死体。或いは亡骸。
そういう類の物だった。昔は。今は違う。物から者になった。でも、違う。
彼女では無い。
読み方が同じでも意味合いは全く違うなんて、だから日本という国はとても不思議だと思う。
英語だと物も者も、発音から何まで全く違うというのに。
まあ、そんなくだらない事はいい。
今は、この体の元々の持ち主の、出来なかった事をしたい。記憶はある。知識もある。でもそれは張りぼてで、元々の持ち主の脳に刻まれていた情報を見たに過ぎない。
だから、恩返しという訳でも無いけど。
本人の名前を知っている訳でも、ましてや友達でも知り合いでも無く、唯々赤の他人だけど。
やせ細って、骨と皮だけの様な体つきになっても、その生の終着に辿り着くまで『色んな風景を見て回って、後世にかつての風景を伝えたい』。
女は奇妙な能力を持っていた。未来を見とる事が出来た様だ。
そこで、女は見た。
今ある自然の存在が失われ、彼女にとって祈るべきで、同時に慕うべき神が、自分達が慄くべき、恐れるべき妖怪が妄信の類と一蹴される未来を。
それほどまでに、魂が抜け落ちた体にすら深く刻まれる程の強い願いを抱いていた、この体の元々の持ち主だった若い女に敬意を表して。
せめて、その位救いが在っても神様は許してくれると思った。
だから、今でも旅をしている。時代に、土地に合わせた服装で体を隠し、やせ細った二本の脚で歩き、色んな国の風景を渇いた目で見て、それを節くれだった老婆のような手で絵に書いてきた。
そうやって、二千年を使って、見て、書いた、歩いた。
ある時は、砂の国の大きな石墓。
ある時は、緑色生い茂る熱帯の森。
ある時は、
ある時は、人と人とが刀で殺し合う果たし合いの様。
ある時は、時代が移ろいで行き、徐々に記憶にある未来の様子と合致していく世界。
幸いにも、この体は既に人の物では無いから、死ぬ事は無かった。持ち主に謝りたい気分だ。ここ最近はそんな事を考える事が多い。
でも、最近思う。
幻想郷、だったか。そこの管理人であり、大妖怪であり生きた歳月は及ばなくとも、僅差で敗れる事になるだろう『妖怪の賢者』がとやらが幾度も忠告してきた。
『貴方はその体の持ち主の為に生きていても、自分の為に生きていないわ。そんなの駄目よ』と。
その通りだと思う。だが、それが何だというのだ。
何故、それが駄目なのだ?
他人の考えであっても、自らの意思で練られた思想でなくとも、それを尊く思い、それが出来ぬ者の代わりに成し遂げようとするのは、何故駄目なのか?
それが悪ならば、即座に止めよう。だが悪では無い筈だ。元は地蔵だった閻魔も何と説教すればいいのか分からない様な面持ちで、どうやってか出自を知って困惑を露わにしたのだ。
閻魔である者が言葉を濁したのだ。
だから、悪では無い。ならば、続けても問題無かろう。
そうは言っても、別に彼女の事は嫌いでは無い。好感が持てる。『妖怪の賢者』が確固とした信念と理想を掲げて幻想郷とやらを作り上げたのは知っている。常時酔っぱらっていた『伊吹童子』と恐れられたあの鬼が、素面で言っていたのだ。
間違いない。それを聞いた時は、感銘にも似た何かを受けたものだ。
だから、これは互いの意見の食い違いなのだろうと納得する他ないのだろう。
唯、彼女には謝りたい事が一つだけ在る。
五百年ほど前の当初、その事を指摘された際、相手方の事を詳しく知らなかったが故に、追記するならば初対面であったが故に、乏しいと自覚がある感情が、憤怒一色に染まったのだ。
だから、つい。
『黙れ……小女! 彼女の尊き願いを愚弄するか!』
声も妖力も荒げ、激昂する感情のままに怒ってしまった。あれ程声と妖力を荒げたのは初の経験だった。
そして、五百年たった今でさえその事を謝れていない。言おうとする前に彼女が去るか、言おうとして結局何も言えずに終わるのだ。
自身の事ながら、何と嘆かわしい。
だから、けじめとして謝ることが出来るまでは彼女の事を名で呼ばないと、決めているのだ。中々に馬鹿馬鹿しいとは思う。
「……幻想郷か。そうだ、そうしよう」
絵を書く序で、賢者に謝る事が出来れば一石二鳥だ。
問題の方法だが、最近少しばかり名の売れた吸血鬼が幻想郷に屋敷ごと無くなる様に移動したらしい。スカーレット家だったか。幼子が家主について有名だったが、真実は歪められるものだ。
大方、あまり発育のよくなかった吸血鬼なのだろう。
だが、日本と違って魔法とやらが発達した国だ。
きっと、妖術や陰陽術の類では無いのだろう。そも、その手の類の技術はからっきしである。才覚すら無いと判断している。
だが、屋敷より大きくも無く、ましてや重くも無いこの体なら自身の能力を使って無理に行けない筈はない。
未来を見る目は渇いて、先を見る事は出来ず。そも、この体は彼女の物で、私の物では無い。賢者曰く『先を見る程度の能力』らしいが、どうでもいい。
賢者と童子、それから賢者の式をしている傾国の妖狐辺りに評された『他を尊び支える程度の能力』というのが、違和感と語弊がありながらも最も納得できる呼び名だった。
確かに、場所が分からなくとも情報さえあれば何処であろうと、能力さえ使えばそれこそ賢者の境界、スキマの中に移動するのは出来る。酷く疲れる事を除いては。
私見では、これは思いの力というものでは無いかというのが個人の解釈だ。
そうなると、まるでこの体の持ち主をずっと思っていた様で妙に気恥ずかしい。
「さて……」
画材も持った。絵具やら色鉛筆やら、必要な物は全て持った。
目を閉じる。
体では無く、魂に妖力を流す。見聞きした情報から、正しいであろう場所へ、この体を移動させる。
体から急速に妖力が奪われ、立つ事すらままならなくなり、尻餅をついてしまった。
だが、尻餅をついたのは為れた硬い人口の木目が付いた床では無く、もっと硬い石である事はすぐに分かった。
この体には肉が無いから、とても痛い。
「……素晴らしい」
僅かに腰を浮かせ尻を擦り、目を開くと、そこにあった見下ろす絶景に思わず言葉が漏れた。最早見る事は叶わないと思っていた過去の自然。それがそのままの姿を保ち世界を謳歌している。
此処が、幻想郷――。
続けて周囲に目を配ると、色褪せながらも凄味と迫力を伴った何とも力強い鳥井と、その奥に見える一見小ぢんまりとして古ぼけた様に見えて、その実凛とした佇まいを連想させる神社が目に入った。
……神社か。
「迷惑になってしまうな。場所を変えるか」
初めて絵に書いた神社の主は、気に入った様な事を言って絵を書かせてくれたが、今でも取って置いてくれているだろうか。当時は紙なんぞ無かったから、木の板に花弁を千切って潰した米粒で貼り付けた、何とも子供らしいような物だったが。
もしそうだと、嬉しく思う。
悔しいのは、あの蛇の赤眼を再現できる色合いの花弁が無く、仕方が無く桜で代用した事か。
流石に、全ての神様があの神様のように寛大だとは思えない。信仰の妨げになってしまうかもしれないと思うと、とても嫌だった。
文句と言う訳では無いが、二千年たった今でも尚昔と変わらずとても歩きづらいと思う足で、境内を歩きながら、途方も無く長い階段を下って行った。
途中、転げ落ちてしまい偶然神社に向かおうとしていた人の子に助けられたのは、何とも笑えない話だった。
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GOD EATER BURST @ (∵)
この世に『神』が果たして居るかと聞かれれば、僕は躊躇いをもって是を返すだろう。確かに、アレらは『神の名を冠する存在ではある』。けれども、それを信仰の対象だとか、そういう目線で見ることが出来るか……という事になれば間違いなく否と返さざるを得ない。中には、そんなのをそういう対象として見る人たちも居るらしいけど、それはそれだ。
まあ、まずその神の名を冠するアレら―――化物―――アラガミを殺す事が、僕の―――僕達『ゴッドイーター』の仕事なんだ。そんな事を思ってたら間違いなく僕はアラガミに食われているだろうな。
ゴッドイーターとは、オラクル細胞……アラガミの体を構成している細胞を体内に取り込み、それを内蔵した神機なる兵器を用いてアラガミを殲滅する事を目的としている。
紙で出来た丸鋸を使えば、木材を切断する事が出来る。
要は、同じモノを壊したいなら、根本の部分で同じモノを用意しなければならないのだ。
