馬鹿4人によるFGO SS 1週間1本勝負 (作家活動から逃げるな。)
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ルール+α(獣八&MKDN)

馬鹿四人の自己紹介。


①ライター・スプラウト

馬鹿その1。
BMI指数17~18の何故生きてられる系野菜人間。
基本GLメインのNL有。
後味悪い話が苦手。
エリみほは光。(作品違い)


②MKDN

馬鹿その2。
読み方は「みかどん」。
あらすじも担当した。
BL・GL・NL全てイケるハイパーハイブリット人間。
基本「のほほん」とした作風になるかと思われる。
並行して艦これ二次創作も投稿中。
気になった人は是非見にきてくれよな!(ダイマ)


③アイアムメイデン

馬鹿その3。
唯一のss投稿童貞。NLGLのCPを中心に食す。
特になんのこともない日常の話が好き。
たまのシリアスはスパイス。


④獣八

馬鹿その4。
別名『人類悪』。だが相棒はラーマという矛盾の塊である。
シリアス大好きマン。甘い文を摂取すると死ぬ病に罹っている。



こんな4人で企画は進行されていきます。




・形は一話完結型。

・参加者四人が交代で一週間に一度ssを書いて更新する。

・更新内容は3000文字以上。

・文字数は最高でも5000字程度。

・それ以上ならどこかで前後編などに分ける。

・テーマはFGOキャラ。

・自作鯖は無し。

・あくまでFGOに存在するキャラで書く。

・BL・GL大いに結構(ただし、タイトル・前書きでもわかるように配慮)

・R-18は無し。

・リアルでの予定がある場合は都合がいい人に交代。

・コラボは基本無し(要望次第では追加)。

 

 

 

・更新停止の条件:全員の心が折れるまで。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

きっかけは何だったのか、正直思い出せない

ただ3人通話ツールでグダグダ話していただけだったし、小説の話をしていたわけでも無い。

本当に、ただなんとなく、「面白そうだな」って思った事を呟いただけだったのだ。

「ここにいるやつらでさ、小説書いて回していくってどうよ?」

こんな感じの提案だったと思う。たった一時間前の事だが、お酒の力も相まってもう既に覚えていない。

「おしやるかぁ!」

即答だった。mkdnの行動力と勢いは知っていたが、それにしても驚く。

メイデンも勢いにのって答える。予想外の好反応につられて僕も笑いながら形にしていく。

 

ところで、この会話グループは3人ではなく4人で構成されている。

毒を食らわば皿まで、なんてことわざがあるが、僕たちはそれをグループに適応した。

3人が最後の一人に一斉にSNSで呼びかける。

「眠いんだけど?」スプラウトが悲し気に通話に参加する。

この言葉だけは一字一句しっかりと覚えていた。多分笑わせてくれたからだろう。

 

こうして、僕らの冗談染みた試みは始まったのだった。

 

―――獣八―――

 

 

 

 

はい、というわけでMKDNです。

えー、(いないとは思うけども)もう1個のほうから来られた方がいらっしゃったら「何やってんだお前」としか言われないような企画ですが、始まってしまいました。

あらすじに書いてある通り、ただただお酒を入れたときのノリと勢いで作られたものです。

なのでクオリティに関しては…頑張りますけど…うん……。

 

「保証は出来ない」、とだけ言っておきましょうかね!!!

 

うーん、一話目も始まってないのに何言ってんだこの投稿者は。

始まってもないのにここまで読者を盛り下げるプロローグ(?)もないのでは…?

 

…まぁともかく。

始まった以上、(文章の上手い拙いはともかく)全力で書いていきます。

頑張って読者の皆さんをほんわかさせれるような文章を書いていく(予定)のでよろしくお願いします!

 

あ、あと私の艦これ二次創作のほうもよろしくお願いします(ダイマ)。

長らく更新停止していましたが、PCもモデムも復活、リアルも落ち着いてきたということで更新再開するつもりです。

「死んでもエタりはしない」と心に決めているので、もしよろしければ応援のほうをお願いします。

「ユーザー名検索」で「MKDN」って検索すれば出てきますんで…。

へへっ、よろしく頼んますよ旦那方ぁ……。

ってな感じで私のくだらない雑談はここまで。

次回、ライター・スプラウトによる更新をお楽しみに!!!

 



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自然に浮かぶもの (ライター・スプラウト)

注意事項
・明らかにFate世界設定からしておかしいことになっていると思います。
・新宿のアーチャーが登場しています。真名は隠していますが、推測は十分可能だと思いますので一応ネタバレ注意です。
・恋愛要素とか一切ないです。
・アタランテとエレナはいいぞ。


晴れ渡り、雲一つとて存在しないほど透き通る、青い、蒼い、空。

 

その空を、まるで貫くかのように、一陣の風が、吹きすさぶ。

 

一直線に、ただ一点に向かって。

 

まるで、的に向かって放たれた、一矢のように。

 

そう。それは、風ではない。

 

本当に、矢であった。

 

風よりも速く、光より尚鋭く、音さえ切り裂くように研ぎ澄まされて放たれたその矢は、数瞬の後には、終着点に辿り着いていた。

 

その終着点は、大木すら薙ぎ倒す程の巨体でありながら。

 

ただ一本の、眉間に突き立った矢によって、その生命の息吹を、途切れさせたのであった。

 

 

 

「……よし」

 

すっと、黒く大きな木製の弓を降ろし、警戒を解く一人の女性がいる。

頭頂部付近までは翡翠色でありながら、そこから毛先に至るまで、黄金色に近い白金色を長髪を伸ばした、緑色の服の、女性。

その頭には、まるで獅子のものと見紛うほどに精巧な――いや、まさに獅子のものと同じ、耳が生えていた。

更にその臀部からは、これまた獅子の、というよりは、こちらは猫のものに近く感じる獣の尾が、スカートの下からするりと伸びていた。

その尾を垂らし、真に警戒を解き終わった女性は、自身が仕留めた巨影に向かい突き走った。

その速さたるや、果たしてその細く、柔そうな脚で出せるものとは到底思えないほど。

車どころではない。ミサイルのように、しかしミサイルですら追いつけないだろう、まさに一陣の風のような速さ。

その速さで、時には地面を直に走り、時に数十メートルを跳躍し、時には木の枝から枝へと飛び移り、数分もしないうちに、巨影――ワイバーンエビルのもとに辿り着いた。

 

「……やはり、でかいな」

 

女性は自身で仕留めたソイツを見て、顔を顰めながら言った。

そう、そのワイバーンエビルは通常の個体よりも遥かに大きかったのである。

通常ならばせいぜいが四、五メートルのそれが、今ここに倒れ伏すものはゆうに十メートルを超えているだろう。

このサイズにもなればドラゴンと言ってもいいだろう。

 

「お疲れ様、アタランテ!」

 

そんな風にワイバーンエビルの死体を眺めていると、女性に声をかけてくる、別の女性がいた。

胸の先端から脚の付け根までしか隠さないほどのきわどいワンピースのような服の上に長いコートを腕に通す程度に羽織った、まるで少女のような見た目をした女性。

 

「あぁ。そちらこそ、エレナ」

 

かけられた労いの言葉に、彼女――アタランテは、真顔のままに答え、また返した。

返された桃髪の少女――エレナ・ブラヴァツキーは、呆れたかのように溜息を零していたが。

 

「……どうかしたか?」

 

「はぁー……あのね、労うならそんなに真顔でなくてもよいのではなくて?そんなに固い顔で労われても、少しもリラックスできなくてよ?」

 

「む、すまない……その、あまりそういうことにはなれていなくてな」

 

エレナの指摘に、アタランテは申し訳なさそうにしながらも、やはり表情は真顔に近いものであった。

そこに、虚空から同意するかのような声が響く。

 

『そうだぞぅ。せっかく見目麗しいんだから、もっとはにかんでもいいんじゃないかな?』

 

そう言うと同時、虚空に青いホログラフが浮かびあがる。

そこに写るのは長髪の女性。

現在、アタランテやエレナを指揮するマスターの指揮役、レオナルド・ダ・ヴィンチであった。

今回彼女たちがこの場に来ているのも、彼女からの指示である。

曰く、「この特異点で急に魔力反応が確認されたから確認してきて」とのこと。

それを確認しに来てのこれである。

 

「だからさっきも言っただろう、不得意なんだ、そういうのは」

 

「まぁそれは仕方ないからいいわ。……それにしても、本当にデカいわね」

 

「あぁ。汝の強化魔術と宝具による弱体化、それに……」

 

と言って、ちら、と少し離れたところを見るアタランテの視線の先には、特徴的な形の青い襟をした、スーツ姿の初老の男性が、地面に倒れていた。

その服は至る所が黒こげになっている他、一度踏み潰されたのか、ぴくぴくと痙攣していた。

それを白い服の少年が枝で突きながら治療魔術を施しているようである。

 

「……あの男のカリスマと作戦、そしてあの様があってこそ、だ。それが無ければ流石に一矢では倒し切れなかっただろう」

 

「……ブレスにカウンターをかけるように宝具を発動しようとしたところまでは滅茶苦茶渋くてダンディーだったのに、そこで腰がグキって言うあたり残念なオジサマよね……」

 

「聞こえてるよキミたち……私、こんなキャラじゃないはずなんだけどネ……」

 

「はいはい、あなたは大人しくマスターの治癒を受けてなさいな」

 

「辛辣よくないと思うよ……」

 

とだけ言い残して再び地面に突っ伏す初老の男を放置し、アタランテとエレナは倒したワイバーンエビルの死骸に近寄る。

 

「……どうみてもこれ、自然発生のやつじゃないわよね」

 

「だな。明らかに無理のあるサイズだ」

 

アタランテは獣としての感性で、エレナは魔術的視点から、ワイバーンエビルの死骸を検分する。

 

「うーん、魔力回路が明らかに増えてるわね……これ、外から移植されたやつかしら? でもあまり拒絶反応なさそうね……そういうところ人間ほど複雑じゃないけど、こんなにマッチしてるなんて一体……」

 

「――エレナ」

 

エレナがワイバーンエビルの頭に手を触れながら思考していると、喉のあたりからアタランテが声をかける。

エレナはすぐにアタランテのもとに駆け寄った。

 

「何か見つけた?」

 

「あぁ」

 

そう言ってアタランテが指差した先には、薄い、それこそこうして近くに寄って注意してみなければわからないほどに薄く隠された、縫合痕があった。

 

「……手術痕ね、これ。それも割と新しいやつ」

 

「明らかに人の手が加わった後の証拠だな。しかしなんと小さい傷だ」

 

「……もしかしてだけど、これ……」

 

その手術痕を見て何かを察したのか、エレナは再び死骸の頭に手を当てる。

そして今度は先ほどよりも深く意識を集中させて、ワイバーンエビルの死骸に残る魔術回路を詳しく調べていく。

魔術には明るくないアタランテは邪魔にならないように、エレナの後ろで静かに見守っていた。

五分ほど経過したところで、エレナが静かに死骸の頭から手を離す。

 

「――やっぱりこの増えてる魔術回路、他の『幼体ワイバーンエビル』から移植されたものみたい」

 

エレナの言葉に、アタランテと、初老の男性を治療していた少年が首を傾げた。

 

「そんなことができるのか?」

 

アタランテの疑問も当然である。

魔術回路は本来固有のもの、いうなれば神経系、あるいは内臓器官と同類である。

であるならば、移植することはとてつもない困難なことであり、そうそう出来ることではない。

よしんば出来たとしても(もっともこのワイバーンエビルには成功しているわけだが)、そんなことをして拒絶反応が出ないはずがない。良くて魔術回路の暴走、悪くて即死だ。

それが、体躯がここまで巨大化する以外の影響が出ていない。それが、幼体から移植するだけで起きうるものなのだろうか。

 

「多分だけど、このワイバーンエビルも元は幼体だったのよ。で、きっと目覚める前の回路を移植してから回路を目覚めさせることで、無理矢理このワイバーンエビル固有の回路にしたてあげた……それならいけそうじゃない?ね?ダ・ヴィンチちゃん?」

 

『まぁ理論上はそれであってそうだけど……むちゃくちゃな理論だなぁ』

 

「そこに転がってるオジサマも似たようなことやってるし出来るとは思うけどね」

 

「多分全然違うと思うけどネ……」

 

「となればあとはこいつをここまでした魔術師を見つけねばな。それほどの技量を持つなら、更に危険な存在も作れるだろう。すぐに――」

 

『――少し失礼。おそらくその心配はいらないと思われる』

 

『あ、ちょっ!?相変わらずだなぁキミは!』

 

アタランテの言葉を遮るように、通信先を写すホログラフがダ・ヴィンチから若き青年の姿に変わる。

オールバックに黒いインバネスコート、左手にもつパイプから紫煙を曇らせるのは、最近になってカルデアに滞在するようになったサーヴァント・ルーラー――シャーロック・ホームズであった。

彼が出てきた瞬間、初老の男性がワイバーンエビルの後ろに隠れたがそんなことに気を向けず、アタランテはホームズに疑問を投げかけた。

 

「その心配はいらないと言ったが、どういうことだ? 汝は何を知り……いや、推理してみせた?」

 

『種明かしが必要か……そういうのはあまり好きじゃないんだが。まぁ仕方あるまい。おそらく――』

 

「――このワイバーンは急成長し、魔術師の手を離れた。その際に、魔術師はこいつに食われた、といったところかね」

 

ホームズの言葉を、初老の男性が遮って、答える。

 

「この傷痕、見た感じ一、ニ週間以内に付けられたものだ。であれば魔術回路が移植されたのもそれくらいだろうねぇ。それにも関わらず、この巨体にまでなっている。ということはこいつは何らかの影響で急激にこのサイズにまで成長したと考えられる。その理由は、十中八九魔術回路の覚醒だろうが――覚醒させるために何かしたからか、あるいは魔術回路を覚醒させるためにわざとかは知らないけど、ネ」

 

「……食われた、ということか」

 

アタランテが目を閉じてそう呟く。それは決して、魔術師を悼む気持ちの為でも、ワイバーンエビルを弔う為のものでも無い。

エレナも特に何も言わず、ただ死骸を見つめ続けていた。

そして彼女らのマスターは、ただ一言。

 

せめて、弔ってあげよう

 

それだけ、言った。

 

 

 

 

 

 

 

『……ワイバーンエビルの死骸の完全な焼却を確認。その特異点から検出されていた異常な魔力は観測されなくなりました。お疲れ様でした、先輩。レイシフト準備、できてます!』

 

マスターを先輩と慕うシールダーだった少女の言葉に体から余計な力を抜き、流されるままに彼女らの拠点、カルデアに帰還する。

マスターはそのままダ・ヴィンチらのもとに今回の出来事を報告しに行き、今回同行した三人はそのまま解散となった。

初老の男性はそのままマスターについて行った――ホームズにでもちょっかいをかけに行ったのだろう――ので、アタランテとエレナはそのまま自身に割り振られた部屋に戻ろうとしていた。

が。

 

「ええいだから交流はダメなのだ!!」

 

「やかましいぞこの凡骨が!」

 

「……あの二人はほんっと、いっつもああなんだから……ちょっと止めてくるわ。今回は本当にお疲れ様ね、アタランテ!」

 

「あぁ、お疲れ様、エレナ」

 

挨拶を済ませ、電流コンビの喧嘩を仲裁しにいったエレナを見送り、アタランテは再び自室へ戻って行く。

途中、子供姿のサーヴァント三人衆がじゃれていたり、金ぴかの王が騒いでいたり、赤い弓兵が掃除をしていたり……

 

そういう光景を見て。

 

「ふっ、ここは相変わらずだな」

 

アタランテは、小さく笑みをこぼした。




初めまして、ライター・スプラウトです。

本企画一発目の作品、いかがでしたでしょうか。
皆様のご期待に添えられていたか不安ですが、少しでもアタランテのカッコよさとエレナの可愛さが伝わればと思います。あんまエレナ書いてあげられなかったゴメンネ。

その他自身については活動報告にあげておきますので、もし気が向かれたらご覧になられていただければ、と思います。

次回担当はMKDN兄貴です。もう一本の方も書いて同時投稿するとか言ってるので、ご期待ください(プレッシャーかけていくスタイル)


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兄貴と僕と、時々オカン。(MKDN)

おはよう!こんにちは!こんばんは!
今週の担当をさせていただく馬鹿その2、MKDNです!

自己紹介は活動報告のほうでさせていただきますので、早速ですが本編のほうをどうぞ!




 

「おーい、マスターいるか?」

 

僕がマイルームでダ・ヴィンチちゃんから借りた魔術書、「素人でもわかる!簡単魔術入門!」を読んでいると、戦闘シミュレーションルームに行っていたはずの槍ニキーーークー・フーリン(槍)がマイルームに入ってきた。

 

「あれ?槍ニキじゃん、シミュレーション戦闘はどうしたの?」

 

「んあ?ありゃぁだめだ。あんなんじゃ、まっっったく滾らねぇ…。逆にストレス溜まっちまったぜ」

 

やっぱ実戦じゃねぇとなー、などとぼやく槍ニキを見てやっぱりこの人は根っからの戦闘狂なんだなぁ、と思う。

まぁ聖杯に掛ける願いが無い上、聖杯戦争への参加理由が「死力を尽くし、強者と戦うため」っていう時点で分かってたんだけどね?改めて感じちゃうよね。

 

「っつーわけでだマスター。ちょっと俺のストレス発散に付き合ってくんねぇか?なぁに、悪いようにはしねぇからよ!」

 

「うん、別にいいけど…どこ行くの?シミュレーションルームじゃないんだよね?」

 

「なぁに、簡単な話だマスター。『シミュレーションで発散できねぇなら実戦で発散すればいい』、ってな!」

 

ニカッと笑いながらそんなことを言ってくる槍ニキ。

ってことはつまり…

 

「『どっか満足できる相手がいるところにレイシフトしてその相手と存分にやりあおう』、ってこと?」

 

「そういうこった!理解が早いなマスター!」

 

「いや、あそこまで言われたら誰でも気づくと思うよ…?それで、行くとことか決まってるの?」

 

「おう、良さそうな相手ならもう思いついてんだ。第一特異点、覚えてるかマスター?」

 

「…もちろん覚えてるよ。白いジャンヌ達と一緒に黒いジャンヌ達と戦ったよね」

 

そう、当然覚えてる。

忘れたくても、忘れられない。

 

 

 

ーーー滅びゆく街を見た。

 

ーーー死にゆく人々を見た。

 

ーーー自分のために消えていく仲間たちを見た。

 

ーーー「戦争」というものがどんなものかということを思い知らされた。

 

 

 

「僕が生まれて初めて、本物の『地獄』を見た場所だ」

 

槍ニキにとっては生ぬるいのかもしれないけどね、と苦笑を漏らしながら付け加えてそう言うと、槍ニキは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「…そうか、マスターは元は一般人だったな。すまねぇな、嫌なこと思い出させちまってよ」

 

「ううん、違うんだ。確かにあれは嫌な、絶対に忘れられないような思い出だけど…それだけじゃなかったんだ」

 

そう、あそこで僕は確かに地獄を見た。

けど、僕はあの場所で人間の素晴らしさも知ることができた。

 

 

 

ーーー今にも滅びそうな街の中でも明るく振舞い、今を懸命に生き抜く人たちを見た。

 

ーーーたとえ敵わないと分かっていても、武器をもって敵に立ち向かう、勇敢な人々を見た。

 

ーーー自分の命をなげうってでも、思いを、未来を、僕につないでくれた人がいた。

 

 

「それを見て僕は思ったんだ。『人理焼却なんて絶対にやっちゃいけないことだ』って。心からそう思ったんだ」

 

それまでは何が何だかわからなかった。

アルバイトをしようと思って応募したら雪山の頂上に拉致られて。

可愛い後輩に出会ったと思ったら突然大爆発が起きて。

あれよあれよという間に「人類最後のマスター」になって。

第一特異点に来るまでは、ちゃんと分かってなかったんだ。

ただ、皆が困っていたから自分ができることをしようと思った。ただそれだけだった。

 

「僕はあの場所で、本当の意味で覚悟ができたんだと思ってるよ。『絶対に人理を救う』っていう覚悟が」

 

槍ニキは黙ってじっと僕の話を聞いてくれている。

 

「だからどうか謝らないでほしい。たしかにあの場所では嫌なことがいっぱいあったけど…あそこは、この旅における僕の原点だから」

 

そう話を締めくくると槍ニキは、

 

「…そうか。お前も十分立派な男だった、って訳だな」

 

そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。

 

「わぁっ、ちょっ、何するんだよ!」

 

「ははは、すまねぇな!ついつい嬉しくなっちまってよ!」

 

そう謝りながらも笑いながらぐしゃぐしゃと撫でてくる手を止める気配はない。

 

「…なぁ、マスター」

 

どうしようもないので抵抗をやめてしばらく大人しく撫でられていると、槍ニキが話しかけてきた。

 

「確かにお前は『人類最後のマスター』だ。それは今となっちゃもうどうしようもならねぇ事実だ」

 

だけどな、と一旦区切り。

 

「何もお前1人で人理を救うわけじゃねぇ。俺がいる。相棒の嬢ちゃんだって、あのいけ好かねぇ紅い弓兵だっている。お前にゃ頼れる奴らが周りにわんさかいる。それを忘れんじゃねぇぞ」

 

そう、言ってきた。

 

あぁ、やっぱり。

この人は正しく英雄だ。神話の通りの、偉大な大英雄なんだ。

 

「…うん、肝に銘じとくよ」

 

「おう、そうしとけ。…話は戻るがマスター、そういうわけで行くところは第一特異点、オルレアンだ。そこにいい感じのヤツがいる。」

 

「そういえばそんな話だったね。にしてもオルレアン…邪ンヌがうちに来ちゃってあそこに居ない今、残留思念だとしても残ってるのは…」

 

「そ。あの竜殺しが屠った災厄の竜、さんざん俺たちを苦しめてくれやがった、『邪竜ファフニール』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ほい、っと。到着だなマスター」

 

「うーん、結局お忍びでレイシフトしちゃったけど大丈夫なのかなぁ…」

 

レイシフトには存在証明やらなんやらが必要なのではなかっただろうか。

お忍びだったから誰にもレイシフトすることを言ってないけどその辺大丈夫なんだろうか…?

 

「まぁ、大丈夫だろ。問題があってもあの医者が何とかするだろうしよ」

 

「そういうもんかなぁ…」

 

うーん、不安だ。

 

「安心しろよマスター。俺のこの槍にかけて、お前にゃ傷一つ負わさずに帰してやるからよ」

 

不安がっていたら槍ニキがどや顔でそんなことを言ってきた。

顔もセリフもイケメンですごく様になっているんだけど…

 

「『必中の槍が当たらない』って有名な人にそんなどや顔されてもなぁ…」

 

正直こんな気持ちで心の中はいっぱいである。

や、確かにかっこいいんだけどね?

