まれ変わったその子の力を確かめてみたいの」

「え、私は良いですけど…」

 

時花は零華の方を見る。すると零華はその意味を理解して先に答える。

 

「ISなら大丈夫。ちゃんと自分の持ってるから」

 

そういって零華は犬のような形のキーホルダーを取り出した。あれがISの待機形態なのだろう。確かに持っているようだ。しかも専用機。

 

こうして三人は整備室を後にして、模擬戦をするために空いているアリーナへと向かった。

 

 




整備室での話が思いのほか伸びた。

切が良いから区切ろう。


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第37話 パラドクス・エトランジェ Ⅲ

今気づいたけどエトランジェ前にも使ったなあ…(´・ω・)まあいっか


「そういえばISスーツはあるんですか? まさかそのままで…」

「その辺は大丈夫。中に着てるから。ほら」

 

そう言って零華は豪快に服を脱ぎ捨てると、宣言通りその下には時花たちと同じタイプのISスーツを着ていた。いや、そういう問題ではないような。まぁいいか。

 

三人は更衣室で着替えを済ませると、すぐにアリーナ内へと向かった。

するとそこには既に模擬戦を行っているグループが存在し、人が少ないこともあってか二機のISが縦横無尽に飛び回っている。

 

「どうしたの一夏! その程度でこのアタシに勝てると思ってるの?」

「くっ…」

 

白いISが空中から放たれる衝撃砲を地面を滑るように移動して回避して接近戦に持ち込むが、それは誘導する罠であり、刀のような近接ブレードを相手の青龍刀で止められている。織斑君と鈴である。

 

周囲を確認すると観客席のところにはいつもの女性陣に加えて、デュノア君改めシャルロットと憎しみは消えたラウラの姿があった。こちらの視線に気付いたようでシャルロットがこちらに手を振る。

 

「二人も練習に来たの?」

「まあそうなんだけど…何してるの?」

「それがね…」

 

シャルロットが言うには、織斑君はまだまだISの操縦が上手くないので訓練を手伝おうとしたところ、皆同じ考えだったらしく、そこで色々あって末に織斑君が失言を言ったらしく、結果的に訓練はいつの間にか模擬戦へと変わり、織斑君は全員と順番に模擬戦をするということになったらしい。謎の五番勝負である。そして今は二戦目らしい。ちなみに一戦目は訓練機を借りて来た箒。

 

「うわぁ…ある意味鬼畜」

「僕も後々冷静になってね。五連戦は厳しいから模擬戦は今度にしておこうかなって」

 

相変わらず相手想いのシャルロットさんであった。

その後ろでは…

 

「一夏! それくらい簡単に躱してみせろ!」

「そんな直線的な動きは駄目でしてよ!」

「ふん。私の嫁ともあろう者がいつまで手古摺っているつもりだ!」

「「誰が嫁だ!」」

 

こっちはこっちで火花散ってるな…。

それにしても私自身あれ以降ラウラと話したことないけど、噂通り周りと打ち解け始めているようだ。

 

「ところで…その後ろの人は誰? ISスーツを着てるみたいだけど見かけない人だよね」

「あー、この人は…ちょっと変わった人…?」

「なんでそこで疑問形なの…ってそんな人をこんなところに連れてきて大丈夫?」

「まあ…色々ありまして」

 

零華について説明に困っている時花に対して、当の本人は空中で行われている戦闘を観察するかのような目で見ていた。

 

「(…あれが、"滅する白(デリート・ホワイト)"と言われる前の織斑一夏……)」

 

零華にとって、織斑一夏とそのIS『白式』とはただの存在ではない。脅威として認識している。だが今目の前で戦っている者からその片鱗すら感じられない。過去の姿を前に零華は何を言うわけでもなく観察を選択する。

 

ドォォン! ガシャァアアア!

 

一機のISが至近距離で衝撃を叩きこまれて地面へと墜落した。

目の前で繰り広げられていた模擬戦は鈴の勝利で幕を閉じた。

 

「いてて…」

「アタシの勝ちね。一夏」

 

勝者の鈴がゆっくり降りてくるとISは光の粒子となって消えて鈴は地面に着地した。

観客席で見ていた女性陣は二人の下へ駆け寄る。そして…織斑君はなんか色々言われている。

 

「さてと、あっちが終わったみたいだからウチらも始めましょうか」

「え、ちょっ」

 

零華は時花の手を引っ張りながらアリーナの真ん中へと向かって行く。

近づいて来る女性に真ん中に居た織斑君たちは誰だと疑問に思ったが連れている時花の姿を見て、さらに混乱した。

 