しかし、自ら好きになれる物でも無い。神機に適合できる人でなければ、漏れなく神機に食い殺される。……博士から見せてもらった資料の中に、そういう物が在ったんだ。捕喰形態の顎が神機の本体であるコア……アーティフィシャルCNSから出て来て適合に失敗した人を文字通りグチャグチャ食われてた。まあ、それ以外にも柄に触れた時点で侵食され始めるのだけど、規模で言えば直接がぶりなんてされたらもう助からない。
僕の神機がやったことだと知ったのは、僕が配属されてから一週間後くらいにツバキさんが教えてくれたからだ。
ショックだったけど、その人の分まで頑張らないと何て、今思うとだいぶ似合わない事を言っていた。
人が武器を選ぶではなく、武器が人を選ぶのだ。
ある種、
僕はゴッドイーターになる前から七十年近く昔の、神話やら伝説やらのファンタジー的な内容の本を読み耽っていたので、神機に対する最初の第一印象は『何でも食べる魔剣に銃身と盾をくっ付けた物』だった。
アラガミ研究の第一人者、博士ことペイラー・榊にゴッドイーターなり立てだった頃にそう考えたという事を伝えたら、『君はもしかしたら、旧型神機の方が良かったのかもしれないね』と返してくれた。
確かに、ソーマやタツミさんのように接近戦オンリーで戦う事に、何かしらの羨ましさはあるのかもしれない。だったら刀身だけ使って戦えばいいだけの話なのだが。銃の方にも今まで何度も救われてきたのも事実だ。
とまあ、前置きはこの位にして。
ソーマの実父にしてフェンリル極東支部前支部長、ヨハネス・フォン・シックザールのエイジス計画を止めてもうすぐ四か月。
第一部隊前隊長、雨宮リンドウさんの救出――で良いのだろうか? あれは……――から二か月。此処に就任してから大よそ一年がたった。
僕と、今現在俺が隊長を務める第一部隊は今日も大忙しらしい。
らしいというのも、俺は極東以外でアラガミと戦った事が無いから、その辺の区別は僕には分からないのだ。アリサがソファーに座りながら船を漕ぎ、寝惚けていたが故にどことなく拙い日本語で答えてくれた。
唯、他の支部からしてみると地形的な問題からか、はたまたエイジス計画の要となる筈だったエイジス島が近い位置にある為か、アラガミとの接触並びに戦闘回数が他の支部を優に上回るらしい。リンドウさんとサクヤさんがそう教えてくれた。その中でも、アラガミの討伐数が突き抜けて多いというのも、中々受け入れがたかったけども。
そうであったとしても、今の僕にはあまり関係ない。
数日前とていつも通りアラガミを殲滅するだけ
予定では、昨日報告されたハンニバルの討伐が入っている筈
ただ、不確定要素もある。まず、リンドウさんの神機―――この場合はレンと言ったら拙いだろうから―――のオラクル細胞による侵食によって僕自身の状態が不安定であった事。更にボルグ・カムラン種のアラガミの目撃例も
その日は、一人で仕事をこなす事になっていた。
第一部隊の面々は、その日は特に忙しかったらしい。サクヤさんとリンドウさんは―――リンドウさんに関しては今現在第一部隊所属では無い―――新人新型の育成に。ソーマは単騎で極東支部において三度目の確認となった『第一種接触禁忌種』カリギュラの討伐。
コウタは第二部隊の人達と防衛に回っている。何でも、タツミさんが無茶をしたらしく、その穴埋めに駆り出されていた。
アリサは、一週間ほど前から極東支部を離れている。両親のお墓参りの為にロシアに行ってしまっている。今頃は恐らく帰っているはずだ。
そう言えば、あの時『わ、私は、その……――――や、Я люблю тебя!』と顔を真っ赤にしながら言われたが、途中からロシア語になってしまっていた。
可愛らしいく、思わず抱き着きたかったが、場所が場所だった為に諦め、意味を尋ねようと思ったら何故かリンドウさんとソーマに止められたのは余談だ。
今度からロシア語の勉強でも始めてみようか等とも、その日は考えていた。
消去法で、一人で向かう事になり。
そして、武器を整えて極東支部唯一の神機整備士、顔に汚れが付いているが、それが最早チャームポイントと化しつつある楠リッカに礼と労いをかけて仕事に向かったのだ。
「……ふうッ!」
「グオオオオッ!!」
立ち並んだビルの残骸。その付近に存在する教会の中で白い表皮を持った竜人のような外見をし、左腕に金色の籠手を着けた、かつて実在したというカルタゴの将軍の名を冠すアラガミ―――ハンニバルと俺は殺し合っていた。
スタングレネードを使ってハンニバルの視覚と聴覚を潰し、一時的に距離を取る。
神機に取り付けられた青い刀身を持つブレード―――『クレメンサー極』で斬り付ける。
数度連続で斬り込み、仕上げに
神機が捕喰したそれを吸収すると同時に、全身に力が入る。
バーストモード。
アラガミの体を神機に喰わせる事によって得られる一時的な強化。
ハンニバルの視覚と聴覚が戻ると同時に、一気に前進。共にブレードを横薙ぎに振るいながら後ろに回り、ハンニバルが此方を向けばまた後ろに回りを繰り返す。
だが、常に上手く行くとは限らない。
単に奴が学習したのか、偶然なのか。
此方を向こうとした体を止め、片腕で体を持ち上げた。始めは距離を取る心算かと勘繰って、地を蹴って先回りをしようと行動に移した瞬間―――捻りながら炎を纏った右手の掌底を僕に叩きつけてきた事によって、その予想は裏切られることになった。
予想外の一撃だった。今まで、あのような体勢からあの攻撃をしてきた事が無かった故の、一瞬の空白。
結果から言って、それは俺の神機に付けられているバックラー『ティアストーン極』を使った防御は間に合わなかった。
衝撃と爆風で吹き飛ばされる。
痛い、痛い、痛い。
炎と熱で体を焼かれた。
熱い、熱い、熱い。
壁に激突し、口から血が零れだす。
痛い、熱い、熱い、痛い。
「っづう……ありゃ?」
運が悪い事に、諸に攻撃を受けた為に、ポーチの中のオラクル細胞を活性化させて負傷の治癒を促す―――その分、それなりの痛みを伴う―――回復アイテムが全て駄目になってしまったようだ。
節制癖が災いして三つしか持ち込まなかったスタングレネードが無事だったのは、唯一の救いと言っても良い。
だが、何時の時代でも不幸というのは連鎖爆発を起こすというのが相場らしい。
「―――……確かに骨格はそうだけど、別枠でしょこれは……ッ!」
「――――オオオオオゥッ!」
上を見上げれば、割れたステンドガラスから教会の内部に侵入してきたアラガミは、確かにボルグ・カムラン種のものとそっくりだったが、違う。
黒く、淡い紫の色合いをした四足歩行の、蠍を連想させる風貌をした『第一種接触禁忌種』―――スサノオ。
それが、上から降ってきた。
飛び退く様にその場から退避し、神機を変形させ六つの砲身を持つガトリング型の青いアサルト『サイレントクライ極』で連続してハンニバルを銃撃する。
ハンニバルはそれに反応し、炎剣を片手に携え、跳躍。
僕に突き立てようとする。
そして、火傷によって引き攣る体を転がすように移動させ、炎剣を避ける。しかし、スサノオの尾に付いている巨大な大剣の薙ぎは、避けられなかった。
「う、ぉあッ!!」
ミシり。嫌な音が聞こえた。
腰にその一撃を受けて上半身と下半身が無き別れをしなかったのは、偶然では無い。薙ぎ払われた剣の速度が、落ちたのだ。
スサノオの剣が俺を巻き込みながらハンニバルに衝突し、ハンニバルの炎剣が、スサノオの右前脚の付け根を貫いたことによって。
「キシャアアアアアアアァァァ!!!」
「グゥウウッ…」
咆えるスサノオ。軽やかに距離を取り、顔を拭うような動作をして視線を俺では無くスサノオに向けるハンニバル。
互いの交戦意識が俺に向いていない内に逃げようとするも、過激な一撃によって腰が砕けてしまって、碌に動く事も出来ない。
こんな所で、死にたくは無い。
ある事以外目的の無い僕にとって、死ぬまで生きるというのは、唯一の目的、ないしは生きる意味と言って良い。
何より、諦めと潔さだけは極東支部の誰よりも悪いというのは、リンドウさんの一件で経験している。
なら、生きろ。自分で言った事だろう。
生きて、そしてどこまでも足掻け。
逃げない為に。
死ぬ事から、では無い。
愚直に、死を受け入れない為に――
「―――生きる事から、逃げるな……か。言い出しっぺの法則ってのがあるって……何時だかタツミさんだかシュンさんだかが言ってたな……」
蚊の鳴くような声だった。思わず自嘲気味に笑ってしまう。
しかし、それでも体を引き摺って動けるくらいの力は戻った。
今なら行ける。そう確信してその場を去ろうとして。
「――――ぁッ、がっ!?――――」