 

「てめぇ、マスター!それどっから情報仕入れやがった!なんでお前がそんなこと知ってやがる?!」

 

「エミヤが教えてくれたよ?」

 

「やっぱりあの弓兵か!どこまで行ってもいけ好かねー野郎だ!」

 

「『穿つは心臓(笑)、謳うは必中(爆)!』とも言ってた」

 

「よーし、あの野郎帰ったらボッコボコにしてやらぁ!テメェが馬鹿にした槍を存分に喰らうがいいわー!!!」

 

そんな雑談をしながら槍ニキの先導で目的地に向かって歩いていく。

十数分歩いたところにあった開けた場所で槍ニキが止まり、何やら地面に書き出した。

どうやらルーン文字で作った魔法陣のようだけど…?

 

「槍ニキ、何やってるの?」

 

「ん?あぁ、そもそもの相手を呼び出そうと思ってよ。」

 

「呼び出す?ファフニールを?」

 

「おうさ。モノホンはあの竜殺しが斃しちまったからな。残ってる残留思念をかき集めて奴を再現する、ってスンポーよ」

 

「へぇー…そんなこともできるんだね、ルーン魔術って」

 

「まぁこんなことができるのは限られたごく一部の使い手だけだけどな、それこそ俺レベルの」

 

「じゃあそれ普通の魔術師じゃ無理じゃん」

 

「あったりめぇだろ…神代の失われたルーンも入ってるから絶対に出来ねぇぜ?」

 

「えぇ…何、槍ニキ実はすごい魔術師だったの?」

 

「だからキャスタークラスの俺が召喚されてんだろうが?!このクラスではめんどくせーから使わねぇだけだっつの!ほら、そろそろ出来上がるから離れてろ」

 

「はいはーい」

 

槍ニキの言葉に従い、素直に後ろへと下がる。

すると、下がってから数秒で魔法陣の周りに黒いモヤが漂いだした。

それはだんだんと増えていき、やがて一塊になっていく。

 

それは黒い竜だった。

見た者全てに災厄をもたらすような、底なしの絶望を凝縮したような黒い竜だった。

その吐息は圧倒的な破壊と死をもたらし、ひとたび足を踏み鳴らせば大地が悲鳴をあげる。

人間など歯牙にもかけない巨体の化け物が、殺意をもってこちらに迫りくる。

 

もし僕一人でこの災厄の竜、ファフニールと対面したなら死は免れなかっただろう。

 

だけど、僕の前には彼がいる。

一騎当千、万夫不当、百戦錬磨の彼がいる。

 

「おーおー、元気なこって…そうでなくっちゃ()りがいがねぇ…!」

 

そう、彼こそはアルスター伝説における大英雄。

太陽神ルーの子である「光の御子」。

「『赤枝の騎士団』にこの人あり」と謳われた「クランの猛犬」、クー・フーリンーーー!

 

 

「邪竜ファフニール…その心臓、貰い受けるーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

「…それで?何か申し開きはあるかね?マスター」

 

あれから数時間後、オルレアンから帰ってきた僕は中央管制室でエミヤの前に正座していた。

周りには怒った顔をしたマシュとお腹を抱えて笑っているダ・ヴィンチちゃん、エミヤの威圧なぞどこ吹く風、といった体の槍ニキがいる。

 

「いや…無断で特異点にレイシフトしたのは悪かったけど、槍ニキも一緒だったし…」

 

「そういう問題ではないんだマスター!いきなりどこかへ消えてしまった君を、私やマシュ、スタッフの方々がどれだけ心配したと思っている?!」

 

「そうですよ先輩!私、すっごく心配したんですからね!」

 

「うっ…面目次第もございません…」

 

エミヤだけでなくマシュにまで言われてしまってはただ謝るしかない。

男の子は総じて女の子に弱い生き物なのだ。

 

「まぁまぁ。嬢ちゃんも弓兵も、マスターはこの通りかすり傷一つ負わずに帰ってきたんだからいいじゃねぇか」

 

そう槍ニキが助け舟を出してくれるも、

 

「それはただの結果論だろう?万が一、ということもある。誰もスタッフがいない状態でカルデアスに異常が起こって意味消失、なんてことになったら君は責任を取れるのか、クー・フーリン?」

 

冷ややかな目線と共にごもっともな反論をするエミヤ。その後もつらつらと彼の危惧する状況を列挙していく。

 

「それに君と違ってマスターは普通の人間なんだ。それも元一般人のな。何度も何度もする必要のない血なまぐさい戦闘に参加する意義がない」

 

それは、確かに。

 

「さらに言うならば、だ。勝手に連れ出した結果、予測不能な事態が起こってマスターに何らかの後遺症が残ったらどうなる?もしトラウマになって『レイシフト恐怖症』なんてものになってしまったら人理は焼却され今までの我々の努力が無駄になるんだぞ?」

 

…いや、まぁ確かにごもっともなんだけど、さ。

 

「…なんつーか、マスターに対する過保護がすげぇな…テメェ、受験生の母親かよ」

 

あ、思っても言わないようにしてたのについに言っちゃった。

そうなのだ、召喚した直後はそうでもなかったのだけど、共に特異点を乗り越えていくにつれて段々とエミヤはまるで母親のようなことを言ってくるようになったのだ。

服はしっかり畳め、とかご飯は三食きっちり食べろ、とか明日も早いんだし早く寝ろ、とか。

…や、全部やってない僕が悪いんだけどね?

 

「あー、やだやだ。こんな口うるせぇのが母親とか、俺だったら死んでもごめんだね」

 

確かにそうだろうなぁ。

槍ニキ、責任は自分で取るから好き勝手やらせろ!って感じだし。

 

「はっ、『待て』もできない番犬風情がよく吠える。そういうことはもう少し他人の言葉に耳を傾けてから言ってもらいたいものだな。」

 

あっ。

 

「テメェ…今『犬』と言ったか?」

 

エミヤの挑発に対しこめかみをびきびきさせながら言う槍ニキ。

これは…いつもの流れじゃな…?

 

「事実だろう、クー・フーリン。待機を命じてもすぐにどこかへ飛び出して行ってしまう。まるで躾のなっていない猛犬だ」

 

「貴様こそ、よくぞ吠えたなアーチャー…抑止力の奴隷風情が。いい加減白黒はっきり付けようや…」

 

「望むところだアイルランドの大英雄。少しは言うことを聞くように躾けてやろう」

 

「抜かせ。後で吠えずら掻いても知らねぇぞ?」

 

「それは君の役目だろう?なんせ『犬』なのだからな」

 

互いに挑発を繰り返しながら戦闘シミュレーションルームへと歩いていく二人。

あと数分後にはいつものようにどったんばったんと騒がしい戦闘音が聞こえてくるのだろう。

 

この状況で僕が言うべきことはただ一つ。

 

 

「やめて!もう僕のために争わないで!」

 

「冗談になっていない冗談はダメです先輩?!」

 

今日もカルデアは平和です。

 

 

 

 

ーーー『偽・螺旋剣(カラドボルグII)』!!!

 

ーーー『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』!!!

 

ーーー『先輩、そろそろ止めないとまずいですよ!先輩!せんぱーい!!!』

 

 

平和ったら平和なんです!

 




というわけで記念すべき私のFGO SS 1週間1本勝負、初めての作品でした。
お楽しみいただけましたでしょうか?

当初はここまで長くなる予定じゃなかったんですけどね…
いつの間にか5000字近く書いちゃってました。

あ、私が元々書いていた方も同時刻に上がっていますので、そちらももしよろしければ見てやってください。

来週は物書き活動初挑戦の我らが馬鹿その3、アイアムメイデンが担当です。
どうか温かい目で見守っていただきますようよろしくお願いいたします。
それではこちらではまた一か月後にお会いしましょう!さようならー!

MKDN


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あなたの隣で (アイアムメイデン)

注意事項
・この作品には剣豪のネタバレが含まれています。
・2017ハロウィンイベントのキャラも出ています。
・このメンバー唯一の小説投稿初です。駄文です。
・恋愛要素は一応ないです。

以上がよろしければこのまま本文へどうぞ!


風魔小太郎は忍者である。彼は風魔5代目頭目として、様々な忍術とあらゆる隠密行動をもって忍者としての任務を遂行してきた。そんな彼がサーヴァントとして人理に召喚されてきたのはかなり前のこと。それからマスターと主従関係を結び、特異点を修正するという任務を他のサーヴァントと共に行ってきた。つい最近も下総国においてマスターの緊急事態になんとかレイシフトして駆けつけ、大立ち回りを演じたところである。

そんな彼はつかの間の休息をもらっていた。サーヴァントには身体的疲れはないが、それでも休息は必要だろうというマスターの配慮である。そして休息をもらった彼はとある女性をストー…観察していた。その目線の先にいたのは…

 

「……………(今日もいつも通りだな…)」

 

その先にいたのは女性だった。その女性は髪を後頭部で結び、忍者装束に身を包んでいる。彼女の名は加藤段蔵。ここ数週間前にカルデアに召喚されたれっきとしたサーヴァントである。

段蔵と小太郎には浅からぬ縁がある。小太郎にとって彼女は親そのものだった。忍術を教え、体術を教え、他ならぬ母の温もりを教えてもらったのはまぎれもなく彼女だったのだ。

しかしカルデアに召喚された段蔵にはその時代の記憶は残っていなかった。からくり人形としてがたがきているとか、サーヴァントとして召喚された霊基の関係だとか理由は未だにわからない。小太郎は幼少期を覚えていて、段蔵は覚えていない。わかっているのはそれだけである。

そのようなわけで彼は段蔵のことが気掛かりで、だが張り付いてるわけにもいかず、こうして彼女から教わった技術を使って彼女のことをたまに物陰から見守っているのである。

 

 

忍者としての性分だろうか、段蔵は必要以上に人のいるところに近寄ろうとはしない。数ある休憩室のなかでも人気の少ない場所でゆったり過ごした後、たまにマスターと共に過ごし、カルデアを少し散歩した後自分の部屋に戻っていくのがいつもの日課になっていた。

今日もいつもと同じく人気のない休憩室で何をするまでもなく窓の外を眺めていた…のだが…

 

「……………!!(誰か来る!)」

 

風魔5代目頭目である風魔小太郎にとって、隠密行動をしている最中であっても他人の気配を察するのはたやすい。気づかれないように物陰の後ろで気配を殺す。大抵この場合は色んな休憩室を回って話をしに来るマスターなのだが…

 

(この足音は…?)

 

前述の通り小太郎にとって足音を聞き分けることは造作もない。が、そんなに耳をすませる必要もないほどその足音はあまりに大きかった。

ガショーン!ガショーン!とロボット的足音を大きく鳴らしながらやってきたのは…

 

「…すいません。待たせてしまいましたか?」

 

赤くメタリックなボディに長い尻尾、頭から飛び出た二つの角、そして今にも変形して飛び立っていきそうな翼。段蔵が召喚されたのと同時期にカルデアにやってきたメカエリチャンだった。

 

(あれはメカエリチャン殿!?)

 

小太郎はハロウィンのマスターが巻き込まれた珍道中についてそれほど詳しくない。エリザベートなる英霊がハロウィンで大暴れしていたのはよく聞いていたが、今年はメカがどうとか、引きこもりがどうとか、そんな風の噂しか知らなかった。結局確実に言えることは、メカエリチャンなるサーヴァントがカルデアにやってきたということだけだった。

 

「いえ、段蔵も今来たところです、メカエリチャン殿。どうぞお座りくだされ。」

 

カルデアの椅子がメカエリチャンに耐え切れるのか、というどうでもいい考えが小太郎の頭に浮かぶがすぐはねのけた。

段蔵はからくりのため、他の機械のサーヴァント、バベッジやフランといったサーヴァントたちとはある程度交流がある。またエジソンやテスラといった科学者も興味を持っているようだ。しかしまだカルデアに来て日が浅いせいか、それほど仲が良い様子は見られなかったのだが…

 

「(なぜメカエリチャン殿がここに…確かにメカという共通点はあるが…)」

 

小太郎は段蔵の事が急に心配になってきた。なぜならメカエリチャンのモデルになっているであろうエリザベートの傍若無人さ、そして何より彼女の歌の凶暴さを知っているからである。メカエリチャンはエリザベートと違って普段は常識のあるような振る舞いをしているが、一度戦いに出た時に、完全にエリザベートのような口調になっていたのを覚えている。

 

「(母上…メカエリチャン殿を呼び出して一体何を話そうというのです…?)」

 

エリザベートと話しているのなら、少なくともろくなことではないだろうと推測もできるが、メカエリチャンとなると一体何を話しているのか想像もできない。

 

「(まさかメカエリチャン殿歓迎のためのエリザベート殿のライブなんて可能性も!?そうであればまずい…マスターのためにも、カルデアのためにも阻止せねば…!)」

 

小太郎がそんな暴走気味な思考をしている間にも、段蔵とメカエリチャンは話を進めていた。

 

「それで?なぜ私を呼んだのです?」

「それはですね…実は他の方には内緒にしているのですが…」

「内緒話ですか。わかりました。私にはアタッチメント機能としてサイレントヴォイス機能が搭載されています。それを使えば問題ないでしょう。」

「さいれんと…よくわかりませんがそれで問題ないと思いまする。では本題なのですが…」

 

(まずい…ここからじゃ断片的にしか聞き取れない…!)

 

彼は部屋の入り口近くの物陰に隠れていた為に、サイレントヴォイス機能を駆使して話す二人の会話を聞き取るのが難しくなってしまった。

(集中せねば…!この会話一文字たりとも聞き逃すわけ…)

 

『(ちょっと!!ねえちょっと!!』

(!!!)

 

急に後ろから押し殺したような声が聞こえたので小太郎は驚いたがその顔には見覚えがあった。

『エリザベート…さん?』

『なによコソコソして!』

『いや僕はコソコソするのが性分と言いますか…ってそれはエリザベートさんもじゃないですか!』

 

そこにいたのはメカエリチャンのモデルとなった、エリザベートだった。彼女は部屋の外側、ちょうど扉の横あたりで二人を見守っているらしかった。

 

『いいからちょっと来なさいよあんた!』

『???』

 

このままだとエリザベートのせいで2人に気づかれそうだと感じた小太郎は、大人しくエリザベートの元へと移動した。

 

『あんたもあの2人の会話気になってるんでしょ?』

『え、ええ…まあ…エリザベートさんはどうして?』

『あのメカエリちゃんが私に隠れて何かしようってんだから見張らないわけにはいかないでしょ』

『そう…なんですか?』

『そうよ!きっと私をモデルにしたんだからライブの予定を立ててるのよ!なら私がスペシャルゲストとして歌わなきゃ!でしょ?』

『は、はぁ…でもならこういう風にコソコソする必要はないのでは…?』

『シークレットゲストとして登場したら楽しそうじゃない!突然のアイドルの登場!一斉に集まるスポットライト!沸き立つ観衆!素晴らしいと思わない?だから場所だけでもこっそり聞いておかないとね!』

『なるほど…』

 

はた迷惑な話なのでは、と小太郎は思ったがそれを口には出さなかった。するとエリザベートは思い出したように小太郎に聞いて来た。

 

『そういえばあなたはどうして隠れて聞いてるの?』

『えーっと…それはですね…』

 

小太郎がどう説明しようか悩んでいると…

 

「エリチャンパーーンチ!!!」

 

『うぇ!?』

『!!』

 

突然2人が隠れていた壁が爆発した。

小太郎は急な叫び声と爆発に驚いたが、急いで後ろに飛んだ。ついでに可哀想なのでエリザベートの首根っこを掴んだ。

 

「危なかったわ…」

「ええ…」

 

なんとか2人は大した怪我もなく済んだが、さっきまで隠れていたドアは完全に壊されていた。

 

「そこまでです!エリザベート・バートリー」

 

そしてそのドアだったものをガシャンと踏んで、赤い装甲のメカエリチャンが部屋から出て来た。

「大丈夫ですか!?」

と段蔵が慌てた様子で出て来たので小太郎は目で大丈夫と伝えた。段蔵がホッとした様子を見せた中、エリザベートとメカエリチャンは言い合いをしていた。

 

「あなたには元々期待などしてはいませんでしたが、人の話を盗み聞きなど領主以前の問題ですね!」

「だからっていきなりロケットパンチすることはないでしょーーー!!!」

「当然です。悪には強い正義の力を持って立ち向かわねばならないのですから。風間小太郎。あなたの協力にも感謝します。」

「あ、はい…どうも…」

 

ずっとエリザベートの首根っこを掴んでいたことに気づいた小太郎はすぐに手を離した。エリザベートは物凄く不満そうだ。

 

「そ!れ!よ!り!あんた達何の話してたのよ!!そっちの貴女なら教えてくれるでしょう?」

「え!?段蔵…ですか?」

 

皆の視線が彼女に集まる。小太郎は心配しつつも内心気になっていた。この2人は一体何の話をしていたのだろう?

メカエリチャンは視線で貴女の判断に任せますと促した。

 

「……そうですね。お二人ならよろしいと思いまする」

段蔵は頷いた

「くれぐれもご内密にお願いしますね?」

エリザベートと小太郎はブンブンと首を縦に振った

 

「そもそもはメカエリチャン殿にとある集まりに入って欲しいという話だったのです。」

「集まり…というと?」

小太郎が聞くと段蔵が続けて話した。

「実は段蔵も最近入れさせてもらったんですが、フラン殿主催の「ろぼかい」なるものがありまして…フラン殿曰く『パパがいっつもなにかをたくらんでるから、それをそしするためにろぼのぐんだんをつくるのー!』とのことで…カルデアにいる絡繰のサーヴァントを誘っているそうなんです。まあ基本的にはバベッジ殿がフラン殿が寂しがらないように、同じようなサーヴァントを集めて話す場所を作ったということらしいのですが…」

「それって簡単に言うと親が子供のために遊び仲間を誘ってるってことじゃない!」

「最近段蔵もその集まりに誘われまして…。そしてメカエリチャン殿にも声をかけて欲しいと頼まれた訳です。」

そこで段蔵はメカエリチャンの方を向いた。

「と、言うわけでどうですか?メカエリチャン殿?」

メカエリチャンは少し悩んだそぶりを見せた。

「ふむ…確かに悪事を防ぐ正義のロボというのは興味深くもありますが…ですが!!」

メカエリチャンの目と拳がエリザベートに向けられた。

「その前にまず貴女のその腐った根性に制裁を加えねばなりません!貴女がいつまでも私のパイロットに迷惑をかけていることには我慢なりませんからね!!決してバベッジ卿がタコっぽくて苦手だから、少し遠くから会を眺めようとか思ってる訳じゃないのです!決して!!」

(タコ?)(バベッジ殿がタコっぽい…?)

と小太郎と段蔵が首を傾げている中、メカエリチャンは戦闘態勢を整えていた。

「え!?もしかして私言い訳に使われた!?しかも子犬に迷惑かけてるってどういうことよ!」

「それがわからないとは…やはりあなたには再教育の必要がありそうですね!」

「えっどゆこと!?わわ!ロケットパンチは反則!暴力反対!!助けて子犬ー!!!」

 

エリザベートとメカエリは追いかけっこをしながらカルデアの廊下を大騒ぎで走っていく。目的地はもちろんマスターの部屋だ。

そして段蔵と小太郎はその場に取り残されたような状況になった。しばらくポカーンと追いかけっこを見ていた2人だったが、段蔵の方が小太郎へ話しかけた。

「…小太郎殿」

「なんですか段蔵殿?」

「小太郎殿にはカルデアに来た当初から色々なことを教えてもらいました。私は今はこうしてこのカルデアの一員として認められましたが、私一人ではどうにもならなかったと思うのです。だから、ありがとうございます。」

 

小太郎は突然の段蔵の言葉に驚いた。そんなことを言われる理由もないと思ったし、彼女がカルデアの一員となったのはどう考えても彼女のその性格が見るものを引き付けたからこそだと、そう思っていたからである。

 

「いえ…僕はなにもしていませんよ。それより早くマスターのところに行かないと…エリザベートさんのことです…マスター1人ではきっと大変でしょう。」

「そうですか…なら段蔵も参ります。共に主を守りましょう。」

「……ええ。行きましょう。」

 

そして2人はマスターの元へと急ぐ。その2人の顔にはどちらも笑みがこぼれていたが、2人ともそのことには気づかなかった。

小太郎は思う。

自分と母上が同じサーヴァントとして、同じ忍者として同じ主に仕えている。それだけで、自分はとても幸せである、と。

 

 

 

 




初めまして。アイアムメイデンというものです。
まずは駄文を最後まで読んでくださりありがとうございました。
小説投稿というかちゃんと文字数がある小説を書くのも初めてなのもあって色々テンパりましたが、なんだかんだ楽しく書かせていただきました。
内容は好きなキャラを絡ませただけですが、キャラの魅力が少しでも伝われば幸いです。

さて、来週の担当は獣八さんです!
皆様是非楽しみにお待ちください!