「…誰よ?」

「俺に言われてもなぁ」

「君達、悪いのだけど少し代わってくれる? ウチらも模擬戦をしたいから」

「え、まぁ…白式のエネルギーが回復するまでは少し休憩するのでどちらにしろ空きますが…貴方は誰ですか?」

「…ウチはただの通行人Aよ、織斑一夏くん」

「え?」

「「「ちょっと一夏、どういうこと!?」」」

 

零華が少々悪戯に答えると、周りの女性陣は織斑君に喰いかかった。そんな状態でもきちんと場所は開けてくれるようで、皆は観客席に戻りアリーナの真ん中には時花と零華の二人だけが残った。

 

「そんじゃあ、行くでぇ」

 

二人はISを自身の呼び出す。

全身に光の粒子を纏うと、次の瞬間ISを纏って地面から浮遊していた。

 

零華のISは蒼銀のIS。

背中や肩に盾を装備していて装甲自体もこちらよりも分厚い防御的なシルエット。確認できるもので武器は左手に装備したボウガンのような射撃武器と右手に持った薙刀のみ。

そんなことよりあの機体は見覚えがある。あれは以前にクロノスのデータで見たことがある。

あれは確か…

 

「『ソード・オルフェウス』…!」

「ありゃ、知ってたん? ああ、さっきのデータの中で見つけたんか。まあいっか。ほら、いつでも来ぃ」

 

零華はこちらの性能を見る目的だからなのか、構えることなく余裕を見せる。

 

それならと時花は仕掛けた。

天使ノ羽根(エンジェルフェザー)》を射出、射撃モードで空中に配置。

 

「セシリアの戦い方、少し真似るよ…!」

 

まずはカスタムライフル《天の裁き(ジャッジメント)》で正面にビームを発射。それに対して零華はそれほど動くことなく盾で難なく受け止める。それに合わせるようにビットを死角に回り込ませる。ビットの先端に光が灯り発射寸前になった瞬間、零華は動いた。

その場で回転して、それと同時に左の弩弓で同時発射が可能な光の矢を複数放ち、発射したばかりのビームを迎撃、迎撃しなかったビームは盾で弾く。

 

「何だ今の!?」

「全てを捌ききった…!?」

 

今の零華の迎撃に、観客席で織斑君と箒が驚きの声を上げる。

 

「今、全部読んでたね」

「ああ。今の攻撃は照準は甘かったが、動かなければ返し辛い角度からの一斉攻撃だったはずだ。それを容易くとは…あの女、相当の手練れだ」

「それに…さっきから同じ位置からあまり動いていないのは、力の差を見せつける目的でもあるのかもね」

 

シャルロットとラウラがそれぞれの見解を述べる中、時花はそれほど驚いた様子も無く、只々暢気に次の行動を考えていた。

 

あちゃー。流石に防御するとしてもどれかは当たると思ったんだけど、どれも防がれちゃったか。

射撃がダメなのなら今度は接近戦に……いや、多分それも簡単にあしらわれるだろう。そもそも私自身あまり接近戦とかしないし。

 

時花はその後も考え続け、一つの結論を出した。

そしてその考えに応えるように視界の中にウインドウがいくつか表示され、その中に映されているメーターが勢いよく上昇を始める。

 

【出力解放『BURST』

 エネルギー伝達選択:SHOOT

 充填率 30%

 集束率 18%】

 

「模擬戦で使うのはどうかと思うけど…これならどう!」

 

《天の裁き》の先端に戻って来た《天使ノ羽根》が取りつき、砲口を零華に向ける。

それに対して零華は何かを察したのか、動いた。

 

「…まさかとは思うけど、それも出来るんかー。それは流石にアカンわぁ」

 

零華は右手の薙刀を天に向けて掲げる。

すると、突然纏っていた装備や装甲が弾け飛んだかと思うと、光の粒子となって右手の薙刀へと集まり、その姿を大きな武器へと変えていく。そしてそれは剣と弓を足したようなシルエット、先端部分が二つに分かれた大剣となって異彩を放つ。

 

「何それ!?」

「これが『ソード・オルフェウス』の専用装備の《オルフェウス》や。強いんやけど、これをすると防御力が極端に下がるからなー」

 

そう言いながらも大剣を構える零華。

その間にチャージを終え、砲口から放たれる強力な光。

 

零華は迫りくる光を恐れない。

大剣から光が吹き出して刀身を覆う。そして…その状態の大剣を時花の放った光に叩き付ける!

 

――――! ……ドォォォォォン!!