――全身、内側から貪られるような、許容できない嫌悪感と激痛で、動けなくなった。
火傷や腰、体の中ならまだ理解できる。
全身だ。痙攣まで起こってきた。
急に博士が何時だかこんな事を言っていたのを思い出した。
『良いかい。アラガミは捕喰場パルスと呼ばれる物を持っている。けれど、それはごくごく微弱な物だ。だから君達には何の問題も無いけど、接触禁忌種、特に第一種級のアラガミの中でも―――スサノオ、ツクヨミ、アマテラスの三種になると、君達の偏食因子やオラクル細胞を乱すほどに強くなる。危険性もとても高い事も相まって、それが第一種接触禁忌種の中でもあの三種が第一種と呼ばれる由縁でもあるのだがね。普通であれば回復薬の効きが悪い、神機が重たく感じる、最悪の場合、神機に捕食される可能性も有る。そして、今の君は今の例え以上に危ういバランスで成り立っているんだ。まだリンドウ君の神機のオラクル細胞が体に入っている。だから、今の君はそれらに該当するアラガミと交戦するのは、可能な限り避けるように。いいね?』
笑えない。
生きる覚悟を固めた途端にこれだ。更にはこんな重要な事を忘れていた僕自身に対して、最早自嘲の笑みすら浮かばない。
つまり、僕は今アラガミになろうとしているというのだろうか。
四肢に力を込めようにも、最早そこに割くほど意識に余裕が無かった。
意識が霞んでいく。
――ああ、でも。
「……リンドウさんが、黒いハンニバルになった時みたいに、あいつらをくたばらせられれば、良いんだけど……」
その前に喰われる可能性の方がよっぽど、高いか。
意識に掛かった霞は、更に増していき、もう意識が在るのか無いのか、現実なのか夢なのか、分からなかった。
「……アリサ」
告白すらしていないが、最愛の女性の名が最後に、口から漏れ出した。
――これが、僕がゴッドイーターとしてから、
そして――此処から先がゴッドイーターでは無い僕が覚え続けている始まりとなった。
視界の霞が解ければ、僕はまだ教会の中に居た。
そしてすぐに異変に気が付いた。自分の腹の辺りからハンニバルの籠手の付いた腕とスサノオの剣が飛び出していた。
「何が こ た?」
呟きが漏れる。その声は紛れも無く僕の物ではあった。でも、おかしい。
まるで、言葉に虫食いが生じているような、相手方に意味が通じさせるのを出来なくなるような声。
僕は
さて、体の確認は大体終わった。
どうも、今の僕は黒いヘドロのような姿をしているらしい。顔は後になってから白い御面に点を三つくっ付けただけの、抽象画のような顔があるのが分かった。でも、リンドウさんがハンニバルになった時とは違って、自分の意識ははっきりしていて、ちゃんと動かせる。
贖罪の町と極東支部の人達の間でそう呼ばれるゴーストタウンを徘徊していると、偶然鏡の破片が落ちていたのが幸いした。
声の方は腹が満たされればある程度改善するらしい。というのも空腹感に襲われて、記念? にコンクリートブロックに覆い付いた(口が何処にあるのかもこの体でははっきりしなかった為)所シュウシュウと音を立てながら溶けた。その後に声を発してみようとしたら、先程よりもよっぽどまともな人語が出た。
例えるなら「あ お」と「あいう お」位の違いだ。
口が何処にあるのか分からなくて頭を悩ませたけど、これは意外な事で解決した。口のイメージをしていたら、どうも腹の辺りから横に割れて、歯以外は真っ黒な口が現れた。
どうにも、へばり付いてシュウシュウとかしながら食うというのも食べた実感がわかない上に、何か納得できなかったんだ。ちゃんと顔についていた口で食べられないのは残念だけど、諦めよう。
イメージ通りに体を変えるというのも、色々と流用できるかもしれない。
……大分、考えが人間らしくなくなってきてるけど、それはさて置いて。
神機は、ステンドグラスの下……アラガミが休息を行う場所に突き刺さっていた。
地面に深々と突き刺さって、別に抜く必要も無いけど、相棒だからさてどうやって抜こうか、持ち運ぼうか考えて、そう言えば腕輪は大丈夫かと思って確認をしてみた。
腕は……結論から言って、手遅れのようだ。見た目は。
右腕を動かそうとして、体から出てきたのは骨だけになった自分の腕だったからだ。見た瞬間はもう僕自身何を言っているのか分からないほどパニックに陥っていた。ただ、肉すらなくなっても骨に噛み付いているかのように離れない腕輪を見た時、パニックも収まった。筋肉も無いのに腕はちゃんと曲がったし、指も動いた。どういう原理だと思うと同時に神機を扱える可能性がぐっと増したことに安心して、不安に駆られた。
腕輪って、追跡機能が付いているのだから。
もしかしたら溶けるかもしれないけど、出てきた時は既に体の中にあった事を考えると恐らく溶ける事は無いと思う。
というか、本当だったら腕が千切れたりしない限りはこの腕輪が外れるさまが想像できない。リンドウさんは引っ張られたような形だけど、アレは例外だ。考えてみて欲しい。カリギュラの折りたたまれたトンデモリーチを誇る腕の刃の一撃を腕輪に受けている様を。あれを持ってして壊れなかったのだ。如何にかしている。
第一、ディアウス・ピターの腹の中に長期間収まって、形を変えずに出てきたのを思い出した時点で恐らく壊れることは無いのは確信していた。
それで、僕が一番危惧しているのは『今の姿の僕を元々の姿の僕を食べたアラガミだと勘違いされる事』。この一点に尽きる。
何より、アナグラの人たちに殺されるのはごめんかな。特に第一部隊。いや、ある意味マシか。殺されるにしても、アリサなら納得できるけど。
「行 か。流 に同じ 所に留 ていれば、バ る し」
声が何処から出ているのかはたはた疑問だ。
若干時間が過ぎて数日。恐らく、既にアナグラは落ち着きを取り戻して、アリサはアナグラに戻っていると思う。僕は今、愚者の空母と呼ばれる場所にいた。
「どうしてこうなった……」
珍しくどこも虫食いが起こらずに発音できても、今の僕の気持ちは差し詰め
結局、神機を持っていくことが出来なかったのだ。
刀身があまりに深々と床に突き刺さって、抜く事が出来なかった。
それで、仕方が無く、ずちゃずちゃと引きずる音を立てながらここまで出向いたというのに、いざ考えてみると『周りの地面ごと食っておけば持って来れたな』なんて結論に達して、それが原因で凹んでいる。
「ま い、行 か」
気を引き締め直して、空母へ向かう。
理由は多々あるけど、最も大きい理由はここで昔テロが起きたらしいからだ。他のアラガミに食われてる可能性も否定できないけど、運が良ければまだ銃の一つは転がっているかもしれない。
あと、何日か色々な物を食べて分かったんだけど、食べたモノは大まかには再現出来る事が分かった。
コンクリートや金属なら、この体を同じ位に硬く出来た。
ガラスを食べたら、体を透明にすることが出来た。
コクーンメイデンを食べたら、棘を再現することが出来た。
最後がおかしいような気がするけど、気にしたらダメだ。
流石はオラクル細胞と言った所なのか? それとも俺のイメージ力の問題なのかは分からないけど、とにかく、探すだけの価値は有る筈だ。
そう思いこんで、僕は空母の奥へと進んだ。
活動報告に書いたものの一つだったりします。
それじゃあノシ
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アクセル・ワールド(微量に『煉獄弐』&『ギルティギア』)
鏡「ガンダムとかも行けるかもね、青い狸とか蒼の少女系統は難しいかもしれないけど」
眼花「じゃあさ、
鏡「……いけるぅんじゃないかな?」イイエガオ
眼花「原作持ってないけど、どうしよ」
鏡「取りあえず、GO」
眼花「言われるまでもない」
「ジャスティス。何か、ギャラリーから変な目で見られているような気がするのだが、気のせいか?」
「フェンサーがここ最近此方に来ていなかったのが原因だろう。慣れろとしか言えないな」
無茶を言う。フェンサーと呼ばれた彼は素直にそう思った。
ブレイン・バーストにここ数年インしていなかった彼は、別にこのアプリというかゲームに飽きた訳では無い。待っていたのだ。ジャスティスと呼んだ彼女を。
金色の体。190センチ程の背丈で竜を思わせる外観をした、角の部分にブレードを持つ顔。
右腕に刀を、左腕に実体の無いエネルギーの刀身を持つ武器が一体化した腕。
胴体はその全体が刺々しい装甲で覆われ、脚は脹脛の半ばから攻撃的な分厚い装甲を持ち一見走りづらそうに見えた。