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海賊王の休息 前編 (獣八)

先週末までに間に合わず、関係者各位に多大な迷惑をかけた事、期待してくださってた読者皆様を裏切った事、この場と活動報告を借りて謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした。

(追記)※注意 この短編にはfate/grand order 1.5章亜種特異点Ⅱ『アガルタの女』のネタバレを含みます。その点をご注意の上お読みいただけると幸いです


額から血が流れる。

相手の攻撃を予測し、その上であえて受けた(・・・・・・・・・・)のだから、傷自体は別段気にする程では無かった。

とはいえ出血そのものは気持ちの良いものでは無いし、拭い損ねた血液が視界を遮るのは鬱陶(うっとう)しく、ほんの少し後悔を呼び起こす。

「―――そんな攻撃すら避けられないの?」

粉塵をゆっくりとかき分け、(あざけ)りを含んだ微笑を浮かべながら、フランシス・ドレイクの姿をした人形は侮蔑の言葉を投げかける。

 

ダユー

こちらに対して容赦ない攻撃を仕掛ける彼女は戦闘の前、ドレイクの姿、声でそう名乗った。

ハリの無い声、白磁の様に白く冷たい病的な肌、紫紺の衣装、『欲するものは自ら奪え』『自ら奪ったものは欲するな』という退廃した思想。

外面だけを切り取ればドレイクと対称的に見える彼女……だが実際は反転化(オルタ)ではないと、彼女と出会った全員が確信していた。

そこにいたある一人を除いて、その確信の理由をうまく言い表すことは出来なかった。だが、カルデア一行全員が直感的に共有した事がたった一つあった。

ドレイクが海賊だから(・・・・・・・・・・)水上都市の伝説の女主人ダユーをあてた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

ただそれだけだと(・・・・・・・・)

―――要するに、それっぽい女性であれば誰でも良かったのだ、と。

この三流の配役(おぶつ)を、その場に居なかった作家陣ならこう形容し、解説しただろう。

極上のキャストの顔のみを切り取り案山子に貼り付ける、グロテスクなその場しのぎの役作り。

絹の生地に綿の布を継ぎ当てるような、染めた布の上にペンキをぶちまけるような、急造の不出来で歪な構成。

誰かに見せる事も、いや作り上げる事も考えていない、ただそこにあればいい(・・・・・・・・)物語、だと。

……事実、このアガルタは「死なない事」さえ達成すればいいという理念の元に、バラバラの物語を無理矢理繋げて作り上げられた世界だったのだから、この時抱いた感想は間違っていなかったのだと、後日発覚する。

―――ともかくそれはどこまでも醜悪で、派遣されたカルデア一行に怒りを覚えさせる要因として十分すぎる程だった。

 

そしてその中でもとりわけ強くダユーに殺意を向けるサーヴァントが一人いた。

「……っへ、2Pカラー以下の、よく分からん紫生ゴミの攻撃なんか避けるまでもねえよ」

滴り落ちる血を手の甲で拭いながら、大男―――エドワード・ティーチは濁声(だみごえ)で答える。

嘲笑に対して、いつもの様に軽口で返す彼は一見普段通りだった。

だがカルデアでの彼をよく知る者なら、彼が口調すら保てない程激怒している事に気付くだろう。

ダユーがドレイクの反転化(オルタ)ではない理由も、黒髭からしてみれば明白だった。

そもそも反転化(オルタ)とは、大雑把に言えば『主義の為に選ぶ手段が真逆になる』もしくは『目的の為への手段が真逆になる』と言ったものだ。

平和なブリテン王国を実現するため、絵に描いたような名君を目指すアルトリア・ペンドラゴンが、反転化(オルタ化)すると、平和なブリテン王国を実現するために圧政でそれを実現しようとする暴君(・・・・・・・・・・・・・・・・)へと変貌するのが代表的な例だろう。

だがダユーは違った。そもそも目的が歪められていたのだ。ドレイクの主義は『財を得てそれを消費する』つまり財を使いそれ以外の何かを得る事―――ここで得たものは更なる富、形にならない満足感、果ては『財を失ったという虚無感(・・・・・・・・・・・)』すら当て嵌まるだろう―――そのサイクルこそ彼女を彼女たらしめている。

だが、ダユーは「財を得る事」のみが彼女を構成しているのだ。それは確かに一都市を治める貴族としては正しい姿だろう。富を得る事そのもの、それこそが貴族の本質の一端であるのだから。

この通りダユーはドレイクではない。だが本質の一部はドレイクと重なる。だからこそドレイクはダユーへと捻じ曲げられ顕現したのだ。

 

ドレイクの尊厳を踏みにじった上での顕現、それこそがダユー。

―――ドレイクに最大の敬意を払う黒髭にとって許せるものでは無かった。

海賊の美学を、誇りを(けが)した。それは彼にとって、ダユーとアガルタの支配者へ怒りを、その延長線上にある殺意を抱く理由として充分過ぎるものだった。

ティーチの殺意は―――矛盾するようだが―――彼をある種の悟りの域へと到達させる事に一役買っていた。怒りを超えた純粋な殺意は、『相手を殺す』と言う目標に対して、最適かつ快適な、涅槃に似た境地を、目的への直線を描き出す。

そしてそれは、生前目標の為に手段を選ばない事を体現した、海賊という存在の頂に立っていた男であった黒髭にとってはある種懐かしさすら思い起こさせた。

 

そうした思考の贅肉(ぜいにく)味わい(・・・)つつも、もう一度ダユーを殺す事に意識を集中させる。

その為にまず周囲を見渡す。そこに広がるのは一面の褐色の肌―――ダユーの配下、イースの海賊の群れだ。

本能のままに襲うそれらは、個々で見れば大した戦力では無かった。

問題はそれらの数だった。それらはその身に精を宿す限り、増殖し続けるのだ。

精さえなくなれば止まるのだから、理論上は有限ではあった。だが、周囲をぐるりと囲むそれらの数を考慮すると、こちら側の方が先に消耗するのは明白だった。

多対一を得意とするサーヴァントがこちらに多いのは事実だ。こうして周りを見渡している最中にもデオンとアストルフォはかく乱を続けているし、レジスタンスのライダーも武器である鉄球で数多くの肉塊を薙ぎ払っている。

だがこちらが攻勢に出る事は現状決して出来なかった。それだけ相手の物量が圧倒的なのだ。たった一人とは言えダユーの元まで辿りつけたこと自体が奇跡かもしれない。

問題は更にある。ダユーの技量の高さだ。

正確に言うのなら、ドレイクの技量の高さだった。接近からの連射、斧による牽制から速射、力を溜めた二点バースト……それらは全てドレイクの熟達した技量のなせる業だった。それをティーチは、あえて弾丸を食らう事でしっかりと確認していた。

一方ダユーとして自然体である時の彼女は、ただ残酷なだけで戦闘そのものは素人だった。だが、そんな人形の意志に関係なく、その肉体は精神を守るためその技量を存分に奮う。

―――その技はてめえのもんじゃねえだろう―――!

心の中で黒髭が叫ぶ。

元々戦う力のないダユーが、自らの技量を誤魔化す為にドレイクの技術を扱う。その事がまた黒髭の怒りを高める。

そんな圧倒的不利の中に唯一幸運を見出すのなら、それはマスターに決して攻撃が届かないことだった。少年期のフェルグスはしっかりとその役目を全うしていた。

……それは確かに幸運だが、黒髭本人の現状には何の影響もないのも事実。

絶体絶命。

それが現状の黒髭を説明する際に最も適切であることは火を見るよりも明らかだった。

だが、どうしてだろうか。

黒髭は、笑っていた(・・・・・)

確かに、心の底から現状を楽しむ様に。

黒髭は、笑っていたのだ(・・・・・・・)

それは本人すら気付いていなかった。知らず知らずのうちに、顔面に汚い三日月が浮かんでいた。

―――更に、黒髭の生涯が走馬灯のように、彼の脳内を駆け巡る。

何故だろうか、それは黒髭自身にも分からなかった。

だがそれは止まらなかった。止めるつもりも無かった。

現在と過去を意識が駆け巡る。

まるで自分の過去と照らし合わせる様に、比較する様に。

 

生きる意味を、探し出すように。




(追記修正)スプラウトが多忙の為今週も僕が引き続き執筆するので、後編は今週あがります


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海賊王の休息 中編 (獣八)

四人で協議した結果、先週上げさせていただいた拙作『海賊王の休息 後編』を二つに分けそれぞれ『海賊王の休息 中編』『海賊王の休息 後編』とあげなおす事を他の3人に許可してもらいました。読者の方々に同じものを二回読んでいただくのは心苦しい限りですが、どうかご容赦ください

※注意 この短編にはFGO1.5部 『アガルタの女』のネタバレが含まれています。ご了承ください
※注意 こちらは中編です。先に一つ前の前編『海賊王の休息 (前編)』をお読みください


黒髭エドワード・ティーチの生前の記憶の九割以上は、腐りかけた木と火薬、すえた野郎と檸檬の混ざり合う、生ごみと糞便をぶちまけたような混沌とした悪臭だった。

18世紀当時、航海中に体を洗う方法は存在せず、海賊の頭として香水を買える財力を持っていた黒髭はともかく、その他船員はどうしようもなかった。

食物に関しても酷いもので、壊血病を防ぐための柑橘類以外に生と言える物は無かった。航海で求められたものはどれだけ長く保存できるかであって、それが食い物と言えるかどうかは二の次だったからだ。

汚臭にまみれた部下を従え、檸檬と乾物で飢えをしのぐ。

それが最後の海賊と言われた男の、伝説として語り継がれた姿の実状だった。

故に、海賊という生き方が廃るのは至極道理であった。

 

では何故、黒髭は最期まで海賊を続けたのだろうか。

黒髭が船団の長として活躍した期間は案外少なくたった二年間だった。だがその二年間で海賊の頂点へと上り詰めた人間であり、一年目の終わりには既に海賊王であった事は間違いない。そして彼が稼いだ財産はその一年の間に稼いだものが大半だった。

海賊王として一年、その一年で一生涯分の財産を築いた彼ならば、それこそ彼を海賊として育てたベンジャミン・ホーニーゴールドの様に、いやそれ以上の優雅な隠遁生活を送る事も可能だったであろうに、何故?

……そしてこの謎の解答も、黒髭本人からしてみれば自明の理だった。

 

それ(・・)が好きだったのだ。

 

それ(・・)とはこの世の汚物を煮込みきった、海上での惨状の事では無い―――いや、正確にはそれも含むのだろうか。

 

それ(・・)とは、海賊という尋常ではない生き方のみが得られる、掴み取れる救済(・・)だった。

 

―――喉の渇きを癒す時、その渇きが強ければ強い程、潤った時の喜びは強いだろう。

 

―――空腹を満たす時、その空腹が強ければ強い程、満たされた時の幸福は増すだろう。

 

―――海と言う凶悪強大な世界を潜り抜けた時の安寧は、富を得た時の利福は、勝利を得た時の陶酔感は。

 

困窮する程(・・・・・)絶望的である程(・・・・・・・)その後に得られる救いはより大きくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

それが、黒髭が辿り着いた真理だった。

平和な日常など要らなかった。永い平穏など望んでいなかった。苦痛の無い快楽は快楽足り得なかった。そんなものは本物ではなかった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう、つまり、一言で纏めるならば。

黒髭は壊れていたのだ。人間として。

 

 

 

―――ダユーとの戦闘を初めて数分。

状況は、打開のしようがない膠着に陥っていた。どちらも動かなかった……いや動けなかった。

最初からこうして固まっていたわけでは無かった。一度づつ、双方から仕掛けた。だが両方とも徒労に終わった。

黒髭は決定打に持ち込むまでのリーチと人手が、ダユーは決定打を与える為の戦略が、それぞれ足りていなかったのだ。

 

黒髭が一度でもダユーに触れる事が叶うのなら、勝負は一瞬で付くだろう。だがそれは彼女が短銃によって牽制を行い、常に一定以上の距離を保っている限り不可能に近かった。対峙している黒髭の主力は格闘であり、牽制射撃をされるだけでも反撃手段の乏しい黒髭にとっては苦しい。

苦心しながら距離を詰めたとしても、配下の海賊がここぞとばかりに襲いかかる。

かたや歴戦の英霊、かたや雑兵、それは勝負にすらなっていない。だがその対処には数秒かかる。そしてその数秒はダユーに再度の射撃を許す間としては十分だった。

 

一方、鉄壁の布陣を構築しているダユーも、攻めるとなると話は別だった。

守る場合は迫る黒髭を迎撃し、近寄られたら配下をけしかけ、黒髭をもう一度下がらせるだけだ。

だが攻めるには知識が不足していた。いくらその体が撃鉄の引き方を、効率のいい身体の動作を覚えていたとしても、戦いとは無縁であったダユーはそれらを十全には扱う術を知らないのだ。

そしてそれは戦略の稚拙さとして表れていた。圧倒的優位を築きながら黒髭を追い詰められなかったのだ。

 

「……ああ、イライラするわ……早く死んでしまえばいいのに……」

千日手の最中、ダユーが不意に言葉を紡ぐ。そこから彼女は堰が切れたように、黒髭への不満を、その流れのまま様々な事柄への呪詛を吐き続ける。

望むがままに奪い続けてきた彼女の人生の中で、現在の様な経験は一度も無かった。たった今壁を突き付けられ、道理を捻じ曲げられない事へ愚痴を垂れ流すその姿は、まさに癇癪(かんしゃく)を起こした子供だった。

 

―――そんな彼女の恨み節が唐突に遮られる。

「……糞ガキの愚痴に付き合う趣味はねえんだ。黙ってろ」

それまで口を開かなかった黒髭が、バッサリとダユーの言葉を切る。その声の調子は先程と全く変わらず、むしろより一層凍り付く様な殺気と侮蔑で彩られていた。

言葉を遮られた。しかも侮蔑を込められて。

それはこの都市の王であるダユーにとって経験した事の無い、最悪の侮辱だった。

そうして激情のまま怒りを吐き出そうとした時、彼女は、黒髭を殺すための処刑場が整った事に気付いた。自らの怒りをぐっと堪え、逆に黒髭に微笑みを向けながら喋りかける。

「まあ、何とでも言うがいいわ……どうせあなたはここで死ぬのだもの」

 

何時の間にか、ティーチの周りに褐色の輪が出来ていた。

倒すための戦略が分からないなら(・・・・・・・・・・・・・・・)戦略を考える必要(・・・・・・・・)が無い物量で押し潰せばいい(・・・・・・・・・・・・・)

ダユーが辿り着いた戦術は、手下で圧殺する人海戦術だった。

しかも仲間の負担が減った訳では無かった。騒ぎを察知したイースの海賊が更に集まってきたのだ。

「ほら、さっきの威勢のよさはどうしたの……ねえ何か言ってごらんなさいよ」

圧倒的有利が、黒髭が感じているであろう絶望を想像した愉悦が彼女を饒舌へと導く。

「……何も言えないわよねぇ。それはそうよね。だって今まで耐えてきたあなたの努力、無駄だったのよ……?」

押し黙ったままの黒髭へ自分の有利を誇るように、いや勝利を宣言する様に、ダユーは高らかに紡ぎ続ける。

「……ああ、なんて最高なのかしら……妄言を吐いて必死に頑張っていた男が潰れる様を見るのは……ねぇ、あなたの今の気持ちを教えてよ、ねえ……!」

加熱する加虐心、手下を従えた安心、勝利を確信した圧倒的な優越感。そうした、心休まる実感が、彼女の思考を更にこの戦闘の後へと進める。

「まずこの汚物とレジスタンスのリーダーを晒し首にして反乱の目を潰す。その後はメインディッシュ……あのセイバーとライダー、そして子供とカルデアのマスターを楽しむ―――ああ、それぞれがどのタイミングで命乞いを始めるのかしら……ああ、ああ!」

何て素晴らしいのかしら!

そう続けようとした言葉は、唐突に遮られた。

 

「勝手に興奮して、気持ち悪い妄想で騒ぐんじゃねえよ。弱虫」

 

黒髭だった。

「私が―――」

私が弱虫?

そう問いかけようと、黒髭の顔を見たダユーは絶句する。

 

笑っていた(・・・・・)

 

黒髭は、笑っていたのだ。しかも戦いを始める前よりも、大きく。

 

「―――さっきからずっと聞いてたけどよ、てめえ、自分が安全だと思ったら途端に饒舌になるみたいだな」

顔に三日月を浮かべたまま、逆にダユーへと。

「それはおかしい事じゃねえ。確かに安心したらその安心を味わいたいよな……基本誰だってそうさ。そんな奴はごまんと見て来た。巨大な商社のガレオン船も、護衛に護衛を重ねた貴族も、戦力の差で押し潰そうとする海賊船団(どうぎょうしゃ)ですらそうだった」

 

―――だけど、そういう奴らは全員三流だ。全員倒した俺が言うんだから間違いない。

きっぱりと、黒髭はそう断言する。

 

―――何を。

この男は、何を言っているんだ。

それはダユーの理解外の世界だった。絶望的な状況でありながら、奮起する訳でも無く、悲観にくれる訳でも無く、ただ飄々としゃべり続ける。

理解不能であることが、同じ人間であるはずなのに異物として立ちはだかる実感が彼女を恐怖へ陥れる。

……だが恐怖の中、侮辱されている事だけは理解できた。その実感を怒りに変え、恐れを押し留め、黒髭に問いを投げかける。

「……何が言いたいの」

「まあ、分かんねえよな……まあ一つヒントやるから、死にながらゆっくり考えろよ。」

 

てめえはさ、生きてないんだよ。

 

そう言い、ゆっくりと、次第に走りながら、状況を自分の最期(・・)と重ね、これから訪れる救済(・・)に心の内で震える。

 

膠着したふりをして待った甲斐のある、最高の状況。

―――さあ、黒髭無双の始まりだ。

誰かが、確かにそう言った気がした。

 




『海賊王の休息 後編』に続きます


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海賊王の休息 後編 (獣八)

先週上げさせていただいた拙作『海賊王の休息』ですが、四人の協議の結果、先週あげていたものを分割し、新しく『海賊王の休息 中編』『海賊王の休息 後編』としてあげなおす事を他の三人に許可していただきました。読者の方々に二回読んでいただくのは心苦しい限りですが、どうかご容赦ください


※注意 この短編にはFGO1.5部 『アガルタの女』のネタバレが含まれています。ご了承ください
※注意 こちらは後編です。先に一つ前の前編『海賊王の休息 (前編)』及び『海賊王の休息 (中編)』をお読みください


自分の最期ははっきりと覚えていた。

血と硝煙の匂いにまみれ、意識が消えるその最期まで自分が幸福だ(・・・)と自覚していたのだから。

敵を殴り倒した時の実感、死にたくないから地を這ってでも生きようとする執着、そして傷を受けた時の痛み。

それらは全て、生きているが故に感じる事の出来るものだった。

だからこそ死ぬ間際まで、そして死の淵から転げ落ち、生を惜しんでいたその瞬間ですら生を実感できていた(・・・・・・・・・)自分は幸福だと、そうはっきりと言い切る事が出来た。

痛みこそが休息であると、そう確信していたのだ。

 

そして今現在、黒髭がアガルタで立たされてる状況は自分の最期と瓜二つだった。

自分の周囲に広がる圧倒的な兵士に、目の前から正確な射撃を行う指揮官。そして自らの仲間はほぼ頼れない。

―――これだけ状況が被っていて、思い返さないわけが無かった。

違う点があるとするならば、軍団としての練度が低い事と、自分が英霊である事。

―――そして、守るものがある事。

後ろを振り返っても見えるものは褐色の肉塊の山ばかりだった。だがそれでも自分のマスターが、こちらを信じてしっかり見ている事を確かに感じていた。

そもそも、自分を信じてダユーの元へと送り届ける采配をしたのも彼女だった。「ティーチなら出来る」とただ一言、橙色の髪を揺らし、信念のこもった瞳でじっと、こちらを信じて。

―――その期待に応えないわけにはいかなかった。黒髭は味方の子供に優しいと相場は決まっているのだ。

 

黒髭が駆けだした瞬間、ダユーが弾丸を、そして左右と後方からその配下が襲い掛かる。

 

絶体絶命、その筈なのに。

 

黒髭はまたしても笑っていた。今度はまるで予想通りだといわんばかりに。

 

黒髭が取った行動は至ってシンプルだった。

左右から襲い掛かってきた配下の胸ぐらを掴み―――そのまま盾にした(・・・・・・・)

まるでごく自然な様に弾丸は配下の身体へ突き刺さり、いくつも朱色の彼岸花をその体に咲かせる。直後に悲鳴があがる。その一連の様子を見て、配下の動きが戦慄で止まる。

配下が集まるまで待っていた理由、それはいたって単純。

―――弾除けとなる肉壁を、出来るだけ多く確保するためだ。

 

「―――お前ら、何をやっている!」

黒髭あいつを止めろ!

そう叫ぶダユーの顔も恐怖に歪んでいた。配下を撃ってしまったという後悔では無かった。絶対に崩れるはずの無い勝利が、自分の理外から崩される。

そんな困惑と畏怖が混ざっていた。

そして、止める必要がある鬼気迫る状況なのも事実だった。黒髭は着実にダユーへと近づいていたのだ。

自分達のリーダーを守るため、海賊達も黒髭へと襲い掛かる。だがその足取りは非常に重く、一切の士気が感じられない。黒髭に近づけば弾除けとして扱われるのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

「あなた、一体何なのよ……!」

血化粧に三日月の笑みを浮かべた黒髭が近づけば近づくほどダユーは狂乱へと陥り、短銃を連射し続ける。

それが更に配下を怯えさせ、萎縮させる。萎縮すると余計に腕はにぶり、盾とすることがより容易になる。

まさしく悪循環だった。

とはいえ、乱射されると黒髭も無傷では済まなかった。体格の問題で黒髭の身体全てを肉塊で守る事は出来なかったし、盾と成り得ない肉片を新品と入れ替える間に一、二発は受けてしまう。

だがそれでも、いやだからこそ笑っていた。

 

自分はまだ生きていると実感できるからこそ、彼は笑い続けていた。

 

「何なのよ……何なのよ……何で痛みで叫ばないのよ……なんで、なんで……」

ダユーはどうにかして距離を取ろうとして身をよじり、そして気付く。

後ろが壁である、と。もう逃げられないのだ、と。

実際は黒髭の間合いになるまで走って5,6歩の距離があった。だがもはやダユーにとって距離は問題では無かった。「敵が近づいてきている」という事実そのものが最大の敵だった。

 

もう限界だったのだろう。

唐突に、ダユーの中で何かが切れた。ブツブツと呟きながら、異次元からなにかを召喚する。

黒地に金で縁取られた無数の巨砲。

ドレイクが持つ兵器の中で最大威力の武器、カルバリン砲だった。

 

「私の、私の前から……」

―――消えろぉぉぉぉぉォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!

―――瞬間、光の束が走る。轟音と残骸が遅れて世界を包み込む。

そうして残ったものは、えぐれた大地と多くの血痕、そして肉片の地獄だった。

黒髭が死んだ。

その事実に安堵し、狂乱の中涸らした声で、上を向いて精一杯笑おうとした。

だが笑えなかった。

見上げたその空に、あってはならない姿があった。

 

黒髭だった。

それまでの肉塊を足場として上へ跳躍する事で、必殺の一撃を回避していたのだ。

そしてその跳躍の軌道は、真っ直ぐにダユーへ向かう。

黒髭の豪拳が胸部へ叩き込まれる寸前、ダユーが見たものは

――――血染めの、三日月だった。

 

どれ程時間が経っただろうか。

ぱちりと、黒髭は目が覚めた。そのまま先程までの経緯を思い出し、恐らく後ろの壁とぶつかったであろうと結論出す。どれだけダユーを殴りつけ衝撃を緩和したとしても、そのまま後ろの壁へとぶつかる事だけは避けられなかった。

あの糞尼は何処に?そう考えた瞬間―――短銃が突き付けられた。

ダユーだった。先程よりも衰弱し、至る所から血を出しながらも、しっかりと黒髭を憎悪のこもる目で見つめていた。

「……今度こそ終わりよ」

息も絶え絶えに、そう告げる。

そこにあるのは先程までの勝者の余裕ではなく、殺意と畏怖だった。

「この私に迫った事は褒めてあげる……そのまま地獄に落ちなさい」

そう言いながら、ゆっくりと引き金に手をかける。

周りを見るとカルバリン砲から逃れた配下の生き残りも集まっていた。まるで彼こそが諸悪の根源だと言わんばかりに殺意を漲みなぎらせている。

「……ああ、今度こそ終わりだな」

そう言いながら、見上げた黒髭の顔は。

 

また笑っていた。いや過去に類を見ない満面を狂気と勝利に染め上げた、会心の笑みだった。

 

「あなた……何でまだ笑えるの……」

引き金を引く手が震える。それを見た黒髭はダユーの手を弾き弾丸の軌道を逸らし、そのままできる限り壁際へと逃れる。

「まだ足掻く気なの……いい加減にしなさい……あなたの後ろは壁なのよ……!」

恐れを怒りで隠しながら強気に迫るダユーに、黒髭はゆっくりと告げる。

「いいや足掻くんじゃない……さっきも言ったろ、終わらせるのさ」

「何を―――」

何を言ってるの。

そんなダユーの問いかけは後方からの轟音でかき消される。

爆撃だった。後方から何らかの無数の爆撃が飛んできていた。

デオンも、アストルフォも、レジスタンスのライダーも戦っていた。カルデアのマスターと少年もその場に立っていた。

 

では一体誰が?