 

「うそ……」

 

何処かからそんな声が聞こえた。

 

零華は斬ったのだ。加減していたとはいえそれでも装甲を焼き切らんばかりの強力な光の波を。真っ二つに斬られ、行き場の失った力が周辺に散らばり地面で爆散する。

 

「本当にそのシステムまで受け継いでるとはねぇ。驚きやねほんと。」

 

言葉の割にあんまり驚いてなかったし、さっきのそちらの行動の方が驚きですからほんと!

これで満足したのか零華は大剣を下ろし、それを見て時花も武器を下ろした。そんな時―――

 

「そこで何をしている。そこのIS操縦者、所属を名乗れ!」

 

突然アリーナに凛々しい声が響いた。

声のした場所を探し、観客席の出入り口付近を見るとそこには黒いスーツを纏った女性が居た。

 

「千冬姉!」

「織斑先生と呼べ。それで、そこのお前は誰だ」

 

織斑先生は真っ直ぐに零華を見る。

零華は何も言わず、ISを解除することで敵意がないことを示す。

 

「まぁ、ここでは言い辛いので場所を変えてはくれませんか、織斑千冬さん?」

「…ついて来い」

「そんじゃ、また後でね」

 

そう時花に言い残し、織斑先生に誘導されるまま零華は何処かへと消えて行った。

その場に残された時花はISを解除して皆の下へと戻る。

 

「一体何だったんだ?」

「さあ?」

「一夏、いい加減休んだだろう。次の模擬戦を始めるぞ」

「ラウラさん! 次は私の番でしてよ!」

 

場所が空いたことをいいことに織斑君の方の模擬戦が再開されるようだ。当の織斑君はすごく疲れた顔をしていたけど、ラウラとセシリアは気付いてはいないらしい。

彼の試練はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

零華が連れて来られたのは教員しか入れない部屋の一つ。

わざわざこんな部屋にしたのは、おそらく盗聴などを防ぐ意味があるのだろう。この部屋には零華と千冬の他に山田真耶や途中で出くわしたのであろう宝条綾香の姿もあった。

 

「もう一度問おう。お前は何者だ。言い辛いこととは何だ?」

「まぁ、いずれは誰かに言っとかないとこれからが動きにくいですから正直に言います。ウチは未来から来ました」

 

その言葉に千冬ではなくその後ろにいた真耶が驚いた。

 

「み、未来ですか!? 本当に!?」

「はい。といってもこれは自分の意思ではなく一種の現象による転移です」

「どういうことですか?」

「貴方達は皇時花の持つISについては知っていますか? あのISに組み込まれているコアは本来『クロノス』というISに使われていた物です」

「『クロノス』…聞いたことが無いですね。それで、それがどう関係しているのですか?」

 

コアがどのようにして時花の手に渡ったのかを一応は知っている綾香はクロノスが話の中の機体であろうと予想しつつ聞き返す。

 

「『クロノス』というのは未来の皇時花が使っていた機体なんです。そしてそれには特殊な単一仕様能力があったんです。その能力は時空間を跳び越えることができ、距離はおろか、時間の流れさえも跳ぶことが可能なものです」

「それは…タイムマシンのようなものですか?」

「はい」

 

そもそも未来でのIS開発はもちろん現代よりも進んでおり、当然開発世代も違う。

クロノスは第三世代の遥か先、奇跡を人の手で実現させることを謳った世代に作られたものなのである。

 

「話を戻しますが、操縦者を失った『クロノス』は自らの意思でその力を使い時間を跳び、その代償でコアだけの状態となってこの時代の皇時花の下に来たことになります。ですがその時の力は不安定であったようで、その影響が時空間そのものに影響を与えたようなのです。私たちはそれを"ノイズ"と呼んでいます」

 

"ノイズ"

それは自然現象のように突発的に空間に生じる小さな現象。それが起こった場合は本来とは違う不可思議なことが起こるとされる。零華が時間を跳んできたのもそれの影響であり、ノイズが生じる原因となったのは『クロノス』だという。

 

「…貴方がここまで言ったことは確証に欠けるところがある。だが今はそういうことにしておこう。その上で一つ訊く」

 

千冬が訊く。

 

「操縦者が失ったというのはどういうことだ。未来では何があった?」

 

その問いに零華は一息入れ直してから答える。

 

「未来ではISをも使った紛争が起きていました。それで『クロノス』の操縦者であった皇時花は命を落としました」

 

 

 

 




これで間章を終わらせるつもりだったので最後の最後に詰め込んだ(;'∀')

にしてもふわふわしていた内容を勢いで書いたものだから後に結構響く(笑)


次からは普通に三巻の内容に入ると思われます。
その前に私はまた余所に行きますが(。-`ω-)


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