その癖本人の一対一以上の戦闘における戦闘速度は速い上に一つ一つの攻撃が必殺に化けるのだから堪った物では無いと、彼女は考えた。
彼女自身はある意味この手のゲームでもっと厄介な存在であるのだが、今はさて置き。
「自業自得か。そういえば、勢力が大分変わったと言っていたな」
「何を言っている。……いやそうか。貴様はあの一件を知る前に入らなくなった。知らないか」
「それで、何があった」
ジャスティスはククッと笑って、彼にとっては予想すらしなかった事実を突きつけた。
「黒の王が、赤の王を倒した。今の赤は二代目だ」
「冗談……じゃないらしいな。……緑の所に顔を出してくる」
「分かった……と言いたいが、その前にやっておかなければならない事がある」
「なん――」
何だ? 問いを言おうとして最後まで、言葉は紡がれなかった。
彼は、フェンサーは――ゴールド・フェンサーは忘れていたのだ。今が、デュエル中だという事を。
そして、ジャスティス――ホワイト・ジャスティスの伸びた手刀の斬撃を、食らい吹き飛んだ。
観客――ギャラリー達は、呆気ない。そう思った。
彼女のこれまでの戦績を知っている彼らは、あの一撃が諸に入った事を確信していた。
しかし、表情の分からない顔で嫌な予感を抱いた彼女は、長い赤い髪を靡かせ、反射的に上へ跳んだ。
直後だ。
フッ、とも、ヒュッ、とも取れる風切り音が一瞬聞こえ、金のデュエル・アバター右腕の刀身を薙いだ体勢で、彼女がもと立っていた場所に居た。全くの無傷で、更には手刀の一撃によって離された距離を一気に詰めて、だ。
「……おいおい、マジでフェンサーじゃねえか」
「フェンサー? 知ってんのか?」
「ああ、最近ここを知ったやつらは知らないのは当然かもしれないけどな。古参プレイヤーにとっては有名人だよ」
ギャラリーは、何が起こったのか理解し切れていなかった。ホワイト・ジャスティスと言えば初期の頃から対戦を中心に名を挙げた無所属のバーストリンカーで、Lv8の現在でかの王達に肉薄する実力を持つと言われているのだ。そんな彼女の一撃を受けて健在なバーストリンカー――ゴールド・フェンサーに、ギャラリーの者達はざわざわと沸き立った。
そんな中、彼を知る一部のプレイヤーを起爆剤に、フェンサーの情報は瞬く間に知れ渡った。
ジャスティスは、歓喜していた。この世界における『親』であり、ましてや『王』の存在を除いてLv9に到達した挙句、この世界に来なくなった数日前に青のレギオン『レオニーズ』を相手に決闘という名の戦争をたった一人で仕掛け、青の王『ブルー・ナイト』と互角以上の戦いを繰り広げた、フェンサーの名に相応しい者。ゴールド・フェンサーとこうして向き合い、強さに近づき戦える機会が出来た事に、本心から歓喜していた。
「……此処から先に、言葉は不要だ」
「――――――SYAAAAAAAAAAA!!!」
空気が、変わった。ピリピリとした重苦しく冷たい感覚が、彼女の、ギャラリーの背筋を駆け巡る。
右腕の刀を向けながら宣戦布告をする彼の竜の如き顔からの感情が失せたのを認識した彼女は、咆えた。
2メートルを超え、僅かに足が次元から浮いているその巨体からは、金色の戦士から放たれるプレッシャーを呑込まんばかりの意思が見て取るようにわかる。
今ここに、親子同士の戦争が始まろうとしていた。
「ゴールド・フェンサー……ですか?」
「ああ。君と同じメタルカラーであり、同時にレギオンに属する事無くLv9に到達したプレイヤーさ」
「お前は確か、NNの……」
「お久しぶりですね、ゴールド・フェンサー」
「レギオンを作ろうと思うのだが、どうだ? リーダーはお前だ」
「待て。今、聞き捨てならない事を言ったな」
「こうして会うのも久しぶりだな、黄の王」
「貴方が此処に来るなんて、何用ですか?」
「【
「【
これは、居たかもしれない者達が混じった、加速の可能性の一つである。
続く……と良いなあwww
一応の解説。
ゴールド・フェンサー Lv9
金のメタルカラー。シルバー・クロウ以上の切断・貫通・炎熱・毒攻撃に対する耐性を持つが、それ以上に腐食・打撃攻撃、加えて地形ダメージに致命的に弱い(シルバー・クロウの大よそ二倍)。
本人は近接・中距離戦を得意としており、その際は本当に無双ゲーができる。というか遠距離戦は壊滅的。現赤の王『スカーレット・レイン』相手にメタルカラーの特性を利用すれば如何にかなるかもしれない。
スキル振りをミスった部分があるらしい。脚の武器は偶然の副産物。
ホワイト・ジャスティスの『親』である。
必殺技は『【
左腕の刀身を巨大化させて、振り下ろす。多段ヒットに加えてガード不可。ゲージ一つ消費。
煉獄弐で表すと、頭:偽龍ファング 右腕:ムラマサブレード
左腕:ダンテ 胸部:デモンエッジ
脚部:ハイローラーremix
ホワイト・ジャスティス Lv8
カラーは白。全体的に高い耐性を持ち、特に切断・貫通・打撃攻撃を常時半減するアビリティと攻撃の一部に雷属性判定を持つ。
接近戦から遠距離戦までこなし、特に遠距離戦はゲージをすべて消費して放つレーザーは射程距離が任意という初見殺し、同時にその速さからわけわからん殺しを可能とする。問題点は、発射に五秒ほど隙が出来てしまう事。
『親』である『ゴールド・フェンサー』勝てるアバターを作りたかったようだ。
外見は、言うまでもなくギルティギアのジャスティス。それもダッシュ可能な色々全盛期な頃。
今回、本編よりも後書きの方が力がこもっている気がする。
……トラウマ、コンプレックスと願望も考えておかないと。あと、リアルの名前もか。
では、お休みなさい。
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風呂場にて (オリ主+赤セイバー+テラフォーマー)
ただ、短い+地の文一切無しです。
「っ~~~~ふぅ……やっぱ風呂は良いなあ。ゆったりまったりするには持って来い、日本人の最高の文化と言っても差支えないねえ。特に、こういう何人も入れそうな広々とした風呂なんて最高だ。そうは思わないかよ、スキンヘッドの」
「じじょう。じょうじ、じじじょ……」
「悪いな、変な呼び方で。でもよ。お前には名前が無いだろうよ。だから便宜上、そう呼ばせてくれやぁ。それとも、自分で考えてみるかい? お前さんの感情を理解する手立てになると思うぜ?」
「じょう。じょうじょうじょ」
「あいわかった、花の図鑑だな。……ぁ? ……花の図鑑ん!?」
「じょ、じょじょじょうじ」
「……いいやあ。驚いただけさあ。まさか、お前の名前が花の名前に為りそうだなんて……絶句だよ、色々……ってか、ネロは
「じょ、じょうじじじょ」
「奏者よ! だ、誰だ、そこの、黒曜石の様な光沢の触角の生えた者は!?」
「いつもはベッタリなのに、なんだかさみしいねえ。昔に戻った気分だ。スキンヘッドのもそんなに気にしちまって……。皇帝特権使えばいいだけの話だろうよう。ってか、顔合わせるのは初めてだったか……完全にこっちのミスだ。すまん」
「そ、その程度の事気にするな! 後日埋め合わせはもらうが。……余の才が訴えておるのだ。その者の事を知れば、必ずや後悔するぞ、と」
「じゃあ、それでいいじゃないか。深い所まで理解せず、浅く理解して友好的に。スキンヘッドの。ネロには悪気はねえんだ。此処は一つ、俺の顔で面目立ててくれやしないか?」
「そ、奏者が頭を下げる必要はない! 余が悪かった」
「……じょう、じょうじじじょ」
「……ふむ。よく切れる刃物、ねえ……構いやしないが、頼むから反逆なんてしないでくれよ? 俺絶対殺されるから。その前に、扱いきれるかどうかだけど……その心配は無用か。その前に、ネロは話に付いていけてるか?」
「安心せよ奏者。『余はこやつの言葉を理解できる』……じょう、じょうじじょう」
「! じっ、じょうじじじょ」
「……あのよ、ネロ。こいつはお前の言葉理解出来てるんだから、合わせなくて大丈夫だぞ?」
「そうは言っても奏者よ。余としては反省の意も篭め、こやつがどういった存在なのかでは無く、こやつの内面を知りたいのだ」
「じ……じょうじ」
「気にするな。そうだ、ならそなたの名を決めるのを手伝わせてはくれないか?」
「じょっ、じょうじょう」
「……さっきまでビビってたのが一転、早速好意的になったな……まあ、昔にあんな事体験してりゃ、反動があってもおかしくはない……のか?」
「よいぞ! ならば明日にでも剣を交えようではないか!