 

思わず口から洩れたダユーの疑問に、黒髭は高らかに宣言する。

 

―――アン女王の復讐クイーンアンズ・リベンジ

 

―――これが俺の宝具だ。

 

黒髭にとって、全てが計算通りだった。

前方からただ撃つだけでは、敏捷の高いドレイクの身体だと躱かわされてしまうし、他の戦闘しているサーヴァントの動きまで制限してしまう。

ならば、回避困難な後方から(・・・・・・・・・)自分と挟み込む形で行えばいい(・・・・・・・・・・・・・・)

更にここは運河に据えられた水上都市。|水辺が近いならアン女王の復讐号我が戦友も簡単に召喚出来る。

自爆も上等だった。確かに痛いだろうがそれ《・・》は味わったことが無かったし、これでダユーが倒せるならいいと、そう思っていた。

そして事はここまでうまく進んだ。配下も予想外の形で巻き込んでいるが、むしろ好都合だ。

 

―――さあ後は意地の張り合いだ。

四十門の砲撃の轟音が、最後の戦いの合図だった。

 

我に返ったダユーがこちらに短銃を向ける。だが接近戦では、こちらに分があるのは当たり前のことだ。ダユーよりも早く拳を突き出そうとした、その瞬間だった。

ぐらりと、世界が揺れる。

―――ダメージが想像以上に溜まっていたらしい。身体が倒れかける。

―――っけ、ここまでか。

ここまで一人で押し切ったのだから、他の味方が余力を残してダユーを撃破出来るのは間違いないだろう。

 

だが、だがそれでも。

 

―――こいつだけは俺が倒したかった。そんな後悔が黒髭を包み込む。

昔体験した死ぬ間際のように、視界がゆっくり進む。その間に何度も他の手段を含めた計算を行う。だがこれ以上の解はどこにも見当たらなかった。

―――ならば仕方がない。

そう思い、全てを投げ出そうとしたその時だった。

 

声が、聞こえた。

よく聞いた声だった。特別美しいわけじゃない、普通の可愛らしい声だった。

「ティーチ」と、四文字目を大きく伸ばし叫びながら。

負けるなと言わんばかりに、願いを込めて。

 

―――急に身体が軽くなる。応急手当、と何度も聞いたエフェクトがティーチ(・・・・)の身体を包み込む。

一瞬、海賊の誉れがティーチの身体に意志を漲らせる。この瞬間のみにおいては、ティーチは大英雄ヘラクレスを超えていた。

雄叫びをあげる。前かがみになっていた身体を無理矢理上へと逸らす。ダユーに向かって最後の一撃を加える為に。

 

どこか不格好なアッパーカット。それが最後の、一撃。

 

直後ダユーの身体が一瞬宙へと浮かび、重力に従い地に落ちる。

―――動く気配は無かった。

 

 

 

ティーチが安息の息を洩らし、後ろを見る。

先程とは違う破顔を、マスターに向けながら。

 

新しい休息と安寧へ、その体を委ねるのだった。

 




次回はmkdn先生の執筆になります。ご期待ください


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優しい復讐者のお話 (MKDN)

 
皆さんどうもお久しぶりです、MKDNです。
順番が一巡したので約一か月ぶりの投稿ですね。
先々週は一週間以内に投稿できず申し訳ありませんでした。
期限を破りやがった件の馬鹿はこちらの方で罰を与えて「粛正」しておきましたので何卒ご容赦いただければと思います。


さて、堅苦しいのはこれぐらいにして。


今回のお話もこの前と同じ、ほんわかとしたものとなっております。
僕自身が大好きなキャラのお話です。
それではどうぞ。
 


 

 

それは人理修復も終わったある日。

止まっていた時が動き出し、一時期は「空白の一年」についての多くの考察がニュースを賑わせていた世間であったが、時が流れるにつれ芸能界・政治関連の話が話題に多く昇るようになり、ようやく一年前と同じ、普段通りの日常が帰ってきた。

季節もいつしか冬から春へ、春から夏へ、夏から秋へ。

そして人理が修復されてから初めてになる二度目の季節である冬を迎えようとしていた。

 

「せんぱーい!どこにいったんですかー!」

 

カルデアの内部で声をあげながら自身の「先輩」を探しているのはマシュ=キリエライト、通称マシュ。

自他ともに認める、彼女のマスターである「先輩」こと藤丸立香の後輩系マシュマロサーヴァントである。

 

「せんぱーい?……むぅ、ここにもいらっしゃいませんか…」

 

「どこ探してんのよアンタは…。流石のマスターちゃんでもゴミ箱の中(そんなとこ)には入んないと思うわよ?」

 

廊下に置いてあるゴミ箱の蓋を開けて立香を探すマシュにそう話しかけたのはジャンヌ・ダルク〈オルタ〉。

第一特異点のフランス、オルレアンで立香達カルデアと戦った後に召喚されてからは共に終局特異点まで駆け抜けた、頼れるサーヴァントの一人である。

 

「あ、邪ンヌさん。ちょうどいいところに、先輩を見かけませんでしたか?」

 

「マスターねぇ…。見てないけどどうかしたの?」

 

「そろそろ最近新しく召喚されたサーヴァントの方々の再臨素材を集めるためにレイシフトする予定の時間なんですが、パーティの方達は準備万端でいらっしゃっているのに先輩だけ姿が見えないんです。またどこかでレムレムされているのかと思い探してるんですが…」

 

「一向に姿が見えない、と」

 

「そうなんです……はっ、まさか外に出たあとにレムレムされて今頃極寒の寒空の下で…?!こうしてはいられません!先輩!今助けに行きます!」

 

「いや、ちょっとあんた落ち着きなさい、ってもう居ないし…」

 

心配のあまり暴走するマシュマロサーヴァントを引き留める気にもならず、そのまま外部へつながる扉に向かって駆けていくのを見送ることになったジャンヌ〈オルタ〉であった。

 

「…けど、確かに気になるわね……。あのマスターがマシュ(あの娘)にも何も言わずにどこかに行くなんて…」

 

先程はマシュを見送ることになってしまったが、彼女も自分のマスターである彼のことが心配でないわけではない。

 

「…そうね、特にこれといってすることもないし、あの娘の言う通りなら寝てるであろうマスターちゃんの間抜けな寝顔でも拝みに行きましょうか」

 

起きるまでその場にいて、起きたあとの慌てふためく彼の顔を見るのも悪くない。

そんなことを考えながらマスターを探して歩く。

しばらくそうして歩いていると、ジャンヌ〈オルタ〉はある光景にふと違和感を覚えた。

 

(…あの場所って確かもうほとんど使われてない書庫みたいなとこじゃなかったかしら?何で電気が付いているの…?)

 

警戒をしつつ、件の部屋に近づいていく。

 

(…Il faut prendre le taureau par les cornes.(虎穴に入らずんば虎児を得ず)、ね。さて、一体何が出てくるかしら……)

 

何が来ても対応できるように体勢を整えつつ、扉を勢いよく開ける。

扉を開けて目に飛び込んできたのは、床に横たわって苦しそうに息をする彼女のマスター、藤丸立香の姿であった。

 

「っ!マスター!」

 

敵がいるかもしれない。彼をこんな目に合わせた輩がいるかもしれない。

そんな考えもまったく浮かばないほど、彼女は動揺しつつもすぐさま彼に駆け寄った。

 

「マスター!聞こえてる?!聞こえてたら返事しなさい!」

 

抱きかかえて声をかけるも反応はない。

 

「ちょ、ひどい熱じゃない…!えぇと、こういう時はどうしたらいいんだったかしら…!?」

 

自身の記憶や知識を探るも、解決策は一向に出てこない。

それもそのはずで、元々彼女はジル・ド・レェ元帥の願いによって形作られたサーヴァント。

つまりは「生前のない」サーヴァントであり、病気になどかかったことがない。

召喚されてから蓄えた知識にも残念ながら病人への看病の方法は無かった。

 

「…えぇい、まどろっこしい!とにかくこんな埃臭いところよりマスターの部屋のほうがいいことは確かでしょう!」

 

そう言うや否や、彼女はマスターを背負うと、背中の彼に極力振動が伝わらないよう配慮しつつ彼の自室であるマイルームに向けて全速力で駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

「ただの風邪…?」

 

「うん。この万能たる天才が言うんだ、間違いないよ」

 

マイルームにて、あれから少しは落ち着いた様子のマスターを診察したレオナルド・ダ・ヴィンチがそう診察を下した。

 

「ちょっと待ちなさいよ。あの全身毒のアサシンの毒も効かないマスターちゃんがただの風邪でぶっ倒れてるって言うの?」

 

「その通りだよ邪ンヌくん。彼が持ってるのは『対毒スキル』であって『対病スキル』じゃないって訳さ。つまり…」

 

「『毒は効かないけど病気には係る』、っていう訳?」

 

ダ・ヴィンチの診断に納得がいかないところがあり、そのことを問いかけるジャンヌ〈オルタ〉。

当然といえば当然だろう。

毒の技術で暗殺教団のトップに立っていた静謐のハサンの強力な毒でさえ「ちょっと痺れるだけ」である人間がその辺の何処にでもあるような風邪の菌に罹って寝込んでいる、など誰が想像できるだろうか。

 

「そういうこと♪診たところ本当にただの風邪が悪化したもののようだし、命に別状はないから安心してくれたまえ。あ、勿論後遺症なんかもないよ?」

 

「ハッ!私は別に心配なんてこれっぽっちもしてませんから。最初から至って冷静でしたし?」

 

(さっき泣きそうなを顔しながら汗だくで『マスターが死んじゃう!』ってマスター君を抱えて管制室に飛び込んできたことは……ここでは言わない方が良いか)

 

「…まぁあれだね。マスター君もそこまで人間辞めてたわけじゃなかったってわけだ。私印の抗生剤と解熱剤も打ったからそのまま安静にして寝てれば明日にはケロッと治ってるだろうさ」

 

それだけ言ってマイルームを出ていくダ・ヴィンチ。

実質的にカルデアのトップも受け持つ彼女は多忙なのだ。

残されたのはマスターとジャンヌ〈オルタ〉。

 

「ったく、人騒がせなマスターちゃんだこと。柄にもなくちょっとだけ焦っちゃったじゃない」

 

そう言いつつ彼のベットの横にある椅子に腰掛けるジャンヌ〈オルタ〉。

熱もだんだん下がってきたのか、まだ顔は赤いもののさきほどまでの苦しそうな呼吸ではなく穏やかな寝息をたてて眠っている。

 

「…本当に、人騒がせな人。」

 

その頭を撫でながら呟く。

思えば、出会った時からそうだった。

一瞬で縊り殺されるような立場にあっても立ち向かい、抗い、打ち倒し、最後にはこの血に塗れた自分に手を差し伸べてきた。

そんな弱くも強い、優しい彼だったからこそ彼女は差し出された手を取ったのだ。

 

「早く治しなさいよ。アンタは私と一緒に地獄の炎に焼かれるんでしょ?こんなんじゃ、私を焼く炎には耐えきれないわよ?」

 

しばらくそうした後、彼の頭にのせていたタオルが温まってしまったことに気付いた彼女は、

 

「ちょっと待ってなさい。新しいの持ってきてあげるから」

 

そう言いつつ部屋をあとにしようとする。

が、それは引き止められることになる。

 

「ごめん…もうちょっとだけ、傍に居てくれないかな…?」

 

他の誰でもない、彼女のマントの端を掴むマスターの手によって。

 

「…っち、性格が悪いわね。いつから起きてたのよ?」

 

「いや、今起きたとこ。誰かが頭撫でてくれてるなーって思って目を開けたら邪ンヌが出てこうとしてたからさ…」

 

忌々しそうな表情で睨んで来るジャンヌ〈オルタ〉にも彼は全く気圧されない。

今までの付き合いから彼女が本気で怒っていないことが分かるからだ。

恐らく照れ隠しだろう。事実、彼女の頬は少し赤くなっている。

 

「そ。ならもう良いでしょ。私じゃなくあのあなたの可愛い後輩でも呼びなさい。あの娘なら喜んで付き合ってくれるでしょ」

 

「いやぁなんていうか、僕は邪ンヌがいいんだよ。……ダメかな?」

 

熱のせいか、はたまた恥ずかしさのせいか、少し赤い頬を掻きながら問いかけてくる彼としばらく見つめあう。

根負けしたのは彼女のほうだった。

 

「……はぁ。今回だけですからね」

 

「うん。ワガママ言ってごめんね、邪ンヌ」

 

「全くです。ほら、これ以上迷惑かけないように病人はベットで大人しくしてなさい」

 

その言葉に従ってベットの中に潜るマスターを見て、近くの椅子に再度腰掛けるジャンヌ〈オルタ〉。

そして彼女はおもむろに近くにあった果物が入った籠の中からリンゴとナイフを手に取り、皮を剥きはじめる。

 

「…あの、邪ンヌ。何してるの?」

 

「はぁ?見てわからないの?リンゴ剥いてるんじゃない」

 

そう言っている間にも慣れた手つきでリンゴを剥いていく。

ちなみにうさぎさんカットだった。

 

「いや、それはさすがに見たらわかるけどさ…。ぶっちゃけイメージと違うって言うか…」

 

「病人にはリンゴって昔っから決まってんのよ。いいから黙って食べてなさい、ほら」

 

「しかもめっちゃきれい…ありがと、邪ンヌ」

 

「ハッ、感謝してる暇があるならとっととその風邪治しなさい」

 

一旦そこで会話が終わり、部屋にはリンゴの皮を剥く音と、咀嚼する音が響く。

無音の空間が嫌だったわけではないが、マスターは彼女にずっと前から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「邪ンヌってさ、なんで僕みたいなやつの所に来てくれたの?」

 

「はぁ?何よ急に」

 

「いや、そういえば聞いたことなかったなー、と思ってさ。ちょっとした疑問だよ」

 

「別になんででもいいでしょ、アンタが気にすることじゃないわ」

 

それに、とそこで一旦彼女は手を止め、彼に向き直ってこう続けた。

 

「『アンタみたいなやつ』、じゃなくて他の誰でもない『アンタだったから』来てやったのよ。そこんとこ履き違えてんじゃないわよ」

 

「……そっか。うん、ちゃんと覚えとくよ」

 

「そうしなさい。…剥いたやつここに置いとくから気が向いたら食べなさい」

 

そう言うと今度こそ彼女は席を立ち、マイルームから出ていく。

その後ろ姿に彼は感謝の言葉をかけた。

 

「邪ンヌ、ありがとね」

 

「…フン」

 

かけられた声に対し、こちらを見たあと鼻を鳴らし出ていくジャンヌ〈オルタ〉。

しかし彼は見逃さなかった。

彼女の耳が真っ赤に染まっていたのを。

 

「……素直じゃないなぁ…」

 

流石はアヴェンジャー。と呟いた独り言はマイルームの虚空へと消えていくのであった。

 





という訳で邪ンヌのお話でした。
楽しんでいただけたでしょうか?

来週中にはもう一本の方もあげようと思っておりますので、よろしければ読みに来ていただければと。

では次回はクリスマス特別編(予定)でお会いしましょう。
今週の担当、MKDNでした。


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【クリスマス特別編】イシュタル!サンタ!?ベストマッチ!!?? 前(ライター・スプラウト)

お久しぶりでございます。前回担当の時は獣八氏に交代していただいたライター・スプラウトです。
本来であれば明日以降が私の割り当てになる予定が、アイアムメイデンが今週多忙だったため急きょ交代になりました。謹んでお詫び申し上げます。

今回の注意点
・七章、17夏イベ、17クリスマスイベのネタバレ多数
・今回も今回で滅茶苦茶な独自解釈・独自設定
・約8000字いったので前後編
・へたくそな伏線の張り方
・ぐだ男マスター

それでも良い方は
Are you ready?


「ふっふっふっ……」

 

とある冬の日の朝(11時)。

その女性は、マスターの部屋の前に立って、一人意味深な笑いを零していた。

 

「ついにこの時が来たわ……」

 

女性はマスターの部屋の前で歓喜に震えている。決して寒いからではない。

確かに、彼女の普段着を思い出せばいや寒いだろと言われても仕方が無いのだが、今の彼女は、夏の事件の時よりもなお厚着をしているのだ。

 

「今度こそ、今度こそは……!」

 

太股を半分くらい隠すほど長い赤い外套には、裾などに白いモコモコがあり、手袋はこれまた真っ赤なミトン型。外套に隠れているのか、はたまた本当に履いてないのか、スカートやらズボンやらは確認出来ず、膝頭ちょっと上までの黒ニーソが余計に映える。

極めつけは、白いボンボンの付いた、赤い三角帽子。

 

「よし!」

 

そう。今日の彼女ーーイシュタルは。

 

「起きなさいマスター!プレゼント配りに行くわよ!!」

 

 

 

サンタクロースだった。

 

 

 

*****

 

「えー、どうも。今年二人目のサンタに強制連行されてただ今夜のロンドンと思しき都市の上空を飛んでおりますこちらカルデアのマスターです」

 

「誰に話してるのかしら?」

 

イシュタルはマアンナ・サンタクロースのソリverでプレゼントに埋められているマスターと共に、ロンドン上空を飛び回っていた。

勿論元特異点……と思いきやなんと特異点ではないらしい。

正確には特異点未満の観測点。僅かに魔力が不安定になっており、観察対象となっている観測点であった。

もしかしたら何か起きるかもしれない、程度で特異点とすら言えないほど微小な地点であるため、カルデアとしても大きく気にとめている訳ではなかった。それがこの有様である。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

「もう何よマスター、そんな大きいため息ついちゃって。これからプレゼント配りに行くのよ?そんなんじゃ配られる子供たちが幻滅しちゃうじゃない」

 

ため息をこぼすマスターをイシュタルが窘める。それに対して、マスターはプレゼントの山に埋もれながら質問で返した。

 

「それでさ、なんでまたイシュタルがサンタになっちゃったの?なんか夏に似たようなことになってやらかしてるよね?」

 

「うぐっ、た、確かに……」

 

そう。イシュタルは夏、特異点の修正を名目に巨大な規模のレースを提案・企画したのだ。しかしそれは彼女の本来の目的を隠すための隠れ蓑であり、彼女の真の目的は、消失した天の雄牛<グガランナ>を集めた魔力で作り直すことであった。紆余曲折あったものの、彼女は結局グガランナを作り直すことが出来ず、折檻を受けて終わったのだった。

そんなことがあったため、疑われるのも無理はなかった。

 

「いやまぁ確かに夏の時のことあるから信頼しにくいのはわかるけど!でも今回は本当に違うのよ!」

 

「えぇ~?本当にござるかぁ〜?」

 

「うわどっかの侍の真似ウザっ!本当よ本当!」

 

サンタ帽の白いボンボンが何故かピッカピッカ光りながらブンブン揺られるのを目で追っかけるマスターをよそに、イシュタルは説明を始めた。

 

「いやあのね?こないだのシュメル熱の一件あったじゃない?」

 

「あー、あったねえ。あん時いきなりイシュタルが上から来たのは流石にちょっと驚いたよ」

 

「驚きが薄すぎないかしら……まぁともかくよ!」

 

ビシィ!とマスターを指差し、力強く、イシュタルは叫ぶ。

 

「あん時の私が全力出し過ぎて、今の私がちょっと善性足りなくなっちゃったの!」

 

「自業自得では?」

 

ゴスッ、といい音をたててマスターの頭に振り下ろされるチョップ。

マスターはあえなく撃沈した。

 

「と!に!か!く!今の私はいつもの私と違って秩序・中庸くらいになっちゃってるの!そうすると霊基が不安定になっちゃって、下手すると英霊の座にサヨナラバイバイなのよ!だからこうやって善性の塊みたいなサンタクロースになることで自身に善性を取り戻そうとしてるわけ」

 

サンタ帽のボンボンを揺らしながら話すイシュタルに、マスターは力の篭ってないため息を零しながら話を整理することにした。

 

「つまりあの時……2016年の時のイシュタルが悪魔みたいになったせいで、なぜか今の……2017年のイシュタルの善性が失われたから善性取り戻すために思いついたのがサンタだったと」

 

「悪魔じゃなくて本気!それ以外はだいたいその通りよ」

 

「しかしなんで今になって?」

 

「さぁ?まぁ契約している貴方が当時の私を知覚したのが今だからじゃないのかしら?」

 

「じゃあ別にグガランナがどうとかする気は無いんだ」

 

「当たり前じゃない。てかボンボン眩しっ」

 

ボンボンをピカピカ光らせながらイシュタルは答えた。

 

「グガランナを作り直そうってするにはいくらなんでも集まる魔力なんかが足りないわよ。ちゃんとした術式とか作るのだって一日二日で出来るもんじゃないし。それこそ、まだちょっと気にしとけばいっかな程度の魔力上昇しただけの現代ロンドンでなんかそんなことできないわよ……てか急に光おさまったんだけどなにこれ」

 

イシュタルは光を収めたボンボンを弄りながら話す。

 

「ふーん……わかった。そしたらもう一ついい?」

 

「何かしら?」

 

「なんで俺を連れてきたの?」

 

「え?だってあなたこれまで3回もサンタクロースと一緒にプレゼント配ってきたんでしょ?冥界でも素晴らしいものくれたし。ならプレゼント配布のプロじゃない」

 

「え」

 

ふふん、と満足げというか自信ありげにしているイシュタルの言葉に、マスターは思わず呆けた声を出してしまった。

 

「なによー?」

 

マスターの声に、イシュタルは訝しげに問いかけた。

 

その結果。

 

「いやあの、別に俺がプレゼントを選んだことほとんどないけど」

 

「は?」

 

「俺が直接プレゼント選んだのって多分2回とか3回だったはずだけど」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

イシュタルの詰めの甘さが露呈するのであった。

 

 

 

*

 

「こちら『A-E』、只今到着した」

 

「お待ちしておりました、『A-E』」

 

「おう、遅かったな」

 

「全く……よもや貴様らと共に作戦に当たらねばならんとはな、『L-C』、『C-G』」

 

「仕方あるまい。奴を止めるためだ。我とて弓の我ほどではないが貴様と組むのは少し抵抗があるわ」

 

「では早く終わらせるために速攻でいきましょう」

 

「私も『L-M』の意見に賛成だわ。いけ好かない『A-E』やら『C-G』やらと長く組んでたくないわ」

 

「何はともあれ目標が到達するまでは某らも動けまい。今はゆったりと待つしかあるまいよ、『C-M』」

 

「『A-S』……!」

 

「いえ、実際彼の言う通りです。とにかく今はマシュらからの連絡が来るまで待機するしかありません」

 

「一刻も早い連絡を期待するとしようか、『S-A』」

 

「ところでよ、この呼び方めんどくさくねえか?」

 

「たわけ!こっちの方が格好いいだろうが!!」

 

「まさか貴様と意見が合うとはな。全く、『L-C』もケレン味がわかっておらんな」

 

「え、俺がわりぃの?」

 

 

 

突如現れた謎の集団。

プレゼント配りを始めることになったマスター。

急にサンタになったイシュタル、彼女は果たして本当に善性を取り戻したいだけなのか?