「じょ!」
「目を離した僅か十数秒の間に何が起こったし……まあ、良いか。そんじゃあ、もうちょい入ってぬるま湯に浸かるのも一興だけどよ、その前に上せたりしたら不味い。外も寒いし、そろそろ上がるか」
「む、そうか……ね、念の為に言っておくが、奏者は絶対にやらんからな!」
「じょう」
「……ほんと、何があったし」
設定は……いいか。皆さんの各々の考えに任せます。
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アクセル・ワールド 煉獄弐 ①
……戦闘描写は三人称の方が書きやすい気がしてきました。
なお、読むに当たっての注意点として。
・作者のハッピーエンド主義が熱暴走しています。
・主人公は一応『GRAM』ですが作者の力量不足により彼の再現が出来ていない部分が多いです。
・時系列?的には塔は登り終えた後となります。
・武装の一部を変更しています。『左腕は盾だからこそ良いんだよ!』という方は申し訳ありませんがお戻りください。
・一部原作とたがえる部分が存在します。
・作者は、A・Wを現在弐巻までしか所有していないため、何らかの矛盾が生じる恐れがあります。
・ゲームではできなかった動作、表現を含んでおります。
以上の点を踏まえ、お読みくださいませ。
『ア……隊長……ッスカ……? 自分ハ、調子ニ乗ッチマッテ……。シジ通リニ動イテリャ……俺ハ……、俺ハ……。ア…アァ……ヤット……ヤット寝ムレル……。
――………カアサン…』
『……俺ハアノ時、奴ト同ジ考エヲシテ……ソシテ敗レタ……セルヲ奪ワレタ。……ソシテ俺ハ知ッタ。俺ハ……アンタノ強サニ嫉妬シテイタンダ。アンタニドウシテモ、勝チタカッタンダ。
――初メテマトモニヤリアッテ、ワカッタヨ。アンタノ強サヲ…モノニ頼ラナイアンタト、頼ルオレ……納得シタヨ。
……サラバダ……』
『アノ時ノ俺ハ、野郎ニムカツキ過ギチマッテ……。感情デ戦ウナッテ、アンタガイツモ言ッテタヨナ。ブチノメサレテ、ヤットスッキリシタヨ。
――シバラク、コノママ、寝カセテクレ…。
オネガイダ…』
『アア、アアアア、タタ、隊長……。オ、オレ、戦ワナイデ逃ゲヨウトシタラ……。後ロカラ撃タレテ、ソレデ……。オオオレ、悪イコトシテナイヨネ?
デモ何モシナカッタカラ……。撃タレタ……何モシナイノモ、悪イコトナノカナ? ――自分ヲ守レッテ、隊長ハ言ッテタ。オレ、自分守レナカッタ。……ゴメンネ……GRAM。
会エテ……ヨカッタ……』
『オオ……。GRAM隊長……トウトウ、来テクレタノデスナ? ヒドク……ノドガ渇イテオリマシタ……。イツ、私ヲ開放シニキテクレルカ。……ズット……待ッテイマシタヨ。
――ヤット……コレデヤット休メマス。……狂ッテオリマシタ……満タサレヌ欲望ヲ、永遠ニ抱エテオリマシタ……。アナタノ……、GRAMの開放ガ近イウチニアルコトヲ、祈ッテオリマス。
…サラバデス!』
『オオ、アンタカ、懐カシイナァ……。今マデ何シテタンダ……。オレガ、判ラナイノカ? オレハ、アンタト戦場ヲ駆ケルノガ好キダッタ。アンタトイルト、強クナッタ気ガシタンダ……。トテモ楽シカッタンダ……。オレハ、アンタミタイニナリタクテ……何デモヤッテミタ、真似ヲシテミタリシタ。
――――デモ届カナカッタナ……。ヤッパリ……スベテ吸収シテ、強クナロウトシタガ何ヲヤッテモ勝テル気ガシナカッタヨ。予想ハ大当タリダ……。
アンタニャ勝テネェ……』
『ヤァ……GRAM隊長……。今ノ一撃……最高デシタヨ……。アナタハ素晴ラシイ……マッタク……。敵ヲ倒スコトハアノ時ノ私ニトッテハ楽シイ遊ビダッタ。……ダガ、アナタニ撃タレタ時、初メテ恐怖ガ沸キ起コッタノデスヨ。死ニタク無イ、ト……。私ハ自分ガ死ヌコトナド、コレッポッチモ考エテイナカッタノデス……愚カニモ……ネ……。
ソシテ今、再ビアナタニ倒サレ、永遠ノ戦イカラ解放サレテホットシテイマスヨ……。
――強イアナタハ、イツ開放サレルノデショウカネ。クククッ……ハハハッ……。
……サラバデス、GRAM』
『私はもう……疲れた。……ずっと……一人で……。これで……休める……。……ベアトリーチェ……終わったよ……これでいいんだろう……?
――もう…………眠らせてくれ……』
いつまで、この地獄を味わうのだろう。
既に人では無く、戦う為だけの
そもそも昔と言うほど時が経ったかの是非を今の彼に確かめる手段は存在しえない。
死ねない存在となった事に何度絶望したことか。死んでも記憶を失い、再び蘇らせられ、戦わされるだけ。あの時のグリュプスの言葉は、文字通り真実だった。
自らの手による戦いに疲れ果てた人間達の代行者。
鋼と硝煙の食物連鎖の頂点に立った、革命的な人造兵士。
暴虐のエデンに生まれた、最強の自律型戦闘兵器体。
破壊と殺戮の歴史が紡ぎ上げた最高の芸術品。
時代を救った人造の救世主。
自律型戦闘兵器体『ADAM』
それが、彼で
――彼の自我が『目覚めた』のはある一人の科学者が原因である。
――名を、ベアトリーチェ。ADAMに搭載されたAIを作り上げた、言うなればADAMの母とも呼べる者。
――そしてそのAIとは、彼女の亡くした思い人の――特に、戦闘に関する思考――でもあった。
――深く悲しんだ彼女は、AIから人格を復活させようという前代未聞の試みに出る。
――それが、彼を苦しめる結果になるとは知らずに。
腰溜めに構え、体全体で衝撃を逃しながら
撃ち出されたのは、僅かな電気のコーティングに包まれた黒い砲弾。この世の物とは思えぬ雰囲気を醸し出すそれは、彼の首を刎ねようとしたADAMに接触――砲弾が爆発的に膨張、飲み込まれるように床の一部が抉れていた。周囲には過剰な熱が留まっている。
アンチマテリアルD。反物質を砲弾として打ち出す、極めて危険な武装である。
残り五体程度となったADAMの群れに臆する事無く突撃、プラズマによって形成された剣たる右腕「ダンテ」を突き出し、ADAMの額を穿つ。そのまま横に一閃。空中より斬りかかろうとしていたADAMの両腕と眉間を刎ね飛ばす。
残りのADAMを胴体の武装たる誘導型電磁ボールを射出する「DPS-POLYTAN」を使い攪乱。ダンテで斬り払い、突き、一体一体を確実に仕留め、最後の一体が苦し紛れに放った居合に似た体勢で斬りかかって来るのを、彼はカウンター気味に蹴り飛ばし空中へ。
その大きな隙を逃すことなく、神速による射撃によって上半身を吹き飛ばした。
――ある一体のADAMにノイズが走った。ある筈の無い
――ADAMは塔――戦場という名の行き場を失ったADAMを見世物にする為の建造物の階層毎に待ち受ける者達を倒し、僅かずつ記憶を取り戻していった。
――そして、思い出したのだ。本来、自らは死んでいる、死んでいなければいけない
最後のADAMを還元させたと同時に、フロアのロックが解除される。次のフロアへ進むと、渡り廊下のようなフロアに出た。ADAMの反応は無い。そのまま次のフロアへと向かう。
次のフロアには、巨大な女性の顔を彷彿とさせる機械が鎮座していた。
警戒しながら、その機械に近づいて行く。だが、ADAMが現れる事も、攻撃されることも無かった。
――彼の死の原因となった男――具体的にはその男の記憶、思考の一切を引き継いだADAM『グリュプス』との死闘を終えた彼は、最後にベアトリーチェと再会した。
――しかし、彼は覚えてなどいなかった。思い出したのは最期の戦場での記憶であり、彼女の事を思い出してはいなかった。
機械の眼前まで歩み寄った所で。
「おかえりなさい、GRAM」
名を呼ぶ、彼には聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
女は、人間であった頃、彼と恋仲であった。仲間の裏切りによって俺が死んだ事を受け入れられず、仲間との死闘を再演させることによって、復元しようとした張本人―――ベアトリーチェ。
「また一段と強くなりましたね。鬼神のように戦うあなたは本当に楽しそう。
――あなたにとってはこのH.E.A.V.E.N.も子供の遊び場と同じなのかもしれませんね。あなたが飽くことの無いように、私もこのH.E.A.V.E.N.を強化していきましょう。
さあ、GRAM……。その転送装置で、再び戦いを楽しんでください。これからもあなたの勇姿をずっと見守っています……。ずっと一緒に……」
一人何も知らない少女のように、嬉しそうに、何処か悲しげに、機械的に――一方的に語りかける
対して、彼は何の感慨も無く、今だけは、
「……夢、か」
随分と懐かしく感じられるようになった、魂の末端まで刻まれた戦いの記録。その最期の
あれを壊した瞬間に意識が暗転。気が付いた時には何故か人間に生まれ変わっていた。俺だけでは無い。かつての部隊のメンバー全員が、だ。
具体的には現実の姿ではなく、あの時の姿が……姿を見れば一発で分かってしまう程、あの時のままであったからこそ分かったのだが。
それでも、再開できたのは、唯の偶然でしかなかった。あの時は何とも言えない感情が迸ったものだ。今ではとあるゲームのそれなりに名の売れているチームのリーダーとして、現実世界では十四の中学生として。
最近は過去の経験により魘される事も減り――レギオンの何人かは未だ精神安定剤が必要な程魘される事もあるようだが、俺は概ね問題無いと言えた。
今日は……日曜日か。宿題はとうに終わっている。入ってもいいが、きっとこんな朝早くから入ってくるのは……二人くらいか。
「……」
ニューロリンカーを操作。ブレイン・バーストを起動。マッチングリストの中ある一人を選択。ポイントを消費し、違和感を拭えずにいる現実から、もう一つの現実世界へ。無情にも違和感を覚えない、
「さて、行くか……バースト・リンク」
周囲は黒く煤けた街並みに覆われ、建造物は骨組みを残すのみ。
まるで超高温の炎にでも包まれた街の跡。焦土とでもいうべきその場所。戦争により焼かれた様な印象が、際立っていた。
そんな世界の土を踏み締め、立つ影が二つ。
「……こんな朝早くから誰かと思えば……グラム、お前はもう少し私の扱いを省みてもいいんじゃないか? 折角二度寝に興じようとしたのが台無しだ」
目に焼きつくような強烈な赤。クリムゾンの名を冠するに恥じない鮮烈な色。
全身をその色で覆われた装甲。通常のデュエル・アバターらしからぬ――ある赤の王とはまた違う、体そのものが強化外装と一体化した凶悪なフォルム。彼の眼前の金色にも同じ事が言えるが、それでも違うが浮彫だ。
赤の名を、クリムゾン・グリュプス。不機嫌そうな様子を隠そうともせず、愚痴った。
金の名を、ゴールド。グラム。陥没した底知れぬ黒き顔で話す一句一句に、すまなそうな感情が言葉に乗っていた。
「すまない、グリュプス。でも、こういう風に戦える事が俺は嬉しいんだ。同じようで、違う。
「まったく、お前も……いや。私も、か」
「まあ、語らいはこのぐらいにして、だ――」
そこまで行ってグラムは爪のような三つ指を持つ細い右腕を構えた。三つ指から一瞬の間もなく、持ち主の身さえ焦がすような白き刃が形成される。
それを見たグリュプスは右足に重心をずらし、何時でも動けるように構えた。
ギャラリーがちらほらと姿を見せ、その内の一人の足音がカツンと響く。
それが開戦の狼煙となった。動いたのはほぼ同時。グラムは胴体の強化外装から誘導性電磁ボールが複数射出され、三つ目の射出を終えたと同時に前へ駆ける。グリュプスはその特徴的な頭部の強化外装からレーザーを撃ち出し、直撃寸前であった電磁ボールをまるで道楽のように回避。
その最中に、地に向けて左腕を叩き付ける。地を走るスタンフィールドが急速な勢いで展開された。
グラムは体を横に向かって飛ばしフィールドを回避。上空から降り注ぐレーザーを剣で斬り払いながら、一瞬構え頭部からレールガンを射出。反射的にグリュプスも胴体の砲台から弾丸を発砲。
腹を内側から揺らす衝突音。爆発。相殺され、視界が一時潰される。
刹那の中で、グラムは背後へ振り向きながら右腕を振り下す。白刃が何かを焼き火花を散らす音が、周囲によく響く。
晴れた視界には、右足の装甲を少しだけ欠けさせたグリュプスが右腕を構えていた。
「くそ、読まれたか」
「仮にも、部下に負ける訳にもいかないだろう」
「かつては
「今は俺の方が格上だけどな」
軽口を叩きあいながら、グリュプスは右腕の砲口より誘導型レーザーを無数に射出。小魚の群れのように殺到するレーザー群に対し、グラムは砲門の二つ付いた左腕を向けた。
「<アンチマター・インパクト>」
その言葉と共に、左腕に一瞬電流の流れるエフェクトが発生、直後に発射。反動で大きくグラムの体が後退するも、隙には為らなかった。
発射された黒い砲弾はレーザーと接触すると膨張。黒い光を放ちながらレーザーどころか周囲の地形を、空間そのものを食い潰し、消える。
そして、グラムは咄嗟に後ろへ跳んだ。頭上より迫って来ていたレーザーの一本が右肩の装甲の表面を舐めるように掠めて地に落ちる。
「これで相子だな」
「……上等だ」
精密機械の如き正確さをもって繰り広げられる鮮烈を極める接戦。
ナノ単位、コンマ単位で進行する戦闘風景。
休日の朝早くから繰り広げられる激戦にギャラリーが息を飲んだ。そして、誰かが口にした。
「……すっげえ。流石『
「『傭兵団』?」
「お、誰かと思えば有名人じゃないか。まあ、新参者だから知らないのも当然かもな。受け売りだけど、黎明期から名が知れている領地を持たない変わったレギオンで、基本的に報酬さえあれば戦いに関わる事であれば少数精鋭のレギオン。俺も割と初期の頃から居たけど、入った頃には既にレギオンとして出来ていたよ。
金色がゴールド・グラム。レギオンマスターでメタルカラー初のレベル9」
「……あれが」
「そんで、あの真っ赤なのがクリムゾン・グリュプス。レベル8なのに実質レベル9と差が殆ど無い。あいつと互角となると……ファルコンくらいじゃないかと思う。
それにしても、無制限中立フィールド以外で活動しているなんて珍しいな……何時もならそれこそこっちで三日貫徹して籠ってエネミー狩りまくってるやつらなのになあ」
「……」
何それ怖いと有名人――この加速世界唯一の<飛行>アビリティ保有者、シルバー・クロウは内心頬が引きつった。気まぐれで観戦した結果、偶然にもこの朝っぱらから繰り広げられる戦いの目撃者の一人となった訳だが、そこに居たのは自分と同じメタルカラーで初めてレベル9に到達した――所属するレギオンのレギオンマスターであり、自身の親と同格の怪物。
そんな化け物共の高速戦闘は目まぐるしく移ろう。そして――
「今日は、俺の勝ち……か」
「く……」
ほんの一瞬の隙をついて――刹那に左腕を切り落とされ、金の魔剣の白刃に首を貫かれた赤き鷲獅子がそこに居た。
まだ完成していませんが、そのうち続きっぽいのも投稿予定です。
……さて、三巻買いに行くか
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ソルサク×リリカルなのは1
……連載……いやでももう大分書いちゃってるし……。
なお、ネタバレ、独自設定に注意。……供物の具体的な設定とか、調べなおさなきゃ……。
『世界は変えられる』と。変わった本は言った。
色々と言いたい事はあった。「私」として、とてもとても口に出して言いたい事が多々あった。
何故、「私」の姿が数えるのを止めてしまったほど昔の、リブロム――『ある魔法使い』ジェフリー・リブロムを生贄にする前の、マーリンに生贄にされるのをただ待つだけだった頃の正常な右腕――もっと言えばリブロムやマーリンと違った意味で難儀する前の体を持った、人間らしく、みすぼらしい姿なのか。
何故魔物として追われる身の中、再生した世界に現れたあの兄弟神の思念を相手に大立ち回りを演じた後、満身創痍の中付近に落ちていた赤い石が強い光を放ってから、意識を失ったのか。
何故、目が覚めると木々に覆われた森の中に居るのか。
違う。「私」が言いたい事はそんな事じゃない。
――
「何で……って、そりゃこっちの台詞だ。どうして
リブロムなのだろう。間違えるわけが無い。肉塊のような表紙。大小二つの目玉。歯が剥き出しの大きな口。耳に残るような声。
マーリンに幾度となく戦いを挑み、死にかけ、最後には肉片となった無名の魔法使い。
姿を変え、生贄達に願いを託し、世界にしがみついてきた日記の書き手。
「しっかし、お前の記憶が共有されてるのかもな。お前がしてきた事が全部伝わってきやがる。願わくば、一緒に死んでほしかった所だけどよ。……ありがとな……えーと……」
――ユウだ。ユウ・ラグーン。