 

彼らの夜は、まだ終わらない。




後編に続きます。


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【クリスマス特別編】イシュタル!サンタ!?ベストマッチ!!?? 後(ライター・スプラウト)

後篇です。まだ読んでいらっしゃらない方は前篇を先にお読みくださいませ。

一応注意点
・七章、17夏イベ、17クリスマスイベのネタバレ多数
・今回も今回で滅茶苦茶な独自解釈・独自設定
・約8000字いったので前後編
・へたくそな伏線の張り方
・ぐだ男マスター

Are you ready?
守銭奴女神のプレゼントォ!
イシュタァルサンタァ!
イェーイ!までタイトルを思いついたときに思いつきました。


「マスター!次どこ!?」

 

「えーと、二つ向こうの通りのロッテンマイヤーさんち!」

 

「了解!飛ばすわよ、掴まってなさい!」

 

言うが早いか、風より早くという言葉がふさわしい位の速度を出してマアンナを飛ばす。

直線距離で1,2キロでしかないのもあって、10秒後には目的地に到着していた。

 

「このロッテンマイヤーさん?のプレゼントは……これね」

 

袋の中から目当てのものを取り出したイシュタルはそれを玄関の前にそっと置いた。

そこにサンタからの贈り物であることを書いたメモを合わせて置いて、再びマアンナに乗り込む。

 

「さぁ!休んでる暇はないわ!次行くわよ次!」

 

「ちょ、Gがかかってきついんだけど……」

 

「次は!?」

 

「あーもー、次はここから南西の……」

 

マスターもやけっぱちになりながらイシュタルに次の目的地を告げる。

それを聞いたイシュタルがマアンナを全力で飛ばした。

 

結局マスターにプレゼントを提案してもらう、という目論見が外れたイシュタルは、次の作戦として、直接相手の欲しいものを知る、という手をとった。

これはイシュタルの女神の権能と、イシュタルの憑代となった少女からちょっと借り受けた(本人談)魔術の知識をちょちょいと応用して色々やった結果生まれた、相手の願望を知ることのできる魔術によってなされたある意味奇跡の業があってこそ取れた手段である。この魔術、なんとも都合のよいことにサンタの届けられるものレベルの願望までしか読み取れないという。ともかく、この魔術を利用したイシュタルは次に自身の財を(半泣きで)注ぎこみ、プレゼントとして選んだものを実際に買うという暴挙に出た(ちなみに実際に買いに行ったのはマスターである)。

後は誰が何を欲しいのか、というのをリストアップし、マスターが告げた人のところにイシュタルがマアンナを飛ばしプレゼントを配る、というだけである。

ともすれば今までで一番サンタっぽいかもしれない。実際、一番欲しいものかどうかはともかく、外れを配ることはないのだから。

行動をとり始めて2時間、およそ8割のプレゼントを配り終えたイシュタルはとマスターは、一旦休憩をとっていた。といってもマアンナの上で、だが。

 

「いやー配った配った。今までこんなに配ったことは無かったからある意味新鮮だったかも」

 

「そう?まぁいいわ、おかげで私もだいぶ善性戻ってきたし」

 

「そうなの?よくわからないけど」

 

「あ?」

 

「なんでもありません」

 

「……まぁ実際善性とかそういったもの、別に形あるものじゃないから傍から見たら判りにくいかもね。でも当事者たる私はちゃんと善性感じてるわよ」

 

「エネルギーというか、魔力的な感じで?」

 

「そうね、それが一番わかりやすいかも」

 

ボンボンを揺らしながら笑うイシュタルにつられる形で、マスターも笑う。

 

「でもこんだけ頑張ったらグガランナもなんとかなったりして」

 

「だーかーらー、グガランナをどうこうするつもりはもうないって言ってるでしょう!?」

 

サンタ帽のボンボンをピカピカ光らせてイシュタルは怒鳴った。

 

「それにグガランナ作り直すのにレースした時のこと思い出しなさいよ!あれ色々したからやっとあそこまでできたのよ!ただ空飛んでるだけでなんとかなるわけないじゃない!」

 

ボンボンの光が消えてなお、イシュタルは怒る。マスターは平謝りしながらイシュタルの気を逸らすことにした。

 

「わかった、わかったって!ごめん、言い過ぎたよ!悪かったから、そしたら残り配りに行こう、ね?」

 

「……仕方ないわね」

 

まだ不承不承という感じではあるが、イシュタルは怒鳴るのをやめて前を向く。

 

「ほら!次はどこ!!」

 

「えーと……次は北東2,5キロ先の……カサンドラさんで、その次がそこから三軒右の、ウーイズリさん?ごめんちょっと読めない」

 

「読めないって……まぁいいわ!そしたらチャチャっと残り配っちゃうわよ!」

 

そう言って、イシュタルは再びマアンナを飛ばし始めた。

 

 

 

*

 

「マシュから連絡が来ました。もう間もなく、マスターがターゲットをここに誘導するそうです」

 

「ようやっとか、危うく凍てつくかと思っていたところよ」

 

「勝手に凍てついてなさい『A-S』。とにかく、早く終わらせるわよ」

 

「全くだ。こいつ、他の者の分も考えずにコンソメスープを飲みつづけるからな!」

 

「俺のせいかよ!?だいたい一番飲んでるのは俺じゃねえだろ!?」

 

「彼女の分は彼女の分で用意しているといっただろうが!」

 

「落ち着いてください『A-E』、『L-C』」

 

「『R-M』のいう通りです二人とも。でもやっぱりもう一杯頼めますか『A-E』」

 

「まだ飲むのかよ!」

 

「ええいいい加減に配置につかんか貴様ら!!纏めてディンギルの弾にするぞ雑種ども!!」

 

『……大丈夫なのでしょうか、これで本当に……』

 

 

 

******

 

プレゼントを配り始めて約3時間。ついに、その時が訪れる。

 

「こ、れ、で……最後ー!!」

 

「お疲れ様、イシュタル!」

 

「はー!つっかれた!!」

 

イシュタルがマアンナの座席で大きく伸びをする。

つい先ほど、最後のプレゼントが配られたところだった。

 

「それにしても最後のプレゼント届けた相手が海外旅行中の日本人だったとはね。一瞬見えた姿は凄いドイツとかの人っぽかったけど。綺麗な銀髪だったし」

 

「しかも欲しいものが一緒に旅行していた人が好きなクマのぬいぐるみだったなんてね。まぁ売ってなかったんだけど……」

 

「代わりにその人好みのクマに改造できるように、って布やらソーイングセットやらまで同封したから、きっとあの人なら何とかできると思うよ」

 

「ほんと、そこでそういうアイデアだせるのは凄いと思ったわ、マスター。流石ね」

 

「なんだかんだでサンタの付き添い三回目だしね……」

 

ふう、と一息ついて、イシュタルは自身の手を握ったり開いたりしてみる。

 

「……うん、たぶん大丈夫だと思う。これで」

 

「元の属性に戻れた?」

 

「ええ。きっと大丈夫よ」

 

マスターを見て口角を上げるイシュタルに、マスターも釣られて笑みになる。

そこでおもむろにイシュタルはマアンナの操縦席に座り直した。

 

「さってと!そしたら次行くわよマスター!」

 

「え?プレゼントならもう配り終わったけど?」

 

空っぽになった袋を持ち上げて見せるが、イシュタルは振り向かずに答えた。

 

「確かに今の分は、ね」

 

「……また配りに行くの?」

 

「あたりまえじゃない。一応はサンタなんだし、なんだかんだ楽しくなってきちゃったから」

 

そこまで言って、イシュタルは振り向いて笑う。

 

サンタ帽のボンボンを、光らせながら。

 

「……そしたらさ、先に向かってほしいところあるんだけど、いい?」

 

「あら?まぁいいわよ。マスターには付き合ってもらったしね。どこに行けばいい?」

 

「えっと方角は……あっちあっち」

 

そう言ってマスターが指差す方向にマアンナを飛ばす。

マスターの指示通り進み、到着したのは、森の中だった。

 

「本当にここでいいの?」

 

「うん、ありがとう」

 

「ふーん……まぁいいけど。にしても、本当何でこんなところに来たのかしら」

 

訝しげに聞いてくるイシュタルに、マスターはマアンナを降りた。

 

「ところでさ、イシュタル」

 

「何よ、質問に答えなさいな」

 

 

 

「そのサンタ衣装、誰に作ってもらったの?」

 

「は?……あぁ、これを作ってくれたのはね」

 

 

 

「エレナだよね?」

 

 

マスターから告げられた名前に、イシュタルは一瞬、本当に一瞬だけ呆気にとられ。

 

次の瞬間、目の色を金色に変えた。

 

「……何で知ってるのかしら?」

 

イシュタルの問いに、マスターは今度は答えた。

 

「そんなの簡単だよ。エレナが、『直接』教えてくれたから」

 

「は……?」

 

マスターから帰ってきた答えに、イシュタルは今度こそ絶句した。

 

「そ……そんなのおかしいわ!だって!この衣装は頼んでから一日で作ってくれたのよ!?その間あのキャスターとマスターが会ってるはずはないわ!」

 

「そうだよね。その間、エレナと俺が会わないように、戦闘シミュレーションに引っ張ってったんだから」

 

「な……」

 

そう、マスターの言うとおりだった。

イシュタルは、彼女の狙いの為にサンタ衣装を作ってくれて、しかもすぐさまマスターに報告をしに「行かない」サーヴァントにサンタ衣装を作ることを頼み、その間衣装つくり中のサーヴァントとマスターが、あるいはマスターにすぐ報告をしに行くサーヴァントが遭遇しないように、戦闘シミュレーターに誘導していたのだ。

そこでイシュタルが目をつけたサーヴァントが、エレナ・ブラヴァツキーだったのである。もし、これがエミヤに頼もうものなら即マスター案件であるし、ブーディカでもそうなっていただろう。イシュタルは他に裁縫ができるサーヴァントに思い当たる節がなかったし、唯一ヴラド三世なら出来ると聞いていたが、あいにく出来る方のバーサーカー・ヴラド三世はこのカルデアにはいないかった。

ともあれ、条件に合うサーヴァントを探していた時に、エジソン、そしてテスラの為にコートを編んでいたエレナに遭遇したのだ。そこからはとんとん拍子に話が進む。

 

「そして衣装ができたのが俺を連れ出すつい10分前。そりゃ、エレナが俺と会うタイミングは無いはずだと考えるのは当たり前」

 

でもね、とマスターは話す。

 

「エレナは俺に伝えてきたよ。イシュタルが何か企んでる、って」

 

「ど、どうやって……」

 

 

 

「オルコット」

 

 

 

イシュタルは、愕然としていた。

エレナが霊基再臨後から連れている、小さな浮かぶ人形のようなもの。

その名はオルコット。

 

「意識してなかったでしょ?エレナの周りにいるはずのオルコットの存在を。少なくともエレナから衣装を受け取った段階じゃ、オルコットはエレナの周りにいなかったはずだよ。ずっと、それこそイシュタルがエレナに頼んだあたりから、俺のところにいるからね」

 

「そ……んな」

 

「それでもイシュタルが何を企んでるかってのはわからなかったから、エレナがサンタ帽に細工をしたって」

 

「サンタ帽に細工……まさか!?」

 

被っていた帽子をつかみ取る。

視線の向かう先は、先端の、白いボンボン。

 

そう。

 

「イシュタルが嘘を吐く度に、それが光るように」

 

ザッ、と、イシュタルの背後で足音が響く。

 

「そしてイシュタルは見事にグガランナ関係の話でボンボンを光らせた。おかげで確証が持てた」

 

「は……はは……」

 

乾いた笑いが、イシュタルの口から漏れる。

 

「だからこっそりマシュに頼んで、もしイシュタルが悪そうなこと企んでたら、って時の為に、ここにサーヴァントを送ってもらってたんだ。ここが観測点になったのも、それが理由だよ」

 

ギギギ、と錆びついたネジのようにゆっくりと振り向くイシュタル。

その視線の先には。

 

アーチャー・エミヤ。

ランサー・クー・フーリン。

キャスター・ギルガメッシュ。

ライダー・メドゥーサ。

キャスター・メディア。

アサシン・佐々木小次郎。

 

そして、セイバー・アルトリア。

 

「は、あはは……」

 

そうして。

 

「ということで、全員。おしおき、開始!」

 

「なんでよおおおおおおおおおおおお!」

 

イシュタルの目論見――グガランナ再生計画は、おじゃんとなったのだった。

 

 

 

 

 

「つまり善性を失っていたのは本当だったけど、それと一緒にプレゼントを配ることで集まる感謝の念を、信仰に置き換えて力にすることで、グガランナを作り直すエネルギーにしようとしたと」

 

「はい……その通りです……」

 

結局数の暴力には敵わず、コテンパンにされたイシュタルはまた「私は駄目な女神です」と書かれた例の粘土板を抱えさせられていた。

 

「全く!人の感謝の念をなんだと思っているんだ、君は!」

 

「ここまで呆れた奴だとは……流石の我も悲しい」

 

「本当は善性まだ足りてねえんじゃねえか?」

 

「まさに悪魔の所業よな」

 

男性サーヴァント陣からボコボコに言われてイシュタルは咽び泣く。

女性陣も何も言わないが、溜息を零していた。

 

「……まぁ、善性を失って、霊基が不安定になっていたのは本当みたいだし、グガランナが絡まなければいいことをしたのは確かだし、俺たちがここの人たちを巻き込んだという点では俺たちも決して正しいだけじゃないから、おしおきはしたしこれにて終わり、ってことで!でも次同じような事やったら次はエルキドゥだからね!」

 

「マスターがそう仰るのなら、私はこれを事の解決としましょう。他の方も、よろしいか」

 

アルトリアの言葉に、多少納得のいっていない顔をする者もいるが、全員が従うらしく、次々とレイシフトしていく。

最後にアルトリアがカルデアに帰って行くと、マスターとイシュタルもレイシフトが始まりかけていた。

 

「うぅ……」

 

「全く……」

 

未だグズグズ鼻を鳴らしているイシュタルにマスターはため息を零しながらも、次の瞬間には、優しい笑みを浮かべていた。

 

「……ともかく、消えたりしなくてよかったよ、イシュタル」

 

そのマスターの言葉に。

 

「……うぅぅぅぅ!うるざいわよ、バガマスダー!!」

 

イシュタルはボロボロ泣きながらも、嬉しそうに答えるのであった。




ここまで読了、ありがとうございました。ライター・スプラウトです。
前回担当の際は失礼しました。無事に色々落ち着いたのでなんとかなりました。

今回はタイトルが一番最初に出来上がりました。ちなみにこのタイトルを他メンバーに見せたところ笑われました。やったぜ。

色々と話したいところですが長くなりそうだったり話がまとまらないので細かくは活動報告にあげますのでもしよろしければそちらをお読みください。今日中に書けるか分かりませんが(((((

それでは次回、アイアムメイデンくんが多忙極めてるので獣八氏になるかもしれません。その次が私になります。また、クリスマス特別編はクリスマスに間に合う気がしませんが新年特別篇は書きますハイ。
では次回、お楽しみに!


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【クリスマス特別編】絆という名の宝 (MKDN)

 
 
間 に 合 っ た ぁ ! ! !(書き終わり時刻25日午前1時22分)
 
 
というわけでクリスマス特別編です!

ご都合主義が多分に含まれてる上、第七章、終章、今回のクリスマスイベントのネタバレが入っています。

まだやってないよ!って方はお気を付けください。
それでは、どうぞ!


 

 

12月も半ばを過ぎ、世間の街中はクリスマスムード一色。

そんな最中、カルデアでは突如「シュメル熱」が蔓延、スタッフ、そしてサーヴァントたちまでもが熱にやられてダウンしてしまった。賢王ギルガメッシュ曰く、原因は冥界にあるらしい。

この問題を解決するためにマスターである藤丸立香と黄金に輝く謎の羊、「ドゥームZ」から力を託されたアルテラ改め、「アルテラ・ザ・サン[タ]」は冥界へと乗り込んだ。

そこで発生していたのは各所の見た目こそクリスマスのイルミネーションを施されているものの、かなりの危機的異変だった。

第七特異点バビロニアにおいて主人公たちを手助けするため、冥界の掟を破った罰を受けて消滅していったはずのエレシュキガル。

その彼女がカルデアにシュメル熱の病原体となる菌を送り込んでいる張本人だったのだ。

理由は「自分が犯した罪を清算するため」。

冥界の掟を破った彼女は罰として消えなければならない。

だが、神にとっての「死」とは「生命活動の停止」ではなく「信仰の消滅」。

第七特異点での自分のことを覚えているものがいる限りは消滅することができない。

その結果、戦闘が記録されており、自分のことを覚えている者たちがいるカルデアを滅ぼそうと考えたのだ。

そんな彼女を唆したのは「ネルガルの悪意」。彼こそが今回の黒幕だった。

エレシュキガルが冥界の掟を破り弱体化したことで覚醒した彼はエレシュキガルを唆してカルデアに攻撃を仕掛けさせた上で彼女の存在を消し、自分が冥界の王になろうと目論んだ。

マスターとアルテラ・ザ・サン[タ]は第七特異点で出会ったサーヴァントたちの協力の上にこれを何とか退け、深淵の海に溶けて消えようとしていたエレシュキガルを救い、再会を約束してカルデアに帰ってきたのであった。

 

さて。

異変も解決し、熱にうなされていた職員やサーヴァントたちも復活した。

と、なればこの聖なる夜に行われるのはただ一つ。

 

 

「クリスマスッ、パーティーだぁぁぁあああ!!!」

 

『いぇぇぇぇえええええい!!!!!』

 

 

職員、サーヴァント全員巻き込んでのお祭り騒ぎである。

 

 

ある者はカルデアにきて友人となったものと酒を酌み交わし。

ある者は一心不乱に料理を喰らい。

またある者は歌って踊る馬鹿騒ぎをする。

 

そんなパーティの最中、始めに乾杯の音頭を取ってからもみくちゃにされ、ようやくマスターの藤丸立香が一息ついた頃に話しかけてきた存在があった。

 

「楽しんでおるかのぅ、立香!」

 

「おぉ、ノッブ。体調はもう大丈夫なの?」

 

「あたりまえじゃろ!この通り、ピンピンしておるわ!」

 

まぁどこぞの弱小人斬りサークルの姫はまだぶっ倒れておるがの、と言葉を続けるのは織田信長、通称ノッブ。戦国三英傑の一人であるあの第六天魔王、織田信長である。

 

「そっか、そりゃよかった。けどあとで沖田さんのとこだけお見舞いに行かなきゃ」

 

「えー、いいじゃろ別に。あのバーサーク人斬りも付いておることじゃし。むしろ今行ったら『私も参加したかったですぅ~!!!』と泣きつかれること請け合いじゃぞ?」

 

「それなんて役得?……けどまぁ明日とかでいっか!」

 

「はっはっは、おぬしのそういう欲に忠実なところはわし嫌いでないぞ!」

 

ははは、何のことやら。

 

「そういえばノッブ、今回敵のクラスがクラスだったせいでなんか水着で周回に来てたけどあれ寒くなかったの?」

 

「露骨に話題をそらしてきたのう…。いや、寒いに決まっとるじゃろJK。冬で雪降ってるようなとこにに水着て。わしの属性というか逸話が逸話じゃなかったら今頃凍え死んでおったぞ?『氷像グラマラスノッブ』の完成ぞ?」

 

「グラマラス…ねぇ……」

 

「おい、おぬし今どこを見た。誰とどこを比べた。」

 

「いや、このサイズなら沖田さんのが、なんて毛ほども思ってないですよ?」

 

「ばっちり思っておるではないか!しかも寄りにもよってあやつと比べおって!」

 

がるる、と怒るノッブをどうどうとなだめる。

普段は一緒にいることが多いノッブと沖田のぐだぐだ組だが、元々は亜種聖杯戦争で戦った因縁のライバル同士である。仲が良いのは確かだろうが、それと同じぐらいライバル意識も強いのだろう。

 

「はー、もうわし傷ついたわー、ぶろーくんまいはーとだわー。これはクリスマスということでわしにふさわしいプレゼントでしか癒されない傷だわー!というわけで貢物をよこせ、ほれ」

 

「こいつ…露骨どころか直接的にプレゼント要求してきやがる…」

 

「何じゃ、間接的のほうがよかったか?今ならクーリングオフ期間中じゃ、やり直しがきくぞ?」

 

「何をどうクーリングオフするんだ…。でも今あげれるのって言うと…聖杯くらいしかないよ?」

 

「おぬしそれ世の魔術師どもが聞いたら卒倒するぞ…。というか、聖杯(そんなもの)要らぬわ。貰ってもまた特異点作っておぬし達にしばき回されて終わりじゃろうて」

 

「いや、あの時より戦力だいぶ強化されてるからあれ以上の惨劇になると思う」

 

正確に言うなら大槍投げ大会が開催されることになる。

 

「やだ…わしのマスター殺意高すぎ…。そんなことを聞いたら余計要らぬわ。別のにするのじゃ、別のに」

 

「んー…、他にノッブが喜びそうなもの…。なんかあったかなぁ……」

 

……あ。

 

「お?その顔は何か閃いたようじゃのう?なんじゃなんじゃ、もしかして曜変天目茶碗とかかの?もしそうであったならわし自ら茶をたててやるのもやぶさかではないぞ?」

 

「んー、多分もっと喜んでもらえるようなものだよ。ただちょっと準備に時間がかかるから……そうだな、パーティが終わったらマイルームに来てくれない?」

 

「え、なにもしかしてわし誘われてる?『お前が母上になるんだよ!』みたいな?プレゼントってそういうことか?」

 

「そんなこと言う悪い子には立香サンタはプレゼントあげないことにしてるんだけど」

 

「いやー、冗談じゃよ冗談!楽しみじゃなー、良い子のわしは何の悪さもせずに自室で待機してるのじゃ!あとついでに沖田のやつでも煽ってくる!」

 

そう言い残すや否や風のように去っていくノッブ。

 

「変わり身はっや、そして居なくなるのもはっや…。まぁ取りあえずダ・ヴィンチちゃんと…あの人に相談しなきゃだね」

 

 

 

 

 

 

パーティが終わったその日の深夜。

織田信長はマスターの自室であるマイルームに向けて歩いていた。

 

「それでそれで?結局ノッブはマスターから何貰うんです?」

 

…何故か隣に沖田総司を連れて。

 

「わしも知らん。ただまぁ『曜変天目茶碗より良いもの』らしいからのう。期待が高まるというものじゃ」

 

「えー、いいなー。私もお願いしたらくれたりしませんかね?」

 

「聖杯ならもらえるんじゃないかの?余ってるようじゃし」

 

「あんなの貰っても使い道ありませんよう…」

 