「ユウか……わりい」
――気にしてないさ。
「私」自身リブロムに直接語った事は無かったから、仕方が無い事だと言えばそれまでだ。
――たとえ、その体に直接名前を刻んであったとしても。
「だからわりいって言ってんだろ!? とにかく、現状の確認だ、確認!」
それもそうだ。何時、何処から魔物が襲って来るかもわからない。
まず「私」はその辺に落ちていた折れた木の枝の命から魔力を作り出し、魔法を使った。
木々が折れるような音を連続して立てながら、植物の剣が右手に収まった。
姿は違っても供物魔法は使えるらしい。これなら代償魔法も使えると考えた方が無難だろう。
しかし、代償魔法の方は此処で試すべきでは無い。下手に試して死に目を見るよりは、安全な場所を得てから試した方がいい。
何より、「私」は既に片目を捧げている状態だ。こんな状態で禁術――特に、サラマンダーやエクスカリバーは間違っても使いたくない。生贄にできそうなものがあれば――人型魔物などが居れば手っ取り早いのだが。
記憶の方は――特に異常はない。寧ろ誰がどの記憶を持っていたのか、どの記憶の持ち主が誰だったかがはっきりし過ぎている。
いや、違う。これは記憶では……ない? どうゆうことだ。
「こりゃあ……。ククッ。ユウ、俺に触れてみろ」
――何かわかったのか?
「いいから。検証だ、検証」
言われるままに右手でリブロムに触れた。
するとだ。リブロムの体がいつかの再現のように散らばり、「私」に本の情報を上書きする。
右腕は手の甲に金色の目玉が埋め込まれた
「私」自身、本の中でこの姿になった時は我が目を疑ったものだ。
リブロムが『カオス化』と呼ぶ“討伐した魔物を生贄にし続けた魔法使い”の終着点、だそうだ。
魔物と大差無いというのが、正直な感想である。追われても仕方が無い。
しかし、「私」にとってこれ以上無く『正常』な姿でもある。異常な事態は別で起こっている。
どうして腕が戻っているのか。
マーリンを生贄にしてから引き継いだあの右腕はどうなったのか。
そして、それを思案する間もなく聞こえてきた
――――――これ、は。
<……やっぱりか。ユウ、俺の中身が少し、書き換加えられているみてえだ>
――――それは。
<いや、いい意味でだ。まず、俺とお前の融合、分離が可能になってるらしい。生贄される時とは少し感覚が違う。俺も驚いたぜ。だがそれ以上に……まさか、生贄にしたあいつらの意識が完全な状態で宿っているなんてよ>
――……幻聴じゃなかったのか。
そう。聞こえてくる――話かけてくるのだ。リブロムを除けば三人ほど、リブロムに馴染みのある人物らの声が。思い浮かべるよりも容易に頭の中に姿が現れる。
一人は「私」に世話になった。と言ってくる白髪の魔法使い。その隣に寄り添うように立つ女魔法使いも「私」に感謝の言葉を送ってくる。
一人はそっぽを向きながら何度も横目で睨むように黒い靄のような魔法使いを見ている。
その三人の中心に居る黒い靄のような魔法使い――姿を変えたリブロムに言いたい事が一つ増えた。
――良かったな。
<……もう会えないと結論付けるには、少し早かったらしいな>
――そうか。一旦解けるか?
<わかった>
そう言うと体から無数の紙が勢いよく散らばっていく。
「私」の姿は元に戻り、リブロムと別れた。
しかし、解せない。何故こうなったのか。
思考を繰り返す。やはり、答えは出ない。
それを見かねたように、リブロムが声を掛けてきた。
「ユウ。さっき言ってた『加えられたページ』だ。読んでみろ」
ひとりでにリブロムが開く。タイトルには『内なる者達からの声』と書かれている。ページをめくった。
――成程。
「ククッ、疑問は解けたか?」
――わかってて見せたのか?
「見せなきゃわかんねえだろ。記憶が共有されてるとはいえ、この状態で知る事が出来るのは俺だけなんだからよ」
それもそうだ。
加えられたというページはタイトルを含め二ページだけ。リブロムの中にいる三人が何かしら言いたい事を文字として伝える、という事らしい。
マーリンから右腕の変化に関する事が書かれていた。恐らくはリブロムという体の中で意識が完全に戻った為、混ざっていた記憶や能力が持ち主の所へ帰ったという考察。
――振り分けされた、という事だろう。勿論本人の考察の域を出ない為、はっきりとした事はわからない。
しかし、振り分けは完全では無いようだ。
そうであったなら、「私」の右腕にマーリンの腕にあった目がある訳が無い。
能力――いや、刻印と呼ぶべきか。刻印の修正が懸念されるが、そもそも「私」はマーリンのように老いる事は無かった。
「私」を討伐しようとした魔法使い達を生贄にすればするほど体の状態が回復され、代償にした部位が修復した。
付け加えれば、「私」は今に至るまで予知能力を発現していない。老化は予知の代償だったという事だろう。
右腕の事もそれで何となく納得できた。つまり手の甲の目は名残、という事だろう。運良く不老不死の能力が機能してくれていれば寿命の問題も解決し、同時に片目をどうにかできる。
この先寿命で死を迎える事になるかもしれないが、――せめてその前に証を残さなければ。
『もう残しているだろう。魔物扱いだけどな』
「違いねえ」
きっとニミュエだろう。リブロムが便乗した。思考を読まれたようだ。いや、リブロムの中にいるからこそ、「私」の記憶を見て思っている事を先読みする、という事は可能な筈だ。
――それでは駄目だ。仮に生贄にでもなったら、それでおしまいだ。
『そんな難しく考える事か?』
「こいつの場合、マーリンに捕らえられてた一件からそういう願望が強いんだろうよ」
『……すまなかった』
きっと、そうなのだろう。否定する気は無い。
あと、マーリン。謝らなくていい。
「……まあ、考えるのは後にしようぜ。今は安全確保だ。融合しておくか?」
――しておこう。原住民に恐れられてしまうかもしれないけど。
安全性を考慮するなら、した方が断然良いだろう。
「先を見据えるのがちと早過ぎるが……まあいいか」
リブロムが再び散らばり、「私」は姿を変えると適当な場所を求めて歩き出した。
主人公の設定的なもの
名前:ユウ・ラグーン
右腕:魔極(魔の腕Ⅵ)+掌に終局の刻印の目(生贄時、若干体力を回復。代償魔法使用後の場合、人間を生贄にすることで代償も回復)
刻印:討伐の刻印Ⅴ、一閃の刻印Ⅳ、窮追の刻印Ⅳ、痛撃の刻印Ⅲ、耐撃の刻印Ⅲ
代償:視界制限
実際に使ってるキャラです……供物どうしよ……剣聖と矢尻は決まってんだけど……
後の設定は……今度でいいや。ではおやすみなさい
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『前マーリン』と魔法の世界1
……吸血鬼終わらせたらコイツ連載しようかな。
独自設定が多い上にキャラクターの口調がつかめない……(と言っても今の所出ているのは一人だけですが……)
――憂鬱だ。
聖杯は破壊され私は生贄となった。私が「マーリン」として荒らしたその後の世界は、どうなったのだろうか。「次のマーリン」となってしまうだろうあの魔法使いは、今どうしているだろうか。
麻帆良の展望台にて、私はそんな考えても無意味なことを考えていた。
もう、悩んで13年目だ。あの神々の抵抗だったのか。「マーリン」という全体の中から「前のマーリン」を生贄にした「私」の側面だけがあの魔法使いの右腕に取り込まれること無く、こうして別の世界で生きている。
赤子、それも女としてもう一度生きなおすことになり、右腕は代償による侵食が進んでいたが、フェニックスと似たようなものだろうと深く考えずにいる。性別のことも、それほど気にすることでも無かった。何故私が死んだ筈なのに腕はそのままなのか、と疑問を覚えたが、考えるだけ無駄だろう。そう感じて割り切ることにした。
少し強めの風が吹き、右腕の布が外れかけていたことに気が付いた私は、布を巻きなおしながら街並みを眺める。水都アクエリアスと同じ広さと言われれば首を縦に振ってしまう位には、この町は広い。或いはそれ以上に広いのではないだろうか。ネクロポリスは対象外だが。
「む、久しぶりでござるな」
何となく、そう、感慨深く思っていた所、知った声が自分に掛けられた。
後ろを見れば、見知った顔がそこに居た。彼女が此処まで来るのかと思った。
――2日ぶり。元気にしている?