そんな会話をしながらマイルームの前まで来た二人。

呼ばれた張本人であるノッブが扉を叩きつつ呼びかける。

 

「立香よ、来たぞー」

 

「あ、はいはーい。今出るー」

 

数秒後、マイルームの扉が開く。

 

「いらっしゃーい。…あれ、沖田さんも来たんだ?」

 

「はーい!暇だったので来ちゃいました!もしかしてお邪魔でしたか?」

 

「いやいや、全然。体調のほうもようやく治ったみたいだね」

 

「えぇ、おかげさまで。もういつでも万全の状態で戦えますよー!…コフッ?!」

 

「調子に乗るからそうなるのじゃ…。それで?貢物の準備は出来たかのう、立香よ」

 

「うん、ばっちり。じゃあ、召喚室行こうか」

 

「「…召喚室、じゃと(ですか)?」」

 

 

 

場所を移して召喚室。

ここはカルデアで聖晶石と呼ばれる魔力結晶を用いた英霊召喚の際に使われる部屋である。

マスター達がついた時には既に来ていた人物達が設備をいじりながら待っていた。

 

「お、来たね。待ちくたびれたよ」

 

「急に無理言っちゃってごめんね、ダ・ヴィンチちゃん。…で、いけそう?」

 

「少なくとも私の担当する場所にミスはないよ。なにせ万能の天才だからね。」

 

「さっすが、頼りになるぅ!で、教授の方は?いけそう?」

 

「無論だとも!このジェームズ・モリアーティを舐めてもらっては困るよキミ!悪のプロフェッサーの名に懸けて成功させてみせようとも!」

 

マスターの問いかけに自身をもって言い切る形で答えるダ・ヴィンチ(てんさい)モリアーティ(きょうじゅ)

 

「……のう、立香よ」

 

「うん?どうしたのノッブ。そんなげんなりした顔して」

 

「いや、こんな顔にもなるじゃろうて。何この人選、不安しかないんじゃが。え、マジでわし何押し付けられるの?」

 

「押し付けられるとは失礼な。ちゃんとノッブが喜んでもらえるものをあげるつもりだよ?」

 

「ノッブが喜ぶ…それにこの人選…。……まさか、そういうことですか?え、でもそんなこと可能なんですか…?」

 

「え、何々。マジで怖いんじゃが」

 

マスターの狙いに気付いたらしき沖田が信じられないといった体で呟く。

どうやらノッブはまだ察しがついていないようだ。

 

「そのために万能の天才とその道のプロに頼んだんだよ。それじゃあ、いっくよー!」

 

マスターの掛け声とともに召喚サークルが回転し始める。

それは眩い光を放ちながら回転数を上げ、三本の輪を作り上げた。

その輪が収束し、弾ける。

その後にそこに立っていたのは、マスターにとっても沖田にとっても、そして何より織田信長にとっても見覚えのある人物の姿だった。

 

 

「サーヴァント、ほどの力はありませんが。それでも、と僕をしきりに呼ぶ声がしたので召喚に応じて参上しました。」

 

 

姉である織田信長に似た中世的な顔立ち。

身長自体は彼女より高いもののいささか男性にしては線の細い体つき。

一つ結びにしており、なぜか先端が燃えている長い髪の毛。

紅い軍服と黒いマントを身にまとい、その人物はそこに立っていた。

 

 

「真名、織田信勝。姉である第六天魔王、織田信長。その弟の織田信勝です。」

 

 

それは。

絶対にかなわないと思っていた再会で。

それでもなお、もう一度と願っては諦めるしかなかったはずの人物で。

 

 

「ーーーすみません姉上、やっぱり会いたくなって来ちゃいました。」

 

 

そして。

そう言って笑っている彼こそが、織田信長が何よりも欲した家族(もの)であった。

 

「ーーーはっ、あんなことを言っておきながらよくもまぁわしの前に現れたものよな」

 

ただまぁ、と。

そこで一拍置いてから。

 

「よう来た。せいぜいカルデア(ここ)でゆるりとしていくがよい」

 

そう言って出ていく彼女の背中を見送る面々。

 

「…もしかして怒らせちゃったかな?」

 

ダ・ヴィンチが心配そうにそういうものの、彼女のマスターである立香や相棒の沖田には分かっていた。

 

「いや、あれは多分喜んでますよ。信勝さんがいたからあんな態度だったけど」

 

「だね。まぁそれはともかく。」

 

そう言って信勝ーーーカッツのほうに振り返る立香。

 

「久しぶり、カッツ。そして、ようこそカルデアへ」

 

「…はい!姉上ともどもよろしくお願いします!」

 

 

 

そしてクリスマスも終わり。季節は移ろいゆく。

あの聖なる夜からは、沖田ノッブら通称「ぐだぐだ組」の中に一つ人影が増えた。

その人影は、時にノッブに泣かされながらも、いつも幸せそうに笑って穏やかな日々を過ごしているそうだ。

 




というわけでクリスマス特別編という名のカッツ救済編でした。

新茶が幻霊と融合して出てきてんだから新茶の理論とダ・ヴィンチちゃんの技術力が合わさったらいけるんじゃね?との発案の元、今回のお話を書かせていただきました!

正直型月警察がめちゃくちゃ怖い(真顔)
苦情、というかそういったご意見は是非感想のほうにお願いします。

…まぁとりあえず。
次回はお正月の新年特別篇にてお会いしましょう!
それでは、また。

MKDN


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いつかの明日(みらい)へ 大晦日・新年特別編 ライター・スプラウト

新年特別編じゃオッルァーン!

注意
・第二部プロローグの壮絶なネタバレあり
・例によって独自解釈あり
・話の読み違えがあるかも

それでも良い方は、第二部のスタート前にお読み頂ければ幸いでございます。


ふわふわ、ふわふわ。

 

空を飛ぶ、そんな感覚。

 

地に降りるでも、空高く昇るでもない、ただ、雲のように、ふわふわと。

 

そんな感覚に、包まれて。

 

 

 

「おーい、マシュー?」

 

 

 

「ふぇあっ!?」

 

 

 

私は、私を呼ぶあの人の声で、そんな感覚から解き放たれました。

 

思わず周りをきょろきょろと見渡して、そこがカルデアの、私達のマスターーー先輩の部屋であることに気付きます。

 

「も、もしかして私、寝ちゃってしまいましたか……?」

 

「んー、多分? まぁ寝たって言っても数分も経ってないと思うけど」

 

「す、すみません先輩! よもや先輩とお話中に眠ってしまうなどと……」

 

「気にしないで。忙しかったし、疲れてるよね」

 

「いえ、そんな……確かに、新所長の就任と査問会の方の到着で気は張っていましたが……」

 

「え?」

 

私の言葉に、先輩はキョトン、としています。

 

「……大丈夫、マシュ? やっぱり、もうちょっと寝る?」

 

「い、いえ!」

 

「そう? いやでも新所長就任も査問会の取り調べもすぐ終わったから気を張るようなことも無かったと思うけど……」

 

「……え?」

 

今度は、私が先輩の言葉にキョトンとしてしまいました。

 

だって、新所長と査問会の査察官の方に私たちは……

 

私、たち、は……

 

「……すみません先輩、どうやら寝ぼけてしまっていたようです」

 

「やっぱり? まぁ無理もないよね。1度は退去させた皆を呼び戻して、そこからすぐに新年のお祝いの準備をし始めたんだから」

 

そうだ。

 

私たちは、新所長兼査察官(・・・・・・・)の方の粋な計らいで査問会を即座に終わらせ、1度は退去させたサーヴァントの皆さんを、こちらの記憶がある状態で呼び戻して、それで。

 

新年のお祝いをするために、宴会の準備をしていたんでした。

 

「どうする? パーティ始まるまで休む?」

 

先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでくれます。

 

近寄る先輩の顔に、私の心臓が心拍数を上げて、顔に熱を持たせる感覚をもたらして。

 

「だ、大丈夫です! すぐに行きましょう!」

 

私はその感覚に耐えきれず、すっくと立ち上がって、部屋を出るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「かんぱーい!」

 

ダ・ヴィンチちゃんの号令のもと、皆さんが一斉に飲み物の入ったコップを掲げます。

 

そこからは大騒ぎでした。

 

一方ではお酒の飲み比べ、一方では料理の食べ比べ、喧嘩と聞き紛うほどの大音声が響いたと思えば、誰かの叫び声と爆笑の声。

 

今も、アーチャーのエミヤさんとタマモキャットさん、ブーディカさんが料理を次々と運んできていますし、黒髭さんはドレイク船長に絡み酒されてます。

 

その持ってきた料理を複数のアルトリアさんが根こそぎ持っていき、僅かに余ったものをランサーのクー・フーリンさんがため息とともにかき集めましたね。

 

少し落ち着いたところでは、小太郎さんと段蔵さんを筆頭に静かにお酒やお茶を酌み交わしていました。

 

そこにエリザベートさんが突撃したのを、メカエリチャンさんが制裁してるのを見て、騒いでた方たちの意識が向かってしまったみたいです、少し音量が大きくなってきました。主に信長さんがロックンロールしてるのが原因かもしれません。

 

「マシュー!」

 

巻き込まれないように、と少し距離を置いてみたら、エレナさんとアタランテさんに呼ばれたのでそっちに向かいました。

 

「呼びつけて済まなかった。良ければここに座るといい」

 

そう言って、とても優しい笑顔を向けてくれるアタランテさんに、私は思わず驚きを隠せませんでした。

 

「あー、ごめんね? 思ってたよりアタランテお酒弱かったみたいで。少し表情筋が緩くなってるみたい」

 

「む、聞き捨てならんな。確かに少しばかしアルコールは作用してはいるが、汝の言うほど酔ってなどいない」

 

アタランテさんがそう反論します。

 

確かに、表情がいつもよりも何倍も明るく優しいこと、顔色が少し赤くなっていること以外は、あまり変わらないように見えます。

 

「でも酔いは急に悪化する可能性もあります。お水を持ってきますから、少し待っていてくださいね」

 

「む……しかし好意は無碍には出来んな。済まないが頼めるか?」

 

「はい!」

 

そう言って、私はアタランテさんとエレナさんの座る席から立ち、アタランテさんとエレナさんのぶんのお水を用意しようとしました。

 

その時です。

 

 

 

「君が求めているのは、これかね」

 

 

 

そう言って、私に水の入ったコップを差し出してくれた人がいました。

 

それは、先輩でも、ダ・ヴィンチちゃんでも、ましてや今日までずっと尽力してくれたカルデアの職員さんでも、ありませんでした。

 

 

 

「あ、ありがとうございます。言峰新所長」

 

 

 

言峰綺礼新所長。

 

査察官も兼任していたこの人が、このパーティを執り行うのに、ある意味一番貢献した方でしょう。

 

彼が許可を出してくれたから、サーヴァントの皆さんが再びカルデアに来ることが出来たのですから。

 

そう。彼のおかげなのです。彼が居たから。

 

そういう判断を出来る優しさ。カルデアの職員達への、戦いの日々への敬意を払う仕草。私のこともキチンと、人として扱ってくれる度量。

 

とても、人として素晴らしいはずなのに。

 

『気をつけろ、マシュ、マスター。奴は、絶対に信用するな。例え真実を話しても、真相を、内心を話すことは絶対にないタイプだ、ああいうのは』

 

『オイオイ、まさかまたあの野郎と巡り会うとはな……別人だとしても勘弁して欲しいもんだぜ』

 

『ククク、ここまで来ると腐れ縁というやつやもしれんな。どれ、別なるものではあろうが、一杯酌み交わしてくるとするか』

 

『うーわ、マジで……? あー、マスター、マシュ。私の依代になってる子があのバカ神父に注意しろってすっごい騒いでるわ。気をつけた方がいいわよ』

 

再召喚された一部の方の言葉と。

 

マスターを初めて見た時の、一瞬だけ見せた、底冷えするような、冷たい視線。

 

それを思い出すと、私はーー

 

「どうかしたかね? マシュ・キリエライト」

 

「っあ、すみません、なんでもありません。お水、ありがとうございます」

 

いけません、つい言峰新所長の前で思案してしまいました。

 

私はお礼を言って、すぐにその場を立ち去りました。

 

 

 

そうしてアタランテさんのところに戻ってお水を渡すまで。

 

言峰新所長は、ずっと私を見ていた、そんな気がしました。

 

 

 

 

 

それからどれほど経たれたでしょうか。

 

気が付けば多くの方が食べ、飲み、騒ぎ疲れたためかお休みになられました。

 

私も多くの方とお話をしていただいたり、食べたりしたのですが、不思議と疲れて眠くなるなんてことがありません。

 

「お疲れ様、マシュ」

 

そうして部屋の中で、ぼうっとしていたら、先輩が声をかけてくれました。

 

「先輩も、お疲れ様でした。パーティは楽しめましたか?」

 

「うん。とっても楽しかった。マシュは?」

 

「はい、私もとても楽しかったです」

 

そうだ、楽しかった。

 

皆さんと、もう一度こういう風に、賑やかにすることが出来たから。

 

 

 

たとえ。

 

 

 

「たとえこれが、夢だとしても」

 

 

 

ざぁっ、と。

 

全ての風景が、泡のように消えていきました。

 

そこに残ったのは、私と、先輩だけ。

 

いいえ。

 

正確には、先輩の姿をした、あの人。

 

 

 

「……いつから気づいていたんだい?」

 

 

 

あの人は、先輩の姿をしたまま、私にそう聞いてきます。

 

 

 

「夢だとわかったのは、パーティが終わってからでした」

 

 

 

だって。

 

 

 

「私、ずっといろんな方とお話したはずなのに、ほとんどその会話の内容も、誰と話したのかも、わかりませんから」

 

私は確かに、このパーティが楽しいものだった、と覚えている。

 

それは多くの方とお話して、とても美味しい食べ物を食べたから。

 

そう認識しているのに、じゃあ誰とどんな話をしたかとか、どんな料理がどんな風に美味しかったとか、そういったことがほとんど記憶にないのです。

 

もちろんアルコールは飲んでいませんので、酔っ払って記憶がなくなったということもないでしょう。

 

ならばこれは、現実では無い。

 

「……流石だね」

 

そう言って小さく笑った先輩は、もう先輩ではありませんでした。

 

白い服に身を包んだ、冠位を持つ魔術師(キャスター)

 

 

 

「悪く思わないでくれたまえ。別に嫌がらせだとか、そういったことをしたかったわけじゃないからね」

 

花の魔術師は、そう言って謝ってきました。

 

「大丈夫です。確かに性格が悪いところもたまにありますが、基本的に親切心を持って接してくれることは知ってますから」

 

私がそう返すと、彼は「いやはや手厳しい」と笑いながら答えてくれました。

 

そうして、優しい笑みを浮かべながら、話を続けてくれました。

 

「うん。確かに親切心といえば親切心だ。これでも君たちと別れることになったのは割と寂しいのだからね。それに、これからまた君たちに訪れる苦難を思うとただで帰っていられない。だからこういった形を取らせてもらったのさ」

 

そう言う彼に、私は少し疑問を覚えました。

 

「でもそれならば、何故先輩にこの夢を見せてあげなかったのですか? きっと先輩の方が、この夢を見たかったと思います」

 

私がそう聞くと、彼は目を閉じて話してくれました。

 

「そうだねぇ。理由は二つ。一つは、今彼にこういった形でーーようは魔術的な接触をしちゃうと、彼の立場が悪くなる。ちょーっと、面倒なやつに目をつけられてるかもしれないからね」

 

面倒なやつ?

 

それは誰なんですか、そう聞こうとして、でも彼は私に言葉を発させてくれないまま、言葉を続けます。

 

「もう一つの理由は、簡単さ。彼はこの夢を、見る必要が無いからだよ」

 

その言葉に、さっきまで頭にあった疑問が塗り替えられました。

 

先輩がこの夢を見る必要が、ない?

 

「ちょっと言葉が悪かったな。彼はこの夢を夢だとは思ってない。いつかの明日、どこかの未来で、これが実現すると、信じている。だから、この夢を見せて、下手に精神を揺らがせたくなかったんだ。その点君は、これが夢だと、叶わないものだと思ってしまっている。だからこの夢を見せて、少しでも実現を願って欲しかったんだ」

 

ーーああ。この人は。

 

「……そう、だったんですね」

 

「とはいえ私も人の心の機微にはまだまだ疎いからねぇ。よくこういったことをしては怒られたりしたものだよ」

 

「……いえ、私は寧ろ、ありがたく思っています」

 

彼に言われて気付きました。

 

私はたしかに、あの光景を、あの楽しい大騒ぎを、もう二度と目にすることが出来ない。聞くことが出来ない。

 

そう思っていましたから。

 

でも、あの夢を見させてもらって。

 

私はたしかに、あの夢が実現してほしい。

 

そう、思っています。思えるように、なれた。

 

だから。

 

「この夢を叶えるために、そろそろ起きないと、ですね」

 

「……そうだね。そう思ってくれるなら、夢を見せた甲斐がある」

 

私がそういうと、彼の姿も少しずつ、花びらのように散っていきます。

 

きっと、彼の姿がすべて花びらと散れば、私の夢は覚めるはずです。

 

だからでしょう、彼があえて、別れの言葉とかを述べず、注意をしてきたのは。

 

 

 

「気をつけるといい、マシュ・キリエライト。君の夢にも出てきた、言峰綺礼。そして、ゴルドルフ・ムジークを唆した、コヤンスカヤ。あの二人は、確かに危険だ。特に、言峰綺礼に関してのサーヴァントの言葉は、僕が実際に英霊の座にいる彼らからちょちょいと聞いてきたものだからね」

 

「待ってください今サラッとすごいこと言いませんでしか!?」

 

「それでも君たちなら、きっと乗り越えられる。最後まで、諦めず突き進むんだ。いつかーー」

 

そこまで言って、彼の姿は全て消え去りました。

 

そして、私もーー

 

 

 

 

 

「……マシュ?」

 

目を開けると、そこには先輩の顔がありました。

 

「……えっと、おはようございます、先輩」

 

「うん、おはよう、マシュ。ただ、お昼寝から、だけどね」

 

そう言われて私は時計を確認します。

 

17時55分。本当にお昼寝でした。

 

「す、すみません先輩……」

 

「謝ることはないよ」

 

そう言って笑いながら、私の頭を撫でてくれる先輩の手の温かさが、とても心地好くて。

 

「……先輩」

 

「ん?」

 

 

 

「いつか、皆さんと一緒に、新年のお祝いパーティ、しましょうね」

 

 

 

「……もちろん!」

 

 

私は、いつか夢見た明日(みらい)を、叶えてみせると、心に決めました。

 

 

 

そして。

 

全てが、動き出す。




はいどうも、ライター・スプラウトです。
つい先週?ぶりですね!二週間連続投稿じゃオラァン

さて今回のお話。
今回は自身の今まで書いてきた小説の中で初めて一人称視点に挑戦してみました。
そしてメインテラーは、さりげなく今までメインで書かれてきてないマシュをチョイス!
前回と違って、今回は結末が先に決まってからタイトルが決まりました。おいそこ、オーズのセリフのパクリとか言うんじゃない!!(
内容としましても割と在り来りかな?とは思ってます。ただマシュは、事実は事実だからと、どこか諦めてしまうところがあるんじゃないか、というのを書いてみたかったのがあります。事実がどうあれ、最高を願うというのは、マスターがいるからこそ、なんじゃないかな、と。
だから今回が、初めてマシュが自分から最高を願えるように……と書いたつもりがそうならなかったような気がしてならない。くっそう。
あと本編で出てきた騒いでる鯖、あれ今まで他メンツとかが書いてきたメンツをチョイスしたのは気付いていただけたでしょうか。こういう遊び心、好きなんです。

さて、あと数分もすれば第二部プロローグがまた動き出すはずです。
これから先の展開がどうなるか。
皆様も、いつかの明日のために、どうか歩み続けてください。
それでは、ライター・スプラウトでした!まぁ来週も僕なんですけどね!!