知った顔ではあってもお互い仲が良いという訳でも無い。一月ほど前、この世界における私の「持病」で彼女と学園長に多大な迷惑を掛けた。これで説明が付いてしまうくらいの仲だ。
付け加えるなら、私が気兼ねなく声を掛けられる生徒という珍しい存在でもある。
「大丈夫でござるよ。にんにん」
――そう。……悪かった。
「拙者は気にしてないし、気にし過ぎも体に毒でござるよ。アーサー殿」
――……否定できないかな。
「忍者」という、暗殺者のような存在であるらしい長身糸目の彼女は、私を見下ろしながらそう言った。
ナガセ・カエデというらしい。
返した通り、否定出来そうもない。元「魔法使い」としてある程度罪悪感などは割り切っていたつもりだった。
それでも、あの日。私は確かに人を殺している。古い価値のある――世界樹などが最たる例である――そういう物を狙い麻帆良へ侵入した魔法使いの一団に対して、私は魔物のような姿に成り果てて、この世界では通用しない必要悪を執行した。そのことに関しては、割り切れている。
――目の前の彼女を巻き込んだことに、罪悪感を抱いていた。
ナガセの目の前で私が暴走し、彼女に襲い掛かったのだ。雷に打たれた後、生贄にされても、文句を言える立場では無い。
その一件以来、この麻帆良を警備に当たっている先生方や魔法使いの生徒からは何時爆発するか分からない爆弾のように扱われている。確かに、私の意思だけで抑え込んでいた頃は私も少し荒れていた。
今は学園長と吸血鬼の合作である封印用の術式が施された布で押さえつけられている。しかし、それでも痛む。腕に封じられた魂が外に出ようと暴れ狂っているようだ。
かつてリブロムが共に戦ったと言っていた『最も魔物に近い魔法使い』ガラハッドは、これよりも酷い苦痛に永遠と耐えていたのだろうか。禁術を用いた後とはまた違う、この苦痛と。
彼女の殺戮衝動もなりを潜めているとはいえ、大多数の魂から「殺せ、殺せ、殺せ」とうるさく声が伝わってくる。今もそうだ。ナガセに対して、そんな風に思っている私が憎らしい。
あの時は、本当に限界だったようだ。もしかしなくとも、何時魔物になってもおかしくはない。この世界での「魔物」の定義は若干違うが、私はこの世界における最も『魔物』に近い魔法使いだ。
そんな私を生徒として擁護している一部の先生方――これには学園長も含まれる――や生徒に、何となく疑心暗鬼になっているのは、私がおかしいのか。周りが優し過ぎるのか。
私『アーサー・M・カムラン』はそんなことを考えつつナガセと談笑していた。
「ナガセ。お願いがある。……私が――」
「んー、それ以上は言わせない」
口を開こうとしたアーサーの頬を拙者は横に引っ張った。あまり表情を変えない友人はどうにも、何か恐ろしいことを考えている気がしてならない。
今回は何を言おうとしたのか理解しているからこそ、拙者は止めた。そうしなければ、目の前の彼女は自分が死ぬ、或いは殺される方向に向かおうとするのが目に見えていた。
死に急いでいる? 違う。
「アーサー殿。何をそんなに死にたがるのでござるか。拙者の目には、そうとしか映らない」
「……」
親に怒られてしまった子のように、アーサーは顔を俯けてしまった。
一月前。拙者は、山奥で修業していた時に偶然『
光弾が避けられぬタイミングで幾つも飛んできた時、それは微塵に切り裂かれていた。目の前に、突風のような速さで、鎌のようにも見える斧を持ってアーサーが現れたのでござるよ。
その姿は、辛うじて人間であるという表現がそのまま当てはめてもいいくらい人間らしくなかった。剥き出しの筋肉のように見えた淡い赤色と黒の体。
苦しそうな呻き声を響かせながら私を一瞥し、目の前の魔法使い達に奇声を上げながら突っ込んで行ったのだ。
何故動けなかったのか。決まっている。
あの目を見たから。真に覚悟で塗り固められた強い意志。それは確かに彼女の目に宿っていた。その目に、拙者は魅入られたのでござろう。
そこからは一方的だった。魔法使い達を確実に倒し、切り裂き――最後には右腕を差し向け、拙者の目の前で殺したのだ。
どんな原理で殺したかなんてわからない。
ただ、魔法使い達の苦悶に満ちた声と、全身から破裂するように噴出した血潮から、漠然と殺したという事実は伝わった。
そのまま血濡れになった彼女は猛々しい赤黒い光を放出したと思うと、更なる異形へと変貌していた。人間と呼べそうだったその体たらくは、もはや人間であることが出来なくなっていた。
目と思しき部分からは、猛獣のような殺気が放たれるのみ。先程の魅入ってしまったあの目とは程遠い、狂った目。
そこからは逃げの一手だった。切りかかって来ては避け、爆弾のようなものを飛ばしてきてはそれを回避し、千日手を重ねていた。精細に欠けた動きは読みやすく、しかし意表を突かれることもあった。
結果として避けきれず、一度だけ左腕を切りつけられた瞬間、アーサーが倒れた。
その時、拙者は確かに耳にした。これは誰にも話していないことだ。
――ごめんなさい。
弱弱しい、目と矛盾したような声色を。
それを聞いてしまうと、そのまま放っておくのも忍びなく感じて、拙者は声を掛けるなどして、彼女に歩み寄って行った。
事後処理として、生まれたままの姿になってしまったアーサー殿に服を着せてやったり、その間に高畑先生が拙者たちに接触をしてきたり、学園長との対談をへて今に至るのでござるよ。
「怖いのでござるか?」
「……」
「大丈夫でござるよ。拙者は、あんな程度で心に傷を負う程、軟ではござらん」
「……ありがとう」
「あいあい」
頬をつまんでいた指を放し、そっと抱きしめてやる。顔を頷けているのは見えたでござるが、表情は硬いまま。……彼女が笑っているのを、拙者は一度も見た事がない。
拙者にはよく分からなかったのでござるが、アーサーの右腕は悪さをしたものの魂が数えるのも面倒な程封じられているらしく、それが腕の中で暴れ、四六時中痛みが生ずるらしい。
だからでござろう。顔はしかめ面にも見える無表情で形を変えず、目の下にもどんよりとしたくまが色濃く残っている。顔色も優れているとは言い難い。
「拙者から言えることなんてたいしたことではござらんが、アーサー殿も何か相談があったらいつでも相談するといいでござるよ」
……そう言えば、エヴァンジェリン殿から伝言を頼まれていたのをすっかり忘れていた。
「ああ、そう言えばエヴァンジェリン殿が家に来るように言っていたでござるよ」
「エヴァが……? ありがとう」
訝し気な顔で何かやったか? と呟きつつアーサーが拙者の目の前をふらふらと去っていく。
隣のクラスではあっても、拙者の友人である彼女を放っておくのは些か気が引けた。故に背負おうかと尋ねれば、この位で体調が悪い筈がないと言って聞かなかった。やはり、本人の元々の気質が強情なのだろうと考えながら、拙者は明日明後日の修行のことを考え始めた。
良ければ活動報告もみてやってくださいw
なお、主人公の姿はある程度ご想像にお任せしますが、普段は狂魔女の腕みたいになっています。隠しているだけで、実際は魔の腕Ⅳです。そこから、魔の腕Ⅴ、Ⅵに変化します。Ⅵは暴走状態みたいなものだと考えてください。
では、いいユメを。
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