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The one who lights up the darkness(ライター・スプラウト)

先々週だか先週だかぶりでございます、ライター・スプラウトでございます。
ちっとばかし遅れましたがなんとかなりました。
注意点
・案の定独自解釈
・終章のネタバレあり
・今回半分オリジナルキャラと化したキャラが出てる

その他にも色々とあるかもしれませんが思いつく限りはこんな感じです。
では、拙作お楽しみいただければ。


アルトリア・ペンドラゴンは、ゆっくりと瞼を開く。

その視界には、多くの黒い靄が映っていた。

それらは総じて人の姿をとっているが、しかし人と違い、完全な闇で形造られていた。

表情も無く、衣服などですら闇でしかない、異形の存在達。

それらは、手にした剣を、斧を、槍を、様々な武器を構え、臨戦態勢をとる。

 

(……これは、シャドウサーヴァント、ですか)

 

アルトリアは特に取り乱すことも無く、冷静に目の前の存在を睥睨する。

シャドウサーヴァント。

サーヴァントの残留霊基であったり、霊基を模した偽物であったり、その時々に応じて正体は異なることが多いが、確実に言えることが一つだけある。

 

それは。

 

「――シャァァ!」

 

奴らは、アルトリアの敵である、ということ。

 

先頭に居た三体が跳躍し、アルトリアに斬りかかる。

見た目は年若く見目麗しい少女でしかないアルトリアのことを、シャドウサーヴァント達は舐めていたのだろう。

事実、この時はまだアルトリアは私服の白いYシャツに青いロングスカートしか身に着けていなかったため、舐められるのも致し方ないことであろう。

 

だが、それは愚かを通り越した行為。

 

「――甘い!」

 

瞬時に、アルトリアの姿が、鎧に包まれる。

その右手に、何かを――見ることが叶わない何かを、握りしめ、大きく振るう。

 

彼女が振るった右腕の動きに合わせて、突風が巻き起こる。

 

そうして、アルトリア・ペンドラゴンを舐めてかかった代償を、シャドウサーヴァント達はその存在を失い事によって払わされることとなった。

 

「さぁ、来るがいい。私は一人だが、簡単にやられるつもりはありません」

 

アルトリアがそう言うが否や、残っていたシャドウサーヴァント達もアルトリアに襲いかかった。

アルトリアは、風を巻き起こし、襲いかかるシャドウサーヴァント達に立ち向かった。

 

 

 

 

ザン、と斬り裂く音と同時に、目の前に居たシャドウサーヴァントが霧散する。

アルトリアは周りを見回し、敵の所在を確認する。

 

「……これで最後でしょうか」

 

数十を超える敵を斬り裂いた結果か、目に映る範囲にシャドウサーヴァントは映らない。

故にアルトリアは、張りつめていた気を緩め、改めて自身の置かれている状況を確認する。

 

(……ここは、夢の中、に近い感じでしょうか)

 

先ほどまでは戦闘に集中していたため、周囲の風景などに意識を向けることが無かったが、落ち着いた今、周囲に目を向けられる。

そうして周りを見てみれば、そこは灰色と黒のもやもやとしたオーラのようなものだけしか存在していなかった。

遮蔽物となりうる建造物はおろか、樹木や岩の一つも無く、空と地面は同じ色のオーラになっており、そもそも足をつけている地面が、本当に地面なのかどうか怪しく感じられる。

このような光景を、アルトリアは今まで見たことが無い。少なくともカルデアに召喚されてから、幾度となく向かった特異点では、一度も、である。

故に、アルトリアはここが夢の中、あるいはそれに準じる結界的空間内であると判断した。

 

(そもそも私がここで目を覚ます前の記憶が、食堂に向かおうとしていたものですから、どこかにレイシフトしたわけでもない。ならば、やはりここは夢か、何者かの作った空間)

 

出口がわかるわけでもないため、あてもなく歩き回りながら思案を続ける。

そうやって歩いているが、不思議なことに最初にあれほど襲ってきたシャドウサーヴァント達は現れることは無く、アルトリアはひたすらにあてもなく突き進んだ。

 

 

 

どれほど歩いただろうか。

サーヴァントであるため、肉体的に疲労することはないが、それでも全く変わり映えの無い景色によって、進んでいるのかどうかもわからなくなり、結果的にアルトリアの精神は疲弊していた。

 

「いったいどこまで進めばいいのでしょうか……」

 

思わず口に出してぼやいてしまう。

とはいえその言葉に反応する存在はいない、とアルトリアは思っていた。

 

しかし。

 

『この空間に出口は無い』

 

突如聞こえてきた声に、アルトリアは精神的疲労すらも忘れて戦闘態勢をとる。

 

「何者だ! 出てくるがいい!」

 

アルトリアが声の主に対して叫ぶ。

その声に、ソレはアルトリアの前方の地面から、闇を纏って現れる。

 

その姿は。

 

「――貴様、は」

 

『そう驚くことでもあるまい? お前も見慣れているだろう?』

 

「――ええ。カルデアの、特殊な召喚システムだからこそ、見慣れてしまった顔ですよ――私の」

 

 

 

その姿は、身に纏う服の色が闇色である以外、アルトリアと全く同じものであった。

 

 

 

「……貴女も、私の別側面というものでしょうか?」

 

アルトリアの問いに、アルトリアと同じ顔のソイツは、くっくっ、と笑いながら答えた。

 

『そうだと言えばそうだし、そうではないと言えばそうではない』

 

「……押し問答をするつもりはありません。答えなさい」

 

『とても王とは思えない短気さだな。いいだろう』

 

そう言うと、その表情から笑みを消して話し始める。

 

『そもそも、この空間はかつて貴様らが人理修復の為にレイシフトした先にて失われたモノによって作り上げられた空間』

 

「失われたモノ……?」

 

アルトリアがオウム返しに呟く。

それに返された答えは、彼女に驚愕をもたらすものだった。

 

『たくさんあっただろう、失われたモノが……多くの、人命だ』

 

「なに……!?」

 

『ある日突然、死んだはずの聖女が竜の魔女として甦り、ローマ皇帝が反逆し、海賊が集い、ロンドンが霧に包まれ、ケルト・アメリカ間で戦争が始まり、救われぬと断じられた者たちが聖伐され、原初の母が襲撃する。それらの奇怪で本来起こり得ぬ、否、起こってはならぬ、人理焼却の副産物によって死ぬこととなった、多くの、多すぎるほどの無辜の命の無念、怒り、怨み。それが闇となり、この空間を生み出した』

 

彼女は、更に続ける。

 

『最初はごく僅かな空間だったここは、お前たちが人理修復を成せば成す程、相対的に拡大していった。それでも、人理焼却を成そうとしたゲーティアが滅ぼされたことにより、この空間は失われるはずだった。しかし、そうはならず、むしろこの空間は拡大を続けた。なぜかわかるか?』

 

アルトリアはその問いに、数瞬考え込み、そして答える。

 

最も、導き出したくなかった、答えを。

 

「……いつしか、怨みの、怒りの対象が変わったのですね。人理焼却を目論んだゲーティアから、人理修復を成すために、ゲーティアに対抗することで、結果的に各特異点で戦った、私たちを、カルデアへと」

 

『そうだ』

 

彼女は、顔色一つ変えず、口のみ動かして、真相を説く。

 

『人間の心は脆弱だ。どこかの誰かがこの空間に辿り着いてからか、辿り着く前からかは知らんが、怨みの対象をゲーティアではなくカルデアに向けてしまった。そこからは連鎖反応で、カルデアへの怨みが増していった。皮肉なことに、ゲーティアが倒されたことが、一番怨みの増す要因になったよ。ゲーティアが倒されようと、自分たちは生き返ることが無い。ならばやはりカルデアが余計なことをしなければ自分たちが死ぬことは無かった、とな』

 

「それは違う! ゲーティアが人理焼却を成そうとした時点で、各特異点での出来事は起こることになっていた筈! ならば、私達カルデアが向かわずとも、いずれは事が起こっていた筈です!」

 

『そうだ。その通りだ』

 

「ならば!」

 

『だがそれに納得ができると思うか? お前たち英霊となった者ではない、意志も薄弱で、とても戦うことなど出来ない、ただの、弱い人間が。果敢に戦い、誉れをもって死んだ者ですら、今この空間では、カルデアに対して怨みを持っているというのに?』

 

顔を顰めて怒りをまき散らすアルトリアと似た彼女に、アルトリアは何も言い返せないでいた。

 

『亜種特異点が発生してからは尚のことだ。それこそ、カルデアの戦いが無ければ発生し得なかった死者なのだからな! あぁそうだ、これが逆恨みだとわかっていても! わかっていようとも、この怨みを、闇を止めることなど叶いはしない!!』

 

だから。

 

『だから、特に優れたサーヴァントであり、その中でもトップクラスの知名度を誇るお前をこの空間に呼び出し、その姿を写す。そうして、私は――アルトリア・グラッジは復讐者として、顕現できた。後は貴様を倒し完全に取り込むことで受肉するだけだ。真の意味の受肉でなくて構わない。カルデアに顕現さえできれば、それでいいのだから』

 

そうして彼女は――アルトリア・グラッジは、闇を纏っていた剣の闇を払い、アルトリアに突きつける。

 

グラッジに剣先を向けられたアルトリアは――

 

 

 

「確かに、私たちが力及ばなかったために失われた命が多くあった。それは覆しようのない事実です」

 

一歩。

 

「私たちが力及ばなかったから。私たちが間に合わなかったから。私たちが抗ったから。だから、亡くなった人はいる」

 

二歩。

 

「故に、元凶たるゲーティアではなく、私たちを怨む。それはもう、どうしようにもないことかもしれない」

 

三歩。剣の切っ先が、喉に触れる。

グラッジが少し前に突き出せば、それであっけなくアルトリアの首が落ちる距離。

 

けれども。

 

「でも」

 

グラッジは、剣を突き出せなかった。

 

「あの人は、あなたたちと同じただの無辜の市民だった。でもあの人は、時に傷つき、時に絶望的状況に立たされ、時には死ぬのと同じような状況に陥った」

 

アルトリアは、突きつけられた剣を、左手で握りしめる。

手が切れ、出血しようと、構うことなく。

 

「それでもあの人は、絶対に諦めなかった。怒りを覚えても、怨みはしなかった。支えとなった人たちは居よう。それでも、支えがあったとしても、絶望的状況であったことに変わりはない」

 

『だ、黙れ……』

 

グラッジを、力強く睥睨する。

 

「死ぬことの辛さは、きっと凄まじいものなのでしょう。現に私は、傷つこうとも、苦しんで死を迎えようとしたわけではないから、貴方達の辛さは、理解はできない。それでも」

 

『黙れ』

 

そうして。

 

アルトリアは、叫ぶ。

 

「あの人はどんなに辛かろうとも、どんなに絶望的な状況に立たされても! 絶対に、諦めなかった! 立ち止まりは、しなかった!!」

 

『黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!』

 

グラッジの剣から、闇が噴き出す。

その闇に押されるように、アルトリアは吹き飛ばされた。

すぐさま受け身を取り、視線をグラッジに戻せば、グラッジは頭を抱えて、叫び続けていた。

 

『黙れ!黙れ!黙れぇぇぇぇぇ!! 私は、俺は、僕は、ウチは、あたしは、儂は……私は!!!!!』

 

闇を増幅させて、グラッジは、慟哭する。

 

『私はアイツのように、強くは無いんだ!!!!!』

 

そうして、剣に闇が集まっていく。

その意味をわからないほど、アルトリアは愚かではない。

 

だから。

 

「――ならば私が、貴方達の光となりましょう」

 

アルトリアもまた、右手に持つ剣を、剣を包む風を、解き放つ。

そこにあるのは、金色に輝く、至高の聖剣。

 

「貴方達が、闇を打ち払えないというのならば、私が打ち払いましょう」

 

その聖剣に、風が、魔力が、光が、集う。

 

「私が、貴方達の闇を照らす者と、なりましょう!!」

 

聖剣を頭上に掲げれば、剣から延びた光が、灰色の空を、貫こうとしていた。

 

『黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇ!! お前に、お前なんかに、この闇が打ち消せるものかぁぁぁぁぁ!!!』

 

グラッジが先に、剣に溜まった闇を撃ち放つ。

 

それに動じることなく、アルトリアは高らかに、彼女の剣の名前を叫ぶ。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるがいい。そして散れ、民を苦しめる、邪悪なる闇よ!」

 

 

 

その剣の名は。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバ―)!」

 

 

 

 

 

そして。

 

闇は、光に呑まれ――

 

 

 

 

 

 

 

「こうしているからわかります。貴方達は、本当は怨みをもって、カルデアを攻めたかったわけじゃないということを」

 

「本当は、救ってほしかったのですね」

 

「痛みから、苦しみから。このような空間に捕らわれて、救われることがないことから」

 

「でも、もう大丈夫です」

 

「だって」

 

 

 

「貴方達の闇は、すでに光によって照らされていますから」

 

 

 

 

 

 

 

「……リ…………リア…………アルトリア!」

 

誰かが呼ぶ声が、聞こえてくる。

アルトリアはゆっくりと目を開く。

そこに映ったのは――

 

 

 

「あーよかった!! このまま目を覚まさないかと思った! 本当に心配したよ!! 大丈夫!? 何があったの!?」

 

 

 

「――ふふっ、いえ、なにもありませんでしたよ。マスター」

 

アルトリアは、そう答える。

 

 

 

彼女の、光に向かって。




改めまして、こんばんはお久しぶりですライター・スプラウトでございます。
なんか先週ぶりだかの気がしますが……(

はい、思いっきりスランプ入ってました。
今回もネタが浮かんだのが土曜でしたし……
もっと早く決めたかったんですがうまくいきませんでしたわ……
特に今回はオルタを出す訳にはいかなかったので今回のパターンしかなかったのです。思いっきりスランプしてたのでうまく書けませんでしたし……
近いうちに少し書き直すかもしれません。その時はご了承ください。

先日牙狼 神ノ牙を見てきた影響が多大に出ております。めっちゃ良かったです。
お金に余裕があればもっかい見に行きたい……

語りたいこともありますが今回はここまで。
ではまた次回!


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それは幸せな夢のような話。(MKDN)※注意があるため前書き必読

 
 

【注意】


この話には「ご都合主義」「独自解釈」があります。
また、FGO第1章に関するネタバレが大量に含まれています。

「どんな話でもいい!俺/私は後悔しない!!!」といった剛の者だけお読みください。
そうじゃない人は今すぐブラウザバックだ!










さて、ここから先は、『覚悟』を持ったものしか存在しない世界。
そういうことで構わないね?

よろしい。
ならば通るがいい!

あとできれば石は投げないようにお願いします!!!
 


 

 

そこには幸せな未来があった。

自分一人では作れなかった、しかしどこかの誰かが確かに勝ち取ったのであろう未来があった。

 

笑顔があった。

どこにでもあるような、ならばこそ尊い、穏やかな日常があった。

 

綺麗な青空があった。

彼も数回しか見れていない、標高6000mから見る青空と、それに対比したかのような白銀の世界。

それを眺める二人の少女と、その二人を見つめる一組の男女。

少女らはそれぞれオレンジ色と藤色の髪を持ち、手をつないで空を見上げている。

そして、それを眺めている男女はというとーーー

 

 

ああ、これは夢だ。

彼はそう直感した。

彼女らの勝利は疑わないが、自分があの場面に居合わせているはずもない。

なぜなら彼は消えゆく身。

冥界の最下層に存在する深淵より、『  』の底よりなお深い、「無」という名の虚無の空間へ昇天している真っ最中なのだから。

 

ふ、と。

そんなことを考えたかの存在の顔に笑みが浮かぶ。

『  』の底よりなお深い場所に、「昇天」しながら「堕ちている」なんて。

 

それと同時に後悔の念が襲ってくる。

 

もっと早くからレフの正体を見抜けていれば所長が死んでしまうことはなかったかもしれない。

自分の疲労なんて無視してあの時働いていれば一日でも早く人理が修復されて、結末もまた違ったものになったかもしれない。

生前しっかりと使い魔たちと向き合っていたらそもそも人理焼却だなんて起こらなかったかもしれない。

 

そしてなにより。

 

自分が消滅しなくてもすむ、そんなご都合主義のような手段があったなら。

 

そこまで考えて彼は自嘲気味に笑った。

そんな手段はありはしない。あってもそれが許されるはずもない。

なぜなら自分は後始末をほかのみんなに押し付けて、勝手に居なくなってしまったのだから。

 

 

 

あぁ、それでも。

許されることならばーーー

 

 

「みんなと…また一緒に笑いたいなぁ…」

 

 

 

『ようやく己が望みを持ったな、王よ』

 

 

 

驚愕する。

閉じていた眼を開けると、目の前にもう二度と会うことがないであろうと思っていた存在がいた。

 

「ゲーティア……なのか……?」

 

『あぁ、そうだ。かつてお前が指揮した魔術式。そのなれの果てだ』

 

しかし、その姿は元の主人である彼さえ一目見ただけでは断言できないほど変わっていた。

もはや魔神としての形は無く、無残に崩れ去るのを待つばかりの人間の身体。右腕も無く至る所にヒビが入り、ボロボロになっている。

しかし、その表情は憑き物が落ちた様に笑みさえ湛える穏やかなものになっていた。

 

「ゲーティア…君がなぜここに…?」

 

『私がなぜここにいるのか、だと?決まっている。私もまた等しく、【ソロモン】であるからだ。』

 

彼の問いに人王ゲーティアは愚問だと言わんばかりに答える。

 

「そういうことを言っているんじゃない。君にとってボクは『倒すべき敵』であり『滅ぼすべき生命体』の1人じゃないか」

 

『いいや、それは違う。今や我が怨敵、我が憎悪、そして我が運命はただ1人。打ち倒すべき、打ち砕くべき敵はお前ではない』

 

その言葉を聞いて彼は安堵した。

 

ああ、彼女らは遂に世界を正しく救ったのだと。

 

犠牲が無かったとは到底言えない。

あの旅路には多くの苦しみがあった。多くの悲劇があった。多くの別れがあった。

 

だがそれでも。

それでも彼女らは世界を、人理を救ったのだ。

 

悩んでしまうこともあっただろう。

その悩みに対する答えが見つからず、立ち止まってしまったこともあっただろう。

 

それでも彼女らは前を向き、歩み続け、敵を討ち果たし、あまつさえその敵に救いすらも与えたのだ。

それは生前の彼でさえ、万能であった彼の王でさえ出来なかった偉業だ。

これほど嬉しいことはない。

 

「ーーーそう、か。ゲーティア、君も『答え』を得たんだね……」

 

『三千年の時間をかけてようやく、だがな。ようやく私は人を理解することができた』

 

穏やかな笑みを浮かべたまま、ゲーティアは彼の言葉を肯定する。

人類最後のマスターである彼女に敗北し、魔神柱もすべて崩壊。無限に思えた彼の生命に残された時間はたったの5分。

しかしそのたったの5分間で彼は人として生まれ、人として生き、人として死んでいった。

その僅かな、されど、あまりにも愛おしいその時間こそが彼にとっての本当の人生だったのである。

 

「…それで、消滅しかかっているボクに何の用だい?さっきのことでの恨み言でも言いに来たのかい?」

 

『いいや、違う。私はお前の望みを叶えに来たのだ』

 

そう、ゲーティアから告げられた彼は思考が停止した。

今、目の前にいるこいつはなんと言った?

 

「…ボクの聞き間違えかな?今、『ボクの望みを叶えに来た』って言ったのかい?」

 

『そうだ。確かにそう言った。お前を、あの世界へと戻す。そのために私はここへ来たのだ』

 

「っ、そんなこと…出来るはずがない…!そんなことあの宝具を使った張本人である僕が一番よく知ってる!」

 

 

ーーー訣別の時来たれり、其は世界を手放すもの(アルス・ノヴァ)

それは彼の切り札。

ゲーティアに名を騙られていた彼が持つ、本物の第一宝具。

生前の彼が全能の指輪を天に返した「人間らしい英雄」の逸話を宝具として再現したモノ。彼がそれまで為し得た偉業、為し得た奇跡、為し得た魔術、そのすべてを手放す別れの詩。

遠い未来において「魔術」が人間にとっての悪になった時、これを滅ぼすために彼が用意した安全装置。

一旦発動すれば止めることもできず、英霊の座からも消滅し、残した痕跡は世界や人類史から全て消え去り、人類では誰も到達していない終わり、本当の意味での「無」に至る、自爆宝具。

 

そんな宝具をゲーティアは止めるというのか?

馬鹿な。出来るはずがない。

魔神王であった頃ならまだしも、人王となった今のゲーティアは72柱の魔神の残滓、最後に残った結果のようなモノだ。そんな力が残っているはずもない。

 

『いいや出来る。してみせる。そのために、そのためだけに私はここへと来たのだから』

 

「……もし出来たとしても。ボクには帰れるはずもない…」

 

そうだ、ボクはずっと彼女らを騙していた。

誰も信じず、自分の都合のいいように誘導して、最期には全部放り出して後を任せてきてしまった。

そんな自分がもう一度彼女らが待つところになんてーーー

 

『我が怨敵を、我が運命をあまり見縊るな』

 

そんな思考をゲーティアは、人となったモノはバッサリと切り捨てる。

 

『奴がその程度で人を見限るものか。このゲーティアを真っ向から打ち破った人間がそのような些事を気にするものか。…余り時間がない。始めるぞ』

 

そう言うなりゲーティアは消滅していく体を励起させ、彼の望みを叶えるための術式を発動する。

それによりゲーティア自身の体が崩壊するスピードは上がっていくが、彼自身は全く気にする様子もない。

 

「待て!何をするつもりだゲーティア!」

 

『何、簡単なことだ。お前を【ソロモン】とは違う一人の人間として切り離し、お前の消滅を私が肩代わりする』

 

「そんなこと、出来るはずが…!」

 

『出来る出来ないではない。【する】のだ。知っているか、王よ。』

 

ーーー人間の底力というものは、案外馬鹿にできないものなのだぞ?

 

そう言って彼はさらに術式を構築するペースを上げる。

当然、体もボロボロと目に見えてどんどん崩壊していく。

 

『……ふむ、これならば私が消滅するまでにはなんとか完了できそうだ。喜べ、王よ。お前の望みはようやく叶う。』

 

そういう彼の姿はもう既に下半身はなく、胸の下あたりまで崩壊し、残っていた左腕も二の腕から先は刻一刻と黄金の粒子に変わっていっている。

誰がどう見ても満身創痍。

そうまでしてなぜあれほど恨みを持っていたはずの自分を助けるのか、彼は全く分からなかった。

 

「…一つだけ聞かせてくれ。なぜ君はこんなことをする?」

 

『…なぜ、だろうな。我が運命に感化されたのかもしれん。気づいたら体が勝手に動いていた』

 

「ーーー本当に、変わったんだね。君は」

 

『あぁ、完膚なきまでに変えられたさ。奴には二度挑んで二度負けたのだからな。』

 

ゲーティアがそう答えると同時に、彼が構築した魔術が効果を発揮する。

段々と視界が白くぼやけ、ゲーティアの姿が見えなくなっていく。この空間からの退去が始まっているのだ。

 

『それに、奴からは新しく学んだことがある』

 

「それは…?」

 

『何、【人とは助け合って生きるものだ】という、お前たちにしてみれば当たり前のことだ。使い魔と主人なら尚の事な』

 

そう言って笑う人の王は。

ぼやけた視界の中でも分かる、心からの満面の笑みを浮かべていた。

 

そして、その映像を最後に。

彼はその空間から跡形もなく姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……行ったか。』

 

自分の主人がいなくなった空間で、もう頭部の一部でさえ崩壊し始めている人王は呟く。

彼の主人には遂に言わなかったが、彼を助ける理由はもう一つあった。

それは何のことはない、人間であれば誰しもが持つ、普通の感情。

 

『これで、奴にも顔向けが出来る……』

 

彼が変わるきっかけとなった彼の運命。

彼女に対する、ちっぽけなプライド。

 

それは俗に「意地」と呼ばれるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日のカルデアは珍しく晴天だった。

いつもは吹雪いていて見えない、突き抜けるような青空と一面白銀の世界。

 

そんな日の昼下がり。

これもまた珍しく、カルデアに来客を知らせるブザーが鳴った。

 

誰が来たかを確認するためにモニターを見た万能の天才は、顔色を変えて走って来客用玄関へと向かった。

たまたま指令室に来ていた人類最後のマスターとなった少女と、彼女を支え続けたデミ・サーヴァントである少女の二人も血相を変えて全速力で来客用玄関へと向かう。

 

標高、寒さ対策で何重にもなったゲートを抜け、玄関のドアを開け放つ。

 

そこに、立っていたのは。

 

 

 

「……みんな、ただいま。」

 

「……バカっ!おかえり!!!」

 

 

 

 

 

ーーー終局時空神殿より、未帰還者一名、帰還。

これにより、未帰還者0。

無事、カルデアスタッフは全員帰還となった。

 

 

 

そして彼等は空を眺める。

獣に奪われ、全員で勝ち取った日常を謳歌する。

願わくば、この何気ない輝きが二度と誰にも奪われませんようにーーー。

 

 






圧 倒 的 ハ ッ ピ ー エ ン ド


はい、というわけでヘタレな王様の救済話でした。
ロマン帰ってきて………

それでは、次週の更新をお楽しみに。
今週担当のMKDNでございました。
しーゆーあげいん。


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黄金のライダー (ライター・スプラウト)

注意点
・相変わらずの独自解釈、独自設定
・全く迫力のない戦闘シーン
・超急いで書いたために明らかに描写不足

多分近いうちに修正入ると思います。ご容赦ください。

それでもよろしいという方は、本文へ!


――第五特異点、北アメリカ大陸。

その中ごろ、カーニーの地付近に、一両の鉄機が轟音を上げていた。

その鉄機は二つの車輪を前後に前後に付け、延びたハンドルで姿勢と進む方向を制御する自動駆動車――バイクと呼ばれるものである。しかも、相当な重量と出力を誇る、まさにモンスターマシンといえるレベルのものだ。

それに乗り、風を切って駆けるのは、金糸の髪をオールバックに整えた、黒いライダースジャケットを身に纏う孤高の男。

そいつは、カーニーの地には見向きもせず、口元をわずかに歪めると、更にアクセルを捻り、モンスターマシンのスピードを上げた。

そして、倍になったと見紛う程の、超速度をもって、カーニーを通り過ぎて行った。

 

彼の男の名前は、坂田金時。

遠い昔に日本に生まれ、今はライダーのサーヴァントとなった男である。

 

彼は、人理修復機関カルデアによって召喚され、つい昨年、人理焼却という未曽有の危機を乗り越えた。

元々は狂戦士――バーサーカーとして召喚されていたが、とある異変の際に、騎乗者としての素質と、少々の勘違いから、某日曜の朝に放送されている仮面のライダーチックな姿で、ライダーのサーヴァントとして英霊の座に登録されたのである。もっとも、このカルデアに召喚された金時は、割と自由にバーサーカーとライダーを行き来できるという他サーヴァントが聞いたら「お前ふざけてんのか」と言われそうなことをしでかせるのだが。

ともあれそういった経緯で召喚された彼だが、もうすぐ彼も、他のサーヴァントたち同様、カルデアでの任を解かれ、座に返されることになっている。つまり、この世界ともお別れということだ。

そうなってしまっては、次に召喚されるまで、彼は愛機・ゴールデンベアー号に乗り、風と一体になることができなくなってしまう。そう考えた彼は、彼のマスターと、現在カルデアを指揮する司令官代理のキャスターに頼み込み、満足のいくまでゴールデンベアー号を走らせることにした。

それを受けて、折角なので(キャスター的にはしょうがないので)第五特異点という、ただバイクをかっ飛ばすには最適な広さを持つ地に、彼はレイシフトしたのである。

もちろん、マスターもこの地にレイシフトしたが、彼はゴールデンベアー号には乗っていない。

彼は彼で、黄金に身を包むアーチャーと同じ名を持つキャスターが持ち出した飛行機型宝具に乗せられ、先行してゴール地点であるサンフランシスコに向かっている。

司令官代理のキャスターから提示された刻限は5日。その間にサンフランシスコに到着するように言われている。通常北アメリカ大陸を5日で横断――金時はその上蛇行しまくっている――など、普通に考えれば常軌を逸していると思われるだろう。だが、彼はサーヴァントだ。肉体の疲労など存在せず、ゴールデンベアー号もまた、現代科学では到底開発できないであろう超音速を発揮できるという、ファンタジーな存在である。

故に、もうこの地にレイシフトして3日経つが、金時は一切休憩を取らずにバイクを走らせているのだった。

それだけ走らせても、金時は一切飽きることは無く、精神的な疲労も感じていなかった。

ただ、好きなだけ走り、好きなだけぶっとばせることが、とてつもなく、楽しい。

金時の中には、それしかなかった。

 

 

 

――それ故に。

 

 

 

タイヤが地面を思い切り削りながら、機体に制動をかける。

200メートルは地面を削ったであろうか、ようやくゴールデンベアー号はその機動を停止させる。

金時は一瞬下を向いて溜息を零し、すぐに顔を上げる。

 

そして、とてつもなく低い声で、言い放った。

 

「……なんだ、テメェら?」

 

金時の瞳を隠す紫色のサングラス。

そこに映るのは、黒い靄に包まれた、数十に及ぶ人型。

そして、その後ろに控える、巨大な岩石の巨人――スプリガンだった。

それらは金時の怒りを込めた問い掛けに一切応じることなく、手に持つ武器を構える。

どうやら話が通じる相手ではないらしい。恐らくは特異点で散った命の無念が集まって人型となった、ある種の怨霊のようなものであろうか。

 

――そんなことはどうでもいい。

 

「オメェら……オレの走りの邪魔して、どうなるかわかってんだろうなァ?」

 

ハンドルを握る手に力が籠る。

そのまま、アクセルを二度、三度と煽らせる。

それは正真正銘、獣の雄叫びのそれで、僅かでも理性が、恐怖心があるものであれば、本能的な恐怖を覚えさせるもので。

 

そこに篭められた思いは、ただ一つ。

 

 

 

――走りの邪魔をする奴は、許さねぇ。

 

 

 

「Rock'n Roll!!!」

 

 

 

金時の雄叫びと同時に、両者は飛び出した。

 

 

 

 

 

******

 

「yeah!」

 

数人一組で固まって攻めてくるケルト兵の姿をした者を、金時はゴールデンベアー号で情け容赦なく轢き飛ばしていく。

超速度で走りながら、金時は繊細なハンドル捌きでありえないような急ターンや方向転換を繰り返し、敵を薙ぎ倒す。

その上、ベアー号を駆りながら、ベアー号に当たらなかった敵を器用に殴り飛ばしもしていた。

時には突撃に合わせて槍や剣を突きつけられもした。

しかしそんな時にも、金時は器用に車体を寝かせたり、あろうことかベアー号から自身だけ跳躍して避けてみせたりもして、敵からの攻撃を一つ残らず避けてみせた。

 

そして。

 

「そんじゃあカッ飛ばそうか!!」

 

ケルト兵達が、スプリガンを最端に金時の攻撃でほぼ一列に並ばされた瞬間。

金時は、ゴールデンベアー号にイグニッションキーを突き刺す。

その瞬間、ゴールデンベアー号は光と共に超加速突撃形態に変形。

そのマフラーから、後部の泥除けから、機体の各部から。

爆炎と轟雷を吹き出して、過去最高の速度をたたき出す。

 

「ベアハウリング!ゴールデンドラァァァァイブ!!」

 

 

 

その速度のまま、全てのケルト兵目掛けて、光の如く突撃し。

 

 

 

「――グンナイ」

 

 

 

僅か一秒で、全てを吹き飛ばしてみせた。

地面を大いに削って制動をかけ、完全に停止したのと同時、金時の後ろで大爆発が起こる。

その音が、ケルト兵達を一網打尽にしたという証拠。

 

その爆音を聞きながら、金時はその身を震わせていた。

 

寒いのではない。怖いのでもない。

 

(――ヤベぇ、めっちゃ滾るぜ)

 

昂っている。興奮しているのだ。

ともすればベアー号で走っていた時よりも、遥かに。

かつてここまで興奮したことはないだろう。それほどに、滾っていた。

何故だろうか。その理由を考えて頭を捻っていると、爆発した地点から、ずしん、と地響きが鳴り響いた。

 

「……流石にオメェは倒し切れねえか」

 

金時が振り向いた先には、少し体が崩れた、しかし今なお健在の石巨人、スプリガンが立つ。

スプリガンは声なき声で叫ぶと、その巨体からは想像もできないほどの身軽さで跳躍し、金時にその巨大すぎる大剣を突き立てた。

耳を劈く大轟音と、ゴールデンベアー号とは比べ物にならないほどの瓦礫を作り出した一撃は、しかし金時には傷一つつけていない。一瞬のうちに、敵の攻撃範囲から離脱していたからだ。

 

しかし。

 

(あー、こりゃちとキツイか?)

 

頭の中で想像し、金時はそう結論付けた。

相手は石の身体に巨体、その上大剣を装備している。それに対し、金時は大型バイクのみで、武器はメリケンサックのみ。リーチも、威力も、アクセル全開にすれば通るだろうが、仮にもライダー版の宝具を耐えきった相手である。そうそう簡単に宝具を当てさせてはくれないだろうし、敵の身体を吹き飛ばせるほどの攻撃を打たせてくれるとも思えない。そもそもリーチの差が大きすぎる上に、スプリガンはあの巨体とあの石の身体でありえないほどの俊敏さを誇っているのだ。懐に入れたとしても、攻撃を打ちこむ前に避けられる可能性がある。

故に、このままでは勝てないとまでは言わなくとも、苦戦は必至だろう。

そう考える間にも、スプリガンの攻撃が金時を襲い続ける。

考えながらも器用に避け続けるが、いつまでも逃げ続けてはいられない。

 

「こーなったら、アレやるか」

 

だから、金時は決めた。

奴を確実に倒し切るために。

 

スプリガンが放った一撃を回避し、それによってできた瓦礫をベアー号で駆け上がる。

そのまま瓦礫の頂点から、上空へベアー号ごと、跳躍した。

スプリガンも、それを目で追う。そして、宙高く飛び上がった愚かな獲物を撃ち落さんと、大剣を振り上げようとする。

 

そうされる前に、金時は。

 

中空から、黄金の斧を取り出す。

 

黄金喰い(ゴールデンイーター)。金時の、本来の宝具。

 

それを右手に持ち、空に向かって、円を描くように振るう。

 

その刃の軌跡が、雷電によって円を描き。

 

瞬間、その円から、眩い閃光と、迅雷が迸った。

 

その閃光は、金時に狙いを定めていたスプリガンの視界を焼き潰し、その場に硬直させる。

そしてそれが、決定打となった。

 

 

 

「――ブっ飛べ」

 

 

 

響き渡る、狂暴な声。

閃光と迅雷の内より現れるは、大きく姿を変えた、坂田金時。

先ほどまで身に着けていた黒いライダースジャケットではない、胸元が大きく開き、隆々たる大胸筋を見せびらかす、白いシャツ。

オールバックだった金の髪は、降ろされて。

何よりもその右手には、尋常ならざる破壊の雷を、携えていた。

 

其は騎兵にあらず。

 

そこに坐すは、数多くの逸話を持つ、名高き狂戦士。

 

 

 

「必ッ殺!」

 

 

 

右手に握る斧から、更に多くの雷が迸る。

それのみならず、金時自身の膂力、狂化による強化、そして重力する味方につけて。

 

未だ動けずにいるスプリガンに撃ち放つは、正に最強必殺の一撃。

 

 

 

黄金衝撃ィ!(ゴォルデンスパァァァァァァク!)

 

 

裂帛の気合で放たれた宝具名から遅れて数瞬。

 

ライダー時に放った一撃とは比べ物にならないほどの、大爆発が大地を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

斧を中空に消し、再び黒のライダースジャケット姿に戻る。

ゴールデンベアー号に乗る時は、こっちの姿と決めているのだ。

戦いの余韻も半ばに、すぐにベアー号を走らせる金時。

 

しかし、どこか楽しくない。

 

最初は何故かわからなかった。

 

だが、数分走って、納得した。

 

「――あァ、そうか。 満足したんだな、オレは」

 

そう。金時はベアー号で走れなくなることが心残りだったのではない。

ベアー号と共に戦う機会がなくなることが、心残りだったのだ。

故に、ベアー号と共に戦えた今、金時は十分満足してしまっていた。

 

「……へっ。まぁ、いいか」

 

答えが判ってしまえば、それでいい。

 

「そしたらマスター待たせる訳にもいかねぇし、さっさとゴールしちまうか!」

 

だから、金時はその進路を、サンフランシスコに向けるのであった。




はいどうも皆様数週間振りです、ライター・スプラウトです。
数分遅いって?大丈夫大丈夫どっかのバカは年末に一月休みたいと言い出すしどっかの馬鹿は一週間遅刻してますからね(だからって数分遅れた言い訳にはならない)

さて今回はタイトルからもわかる通り、金時のお話です。
今回も読んでわかる、圧倒的牙狼感。
Vanishing Lineでのハイパーバイクアクションが脳裏に浮かんでできたのがこの話です。そのくせバイクアクションを全然書けてないのはもはや阿呆通り越してますね!
その他にも、バーサーカー金時がライダー金時に変身したように、その逆をやっちゃいました。そこも牙狼リスペクトしてるあたりそろそろMKDNに怒られそう。

さてあまり長く書いていても仕方がないのであとがきはここまで。まだ話したいことは活動報告に書きますね。
ラストの方本当に時間が無かったのでかなり描写不足ですが、近いうちに修正版を投稿したいと思います。
それまでお待ちいただけると幸いでございます。それではまた次回!


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SDVGWM (獣八)

すいません、遅れてしまいました……大変申し訳ない……

今回はギャグです


カルデアに地獄が訪れていた。

一面の銀世界にポツンと存在する、温もりある明かりを漏らしているその建物は、いつもと変わらぬ豪雪の雄叫びの中、ただただ静かに佇んでいるように見えるだろう。

だが、もし外に誰か居たのなら―――カルデアが6000メートルの高地にある以上、これは有り得ない仮定だが―――耳をすませば、きっと暴風の中に漂う異音が聴こえたに違いない。

獣の唸り声のような低音。金属を何かで引っ掻いた様な高音。それらが不規則に混じり、この世のものとは思えない不協和音の奏を高らかに歌い上げる。

魔獣の産声にも思えるそれは、だがしかし、確かに人の声だった。

その音は様々な雑音を含みながら単語を紡いでいた。カルデアでも何度も聴こえた単語だった。

―――呻きの合間合間に「ジャンヌ」と。

キャスター・ジル・ド・レェは、その名前に万感の思いを込め、歓喜に体をうち震わせながら、つぶやき続けていたのだった。

視界を四角い箱の様な物体ですっぽりと覆い、周囲に触手を荒ぶらせながら、いつまでも。

 

事の発端は、ダヴィンチだった。

「面白いものを作ったんだ!」そう言って彼女/彼が皆に見せたのは、水中ゴーグルを大げさにしたような、四角い箱が付いた艶光(つやびかり)するヘッドホン付きの眼鏡。

眼鏡の名前は「スーパーダヴィンチゴーグル」―――有り体に言うと、VR装置だった。

VRとは「バーチャルリアリティ(Virtual Reality)」の略称だ。現実ではないはずの世界が、まるで現実の様に感じられる、そんな体験を与える技術の体系をさす。

人理が取り戻されてほぼ一年。現代の流行にインスピレーションを受けたダヴィンチが、クリスマスプレゼント代わりに皆に披露したもの。それがSDVGWM(スーパーダヴィンチゴーグルの略らしい。「WM」が何処から来たかさっぱり分からない)だった。

VR部分はリアリティある視覚世界を、眼前に提供する―――いわゆる普通のVRゴーグル機能と、付属ヘッドホンを駆使したサラウンド音声による臨場感あふれるサウンドの二つ。

まるでその場に登場人物がいるような、そんな錯覚すら起こす極上体験―――妙に嘘臭く聞こえるキャッチフレーズだが、事実それは本当らしく、体験した人全員が「やばい」と語彙を失っていた。

最初に笑いながら試したクーフーリンが、装着してしばらくするとその場で叫びながら周りを飛び回り、一息ついて「師匠が殺しに来た」と真顔で言い、一言二言交わした後に部屋を去ったのも大きかったのだろう。「あのクーフーリンが負けた」と半ば曲解混じりに噂が広がり、カルデアの中でも広い部類であるはずの休憩室は中々の混雑具合を見せていた。

 

そしてこのゴーグルにはもう一つ不思議な噂がたっていた。見る人々によって見える世界が違うらしいのだ。

クーフーリンは前述の通り「師匠に殺されかける世界」、ティーチは「パイケット帰りにドレイクに会い必死に誤魔化す世界」、メディアは「運命の出会いをことごとく僧侶に邪魔される世界」etc...とその人が微妙にうれしいような、困るような、まるで傍から見てて面白い、を基準に設定されたような……

そんな何とも言えない、微妙な世界のみが設定されているのだ。

これは、二重の意味で不思議であった。

 

まず一つに、個別に世界が設定されていた事。

世間で出回ってるVRは、基本的には設定された世界を探索したり、設定されたゲームをやる、というものであって、プレイヤー独自の世界は決して与えられない(・・・・・・・・・)

 

第二に、そこに出てくるキャラクターがどうにも生臭い(・・・)、という事だ。

生臭い、とは別に実際に魚の饐えたような匂いがする訳では無い。そんな匂いは黒髭一人で十分だ。もっと直示的に言うなら「出てくる人物がまるで生きている様に感じる」というものだ。

まず呼び掛けて来るのは相手側、つまりはVR上の住人だ。クーフーリンと対峙したスカサハなら「ほら、修行だぞ」なり、ティーチの前に表れたドレイクなら「何やってるんだい、あんた」等々……そうして相手側からこちらに近づき、まるで会話の様が成立している様に振る舞う。これが普通のVRの常だった。

だが、SDVGWMは違った。最初こそ同じだが、次第にこちらのぼやきに登場人物が対応してくるのだそうだ。

先程から何度も例に出しているクーフーリンだが、「冗談じゃねえぞ……!」というぼやきに対し「冗談?そんな寝言をいうなら更に試そうか」などと受け答えられ、より一層酷い目にあったと本人が証言していた。

ぼやき以降元から喜劇染みていた動きが、周りから見ても明らかな程より一層滑稽味を増したので、誰も疑うものもいなかった。

そしてダヴィンチに訊いても「さあ、どうだろねぇー?」と要領を得ない返事ではぐらかすばかりで、一つも進まない。

―――そんなある種のミステリアスさが、SDVGWMの人気をより一層加速させる。

そうして、SDVGWMには職員とサーヴァントの長蛇の列と笑いが出来上がっていったのだった。

 

だが、そんな不安定ながらも温和な空間が一変した。

キャスター・ジル・ド・レェだった。

一言で言うなら、暴走したのだ。

最初は良かった。まだ安定していた。「おお、ジャンヌ……」と呟きながら相好を崩して微笑ましかった。

だが、途中から様子が怪しくなっていった。具体的にはVRのガラス越しに目玉が飛び出ている事が確認できた。いつも異様な、病気にかかった金魚のような眼球が、灰色がかってより一層気持ち悪い。

考えてみれば、この時止めるべきだったのは明白だった。だが誰も止めなかった。一体どんなリアクションが起こるのか、皆の好奇心が勝った。

 

そして、それは起こるべくして起こった。

「おおおおおおおおおおおおおお、ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

歓喜の叫び声とともに、触手が顕現したのだ。何をやらかしたVRジャンヌ。

おそらく、精神汚染が影響しているのだろう。そんなどうでもいい考えがその場にいた全員の場に一瞬よぎる。

 

―――阿鼻叫喚だった。とはいえパニックによる傷害行為は起こっていなかった。

サーヴァントと常に暮らし続けてきたカルデア職員は伊達ではないのだ。

だがパニックは起きずとも、難事に陥っているのは事実だった。

この触手を止めるにはジルをどうにかして落ち着かせるしか手はない。だが、大量の職員の手前、大振りなサーヴァントは身動きが取れず、お世辞にも安心して任せられる、とは言えない。

ではアサシンは?―――これも否だ。確かに、近づけさえすればアサシンなら一瞬だろう。だが今度はジルの周りを漂う触手が問題として立ちはだかる。

触手と一対一では無論負けないが、アサシンに気付いた触手の数が2、4、8……と倍々で増えるとなると話は別だ。

しかも、部屋の混雑具合から自由に送り込める人数も限られており、百貌のハサンによる人海戦術も困難だった。

……詰まるところ、打つ手無し?

まさかであった。七つの特異点を修復し、生き延びた魔神柱と対峙し、打ち勝ってきた我々が、負ける?しかも身内の事故で?

実際は負けるもへったくれも無い。何せ避難が完了以後、順次触手を叩けばいいのだから。

だが、それで皆の憩いの場が壊滅するのも事実だった。もうすぐ監査官が来るからどうなろうと、カルデアの一部が壊滅しようと正直知った事ではない……ないのだが、数年過ごした、いわばマイホームの様なこの場所を、壊れたまま退去するのはよく分からない心残りとなる。

皆の何とも言えないニュアンスを(たた)えた顔がそう物語っていた。

 

「―――ご心配なく、私に、任せてください!」

―――そうして皆が焦りに焦っていた時、救いの女神は現れた。

正確には救いの聖女だったが、その場にいた全員にとって表記上の誤差だった。ある哲学者をヴィトゲンシュタインと書くか、ウィトゲンシュタインと書くか、その程度だった。それよりも中身が重要だった。

旗が揺らめく。世界が揺れる。皆が沸き立つ。彼女も沸き立つ、主に怒りで。

―――ルーラー、ジャンヌ・ダルク。

ジルの、正真正銘のストッパー、天敵だった。

彼女の怪力の前では、触手は無力だった。旗の一触が一瞬で無数の触手を宙に飛ばす。鋭利じゃない分引き裂かれた触手も痛そうに身悶えして消えている。

数秒後の残酷な未来図を横目に、それでも触手はジルを守ろうと必死にジャンヌに立ち向かっていく。大義も無ければ理由も無い、実はひたすら及び腰の触手達。だがそれでも()務をまっとうせんとする姿に皆が涙を流すのは自然の道理だった。

そんな皆の感情を知ってか知らずか―――間違いなく面倒臭くなったに違いない―――ジャンヌは触手を一気に通り越そうと、旗を支点として、棒高跳びの要領で大きく跳躍する。

―――それはとても綺麗だった。健全な精神は健全な肉体に宿ると古代ローマ人は言ったが、彼女の跳躍を見たら万人がその正しさに納得する。それほどの美しさだった。触手への応援はすっかり止んでいた。哀れ触手。

 

―――ジィィィィィィィィィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!

憤怒の声が、リラクゼーション用のクラシックが愉快に鳴り響く休憩室にこだまする。

惨事を止めるは必殺の二指(にし)だった。人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばしたそれが、黒縁の箱眼鏡へと吸い込まれる。

―――いわゆる目潰しが、SDVGWMを突き破り、ジルの突き出た目玉に叩き込まれる。

直後に悲鳴があがり、余りの痛みにジルが気絶する。おそらくVRゴーグルの破片が目玉に突き刺さったのも大きいく、いつも以上に痛かったのだろう。

そうして事態が収まって残ったのは、鳴り続けるクラシックと、肩で息をする聖女と、呆然と見つめる職員達。

―――つまりは、どこにも投げつけようの無い虚無だけだった。

 

 

こうして、後に「クリスマスの惨劇」と呼ばれる事件は落着を得るのだが、この話には後日談がある。

散らばったゴーグルの破片や触手の破壊痕を掃除していた際、クーフーリンがある箱を持って来たのだ。

人一人はゆうに入るであろうその箱には、手足を縛られたマーリンが一人。

「こいつ、変声機片手にノリノリでジャンヌを演じてやがった」とは捕獲したクーフーリンの談。

 

「いやー、僕ってマギ☆マリやってたんだよね~いやはや、まさかあの時の演技がこんな風に役に立つなんて思ってもなかった」

「舞台設定も凄く凝ってただろ?幻術を使ってまで作り込んだ甲斐があるってもんさ」

「宮廷道化ってあるじゃないか。僕実はあれやってみたくてね!アルトリアの時は堅すぎてそんな事出来なくて……おや君達、その手に持ってるエモノは何だい。グランドとはいえ、僕はか弱いキャスターなんだよ?君達慈悲って物を、それにダヴィンチだって、ねえちょっと―――」

この一群の弁明が、その年最後のマーリンの言葉になったそうな。

 

 

 

 

 

スーパー・ダ・ヴィンチ・ゴーグル・ウィズ・マーリン 完

 




お読みいただき、ありがとうございました。
前作が長くなり過ぎ&シリアスだったので今作は量それなり+ギャグを目指しました。
楽しんでいただけたら、幸いです。


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